雷の剣士、時間も世界も超越す (かーねーごーん)
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形見で遊ぶべからず



思いつきで書いたものでございます。
知識が中途半端なので粗が目立ちましてもご容赦いただけたらと思います。


 

 

~ある日の昼下がり~

 

 

よく晴れている日の午後、男はふいに語りだした。

 

 

 

少し、昔話をしてやろう。

俺が此方に来ることになったあの日の事を。

あれは、今みたいに晴れた日だった。

その日は仕事も休みで、俺は自宅で寛いでいたんだ。

愛刀の手入れをして、続けて形見の刀の手入れをしていた時のことだ。

 

 

 

 

 

あの戦いからどれ程の月日が流れただろう。

 

「俺も衰えたもんだな…」

 

縁側に座り、黄色の布地に三角の柄がある、爺ちゃん(師匠)に貰った、大切な羽織を肩にかけながらぼそりと、俺は呟いた。

手には友の日輪刀、傍らには俺の日輪刀。黒い刃が日にあたり、輝いている。

 

「思えば死ぬ死ぬ言いながら、ついぞ死なんかったな」

 

戦いの日々の中で、師が、兄弟子が、知り合いが、友が、鬼が消えて逝った。

それで世の中で何か変わる事はなく、俺達の戦いの歴史は時間と共に時代の中に埋もれていった。

思い出すのは辛く、悲しく、だけど大切な思い出、記憶。

 

 

鬼舞辻無惨

 

 

最初の鬼にして、最凶の鬼だった。

奴との戦いは苛烈、熾烈を極めた。多くの命と、多くの人の人生を犠牲にしてようやく奴を倒すことができた。

 

その中で俺は生き残れた。生き残ってしまった。

俺より生き残っていなきゃいけない奴が沢山いたのに、俺より長生きしなきゃいけない奴が最後の戦いでその命を削って、削って、削りきってしまった。

 

 

竈門炭治郎

 

 

日の呼吸、ヒノカミ神楽を持って無惨を最後まで追い詰め、滅した英傑。俺の同期、俺の親友。

全てが終わって、重体だった俺達は蝶屋敷に入院していた。そこで身体を休めて、暫くしたある日、気づいてしまった。気が付いてしまった。

炭治郎から聞こえてくる色々な音が少しづつ、少しづつ、小さくなっていることに。最初は勘違いだと思った。炭治郎はいつもと変わらないような表情で声で、笑っていたから。

 

でも俺は臆病で心配性で弱虫だから、その違和感を無視できなくて、でも炭治郎に聞くのは抵抗があって、だからアオイちゃんに聞いたんだ。炭治郎の病状について。

 

聞くんじゃなかった、聴かなきゃよかった。

 

炭治郎の命があと少ししかないなんて、知らなきゃよかった。

 

 

 

 

 

「なぁ、善逸」

 

「なんだよ、炭治郎」

 

「禰豆子の事を頼むよ」

 

ある日の昼下がり、突然そんな事を言い出した炭治郎をボケッとした顔で見つめてしまった。何を言ってるのか、理解出来なかった。

 

「は?なに?何なの?若い身空でついにボケたの?戦い過ぎちゃってほうけたの?はーー!全く、気が抜けすぎじゃない?」

 

俺が罵倒してるにも関わらず、炭治郎は笑っていた。ニコニコと、屈託のない笑顔だったのを今も覚えている。

 

「善逸、分かってるんだろ?」

 

「何の事?」

 

「俺の死期が近いことさ」

 

思わず胸ぐらを掴んで睨み付けた。それでも炭治郎は笑っていた。

 

「冗談でもそんな事いうなよ!お前は生きる!生き続けて、そんでカナヲちゃんと結婚して、子供を育てて!それで「善逸」…何でだよ、何で笑ってんだよ…」

 

「自分の体だから、何となく分かるんだ。もう、そんなに時間が残ってないんだろうな、て」

 

胸ぐらを掴んでいた俺の手を、炭治郎が自分の手を重ねてほどく。視界が歪む。ポタポタと、涙が溢れて止まらなかった。

 

「善逸はさ、いい奴だから。情けない所がいっぱいあるけど、それが霞んじゃうくらいに優しくて、強くて良いやつだから。それに、鬼だった頃から禰豆子を好きだって言い続けてくれたから。俺は任せたいんだ」

 

覚悟が決まっている。そんな音を聴いて、俺は何も出来ない自分が情けなくて、でも、親友の願いを望みを託されて、泣き続けることしか出来なかった。

 

 

 

その言葉から三年後、炭治郎は眠るようにこの世を去った。

 

 

 

 

 

「ままならんかったよなぁ」

 

それからはひたすらに走り続けた。

鬼舞辻無惨の血を多く受けていた鬼は無惨討伐と同時に灰になったのだが血を少ししか受けてない鬼が残っている事が発覚し、鬼殺隊は徐々に規模を縮小させつつも、鬼の討伐を続けた。

その中で俺は雷柱をお館様から任命されて、親友の願いもあったけど、自分の気持ちをちゃんと伝えて禰豆子ちゃんを嫁に貰い、子供が出来て、幸せで、孫が出来て、師匠と同じ歳になり、妻の最期を見送って…

 

「いっけねぇ、湿っぽくなってるな」

 

縁側から庭に出る。友の刀を右の手に、自分の刀を左手に。そして、構える。

 

「獣の呼吸…なんつって」

 

 

 

 

 

とまあ、遊んでいたら何か雷が落ちてきてな?

おかしなもんさ。あの時は晴天で、雲一つなかったのにな?形見の刀で遊んでいた天罰かね?

んで、感電して気を失って気づいたら山の中、身体は全盛期に戻っとるし、隊服を着てるし、友の刀と自分の刀を持ってるしで頭がこんがらがっちまったよ。

そこで数人の子供と会えて事情を聞いたんだけど、ま、その話は追々話してやるとして…

 

まあ、一つ忠告しといてやろう。

 

「形見で遊んじゃだめだぞ、天罰くらって死ぬ思いするから」

 

 

 

 

 

 

これは臆病だった優しい雷の剣士の物語。

彼が居たのは選別の鬼の山、子供達は未来の柱、そこは己の過去と似かよいながらも別の過去、服のボタンをかけ間違えたような、でもそれが正しい世界。

彼が世界を歩き、聴く音は一体どのような音色だろうか?

 

 

 

 

「助太刀感謝する。俺の名前は錆兎、後ろの2人は義勇に真菰だ」

 

 

死ぬはずだった者達との邂逅

 

 

「僕の名前は煉獄千寿郎、こっちは弟で継子の杏寿郎だ、よろしくね」

「杏寿郎だ!よろしくお願いする!」

 

生まれが逆転した兄弟

 

 

「僕の名前?無一郎だよ。そして、俺が有一郎だ」

 

 

一つの身体に二つの心を持つ者

 

 

「行きましょう、しのぶ」

「分かってるわ、カナエ」

 

 

姉妹であれど、双子になった者

 

 

「悪鬼滅殺…忍とは影なり」

 

 

地味な忍者

 

 

「私が長女の禰豆子です!こっちは兄の炭治郎!」

「…こんにちは、炭治郎です」

 

 

性格に差異がある者

 

 

「なに?あんた、ぶっ殺されたいの?」

 

 

性別も性格に変わってしまった者

 

 

 

さあさ、舞台の幕が上がる。

神か閻魔のいたずらか、どうして剣士がこの場に居るのかは、誰も知らない、分からない。

さりとてやる事、変わらず、変えられず、己の刃をその手に持ちて、変えてみせよう惨劇を。

 

悔いの残らぬ人生を、今ひとたびと、歩み行く。

心やさしき雷剣士、悲しき運命(さだめ)を断ち切りて、それらをもって終いとしよう。

 

 

 

 

 

「さーて、いつまでも悩む程若くもないし、何処まで通じるか分かんないけど、死なない程度に頑張りますかぁ!」

 

 

世界も時間も違えども、雷の剣士は再び駆ける。

今度こそ、周りの人々から少しでも良いから幸せの音色が聴こえる事を、世界が違えど友を救える信じて。

 

 

 

 

 




話が思い付いたら続くかもしれないかも。


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再演の最終選別

大正こそこそ話

善逸の元の世界は本来の鬼滅の刃に準拠した世界だが、炭治郎は長生き出来なかった世界。
雲取山まで帰れたが体調が安定せずにいたようで、
カナヲとの間には二児を授かったが我が子の成長を見届ける事なく亡くなってしまった。
炭治郎死後はカナヲは旧蝶屋敷に住まいを移し子育てに専念。アオイ達の支援もあり無事に子供達を成人させている。
残された炭治郎の実家は善逸と禰豆子で暮らしたそうだ。



大正?年 深夜

 

 

うるさい程に聞こえてくる音色に目眩がしてくる。

そんな感覚に襲われた善逸はこめかみを押さえながら状況を理解しようと考える。

自宅の庭で落雷を受けて一瞬、気が飛んだと思えば火傷もなく、次の瞬間には暗い森の中に一人佇んでいる。

 

 

「新手の血鬼術?いや、鬼は殲滅した。間違いない、お館様も徹底して調べて確認済みと言っていた。誘拐?こんな爺を誘拐して誰が得をするというね、そもそも、此処はどこよ?なんで森の中?なんで鬼の音が聞こえんの?夢?痛い!夢じゃない!しかも声が高い!若い頃みたい!」

 

 

一人でわちゃわちゃと喋りながら顔をつねったりギャーギャーと騒ぎ、奇行を繰り返す善逸。

その背後から一つの影が善逸に向かって飛び掛かった。

 

 

「肉だ、肉を食わせろー!」

 

 

飛び掛かる影、それは鬼。

 

人を殺め、人を食い、世を乱す悪鬼。

 

それは滅ばさねばならぬもの。

 

普通に暮らす人々にとっては脅威に他ならない。

 

鬼に親しき者達を殺され、涙を流した人は数知れず。

 

だから、排さねばならない。

 

己の携えたこの刀は、鍛え上げたこの力は、

 

弱きを助けるためにあるのだから。

 

 

 

「霹靂一閃」

 

 

攻撃は一瞬。瞬きの刹那。

雷となった善逸を捉えられる者はいないだろう。

鳴柱(なりばしら)…いや、雷柱(いかづちばしら)となった、彼を。

 

 

「は?え、なん…」

 

 

頸をはねられた事すら知覚出来ずに灰になる鬼。

霹靂一閃、鬼がいなくなり鬼殺隊が解散となるその時まで使ってきた善逸の得意とする雷の呼吸の一の型。

若かりし頃のように鬼に怯える事もなく繰り出されたその技は年月とともに洗練され、余計な動きも溜めも無く繰り出せるようになっていた。

 

 

「えぇ~~~…ちょっと待ってよ。これ、本当に鬼じゃん、どうなってんのよ。この状況」

 

 

灰になった鬼を眺めながら困惑を隠しきれない。

何故、鬼がいるのか、山の中にいるのか、隊服を着ているのか。

何がなんだか分からないがとりあえず鬼がいるのなら切らなければと、音を聴く。

年老いても衰えること無く、耳をすませば色々な音が入ってくる。

 

 

「あー、うん。とりあえず行かなきゃやばいな」

 

 

遠くから悲鳴と怒号が聞こえてくる。

音を頼りに善逸は駆け出した。

 

 

 

場面転換

 

 

 

錆兎、義勇、真菰。三人の子供は異形の鬼と対峙していた。体を腕や手で覆い尽くした巨大な鬼。

その鬼から繰り出される攻撃を三人が各々動き回ることによって躱し、切り裂き、いなす。その攻防が十数分と繰り返されていた。

普通に考えればこのような異形の鬼と対峙したならば逃げるのが正解と言える。

何故なら此処は選別の山、藤襲山。

入山する前に行われた説明には鬼殺隊が捕えた力の弱い鬼しかいない筈のこの山で、7日間生き残る事が鬼殺隊への入隊条件である。

そう、本来ならこのような異形の鬼はいない筈なのだ。

 

「義勇!錆兎!下がって!」

「チッ!また地面から腕が!」

「近寄れない…!」

 

真菰が指示を飛ばし、錆兎が頸を切らんと駆け回り、義勇が二人の補助をする。育手、鱗滝左近次に教えを受けて鍛え上げられた三人は同門、同期故の連携を駆使して異形の鬼と何とか渡り合えていた。

 

『ちょこまかと逃げ回るなあ!狐ぇえ!!』

 

翻弄される異形の鬼…手鬼は何本もある手と腕を振り回して三人を捕えようとするが一人を捕まえようとしたら二人に邪魔され、三人同時に相手にすれば隙が出来てしまい接近を許してしまう状況に苛立ちを隠そうともせずに叫ぶ。

 

「誰が捕まるか!馬鹿鬼が!」

 

接近してきた手に対して逆に踏み込んですれ違い様に切り落とし、相手を挑発する錆兎。

 

「水の呼吸、一の型、水面切り!」

 

手鬼が錆兎に意識を向けた瞬間、頸を切ろうとして飛び上がる義勇だが、それに気づいた手鬼が腕を一本犠牲にして頸を守る。

 

「義勇!水の呼吸、水車!」

 

そして空中で無防備になってしまった義勇に迫る手を切りつけて離脱の時間を稼ぐ真菰。

ただ、咄嗟に庇ったために威力が足りず腕を切り落とせなかった。そして、それが仇となる。

 

『おぁああ!!』

「あっ、が!?」

 

手鬼は切りつけられた腕をそのまましならせて真菰に叩きつける。技を出した直後に攻撃をまともに受けてしまった真菰は咄嗟に受け身は取れたが呼吸が上手く出来ず、その場に膝を着いてしまった。

 

「「真菰!」」

『死ねぇ!狐ぇえ!!』

 

上段から振り落とされた手が真菰に迫る。真菰からみればそれはひどくゆっくりとした動きに見えた。それこそ避けれそうな程に遅い動きだ。

視界の端には此方に駆け寄る義勇と錆兎も見えた。

だが、それでも痛む身体は動かず迫る手に何も出来ない。

 

(あ、死んじゃう)

 

一瞬、鬼に殺されてしまった両親が頭をよぎる。

何も成せずに死ぬのか、殺されてしまうのか。

両親の仇を取るのではなかったのか、鬼に幸せを壊された人を少しでも減らすのではなかったのか?

様々な思いが頭を巡る。

悔しさが、悲しさが込み上げてくる。

覚悟はあった、鬼と戦う以上は死と隣り合わせだと師である鱗滝に常に言われていたから。

 

でも、それでも、死にたくない。

 

 

「誰か、助けて」

 

 

眼前まで迫る手を前に、泣きそうになりながらも真菰は呟いた。

その声は小さかった。義勇や錆兎、手鬼にすら聞こえなかっただろう。

 

だが、ただ一人だけその声を聞いた者がいた。

そしてその者は、この絶望を覆すことが出来る者でもあった。

 

 

「霹靂一閃、五連」

 

 

ドン!、と雷が落ちたような音が辺りに響いた。

 

それが五回。

 

音に驚いて目を閉じてしまった真菰。

辺りが静かになり、来るべき手鬼の手も来ないことに困惑してゆっくりと瞼を開けるとそこには信じられないような光景が広がっていた。

 

音に驚いたのか尻餅をついている義勇。

 

刀を構えたまま唖然とした表情をした錆兎。

 

腕と頸を断ち切られて崩れ落ち、灰になっていく手鬼。

 

そして…

 

 

「ふぅー、間に合って良かったぁ」

 

 

白い鞘と黒い鞘の二刀を腰に差して、髪を黄色に染めてその髪に合わせたような黄色の羽織を着た隊士がそこに立っていた。

 

 

 




思いつきが沸いたら続くやもしれませぬ。


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邂逅、それは何を意味する?

大正こそこそ話

本作品の善逸は雷の呼吸を一通り使用することができたりする。
ただ使用出来たのが鬼殺隊が完全に解散後だったことに踏まえて元柱で師匠の桑島や兄弟子の獪岳の技より威力、冴えが悪く使えはしても微妙なモノだった。
なので解散後も結局は霹靂一閃ばかり日々の鍛練として練習したそうだ。


大正?年 深夜

 

 

異形の鬼を斬り捨て、善逸は三人を見据える。

あの巨躯の鬼を三人がかりとはいえ相手取る事が出来るとは、見処があるなぁと観察していると宍色の髪に頬に傷のある子供が刀を下げつつ一歩、此方に出てきた。

 

 

「助力、救援に感謝する。しかし、ここは最終選別の場。何故、隊士の方が居られるのかお訊きしたい」

 

 

警戒を解かない少年に善逸は感心した。

そう、選別の山ではどんな状況だろうと鬼殺隊の隊士が救援に来る筈がないのだ。

この山で生き残らなければ鬼と戦うなど出来ない、という考えなのだろうが、それで将来の芽がつぶれてしまってはと考えたのは歳をとって自伝を書いていた時になってからだった。

 

 

「あー、うん。そうだなぁ、なんというか…」

 

 

声を聞いて駆け出し、その勢いでそのまま助けに入ったが、特に考えもしなかったので問われて言葉に詰まる。

と、いうよりは自身の現状すら覚束ない状態なのでそこまで頭が回らない。

 

 

「錆兎、真菰が!」

 

 

もう一人の少年の叫ぶ声に引かれて目を向けると、先ほど殴られた少女が意識を失ったのかぐったりとしていた。

 

 

「真菰!しっかりしろ!」

 

 

堪らず宍色の子、錆兎と言われた子が駆け寄る。

このまま去る事は容易に出来る。この子達は才はあれどまだまだ未熟だ、追い付けはしないだろう。だが…

 

 

(絶対寝覚めがよくないよなぁー…)

 

 

それに、そんな薄情な事をすれば自分が死んだ後に逝った時に、彼方にいる嫁に顔向け出来やしない。

 

 

「ちょいと、ごめんよ。そんなに動かさない方がいいよ。打ち所が悪いとまずいし」

 

 

少し離れた位置、後ろから声をかける。警戒している相手に近付かれたら彼らは尚更落ち着けないだろう。

 

 

「で、でも、どうすれば…」

「落ち着きなさい。此処から見たところ外傷は切り傷だけのようだし、あと一歩で死ぬかも知れなかったんだ。緊張が切れてしまって気を失ったんだと思うよ」

 

 

所感だけどね、と付け加えると二人落ち着いたのか肩から力が抜けて腰を落ち着けてしまった。

 

 

「まぁ、それはそれとして」

 

 

グッと脚に力を込めて一足で跳び、彼らを越えてその先にある茂みに飛び込む。そのまま少し駆けると此方の存在に驚いていた鬼と目が合う。

流れのままに呼吸を深めて柄を握りしめる。

 

 

「な、なんで…ばれて、」

「分かりやすいんだよ、お前達の音は」

 

 

善逸と鬼との擦れ違い様の言葉。

鬼の言葉が聞こえる頃には、善逸はドンッと脚で地面を踏み抜き、瞬時に頸を断ち納刀、駆けた勢いを止める為に脚に力を込めてザリザリと土を抉ぐり、止まった時には喋る者もなく、夜の静けさが辺りに戻る。

塵となって消えていく鬼を確認し、先ほどの子供達の元に戻ろうとして、ふとこのまま逃げようかとも考えたが現状確認の為にもそのまま歩を進め戻る事にした。

それに、気になる事もある。

 

 

(真菰少女が口にした名前…)

 

 

『義勇』

 

 

善逸はこの名前が気になって仕方がなかった。

水の呼吸を使っていた親友の兄弟子であり、痣を発現させた事により若くして亡くなった水柱のあの人と同じ名前。

容姿は暗がりな事もあってよくは見えなかったが頬に傷があるのが錆兎少年なら、気絶していたのが真菰少女、その横にいたのが義勇少年の筈だ。

 

 

「これは、とんでもない事になってるのでは?」

 

 

もし彼が自分の知っている水柱、富岡義勇と同一人物だとしたら彼が少年といえる体躯をしているのも解らないが、そもそも死者が生き返る事はない、あり得ない、あってはいけない。

 

 

だとするならば、此処は本当に何処なんだ?

 

この身に何が起きているんだ?

 

此処は…自分の生きてきた時代なのか?

 

 

「やだやだ、もう嫌な予感が凄いんだけど。もう確信になっちゃいそうだよ、これ。いや、確信しちゃうね。そりゃ形見の刀で?友の型を真似たのは罰当たりだけどさ?この老体だよ?神罰にしては重すぎません?神様?あれ?でも俺、今若いんだっけ?鏡が無いから分からん!分からんことだらけで不安しかねぇよ!誰かー!何とかしてぇえぇええ!」

 

 

ボソリと呟いた言葉が叫びに変わるが、それは誰に聞かれる事もなく、夜の森の中に消えていった。

 




めっちゃくちゃ遅いし、エスケープしそうな本作品に感想をくれる方がいて、鬼滅人気は凄いと感じる。


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雷の剣士は出会う

大正こそこそ話

このお話の善逸は柱になった、と言っていますが他の柱については規模縮小もあって解散するその時まで9人揃う事はありませんでした。有能な隊士達が無惨との戦いで戦死したからです。残された者達で覚悟を決めた者達だけが鬼殺隊に残り、最後まで戦い抜いたそうです。


大正?年 明け方

 

 

鬼を討ち、善逸が錆兎少年達の元に戻ると真菰少女は気を取り戻したようで木に背を預けて休んでいた。

茂みから現れた善逸に対して錆兎と義勇が咄嗟に刀を向ける辺り、しっかりと育手に教え込まれて事が活きていた。

 

 

「あ、先ほどの…」

「いやぁ、突然飛び出していってすまないね。ちょっと鬼が此方を見ていたから討伐しておきたくてね」

 

 

三人がホッと息をつく。

手鬼の討伐、距離を保った対応が功を奏したようだ。

若かりし頃の善逸なら其処まで気を回せなかっただろう。だが、今此処にいる善逸はそれなりの年月を生きてきた男だ。子供に対しての接し方もある程度心得ていた。

 

 

「そういえば、俺の名前を名乗ってなかったね。俺は善逸と云うんだ。君達の名前を聞いてもいいかい?」

 

 

表面上は澄ました顔をしているのだがこの男、内心は激しく乱れていて義勇少年の名前が富岡じゃありませんように!と必死に神頼みしていた。

でなければ、自分は過去に戻ったということになり、また鬼退治をしなければならなくなるからだ。

 

 

「あ、名乗らずにいてすみません。真菰といいます」

「俺は錆兎です。助けて頂きありがとうございます」

「俺は…義勇です。ありがとうございます」

 

 

善逸はなるほど、と頷くが内心は複雑だ。

三人とも名乗ってくれたが肝心の名字が解らない。

だが、此処で深く詮索するのは憚られた。

自分の名前、我妻善逸も自身が捨て子だったから名前が無く、自分で名乗るようにした名前だからだ。

彼らもそうなのかもしれない、と思うと聞くに聞けなかった。

 

 

「真菰、義勇、錆兎だね。よし、袖触れあうのも多生の縁だ。君達が良ければ少しの間、一緒に行動しないかい?今は選別の最中だろうけどあんな巨躯の鬼が居たのは明らかな異常事態、其処を隊士である俺が助けたとしても問題ない筈だ。なんせ異常事態だからね」

 

 

善逸はそう提案したあと、音に集中する。

三人のうち義勇と真菰は驚きが少し、あとは安堵が大半といったところだから良し。

だが、錆兎からは不安と不満の音がしている。

何か問題があったろうか?と考えたが思い当たる節もない。

善逸のそんな考えが顔に出ていたのか、錆兎が一歩此方に出てきた。

 

 

「申し出はありがたいと思います。けれど、それでは最終選別を真に乗り越えたと言えないと、俺は考えています。確かに、あの手鬼は異常だったと思いますがここから更に貴方を頼っては、力を当てにしてはいけないと、そう思います」

 

 

きっぱりと言いきる錆兎。

その言葉にハッとして覚悟を決めたのかしっかりとした顔つきになる義勇と真菰。

善逸は錆兎の心意気に感心しつつも、残念に思った。

善逸としては一緒に行動することで信頼を得て義勇の名字、更には現状を少しでも聞き出そうと思っていたからだ。

 

 

「そうか、分かった。君がそう言うのであるならば、俺が無理強いするのも野暮だ。俺は此処で別れるが君達の武運を祈っているよ」

「はい、ありがとうございます!」

 

 

錆兎達に背を向け、明け方の森へと駆ける善逸。

それを背中を見届けた錆兎は後ろを振り返り、義勇と真菰に目を合わせる。

 

 

「すまない、お前達の気持ちも聞かずに俺の気持ちを優先して言葉にしてしまった」

 

 

頭を下げる錆兎。そんな錆兎に義勇と真菰は目を合わせてクスリと笑う。

 

 

「ううん、大丈夫だよ。錆兎が言わなかったら私はあの人に頼りきりになっちゃったかもしれないし」

「大丈夫、錆兎は正しい」

 

 

二人の言葉に頭をあげてありがとう、と伝える錆兎。

気持ちを新たに最終選別に挑む3人が無事に山を下る事が出来たのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

場面転換

 

 

 

最終選別の終わりまで後二日になったころ、明け方の山の麓で待機していた隠の隊員達の前にその男は現れた。

 

 

「あのー、すみません。自分、隊士で善逸と言うものなんですが今、年号はなんでしょうか?」

「は?」

 

 

隠達は困惑していた。

最終選別の山から降りてきたのが選別を受けていた者達ではなく、隊服を身につけた隊士だったからだ。

しかも髪は黄色、羽織も黄色、二刀を佩いた隊士とかなり突っ込みどころ満載の人物なのが困惑に拍車をかける。すわ鬼の血鬼術かと警戒したら年号はなんでしょうか?と聞いてくる。

 

 

「と、とりあえず階級を示してください」

 

 

下手な対応は命に関わると判断した隠の代表格の一人が警戒しつつも善逸と名乗る男に告げる。

鬼なら階級など示せないし、隊士であるなら手の甲に階級が浮かび上がってくるはず。

 

 

「はいはい、階級ですね」

 

 

男が腕に力を込めて『階級を示せ』と口にする。

その言葉に反応して浮かび上がってくる文字にひとまずは安堵した隠達。そして階級を確認しようとして、回りに居た隠はさらに困惑することになる。

 

 

「「「「雷?」」」」

 

 

浮かんだ文字は雷、階級以外の文字が浮かぶのは鬼殺隊においてお館様の次に最高位の存在として存在している柱以外にあり得ない。

 

 

『柱』

 

 

鬼殺隊の中で最高位の称号。

甲の隊士が十二鬼月を討伐するか、鬼50体以上の討伐を達成する事が条件であり、特例でもない限りは「柱」の画数が示す通り9人しか至れない称号だ。

 

そんな称号を示したこの男は柱なのか?と隠達は思ったが場所と状況が困惑を加速させていた。

そう、柱がなぜ藤襲山にいるのか?山から降りてきて年号を聞いてきたのか?

そして、最近は新しい柱が任命されたとは聞いてはいないし、何よりも「雷」の文字から雷の呼吸だと推測されるが雷の呼吸なら代々鳴柱(なりばしら)として任命されているから手の甲には「鳴」が浮かぶ筈なのだ。

そもそも、今の柱には…

 

 

「随分と騒がしいですね?」

 

 

隠達の困惑の外から聞こえた声に全員が顔をそちらに向ける。

ザリ、ザリと砂利を踏み鳴らしながら現れたのは黒い隊服に黄色い羽織を纏い、肩の辺りまで伸ばした髪を揺らしながら開いているのか分からないほど細められた狐目の青年であった。

 

 

「はじめまして、隊士の善逸君。私はお館様から鳴柱を拝命致しています、小金井 修(こがねい おさむ)といいます」

 

 

やんわりと笑顔を浮かべて、自然体でありながら警戒心を一切解かない鳴柱。

そう、隠し達が困惑した理由の1つ。今はいるのだ。雷の呼吸の使い手にして、柱にまで上り詰めた人物が。

 

 

「ちょっと私とお話しませんか?」

 

 

そう言われた黄色の髪の男、善逸はヒクヒクと表情筋を痙攣させながら笑っていた。

 




広げた風呂敷、ちゃんと畳めるかしら?


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可能性が生まれた日

大正こそこそ話

オリキャラ紹介

小金井 修(こがねい おさむ)

歳は24歳、桑島治五郎の継子であり、師の引退後に鳴柱を引き継いだ。彼が14歳の時、彼のみが外出中に家にいた両親は鬼に殺され、妹がその光景を見てしまった事でトラウマになってしまい目が見えない状態になってしまった。駆けつけた鬼殺隊によって鬼は討伐されたが妹の目が見えるようにはならなかった。
鬼殺隊には両親を鬼に殺された恨みと怒り、妹の生活と保護をお願いするために入隊した。


藤襲山の麓から、少し離れた小屋の中でに2人の男が正座で向かい合う。姿格好はよく似た二人だが片方の男は黄色の髪がやけに目立つから気になり、片方の男は狐目が気になった。

 

 

「改めて自己紹介としましょう。先にも言いましたが私の名前は小金井 修。鳴柱を拝命しております」

「あ、と。善逸と言います」

 

 

それだけの言葉を発しただけで、しん、、とした空気が流れる。コホン、と小金井が咳払いをして善逸に言葉をかける。

 

 

「善逸さん、私は麓での隠達との会話を聞いていました。その上で貴方には幾つか聞きたい事がありますし、貴方にも聞きたい事があるでしょう。この場は人払いもしています。心置きなく聞いてください」

「ア、ハイ」

 

 

小金井は安心させるような素振りでそう口にするが、善逸は小金井が此方に対してかなり警戒している事を音と雰囲気で察していた為に割と緊張していた。

 

 

「では、最初は私からの質問です。善逸さん、今の元号は何年かと聞いていましたね?貴方はざっと見た感想になりますが二十歳かそこらのように見えます。それに隠達に対しての態度や言動から見ても教養があると感じました。それを踏まえて聞きましょう」

 

 

そこで口を止め、細めた瞼を少し開き善逸を見つめる。少しの動きも逃さないように。

 

 

「なぜ、今の元号を知らないのですか?」

 

 

善逸はゴクリと唾を飲み込む。

善逸自身、鬼殺隊で最後まで戦い抜いた一人だが柱と一対一で話す事がなかった事、話す事があってもその時には自分自身が柱だったこともあり、現状のような事にあった事が無いために余計に緊張をしていた。

 

 

「(どうする!?何て言えばいいんだよ!実は未来からきたんで分からなかったんですぅとか言うのか?アホか!頭おかしい奴に思われておしまいだろ!かと言って嘘をついたところですぐにバレそう、というか絶対バレる!俺の馬鹿!何で不用意に元号聞いてんだよ!言い訳出来ないじゃん!てかさっき二十歳そこらに見えるって言った?やっぱり若返ってんじゃねえか!くっそー!何か頭がこんがらがってきた!誰か助けてぇーー!)えーと、ですねぇ、それはーそのー…ひえ!」

 

 

答えに窮する善逸にそれを観察する小金井。しどろもどろしている善逸の横で、キン!と刀を納刀する音が響いた。

 

 

「今のは…?」

「……………」

 

 

二人は座っており、刀を腰から抜いて自身の横に置いた状態だ。もちろん、二人は刀を手にしてすらいないので、納刀する音がする筈も聞こえる筈もない。

小金井が辺りを見回すなか、善逸は音が鳴った刀をじっ…と見つめた。音が鳴ったのは自分の刀ではない、親友の刀だ。

 

 

信じろと、言われてる気がした。

 

 

「ふぅ…そうだな炭治郎。お前は情けない俺を信じてくれたもんな」

「善逸さん?」

 

 

一度、息を深く吸い込みゆっくりと吐き出す。

しっかりとした覚悟を決めた善逸の眼差しに、小金井は彼の中で何かが変わった事を察した。

 

 

「小金井さん。柱である貴方を、鬼殺隊である貴方を信じて、今から全てをお話します。貴方が今から聞く話は荒唐無稽と断じられてもおかしくない話です。ですがこれは俺が経験した全てです。それを信じられないと言うのであれば、残念ですが、どうしようも無いことです。その時は俺を見逃して下さい。俺にはやらなければならない事があります。どうしても、やらなければいけない事があるんです」

 

 

その場で頭を床につけ、土下座をする善逸。

覚悟を決めたその姿勢に、その心に小金井は迷いと疑いを覚えてしまう。

話を聞いて駄目なら見逃せと言われて、はい分かりましたと納得は出来ない。だが、彼の経験した全ては気になる。あたかも長年の経験を話す、と言っているように感じたからだ。そして善逸のやらなければいけない事とは何か?それ程の覚悟を見せる理由とは何だろうか?

 

 

「…分かりました、お話を聞きましょう。ですが、見逃すかどうかは聞いてからです。貴方がやらなければいけない事も、内容次第ですが人の為になると言うのであれば私も微力ながら力添えしましょう」

「…ありがとうございます」

 

 

小金井はとりあえずは善逸の話を聞く事にした。

人に仇なすならば、お館様を通して警察に突き出してやればいいと考えていた。

善逸も疑われている事は分かっているが話を聞いてくれるならば、とりあえずよしと考えた。

だが、小金井は知らない。これから善逸が話す内容は自身の度肝を抜く事になる上に、とても自分だけで処理出来る問題では無いことを。

 

 

「小金井さん、話す前にお聞きしたい事があります。これを聞かないとそもそもの話が進められないからです。教えてください。いまの元号を」

 

 

善逸も元号を聞いて驚く事になる。

鬼殺隊は歴史が長く、冨岡義勇とおぼしき子供には会ったが本人かどうかの確証が無かったので今の年代が判別出来なかったからだ。だが、あれが本当に冨岡義勇であれば、いろいろと出来る事が広がる可能性があった。

 

 

「フム…分かりました。お答えしましょう、今の元号は…」

 

 

小金井から年号を聞いた善逸は思うだろう。

もしかしたら、

最愛の人の家族を助けられるかもしれないと。

散って逝った仲間達を、多くの人達を助けられるかもしれないと。

自分の師匠が死ななくていいかもしれないと。

親友を、失わずにすむかもしれないと。

 

 

「明治、ですよ。明治40年です」

 

 

その全ての可能性が生まれた瞬間だった。

 




感想貰えるとにやついてしまうのと同時に誤字報告が怖い( ´-ω-)


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いざ、産屋敷家へ


大正こそこそ話

本作の善逸が冷静に考察したり、ハチャメチャな思考をしたりしているがこれは肉体に精神が引っ張られている状態だからである。
本来ならそれなりに歳をとった善逸はしっかりと考え行動出来る大人になったが肉体が若返った事で頭の回転が早くなり、不安な予想をすぐにしてしまうようになってしまった。


ふと、外を見ると時は既に昼を迎えていた。

善逸と出会ったのは夜明け前、あまりにも、あまりにも衝撃的な内容に小金井は終始驚き、憔悴していた。

 

 

「鬼舞辻無惨の討伐に成功した、未来…」

 

 

善逸から語られた数々の話、善逸は本来であれば五十は越えた歳であり、藤襲山には何故か若返り隊服を纏って立ち尽くしていたこと。そこから下山し、私達の前に現れて今に至る。

そして知らされる上弦の月の鬼達の姿や能力、これから起こるであろう事態、彼の知る限りで犠牲になった者達、痣者、赫刀、さらには無惨の能力まで、鬼殺隊の柱である自分ですら知らなかった、いや、鬼殺隊が知らない事まで話されて。

 

 

「信じらませんよね」

 

 

軽く思考停止してしまった私がハッと前を向くと、悲しげな目をしながら、それでも微笑みながら善逸はこちらを見つめている。

 

 

「馬鹿な話だと、俺でも分かります。けれども、俺が柱に就任した代で滅ぼし尽くした鬼があれだけいて、俺自身も二十代。己の時だけ巻き戻されたものかと思いましたが、どうやらそれも違うみたいだ」

 

 

善逸は自身が雷柱に任命された時に歴代の鳴柱を確認したという。そこには先代の鳴柱、桑島殿の名前はあったが私の名前は無かったそうだ。

 

 

「俺が話した内容は、貴方には、貴方達には信じられない出来事だ。だからこそ、信じて欲しい。これからを、此処から、この時から変えるために」

 

 

正座をし、姿勢を正した善逸はそのまま床に頭をつけんばかりに頭を下げる。

 

 

「悲しみを、これ以上増やさない為にも、どうか」

 

 

その姿に重なるように見えたのは、私に想いを、願いを託して逝ってしまった者達の姿のような気がして、私は彼から目が離せなかった。

 

 

 

場面転換

 

 

 

「ほぅ、それは本当なのかな?」

 

 

夕焼けが空を綺麗に染める頃、鳴柱の担当をしている鎹鴉からの伝言を聞き、私は複雑な感情をもて余すことになった。

嬉しい、気味が悪い、驚き、疑問、興奮、嫌疑、いろいろと混ぜ回した感情がぐるぐると渦巻いていく。

 

 

「これは、是が非でも会わなくちゃならないね」

 

 

歴代の産屋敷当主ですら知らない事を知る者、善逸。

自身の直感が告げてくる。この自分が当主であるこの時代はかなりの波乱に満ちるであろうことが。

その波乱の果てに、何が起こるかは分からないがそれでも願って止まない事がある。

 

 

「必ず、必ず終わらせてみせる。私の代で終わらせてやるぞ、鬼舞辻無惨」

 

 

呪いで皮膚が爛れ、見えなくなりつつある視界。

だがその瞳に消えることの無い憎悪の炎を宿して、産屋敷輝哉は広がりつつある夜の闇を睨み付けた。

 

 

場面転換

 

 

夜の闇のなかを二つの影が駆けていく。

二つの黄色の羽織はその速さもあって不規則にはためき、雷が地上を走っているように見えた。

 

 

「大丈夫ですか?善逸さん」

「これくらい、問題ないですよ。小金井さん」

 

 

息を乱すことなく、駆け抜ける二人はある場所を目指していた。日が暮れた頃に二人の元に鎹鴉が訪れ、その流暢な言葉使いに産屋敷家が直接遣わした鎹鴉と分かった二人はその内容に驚愕した。

 

 

「鳴柱小金井、最優先任務として、藤襲山に現れし鬼殺隊員を連れて産屋敷家に出頭せよ」

 

 

此処で驚愕したことは二つ。

一つは柱直々に善逸を連れて来いということ。

二つは善逸は藤襲山に来て一日か二日しか経っていない、にも関わらず直接呼び出しをしてきた事。

産屋敷家の当主には先見の明、良く当たる勘があることを知る善逸と小金井ではあったが、二人が抱く思いは全く正反対ともいえた。

小金井はお館様への尊敬の念を、善逸は予知じみた行動に恐ろしさを。

 

 

そんな心情をお互いに顔には出さずに、

産屋敷家への案内役の隠に合流すべく、双雷は駆けた。

 

 

場面転換

 

 

(ああぁああぁぁあ!?いきなりお館様に呼び出されるとか!?本気か!?正気なんですか!?正直いうけど今の俺って身元不明の鬼殺隊員だぞ!?は!まさか、裁判が開かれるとか?あり得る、あり得るぞ!)

 

 

目隠しをされた状態で産屋敷家に向かう隠に背負われながら、必死に考える。いや、不安しかない。

正直に小金井には自身の持つ情報の殆どを話した。

これに後悔はない。例えあの場で謀ったと言われて切られても…いや、そうなったら全力の霹靂一閃・神速で逃げ出したが。

それでも産屋敷家や煉獄家に話が伝われば無惨討伐の一助になる筈だから。

無惨が討たれる前だったかに、炭治郎に聞いていた話がある。うろ覚えではあるが煉獄家に伝わる手記だったか指南書だったかに始まりの呼吸、日の呼吸の使い手について書かれていたらしいというのを。

ならば、産屋敷家にもある筈なのだ。

始まりの呼吸に始まりの剣士、痣や嚇刀に関する文献が。それがあれば自分の話が真実であると分かる筈だ。

 

 

(いや、でも待て。そんな文献があればもっと早く無惨が討てた可能性があるよな?どうして…あぁ、そうだった。爺ちゃんが話してくれたっけ。長い歴史の中で鬼殺隊が何度か壊滅的な被害を受けたって)

 

 

身体が若返っているせいか、歳を重ねてきて耄碌し始めていた記憶がいろいろと鮮明に甦る。

若かりし日の思い出。泣き虫な自分を鍛えてくれた師の言葉。親友達と駆け抜けた日々。妻に初めて会った時の衝撃、我が子を抱いた感動…

 

 

(…て、違う違う、今考える事はそうじゃない。今後の事だ)

 

 

修行時代に爺ちゃんが話してくれた内容。

鬼殺隊が壊滅的な被害を受けた、というなら産屋敷家も存続出来ていたとはいえ無事ではなかった可能性がある。恐らくだがその際に失伝してしまったのではないだろうか。

他の者達についても存続出来なかったのもあるだろうが長い年月のせいで伝えきれなかったのかもしれない。

代を重ねすぎたのも原因だろう。

 

 

(クッ…こんな事ならもっと真面目にお館様や炭治郎から聞いておけば良かった。いやでも今、この状態が異常事態なんだからどうしようもないか)

 

 

まさか自分が若返って時代も遡って、もう一度鬼を刈る事になるなど誰が予想できようか?いや、誰も出来ない筈だ。お館様にも無理だろう。出来たら恐ろしすぎる。

 

 

(あああああ!やっぱりお館様は恐ろしいに帰結するじゃんか!くそぅ!こうなりゃ腹括るしかない!頑張れ俺!やれば出来るぞ俺!長男かどうかは分かんないけどやるしかないぞ俺!)

 

 

若死にしてしまった親友が言っていたような記憶がある言葉を胸のうちで叫びながら覚悟を決めようとして決めきれない善逸であった。

 

 




やべぇ、半年経ってるのにこれだけしか書けてない。
想像力、想像力を高めなければ…( ´-ω-)


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