ハリーポッターと忘却のハルピュイア (カネナリ)
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prologue

キングズ・クロス駅にて一人の少年が歩いていた

彼の右手には幼い体に不釣り合いな大きいトランクの取手が握り締められている

彼は人混みに不馴れなようで非常に進みづらそうに歩んでいる

 

彼の目的地は9と3/4番線にあるホグワーツ特急だ

今年11歳の新入生である彼は近くにあるポートキーを使ってこの駅にやって来た

 

彼が歩いていると丸い眼鏡をかけた少年が見えた

その少年は雑多な荷物を持っており中にはフクロウまでいる

魔法界では変とは思われないがここはマグルの世界だ

現に少年は周りから奇抜なものを見ているような目を向けられている

 

彼と同じ新入生であろう少年は9と3/4番線への行き方がわからないようだ

マグルの駅員に尋ねても無駄なのにと彼は思った

 

彼が9番線と10番線の間にある柱へ向かって歩いていくと後方から視線を感じた

彼にはマグル避けの呪文(レペロ・マグルタム)がかけられている

この視線は先程の少年のものだろうと彼は思った

 

どうやら自分と同じくらいの歳の子供が妙なトランクを引っ提げているのが気になったようだ

 

彼はいきなり振り返って少年を驚かすのも悪いと思い自身の召し使いに教えられた通り柱に向かってこれ見よがしに足を進めた

少しの暗転の後ホグワーツ急行の汽車が停まっている所へやってきた

少年の目利きがよければ彼を見本としてこちら側にこれるだろう

 

親子が暫しの別れを告げているのが見えた

仲が良い兄弟が共に汽車に乗り込む姿が見えた

大袈裟に号泣する父親と呆れた顔をしている少女がいた

不安なのか中々母親の元から離れようとしない少年がいた

 

彼は愛の溢れている光景を目にし暖かな気持ちが胸を満たした

そして彼は一人汽車に乗り込んだ

 

その身に合わぬ大きく無骨なトランクを

彼はさぞかし重そうに持ちながら空いているコンパートメントに入っていった

 

彼は自身の半分程あるトランクを上の棚に収納するのに苦労していた

浮遊させる呪文(ウィンガーディアム・レヴィオーサー)を使用すれば良いのに使えることを忘れているようだ

彼が新しい学校へ入学することに緊張しているのは明白だ

 

彼はトランクを席に置こうかと思ったが後から入ってくる人の邪魔になると気づいたのでやめた

ようやく収納できた彼はほっと息をつき座席に座り込んで窓の外を眺めた

 

彼と同年代らしき子供たちが親らしき大人と未だに話し合っている様子が見えた

 

後数分もすれば出発するだろうに

別れを惜しんでいるのか中々汽車に乗ろうとしないし乗らせようとしない

 

汽笛が喧騒とした駅に響きわたった

汽車が発車する合図だ

 

子供たちは慌てて汽車に乗り込み

大人たちは涙ぐみながら子供たちを見送った

 

汽車が動き出した

大人たちは子供たちに手を振っている

その顔は優しげにそして誇らしげな笑みを浮かべている

 

 

 

汽車は進んでいく

 

魔法の学び舎 ホグワーツへ

 

子供たちを乗せて

 

 

 

 



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01

その少年は魔法使い同士の親から生まれた

 

父は魔法省に勤めており母は魔法論の研究員だ

両親は優秀な存在であった

そこそこ裕福な家庭で大きい屋敷に住み

召し使いや屋敷しもべも居た

 

少年の両親は少年を愛していた

触れ合う時間はそれほど多くははなかったが確かな愛を少年に与え少年はその愛を感じた

 

少年はとても良い子供であった

両親が仕事に行くときは笑顔と共に激励の言葉で送り出した

召し使いの厳しい教育にも泣き言を言わず精一杯取り組んだ

 

少年はとても賢い子供であった

幼いながらも言葉を発することができた

読み書きに熟し数多くの本を読んだ

少年の両親は直接褒めたりはしなかったが父が召し使いに少年のことを自慢していたのを彼は知っている

 

少年は幸せな時を過ごした

 

そして少年は5回目の誕生日を迎えた

大きな屋敷から小さな屋敷へ移り住んだ

少年は初めて別荘というものを経験した

興奮覚めぬまま彼は床につき眠った

 

翌日の朝目覚めた少年は両親を探した

けれども何処にも両親の姿はなかった

 

両親が仕事で家を空けることはよくあったとはいえ両親がなにも言わずに何処かへ行ってしまうことは珍しいと感じた

そしてそのまま召し使いたちと共に日常を過ごした

 

半年が経つ頃には何かの異変を感じた

両親が半年も連絡をいれなかったことなど一度もない

それでも少年はいつもの日常が帰ってるのだと自身に言い聞かせた

 

両親がいなくなって一年も経つ頃にようやく少年は自分の召し使いに両親が何処に居るのか尋ねた

 

召し使いは何も言わず少年を抱きしめた

召し使いの目は少年にどう伝えるべきか悩み揺れ動いている

少年の背に回された手は拙い動きで子供をあやすかのようにして擦っている

珍しく緊張をあらわにしている召し使いの様子から両親はもう帰ってこないことを少年は理解した

 

段々彼の視界がぼやけてきた

今はもう遠い昔のように感じるその光景は霞んで見えなくなってきた

彼はそのあと何をしたかどうにも思い出せないまま遠のいていき

 

「ゲコッ」

 

彼は何かの鳴き声がすぐ近くから聞こえた為意識を覚醒させ目線を下に向けた

彼の膝には鎮座しているヒキガエルが一匹

つぶらな瞳で彼を見つめている

 

いつの間にか眠っていたようだ

何時からこのヒキガエルが居たのか寝惚けた彼は全く見当もつかなかった

膝に感じる妙な温もりに困惑しながら今しがたやって来た車内販売のおばさんからかぼちゃパイをひとつ買った

 

かぼちゃパイを一口齧った

サクサクした食感にかぼちゃのほんのりした甘味が口の中に広がりとても美味しいと彼は感じた

 

かぼちゃパイを食べ進め彼が飲み物も買っとけばよかったなと思ったとき

いかにも鈍そうな少年がやってきた

 

「あ!トレバー、こんなとこに居た。駄目じゃないか勝手に抜け出したら。あの、それで、その子を返してくると嬉しいなあ、なあんて、思っていたり?」

 

相当慌てているようだ

先程ぶつけたのか額に青い痣があった

目を回しているかのように揺れ動いている少年の瞳は彼と目を合わせようともしない

なにやら彼に捲し立てている

ヒキガエルの飼い主だと彼は理解した

 

返して欲しそうだったので

彼は空いている片方の手でヒキガエルの背を掴み少年に渡した

 

少年は精一杯の感謝を述べた後

逃げるようにヒキガエルを大事そうに抱え去っていった

何もしていないのに随分と彼に怯えているようだ

最後の一口であるかぼちゃパイを口に放り込み手に付着した生地のカスを払った

ペットの管理ぐらいしっかりしてほしいものだと彼は思った

 

彼は数時間程眠っていたようだ

窓から空を見れば昼ごろは一片の雲もない晴れ模様であったのに現在は分厚い雲に覆われている

僅かに見えた太陽は地平線に沈もうとしている

彼は雨が降りそうな天気だと思った

 

結局このコンパートメントに入って来る人はいなかった

彼はトランクを上にあげた意味がなかったなと思った

トランクを引きずり出し新品のローブを取り出して着替えた

 

彼の召し使いが用意したこのトランクには魔法がかけられており見た目以上に物が入るようになっている

もう少し小さいのは無かったのか気になるところだ

見栄を張ってこれで良いと言った彼も彼だか

 

彼が着替え終えトランクから水筒を取り出し水を一口含んだ

 

汽車が減速し始めた

窓の外の流れていく景色がゆっくりになっていく

どうやらもう少しで到着するようだ

 

彼は水筒を仕舞い中に住み着いている猫を一撫したあと蓋を閉じた

 

暫し待った後汽車が終着駅に停車した

彼は重たいトランクに憂鬱そうに顔をしかめながら掴み車両から降りた

 

「荷物はこちらにお願いします!」

 

ホグワーツの生徒たちが教師らしき人物に荷物を渡している

 

彼はこれ幸いにとトランクを預けた

自分の部屋に運んでくれるようだ

 

後方から新入生を呼ぶ声が聞こえた

彼が振りかえれば毛むくじゃらの大男が新入生たちに呼びかけている

 

彼はそちらに足を向けた

大男の周りには新入生たちが群がっている

取り敢えず彼は近くに居て大男の指示を待つことにした

 

喧騒とした駅だ

在校生であろう先輩方は駅から出ていっている

新入生と在校生でホグワーツに行く道が違うのだろうか

馬の鳴き声が微かに聞こえたので馬車であると見当をつけた

正直今の彼には不必要な事柄だ

 

そうこうしているうちに新入生が集まったのか移動を始め船着き場に出た

彼は毛むくじゃらの大男の指示に従い船に乗り込んで闇夜に浮かぶホグワーツへ向かう

 

窓から漏れ出る光がこちらを誘っているかのように揺らめいた

 



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02

彼は橋がかかっているのになぜ船で行くのだろうと疑問に思いながら船の先頭に座っている彼は波に揺られホグワーツへ向かっている

 

この船はゆっくりとした速さで進んでいる

船の先には妙に明るい蝋燭が浮かんでおりゆらゆらと行き先を照らしている

この調子だとあと数十分はかかるだろう

最初は楽しみにしてた彼も段々退屈になってきた。

 

「ぁ、あのぅ。こ、こんばんはぁ」

 

彼が退屈そうにしていると隣の人に話しかけられた

彼はそちらへ目を向けた

そこにいたのは少女であった

黒い瞳と目が合った

闇夜に溶けるかのような背中の中程で切り揃えている黒い髪は彼女の動きに合わせてサラサラと流れている

 

緊張しているようで手を握りしめたりローブの裾を掴んだり手を組んだりしている

勇気を振り絞って出したであろう声は掠れていた

彼の視線を受けて彼女の体は縮みこまり小さくなって震えている

 

オオカミを前にしたウサギみたいな姿だ

取って食べたりはしないのにと彼は思いながら

取り敢えず彼女の勇気に答えてこんばんは、とだけ返した

 

「ぅう、その、……あ!いい天気ですね!」

 

どうやら彼女は話しかけたはいいけど何を話すか考えていなかったようだ

彼は夕暮れ時は曇り空で今夜は月も出てきてないほど曇っているのを知っている

だがそれを指摘するのは彼女に悪いなと思い

そうだな、いい天気だ、とあたり際のない返事をした

 

「えぇと、えぇと、あぅあぅあぅ~」

 

瞳がぐるぐると渦を作りだした

顔は真っ赤に染まり今にも蒸気を吹き出しそうだ

そんな一生懸命な彼女が他の人と話さないのか彼は疑問に思い後方へ目を向けた

 

4人の少女たちが談笑しているのが見えた

更に奥には3人の少年たちが百味ビーンズをシェアして当たり(ハズレ)を一斉にひいてうずくまっている

様子から見るにそれぞれ共通の友達のようだ

あそこに彼女は混ざれそうにないなと彼は思った

 

彼は彼女に深呼吸させ落ち着くよう促した

吸って、吐いて、と出来るだけ優しげな声で言った

彼女はおもいっきり息を吸い胸を反らした後おもいっきり吐いた

胸を反らすときローブが盛り上がった

彼は意外と胸があるのだなと思った

 

しばらく繰り返すと彼女は落ち着いてきたようだ

彼は彼女に自分になにか用があるのか、と聞いた

 

「その、あ、貴方が暇そうにしていたから、お話し出来る、かなあと思って、つい話しかけてしまいました。その、ご迷惑でしょうか?」

 

潤んだ瞳が彼を見つめている

断ったら泣いてしまいそうだなと彼は思った

彼女はこういった状況だと居た堪れなくなる性分のようだ

暇潰しにお話しするのは彼にとってもよいことだ

彼の屋敷での話し相手は召し使いと屋敷しもべしかいない

彼女との会話はよい経験となるだろう

 

彼は迷惑には思わない、と言い彼女とお話しすることに賛成の意を伝えた

 

どうせなので彼は自己紹介をしようと彼女に持ちかけ自身の名を言った

「レーニン・ヒートニー」それが彼の名だ

彼は自分の名が女性の名前であることを好ましく思えないので彼女には「レン」と読んで欲しい、と言った

両親が何故息子に女性の名前をつけたのか未だに彼は理解できずにいた

 

「わ、分かりました。レ、レンくん」

 

彼女は気恥ずかし気に彼の名を口にした

初対面の人の愛称を呼ぶのは厳しそうだが頑張ってほしい

 

彼女は自分の番だと張り切って自己紹介し始めた

彼女の名は「レイラ=ジュリア」

マグル出身のようだ

魔法を使ってみたいと話していた

意外にも彼女は運動が好きなようでクィディッチに興味をもっていた

 

「でも、クィディッチの試合なんて見たこと無くて、本で読むだけじゃ想像し難くて、どんな競技なのかわからないんです」

 

彼はとてもインドアな少年だ

彼が屋敷外に出るのは運動のために庭に出て箒に乗って飛んだり

召し使いの目を盗み屋敷の裏手にある雑木林で果物を摘まむときだけだ

彼は外の世界にあまり興味を抱かず屋敷からあまり離れようとしなかった

 

クディッチに関しても興味を抱かず本を読んで知っているだけで実際に観たこともない

彼は彼女に自分も同じようなものだ、と言った

またホグワーツでは寮対抗でクィディッチの試合をすることを耳にしたので観に行けば良い、と言った

 

「へぇ!そうなんですか!いや、でも、私一人で観に行くのは寂しいです」

 

友達と観に行けば良いのでは、と彼は言った

 

「でも、私には、一緒に観てくれる友達なんて、あっちにも居ませんでしたし」

 

藪蛇だったかと彼は先程の発言を後悔した

悲しげな表情で顔を俯かせる彼女を見ていると彼はなんだかやるせない気持ちになった

彼女の悲しげな顔は見たくないと彼は思ったので自分と友達になれば解決するよ、と彼女に言った

 

「そ、そんな、レンくんみたいな良い人が友達だなんて。私には勿体ないです。ドジで、気が利かなくて、友達になる機会を何度も不意にしてきましたし」

 

それは相手が悪かったのだなと彼は思った

話しかけ方が絶望的なだけで彼女は今彼と普通に会話できている

彼女に友達が居ないなんて彼は思えなかった

それでも構わない、と彼は言った

 

「ほ、本当に、私なんかで、いいんですか。」

 

ああ、互いに友達一号だな、と彼は茶目っ気たっぷりに言った

彼は屋敷からろくに外出しない引きこもりだ

友達なんぞいるはずもない

召し使いや屋敷しもべは家族だからノーカンだ

声色は全くもって変化しておらず全く茶化せていないが彼女には効果があったようで満面の笑みを浮かべ嬉しがっていた

 

「やったよお母さん。私、友達ができたよ」

 

彼女はそう独りごちた

嬉しそうでなによりである

 

彼女との会話はとても弾み色々と話し合った

 

彼女はレイブンクローに行きたいようだ

学ぶことは好きだから、と言っていた

 

彼も同じくレイブンクローに行くつもりだ

母の遺した研究を引き継ぐつもりなのでホグワーツで知識を蓄えたかったからだ

 

彼は彼女から人間界のことについて幾つか教えてもらった

瞬時に移動することができないのが彼の一番の驚きだ

不便な世界もあったものである

 

そうこうしている内に船が岸に着いた

大男がついてくるよう呼びかけている

地に足をつけホグワーツへ向かう

 

巨大な門を潜り抜け薄暗い廊下を歩んでいく

そして両開きの大きい扉の前で立ち止まった

組分けの準備をしているようだ

今日は待たされることが多いなと彼は思った

 

彼は辺りを見渡した

顎の尖った金髪がキングズ・クロス駅で見かけた丸眼鏡の少年を睨みつけているのが見えた

色々と面倒臭そうだ関わらないでおこうと彼は思った

 

視線をそらし次にヒキガエルの飼い主が目に入った

今でもヒキガエルを大事そうに抱えている

額の痣は誰かが治したのかなくなっていた

 

緊張しているのかぎこちない動きをしている者もいた

というより彼女だった

彼の隣に立ち先程の挙動不審が再発している

非常に緊張しているようだ

友達なのだから手助けしなくては、と彼は考え緊張が解れるようにと彼女の震える手を優しく握ってあげた

 

今度は彼女の体が硬直して動かなくなった

しかし彼は震えが止まったので落ち着いてくれたと思い彼女の真っ赤な顔に気づかず手を握ったままでいた

 

老齢な女性が新入生たちの前に立った

どうやら準備が整ったらしい

新入生たちは老女に先導され扉の先へと足を進めた

 

ぎこちない動きをする彼女の手を引きながら

 




女の子の口調が分からねぇorz


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03

扉を潜り彼がまず目についたのはたくさんの人々だ

駅で見かけた在校生たちと教授らが新入生たちに歓迎の拍手を送っている

彼はとても暖かな気持ちが込み上げてくるのを感じた

 

次に彼は天井に目が移った

大量の蝋燭が浮かびその奥には本当の天気だと見違えるような景色がどこまでも続いている

ゴーストたちが飛び交い新入生たちに歓迎の言葉を投げ掛けている

 

彼が手を引っ張っていた彼女は感嘆の声をあげている

興奮しているのか彼の手ごとブンブン振っている

そうしていると彼女は手を握っていたことを思い出してすぐに離した

 

彼女はご、ごめん、とか細い声で謝ってきた

彼は友達なんだから手を繋ぐぐらい当たり前だよ、とさらっと言った

そんな彼に彼女は人前でするのは、恥ずかしいです、と返した

無理強いは良くないことを彼は知っているので二人きりの時に手を繋ぐことを密かに決めた

 

先導していた老女がこちらに振り返ったので新入生たちは足を止めた

彼らの前には大人用の椅子と古びた帽子が置いてある

 

すると帽子が歌い出した

新入生も在校生も皆耳を傾けている

歌の内容は寮の紹介のようなものだと彼は思った

帽子が歌い終えると拍手の雨と共に組分けが始まった

 

老女が次々と名前を呼ぶ

呼ばれた者は帽子をかぶって組分けされていった

ある人はグリフィンドール

ある人はレイブンクロー

ある人はパッフルパフ

ある人はスリザリンへと

そして

 

「ヒートニー=レーニン」

 

彼の名前が呼ばれた

 

彼は椅子に歩み寄り腰掛けて帽子をかぶった

 

「ほう、君はとても優しい子だな。優しさに満ち溢れている。けれど、それ以上に何かを求めている思いが強い。それは、知識のようだね。君の頭の中には潤沢に知識が詰め込まれているのに、まだまだ足りないと知識を欲している。何故そんなに求めるのか分からないけれど、そんな君にはあそこがぴったりだ。

レイブンクロー!

 

帽子が叫び彼が住むべき寮を宣言した

彼は立ち上がり帽子を椅子に置いた

彼はレイブンクローの空いている席へ向かった

レイブンクローの皆はこちらへやってくる彼を不躾な目で見ている

歓迎されていないと彼は感じた

男なのに女性の名前なのが気持ち悪く思われているのだろうか

こういったことは彼にとって初めてなのでどうにも判別がつかなかった

 

彼が席に着いたら名前を呼ぶ声が再開した

彼がどうしたものか考えていると

 

「ジュリア=レイラ」

彼女の名前が呼ばれた

彼女は椅子に座り帽子をかぶった

数十秒の間の後帽子が叫んだ

 

レイブンクロー!

 

レイブンクローの生徒が発する歓声と共に彼女は立ち上がり笑顔を浮かべ帽子をかぶったままこちらに小走りでやってきた

彼は彼女を見ながら自身の頭を指差した

 

「あたま?頭がどうかしました?」

 

不思議に思い彼女は手で頭に触れようとし頭の上の存在に気がついた

彼女は顔を真っ赤にし慌てて次の人に渡した

そして彼の隣に縮み込むようにして座った

 

「うぅ、レンくん。初っ端からドジってしまいました。もうおしまいですぅ」

 

本当は友達の彼と同じ寮に入れたことが嬉しい彼女だが

恥ずかしがってまともに彼の顔を見ることができないでいた

気にすることはない、よくあることさ、と彼は彼女と同じことをしているネビルと呼ばれたヒキガエルの飼い主を見ながら励ました

 

それでも中々立ち直れない彼女

そこで彼は大丈夫だってリラちゃん、なんとかなるさ、と彼女を愛称で呼んだ

彼女は彼に恥ずかしさと戸惑いの混じった目を向けた

 

彼は自分だけ愛称で呼ばせるのは変だと思ったから自分も彼女のことを愛称で呼ぶことにした、と伝えた

嫌ならば普通の名前で呼ぶことも伝えた

 

「別に私は構いませんよ。あ、でも、愛称で呼び合うのってすごく友達っぽいですね!」

 

とても嬉しそうにはにかみながら彼女は言った

彼も彼女の笑顔が見れてご満悦だ

 

気づけば組分けの呼ばれて居ない者が残り少なくなっている

着々と組分けの終わりに近づいていくなか一人の少年の名が呼ばれ先程までの喧騒が嘘のように静まり返った

あの丸眼鏡の少年だ

名を「ハリー=ポッター」

生き残った男の子

ホグワーツに集う人々があの少年に注目している

 

彼は魔法史の本に何度か出てきた名前だということを思い出した

魔法界の英雄がキングズ・クロス駅で迷っているとは思いもしなかったと彼は驚いた

 

丸眼鏡の少年は顔の強ばりから非常に緊張しているのが見てとれた

少年は今椅子に腰掛け組分け帽子をかぶりしきりに何かを呟いている

 

組分け帽子は長い苦悩の末少年の住むべき寮は

グリフィンドールであることを宣言した

その瞬間グリフィンドールから爆発的な拍手喝采が巻き起こった

 

少年は長年の呪縛から解き放たれたかのように安心仕切った顔でグリフィンドールの席へ向かった

グリフィンドールの生徒は魔法界の英雄を暖かく迎い入れた

 

残り数人の組分けを行い慎みなく終えた

髭の長いお爺さんが教壇の前に進み出て新入生に歓迎の意を伝えた

あのお爺さんは彼の屋敷に入学の手続き書を直接届けに来た人だ

貫禄と思慮深さから偉大な人物だと思ったがホグワーツの校長をしているとは思わなかった

手をひとつ鳴らしただけですべての机の上に沢山の料理が並んでいる

 

彼は自分の皿に食べ物を盛り付け食べていく

普段は召し使いの監視のもとマナーに準じて上品に食べることが求められている

とても静かな食事が彼の普通であったが騒がしいのも良いものだなと彼は思った

 

「美味しいですね」

 

彼はそうだね、こんなに豪勢なのは誕生日以来だ、と彼女に返した

 

「魔法ってすごいですね。何でもできそうです」

 

彼は魔法にもできないことがあるしここまでの魔法を行使するには相当な時間がかかるだろう、と彼女に言った

 

「なら頑張らないといけませんね」

 

彼女はそう意気込み握りこぶしを作ってフンス、と鼻息を荒らげた

彼はそんな彼女を見てほほえましい思いが心を満たした

 

 

料理を食べ進め彼がデザートのかぼちゃプリンを食べていると校長先生が教壇にのぼった

校長先生は注意と連絡を話した

彼はクィディッチが二週目にあることが分かり彼女に観に行こうか、と言った

 

「ふぁい、とっても楽しみですぅ」

 

ぽわぽわしている彼女がいた

欠伸をして目を擦っている

とても眠たそうだ

彼は寝惚けているのを良いことに彼女の柔らかい頬を指でつついていた

彼女はくすぐったそうな声を出したが彼の指を拒むことはなかった

 

校長先生が寝る前に校歌を歌うことを生徒に言った

校長先生の指揮と共に統一性の欠片もないメロディーで生徒たちが歌いだした

彼はこういった手合いは楽器ならなんとかなるが歌は正直無理である

 

歌が終わると校長先生は寮で眠るよう生徒たちに急かした

彼はレイブンクローの監督生の後に続いた

大広間を出て移動し急な螺旋状の階段がある塔に入った

 

彼女は疲れと満腹感からか非常に眠たそうで足元がおぼつかない

とても危なっかしいので彼は彼女の手を握って階段を上ることにした

 

階段を上りきり監督生がブロンズ色の鷲のドアノッカーに何事か呟いた後ドアが開いた

 

他の生徒たちと共にドアを潜るとそこは円形の大きな部屋であった

中には優雅なアーチ型の窓があり壁には青とブロンズ色の絹が掛かっている

ドーム型の天井には星が煌めいており足元の暗い濃紺の絨毯をほどよく映えさせている

 

机と椅子そして大量の本が仕舞われている本棚が幾つも置かれている

そびえ立つ白い大理石でできている石像は創設者の一人

ロウェナ=レイブンクローその者だろう

教科書の一つ「魔法史」にて創設者たちの肖像画を見ているので分かった

 

石像の奥には二つの扉が見える

女子と男子に別れて生徒たちが入っていく

どうやら部屋へと続いているようだ

 

彼は彼女におやすみ、また明日、と言った

彼女はふにゃふにゃとなにやらわからぬ言葉を口にし扉の先に入って行った

 

彼も扉を潜った

扉の先には螺旋階段があった

昇りきった先に廊下が続いており両脇には扉が等間隔に配置されている

 

自分の部屋はどこか探しはじめたが監督生に呼び止められた

どうやら彼の部屋に案内してくれるようだ

監督生の表情は嫌そうに歪んでおり面倒臭いという思いがひしひしと伝わってくる

 

「こっちだ、新入生」

 

彼は監督生に連れられ奥の方へと歩いていく

一番奥で前から5つ目の扉で止まった

 

彼はその部屋に入った

正面には小窓がある

机と椅子に空の本棚が部屋の隅に置かれている

左にはクローゼットが二つ並んでいてその横には扉があった

右には天幕つきの大きいベットがありシーツの上には彼のトランクが置いてある

 

「中の物は好きに使え。あと、あそこの扉はシャワー室だからな」

 

彼がご丁寧にどうも、と監督生に言えば

 

「俺は案内したからな」

 

と言い早々に立ち去ってしまった

夜の帳は既に落ちている

良い子は寝る時間だ

 

彼はトランクをどかしローブを脱ぎ去り靴を飛ばしてベットに潜り込んだ

目を瞑れば睡魔がすぐさまやってきた

さすがの彼でも疲れがたまっている

今日の出来事を思い起こすと穏やかな気持ちになった

 

独り寂しい部屋で彼の意識は微睡みのなかに消えていった

 




4/5 誤字修正しました


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裏話

短いです


「良いのですかなダンブルドア校長先生。あのような子供をここ(ホグワーツ)に入れても。6年前のことがある故、魔法省がこの事を知ったら黙っていませんぞ」

 

ここはホグワーツにある校長塔の一室

壁には歴代校長の肖像画が飾られている

大きな窓から雨の打つ音がする

不死鳥がとまり木の上で毛繕いをしていた

 

そこでは二人の男性が話し合っている

方や魔法薬学教授 セブルス=スネイプ

方やホグワーツ校長 アルバス=ダンブルドア

 

「もちろんじゃ、わかっておるよセブルス。だがな、あの子は11歳となりここに入学できる資格を持っておる。入学させぬ訳にはいくまい。万人に学びの機会を与えねばならぬことを、お主はよく知っておるはずじゃ」

 

「お言葉ですが校長先生。あの者は親をその手で殺めているのですぞ。しかも、死喰い人の中でも強力な力を持っていた二人を。ろくな結果を招きませんぞ」

 

スネイプがダンブルドアに責めるような口調で言った

スネイプの目には一抹の不安が浮かんでいる

 

「お主が危惧している事など起こらぬよセブルス。一目見て分かった。あの子の心は愛で溢れている。身を滅ぼしかねない程の愛を。それに、あの子はここ(ホグワーツ)に来なければいけない。在るべき場所をここ(ホグワーツ)だと認識させねばならぬ」

 

「何故そのようなことを「預言じゃ」……?」

 

「預言を聞いたのじゃ。トレローニー教授による二度目の本物の預言じゃ。ヴォルデモートが復活する。不死身の体を得て、最悪な結末を迎えることになる。あの子がここ(ホグワーツ)に来なければ、だがの」

 

「あの者にそれほどの力があると言うのですか」

 

「それは分からぬ。今回の預言はひどく大雑把なものであった。あの子によってヴォルデモートが復活することは分かった。しかし、何時、何処で行われるか分からず仕舞いじゃ」

 

「その預言は本当に本物なのですか。何かの間違いである可能性もありますぞ」

 

「いいや、預言は本物じゃ。じゃが、確かに何かが違っていた。トレローニー教授ではない者の意思を、おぼろげながら感じた。あの子には驚くべき秘密が隠されておるであろう。セブルスよ、決して暴こうと考えてはならんぞ。秘密というものはの、徐々に明かされていくからこそ意味があるのじゃ。今はただ見守ることしか出来んよ」

 

「……では、そのように」

 

スネイプはダンブルドアにお辞儀をし踵を返した

スネイプはダンブルドアが自分に隠していることがあることに気づいている

だがスネイプは何も尋ねずこの場を去ることにした

自分に話せないのなら他の誰にも話すことの無いことをスネイプは知っている

 

校長室に独り残されたダンブルドアは椅子に深く座り込んだ

何かを思案しているのか瞼を固く瞑り皺がくっきりと浮かび上がっている

数分間の熟考の末目をゆっくりと開きため息と共に呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人造人間、か。難儀なものじゃのう」

 




愛?ああ、(異)性愛ね


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04

彼はガタガタと騒々しい音で目覚めた

仰向けの姿勢から上半身を起こして音の発生源に目を向けた

そこには激しい動きでのたうち回るかのように跳ねているトランクがあった

 

彼はトランクに猫を入れっぱなしであることを思い出した

彼のペットである猫の住み処はトランクの中だか基本的に外に居たがる

彼の猫に縄張り意識は有るのだろうか

 

取り敢えず彼は暴れるトランクを掴んでストッパーを外し蓋を開けた

住みづらいであろうトランクの中に一日も居たせいで不機嫌になっている猫が飛び出した

 

猫は彼の腕にぶら下がりガジガジと噛み始めた

だがまあ甘噛みだ

皮膚を突き破ろうとしていないのでそこまで不機嫌ではなさそうだ

実際猫は彼が抱き上げてやると途端に大人しくなり噛んでいた所を舌で舐めている

 

相変わらずのチョロさに彼は苦笑を浮かべたが放ったままにしたのは彼だ

ネビル=ロングボトムに思ったことを思い出してほしい

お腹も空いているだろうと思い彼は猫に魔力を与えた

 

彼の猫は魔力を主食とする魔法生物だ

彼が7回目の誕生日の日に召し使いが何処からか拾ってきた

真っ赤なモジャモジャの毛がフィグ(いちじくの花)みたいだったのでそれにちなんでフィッグスと名付けた

彼ながら捻りの無い安直な名だ

性別は分からないがおそらく雌だ、たぶん

ちなみに普通の猫の餌もネズミも食べる

 

彼がフィッグスを撫でていると飽きたのか彼の腕から先程まで彼が寝ていたベットに跳び移った

二、三度脚を踏みしめたあとゆったりと寛ぎ始めた

 

現在の時刻は夜明けから一時間ほど経った頃だ

起床時間まであと二時間もある

ここが高所なのもあるのか夏でも少し肌寒い

彼はフィッグスの機嫌が直ったらもう一度寝ようと思っていたが当てが外れた

 

彼は身嗜みを整えることにした

 

昨夜は疲れていたのでシャワーも浴びずに寝てしまった

ローブは流石に脱いでいたが普段着は昨日のままだった

彼は着替えをトランクから取り出し部屋に備え付けられているシャワー室に向かった

 

扉の先には二つの扉がまたあった

左は開き戸でトイレのようだ

右は折れ戸でシャワーがあった

狭い空間にタオルを置く棚と大きな四角い箱があった

彼はその箱を魔法の洗濯機であることを知っている

屋敷に置いてあった

 

彼は服を脱ぎ洗濯機にぶちこんでシャワー室に入った

 

シャワーを浴びて身を清めた

彼はどうやってここまで水を引き上げているのか排水はどうしているのか疑問に思った

魔法の一言で片付いたが

 

さっぱりした彼はタオルで体の水滴を拭き取り服を着た

部屋から出て廊下を歩き寮の談話室に行った

流石に起きている生徒は居ないようでとても静かだ

彼の足音と振り子時計のコチッコチッという音しかしない

 

壁には大きな張り紙が貼られている

ホグワーツの全体図のようだ

かなり複雑な造りをしているので迷いそうと彼は思った

 

彼は本棚に向かった

何か暇でも潰せそうなものは無いか物色した

「基本呪文集」が一~四年生分と「魔法論」に「魔法史」「変身術」が入門、中級、上級に「薬草と茸1000種」「魔法薬調合法」と順序正しく並んでいる

 

どうやらこの棚には四年生までの教科書しかないらしい

他の書物も似たようなもので殆ど屋敷の書庫で読んだものだった

 

隣の棚も見た

こちらはあまり重要視されていないのか雑に納められている

魔法生物の図鑑に占い学の教科書、論文の参考書というものがあった

だがしかし殆ど屋敷にある本だ

あまり興味を引かない

 

中には背表紙のない紙の束があるがわざわざ手に取って確かめるのも億劫だ

 

彼は自室に戻った

ベッドの上にはフィッグスが寛いでいる

彼はトランクからブラシを取り出しベットに腰かけてフィッグスを膝にのせブラッシングし始めた

 

幼い頃からパーマがかかったような毛を真っ直ぐにしようと頑張っているが未だに変化していない

無意味であることに気づき始めた彼だがフィッグスが気持ち良さそうにしているのでこれからも続けるつもりだ

 

彼が真心込めてブラッシングしていると時間があっという間に過ぎ去っていった

遠くから七回音が鳴った

 

「起きな!起床時間だ!」

 

二時間経ったようだ

カランカランとベルの音と聞き覚えのある声で起床を促している

こんなことまでするとは監督生は大変そうだ

 

目覚めの合図と共に物音が発生していく

隣の部屋から鈍い音が聞こえた

誰かが寝ぼけてベットから落ちたようだ

 

彼はフィッグスを膝からどかして立ち上がった

彼の髪は乾いてきているが乱雑に拭いたせいでぐちゃぐちゃになっていることに気づいた

 

身嗜みはしっかりしていないと召し使いに怒られてしまう

これはいけないと感じトランクからドレッサーと椅子を取り出した

適当なところに置いて引き出しから櫛を取り出し髪を整えた

ある程度整ったので櫛を仕舞った

 

シャワーから時間が経っているのであまり意味はないが保湿剤入りのクリームを顔にむらがないように塗りたくった

手を拭ってハンドクリームも手に塗っておく

召し使いに教え込まれた作業は手慣れた手つきですぐに終わった

 

「おい新入生!朝食は大広間だ。さっさと来いよ!」

 

監督生の怒鳴り声が聞こえる

わざわざ教えてくれるとは親切な人だ

彼はローブを羽織って立ち上がった

 

彼はトランクを右手で持ち上げすぐに降ろした

これを持ち歩くのは苦行である

かといってトランクを置いていくのは無理だ

トランクの中には色々と入れすぎている

勝手に使われたら困るものもあるし教科書も入れている

 

彼がうんうん唸っていると魔法を使えば良いのではと考え付いた

というよりも重い物を運ぶときにいつも使っている

なんだか気が立っているようだ

こんな些細なことを忘れるなんて思いもしなかった

 

彼はホルダーから杖を取り出し《浮遊せよ(ウィンガーディアム・レビオーサー)》、と唱えた

トランクはふわりと浮き彼の太腿辺りで静止した

彼の右手が丁度くる位置だ

 

彼はトランクを右手で掴んだ

魔法を行使し続けるのは魔力と集中力が必要だがもっと辛い訓練を召し使いに課せられている

この程度の魔法なら余裕である

 

彼は談話室に行った

先程来たときとは打って変わって騒がしかった

先輩方は大広間に向かうようで鷲のドアノッカーを潜っている

 

彼と同世代の少年少女達がつい先程起きたのだろう寝癖をつけて慌て先輩方の後を追っている

彼女の姿は見えない

先に行ってしまったかと思ったが奥から彼女の匂いがしたので少し待つことにした

 

談話室には先程来た時には無かった大きなボードが六つ壁に貼られていた

一年生から七年生のスケジュール表のようだ

監督生の人が貼ったのだろうか

ご苦労なことである

 

彼は一年生のスケジュール表を見た

今日の授業は「妖精の魔法」「薬草学」「変身術」の三つだ

地図も見て大体の場所を覚えておくことにした

 

振り子時計の短針が8を指し示した

彼女が女子寮の扉から出てきた

ボサボサの髪を必死に手で慣らしている

彼は彼女に挨拶をした

 

「あ、おはようございますレンくん。エヘヘ、友達と挨拶出来るだなんて夢みたいです」

 

彼女は嬉しそうにはにかみながらこちらに挨拶を返した

彼はすごい寝癖だね、と彼女に言った

 

「うう、そうなんですよ。髪のお手入れをせずに寝てしまうと、こんなことになっちゃうんです。しかも普段より酷いことになってますし」

 

彼女は恨めしそうな声で嘆き髪を撫で付ける

昨日みたいなサラサラな髪質になるのは時間がかかりそうだ

彼は友達である彼女が困っているのを見て手助けをせねばならぬという使命感を感じた

よって彼は彼女の背後に回り頭に左手を乗せた

 

「ふぇ?」

 

彼女が間抜けな声を出したが気にせず手の平に意識を集中させた

すると彼女が耳を真っ赤にしてワタワタと忙しく動き始めた

 

「ああぁの私昨日からシャワー浴びてなくて油でベトベトだし汚いし色々とアレだからそのえとえと、あうぅぅ」

 

動かれると集中出来ないので彼は彼女の耳元に口を寄せて動かないで、と囁いた

ついでに臭いも嗅いだ

甘い香りがした

 

彼女はビクッと体を震えさせたあと硬直し大人しくなった

大人しくなったので彼は左手に魔力をためて《清めよ(スコージファイ)》、と唱えた

 

彼の左手が触れた箇所が滑らかになっていく

トランクから離した右手を添えて彼女の髪に手櫛を通していく

一通り通してやれば昨日のようなサラサラヘヤーに戻っていた

寝癖でボサボサだった面影は全くない

魔法というものは便利である

 

彼はトランクを掴んで彼女の前に立ちこれで元通りだ、と彼女に言った

当の彼女は顔を真っ赤にして目を回している

口は半開きで間抜けな顔を彼にさらしている

彼の声も聞こえていないようだ

 

彼女は一体どうしてしまったのだろうか

取り敢えず彼は彼女を眺めながらこちらに戻ってくるのを待つことに決めた

 




監督生の一言
「レイブンクローに成ったからには迷子になる、なんて情けないことはしてはならん。道を覚えてもらうぞ」

なお、着いてきていない奴が二名程存在する模様

4/6 誤字修正しました


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05

振り子時計の長針が2の数字を示した時

彼女が再始動した

未だに顔を赤くして彼を叱っている

 

「も、もう!いきなり頭に手を置かないで下さい!女の子の髪はデリケートなんですよ!」

 

彼はすまん、デリカシーがなかったな、だが綺麗になっただろ?と反省の色なく彼女に言った

彼は召し使いに女性は髪の毛に命を懸けていると言っても過言ではないと教えられている

細心の注意を払って事を済ませている

 

「わっ、本当ですね。いつもよりサラサラです。ありがとうごさいます。……じゃなくてですね!手を置く必要なんてあったんですか!」

 

そんな問に彼は大いにある、杖だと一ヵ所しか効果が及ばないんだ、と澄ました顔で彼女に答えた

 

彼女はむぅ、と頬を膨らませて何も言わずに彼を睨んでいる

魔法という無知の事柄が絡むと嘘か真か判断出来ないからだ

とっても可愛いと思いながら彼は早く大広間に行かないと朝食が摂れないことを彼女に伝えた

 

今現在振り子時計の長針は3の数字を示している

8時30分には朝食が始まるので急げば間に合うだろう

 

「あ!そうでした。急がないといけませんね。あれ?私ってどうやってここに来たんでしたっけ」

 

彼女は覚えていないようだ

彼はしっかりと記憶しているのでなんとかなるだろう

それじゃあ一緒に行こうか、と彼はそう言い彼女に左手を差し出した

人前では駄目だけど今は誰もいない

仲良くなる絶好の機会だ

逃すわけにはいかない

 

彼女は恥ずかしそうにしながら右手で彼の手を握った

 

駆け足で大広間に向かう

途中の動く大量の階段が行く手を阻んだが目的地は分かっているのでそこまで苦労しなかった

長い廊下の先には開け放たれた扉からガヤガヤと騒がしい音が聞こえてくる

 

結構速めに走ったが彼に手を引かれている彼女は息を切らす様子は見られない

体力はかなりのものを持っているようだ

運動好きは伊達ではない

 

繋いでいた手を離し彼女と並んで大広間に入った

皿の様子から朝食は始まって間もない頃合いだ

彼と彼女は空いているレイブンクローの席に腰かけた

 

「ふぅ、間に合ってよかったですね」

 

そうだね、と返し朝食を食べることにした

大皿にはコーンフレーク、トースト、ソーセージ、サラダ、ローストハム、マッシュポテトがのせられている

傍らには瓶に入ったトマトソースとマヨネーズ、ミルクがある

シリアルかサンドウィッチかを選べるようだ

 

彼はパンを手に取りマヨネーズを塗りたくったサラダとハムをのせ挟んで食べた

美味しい

彼女も同じようにして食べている

 

彼が料理に舌鼓を打っていると無数のふくろうの群れが大広間に入ってきた

ふくろうはその足に小包や紙を掴んでいる

飼い主を見つけるとその膝に落としていくのが見えた

 

すると後方からガッシャーン!とガラスの割れる音が大広間に響きわたった

なんともアホらしいことにふくろう便で割れ物を届けた人が居るようだ

彼は左手でうなじをさすった

後方が騒がしいが彼は気にせず食を進めた

 

「あの人、大丈夫でしょうか」

 

心配そうに後方を見ている彼女に大丈夫さ、魔法でなんとかなるだろう、と言った

 

彼は二通りほどパンにはさむ組み合わせを変えて食べると腹は満たされた

マッシュポテトはそのまま食べたほうが良かったなと思った

 

朝食の時間が終わり料理が消えていくのを傍目に見ながら一限目の授業である「妖精の魔法」の教室へと彼女と向かった

 

「妖精の魔法」の教室は4階にある

部屋は広く講義室のような形をしていて前方の教壇には大量の本が山積みされている

 

机は長く4つの列で構成されている

寮ごとに座る感じなのだろうが座っている人は殆どいない

グリフィンドール寮所属の茶髪の女の子しか座っていない

 

取り敢えず彼はレイブンクローの列に座った

隣には彼女が座っている

彼はトランクから教科書の「基本呪文集」とノート用の手記とペンを取り出し机に置いた

 

「あ!そういえば私、教科書を持ってきていませんでした」

 

教科書を全て持ち歩こうとするのは彼ぐらいなものだ

生徒たちは基本的に部屋に置いている

今教室に殆ど人がいないのは教科書を寮に取りに戻っているからのようだ

 

今さら取りに行かせるのもかわいそうなので彼は今日は一緒に使おうか、と彼女に言った

 

「うぅ、お世話になりっぱなしで申し訳ないです」

 

友達なんだから助けるのは当たり前だ

教科書を見せる程度の差し障りの無いものなら彼は気にしない

友達である彼女ともっと近い距離で話し合えることは彼にとって良いことだ

 

座って彼女と他愛のない話をしていると次々と少年少女たちが困憊した様子で教室に入ってきた

 

ホグワーツ名物の動く階段は中々に厄介だ

上の階を目指しているのに気づいたら降っていることはよくある

動く方向と道順を頭にいれておかないと目的地とは逆方向にたどり着いてしまうこともある

 

大方駆けずり回ったのだろう

一限目であるのに少年少女たちは既に疲れきっている

中には机に顔を伏している人もいた

 

そんなこんなで席が埋まった

いつの間に来たのか小さな男の人が山積みの本の上に立っている

 

フィリウス=フリットウィック教授だ

「妖精の魔法」「呪文学」の担当でありレイブンクローの寮監だ

 

フリットウィック教授が出席を取ると授業が始まった

「妖精の魔法」では基本的な呪文行使を学ぶ教科だ

一年生と二年生は妖精が悪戯に使うような魔法を教えられる

 

彼女と一緒に教科書を眺めた

教科書には鼻詰まりを起こさせる魔法、眼鏡のレンズに指紋を付ける魔法や

髪の毛がガサガサになる魔法、腹痛だけを引き起こさせる魔法などが載っている

殆ど嫌がらせの魔法だ

実用的なものも有るには有るがあまり見向きされないであろう

 

こんなものを一年生に覚えさせていいのだろうか

嫌がらせが多発しそうである

彼は左手でうなじをさすった

 

彼は杖を向けられたら魔法が発動するまえにへし折ることにした

召し使いが言っていた

護身において相手の行動を牽制するのは大事なことだと

 

今回の授業では膨張して開かなくなった容器の蓋を開ける魔法を学んだ

正直使わないなと彼は思った

 

シェーマスくんだったか

茶髪の男の子が配られた容器を破裂させたところで授業は終わった

 

次の授業は「薬草学」だ

城の外にある三階建ての温室が教室になっている

彼は温室に行く前に彼女の教科書を取りに寮に戻ることにした

 

道は一度や二度通っただけでは覚えることは難しい

彼女もその例にもれず道が分からないのか辺りをキョロキョロと見渡している

寮の道とは逆方向に向かおうとしていたので彼はこっちだ、と言い彼女の手を引いて案内した

 

「むうぅ、レンくんはずるい人です」

 

彼女は何事かを呟き顔を俯かせている

絹のような黒髪から覗く耳は赤く染まっている

人目のあるところで手を繋ぐのはそんなに恥ずかしいのだろうか

 

だが彼は彼女が手を繋ぐことを拒まなかったのでそのまま歩いた

 

螺旋階段をのぼって寮へと続く鷲のドアノッカーの前に辿り着いた

ドアノッカーが開き本を抱えている監督生が丁度出てきた

彼はどうも、と監督生に会釈し彼女を引き連れて寮に入った

 

「……弄るのは程々にしておけよ」

 

監督生は彼女の様子を見て彼が彼女を苛めていると思ったようだ

彼に忠告したら早足に階段を降りていった

しかしながら彼には友達を虐める趣味は持ち合わせていない

監督生の誤解はいずれ解けるだろう、たぶん

 

斯くして寮に着いたので彼女の手を離し教科書を持ってくるよう促した

しかし彼女はムッとした顔で彼の方ををジーっと見つめている

 

「……別に、苛められているとか思っていませんから」

 

やけに不満げな声で彼に言い放ち扉の向こうに行ってしまった

なんだか怒っている雰囲気だ

手を繋ぐのは本当は嫌だったのだろう

彼女には悪いことをしたので彼は戻ってきたら彼女に謝罪することにした

 

「薬草学」の教科書である「薬草と茸1000種」を一冊抱えて戻ってきた

彼が謝罪の前段階である土下座をするために膝をつこうとしたら彼女は彼の左腕に右腕を絡めてきた

 

「わ、私!場所が分からにゃいのであんにゃいして下ひゃい!」

 

かみっかみである

そんなに恥ずかしいなら無理しなくてもいいのだが

だがその様子から彼に怒っているわけではないようだ

彼女が何に怒っているか彼は分からないが意固地になっている彼女を離すのは容易ではない

力が強いとかそんなものではない

彼が離そうとしないからだ

 

彼はその状態のまま「薬草学」の教室へと向かった

 

彼女がどこまで耐えれるか楽しみにしながら

 




苛める…弱い者を苦しめ、痛みつけること
弄る…弱い者をいじめて困らせること
監督生の人は親切心で言っているぞ、嫉妬とか、僻みとかまったくないぞ、ほんとだぞ


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06

五分も持たなかったなと彼は思いながら彼女の手を引いて歩いている

レイブンクローの塔を出るまではよかったのだがホグワーツの廊下には行き交う生徒たちがいる

微笑ましい又は妬ましい視線を一身に受けた彼女は早々に体を離してしまった

 

ローブ越しに伝わる彼女の体は程よく引き締まっている

だがしかしそれがより一層女の子特有の柔らかい体を引き立たせている

彼女はの体は温かく彼の体にジンワリと染みわたった

なにやら甘い香りが彼の鼻腔を擽った

 

彼が何を言いたいのかというと色々と幸せだった

その一言に尽きる

 

彼は人の視線をあまり気にしないが彼女には耐え難いようだ

むしろすぐに離れなかったことが不思議なくらいの恥ずかし具合いだ

彼女をそこまで奮起させた理由は分からず仕舞いだが彼は聞こうとは思わなかった

聞いたら彼女は泣いてしまうと彼は確信している

 

そんなこんなで三階建ての温室に辿り着いた

中には幾人かの生徒とずんぐりとした小柄な女性が植物に水をやっていた

 

ポモーナ・スプラウト教授だ

「薬草学」を担当している

 

スプラウト教授は入ってきた彼に気づき一年生は二階に行きな、と言い階段を指差した

彼は彼女と共に言いつけ通りに二階に上がった

普通の教室であった

 

知識はここで学び実施訓練は一階でする形であろう

三階には器具でも置いてるのだろうと思いながら一番後ろの席に着きトランクを置いた

 

終始無言であった彼女は彼の左に腰かけて机に顔を伏してしまった

両手を頭に置いて身悶えている

 

「(嗚呼っ、私ったら友達になんてはしたないことを。カチンときてついやってしまいました。し、しかもあんなに人目があるところで!でも、レンくんの体、鍛えられていて触り心地よかったなぁ。それにずっと嗅いでいたくなるような良い匂いがして……て、これじゃあ私変態さんじゃないですか!)」

 

成仏しかけているゴーストのような呻き声を発し髪を振り乱し始めた

彼はお、おい!突然どうした、と豹変した彼女を宥めて落ち着かせた

綺麗だった髪がぐしゃぐしゃになっている

 

「(嗚呼、またレンくんに迷惑かけちゃいました。やっぱり、私なんかが友達を持つなんて烏滸がましいこと、許されるわけないですよね。私、なんかが)」

 

瞬間、フラッシュバック

彼女の脳裏には幼き頃の情景が映し出された

薄暗く、じめじめとした嫌な記憶だ

彼女の足元には階段の踊場から転落した少女が横たわっている

 

足は関節とは逆の方向に折れ曲がり

右肩から腕の折れた骨が突きだし左腕はネジ切れている

仰向けの姿勢であるのに少女は彼女に後頭部を見せている

不思議なことに少女の遺体からは血の一滴も流れていない

たった十二段の階段を転げただけでは説明のつかない惨状であった

 

「…っ!」

 

彼女はここ最近思い出すこともなかったトラウマを明瞭に思い出してしまった

彼女の体は心臓を締め付ける痛みを発した

これ以上思い出さないようにと

 

彼女が踞ってしまった

様子のおかしい彼女は何か嫌なものでも見たのか体を震えさせている

胸元を握りしめて荒い呼吸を繰り返している

 

彼は彼女の頭を慰めるように撫でて乱れに乱れた髪を整えていく

 

こういう時にどう声をかけるのか彼は知らない

それに声をかけても無駄だろう

今の彼女の心に届くことはないのだから

 

よって彼は行動で示すことにした

左手は背に置き心臓のリズムで優しく叩いた

右腕は体の前に通して彼女の肩を掴んだ

所詮横抱きというやつだ

 

彼女の体は驚くほど冷たかった

先程感じた温もりはどこにもなく体の奥底から染み出てくる冷たいものに体を震わせている

 

彼は優しく、しかし力強く抱きしめた

母がいつもしてくれていたように、愛の心を込めて温もりを分け与えていく

 

それが効を成したのか彼女は段々落ち着いてきた

強く胸元を握りしめていた手は膝の上に置かれている

荒かった呼吸は平常に戻り緩やかな呼吸を繰り返している

 

そこにスプラウト教授がやってきた

長いこと教師をやっているからか彼女の様子にすぐに気づいた

 

「おやおや、その子大丈夫かい?」

 

彼は彼女の体調が優れないので医務室に連れていくことをスプラウト教授に話した

 

彼女を立ち上がらせた

右手にトランクを掴み左手を彼女の背に回しふらつく彼女の体を支えた

彼女の顔色はひどく青白かった

 

「医務室への道は分かるかい?」

 

彼は既に医務室への道を知っていることを伝えた

 

温室から出て城に入った

やけに長い廊下を歩いて医務室に向かう

彼女の足元は覚束なく視線は虚空をさ迷っている

放心状態である彼女がポツリと呟いた

 

「レンくんって、すごく優しい人ですね。私みたいな人にも親見になって接してくれますし。やっぱり、私なんかが友達に「その先は言うな」」

 

彼女が言ってはいけないことを口にしようとしていた

彼は彼女にそんなことを言われたら嘆き悲しむことになる

 

「その先を言ったら僕も、リラちゃんも、苦しい思いを味わうだけだ。僕とリラちゃんは既に友達なんだから、今更取り消すなんてことを僕はしてほしくない」

 

そう彼は彼女に言った

責めるようでされど懇願するかのような口調で彼女に言った

 

彼の言葉を聞いた彼女はポロポロと涙を流し始めた

 

「ご、めん、なさい、レン、くん。ごめん、なさい」

 

しゃくりあげながら彼に謝罪した

自分勝手な思いで彼を不快な思いにさせた

彼の思いを考えずに最低の言葉を発するところだった

自己嫌悪と彼への罪悪感に苛まれ彼女は今深い後悔の念に蝕まれている

 

そんな彼女を彼は許しそして謝った

強く言いすぎてしまった

心が弱っている人に追い打ちをかける卑劣な行為だ

真に謝るべきは彼の方だろう

 

医務室に辿り着く頃には泣き止んでいた

しかし彼女の目元は赤く腫れて泣いていたことがバレバレだ

 

扉を開け誰かいないか尋ねた

奥から女医さんがやってきた

 

「あらこの子、大分心が弱っているよ。取り敢えずベットに寝かせましょうか。貴方たちお名前は?」

 

彼女は答えれそうになかったので彼は彼女の名前と自分の名前を伝えた

女医さんに案内され空いているベットに彼女を寝かせた

 

彼女は弱々しい力で彼の手を握った

どこにも行かないでと言っているようで彼はなんともいじらしい思いに囚われた

両手で彼女の手を握り返してどこにも行かないよ、と彼女に言った

 

彼女は暗い表情を安堵の笑みに変えて安らかな眠りに着いた

これで彼女の心も落ち着いてくれるだろう

彼女の過去に何があったか知らないし知りたくもない

だけどいつかは彼女は彼に明かすだろう

その時は心から彼女を受け止めてやろうと彼は思った

 

「この子は幸せ者だねぇ。こんなに想ってくれる男の子が側に居るなんて。」

 

彼は放っといてくれとそっぽを向いた

 

「しっかし妬けるねぇ。そんな年で女の子を泣かすなんて。プレイボーイになるつもりかい?」

 

彼は誰彼構わず彼女に接するように振る舞うつもりはない

彼女だからこそこんなことをしているのだ

だってしょうがないじゃないか

 

 

一目惚れだったんだから

 

 




マダム=ポピー=ポンフリー先生は医務室で関係ないことをしているとダンブルドアでさえも追い出すような人だ。
先生は彼女の心理状態に彼が必要と判断したので、彼を追い出しませんでした。
それってつまり、彼女は…?


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07

あまり変わらないけど *** で視点変更です。
最初は彼女側からです


彼女は公園のベンチに一人で座っている

よく知っている公園であった

 

家族の一団が彼女の前を過ぎ去った

母親は父親と手を繋ぎ父親は遊び疲れたのか眠っている少女を抱えている

幸せな家族のお手本のような姿であった

脱げた少女の靴が地面に落ちた

 

場面が切り替わる

太陽が落ちかけている夕暮れ時の公園に子供が独り居た

ブランコに乗っている少女は漕ぎもせずに空を眺めている

その目には何も写っていない

嬉しさも、悲しみも、楽しさも、怒りも、何もなく空虚な瞳で虚空をさ迷わせている

何をすべきか迷っているかのように

 

一瞬の暗転の後に彼女は何処かの家のテーブルに座っていた

向かい側には少女とその両隣に父親と母親が並んでいる

皆もれなく笑みを浮かべていた

少女の前には5本の蝋燭が突き立てられているケーキがあった

少女は5本の蝋燭の火を一息で消し飛ばした

 

暗闇の中に土を蹴る音が聞こえる

雲が流れて月明かりが差し込んだ

街灯の無い山道を独りの少女が走っている

がむしゃらに、何かから逃げるように、何も考えないように

ただただ少女は走り続ける

月が雲に隠れた

 

明かりが灯る

少女は手に燭台を持ち蝋燭の火で暗い廊下を照らしている

少女が立ち止まった

視線の先には誰かが倒れているのが見受けられた

少女はその場から忽然と姿を消した

手離した燭台の火が館に燃え広がっていく

床が崩れ彼女は暗闇に落ちていく

 

薄暗い部屋に閃光が迸る

眩しい光と共にローブを纏った何者かが現れた

何者かはベットにうずくまる少女に手紙を手渡し妙な音と共に姿を消した

少女の空虚な瞳に光が灯った

彼女は瞼を閉じた

 

夢を見ている

そう彼女は認識した

これらは既に過ぎ去った彼女の過去だ

もう戻れないし戻りたくもない

やはりトラウマを見たせいだろう

幸せな夢の中に苦く辛い記憶が紛れている

 

しかし彼女はその光景から目を背けることはしなかった

彼女の中にあった記憶は思い出になった

辛いものも幸せなものも全ての記憶が

 

たった二日間の記憶だ

それらの記憶は今までとは比べ物になら無い程幸せな記憶だ

彼女を蝕んでいた記憶は過去のものとなった

その事実が彼女を喜ばせた

トラウマは克服出来なかったがそれも思い出になるのも時間の問題だろう

彼女の隣には彼が居るのだから

 

 

彼女は夢現の中誰かが手を強く握ったのを感じた

 

 

 

***

 

 

 

ベットに横たわる彼女は穏やかな寝息をたてている

 

彼の手を握って眠った彼女の頬には涙の痕がくっきりとついていた

放っておくと中々落ちないので彼は懐からハンカチを取り出し優しく拭き取った

涙で汚れていた彼女の顔は元の愛くるしい顔に戻った

 

これでよしと彼は満足げに息をこぼした

 

彼は椅子に座って彼女の寝顔を眺めている

無防備な姿を彼に見せている彼女は安心しきった表情をしている

少なくとも心は許してくれているようだ

彼はそのことを嬉しく思う

 

彼女が寝返りをした

彼女の髪が顔にかかった

鬱陶しそうであったので彼は身を乗り出して手で髪を払った

 

彼のすぐ近くに彼女の顔がある

髪を払った手をそのまま彼女の頬に当てた

柔らかい感触がする

親指で彼女の唇をなぞった

彼はここにキスしてみたいという劣情にかられた

だが眠っている相手にするのは流石に駄目だろう

数十分の思考の末彼は踏みとどまった

 

彼は彼女の頬から手を離して乗り出していた体を引っ込め元の姿勢に戻った

今は寝顔だけで我慢しようと彼は思った

 

彼は頬を指でつついたりして感触を楽しんだ

寝顔だけでは満足できない彼は強欲である

 

一時間程たった頃に彼女が目覚めた

 

「んぅ?あれ、ここは?」

 

身を起こして辺りを見渡している

そして彼を見て固まった

彼は彼女におはようと言った

 

「あ、え?おはようございます?」

 

どうやら彼女は寝惚けているらしい

先程のことが無かったかのようにケロッとしている

取り敢えず彼は気分はどうか彼女に尋ねた

 

「は、はい。気分はとてもいいんですけど、何で手を繋いで……あぁ、そっか私、また…」

 

ずっと繋いでいた手を見てなにやら呟いている

どうやら思い出したようだ

彼女は彼の手をにぎにぎして考えにふけっている

こそばゆいと彼は思ったが彼女の好きにさせた

彼女は満足したのかそっと手を離した

 

「もう、大丈夫です。落ち着きました。その、色々とありがとうございます」

 

気にすることはない友達は助けるものだと彼は言った

彼は彼女に対する恋慕の気持ちを自覚しているが彼女には黙っておくことにした

もっと仲良くなるまで

 

ホグワーツに鐘がなる

幾つも重なって聞こえてくるそれは昼を告げる報せだ

彼は腹が空いてきているので昼食を食べに大広間に行くことを彼女に伝えた

 

「もうお昼の時間ですか。私、結構寝ていたんですね」

 

彼女はベットから出て彼の前で身嗜みを整え始めた

目の前に彼が居るのだが気にならないのだろうか

彼には目福だったようだが

 

「それでは、大広間に行きましょうか。その、私まだ道を知らないので、案内してくれると助かります」

 

彼は椅子から立ち上がって彼女の手を取って歩きだした

彼女は嬉しそうにはにかんだがまだ恥ずかしさが強いようで顔を赤らめたさした

段々抵抗が少なくなっていることに彼は嬉しく思った

 

医務室から出るとき少し遠くで仕事をしている女医さんに頭を下げた

女医さんは手を振って返答した

 

彼は彼女と連れだって大広間に向かった

 

大広間に着いた

もう既に大勢の生徒が昼食を摂っている

彼と彼女はレイブンクローの机に着いた

 

お昼の献立は肉料理だ

大皿には様々な種類の料理がある

ローストビーフ、ラムチョップ、ステーキ、チキンナゲット、それらに添えられているサラダ、にんじん、トマトがあった

 

彼ど彼女が食べ進めていると利発そうな少女が彼女に話しかけてきた

ショートカットの赤髪は少女のボーイッシュな出で立ちと相まって少年のような雰囲気を醸し出している

少女と言うより少年の方が合っている

 

「やあ、朝振りだね。レイラちゃんだけっけ、「薬草学」の教科書を預かっていたから返すね」

 

少女は彼女に本を一冊手渡した

そういえば教科書を置き去りにしてしまったことを彼は思い出した

だが残念なことに少女は一冊しか持っていないようだ

彼は後でスプラウト教授に貰いに行くことにした

 

「は、はい。どうも、あ、ありがとうございます」

 

彼女は手渡された本をおずおずと受け取りびくつきながら感謝を伝えた

 

「いいのいいの、同じ寮のよしみだしね。仲良くやろうよ」

 

そう少女は言い彼には目もくれず踵を返し大広間から出ていった

まるで彼が居ないかのような振る舞いは見る人が見れば憤慨してしまうだろう

彼は全く気にしていない、というより気づいていないようだ

彼は彼女に知り合いか尋ねた

 

「はい、知り合です。といっても、寝ている部屋が同じなだけで名前は知りませんけど」

それは良いことだ同じ部屋であれば顔を合わせる機会が増え必然的に話し合う機会も増えるだろう

それに先程少女は「仲良くしよう」と言っていた

少女が彼女と友達になれそうだと彼は思った

 

「でも、私ああいう人が苦手で。これから仲良くできるか不安です」

 

友達になるのは厳しそうだ

彼は寝ている部屋が同じという彼女の発言に疑問を抱いた

彼の寝る部屋は彼以外誰も居ない

時間が合えば監督生の人に聞いてみることにした

 

知らないままにしておくのは後味が悪くなってしまう

ろくな理由は無さそうだが

 

 




今回で視点変更はあまりしないほうが良いと思いました
正直書きにくかった


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08

昨日は予約投稿をミスって投稿出来ていないけど気にせず投稿だ!


彼と彼女は昼食を食べ終わった

先程まで寝ていたためかあまりお腹は空いていないようだ

彼も同様心が満腹なのでそこまで空腹感はない

 

午後の授業は「変身術」だ

彼はそこに向かう前に彼女と教科書を取りに寮に行った

彼はまだ授業が始まって一日目なのに寮を行き来するのを億劫に感じている

何度も急な螺旋階段を昇り降りするのは良い運動になりそうだ

レイブンクローにデブが居なくなるだろう

 

しかしいちいち取りに戻るのも面倒だし時間も食う

その為か上級生のなかに手提げ鞄やバッグを持ち歩いている人を見かけた

彼のように教科書を持ち歩いているのだろう

彼は自分しか居ないと思っていたが意外と存在した

大量に収納できる物は案外珍しいものではないと世間知らずの彼は知った

 

螺旋階段を昇り寮につながる扉の前に立った

彼はドアノブに手をかけるが開く様子は見られない

 

「どうしました?レンくん」

 

彼女が彼に近づいて尋ねてきた

彼が扉が閉まっていると彼女に言おうとしたとき鷲のドアノッカーが喋りかけてきた

 

「問おう、解錠魔法(アロホモーラ)の呪文を最も使用する者は誰か」

 

「…アロホモーラ?何ですか、それ」

 

鍵を開ける呪文だ、と彼は言った

 

「へぇ、泥棒さんに悪用されそうですね」

 

「正解だ。入って良いぞ」

 

泥棒が答えだったのか扉が開いた

どうやら寮に入るには毎回問いかけに答えなければいけないようだ

なんというセキュリティーだ

勉のないものには入ることは許されないのか

 

「…開きましたね」

 

そうだな、となんとも微妙な顔で彼女に言葉を返した

彼と彼女は扉を潜りレイブンクローの談話室に入った

 

「それでは私、教科書を取ってきますね」

 

彼は行こうとする彼女を呼び止めた

渡すものがあると彼はトランクから肩掛けのポーチを取り出した

このポーチはトランクの中に入っていたが正直使いどころが無く何も入れていない

これもトランクと同じく魔法がかかっている

小さいが教科書ぐらいなら入るだろう

 

トランクが重いならそれを使えという話だがトランクにしか入らないものがある、とだけ言っておこう

 

「私が貰っても良いんですか。こういうの、結構貴重な物では?」

 

彼はトランクしか使いそうにないしトランクの中で肥やしにしておくのは勿体ない

それに彼女は初めての友達だ

お近づきの印にもってこいだろう

 

彼はそこまで貴重な物では無いさ、と言い彼女に手渡した

 

「ありがとうございます。……何気に友達からプレゼントされたのって初めてです。大切に使いますね」

 

彼女はポーチを大事そうに胸に抱えて教科書を取りに行った

それでは肩に掛ける紐の意味が無いのだが

 

彼は談話室に置いてあるソファーに腰掛け彼女が戻ってくるのを少し待つことにした

そこにタイミングを見計らっていたのか上級生らしき人が彼に話しかけてきた

 

凛とした出で立ちにいわゆるお嬢様ヘヤーと呼ばれる髪型と相まっていかにもな人だった

身長は高く彼の頭二つ分ぐらい差があるだろう

まだ十代であるのに少女と言うより女性と呼称した方が合っている

そんな人がその誠実で清らかな瞳を彼に睨み付けるかのように向けている

 

「君がレーニン=ヒートニーか?」

 

彼は自分がレーニンであることに同意した

 

「私の名はカリスタ=コルーダ。好きに呼んでくれて構わない。早速だが、君のことが噂になっている。さっきの子を医務室に連れ込んだと」

 

あれから二時間程度しか経っていないのに噂が出回るのが早いなと彼は思った

弁解として彼は連れ込んだのではなく友達である彼女の体調が優れなかったので連れていったことを話した

彼はやましいことなど何もしていない

ただ頬を撫でたり唇をなぞったりしただけだ

 

「ほう、友達が、か。だが君は?体調を悪くしたのではないのだろう?あの子を医務室に連れていったら君は教室に戻れば良いじゃないか。それなのに君は戻らず医務室に居た。一時間と十数分の間、何をしていたんだい?」

 

随分と彼を疑っている

その容姿通り厳格な性格のようだ

その瞳をより一層吊り上がらせ彼に問い質している

彼が教室に戻らなかったのは彼女が帰らせてくれなかったからだ

もちろん彼も彼女と一緒に居たかったのもあるがこれらを目の前の人に言ったら確実に面倒なことになるだろう

 

そこで彼は医務室に居た女医さんに彼女の看護を手伝って欲しいと頼まれたから、と言った

別に彼は頼まれた訳ではない

女医さんに「この子の事、ちゃんと見ててあげなよ」とかそんなニュアンスで言われただけだ

まあ面倒を見るという点では看護というのはあながち間違いではないだろう

 

「なに、女医さんだと?ということはマダムが医務室に居たのか。……あの人が噂のようなことを許す訳が無いな。すまなかったなヒートニーくん、疑って悪かった。私としたことがマダムのことを失念していたよ」

 

吊り上がっていた目尻を下げて何故か不満そうな顔になった

額に手を当て首を振りながらため息をついた

何がそこまで残念なのだろうか

 

「はあ、なんだ、ただの友達か。噂は消しておくから安心したまえ。マダムが居る限り無理だとな」

 

彼は疑いが晴れて嬉しいことを伝えた

 

「それはそうとして、だ。先程からあの子が扉に隠れてこちらを窺っているが、本当に友達か?」

 

彼女は人見知りの気がある

きっと知らない人が彼と話しているのを見て出てくるのを躊躇っているのだろう

彼は貴女を怖がっているのでは、と言った

かなり失礼である

 

「ぬぅ、そうか。ならば私は離れることにするよ。どうしたものか、髪にリボンでも着ければ良いのだろうか

 

ぶつくさ検討違いのことを呟きながら去っていった

リボンを着ければ愛嬌は出るだろうがイメージがぶっ壊れるので止めておいた方が良いと彼は思った

 

何はともあれ去っていったので彼女がやって来た

とてもぎこちない動きで彼の前に立った

一体どうしたのだろうか

 

「あの、レンくんと話していた方は誰なんですか?なんの話をしていたのですか?」

 

友達が奪われるとでも思ったのであろう彼女は不安げに彼をを見つめている

これは下手なことは言えないなと彼は思った

なので彼はあの人は上級生でとても親切な人であったと言った

彼が迷っていると思ったようで場所を教えるよと話しかけられたと彼は嘘をついた

 

……それなら、まあ、大丈夫かな?そうなんですか。親切な人も居るもんですね」

 

取り敢えず納得したようだ

彼はこの話題を話続けるのは得策ではないと思いポーチの使い心地はどうか彼女に聞いた

 

「あ、そうでした。このポーチすごく便利ですね!教科書を全冊入れたのにまだまだ入りそうです。それに重さを感じません」

 

そのポーチはそういう物だ

彼女は気に入ったようだ

だがまあそのポーチは肩に掛けるタイプなので彼は彼女の手からポーチを取り彼女の肩に掛けた

彼は彼女にこっちの方が似合ってる、と言った

 

「そ、そうですか。じゃあこっちの方で使いますね」

 

彼女はモジモジしながら嬉しそうにはにかんだ

彼は左手でうなじをさすった

その可愛らしい姿はずっと見ていられるがそろそろ時間だ

「変身術」の授業に間に合わなくなる

 

彼はソファーから立ち上がり彼女の手を取って扉を潜った

「変身術」の教室は一階の中庭付近だ

 

彼と彼女は教室へ向かった

 

 

 




罪悪感さん誤字報告ありがとうございます。助かります。


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噂話

07のカリスタ=コルーダさんの内面を書いてみました。すごいありきたりな人物になってしまった。うーん、難しい。


「ねえねえ、カリスタさん知ってる?あの噂」

 

レイブンクローの談話室に入ると私の友人が話し掛けてきた

なんの噂だろうか

ホグワーツには変な噂は絶えん

つい先程聞いた噂なら男子生徒が女子生徒を医務室に連れ込んだけしからん噂のことだろうか

 

「そう!その噂のこと。しかもその二人、美少女と美少年って話じゃない!これは確かめるっきゃないでしょ」

 

そんなに興奮するな

レイブンクローに馬鹿が居ると思われるだろう

それに噂を鵜呑みにするとは頂けないな

美少女とか美少年とか言われているが噂に尾ひれがついて実際はそこまで可愛いくはないだろう

 

「おいコラ、人に水を指すのはあんたの悪い癖だよ。まあ生粋のショタコンであるカリスタさんを、満足させる男の子なんて居ないもんね」

 

ショタコンではない可愛いものを愛でたいだけだ

どこかに少女のような容姿だけどしっかりと男の子していてギャップでキュンとして

それでいて守りたくなる儚い雰囲気を纏っていて逆に守られたくなる強い心を持っていて

私と同じ知性の持ち主である絶世の美少年は居ないものか

 

「いつも思うけど、カリスタさんの理想高すぎじゃない?そんなんじゃ婚期逃すよ」

 

君はチャラい男にヤリ捨てられそうだがな

汚ならしい男と日々を過ごすくらいなら独身を貫く方がよっぽどましだ

そうに決まっている

 

「私は大丈夫です。逆にカリスタさんは恋をしたらコロッといきそう。いろいろな意味で」

 

失礼なことを言う奴だ

色恋などで今まで育ててきた私の慧眼が曇るとでも思ったら大間違いだ

例え恋をしてもフィルター越しにそいつの本性を見抜いてやるさ

 

「いやー、ハハハ。流石はカリスタさん、言うことが違うねぇ」

 

全く調子の良い奴だ

それでは噂の二人に会いに行こう

なに、噂を確かめてとっちめてやるだけだ

性の乱れはよくないからな

本当に美少年かもしれないとは考えてないからな

 

「ホラホラ~、そんなこと言ったって興味津々なのバレバレだよ。やっぱり期待してんじゃないの?」

 

期待なんぞしとらんわ

ただ私は寮の減点に繋がる行動を自粛させようとだな

…?

どうした?そんなアホ面晒して

まさか私を笑わせようとしているのか

残念だがそんなんじゃ私から笑いを取ることなど夢のまたゆmブフォ

すまん笑ってしまった

 

「なに馬鹿なことしてんの、後ろ見な後ろ!」

 

カリスタ=コルーダは友人があまりにも五月蝿いので後方に振り返った

そこには手を繋いでいる仲睦まじい二人組が今し方談話室に入ってきた

 

方や今にも消えてしまいそうな程儚い雰囲気を纏う黒髪の御令嬢

方や御令嬢をリードする鋭い目付きのイケイケな銀髪の王子様がいた

それらは凹と凸で、弱さと強さで、攻めと受けで、黒と白でありどこからどう見てもお似合いの二人であった

 

カリスタ=コルーダは生粋のショタコンで隠れているがロリコンでもある

異性と同性どちらもイける質な変態は二人ともストライクゾーンにおもいっきり入っている

そんな変態が仲睦まじい二人の姿を見たら思わず涎を垂らしてしまうのも仕方あるまい

 

「うっわあ~、すんごい美男美女。噂以上に綺麗だったわ。…どうしたのカリスタさん?さっきから固まって、って汚な!涎拭きなさいよみっともない!」

 

はっ、いかんあまりにも可愛すぎて意識が飛んでいた

まさか生きているうちにあのような存在と出会えるとはな

私の人生も中々捨てたもんじゃないな

だが組分けに居たか?どうにも思い出せん

 

「黒髪の女の子はレイラ=ジュリアちゃん、銀髪の男の子はレーニン=ヒートニーくん。カリスタさんが覚えていないのはねえ、ヒートニーくんを見て鼻血を噴出しながら気絶したからだよ。誤魔化すの大変だったんだから感謝してよね」

 

その節はどうも

いつも助かっているよ

そうか鼻血を出したのも頷けるな

だが安心してほしい

今は現実味が無さすぎて目眩がするだけだ

 

「全然安心できんわ。それにしてもあの二人、仲良いわね。プレゼントなんてしてるし、やっぱりあの二人デキてるんじゃないの?」

 

ふむ、噂では既にいくところまでイっているらしいな

しかしだ、ここで真偽がどうのこうの言ってても埒が明かない

 

「ん?カリスタさん、あんたまさか」

 

そう本人に直接聞けばよかろう

丁度片割れが部屋に行った今が絶好の機会だ

善は急げ、ではイってくる

 

「え!?ちょ、待ち!……あらら、行っちゃった」

 

さて、愛しのレンきゅんは物寂しそうに座っている

ガールフレンドと離れるのが寂しいのだろう

その寂しさを私が癒してあげよう

おっと、まずは名前を確認せねば

見知らぬ人に名前を呼ばれるのは恐がられるからな

 

「ええ、僕がレーニン=ヒートニーですけど」

 

はぁ、いい声だ

変声期は過ぎているのか声は低い

耳元で愛を囁かれたら死ぬかもしれん

おっとっと、会話を続けなければ

黙っていると不審に思われてしまう

 

取り敢えずは自己紹介だ

私はどんな呼ばれかたでも気にはしない

カリスタお姉様と呼んでも良いぞ

 

「それで、コルーダさんは僕に用でも?」

 

用か、レンきゅんのおみ足をペロペ…噂の確認だ

美少年が美少女を医務室に連れ込んでズッコンバッコンした噂だ

突然の話題に困惑した表情を見せるレンきゅん……イイ!!

 

「はあ、噂ですか。うーん、友人が体調を悪くさせたので、医務室に案内しただけですが」

 

ほうほう、入学二日目にして医務室の場所を把握済みとな

とんだプレイボーイだ全くもってけしからん

しかし「案内した"だけ"」とな

 

…レンきゅん嘘をついたって無駄だ

噂ではレンきゅんは教室に戻っていないという話じゃないか

レンきゅんは体調を崩していないのにずっと医務室に居た

一時間もあればあーんなことやこーんなことまでヤリたい放題だ

どうせヤったんだろう?

そこのところどうなんだいレンきゅん

 

「戻らなかった理由ですか?女医さんに友人を看護するお手伝いを頼まれたからですが」

 

なに、女医だと?ホグワーツで女医といえば……そうだったなマダムが居ることを失念していた

あの仕事に真っ直ぐな人が噂のような情事を許す訳がない

いや!マダムでもレンきゅんにかかればワンチャン…無いな、うん、無いわ

 

マダムのお陰で冷静になれたな

思い返してみるとレンきゅんに結構失礼なこと言っている

取り敢えず謝っておこう

 

しかしヤってないのか

ということは普通の友達という関係か

残念だ噂通りならくんずほくれつしているところを見学したかった

おっとっとっと、レンきゅんが不審な目でこちらを見ている

危ない危ない顔に出かけていたようだ

誤魔化しとして噂は消しておくことを約束しておこう

アフターケアは大事ってどこかで聞いた覚えがあるのでな

 

「まあ、僕としてはあらぬ噂が無くなるのは助かります。ありがとうございます、コルーダさん」

 

いやはや、人助けってのはいい気分になるもんだ

先程からチクチク刺さっている視線がなければな

ちらっと見たのは良いのだがレンきゅんのガールフレンドだった

その目は何か恐ろしいものでも見たのか恐怖に染まっている

…向けているの、私じゃないよな?

 

怖くなったので言外に何とかしてくれとレンきゅんに尋ねた

 

「リラちゃんって人見知りするみたいだから、コルーダさんのこと怖がってるんだと思う」

 

思わず泣きそうになった

私は一体何をしたのだろうか

ここにいてると死にたくなるのでレンきゅんに断りを入れて立ち去ることにしよう

 

何がいけないのだろう?

やはり私の目付きが悪いからか?

いっそのことリボンでも着けてみようか

…想像したらあまりにも間抜けな姿になった

やめておこう

 

「おかえりカリスタさん。それで?噂はどうだった?やっぱりデキてた?」

 

いいや、あの感じだとまだ恋とか愛とかは知らないな

レンきゅんとリラちゃんの間には確かな友情を感じた

割り込むのは今しかあるまい

私はやらんがな

 

「カリスタさんは単にビビっているだけでしょ。それにしてもデキてないって本当?熱のこもった目で見つめあっているけど」

 

おや?おかしいな

私の数多を見抜いてきた観察眼がしくじったとは

フッ、私も衰えたものよ

 

「カリスタさんはまだ13でしょ」

 

それに一瞬だけめっちゃキモい視線を感じたがそんな視線を送る人など居なかった

学校生活を楽しみすぎて私も鈍ってしまったか

反省せねば

 

「て、やば!!もうこんな時間。急がないとまた遅刻になっちゃう。ほら、カリスタさんも急いで!」

 

まあなんにせよレンきゅんとリラちゃんは美少年と美少女だ

これから人間関係で苦労することになるだろう

二人の行く先に幸があらんことを祈っておこう

 

 




カリスタ=コルーダとその友人
ホグワーツの三年生
レイブンクロー寮所属
双方ともそこそこ優秀だがどこか残念なところがある
カリスタは人を選ぶ性格なので友人以外の友達を持たない
何故か友人もカリスタ以外の友達を持たない
二人は幼馴染み

まあこんなところでしょうか
この二人組はちょくちょく出す予定です


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09

この小説のフィネガンくんはよく爆発する


「変身術」の教室に向かっていると正面に中庭が見えた

中央には葉の少ない一本の枯木が生えており地面は芝生で覆われている

ホグワーツの憩いの場だ

今は昨夜降った雨でぐちゃぐちゃだが

 

中庭を突っ切る方が速いのだが足元を泥で汚すのも忍びない

彼は中庭を避けて遠回りに廊下を歩いて教室に入った

何人かの視線を感じた

もう既に大抵の席は埋まっているが幸いにも授業は始まっていないようだ

教壇の前に組分けの時に名前を読み上げていた老女が立っている

 

彼と彼女は空いていた最後尾の席についた

 

それから何人か教室に入ってきて席が埋まると同時に老女が自己紹介し説教を始めた

 

ミネルバ=マクゴナガル教授だ

「変身術」担当でありグリフィンドールの寮監でもある

マクゴナガル教授いわく変身術はホグワーツの中でも難しくて危険な魔法の一つだと

いいかげんな態度で授業を受ける生徒は二度と授業を受させないらしい

 

その言葉の端々から本気の念を感じた

例え担当の寮であるグリフィンドールの生徒だとしても粗相をしでかしたら容赦なく罰するだろう

とても厳格な先生だと彼は思った

 

それからマクゴナガル教授は教壇を豚に変えてそれから元の姿に戻した

パフォーマンスの一環であるその行動は生徒たちを大いに盛り上がらせた

後ろから見ているとやる気の変化が手に取るように分かる

 

だがまあ、案の定マクゴナガル教授が使用した魔法と同等のものを使用するには練度が足らなすぎる

複雑なノートを採っているとやる気がみるみると落ちていった

随分と浮き沈みが激しいクラスだ

 

ノートを採り終わると生徒一人一人にマッチ棒を配ってそれを針に変える練習が始まった

変身術のなかでも初歩的な魔法だ

用途は不明だがそこまで難しくはない

 

「え~と、こうやって、こう!かな?」

 

彼女が木の枝のような杖を振りかぶり杖先をマッチ棒に向けた

杖先から紫色の閃光が迸りマッチ棒を何かに変化させた

 

「わわっ!杖から何か出ました!…あれ?何も変わっていませんね」

 

魔法は発動したが姿形はマッチ棒のままであった

だが彼は何かに変化しているのが分かったようだ

彼はそのマッチ棒を手に持った

指先に魔力をこめてマッチ棒に流し込んだ

マッチ棒の先端に光が灯った

 

マッチ棒は赤の炎ではなく紫の火花をパチパチと撒き散らしている

それはまさに線香花火だった

しかしどこか違っている

 

彼は魔力が微々たる量だがマッチ棒に吸われているのを感じた

撒き散らしている火花に熱はない

マッチ棒が燃え尽きる様子も見られなかった

彼が魔力の流れを断ち切ると光はくすみだし、消えていった

 

光は魔力が変換したものだ

燃料は所持者の魔力によって補われる

それは魔力を与えるだけで光を灯す魔法のマッチ棒だ

その変換率は驚くほどに効率がよい

 

このマッチ棒は握っているだけで半永久的に光を灯し続けるだろう

消そうと思えばすぐに消せる

失くしやすそうなのが難点か

 

これを偶然とはいえ作り出した彼女は何かしらの才能を持ち合わせているだろう

彼は初めてにしては素晴らしい出来栄えだ、と彼女を称賛した

 

「えへへ、ありがとうございます。うーん、でも、今は針に変えないと駄目な気がします」

 

それもそうだ

今のノルマはマッチ棒を針に変えることだ

だがせっかく作ったものを針に変えるのは勿体ないだろう

彼は杖を取り出し配られたマッチ棒に双子の呪文(ジェミニオ)を唱えて同じものを複製した

彼はこれを使えと複製したマッチ棒を彼女に渡した

 

「…その魔法の方が難しい気がするのですが、私の気のせいでしょうか」

 

気のせいだろう

一般的な魔法使いでも使える魔法だ

召し使いがそう言っていたから間違いない

彼は誤魔化すかのように彼女に微笑んだあと練習するように促した

 

彼女は腑に落ちないといった顔をしているが気にせず自分も練習することにした

 

屋敷の訓練では変身術の項目がない

彼は昔うっかりで右の手を熊にしたことがある

召し使いにしこたま怒られて使用を禁止された

 

あの一件以来、彼は変身術を使用していない

あの日から間ががあるが針に変えることぐらいならできそうだ

彼は杖をマッチ棒に向けた

 

その時、シェーマス=フィネガンが杖を振り下ろした

変身術の授業はシェーマス=フィネガンには難しい

さんざん鬱憤を溜め込んだ脳は魔法を使うことしか考えていない

その爆発的な気質と突発的な魔力が合わさり杖から閃光を迸らせた

 

杖から出た閃光はマッチ棒を何かに変えるのと同時に机の表面を爆発させた

吹っ飛んだマッチ棒は火花を撒き散らしながら空中をのたうち回っている

それはまさにネズミ花火であった

 

のたうち回っていたそれはやがて軌道にのり、高速で回転しながら彼に向かって飛んでいった

 

彼は危機を察知した

飛来してくるそれは彼に当たるのと同時に二回目の爆発を起こすであろう

彼はマッチ棒に向けていた杖先を飛来してくるそれに向けた

 

彼はまず 上昇呪文(アセンディオ)を唱えて飛ぶ方向を上方に修正した

乱回転しながらゆっくりと昇っていく様は奇妙としか言いようがない

縦横無尽に暴れまわるネズミ爆弾が天井に達した

爆発する直前に彼は対象物を花に変える魔法を唱えた

 

魔法は成功した

現に辺りは撒き散らされた純白の花びらで満開だ

彼は屋敷に飾っていた花のことを思い出した

花びらはひらひらと舞い床に落ちると塵となって消えていった

彼は久々にしては満足いく出来栄えだと誇らしげに笑った

 

「…流石はヒートニー家のご子息、といったところでしょうか。相変わらずの見事な杖さばきです。それに免じて魔法の無断使用は不問とします」

 

彼はそれはどうもと感謝の言葉を送った

魔法は許可をとらないと使ったら駄目なようだ

初耳なそれを聞いた彼は職員の前では魔法は使わないようにしようと決心した

 

マクゴナガル教授がなにかを思い出すような仕草をした

昔なにかあったのだろう

苦汁を飲まされたような顔はまるで嫌なことを思い出した時にする顔だった

 

「それと、Mr.フィネガン。今回は不問としますが、次にそのような魔法を使えば教室から出てってもらいます。注意することです」

 

シェーマス=フィネガンは煤だらけの反省している顔で何度もうなずいた

無理そうだ

次回もきっとやらかすだろう

 

マクゴナガル教授は他の生徒に練習の続きを促した

しかし彼の方には目もくれない

今まで皆に公平な態度を一貫としていたのに急にどうしたのだろうか

彼に何かしらの因縁があるようだがそんなの彼には知ったことではない

 

「あの、レンくんって、いいとこのお坊ちゃんだったりします?」

 

彼女が先のご子息という言葉に引っ掛かったようだ

確かに彼は一般家庭より裕福な暮らしをしている

両親は居ないが召し使いが手塩にかけて彼を育てている

それに彼は外界のことを殆ど知らない

彼女の言う通り彼はお坊ちゃんだ

箱入り息子とも言う

 

彼は意外だったか?と彼女に返した

 

「いえ、そこまで意外ではないです。所作とか立ち振舞いとか、全体的に雰囲気があそこと似てますし」

 

何が似ているのだろうか

そう疑問に思ったので彼は彼女に何が似ているのか質問した

 

「へ?…あっ!え~と、そ、そうですね、高級料理店にいる人と、雰囲気が似てました。うん、似てますよ」

 

どうやら彼女は高級料理店に行ったことがあるようだ

羨ましいものである

彼はそういったところには行ったことが無い

だがまあ、マナーにうるさいとは聞く

彼はマナーを間違えるとどうなったか彼女に聞いた

 

「は、はい、そうですね、よく間違えてパパに睨まれていました。…あ、危なかったあ。何とか誤魔化せました

 

彼女が何かを誤魔化そうとしていることは明白だ

これ程までに下手くそな誤魔化しがあっただろうか

だが誤魔化しているということは彼女にとって知って欲しくないことだ

それを無理に聞くつもりは彼には無い

大体の予想はついているようだが

 

彼女は冷や汗を拭い安堵の息を吐いた

完全に誤魔化せたと思っているようだ

そんな分かりやすい彼女を見た彼はクスクスと声を出して笑った

 

 



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10

彼女は練習を再開した

だが最初のように上手くいかないようだ

杖を振っては首をかしげている

 

「あの、どうしたら魔法が使えるのでしょうか。それが未だに分からなくて」

 

おそらくだが彼女は自分の魔力を感じていないのだろう

感じないものを動かすのはかなり難しい

彼も最初は苦労したものだ

自力で感覚を掴むのは一日や二日では不可能だ

 

そこで彼は召し使いにされたことを彼女にすることにした

彼は彼女に手を出すように言った

彼女は不思議に思いながら右手を差し出した

彼は触れることを一言断りをいれて左手で彼女の手を握った

彼は左手に魔力を溜めて彼女の手にゆっくり少しずつ流し込んだ

 

「はわわ、何か動いててむずむずします」

 

その動めいているのが魔力だ

魔法を使いたいという意思と溜めた魔力に応じて魔法は発動する

少なくとも彼はそれで魔法を使っている

まあ、ちょいとコツがいるがな

 

彼は手を握ったまま彼女に魔力を動かすよう促した

 

「は、はい、分かりました。動かしてみます。え~と、こう!こう?こう、あっ、こうかな?う~ん、こう?」

 

彼女は声と共に表情を百面相させながら魔力を動かそうとしている

時々彼女は力んで彼の手を強く握ったり、感触を確かめるようにニギニギしてきたりする

これは疚しいことではなくちゃんとした鍛練であることを明言しておこう

 

「こう、かな。あっ、動きました!こうですね!」

 

彼女は魔力を動かすコツを掴んだようで感嘆の声を上げた

コツを掴むのが随分と速い

興奮した彼女は魔力を動かしまくり彼の手に魔力を流し込んだ

それはもう、ドバッと

 

はいってきたそれは焦らしてないにしてはあまりにも大きすぎた

大きく、強く、速く、狭い道を押し広げていくようにそれは彼の中にはいり込んでいく

周りをえぐるようにそれを押し込まれた彼はジクジクとした痛みを覚えた

奥の方に何かが雪崩れ込んでいく

彼は離れようと身を捩ったが興奮してガッチリと押さえ付けている彼女の手から逃れることはできない

 

第二波が彼を襲う

今度のそれは第一波よりも大きかった

しかしえぐる痛みはもうすでに無くなっていた

はいってきたそれに慣らされて狭かった道は大きくなっている

はいってきたそれを彼はすんなりと受け止めた

彼はそれを少しだけ押し返し彼女に流し込んだ

 

「う!いった!え?なに?何が起こったの?」

 

彼女はバッと右手を離した

痛むのか左手で擦っている

このように急に流し込まれると激痛が走るようになっている

どのように感じるかは人それぞれだが気分の良いものではない

現に彼の左手はそれはもう酷いことになっている

そう、酷いことにだ

 

彼は彼女に魔力を動かすのは慎重にしないと危険だと注意した

怒られた彼女はシュンとした表情になってか細い声ですみませんと謝った

落ち込み過ぎだろう

 

しかし説明不足であった彼の方にも非がある

彼は意気消沈とした彼女にこんな短時間で魔力を動かせれるのは大したものだと褒めた

褒められた彼女はシュンとした表情を吹っ飛ばしてえへへとはにかんでいる

嬉しくなりすぎだろう

 

彼の気質はどちらかと言うと褒めて伸ばす方だ

断じて彼女の落ち込んだ姿に罪悪感を感じたわけではない

 

あれぐらい魔力を動かせれるのなら簡単な魔法ならすぐに使えるだろう

彼は彼女に魔力を少しだけ溜めてから杖を振るえば魔法が使えるはずだと言った

そして実際に杖を一振りしてマッチ棒を針に変えてみせた

 

「はい、やってみますね」

 

彼女は彼と同じように杖を振るうと杖先から青い閃光が迸りマッチ棒を何かに変化させた

 

「……また、ですか」

 

マッチ棒は姿形はそのままで何かに変化した

彼はそれを手に持ち前回と同様に魔力を流し込んだ

マッチ棒の先から青く細い光が一直線に出て天井を指し示した

 

両隣に座っていた生徒がぎょっとした顔でこちらを見たのですぐに消した

幸いにもマクゴナガル教授はこちらに背を向けていた

 

それはレーザーライトだった

その光の集束率は驚くほどに高くどんな暗黒でさえ刺し貫くであろう

星座を確認するときに便利だ

これも中々作ろうと思っても作るのは難しい一品だ

彼は彼女を褒めた

 

「嬉しいです。嬉しいんですけど、なんか違う気がします」

 

彼女は目的とそぐわない物を作り出す呪いにかかっているかもしれない

そういったところも含めて才能かもしれないが

 

彼女がすごく腑に落ちないといった顔をしていると前方でどよめきが起きた

ハーマイオニー=グレンジャーがマッチ棒を針に変えたようだ

 

マクゴナガル教授はその針を生徒たちにどんなに銀色で、どんなに尖っているかを見せた

やはり初日で変えた生徒は少ないのだろう

マクゴナガル教授はハーマイオニー=グレンジャーに誇らしげに微笑んだ

昔の自分を重ねて見ているようだった

 

彼は自分の机にある針に手をかざした

数秒の間の後彼が手をどけると針はマッチ棒に戻っていた

 

ハーマイオニー=グレンジャーは誇らしげにふんぞり返っている

この部屋は彼女を称賛する気持ちで一杯だ

そんな空間に自分も出来たと茶々を淹れるつもりは彼には無い

彼は空気を読める男だから

「いいんですか?せっかく針に変えたのに」

 

彼はいいのさと彼女に言った

ムードを壊すような無粋な真似はしたくないようだ

それに彼は

これ以上を求めるのは厚かましいだろう

 

程なくしてマクゴナガル教授は授業の終わりを告げた

皆を寮に戻るよう促している

今日の授業はこれで終わりだ

あとは自分の寮で明日の準備をするだけだ

 

「あの、私マクゴナガル先生に聞きたいことがあるので、先に行ってくれますか?」

 

彼女が彼の顔色を窺いながらそう言った

あのマッチ棒のことでもマクゴナガル教授に相談するのだろうが

どうせなら彼女と帰りたかった彼だがそんなことを強要する権利など持ち合わせていない

彼は敢えなく別に構わない、それじゃあ、僕は寮に戻るよと彼女に返した

 

彼女は彼の返答を聞いてほっと安心したかのような顔をしてマクゴナガル教授の元に歩いていった

そこまで深刻な問題なのだろうか

彼女から覚悟を決めた雰囲気を感じた

 

 

彼は教室を出た

これを機に「薬草学」の教科書を取りに行くことにしたようだ

彼は一階にある職員室に行きスプラウト教授を訪ねた

彼が扉をノックしようとすると扉が開いた

フリットウィック教授が丁度よく出てきた

 

「スプラウトかい?今は温室にいるはずだよ」

 

フリットウィック教授が親切に教えてくれた

彼はお礼を言い城の裏手にある温室に向かった

 

彼の二度目の来訪もスプラウト教授は薬草の世話をしていた

よくよく見ればとても奇怪な植物だ

風も吹いていないのにカサカサと動いている

耳をすませば声も微かに聞こえる

おそらくその植物はマンドレイクだ

授業で使うのだろうか

 

「おや?Mr.ヒートニー、あの子は元気になったかい?」

 

スプラウト教授に彼女は元気になったことを伝えた

 

「それは良かった。それで、あたしになにか用かい?」

 

彼は自分の教科書が机に置いたまま行ってしまったことを伝えた

 

「教科書かい?レイブンクローの男の子が二冊とも持っていったよ」

 

昼食時に渡してきたのは少女で彼女の教科書しか無かった

その少年と渡すタイミングが合わなかったというのは無いだろう

「変身術」の教室では最後尾に座っていた

教室から出るときに必ず彼の存在を認識する

声をかけるなり、教科書を渡すなり何かしらの行動は起こすだろう

 

彼は教科書が紛失したことに気づいた

彼の教科書が今どこにあるのか、誰が持っているのか彼には知るよしもない

いつかは出てくるだろうが明後日にある「薬草学」の授業には間に合いそうにない

彼はスプラウト教授に自分の教科書が戻ってきていないことを伝えた

 

「おや、そうかい。まあ、教科書を失くす子はごまんと居るから、あまり気にしないことよ。え~と、予備の教科書はこの棚に…」

 

スプラウト教授は薬草の世話をやめて階段の近くにある戸棚の戸を開けた

戸棚の中には何もあらず空っぽであった

 

「あら?おかしいわね、昨年はここにあったはずなんだが」

 

戸棚の中にはうっすらと埃が積もっている

彼はその埃の様子から放置されて一ヶ月は経っていることが分かった

ろくに掃除もされていないのか蜘蛛の巣まで張ってある

 

それにしても管理が疎すぎる

教科書も一応は高価な物だ

施錠ぐらいするものだろう

 

「すまないね、どうやら予備を切らしていたみたいだ。発注してここに届くまで一ヶ月はかかるから、それまで誰かの教科書を見せてもらいな」

 

彼は彼女と教科書を見ることにした

なに、一ヶ月程度のことだ

そこまで苦ではないだろう

ちなみに彼はレイブンクローに置いてある本棚にその教科書があることを覚えている

 

彼はスプラウト教授に了承の意を伝えレイブンクローの寮に向かった

明後日の授業を楽しみにしながら

 




魔力のくだり、あなたはどう感じましたか?(純粋な質問)
私?私は狙って書きました(汚れきった心)




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昔話

マクゴナガル先生が昔のことを語る話
もといトラウマの話


「あの、すみません、少しいいですか」

 

彼女がマクゴナガル先生に話しかけた

彼に初めて話しかけた時のような挙動不審さはない

その瞳には確固たる意思の光が宿っている

 

「あら、Ms.ジュリア。どうしました?分からないところでも有りましたか?」

 

マクゴナガル先生は彼女に優しく答えた

将来有望な生徒を見つけたためかとても上機嫌であった

授業始めの時より雰囲気が柔らかい

今なら軽い校則違反は見逃してくれそうだ

 

「その、先程のレンくんへの態度が気になりまして。彼に、何かあるんですか?」

 

彼女はマクゴナガル先生にそう尋ねた

彼女はマクゴナガルが彼に畏怖と敵意の念を抱いていることに気づいている

マクゴナガル先生は見た目通りに厳格で公平な人物だ

そんな人が一個人に特別な感情を持っていることに彼女は疑問を感じたようだ

人との交流経験が浅い彼女は、人には聞いてはいけないものがあることを知らない

 

「っ!」

 

マクゴナガルの顔が強ばり言葉を詰まらせた

マクゴナガルは彼に対する感情を凡人には知覚できない程押し留めていた

年を重ねて育んできたポーカーフェイスを年端のいかぬ少女に見抜かれたことに驚いたのだろう

そして彼女の質問は今一番聞かれたくないものであった

常人であれば気分を害すること間違いなしだ

 

マクゴナガルは後悔した

こんな反応を見せては何かあると言っているものだ

マクゴナガルは彼女のことを彼の隣に座っていた少女であることを今更ながらに理解した

彼のあだ名を口走っていた少女は彼と親しい仲なのだろう

わざわざ聞きに来るほどに

 

「私としたことが、隠しきれませんでしたか。やはりいけませんね、あの子とは違うと分かっているはずなのに」

 

マクゴナガル先生の上機嫌さは消え失せた

自己嫌悪と脳裏にこびりつく忌々しい記憶が甦りこの上なく不機嫌である

そんな雰囲気を感じた彼女は自分が何かしでかしたことに気づき心を震えさせた

後悔先にたたずとはこの事よ

 

「…ここで話せるようなものではありませんので、私の研究室に行きましょうか。着いてきなさい」

 

マクゴナガルは酸いも甘いも経験している大人だ

五十も下の少女に掘り返されたくない事を聞かれたとしても冷静に対応することができる

例え心が荒れ狂っていたとしても

 

彼女とマクゴナガル先生は二階にあるマクゴナガルの研究室に向かった

行き交う生徒たちは珍しく不機嫌なマクゴナガル先生に恐れをなして道を明け渡した

そしてマクゴナガル先生に青ざめた顔で追従している彼女に同情した

 

マクゴナガルの研究室に着いた

入って正面に向かい合っている二つのソファーの間に脚の低いテーブルが置かれている

テーブルの上にはティーポットとティーカップが四つ空の皿にはペーパーナプキンが敷かれている

その奥に紙束の積まれたデスクがあった

左右は本棚があり本は丁寧に整頓されている

部屋を飾る調度品は計算されたかのように違和感なく飾られている

この部屋はマクゴナガル先生の性格が反映されていると彼女は思った

 

「さあ、そこに座って」

 

彼女はマクゴナガル先生の言いつけ通りにソファーにギクシャクと腰を下ろした

今彼女は緊張と不安で体をガチガチに固めている

 

「紅茶は飲めます?」

 

マクゴナガル先生は杖を振るって皿の上にクッキーを出現させた

ティーポットからは柑橘類の爽やかな香りが漂っている

彼女はマクゴナガル先生に紅茶を飲めることを伝えた

 

「良かったわ、クッキーも一緒に召し上がれ」

 

マクゴナガル先生はティーカップに紅茶を注ぎソーサーにのせて彼女の前に置いた

もう一つ注いでテーブルに置き彼女の対面に座った

 

彼女はティーカップの取っ手を右手で摘まみ左手でソーサーを支えた

ソーサーを胸元まで持ち上げてティーカップを口に運び一口含んだ

レモンのような爽やかな香りとすっきりした味わいは彼女の心を落ち着かせる

レモンバームだ

心を鎮静化するこの紅茶には抗鬱作用があるとされている

 

彼女はティーカップをソーサーに戻しテーブルに音もなく置いた

彼女は落ち着いたようでふぅ、と息を吐いた

マクゴナガル先生は優雅に紅茶を飲んでいる

その姿は様になっていて紅茶が似合う女性だと彼女は思った

 

彼女はクッキーを一枚取り食べた

サクサクした食感とほんのりと感じる甘味はこの紅茶にぴったりなものであった

どれもこれも出来立てのような味わいであった

魔法というのは本当に便利だなと彼女は思った

 

マクゴナガル先生は紅茶を置いた

こちらを見据える顔に不機嫌さはなく申し訳なさがありありと見受けられる

 

「ごめんなさい、少し気が立っていたようですね。随分と怖がらせてしまいました」

 

「い、いえ!こちらこそすみません」

 

彼女はマクゴナガル先生に謝った

マクゴナガル先生が不機嫌になった原因を作ったのは紛れもなく彼女だ

謝罪してしかるべきだろう

 

「いいのよ、友人のことを知りたくなる気持ちは分かるから。それで、授業のMr.ヒートニーへの態度のことでしたか。別にMr.ヒートニーが悪いわけではないのですよ。あの子の血が流れている、それだけのことで恐怖を抱きました」

 

「あの子?誰のことですか」

 

「Mr.ヒートニーの母親です。私が五年生の時にここに入学しました。あの子は天才でした。一年生の時点で様々な魔法を使える程に。しかし、あの子は天才さが霞むほどの癇癪持ちでした。あの子の才能の大半は八つ当たりに使われ、その魔法の腕をもって隠し通し、一ヶ月の間看過され続けました」

 

マクゴナガルの唇が震え出した

思い出すなという警告が脳に痛みを走らせる

マクゴナガルはそれを隠すようにティーカップに口をつけた

常日頃から用意している紅茶を一口含めば痛みは和らいでいった

 

「自分より頭がいい、自分より強い、自分より美しい、そんな下らない理由で僻み、妬み、憎んで、その人たちを陥れました。所持物を壊すなど当たり前、呪文行使を反対呪文で邪魔をすることもありました。酷いときには顔に酸を浴びせようとしたり、人を虫に変えようともしました。それらは未遂に終わりましたが、今でもゾッとします」

 

マクゴナガルは手を組んだ

左手の震えを誤魔化すように

 

「…酷い、人ですね。そんな人がレンくんのお母さんだなんで」

 

彼女は聞かないほうがよかったのではと思い始めた

彼女の脳裏に彼を虐待している醜女の姿が浮かんだ

彼の家庭環境は自身より酷そうだ

 

「ハーピーの血筋の者は、総じて何にかしらの能力を持っています。その対価として脳に欠損を与え、寿命を縮ませます。あの子ほどの欠損の持ち主は、過去に存在したか怪しいほどです」

 

「そんな人が、家庭なんて持てるんですか?」

 

「ええ、持てました、というより持たせました。私と、当時変身術の教授だったダンブルドア先生で。あの子の隙をついて暗示の魔法をかけました。もう二度と悪さをしないように何重にも。翌日は常人と謙遜ない性格になっていました」

 

「…でもね、暗示というものは何時かは解けます。あの子が起こした事件も数知れず。Mr.ヒートニーにもその血が流れているのです。その片鱗を先程の授業で見せています。呪文を唱えずに杖を振るう姿はあの子とそっくりでした」

 

「でも、レンくんはすごく穏やかな人ですよ。それにとても優しいし、先生の言うような性格になるなんて想像もつきません」

 

マクゴナガルは彼女が彼を信頼していることがわかった

優しい彼女をハーピーの血筋のものがどう誑かしたのか気になるところだ

しかしマクゴナガルは話を打ち切ることにした

すぐそこに限界が迫っている

 

「…まあ、今はもう感情を抑制させる薬品や道具が出回っていますからね。そこまで心配することはないですよ」

 

「…そう、ですか」

 

彼女はその言葉に納得できないでいた

そういった物があるのならどうして彼を恐れるのだろう

彼女が尋ねようとしたときマクゴナガル先生が先に声を出した

 

「あら、もうこんな時間。すぐに夕食が始まりますよ。大広間に行きなさい」

 

「は、はい。お話を聞かせていただいて、ありがとうございました。お茶とクッキー美味しかったです」

 

彼女はマクゴナガル先生に頭を下げてさっそうと部屋を退出した

マクゴナガル先生の言葉には有無を言わせぬ気迫がこもっていた

もうこれ以上話すことはないと言っているようだった

 

彼女は扉を閉めて少し詰まっていた息を吐いた

彼の重大な秘密を知ってしまった

だが彼女は彼にそのことを話すつもりはない

彼のほうから話してくれるまで待つことにした

出会って二日しか経っていないのに人生に関わることを言及するほど彼女は思慮浅くはない

仲良くなるその日までお預けだ

 

彼女が歩き出そうとしたとき部屋の中から鈍い音が聞こえた

それは、昔聞いた大嫌いな音だった

 

 

 

***

 

 

 

『グリフィンドールは臆病者』

 

幻聴が聞こえる

 

『ハッフルパフは脆すぎる』

 

その声は蔑みで満ちていた

 

『レイブンクローには猿しかいない』

 

それは身の毛のよだつような何かで

 

『スリザリンは烏合の衆』

 

私に語りかけてくる

 

『ねえ、そうでしょう?臆病者の先輩』

 

これはただの幻覚だ

 

『お似合いですよ、その左手』

 

しかしその感触は紛れもなく本物で

 

『フフッ、無様ですね』

 

私を蝕んでいく

 

『私より賢い人なんて居ません』

 

それは僻みだった

 

『私より強い人なんて居ません』

 

それは妬みだった

 

『私より美しい人なんて居ません』

 

それは憎みだった

 

『みんな、私が消してあげます』

 

それは何よりも澱みきったものだった

 

『強さも美しさも私の前から消え失せました』

 

虫となった左手が蠢く

 

『強さは杖を握れず』

 

死にたくないと叫ぶように

 

『美しさは見る影もない』

 

息ができなかった

 

『賢い臆病者の先輩は』

 

死を間近にしたように

 

『虫となって地を駆けてもらいましょう』

 

もがくことすらできなかった

 

『さようなら』

 

なにかが手を差しのべた

 

『「なあ、こんな魔法って知ってるか?」』

 

そこに美しさがいた

 

『え?』

 

閃光が迸る

 

痺れよ(ステューピファイ)』「蘇生せよ(リナベイト)

 

見えた美しさは

 

「大丈夫ですか?マクゴナガル先生」

 

どちらも同じ顔をしていた

 




原作にハーピーがいなかったので勝手に出場させました
ハーピー自体は出てこないがな!

ちなみにこの小説でのハーピーは、強いけど、情緒不安定、高慢ちき、癇癪持ち、頭が良いだけの愚か者という物議を醸し出しそうな設定です。
ギリシア神話では食い散らかした残飯の上に汚物を撒き散らしているからへーきへーき


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11

やはり寮と教室を往復するのは時間がかかりすぎるなと彼は思った

教室が城の外である「薬草学」の次が、教室が四階にある「妖精の呪文」であったら遅刻は免れないだろう

やはり塔に居を構えるなど間違っている

レイブンクローもスリザリンやハッフルパフを見習って地下に移るべきだ

 

「や、やあ、ヒートニーくん。また会ったね」

 

彼が寮に入るとカリスタ=コルーダが話しかけてきた

前とは違って目を泳がせて困っているかのような顔だ

彼はコルーダにまた新たな噂ができたのかと尋ねた

 

「いや、なんだ、噂は噂なんだがな。その、だな、君の友人が、あれでな」

 

彼女がどうしたのだろうか

しかし言い淀み過ぎたろう

正直うざったいと彼は思った

 

「すまん、ちょっと動転しててな。それでだ、マクゴナガル先生が、怒り心頭とした顔で彼女を研究室に連れていったそうだ。今頃しょっぴかれているだろう。彼女は一体何をしたんだい?」

 

彼は彼女がマクゴナガル教授に質問しにいったことしか知らない

彼女の質問のなかにマクゴナガル教授の不興を買うようなものがあったのだろう

こうなるならば遠くから見守っておくのだったと彼は後悔した

 

こんな用もない所でぐずぐずしている暇はない

彼は二階にあるマクゴナガルの研究室に向かうことにし先程潜った扉を開けた

 

「お、おい、ヒートニーくん、。何処にいくつもりだい?」

 

彼は彼女が居る所だ、と口に出して走り去った

扉が勢いよく閉まる

 

「あ、ぬぅ、友達だからってそこまでやるのか普通。やっぱり付き合ってるだろ」

 

カリスタ=コルーダの呟きは焦っている彼には聞こえていない

カリスタ=コルーダはあわよくば彼を貰おうと狙ってはいるが望み薄だ

特別な存在にはしかるべき相手が居る

そういった運命的なものが世の中にあるものだ

 

彼はかなりの速さで道を駆けていく

道中でなにかを轢いた気がしたが気のせいだろう

彼の記憶通りに道を進めば一際華のある扉が見えた

マクゴナガルの研究室だ

 

彼は扉の前に立ち左手を握りしめた

深く腰を落とし正拳突きの構えをとった

一つ息を吸った

浅く息を吐き溜め込んだパワーを放出した

彼の拳は爆発的な推進力で打ち出され扉をぶち破るだろう

 

「まあ、今はもう感情を抑制させる薬品や道具なんかも出回っています。そこまで心配することはないですよ」

 

彼はノックしようとした手を引っ込めた

今の言葉を聞くなら彼女は単にマクゴナガル教授と相談しているのではないかと彼は思った

彼女はドジを踏むことを嫌う多感な少女だ

 

噂というものは不確かなものだ

真実と真逆であることは珍しくもない

 

「あら、もうこんな時間。すぐに夕食が始まりますよ。大広間に行きなさい」

 

おっとこれはまずい

彼に内緒で相談していたら扉の先に彼がいた、なんていうベタなシチュエーションそのものではないか

だがこの世には魔法というものがある

 

彼は手に魔力をためて指をパチンと鳴らした

彼の姿は微かな光の粒子を残して消えてしまった

しかし姿が見えないだけだ

そこに居るのは変わらないので彼はその場から立ち退いた

 

「あ、はい。お話を聞かせていただいて、ありがとうございました。お茶とクッキー美味しかったです」

 

彼女が部屋から出てきた

ためになる話だったのかふぅ、と息を吐いている

よし、と何かを決心した顔になり歩み出そうとしたとき

鈍い音がした

それは今日の朝彼が聞いた音に似ていた

 

「え?」

 

彼女は恐ろしいものでも見たのか顔を真っ青にしている

彼女はドアノブに手をかけ恐る恐る扉を開け部屋を覗きこんだ

 

「あのぉ~、大丈夫ですか。あれ、先生?何処にぃ!?先生!大丈夫ですか!」

 

マクゴナガル教授になにかあったようで彼女は血相を変えて部屋に駆け込んだ

 

「え~とえ~と、どうすれば。確か、まずは助けを呼ばないと。だ、誰か~助けてください」

 

とてもか細い声で助けを呼んだ

そんなSOSでは救援は来ないぞ

 

「うぅ、無理そうです。…取り敢えず先生を安静な状態にしないと。よい、しょっと!」

 

彼は魔法を解除し部屋に入った

テーブルは倒れたティーポットから流れた紅茶でいっぱいだ

テーブルから滴り落ちている紅茶が絨毯に染みを作る

 

そんな部屋で彼女はマクゴナガル教授を抱え上げてソファーに優しく下ろしている

老いた女性とはいえ大人一人を抱えるとは

彼女は力持ちのようだ

 

彼は彼女にどうした、と尋ねた

突然背後に表れた彼に彼女は仰天したがすぐに取り直しマクゴナガル教授が倒れたことを告げた

 

ソファーに横になっているマクゴナガル教授は汗を滝のように流し浅く断続的な呼吸をしている

身じろぎをしてうなされている

かなりの悪夢をみているようだ

 

「あの、私こういったことが初めてでして。どうしたらいいんでしょうか。医務室の人に伝えるべきでしょうか」

 

彼女はこんな魔法を知っているだろうか

彼は杖を取り出し蘇生呪文(リナベイト)を唱えた

文字通り対象の意識を蘇生させる魔法だ

死んでいる生物には効果はない

 

「ッ!?」

 

マクゴナガル教授は勢いよく身を起こした

呼吸は荒く目は焦点が合っていない

左手を顔にかざして感触を確かめるように開閉した

 

彼はマクゴナガル教授に安否を尋ねた

 

「…Mr.ヒートニー…そうですか、貴方でしたか」

 

マクゴナガル教授は彼に目を向けた

マクゴナガル教授は彼を誰かと重ね合わせ一人納得した

マクゴナガル教授が発した言葉は彼に奇妙な感覚を芽生えさせた

 

「あの、具合が悪いなら医務室に…」

 

「Ms.ジュリア、お心遣いありがとう。私はもう大丈夫です。…今は、一人にさせてください」

 

マクゴナガル教授に授業で見せていた若々しい気迫はない

顔はやつれていて一気に老けている気がした

 

「だ、駄目ですよ。そんな状態で一人に出来ません!やっぱり医務室に行った方が「Ms.ジュリア!!」はひぃ!」

 

しつこいと感じたのだろう

マクゴナガル教授は彼女の名を強く呼んだ

呼ばれた彼女は思わずピシッと背筋を伸ばした

 

「いいから、行きなさい」

 

「はひ!すぐに!」

 

マクゴナガル教授は念を押すように彼女にハッキリと言った

威圧感に当てられた彼女は脱兎のごとく部屋を飛び出してしまった

彼も彼女に続き部屋を出ることにした

 

「Mr.ヒートニー」

 

彼はマクゴナガル教授に呼ばれ扉の前で立ち止まった

振り返りマクゴナガル教授を見据える

 

「すみませんでした」

 

ソファーに座った状態で深々と頭を下げた

悔いる思いに満ちた声とその姿から彼は何かに懺悔している

だが彼には謝られるようなことをされた覚えなどない

 

「…なんのことかさっぱりです。それでは、僕はこれで」

 

彼は踵を返した

マクゴナガル教授は彼になにかの因縁があるようだ

しかしそれは彼にとってどうでも良いことだ

悔いるのなら一人で勝手にやってほしい

彼は在りし日の母の姿など知りもしないのだから

 




マクゴナガル先生を起こすときにねぇ
見ちゃったんだよ、彼は


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12

彼は音もなく扉を閉めた

彼は不機嫌なようで眉を寄せてしかめっ面になっている

彼の記憶の中には優しい母の姿しかない

汚濁にまみれた姿で彼の輝かしい記憶を汚さないでほしい

 

彼は廊下の先を見た

曲がり角からひょっこりと彼女が顔を覗かしている

不安げで恐る恐る見てくるその姿はまるで初めて家にやって来た猫のようだ

 

そんな彼女の姿を見た彼は表情を和らげ彼女の元に歩いていき大広間に行こうと誘った

いつものように彼女と手を繋いで歩いていく

この行動も慣れてきたものだ

 

「本当に良いのでしょうか。マクゴナガル先生を一人にして」

 

彼女がマクゴナガル教授の心配をしている

つい先程拒絶されたのにめげないものだ

 

「いいや、あんな様態で一人にするのは良くないことだ」

 

あのようなものを夢に見るほどの深いトラウマは独りにすればするほど深刻化していく

より明瞭に、より複雑になっていく

その治療は困難を極めるだろう

 

「な、なら尚更一緒に居てあげませんと」

 

彼女の言う通りだ

トラウマというものは人と人が寄り添い合うことで消えていくものだ

だがその人というものが問題だ

 

「それは僕らではない」

 

彼とマクゴナガル教授の関係は教師と生徒だ

特別な間柄などではない

 

「僕らはたくさんいる生徒の中の一人でしかない」

 

彼はマクゴナガル教授が左手の薬指に指輪を嵌めていることを知っている

 

「僕らが寄り添ったところで意味はない」

 

夫という親しい人物が存在するのにトラウマを克服できていない

なれば一介の生徒でしかない彼にトラウマを癒すなど不可能だ

 

「…レンくん…もしかして、怒ってますか?」

 

彼は歩みを止めた

突然の問い掛けに彼は体を硬直させた

それはどうしようもない程分かりやすい反応であった

 

「…そうかもね」

 

彼は歩みを再開した

彼は人への悪感情というものを彼女に言われて初めて自覚した

彼が抱いた感情は怒り以外にもあったが彼女にわざわざ伝えるようなものではない

 

彼はその感情を二度と出てこないよう心の奥底に仕舞い込んだ

彼は無意識に歩みを速くした

 

彼と彼女は黙って静かな廊下を歩いていく

二つの足音が響く

もう一度角を曲がると階段につながる扉が見えた

しかし彼はそれを通りすぎてしまった

 

「あの、階段ありましたよ?」

 

彼女が彼の手を引いて立ち止まらせた

彼は振り向こうともしない

 

「いや、もう少し先さ」

 

彼はそう言いまた歩みを再開した

そこから少し歩いて一つの扉の前で立ち止まった

そこは彼女にも見覚えのある場所であった

 

「ここって…」

 

「医務室だよ」

 

彼は無遠慮に扉を開け彼女の手を離して中に入っていってしまった

仕事をしている女医さんを捕まえてマクゴナガル教授のことを話している

 

「ああそうですか、またなって仕舞いましたか。最近は無かったのですがねぇ。報告してくれてありがとうございます。後は私が対処しますので心配しないでください」

 

彼は女医に礼をして医務室から退出した

これで彼女も安心して明日に臨めるだろう

いらぬ心配は抱えない方が良い

 

「これで良いんだ。これで…」

 

発見者としての責務は全うした

もはやこれ以上あれと関わることはないだろう

彼はその事に一抹の罪悪感が芽生えたが気にせず大広間に向かった

 

彼女はなにも言わずに彼の後に着いていった

彼は彼女が生暖かい目で見ていることを自覚しながらも振り向くことはしなかった

彼も相応に照れ屋であるのだから

 

大広間に着いた

既に食べ終わったのか大抵の生徒は談笑している

夕食のメニューはプディング料理にデザートの糖蜜パイだ

 

彼と彼女は席に着き無言で食べ始めた

彼は拗ねているんだか拗ねてないんだかよく分からない雰囲気を醸し出している

彼女はそんな彼を知ってか知らずかニコニコしながら食べている

 

彼にいつもの調子はない

彼女に心中を言い当てられたのがそんなに恥ずかしいのだろうか

うじうじしている様は年相応だが

 

妙に味のしないプディングで腹を満たした彼は彼女が食べ終わるまで待つことにした

隣の彼女はプディングを美味しそうに食べている

彼はなんとも幸せそうにしている彼女のことが恨めしくなったので指で肩をツンツンとつついた

 

彼女は口をモゴモゴしながら彼に顔を向けてにこーと笑いかけた

そんなもの屁でもないと言わんばかりの態度は彼を更にいらっとさせた

 

彼女は自分の皿に取り分けたプディングをナイフとフォークを使って行儀よく食べている

その流麗なる所作から育ちのよさが垣間見えるのは言うまでもない

 

ちなみに彼は所作など知ったことかとフォークをぶっ刺してそのままパクついた

召し使いか居ないからといって外聞は気にした方が良いのでは

 

そんな彼は彼女を見ていると何かに負けた気がしたので明日からちゃんと行儀よく食べることにした

 

彼が糖蜜パイをちょこちょこ摘まんでいると彼女が食べ終わった

 

「お待たせしました。それでは寮に戻りましょうか」

 

彼はちょっとムスっとした顔で了承した

しぶしぶといった動きで席をはずした

そんな彼に笑いかけた彼女は彼の手をとった

 

「ほら、行きましょうレンくん」

 

その姿は今朝の焼き増しのようであった

楽しそうに引っ張る彼女と不服そうな彼

立場が逆転しているのはご愛嬌だ

 

元気よく大広間から出たのは良いが彼女はまだ道を覚えきれていない

そこまで複雑ではないが今日は色々とあった

忘れてしまうのも無理はない

 

先導者は敢えなく交代した

間違えることは仕方のないことなので彼は彼女に薄ら笑いを向けることしかできない

 

「ち、違うんです。道はもう覚えているんです。でもちょっとうろ覚えでして、その、うぅ、レンくんのいじわるぅ」

 

彼女を見て溜飲を下げている彼はクズ野郎だ

 

そんな一幕はさておき彼らは塔に入り寮へと続く扉の前で立ち止まった

 

「………」

 

ドアノッカーの鷹は黙してびくともしない

いつもの問い掛けはどうしたのだろうか

彼がドアノブをガチャガチャしていると彼女が彼の肩から顔をひょっこりと覗かせた

 

「問おう、ある屋敷の一室において一人の女性が殺された。女は左手に生きる屍の水薬の空き瓶を握り、ベッドの上で冷たくなっていた。窓もドアも鍵がかかっており、魔法が使われた形跡もなかった。さて、この女の死因は自殺か、それとも他殺か?」

 

鷹が流暢に喋りだした

その時間差は問題を考えていたのだろうか

そこまで吟味しなくて良いんじゃないかな

しかも前回の問いかけと随分と毛色が違っている

 

これは何百回と問答を繰り広げる生徒達を飽きさせないという鷹による粋な計らいのようだ

通算二回目の彼と彼女にしても意味はないというのに

 

生きる屍の水薬は強力な睡眠薬だ

少量だけでも深い眠りにつかせるそれは大量に摂取すると昏睡状態に陥らせやがて死に至る

その女性は空き瓶を握っているが殺した人が握らせた可能性もある

これだけでは自殺か他殺か判断できない

 

窓やドアは鍵がかかっていて魔法が使われた形跡はないとある

だが魔法を使わずに鍵を開ける方法なんて幾らでもある

閉める方法も言わずもなが

これでは自殺か他殺か判断できない

 

そもそも情報が少なすぎる

これだけで答えろとかドアノッカーは鬼畜のようだ

 

彼が分からずに唸っている疑問符を浮かべていた彼女が確認するように尋ねてきた

 

「あれ?"女性が殺された"なら他殺ですよね?」

 

「正解だ、入って良いぞ」

 

斯くして彼を悩ませた問題は解かれた

閉ざされた道は穏やかに開かれる

その先にはきっと輝かしい未来が待っているだろう

 

「なんだか変ですね。問題の中に答えが入っているなんて」

 

彼女は彼に笑いかけながらそう言った

人はそれをなぞなぞと呼ぶ

序盤に答えを出しておいてそれを後の情報で悟らせないという手法は良くあるものだ

 

しかし彼にそんなものを知る機会なんてない

彼はドアノッカーを恨んだ

恨むのならなぞなぞの本どころか哲学書すらない屋敷の書庫を恨むべきだ

 

「…リラちゃん」

 

「はい、何ですかレンくん」

 

うふふと彼に笑いかけている彼女の名を呼んだ

彼は今のやり取りカップルみたいだと思いながら心情を吐露した

 

「僕、こういうの苦手かも」

 

彼にはなぞなぞを出されると何時間も悩み続けるという自信がある

目先の情報に飛び付いて視野を狭くしてしまう彼は根本的に向いていないであろう

頭が固いとも言う

 

「なら、私が頑張らないといけませんね!」

 

彼女は気合いをいれている

どうやらなぞなぞ系は彼女が答えてくれるらしい

それは彼と一緒に行動する前提で言っているのだろうか

彼はそうだと嬉しいなと思いながら彼女に礼を述べた

 

彼は談話室に入った

振り子時計の短針は8を指し示している

談笑している生徒の中にはパジャマ姿の人も居る

 

「それじゃあ、僕はシャワーを浴びてくるよ。また後でね」

 

「はい、また後で」

 

彼は自室に入った

ベッドの上には朝と変わらずにフィッグスが寛いでいる

彼はフィッグスを一撫でしベッドにトランクを置いて魔法を解いた

ローブを脱いでハンガーにかけてクローゼットに仕舞った

 

クローゼットの中にはハンガー以外に上下のパジャマがあった

紺を基準として縦に赤いラインが走っている

胸辺りにレイブンクローのシンボルがあつらえている

 

ホグワーツからの支給品のようだ

これを着て寝ろということか

だが残念なことに彼はパジャマぐらい持ち合わせている

これを着る機会は巡ってこなさそうだ

結構ダサいし

 

彼はトランクから寝服一式を取り出しシャワールームへ向かった

 




プディングってデザートのプリンだけじゃないんだって
イギリスでは主食の一つなんだって
そもそも私はプディングとプリンは別物と思っていたぞ

各寮のパジャマは画像検索すると出てきます
まあ、うん、あんまり着たくはないかな


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怨話

壁側に三人分の机と椅子が並んでいる

その一つにはカメラと鋏、刻まれたフィルム、真っ黒な紙が鎮座している

それらの机の横に大きめの本棚が一つ立っている

本棚には三つの段があった

一番下と中央は本で埋まっているが一番上だけ空だ

 

この部屋には天幕付きのベッドが一つと普通のベッドが二つある

三つのベッドのうち天幕付きのベッドの上にポーチがあった

 

窓から月明かりが差し込みポーチに影がかかった

そのシルエットは少女の形をしていた

少女がポーチを見据えて佇んでいる

 

ここは三人部屋のようだが一人は現在シャワーを浴びもう一人は外出中だ

今がチャンスと言わんばかりに少女はポーチを漁り始めた

少女が何をしたいのか真偽は定かではないがその行動は悪意に満ちている

 

たがしかしそのポーチは見た目から想像できないほどの膨大な収納空間を持っている

所持者でもなく使用許可者でもない少女の手はむなしく空を切るばかりだ

 

扉の奥からからシャワーの音と共に誰かの鼻唄が聞こえてくる

かなり上機嫌のようだ

普段は蚊の鳴くような声の癖に一丁前に惚気ている

 

少女にはその鼻唄が少女を滑稽だと馬鹿にするかのように笑う嘲笑の声に聞こえた

それは少女を苛つかせた

 

少女は机から鋏を掴み取り狂ったように突き立てた

何度も刺し刃を滑らせて八つ裂きにした

鬱憤を晴らした恍惚感に身を震わせ興奮のあまりに歪な笑みを浮かべている

 

穴だらけでボロボロになったシーツの上にポーチであった布の切れ端が散乱している

見るも無惨な光景に満足した少女は糸屑だらけの鋏を机に置いた

 

少女が再びベッドの方に振り向くと何の異変も起こっていないかのように元通りの姿がそこにあった

ズタぼろにしたシーツはシミひとつない新品のように

布切れにしてやったポーチは赤黒い光を纏ってベッドの上に何事も無くそこに置かれている

 

魔法使いが作り出す道具の中には恐ろしい魔法がかかっていることがある

時には手酷いしっぺ返しが来ることを念頭に置いておかないといけない

 

少女は呆気にとられたようでポカンとポーチをを眺めた

やがて少女は歯を噛み合わせ歯茎を剥き出しにし怒りの形相を顕にした

さらに馬鹿にされたと感じた少女の心は怒りでぐちゃぐちゃだ

 

少女はポーチを乱暴に掴んでアーチ型の窓を開け放った

腕を振り上げて勢いよく眼下に放り投げた

少女の手から離れた瞬間そのポーチは消え去り入れ替わるように四角い何かが表れた

闇に吸い込まれていき数十秒の間の後にガシャンという硬質な物の破壊音が下から響いた

 

少女はブリキのように軋みながら自身の机を見た

カメラが消えていた

 

少女は振り返りベッドを見た

ポーチは灰色の光を纏って変わらずそこにあった

 

何が落ちたのだろうか

その答えは明白だ

 

少女は慌てて窓から身を乗り出した

しかしながらここはホグワーツ西塔最上階

地面は闇に包まれて見ることは叶わない

 

あのカメラは少女にとって非常に重要な物だ

あのなかには現像していないフィルムが残っている

ポーチに対する苛立ちとあれを見られたら不味いという焦燥感から全身に力を込めて歯を食い縛った

 

窓枠がミシミシと嫌な音をたてている

木製の窓枠に罅が入っているのにも気づかず少女は怒りの呪詛を発しようとした

 

「ふんふ~♪ふふんふ~♪ふんふ~ん゛っ。…ど、どうも。あの、シャワー終わりましたので、つ、次、どうぞです」

 

扉が開き彼女がメロディを口ずさみながら出てきた

彼女がローブ姿の少女を知覚し気まずそうな顔をしてシャワーを譲った

 

少女は振り向いて彼女に礼を言った

人の良さそうな顔を精一杯取り繕って信頼されるであろう笑顔を浮かべた

 

「そ、それじゃあ、ごゆっくり」

 

彼女はいそいそと部屋を出た

小生意気にも寮指定のパジャマではなく薄ピンクでワンピース型のパジャマを着ていた

少女は彼女に襲い掛かる衝動に駆られたが今はその時ではないと堪えきった

もっと絶望を味わらせてからだと少女は自分に言い聞かせる

 

少女は机の引き出しから何かを取り出した

それは本であった

しかしながらそれは土まみれだ

水に浸かっていたようで紙はよれよれになっておりインクが滲み出している

もう読むことは叶わないだろう

 

本だと判別のつかないまでに損傷したそれは少女が怪しまれるのを覚悟の上で盗んだ物だ

運ぶ途中に中庭で誰かに押されて水溜まりに落っことしたのが運の尽だ

例え特別な人のものであろうと汚ならしい物は要らないだろう

 

少女は彼女を本を損失させた犯人に仕立てあげることにした

少女はポーチにその本を放り込んだ

上手くいく可能性は低いが彼女が彼に問われている姿を想像するだけで愉快な気持ちになった

 

真っ黒であった紙に何かが浮かび上がってくる

銀と黒の後ろ姿が写し出された

少女は銀の背中を熱の籠った目で見て黒と別れるように鋏で割いた

少女は切り取った黒の後ろ姿を切り刻んでいく

怨みがましく切り刻むその音は一種の呪詛のように聞こえる

 

ベッドの下で光る双眸が一部始終を見ているとも知らずに少女は切り刻む

やがて双眸は消えていった

本棚の一冊と共に

 

 

 

***

 

 

 

「あぁ、怖かったぁ~」

 

彼女が扉の前で脈打つ胸を手で抑えている

彼女は部屋の横に付いてある表札に目を向けた

三人の名前が書かれている

「レイラ=ジュリア」「アイル=ハリマー」「マンディ=ブロックルハースト」

 

彼女の名前と他二名の名前だ

先程の少女がどちらの名前かは分からないが彼女は名前を聞く気にならなかった

あのような目で見られたのは久方ぶりだ

あの人と血が繋がっていると思えるぐらいにまるっきり同じ目をしていた

 

まだあれまで酷くはないが話し掛けたら悪化することを彼女は知っている

顔も合わせない方が良いだろう

 

彼女は暫く談話室で時間を潰すことにした

彼女が談話室に行こうと廊下を歩き出すと隣の部屋の扉が勢いよく開いたので当たらないよう飛び退いた

 

「おっと、すまんな。不注意だった。おや?君は…」

 

部屋から出てきたのは彼と話していた人であった

少し服装が乱れているがなにかあったのどろうか

 

「なるほどな、彼は救えたのか。私が話したのは良い判断だったのだな。いやはや良いことをしたな、うん」

 

「は、はあ…?」

 

彼女には目の前の女性が何を言っているのかさっぱりだ

自己完結したカリスタの語りは彼女を困惑させる

 

「むむっ、君は見てのところ悩みを抱えているな。悩みはすぐに解消した方が結果的に良いことになるぞ。さあ、談話室で話そうではないか」

 

「ええ!?ちょ、え?」

 

彼女はカリスタに手を引かれていく

暴走気味のカリスタに為すすべもなく彼女は階段を下りていった

扉がゆっくりと開く

 

「…カリスタさん、また馬鹿なことやってる。片付けるのはいつも私なのに、まったくもう」

 

カリスタの友人の呆れた声は当人には届かない

 

「まあ、そこがいいんだけどね」

 

局所的に赤く腫れた首筋をそっと撫でた

 

 

 

***

 

 

 

ホグワーツ西塔にある一つの窓から棒状の何かが垂れ下がっている

その何かは地面まで延びていた

 

「何処にも無い!落とした筈なのに何処にも無い!ネジ一本どころか破片一つも無い!何故だ!何処に行った!」

 

少女が月明かりが辺りを薄く照らすなか地面を這いずり回っている

紛失物に異常な執着を見せる少女は髪を振り乱しながら草の根を分けて探し回る

少女の身に付けている上等なローブは既に湿った土で汚れきっていた

 

呼び寄せ呪文(アクシオ)か効かない!発行呪文(ルーモス)を使えば誰かに見られる!アレに仕掛けた方位呪文(ポイント)が作動しない!」

 

探っている柔らかい手は傷だらけだ

全ての爪に土と石の粒が入り込みこれ以上続ければ外れるだろう

指は掻き分けた草によって切り裂かれ血が滲んでいる

土に触れたことなど一度も無い少女はその目に涙を溜めた

 

「アレにはまだフィルムが残っている!よりにもよって一番見られたくないヤツが!しかもカメラに私の名前すらある!アレを拾われたら不味い!アレを見られたら不味い!アレを彼に知られたら不味い!不味い不味い不味い不味い!」

 

今まで感じたことの無い焦燥感は少女の壊れやすい心を痛めつける

少女は狂気を叫びながらも必死に地べたを這い回る

 

曲がり角から光が漏れる

 

「誰だ!そこに居るのは!」

 

少女は飛び上がった

校内を見回っているフィルチが何故かここにまでやって来た

だがしかし少女にはその事に疑問を抱く暇など無い

 

少女は壁に向かって駆け出した

姿を見られる訳にはいかないようだ

少女は先程ここに降りてきた時に使用した巻き上げ式アンカーの取っ手を掴んだ

 

少女の手からアンカーに膨大な魔力が渡っていき装置の機能を促進させた

少女は爆発的な勢いで上へ昇っていきフィルチの目を逃れた

 

「出てこい!姿を現せ!」

 

下からフィルチのしゃがれた怒鳴り声が響く

しかし風を切る音で耳を塞がれている少女に届きやしない

アンカーの金属が擦れる音が止まり少女は自室の窓に辿り着いた

ギリギリと奥歯を噛み締めながら明日必ず見つけ出すと決心している

少女は窓枠に手を引っ掻けて体を持ち上げた

 

「わあ、凄いところから来たね。ねえねえ、泥だらけだけど下で何やってたの?新しい悪戯?」

 

彼女ではないもう一人の同居人と目が合った

予想外の出来事に少女は体を硬直させパニックに陥らせた

見られてしまい何かをしていることを感づかれてしまった

悲願を成就するためには悪事がばれてしまう事態は避けねばならない

少女は同居人に飛び掛かって押し倒し首を絞めた

 

「がっ!?えああうあうぐ!」

 

苦しそうにもがく同居人に少女は杖を向けた

不穏な芽は摘まねばなるまい

杖から光が溢れだし部屋を包んだ

 



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13

彼はシャワー室に入った

寝服を棚に置き四角い箱の下部にある縦開きの扉を開けた

中には今朝放り込んだ普段着とタオルが綺麗に畳まれている

 

この四角い箱は魔法の洗濯機だ

入れて放っておくだけで隅々まで綺麗にしてくれる優れものだ

服に染み付いた魔力を使って作動するので魔法使いが着用した服しか作用しないのが欠点だが

 

隅の方に男のシルエットが炎を背景に跳び膝蹴りをしているマークが彫られてある

どこかの有名な人物が発明したようだが彼はその名前を知らない

 

彼は普段着を取り出し同じく棚に置いた

服を脱いで洗濯機に放り込む

洗濯機は微動だにせずまた音も発しない

無音で起動するので作用しているか分かりづらいが煩わしくないのは良いことだ

 

彼はシャワーを浴びて体の汚れを洗い流した

秋に入り暑さのピークは過ぎたが汗をかくには十分な蒸し暑さだ

ローブを着ていると蒸れて気持ち悪かったようだ

彼はすっきりとした顔つきになった

 

彼は体の水分を拭き取り寝服を着て洗面台で歯を磨いた

鏡には黒色の無地のパジャマを着用している彼が写っている

 

彼がふと横に目をやると先端が輪状になっている太い棒があった

側面にはひねりがついており彼がそれを回すと魔力が流れて輪っかから温風が吹き出した

彼は洗面台にドライヤーが備え付けられているのに気づいた

 

彼が部屋に戻るとベッドの上で寛いでいたフィッグスの姿が見えない

猫は気まぐれだ

そのうち帰ってくるだろう

 

彼が肌にクリームを塗っているとフィッグスがベッドの下からスッと出てきた

その口に本を一冊咥えている

彼の前にペッと放り出した

 

彼が拾い上げるとそれは何かの本であった

かなり古い本だ

その表紙は動物の革で出来ている

題名すら読めない程の痛み度合いは年代を感じさせた

裏表紙に彼ではない誰かの名が掠れた字で書かれている

 

「アイル=ハリマー」とかろうじて読み取れたが知らない名前だ

 

彼はその本を流し読みした

本は30ページ程の短い絵本であった

英雄様が囚われの姫様を救うありふれた内容だ

 

彼はその本をトランクに仕舞った

彼は明日にその本を落とし物として教授たちに預けることにした

 

彼は眠気を感じているが寝るにはまだ早いであろう

彼は部屋を出て談話室へと向かった

 

談話室に入った

振り子時計の短針は9と10の間を指し示している

生徒たちは寝る準備を終えているようでその殆どがパジャマ姿だ

 

だが一年生以外の生徒は寮指定のパジャマではなかった

やはりあのパジャマは不人気のようだ

しかし落ち着いた色を好む傾向にあるようで寮のパジャマとそう変わらないデザインばかりであった

まんま同じものもある

シンボルが気に入らないのだろうか

 

彼は彼女が居ないかと辺りを見渡した

ソファーに腰かけている彼女とカリスタ=コルーダが話し合っている

彼は談話室の本棚から適当な本を手に取った

そして彼女の声が届く範囲にあるソファーに座り本を読む振りをして聞き耳を立てた

 

「なに?同室の子が怖いとな。ははあ、目付きが厭らしい?ふむ、なるほど。君はエ…可愛いからな、そういう目で見られるのは宿命とも言えるぞ。例え同姓であろうともな」

 

「い、いえ、そういう目ではなくてですね。その、なんというか、あの人に失礼なんですけど、すごくドロッとしているような感じでして」

 

彼女はまたもや相談をしているようだ

相談する相手を間違えているだろう

彼は不安に思った

 

「ほほう?ならばそれは嫉妬であろうな。君は入学二日目にして、ヒートニー君というボーイフレンド(恋人)を作った。しかも君の世代は、そういうものに憧れる時期に丁度差し掛かっている。恨みを募らせるには十分だろう」

 

「えぇ…ボーイフレンド(男友達)がいるだけで、ですか?」

 

「ああそうだとも、世にはカップルを見つけると爆殺しようとする者が古来から存在する。気をつけたまえ、そういう手合いは粘着質だからな」

 

「う~ん。困りました。どうすればいいんですか?」

 

「ふふふ、そうだねぇ。私のオススメは皆と仲良くなることだ。まず手始めにな、皆が寝静まる夜に件の子のベッドに潜りk「はいー!カリスタさんストーップ!!」モゴモゴ」

 

突然飛び出してきたカリスタの友人らしき人物がカリスタの口に手を当てて黙らせた

随分と遠慮の無い行動だ

かなり親しい間柄なのだろうと彼は思った

 

「おいおい、なにをするんだ。今良いところだったのに」

 

「幼い子に変なこと吹き込んちゃダメでしょ!ジュリアちゃんも信じなくていいからね。カリスタさんはふざけているだけだからね」

 

「は、はあ。そうですか…」

 

「いい?絶対に実行したらダメだからね。ろくなことにならないから。それに、ほら、私も眠くなってきたし、部屋に戻らないと。カリスタさんも行くよ」

 

まったく、君はその年で夜更かしも出来んのか」ボソッ

 

「なんか言った?」

 

「いいや、何も。すまないな、ジュリアくん。自己紹介に手間をかけすぎた。相談という相談が出来ていない」

 

「いえ、いいんです。私のことを聞いてくださったので。それに、話したことで気持ちの整理が出来ました」

 

「なら良かった。これからも私を頼ってくれてもいいぞ。…と言いたいところだがな」

 

「?」

 

「頼るならヒートニーくんにしたまえ。そこで盗み聞きするぐらいだ、私より頼りになるだろうよ」

 

おっと

彼が聞き耳を立てているのに気づいていたようだ

彼は本を開いてから一ページも捲っていない

盗み聞きが下手すぎるだけかもしれない

 

彼は顔を彼女の方に向けて軽く手を振った

彼女は彼が居るとは露ほども思っていなかったようで目を丸くして驚いている

 

「ククッ、それじゃあ私たちはこの辺でおさらばだ」

 

「友達は大切にしなさいよ。私みたいに苦労させちゃうから」

 

「む、私は丁寧に扱っているつもりだが」

 

「出来てないから言ってんのよ」

 

カリスタとその友人は言い争いながら行ってしまった

とても仲の良い二人だ

 

彼は本をソファーに転がして彼女の元に行った

 

「えっと、どこから聞いてましたか?」

 

「君の同居人が変、てところからかな。…そうだね、良い物がある」

 

彼はトランクから鈴付きの編み紐を取り出した

それは赤、ピンク、白の順にくの字になるように編み込まれている

鈴は三つ付いておりそれぞれ二本の太い糸が通されている

簡単に外れたりしないだろう

 

「なんですか、それ。音が鳴っていないようですけど」

 

「これはボンフィン・フィタといってね。まあ、それ自体は普遍的なお守りだよ。この鈴は魔法具の一種で、魔力を与えると特殊な音を出すんだ。ほら、こんな風にね」

 

彼が魔力を分け与え軽く振った

するとその鈴からコーン、コーンと水の底から伝わってきたような重い響きが断続的に鳴り出した

その音は彼が鈴を動かしてもいないのに定期的に鳴り続ける

十回繰り返してようやく止まった

 

「この音は聞こえて欲しい人しか聞くことが出来ない不思議な音なんだ。助けが必要な時に使うといいよ。ほら、利き手を出して。付けてあげる」

 

彼女は彼に言われるがままに右手を差し出した

彼は彼女の右手首にそれを巻き付けて締め付けが丁度良い塩梅となるように縛った

 

彼女は右手首に巻かれたそれを眺めて嬉しそうにふにゃと柔らかく笑った

 

「ありがとうございます。お守りなんですから、肌身離さず持っておきますね」

 

彼女は幸せオーラを全開にしてペカーと輝いている

なんとも神々しい雰囲気だ

彼が飴ちゃん一個あげてもこうなりそうだが

 

彼と彼女は自室に戻る気にならなかったのでそのままお喋りをした

それらはなんの他愛もない話であったが彼の心を充足感で満たすには十分であった

 

それから数十分後

監督生の人がやって来て皆に呼び掛けた

 

「おいお前ら、もうすぐ消灯の時間だ。さっさと自分の部屋に戻んな。あと一年生、今から外を出歩くなよ。ばれたらきつい罰則を喰らうからな」

 

周りから気の抜けた返事があがりぞろぞろと扉に吸い込まれていった

振り子時計の短針は10の数字を指し示している

門限は10時のようだ

 

「それじゃあ、おやすみリラちゃん。また明日」

 

「はい、おやすみなさいレンくん」

 

彼は部屋に戻った

ベッドと上でフィッグスが毛繕いをしている

呑気なものだ

彼はトランクを開けた

 

「ほら、入りなフィッグス」

 

フィッグスはぶにゃあと一つ鳴いてトランクに入っていった

へそを曲げられるのも面倒だ

明日は出してやることを覚えておかなければと彼は思った

 

彼は床についた

今日も良い夢が見られそうだ

 



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怨話2

私は眠りから目を覚ました

これで何度目だ

興奮しているようだ

中々深い眠りにつけない

 

部屋はやけに暗く目線の先にベッドがあるとかろうじて認識できる

そこから息苦しそうな寝息が聞こえてくる

確かマンディと名乗っていたはずだ

首に包帯を巻かれた状態で横たわっているだろう

 

今にして思えば首を絞めるのは早計であった

マンディの柔らかく白い肌にくっきりと私の手形が残ってしまった

記憶修正呪文(オブリビエイト)をかけたが手違いで記憶を完全に修正出来ていない

焦るとろくなことにならないな

 

月明かりが差し込んできたようで部屋が明るくなっていく

ベッドの上に少女が横たわっていた

汗をかいているようで髪が頬に張り付いている

悪夢を見ているかのようにうなされている

 

私はマンディの記憶を無理矢理修正した

下準備もなく不完全なそれはマンディの記憶に齟齬を生じさせただろう

ほんの少しの齟齬でも処理をする脳にかかる負担はかなりのものだ

息の詰まる苦しさを味わっているだろう

私には関係の無いことだがな

 

私はフンッと鼻を鳴らし布団に潜り込もうとした

突如現れた影によって月明かりが遮られた

その影は人の形をしていた

その影がゆらゆらとうごめくたびにヒタヒタと足音がする

影が私に近づいてくる

 

恐ろしいほどの威圧感を感じた

喉元に刃物を押し当てられるような緊張感だった

息は詰まり、指先は震え、汗が吹き出し、動悸は激しさを増した

足音は止まった

しかし影はその動きを止めず次第に膨張していき部屋全体を包み込んだ

再びの闇が訪れた

 

音一つ無い静寂の空間に私の鼓動が木霊する

私のすぐ後ろに誰かが立っている

服に仕込んでいた杖を握り締めた

目的はなんだ、どうして私を威圧する、私の所業がばれたというのか

私の脳は答えを出さない

 

相手を撃退することも考えた

突然起き上がり杖を向けてこう叫ぶのだ

"吹き飛べ"と

それだけで相手は壁まで吹き飛び失神するだろう

 

だが実行する気にはならなかった

私が敵意を向けて動き出そうとした瞬間

私は消し炭にされているだろう

行動することも許さず完膚なきまでに打ちのめされる

そう私が想像するほどの恐怖であった

 

威圧感は増していく

押し潰されるような重圧に体を軋ませる

意識が遠退く

奥歯を噛み締めた

頭がどうにかなりそうだった

 

「やっぱりやめておきましょう。ふあぁ、ふぅ。髪のお手入れを忘れていました」

 

ヒタヒタと足音が遠ざかっていく

扉の閉まる音と共に先程まで私を蝕んでいた威圧感はパタリと消え去った

私は空気を肺に取り込んだ

 

必死に先程まで忘れていた呼吸をした

乱雑に息を吸って吐くのを繰り返した

この苦しみは悪夢と差し支えないほど同じであった

 

彼女が私に歩み寄った理由なんぞどうでもいい

こんな記憶は捨てて眠ることにしよう

私はもう疲れた

 



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