ダンジョンにイヴァリース一の剣豪がいるのは間違っているだろうか (ZANTETSU)
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以前にも書いた事ありました。1回消したんですけど、やっぱまた書きたくなって書き直して投稿します。まあ、そんな事どうでもいいですよね。どうぞ。


「むぅん...ここはどこだ」

 

確か自分はエクスデスに次元の狭間へと飛ばされたはずなんだが、次元の狭間とは違うどこかの洞窟に飛ばされてしまったようだ。

 

「グルルルル...」

 

なにやら狼型のモンスターが唸りを上げてこちらに近付いてきている。全く穏やかではない。

 

「話し合いは出来そうもない..か。いや、それでも俺は名乗らせてもらう!!」

 

愛用の薙刀をぐるんと回して地面を突く。

 

「イヴァリース一の剣豪、ギルガメッシュここに推s...って名乗りあげてる途中に攻撃してくるのは御法度だぞぉ」

 

飛び掛ってきた狼を蹴りで壁に叩きつけると狼は霧のように霧散し、黒い石をその場に落として消えた。

 

「なんだこりゃ」

 

手に取ってみてみると微かに魔力を感じるが中にある魔力を取り出すことは出来そうもない。やがて興味を失い、適当に投げ捨てた。

 

「しかし、一体ここはどこなんだ。こんな所に人が来るとも思えんが、取り敢えず探して...ムム?誰かの話し声が聞こえるぞぉ」

 

すり足さし足忍び足で岩陰に隠れつつ盗み聞きする。

 

 

 

ーーー

 

「何を焦ってるのアイズ。さっきからすごい勢いでモンスター倒してるけど、何かあったの?私達ダンジョンに入ってから1匹もモンスター倒してないよ」

 

「ごめん...ただ早く強くなりたくて」

 

「今のアイズでも十分強いと思うんだけどなー」

 

「まぁ、気持ちはわかるよアイズ。僕も新米冒険者の時はそうだったからね。君を新米というのは気が引けるが、冒険者歴は僕達よりもずっと短い。好きにするといいよ、アイズ。今は僕達がいる1人でダンジョンに篭もりきりなんて事になるよりはずっとマシさ」

 

「はぁ...あまり甘やかすなよフィン。悪い癖がついてしまう」

 

「分かってるよリヴェリア」

 

私たちはレベルアップに行き詰まった私のためにティオナ、ティオネ、フィン、リヴェリアまで来てくれた。本当に優しい人達いい人達。でも私はもっと強くなりたい。もっともっとただ只管に強くなりたい。

 

なにかきっかけがあればレベルアップできるはずなのだ。ステイタスはもう頭打ちになっているレベルアップはいつしてもおかしくないというのになかなか出来ない。レベルアップの要因の一つに強敵の撃破、格上の撃破がある。下層のボスを私一人で撃破すれば或いは何かが変わるかもしれない。

 

そんな思いを打ち明けたらみんなが着いてきてくれたのだ。

 

「アイズ、少し休憩を...待て。みんな止まれ」

 

リヴェリアが杖を構える。敵だ。それもまだ上層だと言うのにリヴェリアが警戒するほどの敵。私も咄嗟に武器を構える。集中すると岩陰に誰かの気配を感じる。モンスターではないようだがこちらの様子を伺っているのがわかる。

 

奇襲でもするつもりだったのだろうか。

 

「何者だ。そこに隠れていないで姿を現せ」

 

すると、岩陰からは2mはあろうかという大男が姿を現した。赤い外套に背中に巨大な薙刀と槍が見える。このフロアではどちらも使いにくい武器だ。

 

「ほう、この俺様に勘づいていたか。お前たちなかなかやるな」

 

「...何者だ貴様。貴様のような男、1度見れば忘れようもない。最近冒険者になった新米かそれともモンスターか。どちらにせよ名を名乗れ」

 

「これは失礼、俺としたことがすっかり忘れちまってた。んんっ」

 

するといきなり大男が構えをとる。右手を前に左手を後ろに首をくるりと回して名乗りをあげる。

 

「異世界彷徨い西へ東へ、ダンジョンへ。イヴァリース一の剣豪とは俺の事!ギルガメッシュ〜ここに推参!!」

 

ドーン。と音が聞こえてきそうなくらいの決めポーズだった。

 

「この人は何をしているの?リヴェリア」

 

「....すまん私にもわからん」

 

リヴェリアにも分からないことがあるんだ。

 

「それで、君はなんで僕達を物陰から見ていたのかな。何か用でもあるのかい」

 

「そうだ。俺様は用があって貴様達を盗み見み、盗み聞きしていたのだ。諸事情あってこの世界には疎いがお前達はなかなかの強者とみた。ギルガメッシュが強者と相見えた。即ちそれは...」

 

突如私の体は武器を構えてギルガメッシュと名乗るその男から距離をとっていた。そしてそこには男の槍が突き刺さっていた。

 

全員が戦闘態勢に入る。

 

「お前達、いい武器持ってるなぁ。俺様の前に現れたが運の尽きよ。その武器頂くぜ!!」

 

ギルガメッシュは虚空に手を伸ばし、空間に現れた波紋から武器を取り出していた。

 

「空間魔法の使い手だと!?馬鹿な」

 

希少中の希少の魔法を目にし驚くリヴェリア。無理もない。私も見たのは初めてなのだから。

 

「さあ、行くぞ!!」

 

こうして突如ダンジョン上層にて予期せぬ戦いが始まってしまった。

 

リヴェリアが牽制の炎の魔法を無詠唱で放つ。

 

その炎はギルガメッシュに直撃するも微塵もダメージを与えられず、剣で炎を振り払った。いくら無詠唱とはいえ一線級の冒険者の魔法を歯牙にもかけない人間がいるなんて。

 

そして驚愕したのがギルガメッシュも魔法を使ってきたことだ。筋肉が隆起するほど鍛え上げられた体から近接専門の戦士かと思っていたが上級魔法に匹敵する威力の雷魔法が私たちを襲う。

 

リヴェリアの守りの魔法で事なき得たがこのまま遠距離で戦い続けたら分が悪い。団長もそう思ったのか、私と一緒にギルガメッシュとの距離を詰める。少し遅れてティオネ、ティオナも追いかけてくる。

 

「ムラマサ。お前達には敬意を表してこれで相手をしてやる」

 

一瞬でわかった。あの細身の剣がどれだけの業物なのか。まともに打ち合えばデュランダルの属性のない武器は両断されてしまうだろう。

 

かなり長い刀身の武器をこの狭い場所で振り回しているのにもかかわらず、刃が岩や壁に当たることが全くない。少ししか見ていないが槍も薙刀も長剣も達人級の技巧。隙がなくなかなか間合いを詰めることが出来ない。それどころか相手の攻撃を捌ききれず団長以外の私たちの体にはあちこちに血が滲んでいる。

 

団長がギルガメッシュに鋭い突きを放つ。ギルガメッシュはその突き出された槍に乗り、長剣を薙ぎ払う。団長が最低限のバックステップでそれを避け空中にいるギルガメッシュに再度突きを放つも振り切った長剣の遠心力でそのまま槍を上から叩きつけ、背中の薙刀を振り下ろす。

 

団長は槍を長剣で叩きつけられる前に手放し、近くにあったギルガメッシュが地面に突き刺した槍で薙刀を受け止める。

 

「全く、君は一体何者だい。様々な武器をそのレベルで使いこなすなんて普通じゃないよ。それにこの槍も一級品。僕が持ってるものには及ばないけれど、かなりの品質だ。これだけの武器に武芸。その風貌も相まって名が知られていないはずがない。...君が冒険者ではないのは確かだね。君が冒険者になったらと思うとゾッとするよ」

 

「冒険者じゃないだと!?そんな馬鹿な...」

 

魔法も武器の扱いも一線級冒険者に劣らない実力を持っている神の恩恵を授かっていない一般人。全く持って笑えない。

 

「神の恩恵?冒険者?なんだそれは。だがいい響きだ。冒険者ならいい武器たくさん持ってんだろ?俺にみせてくれよその武器をよ!」

 

ギルガメッシュは団長の槍を手に掴み取る。

 

「そら、返してやる。お前たちを倒して手に入れるまでは奪う気はねえ」

 

「それはどうも」

 

団長もギルガメッシュに槍を返す。

 

「ありがとよ。だが、手加減はしないぜえ?」

 

これだ。この敵を打ち倒すことができれば今度こそ、私はレベルアップができる。だからこそ、私は。

 

「フィン。私にやらせて」

 

「アイズ?本気で言っているのかい。この強さだ。1人で立ち向かうにはあまりにも無謀すぎる。...わかりやすく言おうか、今の君では勝てない」

 

「そんなことはわかってる。でも、戦いたい。なにか掴めそうな気がする」

 

「あぁ...俺もだ。俺も掴めそうな気がする。お前を相手にすると....」

 

ギルガメッシュも?一体どういうこt

 

「いい武器を手に入れられる予感しかしねえぜ!!」

 

さっき持っていた長剣とは別の青くしなった死を連想させる剣で襲いかかって来た。

 

「まともに打ち合えば押し切られる。なら、こうする!」

 

テンペストを発動させ、壁や天井を飛び回り相手を撹乱する。牽制を入れつつ、隙を見せたところにラッシュをかける。

 

その巨体からは予想もつかないほど機敏に私の攻撃に反応してくる。何よりあの剣から感じる死の気配が、1度でも攻撃を受ければ死ぬと直感が告げている。

 

正面から打ち合えば死。隙を見せれば死。今度ばかりはダメージを負うわけには行かない。

 

「なかなかやるな嬢ちゃん」

 

キンキンキンと剣どうしがぶつかり合う音が聞こえる。介入すれば邪魔になってしまうほどの激闘でフィンもリヴェリアも援護することが出来ない。ティオネやティオナに関しては動きを追うのに精一杯である。

 

そして、その時は訪れた。

 

アイズがギルガメッシュの首を狙った突きに対して少し大振りにギルガメッシュは剣を振り対応してしまった。アイズの速さで正面に回られ攻撃を受ければ振り切った剣を戻して受けることは出来ないだろう。

 

「これは万事休すか。負けを認めるしかないか....とでと言うと思ったか!」

 

ギルガメッシュは剣で対応するのではなくアイズの腹部を蹴りあげることで対応してみせたのだ。

 

「ぐっ...」

 

強烈な蹴りだ。のどの奥にまでせり上がってきた血を地面に吐き捨てる。肋骨が何本か折れてしまっているだろう。1度目を瞑れば意識を失ってしまう自信がある。

 

だから、最後のラッシュをかけここで決める。

 

残り僅かな魔力を絞り切り全力全開でギルガメッシュに突撃する。

 

自分の目にすら見えきれていない超速度の剣撃のラッシュ。自分にも見えていないというのにギルガメッシュはそれにすら対応している。そして、

 

「勝負あった!!」

 

私の剣をはじき飛ばし、掌底を私の体に打ち込む。

 

「ぐぁ...」

 

ダンジョンの壁に叩きつけられそのまま血を吐き出しながら崩れ落ちる。意識が保てない。ただ、死んでいないことだけわかった。リヴェリアが駆け寄ってきたところで私の意識は途切れた。

 

 

ーーー

 

 

「勝負あったぜ。お前の武器頂いていく」

 

少女が使っていた細身の剣を手に取り蔵へと仕舞う。またひとつ強者の武器を手に入れた。

 

「よくもアイズを...絶対許さない!」

 

アマゾネス、というのか。褐色の肌に寒そうな服装で俺に殺気を向けてくる。

 

 

「はっはっはっは。敗者に情けなど不要!負ければ獲物を失い全てを失う。当然のことよ」

 

「...フィン致命傷ではない。手持ちのポーションで十分に治癒できる。あとは寝ていれば時期に目を覚ますだろう」

 

「そうか。ありがとうリヴェリア。」

 

「君が奪うのは武器だけって所なのかな」

 

「その通りだ少年。武器は奪うが命にまでは興味はない。俺が求めるのは強者の武器のみ。だから少年、お前の武器も貰うぞ」

 

「まだ戦い続けるのかい、キミは」

 

「当然だ。この場にいる全ての猛者から武器を奪うまで俺様は戦い続ける」

 

「分かったよ。なら武器を渡そう。ここにいる全員分ね」

 

「....なんだと?自分の獲物を抵抗するでもなく明け渡すというのか。」

 

「そうだとも。だから僕達を見逃して欲しい。君を倒しても僕たちにはなんのメリットもないんだ。だからこれ以上被害を出したくないのさ」

 

「クックックックックハハハハハハハハ。いいだろう。そこの少女の健闘に敬意を表してここは武器を貰い受けて引き下がろう。だが、覚えておけよお前達。次に出会ったらまたその時持っている武器を頂くぜ!じゃあな」

 

投げ捨てられた武器を回収し、俺は下層へと落ちていく穴に飛び込んだ。




書き溜め、ストーリー展開とか一切考えてないし推敲もしてないんですんませんんっ


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2

どこのファミリアにねじ込んでやろうか...


ダンッと大きな音が鳴り響く。なにか大きなものが上から降ってきたような重い音に思わず振り返った。

 

「貴様...何者だ」

 

「お前こそ何者だぁ?さっきからちっこい癖にやたら腕が立つ少年や、エルフなんかと遭遇しているが...ひょっとしてこれがふぁんたじぃとか言うものなのか!」

 

ぽんと何かを閃いたように手を叩く2メートルを超える大男。背中には身の丈ほどもある槍や薙刀が見える。遠くからでもわかる一級品の武器だ。

 

「まぁいい。お前が何者であろうとどうでもいい。去れ。お前に用はない」

 

こんな男よりもフレイヤ様の頼みの方が重要なのだ。こいつに構っている暇などない。

 

「そうか...ノリが悪いなぁ。だが、そんなお前でもやる気を出さざるを得ない状況にしてやる。背中にあるその見事な大剣。失いたくなかったら俺と戦え」

 

不意打ち。自分が元いた場所に槍が突き刺さっている。殺気を一切感じさせはしなかったが、あまり早い速度で投げられた訳でもなかったので、それを躱すことは容易だった。

 

「なんの真似だ。貴様。」

 

「ギルガメッシュ様の真似だ。似てるだろう?当たり前だ俺様はギルガメッシュその人だからなあ」

 

「ふざけた事を...貴様なんぞ知らん」

 

大剣で軽く振り払うが、その巨体からは予想もつかないような繊細な槍さばきで綺麗に受け流した。

 

「ほう...少しはやるか」

 

「少しどころかかなりやるぜ。俺様は」

 

力を込めて剣を振る。しかし、やはり受け流される。

 

「ふんっ」

 

並の冒険者ならば持ち上げることすら叶わない大剣を目にも止まらぬ速さでギルガメッシュと名乗る男に叩き込む。さすがに捌き切るのは不可能と判断したのか、槍でその攻撃を受ける前に背後に大きく後退した。

 

「強いなあお前。尚更その武器が欲しくなってきたぜ」

 

「俺はお前の武器に興味はない。だが来るというのなら容赦はせん。死んでも文句は言うなよ」

 

「殺されて文句なんざ言わねえ。殺されて当然のことをやってるんだからな。剣士の命に等しい剣を奪おうというのだ。なんの覚悟もしていないと思うか。常に命懸けよ」

 

「面白い。ならばこい!」

 

ギルガメッシュは槍も薙刀も空間に仕舞い、その鍛え上げられた腕2つ分の幅を持つ巨剣を取り出し構える。大剣どうしで俺と戦おうというのか。

 

「せぁっ!!」

 

その巨剣事吹き飛ばす勢いで大剣をフルスイングするが、剣にかかる衝撃を地面に逃がし吹き飛ばされることなくその場に立ち止まっていた。大剣を振り抜いた後の無防備な俺に容赦なく巨剣で突きを放つ。

 

剣の腹を叩き自分の体を浮かせることで回避し、重力により落下する勢いを載せ大剣を振り下ろす。しかし、奴はそれを横に少し移動することで躱す。そして、突き出していた剣を引きその巨体でタックルをしかけてきて俺を吹き飛ばした。

 

近くにいたミノタウロスを巻き込んで壁に叩きつけられた俺は口の中に溜まった血を吐き捨てる。

 

「ウゥォオオオオオ!!!」

 

血が滾るのが分かる。今のオラリオに自分を相手にこれだけ渡り合える者はおらず、嘗て敗北したゼウスファミリアの構成員に及ぶものなど誰一人としていない今のこのオラリオで自分と渡り合い、且つ傷を負わせることができる存在がまだいるとは思いもしていなかった。

 

分かっている。フレイヤ様の命令があるのにこんな回り道をしている場合では無いのは分かってはいるのだが、強敵の撃破はあまりにも魅力的にすぎた。

 

「へへ。どうやらやる気になったみたいだな。」

 

「お前の武器、貰い受ける!!」

 

地面が抉れる。とてつもない重さの剣同士がぶつかり合い、ダンジョンの壁や床に亀裂が生じ広がってゆく。戦闘が熱くなるにつれてダンジョンも悲鳴をあげるかのように大きく揺れるが構うものか。

 

ただ目の前の敵を倒したい。ただそれだけだ。

 

獣のように剣を縦横無尽に振るい、敵の攻撃には本能で察知し磨きあげられた技と経験で回避し受け流し、反撃する。技を覚えた凶暴な獣ほど厄介なものは無い。

 

「おおっとと...コイツはマズいな」

 

確かに感じる手応え。僅かにではあるが、自分が優勢に立っているということが分かった。ギルガメッシュは応戦しようにも、ダンジョンをまるで自分の庭かなにかのようにその驚異的な身体能力で飛び回り即死級の攻撃が止むことなく飛んでくるのだ。

 

少しでも対応を間違えれば死ぬ状況に中々隙をつくことが出来ないでいた。だがそれと同時にオッタルも焦っていた。自分のこの力は限定的なもので精神力を大幅に消費する。短期決戦用の技だと言うのに、この男は動きに付いてきて更には劣勢ではあれどなんとか防いでいる。

 

このまま決めきれずにいれば、倒しきることが難しくなるのは目に見えていた。だからこそ、オッタルは勝負に出た。

 

「おぉらァァア!!」

 

なんと大剣をギルガメッシュに向けて投げ放ったのだ。しかし、目で追えている以上ギルガメッシュは回避することができるだろう。ただし、その一投は今までの速さよりも1段上の全力の一投だった。回避する余裕がなくギルガメッシュは大剣で弾いてしまう。

 

振動で少し手が痺れてはいるものの、剣が振れないということはない。しかし、大きな隙ではあった。そこにオッタルが猛スピードで距離を詰め瞬きの間にギルガメッシュの懐に入り込む。

 

「せぇああ!!!」

 

「ぐぅぬぉおおおおおお!!!」

 

獣の重く鋭い拳による一撃が腹部に突き刺さる。ミシミシと嫌な音が拳越しに伝わった。血をまき散らしながらギルガメッシュは吹き飛ばされダンジョンの壁を突き抜けた。

 

「え。ちょ、まっ...あ〜れぇ〜」

 

徐々に声が聞こえなくなっていく。どうやら下の階層に落ちてしまったようだ。ダンジョンの壁が壊れてしまうのはさすがに予想外ではあったが、あの様子では致命傷ではなかったのだろう。

 

「次こそはトドメをさす。覚悟しておけ、ギルガメッシュ」

 

思わぬ時間を取られてしまった俺は、大剣を拾い上げフレイヤ様の命令を遂行するためにその場を後にした。

 

 

 

ーーーー

 

いてててて。なんとか生きてはいるが、完全に負けた。言い訳の余地もなく負けた。壁が壊れて下に落ちてしまった時はまた次元の狭間に落ちていくのではないかと思っていたが、そんな事にはならなかったようだ。ありがたい。

 

今回は負けてしまったが、あの猪人の武器はなんとしても手に入れたい。次に見えた時は必ず武器を奪ってやる。

 

「さて、ここはどこだ」

 

この世界に来た時も同じようなことを言った気がするが気のせいだろうか。

 

「GUAAAAAAAA!!!!」

 

「へ?」

 

どす黒い肌の巨人が怒り狂ったように吠えながらこちらに向かってくるではないか。

 

「なんだなんだぁ??武器も持ってないやつとは戦いたくないんだが、そうも言ってられないかっ!」

 

巨大な拳を巨剣で弾き返す。仰け反る巨人を他所に巨剣を仕舞い、オーガキラーを取り出す。巨剣に比べれば少し小さめの両刃の斧で、巨人に対して有効な武器である。

 

巨人族はこれを見ただけで震え上がり逃げ出すものなんだが...

 

「GUAAAAAA!!!!!」

 

怯えるどころか掛かってこいと言わんばかりの咆哮。流石の俺様も困惑気味。

 

「これオーガキラーだぞ?本当にわかってるか、いや、分かってなさそうだな。どうしてかは分からないが正気を失っている...仕方がない。」

 

手を組み、ハンマーでも振り下ろすかのように地面に叩きつける。しかし、その手を足場に見立てて飛び乗り腕をかけ登っていく。

 

「お前に恨みはないが...じゃあな」

 

黒い肌の巨人の頭からオーガキラーを振り下ろすと、スルスルと切れ味の良いナイフで肉を斬るようにブチブチと肉を割いて行き、途中であった硬い石もまとめて両断する。

 

すると、巨人は糸の切れた操り人形のように静止し、上の階層で倒したモンスターのように霧のように消え去った。

 

「またそうやって消えるのか。よく分からんな」

 

この世界のモンスターと自分のいた世界のモンスターの特性の違いに驚きつつ、武器のことではなくこの世界について考えてみた。このモンスターの消え方然り、モンスターの中にある石も然り、冒険者などというワード然り。

 

「どうやらこの世界には知らないことが多すぎる見てぇだな」

 

少し情報収集をしてもいいかもしれん。そう思い、街があるであろう上の方に向かうことにした。

 

今までに出会った人間やほかの種族達と出会えば幸運、出会えなくとも上には街や村があるであろうし地上に出ることが出来れば、人には会えるだろうと思いついた。

 

「さぁて行くか」

 

狭いフロアでも扱いやすい短剣を取り出し両手に装備する。両手で短剣を弄びながら、上の方へと向かっていった。




ギルガメッシュの口調むーずぃ


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3

今日(投稿日)のラッキーアイテムは湿度計!


ガシャガシャと鎧が鳴る音が響き渡る。途中何度か冒険者とすれ違う機会はあったが、めぼしい武器を持っていそうな実力者とは出会わなかったので黒い肌の巨人を倒して以降戦いという戦いもしていない。

 

雑魚モンスターを数体蹴散らした程度だ。

 

「そろそろか。」

 

喧騒が聞こえる。おそらくこの出口の先に街があるのだろう。そして、だからこそそこを警備する者もいる訳だ。

 

「その風貌。その背にある武器。間違いない、お前がギルガメッシュと名乗る不審者だな」

 

「不審者とは失礼な。珍しい武器を求めて彷徨う一般人になーにを言うか」

 

「武器だと?あぁ、たしかに報告には武器を奪われたとあったな」

 

警備の人間が、腰に差した自分の武器に手をかける。

 

「それは俺達ギルド警備兵が相手でも関係ないか?」

 

ニヤリと笑う。

 

「たしかに関係ない。お前も見たところそれなりに強いらしい。そしてその武器は...俺の眼鏡にかなっている。なら、やる事は一つだろう?」

 

名乗りもあげぬ内に警備兵が切りかかってくる。非常に素早い並の戦士には反応できない速度だ。何かの能力か魔法を使ったわけでもないのに急加速している。しかし、

 

「対応できない速度ではないな。猪の男の方がもっと速い」

 

「なにっ?」

 

己の速度に対応してくるのが予想外だったのか、思わず距離を取るために大きく後ろに飛んでしまう。そしてそれは悪手である。宙に浮いたが最後、よっぽどな者でもない限り回避も迎撃も全ての行動がやりづらくなる。

 

そして、実力が上の相手にそんな動きをしたら最後。敗北は必至である。

 

「そぉりゃ!」

 

風魔法と斬撃の組み合わせでかまいたちを引き起こす。あまりの暴風に巻き込まれた警備兵は空中で受け身も取れず、空高く舞い上げられ地面に強く叩きつけられる。

 

死んではいないが、痛みで動けず唸っている。

 

「その武器、いただくぜ」

 

品質の良い、ナイトソードを手に入れた。思わぬ収穫に顔がニヤけてしまうが、ダンジョンを出た瞬間謎の集団に取り囲まれる。そして囲まれた瞬間に嫌でも気付いてしまう。どれもこれもが第一級冒険者であるということに。

 

そしてその冒険者達は俺を囲む以上にただ1人の存在を護衛しているように見えた。おそらくこの集団のトップだろう。トップであろう女と目が合うとクスリと笑われた。その後女はこちらに優雅に歩み寄ってくる。武器も持っていないので用はないのだが。

 

「穏やかじゃあねぇなぁ。俺様が何かしたか?」

 

「してしまっているのよ貴方は。ダンジョンで多くの冒険者から武器を奪ったでしょう?貴方にはギルドから懸賞金を掛けられているわ。100万ヴァリス。大した額ではないけれど、これは異例なの。今日報告があってそのまま懸賞金が掛けられるのだから」

 

「その金欲しさに俺様を捕まえるというのか。そんなに金に困っているようには見えないが」

 

「困ってないわよ。お金には。私はフレイヤ。美と豊穣を司る女神フレイヤ。望めばなんでも手に入るし、何も物には困っていないわ」

 

「正義感から俺を捕まえようということか。ご苦労なこった。武器泥棒1人にここまでするとは思ってもみなかったが...ちょうどいい。ここにいる冒険者達の武器全ていただく。そしてこの世界の情報もついでにいただく。お前達は俺の懸賞金をいただく。目的は全てはわかった。ならあとは勝負あるのみよ....だからアンタは下がりな。武器のない奴に興味はない」

 

エクスカリバー。自分が最も信を置く最強の武器を取り出す。右手にエクスカリバー。左手に青く透き通る刀身を持つ大剣アルテマウェポンを握りしめる。これまでにない激闘になるだろう。

 

「武器がない...そう、思うのかしら」

 

「ん?持っていないだろう、違うのか。ダガーでも隠し持っているというのか」

 

ふふっと笑う女を訝しむ。そんなに強力な短剣でも忍ばせているというのか。

 

「私に仕えなさい、ギルガメッシュ。貴方の魂気に入ったわ。私の物になりなさい」

 

瞬間、唐突に猛烈に目の前の女に尽くしたいという気持ちが湧き上がってくる。思わずこの女のものになってしまいたい。それがとても蠱惑的で果てしない快楽を得ることができるだろうとなんの確証がないのにも関わず確信してしまっている。こんな感覚は初めてだが、知っている。この力は....

 

「魅了か...だが、このギルガメッシュ様が魅了に屈すると思うなよ。俺様が魅了されるのは最高の武器にだけ。相手が女神だろうが関係ない。俺様を従えさせたいのなら力づくでだ。それ以外はあり得ない!」

 

レジストする。体を縛り付ける何かが解き放たれるのを感じる。恐らく本気の魅了ではなかったのだろう。でなければこんなに容易に抵抗できるわけがない。

 

「女神の眷属を相手にするとなれば、本気を出すのが礼儀か...いくぞ!ギルガメッシュチェーンジ!!」

 

眩い光と共に腕が8本に増える。そしてその手にどれも一級品の武器を持っている。遠距離に対応するための魔装銃や、弓。それに加え大剣、盾もあれば槍もある。この世界に来てから初めて使うが使用には全く問題が無いようだ。

 

「私の魅了が効かず、腕も増える...貴方本当に人間?」

 

「紛れもない人間だっ!」

 

それを皮切りにクロスボウで手近な冒険者に射撃するが当然のように弾かれる。しかし、

 

「な、なに...?」

 

与一の弓。放った矢は必ず標的に命中する。弾かれようと何をされようとホーミング弾のように標的を狙い続ける。故にこの矢による攻撃を防ぐには矢自体を破壊するか、使い手であるギルガメッシュを倒す他ないのだ。

 

それを知らぬその冒険者の脇腹に矢が突き刺さる。

 

「ぐぁああああ!!!!」

 

たった1射。それで戦闘不能にしてしまえるだけの威力が、技量がギルガメッシュにはあった。心臓を射抜かなかったのは完全に情けである。

 

「そらそらそら、どんどん行くぜえ!」

 

ヒュンヒュンと風を切る音が鳴る度に1人また1人と冒険者が倒れていく。しかし、ついにその矢に対応するものが現れ始めた。自分の周囲に風を纏い、矢の軌道を逸らし続けるという芸当をし始めた冒険者が現れたのだ。

 

そしてその冒険者はギルガメッシュ同様弓を用いて攻撃を仕掛けてきた。1射1射は大した威力ではなく対応出来る物ではあるが、ほかの冒険者を相手にしつつとなると、まるで狩りで獲物を追い詰めるように時には他の冒険者の援護をし、時には隙を見つけて頭を射抜く致命の矢を射ってくる。厄介極まりない。

 

「なら、これを使わせてもらうぜ」

 

零式魔装銃。魔力を込めた威力の高い弾丸が敵の防御結界を吹き飛ばしダメージを与える。魔力を込めれば込めるほど威力が上がるこの武器は、多数の敵を殲滅するのに向いていると言える。事実、風の防御結界を張っていた冒険者は吹き飛ばされ地面に倒れている。それに巻き添えになる形で幾人もの冒険者が倒れる。

 

「さあ、次はどいつだ?」

 

振るたびに電撃を撒き散らす槍をぐるんと回して柄の部分を地面に突き立てる。コンっと小気味のいい音が鳴り響き、周囲を威圧する。

 

「舐めるなよ化け物風情が。雑魚をどれだけ蹴散らそうが関係ねぇ...俺と勝負しやがれ」

 

先程まで相手にしていた冒険者たちよりも一回り、いや二回り以上の強さを目の前の冒険者から感じる。見た目は目つきの悪い犬。見た目を裏切らぬ棘のある話し方。いい所などひとつも見受けられないが、槍を手に持ちこちらを見やるその佇まい。

 

名槍の担い手として十分の技量を持っていることは明白だった。

 

「いいぜ...いつでも掛かってきな!」

 

「っ!!!」

 

1歩。まるで1歩なのではないかと感じるほどに早く速く疾かった。なんとか身をよじらせ回避するが槍による攻撃が横腹を掠める。

 

「ちっ外したか」

 

「強いなあ。お前。いくら俺様でもその槍に貫かれれば死んでしまうかもなあ」

 

あの速さでの突きはまず防ぎきれないだろう。防ぐのではなく躱す。もしくは穿たれる前に距離を詰め接近戦に持ち込むしかない。そう、普通はそう思うはずなのだ。

 

武器を構える。それは、完全に待ちの姿勢だった。もう一度かかってこいと言わんばかりの待ちの姿勢。それは相手に獣人にとっては酷く挑発的なものに写っただろう。暗に、

 

『次は対処する』

 

とでも言っているようなものなのだから。

 

「舐めてんじゃねえぞ!三下がァア!!!」

 

巨大な弾丸が目にも止まらぬ速さで接近する。しかし、それは一度見た技。体を少し横にずらし、自分の目の前を通過する獣人の腹に強烈な膝蹴りを放つ。

 

「グボォオオ」

 

ゴキゴキと嫌な音が聞こえ、獣人は空高く舞い上げられる。しかし、ギルガメッシュは見逃さなかった。まだ諦めておらず闘志に燃え上がり、憤怒に怒り狂うその目を。

 

だからこそ油断なく躊躇いなくギルガメッシュは追い打ちをかける。

 

「貫け、(いかづち)の槍!!」

 

獣人は自分の速度が上乗せされた意識が飛ぶほどの膝蹴りを受けても尚意地でも離さなかった自分の槍で迎撃に移ろうとするが、全身の至る所の骨が折れたりヒビが入ったりしているせいか思うように動かない。しかし、それでも槍を投擲しギルガメッシュが投げた槍を打ち砕いた。

 

そして、空にはオラリオ中の人々が見えるほどの眩い光とともに広範囲に強力な電撃が放出された。空を飛ぶ鳥達は焦げ落ち、市街の電灯には昼なのに電気が点る。電撃は地上にいた者たちにも被害を与えた。オラリオにある建物の1部の屋根は焦げ付き、爆心地の近くの地面は軽くめくれ上がっていた。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッッッ』

 

獣人の地獄の釜で煮られてでもいるような悲痛な悲鳴が響き渡る。電撃が止むと焦げ死んだ鳥たちと一緒に地面に落下するのが見えた。恐らく死んではいないだろうが瀕死の重傷だろう。

 

だが、ここまで大掛かりな戦闘に回復薬や治療術師を用意していないはずがないと当たりをつけ、次の標的を探す。第一級冒険者が敗れたのを見てか、不用意に近づいて来ようとする冒険者はいない。かと言って弓で撃たれることも懸念していつでも矢を撃ち落としたり防御魔法を張る準備はしている。

 

「全く。ふざけた奴だ。貴様一人にファミリアを半壊させられるとはな。ましてやあのアレンまでやられるとはな」

 

「クククククク...我らに破滅と崩壊を齎し得る難敵。今か今かと....出番を待つ我が、み、右腕が疼く...ク、ククク」

 

気品さを感じさせ、高貴なエルフであろうことが伺えるホワイトエルフの男と、何を言っているのか理解できない曲者のダークエルフ。ダークエルフとホワイトエルフというのは仲のいいものなのだろうか。少し疑問に思いながらも思わず目を細める。

 

血の匂いがする。多くの命を奪い奪われ土地や金、権利、或いは主張を貫き通すため行われた戦争の匂いがする。それも大戦の。数え切れぬ数の命を奪ったであろう敵に容赦も油断もしようはずもない。

 

紛れもなく歴戦の猛者達だ。

 

「武器の回収は後回しか。まあ、いい」

 

アルテマウェポンの切っ先を二人のエルフに向ける。

 

「覚悟しな、俺様の剣はそこいらの剣士のそれとはひと味違うぜ?」

 

「ふんっ...前口上はいい。さっさと来い」

 

「ク、クククク。わが胸に来たりし..「そぉらあ!」

 

ダークエルフに向かって剣を振り下ろす。当然のように後ろに飛ばれ回避されるが、逃すまいと追撃をかける。しかし、その横から砲弾のような強力な魔法が打ち込まれる。

 

それらを何とか武器で振り払うが、近接のプロに遠距離のプロ。かなり強力な魔法だと言うのに、魔力切れを起こすような素振りを一切見せていない。まだまだ使えそうなホワイトエルフは、こちらをキッと睨みつけている。

 

恐らくあのエルフが行使する魔法は片手に持つ武器によって増幅されているのだろう。長刀が魔法の補助も果たす武器というのには非常に珍しい。希少な武器を目の当たりにして胸が高鳴る。

 

「ククククハハハハ!」

 

「なに...が、おかしい....」

 

「笑いたくもなるぜ。こんなに強い奴らと希少な武器に囲まれているんだ。幸せで幸せでクククク笑いが止まらん」

 

「気色の悪い男だ。早急に潰してやる」

 

ホワイトエルフが砲弾の雨をふらせ、その上からダークエルフが飛びかかる。魔法に懸かり切りになるとダークエルフに倒され、ダークエルフに対処すると魔法を浴びる。

 

「これは万事休すか...さすがの俺様もここまでだ。。。とでも言うと思ったか?」

 

『リフレク』全ての魔法攻撃を1度だけ無効化し反射するバリアである。

 

一弾一弾が強力なこの魔法を自分に当たる度にリフレクを掛け直すことで対処する。

 

「ぐっ...反射魔法だと」

 

「ならば接近戦で叩き潰せばいいだけの話だ。この男に退路などない押し続ければいつかは果てる。押し込め!援護しろヘディン!」

 

「俺に命令するなヘグニ!」

 

ダークエルフの人格がいつの間にか豹変している。さっきまでの訳の分からない発言やひきつっていた顔は消え失せ、そこには王と呼ばれてもおかしくない風格を持った一人のエルフがいた。

 

二人の風格のあるエルフが、悪態をつきながらも連携してくる様は見ていて不思議な光景ではあったが非常に強力だった。

 

迷いのない太刀筋に、ヘグニと呼ばれたダークエルフの隙を潰すように打ち込まれる魔法。ヘグニに距離を詰められ攻撃されていることもあり、タイミングを見計らいリフレクを張る暇がない。数発はどうすることも出来ずに、その身に魔法による攻撃を受けてしまう。

 

ダメージがどんどんと蓄積されていくのがわかる。このままではまずい、動きも鈍くなってきている。なにか打開策を見つけなくては...

 

そんなギルガメッシュの目に映ったのは、あの女だった。ふふふと笑を浮かべながら自分を見ている。あの余裕を持った顔をしているのが癇に障る。自分は何もしていないのに、武器すら持っていないというのに偉そうにしているのが鼻につく。

 

こんな女がトップならまだエクスデスの方がマシだった。奴は大魔法使いという自分よりもはるかに強い高みにいて、雑務を自分に押し付けていただけだ。それすらもマトモにできず、ジジイに敗れ、バッツ達に敗れてしまった訳だが。

 

「俺は...俺様は...負けるわけにはいかねえ!」

 

自分でもらしくないということはわかっていた。だが、負けそうになって逃げるようなことはもうしたくなかった。ましてやこれだけの珍しい武器を前にして逃げることなどできよう筈もない。必ず、手に入れる。必ず勝利する。

 

ホワイトエルフを銃で牽制し、魔法を唱える暇を与えない。ホワイトエルフを狙えばダークエルフが距離を詰めて襲ってくる。しかし、ホワイトエルフを牽制するのを止めると再び魔法が降り注ぐ。

 

だからこそここが自分の踏ん張りどころだった。ここで二人を対処出来ないようであれば勝てないのだ。そう言い聞かせて、まとめて二人を相手にする。頭が痛い。酷使し続けた体と頭が悲鳴をあげる。しかし、着実に二人のエルフは押され始めていた。

 

二人に傷を負わせる度に脳内にアドレナリンが分泌され、痛みの感覚が麻痺して浮遊感に包まれ全ての時間がスローモーションのように流れていくように感じる。ギルガメッシュは1種のトランス状態に入っていた。勝利への執念が、強い思いがギルガメッシュの体を動かせ続けた。

 

獣人によって付けられた脇腹の傷も、エルフ2人によって蓄積されたダメージも今は何も感じないただ、目の前の敵を倒すことだけに集中している。そして、その時は訪れた。

 

あまりの攻防にミスが生じてしまったのだ。ダークエルフが、攻撃を空振りし隙を見せてしまう。そして、予測していた動きと食い違うダークエルフの動きに対応しきれず誤ってダークエルフに魔法を打ち込んでしまう。

 

「ぐぁああああ!!!!」

 

ダークエルフが弾き飛ばされる。しかし、ホワイトエルフは焦らず長刀を振りかぶりギルガメッシュと接近戦を挑みに来る。おそらく魔力が残りわずかだったのだう。ダークエルフほど接近戦に自信があるわけではないようで、ギルガメッシュを相手取るには明らかに不足していた。

 

正しい判断ではあったが、勝利の芽はない。ギルガメッシュがホワイトエルフの鳩尾に拳が炸裂する。血を噴き出し、その場に膝から崩れ落ちるホワイトエルフ。

 

ここに、勝負は決まった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

消耗している。既にギリギリの所にあると言うのに敵はまだ実力者が残っている。傷を癒す魔法を唱える暇もなく間断なく敵が押し寄せる。

 

「ここでお前か...クククク流石の俺様もそれは予想外だったぜ!」

 

「フレイヤ様の命令だ...そしてこれは俺自身の望みでもある。貴様を叩き潰す。欲を言えば、万全の状態の貴様と戦いたかったが仕方があるまい。この場においてフレイヤ様が望まれているのは勝利だ。であれば、確実に勝利できる今、貴様と戦うしかない」

 

「へっ...俺様はどれだけ傷を負っていようが構いやしねぇ。前回は負けたが今回は違う。ギルガメッシュチェンジで本来の戦闘スタイルに加えて、このおしゃべりしている間に補助魔法を掛けたからなあ!」

 

狡い。プロテス・ヘイスト・シェルの行動速度上昇や魔法阻害、物理半減のバリアなど強力な補助魔法がギルガメッシュに付与された。

 

「戦う前にお前の名前を教えてくれ」

 

猛者(おうじゃ)オッタル」

 

「へっ、俺様はイヴァリース一、いいや、天下一の剣豪ギルガメッシュ。お前の武器をいただくぜ、オッタル!!!」

 

「来い!!!!」

 

それからの事はよく覚えていない。朦朧としていた意識の中、何度も何度も攻撃を受け、互いの鎧や肉体を切り刻み血を吹き散らしながらも激闘を繰り広げていた。互いに致命傷こそ負っていなかったもののギルガメッシュは血を失い過ぎた。

 

聖剣エクスカリバーによる数え切れぬ連撃の後、ギルガメッシュは気を失った。オッタルが片膝をつき全身から血を流しているのを見たような気がしたのは気のせいか果たして....

 

 

 

ーーー

 

「ぐっ...はぁはぁはぁ。まさか、ここまでとは」

 

まさかあれだけの深手を負った相手にギリギリまで追い詰められるとは思いもしなかった。特にギルガメッシュが持つ武器の中でも最上級の武器であると思われる金色に輝く聖剣と思しき剣の連撃はオッタルをして死を予感させた。

 

あと数撃続いていれば地に伏していたのは自分の方だったであろう。

 

「思ったよりも強かったわね彼。オッタル、貴方が人にそこまで傷を負わされたのは久しぶりに見たわ」

 

「情けないところをお見せしてしまい、申し訳...ございません」

 

フレイヤ様が溜息をつく。

 

「いいのよ別に。それよりも彼をファミリアのホームに連れてきて頂戴。勝負に負けたのだから、私の眷属になってもらうわ」

 

「承知しました。直ちに運びます」

 

「他の者に頼んでもいいわよ。貴方傷が酷いですもの」

 

「いえ、運ばせていただきます。その後傷の手当を早急にしますので」

 

「そう。そこは貴方の好きなようにしなさい」

 

「はっ」

 

それだけ言い残すとフレイヤはガリバー兄弟に護衛を任せ、ホームへと帰っていった。自分もギルガメッシュを運び、傷の手当をせねばフレイヤ様にこれ以上心配をおかけする訳にもいかない。

 

片手で二メートルを超える男を担ぎあげ、全身から血を流すオッタルを見た通りゆく人々はギョッとしてささっと離れていく。しかし、今の自分に他人を気にしてい余裕はない。一刻も早く戻らなければ自分が倒れてしまいそうだ。

 

ふと、唐突にオッタルは思った。これが終わったら久しぶりにミアの食事でも食べに行くか、と。




長くなってしまった。


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