アナザー一夏のやり直し (ムリエル・オルタ)
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プロローグ
「こんな筈じゃなかった。俺は、そんなつもりは無かった」
真っ赤に燃える街並み、悲鳴や怒号が響く。そんな中、全身血だらけの織斑一夏は叫ぶ。「こんな筈じゃなかった」「どうして」と。しかし、既に事は起きた後。今更そんな事を言っても全く意味が無かった。
「箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラ、簪、楯無さん…………皆……………ゴホッ、ゴホッ!?」
かつて仲間だった女性の名前を呼ぶ。そして途中でせき込んだ。口の中に鉄の味がする。彼の体はボロボロだった。左足はISごとスクラップの様にひしゃげており隙間から血がしたたり落ちている。右手はそもそも肘から先が無い。腹部からはナイフが生えている。誰が見ても先が長くないのは明白だろう。
不用意な自身の行動は各国の軋轢を生み、IS学園での出来事は形骸化した条約の象徴ともいえた。起こるべくして起こった悲劇。
「守れなかった。なにも、何もかも…………!」
なにが正義の味方だ。何が皆は俺が守るだ。これでは屑じゃないか。守れもせず、争いを起こしてばかり。問題は先送りにし、解決した気になっている。
「ははっ、結局。俺みたいな化け物には破滅がお似合いってか?」
自嘲気味に彼は嗤う。内臓が傷ついているのか口から大量の血を吐いた。そして、歯を食いしばりその場から動こうとする。既に体は言う事を聞かず、血を流し過ぎたのか指先や足の感覚など殆どない。
「化け物は正義の味方になれないのか?」
否、大衆の正義の味方でなくても個人の正義の味方にはなれる筈だ。化け物だって正義の味方に………。
そんな事を想いながら彼は、織斑一夏は息絶えた。来世があるなら、彼女たちだけの味方に影から支えれる者になりたいと願いながら。
~~~
こうして、織斑一夏の物語は破滅により終了した。
そして、時間は巻き戻る。彼の「この結末を認めない」と言う渇望が世界を巻き戻させた。全てを守ると豪語し破滅した少年は偽りの正義のミカタの力と記憶を手にしやり直す。結末を変えるために。自身が描く理想を叶えるために。それがかつて自身を愛していた人と相反することになろうとも、止まらない。止められない。既に彼に止まるという選択肢は与えられていない。既に賽は投げられた。
本筋を外れた
~~~
「またあの夢か…」
朝日が差し込み、部屋の中が徐々に明るくなってゆく。
桜井戒。またの名を
そして、そこでも相違点が発生した。というより、ある意味順当であり、以前が可笑しかったと戒を納得させるに至る事だった。白騎士と呼ばれる世界最初のISは当時の技術的にも耐久性的に最高マッハ1が限度だった。そも、それでもかなりギリギリの計算であり、機体の設計の関係上超音速戦闘が主体となっていた。
ここで、今回日本に向かって撃たれた無数のミサイルについてだが、様々な国から飛んできたということは確実にその中にICBM*1はある筈であり、約マッハ20以上の速度で動くが直線的であり、ある程度は撃ち落とせるが、それでも世界各国からの発射だ。撃ち漏らしが生まれてしまう。そうして案の定打ち漏らしが生まれ、日本は有史初の地図の書き換えを行う羽目になった。その際に生まれた死者の数など、直視したくない程だった。
この事件により篠ノ之束はテロリストとして指名手配。ただ、ICBMこそ遊撃は出来なかったがそれ以外の現存する兵器では傷一つ付けれなかったのも事実。裏取引か、そこまでは戒も予測は出来なが取り合えずそれなりの数を量産させ、日本は自国防衛用に使用しようとしたが、アメリカやその他の列強諸国による強い圧力に屈し、国連主導で各国に分配した。
そして、現在へと時を戻す。戒は、この一つのターニングポイントが来るまで何もしていなかった訳ではない。生まれ変わってから手に入れた化け物の能力。化け物だった自分にはお似合いだと嘲笑しながらも、それを使って今のうちに出来る事はなんだってした。それが、今後の道筋に大きく作用したとしても、かつて正義の味方に憧れた戒にとって出来るのに見過ごすことは出来なかった。
そして、今度こそ
「初めまして、桜井戒です。趣味は料理と読書。ISに関しては一般人程度しか知らないので、教えてもらえると助かります」
「長身のイケメン!」
「それでいて料理が得意!」
「乙女ゲーからの刺客!?」
色々な声が聞こえる。どれも歓迎しているような声音であり、一先ず第一関門はクリアか、と戒はホッとしながら席に座った。その後、自分も喰らった出席簿攻撃を受けた織斑一夏を眺めながら、いつまでもこんな風景が続けばいいのに、と感傷に浸っていた。背後の視線に気が付かぬまま。その視線の意味に気が付かぬまま。
その後、自己紹介は恙なく終わり休憩時間へと移行した。新しいクラスの中でのグループ形成。特にそれが激しい女子はこの時間を逃さない様に、交流するはずなのだが…。
「えーっと、桜井だっけ?」
「あぁ、そういう君は織斑一夏君だね?よろしく、戒でいいよ」
「追う!俺も一夏でいいぜ」
戒と一夏のやり取りを食い入るように見ていた。もう、それは網膜に刻み付けるかのように瞬きもせずに、だ。その姿は異様であり、ちょっとしたホラーとなっていた。最も、渦中の二人は片方はあえて無視し、もう片方は気が付いては居なかったのだが。
二人は料理談議に花を咲かせていた。この調味料を使うと良いとか、この食べ合わせは不味いとか、そういった日常で使える豆知識からちょっとした工夫まで、戒と一夏は休憩時間ぎりぎりまで話していた。そして、この時本来なら来る筈であった
二時間目が始まり、通常授業が始まった。最も、これはこれ迄のお浚いであり、入学前に渡された分厚い参考書にあった内容しか出ていない。IS学園に入学する際のある程度の常識の確認と言った所だろう。戒は、過去に一度やらかしているので今回は、捨てずに持っている。が、本来の一夏はまた同じ運命を辿った様だ。素直にハッキリと電話帳と間違えた事を言い、千冬に脳天を叩かれている。ご丁寧に背表紙の方で叩いているので、さぞかし痛いだろう。
それ以降は特に何事も無く終わり、二度目の休憩時間が訪れた。クラスにたった二人しかいない男子。一人は気まずいので集まってしまうのも仕方が無い事だろう。ただ、腐の付く女子たちには格好の餌となるのだが。
そして、またも始まる料理談議。効果は周りの女子のプライドが死ぬこと。二人はそのことに気が付かず、そのまま話し続ける。そこに、一人の少女が乱入していった。人はこれを勇者と呼ぶ。
「ちょっとよろしくて?」
「ん?」
「あぁ、問題無いよ。セ…オルコットさんだよね?」
訪ねてきたのはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生にして、貴族当主。当時の彼は気にもしなかったが、何故自分に惚れていたのか、今になると良く分からない。それでも、貴族の当主だからか物怖じせず、周りをよく見てい上に、時にはリーダーシップを発揮して周りを鼓舞してくれたりもしたことを思い出す。それと同時に、もうあの頃には戻れない事を自覚して少しばかり感傷的になってしまう。
そんな戒の事なぞ、知らず(そもそも、表情に出していない時点で察せる訳も無いのだが)にセシリアは話し始めた。
「もう一度、自己紹介を。私の名はセシリア・オルコット。イギリス代表候補生にしてオルコット家
「代表候補生?次期当主?」
「……」
セシリアの言葉に二人は別々の反応を示した。一夏は良く分かっていないのか、首を傾げており。戒は何か深く考える様に黙り込み、そして笑みを浮かべながらセシリアに話しかけた。
「そうか、セシリアさん。御両親は無事だったかい?」
「?…えぇ、少しばかり怪我をなされましたけれど、命に問題はありませんでしたわ。それをどうしてあなたが知ってますの?」
セシリアの問いに戒は冷や汗を流した。普通、そんな事知らない。知っているのは、実際にその場に居た存在だけだ。戒はどうやって切り抜けようか、と頭を悩ませていたその時、授業開始のチャイムが鳴った。この時だけは、このチャイムが神からの救いの様に感じていた。
「クラス代表を決める。自推、他推は問わん。やれ」
何とも簡潔な言葉である。というか、それは教師としてどうなのだろうか。背後に立つ山田先生も流石に苦笑いしている。
そんな教師を置いて、生徒達は口々に一夏の名前を挙げる。そして、辞退しようとして千冬にまた脳天を叩かれる。戦いで死ぬ前に、脳震盪で死ぬのではないだろうか。
そんなしょうもないことを考えながら、戒は手を上げた。
「セシリア・オルコットさんを推薦します」
全ては、守る為。屑に成り下がった自分でも、やり直せると信じて。
プロローグに関しては前回の試作版のコピペで一部修正と伏線を入れただけです。二話目からが本番ですね(いつ出すかは未定)
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模擬戦
因みに、私は「白い束」とか「白い亡国企業」といった訳の分からない事を言っているのは苦手です。説明は後程。
「ほう、理由はなんだ?」
「はい、オルコットさんはイギリスの代表候補生です。その実力は間違いなくこのクラストップであり、クラス代表として十二分な素質だと思うからです」
セシリアを推薦した理由を千冬に問われると戒は事も無げにそう述べた。希少性で言えば、自身や一夏の方が圧倒的に上ではあるが普段であれば代表候補生もそれなりに稀有な存在だ。彼女たちの感覚がマヒしているのか、それとも戒自身が考え過ぎなのかは分からないものの、勝つことを前提とすればコレが最良手だろう。
しかし、理性的な選択もこの年頃の少女たちには通じない。希少性、話題性に目が行き勝率からそらしてしまっている現状では、セシリアには失礼だが代表は一夏になるだろう。
そう戒が過去の記憶と照らし合わせながらそう考えていると、黒板に桜井戒と書かれた。はて、自分以外に同名の人は居ただろうか…。そう考え、首を傾げながら辺りを見回すとセシリアと目が合った。
「…」
「…!」
目が合うと、少し考えた後セシリアはウインクした。そして、その行為に戒は否応なく確信した。コイツ、推薦しやがった…と。
それはもう戦慄した余りに作画が変るんじゃないかと言うほどだった。この時期のセシリアは男性へのあたりが強く、この後推薦された
前回の問題を事前に潰せるならありとあらゆる手を使って潰してきた。この身に宿った異形の力すら利用して手の届く範囲の事を全て行った。
だが、それは断じて見返りを求めた訳でも無ければこうして目立つ為でも無い。全ては贖罪の為。この世界とは全くかかわりが無いとはいえ、自身の気持ちの整理の為に、自分と同じ結末を辿らない為に。
しかし、こうやって候補に挙がってしまえば戒に抵抗する手立てはない。何せ、かつて姉だった千冬は拒否権を此方に与えてくれないのだ。こうなれば、記憶と少しばかり相違点のある代表決定戦が起きるだろうと戒は当たりを付ける。
そして、その予想は的中し元々予定に無かった為、急遽一週間後に代表決定戦を行うこととなった。
この時、千冬から一夏に専用機が受領されることを告げられ、もう一度クラスが盛り上がったのは余談である。その際に、戒にも専用機は無いのかと言われ無いと言われたことにまた少しばかり騒がしくなった。
「その、申し訳ありません。まさか、此処迄大ごとになると思いもしませんでしたわ」
「いや、僕もなんだかごめんね。専用機もちと量産機だったらスペック的にも君たち二人には勝てる筈が無いのに…」
「そんな事仰らないで下さいな。いくら専用機を持とうと、技量が追い付いていなければ幾らでも勝ちようはありますわ。少なくとも、織斑さんには勝てるかもしれませんわよ?」
授業が終わった後、こちらに近づいてきたセシリアは少しばかり頭を下げ謝罪した。それに対し、戒もちょっとばかりの愚痴を吐きながら談笑した。
その後は、特に当たり障りのない授業が続き一夏が必読の教科書をタウ〇ページと間違え捨ててしまったことにより千冬に制裁されたりしたが、いたって普通の日常風景だった。
放課後になると、他クラスや多学年からやってきた女子生徒達で教室の外は溢れかえり、一夏は
そんな中、荷物を片付けている戒に一夏が近づいていった。
「なぁ、戒」
「ん?なんだい、一夏君」
戒は名前を呼ばれ振り返るとそこには、真剣な表情でこちらを見つめる一夏だった。
「俺と戦ってくれないか!?」
~~~
場所は打って変わってIS学園内にある剣道場。一夏の突然の科白に一瞬たじろいだ戒はその後、微笑みそれを了承。場所として、道場を選択した。この時、初の男性IS操縦者が戦うということに興奮していた女子生徒達は気が付かなかったが、意外にも冷静だったセシリアや本音は戒が剣道場がこの学園にある事を
しかし、パンフレットか入学後に誰かに教えてもらった等の可能性もあるのでその疑問はそのままとなった。
制服から道着へと衣装を変え、互いに向かい合った。両者共に顔が整っている為、外野からの黄色い悲鳴が絶えない。しかし、二人の間には沈黙が流れる。ただ、研ぎ澄まされた雰囲気のみが場を支配する。何時しか外野も静まり返り、まるで無人であるかのような静けさになった。
「っ!」
「…」
次の瞬間、一夏が動いた。現状の打破が目的か、それは分からない。だが、少なくとも場を動かすことは成功した。一夏の手はそのまま戒の道着を掴み、背負い投げをしようと考えたが次の瞬間、掴んだと思った手は虚空を切り何もつかめていなかった。
「甘いよ、一夏君」
「なぁ!?」
状況の把握すら出来ずに一夏はそのままその場にのされていた。自身の視界に見えるのは、道場の天井と戒の顔。苦笑い気味に此方に手を出してきた戒に一夏もつられて笑いながらその手を握り、立ち上がった。
「強いな、戒は何かやっていたのか?」
「昔、篠ノ之道場で剣道を少しだけ。他はジムとか行ってたかな」
「え、戒もあの道場行ってたのか!?」
戒の言葉に嬉しそうに話しかける一夏。腐女子が喜びそうな構図ではあるが、何故か一夏の姿に懐き始めた子犬を思わせ、どうにも滾らなかったと後に腐女子は語ったという。何を語っているのだろうか。阿保なのか。暇なのか。
暫くの間、一夏と戒は同じ道場出である事からエピソードを語っているとそこに一人の女子生徒がやって来た。
「一夏、それに………桜井」
「お、箒!久しぶりだな!」
「僕の事は、
「分かった…だが、ならばお前も私の事を箒と呼ぶがいい」
「うん、わかったよ。箒」
「…!」
「顔が輝いている」
やって来たのは一夏の幼馴染である篠ノ之箒だった。同名の道場があるので、関係性はお察しの通りであり戒が関わった人物でもある。
一夏はこの時の箒の反応から「もしや箒の奴、戒に惚れてるな?」と何処かのお節介BBAの様に何かにつけて二人をくっ付けようと決心するのはまだ少し先の未来の出来事である。
「所で、一夏君。もう一度やるかい?」
「あぁ、頼むよ!俺って中学頃のは帰宅部で授業以外であんまり体動かしてなかったしさ!」
こうして戒と一夏は道場の担当の教師が閉める為に来るまで組手や柔道、剣道と幅広く戦った。翌日、一夏は全身筋肉痛に襲われ授業を休んでしまい千冬に雷を堕とされるのは完全に余談である。
・読み飛ばし推奨
『白い束』や『白い亡国企業』って何をもって白いって言ってるんですかね?慈善活動してたり、NGO的な活動してるんですかね?ただ単に、主人公の味方で敵対した原作キャラや敵キャラと戦ってくれたり、強力なアイテムくれる人達ですよね?主人公に都合の良い存在を『白い』と言ってるだけな気がしますよ。まぁ、そもそも原作がガバガバな上に設定矛盾も多いのでそこを突かれると弱いんですが。
アンチ、アンチじゃない以前に束と亡国企業、シャルロットの産業スパイと言った事柄は完全に地雷ですよね。ラウラはそもそも、倫理観って言葉を辞書で調べる所から始めないといけませんけど。WW2は存在しなかった?まぁ、それ以前に、クローンやら人体実験って生命の神秘への冒涜だと言う事で固く禁じられていると思うんですけけどねぇ…。
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