転生ボンボン珍道中 (りんりつ)
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2年物を発掘。
ハーメルンは初


転生したらボンボンになっていた。結構テンプレな、こう、お高く止まったお貴族様っぽい奴。父母がそんなんで、僕も態度はそういうタイプのお坊ちゃんだった。

 転生したという自覚は薄い。というか薄らとはいえ自覚したのがつい最近だ。元々の『僕』は気がついたら僕だった。何というか、ぬるっとした感じの転生。僕と『僕』は全く同じに混ざり合った部分もあるが、まだくっきりとお互いの色が残っている。

 なんとなく、自分は妙な頭のつくりをしているなとは思っていた。無意識ながら知らないはずの知識を知っていたり、存在しない音楽を口遊んだりしたこともかなりの数があったので、自覚に関しては納得の部分が大きい。それなら普通気付くだろって?いや、ちょっと待ってほしい。父の選んだ『学友』の世辞を当然のものとして受け入れ鼻を高くしながら、見え据えたその世辞の稚拙さを失笑する、ということが何の矛盾もなく同時にできていたから、僕的にはそっちの方に意識を取られて、ヤベー、もしや僕って二重人格?『精神疾患』とか言われて偏見受けそうだしボンボン的にやべーな、とか考えてたんだよ。……ボンボンはそんなこと考えねーよ?あー、、、短慮ですみません。

 

 まあつらつら精神分析しても仕方なし、短慮で鈍感、その癖態度がでけーので他人の意見とか聞けないクソ野郎の僕の覚醒の理由を話そうか。簡単に言えば、退屈していたときに災害に遭ったからだ。いや、字面酷いな、災害に退屈しのぎを見出だしたサイコバスみたいなセリフになった。言い訳を聞いて欲しい。

 僕には無意識ながらいい歳した大人になるまで育った記憶があったので、成績は十二分に優秀だった。とはいえそこまで学業に励んでいた訳でもなく精々が校内トップ、全国模試だと二桁代という所。上には上がいて、声高に誇示できるほどのものではない。

 坊々のスペックに運動神経はそこまで必要なかったので、個人競技は中の上くらい。精神年齢の高さゆえにチームプレイでは結構役に立ったから、総合的には動ける方だったんじゃなかろうか。まあ、各分野の才ある人には敵わない。

 顔も人並み、可もないが不可もない……だろう、うん。醜男ではないと思いたい。正直性格ブスの何処ぞのご令嬢型を美しい綺麗だ可愛らしいと褒めそやさねばならない立場だったから、美醜があまり解らないのだ。まあ顔面偏差値50度真ん中な平凡な顔立ちでもボンボンなのでそこそこモテる。世の中結局金だ、仲良くするようにとでも親に言われていたんだろう。

 親は結構あれなので、欲しいものはすぐ手に入った。そもそも僕は物欲があるタチではないのもあるが、『最新』と銘打って発売されるものには何故か既視感が浮かんで新鮮さを感じられなかったし。まあ今はその理由も分かったが。

 要するに、世の中が退屈だった。僕にはトップを目指す程の才能も、何かに入れ込む気力も、邁進する意思もない。可もなく不可もなく、のんびり恵まれた人生を歩んでいるだけのつまらない日常だ。僕自身も自分がどれだけ我儘なことを言っているかの自覚はあるが、思ってしまったのは事実である。

 

 そこで起きたのが…後に『第一次近界民侵攻』と言われる大災害。その日所用で『三門市』へ赴いていた僕は、確かに見たのだ。崩壊する建物、逃げ惑う人々、機械仕掛けの大きな異形……そしてそれらと戦う、『ボーダー』と名乗った集団の姿を。

 絶望的に無力の中で、人々はヒロイックに希望を見出す。なんとも見事な悲劇で、滑稽な喜劇だった。出来すぎた、あまりに素晴らしい英雄譚だった。

 生まれてから12年、退屈にさえ飽いていた僕の胸は、その『未知の物語』を前に震えたのだ。

 

 三門から帰還した僕はすぐさま父に、個人としてでもいいから支援をしたいと直談判した。そもそも三門の『悲劇』に懐柔的であった父は僕の主張に僅かながらも態度を変え、『突如現れたヒーロー達』について語れば悪い笑みで頷いた。

 父は典型的な『嫌な貴族』だが、経営者としての才覚は本物だ。いや、寧ろだからこそ、だろうか。パフォーマンスという概念を熟知している父だからこそ、『ボーダー』には金脈に通ずるところがあると考えたのだろう。

 

 直様『最大の支援者』として名乗りを上げた父により、僕の元にはいくつもの情報が届けられた。この世界への侵略者、『近界民』のこと、彼らへの唯一の攻撃打である『トリオン』を用いた武器、それの起動に必要な『トリオン器官』について。そしてこの大災害は正しく『侵略戦争』であり、僕たちの世界はは近界に対しあまりに無力だということ。『僕』の記憶でも聞いたことのない数々の事実に、僕は『僕』の存在に気がついたのだ。

 

 そして、『第一次近界民侵攻』から1年………僕がボーダーに入隊してからも一年が経っていたそうだ。え、なんて?

 



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1

ねむい


 僕はボーダーに入隊していたらしい。しかも一応戦闘員として。いや、知らんがな。

 ボーダー本部の資料室で隊員名簿をなんとなくさらっていたら、一番後ろの方にこそっと『唯我尊』の名が入っていて僕も『僕』もビビリ散らした。具体的には叫んだ。たまたま資料室に来ていたらしい忍田本部長が日本刀型トリガー『孤月』を片手に「何があった!」と飛び出してきて更に絶叫した。お騒がせしてすみません。

 ボーダーに出入りするようになってから僕個人の口座に毎月一定のお金が入るようになったのはこれか!てっきり働いた気分を味合わせてやろうと父が小遣いをくれているのかと思っていたが、どうも違ったらしい。

 とりあえず納得しかけた所で、頭の片隅から『いや、おかしいだろ!』とツッコミが入る。僕、戦闘してねぇじゃねぇか、と。その通りだ。

 僕がせっせと本部に来てしていることと言えば、専ら父の代理としての事務方である。せいぜいが唐沢営業部長や鬼怒田開発室長と予算案を詰めたり、汎用型と呼べるほどの大量生産が可能になったトリガー類についてレポートを纏めたりと、書類との睨めっこをするだけの日常だ。『我々には後がない』とか説明されたから末期の戦争みたいな状況なのかと内心怯えていたのだが、びっくりするほど平和。最近は経営が安定したからか僕が招かれる小会議の頻度も大分落ち着いてきているし、加えて父からも色々『ご褒美』を頂けた。もしかしたら父は元々ボーダーに目をつけていたのかもしれないが、それでも精力的に各所に働きかけてくれてありがたい。本当に身内には寛大な人だ。流石テンプレ上流階級パパ。

 あとすることは……開発室でトリガー開発の実験に付き合って、銃型トリガーのシミュレーションのお手伝いをする位か。とはいえ実戦でもないし、十分お手伝いの範疇だろう。隊員の数=サンプル数が少なく、平均より少し多いトリオン量があったからと協力を申し出たのは僕の方だ。シミュレーションの内容も銃型トリガーをいくつか使ってみて、使い心地を話すだけの簡単なお仕事だし。

 一応普段からいくつかトリガーは持たせられているが、僕は防衛任務どころか換装もしたことがないパンピーである。緊急時に『隊員でしょ^_^』とか言われて外に放り出されたら余裕で死ぬ。緊急脱出があるとかそういうこっちゃないのだ。

 との旨で恥も外聞もなく忍田本部長に泣きついたのだが、

 

「なら普段から防衛任務に参加してみればいいんじゃないのか?」

 

 とキョトンとされてしまった。違う、そうじゃない。僕が求めるのは僕の戦闘能力の向上ではなく人事の移動だ。

 そもそも僕が隊員ではなくスポンサーの御曹司様としてここに居る(つもりでいた)理由は戦闘員をやるのが嫌だったからである。別に入隊するだけでも情報は得られたと思うが、ボンボンの僕も一般人の『僕』もトリオン兵とかいう機械の異形にちゃんと怯える普通の感性をお持ちのお子様だ。1つ年上の某M先輩みたいにすごい形相で『ネイバーぶっころ』とかできない。……でもちょっとは戦闘員カッコいいなと憧れる気持ちも……僕もボーダー隊員だぜって自慢してみたい……ぐっ、静まれ虚栄心!

 邪気眼を封じるが如く頭を押さえてぐぬぬと唸る僕に、何を思ったか本部長が口を開いた。

「あぁそうだ、まだ正式な決定ではないんだが……ボーダーも隊員が増えてきたし、固定部隊を作りその部隊ごとにランク付をするという案が出てきていてな。今は試しに仮部隊を組んでみているところなんだ。私の弟子も隊を組もうとしているらしいんだが、難航しているらしく…それで相談なんだが、君は確か銃手だったよな?」

 

 銃手(が使うトリガーの実験にお付き合いしているだけ)です。

 

「アイツは自分と同じ攻撃手と組めるタイプじゃないから、組むなら射手か銃手が望ましいんだが……如何せん中距離型トリガーを扱う隊員はアタッカーに比べると母数が少ないし、最近だと東が考案した狙撃手に転向した者も多いからな。実践が出来る隊員はもう大半が隊を組んでしまっていて、正直手詰まりらしい」

 

 いや、それなら絶対今訓練中の方々の方が強いですって!

 

「なに、アイツは強いから大体一人でもなんとかなる。ちょっとアレな所もあるが……うん、まあそう気負わなくていい。ただ、取り敢えず隊として箔をつける為には隊員がいなければ話にならんからな…」

 そんなにお強い方の隊に入るとかお荷物確定じゃないですかヤダー。

 

「名前を貸してくれれば…、あわよくば時間があるときに任務に参加して欲しいが、それだけでいいんだ。すまない、勧誘だとか、こういったことは不慣れでな。君が色々と忙しいのはわかっているんだが、頼めないか」

 ぐ、腰が低い男前の(さっき知ったばかりだが)上司の頼み……い、いやいや見誤るな、僕は非戦闘員として……いのちだいじに……

 

「どうか慶の隊に入ってくれないか」

 

「そっ、そこまで言うなら仕方がないですね!この唯我尊を見出すとは本部長もお目が高い!」

 ……チョロいとかいうな、ボンボンは案外褒められ慣れてないんだぞ!

 

 

 

 

 と、頷いたはいいものの。

「あーっと、2+4は7、7+44で……53?」

「51ですけど??っていうか一番初めに倒したモールモッドは5体だったのにどっから2出てきたんです???」

「えっ、そうだったか?じゃあ、えーと、こっちが4だから……」

「一桁+一桁に指を使うな!!アンタ本当に高校生ですか!?」

 

 出来た上司は致命的なおバカだった。いや、戦闘は滅茶苦茶強いのだ。建物に挟み込んでの殲滅とか、使用されなくなった電線を用いての奇襲だとか、そう言ったことにはびっくりする程頭が回るのだが……如何せん、本業と言うべき学業において、そして人間として正しく営むべき日常生活において、彼は頓珍漢も良いところの残念な青年だった。

 太刀川慶。それが僕に降って湧いた上司の名前だ。

 某日。

 年始に纏める予算案を纏め終わった後、何故か最近色々と奢ってくれる唐沢さんに甘えて自動販売機のココアを飲んでいると、突然誰かに小脇に抱えられて拐われた。あまりに唐突なことに僕は呆然と買ってもらった缶から中身が溢れないよう守ることしかできなかった。唐沢さんの口が「ドナドナ」と動いていたことを僕は決して忘れないだろう。いや、助けろよ。

 

「やや小柄とは言え中学生の僕を軽々小脇に抱える筋力、断りなく持ち上げ連れされるほどの地位、唐沢さんが僕を容易く見捨てる間柄……犯人はあなただ、忍田本部長!!!僕を連れ去っても身代金は10億ぐらいしか取れませんよ!!!父上〜助けて〜!!!」

「人聞きの悪いことを言わないでくれるか!?というか10億……じゅっ!?」

「あ、本部長さん、さっきの唐沢さんのあの冷静さ見てました?滅茶苦茶面白がってる顔してましたよ。あの人間違いなく誘拐とか見慣れてますよね。元悪の組織の幹部って噂絶対本当ですよ」

「それは私も同意する。なんかいつの間にかいた感じだし」

「ひえっ、実は記憶処理とかされてるんじゃ?ボーダーのじゃなく、こう、昔のお友達にお願いして、みたいな」

「ありそうで怖いな……」

「ところで僕の状況知ってますか?胃の上をベルトで閉められて、後ろ向きに高速で進みながら小刻みに上下するアトラクションに乗ってるんですけど………オエっ、」

「吐くなよ!?ちょ、待て、今生身だから!!!っと、トイレ!」

 

 暫くお待ち下さい。

 

 うぇっぷ、酷い目にあった。吐きこそしなかったものの迫り上がってきた胃液で喉の奥がヒリヒリしている。

 今度はきちんと自分の足で歩きながら本部長に従って本部を出た所で、僕は小型の機械を手渡された。これはなんですか?トリガー?はぁ、そうですか。

 行き先は?……ほうほう、警戒区域。

 何しに行くんですか?トリオン兵狩り?なるほど、まあ警戒区域でトリガー持ったらやることは一つですよねー………。

 

「いや、防衛任務じゃないですかそれ!!!!」

「そうだが?」

「そうだが???」

 何を言っているんだこの人。親には許可を取った?いや、僕聞いてないんですが。

 頭に目一杯クエスチョンマークを浮かべながら僕が首を傾げていると、本部長はなんて事のないように言った。

 

「あれ、この間話しただろう?弟子の隊に入って欲しいと。今日はその顔合わせをだな」

「戦場で?ちょっと何言ってるか分かんないです」

「防衛任務後でもないと捕まらなくてな……。定期考査の点が酷かったらしい。最近逃げ回られてるから、お灸を据えるついでに済ませてしまおうかと」

「命が惜しいので帰らせて頂きます」

「大丈夫だ。死んでもベッドの上で目が覚めるからな」

 

神は死んだ。僕も死ぬ。本部長は爽やかな顔して鬼畜だということを僕は心に刻み付け、渡されたトリガーチップをマジマジと眺めた。

 

「あの、これの構成は…」

「あぁ、メイン・サブ両方にアステロイドのハンドガンとアサルトライフルにシールド、メインに追加でメテオラのグレネードガンが入ってる」

「せめてショットガンが欲しかった………」

「すまんな、帰ったらエンジニアに頼んで調整してくれ。次からそのトリガーチップは好きにカスタムして使っていい」

「次???」

 

 偶に防衛任務に出てくれたらいいって言ったじゃないですか!本部長の嘘つき!トリガーオン!!!…あれ、この黒いC級制服かっこいいな。

 

 

 



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2

tukareta
hennkannmenndoi


黒いコートを靡かせ照れもなく歩む本部長のメンタルに関心しながら進むこと数分。唐突に彼の持つレーダーがピコンと音を立て、次いで遠くから硬い物同士がぶつかり合う金属音が聞こえてきた。

 

「急ごう」

「へ?」

 

 戦闘の予感にブルリと身震いしたのも束の間、目の前の黒コートの姿がかき消える。いや、距離が引き離される。うん、これトリガーとかそういうのじゃなく、純粋な運動能力で置いて行かれたな。え、これ、どうすれば?あっというまにコートの裾さえ掴ませなくなった本部長に、僕は途方に暮れた。……まあ成人男性が最短距離を全力疾走した速さに僕が敵う訳もない。なんとなく金属音が聞こえる方向へ進むべく、入り組んだ住宅街の方へと持久力が持つ限りの駆け足で進む。

 …ふむ、『僕』が僕になってからはこういう住宅街に入ったことがなかったから、随分新鮮だ。人っ子一人いない警戒区域の中とはいえ、なんだか落ち着く。これがノスタルジーという奴か。実家は都市郊外にある700坪の敷地に立つ3階建の豪邸だけど。高級住宅街ですらないけど。

 そんなことを考えながらなんとなく暗い路地から外を覗いた瞬間、それが目に入った。こちらに背を向ける、二階建ての家くらいの機械仕掛けの化け物。確かバムスターとか言った、一番雑魚なやつ。

 あれ、これ、いけるんじゃないか?

 

「アサルトライフル」

 

 呼び声に従い、右手に『銃』と聞けば想像するイメージ通りの銃が生成される。少し距離が遠いが、接近すれば………って、

 

「こっち向いたっ!?ひえっ、あばばばばばば」

 

 接近とかなにそれ無理ゲー。とりあえず連射!!そして後退しつつ逃げる!!!

 家屋に当たらないようにだけ注意しながら、僕は障害物の無い道路を後ろ向きに走り出した。シミュレーションと見た目は同じ筈なのに、迫られる緊迫感は比では無い。何故だ。

 というか攻撃手用トリガーのシミュレーションは絶対にしなかった過去の自分を褒め称えたい。現実じゃあアレに斬りかかるどころか接近も出来ないお粗末な僕である。討伐なんて夢のまた夢……って、固いなコイツ!目玉か?目玉を狙えばいいのか?標準定める暇なんてありませんけど?それどころか距離を詰められているんだが。

 

「ぜぇ、ぜぇ、叫ぶの疲れた……」

 

 不意に横目にこの先がT字であることを示す交通誘導の看板が映る。利用できれば仕留められる、、、かもしれない。…まあ失敗しても緊急脱出するだけだし、うん……怖くない怖くない(自己暗示)。 アサルトライフルにセットだけ行ってからって、あれ、メイン使えな、えっもう角じゃん。やばい。どれくらいやばいっていうのかというとやばやばのやば。

 

「ああああアs、アステ、rrrロイ、ドぉおおお」

 

 9、8、7、とカウントをしながらインコースで転がり込むようにして角に入り込む。高さは丁度二階に見える物干し竿位だった筈だ。

「5、」

すぐ様その高さに標準を向け、思わず息を詰める。それから間をおかず現れた白いボディに向けて、引き金を引き、きき、あれ上手くいかな、あっ出た、連射ああああああ

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った…」

 

 ゆっくりと倒れた巨体を慌てて回避しながら、僕は飲み込んでいた空気を一気に吐き出す。致命傷…と機械に形容するのも何だが、それに当たるラストアタックは見事モールモッドの目玉を撃ち抜いていた。よくよく見聞すれば逃亡中のヤケクソの連射にも少なからず効果はあったようで、モールモッドの体にはいくつもの穴が空いている。

 ガシャン……ガシャン………

 

「ふ、はははは、や、やってやったぞ!」

 なんとなく達成感を覚えながら、僕は今更ながらに興奮し出していた。いや、だって、ボンボンだって男の子である。銃や戦いにテンションが上がるのは当然だ。

 ガシャン…ガシャン…

 

「ま、まあこの僕だし?勝利は当然って言うか?」

 膝が笑っても気にしない。

 ガシャン、ガシャン、

 

 未だにバクバク鳴り続ける心臓を落ち着かせるべく虚勢を張りつつ、僕は当たりを見回した。特に変わった点はない。ただ、異音がするだけで。ん?……異音?

ガシャン、

 

「ッ、シールド!!!」

 

 ガコンっ、という硬質な音と同時に、視界の端に写ったのは薄い刃のような……ブレード。シールドに一気にヒビが入り、やば、割れっ………

 

「あああああああああ」

 

 考えるより先に迷いなく体が逃走を選び、僕は先程来た道を一気に逆走する。半ば発狂しながらも、理性は冷静にあのトリオン兵の特徴を挙げた。自動車程のサイズ、そこそこのトリオン能力を持つ僕のシールドが割れかける程の強度のブレード…間違いない、モールモッドだ。 

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……ああああ、何で僕がこんな目に……くそぅ、シールド解除、グレネードガン!!」

 

 とりあえずこのまま嬲り殺しにされたら絶対にトラウマが生まれること間違い無しである。せめて一矢報いてやろうと、取り敢えずシールドを解除しグレネードガンを生成する。取り敢えず持てるものを全部ばらまくイメージで、僕はメテオラを撒き散らした。

 

「や、やったか?これなら…って、アッ」

 

 あっ、家屋……やべぇ。多分中に深刻なダメージはないが、見た目だけでいうと2、3棟に渡って半壊している。ここの扱いどうなんだっけ…最悪父に泣きついてどうにかしてもらうか…。

 なんて呑気なことを考えていたのが悪かっただろうか。沈黙したかに思われたモールモッドが、生き残っていた2対の腕を動かしブレードを振りかぶる。案外射程範囲長いんだな、あはは………。

 うん、これは、死んだ。

 

 

 

「陽動、ご苦労」

 

 不意にそんな言葉が聞こえ、僕は目を見開いた。

 僕が半壊させた家屋をスライスチーズのように切り裂いた刃が、次いでモールモッドを十字に刻む。昏い瞳が一瞬格子のように爛々と輝き、貪欲に次の獲物を探す。直然まで死の気配に怯えていたことも忘れ、僕はただただその青年に魅入ることしか出来なかった。

 ……プロフィールのやる気のなさそうな表情ばかり目に焼き付けていたので、一瞬誰かはわからなかったが、なるほど。僕の(推定)隊長殿は、僕が心躍らせたヒーロー達と同じ種類の人間だったらしい。

 初回ガチャからSSRを引いてしまった己の豪運に慄くこと3秒。次いで凛々しかった隊長の表情が崩れるまで2秒。本部長の怒声が響くまで…1秒。

 

「慶!!!今日という今日は逃さんぞ!!!」

「げっ、忍田さん!?」

 

 驚きの速さで隊長殿が身を翻したと思ったら、白い光となって本部の方に消えていった。な…何言ってるかわk(以下略。

 ……冗談は置いておいて。動体視力は凡人以下でも、洞察力をEXまで鍛えた僕には事後の状況を見れば大体何が起きたか察することのできるという類まれなる才能がある。ここで抑えるべき判断材料は一点、即ち孤月を振りかぶった体勢の本部長だ。

 

「さて、逃げられる前に……緊急脱出」

 

 追加:非常に不穏なセリフ。 

 ドンっ!という音とともにその姿が白い光へ変わり、先に消えていった弟子を追うように本部の方に消えていく。……控え目にいってこわい。ボーダーは確かに一種の軍隊だが、その中で育まれる師弟関係とはこうも殺伐としたものなのか。殺伐っていうか実際にやっちゃってるし。

 

「……帰るか」

 

 今緊急脱出すると面倒に巻き込まれるって僕の危険察知スキルが言ってる。とはいえこのまま勝手に早退する度胸はない。幸いさっきの鬼ごっこ(ガチ)で本部まではそこそこ距離が離れたし、歩いて行けば30分くらいはかかるだろう。




主人公が強キャラになるビジョンは見えないです
もし三雲君がA級に上がったら最弱王を争います


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3

みじかめ
って、いっしゅんみかじめにみえるよね


 

「すまんな唯我くん、手間をかけさせた」

「アッ、イエ、お気になさらず」

 

 僭越ながらお伺いしたいのですが、そちらの黒いボロ切れ(オブラートに包んだ表現)は……?

 

「ん?いや、見ての通り慶だが。生身にはなにもしてないんだが、さっきからずっとこの調子でな」

「64分割された……もうお婿に行けない……」

「アステロイドか」

 

 思わず突っ込んだ僕の声が聞こえているのかいないのか、もじゃもじゃしたボロ切れ……もとい学生服に身を包んだ隊長殿がグスグスと情けない声を上げた。

 

「物理は今回補講無いし、赤点とったっていいじゃん忍田さんの鬼……」

「せめて二桁は取れとも言ってあっただろう。数学にしたって寺島や風間に見てもらってのあの点数……まあいい、キリがないな」

「説教終わり!!?」

「そういう所だ慶」

 

 ばっと輝かせた顔を上げた隊長殿が再び沈む(物理)。いや、今の拳骨ドゴッって音しましたけど……?

 

「大丈夫かなぁ、これ……」

 

 坊ちゃんフィルターも外れ素で呟いた僕は、ハァと軽く溜息をついた。

 

 

 無事徒歩で本部への帰還を果たした僕は、ボーダーから支給された携帯電話に届いたメールの指示に従い、本部長室へと訪れていた。なんかあんまり変な物が無いまともな職場だぁ……外務・営業室ってば時々妙な物が転がってるから、余計にそう感じる。そこそこ値が張りそうなウィスキーやワインが持ち込まれていることについてはもう言及を諦めたが、鍵付きの戸棚に仕舞われた黒光りする謎の物体達に関しての疑念はつきない。あっ、これはハンドガン型のトリガーのモデル?えーと、その……すごいですね……。うん、あの人の何が苦手って、態とブツを僕に発見させる所である。

 その至極真っ当な本部長室でしたことは、精々が軽い自己紹介と防衛任務のシフト擦り合わせについてである。年末決済デスマーチではない。『まあ邪魔にはならない』との判定をありがたく頂いた僕は、どうやら隊長殿のお眼鏡に叶ったらしい。元より幽霊部員、ならぬ幽霊隊員として名義を貸すという約束だったので、まあその扱いで結構である。

 なんて呑気にしていたのが悪かったのだろうか。

 

「後の問題は新設するランク戦についてだが……」

「ランク戦?」

 

 模擬戦のことじゃねぇの?、と首を傾げる隊長殿に対し、僕は電撃でも受けたように飛び上がった。そういえばあったな、そんなの。決算書類で見た気がする。

 現在行われているランク戦は、隊長殿が言った通り模擬戦のようなものだ。各員に与えられたポイントを奪い合い、得意とするトリガーに貯めていく形式。基本が個人同士、一対一の対戦であり、ときたま三つ巴になることもあるがあくまで個人単位で行われる。

 ちなみに先日書類を見た時からの大きな変動が無ければ、少なくとも隊長殿は6000を超えたポイントを『孤月』にて所持していた筈。基本最初に配布されるポイントは1000ポイントと考えると、まさしく変態的な数の勝利を積み上げてきた訳である。

 

 一方新設されるランク戦というのは、固定隊を組む者が増えてきたために生まれたニーズに応える『団体戦』である。繰り返す、『団体戦』である。しかも基地内にて生放送される。wow、それなんて公開処刑。僕には関係ないし、既存の技術だけで安価に行える催しだし、今までだと実戦で重要になってくる連携が疎かになってる面もあるし、やっぱり『お祭り』には学生中心の隊員の意欲は上がるだろうし、なにより僕には関係ないしと安易に判子を押したツケが回ってきた。

 

「おい、慶、前に説明しただろう」

「ぼ、ぼぼぼぼ、僕は当然辞退させてもらいますよ???素人に寄ってたかって晒し上げにするつもりですか???」

「うーん、一、二回の欠員ならともかく、ランク戦自体を、というのは難しいと思うが」

 

 ましてや戦闘員が二人だからなぁ、と言いながらあり得ないくらいに隊長殿の頬を伸ばす本部長。痛みに喘ぐ抗議の声は聞き入れられそうにない。

 

「いふぁい!いふぁいっへひほははん!!」

「せめてもう一人隊員がいれば…まあ言っても仕方のないことなんだが」

「ほんふぉひ!ふひ、ほひはうはは!!」

 

 物憂げに発されたその言葉に、僕はピン!と豆電気が光る様を思い浮かべた。

 

「なるほど、もう一人隊員がいればいいんですね?」

 

 幸い記念すべき初ランク戦が行われるまで一ヵ月は猶予がある。人権団体の手配はもう少し待っていいかもしれない。

 そろそろ提出日が近づいてきた学校の課題を始めとする今月中にこなすべき仕事のリストを脳内に書き出した僕は、その最後尾に新たな文字を加え入れた。

 

 

 

 

 

「酷いじゃないか唯我君、本部長派に鞍替えするつもりかい?」

「なんのお話です???」

「いやなに、先日君が人気のない本部長室から出てきたと聞いてね」

「誘拐をそうと知っていながら見逃した場合って、幇助犯扱いになりましたっけ。少なくとも僕はそうしますね」

「あぁ、その件か」

「一切悪びれない!!!」

 

 これだから大人は!!!!

 




唐沢さんは結構主人公を可愛がってます。打てば響くし、軽く虐めても罪悪感が沸かない丁度いいウザさだし、頭の回転はそこそこ速いし、なにより水を吸うスポンジ並みに交渉スキルが成長してくので半ば弟子扱い。子供らしくない難儀な子供とも思ってる。

主人公は唐沢さんをなんか虐めてくる人だと思ってます。


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学校課題がきついのでペースダウン。ごめんなさい


 やることが大変に多い……というのは語弊があるか。正確に言うと、やり始めれば案外あっさり終わるのだが、やり始めるまでが非常に辛い。

 家を開けることが多い父母に代わり処理する家に舞い込む書類の整理や、当然学生の本分である勉学に始まり、母に続けさせられている手習いのピアノ、再来月のパーティまでに終わらせてなければいけないフランス語のレッスン、父からの課題である預けられた株式の売買、使用人の雇用の見直し等他にも様々な……あっそう言えば学校課題の範囲増えてた……やんなきゃ……後出しとかズルイでしょそんなん……学校関連のにボーダーの書類混じってるし……あーはいはい、隊員目録追加したよってあれね、うんうん、隊長の太刀川先輩に、僕に………あぁ、それとオペレーターさん?ほーん、たしかにオペレーターさんも隊員ですもんね、目録入るんだ、盲点盲点……。わ す れ て た…………(絶望)

 

「挨拶……行かなきゃ……」

 

 戦闘じゃ完全にお荷物な僕なので、せめて礼儀くらいは尽くしとかないと色々アレだろう。手ぶらで行くのもなんだし、何か手土産を持っていくか。確か土産物の高級水羊羹があった筈……あれどこやったっけ、仕方ない、爺に探して貰おう。ついでに終わらせてた書類と……一応訓練にも出るか、知らなかったとはいえ一年はすっぽかしまくってた訳だし。

 幸い下校してすぐで制服から部屋着に着替えていなかったので、このまま家を出て良いだろう。財布や携帯が入ったままの学生鞄に、既に終わらせた書類やトリガーを突っ込みドアを開ける。

 

「如何なさいましたか、尊様」

「爺、本部に行ってくる!夕食までには多分帰るが、迎えはいらない!」

「畏まりました、何かご入用で?」

「母上が買ってきた水羊羹、空いていないやつをありったけ持ってきてくれ!」

「承りました」

 

 そう言うと一礼と共にスゥっと消える爺。登場の描写がない?何を言っているんだ、爺はいつでもそこにいるだろう。だって爺は概念である(錯乱)。

 玄関口で再びぬっと現れた爺に羊羹の入った紙袋を持たされた僕は、数日ぶりに本部へと向かったのだった。

 

 

 設備案内を受けてから一年、近寄ることさえしなかったオペレータールームは、いつの間にか女の園と化していた。大半が未成年であるものの僕からすれば皆一様に『おねえさん』だし、成熟した精神をお持ちの『僕』的にも非常に居た堪れない。

 絶えず感じられる場違い感に苛まれながら、僕は目的の人物を探す……あれ……名簿表に書かれたデスクがそもそも無いんだが……

 

「え、えー、ここで僕にどうしろと?」

 

 他人に聞くという選択肢は取れない。何故なら、まず持って言っておくが僕はコミュ障だからである。

 嘘つけ、ペラッペラ話せんだろ、と思ったかもしれないが聞いてほしい。お貴族様系お坊ちゃんとして生まれ、お坊ちゃんとして育ち、お坊ちゃんとして暮らしてきた僕には発言が尊大になるというフィルターがかかっているのだ。『先輩』や『上司』など立場的に上な人ならともかく、道ゆく人に自発的に話しかけよう物なら『この僕が話しかけてやったぞありがたく思え』的な姿勢になること間違いなしである。

 コミュニティ障害とは対人関係を必要とされる場面で、他人と十分なコミュニケーションをとることができなくなるという障害のこと(Wiki調べ)。つまりどうしても高飛車になり相手を不快にさせてしまう僕はコミュ障なのであ……

 

「君さっきからここいるよねー。どした?迷子?」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

「おー、胡瓜を置かれた猫ってやつ?」

 

 唐突に背後からかけられた声に思考が遮られ、僕は体感的に1m近い跳躍を果たした。変なの、とケラケラ笑う彼女に、僕は妙な方向に捻った足を摩りながらバクバクとなる心臓を抑える。ツェ◯リジャンプとはいかないが、なかなかいい線行ったんじゃなかろうか。少なくとも自己ベストは更新である。おめでとう……って、そうじゃなくて。

 

「あー、えっと、僕はその、人を探していてだな、」

「うん」

「それで座席表の位置を探したんだが、席が無くて、その……」

 

 思わずポロポロ溢れた言葉に何やってんだ僕ー!?となりかけた束の間思わず顔を上げると、オペレーターの一人であろう少女は気にした様子もなく首を傾げる。なーんか見覚えがあるような……取り敢えず言えることは、多分この人いい人だ(確信)。

 歳の頃合いは多分僕と同じくらいだろうショートカットの可愛らしい少女はそこまで聞くと、僕の尊大な態度を気にした様子もなくにんまり笑った。

 

「困ってたの?」

「こ、困っては、いない、です……唯我たるもの、ま、まさか迷子如きで、困る、など……」

「ふ〜ん。ちなみにここ最近配置換えしたから、その表だと見つからないと思うよ〜」

「な、なぬ!?」

 

 マジか。ということは、一人一人デスクに座る顔を見て探せと?不審がられて摘み出されるのがオチでは?そんな屈辱を許容できるか?否、無理である。ついでに言えば絶対唐澤さんにも揶揄われる。あの人本当どこから『噂』聞きつけてるんだろう……。

 

「こ、ここは一時撤退を……これは敗北では……ぐぬぬ……」

 

 最悪隊室として充てがわれた部屋で出待ちする手がある。挨拶は遅れるし逃げに徹した手だしで敗北感は半端ではないが、まあ仕方がないか。と、肩を落とすと。

 

「探してるの誰?知ってる人だったら連れてったげるよ」

「え、」

 

 天使だったか?こんな関わり合い面倒そうな奴拾ってくれるとか女神様か?

 

「女神様……」

「君さっきから面白いね。それでー?」

「あ、えっと、」

 

 告げた名前に彼女は目をパチクリさせると、うん、知ってるよ〜、とのんびりした口調で頷いた。

 ……あぁ、思い出した。多分女性向け雑誌か何かに載っていたモデルの人だ。名簿で見たときも珍しい兼業をする物だと思った記憶がある。名前は、確か……

 

「小佐野、瑠衣、サン?」

「あれ、知ってたんだ」

 

 肯定の言葉に僕は軽く息を吐き、それから頭を抱えた。

 

 先輩じゃねぇか!




主人公
基本的に無意識で人を見下す姿勢がある。が、それアカンなって自覚もしてるので何某かの理由をつけて自分の中で相手を『上』に上げるという作業を行なっている。大変難儀。(例:先輩・上司・年上・自分より強い・親切・挨拶してくれる・etc……)結構ガバガバ。


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5

がっこー開始。ひゃっほー、、、


「月見さーん」

「あら、瑠衣ちゃん、と……」

 

 ツヤツヤキューティクルの黒髪をサラリと靡かせ振り向いた彼女は、上品な仕草でわずかに目を丸くした。皆さんご存知、ボーダーきっての名オペレーター、月見蓮女史である。

 

「唯我くん、よね?」

「迷子一人ごあんな〜い」

「ご、ご無沙汰してます、月見先輩……」

 

 僕が俯きながら小声になるのも致し方ないし、月見先輩から戸惑いの声が上がるのは当然だろう。何故なら僕の左手は小学生よろしく、小佐野先輩の右手と繋がっているからである。

 

「ええ、久しぶりね……仲良し、なのね?」

「いえ、さっきファーストインプレッションを果たしたばかりです」

「えー、ゆいがぽんノリ悪いよー」

「ぽ、ぽん……?」

 

 コワイ。イケイケJCコワイ。ボンボン人生初のギャル(死語)との邂逅である。未知生物の遭遇とはこうも……この……なん……なんだ?その、対処法を考えることさえ侭ならないことなのか?例えば熊と出会ったら目線を合わせたままじりじり後退するみたいな、そういうマニュアルがあって然るべきなのでは?そもそもギャルとはなんなのか?いや、そもそも小佐野先輩が小佐野先輩という一個人であるにも関わらず『ギャル』で括るのは安直なのでは……

 

「こら、瑠衣ちゃんあんまり唯我君を苛めないの」

「えー、苛めてないんだけどなー」

「それで唯我くん、私に何か用かしら」

「あっ、はい、その」

 

 が、そこはクール系女子と名高い月見先輩である。僕の中で突如展開された哲学じみた思考実験が宇宙まで到達する前に、バッサリと回路を切ってくださった。そこに痺れる、憧れるぅ!

 幸い左手も現役JCモデルの魔手から……いや、さすがに失礼か……柔肌な御手から……今度は変態臭くなるな。まあいいや、とにかく解放されたので、僕は右腕にぶら下げていた紙袋から丁重に某老舗和菓子店の包みを取り出し、それを両手で捧げ持つように手渡した。気分はさながら、ラブレターを手渡す告白の返答待ちのティーンの少女である。

 

「この度何の因果か戦闘員として固定隊に配属されることに相成りまして、せめて隊員の方にご挨拶をばと考えていたのですが……ご挨拶が遅れたこと、大変申し訳ありません!つまらない物ですが、どうぞお納め下さい!」

 

 台詞は納期が延長してしまった取引先への挨拶がイメージ。どうだ、いつだったか爺に頼んで教えてもらったきっちり90度のお辞儀はさぞ美しかろう、なんて誰へともしれずに内心で自慢する。

 

「あら、わざわざいいのに………って、この包み,結構な高級和菓子店の老舗じゃ……」

「母が土産で買ってきた物なのでお気になさらず。そこそこの量があるはずなので、オペレーターの皆さんと召し上がってください。勿論、小佐野先輩も」

「おー、いいの?ラッキー」

「そう……ならお言葉に甘えるわね」

 

 一度は軽く遠慮して、再度勧められた後は相手の意を汲んで素直に受け取る。そうして、ありがとう、と僅かに口元を緩める月見先輩の姿はまさに大和撫子そのものだ。初対面後の雑談で和菓子が好きなことは聞いていたので、やはり洋菓子にしなくてよかったな、と内心で安堵する。……屋敷にまだ残ってる父からの土産は生モノのプリンなんだよなぁ……。…最悪使用人連中に差し入れて消費しよう。

 

 その後いくつか話をしたところ、なんと月見先輩は太刀川隊長殿の幼馴染みであること、その縁あってオペレーターを請け負ったが、しばらくしたら戦術に関して磨きをかけたいのでオペレーターを外れること、後任として現在は中央オペレーターの一人である県外からのスカウト組の一人に目をつけていること、その彼女にオペレーション技術を教えていることを話してくれた。つまるところ彼女期間限定のオペレーターであるらしい。少し残念だ。

 

「短い間だけれど、オペレーターはしっかり務めるつもりよ。厳しくいくから、よろしくね」

「ングっ、……えーと、お、お手柔らかに。あ、いえ、ですがこちらこそ、僕が出来ることであればなんでも尽力させて頂きます。どうぞ宜しくお願いします」

 

 すっかりもてなされてしまった僕は淹れて貰った緑茶を啜り、持ち寄ったようかんを飲み込んでから慌てて返事をした。隣には当然のように小佐野先輩が座っている。くるみ湯餅子が美味しい?あ、これアソートパックだったんですね、お気に召したようで何よりです。

 

「月見さん、後任って国近先輩のこと?」

「えぇ」

「そっか。んー、うさみんも風間さんの所入るって言ってたし、そろそろ腰落ち着けた方がいいのかなー」

 

 むむむ、と唸る小佐野先輩。それに対して月見先輩は軽く首を傾げる。

 

「まあ由宇ちゃんが太刀川くんの所に入るのもすぐではないし、焦る必要はないと思うけれど」

「うーん、それもそうなんだけど、モデルの方が……」

「やっぱり両立って難しい物なんですか?」

「いや、単純に飽きてきたんだよねー」

 

 僕の問いがズバッと清々しいまでに切り捨てられる。あ、飽き、ま、まあそういうこともあるだろう。まだ中学生だし。うん。……ドライなギャルコワイ。

 頬杖をつきつつアンニュイに息を吐く小佐野先輩は流石モデルと言うべきか、その一瞬が実に絵になった。例え湯餅子を食んでいたとしても可憐という形容詞が外れる様子はないし、彼女は美醜観点がちょっと怪しい僕からしても美少女だと思う。というか僕、今両手に花状態では。月見先輩も小佐野先輩とは違うタイプの美少女だし……あ、なんか今一瞬氷の笑みでスパルタ教育を施す美女になっている未来が見えた。うん、こんな幼馴染がいたらあの頓珍漢な隊長殿も逆らえ無さそうだ。

 

「ボーダー一本に絞るとしても色々あるし、固定部隊についてもそうだし……やっぱりもうちょっとフラフラしてよーかな」

「瑠衣ちゃんがしたいようにすれば良いと思うわ」

「そうですね、僕もやりたいことやるのが一番だと思いますよ」

 

 我儘を押し通して進学先まで変えた僕が言うので、結構説得力はあると思う。確かに時々過労死しかけることもあるが、それ込みで今の日常にやりがいを感じているので。

 

「多少キツくてもやりたいことなら案外なんとかなる物ですよ。習い事とかだって、辞めたあと後悔しないかとか思ってましたけど、びっくりする位全然そういうのないですもん」

 

 鉄の化物を豆腐のように割いていく少年の姿なんて三門以外では見る事は出来ないだろう。その点太刀川さんのヒロイックさは僕が求めたその物なので、他がアレでも大体目を瞑れる。

 なんて長々語ったのが悪かったのだろうか。ふと思考から抜け出すと、二人がどこか驚いたような顔でこちらを見ていた。え、なんですか?隙自語乙的な?サーセン!!!

 

「な、なーんて!まあ僕の話ですし参考にはならないと思いますけどね?なにせ僕の数有る才能には類稀なる先見の明も含まれますし?後悔なんてしないのは当然なんですけど?」

「唯我くん?」

 

 アッ、死……。テンパって更に妙なことを口走るのも、立派なコミュ障の特徴である。黙り込むだけが症状じゃないんだ!みんなも雄弁だからってコミュ障騙り乙ーとか思っちゃいけないぞ!お兄さんと約束だ!(白目)

 

「そっ、そろそろガンナーの合同演習があるので失礼しますね!短い間でも、よろしくお願いしますっ!!!」

 

 ごめんなさい、嘘です!!!ホントは演習まであと1時間弱はあります!!!

 とはいえ居た堪れなさがキャパシティオーバーした僕は、情けなくもオペレーションルームから尻尾を丸めて逃げ出したのであった。

 

 

「やっぱゆいがぽん、おもしろーい」

「そうね……不思議な子ね」

 

 




敗走


{先見}の部分を誤字ってたので修正しました。もしほかに見つけたら教えてください


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6

atukunattekita


 ガンナー合同演習…と言っても、確立され始めたスナイパーのそれとは違い、実質実験のようなものである。つまり実戦に生きるかと聞かれれば、そうでもない。とはいえ一応義務は義務なので、出来る限り出たい所存だ。トリガー技術の進歩は戦力増強に直結するし。

 ボーダーのトリガーは元々近界民の技術を流用して汎用型に落とし込んだ物なので、銃のような複雑な構造のトリガーはその調整が難しい。スナイパーの場合は運用方だの人員だの技術だのがまだ追いついていないのでともかくとして、自由度を増したポジションであるシューターと切り離されたガンナーは、その影響を諸に受けるのだ。

 例えば僕が愛用している散弾銃は、未だ調整が行われている。僕はテンパった時にぶっ放せば大体の敵は死ぬこのトリガーが大好きなのだが、如何せん漏れなく使用者が死ぬという唯一にして最大の問題点がある為、結構開発室には通い詰めだったりもする。

 アタッカー用トリガー・孤月なんかは理想的な構造を極めたシンプルなトリガーなので、弄っちゃうのは逆によろしくないようだが。故にアタッカーの戦闘力は使い手の技量に比例し、結果として隊長殿みたいな53万の怪物が生まれるのである。最近はオプショントリガーとかいう、孤月の機能を拡張するようなトリガーが開発されているらしい。正に鬼に金棒。

 閑話休題。

 

「あれ、唯我くんじゃん。お久〜」

「ひぇっ」

 

 メーデーメーデー。最高警戒対象確認。撤退を推奨。

 開けたばかりのシミュレーションルームの扉を閉めようとした瞬間、ガッと反対側の取っ手が掴まれる。だよね、知ってた。

 

「ちょちょちょ!?いきなり閉めることなくない!?おれなんかしたっけ??」

「ごめんなさいごめんなさい見逃して下さいお願いします」

「やめて!!外聞が!!悪い!!!」

 

 半開きの扉がグイッと開かれ、そのまま中に引き釣り込まれる。バタン!と扉が閉まる音を聞きながら、僕は暗澹たる気分で真っ白な天井を見上げた。爺、ここまで育ててくれたのにごめんなさい。コンクリ詰になって僕が見つかっても、どうか悲しまないで……。

 

「お前の中でおれの評価どうなってんの!?ヤクザか何か!?」

「つ、ついに心の声まで読めるようになったんですか……?」

「普通に口から出てたけど!?」

 

 ゼェゼェ荒く息を吐く青年と、ぺったり床に尻をついてカタカタ震える僕。うーん惨事。

 

「一つ言わせてもらえるなら、ヤクザと迅さんだったら迅さんの方が恐いです」

「お前神経太いのか細いのか良くわかんないよね」

「怯えもしますし逃げもしますが、僕は自分があるがままに生きたいので」

「その格好じゃなかったらきっとかっこよかった」

 

 ほら、と差し伸ばされた手をたっぷり5秒見つめたあと、僕は怖々とその手を握って立ち上がる。とりあえず直ぐには殺されなさそうだ。

 

「そ、それで、なんの御用でしょうか」

「警戒されてるなぁ……たまたま会ったんだよ、たまたま」

「そうですね、『たまたま』僕にあったんですよね」

「あー……」

 

 青年……自称実力派エリート・迅悠一はパチクリと目を瞬かせて、それから考えるように息を吐く。僕はその、軽い言動の隙間に垣間見える何かが苦手だ。だって怖いもん。

 

「お前、馬鹿っぽいけど結構賢いよね」

「なんで僕ディスられてるんですか???」

「褒めてる褒めてる」

 

 そんな賢い唯我くんにアドバイス、と前置きが置かれて。

 

「新入隊員の演習場見に行ってみるといいよ。お眼鏡に叶う子が居るかもね」

「お眼鏡…?僕の戦闘能力クソ雑魚なこと知ってて言ってます?」

「でも太刀川さんに紹介するのに、テキトーな子は連れて行けないでしょ?」

「もう話回ってるんですか」

「いや、これから忍田さんに聞く予定……」

 

 主語と繋ぎの言葉がなさ過ぎてなに言ってんのか分からない感じの会話だが、何を言っているのかが分かるのが不思議。まあ、それもこれも全て。

 

「って、おれのサイドエフェクトが言ってる」

 

 この一言で片付いてしまうのが彼だ。

 サイドエフェクトとは、高いトリオン能力を持つ人間に稀に発現する特殊能力である……らしい。というのも、ここら辺の面に関してはあまりにサンプルが少な過ぎ、また発現する能力も多方面に渡るため、まだまだ研究が進んでいないのだ。

 取り敢えず言えるのは、あくまでサイドエフェクトは人間の能力の延長線上のものだということ。 その、筈なのだが。

 

「……迅さん本当に人間ですか?」

「人間だけど!?」

 

 いや、人間の能力のどこをどう強化したら『未来視』なんてトンデモ能力が生まれるのか。なんとなく状況を見て先読みする位なら誰でも出来るが、この人のサイドエフェクトは『知らないこと』を『知る』ことが出来るのである。どうしてそぉなるの?訳が分からないよ。それにこの人何千じゃ足りない未来を見てる筈だし、いくら人間の脳の寿命は肉体の数倍だといっても、使いすぎると海馬とか不味いんじゃ……アー知らない知らない。

 そういうのを考えすぎると世界の心理に触れちゃう感じがするので、賢い唯我くんはそこで思考を停止します。こういう系統に関しては『前』に軽く齧ったくらいだし、ソースも覚えてないし、まあ、ともかくそこは重要じゃないのだ。

 新入隊員の、演習場。ふむ、青田買いという奴だろうか。

 

「…助言、ありがとうございます。お陰で回避できそうです」

「いや、それは無理だけど」

「はい?」

「何がどうあってもランク戦には出るっぽいけど」

「はい???」

「それじゃ、演習頑張れ少年よ。太刀川さんによろしく言っといて」

 

 ?????………??!?!??

 

「はー!?!?!!?」

 

 ヒラリ、と手を振って去っていくその背中に、僕は思い切り叫び声を投げつけた。

 

 

 

 

 

 




実力派エリート
ライバルの隊が結成される未来が見えたのでちょっかいをかけに来た。主人公は妙に聡いから扱い難いけど、直接指示すると素直に(ビビって)従ってくれるので割と会いにくる。その度に主人公が泣く。主人公の『ヒーロー好き好き病』もなんとなく把握してるが、理解はイマイチできない模様。

主人公
アイデアロールとか読解力が異常に高い。迅さん(未来視)とか唐沢さん(同じくアイデアロールが高い)とか父上(やべー)とかと話してる時の会話は、側からだと完全に意味不明に聞こえる。察しの良さも商売には大切。
迅さんはヒーローじゃない。多分、もっと別な、、、まあいっか



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夏休みなので、頻度があがる、かも?


「人権団体……弁護士………」

 

 動き回るトリオン兵のホログラムにハンドガンを向けて引き金を引くと、やや下降気味の直線が見事その目を射抜く。ふむ、まあ、結構いい線いってるだろう。

 

「ランク戦……形式……いや、穴なんか作んないよう考えたんだよな……となると、日程……?駄目だ、それは露骨すぎる……」

 

 やっぱり防衛任務に出るようになってから、多少はトリガーの扱いに慣れてきた気がする。射程や精度という意味では訓練も結構生かせているし、まあそこそこ戦えるようになってきたのではないだろうか。

 

「やっぱり辞退……ぐー、しかし、それも………」

「なーにシケたツラしてんだ?」

「いえ、大したことじゃ………ヒェッ!?」

 

 声をかけられたので、独り言が漏れていたかと反省しながら僕は隣で訓練していた彼に顔を向けた。が、目に入った紛うこと無き金髪ヤンキーにとりあえず反射的に財布が入っているポケットに手を突っ込み、それからトリオン体であることを思い出して絶望した。

 

 

「ゴメンナサイ今手持チナイデスユルシテ」

「ハァ?……って、ちげーわ!!!カツアゲじゃねぇよ!!!」

「えっ……

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、諏訪先輩でしたか」

 

「『なんだ』ってなんだよオイ!!!」

 

 唾を飛ばす勢いで叫んだ彼を尻目にほっと一息つくと、大ぶりな動作で頭を叩かれた。が、全然痛くない。優しい……。

 

 

 

 とりあえず僕のシミュレーションルームの持ち時間一杯諏訪先輩に謝り倒した後、外の自販機前で財布を取り出すと、もう一回しばかれて逆にココアを買ってもらってしまった。

 というか、唐沢さん(いつもの)然り、忍田さん(書類と一緒に時々持ってきてくれる)然り、城戸さん(一度会議にお呼ばれした後玄関前で行き合った)然り、なんか皆ココア奢ってくれる気がする。なんだろう、好物と思われているのだろうか。僕、どっちかって言うとブラックコーヒーの方が好きなのだが。

 とはいえ買ってもらったものに文句を言うほど常識知らずでもないので、僕はプルタブを開けて一口ココアを飲んだ。嫌味なくらいに甘ったるい味だ。

 

「…まあ、嫌いじゃあないですけど」

「お前失礼だな!?」

「うげっ!?えっ、あっ、声出てましたか!?い、いや、別に砂糖に頼り切ったチープな味とか思ってませ、あべしっ!!!」

「さらに失礼だわ阿呆!ったく、これだから舌の肥えた奴は…」

 

 ぶつくさ言いながらわしゃわしゃ頭を撫ぜられて、一応軽くワックスで整えた髪がぐしゃぐしゃになる。やめて下さいよ、と抗議するも聞き届けられる見込みはなさそうだ。

 諏訪先輩は確か、今年で18才だったか。まあ当然力で叶うはずもないので大人しくされるがままになっていると、不意に諏訪さんの手が止まった。

 

「諏訪さん?」

「あー、唯我、お前、正式に戦闘員になったらしいじゃねえか」

「驚異的すぎる速度で情報が拡散されてるんですけども、それどこ情報ですか?」

「迅に聞いた。演習の前に出くわしてな」

「人間スピーカーかあの人は……!」

 

 あの実力派エリートめ……!

 

「えっと、まあ、そうですね。正確にいえば、入隊はとっくの昔にしてたんですけど、発覚したのがこの間で」

「で、太刀川に捕まった訳か。お前、運悪いなァ」

「最近凄く実感してるところですよホント……でもまあ、5割は確実に謀略によるものですし……」

 

 いや、6割、8割……下手すると完全にあの暗躍系な先輩の掌の上で踊っている可能性も無きにしもあらず。ボソボソ呟いていると、諏訪さんが妙に凪いだ声で言った。

 

「別に俺は、投げてもいいと思うぜ」

 

 心の底から僕を案じた言葉だった。

 

「雷蔵……あー、寺島って分かるか?元アタッカーの」

「あぁ、はい。開発室に移った人ですよね」

 

 しかも彼はランカーとしてトップを争うほどの孤月の名手だった。当然というべきか、突然のエンジニア転身には圧力を掛けるべきなんて話もあったらしい。まあ僕は人事に関してはノータッチなので、詳しいことは知らないが。

 ……あぁ、そういえば、そうか。彼も18才だったか。

 

「そう、そいつ。で、それなんだが……アイツさ、強かったんだよ」

「はい、そうだったみたいですね」

「でもまあ、アタッカー辞めたんだよな。新しいトリガー作りたいとかも言ってたが……」

 

 それだけじゃねぇんじゃねぇかと思ってる。

 諏訪先輩はそう言って、微糖のコーヒーを傾ける。なんというか、煙草が似合いそうな人だ。男子高校生だけど。

 

「俺は正直、あんまり強い方じゃねぇ」

「そんなことは……」

「いや、弱くはないことも分かってるぜ?でもまあ寺島もそうだし、風間とか、木崎とか……お前の隊長とかに比べちまうと、なあ?」

「……戦闘力という面においてなら、まあ、そうでしょうね。トリガー量だけじゃなく、彼らには才能がある。データで起こせるような、純然たる実力がありますから」

「……お前のそういう所好きだぜ」

「ありがとうございます」

 

 まあ諏訪先輩は、気休めにもならない慰めを求める人じゃないと知っているので。

 まあでも、諏訪先輩の真骨頂はそこじゃないと思うのだが……まあ、今はそういうことを話している訳じゃないことは分かるので、大人しく口を閉じる。

 

「あー、要するにだな。強くないからこそわかることもあると思ってる。で、その見解から言うと」

「はい」

「お前、向いてねぇよ」

「でしょうね」

「おう……って、はァ!?」

 

 流石、とってもいい反応で。でも正直、とてつもなく悪い柄と正反対に面倒見がいいこの先輩が、こう言うことを言ってくれるのは分かっていた。

 

「だって僕、戦うのめちゃくちゃ怖いですもん。初めて防衛任務した時とか、ずっと叫んでましたし。これで自分が向いてるって思い込める程、僕は近界民を憎んでるわけでもないですし」

「……そうだな、そういやお前そういうこと普通に言う奴だったわ。チックショー、無駄に要らん気回しちまったじゃねぇか」

「僕も諏訪先輩がそう言うこと気にしてくれるだろうな〜っていうの分かってたので、なんとなく会話シミュレーションしたんですよ。多分、高ランクアタッカーでも止めるような戦闘員なんて才能ない僕じゃ適正ねえよ、やめとけよ…みたいな話ですよね?あとは、僕は事務方って言う才能活かせる場所があるんだから、戦闘職なんてつかなくても皆僕を認めてくれてる、とか?」

 

「うっわ俺が言おうとしてたことまんまじゃねぇか。え、クッソ恥ずかしいんだが」

「諏訪先輩は優しいので、思考の先読みがしやすいんですよね」

「お?なんだ喧嘩売ってんのか?言外に単細胞っつってるよなそれ」

 

 いやいやまさか、そんなことは。喧嘩なんて取り扱ってさえいませんよ、やだなあ。

 とはいえ、なんと説明するか。ああ、でも、そのまま話せばいいか。この先輩は、僕の意思を尊重してくれる人だ。

 

「戦闘員になったのは、趣味です」

「趣味?」

「僕がボーダーに入りたい〜って父上に駄々捏ねたのは、何を隠そうトリオン兵と戦ってる『ヒーロー』たちを見たくて、あわよくば支援したかったからなんですよ。ほら、休日の朝9時からやってる戦隊モノあるでしょう?あんな感じ」

「……そう考えりゃ、戦闘員は特等席だろうな」

「そうなんです!」

 

 あ、でもこれ、内緒にしててください。本気の本気で戦ってる人からすれば、僕の動機なんて巫山戯たものでしかない。

 

 そう付け加えれば、諏訪先輩は呆れたようにため息を吐いた後、缶コーヒーを煽って飲み干す。あぁ、やっぱり。許してくれた。

 

「まあ、無理はすんなよ」

「先輩こそ、あまり気負いすぎない方が良いと思いますよ。って、先輩に甘えてる僕が言えたことじゃないんですけど」

「分かっててやってんのがタチ悪ィんだよな、お前。そう言う所だぞ」

 

 諏訪先輩がもう一度、僕の頭を撫で回す。乱暴ながら今度は優しさを感じさせる手つきに、僕も内心で『そういうところだ』と言い返した。

 

 

 

 

 

「てかお前、未だに俺見ると取り敢えず怯えんのなんなんだ?」

 

「金髪=ヤンキーの等式が僕の中だと成り立ってるんですよ。だから諏訪先輩は一度ヤンキーにカテゴライズされた後、諏訪先輩orそれ以外に割り振られるわけですね」

 

「てめーの頭はコンピューターか。待て、取り敢えず俺をヤンキー扱いすんな!顔見ろ!」




主人公
諏訪さん好き。常識人だし、面倒見いいし、『ヒーロー』なので

試験的にですが、コメントログインしてない人からも受け取れるようにしました。できるだけ全部に返信したいので、コメント数で対応できるかどうか見ようと思ってます。


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