新サクラ大戦~蒼星と共に~ (宣伝部長)
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序章
太正二十九年・・・帝都・東京。
そして、ここは大帝国劇場。
「あの・・・さくらさん、いらっしゃいますか?」
とある一室の前でその部屋の主の名前を呼んでいる人物がいた。
彼女の名前は、小日向 蒼馬(こひなた そうま)帝国華撃団・花組の一員である。
両脇には大きな籠があり、ポケットから取り出した懐中時計で時刻を確認すれば、今度はノックをと扉に触れようとした時に隣の部屋の扉が開くと赤髪で巫女装束の女性が姿を現した。
「さくらなら中庭でまだ剣の稽古中じゃなかったかな?」
「そうですか・・・・・御菓子処みかづきの新作を入手したからお茶と一緒にどうかと思ってお持ちしたんですけど・・・」
「う~ん・・・もうそろそろ帰って来ると思うからよ!部屋の中で一緒に待ってようじゃねぇの!!」
「初穂・・・それって不法侵入で訴えられても知らないよ?」
「そんな事でアイツがガミガミ言う訳ないだろう?ほら!入った、入った!!」
「もう・・・強引なんだから」
強引に肩を組まれた蒼馬は、呆れた様に一息漏らすと大きな籠を持って初穂と一緒にさくらの部屋へとお邪魔する事にした。
初穂は部屋に入るとすぐさまベッドに腰を掛けて、蒼馬は大きな籠から急須と初穂用のコップを取り出した。
「新作の名前は、『春饅頭』。桜の花びらをした饅頭の中に桜色の餡が入っているんだとひろみさんが教えてくれたんだ」
「かぁぁぁっ!!やっぱみかづきの和菓子が一番だよなぁ~♪」
「リアクションが親父臭いよ?初穂」
「・・・ったく、一言うるせぇぞ」
「ふぅ・・・って、えっ?えっ!?どうして私の部屋にお二人が居るんですか?」
2人で和やかな雰囲気でくつろいでいると部屋の主であるさくらが目をぱちくりさせたように驚いていた。
「おっ!やっと帰ってきやがったか!おせぇぞ、さくら」
「・・・お邪魔してます」
「もう・・・なんで私の部屋でくつろいでいるんですか?」
「蒼馬がみかづきの新作を買って来てくれたんだよ!全員分あるみたいだから一緒に食べようぜ!!」
「どうして初穂が我が物顔で勧めているんですか・・・あっ、こちらがさくらさんの分です」
「うわぁぁぁ・・・今回は桜の形なんですね!?ありがとうございます!!」
饅頭を手渡すとさくら用のコップを取り出してお茶を注ぐ。
3人はいつものように他愛のない会話をしながら時を過ごしていた。
すると蒼馬は懐中時計を取り出して時刻を確認をすれば、大きく背伸びをした後に片付けをし始める。
「あっ、ごちそうさまでした♪」
「お粗末様でした」
「いつもありがとなっ!その籠持とうか?」
「いや、今からクラリスさんの所にも行くから2人はゆっくりしといて大丈夫。コップはいつもの場所にお願いするよ」
そう言って立ち上がった蒼馬は軽く手を振ると部屋を出て行き、クラリスがいつも居る資料室へと足を運ぶ。
軽くノックをしてゆっくりと扉を開けるといつものごとくクラリスは読書に勤しんでいた。
蒼馬は慣れた様に目の前に座ると色々と用意をし始める。
彼女は集中している時には何をしても反応しないと言われているが、蒼馬だけは彼女を振り向かせる術を知っていた。
和菓子と紅茶を用意した蒼馬は真剣な表情のクラリスを眺めていたが、不意に両頬に手を当てるとそのまま両頬を引っ張るのであった。
「いっいひゃいですよ!!しょうましゃん!!」
「ふふっ・・・ティーブレイクはいかがかと思いまして・・・・・」
「えっ?まぁ、あまり見ない和菓子ですね!いつもありがとうございます♪」
「自分が好きでやってる事だから気にしないでください」
本を置いて和菓子を頬張るクラリスを横目にクラリス用のカップに紅茶を注ぐ。
注がれる紅茶の香りに目を細めるクラリス。
「この香り・・・ダージリンでしょうか?」
「ご名答♪和菓子に合いそうな紅茶を選んでみたんだけど、どうかな?」
「えぇ・・・よく合っています♪和菓子がより一層美味しく感じられますね」
「それは良かった。研究した甲斐があったよ」
「・・・あの、ずっと見られているとなんだか恥ずかしいと言いますか・・・」
「気にしなくていいよ、ボクが見たいだけだから」
「だ・か・ら・・・・・!!」
クラリスが何か言おうとした瞬間に蒼馬の持っているスマァトロンが鳴り響く。
すぐさま手に取り内容を確認した蒼馬は立ち上がる。
「降魔ですか?」
「いや、支配人からの招集みたいだ。緊急ではないみたいだけど、行ってくるよ」
「わかりました。カップはいつもの所に置いておきますね?」
「OK、それじゃあね」
お互いに手を振って別れると大きな籠を持ったまま小走りで支配人室を目指す。
階段を降りて支配人室に向かう途中だったが、目の前を歩く2人の姿に声を掛ける。
「カオルちゃん!こまっちゃん!!」
「おっ蒼ちゃんやないか!?どないしたんや?」
「みかづきの新作を手に入れたんで一緒にどうかな?」
「そうですね・・・私は息抜きに頂こうと思いますが、こまちさんはどうなさいますか?」
「そやなっ!うちも頂こうかいな!!」
「わかりました。今から支配人とお話があるのでこちらを経理室にお願いしてもいい?」
「それならうちに任せときぃ!!」
そう言われると蒼馬は大きな籠を差し出した。
胸をドンと叩いて自信ありげに受け取るこまち。
しかし、受け取ったと同時に来た重量に体勢を崩しそうになるとそれをカオルがすかさずフォローに入った。
「な、なんやっ!?めっちゃ重いやんけっ!?」
「修行も兼ねてるからそれぐらいが丁度いいんだ」
「本当に隙がないですね、蒼馬さんは・・・・・」
「ボクがやりたいと思っていることだから普通だよ普通」
「それではお待ちしていますね」
2人掛かりで大きな籠を運ぶ姿を横目に支配人室をノックする。
「どなたですの?」
「小日向 蒼馬、参りました!」
「入ってちょうだい」
支配人室に入るとそこに居たのは、
帝国華撃団総司令 大帝国劇場支配人
神崎すみれの姿である。
「随分と早かったですわね」
「丁度こちらもお伺いする予定でしたから・・・それでボクに用件とはなんですか?」
「明日、帝国華撃団・花組の隊長を招き入れる手配なのよ」
「隊長・・・ですか、大神さんが不在ですからね。妥当な判断だと思います」
「それもありますが、今回はちょっと違いますの」
すみれの雰囲気に蒼馬は首を傾げる。
「貴女もご存じの世界華撃団大戦ですわ」
「世界中の華撃団が集まって競い合うヤツでしたよね?」
「えぇ・・・貴女なら気付いているでしょう?今の帝国華撃団はもう昔の輝きを失いつつある・・・ですから、今回の祭典では勝利を重ね、帝国華撃団ここにありと広く世間にしらしめて・・・・・この帝国華撃団を復活させようと思いますの」
「それは名案ですね」
「そこで・・・蒼馬さんには新隊長の補佐をお願いしたいのです」
「ボクが・・・ですか?」
キョトンとしたような表情で尋ねる蒼馬にすみれは頷いてみせた。
「貴女にしかお願い出来ませんわ。この10年間2人で共に護って来たんですもの」
「ふぅ~・・・もうアレから10年になるんですか」
「えぇ・・・あの方達の戻って来られる場所を護る為の第一歩なのですわ」
「・・・・・引き受けましょう、その大役を」
「流石蒼馬さんですわね、明日にはお着きになるそうですから帝都中央駅までお出迎えもお願いしてもよろしくて?」
「別に構いませんよ。予定の方も特にありませんので承知しました」
「それでは明日からお願いしますわね!」
「はい!あっ・・・それとこちらなんですが、みかづきの新作をお持ちしています」
「まぁ、いつも気が利くわね♪後で頂くわね」
「それでは失礼します」
深く一礼をすると踵を返して支配人室を出た。
出たと同時に大きく深呼吸をした蒼馬は一歩前に出ると窓越しに見える夜空を見上げる。
「大神華撃団、紐育華撃団のみんな・・・ボク、みんなの為に頑張ってみるよ」
誓いを立てるようにそっと一言呟いた蒼馬は微笑すると自分を待っているであろう経理室に消えていったのであった。
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主人公紹介
【名前】
小日向 蒼真(こひなた そうま)
【性別】
女性
【年齢】
6歳(降魔大戦時) 16歳(現在)
【身長】
160cm
【容姿】
青髪(天色)のショートウルフカットで服装は男物を好んで着こなしている。常に懐中時計を所持しており、マリア・タチバナから貰った代物である。腰には護身用に三節根を仕込んでいる。
靴は、男物のブーツを履いているのだが先端部分には鉄心が施されている。
【経歴】
帝国歌劇団の大ファンであり、父親が軍人でもあった為に大神華撃団のメンバー達とも交流があった。
降魔大戦時に両親を失ってしまい、悲しみに明け暮れていた所を大神一郎に保護された。
助けられた恩義を忘れない為にと『二都作戦』後の大帝国劇場を神崎すみれと共に切り盛りしていた。
現在では、帝国華撃団・花組の隊員の一員として活躍している。
公演では男役を演じることが一番多く、今の劇団員の中では男女共に人気である。
元々は劇団員ではなかった為に今でももぎり、カメラマン、ホール案内人として仕事をしている事も多々見受けられる。
ブロマイドの写真を撮っているのも彼女である。
プライベートではお茶会と言う名目で隊員達と毎日雑談をするのが日課となっている。
趣味は、グッズ作りらしく毎日こまちと一緒に考案しては、カオルに申請を出しているとかいないとか。
部屋の様子だが、歴代公演のポスターや思い出の写真が多く飾られており、窓際にはすみれから貰った『風林火山』と描かれた扇子が置かれている。
他の華撃団からも評価される程優秀な人材と称されている。
上海華撃団とも交流がある為に現在は上海華撃団と協力する形で帝都の平和を護っている。
【戦闘】
戦闘面では、なんでもそつなくこなせるレベルではあるがそれは10年間努力を怠らなかった賜物とも言えるだろう。
戦闘記録では、生身で降魔を討伐したことがあるとも言われている。
武器は霊力である。
しかし、霊力が身に付いたのは勇敢なる華撃団のみんなが消えようとする刹那だったと言われている。
すなわち、彼女自身が10年間の修行を得て手に入れたモノであり、誰も仕組みがわからないと言う。
霊力で具現化出来る武器は記憶に残る歴代隊員達のモノだけで蒼馬自身も最初は驚いてはいたのだが、みんなから力を授かったと自分に言い聞かせて現在はすべてを使いこなせるレベルになっている。
他に霊力によってモノを強化する事も出来る。(棒→剣、紙→刃物、等々)
霊子戦闘機のカラーは、瑠璃色。
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始まりの日
「ふっ!やあぁぁぁっ!!」
「まだ踏み込みが遅い!一気に詰め寄る!!」
早朝の中庭から聞こえる木刀同士がぶつかり合う音と共にさくらの気合の入った掛け声と指摘しながらさくらの攻撃を捌く蒼馬の姿があった。
いつもの朝練の日課でもあり、毎日実践を想定された一本勝負が執り行われている。
「まだ攻撃と攻撃の間に隙がある・・・だからっ!!」
「ひぅっ!?」
「ふぅ~・・・今日もボクの勝ちですね」
一瞬の踏み込みと同時に放たれた抜き銅にさくらは崩れ落ちてしまう。
蒼馬は髪を掻き上げるように汗を飛ばすとさくらの前で膝を付いて損傷個所に手を当てる。
そのまま霊力で治療を始めると反省点をあげていく。
「まだ少し大振りが目立つかな・・・相手が図体のでかい相手や動きの鈍い相手なら申し分はないかもしれないが、ボクのように手数やスピードに自信がある相手だと動きを変えないとかな?後は、カウンターを誘うような返し技を仕込んでおくのいいかもしれないよ」
「あははっ・・・本当に蒼馬さんは凄いです!毎回試合をするたびに動きも変わっていて・・・私なんかじゃいつまで経っても到底敵わないのかな・・・って」
「さくらさん」
「はい?・・・いたぁっ!?」
不意を突くデコピンに悲鳴をあげるさくらは涙目になりながら額をさする。
治療も済んで立ち上がった蒼馬はガクッと肩を落とす素振りを見せる。
「そんな弱音を吐くさくらさんはらしくないですね・・・諦めるんでしたらもう明日からの練習は止めにしますしょうかねぇ~」
「い、いや、明日もお願いします!!明日こそ私が蒼馬さんに一太刀浴びせますから!!」
「それならよろしい!治療も済みましたので今日はこの辺にしておきましょう」
「も、もう1本だけ!お願いします!!」
「あぁ~すみません、今日は支配人のお客様をお迎えに行かなくてはならないのでこれでおしまいなんです」
「そうなんだ・・・朝風呂はどうしますか?」
「それはご一緒出来ますから行きますか?」
「はいっ!!」
朝から気持ちのいい汗を流した2人は仲良く朝風呂に入る。
入浴後さくらと別れた蒼馬は部屋で黒いスーツに着替えると歴代メンバーと撮った集合写真に手を合わせると部屋を出る。
懐中時計にチラッと目をやるとまだ予定時間には早い。
すると部屋から持って来たファイルを手に向かったのは、売店であった。
「こまっちゃん、居る?」
「おっ?蒼ちゃんやないか!こんな早い時間にどっか行くんか?」
「支配人のお客様を迎えに行くんだ。それと今回の新作ブロマイド」
「おおきに!いつもありがとうなぁ~助かるわぁ~♪」
「写真を撮るのは楽しいから別に構わないさ。最近は隠れてオフショットを狙ってるからみんなから何か言われたらボクに伝えてくれ」
「あいよ~!毎度おおきに♪これでジャリジャリ儲けたるわぁ~!!」
「お願いしますよ~」
大帝国劇場から出るとすみれから言われていた帝都中央駅に向かう。
いつもと変わらない街並みに浸っていたが、目的地の帝都中央駅から人が逃げるように出て来るのに気付く。
その異変に気付くと同時に駆け足になる中でとあるワードを耳にする。
「降魔が出たぁぁぁっ!!!!」
「(降魔か、性懲りもなく現れてからに・・・)」
憎っくき降魔の事を思いながら帝都中央駅に辿り着くとそこには一体の降魔と1人の青年が対峙していた。
しかし、青年が二刀を用いて飛びかかるのだが降魔に吹き飛ばされてしまう。
その光景を目の当たりにした蒼馬は、観葉植物の葉を3枚引きちぎるとそれに霊力を込める。
次の瞬間には手裏剣のように鋭くなった3枚の葉が降魔の体に突き刺さるのである。
攻撃を受けた降魔はターゲットを青年から蒼馬に切り替えると両手を広げて襲い掛かって来たのだ。
「危ないっ!!!!」
「一体だけなら・・・・・」
青年の叫ぶ声がこだまするが、蒼馬はカッと目を見開くと走り出した。
立ち向かう前に落ちていた刀を拾い上げるとそれに霊力を注ぎ込む。
降魔は大振りの引っ搔き攻撃を仕掛けるものの対象である蒼馬は空中へと舞い上がっていた。
「たあぁぁぁっ!!!!」
勢いで一回転してから降魔に斬りかかる蒼馬。
刃は見事に降魔を一刀両断すれば、灰のように消え去っていた。
蒼馬は汚れを払うように刀を横に払っていると歓声と拍手が響く。
それは先程まで避難していた民間人が戻って来て、降魔を討伐した蒼馬を称賛するモノであった。
「大事にならなくて良かった」
「見事な太刀捌きだったね、驚いたよ」
「いえ、緊急事態でしたので咄嗟に身体が動いただけです」
「それでも一般人であの動きは見事なモノさ」
「あっ・・・か、勝手に使ってしまって申し訳ありません!」
声を掛けて来たのは先程の青年であった。
ふと腰の辺りに視線を落とすと自分の使った刀が相手のモノだと気付いて蒼馬は慌ててお返しした。
「あははっ・・・別に構わないよ。自分の力じゃあの降魔を相手にするのは無理だったからね」
「そんな事はないです・・・貴方は勇敢にも降魔と対峙して時間を稼ぐことに成功し、その結果ボクが間に合ったんですからお手柄モノですよ」
「そう言われると少しは自信を持てるよ・・・ところで聞きたい事があるんだけど、この場所に行きたいんだけど君知らないかな?」
「あの・・・・・失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「んっ?俺は神山誠十郎だけど、どうかしたのかい?」
その名前にピンっときたのかポケットにあったメモとすみれから借りていた写真に目を通す。
2人の間に少しの静寂の時間が流れたが、蒼馬は咳払いと同時に一歩後退りして敬礼をする。
「えっと・・・お迎えに上がりました」
「えええええっ!?!?」
まさかの出会いに驚く誠十郎。
気まずそうに頬を掻く蒼馬。
運命的な出会いを果たした2人はそのまま大帝国劇場を目指したのであった。
「ここが目的地です」
「大帝国劇場・・・劇場?君、本当にここで場所は間違ってないのかい?」
「間違いありません。ボクもこちらで働いていますので間違いないはずですから」
「困ったなぁ~・・・・・」
「蒼馬さ~ん!!そちらの方がお客様ですか?」
「そっ、神山誠十郎さんって言うんだ」
「えっ?う、うそっ!?もしかして・・・・・誠兄さん!?!?」
目的地の正体に項垂れる誠十郎。
そんな彼を横目に懐中時計に目をやる蒼馬だったが、玄関先を掃除していたのか藁箒を持ったさくらが近寄って来た。
説明をと思い名前を教えるとさくらが大きな声で叫んだのだ。
「・・・・・えっと、こちらの方は?」
「あぁ・・・彼女は天宮さくらさんと言って・・・・・」
「もしかして・・・さくらちゃん!?!?」
「はいっ!!」
「子供の時以来だから・・・10年ぶりぐらいか」
「えへへ・・・覚えていてくれて、良かった」
「これは驚きました・・・まさかお2人がお知り合いだったなんて・・・・・」
目の前で懐かしむように話し合う2人を見て蒼馬はポツリと口にする。
すると懐中時計に目をやる蒼馬は一度咳払いをして2人からの視線を集める。
「さくらさん、思い出話が済んでからでいいので神山さんを支配人室へとご案内お願い出来ますか?」
「えっ、あっ、はいっ!!」
「それじゃあボクはこれで・・・」
一礼だけを済まして大帝国劇場へと入っていった。
特に予定もないので自室に戻ろうとしていた蒼馬だが、不意に感じ取れる気配に振り返ると1人の女性に迫り込まれたのである。
「蒼馬さまぁぁぁん♪」
「い、いつきちゃん・・・近いよ」
「今回のブロマイドはもう最高でしたっ!!いつき、カンゲキ!!」
「そう言ってもらえると撮った甲斐があったよ」
「それにしても・・・今日はカッコいいスーツ姿じゃないですか~!?い、一枚写真撮ってもいいですかっ!?!?」
「そうだな・・・それなら、こまっちゃん!!」
「おっ、なんや?」
腕を絡ませるようにして興奮状態なのは、西城いつきちゃん。
帝国歌劇団の熱狂的なファンであり、蒼馬とは一番付き合いの長いお得意様である。
「一枚撮ってくれないかな?」
「ええでぇ~♪そのままで撮るんか?」
「いつきちゃん、なにか注文はあるかい?」
「お姫様・・・抱っこ・・・・・いやいやいや、それはなんでも・・・・・」
「お安い御用だよ」
「えええっ!?/////」
ご要望通りにお姫様抱っこでの一枚を写真に収めた。
あまりの出来事に写真を受け取ったいつきはフラフラとした感じで消えて行ってしまった。
こまち曰く、「ありゃ~今日は興奮しっぱなしで寝られへんかもしれんなぁ~」とのこと。
その後もファンの子達に取り囲まれた蒼馬は出来る限りファンサービスの対応に追われた。
すべての対応が終わった時にはもう時刻は昼を超えており、蒼馬は昼食を取りにとある場所へと足を運ぶ。
「軽めに済ませよう」
やって来たのは、厨房である。
普段なら食堂運営用に使われているのだが、隅っこには蒼馬専用のエリアが設けられている。
専用の冷蔵庫も自分で購入しており、料理を自分で作って食べたり振舞ったりしている。
本日は、白米に自家製の漬物、豆腐の味噌汁、牛肉のしょうが焼きを食べていた。
少し遅れた昼食を食べていると不意にスマァトロンが鳴る。
「さくらさんからだ・・・うーん、いつも誤字が多くて解りづらいな。神山隊長にボクを紹介か・・・それならサロンで待っておいてもらおうかな?丁度おやつの時間でもあるから都合がいい」
誤字が多い文章に苦笑いを浮かべつつも大体の内容を把握すると食事を済ませるといつものようにお茶会の準備を済ませると大きな籠を片手で持つと待ち合わせ場所へと移動を開始した。
サロンに到着すれば、さくらと誠十郎が居るのはわかっていたが初穂も一緒に座っている事に蒼馬は笑った。
「おやつの匂いに釣られてやって来たのか?初穂」
「ちげぇやい!!アタシは隊長さんと話をだな・・・・・」
「言い訳はいいから準備を手伝う。それとも初穂はおやついらない?」
「だぁぁぁっ!!いるに決まってんだろう!!」
そんな2人のやり取りを目の当たりにして笑い合うさくらと誠十郎。
初穂は拗ねた様に御菓子を取り出していたが、やはりみかづきの和菓子を目の前にすると嬉しそうな表情に切り替わっていた。
蒼馬はいつも通り人数のコップを用意するが、不意に誠十郎に声を掛ける。
「神山隊長は、お茶、紅茶、珈琲のどれがお好みかな?」
「えっ?お、俺の分もあるのか!?」
「ふぅ・・・当り前じゃないですか。神山隊長が来られるのは把握していましたから用意はしていましたよ」
「そうか・・・それなら俺はお茶を頂こうかな?」
「承知しました」
そう言って白色のコップを取り出すとお茶を注いでそっと手渡した。
今日のおやつのメニューは、御菓子処みかづきのあんころ餅である。
すべての用意が済んだ所で不意に蒼馬は立ち上がる。
「かなり遅れての自己紹介ではあるが、ボクは小日向 蒼馬。支配人からは神山隊長を補佐して欲しいと言われていますから何でも聞いて下さい」
「それは助かったよ!俺以外にも男の人が居るのはありがたい!」
「ぶふっ!!!!」
「もう、初穂!!」
お茶を吹き出してしまう初穂。
それに対してさくらは怒ったように声を上げる。
そんな空気感の中蒼馬はゆっくりとお茶を飲むと一言口にする。
「神山隊長・・・貴方は勘違いしているようだけど、ボクはれっきとした女性だよ」
「えっ?でも、あっ・・・えっと、すまない」
「気にすんなよ、隊長さん!!コイツのなりも悪いんだからよう、それに全員通った道だ!なっ、さくら」
「そ、それはもう昔の話でしょ!?今はもう間違ったりなんてしません!!」
「まぁ、誤解されたままだと後々面倒事が起きる可能性もあるかもしれませんから先にお伝え出来て良かったです」
気まずい空気になったものの誠十郎は気になっていた事を聞こうと口を開く。
「えっと、蒼馬くんはこの帝劇で一番人気のある人物だと聞いたんだが、どうして来週からの『ももたろう』の公演には参加しないんだい?」
「それは支配人からの指示さ。ボクがいない演目もたまにはやらないと彼女達の為にならないみたいだから」
「それはどう言う意味なんだい?」
「う~ん・・・言葉で言っても伝わないと思うから来週からの公演を楽しみにしていればいいんじゃないかな?彼女達の公演を観れる訳だからね」
そう口にした蒼馬はゆっくりと立ち上がると移動をする準備を始める。
「それじゃあボクはクラリスの所におやつを持って行ってくるよ。神山隊長、片付け方はそこの2人からキチンと教えてもらっておいてくれたらいいよ、それじゃあボクはこれで・・・」
「あっ、蒼馬くん!!」
「んっ?どうかしたのかい?神山隊長」
「お茶、美味しかったよ」
「神山隊長の口に合って良かったよ」
感想に対して笑顔で返す蒼馬は会釈を済ませば、クラリスの元にも行ってお茶会を済ませた。
その後は、何事もなく時間が過ぎていく。
蒼馬は自室でクラリスからおすすめされていた本を読み進めていた。
読書に集中していたが、不意に扉をノックする音が聞こえると蒼馬は読書用のメガネを額に上げる。
「どちら様で・・・?」
「さくらです!」
「どうぞ」
栞を挟んで本を閉じると同時にさくらは部屋に入って来たのであった。
「なにか悩み事かな?さくらさん」
「へへっ・・・・・やっぱり蒼馬さんはなんでもお見通しなんですね」
「まぁ、部屋にまで来るのだから何かしらあるとは考えつくことですから」
「そうですよね・・・」
「それで相談とは?もしかして・・・舞台の事ですか?」
「・・・・・はい、まだ自信が無くて・・・」
俯いているさくらの手を握ると蒼馬はじっとさくらの顔を見る。
「いつもの天宮さくらは何処にいったんですか?元気で自信に溢れていて何事にも諦めない天宮さくらは・・・!!」
「蒼馬・・・さん」
「貴女が夜な夜な練習しているのは観ていましたから大丈夫じゃないでしょうか・・・。ミスは誰にも起きる事ですし、失敗から学ぶ事も多いですから」
「・・・はい。やっぱり蒼馬さんと話していると心が落ち着きますね」
「それは喜んでいいの・・・かな?」
「いいんじゃないですか♪蒼馬さんは素敵な方ですから!!」
「褒めてもなにも出ないよ」
「本当の事ですから~!!」
などとお互い笑い合いながら喋っていると時刻はもう夜遅くなってしまっていた。
「あっ、ついつい長話になってしまいました」
「別に構わないよ。さくらさんに笑顔に戻ったんだからお釣りが返ってくるぐらいじゃないかな」
「えへへっ・・・それじゃあ私はもう寝ますね?おやすみなさい♪」
「うん、おやすみなさい」
上機嫌になってさくらは自室へと戻って行く。
そして、また静寂が部屋を包むと蒼馬はメガネを掛け直して読書に戻る。
「来週の公演・・・無事に終わればいいんだけどね」
そうポツリと呟く蒼馬の表情はどことなく元気のないように見えるがそれは夜も更けて来たからなのか特別な一日は終わりを告げた。
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現実は残酷に
『ももたろう』公演初日。
蒼馬と誠十郎はもぎりの仕事の為に一階ロビーに立っていた。
しかし、初日にもかかわらず2人の手で数え切れる程の人数しか来場されていなかった。
「お客様が全然来られないみたいだけど、いつもこうなのかい?」
「今回はボクが出ていないから・・・かな?まぁ、昔なんかと比べてしまうと天と地の差だよ」
「それでもこれは酷すぎるだろう」
「そう思うなら舞台を観てくればいい。神山隊長はもうこのボクらの隊長さんなんだから現実を把握する義務がある・・・だろう?」
「そうだな・・・蒼馬くん、この場を任せてもいいかい?」
「どうぞ、楽しんで来てください」
と言って送り出したものの蒼馬は大きな溜息を漏らす。
10年前の全盛期を知ってる為に現状を思うと申し訳なさに心が苦しく思うのだろう。
自分も素人ではあったが、すみれに基礎からすべてを学んだのですべてに対して完璧と言っていいレベルにまで仕上げてもらえたのだ。
だが、その技術を人に指導すると言うのは慣れていないのである。
そんな自分の無力さに未だに悩んでいるが、現実は非情である。
「ボクに・・・もっと力があれば・・・・・」
「ま~た暗い顔になってんでぇ~?蒼ちゃん!」
「・・・こまっちゃん」
「アンタは何でも自分だけでどうにかしようと考え過ぎなんや、うちやカオルさんもおるんやで?あの時に誓ったやろ?せやないとまた体調崩して支配人に怒鳴られてまうで」
「そうだったね・・・ごめん」
「ええんや、ええんや!!」
こうして、『ももたろう』の公演は一週間続き、終わりを告げる。
いつも以上にお客様の集客はなく過去最低とも噂されていた。
ファンサービスを済ませて帰って来た蒼馬はいつもみんなが集まるサロンに到着する。
「あっ、お疲れ様です!蒼馬さん!!」
「みんなもお疲れ様。さて、どうだった?」
「どうも何もテンダメだよ・・・・・」
「結果は散々でした・・・やっぱり私達だけでは・・・・・」
「2人共!!神山隊長も来てくれたんですから・・・こ、これからですよ!!」
3人の雰囲気に腕を組んで考える蒼馬。
しかし、一緒になって考えている誠十郎に気付く。
「神山隊長、なにか思いついた事はあるかい?」
「やはり素人しかいない現状個人の上達は難しいと思うんだ。だから演技の専門家を雇ってみてもらえばこの現状を脱却出来ると思うんだ」
「それはいいけどよ!その演技の先生を雇うお金なんてこの帝劇にあるのかよ」
「それは・・・・・」
「提案して頂けるのはいいですが、しっかりと現状を考えて答えてください、隊長」
「・・・・・わかった」
「蒼馬・・・さん?」
「ボクが演技の指導を担当するよ」
蒼馬の言葉に全員の視線が蒼馬に集まる。
「い、いいんですか、蒼馬さん?」
「今まで教え方が解らなくて幾度も思い悩んでいたんだけど、神山隊長が来てくれたからボクも少しは変わって行こうと思う。いいかな?神山隊長」
「それは助かるよ、蒼馬くん!」
「へへっ・・・蒼馬に教わるんならなんとかやれそうだな!」
「ですが、金銭面ではまだ何も解決策が見言い出せていないです」
「その件はもう一度カオルちゃんと話し合ってみる。あの時よりかは変化はあったはずだから」
「お願いします!!蒼馬さん」
「それじゃあ、みんなは今後の事もあるから現段階で何が足りないかをお客様から感想のついでに聞いて来てくれないかな?」
「「了解っ!!」」
蒼馬の想いに答える為か動き出す花組メンバー。
そんなみんなの姿にどうにかしようと蒼馬は、経理室の扉をノックするのであった。
中からは返事があったので、蒼馬は部屋の中に入っていく。
「蒼馬さん、どうかなされたんですか?」
「ちょっとした作戦会議だよ」
「作戦ならいくつか用意していますよ」
「さすがカオルちゃん!!」
するとカオルはいくつかの資料を持ち出してきたのである。
用意周到な対応にさすがと感心しながらも蒼馬は資料に目をやる。
しかし、内容は蒼馬をメインとしたモノが多い事に首を傾げていた。
「現状、この帝劇の収入源は蒼馬さんの力が半分程度占めています」
「まぁ、役に立っていて嬉しい限りだよ」
「・・・なので、蒼馬さん主体の催し物をいくつか考えていたんです」
「ボクのワンマンショー・・・か、需要とかあるのかな?」
「何を言っているんですか!?現在では、蒼馬ファンクラブと言うのも開設されており、現在では約100名程の会員がいる程なんですよ!?」
「カ、カオルちゃん・・・落ち着いて」
「はっ!?わ、私としたことが申し訳ありません・・・・・」
初めてみたカオルの姿にちょっと驚きを隠せない蒼馬。
いつも仕事熱心な人物だとは気付いていたが、自分の事でここまで熱弁されたのは初めてだった。
しかし、収入源として考えてくれた案でもあるから無下にするわけにもいかない。
「それじゃあこの話進めておいてくれますか?」
「かしこまりました。では、時期はいつ頃にしましょうか?」
「カオルちゃんに任せる・・・ボクはまだやる事があるからお願いするね」
「えぇ・・・お任せ下さい!!」
強い意志の籠った瞳を目の当たりにした蒼馬はこの件をすべてカオルに任せた。
部屋を後にすると今度は、売店へと足を運ぶ。
「こまっちゃん!お疲れ様」
「蒼ちゃんこそお疲れ様やんか!それで、こんな時間にどないしたんや?」
「作戦会議だよ、カオルちゃんとも色々と話して来た所だよ」
「売店の売れ行きを上げようと思うんやったらやっぱ新商品になるなぁ~」
「新商品か・・・・・」
と考えていた2人だが、ふと蒼馬は販売中のとある商品に目がいった。
「こまっちゃん・・・このゲキゾウくんの人形って簡単に作れるの?」
「んっ?そうやなぁ~・・・多少時間は掛かったけど、案外と出来はええやろ!」
「・・・・・これの劇団員バージョンって作れたりしない?」
「作れない訳はないけど・・・そう言う着眼点もありやな・・・・・」
「そっ、これなら全種類出せば揃えようとしてくれる方も現れて売れると思うんだ」
「なんや面白そうやな!!よっしゃー!こう言うのは善は急げって言うさかいにいっちょ交渉してくるわぁ~!!」
指をパチンッと鳴らしたこまちは、楽しげに『ジャリンジャリン儲けたるでぇ~!!』と叫びながら経理室へと消えていった。
一人残されてしまった蒼馬は部屋に戻ろうとした所でスマァトロンが鳴った。
内容は、サロンに至急集合と誠十郎からの連絡なので向かう事にした。
辿り着いた時には全員が集まっており、そこにすみれがやって来た。
「みんな揃っているわね?今から重大な事を伝えるわね・・・この度、実績を出さないと帝国華撃団を解散する事になってしまうわ」
「か、解散!?どうして解散なんですかっ!!」
「決まってるじゃねーか!お前らが弱いからだろう」
「なっ!いきなりなんだ君達はっ!?」
「上海華撃団の2人だよ。神山隊長は聞いてないのかい?」
「確か、蒼馬くんと協同して帝都を防衛している華撃団とは聞いている」
いきなり現れた男女にすごい剣幕になる誠十郎。
蒼馬はそんな彼の前に立つようにして落ち着かせるように訊ねる。
割って入ってきた蒼馬のおかげか一呼吸つけた誠十郎は知っている事を口にする。
「解散・・・帝国華撃団が解散に・・・・・」
「さくらも落ち着けよ」
「まだ決まった訳じゃない・・・実績を残せばいいんだ。華撃団大戦で優勝してみたりとかね?」
「そ、そんなの無理ですよ!?」
「そいつの言うとおりだ!蒼馬!お前の力は評価するがここに居るヤツらと一緒じゃ優勝なんて到底無理だ」
「驕るなよ・・・シャオロン。これ以上この帝国華撃団を侮辱するのなら・・・・・」
蒼馬の一言に場の空気が凍り付いたのが手に取るようにわかった。
あのすみれさえも固唾を呑んで見守る中で誠十郎は大声でこう叫んだ。
「俺達は、必ず優勝してみせます!!!!」
喜ぶ者、歓心する者、呆れる者と色々だが、蒼馬はそんな誠十郎の腹の辺りに拳を突きつける。
「神山隊長・・・今の言葉、真か?」
「あぁ・・・信じてくれ」
「・・・・・支配人、彼はこう言っているぞ」
「決まりね・・・シャオロン隊長、ご足労いただいた事、感謝いたしますわ。でも、花組の運命は花組で決める」
「・・・せいぜい頑張ってください」
上海華撃団の2人は一度花組の全員に鋭い視線を送ったのちすみれの案内の元帰っていった。
そして、一息つく為に蒼馬はいつものようにお茶会をする為に食堂に向かいいつもの大きな籠を持って戻ろうとした。
しかし、階段を登ろうとしていた所でさくらとすれ違うのであった。
不思議に思っていたが、去り際に見えた涙に大きな籠を置くと後を追うように走り出した。
「なにか言われたのか?」
「そ、蒼馬さん!?い、いや・・・何か言われたと言う訳じゃ・・・・・」
「・・・・・いきなりあんな事を言われたら普通の人なら諦めちゃうな」
「でも、蒼馬さんっ!!」
「・・・わかってるよ。ボクが一番ね」
悲しげな蒼馬の横顔を見たさくらは何も言えずにいたが、蒼馬は大きく深呼吸した後に話始める。
「ボクは死ぬまで足掻くつもりだ。さくらさんは・・・どうかな?」
「私も諦めたりしませんっ!!神宮寺さくらさんの為にもっ!!」
「神宮寺さんの為か・・・いい心がけだね」
「はいっ!!」
「・・・少し元気が戻ったみたいだ、ボクは先に失礼するよ」
「あ、ありがとうございます!!」
さくらの目尻に残っていた涙を指で拭ってあげた蒼馬は優しく微笑みかけるとその場を後にする。
そんな彼女の後姿にさくらは、お礼の言葉とお辞儀で見送った。
そして、1人になった蒼馬はゆっくりと目を瞑った。
「帝国華撃団は・・・護ってみせます」
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新生・帝国華撃団
翌朝。
いつもなら木刀がぶつかり合う音やさくらや蒼馬の掛け声が聞こえてくるのだが、今日は蒼馬だけが静かに座禅をしていた。
小鳥のさえずりが聞こえてくる程に気持ちの良い日光を浴びる中で蒼馬は大きく深呼吸をしていた。
「んっ?今日は珍しく1人なんだな」
「あぁ・・・さくらさんなら神山隊長に用があると言っていたからね。初穂も暇なら一緒にどうかな?」
「お前、アタシがじっとしてるの苦手なの解って言ってたらタチが悪いぞ」
「何を言っている・・・霊力の安定には必要な事だ。疎かにしていると力が鈍るぞ」
「はぁ・・・・・ったく、仕方ねぇな」
様子見にやって来た初穂も急遽座禅に参加するハメに・・・。
しかし、本人の言う通りなのか始まってまだ僅かの時間しか経っていないのに身体の色んな場所がぴくぴくっと動き始めており、額には汗が滲み溢れていた。
そんな状況下の中・・・2人の間に少しの沈黙が続く・・・。
「だぁぁぁぁっ!!!!」
「初穂、まだ10分も経ってないよ」
「無理なもんは無理なんだって!!・・・なぁっ!?これは・・・」
「壱号魔襲警報か!また降魔か・・・」
いきなり鳴り響くサイレン。
それと同時に2人は向き合うと作戦司令室に向かおうとした。
「ボクは先行して降魔を相手しているから神山隊長に伝えておいてくれるかい?」
「おう!」
「じゃあ先に行ってるよ」
初穂と別れた蒼馬は早急に地下格納庫に向かう。
すぐさま準備を済ませると三式光武に乗り込む。
単身で出撃をした蒼馬。
その間に花組のメンバーは作戦指令室に集まっていた。
「蒼馬くんの姿がないが・・・・・?」
「あぁ~アイツなら先陣を切るって出撃してたぜ」
「そ、そんな・・・1人での行動は・・・「あの子なら大丈夫よ、神山隊長」・・・総司令」
すみれの言葉には他のメンバーも頷いて見せた。
絶対なる信頼を持つ蒼馬に対して誠十郎は何も言えずにモニターに目をやった。
モニター画面には敵と交戦を開始した蒼馬の映像が浮かび上がった。
「小型の傀儡機兵ばかりなら・・・まだ自分1人で事足りるか。【Duplicate(デュプリケート)】『マリア・タチバナ』!!」
とある口上を口にすると三式光武の両手に12㎜機関銃2丁が姿を見せ、すり抜けながら敵を次々に撃ち抜いて行くのであった。
その光景は、作戦指令室に居た誠十郎には初めての光景で驚きを隠せずにいた。
「あの蒼馬くんの武装は・・・一体っ!?」
「彼女の強さは並外れた霊力・・・今までの隊士の中でズバ抜けています。現在までの歴代のメンバーを照らし合わせてもダントツね」
「そうか・・・だから初めて出会った時も蒼馬くんは1人で降魔を退治できたのか」
「・・・それだけじゃないわ。彼女は霊力を用いて武装を生成出来るのよ」
「武装を・・・ですか?」
「えぇ・・・それほど彼女の力は凄まじいモノなの」
まだ現れる敵の増援に警戒を強める蒼馬。
しかし、仲間が到着したのを確認するとすぐさま指示を出す。
「このまま挟み撃ちで叩く!」
「「「了解っ!!」」」
「数ばかり増えたところで・・・【Duplicate】、『ロベリア・カルリーニ』!!」
「す、凄い・・・・・」
「さくら!見惚れてないでアタシ達もやるよ!!」
「はいっ!!」
新たな口上と共に三式光武の両手がシザーハンズとなれば、炎が両手に灯る。
しかし、動き出せば霧のように姿が消え去り、1体、また1体と敵を刈り取るのであった。
その姿は炎を纏って踊っているようにも見え、その場を魅了する程であった。
「帝国華撃団・花組、巴里華撃団・花組、紐育華撃団・花組・・・・・総員20名。この数字を神山隊長何を意味しているかお分かりになりますでしょうか?」
「えっ・・・?それは、もしかして・・・・・」
「小日向 蒼馬・・・彼女の持つ【Duplicate】の数ですわ」
「全員分・・・ですか」
「昔の彼女が今まで努力してきた賜物・・・ですから」
すみれの最後の言葉はどことなく悲しげに聞こえたが、その時の誠十郎は知る由もなかった。
現場では敵の討伐を終えたのか安堵の息を漏らしていた。
「(それにしても最近頻発する降魔の出現にはなにか裏があるのかもしれない・・・・・そして、今回は分散するような降魔の出現だ・・・・・もしかしたら相手の目的は・・・・・?)」
「蒼馬さんっ!?!?」
「クラリス、どうし・・・・・っ!?!?」
言い終わるよりも先に真っ暗な闇のようなモノに包まれた4人。
視界が戻った時には目にした事のないような光景が広がっていた。
「各自、状況報告っ!!」
「さくら、動けますっ!!」
「おいおい!!光武の霊子水晶が反応しなくて動かねぇよっ!!」
「こちらも同じ状態みたいで動きそうにありませんっ!!」
「神山隊長、指示を求む!!」
作戦指令室も現状況が把握できたのか誠十郎が顎に手を当てて真剣に考えていた。
「妖力で出来た空間・・・降魔がそのようなモノ創り上げられるなんて考えられないし・・・・・」
「神山隊長!!私はまだ動けます!!私が道を切り開いてみせます!!!!」
「しかし、1人でなんて無茶だ!それに傷ついた仲間を置いてなんて・・・・・」
「クラリスと初穂はボクが面倒を見るよ。さくら、出口を見つけて来てくれ」
「はいっ!!!!!」
さくらは元気一杯の返事と共に奥へと突き進むと蒼馬は一度大きな深呼吸を入れる。
「どうやら・・・ボクもさくらさんを見習って全力でやらないといけないみたいだね」
「なっ!?なんだよこの数はっ!?」
「蒼馬さん!!私達を置いて貴女だけでも・・・・・っ!!」
「出来ない相談だな・・・ボクの愛する帝国華撃団のみんなを置いてなんてっ!!【Duplicate】、『大神 一郎』!!」
包囲する様に現れた傀儡騎兵の大群。
危機的状況に初穂とクラリスは声を荒げるが、蒼馬は奥歯を嚙み締め1番尊敬する名を口にした。
大太刀を両手に持つ構えはあの頃の隊長を映し出したように誕生する。
「ボクが生き続ける限り帝都の平和はなくならないっ!!!!!」
そう高らかに叫んだ蒼馬は疾風迅雷とばかりに敵を倒していく。
だが、多勢に無勢なのは変わりない・・・。
減りゆく敵の数に活路を見出した瞬間だった・・・。
「なっ・・・・・ぐぁぁぁぁっ!?!?」
「蒼馬さんっ!!」
「なんだよっ!!あのバカデカいの!!」
「もう逃げてくださいっ!!蒼馬さんっ!!このままじゃ貴女が本当に死んでしまいます!!」
「なんでだよっ!!動けよ、このポンコツ野郎ぉぉぉ!!!!」
突如として現れた巨大な降魔の殴打により、蒼馬の三式光武は壁にめり込むように打ち付けられたのだ。
いきなりの衝撃とダメージに意識が朦朧とする中初穂とクラリスの叫び声が響く。
三式光武内では警告音が鳴り響く中・・・蒼馬はゆっくりと起き上がる。
「(・・・・・全身が痛い。左目は・・・血が垂れていて見えないか。霊力は・・・申し分ない。まだ死んでないんだ・・・それならやれる事を全力でやる。そうだろ、小日向 蒼馬ぁぁぁ!!!!!)」
巨大降魔は容赦なくまた大振りの攻撃が迫り来る。
「蒼馬さんっ!」「蒼馬ぁぁぁっ!!」
2人の叫ぶ声が響く中・・・蒼馬は受け流し、大振りしてきた腕を斬り落としたのだ。
「不意打ちじゃないなら・・・対処の方法もある。だから、ボクに同じ攻撃は悪手だ」
崩れ落ちて来る巨大降魔に対してそう呟く。
「降魔に言っても意味はないか・・・・・【Duplicate】、『桐島 カンナ』!!」
悪態をつく蒼馬は霊力を集中させると崩れ落ちた巨大降魔に必殺技をぶち込む。
「一百林牌!!!!!」
思いっきり地面に拳を叩きつけると地面から炎を噴出し、巨大降魔を一瞬にして燃やし尽くしたのだ。
しかし、それと同時に蒼馬の三式光武は完全に機能停止してしまった。
それと同時にさくらが事件を解決させたのか結界がなくなり、帝国華撃団メンバーは大帝国劇場前に集まっていた。
「ど、どしたんですか!?!?蒼馬さん!!」
「・・・大したことない」
「そんな血まみれで言う台詞じゃねぇ・・・ぞっ!!」
「いっだぁぁぁっ!!!!!」
「蒼馬さんが叫ぶの初めて見ました・・・」
「ふふっ・・・それじゃあ、そろそろ戻ろうか」
「待ってください!!」
和やかな雰囲気で終わりを迎えようとしていたのだが、さくらがいきなり大きな声を出した。
「どうかしたのかい?」
「戦いに勝利した時の花組の伝統、ご存じないですか?」
「花組の伝統?なんだい、それ?」
「こうやるんです!」
「肩貸してやろうか?」
「・・・・・いらない」
「それじゃあ・・・手をお貸ししましょうか?」
「・・・・・どう言う意味だ?」
「ほらほら!せーの・・・勝利のポーズ・・・・・」
「「「「「決めっ!!」」」」」
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新たな星々との邂逅
「蒼馬さん、起きてますか?」
「あぁ・・・起きているよ」
いつもなら早朝の朝練があるはずなのだが、さくらは蒼馬の部屋へとやって来た。
中に入ると昨日とは違って体中を包帯でぐるぐる巻きにされている蒼馬がベットの上でもたれ掛かっていた。
さくらはなにやら準備をし始め、蒼馬はそれを観ている事しか出来ずにいた。
「初穂がもうすぐ朝食を持ってくると思いますからもうしばらくお待ちくださいね!」
「何から何まで申し訳ない」
「なにを言ってるんですか!?蒼馬さんは1人であの巨大降魔と対峙して倒したんですからこれは名誉の負傷です!」
昨日のことであった。
劇場内に入って緊張が解けたからなのか蒼馬が意識を失って倒れてしまったのだ。
周りにいたメンバーはまさかの出来事に急いで彼女を医務室へと運んだのだ。
症状は・・・・・全身打撲。
しかし、骨折や内臓の損傷はないみたいで頭部の外傷と軽度の神経損傷があると診断された。
この事によりすみれから1日絶対安静を言い伝えられており、隊員達がお世話する形になっているのである。
「(・・・・・とは言うもののボクにもやらなくちゃいけない事があるからずっとこのままと言う訳にもいかないな。しかし、アレが動くかわからないし・・・・・どうしたものか・・・・・)」
「お~い!朝ごはんの時間だぜ~♪」
「わざわざありがとう・・・初穂」
「なんだか・・・こう、しおらしい蒼馬って珍しいよな」
「ほぅ・・・それはどう言う意味だ?初穂」
「い、いや・・・なんでもないぜ!」
朝食はおにぎり2つにたくあんと味噌汁。
初穂は自分の分を取ると離れたソファーベッドで食べ始める。
さくらは部屋にある丸机を持って来て2人分乗せると蒼馬を見ながら食べ始めたのだ。
「さくらさん・・・そんな見つめられてるとちょっと食べにくいだけど・・・・・」
「気にしないでください!!」
「・・・・・あぁ、うん」
しかし、見られているせいなのか体の痺れのせいなのか手が震えて思うように食べられずぽろぽろと米粒を零してしまう始末。
「やっぱりまだ痛みのせいでしょうか・・・・・蒼馬さん!私が食べさせてあげます!!」
「いや、自分で食べれる」
「遠慮はいりません!蒼馬さん!」
「・・・・・あぁ、もう」
ぐいぐいと来るさくらに対して断り切れないのか蒼馬はそっと口を開く。
それを見て嬉しそうにおにぎりを食べさせるさくら。
しかし、その光景を見てにやにやとしている人物がいた。
「・・・・・何か言いたげだな、初穂」
「いやぁ~なんだか2人を見てると付き合いたての男女って感じに見えちまってよぉ~♪」
「そ、蒼馬さんと私が・・・恋人関係に!?!?」
「落ち着くんだ、さくらさん。初穂も適当な事言ってると部屋から追い出すぞ」
「おっ怖い怖い♪そんなに怒らなくてもいいじゃねぇか!」
「・・・・・ったく、今日は賑やかな朝だ」
いつもとは違う朝の始まりに蒼馬はため息をついていた。
朝食が終わり2人が帰った後蒼馬は身体中の痛みを我慢しながらも寝間着姿のまま部屋を出る。
壁に手を這わせながらゆっくりとだが、とある場所に行こうとしていた。
しかし、階段を前にしてゴクッと唾を飲み込むと恐る恐る手すりを掴むと階段を降りていく。
「こんなに階段を恐怖に・・・感じるなんて・・・こう身体が不自由になるだけでこうもうまく動けないの・・・・・かぁっ!?!?」
力が入らないのか震えながらも1段1段と額に汗水垂らし踏みしめながら今の自分に対してぼやいていた。
それでも1階へと辿り着こうとしか最中・・・全身に力が入らなくなってしまい、蒼馬は階段から投げ出されるようになり、咄嗟に目を閉じてしまった。
しかし、いつまで経っても感じない地面との衝突での痛みに恐る恐る目を開けると見知らぬ女性の腕の中にいたのである。
「危機一髪・・・って感じだったわね。大丈夫だったかしら?」
「あぁ・・・貴女のおかげで大怪我にならずに助かった、本当にありがとう」
「そう・・・でも、その汗・・・それにその包帯・・・・・本当に大丈夫?」
「えっと・・・これは仲間が大袈裟に治療したモノであってそれほど大事では・・・・・」
「なっ!?蒼馬くんっ!!」
平然とした態度で褐色肌の女性に事情を説明している最中慌てたように誠十郎が駆け寄って来た。
「ごきげんよう・・・神山隊長」
「悠長に挨拶している場合じゃないだろう。君は絶対安静を命じられた身じゃないか・・・どうしてこんな場所に居るんだい?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・キャプテン。彼女は満身創痍になりながらも1人でここに来た。・・・となれば何かしら意味があって行動しているのではないかしら」
「うーん・・・アナスタシアの言う通りだな。しかし、1人での行動は許可出来ない。蒼馬くん、同行しても構わないかな?」
「・・・・・わかった」
勝手な行動してしまって申し訳ないと反省していたのだが、アナスタシアの一言に蒼馬は助けられた。
そんな彼女に手をとられる形で2人は歩き出し、誠十郎は後に続くように付いて来るのであった。
「感謝する・・・まさか、あの大スタァに助けてもらえるなんて光栄だ」
「それはこちらも同感だわ。先日の降魔との戦いでは輝かしい活躍を聞いていたもの・・・私もその場で貴女の活躍を目に焼き付けたかったわ」
「しかし、結果はご覧の有り様だ。誇れるほどのものでもない」
「それでも生きているだけで素晴らしいと思うわ。人は生きてこそ輝く星であるもの・・・・・」
「それは・・・重畳」
そうして3人は昇降機に乗って蒼馬が行こうとしていた場所に向かうのであった。
辿り着いたのは・・・地下格納庫。
霊子兵装が格納されているはずの場所なのだが、蒼馬はアナスタシアに手を引かれながら歩き始めた。
しかし、そんな3人を目の当たりにした1人の人物が声を掛けてくる。
「深刻そうな感じに見えるが・・・何かあったのか?」
「医療ポッドを使いに来ただけだ・・・すぐに済む」
「令士・・・そんなモノがこの場所にあるのか?」
「あぁ・・・・・オレもさっき来た所だがこっちにあったぜ」
「・・・・・助かった」
医療ポッドがある事が解れば、蒼馬は寝間着を脱ぎ捨て包帯だけが巻かれた姿になった。
「ちょっ、ちょっと!!待った!!」
「どうかしたのか?」
「あるにはあるんだが、だいぶ古い代物なんだ。いきなり使用するにはかなりのリスクがかかる・・・それでも使いたいのか」
「・・・・・どれぐらい時間が必要?」
「ざっと点検に30分、改良に1時間、最終チェックに30分ってとこだな」
「わかった・・・えっと・・・・・」
「司馬 令士。アンタは?」
「小日向 蒼馬」
「よっしゃ!!蒼馬くんの為にもいっちょ頑張りますか!!誠十郎も手伝えよな!!」
「はぁ・・・仕方ない奴だな」
と男2人で作業に取り掛かる。
蒼馬は寝間着を手に取り、包帯姿のままでいたのだが背後からアナスタシアに抱きしめるように持ち上げられると膝の上に乗せられるように座らされた。
「・・・・・少々恥ずかしいんだが・・・・・」
「そう・・・?異性の前で裸同然の姿を晒した方が恥ずかしいと私は思うのだけど・・・・・」
「ボクは女性としての魅力はあまりないからそういった恥じらいはあまり感じないな」
「そう言うのはいけない事よ。貴女が意識していなくて周りは貴女を意識してしまうかもしれないもの」
「どうだろうか・・・ボクはこういった見た目だ。男性に間違えられる事も多いし、自分でもなるべく男性を意識して立ち振る舞ってる説もある」
「そうみたいね・・・・・でも、私の目には1人の女の子として見えるわ。可愛らしくて素敵な・・・・・ねっ?」
「人によって見えるものは様々さ・・・。ボクにもわかるよ・・・貴女が素晴らしい女性だと言う事がね」
「その誉め言葉は聞き慣れていたけど・・・貴女からの言葉だといつもより嬉しく感じるわ」
「それは・・・喜ばしい限りです」
初対面とは思えないように会話が弾む2人。
すると昇降機の扉が不意に開くとそこには蒼馬専用の大きな籠を持ったクラリスの姿であった。
「やっと見つけましたよ!蒼馬さん!!」
「あぁ・・・何故クラリスが怒っているのかなんとなく理解出来るけど・・・どうしたんだい?」
「ご一緒にティータイムを楽しもうとお部屋に伺ったのにもぬけの殻でしたし、この大きな籠がかなり重たいですし、蒼馬さんになにかあったのかと心配で心配で・・・・・!!」
「そんなに早口で言わなくて大丈夫だから。しかし、今回ばかりはボクに責任があるね。本当に申し訳なかった・・・お詫びと言ってはなんだけど、体調が良くなったら前に話していた喫茶店に2人でお出かけしないかい?」
「それって・・・私と蒼馬さんの2人って事ですか!?」
「そうなるけど、もしかしてボクと2人じゃ嫌だったかな?」
「嫌なわけないじゃないですか!行きます!絶対に行きましょう!!」
「・・・・・圧が凄いな」
いつものクラリスと違う圧力にたじろぐ蒼馬。
アナスタシアもその様子には面白げに笑みを浮かべていた。
「・・・・・ボクのセットがココにあるのなら少しティータイムといこうか」
「あの・・・蒼馬さん、持って来たのはいいんですけどよく考えたら私なにも用意とかしていなくて・・・・・」
「それなら心配いらないんだ。ボクは常にティータイム用に色々とストックしてあるからね」
「・・・その言葉でこの籠がなぜあれほど重いのか理解できました」
「私になにか手伝える事はないかしら?」
「そうだな・・・あの2人を呼んで来てくれないかな?ボク達だけ楽しむのは申し訳ないからね」
「ふふっ、わかったわ」
そう言って蒼馬はゆっくりと立ち上がり準備をし始めるとクラリスもお手伝いをするようにサポートしていた。
あらかたの準備が終わったところでアナスタシアが2人を連れて戻って来た。
「うおぉっ!?な、なんだこの優雅なお茶会みたいなのは!?!?」
「驚き過ぎだ、令士。蒼馬くんがいつも用意してくれるお茶会だそうだ」
「いやいやっ!?こんなの今まで経験した事ねぇ体験だぞ!?」
「まぁな、オレも就任したその日に経験したが有意義な時間だったよ」
「そう思ってもらえていたのは嬉しいな、神山隊長」
「にしても男の子なのにこんな気の利いた事が出来るなんて凄いなぁ~蒼馬くんわ!!」
令士の一言で一気に場の空気が凍り付いたのが理解出来る。
蒼馬はいつもの事だからと気にしていない雰囲気。
だが、女性陣からは呆れたといった表情で見られてしまう。
何かを察した感じの令士の肩をそっと誠十郎が叩く。
「蒼馬くんは女性だ」
「ほ、ほほ、ほんっとうにごめんなさぁぁぁい!!!!!」
「ふふふっ・・・・・そんなに必死に謝られたのは初めてかな?ボクは別に怒ってないから大丈夫。ちゃんとボクとしての魅力が伝わっているんだと成果が実感出来て嬉しい限りだよ」
「蒼馬さん・・・たまには怒ってもいいと思います」
「あはは・・・・・クラリスがボクの変わりに怒ってくれてるみたいだからボクは大丈夫さ」
自分の事で賑わう目の前の雰囲気に浸りながら飲み物を入れていく。
「アナスタシアさんと司馬さんはお茶、紅茶、珈琲のどれがお好みでしょうか?」
「う~ん・・・・・貴女のおすすめを頂けないかしら?」
「ボクのおすすめ・・・ですか?それは初めて言われましたが、かしこまりました」
「・・・・・ブラックの珈琲で」
「司馬さん・・・そんなに落ち込まなくても大丈夫ですから」
アナスタシアには玉露。
令士にはブラックの珈琲。
他の3人はいつもの飲み物を入れる。
そして、今日の茶菓子は・・・紅葉最中。
紅葉の形をした最中を人数分籠から取り出したのであった。
「蒼馬さんのその籠って本当に不思議ですね。なんでもいつも出て来るような気がします」
「臨機応変に茶菓子に合ったモノを選びたいからね。調べたり、口コミで聞いたりしてカオルちゃんやこまっちゃんに取り寄せてもらっているんだ」
「・・・このお茶は初めて頂くのだけど、このお茶菓子に良く合っていて新鮮な感じ」
「いつも飲む珈琲なんか比べ物にならないってぐらい飲みやすいな・・・ここまで美味しいものを飲んだのは初めてだぜ!!」
「・・・うん。以前頂いたのモノとはまた違った味わいだ。蒼馬くんは色々と物知りなんだな」
「ただ人よりも知っている事が多いだけです。・・・・・それで、医療ポッドはどんな感じなんです?」
一息ついた所で蒼馬が医療ポッドについて尋ねる。
すると令士が立ち上がって顎に手を当てながら説明を始めた。
「2人がかりで点検作業をしたから医療ポッドについてはもう使用可能だ」
「・・・・・じゃあもう使っても大丈夫?」
「あぁ・・・しかし、蒼馬くんに1つだけ提案があるんだ。データを取らせてはくれないか」
「別に構いません。ボクはこの怪我をいち早く治したいだけだから大丈夫だよ」
「助かるよ!今後の事を考えると改良しないといけない点が視えてくるかもしれないからな!」
ひとしきりお茶会を楽しんだ後蒼馬はみんなに見送られるように医療ポッドの中へと入った。
すべてが終わり医療ポッドから出た蒼馬。
するとそこにはいつも自分が着ている着替えが置かれていた。
着替えるよりも先に身体の調子がどうなのか全裸のまま体を動かしてみた。
さっきまでの自分とは違う感覚に蒼馬は身に染みて感じていた。
「ただ普通に身体を動かしているのにこんなに嬉しく感じるとは思いもしなかったな。それでもこれはこれでいい経験が出来た」
蒼馬はそう心に刻むと着替えを済ませて誰も居ない地下格納庫を後にしたのであった。
自室に戻ろうとしたが賑やかな声が階段まで響いており、蒼馬は何事かと思いながら姿を見せる。
「こんな時間になにかあったのかい?」
「あっ、蒼馬さん・・・・・って、お怪我はもう大丈夫なんですか!?」
「慌て過ぎだよ、さくらさん。もう違和感も残ってないみたいだから心配ない」
「あの状態からここまでの回復力・・・さすがね」
「ボクも噂ぐらいでしか話を聞いていなかったから半信半疑だったが、今回の件で信じれるモノになったと言うべきところかな」
「師匠!!」
「うぉっと!?・・・・・あ、あざみ!?」
がばっと誰かが抱きついて来たと思えば、思いっきり顔を埋めて来たのは望月あざみの姿であった。
「あざみってやっぱり蒼馬さんの事好きですよね」
「ふふっ・・・久し振りだからじゃないかな?あざみ、みんなが観てるよ」
「・・・・・はっ!?」
我に返ったように蒼馬から離れるもののわずかに顔は赤く恥ずかしそうに俯いていた。
「おいおい、こんな所でなに集まって・・・って、えええ!?なんで蒼馬が普通に居るんだよ!!」
「初穂、ボクはお化けじゃないんだ。生きてさえいれば普通に居るだろう」
「そうじゃねぇっての!なんで普通に歩けてるんだって聞いてんだよ!」
「・・・・・治ったから」
「そんな訳あるかぁぁぁ!!」
いつものやり取りが戻った事にさくらは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「それでは・・・あざみは見回りに戻る。にんっ!!」
「忍者・・・って言うのはあながち間違ってなさそうね」
「蒼馬さん!ご夕飯なんですが先程お部屋に届けたばかりなのでまだ温かいうちに召し上がってください」
「それならボクは先に失礼するよ。みんな、お疲れ様」
「はい!お疲れ様です」
「おう!また明日な!!」
「・・・・・良い夢を」
蒼馬は自室に入ると丸机の上に置かれている晩御飯を美味しく頂いた。
食後にお風呂も済ませて部屋でストレッチをしていたのだが、眼が冴えている事に気付く。
じっとしているのもなんだかモヤモヤする蒼馬は気晴らしに資料室に向かった。
「ふふっ・・・いつも通りだな」
先客としてクラリスが読書をしていた。
彼女は読書に集中してしまうと周りが見えなくなってしまう為に蒼馬はあえて声を掛けずに適当に本を探す。
1冊の本を手にクラリスの前に座ると一緒に読書を始める。
しかし、そうしても気付かないのは蒼馬も気付いている為に静寂の中で2人は読書に勤しんでいた。
ふとしばらく読書に夢中になっていたのだが、一向に気付かないクラリスに対して何か気付かせる方法はないかと思い蒼馬はとっさにこう一言呟いた。
「クラリス・・・・・大好きだよ」
本を読みながらそっと囁いた蒼馬。
こんな事でも効果はないだろうと視線を本からクラリスへと向けた。
誤算だった・・・・・。
自分が逆に本に夢中になっていたのかクラリスは頬杖をついた状態で蒼馬を見つめていたのだ。
当然クラリスの顔はイチゴのように真っ赤になっており、今にも爆発しそうな状況であった。
「・・・クラリス」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「クラリスは・・・ボクの事どう思ってる?」
「ど、どど、どうって・・・あの・・・・・私も蒼馬さんの事は大好きです///」
「ふふっ・・・・・ありがとう」
「・・・・・っ!?!?そ、蒼馬さん・・・・・」
照れながらも想いを伝えてくれたクラリスに礼と共にクラリスの手の甲にキスをしたのだ。
するとクラリスは声を出さないものの驚いたような表情をするが拒むような事はせずにじっと見つめて来た。
しばらく見つめ合っていた2人だが、0時を知らせる鐘が響くとクラリスは慌てたように立ち上がった。
「も、もうこんな時間ですね!私は先に失礼いたします!!」
この場から逃げ出すように飛び出したクラリス。
すると1人になったと同時に蒼馬は机に突っ伏したように倒れ込む。
静寂の中に響くのは、蒼馬の早まる鼓動の音。
そう・・・彼女は照れ隠しでやってしまった行動に後悔をしていたのである。
「はぁん・・・・・明日からクラリスに合わせる顔がないな」
自分でも馬鹿な事をしたと反省しているもののあの時のクラリスの顔を思い出すと「可愛かったな・・・」とポツリと呟いていた。
一度大きく深呼吸してから立ち上がると蒼馬も自室に戻って体を休めるのであった。
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