千鬼姫を守護霊にした少年の話 (濡れ散歩)
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千鬼姫を守護霊にした少年の話

「俺、3組でよかった……」

 

一人きりの放課後に、教室に残っていた俺はそう呟いていた。

童守小学校に通う小学生の俺は、このクラスの女子のレベルの高さに歓喜していた。

可愛いのがめちゃくちゃ多い……というのは、子供らしい感覚だろう。

だが、俺が何よりも引き付けられるのは、クラスメイトたちの小学生とは思えないほどの身体つきである。

衣服の上からでも身体の起伏が分かるのが、ほぼ全員なのだ。

マジでたまらん。

 

「まあ、そんな感想を持つのは、俺が転生者だからだろうなあ」

 

転生。一度死んで、生まれ変わること。

俺はそれをしている。

もともと、20代まで生きたという前世があるのだ。

そのため、精神的には小学生とは思えないほど成熟しているし、むっつりスケベである。

そう、ムッツリだ。決して露骨になってはいけない。

ムッツリをしていると、エロに興味がないと思われる。

すると、自然と女子の警戒心も下がり、無自覚なスケベを体感することができるのだ。

 

「……一人で残って、何考えてんだ、俺」

 

思わず失笑してしまう。

すでに、空は夕焼けが綺麗で……って、なんかやけに学校の近く暗くない?

黒い雲が渦巻いているようだ。

雨でも降るのか?

それはマズイ。傘を持って来ていない。

急いで帰ろうと立ち上がると……。

 

「ん? まだ残っている生徒がいたのか」

「あ、先生」

 

教室の扉が開いて、3組の担任が入ってきた。

鵺野 鳴介。皆からはぬ~べ~と呼ばれている先生だ。

生徒想いで熱い性格なので、子供たちからはよく慕われている。

スケベで貧乏という欠点もあるが……ムッツリの俺としては、その部分は全く非難できない。

 

「飛鳥! お前、こんな時間まで何してんだよ」

 

ぬ~べ~の影からひょっこり顔を出したのは、立野 広。

サッカーをしている、クラスのリーダー的存在だ。

 

「ちょっと気になったところがあったから、勉強していたんだよ」

「べ、べんきょー……?」

 

ちなみに、とてつもないバカである。

どうして勉強と言っただけで首を傾げるんだ、こいつ。

3組女子のエロさについて考えていたら日が暮れていた、なんて説明できないため、適当を言ってしまった。

小学生の勉強なんてやる必要はない。転生者だしな。

 

「ごきげんよう、飛鳥くん」

「……ごきげんよう」

 

もう一人は稲葉 郷子。

女子のクラスリーダーであり、立野と仲がいい。

そして、エロい!

健康的なエロさと言うべきだろうか?

貧乳だとバカにされているが、とんでもない。

小ぶりながらも鍛えられて形がよく、張りがありそうなおっぱいは、いつも薄いぴったりと張り付くような服を着ているため、よく拝ませてもらっている。恐縮です。

運動が得意なためか、お尻もきゅっと上がっているし、すらりと足も長い。たまりません。

元気に動き回る彼女を見て、拙者の小僧も元気に跳ね回る……とバカみたいなことを考えられたらいいのに、どうしても聞かなければならないことがある。

俺は立野に近づき、コソコソと話す。

 

「なあ。稲葉ってこんな性格だったか?」

「いや、これには訳が……」

 

いつも元気で活発で……立野に流血を強いるくらい攻撃的な稲葉なのに、このお嬢様はいったいなんだ。

ぶっちゃけ、似合っていない。気持ち悪い。

立野は事情を知っているようだが、どうにも話しづらそうだ。

まあ、あまり詳しく立ち入るつもりもないのだが……。

 

「……ここを使うわけにはいかないな。場所を移そう。飛鳥、お前も遅くならないうちに早く……」

 

どうやら、稲葉の状況はぬ~べ~と立野で何とかするらしい。

まあ、部外者が立ち入るべきではないだろう。

俺はそう考え、ぬ~べ~の言葉通り帰ろうとすると……。

 

「危ない!」

 

いくつものはさみやカッターが、平行に飛んでくる!

ぬ~べ~や立野たちはうまく躱し、俺はというとビビって硬直したのだが、運よく当たることはなかった。

ひぇ……。なにこれ……ポルターガイスト……?

 

「……どうやら、場所を移す暇も説明している暇もないようだな。すまない、飛鳥。俺が必ず守るから、郷子を守るために手伝ってくれ」

「……ああ、構わない」

 

構う。めっちゃ構う。

足ガクガクなんですけど。

なにこれ。殺意高すぎない?

俺が何をしたっていうんだ……。

 

「飛鳥くん、ごめんなさい……」

「こういう時は、お礼を言ってほしい。終わってからで構わないから」

「う、うん……」

 

塩らしい稲葉が言ってくるので、とりあえず格好つけておく。

ビビる男って格好悪いしな。

なんだったら、ハグしてくれたらそれでいい。興奮するから。

そんなことを考えていると、ぬ~べ~が水晶玉を取り出して呪文みたいなものを唱えれば……。

 

「ほほほっ。妾を呼び出すとは、とてつもない不敬者よのう」

 

稲葉の背後から現れたのは、大きな人影。

サラサラとした長い黒髪は、とても手入れがされているであろうことが分かる。

目はキッと吊り上がっており、彼女の気の強さを表しているようだ。

プルッとした唇は瑞々しく、思わず目を引き付けられてしまう。

現代ではあまり見ない和服も、彼女の雰囲気に合っていてとてもいい。

いきなりそんな古めかしい女が現れたことに、俺は驚きよりも抱いた感想が……。

エッッッ!!

 

「郷子を危険な目に合わせる悪霊め。さっさと出ていけ!」

「妾にそのような不埒なことを申すとはのう。くくくっ……」

 

口元を袖で隠しながら笑うお姿もお美しい!

俺のクラスはレベルが高い女子が大勢いるが、小学校なので当然大人の女性はいない。

律子先生というとんでもなくエロダイナマイト美女もいるのだが、あの人を除けばみんなロリだ。

だからこそ、このような大人の女性に俺は参ってしまう。

くっ……膝枕されて甘やかされたい……!

前世の俺ならいざ知らず、今は小学生だ。

……つまり、合法!

ぬ~べ~が不吉なことを言っているのを棚に上げ、俺はどうにかして和服の上から彼女のスタイルを覗けないかと画策していると……。

 

「妾の邪魔をするなら、ぶっ殺してやるわあああ!!」

「うぉっ!?」

「正体を現したか!」

 

美女が、いばらの化物になった。

…………え?

う、嘘……。あの美女はどこ……ここ……?

愕然とする。

全身から力が抜けていく。

だからこそ、本来であればビビって絶対に言えないことを口走っていた。

 

「うわぁ……もったいない」

「うん? どういう意味だ、小童」

 

もったいないという言葉がこの状況に相応しくないためか、いばらお化けが俺を見る。

いざ視線を合わせると、なおさら落胆が強くなる。

 

「いや、せっかく美人だったのになって」

 

それが、何だそのいばらの妖怪みたいな姿は。

あれだけ歓喜していた俺の股間も、今ではしょんぼりだ。かわいそう……。

 

「ほほう、妾の美しさが分かるか。小童のくせに、見る目はそこのゲジマユよりはあるようじゃ」

「ゲッ……!?」

 

ショックを受けているぬ~べ~。

先ほどまでの美女でどや顔されていたら『あら~^』となっていただろうが、今はうっとうしいだけである。

化け物風情が調子のりやがって……。

 

「ならば、妾がそこの処女を殺し、生き血を浴びることも賛同するであろ? 美しさを保つために、必要不可欠なことじゃからな」

「生き血が美しさを保つ? そんな効果ないだろ」

「……は?」

 

ポカンと口を開ける化物。

俺はもう投げやりだった。

血とか浴びているから、そんな化け物になってんじゃねえの……。

 

「そんなもの浴びるくらいだったら、今の化粧水とかで手入れした方が絶対にいいだろ」

 

男だからあんまり詳しくないが、そういうケアをする商品は現代にはあふれかえっている。

少なくとも、血を浴びるよりは間違いなく正しい。

はあ……どんな迷信だよ……。

 

「で、では、なぜ妾は美しい!? 生き血の効果で……」

「普通にあんたが美人だっただけだろ。血は関係ない」

「む、むう……。血は関係ないのか……?」

 

何やら悩む様子を見せるお化け。

関係あるわけないだろ。

血を浴びて美人になるって、どういう理論だよ。

俺はやれやれと首を横に振り、女子の机から手鏡を拝借すると、お化けに見せる。

 

「で、これが今のお前の顔。……美人か?」

「ぬおおおおお!?」

「よし、美人に戻ったな」

 

絶叫し、お化けは美女に戻った。

エッッッ!!

それですよ! それこそが、俺の求めていた奴ですよ!

おほぉ……堪らねえんだわ。

 

「血はまったく必要ないし、稲葉から出て行ってくれよ。なんだったら、現代の美容グッズをあげるからさ」

「…………」

 

そう言って笑いかける。

だから、あのお化けにはなるな。股間が困惑する。

女は少し悩むしぐさを見せている。

ぬ~べ~たちも、どうしていいのか分からないといった様子だ。

……そもそも、一番意味が分からないのは俺なんですけどね。

放課後教室に残っていれば、急に様子のおかしい稲葉含め三人が入ってきて、ポルターガイストに襲われたと思えば美女が飛び出てお化けになるし……。

 

「ふむ、そうじゃのう。ならば、お前に憑りつくとしようかの」

 

…………え?

名案を思い付いたとばかりに笑みを浮かべる美女。

俺よりも先に激しく反応したのは、ぬ~べ~だった。

 

「な、なにを言っているんだ! 郷子の次は、飛鳥か? 俺の生徒に手は……」

「黙れ、ゲジマユ。早とちりするでないわ」

「ゲジマユ!?」

 

そこは驚くことじゃないぞ。

やれやれと袖を振り、美女は言う。

 

「もはや血はいらん。そもそも、処女でなければならんのに、小童のものなど欲するか」

「じゃあ、なんで……」

「妾が小童に憑りつくことによって、美しさを維持する現代のものを献上させるのじゃ。その代わり、妾が小童を守ってやろう」

 

なるほど。俺が現代のケア用品のことを言ってしまったので、それに興味を持ったのか。

 

「郷子を殺そうとした悪霊の言葉を、信じられるわけないだろう! そんなこと、俺が……」

「いいよ、別に」

 

ぬ~べ~の言葉を遮り、俺は了承する。

当たり前だよなあ。こんな美女と、四六時中一緒だぞ?

もうたまらんわ。ラッキースケベとかもあるよな?

うっほい! 胸が高鳴るぜ!

 

「飛鳥!? お前……そこまで郷子のことを……」

 

立野が何やら言っているが、俺の脳内はすでにピンク色だった。

 

「よろしくな」

「ほほっ。うむ、任せるがよい」

 

上品に笑う美女と、俺は握手するのであった。

おててスベスベでエッッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

美女の悪霊――――千鬼姫に憑りつかれてから、俺は学校に向かっていた。

さすがに小学生。化粧品などを買いに行けるほどの財力はないため、母親のを拝借。

千鬼姫はウキウキでご満悦してくれているので、まったく問題ない。

子供のようにはしゃぐ美女……いい……。

 

「飛鳥!」

「ん?」

 

そんなことを考えていると、あまりクラスでは話しかけられない俺の名前が呼ばれる。

ちょっとビビりながら見れば、そこには稲葉がいた。

千鬼姫が離れたせいか、元の活発な彼女に戻っている。

そう、稲葉はこうでなくては。

活発少女ならではのエロさというものがあってだな……。

しかし、稲葉はもじもじとして少し照れた様子だ。

そして、意を決したように口を開く。

 

「その……ありがとね。あたしのこと、助けてくれて」

「……おう」

 

……別に、感謝されて嬉しくなるような殊勝な性格をしているわけではないが、稲葉みたいな美少女に感謝されるのは悪くない。

そう思うのであった。

 

「んほぉ……妾の肌がモチモチじゃあ。ほれ、頬ずりしてやる。褒美じゃ」

 

んほぉ! この悪霊うるせえ!

 

 

 



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