2度目の人生は青春したかったです (リキクラ)
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プロローグ


 思いついたので初投稿です。


 

「えっ! マジでお前が帰ってきた理由ってそれだけなの!?」

 

「おうそうだよ。 悪いかコノヤロー」

 

 

 床に転がされた酒瓶が4つを超えた頃、ようやく俺は村に帰ってきた本当の理由を告げた。

 

 

「おほほほっ! 情けねええ! いやあー情けない! あんなに勇んで村を飛び出したのに!」

 

「笑うなクソっ! やっぱり言うんじゃ無かった!」

 

 

 お互い物心つく前からの付き合いだ。 血の繋がりは無いとはいえ、実の兄弟に負けず劣らずの時間を共に過ごしたコイツとの間に遠慮という二文字は存在しない。

 

 

「わ、悪い悪い、クッ、アハハハ! で、でもよお別に喧嘩別れした訳じゃ無いんだろ? その2人になんて言ってパーティ抜けてきたんだ?」

 

「…… 村の幼なじみと結婚するって」

 

「ギャハハハハハ!! か、母さんにお前が結婚するって伝えといてやろうか!?」

 

「うるせえっ!」

 

 

 酒のつまみにしていた木の実を顔面めがけてぶん投げた。

 

 完全にツボに入ってしまったようで腹を抱えて笑う親友の姿にむかっ腹が立つが、まあ、それ以上に笑い飛ばしてくれた事に感謝した。 後者は絶対に表に出してやらないけれど。

 

 

「いやー笑った笑った! まっ! 気を落とすなってトーフさんよ! きっといつかお前と想いが通じ合ういい女と巡り会うって!」

 

「絶対お前より先に結婚してやるよ、モーブ」

 

 

 そう、俺こと『トーフ・ヒャヤッコ』は失恋したことを切っ掛けに、今日生まれ育ったこのド田舎の村へと帰ってきたのだ。

 

 

「おらっ今日はとことん呑むぞ! 付き合えよな」

 

「おう! ドーンとこい! こっちも積もる話があるからよー」

 

 

 

 

 

 あれからさらに3本のワインを空けた頃、すっかり酔いつぶれ、テーブルに突っ伏したモーブに毛布を掛けてやる。

 もうじき朝日が昇るだろう。 その前に夜風に当たりたくなり、コートを羽織って一人散歩へと向かった。

 

 

「全然変わらないなあ、この村は」

 

 

 辺りを森に囲まれた小さな村。 

 中央で村を分断するように流れる川へと向かい、川辺に腰を落とす。 

 

 

 相も変わらず自然以外は何も無い村。

 

 俺がこの村を飛びだしたのは、そんな退屈な生活を変えたかったからだ。 結末こそ情けないモノではあったけど、それなりに濃厚な時間を過ごせた事は確信している。

 

 

 冒険者なんていう体が資本の世界に身を置く事で、身も心も成長できた。 剣の腕だって随分と上がった。

 

 

 それに、魔法だって簡単なモノならいくつか使えるようになった。 もう、十分だろう。

 

 

 我ながらこんな意気地なしがよく6年も耐えれたと思うよ、しかも五体満足で生まれ故郷に帰って来れたんだ。 大した額じゃあ無いが貯金だってある。 万々歳じゃあないか。

 

 

 

 

 ……でもなあ。

 

 

「今世も灰色の青春時代かよ、くそったれ」

 

 

 せっかく生まれ変われたのだから、今度こそ彼女を作りたかった。 

 

 

「結局、魔法剣も身につけられなかったなあ……」

 

 

 

 せっかく魔法なんて素敵なモノが存在している世界なのだ、漫画やゲームの主人公みたいな強さを身につけたかった。

 

 どれだけ前世の世界と、あの日本という国とは違っていたとしても、現実は現実。

 

 

 

「ほんっとーに思うようにいかねえなあ、人生って」

 

 

 

 

 

 

 ああ、今更ながら俺ことトーフ・ヒャヤッコは転生者って奴です。

 

 





 読んで頂きありがとうございます。
 ゆっくりと自分のペースで投稿していきたいと思っています。


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1話

 

 山の向こうから太陽が顔を覗かせる辺りで、この村は目覚め始める。

 

 クワを携えた農民が畑へと向かい、家畜たちはけたたましく朝の訪れを辺りへと知らせ。 木こりは山へ、老人は竿を片手に川へと歩みを進める。

 

 各々が平穏な、代わり映えのしない日常を始めようとしていた。

 

 

 

 その少女に最初に気がついたのは、魚釣りが日課となっている老人であった。

 

「お嬢さんや、どうした? こんな処でなにやっとる?」

 

 見慣れない服装に、これまた珍しい黒色の頭髪。 そんな村で見たことがない少女が川のほとりで一人泣いているのだから、老人が声をかけた事も納得がいく。

 

「森で迷いでもなさったか?」

「bbfs@bw@rt? 3k、b;bsf@z4d@wjr?」

「あー、すまんの。 近頃耳が遠くなったみたいでの、もう一回言ってくれるか?」

「q@/q@3…… q2@yz4d@wue、0qd、s@4d94」

 

 しかし、少女の口から紡がれる言葉はどれも老人の耳に馴染まない、未知の言語であった。

 それにどうやら少女の方にも老人の言葉の意味が通じていないようで、その頬を伝う涙は勢いを増すばかりである。

 

「6t3xy……」

「こりゃあ、面倒くさいことに首突っ込んじまったかのう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から差し込む光が瞼をさした。 目覚めの気分は最悪だ。

 

 頭いてえ、吐き気が酷い。 調子に乗って飲み過ぎたかもしれない。 とうに朝を過ぎて昼になっているようだ。 しかし、今日は別に用事があるわけじゃなし。 

 

 もっかい眠ろう。

 

 そう思って再び瞼を閉じたとき、部屋の扉が突然開かれた。

 

「ヘイ! 起きろ起きろ傷心少年! 村長がお前を呼んでっぞ! ホラホラ早く起きろってトーフ!」

「ハーイ…… モーブさんや、俺は今体調が悪いから行けないって伝えておいてくれよ。 ついでにお水をコップ一杯持ってきてくれ」

 

 うるさい奴が入ってきた。 姿なんて見なくても声だけでわかる。

 

「どーせ二日酔いだろ! 分かる、分かるぜ! 俺も今朝から頭がスゲー痛えからな!」

 

 カラカラと笑うモーブ。 実に元気そうだ、とても言葉通りの体調とは思えない。

 

「えー、それ今じゃ無いといけないのか? 冗談抜きに頭痛いんだけど」

「できればすぐにって感じだったな!」

「さいでっか…… あー、すぐ行くって伝えといて」

「あいよ-! ……二度寝、するなよ?」

 

 そう言い残して部屋から出て行くモーブ。 流石長年の兄弟、しっかり見抜いてやがる。

 

「あーあ、めんどくせえなあ」

 

 一人愚痴をこぼしながら身支度を整えていく。

 顔を洗い、寝間着から普段着へ。 そして壁へと立てかけておいた剣へと手にして…… 再び戻した。

 

 もうコレは持ち歩かなくていいんだった。

 

 そうこうして、最低限の身だしなみで部屋を出るとすぐ目の前にモーブが立っていた。

 

「おっ、二度寝しなかったな?」

「おう。 さっさと終わらせて寝ることにする」

「体に悪そうだな! あっそうだ! 俺と一緒に屋根の修理しよう! 健康的だし、母さんも喜ぶぞ!」

「母さんには喜んで欲しいけどね、この体調で屋根の上なんて上がりたくはないさ」

 

 適当な会話をしながらギシギシと音の鳴る階段を降りていく。

 この家も随分と古くなったなあ、俺が入った頃はまだもう少しマシだったと思うけど。

 

「貯金崩して、この家のリフォーム依頼だしてみるかな……」

「お? なんか言ったか、トーフ?」

「いや、何でも無い。 それよか、母さんは? リビング?」

「朝早くから出かけてるみたいだな! はは、俺が起きたときにはもういなかった」

「ふーん」

 

 他愛も無い会話をしながら外へ出て、この村の外れの我が家から村の中央に構える村長宅へと向かう。

 道すがら久しぶりだなと声をかけてくれるご近所の方々へ挨拶を交わていると、帰ってきたんだなあとしみじみ実感する。

 

「おっ、本当に帰ってきたんだな! 向こうで女でも作ってるかと思ってたぞ!」

「はは…… 生憎そんな事は無かったすね」

 

 ピンポイントで地雷を踏んで来やがったおっさんには乾いた笑いしか出てこないが。 隣で大笑いをしているモーブは後で殴ってやろう。

 

 そうこうしているうちに村長宅に辿り着いた。 相変わらず綺麗に整えられた庭を進み、入り口の戸を叩く。

 少しの間を置いて久しぶりの村長が笑顔で出迎えてくれた。

 

「おー、大きくなったなあ。 ただ寝坊癖はまだ直ってないのは残念だなあ」

「開口一番それですか、お久しぶりです。 ちゃんと無事に帰ってきましたよ」

「まあ、居間で待っててくれや。 茶を持ってってやるから」

「そんな、構わないでくださいよ」

 

 昔と変わらぬ村長とのやりとり。 ああ、懐かしい。

 

「まあまあ、ついでに面倒事も押しつけてやるつもりだから遠慮すんな」

「ちゃんと茶菓子も持ってきて下さい」

 

 本当、変わらないなクソじじい。

 

「んじゃ、じっちゃん俺は先帰るな!」

「おー、呼んできてくれて助かったぞ」

「えー、モーブも残ってくれよー、俺だけに面倒押しつけんなよなー」

「悪い! 俺いても役にたてねーんだわ! 頑張れよートーフ」

 

 なんだそれ、訳わからん。

 それだけ言って本当に帰ってしまったモーブの背中を見送り、居間へと足を進める。

 

 勝手知ったるなんたるや、子供の頃さんざん遊びに来ていたこの家だけど、昔と比べていくつか入れ替わっている家具が少し寂しい。

 でも8割方は昔のままだ。 相変わらず立て付けの悪い居間の扉を開いて中へ進む。

 

 中央の大きなテーブルも、無駄に大きな姿見も、壁に取り付けられた棚も変わっていない。 懐かしい。

 俺がいつも座っていたのは大きなテーブルの向かって右側中央、そこが俺の指定席。

 

 だったんだけどなあ……

 

「あっ、どうも。 初めまして」

 

 俺の席にはなんか知らない人がいた。

 黒髪黒目の、どこか懐かしい…… しいて言うなら日本人っぽい見た目の女の子が。 なんか、すげー私落ち込んでますって雰囲気が纏わり付いてる。

 俺のいない間に新しく越してきた人だろうか? 少なくとも俺は見たこと無い。

 

『こんにちは』

「ああ、はいこんにちは」

『私の言葉…… 通じて…… ませんよね……』

「え? 急に何言ってんですか、ちゃんと通じてますよ?」

『ああ、もうヤダ…… 家に帰りたい…… お母さん、お父さん……』

「え、ちょっ、どうしたの!?」

 

 急に泣き出してしまった女の子。 やべえ、訳がわかんねえ。 話も通じてねえ。

 

「ふーむ。 トーフでもわからんか……」

「うわっ! ビックリした、いつの間に後ろにいたんですか村長」

「今着いたとこだわい。 ふむ、今日な、お前を呼んだのはこの娘についてなんだ」

「はあ」

「今朝リルのじっちゃんが川辺で泣いてるその娘を見つけてなあ、話を聞こうにも今の通りだ。 はあ…… 冒険者として街に行っていたトーフならもしかして__ と思ったんだがなあ」

 

 冒険者を精神科医と間違えてんじゃねえのかこのじじい。

 

「ポリフさんには診せたんですか? 俺よりよっぽど適任だと思いますけど」

 

 ポリフさんとは、この村唯一のお医者様だ。 精神科医という訳ではないけど、今言った言葉の通り俺よりかは確実に医学に通じてるだろう。

 

「うん、一番最初に来てもらった」

「あ、はい」

 

 ダメだったんですね。 はい。

 

『ミライちゃんに…… 会いたいよ……』

 

 俺たちの事なんて目に入っていないようで、女の子はずっと俯いて小さく繰り返している。 ミライちゃん? 家族の名前か?

 

『もうやだあ…… やっぱり家に引きこもってればよかった…… どうして私夜中にコンビニになんか行ったのよお…… まだクリアしてないゲームもたくさんあったのに…… うう、リアル猫耳少女なんてどこにもいないし…… 神様の頼み事なんて聞くんじゃ無かった…… こんな言葉も通じない世界で引きニートにどうしろって言うのよぉ…… うう、お母さん』

 

 なんか結構ダメ人間的な事をほざき始めた。

 てか、神様とか、コンビニとか…… あれ、そう言えばこの女の子が今喋っている言葉って__

 

「ふう…… せめて何が言いたいのかが分かればなあ、対応もまた違うんだがなあ」

『日本語?』

 

「え?」『えっ!?』

 

 まさに18年ぶりに口に出した言語。

 どうにも、面倒くさい事が起きるような気がする。

 




 お酒の力を借りて…… ああ~、ハイボール美味しいんじゃあ。

 感想など書いて頂けると非常に非常に嬉しいです~。


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2話

『日本語?』

「え?」『えっ!?』

 

「なんて言った?」『今なんて言いました!?』

 

 椅子から身を乗り出して俺をガン見してくる少女。 ああ、まさかの日本人ですか。

 

「あー、村長。 ちょっとだけ席外せます?」

「お、おう。 茶ここに置いておくぞ」

 

 そう言って部屋を後にする村長。 あっ、ちくしょう茶菓子がない。

 

 いつの間にか目の前まで近づいてきていた少女を手で制して、まずはお茶を一口啜った。 

 

 

 うん、俺はこの子をどうすればいいんだ?

 

『さっき日本語って言いました!? もしかして私の言葉通じてますか? こんにちはっ! こんにちは!?』

『ああ、はい。 通じてるよ、こんにちは』

『良かったっー!』

 

 うああ…… 高い声が頭に響く。

 

『もう、もう私どうしたら良いのか分からなかったんですよ! 目覚が覚めたら森の中だし、人に会っても言葉通じないし…… あ、そういえば最初に私に声をかけてくれたおじいちゃんがお魚一匹くれたんですよ! ただ、これ生で食べれる種類ですかね? 川魚だったとしたら寄生虫とかやっぱりいるんですかね…… あ、それよりどうしてあなたは日本語が分かるんですか!? あっ、それより前に自己紹介しないとですね』

 

 おお、何というマシンガン。 意思疎通が出来る相手が突然出てきて混乱したのかな? 多分頭の中に浮かんだことそのまま口に出してんなコレ。

 

『私の名前は笹中…… いえ、ルナ。 そう! ルナ=クレセントと呼んで下さい!』

「うわ、スゲえ堂々と偽名名乗るなあ」

『ん? 今なんて言いました?』

『ああ…… 良い名前だねって、クレセントさん』

『ありがとうございます!』

『俺はトーフ・ヒャヤッコだよ。 まあ、よろしくね』

『はい! よろしくお願いします! 豆腐、さん? 変わったお名前ですね!』

 

 テンション高えなおい。 

 

『普通だよ、普通。 で、結局なにが一番聞きたいの?』

『えっ、と。 じゃあ豆腐さんはどうして日本語を? もしかして日本人の方…… ですか?』

 

 俺の髪をチラリと見て、少し判然としないといった様子で聞いてくる。

 まあ、こんな白髪の純日本人はいないわな。 染めてるとかなら別だけど。

 

『あー、元日本人…… だな。 俺生まれ変わったんだわ、そのまんまの意味で』

『えっ! 転生者って奴です?』

『うん。 そうだね、俺は転生者だ』

『良かった! じゃあ一緒に魔王討伐! 頑張りましょうね!』

『え?』『……え?』

 

 表情が笑顔から困惑といった具合に変化した。 多分俺も同じだと思う。

 

『え、なんか話が飛んでない?』

『て、転生者なんですよね? 豆腐さんも神様から頼まれました…… ん、ですよね? だから一緒に頑張りましょう?』

『え?』『え?』

 

 やべえ益々分からなくなった。 

 

『もしかして、ですけど。 神様に何も言われてないです?』

『そもそも神様になんて会ったことないぞ』

『ええ……』

 

 互いに何も言えなくなってしまう。

 

 持ってきて貰ったお茶がすっかり冷え切る頃、村長が様子を見に来たことによってようやく、この奇妙なお見合いの空間から逃れる事が出来た。

 

 ああ、やっぱり二度寝しておけば良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、もうダメだ~。 私一人でどうしろってんですか~……』

「ああ、もう嫌だこの子。 凄く面倒くさい」

 

 村長宅から移動し、俺の部屋まで戻ってきたものの。 二度寝の予定はすっかりと狂い、ベッドの上はこのルナとかいうくっそ痛い偽名をほざく少女に独占されていた。

 

 てかベッドの上で暴れるな。

 

 聞くところによると、この子は神様から魔王の討伐を頼まれて日本から転生してきたようで。 俺も同じく神様から頼まれたのだと思ったらしい。

 

 

 はあ…… なにが、「その子の言葉分かるのお前だけだから、後よろしくな!」だ。 完全に厄介払いに使いやがって。

 

『ルナさんや』

『あー、PCが恋しい…… 部屋にこもってゲームやりたい~、美少女に囲まれて余生を過ごしたい』

『おーいルナ=クレセント』

『あ、もしかしてコレは夢? ならば私は部屋でミライちゃんに囲まれて眠りについているのでは?』

『おーい』

『えへへ、ミライちゃんダメだよ? 私たち女の子同士じゃない』

 

 女相手だけど殴っていいだろうか。

 

『おい笹中』

『え? なんですか?』

 

 こっちの名前で反応すんのかい。

 

『実際問題あんたどうすんの? 魔王なんておとぎ話でしか聞いたことない存在の討伐だなんて』

『そんなの私が聞きたいですよー。 どーすればいいんです?』

『街にでもいって情報収集してくれば?』

『私…… 言葉分からないです…… あっ、豆腐さんが着いてきてくれるんなら』

『やだ』

『ですよねー。 私も同じ立場だったら断りますもん』

 

 たっはー、というため息と共にベッドに突っ伏しやがる。

 

『そもそも俺は豆腐じゃない、トーフだ笹中さんよ』

『私も笹中じゃありませんー。 ルナですー』

 

 呼んでも反応しなかったじゃねえか。

 

『トーフさんー、元とはいえ同じ日本人のよしみじゃあ無いですかぁ、助けてくださいよぉ』

『人にモノ頼む姿勢とは思えないんだが』

『あっ、すみません』

 

 そう言うなりベッドの上で土下座を…… ってやめてくれ。

 

『うつ伏せから一気にランク上げたなぁ、おい』

『お願いします! なんでもしますから助けてください!』

『なんでもとか言うな。 はぁ…… 仕方ない、簡単な日常会話くらいなら教えてやるよ。 覚えちまえば英語とかよか簡単だからさ』

『本当ですか! ありがとうございます!』

『んじゃあこっちの机までこい。 てか何時までも土下座の姿勢やめてくれ、俺が悪いことしてる気分になる』

 

 言いつつ昨日のワインとつまみの残りで占拠された机を片付ける__ 否。 

 片付けようとした時に扉が開いた。

 

「トーフ、今日は何が食べたい?」 

 

 突然部屋の扉を開くのは母さんの特権だ。

 

「材料買い込んできたからなんでも作って…… あんた、その子に何してんだい?」

 

 

 __この時の母さんの目を俺は一生忘れない。

 

 未だベッドの上で座り込んでいるルナこと笹中。 さっきまで暴れていた為、乱れたベッドに彼女の衣服。

 換気をしていなかった為、部屋に充満するのは昨日の酒盛りの残り香。 ハイ。

 

 

 

 

「まって母さん、誤解」

『…… これをネタにすればワンチャン付いてきてもらえる?』

 

 黙れ笹中聞こえてんぞ。

 

 




 お酒は全てを救うのです! 緑茶割りおいちい。
 しかし展開が進まねえなあおい。 

 ゆったり更新していきまーす。

 感想などありましたら書いて頂けますと凄く嬉しいです。


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3話

「てっきり私はトーフが大人の階段を登ったのかと思ったよ!」

「勘弁してくれよ、母さん」

 

 大きなテーブルに並べられた魚の煮付けに、山菜のサラダ。 そして母さんお手製のパン。 子供の頃からお祝い事がある度にリクエストしていたもの、どれも俺が好きな献立だ。

 

『美味しい! コレすっごく美味しいです!』

「その子の口にも合うかねえ?」

「大丈夫みたいだよ、旨いってさ」

 

 モゴモゴと口へと料理を運んでいく笹中、いやルナ? どっちでもいいか。

 

「なら良かった! まだ沢山あるからいっぱいお食べ」

『なんて仰ってるんです?』

『まだあるから沢山食え』

『はい! ありがとうございます!』

 

 この通訳いつまでしなきゃいけないんだ。

 そう思いつつ料理を味わっていたら、横に座っているモーブから声が掛かった。

 

「なあトーフ、結局この子は何処の誰なんだ?」

「絶滅危惧種みたいな部族の人だよ、喋ってる言葉も街でも殆ど耳にしなかったしな」

 

 正直に答えたところで意味は無いだろうから適当に答えておく。 あながち嘘でもないし、日本語を喋る奴なんざ街どころかこの世界では俺とコイツくらいだろう。

 

「へー」

「聞いといてリアクション薄いなぁ」

「俺は考えるのあんま好きじゃないしな! あ、母さん屋根の修理しといたぞ!」

「あら、ありがとね。 いやー最近雨漏りばかりで参ってたのよ、助かったわ」

 

『トーフさん、トーフさん』

『何?』

『今更かもですけど、このお二人はご家族の方ですか?』

『ああ、そうだよ。 血の繋がりは無いけどね』

『え…… あっ、すいません、変な事聞きました?』

『いや、大丈夫だよ。 そんなの無くても家族は家族だから』

 

 俺は、否。 俺とモーブは所謂孤児って奴だ。

 物心つく前に、この世界の俺の両親は流行病で亡くなってしまった。 モーブの両親も同じ理由でこの世を去っている。

 白状と取られるかもしれないけど、両親の記憶なんて殆どないし、俺にとっての親は母さんだけだ。

 

『じゃあこの家は……』

『うん、孤児院ってやつ』

『そうですか……』

『だから気にしないでくれって、それより食べ終わったら勉強会だ。 さっきは母さんがきてうやむやになっちまったからな』

『はい』

 

 

 そして食事が済み、俺の部屋でルナへとこの世界の言葉を教えることになった。

 

 

 なったのだが……

 

『もーお前才能なし! 身振り手振りで何とかしろ!』

『ひどいですよ! 「こんにちは」と「こんばんは」は覚えたじゃ無いですか!』

『5時間経ってなんでその2個しか覚えられねえんだよ!』

 

 はい。 日を跨いで随分経ってもこのポンコツ全然言葉を覚えてくれません。

 

『だってぇ、こんなの私の想像してた異世界じゃ無いんですもん。 なんかやる気出ないんですよねぇ』

 

 無造作に置かれた鉛筆を手に取り、コロコロと転がし遊び出す始末。

 

『もう俺教えなくて良いか?』

『ごめんなさいごめんなさい! __あっ! そうだトーフさん! 獣人の女の子を口説く言葉を教えて下さいよ! それならスンナリ覚えられる気がします!』

『んなもん知るか! あ、というかあんまり獣人の話題出さない方がいいぞ』

『え? なんでです?』

 

 視線が机の上から俺の顔へと移動し、鉛筆をいじっていた手が止まった。

 俺の次の言葉を待つように、その表情も幾ばくか硬くなっている。

 

 

『日本じゃあんまり無かったかもだけど、世界的にみて人種差別はあっただろ? それと似たようなもんだ』

『え! 獣人って差別されてるんですか!?』

『昔は奴隷扱いが当たり前だったみたいだな。 今はだいぶ改善されてるみたいだけど、そもそも人が多く集まってる処に顔なんて出さないし、獣人族の集落なんて行こうもんなら袋だたきに遭うんじゃねえかな』

『そんな…… 私の夢が』

『どんな夢を…… ああ、言わなくて良いからな。 なんとなく察した』

『……いや、そんな違う種族、差別の中で芽生える愛情というのもあり? むしろバッチ来い』

 

 先ほどの真剣さは何処へやら。 二ヘラと顔を緩ませてブツブツとよこしまな事を呟きだした。 まーたトリップしちゃったよ。

 コイツが言葉を覚えられない原因は間違いなくこの妄想癖だ。 この数時間で7,8回は飛んでる。

 

 いい加減に面倒なので、魔法で小さな水球を作りだしコイツの顔面へと放った。

 

『キャッ! つ、冷たー』

『戻ってきたか?』

『と、トーフさん! 今のなんです!? 魔法ですか!?』

『そうだよ、ほら続きだ』

『ほ、他にも使える魔法ありますか!? 私、見てみたいです!』

 

 興奮して前のめりになるルナ。 めんどくさい。 魔法使うと疲れるんだよなあ…… あ、そうだ。

 

『じゃあ単語1つ覚えるごとに一個魔法を見せてやろう』

『分かりました! 私頑張ります!』

 

 おお、わかりやすい奴。

 

 その後、朝日が昇る頃まで言葉を教えた結果。

 計14個の単語を何とか覚えさせることができた、最初からその集中力を出せってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドタバタという音で目が覚めた。

 まだ瞼が重いが、陽はもう高くに登っているようで、開いた薄目に日光が眩しい。

 

 

「おはようございます! トーフさん!」

 

 勢いよく開かれた扉の向こうにルナの姿が見えた。

 

『おー、挨拶は完全に覚えたみたいだな』

『はい! さっそく魔法を見せて下さい!』

『すぐ行くから外で待っててくれ』

『はい!』

 

 再びドタバタと音を立てて彼女は去って行く。

 

 欠伸を漏らしつつ身支度をした。 外へ出ると、如何にも準備万端といった様子で待っていたルナ。

 

『お待たせ。 取りあえず森に行こう、ここじゃ周りに迷惑だからな』

『はい!』

 

 

 元々が森に囲まれた村だ、人気の無いところなんてソレこそ周りに溢れている。

 暫し歩き、木こり達が仮眠を取る小屋を過ぎるとそこはもう森の中。 これから切り倒されるのであろう、目印の赤い布が巻かれた木々が幾つか顔を覗かせている。

 

 近くの手頃な切り株にルナを座らせた。 

 

『さて、じゃあ見せてやろう』

『待ってました! 14個ですよ! 14種類!』

『慌てない慌てない。 まずは基本中の基本__「ファイア」!』

 

 地面へと向けた手のひらから火の玉が飛び出す。

 大した距離が無かったとはいえ、飛び出した火球はすぐに地面へと接触し、そこにある落ち葉へと引火した。

 

『続いて、「ウォータ」!』

 

 その火に向けて、深夜ルナへと放った水球。 ウォータを放ち、消火した。 

 

『そんでもって、「ウインド」!』

 

 最後に強風を起こすウインドにて、辺りの落ち葉を上空へと吹き飛ばす。

 

『どうだ!』

 

 出来る限りのドヤ顔をルナへと向ける。 

 ポカンとした顔。 顔についた泥を拭いもせずに俺を見ている。 ふふふ、驚いておるわ。

 

『なんか__ ショボくないです?』

『……あ?』

『自分で火をつけて消しただけじゃ無いですか! ライターで遊んで喜ぶ小学生じゃないんですよ私は! しかもなんで最後泥水まで飛ばしたんですか!? 顔に付いちゃいましたよ!』

『はああっ!? 見せてやったのになんだその言いぐさは!』

『私はもっと凄いのが見たいんですよ! 雷落とすとか! 竜巻を起こすとか! 大爆発を起こすとか! そういうのを求めてるんです!』

 

 こ、このクソ女。

 

『ふざっけんな! んな魔法使える訳ねえだろ!』

『じゃあ残りの11個は何を見せる予定だったんです?』

『……つらら出したり、明かり出したり』

『他には?』

『それしか使えんわ! 文句あるか!』

『はあっ!? じゃあ沢山言葉覚えた意味ないじゃないですか!』

『はーいはい残念でしたー。 沢山言葉覚えられてよかったですねー』

『うっわ開き直るんですか、この白髪頭!』

 

 小声でウォータを唱える。

 ざまあみろ。 ビショビショになりやがった。

 

『ああーっ! 何するんですか!』

『おーおー、悪うございました風邪引く前に着替えたら?』

『私この服以外に着替えないですよ!?』

『そいつは愉快だ』

 

 ギャーギャーと騒ぐルナを尻目に切り株へと腰を下ろす。

 ウインドで辺りの落ち葉を一カ所に集める。 周囲に燃え移らないように集めたら、ファイアで点火してやる。 簡易的なたき火の完成だ。

 

『ほおらたき火だ。 乾かせば?』

『うっわ、すっごいムカつきます』

 

 頬を膨らませ、足跡がくっきり残る程に力強くたき火に近づくルナ。 分かりやすく怒っている。

 ちょっとやり過ぎた。

 

 母さんに頼んで適当に服を見繕ってもらおう。

 

『あの、トーフさん?』

『あ? ああ、悪かったよ。 やり過ぎた』

『い、いえ、トーフさん。 し、召喚魔法みたいなのって使ったんです?』

『だからそんな魔法使えないっての』

 

 また話をぶり返すのかと思いきや、どうにもルナの様子がおかしい。

 こちらの方を見てはいるが、視線は俺の後ろに行っているし、何より今までの怒りの表情がすっかり消えている。

 

『じゃ、じゃあ、その後ろの方は』

『何? 後ろに何が…… ッ!』

 

 振り返った俺の視線の先。

 

 子供ほどの身長、異常に発達した筋肉。 醜悪な顔を愉悦の表情に歪めてそいつは、”ゴブリン”がそこにはいた。

 

 手に持った太く長い木の棍棒の先には、誰のモノかも知れない真っ赤な生肉が付着していた。 

 

 

 

 

 

 




 あ~んハイボール美味しい~。
 どうしてこうもお酒とピーナッツって合うのでしょう?

 感想などありましたら書いて頂けると嬉しいです!


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4話

『ゴ、ゴブリン!? なんでこんな処に?』

 

 ゴブリンは群れで暮らす魔物だ。 群れを大きくすることはあれど、場所を移動しない事。 そして繁殖速度が非常に速いことで知られている。

 六年前、この村の近くにはゴブリン達はいなかった筈。 俺がいない間に出来ていたとしても、こんな村から離れていない場所で現れるのならば、とっくの昔に他の誰かが気づいて対処しているだろう。

 

『はぐれのゴブリンなんて滅多にいないんだけどなぁ……』

『ト、トーフさん! 早く逃げましょうよ!』

 

 既にゴブリンに対して背を向け、顔だけをこちらにやったルナから声がかかる。 初めて魔物を見たならまあこういう対応になるだろう、俺も似たようなもんだったし。 それに、まず日本じゃお目にかかれない存在だものなあ。

 

『目、閉じろ』

 

 返事は聞かずに強烈な閃光を生み出す魔法、”フラッシュ”を放ち、ゴブリンの視力を奪う。 続き、”アイシクル”氷柱を生み出す魔法だ。

 ソレをゴブリンの背後にビッシリと作り出す。

 

『いやああ! 嫌! 何も見えない!』

『あー、ごめん。 言うの遅かったな』

 

 最後にウインド。

 先ほどとは違い本気で放ったウインドは、容易にゴブリンを後方へ吹き飛ばした。

 

 そしてその勢いのまま、先のアイシクルによって作り出された氷柱へと突き刺した。

 

 凄まじい絶叫が辺りに響き渡り、紫色の血液が落ち葉を染めていく。

 放っておいても絶命するだろうが、もしもまだ他にも居るのならやっかいな事になる。 近くに落ちていた大きな石を持ち、ゴブリンへと思い切り投げつける。 直撃した顔が歪に、絶叫が鳴り止む。

 

 こんな事なら剣を持ってくれば良かった。

 再び手頃な石を見繕い、既に事切れそうなゴブリンに確実なとどめを刺す。 

 

『イヤあああ!』

『ごめん、ルナちょっと静かにしてくれ』

 

 強引だが、未だ錯乱しているルナの口を手で押さえて黙らせ、周囲の音を探る。

 仮にこのゴブリンが群れの一部だった場合、他の奴らの足音だったり鳴き声だったりが聞こえる筈だ。

 

 

 

 

 

__しばらく待った。 風に靡く葉の擦れる音以外は何も聞こえない。

 

 口を押さえつけていた手を叩かれた。 どうやらルナも冷静になったようだ。

 大声は出さないようにと注意してゆっくりとルナの口から手を離す。

 

『……トーフ、さん。 あの怪物は?』

『もう死んでるよ。 あ、見ない方が良いぞ』

『言われなくても、見たくないです』

 

 しかし、他が現れない処を見るにやはり群れからはぐれたゴブリンだったのだろう。 

 

 亡骸に近づき、手に持っていた棍棒を取った。

 先端に付着している肉。 動物のモノならいい、しかし仮に村の誰かだったら…… 嫌だな、考えたくない。

 

 しかしまずはこの亡骸を地面に埋めてしまわなくては。 放置なんかして、他の野生動物がここに集まったら大変だ。

 

 幸いにして、近くの小屋の中にスコップがあった。

 深く土を掘り、亡骸をそこに入れ、土を被せる。 これが全身使うのなんのって。

 

 

 一連の作業が完了する頃には、全身汗だく、泥だらけになっていた。

 

『終わったぁー』

『お疲れ様です、トーフさん。 ごめんなさい、お手伝いできなくて……』

『いいって、こういうのは男の仕事だ。 さあ、取りあえず帰ろう。 疲れたよ』

『はい』

 

 そんなわけで、森から村へと戻ってきた訳だが、やけに人が少ないことに気がついた。 

 少ないと言うより、誰一人見かけない。

 

 大分傾いてきたとはいえ、太陽はまだ出ているというのにも関わらず、外に誰も居ない。 どこの家の中も人のいる気配が無い。 全くもって生活音がしない。

 

 先のゴブリンといい、変だ。 嫌な予感がする。

 

 急ぎ足で家へと帰るが、そこにも誰も居ない。 母さんも、モーブも。

 

『皆さん、どこに行かれたんでしょうか…… まさか、さっきのゴブリンに!』

『いや…… それは無いと思う』

『でも! ゴブリンの持ってた武器に血が付いてたじゃないですか!』

『いくら魔物だとしても、ゴブリンなんて大人が3,4人いればまず無傷で倒せる。 第一、皆居ないだけで、家が壊されてるとか、誰かが死んでいる訳じゃ無い。 だから…… 取りあえず村長の家に行ってみよう。 あそこなら誰かいるかも』

 

 ルナに言っているようで、自分に言い聞かせているだけのような気がする。 おかしな事が一気に起こりすぎだ。 絶対におかしい。

 

『じゃ、じゃあ早く行きましょう!』

『ああ!』

 

 再び家を出て村長宅へ向かった俺達。 __しかし、結果は変わらなかった。

 

 誰も居ない。 いない。

 仕方なしに、村長宅より家へと帰る事にした。 

 

 

 

 

「一体なにが……」

『皆さん、どこに行ってしまったんでしょうか…… あ__ ト、トーフさん! あそこ!』

 

 ルナが突然大声を出し、正面に指をさした。

 

「__あっ! ポリフさん!」

 

 そこには一人の男性が、この村唯一の医師であるポリフさんが倒れていた。

 急いで駆けより、声をかけた。

 

「大丈夫ですか! 一体、何があったんですか!?」

「……ああ、誰かいるのか? もう目が、耳も聞こえなくなってきた……」

 

 呼吸が浅い。 端から見て、怪我をしているわけでも無いのにその顔には血の気が無い。 

 

 そして気がついた。 ポリフさんの両目が、真っ黒に染まっていた。

 

「トーフです! ポリフさん!」

「トーフ? ああ、あのはな垂れ小僧かあ…… そうか、帰って来てたんだったねぇ。 大きくなったんだろうねぇ」

「何があったんですか!?」

「僕にも分からないんだ…… 診察の帰りに、急に力が抜けたと思ったら行き成り真っ黒なナニカが現れて…… 他の皆、は? け、怪我とかしてないかい? 僕に、できる事は…… ある、かい?」

 

 言葉がどんどん小さく、掠れていく……

 言い終わると同時に、力なく目を閉じたポリフさんは、もう二度と目を覚ますことは無かった。

 

 

「何だよ…… 何なんだよ! コレは!」

『__魔王』

 

 ルナが呟く。

 

『もしかして…… 魔王が現れたんじゃ無いですか?』

『何言ってんだ! そんな存在はおとぎ話の中だけだ!』

『でも! こんなのあり得ないじゃ無いですか! 今朝まで皆さん普通に生活されてたのに、急にいなくなっちゃうし、この方の亡くなり方だって普通じゃありません! 異常ですよ!』

『だからって、魔王なんて』

『現に私は神様から魔王の討伐を頼まれました!』

 

 信じられない。 しかし、だからと言って俺にこの状況に対して、しっくりくる答えで反論することができなかった。

 

 無言のまま、ポリフさんの亡骸を彼の家まで運んだ。 

 そして誰も居ない家へと帰ってきて、しばらく自室に籠もった。 ルナはリビングだ。

 

 

 色々な考えが頭をよぎる。 

 ポリフさんの事。 母さんの事。 モーブの事。 村長の事。

 

 そのうちに何だか涙が溢れてきて、気がついたら夜になっていた。

 

 

 俺は、どうするべきだろう。

 何をすべきだ? 何ができるんだ? どう行動するのが正解なのだろう。

 

 また一人思考の海に浸る。

 

 

 そうして、ようやく答えが出た。

 

 

 

 

 

 

 

『あっ、トーフさん。 ……大丈夫ですか?』 

 

 リビングに向かうと、そこに正座をしていたルナから声がかかった。

 

『大丈夫じゃあないかな。 でも、動かないと』

『はい…… あの、トーフさん。 頼みがあります』

 

 真剣な眼差し。 座り直して俺を真っ直ぐに見つめている。

 

『どうかお願いです。 魔王の討伐を手伝っては頂けないでしょうか』

『あ、ちょっとまって。 そのままの姿勢で、俺からも頼みがあるんだ』

 

 そう言って頭を下げようとするルナを制した。

 

 __俺の答え。

 

『俺は、この村で起きた事を知りたい。 皆が何処に消えてしまったのかを知りたい、もう一度皆に会いたい。 もしもルナの言うとおり、コレが本当に魔王の仕業だとしたら、きっと世界中で異常が起きる筈。 それを追えばきっと真相にたどり着けると思うんだ』

 

 一度言葉を切って頭を下げる。

 

『どうかお願いします。 俺を、一緒に連れて行って下さい』

 

 




 今日も明日も明後日もお仕事なんじゃ~!!!

 ハイボール呑まなきゃやってられんね、どうも。

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