悪鬼も哭き出す (笹の船)
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遭遇

やってみたいと思っていた鬼滅×DMC5
時系列は下記です。
鬼滅:本編開始直後
DMC :DMC5シークレットムービー後




 見渡す限りの枯れ木、そして雪。

 空は雲がかかっているようで、月明かりはもちろん星の瞬きすら見ることは叶わない。

 そんな雪山の中を赤いコートと蒼いコートの男が並んで歩いていた。

 

「なんもねェな。せっかく人間界に出られたってのによ」

 

 赤いコートの男――ダンテがそう言ってついたため息が白く色づき、あたりに溶けていった。

 対する蒼いコートの男――ダンテの双子の兄バージルはダンテの言葉を意図的に無視して歩き続ける。

 

「なあバージル、ここはどこだと思う? 雪は降ってるが、フォルトゥナじゃあなさそうだぜ」

「少しは黙って歩けないのかダンテ。ここがフォルトゥナでないことくらい、見ればわかるだろう」

 

 うんざりとした口調でバージルがそう返しながらダンテを睨みつけるも、当のダンテは肩をすくめてなおもおどけて見せるだけだった。

 

「おいおい。そんなに喧嘩の続きが出来ねェのが不満か? 俺も不満だがよ、いい加減シャワーとピザくらいにはありつきてェ。血やら汗やらで臭くてたまらないし、ピザもストロベリーサンデーも一か月以上食ってない。流石に恋しくなるんだよ」

「ふん……ならばそのあたりの雪で洗えばよかろう。これだけ雪があれば、シャワーの代わりくらいにはなるだろう? 食料に関しては獣よろしくに穴でも掘って見つけるんだな」

 

 全く下らない、とばかりにバージルが投げやりな言葉を返す。

 とはいえ、流石のバージルも身を清めるくらいのことがしたい点については同意だった。

 ダンテ達の記憶が正しければ、二人は二か月ほど前に故郷(レッドグレイヴ市)を巻き込んだ大喧嘩を始めた。

 そこから紆余曲折を経て、二人は悪魔達のはびこる魔界へと赴き人間界への扉を閉じた。

 それは同時に、人間界へ帰る手段を失うことを意味していたが、ダンテとバージルはこれ幸いと喧嘩の続きに明け暮れていた。

 しかし、どういうわけだか気が付けば二人とも魔界ではなく人間界へと戻ってきていたのだ。

 突然の帰還に加えどこだかわからない未開の土地へ放り出されたとあれば流石の二人も興ざめするというもの。

 そこでようやく、お互いが血やら汗やら泥やらにまみれた自分達が形容しがたい匂いを漂わせていることに気が付いた。

 そんなわけで、ダンテとバージルはとにかく身を清められる場所を探すために当てもなくこの雪山を彷徨っているというわけだ。

 とはいえ当然のことながら、夜の雪山を当てもなく歩いたところで都合よく綺麗な水源を見つけることなどできるわけがない。

 仮にあったとしても、この豪雪では雪に埋もれて見えないだろう。

 それでも他にやることもないし、立ち止まって雪に埋もれるのも癪だった二人は文句を言い合いながら歩き続けていた。

 そうして歩き続けてどのくらい経っただろうか。

 ふと、ダンテとバージルがほとんど同時に足を止めた。

 

「おい、バージル」

「……ああ」

 

 自分達の悪臭以上に鼻を突く匂い。これまで幾度も嗅いできた血の匂いだった。

 それに気づくと同時に、ダンテとバージルは共に匂いのする方向へと走り出す。もしかしたら生きている人間がいて、悪魔に襲われているのかもしれない。

 匂いの元をたどって向かった先には一軒の木造の家があった。

 果たして、そこに悪魔などいなかった。

 いや、二人の知る悪魔はいなかったという方が正しいだろう。

 そこにいたのは、わが子を守るように蹲る女を容赦なく手にかけた悪魔がいた。

 それを視界に収めた瞬間、二人の脳裏に浮かんだ光景は恐らく日の同じものだっただろう。

 炎に包まれる我が家。あたりを闊歩し、自分達の命を狙う悪魔達。自分達を守ろうと炎の中を駆け、そして殺された母の悲鳴。

 バージルが更なる力を欲し、ダンテが悪魔を狩り続けることを誓う原点ともなったあの日。

 それを想起させるその光景を前にして、兄弟がとった行動は同じものだった。

 ダンテは虚空から我が名を冠した大剣(魔剣ダンテ)を呼び、バージルも父から受け継いだ刀(閻魔刀)の鯉口を切る。

 二人の視界の中心には最後に生き残ったのであろう少女へと無慈悲に手を下そうとする悪鬼がいる。

 足元の雪を全て吹き飛ばす程の勢いで地面を蹴った二人だが、紙一重で間に合わず悪鬼の伸びた腕が少女の肩に刺さり、少女はその場に倒れ伏す。

 直後、ダンテとバージルの渾身の突き(スティンガー)が悪鬼に突き刺さった。

 

「がァっ!?」

 

 ダンテとバージルの突きを食らい、悪鬼はその場に留まることすら出来ず家屋の壁を突き破って雪山の闇の中へと消えていく。

 だがその程度で勢いが殺されるはずもなく、何本もの木に激突しているのだろう轟音が連続して聞こえてきた。

 

「おい、バージル」

 

 ダンテの言葉にバージルはそちらを見ることなく小さく頷いた。

 全力ではなかったにしろ、それなり以上に力を込めた二人の突きを食らってなお悪鬼が振りまく悪臭は絶えてはいなかった。

 だが、匂いは遠ざかって行っている。悪鬼は逃げ出しているようだった。

 やはり二人の知る悪魔とは違うらしい。悪魔なら死を厭わず激情して反撃してくるものなのだから。

 

「屑が……」

 

 敵前逃亡をしようとする悪鬼を逃がすまいと駆けだそうとしたバージルをダンテが制止した。

 

「待てバージル! 雑魚はほっとけ。この嬢ちゃんたちの手当てが先だ」

「ふん……外で倒れているガキ以外はもう死んでいる」

「ならあの嬢ちゃんだけでも助けるぞ。いいな?」

 

 ダンテがバージルを鋭く睨んだのに対し、バージルは仕方がないと言わんばかりの態度で閻魔刀を収めた。

 それを見たダンテは兄が本当に人間の心を取り戻してくれたことを実感し、けれど素直ではないその態度に苦笑をする。

 だがその笑みも直ぐに引っ込み、悪鬼の腕に刺された少女の容体を見るべくそちらの方へと目を向けた。

 

 

 

 闇と雪で閉ざされた視界の中、およそ人とは思えない速度で移動する人影があった。

 白い洋服に黒い外套を着たその男の顔はこれ以上ないほどに怒りに染まっている。

 

(なんだアレは!? この私が反応することすら出来ずまともに攻撃を受けた!)

 

 何度も背後を確認しながら、それでも木々にぶつかることなく移動を続けるその男の胸には大きな風穴が開いている。

 普段であればこんな刀傷すぐに治るはずだった。

 

(何故! 何故傷が癒えない!? 日の呼吸でもないのに、何故!)

 

 脳裏によみがえるのは己を瀕死にまで追いやった忌々しい耳飾りの剣士の姿。 

 だが今日、男を追い詰めたのは似ても似つかぬ銀髪の男二人組だった。

 

「おのれ……おのれぇ! 許さん!」

 

 口を突いて出るは怨嗟の声だ。

 屈辱だった。不意を打たれたとはいえ、何もできずただ一撃でここまで追いやられたことが。

 あの耳飾りの剣士ですら、自分を追い込むのに両の手では数え切れないほどの技を撃っていたのに。

 

「必ず……必ず殺してやる……!」

 

 まさしく子悪党が吐くような捨て台詞を最後に、男は夜の闇へとその姿を完全に消した。

 




DMC5後のダンテとバージルにかかれば無惨などそこらの雑魚悪魔と一緒です

正直ストーリーの着地点も定まらない見切り発車なので、色々グダグダすると思います。
更新ペースも低速不定期予定なので、更新自体期待しないでください。
気が向いた時ゆっくり進めていきます。


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悪鬼は泣かない

ちまちま書いてはいたものの、どうもおさまりが悪いとグダグダしていたら煉獄さんは300億の男になったし鬼いちゃんがプレイアブルになってた。

結局おさまりが良い話にできなかった


 竈門炭治郎は目の前の光景が信じられなかった。

 玄関の戸口に力なく寄りかかる妹の禰豆子。強烈な血の匂い。血まみれになり息絶えている家族。

 そして何かが突き抜けていったかのような大穴が空いた我が家。

 あまりのことに息すら忘れ、炭治郎はわずかな間その場に立ち尽くした。

 けれど、すぐに違和感に気づいた。

 家族が襲われたのは間違いない。けれど、襲われたにしては皆の亡骸が綺麗に並びすぎている。

 それに、禰豆子だけが戸口によりかかっているのもおかしい。しかも禰豆子だけ布団がかけられている。

 そこで、炭治郎は禰豆子だけはまだ息があることに気が付いた。

 

「ッ! 禰豆子! 禰豆子大丈夫か! しっかりしろ、禰豆子!」

 

 そっと首元に手を当てれば、寒さに凍えた指先にほんのりとしたぬくもりが伝わってくる。

 けれど、今にも消えてしまいそうな温もりだった。急いで医者に見せなければ助けられないかもしれない。

 そう思って禰豆子を抱き上げようとした炭治郎の鼻に、ふと嗅ぎなれない匂い漂ってきた。

 嗅いだことのない匂いだ。獣のものでもなければ、麓の町の人間のものでもない。だが人の匂いであることに違いはない。

 

「だ、誰かいるのか!?」

 

 反射的に禰豆子をかばうように抱きしめながら、声を張り上げる。

 

『おっと、バレちまった。家主のお帰りか?』

 

 匂いも嗅ぎなれなければ、話す言葉も聞きなれない。さらには見たこともないような格好の男が家の裏手からゆっくりと姿を現した。

 炭治郎より頭二つほど大きく、初めて見る銀色の髪に蒼い瞳。

 そしてなにより白銀の雪景色の中に垂らされた一滴の血。そんな印象を受ける赤い外套が炭治郎の目を引いた。

 

「お、お前がやったのか!?」

 

 明らかな不審者の出現に禰豆子を抱く腕の力が強まる。事実、目の前の男からは微かに、しかし間違いなく血の匂いが漂っていた。

 

『おいおい坊や、そんなに睨むなって。これでも一応、そのお嬢ちゃんの命の恩人なんだがな、俺達は』

 

 やや困ったように眉尻を下げ、腕を組みながら男は炭治郎に何事かを語りかけてきた。

 けれど、炭治郎には異国の言葉が分からない。ただ少なくとも、嘘をついていないことは匂いで分かった。

 だがそれがなんだというのか。嘘をついていないから、目の前の男を信用できるのか。血の匂いのする異国の男を。

 答えは否だ。むしろ、炭治郎としては会話もせず一目散に町へ駆け出したかった。

 それをしないのは、目の前の男の底知れなさを本能的に感じ取っていたからなのかもしれない。

 自分一人なら何とかなるかもしれない。けれど、得体のしれない男を相手に禰豆子を背負って町まで逃げ続けるなど、果たしてできるだろうか。

 

(どうする……どうしたら……こんなところでもたもたしてる場合じゃないのに!)

 

 炭治郎の焦りは募るばかりだが、かと言ってどうしたら良いかもわからない。

 

『おい、どうするんだバージル。ありゃこっちの言葉通じてねェぞ』

 

 不意に、目の前の男が炭治郎以外の誰かに話しかけた。

 そこでようやく炭治郎は目の前の男以外にももう一人、誰かがいることに気が付いた。

 

(血の匂いで気が付かなかった……! いや、それだけじゃない……)

 

 家の奥からもう一人。黒に近い蒼色の外套を身にまとい、銀髪を逆立てた男が姿を現す。

 どこか軽い雰囲気を漂わせる赤い男とは対照的に、抜身の刀という表現がぴったりと合いそうな雰囲気を醸し出す蒼い男が口を開く。

 

『当然だろう。ここはおそらく日本の、それも山奥だ。英語が通じるとは思えんな』

『おいおい……俺は日本語喋れないって言っただろ』

『ふん……良い機会だ。少しは勉強をするといい。お前は昔から勉強を怠けていたからな』

『別に日本語を聞くのと読むのは出来んだよ。喋れないだけだ』

『情けないな。そんな半端な学習に意味などないだろう』

『うるせェ。普段使いしない言語を喋れるようになるほど暇じゃなかったんだよ』

 

 炭治郎を他所に言い争う二人の男は色も雰囲気もまるで対照的ではあったが、二人から流れてくる匂いはほとんど同じものだった。

 

(匂いが似ている……! だから最初気づかなかったんだ。ほとんど変わらないから、赤い男のものだと思ってしまった)

 

 自分の失態の原因が分かり、けれど炭治郎の表情はより苦々しいものへと変わった。

 原因が分かったところで現状が打開できるわけではないし、むしろ悪化していると言って良かった。

 しかしそれはここで足踏みをしていい理由にはならない。腕の中の禰豆子の温もりは少しずつ、けれど確実に失われて行っている。

 焦った炭治郎は、たまらず目の前の二人に向かって声を張り上げた。

 

「お、お前たちは何者なんだ! 俺の家族をこんな目に合わせたのは……お前たちなのか!?」

 

 炭治郎の言葉に、銀髪の二人組は会話を止めて揃ってこちらを向いた。

 突き刺すような二つの視線に思わず身をすくめそうになるのを必死でこらえながら、炭治郎も負けじと睨み返す。

 

「何を勘違いしているのかは知らんが」

 

 口を開いたのは蒼い外套の男だ。驚くことに、男の口からは流暢な日本語が飛び出してきている。

 

「その娘とお前の家族を殺したのは俺達ではない。俺達は……そうだな。道に迷ったのでこの家で夜露をしのがせてもらっていただけだ。その時にはその娘以外はもう手遅れだった」

「な……じゃあ、なんで禰豆子を放っておいたんだ!? せめて医者を呼ぶとかくらい……」

 

 炭治郎の言葉を蒼い男が遮る。

 

「言っただろう。道に迷った、と。視界の利かない夜の山の中、無策でその娘を運べというのか?」

 

 真実を話しているわけではないが、かといって嘘を吐いている匂いはしなかった。

 ともかく、どうやら目の前の男たちは自分の家族を手にかけた仇敵というわけではないらしい。

 であれば、禰豆子を助ける手伝いをしてくれるかもしれない。

 そう思って炭治郎が口を開きかけた時、腕の中の禰豆子が動いた。

 

「あ”……ぁ”ぁ”あ”」

「禰豆子? 禰豆子大丈夫か!?」

 

 まるで獣の様な声を漏らしながら、禰豆子がもぞもぞと炭治郎の腕から逃れようとするようにうごめく。

 襲われた時の恐ろしさがまだ残っていて、自分のことが分かっていないのかもしれない。

 

「禰豆子、大丈夫だ! 俺だよ、兄ちゃん……」

 

 言い切る前に、炭治郎は衝撃を感じた。禰豆子がどんどんと遠ざかっていく。

 その原因が禰豆子の人らしからぬ怪力が自分を突き飛ばしたのだ、ということを理解する前に炭治郎は地面にに叩きつけられる。

 

「うわっ!?」

 

 視界が揺れる。体を地面のあちこちにぶつけてとても痛い。何が起きたのかが全く分からない。

 ただ、禰豆子が腕の中にいないことだけが分かった。

 

「ね、ねず……」

 

 痛みをこらえながら立ち上がると、こちらに飛び掛かってくる禰豆子の姿が見えた。

 だがその目に記憶にある優しい光は見えない。代わりに見えたのは、可愛らしい顔に似つかない獣の様な鋭い牙。

 禰豆子が、自分に向かって大きく口を開けて迫ってきている。さながら獲物を前にした肉食獣のように。

 炭治郎は腰に下げていた斧の柄を引っ掴んで禰豆子の口へ押し付けた。とっさの反応だった。

 

(人食い鬼が出るぞ)

 

 麓にいた三郎爺さんの言葉が脳裏によみがえる。

 

(鬼だ! 禰豆子が人食い鬼になった!)

 

 

 

 重傷を負っていたはずの少女から、人ではないナニか……昨晩出会った悪鬼にも似た匂いが漂ってきたことにダンテとバージルは気づいた。

 直後、少女――家主らしき少年からは『ネズコ』と呼ばれていた――が少年を突き飛ばす。

 突き飛ばされた少年は軽く数メートルは後方に吹き飛ばされていた。とても普通の少女が繰り出せる膂力ではない。

 それを見て、バージルが即座に閻魔刀の鯉口を切る。けれど、ダンテはそれを制した。

 

「バージル、待て」

「何故だ? あの娘は既に人ではないぞ」

 

 バージルの言葉は最もだった。現にネズコと呼ばれた少女は、家族であるはずの少年へと牙をむき出しにして押し倒し今にも彼を食らわんとしている。

 少年はそんな現実を受け入れられないのか、必死に何か言葉を叫んでいた。だが、それも長くはもつまい。

 もはや人ではないネズコは時を置かずどんどんとその力を増しているようだった。

 爪は伸び、牙も伸び、体躯は少女のソレから少しずつ大きくなっていく。

 このままいけば、間違いなく少年は力負けしてネズコに喰われてしまうことだろう。

 それでも、ダンテはネズコを斬るべきだとは思えなかった。

 根拠はない。けれど、なんとなく様子を見るだけの価値があると思っていた。

 必死にネズコへ声をかける少年の姿を信じてみたくなったのかもしれない。ずっと昔にテメングニルで、それから数年後にマレット島で、そしてつい数ヶ月前に故郷で兄と戦うことしか出来なかった自分とは違って、あの少年ならあるいはネズコの魂に声を届かせることが出来るかもしれない。

 勝ちの目は限りなく小さい。それでも賭けてみようとダンテは思った。それだけの価値があると、根拠もなくそう思った。

 それに万が一ダメだったら、その時はネズコが少年の首に牙を立てるより早く彼女を斬ればいい。それを為すだけの自信も力も、今のダンテ達には十分すぎるほどある。

 

 そうしてわずかに時間が過ぎた。

 果たして、その賭けはダンテの勝ちだった。

 後ほんの数センチでネヅコの牙が少年の喉に突き立てられる。それくらいの距離まで互いの顔が近づいた時だった。

 少年の必死の呼びかけが届いたのか、突然ネズコがその動きを止めてポロポロと涙をこぼし始めたのだ。

 明らかに先ほどまでの獣じみた状態とは違う。涙をこぼすその瞳には、人間らしい輝きが戻っていた。

 そんな光景を目の当たりにしたダンテは思わずニヤリと笑みを浮かべることを抑えられなかった。

 死ぬかもしれない程の大怪我を負わされ、家族を目の前で殺され、挙句人ではないナニカに変貌させられた。その上唯一残った兄を兄と認識することもできず喰らおうとまでした。

 それだけの状況にまで追い込まれてなお、彼女は心を喪うことなく人間性を取り戻した。

 悪魔は泣かない(Devils never cry)。たとえ体が悪魔、あるいは人間ではないバケモノになったとしても。ネズコは涙を流すことが出来ている。

 涙は、誰かを想う心を持った人間にこそ許されたかけがえのない宝物だ。そしてネズコは、まだそれを捨ててはいないのだ。

 そしてネズコにその心を取り戻させたのは、他でもないネズコの兄である少年の魂の叫びに他ならない。兄が妹を、妹が兄を家族として愛していたからこその奇跡だった。

 そんな悪魔やバケモノが持つことのできない、人間だけが持つ『強さ』が勝利を収めたこんな痛快な場面を目の前で見せられて、どうして喜びと感動で笑わずにいられるというのだろうか。

 

「……家族の愛、か」

 

 バージルがぼそりと呟きを口にする。

 それはダンテとバージルが幼いころに魔帝ムンドゥスに奪われたものだった。

 ダンテはその後様々な人に出会い、形は違えど愛や信頼を寄せられたから道を違うことはなかった。

 だがバージルにはそれがなかった。結果として、一度はただ力を求めるだけの悪魔へと変貌することになってしまったのだ。

 そしてそのバージルの息子ネロはそれを知り、失うまいと足掻いたからこそ父と叔父を殴り飛ばすことすら可能にした。

 これが人間が持つ強さなのか。バージルはそう言いたげな表情でただ静かに少年と少女を見つめていた。

 

 だが、そんな兄弟めがけて鈍い刃の輝きを閃かせる無粋な者が一人雪山をこちら目がけて駆けてくる。

 こみ上げる笑いが一気に引っ込んだのを感じ、ため息一つ吐きながらダンテは体にほんの少し力を籠めた。

 視線を空中から飛び掛からんとしてきた乱入者へとむけ、軽く地面を蹴る。

 そうして空間をすっ飛ば(エアトリック)して空気の読めない招かれざる客の目の前へと跳躍した。

 

『何ッ!?』

 

 驚きの表情を見せる乱入者を掴んだダンテは、そのまま相手が来た方向へと投げ飛ばす。

 だが相手もそれなりの手練れなのか、空中で体を回転させ見事に着地をした。

 

『……邪魔をするなら、斬る』

 

 最大限の警戒心をあらわにこちらを睨んでくる乱入者に対し、けれどダンテは不敵な笑みを浮かべながら虚空から魔剣を呼び出した。

 目の前の現象に驚いたのか、刀を携えた乱入者の目が見開かれる。

 だがそれだけだ。相手もそこそこ修羅場を潜っているようで、即座に戦闘態勢を整える。

 それに合わせてダンテは腰を落として剣を構えた。

 

「招待状は持ってきたのか? ねェなら大人しく引き返しな」

 

 英語が通じるとは思っていない。だが、悪魔にするようにニヒルな笑みを浮かべながら言葉を発したダンテを見て表情を険しくした乱入者を見る限り、挑発の意図は通じたのだろう。

 だがそれだけだ。見る限り相手の年の頃はネロと同じくらいだろうが、先程の身のこなしと言い挑発に乗るほど素人と言うわけでもないらしい。険しい表情のまま、こちらの様子を伺うのみだ。

 これでは埒が明かない。であるならば、さっさとこちらから仕掛けてお帰り願おう。

 

「来ねェならこっちから行くぜ!」

 

 そう言って、ダンテは乱入してきた日本の剣士への斬りかかった。




次回更新も未定です。
PS5欲しいしDMC5SEも欲しい


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水柱 対 赤い外套の男

半年ぶりの投稿ですが、大して話に進展はありません


 富岡義勇は鬼殺隊の柱だ。

 鬼殺隊とは、読んで字のごとく鬼を殺す組織。そしてその中で最高戦力とされる隊士が『柱』の肩書を拝命する。

 そんな鬼殺隊でも頭一つ抜けた実力者たる義勇は、かつてないほどの無力感を感じていた。

 鬼が現れる。それも鬼の首魁たる鬼舞辻無惨がいるかもしれないという情報をもとに急行した山奥で、義勇は見たことも聞いたこともない男と戦っていた。

 血の様な赤い外套、見慣れない白髪、身の丈ほどもある大剣。日本の者ではないのは一目見て明らかだった。

 男の背後には、鬼になった少女に組み付かれた少年がいた。恐らく家族関係にある二人なのだろう。一刻も早く頸を切らなければ少女は肉親を食らうという罪を犯してしまい、少年は命を落としてしまう。そんな地獄は、もう見たくはない。

 だというのに、目の前の男は義勇を二人の元に行かせまいと邪魔をしてきた。既に幾度か男と剣を交えているが、一向に有効打が取れず悪戯に時間ばかりが過ぎていく。

 

「クソッ……」

 

 思わず毒づきながらも、義勇は呼吸を整えて技を繰り出す。

 

―全集中・水の呼吸―

 漆ノ型 雫波紋突き

 

 鬼殺隊の戦いを支える全集中の呼吸。その中の流派の一つ、水の呼吸の中で最も速い突き技。柱である義勇が繰り出すそれは、傍から見た素人には瞬間移動と呼んで差し支えない速度。まさに世に伝わる縮地のソレだ。

 だが常人には必殺の突き技を繰り出してなお、義勇と相対している赤い外套の男はフッと笑みを浮かべると半身になることでいとも簡単に回避してしまった。

 当然技を回避された義勇に隙が生じる。そして、相手はそれを見逃すはずがなかった。並の隊士であれば見切ることもできないであろう速さで右足を踏み込み、力強い袈裟斬りを繰り出して来る。

 勿論、その程度で動揺する義勇ではなかった。雫波紋突きはあくまで牽制だ。避けられたことなどこれが初めてではない。

 

―全集中・水の呼吸―

 参ノ型 流流舞い

 

 突きの勢いを無理に殺さず、勢いのまま袈裟斬りを避ける。しかし男の方もそれだけでは終わらない。

 男は身の丈ほどもある巨大な大剣を体の一部かのようにいともたやすく右に薙ぐ。それを義勇は姿勢を低くすることで避けるが、その義勇の真上で大剣が空気を引き裂く重い音が響いた。一撃食らうだけでも良くて重症、悪ければ即死するであろう威力があるのは間違いなかった。

 それだけではない。見た目通りの重さがあるだろうその剣の重さと勢いに逆らうことなく、男は背後で剣を右手から左手に持ち替えさらにもう一度斬撃を繰り出してきた。力だけではない、技も合わさった見事な連撃だ。

 右薙ぎの後の先を狙っていた義勇は攻撃を諦め、流流舞いの回避の足運びへと移る。

 そんな義勇を逃がすまいと、男は勢いに乗った大剣をさらに頭上を経由するように一回転させ逆袈裟斬りを仕掛けようとしてきた。

 瞬間、義勇の視線が鋭くなる。逆袈裟が来るならば左側面はがら空きになる。普通ならば分かっていても斬りこめないほんのわずかな隙だが、流流舞いの足運びをしている今ならばその隙を突くことが可能だ。

 雫波紋突きからここまで、わずか3秒と経たない超高速戦闘を繰り広げながらも義勇の視界は狭まってはいない。義勇には自分と男の動きや立ち位置までハッキリとわかっていた。

 だからこそ、ここで後の先を打ち込むことが出来ると確信をしていた。男の逆袈裟を紙一重で避けながら、義勇は大きく息を吸う。

 

―全集中・水の呼吸―

 壱ノ型 水面斬り!

 

 逆袈裟を回避され、がら空きの男の左側面から渾身の水面斬りを繰り出す。

 取った。これで首を落とせれば……落とせなくとも隙は作れる。そうすれば、その間にあの少年と少女の元へ行ける。

 

 慢心をしていたつもりはない。タイミングは完璧だった。剣筋もしっかり首を斬れるラインだった。

 

ロイヤルガード(ROYALGUARD)!!

 

 だというのに、何かが弾けたような轟音と共に義勇が目にしたものはいつの間にか首筋の前に構えられた男の手首に刀を受け止められた光景だった。しかも、刀は男の手首を1㎝と斬れていない。

 

見切ったぜ(Too easy)!』

「なっ…!?」

 

 さしもの義勇もこれには思わず驚きの声を上げ、一瞬体が固まってしまった。回避されたのなら分かる。人を食らった数が多い鬼は異形になる傾向があるのだから、それに則って背中や肩辺りからもう一本腕が生えてきたというのなら己の慢心を認め、戒めよう。

 だが目の前の男の腕は二本しかないし、確かに大剣を振り切った体勢のはずだった。

 混乱し硬直したのはほんの一瞬だ。すぐに防御ないし回避の体勢へと移ろうとした義勇だが、その腹に強烈な衝撃が走った。 

 

「グッ…!」

 

 腹を蹴られた痛みをこらえて義勇は相手の男を睨みつける。相手の瞳に、文字はない。鬼の中でも上位に位置すると言われる十二鬼月ではないようだが何かしらの血気術を使われたのは間違いない。

 それに加え、剣術それ自体も達人の域と言っていいだろう。はっきり言って、かなり不利な状況と言える。

 それでも諦めるわけにはいかない。ここで義勇が諦めれば、鬼による被害はもっと増えてしまう。

 もとよりこの命、鬼殺に捧げたものだ。今ここで果てようとも、この鬼は必ずここで食い止めなければならない。

 改めて覚悟を決めながら、義勇が地面に叩きつけられる前に受け身を取り体勢を立て直す。

 

「うわっ!?」

 

 その真後ろで、少年の驚く声が義勇の鼓膜を震わせた。不味いと分かっていたけれど、思わず義勇はそちらへと振り返る。

 そこには鬼になった少女を守るかのように抱きしめる少年の姿と、その少年へ噛みつく素振りすら見せずこちらを警戒するかのような表情でこちらを睨みつける鬼の少女の姿があった。

 鬼の少女の頭部、衣服には少なくない血がついている。明らかに重傷を負った跡がある。

 鬼になる時、そして傷を受けた場所を治すには体力が必要だ。そして体力を失った鬼は飢餓状態になる。そうなれば、家族だろうが誰であろうが人の血肉を食べたくて仕方なくなるはずだ。

 目の前の少女は、間違いなく重度の飢餓状態になっている。それなのに、少女は自らを抱きしめる少年を食らおうとはしない。あまつさえ、こちらに対し牙をむき出しにして威嚇までもしてきていた。

 

『イイィィィィヤ!』

「ッ!」

 

 猛烈な速度で迫る赤い外套の男の雄たけびに己の迂闊さを呪いながら義勇が視線を戻すと、義勇の繰り出す雫波紋突きに勝るとも劣らない速度で突きを繰り出す構えのまま突進してくる男の姿が目に入った。

 即座に横に回避しようとして、しかし義勇は動けなかった。

 自分が避ければ後ろの少年が貫かれる。男の剣の切っ先は、そういう剣筋だったから。

 故に義勇は肺に入るだけのありったけの空気を吸い込み、技を繰り出す態勢を整えた。

 だが、万全の技を出すには遅すぎた。姿勢も呼吸も何もかもが中途半端だ。それでもここで引くわけにはいかない。

 覚悟を決めた義勇の意識が急速に研ぎ澄まされていく。世界から音が消え、迫る大剣の切っ先がゆっくり、そしてハッキリと目に写る。

 

―全集中・水の呼吸―

 

 そしてその切っ先が義勇に間合いに入ろうというところで、赤い外套の男が突進の勢いを乗せた無数の突き(スティンガー⇒ミリオンスタブ)を繰り出してきた。

 その瞬間、義勇も己が最高の技を繰り出す。

 

 拾壱ノ型 凪

 

 嵐のような勢いで繰り出される連続突きは、常人であれば見切ることはおろか回避することも不可能だ。

 しかし凪を繰り出した義勇の間合いに入れば、それらは全て弾き飛ばされる。ただ一つの例外なく、全て。

 

『おっと! ハッハー! やるじゃねェか!』

「ッ!!」

 

 突きを全て弾いた義勇は、けれども弾かれた男のどこか楽しそうな声に表情を歪ませる。

 本来最高の状態で繰り出せばほとんどの物を無に帰せるだけの威力を秘めた凪が、十分な姿勢と呼吸が確保できなかったためかあるいは男の大剣が余りに固すぎるのか……いずれにしても弾くだけにとどまってしまったのは義勇にとって好ましくない事態だ。

 己が奥義を繰り出してなお、相手の攻撃を無効にするだけで留まるとなれば義勇の側に決定打となるものがないということの証明に他ならない。

 それでも引けない。引くわけにはいくまい。自分の代わりに死んでいった仲間や家族のためにも……!

 

「ま、待ってくれ!」

 

 そんな二人の勝負に待ったをかける声が辺りに響いたのは、再び男に向けて突貫しようと義勇が足に力を籠めた時だった。

 




【大正こそこそ噂ばなし】

当然だがダンテは分かってて義勇を炭治郎の方へ蹴り飛ばしている。その上義勇が迎撃することを見越したうえでミリオンスタブも出していたんだろう。
仮に義勇が避けたとしても、炭治郎たちに害を加えぬよう加減もしていた。……全く我が愚弟ながら下らん茶番をするものだ。
力無きものは何も守れない。……己の身さえもな。炭治郎は、それをまるで分っていないようだが。あんな状態で妹を守るなど、笑い話にもならんな。


続きが出たらこそこそばなし欄はいろんなキャラにやってもらおうと思います。
(続くとは言ってない


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無力で欲張りな弱者

なんか思った以上にお気に入りとか伸びたみたいなんで早めの更新。
評価、お気に入り登録ありがとうございますmm

追記:禰豆子の名前おもっくそ間違えてました。時間が取れ次第早急に修正します。
5/24 19半追記:禰豆子の名前を修正しました。


「ま、待ってくれ!」

 

 炭治郎は思わず叫んでいた。

 目の前にはこちらを射抜くような鋭い目線を投げかける刀を携えた青年がいる。

 明らかに普通ではない出で立ちだが、禰豆子と一緒に家にいた赤い外套の男の攻撃から自分達を守ってくれた。

 その時、炭治郎は彼から漂うどこか悲しく、それでいて決意に満ちた感情の匂いがしたことに気づいた。

 だから、刀まで持って自分達の家以外何もないこんな雪山まで来たこの青年は自分達を助けに来てくれたのだと、炭治郎は信じたくなった。

 

「なんだ」

 

 やや冷たさのある声を発しながら、青年が炭治郎を見下ろす。

 その視線は、自分を見てから隣にいる禰豆子へと向けられた。自然と禰豆子を抱きしめる力が強まる。

 青年の背後では、あの赤い外套の男が面白いものを見るかのようにニヤニヤと笑いながら身の丈ほどもある大剣を肩に担いでいた。少なくとも、今は自分達に襲い掛かるつもりはないらしい。

 故に、炭治郎は目の前の青年に一縷の望みをかけてそれを口にした。

 

「い、妹が鬼になったんだ! もし助ける方法があるなら、教えてくれないか!」

 

 炭治郎の言葉に、しかし青年の表情はまるで変わらない。まるで仮面でも被っているかのようだった。

 そんな青年の様子に炭治郎が不気味さを覚えた時、腕の中の禰豆子が急に暴れ出した。まるで何かに怯え、逃げ出そうとするかのように

 

「う”う”ぅ”ぅ”……! あ”あ”あ”ぁ”!!」

「なっ!? ね、禰豆子……!!」

 

 必死に禰豆子を押さえようとする炭治郎の耳に、青年の冷たい声が届く。

 

「それが、妹か」

 

 青年の言葉に、炭治郎は一瞬ひるんでしまった。ちらりと暴れる禰豆子の顔を見る。確かに今の禰豆子にはあの心優しかった頃の面影はほとんどない。

 ケダモノの様な目に牙、町娘のソレとは思えないような怪力。今だって抑えることすらかなり辛い。

 果たしてこれは、本当に自分の知っている禰豆子なんだろうか。

 そんな迷いを炭治郎が抱えた瞬間、青年がこちらに向かって地面を蹴飛ばしたのが見えた。とっさに禰豆子を守る様にうずくまる。

 だが、次の瞬間には腕の中から禰豆子の温もりは消えていた。慌てて身を起こし、辺りを見回す。

 禰豆子の姿はすぐに見つかった。自分から少し離れた、赤い外套と蒼い外套の男からも離れた場所に立つ青年に両手を掴まれていた。

 禰豆子を取り戻さなければ。そう思い、炭治郎が立ち上がろうとしたその時。

 

「動くな」

 

 青年からの静止の言葉。それはつまり、禰豆子の生殺与奪権が青年の手の内にあることを意味していた。

 その意味理解した炭治郎は、氷漬けにでもされたかのようにその場で動けなくなってしまう。

 そんな炭治郎に、青年は残酷な宣言を下した。

 

「俺の仕事は、鬼を斬ることだ。勿論、お前の妹の首も刎ねる」

 

 青年の言葉を受けて、炭治郎の脳裏に自分の家の惨状がよぎった。血にまみれ、無残な姿になった家族たち……

 これ以上、家族を殺されたくない。このままでは禰豆子が殺されてしまう。どうにかしなければ。

 

「待ってくれ! 禰豆子は誰も殺してない! 俺の家にはもう一つ、そこにいる人達以外の嗅いだことのない匂いがした! 皆を殺し……たのは多分ソイツだ! 禰豆子は違うんだ!」

 

 禰豆子は断じて、家族を殺す様な妹じゃない。禰豆子が鬼だったなんてこともない。少なくとも、昨日家を出た時は全くそんなことはなかった。

 禰豆子は罪を犯してなどいない。無実なら、例え鬼だとしても殺さなくたっていいじゃあないか。

 

「どうして今そうなったのかはわからないけど……でも!!」

 

 炭治郎の必死の弁明に、青年はやはり表情一つ変えずに言葉を返してきた。

 

「簡単な話だ。傷口に、鬼の血を浴びたから鬼になった。……人食い鬼は、そうやって増える」

「禰豆子は、人を喰ったりしない!」

 

 炭治郎は青年に食ってかかった。確かに一時は危なかったかもしれない。でも、青年が来る前確かに禰豆子は自分のことをちゃんと認識していた。あの涙の感触は、まだ頬に残っている。

 

「よくもまあ……先程己が喰われそうになっておいて」

 

 青年の呆れた声に、炭治郎の声に熱がこもっていく。

 

「違う! 俺のことはちゃんとわかっているはずだ! 俺が誰も傷つけさせない。きっと禰豆子を人間に戻す! 絶対に直します!」

 

 だから。だから禰豆子を、俺の家族を――

 

「治らない。鬼になったら、人間に戻ることはない」

「探す! 必ず方法を見つけるから! 殺さないでくれ!」

 

 お願いだから、これ以上――

 

「家族を殺したやつも見つけ出すから! 俺が全部ちゃんとするから!」

 

 青年の刀が持ちあげられる。

 

「だから! だから!!」

 

 刀の切っ先は、捕らえられた禰豆子の首元だ。

 

「やめてくれえええええ!!」

 

 もうこれ以上、俺から奪うのは――

 

 

 

 

 バージルはネズコの兄が必死に刀を持った青年に命乞いをしている様を黙って聞いていた。

 力無きものは何も守れない。かつての自分がそうであったように。

 だがあの少年はたった一人の家族のためにない物ねだりとも言えるワガママを必死に青年へと説いていた。

 その姿に、己が二つに分かたれていた頃の――『V』と名乗っていた頃の記憶がよみがえる。

 

『僕が守らなきゃ』

『絶対置いていったりなんかしない……!』

『助けてよ……』

 

 悪魔と戦う力もない、でも目の前の母親を見捨てたくない、自分も死にたくない、助けてほしい。

 見るに堪えない、無様な願い事ばかり恥ずかしげもなく声に出していったあの幼い少年。

 自分は出来なかったし、また許されなかった。それでも本当は声に出して言いたかった。

 ――守ってくれ、助けてくれ。殺さないでくれ。

 ダンテはあの日母に守られた。レッドグレイヴでユリゼンとして一度退けた時は、父の形見魔剣スパーダに守られていた。

 まるで、ダンテばかりが両親に愛され守られているような気がした。それが無性に腹立たしかった。

 どうして父は自分達を置いて家を出て行った。何故母はあの時自分を助けに来てくれなかった。

 同じ顔、同じ力、同じような魔剣。同じように生まれたはずなのに、どうしてダンテと自分でこんなにも差が生まれるのか。

 だから力に逃げた。力さえあれば、こんな思いをしなくて済むと思ったから。

 人は弱い。一人では何もできない。より強大な力を前にした時、一人だけでは恐怖に怯えることしか出来ない。

 そう。ちょうど今、己が命乞いが何一つ通らず妹を殺されそうになってうずくまるように土下座をするネズコの兄のように。

 そんな少年の態度が逆鱗に触れたのか、これまで態度を全く変えなかった刀を持った青年が怒鳴りだした。

 

「生殺与奪の権を、他人に握らせるな! 惨めったらしくうずくまるのは止めろ! そんなことが通用するなら、お前の家族は殺されていない!」 

 

 全く持ってその通りだとバージルは思った。青年の言葉は何一つ間違っていない。この場において、何よりも真理を語っていた。

 

「奪うか奪われるかの時に! 主導権を握れない弱者が! 妹を治す!? 仇を見つける!? 笑止千万!! 弱者には、何の権利も選択肢もない! ことごとく力でねじ伏せられるのみ!」

 

 青年の言葉に、バージルは内心で深く同意していた。

 今までがそうだった。母を殺され、帰る家を失ったあの日からずっと。そうされたし、そうしてきた。力こそが全ての世界で生き抜いてきた。

 

「妹を治す方法は、鬼なら知っているかもしれない。だが! 鬼どもが、お前の意思や願いを尊重してくれると思うなよ! 当然、俺もお前を尊重しない! それが現実だ!」

 

 けれどネズコの兄は、青年の言葉に呆然としているだけだった。無理もない話ではある。文明が進むにつれ、人間は弱肉強食の理から離れていった。

 力無きものが力あるものに理不尽にねじ伏せられることなどないだろうし、そもそもそんな機会に遭遇することもないだろう。

 そんな平和という名のぬるま湯につかり切った子供に、いきなりそんな心構えを説かれたところですぐに理解できるはずもない。

 

「何故さっきお前は妹に覆いかぶさった!? あんなことで守ったつもりか!? 何故斧を振らなかった!? 何故俺に背中を見せた!? そのしくじりで、妹を取られている! お前事、妹を串刺しにしても良かったんだぞ!」

 

 だが、青年が言うようにネズコと彼女の兄が置かれている状況というのはそういう奪うか奪われるかの世界だ。

 そんな世界で己の目的を達したいというのなら、何よりもまず力が必要だ。己の邪魔をする敵を滅するだけの力が。

 しかし、ネズコの兄にそんな力はない。あるならあんな無様にうずくまることはしない。

 ならば、試してみよう。あの小僧に力を渇望する『心』があるのか。

 バージルはそう決意すると少年の足元へ幻影剣を射出し、それをマーカーとして彼我の距離を一瞬で詰め(エアトリック)た。

 突然現れたバージルに、少年は惨めにも涙を流しながら驚きの表情で見上げてくる。

 そんな少年を見下ろしながら、バージルは閻魔刀を抜刀し少年の前に突き立てた。

 

「あの男の言うとおりだ。……お前はどうする小僧? ただ黙って、妹が殺されるのをここで眺めるか?」

「え……」

「力無きものは何も守れない。自分の身でさえもな。そして、今のお前は弱者だ。見ろ、あの男はお前の答えをいつまでも待つつもりはないらしい」

 

 バージルがそう言って刀を持った青年を指させば、青年が今まさに刀の切っ先をネズコの肩に突き刺したところだった。

 ネズコが痛みに悲鳴を上げる。

 

「や、やめろおおおおおおおおおおおお!!」

 

 少年が叫び、とっさに足元にあった石を青年に投げつける。と同時に走り出し、バージルが突き刺した閻魔刀を引っ掴んだ。

 

「ッ!?」

 

 だが、閻魔刀は日本刀にしては大きすぎる刀だ。当然、大きさに見合うだけの重量はある。そんなものを戦う術も知らぬ小柄な少年が振るうことはおろか、まともに持って走ることすら出来るはずがない。

 それでも少年は歯を食いしばって、走り出す時に拾った石を木の陰から青年に投げつけつつ走る。だが、そんな子供だましが青年に通じるはずもなく軽く横に一歩足運びをするだけで避けられてしまった。

 

「うわあああああああああああああああ!!」

 

 雄たけびながら閻魔刀を地面に引きずるようにして少年が青年に向けて駆けていく。

 誰がどう見ても感情に任せた策も何もない突進。到底、青年に通じるようなモノではない。

 だが、ただの突進ではなかった。意識をしたのか、たまたまだったのか。少年は青年の間合いのギリギリ外で足を止め、思い切り閻魔刀を上に振り上げた。

 地面に引きずるようにして持っていた閻魔刀の切っ先は、当然土とその上に積もったパウダースノーを巻き上げる。

 

「こんな目くらまし……」

 

 青年は肩をすくませ、刀を振り上げた。雪と土で出来た煙幕から飛び出してきたのは、拳を握りしめた少年だ。

 

「愚か!」 

 

 青年は容赦なく刀の柄尻を少年の背中へと突き立てた。刃ではない故大怪我には至らないだろうが、青年の力をもってすれば意識を刈り取るくらいは容易かろう。

 そして少年は青年の目の前に倒れ伏した。それと時を同じしくして雪と土による煙幕が晴れる。

 だが、そこに閻魔刀はなかった。青年が怪訝そうな表情をする。と、その直後青年の頭上から閻魔刀が降ってきた。

 間一髪、青年は閻魔刀をかわす。その表情は驚きに満ちていた。

 後方で眺めていたバージルから見れば、実に単純なことだった。少年が閻魔刀で即席の煙幕を作り上げた瞬間、少年は閻魔刀を手放しそのまま青年の背後にある大木へ投げつけた。

 だが少年の力などたかが知れている。投げつけた閻魔刀は、辛うじて木に突き刺さった程度でしかなかった。そして、時間が経つことで重い閻魔刀は自重で落下し、その真下にいる青年へと降ってくるというからくりだった。

 戦う力がない、その術も知らない弱者の精一杯のあがき。だが、この土壇場でとっさに思い付くものとしては余興程度にはなるものだろうとバージルはほんのすこしだけ感心した。

 そんなバージルの眼前では、ネズコが青年を蹴り飛ばし少年へと手を伸ばしているところだった。青年は少年が食われると焦りの表情を浮かべるが、ネズコが取った行動はその真逆だった。

 ネズコは少年をかばうように、両手を広げて青年を威嚇していた。人を超える膂力や生命力、その代償として理性を失うであろう『鬼』になってなお家族を想い守ろうとするその強さ。

 かつてユリゼンとしてクリフォトの頂上で三度対峙した時ダンテが口にした言葉を思い出す。

 

『失うから強いんじゃねェ……失うまいと抗うから強いのさ。自分から何もかも捨てたお前に……力なんかあるわけねェんだよ!』

 

 ネズコが青年に飛び掛かる。膂力と辺りにある木を使った立体的な攻撃だ。

 だが、鬼狩りを生業とする青年にその程度の攻撃は通用しなかった。ことごとくを避けられ、しかし青年もネズコの強さに気づいたのだろうか。刀を収め、ネズコの首筋に手刀を叩きこみ彼女の意識を刈り取った。

 それを見届けながら、バージルは閻魔刀を引き抜き鞘に収める。すると、鋭い視線を感じた。当然その送り主は先の青年だ。

 

「さて、お前達はいったい何者なのか……聞かせてもらおうか」

 

 言い逃れはさせるものか。そんな有無を言わさぬ雰囲気をまとう青年を前に、バージルはダンテへと目配せをする。

 ダンテは小さく肩をすくめるだけだった。どうやら説明を自分に丸投げするつもりらしい。

 愚弟の使い物にならなさに呆れながら、しかしバージルとしても情報が欲しいというのはあった。今の自分達が置かれた状況を把握する為にも情報交換をすることは有用だろうと判断し、バージルは青年に向き直り口を開く。

 

「人に名を聞く時は、自分から名乗るのがこの国の礼儀だと聞いたが?」

 

 余りにもあんまりなバージルの対応に、青年の表情がわずかに引きつったことをここに記しておく。



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一時の別れ

気が付けば鬼滅は完結してるし、無幻列車は円盤が出ましたね
僕はPS5が当たったのでSEをそこそこ楽しみました。
鬼いちゃん楽で強いのズルい。


 ネズコとその兄へ襲い掛かった青年は「富岡義勇」と名乗り、己が鬼を滅する「鬼殺隊」という組織に属していると語った。

 曰く、鬼となったものは例え肉親であろうと飢餓感に抗えず人の肉を食らう。人の肉を多く食らった鬼はその分強力になり、また人を食らう。

 そうなる前に鬼の首を刎ね、無辜の人々を守る。そして、この世界から鬼を根絶することが自分達の目的なのだと語った。

 そして、自分は鬼がこの辺りに現れるという情報を得てここへやってきたのだと明かしたのだった。

 

「俺が話すべき事は話した。さあ、今度はお前達の番だ。……お前達は何者だ?」

 

 義勇の鋭い視線がダンテとバージルを射抜く。だが、そんな青年の視線など意にも介さずバージルは口を開いた。

 

「俺の名はバージル。こっちの愚弟はダンテだ」

「…………」

「…………」

 

 簡潔に自分達の名前を告げるだけ告げて、それ以降特に何も語ろうとしないバージルと同じくこちらを睨むだけで何も語らない義勇。

 ダンテは察した。義勇という男、バージルと同じ……と表現して良いかは分からないがおしゃべりが苦手な奴なのだと。

 これでは話が進まない。自分達はいいが、その辺で気絶しているネズコ達をそのまま放っておいたまま立ち尽くすのは余り良くない気がする。一応話しながら義勇がネズコを少年の隣に寝かせていた――ネズコの口には竹で作った(くつわ)を噛ませていた。間違って少年を食べないようにするためだろう――が、地面に寝かせたままのが最善の対処とは思えない。

 そう考えたダンテは、滅多にフル回転させない頭を使って日本語の話し方を思い出そうとした。

 

「アー、ギユウ? オレタチ、ミチ、マヨッテル」

 

 バージルのソレに比べて余りにも拙すぎる日本語がダンテの口から飛び出す。一瞬バージルの口角が得意げに上がったように見えて、無性にぶん殴り(リアルインパクトし)たくなったがソレを鋼の意志で抑えながら話を続けることにした。

 

「オレタチ、イエ、カエリタイ。デモ、ココ、ドコカ、ワカラナイ。ココ、二ホン?」

「……冗談も休み休み言え。お前達のような奴らが道に迷ってたまたま鬼のいる場所に居合わせたなど、そんな都合の良い話があるものか」

 

 ダメだ、コイツ話が通じねェ。ダンテは露骨に顔をしかめた。

 とは言え、確かに青年の立場からすれば自分達は怪しく見えてしまうというのも分かる。分かるが、もう少し融通を利かせてくれてもいいだろうに。

 

「ウソジャナイ。ミチ、マヨッタ。ソコノ、コドモノイエ、ミツケタ。ミンナ、コロサレタ。オレタチ、アノコ、マモレナカッタ」

「……待て。お前達、その娘が鬼にされるところを見たのか!?」

 

 急に義勇が血相を変えてこちらに詰め寄ってきたので、思わずダンテは押されるように上体をのけ反らせた。そういえば、鬼の血を傷口に流し込まれると鬼になるとか言っていたか。

 つまり、ネズコを襲った奴は鬼を生み出す能力を持った奴だったらしい。義勇達からすれば、なんとしても仕留めたい相手だっただろう。

 

「やった奴はどういう見た目をしていた!? 何故あれほどの実力を持ちながら逃がした!?」

 

 やはりお前達は鬼の味方だったのか、そう叫び出しそうなほどの形相で詰め寄ってくる義勇に待ったをかけたのはバージルだった。

 

「勘違いするな。俺達はあんな雑魚の味方などではない」

 

 その言葉に、ダンテは一瞬でも兄が頼りになると思った自分を呪いたくなった。やめろ、その物言いはこの場をかき回すだけなんだぞ。確かに雑魚だとは思ったが。

 

「大体、俺達は今お前に説明されるまで鬼という存在を知らなかった。本能に振り回されるだけの下等な奴らの仲間など、こちらから願い下げだ」

「ソウソウ。オレタチ、オニ、シラナカッタ」

 

 頼むからこれで納得してくれ。ああ、早くストロベリーサンデーとピザが食いたい。

 そんなことを考えながら、ダンテは義勇を見下ろす。

 義勇は不服そうな雰囲気を醸し出しながらも、一応は納得をしたようで小さくため息をついてダンテから少し距離を離した。

 

「分かった」

 

 義勇の言葉にダンテがほっと胸をなでおろす。どうやら、もう一度戦うことにはならずに済みそうだ。

 

「だが、やはりお前達を野放しにする訳にはいかない。俺に付いてきてもらおうか」

 

 義勇の言葉にダンテはけれど好都合だと思った。何せ、今自分達がどこにいるのかすらよく分かっていないのだ。

 もし本当にここが日本だというのなら、アメリカに帰るにしたってパスポートが必要になる。密航という手段もないわけではないが、それをやるにしても日本にいる誰かしらとコネがなければ難しい。

 一番良いのは電話を使ってモリソン、あるいはエンツォ辺りにでも連絡を取ることだろう。彼らであれば、そういった裏のルートを用立ててくれるだろう。後からくる請求書が怖いが、背に腹は代えられまい。……Vからもらった時の報酬で足りるだろうか。

 そんな先の心配をしながら、ダンテは義勇に従おうとバージルに言うべく彼の方を振り返る。と、そのタイミングで義勇に倒された少年がうめき声をあげた。どうやら目を覚ましたようだ。

 

「起きたか」

 

 義勇が少年の方を向いて、ほんの少しだけホッとしたような表情を一瞬だけ浮かべる。だが少年が義勇に気づいてネズコを抱きかかえた時には、仮面でも被ったかのような無表情に戻っていた。

 そんな自分を警戒している少年を他所に、義勇は一方的に話し始めた。

 

「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ。富岡義勇に言われてきたと言え」

 

 なおも混乱しているであろう少年に、義勇は続ける。

 

「今は日が差してないから大丈夫なようだが、妹を太陽のもとに連れ出すな。鬼の最大の弱点は、太陽の光だからな」

 

 義勇の言葉に少年のネズコを抱きしめる力がわずかに強まった。ダンテが空を見上げてみるが空は一面どんよりとした雲で覆われている。少なくとも、すぐに日の光が差すことはないだろう。

 

「俺は行く。お前達は俺に付いてきてもらおうか」

 

 義勇の言葉にダンテはやれやれと肩をすくめながら、ついていこうと義勇の方へと歩み寄った。

 だが、背後から聞こえてきたバージルの言葉に思わずその足を止めてしまう。

 

「悪いが、俺はお前には付いていく気はない」

『……なんだって?』

 

 この場で義勇についていかないことは、どう考えてもデメリットの方が大きい。そんなことはバージルにだって分かっているはずだ。

 少なくともダンテは自分達が悪目立ちする容姿であることを自覚していた。それに、レッドグレイヴ市に行ってからシャワーも浴びてないし服も洗濯をしていない。人に近寄られれば、自分達から血の匂いがしていることに気づかれてしまうだろう。

 そうなれば騒ぎになることは間違いない。バージルとてそのリスクは把握しているはずだとダンテは訝しんだ。

 

「俺はこの小僧達に付いていく。……どうせ狭霧山とやらはここからすぐにたどり着けるような場所ではないだろう? 万が一の時のために、保険はあるに越したことはあるまい」

 

 バージルは少年たちの方をちらりと見てからそう言う。保険というのは、ネズコが暴走した時の為に首を刎ねて暴走を食い止めることを言うのだろう。

 だが、ダンテはバージルの本音がそうではないことを見抜いていた。なんせ自分達の目の前にいるこの幼い兄妹は、大切なものを失うまいと力と心を示すことの出来た『強い人間』なのだから。

 きっと、バージルはこの兄弟が持つ『人間の強さ』が何なのかを知りたいのだろう。であれば、止める理由はどこにもない。

 

『OK、好きにしな。ただ、あんまり騒ぎを起こすなよ?』

『お前に心配されることではないな』

 

 英語でそんな短いやり取りをし、ダンテとバージルは互いに小さく笑みを浮かべる。再び離れ離れになってしまうが、此度は今生の別れではない。

 そして何より、ダンテはバージルが人間の強さとは何なのかを真剣に知ろうとしていることが嬉しかった。

 もうただ『力』に固執し人間であることを捨てようとした過去のバージルはいない。Vと融合することで人間らしさを取り戻した兄貴であれば、きっと少年達の助けにもなるだろう。

 それにネロのこともある。ここらで子守の一つでも覚えておけば、孫ができた時に案外経験が活きるかもしれない。

 そんな考えと共に笑みを浮かべながら、ダンテは義勇の方に向き直った。

 

「ダイジョブ、アイツ、コドモ、キットマモル」

「……その言葉、信用していいのか」

 

 不信感をにじませる義勇の目をまっすぐと見つめながら、ダンテは大きく頷く。

 

「……分かった。鱗滝さんには手紙でその男がついていくことも書いておこう」

 

 義勇が小さく頷いて地面を蹴る。それだけでわずかな雪煙と共に義勇の姿はかき消えた。もちろん、ダンテには義勇が卓越した技術で遠くへと跳躍したのが見えていた。

 最後にもう一度バージルの方を振り向き、それからやや呆然としたままの少年と彼に抱かれたネズコを流し見てからダンテは同じように地を蹴って義勇の後を追いかけた。

 次に会うとき、バージルが彼らからいったいどんなことを感じたのかを教えてもらうことを楽しみにしながら。



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狭霧山への道中

 炭治郎は何とも言えぬ居心地の悪さを抱えながら狭霧山への道を歩いていた。

 その理由は、自分の数歩後ろを黙って歩くあの蒼い外套を身にまとった外国の男だ。

 バージルと名乗った男は自分達の護衛兼監視役として狭霧山まで炭治郎について行くと言っていた。

 家族を失い禰豆子が鬼にされてしまったあの日、炭治郎はバージルと彼の弟ダンテ、それから片見替仕立ての羽織を着た冨岡義勇という青年に出会った。

 日本刀を持ち禰豆子や自分に襲い掛かってきた義勇は鬼を斬ることが仕事だと言っていた。どうやら何とか見逃してもらえたようだが、代わりに狭霧山の鱗滝左近次という老人を訪ねろとこちらの話も聞かず去って行ってしまった。

 しかし、家族を失い鬼になった禰豆子を人間に戻す手段を探すにしても何の手掛かりもない。故に、家に残してきた家族の亡骸を弔ってから禰豆子とバージルを連れて狭霧山へと出発した。

 途中禰豆子を日の光から守るために農家から壊れた籠と竹、(わら)を少々分けてもらったが、やはりバージルの容姿は目立っており誘拐でもされているのかと誤解をされてしまった。

 結局うまく誤解を解けなかったので、籠のお代を無理やり農家の人の手のひらに叩き付けるように渡して逃げ出してきてしまった。正直、少々やりすぎただろうかと炭治郎は今になって後悔している。

 それにしても、バージルも自己紹介をしてから一言も話さない。黙ってとても大きな日本刀を持って後ろを歩かれる、というのはこちらに悪意がないと匂いでわかっていてもやはりどうにも落ち着けなかった。

 だから、炭治郎は勇気を出して話しかけてみることにした。狭霧山まではまだ少し距離がある。お互いのことを多少は知っておけばもう少し気楽な旅にもなるかもしれない。そう思った。

 

「あの、ばーじるさん……で、いいんでしたっけ」

「何だ」

「あなたはどうして俺達に付いてきてくれるんですか?」

「それは前にも話しただろう」

「そ、そうじゃなくて! だって俺達、知り合いでも何でもないじゃないですか。それに、あの冨岡義勇って言う人と同じ仕事をしているってわけでもなさそうだし……」

 

 炭治郎の問いにけれどバージルの表情には全く変化がなかった。ただ、ほんの少しだけ彼から話すべきか悩んでいるかのような匂いが一瞬だけ漂う。

 だが、すぐにそんな匂いは引っ込んだ。代わりにバージルの鋭い視線が炭治郎を射抜く。鋭すぎるその視線に、炭治郎は自然と唾を飲み込んでバージルの言葉を待った。

 

「そうだな。簡単に言えば、お前達に興味が湧いた。お前達がこの先何を為すのか、それを知る為にお前達に付いてきた」

「俺達が……何を為すか、ですか?」

「そうだ。……お前は弱い。自分の身を守れない程にな」

 

 バージルの言葉に炭治郎は少し表情を歪めた。確かにそうだ。冨岡義勇という青年に襲われたあの日、結局自分は何も出来なかったのだから。

 

「弱い癖に妹を治すと大口を叩いた。妹を殺さないでくれと喚いた」

「……ッ!」

 

 バージルの遠慮のない言葉に炭治郎の心が抉られていく。だって仕方ないじゃないか、他に一体どうすれば良かったというんだ。

 もっと俺に力があれば、もっと頼りになる長男だったら。そうしたら家族は助かって、禰豆子も鬼にならずに済んだっていうのか。そんな思いが炭治郎の心の内に芽生える。

 けれど、続くバージルの言葉に炭治郎は驚くことになる。

 

「だがお前は勝てないと分かり切っていたあの剣士に立ち向かった。家族をこれ以上失うまいと、足搔いてみせた」

「…………」

 

 驚きのあまり言葉の出ない炭治郎をよそにバージルは続ける。

 

「そしてお前の妹は、もはや人間ではなくなったにもかかわらずお前を守ろうとした。……鬼は鬼に変わった直後極度の飢餓状態になり、一刻も早く人の血肉を食らいたくなるそうだ」

 

 だがお前の妹はそれをしなかった。その言葉に炭治郎は目頭が熱くなるのを感じた。

 禰豆子は確かに鬼になった。でも、その魂までは鬼にならなかった。あの優しい禰豆子のままだったんだと、それが実感できた。

 

「食欲、恐怖、暴力……そういった本能をねじ伏せ、大切なものを失うまいと己を律し、場合によっては己が力にすら変える。それが出来るのはごく一部の『強い人間』だけだ」

「強い、人間……」

「自分で言うのもなんだが、俺は強い。お前と妹は勿論、あの鬼狩りの男を斬ることすら遊びにもならん。俺からすれば、お前達など路傍の石ころ未満だ」

 

 自分で言っちゃうんだそういうこと。どれだけ自信があるんだこの人は。炭治郎は心の内でそう呟いた。もしかしたら、顔にも少し出たかもしれない。

 

「だが、お前達が持つ強さは俺にはない」

「……え?」

 

 バージルの言葉に再び炭治郎は目を見開く。相変わらず不愛想な表情のままではあるが、ほんのわずかにバージルからは自分達を羨むような匂いが漂ってきていた。

 

「俺は力を得るために何もかもを捨ててきた。愛など……誰かを想う気持ちなど、刃を鈍らせる邪魔なものだと思ってきた」

 

 面でもつけているかのように不愛想な表情を崩さないまま何かを握りしめるように拳を固めるバージルの姿は、けれども何かを懺悔するかのような雰囲気が漂っている。

 一体、この人はどんな人生を送ってきたんだろうか。炭治郎は自然とそんな興味が湧いた。

 

「今でもそう思っているところはある。だが、俺は何度かそういった人間だけが持つ強さを備えた奴らに後れを取った」

 

 バージルの視線が再び炭治郎を射抜く。だが、その視線は最初のものと比べると幾分か柔らかいものになっているような気がした。

 

「だからお前達について行くのだ。人間だけが持つ強さを備えたお前達がこの先何を為すのか。それを見届けた時、俺にもその強さがどういうものか理解できるかもしれないからな」

「バージルさん……」

 

 正直なところ、炭治郎はバージルから求められていることに対して応えられる自信がなかった。何を為すのか、と言われてもピンとこない。

 自分がやらなければならないのは、禰豆子を人間に戻すこと。そして、弟達の為にずっと我慢させていた彼女に死んだ家族の分まで目一杯贅沢をさせてやること。

 それが出来るまで死ぬわけにはいかない。今の自分には禰豆子を人間に戻す手がかりも立ちふさがる脅威を退ける力もない、だから今は義勇に言われた通り狭霧山の麓にいる鱗滝という老人を訪ねなければ。

 だが、空は既に茜色に染まってきている。狭霧山まではもう少しだろうが、流石に夜はどこか夜露のしのげる場所で休んだ方がいいかもしれない。

 

「とりあえず、休めそうな場所を探しましょう」

「好きにしろ」

 

 人のいる家に泊めてもらえるのが一番だが、禰豆子のことを考えればそれは出来ないだろう。万が一があってはいけないし、そもそも余計な騒ぎにもなりかねない。

 人がおらず、夜露もしのげる場所。そんな都合のいい場所が、狭霧山までの道の理にあるだろうか。 

 そんなことを考えながら山道を登る。日は既にどっぷりと暮れ、月が頭上高くに登っていた。日が暮れたので、禰豆子を籠から出して手を繋ぐ。

 ふと視線を上げると、お堂があった。山道の途中にポツンと建てられたそれは、きっと今の自分達のような人間達が一夜を明かすのにも使われているに違いない。

 お堂の扉からはロウソクの明かりが漏れている。きっと他にもこの道を通る人がいるのだろう。

 

「あ、お堂があるぞ! 明かりが漏れているから、誰かいるのかもしれないけど」

 

 でも一晩だけだから、一緒に休ませてもらおう。そんな言葉は突然漂ってきた鉄臭い匂いのせいで飲み込むことになった。

 

「血の匂いがする! この山は道が険しいから、きっと誰かが怪我をしたんだ!」

 

 怪我の度合いによっては今すぐ手当てをしないと死んでしまうかもしれない。通りがかっただけの他人とはいえ、これ以上目の前で誰かが死ぬのを見るのはごめんだった。死んでしまった家族を前にしてどうしようもなくなってしまう自分のような人が増えるのもごめんだった。

 だから炭治郎は一目散にお堂への階段を駆け上がり、お堂の扉を勢いよく開ける。

 果たしてそこにいたのは、無残にも食い殺された若い人間達と……

 

「あァ? 妙な感じがするな……」

 

 自らの両手と口を犠牲者の血で真っ赤に染めた人喰い鬼だった。

 



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圧倒的な力の差

あけましておめでとうございます(大遅刻

鱗滝とバージルが炭治郎に合流した後の展開が不自然だとの指摘を受け、指摘通りだと感じたために2/2_12時 終盤の展開を大幅に変更しました。
多分これで幾分か自然になったはずです。
指摘してくださった方、ありがとうございます。


 炭治郎が血の匂いがする、とお堂に続く階段を駆け上がるのを横目で見ながらバージルはその場に立ち尽くしていた。

 どうやらただの人間にしては鼻が利くようだが、バージルはもっと鼻が利く。血の匂いの濃さから言って、もう手遅れだろう。

 しかし、バージルが炭治郎を追いかけなかったのは手遅れなのが理由ではない。

 犠牲者の血よりももっと鼻を突く不快な匂いが辺りに漂い始めたからだ。

 

「雑魚が……徒党を組めば俺に勝てると思ったのか?」

 

 その匂いは炭治郎の家族を手にかけた鬼のソレに少しだけ似た悪臭だった。数にして三人ほどだろうが、匂いだけでも分かるくらいあの鬼とは格が違った。勿論、バージルを囲んでいる奴らの方が格下だ。

 バージルに気づかれたからか、藪の中から人影がそれまで息をひそめていた藪から三つ出て来た。どいつも目の前にいるバージルを旨そうな獲物としか捕らえていないのが一目でわかるほど下種な笑みを浮かべている。

 

「ぐへへへ……男っていうのはあんまり気が乗らねえけどよお」

「お前を殺して首を持って帰ればあのお方からもっと血を頂けるんだ」

「ソシタラ……オレタチモ……ジュウニキヅキ……!」

 

 どうやら自分を殺せばあの日取り逃がした鬼から褒美がもらえるようだ。どんな褒美かは知らないが、彼我の実力差も見抜けないとは全くもって話しにならない。

 だが、鬼とやらを斬り殺したことはない。義勇の話では鬼は回復力が普通の人間のソレとは一線を画すほどで、陽の光か特殊な金属で鍛えた日輪刀なるもので首を斬る以外に殺す手立てはないとのことだった。

 果たして閻魔刀で斬れるだろうか。と一瞬だけ考えたバージルだったが、すぐにかぶりを振った。

 閻魔刀は人と魔を分かつ魔剣だ。そうでなくても、この刀は魔界最強と謳われた悪魔スパーダが自分に遺した魔剣である。

 そしてその魔界でも随一の魔剣を操るのは、最強と謳われた父を超えた力を手にした自分に他ならない。神を超える力を持ったバージルが閻魔刀を振るえば、血を媒介にしただけの何の魔力も使っていない人間によって生み出された改造人間を斬れないことなど有り得るだろうか。当然、答えは否だ。

 何であれ、ここで血が流れることには変わりないだろう。そして戦いにもならない。それだけはバージルと鬼達の共通認識だった。

 

「俺達の為に……」

「その首――」

「ヨコセエエエ!!」

 

 先に仕掛けてきたのは鬼達の方だった。対するバージルはと言えば、チラリと後ろを見ていた。

 鬼達や炭治郎とは別にもう一人人間がいる気配がしたからだ。だが、まさに今バージルが襲われようというのにその人間は動こうとしない。

 とはいえ、こんな塵芥共など自分にかすり傷一つ付けることは叶わない。その絶対の自信がバージルにはあった。

 鬼達の爪が、牙がバージルの目の前に迫る。普通の人間であれば襲われていることを認識するので精一杯であろう速度のソレは、しかしバージルにとっては児戯にもならない程に遅い。

 直後、バージルが立っていたところに土煙が立つほどの衝撃と轟音が発生した。

 ほんの寸前まで自分が立っていた場所を横目で流し見ながら、バージルはコートの下に着たインナーの襟元を軽くつまんで首を軽く振る。足運び(トリックドッジ)した際にインナーが少し首にこすれた気がして、なんとなく気になったのだ。

 別に我慢をすればいいし、こすれて傷になることもない。半人半魔の体はそんな程度で傷が付くほどヤワではない。とはいえ、ちょっと気が散った(集中ゲージが減少した)のでとりあえず直そうと思った。

 バージルがそんなどうでもいいことに気を取られている間に土煙が晴れてくる。

 

「ぎっ!? て、てめえ、誰を殴ってる!」

「お前こそどこに噛みついてやがる!」

「ジャマ……スルナ……!」

 

 果たしてそこには哀れにも同士討ちになってしまったらしい鬼達がいた。群れてはいたが、動きそれ自体は下級悪魔と大差ない。

 会話する程度の知能はあれど、結局は自分だけが得をしたいというヒトとは名ばかりのケダモノでしかないのだ。ただ愚直に襲い掛かってくる辺り、妹を守る為に策を講じた炭治郎よりも愚かで弱いと言っていいだろう。

 実に下らない。力を強さを求めるのであれば相応の大義か理由がなければ強さは手に入らない。かつて力に取りつかれたバージルでさえ、誰に何を教わるでもなくスパーダや悪魔に関連した文献や土地を調べ、実戦を繰り返しその技を磨いてきた。

 ひとえにそれは家族を引き裂いた悪魔共、そして元凶たる魔帝への復讐であり、何者にも自分のモノを奪わせはしないという決意であり、弟ダンテに勝つという目的があったからだ。より強い力をねじ伏せるために何が必要なのか、何を得ればいいのか。若き悪魔バージルでさえそれは常に考えていた。

 しかし目の前の奴らはどうだ。ただ他者から与えられるものをアテにし、技らしいものは何もない。やっていることはスラムのギャングよろしくまっすぐ殴り掛かってくるだけ。厳しい自然を生き抜く肉食獣ですらもっとまともな動きをするというものだ。

 実に不愉快だ。こんな()()が己は強いのだと、力を持っているのだと勘違いしているなど。そして、そんな愚か者共が世にのさばっているなど。

 バージルの意識が研ぎ澄まされていく。目の前のクズ共が言い争う雑音は既にバージルの耳には入っていない。ただ目の前のデクの意識がこちらに向いていないこと、お堂の傍にいたもう一人の気配が炭治郎の方へ向かったことはハッキリと認識できる。

 閻魔刀の鯉口を切り、無造作に閻魔刀を抜刀する。その音でようやく鬼達がこちらへと視線を向けた。だが気づくのが遅すぎる。

 鬼達がバージルに気づいた瞬間には、バージルは右足を軸に上半身のバネを使って円を描くように閻魔刀を左に薙いでいた。

 けれど、閻魔刀の切っ先は鬼達の首にはわずかに届いていない。にもかかわらず、バージルはそれを気にするでもなくゆっくりと閻魔刀の切っ先を鞘へと納めていた。

 当然、そんなあからさまな隙を見逃すほど鬼達も馬鹿ではない。たった今まで怒りに染まっていたはずのその顔は、もう愉悦と蔑みによる笑みで一杯になっていた。

 

「ハッ! 馬鹿め!」

「当たってないんだよ!」

「ザンネンダッタナ!」

 

 今度こそ仕留める、仕留められる。その確信と共に鬼達が地を蹴りバージルに肉薄した。バージルはまだ納刀の動作中だ。居合をするにしても、鞘滑りで刀身を加速させるには僅かに足りないかと言えるくらいの納刀具合。

 獲った、どの鬼もそう思った。――バージルの言葉を聞くまでは。

 

「もう斬ったぞ」

『ッ!!?』

 

 チン、と閻魔刀の(はばき)*1と鞘がぶつかった流麗な音が辺りに響き渡る。

 その瞬間、まるで空間が切り裂かれたかのように閃き(時空裂閃)鬼達の首と体が真っ二つに分かれた。

 

「ガッ!?」

「ギッ!?」

「ゴバッ!?」

 

 一体何が起きたのか。それを理解する前に、鬼達の首と体はバージルを通り越して地面に叩きつけられた。

 鬼達の思考を満たすのは動揺、それから怒り。鬼である自分達が、日輪刀でもない刀を持った異国の男に負けるわけがない。なのにどうしてこんなことに。

 首と体が離れたところで、相手は日輪刀じゃない。だからすぐにでも体と首を繋げて、あの生意気な男を八つ裂きにしてやる。

 それが今の鬼達の頭の中を満たしている思考だった。だが、すぐに鬼達は思い知る。

 

「なっ!? か、からだが!?」

「く、崩れる……!?」

「キエル……イヤダ……!」

 

 何故だ、日輪刀でもないのにどうして。

 

「日輪刀とやらがどれ程のものかは知らないが」

 

 首を斬られ、体が炭のようにボロボロになって消えていく鬼を横目に髪を撫でつけながらバージルは口を開く。

 

「俺の閻魔刀に斬れぬものなど在りはしない」

 

 もし万が一そんなものが存在するとしたのなら、それはきっとダンテの持つ魔剣位だろう。

 断末魔を上げる鬼を尻目に、バージルは炭治郎が向かったお堂へ続く階段へと向かった。

 お堂の辺りから漂ってくる悪臭は先ほどよりやや弱まっているが、消えたわけではない。かといって炭治郎達の気配もまだ健在だ。

 どうやら、まともに戦う術もないのにちゃんと生き残れているらしい。中々どうしてしぶといではないか。

 そんなことを考えながらお堂へ続く階段に足を掛けた時、背後から殺気を感じた。

 

「やめておけ。老いぼれ風情がそんな殺気を剥き出しにして俺に斬りかかったところで、死体が一つ増えるだけだ」

「貴様……日輪刀も持たず鬼を殺していたな? ……何者だ?」

 

 視界の隅に刀身が青く染まった刀が見える。どうやら自分は刀を突きつけられているらしく、そして突き付けてきた老人は先ほどの鬼よりもはるかに強い。だが自分の相手にはならない。

 そう判断したから、バージルは何の気負いもない自然な動きで後ろを振り返った。後ろから声を掛けられたから振り向く。本当にそれくらいの雰囲気の動きだった。

 だが、相手の老人にとってはそうではなかったようだ。とっさに後ろに跳び、バージルから距離をとって刀を構えた。

 天狗の面をかぶった白髪の老人だ。その構えからは一切の隙を感じられない。あの冨岡義勇という青年にも勝るとも劣らない程、技を練り上げられていることが見て取れた。

 

「成程、貴様が鱗滝左近次だな?」

 

 バージルの問いかけに鱗滝は答えない。しかし、向こうもこちらのことは認識しているはずだ。義勇が手紙を書くと言っていたのだから。

 

「冨岡義勇から手紙が届いていると思うが?」

「……確かに、義勇から貴様のことは伝え聞いている。銀の髪に、大太刀を携えた異国の男が鬼殺の剣士になりたいという少年についているとな」

「ならばここで俺達が戦う理由はないだろう」

 

 バージルが小さく肩をすくめるが、鱗滝からの殺気は一向に収まらない。

 

「貴様からはおぞましい匂いがする。多くの人間の血を吸った匂いだ」

「ほう?」

 

 確かにバージルはユリゼンだった時にレッドグレイヴ市に住む大勢の人間から血を奪い、その血でできたクリフォトの実を食べ強大な力を得た。

 そういう意味では自分も先程斬り捨てた鬼と同じなのかもしれない。それが分かるとは、この老いぼれかなり鼻が利くようだ。

 

「それで、裏があると踏んだわけか。俺が鬼か何かだとでも思っているのか?」

「そうでなければその血生臭さ、説明がつかん……!」

 

 どうやら鬼はいてもこの地に悪魔はいないのかもしれない。鱗滝の言葉にそんな場違いな感想をバージルは抱いた。

 そもそも、悪魔は人間界にはあまり出てこれない。出て来れるとしても、魔界との境界があいまいなフォルトゥナ*2やマレット島*3にある虫や人形を依り代とすることでようやく現世に現れることができる。

 街一つ、都市一つ規模で悪魔が出て来れるのはそれこそテメンニグル*4、地獄門*5、クリフォト*6といった大規模な魔界に縁のある何かを人間界に召喚、運用でもしないと不可能だ。

 もしこの地でそんなことが起きているなら鬼殺どころではないだろう。となれば、もしかしたらこの地でバージルが満足できる戦いの相手はやはりダンテしかいないのかもしれない。

 

「一つだけ言っておくことがある」

 

 バージルの言葉に鱗滝はさらに身構えた。

 

「俺を鬼などという低俗なカス共と同じにするな」

 

 元々義勇の話を聞いた時からうっすらと感じてはいたが、やはり直に鬼を斬り捨ててからバージルのその思いはより強くなった。

 戦う力も術もない炭治郎にすら格が劣る奴らと同格に扱われるのは虫唾が走る。

 だが、鱗滝にはどうやらその意図は伝わらなかったらしい。体が硬くならない程度に肩を怒らせ、声を絞り出してきた。

 

「貴様……自分が鬼を超えた存在とでもいうつもりか?」

「鬼など相手にならん。あんな低俗な奴ら、俺の足元にも及ばないな」

 

 あんなのに比べれば炭治郎と禰豆子の方が伸びしろを感じる分余程マシだ。という言葉は言わなかった。

 そういう心の声が出て来たのは、きっとVであった頃に思い出した大切なもののおかげだろう。だが、それでも今ここにいるのはバージルだ。

 息子(ネロ)相手にすら『魔界化が進んだら勝負の妨げになる』という建前を言わないとネロの言うことを聞けなかったのに、赤の他人である炭治郎兄弟に対してそんな言葉を言うことが果たしてプライドの塊のバージルにできるだろうか。間違いなく無理である。

 しかし、この状況でそのめんどくささは仇になった。

 口にしなかった言葉は伝わらない。他者とコミュニケーションする上では当たり前のことだ。当然、炭治郎達に対するバージルの評価は鱗滝に伝わっていない。

 つまり、鱗滝からすればバージルは『自分は鬼をはるかに超えた生き物だ、人間など相手にならない』と豪語する相手に見えているという状態だった。

 鬼すら歯牙にかけぬほどの力を持った存在が、おぞましいほどの血の匂いを漂わせている。これで相手を警戒するなという方が無理な話だった。

 

「やはり貴様はここで止めねばならない……!」

 

 鱗滝からの殺気が一層膨れ上がった。だが、バージルにとっては炭治郎を鍛えるのであろう目の前の男を斬るわけにはいかない。

 面倒なことになった、と小さくため息をつきながらバージルも鱗滝へと視線を向ける。

 戦う気はないとはいえ、殺気を向けられれば自然とバージルの意識は研ぎ澄まされていく。

 研ぎ澄まされた意識の中、鱗滝の動きがより鮮明にバージルの目に映るようになった。呼吸、面の奥に隠されたであろう視線、手足のわずかな動き。

 そうして鱗滝の動きに集中していると、鱗滝が地面を蹴ろうと足に力を入れたのが分かった。

 来る。そう認識した時には人のソレにしては大きく、そして独特な呼吸の音がバージルの鼓膜を震わせた。

 

―全集中・水の呼吸―

 

 次の瞬間には鱗滝が刺突を繰り出してきていた。その速さは先ほどの鬼などまるで相手にならない程のスピードだ。

 

 漆ノ型 雫波紋突き

 

 炭治郎達と出会ったあの日、義勇が繰り出したものと遜色ないキレと速度のある刺突技だった。

 だが、焦るほどではない。

 バージルはその場から動くことなく鱗滝の繰り出す刺突を見極め、自分にあたる直前で相手の刀身に閻魔刀の柄をぶつける。

 

「ッ!!」

 

 凄まじい突進の勢いの乗った刺突のエネルギーがたったそれだけで明後日の方向へと流された。とっさに技を繋げる余裕がないほどの絶対的な隙が鱗滝に生まれる。

 だが、そんな隙を前にしてバージルが行ったのは一歩ずつ階段を後ろ向きで登ることだけだった。

 バージルにしてみれば鱗滝を傷つけることなく炭治郎達と合流するための判断だったのだが、鱗滝からすれば意味合いは全くの逆だった。

 

(これ以上、若者を犠牲にさせるわけにはいかん!)

 

―全集中・水の呼吸―

 拾ノ型 生生流転

 

 行かせてはいけない場所、この場で仕留めなければならない巨悪。であれば、繰り出すべきは最強の技!

 肺に入るだけのありったけの空気を体に取り込み、鱗滝は水の呼吸で最大の威力を持つ技を繰り出した。

 鱗滝が全身を使って刀を右に薙ぐ。さらにその勢いを使ってさらに斬撃を重ねていく。それらを防ぎ、捌き、かわしながらバージルは確かに見た。

 鱗滝の振るう刀に添うようにその(あぎと)でこちらを食いちぎらんとする龍の姿がそこにはあるのを。

 それは鱗滝が斬撃を重ねるほどに力強くハッキリとしたイメージとしてバージルの目に映り、それに比例して技の威力も二次曲線的に上がっていく。

 

「ほう……」

 

 これは中々どうして練り上げられた技ではないか。これほどの技であれば、先ほどの鬼共など数を揃えたとしても敵にはならないだろう。

 ただの人間が、悪魔との混血でもない老いぼれがこれほどの力と技を備えている。防御に使う閻魔刀を通じて伝わってくるその威力は、鬼に勝るとも劣らない……いや、もしかしたらそれ以上の膂力だ。

 この男に炭治郎を任せれば、あの小僧もこれほどまでの力が得られるというのだろうか。

 やはり斬るわけにはいかない。だが、少々興が乗ってきてしまった。これほどの技を練り上げた人間、果たしてどれほど自分に付いてこれる? 

 今なお威力が上がり続ける鱗滝の斬撃も、決して無敵というわけではない。バージルにとってはダンテの剣舞(ダンスマカブル)の方が余程激しく感じるくらいだ。

 しかし、その威力は目を見張るものがある。ここはひとつ、こちらもそれなりの技をぶつけてみようではないか。

 そう心に決め、バージルは地面を蹴って宙に舞う(トリックアップ)。動作としてはそれだけだが、その速度は常軌を逸していた。あの神速の刺突を繰り出してきた鱗滝でさえ一瞬バージルの姿を見失うほどの速度だ。

 それでも鱗滝は生生流転を止めることなく、すぐにバージルが宙に逃げたことに気が付きそのまま斬撃と共に突進してくる。

 だがバージルもその時には閻魔刀の柄に手をかけていた。

 

「ッ!?」

 

 鱗滝がこちらの動きに気が付いた。だがもう遅い。閻魔刀を抜刀し、鞘滑りの加速と自由落下による威力を上乗せした一振りが鱗滝の生生流転とぶつかり合う。

 だが、拮抗したのは一瞬だった。当然、勝ったのはバージルの技だ。

 流れ星が堕ちるがごとく勢いで地面に叩きつけられる鱗滝と、その轟音に驚く短刀を持った炭治郎の姿を眼下に見ながらバージルはそのまま着地する。

 

「ふむ、悪くない技だった。キレも威力も人間にしては良いものだな」

 

 閻魔刀を納刀しながら品定めをするかのように膝を付き、肩で息をする鱗滝を見下ろすバージルの顔にはほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。

 手加減をしたとはいえ、初めにバージルがそうしたようにこの老人は自らの技を使ってバージルの切っ先をそらすことでダメージを最小限に抑えていた。地面に叩きつけられた際に轟音がするほどあった勢いも、うまく受け身をとって負傷を最小限に抑えている。見事な対応と言えた。

 未だ状況を飲み込めず、呆然とする炭治郎にバージルは何事もなかったかのように言い放つ。

 

「炭治郎、アレが今日からお前に戦う術を教える鱗滝左近次だ」

「え”!? あっ、だ、大丈夫ですか!?」

 

 状況が呑み込めず、しかし恐ろしい勢いで地面に叩きつけられた鱗滝を心配した炭治郎は思わずそちらへと駆け出した。

 

「何をしている!!」

 

 だが、鱗滝の一喝に驚き炭治郎は足を止めた。

 

「え……?」

「お前は、まだ生きている鬼を放置して背を向けるのか!」

 

 鱗滝の言葉に炭治郎はハッとして後ろへ振り返る。バージルもそれに合わせて炭治郎の視線の先を見れば、そこには斧によって木に縫い合わされた首から腕の生えた鬼の姿がある。

 髪が絡まっている様子を見るに、炭治郎によって斧で首を斬り落とされたものの日輪刀による斬首ではなかった為死なずに反撃しようとしたんだろう。しかし炭治郎が斧を投げ捨てた結果あのような無様な姿になったのだと、バージルは推察した。正直どうでもよかったが。

 どうやら鬼の方は気を失っているようだ。炭治郎が上手くやったようには見えないが、まあ運がよかったのだろう。

 それはともかく、なおも鱗滝から自分に向けられる殺気に対してバージルは大きくため息をついた。炭治郎は既に気に縫い留められた鬼に意識を持っていかれている。

 やるなら今しかないだろう。ここで鱗滝からの誤解を解いておかなければ、今後の自分の動きにも悪影響が出かねない。

 バージルは幻影剣を二本射出する。一本を鱗滝の足元に、もう一本を木の生い茂った茂みの奥の方へ無造作に。

 次の瞬間にはバージルは鱗滝の目の前へと瞬間移動(エアトリック)をしていた。

 

「ッ!?」

「黙ってこっちに来い」

 

 驚き息を呑む鱗滝にそれだけ告げて、鱗滝の胸元を掴み今度は茂みの奥へと射出した幻影剣をマーカーに再度瞬間移動(エアトリック)

 マーカーにした幻影剣のもとにたどり着くと同時に、バージルは鱗滝をつかんでいた手を放す。

 さしもの鱗滝も突然の出来事に対応できず、その場に尻もちをついた。

 

「ここならあの小僧に俺達の声は聞こえまい」

「貴様ッ……!」

 

 尻もちをついた状態であったというのに、機敏な動きで鱗滝はバージルから距離を取る。

 そんな鱗滝に対し、バージルはまたも無造作に閻魔刀を地面に鞘ごと突き刺した。

 一体何のつもりか、と鱗滝が身構える。そんな彼を前にバージルは閻魔刀から距離を取って、腕を組みながら手ごろなところにあった木に寄りかかった。

 

「……何のつもりだ」

「さっきも言っただろう。俺達が戦う理由はない、と」

「そんな言葉が信用できるものか! 貴様は、あの子に何をするつもりだ!」

 

 なおも濃い殺気を飛ばし続ける鱗滝にバージルはやれやれと首を振った。仕方があるまい、言ったところで信じてもらえるかは怪しいが自分の目的を語るしかないだろう。

 

「俺は炭治郎と禰豆子が何を為すのか。それを確かめるためにあの二人についてきた」

「……言っている意味が分からんな」

 

 だろうな、とバージルは肩をすくめながら鱗滝に問いかけた。

 

「お前は鬼と人間、どちらが強いと思う?」

 

 バージルの質問に鱗滝の殺気がわずかに薄れる。だが、構えはまだ解いていない。

 

「……人間だ」

 

 それでも、鱗滝の口から語られたのは迷いなき言葉だった。それに対し、バージルは小さく頷く。

 

「そうだ。さっき俺が斬り捨てたあのような低俗な獣に比べれば、お前たち人間の方が恐らく強い」

「…………」

 

 バージルの言葉を飲み込めないのか、天狗の面の奥にある鱗滝の視線がわずかに揺らいだ。

 

「だが、それでも戦いとなればお前たち人間の方が確実に弱いだろう。特に1対1の戦いとなればな。だがお前たち人間は鬼に持っていないものがある」

「……それがあるから、貴様は人間の方が鬼より強いというのか」

 

 鱗滝の言葉に、バージルはゆっくりと目を閉じた。何故なら、その問いの答えはバージルですら知らないからだ。

 目を閉じて、ここまでにあった出来事を思い返す。テメンニグルでの喧嘩、マレット島での対決、クリフォトでの決戦。そして炭治郎と禰豆子。

 果たして、本当にあの二人の子供について行けば答えを知ることができるのか。誰かを想う気持ち。大切なものを失うまいと足搔くための原動力。(家族)はそれを愛と呼んだ。

 だが、自分に愛は分からない。それでも、そこに己がもっと強くなる為の答えがあるのなら。

 バージルはゆっくりと目を開け、鱗滝をまっすぐと見据える。

 

「分からん。だからあの二人についてきた。本当に、鬼にはないソレを持ったお前たち人間の方が強いのかどうか。それを知るために」

「…………その話を、わしに信じろというのか」

 

 相変わらず警戒を緩めない鱗滝を、けれどバージルは鼻で笑う。

 

「別に信じろとは言わん。信じられないのならもう一戦ここでやるだけだ。……最も、その場合老いぼれが一人無駄死にするだけだがな」

「…………分かった。全てを信じるわけにはいかないが、刃は収めよう」

 

 そういって、鱗滝は殺気を霧散させ刀を収めた。流石に彼我の実力差もわきまえず刺し違えようとしてくるほど馬鹿ではないらしい。

 

「だが、少しでもおかしなことをしようとすればその時は……」

「好きにすれば良い」

 

 鱗滝の言葉にそう返しながら、バージルは地面に突き刺していた閻魔刀を回収する。ふと東の方を見れば、空は白みがかってきていた。どうやら夜明けが近いようだ。

 炭治郎は大丈夫だろうか。弱いが、なかなかにしぶとい小僧だから死にはしていないだろうか。

 そんなことを考えながら、バージルは来た道を戻り始めた。鱗滝が後ろからついてくる。特に寝首をかこうといった意識はないのが気配で伝わってきた。

 全く面倒だった。そんなことを考えながらお堂の前までバージルが戻ってきたとき、ちょうど気に縫い留められていた鬼が日光に当てられボロボロになって消えていくのを炭治郎が目の当たりにしているところだった。

 どうやらこの小僧は最後まで鬼にトドメをさせなかったらしい。この様子では鬼を相手に戦えるようになるまでどれ程かかることやら。

 鱗滝に頬をひっぱたかれ、鬼になった妹を連れるということについて説教される炭治郎を横目にバージルは空を見上げた。

 これからの旅は今までと違ったものになるだろう。ただ戦う力を求めた過去の旅とは違う。今度の旅は、人間の強さを知る旅だ。

 これを知ることが出来れば、ダンテにも勝ち越せるだろうか。名実ともに弟より全てにおいて優れている兄となれるだろうか。

 

もっと力を……!(I Need More Power)

 

 炭治郎にも、鱗滝にも聞こえないだろう小さな声でバージルは呟いた。

 家族を失ったあの日から今に至るまで、変わることのない魂の叫び。本当の強さ……人間の持つ強さの欠片を知った今でも魂は変わらずそう叫んでいる。

 それがバージルという()()なのだ。死ぬまでこれが変わることはないだろう。

 それでも、今バージルはこれからの旅路に僅かな期待を寄せていた。この旅で、きっと自分はもっと強くなれる。そんな期待を。

 見ていろダンテ、次に会う時お前は素直に負けを認めたくなるだろう。

 そんなことを考えて、バージルは唇の端をわずかに吊り上げながら、話が終わってお堂を出発した鱗滝と炭治郎の後を追い始めた。

 

*1
鯉口を切ると見える刀身と鍔の間に見える金具部分

*2
DMC4の舞台となった街。ネロとその恋人キリエの故郷

*3
初代DMCの舞台となった無人島。ダンテとバージルの母を殺し、バージルをネロ・アンジェロに改造した張本人である魔帝ムンドゥスが拠点にしていた

*4
DMC3でバージルが魔界に向かう為の手段として呼び出した古代遺跡。長きにわたる兄弟戦争の始まりの地でもある。

*5
フォルトゥナに存在した魔界と人間界を繋ぐ石板。最終的にダンテによって全て破壊されている

*6
力を求めたユリゼンが禁断の果実を手に入れるためにレッドグレイヴ市に出現させた魔界の大樹。最終的にダンテ&バージルによって根元から切除された




年明けくらいから急激にお気に入りとか評価が爆増しまして、正直びっくりしております。
年末まではニート生活してたんですが、年明けてからは新しい仕事が始まっていて体力的に執筆する余裕がありませんでした。
感想もちらほらいただいており、返信は出来てませんが読んではいます。
ありがとうございます。

更新はまああらすじに書いてある通り不定期亀更新がデフォだと思っていただければとは思いますが、思ったより反響があるらしいのでまあ頑張って更新はしていきたいと思いますので、今年もどうぞよろしくお願いします


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