巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。 (背の高い吸血鬼)
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1話 2つのプロローグ

どうも、初めまして。背の高い吸血鬼です。

初の投稿なので、拙い部分もあるでしょうが、生暖かい目で見てやってください。
話の流れは基本的に原作に沿った流れで行きます。アニメの方は・・・多分出ません。
本来の主人公たるハジメは登場しますが、あくまでサブです。
メインヒロインたちはきちんと話に登場させます。


 暗闇の中、急速に小さくなっていく光。無意識に自身の体を抱くも震えは止まるはずも無く、途轍もない落下感に『やば、死にそう!?』なんて思いながら、綾瀬春香(あやせはるか)は、冷や汗を滝の様に流し、盛大に引きつった表情で、消えゆく光を凝視した。

 

 春香は現在、ナラクを思わせる深い崖を絶賛ロープ無しバンジー中なのである。凝視している光は、地上の明かりだ。ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に()()()()()()()()()()()春香は、遂に光の届かない深部まで落下し続け、轟々と唸る風の音を聞きながら、何故にこんな事をしたのか、を思い出す。

 

 現在進行形で味わっている恐怖体験に至るまでの経緯を・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

 金曜日。それは一週間の中で最も心休まる休みの前日。きっと大多数の人が、これからの休みに安堵の溜息を吐き、一週間分の疲れを我慢して帰宅し、どの様に休日を過ごそうかと妄想する。

 

そして、それは綾瀬春香も例外では無かった。

 

「わざわざ残ってもらって・・・ありがとうね、春香ちゃん。お陰で助かったわ・・・」

「いえ、また何かありましたら声を掛けてください。美咲ちゃん先生の為なら、いつでも馳せ参じますよ!」

「うふふ・・・ありがとう。それじゃぁ、気を付けて帰ってね?また来週~」

 

 担任の美咲ちゃん先生が教室を出て行くと、室内はシンと静まり返った。

 

ふぅ・・・と、一週間分の疲れの溜まった深い溜息をつくと、女子高生が使うには可愛らしくないリュックを背負い、机に掛けてあるスクールバッグを手に取った。これから帰宅である。

 

「・・・あ~、詰まんない。なにか、非~現実的なこと、起こらないかなぁ~・・・」

 

 休日と言っても、特に予定がない。何も無い為に、積読を消費する位だろうか。予定も無しに休みを消化してしまうのは勿体ない。なら、何か非現実的な事にでも巻き込まれたら、明日から始まる休日を有意義に使えるのに。

 

(なんて思っても、ここは現実だからねぇ~・・・)

 

 もう一度溜息をつき、教室を後にしようとした所で―――目を見開いた。

 

春香の目下、私の足元に白銀に光り輝く円環と幾何学模様が現れたのだ。

 

 私はまるで金縛りにでもあったかのように、目下の白銀に輝く幾何学模様―――俗に言う魔法陣―――らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増して行き、一気に教室全体を覆う程に拡大する。これは、まさか異世界召喚なのでは!?と内心では狂喜乱舞。サブカルチャーに染まって無い人であれば、この異常事態に悲鳴でも上げて我先にと教室から逃げていくだろうが、生憎この室内には理解ある春香のみ。そして、今から始まるであろう非現実に期待大な春香は当然、逃げずにその場で立ち止まった。

 

一体なんと書いて有るのだろう?と、ルーン文字の様な幾何学模様を観察していると、魔法陣がカッと爆ぜた。

 

 数秒か、数分か。真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻した時、

 

其処には春香の姿は無かった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

 同時刻・並行世界のもう一つの地球。

 

???先生が咄嗟に「皆!教室から出て!!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 

 




呼んでいただきありがとうございます。

ありふれ・・・良いですね。特に、ユエ様。血ぃ吸われたぃ・・・

タイトル変えるかもしれません。
なにか丁度良い案がありましたら、コメントお願いします。


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2話 異世界召喚

2話めです。


 手の平で顔を覆い、目をギュッと閉じていた春香は、ざわざわ騒ぐ無数の気配を感じて目を開けた。そして、周囲を呆然と見渡す。

 

 まず目に飛び込んで来たのは、やけに既視感を感じる壁画だった。縦横10mはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせてうっすらと微笑む中世的な女性が描かれておる・・・

 

なんだろ、この宗教画。以前、何処かで―――っ

 

『―――ファッ!?此奴(こいつ)エヒトじゃねッ!?!?』

 

エヒトとは、召喚されたこの世界の、主に人間族の聖教教会と言われる組織が崇拝する、女神様。とは言え、皆が思ってるような高貴なお方ではない。残虐なクソ女神だ。ありふれの小説で知っている。

 

眺めていると、ムカついて来たので視線を逸らした。

 

 周囲を見てみると、如何やら私は巨大な広場にいるらしい事がわかった。大理石の様な、美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建造物のようで、バロック彫刻だろうか。これまた美しい彫刻の施された巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっており、大聖堂と言う言葉が思い浮かぶ、荘厳な雰囲気の広場である。そこに、私と、私とは別の場所から召喚されたであろう人物たちが茫然と立ち尽くしていた。

 

 そして、その召喚された人物たちを見て、私は腰を抜かしそうになった。

 

なんせ―――

 

『え゛っ、なんで香織ちゃんに、雫ちゃん・・・ご都合勇者に子悪党組も!?』

 

そう。私の周りには、物語の中にしか存在しないはずの、ありふれの主役達が目の前に存在していた。ハッキリ言おう、召喚された事よりも驚いている。辺りを探すと、ハジメさんも見つかった。まだ覚醒していないからか、全く魔王様に見えない。これはこれで凄く新鮮な感じだけど、いまはそれ処じゃなかった。

 

 私は、如何やら【ありふれ】の世界に、召喚されてしまったようです・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

 私達の前には、まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好の集団。

 

彼等は一様に白い生地と金の刺繍の施された法衣の様な物を纏い、傍には錫杖の様なものが置いて有る。その錫杖の先端には、円環の代わりに円盤が数枚、吊り下げられていた。

 

その内の一人。法衣集団の中でも一際豪奢な衣装を身に纏い、精緻な意匠の装飾が施された烏帽子の様なものを被った、70歳前後の老人が進み出て来た。もっとも、老人とは思えない覇気を纏っており、不快皺や白く長い髭が付いていても、50代の様に若々しく見える。そんな彼―――イシュタル―――は、手に持って錫杖をじゃらじゃら鳴らしながら、外見によく合う深みある落ち着いた声で私達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同行の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会の教皇の地位についております、イシュタル・ランゴバルドと申すもの。以後宜しくお願いいたしますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った神の先兵は、好々爺然とした微笑みを浮かべた。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

こんな場所では落ち着けないでしょう。と、未だに混乱の冷めぬ生徒たちを促し、落ち着ける場所―――幾つもの長いテーブルと椅子が用意された広場へと連れて来られた。その間、私も彼等に紛れてちゃっかり付いていく。何故かバレてない。制服違うのに。バレたらどうなっちゃうんだろう・・・と、ちょっぴり不安に思いながら、席に着く。因みに場所は、ハジメさんの前の最後尾。

 

目の前にハジメさんがいる事に、若干居心地が悪い中、私を含めた全員が席に着くと、例の正真正銘【美少女&美女】のメイドさんがカートを押しながら入って来た。思春期真っ盛りな男子諸君は興奮した感じに、興味津々にメイドさんを眺めており、その様子を見る女子の眼差しと言ったらとても冷たいモノで。

 

まるで生ごみでも見ているかのようだ。向けられたら興奮しそう///

 

全員に飲み物が行き渡るのを確認したイシュタルが話し始める。

 

「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱しているでしょう。一から説明させていただきますのでな、私の話を最後までお聞き下され。」

 

そう言って始まったイシュタルの話は、小説と同様、実にファンタジーでテンプレで、そしてどうしようもないくらい勝手なモノだった。

要約すると、こう。

 

この世界はトータスと呼ばれている事。

トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族と獣人族、魔人族ね。

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、獣人族は巨大な樹海の中でひっそり暮らしている。

知らないのか教えてもらえなかったけど、巨大な樹海の獣人族が住む場所はフェアゲルゲンと言われる。

 

この内、人間族と魔人族は数百年と戦争を続けている。魔人族は数は少ないが個々の力が強力であり、対し人間族は強くはないが数で対抗しているようだ。戦力は拮抗し、大規模な戦争はここ数十年発生していないが、最近、異常事態が発生しているのだと言う。

 

それが、魔人族による魔物の使役。

 

魔物とは、野生動物が魔力を取り込んで変異種に変わった姿、と言われている。この世界の人々にも正確には判っていないようだが、それぞれ強力な固有魔法が使えると言う大変危険な生物である。

 

そんな魔物達を1、2匹では無く数十匹と使役できると言う事は、人間族の”数”というアドバンテージが失われたに等しいと言う事。つまり、人間族は滅びの危機に瀕していると言う事だ。

 

・・・と言う、小説のおさらいでした。

 

「あなた方を召喚したのは【エヒト様】です。我々人間族が守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避する為にあなた方を喚ばれた。この世界よりも上位の世界の人間であるあなた方は、この世界の人間よりも力を有しているのです。」

 

そこで一言区切ったイシュタルは「神託の受け売りですがな」と表情を崩した。

 

「あなた方には是非その力を発揮し、()()()()()()()()()、魔人族を打ち倒し、我ら人間族を救っていただきたい。」

 

イシュタルは何処か恍惚とした表情を浮かべている。もしかしたら神託の事でも思い出しているのだろうが、私からしたら薬でもキメちゃった危ない人だ。お巡りさん、そのおじさんです。しかし、エヒト様の意思の下、ね・・・

 

私には、ある女性の言葉が脳裏に刻まれている。彼女は、こう言っていた。

 

『君たちのこれからが、自由な意思の下にあらんことを』

 

言わずと知れたウザキャラ、ミレディちゃんの言葉よ。神に抗い、敗れて反逆者の汚名を被り、そのまま数千年も小さなゴーレムの体で生き永らえ、何時か神殺しを成すものが現れるのを心待ちにしている、そんな彼女がハジメさん達に掛けた言葉だ。この世界の九割以上の人間がエヒト様を崇めているらしいが、私は崇めないよ。宗教って嫌いなんだよね、神の名の元にどうたら~って戦争を吹っかけるって、私の感覚からしたら唯のテロリスト。それ以上でもそれ以外でもない。

 

そこでアへってるオッサンは、私達に神の意思で動く駒に成れ!と、ここで公言している様な物だ。原作を知っている私からしたら、この光景を第三者視点で見ている様な、不思議な感覚に陥る。その駒となる当事者の一人であるにもかかわらず。

 

チラッとハジメさんを一瞥すると、難しい顔をしている。神の意思を疑う事なく喜々として従うこの世界の歪さに警戒心を強めたのだろう。原作でも、そのような表現がなされている。

 

バンッ!!

 

「ふざけないでください!!結局、この子たちを戦争に巻き込みたいだけでしょう!そんなの許しません!ええ、先生は許しませんよ!!私達を早く帰してください!きっと、ご家族も心配しているはずです!貴方達のしている事は、唯の誘拐ですよ!!」

 

ぷりぷり怒るのは、ハジメさん達の担任の先生。マスコットキャラの様に可愛らしい、その姿から【愛ちゃん】と呼ばれている人であり、将来のハジメさんの嫁の一人だ。因みに、本人が愛ちゃんと呼ばれると直ぐ怒る。なんでも、威厳ある教師を目指しているのだとか。

 

『・・・いやぁ~無理でしょう』

 

現に、この理不尽な召喚の理由に怒り、ウガーッ!!と立ち上がった愛ちゃんに「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる・・・」見たいな視線を向けられており、その生徒たちはみな、ほっこりしている。

 

ほんわかした表情で愛ちゃんを見ていた生徒たちだったが、次に放たれたイシュタルの言葉で凍り付く。

 

(結果を知ってる私以外。あと、多分ハジメさんも)

 

「お気持ちはお察しいたします・・・しかし、あなた方の帰還は不可能です。」

「「「「「っ!?」」」」」

 



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3話 勇者参上っ!(w)

必須タグに【アンチ・ヘイト】を

タグに【ハジメはモブ】を追加しました。

これからも増えるかもしれませんので、ご迷惑をおかけします・・・


「お気持ちはお察しいたします・・・しかし、あなた方の帰還は不可能です」

「「「「「っ!?」」」」」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身にのしかかってくるようだ。私以外、誰もがいま言われた事を理解できない・・・否、理解を拒んでいるのか、なにも分からないと言った表情でイシュタルを見つめる。

 

「ふ、不可能ってどう言う事ですか!?呼べたのなら返せるでしょう!?」

 

愛ちゃん、渾身の叫び。

 

「先程言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々があの場に居たのは、単に勇者様方を迎える為と、エヒト様へお祈りを捧げる為。人間に異世界へと干渉する様な魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様のご意思次第ということですな」

「そ、そんな・・・」

 

愛ちゃん、KO。燃え尽き、力無く椅子に座り込んだ。某ボ〇サーのように、るる~って効果音が流れそう。

 

 帰れないことがわかっている私からしたら、別に慌てる事なんて無いのだけど、この様な事に遭遇するのは初めての人達(私もだけど)はそうもいかない。急に訳わからん宗教組織に拉致られて、返してくれません。立派な犯罪だと騒ぎ立てる。

 

「うそだろ?帰れないって何だよ!!」

「いやよ!なんでもいいから返してよ!!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!?」

「なんで、なんで、なんで・・・」

 

 まぁぶっちゃけ、某赤い国に拉致されたような状態だからね。こうなるのは仕方ないよ。この聖教教会のコ〇ギョ(讃美歌)でも歌えば解放もワンチャンあるかもよ!

 

なんて冗談いって、内心笑ってられるのは、如何やら私だけらしい。周りの生徒たちは一部を省いて殆どがパニック状態に陥った。あのハジメさんは冷や汗を掻いてるだけで、パニックには陥っていない。何故なら、召喚物のいくつかのパターンの内、最悪を引いていなかったからだったっけ。たしか、最悪なパターンは召喚者を奴隷扱いするパターンだった気がする。それからしたら、まだ人道的だよね。宗教に合わせて『コ〇ギョ!コ〇ギョ!』歌ってたら勇者でいられるのだから。

 

ここでかたくなにエヒトや聖教教会を否定するのは得策じゃない。だったら、嫌でも合わせるが宜し。

 

現に、イシュタルが私達の事を冷めた目で見ている。その瞳の奥には【侮蔑】の色が濃く現れており、「何故、エヒト様に選ばれておいて喜べないのか」とでも思っているのだろう。

 

 一部以外のほぼ全員が狼狽える中、我らが勇者様(笑)が立ち上がり、テーブルをバンッ!っと強く叩いた。その音にビクリと正気を取り戻した生徒たちが、笑勇者光輝に注目する。光輝は、全員の視線が集まった事を確認すると、徐に話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもない事なんだ。・・・俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人類が滅亡の危機に有るのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺には出来ない。それに、人類を救う為に召喚させたのなら、救済させ終えれば返してくれるかもしれない。・・・イシュタルさん、如何ですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。」

 

しらっと言っているが、するんだなぁ~それが。殺しに来るよ?

 

「俺達には大きな力が有るんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から十数倍の力を持っていると考えても良いでしょう。」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う!人々を救い、皆が帰れるように。俺が、世界も皆も救って見せるっ!(キラッ☆彡)」

 

ギュッと握り拳を作り、そう宣言する阿保な勇者様w。

 

わぁーかっこいいー(棒)

 

 それと同時に、彼のカリスマは遺憾無く効果を発揮した。絶望の表情だった生徒たちが活力と冷静さを取り戻し始めた。光輝を見る目はキラキラ輝いており、正に希望を見つけたと言った表情だ。女子生徒の半数上は熱を孕んだ視線を向けている。勿論、私は冷めた目で見ている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ってたぜ。お前ひとりじゃ心配だからな・・・俺もやるぜ?」

「龍太郎・・・」

「今の所、それしかないわよね・・・気に食わないけど・・・私もやるわ」

「雫・・・」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織・・・」

 

何だろう。文章で見ているだけでも下手な芝居見たいって思ってたけど、リアルに見ると、何と言うか、居た堪れない。

 

 いつものメンバーが彼に賛同を示せば、後は当然の流れと言う様にクラスメイト達が賛同していく。愛ちゃんはおろおろしながら「ダメですよ~」と涙目で訴えているが、光輝が作った流れの前では無力。そして、不自然なほど自然な流れで戦争参加が満場一致で可決。憲法9条を守ろう!戦争反対!って、この光景を見た自称平和団体や野党が騒ぎそうな光景だ。

 

 恐らく、大半のクラスメイトは、本当の意味で戦争をするということがどういう事なのかを理解していないだろう。本当の戦争は、理性の鎖が千切れた獣達による、同種同士の殺し合いであり、そこには光輝の思う正義など存在せず、有るのは、人の臓腑が辺り一面に散らばる酷い戦場後のみ。だから、こうなる事の知っている私がストッパーとなるのが最善手かもしれないけど、それは出来ない。なぜなら、私は知っていて、ハジメさんは気付いたのだから。

 

 イシュタルが事情説明をする間、それとなく光輝を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのかを確かめていた事を。正義感の強い光輝が、人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力があるのかを。

 

世界的宗教のトップなら当然なのだろうが、油断ならない人物だよね、あのアへ顔おじさん。このトータスでの危険人物トップ10入り確実の相手だからね。

 

『しかし・・・彼の戦う相手が、人間と同じ知性を持つ人と同じ存在である事に後で苦しみ、結局殺すことが出来なくて苦悩するのは知ってるけど、ご都合主義な彼にはいくら言っても聴きはしないだろうし、イシュタル等の監視が入ってる事から、私は何も言わずに唯、彼の演説に乗った様な体を振舞う。その方が、この場合だと安全だと知っているから。』

 

そんな事を、意味深に微笑むアへタル視界に入れて思った。




私、最近【プリ〇ス・ミ〇イル】に嵌まってますw


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4話 顔合わせ

本日2話めです


 神の意思の下では無く、頭フラワー勇者とそれに扇動された生徒たちにより、戦争参加の決意が示されてしまった以上、私達は戦いの術を学ばなければいけない。いくら規格外の力を持っていようと、元は偽の平和にどっぷりつかっていた日本人だ。いきなり実戦で魔物や魔人族と戦う等、不可能である。

 

しかし、其処等辺の事情は当然予想されていたらしく、イシュタル曰く、聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ準備が整っているらしい。

 

 王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神―――創生神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に総本山があるのだから、その繋がりの強さがうかがえるだろう。

 

「それでは【ハイリヒ王国】へと向かいますぞ。私に付いて来て下され」

 

イシュタルの合図で、皆動き出す。勇者が龍太郎君と今後の話に盛り上がっている時、香織ちゃんと雫ちゃんがハジメさんの所にやって来た。

 

「ねぇ南雲くん。これって、勇者召喚ってやつだよね?大丈夫・・・かな?」

「・・・それは、分からない。でも、最悪は回避してるみたいだ」

 

というコショコショ話に聞き耳を立てて居ると、同じくコショっと小さく話しかけられる。雫ちゃんに。

 

「貴方は、他校の子?」

「はい、多分ですけど、他次元の同じ位置にあった学校から召喚されました」

 

別に他意は無いけど、それとなく私の予想を刷り込んだ。ありふれの世界の魔法陣が、次元の違う私の場所にも何故か同時に魔法陣が展開するのは、時間軸が重なっていたから、とか人間には理解できない現象が作用したからだろう。考えたくないのは、エヒトが私を何らかの目的の為に呼んだ、とか。どちらかと言うと、偶然としか思えないが。

 

「そうだったのね・・・一応、自己紹介しとくわ。私は八重樫雫。貴方は?」

「綾瀬春香、です。宜しくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

 

私、興奮しています。小説の中の人と知り合いになれた事に。

 

これからどのような事が起こるのか、等の世間話をしながら歩いていると、聖教教会の正面門にやってきた。下山し、ハイリヒ王国に向かう為だ。聖教教会は神山の頂上に存在し、凱旋門もかくやという荘厳な門をくぐると、そこには雲海が広がっていた。高山特有の息苦しさ等は、魔法で生活環境を維持しているので問題ないらしい。

 

知ってる私からしたらそれ程驚く事なく、ただ絶景だな~って思っただけだけど、雫ちゃん達その他は、太陽の光を反射してキラキラと輝く雲海と、透き通る青い空という雄大な光景に呆然としていた。

 

 何処か自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えた。これが魔法版ロープウェイね・・・

 

台座には巨大な魔法陣が刻まれている。柵の向こう側は雲海なので、大多数の生徒たちが中央に身を寄せあう。それでも興味が湧く様でキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱え始めた。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、【天道】」

 

その途端、足元の魔法陣が燦然と輝き出す。そして、まるでロープウェイの様に滑らかに台座が動き出し、地上に向けて斜めに下って行く。先程の【詠唱】で台座に刻まれた移動系魔法を起動させたようだ。結構地味だが、ある意味初めて見る魔法に生徒たちが騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大はしゃぎだ。

 

子どもか!

 

子どもか・・・

 

濃い霧である雲を抜けると、地上が見えて来る。目下には大きな都市。山肌せり出す様に建築された巨大な城と、放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座ウェイは、応急と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ、

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

王宮に着くと、私達は真っ先に王座の間へと案内された。教会に敗けない位煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身に着けた者や文官らしき者、メイドなどの使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。私達が召喚された勇者であると知って居るからだ。

 

私だったら、こんな高校生集団を勇者になんて、断固拒否するがね。と、すれ違った者達を一瞥した。

 

美しい意匠の凝らされた巨大な両扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の体制を取っていた騎士二人が、イシュタルと勇者ご一行来たことを大声で告げ、中の返事も待たずに扉をあけ放った。

 

イシュタルはそれが当然というように悠々と扉を通り、光輝たち一部(私も)の者を省いて生徒たちは恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

 扉を潜った先には、真っ直ぐに敷かれたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子―――王座があり、その前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。エリヒド・S・B・ハイリヒ国王その人だ。その隣には、王都襲撃を生き残る予定の王妃ルルアリア・S・B・ハイリヒが居り、更に隣には香織に振られる不憫な王子ランデル・S・B・ハイリヒ、14歳ほどの金髪碧眼の美少女リリアーナ・S・B・ハイリヒが控えている。レッドカーペットの両サイドの左側には、甲冑や軍服らしきものを纏った者達が居り、右側には文官と思しき者達が30人以上佇む。

 

リリーちゃん可愛い。この子が将来、ワーカーホーリックになっちゃうのが悲しいことだ。

 

王座の手前まで着くと、イシュタルは生徒たちをそこに留まらせ、自分は国王の下へと進んだ。

 

そこで、おもむろに手を差し出すと、国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。知識と同様、この世界は国王よりも教皇のほうが立場が上であると。そして、この国を動かすのがエヒトである事が確定した瞬間であった。政教分離の元の世界が懐かしい。

 

其処からはただの自己紹介だった。

 

王族は良いとして、この国の騎士団長であり、生涯勇者である光輝をしても、剣術では叶わないほどの凄腕を持っているメルド騎士団長や、出番を見なかった宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。

 

 途中、美少年や振られ王子が香織ちゃんに吸い寄せられるようにチラチラ向けられていた事から、香織ちゃんの魅力は本当の異世界でも通用している事を認識した。

 

その後、晩餐会が開かれ、異世界料理を堪能する事となった。見た目は地球の洋食と殆ど変わらなかったが、偶に出る桃色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味しい。召喚された生徒たちは、毒や洗脳系の魔法、薬物などが入っているかもしれない・・・なんて気にせず舌打っている。私は内心警戒しながら食べたが、問題無かった事に一安心だ。

 

しかし・・・

 

ニルシッシル食べたい(切実)

 

何れ向かう事となろう、湖畔の町ウルに行けるまでの辛抱、だね・・・




ニルシッシルとは、異世界版のカレーです。

私、ウルの町編でこの話を見た時から、トータスに行ったら是非食べて見たいと思ったんですよ。その感情を、春香ちゃんに植え付けましたw


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5話 これからの未来について

おはようございま~す。

昼夜逆転の生活は、生活リズムが乱れますね!でも、止められないんですよね・・・


晩餐会の最中、王宮では私達の衣食住が保証されている(むね)と、訓練に置ける教官たちの紹介もなされた。教官たちは現役の騎士団員や宮廷魔法士の中から選ばれたようである。小説では、ハジメさんに教官が付いて教えてもらうなどといった内容が無かったので、この中の誰が神の先兵か分からない。なので、もし私の教官になった人物が先兵だった場合を考えると、迂闊にありふれの内容も語れない。

 

内心では語っても、声に出したりは絶対しないけど。でも、ノートにメモ程度は書くかもしれない。誰に見られても何て書いてあるのか分からない様にしよう。

 

晩餐会が終わり解散となると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。豪華な天蓋付きベットである。これに驚いたであろうハジメさんの表情を想像すると、可笑しくて笑えて来た。ハジメさんはこの後、怒涛の一日に張り詰めていたものが解けて、ベットで( ˘ω˘)スヤァするのだけど、私はしないで、リュックとスクールバッグの中を覗いた。

 

「・・・よかった。なにも紛失してない」

 

スマホも、充電器もその他の私物も存在しており、電化製品を起動する事が出来た。インターネットは使えないけど、カメラやメモ程度には使えるかも。充電器はソーラータイプなので、太陽光さえ存在していれば何処でも発電可能だ。これは私だけの秘密にする。スマホを使いたい生徒たちが大勢いる中、何処でも充電できるコレを知られれば、『こんな異常事態の中、皆が困っているのに、一人だけがその充電器を独占するのは不公平だ。今は助け合わないと!』とか阿呆勇者経由で強制的に【共用化】されかねない。例えネットが使えなくても、中に保存してあるデータが、とか、写メがどうとか言われたくないし。

 

カバンからノートとボールペンを取り出す。これからの予定を、この一冊にまとめる為だ。

 

勿論、召喚された生徒たちに付与されている【言語理解】対策を施す。魔法やスキルに対しての対策では無く、単に暗号化だけだ。【言語理解】は文字や言葉が理解できるけど、『ふあれりた』を『ありふれた』と解読しながら読める訳では無いので、私だけしか知らない様な暗号方式で文を書く。

 

さて、これから始まる異世界生活。しかも、ありふれキーパーソン達との訓練生活だけど、召喚されて彼等が居るのを確認した時。私は、一つの決意を胸に秘めた。それは、

 

【ありふれの物語を史実通りにさせない】

 

である。具体的に言うと、ハジメさんを奈落に落とさせない、かな?史実では、ハジメさんが通常迷宮最下層である90階層(だったっけ?)より下の階層に、奈落に堕ちた影響で到達してしまった。そして、死に掛けながら神結晶の神水ポーション効果で生き延び、魔物を食らって覚醒。ってなるけど、私はそのようにさせたくない。何故かというと―――【ユエちゃんと出会ってしまうから】。

 

私ね、ありふれのユエちゃんが押しの子なんですよ。嫁にしたいくらい、大好きなんです。

 

このトータスに来て、ありふれメンバーがそろっている状況で、会話等が殆ど一緒なのを垣間見えるに、本当にありふれの世界であり、物語の始まりであると確信している。なら、このままいけばハジメさんが落ちてユエちゃんを何だかんだ救い、正妻となる。現実では三次元に生きる私が、二次元で、しかも物語の中の存在であるユエちゃんに干渉する事は出来ない。だが、接触できるトータスへとやって来れたのだ。なら、せっかくのチャンスを捨てるなんてとんでもない。

 

このセリフを言うと、香織ちゃん・・・いや、香織さんにビンタされそうだけど、敢えて言おう。

 

「あの時、橋から堕ちるのは俺だったら良かった!」

 

実際には

 

「俺だったら良か―――(((((;`Д´)≡⊃)`Д)、;'」

 

ってなるのだけれども。

 

ハジメさんではなく、私が落ちて生き延びれば、ユエちゃんと接触するのはハジメさんではなく、私になる。と言う事はつまり、救うのが私になるという事でして。【ユエ】という名前を与え、帰る場所が無いと沈むユエちゃんに、私と来る?って誘えるわけでして。其処からユエちゃんとの一蓮托生の毎日が始まるという事で―――!!

 

ユエちゃん、同性愛大丈夫かな?いや、ダメでも落とす。落として見せるよ!!

 

その為には、私は何としても生き延びて、そしてユエちゃんを開放しないといけない。ハジメさんが落ちるのではなく、私が落ちる未来に変えたとして、落ちた先で私が死んでしまった場合、ユエちゃんは解放されない可能性が高くなってしまう。と言う事は、史実よりも何百年、下手したら何千年も閉じ込められたままにしてしまうかもしれない。未来を変えるのは、それだけでユエちゃんを危険にさらす事になってしまう。

 

だから私は、何としてでもユエちゃんの元までたどり着かないといけない。片腕どころか四肢損失してしまってでも。

 

そして、たどり着くまでの最大の障害が、私の天職が不明な所だ。どんな天職が来ても、私は成し遂げなければならない。

 

その為のこれからの計画を、数十パターン用意しよう。今日は眠れなさそうだ・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

翌日。早速訓練と座学が始まるとの事で、皆が呼び出される。道中、雫ちゃん達女子グループと鉢合わせしたので、雫ちゃん達に挨拶する。

 

「おはようございます、八重樫さん」

「昨日の・・・確か、綾瀬さんよね?おはよう」

「綾瀬さん?・・・クラスに居なかったよね、他クラスの子?」

 

香織ちゃんが割って入って来た。そこで、私を知らない香織ちゃん達に、並行世界から召喚されたと自己紹介。次元に干渉できるのだから、並行世界にも干渉できるんだね、と妙に感心された。いや、私が干渉したわけでは無いのだけれど・・・と返せば笑われて、自然と会話が弾む。初対面とは思えないほど話すのが楽なのは、私が彼女たちの性格を理解しているのと、八重樫さんが空気を読んでそれとなく話題を纏めてくれるからだろう。

 

流石、おかんと呼ばれるだけはある。

 

「訓練と座学とか面倒だよカオリ~ン!勇者として召喚されたんだから、なんかこう、ばばーんっ!て敵を倒して終わりがいーよーぉ!」

 

駄々こねたのは、ちみっこムードメーカ兼、心の中に小さなオッサンを飼育している谷口鈴ちゃん。明るい性格の子で、印象に残るこの子だが・・・中村絵里に利用されて捨てられる姿など、見ていられないほど居た堪れなくなってしまう、そんな悲しくて残酷な未来が待ってる、酷い運命を背負った少女だ。

 

それもこれも恵里が悪い。

 

「鈴ちゃん、訓練もお勉強も大事だよ・・・?」

「何か分からない事でもあったら聞きなさい。頑張って覚えて、教えてあげるから」

「さっすがシズシズ!頼りにしてるよ♪」

「あはは、鈴ちゃんも勉強しないと駄目だよ?」

「ハルちん厳しい!!」

 

ハルちんは私のあだ名で有ある。早速付けられたけど、何か嬉しい。

 

なんて話して居ると、集合場所に集まった。すると、12cm×7cm位の銀色のプレートと針が騎士団員により配られる。

 

そう。これが、あのステータスプレートである。

 

 




鈴ちゃんも可愛ぃ~



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6話 ステータス

おはようございます!


不思議そうに配られたプレートを見る生徒たちを横目に、私は香織さんの後ろに隠れる様にして陣取ると、誰も注目していないのを確認してから針を指に刺した。ぷつりっと出て来た血液を、プレートの魔法陣に擦り付けると、直ぐに両手で抱え込んだ。

 

ステータスプレートに血を垂らす事によって、本人登録が完了するのだが、その時に淡く輝く。これはこのプレートに本人の魔力を刻むためらしい。因みにだが、私の魔力の色はハジメさんと同じく【空色】である。これはもしかしなくても、生産系の天職かもしれない。なら、私は【錬成師】で有る事を切に願う。

 

閑話休題。

 

もう一つの理由は、発光現象により、まだ扱い方を教えて無いはずなのに、登録方法を知っているのがバレるのは不自然極まりないからだ。それに、自身の技能を先に確認して、公開したくない技能を隠蔽する為でもある。このカードは便利な事に、能力値や技能を隠蔽できる機能があり、それは本人にしか操作できない。因みに、この【隠蔽が出来るよ!】って事は教えられないので、此処に居る生徒たちは隠蔽機能を知らないので、そのまま開示する事となる。

 

さて、皆にバレぬよう、私の能力を見ようではないか。

 

こっそりやっていると、この場に来た騎士団長であるメルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

 騎士団長が訓練に付きっ切りで良いのかという疑問を持つかもしれないが、対外的にも内面的にも【勇者ご一行】を半端なものに預ける訳にはいかないという事らしい。メルド団長本人も「むしろ面倒な雑用を副団長に押し付ける理由が出来て助かった!」と豪快に笑っているので、本人は問題ないようだが、押し付けられた副団長さんは大丈夫では無いかもしれない。

 

「よし、全員に配り終えたな?このプレートはステータスプレートと呼ばれて・・・」

 

メル団の説明を耳にしながら、私は”ステータスオープン”と小声で唱えた。

 

======================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:1

 

天職:錬成師

 

筋力:50

体力:45

耐性:50

敏捷:65

魔力:230

魔耐:230

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査]

   弓術

 

   火属性適性

 

   土属性適性

 

   全属性耐性

 

   魔力感知

 

   言語理解

 

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

=====================

 

―――っ!?

 

思わずガッツポーズを取ろうとしてしまったが、寸での所で思いとどまれた私を褒めて欲しい。錬成師であれば、ハジメさんが取るファンタジーの世界観を壊す、邪道ともいわれそうな【銃による】戦法が可能となる。勿論、銃器一つ作るのには途方もない時間と試行錯誤を繰り返す事となるが、それでも高威力の攻撃をノータイムで叩き込めるのは、接近戦や矢や魔法による遠距離攻撃しか存在しないこの世界では途轍もないアドバンテージになるだろう。

 

強力な魔物にも対抗できるソレは、ハジメさん自身が証明している。

 

しかし、錬成師でなかった場合に備えた計画数十パターンが無駄になったが、それは些細な事だ。

 

他にもハジメさんが所持しておらず、殆ど周りの人が持つ事となる技能が多い中、一際異彩を放つ技能がある。それは【異界収納】。こんな技能は、ありふれでは登場せず、全く見たとこがないけど、そのほかの物語・・・例えば、同じようなファンタジー世界を舞台にした小説には似たスキル【アイテムボックス】がある。これは、そのアイテムボックスと殆ど同じ機能をする技能らしい。

 

なので早速、【異界収納】を隠蔽した。これがバレれば非戦闘職であるからとして、迷宮攻略を行う皆の物資を運ぶ【お荷物係】に強制就任させられる。迷宮内でも魔法が使えるので、水属性適性者により水は確保できるが、食料は持参しなければならない。魔物は猛毒で食べられない()()()()()()()()()()から、ちゃんと食べられる食料を抱えて潜らねばならず、それ以外にもポーションや魔法を使う為の媒体、武器にそれらの整備品、更にメインと使っている武器が破損してしまった場合の予備武器等を含めると、それらの重量はステータスが存在しても重く感じるはずだ。それらを持って戦闘するのも鬱陶しいはずである。

 

そんな事にならないように私の【異界収納】へ、物資なり色々積み込めば問題は無くなる。その分、皆の生命線となるので、探索中の一人行動は必然的に出来なくなってしまう。それは、今後の計画の破綻を意味しているので、一人行動が出来る様、私の存在価値を下げなければならない。

 

存在価値を下げないと行けないのだが、魔力と魔耐が勇者である光輝の100を軽く上回っている。軽く二倍だ。これは、同じく100に修正しておいた方がいいだろう。

 

本当の数値のまま公表してしまえば、勇者よりも一部ステータスが突出していると忽ち騒ぎになり、より注目されてしまう。

 

何度も言うが、今注目されるのは避けねばならない。

 

「・・・プレートの一面に魔法陣が刻まれて居るだろう?そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所有者が登録される。”ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ。」

「アーティファクト?」

 

光輝が皆を代弁して質問する。それにメル団がフランクに答えた。

 

「アーティファクトっていうのはな、現代じゃ再現できない強力な能力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属たちが地上にいた時代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、昔からこの世界に普及している唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝にもなるもんだが、これは一般市民にも流通している。身分証明に便利だからな」

 

因みに、このステータスプレートを制作するアーティファクトも存在しており、毎年、教会の厳重管理のもと必要に応じて制作・配布がなされているとのこと。

 

それらの説明に「なるほど」と頷きつつ、私を含めた生徒たちは顔を顰めながら指先に針をちょんと刺し、ぷくっと浮き上がった血を魔法陣に擦り付ける。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。私も同じことをやったが、勿論登録されているので光る事はなかったが、真似だけでもしておけば怪しさは出ない。魔力の漏れが見れないのも、影に隠れているので気にさえされなかった。

 

ステータスプレートの色が変わった事に、ハジメさん以下全生徒が瞠目している。私は振りだ。

 

そんな生徒たちにメル団が説明を加える。曰く、魔力と言う者は人其々違う色をもっているらしく、プレートに自己の情報を登録すると、所持者の魔力色に合わせて染まるとのこと。つまり、そのプレートの色と本人の魔力色の一致を持って身分証明とするのである。

 

私の魔力色はハジメさんと同様に近い【空色】で、勇者(笑)は純白、龍太郎は深緑色、香織ちゃんは白菫、雫ちゃんは瑠璃色である。

 

「珍しいのは判るが、しっかり内容も確認してくれよ」

 

苦笑いしながらメル団が確認を促す。その声で生徒たちはハッとしたように顔をあげて直ぐに確認に入った。私は隠れるのを止めて、雫ちゃん達のグループに混ざると、恰も今初めてステータスを見るよといった感じに視線を落とす。そして、彼女たちのステータスをチラ見。雫ちゃんは剣士、香織ちゃんは治癒師、鈴ちゃんは結界師と、変わっていない事に安心する。ハジメさんのを確認できないのが残念だが、直ぐに分かるだろう。




オリジナル要素を追加しちゃったので、タグに【オリジナル要素】を+します


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7話 勇者

おはようございます!いやぁ~感想ありがとうございます!


まるでゲームのキャラにでもなったみたい!と、興奮気味に語る香織ちゃんを、八重樫さんが我が子を見守る様な、母性を感じる微笑みで対応している。他の生徒も、自身の能力が数値化されて見れる事に興奮を隠せていない。

 

ステータスを初めて見る私達の興奮ぶりに、苦笑いを浮かべたメル団からステータスの説明がなされる。

 

「全員見られたか?説明するぞ?まず最初に”レベル”があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100で、それがその人間の限界を示す。つまりレベルとは、その人間が到達できる領域の限界値を示していると言う訳だ。レベル100ということは、自分の潜在能力を全て発揮した極致ということだからな、そんな奴はそうそういない」

 

ゲームとは逆で、ステータスが上がるからレベルが上昇するしくみだ。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることも出来る。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しい事は判っていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補佐しているのではないかと考えられている。それと、後でお前たち用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なんせ救国の勇者ご一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

メル団が先程言っていたが、日々の鍛錬でもステータスが上がる。なので、私は今日から皆に隠れてコソコソと鍛錬するつもりだ。勿論、鍛錬だけでなく、この城の王立図書館での情報集めや、この城を一時的に抜け出して城下町で私個人で使用するアイテムや食料を調達もやるけど。

 

「次に”天職”ってのがあるだろう。それは要るならば”才能”だ。末尾にある”技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦闘系天職に分類されるんだが、戦闘系天職は千人に一人、ものによっちゃ一万人に一人の割合だ。非戦闘職も少ないと言えば少ないが・・・百人に一人はいるな。十人に一人というのも珍しくないものも結構ある。生産職は持ってる奴が多いな」

 

つまり、私とハジメさんのありふれた天職。錬成師とかのことだ。私からしたら、ありふれた生産系天職である錬成師も、死ぬ気で磨きまくれば太陽の様に輝く稀少度は低くても隠れチートな天職だと思うんだけどな。なんて思ったけど、そもそも将来の魔王ハジメさんを知る者しか、錬成師の凄さを理解できないだろう。

 

因みにこの時、ハジメさんはニヤニヤしてる。悲しいかな・・・次の瞬間、メル団の次の言葉を聞いて脂汗を滝の様に流す事となった。

 

「後は・・・各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前たちならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く、羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな。」

 

彼の反応を見る限り史実同様見事にオール10と綺麗に並んでいるのだろう。という事は、彼のこれからも殆ど変わる事なく、史実同様に物語が進むだろう。可哀想だけど、迷宮探索までの流れは一切変えるつもりは無い。こう言ったら酷いけど、だから、理不尽にイジメを受けて頂く。

 

なんて思っていると、メル団の呼びかけに早速勇者様が名乗りを上げた。そして、開示されたステータスは・・・

 

======================

天之河光輝 17歳 男 レベル1

 

天職:勇者

 

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

 

技能:全属性適性

  

   全属性耐性

  

   物理耐性

 

   複合魔法

 

   剣術

 

   剛力

 

   縮地

 

   先読

 

   高速魔力回復

 

   気配感知

 

   魔力感知

 

   限界突破

 

   言語理解

======================

 

チートの化身だった・・・と言いたいけど、まぁうん。戦闘では全く効果を発揮できないこと(90階層での魔人族のと戦闘で)を知っていると、ただ凄い能力をいっぱい持ってるだけの、唯の甘ったれ平和ボケ人間でしかない事を私は知っているので、素直に凄いとは思えない。というか、此奴よりも封印されてるユエちゃんの方が強いし。笑勇者と比べるのは烏滸がましいか。

 

「ほお~流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か・・・技能も普通は2つ3つ何だがな・・・規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは・・・」

 

メル団の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長すればあっさり追い抜くのだけれども、使えないからね・・・

 

 ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が”派生技能”だ。これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる”壁を越える”に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。それなのに私は、はじめっから壁を乗り越えている様である。長年の磨きとは一体・・・?

 

光輝の後に続いてその他の生徒たちも報告していく。どの生徒たちも戦闘系天職であり、例外と言えば香織ちゃんの【治癒師】鈴ちゃんの【結界師】絵里の【降霊術師】あたりだろう。ハジメさんの順番が回ってくる・・・その前に、私が割り込んで報告する。ステータスプレートを渡すと、非戦闘職なのに勇者と同程度の魔力・魔耐を有している事に驚かれる。そして、戦闘職でもないのに【弓術】を有していることから戦闘も出来るという事で喜ばれた。属性適性も有している事から、魔法についての座学も取り入れてくれるとの事。

 

それから数人周り、とうとうハジメさんの番がやって来た。

 

戦闘職は無論の事、非戦闘職の生産職である私ですら規格外のステータスばかり確認していたメル団はホクホクしている。これからの対魔人戦争で比類なき力を発揮するであろう新たな戦友の誕生に喜んでいるのだろう。そのメル団の表情が「うんっ?」と、笑顔で固まる。何回も見直したり、故障じゃ無いだろうなとコンコン叩いたりして・・・何とも言えない表情でハジメさんに返した。

 

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか・・・」

 

と、私にもしてくれた説明をハジメさんにも、歯切れ悪く説明するメル団。

 

その様子に、ハジメさんを目の敵にしている男子たちが食いつかないはずがなく、史実同様、檜山たち小悪党グループによるハジメさん弄りが発生。そこに愛ちゃん先生が介入し、ハジメさんの精神に止めを刺した。死んだ目になって遠くを見つめるハジメさんを心配した香織ちゃんが突撃し、それが却って男子たちの反感を買うと言う負のスパイラル。ハジメさんは悲しき運命にある・・・

 




ハジメさんが不憫。でも、コレが運命という奴さ・・・


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8話 買い物

おはようございまーす!


ハジメさんの最弱ぶりが露見した日から1週間たった今日。私は、訓練の休みを貰って王都の城下町へと、勇者ご一行では無く御忍びとしてやって来た。王都襲撃が発生する前なので、活気に満ちた喧噪が其処かしこから響いており、ここにケルト音楽のBGMでも流せば正にファンタジーゲームの”始まりの街”の様に見えるだろう。ただ残念なことに、ケモミミやエルフはいない。何故なら、彼等は聖教教会により被差別種族認定されているからである。なので、ここにはすべて人間しか存在しない。

 

どうしてもケモミミやエルフを見たいのなら、何があっても自己責任で【ハルツィナ樹海】へと突撃する事をお薦めする。

 

さて、話が反れたが、今日私が城下町へとやって来たのは、あと一週間後に向かう事となる【オルクス大迷宮】攻略の要となる、とても重要なモノを買いに来たのだ。

 

「此方です、ハルカ様」

 

ショーケースに並べられた、ある鉱石が綺麗にカットされた装飾品が並ぶ。その鉱石は魔法具の照明により青白い光を反射しており、女性であればうっとりと見惚れてしまうような美しさを内包した鉱石であり、主に貴族の令嬢や婦人などに絶大な人気を誇る宝石。結婚指輪の宝石と言ったらこの鉱石と言わしめる、その鉱石の名は―――

 

「へぇ、これが―――」

 

グランツ鉱石である。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

買い物は続く。先程のジュエリーショップで購入した指輪の入った袋を大切にカバンに仕舞う()()()()()、異界収納へと仕舞った。そして次に向かったのは、大きな商会。言わずと知れた、あの【ユンケル商会】である。中に入り店員を呼びつけると、香辛料は何処にあるかと尋ねる。向かえば、スパイシーな香りが満ちる香辛料専用の部屋であった。

 

そこでオーソドックスな塩と胡椒、そのほかこの世界特有の香辛料を一瓶ずつ10個ほど購入。先程購入した指輪の二倍ほどお金が飛んだが、後程必要になる。

 

その他にも調理器具や食材、魔法薬など『お店でも開くのか?』と言われそうなほどの量を買い込んだ。これほどの荷物は一人で持ち運べないので、店員に後で馬車を呼ぶから店の裏手に重ねて置いといて欲しいと、その旨を伝える。指示通りに運びだしてくれた店員に感謝すると、周囲に誰も居ない事を確認してから異界収納にしまい、そそくさと立ち去った。

 

それから、迷宮探索では服もマメに洗う事が出来ないので、下着込みで20着ほどと、サイズを小さくしたものも同じくセットで20着、計40着を購入。

 

全て新品で有り、まだ裁縫技術が未発達の世界である為、衣類はブランド品並みの値段である。なので、それらを40着も買ってくれた私に対し、店長直々に『次回もごひいきに・・・』と、手もみされた。

 

因みにだが、お金は全てハイリヒ王国が出してくれた。救国の英雄になる私達にはある程度の自由が許されており、その自由を私はお金を貰って買い物に使う事にしたのだ。なので、結構な額を貰ったけど、その殆どを今日この街で放出してしまい、懐が寂しい事になってしまったが、別にこれから使う予定はないので、大した問題ではない。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

王城へと戻ると、王国筆頭の錬成師たちが凄む鍛冶場へとやって来た。ここには、王都大結界の修復作業中にハジメさんに弟子入り志願した筆頭錬成師のウォッペンらが王国を守る騎士たちの装備を制作している筆頭達専用の工房である。

 

「こんにちは~」

「おお、ハルカ嬢!よくぞまいりましたな」

 

実は、此処に来るのは4回目になる。理由は言わずもがな【錬成】の上達の為であり、同じ錬成師であるが長く国の為に働いているベテランの、彼等の技術を盗みに来たのだ。彼等はハジメさんの様に一瞬で兵器を作ったりできないのでゆっくり慎重に作業する。それが返って分かりやすいとの事で見学させてもらってる。しかし、今日は見学では無い。

 

「頼まれていた鉱石、用意しておきましたぞ」

 

そう言って渡されたのは、一抱えはある大きな木箱。受け渡されると、ずっしりとした重みを感じる。体感50kg以上だろうか、召喚前であれば確実に持てない物でもステータスを取得してからは軽く感じており、超人になって来たという実感がわいて来る。

 

「ありがとうございます!」

 

受け取った私は宛がわれた部屋に戻り、開封する。蓋を取ると布に包まれた鉱石が多数存在した。

 

布を剥がし、王立図書館に存在した【トータス鉱石図鑑】なる本から抜き取った情報と【錬成[+鉱物系鑑定]】を元に、どれがどの鉱石なのかを選別する。

 

==============================

タウル鉱石

衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加

えると再び結合する特殊な鉱石

==============================

 

==============================

シュタル鉱石

魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石

==============================

 

==============================

ラトネミル鉱石

魔力との親和性が高く、加工が容易。唯、硬度は高くなく、柔らかい

為に武器などには使用できない。魔力をよく流す導体でもある

==============================

 

==============================

加工次第では武器にも道具にもなる、汎用性の高い優れた鉱石

==============================

 

==============================

緑光石

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光

を放つ。また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を

一瞬で放出する

==============================

 

オスカーさん曰く、この世界最高硬度を誇る鉱石【アザンチウム鉱石】は入手できなかった。ここで入手できれば更に戦略が捗ったのだけれども、無い物は仕方がない。その他の鉱物だけでも手に入ったのは僥倖だ。早速、錬成の鍛錬を開始する。この鍛錬の結果次第で運命を左右するから。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

召喚から二週間が経過した。そして、まだメル団から発表されてないが、明日からオルクス大迷宮へと向かう事となる。私はこの日の為に寝る間も惜しんで鍛錬を続けて来た。その成果をぶっつけ本番で試す時がとうとうやって来たのだ。

 

私はおもむろににステータスプレートを取り出す。これが、二週間頑張った私のステータスである。

 

===========================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:13

 

天職:錬成師

 

筋力:120

体力:105

耐性:100

敏捷:135

魔力:480

魔耐:480

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

 

   弓術

   [+命中率補正]

 

   火属性適性

   [+効果上昇]

 

   土属性適性

   [+効果上昇]

 

   全属性耐性

   

   魔力感知

   

   言語理解

 

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

===========================

 

鍛錬に持ち込める時間が少なすぎてそこまで伸びなかった。錬成で新たに[+イメージ補強力上昇]が付いたのは、毎日毎日複雑な模型を想像し、それを実際に錬成・失敗・想像というエンドレスを続けてきた結果だ。因みにだが、派生技能が得たいが為に紙などに書いてイメージを確立なんてことはしていない。私としても良く取得出来たなって思う。

 

属性魔法に関しては、何と言うか、才能があったとしか言えない。本当に何と無く、こうすれば消費魔力少ないし威力も上がるよね!ってやったら[+効率上昇]の派生技能を得る事が出来た。ハジメさんが聞いたら泣きそうだね・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

王城での訓練最終日。訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメル団から伝える事が有るからと引き留められた。何事かと注目する生徒たちに、メル団は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要な物はこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろって事だ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

(いよいよ、だね・・・)

 




派生技能を得るのが早い?

それは・・・

陰でご都合主義が働いてるからさ(キラッ☆彡)


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9話 【オルクス大迷宮】

おはようございます!。

感想や指摘、そして投票ありがとうございます!投票は初めてで凄く嬉しいです。


【オルクス大迷宮】

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、改装が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測り易いのと、地上の魔物よりも良質な魔石を体内に抱えているからだとか。

 

魔石とは魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな魔石を備えており、この魔石は魔法陣を制作する際の原料となる。魔法陣は唯描くだけでも発動するが、粉末状にした魔石を染料に混ぜるなりした場合と比較すると、効果は三分の一まで減衰する。

 

ようは、魔石を使う方が効率的ということ。

 

因みに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、魔力はあっても詠唱や魔法陣を制作できない魔物が使う唯一の魔法である。一種につき一種類しか使えない代わりに、詠唱も魔法陣も無しに放つことが出来る。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

私達は、メル団率いる騎士団員数名と共に【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者たちの為の宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

「おぉ~素朴な部屋で安心する!!」

「今まで豪華絢爛な内装で、正直辟易したからね・・・」

 

二人部屋であり、私の同居人は鈴ちゃんである。この時のハジメさんは何故だか分からないが1人であり、寂しくなんてないもん!っと、負け惜しみの様な事をしてらっしゃるとか。明日の早朝から実戦訓練が始まるので、早めに就寝しようとしたところでネグリジェ姿な香織ちゃんの突撃に合うようだが、此処は何も手を加えない。例え傍で、あの人物が潜んで居ようと。事実、彼が行動を起こすのは明日()()()()()だからね。

 

「ねぇねぇハルチン!カオリンの部屋行こうよ!」

「ほら、明日朝早いってメル団が言ってたでしょう?だから、早めに寝よう?」

 

せっかくのお誘いだけど、明日の為に私は備える事にする。

 

「えぇ~夜はこれからだよ!」

「・・・そう?なら、私のベットに来る?大丈夫、優しくするよ・・・?」

「ふぇっ!?い、いやそういう、訳じゃ」

 

ペロリっと舌なめずりして微笑めば、面白いように動揺する鈴ちゃん。ふふふ、可愛い・・・

 

「なに勘違いしてるの鈴ちゃん。ただ一緒に寝ようって、誘ってるだけだよ?」

「ま、紛らわしぃっ!!」

 

本当に襲う訳ないじゃない。

 

結局、別々で寝る事になりましたとさ。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

翌朝。まだ日が昇って間もない頃、私達は【オルクス大迷宮】の正面入り口のある広場に集まっていた。誰もが少しばかりの緊張と未知への好奇心を表情に浮かべている。もっともハジメさんだけは少々複雑そうな表情を浮かべているようだ。迷宮と言えば定番の洞窟ではなく、博物館の入場ゲートの様な入り口だからね。想像してたの違ってたようだ。私は知ってたけども。

 

入り口付近では露天などが所狭しと並び立っており、それぞれの店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

そんな喧噪に揉まれながら、メル団の後をカルガモのヒナの様に付いて行った。

 

迷宮の中は外の騒がしさとは無縁であった。縦横5メートル以上ある通路は明かりも無いのにぼんやり発行しており、松明や灯りの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。前にウォルペンさんに頼んで貰った【緑光石】という特殊な鉱石が多数埋まっており、【オルクス大迷宮】は、巨大な緑光石の鉱脈を掘ってできている。

 

一行は隊列を組みながらぞろぞろと進む。しばらく何事も無く進んでいると広場に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは7、8メートルくらいはありそうだ。その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出て来た。あれがラットマンか・・・

 

「よし、光輝たちが前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが大した敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンは結構な速度で飛び掛かって来た。灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はネズミっぽいが・・・二足歩行で上半身がムキムキだ。八つに割れた腹筋と膨れ上がった胸筋の部分だけ毛が無い。まるで見せびらかす様だ。正面に立つ光輝たち―――特に前衛に雫ちゃんの頬が引きつる。気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子である中村恵里と谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。光輝は純白に輝くバスタードソードを高速で振るって数体をまとめて葬っている。彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は【聖剣】である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという”聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が【拳士】であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

雫は、サムライガールらしく【剣士】の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

流石お姉さまです!・・・あれ、なにか違う様な?

 

私達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――【螺炎】」」」

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命した。そして気が付けば広場のラットマンは全滅していた。他の生徒たちの出番は無し。既に弱体化したメル団並みの戦力を備えた光輝たちには、ラットマンは弱すぎた。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ!次はお前たちにもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメル団。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメル団は肩を竦めた。

 

「それとな・・・今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メル団の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返した。私は生産職ということで戦力には慣れないから、ということで貰ったアーティファクトである弓矢を用いて遠距離から確実に仕留めるアウトレンジ戦法を取っている。もし仕留められなくても他の生徒や騎士団員が倒してくれるので問題ない。何とも安全でつまらない戦闘であった。

 

チート集団である私達は、順調に階層を下げて行く。

 

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている、私にとっては運命を左右する二十階層へと着いた。

 




指摘に「ご都合主義ばかりで【ピーっ!!(モザイク音)】」とありましたが、今後は一部を省いてご都合主義を少々、後は春香の実力とありふれ知識で頑張らせる予定です。本当にどうしようもない時にはご都合主義を捩じ込みますが・・・


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10話 阻止

おはようーございます!
そして、祝い!10話~(*´Д`)


現在の迷宮最高到達階層は六十五階層であるが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだ。私達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと二十階層へと降りることができた。

 

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

この点、トラップ対策として【フェアスコープ】というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上は【フェアスコープ】で発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要。

 

従って、私達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メル団からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

もっとも、ソレを用いた所で檜山がやらかすのだが・・・いや、用いる前にやらかすんだった。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メル団のかけ声がよく響く。

 

ここまで、ハジメさんは特に何もしていない。一応、騎士団員が相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、地面を錬成して落とし穴にはめて串刺しにしたりして、一匹だけ犬のような魔物を倒したが、それだけだ。基本的には、どのパーティーにも入れてもらえず、騎士団員に守られながら後方で待機していただけである。同じ生産職である私は弓矢で魔物をしとめるものだから羨ましい・・・という視線を頂戴し、居心地が悪い。

 

それでも、私の魔力感知の反応がほんのちょっとずつ増えてる事から、実戦での度重なる錬成の多用で魔力が上がっている様である。

 

私も錬成で足止めとか落とし穴を多用したいが、ここでハジメさんの面子を潰すのはどうかと思うので、目立ったことはしていない。だが、今回の為に用意した錬成の魔法陣を刻んだシュタル鉱石製の鉄板を仕込んだ特殊な靴で、地中深い場所に錬成を掛けて空洞を作ったりして鍛錬している。以前、ハジメさんは錬成に役立つアーティファクトは無いと言われて、錬成の魔法陣を刻んだ手袋を渡されていた。それの靴版であり、わざわざ地面に手を触れずとも錬成が可能なのである。これと似た様な事を魔王版ハジメさんがやっていたのを参考にした形だ。

 

傍目には唯矢を射っているだけにしか見えないが、私もバレない様にハジメさんと似た様な事をやっているのだ。

 

小休止に入りると香織ちゃんがハジメさんの方を見て微笑んでいる。

 

昨夜に言われたであろう”守る”という宣言通りに見守られているように感じたのか、気恥ずかしくなり目を逸らすハジメさん。若干、香織が拗ねたような表情になる。それを横目で見ていた雫が苦笑いし、小声で話しかけた。

 

「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織。怒ったように雫に反論する。

 

「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

「それがラブコメしてるって事でしょ?」と、雫は思ったが、これ以上言うと本格的に拗ねそうなので口を閉じる。だが、目が笑っていることは隠せず、それを見た香織が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまった。

 

その時。不意にハジメさんが背筋を伸ばす。檜山を見ると、凄い表情でハジメさんを睨んでいた。ハジメさんが視線の主を探そうと視線を巡らせると、途端に元の顔に戻る。でも、その瞳の奥に潜む闇は霧散しない。

 

深々と溜息を吐くハジメ。香織ちゃんの言っていた嫌な予感というものを、ハジメさんは感じ始めていた。

 

一行は二十階層を探索する。

 

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通らしい。現在は四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もない。二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

すると、先頭を行く光輝達やメル団が立ち止まった。

 

とうとう、例のイベントが始まる。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メル団の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メル団の声が響く。史実同様に光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。来る!

 

直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで!咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。香織ちゃん達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織ちゃん達が「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

慌ててメル団がダイブ中のロックマウントを切り捨てる。

 

香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

 

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者(笑)天之河光輝である。

 

「貴様・・・よくも香織達を・・・許さない!」

 

気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか、彼の聖剣が輝き出す。【天翔閃】の発動予兆!それを放つと知っていた私は、

 

「万翔羽ばたき、天へt―――待って天之河さん!【箭炎】!・・・へっ?」

 

(笑)を止めた。

 

そして、叫ぶと同時に、事前詠唱していたオリジナル魔法(と言っても、矢に炎を纏わせただけの実際には火力の高い唯の【火矢】)を放った。私の貰った弓のアーティファクトは放った矢を誘導できる。なので、放たれた魔法(+矢)を勇者の攻撃を注視していたロックマウントの死角から突撃させた。首を狙ったが直前に気付かれ、咄嗟に躱そうとしたロックマウントの肩に命中。突き刺さった箇所から炎が噴き出た。

 

炎に気を取られたロックマウントの隙を、逸早く復活した雫ちゃんが縮地で接近し、抜刀。首が宙を舞った。

 

その間、勇者(笑)はポケっと間抜け面を晒していた。




さぁ・・・史実と異なって来ましたねぇ・・・


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11話 飛び込む

おはようございます!


「・・・確か、綾瀬さんだったかな?・・・何で俺の攻撃を止めたんだ?」

 

不満そうな表情で、私を尋問してくる勇者(笑)さんにご都合解釈されない説明は難しいけど、そんな時は周りの生徒―――特に大切にされている香織ちゃん達を巻き込むのが吉。

 

「天之河さんはさっき【天翔閃】を使おうとしたよね?そんな高威力の大技を、この狭い洞窟の中で使ったらどうなる?きちんと連帯すれば倒せる相手に明らかなオーバーキル・・・しかも、その余波は洞窟に直撃する。それでもし崩落なんて起きちゃったらどう責任取るの?最悪、巻き込まれて此処に居る全員死亡だよ?しかも、人間族を救うはずの君による考え無しの攻撃に巻き込まれる形の。」

「そ、それは・・・」

 

自身の攻撃により味方も巻き込んで殺してしまうと想像したのか、顔が青くなった。それは、この場に居た生徒たちも同様であり、生気が無くなっていく。皆想像したのだろう。自身が降り注ぐ大岩に潰され、地面に赤い花を咲かす事になるところを。そして、その想像が、あと一歩の所まで迫っていた事を。

 

私が止めなくても崩落なんて発生しないが、()()()()()()()()()

 

「天之河さんは勇者として、私達はその一行として人間族を救うんでしょう?ここで私達が全員生き埋めになったら、地上の人々が悪しき魔人族に虐殺されちゃうよ?」

「・・・」

 

何かを言いかける勇者を先制して黙らせる。

 

「アヤセの言う通りだ。こんな狭い所で使う技じゃあない。直前にアヤセが止めてくれたおかげで崩落の危機は去ったから、まぁ今回は不問としよう。お前さんの気持ちも分からんでもないがな・・・次回からは状況を把握し、考えてから行動するようにな。」

「はい・・・」

 

メル団のお叱りに若干沈んだ声で、返事を返す光輝。香織ちゃん達が寄って来て苦笑いしながら慰めに入った。

 

その時、

 

「俺の浅はかな行動が君たちの命を危険に晒してしまった・・・皆、ごめん!綾瀬さんも、止めてくれてありがとう!これからはきちんと状況を見極めながら行動する!」

 

光輝が頭を下げた。

 

私が【天翔閃】を止めたことにより、史実とは異なった展開を迎える事となる・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ロックマウントとの戦闘も無事に終わり、一行は二十一階層へと至る階段を発見した。これで、今日の迷宮攻略は終わりであり、これから地上へと帰還する事となる。初めての迷宮攻略の目標地点に到着したことにより、生徒たちが安堵の溜息を吐く中、その緩みだした気にメル団が喝を入る。

 

「こら、お前たち!気を抜くのはまだ早いぞ!まだ迷宮攻略は終わってない、きちんと地上に帰還するまでが迷宮攻略だ!」

 

小学生の遠足のようだ・・・なんて感想を抱いていると、直ぐに引き返す事となる。【天翔閃】未遂付近の場所を過ぎる際、私はある技能を発動し―――見つけた。そこを記憶すると、何事も無かったかのようにみんなと一緒に歩く。そこから数百メートル離れた地点に存在した広場で小休憩が取られた。これを利用する手はない。

 

「団長・・・」

「ん、アヤセか。どうした?」

「その・・・お、御花を摘みに行きたいのですが・・・」

 

本当は尿意なんて無いけど、若干内股気味になってソレっぽく演出。ここで深く追求して来れば女子の好感度はダダ下がりだ。メル団には空気を読んで貰おう。

 

「お、おう、そうか・・・あまり離れるなよ?彼女たちに護衛を頼むか?」

「流石に同性でも恥ずかしいので、要らないです。一応、魔力感知で周囲警戒を行いますから・・・」

 

許可を貰い、私は二十一階層階段の方へと引き返した。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

途中から走り、記憶した所まで戻ってくると、すかさず技能―――錬成[+鉱物系探査]を発動する。記憶通りの場所に存在するのを確認すると、【錬成】を発動してソレの周りの岩を退けた。下から覗き込まないと見えない位置にあるソレ―――転移トラップ・グランツ鉱石が確認できる。触れないと発動しない為に何も起こらないが、時限爆弾を解除しているようで緊張した。

 

「さて、着替えますか」

 

私は、この時の為に用意した装備を次々取り出し、身に着けて行く。ウォルペンさんが調達してくれた貴重な鉱石もふんだんにあしらった実用性超重視な一品ばかり。これから、ちょっとしたミスが死につながる世界に飛び込もうとしてるのに、オシャレなんかに気を使うなんて、そんな事出来ない。全ては生き残る為の合理性と実用性だ。

 

手作り感満載のハーネスを着こみ、大き目のバッグを背負うと、準備完了。後は・・・

 

「ごめんね、皆・・・」

 

先程来ていた服をナイフで刻み、引き千切ってボロボロにすると、異界収納から赤い液体の入った瓶を取り出す。適当にボロ着を捨てると、その上から赤い液体―――この日の為に用意して置いた私の血を振りまいた。ぱっと見、魔物に殺されたか食われたか、はたまた重傷を負いながらも逃げ出したかのように、二十一階層の方へとポタリポタリ、血を垂らして工作。支給されたナイフを折り、刃先を壁に突き刺してグリップを適当に転がしておく。あと、弓矢も3本ほど、適当な場所に突き刺しておいた。

 

晴香の先程の謝罪は、ハジメが奈落に落ちて死んだ事を、自分で再現する為におこなう工作の事と、ここで私が死んだと勘違いさせてクラスメイト達の動揺を誘う行為の事、ここに来て親しくなった香織ちゃん達を心配させてしまう事、多大なる迷惑をかけてしまう事に対してだ。

 

しかし、私がハジメさんの代わりに死ぬこととなっても、檜山が次に起こす行動が分からない。恵里の計画だって、初めはハジメさんを誘おうとしていたらしい。全ては、私が【天翔閃】を止めた時から狂い始めている。もう、この歯車を止める事は出来ない。

 

「すぅ~・・・はぁ~・・・」

 

工作も終わり、一度深呼吸して気持ちを入れ替える。

 

「よし・・・行こう」

 

手を伸ばした先は、例のグランツ鉱石。ひんやりとしたグランツ鉱石に触れた瞬間。魔法陣が出現し、瞬く間に部屋全体へと広がり輝きを増した。その魔法陣は、放課後の教室で見た召喚の魔法陣そっくりであり―――部屋の中に光が満ち、私の視界を白一色に染める。と同時に、一瞬の浮遊感が襲った・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

私は空気が変わったのを感じた。次いで、地面にドスンと言う音と共に叩きつけられる。音は大きくとも、上昇したステータスにより痛みはほとんど感じられず、即座に立ち上がって周囲を警戒。見た感じ、柵や縁石の無い巨大な石造りの橋の上であり、此処がハジメさん達が意図せずやって来た、奈落に繋がる65階層・・・

 

思わず見入りそうになったが、直ぐに魔物が湧くと思い出したので、今身に着けている全装備の目視点検を開始。すると、橋の両サイドから赤黒い魔力の奔流と共に魔法陣が出現したのは同時だった。

 

赤黒い、血色にも見える不気味な魔法陣は、一度ドクンっと脈打つと、一拍。大量の魔物を放出し出した。階段側の小さな魔法陣からは骨格だけの身体に剣を携えた魔物であるトラウムソルジャーが溢れる様に湧く。その数は、ほんの数十秒で百体を優に超えた。

 

反対の通路側に出現した10m級の魔法陣からは、他の魔物とは明らかに一線を画す、トリケラトプス似の魔物。嘗て、最強とまで謳われた冒険者でも歯が立たなかった伝説の魔物であり、化け物。ベヒモスである。

 

圧倒的な威圧感がひしひしと伝わり、寒くも無いのにぷつぷつと鳥肌が立つ。冷や汗も出てくる中、漸く最終点検が終わった。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

徐に大きく息を吸うと、それが開戦の合図だと言うかの様に凄まじい咆哮を上げた。今の私では手も足もでない強大な敵から向けられる高圧的な殺気に、思わず震えそうになるのを如何にか堪えると、死の恐怖に打ち勝てるように大きく息を吸って、走り出した。

 

そして、

 

 

「アディオス、ベヒモスッ!!!」

 

叫び、飛んだ。

 

勿論、橋の下―――奈落目掛けて。

 

侵入者である対象(晴香)が、自ら死にに行った(と感じた彼等)は、お互いに硬直した。そして、

 

「グ、グルゥ???」

「コツ、コツ??」

 

※訳

俺達、登場しちゃったけど、この後どうすんの?

さ、さぁ?

 

見たいな会話(?)をして立ち尽くすしか無かった。

 

 

この後、彼等がどうなったかは、知る者はいない・・・

 




工作とか必要ないんじゃね?と思う人も居るかもしれませんが、ハジメさんに代わる主要人物たちと数週間ですが関わった”友達の死”として、勇者一行の歩む歴史を、ハジメさんの死(死んで無いけど)によるショックを与え、史実と同じに近い道で歩ませるためです。

晴香が自分を殺したことにして香織ちゃん達を傷つけるとか、狂ってる・・・と思うかもしれませんが、晴香自身の目的の為に仕方なくですからね。半分は狂ってると見て良いでしょう。

それと、アンケートの結果ですが、【どちらでもいい】の圧倒的な投票数で霞みましたが、必要の方に多く意見が寄せられていた為、注意書きを行う事にします。


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12話 発見

おはようございます!

そして、アンケートへのご協力、誠にありがとうございましたm(__)m


暗闇の中、急速に小さくなって行く光。無意識に自身の体を抱くも震えは止まるはずもなく、途轍もない落下感に『やば、死にそう!?』なんて思いながら春香は、冷や汗を滝の様に流し、盛大に引きつった表情で、消えゆく光を凝視した。

 

春香は現在、ナラクを思わせる深い崖を絶賛ロープ無しバンジー中なのである。凝視している光は、地上の明かりだ。オルクス大迷宮の探索中、巨大な大地の裂け目に()()()()()()()()()()()春香は、遂に光の届かない深部まで落下し続け、轟々と唸る風の音を聞きながら、震える手で、バッグの紐を引いた。

 

「うっ・・・グッ!?」

 

背負ったバッグから勢い良く布が飛び出し、晴香の上でお椀状に変形したソレ―――パラシュートの展開により空気抵抗が一気に増した為に発生した減速の衝撃に、思わず呻き声をあげる。

 

良かった、ちゃんと展開したよ・・・

 

晴香が製作したのは、所謂【マッシュルーム型】と言われるパラシュートである。勿論、パラシュートなんて実際に製造した経験など無く、これがぶっつけ本番の初使用になった訳だが、安全性を考慮して布が破れないよう二重で鉄線で編まれており、紐も鉄製。その分、重量は増加したけど、安全性と耐久性の両立に必要な事だった。

 

万が一展開しなくても、前に背負ったもう一つのパラシュートを使うつもりだった。もし、最後のパラシュートが展開しなければ、ハジメさんと同様、滝にダイブして運任せになるところだったよ・・・

 

前のパラシュートを【異界収納】に仕舞うと、明かりの魔法具を取り出した。

 

この魔法具は市販で購入したものだが、リミッターを外しているので物凄く眩しく光る様になっている。その為、魔力消費が激しいのだが、補給用の魔石は事前に数十個所持しているので問題無くともし続ける事が可能だ。それで下方を照らす。5分程しか持たない代わりに光の強さは強力であり、周りの壁や下100~200m程落の様子がよく見える。下速度が低下したことから、壁からせり出ている横穴ジェットスライダー発見が楽になるだろう。

 

問題があるとすれば、鉄砲水の如く水が噴き出した、ちょっとした滝にぶつからないかだろう。その場合に備えて、強風を発生させる魔法具も入手しており、それで私自身を押して移動させる方式だ。操縦性が悪いったらありゃしないけど、こればっかりは仕方がない。最悪、パラシュートを捨てて、壁をゆっくり下りて行くことも可能だが、それは最後の手段にしたいものね・・・

 

落ち続ける事数分。

 

漸く滝が見えて来た。勢いはそれ程強くはなく、パラシュートには当たらないだろう。万が一に備えて強風の魔法具は用意しておくが。

 

ザァザァと大きな音が四方から聞こえる。この滝にハジメさんは何回も追突し、弾き飛ばされて横穴に入ったとあるが、奇跡どころか本作の御都合だと思っちゃうんだよね。だって、秒速何キロの落下速度で滝に衝突してるのよ。ステータスを得ていても常人よりちょっと強い程度のステータスしかないハジメさんは何処も骨折せずに、ただ意識を失っただけ。私は耐えられるかな?

 

滝を一瞥する。無理だろうなぁ・・・

 

良くて打ち所の悪い複雑骨折。悪くて即死だね。

 

「・・・お、アレかな!」

 

下方に一本の滝から流れ出た奔流の水が、壁際を流れながら横穴へと消えて行くのを確認できた。その他にも似た様なものが無い為、多分ここであっているのだろう。私は、強風を吹かせる魔法具で位置調整を行いながら、横穴の出っ張り部分に降下する。首に掛けてある明かりの魔法具に照らされて判明した着地地点上空からゆっくり・・・そして着地。急いでパラシュートを【異界収納】へと仕舞い、流されるのを防いだ。

 

ここが例の横穴。なるほど、勢い良く水が流れている様子からウォータースライダーと表現されていたが、正に天然のウォータースライダーである。

 

激しく流れるスライダーの横には、如何にか人一人が歩けるスペースがギリギリ存在しているので、其処から滑らない様に慎重に歩いて前へと進む。勿論、安全策として靴底をスパイク状に錬成してあるので、滑って流されるなんているヘマを晒す事は無いだろう。此処を流れる水は地下水とのことで物凄く冷たいらしい。ずぶ濡れになったら動きずらいし体温を奪われてしまう。

 

それと、魔力探知の使用も忘れない。ハジメさんは大丈夫であったが、万が一この通路上に魔物がいないとは限らないからね。それから、錬成[+鉱物系探査]の使用も。ここ、オルクス大迷宮は、言わば手付かずの資源豊富な廃鉱山の様なもので、彼方此方に鉱物が引っかかる。時々立ち止まって錬成で一部を採取し錬成[+鉱物系鑑定]で詳細を確認する。例え今は使えない鉱石でも使う場面が出てくるかもしれないので、それなりの量を確保する。【異界収納】様様だね。

 

「これは・・・」

 

==================================

燃焼石

 

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第

に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃

やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔

法に匹敵する。

==================================

 

ここで出たか・・・

 

私の錬成の練度では扱えないので、今は無用の長物だけど、後に大量に必要となるので、ここら一帯の燃焼石を取れるだけ採取しよう。幸い手持ちには困らないし、魔力が無くなったとしても魔力回復薬は【ユンケル商会】から100本単位で購入してるからね、問題はない。

 

全て採取しつくすと、歩みを進める。周囲を隈なく警戒しながらなので進みは遅く・・・ん?ここって、

 

既視感を感じた。そう、流されたハジメさんが漂着した場所だ。此処で目を覚まし、濡れた身体を温め衣服を乾かす為に初級火属性魔法【火種】で大苦戦する、例の場所だ。と言う事は、此処から先は通路が10~20m程と広くなり、凸凹の段差が常に存在し続け、正に自然の洞窟といえる複雑な地形へと変わる。幸い魔物は出現しないらしいが、慎重に慎重を重ねて進む。

 

幾ら出現せずとも万が一があると危険すぎるので、物陰に隠れて移動する。この通路はずっと真っ直ぐ続いているらしいので、道に迷う事は無いだろう。

 

そうやってどれくらい歩いただろうか。

 

晴香がそろそろかな?と感じ始めた頃、遂に初めての分かれ道にたどり着いた。巨大な四辻である。私は岩の陰に隠れながら、後退する。そして、横の壁に錬成で穴を空け、通路を確保した。史実で有れば、四辻のどの方向を行こうかと迷うハジメさんが蹴りウサギに遊ばれて、爪熊に左腕を捕食されるが、晴香はそれを事前に回避する。作った通路に空気穴だけを設ける形で塞ぐと、斜め下方向に向かって高さ50cm程度の道とも言えない道を制作して下へと進む。

 

大体5m程を掘り進むと、頭上から振動が幾たも発生し、パラパラと砂が降ってくる。如何やらハジメさん無しの戦闘が始まったようだ。

 

崩落しないだろうか?とびくびくしながら、今度は横方向に掘り進む。

 

ハジメさんは蹴りウサギの砲弾のような攻撃を躱し、二撃目で左腕をポックリされながら壁際で諦めの表情を浮かべている事だろう。止めだ!と言わんばかりに大きく振りかぶられた片足に、恐怖から目を瞑る。そのシーンが、私の頭上近くで発生する予定だった。と言う事は、もう少しで引っかかるはず・・・

 

その時である。

 

 

―――ふふふ、みつけた!

 

更に掘り進めた時、強大な魔力反応を数メートル先から感知できた。

 

ソレを横から確認すれば、そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。蒼をもっと濃くしたアクアマリンの如き、淡く発光する神秘的で美しい結晶

 

―――そう。これがハジメさんを救うはずだった【神結晶】である。

 




史実を知って居るということは、未来予知とある意味同義である。

・・・多分。


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13話 喰

おはようございます!

祝!お気に入り登録者数が100を超えました!
なんか、凄い!(小並感)


神結晶とは、歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物とされている。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したもの。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を”神水”と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているとか何とかで、左腕を欠損し大量失血で死にかけていたハジメさんを復活させたのもこの神水のお陰である。

 

さて、そんな秘宝である神結晶だが、現在は岩から取り出されて神水採取の為の専用の台に置かれている。ウォーターサーバーならぬ神水サーバーとなり果ててしまったが、一応、とても貴重な物なのでちょっとやそっとの衝撃では落ちたりしない様に厳重に固定されている。それと、元々溢れ出ていた神水は地面に作ったくぼ地に貯めてある。態々容器に入れずとも、そのままがぶ飲みしなけれならない事態が発生するから、当面は放置。一応、埃などが入らない様に蓋するけど。

 

それから、この空間の拠点化を推し進めた。当分の間は此処にこもる事となるので、最低限の生活空間の確保は急務である。錬成の鍛錬にも支障を来したら嫌だからね。

 

「・・・さて・・・狩りの時間だよ・・・」

 

拠点化が終了したので、とうとう魔物に手を出す時が来た。ここ真オルクス大迷宮の一階層の魔物だからといって侮るなかれ。油断すればハジメさんの様に足をすくわれる事となる・・・あやまって小石を転がしてしまうという痛恨のミスを犯してしまっただけで、油断ではない、か。まぁそれは置いておき、狩りである。ここ奈落一階層で出現するのは【イナバさんこと蹴りウサギ】【纏雷の二尾狼】【ハジメさんの宿敵こと爪熊】の三種であり、単体の強さ基準で並べると

 

爪ぐま>蹴りウサギ>二尾狼

 

となる。

 

小説の表現でも、ここ一階層で最弱である二尾狼は、その欠点を補う為に四匹から六匹程度の群れをなし、連帯して狩りに挑む。ハジメさんが捕獲した二尾狼も例にもれず四匹の群れであった。なので戦力的に見れば

 

爪ぐま>蹴りウサギ=二尾狼×4~6匹

 

となるだろう。

 

まだまだ弱い私が手を出すべきなのは二尾狼。此奴だけだ。彼等は(ここでは)最弱。故に、群として連帯し、待ち伏せして獲物を攻撃するという戦術を取っている。真大迷宮は隠れる所が豊富にあるので様々な場所が彼等の狩場になり得るので、私から探しに行ったり、敢えて自身を囮に使うのもナンセンス。となると、おびき寄せる以外に方法がない。幸い、此処は全くと言って良い程人の手が入っていない場所。しかも、人間は群れた二尾狼よりも最弱。

 

であるならば、有効な戦術は一つしかない。そう、罠である。

 

これが地上の野生動物であれば、消されていない人の匂いで罠だと気付いて9割以上が掛からないだろうが、此処での人の匂いは獲物の香ばしい香りだ。それに、魔物には罠という概念が存在しない。これ以上に有効な捕縛方法はないだろう。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。

 

二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。周囲を警戒しながら岩壁に隠れつつ移動し絶好の狩場を探す。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せであるからだ。

 

しばらく彷徨いていた二尾狼達だったが、ふと、今までに嗅いだ事のない旨そうな肉の香りを察知した。最弱故に、強大な敵との会敵を避ける為に発達した嗅覚は、遠方の僅かな匂いの選別すら行える。だから、感じ取ってしまった。

 

二尾狼達はその香り目指して進み始める。その香りが、自分達の生命を脅すことに気付かずに・・・

 

其処にあったのは二尾狼が如何にか入れる程度の広さしかない小さな洞窟。その奥には、意識せずに唾液が溢れ出るほど旨そうな肉がぶら下がっている。何故こんな所にそんな物が?と普段であれば警戒するだろうが、肉に惑わされている二尾狼には些細な問題であり、周辺警戒のあと、無警戒に入口へと殺到した。狭い洞窟に躰をぶつけながら、奥へ奥へと進む。ちょうど中間あたりに差し掛かった次の瞬間。

 

地面が消えた。

 

「キャウンッ!?」

 

肉に惑わされていた為に反応が遅れた先頭の二尾狼は対応できずに落下する。3mほど落下した先に存在したのは、鈍い銀色の輝く剣山であった。

 

50kgは優に超える二尾狼は、落下と同時に剣山に突き刺さる。重量の落下エネルギーは大きく、覚醒したハジメさんがドリル状をした槍で突き刺しても中々刺さらなかった硬い毛皮と皮膚を貫通し、内部の肉を穿つ。合計10箇所以上を突き刺された二尾狼は即死だった。仲間の死と、これが何らかの攻撃だと目を覚ました、後方から続いていた二尾狼達が洞窟から撤退する。

 

彼等の襲撃者たる晴香は、最低でも一体の体が必要だっただけなので、その他の個体は如何でも良い為に逃がした。

 

「錬成」

 

上の落とし穴を埋める。更に、洞窟も埋めた。これで外敵の侵入は防げる。

 

落ちた二尾狼の元へ近づき死亡していることを確認すると、もう一度錬成と唱えて剣山を鉄に変える。【異界収納】に鉄を仕舞い、代わりにシュタル鉱石製のナイフを取り出した。魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石なので、毎日寝る前に全魔力を注ぎ込んでいた逸品であり、切れ味・硬度共に抜群である。が、流石に晴香でも動物の剥ぎ取り方法は判らないので、剣山の傷口から適当に皮を斬り、力尽くで剥ぎとる。

 

胸辺りから肉を切り取る。魔物肉は調理しても美味しくないらしいので、筋を斬る為に何回も切り刻む。

 

「ふぅ・・・」

 

これから私は、魔物の肉を食べる。

 

魔物の肉を食った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡するのだが、ハジメさんは喰らった。人間にとって致命的な魔物肉は体内を侵食し、内部から細胞を破壊していくのである。しかし、それでもハジメさんが生き残れたのは【神水】の存在があった。以前説明したように神水には、飲んだ者はどんな怪我も病も治すという、謂わばエリクサーのような効能がある為、細胞が破壊されても直ぐに再生させるのである。

 

しかし、細胞を破壊すると言う事は即死レベルの放射線をもろに浴び続けるようなもの。幾ら【神水】で再生させられるとはいえ、その痛みは想像を絶するものであり、あのハジメさんをしても『いっそ殺してくれ!』と切に願わせるレベルの耐え難い激痛。生半可な覚悟で挑めば精神は崩壊、痛みが治まったとしても植物人間と化してしまうかもしれない。

 

此処で肉を断念し、例え銃を制作し、奇跡的に一階層、二階層を突破したところで三階層はちょっとした火種で3000℃の灼熱空間へと変わるフラム鉱石製タールが辺り一面を埋め尽くす火気厳禁エリア。詰みである。

 

リスクが大きすぎるが、そうまでしないと此処から先は生き残れない。

 

それに覚悟ならとっくに決めている。

 

幾度となく諦めていた夢を叶えられるなら、死ぬほどの激痛や精神崩壊のリスクなど・・・私の障害には成り得ない。当たる事も出来なかった壁を、今なら真っ向から当たる事が出来る。その壁を破壊し、向かった先にはユエちゃんがいる。

 

ほら、自然とやる気が出て来ない?今までは三次元の私と、二次元のユエちゃんは相見えることが出来なかった・・・でも、このトータスに来れた事で相見えるとこが出来る。映像でない、本物のユエちゃんと会う事が出来る。その為には何をしなければならない?何をすれば、ユエちゃんと合流できる?その道筋は、ハジメさんが作ってくれてるじゃない。なら、その道を突き進めば良い。その先々で私を遮る壁なんて、死に物狂いで破壊すればいい。

 

一度深呼吸。パチンっと頬を叩いて気合を入れると、

 

「私は人間を止めるぞ―――っ!!」

 

晴香が叫び、勢いに任せて魔物肉を喰らい付いた。

 




作者の私も、本当にユエちゃんに会えるのならば魔物肉に喰らい付きます。勿論、神水を飲料水としますが・・・


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14話 覚醒

おはようございます。
コロナに気負付けて!


「あが、ぐぅう、うぇっ・・・おぇっ」

 

酷い匂いと味に何度も吐き戻すけれども、神水と一緒に無理矢理胃へと押し込む。気分が最悪に悪い。余りの気持ち悪さに思わず涙があふれて来るけど、その食事を止めることはしない。今は無心で食べ続けるのみ。

 

どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら、用意した魔物肉を全て食べきると、晴香の体に異変が起こり始めた。

 

「アガッ・・・き、来たァッ!?」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。魔物肉が、晴香の体内の細胞を猛烈な勢い破壊しているのだ。耐え難い痛み。自分を内部より破壊されていく。くぼ地に溜まった神水に顔を突っ込み、無我夢中でそのまま飲みこむ。

 

直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「うグゥウウウッ―――あがぁぁあああぁアああッ!?」

 

女の子が決して上げてはならない絶叫が、ここ拠点内部に反響する。

 

晴香の体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという破壊音さえ聞こえてきた。しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。何度も意識が飛びそうになったが、神水の効果で気絶もできず、名状しがたい痛みにひたすら耐える。

 

すると、晴香の体に変化が現れ始めた。

 

まず髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。

 

次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象で、骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すらしい。

 

今、晴香の体に起こっている異常事態も同じである。

 

何度も叫び、藻掻き、のた打ち回る。どれだけ身体の破壊が進んでも、神水により破壊された場所から片っ端に修復されてゆく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

 

壊して、治して、壊して、治す。常人であれば既に死んでいるかもしれない、この痛みを、晴香は耐え続けた。それは単に、ユエに会いたいという唯一つの願いの為に。

 

脈打ちながら肉体が変化していく。

 

やがて、激痛を伴う脈動が収まり晴香はぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は真っ白に染まっており、服の下には今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っている。まるで蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のよう。晴香の右手がピクリと動いた。閉じられていた目がうっすらと開けられる。焦点の定まらない瞳がボーと自分の右手を見る。やがて地面を掻くようにギャリギャリと音を立てながら拳が握られた。

 

晴香は、何度か握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめると脱力した。

 

「かひゅ・・・かひゅ・・・・・・けほっけほっ・・・うぁぅ・・・やったよ、私・・・」

 

疲れ果てた表情だが、その目は柔らかい。

 

しばらくそのまま休むと、立ち上がった。視界には黒から白色へと変色してしまった髪が映る。【異界収納】から手鏡を取り出せば、其処に移るのは白髪紅眼の美少女。以前であれば、10人中3人は『まぁ可愛いんじゃない?』という平均的?な顔面偏差値であったが・・・今は10中9人は確実に『可愛いっ!』と太鼓判を押す容姿となっている。如何やら顔の骨格も変わってしまった様だ。

 

そして身体の変化だが、体が軽く、力が全身に漲っている気がする。途方もない痛みに精神は疲れているもののベストコンディションといってもいいのではないだろうか。腕やお腹を見ると明らかに筋肉が発達している。しかし、ガチガチの痩せマッチョレベルではなく、スラっとしていて女の子らしい丸みがある事には変わりなかった。ボディービルダーの様なガチムチに成らなくて心の底から安堵の溜息を吐いた。

 

身長も伸びている。以前の晴香の身長は158cmだったのだが、現在は167cmと、実に10cm近く高くなっている。

 

ステータスプレートを確認しよう。

 

===========================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:7

 

天職:錬成師

 

筋力:320

体力:350

耐性:300

敏捷:290

魔力:860

魔耐:860

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   弓術

   [+命中率補正]

   火属性適性

   [+効果上昇]

   土属性適性

   [+効果上昇]

   全属性耐性

   魔力操作

   魔力感知

   胃酸強化

   纏雷

   言語理解

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

===========================

 

「おぉ~・・・」

 

ステータスが軒並み異常に上昇している。既にハジメさんを二倍近く超えており、きちんと技能も三つ増えている。以前は17レベルであった晴香であったが、レベルが7に低下した。レベルはその人の到達度を表しているので、晴香の成長限界も上がったようだ。

 

体内に感じる違和感は、魔力の事だろう。この違和感を動かそうと集中してみれば、その違和感の正体が手元に集まり、錬成の手袋の魔法陣に宿る。そのまま錬成を発動すれば、あっさりと地面が盛り上がった。晴香は魔物の特性である”魔力の直接操作”技能名で【魔力操作】を取得していた。何とも奇妙な感覚だ。しかし、とても便利である。今までは必ず【錬成】と詠唱していた為、その面倒な行程を必要としない。

 

ハジメさんは魔法適性が0だったために錬成や技能以外には使ってなかったが、晴香には魔法適性が存在するので、詠唱や魔法陣無しでの発動も可能となった。陣や詠唱なしでの魔法行使はユエと同じである。一緒だ。一方的な思いだが、好意を向けている相手と同じ【魔力操作】を得られたのは嬉しい。

 

晴香は次に【纏雷】を試す。

 

魔物の使う固有魔法はどれもイメージが大切らしく、漠然としたイメージでは発動しない。魔法陣に式を刻み発動する事の出来ない魔物ならではの技だろう。その分、人間は明確なイメージは兎も角魔法陣の式を大量に書き、それに必要な魔力さえあればある意味思い通りの魔法を発動できる。逆説的に言えばイメージさえ出来れば即座に発動できるはずの魔法を人間は使えない残念な種族となる。

 

話が反れたが、纏雷だ。ハジメさんはバチバチ弾ける静電気をイメージしたようなので、私もそのイメージに沿ってやってみよう

 

「ん~・・・こう?・・・お、出来た」

 

すると指先から紅い電気がバチッと弾けた。紅の電気である。

 

その後もバチバチと放電を繰り返す。しかし、やはりと言っては何だが二尾狼のように飛ばすことはできなかった。纏雷・・・纏う雷とある様に、体の周囲に纏うか伝わらせる程度にしかできないのだろう。電流量や電圧量の調整は要練習だ。

 

因みに、電圧とは【電気を送り出すためにかける力の量】であり、電流とは【実際に流れている電気の量】である。

 

感電により死に至る可能性が出てくる電流値の危険なラインは、0.05Aと言われているので、それ以上の出力を当ててやれば魔物もそれなりのダメージを負わす事が出来るだろう。事実、ハジメさんは蹴りウサギを感電させてから止めを刺して捕食したので、電撃トラップとして使用可能にするには練習が必要。嬉しい事に、ここ大迷宮内部では鍛錬の時間が豊富にある。

 

最後に【胃酸強化】だが、文字通り。魔物肉を食べても凄惨な激痛に悩まされなくなる技能である。例外は自身よりも強いステータスを有する魔物肉を喰らった時だけその痛みがやって来ることだろう。史実100階層の魔物、ヒュドラ肉を食したハジメさんだが、何度食べても激痛が収まらない事に悩まされる事となっていた。

 

「さて・・・残りを食べられるだけ食べますか・・・」

 

これからは魔物肉のみのとても偏った食生活を送る事となる。なので、あの酷い味を慣らすための訓練も兼ねている。更には蟲系の魔物も食さなければならないので、早めに慣れないといけないのだ。

 

ここオルクス大迷宮に落ちる前。晴香は【ユンケル商会】にて食材は勿論、様々な種類の香辛料を購入していたが、今は手を付けずにただ焼くだけの食事を続けると言う決意がある。何故かと言うと、その理由にはユエの存在があった。ユエは、ここ300年近く何も食べられずに封印されている。そして、その封印を晴香が解き放った時に美味しい料理を食べさせてあげたいとの思いで購入したのだ。

 

まだ解放されず、空腹感に苦しめられているユエちゃんを前にして美味しい物を食すなど言語道断!これ、自訓。

 




美味しいけど満腹感しか得られない料理。

死に掛けるし糞不味いけど特殊能力を得られる料理(?)。

貴方は何方を選ぶ・・・?


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15話 産み落とす

おはようございます!


魔物肉を喰らって人間の皮を被った化け物になった日から三週間が経過した。史実では、今日から一週間ほど前にハジメさんが落ち、魔物肉を求めるのだが、晴香はフライングで先に魔物肉を食し覚醒。その日からずっと魔物肉と川から汲んで来た水だけの食生活で、錬成や他技能の鍛錬に打ち込んでいた。

 

常人であれば、一日もせずに病みそうなことをずっと続けられている晴香であるが、どうしても叶えたい願いの為なら人間、何でもすることが出来ると感心してたりする。

 

さて。どの技能も鍛錬しているが、やはり自身の”才能”である天職【錬成】の成長率が著しい。なんと、また新たに派生技能を取得出来た。それは【錬成[+鉱物分離]】と【錬成[+鉱物融合]】である。これで鉱物の純度を上げる事ができ、更に混ぜ合わせて合金を作れるようになる。鍛錬内容は鉱物の純度を99%に引き上げる事とと、鉱物の融合比率の微調整。

 

そして、最後に【錬成[+精密錬成]】である。

 

自身の才能の伸びを、目視で確認できるのはやる気に繋がる。才能と記された錬成が、鍛錬して行く事にメリメリと成長して行くのを見ていると嬉しくて、だんだん鍛錬が楽しくなり、没頭して行くようになった。その影響で更に細かいミリ単位の錬成を、寸分違わず同じサイズのパーツを、物差しやコンパスを用いて徹底的な規格化を・・・と、求めるがままに突き進んだ結果、精密錬成を取得するまでに至った。

 

これのお陰でミリ単位は無論、更に集中すれば0.1ミリ単位の錬成も可能となり、細かなパーツを寸分違わずに製作できるようになった。

 

そうして、とうとう例の物に手を出す・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

構造上の欠陥、金属の強度不足、耐摩耗性の逓減、耐熱性の低さによる金属融解・・・数々の失敗を量として、制作に成功した。それは、燃焼時に発生した高圧ガスにより、流線型の金属体を音速を超える速度で解き放ち、対象物に風穴を穿つ現代兵器。日本では警察や自衛隊、許可された民間人以外に持つ事が許されない、ただ引き金を引くだけで一つの命を簡単に奪える凶悪な武器。

 

銃である。

 

制作したのは、史実ハジメさんが製作した物に近い、六連の回転弾倉を備えたリボルバー。見た目は似ているが、ハジメさん作よりも簡素的なデザインをしており、ステータス的に言えば実用性に全振りした見た目。その分、壁に思いっ切り打ち付けても問題無く動作し、構造も簡潔なので誤作動も無ければ整備性も高い。50口径(12.7mm)の銃身から放たれるタウル鉱石製フルメタルジャケット弾やその他特殊弾頭の威力も申し分ない。

 

さらにこれも史実同様、纏雷によるレールガン化にも成功している。その威力は、唯でさえ強力な12.7mmを更に凶悪化。対物ライフルの軽く10倍は上回り、20mmのタウル鉱石製金属板を5枚撃ち抜くという衝撃的な結果をもたらした。

 

因みに名前はドンナーやシュラークでは無く、【06式回転式拳銃】とした。ドイツ語による命名も格好良いが、日本式の名付け方の方が個人的に好みな為に、この様な名前となった。余談だが、数字は歴ではなく完成した時間である。緑光石を利用したソーラー発電で電力を賄っているスマホの時計から、正確な時間を取り出しており、完成時間が15時06分であった為、06を取って【06式】としたのだ。

 

そして、何故自動拳銃(ハンドガン)ではないかというと、単純に強度が落ちてしまうからである。それに、回転式拳銃に比べて部品数が多く、複雑化しやすいため、メンテナンスに時間が取られ、万が一戦闘中に故障してしまうことを危惧すると、部品数は少なく強度も申し分ない回転式拳銃の方が実用的だと判断したためだ。

 

「ふふふ・・・今まで頑張った甲斐があったよ!」

 

反動は大きいが、問題無く扱えるのはステータスの恩賜。弾丸一発を作るだけでもかなりの時間を有するが、その集中した分が全て経験値として錬成技能を熟達させてゆく。撃って、作って、また撃って。制作と射撃双方の熟練度の上昇の為に、晴香はまたもや没頭する。

 

ただ、剣や防具を上手く作るだけ。そんなありふれた天職【錬成師】の技能【錬成】が、剣と魔法の世界に兵器を産み落とした瞬間だった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

―――ドガアァァァァアアアンッ!!

―――ギュゥゥゥッ!?!?

 

【06式回転式拳銃】をこの世に産み落としてから数日。数ある現代兵器を再現する為に、やはり没頭していた晴香は、外から突如として響いた爆発音と何らかの魔物の悲鳴を耳にして、意識を現界に向けた。晴香は最近、集中し出すとそれが完成するOR魔力が尽きるまで鍛錬を止めることを知らない人となった。もしステータスに【称号】なる表記でも存在すれば、その隣には【仙人】や【集中厨】とでも記されてあるに違いない。

 

「ん・・・掛かったみたいだね。確認しに行こっ」

 

先程の爆発は、晴香が仕掛けた罠の一つ。二尾狼の革で製作されたホルスターに【06】を固定し、拠点を出発する。

 

向かった先は、数か所仕掛けた罠が存在す地点の一つ。本来であれば大小凸凹の正に天然洞窟な地形であったが、今でその面影はなく、大小様々な瓦礫と、周りの岩壁には無数の小穴、そして被害にあった魔物が転がっている。如何やら掛かった魔物は蹴りウサギであった。

 

蹴りウサギが掛かってしまった罠とは、晴香が現代兵器を参考にして制作した兵器の一つ。その名を【54式指向性対魔物地雷】。地球に現存する指向性対人地雷で有名なものといえば【クレイモア】であろう。それを参考に、魔物にも良く効くように高威力化を図った逸品である。周辺に無数の小穴が開いているのは、爆発と同時に飛び出したタウル鉱石製と鋼製の金属球700個の痕跡だ。

 

本来であれば全てタウル鉱石製としたかったが、タウル鉱石は銃本体などに需要が高い為、コストダウンと妥協策として鋼球を使用している。

 

「ぎ、ギュゥ・・・」

 

まだ息をしている。見ると、片足が消失しており、もう片方の足も有らぬ方向に折れ曲がっている。散弾が耳に当たったのか、片耳も無く、身体には無数の赤点が確認できる。奇跡的に頭部への損傷は無く、既に満身創痍な有様。なのだがその眼付は険しく、命尽きる最後まで晴香に殺気を向け続けた。晴香は【06】を向け、頭部に照準を定めると、躊躇い無く引き金を引いた。

 

ドパンッ!!

 

乾いた発砲音が、第一階層内部に反響する。

 

既に動けない状態であったが、油断せずレールガンとして弾丸を放つ。赤い線として弾道の残像が確認できる程の速度で放たれた現代・・・否、近未来の破壊は、照準通りに蹴りウサギの頭部へと命中。頭部が文字通り消滅すると、蹴りウサギは完全に沈黙した。

 

「兎は初めて食べるなぁ~」

 

死体と【54式指向性対魔物地雷】の残骸を【異界収納】へ収納し、拠点へと帰還した。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「・・・美味しい魔物を食べて見たい・・・」

 

なんて、人間として可笑しい(既に可笑しいが)ことを述べながら【纏雷】で丸焼きになった蹴りウサギを食す。ハジメさんが記述していたが、やはり兎肉も不味かった。この不味さを乗り越えた先には魔物の固有魔法を習得できるので食べる分には、むしろバッチコーイ!!である。しかし、やはり食べるなら美味しいものが良い。

 

香辛料や地上の食材解禁は、ユエを開放してから、と心に定めているのでフライングはしない。楽しみは後に取っておこう。

 

「ちゃんと取得してるかな・・・?」

 

===========================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:10

 

天職:錬成師

 

筋力:470

体力:510

耐性:400

敏捷:520

魔力:930

魔耐:930

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成]

   弓術

   [+命中率補正]

   火属性適性

   [+効果上昇]

   土属性適性

   [+効果上昇]

   全属性耐性

   魔力操作

   魔力感知

   胃酸強化

   纏雷

   天歩

   [+空力][+縮地]

   言語理解

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

===========================

 

うん。取れてるね

 




コロナお気をつけて( ;∀;)


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16話 戦闘

おはようございます!


晴香はずっと二尾狼の肉を食べて来たが、既に食した魔物肉で上昇するステータスの値は微々たるもの。しかし、ここで蹴りウサギ肉を食したことにより、大幅なステータス上昇を引き起こした。そして、新たな魔物である為に固有魔法【天歩[+空力][+縮地]】を習得した。なので、早速実践してみる。しかし、ここの空間での実践は狭すぎて危険な為、地下室へと移動する。

 

地下室と言っても、たんに地下空間を錬成で作っただけのだだっ広い広場。普段は銃の射撃訓練や試射を行う場所である。

 

「まずは縮地を試してみようかな!」

 

縮地。それは一瞬で移動できる移動歩法であり、主にハイorローファンタジー系アニメでよく見かける瞬間移動のような技術。しかしこの世界では技能もしくは固有魔法として存在し、先天的に有している者もおり、雫が良い例えだ。晴香の場合は魔物を喰らう事で固有魔法として簒奪し、後天的に技能と習得したが、それはさておき。

 

実践開始だ。縮地を使うイメージは、足元が爆発する勢いで一気に踏み込む、である。しかし、このイメージで実践したハジメさんは見事に顔面ダイブという、発動はしたけど失敗するという結果を残した。晴香的にもその様な失敗はしたくないので、イメージはそのままで、勢いは低出力で発動を試し見る。体内の魔力が足元に集まり、踏み込んだ足元がギリッと音を立てて前に移動した。

 

「おっとぉおお!?」

 

低出力なのにも関わらず、この加速。刹那の間での発動で、晴香は実に10mほど移動していた。初めての感覚に移動後、バランスを崩しそうになったが、ハジメの様に無残は晒すことなく、ぎりぎり踏ん張る事に成功。ホっと一息ついて、もう一度発動。次も10m程の移動だったが、初めよりましになった。

 

魔物を喰らい人間の殻を破った影響で、身体能力が大幅に強化されており、それは動体視力や反射神経も当てはまる。元々ステータスを取得した時から超人レベルであったが、魔物肉を取り込んで覚醒した今の状態は、人外や化け物といったレベルで発達している。なので、数回試してみればすぐに慣れてくる。晴香が人為的に生み出した勇者を超えるチート身体だ。代償に耐えがたい激痛が付いてこなければ、皆挙って魔物肉に喰らい付くことだろう。

 

次に【空力】を試す。空力は、空中に足場を作り、そこを踏んで移動できる派生技能である。

 

イメージは空中に透明なシールド状の足場。ハジメさんは前に飛んで顔面ダイブを決めていたが、晴香は力加減しながら鉛直に飛ぶ。加減せずに飛べば頭部を天井に強打するレベルで脚力が発達してしまったためだ。事実、外で全力で上へと飛べば10m近くある天井に余裕で手が届く。その勢いで頭部をぶつけるとなると、その後どうなってしまうかはご想像通り、天井に彼岸花が一輪咲くこととなるだろう。

 

空中で晴香は、着地地点の上空30cm程の所で【空力】を使用。すると、自由落下していた晴香が空中に着地した。

 

手品の様だ。と、そのような感想を抱きながら、この固有魔法の熟達の為の特訓を開始する。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

迷宮内を、常人の目では影すら捉えられないであろう驚異的な速度を持って、刹那の内に移動する人影がある。

 

晴香である。【天歩[+空力][+縮地]】を完全に使いこなす事が出来るようになった晴香は、複雑怪奇にうねりくねる洞窟内を、パルクールのプロもびっくり仰天しそうな勢いで縦横無尽に跳ね回る。では何故この様な事をしているかというと、単に散歩でも鍛錬でもない。爪熊の捜索だ。

 

かれこれ第一階層で生きて来たが、未だに爪熊肉を食べてない。なら、狩りに行こう!となり、拠点を飛び出した次第である。着々と晴香が野生児化してきており、魔物肉を食べ過ぎたせいか、魔物肉でも美味しく感じられるように舌が可笑しくなっている。

 

末期である。

 

「グルゥア!」

 

途中、二尾狼の群れと遭遇し、一頭が飛びかかってくる。

 

空力で反転し、更に足場を形成して縮地で二尾狼へと急接近。飛び掛かったはずが、飛び掛かられるという状況に一瞬、硬直してしまったのが運の尽きだった。ホルスターから06を抜き放ち、照準を定め―――ずに、グリップエンドを叩きつけた。ゴキンッ!っと、首辺りから鳴っちゃいけない音が響く。多少乱暴に扱っても壊れないと自負しているので、この扱いようである。

 

「死ね!」

 

ドパンっ!

 

可愛らしい声とは裏腹に、掛け声の暴言。そして、放たれるは音速の弾丸。

 

向けられた銃口から最短距離を超高速で飛翔する晴香特製の弾丸は、固有魔法を放とうとしていた二尾狼の頭部を爆散させる。仲間の死を物ともせず、勇蛮に接近してくる二尾狼に再度発砲し仕留めると、最後の個体には足裏を向けた。そして、

 

「縮地!」

 

本来、縮地とは最速で移動する歩法技能。その発動は、体内の魔力が一瞬で足元に集まり踏み込んだ瞬間、爆発する様な勢いで飛び出す。これが通常の使用方法だが、晴香は応用としてコレを攻撃方法に使った。移動するには必ずしも地面とは限らない、と言う事で、踏み込められる地面の役割を二尾狼に強制させたのだ。

 

そしてその結果。

 

ドゴンッ!と、大きな音を立てた二尾狼がくの字に折れ曲がり、有り得ない速度で壁に激突した。敵を足場に移動&攻撃もしくは、敵を足場に離脱&攻撃という、縮地に新たな可能性を生み出した。これが何れ役に立つ時が来るかはさて置き。

 

しばらくそうやって出会う蹴りウサギや二尾狼を殺し食料として確保していると、ようやく爪熊の姿を発見した。爪熊は現在食事中のようだ。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認すると、晴香はあるものを【異界収納】から取り出した。

 

それは細長い外見をした銃。超長距離の射撃に特化したタイプのこの銃は、俗に狙撃銃やらスナイパーライフルと呼ばれている。晴香が制作したのは30mmと超大口径の狙撃銃で有り、それ相応の炸薬量や弾頭重量から繰り出される威力は折り紙つき。更に、ゴリ押しとしてレールガンとして放つ事も可能だが、速度が速すぎる事で魔物の身体を一瞬で抜けてしまい、内部をかき乱しダメージを与えるには不向きな貫通力特化としての利用に限る。

 

名は【31式30mm狙撃銃】とした。

 

遂にステータス値が1000に届こうとしている晴香だから撃てるのであって、常人が撃てば肩が弾けることとなるだろう。もし、30mmを討つ場合は繊細な注意を払って扱っていただきたい。

 

チャンバーを開き、弾頭が異様に長めな弾をセットする。今回はレールガンとして使わないが、代わりに特別な弾頭を用意した。

 

スコープは無い。代わりにリアサイトとフロントサイトが装着されている。半魔物化した晴香の身体能力は人間を逸脱するほどに上昇しており、それには当然視力も含まれている。洞窟内部でのスコープの使用は使いずらい。だが、視力で確認できるなら態々スコープを取り付ける意味も無い。と言う事で、見かけはボルトアクションライフル、でも中身は狙撃銃という武器が誕生したのだ。

 

ちなみに20mmマウントレールを装着できる。

 

「さぁ~て、熊さんはどんな味かな!」

 

晴香は引き金を絞った。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

爪熊はこの階層における最強種であり、主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。それを理解している他の魔物は、爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選び、抵抗する素振りも見せない。まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。

 

しかし、現在。そのあり得ないことが身に起こった。

 

―――ドバァアアンッ!!!

 

左肩から先を全損するという形で。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに、凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。

 

晴香が放ったその特殊弾とは、対象の内部に弾頭が到達すると、内部に圧縮されていた燃焼石が爆破。躰の内部より破壊する30mm榴弾である。

 

爪熊は、その鋭い眼光を怒りに染め上げ周囲を隈なく探索する。今の攻撃はなんだ?何処からの攻撃だ?かつて遭遇したことのない事態に、一階層最強たる爪熊も困惑する。本来であれば頭部、又は腹部を狙って放たれた攻撃であったが、一瞬だけ感じた殺気に、咄嗟に反応したために狙いがそれて左肩を破壊することとなる。100m以上も離れた所からの攻撃を、ほんの少しの殺気を感じただけで回避行動をとれるのは流石、最強格と言えよう。

 

しかし、相手が悪かった

 

「こんにちは、森・・・じゃなかった。洞窟の熊さん?その肉・・・オイテケ!」

 




だ~んだ~ん野生児になる~

自ら望んだ行動による結果とは言え、一ヶ月近くも洞窟内で生存サバイバルを行って居れば、作者の私も野生化するかもしれません。銃もって野生動物追いかけ回して・・・


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17話 決着

おはようございます!

4月3日
一部、文章を追加しました。


「ガァアア!!」

 

貴様がやったのかッ!?と怒りを顕わにした爪熊が、咆哮を上げながら物凄い速度で突進する。2mを優に超す巨躯と、広げた太く長い豪腕が地響きを立てながら迫る姿は途轍もない迫力。更に凄まじいプレッシャーを与えて来る。

 

しかし、晴香は怯まない。

 

何故なら、晴香のステータスは爪熊と同程度。強さが同じ位の者同士によるプレッシャーなど、今の晴香には大して障害にもなり得ない微風に等しい物であるから。

 

「生きのいい新鮮な熊さんだ、ねっ!」

 

ドパンッ!

 

突進と風の三爪の攻撃を縮地で躱し、空力で作った足場から06を抜き撃ち。銃の扱いに慣れてきたとはいえ、まだまだ鍛錬が足らず、怒りに狂っている爪熊でも回避されてしまう。殺気を向けず、攻撃してくると分からせないように自然に銃口を向ける事は出来ず、これが今後の課題となるだろう。

 

2mを超える巨体にはあるまじきスピードで迫る爪熊が、鋭い三本の爪が生え揃う右腕うを振りかぶる。爪熊の固有魔法は【風爪】と言い、その三本の爪から長さ30cm程の風の刃を形成し、物理的に接触せずとも対象を切り裂ける技能であり、その攻撃力は皮膚が異常に硬いはずの魔物ですら、スッパリと両断してしまう鋭さ。この攻撃を一度でも喰らってしまえば大ダメージであり、足などに当たれば機動力損失=死となってしまう為、最大の注意を払わねばならない。

 

縮地で後ろに飛び、空力で形成した足場を使って更に縮地。二回ほどの連続発動で爪熊の背後を取ると、縮地を用いて急接近した。本来であればこのような行動は敵の間合いに侵入してしまうのでやらない方が良いが、爪熊は左腕を損失している為に攻撃に死角が生じている。

 

これを利用しない手はない。そう考えた晴香は、一瞬だけ晴香を見失った爪熊の背からレールガンを撃ち放つ。

 

「ガァッ!?」

「っ!」

 

やはり殺気が隠せてないのだろう。爪熊は咄嗟に回避した。しかも、回避しながらの風爪横薙ぎ払い。豪風と共に爪が通り過ぎ、触れてもいないのに地面に三本の爪痕が深々と刻まれた。咄嗟に回避したが晴香の服の一部が掠め、その部分だけが切り裂かれている。もしそのまま切り裂かれて居たら、と晴香が冷や汗を流す。このままでは埒が明かない。

 

(やっぱり、そう簡単には行かないよね・・・なら)

 

晴香は【異界収納】よりある物を取り出し、それを思いっ切り爪熊目掛けて投げつけ、後退を開始した。

 

自身を傷つけた敵が背を向けて逃げ出すだと?絶対に逃がさん、此処で食い殺す!とでも言う様に殺気と威圧感が増した爪熊が晴香を追う。その時、目の前に飛んで来た金属製の球体を、邪魔だと自慢の爪で両断し―――

 

―――バシュゥゥゥウウウっ!

 

爪が球体を両断した際。ソレが爆ぜ、オレンジ色の煙が舞った。

 

「ギャぁァああぁアああアアッ!?!?」

 

何が何だか分からない爪熊は、その煙を諸に吸い込み、目に直撃し、左肩が吹き飛ぶ時と同様の絶叫を上げ、のた打ち回り出した。晴香の投げた金属球の中に詰められていた物。それは、彼の【ユンケル商会】にて購入した、この世界でトップクラスの辛さを誇るラゼート(この世界の唐辛子)【ミネルボラゼート】と言う名の激辛香辛料。スコヴィル値(唐辛子の辛さの単位)でいうと地球産のキャロライナ・リーパーに匹敵する激辛香辛料であり、アンカジ産だとか。それを乾燥しそして粉末状にしたものが、爪熊が諸浴びした煙の正体である。

 

そんな物が目・鼻・口・左肩の傷に直撃。敵(晴香)が目の前なのにもかかわらず、余程痛いのだろう、ゴロゴロしてる。ハジメさんは目つぶしとして閃光手榴弾を用いたが、あれは視力を一時的に奪うのみ。それを参考にして制作してみた催涙手榴弾だが・・・効果は覿面であった。

 

今の内に離れた晴香は【31式30mm狙撃銃】を再装填し、爪熊に向けて引き金を絞った。

 

―――ダガンッ!!

 

迷宮内に銃声が木霊する。

 

およそ人間が手で持ち放つ銃の音とは思えないほどの発射音を響かせた31式から飛び出した30mmタウル鉱石製フルメタルジャケット弾は、激辛香辛料に苦しみ藻掻く爪熊を完全に捉えた。今回は外すことなど無いように電磁加速されている。回避行動も満足に取れない・・・というよりも、そもそも激痛の所為で晴香から意識を逸らせてしまったが為に、回避に遅れた爪熊の胸を突き抜けた。

 

藻掻きのた打ち回っていた爪熊がビクっと一瞬震える。すると、そのまま脱力したかの様に地面を転がった。

 

念の為、06式を放つ。が、反応は無い。

 

「遣ったか・・・」

 

別に甘く見ていた訳では無い。しかし、あと一歩・・・否、半歩遅れていれば身体が四分割され、ユエに出会う前に彼の世逝きになっていたかもしれない出来事を経験した今、晴香は言いようの知れず、言葉に出来ない変な感覚が心に宿ったのを感じた。爪熊を倒せた感激ではない。生死を分かつ局地を生き延びた喜びでも、増してや命が危険に晒された事に対する快感でもない。

 

(・・・あぁ、そうか)

 

この感覚は、一時的な安堵感。全く、迷惑な感情だ。爪熊を倒せたとはいえ、まだ迷宮内であり此処は拠点内部では無い。この場で安堵して警戒でも怠れば即ち、それが死につながるというのに。だが、この感情は消えなかった。以前、晴香は奈落に堕ちる際、死を覚悟したが、なんとなくパラシュートはちゃんと開くだろうという根拠がない自信に囚われていたので溜息一つで済んだ。

 

しかし、今回は死を覚悟では無く、認識した。後ちょっとズレていたら本当に死んでいた、という背筋の震える思い―――死の恐怖を心の底から感じた。

 

その恐怖を与えて来た対象を殺害し、死が遠退いた事に対する安堵。それが、心の中に渦巻いている。

 

このままの状態では危険だ。と判断した晴香は、爪熊の死体を【異界収納】へと仕舞い込むと、縮地に空力を駆使して拠点へと帰還した。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

去る晴香の背を、陰から眺める存在がいた。

 

「・・・キュっ!」

 

何やら覚悟を決めた表情で、晴香を見つめている。

 

殺気を向けられている訳でも無いので、晴香は気付かなかった・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「ふぅ・・・ただいま~」

 

ここが家と言う訳では無いけど、一ヶ月以上も出入りして生活している空間なので、なんとなく帰ってきたら『ただいま』と自然に口から零れてしまう。晴香は椅子に腰かけると、テーブルに突っ伏した。あの戦闘の後から、手が若干震えている。

 

(今日感じた事は一生、忘れられないね・・・いや、忘れさせない。死の恐怖を忘れてしまったら、それは唯の狂人の仲間入りだ)

 

そのまま深く深呼吸。気持ちを整え整理すると、いつの間にか手の震えは収まった。

 

「よし、熊食うぞ!」

 

食事場に向かうと【異界収納】から爪熊の死体を取り出す。吹き飛ばした左肩からシュタルナイフで皮を剝ぎ、ミネルボラゼート粉末が付着していない内部の肉を切り取った。魔物肉は兎に角固く、そして筋が異常に多い。これは魔力が浸透することにより強化された副産物である。晴香は半魔物化したことにより顎筋が強化されたとはいえ、食べにくいし噛みにくいことには変わらず。なので、刻む。

 

刻み終えると、そのまま生で食べる。

 

焼く事はしない。史実ハジメさんは纏雷で丸焼きにして喰らい付いていたが、唯でさえ食べにくい魔物肉を焼くことで、筋肉が収縮し余計に食べずらくなる。強く噛むのも面倒と言う事で、晴香はずっと生肉で食べて来た。

 

お腹を壊す?寄生虫が心配?【胃酸強化】がきちんと仕事をするので問題無い!という謎理論である。

 

「うぐっ、来た・・・」

 

初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まった。用意して置いた神水を服用する。あの時ほど激烈な痛みではないが、激痛には変わりなく、痛みに顔を歪める。爪熊は二尾狼や蹴りウサギとは別格であるため、取り込む力が大きく痛みが発生する。しかし、この痛みを乗り越えて次のステップに進んだ先には、さらに強くなった私が待っている!と、自身を鼓舞しながら激痛に耐える。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」

 

激痛と脈動が収まり、流れ出た汗を強引に拭う。この階層では最強の座を成すがままにして来た爪熊は、正に別格。二尾狼や蹴りウサギ肉では感じなかった激痛に襲われた。しかし、その分だけ身体が強靭になりステータスも上昇する。我慢する甲斐があった。

 

~~~

 

===========================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:15

 

天職:錬成師

 

筋力:630

体力:630

耐性:550

敏捷:590

魔力:1100

魔耐:1100

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成]

   弓術

   [+命中率補正]

   火属性適性

   [+効果上昇]

   土属性適性

   [+効果上昇]

   全属性耐性

   魔力操作

   魔力感知

   胃酸強化

   纏雷

   天歩

   [+空力][+縮地]

   風爪

   言語理解

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

===========================

 




史実シュラークって何口径なんでしょうね?
進化すればAA(88mm)になるらしいですけど『口径を大きく・・・』との表現しかなかったので、取り敢えず30mmにしました。大丈夫、晴香なら立ったままでも撃てます。


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18話 二階層

おはようございま~す!


「おお、見つけた!」

 

爪熊を捕食してから2日。漸く二階層へと至る階段を発見した。晴香はそこをマップに印をつけると、一度拠点に戻った。

 

拠点には神結晶を始めとした様々な物が置いてある。なので、それらを片付けてから第二階層に向かう為だ。ハジメの場合は持ち出せる物が少なかったので直ぐに向かう事が出来たが、晴香の場合は【異界収納】が存在する為、様々な物品を採取しては拠点内部にも放置していたりするので、それらの回収に時間が取られる。

 

と言っても、物に触れて収納と念じれば【異界収納】へと仕舞われるためにそれ程時間を食う事はない。

 

「よし、終了!いままでありがとね!」

 

腰を屈めれば如何にか侵入できる程度の出入り口を()()()()()、一ヶ月ちょっとを共に過ごした一階層拠点を後にした。向かうは、第二階層へと至る階段の存在する部屋。

 

 

     *   *   *   *   *

 

 

階段と呼ぶには烏滸がましいかもしれない、凹凸のの連なる凸凹な道を降る。そしてその先は、緑光石の光がない真っ暗な闇に閉ざされ、不気味な雰囲気を醸し出している。夜目必須の階層であり、夜闇に紛れて石化の魔眼を繰り出すバジリスク等の、一階層よりも厄介極まりない魔物が多数生息する魔境だ。

 

しかし、晴香には夜目が存在しないので、ハジメと同様緑光石光源か、光源魔法具に頼る事となるだろう。

 

史実ハジメは爪熊により切断された左腕に、魔力を注いだ緑光石を括り付けて光源を確保していたが、晴香には左腕が健在なので、普通に持つ。利き腕である右腕には06式を持ち、油断無く周囲警戒を行いながら前へと進む。

 

しばらく進んでいると、通路の奥で何かがキラリと光った気がして、晴香は警戒を最大限に引き上げる。そして、実用性に富み、いろいろな小物を収納できるユーティリティポーチからある物を取り出し、安全ピンを抜くと、先程光った地点目掛けて投げ飛ばした。

 

空中を飛翔するソレが、大体3秒ほど経った瞬間。爆発音と共に暗黒の世界を燦然たる光が塗り潰した。

 

「クゥア!?」

 

閃光手榴弾である。

 

魔物の悲鳴が上がった地点に光源魔法具を向ければ、そこには体長二メートル程の灰色のトカゲ。今まで感じた事も無いだろう数万カンデラの光に目をやられている所為か、辺りを忙しなくキョロキョロしている。勿論、このチャンスを逃すはずもなく、06式で纏雷を発動しながら撃ち放つ。

 

絶大な威力を秘めた弾丸が、狙い違わずバジリスクの頭部に吸い込まれ、頭蓋骨を粉砕し中身を蹂躙する。弾丸は、そのまま貫通し、奥の壁に深々と穴を空け、シューと岩肌を焼く音を立てた。電磁加速させているため、当たった場所が高温を発している為だ。熱に強く、硬いタウル鉱石だからこその威力だろう。

 

(史実ハジメさんは、此奴に左腕を石化させられるけど、ソレが解っていながら同じ行動など取るはずがない。先手必勝。やっぱり、ちょっと先の事が分かっているのって反則だね・・・)

 

苦笑い一つ。

 

晴香は周囲を警戒しつつ、バジリスクに縮地で近づくと、素早くバジリスクの死体を【異界収納】に仕舞い込み、その場を離脱した。一定方向のみと範囲の限られた光源しかなく、自身の目はこの空間では役に立たないので、敵の早期発見が難しく、そんな危険な場所でのんびり食事するわけにもいかないので、探索を進める。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

下層へと降る階段探索は後回しに、晴香は拠点を作る事にした。道中、倒した魔物や採取した鉱石も多く、使ってしまった消耗品の確保も必要な為である。

 

適当な場所で壁に手を当て錬成。特に問題なく壁に穴が空き、奥へと通路ができた。連続で錬成し、六畳程の空間を作る。そして、忘れずに【異界収納】より神結晶を取り出し壁の窪みに設置する。固定は厳重だ。その下にはしっかり滴る水を受ける容器もセッティング。他にも、魔物を食す為だけに存在する空間を設置し、其処に二階層で倒した魔物を取り出す。

 

錬成した岩の台に取り出されたのはバジリスクと、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウ、六本足の猫の死体。毎度御馴染みシュタルナイフで皮を剝いで肉を取り出すと、細かく刻んで皿にのせる。血の滴る新鮮な生肉。物凄く獣臭いし、爬虫類(?)の肉という正にゲテモノ肉だ。晴香はそれらを躊躇い無く口に運ぶ。

 

「んぐっ・・・うへぇ不味い」

 

血の滴る生肉を貪る猟奇的な光景・・・に思えそうだが、きちんと皿を持ち、箸で食しているので、其処まで酷い光景では無く、マシな野生児といった光景である。

 

んぐんぐと喰っていると次第に体に痛みが走り始めた。この階層には爪熊の同等以上のステータスを有している為、身体が強化されている。暗闇という環境と固有魔法のコンビネーションは厄介なのだが、【魔力感知】と閃光手榴弾で狼狽えさせて06式レールガンで一発射殺。生まれてここから出た事ない魔物達には対策を施す間も無く撃ち抜かれてしまっていた為、爪熊より強くても晴香にはそんな実感が無かった。

 

神水も服用しながら、残りを平らげる。内部から破壊されて行く覚醒痛には及ばない痛みだが、念のためだ。

 

「・・・ごちそうさまでした」

 

相変わらず不味い肉はさて置き、食後の楽しみであるステータスプレートを拝見する。

 

===========================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:21

 

天職:錬成師

 

筋力:800

体力:910

耐性:620

敏捷:850

魔力:1210

魔耐:1210

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成]

   弓術

   [+命中率補正]

   火属性適性

   [+効果上昇]

   土属性適性

   [+効果上昇]

   全属性耐性

   魔力操作

   魔力感知

   胃酸強化

   纏雷

   天歩

   [+空力][+縮地]

   風爪

   夜目

   気配感知

   石化耐性

   言語理解

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

===========================

 

予想通りにステータスは大幅に上昇し、想定通りの技能が3つ取得出来た。

 

夜目は言わずもがな、暗い空間でも鮮やかとまではいわないが、周囲の光景をきちんと目視できる技能である。奈落の魔物的に弱そうな技能だが、この第二階層は緑光石の光源が存在しない暗黒世界。真っ暗闇でも普通に周囲を目視できるという事は、この階層においては途轍もないアドバンテージである。

 

気配感知は、魔物や人などの気配を感じ取ることが出来る技能であり、発動してみれば拠点外部に存在するバジリスク達の気配を何となく感じ取ることが出来た。もっと遠く、正確に感じ取るには鍛錬しかない。これは要特訓だ。

 

最後の石化耐性だが、バジリスクの固有魔法である【石化の邪眼】に対抗できる耐性技能であり、通常オルクス大迷宮90階層にて、魔人族の女性から追い詰められたクラスメイトを救出する際、その魔人族から落牢と呼ばれる土属性上級攻撃魔法による石化効果を無効化できたりする技能だ。石化耐性だけに、石化攻撃に対する耐性効果は高い。

 

ステータスプレートを仕舞うと、晴香は使ってしまった消耗品を補充するための錬成を開始した。

 

06式に使用する【12.7mmタウル鉱石製フルメタルジャケット弾】や31式に使用する【30mmタウル鉱石製フルメタルジャケット弾】又は【30mm榴弾】などといった消耗率の高い弾丸は最大でも100発以上な準備しており、それらは【異界収納】にて保管されている。しかし、使った分は補充しておき、無くてはならない時に限って尽きているなどという笑えない事態を回避するためだ。

 

それに、晴香はゲームをする際、アイテムは最大数まで購入又は所持するのが定石となっている為、その性格がここで現れたと言っても過言ではない。

 




皆さんはモン〇ンとかプレイする時、アイテムボックスには大樽×99見たいに、アイテムを買い溜めしますか?私はするタイプの人間ですw


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19話 三階層

おはようございます。
昨日は投稿できず、申し訳ありませんでしたm(;∀;)m


補充を済ませると、晴香は休むことなく探索を開始する。晴香はハジメのように生き急いでいる訳ではないが、出来るだけ同じペースを守って探索する事にしている。その理由は、出来るだけ史実と同じ様な流れでトータスの歴史を進ませたいからである。既にハジメが奈落に落ちていない為に、歯車は大いに狂っているが。

 

それは兎も角、諸事情により一時中断せねばならない時以外を省いて晴香は動き続けた。

 

諸事情とは―――

 

「ホッホーッ!!」

 

散弾となり飛翔する鋭い羽が晴香を捉える。が、事前に察知していた晴香は縮地で回避。夜目による暗闇アシストのお陰で、暗黒世界の二階層を縦横無尽に飛び回り、当てられるモノなら当ててみろと言わんばかりに散弾フクロウへと急接近。高速移動による翻弄と挑発行為により怒りに染まり、冷静さを欠く散弾フクロウは、晴香が縮地の失敗によって姿勢が狂ったのを好機とみて攻撃を仕掛けた。

 

実際には姿勢を崩したように見せるフェイントであり、こんな単純な罠に簡単にかかってしまうものなのかと呆れた表情で、普段よりも3割増しの魔力を込めた縮地にて、散弾フクロウの視界から消えた。縮地は素早く移動できるが、距離や速度を一瞬で出す為に魔力を多く消費してしまうので、普段は1割程度しか魔力を込めない。全力で発動すれば、地面が陥没してソニックブームが発生するかもしれない。

 

もしそうなれば激しい衝撃波による服地効果も見込めるだろうが、周りに味方がいる場合などでは巻き込んでしまうので、注意しなければならない。

 

閑話休題。

 

(―――こっちだよ!)

「っ!?」

 

消えた敵が自身の真横に出現する。今までに見せていない視界から消える高速度の晴香に、咄嗟に反応し対処行動を行おうとする散弾フクロウは、流石、奈落の魔物を言えよう。しかし、晴香の方が圧倒的に早かった。

 

「風爪」

 

スッと伸ばされた手から、三本の風の刃が出現する。何時かの爪熊が保有していた固有魔法だ。

 

晴香と散弾フクロウが交差する。風爪の切れ味は折り紙付きであり、散弾フクロウを四枚卸に仕立て上げた。

 

―――こんな時である。

 

気になっただろうが、何故晴香が06式などを使用しないかというと、次に進む三階層だが、ちょっとした火種で3000℃の灼熱地獄に早変わりしてしまう火気厳禁階層なのである。勿論、その階層では銃器やレールガンに用いる纏雷などの使用が出来ない。

 

であるならば、高温を発さず、されど高威力を繰り出せる【風爪】を用いるのが持って来い。なので、熟達鍛錬中なのである。因みに、晴香愛用シュタルナイフを使用するとも考えたが、次階層の鮫型の魔物には物理攻撃を緩和する皮膚を有している為、不採用とした。史実ハジメは【風爪】で魔物を討伐しているので、問題はない。

 

この様にして戦闘を繰り返し、時々鉱物採取な一時を数時間繰り返した晴香だったが、漸く階段を発見した。

 

勿論、何ら躊躇い無く飛び込んだ。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

その階層は、地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所であり、このタールの正体こそが【フラム鉱石】である。フラム鉱石とは艶のある黒い鉱石であり、熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50℃ほどで、タール状のときに摂氏100℃で発火する。その熱は摂氏3000℃に達する。燃焼時間はタール量による。

 

(うへぇ~歩きにくい・・・)

 

足を取られるので凄まじく動きにくい。事前に用意していた長靴を履いている為、靴内部にタールが侵入する事はない。が、身動きがとりずらく、鮫型に奇襲攻撃を仕掛けられたら咄嗟に対応できないとして、晴香はせり出た岩を足場にタールから抜け出した。

 

【天歩[+空力]】にて空中に足場を形成し、それに乗ったままフラム鉱石の壁に穴を空け、内部に入る。隣に三畳ほどの空間を設けると、晴香は【異界収納】より椅子と棒状の物、そして魔物肉を取り出した。

 

「ほいっ」

 

細い線により括り付けられた魔物肉が、棒状の物体より繋がった糸を伝ってタールの中へと落下する。

 

棒状のソレ―――釣り竿の針に魔物肉を括り付けた、対鮫型捕獲用に用意した物である。鮫型は【気配遮断】という固有魔法を用いている為、晴香がもつ【気配感知】に引っかからず、タール状の界面より飛び出て奇襲攻撃を繰り出す。それを相手にするよりも先に【気配遮断】を習得しておきたいと思った晴香は、魚(?)相手なのだから釣りでしょ!と言う事で、釣り竿を制作したのだ。

 

鮫型は非常に鋭い歯を有している為、並みの糸では噛み千切られる―――否。切断されてしまう為、そうならないように特殊なワイヤーを用意した。用いられる金属は晴香の装備品に数多く用いられている【シュタル鉱石】であり、1mm程の金属線を束ねてワイヤーとしたものだ。魔力を込めてある為、どれ程の強度を有するのかと言う実験がてら【風爪】したら、一度は耐えた。

 

それくらい高い強度を風しており、一度の釣りしか行わないのだったら十分な性能だろう。

 

ぽちゃんっ・・・では無く、どぼっと言った表現が正しいか、肉がタールの中へと沈む。ゆらゆらさせたり、振動を加えたり。晴香は釣りというスポーツをした経験が殆ど無く、あっても小学生低学年時代に叔父さんに釣り竿を握らせてもらった程度。やり方は釣り番組でやってる人達の技術の見様見真似だ。

 

適当であるので、地上の魚であれば釣れないであろう。しかし、この階層の魔物達には釣りという概念が存在しないはず。変な肉片が浮いてる程度に思われるかもしれないが、それだけでも良い収穫だ。釣れない野であれば、他のやり方で行えばいいのだから。

 

・・・ボジャッ!!

(早っ!?)

 

なんて思って居ると掛かってしまった。まだ五分も経過してないのに・・・

 

と、若干呆れた晴香であったが、直ぐに気を引き締める。掛かった獲物である鮫型がタール内で暴れ出したからだ。何故か沈んでいた肉片に喰らい付いたら、異物が口内の何処かに突き刺さり、取れなくなって慌てたのだろ。晴香はそう推測すると、竿を大きく引き上げた。シュタル鉱石製の竿が撓る。しかし、魔力を大量に込められているお陰で折れるなんてことは無さそうだ。

 

奈落の魔物なので力が強く、タールの底へと引きずりこもうとするが、晴香の力は鮫型よりも強かった。

 

「うりゃぁっ!!」

 

腰に力を入れて引き上げる。逃げようと抵抗する鮫型あったが晴香のステータスには無力で有り、その努力も虚しくタール中より引き釣り出された。鮫の一本釣り。そう表現するのが妥当だろう。空中につるされた状態でバシャバシャと暴れ、表面に付着したタールが飛び散る。

 

三畳ほど設けた空間に鮫型を誘導すると、錬成で鮫型を固定した。気配を消す固有魔法しか有していない鮫型は抵抗できず、歯ぎしりしながら晴香を恨めしそうに睨みつけている。

 

晴香はその視線に微笑み返すと、笑顔で

 

「死ねっ」

 

【風爪】で真っ二つに切断した。抵抗らしい抵抗も出来ずに、鮫型はその生涯の幕を閉じる。

 

無力化された鮫型を取り出すと、シュタルナイフで皮を剝ぐ。物理攻撃を緩和する皮膚は何らかの防具になるかもしれないので、この階層での鍛錬序に狩りつくす勢いで採取しようと心に決めた晴香は、醤油が欲しいと思いながら刺身を口にする。まるでゴムにでも齧り付いているかのような、噛み応えがあり過ぎて疲れる感触に、魔物肉特有の不味さ、そしてタールの何とも言えない工業廃ガスの様な香り。

 

醤油が有っても絶対不味いし、返って余計に酷くなりそうだなんて感想を抱きながら、全て食した。

 

 

===========================

綾瀬春香  17歳 女 レベル:22

 

天職:錬成師

 

筋力:800

体力:910

耐性:680

敏捷:850

魔力:1210

魔耐:1210

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成]

   弓術

   [+命中率補正]

   火属性適性

   [+効果上昇]

   土属性適性

   [+効果上昇]

   全属性耐性

   魔力操作

   魔力感知

   胃酸強化

   纏雷

   天歩

   [+空力][+縮地]

   風爪

   夜目

   気配感知

   気配遮断

   石化耐性

   言語理解

   異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止]

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漸く、此処まで来た・・・次回は多分、登場です。


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20話 五十階層

ごめんよ、約束まもれなかった・・・(何がとは言わない)


晴香の迷宮攻略は続く。

 

鮫型の階層から更に五十階層は進んだ。スマホがあるので日数を図ることが出来たが、二週間ほどが経過する頃にはそもそも見てても意味が無いとして、記録を止めている。それでも、驚異的な速度で進んできたのは間違いない。

 

その間にも理不尽としか言いようがない強力な魔物と何度も死闘を演じてきた。

 

例えば、迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層では、毒の痰を吐き出す二メートルのカエル(虹色だった)や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目モ○ラだった)に襲われた。常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはず。なにせ、地上の布素材に水晶材、奈落産鉱物で製作した試作したガスマスクが役に立たなかったからだ。

 

毒の痰を吐き出す蛙の毒は、神経毒であり、サリンが近いかもしれない。その痰攻撃を喰らった史実ハジメは初めて魔物を食した時に近い激痛に襲われたらしく、幸い奥歯に仕込んでいた噛み砕ける程度に薄くした石で出来た小さな容器に入った神水で事なきを得た。

 

晴香も真似して奥歯に・・・抜神(神経を抜いた歯)を少々削ってシュタル鉱石でメッキを施して製作した窪みに設置している。しかし、どんな毒で有るかを事前に知っていれば態々攻撃を受けるヘマなど犯さない。痰毒蛙を殺し、その死体を持って拠点に帰り、肉を食う前に安全(比較的)な拠点内で毒を自身に投与した。

 

そのサリンを直接吸う様な阿呆丸出しな行為で、晴香は絶叫は上げなかったが転げまわった。久々の超激痛に息絶え絶えとなり、死体の様に拠点内部で伸びる。これから先、どんなにある程度先の事が分かっていても、更に強烈な痛みに襲われる時が必ず有るだろう。体半身焼傷とか、神水をもってしても中々癒えない毒とか。そう考えると、先に痛みに対する耐性を付けておいた方が良い、そう考えた晴香は、この様な誰も巻き込まない自殺テロ行為に走ったのだ。

 

自身に鞭打つ処か包丁で滅多刺しする様な行いを何度も繰り返せば、だんだんと慣れて来るものである。痛みが消えたら投与を繰り返す事50を超える頃には超痛い!で済む程度に激痛耐性(技能では無い)を得た晴香は、そのまま痰毒蛙に戦闘を挑み、敢えて痰毒を喰らいながらの戦闘を行った。慣れて来たとは言え激痛には変わりないので、戦闘中に何度もミスを犯したが、その分経験値はたまる。この経験を今後に生かす。

 

因みに後遺症などが残らない様に神水を使った。なので晴香はピンピンしている。

 

余談だが、蛙肉は旨かった。史実ハジメは喰らい付くのに躊躇していたが、様々な魔物の生肉を喰らう為に迷宮を進んでいたようなモノの晴香は全く躊躇わずに喰らい付いた。女子としての矜持を亡くした(捨てた?)晴香は、完全な野生児と化した。原作に記載されていた様に、蛙肉は今まで食べて来た魔物肉に比べれば断然美味であった。

 

ハジメからしたら『ちょっと美味かった』と表現されていたが、鶏もも肉の様な淡白な味わいを久しぶりに味わえた晴香からすれば十分美味しかった。

 

勿論、生肉であり調味料は無し。晴香は野生に適応した。

 

また、地下迷宮なのに密林の階層に出た時の事であるが、物凄く蒸し暑く鬱蒼としていて今までで一番不快な場所だった。なんせ蒸れる。女の敵だな階層だ。この階層の魔物は巨大なムカデと樹。樹とはRPG風に言えば所謂トレントの様な魔物である。

 

密林を歩いていると、突然、巨大なムカデが木の上から降ってきたときは、

 

【流石のハジメも全身に鳥肌が立った。余りにも気持ち悪かったのである。】

 

とあったが、晴香には食料にしか見えなかった。

 

相当末期である。

 

このムカデは、体の節ごとに分離して襲ってくる特異種。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物である。晴香は、ここで史実ハジメが直面する問題である【ドンナーのリロード(弾丸の再装填の事)に戸惑る】を解消しており、一撃で殺傷する射撃を六発放つと、新しく習得していた【異界収納[+遠隔召喚][+遠隔収納]】にて、手で触れずとも収納した対象を指定位置に召喚できる新たな派生技能である。

 

これを用いて、リロードの際には空薬莢(弾を放った後の残り)六発分を、一発ずつ0.05秒間隔で収納し、同じく0.05秒間隔でシリンダー(6発の弾丸を収納できるリボルバー特有の回転弾倉)へと再召喚でセットしリロードを完了させるという、史実ハジメが【宝物庫】と呼ばれる異界収納似のアイテムボックスの様なアーティファクトで行う高速リロードを再現した形で有る。

 

集中力を削られるので戦闘中は使用できないが、シリンダーを開放(スイングアウト又は振出と呼ばれ、弾丸交換時にシリンダーを横にスライドさせる形で銃本体から回転弾倉を飛び出させること)せずに直接、シリンダー内部で空薬莢を遠隔収納。更に開いた弾倉に直接遠隔召喚で弾丸をセットすることで、事実上の無限弾倉を再現できたのだ。

 

更に、史実ハジメの十八番、クイックドロウ(神速撃ち。連続の射撃を繰り出す銃技。 射撃速度が速いために6発分が1発分の音しか聞こえない。)は、晴香には三発が限界だが、射撃間隔を遅くしたフルオート射撃(連続射撃)では戦闘中でない限り100発以上を連続で繰り出せる。もっとも、実証試験で50発までしか撃たなかったので、これから先はもっと高速に再装填と射撃を繰り出せるように要練習である。

 

しかし、まだ【錬成[+高速錬成]】や【錬成[+複製錬成]】を習得していない為に弾丸一発の製作時間が20分強掛かるので、錬成の鍛錬に更に力を入れなくてはならないのが今後の課題だ。

 

話が反れたので戻そう。

 

味も不味く、これが漢方薬となるのかと言うレベルで変な味であったムカデは良いとして、次は樹の魔物トレントだ。トレントは、木の根を地中に潜らせ突いてきたり、ツルを鞭のようにしならせて襲って攻撃を仕掛けて来る。

 

しかし、このトレントモドキの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。この魔物、ピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。この赤い果実には毒が無く、代わりに凄く美味しいスイカの様な果実であり、決してリンゴでは無い。

 

兎に角、史実ハジメさんをしても一時思考を止めてしまう程の美味しさ(いつも新鮮な魔物肉しか食べてなかったので、これ以上に無い極上の果物だったから)らしいのだが、晴香は口を付けなかった。それにはやはり、ここを潜る際に心に誓った宣言(マニュフェスト)を破る訳にはいかないとして、我慢した。

 

「ユエちゃんと一緒に食べた方が100倍美味しいはず!」

 

と、若干後ろ髪を引かれる思いで、そしてトレントを殲滅する勢いで果実狩りに勤しんだ。

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば目的の五十層。漸くここまで来たか・・・何て感慨深い念が晴香の胸の内を支配する。此処までの道のりで晴香の心身(主に心の方)は疲弊していた。完全に自業自得であるが、耐えがたい激痛、薄暗い迷宮内を常に一人、自身以外は全て敵、ちょっとの油断で死に至る為に擦り減らされる精神、劣悪な環境下でのサバイバル生活・・・

 

覚醒し、ちょっと狂人の道のりへと足を突っ込んだ晴香といえども、精神的にはやはり未熟であった。だがしかし、疲弊してでも頑張った甲斐はあった。それは、50階層到達時点での、晴香のステータスである。

 

===========================

綾瀬晴香  17歳 女 レベル:22

 

天職:錬成師

 

筋力:1480

体力:1600

耐性:1430

敏捷:1820

魔力:1560

魔耐:1560

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成][+複製錬成]

  ・弓術

   [+命中率補正]

  ・火属性適性

   [+効果上昇]

  ・土属性適性

   [+効果上昇][+魔力消費削減]

  ・全属性耐性

  ・魔力操作

  ・魔力感知

  ・胃酸強化

  ・纏雷

  ・天歩

   [+空力][+縮地][+豪脚]

  ・風爪

  ・夜目

  ・遠見

  ・気配感知

  ・気配遮断

  ・毒耐性

  ・麻痺耐性

  ・石化耐性

  ・言語理解

  ・異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止][+遠隔収納]

   [+遠隔召喚]

===========================

 

晴香は、ここ五十階層にて製作した拠点で錬成の鍛錬の後。魔物との戦闘では銃着や足技など、多種多様な戦闘方法の模索、編成、昇華を行いながら探索する。記憶によれば、そこはなんとも不気味な空間らしく、明らかに異質な場所であり・・・

 

「ここ、が・・・」

 

脇道の突き当りにある空けた場所には、高さ3メートルほどの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していた。

 

この扉の奥に、封印されたユエがいる。

 

そう思うと居ても立っても居られず、すぐさま準備を始める。自身の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、晴香はホルスターより06式を抜く。開いた左手には【異界収納】より取り出した奈落産魔石。それを、思いっきり扉に向かってぶん投げた。

 

音速に迫る速度の投擲により飛翔した魔石は、その扉に激突するその瞬間、

 

―――バチィイ!

 

扉から赤い放電が走り、魔石を弾き飛ばした。高電圧を掛けられた魔石が粉々に砕かれ地面に散る直後。

 

――オォォオオオオオオ!!

 

突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡る。

 

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出す。

 

「ふふふ・・・金剛取得の食料が動き出したよ・・・」

 

おどろおどろしい笑顔舌なめずりする晴香の前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

一つ目巨人の容貌は、ファンタジー作品には8割がた登場する魔物サイクロプス。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようと晴香の方に視線を向けた。

 

その瞬間。

 

ドパァンッ!

 

間延びした銃声が響いた。

 




19話の後書きに登場すると書いたが・・・あれは嘘だ!
ごめんなさい単純に4000文字程度では収まらないのです。明日はきっと・・・っ!


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21話 解放

おはよう、がざいます・・・


凄まじい発砲音と共に、電磁加速された二発の弾丸がサイクロプス目指して突き進む。晴香が練習してきたクイックドロウだ。一瞬の反応すら許さぬ超高速で飛翔したタウル鉱石製フルメタルジャケット弾は、左右のサイクロプスの巨大な一つ目の瞳孔を穿ち、脳内の蹂躙。高威力の弾丸はそのまま後頭部を突き抜け、後方の壁に追突して漸く停止する。

 

撃たれた二体のサイクロプスはビクンビクンと痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。超重量の巨躯が倒れた衝撃で部屋全体を揺るがし、積もった埃が舞う。

 

一瞬の戦闘に、この空間が静寂に支配される。

 

「哀れ?ごめんね、貴方達に構ってる余裕はないの」

 

晴香は06式のシリンダーを開放して再装填を終え、ホルスターに収納すると、そのままサイクロプスの潰れた脳に手を突っ込んだ。高温の弾丸にシャッフルされた脳の一部を引きずり出すと、態々ひき肉にする手間が省けるとでも言わんばかりにそのまま喰らい付く。瞬殺されたとは言え晴香よりもステータスが高かった彼等の肉により激痛が走るが、服用している神水のお陰で痛みは直ぐに治まる。

 

ステータスプレートを取り出し、技能欄を見れば【金剛】を習得していた。

 

それを確認すると【風爪】でサイクロプスを切り裂き、体内から魔石を取り出す。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせる。

 

ピッタリと嵌まると。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り、魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まる。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。これで扉は解錠された。

 

その事を確認した晴香は、【異界収納】よりタンクを取り出すと、其処から水を出して手を洗い、口を拭いて扉を押す。これからユエとのご対面だ!と、スキップしそうな勢いだ。そんな晴香の後ろ姿を、死体となり果てたサイクロプスが悲しそうな死に顔を向けている。

 

この扉を守るガーディアンとして封印されていた彼等は、こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無だと思っていた。晴香がここに来た際、漸く来た役目を果たす時!と、胸中は歓喜で満たされていた彼等は、満を持しての登場だった。しかし、相手を見るまでもなく大事な一つ目ごと頭を吹き飛ばされる。

 

これを哀れと言わずしてなんと言うのか。

 

【異界収納】へと死体の収納も忘れて扉に向かって行くその後ろ姿。そして、収納を忘れられる死体サイクロプスは、本当に哀れだと思う。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっている。【夜目】による暗闇補正と、手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。その立方体から生える、僅かに見えるその存在が、晴香の目的であるユエだ。

 

開いた扉をそのままにして、晴香は歩みを進める。コツコツと晴香の足音が、この空間に反響した。

 

その時である。

 

「・・・だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声。何時かのアニメで聞いた、否、その周波数変換された電子音では無く、本物の生声。晴香の胸中に、言葉では表現できない興奮の様な夏が湧き上がり、鼓動が早まった。トータスまで来て、此処まで何度も死に掛けて、それでも諦めないで、此処まで来た。

 

唯々、目の前で封印された少女と出会う為だけに。

 

「漸く、会えた・・・」

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が垂れ下がっている。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いていた。年の頃は原作通り十二、三歳くらい。痛々しい程に窶れており垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしている。

 

無意識に流れ出そうとしていた涙を堪える晴香。紅の瞳の女の子も晴香をジッと見つめていた。

 

「・・・どうして、貴方はこんな所で封印されてるの?」

 

理由も真相も知っているのにこんな事を聞くのは、晴香的に凄く白々しい。しかし、聴かなければ不自然なので致し方なし。

 

余談だが、なぜ晴香がユエの事を彼女と言うのかというと、単純にこの時のユエはまだユエでは無く【アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール】という名前を持っているからである。この時にその本名を晴香が口にするのは憚られる。

 

「・・・・・・私、は・・・」

 

俯いた彼女が約300百年間碌にだしていない声で、呟くように理由を話してくれる。

 

「私、先祖返りの吸血鬼・・・すごい力持ってる・・・だから国の皆のために頑張った。でも・・・ある日・・・家臣の皆・・・お前はもう必要ないって・・・おじ様・・・これからは自分が王だって・・・私・・・それでもよかった・・・でも、私、すごい力あるから危険だって・・・殺せないから・・・封印するって・・・それで、ここに・・・・・・」

 

枯れた喉でポツリポツリと語る彼女。そのような事実を語られると知識にあっても、実際に耳にするのは重みが違う。例えるなら、そう。唯の紙に書かれた沖縄戦の資料を見るのと、実際に塹壕に入って戦争経験者の話を聞くような、そのような感覚だろうか。知っていても、その語られた辛い思いに同情を禁じ得ない。

 

晴香自身は知っているし、ここで聞くのも白々しいが、同上の理由で質問をさせてもらう。

 

「貴方は王族なの?」

「・・・(コクコク)」

「殺せないのは如何して?」

「・・・勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「それが凄い力なの?」

「これもだけど・・・魔力、直接操れる・・・陣もいらない」

 

最後のは晴香も同じである。史実ハジメは元から魔法適性が無いので、魔力を直接操る事が出来ても魔法は発動できないので、大がかりな魔法陣が必要なのには変わりなく、碌に魔法は使えない。しかし、晴香は元々火属性適性並びに土属性適性を有しているので、この二属性に限って言えば陣無しでの即発動が可能である。

 

だが、この彼女のように魔法適性があれば反則的な力を発揮できる。何せ、周りがノロノロと詠唱やら魔法陣やらを準備している間に、即時展開で魔法を撃てるのだから、正直、勝負にならない。しかも、不死身。魔力が尽きさえしなければとの枷が存在するが、それでも勇者すら凌駕するチートである。

 

「・・・たすけて・・・」

 

晴香が、『・・・そう言えば私も、その魔法チートに片足突っ込んでるわ・・・』なんて思索に耽けているのをジッと眺めながら、ポツリと女の子が懇願する。

 

「ちょっと待ってて」

 

史実ハジメの様に無言で考え込まないでそう言うと、晴香は女の子を捕える立方体に手を置いた。何処かに行くわけではない。ただ、封印を解除するまでの辛抱に対する宣言だ。

 

「あっ」

 

女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。晴香が安心して?っと、微笑みを向けると錬成を始めた。

 

魔物を喰らい、変質してしまった晴香の赤黒い魔力が迸る。しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、晴香の魔力に抵抗するように錬成を弾く。やはり弾くようだ。だが、全く通じないわけではない。少しずつ少しずつ侵食するように晴香の魔力が立方体に迫っていく。

 

抵抗が強い。だが、既に史実ハジメの魔力ステータスの二倍を軽く超えている晴香の敵ではない。

 

更に魔力をつぎ込む。詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。既に、周りは晴香の魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。更に魔力を上乗せする。七節分・・・八節分・・・女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「はぁっ!」

 

晴香は気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。属性魔法なら既に上位呪文級を超える魔力量。どんどん輝きを増す紅い光に、彼女は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。

 

それでも錬成できない立方体に対し、晴香は更に魔力を注ぎ込んだ。

 

直後、彼女の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、彼女は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。立ち上がる力もないらしい。

 

今までにないレベルの魔力投射量に汗を流した晴香は、額に滴る汗を手で拭うと、彼女の前に座る。

 

半分以上は魔力を消費したので、これから発生するサソリモドキとの戦闘に備える為に、太股に備えたショットシェルポーチの様な場所から神水の入ったシュタル鉱石製の試験官を二本抜く。なぜそこからとったかというと、異界収納より取り出すのも考えたが、いま彼女を驚かすのは良くないと考えたからだ。

 

その二本の内一本を彼女に渡そうとした時。その手を彼女がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。しかし、生きている証として温もりは感じられた。晴香が横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐに晴香を見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

そして、震える声で小さく、しかしはっきりと彼女は告げる。

 

「・・・ありがとう」

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、晴香には分からなかった。

 

ただ、封印から解放し、彼女を救えた。という思いが胸中に広がっていた。

 




21話めにして漸くメインヒロインのユエちゃんの登場です。
あ、まだユエちゃんじゃないですねw


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22話 名前

おはようございます


繋がった手はギュッと握られたまま。約三百年と言う三世紀もの長い間、彼女はここに封印されていた。晴香の原作知識には、吸血鬼族は数百年前にエヒトルジュエの八つ当たりにより、封印された彼女とアラブ神として憑依現界している個体【ディンリード(ユエを封印した叔父)】以外滅んでいる。

 

話している間もやはりというか、彼女の表情は動かない。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

しかも、信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。狂うことすら許されなかったということなのだから。晴香が言うとどの口がと思われそうなので声には出さないが、よく耐えたねという思いが、心の底から湧き上がり、今すぐ抱き締めてナデナデしてあげたい衝動に駆られる。

 

「どういたしまして」

 

そう言って小さな手を握る。彼女は、それにピクンと反応すると、再びギュギュと握り返してきた。可愛い。

 

「・・・名前、なに?」

 

彼女が囁くような声で晴香に尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかった(晴香は意図的に名乗らなかった)と苦笑いを深めながら晴香は答え、彼女にも聞き返した。

 

「晴香。綾瀬ハルカって言うの。貴方は?」

 

彼女は「ハルカ、ハルカ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。むず痒い。でも嬉しい。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように晴香にお願いをした。

 

「・・・名前、付けて」

「・・・前の名前を捨てるのね?」

 

こくりと頷き、小さな口を開く。

 

「ん・・・もう、前の名前はいらない・・・ハルカの付けた名前がいい」

「わかった。」

 

前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。この彼女は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前。

 

彼女は期待するような目で晴香を見ている。晴香は、原作と同様【ユエ】という名前を与える予定だ。しかし、それを言うと史実ハジメと同じ理由で名付けるのはどうかと思うし、晴香的にもよろしくない。なのでその理由を考える素振りを見せて、彼女の新しい名前を告げた。

 

「【ユエ】なんて如何かな?」

「ユエ? ・・・ユエ・・・ユエ・・・」

「ユエって言うのはね、月って意味なの。貴方を初めて見た時に、綺麗な金髪と真紅の瞳が時刻や高度で色の変わるお月様みたいだったから・・・」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

ごめんね、言い方を変えただけで殆どハジメさんの受け売りなの・・・なんて口が裂けても言えない。しかし、ユエという名前を変えたくない晴香からしたらほぼパクリ理由のネーミングなど断腸の思いである。これ程、自身の語彙力の低さを恨んだ事はない。

 

「・・・んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

晴香の苦悩を知らずのユエの感謝に苦笑い一つ。すこし気持ちが軽くなった気がした。

 

(私がユエちゃんを初めて見たのは、書店で見たライトノベル一巻の表紙イラスト。あのイラストレーター先生が描いたユエちゃんに、私は一目ぼれしたんだ・・・いまじゃあ本物のユエちゃんが目の前に居るけどね・・・)

 

晴香は前世界でのユエとの出会いを思い出していた。本当に偶然の出会いだった。書店のラノベコーナーにて、店長のおすすめ!とデカデカと書かれた看板の下に並んでいた数あるラノベの内、一瞬目に入った瞬間にはもう、惚れていたのだ。今目の前で、無表情だけど輝いた瞳を向けてくれる彼女に。

 

「ハルカ・・・?」

「・・・何でもない。それより・・・あぁ~タイムアップ。」

 

本当は服を渡そうと思った晴香であったが、ソレが動き出したのを【気配感知】により察知すると、諦める。

 

「ごめんねユエちゃん、ちょっと私に抱っこされて!」

 

立ち上がった私にひょいっと抱き抱えられるユエは相当困惑顔であったが、無抵抗で抱きかかえられている。そう言えば話してる最中、神水を飲ませてなかったので抵抗らしい抵抗が出来る程の体力が無い為だ。途中で飲ませる他あるまい。

 

晴香はユエを抱き抱えると、自分達―――正確にいえばユエの頭上にとんでもない魔物の気配が存在するのを確認し、縮地で壁際まで飛ぶ。ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。一瞬で、移動した晴香が振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。ユエの封印を解くことによってサソリモドキが出現する事は知っていても、自然と晴香の額に汗が流れた。

 

彼はユエの叔父であるディンリードが用意したガーディアン。ユエを逃がさないための最後の仕掛けであり、ユエを救い出した者に対するディンリードの最後の試練。その試練内容は、この強大な力を有するガーディアンからユエを見捨てず救い出すこと。

 

「アレはユエちゃんを逃がしてくれないみたいだよ?」

 

腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリモドキになど目もくれず一心に晴香を見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命を晴香に委ねたのだ。その瞳を見た瞬間、晴香の口角が吊り上がる。史実ハジメではない晴香自身に、過去ひどい裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託す。

 

この信頼に応えなければ、晴香が、何よりユエへの思いが廃る。

 

「・・・それじゃぁお姫様の護衛と行きましょう!ユエちゃん、これ飲んで!」

「・・・ん」

 

片手でお姫様抱っこされるユエに、事前に取り出していたが渡せるタイミングが無かった神水入り試験官を渡す。ハジメの様に無理矢理飲ませない。開いた片手でもう一本の試験官を飲み干す晴香を見たユエは、反射的に受け取ったコレは何らかのポーション類だと察し、力の入らない手でどうにか蓋を外すと、口に付けてちょこりと傾けた。容器から神水がユエの体内に流れ込む。

 

「!」

 

衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。

 

「ちょっと動くね!」

 

縮地による高速移動にて、抱えるユエが振り落とされぬように強めに固定すると、迫るサソリモドキから離れる為に縮地を連発。一番遠い柱の裏に隠れると、しっかり捕まっててねと伝えてからユエを背に背負った。全開には程遠いが、手足に力が戻ってきたユエはギュッと晴香の背中にしがみついた。

 

ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくるサソリモドキを一瞥すると、晴香は【異界収納】より【44式45mm狙撃砲】を取り出し、真紅の雷を纏う。

 

「さて、殺るよ!」

 

晴香が持つには不釣り合いな大きさを誇る30mm狙撃銃を更に大口径化させた対物ライフルの銃口が、サソリモドキの頭部を捉えた。

 




会話って難しい。
それと、コロナが流行ってる今日この頃ですが、私の学校生活が始まりましたので執筆時間が短くなってしまう為、毎日更新が出来なくなります。多分、三日に一度のペースになると思います。ご迷惑をおかけしますが、予めご了承くださいm(>_<)m


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23話 サソリモドキ

おはようございます。
執筆時間が確保できない・・・


距離が距離なので、サソリモドキは尻尾の針から毒々しい紫色の液体である溶解液を噴射してくる。銃弾程ではないがかなりの速度で撃ち出されたソレを、晴香は横に飛んで避けると、そのまま44式50mm狙撃砲を発砲する。

 

ズガァンッ!

 

凡そ人が持って扱う武器とは思えない大威力による反動。マズルブレーキ(発射時の銃の反動・砲の後座距離の減少を目的として銃・砲の【銃口・砲口(マズル)】に装着する装置)を装着しているとはいえ、常人では上半身が吹き飛ぶような反動が晴香を襲う。しかし、上がったステータスにより全く微動だにしないのは流石化け物と言えよう。

 

最大出力の【纏雷】により電磁加速されたその砲弾は、本来であれば戦車の装甲を破壊する程度の威力を、数十倍に跳ね上げさせる。

 

実戦で何度も何度も射撃してきたその腕は確かであり、狙った通りの場所目掛けて砲弾が突き進む。しかし、サソリモドキはいち早く攻撃を察知して回避行動をとっていた。流石叔父様製ガーディアンだけの事はあったが、瞬刻に到達する50mm砲弾を完全には回避できず、硬質さで自慢の四本の長い腕に巨大なハサミのうち右側二本が付け根ごと吹き飛ぶ。余波で右半身のシュタル鉱石製外殻を大きく削られ、その強大な衝撃により後方へと吹き飛ばされた。

 

「キシャァァアアアァアアアアッ!?!?」

 

吹き飛ばされた腕か、削られた外殻の所為か、はたまた両方なのか。壁に激突したサソリモドキが絶叫を上げ、この封印部屋の空気を震わせる。

 

「見た目にそぐわずメッチャ硬い!」

 

史実で知っていたけれども、まさか50mmレール砲を喰らっても元気に悲鳴を叫べる体力がある事に驚く。晴香は甘く見ていた訳ではないが、この一撃でサソリモドキは戦闘不能に陥ると予想していたのだが、悪い意味で裏切られた。直ぐに起き上がって攻勢に転じたサソリモドキに対し、ユエを背負って重量の44式を扱うのは流石に難しいと理解している晴香は【異界収納】に収納。そして、遠隔召喚にて突進を噛ましてくるサソリモドキに置き土産を投下すると、直ぐに安全圏へと撤退すべく縮地を発動。

 

先の戦闘に、晴香の背中越しからユエの驚愕が伝わって来た。

 

見たこともない武器で、閃光のような攻撃を放ったのだ。それも魔法の気配もなく。若干、電撃を帯びたようだが、それも魔法陣や詠唱を使用していない。つまり、晴香が自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということに、ユエは気がついたのである。

 

自分と【同じ】。そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリモドキよりも晴香を意識せずにはいられなかった。

 

一方、晴香は縮地でサソリモドキの後ろを取ると、必然的にサソリモドキも晴香へと向き直る為にその場で方向転換。その場に止められ事が罠だと気付いたのは、その直後だった。知らぬ間に落下してきた金属球が大きな音を立てて破裂すると、サソリモドキの視界が黒に、そして真っ赤に染まる。

 

今回初使用(試験はした)の【焼夷手榴弾】という手榴弾の一種である。三階層で大量に手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏3000度の付着する炎を撒き散らす。06式のレールガンでもダメージの無いサソリモドキだが、この攻撃は効く。晴香への突撃を中断して、付着した灼熱の炎を引き剥がそうと大暴れした。その隙に、【異界収納】より黒く、太く、そして長い筒状の物を取り出す。

 

背負うユエに被害が出ぬように片手で構えると、トリガーを引いた。

 

「ぶっ飛べっ!」

 

―――バシュッ!

 

何処か気の抜ける音と共に飛び出したのは直径84mmのロケット弾。晴香の手に持つ【25式84mm無反動砲】と名付けられたソレは、飛翔する弾頭内部に44式50mm狙撃砲に用いる炸薬量の約25倍の粉末燃焼石を圧縮して詰め込んだ特性の榴弾である。ナパームの如く燃え上がる灼熱地獄に気を取られていたサソリモドキは、射出音に漸く気付いた所で再度吹き飛ばされた。

 

―――ズガァアアアアンッ!!

 

空間を軋ませるような大爆発。背負ってるユエがビクッと小さな体をすくませた。

 

一度距離を取り、錬成で地面を盛り上げて即席の壁を作ると、その隙間から爆炎に包まれたサソリモドキを見た。

 

「・・・ありえない」

 

背中から覗いたユエと見た光景は、七本の脚(一本は吹き飛ばした)をワシャワシャさせて引っ繰り返っていた自身の体を起こす所であった。全くと言って良い程の無表情だが、瞳の奥は驚愕に揺れている。一方の晴香だが、とても苦い表情を浮かべていた。25式の一撃で行けば最低でも行動不能は硬いと思って居た。が、サソリモドキは耐えてしまう。これ以上に強力な兵器は開発していない為、如何したものかと対策が浮かばなかった。

 

否、実際には浮かんでいた。晴香の十八番【錬成】でのサソリモドキも外殻突破である。しかしそれは、魔力の回復しきっていないユエを危険に晒してしまうので、有り得ないと切り捨てていた。

 

「キィィィィィイイ!!」

「やばっ」

 

悪寒が駆け巡り、瞬時に縮地にて現在地から退避。この鳴き声はサソリモドキの能力である地面を操作する固有魔法の発動予兆。

 

晴香が地面から飛びのいた瞬間、地面が蠢き円錐状の刺が無数に突き出す。後数コンマ離脱に遅れが生じて居たら、史実ハジメと同様に態勢を崩した不完全な縮地での退避となっていただろう。しかし、安心はできない。即席防壁に隠れた晴香たちを押し出そうとしたサソリモドキの策だからである。

 

飛び出した晴香たちに向けて、背後からもユエを狙った棘攻撃が迫る。無理に庇おうとすると態勢を崩す為、ユエには攻撃が当たらない様に回避する。若干晴香の服を削ったが行動に支障は無く、空力を用いて方向転換。晴香の消えた空間に針が殺到。溶解液も飛翔してくるので回避。

 

「シァアアアッ!!」

 

打開策が無くて回避に専念するしかない晴香に対し、中々命中しない針攻撃等で痺れを切らしたサソリモドキが四方八方、滅茶苦茶に針や溶解液を飛ばす。

 

直接狙われていた方が回避しやすかったのに対し、この攻撃では移動した先にも偶然飛翔中の針や溶解液があるかもしれないとして慎重に成らざる追えず、回避速度が低下した。それを好機と見たサソリモドキから周囲に弾幕を張られ、本命と言わんばかりの針数本が迫る。

 

乱暴に扱っても壊れない06で撃ち落とし、バレルで弾く。弾けないと瞬時に理解すると、極短距離の縮地にて回避。その間に消費した弾丸を【遠隔召喚】にて再装填し―――

 

「しまったッ!?」

 

訓練と実戦は違う。訓練ではその一つの行動に意識を向け続けられるが、この実戦では護衛対象であるユエに、迫り来る針や溶解液に、敵の固有魔法に、サソリモドキ自体に、この場の環境などに全神経を集中させて状況判断を下さなければならず、一方向に意識を固定するのは、それ即ち死である。しかし、だからと言って意識を分散させすぎるとこのように・・・

 

六発の弾丸がシリンダーでは無く、宙に放り出されてしまった。再装填の失敗である。

 

この失敗による動揺と隙の絶好のチャンスを逃すサソリモドキでは無い。攻撃の密度が上昇する。

 

「チッ!」

 

数本は回避し受け流せたが三本は無理だと判断すると、【金剛】を発動し、自身をユエを守る盾に使った。その直後、強烈な衝撃と共に鋭い針が晴香の体に深々と突き刺さった。金剛により防御力を底上げしているにも関わらず、晴香の皮膚を突き破った針だったが、急所は避けていたので、幸いと言えるか不明なダメージだが行動に支障はない。

 

「ハルカっ!」

「大丈夫、それより目を瞑って!」

 

ユエの心配を余所にサソリモドキの意識を逸らす為と、更なる追撃が発生せぬよう、閃光手榴弾を投げる。

 

その一秒後、サソリモドキの眼前で強烈な閃光を放った。

 

「キィシャァァアアッ!?」

 

突然の閃光に悲鳴を上げ思わず後ろに下がるサソリモドキ。目によって晴香の動きを視認しており、飛んで来た物体を直視して居たのが仇となる。その間に現在地から離れると、神水試験管を開封して飲み干し、開いてる片手で突き刺さった針を引き抜く。

 

「ぐっ」

 

腹を穿つ程度の痛みはサリン擬きに比べるとそれ程でもないが、痛いのは痛いので思わず呻き声が漏れた。

 

(くぅ~・・・これじゃぁ史実と同じだよ!歴史の修正力でも働いてるのか!)

 

愚痴とも言えない苦言を内心で呈しながら、全ての針を抜き取って【異界収納】へと仕舞った。投げ捨てようかと思っていたが、落ちた際になる音で居場所がバレるかと判断した結果である。未だに視力が回復しきっていないサソリモドキを一瞥しながら晴香は、さてどうするかと悩んだ。25式での飽和攻撃にて奴を討伐するのも手かもしれないが、25式は一門しかない。再装填も都合上【異界収納】が使用できない設計になっている為、一発撃つのに最低でも5~10秒は掛かる。それではダメだ。

 

やはり接近して直接突破するしかないのか?と、思考を巡らしていた所で、背後からぽつりと、消えそうな声で呟かれた。

 

「・・・どうして」

「うん?」

「どうして逃げないの?」

 

自分を置いて逃げれば助かるかもしれない、その可能性を理解しているはずだと言外に訴えるユエ。それに対して、物凄い既視感を感じてる晴香は、その胸中を外に漏らさない様に見繕い、少し間を置くと口を開いた。

 

「ユエは私に自分の運命を委ねた。なら、私はユエの運命を任される身として絶対に救わなければならない・・・・・・って言うのは建前。本当はね―――」

 

一旦ユエを降ろし、振り返る。少し屈み視線を合わせ、紅くルビーの様な綺麗な瞳を見つめると、晴香は微笑みながら本当の訳を語る。

 

「貴方を一目見た時から、此処から解放してあげたいって思っていたからよ。だから、私はユエを置いて逃げるなんて事はしない。見放すなんてもってのほか。それに、ユエの願いでせっかく封印を解いてあげたんだよ?だったら、此処から二人で生き延びて外に出たいじゃない!」

 

その時のユエの表情は、無表情なのに変わりはないが目は見開いていた。

 




因みにこの時、晴香は完全に44式狙撃砲の事を忘れております。
※サソリモドキ混乱時の隙にコレをぶっぱすれば倒せるんじゃね?と思った方に対する解説。それと、作者的にソレの方が都合が良いからです(こっちが本命)

しかし、小説を書く(ほぼパクリですけど)のって本当に難しい。ご素人の私がユエと晴香の会話を書いたわけですが、最後の晴香のセリフはこれでよかったんでしょうかね?語彙力の無い私にはこれで良かったのか?と投稿予約する直前まで悩みました。が、私の書く力はその程度との考えに至りましたので、コレでこれからも行かせていただきます。

それと、次回の投稿ですが、また三日ほど時間を下さい(切実)(;∀;)


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24話 決着

遅くなりました、申し訳ありません・・・


「貴方を一目見た時から、此処から解放してあげたいって思っていたからよ。だから、私はユエを置いて逃げるなんて事はしない。見放すなんてもってのほか。それに、ユエの願いでせっかく封印を解いてあげたんだよ?だったら、此処から二人で生き延びて外に出たいじゃない!」

 

無表情なのに変わりはないが、ユエは目は見開いた。そして、何かを納得したように頷き、いきなり抱きついた。

 

何となくこの後の展開に察しがついている晴香は、さりげなくユエの腰に手を回して抱き締めた。抱き締める為に06式を【異界収納】に仕舞ってしまったため、丸腰状態ではあるが【気配感知】等の技能によりサソリモドキの挙動を逐次監視しているので、行動を開始した時には即座に動けるようにスタンバイしている。

 

戦闘中にいきなり抱きつかれても動揺せず、何故か抱き締められてる事に対しての疑問にも気付かず、ユエは春香の首に手を回した。

 

「ハルカ・・・信じて」

 

そう言ってユエは、晴香の首筋にキスをした。

 

「っ!」

 

否、キスではない。噛み付いたのだ。

 

晴香は、首筋にチクリと痛みを感じた。そして、体から力が抜き取られているような違和感を覚えた。吸血されているのだと理解する。【信じて】――――その言葉は、きっと吸血鬼に血を吸われるという行為に恐怖、嫌悪しても逃げないで欲しいということだろう。

 

逃げる訳がない。晴香的にはむしろバッチ来い!である。

 

好きな女の子に噛まれて血を吸われて嬉しくない女はいない。これだけ抜粋すると唯の変態だが、相手が吸血鬼なので何ら問題無い。ユエは血液の補給行動だからだ。晴香が感じるのは背徳感、夢にまで見たユエによる吸血行為の達成感。ユエの唇が首筋を擽り、尖った八重歯が自身を抉る感覚、血を吸う為に蠢く舌、こくりっと喉を通して飲み込まれて行く自身の血液。文字通り、晴香の血がユエの血肉になる・・・

 

こうして吸血されるだけでも凄い快感と、そんな妄想をすれば酷い興奮がおしよせる。

 

この感覚は病みつきになる、と晴香は苦笑いしながら、しがみつくユエの体をより一層優しく抱き締めて支える。一瞬、ピクンと震えるユエだが、更にギュッと抱きつき首筋に顔を埋める。どことなく嬉しそうなのは気のせいだろうか。

 

気のせいでないで欲しい(切実)

 

「キィシャァアアアっ!!」

 

サソリモドキの咆哮が轟く。漸く閃光手榴弾のショックから回復したらしい。こちらの位置は把握しているようで、再び地面が波打つ。サソリモドキ地形操作による固有魔法だが、晴香は地面に右手を置きを行った。周囲三メートル以内が波打つのを止め、代わりに石の壁が晴香とユエを囲むように形成される。

 

周囲から円錐の刺が飛び出し晴香達を襲うが、その尽くを晴香の防壁が防ぐ。一撃当たるごとに崩されるが直ぐさま新しい壁を構築し寄せ付けない。

 

地形を操る規模や強度、攻撃性はサソリモドキが断然上だが、錬成速度は春香の方が上だ。錬成範囲は三メートルから増えていないので頭打ちっぽい上に、刺は作り出せても威力はなく飛ばしたりもできないが、守りには晴香の錬成の方が向いている。

 

因みに、晴香には土属性適性が存在するので、サソリモドキと同じ様な攻撃を行う事が出来る。魔物肉を喰らったために陣無しでの発動も可能だが、ユエの技能【想像構成】を有していないので陣は必要なくとも詠唱が必要である。なので即座に展開は出来ないので防護壁を錬成により制作しているのだ。

 

晴香が九割の意識を防御に専念し、残り一割をユエに当てていると、ユエが口を離した。

 

とても名残惜しく感じるが、どこか熱に浮かされたような表情でペロリと唇を舐める、その仕草と相まって、幼い容姿なのにどこか妖艶さを感じさせる、その姿を見れば、そんな思いは吹き飛んだ。吸血行動により、先程までのやつれた感じは微塵もなくツヤツヤと張りのある白磁のような白い肌が戻っている。頬は夢見るようなバラ色だ。紅の瞳は暖かな光を薄らと放っていて、その細く小さな手は、そっと撫でるように晴香の頬に置かれている。

 

素晴らしい。

 

「・・・ごちそうさま」

「お粗末様です!」

 

嬉しさの余りにそう言うと、ユエは、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた。同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光―――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。

 

神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらと靡かせながら、一言呟いた。

 

「【蒼天】」

 

その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。

 

直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。

 

だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ・・・直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアアッ!?!?」

 

サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。晴香は、その壮絶な魔法と神秘に彩られたユエを眺めた。【蒼天】に関しては毎度の如く知識として知っていたため、驚きは少ない(アニメよりも何百倍も眩しかったのでそれには驚いた)が、そんな絶大な破壊力を秘めた魔法を行使するユエに見惚れた。

 

やがて、魔法の効果時間が終わり青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむサソリモドキの姿があった。

 

あの摂氏3000℃の【焼夷手榴弾】でも溶けず、狙撃砲を省いた06式レールガンを撃ち込まれてもビクともしなかったシュタル鉱石製外殻の防御を僅かにでも破ったユエの魔法を称賛すべき!

 

ふらりっとユエが揺れると、肩で息をしながら座り込もうとするので、後ろから支えた。どうやら魔力が枯渇したようだ。

 

「お疲れ様」

「ん・・・最上級・・・疲れる」

 

【異界収納[+遠隔召喚]】によりクッションを取り出して下に置くと、其処の上にユエを座らせる。動ける状態にないユエへと近づけさせるつもりは無いが、万が一の事があってはならない為、神水試験管を取り出し、これ飲んでねっと、頭を一撫でしながら渡した。

 

「ありがとう。助かったよ。後は私が殺るから、休憩してて!」

「ん、頑張って・・・」

 

防護壁を更に追加し、魔法攻撃により活路を見出してくれたユエに感謝しながら、サソリモドキを仕留めるべく縮地にで一気に飛び出した。サソリモドキは外殻を融解させる超高温に晒されても尚健在であり、作られて生涯一度も経験したことが無い超激痛を齎した晴香たちに嘗てない程の激しい怒りに満ちており、散弾針を打ち込んで来た。

 

晴香は【異界収納[+遠隔召喚]】により閃光手榴弾をサソリモドキの視線上に放り出し、06式を抜き、撃ち抜いた。電磁加速させていない弾丸が閃光手榴弾を貫くと【蒼天】にて白一色の世界になった時と同じように、この封印の間を白く塗りつぶす。

 

流石に慣れたのか、サソリモドキは鬱陶しそうにしているものの動揺はしておらず、光に塗りつぶされた空間で晴香の気配を探しているようだった。

 

しかし、いくら探しても晴香の気配はなかった。サソリモドキが晴香の気配をロストし戸惑っている間に、晴香はサソリモドキの下に出現する。そして、気付かれない様に重厚な外殻に触れる。

 

「―――錬成!」

「キシュアッ!?!?」

 

声を上げて驚愕するサソリモドキ。それはそうだろう、探していた気配が己の感知の網をすり抜けられ、更には巨躯を支える足や巨大なハサミを持つ四本の腕、そして遠距離攻撃に用いられる尻尾の関節が突如として固まってしまったのだから。

 

サソリモドキの外殻はシュタル鉱石で出来ているので錬成により関節を潰したのだ。節足動物・・・節足魔物?たるサソリモドキは、関節に何らかの不具合が生じた際には機動力が著しく低下する。なら、全部潰せば身動き取れないよね!という考えの元、錬成範囲内に存在する可動部全てを錬成にて接合したのだ。

 

「キシャァァアアアア??」

 

ハサミの開閉は出来る。しかし、足は尻尾を動かすことが出来ず困惑するサソリモドキ。

 

それはそうだろう。人間でいえば、指は動くけど手足は動かないという状況である。

 

「ふぅ・・・漸く殺せるよ・・・」

 

サソリモドキが動けないことを良い事に、晴香は強固な外殻に錬成で穴を空けて行く。身動きが取れず、無防備な状態を晒すしかないサソリモドキが怨嗟の咆哮を上げるがお構いなしに外殻を突破すると、丸出しの肉目掛けて06式の引き金を引いた。

 

ドパンッドパンッドパンッ!

 

放たれた通常速度の弾丸は、サソリモドキの体内に侵入すると、内部の硬い外殻により跳弾と化した弾丸により内部をズタズタにかき乱す。何処に重要部位が存在するか不明なので、適当に間隔を空けて数発放っていると、サソリモドキがビクンと震える。

 

動きの止まったサソリモドキ。辺りを静寂が包む。

 

ドパンッ!

 

数秒後、死体に鞭打つようにして再度、剥き出しの体内に向かって06を放つが、サソリモドキは依然動作を停止したまま。

 

「よし!」

 

サソリモドキの死を確認した晴香は、06式をホルスターに仕舞う。

 

振り返ると、無表情ながら、どことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながら晴香を見つめているユエがいた。自ら望んで奈落に堕ちた先で、晴香の推しであり、これからを共に歩むこととなる頼もしい相棒ができたようだ。

 

その事に嬉しく思いながら、晴香はゆっくりと彼女のもとへ歩き出した。

 




祝!お気に入り登録200突破です!
それと、誤文字報告ありがとうございます!


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25話 語らい

おはようございます。学校はお休みになりましたが、出された課題の量に眩暈を起こしました、作者です・・・


サソリモドキを倒した晴香は、緊張の解けた柔らかい表情で、ユエの方へと歩く。

 

その時、あっと思い出したことがあって、晴香は顔を赤くした。その訳はサソリモドキが出現するちょっと前に遡る(22話を参照)。サソリモドキの反応が頭上より出現する前に、晴香はユエにと衣服を渡そうとしていた。しかし、サソリモドキが現れると、とても服を渡している場合ではなかったので、そのままユエを抱えて縮地。そのまま戦闘に発展・・・

 

その間。ユエは一糸纏わぬ裸体であり、隠すべき場所が丸見えである。戦闘の際に意識していなかったが戦闘が終わった今、抱き抱えた時に不可抗力とはいえ、触れたお尻の柔らかさとか、背中から押し付けられた慎ましやかな胸のとても柔らかな感触が、ふと忘れていたことを思い出すかの様に蘇る。

 

今現在も丸見えなのは極力意識しないようにしつつ、ユエの場所に返って来た。

 

「・・・はい、これ」

 

首を傾げたユエに【異界収納】より取り出した服を渡す。以前、奈落に落ちる前に購入していたユエに合うサイズの下着と上下の服である。何故サイズを知って居たかと言うと、特に説明するまでも無かろうが身長140cm前後、スレンダーな体形、で大体の大きさは推測できる。

 

流石に微調整は出来ないので、そこは我慢してもらうしかない。

 

「・・・・・・」

 

そう言われて差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。確かに、裸だった。大事な所とか丸見えである。面と向かってそんな事を言われたユエは一瞬で真っ赤になると、晴香から受け取った服一式をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

『ハルカのエッチ』と呼ばれるのを若干期待していたが、やはり同性だからか、その御言葉が頂けなかった事に内心残念に思う晴香であったが、ちょっぴり涙目+上目遣いにキュン死しかけた。

 

ユエはいそいそと服を着だす。ユエの身長は140cm位しかないが、晴香が推測した大きさの服であり問題無く着る事が出来た。一生懸命裾服を着る姿が微笑ましい。凄く着せて挙げたい欲求に駆られたが、晴香は我慢した。何時か着せたいという夢を抱いて。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

倒したサソリモドキと、扉の前に放置していたことを思い出したサイクロプスの死体を【異界収納】へと仕舞い、晴香が制作していた拠点にユエをお持ちか・・・一緒に帰還する。

 

ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。

 

無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。なにより、ユエが嫌がる所に居るのは春香も嫌だ。

 

そんな訳で、現在晴香達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「ユエって吸血鬼だから・・・300歳以上なんだよね」

「・・・マナー違反」

 

素晴らしいジト目と、その言葉を待ってました。ありがとうございます!

 

っとそれはさて置き。三百年前の大規模な戦争の時、ユエを隠された事に癇癪起こしたエヒトちゃん(笑)が周辺の国を巻き込んで吸血鬼族を滅ぼしたのだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

正確には323歳なのだが、これは言わなくても良い情報だろう。

 

「やっぱり、その【自動再生】の能力?」

「・・・そう」

 

12歳の時、魔力の直接操作や【自動再生】の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも200年くらいが限度なのだ。

 

ちなみに、人間族の平均寿命は70歳、魔人族は120歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。あのサソリモドキの外殻を融解させた魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は【神】か【化け物】か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

 

・・・表向きは。

 

欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが【自動再生】により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印した・・・と言うのがユエからの情報だが、実際にはディンリードの封印による、ユエをエヒトから誤魔化す苦肉の策であり、現在に至る約300年の間、ディンリードの封印はきちんとエヒトを欺いた。

 

本当の事情を知らないユエは、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしいと語った。その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。

 

その他にも、全属性適性があるなどと自身の能力について教えてくれた。勿論、反逆者のくだりもあったが、大七迷宮が反逆者と呼ばれてしまった解放者たちが作ったモノであり、神代魔法を取得する為の試練であると知って居るので割愛する。

 

サソリモドキとの戦いで攻撃力不足を痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり話を聞いていた。

 

因みに現在制作している兵器は【25式84mm無反動砲】に用いる新弾頭。【モンロー/ノイマン効果】という火薬の爆発に関する現象を利用した新弾頭で有り、薄い金属の内張り(ライナー)を付けてスリバチ状(凹型の円錐状空洞)に成形した炸薬を爆発させると、爆発の衝撃波が円錐中心軸に向かって集中し、中心軸に沿って方向を変え、スリバチの上方に向かって超高速の金属の噴流が作られる現象である。

 

この現象を利用した弾頭は俗に【HEAT弾】又は【成形炸薬弾】と呼ばれる。

 

成形炸薬弾は中心軸に高温高圧の金属噴流(メタルジェット)を発生させることにより相手の装甲を瞬時に穿つことを目的としており、 化学エネルギー弾に属するが、最終的にはこのメタルジェットの運動エネルギーによる装甲破壊である。このモンロー/ノイマン効果を最大限に発揮できる金属ランナーの角度は約80度とされており、素材は薄い銅板を用いている。

 

地上産の銅を利用しているので、サソリモドキの様な重戦車以上の装甲を持つ奈落産魔物にどれ程効果的かは試してみないと分からない。メタルジェットもどれ程の効果が認めるか不明。残してあるサソリモドキで完成後発射試験が待っているが果たして。

 

何て思いながらの作業を、ユエがジーと見ている。

 

「・・・・・・そんなに面白いかな?」

 

口には出さずコクコクと頷くユエ。大迷宮で使う事を想定した飾り気の無いThe村人Aな服を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ膝を抱える姿はなんとも愛嬌があり、その途轍もなく整った容姿も相まって思わず抱き締めたくなる可愛らしさだ。

 

歳を言うのは指摘された通りマナー違反だが、本当に300歳とはとても思えない可愛さだ。

 

「ハルカ?」

「いやぁユエって可愛いなぁ~と。」

 

一旦作業を止め、手が汚れてないかを確かめて問題ないと分かると、その手でユエの頭を撫でた。封印されている状態ではキューティクルが機能していないのではと思えるほどにボサボサであったが、晴香の吸血後にはそんな面影などまるでない。とてもサラサラしていてずっと撫でたいという依存性の高い魔性の髪と化してた。

 

「・・・んぅ」

 

成すがままに撫でられているが、とてもご満悦な様子で有り、大変可愛らしい。

 

暫くそうされていると、ユエが晴香に質問する。

 

「・・・・・・ハルカ、どうしてここにいる?」

 

当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 

ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。そもそも晴香は人間なのか。晴香が使っている武器は一体なんなのか。

 

ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていく晴香。

 

「私が此処に居るのはね、一つの本との出会いが理由なの。」

 

地上の本(ただしこの世界でない)に、此処オルクス大迷宮の底の底に、一人のお姫様が囚われている。そのお姫様を、地上より奈落に落ちてしまっいた主人公が生き永らえる為に魔物肉を食べながら地下を目指しているうちに発見、救出し、一緒に更に底を目指すという物語を読んだ事。魔物肉を食べられるのは神水と一緒に食べて死に掛けて、半人半魔な肉体になったから。半人半魔になった事により魔物の能力である魔力の直接操作が可能となった事。別種の魔物を喰らう事により固有魔法を簒奪できる事。故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラ語る。

 

「それと、その本には囚われた吸血鬼のお姫様の似顔絵が記載されてて、それが―――」

「私?」

 

そうだよと頷く。

 

「もし本当にお姫様が封印されてるなら・・・救ってあげたいじゃない?」

 

動機は不純だったが、救いたい気持ちは紛れも無い本心である。

 

優しい表情で語り掛けた晴香に、ユエは言葉を失った。本当にお姫様が存在するか分からない底の更に底。しかも、一歩と言うか半歩間違えただけで即死につながる途轍もない魔境。もしその物語が唯のフィクションであったら・・・なんて想像してしまうが、あの場所から救い出してくれたという嬉しさが嵩み、気が付けば涙がこぼれた。

 

ハラハラと涙をこぼしているユエに晴香は手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭いた。

 

「・・・・・・あり、がと・・・」

「・・・どういたしまして」

 

消えそうな程に小さな感謝。ちょっぴり貰い泣きした晴香は、そっとユエを抱き締めた。

 




今回も間が開いて申し訳ありません。今後も間が開く日々が続きますがご了承ください。
あぁ・・・連日投稿が懐かしい


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晴香の装備・主要鉱物・その他

おはようございます。
今回はお話と言うより晴香の装備一覧見たいな奴で、お話は進みません。興味ない方は見なくても問題ないです。
ただ、私が各話ごとに散らばった装備を探すのが面倒くさかったので、一つにまとめただけの表の様な物です。新に生み出された装備類は随時更新して行きます。


鉱石編

 

【グランツ鉱石】

青白い光を反射しており、女性であればうっとりと見惚れてしまうような美しさを内包した鉱石。主に貴族の令嬢や婦人などに絶大な人気を誇る宝石。結婚指輪の宝石と言ったらこの鉱石と言わしめる。

 

【タウル鉱石】

衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する特殊な鉱石。

 

【シュタル鉱石】

魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石。

 

【ラトネミル鉱石】

魔力との親和性が高く、加工が容易。唯、硬度は高くなく柔らかい為に武器などには使用できない。魔力をよく流す導体でもある。

 

 

【鉄】

加工次第では武器にも道具にもなる汎用性の高い優れた鉱石。

 

【緑光石】

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。

 

【燃焼石】

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

 

【神結晶】

バスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石で、蒼をもっと濃くしたアクアマリンの如き、淡く発光する神秘的で美しい結晶。膨大な量の魔力の塊。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

装備【火器】編

 

【06式回転式拳銃】

六連の回転弾倉を備えたリボルバー。見た目は似ているが、ハジメさん作よりも簡素的なデザインをしており、ステータス的に言えば実用性に全振りした見た目。その分、壁に思いっ切り打ち付けても問題無く動作し、構造も簡潔なので誤作動も無ければ整備性も高い。50口径(12.7mm)の銃身から放たれるタウル鉱石製フルメタルジャケット弾やその他特殊弾頭の威力も申し分ない。纏雷によるレールガン化にも成功している。その威力は、唯でさえ強力な12.7mmを更に凶悪化。対物ライフルの軽く10倍は上回り、20mmのタウル鉱石製金属板を5枚撃ち抜くという衝撃的な結果をもたらした。

 

使用弾

・12.7mmタウル鉱石製フルメタルジャケット弾

 

【31式30mm狙撃銃】

細長い外見をした銃。超長距離の射撃に特化したタイプのこの銃は、俗に狙撃銃やらスナイパーライフルと呼ばれている。晴香が制作したのは30mmと超大口径の狙撃銃で有り、それ相応の炸薬量や弾頭重量から繰り出される威力は折り紙つき。更に、ゴリ押しとしてレールガンとして放つ事も可能だが、速度が速すぎる事で魔物の身体を一瞬で抜けてしまい、内部をかき乱しダメージを与えるには不向きな貫通力特化としての利用に限る。

 

使用弾

・30mmタウル鉱石製フルメタルジャケット弾

・30mm榴弾

 

【44式50mm狙撃砲】

31式を更に大口径化させた狙撃銃。だが口径が大型化したことにより銃身よりも砲身に見える事から狙撃砲との名が付いた。なお、将来的には88mmまで口径を上げる予定。

 

使用弾

・50mmタウル鉱石製フルメタルジャケット弾

・50mm榴弾

 

【25式84mm無反動砲】

通常弾として榴弾を用いる。飛翔する弾頭内部に44式50mm狙撃砲に用いる炸薬量の約25倍の粉末燃焼石を圧縮して詰め込まれている。信管が動作した瞬間、空気を軋ませるような大爆発を生じる。

 

使用弾

・84mm榴弾

・84mm形成炸裂弾

・84mmナパーム弾

・84mm催涙煙幕弾

 

装備【爆弾】編

 

【54式指向性対魔物地雷】

指向性対人地雷で有名な【クレイモア】を参考に、魔物にも良く効くように高威力化を図った逸品である。周辺に無数の小穴が開くのは、爆発と同時に飛び出したタウル鉱石製と鋼製の金属球700個の痕跡。本来であれば全てタウル鉱石製としたかったが、タウル鉱石は銃本体などに需要が高い為、コストダウンと妥協策として鋼球を使用している。

 

【催涙手榴弾】

この世界でトップクラスの辛さを誇るラゼート(この世界の唐辛子)【ミネルボラゼート】と言う名の激辛香辛料。スコヴィル値(唐辛子の辛さの単位)でいうと地球産のキャロライナ・リーパーに匹敵する激辛香辛料であり、アンカジ産だとか。それを乾燥しそして粉末状にしたものを撒き散らす、非致死性弾(ただし魔物に限る)。これを喰らった爪熊は滅茶苦茶悶えた。

 

【閃光手榴弾】

ピンを抜いて大体3秒ほど経った瞬間、爆発音と共に暗黒の世界を燦然たる光が塗り潰す。めっちゃ眩しいので直視しない事。

 

【焼夷手榴弾】

三階層で大量に手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏3000度の付着する炎を撒き散らす。こんがり焼けません。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

装備【道具など】編

 

【対鮫捕獲用釣竿】

対鮫型捕獲用に用意した専用の釣り竿。その本体から糸に至るまで全てが金属製であり、耐久性能が箆棒に高い。しかし、鮫型の鋭い牙には傷を付けられた模様。

 

【ガスマスク】

地上産の布などを多重に重ねて製作した対ガス・毒マスク。しかし、奈落産の毒が強いからか、地上産の品質が低いからか効果が無く、破棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




物語の方を着たいしていた方はすいません・・・
これも、効率化に必要だと感じたんです・・・


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26話 帰る場所

おはようございます!


「・・・ハルカ、これから如何する?」

「ここの攻略かな。そして、地上を目指すの」

 

本当の目的であるユエの救出もとい確保は成功した。後は、全力で守りながらこの真オルクス大迷宮を攻略して神代魔法である【生成魔法】を得て、地上に帰還することだろう。それまでの間に出来るだけ多くの技能を簒奪、技能等の熟達、そしてユエとの密接な関係を築く。

 

「・・・それから?」

「それから?う~ん・・・元の世界に帰るんじゃない?」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、帰るという晴香の言葉にピクリと反応する。

 

「・・・帰るの?」

「一応、失踪者扱いだろうからね。生きてるって家族に報告しないと」

 

晴香はハジメの様に、【帰還】に対して異常なまでの執念は無い。だがしかし、元の世界に残された家族が居るので、異世界に連れ去られましたと一言でも報告を入れに行くのが筋だろう。いなくなってしまった娘に多大な心労と共に心配する両親の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「・・・・・・そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「・・・・・・私にはもう、帰る場所・・・ない・・・・・・」

 

何も知らなくても、これまで話を聞いていて、ユエには帰る国も家族も無くしていることは把握できる。そして、救ってくれた自分に新たな居場所と見ているということも察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、晴香が元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんで顔を俯かせた。

 

「なに言ってるの?帰る、と言うか居場所ならあるじゃない」

「・・・えっ?」

 

だからこそ、晴香の言葉に驚いて顔を上げた。晴香はユエの頬に手を添えて、その驚きに染まった瞳を真っ直ぐ見つめながら口を開いた。

 

「貴方の居場所は私の隣よ。もし帰る事になっても、それは変わらない。寧ろ嫌じゃ無かったら一緒に行こうって誘おうと思ってた」

 

驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられて変な気持ちになってきた晴香は、一度視線を逸らして言葉を続ける。

 

「まぁ、人間しかいないし、魔法も無い唯の人しかいないから人外には色々窮屈な世界だけど・・・そんな世界でも良いなら、一緒に行かない?」

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。キラキラと輝くユエの瞳に、晴香は頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまう晴香。

 

極至近距離で、こんな表情を見せられたら、晴香が色々ヤバい状態に突入しそうだったので頬から手を放して距離を取った。「あ・・・」と何か残念そうに声を溢したユエが正かの行動をとる。あのままでは襲いそうでヤバいと思いとどまっていた晴香の隣に立ったユエは、そのまま晴香の膝の上に座ったのだ。

 

金糸の様に輝くユエの髪。何故か目が向く旋風。女の子特有のふわっと香る良い匂い。最適なポジションにするべく、その小さなお尻を何度もすりすりして、最適を見つけると、ユエは力を抜いて晴香に凭れ掛かった。

 

「あの、ユエさん?なに、してるの?」

 

男だったら立ってる!(ナニがとは言わない)。何て思いながら、自分が女であることに感謝した。もし男だったら硬い何かがユエにぶつかっていたかもしれないのでセーフ。しかし、興奮した影響で鼓動がバクバクと唸っており、凭れたユエに聞こえてしまわないかとっても心配。

 

この間、晴香はホールドアップ。抱きしめたいけど、抱き締めたら襲ってしまうからという理由。

 

「・・・ぅふ」

 

振り返ったユエは、晴香を見て舌なめずりをした。小さな舌がユエの唇を妖しく光らせる。思わず見入ってしまった晴香だが、ハっと気付くと顔を逸ら―――せなかった。ユエが晴香の頬を物理的に固定してしまったために。熱を孕み潤んだ視線が晴香を貫く。ユエの瞳は雄弁に語っていた。

 

『襲わないの?なら、私が襲う』

 

と。

 

ユエには筒抜けだった。自分は女だけど、晴香は私に興奮している!と見抜かれる。政の才能は無論、登用させる為には人を見る目が無いといけないので、伊達に王女をやっていた訳では無い。こんなに近づいてて接触しているにも拘らず手を出してこない晴香に痺れを切らしたユエが攻勢にでた。

 

妖しく光る猛禽類の得物を見る様な視線に、蛇に睨まれた蛙の様に動けない晴香は、ステータスが圧倒的に有利なはずなのにユエの初動に反応できなかった。

 

「んぅっ!?」

 

その柔らかい唇を、晴香の唇に押し付ける。思わず仰け反った晴香だったが、その隙にユエに押し倒された。

 

好きな子にファーストキスを奪われてしまうという衝撃の出来事に、対応できない。

 

「ちょっ、ユ―――」

「ちゅ、んむっ、れろ・・・」

 

舌が入って来た。押し返そうにも舌は絡め捕られ、うねる度にやって来る快楽と痺れに懐柔され、口内を蹂躙される。ユエの唾液が流れ込み、晴香の唾液と混ぜられ何とも言えない甘美な味わいに眩暈に襲われた。

 

晴香の抵抗虚しく、ユエに成すがまま。先生により、この道百戦錬磨に鍛え上げられたユエの夜伽スキルは、そういう行為を一度も経験した事が無い晴香を、それが対男性用であったとしても翻弄する。ユエの肩を押して強引に引き剥がそうにも、体に力が入らなくなってしまい、早速この行為を許すしかない状況である。

 

唯のディープキスだけで、何度も意識を失いそうになる快楽。そんな状態が何分も続けられたら―――

 

「わぷっ・・・ふふ、このまま続ける?」

「うん・・・」

 

心此処に在らずな晴香は、思わず即肯定してしまった。

 

その後どうなったかは、言わずもがな

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「っ~~~?!?!(超絶身悶え中)」

 

目が覚めて、朧げな意識の状態で自身を見下ろして、何故か(はだ)けてる事に気付き、何故か色々濡れてると気付き、何故か拠点内がむわっと変な気分になる匂いに溢れていることに気付いた所で、急速に意識が覚醒した晴香は、隣で自身と同じ様に開けてるユエを見て顔を覆った。

 

言葉に出来ないあんなことやそんなことの蛮行の数々を思い出す度に、転げまわりたくなる。しかし、隣でユエが気持ちよさそうに眠っているので身悶える事しか出来ない。

 

何と言う事でしょう。初対面の人と、私は一線を越えてしまいました!と叫びたい。しかし、隣でユエが気持ち(ry

 

「・・・・・・・・・」

 

何度も深呼吸したことにより、冷静さを取り戻した晴香は、タオルを取り出して全身を拭く。べとっとした謎液(謎液ったら謎液!)を拭き取ると、寝てるユエを起こさない様に謎液を拭き取りに掛かる。事後のユエの艶姿にもうやったばかりなのにまた興奮してしまう、己の浅はかさにげんなりしながら優しく慎重に・・・

 

「んっ・・・」

 

無視。無視だ。

 

「あぅ・・・」

 

無視・・・

 

「あっ・・・」

 

無、理ぃいいい

 

拭くたびに聞こえる嬌声に、理性にダイレクトダメージを受けながら拭き取ると、毛布を取り出してユエに掛けた。その隣には汚れてない綺麗な服を置くと、晴香は壁際に座り込み、やってしまった事に対しての反省会+賢者タイムに入った。

 

(こんな事になった原因は判ってる。その原因は私だ。私がユエに興奮なんてしなければ、こんな事には成らなかったかもしれない。いや、別にこんな事になってしまったのが残念とか嫌だった訳じゃないよ?寧ろウェルカム。ウェルカムだったからやっちゃったけど、本当だったらもっと雰囲気の良い感じにやりたかった・・・って、そうじゃない!まだ信頼関係築いて数時間の相手に、私は何て事を・・・いや、ユエから手を出して来たからユエが私に何て事を・・・?)

 

自問自答。

 

(・・・でも、気持ち良かったな。ユエみたいに上手くなかったけど、私もユエに対してやったら気持ちよさそうに濡らしてたし。)

 

思い出すのは、晴香に何処かを何かさせて濡らして嬌声を上げてたユエの艶姿。何回も求められて、それに応じて何度も。ビクッと痙攣しながら荒い息を吐いていたユエだが、何故、晴香を求めたのか。そもそも何故ユエは晴香を襲った・・・?

 

疑問が湧く。確かに晴香は興奮していたけど襲うことはしなかった。が、ユエが晴香を襲う事とになる。では何で襲った?幾ら興奮されてたとは言え、まだまだ初対面であり、お互いの事をちょっとしか理解してない状態で、ユエと晴香は一線を超える事となった。もしやユエは初対面でも遠慮なくイケる口なのかと思うと、それは違うだろう。

 

(私を襲わないといけない状態にあった?なぜ―――あっ)

 

「もしかして、これは所謂『責任、取ってね?』という奴では・・・?」

 

晴香と性的な関係に発展させることで【ユエとやったと言う事実】を盾に、晴香がユエから離れることを阻止するため。既に手を出され(出して)もうお嫁に行けない!的な考えでは?何て策士な!

 

「私から、ユエから離れるなんてありえない・・・って言っても、心配、だったのかな?」

 

信じてた家訓や叔父様から裏切られ(と思っている)て、人間不信になり相手を完全に信頼できない状態で『貴方の居場所は私の隣り。帰る時も一緒。』と宣言されたが、言葉だけでは本当なのかと不安があり心配して・・・と言うか絶対心配してこのような行為に走ったのかもしれない。信頼されてない・・・と言うより、信頼したいと信じたからこそ、こういう事をしたのか。信頼されて無ければ責任取ってねも効果が無い。

 

本当に【責任取ってね】なのかは兎も角。

 

「ユエが本当に信頼できるパートナーにならなくちゃ、ね・・・」

 

今も気持ちよさそうに寝息を立てるユエを見ながら、晴香は胸に誓った。

 




一応初の百合回です。【ガールズラブ】とタグに刻んで漸くの百合回です。r18に触れない様に意識して書きましたが、いかがでしたか?


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クラスメイトサイド 1

おはようございます。漸くまとまった感じで、クラスメイトサイドを書き上げる事が出来ました。ハジメが堕ちず、晴香が堕ちたことにより分岐してしまった本来の歴史をどの様にして変えて行こうかと散々迷いましたが、どうにか出来ました。
もし、この先大きな矛盾や不都合が発生してしまいましたら、再度書き直す事となるかもしれませんので、その時はご了承ください・・・


時間は少し遡る。

 

ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で白崎香織と八重樫雫は、沈んだ表情でこれからどうなってしまうのかと不安な表情を浮かべた。

 

あの日、迷宮で第20階層で、この世界に来てから新しく友達になった綾瀬晴香が【()()()()】になった日から既に五日が過ぎている。

 

あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。休憩として離れた仲間が、血まみれの服や飛び散った血痕、戦闘痕を残したまま生死不明の行方不明なってしまったので、今までゲーム感覚で迷宮に挑んでいた生徒たちが【死はとても身近に存在する】と気付いてから、とても迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気には成らなかった。勇者の同胞が死んだかもしれない以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

それに、厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

 

雫は、王国に帰って来てからのことを思い出した。

 

帰還を果たして晴香の生死不明の行方不明が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然とした。非戦闘職とはいえ勇者と同等の魔力を有し、【魔法適性】に【弓術】といった戦闘職さながらな技能を有していた、戦闘も生産もこなせる人材が死亡したかもしれないからだ。

 

強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならない。

 

なのに死んだかもしれない。これは非常に由々しき事態であり、即座にホルアドで勇者一行と接触していた関係者たちには箝口令が敷かれ、情報統制がなされる。この聖教教会にとって非常にデリケートな問題に緊張状態が奔る中、晴香が恐れていた自体が発生する。それは、

 

【何故、無能のハジメでは無く有能な晴香なのか】。

 

同じ天職だが、晴香と比べると天と地ほどの差がある無能のハジメが死んだのであれば、ほっと安堵の吐息を漏らせたのに。そう思う者達が現れ始め、中には悪し様にハジメを罵る者までいたのだ。

 

もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。何故無能が死ななかった、神の使徒でありながら役立たずな者が盾となって死ねば良かったものを・・・それはもう好き放題に貶していた。それも本人たるハジメがいる状況で言われていたもので、雫は憤激に駆られて何度も手が出そうになった。

 

実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ飛びかかっていてもおかしくなかった。光輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、ハジメを罵った人物達は処分を受けたようなのだが・・・・・・

 

逆に、光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、ハジメは勇者の手を煩わせるだけの無能であるという評価は覆らなかった。

 

それどころではない。イシュタルやハイリヒ国王は無論、教会関係者や貴族、武文官、ハジメを良く思わない子悪党組を筆頭とした勇者一行に至るまでがハジメを恰も【神敵】の様に扱い始め、ハジメに対する風当たりは非常に強大な暴風の様になった。陰口だけでなく、当たり前の様に暴力を振るう様に成り、それを見て見ぬふりなら優しい方で、良いぞもっとやれ!とイジメる側に声援が送られる事もしばしば。

 

ハジメはどれだけイジメられたとしても、この世界から家に帰る為に歯を食いしばって耐えて来た。しかし、見るからに満身創痍な有様になり、勇者が止め、香織が治癒に入るが、これが返って状況を悪化させるだけだと気付いている雫と、気付いたメルド団長が、この状況をどうにか打開すべく結託。

 

だが打開策は見つからない。なので、状況の打開では無く、問題点を消す事にした。

 

「坊主・・・このままではお前は壊れるか、殺される。だが、俺にはこの状況を打開する事は出来ない。だから、お前は【ウルの町】に向かえ。そこで俺の知り合いの錬成師の弟子として雇わせる。」

「いえ。僕はこのままで大丈夫です・・・ここで耐えなければ、僕は帰れないかもしれないですから」

 

愁嘆の表情で苦笑いしながら、ハジメはそう言い切った。だが、結局は【ウルの町】に行く事となる。180度方向転換を図った理由は、

 

「南雲。確かにお前が不甲斐ないばかりにこんな事になっているが、彼等はやり過ぎだ。此処に居ると迷宮より危険かもしれない。だから、ほとぼりが冷めるまではメルドさんの言う錬成師の所でお世話になるんだ。そして、そこで皆をあっと言わせるくらい錬成の腕を磨くんだ。」

「光輝の言う通りだぜ南雲。俺らみたいにステータスが高くなかっただけで、お前は不運だな・・・あっちで頑張って来い」

「龍太郎君もうちょっとオブラートに包もうよ、もう!・・・えっとね、南雲君。貴方が訓練と称して半数近くのクラスメイトから集団暴行を受けてるのを見るのは、私はとても辛いの。割り込んで助けるけど、助けても助けてもこの状況が変わらないし、良くならないから・・・あの時、守るって言ったのに、約束が守れなくてごめんね・・・本当なら、私も付いていきたいんだけど、迷宮に行かなくちゃいけないから」

「私は、いえ。私達は何時も南雲君の隣で守ってあげられる訳ではないわ。だから、光輝の言ったように事のほとぼりが冷めるまでは、ウルの町で鍛錬してちょうだい。」

 

そして、

 

「大丈夫だよ南雲君。帰る時が来たら私が迎えに行くから!」

 

と、香織たち勇者一行にも説得されたためである。

 

ハジメ的には、勇者の説得があったとしても本当に一緒に帰れるのか不安しかなかった。何せ勇者の仲間一行はハジメを目の敵にするわ、宗教関係者も良い顔をしない。もしかしたら、宗教関係者を通じてエヒトが帰してくれるかも、それは神様次第。正直、帰れるのか先が見えない状態である。

 

そんな時に自分だけ【ウルの町】にいて、置いて行かれるのではないか?そう思わずにはいられなかった。

 

だが、此処に居たら何れ殺されるのではないか、といった不安がある。戦争勃発前に殺されてしまえば、帰れない。9割近くの人間が敵な環境で、何時殺されるか分からない王宮に居座るより、比較的安全な【ウルの町】で鍛錬した方が良いのは理解できる。

 

それに、何時も天災の様な彼女だが、一度も約束を違えたことのない人だ。その言葉を信じる事にしたのだ。

 

因みに、ハジメをウルに向かわせる為に根回しは、主にメルド団長が行った。

 

そしてハジメがここ王都を発ったのが昨日である。ハジメ自身は【ウルの町】に向かう事になったが、一部の生徒(主にハジメをイジメていた者達)には【経済都市フューレン】に向かったと告げられる。甚振るのに丁度良いおもちゃが無くなった事に怒りを顕わにしたが、既に発ってしまったので何もできない。

 

「晴香は、生きてるかしら・・・」

 

ハジメが王都を発つ寸前まで、一緒に行きたいという気持ちを抑え込んでいた香織から、ハジメの事を逸らす為に雫が話を振った。

 

「雫ちゃん。多分だけど、晴香ちゃんは生きてるよ」

「それは、どうして?」

「えっとね、迷宮の中で何回か休憩時間があったでしょう?その時に晴香ちゃんが私に『これから迷惑をかけるけど、ごめんね。もっと迷惑をかける人が居るかもしれないけど、その人にもごめんねって伝えて欲しいの。それと【降霊術師】と【軽戦士】に気を付けて』って一方的に言われたんだよね。」

 

どういう事?って聞こうとしたけど、直ぐに攻略が始まっちゃって結局聞けなかったけど、あの時は、迷宮攻略で天職が生産職だから徐々に足を引っ張るかもしれないからって意味かなって思ってた、と続ける。

 

「・・・でも、そう聞くと、まるでこの【生死不明の行方不明】は晴香が仕組んだものに聞こえるわね。最後の【降霊術師】と【軽戦士】のくだりは判らないけれど・・・」

 

雫は目を細めた。香織が言っていることが事実であれば、この行方不明が最初っから後になって判明する計画されていた出来事にしか聞こえない。しかし一体何のために重傷を負ってまで行方不明もしくは死亡しないといけないのか分からないので、結局は暗礁に乗り上げる。

 

もしかしたら―――なんて想像して、それを否定してと繰り返せばドツボに嵌まりそうな気がして、雫は思考を中断した。

 

「【降霊術師】と【軽戦士】は、恵里と檜山君よね?何を気を付けるの?」

「恵里ちゃんは判らないけど、檜山君は・・・ハジメ君をイジメた主犯格だからかな?」

 

結局此方も分からずじまいであり、思考を切るしかない。しかし【行方不明の晴香は生きている可能性が大】【晴香からの謎の忠告である降霊術師の恵里ちゃんはまだしも、軽戦士の檜山には一応警戒して置こう】という思いが雫と香織に芽生えた。晴香が知っている、将来起こりうる謀反に対するこの布石が、一体どのような結果をもたらすかは、神も知らない。

 

 




最近というかほぼずっと晴香とユエの会話しか書いて居なかったので、その他の子の話は結構苦労しました。本格的に別路線を歩み始めてしまったので、原作文章を改ざんして書くとするチート戦法が使えなくなってしまう事に悲しみと焦りを胸に抱く作者ですw・・・

あと、本来ならこの時に発生する香織ちゃんと雫ちゃんの無意識百合百合ですが、不都合が生じそうという理由で書きませんでした。もしその百合が見たい方は【ありふれた職業で世界最強(原作)】を読んでみて下さい!


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27話 お着換え

おはようございます!


煩悩を払うかのように新兵器開発にのめり込むこと、多分2時間くらい。授業に使っていたノート類に複数種の簡易的な設計図を描き、それを元にして数パターンの弾頭を制作。後は実射試験により最適解の発見と、改良を待つのみである。

 

それと、サソリモドキを喰らった事により新たに【魔力操作[+魔力放射]】と【[+魔力圧縮]】を得て、ステータスも大幅に上昇したので、06式以外にも主兵装が欲しいと思い、開いている左手を有効活用するため、並行して武器を開発する。同じく06式を携えてえ史実の様なガン=カタするのも視野に入れているが、現状06式一丁で事が足りていることから、今回は見合わせて頂く。

 

勿論、何れ作ろうと思って居るが、今回は大威力の銃が欲しい。いや、銃の様な形でなくても良いかもしれない。筋力等のステータスが2500を余裕で突破した晴香は数百キロの鉄塊をも軽々しく振り回せる。なら、それだけ大型化して、強固にすることも可能。

 

なので、自身の行動を妨害しない程度の大きさで、左手で扱えて、携えることが出来る大砲なんてどうだろうか。

 

艦〇れの様に。

 

露骨に艦砲の砲塔を携える訳ではないが、艦砲の様に、例えば10cm砲や12cm砲の様な物を単砲身で備え、後部に衝撃吸収機構と装填機能何かを取り付けたら、それはそれでレールガンとして放たなくても大威力。これをレールガンで放つなら、相手はヒュドラモドキになるだろう。

 

それ以外にも使えるが、爆散するのではないだろうか。しかし、この奈落において魔力を消費せずに超大威力の攻撃を放てるのはとても魅力的だ。一度制作してみるのも良いだろう。

 

それで使えなければお蔵入りさせ、使える様になったら使うのも良いかもしれない。

 

と言う事で、早速設計してみよう。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「・・・ん・・・んぅ?」

「あ、起きた?おはよ~」

 

封印の石に半ば取り込まれる様な感じに生えていたユエは、その姿勢の悪さから来たのか、それとも久しぶりの安心した眠りからか、かなり深い眠りに落ちていた。幾ら神水を飲んだからと言って、いきなりあんなに激しくナニしてたら僅かな体力の直ぐに尽きる。

 

何て思いながら、作業を止めてユエの方へと赴く。

 

「おは、よう・・・おこして?」

 

ついさっきまでは、とても魅惑的な微笑みをもってして、私の事を襲った大人な感じだったのに、途端、幼い子供のような、まだ眠たげな表情で、この起こして要求・・・鼻血でそう。噴き出しそうになる幸せの赤い水をどうにか塞き止めると「ん~!」と可愛らしい声と共に目一杯突き出されたユエの手を引っ張った。

 

起き上がらせた拍子にはらりっと、掛けていたブランケットが落ちる。そして露になった裸の上半身に、晴香は頬を染めながら顔を逸らした。

 

このまま見ていたらムラムラしてしまう。また直ぐの再戦は、ちょっとご遠慮いただきたい(精神的に持たなそうなので)

 

「・・・また、する?」

「舌なめずりしないでよ・・・」

 

その気持ちになっちゃうでしょ、と付け加えながら、置いといた新しい服を渡した。受け取ったユエがその服一式に視線を落とすと、にやりとした笑みで晴香をみた。何となく次の展開がわかった晴香は、苦笑いしながらユエの言葉をまった。

 

「ハルカ、着せて?」

「了解です」

 

服を受け取ると、まず始めに着せないといけないのが下着である。青いリボンがちょこんと一つだけあしらわれたシンプルなデザインだが、肌触りがとても良い。女の子の体はとても敏感なので、ごわごわしたショーツでは痛くなったりしてしまうので、良い買い物をした。その分、お値段も張ったが、下着は高くてもちゃんとしたものを買わないといけない。

 

でないと後悔する。(友達談)

 

「はい、片足上げて~」

 

右足があがったので、其処から通す。この間、女の子にとってとても大切な部位が晴香の眼前に見える。ユエは恥ずかしがることなく、寧ろもっと見て!とでも言うかのようにずいっと付き出してくるが、見ない事にして履かせた。これで下半身クリア。

 

この世界の服屋に入って衝撃を受けた事がある。それは、ブラが売っていないというまさかの現実であった。

 

てっきりブラくらいあるだろうと思っていた晴香は愕然とした。異世界の女性事情的にそれは如何なんだ、と疑問に思ったと同時に戦慄した。ブラは、今自分が付けているもの以外は、異世界組の女子勢しか持っていない。なので実質一着のみだ。これが何等かの影響で壊れてしまった場合、私は詰むかもしれない。

 

もしもの事を考えると、非常に由々しき事態である為、直ぐに出来る対策としてシルク製のサラシを巻くということ(サラシは存在した)。ゴワゴワした包帯は絶対にダメであり、御高くともシルク。それ以外に選択肢は無い。

 

―――なんて思っていたのが、地上での晴香である。現在はステータスも上昇したため、何処とは言わないが色々な部分も当然強化されている為、多少ごわついていても若干煩わしく感じるだけで特に問題無い。更に言えば、目に見えない体内の筋肉も当然強化されている為、ブラ無しでも垂れることが無いのである。

 

大胸筋のゆるみは女の敵。しかし、鍛えずとも緩まなくなったのなら、それはただの支えだ!

 

「と言う事で、はい後ろ向いて~」

「・・・それは?」

「これ?ブラジャーって言うの」

 

別名、懐かしの大胸筋矯正サポーター・・・ブラじゃ無いか。そうだった。

 

「つけると胸が楽よ」

 

ユエの胸の大きさからして、私とほぼ同程度と判明している。だったら、付けられるのではないかと考えて装着してみたが、多分ピッタリ。微調整はホックと、アジャスターでストラップの長さを調整して整えた。これで上半身クリア。後は、この迷宮内でも邪魔にならないパンツと長袖を着せてお着換え終了。

 

着替えさせるの楽しい。しかし、色々見せたがるのはいかんともしがたい。

 

「どう?ファッション的には駄目だしされそうだけど、此処は迷宮内だからこれで我慢してね」

「ん。問題無い・・・それより、この【ブラ】?いぃ・・・」

 

何処かのんびりした様子で自分の胸を揉んでいるが、今までブラを付けた事が無い人が初めてブラを付けたら、こんな感じになるのか。

 

しかし、初ブラにご満悦な表情のユエが見れて良かった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「よし。ユエ、危ないから横に離れて」

「ん!」

 

ユエを退避させると、晴香は新弾頭を装填した25式84mm無反動砲を構えた。的はサソリモドキから剥ぎ取ったシュタル鉱石製の金属板。その厚さは何と500mm。彼の超戦艦大和を超える分厚い装甲だ―――と言っても、メタルジェットによる装甲破壊は900mm以上を貫けるらしいので厚さはもはや関係が無い。

 

しかし、それは前時代の事であり、現在は複合装甲や反応装甲などの手段によって容易に防ぐことが可能―――だがしかし。それは晴香の元居た現代世界での事。まだモンローノイマン効果処か、科学の【か】の文字すら見当たらないこの世界では、そもそも複合装甲の概念が無い。勿論、金属等の合金や彫金程度の知識は錬成師を見たりすれば明らかに存在している事は明白だが、主に魔法戦闘が主体のこの世界において、魔法を超える大威力の攻撃は武術系天職が限界を超えて習得できる奥義系スキルしかない。勇者の【天翔閃】が良い例だ。

 

この様な大威力攻撃に対してこの世界の魔物を含めた住人が取る行動と言えば、避けるか逃げるか。そして、魔法で防ぐか。この中に鉄の盾で直接防ぐなんて発想がない。それは、魔法で盾をも諸共吹き飛ばす事が可能だから。

 

故に、何らかの魔法特製や効果、アーティファクトの類でもない限り無理に受け止めようとはしない。なら、ちょっとした攻撃にもびくともしない鉄100%の盾でも十分に効果がある。

 

この世界の住人からしたら、違う金属同士を重ねて何になる?とでも首を傾げるのではないだろうか。

 

さて、これまでの話でこの世界には複合装甲の概念は無いと言った。しかし、そんな概念を必要としないかもしれない金属や鉱物がこの世界には多数存在しており、その一つが世界最高硬度を誇る【アザンチウム鉱石】と、魔力を注げば注いだ分だけ硬度が上昇する【シュタル鉱石】である。

 

今回用いるシュタル鉱石製500mm金属板には、晴香が全力で魔力を注入したため、通常の金属ではありえない硬度を有している。これを貫けるか、果たして。

 

「それじゃぁ撃つよ!」

 

―――ドシュッ!!

 

何処か気の抜けるような音と飛び出したのは、亜音速の新弾頭【heat弾】。砲身を抜けた弾頭から6枚の安定翼が展開されると、一直線上に安定した飛行を見せて追突。弾頭センサーと言う名の魔石が砕け、内部に内包していた発火魔法陣に魔力が吸収されると、その魔法陣から噴出した小さな火種が、圧縮された燃焼石を燃え上がらせ、そのエネルギーが金属ランナーを高速で変形させる。

 

約80度と、効率の良いランナー角度によって発生されたメタルジャケットが、シュタル鉱石製鋼板を穿つ!

 

ドガアァァァァアンッ!!

 

迷宮内に爆発音が響き渡る。爆炎が晴れ、確認する為に、命中箇所を錬成にて半分に開いて見た。

 

「どうにか・・・って所かな?」

 

あの500mmのシュタル鉱石製金属板に風穴が開いている。しかし、命中箇所が大穴に対して反対箇所は小指がどうにか入る程度の穴しか開いていない。出来れば親指程の穴が開いて欲しかったが、それは改良次第だろう。

 

「音、大きい」

「あはは、五月蠅かったかな?ごめんね、これが私の戦闘スタイルなの」

 

銃や火器の魅力を知ってしまったからには、今更弓矢に後退するなど、絶対できない。こればっかりは譲れない事なので、ユエには我慢してもらうしかないのだが・・・という晴香の予想に関して、本人たるユエの感想は違った。

 

「ん~ん。ただ、音に驚いてる」

「そっか。それならよかったよ」

 

その後構造を少し変えたり、角度を微妙にずらしたりと工夫されたheat弾が次々に打ち出され、その結果、現状一番最適と判断される形状及び威力を引き出せる弾頭の開発に成功。新に習得した【錬成[+複製錬成]】にて、これを量産するめどが立った。

 

「お疲れ様、ユエ。そうだ、休憩に果物でも食べない?」

「食べるぅ♪」

 

晴香はテーブルの上に地上で購入しておいた各種果物を取り出し、一緒に食べる事にした。

 




ブラの件ですが、ありふれで触れられてなかったと思いますので、大丈夫ですよね?まぁ、もし触れられていたとしても直さないでそのままにします。

それと、誤文字報告ありがとうございました(>_<)


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28話 休憩

おはようございます!


「・・・変わってない」

 

ユエが、過去を思い出すような、そんな視線をテーブルに置かれた果物の数々に向ける。ミカン擬き、リンゴ擬き、ブドウ擬き・・・紡がれた言葉の意味は、封印前に見たこと、食したことのある果物があったかもしれない。

 

この果物お食事会を開いた晴香が、各種果物をナイフで皮をむいて数等分に切り分け、水晶で作られた透明な皿に盛りつける。全て一口サイズなのは味気無いので、リンゴ擬きでうさぎさんを作るなどして飾る。

 

料理経験がある晴香はテキパキ準備すると、最後に紅茶を淹れた。これに用いる茶葉も無論、地上産である。王宮では本場の紅茶を飲んで来たであろうユエからしたら、庶民な晴香が淹れた紅茶が果たして美味しいのか、と心配している晴香だったが、まさかここで紅茶まで飲めるなんて!と無表情ながら目を輝かせるユエを見ると、問題無さそうだと思った。

 

「どうぞ、ゆっくり食べてね」

「んっ!」

 

渡したフォークで盛り付けられた果物の一つを刺し、元女王らしく上品に小さな口へと誘う。

 

「はむっ」

 

一口、二口、と咀嚼を繰り返すと、徐々に徐々にユエの表情が変わっていく。口角がほんのちょっとだけしか上がっていないが、見るからに分かる満面の笑み。そして、目の端には光る雫があり、飲み込むときに零れた露は頬を伝って下に落ちた。

 

約300年ぶりの甘味とは、一体どんな味がしたのか。それは、晴香には判らない。しかし、晴香も数か月ぶりの甘味に目頭が熱くなる気がした。なら、きっとこの感情の何百倍も強い衝撃を受けているのだろうと容易に想像が付いた。

 

「~~♪」

 

至高!圧倒的、至高!!

 

ナレーションが付くのでは?と思えるほどにルンルン♪なユエは、口直しに紅茶を口にし、こくりっと小さな喉を鳴らした。そして、ふぅ~と温かい吐息を吐きながらソーサーにカップを置く。柔らかい表情だ。やはり甘いものは女の子の味方である。しかし食べ過ぎには注意。

 

一つ一つ口に運ぶ都度、一喜するユエを見ていると、ふと晴香にある考えが浮かんだので、それを実行してみる。

 

自身の皿に用意した一口サイズの果物リンゴ擬きをフォークで刺すと、自分の口に持ってゆくのではなく、ユエの口に運んだ。

 

「はい、ユエ。あ~ん」

「あ~ん♪」

 

小鳥のごとく、ぱくりっと口にしたユエ。

 

もきゅもきゅと咀嚼するその姿に、晴香は母性本能が刺激された気がした。ひな鳥に餌を与える親鳥は、きっとこの様な感覚を抱くのだろうか。

 

「美味しい?」

「美味ひぃ♡」

 

可憐な微笑みを向けるユエを見ていると、凄く幸せな気分になる(小並感)

 

抜かれたフォークにはユエの唾液が付着しており、それで自分も食べるという、間接キスに頬を赤く染める。本当のキスだって何度も経験したが、好きな女の子と間接キス、何て妄想を繰り広げれば、これはこれで背徳感がある。なので晴香は、敢えてフォーク単体を口に含んでユエの唾液を楽しんだ。

 

果物の甘さと、微かに感じるユエの味。キスだけの時とはまた違ったハーモニー。

 

めっちゃぞくぞくした。

 

「ハルカも、あ~ん♪」

 

ユエの琴線に触れたのか、晴香と同じ様に果物の刺さったフォークを運んだ。なんともこそばゆい感覚におちいりながら、差し出された果物を食べる。何でか分からないが、今まで食べて来たどんなに甘く美味しい果物よりも、美味しく感じられた。これが俗に言う幸せの味という奴だろうか、頬が緩むのを抑えられない。

 

「おいしぃ?」

「美味しい♡」

 

何とも甘い、甘すぎる。

 

もしこの場に第三者が居れば、無意識のうちに形成されている桃色空間に非常に居た堪れなくなり、吐血ではなく吐糖しているだろう。それはもう盛大にぶちまけ、辺り一面が白砂糖一色の白銀世界になってしまうくらい。しかし残念ながら、周りが雪の様に白くなっただけではユエ達のイチャつきを引き立たせるだけ。

 

岩肌剥き出しの洞窟内に白い砂糖の砂。抽出させる為に設置された神結晶の淡い輝きに照らされた、何処かの国に隠れスポットとして存在しそうなこの場所で、美少女二人による百合百合しい神秘的な光景。ただの吐糖は、より二人を盛り上げる為のエキストラの一部として終わろう。

 

「ふふ、いっぱい食べたね」

「ん・・・また、食べよ?」

「ええ」

 

好きな人とイチャイチャするのがこんなにも幸せな事だとは、知りもしなかった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「うっわ、また来たよ―――」

 

流石に鬱陶しくてげんなりしていた晴香だったが、

 

「・・・ハルカ、ファイト」

「―――やる気出て来たぁっ!!」

 

ユエの声援一つで気分爆上げ。ユエの応援があれば神殺しも成し得るッ!(凄くちょろくなった。)

 

現在、ハルカはユエを背負いながら猛然と草むらの中を逃走していた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂り、170±2cmほどのハルカは、頭部がギリギリ見えるくらいで殆どを隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。

 

そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハルカが逃走している理由は、

 

「「「「「「「「「「「「シャァアアッ!!」」」」」」」」」」」」

 

二百体近い魔物に追われているからである。

 

ハルカ達がフルーツに盛り上がったその後、準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調よく降りることが出来た。晴香の新装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因である。全属性の魔法攻撃をなんでもござれとノータイム発動で、晴香を的確に援護していたからだ。回復魔法や結界魔法は苦手なのは変わりない。

 

そんな二人が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

晴香とユエが階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える二人の前に現れたのは、巨大な、見た目は完全にティラノサウルスの()()魔物である。

 

そう、頭に一輪の可憐な花を生やしていたあれだ。寄生階層である。

 

鋭い牙と迸る殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していた。のだが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。知っていてもかつてないシュールさだった。

 

ティラノサウルスが咆哮を上げ晴香達に向かって突進してくる。晴香は慌てず06式を抜こうとして・・・それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「【緋槍】」

 

ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「おみごと」

「ふふんっ」

 

どや顔で胸を張るユエに苦笑い。

 

今までは晴香が銃による攻撃で終わらせていたが『パートナーだから』という理由でユエも参戦するようになる。何時までも晴香に守ってもらうばかりではダメ、らしい。しかし、ユエの頑張り・・・と言うか貢献度は絶大であり、最近は頑張りすぎな気がしてならない。何かご褒美でもあげようか。

 

「・・・ねぇ、ユエ。貴方の戦闘スタイル上、接近戦闘が苦手なんだし、魔法攻撃は強力なんだから後衛として援護してよ。前衛は私が勤めた方が、ユエを援護しやすいから、ね?」

「むぅ・・・分かった」

「ふふ、適材適所だよ」

 

ちょっぴり不満気なユエ。

 

一緒に帰るとなってからか、晴香の役に立つことにこだわり過ぎる嫌いのあるユエに苦笑いしながら、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻る。小動物の様でとってもかわいい。

 

もう、どんどん依存して欲しいと思っている晴香は、ユエを甘やかす事に躊躇う気が無い。しかし、度を越えるような甘やかしはかえってユエの為に成らないので、所々自重して・・・と思いつつ、ついいっぱい甘やかしてしまう。

 

その様にして、二人がイチャついていると晴香の【気配感知】に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。十体ほどの魔物が取り囲むように晴香達の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、とうとう来たか・・・と、思いながらユエを促して現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。

 

円状に包囲しようとする魔物に対し、晴香は、その内の一体目掛けて自ら突進していった。

 

そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。

 

頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「・・・かわいい」

「寄生、されてる?」

 

ユエが思わずほっこりしながら呟けば、晴香は、ユエが知らない原作知識の情報を推測として口に出す。

 

ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふり。

 

取り敢えずドパンっ!する。飛び出した音速の弾丸が、チューリップの花を四散させた。

 

ラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、そのまま動かなくなった。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。

 

「・・・死んだ?」

「生きてるよ」

 

晴香の見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルは覚醒すると辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。

 

「・・・イタズラ、されたの?」

「やっぱり寄生されたんじゃない?」

 

プトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたように晴香達の方へ顔を向けビクッとする。

 

「・・・」

「・・・やっぱりイジメ?」

 

ユエが同情したような眼差しでラプトルを見る。ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかってきた。なので晴香はスっと06式を掲げ大きく開けられたラプトルの口に照準し、電磁加速されたタウル鉱石の弾丸を撃ち放った。

 

一筋の閃光となって狙い違わずラプトルの口内を蹂躙し後頭部を粉砕して飛び出た弾丸は、背後の樹も貫通して樹海の奥へと消えていった。

 

跳躍の勢いそのままにズザーと滑っていく絶命したラプトル。晴香もユエも何とも言えない顔でラプトルの死体を見やった。

 

「・・・イジメられて、撃たれて・・・・・・哀れ」

「イジメから離れなよ。絶対違うと思うよ?」

 

取り敢えず、晴香はユエ用のヘルメットの制作をしなければと考えながら、包囲網がかなり狭まってきていたので急いで移動する。

 

 




勢いでやってしまった・・・


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29話 パートナーの実力

ohayou!


程なくして直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 

晴香はユエを抱っこし【空力】にて頭上の太い枝に飛び移る。

 

「ユエ、いっぱい来たら殲滅しちゃって!」

「んっ!」

 

頼られることが嬉しいのか、威勢よく頷いて手を掲げた。

 

ユエが寄生竜の相手をしてくれている間に、晴香は【異界収納】より取り出した金属や毛皮で、ユエの頭部をすっぽり隠すヘルメットの制作に掛かった。何時も事ある毎に撫でているユエの頭のサイズは、この手が覚えている。どの程度だったかを瞬時に反映し、内部に柔らかい毛皮を張り付け、顎紐などを付ける。

 

「・・・お花畑」

 

チラッと一瞥すれば、ユエの言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも色とりどりの花を。

 

「【凍獄】!」

 

ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、晴香達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。寄生竜たちは一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に50m四方。まさに【殲滅魔法】というに相応しい威力である。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

「お疲れ様。助かったよ、流石ユエだね!」

 

周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈る晴香。ユエが殲滅魔法を放つちょっと前にヘルメットを作り終えたのだが、この様な役割分担が出来るだけで双方の負担が軽減できるのはいい。しかし、今回ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

これでは負担軽減どころか、負担を強いてしまった。

 

晴香は傍らでへたり込むユエの腰に手を回して支え、【気配遮断】しながら、首筋を差し出す。吸血させて回復させるのだ。神水でもある程度回復するのだが、吸血鬼としての種族特性なのか全快になるには酷く時間がかかる。やはり血が一番いいようだ。

 

ユエは晴香の称賛に、僅かに口元を綻ばせながら照れたように「くふふ」と笑いをもらし、差し出された首筋に頬を赤らめながら口を付けた。

 

カプッ、チュー

「んっ」

 

晴香の皮膚を八重歯が貫き、ちくりっと突き刺さる。しかし、まったく痛みは感じず、寧ろ擽ったいのを我慢するほうが辛い。血を効率よく吸う為か、ただ舐めたいだけなのか分からないが、首筋をぺろぺろする行動も、その辛さに拍車を掛けている。が、その辛さに意識を向ける事が出来なくなった。

 

「んふぅ・・・熟成の、味っ♪」

「そんなに美味しいの?・・・今度、ユエの血飲ませて。」

「ぷはっ・・・ごちそう様。吸血鬼じゃないから、鉄の味?」

 

そもそも吸血鬼に唯の人間(半魔中)が血を飲ませてと要求する逆構図に、無表情ながらもユエは結構驚いている。吸血行為は300年前でも吸血鬼の国アヴァタール王国や理解ある国以外は忌避していた。そのせいで度々戦争が起こっていたくらい。晴香は吸血行為に理解があり、ユエに吸われるのは満更でないようだが、まさか私の血を吸いたいなどと言われるとは思わなかった。

 

吸血姫なのに人間(最愛)に血を吸われる。いいかも!と思ったユエは、承諾。まさか私の血を求めるなんて・・・ふふ、うふふ!と、ちょっぴり照れ隠し気味に再度、血を吸う。

 

照れチュー

 

「む・・・ユエ、十体以上来るよ。ちょっと移動するから、抱えられて」

「ん」

 

首に手を回したユエは、がっちりと晴香に抱き着いた。吸血行為中のまま。

 

そんなユエを抱えた晴香は、ユエの負担にならないよう細心の注意を払いながら、木で出来た空中回廊を疾走する。追って来る竜たちが寄生状態だと知っている晴香なので、彼等を遠隔操作する本体であるアウラウネが潜む縦穴を探しまわる。アウラウネは用心深く、凄む縦穴に近づけさせない為に、住処の方向へと侵入者が近づくと、洗脳した彼等を大量に仕向けて来る。

 

その性質を利用して、彼等に案内してもらう。

 

そして28話後半の冒頭。

 

晴香達は現在、200近い魔物に追われていた。晴香は気にしてないが、草むらが鬱陶しいと、吸血は済んでいるユエは晴香の背中から降りようとしない。

 

後ろからは魔物が、

 

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

と、地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆ける晴香。ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

カプッ、チュー

「んっ」

 

樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟。アウラウネの住処だ。

 

晴香は【空力】で跳躍し【縮地】で更に加速する。

 

カプッ、チュー

「あっ♡―――もぉ~ユエ?回復してるでしょ、ちょくちょく血吸わないで。気持ち良くて集中できないよ」

「・・・不可抗力なので。なので!」

カプッ、チュー

「んぅっ♡―――ちょっと、楽しんでるでしょ!」

「・・・・・・んふぅ♪」

 

こんな状況にもかかわらず、晴香の血に夢中のユエ。元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではない。そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、晴香達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

 

縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とか晴香達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前に晴香が06式で吹き飛ばすと、錬成で割れ目を塞ぐ。

 

「いやぁ数百体vs実質一人の壮絶な鬼ごっこってこんな感じなのかな?」

「・・・お疲れさま」

「お疲れ様。ユエ、装備を整えたいからちょっと下りて?」

「むぅ・・・仕方ない」

 

晴香の言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子で晴香の背から降りるユエ。晴香の背中は居心地がいいらしい。

 

「さて。ユエ、これ被って」

「?・・・ん」

 

先程製作したヘルメットをユエの頭に被せると、ベルトと金属で固定する。ブカブカと言う程でも無く、しかしきつくない丁度良いサイズに作られており、内部もふかふかな毛皮が敷き詰められている為、過度な衝撃でも発生しない限り痛みは感じないだろう。

 

「・・・これは?」

「花対策かな?私達を追っかけて来た竜たちはみんな頭に花を付けてたでしょ?でも、花が無くなった竜は、取れた花に対して八つ当たりしてたよね。竜も人も意思とか思考を司るのが頭だから、花が此処に潜むであろう親玉の遠隔操作端末になってるんじゃないかなって考えたんだ。どうやって寄生させるのか分からないけど、多分種を飛ばして頭部から直接寄生するんだと思ったから、コレで防げるんじゃないかな、と。」

「・・・なるほど」

 

サリン擬きに耐え続け、激痛程度に収まるまで精神的に鍛えた晴香は、満を持して【毒耐性】を習得したため、アウラウネの胞子攻撃は無効であるからしてヘルメットは被らず、錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を二人は慎重に進む。

 

しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。晴香は辺りを探る。【気配感知】には何も反応はないがなんとなく嫌な予感がするので警戒は怠らない。気配感知を誤魔化す魔物など、この迷宮にはわんさかいるのだ。

 

晴香達が部屋の中央までやってきたとき、それは起きた。

 

全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。晴香とユエは一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃。このピンポン玉擬きを破壊する事により飛び出す、胞子を防ぐ為に、晴香は即行で地面を錬成して壁を作った。

 

「ユエ、大丈夫?」

「もんだいない」

「本体の位置は?」

「・・・あっち」

 

壁越しに指さした方向。壁に小さな穴を空けて覗くと、奥の縦割れを発見。なるほど、原作通りだ。

 

「ユエ、ちょっと此処で隠れてて。25式で吹き飛ばす」

「ん」

「もし生きてたら、一発ぶちかまして」

「わかった」

 

晴香は飛び出すと【異界収納[+遠隔召喚]】より25式84mm無反動砲を取り出し、空中でキャッチするとアウラウネが居ると思われる縦穴目掛けて榴弾を発射。吸い込まれる様に飛翔した弾頭は、縦割れ内部に侵入し、そこで爆散。轟音と共に其処が弾け飛んだ。

 

「【雷砲】!」

 

雷属性の上級魔法。雷の砲撃を繰り出すというものであり、榴弾と同じ様に縦割れに命中。周囲に可視化する程の大電力を迸らせて、対象を攻撃した。

 

「・・・やった?」

「ユエちゃん、それフラグ」

 

とは言ったものの、アウラウネが動き出す様子がない。それどころか、ピンポン玉の一つすら飛んでこない。榴弾の爆発によるものと、放電など高いエネルギーを持つ電子と酸素分子の衝突によって空気のオゾン化が発生した為にでた独特の匂いに、何らかの生物が焼け焦げた匂いがするが、果たして。

 

「あれ、もしかして殺った?」

 

取り敢えず06式を放つが反応が無い為、晴香単体で縦穴を覗く。所々破壊された後や瓦礫が散らばる中、最奥には焦げて黒っぽくなった残骸を発見。一部の焦げてない緑色の皮膚を見るに、これがアウラウネだと判断した晴香が再度発砲。

 

弾丸が命中するが反応が無い為、死亡していると判断した晴香は、その死体を【異界収納】に仕舞ってユエの場所へと戻った。

 

奈落の更に深層である場所のボスたるアウラウネだが、こんなに弱いとは少々拍子抜けだ。

 

 




つい、勢いの余り作品を書いちゃいました。【日乃本帝國召喚】という【みのろう先生】作の【日本国召喚】の二次創作作品です。興味のある方はぜひ見て見てください


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30話 100階層

おはようございます。毎度の事、誤文字報告ありがたいですm(__)m


アルラウネの出番無く焼き殺した日から随分経った。その後もユエと共に迷宮攻略に勤しんでいた。

 

そして遂に、次の階層で【100階層】のところまで来た。その一歩手前の階層で晴香は装備の確認と最終調整にあたっていた。相変わらずユエは飽きもせずに晴香の作業を見つめている。というよりも、どちらかというと作業をする晴香を見るのが好きなようだ。今も、晴香のすぐ隣で手元と晴香を交互に見ながらまったりとしている。

 

つい集中力を解いてしまえば、たちまち見惚れてしまうような、ふんわりと緩んだ愛らしい表情である。

 

ユエと出会えてから約100日以上経ったからか、お互いに配慮しながら関係を築いてきたからかわからないが、最近、ユエはよくこういうまったり顔というか安らぎ顔を見せる。露骨に甘えてくるようにもなった。

 

特に拠点で休んでいる時には必ず密着している。横になれば添い寝の如く腕に抱きつくし、座っていれば背中から抱きつく。吸血させるときは正面から抱き合う形になるのだが、終わった後も中々離れようとしない。晴香の胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情でくつろぐのだ。

 

小動物にマーキングされてるようで、嫌な気はしない。と言うかウェルカム。

 

しかし、ユエの外見が十二、三歳なので微笑ましさが先行し簡単に欲情したりはしないが、実際は遥に年上。その片鱗を時々見せると随分と妖艶になるのは困ったものである。未だに迷宮内なために四六時中イチャコラしてはいない。が、気を抜くと拠点内で数日出ないでこもりっきりでナニかをしてしまうかもしれない。

 

そうならない為にも理性の管理は徹底しているが、緩むときは緩むのでベットインする時がある。

 

幼い容姿なのに大人な魅力全開で迫ってくるユエに、晴香は耐えられた事が一度もない。ベットの上の主導権は必ずと言って良い程ユエが握り、その知識はあっても未経験に等しい晴香は翻弄され続けるばかりであり―――

 

・・・この話は此処で止めて置こう。ドツボに嵌まる。

 

「晴香・・・いつもより慎重?」

「うん。次で100階層だからね。オルク大迷宮は100階層まであって、次が最後の階だと思う。だから、一応念の為ね・・・」

 

銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負が晴香にはあった。そうそう、簡単にやられはしないだろう。しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。特にヒュドラ。奴は神代魔法の使い手である解放者たちの合作であり、強さはこれまで経験してきた激戦を超える、激闘となるであろう。

 

故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。ちなみに今の晴香のステータスはこう。

 

===========================

綾瀬晴香  17歳 女 レベル:63

 

天職:錬成師

 

筋力:2630

体力:2800

耐性:2580

敏捷:2720

魔力:3210

魔耐:3210

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成][+複製錬成]

   [+圧縮錬成]

  ・弓術

   [+命中率補正]

  ・火属性適性

   [+効果上昇][+魔力消費削減]

  ・土属性適性

   [+効果上昇][+魔力消費削減][+持続時間上昇]

  ・全属性耐性

  ・魔力操作

   [+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]

  ・魔力感知

  ・胃酸強化

  ・纏雷

  ・天歩

   [+空力][+縮地][+豪脚]

  ・風爪

  ・夜目

  ・遠見

  ・気配感知

  ・気配遮断

  ・熱源感知

  ・熱源遮断

  ・毒耐性

  ・麻痺耐性

  ・石化耐性

  ・金剛

  ・威圧

  ・念話

  ・言語理解

  ・異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止][+遠隔収納]

   [+遠隔召喚]

===========================

 

ステータスは、初めての魔物を喰えば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなった。主級の魔物なら取得することもあるが、その階層の通常の魔物ではもう増えないようだ。魔物同士が喰い合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 

ステータスが上昇するのは嬉しいが、固有魔法が習得できなくなってゆくのは残念だ。

 

しばらくして、全ての最終調整を終えた晴香とユエは、階下へと続く階段へと向かった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間。柱の一本一本が直径5mはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは30mはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

晴香は「アニメよりリアルだ」なんて思いながら。ユエはしばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒するユエ。柱は晴香達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

晴香は奥200mほど進まない限り何も起こらないという原作知識がある為、念のためユエを庇いながら、感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。200m進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。それは、巨大な扉。全長10mはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた文様が印象的である。

 

これは第七迷宮の紋章であり、十字の【オルクス大迷宮】。楕円を貫く一本の杭の【ライセン大迷宮】。サークル内にランタンを掲げる女性の【グリューエン大火山】。五芒星に一条、中央に三日月の【メルジーネ海底遺跡】。指輪の【神山】。導越の羅針盤【ハルツィナ大迷宮】を表す。

 

似た様な物が、ハルツィナ大樹海の深部の大樹【ウーア・アルト】の麓に石板として設置されて存在している。

 

「これがもしかすると?」

「反逆者の住処?」

「かもね」

 

いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくとも晴香の本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

「此処が最下層。最後の関門。ユエ、覚悟は出来た?」

 

晴香は冷や汗を流しながらも不敵な笑みを浮かべてユエを見る。

 

「・・・んっ!」

 

ユエも覚悟を決めた表情で頷き返し、扉を睨みつける。

 

そして、二人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

その瞬間、扉と晴香達の間30m程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。晴香はこの魔法陣に見覚えがあった。あの日、橋から飛び降りる時に不可抗力で召喚されてしまったベヒモス達の、あの魔法陣とほぼ同じ奴であると。しかし、ベヒモスの魔法陣が約10mなのに対し、此方は眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「これは、凄まじいね・・・」

「・・・大丈夫・・・私達、負けない・・・」

 

晴香が知っていても流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さず晴香の腕をギュッと掴んだ。

 

ユエの言葉に「そうだね!」と頷き、和らいだ表情を浮かべながら晴香も魔法陣を睨みつける。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする晴香とユエ。光が収まった時、そこに現れたのは、体長30m以上。六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラである。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が晴香達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が晴香達に叩きつけられた。

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

晴香とユエは同時にその場を左右に飛び退き反撃を開始する。晴香の【06式】が火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばしたが、間髪を入れずに新たに取り出した【44式】でフルバースト射撃。

 

白い文様の入った頭が回復薬だと知っているので狙い撃つ。首から上部が完全消滅する形で、白頭はこの世から姿を消した。

 

晴香に少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばした。

 

油断している訳ではないが、これはイケる!と踏んだ晴香は【念話】でユエに伝える。

 

『ユエ!黒頭を狙って!』

『んっ!』

 

青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避したユエが黒頭目掛けて【緋槍】を放つ。燃え盛る槍が黒頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝き、ユエの【緋槍】を受け止めてしまった。爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいて晴香達を睥睨している。

 

急がねばバットステータス攻撃をされてしまう!と、急ぎ44式の再装填を済ませて、照準を定め―――

 

「いやぁああああ!!!」

「ユエ!?」

 

(間に合わなかったかッ!!)

 

【異界収納】に44式を放り込む。先に回復薬を潰した為か史実とは違った展開を見せている中で、このような事を起こさせないように先制する・・・はずが自身の行動が遅い所為でユエに辛い思いをさせてしまった事に対して激しい怒りが晴香を満たした。

 

咄嗟にユエに駆け寄ろう・・・とするフェイントで、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくるのを交わすながら、僅かに開いた射線で射撃。発砲音と共に、ユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ぶ。同時に、ユエがくたりと倒れ込んだ。その顔は遠目に青ざめているのがわかる。そのユエを喰らおうというのか青頭が大口を開けながら長い首を伸ばしユエに迫っていく。

 

「【重剣嶽】ッ!!」

 

晴香オリジナルの土属性最上級魔法。通常の剣山を大量に、そして異常に大型化させることが出来る広範囲殲滅魔法だが、範囲や剣山を拡大するには膨大な量の魔力を消費する。今回はユエを守る事が優先なので、攻撃もそこそこに剣山自体を、ユエを守る即席の壁にした。

 

青頭の顎がユエを捉える―――その瞬間。極太の杭が下から突き出て串刺しにした。突き抜けた剣山は、そのまま勢いよく天井に突き刺さり、上からの侵入が出来ない、正に鉄壁の名が相応しい防護壁となる。さらに、有効範囲を拡大しており、ヒュドラを一定以上の範囲で囲むことで、此方に対しての攻撃が出来ない様にした。

 

しかし、これもちょっとした時間稼ぎにしかならない。更なる手を打ちながら、晴香はユエの元へと駆け寄った。

 




晴香はノータイムで最上級魔法を行使することは普通は出来ません。今回出来たのは、有効範囲も適当、貫く剣山の太さや高さはランダム、おまけに大量に保有する魔力のゴリ押しの三拍子が揃ったためです。
(と言う設定)


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31話 銀紋章

おはようございます!


「ユエっ!!」

「・・・」

 

晴香の呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。【念話】で激しく呼びかけ、神水を飲ませる。しばらくすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「ユエ!」

「・・・はる、か?」

「晴香だよ、大丈夫?」

 

パチパチと瞬きしながらユエは晴香の存在を確認するように、その小さな手を伸ばし晴香の頬に触れる。それでようやく晴香がそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「・・・よかった・・・見捨てられたと・・・また暗闇に一人で・・・」

 

ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば晴香に見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「そっか・・・大丈夫、私はユエの隣にいるよ」

「・・・晴香」

 

抱き締めて耳元で囁くが、ユエは不安そうな瞳を向ける。よほど恐ろしい光景だったのだろう、晴香に見捨てられるというのは。何せ自分を三百年の封印から命懸けで解き放ってくれた人物であり、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるのだ。心許すのも仕方ないだろう。

 

そして、ユエにとっては晴香の隣が唯一の居場所だ。一緒に晴香の世界に行くという約束がどれほど嬉しかったか。再び一人になるなんて想像もしたくない。そのため、植えつけられた悪夢がこびりついて離れず、ユエを蝕しばむ。ヒュドラが即席の城壁を破壊しようと攻撃しており、もうじき城壁は倒壊すると感覚で理解している晴香は、錬成で一旦自身とユエを地面に沈めて【気配遮断】と【魔力遮断】を発動して物理的、魔法的に姿をくらます。

 

抱き締められたユエは、晴香の腕の中で服を握った。

 

「・・・私・・・・・・」

 

泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。晴香はユエの見たであろう悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取る。今にも消えてしまいそうなほど弱々しく、心の折れかけているユエには強烈なインパクトの伴う、私だけが与えられる活力が必要。

 

揺らぐ瞳を見れば一目瞭然。こんな状況だが、晴香は一旦ヒュドラを脳内から押しやると、ユエの為だけに全思考を傾けた。

 

「んっ」

「っ!?」

 

ユエにキスをした。それもディープな方。

 

上でヒュドラが暴れる為に凄まじい振動で、この小さく狭い地下空間が悲鳴を上げるが何の其。キスされたユエは、普段であれば晴香の舌を瞬時に跨牢するのだが、全くと言って良い程に抵抗できずに成すがまま。そのまま口内でうねり、唾液が混ざって零れ落ちるほどに混ぜ合わせるキスが数十秒と続く。

 

「んぁ・・・は、はる・・・っ」

 

そろそろ息が続かないと判断した晴香は、漸くユエの口内から自身の舌を抜く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

「はい、ユエ」

「あ・・・」

 

ユエを支えて晴香の首筋の前へと誘う。そして、そのままユエの口に優しく押し当てた。

 

無意識か分からないが、ユエが歯を突き立てる。血と共に晴香の力が吸い取られて行くような奇妙な感覚を感じられる事から、ユエがちゃんと吸血していると理解できる。より吸いやすいように、そして、我が子をあやす様に優しく背中を撫でて安心させる。此処に私は居るよ。ユエの隣に晴香はいるよ、と。

 

暫くして首筋よりユエが離れた。瞳は、先程の様に揺れてない。

 

「もう一度言うわ・・・ユエ、貴方の居場所は私の隣よ。もし帰る事になっても、それは変わらない・・・一緒に帰るって、約束したでしょ?」

 

晴香の目には、つい先程の様に不安に押しつぶされそうな、唯の少女は居ない。「もう、惑わされない」―――そう瞳で語る、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべたユエがいる。

 

「んっ!」

 

ユエが復活した事を理解した晴香は【異界収納】より神水試験管6本程取り出し、3本をユエに渡し、残りを煽る様に全て飲み干す。完全回復には程遠いが長時間回復し続けられる、言わばバフのように扱った。きっと聖教教会関係者が卒倒する豪快な飲み方だっただろう。

 

試験管を収納すると、錬成で地下スペースを広げ、其処に新たな兵器を召喚した。

 

「ユエ、00式を使うから、もしもの時は援護をお願いね」

「任せて!」

 

いつもより断然やる気に溢れているユエ。静かな呟くような口調が崩れ覇気に溢れた応答だ。先程までの不安が根こそぎ吹き飛んだようであり、そして色々吹っ切れたようだ。これで心配は無くなった晴香は、急いで【00式】を組み立てる。

 

00式の正式名称は、【00式10cm六弾倉回転式手装砲】

 

以前晴香は『艦〇れ見たいに大きな砲を持ってれば・・・』と妄想していたのを知って居るだろうか?それを具現化させてしまったのが、この00式である。旧日本海軍の秋月型駆逐艦の主砲と同じ口径を有し、生物相手はに過剰威力、扱う側にも強い反動を伴う双方に危険が及ぶ、多分ロマン兵器に分類されるモノだろう。

 

重量は正確に測る事が出来ないので不明だが、恐らく500kg前後。高威力の砲撃に耐えられる砲身。纏雷で流した電圧により発生した磁力を利用した再装填機構。幾ら晴香と言えども、完全には受け流しきれない高威力による反動を少しでも抑える為のスプリングを利用した反動抑制機構。名前にある六発の数種類の砲弾を搭載できる回転弾倉、それと、腕に装着する為の各種補助器具などが合わさった結果である。

 

とても生身の人間が扱う兵器では無いが、ステータスが人間を逸脱した晴香ならではの、言わば専用兵器である。

 

10cmと大口径なので、それに見合う様々な弾頭を装備でき、現在は以下の、

 

・10cm榴弾

・10cm形成炸裂弾

 

それと新規開発した、

 

・10cm装弾筒付翼安定徹甲弾(俗に言うAPFSDS砲弾)

 

を装備可能であり、現在は【異界収納[+遠隔召喚]】を磨きに磨いたため、手動ではなく遠隔召喚により、弾倉内部に直接各種弾頭を装填出来るようになったため、砲弾本体が尽きぬ限り事実上の無限弾倉を再現できた形だ。

 

もう、あの時の失敗は繰り返さない(23話参照)

 

しかし残念ながら、反動が強すぎるため連射は出来ない。代わりにと言っては何だが、一発撃つと再装填機構の動作で次弾装填が約2秒かかるので、大体3秒間隔で放つ事は可能だ。

 

「―――行くよ!!」

「んっ!!」

 

晴香が再度、【気配感知】で感じ取ったヒュドラの存在する場所付近を囲むようにして、地面の中から【重剣山】を発動。魔力を三分の一ほどごっそり持っていかれたが、胃の中に残っている神水が瞬時に回復して行く。そして、ヒュドラが囲まれて身動きが取れなくなっている今がチャンスと、錬成で地面から飛び出した。

 

「クルァアアアアっ!!」

 

ヒュドラが苛立ちの咆哮を上げて極太剣山を破壊すれば、その奥には金属の何かを構え、不敵な笑みを浮かべる侵入者が―――

 

「死ねっ!」

 

晴香の身体が紅の雷を纏うと、口径に見合わない小さな引き金を引く。

 

―――ドゴォォオオオンッ!!!!

 

砲が火を噴く。直径10cm、弾頭重量凡そ27kg、その内圧縮炸薬量24kgの留弾が、丁度顔を覗かせた盾役に向かって突き進む。バネを利用した反動抑制機構がキチンと動作したが、それでも半分以上の衝撃が腕や肩を通して晴香を直撃する。しかし、人間を逸脱して化け物と化した晴香には耐えられない程の大袈裟な衝撃では無かった。

 

それでも十分化け物だが。

 

盾役が見たのは、妙に遅く感じる時間でどんどん近づいて来る、金属の丸い壁であった。

 

「クルア――――――」

 

避けるか迎撃するか。しかし、壁の方が到達する足後が早いと判断した盾役は、避けられないと悟ると顔を肥大化させ、受け止め―――ようとした事が命取りであった。砲弾が直撃する。次の瞬間・・・

 

ド―――――――――ッ!!!!!!!

 

空間そのものが爆ぜた。

 

そう錯覚してしまう程の大爆発が発生し、この密閉された100階層広場内部に爆圧が無秩序に解き放たれる。

 

「―――!【聖絶】!」

 

その強大な爆発力が、壁として存在していた【重剣嶽】を内部から破壊して、無差別に重質量の岩が砲弾の様に飛び散る。無秩序に散破する岩は当然晴香たちにも飛んでくるが、それを奈落の吸血姫が許す事なく光属性最上級結界魔法【聖絶】にて、全てを防いだ。予想としてはもう少し威力の抑えられた爆発だろうと思っていた晴香は、流石に此処までの威力と、周辺に散らばる岩々に頬を引きつらせる。

 

他の配置に仲間や守るべきものがあった場合に、こんな攻撃を繰り出してしまったらと想像するだけで顔が青くなる。しかし、反省会は後回しだ。今はヒュドラに全力を尽くさなければならない。

 

ビリッ―――カシュン・・・カランっ

 

纏雷により高電流を一部分に流せば、再装填機構に備え付けられた銅コイルにより大きな磁力が発生し、コイル内の鉄心が後方に移動すると、弾倉が回転すると同時に撃ち終えた空薬莢が排莢される。そして、磁力が切れると同時に伸びきったスプリングが元に戻ろうとする運動エネルギーで次弾装填が完了。

 

この間、僅か3秒。

 

晴香は【生成魔法】を習得していない為にアーティファクトはまだ制作出来ないが、代わりに科学の原理をわかる範囲で最大限利用した、アーティファクト紛いの現代兵器をこのように制作する事が出来たのだ。この世界の住民にとっては、もはやアーティファクト以外の何物でもないのだが、それはさておき。

 

「・・・やった?」

「頭は全部潰したけど、本体?は生きてるみたい。気を抜かないで!」

「んっ!」

 

その直後、

 

「!」

 

ユエが驚愕の表情を浮かべた。その先にはヒュドラがおり、音もなく新な、七つ目を有した銀紋章の頭が胴体部分からせり上がり、晴香たちを睥睨した。

 

ヤバいと本能が警報をガンガンならすとほぼ同時に、七つ目の銀色に輝く頭は、鋭い眼光で晴香たちを射抜き、予備動作もなく極光を放った。SFの宇宙戦艦の主砲レーザーの射撃は、実際に見ればこのようなモノなのだろう。光り輝く極光は見る分にはとても美しい光景だが、向けられて放たれる側としては、一切合切を焼く尽くす死の光を連想させる。

 

射線的にユエの前に居る晴香は、耐えられるのでは?と思って居たユエの【聖絶】ですら危ういと、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出していた。

 

後方に。

 

極光が一瞬だけ【聖絶】と拮抗したが、まるで何事も無かったかのように突き破ると、極光は勢いが衰える事無く、そのまま晴香たちを丸ごと消し飛ばす――――――

 



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32話 決着

おはようございます!いつの間にかお気に入り登録300人を超えてましたw


銀紋章の極光が迫る。魔力関係以外のステータスが低いユエの回避は間に合わない。感覚でわかる晴香は【異界収納】に00式を収納すると、縮地を発動してユエを掻っ攫う。そして、思いっきり体を捻った。

 

―――ゴオォォオオオオオオッ!!!!

「―――ッ!!」

 

晴香の後方を極光が通過する。

 

一瞬だけ拮抗し、瞬刻の時間稼ぎに成功した【聖絶】の活躍により、如何にか回避に成功した晴香だったが、背中を一部抉られてしまった。極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれており、普通は為す術もなく溶かされて終わりである。しかし、神水の回復力が凄まじく、溶解速度を上回って修復しており、速度は遅いものの、晴香の魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体とも相まって時間をかければ治りそうである。

 

「【焦天】!」

 

個人を対象に回復効果を高めた中級光系回復魔法が瞬時に放たれ、神水の効果と改まって高速に回復して行く。回復魔法は苦手なユエでも、中級程度は瞬時に発動できる。

 

極光が収束すると同時に、ほぼ完治した晴香たちに向かって今度は直径十センチ程の光弾を無数に撃ちだしてきた。まるでガトリングの掃射のような激しさであり、縮地のタイミングがつかめず回避に専念するしかない。

 

「ユエ!」

「【光壁】!」

 

このままでは埒が明かない。晴香の声に瞬時に察したユエが、次の縮地のタイミングを邪魔する光弾に対して、光属性障壁魔法をノータイム発動。

 

「ナイスっ」

 

障壁は一瞬で砕け散ったが、その一瞬が脱出のチャンスを有効に使い、置き土産を数個召喚しながら縮地で弾幕を逃れる事に成功した晴香は、そのままユエを背負いなおして離れる。

 

追撃しようと再度、極光を放とうとした銀紋章だったが、突如として頭上に現れた球状の物体に視線を向けた、その時。その球状がパっと爆ぜ、内部から黒い粘着質の液体が飛び散った。ソレを注視していた銀紋章は諸にそれを浴びてしまい、視界がふさがれる。振り払おうと激しく首を動かそうとした次の瞬間。

 

「くアアァァァアアアアアッ!?!?」

 

満遍なく撒き散らされてから発火するように改良された燃焼手榴弾改は、その威力を遺憾無く発揮した。付着したタールが約3000度の灼熱の劫火となり、外殻から内部を炙る。鱗があるとはいえ、どの部位よりも圧倒的に防御力が低い顔周辺は炭化するが、それでもなお生きる事の出来るのは、流石ヒュドラと言った所か。

 

しかし、その命もここまで。この様な隙を逃がす晴香たちではない。

 

「【緋槍】【砲皇】【凍雨】!!」

 

矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。有り得ない速度で上級魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。目もダメージを受けているからか、それとも意識が完全にそれているからか、碌に回避も儘ならないヒュドラは全てを喰らう事に。

 

そして最後のゴリ押しと言わんばかりに、

 

「喰らえっ」

 

再召喚した00式の10cm装弾筒付翼安定徹甲弾が打ち出される。砲弾が砲身を抜けると、サボと呼ばれる装弾筒が四枚に分かれ、魔力を有りったけ込めたシュタル鉱石製侵徹体(矢のような弾頭)が電磁加速されながら、ユエの魔法を絶賛諸浴び中のヒュドラに突き進む。

 

余りに速度が高速な弾頭は、レーザー光線のような残像を描き、魔法の渦へと突入。

 

ドォオオオ―――ゴバッ・・・

 

タングステンや劣化ウラン(劣化ウランはウラン235が殆ど無い放射能物質であり、発見したとしても放射線が怖くて使いたくない)を発見できないので、弾頭質量を【錬成[+圧縮錬成]】により無理矢理高められた重質量の弾頭は、ヒュドラの胴体に着弾。彼のサソリモドキを超越する外殻防御力を突破して銀紋章には致命的なダメージを与えた。

 

しかし、倒しきるまでには至らなかった。

 

「グゥルアアアアッ!?!!」

 

銀紋章が断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃ちにする。

 

殆どは見当違いの方向へと消えて行くが、燃焼手榴弾が効力を失ったタイミングで晴香たちに殺到する。かつてない程の憤怒の表情で激しい殺気を叩き付けられ、ユエの援護により突破出来た光弾の嵐は更に強力となり、弾幕密度が急激に上昇。【光壁】による援護は有るが、少なくない命中弾が晴香の肉体を削る。

 

「グッ」

 

充血するほど目を見開き、飛翔してくる光弾の優先順位を瞬時に判断しては回避をする。だが、どうしても避けられないと判断した攻撃は致命傷を避ける様にしてではあるが、晴香に命中してダメージが蓄積されていく。

 

「アグッ」

「ハルカっ!!」

 

切羽詰まったユエの悲鳴にも似た声がする。

 

このままでは不味い。ユエが回復してくれているとはいえ、更に密度を上げて行く弾幕に晴香の処理能力が限界に到達する。激しい頭痛がする。このまま脳を酷使し過ぎれば、体が強制的に意識を手放すだろう。だが、ここで晴香が倒れれば最愛のパートナーを守れない。

 

自分の敗北=ユエの死だ。

 

しかし、この弾幕をどうやったら―――――――――

 

『処理の限界を理由に、貴方はここでヒュドラに殺されるの?』

『せっかくユエを救い、いい関係を築けているのに、貴方は諦めるの?』

『あの日語り合った『一緒に帰る』と言う約束を、貴方は破るの?』

 

一瞬、チカチカと点滅しては途切れそうになる意識の狭間で、もう一人の私(はるか)が、今の状態の本物()を見下し嘲笑うかの表情で口にする。仮初(はるか)にそんな事を言われるのは癪に障った。反論しようと口を開きかけたその時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユエとの死を、許容するの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガツンッと、頭に衝撃を受けた。仮初(晴香)の放った強烈な言葉が、本物(晴香)の脳内を反響する。ユエとの死を許容?そんな事、絶対に出来る訳がない。あってはならない。私ともあろう化け物が、あろう事かこの絶望的な状況に一瞬とはいえ諦めかけていた事実に、晴香の胸中に激烈な怒りが満ちた。

 

私は何を諦めかけている?

 

今意識を失えば、私とユエはどうなる?

 

パートナーと共に死する不条理な運命だと、この状況を許容する?

 

同じ化物如きに屈する?

 

否! 

 

断じて否だ! 

 

私達の未来と生存を脅かすものは敵だ! 

 

敵は・・・

 

 

 

「―――殺す」

 

その瞬間、頭のなかにスパークが走ったような気がして、晴香は一つの技能に目覚めた。嘗て蹴りウサギより簒奪した【天歩】の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、合わせて【天歩】の各技能を格段に上昇させる。ユエとの死を一瞬とは言え許容しかけた憤怒を起爆剤に、晴香は一つの壁を越えた。

 

晴香は必死に動く回避行動を止めた。

 

「は、ハルカ!?」

 

何故か動きを止めた晴香に、バルカン砲など比にもならない弾幕が殺到する。ユエは焦燥に駆られるが、晴香を信じた。きっと何らかの策が有るのだと。

 

そして、それは証明される。

 

晴香はギリギリまで動かず、光弾が直撃する寸前でふらりと倒れるように動き回避する。ユエを抱いたままダンスでも踊るようにくるりくるりと回り、あるいはフラフラと倒れるように動いて光弾をやり過ごしてしまう。まるで光弾の方が晴香を避けていると勘違いしそうだ。

 

ユエが目を丸くする。

 

「ユエ、【蒼天】を放てる?」

「・・・3回、なら」

「十分。私が合図したら、アレの頭上に放って」

「んっ」

 

閃光手榴弾を投げ、縮地で離れる。また焼夷手榴弾だと警戒した銀紋章がソレを光弾で破壊した、その次の瞬間。内部に限界まで魔力の込められた【緑光石】が割れ、地下空間を真っ白に染め上げる。どれ程の光量なのか不明だが、恐らく60万カンデラ以上の光源を直視してしまった銀紋章は、今度は別の方法で眼をやられてしまった。

 

またも五感の一つを潰されたことに激怒の咆哮を上げながら、先程晴香たちがいた部分を重点的に光弾を乱射する。が、その時には移動していた晴香たちには一切の攻撃が命中しない。

 

「ユエ、此処で隠れてて。合図したら、お願い!」

「んっ!」

 

柱の後ろにユエを隠すと、晴香は【気配遮断】と【魔力遮断】を発動させながら飛び出し、魔法詠唱をしながらヒュドラに急接近する。稀に飛んでくる光弾を避けてヒュドラに近づくと【重剣嶽】並みの魔力を消費する魔法を放つ。

 

「―――【破落】っ!」

「ッ!?!?」

 

消費魔力量からみて最上級に匹敵する土属性魔法【破落】は、指定した範囲内の地面を一気に掘り下げて対象を落下させ、落とす為に退けられた土や岩などで対象の地面との隙間を押し固める拘束系魔法だ。細工もしてあり、詠唱もしたため消費魔力は少ないが、30mを優に超す対象が対象な為に掘る深さや範囲が広かったので、結果的に【重剣嶽】を超える消費魔力であった。

 

幾ら神水で回復しているからとは言え、6割の魔力を持っていかれたのは痛いが、これで決着がつくと確信しているので心配ない。

 

銀紋章は、視界が塞がれており、更には晴香が気配や魔力を消している為に感知できず、まんまと晴香の罠にかかる事となり、下半身及び首半分強が埋まる事となる。ヒュドラレベルの化け物が暴れれば、この程度の拘束など簡単に解けるはずが、幾ら動こうにも身動きが取れない。それは晴香が細工として【異界収納】に有り余る鋼を【錬成】にて岩々に混ぜ込み、幾ら化け物でもちょっとやそっとの身動き程度では出る事の叶わない、言わばコンクリートに埋められてるような状態である。

 

更に悪い事に、首が殆ど埋まっており、射線をうまく取れないことにより極光を放てない。攻撃手段が極光や体当たり程度しかない銀紋章にとっては致命的な状態にあり、更に身動きがとれぬようにと、首上部も晴香による錬成で行動の一切を封じられてしまう。

 

「ユエっ」

「んっ―――【蒼天】っ!!」

 

青白い太陽が銀紋章の固定された頭上に出現し、身動きの取れない銀紋章を融解させていく。タールの3000度を優に越える超高温の人口太陽は、銀紋章の強固な防御力を突破して少なくないダメージを与えていった。

 

「グゥルアアアアッ!!!?!?」

 

銀紋章が断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃ちにする。しかし【破落】から抜け出す事は叶わず、斜め横上の一定方向のみにしか放てない制限が設けられた光弾など全く脅威ではない。だが、それでもラスボス。全力を振り絞っているのだろか、地面に大きな亀裂が走る。

 

だが、晴香が錬成で片っ端から修復していくので逃げ出せない。極光も撃ったばかりなので直ぐには撃てず銀頭は為す術なく高熱に融かされていった。

 

感知系技能からヒュドラの反応が消える。今度こそヒュドラの死を確信した。

 

 




・・・








・・・結末が原作と似てる?(と言うかほぼ一緒?)

―――私の実力では無理だ!(開き直り)

その事とは別に、本日の12時ごろ活動報告を上げます。内容は今後のこと。これから先に登場する物の名前とか、どんな事を書こうとか、ちょっと読者様方に質問を取りたいがための投稿となります。この質問にはネタバレが含まれることが前提なので、知りたくない!って人は見ない事をお勧めします。見ても良いよッ!って人だけ閲覧し、質問内容に感想として返答していただければ幸いです。皆さまの意見を参考にこれからを書いていこうと考えておりますので、よろしくお願いします!

―――ただし、必ず書くとは言っていない(キリッ)


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33話 解放者の住処

おはようございます


晴香は、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、晴香のまどろむ意識は、目覚めるという行動を否定する。

 

(毛皮で作った即席のベットでは考えられない、この柔らかさ。至高ですわぁ・・・)

 

むにゃむにゃ。と、寝返りを打とうとしたが、なにやらベッドとは違う柔らかな感触に右腕が包まれて動けない。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

(ましゅまろ・・・?)

 

ボーとしながら、晴香は手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かは晴香の手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。シリコンの様に柔らかいソレの、とてもクセになりそうな感触につい夢中で触っていると・・・

 

「・・・ぁん・・・」

(ふぇ・・・?)

 

何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。そう言えば、とまどろんだ意識の中で思い出す。

 

このすべすべでむにむにな感触は、ユエの体の一部である、と。

 

(・・・そうだ。一緒にベッドで寝たんだった。)

 

晴香は思い出す。ヒュドラを殺した後、死体を回収してユエと共に反逆者―――解放者の住処にお邪魔した。激戦後の心労により疲弊していた私達の目の前に純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドがあったので、軽く体を拭いて綺麗にしてから二人してベットインしたのだ。

 

気候も安定していて寒くなく、そして熱くもない丁度良い温度に耐えられなくなった私達は、着替えも忘れて眠ってしまった。

 

なので、晴香が触っているのはユエの身体の一部である。

 

「んぅ―――っ!」

 

右腕をちょっとだけずらして起き上がり、伸びをする。ここ数か月間、毛皮製ベットで就寝していたが、柔らかいとはいえ寝心地は遺憾ともし難いものであった。起きて伸びをすれば、必ずと言って良い程骨がバキバキなるレベルである。しかし、このベットは柔らかく、寝心地が限界突破していて伸びが気持ちいい。

 

「・・・」

 

晴香が起き上がった拍子に、捲れてしまったシーツ。隣には一糸纏わないユエが晴香の右手をギュっと握りながら眠っていた。人に慣れた小動物が、ご主人とは離れたくありません!とでもいう様な感じで、にぎにぎと握ってらっしゃる。

 

可愛い。ずっと見ていたい。

 

ユエを起こそうと思っていたが、起こす気力が霧散してしまった。

 

ちょっぴりお腹が空いており、ユエを起こして朝食と洒落こもう、なんて考えていたが、気持ちよさそうに眠るユエを見ると、何だか眠くなってきた。と言う事で、もう一度横になってユエを抱き締める。欲しいなと思っていた12000円の抱き枕カバーなんて比にもならない本物のユエの感触に、頬が緩まずにはいられない。

 

抱き締めた事によって、晴香の眼前にユエの頭部がある。ゆるふわな金髪に埋もれるつむじ。

 

欲望に抗う事無く、ユエの髪に顔を埋めて匂いを堪能する。すぅっと吸えば、ふわりと甘い女の子の香りと、微かに感じる汗の香りに頬が緩まz(ry

 

「ユエ、起きて・・・」

 

暫く堪能して満足すると、そろそろ起きようとの事で、ユエを起こす事にする。

 

「んぅ~・・・」

 

声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエ。丸くなる都度、ユエが晴香の胸に顔を埋める。裸なので髪の擦れる感触や、ユエの吐息がダイレクトに伝わって非常にくすぐったくあり、そして気持ち良かった。このままでは、眠る子猫ちゃんを襲ってしまいそうだ。

 

揺すってみたりしたが、艶めかしい吐息を吐いて小さく身動ぎするだけ。

 

「ユエ・・・そろそろ起きないと、いたずらしちゃうよ~・・・」

 

最初は遠慮気味に脇を擽ったりと小規模ないたずらだったが、小さく喘ぎ声をあげるだけのユエだったので、其処から徐々にエスカレート。耳を舐めてみたり、手で何処がとは言わないけど揉んでみたり、擦ってみたり。顔が紅色に染まり、少し荒くなった息遣いのユエに、ムラっと来てしまった晴香は、最後通牒を突きつける。

 

「ユエ・・・私、手を出しちゃうけど、起きないんだから別に良いよね?」

「・・・」

 

顎クイッでユエの顔を起こしながらそう言うと、今、ぴくりっとユエの眉毛が揺れた。反応からして起きてるのでは?という疑問が確信に変わった瞬間である。そして、起きているにも関わらず否定しない、ということは。

 

「・・・沈黙は肯定と受け取ります・・・それじゃぁ、いただきます―――」

 

吹き抜けのテラスのような場所で、一段高い石畳の上にあるベットの上で、爽やかな風が天蓋と晴香たちの頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれており、まるでパルテノン神殿の中にいるよう。そんな厳かで神秘的な空間に、まだ歳半ばな少女の嬌声が響いた―――

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

もしこの場にご近所さんがいれば『あらあらまあまあ~』との小声が聞こえてきそうなほど、朝っぱらからおっ始めてしまった晴香たちだったが、ユエが目を覚ました(意味深)ことでお開きとなった。眠るあどけない少女を襲うという背徳感満載のシチュエーションに盛り上がってしまったので、身だしなみを整えると、眠る事で忘れてしまった反逆者の住処を探索することにした。

 

因みに服に関してだが、晴香が【異界収納】より取り出したストックがあるので、カッターシャツ一枚のユエを見る事は無かった。

 

これはこれで残念なので、夜にユエに来てもらおうと思ってます(晴香談)

 

神殿紛いのベッドルームから出た晴香は、知識で知っていても、屋外のこの光景には瞠目する。

 

複数の神代魔法により作られた人工太陽。ここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じるうえ、蛍光灯のような無機質さを感じないため、人工の太陽だ。

 

「夜には月になるのかな?」

「・・・かも」

 

言っててとても白々しい。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいた晴香達には少し眩しいくらいだ。三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

原作を知っていても何処にどの部屋があるか等の詳細の間取り図は知らないので、取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。自立ゴーレムが掃除をしてくれているお陰だ。

 

晴香(は一応)とユエは、警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。

 

「温泉・・・久しぶり~」

 

思わず頬を緩める。水は地下水をくみ上げる以外にも魔法具で補っていたので、晴香の魔力もあり十分に確保できていた。なので、拠点にはお風呂を完備していた為、晴香もユエも一緒に入っていたりしたが、やはりお風呂より温泉。薄暗い洞窟内ではなく、このように風情の良い所で入るこそ温泉。

 

晴香は日本人だ。例に漏れず風呂は無論温泉も大好き人間である。全設備の探索が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。

 

そんな晴香を見てユエが一言、

 

「・・・入る? 一緒に・・・」

「洗いっこする?」

「んっ♡」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの姿に、一緒に入ったら気持ちよさそうだな・・・と純粋に想像を膨らませる晴香に、ユエは嬉しそうに微笑んだ。

 

それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、オスカーの指輪が無い限り、書棚も工房の中の扉も封印が解除されないので開ける事は出来ない。

 

二人は三階の奥の部屋に向う。神代魔法を授ける魔法陣が存在する、あの部屋だ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

神代魔法の一つ【生成魔法】を取得できる特殊な魔法陣である。

 

その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。

 

「・・・怪しい・・・どうする?」

「少なくとも感知系には何も引っかからないから、慎重にいこう」

 

ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

晴香はそう言うと、二人で魔法陣へ向けて踏み出した。そして、二人が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。まぶしさに目を閉じる晴香とユエ。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのこと、封印された時のことが駆け巡った。

 

やがて光が収まり、目を開けた晴香の目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

反逆者であり解放者。稀代の錬成師、オスカー・オルクスその人

 

 

 

・・・の、立体映像である。

 



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34話 神代魔法

おはようございます!

ちょっぴり魔が差し、勢いで書いてしまった。その事に対して反省や後悔はしないですけど、r15程度で収まる・・・様な(?)百合表現が含まれます。


魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

中央に立つ晴香たちの眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

大迷宮の創設者ということで、ユエが驚きに僅かながら表情筋が動く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか・・・メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。・・・我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話とは、要約すると。

 

【それは狂った神とその子孫達の戦いの物語】

 

であった。

 

話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか・・・君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、晴香とユエの脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

 

やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。晴香はゆっくり息を吐いた。

 

「ユエ、大丈夫?」

「・・・ん。問題無い。それより、凄い事聞いて、魔法貰った・・・どうする?」

 

ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

「ユエは気になる?」

 

元よりユエが最大の目的である為、エヒトとか興味ないし・・・と、オスカーの話を切って捨てた。お前たちの世界のことはお前達の世界の住人が何とかしろ、と。晴香とハジメは目的が違えど心情は同じだった。

 

とはいえ、ユエはこの世界の住人だ。故に、彼女が放っておけないというのなら、晴香も色々考えなければならない。オスカーの願いと同じく簡単に切って捨てられるなど、晴香からしたら有り得ない。仮にハイリヒ王国やヘルシャー帝國を滅ぼしてとでも頼まれたら、晴香は何ら躊躇い無く引き金を引くだろう。そう思って尋ねたのだが、ユエは僅かな躊躇いもなくふるふると首を振った。

 

「私の居場所はここ・・・他は知らない」

 

そう言って、晴香に寄り添いその手を取る。ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ。

 

その牢獄から救い出してくれたのはどんな理由があろうと晴香だ。だからこそ晴香の隣こそがユエの全てなのである。

 

「・・・そっか」

 

若干照れくさくなりながらも、晴香はユエを抱き締めた。

 

「生成魔法を授かったけど、ユエは使えそう?」

「・・・難しい」

「適性とか有りそうだもんね。私にとっては大当たりな魔法だけど」

 

そう、生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。まさに【錬成師】のためにある魔法である。実を言うとオスカーの天職も【錬成師】だったりする。子供の頃に文献を読み、自前で神結晶を作っちゃうくらい凄い錬成師なのだ。

 

なお、自爆はロマンな模様。

 

「ふぅ~それじゃあ、オスカーさんを埋めますか」

「ん・・・畑の肥料・・・」

 

ユエには慈悲はなかった。

 

風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた。

 

オスカーの骸を畑の端に埋め、墓石も立てた。流石に、肥料扱いは可哀想すぎる。

 

線香は無ければ、黙祷だけの埋葬が終わると、晴香とユエは封印されていた場所へ向かった。序でにオスカーが嵌めていたと思われる指輪も頂いておいた。墓荒らしとか言ってはいけない。その指輪は部屋に掛けられた封印を解除するに必要なのだ。

 

まずは書斎。

 

重要視はしてないが、地上への道は探らなければならない。晴香とユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴られたものだ。

 

「あ、あったよ」

「んっ」

 

設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。

 

工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されている。なので、有り難く使用させてもらう。

 

「ハルカ・・・これ」

「うん?」

 

晴香が設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。オスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「・・・他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということ?」

「・・・かも」

 

手記によれば、オスカーと同様に六人の【解放者】達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが・・・

 

晴香は知って居るので問題ない。

 

「・・・帰る方法見つかるかも」

 

ユエの言う通り。実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。

 

「そうだね。今後の指針は、地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」

「んっ」

 

明確な指針ができて頬が緩む晴香。思わずユエの頭を撫でるとユエも嬉しそうに目を細めた。

 

それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。だが、晴香は知っており【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】その他も大まかな場所は記憶にある。しかし、攻略を進めるにあたって、晴香は史実のハジメが歩んだ道のりで進もうとしている。

 

そうしなければ、これから起こる数多くの出来事のキーパーソン獲得につながらないからだ。

 

しばらくして書斎あさりに満足した二人は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。

 

「・・・ねぇユエ。ここを、当分の間は拠点にしない?」

「・・・ハルカと一緒ならどこでもいい」

「ユエ・・・」

 

何と言うか知って居ても、実際に言われると照れくさい。

 

そして、二人はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

その日の晩、晴香とユエは温泉にやって来た。脱衣所にて服を脱ぐと、天井の太陽が月に変わり淡い光に照らされる風呂場に入る。湯気の上がる湯船が淡く輝き、場所も改まって何処か西洋の幻想的な絵画のワンシーンの様だ。

 

晴香の脳内にはテルマエ・ロマエの例の映画の情景が浮かんだが、なんとなく雰囲気は似ていると思う。

 

「ユエ、お先にどうぞ。洗ってあげる」

「・・・ハルカが先。一番の功労者」

「そう言ったら、止めを刺したユエはMVPだよ」

 

結局押し切られる形で晴香がバスチェアに座ることとなる。

 

「・・・ハルカ、気持ちいい?」

「ん~、気持ちいい~」

「・・・ふふ。じゃあ、こっちは?」

「あ~、それもいい~」

「・・・ん。もっと気持ちよくしてあげる・・・」

 

小さな手で背中を洗ってくれていたユエが、ぴとっとくっ付いた。晴香がビクッと震える。何故なら、押し付けられる事でむにゅりっと変形したマシュマロが背中に当たっているから。コリッと感じるのはアレだろう。これだけでも晴香的に凄いご褒美なのだが、あろうことか、ユエはその状態で上下左右に動いたりして、胸で洗ってくれる。

 

レズ風俗とは、このような事をするのだろか・・・蕩けそうになる意識の中、そんなことを思ってしまった。

 

しかし、気持ち良い。前にある鏡に映るユエが、妖艶な微笑みを浮かべながらやってくれるものなので、やられている側としては変な気分になって来るし、ちょっぴり恥ずかしかった。

 

「・・・どう?」

「・・・凄く、気持ち良かったです///」

「んっ♡」

 

訂正。凄く恥ずかしい。

 

シャワーで洗い流されると、選手交代で晴香がユエを洗う番となる。特に、なんかスゴイことをするでもなく、あくまでも平常心を心がけながら、ユエの肌を傷つけぬよう慎重に、そして優しく洗っていた晴香だったが、

 

「・・・ハルカは、してくれないの・・・(潤んだ瞳)」

「・・・お望みとあらば(決死の覚悟)」

 

むにゅりっ

 

そんな目で見られては覚悟を決めなければならない晴香は、自分の胸をユエの背中に押し当てた。ユエがやった様に、真似て上下左右に動かす。自分のがユエの背中でぬるぬると擦れる感覚が兎に角ヤバい。

 

鏡に映る自身の顔が真っ赤なのに対し、ユエは対照的に凄い余裕のある表情で、晴香の感触を楽しんでいるようだった。

 

「ど、どうだった・・・?」

「・・・またやって」

「・・・了解、です///」

 

追記。やる方がもっと恥ずぃ・・・

 

そんなこんなありつつも、髪をタオルで巻いた二人は湯船に浸かった。

 

「ふぁぁ~・・・」

「んっ・・・気持ち良い・・・」

 

気の抜けた声が風呂場に響く。これからしばらくは、だらんとしたままボーとしている。

 

全く、お風呂は命の御洗濯とはよく言ったものである。拠点に帰れば毎日はいっていたお風呂でも気持ち良かったが、どうして、温泉の場合とこうも違うのだろうか。お風呂と温泉の不思議だ。効能でも関係しているのだろうか。

 

(―――いや、それも有るだろうけど・・・)

 

ちらりとユエに視線を向ければ、晴香にぴとっとくっ付き、右肩に頭を傾けて半身を預けて、目を細めて脱力するゆるゆるなゆるユエがいた。

 

「・・・はるか?」

「ん、いや。ユエと一緒に温泉って気持ち良い、って思ってね・・・」

 

湯船の中で手を握れば、ユエが握り返してくれる。何気ないこの行動で、温泉とは別の暖かくて心地い幸せが、心を満たしてくれる。こんな幸せが、ずっと続く様に。ユエとの一蓮托生の生活を、何人にも壊させはしない。絶対守らなければ。

 

まどろむ意識の中、ユエの手を握ってそう思った。

 




改めて見ると、うんっ!問題ないね(多分)


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35話 2ヵ月

おはようございます!


私達がヒュドラを殺して、反逆者オスカーの住処にお世話になって2か月とちょっとがたった。

 

二人は拠点をフル活用しながら、傍から見れば思わず砂糖の海に溺れて藻掻く様に【尊死!】と叫びたくなるような甘々な日々を送っていた。基本的に二人は一緒に居ることが多く、二人以外に誰も居ないし見ていないということで、遠慮せず何処でもイチャイチャ。元主のオスカーが存命ならば、二人の空気に居た堪れなくなってこの拠点を放棄しただろう。

 

一部の者達から見たら【桃源郷】や【Shangri-la】であった。

 

さて、そんな二人はというと・・・

 

「・・・召し上がれ♪」

「いただきますっ!」

 

フリル満載、デザイン最高、なのに何処か既視感マシマシな、何故かあったメイド服(・・・・・・・・・・)を着たユエ様が、フライ返し片手に焼いてくれたヒュドラ肉の実食中である。自ら命を投げ出すレベルで救いに行った、最愛の女の子の手料理。有難みの極み!

 

なのだが。

 

「ウグッ・・・ッ」

 

最高級ステーキのようで、とても美味しそうな見た目をしているが、猛毒を直接喰らう様な激痛に襲われる。これはユエの調理スキルが致命的に悪いとか、ダークマター作っちゃう系ヒロインとか、そんな訳ではない。最下層のラスボス、ヒュドラが常軌を逸した、通常の魔物よりも頂上の力を有していたから起こる、晴香の肉体の破壊と再生の急成長だ。

 

2か月も食べ続けているのに収まらないこの激痛。他の魔物では一度食せば成長しづらくなるのだが、ヒュドラは別格であった。

 

というか、そもそも魔物肉自体猛毒の塊なのだが、この際は伏せて置く。

 

「・・・大丈夫?」

「あり、がと」

 

心配そうなユエが、晴香の背中を撫でながら【神水】の入った水差しより注がれたをコップを差し出す。お礼を言って飲み干すと、再度齧り付いた。この様な食生活を続けているので神水の消費がかなり多い。このままでは、今後は【神水】の使用は真剣にならざるを負えなくなるが・・・

 

「・・・ん、飲んで」

 

と言う風にどんどん消費されて行く。もしステータスに技能があったなら固有技能【無表情】をカンストしたユエ様をしても笑顔で混乱してしまう、この世界に広めたら魔法版産業革命が勃発する様な革新的技術革新があったのだが、それは後程語られるだろう。

 

「はぁ・・・2か月も食べてるのに、この激痛。ヒュドラ強すぎ・・・」

「ん・・・あれは本当に別物」

 

ユエがヒュドラ戦を思い出す様に、そういった。バランスの良い構成での連携攻撃、強力ばバットステータス攻撃、ラスボス宜しく第二形態の最後の銀紋章。他の解放者たちの合作と言ったユエの言葉は間違っていない。やがてヒュドラ肉を食べ終えた晴香は、ポケットからステータスプレートを取り出し、どれ程変化したかを確認する。ヒュドラ肉を食せば必ず発生する激痛なので、どれほど成長したのかを確認するのが、食事後の日課であった。

 

===========================

綾瀬晴香  17歳 女 レベル:???

 

天職:錬成師

 

筋力:12030

体力:15100

耐性:11680

敏捷:15420

魔力:18095

魔耐:18095

 

技能:錬成

   [+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+イメージ補強力上昇]

   [+鉱物分離][+鉱物融合][+精密錬成][+複製錬成]

   [+圧縮錬成][+消費魔力減少]

 

  ・弓術

   [+命中率補正]

 

  ・限界突破

  ・生成魔法

 

  ・火属性適性

   [+効果上昇][+魔力消費削減]

 

  ・土属性適性

   [+効果上昇][+魔力消費削減][+持続時間上昇]

 

  ・全属性耐性

  ・魔力操作

   [+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]

 

  ・魔力感知

   [+特定感知]

 

  ・魔力遮断

  ・高速魔力回復

  ・魔力変換

   [+体力][+治癒力]

 

  ・胃酸強化

  ・気配感知

   [+特定感知]

 

  ・気配遮断

   [+幻踏]

 

  ・熱源感知

   [+特定感知]

 

  ・熱源遮断

   [+熱幻操作]

  ・毒耐性

  ・麻痺耐性

  ・石化耐性

  ・恐怖耐性

  ・纏雷

  ・天歩

   [+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]

 

  ・風爪

  ・夜目

  ・遠見

  ・金剛

  ・威圧

  ・念話

  ・先読み

  ・剛腕

  ・追跡

  ・言語理解

  ・異界収納

   [+重量無制限][+内部時間停止][+遠隔収納]

   [+遠隔召喚]

===========================

 

祝い!レベル不明に到達しました!!!!

 

魔物の肉を喰った晴香の成長は、初期値と成長率から考えれば明らかに異常な上がり方。ステータスが上がると同時に肉体の変質に伴って成長限界も上昇していったと推測するなら遂にステータスプレートを以てしても晴香の限界というものが計測できなくなった。これを一つの目標にしていた晴香は思わずにっこり。

 

化け物街道まっしぐらである。

 

ちなみに、勇者の限界は全ステータス1500といったところで、限界突破の技能で更に三倍に上昇させることができるが、それでも約4倍の開きがある。しかも、晴香も魔力の直接操作や技能で現在のステータスの三倍から五倍の上昇を図ることが可能であるから、如何にチートな存在になってしまったかわかるだろう。

 

現在のステータスを哨戒した序に、新装備についても少し紹介しておこう。

 

まず、晴香は【宝物庫】という便利道具を手に入れた。

 

これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は晴香の【異界収納】の道具版である。空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出すことができる。

 

空中リロードも、【異界収納】を取得している晴香にとっては全くと言って良いほど必要でない道具である為、内部の素材やアーティファクトやそのほかに必要な物を全て【異界収納】に移すと、ユエにプレゼント。これからはユエの宝物庫となる。

 

次に、晴香は魔力を動力に変換し動作する【二輪】と【四輪】を製造した。

 

これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。

 

二輪の方は原付しか乗った事が無く、構造などそれ以外に余り興味が無かったため、ソレっぽくデザインされた【おりじなりてぃ~】溢れるものとなった。しかし、漫画の様にゴテゴテでもなければ、アニメの様に蒼い龍も居ない。いつも通りの実用性追求と、今回は乗り心地に力を入れた力作である。なので安定性も求めて大型化し、世紀末の暴走族が付けるような派手さは無いが、椅子が設置されていたりする。

 

尚、原付に慣れているのでアクセル一捻りで動く方式を採用しており、クラッチ等は搭載していない。更に言えば、魔力の直接動作も可能の使用となっている。

 

名前は【魔道駆動二輪】とした。

 

四輪は親の乗っているベゼルを意識してデザイン。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていた、この世界最高硬度のアザンチウム鉱石で表面をコーティングしてある。おそらく06レールガンの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。

 

名前はベゼルが元だから【斃逝瑠】とか、そんなのにしようかと考えたが、なんか微妙なので却下し、結局【魔道駆動四輪】に落ち着いた。

 

史実では【魔力駆動】であったのに対して、晴香が制作したのは【魔道駆動】なのかというと、それは、この二種類には晴香が製作した【魔力変換電動機】が搭載されている。()()()()()製作されたのが【分巻き直流モーター】であり【纏雷】やその他の魔法を【生成魔法】で付与してアーティファクト化。魔力を電気に変換して、その電気を誘導電流にして回すのだ。消費する魔力は運転手や同乗者が供給する事も可能だが、ガソリンタンクの様に【液体魔力(神水のこと)タンク】が搭載されているので、態々自前の魔力を消費する必要が無い。

 

神水を霊薬と扱う聖教教会関係者がこの現状を知れば、間違いなく神敵認定一直線であろう。

 

因みにだが、速度は魔力消費量に比例する。

 

更に、この二つの魔道駆動は車底に仕掛けがしてあり、魔力を注いで魔法を起動すると地面を錬成し整地することで、ほとんどの悪路を走破することもできる。また、ハジメ作のように武装が満載されている。銃も自前で用意できるように、晴香は女の子と言えどもミリタリーはかなり明るい。なので、様々な火器兵器を搭載した。

 

しかし、これらに対しては不満がある。確かに高速で移動できるのは良い事だが、それでも陸上。うねる道もあれば迂回しなければならない事もあるだろう。晴香は、最初っから航空機がお望みであった。だがしかし、航空力学や流体力学、ジェットエンジンの仕組みをちょっと知ってるだけで、ジェット燃料の元となる石油もなければ、それを魔法で再現する事も出来なければ、詳細な設計図や制御方法も知らない。これでは到底作れるはずもなく、泣く泣く諦める他なかった。重力魔法を取得するまで大人しくする。

 

制作過程では、適度にユエにも構っているので、拗ねる事はなかった。と言うのも、この車両たちはユエと共用する物だ。ユエの意見も積極的に取り入れられており、その為にも制作に協力してもらっている為、常に一緒に居たからである。

 

魔眼石―――これは、作らなかった。

 

代わりに【魔眼帯】を制作した。

 

機能は史実同様、神結晶に【魔力感知】と【先読み】が付与してある。晴香はヒュドラ戦で右目を失ってないので、魔眼石の代わりとなるアーティファクトは絶対必要と言う事で、目は正常なのに眼帯を付けるという厨二的装備となった。

 

何処かの恋がしたいを思い出す。

 

魔眼帯を制作した当初は、魔眼石の様に魔法の核が見れなかったら最悪、目ん玉繰り抜いて神経を引っこ抜く事も考えていた。が、眼帯を通しての疑似神経の接続が可能であったため、鮮明に魔法の核を見れるので杞憂であった。

 

もし必要性があれば、若干躊躇いながらも引っこ抜くと言い切る晴香は、もう、いろんな意味で超越者だ。

 

因みに、魔眼帯と名がある通り、眼帯に直接神結晶が接続されているため、青白い光が漏れる心配もない。体外装着の為、就寝時や入浴時には着脱可能であるとの利点が存在するが、眼帯の紐が戦闘中にでも切れてしまえば使えなくなってしまうというデメリットもある。なので、アザンチウム鉱石を極細のワイヤーにし、ソレを弾力及び物理耐性抜群の鮫型の革に編み込んで、ゴリ押しとばかりに【金剛】も付与した事から、ちょっとやそっとでは壊れない、文字通り【世界最高(最硬)の眼帯】になった。

 

 




次回!ユエ様が仰天した神水についての秘密が明かされる!


―――諸君、衝撃に備えろ・・・(ただしトータス世界の住民に限る)


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36話 旅立ち

おはようございます!

久しぶりの連日投稿・・・っ!


左腕は健在なので義手はない。が、代わりに様々なギミックが施されたガントレット、グリーブ、胸当て等を備える事となる。どれにも生成魔法で編み出した特殊な鉱石を大量に使用した、世に出れば間違い無く国宝級の防具になるだろう。しかし、これは魔力の直接操作ができる人間でないとギミックを動作できないので、常人には唯、異様に頑丈なだけの防具である。

 

黒を基調とした白のラインが奔る防具、白髪、眼帯、そして魔法。晴香は完全に厨二キャラとなった。

 

鏡で自分の姿を見た晴香は絶望・・・せず、寧ろ結構カッコイイ?と思ってたりする。本当の戦闘に耐えきれる防御力などを備えるそれらは、紛れもなく本物の防具。白髪だって覚醒した証。眼帯は今後様々な場面で活躍する新装備。唯の厨二ではなく、本当に発動する魔法。

 

ちゃちぃコスプレ衣装を着た厨二とは完成度が違うのだよ、完成度がっ!!

 

なんて思いながら決めポーズを取っている所を、ユエが生暖かい目で見ていたのは別の話だ。

 

次は新兵器についてだ。

 

【44式50mm狙撃砲】はアザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも洞窟内使用は殆ど発生しないので3mに改良した。【遠見】と【先読み】の固有魔法を付加させたフロント水晶(史実潜水艦の窓になった透明で高硬度の水晶)製レンズを別々に生成し創作したスコープも取り付けられ、更に口径を大型化させて砲身を50mmからロマンの88mmに変更されている。実射試験は行っていないので最大射程は10km以上となっている。

 

名称も【44式改88mm追尾狙撃砲】に改められた。

 

また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式多銃身機関砲を開発した。空飛ぶ戦車の異名を持つ【A-10サンダーボルト】と同様の口径30mmと、七砲身では無いが、回転式六砲身を持つ、毎分12000発という化物だ。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石と熱に強いタウル鉱石を使っているが、それでも連続で10分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。

 

名を【10式30mm多銃身機関砲】とした。

 

他にも面制圧等を主目的としたミサイルとその射出機を開発した。長方形の砲身を持ち、後方に六連式回転弾倉が付いており連射可能。弾頭には【熱源感知】を付与した鉱石が仕込まれており、熱を発する目標に対して自動追尾・誘導する誘導弾の他、様々な弾頭が存在する。

 

06式の対となるリボルバー銃【60式回転式拳銃】も開発された。今まで作るとは言っていたが、06式だけで片が付いていた為完全に忘れていた為である。これで晴香の基本戦術は06・60の二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。典型的な後衛であるユエとの連携を考慮して、接近戦が効率的だからだ。

 

もっとも、晴香は武装すればオールラウンドで動けるのだが。

 

他にも様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させた―――

 

なんてことはない。

 

では、新たに神結晶を発見したのか、と問われると違う。

 

枯渇しないその理由は、オスカーの住処を出て壁を見る。そこは、壁は一面が滝になっていた(漫画2巻を参照)。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいくのである。これをみて、晴香は閃いた。

 

 

 

魔力を【纏雷】で電気に変換できるなら、電気を【纏雷】で魔力に戻せるのでは?

 

 

 

実験を繰り返して、それは成功する。生成魔法で【纏雷】を付与した特殊なアーティファクトを制作し、銅を利用した実験レベルの簡単な発電機を手動で回すと、流れ出た電気がアーティファクト内で魔力に変換され、放出されるのを【魔力感知】で確認。これを知って、晴香は飛び跳ねるレベルで感激した。

 

発電機を回す動力は、巨大な滝を利用できる。自然(人工的に作られた滝だが)エネルギーを用いれば、態々自分で回す必要もない。滝のエネルギーは膨大だ。その力をもって、大型の発電機を動かせれば、得られる電気も大量。それを返還出来れば、得られる魔力も膨大。さらに、この滝は尽きる事なくずっと流れている。つまり、24時間365日連続稼働が可能となるのだ。

 

と言う事で、晴香は滝のど真ん中に10機の水力発電器を設置し、電力を確保。その電力を変換器で魔力に変換。変換された魔力を、尽きかけた神結晶内部に直接流し込むことで、大量に溜まっていく魔力が飽和状態を起こす事により【神水】が生産されたのだ。接続さえしていれば、何らかの要因で故障することが無い限り、半永久的に【神水】を量産する。

 

効果も変わらない【量産型神水】が日に約10Lも生産される。

 

しかし、一つしかない神結晶では量産効果が薄い。

 

 

 

と言う事で、神結晶を作る事にした。

 

 

 

神結晶は魔力そのものの塊。なら、元から塊の神結晶の一部を採取し、それに変換機を接続して魔力を大量に流し込まれれば良いじゃない!と言う事でやって見ると、神結晶は日に日にどんどん大きく成長していった。そして、大体30~40cm程の大きさで成長が停止すると、数日後には神水の生産を開始する。

 

得られる神水の量も、発電機の数と変換効率に比例してどんどん増えて行った。

 

神水生産の副次効果で神結晶の量産も可能となった。

 

喜々として発電機を開発する晴香に、何をしているのか分からないユエが、これは何をしているの?と聞くと・・・

 

「あれは、神結晶と神水を量産するアーティファクトだよ!」

 

と、満面の笑顔で返されたユエは、

 

「・・・ごめん、ちょっとなに言ってるのか分からない(にっこり)」

 

微笑みを浮かべた。

 

ユエにとっても神結晶とは秘宝。約1000年の時を経てゆっくりと結晶化した魔力が、更に数百年魔力を取り込むことによって漸く生み出される、あらゆる病気や傷を完治させる霊薬―――神水を生み出す、奇跡の物質だ。晴香と初めて出会った際、神結晶を所持している事を知ると外面は兎も角、内面は驚愕・驚嘆・仰天であった。

 

そんな神結晶や神水を、言うに事を欠いて【量産】?・・・

 

「あの滝に突き刺さってるアーティファクトは【水力発電器】っていって、水の動く力で電気を精製するものなの。ちょっとそれるけど、【纏雷】って魔力を電気に変えてるの。なら、逆に電気を魔力に変えられるかな?ってやってみたら変えられてね。アレに纏雷の逆変換アーティファクトをくっ付けて、魔力を量産して、その魔力を神結晶に無理矢理送り込み続けると、内部で魔力飽和が起こって神水を作り続けるんだよ」

 

神結晶の欠片を接続すれば、成長させることも出来るんだ、とペラペラ語った晴香・・・

 

「・・・なるほど。やっぱり、わからない(にっこり♪)」

 

晴香が銃という魔法よりも強力な兵器を作ることは知ってるし、神代魔法の生成魔法を習得してアーティファクトを作れる事も知っている。でも、やっぱり神秘の結晶的な意味合いが強い神結晶や神水の量産?

 

ユエは笑顔で混乱している!

 

―――と、いうことがあった。

 

現在は滝を形成する水路弄り、直接高落差から水圧管を通して大型水力発電器の水車を回す方式に切り替えてあり、初期に設置した発電機は神結晶育成機となっている。なお、大型水力発電器は5基設置され、24時間運転を続けており、日に約1000L以上の神水を生み出している。

 

それと、新たに作り出された量産神結晶を圧縮し、錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、魔力タンク兼アクセサリーにしたのである。そして、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。

 

尚、30~40cm級の神結晶をそのまま圧縮しているため、本家使用の魔結晶シリーズよりも数十倍の魔力をストックできるようになっている。それもこれも【神結晶量産】と言う名のイレギュラーが成功してしまったためだ。

 

それ以外にも、可愛らしいアクセサリーに加工する事で、ユエが喜んでくれたら嬉しいな、と思いつつ制作した。好きな人へのプレゼントなのでデザインも凝っている。

 

ユエに【神結晶シリーズ】と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、そのときのユエの反応は・・・

 

「っ!・・・プロポーズ?」

 

予想通りの反応で晴香がにやりっと笑った。

 

「ふふ、()()()純粋に装備品のプレゼントよ。これがあれば、魔力枯渇に陥ってもユエは守れるでしょ?」

「・・・そう・・・ハルカ。ありがとう・・・だいすき♡」

「私も大好き♡」

 

本当にもう爆発しちまえよ!と言われそうな雰囲気を醸し出す二人。いろんな意味で準備は万端だった。今夜は燃えた。

 

それから20日後(史実ハジメよりも10日ほど早く覚醒して探索を始めていた為、時間があった)、漸く晴香とユエは地上へ出る。三階の魔法陣の部屋へとやって来た。

 

「・・・ハルカ」

「どうしたの?」

「これから先、私はずっとハルカのものだし、ハルカも私のもの・・・」

「当たり前でしょ。(あ、あれ?どこかで聞いたフレーズ・・・)」

 

晴香がそういった途端、ユエの目が重力魔法【禍天】の如く暗黒に染まった。全ての光をも飲み込む深淵が、ユエの瞳に・・・

 

「ナンカコノ後、巨乳ノウサ耳ヤド変態ヤソノ他ガハルカヲ狙ッテ来ソウナ気ガシテ・・・」

「う、うん(ご、ごめんなさいユエ。そうなる様に調整してるの私なの・・・!)」

 

―――なんて口が裂けても言えない。

 

「今ノ内二唾ツケトコウカト」

「良いよ・・・ちょっと休憩しよっか」

 

その後、地上に戻る前の休憩として十数分だけ黒い愛に溺れた。ハイライトが存在しない暗黒の瞳に見つめられながらの過激な愛情表現に、晴香は・・・

 

『ヤンデレ堕ちユエちゃんマジパないっす。最高した・・・』

 

と、内心超ゾクゾク、しかし背筋を震わせながら語る。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「んっうんっ!」

 

咳払い。

 

帰還の神妙な雰囲気が消し飛んでしまったので、気を取り直し、魔法陣を起動させる。この時のハジメのセリフを何時か言ってみたいと思って暗記していた晴香は、内心興奮しながらユエに静かな声で告げる。

 

「ユエ・・・私達の武器や力は、地上では異端。聖教教会や各国が黙っているということはない」

「ん・・・」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん・・・」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共と敵対するかも」

「ん・・・」

「世界を敵にまわす命がけの旅。文字通り命がいくつあっても足りないぐらい危険な」

「今更・・・」

 

ユエの言葉に目を細める晴香は、真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、晴香は一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、未来への望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「私がユエを、ユエが私を守る。それで私達は最強。全部なぎ倒して、世界を越えましょう」

 

晴香の言葉を、ユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、

 

「んっ!」

 

 




※本編とは関係ありません





ハルカ
「噛まずに言えた!(感激)」
ユエ
「・・・練習してたの?」
ハルカ
「そうだよ!」
ユエ
「・・・そう(生暖かい目)」


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37話 ライセンで

おはようございます!
誤文字報告ありがたいです・・・(感激)


魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる久しぶりの空気に晴香の頬が緩む。やがて光が収まり目を開けると、

 

奈落と同じ洞窟であった。

 

「秘密の通用路、だね」

「ん・・・」

 

調べると、綺麗な縦線の刻まれた壁があり、晴香の目線には七角形が描かれていた。頂点には様々な解放者たちの紋章が刻まれており、その頂点にはここ数か月、ほぼ毎日見て来た【オルクス】の紋章があったので、攻略の証である指輪をかざす。すると、雰囲気たっぷりにズゴゴゴっと壁が左右に割れて、奥の通路を晒した。

 

晴香とユエは顔を見合わせて頷くと、その通路を進む。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。二人は一応警戒していたのだが、何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。晴香はこの数ヶ月、ユエに至っては300年間、求めてやまなかった光。

 

晴香とユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いににこっと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。晴香は【空気が旨しい】という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

そして、晴香とユエは同時に光に飛び込み・・・待望の地上へ出た。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は1.2km、幅は900mから最大8km、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

【ライセン大峡谷】

 

晴香達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた晴香とユエの表情が次第に笑みを作る。

 

無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。300年ぶりに見る、この大地と蒼穹の大空は、ユエにはどの様に映ったのか。それはきっと、言語化できない万感の思いに違いない。

 

「地上、ね・・・」

「ん・・・」

 

二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よかったね、ユエっ!」

「んっ――!!」

 

小柄なユエを抱きしめたまま、晴香はくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

ようやく二人の笑いが収まった頃には、すっかり・・・魔物に囲まれていた。

 

「ふぅ~・・・ユエ、魔法はどう?」

「・・・分解される。でも力づくでいく」

 

ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。しかし、ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである神結晶シリーズを所持している。

 

つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい。

 

「効率は?」

「・・・10倍くらい」

 

史実と同じく、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「ありゃ。それは駄目ね、私が守るからもしもの時に備えてて」

「うっ・・・でも」

「魔法職には辛いでしょう?それに、私がユエを守るって誓ったしね」

「ん・・・わかった」

 

ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。そんなユエの様子に苦笑いしながら晴香はおもむろに06を通常発砲した。相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の一体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。

 

あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の一体が何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。

 

その間にスっとガン=カタの構えをとり、両手系計11発を全て解き放つ。響き渡った銃声と共に十一条の閃光が走り、射線上に存在した魔物の頭部が消し呼ぶ。

 

そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く頭部を吹き飛ばされ骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 

06・60を太もものホルスターにしまった晴香は、一言。

 

「よっわ」

 

知っていても呟かずにはいられなかった。そんな晴香にユエがあきれた視線付きで一言。

 

「・・・ハルカが化け物」

「あはは・・・」

 

そうなんだよね・・・と苦笑いした晴香は、もう興味がないという様に魔物の死体から目を逸らした。

 

「さて・・・どうしよっか?ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮がある場所だけど。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進む?」

「・・・なぜ、樹海側?」

「峡谷を抜けて、いきなり砂漠横断になっちゃう。でも樹海側なら、町にも近そうだし。」

 

本当はシアと合流したいから。とは言えないので、もっともらしい理由を述べる。実際、樹海側に向かえば【ブルックの街】が存在するので嘘は行っていない。樹海の反対方向にはアンカジが存在するが、優先するべきはシアである。

 

「・・・確かに」

 

晴香の提案にユエも頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。晴香の【空力】やユエの風系魔法を使えば、絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

 

晴香は【異界収納】より魔道駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りして晴香の腰にしがみついた。

 

地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力を【纏雷】で変換して得た電気で電動機を回しているので、駆動音は電気自動車のように静かである。ちなみに速度調整は魔力量次第である。晴香自身が直接魔力を注いでいるのではなく、内部に内蔵された【魔力水タンク】より供給されるため、仕様はガソリン車のようなものだ。ただ、CO₂や温室効果ガスを排出しないクリーンなエコバイクである。

 

因みに【オルクス大迷宮】から出ればライセン大峡谷だと知っていた晴香は、【魔力水タンク】から【変換器】に至るまでの間で魔力が霧散するのを防ぐ為、外部装甲と機構の間に【魔力遮断】を付与した特殊鉱石を挟んでいる。なので魔力効率が最悪に悪くても特殊鉱石に挟まれた変換機構の魔力効率は変わらない。

 

速度を上げれば上げるだけ魔力を多く消費して【魔力水タンク】内部の魔力は減るが、特殊鉱石に囲まれているお陰で霧散する事無く、変換後は魔力を含まない唯の電気のために霧散することがない。霧散するのはあくまでカバーをせずに【纏雷】などを使用するからである。

 

ライセン大峡谷は大陸を横断するように、東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。晴香たちは迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の地ならし機が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

「・・・気持ち良い」

「ふふ、そうだね・・・」

 

かなりの速度で走っても、一定以上の強さの風は通さない半障壁が展開されている為、微風が吹き抜ける程度であり、ふさぁっとユエの髪を揺らす。やはり空気が違う為か、とても優しい風に感じる。だからだろう、ユエは目を細めてまったりモードだ。そんなユエに釣られて晴香もまったりしてはいるが、手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らしている。

 

魔物の悲鳴と発砲音のBGMは如何かと思うが、奈落で散々経験している晴香とユエは慣れっこであり、これも一つのリズムと捉えてのんびり。

 

殺意溢れる殺伐な一時を過ごした弊害だろう。

 

「・・・ハルカ?」

「いや、迷宮が見つからないな~と」

 

勿論迷宮を探しているが、本命はシアである。これから先でユエの妹部にまで成長を遂げるキーパーソンだ。彼女を確保しなければ、ライセン迷宮は無論、ユエの心許せる相手がいなくなってしまうのは、晴香的に良くない。本心では、ユエは私だけに依存してくれればいいと思っている。だが、晴香以外にも仲良くできる相手がいた方が、ユエの為になる。

 

オスカーの住処を出た時期は、史実ハジメさんと同時期に旅立ったはずなので、ちゃんと会えると思うが果たして―――

 

しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画す。もう三十秒もしない内に会敵するだろうが、これは彼のダイヘドア(双頭ティラノ擬き)だろうか。このタイミングで快適と言う事は、もしかすると合流できるかもしれない。

 

魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。それは、晴香の予想した通りダイヘドアであったが、真に注目すべきはダイへドアではない。その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女―――シア・ハウリア―――だろう。

 

晴香は魔力駆動二輪を止める。

 

晴香が二輪を止めたので、この【ライセン大渓谷】で少しは骨のある魔物と会敵したのか、と気になったユエがひょこりと晴香の肩越しから視線を魔物の方向に向け、そんなに強そうでもないと判断を下した。魔物の下には死にかけの小さな魔力反応があり、これを捕食するのかな?と一瞬だけ視線を向けた。

 

向けてしまった。

 

ユエは見てしまったのだ。魔法陣を起動する際に預言してしまった【ウサミミ】を。自身の言い放った言葉が、本当に現実してしまった事に対して運命を呪う。それはもう、封印される運命以上に!

 

「・・・早速でたな!?私は吸血姫ユエ。残念そうなウサギでも容赦はしない女!!」

 

そして、ユエは凝視する。注目するのはウサミミではない。はち切れんばかりにたわわに実った二つの凶器を。黒い感情が湧き出る。捥げてしまえ―――否、私が捥ぐ!!瞬時に魔力を練り上げ、ズタズタに削ぎ落す為に丁度良さそうな【風帝】を発―――

 

「もぅ、ほらユエ落ち着いて・・・」

「・・・・・・むぅ」

 

―――動仕掛けた所で晴香がインターセプト。無理矢理発動しようとした魔法を止めさせ、シアの胸は救われた。

 

「それで、如何しよっか?助けて樹海の案内人にでも仕立て上げる?」

「・・・・・・ん・・・その後は、奴隷?」

「あはは・・・」

 

思わず苦笑いの晴香であった。

 

しかし、我の姫ユエ様は、中々に酷い事を言いなさる。

 

なんて呑気な晴香とユエをシアの方が発見したらしい。ダイヘドアに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま晴香達を凝視している。

 

「―――見つかったぁ(渋い声)」

「ハルカ・・・?」

 

黒服サングラスが超高速で追いかけて来る、かなり印象深い番組のナレーターの真似だが、流石に判らないようだ。

 

それは兎も角、彼女は再びダイヘドアが爪を振るい隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出す。晴香達の方へ。それなりの距離があるのだが、シアの必死の叫びが峡谷に木霊し晴香達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろにはダイヘドアが迫っていて今にもシアに食らいつこうとしていた。このままでは、晴香達の下にたどり着く前にシアは喰われてしまうだろう。

 

「案内人が死にそうだから、助けるとしましょうか・・・」

「ん・・・大事な資源は、無駄にしない」

 

奴隷=資源?

 

旅立ちの際に預言してしまった【巨乳ノウサミミ】との遭遇が現実してしまったためか、如何やら今日のユエ様は暗黒面らしい。

 

それはそれでイイ。

 




※本編とは関係ありません






シア
「だずげでぐだざいいぃぃいいいっ!!」
ユエ
「だが断る!―――【風帝】!!」
シア
「胸がッ、アァ―――――ッ!?!?」

と言う未来が一瞬過ったと、シアは後に語る・・・


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38話 禁忌の言葉(バルスでは無い)

おはようございます!
お気に入り登録400を突破!祝
ありがとうございます(>_<)


「取り敢えず、助けるよ~」

 

スッと自然に照準がダイヘドアを捉える。そして連続で発砲。ここライセン大渓谷では魔法を構成しようとすると魔力が霧散してしまうという魔法職殺しの場所であり、それは固有魔法でも体外で作用させる魔法であれば、この効果が発揮されてしまい【纏雷】による電磁加速では普段の約10倍もの魔力と消費してしまうため、通常発砲による攻撃だ。

 

しかし、通常攻撃だとしても12.7mm50口径。そして異世界鉱物タウル鉱石製フルメタルジャケット弾は、奈落ならまだしも地上の魔物に対しては高価は絶大。

 

何が起こったのか理解できずにダイヘドアは意識を永遠の闇に落とす。頭部が爆散し、力を失った胴体が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。ダイヘドアはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

 

その衝撃で、シアは再び吹き飛ぶ。

 

狙いすましたように晴香の下へ。

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ~い!」

 

眼下の晴香に向かって手を伸ばすシア。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも迷いなく受け止めてあげるのが優しい女性なのかもしれない。

 

が、

 

「ごめんね~」

 

しかし、そこは晴香クオリティー。一瞬で魔力駆動二輪を後退させると華麗にシアを避けた。

 

助けるとか言っておいて結局助けないのかよ!と思われる行為だが、ダイヘドアから()()ちゃんと救ったので、これ以上の救済は必要でないと判断したのだ。それと、どんな女性でも自分だけを特別扱いしてくれる者(本当は男性だが今回の場合、晴香は女性なので【者】としておく)を好意的に捉えるようであるからして、暗黒面に染まるユエを更に深淵に堕とさない為にも受け止めることはしなかった。

 

考えて欲しい。シアのあずかり知らぬ所での話であるが、一瞬でもユエを暗黒面に落とした相手(シア)が、奈落の底で苦楽を共にし、一蓮托生のパートナーとなった最愛に受け止められて助けられる。優しい、と言えばそれまでだが、現在は自分だけを特別視して欲しいと思っているユエの前で、そんな事は、晴香は出来ない。

 

というかしたくない。

 

ユエとの立場が逆だったら、と考えたら、晴香は多分シアに嫉妬するだろうから。

 

自分で言うのもアレだが、女性は本当に面倒くさい生き物である。これは女性じゃなければ分からない問題かもしれないが、当時のシアを避けたハジメさんはファインプレーだったろう。

 

晴香的には、もっとユエから嫉妬されたい立場。嫉妬や愛憎なんかは果てしないご褒美である。しかしこれとそれは別。

 

「えぇー!?」

 

そんな事を考えてる間にシアは驚愕の悲鳴を上げながら晴香の眼前の地面に落下した。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

まるで車に引かれた蛙のようだ。

 

「・・・面白い」

 

ユエが晴香の肩越しにシアの醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。存在自体がギャグの塊のようなシアに影響されてか、黒い雰囲気は何処かへ旅だったようだ。

 

「な、なんで助けてくれないんですかっ!?」

「いや、助けたよ?(命は)」

「ん・・・」

 

晴香が顎をしゃくり、ユエが指を指して、そういえばと思い出したシアが恐る恐る振り返る。すると「へっ?」と間抜けな声を出して絶句した。自分を食料にせんがために散々この大渓谷を追い回してきたダイヘドアが、いつの間にか頭部を爆散させて血の海に沈んでいるのだから。

 

「し、死んでます・・・あの、ダイヘドアが・・・」

 

シアは驚愕を表に目を見開いている。それを横目に、晴香が話しかけた。

 

「それで、残念ウサギちゃん。君の名は?」

「残念ウサギとは何ですかっ!―――って!そうでした!先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。帝国兵から追われ、魔物にも追われて確か40~50人くらいしか生き残ってなかったと認識している晴香。考える様に空を見上げた晴香に、シアがしがみついて懇願した。よほど必死なのか、助けてくれると言うまで絶対離さない、と言わんばかりの握り強さである。

 

「・・・私のハルカに、触れるな!」

「アダっ!?は、放しませんよっ!!」

 

そんなシアに相当強くユエが蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

「はぁ~、それで、取り敢えず理由は聞きましょうか。だから、その汚い顔を私の服で拭こうとしないで?」

 

どの道、助けるつもりでいたが、ユエは事情を知らないので取り敢えず促す。すると、話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは喜々として語ってくれた。なお、さりげなく晴香の服で顔を拭こうとしたことはインターセプトされた模様。

 

でも離さないのでユエが【風弾】を放った。

 

「・・・いい加減にして」

「フビュラッ!?―――ま、魔法撃ちましたね!?父様にも撃たれたことないのに!よく私のような美少女を、こうも雑に扱ってくれましたね!?」

「いや、兎人族なんだから魔法は使えないでしょう・・・って、え。美少女?」

 

晴香の目には顔面土砂崩れのボロボロ雑巾が映っている。それはもう酷い具合に崩壊しており、カリ〇ォル〇アダ〇ンの都市の様にぐしゃぐしゃだ。とても美少女には見られない。と言うか、晴香はここ数か月ずっと、女神と言う言葉すら生温い表現法へと成り下がるほど、美を超越した美少女のユエと一緒にいた。夜でぐしょぐしょになって色々乱れていたとしても、その美しさは失っておらず、艶やかさが増す始末である。

 

なので、ぐしょぐしょ処かぐしゃぐしゃなシアは、単にレベルは比較的高いけど酷く残念な少女以上の評価にしかならなかった。

 

ユエに慣れると、通常のシアですら村人Aの様に霞んでしまうのである。

 

「美少女でしょう!?」

「いや、ユエの方が可愛いし、シアなんかより美少女だよ」

 

晴香も酷かった。

 

何かとは何ですか!!と抗議するシアを無視した晴香は隣のユエを見る。ユエは晴香の言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンしていた。腰辺りまで伸びたゆるふわの金髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、ビスクドールの様に整った容姿が今は照れでほんのり赤く染まっていて、見る者を例外なく虜にする魅力を放っている。

 

可愛い+微笑ましい=愛でたいという欲求。と言う事で、頭をなでなで。途端、晴香とユエを中心とする半径3mは幸せな桃色の空間へと早変わり。

 

格好も、晴香が用意していたシンプルな服一式ではない。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート。その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソであり史実と同じファッションだ。どれも、オスカーの衣服と魔物の素材、更に晴香の特注アザンチウム鉱石製極細ワイヤーを繊維にした金属布を合わせた複合服となっており、神結晶の装飾もあしらわれた、晴香が素材を、そしてユエが仕立て直した逸品だ。

 

下手な防具よりも高い耐久力を有する、戦闘で役立つ衣服である。

 

更に、オスカー作の【黒傘】の様に神結晶を装飾として取り入れている為、服に受けた魔法攻撃の魔力を5~4分の1程度だが吸収する特性もあり、毎度の事【金剛】と神結晶には【高速魔力回復】が生成魔法にて付与された、金属鎧のアーティファクトにも劣らない防護服となっている。

 

ちなみに、晴香は黒に白のラインが入ったコートと下に同じように黒と白で構成された衣服を纏っている。これもユエとの合作だ。全体的にユエの衣装と似ているが、これはユエがペアルックにしたいとの意見でこのような形となった。なお、ユエはスカートを取り入れようとしていたが、戦闘中にひらひら翻るのは鬱陶しいと言う事で、ミニスカの下にパンツを履くスタイルとなっている。

 

出来ればズボンで良かったのだが、ユエ曰く『・・・ハルカも女の子。オシャレしなきゃ、メッ!』と言われてしまったため、今のスタイルに落ち着いた。

 

因みにだが、スカートは白黒のチェック柄となっていた為、悪ふざけで先端が赤いバールのようなモノを開発。髪も白なので、それっぽく構えれば本当にソレっぽく見える事で、コスプレでもしているようだと少し興奮した。しかも、異様に硬いシュタル鉱石製なので、鈍器にも投擲器にも使える一種の武器として戦う事も可能。

 

実際に実戦で使う事はないだろう。

 

話が反れてしまったので元に戻そう。そんな可憐なユエを見て「うっ」と僅かに怯むシア。しかし、客観的に見ればシアも美少女ではある。少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。

 

そして何より・・・晴香やユエにはないものがある。

 

巨乳だ。シアは大艦巨砲の持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっている凶器は、固定もされていないのだろう。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。ぶるんぶるんだ。念の為。

 

要するに、彼女が自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくないのである。むしろ、普通に・・・と言うか雑に接している晴香が異常なのだが、ユエの方が・・・と、シアがどれだけ美少女で巨乳だったとしてもユエの方が美少女であると言う、ある種の宗教的感覚に染まっているともいえる。

 

これでは【神山】の試練が突破できるのか試されるが、晴香が進行するとしたらエヒトなんていうゴミではなく、ユエが対象となる為、問題は無いだろう。

 

それは兎も角。

 

それ故に、矜持を傷つけられたシアは言ってしまった。言ってはならない禁忌の言葉を・・・

 

「で、でも!胸なら私が勝ってます!貴方なら兎も角、そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

 

 

――ペッタンコじゃないですか――――ペッタンコじゃないですか―――――ペッタンコじゃないですか――――――・・・

 

 

 

峡谷に命知らずなシアの叫びが木霊する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。ばりぼり魔物をごっくんするけど晴香も一応女なので、それほど気にしてなくとも胸を指摘されるのはイラッと来たがそれだけであった。

 

しかし、胸に関してはかなり気にしているユエは違かった・・・

 

 

 

 

 

 

ちなみにだが、ユエは着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。(これ重要)

 



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39話 一人じゃない

おはようございます!


――ペッタンコじゃないですか――――ペッタンコじゃないですか―――――ペッタンコじゃないですか――――――・・・

 

その事を特に気にしているユエに向かって紡がれた、最低にして最悪の禁忌の言葉。それは、彼の天空の城をも崩壊せしめた【バ〇ス】よりも破壊力をもって、ユエの心に風穴を開けた。

 

開けてしまった。

 

シア以上に矜持を傷つけられたユエは、震えるシアのウサミミに囁ささやくように声を掛けた。

 

――――・・・お祈りは済ませた? 

――――・・・あ、謝ったら許してくれたり・・・

――――・・・・・・・・・ 

――――死にたくなぁい!死にたくなぁい! 

 

「【嵐帝】」

「アッ――――・・・」

 

竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ!という音と共に晴香達の眼前に墜落した。頭部を地面に突き刺してびくんびくんする不気味なオブジェと化した禁忌ウサギには一瞥もくれず、ユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと晴香の下へ戻り、二輪に腰掛ける晴香を下からジッと見上げた。

 

「・・・おっきい方が好き?」

 

ユエは胸に手を添えて晴香を見上げる。最も望んでいる答えを願う様に。

 

なので、晴香は本心を語った。

 

ド直球に。

 

「正直に言うと並み位が好き。だから、私にとってユエのは最も好ましいサイズです」

 

あの、手の平にフィットする様なサイズが晴香のベストサイズ。思い出すのは、夜に毎日行われたベットの上の大運動会。ユエを後ろから抱き締め、胸に手を添えたときの、丁度覆い隠せるくらいの、あのサイズ感。

 

控えめに言って最高。

 

因みにだがここで胸のサイズを端的に表すと、

 

シア>晴香>ユエ

 

となる。

 

「・・・出来れば【嫌い】と言って欲しかった」

 

晴香は今の私のサイズが好きなのは凄く嬉しい。だけど、ユエからしたらもっと大きくしたいし、成りたい。シアくらいに、シアぐらいに!と、何方も優先したくとも出来ない葛藤で、とても複雑な面持ちだ。それはもう、苦虫を噛んでしまったかのように愛らしい表情が歪んでしまうくらい。その事が取る様に分かる晴香は、苦笑いしながら手招きし、ユエを膝の上に乗せて抱き締めた。

 

「ふふ、何れ大きくできる時が来るから。気長に待ちましょう?」

「・・・・・・・・・来る?」

「うん。大体一年以内に」

「・・・・・・どうして?」

 

当然の疑問だろう。答えは神代魔法の一つ【変成魔法】の習得だ。

 

「どうしてだろう・・・なんとなく、かな?」

 

史実通りに歩みを進めさせれば、大体同じ時期に全ての神代魔法を習得できるはずである。その為にも、出来るだけ時期を併せようと微調整を続けて来た影響が、こうしてシアと合流できた結果でもある。なら、これからもその調整を怠らなければ、一年以内に【変成魔法】の習得も可能だ。その為にも、鍛錬を怠る訳にはいかない。

 

今の所、将来に不確定要素がある為に、ユエに全ての情報を教える事が出来ないのが凄く苦しい思いだが、諦めてもらうほかあるまい。

 

「・・・そう」

 

どうしてか確信して断言した晴香を信じたユエは、背中を預けて寄りかかった。ユエとしては聞きたい事が多数あった。奈落の時から、妙に階層や魔物に詳しかったり、初見のはずなのに魔物への対処が出来てたり、生成魔法の習得の時もそんなに驚いてなかったり。今も思えば、脂肪の塊ウサギと出会ったのも予定調和じみている。

 

まるでこの先に起こる事を知っているみたい。

 

「ユエ?」

「・・・ん~ん、なんでもない」

「そっか・・・」

 

本当に知っているのかは分からないけど、晴香が私の隣にいてくれれば、それでいい。この先、私が晴香から離れる未来も、その逆も有り得ない。もし晴香が私から離れるとでも世迷言を垂らしたりでもすれば、絶対逃がさないし捕まえて監禁する。

 

「・・・吸血姫からは逃げられない」

「ふふふ、逃げないよ」

 

ぽんぽん、と頭を撫でられた。これがまた癖になr――――――

 

「あの~、私の事を忘れてイチャつかないでくれます?」

 

自然と始まった桃色空間。それに水を差す存在がいた事を完全に忘れていた。と言うか、お前なんかいたの?という視線がシアに突き刺さる。そして、

 

「「いたの?」」

「いましたよ!?」

 

言葉にも出された為にウサギが切れた。でも、直ぐに怒りは終息を迎える。今、この瞬間にもシアの家族は絶滅に瀕しているからだ。そして、漸く本題に入れると居住まいを正すシア。二輪の座席に腰掛ける晴香達の前で座り込み真面目な表情を作った。色々ボロボロな為、全く真面目に見えないが。

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアと言います。実は・・・」

 

語り始めたシアの話を要約するとこうだ。

 

 

 

【私が生まれちゃったから、諸々の要因で一族諸共絶滅しそう!だからタスケテ!!】

※詳しく知りたい人は、原作を読んでね!(>_<)

 

 

 

 

「・・・気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。仮定した未来等が見れる【未来視】と言う固有魔法が使用できるシアは、ユエや晴香と同じ、この世界の例外であり、特にユエと同じ、先祖返りでもある。

 

話を聞き終わった晴香は特に表情を変えることもなく端的に答えた。

 

「いいよ」

「え・・・ほ、本当ですか!?な、何かを対価に求めたり・・・」

「そりゃ求めるよ」

 

何を当たり前の事を、と晴香は苦笑い。フェアベルゲンから追い払われ、帝国からは追われ、厄介事のオンパレードである。そこに態々首を突っ込むのだから、対価を求めないはずがない。求めないとしたら唯の馬鹿か、阿呆勇者か、馬鹿な勇者くらいだろう。全部光輝だが、それは気にするべからず。

 

「私達が求めるのは、樹海の案内人。だから、案内の為に貴方達を雇うわ」

 

亜人族でないと必ず迷う樹海なので、兎人族の案内があれば心強い。

 

「・・・報酬は、貴方達の命」

 

ユエの要求が死神のようだった。が、しかしそれでも、この峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。

 

「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いします!そ、それでお二人のことは何と呼べば・・・」

「晴香。綾瀬晴香よ」

「・・・ユエ」

「ハルカさんとユエちゃんですね」

 

二人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。

 

「・・・さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

 

ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。ユエの視線がシアの特大級の脂肪の塊を憎々しげに睨んでいる。

 

これが理由だ。取り敢えず撫でて宥めさせる。

 

「それじゃぁ早く行こう。後ろに乗って」

 

膝の上に座る療養中のユエを撫でながら、シアに指示を出す。シアは少し戸惑っているようだ。それも無理はない。なにせこの世界に二輪と言う乗り物は存在しない。しかし、取り敢えず何らかの乗り物である事はわかるので、シアは恐る恐る晴香の後ろに跨った。そしていそいそと前方にズレると晴香の腰にしがみついた。凶器が押し付けられるが、特に反応する事無く走り出す。

 

もし、反応してしまったらユエに要らぬ疑いを掛けられかねない。

 

シアはハルカの肩越しに疑問をぶつける。

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが・・・この乗り物?何なのでしょう?それに、ハルカさんもユエさん魔法使いましたよね?ここでは使えないはずなのに・・・」

 

晴香は道中、二輪の事やユエが魔法を使える理由、晴香の武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、お二人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると」

「うん」

「・・・ん」

 

しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様に晴香の肩に顔を埋めた。そして、泣きべそをかき始めた。理由を知っている晴香だが、知らない事で通しているので、分からない風に聞くしかない。

 

「・・・あの~情緒不安定なのは構わないけど、服を汚さないでね」

「・・・手遅れ?」

「手遅れって何ですか!手遅れって!私は至って正常です!・・・ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら・・・何だか嬉しくなってしまって・・・」

「「・・・」」

 

シアは魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていた。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族。シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族。きっと多くの愛情を感じていたはずだ。だからこそ【他とは異なる自分】に余計孤独を感じていた。

 

シアの言葉を聞き、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙る。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。

 

ユエは、自分とシアの境遇を重ねて見ている。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において【同胞】というべき存在は居なかった。更に言うとユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアにはいるということだ。それがユエに複雑な心情を抱かせている。しかも、シアから見れば結局その【同胞】とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

 

本当はディンリードが愛してくれていたと言う事実を知る晴香は、その事を言いたくても言えない。更に言えば、今言った所でユエは信じないし、封印された際の思い出したくもない記憶を蘇らせることとなる。晴香の言った事が、かえってユエにダメージを与える事となるので、出来る事は【今は】一人でないことを示す事だけだ。

 

「大丈夫、ユエは一人じゃないよ。私が隣にいるから」

「・・・んっ」

 

ユエは、無意識に入っていた体の力を抜いて、より一層晴香に背を預けた。まるで甘えるように。

 

「あの~、私のこと忘れてませんか?ここは『大変だったね。もう―――「「五月蠅い」」―――はい・・・ぐすっ・・・」

 

今まで良い空気を邪魔された事がない晴香たちの返答は辛辣極まりない。二人の中に土足で入り込んだシアも悪いのだが・・・







後書きを描こうと思って、でも何書こうか分からなくなって・・・







ユエ
「バ〇スッ!(物理)」

―――ブジュィィイイイイッ!?!?(何かが引き千切れそうな音)

シア
「胸が~胸がぁ~ぁあっ!?!?」


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40話 合流

おはようございます!
誤文字報告ありがたいです(>_<)


二輪を進めると、暫くして遠くで魔物の咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようであり、その喧噪の中心にはシアの家族であるハウリア一族が総出で逃げ回っている事だろう。

 

「ハルカさん!もう直ぐ皆がいる場所です!あの魔物の声・・・ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」

「あの、兎さん?五月蠅いから耳元で騒がないで頂戴」

 

と言いつつ、アクセルを絞り二輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。

 

そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 

ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところであり、怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンに見た目が似ている魔物であり、体長は3~5m程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ、刺がついている長い尻尾を持っている。

 

あれが、

 

「ハ、ハイベリア・・・」

 

肩越しにシアの震える声が聞こえた。ハイベリアは全部で6匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。

 

そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。

 

なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、者達がいたから。

 

ドパンッ!!ドパンッ!!

 

峡谷に二発の乾いた破裂音が響く。兎人族達が聴いた事もない強烈な音とに驚くと同時に二条の閃光が虚空を走る。その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。

 

もう一発は、他の場所で襲撃を受けそうになっていたと兎人族の頭上より急降下を開始したハイベリアの頭部に命中し、此方も爆散。

 

「な、何が・・・」

 

先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリア達を交互に見ながら呟いた。

 

更に響く発砲音と共に上空のハイベリアたちが一切の慈悲なく正確に撃ち落とされて行く。今まで自分達を苦しめていた強敵が、為す術無く殺されて行く超常現象に固まるしかなかった兎人族達の優秀な耳に、またもや聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、向かってくる三人の人影。

 

その内の一人は見覚えがありすぎる。今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子―――

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

その彼女が黒い乗り物の後ろで立ち上がり手をブンブンと振っている。その表情に普段の明るさが見て取れた。信じられない思いで彼女を見つめる兎人族。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

「・・・」

 

実は、晴香もハジメさんと史実同様の戦闘妨害が行われていた。しかし、やられると分かっていれば対策の施しようがあると言う訳で。12000越えの筋力値に物を言わせてちょっとやそっとの衝撃程度では照準がズレないように対策を施していた。なので、一発も外す事無く全弾命中を叩き出し、ハイベリアを物言わぬ屍にした。

 

しかし、邪魔されたのは、正直うざかった。

 

なので、

 

「えい」

「ちょっ―――あだっ!?」

 

突き落とした。兎人族達の前で停止+ドリフトする序でに。ポイ捨てするように。

 

「うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~!私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~っ!!」

 

しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。シアは、晴香に対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって【見えた】希望である晴香をシアは不思議と信頼していた。私に対して冷たいけど、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、晴香はシアと同じ体質である。【同じ】というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。そして、その晴香は、やはり【同じ】であるユエを大事にしている。

 

それはもう蝶よ花よの如く。この短時間でまざまざと見せつけられた。正直、シアは二人の関係が羨ましかった。

 

それ故に、【自分も】と願ってしまうのだ。

 

しかし、残念ながらハルカクオリティー。

 

「嫌よ。私の特別はユエだけだもの」

 

ユエを抱き締めながらぴしゃりと拒絶。ここ数か月、晴香はユエ色に完全に染まっている。元から好きだったユエと本当に出会えたことにより気持ちは限界突破。襲われてしまった時からどんどんユエと共に深淵へと溺れて行く感覚に酔ってしまっている。正直、シアなんか別に救わなくても良いんじゃね?と思ってしまうくらいに。

 

しかし、晴香とユエには決定的な違いがある。それは【寿命】。

 

ユエは魔力が尽きない限り【自動再生】により歳を取らない=不老減死だ。しかし晴香は、魔物と融合した半人半魔だとしても、元は唯の人間である為、如何頑張っても100~200?歳程度が限界寿命だと考えられる。ステータスが10000を余裕で超過しているので、更に生きれるかもしれないが、本当かは判らない。だが、全ての神代魔法を獲得し、概念魔法を習得すれば、ユエと同じ様に長寿命になる事も、無理矢理若返る事も出来る。

 

ユエを残して先に死ぬなど、それは絶対に許されない。と言う事で、巣穴から出てきたのである。神代魔法を求める為に。シアの救出は迷宮攻略に、兎人族は今後に起こりうる出来事を穏便に済ませる為に。

 

仕方なくである。必要なので。

 

「んふふ・・・」

 

抱き締められて、耳元でそんな事を言われたユエの頬はバラ色だ。このやり取りの張本人たるシアや他の兎人族が思わず見惚れてしまう可憐な笑みである。ユエを撫でる晴香が咳払いで兎人族達を目覚まさせると、シアに促した。私達が来た訳を。

 

ハっと我に返ったシアが、助かった皆に自身が取り付けた契約の事などを話した。

 

(・・・あの人が将来の深淵蠢動の闇狩鬼カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリア・・・)

 

濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性。兎人族らしく温厚っぽい感じの人物である。しかし、史実ハジメの魔改造で逝ってしまうカムは、覚醒してその様な中二病的な名前となるのだ。私もハート〇ン軍曹を真似て覚醒させなければならないのか、と少し憂鬱な気分になっていると、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互いの無事を喜んだ後、晴香たちの方へ向き直った。

 

「ハルカ殿で宜しいですか?私はシアの父にしてハウリアの族長、カム・ハウリアです。我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか・・・族長として深く感謝致します!」

 

そう言って、カムは深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「どういたしまして。それじゃぁ樹海の案内、よろしくお願いします」

「勿論ですとも!」

 

グズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、直ぐに出発する。

 

一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。

 

当然、数多の魔物が絶好の獲物だと襲ってくるのだが、奈落で化け物となった晴香が護衛しているので、一匹も獲物にありつくことが出来ず、無残に頭部を爆散させて大地に散る事となる。乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物である晴香に対して畏敬の念を向けていた。

 

もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るう晴香をヒーローだとでも言うように見つめている。

 

「ふふふ、ハルカさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

「そうね~」

 

茶化すつもりで言ったのだろうが、残念ながら晴香はハジメではない。それなりに子供の相手が出来るので、普通に対応する。

 

魔物が来てない今なら、と振り向いてちびっ子たちに笑顔で手を振る。それだけで子供達のテンション爆上がりであり、何人かの男の子が顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。ふっ、私は罪な女だ・・・何て内心思っていたらユエが手をにぎにぎしてきた。

 

「・・・ハルカは私の」

「ふふ、嫉妬?嬉しいなぁ~」

 

子ども相手に対抗心を燃やすユエが愛おしかったので、そのままお姫様抱っこしてキスをした。それだけで、殺伐としたこの空間そのものが桃色に可視化されてしまう程の幸せオーラで溢れてしまう。襲って来る魔物も一瞥すらくれられず哀れに瞬殺されてしまう。女の子同士のイチャコラを初めて見たハウリア族一同も硬直してしまう!

 

固まったハウリアに気付かずイチャイチャしていると、先程晴香の微笑みに心を『狙い撃つぜっ』された、まだ普通の男の子の一人―――パル君(10歳)が、呆然とした面持ちで晴香に声を掛けた。

 

「あ、あのハルカお姉ちゃん!」

「ん、如何したのパル君?」

「どうして・・・お、女の人同士で、き、ききキス・・・したの?」

 

これにはハルカとユエが異常に仲が良いなと思っていたシアも、おかしい者を見たと言った表情である。

 

「何でも何もユエが好きだからだよ―――って言っても納得できないよね・・・ん~そうね。丁度良い機会だし、説明しましょうか」

 

晴香は語る。

 

「この世界には男性と女性が存在して、男女でカップルを作るのが当たり前・・・って思われてるけど、恋愛の仕方っていっぱいあるの。例えば私とユエみたいに女の子同士でカップルになるLesbian(レズビアン・女性同性愛者)。逆に男の子同士でカップルになるGay(ゲイ・男性同性愛者)大雑把にだけど、男の子も女の子も関係なく好きになった人とカップルになるBisexual(バイセクシュアル・両性愛者)とか、ね?私達を含めたその人たちを纏めて【性的少数者】又は【ジェンダー・マイノリティー】っていうのよ。」

 

まだ中世的な文明レベルの世界に、このような思想を振りまくのは早すぎるかと思うけど、私達の事を手っとり早く説明するにはコレしか無かったので、説明する事にしたのだ。お互い好きだから・・・で納得してもらえるならそれでよかったのだけど。

 

と。ぺらぺら語った晴香の言葉が飲み込めないのか、聞いたパル君は無論の事、他の兎人族も初めて知った未知の思想に目を白黒させている。無理に理解させるつもりは無いし、別に理解を示さなくてもいいからと付け加えながら前へと進む。

 

晴香の後を慌ててついて来る兎人族達の気配を感じながら、ユエが一言。

 

「・・・理解されなくてもいい、忌避されてもいい。それが異常だと価値観を押し付けられても、私達には関係ない」

「ええ・・・」

 




※本編とは関係ありません


ユエ
「・・・でも、邪魔したら【蒼天】」
晴香
「愛が重い♡」
シア
「っ!?(な、なんでしょう悪寒がしますぅ・・・)」


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41話 それは殲滅と言う名の実験(非検体by帝国兵)

おはようございます!
感想、誤文字報告ありがとうございます(*´Д`)


性的少数者の話をサラッと語った後、魔物の襲撃を片手間に撃退しながら進んでいると、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、50mほど進む度に反対側に折り返すタイプであり、中々に立派な階段である。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 

晴香が先の遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。

 

「帝国兵はまだいるでしょか?」

「う~ん、どうだろうね?」

 

居ます。約三日間、貴方達(兎人族)を待つ為に焚火を炊いてのんのん日和を謳歌しています。

 

―――毎度のことながら、そんな事言えない。

 

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら・・・晴香さん・・・どうするのですか?今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵・・・人間族です。ハルカさんと同じ。・・・敵対できますか?」

 

シアが意を決しての質問に周囲の兎人族も聞きウサミミを立てている。シアの言葉に、周りの兎人族達も神妙な顔付きで晴香を見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達と晴香を交互に忙しなく見ている。

 

しかし、晴香はそんなシリアスな雰囲気などまるで気にした様子もなく、まぁ気持ちはわかる、と言わんばかりの苦笑いを浮かべて言ってのける。

 

「そりゃ出来るよ。と言うか敵対されるなら対峙しないと。貴方達は樹海探索を効率よくする為に雇って、代わりに探査に支障が出ないようにするために守る。例え相手が同族だろうとね・・・シア、覚えてる?私達は貴方達をずっとは守らないことを」

「うっ、はい・・・覚えてます・・・」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守るわ。私達のためにね。それを邪魔するなら魔物だろうが人間族だろうが関係なく、私は殺すよ」

 

晴香らしい理由に苦笑いしながら納得するシア。【未来視】で暫定的な未来を知っていても、未来というものは絶対ではないから実際はどうなるか分からない。見えた未来の確度は高いが、万一、帝国側につかれては今度こそ死より辛い奴隷生活が待っている。表には出さないが【自分のせいで】という負い目があるシアは、どうしても確認せずにはいられなかったのだ。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

カムが快活に笑う。下手に正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係の方が信用に値したのだろう。その表情に含むところは全くなかった。大樹の霧のことも頭に無かった。

 

一行は、階段に差し掛かった。晴香を先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いからだ。

 

(ふぅ・・・それじゃぁ実験と行きますか!)

 

晴香は前世界は無論、この世界でも初めての人殺しを行う。ハッキリ言って魔物を殺しまくっていたので、生物の殺傷には慣れていると言っても過言では無く、今更人を殺した程度で如何と思う事はないだろう。流石に敵対していない人間を殺す事はしないが、敵には問題ない。

 

『ユエ、帝国兵が居るから、私の後ろで兎人族達を守って』

『?・・・んっ』

 

そして、遂に階段を上りきり、晴香達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 

登りきった崖の上、そこには。

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~。こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

30人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏い、剣や槍、盾を携えており、晴香達を見るなり驚いた表情を見せた。が、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。2~3人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」

 

帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。同じ女性として、不快に感じるがそれだけだが。

 

帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやく晴香の存在に気がついた。

 

「あぁ?お前誰だ?兎人族・・・じゃあねぇよな?」

「人間よ」

「はぁ?なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか?そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

史実の様に勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そう晴香に命令した。当然、晴香が従うはずもない。

 

「お断りするわ」

「・・・今、何て言った?」

「あら?聞こえなかったの?もしかしてその耳はお飾り?亜人と蔑む彼等の耳より性能が低いのw?―――あっ、あぁ!そっかそっか!言葉が理解出来ないんだね(笑)?それなら、赤ちゃんからやり直してくだちゃいね~・・・ぷっぷぎゃーッwww大草原不可避ッ!!」

 

草に草生やすの草ァ―――は兎も角。

 

お前何処のミレディだっ!?とでもいう様な馬鹿にする素敵なセリフが放たれる。この様に巫山戯る罵倒を言い放つのは何気に快感。ちょっぴりミレディの気持ちがわかった気がした晴香である。急に豹変した晴香に、つい先程まで震えていた兎人族達が我を忘れて呆けた表情で晴香を見る。事前に背後に降ろされていたユエは、困った表情で晴香を見ていた。

 

対する小隊長殿以下30名の帝國兵は、完全に舐められていると捉えてわなわなと震えている。

 

「あっれれ~どうして震えてるの~?まるで生まれたての小鹿みたいねw!お顔も真っ赤w知能も赤ちゃんだから、しょうがないのかなぁwww!」

 

顔真っ赤小隊長はハルカの言葉にスっと表情を消す。周囲の兵士達も怒りに染まっている。

 

「・・・おい、あの巫山戯たアマは殺すな。四肢を切り落として盥回しだ。終わった後は槍をぶち込んでやろう。残りの兎人族は老人は処分だ。女子供は殺さず生かせ」

「ほ~ん?つまり、私の敵になっちゃうけど、良いの?よちよち赤ちゃんには勝てないよ~・・・プギャーwwww!!」

 

―――ブチッ!

 

幻聴だろうか、血管が切れる音が聞こえた気がした。

 

「アァッ!?野郎、ぶっ殺してy―――」

 

苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。なぜなら、一発の破裂音と共に、その頭部が砕け散ったからだ。眉間に大穴を開けながら後頭部から脳髄を飛び散らせ、そのまま後ろに弾かれる様に倒れる。

 

「私は野郎じゃないよ、女の子で~すw」

 

そんな事を言って、小隊長が一瞬でやられてしまった事に何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。

 

ドパァァンッ!

 

一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、後方で杖を所持していた魔法職と思われる六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。後方支援を断つのは戦闘の基本!実際には六発撃ったのだが、晴香の射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。そんなパニック状態の帝国兵に、更なる脅威が迫る。

 

06で試験を終えた晴香は、もう用済みだと言わんばかりに一人を残して、残りを06及び60の空中リロードで高速再装填を済まし、再びクイックドローにて瞬時に殲滅した。それは一つの戦争とは言えない、唯の処理であった。

 

隣で血飛沫が舞い、それを頭から被った隊最後の生き残りが、力を失ったようにその場にへたり込む。無理もない。ほんの一瞬で29人の仲間が殲滅されたのである。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だった。故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは?と呆然としながら視線を彷徨わせた。

 

そんな彼の耳に、これだけの惨劇を作り出した者が発するとは思えないほど飄々とした声が聞こえた。

 

「うん。実験は成功だね!」

 

兵士がビクッと体を震わせて怯えをたっぷり含んだ瞳を晴香に向けた。ハルカは06片手に笑顔で微笑みながらゆっくりと兵士に歩み寄る。白いコートを靡かせて死を振り撒き歩み寄るその姿。堕天使にしか見えないと、失神しそうになるのを如何にか堪えてしまった生き残りは、そうとしか見えなかった。

 

「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」

 

命乞いをしながら這いずるように後退る兵士。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。ハルカは、冷めた目でそれを見下し、兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てた。ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。

 

「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから!頼む!」

「そう?なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらえる?」

 

まぁ、分かってるのだけれども助けたハウリアたちは知らないので聞く。

 

「・・・は、話せば殺さn―――【ごりごりっ】ま、待ってくれ!話す!話すからぁ!・・・・・・多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから・・・」

 

【人数を絞った】それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺した。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。他の生き残りの事が知れたであろうと判断し、直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した。

 

「待て!待ってくれ!他にも何でも話すから!帝国のでも何でも!だから!」

「・・・そうねぇ、それじゃぁ、コレをガハルド皇帝に届けて貰える?」

 

晴香が渡したのは丸みを帯びたポーチ。何やら黒光りする筒が入っている。

 

「そ、そんな事で良いのか・・・?」

()()()届けてね?」

「了解です!!!」

 

ビシッと決められた敬礼に、晴香も思わずにっこり。

 

それが何なのか知らないが、コレを届けられれば生き残れる!己の生存の為に、生き残りは下半身を体液で濡らしたまま全速力で帝国が存在するであろう方向へと走り出す。その後ろ姿を、晴香は笑顔で眺めながら口ずさんだ。

 

「―――3、2、1・・・」

 

それはタイムリミット。

 

生き残り君はステータスは高かったのか、どんどん小さくなる人影の辺りから爆炎が上がる。渡した物―――対人手榴弾の爆炎だ。この戦闘で使用予定だったのだが、兵士を実験体にするのなら最後くらい絶好調の状態の方が喜んで受け入れてくれるだろうと判断し、生き残って帰る事が出来る!と気分アゲアゲ⤴だった兵士君を時限式で吹き飛ばしたのだ。

 

【遠目】で確認した限り、四肢は弾け飛んで死体はぐちゃぐちゃだが、一定以上の範囲内にいる人間にたいしてはちゃんとした効果が望める絶妙な燃焼石加減であり、晴香的には満足いく出来だった。

 

何てマッドな実験を・・・てっきり生かすのかと思ったシアはおずおずと晴香に尋ねた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは・・・」

「見逃すって言ってないし、最後に警戒を解いたのが悪い」

「あ、はい・・・」

 



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42話 シアの心情

おはようございます!


帝国兵を殲滅した晴香は、戦闘に巻き込まれぬように考慮した無傷の馬車や馬の所へ行く。目の前で前主人達がスプラッタにされた馬たちだったが、自然な微笑みで撫でて来る晴香に警戒心は無い。何気に初めて馬を撫でるという経験だが、馬とは怖がらずに接するのが基本と言うのは本当の様であり、気持ちよさそうに目を細めている。

 

リラックス状態の馬たちをよそに兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日は掛かる距離で有り、せっかくの戦利品である馬と馬車を有効活用する。魔道駆動二輪を【異界収納】より取り出し、馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。

 

因みにだが、無残な帝国兵の死体はユエが風の魔法で吹き飛ばし渓谷に落とした。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残された・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国【フェアベルゲン】を抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、晴香が魔道駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進む。しかし、晴香は度々休憩を挟ませた。ここ数日ずっと逃げに徹していた兎人族は人間よりも体力はあれど子供はそうはいかない。

 

適当な場所で休憩を取らせて、数十分後に再度移動を開始する。

 

「ねぇウサギちゃん。この運転を任せても良い?」

 

その出発前、晴香はある事を思いついたので、それを制作する為に二輪の運転をシアに任せる事とした。

 

「えっ、良いんですか!?」

 

シアは二つ返事で了承し『ヒャッハァ―――っ!!』と運転席に跨りアクセルを握る。そして、低速で走らせた。因みに10km以上の速度が出せない様に制限機能を動作させている為、暴走仕勝ちなシアでも安全運転を強制させられる実にスマートな装置だ。と言うのはさて置き、運転を任せた晴香はユエを抱えて馬車の御者台に移動し、クッションを取り出して敷き、その上に腰を下ろした。

 

「・・・なにするの?」

「これから接触する他の亜人達に少しでも友好的に接する為のものを作るわ」

 

フェアベルゲンに向かう際、兎人族は追放された身である。更に言えば、これから人間である晴香を人間絶対殺すマン溢れる国に誘うのだ。端から友好的な接触など到底不可能である。しかし、友好的ではなくとも、少なくとも晴香が他の人間達とは違うというイメージを持たせたい。

 

その様な思惑をユエに語りながら、鉱物や魔物素材、道具を取り出した。そして、

 

「ユエ、髪を切っても良い?」

「?・・・ん」

「ちょ、なに了承してるんですかユエさ―――あ、あぁ!?」

 

ユエのゆるふわな髪を一つに纏めた晴香は、シュタル鉱石製ハサミでシャッと切った。ゆるふわロングなユエが、一瞬にしてショートヘアーに早変わり。晴香的にはロングの方が好きだが、ショートもこれはこれでありだ。まじまじ見ているとユエが決めポーズをとる。

 

「似合ってる?」

「うん。いつもと違うユエでなんか新鮮で、可愛いわ」

「んふふ・・・ありがと」

 

慌てるシアなぞ眼中に無い、と言わんばかりに盛り上がってる晴香たちに、シアが切れた。

 

「もう!何やってるんですか晴香さん!?髪は、女の子の命なんですよぉッ!?」

「知ってるよ?」

 

何を当たり前の事を。そんな事も分からないの?・・・と言ったユエと晴香の視線がシアに突き刺さる。ブチ切れそうなシアに晴香はユエの髪を見てと促すと、シアは驚きの表情に染まる。何故なら、毛先がにょきにょきと延びて、まるで再生しているかのように長くなっているのだから。

 

【自動再生】

 

魔力が存在する限り、身体の損傷を急速に再生させる事が可能なチート技能だ。ハジメさんの射撃で頭皮を削られるという悲しき事件の後でも、その効果はちゃんと発揮している為、髪の毛にも作用するのかと聞いたところユエより肯定されたので、このような行為に及んでもユエ的には何ら問題無かった。12歳の時より身体が固定されている為、髪の短いヘアースタイルを取ろうにも伸びてしまうという弊害もあるがそれはさておき。

 

驚くシアをよそに、今度はユエに渡されたハサミが晴香の長髪を切り落とす。バサリッと、数年切ってなかった髪の束がユエの手に握られている。

 

晴香は【自動再生】を有していないが、代わりに治癒力を大幅に加速させる【魔力変換[+治癒力]】という技能を持っている。これを使用して、髪を意図的に直す為に、細胞の成長を促し、高速で育毛させることが出来るのだ。なので、ユエと同じような速度でにょきにょきと髪が生える生える・・・

 

まだまだ必要であるので、伸ばしている間の時間を使って、晴香はある物を作り始める・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「・・・ハルカ、結果はどうだった?」

「上々ね。これなら、実戦でも問題無く使用できるわ」

 

錬成に生成魔法も駆使して製作中の所、ユエが質問してきたのは帝国兵との戦いのこと。あの時、事前に実験したいと言う事で、ユエは手を出さずに傍観を決め込んでいた。そして実験の結果も満足のいくものであったのだが、どうも帝国兵を倒した後の晴香は物思いに耽っているような気がして、ユエとしては気になったのだ。

 

「・・・ふふ、実は人殺しは初めてだったのよね。でも、特に何とも思わないところが人として変わったなぁ~と思ってね」

「・・・そう・・・大丈夫?」

「問題無いわ。寧ろ安心してる」

 

一旦手を止めた晴香は、何故?と可愛らしく首を傾げるユエを撫でながら語る。

 

「例え同族が敵だろうと、私はユエを守れるって証明できたから」

「んっ・・・私も、ハルカを守る」

 

楽しく愉快痛快に人体実験を行ったマッド晴香は、実は初めて人を殺したという事実に内心とても驚くシア。初見の彼女からしたら、あの犯行は手練れの凶悪殺人鬼のそれだとてっきり思っていたため、その驚き様は凄まじいものであった。なにせ、同族でもふざけながら殺せるのだから。ハウリア的に有り得ない。しかし同時に、晴香の僅かな変化に気がついたユエの洞察力(晴香限定)にも感心を示す。

 

「それで【最強】だからね~」

「ん~」

 

そして、改めて、自分は晴香やユエのことを何も知らないのだなぁ、と少し寂しい気持ちになった。

 

「あの、あの!ハルカさんとユエさんのこと、教えてくれませんか?能力とかは聞きましたが、なぜ奈落?という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいです!」

「・・・聞いてどうするの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。魔力を直接操作出来たり、固有魔法も使える事から・・・そ、その、な、仲間みたいに思えて・・・だから、その、もっとお二人のことを知りたいといいますか・・・何といいますか・・・」

 

シアは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になって運転に集中しだした。それはもう、初めて原付に乗った試験者が10~30kmの速度を守って安全運転に従事しているかのように。

 

出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたとユエは思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をする。あの時は、ユエの複雑な心情により有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、シアは、ずっと気になっていたのだろう。

 

確かに、この世界で魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在だろう。仲間意識を感じてしまうのも無理はない。

 

かと言って晴香は兎も角ユエが、シアに対して直ちに仲間意識を持つわけではない。が・・・樹海に到着するまで、まだ少し時間がかかる。特段隠すことでもないと言う事で、晴香とユエはお互いのこれまでの経緯を語り始めた。

 

結果。

 

「うぇ、ぐすっ・・・ひどい、ひどすぎまずぅ~、ユエさんがかわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて・・・うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ユエは自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。尚、晴香はそんな辛い目に合っていたユエの救出者であるとシアは認識した。

 

流石に魔物を喰らった事に関しては驚きを通り越したようだったが・・・

 

しばらくメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

「ハルカさん!ユエさん!私、決めました!お二人の旅に着いていきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお二人を助けて差し上げます!遠慮なんて必要ありませんよ、私達はたった三人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

勝手に盛り上がっているシアに、ユエが実に冷めた視線を送る。晴香は手元で錬成中。

 

「完全に足手纏いなウサギはちょっと・・・」

「さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている・・・厚皮ウサギ」

「な、何て冷たい目で見るんですか・・・心にヒビが入りそう・・・というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するシア。そんな彼女に晴香は追い討ちをかけた。

 

「ウサギちゃんは旅のお仲間をお探しかい?」

「!?」

 

晴香の言葉に、シアの体がビクッと跳ねる。

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、ハウリアから離れる気なんでしょう?私達と【同類】に出会えたのだから、これ幸い見たいな感じで」

「・・・あの、それは、それだけでは・・・私は本当にお二人を・・・」

 

図星だった。

 

実は、既にシアは決意していた。一族の安全を確保したら、自らは家族の元を離れると。自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる。今回も多くの家族を失った。次は、本当に全滅するかもしれない。それだけは、シアには耐えられそうになかった。もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。だが【それでも】と決めたのだ。

 

最悪、一人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的強者である晴香達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割りかし容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。見た目の言動に反してシアは、今この瞬間も【必死】なのである。

 

もちろん、シア自身が晴香とユエに強い興味を惹かれているというのも事実だ。晴香の言う通り【同類】である晴香達に、シアは理屈を超えた強い仲間意識を感じていた。一族のことも考えると、まさに、シアにとって晴香達との出会いは【運命的】だったのだ。

 

「ふふ、別に攻めてるわけじゃないわ。ただ、私達の目的は第七迷宮の攻略。()()か弱いウサギちゃんじゃぁ一階層でも瞬殺されちゃう足手まとい。そんなお荷物を背負って進むなんてナンセンス。だから、同行はお断りよ」

「・・・」

 

晴香の含みのある単語にはユエだけしか気付かず、容赦ない言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。晴香の内心は兎も角、ユエは特に気にした様子がないあたりが、更に追い討ちをかける。

 

シアは、それからの道中、大人しく二輪を運転しながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。

 

「出来た!」

 

長居はしたくない重々しい雰囲気の中、晴香が声を上げた事によりそんな空気は霧散する。

 

「これが・・・?」

 

生成魔法も使用していた所を見るに、何らかの装備である事には違いないのだろうが、こんな代物は見た事が無いユエは首を傾げる事しか出来ない。何せ、それは・・・

 




それは・・・一体何でしょうね!


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43話 第二警備隊との邂逅

おはようございます!
・・・コロナが収束してきたので、平時に戻り執筆に時間が取れない・・・ッ!!


それはユエの金髪を惜しげもなく投下して製作された装備であり、カチューシャにより頭部に装着する事が可能。しかし、それは唯のカチューシャではない。このカチューシャにはユエの髪を使用して作られた特徴的な装飾が施されている。

 

それは、

 

「猫の・・・耳?」

「そう、猫耳よっ!」

 

晴香が力強く断言した通り、猫耳である。

 

これから進む先で、晴香たち一行は亜人族のテリトリーであるハルツィナ樹海に侵入する。しかし、見た目は人間でも吸血姫なユエは兎も角、ステータスプレートを見る限り一応人間な晴香は彼等にしてみれば仇敵。史実同様に第二警備隊と鉢合わせしてしまえば即戦闘もありえる。だが、人間でも猫耳とか尻尾を付けてればどうだろうか。

 

どうなるかは判らなくとも、亜人に友好的な人間か、稀に見る変態に映るだろう。

 

例え変態に映ったとしても【他の人間達とは違う】という印象を植え付けられればいい。その為に開発したのだ。

 

確かにこれなら晴香の語った思惑は達成できるかもしれない・・・とユエが思っていると、ふと思い出す。そう言えば、生成魔法も使ってたな、と。

 

「・・・アーティファクト?」

「一応ね」

 

オスカーの住処にて発見した義手に搭載されていた疑似神経をこれにも組み込んだのだ。操作は脳から出される信号を魔力的に感知して、疑似神経を通して動作する物であり、動かそうと思えば耳をぴくぴく、尻尾をフリフリと動かせる。これも本物に見せる為の物であり、亜人族達を少しでも欺けることが出来れば御の字・・・という思惑を孕んでいる・・・が。

 

それが本当の理由ではない。

 

この猫耳カチューシャは装着した状態で耳や尻尾を触られると、擽ったく、そして気持ち良く感じる様に設定がされている!それはもう、本物の猫の様に!

 

なので、これをユエに着けてもらい、撫でたり擽ったり夜のベットでにゃんにゃん出来る夜戦装備でもあるのだ。生成魔法も使い、見た目も本物に限りなく見せ、且つユエの髪を使っていることにより装着すれば本物の耳や尻尾にしか見えない。と言うほぼ本物となった猫獣人バージョンのユエ様・・・最高じゃないかい?

 

晴香も同じ装備を装着すれば、二人でにゃんにゃんじゃれ合う事も・・・

 

想像しただけで頬が緩まずにはいられない。

 

実際に緩んでにやにやしてる晴香を見たユエが、晴香の隙を付くかのようにソレを頭部に装着した。微風などが強く感じられるようであり、新しい感覚器官が生えたかのような奇妙な感覚を覚えながら、ユエは綺麗な三角形の猫耳をぴこぴこと動かす。そして、その感覚を直ぐに掴むと、耳をたらんっと倒しながら晴香に凭れ掛かった。

 

そして、

 

「・・・にゃぁ」

 

と、お鳴きになられた。

 

凭れ掛かりながら、猫手を作りながら『にゃぁ』と鳴くビスクドールの如き美貌を持つ少女。今、この瞬間・・・

 

―――ユエにゃんが爆誕した!!!

 

「――――――ハっ!?」

「「「「プシャーーっ」」」」

 

ちょっと想像しただけで、ユエにゃんが最高に可愛らしいと分かっていた。しかし、実際に着けてもらい、更にはにゃぁ。おまけに猫手でじゃれついて来る。想像以上の破壊力であり、晴香は一瞬だけ意識を失っていた。周りで一部始終を見ていた(又は見てしまった)者達は幸福の赤い体液を馬の背中にぶちまける。

 

馬がとても迷惑そうだ。

 

その間に本物の猫の様に、サッと音もなく移動したユエは、晴香の膝上に跨り、首筋に顔を埋めてチロリっと舌を這わせる。ざらりとしたユエの下の感覚が首筋を奔り抜け、一瞬で体温が上昇するのを理解した。しかし、

 

(や、やばっ)

 

周りには兎人族がいる、その中には勿論男性もいる。そんな環境の中で、晴香が理性を失ってしまえば大変な事になってしまう訳で。そんな事をしてしまったら自分は兎も角、ユエのあられもない艶姿を晒してしまう訳で。そんな事、絶対に出来ない。見た奴コロス。

 

なので、とても名残惜しく思いながら、やんわりとユエを引きはがす。

 

「にゃぁ・・・」

「そんな残念そうに鳴いても駄目。上目遣いでも駄目・・・そこから先は夜に二人だけでしましょう?」

「・・・ん、わかった」

 

潔く引いたのは、やはり衆人環視の中でヤってしまうもは良くないと自重したから。しかし、甘えるなら問題ないとして、そのまま晴香の膝を枕にするようにユエにゃんが寝っ転がる。撫でてっ!と耳がピコピコ強調している。期待に満ちた潤む瞳が晴香に突き刺さる。

 

撫でるだけなら、まぁ問題無い?と、錬成を一時中断してユエを撫で始めた。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

新装備?を作り、それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。晴香は何と無く、富士の樹海を思い出した。

 

「それではハルカ殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ええ、其処が大迷宮と関係ありそうなので」

 

カムが晴香に対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った【大樹】とは【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には【大樹ウーア・アルト】と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。が、観光名所でもあるらしい。

 

カムは晴香の言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をして晴香達の周りを固め、樹海を進む。

 

道中、晴香の気配の消し方に驚愕されてユエがドヤ顔したり、魔物の襲撃をいとも容易く返り討ちにしてチビッ子達よりヒーローを見た!とでもいう様なキラキラと光る眼差しを向けられたりもしながら進む事、数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、晴香達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

晴香はもとより、ユエは相手の正体に気付いて面倒そうな表情になった。

 

その相手の正体は虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人。虎人族の第二警備隊の面々である。

 

「お前達・・・猫人族と・・・兎人族か」

 

その言葉に晴香とユエは顔を見合わせて笑いを堪えた。見た目が完全に獣人に成れるように製作されたカチューシャ型と尻尾型のアーティファクトは、キチンと役割を果たし、本物の獣人族の目を欺くことに成功したのだ。この敵性亜人達が私達の本当の正体を知ったら、一体どの様な顔をするのか、とても見てみたいという思いである。

 

対してハウリア族一同は、次に発せられた虎人族の言葉に生気を失って行く。

 

「・・・ん?白い髪の兎人族、だと?・・・貴様ら、報告のあったハウリア族かッ!亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿う重罪人共め!今この時を持ってお前たちを処刑する!君たち、そいつ等から離れなさい!」

 

虎人族達の意識は完全にハウリア族一同へと注がれており、本当は人間な晴香たちを守らんが為に手招きをする・・・が、晴香たちはその場から動くことがない。虎人族たちはなぜ動かないのか困惑した様子を見せる。

 

忌子であり、前亜人族の面汚しであるハウリア一族は、今この時を持って全員処刑したい。しかし、猫人族は処刑には関係なく、巻き込む訳にはいかないということで、虎人族は切り込むことが出来ない。本来であれば、重罪人に肩を持つなど同罪として処理されるのだが、如何やら様子が変であり、致し方なく庇っているだけの様にしか見えない。

 

実際、晴香たちは大樹への案内の為に致し方なくハウリアを庇っているのである。誤解されるように誘導する事も忘れない。

 

「あの、警備隊長さん。今からとっても重大な事を言うので、長老・・・アルフレリック様に伝言をお願いします。この事は私達の後ろのハウリア族とも関係があるので、私が言った事を一句漏らさずに伝えてください」

「・・・伝言だと?君たちが動けない事に、理由があるのか?」

 

頷き肯定する。そして、晴香はあらかじめ考えて置いた伝言を発する。

 

「『大迷宮は解放者の試練。オスカー・オルクス』・・・この事を伝えてもらえない限り、私はハウリアの前から動く事が出来ません」

 

晴香は腰に下げた()に手を掛けながら、そう言った。もし、ここで伝言を伝えに行かず、ハウリアを攻撃するのなら、私達はハウリアを守ると暗に促している。

 

対して虎人族は困惑した。猫人族の女が発した【大迷宮】【解放者】【試練】。それに誰かの人名だろうか【オスカー・オルクス】。ハッキリ言おう、一体何を指した言葉なのか。又は長老方だけが知る暗号か?虎人族には判らなかった。しかし、例の猫人族の女は、この言葉が族長に知らせなければいけないとても重要な情報であるとしており、その事には後ろのハウリア族も関係していると言う。

 

「・・・それが一体何の事なのか、私には判らない。しかし、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。一人伝令を出そう。それまでの間、ハウリアが逃亡しないか我々もここで待機させてもらう・・・構わないか?」

「ええ、問題ありません。妥協していただきありがとうございます」

「いや、重罪人を庇う姿勢を見せないといけないほど重要な事なのであろう。気にするな―――ザム、聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

 

虎人族の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていく。同胞にはとても優しい獣人族だからと言っても、チョロ過ぎない?

 

晴香はこんなんでよく今まで生き残れたなぁ・・・と、表情には出さずに呆れた。せめて、もう少し人を疑え、と。声を大にして言いたい。言わないけど。

 

しかし、虎獣人たちが晴香を猫獣人と見間違うもの致し方なかったかもしれない。なんせ、衣装はユエとのペアルックではなく、ハウリアより聞いていた猫獣人がよく着るような民族衣装風な物(ユエが仕立て直したもの)を纏っており、カチューシャ等の飾りであっても、本物の生物の様にピコピコふりふり動くのだ。

 

とても自然に動作するので、人間界や地球であれば違ったかもしれないが、亜人族的には偽物と思う方が難しかった。

 

だが、せめて名前くらいは確認した方が良いのでは?

 

そう思わずにはいられなかった。

 




晴香
「にゃ~」
ユエ
「・・・にゃん?」
晴香
「にゃにゃっ!」
ユエ&晴香
「「にゃぁ~♡」」



なにを話して居るかは、ご想像にお任せしまs(笑)

おまけ

シア
「キーッ!カッカッカ・・・フスゥー!フスゥーッ!!」
ユエ&晴香
「「!?」」


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44話 アルフレリックとの邂逅

おはようございます!
誤文字報告、ありがとうございますm(__)m


ザムと呼ばれた伝令が走る事により、幾分か空気が和らいだが包囲はそのまま。絶対強者である晴香が付いているとはいえ一族郎共どうなるか分からない様なこの状況が、漸く一段落着いたと分かり、カム達からホッと安堵の吐息が漏れた。だが、彼等に向けられる視線は厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。

 

対して晴香たちに向けられる視線は同情であった。一体何を理由に重罪人側につかなければならなかったのかは知らないが、庇い命を賭けるほどの重大な理由があるのだろう。

 

しばらく、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に飽きたユエが晴香に構って欲しいと言わんばかりにちょっかいを出し始めた。それを見たシアが場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、苦笑いしながら相手をする晴香に、少しずつ空気が弛緩していく。敵地のど真ん中で、いきなりじゃれあい始めた(亜人達にはそう見えた)晴香に呆れの視線が突き刺さる。

 

ハウリアを守んなくて良いのかよ、と・・・

 

時間にして一時間と言ったところか。調子に乗ったシアが、ユエに関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」と必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

場に再び緊張が走る。シアの関節には痛みが走る。

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳。

 

彼こそが、亜人族の長老方の一人。アルフレリック・ハイピストその人である。

 

アルフレリックは場に立ち止まると、晴香たちに視線を注ぎながら、一言。亜人族にとっては驚愕する事実であり、シアたちにとっては絶望を与える言葉を放った。

 

「ふむ・・・そこの()()。名は何と言う」

「に、人間ッ!?」

 

長老の言葉に動揺しながらも瞬時に周囲警戒に当たる虎人族であったが、周辺には人間らしき気配も無ければ、魔物の気配すらつかめない。では、ハウリアたちの中に人間が紛れているのか!?と激しい殺気をハウリアに当てる。本当はいないのに向けられる側からしたら堪ったものではないと顔を青く染めながら震える事しか出来ない。

 

意とも容易く見抜かれた事に若干傷つきながらも、流石は長老かと思いながら「ふぅ・・・」と溜息を吐いた晴香は、苦笑いと共に猫耳カチューシャを外した。

 

「「「「「―――ッ!?!?」」」」」

 

自身の猫耳を、亜人族にとって種族の象徴たる耳を引き千切った事に対しての一驚。そして、それは本物の耳では無く飾りであったことに対しての驚愕。猫獣人だと思って居た女二人が実は人間だったと言う事に対しての吃驚。完全に意表を突かれた形で有り、ハウリア一同とアルフレリック以外は完全に茫然としてしまった。

 

「晴香。綾瀬晴香です。こんにちは、長老殿」

「・・・ユエ」

 

ハジメ達の言葉に、ハッと意識を取り戻した周囲の亜人達が瞬時に厳戒態勢に入り、晴香たちにハウリアに向けるものとはまた違った高密度の殺気を叩きつけつつ、長老の前に躍り出て守ろうとする・・・が、それを片手で制した長老も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さん。【解放者】とは何処で知った?」

「オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの住処です」

 

テンプレ的な回答をした晴香。一方、アルフレリックは表情には出さないものの内心は驚愕していた。なぜなら、解放者という単語と、その一人が【オスカー・オルクス】という名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。報告を聞いた時は一体どこで漏れたのかと思ったが、報告を聞く限り重罪人としてフェアベルゲンは愚かハルツィナ樹海も追放されたハウリアを庇いながら()()()()()()()()()()()の女二人を怪しいと睨んだアルフレリックは、実際にこの場に足を運んで真実を知る為に来たのだ。

 

「ふむ、奈落の底か・・・聞いたことがないがな・・・証明できるか?」

 

あるいは、本当に亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて晴香に尋ねるアルフレリック。対し晴香は、事前に用意していた物を取り出した。

 

地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは・・・こんな純度の魔石、見たことがないぞ・・・」

 

アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オスカーさんが付けていた指輪です」

 

そう言って、見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て、今度こそ内心の驚愕を隠しきれずに目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど・・・確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ・・・それで、お前さん達は大迷宮を目当てに此処へとやって来たのかな?―――ウーア・アルト、か・・・ふむ。・・・他にも色々気になるところはあるが・・・まぁよかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥め、話を付ける。その様子を尻目に、晴香とユエは取り外した猫耳カチューシャを装着しなおした。

 

「これは返そう」

「あ、魔石はいいですよ。私とユエからの友好の証としてどうぞ」

「んっ」

 

オルクス大迷宮の攻略の際に得た指輪と共に、掲示した魔石を返されたが、晴香は受け取りを拒否した。確かに高純度の魔石は錬成の利用にも使われるので貴重ではあるが、それよりも高純度で含有魔力が豊富な魔石を数千は所持している晴香である。たかが5階層程度の魔石なんて興味も無く、これを友好関係の礎の一つとして利用できるならそれはそれで晴香たちにとって得である。

 

人間から亜人族に対しての【友好】と言う言葉に他の亜人族は無論、長老アルフレリックをしても呆気にとられた。初対面ではあるが、晴香たちが他の人間族とは違った存在であることは薄々分かっていた。なにせ、侮蔑する様な視線を向けられてくることはなく、耳や尻尾に興味の視線を向ける程度で有り、少なくとも敵対的ではない。

 

寧ろ友好的と言ってもいいだろう。本来であれば敵同士であり、その敵に包囲されている状態であるにも関わらず必要最低限の警戒しかしていないのだから。

 

「なにが友好の証だ、人間ッ!!貴様等に一体、どれだけの同胞が捕まり奴隷とされているか、まさか知らぬとは言わせないぞ!」

 

しかし、その事に反発する者がいた。晴香をてっきり猫人族だと決めつけていた第二警備隊隊長の虎獣人、ギルである。

 

「いや、知ってるけど私がやってるわけじゃないですし。そもそも、ソレはこの世界の人間族がやらかしてる事であって、他世界から拉致・・・連れ去られた私には無関係なことです」

「なにを戯けたこt―――「よしなさい、ギル。」・・・失礼しました」

 

アルフレリックに諌められ、晴香たちを睨みつけながらも渋々引き下がった。亜人に対する仕打ちはこの世界の人間がやらかしている事であり、本当に別世界出身の晴香に怒りを当てるのはお門違いである。しかし、それを知らない、又は戯けた事と切り捨てたギルには同じ人間としての増悪があった。

 

向けられる晴香とユエは肩をすくめるだけで別に気にすることなく自然体であるが、それが帰って癇癪を買っているとは気付かずに・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む。

 

行き先はフェアベルゲンだ。晴香とユエ、ハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いている。晴香とユエはその間、ずっと手を握ったまま散歩気分で樹海を歩いており、晴香とユエの空間だけはほのぼのとした雰囲気が漂っている。

 

なんならオルクスに落ちる前に購入していた紅茶を、魔法瓶よりカップに注いで飲んでたりする。

 

更に言えば、アルフレリックも飲んでいる(晴香が渡した)

 

そして、私も混ぜて!とやって来たウサギをユエが蹴り飛ばしていたりする。

 

一応危険地帯なのだが・・・という呆れの視線を頂戴するのだが、一行を襲撃しようと接近する魔物は、警備隊よりも先に察知し、亜人達が理解できない頂上の力(06式)を持って殲滅している為、何も言う事が出来ない。そんな晴香に愕然としているのは、人間族だからと突っかかったギルだ。

 

本来であれば長老や一応客人たる晴香たちを守る任務を仰せつかっているはずの第二警備隊が魔物を受け止めるのだが、その役割を全て晴香に奪われているので面子が丸潰れで有り、なにより自身が攻撃行動を察知した瞬間に死んでしまうようなアーティファクトを自在に操る晴香の武力に、自身を比較してしまい気落ちしているのである。

 

そもそも迷宮攻略者と高が一警備隊隊長で比較すること自体が間違っているのだが。

 

その様にしてしばらく歩いていると、突如、霧が晴れた場所に出る。フェアドレン水晶により一定範囲内の霧や魔物の侵入を防ぐ特殊な役割を持つ水晶である。この水晶のお陰で樹海の中であっても街の中は霧がないようだ。十日は樹海の中にいなければならなかったので、ユエにとって朗報である。霧が鬱陶しそうだったので、どことなく嬉しそうだ。

 

霧の一本道を進むと、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の10mはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも30mはありそう。亜人の【国】というに相応しい威容を感じる。

 




題名が思いつかなくて、43話と同じ様な名前になってしまったw


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45話 樹海の熊さんとのじゃれあい

か、書けた・・・


ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。周囲の樹の上から晴香たちに注目が集まっているのが良く解る。この後、族長会議で結局は人間とバレてしまうので、フェアベルゲンの民たちに私達にたいする免疫を付けさせようと、カチューシャを外しているのだ。

 

なので、どの亜人達も人間が招かれているという事実に動揺を隠せないようだ。アルフレリックがいなければ、ギルがいても一悶着あったことだろう。

 

門をくぐると、そこは摩天r・・・ではなく、別世界だった。

 

直径数10m級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成しており、樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や、樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路。樹の高さはどれも二十階くらいありそうであり、自然と融合したちょっとした高層ビルのようだ。

 

地球でいえば、シンガポールの巨大な木をモチーフにした、空中回廊も存在する観光名所が一番似ているかもしれない。しかし、似ているだけであって、雰囲気や澄んだ空気の美味しさは、どんな現代技術を用いても再現できないだろう。

 

大体どのような光景か知っている晴香は「おぉ~・・・」と旅行気分。対し、初見のユエはポカンと口を開け、その美しい街並みに見蕩れている。可愛かったのでナデナデ。途端に始まった百合百合しぃ雰囲気は―――コホンッという咳払いと共に霧散した。どうやら、直ぐにイチャつく晴香たちをアルフレリックが正気に戻してくれたようだ。

 

道中、晴香とユエのイチャつきぶりと言ったら、高価な砂糖を直接口内に放り込まれている様な、そんな飽きる甘さで溢れており、アルフレリックを始めとしたハウリア一族以外の獣人族達は、顔には出さなかったがかなり滅入っていた。

 

しかし―――

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。何処でもイチャつく盛り者達であっても、それが人間であっても、故郷を、祖国を木に言って貰えるのは嬉しかったのだ。

 

晴香は、そんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛した。

 

「・・・こんな綺麗な街を見たのは初めてです。空気も美味い。自然と調和した見事な街ですね」

 

暮らす住民が獣人たちなので、溢れるシルバニア感。とても懐かしい思いが晴香の胸の内に広がる。

 

と言うのは冗談で、実際に此処まで綺麗な街は見たことが無い。地球にも秘境などと言われる場所が存在し、確かに綺麗だがどれもこれも写真や動画でしか見たことがなかったので、とても新鮮な気持ちで感想を口にした。

 

「ん・・・綺麗」

 

ユエも無表情ながら、キラキラと瞳を輝かせている。

 

掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。素直じゃない。ツンデレか。可愛いじゃないか。

 

でも・・・オッサンのツンデレなんて誰得?

 

何て思いながら、晴香達はフェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

オスカー・オルクスに聞いた【解放者】のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であるなどと、晴香達の話を聞いたアルフレリックは、史実同様のフェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。そして、これからの事について話が行われ始めた所で、

 

『・・・そろそろ、かな?』

 

と、晴香が予測したように、何やら階下が騒がしくなった。

 

晴香達のいる場所は最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。そこで亜人族最強の戦闘力を誇る熊人族がハウリアと史実同様の諍いを繰り広げているようだ。内容は判らないと言う体を取りながら、晴香とアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、ドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

晴香とユエが階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック・・・貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど・・・返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

必死に激情を抑えている為、拳を握りわなわなと震えている。亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ・・・事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう・・・それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする?」

「なら、こんな人間族の小娘が資格者だとでも言うのか!?敵対してはならない強者だとッ!」

「そうだ」

 

淡々と返すアルフレリック。熊の亜人(名をジンという)は信じられないという表情でアルフレリックを、そして晴香を睨む。

 

フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が当代の長老達である。掟に従うのが長老たちではあるが・・・口伝に対する認識には差があるようだ。

 

これも史実と変わらない。

 

アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプだが、他の長老達は少し違う。アルフレリックが他の亜人種よりも二倍の寿命を持つ事や、その他諸々の事情が改まって、その分、価値観の差が出ているのだ。

 

というわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「・・・ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊獣人のジンが突如、晴香に向かって突進した。あまりに突然のことでユエ以外の周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。そして想像してしまう。道中に見せた晴香の頂上的な力を持ってジンが木端微塵に吹き飛んでしまう、その姿を。

 

ユエは反応出来たが、魔力も持たず、奈落処かライセン大渓谷の魔物にも劣る唯の亜人一人に対して、晴香が後れを取るなどとは微塵も思っておらず、故に静観することにした。

 

そんなユエに対して、史実同様の事が起こると予測していた晴香は、特に動揺する事なく行動を起こすことにする。

 

一瞬で間合いを詰め、身長2m半はある脂肪と筋肉の塊の様な男、ジンの豪腕が、晴香に向かって振り下ろされる。亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族である。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族とユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となった晴香を幻視した。

 

しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

―――ズドンッ!

 

衝撃音と共に振り下ろされた拳は・・・晴香の左手の人差し指一本で受け止められてしまったのだ。

 

「「「「「!?!?」」」」」

 

正に有り得ない光景に、この場の亜人達が唖然とする。自慢の一撃が小娘の、力を籠めれば簡単に折れ曲がってしまいそうなほど細い人差し指に受け止められてしまったのだ。肉体的なダメージは一切無かったが、多大な精神的ダメージを被ったのはジンであった。

 

「―――温い・・・温すぎる。これが、亜人最強種の一撃・・・ハっ、笑止ッ!!『・・・決まった!(ニヤリ)』」

 

この場の雰囲気に流され、思わず片手で顔を覆いながら儚げに視線を天へと向ける痛めな晴香さんの小さな、それでいて耳に残る声が響き渡る。ユエからは見える。手で覆い隠した晴香の、そのだらしなく緩んだ表情が!

 

年頃の男の娘を見ている様で、ユエはとても優しい気持ちになった。

 

「・・・かわいい」

 

思わずポツリとこぼしてしまったその言葉が、晴香に聞こえる事は無かった。

 

「さて・・・自称最強種殿。殺意を持って(わらわ)を攻撃したのじゃ―――覚悟は出来ておろぅ?」

「ッ!」

 

※唐突の【のじゃ口調】は仕様です。

 

調子に乗ってる晴香からは、殺気などが一切感じない。しかし、今この場で引かなければ自身が死ぬ―――という得体の知れない奇妙な感覚にとらわれたジンは、その巨体からしては実現できなそうなほど機敏な動きで斜め横後方に飛び下がろう・・・とした所で、ハッと、気付く。

 

一切、瞬きもせず、視線を逸らしていなかったのに、小娘が視界から消えている事に。

 

「―――何処へ行こうというのかね?」

「ッ!?」

 

※この時の気分は某大佐さんです。

 

そして、気付けば耳元で言葉を掛けられているこの状況に思考が止まり掛ける。何時の間に移動した?そもそも、気配すらつかめなかったのは何故だ?どうやって、俺の視界から消えた?!―――瞬時に湧き上がってくる疑問が、ジンの脳内を埋め尽くす。

 

しかし、答えを導き出す時間は無かった。何故なら、晴香がグッとジンの腕を逆関節したからだ。

 

ゴキンッ!―――と耳にすればとても嫌な、骨の折れる音が部屋に響き渡る。ちょっと手加減をミスってしまったからではない。断じて。

 

だが、悲鳴の一つもあげる事無く我慢できたのは流石最強種を自称するだけの事はあるのかもしれないが、まだこの戦闘は終わっていない。晴香は逆関節した腕を後方に引っ張り、自身の肩に回して一気に振り絞った。

 

「【刳〇祓(くるわはらい)】っ!」

「ッゥカハっ!?」

 

巨体が宙を廻り、地面にたたきつけられる。綺麗に決まった一本背負い。晴香はご丁寧に、受け身も満足に取れてないジンの背中を、叩きつけるのと同時に空いた片手で押さえつけて肺の空気を強制的に排出させた。本当は、本来の技同様に肘で決めたかったが、今の自分がやると貫きそうだったので自重した。

 

暫くは行動できないかな?と言った程度のダメージを負わせた、と判断した晴香は、一応最低限の警戒をしながら腕を離す。そして、埃を払うかのようにパンパンッと手を叩くと、かいてもいない汗をぬぐう動作をし、ジンの髪を掴んで強引に持ち上げ、視線を合わせた。

 

ジンは何も言えず、ただ茫然と見つめ返していると、晴香がおもむろににっこりと微笑んだ。

 

そして。

 

「で?」

「―――ッ」

 

無邪気に見えるその笑顔の瞳は雄弁に語っていた。

 

【何もできなかったね?族長さん♪(笑)】

 

と。




ネタ
1【温い・・・温すぎる!】
A:美味い、美味すg(ry

2【のじゃ口調】
A:何と無くやって見たかった。

3【何処へ行こうというのかね?】
A:某大佐といえば、分かるでしょう?

4【刳〇祓】
A:六花の主人公の技。確か二巻

晴香
「ジャンルがバラバラ・・・もっとまとめた感じにすればよかったかな?」
ユエ
「・・・そこじゃないと思う」
『・・・でも、可愛かった///』


作者
「こんにちは。次回の更新ですが、一週間以内には出したいと思います(課題多すぎて死にそうなんです・・・はぁ・・・神水が何処かで湧き出てませんかね?オーバーラップのありふれイベントで、神水と銘打たれたペットボトルのミネラルウォーターが売ってましたが・・・本物より効果が感じられませんでした。薄めたちゃったの?原液でのませてぇ・・・( ;∀;))」


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46話 会議

死にそう


「アヤセハルカ、そしてユエ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める・・・はぁ・・・」

 

アルフレリックはとても重めな溜息を吐いて、族長の総意として晴香とユエを【資格者】として認めた。理由は二つ。

 

一つ。亜人族最強種の熊人族の族長であるジンを片手間に片付けてしまったこと。

一つ。骨折などの重傷を負ってしまったジンに対して【凄い回復薬(神水)】を無理矢理投与して全快にさせたこと。

 

である。

 

怪しさ満点な【凄い回復薬】と銘打たれた瓶を、死ぬ気で拒絶していたジンの口を無理矢理解放させ、口に突っ込んで飲ませたのだ。ジンの友人であり、土人族の族長でもあるゼクが武器を取って攻勢に出ようとする一触即発の事態に発展したが、ジンが驚きの声を上げて()()()()()()()の腕を普通に振り回したのだ。

 

晴香とユエを省いて誰もが呆気にとられる。フェアベルゲンに存在する高価な回復薬をもってしてもなお、ジンの怪我は治せないと直感で分かっていたからだ。

 

何より、人間族とは言え一応客人である晴香たちに対して勝手に攻撃行動を起こし、赤子を捻る様にして呆気なく敗れ、更にはフェアベルゲン最高価値の回復薬の効能を上回る回復薬で全快にさせてしまった。族長として、フェアベルゲンとしての面子は丸潰れである。その事を払拭するには、相応の対価を晴香たちに与えなければならなくなった。

 

それが【資格者としての容認】である。

 

「ありがとうございます」

 

高価な回復薬・・・と思われている神水を投与した晴香は、もとより亜人族の面子を潰せば、それなりに色々と利権を貰えるのでは?と思っての行動であったが、コレは認められたのでまぁ嬉しい?程度の感覚である。本題はハウリア族の事だ。

 

「さて、それじゃぁ私達はフェアベルゲンを後にします。大樹の元へと向かいますね」

 

話はもう済んだと言わんばかりに、席を立った晴香はユエの手を取って踵を返し・・・

 

「待て!大樹には亜人族の案内が無いとたどり着けんぞ?まぁ我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらうがな。友人を治してくれたことは感謝するが、口伝には【気に入らない相手を案内する必要はない】とある。俺はもとより、フェアベルゲンは案内を出さんぞ?」

 

ゼクが厭味ったらしい笑みで、晴香に投げかける。強制的に直されたジンはうつむいたままだんまりを決め込んだ。

 

対し晴香は

 

掛かった―――

 

内心ニヤリと黒く微笑んだ晴香は立ち止まる。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりであり、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはない。それに彼等は知っている。晴香たちの案内はハウリア族が請け負う事を。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」

「シア、止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

 

 土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのになッ」

 

ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当であり、他の長老達は何も発言しなかった。おそらく、忌み子であるということよりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。何とも皮肉な話だ。

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが、どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

他の長老衆も異論はないようだ。しかし、晴香は特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せることもなく、唯々可愛らしい年ごろの笑顔で、こう言い放った。

 

 

 

「―――よろしい。ならば、戦争だ♪」

「「「「「「ッ!?」」」」」

 

途端、晴香より大瀑布の水圧の如き絶大なプレッシャーが放たれた。この世のものとは思えない悍ましい気配が室内を一瞬で侵食する。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う―――圧倒的な死の気配。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。

 

「ひっ」

 

どたっと音を立てて崩れ落ちたのは、ハウリア族を囲んでいた兵の一人。プレッシャーに耐えられなくなったのである。

 

族長以下フェアベルゲンメンバーが顔を青褪めさせる異様な雰囲気であることに、ハウリア族一同は感じていたが、晴香が何かをしたこと以外は一切、なにも分からなかった。これは原作三巻辺りで対象者外指定をした者達以外に【威圧】を振りまくハジメさんの技をパクった技術である。

 

鍛錬は疲れたが、数々の協力者(魔物)達のお陰で如何にか習得できた業である。尚、協力者たちを労う為に、晴香は彼等を天に召してあげた。天国と言う名の楽園に旅立たせてあげたのである。本当に存在するかは別として。

 

「【資格者とは敵対しない】と掟にあるのに理解できない?私は初めに【大樹への案内はハウリア族に一任する】って言ったし、案内の対価に【大樹への案内までは彼等を保護する】って言ったよね?・・・それって、私達という【資格者】が保護している者達を殺すっていうのと、大樹に向かう私達への妨害の宣言。つまり、フェアベルゲン上層部は資格者に対して最後通牒を叩きつけたわけ」

 

晴香は徐に【異界召喚】から【10式30mm多銃身機関砲】を取り出し、低速で砲身を回転させる。ハウリア族を含めた全亜人族が、それが何だか解らなかったが、その凶悪な見た目からして何らかの武器だと分かり、更に不気味な事にギュルギュルギュル・・・と30mm六連装砲身が回る不快音が室内に響く。

 

ソレを族長一同に向けて回転速度を少し上げる。緊張が走る。

 

ユエも()()()()()()に入る。正に一触即発。西と東の全面核戦争間近なキューバ危機のような状態だろうか。

 

「私は、私達資格者に対する【宣戦布告】として受け取るけど、それでいいかな?」

 

このままでは回答は出来ないだろうと言う事で【威圧】を弱める。すると、今まで呼吸をする事すら忘れていたようで過呼吸気味に浅く呼吸を繰り返す長老集。しばらくして息を落ち着かせたアルフレリックが冷や汗を流しながら、口を開いた。

 

「良い訳なかろう・・・ゼクの件は失礼した」

 

アルフレリックが頭を下げた事で非を認め、一触即発の事態は回避され、脅しに必要が無くなった10式は【異界収納】に仕舞われる。

 

「しかし、ハウリア族の処刑は既に決定している。フェアベルゲンから案内を出そう」

「・・・何度も言うけど案内はハウリアっていってるでしょう」

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

アルフレリックの言葉に晴香はシアをチラリと見た。先程からずっと晴香を見ていたシアはその視線に気がつき、一瞬目が合う。すると僅かに心臓が跳ねたのを感じた。視線は直ぐに逸れたが、シアの鼓動だけは高まり続ける。

 

「約束したのよ。案内と引き換えに助けるって」

「・・・約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」

「貴方達からしたら問題無いかもしれない。でも、案内するまで身の安全を確保するっていうのが約束なの。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんて・・・」

 

晴香は一度、言葉を切って今度はユエを見た。ユエも晴香を見ており目が合うと僅かに微笑む。それに笑みを浮かべた晴香はアルフレリックに向き合い、告げた。

 

「格好悪いでしょう?」

 

どや顔である。

 

それをみて晴香に引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した。

 

「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ・・・既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

「アルフレリック!それでは!?」

 

完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げる。

 

「ゼル。わかっているだろう?この娘たちが引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか。いや、フェアベルゲンが滅ぶ可能性すら大いにある。長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

「し、しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

「だが・・・」

 

ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり危険因子とそれに与するものを見逃すということが、既になされた処断と相まって簡単にはできないようだ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう。

 

だが、そんな中、晴香は敢えて空気を読まずに発言する。

 

「ああ~、盛り上がっているところ悪いんですけど、シアを見逃す以前に族長会議の威信は地に落ちてると思いますよ?」

「なんだとッ!?」

「客人として招かれた者に対して問答無用に攻撃行動を取ったり、その主犯者が最高責任者の一人である、族長の一人だったり。これ、明らかにスキャンダルの域を超えて亜人族という国の威信を揺るがした事態ですよね。そんな程度の低い事、今更なのでは?」

 

ハッキリ言わずともわかるだろう。先程ジンが取った行いは、フェアベルゲンという国を破滅へと導く寸前の所まで持って行ったことを。もし、晴香が史実ハジメよりも凶悪になっていた場合、フェアベルゲンはもとより、全亜人族を何とも思わず亡ぼしていたのかもしれない、最悪な事態に発展していた事を。

 

魔法が使えず、頼りの樹海と霧も、その一切合切を吹き飛ばす武力が晴香には存在し、その行使に制限はある意味ユエが握っている様な物だが、ユエも敵と判断を下して、その武力の行使を推進したかもしれない。

 

一人の族長が仕出かしたことは、それ程までに重い事であり、国の威信云々など掠めるような重大事件である。

 

晴香が比較的理性的であった事により全面戦争には発展しなかったのは唯一の救いだ。しかし、ハウリアを処刑するのならば、晴香は今後の為にも亜人族と敵対してもキーパーソンであるシアを、ハウリアを全力で死守する。

 

「・・・それは」

「皆さんは私達資格者に対する理解が其処まで高くないようです。なら、手っ取り早く【手を出してはいけない理由】を示す為に、そうですね・・・この樹海、焦土にしましょうか?」

 

簡単ですよ?と、笑顔で語り掛ける晴香に、長老方は押し黙るしかなかった。先程の強烈なプレッシャーは無論、移動の最中に見せたアーティファクトによる超常の力。明らかに手加減した様子であり、本気になれば妨げる者が存在しないこの樹海くらい、本当に焦土にしてしまえるのでは?と、思ってしまったのである。

 

・・・まぁハルツィナ大迷宮が存在するので、そのような事は絶対にしないのだが。

 




遅くなってしまい、申し訳ありません・・・


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47話 大樹まで後10日

感想、ご文字報告ありがとうございます。ギリギリ週一ペースなら、行けそうです。


「まぁでも、今の所は問題無いでしょうね。この室内にいた全員に箝口令でも敷けば、外部にその失態は漏れる事がありませんし、私も言いふらすようなことはしませんよ?・・・例え、動く景色と音を同時に記録できるアーティファクト《スマホ》を持っていても、言いふらしません」

 

が・・・と続けた晴香さんは、悲しみに沈んだ様な表情で告げる。

 

「もし、()()()()()()()()私達に何かあった場合は、うっかり流してしまうかもしれません」

 

そう言って、胸ポケットからスマホを取り出すと、録画していた動画を長老方に見せつけながら再生ボタンを押した。

 

     *   *   *   *   *

 

『なら、こんな人間族の小娘が資格者だとでも言うのか!?敵対してはならない強者だとッ!』

『そうだ』

『・・・ならば、今、この場で試してやろう!』

 

―――ズドンッ!

 

『―――温い・・・温すぎる。これが、亜人最強種の一撃・・・ハっ、笑止ッ!!』

『さて・・・自称最強種殿。殺意を持って妾を攻撃したのじゃ―――覚悟は出来ておろぅ?』

『ッ!』

『―――何処へ行こうというのかね?』

「ッ!?』

 

―――ゴキンッ!

 

『【刳〇祓】っ!』

『ッゥカハっ!?』

『で?』

『―――ッ』

 

     *   *   *   *   *

 

「で?どうでしたか?よく撮れてるでしょう?」

 

すまし顔でそう言った晴香であったが、自身の言動とか色々を見て転げまわりたくなった・・・が、顔には出さない。

 

「「「「「・・・」」」」」

 

晴香が言った【箝口令作戦】は結構有効なのではと考えていた長老方にダイレクトダメージが入っていた。確かに箝口令を敷けば、カメラもその様なアーティファクトが無いこの世界では有効だったかもしれないが、晴香が持ち出した背景と音を同時に記録できるアーティファクトの存在は途方もなく大きかった。

 

なんせ、ジンを含めた映像に移っていた数名の長老も、全てが鮮明であり、皺すら見れているのだ。声も本物と大差なく、長老方と親しいものや見た事がある者に箝口令を強いた所で晴香がコレを流したりでもすれば、一発で本物であると露見する。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~・・・ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、資格者【アヤセハルカ】の身内と見なす。そして、資格者アヤセハルカに対しては敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、アヤセハルカの一族に手を出した場合は全て自己責任とする・・・以上だ。何かあるか?」

 

妥協した・・・否、妥協せざるを得なかったのかもしれない。亜人族最強のジンが子供の手を捻るかの如く簡単に組み伏せられ、超常の力を振るう武器が自分達の方へと向けられると・・・とでも思ったのだろう。晴香はそんな事はしないのだが、それは兎も角。晴香たちに有利な方向に話が進んだので、それで良しとしよう。

 

そして、これ以上の要求は持っていない晴香は首を横に振ると、軽く頭を下げた。

 

「無理を聞いてもらい、そして理性的な判断をして頂き、ありがとうございました」

「・・・そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいのだがな(忌子が身内に存在するために歓迎できない)・・・」

 

晴香の言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ!という雰囲気である。その様子に苦笑いの晴香はユエやシア達を促して立ち上がった。

 

しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不可思議な状況。「えっ、本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

と言うか、耳に出ている。心の動揺を表すかのようにぶんぶん揺れている。晴香はなんか面白いと思った。

 

「ほら、()()()よそ者なのだから早くおいとまするわよ」

 

しかしなかなか動かないので、晴香の言葉でようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、ユエと仲睦まじく手を繋いて出て行く晴香の後を追うシア達。アルフレリック達も、晴香達を門まで送るようだ。

 

シアが、オロオロしながら晴香たちに尋ねる。

 

「あ、あの、私達・・・死ななくていいんですか?」

「・・・その耳は飾りなの?」

「本物ですぅ!ちゃんと聞いてました!!って、そうではなくてですね、その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか・・・信じられない状況といいますか・・・」

 

周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのである。なので、どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。

 

「・・・素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「・・・ハルカに救われた・・・それが事実。受け入れて喜べばいい」

「・・・」

 

ユエの言葉に、シアはそっと隣を歩く晴香に視線をやった。晴香はシアに向かって微笑む。

 

「約束したからね」

「ッ・・・」

 

シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シアが必死に取り付けた晴香との約束。

 

ライセン大渓谷の魔物から、亜人狩りに来た帝国兵から守り抜いてくれた。しかし、今回はいくら晴香でも見捨てるのではという思いがシアにはあった。帝国兵の時とはわけが違う。言ってみれば、帝国の皇帝陛下の前で宣戦布告するに等しい行為だ。にもかかわらず一歩も引かずに約束を守り通してくれた。例えそれが、晴香自身の為であっても、ユエの言う通り、シアと大切な家族は確かに守られたのだ。

 

先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも・・・

 

シアは、ユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、晴香に全力で抱きつく!

 

「ハルカさ~ん!ありがどうございまずぅ~!!」

「・・・(どう反応すれば良いか分からない苦笑い)」

「むっ・・・」

 

史実を進むかのように歩んで来たので、大体同じように進むだろうと思って居た晴香は、シアの次の行動を読めてはいた。しかし、此処で避けては今までの積み重ねてきたものが崩れてしまいかねない。なので、大人しく抱き着かれる事にしたのだ。

 

ユエという最愛が存在しながら、他の女に抱き着かれるのは最低野郎な気がしてならない。

 

史実ハジメさんもこの様な葛藤?見たいな物を感じていたのか・・・と、晴香は思う。物語が進むにつれて、ハジメさんはユエの他にもシアやティオ、香織と言ったヒロインたちをどんどん堕としていった。だが、晴香には()()()ハーレム精神が無い。なので、ユエに対して物凄い罪悪感を感じてならないのだ。

 

泣きべそを掻きながら絶対に離しません!とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリと晴香の肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。

 

これが何を意味するのか、分からない晴香ではない。罪悪感がUPして行く。

 

それを見たユエが不機嫌そうに唸るものの、何か思うところがあるのか、晴香の反対の手を取るだけで特に何もしなかった。何時もより握り加減が三割増しで強いと感じるのは、気のせいではない。晴香は受け止めて優しく包み込む事に徹した。

 

喜びを爆発させ晴香にじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。それを何とも複雑そうな表情で見つめているのは長老衆だ。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

晴香はその全てを把握しながら、ハッ!?と思い出した。

 

 

 

 

【友好の印カチューシャ(猫耳バージョン)】をつけ忘れた、と。

 

 

       *   *   *   *   *   

 

 

「―――さて、諸君。君たちには戦闘訓練を受けてもらおうと思います」

 

フェアベルゲンを追い出された晴香達は、一先ず大樹の近くに晴香がさり気なく盗ん・・・貰ってきたフェアドレン水晶を使って結界を張っただけの拠点とも言えない拠点を作って一息ついた時の、晴香の第一声がこれである。

 

その中で切り株などに腰掛けながら、ウサミミ達はポカンとした表情を浮かべた。

 

「え、えっと・・・ハルカさん。戦闘訓練というのは・・・?」

 

困惑する一族を代表してシアが尋ねる。

 

「そのままの意味よ。この状況を理解していると言う事で話を進めるけど・・・いい?私が貴方達と交わした約束は、案内が終わるまで守るというもの・・・じゃあ、案内が終わった後はどうするのか、貴方達は考えた?」

 

ハウリア族達が互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振る。カムも難しい表情だ。漠然と不安は感じていたが、激動に次ぐ激動で頭の隅に追いやられていたようだ。あるいは、考えないようにしていたのか。

 

「まぁ、考えてないでしょうね。考えたところで答えなどないから。貴方達はとても弱く、悪意や害意に対しては逃げるか隠れることしかできない。そんな貴方達は、遂にフェアベルゲンという隠れ家すら失った。つまり、約束の効果で守られている貴方達は私とユエの庇護を失った瞬間、再び窮地に陥るというの」

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

 

全くその通りなので、ハウリア族達は皆一様に暗い表情で俯く。そんな彼等に晴香の言葉が響く。

 

「貴方達に逃げ場はない。隠れ家も庇護もない。だが、魔物も人も容赦なく弱い貴方達を狙ってくる・・・このままじゃぁ全滅ね?でも、それでいいの?弱さを理由に淘汰されることを許容するの?幸運にも拾った命を無駄に散らす?・・・どうなの?」

 

誰も言葉を発さず重苦しい空気が辺りを満たす。そして、ポツリと誰かが零した。

 

「―――そんなものいいわけがない」

 

その言葉に触発されたようにハウリア族が顔を上げ始める。シアは既に決然とした表情だ。

 

「そうよ。いいわけがないの・・・ならば、どうする?答えは至極簡単。ただ、強くなればいい。襲い来るあらゆる障碍を打ち破り、自らの手で生存の権利を獲得すればいい。ただ、それだけよ」

「・・・ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません・・・とても、そのような・・・」

 

兎人族は弱いという常識が晴香の言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦うことなどできない。どんなに足掻いても晴香の言う様に強くなど成れるものか、と。

 

「ふッ」

「「「「「・・・」」」」」

 

晴香はそんなハウリア族を鼻で笑う。

 

「ならば、問おう!」

 

そして、ニヤと黒い笑みを浮かべた晴香は、口角を釣り上げて言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――うぬらは、力が欲しくないか?」

 

ゴクッと、誰かが喉を鳴らす音が、静寂の樹海の中に痛く響いた・・・

 

 





ハルカ
「貴方は、どの力が欲しい?」

A・何故か多数のヤンデレに愛されられる
B・周囲の人間を洗脳してコンギョ状態に出来る
C・好きな人と永遠を共にできる

ユエ
「・・・C。晴香と、ずっと一緒」
晴香
「ユエ・・・♡」

シア
「私もCで、一緒に混ぜて下さいですぅ!!」
晴香&ユエ
「却下」「(´・д・`)ヤダ」
シア
「そんなー(泣)」


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48話 きょういく

おはようございます!


「―――うぬらは、力が欲しくないか?」

 

 

 

ゴクッと、誰かが喉を鳴らす音が、静寂の樹海の中に痛く響く。

 

『どうする?』と目で問われるハウリア族達は直ぐには答えられなかった。自分達が強くなる以外に生存の道がないことは分かる。晴香は正義感からハウリア族を守ってきたわけではない。故に、約束が果たされれば容赦なく見捨てられるだろう。だが、そうは分かっていても、温厚で平和的、心根が優しく争いが何より苦手な兎人族にとって、晴香の提案は、まさに未知の領域に踏み込むに等しい決断だった。

 

元からの平和主義者が、戦闘心溢れる戦争主義者へと心のあり方を変えるのは、強烈な感情の動きや、それこそ史実ハジメのように一度心が壊れない限り至難なのである。

 

黙り込み顔を見合わせるハウリア族。しかし、そんな彼等を尻目に、先程からずっと決然とした表情を浮かべていたシアが立ち上がった。

 

「やります。私に戦い方を教えてください!もう、弱いままは嫌です!」

 

樹海の全てに響けと言わんばかりの叫び。これ以上ない程思いを込めた宣言。シアとて争いは嫌いだ。怖いし痛いし、何より傷つくのも傷つけるのも悲しい。しかし、一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因であり、このまま何も出来ずに滅ぶなど絶対に許容できない。晴香へと芽生えた淡い目的のためにも、シアは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。

 

不退転の決意を瞳に宿し、真っ直ぐ晴香を見つめるシア。

 

その様子を唖然として見ていたカム達ハウリア族は、次第にその表情を決然としたものに変えて、一人、また一人と立ち上がっていく。そして、男だけでなく、女子供も含めて全てのハウリア族が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

 

「ハルカ殿・・・宜しく頼みます」

 

言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。

 

そんなシアたちに晴香さんはにっこり。

 

「わかった。でも、覚悟はしてね?大丈夫。ちゃんと死なない様にするから・・・でも、気を抜いたら死んじゃうかもしれないわね、ふふっ♪」

 

マッドなその微笑みと共に紡がれたその言葉に、ちょっぴり恐怖を感じつつもハウリア族は皆、色々な覚悟を宿した表情で頷いた。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ハウリア族達の運命を掛けた戦闘訓練が始まった・・・が。案の定と言うべきか、予想通りと言うべきか、やっぱりハウリアはハウリアであり、魔物一匹を殺すだけで「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」とか「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!それでも私はやるしかないのぉ!」などとほざきやがり、戦闘が三文芝居のような有様に成り果てた。

 

花や虫を心配して変な所で跳ねて避けたりなど、見ていられない。

 

これでは渡したせっかくの装備品や、奈落で習得した【合理的な動き】が全く意味をなさない。やはり、健全な教育では限界があるようだ。

 

はぁ~・・・と一つ、小さく溜息を吐いた晴香は、シア以外の全ハウリア族に聞こえる様に声を上げた。

 

「傾注ッ!これより、五分間の休憩を取ります」

 

そう告げた晴香は、特に何も言わずに樹海の奥へと消えて行く。

 

ハウリアたちは晴香が休憩時間の間にユエにでも会いに行ったのだろうと思いながら、精神的な疲労を癒す為に、樹海の木々へと背中を預ける様にして座り込んだ。

 

食料確保の為の狩りなどでは全く問題無く獲物をしとめる事のできるハウリア族であるが、素材を得る為でも、ましては食料に成り得ない魔物を意味も無く殺すのは、とても精神的に来る物があり、全員が疲労困憊で憔悴した面持ちである。ある者など、この休憩時間を利用して訓練中に殺傷したネズミ型の魔物の死体を前に、恰も『自身で殺してしまった我が子に対して』とでも言う様に縋りついて涙を流している。普通に怖い光景だ。

 

まぁそれは兎も角。

 

彼等も判っているのだ。この戦闘が、経験が、ハウリア族の未来を左右するとても大切な行為であることに。しかし、幾ら頭でわかっていようが、心ではどうしても忌避してしまう。

 

もとより晴香も、一日二日で心が簡単に入れ替わるとは思っていない。なので、強制的に入れ替える為の準備の為に樹海の奥へと消えたのだが、その事を理解している者はこの場におらず、もうそろそろしたら強制的に心の魔改造計画が発動されるとは露程も思ってもいない彼等は、この休憩時間を感受していた。

 

もし知っていたら、この場から全力で逃げ出していたに違いないのだが・・・それは晴香が許さない。例え離れていようとも【気配感知】の範囲内にいるハウリアを逃がすなんてことは、万が一、億が一に在り得ない。

 

「今戻ったよ・・・さて。私はこの二日間、貴方達の訓練風景を見させていただきました」

 

にこにこの笑顔で戻って来た晴香さんは・・・何故か軍服であった。

 

個人的にデザインがカッコよくて自ら着る衣装に取り入れたいとユエに要望を出して製作された、ゴテッとしていて威圧感のある、何処か独軍を彷彿とさせるデザインである。唯、ハーケンクロイツの紋章は刻まれていない。刻みたかったけど、風評が気になったから。異世界でそれはないと思うが念のため。

 

そして手には・・・一本の鞭が握られていた。

 

「えぇ・・・よ~く、見させていただきました」

 

―――ベチンッ!!

 

深い笑みに変わった笑顔と共に、一瞬にして振り抜かれた鞭が弧を描いて樹木の幹に当たり、とても気持ちの良い音と共に幹を削って一筋の深い傷跡を付けた。先端がマッハを超えた一撃。これが人体にでも当たってしまえば、良くて泣き別れ、悪くて肉がえぐり取られていた事だろう。

 

一瞬、自分達の訓練を褒めてくれる?みたいに純情かよと思わせるような笑顔を浮かべていたハウリア族一同は、晴香の行動に顔を青くしていく。その可憐に見える笑顔は、実は褒めようとしているのではなく、怒りに染まっている恐怖の笑みである事に漸く気付いたのだ。

 

「は、ハルカ殿・・・?」

「えぇ、まさか自身や身内の命が、種の存続がかかった瀬戸際で魔物を心配し、虫や花に気を遣うとは・・・それだけ、余裕があるのならば・・・そんな事が考えられなくなるくらい濃密でキツイ戦闘訓練を施しましょう。魔物を殺しても、花や虫を踏みつぶしても心が痛まないように教育してあげましょう」

「それな、なんt―――「ベチンッ!」ア、アァ―――――――ッ!?!?」

 

何て酷い事をおっしゃるのですか!と抗議の声を上げようとしたカムに、鞭が当たった。男の急所に。潰れてしまわぬように絶妙な力加減でダメージを受けた〇玉の激痛は、族長であるカムが涙を撒き散らしながら絶叫を上げる程に強烈なものであった。

 

ハウリア男性が顔を白くして後ずさる。

 

なんて悪魔的な所業なのかっ!?と。

 

「・・・次、勝手に何か言おうとしたら潰すわよ?他の貴方達もね?―――貴方達が発していい言葉は【はい】か【yes】だけ・・・返事は如何したッ!この糞蛆虫共がッ!?」

「「「「「「は、はぃ~!!」」」」」」

 

大瀑布の如く溢れ出す威圧と、生気を削り取られる殺気を叩きつけられたハウリア達が意識を失いそうになる寸前、間髪なく鞭が飛び、金的などの激痛を持って強制的に覚醒させられると、再び鞭が飛んでくるので死に物狂いで避けようと行動する。

 

「貴様らは薄汚い―――共だ!この先、―――されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ!今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみなさい!貴様ら全員―――してやるわ!わかったら、さっさと魔物を狩りに行け!この―――共がッ!」

 

ビチィッ!バシィッ!バチィィィイイイインッ!!!

アベシッ!?クペッ!?ミュブッ!?

 

鞭が撓れば、誰かの悲鳴が上がる。痛みに震え、恐怖で死にそうに成りながら、ハウリア達は蜘蛛の子を散らすように樹海へと散って行く。此処から後8日間が、地獄も生温く感じる絶望の時間となってハウリア達を襲うこととなり、それ以降、樹海の中に【―――】を入れないといけない用語とハウリア達の悲鳴と怒号が飛び交い続けた。

 

種族の性質的にどうしても戦闘が苦手な兎人族達を変えるために取った訓練方法。戦闘技術よりも、その精神性を変えるために行われたこの方法を、地球ではハー○マン式と言うとか言わないとか。

 

「ほらほらほら!!さっさと狩りなさい、この―――共ッ!(バシッ!)」

「アギャァ!?」

 

晴香は鞭を振るいながら思う。

 

 

 

 

 

 

 

―――なんか、気持ちいい。ちょっぴり快感っ!

 

鞭がハウリア達の肉体を打ち付ける感覚に、その都度上がる悲鳴にゾクゾクした。ハウリア女性に当てた際に出る苦しくも嬌声に聞こえる卑しい悲鳴に、嗜虐心が芽生えてしまい・・・と、ちょっぴりSに目覚めた晴香であった。

 

健全な教育を心がけたが、無理だったみたい。

 

あと、因みにだが、女性に対して鞭を振るう場合は、跡がついても目立たない部分に当てているし、男性に対して喰らわせるよりも威力は低くしている。無論、顔には絶対に当てない。

 

女は顔と髪が命なのだ。

 

多分、これは人種や世界が違っても国際常識であろう。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

【ユエとシアの勝負回は、原作をご覧ください。なろうの37話で見れます】

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ユエとシアが晴香のもとへ到着したとき、晴香はティーセットを事前に準備していた。

 

事前に二人の気配に気が付いたので、時期的にもそろそろ帰って来るだろうと予測していた晴香は、主にユエを労う為に紅茶を準備していたのだ。自分用とユエ用、ついでにシア用である。そして、二人がやって来た。

 

全く正反対の雰囲気を纏わせているユエとシアに、史実通りの展開になったのかな?なんて思いながら手を振って声をかけた。

 

「お疲れ様、二人とも。例の勝負はどうだったの?」

 

私達の旅についていく許可の為と、私の第二の嫁になる為の、ユエによる真剣勝負である。私はユエだけで良いんだけどなぁ~という思いも、当事者である晴香を外して行われたシア一世一代の大博打?である。

 

そして、この勝負の為に超重量の大槌をシア用の武器として用意した。シアがとても真剣な表情で【ユエさんに勝ちたいです。なので、武器が欲しい!】と頼み込んできたので。この勝負が何なのかは教えてもらえなかったが、流れや史実で察せている晴香は、出来ればユエに勝って欲しいと思いながらも、武器製作に手を抜くことなく仕上げてシアに渡したのだ。

 

・・・まぁ、史実通りの展開になってしまったのだけれども。

 

苦虫を噛み潰してしまった様な苦々しい表情のユエを、手招きして膝の上に抱っこしながら、頭を撫でる。少しだけ表情が和らいだのを確認しながら、結果を聞くことにする。

 

晴香に促されたシアが上機嫌で話しかけた。

 

「ハルカさん!ハルカさん!聞いて下さい!私、遂にユエさんに勝ちましたよ!大勝利ですよ!いや~、ハルカさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりをっ!負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」

 

身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。ティーカップから紅茶が零れている。そして、調子に乗りすぎて、ユエの【風弾】を食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。

 

同じく吹き飛んだティーカップはというと、ユエによる風魔法【飛来】で器用に空中で受け止められると、そのままテーブルの上に音もなく置かれた。何て高度な技術の無駄な使用方法であろうか。

 

「・・・フンっ」

 

と、鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向くユエに、晴香が苦笑いしながら尋ねる。囁き声と共に、耳に掛かる吐息に擽ったそうに身動ぎしたユエは、晴香に背を預け、胸を枕にしながら小さく語り出した。

 

「それで、実際にはどうだったの?」

「・・・ん。魔法の適性は・・・・・・」

 

と、史実通りの説明を聞き終えると、とうとうこの瞬間がやって来た。



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49話 シア以上に別方向へと豹変したハウリア

おはようございます。
最後の1000文字ほどは、深夜テンションで書き上げました(00:40くらい?)。なので、ちょっと変な所とかがあるかもしれませんが、ご了承ください。


「ハルカさん」

 

吹き飛んだシアが起き上がり、覚悟を決めた真っ直ぐな瞳で晴香の目を見る。晴香も真剣な表情をして、シアに向き直った。尚、抱えられているユエからはとても攻撃的で不機嫌な雰囲気がひしひしと伝わってきており、それを0距離で受け止める晴香の背中には気持ちの良い冷や汗が流れ出る。

 

S処かM気質も兼ね備える晴香である。

 

「私をあなたの旅に連れて行って下さいっ、お願いします!!」

 

頭を下げたシアに、晴香はというと・・・

 

「―――と、申しておりますがユエ閣下、如何しましょう?」

 

晴香的には連れて行ってもいい・・・と言うか、今後を考えると絶対連れて行きたい所存であった。でも、ユエが如何しても嫌と言うのならば、連れて行かずにこれからの戦略方針を練り直す事も視野に入れている。晴香はシアの参入に肯定であっても、最終判断はユエに委ねる事にしたのだ。

 

「んっ!拒否るが宜し!」

「ちょっ!?ユエさん!?」

 

満面の笑みでそう宣言したユエ閣下であり、その決定にシアが驚きの悲鳴を上げる。勝負の結果をはぐらかされそうではあったが、一応、晴香に【旅に連れて行こうと言う】と約束したのだ。守ると宣言したのだ。なのに、まさかの裏切り行為にシアが泣きそうになる・・・が。此処でユエに変化が訪れる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、言いたい。でも・・・約束は守る。」

 

苦虫を100匹は噛み潰してしまった様な、心底【嫌です】という機嫌状態ではあるが、私はユエ。約束したことはきちんと守る女!なのである。

 

「・・・・・・ハルカ、連れて行こう」

「物凄く嫌そうね・・・それが、勝負の賭け事?」

「・・・無念」

 

心底、本当に心底無念!と言った表情で深い溜息を吐くユエの頭を撫でつつ、ユエのお許しが出たとの事で、晴香は最終確認。

 

「いいのね?」

「・・・・・・ん」

 

ユエは、不本意そうではあるが仕方ないという様に肩を竦める。この10日間、シアの頑張りを誰よりも近くで見ていたからこそ、そして、その上で自分が課した障碍を打ち破ったからこそ、旅の同行は認めるたのだ。元々、シアに対しては晴香の事を抜きにすれば、其処まで嫌いというわけではないという事もあるのだろう。

 

「わかったわ。シアの加入を認めましょう」

「よ、よろしくお願しm「―――その前に!」・・・ふぇ?」

 

感激に震えながら、喜びを爆発させようとしたシアを、晴香はインターセプトした。

 

「その前に、ついて来る理由を聞かせてちょうだい。カムたちの迷惑になりたくない、とか、同類だから、とか、そんな理由じゃないでしょう?」

「うっ・・・その・・・私自身が、付いて行きたいと本気で思っているから・・・」

「本音は?」

 

いや、大体わかるんだけど、ちゃんと聞いて回答を出さないと。

 

「で、ですからぁ、それは、そのぉ・・・」

「・・・」

 

モジモジしたまま中々答えないシアだったが、シアは【女は度胸!】と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

「ハルカさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ!!」

 

しゅきなのでぇ!!―――しゅきなのでぇ!!――――――しゅきなのでぇ!!・・・・・・・

 

シアの告白が、静かな樹海に反響する。

 

うん。フラグが立ったのは、やっぱり長老会議で命を救ったから・・・だろう。ユエとくっ付いてるのに私の腕に抱き着いて幸せそうな表情を浮かべていたのだから。あの女の子の顔を見て好意を抱いていないなんて感じるほど、私も朴念仁系鈍感野郎じゃない。

 

でも、私にはユエがいる。と、『言っちゃった、そして噛んじゃった!』と、あわあわしているシアを前に、晴香は如何返答を返そうかと悩んだ。

 

そして、

 

 

 

「私には、一人の最愛で、唯一無二の特別な存在のユエがいる。だから、貴方の想いには答えられないわ。ごめんなさい」

 

振った。

 

本当に好きな私のユエは、私の心の中を完全に埋め尽くしている。そこに、他人が入り込む余地など存在しないというように隅々にまで浸食されていると言っても良い。晴香も日本のサブカルに犯されているので、百合ハーなどを考えた事は一度ではない。しかし、実際にユエという最愛が出来て、まだまだ短い間だがユエと共に育んだ愛の形が形成されてからは、百合ハーなんて如何でも良いくらい濃密なものであった。

 

私は、ユエに対しての独占欲とか依存度とかが、多分、凄く重い。これからを生き抜くためにはシアが必要な場面が多々あると感情で理解していても、心では私とユエの二人だけで歩みたいという思いがソレはもう強くあるのだ。そんな二人の中に異物が一人、混入してくる。

 

だから振った。同行は認めたが、それ以上に踏み込んでほしくなかったから。

 

でも―――

 

 

「ふふ・・・私も断られると思ってました―――でも、知らないんですか?未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

それは、未来を垣間見れるシアだからこその言葉。未来は覚悟と行動で変えられると信じている。だから暗に、未来には私とユエの間に混入してやるという、晴香に対しての宣戦布告である。

 

むっ、とジト目でシアを睨みつけるユエを宥めながら、晴香はひとつ、深い溜息を吐き、シアの瞳を見つめる晴香は、その真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。

 

そして、

 

「そんな未来は訪れないわ。はぁ~・・・・・・兎も角。告白はお断り。でも、同行は許可するわ」

 

やがて晴香は、長めな溜息をつきながらそう宣言をした。

 

樹海の中に一つの歓声と、不機嫌そうな鼻を鳴らす音が響く。その様子に晴香は、これから本当にどうなってしまうのだろうか、と本気で不安になるのであった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「えへへ・・・うへへへ・・・くふふふ~・・・」

 

同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、晴香と目を合わせた時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。

 

やはり残念ウサギの名は伊達では無い。

 

「・・・キモイ」

「そうね」

 

見かねたユエがボソリと呟く。それに晴香が、小声で即座に肯定した。実際、キモイ。

 

しかしシアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。

 

「・・・ちょっ、キモイって何ですか!キモイって!嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ~何せ、晴香さんの初デレでs「いや、デレてないわよ?」―――・・・初デレですよ!見ました?最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~!」

 

否定したのに、それを無かった事にしたシアは、完全に調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かって晴香とユエは声を揃えてうんざりしながら呟いた。

 

「「・・・ウザウサギ」」

「んなっ!?何ですかウザウサギって!いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね?ねっ?」

「「・・・」」

「何で黙るんですかっ?ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」

 

必死に名前を呼ばせようと奮闘するシアを尻目に今後の予定について話し合いを始める晴香とユエ。それに「無視しないでぇ~、仲間はずれは嫌ですぅ~」と涙目で縋り付くシア。旅の仲間となっても扱いの雑さは変わらない。

 

というか、変えたくない。

 

「・・・そう言えば、なんで軍服?」

 

シアとの勝負の敗北が余程堪えていたのか、晴香の服装について漸く認識したユエが質問する。全体的なデザインは晴香が行ったが、コレを着る晴香が映えるようにと細部の微調整を行ったのはユエである。そして、この服装は、来る夜戦に備えた自慢の出来の一着。

 

まだ昼間だし、何で夜戦装備を?と疑問に思うのも無理はない。

 

何なら、鞭も持ってるし。

 

「ああ、これはね―――」

 

と、晴香が説明しようとしたところで複数の気配が近づいて来る。ハウリアだ。霧をかき分けて数人のハウリア族が、晴香に課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムである。史実通り、一番最初に課題を終えたようだ。

 

シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった10日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。

 

早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したいことが山ほどあるのだ。しかし、シアは話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が、何やらかおかしいことに気がついたからだ。

 

歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線を晴香に戻した。

 

そして・・・

 

「マム。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」

「ま、マムっ?と、父様?何だか口調が・・・というか雰囲気が・・・」

 

父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

「ふむ・・・私は一体でいいと言ったけど?」

 

晴香の疑問に対し、カム達は不敵な笑みを持って答えた。

 

「ええ、そうなんですがね?殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして・・・生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ?みんな?」

「そうなんですよ、マム。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

「ウザイ奴らだったけど・・・いい声で鳴いたわね、うふふっ♪」

「見せしめに晒しとけばよかったか・・・?」

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 

不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたまま晴香に物騒な戦闘報告をする。

 

「そうなの?まぁ、課題はクリアしたし・・・お疲れ様」

「「「「「ありがとうございます、マムッ!!」」」」」

 

ビシッと決まる規則正しい敬礼。実戦経験が豊富な軍人が、いま、目の前に存在するような、そんな錯覚に陥りそうである。変貌し過ぎた家族・・・いや、元家族のまさかな有様に、シアは早速茫然とするしかない。

 

そんなシアに一瞥した晴香は、これからする事に対して如何しようかと一瞬だけ悩む・・・が、別に気にする事は無いということで、鞭を握った。

 

「でも・・・私が出した課題は一体の討伐。殺意を向けられたとはいえ、全部狩ってこい何て一言も言ってないわ」

 

鞭を握り出した晴香に対してユエは、晴香が何をするのか見当がついたようで、僅かながら目を見開いて動揺する。

 

まさか、えっ、そうなの?とでも言わんばかりの表情。

 

そして、その疑問は確信へと変わる。

 

「え、いや、でもですs「おだまりッ!(ベシンッ)」ありがとうございますぅッ!!」

 

弁解しようとしたカムに鞭が飛ぶ。当たった場所は尻。綺麗なカーブを描いて飛来してきた鞭の先端が、ここ10日の戦闘訓練と言う名の精神改造&肉体改造にて強靭化した筋肉にぶち当たり、乾いた気持ちの良い音が樹海に反響した。カムは、痛いけど気持ちいい―――ティオ擬きと化して感謝の歓声を上げた。

 

後続のハウリア達がカムを羨ましそうな目で見ている。なので、晴香は彼等にも平等に鞭を与えた。上がるのはやっぱり歓声。

 

因みに、結構な激痛なため、喰らった者達は地面に沈んだ。感に堪えない表情である。

 

エムノトビラ~♪|晴香が開けてくれた~・・・

 

ドMの扉を、晴香が開いてしまった様なモノである。しかし、こうしたのには訳があった。これから先、同じ時系列で出来事を消化していけば、多分だが、ほぼ確定でティオと出会う事となるだろう。将来的にティオの技能【痛覚変換】は凄い役立つ。なので、ハルカは出会ったら即ケツパイルを強行するつもりだ。

 

その予行練習的に、Mを量産した。晴香の心に存在したS心と、ハウリア達を10日間も見続けて来た晴香には、Mに対しての扱いの匙加減は無論の事、精神的な耐性も十分に備わった。これで、ケツパイルを行いドMを作ってしまっても、疲弊する事はない・・・はず。それに、Mになるならないは別として、史実並み以上に戦闘訓練をさせたつもりで有るからして、目的は達成している。

 

とまぁそんな理由でMの道へと堕とされたとは知らない、恍惚の表情で沈むハウリアに、汚物を見るような冷たい視線を向けたユエは、続いて晴香を見た。途轍もないジト目で。晴香はゾクっとした。

 

「・・・ハルカ。なんで、鞭を使ったの?」

「ん、ん~と・・・調k―――こほんっ。教育には、コレが一番適していると思ったからよ!」

 

その回答に、ユエはシアの同行と告白とは別の意味で、不機嫌な表情を浮かべた。ほっぺが膨らんでいる。そして・・・

 

「・・・・・・その鞭は、私とハルカの夜戦で使おうと思ってたのに・・・」

 

ちょっぴり沈んだ表情で鞭に目をやるユエ。コレで打ち付けたり、打ち付けられたりといった、ちょっぴりハードで高度なplayを、晴香と二人っきりで楽しむはずだったのに―――ハウリアの所為で、この鞭は穢されてしまった・・・と。憐憫の心である。

 

そんなユエに、晴香は「大丈夫よ、ユエ!」と声を掛けた。そして、【異界収納】よりあるものを取り出し、ユエに渡す。

 

「・・・なるほど」

 

ソレをみたユエは笑顔になった。

 

渡されたのは、一つの箱。

 

中には【鞭(ハウリアに使った奴とは別の奴で、本当にplay専用)】【足枷】【手錠】【目隠し】【晴香とネームプレートが彫られた鎖付きの首輪】etc・・・

 

つまり、今日はコレで夜戦しよっ?と、晴香が誘ったのだ。自身がネコ(受け)になるという意味も込めて。これは10日間の合間に、晴香が用意した自信作。全てアーティファクトとなっており、ユエの許可がない限り外す事が出来ない。ユエがあるキーワードを言えば首輪がキツク絞まる仕組みも搭載。自身で自分を苦しめる夜戦装備を喜々としてつくっちゃう晴香は、もはやドMである(ユエ限定)

 

攻めて攻めてっ♪と主人にたいして尻尾を振る子犬の様な眼差しで、ユエを見る晴香に、嗜虐心の溢れる眼差しをユエは向ける。そして、ユエは箱から取り出した晴香専用の首輪を付けてあげよう――――――と、した所で、止まった。

 

 

 

「――――――ど、如何言う事ですか晴香さんッ!!お父様たちに何をしたんですかッ!?!?」

 

再起動したシアの絶叫で。

 

 

 



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50話 失意に沈むシア

おはようございます。
今日の夜頃、感想返信したいと思います!
(書く時間に取られて、コメ欄みる暇がなかったです。ごめんなさいm(__)m)



「――――――ど、如何言う事ですかハルカさんッ!!お父様たちに何をしたんですかッ!?!?」

 

大混乱。今のシアの表情は、正にコレである。いつの間にか強靭な肉体を有し、歴戦の猛者となった家族に対しては勿論の事、なにより、鞭に撃たれてあんなに気色の悪い恍惚とした表情を浮かべる、変わり果ててしまった家族の、あられもない有様に、脳内は滅茶苦茶だ。

 

でも、このような有様にした犯人は判明しており、シアは晴香に詰めよる。

 

「良く聞いてくれた、シアよ。これは・・・彼等ハウリアの、懸命なる努力の賜物sa☆彡」

「なにが『賜物sa☆彡』ですかッ!!何をどうすればこんな有様になるんです!?完全に別人じゃないですかッ!!」

「私の施した訓練のカリキュラムの成果よ。凄いでしょう?(どやっ)」

 

晴香が施した訓練。それは、身体が壊れるまで体を酷使させ続ける、特殊部隊の育成係ですら顔を真っ青にしてしまいそうなほど、とても苛酷な訓練である。訓練2時間、休憩時間は10分。食事は朝昼夜の三食、睡眠時間は4時間。のペースで筋トレ、戦闘訓練、実戦、鞭打ちが行われた。

 

これ程までに酷い訓練をやらされ続ければ、当然、肉体も精神も疲弊し壊れる事となるだろう。しかし、それは晴香が許さない。限界を超える訓練に筋肉が引き千切れても、魔物との戦闘で大けがを負ってしまっても、晴香は在庫が豊富に存在する【神水】を遠慮なくハウリアに投与し続けた事により、晴香の半魔物化の様に急速に変化を促すのではなく、疑似的で緩やかな細胞の破壊と再生を繰り返させ、肉体を短期間でより強靭に育て上げたのである。

 

勿論、肉体だけを回復させたとしても、心は死ぬ。なので、晴香はかなり気を使って対処したのだ。

 

休憩時間にはストックしてい砂糖などを全面開放して菓子を作っては甘味による幸福を与え、リラックス効果の高いハーブティーを神水で注ぎ、朝昼夜の三食には香辛料を遠慮なく投入して作られた晴香手製の特性料理に舌包みを打ち、ハーブティーのとはまた違う香りでリラックス効果の高いハーブを入れた暖かなお風呂に一日の疲れを癒し、睡眠時には全身を柔らかく包み込む温いふかふかな晴香特製のベットによる至高の睡眠が与えられる。

 

ハウリア達にとって、今までに食べた事の無い香辛料マシマシの未知の料理(地球産の料理)は、疲弊しまくった心に、最大級の幸福を与えた。これにより、どんなに辛い事があっても、乗り越えた先には至高の料理が待っている!と、活力を与えた。

 

因みにだが、晴香は並み以上に料理が出来る。食材はハウリアに採取してもらったりはしたが、所持する調理器具系アーティファクトなどを用いて日本レベルと大差ない料理を提供できたのだ。

 

閑話休題。

 

なので、落第者は存在せず、男性に女性、子供から老人までもの、正に老若男女全ハウリア族は、並み以上の肉体、戦闘力、連帯、気配の操作などを身に着けた猛者となったのである。

 

確かに、この短期間で此処まで育て上げたのは凄いかもしれない。でも、変態にする必要は無かったでしょう!?と、怒りを顕わに燃え上がるシアの目と耳には、後悔も反省もしていない晴香のドヤ顔という油が注がれた。

 

結果、手を上げた。ユエとの勝負により、身体強化に特化したシアによる重い一撃は、今や樹木を一発で粉砕するレベルの威力を誇る。そのような一撃が晴香に向かう・・・が、しかし。迷宮攻略者である晴香からすれば、その程度の攻撃は、速度威力共に子供の件かレベルで遅く、弱く見える。

 

なので、ユエを抱えていない空いた手一つで簡単にあしらう事が出来た。

 

シアからすれば本気の一撃も、ぺしぺしといなされてはいなされて埒があかないと判断し、矛先をカム達に向かった。

 

「父様!みんな!一体何があったのです!?まるで別人ではないですか!さっきから口を開けば恐ろしいことばかり・・・しかも、変態に堕とされてる・・・正気に戻って下さい!」

 

縋り付かんばかりのシアにカムは、恍惚に染まる表情を元の温厚そうな表情に戻した。それに少し安心するシア。

 

だが・・・・・・

 

「何を言っているんだ、シア?私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚め、心の奥に存在した扉を開放しただけだ。マムのおかげでな」

「し、真理?扉?何ですか、それは?」

 

嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張ると、

 

「この世の問題の九割は暴力で解決できる。そして、マムの鞭打ちは気持ちいいッ!!」

 

のように自信に満ちた様子で宣言した。因みに現在進行形で地に沈んでいる。

 

「やっぱり別人ですぅ~!変態ですぅ~っ!あの頃の父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」

 

ショックのあまり、泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の中に消えていこうとするシア。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ!?」と情けない声を上げながら尻餅をついた。

 

小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。

 

「あっ、ありがとうございます」

「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」

「あ、姐御?」

 

霧の奥から現れたのは未だ子供のハウリア族の少年。パル君―――否。バル君。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。晴香の訓練により、随分ニヒルな笑みを見せる少年になった。シアは、未だかつて【姉御】などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことを【シアお姉ちゃん】と呼んでいたことから戸惑いの表情を浮かべる。

 

そんなシアを尻目に、少年はスタスタとハルカの前まで歩み寄ると、

 

「マム!手ぶらで失礼します!報告と上申したいことがあります!発言の許可をッ!」

 

ビシッと惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。シアは引きつる。

 

晴香は内心、驚く。晴香とユエは、亜人族にたいして、そしてフェアベルゲンにたいしても友好的に接触してきた。しかし、このバル君による報告は、史実のような感じである。つまり、奴らが来た事になる。

 

「・・・よろしい。申しなさい」

「ハッ!」

 

少年の歴戦の軍人もかくやという雰囲気に、晴香の気分は司令官。少年は報告を続ける。

 

「課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族と土人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考しますッ!」

 

驚いた事に、今回は土人族もプラスでやって来たらしい。族長会議にで晴香が打ち破ったのは熊人族族長のジンであり、土人族といえばボロ負けしたジンの友人のような立ち位置だったはず。そして、その騒動は密閉された室内での出来事であり、族長は無論、使用人などには箝口令も敷かれて外部に漏れる事はなかったはづである。

 

なのに来た。しかも熊人族と土人族の連合で。如何やら、史実とは異なる展開を向かえたようだ。

 

「へぇ、それで?」

「はっ!宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」

「ほぅ・・・カムよ。彼はそう申しているが、そちは如何する?」

 

話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。

 

「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか・・・試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」

 

スタっと音もなく立ち上がった族長の言葉に、周囲のハウリア族が全員、同じように好戦的な表情を浮かべる。自分の武器の名前を呼んで愛でる奴が心なし増えたような気もする。シアの表情は絶望に染まっていく。

 

「できるのね?」

「肯定でありますッ!」

 

最後の確認をする晴香に元気よく返事をしたのは少年だ。晴香は、一度、瞑目し深呼吸すると、ゆっくり目を開いた。

 

そして・・・

 

「聞け!ハウリア族諸君!勇猛果敢な戦士諸君!今日を以て、貴方達は糞蛆虫を卒業する!貴方達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない!力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる!最高の戦士である!決定に反し状況判断も出来ない―――な熊共にそれを教えてやりなさい!奴らはもはや唯の踏み台に過ぎない!唯の―――野郎どもだ!奴らの屍山血河を築き、その上に証を立てよ!生誕の証である!ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明しなさいっ!」

「「「「「「「「「「Sir、yes、Ma'am!!」」」」」」」」」」

「答えなさい、諸君!最強最高の戦士諸君!貴方達の望みはなに!」

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

「貴方達の特技は何だ!」

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

「敵はどうする!」

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

「そうよ、殺せ!貴方達にはそれが出来る!自らの手で生存の権利を獲得しなさい!」

「「「「「「「「「「Aye、aye、Ma'am!!」」」」」」」」」

「いい気迫よ!ハウリア族諸君!私からの命令は唯一つ!サーチ&デストロイ!行け!!」

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

 

晴香のほぼパクリ号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。温厚で平和的、争いが何より苦手・・・そんな種族いたっけ?と言わんばかり。

 

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」

 

変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエが晴香の膝からおりて、ポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。

 

しくしく、めそめそと泣くシアの隣を少年が駆け抜けようとして、シアは咄嗟に呼び止めた。

 

「パルくん!待って下さい!ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ?君まで行かなくても・・・お姉ちゃんとここで待っていませんか?ね?そうしましょ!」

 

どうやら、まだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしているらしい。傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。何故、花で釣っているのか。それは、この少年が、かつてのお花が大好きな「お花さ~ん!」の少年だからである。(原作p36を参照)

 

しかし、晴香はお花を散らしてないので、お花を愛でる心は残っていると思われる。

 

シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年もといパル少年は、「ふぅ~」と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。まるで、欧米人のようなオーバーリアクションだ。

 

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」

 

残って無かったのである。晴香の辛辣過ぎた訓練は、パル少年を壊し、新たなる生を与えてしまった様である。

 

「ふ、古傷?過去を捨てた?えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」

「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは」

 

ちなみに、パル少年は今年11歳だ。

 

「そんな、あんなに大好きだったのに・・・・・・」

「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ」

 

繰り返すが、パル君は今年11歳だ。

 

そして、なにより・・・

 

「それより姐御」

「な、何ですか?」

 

『シアお姉ちゃん!シアお姉ちゃん』と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の、余りにも見るに堪えない変わりように、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった。

 

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルド【必滅のバルトフェルド】。これからはそう呼んでくだせぇ」

「―――誰!?バルトフェルドってどっから出てきたのです!?ていうか必滅ってなに!?」

「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」

「あ、こらっ! 何が【ではっ!】ですか!まだ、話は終わって、って早っ!待って!待ってくださいぃ~」

 

恋人に捨てられた女の如く、崩れ落ちたまま霧の向こう側に向かって手を伸ばすシア。答えるものは誰もおらず、彼女の家族は皆、猛々しく戦場に向かってしまった。ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始める、失意に沈んだシア。既に彼女の知る家族はいない。実に哀れを誘う姿だった。

 

そんなシアの姿を何とも言えない微妙な表情で見ているユエ。晴香はというと、これで私に対する好意を少しでも下げられたらいいなぁ~という思惑を心の中で隠しながら、ちょっぴり気まずそうな表情だ。ユエは、晴香に視線を転じるとボソリと呟いた。

 

「・・・流石晴香。人には出来ないことを平然とやってのける」

「すごいでしょう?」

 

なでなで。雰囲気がちょっぴり甘くなる。

 

「・・・ん・・・闇系魔法も使わず、洗脳・・・すごい」

「ありがとう♪でも、シアには少し可哀想な事をしちゃったかな?・・・反省も後悔もないけど(ぼそっ)」

 

しばらくの間、ハウリア族が去ったその場には、シアのすすり泣く声と、微妙な空気でもイチャつく、敢えて空気読まない系主人公&ヒロインがいた。

 

 









次回、新生ハウリア対熊土連合軍決戦






・・・ネーミング微妙ですね(熊土とか特にw)


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