ありふれないエアレイダーで世界最強 (ALEX4)
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第一話
学校ではいつもの光景が繰り広げられていた。
遅刻ギリギリで南雲ハジメが登校し、クラスの小悪党組がそれを揶揄う。
「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
そんな南雲ハジメに好意を抱いている白崎香織が声をかける日常。
その教室で机に突っ伏して眠る男・・・須藤武一(すどうたけかず)が一人いた。
身長は平均的だが自主トレーニングを自宅で行い細いが意外と筋肉の付いているいわゆる細マッチョの分類である。
「須藤君が少し早く来てHR前に寝ているのはいつもの事だけど、なんかうなされてない・・・?」
香織の親友の八重樫雫が普段とは少し違う様子に気付いた。
まるで悪い夢を見ているかのように汗を掻いている。
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
「攻撃は苛烈!攻撃は苛烈!」
「救援部隊はまだか!?」
「糸が!糸が巻き付いて!誰か助けてくれーっ!」
「さ、酸だー!!」
「い、嫌だ!喰われっ!ぎゃあああぁぁっ!!」
遠くから聞こえる友軍や逃げ惑う一般市民の悲鳴や怒号に近い叫び声。
巨大な蜘蛛や蟻、武装した二足歩行の巨大なカエルの攻撃と言う悪夢。
建物に身を隠し、空爆を要請していると肩を誰かに揺すられた。
「!?」
近距離護身用のサプレスガンを思わず構えるがそこには誰もいない。
敵の砲撃で崩れたビルがあるだけだ。
再び身体が揺れる。
理解不能な状況に思わず戸惑う。
「・・・ん・・・・・・くん・・・」
無線機から聞き慣れないノイズが聞こえる。
「本部か!?ノイズが酷くて聞き取れない!」
「須藤君!」
唐突にノイズが鮮明になる。
それと同時に。
「はっ!?」
ガバッと顔を上げた。
「須藤君大丈夫?大分うなされていたけど?」
クラスメイトの八重樫雫が少し心配しながら話しかけてくる。
「あ、あぁ・・・」
目が覚めると同時に先程まで見ていた夢の内容は瞬く間に霧散してゆく。
数秒でどんな夢を見ていたのか思い出せなくなる。
「うわ・・・凄い汗だな・・・」
時計を見れば僅かな時間しか過ぎておらず、少しの間のうたた寝でこの大量の寝汗を掻いていた事になる。
「それにしても、今日は眠そうね」
「うーん・・・何故か昨日は寝付けなくて」
他愛のない話をしているとHRが近付いてきた。
授業をスケジュール通りにこなし、そして須藤の楽しみの昼飯前の授業になる。
社会の教師の畑山愛子が教室に入って来たのだ。
間髪入れず
「愛子ちゃん先生好きです結婚を前提に付き合ってください!」
と須藤が告白をし
「はいはい、須藤君はいつも通り出席ですねー」
と、愛子は慣れた様に受け流す。
楽しい時間はあっと今に過ぎるとはよく言ったもので、苦行だったそれ以前の授業はめちゃくちゃ長く感じたのに社会の授業はあっという間に過ぎていった。
「ああ・・・今日の楽しみが終わっちまった・・・。今愛子ちゃんは他の生徒と楽しそうに会話してるし邪魔なんて無粋だ。それに明日は愛子ちゃんの授業ないし、学校休もうかな・・・」
「いや、来なさいよ」
絶望感たっぷりのオーラを身に纏う様な感じの武一に雫がツッコミを入れる。
「それより、もうお昼よ」
「ああ、そうだったな・・・ん?」
ふと見れば友人の一人である南雲ハジメが白崎香織に昼食に誘われ、それに何故か・・・・。
「って、アイツ誰だっけ?」
「え・・・?天之河君でしょ?朝もそうだったけど、疲れてるんじゃない?」
「ああ、そうかもな。帰りに栄養ドリンクカクテルしてでドーピングするか」
頭を働かせつつ、立ち上がるが少しふらつく。。
その天之河がそのハジメに絡んでいたが香織に軽くあしらわれていた。
「え?」
「なに?」
「きゃあ!?」
床にひかる奇妙な模様が広がったと思うと教室のあちこちから戸惑いの声が上がると同時に視界が真っ白に染まる。
教室から避難する様指示する愛子の声が聞こえるとほぼ同時だった。
時間にして僅か一瞬の出来事だっただろう。
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「おおおおおっ!!」
「撃て撃て撃て撃てっ!」
「敵には当てろ!民間人には当てるなよ!!」
周囲には複数の兵士がいて一斉にアサルトライフルを構えて撃っていた。
その戦闘相手は巨大な蟻だった。
「ぎゃあああぁっ!!」
運悪く巨大蟻の放った酸の直撃を受けた逃げ惑う群衆の一人の身体がドロドロに溶けて行く。
地獄のような光景。
その光景はすぐに別の光景に変わった。
周囲の兵士がアサルトライフルやバズーカを撃っている。
それだけではなく、戦車が轟音を立てて戦車砲を発砲している。
戦車砲の直撃で吹き飛ぶのは巨大な蜘蛛。
だがその後方からは数え切れない量の巨大蜘蛛が近く。
『こちら戦略情報部。先に遭遇した黒い怪物をα(アルファ)、糸を出す怪物をβ(ベータ)と命名します。β型は俊敏ではありませんが、酸を含んだ糸を出すため非常に危険です』
「おい見ろ!大型円盤だ!」
「怪物を投下しているぞ!!」
夢の中の自分の身体が勝手に動き、巨大蜘蛛の群に向かって何かを思い切り投げ付ける。
『エピメテウス浮上完了!発射体制に入ります!ミサイル発射!』
少しの間をおき飛来したミサイルが巨大蜘蛛の群れを吹き飛ばす。
『今の要請は民間人からだと!?馬鹿者!』
景色が変わり、どこかの街中にいた。
しかし周囲にいるのは同じ兵士達で小型ミサイルを発射する車輌が何台も並んでいる。
「来たぞ!」
誰かが叫ぶと同時に一斉に小型ミサイルが放たれる。
その先には巨大な蜂の群れ。
その巨大蜂は鋭い針を飛ばして来た。
他の場所からもミサイルが発射され巨大蜂の大群の一部が吹き飛んだ。
その戦闘と巨大蜂の舞う大空の中、コンテナを吊り下げた輸送機が上空に飛来する。
『こちら輸送機ノーブル!新しいビーグルを持って来た!』
『コンテナ投下!ビーグルに搭乗せよ!』
コンテナが内側から開き、その中にあったミサイル戦闘車に駆け込むとエンジンを始動しアクセルを踏む。
地上に落下した巨大蜂の死骸を避けつつ誘導ミサイルを発射する。
巨大蜂が攻撃したこちらに気付き、距離を取るため急ターンしてアクセルを踏み込む。
巨大蜂の死骸が少なくなり、代わりに針に貫かれ絶命した兵士達の亡骸が多くなって来る。
敵味方識別マーカーで生存していた友軍と合流すると同時に迫って来ていた巨大蜂の群れを押し返す。
次の光景では自分の体は山頂の様な高地にいた。
手に持った装置を構えていた。
その装置から放たれる光の先にあるのは地上に直立して聳える巨大な蜂の巣。
装置に表示されたゲージの色が変わる。
その直後。
『スプライトフォールデストロイモード、ファイア!』
無線音声と共に天空から幾つもの光の柱が降り注ぐ。
巣にダメージは元より、運悪く光が降る場所に飛んでいた巨大蜂が黒焦げになって地上に落ちる。
『この衛星を作ったのは私、つまり私が神!』
MADな衛星開発者の声が無線機から聞こえる。
直撃を受けた巣は表面が少し削れる程度だがその削れた場所に地上のレンジャーやフェンサーの砲撃やウィングダイバーの荷電粒子兵器の攻撃が集中し傷口を広げ遂に一部が崩れ落ちる。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
「・・・・ん?」
目が覚め、少しぼんやりとしながら辺りを見回した。
「・・・・愛子ちゃん先生・・・?」
「須藤君!目が覚めたんですね!良かった!」
目尻に涙を溜めて愛子が抱きつく様に駆け寄って来た。
「ここは・・・?」
辺りを見回す。
夜なのか部屋は少し暗く、サイドテーブルや壁に何かの光源があるのか薄明るい程度だ。
自分の寝ているベッドは上質な素材なのか肌触りがいい。
「え?何処ここ?」
「戸惑うのは分かります。順を追って説明しますね」
「ま、まさか・・・ここはラブホ!?」
「はへ?」
「いやぁ、愛子ちゃんって意外と大胆なんだなぁ。でも、据え膳食わぬは男の恥!さぁ、まずは熱いキスから!」
「ら、ラブホテルなんかじゃありませーん!」
バッチーン!
乾いた音が響いた。
「痛い・・・」
「は、はわわわわ・・・。す、すみません・・・」
少し落ち着いた。
「ええと・・・それじゃあ説明しますね・・・」
時は遡り、視界が光に包まれた直後。
教室にいた全員が全く違う場所にいた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は聖教教会にて教皇の・・・」
「先生!須藤君の意識がありません!!」
見ず知らずのジジィの声を雫が遮った。
一同が動揺する中、愛子は須藤の元に駆け寄る。
「須藤君!須藤君!?」
ハジメが須藤の身体を揺さぶるが反応は無い。
「南雲君、無闇に動かしちゃダメです!頭を打っているかも!」
「え?は、はい!」
「誰か救急車を!」
「だ、駄目です!圏外で繋がりません!」
「俺のもだ!」
「嘘!?私のも圏外!?」
パニックに陥る生徒達。
周囲にいた奇妙は服装の一同が宥めるように声をかけ、先ほど遮られたジジィが再度自己紹介を行った。
主人公の名前の別の読み方、分かりやす過ぎましたかね?
須藤武一
須藤武・ストーム
一・ワン
というこじ付けでストームワンです。
区切りが変ですけど。
また思いついたら投稿します。
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第二話
「と、言うわけでして・・・」
「えーと、今日ってエイプリルフールでしたっけ?」
「信じられない気持ちは分かります。私も今でも信じられません・・・」
「・・・・異世界召喚かぁ・・・」
「それで、明日から訓練を開始すると言うんです。私は教師としてだけではなく、一人の〝大人〟として生徒のみんなを危険な場所に生かせるわけには行けないんです!」
ふんすっ!と言うかんじに意気込む愛子。
「・・・・いっそ、ここで愛子ちゃんと暮らしたいなぁ・・・」
ボソッと呟く。
「え?今何か言いました?」
「いえ、独り言です。ってか、天之河の奴、戦争がどれだけ悲惨か知ってるのか・・・?相手が圧倒的な戦力を持っていたらプライマーみたいに・・・・え?」
自分は今、何を口にしたのか?
いや、そもそも、何故夢の内容をはっきり覚えている?
プライマー、テレポーションシップ、テレポーションアンカー、侵略性外来生物αにβに飛行型、それらの超巨大版にアーケルス、エルギヌス、巨大なカエル型二足歩行生物に巨大なグレイ型エイリアン・・・。
夢の中で戦っていた敵の名前を覚えている。
それにこの夢は何度も見ている。
夢?
本当に夢なのだろうか?
生々しすぎる。
まるで本当にあった事を思い出しているような感覚・・・。
「須藤君?」
愛子の声が武一の思考を中断させる。
「え?ああ、ちょっと考え事を・・・」
「無理しないで下さいね?半日近く意識がなかったんですから・・・」
「そう・・・ですね。今日はもう、寝ます」
愛子と別れの挨拶をし、武一は一人静寂に包まれ自身の呼吸音と身体を動かした時に出る音以外無い部屋で夢の内容を再び考える。
先ほどの夢はなんだったのか。
夢の中ではまるでそこにいたかのような感覚だった。
味方や逃げ惑う群衆の怒号に悲鳴。
今までは起きたらすぐに忘れてしまっていたが・・・・。
朝。
目が覚めて伸びをする。
幸か不幸か、あの夢は見なかった。
だが昏倒していた間に見ていた夢の内容は強烈過ぎてはっきりと覚えている。
考え込んでいると朝食の準備ができたと告げられ、食堂に向かう。
「あ、須藤君。昨日は大丈夫だった?」
ハジメが声を掛けてきた。
「ん?ああ、今はもう大丈夫だ。ところで、倒れた奴は俺以外にもいるのか?」
「え?いや、須藤君だけだったよ」
「そうか・・・」
ハジメと話しながら腹を満たしていると・・・。
「須藤、君は普段から体調管理をキチンとしているのかい?」
いけ好かない声が聞こえた。
「天之河か。珍しいな、お前が俺に話しかけるなんて」
基本的に接点の少ない天之河とは必要最小限の会話しかした記憶がない。
「イシュタルさんも心配してくれていたぞ、どれだけ経っても目を覚まさなかったんだからな」
「へいへい、すみませんねぇ・・・・てかイシュタルって誰だよ・・・?」
最後の方は本当に小声で天之河には聞こえていなかった様だ。
「今日から訓練なんだ、君も南雲もちゃんと身体を鍛えるんだぞ」
「なんで?」
「なんでって・・・この世界を救うからに決まってるだろ!」
「誰が同意した?」
「あぁ、そうか。須藤は意識を失っていたから聞いていなかったのも仕方がないか。じゃあ、説明してやる」
その後、天之河の有難いトータス救済戦争参加のプレゼンが始まった。
「と、言うわけでこの世界の人々は困っている。困っている人を助けるのは人として当たり前のことだ」
「へぇ・・・。つまり、天之河は俺達を誘拐したこの世界の為に強制じゃなく自発的に殺すか殺されるかの世界に飛び込むわけか・・・。いやぁ、天之河の戦争参加宣言でこの中から何人生きて帰れるかなぁ?生きて帰れても五体満足なのが何人いるかなぁ?」
「そんな大袈裟な・・・」
「大袈裟?戦争ってのは殺し合いだぞ。この場合は種と種の絶滅を賭けた戦いだから相手も本気も本気だろうしな。聞き齧った程度だが、この世界には魔法が当たり前に存在するんだろ?爆発する爆弾の様な魔法とかもな。そんなのを至近距離で受けたら腕が吹き飛んだり腹が破れて内臓飛び出たり、そりゃあ映画だったらR-18G指定のグロい死体の出来上がりだろうな・・・。くっ・・・?」
ズキンッと頭が一瞬痛んだ。
その一瞬に別の光景が見えた。
侵略性外来生物α赤色種によって食い散らかされた人々や仲間の酷い死体が・・・。
「須藤君、大丈夫?昨日の今日なんだから興奮しないで座った方がいいよ・・・」
無意識に頭に手をやったのを心配したハジメが声を掛けてくる。
「あ、あぁ・・・そうする・・・・」
戸惑いながら椅子に腰掛ける。
「みんな、食事中にすまなかった」
近くにいて俺の言葉が聞こえて自分が死体になっている光景を想像したのか数名が青褪めて食事の手を止めているクラスメイトに謝罪する。
「とにかく、周りの迷惑になるから今はこの話は終わりだ」
そう一方的に天之河に言い放ち食事を再開する。
天之河がその後も何か言い続けてきたがスルーする。
なにしろ、今はあの変な夢のことを考えたい。
眠っている間のことならただの夢だ。
しかしつい先程、一瞬だったが起きている時にあの夢と関連する光景が見えた。
いや、そもそもこれは本当に夢なのだろうか。
あの絶望的な戦争の光景。
しかし、どこか懐かしさをも感じた。
まるで、かつて自分がそれを経験していたかの様に・・・。
ステータスプレート。
どの様な仕組みか理解できないが血液を垂らすだけで能力などが数値化されて見える物らしい。
それを表示する際の言葉も〝ステータスオープン〟とか。
「まるでゲームだな・・・」
視界の端では勇者としての高いステータス数値を讃えられて照れている天之河の姿があった。
「どれどれ・・・ステータスオープン」
興味半分で自身のステータスを表示される。
須藤武一 17歳 男 レベル:1
天職:エアレイダー(ストーム1)
筋力:20
体力:30
耐性:15
敏捷:25
魔力:0
魔耐:0
アーマー:0
技能:EDF支援要請(功績不要)・言語理解
「なんだこれ?」
2、3度目を擦るが変化はない。
その様子に気付いたメルドと言う名の訓練教官の役になった騎士団長が近付いてきて俺のステータスを覗き込む。
うん、日本だったら個人情報保護法に引っかかりそうな道具だこれ、とどうでもいいことが思い浮かんだ。
メルドはステータスプレートを指で突いてみたり光にかざしてみたり立てて右斜め四十五度で衝撃を加えてみるが変化はない。
「天職がエアレイダー・・・?しかも括弧内に別のストーム1とか言うのがあるな。・・・・基本能力値にアーマーと言うのが追加されている・・・?技能も・・・見た事がないな・・・。EDF支援要請・・・?なにかしらの支援を必要とする技能か・・・?」
腕を組んで考え込むメルドだったが答えは出なかった。
取り敢えずと剣を渡され、剣の訓練をすることになった。
そして国の宝物庫からのアーティファクト大放出。
勇者(笑)の天之河はまるでRPGに出てくる様なカラーリングの鎧や剣を与えられた。
ほぼ全員がアーティファクトを選び終えた。
しかし武一は未だ決まっていない。
なにしろ天職が意味不明の職業なのだ、アーティファクト選びのサポートをする宮廷魔術師達も戸惑っていた。
「この箱はなんですか?」
そんな中、宝物庫のアーティファクトを眺めていた武一が隅で埃をかぶっている薄汚れた木箱を見付けた。
それを見た宝物庫の管理者は戸惑った。
仮にも王宮の宝物庫、掃除は万全のはずなのに何故埃をかぶったこんな汚い木箱が?と。
木箱はしっかりと釘で蓋を固定され、しかしメルドは管理者に断って道具で蓋をこじ開ける。
箱の中には頭部にかぶる様なフルフェイスヘルメットの様なものと背中に背負う何かが入った背嚢の様なもの、そして上下セットの服の様なものがあった。
背嚢は口が硬く縛られており、中にゴツゴツした何かが入っている。
包んでいる布の様なものも金属の様に頑丈でなぜか破いたり切り裂く事ができない。
武一はそれに何故か惹かれ、それを選んだ。
宝物庫の管理者からすれば自分の見知らぬ気味悪いものが始末でき、宮廷魔術師にとっては天職が意味不明の者へのアーティファクト選びが終わる、まさに一石二鳥。
訓練へ向かう一行を見送った宝物庫の管理者は部下に命じて薄汚い木箱を処分する様命じた。
木箱は解体され、炊事場で薪に使われる。
薪をくべる飯炊の人物は木箱の残骸を手に取る。
その残骸にはよく見ないと分からないが掠れた文字が書かれていた。
しかしその文字を理解出来ない飯炊はそのままそれを火にくべ、調理に移った。
この飯炊が文字を理解出来なかったのは当然である。
それは異世界の文字であり、この世界の住民にとって読む事は出来ないのだから。
その燃えてゆく木箱の残骸にはこう書かれていた。
〝EARTH DEFENSE FORCE 極東支部 空爆誘導兵制式装備〟と。
ちなみに武一が何故この文字に気付かなかったのかは単純であり、単に宝物庫の光源の位置が悪かったのと光量が少なかったためである。
なんでトータスにEDFエアレイダー装備があるのか?
それは地球の神様からの粋な贈り物です。
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第三話
個別に返信するのが難しいですが励みになります。
では、駄文ですがどうぞ。
数日間の基礎訓練を終え、訓練の一環として多数の冒険者が潜るオルクス大迷宮に来ていた。
その基礎訓練中だけでも様々な事があった。
まず、小悪党組の檜山達の増長だ。
日本では法による処罰などが明文化されていたがこの世界では勇者一行の仲間という事である種の特権階級となった事もあり、更に魔法と言う能力を手に入れたのだ。
人間、手に入れた力は使ってみたくなるのが当然とでも言うかの様に檜山はその力を行使してハジメをリンチした。
騒ぎを聞いて駆けつけた勇者(笑)の天之河だが・・・どこをどう解釈したらその考えになるのか檜山達はハジメに強くなって欲しいと訓練をしてくれていただけだから感謝するべきだし、むしろ弱い自分が恥ずかしくないのかと見当違いの説教まで始める始末。
これには香織と雫もドン引きしたらしい。
らしいと言うのは、その時武一は自身のアーティファクトの使い方を考え試行錯誤していた時であり現場に居合わせなかったのだった。
結局アーティファクトの使い方は不明であり、しかし身に付ける物なのでそれを着込み今日ここに来た。
その格好を見たハジメからはSFみたいな格好だと言われたが使い方が不明なのだから仕方がない。
唯一現在使えるのはメット部分のフェイスシールドにまるでレーダーの様に自身を中心として青や白の光点で人の位置が表示されているのだ。
とは言え、いつもそれでは息苦しく街中や道中ではフェイスシールドを上げている。
最初は迷宮と聞いた時は荒地に迷宮の入り口があると勝手に想像していたが意外な事に入り口は巨大な門が築かれ、宿場や食堂が軒を連ねている。
中には土産物屋まであり、一種の観光地の側面もある様に感じる。
迷宮内では訓練の為に順番で魔物を倒して行く。
最初の魔物を仲間が倒した際、魔物の死骸の場所に奇妙な物がPOPした。
肉眼では見えないがフェイスシールドを下ろすとAR(拡張現実)でそれは表示された。
〝ARMOR〟と白字で書かれた小型の真っ赤なコンテナの様な物でレーダー上では緑の光点が表示される。
試しにそれに触れるとそれは消える。
周りから見れば魔物の死骸の上の何もない空間に手を伸ばしているかの様に見えている為に変な目でクラスメイトから見られている。
少し赤面しつつもふとステータスプレートを見る。
アーマーの項目が1に増加している。
訓練で魔物を倒すとそれは現れ、どうやら身体の何処でも触れればアーマー値が上昇する事が分かった。
そしてアーマー値が上昇するとダメージが軽減される事が分かった。
最初は魔物の攻撃を受け止めるだけでも腕が痺れていたがそれが軽減されている。
時折アーマーとは違うサイコロの様な白いコンテナがPOPし、入手するとダメージを負った際に減少するアーマー値が一定割合で回復する。
これには二種類あり、もう一つは2つの白いコンテナが連結した様な形状に〝First Aid〟と書かれている事から仕組みはわからないがアーマーの応急処置をする物だろうか?
自分にしか見えないこと以外にもう一つ分かったことといえば、他の人物が触れても消えない事からどうやら自分専用のPOPアイテムに思える。
ともあれ、セコい様だが仲間が魔物を倒してアイテムがPOPするたびに回収し少しずつだがアーマー値を上昇させる。
魔物の強さによってPOPするアイテム数に変化があるらしく、第一階層ではPOPしても1つだった物が目的地の二十階層目前では一匹あたり2、3のアイテムがPOPしている。
とは言え、現時点での自分の武器は剣のみで相変わらずアーティファクトの使用方法が分からない。
と言うか、これは本当にアーティファクトなのだろうか?
このヘルメットもARで表示がされることといい、機械的な感じがある。
そして目的地の二十階層。
ロックマウントと言う名の魔物に対して勇者(笑)が大技を繰り出した。
狭い空間での威力のある攻撃を繰り出しメルドに鉄拳を喰らう勇者(笑)。
「なぁ、ハジメ」
「うん?何かな?」
「お前、ゴブリ○スレイヤー見たことあるか?」
「一応、原作含めて一通りは」
「勇者(笑)の奴、第一話で狭い洞窟の中で後先考えずに長剣振り回してやられた奴になんか似てね?」
「ああ、うん、確かに。と言うか、勇者(笑)って天之河君の事だよね?そっちの方が言い難くない?」
「そうでもない」
と、ハジメと小声で雑談をしていいる時だった。
香織が何かに気付き、全員がその場所を見る。
勇者(笑)の攻撃の余波で崩れた岩壁の中に宝石の様な何かが見えた。
「ほぉ、あれはグランツ鉱石だな」
メルドがそれを見て答え、どの様な鉱石なのかを簡単に説明してくれた。
「じゃあ、俺達で回収してやろうぜ!」
何故か檜山が器用に崩れた岩壁をよじ登る。
「お、おい待て!まだ安全確認が出来てないぞ!」
メルドが檜山を制止しようとするが。
「だ、団長!トラップです!!」
「何!?」
罠の有無を確認する魔道具でグランツ鉱石を観測していた騎士団員が顔色を変え、慌てた様子で報告する。
「戻れ!それは罠だ!!」
しかし一瞬遅く、グランツ鉱石に仕掛けられたトラップは作動してしまった。
奇妙な浮遊感を感じ、直後に重力がお仕事をし思わず尻餅を作る。
「総員、警戒を怠るな!状況を確認する!」
メルドと部下の騎士団員はは流石と言うべきか、すぐに立ち上がり周囲を確認する。
広大な地下空間に作られた長大な石造りの橋の上。
底の方は全く見えず、まさに奈落が口を開けて哀れな犠牲者を待っているかの様に思える。
パッと。
レーダーに多数の真っ赤な光点が出現しそちらを見る。
無数の骸骨の魔物に・・・・
「まさか、ベヒモスなのか・・・!?」
メルドの珍しく緊迫した声がした。
うん、無理。
即座に脳が理解した。
今の自分ではあれに太刀打ち出来ないどころかメルド達でも事前の準備なくあの敵の群れとパニックに陥っているクラスメイト達を守りながら戦うのは無理だろう。
メルドも同じ考えだったのか、即座に自分達が足止めをしている間にクラスメイト達への撤退指示を出す。
お言葉に甘えてと逃げようとするが・・・。
「俺も戦います!」
と、空気の読めない勇者(笑)が言い出した。
思わず顔が引き攣った。
それは映画なら思いっきりの死亡フラグどころか下手をしたら全滅フラグである。
今の勇者(笑)は騎士団にとって足手纏いにしかならないであろう。
騎士団とメルドは撤退戦で時間を稼ぎ、ベヒモス達を撒いた後にクラスメイト達を安全なオルクス大迷宮の外まで連れて行かなければならないのだから。
メルドは撤退しろと怒鳴り、勇者(笑)は戦うと言って聞かない。
意外にも、そんな状況を打破したのは気弱なハジメだった。
未だパニックに陥っているクラスメイトを纏められるのは無駄にカリスマのある勇者(笑)だけだと言い放った。
(おお、言う時は言うな意外だ)
思わずハジメに感心する。
そしてハジメが敵を足止めする手段を考え付き、それをメルドに提案する。
それはハジメの錬成を使用した足止め作戦。
メルドは未だ訓練の段階のハジメを一番危険な任務に就かせると言う事実に己の力不足を痛感するが今はそれしかないと即座に判断を下す。
「念の為に俺がハジメの護衛をします!」
「武一!?・・・・言い争っている時間はないか・・・!分かった!二人とも行け!」
メルドの許可の元、ハジメと共に駆け出す。
「ハジメ!思いっきりやれ!近づいてきた奴は俺がなんとかする!!」
「うん!でも武一君も無理しないで!錬成!」
ハジメの錬成発動と共にベヒモスの下半身がハジメの錬成によって変化した橋の一部によって妨害される。
「頭良いなハジメ!」
ベヒモスと比べれば雑魚のトラウムソルジャーだが今の自分には大敵だ。
まるで獣に対する威嚇をする様に大きな声や襲い掛かるフリをする俺は側から見れば滑稽な姿だが・・・。
まるで永遠とも思える時間だった。
メルドからもう足止めの必要はないと合図を受け、ハジメと頷き合うと一斉に駆け出す。
同時にすぐ退避できる状態になったクラスメイト達が魔法を放ち後ろに迫っていたトラウムソルジャーとベヒモスに炸裂する。
対してダメージは無いが一時的な足止めにはなる。
再び魔法が放たれ・・・
パッと
味方の中の青い光点の一つが敵を表す赤い光点に変化した。
「何!?」
突然の事態に思わず声を上げる。
何が起きたのかすぐに理解した。
魔法の一つが角度を変え、俺のすぐ後ろを走っていたハジメを吹き飛ばした。
ハジメも突然何が起きたのかわからない様だがすぐに立ち上がろうとする。
グラグラとハジメの足元が揺れる。
先程の魔法が橋にダメージを与えたのかハジメの足元が崩落を始めた。
「ハジメ走れ!崩れるぞ!」
その声に全力疾走するハジメだが、一足遅かった。
「うわああぁっ!?」
崩落に巻き込まれ、ハジメの身体が重力に引かれる。
「させるか!」
ガシッとハジメの腕を掴む。
「ハジメ!絶対離すなよ!どこかに足を掛けられそうな出っ張りとかないか!?」
「な、無いよ!」
「くそっ!」
目の前の赤い光点の塊が再びじりじりと近付いて来る。
そして相変わらず、味方の中の青い光点の一団の中に赤い光点が一つある。
再び魔法が放たれ、檜山がニヤリと笑った様に見えた。
(あの位置・・・やっぱり檜山か!!)
確信と同時に再び魔法が急に角度を変える。
(くそっ!助かるにはハジメを見捨てるしか方法がない・・・出来るかんな事!)
最後の悪足掻きとばかりに渾身の力を振り絞りハジメを引き揚げようとするが悪足掻きは結局は悪足掻きだった。
奇妙な落下感の後、頭上に崩れて行くついさっきまで自分とハジメのいた橋が見える。
手は既にハジメと離れ離れになり、崩落した瓦礫が周囲を共に落下している。
(ああ、手ぇ放しちまった・・・ハジメ、俺が見捨てたと思ってるかな・・・?)
そう考えながら意識を手放した。
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第四話
捏造設定、御都合主義は大好物の作者です。
駄文ですがどうぞ。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
ああ、またこの夢か。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「ぎゃあああっ!!」
「γ(ガンマ)型だ!近付けるな!!」
「ちくしょう!飛び跳ねまくって狙いが!」
「マザーシップが主砲を撃つぞ!!」
「退避!退避だ!」
上空に停滞するマザーシップが主砲にエネルギーをチャージし始め、地上が薄緑色の光に照らされる。
しかし地上の敵は攻撃の手を緩める事はない。
恐怖を感じない侵略型外来生物達は主砲の破壊予想範囲から必死に逃げる者達を追い、その背後からシールドベアラーによって守られた武装したエイリアン達がプラズマ砲等で追撃して来る。
主砲が放たれ、直下にあった団地群は瓦礫に姿を変える。
「俺は五人兄弟だった!でも今は一人っ子だ!!」
そう声を上げながらレンジャーがショットガンの連射で近付いて来るエイリアンの装甲を削って行く。
「お前が生き延びて両親の面倒を見てやれ!!」
その削れた装甲にスナイパーライフルやアサルトライフルの弾丸を叩き込み装甲に穴を開けて行くレンジャー部隊もいた。
『こちら輸送機ノーブル!エアレイダー、新しいビーグルを持って来た!』
上空を飛び交うドローンの大軍を掻い潜り飛来してきた輸送機が発煙筒とビーコンで合図をしたポイントに輸送コンテナを投下する。
『もう一台ある!すぐに持って来るぞ!』
輸送機ノーブルは戦闘空域から離脱しコンテナは落着と同時に内側から解放され、中に格納されていたコンバットフレーム・ニクスに乗り込む。
OSを立ち上げ、戦闘モードに移行。
マシンガンと火炎放射器で近付いて来る侵略型外来生物の群れや武装した巨大エイリアンを死骸に変え、レンジャーとタイミングを合わせてシールドベアラーのシールド内に飛び込みシールドベアラーを破壊する。
残弾がレッドゾーンに入る手前で要請した次のコンバットフレームが投下され、残弾が尽きると同時に新しい別武装のコンバットフレームに乗り込みミサイルランチャーのターゲットをドローンに合わせてミサイルを発射する。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
生存の危機と判定。
全制限を無期限無制限解除。
前世の経験を人格に影響のない範囲で上書き。
どこかで聞いたことのある様な無いような声がどこからか聞こえた気がした。
「うっ・・・・?」
意識をゆっくりと取り戻した。
全身が痛い。
辺りを見回す。
地下を流れる川の中洲の流れ着いたようだ。
全身が中途半端に痛いが幸にして折れている様子は無い。
「・・・・EDF・・・」
思い出す。
前世と言うべきか。
プライマー大戦を中心とした記憶で名前等を含めた戦前戦後の記憶は細かく思い出せない。
今世の記憶ははっきりしている。
先ほど聞こえたような気がする言葉の内容からすると、今世の人格に影響せずに記憶を思い出せるようになったのだろうか。
「・・・・・そうだ、アーティファクト・・・いや、エアレイダー装備・・・!!」
落下の衝撃で脱ぎ掛けたヘルメットを装着し直す。
レーダー表示は正常だ。
だが・・・。
「少し離れたところに・・・いるな・・・」
レーダー圏内に2体、圏外に複数の光点が表示される。
「今いる場所は川の中洲・・・深さはよく分からないけど、取り敢えずは安全か・・・?」
そう一人呟き、所持品の再確認を続ける。
少し水に浸かっていたからか、アーティファクト本体・・・いや、エアレイダー装備の重要な物が入った背嚢のどうやっても開かなかった口紐が水でふやけ、解け掛けている。
近くに落ちた配給の短剣でその口紐をこじ開け、中身を取り出す。
「やっぱり・・・」
エアレイダーがEDFの通信回線や支援要請に使う背負型の通信装置だ。
水に浸かっていたが、その程度で壊れるやわな代物ではない。
何せ敵の砲撃の直撃を受けても機能するEDFのオーバーテクノロジー感満載の代物だ。
前世の記憶通りにいくつかのチェックをし、背負い固定する。
「さて・・・駄目だろうが試してみるか・・・」
支援要請の中から試しに適当に砲撃要請をする。
『支援砲撃は難しい状況です』
「!?」
通信機から反応があった。
記憶を頼りに通信回線を開く。
「誰かこれが聞こえるか?聞こえたら応答してくれ」
しかし反応はなく、いくら試しても雑音のみが流れる。
試しに次は空爆要請を行うが同じ音声が流れただけだ。
自動音声による応答なのだろうか、そもそもどこから発信されているんだろうか?
いくら考えても答えは出ず。
ヘルメットのフェイスシールドに表示されている装備武器を試しに選んでみる。
カチャッと足元から音がし、見れば選択してみたリムペットガンが転がっていた。
仕組みはわからないが有難い。
リムペットガンを構えて中洲から腰まで浸かる深さの川を越え、対岸に辿り着く。
「この向こうにいるな・・・」
大きな岩の反対側から少し離れた場所に敵性反応の赤い光点が一つある。
その光点は何かを探しているかのように特に目的地を定めた動き方をしていない。
匍匐前進で場所を移り、岩の陰から双眼鏡を使い様子を見る。
「狼か・・・?」
少し安心するがすぐに思い直す。
なんせここは魔物が徘徊する階層のかなり下の方だろう。
それにあの狼には尻尾が二本ある。
視線をフェイスシールドのゲージ表示にやればまだアーマー表示は少ない。
「・・・ドローンの攻撃一回も耐え切れない数値なんて心許ない・・・」
そうなればやることは一つ、アーマー稼ぎである。
「まずは戦術の確立だな・・・」
プライマーや侵略性外来生物や巨大怪獣とも言うべきエルギヌスやアーケルスとも異なる敵であり、どのような攻撃をしてくるか不明だ。
「・・・・悩んでいても始まらない、やるか」
頭の中で立てた作戦に従い時間をかけて準備をする。
「よし、上手くいってくれよ・・・」
リムペットガンを構え、射線上に狼のような魔物・・・二尾狼を捕らえる。
パスッと軽い音と共にリムペットガンの弾丸である超小型の吸着爆弾が飛び出す。
「ちっ、外したか・・・」
外した爆弾の起爆装置を無効にし、再度撃つ。
「・・・・やっぱ、勘が鈍っているな・・・」
再び外し、起爆装置の無効化を繰り返す。
次第に勘が戻って来るのを感じる。
「よし、もらった・・・!」
パスッ!
吸着爆弾が二尾狼の胴体に吸着し、チカチカと起爆可能を知らせる赤い光の点滅を繰り返す。
二尾狼は突然の事に戸惑ったようだが、すぐに警戒態勢になり辺りを探る。
今まで嗅いだことのない匂いを嗅覚が感じ、すぐさま戦闘態勢に入り一直線に獲物に向かって駆け出す。
「起爆!」
ピッ。
リムペットガンの起爆スイッチを押す。
ボンッ!
吸着爆弾が爆発し、二尾狼は突然の事に戸惑う。
深部層の魔物に相応しく、リムペットガンの一発の爆発では軽い怪我を追わせた程度に過ぎなかった。
しかし二尾狼の殺意は増し、武一に向かってその尻尾から電撃を放射してきた。
「電撃か!エルギヌスを思い出すな!」
リムペットガンを再び構え、乱射する。
吸着爆弾は地面に吸着し、起爆スイッチによって爆発する。
二尾狼はその爆発を警戒し、迂回するように爆発を避け移動する形になる。
「かかった!!」
ピッ。
別のスイッチを押す。
カシャカシャカシャッ!
複数の場所から機械の作動音がする。
そしてその装置の配置は二尾狼を囲う形で三ヶ所に配置されている。
セットアップが完了した装置・・・火炎放射セントリーガンFZ-GUN MXは二尾狼をセンサーで捉える。
ゴオオオッ!
真っ赤な炎を勢い良く吐き出し、二尾狼を生きたままバーベキューにし始める。
二尾狼は突然の炎に逃げようとするが索敵センサーによって自動追尾する放射口からは逃れられず、丸焼きになっていく。
フェイスシールドに倒れた二尾狼からアーマーと修復剤が飛び出すように表示される。
「おお、意外と多い!やっぱり強い敵からは多くドロップするのか・・・」
火炎放射の必要がなくなり、処理用のスイッチを押すと火炎放射は終了しFZ-GUN MXの役目は終わる。
同時にフェイスシールドの右下方に表示される選択している武装がリロードを開始し終了するまでの所要時間をゲージ表示する。
アーマーを回収し、これを何度か繰り返す。
「腹減った・・・」
戦闘に明け暮れ、大事なことを失念していた。
食料が無い。
元々日帰りのような訓練だったから食料なんかは持ってきていない。
せいぜいが水筒で、それも革の物で入る量はそこそこ。
エアレイダー装備に着替えた時に捨ててEDF制式装備の濾過装置付きの水筒で綺麗な水にありつけるが食料はない。
それに・・・
「やばい、寝る場所を考えていなかった・・・」
ハジメがいれば錬成で何処かに穴を掘ると言う手も使えたが、今のところセンサーに反応はない。
「まさか、死んじまったとか・・・・?」
最悪のケースを想像する。
「いや、そうと決まったわけじゃない・・・」
事実、武一は川に流されハジメと相当距離が離れて、レーダー圏外のような状態であった。
岩に隠れて寝ようかと考えている時、ふと思いついた事があった。
「物は試し・・・やってみよう・・・!」
装備選択の項目で武装類の項目からビーグル要請の項目に切り替える。
目的の物を見つけるとそれを選択し、要請する。
ボウンッ、とそんな音と煙と共にそれは武一の目の前に現れた。
そのビーグルのシリーズ名はデプスクロウラー。
EDFの四足歩行戦車とも言えるビーグルであり、何故か地底でも要請できるのだが地上で要請する際には他のビーグル同様に輸送機がコンテナを輸送し指定の場所に投下してくれるのだが地下で要請すると煙と共に現れると言うEDF七不思議の一つとしてエアレイダー仲間の間で語られていた。
プライマーの物質転送技術を鹵獲して使っていると言う真偽不明荒唐無稽な噂話も聞いた事がある気がする。
乗降口を開き乗り込み、座席に座る。
「ふー・・・」
長時間の任務にも耐えられるように設計された座席の懐かしい座り心地は心地良かった。
内側から乗降口を閉め、記憶を頼りにデプスクロウラーを起動させる。
室内灯が灯り、いくつかのディスプレイモニターや計器類が光を灯す。
「確かここに・・・」
車で言うダッシュボードを開くと高カロリーの戦闘糧食・・・早い話がレーションがいくつか入っている。
それを一つ鷲掴みにし、包装を破り齧り付く。
「美味い・・・!!」
懐かしい味を噛みしめ、腹を満たした後に睡魔に負け、そのまま眠る。
「こっちは行き止まりか・・・」
レーダーに適性反応を検知したらその魔物を倒しアーマーを稼ぎ、疲れたらデプスクロウラーの中で眠る。
デプスクロウラー内のレーションが尽き、別のデプスクロウラーを要請するとその中にはちゃんとレーションが用意されている。
食料と飲み水には事欠かず、探索とアーマー稼ぎを同時に進めて行き壁に辿り着いた。
「ここまでハジメの反応はなかった・・・と言う事は、もう死んでいるか他の階があれば移動したか、ただのレーダー圏外か・・・」
デプスクロウラーに乗り込み、来た方向とは真逆の方向に向かう。
位置的に最初に魔物と遭遇した場所に戻り、そこを起点に今までとは逆方向に探索を進める。
魔物と遭遇すればいつも通りにアーマーを稼ぐ為に魔物を殺し、疲れたらデプスクロウラーの中で眠る。
「ん・・・?」
デプスクロウラーの大型ライトが照らす地面の一部が周りの色と異なる光景がモニターに映った。
そこに近付き、降りて変色した地面を触る。
「・・・・血?もう乾いているな・・・。相当量の出血だ・・・。これは・・・!?」
地面を染める血の中に布の切れ端のような破れた何かがあった。
「・・・・服の一部か・・・?」
辺りをデプスクロウラー内部から持ち出したライトで照らしながら見る。
レーダー上では索敵範囲内に適性反応が表示されているが幸にして近くにはいないから比較的安全が確保されている為ゆっくりと辺りを捜索できる。
「穴・・・?」
デプスクロウラーを降りた時には気付かなかったが、近くに不自然な穴が開いている。
人が一人潜っていけるような小さな穴だ。
ライトで穴の中を照らすと血痕が奥まで続いて入る。
意を決して穴に入っていく。
センサーに友軍反応はないし一般人を表す白い光点もない。
先程の大量出血の痕跡から重症を負ったのは間違いない。
いつライトがハジメの遺体を照らすか覚悟を決めながら進む。
しかしハジメの遺体はなく、少し広い空間に出た。
地面には穴が開いており、勢い良く飛び出していたら落ちて穴の中の尖った岩に串刺しになっていたかもしれない。
穴の近くには何かの骨が無造作に散らばり、地面には何かの図面のような物が描かれている。
「・・・・これは、銃の設計図なのか・・・?それに、この食い終わった後のチキンの様に捨てられた骨の山・・・」
座学を思い出す。
魔物の肉は有害であり、人が食べれば命を落とすと。
「ハジメが食ったなら、耐性があったとかか・・・?」
少なくともここにいて生きながらえていたのがハジメの可能性が大だ。
少なくともこの世界の住民に銃の知識はないと思われるからだ。
すぐに引き返し、デプスクロウラーに乗り込む。
武装システムを起動し、ガトリングを短時間だけ撃つ。
すぐにデプスクロウラーから降り、耳を澄ませながらレーダーを監視する。
赤い光点が幾つか移動するのが見えるが青や白の光点は皆無だ。
今まではあまり音を立てるのは何処かにいるハジメを魔物の脅威に巻き込む可能性を考えて危険と思い、火炎放射型のセントリーガンか小爆発だけ起こすリムペットガンを使っていたが銃をもし完成させているならば身を守る事はできるだろう。
ならばこっちも音を出してハジメに気付かせる方法も取れるし効率的にアーマー稼ぎが出来るだろう。
そう考え、再度デプスクロウラーに乗り込み赤い光点を発見次第ガトリングガン、時にはラピッドバズーカを使い魔物を効率よく殺しアーマーに変える。
上に行く階段は見つからなかったが下に行く階段は見つかった。
その時点で既にレーダーに表示される赤い点は無くなっていた。
この階を探し尽くし、上に行く通路や階段は無かった。
デプスクロウラーならば壁面をよじ登って上層の階層まで行けるだろうがそれはハジメを見つけてからだと決意し、デプスクロウラーに乗ったまま下層へ降りる。
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第五話
なお、本作では迷宮類は原作より少し広い設定にしています。
まだ登場自体は先ですが、EDF5本編でエアレイダーの要請可能ビークル以外にレンジャーが要請可能だったビークルも本作では要請可能とします。
下層へと向かう途中でデプスクロウラーの大型ライトをオフにし、暗視モードで複数のモニターに表示される映像を見ながら進んで行く。
下層に到着する前にレーダーが複数の適性反応を捉えたからだ。
自ら居場所を教えるのはまだ次の階層の状況が不明なままでは危険と判断。
次の階層に到着し壁面をよじ登ると方向を変え、暗視モニターで観察をする。
到着してすぐに適性反応の一つの光点が突然消えたのだった。
ハジメが居てそれを殺したのかと思ったのだが、モニターの映像を拡大するとそれは違うと想像が出来た。
消えた敵性反応のあった位置に石像があった。
熊か大型のゴリラの様な前の階層にも居た白い体毛の生えた魔物の石像だった。
拡大映像の上暗視モードだから映像の画質は粗いがそれでもその石像が生きていたかの様なリアルさを感じさせる。
「・・・・石化攻撃をする奴がいるのか・・・?」
警戒を最大にし、その石像を中心点に虱潰しに映像を確認する。
最初に遭遇した狼の魔物の同種や前の階層にもいた異常に素早い上に蹴りでデプスクロウラーのボディに僅かとはいえ傷を刻み耐久ゲージを削った兎の様な魔物が映像越しにいた。
そして壁面を這う巨大なカメレオンの様な魔物。
「ゲームとかだと、石化攻撃をしてくるバジリスクって大抵カメレオンとかトカゲっぽい見た目をしてるんだよなぁ・・・」
巨大カメレオンをバジリスクと仮定する。
デプスクロウラーの中にいれば石化を防げるだろうか?
そもそも石化以外にどういった攻撃をしてくるのだろうか?
腐食液とかを吐き出してきたら武装が溶解して使い物にならなくなったらどうするか?
いろいろ考えたが、まずはあの魔物を排除する事にした。
デプスクロウラーを壁から地面にジャンプで降下させ、バジリスクの反応にゆっくりと接近してゆく。
バジリスクが別の適性反応に接近するのを確認し、その適性反応とバジリスクの両方をズームして様子を見る。
もう片方の適性反応は兎モドキ・・・蹴りウサギだった。
蹴りウサギがバジリスクの接近に気付いたのとバジリスクの目が発光するのは同時だった。
蹴りウサギが逃げようと飛び跳ねるが地面には蹴りウサギの石像が落下し、落下の衝撃で砕ける。
「バジリスクで間違いなしか・・・。さて、どう対処するか・・・」
少し考え、結局は一斉火力で無力化する事にする。
ゆっくりとデプスクロウラーがバジリスクににじり寄る。
バジリスクがデプスクロウラーに気付き、そちらを見ると同時に武一は大型ライトのスイッチをオンにする。
ビカッ!!
と言う擬音が似合うほど一気にバジリスクの周囲が軍用兵器の大型ライトの照射を受け、真昼の様に明るくなった。
Q 暗闇に慣れている眼に直視厳禁レベルの光を突然当てるとどうなる?
A 最悪失明する。
バジリスクも例に漏れず、その暗闇に最適化した眼が命取りになった。
視界が真っ白に染まり、何も見えずその場で暴れる様に動くが視力を失った状態では壁にぶつかったり岩にぶち当たったりと散々である。
「悪く思うなよ」
デプスクロウラーの照準システムが暴れるバジリスクを捉える。
ドガガガガガガガガガッ!!
ドドドドドドドドドドッ!!
ガトリング砲とラピッドバズーカが一斉に火を噴き、バジリスクをミンチにする。
アーマーや修復剤が散乱し、攻撃を終了しデプスクロウラーの回収装置でそれらをかき集める。
この方法が有効と判断し、この階層の探索を本格的に行う。
デプスクロウラーの通過が難しい場所はラピッドバズーカとガトリング砲で地形ごと変えて行けばいい。
レーダーがあるので階層の探索はスムーズに進んで行き、次第にハジメのいる場所との距離は縮んで行く。
「!!」
レーダーに友軍反応が表示される。
「こっちか!!」
デプスクロウラーを可能な限りの速度で走らせ、時には壁を、時には天井を伝い青い光点反応へと向かう。
「結構、勉強したつもりだったがこんなの見た事ねぇぞ」
ハジメは巨大な石造りの扉の奇妙な図形を見て記憶を漁るが該当するものはない。
「相当古いって事か?仕方ない、いつも通り錬成で・・・」
そう言いながら手を扉に触れようとする。
「ん?」
ハジメの耳が聞き慣れない音を捉えた。
「なんだ・・・?」
新手の魔物かと警戒をする。
ガシャガシャガシャガシャ・・・・・!
「・・・・ジメーー・・・・」
「おいおい、今度はなんだぁっ!?」
ガシャガシャガシャガシャッ!
「ハジメーーーッ!」
「はぁっ!?」
奇妙な物体が壁を伝って向かって来る。
「おいおいおい、今度は金属の蜘蛛かよ!?」
薄暗い環境下ではデプスクロウラーを見たことの無いハジメはそれを金属質の蜘蛛と誤認してしまっても仕方がない。
ドンナーを即座に構え、二発、三発と銃弾を叩き込む。
敵は殺す、それをただ実行するだけだった。
「は?おいおい、マジかよ・・・」
モニターに映った人物はハジメの声だが容姿がかなり変貌している。
白髪にどうやら片腕がない様に見える。
直後、銃の様なものをこちらに向け発砲。
青い光点が赤い光点に変化する。
デプスクロウラーの耐久ゲージが僅かだが減る。
すぐに武一はEDFの兵器を見たことの無いハジメがデプスクロウラーを魔物と誤認していると考えつく。
「おい、撃つな!今から降りるから撃つなよ!?」
そう言いながらハッチ解放し外に出る。
どこかひんやりとした空気。
デプスクロウラー内の空調が効いた環境から外に出て最初に思ったのは、侵略性外来生物の巣穴に潜った時の様な感覚だと思った。
「・・・・・はっ!どこまでも追い詰めてくれる!」
ハジメはドンナーを発砲、武一は被弾する。
「うぐっ!?」
油断をしていた武一は着弾の衝撃に思わずよろける。
アーマーゲージが少しばかり削れている。
それと同時に武一は突然現れた自分をハジメは偽物と判断していると思い付く。
自分はEDFの兵装でここまで難なく来れたがハジメは相当苦労したのだろう。
人格が変わってしまうほどに。
「ああ、ハジメ。気が済むまで思いっきり攻撃してこい!!」
「言われなくても!」
ドンナーを再び発砲する。
それよりも一瞬だけ早く、武一は電磁トーチカM2を起動させる。
前方に展開した障壁がドンナーの弾丸を食い止める。
吸収した魔物の固有スキルも同様の結果に終わる。
ならばと接近しようとするが、武一はリムペットガンを使いそれを許さない。
ドンナーの装填済みの弾丸が尽き、カチカチと虚しい音を立てる。
「気が済んだか?」
「反則だ!!チートだチート!!」
ハジメの逆ギレ。
既にハジメのレーダー上の表示は赤から青の光点に戻っている。
「落ち着け、深呼吸だ深呼吸」
「はぁ・・・っていうか、なんだよお前のトンデモ装備は・・・八つ当たりする気が失せた・・・」
「偽物と思って攻撃したのは最初で、後は八つ当たりかよ・・・」
呆れる武一。
「で、ハジメはこの階層の探索どこまで進んでいるんだ?」
「ああ、この先に行こうと思ってた矢先にお前が出てきた」
クイッと親指で自分の後ろ側に位置する奇妙な図形のある石扉を示す。
「典型的だな」
「何がだ?」
「両脇の石像だよ。この石像、敵だぞ」
「は?何で分かるんだよ?」
「レーダー上の反応が敵性反応示しているんだよ」
「なんだその便利機能」
呆れるやら感心するやらのハジメを尻目に武一は金属の箱の様なものを2つずつ置き、起動スイッチを押す。
カシャカシャカシャカシャッ!
それらが一斉に起動し、内蔵センサーが2体の石像をターゲットロックし発砲を開始する。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
銃口から弾丸を吐き出し、石像に擬態していたサイクロプスに攻撃を加える。
先制攻撃を加えられたサイクロプス達はすぐに攻撃から逃れる為に移動をするがセントリーガンの銃口は攻撃から逃れようとするサイクロプス達を追尾し攻撃を加え続ける。
「これってセントリーガンって奴か・・・!」
「ああ。そうそう、銃弾吐き出すタイプのは敵味方識別機能があるから間違えて射線上に出ても安心のセーフティー機能付きだけどロケットランチャーとか火炎放射器の奴はそれないからそれを使う時は銃口の動きを気にしてくれ」
「お、おう・・・。って言うか、なんでお前セントリーガンなんて持ってるんだよ?地球でもまだ存在しないはずだろ?」
セントリーガンがあっという間にサイクロプス2匹を葬り去り、レーダー上の敵性反応消滅を確認した武一がセントリーガンを停止させた後にサイクロプスの死骸に近付いて何かしているのを眺めながら言う。
ハジメには見えないが、サイクロプスからドロップしたアーマーと修復剤を回収している。
「そう言うハジメこそ、見た目も性格も別人じゃないか。ここは互いに情報交換といこうか」
回収を終えた武一が提案する。
「ああ、異議はねぇ。じゃあ、まずは俺から話す」
ハジメは落下して目を覚ましてからの事を簡潔に話す。
「なるほど、それで魔物を食っても死ななかったのか。身体能力やスキル獲得の代償に髪から色素が抜けたのか。調べようがないが、下手したら遺伝子も適応しているかもな」
「まぁ、今更悩んでも始まらない。俺の話はここまでだ」
「おう、次は俺だな。まずは・・・そうだな。ハジメはエイリアンっていると思うか?」
「はぁ?エイリアンだぁ?まぁ、宇宙ってのは広いわけだしおまけに異世界まで実在しているのを知った今じゃあいてもおかしくはないと思うが」
「俺は・・・性格に言うと俺の前世だが、エイリアン相手にドンパチやっていたEDF・・・全地球防衛機構軍でエアレイダーって兵科に所属していた兵士だった。コールサインはストーム1」
「・・・・・いやいやちょっと待て。いろいろ突っ込みどころがあるが・・・前世?俺の記憶じゃあ、歴史上エイリアンに攻撃を受けたって聞いたことないんだが?」
「それについては俺も戸惑っている。エイリアン・・・プライマーの存在が世界中に知られることになった襲撃が2022年に起きた。EDFの設立自体はもっと早かったが・・・」
「2022年?未来じゃねぇか・・・」
「おまけにハジメもEDFって名前は聞いたことがないだろ?俺もここに落ちて思い出すまではEDFなんて聞いたことがなかった。可能性としては俺とハジメが暮らしていた地球はプライマーが存在しないかしていても地球侵攻の必要がないと判断した世界線の並行世界なのかもしれない」
「にわかには信じられないが・・・お前のトンデモ装備を見た後だと信じそうになるな」
「装備といえばハジメこそその銃、自分で作ったのか?」
「おう、よく聞いてくれたな。この銃はドンナー、錬成で作ってみたんだが、上手くいったぜ」
「へぇ・・・やるじゃんか」
その後もしばらく情報共有を行う。
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第六話
そのシュール過ぎる光景にハジメは引いていた。
目の前には空中に浮遊する下半身と両腕を明らかにただの石材でないであろう素材で作られた物で固定されている金髪でそしてその髪で胸が隠れているだけの少女。
そしてその目の前で見事なまでの DO・GE・ZA をしている武一。
「痛かったんだけど?」
「ハイ、ゴメンナサイ!」
「突然攻撃とか、非常識だと思うんだけど?」
「ハイ、ゴメンナサイ!」
(俺は一体、何を見せられているんだ?)
ハジメはそのシュールな光景に率直にそう思った。
時はわずかに遡る。
サイクロプス2匹を倒した武一はハジメと共にあからさまな封印の施された扉を開けようと意見が一致した。
しかし先程は事前に気付いていたとはいえサイクロプス2匹が門番として配置されていた。
この扉自体に何かしらの仕掛けが施されていないとも限らない。
それこそ、この奈落の底に落ちるきっかけとなったグランツ鉱石に転移トラップの様に。
「じゃあ、触れずに開けるしかねぇじゃねぇか。どうやるんだ?」
「それについては考えがある。念の為、ハジメはそのサイクロプスの死体の影にいてくれ」
「ああ、気味のいいもんじゃないけど分かった」
ハジメが手近なサイクロプスの死体の影に隠れる。
武一はデプスクロウラーに乗り込み、封印扉の正面に移動する。
「武一の奴、あれでどうする気だ・・・?」
そう疑問に思うハジメの目の前で・・・
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
ガトリング砲の弾丸とラピッドバズーカの弾頭が魔法で保護されている封印扉をそれ以上の力で物理的に削って行く。
ハジメは武一がサイクロプスの死体に隠れろと言った意味を理解した。
ラピッドバズーカの爆風やガトリング砲によって砕かれた封印扉の破片が飛び散るからだった。
事実、ハジメの隠れたサイクロプスの死体が吹き飛んできた封印扉の破片で損傷している。
ハジメは損傷したサイクロプスの死体の中から球体の魔石を見つける。
「サイズといい形と言い、これがあの扉の鍵なんじゃねぇか・・・・?」
しかしとっくにその鍵穴とも言うべき封印は砕けており、やがて封印扉の耐久力が限界を迎え、崩壊する。
その際、内部にラピッドバズーカの弾頭が数発飛び込んで行った。
そして現在。
武一は相変わらず少女にDO・GE・ZAしていた。
この部屋にあるいくつかの柱の一部が損壊している。
飛び込んできたラピッドバズーカの弾頭が破壊したのだろうか。
下半身と腕が空中に浮遊する立方体に埋め込まれている少女のいる場所の真下周辺にもそ柱の破片が転がっている。
小石程度の大きさのものもあれば握り拳大の破片もある。
よく見れば少女の髪にも砂粒の様な大きさの破片が所々ある。
「本当に反省している?」
少女が武一に言う。
「アッハイ」
「じゃあ、反省している誠意を見せてもらえる?取り敢えず、私をここから出して」
「ハイ、ヨロコン「待てやコラ」ぶべっ!?」
ドゲシッと土下座している武一の頭をハジメは踏む。
「ハジメ、何をする?」
「いやいやいや、なにこんなあからさまに怪しい相手の言いなりになっているんだよお前!?怪しさMAXじゃないか!」
ハジメは最初この少女が目に入った時、「間違えました」とか「失礼しました」とでも言って扉を閉めたかった。
しかし扉はほぼ粉々に砕かれており、それは叶わなかった。
「悪いな、余計なリスクは避けたいんでね。行くぞ武一」
クルッと踵を返し立ち去ろうとするハジメ。
「ま、待って!・・・利用しようとしたのは・・・ごめんなさい・・・。でも、本当に助けて欲しいの・・・!!」
「助け?こんな地の底で明らかに封印されているようにしか見え「私、悪くない!裏切られたの!」な・・・」
ハジメが言い終える前に少女は自らが裏切られたと主張した。
「・・・・裏切られただと?よし、まずはお前の言い分を聞いてみようか」
「私、先祖返りの吸血鬼。凄い力持っていてどんな怪我をしても、頭を潰されても時間が経てば元通りになる・・・。この力、みんなの為に使った。でも・・・この力は危険でお前は殺せないからって・・・」
「で、封印されたと」
「・・・・・・お願い・・・助けて・・・・なんでもするから・・・!」
「ん?今なんでもするっ「だから空気読め!」ぐふっ・・・・」
再び武一の頭を踏むハジメ。
気を取り直し、ハジメは再び少女と会話をする。
一通りの話を聞き、ガリガリとハジメは頭を掻く。
「あの・・・そろそろ頭を上げてもいいでしょうか?」
シリアスシーンをぶち壊す声にハジメと少女の視線が声の主・・・絶賛DO・GE・ZA中の武一に向かう。
ハジメは(こいつ、まだやってたのか・・・)と心の中で思ったとか。
「う、うん・・・もういいよ・・・まだやってたんだ・・・・」
未だにDO・GE・ZAをしていた武一に少し引き気味の少女の声。
「で、どうするハジメ?」
「どうするって・・・」
「現状俺の使える方法はほとんど爆発が伴う。この封印道具?の破壊は可能だろうがどうしてもこの子に被害が及ぶ。助ける頃にはスプラッター映画みたいになってると思う」
「どうするって、そっちのどうするかよ・・・」
「ん?お前の中じゃ助けるのは決定事項だろ?」
「そうだが・・・・なんか色々ぶち壊しな気がするな・・・・」
そうぼやきながらハジメは錬成で少女の救出に取り掛かる。
その間武一はこの階層の捜索を続行する。
捜索を続行していた武一のレーダー上、ハジメを示す青い光点と封印されていた少女を示す白い光点が隣り合っているそのほぼ同位置に突如として赤い光点が出現した。
「マジかよ!?」
すぐにデプスクロウラーをその場で引き返させ封印部屋に急行する。
結果としては到着寸前に部屋から青い光が数秒だけ見え、デプスクロウラーを降り走り出した時には赤い光天は消えた。
中の様子を見ると巨大な蠍の様な怪物の死骸が転がっていた。
「ハジメ、無事か!?」
「おう、ここにいるぞ!」
すぐに死骸の反対側から声が聞こえ合流する。
「しかし、でかい蠍だな・・・侵略性外来生物を思い出す。1匹だけでよかった」
「どうやらユエの封印が破れた時に備えて仕掛けられていたらしい」
「仕掛けられてたって事は、野生の魔物とかじゃなく人工的に作られたって事か?ん?ユエ?」
「ああ、こいつの名前だ」
「ハジメに付けてもらった」
ピトッとハジメの腕に体を寄せるユエ。
「事案発生?」
「黙れ」
ダンッ!
ハジメは躊躇なく武一にドンナーを一発ぶっ放す。
「躊躇なく撃ったっ!?何をする酷いじゃないか?アーマーが削れてしまったぞ」
「ったく、武一、お前一体どうなってんだ・・・・」
「武一、あなた本当に人間・・・?」
「うわ、ひでぇ・・・」
「気にするな、俺も言われた」
苦笑いしながらハジメが錬成で周囲に壁を作る。
「今日はここでキャンプだ。弾丸をかなり消費したから補充したいし腹も減ったからな」
ハジメは錬成で作ったナイフで巨大蠍の肉を切り取りながら喋りながらとある疑問に突き当たった。
「そう言えば武一、俺達が奈落に落ちたのは同じ日だよな?」
「ん?ああ、橋の崩落で落下したからな。もっとも、俺は川に流されてハジメとかなり離れ離れになっちまったが」
「俺も気を失っていた期間があるから不確実だが、俺達が合流するまで一ヶ月近くは確実にあったはずだ」
「ああ、俺も気絶していたいたし不確実だが、少なくとも一ヶ月近くは経っているな」
「さっきも言ったが、俺は神結晶と神水のお陰で魔物の肉を食っても無事だったが・・・・・お前何食って生き延びた?」
「何って・・・」
ゴソゴソと軍用ポーチを開け、中から一つのアルミ包装に包まれた物を取り出す。
「軍用携行食、レーションだけど」
「一つでいい、くれ!」
「いいぞ」
「マジか!?」
ポイっと放り投げられたそれをハジメはキャッチし、包装を破ると中の固形物に齧り付く。
「う、うめぇ・・・!!」
しばらく前の階層で美味い果物を投げつけてくるトレントモドキから集められるだけ集めていたがしばらくはそれを食べていたが次第に傷み出し、泣く泣く捨ててからは再びクソまずい魔物肉を食べていた。
そんな中、久々の加工食。
ハジメは涙を流しながら食べる。
「な、泣く程か・・・。遠慮するな、まだあるから・・・」
貰い泣きしながら武一はポーチからレーションをいくつか出す。
「ん?ユエ・・・も興味あるのか?」
武一はハジメが夢中になって食べるレーションを興味深そうに見るユエにもレーションを渡す。
ユエはハジメの様に包装を破り、中身に齧り付いた。
「美味しい・・・でも、ハジメの血の方が美味しかった」
ペロッと舌舐めずりをしながらハジメを見るユエ。
「ハジメ、まさかこんなロリっ子に・・・。じ、事案発生!?もしもしポリスメン!?」
思わず無線機を取り話すが返事は当然無い。
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第七話
「神水のストックもあるし、お前も魔物喰ってみるか?結構ステータス上がるぞ」
レーションを食べ終え、再び魔物を解体して道中の食糧に加工しながらハジメは提案した。
「いや、その神水って貴重なんだろ?」
「まぁ、一本分ぐらいならさっきのレーションの礼だ」
ハジメの言葉にしばらくステータスプレートを眺めながら考える。
須藤武一 17歳 男 レベル:48
天職:エアレイダー(ストーム1)
筋力:280
体力:210
耐性:190
敏捷:200
魔力:0
魔耐:0
アーマー:1500
技能:EDF支援要請(功績不要)・言語理解
アーマーは増え、基礎ステータスもレベルも上がっているが相も変わらず魔力は0。
「ダメ元でやってみるか」
ハジメはその言葉を聞くと1回分の神水ととれたての魔物肉を焼いて渡してくる。
「・・・・ちょっと待った」
魔物肉の臭いに思わず躊躇する。
「安心しろ、もしヤバそうだったらもう一本神水を使う。ただし、こっちは貸しだけどな」
「ちゃっかりしてるな・・・」
何度か深呼吸をし、覚悟を決め一気に齧り付き、味を確かめるのも早々に飲み込む。
「まじぃ!くそまじぃっ!!」
武一は魔物肉の不味さに悪態を吐く。
十秒が過ぎ、三十秒が過ぎ、一分が過ぎる。
「特に何も起きないな・・・」
神水の準備も無駄だったかと思った。
「おかしいな・・・」
ハジメが首を傾げたときだった。
「ぐぅっ!?」
突然激痛が武一を襲う。
「来たか!早く飲め!」
「ぐううぅぅっ!は、はや・・・く・・・!!」
渡された神水を一気に飲み干し、痛みが去るのを待つ。
「ふー・・・ふー・・・、はぁ・・・凄い苦しかった・・・」
痛みが完全に引き、座り直す。
外見に大きな変化は無いが前髪の極一部がメッシュがかった様に白くなっている。
「ふぅ、どれどれ・・・」
期待しながらステータスプレートを見る。
須藤武一 17歳 男 レベル:50
天職:エアレイダー(ストーム1)
筋力:390
体力:310
耐性:220
敏捷:280
魔力:0
魔耐:200
アーマー:1500
「レベルも上がって変化してるが・・・魔耐増えたのに魔力0のままかよ・・・」
少しがっかりしながらその下の技能の表示項目に視線を移し・・・・。
「なぁにこれぇ・・・」
武一は技能の項目に視線を移しそのまましばらく固まっていた。
技能:EDF支援要請(功績不要)・胃酸強化・アーマー上昇率増加・アーマードロップ量増加・ビークル全種要請可能(地下エリアを除く)・ストームチーム召喚(レンジャー部隊・グリムリーパー・スプリガン・戦闘エリア敵殲滅まで・クールタイム24時間・戦闘以外の会話不可・アーマー値共有)・言語理解
しばらく考え込む。
「なぁ、魔物喰うと魔物の特性を得られるんだったよな?」
「ああ」
「どうして魔物と無関係なEDF関連技能が強化されているんだ・・・?」
「分からん。個人差・・・なのか?」
ハジメと二人でいくら考えても答えは出ない。
だが、このストームチーム召喚と言う新たに追加された技能を見た時には心臓が飛び出るかと思うくらいに驚いた。
また戦友達に会えると。
しかし一度召喚すると次に召喚可能になるのは丸1日後。
戦闘以外の会話が不能の上にどうやら戦闘エリアでないと召喚できない模様だ。
そして最後・・・アーマー値共有。
これはどちらなのだろうか?
自分のアーマー値がそのままでストームチームの受けたアーマー値が削れるダメージの分が削れて行くのか、それともアーマー値がストームチームを召喚している間は等分するのか?
ストーム2、レンジャーチームは軍曹を含め4名。
ストーム3、グリムリーパーは作戦ごとに多少異なっていたが副隊長の部隊も入れれば最大で10名。
ストーム4、スプリガンは5名。
自分を含めれば最大で総計20名の部隊。
20人で1500のアーマー値を等分すると1人辺り75。
「まだ紙装甲だな・・・」
幸いにも増えた技能にアーマードロップ量増加とアーマー上昇率増加の二つがある。
「とにかく、明日からまたアーマー稼ぎの日々だな・・・」
眠気も増してきた。
この場所はハジメとユエの二人に任せ、デプスクロウラーに乗り込むと巨大蠍に体当たりし死骸を押して行き入口を塞ぐ。
エアレイダーの任務経験からか、ビークルの操縦席の方が落ち着く。
水筒の水を一口飲み、操縦席の明かりを最小限にまで落としゆっくりと睡魔に身を任せた。
翌日からハジメ、ユエ、武一の三人は更に下の階層を目指し探索を再開することが決まった。
ユエからの情報でこのオルクス大迷宮の真の存在理由が分かった。
かつて神エヒトに敵対した反逆者と呼ばれる元神の眷属達が敗走し、逃げ延びた。
その反逆者達は大迷宮を作り上げ、地の底に住み着いたらしい。
最深部にあるかもしれないその反逆者の住処にならば転移系の魔法で地上への道があるかもしれないと言うことで更に潜ることにした。
それは武一にとっても好都合だった。
強い魔物ほどアーマーと修復剤のドロップ量が多くなる。
今たとにかく、アーマーが必要だ。
「ところでハジメさんや、見慣れない武器を持ってる様だが?」
「ああ、対物ライフルをレールガンで作ってみた。シュラーゲンって名前にした」
「うわぁ、一気に武装レベルが上がったよ」
「いや、ガトリングガンとかロケットランチャー乱射する四足歩行の戦車?もそこらの魔物には完全なオーバーキルだからな?」
出立の準備をしながらそんな会話をする。
先に進むと時折魔物が出没し、ハジメと武一の攻撃でミンチになって行く。
ドロップ量増加とアーマー上昇率増加に嬉々として武一は魔物の死骸に駆け寄り、アーマーを回収する。
「しかし、覚悟はしていたが先の見えないほど長い地下空間だな・・・」
武一が呟く。
「まぁ、楽な道じゃないのは今までの経験から分かりきってたからな・・・」
「αとかβ、γが出て来てもおかしくないかもな」
「α?β?γ?なんだそりゃ?」
「ああ、EDFが種別した侵略性外来生物の分類だ」
「ふーん。で、どんな奴だ?」
「ああ、αは蟻、βは蜘蛛、γは団子虫だ」
「・・・・・・おい、からかってるのか?」
「いんや、至って大真面目なんだが。大きさが問題なんだよ。個体差はあるが平均してどれも大型トラック並みのデカさだ。それが人を喰うんだぞ」
「すまん、そりゃ確かに脅威だな」
「α、βは変異種もいるしクイーンやキングって言うビルを一跨ぎするような超大型種もいた」
「なんだ、その魔境・・・・」
「プライマーが地球に送り込んだ生物兵器だよ。しまいにゃ地球上で繁殖も始めやがった厄介な奴らだ」
「そんな奴らに襲われて、よく勝てたな・・・」
「勝ち・・・勝ちねぇ・・・」
どこか遠くを見るような武一。
「敵はそいつらだけじゃないぞ。巨大な蜂の群れにドローンや宇宙から降下してくる戦闘ロボットに巨大怪獣、ビルぐらいのデカさの武装した二足歩行のカエルにグレイ型エイリアン、果ては11隻のマザーシップだ。うわぁ、言っててなんだがよく民間人だった俺終戦まで生き延びれたな・・・エイリアンのボスも仲間と倒したし・・・あの頃は生き延びるのに必死だったが・・・」
「なんか、サラッとボス倒したって発言聞こえた気が・・・」
「テレキネシスで隕石降らしてきたり配下の武装エイリアンを空間転移で出現させたりと、チートの塊の奴だったぞ」
「・・・・oh・・・・」
「ちなみに、終戦後の生存者は総人口の一割以下だったぞ」
「・・・・・悪い、嫌な事思い出させちまった様だな・・・」
更に地下深く潜る間にも、色々と会話をしたりした。
その最中にユエが聞いてきたのは何故ハジメと武一がこんな自分が封印されるような危険な場所にいるのか聞いてきた。
「クラスメイトに裏切られて気付けば奈落の底だった」
「檜山死すべし、慈悲はない」
単純明快な答えだった。
「あー、やっぱり檜山か・・・そんな気はしていたが・・・」
「ああ、確実だ。なんせ俺達が落ちる原因になったあの軌道を変えた魔法が飛んできた時、レーダー上の檜山の反応が敵性反応の赤に切り替わったからな」
「そうか、じゃあ確実だな」
ハジメがロープを伝い降下しながら言う。
ドガッ!っと突然大きな音がし、ハジメのすぐ側を壁から生えている水晶の塊が落下して行く。
「あ、悪い・・・」
「危ねぇじゃねぇか!てめぇ本当のそれの免許持ってんのか!?」
上を睨みながらハジメが言う。
ハジメの十数メートル上には壁面を蜘蛛の様に這うデプスクロウラー。
そのすぐ真下の壁に何かが抉れたような跡。
デプスクロウラーが壁面に生えている水晶に衝突し、落下したのだった。
「はっはっはっ、面白いことを言うなハジメは。そんなものあるわけないだろ」
「無免許かよ!?」
「安心しろ、前世じゃ持っていた」
「・・・・・ああ、もういいや・・・・まぁ、確かに元の世界にゃそんな壁を這うような戦車なかったしな・・・」
「次は気を付ける」
「頼むぜ?水晶にぶち当たって落下死なんて冗談じゃあねぇからな・・・」
「すまん」
降下を再開してしばらくしようやく地面のある場所にまで辿り着く。
グリムリーパーはミッション40、苛烈なる戦場で総勢10名の援軍が来るシーンが好き。
ちょっと宣伝。
もう一作、ありふれた職業での二次作品を書いて見ています。
もし良ければどうぞ。
ありふれない錬金術師で世界最強
https://syosetu.org/novel/230389/
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第八話
ハードが気になるけどPS5だったら本体買うしか選択肢はない。
「だああぁぁぁっ!何なんだよあれはっ!?」
「知るか!ヤバい時は俺が盾になるからとにかく走れっ!!」
「ハジメ、ファイト。ついでに武一も」
「俺、オマケ扱い!?って、やらせるかぁっ!」
武一がデプスクロウラーでハジメに最接近した体表が真っ白な小型の恐竜のような生物に体当たりする。
「どんだけいるんだ!?いくら武一がランチャーでミンチにしても減ってる気配がないぞ!」
「数がどんどん増えてる」
「レーダーでも数は増えてる!」
「おかしいだろ!?ってか、なんでこいつら全部頭に花咲かせてるんだ!?」
「知るか!」
「ちょっと可愛い」
「「可愛くねぇよ!?」」
必死に逃げる一同。
「ハジメ!」
「何だ!?」
「最初の1匹目の時の映像が記録されていたから見返してたんだが、その時のこと覚えてるか!?」
「ああっ!?最初の1匹目!?ってか余裕あんな!?」
ハジメは記憶を漁る。
「最初の1匹目は花なんてつけてなかった!」
「ああ、そんでもって、こんな地の底なのにあった花畑を踏んでいる!」
「寄生生物か!?どこかに本体が!?」
「わからん!ハジメ、ここからは二手に分かれるぞ!こいつらは俺が引き受ける!お前はユエと隠れられるところがあったらそこに隠れてこいつらを撒け!」
「ああ、分かった!」
ハジメは逃げる先にあった岩と岩の間に滑り込んで身を隠し、魔物の群れはデプスクロウラーを追いかけ続ける。
「ふう、行ったか・・・」
「うん、行った」
ハジメとユエがヒョコッと顔を出し、周辺の様子を伺い敵がいないことを確認すると探索を再開する。
「はむっ・・・・」
「本体がいるなら早く見つけねぇとな・・・」
ハジメは気配探知も最大に活用して探すがなかなか見つからない。
そもそも、本体がいるのかも不明だが。
「かぷっ・・・・」
「なぁ、吸血鬼のお姫様?ちょくちょく血を吸うのはやめてくれませんかねぇ?」
「不可抗力じゃ」
「嘘だ、ほとんど消耗してないだろ?」
「ぬわははははははっ!ヴェロキラプトルもどき達よこっちだ!ついておいで!」
声が聞こえ、見れば遠くの壁面をデプスクロウラーが這っていた。
「蜘蛛みたい」
「脚の数がもっと多けりゃまんま蜘蛛だな」
時々、爆音や発砲音が聞こえる。
「武一の作戦成功?」
「ああ、そうだな」
「ヴェロキ・・・なんとかって何?」
「ああ、ヴェロキラプトルか。大昔に俺のいた世界にいた生き物の名前だよ」
ハジメが周囲を見ると、岩の切れ目に植物が生い茂っている今までとは様子の違う場所を見つける。
「ハジメ、あそこ」
「ああ、怪しいな・・・気配探知には反応はないが、調べてみるか」
ハジメはそこを調べるために近付く。
「なんだ・・・?ハジメ!陽動が通用しなくなった!お前達の方に向かってるぞ!?」
デプスクロウラーから武一の拡大音声が聞こえた。
「ドンピシャか!?」
ハジメの気配探知に周囲に散らばって反応していた他の魔物の気配が接近してくるのを感じた。
周囲から次々と集まってくる魔物を無視し、一直線に岩の切れ目に向かって走る。
ハジメは切れ目を通り抜けると錬成で穴を塞ぐ。
「ふう、これでひとまずは大丈夫だろう」
「ハジメ、武一が置き去り」
「見捨ててねぇから安心しろ。ここの調査が終わったら迎えに行くさ。ついでにそろそろ降りてくれねぇか?」
「むぅ、仕方ない」
ユエはハジメの背負っている荷物入れから降りる。
「さて・・・気配探知には相変わらず反応はねぇが・・・ん?」
奥の方から緑色の光の球体が近付いてくるのに気付く。
それはあっという間にハジメ達の周囲を覆う。
「くそっ!」
錬成で地面を盛り上げ、周囲を覆い攻撃に備える。
「ユエ、本体の攻撃だ!どこにいるか分かるか!?・・・ユエ?」
ユエの返事は無く、ハジメはユエを見る。
ユエは硬直しているように立っていた。
その表情を見て、ハジメは何故か猫みたいだと思った。
そう思っていたのも束の間、ユエがハジメに向かって手を突き出す。
錬成でつくった壁が崩れ、ユエの手に魔力の塊が出来る。
「ハジメ、逃げて!」
ユエの声にハジメは我に帰り、とっさに回避行動をとる。
ユエの攻撃魔法は壁に当たる。
クルッと、ユエはハジメの方向に向き直り再び攻撃の準備に入る。
ぴょこんっ、と。
ユエの頭から一本の花が伸びる。
「さっきの光の球か!?くそっ、寄生されたのか!」
ユエの攻撃魔法から逃げ続けるハジメ。
「ったく、無詠唱ってのは敵に回ると厄介だな!」
ハジメは逃げ続けるが、光の球が足に当たり動きを止める。
別の光の球が頭に当たり、花粉のような物を撒き散らす。
ハジメは蹲る。
ユエの背後から奇妙な物が現れた。
二足歩行をし、体付きは人間の女性で豊満な身体付きをしている。
しかし顔は醜悪そのもので、それはユエに近付くとユエを人質にするかの様に自分の方に寄せ、ユエを操り再び攻撃をさせようとする。
「ハジメ、ごめんなさい」
自分の意思とは無関係に身体は攻撃の準備を整え、攻撃魔法の光が集まる。
ハジメは植物の魔物・・・エセアルラウネに向かってドンナーを構える。
ハジメに自身の胞子が通用しない事を悟ったのかユエをさらに自分に寄せる。
ハジメが攻撃してこないのを見たエセアルラウネはユエに攻撃させ、直撃する。
「うぐっ・・・・!」
ハジメの頭に一本の花が生える。
それを見たエセアルラウネは勝ち誇ったかのようにその醜悪な顔に笑みを浮かべる。
だが、ハジメの頭に生えた花は咲く前に枯れ落ちる。
「残念だったなぁ、魔物を喰らい続けたせいか耐性があってなぁ」
エセアルラウネは笑みから一転、憤怒にその表情を歪ませる。
「だめっ!」
ユエに攻撃を続行させ、ハジメを殺そうとする。
「ハジメ、私はいいから撃って」
「ユエ・・・?」
エセアルラウネはハジメが攻撃できないと余裕の笑みを浮かべ、奇妙な笑い声を上げる。
「ハジメ、撃って!」
ユエは目に涙を浮かべながら声を上げた。
「いいのか?マジで助かるわ!」
転がっているドンナーを拾うと躊躇なく発砲し、弾丸はユエの頭に咲いた花を貫きエセアルラウネに直撃する。
ハジメはエセアルラウネに即座に近付くと、ドンナーを突き付ける。
「いやいや、お前がそんな目すんなよ」
躊躇なく引き金を引き、エセアルラウネの頭を吹き飛ばす。
エセアルラウネは絶叫を上げながら燃え上がり、絶命する。
「ユエ、違和感とか残ってないか?」
「撃った」
「あ?撃っていいっていうから」
「躊躇わなかった」
「そりゃあ、最後には撃つつもりだったし狙い撃つ自信はあったけど」
「けど・・・・?」
「いきなり撃ったらヘソ曲げそうだし、気を使ったんだぞ」
「頭皮、削れたかも」
「どうせすぐ再生するから問題ない」
「むぅっ・・・!」
ポカポカと、子供のグルグルパンチをするユエ。
「と、言う事があった」
ユエから事の顛末を聞き、思わずドン引きする武一。
「ハジメ、マジ引くわー」
「しょうがないだろ、他に手はなかったし」
「せめてもう少し躊躇ってやれよ・・・。まぁ、無事で良かった。俺はもう少しこの階層でアーマー稼ぎしてデプスクロウラーの中で寝るとするわ」
武一は魔物狩りに再度向かう。
翌朝。
「ハジメ、なんかやつれてねぇか?」
「聞くな」
「ユエ、何かあったのか?」
「特にない。熟成の味、美味しかっただけ。ごちそうさま」
「ハジメ、お前まさか・・・」
「聞くな」
「言っとくが、愛子ちゃんはお前には絶対渡さないからな」
「へいへい。っていうか、そもそもお前のものでもないだろうが」
「言うな」
少し肩を落とす武一。
「ところで、ここの床に作りから見て、下の階層への階段か?」
「ああ、多分な。準備はいいか?」
「うん」
「ああ」
武一はリムペットチューンガンの起爆スイッチを押す。
岩の切れ目のむこうから爆発音がし、その直後に一際大きい爆発音がする。
「デプスクロウラーの爆破処理は終わった。行こうか」
武一の言葉を最後に次の階層へと降りてゆく。
「次で奈落の底から100階層目か」
ハジメが地図を書きこみながら呟く。
階段を降り終え、通路になっても岩を切ったようなところがありどこか人の手が加えられている気がする。
通路は狭く、デプスクロウラーでは通れないために武一も100階層目は歩き続けている。
しばらく歩き続けると、装飾の施された扉があった。
一行は覚悟を決め、扉を潜る。
ありふれ二期の情報が欲しい。
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第九話
第八話 2020年08月11日(火)
( ゚д゚) ポカーン・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
_, ._
(;゚ Д゚) …!?
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ズドドドドドドドドドドッ!!
ドガガガガガガガガガガッ!!
武一が再要請したデプスクロウラーがラピッドバズーカとガトリング砲を撃ちまくる。
「おい武一!てめぇ何やってやがるっ!?俺達を殺す気かっ!?」
しかしその放たれる攻撃先は滅茶苦茶で何もない所へ攻撃したり、ハジメとユエが必死な表情をして逃げ回りなんとか倒壊した水晶柱の影に逃げる羽目になるフレンドリーファイア状態になったりとしっちゃかめっちゃかである。
クルアァァァァンッ!
まるでそれを嘲笑うかのようなヒュドラの鳴き声。
「死ね死ね死ねっ!プライマーは全部ぶっ殺す!なぜ地球に来やがったクソエイリアン共っ!!」
外部マイクがオンになったままなのか、武一の声が外部にハッキリと聞こえる。
「みんな死んだ!避難所ごとマザーシップに吹っ飛ばれたっ!避難船ごとプラズマ砲で蒸発したっ!東京タワーもスカイツリーもアーケルスとエルギヌスに薙ぎ倒されたっ!世界中廃墟だらけになった!殺す殺す殺すっ!てめぇらは赤ん坊も年寄りも関係無く70億人も殺しやがったんだ!!ぶっ殺してやる!!」
その声は怒りと悲しみと泣き声が混じった悲痛な叫びだった。
「ハジメ!」
「ああ!さっきのユエと似た状態だ!くそ、厄介すぎるだろ兵器乗りのバッドステータスは!武一!悪く思うなよ!まだマトモな判断力が欠片でも残ってりゃ脱出しろよ!」
ハジメはシュラーゲンのターゲットをヒュドラから暴走するデプスクロウラーに、ユエも魔法攻撃をヒュドラに行いつつデプスクロウラーに行う。
レールガンライフルと魔法の集中攻撃に加え、ヒュドラの攻撃もある。。
瞬く間にデプスクロウラーの耐久値はレッドゾーンに達し、あちこちから煙が吹き出す。
操縦室の室内灯が危険を知らせるレッドアラートを点滅させ、コンピュータの合成音声が緊急脱出の指示を出す。
デプスクロウラーが限界を超え爆発する寸前にハッチが開き、武一が飛び出し地面をゴロゴロと転がり立ち上がると走り出すが直後にデプスクロウラーは爆散しその爆風で武一は気絶してしまった。
ハジメは気配探知で武一が生きているのを確認するとユエに血を吸わせ、ヒュドラに反撃を開始する。
「ユエと俺のダチを弄びやがったんだ、ただですむと思うなよ!」
シュラーゲンを構え、ヒュドラに対峙する。
ヒュドラが絶命し、片目を失ったハジメは霞む視界にデプスクロウラーの残骸の前で力無く項垂れている武一の姿を見た。
「まだ・・・倒れている場合じゃねぇな・・・」
前世の事とは言え、思い出したくもない悲惨な出来事を無理矢理思い出させられたのだと、ハジメは気を失う前の一仕事と痛みを堪えて武一に歩み寄る。
「なぁ、武一。正直言って、今の俺にそんなに余裕はねぇ・・・。だからって突き放す訳じゃねぇが、前世のお前と今のお前は違うんだから、そんなに気を落とすな・・・・ん?」
「う・・・ううぅ・・・」
「泣いてんのか、お前・・・・って、ちょっと待て」
ハジメは武一が手に持っているものに気付いた。
それは複数あり、どれも半分以上炎の熱で溶けている。
「愛子ちゃんの、俺の命より大事な愛子ちゃんの隠し撮り写真達が・・・・」
「しかも隠し撮りかよ!?」
ゴンッ!
思わずハジメは武一の頭に拳骨を落とした。
ピューッ。
「あ、やべ・・・」
頭に血が上った影響か、ハジメは頭から血を吹き出し倒れる。
「疲れた・・・主に気持ちが・・・」
「う、うん・・・。お疲れ様でした・・・?」
床に倒れて頭から血を流すハジメ、溶けた写真を持って泣いている武一。
「何、このカオス・・・」
その光景にユエの頭は混乱していた。
「武一、先に行ってるから・・・」
ユエは倒れたハジメを引き摺って先に進む。
「ん・・・・?」
ハジメがゆっくりと目を覚ます。
周りは昼の様に明るく、ベッドの様な柔らかい物に寝ている様だった。
「んんっ?」
ピトッと、なにか温かく柔らかい物が体に密着している。
シーツを引き剥がすと何故かそこには全裸の痴女・・・もといユエがいた。
「ふんっ!」
「あばばばばばばばばーーーー!?」
思いっきり電撃を加えユエが声にならない声を上げる。
側から見れば「イチャイチャしやがってリア銃爆発しろ」と言いたくなる光景である。
「全く・・・。ん?そうだユエ、武一はどうしてる?」
「武一なら、あっちにある建物でふて寝してくるって言ってそのまま」
ユエの指差す先には館とも言える建物の姿が見えた。
そして館内部に入るとハジメは入る事のできる部屋を片っ端から探索する。
途中で本当にふて寝していた武一と再会した。
「これだけは絶対誰にも渡さない・・・」
武一は起き上がってもなお一枚の写真を大事そうに眺めていた。
「なぁ、武一。いい加減立ち直れよ・・・ん?ちょっと待てお前、それは・・・」
「マイエンジェル愛子ちゃんの写真だ!」
「どっからどー見てもそのアングルはやっぱり盗撮なんだが!?」
「最後の一枚はなんとしても死守する!」
「ああ・・・・うん。そうか大事にしろよ・・・・?」
「あ、これ深く突っ込んだらダメな奴だ・・・(ボソッ)」
ハジメとユエは色々と諦めた。
第八話 2020年08月11日(火)
うせやろ?
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