殺人探偵?うっせぇ好きでやってんじゃねーよ!! (☆桜椛★)
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第1弾 未来の『殺人探偵』の誕生

突然だが、この俺こと橘花文也(たちばなふみや)は、最早呪われていると言っても過言では無い程に昔からよく事件やら事故やらに巻き込まれやすい不幸な体質である。

例えばコンビニに弁当を買いに行ったら10回に1回の割合でコンビニ強盗に遭うし、夜にバイトの帰りが遅くなったらだいたい交通事故が起きる。銀行にお金を下ろしに行って銀行強盗に遭うのだって一度や二度ではないし、月に1回は殺人事件の第一発見者または容疑者の1人にされてしまっているのだ。

 

な?コレどう考えても呪われてるだろ?月に1回は殺人事件に巻き込まれるって何だよ?俺はどこぞの死神探偵コ○ンくんじゃないんだぞ?もう死体とか見ても驚かなくなっちまっただろうがこの野郎。

 

はぁ〜あ……まぁ、そんな訳でだ。俺は今日もまたとある事件に巻き込まれた。今回は人生13回目の拉致事件で、拉致られたのは俺と、学校で人気者っぽいイケメンの高校生男子、そして彼の幼馴染であろう可愛らしい美少女高校生が2人の計4名だ。事件が起きた場所は俺のバイト先である喫茶店のテーブル席で、犯行手口は突然少年少女たちの足元に現れた魔法陣(・・・)による拉致である。

……うん。まぁ、言いたい事は分かる。普通なら『何言ってんのお前?』とか言われても仕方ないだろう。実際俺だって目の前の現実が信じられんわ。

 

おそらく察しの良い方はもう犯人と犯行動機に予想が付いているだろう。そう、今回俺は………、

 

 

「ようこそ勇敢なる勇者と麗しき聖女たちよ!ボクは君達で言うところの神様という存在だ!君達は異世界で行われた勇者召喚に選ばれた!君達には私が与えた力を駆使し、邪悪なる魔王を倒して欲しい!そうすれば何でも願いを1つ叶え…て……?えっと、君だれ?」

 

 

まさかの神様を名乗る道化師姿をした子供が行った勇者召喚とやらに巻き込まれてしまったらしい。

いやはや全く……、

 

 

なんでこうなったぁ!?

 

 

 

 

 

 

現在、俺は取り敢えず選ばれた勇者くん御一行が異世界に行くまで待っててくれと神様とやらに言われたので、端の方に避けて大人しく神様が勇者くん御一行に力を与えて異世界に送るところを眺めている。

 

さて、今回俺は勇者召喚という激レアな拉致事件に巻き込まれてしまった訳だが、俺ってこの後どうなんの?流石にこんなラノベ的展開に巻き込まれるのは人生初なんだが……。

しかもさっきからずっと気になってたんだけど、お前神様なんだよな?何故に道化師の格好してんの?何故にここはサーカスのテントの中にありそうな舞台のど真ん中なの?もっとこう……神様っぽい服装と舞台はなかったの?

 

 

「では行けい!勇敢なる勇者と麗しき聖女たちよ!その力を駆使し、邪悪なる魔王を討ち倒すのだ!」

 

 

お?どうやら終わった様だ。勇者くん御一行の足元にここへ来る時と同じ模様の魔法陣が現れて光を放ち、勇者くん御一行が異世界へと旅立った。おそらく彼等はこれから最強戦力として魔王とその部下達と殺し殺されの戦争をおっ始めるだろうが、嬉しそうに「任せて下さい!」とか言ってたから多分大丈夫でしょ。

 

 

「さてと、次は君だね。まさか勇者召喚に巻き込まれる一般人が居るとは思いもしなかったよ。あの術は指定した人間とその時に着ていた衣服と持ち物だけを召喚する術なのに、どうやったら巻き込まれるの?」

 

「んなもんこっちが聞きたいわ」

 

 

あ、ヤッベ。つい口から出ちゃったけど大丈夫か?この子神様だよな?道化師の格好してるけど神様だよな?不敬罪とかで首チョンパされたりしない?

 

 

「まぁそうだよね〜?君みたいな人間にこのボクでも分からない事が分かる訳ないか!あっはっは♪ごめ〜んね☆」

 

 

どうやら気にしていない様子だけどなんかこいつムカつくなこのクソガキ。さっきとキャラ違うじゃねーか。ちょっとぶっ飛ばしたくなったけど、ここでやっちまって機嫌損ねて消されると笑い話にもならないのでなんとか堪えた。

 

 

「あの、出来れば元の世界に返して欲しいのですが…?」

 

「あー、それ無理。あの術は君達の世界からここを通ってどこか別の異世界に行く術でね。ここに来た時点で元の世界には帰れないんだよね〜」

 

 

おっと〜?今滅茶苦茶受け入れたくない現実が聞こえて来たぞ〜?マジかよこの野郎なんてものに巻き込んでくれたんだこのチビ助。

 

 

「そうだねぇ……よし!決めた!君には今ボクが嵌っている漫画のキャラの体と能力を持って異世界に転生して貰おう。それに今回は巻き込んでしまったから、能力はキャラの能力とは別に……そうだね、4つあげよう!」

 

 

異世界に転生……異世界ねぇ?てことは俺も魔王とか邪神とか退治しに行かなきゃなんないのか?嫌だよ。そんな勇気無いよ俺。

 

 

「因みに断ったらどうなります?」

 

「これが嫌なら魂ごと消滅するしか無「転生!!転生でお願いします神様!!」うん!分かった!じゃあ準備するからちょっと待ってね〜♪」

 

 

畜生俺このクソガキ嫌いだ!何だよ転生するか魂ごと消滅するかって!バカか!?普通転生選ぶよそんなの!

俺が内心ボロクソ言っていると、クソガキが何やら『?』が書かれた箱を持って来た。え?何?もしかしてくじ引きで決めるの?

 

 

「はい!じゃあこれに手を入れて中に入ってる紙を4枚取ってね!君の新しい体になるキャラクターはボクが選ばせてもらうから」

 

「(やっぱりくじ引きか……)そのキャラって男ですよね?流石に女の子に転生とか困るんですが?」

 

「安心しなよ。ちゃんと人間の男さ!」

 

 

態々『人間』って入れてるって事は人外の可能性がありそうだなぁ。あ、そう言えばこのクソガキが嵌ってる漫画の題名聞いてないな。

 

 

「因みに、貴方が嵌っている漫画って何ですか?」

 

「うん?あー、【文豪ストレイドッグス】って漫画何だけど……君は知ってるかな?知らないなら能力の説明とかしないとだから面倒なんだけど」

 

「あ、それなら大丈夫です」

 

 

【文豪ストレイドッグス】か、その漫画は俺も知っている。つーか俺もその漫画好きで、外伝も含めて全巻揃えてるくらいだ。となると能力って『異能力』の事か。やっば、超嬉しいんですけど♪見直したぞチビ神様。

 

 

「さぁさぁ!早く引いちゃって!」

 

「…………」

 

 

俺は満面の笑みを浮かべる神様に差し出された箱に手を入れる。箱の中に突っ込んだ手には折り畳まれた紙の感触がある。

今回行くのは剣と魔法のファンタジー世界だ。なら中距離での攻防に優れた外套を黒獣に変化させ操る芥川の異能『羅生門(らしょうもん)』、触れたものの重力を操る中原中也の『汚れつちまつた悲しみに』、あらゆる外傷を治癒させる与謝野先生の『君死給勿(キミシニタモウコトナカレ)』、銃弾も弾く体と凄じい身体能力に加えて斬り飛ばされた足すら治す再生能力を持った白虎に変身する敦くんの異能『月下獣(げっかじゅう)』辺りが当たって欲しい。逆に当たって欲しく無いのは精神操作のQの異能『ドグラ・マグラ』やお金の消費が激しいフランシスの『華麗なるフィッツジェラルド』辺りかな?魔法とかに効果が無いなら太宰さんの『人間失格(ニンゲンシッカク)』も外れ候補に入ってしまうか。

 

俺は真剣に考え、悩みながらも箱の中から4枚の紙を取り出した。俺が紙を取ったのを見た神様は、指をパチン!と鳴らして箱を煙の様に消した。何それ凄い。

 

 

「さぁ!その紙に書かれているのが君がこれから長い間使う事になる異能力だよ!ほら、開いてみなよ」

 

 

俺は小さく頷くと、ゆっくりと1枚目の紙を開いて、書いてある異能力の名前を確認した。

 

 

ーーー能力名『独歩吟客(どっぽぎんかく)

 

 

開いた紙にはこう書かれていた。うん、これはなかなかいいんじゃないか?

この『独歩吟客』は太宰さんの武装探偵社での相棒である国木田独歩の異能力で、手帳のページを消費する代わりに書いた言葉の物を具現化する利便性と汎用性に優れた異能力だ。例えば『自動拳銃』と書いたらハンドガンが具現化して、『畳み刀』と書いたら折り畳み式のナイフが具現化される。ただ一度目にして記憶した物で、尚且つ手帳サイズの物しか具現化出来ないのが難点だが、これは当たりだな。

 

続いて俺はちょっとワクワクしながら2枚目の紙をゆっくり開いた。

 

 

ーーー能力名『超推理(ちょうすいり)

 

 

「あれ?神様、これは異能力じゃないんじゃないですか?」

 

 

異能力『超推理』は、武装探偵社の名探偵、江戸川乱歩の異能力で、眼鏡を掛ける事をトリガーに、現場を見ただけで事件の真相が分かり、またその場にいなくても僅かな手掛かりさえあれば瞬時に謎を解決できるという能力だ。しかし実はこれは異能力ではなく、単に乱歩さんの観察力と推理力が異能力並みにズバ抜けているだけなのだが……この場合はどうなるんだ?

 

 

「それは異能力としての『超推理』になるよ。つまり眼鏡を掛けている間は『超推理』が使えるって事」

 

「おぉ……!」

 

 

マジか!これ結構チートじゃないか?この『超推理』は過去を見抜いたり未来を予知したりも出来る凄い能力だ。これで探偵家業でも始めたら世界中から依頼が殺到してもおかしくはない。やらんけどな!

 

この調子でどんどん行こうと3枚目を開いた俺は、凄く微妙な表情になった。

 

 

ーーー能力名『檸檬爆弾(レモネード)

 

 

『檸檬爆弾』はポート・マフィアに所属する爆弾魔、梶井基次郎の異能力だ。名前からして檸檬型爆弾を作り出す能力だと思われるだろうが、正しくは檸檬爆弾でダメージを受けない能力だ。梶井の使っている爆弾は全部手内職で作っているらしい。

うーむ……これは外れかなぁ?俺檸檬型爆弾なんて作らないし。

 

 

俺はちょっとがっかりしながら最後の1枚を開き、今度は複雑な表情になった。

 

 

ーーー能力名『人間失格』

 

 

えぇ〜……っと。まぁ、うん。太宰さんは好きなキャラだし、アニメの第一話で異能力を発動するシーンとか結構好きなんだけど、これ魔法とかに効果あんの?

 

 

「なぁ神様?これって魔法とかに効果はあるのでしょうか?」

 

「あー、その辺は大丈夫。異能力は消せないけど魔法や超能力を無効化出来る様にしたから」

 

 

良し!なら安心だ。手に入れたのは異能力で外れは『檸檬爆弾』のみ!これなら異世界に転生してもある程度は安心して過ごせるな。

 

 

「さぁて、残りの新しい体と能力は向こうの世界に行ったら分かるよ。君の記憶は5歳になったら目覚める様にしておくよ。じゃあ良い来世を送ってね〜♪」

 

 

神様がそう言いいながら振る姿を見ていると段々視界が暗くなり、やがて俺の意識は暗闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

暗闇に沈んでいた意識が浮かび上がり、閉じていた目蓋をうっすら開くと、白い天井が目に入った。どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。

ゆっくりと体を起こして部屋の中を見回すと、どうやらここは何処かの病室だと言う事が分かった。腕や体には包帯が巻かれ、周りにはなんかいろんな医療機器が置かれ、腕には点滴も打たれているので、俺はなんらかの原因で大怪我を負って入院している様だ。何やったんだよ5歳までの俺よ?

どうやら5歳までの記憶がない様なので、何をやって入院したのかと首を傾げていると、病室のドアが開き、1人の看護師の女性が入って来た。ちょうどいいので話を聞こうとすると、彼女は驚いた表情を浮かべると大慌てで医者の先生を呼びに行ったので話聞かなかった。

 

 

(………あれ?よくよく考えたらファンタジー世界に医療機器って無くね?もしかして医療機器は発展してる世界なのかな?)

 

 

その後、看護士さんが連れて来たかなり頭が寂しい事になっているザ・医者って感じのおっさんに色々診断されたり、質問された。

それで分かった事だが、どうやら俺は数日前に交通事故に遭い、意識不明になってずっと眠っていたらしい。後、会話をしていて分かったが、なんか俺の話し方に感情がこもってないような感じがする。

 

 

「ふむ、成る程。……どうやら君は記憶喪失の様だね」

 

「ほう……記憶喪失か。まぁ、そうなるだろうな」

 

「……なんだか、まるで5歳児とは思えない話し方だねぇ?」

 

 

医師が不思議そうな表情で俺をジロジロ見てくるが、視線を合わせない様にしていると、やがて肩を竦めて看護士を連れて病室のドアに向かって歩き出した。

 

 

「まぁ、君はしばらくの間ここで入院してもらうよ。何かあったらそこのボタンを押して呼んでくれ。ではお大事に、綾辻くん」

 

「………待て、それは俺の名前か?」

 

 

今聞き捨てならない名前で呼ばれた気がするぞ?綾辻?綾辻くんって言ったか今!?ま、まさか神様が言ってた新しい体って……!?

 

 

「む?おぉ、そうか。そう言えば自分の名前も忘れているんだったね。教えてあげよう………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾辻行人(あやつじゆきと)。それが君の名前だよ」

 

 

医師は俺の名前を答えると看護士と一緒に今度こそ病室を出て行った。

 

綾辻行人ーーー能力名『 Another(アナザー)

 

それは【文豪ストレイドッグス】の外伝に登場する名探偵であり、日本政府による危険異能力者リストのトップに立つ、特一級異能力者の名前だ。その能力は、“殺人事件の犯人を見抜くと、様々な確率を飛び越えて犯人が必ず事故死する”能力。その能力ゆえに、綾辻行斗は『殺人探偵』などと呼ばれている。

 

で、俺はその『殺人探偵』になってしまった訳だ。はっはっはっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やりやがったなあのクソガキぃぃぃぃいいい!!!



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第2弾 呪いの手紙

この世界で目覚めてから早くも数年が経過して、俺は今や9歳の小学3年生になった。病院を無事退院出来た俺は、(綾辻行人)の祖父を名乗る爺さんの家に引き取られ、平和な日々を過ごしていた。

爺さんの名前は綾辻源蔵(あやつじげんぞう)。仙人の様な長く白い髭を生やした着物姿の爺さんだ。ぶっちゃけあのクソガキよりも神様っぽい見た目だよ。今は推理小説を書いているが、昔は凄腕の探偵だったらしい。

 

さて、ここで残念なお知らせが幾つかあります。俺は病院を退院するまで、医療技術が妙に現代に近いレベルまで発展している剣と魔法のファンタジー世界に転生したと思っていたんだが、その考えは病院を出て目にした光景によって粉々に粉砕されてしまった。

並び建つコンクリートの巨大な建造物、アスファルトで舗装された道、その上を走る様々な形をした車両、空を見上げれば青空に一筋の白い雲を作る航空機。

はい、御察しの通りここはファンタジー世界じゃありません。普通に現代日本です。

 

つまりあのクソガキ俺を『殺人探偵』にしやがった挙句、普通にバリバリ電気や携帯やガスが普及してる現代日本に転生させやがった。こんな世界の何処に魔法や超能力がありますか?ねーよそんなもん!百歩譲って超能力があったとしても、そんな奴がそこら辺にゴロゴロ居る訳ねーだろ!!これで使えると思ってた『人間失格』が特典失格になっちまったじゃねーか!

 

しかもだ!あの事件解決過去の見通し未来予知なんでもござれの異能力『超推理』!爺さんから貰った度無しの伊達眼鏡で何度か試したけど、能力を解除した後滅茶苦茶頭が痛くなるんだよ!しかも前に『超推理』でなんで『超推理』使った後に頭痛がするのか推理したら、『無理矢理乱歩さん並みの観察力や推理力に上げているから脳が悲鳴を上げている』って答えが推理出来たんだよ!凄いけど痛いなこの異能力!?

 

はぁ……まぁ、『独歩吟客』はこの世界でも便利だよ。使えた時はマジで嬉しかった。買ってもらった大きめな手帳のページに『(はさみ)』って書いてそのページを破き、国木田くんみたいに「『独歩吟客』!!」って言ったら、破いたページからあの文豪たちが異能力を発動すると出て来る光の文字列のエフェクトが溢れ出て、本当に鋏になっててめっちゃ感動した。

 

まぁ、そんな風に『独歩吟客』で遊んだり、爺さんが書いた推理小説を頭痛耐性付ける為に『超推理』で推理したりして過ごしていたある日、俺宛に1通の手紙が送られて来た。今俺はその手紙を自室に置かれている机の上に置いて睨み付けていた。

送り主の名前はないが、手紙には道化師を模したマークの印が押されている。『超推理』を使うまでもない、絶対あいつだ。

 

 

「……仕方がない。読んでみるか」

 

 

俺は封筒の封を切って中の手紙を読んだ。そしてやっぱり送り主はあのクソガキだった。

 

『綾辻行人くんへ

 

やぁ、久しぶりだね。神様だよ。新しい体は気に入ってくれたかな?実は伝え忘れていた事があったから手紙を書く事にしたんだ。まぁ念話とかそういうのでも良かったんだけど、面倒臭いし、疲れるから別にいいよね!』

 

 

(そう言うとこが神様っぽくないんだよクソガキ。で?伝え忘れていた事ってなんだ?この世界がファンタジー世界じゃない事はもう何年か前から知ってるんだが?)

 

 

『君にあげた4つの異能力の特典と一緒に、君には呪いみたいなのがかけられる事を伝え忘れてたんだ。2つで1つの呪いだから、君の場合は2つの呪いみたいなのがかけられるよ』

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ!?

 

 

俺は読み間違いではないかと何度も何度もその部分だけ読み返した。だが何度読み直しても『呪い』じゃなくて『祝い』と書かれているとか、そんな感じの書き間違いや読み間違いはなかった。

 

 

『では先ず1つ目!内容は『檸檬爆弾を3分以内に4個爆破すると、人格が梶井基次郎みたいになる』だよ!つまり一人称が『僕』になったり、いきなり『うははははは!!!』なんて笑い出したりするよ。これで梶井基次郎の格好してたらしてたら完璧にコスプレ出来るね☆』

 

 

うわぁマジか!?何その地味に嫌な呪い!?つーか俺が梶井みたいになるってキャラ崩壊ってレベルじゃ済まないだろ!?で、でもまぁ?俺は檸檬型爆弾なんて持ってないし?しかもそれを3分なんてカップ麺出来る時間以内に4個も爆破させるなんてする訳ないでしょ。

 

 

『はいでは続いて2つ目!『ミッションの発生』だよ!まぁこれは君にもメリットがある。簡単に説明すると、これは不定期に発生するミッションをクリアしなければならないと言うもの。発生したら目の前にミッションの内容が書かれた光の板みたいなのが現れるけど、これは君にしか見えないから安心してね!そしてそのミッションをクリアしたら御褒美が貰えるよ♪まぁ、失敗したら大変な事になるから、気を付けてね〜☆』

 

 

うん?いまいちよく分からん。つまりあれか?ゲームとかでやるクエストみたいなものか?なんか失敗したら大変な事になるって書かれてるけど、最後の『気を付けてね〜☆』で一気に大丈夫そうに思っちまった。

 

 

『後、君がその世界に行ったのは僕が態々ファンタジー世界からその世界に行き先を変更させたからだよ♪元の日本ではないけど、日本にかなり近い世界だから感謝してね☆因みにこの呪いはこの手紙を読み終えた後から始まるからね。では、良い人生を〜☆』

 

 

あいつ態とやりやがったのかぁ!!いやまぁモンスターとかがそこらじゅうを徘徊してるよりはよっぽどいいけどさ!?これじゃあ『人間失格』を魔法や超能力消せる様にした意味がねーだろうが!

 

 

「……ん?裏に何か書かれているな」

 

 

俺は手紙の裏側にもまだ何か書かれているのに気付き、手紙を裏返して読んでみた。どうやら追伸の様だ。

 

 

『P.S.神様ってね、人の心が読めたりするんだ☆クソガキで悪かったね〜あっはっは(殺)』

 

心読まれたぁ!!心の中でずっとあいつの事クソガキ呼ばわりしてんのバレてたぁ!!

 

 

ヤッベ〜!手紙の文章から神様の怒りが伝わってくる!そりゃこんな扱いになるよなぁ!?だって追伸の最後に『(殺)』って書かれてるもん!!怒り通り越して殺意抱かれてるもん!!

 

 

シャラン♪

 

「………っ!?」

 

 

俺がクソガ…神様に心の中を読まれていた事に軽く絶望していると、鈴のなる様な音と共にいきなり目の前に半透明なプレートの様なものが出現した。ちょっとびっくりしたけど、もしかしてこれが手紙にあったミッションか?

俺は恐る恐るその板に書かれている内容を読んでみた。

 

 

『1分以内に手紙を燃やせ!ーーー残り時間45秒』

 

 

プレートにはそう書かれていた。カウントダウンがもう始まっている。成る程、これはチュートリアルみたいなものか。どうやら成功報酬と失敗によるペナルティも確認できる様だな。どれどれ?

 

 

『成功報酬ーー現金500円。クエスト失敗ーー事故死』

 

 

(………うん?)

 

 

俺は見間違いかなと目を擦ってからもう一度読む。

 

 

『クエスト失敗ーー事故死』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見間違いじゃねぇぇぇええ!!?

 

 

「『独歩吟客』!!点火器(ライター)!!」

 

 

俺はすぐ様常に持ち歩く様にしていた手帳にペンで『点火器』と書き、そのページを破いて異能力を発動させる。すると紙から光の文字列が溢れ出て、紙はライターになった。

俺は慌ててそのライターで手紙に火を点けると、手紙は一瞬で灰になった。バッ!と宙に浮かぶプレートを見ると、残り時間は僅か2秒。プレートは手紙が灰になったと同時に500円玉になった。

チャリン!と音を立てて床に落ちる硬貨を見て、俺は座っていた椅子に体を預けてやや暗い色をした木製の天井を見上げた。

 

 

あっぶねぇぇぇええ!!なんだこのクソ板!?成功報酬とクエスト失敗によるペナルティの差があり過ぎるだろ!!なんだ500円か事故死って!?俺の命は500円か!?割に合わねぇ!!)

 

 

こんなのが不定期に起こるのか………、この世界で無事に寿命を迎えられるのかな?俺?

 

 

 

 

 

 

綾辻源蔵side…

 

 

儂の名は綾辻源蔵。今は数々の推理小説を書いている爺いじゃよ。数年前、儂は息子とその妻を事故で亡くしてしまった。それはそれは残念じゃったよ。いつかは来る(・・・・・・)と分かってはおったが、それはそれは悲しかったわい。

じゃが、唯一良かったのは孫の行斗が生きておった事じゃ。残念ながら、孫も記憶喪失になってしまっておったが、やはり孫は息子の血を濃く受け継いでおった。

 

儂の息子は、普通の人間より優れた推理力と観察眼を持った『武偵』じゃった。

 

武装探偵ーーー通称『武偵

 

凶悪化する犯罪に対抗して新設された国家資格であり、武装を許可され、逮捕権を有すなどの警察に準ずる活動を可能とし、報酬に応じて迷子の子猫探しから凶悪犯罪組織の制圧まで、“武偵法”の許す範囲において、あらゆる仕事を請け負う謂わば“なんでも屋”じゃ。

 

そんな危険と隣り合わせの武偵である儂の息子は、武偵を育成する教育機関『武偵校』を卒業した後、『世界一の名探偵になる!』と豪語し、私立探偵として多くの難事件を解決して来た。

そんな息子の子供、行斗にはそれと同等……いや、確実にそれ以上の才能がある。それに気付いたのは行斗を引き取ってから数ヶ月が過ぎた頃じゃ。

 

その日、ちょうど儂らが住んでいる地域に台風がやって来て、行斗の通う幼稚園が休園になり、行人が自分の部屋で本を読んでおる間、儂は書斎で新しい推理小説を書いておった。

 

事件の舞台はとあるストーカー被害に悩まされている女性が住むマンションの1室。彼女はある日、私立探偵である主人公に調査を依頼して自宅に案内すると、彼女の部屋でストーカーをしていた男性が背中に包丁を刺されて死んでおった。

部屋はしっかりと鍵がかけられており、窓から入ろうにも彼女の部屋は4階で、窓を割られた形跡も無い。女性は出かける前にしっかりと施錠されているのを確認してから外出しておった為、密室殺人となっておる。なかなかの自信作じゃった。

 

休憩を終え、再び続きを書こうとペンを取ったちょうどその時、行人が儂の書斎に入って来おった。

 

 

『なんじゃ?行人。儂に何か用かの?』

 

『何、ついさっき読んでいた小説を読み終えてしまってな。続編を読もうと思って取りに来たのだが……それは小説を書いているのか?』

 

 

行人は儂が書いていた推理小説に興味を持ったらしく、読ませてくれと頼んで来おった。儂も別に読まれて困るものでも無かったので、その時はまだ殺人事件が起き、室内の状況くらいしかまだ書けておらなんだが、その書きかけの原稿を行斗に読ませてやった。

しばらく黙って原稿を読んでいた行斗じゃったが、ポケットから儂がプレゼントした息子が儂が書いた推理小説を読む時にかけていた眼鏡を度無しにした眼鏡を取り出し、それをかけた。行人は少し沈黙すると……、

 

 

『……犯人は死んだストーカーの男自身だな。氷で作った土台に包丁を設置し、部屋の暖房を入れっ放しにしてから椅子に登り、背中から飛び降りる。するとその衝撃で氷が砕け、バラバラに飛び散った氷の破片は暖房によって温められた部屋で溶けて消える。つまり自殺だ。どうだ?当たっているだろう?』

 

『………っ!?』

 

 

儂は自分の耳を疑った。とうとうボケたかとも思ってしまった。今でも信じられんしな。行人はまだ室内の状況くらいしか書いておらんのに、行人は儂が考えておった犯人どころか、そのトリックまでも完璧に推理しおったのじゃ。

儂はまさかと思い、過去に書いた推理小説の数々を行斗に読ませてみた。するとどうじゃ?行斗はその全てを現場の状況や僅かな情報で、真犯人から犯行時刻、犯行手口、証拠のありか、凶器の隠し場所、更には犯人がどうやれば自分から証言するかなどを完璧に推理しおった!

しかもじゃ、行人め。儂の自信作の謎を全て完璧に解き終えた後、眼鏡を外して額に手を当てながら、溜め息を吐いたんじゃ。

 

まるで儂が書いた推理小説のレベルが、『この程度なのか』と残念がる様に。(『超推理』使って頭が痛かっただけ)

 

その時儂は確信した。この子はきっと息子の意思を継いで世界一の名探偵になるじゃろうと。

それに最近、行人は体を鍛える様になった。どうやら将来の為に体作りをしておる様じゃ。同年代どころかもっと年上の子も泣いて逃げる様な厳しいやつをのう。もう少し成長したら、儂の友人が師範を務めておる道場にでも行かせてやろうかのう?ほっほっほっ♪将来が楽しみじゃ。

 

む!行人のやつめ、今日も鍛えに行く様じゃのう。頑張るんじゃぞ行斗!儂もお前が満足する様な推理小説を書いて待っとるからな!

 

 

 

 

(あのクソ板ぁ!!なんでサイ○マのトレーニングを毎日毎日俺にやらせるんじゃい!俺をワンパン○ンにしようってのか!?あれはサイ○マがおかしいのであって!普通の人間は同じトレーニングやっても隕石ぶっ壊せる程強くならねーんだよ!畜生あのクソガキピエロ!いつか会った時はその顔面ボッコボコにしてやるからなぁぁぁあああ!!!)



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第3弾 違う試験会場

あの呪いの(神様からの)手紙が届いてから更に数年の年月が経ち、俺は人生2回目の中学3年生になった。

あの手紙が送られて来たからというもの、この世界に来てからなりを潜めていた俺の巻き込まれ体質も復活し始め、さっきだって学校の帰りにどう見ても堅気じゃ無い頭に『ヤ』のつく人達にぶつかって、追いかけ回された。まぁあのクソ板のおかげであっと言う間に撒けたがな。

 

俺は家に入ると自室に入り、机の上に鞄を置くとベッドに倒れ込んだ。もう疲れた。今日は珍しくあのクソ板が仕事してないし、このままゆっくりと……、

 

 

シャラン♪

 

(寝れると思ったらこれだ畜生……)

 

 

もう聞き慣れた鈴の様な音に顔をしかめつつ、俺は小さく溜め息を吐くとベッドから起き上がり、宙に浮かぶ半透明のプレートを見る。今度はどんなクエストをやらせる気だ?またワンパン○ントレーニングか?もう苦にならなくなっちまったぞこの野郎。おまけにいつの間にか表情筋もあまり仕事しなくなったしな!

 

 

『東京武偵校の試験に合格しろ!』

 

 

東京武偵校?確か前世には無い過激になった警察みたいな連中を育成する学校だったっけ?うわぁ、嫌だ。だってあそこのパンフレット見たけど、あんな物騒な学校前世じゃ聞いた事無いぞ。なんだよ『校則として拳銃・刀剣の携行及び『防弾制服』の着用が義務付けられている』って?そんなおっかない所に入学なんてしたら、俺の命がただでさえ危ないのに余計に危なくなっちまう。

 

 

(でも行かないと死ぬって書かれてるんだろうなぁ。今度はどんな死に方が書かれてるんだ?昨日は転落死だったが……?)

 

 

俺は今回のクエストの成功報酬と失敗した時の死に方を確認した。

 

 

『成功報酬ーー檸檬型爆弾×1。クエスト失敗ーー異能力『きのうの影踏み』』

 

「ふむ?今回はいつもと違うな…」

 

 

成功報酬が檸檬型爆弾ってのは敢えて気にしない。だってこの間成功報酬で国木田くんが使ってた『鉄線銃(ワイヤーガン)』貰ったし。意外と使い難かったよアレ。

問題はクエスト失敗時のペナルティだ。『きのうの影踏み』ってアレだよな?外伝に登場する内務省異能特務課に所属してる映画の影響受けやすい新人エージェントの辻村深月(つじむらみづき)の異能力だよな?確か『影の仔』とか言う命令を聞かない上、いつ姿を現し、誰を攻撃するのか判らないスタンド的な異能生命体を操る異能だっけ?うーん、これって失敗したら『きのうの影踏み』を貰えるって事か?でもアレって制御出来ない異能力だったよな。母親が『娘が殺そうとした相手を、娘より先に殺せ』って命令した上で譲渡したって言う。うわぁ、怖い。

あー、でも護身用と考えればいいか?俺が相手を殺そうと思うなんて、それこそ自分の命が滅茶苦茶ヤバい時だけだろうし、もしかしたら操れる状態の方を貰えるかもしれない。だとしたらこれ程心強い護衛はそうそう居ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ?これクリアしなくてもいいのでは?)

 

 

俺は少し考えた結果そんな答えに辿り着いた。いやだってそうじゃん?クエストをクリアしちゃったら武偵校と言う物騒な学校に通わされる挙句、成功報酬が檸檬型爆弾が1個だろ?対して失敗したらそんな学校ではなく普通の学校に通える上に、護身用としてなら心強い異能力が貰える。

うん、これはクエストクリアしない方が断然良いな。制御出来る可能性があるなら断然失敗した方がお得だ。だって檸檬型爆弾なんて普通の学校では使わないし、武偵校に行ったとしても使う機会なんて無いだろ。

 

 

(よし、じゃあ今回は失敗する方向で!)

 

 

俺が心の中でそう決心すると、足下にある俺の影がゆらりと蠢いた。俺がそれを見て驚いている間にも影はどんどん形を変え、やがて巨大な鎌を持った黒い獣の様な姿をした不気味な異形となって俺の影から出で来た。

そう。これこそが、辻村深月の異能力……、

 

 

「『きのうの影踏み』か……」

 

 

うっわ凄い迫力。実物見れて結構嬉しいけど、思ったより怖いな。ま、まぁ?これから俺の異能力になるなら今の内に慣れておかないとな。こんなん夜中に見たら気絶するっての絶対。

ほら、『影の仔』が早速大鎌を振り上げて、俺の首目掛けて振り下ろして……って!?

 

 

危なっ!!!

 

 

俺は咄嗟にしゃがんで回避し、大鎌は俺の頭上を通り過ぎて空を切った。後少し遅かったら首が跳んでいたので、嫌な汗がだらだらと滝の様に流れ始めた。

 

 

(こ、殺す気か!?何冷静に俺の首刈り取ろうとしてんだよ!後少し回避遅れたら死んでたぞこの野郎!)

 

 

『影の仔』はゆっくりと俺の方を向くと、再び大鎌を振り上げやがった!ま、まさかあのプレートに書かれた『クエスト失敗ーー異能力『きのうの影踏み』』って、失敗したらこいつに斬り殺されるって事か!?俺が失敗する方向で行く事を決心したから早速俺を殺しに来たの!?凄い働き者だな!サボれ!!

働き者な『影の仔』は、俺がそう心の中で叫んでる間にもゆっくりと大鎌を振り上げ、今度こそと俺の首を斬り跳ばそうとする。

 

 

「(ちょちょちょちょ!?ちょっと待て!分かった!分かったから!)武偵校に入る。だからお前はさっさと影に戻れ」

 

『……………』

 

 

『影の仔』はじっと大鎌を振り上げたまま俺を見下ろし、しばらくすると俺の影の中に入って行った。命の危機が一時的にとは言え去った事に俺は安堵し、部屋の椅子にどっかりと座り込んだ。

 

 

「………武偵校、受験するか」

 

 

最悪、ズルとかインチキとか言われようが頭痛薬飲みまくってでも『超推理』使いまくろ。死ぬよりよっぽどマシだわ。

 

 

 

 

 

 

綾辻源蔵side…

 

 

「爺さん、話があるんだが……」

 

「む?行人か。どうかしたのかの?まだ小説は書き終えておらんぞ?」

 

 

儂が新しい推理小説を書いておると、行人がそう言いながら書斎に入って来た。儂がまだ小説は書けておらん事を告げると、行人は首を横に振った。

 

 

「今回はその件で来たんじゃない。少し知らせておきたい事があってな」

 

「ふむ……?」

 

 

儂は取り敢えずペンを止め、行人に向き直った。行斗は相変わらず無表情ではあるが、何やら真剣な雰囲気を纏っておる。まるで自分の命を懸けた戦いに向かう決意をしたかの様じゃ。(正解)

 

 

「して、知らせておきたい事とは何じゃ?」

 

「あぁ、俺の進路なんだが……東京武偵校にする事にした」

 

「……っ!そうか」

 

 

やはり行人は武偵校に通う事に決めおったか。行人よ、お前はやはり息子と同じ道を行くと言うのじゃな?ならば、聞いておかねばならぬ事がある。

 

 

「行人よ。本当に武偵になるのか?武偵は危険と隣り合わせじゃ。何が起こるか分からん。行人、お前自身が命を落とす可能性も高い。それでも行くのか?」

 

 

儂の問いに対し、行人は何やら不満そうな顔になった。まるで、『何を当たり前な事を言っているんだ』とでも言いたそうな顔にな。

 

 

「行くと決めたから報告しに来たんだ。今更変えるつもりは無いぞ。(だって殺されるもん)それに、危険と隣り合わせの日常なんてものは、今更何の苦にもならないしな。(だって前世から犯罪に巻き込まれまくってるし)」

 

「……っ!クククッ♪そうか、そうか。少し待っていなさい」

 

 

あれ程決意を固めておったとはな。昔の息子にそっくりに育ちおって。

儂は昔を思い出しながら席を立ち、行斗に渡すために前々から用意しておったあるものを取りに書斎を後にした。きっと、行人も喜ぶじゃろう。

 

 

 

 

 

 

綾辻行人side…

 

 

「ほれ、コレをやろう。大事にするんじゃぞ」

 

 

俺は書斎に戻って来た爺さんに渡されたものを見て驚いた。まぁ、表情はあまり変わっていないだろうが、とにかく驚いている。

俺の前に置かれたのは、薄い色のレンズの遮光眼鏡、イエローオーカーをベースに襟とエレポットが赤いデザインのジャケット、朱色ベースのチェック柄の縁取りの入った白シャツと、灰色のニットベスト。くすんだ橙色のチェック柄のニッカポッカズボンに、ベージュのブーツと黒いキャスケットだ。

うん、まぁ……そういう事だ。

 

 

「(綾辻行人の衣服ぅぅ!?何でこんなもんがあんの!?)……爺さん。これは?」

 

「うむ、それはお前の父親が仕事の時にずっと着ていたものでな。全て防弾繊維で作られたものじゃ」

 

 

マジか顔も知らぬ父よ。貴方はこんなものを普段仕事の時に来ていたのですか?つーか防弾繊維で出来てるのに軽いなこの服。本当に銃弾防げんのか心配なんだけど。

 

 

「試験の日にでも来て行け、あそこは銃声が絶えないらしいからのう。あぁ、それとこれも渡そう」

 

「……爺さん、俺が何歳か知っているか?」

 

 

爺さんが差し出して来たのはなんと煙管だった。俺はまだ中学生だぞ、未成年の俺が煙管なんて吸えるか!なんてもんをプレゼントしてんだよ。

 

 

「安心せい。これはお前の父親が愛用していた煙管を知り合いに頼んで改造してもらったものじゃ。見た目は煙管じゃが、出る煙はただの水蒸気じゃ。勿論これで刀を受け止めたり、銃弾を弾く事も出来る」

 

(誰だよそれ改造したの!?俺にはこんな細くて短いやつで刀を受け止めたり銃弾弾いたり出来ないぞこの野郎!俺に何求めてんだ!?)

 

 

俺は名も顔も知らぬこの煙管の改造を引き受けた爺さんの知り合いにそう心の中で叫んだ。

でもまぁ、着てみたい気持ちはある。いやだってあの『殺人探偵』綾辻行斗になったんだから、彼が着ていた服を着てみたいじゃん?

 

と、言う訳で……、

 

 

「あぁ、有難く受け取ろう」

 

 

俺は爺さんに礼を言ってから、渡されたものを持って書斎を後にした。部屋に戻った俺は、早速渡された綾辻行斗(原作)の衣服を着て、鏡の前に立ってみた。うん、見た目はちょっと若過ぎるが、完璧に『殺人探偵』の綾辻行人だ。

 

 

「ふむ、なかなか似合うな」

 

 

ヤッベ、結構気に入ったわコレ。

 

 

 

 

 

 

ーーー東京武偵校、試験当日。

 

 

今日はいよいよ試験当日。なんか時間が消し飛んだ(キング・クリムゾンした)様な気がするが、敢えて気にしないでおこう。この試験の結果次第で俺の首は『きのうの影踏み』に斬り跳ばされるか否かが決定するのだ。

 

俺は早速受付で手続きを済ませ、俺は自分の試験会場を探す。この武偵校はレインボーブリッジ南方に浮かぶ南北およそ2キロメートル・東西500メートルの人工浮島を丸々学校にした所で、『強襲学部(アサルト)』、『諜報学部(レザド)』、『探偵学部(インケスタ)』などと言った様々な学部があるらしい。

 

俺が受けるのは探偵学部だ。この学部には、探偵術と推理学による調査・分析を習得し、外部からの依頼で迷子や行方不明者を探したり、未解決事件のプロファイリングなども行う『探偵科(インケスタ)』と、犯罪現場や証拠品の科学的検査を習得し、学内での事故や犯罪などの痕跡・遺留品の調査も担当している『鑑識科(レピア)』と言う学科に分かれており、俺は鑑識科を受けようと思っている。

 

む?探偵科じゃないのかだって?俺に未解決事件解決させて犯人を全員『Another』で皆殺しにさせる気か?絶対に行かんぞ俺は!

 

 

「しかし広いなここは。俺の試験会場は何処だ?」

 

「ん?おいそこのお前!そんなとこで何しとる!?もう試験が始まるんやぞ!」

 

 

自分の試験会場を探していると、長い髪をポニーテールにしたスーツ姿女性がなんか逆らっちゃいけない不良か極道っぽいオーラ放ちながら近付いて来た。

 

 

「済まない。試験会場の場所が分からなくてな」

 

「はぁ!?ったく地図もろくに読めへんのかアホンダラ!中学で何習って来たんじゃ!」

 

 

主に普通の国数社理英の5教科ですが何か?つーか誰だよアンタ?マジモンの極道か何かか?いや、でもスーツ来てここに居るって事はまさか教師か?武偵校ってこんな人ばっかなのか?

 

 

「……あん?お前のその服、防弾仕様か?」

 

「そうだが?」

 

「だったらさっさと来んかい!!もうお前以外の受験生は集まっとるんやぞ!!」

 

「グェッ!?」

 

 

ちょ!?死ぬ死ぬ死ぬ!ちょ、待って!首!首絞まってる!アンタ教師なんだろ!?受験生殺す気か!?てか力強っ!?どんな筋力してるんだよアンタ!?

 

 

「あぁ、蘭豹(らんぴょう)先生!その子が最後の受験生ですか?」

 

「じゃなかったらここで防弾繊維で出来た服着とらんやろ!オラ!さっさと準備しろ!それともここでいっぺん死んでみるか!?」

 

「ゴホッ!ゴホッ!……あぁ、分かったよ。連れて来てくれてありがとう」

 

 

俺は咳き込みながらも、取り敢えず少しでも離れようと乱暴な蘭豹先生に一応礼を言って試験会場に入った。俺はまだ死にたくないんでね。

 

試験会場には大勢の受験生達がいた。が、何か様子変じゃね?みんな異常に殺気立ってるし、柔軟とか、瞑想とかしている人居るし、何故か銃の整備っぽい事やってる奴居るし……って!?

 

 

ちょっと待てやぁ!!

 

 

何で探偵学部の試験会場にこんな奴等が集まってんだよ!?明らかに探偵とはかけ離れた見た目の奴等ばっかじゃねーか!何で柔軟してんの!?何で銃の整備してんの!?何でそんなに殺気立ってんの!?

 

 

(ま、まさか。ここって……?)

 

 

超絶嫌な予感を感じまくっていると、先程俺を殺しかけ…いや、この試験会場に連れて来た蘭豹とか言う教師がみんなの前に立った。

 

 

「全員揃ったな!じゃあ、これより!強襲科の入学試験を始める!!」

 

強襲科かよぉぉぉおお!!?



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第4弾 乱入クエスト

「……以上が、この試験の内容だ!」

 

 

ふむふむ、成る程。つまり極道女教師の説明を簡単に纏めると、武偵校側が用意した訓練用の建物内で、ゴム弾使用の実銃とその弾倉2つ、閃光榴弾(フラッシュバン)音響手榴弾(スタン・グレネード)発煙手榴弾(スモークグレネード)を使ってリアルサバイバルゲームをしろと。

 

うんうん、実に強襲科らしい試験内容だ。やっぱり俺が受ける事になっていた鑑識科の試験では絶対に無さそうな試験内容だな〜あっはっは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さ、最悪だぁぁぁああ!!畜生あの極道女教師!選りに選って俺を武偵校で1番入りたくない最悪の学部の試験会場に連れて来やがったぁぁぁああ!!)

 

 

冗談じゃないぞ!ただでさえクソ板のせいで日々命の危機に瀕しているってのに、探偵学部よりも入りたくない毎年生徒の約3%が卒業までに死ぬ所に入るなんて真っ平ごめんだぞ!つーか本当の受験生くんは何処で油売ってんだよさっさと来いや!は、早く俺の試験会場が違うって事あの極道女教師に知らせねえと!

 

 

「ちょっ《シャラン♪》……え?」

 

 

あっれ〜?おかしいなぁ〜?今めっちゃこの場で聞こえてはいけない悪魔の音が聞こえた気がするんだけど?気のせいだよな?気のせいであってくれ!!お前今までなんかクエスト出したらクリアするまで他のクエスト持って来なかったろ!?

俺が幾ら気のせいだと自分に言い聞かせていても目の前に浮かぶ忌々しいクソ板がこれは現実だと訴えていやがる。

 

 

「はぁ〜〜……最悪だ」

 

 

いやもうホントに気のせいであって欲しかったわ。もう何なんだよ?俺は今、お前が出したクエストのせいで死にそうだから、仕方なく嫌々行きたくない学校の入学試験を受けようとしてんだぞ?こんなクソ忙しい時に俺に何やらせようってんだよ?

俺はクソ板を無視して死んだりする(ほぼ確定)のは嫌なので、覚悟を決めてクソ板に書かれている内容を読んだ。

 

 

『乱入クエスト!』

 

モ○ハンかよ!!

 

 

こんのクソ板ぁ!!何某巨大モンスターを狩る不死身のハンターのゲームの真似してんだこの野郎!何か!?ジン○ウガやイビ○ジョーでも試験に乱入してくるってのか!?ふざけんな!即喰い殺されるわ!

あ〜〜……畜生もう嫌な予感しかしねぇ!いったいどんな無茶なクエストやらされるんだ俺?

 

 

『今日中に強襲科の入学試験に紛れ込んだ連続殺人鬼を見つけ、犯罪の証拠を提示し、犯人だと証明しろ!』

 

はぁ!?

 

 

殺人鬼ぃ!?何でそんな奴が入学試験に紛れ込んでんだ!?つーか何このクソ板俺に殺人させようとしてんの!?俺が犯人に証拠提示して証明させた時点で、異能力『Another』が発動して犯人事故死すんだぞ!?

 

 

(ぐぬぬぬ……っ!これで俺も『殺人探偵』の仲間入りか!)

 

 

ごめんなさい前世の父さん母さん!そして今世の綾辻行人くんのお父様とお母様!俺は今日、連続殺人鬼とは言え人を間接的に殺す事になってしまいましたごめんなさい!恨むならクソ神様を恨んでくれ。

 

 

「おいそこの!いつまでボケ〜っと座っとる気や!さっさとこれ持って試験会場に入れ!!」

 

「グフッ!!」

 

 

前世と天国にいる両親に心の中で謝罪をしていると、極道女教師に弾倉2つと各種手榴弾を押し付けられ、再び服を掴まれて引き摺られる。

ちょ!ヤバいヤバい!めっちゃ首絞まってる!首絞まってるから!自分で歩くから早くその手を放し……あれ?

 

 

「……銃は貸し出されないのか?」

 

「ああん?んなモン自分の使えや!普段から使ってる銃で試験に挑めるんや。有り難く思えこのドアホ!!」

 

俺持ってねーよ!!

 

 

んなモン今世どころか前世でも持った事ねーよ!誰もが常に銃を所持してるとでも思ってんのか!?あぁ!ちょ!止め……っ!!

 

 

「オラァ!さっさと行けやぁ!!!」

 

「ぐっ!!?」

 

 

痛たた…ったくあの極道女教師め。いったいどんな腕力してんだよ?片腕だけで投げたのに5mくらい吹っ飛んだんだが?しかも丁寧に放り込んだ後扉閉めて鍵まで閉めやがった。

 

 

「やれやれ……やるしかないのか」

 

 

俺は仕方なくポケットから手帳とペンを取り出し、周囲に監視カメラなどが無い事を確認してから白紙のページにペンを走らせ、そのページを破る。

こうなったら覚悟を決めるしかない。他の受験生くん達には非常に申し訳ないが、これも俺が生きる為だ。人助けだと思って勘弁してくれたまえ。

 

 

「異能力『独歩吟客』!自動拳銃(ハンドガン)!」

 

 

俺が異能力を発動させると、破かれたページから光の文字列が溢れ出し、さっきの会場で他の受験生が持っていた自動拳銃になった。

初めて本物を持ったが、思ったよりずっしりしているな。これなんて名前なんだろうか?まぁ、使えればなんでもいいんだけど。

 

 

『よぉし!お前等準備はええな!?試験始めぇ!!』

 

「始まったか」

 

 

さて、頑張って生き残るとしよう。

 

 

 

 

 

 

蘭豹side…

 

 

「おうおう、やっとるなぁ」

 

 

ウチはあのキャスケットを被った受験生を訓練施設に放り込んだ後、施設内のあちこちに設置された監視カメラを通じて入学試験が始まった訓練施設内の様子を、他の教師共と一緒にモニター室で観察しとった。

今年の受験生は血の気の多い奴は多いが、腕がイマイチなのが多いな。

 

 

「お?この12番のモニターに映っとる受験生、そこそこいい腕やな」

 

 

ウチが見ているモニターに映るのは1人の男子受験生。こいつはさっきから何人も受験生を撃退しとる。狙いは百発百中、しかも被弾どころか攻撃一つ擦りもしとらん。

 

 

「あぁ、確か彼は遠山金次(とおやまキンジ)くんですね。確かに彼も凄いですが、私としてはこの21番モニターに映ってる彼に興味がありますね」

 

「ほぉ!どんな奴……は?」

 

 

ウチの隣に座っとった同僚が示した21番のモニターに視線を向けてみたら、そこにはウチが訓練施設内に放り込んだあのキャスケットを被った受験生の姿があった。

正直信じられん。会ってほんの少ししか経っとらんが、あいつは素人同然やった。確かに体は出来とったが、試験内容の説明中に溜め息を吐いたり警戒心も何もないような奴や。何度か根性叩き直したろうかとも思った。他の受験生とかち合えば真っ先にやられる様な奴やろうから、もうとっくに脱落しとると思ったが……、

 

 

「……こいつ、何やったんや?」

 

「それがですね……おや?あぁ、ちょうどいい。見てれば分かりますよ」

 

 

モニターに視線を戻すと、ちょうど例の素人受験生に他校の受験生が背後から奇襲をしようとしている所やった。このままやったらあいつは背後から撃たれて脱落や。……そう、思っとった。

 

 

「……なぁ!?」

 

 

ウチは柄にも無く本気で驚きの声を上げた。他校の受験生が放った弾丸をあいつは視線も向けず(・・・・・・)に必要最小限の動きで躱しおった。しかもそれだけやない。あいつが躱した弾丸はそのまま真っ直ぐ進み、あいつを撃とうとちょうど柱の影から飛び出した他の受験生の持つ音響手榴弾に命中して爆発し、そいつの意識を奪った。

 

凄じい閃光と音響が鳴り止み、全く別の目標を撃ってしもうて驚いていた最初の受験生は、更に撃とうと狙いを定めるが、その前にあいつが1発だけ撃った。しかし弾丸は明後日の方向に飛んで行き、最初の受験生はあいつにハジキ(拳銃)のセンスが無いと思ったのかニヤリと笑うた。

そして改めて狙いを定めて引き金を引こうとすると、その受験生の頭の上に天井のコンクリートの大きな破片が直撃し、そのままその受験生の意識を奪いおった。

最後に立っとるのは、あのキャスケットを被った受験生のみ。

 

 

「……まさか、全部狙っとったんか?」

 

「もうこれで4回連続。偶然なんかではありません。確実に狙ってやってますよコレ」

 

 

4回連続……1回だけなら兎も角、4回もそんな幸運な出来事が続く筈ない。つまりあれは、全てあいつの計算通りって事や。自分が背後から撃たれる事も、躱した弾が他の奴に命中する事も、その弾丸が他の受験生が持つ音響手榴弾に当たって爆発してそいつを気絶させる事も、自分が撃った1発の弾丸が相手を気絶させる事も。

 

……いや、ここまで来ると最後の1発も狙って撃ったんやろうな。防弾制服を着とる奴を1発で気絶させるのは近距離じゃないと難しい。ましてやゴム弾では0距離で撃たんとほとんど効果は無い。だからあいつは天井のコンクリートを撃ち砕いて、その破片をそいつの頭に直撃させて気絶させたんやろ。

それにあいつは爆発する前に耳を守り、閃光は遮光眼鏡で防いで無傷ときた。

 

 

「成る程なぁ?確かに興味深い奴や。実力を隠しとったんか」

 

 

まさかウチにも気付かせないとはな。ウチを騙しとったは腹立つが、面白いもん見せてもうたんで、チャラにしたるわ。

 

 

「ら、蘭豹先生!大変です!!」

 

 

ウチが良い気分になって観察を続けとると、急にモニター室のドアを勢い良く開けて、他の試験会場に居るはずの禿頭が特徴的な同僚が息を切らしながら入って来た。

 

 

「ああん?なんや!騒々しいぞハゲ!どうかしたんか!?」

 

「はぁ…!はぁ…!た、大変です!さっき連絡があって、強襲科の試験を受ける予定だった男子受験生が1人、人気の無い裏路地で殺されていたそうです!」

 

「何ぃ!?どう言う事や!?」

 

 

強襲科の受験生が1人殺されたやと!?今回の受験生全員が集まったから試験を始めたんやぞ!?まさか、この試験に間違えて参加してもうとるんか!?(お前のせいでな!)

 

 

「背中に刃物の様なもので滅多刺しにされていたらしいので、他殺である事は間違い無いと探偵学部の者達が断言しています。それと、鑑識科を受ける予定だった子が1人来ていないのですが……この子、どなたか見ていませんか?」

 

「いったいどんな奴…や……へ?」

 

 

禿頭の同僚が取り出した資料に載っていたのはウチが試験会場まで引っ張って来て、さっきも訓練施設内に放り込んだキャスケットを被った受験生の顔写真やった。つまりアレや。ウチは間違えて鑑識科を受ける予定だった奴を強襲科の試験に参加させたと……、

 

 

「………やってもうたなぁ」

 

 

あいつ、鑑識科志望やったんか……。

 

 

 

 

 

 

綾辻行人side…

 

 

きょ、強襲科半端ねえぇぇぇぇええ!!みんな殺る気あり過ぎだろ!開始当初から銃声やら爆音やらがあちこちで鳴りまくってるよ!しかも今さっきだってちょっと躓いて左に体傾いた時に俺の頭掠めて銃弾飛んでったよ!挙げ句の果てにはその弾丸が俺の前に飛び出した受験生の音響手榴弾に当たって爆発するし!俺が撃ち返した弾は変な所飛んでったしよ!

まぁ、幸い弾が当たったコンクリートの天井がボロくて、崩れたコンクリートの大きな破片があの受験生の頭に直撃して気絶してくれたから良かったけど、もう心臓に悪過ぎるわコレ!今はなんか銃声とか鳴り止んでるけど、それが逆に不気味過ぎる!

 

 

「はぁ……いつまで続けるつもりだ?」

 

 

俺もう疲れたよ。早く試験終わってくれよ。しかも俺この後今日中に連続殺人鬼見つけて犯人だと証明させないといけないってのに!……そういや成功報酬とクエスト失敗のペナルティー確認してなかったな。

 

 

「フッ……やっぱり気付いていたのか」

 

(うん?)

 

 

背後から声がしたので振り返るとそこには拳銃を構えた1人の黒髪の男子受験生がいた。

 

……え?いつからそこに居たの?

 

 

「よく分かったな。まるで背中に目でもついているかの様だ」

 

「そんな人間がいる訳がないだろう」

 

 

そんなん居るとしたら妖怪か化け物かのどっちかだわ。いや、それよりもホントお前いつからそこに居たの?全然気付かなかったんだけど?『気付いていたのか』って、ホントあんた何言ってんの?

 

 

「ははっ!確かにそうだな。さて、じゃあそろそろ俺ともやり合おう。もうこの建物に残っている受験生は君と俺だけなんだからな」

 

「………何?」

 

 

もう残ってるのは俺とこいつだけ?あの試験会場に集まっていた受験生はかなり多かった筈だけど?俺は倒せてないけど、他の奴同士で相討ちになったり、自滅したりした奴を見たのはたったの8人。

 

と、言う事は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前が連続殺人鬼か!!

 

 

今思えばあのクソ板が態々乱入クエストなんて言った程の奴だ!そんな奴が絶対弱い訳がない!ジン○ウガやイビ○ジョー並みの猛者に決まってる!クッソ!なんでそこに気が付かなかったんだ!あのクソ板が初めて出した乱入クエストだぞ!?普通じゃない事くらい予想出来るだろう!

 

それにあのクソ板の事だ、絶対こいつは俺を殺しに掛かって来るに決まってんだ畜生!あぁーもうやってやんよこの野郎!どうせこいつを犯人だと証明させないとどの道死ぬんだからな!

 

 

「……俺は全く戦闘は出来ないんだがな」

 

 

俺は覚悟を決めて遮光眼鏡を外すとポケットにしまい、代わりに伊達眼鏡を取り出した。彼は訝しげな表情を浮かべながらも銃を俺に向けたまま睨んでいる。

 

 

「……眼鏡?君は視力が低いのか?」

 

「いや?これはただの伊達眼鏡だよ」

 

 

俺はそう言いながら伊達眼鏡を掛ける。なんか知らんが彼はその間待っててくれた。だが油断したなこの野郎!これで俺の勝つ確率が幾つか上がったぞ!!未来さえも推理出来るこの異能力を使えば、お前なんか怖くないわ!

………あ、ごめん嘘。やっぱり怖いです。

 

 

(とにかく、異能力!『超推理』!)

 

 

そして俺は異能力『超推理』を発動させた。ふふふ♪これでお前が何をしようと推理出来る!さぁ、お前はどんな手を使っ…て……あれ?

 

 

「……俺と戦う前に、君は背後に隠れている殺人鬼(・・・・・・・・・・・)に銃を向けておいた方がいいぞ?」

 

「?いったい何を言って……っ!?」

 

 

俺が彼にそう忠告すると、彼はハッと気付いた様子で背後に向けて銃を構えた。彼の銃口が狙う先には、赤い髪をした1人の成人男性が立っていた。その男は何も言わず、ただジッと俺を見ていた。

 

 

「初めましてだ連続殺人鬼くん。いや、今は試験官くんと呼んだ方がいいのかな?」



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第5弾 異能力『Another』

遠山金次side…

 

 

俺が(綾辻行人)を見付けたのは試験が始まってからしばらくした後だった。殆どの受験生を倒し、残りあと少しと言うところで、偶々この階で彼を見付けた。初めは気付かれていない内に死角から奇襲して意識を奪うつもりだったんだが、彼の敵の弾や罠を利用して他の敵を巻き込んで自滅させたりする戦い方に興味が湧いて、隠れながら跡をつけた。

 

最初は完璧に尾行出来ていると思ってた。実際俺が尾行を始めてから数回交戦し、残りが俺と彼だけになるまで彼は俺に気付いた様子は無かったからな。

 

 

「はぁ……いつまで続けるつもりだ?」

 

(……っ!?)

 

 

最後の交戦が終わった後、彼は一度もこちらを見る事無く溜息を吐きながら俺にそう話し掛けて来た。だが、どうやら最初から気付かれていた様だった。しかも俺の尾行は彼にとって溜息が出てしまう程甘いものだったらしい。

今の俺は、とある状態(・・・・・)になっていて、普段の倍以上は尾行は上手く出来ている筈だったんだが……彼には敵わなかったらしい。

 

ヒステリア(H)サヴァン(S)シンドローム(S)

 

性的興奮によってβエンドルフィンが一定以上分泌されると、神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進され、思考力・判断力・反射神経などが通常の数倍以上になる特異体質。これが発動している間を、俺は『ヒステリアモード』と呼んでいる。

 

実は試験開始前にちょっと失敗してしまって、ヒステリアモード状態で俺はこの試験を受けていた。お陰で射撃精度・判断力・反射神経・思考力・その他諸々が普段の倍以上に跳ね上がり、これまで無傷で他の受験生を圧倒して来た。

そんな状態になっている俺の尾行に気付いていたなんて驚きだが、予想出来ていなかったわけではない。バレているのなら隠れてる必要も無いと判断して、銃を彼に向けながら物陰から出て行った。

 

 

「フッ……やっぱり気付いていたのか」

 

 

彼はゆっくりと俺の方を向く。遮光眼鏡越しに向けられる彼の視線は氷の様に非常に冷たい。しかもゴム弾とは言え、銃口を向けられているにも関わらず、彼は表情一つ変えず、銃も構えない。つまり彼にとって、『ヒステリアモード』の俺すら、他の受験生と変わらないのだろう。

 

 

「よく分かったな。まるで背中に目でもついているかの様だ」

 

「そんな人間がいる訳がないだろう」

 

 

呆れた様子でそんな事を言う彼に思わず笑ってしまった。

 

 

「ははっ!確かにそうだな。さて、じゃあそろそろ俺ともやり合おう。もうこの建物に残っている受験生は君と俺だけなんだからな」

 

「………何?」

 

 

ここで初めて彼の雰囲気がガラリと変わった。体中から嫌な汗が流れるのを感じ、無意識に銃を握る手に力が籠る。

 

 

「……俺は全く戦闘は出来ないんだがな」

 

 

彼はそう言いながら掛けていた遮光眼鏡を外し、ポケットにしまった。俺は全く動けない。何故かは自分でも分からないが、彼は隙だらけなのに、今動けば一瞬にして倒されると思ってしまう。

ジッと警戒しながら彼を観察していると、彼はポケットから眼鏡を取り出した。

 

 

「……眼鏡?君は視力が低いのか?」

 

「いや?これはただの伊達眼鏡だよ」

 

 

彼はそう言いながらその伊達眼鏡を掛ける。何故彼が閃光手榴弾や音響手榴弾の閃光を防げる遮光眼鏡を取り外し、視力も悪くないのにそんなものを掛けるのか分からない。あの伊達眼鏡は何か特別なものなのか?

 

そして伊達眼鏡を掛けた彼は、こんな事を言い出した。

 

 

「……俺と戦う前に、君は背後に隠れている殺人鬼(・・・・・・・・・・・)に銃を向けておいた方がいいぞ?」

 

 

背後に隠れている殺人鬼?いったい彼は何を言っているんだ?

 

 

「?いったい何を言って……っ!?」

 

 

俺が疑問を口に出そうとすると、突然背後に何者かの気配が現れた。直ぐに振り返って銃を向けると、そこには赤い髪をした1人の成人男性が立っていた。いつの間に背後に居たんだ?その男は何も言わず、ただジッと彼を見ていた。

 

 

「初めましてだ連続殺人鬼くん。いや、今は試験官くんと呼んだ方がいいのかな?」

 

「……私が?殺人鬼?ククッ……何を言うかと思えば、失礼な受験生だね。確かに私は試験官だ。この試験で最後に残った受験生を奇襲し、その受験生がキチンとそれに対応出来るかをテストする為のね」

 

 

赤髪の試験官を自称する男はやれやれと首を振ると、笑顔を浮かべながら自分が何故この場に居るのかを簡単に説明した。試験官が紛れていたのは驚いたが、何故彼は試験官をいきなり『連続殺人鬼』と呼んだんだ?会話の内容からして、彼と試験官は初対面らしいが……?

 

 

「その試験官が行う内容に、気絶した受験生を殺害する……なんてものがあるのか?その右腕の裾の中に隠し持っている血の付いたナイフで、ついさっきも1人の受験生を滅多刺しにして来たんだろう?」

 

「な、何を言っているんだ?ふざけるのも大概にしろ!」

 

 

淡々と告げる彼に対して、とうとう試験官が怒りだした。しかしなんだ?この試験官は怒っていると言うより、どちらかと言うと焦っている様に感じる。

 

 

「犯行時刻は今から10分42秒前。場所はこの1つ下の階にある階段近くの1室。被害者はそこの受験生くんが倒した男子受験生。気絶している被害者を見つけた貴様は、監視カメラに映らない様に細工をした後、衣服を全て裏返しに着てから、右腕の裾の中に隠しているナイフで滅多刺しにて殺害した」

 

「………っ!?」

 

 

彼が告げる推理の内容を聞いていく内に、試験官の顔が驚きに染まり、次第に青褪め始めた。流石に俺も怪しいと思い、少し下げていた銃を構え直した。

 

 

「そして被害者が死んだのを確認した後、手とナイフに付いた血を服で軽く拭い取り、裏返していた衣服を正しく着直してから、さっきの音響手榴弾を聞きつけてここへ来た……違うか?」

 

「で、出鱈目だ!私が受験生を殺した!?武偵である私がか!!何をバカな事を……!だいたい、証拠が無いじゃないか!」

 

「ならその右腕の裾をまくって見せろ。貴様が犯行に使ったナイフを入れたケースが右腕に付けられている筈だ。さっき貴様が腕を少し上げた時、左腕に対して右腕が若干下がっていたし、少しだけ衣服が盛り上がっていたぞ?それと、貴様の髪に付着している被害者の血液が何よりの証拠だ」

 

 

彼に指を差された試験官は、ハッとした様子で赤い髪を隠す様な素振りを見せた。余程動揺しているのか、自ら自分が犯人だと言っているも同然の行動をしてしまっている。

そして彼の指摘した試験官の赤い髪には、一部茶色っぽく変色している部分があった。成る程、アレが証拠と言う訳か。

 

 

「血液は乾燥すると、ヘモグロビン色素が空気中の酸素で酸化して茶色に近い色に変色する。殺害した後手鏡で顔なども確認したんだろうが、付着した直後は君の髪と同じ赤色だったから気付かなかったのだろう?隠すならもっと上手くやる事だな。……まぁ、俺の前では何をしても無駄だが」

 

「……っ!!」

 

 

試験官……いや、男は悔しそうな顔をすると、右腕の裾から血がべっとりと付着したナイフを取り出して構え、もう片方の手で腰に携えていた銃……あれは『USSR トカレフ』だな。それを構えた。どうやら本当に彼は殺人鬼だったらしい。

 

 

「……何故だ?何故私が殺人犯だと分かった!?私とお前は今ここで会ったばかりの初対面!そしてお前が私を見て殺人鬼と言うまで10秒も経っていないんだぞ!!」

 

「何、少し推理しただけだ」

 

 

殺人鬼が睨みながら叫ぶのに対し、彼はそう答えた。たったの10秒程度であれ程の推理が出来るとは俄かに信じられないが、彼が言った事が事実だとすると、彼は凄じい推理力を持っている事になる。

はははっ。底が知れないな……彼は。

 

 

「さて、普通ならこの場合、俺とそこの受験生くんは貴様を逮捕するべきなんだろうが……俺はそんな事はしない。君も奴を捕らえようとするな、受験生くん。巻き込まれる(・・・・・・)ぞ?」

 

「こいつは殺人鬼なんだろう?なら逮捕するべきなんじゃないのか?」

 

 

急に何を言い出すかと思えば……逮捕するな?ヒステリアモードの俺にさえ理解出来ない。何故彼は殺人鬼だと確信しているのに逮捕しようとしないんだ?何か理由があるのか?それに巻き込まれるとはどう言う意味だ?

 

 

「……何を考えているかは知らないが、お前の推理力は危険だ。ここでお前には死んでもらうぞ」

 

「いや、俺が死ぬ事は無い。何故なら、その前に貴様が事故死(・・・)するからだ」

 

(?事故死……?彼は何を言っているんだ?)

 

 

俺は彼が言っている事が理解出来なかった。すると彼は殺人鬼に向けて指を差し、こう言った。

 

 

「『予告しよう』、これから君は崩れて来た天井に潰されて事故死する。圧死……それが貴様の死因だ」

 

 

彼の出した『死の予告』に俺も殺人鬼も絶句した。

 

 

「………ふざけているのか?」

 

「少なくとも俺は真面目に言っている。今これから訪れるものが、貴様の死だ。よく味わえ」

 

「〜〜〜っ!!!」

 

 

彼の言葉に痺れを切らしたのか、殺人鬼が1発だけ発砲した。だが狙いが甘かった為、弾は彼の頭上を通り越して背後にあった天井を支える柱に命中する。

 

 

「何が予告だ!ふざけるな!決めたぞ!お前は直ぐには殺してはやらん!脳と急所を外して苦しませながら殺してやる!既にこの階の監視カメラには細工を施した!そこの受験生を殺してからでも、殺して逃げるだけの時間は十分稼げる!」

 

 

そう叫びながら殺人鬼は俺の方に銃口を向けた。俺も先に奴の拳銃を撃って弾き飛ばそうと狙いを定め、引き金に掛けている指に力を入れる。

 

そして俺の銃の引き金が完全に引かれる瞬間……、

 

 

「………時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー異能力『Another』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の予告が、現実となった。

 

 

 

 

 

 

蘭豹side…

 

 

はぁ!?そんな訳ないやろ!!テメェそれちゃんと隅々まで調べたんやろうなぁ!?

 

「し、調べました!調べましたから!取り敢えずその手を離して下さい!は、吐く!吐いちゃいますから〜!!」

 

 

試験が終わってから数時間経った頃、ウチは鑑識科の奴等の調査報告を聞いて納得が行かず、報告しに来た鑑識科の奴の胸倉掴みながら揺すりまくった。まぁ、本当に顔青くして吐かれそうになったから直ぐに止めたったけどな。

 

今回、この試験には連続殺人鬼が紛れとった。そのアホンダラは今日強襲科を受ける予定やった受験生を人気の無い場所で刺し殺した奴と同一犯、そして試験中に更にもう1人の受験生を同じやり方で殺しとった。まさか教務科(マスターズ)の中に現役の連続殺人犯が紛れとるとは思わんかったわ。

……うん?ウチは元マフィアやし、他の奴も元自衛隊やら元警察OB、元特殊部隊、元傭兵とかが前職やったし、紛れてても不思議やないんか?あー、いや。でも前職がそれってだけで今も続けとるアホは今回の奴だけか。

 

ウチはそう思いながらそいつの方に目を向ける。だがウチの視界内にそいつの全身は(・・・)写らへん。写ってるのはそいつのナイフを握った左腕(・・)だけや。

 

 

「はぁ…はぁ……ふぅ。な、何度も言いますが、これは事故死で間違い有りません。死因は見ての通り、崩落した天井の下敷きになった事による圧死。崩落の原因は建物の老朽化です。偶々彼が立っていた場所の真上の天井が鉄筋すら錆び切ってぼろぼろになっている状態まで老朽化が進んでおり、そのまま自然に崩壊した様です」

 

 

そう、犯人はウチの目の前にある瓦礫の山の下敷きになって死亡した。偶々建物の老朽化が進んでいて、偶々1番老朽化が進んでいる場所の真下に、偶々その殺人犯がおって、偶々そのタイミングで自然に崩落して犯人が事故死する?

 

 

「……そんな偶然が有り得るんか?」

 

 

遠山金次とか言う受験生の話やと、あいつはこの殺人犯を一目見て10秒も経たん内に完璧な推理でいつ犯行に及んだか、どのように殺害したか、そして『連続殺人鬼』と呼んでいた事から、おそらくそれ以前の犯行なども全て、まるで直に見て来たかの様に言い当てて見せ、果てにはそいつの死を予告しとったらしい。

 

たった10秒程度でそれら全てを推理するなんて、プロの武偵でも非常に難しく、どんなに早くても数十分から数時間は掛かるらしい。しかもそれは司法解剖や鑑識科による調査の結果を受けた上での話や。ましてや相手がどう死ぬかなんて推理出来るんか?確認したらあいつは普通の一般中学卒やぞ?

 

 

「……どんな頭しとるんや、あいつは?」

 

 

 

 

 

 

綾辻行人side…

 

 

はぁぁぁああぁぁぁあ〜〜……

 

 

ヤッベーよ!罪悪感半端無ぇーよ!相手が連続殺人鬼とは言え、俺とうとう人殺しちゃったよ!すまない殺人鬼くん!責めて怨むならこんなクソクエスト出して来たクソ板と、それを送り付けて来やがったあのクソガキを怨んでくれ!だから化けて出ないでくれよ!

 

 

「はぁ……まぁ、試験はなんとか乗り切った。後は合格するかだな」

 

 

合格してるといいなぁ……これで不合格だったら俺にはもう『死』しか無いんだもんなぁ。試験落ちてたら『きのうの影踏み』の『影の仔』が俺を殺しに来る……うわぁ〜めっちゃ嫌だ。責めて優しく殺してくれないかなぁ?苦しまずに一瞬にして死ねないかなぁ?

 

 

「……そう言えば、乱入クエストの成功報酬は何だ?」

 

 

ふと思い出した俺は、早速クソ板を確認した。するとクソ板に書かれていた『乱入クエスト』の文字が『クエスト達成』となっており、その下に文章が書かれていた。

そしてその文章を読んでみると、思わず俺は絶句した。何故ならその文章には、こう書かれていたからだ。

 

 

『成功報酬ーー「褒めてやる」(福沢社長風)』

 

………ブチッ!

 

 

この時、俺の頭の中で何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんのクソ板がぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁあ!!!!」



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第6弾 合格通知

「…………」

 

『…………』トントン

 

 

クソ板が出しやがったふざけたクエストの所為で人生初の間接的な殺人を犯してしまったあのクソ最悪な試験の日からしばらく経ったある日、遂に俺の下にその試験の結果が送られて来た。

自室の机の上に置かれた東京武偵校から送られて来たその分厚い封筒を睨んでいる俺の背後では、処刑執行人である『影の仔』が俺の影から這い出て来て、ギラリと光を反射している大鎌を自身の肩に乗せてトントン肩を叩きながら『さっさと開けろや』と無言の圧をかけている。

 

 

(いや怖えよ!!何でそんなに殺る気満々なんだよ!?何!?これもしかして失格って書かれてるから前もって準備してんの!?それとも単に自分も知らないから実際に見ようとしてんの!?どっちなの!?)

 

 

こいつさっきから多分ト○コの鬼威嚇やル○ィの覇王色にも負けないくらいの威圧感放ってんだよ!もうこいつの威圧だけで俺の心臓止まりそうだわ!

 

 

(つーかホントに大丈夫なのか!?試験は受けたけどアレ完全に別の学部の試験だったし、仕方が無かったとは言え、俺試験中に犯人殺人しちゃってんだけど!?)

 

 

やばい自信無くなって来た。そもそも普通に考えて犯人逮捕する側の武偵校に間接的で俺自身にはどうしようもなかったとは言え殺人犯しちまった俺が入れる可能性がある訳がないしな。でもあの暴力極道女教師が勤めてんなら可能性はなくもないと信じたい!

 

 

『………』ガスッ!

 

「……おい、お前今蹴ったな?」

 

 

こいつ等々痺れ切らせて無言で椅子蹴り始めたぞ畜生!早くしろって顔にデカデカと書かれてるわ!何だよお前思ってたより人間っぽいな!?

 

 

(あ、痛!こいつ今度は俺の足蹴って来た!あぁもう!分かった!分かったよ!覚悟を決めりゃいいんだろこの野郎!!)

 

 

俺は『影の仔』を一度睨み付けてから封筒の封を切り、中身を掴むと目を瞑って勢い良く封筒から取り出した。そして恐る恐る閉じていた目蓋をゆっくりと開き、そこに書かれている結果を確認した。

 

そしてそこに書かれていたのは…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー『合格』の2文字!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッシャァァァァオラァァァァアア!!!)

 

 

やったぁぁぁあ合格だぁぁぁああ!!どうだ見たか死神異能力!合格だぞ合格!!これで俺はお前に首を斬られる事は無くなった!ぶっちゃけ予想外の事が起きまくって内心7割程諦めかけてたけど、無事に合格してやったぞ!!

 

俺はニヤリと笑いながら無言で佇む『影の仔』に向かって合格と書かれた書類を見せ付けた。さぁ、これでもうお前とはおさらばだ!次また会わない事を全力で祈ってるよ!!

 

 

『…………』

 

 

『影の仔』はジッと俺の持つ書類を見詰めた後、俺の方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………チッ

 

「……うん?」

 

 

え?何こいつ?舌打ちした?ねぇ今完全にお前舌打ちしたよね!?畜生お前どんだけ俺の首斬りたかったんだよこの野郎!!おいこら!何とか言ってみろよ!

 

 

『……………ハァ』

 

(溜め息吐いてんじゃねぇーよ!!!)

 

 

『影の仔』が非常に残念そうに溜め息を吐いたのを見て、『もうこいつ全身全霊を懸けてぶっ飛ばしてやってもいいよな?』と割とガチで思った俺は間違っていないだろう。

しばらく残念そうにしていたサイコ異能力だったが、やがてあの光の文字列の様なエフェクトに包まれると、それが弾けるのと同時にサイコ異能力は姿を消した。

じゃあなサイコ異能力!もう二度と来んな!!

 

『きのうの影踏み』が消えた後、今度はクソ板が成功報酬の檸檬型爆弾に変わり、そのまま落ち……って!!?

 

 

「危なっ!!!」

 

 

俺は慌てて檸檬型爆弾をキャッチした!何考えてんだクソ板!これ爆弾なんだろ!?もし落ちた衝撃でピンが抜けて爆発したら、『檸檬爆弾』持ってる俺はともかく、俺の家が大変な事になるだろうが!!

 

 

「………ふむ、これがあの檸檬型爆弾か」

 

 

うん、改めて見ると見た目は手榴弾に付いてるピンがある事を除けば完璧に檸檬だ。これまさか梶井基次郎本人が作ったやつだったりするのか?ピンが無ければ普通に料理とかに間違えて使われてしまいそうな程に本物そっくりなんだけど?

いやまぁ、そんな事すれば俺以外のみんなは漏れなく爆死(ガチな方)するんだろうが……。

 

 

「しかし、これで俺はまた生き延びれた訳だ。やれやれ、全く冷や冷やさせてくれる………うん?待てよ?」

 

 

そう言えば武偵校に合格したはいいが、俺はいったいどの学部に入るんだ?本来受けるのは鑑識科の試験だったんだけど、実際に受けたのは強襲科だった。ならそのどっちかって事になるけど、あの馬鹿キンジ(後で名前聞いた)が事情聴取で俺が一瞬で犯人を推理した事暴露しやがったからもしかしたら探偵科って可能性もある。

 

 

(そうなったら一気に日本の事故死亡率が上昇しちゃうんだけど……)

 

 

俺は容易に予想出来てしまった未来にゾッとしながら、送られて来た書類を手に取った。どの学部に入るかはコレに記載されているはずだからな。

 

 

「さて、個人的には鑑識科であって欲しいが……」

 

 

さぁ何処だ?俺の希望である鑑識科である可能性はぶっちゃけ低い。結局最後まで鑑識科の試験受けなかったし、強襲科の試験で一応生き残っちゃったし、何より某幻想殺しウニ頭の不幸少年や子供死神探偵並みの巻き込まれ体質を持つ不幸人間であるこの俺が希望してるからな!!(泣)

 

 

「む?これか……どれどれ?」

 

 

俺は複数ある書類から1枚を手に取り、そこに記載されているある一文を読み、その内容を理解するとその一文に視線が釘付けになった。

そこには、こう書かれていた………、

 

 

『受験生、綾辻行人を強襲科『Sランク(・・・・)として、東京武偵校への入学を許可する』

 

「…………」

 

 

さて、ここで説明しよう。なんでも武偵には通常EからAまでのランクが存在し、民間からの有償の依頼解決の実績や学科の各種中間・期末試験の成績からランク付けされるらしい。そしてAランクの上には特別なSランクなるものが存在し、限られた人物にだけそのランクが与えられているらしいのだ。

 

そして、強襲科のSランクともなれば、あちこちからテロリストやマフィアなんかの凶悪犯罪組織の制圧及び逮捕とかが主な常に命の危険が滅茶苦茶有りまくる依頼を押し付けられるであろう事が容易に想像出来る。

 

え〜〜〜っと、つまりこれは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄への片道切符ぅぅぅぅううぅぅうううう!!!!!

 

 

最悪だどうすりゃいいんだよこれぇ!?俺みたいな狙った所に弾が飛んでかないちょっと体力があって異能力が使えるだけのド素人がSランク武偵としてやってける訳ねぇーだろーが!!

 

 

「……っ!そうだ。今から入学を拒否して普通の高校に行けば《シャラン♪》………え?」

 

 

なんかいきなり目の前にクソ板が出現しやがった。『また無理難題クエストか?』と思ったけどなんか『メッセージを受信しました』って書いてある。このクソ板利用してメッセージ送ってくる奴は1人しかいない。

俺は滅茶苦茶嫌な予感を感じながらもそのメッセージを開いた。

 

 

『入らなかったら、殺しちゃうぞ☆ーーーby神様』

 

クソがぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!

 

 

畜生あの野郎退路断ちやがった!!なんだよ『殺しちゃうぞ☆』って!?なんだよ『☆』って!?テメェちょっと星とかハートとか付けて可愛らしく見せれば許されるとでも思ってんのか死神クソピエロ!!つーかお前どっかから俺の事見てんの!?仕事しろや!!

 

 

「………そう言えば、少し離れた場所に誰も寄り付かなくなった廃墟があったな」

 

 

ふとある事を思い付いた俺は、檸檬型爆弾と手帳とペンを持つと、『超推理』を発動させて誰にも会わないルートを推理しながらその廃墟へ向かった。

 

 

ーーー翌日。

 

 

『次のニュースです。昨夜11時頃、神奈川県横浜市のとある廃墟で、大規模な爆発が起こりました。近所に住んでいた住民によると、夜中に突然凄じい爆発音が鳴り響き、同時に『うはははは!!』と言う笑い声が爆発音に混じって聞こえて来たと証言しており、警察は、何者かによる犯行の可能性が高いと、現在も捜査を……』

 

「ほう……この廃墟、かなり近いわい。どっかの馬鹿者が自作でもした爆弾を試しておったのかのう?」

 

「さぁな。俺には関係の無い事だ」

 

「それもそうじゃな。………む?行人よ、少し顔色が悪い気がするのじゃが、具合でも悪いのかの?」

 

「何、少し寝不足なだけさ。昨日の夜は寝付けなくてな」

 

 

 

 

 

 

時は流れ、気温も暖かくなり、桜の花が咲く季節になった。武偵校に通う事になった俺は現在、働きアリのようにせっせと自分の荷物を武偵校が所有している寮の部屋に運び込んでいた。まぁ、要するに引っ越しだ。

正直、こんな武偵校の為にある様な人工浮島に住むなんて滅茶苦茶嫌だったんだが、爺さんに『武偵になるなら身の回りの事は自分でやれる様になれ!!』って言われて半ば強引に荷物と一緒に家を追い出された。

 

 

「ふぅ……これで最後か」

 

 

俺は最後の段ボールを部屋に運び込むと、部屋の中を改めて見回した。部屋はなかなか広く、元々4人部屋だったのになんか知らんが俺1人で使っていいよって言われたから有り難く1人で使わせてもらう事になった。これもSランク武偵の力だったりするのか?

 

 

「もう12時半か……思ったより時間が掛かったな」

 

 

昼飯どうすっかなぁ?そう言えば確か近くにコンビニが一軒あったな……よし、今日の昼飯はコンビニの弁当にしよう。そうと決まれば早速買いに……、

 

 

ガン!! 》「あべし!?」

 

「ん?」

 

 

なんかドア開けたら、ドアに衝撃が来た上に誰かの悲鳴が聞こえた。何事かと思って確認したら、どっかで見た事ある少年が顔を押さえながら悶絶していた。

え?もしかして俺が開けたドアにぶつかったの?何そのどっかのアニメとかでありそうなやつ?

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「いててて……だ、大丈夫だ。……って、綾辻?なんでお前がここに?」

 

 

あれ?誰かと思えば事情聴取で俺の推理力暴露してくれた馬鹿キンジくんじゃないか。こんな所で何やってんだお前?

 

 

「なんだ君か。実は俺は今日からここに住む事になってな。……まさか君もか?」

 

「まぁな。ちょうどこの隣の部屋に住む事になったんだよ」

 

 

あれ?なんかこいつ、試験の時と大分雰囲気違うな。あの時と比べて今はなんと言うかこう……根暗っぽい感じと言うか、不幸そうな雰囲気と言うか?ホントにこいつ遠山くんか?

 

 

「……君、前あった時と雰囲気が違うな」

 

「え!?そ、そそそそんな事ないぜ!?き、気の所為じゃないか!?」

 

 

はい!この時点で何か隠してる事が判明しました!つーか嘘下手だなお前!そんなん誰が見ても何か隠してるって分かるわ!もしかしてアレか?銃を握ったら性格が変わる的なやつか?うっわ面倒臭せぇ。

 

 

「(良し、触れないでおこう)……そうか。じゃあ俺はこれからコンビニに昼食を買いに行くから、失礼するよ」

 

「あ、あぁ。じゃあな……」

 

 

………う〜〜ん。でもこいつもこれから武偵になるんだよな?なら今の内にちょっとだけアドバイスしておくか。

 

 

「あぁ、そうだ。俺は別に知ったところで誰かに言いふらすなどしないが、隠し事をするならもっとマシな嘘を吐く事をお勧めするぞ」

 

「は、はい……」

 

 

なんか遠山くんがガックリと膝から崩れ落ちちゃった。……そんなに自分の嘘に自信あったの?

 

 

 

 

 

 

遠山金次side…

 

 

その日、俺はコンビニで昼食として唐揚げ弁当とペットボトルのお茶を1本買って、これから武偵校に通う間の3年間住む事になる寮の部屋に向かっていた。

階段を上り、廊下を歩いてもうすぐ自分の部屋に着くって時に、突然俺の部屋の手前の部屋のドアが開き、俺はどっかの漫画の如く額をぶつけて悶絶した。勿論、コンビニの唐揚げ弁当は死守したぜ!

だけど……、

 

 

ふぉぉぉおおおぉぉぉぉおお!?!?!?

 

 

めっちゃ痛えぇぇぇええぇぇぇえええ!!防弾制服に銃弾直撃した時に比べても差があんまり無いくらい痛いんじゃないか!?鼻血……は、幸い出てないな。すっごい痛いけど。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

やっと痛みが落ち着いて来た時に、俺の頭上から声が掛けられた。きっとドアを開けた俺の部屋の隣の部屋の住民だろうと思い、俺はまだちょっと痛む鼻を押さえながら立ち上がって、彼に大丈夫である事を伝えた。

 

 

「いててて……だ、大丈夫だ。……って、綾辻?なんでお前がここに?」

 

「なんだ君か」

 

 

ドアを開けた人物は試験の時に会った綾辻だった。相変わらず無表情な奴だなぁ……しかしなんで綾辻がこんな所に居るんだ?

 

 

「実は俺は今日からここに住む事になってな。……まさか君もか?」

 

「まぁな。ちょうどこの隣の部屋に住む事になったんだよ」

 

 

俺は自分の部屋を指差しながら答えた。しかし試験で最後まで残った2人が隣部屋同士か。こんな偶然もあるんだな。

 

 

「……君、前あった時と雰囲気が違うな」

 

「え!?そ、そそそそんな事ないぜ!?き、気の所為じゃないか!?」

 

 

しまった!!いきなりだったからついきょどっちまった!そうだよ、綾辻に初めて会った時俺はヒステリアモードだったから、ヒステリアモードが解除してる俺を綾辻は見てないんだった!こいつのあの有り得ない推理力なら俺のヒステリアモードの事がバレちまうかも知れねぇ!?

 

い、いや待て待て落ち着け。冷静になれ。よくよく考えたら、幾らなんでもヒステリアモードの事を推理出来るわないだろ。そもそもこれは俺の家に伝わる特異体質だぞ?大丈夫さ。

 

 

「……そうか。じゃあ俺はこれからコンビニに昼食を買いに行くから、失礼するよ」

 

「あ、あぁ。じゃあな……」

 

(よし!ちょっと間があったのが気になるけど、なんとか誤魔化せたっぽいぞ!)

 

 

綾辻はそのままコンビニに向かう為に歩き出したのを見て、俺は内心ホッとした。そりゃそうだよな。さて、早く部屋に戻って弁当を食べよう。

 

 

「あぁ、そうだ。俺は別に知ったところで誰かに言いふらすなどしないが、隠し事をするならもっとマシな嘘を吐く事をお勧めするぞ」

 

「は、はい……」

 

 

背後から聞こえた綾辻の言葉を聞いて俺は膝から崩れ落ちた。もしかして、推理して全部分かった上で言ってるのか?

 

 

(どんだけ規格外なんだよ……)

 

 

俺は綾辻の推理力の恐ろしさを改めて再確認した。



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第7弾 拳銃選び

「うーむ………拳銃だけでも色々あるんだな」

 

 

東京武偵校入学まで後数日となったある日、俺は目の前にズラリと並んでいる自動拳銃(ハンドガン)回転式拳銃(リボルバー)を見ながら腕を組んで悩んでいた。

 

武偵校には校則として、防弾繊維で作られた防弾制服の着用と、拳銃や刀剣類の携行が義務付けられているのは以前話したと思うが、一般中学卒業生の俺はご存知の通りちゃんとした俺の銃ってものが無い。試験の時に『独歩吟客』で具現化した拳銃使えば良くね?と最初は思ったのだが、あれだけ狙った場所に飛ばないのは俺の腕じゃなくてあの記憶した銃が壊れていたと思うのだよ。だからキチンと自分で選んで買おうと思った訳だ。

だからあまり会いたくなかったが、あの暴力極道女教師こと蘭豹先生に相談した所、武偵校の購買部に案内された。

 

そう、購買部(・・・)にだ。

 

ところで聞くが、みんなは学校の購買と言えばどんなものを売っていると思う?普通に考えれば授業に必要な鉛筆やシャーペンとその芯、ノートやのり、その他色々な文房具などを取り扱っているのを想像するだろう。

だが、東京武偵校……と言うより、武偵校の購買ではそれに合わせて銃火器や刀剣類を販売しているのだ。しかも無駄に多種多様過ぎるんだよ。銃は拳銃から何故か対戦車ミサイルまで、刀剣類は小型の折り畳み式ナイフから達人が持ってそうな業物まである。

信じられないだろうが、実際そこに来てどの銃にするか悩んでる俺が言うんだからマジなんだよなぁ。

 

 

「……っ!おい綾辻ぃ!まだ決まらんのか!?」

 

「そう怒鳴るな蘭豹先生。これだけの種類があるんだ。どれにすれば良いか俺でも悩むさ」

 

 

つーかなんであんたまだここに居るんだよ?俺は確かにあんたに相談したし、案内してもらいはしたが、何も俺が今後使う銃を選ぶのにも付き合わなくていいんだぞ?そもそもあんた俺が訪ねた時パソコンに向かってなんか作業してたよな?あれ仕事に関係するやつだろ?仕事やんなくていいの?

 

 

「そもそも綾辻。お前もうハジキは1丁持っとるやろ?なんで今更もう1丁買う事にしたんや?」

 

(はぁ?)

 

 

銃持ってないから買いに来たんだろうが。何?そんな事も忘れたのか?脳味噌まで筋肉に侵食されちゃったのかこの人?

 

 

「おう、なんか今お前、結構調子乗った事考えとらんかったか?捻り潰すぞ?」

 

「別に……ただどの銃にしようかと迷ってただけだ」

 

 

あっぶな!!え?何この人怖っ!!なんで俺の考えてた事分かったの?エスパー?ポケ○ンのサー○イトみたいに特性にテレパシーでも持ってんのか?

………あ、いや。この人どちらかと言えばエスパータイプじゃなくてかくとうタイプかあくタイプだわ。

 

 

「それより、俺がもう銃を持っているとはどう言う事だ?俺は拳銃どころかナイフ1本すら持っていないぞ?」

 

「ああん?じゃああの試験で使っとったハジキはどうした?」

 

 

試験でって……あ!『独歩吟客』で具現化したあの自動拳銃の事か!ヤッベ完全に忘れてた!異能力使った時は辺りにカメラがないか確認したけど、具現化した後はカメラに気にせず使ってたからなぁ。ど、どうする?『異能力で作りました』なんて言って『あぁ、そうなんか』で終わる奴に見えねぇし、下手したら余計に面倒臭い事になりそうだ。

 

 

「あ、あぁアレか。こっそり他の受験生から拝借した。勿論、後で返しておいたがね」

 

「ほぉ?受験生の中に銃が無くなったなんて言いに来た奴は居らんかったんやけどなぁ?(それはつまり、持ち主に一切気付かれずにハジキスって試験で使い、そんで返したっちゅー事か。器用な奴やなぁ)」

 

「当然だ。バレないようにする為にこっそり拝借したんだからな」

 

 

こ、これはセーフなのか?取り敢えず適当に思い付いた事言ってみたんだけど誤魔化せたかな?なんか俺を面白い玩具を見つけたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべながらめっちゃ見てくるんだけど!?

 

銃を選びながら内心そんな事を考えてたらりと嫌な汗を1雫流していると、蘭豹先生の携帯が鳴り始めた。すると彼女は滅茶苦茶嫌そうな表情を隠す事なく電話に出て、しばらく会話した後小さく舌打ちしてから電話を切った。

 

 

「おい綾辻ぃ。悪いがウチはちょいと用事出来たから戻らせてもらうわ」

 

「あぁ、別に構わないよ。ありがとう」

 

 

俺は面倒臭そうに去って行く蘭豹先生の背中を見送り、再び視線を並んだ拳銃に向けた。しかしホントに滅茶苦茶種類あるなぁ……ん?

 

 

「試し撃ちOK……?」

 

 

拳銃コーナーの隅に小さなプレートにそんな事が書いてあった。詳しく読むとここでは購買の人同行でなら何丁か銃を持って隣の射撃場で実際に撃って選んでもいいらしい。成る程、これはいいな!なら早速幾つか気になった銃を選んで……っと!

 

 

「あぁ、君。済まないが、これ等の銃を試し撃ちさせて貰えないか?」

 

 

 

 

 

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

 

3発の銃声が射撃場内に響き渡る。俺が今持っている『シグザウエル P220』から放たれた3発の弾丸は、25m程離れた場所にある人型の的に命中した。まぁ、『命中した』なんて言っても、実際に狙ったのは的の真ん中の胸やヘッドショット狙いで頭部なのだが、1発目は人型が持っている拳銃部分、2発目と3発目は左肩と右膝と言った具合に、見事に狙いから外れまくっている。因みにこれで7丁目だ。

 

 

(………いや、おかしくね?)

 

 

全っ然当たんないんだけど!俺ってこんなに射撃のセンスなかったっけか!?もう何十発も撃ってんのに1発も狙い通りの方向に飛んで行かないんだけど!?もうこれ銃がおかしいってレベルじゃねぇ!俺の射撃のセンス壊滅的じゃねーか!!

 

 

「(い、いや。諦めるな。もしかしたら俺に合った銃を使えば百発百中になるかも知れない!なら…)これは違うな。別の銃にしよう」

 

 

それにもし全部駄目だったら適当にかっこいい銃買って帰ろう。どれ使っても駄目なら別に変わんないしな!(泣)

そして俺はシグザウエルを机に置くと、今度は『コルト・ディテクティブスペシャル』とか言うなんか難しい名前の回転式拳銃を手に取り、シリンダーに弾を入れて行く。そして6発全部入れ終わると、『コルト・ディテクティブスペシャル』……って長いな。取り敢えずそれを構えると的の中央を狙って全弾続けて撃った。

 

 

「……これもダメか」

 

 

そして俺は小さく溜め息を吐いて銃を机の上に戻した。結果は綺麗に狙っていた真ん中を避けて円を描く様に命中していた。狙った所に行かなかった割に綺麗に円が出来てるのが無性に腹立つな畜生。

 

 

おいおい!あいつどんな腕持ってんだ!?

 

あんな綺麗な円を描けるなんて……ただ者じゃないな

 

それにさっきだって、的に描かれた銃を撃ち抜いて、犯人を行動不能に出来る様な部位を撃ち抜いてたわよ?

 

それでダメって……自分に合った銃でやったらどうなるんだ?

 

 

なんかさっきから射撃場にいる先輩であろう制服姿の人達がこそこそ話してるんだよな。小さくて聞き取れないけど、多分俺の射撃センスの無さについて話してるんだろうな……はぁ。

 

 

(取り敢えず次で最後にするか……)

 

 

俺は内心溜め息を吐きながら持って来た最後の1丁を手に取った。最後の銃は『S&W M19 コンバットマグナム』と言うかの有名な大泥棒、ル○ン三世の相棒であるガンマン、次元○介が愛用している回転式拳銃だ。

ぶっちゃけこれは見た目の良さで選んで持って来た。だってかっこいいじゃん?次元○介。前世で好きなキャラの1人だったんだもん。だからもうこれで1発でも狙い通りに飛んでくれればこれにするつもりだ。

 

俺は内心ちょっとだけ興奮しながら弾を込め、的を狙った。弾は6発、狙うは中心の人間で言えば心臓がある所!

しっかり狙って……、

 

 

(撃つ!!)

 

ガウン!ガウン!ガウン!

 

 

先ずは3発撃った。だが弾は狙いを外れてまたもや拳銃部分と、両肩に1発ずつ着弾した。的に当たりはしている。でも狙った場所に当たってない。だがまだだ。後3発残ってる。

 

 

ガウン!ガウン!

 

 

続けて2発撃った。だがこれも外れ。2発とも人型の両膝部分を撃ち抜いた。クッソ当たんねぇ!俺の射撃センス壊滅的だな!

 

 

(さて、最後の1発!当たってくれよマジで!)

 

ガウン!!

 

 

俺は引き金を引いて最後の1発を発射した。放たれた弾丸は俺が狙った通りの場所に向かって真っ直ぐ飛んで行く。もしかして、当たるのか!?当たってくれるのか!?良し!いいぞ!そのまま真っ直ぐ行け!行ってくれ頼むよマジで!!……ってあれ?なんで俺銃弾が飛んで行くの見れてるんだろ?

 

 

バスッ!

 

「………フッ」

 

 

やったぜ☆撃った弾はやっと俺が狙っていた中央に見事命中した!綺麗にど真ん中をぶち抜いたぜ!もう奇跡だ!よしこれに決めた!見た目もかっこいいし、確か回転式拳銃って自動拳銃と違って弾詰まり…ジャムるって言うんだったか?それがないらしいし。

 

 

「これにする……?おい、どうかしたか?」

 

「………え!?あ、いえいえ!じゃ、じゃあ会計はレジで!」

 

「?……あぁ」

 

 

なんか同行して貰っている購買の人がポカンと口を開けて呆けていたので声を掛けると、ハッ!とした様子で持って来た銃を手際よくケースに仕舞うと、購買のレジの方に行ってしまった。なんであんな風に呆けていたのか見当も付かなかったが、取り敢えず代金を払う為に俺もレジに向かった。

 

 

 

 

 

 

(思ったより安かったな…)

 

 

俺は『S&W M19』とそれを入れるホルスター、そして『.357マグナム弾』が詰まった箱を数箱購入して、購買部を後にした。取り敢えず俺は早速ホルスターを付けて、『S&W M19』に弾を入れた状態でホルスターに仕舞った。思ったより安かったのが意外だったが、頻繁に銃や弾丸を買う武偵校だからか?

 

 

「……まぁ、気にする程でもないか」

 

 

しかしちょっとお腹空いたな。そこのコンビニで肉まんでも買って食べるとするか。

 

 

「おっと、すまない」

 

「…………?」

 

 

コンビニに入ろうとしたら、ちょうど入り口から出て来た買い物袋を持ち、肩に確か『ドラグノフ狙撃銃』とか言う名前だった筈のスナイパー ライフルを担いだ少女に少しぶつかってしまったので謝罪した。しばらく経っても彼女からは何も言って来ないので、『もしかして滅茶苦茶怒ってらっしゃる?』と思い内心冷や汗を流す。

 

 

「………いえ、大丈夫です」

 

(……ホッ)

 

 

やっと彼女がそう答えてくれたので、今度は内心ホッとしながら取り敢えず道を開ける。少女はジッと俺の方を見た後、スタスタと歩き去って行った。

しかし、改めて見ると不思議な子だったな。水色のショートカットにヘッドフォンを着けたまるで人形の様な美人なのだが……俺と同等かそれ以上に無表情だったんだよな。しかもあの子の持ってた買い物袋、見間違いじゃなかったら中身全部カロリーメイトじゃなかった?

 

 

(人の好みって様々なんだな……)

 

 

少女を見送った後、俺もコンビニに入った。……ふむ、お目当の肉まんだけでもいいが、どうせこれから帰る事だし、次いでに今晩の飯用に弁当かカップ麺でも買ってくか。

 

 

(しかし、このままコンビニ弁当やカップ麺生活してたら色々ヤバイな……明日からは自分で作るか)

 

 

ぶっちゃけ面倒臭いけど、出来ない訳じゃない。前世じゃ一人暮らしで、飯は自分で作ってたし、今世でも爺さんの代わりに飯を作るなんて事が結構あったからな。因みに爺さん曰く、『行人の腕なら普通に料理人としてやっていけるのう。世界狙えるかも知れんわい』とか言ってたから、結構美味しいらしい。毎日食ってた俺にはよく分からないがな。

 

 

(……ん?……んん!?)

 

 

なんかカロリーメイト置いてある筈の棚が殆ど全部無くなってる。もしかしてさっきの子が?……いやいや、幾ら何でもそんな事はあり得ないか。

俺は有り得ないだろうと首を振って、飲み物を適当に選び、弁当コーナーへ向かった。うーん。唐揚げ弁当、海苔弁当、ハンバーグ弁当、焼肉弁当……色々有りすぎて迷うな。パスタ系やうどん、焼きそばなんかも有るし。

 

 

(……良し!ちょっと高いが、焼肉弁当にしよう!自分用の拳銃買ったお祝いって事で!)

 

 

俺はちょっと高い焼肉弁当をカゴに入れると、レジに向かった。カウンターの上にカゴを置き、会計をしてくれている店員さんに肉まんを注文する。

 

 

「すまないが、肉まんを1つ頼む」

 

「あぁ、すみません。肉まんは今切らしてまして」

 

 

それは残念。じゃあ取り敢えずチキンか唐揚げでも頼むか。

 

 

「あ、桃まんなら有りますが……買います?」

 

買わん

 

 

いやなんだよ桃まんって?いったいどんな……って、え!?マジで桃だ。何これ?なんか桃太郎とかで川を流れてそうな見た目のやつがあるよ。美味しいのかなこれ?めっちゃ売り残ってるけど……。

まぁ、取り敢えず俺は肉まんの代わりにチキンを頼み、買ったものをレジ袋に入れてもらってから、会計を済ませた。

 

 

(さて、早速いただきま〜……)

 

オラ動くなぁ!!このバッグに金をありったけ入れろ!!

 

 

うわぁ〜久しぶりのコンビニ強盗だ〜♪あっはっは☆

 

 

「………クソが」

 

 

 

 

 

 

レキside…

 

 

(あの人は、いったい何者だったんでしょうか?)

 

 

私は先程コンビニの出入口でぶつかってしまった人に疑問を抱きながら、帰路に就いていました。

先程ぶつかってしまった男性……彼には特に殺気やそう言った類の気配などは有りませんでしたが、彼に触れた一瞬だけ、今まで聞こえていた風が全く聞こえなくなりました。今は問題なく聞こえていますが、風が彼を警戒しろと言っています。

 

私は、一発の銃弾。故に何も考えず、ただ風が命令した事に従うだけ。

 

ですが、何故かほんの少しだけ、私はあの不思議な彼に興味と言う感情を覚えた様な気がします。



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第8弾 入学式から大遅刻

時は流れて、入学当日がやって来た。俺は何時もより早めに起床し、朝食を済ませ、素早く身支度を整えると、弾入りの(・・・・)『S&W M19』が入ったホルスターを装着して寮を出た。

何故何時もより早めに起床してさっさと家を出たのか?それは俺の前世の人生経験と、最近蘇りつつある俺の巻き込まれ不幸体質が原因である。

 

前世の俺は所謂『ボッチ』と呼ばれる人種であった。俺がボッチだと認識したのは小学生1年生の頃だったと思うが、前世の親曰く、それは保育園に入園してからずっとだったそうな。

そうなってしまった原因は判明している。それは俺が入園式及び入学式全てを事故又は事件によって欠席してしまったからだ。

 

保育園と幼稚園の頃は俺の記憶に残ってはいないが、前世の親の話によると、保育園の時は家に居眠り運転のトラックが突っ込んで入園式どころでは無くなって不参加。幼稚園の頃は無事家から出て車で園に向かっている途中、偶然ビルの上から胸にナイフが刺さった男性の遺体が降って来て車のボンネットに直撃。車は天に召され、両親は警察に事情聴取されて、結局その日も入園式には行けなかったそうだ。

そして小学生から先は、通学路で轢き逃げに遭って病院送りになったり、念の為に早めに出てバスに乗った結果、そのバスがジャックされたりと、まぁ兎に角入園式及び入学式には俺は一度も参加した事は無い。

 

その結果、友達作るタイミングを完璧に逃した上に、後から作ろうにも、その時には俺が事故や事件に巻き込まれ易いので危険と認識されてしまって友達なんて出来た事は無い。つーか必要以上に会話どころか人が近寄って来なかったんだよ畜生め!

 

ま、そんな訳で俺は出来るだけ早めに家を出た。今の俺の巻き込まれ不幸体質は完全に蘇っては居ない。何故なら今世では入学式にはなんとか参加出来たし、昨日だって2回通り魔と遭遇しただけ(・・)だったんだ。今回も大丈夫だとは思うが、念の為に早めに出た上に、バスジャックを警戒して徒歩で行く事にしたのだ。

あ、因みに服装は普段の防弾探偵服セットに武偵校のワッペンを縫い合わせたものだ。ダメ元で許可貰いに行ったらこれでOK貰った。意外。

 

 

「………だと言うのに」

 

「あぁ?何言っとんじゃゴラ?調子乗っとんとちゃうか?おん?」

 

「テメェ、ワシ等の前を挨拶も無しに横切りやがって……ヤクザ(・・・)舐めてんのかァ!?ああん!?」

 

なんでこうなったぁ!?

 

 

なんで選りに選って入学式当日の朝っぱらからこんなヤクザ連中が堂々と歩き回ったんだよ!?しかもどいつもこいつも刀やら拳銃やらで完全武装してんじゃねーか!よく見たら他にも散弾銃(ショットガン)機関銃(マシンガン)まで持ってる奴もいるし!何!?なんなの!?これからどっかの国と戦争でもおっ始める気かよアンタ等!?ここ東京武偵校のすぐ近くだよ!?

 

 

「止めろテメェ等、こんな餓鬼に腹ぁ立ててもしょうがないじゃろ。カタギに迷惑かけてんじゃねぇ」

 

「「「「「あ、兄貴!!」」」」」

 

 

うっわ!なんか奥からいかにも極道ですって感じの滅茶苦茶怖い顔した大柄なおっさんが馬鹿デカい刀担いで来た。これで兄貴なの?親父とか首領(ドン)とか組長とか呼ばれてる奴じゃないの?こいつで兄貴ってどんだけなのこいつ等のボス?

 

 

「すんませんなぁ、兄ちゃん。ワシ等はこれからちょいと怨み晴らしに行くところでなぁ。全員ピリピリしとるんじゃ。勘弁してやってくれや」

 

 

あれ?この人思ったより良い人っぽいぞ?なんか怨みを晴らしに行くとかめっちゃ物騒な事言ってるけど、前世とかで会ったヤクザやマフィアの連中共とは違ってまともな常識持ってそうだわ。捕まえた敵組織の構成員をデッカい下し金で爪先から削って行くとかしなさそう。うん、このまま上手く行けば見逃して貰えそうだ。

 

 

「………む?その服装にその髪の色、そしてその顔は……もしや兄ちゃんの名前、綾辻って言わんへんか?」

 

 

え?なんでアンタ俺の名前知ってんの?俺とアンタ初対面だよな?

 

 

「確かに俺は綾辻だが?」

 

「……なら、兄ちゃんの親父さんの名前、綾辻彩人(あやと)じゃねぇですかい?」

 

「?そうだが……何故君が知っている?」

 

 

綾辻彩人、それは今世の俺の死んだ父親の名前だ。だがなんでこいつがそんな事知ってんだ?まさか親父はこいつと知り合いだったのか?

俺がそんな疑問を抱いていると、目の前の大柄なおっさんが顔を俯かせて肩を震わせながら話し出した。

 

 

「ワシ等の組長は、昔は獅子と称えられる程の力と威厳のある素晴らしい極道じゃった。しかしある日、親父は今までに無いデカい仕事の途中で、当時武偵校で尋問科(ダギュラ)の授業を受け取った綾辻彩人に逮捕され、尋問されたんじゃ」

 

親父が尋問科に入ってたのなんて俺だって初耳なんですけどぉ!?

 

 

爺さん俺が「親父は何科だったんだ?」って聞いた時探偵科って言ってたじゃん!あ、でも今思えばあの時爺さんどこか遠い目をしてたわ!つーか親父そんな所でも勉強してたの!?あそこ確かめっちゃヤバい拷問方法学んでるって噂があるんだけど!?

 

 

「尋問が終わった親父はそのまま刑務所行きじゃった。しばらくしてやっと釈放された親父を見てワシは目を疑った。何故なら親父は…あの銃で撃たれても表情一つ変えない親父が……何故か神父服を着て十字架と聖書を持ち、更には『世の中の全ては“愛”!ですよ?』なんて眩しい程の微笑みを浮かべて出て来よったんじゃあ!!

 

(なんでぇ!?)

 

 

なんで銃で撃たれても動じない化け物極道がそんな劇的ビフォーアフターしてんだよ!?それまさか親父が原因か!?親父いったいどんな尋問したの!?もしかしてマジで拷問ならってて実行したの!?

 

 

「今では親父は組を抜け、隣町の教会の神父兼孤児院の院長になって過ごしちょる!あの獅子に例えられた姿はもう欠片も残っちゃいねぇ!戻ってくれと頼んでも『私は綾辻さんのお陰でこうして“愛”を知れたのです』とか言って断られた!なら綾辻って奴に復讐しようと思ったら事故で死にやがった!だから代わりにワシ等はあの野郎の居た武偵校をぶっ潰す為に準備を整え、やっと今日それを実行する所じゃったんじゃが……まさかあの野郎の餓鬼に会えるとはのぉ」

 

(あ、ヤッベ。やな予感。逃げる準備を……)

 

シャラン♪

 

「………」

 

 

俺が全身全霊を持ってこの場から逃走を図ろうと構えた瞬間、あの忌々しいクソ板が鈴の様な音と共にクエストの発生を知らせて来た。無言で目の前に現れたクソ板に書かれている文章を読むと、俺はホルスターに仕舞っていた『S&W M19』に手を添え、懐に入れていた『音響手榴弾』と『閃光手榴弾』と書かれた紙をそれぞれ2枚ずつ取り出した。

今回、クソ板にはこう書かれていた……。

 

 

『ヤクザ共全員を全滅させ、警察に突き出せ!』

 

「親父の仇を今ここで取らせてもらうでぇぇぇぇええええ!!!野郎共!この餓鬼をぶっ潰すでぇぇぇぇえええ!!!!」

 

「「「「「ウッス!兄貴ィ!!」」」」」

 

(クソ板テメェ!!やっぱやりやがったな畜生が!!)

 

 

 

1時間後……。

 

 

 

「御協力、感謝します!」

 

「あぁ、後は君達の仕事だ。任せるよ」

 

 

俺は何人もの警察官に次々とパトカーや護送車に乗せられて行くボロボロな状態で大人しくなったヤクザ共をチラリと見てから、俺に向かって笑顔で敬礼して来る若い刑事に後の事を全て丸投…ゴホン!任せて、再び武偵校に向かって歩き始めた。

かなりの人数だったから俺の今の手持ちの銃弾は全部パーになったし、周囲の建物の壁や看板には無数の穴が空いてしまっているが、なんとか全員倒せた。もうあんなのは二度とゴメンだ。

 

俺はそう思いながら小さく溜め息を吐くと、腕時計を見て入学式までの残り時間を確認する。

 

 

(さて、入学式まで後30分程か……ギリギリ間に合いそうだな)

 

 

一時はどうなるかと思ったが、早めに家を出た甲斐があった。しかし結構倒すのに時間が掛かったなと思っていたのだが、意外に時間は掛かっていないもんなんだな。

いやぁ〜しかしなんとかなって本当に良かった。弾は狙った方向に飛ばないし、何度か転んだり躓いたり、引き金引く時にくしゃみしちまって暴発させちまったりしたから、偶々あいつ等も俺並みに射撃センスが皆無だったのは運が良かったぜ。同士討ちしてたもんな、あいつ等。

 

そんな風に自分の不幸中の幸いさにちょっとだけ感謝しながら10分程歩いていると、ポケットに入れていた携帯が鳴り始めた。着信相手を見ると、知らない番号……あ、いやコレ武偵校の電話番号だわ。でもなんでだ?もしかして警察から武偵校に連絡行ったか?

……取り敢えず出るか。

 

 

「……綾辻だ」

 

ゴラァ!綾辻ぃ!おどれ今いったいどこほっつき歩いとるんじゃあ!?

 

 

電話に出た瞬間轟いた暴力極道女教師こと蘭豹先生の怒声に、危うく俺の耳が逝かれそうになった。

つーかうるせぇ!!電話越しに大声で怒鳴るなっての!いきなりどうした!?なんで初めて電話使った昔の日本人みたいに大声で声を届けようとしてんのこの人!?

 

 

「なんだ蘭豹先生。何をそんなに怒っている?」

 

ああん!?おどれ初日から堂々と大遅刻かましよって、よくもそんな台詞が言えるのう!!もう入学式始まっとるんやぞ!!?

 

「……何?」

 

 

入学式が始まってる?何を言っているんだこの歩く暴力装置は?等々頭の中が『暴力』と言う言葉一色になって暴走したか?いやいやんな訳なかろうが。現にほら、俺の腕時計では入学式まで後30分程(・・・・)……………あれ?

 

俺は見間違いかと一度目を擦ってから改めて腕時計で時間を確認する。しかしやはりどっからどう見ても、後30分は余裕がある計算になる。つーかコレ針動いてなくね?え?待ってよ?まさか……、

 

 

(………腕時計、壊れてますやん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(嘘だろぉぉぉぉおおおおお!?)

 

 

洒落になってねーぞこの野郎!!マジでぶっ壊れてるじゃねーか!!ま、まさかさっきの乱戦でどっかにぶつけたのか!?畜生最悪だわこの野郎!初日から大遅刻になっちまったじゃねーか!!

 

 

分かったか!?分かったならとっとと来いや!!入学式の後は各教室に別れて自己紹介とかをする予定になっとって、おどれはウチの教室や!後10分以内にここに来い!もしコレに1秒でも送れたら、おどれの脳天にデッカい風穴開けたるから覚悟せぇ!!分かったな!!!

 

 

蘭豹先生はそう怒鳴ると電話を切った。それを合図に俺は東京武偵校へ向けて駆け出した。自身の頭にどでかい風穴を開けられない為に。

 

 

 

 

 

 

遠山金次side…

 

 

「綾辻の奴……等々入学式に来なかったな。なんかあったのか?」

 

 

入学式を終えた俺は、割り当てられた教室の席に座り、窓の外の桜を眺めながら、今朝から姿を見ていない綾辻の事を考えていた。

今朝俺があいつを誘おうと部屋を訪ねた時にはもう留守にしてたから、とっくにここに来ている筈なんだけど、どうやらあいつはまだ来ていないらしい。

 

 

(流石にあいつに限って道に迷ってるなんて事は無いだろうけどなぁ……)

 

 

綾辻はヒステリアモードの俺を遥かに超える射撃センスや推理力を持っている。犯人の『死』すら完璧に予告出来る程の推理力と観察眼を持ってるあいつなら、迷子になる筈無いと思うんだけどなぁ。

 

 

オラァ!席に着かんかい餓鬼共ぉ!!

 

 

しばらくすると蘭豹先生が出席簿を片手にドアが壊れるんじゃ無いかと思う程乱暴に開けて入って来た。さっきまでわいわい騒いでたクラスのみんなは蘭豹先生の怒声を聞いて慌ててそれぞれ自分の席に着席した。

……ちょっとびびった。

 

 

「入学初日から大遅刻しとるあのアホンダラ以外は全員揃っとるな?ウチが今日からお前等の担任になる蘭豹や!ウチが担任になったからには、ビシバシしごいて行くから覚悟せぇ!分かったな!?」

 

「「「「「は、はい!!」」」」」

 

 

明らかに不機嫌さ丸出しの蘭豹先生に俺達は大きな声で返事をする。てか、その大遅刻してるアホンダラってやっぱ綾辻の事か?

 

 

「さぁて、早速やけど出席番号順に自己紹介してもらうぞ。自分の名前と学科、そしてランクさえ言えば後は何言ってもええわ。じゃ、1番から始め!」

 

 

蘭豹先生の指示に従って、俺達は出席番号1番から順に自己紹介をして行った。勿論俺もしたぞ?強襲科のSランクだって言ったら驚かれたけどな。

あぁ、Sランクって言えば、このクラスには俺と綾辻以外にもSランクの子が居た。レキって名前の女子生徒で、狙撃科のSランクらしい。全く表情は変わらないし、無口なのか自己紹介も『レキです。狙撃科Sランクです』だけ言うとそのまま着席しちまった。失礼だと分かっちゃいるが、まるで人形みたいな子だな。

 

 

「よし、これでここに居る奴は全員自己紹介済ませたな。もうすぐ遅刻したアホンダラがここに来るから、それまで待機や」

 

「せんせ〜い!その大遅刻してる子って、どんな子なんですか〜?」

 

 

防弾制服を早くもフリルだらけに改造して着こなしている金髪ツーサイドアップの女の子……確か探偵科Aランクの峰理子(みねりこ)って名前だったな。その子が蘭豹先生に質問した。他のみんなも気になっていたのか、全員が面倒臭そうな表情を浮かべてる蘭豹先生に視線を向けた。

 

 

「んなもんは本人に聞けばいいやろうが。しかしまぁ、そうやなぁ……ウチが今の所1番面白いと思っとる奴とだけ言っといたるわ」

 

 

そう言って蘭豹先生はニヤリと笑みを浮かべた。綾辻の奴、結構気に入られてるんだな。だけどなんか蘭豹先生の笑みが面白い玩具を見つけたって雰囲気なんだけどあいつ大丈夫なのか?しごかれまくって死んだりしないよな?いや、まぁあいつならどんな不意打ちも推理して回避とか出来るだろうけどさ。

 

 

「遅れて済まない。少し面倒な連中に絡まれてな」

 

 

ちょっとだけ綾辻の心配をしていると、教室のドアが開いて、何時もの防弾探偵服に武偵校のワッペンを付けた綾辻が入って来た。

 

 

「お?来たな綾辻。ならさっさと全員に向かって自己紹介せぇ。自分の名前と学科、ランクだけでええからな」

 

「……綾辻行人。不本意だが、強襲科のSランクになってしまった。まぁ、よろしく頼む」

 

 

蘭豹先生の指示で、いつも通り表情が変わらない顔を俺達の方に向けて自己紹介をした綾辻は、そのまま空いている自分の席に座った。

『不本意』って態々言ってるって事は、どうやら綾辻は自分のランクに不満があるらしい。相手の『死』すら予告出来る綾辻にとって、Sランクじゃ低いって事か。

俺は席に座って不満気に深い溜め息を吐いている綾辻(単に全力疾走で来たから疲れてるだけ)を見て、苦笑いを浮かべた。



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第9弾 迷子猫>違法密売組織

「……違法密売組織制圧の緊急依頼?これに参加しろと?」

 

「あぁ、お前が来てくれると心強いんだけど……どうだ?今から一緒に受けないか?」

 

 

誠に不本意ながら東京武偵校に入学してから早くも3週間が経過したある日、遠山くんが『この任務に参加しないか?』と誘いながらとある資料を俺に見せて来た。

 

この武偵校では午前中の1時間目から4時間目までは普通の高校と変わらない一般授業を受け、5時間目以降に其々の科目の実習を受ける事になっている。俺の場合は科目が最悪な事に1番危険な強襲科なので、基本的に射撃や近接戦闘などの戦闘訓練を行っている。

しかしそれとは別に、この実習の時間を『任務(クエスト)』と呼ばれる民間からの依頼に使う事が出来る。任務の内容は様々で、迷子のペット探しから要人警護や犯罪組織の制圧など、子供でも出来そうな内容からこれ絶対学生がやるもんじゃねーだろとツッコミを入れてしまいそうな超危険なものまであったりする。

 

で、今回このバカ山くんが持って来たのがそれで、選りに選ってその中でもかなりヤバい任務だった。いや、最早コレは『かなり』所じゃないな。滅茶苦茶ヤベーわ。なんだよこの予想されてる敵の装備?拳銃や機関銃はまぁ有り得るとしてさ、なんで対戦車ミサイルに装甲車、戦車、挙げ句の果てには戦闘ヘリなんて物騒にも程があるもんの名前がズラリとならんでんの?

もうこれ軍隊じゃん。絶対警察や武偵がやるような任務じゃないって。しかもよく見たらこれ最低でもAランク以上の武偵しか参加出来ないヤツじゃん。確かに俺は一応Sランクだけどさ?俺未だに狙った所に弾が飛んで行かないんだぜ?何度練習しても200発に1発当たるか当たらないかって感じの確率しか無いんだぞ?それはお前も知ってんだろーが!なんで俺を誘った!?もっと他にまともなヤツが居るだろ!!お前と仲の良い強襲科の不知火亮(しらぬいりょう)ってイケメン君や武藤剛気(むとう ごうき)ってツンツン頭君誘えや!もっと言えば狙撃科Sランクのレキくんにでも頼め!

つーかそもそも俺はこれから別の任務をする予定なんだよ!お前が持って来た命の危険が有りまくりな任務じゃなくて、普通に平和で命の危険なんて更々ない超平和な任務がな!

 

と、言う訳で!

 

 

「済まないが、俺は既に他の任務を受けている。他を当たってくれ」

 

「そ、そこを何とか……」

 

 

なんか遠山くんが両手を合わせて頭を下げながら頼んで来るけど俺は知らん。これ引き受けたら絶対に死ぬヤツだからな。命を粗末にする様な行為はダメ!絶対!

 

 

「ダメなものはダメだ。こっちの方が重要だからな(主に命の危険が無い点で)」

 

「……は?あ、綾辻。その任務って……」

 

 

俺が受けた任務の書類を見た遠山くんは絶句し、信じられないものを見るかの様に俺と書類を交互に見る。まぁ、その気持ちも分からなくもない。

なんせ、俺が受けた任務は……

 

 

「……ま、迷子の猫探し?」

 

 

そう、迷子の猫探しだ!依頼が出たのは4日前。とある民家で飼われていた『みーちゃん』と言う名の三毛猫がいつまで経っても返って来ないので、ほぼ何でも屋の俺達武偵に見つけて欲しいとの事。

この任務を受けた理由は3つある。

 

1つ目は命の危険が無い事(これ重要!)

 

2つ目に、この書類にはご丁寧に猫の写真や猫の特徴、好きな食べ物などの細かい情報が多く載っているので、俺の『超推理』で簡単に居場所を特定出来るという点。

 

そして3つ目、報酬が超破格である事!これが数ある命の危険が無い又は少ない任務の中でこの任務を受けた理由だ。

 

普通この様な任務はお小遣い程度からバイト代くらいの値段しか無く、万を超える額にはならない。精々5000円から6000円程度が一般的な報酬の値段だ。

だがしかし、この任務の報酬金額は、なんと2万円!!

 

 

「(これは受けるっきゃないよね!)では俺はそろそろ任務に行く。済まないがその任務に行くなら武藤くんや不知火くん、後はレキくん辺りを誘いたまえ」

 

「あ、おい!」

 

 

俺は遠山くんにそう言って教室を後にし、ポケットから取り出した伊達眼鏡を掛けてから改めて書類を見て異能力を発動した。

 

 

(異能力『超推理』!)

 

 

さぁ、待ってろよ2万円!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ところで、この1番下にある『スーパーアクロバティックなので注意』って何?

 

 

 

 

 

 

遠山金次side…

 

 

俺は去って行く綾辻の背中を眺めながら、先程綾辻が見せてくれた任務の資料について考えていた。

 

先ず第1に、何故綾辻はあの猫探しの任務が俺の持って来た緊急依頼よりも重要だと言ったのか?

迷子の猫探しなんて任務は、武偵校ではちょっとしたお小遣い稼ぎによく受けられるありふれた任務だ。だからこそ、今回の違法密売組織の制圧任務と比べたら、どっちが重要かなんて一目瞭然だ。

なのに綾辻は猫探しの方が重要だと言った。あの任務に何かあるのか?俺からしたら報酬が破格なだけで、大した任務じゃないと思うんだけどな。

 

 

「……はぁ、仕方ない。大人しく武藤達を誘ってみるか」

 

 

どうせ綾辻の考えている事なんて理解出来ないだろうから、俺は諦めて綾辻が言った通り武藤達を誘いに行った。今度は無事OKを貰い、試しにレキも誘ったら、なんと参加してくれる事になった。もしかしてこれも綾辻は推理してたのか?……ま、まさかな。

 

 

 

 

 

 

綾辻行人side…

 

 

うおおぉぉぉぉおお!!待てやゴラァ!!ちょこまかと逃げやがって!とっとと捕まれ迷子猫ぉ!!

 

「にゃーー!!」

 

 

遠山くんと別れてから1時間!現在俺はとある裏路地を逃げ回るターゲット(迷子の三毛猫)ことみーちゃんを追っている!みーちゃん自体は異能力『超推理』で3秒も経たない内に推理して見つけたんだけど、滅茶苦茶逃げ足速えぞこの猫!?俺これでもあのクソ板の所為で結構体力あるし、この辺りの地形ある程度知ってんのに一向に捕まらねぇ!どっなんてんだ!?

 

 

(っ!しめた!確かこの先はフェンスで行き止まりの筈!)

 

 

俺が三毛猫を追って角を曲がると、俺の背よりも高い金網のフェンスが張られた道に向かって走る猫の姿が見えた。スピードを落とす気配は無いが、この道にはゴミ箱などの踏み台になる様なものは無い!

良し勝った!第9弾、完!!

 

 

「……フッ」

 

「うん?」

 

 

『あれ?なんか今この猫笑わなかった?』と俺が疑問を抱いた次の瞬間、なんと猫は更に加速して右側の壁に向かってジャンプ!右側の壁を蹴って今度は左側の壁に向かってジャンプし、更に左側の壁を蹴ってまた右の壁へとジャンプを繰り返し、やがてフェンスを越え、空中で2回転しながら10点満点の着地を……って!?

 

 

何今の!?

 

 

今普通の猫なら絶対やらない様なアクロバティックな動きでフェンス越えやがったぞあの三毛猫!?しかも審査員が居たら全員が10点満点を出しそうな見事な着地までしやがった!凄いなおい!忍者かよ!?てかあの資料の注意書きってこれの事か!!

 

 

「………」

 

「……なんだ?」

 

 

内心滅茶苦茶混乱していると、フェンスの向こうからこちらをジッと見ている三毛猫に気付いて俺も見詰め返した。すると三毛猫は一度顔を伏せ、『ドヤァ』と言う言葉が相応しい程の見事なドヤ顔で俺を見上げ……、

 

 

「………ハッ!」

 

 

俺を鼻で笑って?から踵を返して走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このクソ猫ぉぉぉぉおお!!!

 

 

上等だあのクソ猫もう許さん意地でもとっ捕まえてやる!つーかホント何なのあの三毛猫!?最早人間が猫に変身してんじゃね?ってくらい人間っぽい仕草するな!?

 

俺は金網フェンスを乗り越えると再び三毛猫を追って走り出した。三毛猫は一度こちらを振り返り、俺がフェンスを越えたのを確認すると走るスピードを上げ、また裏路地を右へ左へと逃げて行く。

 

 

「にゃーん!」

 

うおおぉぉぉぉ!!!

 

 

絶対に逃さねぇ!!

 

 

 

 

 

 

遠山金次side…

 

 

『総員、準備はいいか?』

 

 

俺の持っている無線機から、今回の任務の指揮を取っている警察の特殊部隊隊長の伊里中(いりなか)さんと言うおっさんの声が聞こえて来る。

俺達が今居るここは、とある港に建ち並ぶ倉庫の内の1つ。警察側が特定した違法密売組織のアジトだ。

この倉庫の中に商品である銃や装甲車なんかがあるらしい。今まで尻尾も出さなかったが、5日前から深夜になるとここにトラックや怪しい集団が出入りしているのを偶然発見したらしい。しかも倉庫は3つもあると来た。よく今までバレなかったな。

 

 

突入!!

 

「「「「「っ!!!」」」」」

 

 

伊里中さんの合図で武藤がドアを蹴破り、俺達武偵と特殊部隊の隊員達は倉庫の中へ突入する。他の2つの倉庫も同じタイミングで突入している筈だ。因みにレキは特殊部隊の狙撃チームに入っている。

情報では、今回の相手は本当に軍隊が持っている様な銃や装甲車、果てには戦車に戦闘ヘリなんて物まで売っている。それはつまり、交戦になるとそれ等が持ち出される可能性が高いって事だ。

だから結構死ぬ気で腹を括って中に突入したんだが……?

 

 

「なぁ、ホントにここで合ってるんだよな?」

 

「うん、間違いない筈だよ…」

 

「じゃあ何で誰も居ないんだ(・・・・・・・)?」

 

 

倉庫の中はもぬけの殻だった。人1人どころか、ある筈の武器や弾丸、兵器なんかも1つも無い。まるで最初からこの倉庫には何もなかったかの様だ。俺は無線機で隊長の伊里中さんにこの事を報告する。

 

 

「伊里中さん、倉庫の中に入りましたけど、中には誰も居ません」

 

『何!?そっちもか!?実は他の倉庫も同じ状態なんだ。狙撃チームも倉庫から逃げる様な輩は居なかったと報告している……クソ!どうなってやがる!!』

 

 

どうやら他の倉庫もここと同じだったらしい。狙撃チームにはSランクのレキも居るから、倉庫から逃げたなら何か見付けている筈だ。なら最初からここには誰も居なかったのか?

 

 

「おい金次!不知火!これ見ろよ」

 

「どうした武藤?……それって」

 

 

武藤が手に持っていたのは未使用の弾丸だった。弾種は『7.62x39mm弾』。『AK-47』とかに使われてる弾丸だ。どうやらここで武器の密売をしていたのは確からしい。

 

 

「だとすると、いったいどこに?」

 

 

うーん……全然分からん。そもそも報告では昨日の夜まで人が出入りしてたらしいが、昼間はトラック1台すら出入りしていない。寧ろ最後に入ったトラックが倉庫から出て来ていないらしいから、中に無いとおかしいんだよな。なら、いったい何処に消えたんだ?

 

 

「どうする?このままじゃ任務失敗で報酬は0だぜ?」

 

「どうするって言われても、密売組織の居場所が分からなかったらどうする事も出来ないよ」

 

 

武藤と不知火の言う通り、このまま密売組織を捕まえられなかったら報酬は0になっちまう。今日の報酬が無くなったら金欠の俺にはかなりきつい。最悪暫くの間俺の飯がもやし炒めだけになる。それだけは回避したい。

だが考えても解決策は浮かばず、取り敢えず特殊部隊の隊員達と一緒に何か手掛かりはないか探す。暫くすると狙撃チームもやって来て、一緒に手掛かりを探し始めた。

 

 

 

 

 

そして1時間後…

 

 

 

 

 

まさかの成果ゼロ!!

 

 

「なんで何も無いんだよ!?」

 

「落ち着きなよ武藤」

 

「叫んだってどうしようもないだろ?」

 

 

まさか手掛かりが全く見付からないとは思わなかった。しっかしどうするか……このままだと本当に報酬を貰えず、今日の飯がもやしオンリーになっちまう。

 

 

「はぁ……参ったなぁ」

 

「……少しよろしいですか?」

 

「ん?」

 

 

俺が頭を抱えていると、『ドラグノフ狙撃銃』を担いだレキが話し掛けて来た。

 

 

「綾辻さんに相談してみるのはどうでしょうか?」

 

「あ……」

 

 

そうだ!綾辻だ!あいつの推理力なら、ここの状況を説明すれば何か分かるかも知れない!レキから綾辻の名前が出たのにはちょっと驚いたが、ナイスアイデアだ!

 

 

「ありがとうな!レキ!早速掛けてみるよ」

 

 

俺がレキに礼を言ってから携帯を取り出すと、綾辻の携帯に電話を掛けた。

 

 

(快く引き受けてくれると良いんだが……最悪、焼肉でも奢るか?)

 

 

 

 

 

 

綾辻行人side…

 

 

ピリリリリリ♪ピリリリリリ♪ピッ!

 

「……綾辻だ」

 

『あ!綾辻か?ちょっと頼みがあるんだが……』

 

 

ポケットに入れていた携帯が鳴ったので出てみると、着信相手は遠山くんの声が聞こえて来た。『このクソ忙しい時になんの様だ?』と心の中で思いつつ、俺は物陰から『 S&W M19(・・・・・・)を持った手(・・・・・)だけを出して3発撃つ(・・・・)

 

 

「なんの用だ?今こっちは取り込み中なんだが?」

 

『実は標的の密売組織の倉庫に突入したまでは良かったんだが、肝心の構成員や武器なんかが消えてるんだ。張込みしてた刑事の話では、最後にトラックが1台入ったっきり、外には人1人出てないらしい。だがそのトラックすら無いんだ。俺達じゃどうすればいいか分からないから、お前に推理して欲しいんだ。ほら、試験の時みたいにさ』

 

 

ふむふむ成る程って思ってる間にもう『超推理』で答え出ちゃってるんだよな。倉庫の中身が空っぽになったトリックと、その違法密売組織が今何処で何をしているのかってのも全て分かった。そしてその推理結果に俺は深い深い溜め息を吐いた。

 

 

「やっぱりそうか……」

 

『え?それって、どう言う…?』

 

 

あぁ〜クッソ!そうだよなぁ……このクソ板がこんなクエスト出して来やがった時点でそんな予感がしてたんだよ。

 

 

「遠山くん。先ずその違法密売組織の現在位置だが……」

 

『ま、まさか!もう推理出来たのか!?教えてくれ!奴等は今何処にいるんだ!?』

 

「あぁ、その密売組織なんだが…………」

 

 

俺は目の前に浮かぶ忌々しいクソ板を睨み付ける。宙に浮かぶ半透明のプレートには、こう書かれていた。

 

 

『違法密売組織を制圧せよ!』

 

今、俺と銃撃戦をしている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ?



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第10弾 一応任務達成

遠山くんが俺に電話を掛けて来る約30分前、俺は超アクロバティック三毛猫のみーちゃんを追って、建設中のビルの中を走り回っていた。

 

 

「待たんかゴラァァァアア!!」

 

「なーん!!」

 

 

そしてみーちゃんと俺がコンクリートの階段を登って6階に上がった時、なんとみーちゃんはまだガラスの嵌められていない窓から外に飛び出した。流石にこの高さから飛び降りたら死ぬと思った俺は慌てて手帳にペンを走らせ、『独歩吟客』で鉄線銃(ワイヤーガン)を具現化しながら窓を飛び出した。向かいに建つ廃ビルに向けて鉄線銃を撃ち、落ちる猫を捕まえてそのまま向かいの廃ビルに飛び移る為だ。

飛び出すと同時に撃った鉄線銃のフックは俺にしては珍しく、奇跡的に向かいの廃ビルの屋上の手摺りに引っ掛かった。後はみーちゃんを捕まえて飛び移るだけなのだが……、

 

 

(あれ?あいつどこ行った?)

 

 

飛んだ先にみーちゃんの姿は無かった。もう既に堕ちたのかと下を見てみるが、それらしき影は無い。

 

 

「………ま、まさか?」

 

 

ゆっくりと重力に従って下に落ちて行く中、俺はなんとかさっき飛び出した窓の方を見る。するとそこには、窓のすぐ下を通っていた細いパイプの上に座り、フン!と鼻を鳴らしながらしてやったりとドヤ顔で俺を見下ろしているみーちゃんの姿があった。

 

 

「なーん」

 

テメェやりやがったなこのクソ猫ぉぉおおおぉぉぉぉ!!?

 

 

俺はそのままワイヤーに引っ張られてターザンの如く向かいの廃ビルに向かって飛んで行き、窓を蹴破って廃ビルの中に突っ込んだ。

 

 

ゲボォ!?

 

「あ……」

 

 

なんか木箱の中にあったライフル銃を手に取って見ていたマフィアのボスっぽい青髭生やしたおっさんの後頭部にキックを喰らわせながら。

 

 

「マイボォォス!!オ気ヲ確カニィ!!」

 

「なんだテメェ!?武偵か!?何故ここが!?」

 

「敵襲ネ!お前達!あのガキを即刻始末するヨ!」

 

「撃て撃てェ!!撃ち殺せェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てな訳で、その場にいたヤクザやギャングやマフィアなどの連合軍と銃撃戦になったから近くの部屋の中に飛び込んで、中にあった机なんかを使って簡易的なバリケード作って応戦中ってのが今の俺の状況で御座います。取り敢えずあのクソ猫は三味線の材料にしてやる。

 

 

『なんでそんな事になってんだよ!?お前猫探しに行ってたんじゃ!?』

 

 

遠山くんの驚きの声が電話から聞こえて来るが、こんな馬鹿っぽい事を素直に話せる訳ない。言えねーよ自分でも『俺何やってんだろ?』と思ってんのに、超アクロバティックなみーちゃん追ってたら嵌められて飛び込んだ先でマフィアのボスっぽいおっさんやっちまって銃撃戦になったとか、こんなのあいつ等に知られたら恥ずかしくて死ぬ自信があるわ。

取り敢えず『超推理』で分かった内容を言ってなんとか誤魔化しとこ……。

 

 

「何、ただの偶然だ。それよりさっさとここに来い。俺の推理だと、今君が立っている場所から正面に5m程歩いた場所の壁に、古いカレンダーが貼られているはずだ」

 

『え?古いカレンダー……あ!あったぞ!』

 

 

うん、推理通りだな。んじゃ、次は……。

 

 

 

 

 

 

遠山金次side…

 

 

『そのカレンダーのマスを4日、30日、10日、14日、9日の順に凹むまで押せ』

 

「わ、分かった」

 

 

俺は綾辻の指示に従って、目の前にあるカレンダーのマスを順に押して行く。なんでこの場所に古いカレンダーがある事をあいつが推理出来たのかは謎だけど、4日のマスを指で押してみると、カチッと言う音と一緒に凹んだ。次の30日のマスも押すと、同じ様にカチッと音と共に凹む。

 

 

「うお!?マジか!?本当にこんな場所に仕掛けがありやがった!」

 

「まさかカレンダーが仕掛けのスイッチになっているなんてね……彼はどうやって推理したんだろう?」

 

「…………」

 

 

これを見た武藤達が俺の背後で驚きの声を上げる。まぁレキは相変わらず声も表情も出てなかったけど、心なしか驚いている様に見える。俺だって驚いてるさ。

そして最後に9日のマスを押した。すると……、

 

 

ガコン!!

 

「うわぁ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 

突然俺達の背後から大きな音がして、特殊部隊の隊員達の悲鳴が上がった。驚いて視線を向けると、なんと倉庫の中央の床が動き出し、数分もしない内に大型トラックも入れる程の地下へと続く坂道となった。

 

 

『その道を真っ直ぐ進み、最初の角を左に曲がれ。行き止まりに辿り着いたら壁にあるキーボードにそこを開いた数字を順番に打ち込めばここに来れる』

 

「お前、なんでさっきの説明でここまで言い当てるんだ?もう推理の域を超えて別の能力的な何かの域だぞ」

 

『早く来るといい。ぐずぐずしていると、終わってしまうぞ』

 

 

綾辻はそう言って電話を切った。『終わってしまう』って……早く行かねーと先に全部片付けるぞって意味か!?それはちょっと困る!下手したら俺達の報酬が下がっちまう。そうなると俺の今晩の飯がもやしオンリーに!

 

 

「おい!早く行くぞ!ぐずぐずしてると綾辻に全部片付けられちまう!」

 

「何ぃ!?それじゃ報酬が下がっちまうじゃねーか!」

 

「なら急がないとね。皆さん!先程武偵の仲間から連絡がありました!その通路の先に密売組織が居るそうです!」

 

 

不知火の言葉を聞いて、突然出現した隠し通路に驚いていた特殊部隊の隊員達が速やかに行動に移った。てっきりそんな馬鹿なとか言われると思ったが、どうやら俺と綾辻の電話のやりとりを聞いていた様だ。そして実際に道が出来たから、信用したんだろうな。

 

 

「って、こうしちゃいられねぇ!俺達も行くぞ!」

 

 

どんどん隠し通路へ隊員達が入って行くのを武藤はそう言って走り出し、俺達も後を追った。

……俺達の分、残ってるか?

 

 

 

 

 

 

「『独歩吟客』!弾箱(バレットケース)!」

 

 

異能力を発動すると、『弾箱』と書かれた紙から光の文字列が溢れ出て、紙は弾入りの箱になった。俺は具現化された弾箱から弾丸6発を取り出すと、『S&W M19』に込めて撃つ。もう異能力で弾を補充するのはこれで10回目だ。いったいどんだけの仲間がいるんだあいつ等?マジでなんとかしねーと本当に終わっちまうぞ!俺の命がな!!

 

 

「チッ!ナンナンダ!?アノ武偵ハ!?異常ナ強サダ!」

 

「このままじゃ埒があかねェ!おい!手榴弾持って来い!」

 

「ふざけるんじゃないヨ!そんな物使ったら、あの部屋の中にある他の爆発物が誘爆してしまうかも知らないネ!」

 

えぇー!?この部屋の中の木箱全部爆発すんのぉ!?冗談じゃねーよあいつ等こんなもんあるのにあんだけ撃ちまくってやがったのか!?馬鹿か!?どれかに当たって爆発したらどうするんだよ!?檸檬型爆弾じゃないから俺の『檸檬爆弾』は機能しないぞ!!殺す気か!?

 

 

(……って、殺す気でいるから撃って来てるのか。畜生ぉ〜!遠山く〜ん!武藤く〜ん!不知火く〜ん!レキく〜ん!お願いだから早く来てくれぇ!!殺されるぅ〜!!)

 

 

でもこんな事思っても漫画やアニメみたいにタイミングよく助けなんか来ないんだよなぁ!ヤッベェ今人生最大のピンチじゃねーの!?どうすんだよこの状況!俺の異能力はこんな場面では回避くらいしか役に立たないぞ!?『超推理』で俺に当たる弾を推理して来る度に伏せてるだけだからな!あぁーもうホントどうしよう!?完全に詰んでるよコレ!責めてあの時くじ引きでもっといいのが当たってたらなぁ!『羅生門』や『夜叉白雪』が有ればあんな連中倒してくれそうなのに!

 

 

「はぁ……『独歩吟客』!手鏡(ハンドミラー)!」

 

 

俺は再び手帳にペンを走らせてそのページを破り取ると、異能力で手鏡を具現化した。せめて敵が後どれくらいいるのか確認したかったので、バリケードの影からこっそり手鏡を出して、鏡に映る敵の数を数えた。

 

 

(えぇ〜っと……ボスっぽい奴が4人、拳銃が20人、機関銃が8人、散弾銃が6人か……下手したらまだまだ増えそう。嫌だなぁ……む!?

 

 

俺が敵の人数を数えていると、敵の背後にある窓の向こうで俺をこんな目に合わせてくれた超アクロバティッククソ猫ことみーちゃんがこちらを覗いているのが見えた。

 

 

(あいつ……!あんなとこでいったい何やってんだ?)

 

 

どうやら向こうも手鏡に気付いているらしく、鏡の中のみーちゃんとバッチリ目が合っている。鳴り響く銃声の中、しばらく鏡越しに見つめ合っていると、みーちゃんはくるりと背を向けて何やらゴソゴソし出した。

 

 

「……?なんだ?」

 

 

しばらく様子を見ていると、みーちゃんはいったい何処から持って来たのかは知らないが紙を口に咥え、こちらを向いた。そしてその紙にはなんと……!

 

 

『その程度なのかね?』

 

 

と書かれていた。しかも端っこの方にご丁寧に肉球の印がある。ふむふむ、あの猫、アクロバット以外に人間の字を描けるのか。しかも意味も理解しているようだ。天才猫だなみーちゃんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのイカレ猫ぶっ殺す!!!

 

 

あの野郎人の命が現在進行形で危ないってのに!な〜にが『その程度なのかね?』だ!!つーかあの紙どっから持って来た!?その字を書くのに使ったであろう墨と筆はどうした!?そしてなんでそんな無駄に綺麗な文字書けるんだ!?最早猫が出来る範囲を完璧に飛び越えちゃってるよ!!

 

取り敢えず俺はあのクソ猫に向かって『S&W M19』に入ってる6発の弾丸を連射した。だがこんな時でも俺の射撃センスの無さは健在で、全てがあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。だが俺は諦めずリロードするとまた連射した。しかしこれもあらぬ方向へ飛んで行ってしまう。

 

 

「………っ!全弾撃ち尽くすまで撃ってやる!」

 

 

もう『独歩吟客』用の手帳のページ全部使い切ってでもあのクソ猫に1発御見舞いしてやる!

 

 

 

 

 

 

違法密売組織のボスside…

 

 

ガウン!ガウン!ガウン!ガウン!

 

「ぎゃあああああ!!?て、手がああああ!!」

 

「何してるネ!!さっさとあのガキを始末するヨ!」

 

「グワー!ヤラレター!!」

 

 

チッ!なんなんだあのガキは!?今日ウチに武器やドラッグやらを買いに来た世界のクズ共と、ウチの部下達が次々とやられて行く!クズ共は兎も角、ウチの部下達はBランク武偵すら打ち負かす程の猛者揃いなんだぞ!なのになんでたった1人のガキに半数以上やられるんだ!?しかも奴はこっちを見もしねーで弾を全て当てて、こっちの弾は全て当たらねぇ!予知能力でも持ってやがんのか!?

 

とにかくこのままじゃマズい。このままクズ共と一緒にあのガキといつまでも殺り合ってたら、あのガキが呼んだ筈のサツ共が仲間を大勢引き連れて俺達をパクリに来ちまう!そうなる前になんとかあのガキを始末して、最悪商品を置いてでも隠し通路使って逃げねーと!

 

 

「おいテメェ等!とっととそいつをぶち殺せ!このままだとサツ共にパクられちまうぞ!!」

 

「し、しかしリーダー!あのガキ異常な強さで、俺達じゃ歯が立ちません!」

 

「ソレニアノ部屋ハ爆発物ノ入ッタ木箱ダラケ、爆弾モ使エナイ」

 

「下手をすれば我々も吹き飛ばされるヨ。ワタシここで死ぬ気、無いネ」

 

 

クソ!あのガキ、まさか知っててあの部屋の中へ飛び込んだんじゃあるめーな!?そもそもなんでこの場所が分かったんだ!?ここは港も高速道路も近くには無ーし、警察も『デカい取引をする場所には不向きだから居ないだろう』なんて考えるだろうからここに大金払ってこっそりアジトを作ったってのに!

 

 

ガウンガウンガウンガウンガウンガウン!!!

 

「ナ、ナンダー!?」

 

「や、野郎いきなり激しく抵抗し始めたぞ!?」

 

「で、でも1発も当たらないどころか、変な方向に飛んでってるネ。自棄になったカ?」

 

(自棄になっただと?あれだけの腕が有って、弾だってこれだけ有りながら、自棄になるものなのか?)

 

 

奴の突然の行動に俺が首を傾げていると、突然頭上からビシビシッ!と言う音がしたので視線を上に向けた。すると天井にはあちこちに亀裂が入っており、パラパラと天井のコンクリートの欠片が降って来ていた。

俺は何かヤバいと感じてその場を離れると、奴の放った1発の弾丸が天井にぶち当たり、天井から大きな瓦礫が幾つか降り注いだ。

 

 

「ぎゃっ!?」

 

「グエッ!?」

 

「な、何ぃ!?」

 

 

俺は目を疑ったぜ。なんせ降って来た瓦礫は全部世界のクズ共と俺の部下達全員の頭に直撃して、1人残らず気絶しちまったんだからな。その時点であのガキには敵わないと悟った俺は、俺1人でも逃げ延びようと隠し通路の入り口に向かった。

 

だが………、

 

 

「な、なんで………?」

 

「武偵だ!銃を捨てて、両手を上に挙げろ!!」

 

「こちら突入チーム!違法密売組織のリーダーを発見!信じられません!本当に彼の言っていた推理通りです!」

 

 

それは隠し通路から現れた武偵とサツの特殊部隊の登場によって、叶う事は無かった。

 

 

 

 

 

 

綾辻行人side…

 

 

なんか我武者羅に撃ちまくってたら敵がみんな気絶してた。おまけに遠山くん達もやっと来たし、クソ板のクエストも達成してなんとか俺の命は助かった。

でもクソ猫に弾は1発も擦りもしなかったし、クエストの成功報酬がまさかの1円玉100枚と言う悪意しか感じない内容だったのが解せぬ。

 

 

「いや〜助かったぜ綾辻!ありがとな!」

 

「ホント凄えなお前の推理!驚いたぜ!」

 

「うん、僕も驚いたよ」

 

 

うん、普通じゃ無いから『超推理』って名前の異能力なんだけどね。まぁ褒められて悪い気分じゃ無いからいいんだけどさ。

 

 

「…………」ジー

 

 

てかなんかレキくんがめっちゃこっち見てるんだけどどうしたの?俺の顔になんか付いてんの?せめてなんか喋って。

 

 

「兎に角これで報酬ゲットだ。ホントにありがとな!」

 

「……いいさ、気にするな。俺はもう行く。まだやる事が残ってるからな」

 

 

後の事は遠山くん達に任せて、俺は取り敢えずあのクソ猫を三味線の材料にしに行こう。しかし滅茶苦茶頭痛いからしばらくは『超推理』は無理だな。頭痛薬のんでおくか。

 

 

「すみません。猫探しの任務を受けて下さった、綾辻行人様でしょうか?」

 

「……ん?」

 

 

廃ビルを出てしばらく歩いていると、背後から女性の声がしたので振り返った。そこにはいかにも秘書って感じの眼鏡を掛けた黒髪の女性が立っており、彼女の腕の中には、なんとみーちゃんが居た。

 

 

「………貴女は?」

 

「初めまして、私はこちらのみーちゃんの捜索依頼を出させていただきました、春野(はるの)菜穂美(なおみ)と申します。この度は任務を受けて下さり、ありがとうございました」

 

 

みーちゃんの飼い主か?まぁ捕まえてくれたならありがたい。三味線の材料に出来なかったのは残念だったが、もう正直疲れるからみーちゃん探しはしたくないしな。

 

 

「こちらは今回の任務の報酬です。お受け取り下さい」

 

 

そう言って彼女は2万円が入った封筒を渡して来た。ぶっちゃけ捕まえられなかったからちょっと受け取るのに抵抗があったが、なんか彼女から『受け取れ』って感じのオーラを何故か感じたから大人しく頂いた。

 

 

「では私はこれで失礼いたします」

 

「なーん!」

 

 

彼女はそう言ってペコリと頭を下げると、みーちゃんを抱えて去って行った。

 

 

「……出来れば、もう逃がさないでくれたまえ」

 

 

俺はポケットから取り出した水蒸気煙管を吹かしながら、切にそう願った。



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第11弾 今までに無いペナルティ

迷子の猫探しの任務受けた筈なのに、その猫に嵌められて違法密売組織と銃撃戦おっ始める羽目になった日からしばらく経った。あの日以来、学校で俺に向けられる視線が凄い事になっている。後殆どの奴から避けられてる。

 

こうなっている原因は判明している。あのツンツン頭(武藤剛気)が俺の事を学校で言い触らしまくった所為だ。その結果、その話は他人から他人へと尾鰭をつけながら伝わって行き、最終的に俺は『どんな難事件も一瞬で解決する頭脳と凶悪犯罪組織を片手間で壊滅させる戦闘力を持った危険度Sランクのバトルジャンキー』となっているらしい。

 

 

いやなんでだよ!?

 

 

なんでそんなに尾鰭が付きまくってんだ!?確かに『超推理』でどんな難事件どころか過去も未来も推理出来るけども!俺は凶悪犯罪組織を片手間で壊滅なんて出来ないし、ましてやバトルジャンキーでもないわ!この間だってホントに死ぬかと思ったんだからな!

 

まぁ、こんなのはまだ良い方だ。ただ会話出来るのが教師陣と遠山くんトリオ、そして何故かあの日以来矢鱈とこちらを見てくるレキくんと他数名だけになってしまった位だ。『最近困ってる事ランキング』第7位辺りでしかない。

 

因みにこの『最近困ってる事ランキング』の第3位から第1位までが本当に今も滅茶苦茶困ってる事だ。

 

 

第3位は、あの事件で俺の推理力に目を付けた警察が、過去に迷宮入りした殺人事件や現在捜査が行き詰まってしまった難事件の解決任務を指名で依頼する様になりやがった事だ。まぁこれだけならぶっちゃけ拒否すれば良いんだが、あのクソ板が5回に1回くらいの割合で事件を解決しろってクエスト出して来るから、結果的にこれまで引き受けた任務の犯人が全員異能力『Another』によって事故死してしまった。この調子だと近い内に俺にも『殺人探偵』なんて渾名が付いてしまうだろう。クソが。

 

続いて第2位は、俺の巻き込まれ不幸体質が前世と同じ程度に戻りつつある事だ。昨日も登校中にひったくりが2回と通り魔の襲撃が1回あった。このまま行くとその内今住んでる寮に時限爆弾設置されたり、月に1回は必ず殺人事件に巻き込まれてしまうだろう。なので近い内に教師の誰かに爆弾解除のやり方を教わるつもりだ。『超推理』で解除方法は分かっても、技術力0の俺だと技術的なミスで死にそうだから。

 

そして全く輝かしくも名誉でも無い最悪の第1位は、とある1人の女子生徒が最近矢鱈と俺が行く任務について来ようとしたり、難易度がハード通り越してルナティック近い任務を勧めて来るんだ。今まで殆ど接点なんか無かった筈なんだが、あの任務を何とか解決して以来ずっとなんだよ。

で、その女子生徒は誰かだが……、

 

 

「あ!ゆっきー!こんな所に居たんだ〜!」

 

また来やがった

 

 

昼休みに入っている教室で自分の席に座っていた俺が背後から聞こえた女性の声を聞いて嫌々後ろを振り返ると、そこには俺が予想した通りの人物がいた。つーかこの学校どころか前世を含めて俺の事を『ゆっきー』なんて渾名で呼ぶ奴は今の所こいつ1人しかいない。

 

 

「……また君か」

 

 

改造されまくって入学当初からフリルだらけになっている防弾制服を着こなした金髪のツーサイドアップに金色の瞳を持つ小柄な少女。こいつが現在俺の中で『1番会いたく無い人ランキング』第1位並びに『最近困ってる事ランキング』第1位の元凶のぶりっ子探偵科Aランクのちみっこ武偵、自称『りこりん』こと峰理子くんだ。

 

 

「ねぇ、ゆっきー?なんだが今ゆっきーが心の中でりこりんの事で結構失礼な事言った気がするんだけど?」

 

「……さぁ、どうだろうな」

 

 

なんか不満そうな顔してるがそんな事は知らん。事実を思ったまでだ。そんな事より君の持ってるその分厚い紙束はまさか全部任務の書類か?絶対ロクなもの持って来てないだろこいつ。前回持って来たやつ全部殺人事件の捜査協力任務だったろうが。

 

 

「……峰くん。何度も言っているが、俺は君と一緒に任務に行くつもりはないぞ?」

 

「ぶぅ〜!1回くらい一緒に行かせてよ〜。ほらほら!今回はりこりん頑張ってゆっきーが興味持ちそうな任務持って来たから、見てみて♪」

 

 

ドサッ!と俺の机の上に任務の書類の束を乗せながら、峰くんは満面の笑みでこちらをジッと見て来る。これは見ないとずっとこの場に居座りそうだな。それは流石に嫌なので仕方なく1番上の任務の書類を手に取って内容を読む。

 

 

『《緊急》犯罪組織制圧任務

 

・街外れの廃病院を、違法臓器密売組織『グール』がアジトにしていると言う情報を入手した。しかし正確な人数、武装などの情報は不明。その為、より詳しい情報の入手又は偵察、そして『グール』の制圧を依頼したい。廃病院の場所はこの依頼を受けてくれた時に説明する。

 

*条件

・Bランク以上の武偵である事。

・過去に少なくとも1度は違法組織制圧任務を受けた者。

 

報酬ーー2万円。制圧した場合10万円上乗せする』

 

「ふっふ〜ん♪どう?ゆっきー?興味湧いて来たでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湧けるかよ!!!

 

 

違法臓器密売組織なんてヤバそうな組織の制圧任務なんて受ける訳が無いだろ!大体なんでそんな危ない組織の偵察やった上で制圧までやらないといけないんだ!?偵察は『超推理』で誤魔化せても制圧までやらされたら俺の体が保たんわぁ!!

 

 

「却下だ」

 

「えぇ〜?これもダメなの?う〜ん……あ、じゃあコレは?」

 

 

峰くんは如何にも不満ですって感じに頬を膨らませながら、書類の束の中から1枚を取り出し、俺に差し出して来た。どうせ任務内容が変わっていても命の危険があるには変わりないとは思うが、受け取って読んでみた。

 

 

『《緊急》犯罪組織制圧任務

 

・違法薬物密売組織『モーア』の違法薬物製造工場の在り処を突き止めた。しかし入手した情報によると工場は半要塞化しており、加えて構成員達は全員銃火器で武装している模様。そこで、我々の『モーア』及び違法薬物製造工場の制圧に協力願いたい。

 

*条件

・Bランク以上の強襲科武偵である事。

・例え重傷を負ったり死んだりしても我々に一切責任を問わない事。

 

報酬ーー10万円』

 

「ちょっと報酬がさっきの任務より少なくなっちゃうけど、条件はドンピシャだし、ゆっきーにはぴったりだとりこりんは思うな♪どうどう?さっきと違って行きたくなって来るでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう違うんだよ!!!

 

 

微妙に捕まえる対象とか条件とかが変わってるだけで内容は殆どさっきの任務と一緒じゃ無ぇーか!もっと嫌だわ!どこが俺にはぴったりなんだよ!?ぴったりの要素がまるで無いだろうが!こんなの遠山くん辺りを誘えばいいじゃないか!!

 

 

「却下だ」

 

「え!?コレもなの!?なんで!?」

 

 

なんでじゃねーよ!寧ろこっちがなんでお前が持って来る任務はこうも命の危険がありまくる超危険任務ばかりなのか聞きたいわ!俺この前も言ったよな!?『もっとマシな任務を持って来い』って!言わなかったっけ俺!?

 

 

「むぅ…… やっぱりこの程度の任務じゃ満足しないの?もっと危なかったり謎めいてるヤツの方が……でもそれだとあたしも危なくなって来るし

 

「……何か言ったか?」

 

「ううん!べっつに〜♪でもコレもダメなら………うん?何だろうコレ?よく分かんないけど……これは興味ある?ミステリアスって感じなんだけど」

 

 

峰くんは疑問符を浮かばせまくりながら俺にその書類を差し出して来た。峰くんはこんな風に見えて一応は探偵科のAランクだ。そんな彼女が疑問符を浮かべる任務と言うのはちょっと気になるので受け取って読んでみた。

 

 

『害獣駆除任務。

 

・引っ越した日本家屋の裏にあった古い井戸小屋を見に行って以来、その中にいたねこにずっと付き纏われています。普通ねこは害獣と言わないかもしれませんが、これはねこです。よろしくおねがいします。ずっとねこに見られているので、殆ど睡眠も取れません。ねこはいます。います武偵の皆様にはそのねこですを駆除して貰いたいのです。よろしくおねがいします。

 

*条件です。

・ねこランク以上のねこですである事。

 

報酬ーー50万ねこ円です。

 

ねこでした。よろしくおねがいします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー異能力『人間失格』

 

恐ろしいよ!!!

 

 

なんで『ねこ』って単語が出てから徐々におかしくなってるんだよ!?しかも今まで使った事が無かった『人間失格』が今発動して“何か”を無効化したぞ!?なんか仕掛けられてたろこの書類!こんなの受けるか!なんなんだよそもそも!この『ねこ』ってなんの事なんだ!?なんなんだぁ!?

 

ハァ……まぁ、取り敢えず結論としては、

 

 

「絶対に却下だ」

 

「うえぇ!?『絶対』まで付いた!!」

 

 

そもそもこいつはどうして俺なんかと一緒に任務に行きたがるんだ?ぶっちゃけ俺はこいつと全くと言っても過言ではない程接点がない。基本峰くんは俺みたいなボッチとは違って仲の良い女子グループと一緒に談笑している事の方が多いからだ。ただ単位が欲しいとか金が欲しいとかなら、そいつ等と一緒に行った方が良いだろ。

いやまぁ、俺的には普通の任務なら行っても構わないよ?迷子の猫探し……はなんかまた嵌められそうだから断るが、ビルの清掃や荷物の運搬、失せ物探しとかなら命の危険も無いしな。けどこいつが持って来る任務は決まって毎度毎度命の危険が有りまくりな任務ばっかなんだよなぁ。

 

 

「はぁ……」

 

「ちょっと〜!これでも頑張って選んで持って来たんだよ?そんなあからさまに残念そうな溜め息吐くなんて、流石のりこりんもプンプンガオーだぞー!」

 

(うわぁ…怒り方あざと)

 

 

峰くんが如何にも私怒ってますって感じになんか言っているが、生憎俺には効果は無い。寧ろあざと過ぎてちょっと引く。

 

 

「失礼するよ」

 

 

俺が峰くんに対して若干引いていると、教室のドアが開いて、不知火くんには劣るもののそこそこイケメンだが見覚えの無い眼鏡を掛けた男子生徒が入って来た。

 

 

「強襲科2年の朝井(あさい)と言うものだ。教務科(マスターズ)より伝令がある。全員静聴する様に」

 

 

イケメン君が教卓に持っていた分厚い紙の束を置きながらそう言うと、教室に居る全員が彼に注目する。イケメン君は全員が注目しているのを確認すると、伝令の内容を話し始めた。

 

 

「1年生全員参加の4対4戦(カルテット)が近付いて来た。1年生諸君は4人1組のチームを作り、この書類にメンバーの名前とランク、所属学科を記入して提出する事。これには中学のインターン生徒も参加可能だよ。但し、Sランクの生徒が同じチームになる事は認められないから注意する様に。以上!」

 

 

イケメン君はそう言うと教卓の上に分厚い紙の束を置いて去って行った。しかし、1年生全員参加の4対4戦か……うわぁ、やりたくねぇ。でもやらないとあの暴力ゴリラ教師の蘭豹先生に組み手とか言ってボコ雑巾にされそうだしなぁ。前に滅茶苦茶筋肉質な男子生徒と組み手やってボッコボコにしてるとこ実際に見たし。

 

 

(しかし誰と組もうか……Sランク同士がチームになってはいけないなら、同じSランクのレキくんと遠山くん。そして彼と一緒にチームを組むであろう武藤くんと不知火くんペアとは組めない事になるな)

 

 

となると、俺はそれ以外の奴と組まないといけない訳だ。取り敢えず誰でもいいから4人チームになって、後は適当にやって勝つか負けるかしとけばいいや。

 

 

(じゃあ早速仲間集めを…《シャラン♪》ここで来るか忌々しいクソ板め)

 

 

この流れだとアレだろ?どうせカルテットに全勝しないと死ぬぞ的なアレだろ?もう大体流れが分かる様になって来てるんだぞこの野郎。なんでお前はデス・オア・クリアなミッションしか出さないんだ?俺だって表情筋死んでるし『Another』で間接的な殺人やっちゃってるけど人間なんだぞ。人の命をなんだと思ってんだ!

………まぁ、今の所は『超推理』のお陰でなんとかなってるし、取り敢えずクエスト内容見るか。

 

 

『4対4戦で、自分以外の全員がDランクのチームを作り、味方を誰1人脱落させずに勝ち残れ!』

 

 

ふむ、やっぱりカルテットが関係するクエストか。味方を1人も脱落させずに勝ち残るとなると、『超推理』を多用しまくらないと難しい。当日は頭痛薬を多めに買っておこう。1番効くヤツ。

で、成功報酬と失敗した時の死に方は?

 

 

『成功報酬ーー秘密の封筒。クエスト失敗ーーT-ウイルスを世界中に散布』

 

 

「………………ん?」

 

 

うん、なんか色々待って。成功報酬はまだいい。なんか秘密って書いてあるのが気になるけど、それはまぁいい。このクエスト失敗したら世界中に散布される『T-ウイルス』ってアレだよな?前世のゲームとかで出て来た感染したら動き回って人を喰う死体になる的なアレだよな?

 

 

「………フフッ」

 

 

フフフフフフッ…!ヤバいもうなんか訳分かんなくなってめっちゃ笑いがこみ上げて来た。どうしようコレ?今年は優秀な生徒が多い所為でただでさえDランクの人数が少ない上に戦う相手が基本格上になるってのに、何なのこの今までに無いペナルティ?負ける気は無かったけど尚更負ける訳にはいかなくなっちまったよフフフフッ…!

 

 

「……Dランクで脱落者なしの全勝……面白い」

 

 

上等だやってやろうじゃないかこの野郎!こんなクソ板の所為で世界を滅ぼした大魔王にされてたまるか!よし!そうと決まれば早速仲間集めだ!世界を滅ぼさない為に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ゆっきー!一緒にチームを…」

 

「組まない」

 

「即答!?」



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第12弾 神は言っている、魔王になれと

遅れて申し訳ありません!!


武偵校での授業が終わり、寮の自分の部屋に戻って来た俺は、鞄を机の上に置くと椅子に座り込んで深い溜息を吐いた。

俺はあの後、何度断っても一緒に組もうと誘い続けるもとい駄々を捏ねる峰くんになんとか諦めて貰った後、大変だったが、俺は世界を救う勇者達(ガチ)を集める事になんとか成功した。

 

1人目は強襲科Dランクの主税弱士(ちからよわし)くん。名前の所為なのかは分からないが、強襲科の生徒としては、クラスで1番非力な女子生徒どころか、噂ではインターン生の中でもぶっち切りに弱いとされていた女子生徒にギリギリの勝負をして負けたなどと言うある意味で泣けてくる過去を持っているとかなんとか。因みに力そのものは一般の高校生並みにはあった。よく武偵校に受かれたな?

 

2人目は狙撃科(スナイプ)Dランクの風間隼人(かざまはやと)くん。狙撃科でそこそこ優秀なスナイパーなのだが、それは動かない的(・・・・・)であると言う条件下の時のみの話で、何故か偏差射撃が全く出来ないらしい。しかも近接武器の類は苦手で、狙撃科の男子の中では一度も相手に勝った事がないらしい。弱士くんには勝ったらしいが。

 

最後は情報科(インフォルマ)Dランクの女子生徒。影山白(かげやましろ)くん。本来情報科は、情報処理機器を用いた情報収集と整理方法を学ぶ学科で、大量な情報の中から重要なものを選別して整理したり、校内用のイントラネットを管理したりするのだが、彼女は情報収集こそクラスでも上位に入るものの肝心な整理や選別の類が壊滅的で、1日に5回は先生に怒られているらしい。更には戦闘能力は皆無で、射撃は下手したら俺並みに当たらないかもしれない。後ちょっとアホの子っぽい。

 

以上が俺が集めたメンバーだ。最初は全員『どうせ負けるから』と全くやる気を感じられないし、某カエル小隊のトラウマスイッチ入ったカエル忍者並みにどんよりしていたが、『超推理』でどう誘えばやる気を出してチームに入ってくれるかを推理し、その推理通りに誘った所、3人共見事にやる気を出してチームになってくれた。いやぁ、やっぱ『超推理』凄いわ。使い過ぎると頭痛が酷くなるデメリットは有るが便利過ぎる。

それに彼等は欠点が目立つがちゃんと長所はある。そこを上手く使えば余程の事が無い限り負ける事はないと思う。『超推理』もあるから戦略とか作戦とかはこっちが有利だし!まぁ頭痛薬のお世話になる事は確定したけどなクソが。

 

 

「……問題は、相手チームのメンバーか」

 

 

対戦相手は明後日に掲示板に載せられるらしいが、その相手によっては詰む。Sランクの遠山くんとレキくんが当たったら絶望的だ。特に遠山くんチームはヤバい。彼のチームは4人中3人がAランク以上のチームだからな。こっちには『超推理』が有るとは言え、仲間は全員Dランク。しかも俺に至ってはSランクなんて阿保みたいに身に合わないランク持った下手したらDランク以下の戦闘能力持った雑魚。

 

 

「………まずいな。勝てるか不安になって来た」

 

 

『超推理』は便利では有るが万能ではない。例え未来を推理して相手が何処からどうやってどのタイミングで襲って来るのか分かっているとしても、俺自身の体が付いて行けない事はある。それにこの異能力は使えば使うほど脳への負担が大きくなり、頭痛が凄い事になる。今の所頭痛しか起きてないが、下手したら俺の頭がパーン!!ってなるかも知れないし。

 

 

「………………」

 

 

わ、笑えねぇ……ま、まぁ?まだ彼等と戦うと決まった訳じゃ無い。あの2人のチーム意外にもチームはたくさん有るんだ。寧ろ当たってしまう確率の方が低い!それに4対4戦は誰かのチームと一戦やれば終わる。トーナメント形式だったらヤバかったが、なんとかなるだろう。

 

………なるよな?

 

 

「………夕食にするか」

 

 

なんか立ててはいけない何かを立ててしまった気がするが、気にしない様にしよう。

俺はその後温めたコンビニの海苔弁当を食べ、銃の手入れをし、筋トレをやってから風呂に入り、今日の分の課題を終わらせて寝た。

 

 

 

 

 

 

ーーー2日後。

 

今日は遂に4対4戦の対戦相手が掲示板に載せられる日だ。なので俺は昼休みにチームのメンバーと一緒に対戦相手の確認に向かっている。

因みに『超推理』で対戦相手のチームを推理していない。つーかこれから先、戦闘や事件解決以外には出来るだけ『超推理』は使わない事にした。だってパーン!!ってなったらやだし。

 

 

「皆さんは対戦相手は誰のチームだと思うっすか?私的にはCランクオンリーのチームがいいんすけど」

 

 

俺が自分の頭が針で刺された風船の様に破裂する様を想像してしまってゾッとしていると、先頭を歩いていた影山くんがそう話しかけて来た。

 

 

「あー、そうだなぁ。それに加えて俺的にはインターンの子が入ってる方がいいな。インターンの子なら緊張して動かなくなってくれる可能性が微レ存。主税は?」

 

「う〜ん……相手全員インターン生で鎖で雁字搦めにされて目隠しと耳栓と後武器の類を全て没収されてたらワンチャン勝てるかも?」

 

「……どんだけ自信ないんすか。それじゃただのリンチじゃないっすか」

 

 

主税くんの理想を聞いて俺達は可哀想な奴を見る目で彼を見た。逆にそこまで徹底的にやらないと君は勝てないのか?不味いぞ。なんか段々と不安になって来た。彼等には確かに長所はあるが、主税くんがそこまでしないと勝てないと言う程自信が無いとは思わなかった。他2人も主税くん程では無いが自信無さ気なんだけど、これ大丈夫なんだろうか?

……いや!こんな弱気になってたらダメだ。昔どこの誰が言ったのかは知らないが、『諦めたらそこで試合終了ですよ』なんて言葉を聞いた事がある。諦めなければ世界を滅ぼす大魔王になってしまう事も避けられる筈だ!…多分!きっと!…… ダメだやっぱ心配になって来た。

 

 

「因みに綾辻さんはどんな相手だと思うっすか?」

 

「……どんな相手でも勝つしかないだろう?」

 

 

だってこれ世界の命運を賭けた戦いだもの。まぁ、『こんな失敗したら世界が滅ぶ様な戦いはしたくないんじゃべらんめぇ!』と言うのが俺の本心なのだが、それはあのクソ邪神が寄越しやがったクソ板が許す訳が無い。絶対世界中がゾンビパニックになって終わる。クソが!

 

 

「ほへぇ〜……流石Sランクの人は言うことが違うっすね!」

 

「まぁ、こっちにはSランクの綾辻が居るからな!相手がSランクとAランクオンリーのチームでもなけりゃ勝てるだろ!」

 

「何その鬼畜チーム……僕等全滅確定じゃん。あ、アレかな?もう結構集まってるね」

 

 

主税くんが指を差す方を見ると、同じ学年の生徒達が一箇所に集まって何やら騒いでいた。時々『勝った!』とか『詰んだァ!!』などの喜びと悲しみの叫びが聞こえて来るので間違い無いだろう。

さて、相手はいったいどんなチームなのだろうか?ここ数日は引ったくりもスリも強盗も交通事故も殺人事件も警察からの依頼も、自分でも驚く程起こっていないから、運がいい。今朝だって何の事件や事故にも遭わなかった。きっと相手は同じDランクが混ざったCランク主体のチームになってくれる!……なんて期待はしないが、少なくとも無理ゲーの鬼畜チームでは無いだろう。今朝の星座占いも一位だったし。

 

 

「あ!有った…っす………ぇ?」

 

 

む?どうやら有った様だ。影山くんが掲示板の第7戦目の欄に指を差して固まっている。しかし有ったのはいいが、何故固まってるんだ?まさか俺の運勢の効果が薄まってBランク主体のチームになってしまったか?

 

 

「え、え〜っと…これは」

 

「あ、あはは……」

 

 

影山くんが指を差した方を見た風間くんと主税くんまで様子がおかしくなってしまった。ま、まさかAランクまで混ざっていたのか?運勢頼むからもうちょっと頑張ってくれ!いくら『超推理』が有るとは言え、Aランクまで混ざってるとなると、無傷で勝利するなんてかなり難しいんだぞ!どんだけ難易度高いと思ってんだ!

 

俺は3人の様子を見て不安に駆られながらも、腰に付けたポーチからあのなんちゃって煙管を取り出し、それをふかす。綾辻行人になったからか、こうするとなんか落ち着くのだ。前世では電子タバコでも未成年が吸うのはダメだったのだが、この世界では武偵の道具として爺さんから貰ったこのなんちゃって煙管の説明書と一緒に申請したら何故か許可貰えた。不思議だ。

因みにこのポーチには『独歩吟客』用の手帳とペン、そして予備の弾を入れてある。あ、後頭痛薬も。

 

そして心を落ち着かせた俺は、覚悟を決めて影山くんが指を差す方を見た。そこに書かれていたのは……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7戦ーー綾辻班VS峰班

 

 

……悲しい、現実であった。(泣)

 

 

「み、峰さんって……峰理子さんの事っすよね?あの探偵科Aランクの」

 

「あぁ、しかも聞いた話によると、ああ見えてかなり強いらしいぞ」

 

「そんな人がリーダーのチームって、高確率で同じAランク同士のチームだよね。自信無くなって来た」

 

 

俺も彼女がかなり強いと聞いて自信を無くしてしまったよ主税くん。畜生なんで選りに選って俺の『1番会いたく無い人ランキング』と『最近困ってる事ランキング』で全然輝かしくもない第1位の座に君臨してるちみっこ武偵がリーダーのチームと戦わなけりゃならんのだ!?つーかあのちみっこ戦えたの?あ、でもあんなクレイジー過ぎる任務に一緒に行こうと誘って来る辺り、それに対応出来る戦闘能力は持ってるのか?ヤベェ、だとしたらこれ勝ち目が無くなって来たぞ。せめて彼女のチームがDランクだけなら互角になる可能性はあるかも知れないんだがな。

 

 

「お?そこに居るのは〜?……あー!ゆっきーだ〜♪」

 

(ゲッ!!この声は……)

 

 

俺は背後から聞こえて来た最近聞き覚えがあり過ぎてもうそろそろうんざりして来た声に嫌な予感を感じつつ振り向くと、そこにはまるで向日葵の様な満面の笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくる峰くん(小悪魔)と、3人の少女達の姿があった。

 

 

「……峰くん」

 

「やっほ〜♪……へぇ〜?そっちの子達がゆっきーのチームメンバー?りこりんのお誘いを断る位だから、Aランクばっかりのチームだと思ったのに、予想が外れちゃったなぁ〜」

 

「ど、どうもっす……」

 

「「…………」」///

 

 

峰くんは影山くん達を興味深そうに観察する。それに対して影山くんは笑顔を若干引き攣らせながらなんとか挨拶し、主税くんと風間くんは何やら頬を染めて峰くんを見ている。まぁ峰くんは性格に難はあるが、黙ってさえいれば普通に美少女ではあるからな。黙って大人しくしてさえ居ればな。

 

ところで………、

 

 

「…………」ジー

 

「…………」

 

 

さっきから幻であって欲しい少女(狙撃科Sランクのレキくん)がメッチャ俺の事見て来るんだけど、なんで?なんで君峰くんと一緒にこっち来たの?この場所で峰くんと行動してるのを見たら、とんでもない勘違いをしてしまいそうになるんだが?それに他のショートカットの髪を左右の耳の脇でまとめた髪型の小柄な少女と、制服が大量のフリルとリボンで原形を留めないほどに改造されている少女も見覚えがあるぞ?確か装備科(アムド)平賀文(ひらがあや)くんと、車輌科(ロジ)島苺(しまいちご)くんだ。しかもどちらもランクA。………ま、まさか!?

 

 

「………峰くん。もしやレキくん達は?」

 

「そうだよ〜♪レキュ達はあたしのチームメンバーなの!ゆっきーが組んでくれなかったから、代わりにレキュ達とチームを組んだんだ〜♪」

 

(終わったぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!

 

無理無理無理無理無理無理!!こんな鬼畜チーム相手にどうやって勝てばいいんだよ!?Aランクオンリーのチームですら勝ち目が薄いのに、それにSランクのレキくんまで加わったらもう勝てっこ無いだろ!!なんだこの無理ゲー!?始まりの町を出てすぐの草むらからいきなり魔王軍の幹部と魔王本人が飛び出して来るのと同じぐらい無理ゲーだ!!どうすんだこれ!?俺マジで世界を滅ぼす大魔王になっちまう!やった事だけはゾー○とかデスピ○サロと肩並べちまうだろうが!!

 

 

「ふふ〜ん♪正直Sランクのゆっきーが対戦相手になるとは思わなかったけど、やるからには全力で勝つからね!じゃあ、あたし達はこの後やる事があるから!バイバ〜イ♪」

 

「さよならなのだ〜♪」

 

「さよならですの〜♪」

 

「…………」ペコリ

 

 

そう言って峰くん達は去って行った。いつの間にか掲示板を見に来た生徒達も居なくなっており、残されたのは表情筋が仕事を放棄してしまい無表情のまま固まった俺と、顔色の優れないチームメンバーだけであった。

 

……恨むぞ神様。

 

 

 

 

 

 

峰理子side…

 

 

「うぅ〜〜ん………」

 

 

4対4戦の対戦相手が発表された日の夜。レキュ達と別れて女子寮の自室に戻ったあたしは、パソコンの画面と睨めっこしながら首を傾げて居た。

 

 

「あぁ〜もう!ダメ!全然分っかんない!」

 

 

画面に映るのは4人の人物。私達の対戦相手、綾辻班のメンバー。家に戻ったあたしは、早速綾辻班のメンバー全員の情報を集め始めたんだけど、なんで綾辻行人がこんな欠点が目立つメンバーを集めたのかが分からない。Sランクの綾辻行人ならAランクの生徒から引っ張りだこになってもおかしくないのに、態々全て断って集めた程だから、何か凄い経歴があるのかと思って調べたけど、特に目立つ経歴は無かった。

 

 

「これでどうやって勝つつもり?」

 

 

危険な任務を好むあの綾辻行人が態と負けるなんて事は無いだろうし、もし1人で戦うつもりなら、自分から声を掛けたりなんてしない。だから何か考えがある筈。相手はSランク武偵、警戒は必要。綾辻行人はいったいどんな手を使ってくるのかな?

 

 

「くふふ♪面白くなって来たなぁ〜♪」



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第13弾 なんで貴方がここに居る!?

4対4戦(カルテット)の対戦相手が発表されたあの日から早くも2日が経過した。武偵校での授業を終えた俺は、いつもなら真っ直ぐ寮に帰っている所を、今日は偶々目に入った近所の公園のベンチに座り、水蒸気煙管を吹かしながらぼんやりと夕日に染まった空を眺めていた。

 

 

「………どうしたものか」

 

 

4対4戦当日もとい、俺が世界を滅ぼす大魔王として君臨してしまうまで残り4日。対戦相手が峰くんのチームだと分かった影山くん達は自信とやる気を完全に喪失してしまった。まぁ、無理もないわな。AランクどころかSランクのスナイパー であるレキくんが相手なんて勝てる気がしない。勝敗なんて『超推理』で推理するまでもなく明らかだ。俺自身ショック過ぎてこの2日間ずっとボーッとしており、受けた授業の内容どころか、なんの授業を受けたのかすら思い出せない状態だしな。

 

 

(あ〜………空が綺麗だなぁ)

 

 

こんな風にゆったりと空を眺めながら水蒸気煙管を吸えるのも後4日か。4日後には峰くん達に負け、クエスト失敗で世界中に『T-ウイルス』がばら撒かれる。不幸中の幸いってヤツなのか、この世界では武器弾薬の補充にはあまり不自由はしないだろう。それに今世では前世と違って自衛隊や軍隊だけでなく、武偵が存在する。もしかしたら比較的早く鎮圧されるかも知れない。だがそれでも世界中で数百万人の人間が死んでしまうだろう。最悪だ。原作の綾辻行人ですら数百万人を短期間で殺人しなかっただろうなぁ。ある意味で俺は原作の綾辻行人を越えちゃったよ。

 

 

「はぁ………ん?」

 

 

俺の所為で死んでしまうであろう数百万人の一般人の事を考えて溜息を吐いていると、俺が座っているベンチの空いているスペースに突然何かが降って来た。何事かと視線をそちらに向けると、滅茶苦茶見覚えのある三毛猫がジーッと俺を見ていた。どうやらすぐ側にある木の枝から飛び降りて来た様だ。俺は一度チラッとその木を見てから、再び三毛猫に視線を戻した。

 

 

「君は確か……みーちゃん、だったか?」

 

「にゃーん」

 

 

みーちゃんはまるで肯定する様に一声鳴いた。あのクソふざけた上から目線の文章をどうやったかは知らんが書けるくらいなのだから、俺の言っている事は多分理解出来てる筈だ。本当にそこら辺の武偵犬より優秀なんじゃね?てかなんでお前ここに居んの?飼い主さんは?まさかまた脱走して来たの?

 

 

「なーん?にゃーぉ?」

 

「………言っておくが、俺は君と追い駆けっこなどするつもりは無いぞ。またそこらの密売組織同士の取引現場に連れて行かれると面倒だからな。飼い主にも、さっさと君を連れ帰って貰いたいものだが」

 

 

あの飼い主……確か春野菜穂美さんだったか?あの人にはあれだけアクロバティックに動き回るみーちゃんが大人しく抱かれていた。少なくともみーちゃんは春野さんを嫌っている事は無い筈だ。だからさっさとみーちゃんを回収して貰いたいんだが、そもそも本当に脱走して来たんだろうか?偶々ここに散歩で来ているだけって可能性もあるしなぁ。

 

さてどうするか?と水蒸気煙管を吹かしながら考えていると、みーちゃんが飛び降りて来た木の影から、どこか聞き覚えがある声が聞こえて来た。

 

 

「やはり儂の事に気付いておったのか。気配は上手く隠せていたと思っておったが、少しばかり腕が鈍ってしまったかのぅ?」

 

 

『いや全然気付いて居ませんでしたが?』と心の中で呟きながらも、ゆっくりと声のしたを向いた。そこには杖を携え、山高帽を被ったトレンチコート姿の1人の初老の男性が立っていた。

あれ?この人、どっかで見た様な気がする。

 

 

「さて、お主が綾辻行人じゃな?その節は、儂の飼い猫のミケが大変な迷惑を掛けて済まなかった」

 

 

あ、みーちゃんの飼い主はこの人なのか。と言う事は、春野さんはこの人の身内か仕事上の部下って所か?てかミケってみーちゃんの事か?

 

 

「……貴方がこの猫の飼い主か。しかしこの猫はミケと言う名前なのか?任務の書類やあの春野と言う女性はこの猫を『みーちゃん』と呼んでいたが?」

 

「ミケは儂以外の者に名前を呼ばれるのがどうも好まん様でな。皆が『ミケ』と呼んでも見向きもせん。じゃから儂以外の者は皆、ミケの事を『みーちゃん』と呼んでおる。任務の書類に『ミケ』ではなく、『みーちゃん』と書いたのは、お主等武偵が呼んでも少しは反応するだろうと考えての事じゃ」

 

 

成る程な。通りで俺がみーちゃんの事を『ミケ』って呼んだ瞬間にみーちゃんが猫パンチして来た訳だ。てか地味に痛いんだけど?猫パンチ選手権なんてものがあったら普通に世界狙えそうだわ。てか飼い主さんは飼い主さんで何興味深そうにこっち見てんの?

 

 

「ほう、ミケが名前を呼ばれて反応するとは珍しい。余程ミケに気に入られた様じゃのう」

 

「……これは気に入られているのか?」

 

 

これ普通に嫌われてるから猫パンチされたんじゃないの?いやまぁ、飼い主さんの方がみーちゃんと過ごしてる時間長いから分かるのかも知れないけどさ?結構本気でパンチして来たよみーちゃん。

 

 

「気に入られておる。ミケ自身も、『面白い小僧が居た』と言っておったぞ?」

 

「……まるで言葉が分かっている様な言い方だな」

 

「こう見えて儂も隠居した身じゃが元武偵でのぅ。ネコ科動物限定というデメリットはあるが、動物と会話する事が出来る『超能力(ステルス)』を持っておる」

 

「……成る程、『超偵(ちょうてい)』だったのか」

 

 

超偵とは、“超能力を持った武偵”の略称だ。超偵は武偵校にある超能力・超心理学による犯罪捜査を行っている学科、『超能力捜査研究科 (SSR)』で日々育成されている。日本各地の霊場で合宿を行うこともあり、物体の残留思念?て奴を読み取るサイコメトリーやダウジングといった超能力捜査を行なっているらしい。まぁ、校舎はなんか埴輪やらモアイ像やらトーテムポールやらが置かれた神社と教会が合体した様な変な見た目だけど、実際に事件解決したりしている。

因みに俺の部屋の隣に住んでいる遠山くんの部屋にほぼ毎日通っている星伽白雪(ほとぎしらゆき)と言う黒髪ロングの髪を結った少女も超偵だ。しかもAランク。彼女とは以前遠山くんが風邪を引いて休んでた事があり、授業の課題を届けに遠山くんの部屋を訪れた時に知り合った。なんでも態々自分も武偵校休んでまで看病して居たらしい。仲の良い事だ。

 

 

「ところでお主、何か悩んでいる事がある様じゃな?」

 

「……よく分かったな」

 

「ミケが先程、『元気ないな?この前の威勢はどうした?』と言っておったのでな。何か悩みがあると思ってのう。どうじゃ?1つこの隠居爺に話してみんか?」

 

 

飼い主さんはそう言いながらちょうどみーちゃんを間に挟む感じでベンチに座って足を組んだ。やっぱりこの爺さんどっかで見た事ある気がするな。声も聞き覚えがある。しかもなんか証拠とかは全く無いが、この人は何故か信頼出来る気がするんだよな。

しばらく考え込んだ俺は、『少しぐらいならいいかな?』とあのクソ板やペナルティの事はぼかし、4対4戦の事、相手が鬼畜チームである事、そしてどうなるかはぼかしたが、負けたら酷い目に遭う事を話した。

 

そして俺の話を聞き終わると、飼い主さんは懐かしそうな表情を浮かべた。

 

 

「成る程、4対4戦か……懐かしいのぅ。もうそんな時期か。儂も武偵校に通っていた頃に仲間と共に全力を出し合ったものよ」

 

「……勝ったのか?」

 

「否、負けた」

 

 

彼は楽しそうにその時の事を話した。問題児だったが仲の良かった友人達とチームを組み、当時最強チームと呼ばれて居たチームと対戦し、全力で戦い、最後の最後で負けてしまったらしい。

 

 

「当時の儂等は負けた事は悔しかったが、試合自体には悔いは無かった。互いに全力を尽くしたのじゃからな」

 

「……俺の場合は、負ける訳には行かないがな」

 

「ならば、尚更今お主が持つ全てを持って全力で戦えば良い。儂等も勝つ為に少々やり過ぎた策を決行した。後に教務科の連中から『やり過ぎだ』と小言を貰ったがのぅ。お主も負けたくないのならば、悔いが残らぬよう、全力で挑むが良い。それが1番良い解決策じゃ」

 

 

悔いが残らないようにかぁ……確かになぁ。このまま何もせずに負けて世界を滅ぼした大魔王にされたらもう一生悔いしか残らなそうだしな。それにペナルティ執行されたら、俺多分生き残れないだろうし?どうせなら本当に派手にやるってのも良いな。うん、そう考えたらなんかやる気出て来た。

 

 

「……悩み事は解決したかの?」

 

「あぁ、貴方には礼を言わなければならないな。お陰でやる気が出た」

 

「ならばこんな所で油を売っている暇は無いぞ?4対4戦まで残り4日。これまでの時間を無駄にした分、残り時間を有効活用せねば、勝てるものも勝てん」

 

 

そう言うと彼はは立ち上がり、公園の出入り口の方へ歩き出した。今まで丸まって居たみーちゃんもベンチから飛び降り、彼の後を付いて行く。

 

 

「儂等はそろそろ帰らねばならん。迎えがすぐそこで待っておるのでな。ではな、綾辻の小僧。今日お主に会えて良かった。健闘を祈る!」

 

「にゃ〜ん!」

 

「感謝している。……あぁ、最後に1ついいか?」

 

「なんじゃ?」

 

 

俺は彼を呼び止めると、ベンチから立ち上がり、こちらを振り向いた飼い主さんに対して最後の問いを投げ掛けた。ぶっちゃけ今まで聞くのを忘れて居たのがちょっと恥ずかしい。ホントにすっごい今更感だけど、悩み事を解決してくれたし、ちゃんと聞いて置きたい。

 

 

「まだ、貴方の名前(・・・・・)を聞いてなかった」

 

「む?儂の名前か?……おぉ、そうか。儂は一方的にお主を知っておったが、まだお主には名乗って無かったのう。これは失礼した……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

儂の名は、夏目漱石(なつめそうせき)。ただの隠居爺じゃよ」

 

 

彼は……夏目漱石はそう言うと、みーちゃんと共に公園を出て行った。そうか、あの人は夏目漱石と言うのか。成る程、通りで見覚えがあった訳だ。今思い出した。あの声、あの顔、あの茶色と黒と白の3色の髪、あの茶色のトレンチコート、あの杖、あの山高帽……うん、間違いない。

 

 

なんで夏目先生がこの世界に居るのぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!??

 

 

夏目漱石ーーー能力名『吾輩は猫である』

 

彼は文豪ストレイドッグスに登場する、神出鬼没でどんな調査機関にも尻尾を摑ませず、更に政府と黒社会の両方に通じ、横浜を巡るありとあらゆる陰謀と作戦の近傍にいるとも言われている人物に、瓜二つだった。同姓同名同容姿の別人だとは思うが……連絡先ぐらい、貰ったけば良かったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

夏目漱石side…

 

 

儂は綾辻の小僧と別れ、ミケと共に公園近くの駐車場に停められておった春野の小娘が運転する車の後部座席に乗り込んだ。春野の小娘は儂とミケが乗ったのを確認すると、すぐにエンジンを掛け、車を走らせた。

 

 

「どうでしたか?綾辻行人さんは?」

 

「うむ、なかなか面白い小僧じゃった。ミケが気に入るのも、良く分かる」

 

 

儂が綾辻の小僧の事を知ったのは、つい最近。儂の武偵犬ならぬ武偵猫のミケが、休暇で遊びに出て行き、誤って昼寝の最中にこの人工島行きのバスの上に落っこちて迷い猫になり、4日ばかり経って帰って来た時の事じゃった。

帰って来たミケは儂に謝罪をした後、不思議な力を持ち、凄まじい推理力を持った小僧の話をした。それを聞いて儂自身も興味が湧き、少しばかり昔の伝手を使って調べて辿り着いたのが、綾辻の小僧じゃった。

 

綾辻行人。幼少期に事故で両親を亡くし、自身は大した怪我は無かったが記憶喪失になってしまった。しかし両親と同じ武偵を目指して東京武偵校の試験を受ける。その試験の際、教務科の手違いで強襲科の試験を受け、更にはその試験で殺人を犯していた犯人を一瞬で見抜き、Sランクで合格。そして入学してから請けた全ての任務を完璧に完遂し、ミケの捜索任務の際はミケが面白半分で嗾けた違法密売組織を持ち前の銃の腕と推理力を使って1人でほぼ壊滅させる。

 

これだけ見れば優秀な武偵に過ぎん。警察もその推理力を頼って過去の未解決事件の解決を依頼している。じゃが儂が一段と興味を持ったのは、綾辻の小僧が解決した殺人事件の犯人が、全員事故死(・・・)しておる事じゃ。

 

 

(その結果、綾辻の小僧は警察内で最近では『殺人探偵』などと呼ばれておる。綾辻の小僧が殺害しておるのか、偶然が重なり続けているのかは儂にも分からんが、儂の気配に気付くだけの実力はある様じゃ)

 

 

4対4戦は4日後の午後1時からじゃったな。その日は特に予定もない。少しばかり拝見させて貰うとするかのぅ。

 

 

「さて、どのような策を用いるのかのぅ?期待しておるぞ、綾辻の小僧」



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第14弾 負けられない4対4戦(カルテット)

「よし、両チーム全員揃っとるな?これより、4対4戦(カルテット)を始める!!」

 

 

あの夏目先生に慰めて頂いた日から4日、ついにこの日がやって来た。俺の左側には影山くん達が緊張した様子で並び、右側には少し離れて自信満々な表情を浮かべて余裕そうにしている峰くん達がおり、全員が今回審判を務める暴力極道女教師こと蘭豹先生に注目している。

 

 

(この4日間は本当に大変だった……)

 

 

あの日、夏目先生と別れた俺は寮に戻ると早速影山くんに連絡し、『4対4戦当日まで、どんなものでも構わないから可能な限り峰くん達の情報を集めてくれ』と頼んだ。『超推理』で作戦を立てる為に必要だったからな。影山くんは突然のお願いに驚いていた様だったが、その翌日には情報が記載された大量の紙の束をを大きめの段ボールに入れて持って来てくれた。

でも『2日前に10円拾ってた』とか、『一昨日の就寝時間は午後11時12分51秒』とかは流石に要らなかったけどな。てかどうやって知ったの?

 

そしてその次の日には主税くんと風間くんも呼び、適当な任務を俺の指揮の下で行って貰った。まぁ『超推理』で推理して主税くん達に犯人捕まえて貰うだけの簡単な任務だ。やっぱり頭痛がヤバい事を除けば『超推理』は偉大だな。頭痛薬が必要になるけど、『超推理』ならあんな任務は簡単に完遂出来る。もう俺じゃなくて『超推理』が任務完遂してると言っても全然過言じゃないのだよ。

だからさぁ、帰って来た時からちょくちょく見せるようになった尊敬の眼差しってヤツ?それやめて欲しいんだけど。罪悪感が半端じゃないんだよ。

 

そして残りの2日間は、『超推理』で立てた作戦の準備を行った。主税くん達に作戦を伝え、昨日の夜まで影山くんが新しい情報を持って来る度に推理して調整しつつ、全員で試験会場にこっそりと細工を施した。作戦を伝えた時何故か全員顔が引き攣ってたが、『蘭豹先生には許可は貰ったので問題ない』と伝えると納得して無さそうな表情をしつつも賛同してくれた。

因みに、あの暴力極道女教師は爆笑しながら許可をくれたよ。流石に反省文とかは書かされるみたいだが、世界が滅ぶよりマシだ。

 

 

(まぁ、やれるだけの事はやった。後は俺の頭がどれくらい保つかだよなぁ……)

 

 

この4日間推理しまくった所為か、今も頭痛がするから今日はもう出来るだけ使いたくないんだよね『超推理』。でも使わないと絶対負けるから我慢するしかない。取り敢えず始まる前に頭痛薬飲んどこ。

 

 

「改めて説明するが、今回ウチ等(教務科)が定めたお前等がやる競技は『殲滅戦(デモリション)』や。ルールはシンプル。制限時間1時間以内に、相手の班が付けたワッペンをより多く破壊した方の勝利や。ワッペンを破壊された奴は、その後の戦闘に参加する事は出来ひん。指示を出すのも禁止や。準備時間は10分。このエリア内にある物は車やろうが道具やろうが何を使っても構わん。ただし、使う弾は非殺傷弾(ゴムスタン)のみや。非殺傷言うても頭に当たれば死ぬ事もあるから注意せぇよ?」

 

 

蘭豹先生はそう言うと、各人に銃に合った非殺傷弾が入った弾箱を手渡し、俺と峰くんに『No.1』から『No.4』と書かれた色違いのワッペンを4枚ずつ渡した。俺が貰ったのは青色のワッペン。峰くんは赤色のワッペンだ。

 

 

「そのワッペンは見える所に付けとったら何処でもえぇ。脱落者が出たらウチがそれぞれのインカムに連絡したる。ただし必ず体のどっかには付けとかんと即失格にするからそのつもりでおれ。分かったらとっとと所定の位置に行って準備しとけ。ブザーが鳴れば試合開始や」

 

 

蘭豹先生はそう言うと何処かへ去って行った。まぁ、多分どっかにモニター室的な所が有るんだろう。俺も影山くん達を連れて所定の位置に向かおうとしたが、その前に峰くんに声を掛けられた。

 

 

「ゆっきー!この試合、りこりん達が勝たせて貰うからね♪」

 

「あぁ、俺達も全力でやらせて貰うさ」

 

「くふふ♪実はゆっきーがどんな戦い方するのか前々から気になってたんだ〜♪楽しみにしてるね!」

 

 

峰くんは楽しそうに手を振りながらレキくん達を連れて所定の位置に向かって行った。楽しみにしている所悪いんだが、こっちは大勢の人間の命が掛かっているので、徹底的にやらせて貰うからな。覚悟してろよ!

俺は峰くん達を見送ると、今度こそ影山くん達と所定の位置へ歩き出した。

 

 

「………あの、綾辻さん。マジでこの作戦実行するんっすか?流石にやり過ぎだと思うんすけど」

 

 

道中、影山くんがかなり心配そうな表情で俺に問い掛けて来た。まぁ、ぶっちゃけ『超推理』で推理した結果じゃなかったら俺だって思い付かなかったよこんな危ない(・・・)作戦。でも仕方ないじゃん?こうでもしないと峰くん達には絶対勝てないって。

 

 

「過去に俺の作戦より凄いものがあった。それに比べれば、非常に小規模なものだ」

 

「いやでもコレ、本当に大丈夫なのか?」

 

「下手すれば死人(・・)出るよね?」

 

 

そこはまぁ、『超推理』先生の出番だ。それに峰くん達はAランク主体のチームだし、レキくんに至ってはSランクの武偵だ。そうそう死にはしないだろ。大丈夫、行ける行ける。

 

 

「いいからさっさと準備を済ませろ。時間が迫っているぞ?」

 

「あ、はいっす!」

 

「了解した」

 

「わかった」

 

 

俺が伊達眼鏡を掛けながら準備を促すと、影山くん達は自分の銃に非殺傷弾を込めたり、制服にワッペンを付けたりと、各々の準備を済ませて行く。そして全員の準備が整い終わった丁度その時、試合開始の合図であるブザーが鳴り響いた。

 

 

「……では、始めるとしようか」

 

 

ーーー異能力『超推理』

 

 

 

 

 

 

峰理子side…

 

 

「始まったね。じゃあ、レキュは作戦通り、狙撃ポイントに向かって。いっちーはあややんと一緒に丈夫そうな車を探しに行って、あややんはその車をちょこっといい感じに改造しちゃって♪」

 

「……分かりました」

 

「はいですの〜!」

 

「はいなのだ〜!」

 

 

そう言ってレキュ達はそれぞれの行動に移った。あたしの予想だと、相手側の司令塔はゆっきーで間違いないと思う。ゆっきー達のデータを見た限り、ゆっきーさえ撃破出来れば、残りは結構楽に倒せる筈。でもレキュと同じSランクのゆっきーをそう簡単に倒せるとは思えない。だからあたしは、無理にゆっきーと戦わない事に決めた。ゆっきーと戦ってワッペンを壊される危険を冒すより、他の子達を全員倒して、後はゆっきーから逃げ回れば時間切れを狙った方が、あたし達が勝つ確率が高いもんね。

 

そこでレキュには、このエリア内で1番高いビルの屋上から狙撃して貰う事にした。レキュの絶対半径(キリングレンジ)は2051m…まぁ、今回は非殺傷のゴム弾だからだいたい1800〜1850m位になってるけど、それだけの狙撃範囲が有れば跳弾狙撃(エル・スナイプ)弾丸弾き(ビリヤード)まで出来るレキュなら、ゆっきー達に近付かれる前に狙撃出来る。向こうにも狙撃科は居るけど、動く的に当てられないらしいし、狙撃範囲もレキュよりずっと狭いから狙撃の心配はないと思う。

 

いっちーとあややんには乗り物の確保とそれの改造をお願いした。改造が終わり次第、あややんが攻撃を担当して、いっちーがエリア内を走り回ってDランクの子を探して撃破。もしゆっきーに遭遇したら、即撤退するように言っておいた。射撃の腕もかなりするらしいから、最悪車を乗り捨ててもいいとも伝えておいた。

 

最後にあたしは昨日スタート地点の物陰に隠して置いた変装用の服やウィッグで軽く変装してDランクの子を狙う。今日は4対4戦がある生徒以外は全員休校だから、人は沢山いる筈。あたしはそれに紛れてDランクの子を探して、見つけたら背後から奇襲してワッペンを破壊する。

 

これがあたしが考えた作戦!更に念の為に他にも幾つか予備の作戦を立ててある。さぁて、あたしの作戦は何処まで上手く行くかなぁ?

 

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

『……峰さん。レキです』

 

「うん?どうしたの?」

 

 

鼻唄を歌いながら武偵校の防弾制服姿から防弾繊維を使った別の服に着替え、自慢の金髪を隠す様に被った黒髪のウィッグを鏡を見て調整していると、レキュから連絡が来た。

 

 

『予定通りに狙撃ポイントのビルに到着しました。これより屋上に向かいます』

 

「お!早かったねレキュ!ゆっきー達に見つかってないよね?」

 

『はい。見つかった様子は有りません』

 

「オッケー♪じゃ、屋上に着いたらそのままゆっきー達を探して、見つけ次第報告して」

 

『分かりました』

 

 

そう言ってレキュは通信を切った。それと同時にあたしも軽くメイクでホクロとかを作る。ホントはもっと完璧に別人に変装する事だって出来るけど、ちょっと時間が掛かるから今回はこれで済ませる。

鏡を見て、短時間で済ませた割にはなかなか良い感じに変装出来てる事に満足していると、今度はいっちー達から連絡が来た。

 

 

『峰さん、丁度良さそうなトラックを見つけましたの。今ピッキングで鍵を開けてますの』

 

「りょーかい!ゆっきー達に見つからないように注意してね?」

 

『了解なのだ!』

 

『了解ですの。鍵も今開きましたので、早速平賀さんと改造を《ガチャ。ピン!カランカラン…》……へ?…わひゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!?

 

に、逃げるのだぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!

 

「え!?ちょ、何!?どうしたの!?」

 

 

突然インカムから聞こえて来た2人の悲鳴に、あたしは驚きつつも何が起きたのか聞こうとした。でも2人の返事を聞く前に、ドカン!って遠くから大きな爆発音が聞こえて来た。びっくりして爆発音のした方を向くと、いっちー達が向かった方向から黒煙が立ち昇っていた。

 

 

『はぁ…はぁ…あ、危なかったのだ…!』

 

『間一髪でしたの……』

 

「ちょ!?2人共大丈夫!?なんか爆発したけど!?」

 

 

慌てて2人の安否を確認したけど、大丈夫だったみたい。ワッペンも壊れてないらしい。多分…て言うか、絶対ゆっきーの仕業だと確信したから、いったい何があったのかを聞いてみると、あたしは自分の顔が引き攣るのを感じた。

 

 

『トラックのドアに手榴弾を使ったブービートラップが仕掛けられていたのだ……!』

 

『しかも4箱程の箱と一緒に……おそらく中身は大量の火薬ですの』

 

ゆっきーはりこりん達を殺す気なのかな!?

 

 

閃光榴弾や音響手榴弾ならまだ分かるけど、そんな殺しに来る様なトラップを仕掛けて来るなんて!流石のあたしも予想外だよ!?そんなの一般人が引っかかったらどうするの!?

 

 

『どうするのだ?他の乗り物を探すのだ?』

 

「え?う〜ん……うん、そうして。もしかしたら他の乗り物にもトラップが仕掛けられてるかもしれないから、注意してね」

 

『了解なの《バスッ!!》むぎゃっ!?』

 

『峰班、平賀文!脱落!』

 

「……え?」

 

 

インカムから聞こえた蘭豹先生からのあややんの突然な脱落報告に、あたしは一瞬何を言われたのか理解出来なかった。そしてあややんのプレートが破壊されたって理解すると、あたしは慌てていっちーと連絡をとった。

 

 

「ちょ、いっちー!?いったい何が起きたの!?何であややんが!?」

 

『狙撃ですの!爆発に気を取られて足を止めてしまっていた隙を狙われましたの!事前に注意されていましたのに!』

 

 

しまった!油断してた!トラックに仕掛けられてたブービートラップは囮!こんな試験で殺意ありまくりのトラップが作動して爆発が起これば、いくら武偵のあややん達でも動揺して足を止めるだろうし、仮にトラップに気付いたとしても、驚いて固まったりする。そして足を止めて動かなければ、ゆっきー達の狙撃手(スナイパー)は弾を当てられる!

 

 

(でも何であややん達があのトラックを狙うって分かったの?最初は偶然だと思ってたけど、狙撃手が待ち伏せしてたって事はその可能性は低い。でもあたしだってあややん達がどの乗り物を狙うかなんて指定してないし、知らなかった。やっぱり偶然?それとも……)

 

『峰さん!どうすればいいんですの!?』

 

 

インカムからいっちーの焦りを含んだ声と一緒に、弾が着弾する音とライフルの銃声が聞こえて来る。

 

 

「……レキュに狙撃してもらう!いっちー!狙撃手の場所は?」

 

『狙撃手はどうやら赤い看板のあるビルの屋上に居る様ですの!今も狙撃が続いていますの!』

 

「OK!レキュ!いっちーが居るポイントの近くにある赤い看板があるビルの屋上に狙撃手が居るの!そこから狙える?」

 

『………煙が邪魔して狙撃出来ません』

 

 

なっ!?まさかあの爆発は、煙を発生させてレキュの狙撃を妨害する為でもあったの!?だとしたら、レキュの居場所もバレてる可能性も……!

 

 

「レキュ!すぐにそこを離れて次の狙撃ポイントに移動して!そこはもうバレてると思う!」

 

『………分かりました』

 

 

レキュは近接戦闘も出来るけど、犯罪組織を1人で壊滅させちゃうゆっきーが来たら分が悪過ぎる!ここでレキュまで失うのはマズい!取り敢えずレキュは逃して、狙撃手はいっちーが惹きつけてる間にあたしが直接倒して、その後はそのままいっちーと合流して……、

 

 

『……峰さん。狙撃が止みましたの。どうやら移動したと思いますの』

 

「〜〜〜〜っ!!!」

 

 

もう!どうなってるの!?あんなに考えて立てた作戦なのに、問題が次から次へと出て来て、しかも修正しようとしたらそれも上手くいかない!全部上手く行くとは思ってなかったけど、まさか本当に何1つ作戦通りにならないなんて!

 

 

「……いっちー、今からあたしと合流して。合流地点はコンビニの裏にある立体駐車場。何処にゆっきー達が潜んでるか分からないから気を付けて来てね」

 

『了解ですの』

 

(一点差を付けられちゃったけど、まだ残り時間には十分余裕はある。ここから巻き返して行くもんね♪)

 

 

あたしは最後にサングラスを掛けて変装を終わらせると、自然な足取りでいっちーとの合流地点へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「……どうっすか?上手く出来てたっすか?」

 

『あぁ、完璧だったぜ』

 

『まさかホントに引っ掛かるなんて………流石は綾辻さんが考えた作戦だね』

 

「………ここまでは作戦(推理)通りだ。次の段階に移行するぞ。準備しておけ」

 

『了解』

 

『分かったよ』

 

「ラジャーっす!」

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー残り時間、42分52秒。



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