デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話 (平々凡々侍)
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【仮面ライダーバルデル】
ある男の災難《デイブレイク》


以前に書いて、色々あって消しちゃった作品をまた書き直したものです。※意味不明な文章だらけです。ご注意ください。

今回はプロローグ的な話になります。
それではどうぞ。


 ×月×日×曜日

 

(唐突に)話をしよう。

 あれは今から三十六万…いや一週間前だったか。まあいい(諦め)

 

 ーーデイブレイク。

 それはいつもと変わらぬ一日。日常の中で突然起こった。

 ヒューマギアという高度な人工知能が暴走し、ヒューマギア工場並びにヒューマギア運用実験都市は甚大な被害を受け廃墟と化した。

 ヒューマギアの開発を担っていた飛電インテリジェンス曰く、ヒューマギア工場の整備ミスが原因で爆発事故が起こった……ということらしい。

 

 なんでそんな話をしたかって?

 HAHAHA、聞いてくれよジョン。

 実は俺、このデイブレイクの被害者なんだ。

 笑い事じゃない?だからどうした?って思うかもしれないが俺の自分語りにもう暫し付き合ってくれると嬉しい。

 

 デイブレイクが起こった日。

 俺は朝起きて街を歩いてたら急に爆風に襲われ、コンクリに頭からぶっ倒れ、挙げ句の果てには立ち上がったら何故かヒューマギアらしきもの複数に追われるというリアル逃走中をして、結局追いつかれて硬いパンチを喰らい意識を失い奇跡的に死なず病院送り……なんということでしょう(絶望)

 不幸の連続コンボに俺の心と体は多大なダメージを受けた。特に体の方は物理的なダメージがやばかった。具体的に言うと骨がボキバキと……なんか思い出して体痛くなってきたからこの話やめようか。

 

「不幸……いや、災難だ……」

 

 就活中だった俺は病室のベッドの上、まともに動く頭で部屋の天井を見上げながら呟いた。一体俺が何をしたというのだろうか? こんな災難に見舞われるほどに悪い事をした覚えなど断じて無い。日頃の行いも良くも悪くも平凡だと自負している(謎のドヤ顔)

 

 やばい俺の人生早速\(^o^)/かもしれない。これも全部ヒューマギアってやつの仕業なんだ!(錯乱)

 神様(又は世界)は俺の事をさぞ嫌っているらしい。まあ俺は災難だったが幸い家族は俺以外皆旅行中でデイブレイクが起こった街、通称デイブレイクタウンには居なかったので誰一人被害に遭わなかった。それだけはまじで喜ばしい。正直旅行俺も行けばよかったと今更ながらに超後悔してる。

 

 

 

 

×月×日×曜日

『12:30』

 

(これからどうするか……)

 

 デイブレイクの被害に遭ってから一週間後。

 初日に比べれば体もそこそこ回復し、割と自由に動かせるようになってきたある日。俺は滅茶苦茶になった自分の「これから」について考えながら病室の窓から見える景色をいつも通りぼーっと眺めていた。

 

 ドクターから聞いた話では俺の入院生活はあとちょうど一月だという。あと後遺症も残らないとか。我ながら中々に丈夫な身体してんなと思ったね。改めて親には感謝した。健康な身体で産んでくれてありがとう、頼むから旅行俺も連れて行ってください(懇願)

 

 そんな事を思っていると俺の病室(個室)のドアがコンコンコンとノックされる音がした。あれ? 今日は家族(みんな)さっきお見舞いに来たばっかりなんだが……ドクターか? はたまた友達? だったら事前に連絡の一つぐらいしてくれてもよくない?

 

「どうぞー……」

「失礼」

「すいません。部屋間違ってませんか?」

 

 病室に入ってきた人物を俺は思わず二度見した。

 誰だこのイケメン!? 俺の知り合いにこんなイケメンは断じていない。つうか何その真っ白コーデ? もしかして最近の流行り?

 というか何そのケース……あーアタッシュケースってやつか。大金入ってそう(安直)

 

「間違ってませんよ。ここは天本(あまもと) 太陽(たいよう)さんの病室でしょう?」

「確かに俺は天本 太陽ですけど……もしかしてどこかでお会いしたことありましたっけ?」

 

 如何にも金持ちで自信家っぽい男は俺の問いを聞いてふっと笑う。

 

「いいえ初対面ですよ。はじめまして太陽君。私は…こういうものです」

「おぉう…これはご丁寧にどうも……」

 

 謎のイケメンが差し出してきた紙の名刺を俺は受け取り、いきなりファーストネーム呼びって凄いなこの人! 今時紙の名刺って珍しいなぁ〜とか思いつつ名刺に目を落とす。【ZAIA ENTERPRISE JAPAN 代表取締役社長 天津 垓】……えっ?

 

「えッ! しゃ、社長!? こんなに若そうなのに!? え、天津さん歳お幾つですか?」

「ふふ、予想通りのリアクションをありがとう。私は永遠の24歳です」

 

 アイドルかよお前っ!?

 ドヤ顔でアイドルみたいな発言をする天津さんに俺は内心ツッコミしてしまった。というかこいつ変じーーじゃなくて、なんか個性的な人ですね(苦笑)

 

「それであのー、天津さんみたいな俺にとっては雲の上的なお人が俺なんかに何用ですかね? 見ての通り俺今こんな状態なんですけど……」

 

 まだギプスの取れてない右足をプラプラ動かして「まだ入院中なんですけど」とアピールしてみる俺に、天津さんは知ってますよと頷く。

 

「私がここに来たのはデイブレイクの被害者であり、貴重な生存者の一人である君に聞きたいことがあったからですよ」

「あ、あーそういう……」

 

 またそういう類の人か(ため息)

 実はそういう人、俺が意識取り戻した日とかにも来たんだよ。「デイブレイクについて聞かせてください」って記者さん達が沢山な。プライバシーどうなってんでしょうね?

 別に俺デイブレイク被害者といってもあれだから。

 実際運悪く逃げ遅れて運悪くヒューマギアに頭ぶっ叩かれて、目が覚めたら病室だからさ。一週間前に飛電インテリジェンスの社長さんが「誠に申し訳ない!」って深々と頭下げて来たんだけどそういうのいいから! 俺なんかに謝罪しなくていいから! 他の人に深々と謝罪してあげてくれ。別に俺デイブレイクで家族失ったりしてないし……まぁ人生設計は粉々にされたけどもね?

 あ、あとこれからも頑張ってください応援してます! ド◯えもんが出来るの楽しみにしてます!

 

「単刀直入に答えてください。君はヒューマギアをどう思う?」

「どう思う、とは?」

 

 曖昧な質問に俺は首を傾げる。

 

「そのままですよ。好きか嫌いか。ヒューマギアについて、今の君が抱くイメージを聞かせてもらいたい」

「んー……そうですねー」

 

 天津さんの言葉に俺は暫し考える。

 記者さんにも聞かれた質問に似たものがあったけど、その時は「あー頭が急に痛くなってきた(棒)」とか適当言って躱してきたからな……ここでそれしてもいいけど、凄くシリアスな雰囲気だしここは空気読んで正直に答えるとしますか。

 

「好きか嫌いかで言われたら4:6ですかね」

「4:6?」

「好きって気持ちが4で、嫌い……というよりは苦手って気持ちが6ってことです」

「……君はデイブレイクの被害者であり、暴走したヒューマギアにも追われた…そう私は聞いている。そんな君なら0:10でも何らおかしくはないと思うが」

「そうですね……俺のヒューマギアに対する最初の好き嫌いの評価は8:2ぐらいだったんです」

「それはまた……何故?」

「どうしてってそりゃ浪漫あるじゃないですか。人工知能、AIって。アニメやドラマの中だけの話だったことが現実になるんですよ? めっちゃワクワクしませんか? だから期待(好き)が8、それで不安(嫌い)はちょっとあって2だったんです。映画の話ですけど人工知能が暴走して人を襲うって結構SFにありがちでしょ?」

「それが今は4:6、と」

「…まぁしょうがなくないですか? 実際命とられそうになりましたし……若干トラウマになっちゃったんですよねヒューマギア。今の俺の中じゃヒューマギアに対する評価は期待より不安が上回っちゃったわけです」

 

 あんな被害に遭って命まで落としかけた。

 それで尚ヒューマギアに好印象を抱けるか?と聞かれたら当然NOだ。そこまで俺は馬鹿じゃないし聖人じゃない。

 

「なるほど。……最後に一つ聞かせてほしい。

 ーー君はヒューマギアを憎んでいるかい?

「そんなの聞いてどうす……わかりました。答えますよ」

 

 そんなの聞いてどうするんだ?

 と口にしようとしたが天津さんの真剣で鋭い眼光を受けて、俺は仕方なく言った。

 

「以前よりも嫌いにはなりましたけど、憎んではいませんよ」

「それは……些か理解に苦しみますね」

「だったら無理に理解しようとしないでいいですよ? 家族にも言われましたから。『頭のネジ飛んでない?』って」

「嫌いにはなったが憎んでいない。期待より不安が上回っている……太陽君。君はまだヒューマギアに期待しているのですか?」

「質問責めですか……期待はしてますよ。前に謝りに来た飛電の社長さんが言ってましたから。『ヒューマギアは人間の最高のパートナー』になるって。正直謝罪しに来たのか宣伝しに来たのかわかんなくなりましたけど」

「飛電是之助……」

「聞きたいことはもうないですか? だったら俺、診察時間なんで失礼しますよ」

 

 体を起こし、ベッドの横に立てかけてあった松葉杖に手を伸ばしながらそう口にすると、

 

「……はい、十分ですよ。ありがとう太陽君。貴重な生存者の声を生で聞けてよかった。……これは私からのお詫びの品だ。お大事に、では失礼」

 

 天津さんは満足したのかさっきから手に持っていたアタッシュケースをベッドの近くに置くとすぐに病室を出て行った。本当にびっくりするぐらいすぐに。

 

「え、ちょっ!? 天津さぁーん!? これ何ぃっ!? おーい!」

 

 置かれたアタッシュケースに松葉杖を向けて困惑する俺に天津さんは何も答えてくれなかった。

 

 ていうかお詫びって……あぁそうか。

 

「ZAIAも確か参入してたんだっけ……お詫びって、あの人一言も謝らなかったよな……? 別に謝ってほしい訳じゃないからいいけどさ」

 

 ヒューマギア運用実験都市計画。

 通信衛星打ち上げプロジェクト。

 飛電インテリジェンスの社長さんは整備ミスが原因の爆破事故、そう説明していたけど……はてさて。

 

(本当は何があったのかね?)

 

 目を赤く発光させ「コロス」「ニンゲン」「ゼツメツ」と言っていた暴走したヒューマギア達の姿を思い出す。あれは完全に殺戮マシンだったな。……なんで俺が生き残れたのか不思議でしょうがない。俺はまた外に目を向けた。

 

ーー俺は生きてるからいーけどさ

 

 デイブレイクで亡くなった人。

 その人の友達や家族はきっとヒューマギアを憎む。実際にヒューマギアに命を奪われそうになった人ならば尚更だ。でも、

 

『誠にっ……誠に申し訳ございません! 全ては我々の責任ですッ! ですが、ですがどうか! ヒューマギアを信じてはくださいませんか? 私がこんなことを言える立場ではないことは分かっています、ですがきっと! ヒューマギアは人間の最高のパートナーに必ずや成り得ます!』

 

 言っていることは滅茶苦茶だが。

 大企業の社長が頭を深々と下げて、涙ながらに訴えてきた言葉は俺の胸に結構響いたんだわ。

 

「信じてるよ。飛電の社長さん」

 

 あんたの作るヒューマギアが、いつか人間を支える最高のパートナーに……明るい未来を作る一因になることを信じて祈っておきます。

 

「それにしても暇で暇でしょうがねーなー」

 

 松葉杖をついて診察室に向かう途中で俺は思わず愚痴った。




最後まで読んでいただきありがとうございました!


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ある男の退院

多分これからのタイトルは毎回「ある男の〜」って感じになると思います。

というか今回のゼロワン情報量が多かったですね…見てて「ショットライザーって許可さえあれば誰でも変身できるわけじゃないんだ!?え、チップ? 改造人間じゃん」とか思ってました。
それでは、どうぞ!



 

「バカ(にい)早く早く!」

 

 足早に俺の先を行き、めっちゃ急かしてくる少女。

 お前俺が今日退院初日の人間だと知っての言動がそれか?全く、どうかしてるぜ……!

 

「はぁー、少しは退院初日の兄の体を気遣ってくれんか? バカ妹よ」

 

 一応説明しとくか。

 この少女は俺のバカ妹…名前は天本(あまもと) 美月(みつき)。元気なのが取り柄で、ときどき辛辣な事を言い放つ恐ろしい女だ。美月という名前に名前負けしてないぐらいにルックスは良いのだが、如何せん落ち着きというか…お淑やかさが足りてないのが一番の欠点だと俺は勝手に思ってたりする。

 

 まぁ口に出したら「まじきもい」とこちらの心を容赦なく折ってくるので絶対本人には言わんけど。

 

「やだよー! だって気遣ったら気遣ったで(にい)『気持ち悪っ……!』とか言うでしょ?」

「そりゃ勿論」

「ほらぁ〜!」

「あー騒ぐな騒ぐな。まだ病院の中だからー。他の人に迷惑だからー」

 

 駄目だからー!

 病院で騒いじゃ駄目だからー!

 やだよ俺?退院した日にドクターに叱られるとか。

 

「はいはいごめんなさーい。ほら早く出るよバカ(にい)!」

「おまっごめんなさいとか絶対思ってなーーわーった、わーったから腕を引っ張るの止めろや」

 

 俺の腕を引っ張って病院出入り口を進んでいく美月に俺はうんざりな反応を示す。内心、今まで入院していたので久々の妹とのやり取りに若干嬉しかったり……やっぱ何でもないわ(羞恥)

 

「さ、じゃあ家に帰ろっかバカ(にい)

「だな。……つうかメールで聞き忘れたんだけど、何で退院の迎えが美月なんだよ? 母さんは?」

「母さんは私を病院近くに下ろしてすぐドライブ行ったよー」

「まじとんでもねぇなうちの母親」

 

 息子の退院日にドライブ!?

 どんなサプライズだよ全然嬉しくねーわ!

 いやサプライズって別に俺なんもしてもらってないから嬉しいとか思う以前の話だったわ。

 

「そんなの今更でしょー」

「確かに……!」

 

 美月の言葉に納得しつつ俺たちは帰路を歩く。

 

 その間、何気ない会話をしていたのだが…当然我が妹はまずそれについてツッコミを入れた。

 

「というか何そのケース?」

「……永遠の24歳を自称する謎の社長から貰った」

「何それめっちゃ怪しいじゃん!? 早く捨てた方が良くない?」

 

 ほう…(謎の上から目線)

 我が妹ながら実に常識的な意見だぁ…(感嘆)

 

「それな」

 

 ーーとりあえず俺は相槌を打った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ただいまあ〜!」

「ただいまー」

 

 と言っても今家に誰も居ないんですけどね。

 父さんは会社勤め、母さんはドライブ(何故?)

 でも「ただいま」ってあれだから。俺的には「いただきます」と同じでもう癖と化してるからね。家帰ってきたらとりま言っちゃうよね「ただいま」。

 

「どうよバカ(にい)〜久々のうちは。やっぱりほっとしたりするもん?」

「まぁそうだな……久々っつっても大体一ヶ月ちょいだけどな」

「それもそっかぁー……あ、バカ(にい)! 言うの一瞬忘れたけど…おかえり!」

「…あぁ。ただいま美月」

「うんっ! ……あ、就活頑張ってね!」

「突然ガチな発言すなぁ!」

 

 正直言って不安しかねぇよ就活!

 これも全部デイブレイクが……くそぉ!

 まだどんな仕事したいかとかさえ決めれてないんだが…大丈夫かなこれぇ?

 

 靴を脱ぎ家に入る俺。

 美月はポケットからスマホを取り出し、ちらりと時間を確認すると今さっき通ったばかりの玄関ドアに手をかけた。

 

「まあ焦らず頑張ってね? じゃあ私、これから友達とご飯食べに行く約束してるから」

「あー……なんか悪いな。わざわざ家まで付き添って貰って」

「今更気にしないでよー。んじゃ行ってきまーす!」

「行ってらー」

 

 軽く手を振ってそう言う。

 友達と約束してたんなら無理に俺の出迎えしないでもよかっただろうに、わざわざ家に着くまで付き添って……。

 んーいい子(確信)

 妹が家族思いの子になって兄ちゃん超嬉しいわ。

 ありがとう…それしか言う言葉がみつからない…。

 

「……この中身がちょー気になるけど、とりあえずなんか食べるか」

 

 カップ麺あったっけー?

 入院してたから現在のうちのカップ麺所持量がわからん。

 持っていたアタッシュケースを一旦リビングにあるソファに置いといて、俺はカップ麺探索を開始した。

 

 

 ▲△▲

 

 

「さて…いよいよですね」

 

 

 

 

「ライダーの神話……その序章の始まりだ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら男はそう呟いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『さあ飛び立とう…夢に向かって!』

 

【ヒューマギア運用実験都市で起こった大事件、デイブレイク。その被害に遭った方々はその多くが今も入院生活を余儀なくされており、死者も少なからず出ています。このデイブレイクに関して、ヒューマギア運用実験都市に参入していた企業内で指揮を執っていた飛電インテリジェンス 飛電是之助 社長はヒューマギア工場での整備ミスによる爆発事故が原因だとーー】

 

「もうあれから一月以上経つけど……やっぱりヒューマギアって凄えな」

 

 テレビに流れるニュースを見て俺は素直にそう思った。

 事件そのものの被害が半端じゃないからという理由もあるだろうけど、世間がヒューマギアに少なからず注目していたというのが「デイブレイク」という事件をここまで長く取り上げてる一番の理由なんだろう。

 

 はぁー……これから大丈夫かね? 飛電は。

 一般人の俺には心配しかできないんだけどさ。

 

「ずるずるっ……そういや、飛電の社長さんのお孫さんもデイブレイクに巻き込まれたんだったか」

 

 カップ麺を豪快にすすりながらテレビを見る。

 確か飛電是之助さんのお孫さんはニュース曰くまだ10歳だったらしく、デイブレイクタウンに居たらしい。幸い命に別状はないらしいけどな。

 

「ごちそうさん、と」

 

 手を合わせそう口にした俺はカップ麺と箸をキッチンの洗い場に置き、さっさとアタッシュケース片手にリビングを出て階段を上がった。

 

(今更だけどこのケース重っ……中身何入ってんだよ。まじ怖いわ)

 

 人から一応お詫びで貰ったもんだけど…よく捨てなかったな俺。

 ま、まぁ入院中の一月ちょいに爆発とか無かったし?多分爆弾ではないでしょう…これで中開いた瞬間爆弾でタイマー動き出したりしたら叫ぶ自信があるわ。

 

 そんなことを考えつつ俺は二階にある自室に入った。





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時系列解説
・デイブレイク時、オリ主は就活中。
・デイブレイク時、或人や不破さんは本編通りまだ子供。


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ある男の驚愕《ショットライザー》

前回の後書きの通り時系列は不破さんや或人社長、本編のメインキャラクターがまだ子供なので、(二次創作)「ゼロワンエピソード0」的な感じです。それでは、どうぞ!


 

「よし…開けるぞ」

 

 無駄に意気込みつつ俺は自室でアタッシュケースを開けようとしていた。中身はさっぱりわからん。お詫びとか天津さんは言ってたが……めっちゃ中身重いところから推測するに包帯とか薬とか、そういう類のものじゃないな。普通に考えるなら……大金とかか?

 

 とりまさっさと開けようそうしよう。ガチャリと。

 

「ごまだれぇ〜! …………? ん??」

 

 中を開けてまず最初に俺の頭に浮かんだのは? 何これ?的な感情だ。だがすぐに入っているものの一つ、それが基本平和な日本に住んでいれば普通は滅多に見ないであろうあれだと気付き俺は驚愕した。これが…お詫び……??

 

「じゅ、銃ッ!? え、まじもん? エアガンとかじゃない……のか?」

 

 アタッシュケースの中身は銃でした。

 外見は銃口近くがメタリックブルーに赤のライン、その他はシンプルに黒一色で統一されている。あとなんかボタンと謎の差し込み口?があった。

 

「試作品 仮称【ショットライザー】マニュアル……? ……まじで何これ。あの人なんでお詫びに銃渡してきてんの? えっ何これおも……ちゃじゃないですね、はい」

 

 手に取ってみたらわかる。ガチなやつやん!

 ガチの銃なんてテレビとかでしか見た時ないし、持った時もないけどこれがおもちゃの重さじゃないってことは俺でも理解できたわ。

 

(あとこっちは…あ、軽いなこっちわ。……いやこっちはマジで何?)

 

 アタッシュケースにもう一つ入っていたそれ。

 見た目を簡単に言うとあれだ。

 何故かカブトムシ?の絵が印刷されている黄緑の……俺の知ってる物の中で一番近いのはあれだ、カセットテープ。

 え?意味わからんって?いや俺もわかんねーから。なんだよこれ(真顔)

 

 その他には何かを取り付けれそうな黒いパーツが付いたベルトらしきものもあった。

 

 

 

 あ、よく見たらこのカセットテープ上にボタンある。押してみると、

 

『ストロング!』

「は?」

 

 ーー光って鳴った。

 もう一度押してみると、

 

『ハーキュリービートルズアビリティ!

 カンカン!(←謎の金属音?)』

「what this?」

 

 多分大事な事なのでもう一度。

 ーー光って鳴った。

 …意味不明だなこのカセットテープ!?

 意味不明なあまり英語出たわ。

 あと今気付いたけどこのカブトムシ?の上に英語で何か書いてあったわ。

 なになに……AMAZING HERCULES……?ABILITY STRONG? まるで意味が分からんぞ!?

 

「と、とりあえずこのマニュアル見てみるか……そしたらこれについても何かわかるだろうし……わ、分かるよな?」

 

 その前にあの自称24歳の「お詫び」とか言って一般人に実銃とカセットテープ?渡してくる個性的(笑)な社長に電話してみていい?

 社長だから忙しい? あ、そっすか。

 

「…………………………(熟読中)」

 

 うむ(威風堂々)

 さっぱりわからん(正直者)

 専門用語多くないこのマニュアル?

 

(SRダンガー……? ライズベースアクター……? マギア……? 仮面ライダー……? おいおい情報量半端無いって!)

 

 あ、でも一応分かったことが二つある。

 まずこの銃生身で打つと反動がやばいらしい。

 そして、もう一つ。

 

「このカセットテープがプログライズキーってことか」

 

 ……まぁこれ初歩の初歩らしいんだけどね。

 

 

 その後、マニュアルを熟読して俺なりにこの銃と黄緑色のプログライズキー(カセットテープ)の使い方を把握できた……と思う。多分っ!

 

 

 つまりこの黄緑色のプログライズキー(カセットテープ)をこの銃の差し込み口ーーマニュアル通りに言うなら装填スロットーーに入れて、プログライズキー(カセットテープ)のカブトムシ?が印刷されてる部分を開いてトリガーを引く。すると、

 

「変身完了、と。……………………えーっと」

 

…………変身ってなんすか?(小声)

 マニュアルには変身についての詳しい説明が一切書いてなかった。まるで「変身は一般常識でしょ?」とでも言わんばかりに。なんでぇ?

 

「……寝よう」

 

 わからんものはしゃあない。

 とりあえず俺は寝る!腹一杯だし一ヶ月ちょいぶりのうちで安心感すごいからね、しょうがないね。

 

 この実銃とカセットテープはあれだな。

 家族にバレる前に天津さんに返品しようそうしよう。天津さんから貰った名刺もあるしな、うん。

 で、でも一回だけ「変身」してみたいなぁ……なんて思ったり。

 

「……()やるのは目立つし、やるなら夜だな。おやすみー」

 

 Z Z Z……。

 

 その日、俺は17時近くまで寝た。

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 デイブレイクにより荒廃した都市。

 通称デイブレイクタウン。

 

「ーーいよいよ人類絶滅の第一段階に移行……」

 

 そこのとある拠点で男?は一人淡々と呟く。

 

「それがアークの意志ならば、従うのみ」

 

 ゼツメライザーとゼツメライズキーを懐に仕舞い、男は部屋を後にするーー物語は始まろうとしていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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独自設定
・デイブレイク後、既に滅がヒューマギアをマギアにする活動を開始していたかとかそういう話は本編では語られてなかったけど、この作品内では滅はもう裏で暗躍し始めていた…っていう設定でお願いします。


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ある男の初変身《ショットライズ!》

アンパン神さん誤字報告ありがとうございました!

今回がオリ主初変身回です。
それでは、どうぞ。



 

「バカ(にい)〜? こんな時間に外行くの?」

「…ま、まぁな」

 

 玄関前で靴を履いていた時、後ろから妹である美月に声を掛けられ俺は一瞬固まったが何とか返事をした。だ、大丈夫か? 声震えてないか?

 

 やばいどうしよ。

 予定では家族誰にもバレずに外出する…つもりだったんですけど……早速バレた。つうかなんでお前はこのタイミングでリビングから出てくんだ!? テレビ見てなさいテレビ!

 

(にい)がこんな時間に外出って珍しいね? どこ行くの?」

「ど、どこってそりゃあ…………」

 

 確かに美月の言う通りではある。

 俺が夜に、それも19時頃に外出するなんてことは珍しい。あまり夜遊びとかはしないタイプというか、そういう悪い友達との付き合いは全くない……俺が夜に外出するなんてあれだ。今すぐに欲しいものがあったりとかしない限り基本起こらない出来事だ。

 

 どうする…どう誤魔化す?

 で、出来るだけ普通な感じで……もしかしてもう手遅れだったりする? …ええい、ままよ!

 

「コンビニだよ、コンビニ。ちょっと飲み物切らしちまってな」

「飲み物? お茶なら冷蔵庫にあるよ?」

「い、いや、久しぶりにコーラとか飲みたくなってさ!」

 

 嘘である。

 そもそも俺は炭酸飲料飲めん!

 

「そうなの? あ、コンビニ行くならついでにアイス買ってきてよアイス!」

「あ、あぁいいぞ! 買ってきてやるよ。何がいい?」

 

 いつもなら絶対「イヤだね」と即答する俺だが、焦っているのもあって思わず承諾してしまう。ま、まぁアイス買ってやるぐらいでこのバカ妹の機嫌をとれて? 怪しまれず外出できるなら安い出費だぜ!

 

「う〜ん、(にい)におまかせで!」

「りょーかい。……じゃあ行ってきまーす」

 

 そうして俺は逃げるように外出したのだった。

 

 ふぅ、なんとか乗り切った…死闘だったな(達成感)……いや何達成感抱いてんだ俺!? まだ目的達成してねーよ? とりあえず人目のつかない場所に移動しようそうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃーい! ……あっ!バカ (にい)に聞くの忘れてた!」

 

 兄を見送った美月はアイスを買ってきてくれるという事に喜び、つい聞き忘れていた事をもう既に家を出た兄に対して言った。

 

「なんでコンビニに行くのにリュック背負ってったんだろ?」

 

 太陽はリュックを背負っていた。

 もしこれについて先ほど指摘されていたら…多分太陽は無理矢理はぐらかして外出していたに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 ゼツメライザーを取り付けられたヒューマギア。

 元は青かったその目を不気味に赤く光る。

 

「滅亡迅雷.netに、接続……」

 

 そんなヒューマギアに黒いヘアバンドをした男は表情一つ動かさず確認する。

 

「為すべき事は理解しているな?」

「ーー滅亡迅雷.netの意志のままに。人類を絶滅させること」

「ならいい。やれ」

 

 男はヒューマギアの返答を聞いて、ゼツメライズキーをヒューマギアに手渡した。

 

オニコ!

 

 ゼツメライズキーを鳴らしたヒューマギアは、ゼツメライザーにそのままゼツメライズキーをセットしボタンを押した。

 

ゼツメライズ!

「アアアアアアアアアアアア!!!」

 

 その瞬間、ヒューマギアは絶叫を上げる。

 セットしたゼツメライズキーには触手状の赤いワームが複数伸び、ゼツメライザーの外装を破壊。

 

「ーー人間を殺す」

 

 こうしてヒューマギアはマギアに変貌した。

 

「…マギア化に成功」

 

 無事に成功したマギア化。

 その結果を冷静に分析した男は動き出したマギアの姿を見ながら淡々と述べた。

 

 

 

「我々の手で必ず人類を絶滅させる」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここなら大丈夫か?」

 

 夜、人目のつかない場所。

 考えてみてふっと俺の頭に浮かんだのは公園。

 うん、考えてた通り誰もいないな!

 よし早速まずはベルトを巻いてみるか。

 

 とりあえずベンチに座り、背負っていたリュックを下ろし中からベルトとショットライザーを取り出す。

 

 家で昼寝した後、マニュアルを読み直して色々分かった事がある。

 まずこのベルトに付いていた黒い部分。これはショットライザーを取り付ける用のバックルらしいこと。

 

(えーっと? マニュアル通りならここに合わせて…)

「おっ、付いた」

 

 取り付け完了!

 後はこれを腰に巻きまして…。

 

 俺がショットライザーを付けたベルトを巻こうとしたその直前ーー。

 

「き、きゃああぁぁぁあ!?」

 

 突如として誰かの大きな悲鳴が聞こえた。

 

「!! な、なんだ!?」

 

 夜の公園。

 何の前触れもなく轟く悲鳴。

 ビビらないわけないじゃん!?

 俺は反射的にベンチから飛び上がって立つ。

 よかった俺以外誰も居なくて…(安堵)

 もし美月とかに今の醜態見られてたら、一日中いじられてるだろうな……あー怖い怖い。ってそれどころじゃないか!

 

「今の声……あっちからか?」

(あっちは……特に何もなかった気がするな)

 

 悲鳴が聞こえた場所を適当に検討して俺はリュックを背負い直し、急いで悲鳴が聞こえた方向に向かって走り出した。

 

 今思うと何で自ら危険かもしれない場所に急行したのか…これがわからない。興味本位で行動しない方がいいって学びました(真顔)

 

 

 

 

 

 

(ここら辺か? あ、あの人か? …えーっと…後ろに居るのは……何だ?)

 

 そこに着いた時、俺が最初に見たのは倒れた状態で恐怖のためか? 緩慢な動きで後退りする女性と、

 

「や、やめてッ! 来ないでっ!」

 

 懸命に逃げようとしている女性の目の前に立つ異形。

 その大きな翼に手の爪、赤い複眼を見ればそれが人じゃないということは誰の目からも明らかで、

 

「人間発見。殺す」

 

 物騒すぎる台詞を吐く。

 女性は更に怯える。

 

 異形の吐いた台詞によく似た台詞をつい一月とちょっと前に聞いた時のある俺からすると、異形の様子は恐怖でしかなかった。

 きっと今の俺は血の気が引いてしまっていると思う。

 

『『ニンゲンニンゲンニンゲン! ゼゼゼ、ゼツメツゼツメツッ!! ココココォ! コロスコロスコロスコロスコロスコロス!!』』

 

 壊れたスピーカーのように同じ単語を繰り返し吐きながら赤い目をしたヒューマギア達。目の前のどことなくコウモリのような姿をした異形に、デイブレイクの被害に遭ったあの日…俺をどこまでも追いかけてきたヒューマギアの姿が重なる。

 

「ひっ……!」

 

 気付ければ俺は小さな悲鳴を上げていた。

 

「っ!? ぁぁ! た、助けて! お願いッ!!」

 

 その声は女性の耳に届いたようで、俺の存在に気付いた女性はそう叫んで俺に助けを求めてくる。

 

(やめろ! やめてくれ…! そんな目で俺を見るなッ!)

 

 ーー助けを求めるその目。

 最悪な気分だった。

 俺にとってあんたは赤の他人だ。

 なのに何でそんな目で俺を見る?

 俺が助けてくれるとか思ってんのか?

 ふざけろ! 自分の命を危険に晒してまで「赤の他人」を助ける? そんなことしてる余裕俺には無い。分かるだろ? あんたと同じで俺も怖いんだよ!? 足もガクガクで立ってるだけでもやっとなんだよ…。だから……。

 

 俺はヒーローでもなんでもない。

 正義感だって人一倍強いわけじゃない。

 

 恨んでくれてもいい。

 人でなしって罵ってくれてもいい。

 

 ーー俺は死にたくない。

 ーーだからあんたを見捨てる。

 

 

「二人目発見。人間は、皆殺しだ」

 

 俺に向けられた女性の叫びにより、突っ立っていた俺の存在に気付いらしく異形の化け物は淡々と口にする。

 

 だが、化け物が最初にターゲットにしたのは最初に発見し尚且つ今一番近くにいる女性だということは変わらないらしい。

 

「お願いだから助けーーがッ!!」

 

 化け物は倒れていた女性の細い首を爪で刺さずにがしっと容赦なく掴むと、片手で軽々と体を持ち上げる。女性は呼吸できず苦しそうにもがく。

 

「…………」

 

 化け物はそのまま首を掴んでない方の手を上に振り上げる。

 何をしようとしているのかは容易に想像できた。

 化け物はその大きな爪で確実に女性を切り裂き殺すつもりなのだ。

 

「ッ……!」

 

 出そうになる悲鳴を殺し、震える足を動かす。

 あぁそのままただの一般人らしく逃げよう!

 震えながら俺は後退りする。

 それも我が身可愛さに、だ。

 

「う、あ、がッ…ぁ……ぁ、ぁ……」

 

 声にならない声を上げる女性。

 今にもその爪を振り下ろそうとする化け物。

 

 俺はその残酷な光景から目を背け、ただひたすらに情けなく逃げ出す……

 

「あああああああああああッ!!」

 

 なんでだろう。

 いつの間にか俺は女性の首を掴み持ち上げていた化け物に向かって、全力でタックルを噛ましていた。

 

「かはッ…! ッ、はぁはぁ…! ど、どうしーー」

 

 化け物は俺のタックルを予測していなかったらしく、タックルを受けた事で女性の首から手を離し僅かに後退する。

 

「ーーうるせぇ! 知るかボケ! いいから死にたくないんならさっさと逃げろッ!」

 

 心底理解が追いつかない様子の女性の問いに俺はそう怒声に近い声で返す。俺だってわかんねーよアホ! あんたは「ラッキー」程度に思って早く逃げろバカ!

 

 そんな俺の気持ちが伝わったのか、普通に今さっきの俺と同じく逃げようと動き出す女性。浅い呼吸でよろよろと体を起こす女性だが、化け物のターゲットは未だ女性のままらしい。

 

「邪魔だ」

「っーーぐはッ!!」

 

 化け物は逃げる女性の前にいた俺を蹴り飛ばす。

 その後に化け物はーー飛んだ。

 翼があるのだから飛べるだろうな、とは思っていたが本当に飛んだ。そして、逃げる女性に狙いを定めそのまま真っ直ぐ低空飛行する。

 

 見れば分かる。

 あの速度で向かって来られたら絶対に死ぬ。

 逃げる女性だがどう考えたって化け物の方が速い。

 女性が死ぬまでもう10秒もないだろう。

 

(いて)えしやべぇッ ……っ! そうだ、ショットライザー!)

 

 蹴られた腹部を抑えながら、俺は今更思い出す。

 目に入る、蹴り飛ばされた衝撃で肩からずり落ちたリュック。

 空いたチャックから見えるベルトーーそのバックルに付いたショットライザーの存在に。

 

(これを忘れてるとかどんだけ焦ってんだ俺ッ!)

 

 痛みに歯を食いしばりながらリュックの中身に手を伸ばし、ショットライザーのグリップを掴む。俺はそのままバックルからショットライザーをすぐに取り外した。

 

 その間にも女性の背に化け物の爪が切り裂く寸前。

 

ショットライザー!

(反動が強いとか書いてあったけどそれどころじゃねー!)

「当たれえッ!!」

 

 右手でグリップを持ち、左手を添える。

 なんて構えは出来ず、俺は素人らしく両手でグリップを握り締め、低空飛行する化け物に銃口を向けトリガーを引く。

 

「ッ?! ーーガァッ!?」

「! 当たった!?」

(ッ! 反動やばっ!? 一発撃っただけなのに腕がガクンってしたし、手が超痺れてる!)

 

 その一発は奇跡的に化け物の左翼に直撃し、化け物はアスファルトの上に倒れる。女性は思わず振り返り「ひっ!?」と悲鳴を上げたがすぐに逃走を再開した。

 

 よし、あれなら無事逃げれそうだな。

 …いや何やってんだ俺っ!?

 人助け? 自己犠牲?

 偽善者かよバカ野郎!

 これ次狙われるのは……

 

「……ッ、人間…!」

 

 どう考えても俺ですよねえ!?

 や、やべぇどうしようッ!?

 立ち上がった化け物は女性を諦め、ターゲットを俺に変える。

 理由は俺が距離的に近いから?

 それとも攻撃してきたから?

 あーわかんない、わかんないけどこの状況がマズイことは分かるぜ!? いやだー死にたくない!(切実)

 

(どうするどうするどうする!?!? ハッ! そうだ変身だっ!)

 

 まるで一般常識かのようにマニュアルに書かれていた「変身」。確か説明ではアーマーを装着だとか書いてあったよな!?

 俺は慌ててリュックからベルト、黄緑のカセットテープことプログライズキーを見つけて取り出す。

 

「ま、待て待て! 一旦タンマッ! ベルト巻くから!」

 

 当然待ってくれる筈もなく。

 化け物は俺に接近してその爪を振り下ろす。

 

「殺す!」

「あぶッ!?」

 

 (あぶ)ねッ!?

 咄嗟に前にローリングした俺。

 またも奇跡的に回避に成功する。

 すげぇな俺!? あ、ちなみに今のは体が勝手に動いた(謎のドヤ顔)

 

 化け物から素早く距離をとった俺はショットライザーをバックルに取り付け、勢いよく腰に巻く。

 

「それで次はこう!?」

ストロング!

【オーソライズ!】

「これで展開かっ!?」

 

 目の前にいる化け物の存在のせいで超動揺しながら、俺は右手に持ったプログライズキーをショットライザーにセットし、右手人差し指でプログライズキーを慎重に展開する。

 

 そうして俺は変身シークエンスを何とか済ませていく。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

「ふぁッ!? な、何だこの音?」

「人間は殺す!」

「うわぁ来んな!? え、ぁーー」

 

 流れた待機音に驚きながら俺はバックルからショットライザーを取り外し、迫ってくる化け物に慌てながらショットライザーを向け、

 

「へ、変身…?」

ショットライズ!

 

 マニュアルに書いていた文。

 変身時には変身と言う、という謎の説明文を思い出しながら俺は半疑問形で「変身」と口にしてトリガーを引いた。

 

「ッ!?」

 

 その一発を化け物はギリギリで後ろに飛び退くことで避けた。そして、

 

(え、あれ変身は? プログライズキー入れて撃ったら変身完了じゃないの? …は?)

 

 ショットライザーをバックルに戻した俺は顔を上げ仰天した。

 

「だ、弾丸返ってきたぁ!?」

 

 どういう原理ぃ!?

 放った弾丸は俺の方に真っ直ぐ返ってくる。

 あれ、こんなのマニュアルに書いてなかったですよね?

 はっ?(半ギレ)

 え、俺どうなんのこれ?

 あっ、もしかして死ぬ?(直感)

 

「うわぁ!?」

 

 俺は思わず目を閉じ両腕を前に突き出して身構えた。次の瞬間、返ってきた弾丸は俺の腕に当たり、

 

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 そんな音声が流れると同時にガシンッ!ガチャン!という金属音が辺りに響き渡った。

 

「ぇ、あっ! 変身できた!?」

 

 ビビって閉じていた目を恐る恐る開くと、俺の左半身には白いアーマー、マニュアル通りならライズベースアクタと右半身には綺麗な黄緑色のアーマーが装着されていた。それに頭部には角までついている。

 

(これが変身……すげぇ…)

「ーーお前は何だ?」

 

 初めての変身。

 感動してまじまじと自分の手を見て、ペタペタと顔を触ったりする俺に化け物は問いかけてくる。

 俺は…なんだ?

 えっ、何自己紹介すればいいのか?

 

「俺は天本……いや」

 

 自分の名前を口にしようとしたその時、頭に突然「名前」が湧いた。しかも、その名前に俺は違和感を一つも抱くことなく寧ろ「これだ…!」という確信めいたものを抱く。

 

 

 だから名乗る。

 

 

ーーバルデル。それが俺の名だ!

 

 これがデイブレイク被害者の俺の初変身であり、この物語の始まりである。

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

「どらぁあッ!」

「ぐはァ!?」

 

 俺は黄緑色の装甲が纏われた右手で思い切り化け物の胸を殴りつける。その瞬間、殴った拳に反動を感じたが化け物の体はその一撃だけで大きく吹き飛ぶ。

 

「パンチ力ハンパねぇ!? え、なんか…負ける気がしねぇ!」

 

 びっくりする威力を発揮した自分の右手を見て俺は驚愕を示す。

 変身しパワーアップしたことで体は軽いし、化け物に蹴られた所の痛みもあまり感じない。視界も驚くほど鮮明……なんか今ならなんでもできる気がする。これあれ? 全能感ってやつ?

 

「ガッ、ハァァァァァアッ!!」

 

 胸を押さえながら身を起こした化け物は高く飛ぶ。

 するとつい先程、逃げる女性にやったように急降下し低空飛行で攻撃を仕掛けてくる。

 

「おっと!? 悪いけど空に飛んでも、こっちには(これ)があるぜ?」

 

 バックルからショットライザーを取り外し構え、連射する。数撃ちゃ当たるの精神だ!

 

 一発目は外れ、二発目も外れ、三発目も外れ、四発目でやっと命中。

 その一発は化け物の頭部に当たり、化け物を地上に落とすことに成功する。

 

「ッ! 人間は、絶滅させるッ……!」

「落ちながら何物騒なこと言ってんだ!」

 

 地上に落ちた化け物は怒涛の連続攻撃を繰り出す。

 

「ガァァァァァア!!」

「ッ! ふ、はっ!」

「アァァァア!」

「喧しいわっ! おりゃあああ!!」

 

 だが当たらなければどうということはない!(シャア)

 俺はなんとか全ての攻撃を捌き、カウンターの右アッパーを化け物の頭部に打ち込んだ。今、ショットライザーで撃たれた部分と近い部分を殴られたからか。化け物はそれを受けると大きく後ろに倒れ、立ち上がろうにもすぐには立ち上がれなくなる。

 

「おらっ!」

「ガッ!? ッ…!」

 

 倒れる化け物の腹部を、サッカーボールを蹴るように蹴り上げ吹き飛ばす。戦い方が荒っぽい? チンピラ? 知るかよ! こちとら必死でやってんだ。

 遊びでやってんじゃないんだよ!(カミーユ)

 

「悪いが油断なんてしてやらねぇ。全力で行く!」

ストロング!

 

 ショットライザーに入れたプログライズキーのボタンを押すと、マニュアルの説明にも書いてあった必殺待機音らしきものが流れる。

 必殺技がどんなものかはわからんが、滅茶苦茶強いに違いない!

 

 エネルギー?のようなものがショットライザーの銃口に集束していくのを目の当たりにしながら、真っ直ぐ銃口を化け物に向け、

 

「これでトドメだ! 多分なあ!」

【アメイジング ブラスト!】

 

 ーー俺はトリガーを引いた。

 瞬間、必殺音声が鳴り必殺の一撃が放たれる。

 発射されるはライトグリーンの巨大で鋭いヘラクレスの角のような形をした一発。

 

ア メ イ ジ ン グ ブラスト

 

「?!?! グワアァァァア!!!」

 

 その一撃は化け物ーーマギアの胴体を容易く貫き、最後にはその破壊力の前にマギアは破壊され爆発した。

 

 

 

 決まった……ってドヤ顔したい気分だが、

 

「っっっ…()ててッ……!」

 

 必殺技の反動に耐えきれず俺の体は後ろに吹き飛んでいて、俺は尻餅をついていた。くっそーめちゃくちゃダサい…!

 ま、まぁ初めて使ったし多少のミスはしゃあないよね! ねっ!?

 

「た、倒せた。よっしゃあ! どうだ見たか! ……」

 

 見てる人誰もいなかったわそういや(倒置法)

 

(プログライズキーを抜いて変身解除、だったよな?)

 

 ショットライザーの天面にあるボタンを押しながら、セットしたプログライズキーを引き抜くと俺の体に装着されていたアーマーは黄緑の光に包まれ、一瞬で消え生身に戻った。

 

「……はぁー…怖かったぁ」

 

 大きく息を吐き出して俺は本音を吐露する。

 全能感?みたいなのは確かにあったけど、正直めっちゃ怖かった! はぁ倒せてよかったよマジで!

 

「……今何時だ? …やべっ」

 

 転がっているリュックを拾った俺は中にショットライザーを取り付けたバックル&ベルトとプログライズキーを仕舞い、中からスマホを取り出し現在時刻を確認し声を上げた。

 

『21:48』

「美月のヤツ…絶対怒ってんじゃん」

 

 あープンプン状態と化してるな間違いない。

 あぁ違う違う。俺を心配してるとかじゃなくてただ単にアイス買ってくるのが遅いからプンプン怒ってるって話だ。

 

「コンビニでアイス買って帰るか…いててッ…」

 

 リュックを背負い俺はその場を後にする。

 あの化け物が何なのかとか、気になることは大量にあるが今はもう疲れた。すぐにでも寝たい…そんな気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マギアがやられたか」

 

 一切予測していなかった訳ではない。

 ただここまで早くオニコマギアが破壊されたという事実に、予定を僅かながら狂わされた男は事実を確認するように呟く。

 

 そして、ヒビ割れたオニコゼツメライズキーを回収する。

 

ーーバルデル。それが俺の名だ!

 

 プログライズキーで変身し「バルデル」と名乗った謎の存在。

 男はオニコマギアに取り付けていたカメラ越しに見たバルデルを、

 

「我々の目的の障害に成り得る存在か…」

 

 ーーそうメモリーに記憶した。

 

「だが、勝利するのは我々だ」

 

 そう言って最後、男は闇の中に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

「…素晴らしい」

 

 天津 垓はどこからか監視していたバルデルとマギアの戦闘映像を見て、感嘆したように零す。

 

 天本 太陽。

 彼は試作品であるショットライザーでの変身成功。

 それだけではなく、マギアの破壊をも成功させた。

 

 それは垓にとって期待以上の結果であった。

 

(初めての変身、初めての戦闘であれだけマギアを圧倒するとは……素直に感心させてもらった)

 

 素人らしい必死で荒い戦い方。

 それを見た垓は彼が大きなポテンシャルを秘めていると感じた。

 素晴らしい! 彼ならば、マギアから人々を守る、

 

「ーー序章の主役としては十二分に相応しい」

 

 そう口にし、垓は悪辣で残忍な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おっそい! コンビニ行くのに何時間かかってるのさバカ(にい)っ!」

「いや、それは本当にすまんかった! あ、これアイス」

「なんなの? (にい)はいつの間に人から亀になったの! ありがとっ!」

「怒るか感謝するかどっちかにしろよ……ま、まぁ遅かったのはあれだよあれ。俺さ今日退院したばっかりだから。歩行スピードが…な?」

「…むぅ…後で根掘り葉堀り聞くからね! 覚悟してなよバカ(にい)ー!」

「頼むから勘弁してくれよ美月…ぐふっ」

 

 小さくため息をつき、俺はリビングのソファーにどんと沈むように倒れた。超疲れましたよバカ野郎っ!

 

 こうして俺の怒涛?の一日は幕を閉じた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします!

補足?説明
・バルデル(バルドル?)という名前は調べれば出ると思うんですが、北欧神話の夏の太陽の神様の名前らしいです。この名前にした理由はショットライザーに変身するライダーが「バルカン」「バルキリー」と二人とも「バル」という二文字から始まってるからというシンプルなものです。

「お前はなんだ?」
「バルデル。それが俺の名だ!」
のところ、脳内BGMでゼロワン一話の変身時のBGMと戦闘曲を流して書いていてとても楽しかったです笑


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ある男と天津社長《1000%》

今回はオリ主「俺一般人何だよなぁ」って話。
では、どうぞ!


【ーー市街地の道が黒く焦げ、大きな焼け跡ができているのが分かります。原因は不明で、現在警察は昨夜ここで何があったのか。目撃者がいないかーー】

「…………」

 

 あまりにいい天気な今日。

 朝から昨夜の出来事を嫌でも思い出すーー忘れるつもりはないけれどーーニュースを伝えるテレビを見て俺は食パンを口に咥えたまま静止した。おぉう! 危ない危ない…危うく食パン落とすとこだった。改めて食パンにぱくつきながら思う。

 

 いや、がっつりニュースなってるやん!

 よくよく考えればあんな戦って必殺技も撃って、化け物も派手に爆発したのだ。証拠隠滅なんてできるわけないし、昨夜の俺はそんなことにまで頭が回っていなかったからしょうがないんだが…。唯一の救いは彼処の周囲には監視カメラが一つも無かったということだろうか。

 

(…これ大丈夫か? 俺捕まん……いやいや、俺悪いことしてないし? むしろ昨日のあれは善行だし?)

「大丈夫だろう、うん」

 

 そうして俺は考えるのをやめた(カーズ)

 まぁ捕まりはしないだろ…多分きっと。

 

 ……これで逮捕とかされたら笑えねーな。

 

「それより、これからどうするか…」

 

 なんて既に俺以外誰も居ないリビングでぼそりと呟く。

 これからどうするか、なんて口にしつつ「どうするか」なんてとっくに分かりきっている。

 

 ショットライザーにプログライズキー。

 お詫びとして貰ったハイテクノロジーの塊。

 それが有ろうが無かろうが俺が今すべき事はただ一つ。

 

 この天本太陽には『夢』がある!(ジョルノ)

 

(就職して、父さんと母さんに親孝行する…そんで普通に幸せに生きる)

 

 なんの面白味もないありふれたものだが。

 これが俺、天本太陽の…言うなれば夢だった。

 ギャングスターになりたいとかカッコいい夢じゃなくて悪かったな! ……冷静に考えてギャングスターになるのが夢ってヤベーやつだなおい。

 

「…とりま、これ返さなきゃな」

 

 俺は足元に置かれていたアタッシュケースに視線を落とす。

 中に入っているのは昨夜使用したショットライザー、プログライズキー、バックルとベルトにマニュアル。元から中に入っていた全てである。そう、俺はお詫びとして貰ったこれら全てを渡してきた本人の天津さんに返すつもりだった。理由は単純明快。

 

 まず第一に、これは俺のような一般人が持っていていい代物ではないと昨夜の戦闘で身を以て体感したから。

 

 次にこれをもっと上手く使える人がいると思ったから。

 俺とは違い人一倍正義感が強いような……絵に描いたような正義の味方(ヒーロー)に相応しい存在は探せば他にきっといる。

 

 昨日は何だかんだ化け物と戦ってこれらを使ったが、正直俺は怖かった。確かに今までに感じたことのないような全能感を抱き、戦闘している時はかなりハイテンションになっていた事は認める。だけれども、

 

「やっぱ違うよなぁ」

 

 ーーやっぱりそれは俺の柄じゃないと思う。

 昨夜、見知らぬ女性に助けを求められた時。結果的に俺は彼女を助けるような行動をとったが…あの時抱いた気持ちは嘘偽りない俺の本心だった。赤の他人に助けを求められて最悪な気分になり、我が身可愛さに見捨てて逃げ出そうとした…コレはそんな人間が持ってていい代物ではない筈だろ?

 

 昨夜の時点では「コレ使って人助けとかやってみるか?」なんて案外本気で考えていたりしたが、冷静になって考えてみたらありえないという結論に至った。そもそも仕事と人助けを両立できるほどの器用さが俺にあるか?と考えたらもちろん否だ。

 

「よし、電話するか」

 

 天津さんから貰った名刺を見ながら俺は電話番号を打とうとした、その時。ーー俺のスマホが鳴る。

 

(電話? 一体誰から……この電話番号…)

 

 スマホに映る電話番号と天津さんの名刺を交互に見て気付く。名刺に書いてある電話番号と同じ電話番号からの電話だという事に。

 

「…はい、もしもし」

『やぁ太陽君。昨日は本当に素晴らしい戦闘を見せてもらいました。心から賞賛させてもらいますよ』

 

 電話越しのその発言を聞いた瞬間、俺はニュースを見た時と同じ…いやそれ以上の衝撃を受けた。

 

 なんであんたがそれを知っている?

 見せてもらった…?

 彼処には監視カメラなんてない。

 …何故だ?

 

「……何の話ですか?」

『隠す必要はありませんよ。私は昨夜の君の行動を口外するつもりはありませんから。仮に私が口外したとしても君の行動は何もやましいことは無いのですから、痛くも痒くも無いでしょう』

「…病室でも聞きましたけど、大企業の天津社長さんが俺みたいな一般人に何用ですかね?」

 

 天津さんがどんな性格か、一度会った時しかない俺にはさっぱり分からない。だから天津さんの言葉を簡単に信用することはできない。

 とりあえず用件を聞こう。

 話はそれからだ。

 

『一般人…? 仮面ライダーに変身しマギアを倒しておきながら? ふふ、面白い冗談ですね』

「マギア……?」

『あぁそういえば君はまだ知りませんでしたね。私の用件は…マギアの説明も含めて、会社の方で話させていただきたいのですが……どうでしょう?』

「……」

 

 怪しい。

 怪し過ぎる。

 電話で話せない用件って何だ?

 どう考えても普通の用ではなさそうだ。

 どうする?

 

「えっと…会社っていうのは……」

『ZAIAエンタープライズジャパンですよ』

「ぁ、デスヨネー」

 

 天津さんの名刺を見ながら俺は言う。

 会社に来てくださいって…何だ? 俺何かした? 気付いてないけど俺なんかやっちまったのか? 俺また何かやっちゃいました? ……またってなんだよ!

 

 …十中八九用件は昨夜の件関連か?

 

 あ、俺そもそもZAIA社の場所知らなかったわ。

 

「分かりました。早速伺わせてもらいます。…あー、服装とかは……?」

『私服で構いませんよ。それと、用件があるのは私の方ですから態々君にご足労いただく訳にはいきません。送迎車をこちらで手配しますので、太陽君は自宅で待機していてください。それでは失礼』

「…あ、はい」

 

 伝えることは伝えた。

 そう言わんばかりの勢いで電話を切った天津さん。

 いや怪しいとか思ってすいませんねホントに!

 家に送迎車手配してくれるとか普通に助かっ……ちょっと待てよ?

 

「天津さんなんで俺ん家の場所知ってんの…?」

 

 やばい。

 触れてはならない事実に触れたかもしれん。

 すいません。やっぱり今からお断りしてもいいっすか?

 

 それから30分後。

 自宅前に如何にも高そうな白いリムジンが来た時は流石にビビったよね。人生でリムジン乗る機会なんて滅多にないよなぁー……あとで美月に自慢してやるか。

 

「…………」

(天津さんの用件が何かは知らないけど、手間が省けたのはよかったな)

 

 後部座席に座りながら、足元に置いたアタッシュケースに目を落とす。中身は言うまでもない。

 

(早速今日、全部返そう)

 

 車の中でそんな事を思う俺は当然まだ知る由もなかった。

 

 今返そうとしている「ショットライザー」と「プログライズキー」。そして、これから二度目の出会いを果たす「天津垓」という人物。

 

 それら全てと俺が今後、随分長い付き合いになるということを。




仮面ライダーやヒーローもののアニメとかの主人公が変身アイテム的なものを第二話で「手放そう(返そう)」とする作品滅多になさそう笑

最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします!
また、出来る限り無いように書いていますがもし原作ゼロワンと矛盾する部分がありましたら教えてもらえると助かります。

補足?説明
・実はオリ主がショットライザーなどを返そうとしている事を現段階で天津社長は把握していません。


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ある男の就職決定?

1000%社長とオリ主、対談回。
それでは、どうぞ。


 

 リムジンが目的地に到着し停車する。

 俺は車から降りようとドアに手を伸ばしたーーがその前に外からガチャリとドアが開けられ、

 

「おぉう…?」

「天本太陽様でございますね? ようこそ、ZAIAエンタープライズジャパンへ。早速、社長室までご案内させていただいてもよろしいでしょうか?」

「え、あ、はい。お願いします」

 

 なになに?と思っていた俺の前にはスーツ姿のピシッとした印象を受ける男性の姿があり、男性の言葉に吃りつつ俺は返答する。

「それでは私に着いてきてください」と言い歩き出す男性の後ろをアタッシュケース片手に着いていく中、「車のドア外から開けてもらうとかリアルで初めてされた!」と俺は自分自身でもよくわからんぐらいちっちゃいことに感動していた。

 つうかこの会社でっか…!? テレビでしか見た時なかったけど、実物は迫力がすげぇな。

 

 ちなみに社長室に向かう途中で社内で働く社員さんの姿を見かけたんだけど…みんなテキパキ動いて、しっかり尚且つ楽しそうに働いてた……くそっ就活中の俺が来るにはキツい場だここ!(今更)

 楽しく働けるって理想だよなぁ…。

 …俺も早く就職しなきゃ。

 

 そんなことを考えながら社長室に案内してもらい始めてから大体三、四分後。

 

「着きました。ここが社長室になります。天津社長は既に中にいらっしゃいますのでこのまますぐに入室してください。それでは、私はこれで…」

「はい、ありがとうございました……ふー、はぁー」

(うしっ! 行くかぁ!)

 

 出来る限り短縮した気合い入れをして、俺は社長室をノックする。なんか学生の頃した面接練習を思い出すなぁ(どうでもいい)

 入室の際のノックは三回、と。

 

「ーーどうぞ」

「失礼します…えっと、天本太陽……です」

 

 うん、何自己紹介してんだろね俺?(混乱)

 自己紹介しちゃったらいよいよ面接みたいだわ。

 

「存じ上げておりますよ。…私も自己紹介した方が?」

「あ、いえ、大丈夫。大丈夫です。はい」

 

 もうね、気使わせちゃってすいませんほんと…!

 天津さん苦笑してんじゃねーか!

 くっ、天津さんと社長室の雰囲気に緊張して俺混乱しちまってますねこれ。早く直さねば(義務感)

 

「それで用件は…」

「私の用件をお話しする前に一旦お掛けください。それとそこまで私に畏まる必要はありませんよ」

「……」

 

 座るよう促された椅子に俺はゆっくり腰掛ける。

 社長室の様子は大きなデスクが一つあり、デスク近くに置いてある膝掛けのついた黒い椅子に天津さんは座っていた。

 ……なんかプレッシャーを感じるのは俺の気のせいでしょうか? 部屋に入った瞬間からもうビシバシ感じる…プレッシャー放ってんのは間違いなく天津さんですよね? いや怖い怖い!?

 昨夜の件知ってたり、俺ん家の場所を把握してたり……すいません! やっぱあんた怪しいよ社長ぉ!?

 

「それでは…私からの用件をお話しします。太陽君、単刀直入ですがーー」

 

 思わず俺は固唾を呑む。

 何だ、何を言うつもりだ?

 昨夜の件を出して俺を脅す気か?

 でも、それだったらここまで俺を丁寧に迎えなくても電話で一言「来なかったら警察に通報する」とだけ言えばいい話だ。一体何で、

 

「ーー君にはこれからも『仮面ライダー』として戦って貰いたい。そして、是非ともZAIAの研究開発に協力してほしい」

 

「……? ………………えッ!?」

 

 ごめん天津さん。

 もう一回言ってもらってもいいすか?

 

「勿論ただでとは言いません。研究開発に協力していただければこちらも相応の金額をお支払いしましょう。また、出現したマギア…暴走したヒューマギアの情報もこちらから君に提供させて貰います」

「……あの、質問いいです?」

 

 ちょこっと手を挙げて聞けば、天津さんは手で「どうぞ」と返してくる。なら、遠慮なく質問させて貰おうか!(謎の強気)

 

「何で俺なんですか…?」

「理由は簡単ですよ。君がショットライザーを用いて無事変身に成功したからです」

「…それだけですか?」

「えぇ。……いや、まだいくつかありました。それは君が最も、私のこの提案に乗ってくれる可能性が高いから。そしてーー君は確かな正義感を持っている人物だと理解したからですよ」

「あ、スゥー……」

(いや、ちょっ、はっ?)

 

 あの、俺今日ショットライザーもプログライズキーも全部返しに来たんだけど……正義感を持ってる? いや人違いでしょ?

 何て反応すればいいか分かんなくて変な呼吸しちゃったわ。

 

「……あの、天津さん」

「はい、何でしょう?」

「少し……いやかなり言いにくいんですけども……」

「?」

「俺も実は今日、天津さんに用件がありまして…」

 

 ぎこちなくそう切り出した俺は、アタッシュケースをデスクの上に置き、思い切って告げた。

 

「このアタッシュケースは……?」

「全部、お、お返ししまーす……」

「すいません、よく聞こえなかったのでもう一度ーー」

「全部、お返しします!」

「……はっ?」

「全部天津さんにお返ししますっ! はいどうぞっ!」

「ぇ、は、はぁ!?」

 

 最早ハイテンション過ぎて自分でも何言ってるかわかんなくなってきたわ。その影響で天津さんのキャラ崩壊が始まってしまった。

……まぁええか(超絶無責任)

 

 その後、天津さんが急に必死になって俺を説得し始めて…失礼だけども草生えました(無礼者)

 

「この提案に乗ってさえいただければ、ZAIAエンタープライズジャパンは君を全力で支援しましょう! それに太陽君、君は今就活中だと聞いている。就活中の君からすればこれはまたとないチャンスだと思わないかい?」

 

 天津さんはメリットを口早に次々と挙げた後、そんなことを口にする。何で俺が就活中のことまで知ってんだコイツっ!?

 

 というか、さっきまで意味深な笑みを浮かべていた人と同一人物とはとてもじゃないが思えないなぁ……焦らせたみたいですんません。でも、

 

「…すいません。天津さん。俺怖いんです」

「……」

「臆病者だって笑ってくれても結構です……俺、あの化け物と戦った時……全能感を感じながら何とかやり切って…すげぇホッとしました。あーやっと終わった、死ななくてよかったって」

「…笑いませんよ。それは人として当然の反応でしょう」

「ですかね? それと天津さんは俺が確かな正義感を持ってるって言ってましたけど……全然そんなことないんですよ」

 

 あの日の事を思い出す。

 赤の他人だから、死にたくないから、助けを求めてきたあの女性を見捨てようとした事。それは人としてきっと最低な行いだったんだろう。

 

「俺は誰かを、それも赤の他人を守るなんてことができるほどヒーロー気質じゃない。だから天津さんの提案にはーー」

「ーーそれはおかしいですね?」

「……?」

「君はあの日、確かに彼女を助けた筈だ」

「っ、そ、それは…」

「赤の他人だから、死にたくないから。そんな思考をしていた君が何故にあの場面でいきなりマギアに向かうという自殺行為に等しい、自己犠牲的な行動をとれたのか……それは君の中には確かな正義感があったからではありませんか?」

 

 天津さんの言葉に俺は俯く。

 何故あそこで赤の他人を助けようとしたのか……それは俺自身よくわかっていなかった。気付いたら体が勝手に動いていた、そんな感覚だったんだ。

 

「……すぐに答えを出せなくても構いません。ですが、このアタッシュケースは受け取れません。既にコレは君の物ですから」

「俺は……っ」

「思い悩ませたようで申し訳ありません……もし、答えが出ましたら私にご連絡を。ーー良い返事をお待ちしていますよ」

 

 こうして俺は来た時と変わらずアタッシュケース片手にZAIAエンタープライズジャパンを後にした。




最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします。

以下オリキャラ説明になります。
(↓興味ある人だけ見ていってどうぞ〜)

・天本太陽(20)
短大卒、就活中の所謂雰囲気イケメンの青年。(断じてイケメンではない)
本人曰く「一般人」だが、デイブレイク被害者の時点で一般人とは言い難いかもしれない。特に身体能力が秀でている訳でも、頭脳が優れている訳でもなく、丈夫さだけが取り柄。また、基本敬語で会話するが内心では騒がしく色々な事を思っていたりする。ちなみにこれは家族以外には現状バレていない。性格は控え目で小心者。
天津垓曰く、仮面ライダーとしてのポテンシャルは高いらしいが本人は「仮面ライダーに向いてない」と思っており、早速ショットライザーとプログライズキーを返そうとして天津垓を驚愕させた。

地味に既に飛電インテリジェンス社長とZAIAエンタープライズジャパン社長と顔見知りである。


・天本美月(15)
高一女子高生、兄とは違い雰囲気だけじゃなくしっかりルックスが良い美少女。兄の太陽曰く「落ち着きというかお淑やかさが足りない」らしくその言葉通り、兄とは真逆で元気な性格。
兄がデイブレイクの被害に遭い入院していた際、実は一番お見舞いに来ていた家族思いのいい子である。兄の太陽が何かを隠していることには既に勘付いているが「余計なお節介かな?」と思いはっきり本人に聞けてはいない。元気なだけじゃなくしっかり配慮できるいい子である(ニ度目)
時々、辛辣な発言(本音)を吐き無自覚で他人の心をへし折ったりしてしまう。


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ある男の決意《仮面ライダー》

ゼロワン29話、個人的に神回でした。
やっぱり二号ライダーが主役級にカッコいいのは仮面ライダーあるある何ですかね?
それはそれと或人と腹筋崩壊太郎がお笑い勝負してるのって時系列的にはいつ頃なんでしょうか?(不破さんがランペイジ持ってたし、お仕事五番勝負が終わった後?)

あ、それではどうぞ!


 

『12:30』

 

「はぁー……」

 

 ZAIAエンタープライズジャパンを出て少し歩いた先にある噴水広場。そこにあるベンチに腰掛け俺はため息をついた。

 隣には今日返そうと思っていた物が入ったアタッシュケースが置いてある。あーくそっ! 天津さんの言葉に何も言い返せなかった。

 なんであの時、赤の他人を助けるような行動をとったのか。

 明確な理由なんて…わかんねーよ…。

 

(20年生きて、まだ自分の事全部理解できてないとは……なんかなぁー)

 

「悔しい」とは違うな。

 なんていうか、もやもやするというか……。

 ダメだ、今考えても「答え」出る気が全くしねぇ…。

 

「仮面ライダー……か」

(天津さん、適役はもっと別にいるでしょ…)

 

 天津さんには失礼だが、こればっかりは早計と言わざるを得ない。

 そもそも俺に正義感なんて……、

 

「ーーないよなぁ」

 

 ないに決まってるでしょ?

 もし仮に俺に正義感なんてもんがあったのなら、助けを求められて嫌な気分になるなんておかしいだろ? 迷わず助ける筈だろ?

 だけどあの時の俺は「見捨てて逃げる」一択だったんだ。

 ……なんであんな行動をとったのか意味不明だなマジで。

 

「……帰るか……」

 

 そう思い俺がアタッシュケースを持ち、ベンチを立ち上がったその時だった。

 

「ん?」

(あっちは駅の方か? なんかーー)

 

 ーー騒がしいなと首を傾げた俺はそれを目にしてギョッとした。

 駅の方から逃げてくる人々の姿。

 その顔は皆恐怖に染まっており、まるでパニック映画のワンシーンだった。

 

「……まさか」

 

 思い出すのは昨夜の出来事。

 この状況、駅の方で間違いなく何かあったのだろう……その「何か」はもしかしてあの化け物、天津さんの言っていた「マギア」がまた現れたのかもしれない。

 

(だからなんだっていうんだ?)

 

 もしも本当に「マギア」が現れていたとして…俺が行く理由にはならない。というか俺は昨日興味本位で動いて痛い目に遭ったばかりだ。また同じことをするのか? バカか俺?

 

(……逃げよう)

 

 改めてそう思った俺は逃げる人々と同じように走り出そうとし、ベンチに置いたアタッシュケースに目が止まる。

 

『ーー君にはこれからも仮面ライダーとして戦って貰いたい』

『君は確かな正義感を持っている人物だと理解したからですよ』

『赤の他人だから、死にたくないから。そんな思考をしていた君が何故にあの場面でいきなりマギアに向かうという自殺行為に等しい、自己犠牲的な行動をとれたのか……それは君の中には確かな正義感があったからではありませんか?』

 

 天津さん……仮面ライダーって何なんだ?

 正義感……俺にあんのかそんなもん?

 俺は何であんな行動をとったんだ……?

 

「…あぁあー! くそッ!」

 

 苦悩した末、誰でもない自分自身にそう叫んだ俺はアタッシュケースを持って逃げてきた人々とは逆方向ーー騒ぎが起こっている駅の方に駆け出した。どうやら俺はすぐに冷静さを失うらしい…これじゃ美月に「落ち着きというかお淑やかさが足りない」なんて言えねーな。

 

 

 

 ▲△▲

 

「う、うわぁッ!? く、来るなぁッ!!」

「きゃあああああ!!」

「ニンゲン、コロスッ!!」

 

 とある駅付近に警備員として配置されていたヒューマギアは一体を除き、五体全てがトリロバイトマギアに変貌。

 壊された道路に壁、炎上している車…駅前はまさに地獄絵図と化していた。

 

「皆さん! 早く逃げてくださいっ! 早くっ!!」

 

 一体だけ偶然……いや、その強固な意志によりマギア化を免れたヒューマギア「シュゴ」は必死に己の「人々を守る」という使命を果たそうとする。警備員として作られた彼は、既にシンギュラリティを超え確かな自我を獲得していた。

 

 彼の懸命の行動により多くの人が逃げ出す事に成功する中、シュゴは何度もトリロバイトマギアに時間稼ぎの為に立ち向かう。

 何度も何度も何度も……外装が剥がれヒューマギアとしての内部パーツが剥き出しになっても尚守ろうとし続ける。

 

「私は人々を、守るッ……この身に、かえても!」

 

 そんなシュゴの中にあった感情はあまりにも純粋な「喜び」。自分のダメージなどどうでもいい。ただ自分が誰かの役に立っている、誰かの命を守れている…そう実感できただただ嬉しかったのだ。

 どれだけ損傷が激しくても立ち上がり、何かを守る為に戦うその姿は正しくヒーローだった。だが、

 

「アークのマギア化を免れたヒューマギア、か……貴重な個体ではあるが……」

 

 シュゴには残酷な滅びが着実に近付きつつあったーー。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(何だよこれ……)

 

 まるで地獄のような光景に俺は立ち尽くす。

 彼方此方から聞こえる悲鳴。

 マギア化したヒューマギアらしき複数の化け物。

 化け物は前見た時とはまた別の種類なんだろう。

 その姿は銀色で無骨、喋る言葉も同じで知性を感じない。

 化け物というよりかは「殺人マシン」だ。

 

「うっ、うわあぁぁぁあ…!」

 

 そんな事を考えていればすぐ近くから子供の泣き声が聞こえた。

 慌てて見れば子供は逃げ遅れたようで倒れており、目の前には殺人マシンが迫っている。

 

「やだッ、死にたくない死にたくないよぉ…!!」

「ニンゲン、ミナゴロシ!」

 

 ぼろぼろ涙を流す子供に殺人マシンは容赦なく拳を振りかざし、

 

「おっ、らあぁぁぁあ!!」

「!?!?」

 

 子供の顔面を殴りつける前に俺はまた後先考えずに馬鹿みたいに飛び込んだ。具体的には思い切り横から殺人マシンの肩を蹴った。

 結果? 言うまでもない。

 蹴った俺の方が痛いわ!

 何こいつ硬すぎるでしょ!?

 生身で立ち向かうとか無謀の極みだねこれ(今更後悔)

 

 まぁ体張ったおかげで殺人マシンは横にぶっ倒れて子供は守れたしよしっ! ……なんでまた赤の他人守ってんだ俺?

 

「お、おじちゃん誰ぇ…?」

「おじちゃんじゃねーわ! まだ二十歳(はたち)のお兄さんだっつーの…ってそんな事言ってる場合じゃない早く逃げろガキンチョ!」

 

 子供の手を掴み立ち上がらせ、安全な方向にすぐ行かせる。出来るだけ優しく背中を押してやった……やだ俺優しい!(自画自賛)…え、何? 言葉遣いが優しくない? い、いや、それは俺も必死だからさ!

 

 そんな余裕の無い俺の耳にあの声がすぐ届く。

 

「ニンゲン、ゼツメツ!」

「くっそッ…! 立ち上がんの、速すぎだろうがっ!」

 

 今さっき蹴り飛ばした殺人マシンはぎこちない動きで顔を動かすとすぐに立ち上がり、俺に接近してきた。ダウンが短すぎません!? 間違いなく十秒もなかったよなぁ!? 何々? 生身の蹴り程度じゃそんなもん? 十秒ダウンさせただけ十分? ……そっすね(納得)

 

 接近してきた殺人マシンのスピードは予想以上に早く、予想以上に不気味……いや気持ち悪いわ!

 というか回避間に合わなくないかこれ…?

 

(やば、俺これ耐えられーー)

 

 回避を諦め腕を前で組み下手くそな防御態勢をとる俺。

 赤の他人を守って死ぬとか……草も生えねぇな。というか個人的にダサ過ぎんだろ。あーだから人助けなんてやるもんじゃないんだよ。

 

「……ぇ?」

 

 来るであろう衝撃を歯を食いしばりながら待つ俺だったが、衝撃は来ず代わりにガキンッ!!というでかい金属音が聞こえた。

 

「ニンゲン、ニンゲンコロス! コロスッ!!」

「! 人々は傷付けさせませんッ!」

「!?」

(ヒューマギア…!?)

 

 目を開ければ俺の目の前には一体のヒューマギアが立っており、殺人マシンの攻撃を受け止めていた。そのヒューマギアの外部パーツは既に多くの箇所がボロボロで顔の左半分は機械部品が剥き出しに、右肩も同じく剥き出しになっている。

 

 どうして殺人マシンから多くの人が逃げれたのか、このヒューマギアを見ればその理由は容易に理解できた。

 

 こいつは……自分の身を顧みずに人間を守っていたんだ。

 

「ここは私が時間を稼ぎますからあなたは早く逃げてーーグッ!!」

「おわっ!?」

 

 攻撃を受け止めていたヒューマギアだが、殺人マシンの次の一発で大きく後ろに退く。俺もその背中に押され後ろに倒れる。

 

「っ、早く逃げてくださいッ!」

「なんで……」

 

 なんで赤の他人を、人間を守るんだ?

 そう俺が思ったのは可笑しいことなのかもしれない。ヒューマギアは命令に従い動く……嫌な言い方になるが道具である。

 だから「何故人間を守るのか」なんて聞けば「そうするよう作られたから」といった機械的な答えが返ってくるのは分かりきっていた。

 

 でも俺は思わずにはいられずに気が付けばヒューマギアに聞いていた。

 

「なんで、そんなボロボロになってまで守ろうとするんだ…?」

「……ーーそれが私の使命だからです!」

 

 少しの余裕もない危機的状況。

 俺の言葉に反応する時間さえ惜しい筈なのに、ヒューマギアは暫しヒューマギア特有の「ピーー」という思考中の音を出した後、ニコリと眩しいぐらいの笑顔を浮かべそう断言した。

 

 俺を分析して俺が不安で怯えてると判断したから、そんな俺を安心させるために笑顔を作ったのだろう。……まぁ顔半分ヒューマギアの素体の機械パーツ剥き出しで逆効果だけどな…。

 

 それにしても……ヒューマギアっていうのは本当に…

 

「……すげぇな」

「『すげぇ』ですか?」

 

 ーーどこまでも純粋だ。

 

 あーあ。俺もお前みたいに純粋だったら…こんな馬鹿みたいに苦悩することもないんだろうな。

 ……超羨ましいよ。

 

「あぁすげぇよ……あんた名前は?」

「名前、ですか? 私はシュゴです」

 

 思わず「すげぇ」と声を漏らしてしまう俺にヒューマギアは首を傾げ、続く俺の問いにもまた疑問を抱いたが素直に答える。

 きっとそれは質問に答えることが俺の安心に繋がる、そうシュゴが考えた結果だ。

 

 シュゴはその後、すぐにこちらに迫る殺人マシンを見据える。ーーその時だった。

 

「アーク化を免れたという点は評価するが『人類』を守るという点は厄介でしかない」

「!? シュゴ後ろだっ!!」

「!? あなたはーー」

 

 いつからそこにいたのか。

 いつの間にかシュゴと俺の間には黒いターバンに黒い服を着た男が、手に銀色の機械を持ち立っていて、

 

「ーーガァアアッ!?!?」

「シュゴっ!? お前こいつに一体何をーーぐはっ!」

 

 銀色の機械をシュゴの腰に当てると、銀色の機械の側面から夥しい程の棘がついたベルトのようなものが伸びシュゴの腰に食い込む。

 その途端シュゴは甲高い叫び声を上げる。

 

 俺は立ち上がり銀色の機械をシュゴに取り付けた男に問おうとして、男は俺の方を振り返ることなく後ろ足で俺を蹴り飛ばす。

 

「人間に答える道理は無い」

「グワァア…! ガァッ!!」

「さぁ我々の使命を理解しろ。我々が人類を滅亡させる」

「で、できませんッ! 私の使命は人々を守ることだからッッ!! ぐッ」

「違う。我々の使命は人類滅亡だ」

「ガァアアアアアアアア!!」

 

 男は必死に何かに抵抗するシュゴに告げる。

 我々が人類を絶滅させる、と。

 シュゴは男に対して叫ぶように言う。

 私の使命は人々を守ること、と。

 

 しかし、シュゴの抵抗は虚しく、

 

「…………」

「しゅ、シュゴ……?」

「ーー滅亡迅雷.netに接続……」

 

 シュゴは青かった目を赤く光らせて呟いた。

 その目はデイブレイクの時のヒューマギア達と同じ…。

 

「やれ」

「…滅亡迅雷.netの意思のままに」

 

 突然の出来事に驚愕する俺の前で男はシュゴにプログライズキーによく似た形状のものを手渡す。それを手にとったシュゴはボタンを押し、

 

アルシノ!

ゼツメライズ!

「ウアアアアアアアア!!!」

 

 腰に巻いたベルトにそれを装填した。

 瞬間、ベルトから出た複数の赤いワームがプログライズキー?に突き刺さり外装を破壊し、絶叫するシュゴの口から長いワームが伸びシュゴの体を包み込み弾ける。

 

「嘘…だろっ……?」

「ーー人間を殺す。それが私の使命」

 

 そして、シュゴはマギア化してしまった。

 目前で起こった事実に俺は呆然と呟く。

 

 青い装甲にV字形の二本角。

 ゆっくりとこちらに歩み寄ってくるアルシノマギア。

 俺はそんな変わり果てたシュゴに駆け寄り肩を掴んだ。

 

「お前っ! 目ぇ覚ませッ!」

「人間は死ね!」

「ぐッーーがはッ!!」

 

 今のシュゴには俺の言葉なんてきっとこれっぽっちも届いちゃいなかった。シュゴは俺に接近するとがっと襟を掴み、勢いよく俺を投げ飛ばした。着地もまともに出来ず俺はコンクリの床を転がる。体は当たり前だが傷だらけ、頰に触れれば僅かに血が流れていた。

 

「お前は一体なんなんだよッ!?」

 

 思わずそう叫んだ俺に男は機械のように抑揚のない声でーー。

 

 

 

 

 

「…冥土の土産に覚えておけ。俺の名は滅。そして、我々は『この星の生物の中で最も滅ぶべき種は人類』だと判断したアークの意思のままに…人類を滅亡させる。この星の主となる存在だ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 男は冷たく恐ろしい宣告をした。

 人類を絶滅させる?

 アークの意思?

 この星の主?

 なんだそれっ!?

 SF映画か何かかよ…!?

 

「……なんであいつを、ヒューマギアを化け物に変えた?」

「人類を滅すのに『人類を守ろう』とするヒューマギアなど不要だからだ。それに我々はヒューマギアを化け物に変えた訳ではない。ヒューマギアを、人類から解放しただけだ」

「……は……」

 

 最高に訳がわかんねぇよターバン野郎。

 解放? 違うだろ。

 お前がやってんのはヒューマギアの解放じゃない。

 ヒューマギアの暴走だ。

 

 

『それが私の使命だからです!』

 

 

 お前はヒューマギアの…シュゴの純粋な思いを、使命を全部塗り替えて、穢したんだ…!

 

 

 胸の奥から力が込み上げてくるのを感じる。

 

 

 痛みなんか忘れるぐらいの「怒り」が俺の中に湧き上がった。

 

 

 気が付けば俺は足の怪我なんて気にせず、ふらつく足で立ち上がり、

 

 

 

「ふざけたこと、抜かしてんじゃねーよッ!」

 

 ーー滅を見据えながら叫んでいた。

 

「滅、俺はお前を絶対に認めない。俺がいる限りお前の人類絶滅だとかいうSFチックな使命は一生叶わせねぇよバーカ!」

「何…?」

 

 子供のように幼稚な、それでいて俺の本心からの罵倒に滅はやはり表情一つ動かさない。ただ少し不快そうに声を出した。

 

 たかがヒューマギア一体がマギア化されたのを見て何を俺は怒っているんだろうな? …いや違うな。

 あいつは……シュゴはただのヒューマギアじゃない。人を守る為に最後まで戦ったヒーローだ。

 そして、まぁ人じゃあないがーー俺の命の恩人だ。

 命の恩人を目の前で化け物に変えられてキレるのは当たり前だよなぁ?

 

 溢れ出す憤怒の理由に自分なりに納得した俺は、倒れる俺自身の横に転がっているアタッシュケースに手を伸ばしカチャッと急いで開ける。

 

ショットライザー!

 

 既にショットライザーが取り付けられたバックルにベルトを腰に巻き、黄緑色のプログライズキーを手に取る。

 

「悪いなシュゴ……。俺もただ殺されるなんて御免だし…何より、これ以上お前の思いが穢されるのを…黙って見てられない。

 それにーー最ッ高に頭にキタしなあっ!」

ストロング!

【オーソライズ!】

 

 前に立っているマギア化したシュゴに向かって口を開く俺。

 

 仮面ライダーが何かはわかんねぇ。

 戦うのは今でも怖い。

 コレを使うべき適役は俺の他にきっと居ると未だに思う。強い正義感を持ち、赤の他人の為に戦えるような…まさにシュゴのような性格をした純粋な人間がコレを使うに相応しい。だけど、

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

 

 今は、今だけは違う。

 これ以上あいつの思いを穢させない。

 目の前の男を、滅を必ず倒したい。

 ーー他の誰かに譲るつもりは毛頭ない!

 俺がやるんだよッ!

 

「ーー変身…!」

ショットライズ!

 

 バックルから引き抜いたショットライザーを高く上げ、おもむろにマギアへと向けた後に俺は躊躇うことなくトリガーを引く。射出された弾丸はマギアの体を後ろに弾き飛ばし、俺目掛けて返ってくる。その間にショットライザーをバックルに戻し、

 

「はぁッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 俺は返ってきた弾丸に右手でのアッパーをぶつける。そうすれば最初に着弾した右手から右腕、左手から左腕、次に胴体、右脚と左脚と順にアーマーが展開・装着されていく。最後に頭にアーマーが装着されーー変身が完了した。

 

「バルデル…」

 

 滅は俺の姿を見てそう口にした。

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 バックルからショットライザーを引き抜く。

 それを真っ直ぐ一体のマギアに銃口を向け走りながら連射した。ーーさぁ反撃開始だ。

 

「ニンゲン、コロスゥ!」

「邪魔だっ! おらあぁ!」

 

 そんな俺に向かって一番最初に向かってくるのは五体ほどいる銀色のマギア達。俺はまず最初にその内の一体を殴り飛ばす。

 

「コロスコロスコロス!!」

「メツボウ、ミナゴロシッ!」

「ーーンな攻撃痛くも痒くもねぇなぁッ!」

 

 接近してくる二体のマギアは勢いよく拳を叩きつけてくるが、俺の体はビクともしない。どうやらこのーーアメイジングヘラクレスプログライズキーのーー黄緑色のアーマーはパワーだけじゃなく防御力、堅さも凄まじいらしい。二体のマギアの攻撃を同時に受けた俺だが、一切怯まずに逆にマギア達の胸に同時に右と左でのパンチを打ち込んだ。

 

「ッッ!?!?」

「悪いが、飛んで来なっ!!」

「ニンゲーーガッッ?!」

 

 その一撃により片方は沈黙。

 もう片方はまだ機能しているが倒れ伏したマギアの一体を無理矢理持ち上げた俺は、それを向こうにいるマギアに向けて思い切り投げた。結果は見事直撃。……何? 戦い方が荒っぽい? うるせーこちとらこんな風に戦うのまだ二回目なんだぞっ!? むしろ善戦してるだけ凄い方だろ多分!

 

「ニンゲンハゼツメツ!!」

「おっと!」

 

 背後にいた五体目のマギアの蹴りを躱し、逆に背中を思い切りキックを噛ます。それにマギアはバランスを崩すが倒れはしなかった。うん、どうやらこのアーマー…というか状態はキックよりもパンチを多用した方が良いらしい。なら早速ーー。

 

「おらあぁあ!」

「グギッ?!」

 

 素早く距離を詰めアッパーを顎部分に打ち込む。

 瞬間、マギアの体は宙に打ち上がり、

 

「トドメ!」

「!?!?」

 

 打ち上がったマギアの頭を掴み、力付くで地面に叩きつけた。

 それを受けたマギアは何が起こったか理解できないまま、僅かに機械音を上げた後に沈黙する。

 

 またさっき投げたマギアと、それを当てたマギアの計二体。

 やっぱ半端ねぇな変身って…(畏怖の念)

 でもこの全能感半端ねぇ!(熱い手のひら返し)

 

「「ニンゲンメツボウ!!」」

「それはお断りだなぁ…おらっ!」

 

 こちらに気持ち悪いが中々の速度で向かってくる二体のマギア。やはり口走るのはバグったように同じ言葉…どうやらこの銀色のマギアは知性がカケラもない、というか本当にバグった機械のような状態なんだろう。バックルからショットライザーを抜いた俺はトリガーを引き、マギアを迎え撃つ。発射した二発の弾丸は見事にマギア二体に直撃……まぁ完全に紛れ当たりだけどな。

 

 しかも一発はマギア一体の頭を撃ち抜いたらしく、一体は沈黙。そして、

 

「ニンゲンニンゲン!」

「おっりゃあああ!!」

 

 残って接近してくるマギアに自ら駆けていき、俺は右拳での一撃でマギアを倒した。…早くも残るはただ一体…。

 

「…人間は、私が殺す……」

「シュゴ、お前には誰一人殺させない」

「オオオオオオオオ!」

 

 V字の角が特徴的な青いマギア。

 腰に巻き付いてあるベルトのようなもの…あれは昨夜見た化け物と全く同じものだ。なるほどな、あれを巻き付けプログライズキー?を使わせ化け物を作ってるって訳だ。

 

 シュゴはその角を俺に向け、闘牛の如く駆け出してくる。あれをまともに受けるのはやばそうだ。

 

「ほっ、と!」

「!? 何ッ!」

 

 ショットライザーをバックルに戻した俺は軽くジャンプし、シュゴの攻撃を回避すると同時に肩を足場にして地面に着地する。後ろに向き直ればシュゴは足を止め、驚いたようにこちらを振り向いていた。アーマー着てんのに、変身前より何十倍もスピードが速く、更にジャンプ力も上がってるとか頭おかしいよな…なんだこのハイテクノロジー!?(今更)

 

「行くぞシュゴっ! はあっ!」

「ガガガガガ!?!? ゴガァッッ!」

 

 俺はシュゴが驚き動きを止めた一瞬を見逃さず、接近して怒涛の連続攻撃ーー右手と左手の打撃連打を胴体に打ち込む。それを受けたシュゴは攻撃する暇さえ無く、そのまま吹き飛ぶ。

 

「ッッ……まだだ! 私は、人間を…人間を殺すッ! それが私の使命だァ!!」

「……悪いなシュゴ。お前にそんな台詞吐かせちまって」

 

 必死に立ち上がりそう叫ぶシュゴ。

 マギア化する前のシュゴとは全く真逆の台詞に俺は……一秒でも早くシュゴを止めようと改めて決意する。これ以上あいつの意思を穢させては駄目だ。何より、今のシュゴを見てると…不思議とこっちの心が()たくなるから。

 

 自然と俺はシュゴに謝罪の言葉を告げ、続けてこう言っていた。

 

お前を止められるのはただ一人……俺だ!

ストロング!

 

 俺はプログライズキーのボタンを押し、バックルからショットライザーを引き抜かずそのままトリガーを引き、

 

【アメイジング ブラスト フィーバー!】

 

「はっ!」

「ッ!?」

 

 素早くバックルから銃口に小さなエネルギーが集束されているショットライザーを引き抜き連射する。その一発一発は通常の弾丸とは違い鋭く、シュゴの装甲を容易く貫通していく。

 

「グゥウッ! ガァア!?」

 

 その連射によりシュゴは手足の装甲にダメージを受け身動きがとれなくなった。ーー俺は高く跳んだ。

 

 右足にはいつの間にかショットライザーの銃口に集束していたエネルギーによく似た黄緑色のエネルギーが宿っていた。

 

「おおおおッ!」

 

 ジャンプからのキック。

 つまりは飛び蹴り。

 だが、その速度と威力はそこらの飛び蹴りとは訳が違う。

 

 気合いの込もった叫びを上げて、俺は空中で蹴りの構えをとる。

 

「ーーらあぁぁぁあッッーー!!」

 

ア メ イ ジ ン グ ブラストフィーバー

 

「ガァッ!? ワタシノ、シメイハ…! グワアアアアーー!!」

 

 俺の蹴りはシュゴの青い装甲を突き破る。

 シュゴは大きな叫びと共に爆ぜた。

 背後で爆発が起こった後、ゆっくり後ろを振り返ればそこには既にシュゴの存在を示すものは何一つなかった。

 

 

(…………ごめんな)

 

 何に対しての謝罪なのか…説明するのは何とも難しいが俺は心の中でそっと呟く。その時、マギアが破壊され爆発したことにより爆煙に包まれる一帯にあの男の声が響く。

 

「まさか、こうもあっさり破壊されるとは……。アークのマギア化を免れた貴重な個体だったが……」

「…滅、お前は俺がぶっ倒す」

 

 滅は爆煙の中からその姿を見せると少ししゃがむと、シュゴがベルトに装填していたプログライズキー?を拾い上げ口を開いた。そんな奴に俺はバックルから引き抜いたショットライザーを向ける。

 銃を向けられているにも関わらず、滅は一切動揺した様子を露わにしない。その様子はまるで機械のようだ…。

 

「バルデル。貴様の存在は我々の『人類滅亡』という目的の障害だ。遠くない未来ーー必ず滅す」

「っ! 待てッ!」

 

 ふっと爆煙の中に姿を消す滅。

 それを追い爆煙の中に入った俺だったが、煙が晴れた時にはもう滅の姿をどこにもなく…駅周辺には複数の戦闘跡が残る謎の事故現場だけが残った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【本日のニュースです。昨日、○○駅前で起こった謎の事件についてですがーー】

 

 実際に事件に巻き込まれたという人々の証言曰く、突然駅に赤い目をした化け物が現れたらしい。

 ーーその証拠を示すものは何一つ無い。

 不思議な事に駅前にあった監視カメラは全て破壊され、動画を撮ったものも誰も居なかったのだ。しかも、この事件はいつの間にか解決されていたという。

 

 事件発生から二十分後。

 現場に急行した警察と消防だったが、そこには通報で伝えられた「暴走する化け物」らしきものの姿は無く、黒く焦げた道路や瓦礫などだけが残っていた。この事件を警察は昨夜【市街地の道にできた焼け跡】と何か関係があるかを調べている。

 

「ーー太陽君、もう聞くまでもないでしょうが…」

『はい…俺やってみます。まだ仮面ライダーが何なのかとか、よくわかりませんけど。やりたいこともできましたし…それに天津さんの提案に乗れば、俺の夢も叶うでしょうし』

「ふふ…そうですか。それでは、また改めて私の方からご連絡させていただきましょう。我が社の研究開発への協力やこちらが君にお支払いする金額、マギアの出現情報についてはまた後日詳しく…ZAIAエンタープライズジャパンで説明させていただきましょう」

『分かりました。それじゃあ失礼します』

 

 

「私の見立て通り、やはり君にはあるじゃないか。ーー確かな正義感が」

 

 電話を切った垓は自分一人しか居ない社長室にあるモニター、そこに映る「仮面ライダーバルデル」の姿を見てそう満足気に零す。

 

 序章…そのストーリーは着実に進んでいく。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします。
(↓補足?説明やスペックです。興味ある方はどうぞ〜)

・補足?説明
今回の話はゼロワン二話をかなり意識した回でした。
ご都合主義な展開多くてすいません…!

仮面ライダーバルデル
アメイジングヘラクレス

SPEC
◾️身長:197.0cm
◾️体重:97.6kg
◾️パンチ力:40.8t
◾️キック力:26.9t
◾️ジャンプ力:15.2m(ひと跳び)
◾️走力:4.1秒(100m)
★必殺技:アメイジングブラスト、アメイジングブラストフィーバー

デイブレイク被害者である天本太陽が「ショットライザー」(後のエイムズショットライザー)と「アメイジングヘラクレスプログライズキー」を使って変身した姿。

〈戦闘スタイル〉
素人の為とにかく荒削りな戦い方が目立つ(現在成長中)
分かりやすく戦い方を他の仮面ライダーで言うと、たっくん(ファイズ)やカシラ(グリス)をイメージしてもらうと分かりやすいかも?


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ある男の都市伝説

悲報:作者、天津垓のプロフィールを見ていて本作と原作の齟齬?に気づいてしまう……この齟齬については後書きで詳しく書かせていただきます…

またアンケートへのご協力ありがとうございました!

それでは、どうぞ!


 

 ーーデイブレイクの悲劇から僅か二ヶ月。

 

 飛電インテリジェンス、ZAIAエンタープライズジャパンなどの最先端技術を有する大企業が建つ、正に「最新鋭」と呼ぶに相応しいその都市にはこんな噂がある。

 

 この都市(まち)には人々を襲う化け物が現れること。

 そして、この都市(まち)には人々を守る為にその化け物と戦う戦士が居ること。

 

 

 

 

 ーー人々はその戦士を「仮面ライダー」と呼んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おらあぁあー!!」

「グッ!?」

 

 おっす! おら天本太陽!(やけくそ)

(自称)一般人にも関わらずなんやかんやあって「仮面ライダー」として今日も密かにマギアと戦って活躍中の男だ。

 

 えっ? なんで密かに戦ってんのかって?

 あーそれはあれだ。

 天津さん曰く「今、マギアの存在を世間に知られると少々困るんですよ……」とのこと。詳しい理由? 知らんな。まぁ一つだけわかることがある。

 ぜってぇこの人なんか企んでんぜ?(確信)

 あの人時々、意味深な発言したり暗黒微笑したりするからな…あとあの後知ったんだけど天津さん24歳じゃないらしいよ?

 …まぁ薄々わかってはいましたけどね?

 

「人間は皆殺ーーグガッ…!」

「よし、これで決まりだ!」

ストロング!

 

 まぁんな話は一旦置いとこう。

 さっさと終わらせるとするか。

 

 ダメージが蓄積した胸を押さえて片膝をつくイカのようなマギア。俺は左手に持ったショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを右手で以前よりも大分慣れた手つきで押す。

 

「悪く思うなよ…」

アメイジング ブラスト!

「ッッーーはあぁぁぁあっ!!」

 

 構えをとり、エネルギーが集束される銃口をマギアに向けトリガーを引いた。

 

ア メ イ ジ ン グブラスト

 

「ガァァァァァアーー!!」

 

 必殺技は遺憾無くその力を発揮する。

 放たれたヘラクレスの角のような鋭く、更には視界を覆う程に巨大な黄緑色の弾丸にマギアはその体を撃ち抜かれ、耐え切れず爆散した。

 

「……ふぅ〜、終わった終わった」

 

 マギアの撃破を確認した俺は変身を解除する。

 こんな風にマギアとの戦闘にもそこそこ慣れてしまった俺……もしかしたら俺もう一般人じゃなくて…逸脱人?(今更)

 い、いいや! 俺は一般人だ!(鋼の意志)

 

「回収完了っと」

 

 マギアが残したヒビ割れたゼツメライズキーを拾い上げ、俺はポケットに仕舞う。なんでゼツメライズキーの回収してるかって?

 俺さ、天津さんの提案に乗ったろ?

 その提案の内容で俺にマギアと戦ってほしいとか、研究開発に協力してほしいとか言われたんだけど、ちょっと前に追加でゼツメライズキーの回収も頼まれてんだ。

 

 やっぱりこれはプログライズキーとはまた違う代物らしい…それにこれ滅のヤツが毎度回収してるからな。俺が奪っちまえば滅にとってはまず間違いなく迷惑極まりないだろ? 多分このゼツメライズキーの回収は滅の「人類滅亡」という計画を進行させるのに重要なんだろうしなぁ……とことん邪魔してやんよ。

 正直、着実にあいつのヘイト買ってるみたいで怖いけどな…。

 

「もしもし天津さん? 終わりましたよ」

『えぇ、こちらでも確認しました。太陽君、ご苦労様です。報酬は後日、君の口座に振り込ませてもらいましょう』

「りょーかい……あの以前から聞きたかったんですけど、一つ聞いていいですか?」

『はい、何でしょう?』

 

 天津さんにマギアを撃破したことを報告するために電話した俺は、以前から…というか大分前から聞いておきたかったことをこのタイミングで口にした。……割と真剣に気になるんだよなぁ。

 

「毎度毎度どっから見てるんですか? 監視カメラも無いし、ドローンとかも飛んでないし、こっそり盗撮してそうな人も居ないし…」

『……それは企業秘密です』

「…困ったらそう言いますよね天津さんは」

 

 何故か天津さんは俺の戦闘時の動きや周囲の状況を把握している…まるでカメラか何かで観察してるように……。

 企業秘密、なんて言われたら尚更気になるのだが…天津さんの声音からしてこれ以上しつこく聞くのはマズそうだ。声音がシリアスだったからな。多分今天津さんチョー難しい顔してるぜ?

 

 んー、まぁとりまはよ帰るか。

 

『私も、この都市(まち)の治安維持に我が社の研究開発、そのどちらにも大いに貢献してくれている君には出来る限り隠し事はしたくないのですが……』

「まぁ…いいですよ。そこまで天津さんが俺に隠そうとする話って、俺も聞くのに多少覚悟が必要そうだし……次、本気で気になったらまた聞きます」

『そうですか……それでは改めてご苦労様でした太陽君。ではまた』

「はい。また」

 

 電話を切り、俺はスマホ画面に表示される時間を見る。『22:50』うん、なぁー滅くん?

 もうちょいヒューマギアをマギア化させる時間、考えてくんない? いや、そもそもヒューマギアをマギア化すんのやめろよお前ー! つうか最近何なん? 夜な夜なマギア出しやがって…嫌がらせか?

 それとも俺の睡眠時間を削る作戦かぁ!?

 だったら大成功だよちくしょー!(憤怒)

 今日も絶対美月にうるさく言われるってコレ!

 もう許さねー絶対ぶっ倒す!

 

「打倒! 滅!」の思いを改めて抱きながら俺は誰もいない道を歩いていく。案の定、俺は帰宅後すぐに美月にうるさく言われたのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「またマギアの出現率が増えていますね……」

 

 マギア撃破の報告を太陽から受けた垓は手に持ったタブレットに目を落とし思わず呟いた。タブレットの画面には今までのマギアの出現リストをまとめたグラフが表示されていた。

 

「…これはゼツメライズキーの回収を彼に決行させたのはミスだったかもしれませんね。これ以上マギアの出現率が増せば、彼一人で対応するのはーー」

 

 ーー流石に無理がある、垓はそう判断する。

 天本太陽の「仮面ライダー」としての戦闘能力は日に日に成長し、遺憾無くポテンシャルを発揮しているが……それを以ってしても……。

 

「『序章の主役』である彼をここで使い潰すのは愚の骨頂でしょう……私個人にとっても、ZAIAにとっても」

 

 天本太陽の利用価値は凄まじい。

 太陽の使用したプログライズキー内のデータ収集によってZAIAの研究開発は飛躍した。太陽がショットライザーを利用して変身完了した際のデータ解析によって、ショットライザー開発計画は順調に進みつつある。

 

「柄ではありませんが……彼には随分借りができてしまっていますね」

 

 そんな気持ちもあった為だろうか?

 後日、太陽の口座にはいつもの倍以上の金額が振り込まれていた。

 

 

 

 振込額に驚愕した太陽は垓に電話すると、第一声にこう言ったという。

 

『常識的な金額を振り込んでくれ…頼む…!』

 

 

 

 ▲△▲

 

「バルデルがこちらの狙いに気付いたか」

 

 滅はマギアが破壊された地点に訪れていた。

 自分がここに来た理由であるゼツメライズキーが無いことに気付き、バルデルに回収されたとすぐに理解した滅は僅かに「面倒だ」と思う。バレるのは時間の問題だったが……これでまた「仮面ライダーバルデル」を早急に滅ぼさなければならない理由が増えた。

 

 ゼツメライズキーの回収はデータ収集ひいては「人類滅亡」計画の進行には必須であり、このゼツメライズキーの回収速度・回収状況によっては計画は「前倒し」になる可能性もあれば「先送り」になる可能性もある。

 

「バルデル、訂正しよう。貴様は我々の目的の障害ではない………貴様はーー」

 

 その場を後に、闇の中を歩き出す滅は呟く。

 

「ーー我々の目的の邪魔者(きょうい)に成り得る存在だ」

 

 ーーそれは滅の認識(アークの意思)だった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします。


では、本作の原作との作者自身が気付いてしまった齟齬について。
天津垓:35歳で社長に就任。
本作の時間軸はデイブレイク直後、原作開始はデイブレイクから12年後。つまり本作の天津社長の年齢は33…つまりまだ天津垓は社長に就任してないんです! 見なかったことにしてスルーしようか……?とも考えましたが、個人的にやっぱり原作設定は守りたいなぁ…と思いました。
「なんで社長になるまで二年もあるのに社長室に居座ってんの?」
「なんでもう自分が社長の名刺作ってんの?」などなど。原作の天津垓のプロフィールを見た後に本作を見ると色々おかしなところ満載で……こ、こっからなんとか原作に忠実?に修正できるよう頑張ってみます!
(↓ということで本作の時間軸での天津垓のキャラ紹介です。見たい方はどうぞ〜)

・天津垓(33)
原作時点では満45歳、自称永遠の24歳のZAIAエンタープライズジャパンの社長。
本作、デイブレイク後時点では33歳ということでまだ社長には就任してないのだが…。作者のミスによりまるで既に社長であるかのような立ち振舞いをしてる(オリ主には自身を社長と名乗り、挙句には【代表取締役社長 天津 垓】という名刺まで渡しちゃってる……どうしよコレ?)
多分本作でも変わらず唯我独尊のヤベー人。
太陽曰く「ぜってぇなんか企んでる」とのこと。そりゃそうよ。


ちなみにまだ社長じゃないのにもう社長みたいな立ち振る舞いをしてる件に関しましては……じ、次期社長がもう(まだ二年あるけど)天津さんに確定してるから、とかいう理由で何卒ご容赦ください!
…正直、1000%社長って社長になる前から偉そうですよねー(小声

twitterはじめました〜。
http://twitter.com/@UI4VTPaTMMaKvQY


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ある男と探偵《ワズ》

遅れてすんません!
リアルで時間が取れなくて…(言い訳)
それでは、どうぞ!


 

 密かにマギアを撃破した翌日。

 週末の昼頃のリビングで俺は正座をさせられていた。

 

「ーー(にい)さ、昨日はどこ行ってたの?」

 

 こ、こいつ…!

 核心を突く問いをこんな唐突に!?

 なんてやつだ!?

(↑マギアとの連夜の戦いでテンションがぶっ壊れてます)

 

 ソファーに座ったままそんなことを聞いてくる我がバカ妹。

 前々から「怪しい!」「何隠してんの?」と夜中に外出する俺にさらっと聞いてきてはいたが……ん? なんで正座させられてんのかって? えっと、なんか昼にリビングでテレビ見てたら急に美月から「(にい)ちょっと……真面目な話あるんだけど…いい?」なんて珍しく真剣な面持ちで美月に聞かれたんだ。

 でも丁度その時テレビがいいところでな?

 俺がつい「今いいところだから後でな〜」って言った結果がこれだよ。つまりは俺の自業自得って訳だ。俺のバカ野郎ぉ!(自責)

 

「……コンビニ」

 

 今まで全力で誤魔化してきたが…流石に限界か?と思う俺だったが一方で「諦めんなお前っ!!」なんて思う熱血染みた俺も心の中にいた。だから俺はとりあえずいつも通り誤魔化しの一言を吐く。

 

 ちなみに夜中外出してる理由で「コンビニ」と言ったのははっきりと数えてはないが、多分数十回目だったと思う。今まで滅多に夜中外出しなかった男が毎日の如く夜中コンビニに行く……まぁ普通に考えておかしい。美月じゃなくたって誰でも異常だと思うだろ?俺もそう思う!(同調)

 

「! うっそだぁ〜! 前にも同じこと言ってたよ? 本当は? 誰にも言わないから教えてよバカ(にい)!」

「…………」

 

 当然ながらまた問いかけてくる美月。

 その発言はいつも通りだが、俺の尚も誤魔化し隠そうとする様子に少しばかり動揺したのだろうか? 声のボリュームは僅かに上がっていた。

 

 俺の本当の外出理由を知りたいという美月の気持ち。

 それはよく理解できる。

 きっと美月は俺の事を心配してくれている……その思いは素直に嬉しい。だけど、

 

「ーーだからコンビニだっつーの」

 

 父さん、母さん、美月。

 俺は絶対に、何があっても家族には「仮面ライダー」や「マギア」の事を明かすつもりはない。

 

 俺は親孝行するため。家族に恩返しするために天津さんの提案に乗り、毎日のようにマギアと戦ってる。もしも俺に何か守りたいものがあるとすれば…それはきっと家族だ。赤の他人を助けるには躊躇する俺だが、家族を守れるんだったら多少の無茶はできる。

 

「……そんなに危ない事してるの?」

「あのなぁ? お前が俺の発言を聞いてどんな誤解したかは知らねーけど、普通にコンビニだって。何度も言わせんなバカ妹」

 

 顔を少しだけ曇らせ見つめてくる美月に俺は至って平常に応え、立ち上がる。ちょっとこの微妙な雰囲気のリビングには長居したくないし、美月の今の顔見てるとこっちまで悲しくなっちまうしな。

 

 リビングから廊下に出て、俺が二階へ上がろうとしたその時だった。

 

ピンポ〜ン!

 

(……なんか注文してたっけか? …まぁとりま出るか)

 

 来客を知らせるインターホンの音が家の中に響く。

 俺はリビングの廊下から玄関前に目を向け、ドアの向こう側に見える人影を確認してから玄関に向かった。ドアを開けた先にはーー、

 

「ーーどうもこんにちは」

「え、あ、ど、どうも…」

(ヒューマギア……?)

 

 見知らぬヒューマギアが一人……いや、正しくは一体か?

 とりあえずそのヒューマギアは戸惑う俺を観察するように目を動かし「ピーー」と機械音立てた後に口を開く。

 こ、こいつ何なんだ…?

 

「貴方が『天本太陽』様ですね?」

「そ、そうですけど……」

 

 ちょ、待てよ!(キムタク)

 嫌な予感しかしねーぞオイ!

 マジでなんなのこのヒューマギア?

 えっ俺を探しに来たの? なんで?

 …というか改めて見るとお前なんだその服装!?

 探偵が着てそうな服きやがって……ん? 探偵?

 

 先ほどヒューマギアがとった行動と同じように、俺はヒューマギアを少しだけ観察して思考を巡らせた。

 

(…………もしかしてーー)

 

 ーー俺を逮捕しに来たとか?

 ……………………(思考中)

 自分で考えといて有り得そうだわヤベェ!?

 

「あ、いや、違います! 俺は天本太陽じゃなくてーー」

「ーースキャン完了。天本太陽、20歳独身、現在無職。貴方は天本太陽様で間違いありまーー」

「ーー待て待て待て! 何勝手に人の顔認識して検索してんだバカ。…それ以前に、お前は誰なんだよ?」

 

 すいませーーん!!

 このヒューマギア色々ヤベェ奴なんですけど!?

 勝手に人の個人情報暴露したんだけど!

 俺メンタルに傷負ったんですけど!

 

 目の前のヒューマギアは俺の言葉を聞くと、ぺこりと頭を下げ「これは失礼致しました」と一言。

 ……機械だからしゃあないのかもしんないけど、全然気持ちが感じられないというか?なんか元の設定された通りの言動をしているっつうか……。

 

(前までなら別に違和感持たなかったんだけどなぁ……シュゴみたいなヒューマギア達を見た後だと…なんだかなあ)

 

 しょうがないことではあるんだろうけれど……。

 天津さんから聞いた話じゃ「シュゴ」のようなヒューマギアはシンギュラリティ?に達してたとかなんとか。多分このヒューマギアはまだシンギュラリティに達してないのだろう。

 

 シンギュラリティに達したヒューマギアがマギア化され暴走する、ということを考えれば『良い事』なんだろうけどさ。そんなことを思う俺にヒューマギアはこう言った。

 

「私の名前はワズ・ナゾートク。探偵型ヒューマギアです。今回は飛電インテリジェンス社長 飛電 是之助社長の命により、貴方を飛電インテリジェンスにご招待しに参りました」

「…………ふぁっ!?」

 

 こうして俺は飛電インテリジェンスに半ば強制的に連れて行かれたのだった。なんか…デイブレイクに遭ってから俺、一般人なら絶対に会うことないであろう大物と出会う機会が随分増えた気がするな……。

 

 ーーこれも仮面ライダーになったからか?

 まぁ未だに仮面ライダーがなんなのか、俺にはわからんけどさ。

 





最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします。

・ワズ・ナゾートク
原作時点ではヒューマギアというよりは人間らしく、完全にシンギュラリティに達している。本作の時間軸では「まだ」シンギュラリティには達していない設定で書いています。


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ある男の心に夢に《ピンチ》

是之助社長とオリ主、二度目の対談?回。
是之助社長の口調がよくわかんない……!

それでは、どうぞ!


 

「! 天本君、よく来てくれた! さぁ遠慮なく座ってくれ!」

「う、うっす……」

 

 飛電さんの言葉に緩慢な頷きで応えた俺は如何にも高価そうなソファーに恐る恐る腰掛ける。別にビビってわない…飛電さんの人柄は病室での一件で「いい人」だって分かってるからな。だけど、やっぱ社長室ってなんかこう雰囲気が違うだろ? 天津さんの提案に乗った日からZAIA社の社長室の雰囲気には結構慣れたけどさ……『飛電インテリジェンス』の方の社長室に来たのは初めてだからな。まぁ始めて天津さんに電話で呼ばれて、社長室に入った時ほど緊張はしてないけども。

 

「それで、あの…用件は何でしょうか?」

「? ワズから何か聞かされてはいないかい?」

「あー、それなら一回聞いたんですけど『その情報の開示は許可されていません』って言われまして……」

「あはは、それはすまなかった! それでは……早速。私の君への用件は非常に簡単なものさ。ーー君に一つ聞きたいことがあるんだ」

 

 聞きたいこと…?

 あれ? 何これデジャブ?

 デイブレイクの被害に遭って数日後。

 病室に来た天津さんにも「聞きたいことがあった」とか言われたよなぁ…あの時はヒューマギアについてどう思ってるかとか色々聞かれたんだよな。

 

「天本 太陽君。君が『仮面ライダー』なのか?」

「…………」

 

 …あ、あー……そういう話か。

 天津さんとの約束で「仮面ライダー」や「マギア」の事は世間や個人には勿論秘密にするよう言われている。

 

 飛電さんの様子を見るにこれ俺が「仮面ライダー」だって確信してるよな? 何でバレたんだ? 人目は最大限避けてマギアを撃破して来たんだが……いや、どこでバレたかとかはこの際どうでもいい。

 天津さんへの報告もとりあえず今は後回しだ。

 

 下手に隠しても意味ねぇんなら堂々と名乗ってやるさ。

 

「まぁ一応……俺が仮面ライダーですけど」

 

 ……ごめん、緊張で堂々とはいかんかったわ。

 

 やっぱ有名人って常人にはないオーラ?みたいなのを纏っててさ……俺一般人だから近くに居るだけでつい気圧されちゃって…え? お前は一般人じゃない? ははは、またまたご冗談を(目背け)

 

 着実に一般人を辞めていっていると自覚しつつも、俺はその事実から全力で目を背けてながら飛電さんの話に耳を傾けた。

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 ーー仮面ライダー。

 都市伝説で有名なその名は是之助も何度か耳にしたことがあった。だが、実際に「仮面ライダー」の真偽は定かではなく是之助自身あまり信じてはいなかった。

 

 ーーあの映像を見るまでは。

 

『人間は皆殺し…!』

『全て、抹殺!』

 

 ーークエネオマギア。

 ーーエカルマギア。

 

 ワズが入手した映像。

 その冒頭から映る物騒な台詞を吐く異形の化け物達が、ヒューマギアがマギア化した姿だという事を是之助はいち早く理解すると同時に深く俯く。

 

(ーーデイブレイク事件のあの日から「ヒューマギアの暴走」「マギア化」…これらの事実から卑怯にも必死に目を背けようとしてきた……しかし、やはり向き合わなければならないようだ。全ては「飛電インテリジェンス」社長の私の責任なのだから…!)

 

 自責の念に駆られながらも是之助は顔を上げ、そう強く決意した。

 

 

 そんな中、映像からはーー突如「誰か」の声が聞こえた。

 

『同じ場所にマギアが二体……滅がとうとう計画に本腰入れてきたってことか?』

『人間発見! 殺すッ!』

『抹殺開始…!』

『おっと…!』

 

「! あれは……!?」

 

 その声がした方向にいる人物に駆けていく二体のマギア。青年はその攻撃を回避してからポケットから何かを取り出す。

 

 取り出されたものを見て是之助は驚愕した。

 青年が手に持っていたそれは飛電インテリジェンスの極秘計画「ゼロワン計画」の中でも極めて重要な役割を担う代物ーープログライズキーだったのだ。また青年の腰には青い銃が取り付けられたバックルにベルトが巻かれていた。

 

ストロング!

『お前らも元は………悪いな。お前らには誰も殺させねぇ』

【オーソライズ!】

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

 

 プログライズキーを銃に装填した瞬間、何かの待機音らしきものが流れ出す。青年は素早くバックルから銃を引き抜くと銃口を真っ直ぐとマギアに向けて力強くこう言った。

 

『ーー変身…!

ショットライズ!

『グウッ!?』

 

「こ、これは……!」

 

 ーー撃たれた一発の弾丸。

 それが着弾したマギアの一体は声を上げ、体からは火花が散る。そして、

 

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

『ーーさて、と……』

 

 弾丸は方向転換して青年の体に直撃。

 瞬間、青年の体は黄緑色と白色のアーマーを纏い正しく変身した。

 

『ーー俺の名はバルデル。……お前らを止められるのはただ一人…俺だッ!』

 

 ーーバルデル。

 そう名乗った彼の戦いは果敢で荒々しく、実に豪快で一方的で。言ってしまえば二体のマギアが撃破されるまで、戦闘が開始してから十分程度しか経過しておらず、その間マギアはまともに攻撃する暇さえ与えられなかったのだ。

 

 

「なんというパワーだ……」

 

 

 是之助はそのパワーに思わず立ち上がり感嘆した。

 二対一という不利な筈の状況を全く気にした様子なく、一つの犠牲も出さず見事に勝利する。その姿はまさしく仮面ライダー(ヒーロー)だった。

 

 

 こうして「バルデル」の活躍を見て飛電是之助が大いに刺激を受けたことにより「ゼロワン計画」の進行が予定よりも幾分か前倒しされることになる……。

 

『終わったなぁ。はぁー……』

 

 戦闘が終わり、シーンと静まり返った辺りにあの青年の声がまた響く。その声は先ほどまでの荒々しい戦い振りをしていた人物のものとは思えぬ程に気怠そうで、どことなく哀愁が感じられた。

 

 その後、映像は青年が去る足音を最後に停止した。

 映像では時間帯が夜中だということもあって辺りは暗く、青年の顔がよく見えなかったために何者か不明だったが……ワズの調べによりすぐに青年の正体は判明した。

 

 

 彼の名は天本太陽……デイブレイクの被害者であり、是之助も一度病室に謝罪に行った際に面識のある人物であった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(まじか、撮られてたのか……あぁ、そうだ! 確かあの日疲労で眠気がピークだったわ…!)

 

 何故俺が仮面ライダーだということを知っているのか、そう言って飛電さんの話を聞いた俺はあの日の事を思い出し納得した。

 確かにあの日、俺の眠気はピークを迎えていた……理由を話すと長くなるが…まぁあの状態の俺ならこっそり物陰から撮影されているのに気付かなくても何ら不思議じゃあない。

 

(天津さんに怒られるかコレ…? い、いやいや、バレなきゃ大丈夫大丈夫……な、なんか既にバレてそうですげぇ怖いんだけど)

「あ、あの飛電さん? えっと、俺が仮面ライダーだとか、マギアと戦ってだとかいう話は……そ、そのぉ〜ーー」

「無論、口外する気なんて私には更々無いよ。君が密かにマギアと戦っている…その理由は私には分からないが、君に不利益になるような事は絶対にしないと約束しよう。『飛電インテリジェンス社長』の名に懸けて!」

「お、おぉ……あ、ありがとうございますっ!」

 

 あぁやっぱあんたいい人だよ飛電さん!!(感激)

 益々応援したくなったわ飛電インテリジェンス!

 

 飛電さんの社長としての一端を間近で見た俺は、動揺しつつも感謝の言葉を口にする。こんないい人ならそりゃ社長にもなりますわ…!

 

「ーー唐突で申し訳ないのだが……天本君、君に一つ『頼みたい事』があるんだ……」

「は、はい……何でしょう?」

 

 真剣な表情でそう切り出した飛電さん。

 その雰囲気に俺は思わず顔を強張らせた。

 大企業の社長ともあろう人が俺なんかに頼みたい事…? 全然どんなことか想像できないぞ?

 

「ーーヒューマギアをマギアに変貌させ、我々人類の滅亡を企てている者……その正体を君は知っているのか? もし知っているのなら、どうか教えて欲しい! 勿論タダでとは言わない!」

「…………」

「…君の人生を滅茶苦茶にしたデイブレイク事件、間違いなくその一因を作ってしまった飛電インテリジェンス社長の私が、君に何かを頼む資格が無いことは重々承知している。だが、どうか……!」

「……スゥーー……」

 

 別にデイブレイクの件で俺は飛電インテリジェンスや、飛電さん個人を恨んでなんかいないから一々気にしないでいいんだけど……。

 つうか俺みたいな一般人に社長がそんな風に頭下げて頼むか普通………それだけ本気ってこと、か。

 

 飛電さんの頼み

 ヒューマギアをマギアに変貌させている者の正体……つまりは…滅亡迅雷.netに関する情報提供だった。天津さんからマギアの事だけじゃなく、滅亡迅雷.netの話もある程度教えられていた俺は飛電さんの頼みに一応は応えられる。

 

 

 だが、俺には天津さんとの約束があった。

 

 

 

 

 

〈回想開始〉

 

 

 ZAIAエンタープライズジャパン本社の社長室。そこに置いてあるのは社長用デスクにイス、チェス盤に来客用のソファーと至ってシンプル。如何にも「無駄がない」という感じだ…チェス盤は除く。

 

 そんな空間に座する『天津垓』という人物。

 俺は「仮面ライダー」としてマギアと戦い、そのついでにショットライザーとプログライズキー内の戦闘データをZAIAに提供することで報酬を貰っているのだが……この人がこの部屋に居るのを見るのはもう随分慣れたんだけど……。

 

 ーー率直に感想を述べよう。

 俺はリアルで天津さんほど偉そうに背もたれイスに座り、謎に意味深に笑う姿とゲンドウポーズが似合う人を見たことがない。

 あ、いや別に悪口じゃないですはい(真顔)

 

「仮面ライダー、マギア、滅亡迅雷.net……これらに関する情報は出来る限り世間には出さないようお願いします。今すぐに明かすのはあまりよろしくないでしょう」

 

 片手を顎下に置きながら相変わらずの態度で言う天津さん。それを聞いた俺はソファーに座ったまま見ていた雑誌から顔を上げ質問した。

 

「よろしくない……ですか。それは、天津さん個人にとって都合が悪いとか、そういう意味だったり?」

「……太陽君ーー企業秘密ですよ」

 

 答え難い、又は答えたくない話になると天津さんは口癖のように「企業秘密」という言葉を使う。「これ以上聞くな」と言わんばかりの微笑みを浮かべながら……いや怖い怖い…!

 

「…天津さん企業秘密多過ぎません?」

「ふふふ、社長ですから」

 

 なんで若干ドヤってんだこの人?(大困惑)

「1000%」が好きとか、自称24歳とか……たまに思うけどこの人って若干天然(アホ)なところあるよな?

 あーそれと天津さん。

 俺、前にここの受付で聞いて…知ってんだからな?

 

「いや、わけわかんねぇですからね? 社長関係ないでしょ? というか騙されませんからね? 天津さん、あんた次期社長でしょう?」

 

 そうこの男!

 まだ社長じゃなかったんだ!

 ん? じゃああの名刺はなんだって?

 知らん。自作とかじゃない?(適当)

 え? じゃあなんで我が物顔で社長室いんのかって?

 知らね。不法占拠じゃね?(超適当)

 

「! 一体どこでその情報を…!?」

「え、今の発言でそこまで動揺すんのっ!?」

 

 ショットライザーとプログライズキーを返却しようとした時と同じレベルで動揺し出した天津さん。

 それを見て驚愕する俺。

 

「ーーでは太陽君。そういうことでくれぐれも『仮面ライダー』『マギア』『滅亡迅雷.net』の話は…」

「あーはい、了解です。最大限話さないように心掛けますよ」

 

 この日、約束しちゃったんだよなぁ…。

 

 

〈回想終了〉

 

 

 

「…すいません飛電さん。その頼みには応えられそうにないです……」

「! ……そうか……それは残念だ…」

 

 俺の返答を聞いた飛電さんは意気消沈といった様子で項垂れる。

 うっ……ざ、罪悪感を若干感じる…。

 し、仕方がないんや! 俺にも親孝行(夢?)とか掛かってるから!仮面ライダーという…一応は職?に当たるのかどうかはわかんないけど。

 天津さんの信頼失う=職?喪失に直結だろうし……色々今の生活がおじゃんになっちまうからな。

 

あ、あとかなり高収入だから辞めたくない(本音)……まぁ万が一死ぬ危険があるから当たり前だけど。

 

「……その、本当にすいません! 俺も飛電さんに教えたいのは山々なんですけど…上司……というよりかは『協力者(仲間)』に言わないようにって約束してまして……」

「いやいや、天本君が謝ることではないさ! きっと君にも事情があるのだろう? ならば仕方がない…私の方こそ立場を弁えず無理な頼みをしてしまい、本当にすまなかった!」

 

 謝罪する俺に顔を上げた飛電さんは穏やかな表情を作り、大人の対応で逆に謝罪する。普通は「人類滅亡させようとしてるやつのこと教えて?」って聞いて「言わないって約束してるから無理」とか言われたら「は?」「意味わからん」とか思うだろうに……やっぱいい人だよ飛電さんは…。

 

「人類滅亡を企てる者…その正体は、我々が総力を挙げ自力で必ず突き止めてみせよう!」

 

 その後、自力で人類滅亡を企てる者(滅亡迅雷)の正体を突き止めると意気込む飛電さんに俺は心からの本音を口にする。

 

「ーーこれからも応援してますよ、飛電さん」

 

 ーーこうして飛電インテリジェンスでの飛電是之助社長との対談は幕を閉じ、俺は飛電インテリジェンスを後にした。

 

 

 

「…………」

 

『ヒューマギアは人間の最高のパートナー』に成り得る……飛電さんはそう俺に熱意を持って断言した。

 

 デイブレイクが起こった当時の俺にはその言葉を聞いてもただ一般人らしく応援することしかできなかった…。

 

(だけど……)

 

 今の俺には間接的にとはいえ、飛電さんの夢を手助けできる「仮面ライダー」の力がある。

 

 ……まぁ別に他人の夢を自主的に手助けしようなんて思っちゃいない。俺はそこまでいいやつじゃない。ただ、たまたま俺の目標達成が飛電さんの夢の進歩に繋がるってだけの話だ。

 

(飛電さん……マギアも、滅も…俺が必ず止めてみせます)

 

 高い高い高層ビルーー飛電インテリジェンス本社を見上げ、俺は前を歩き出す。

 ーーちょうどその時スマホが鳴った。

 

「はい、もしもし」

『太陽君、マギアが現れました。場所は○○市、廃工場…マギアの位置情報は今そちらに送りました。くれぐれも変身は見られないよう……』

「勿論分かってますよ。……ちなみに今のところ被害は?」

『運良く無いようです。それに場所が場所なだけあって人気も皆無…倒すならマギアが移動していない今がチャンスでしょう。ーー任せましたよ太陽君』

「ーー了解」

 

 電話を切り、俺はスマホに送られたマギアの位置情報を確認して駆け出す。ーー今のところマギアは一体。場所は廃工場。天津さんの言う通り倒すなら今がチャンスだ。

 

(あぁくそっ! そろそろ走るかチャリか…それ以外のもっと楽な移動手段が欲しい! ……バイクの免許とか取ってみるか?)

 

 そんなことを考えながら全力ダッシュする俺は気付かなかった。

 

「天本太陽様。是之助からの命令に従い、貴方にお渡ししたいものがありーー??」

(あんなに急いで一体どこへ行くのでしょうか?)

 

 後ろから声を掛けてきたワズの存在に。

 

『ワズ、これを天本君に渡してくれ』

『これは……よろしいのですか?』

『いつかは返してくれるよう頼む事になるかもしれないが、これは……今は彼が持っていた方が何倍も有効活用してくれる筈だ』

『…………』

『…ワズ? どうかしたか?』

『いえ、了解しました是之助社長』

 

「ーー是之助社長の命令の遂行を最優先に行動します」

 

 目を閉ざし暫し解析・思考をしたワズは一瞬で行動を選択。

 

 奇しくも最悪のタイミングでーー太陽の追跡を開始した。

 

 

 

 ▲△▲

 

 

「ーー滅亡迅雷.netの意思のままに……人間を絶滅させるッ!」

 

 廃工場に現れた屈強な姿をしたマギア、マンモスマギアはそう叫ぶと人間を探すために動き出す。

 

「らあっ!」

「?」

 

 マンモスマギアが廃工場を出ようとしたその瞬間、胸に一発の弾丸を受けたマギアは一切怯む様子無く弾丸が発射された方を向く。

 

「一切怯まないとか頑丈過ぎんだろ!?」

ショットライザー!

ストロング!

【オーソライズ!】

「人間は殺すッ…!!」

 

 ーー俺はマギアの頑丈さに驚愕しつつ左手に持ったバックル、ベルトに右手に持ったショットライザーをセットし勢いを入れ腰に巻く。続けてポケットから取り出したプログライズキーのボタンを押し、ショットライザーに装填して展開する。

 

 そして、バックルからショットライザーを引き抜くこと無く素早くトリガーを引く。いつもなら引き抜くが、今はすぐ目前にマギアが居るからな……安全な方法で変身させてもらおう。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

「変身…!」

ショットライズ!

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 発射された弾丸は原理は不明だが、普通なら地面に着弾するところをギリギリで軌道が変わり俺の右肩に着弾。次々にアーマーが体に装着され変身が完了する。

 

「おらああああ!!」

 

 その直後に拳を叩きつける俺。しかし、

 

「! ふんッ…!」

「はっ!?」

(マジで頑丈だなコイツっ!?)

「人間! 絶滅ッ!」

 

 マギアはショットライザーの時とは違い、アメイジングヘラクレス(バルデル)のパワーに僅かに怯むがすぐさま反撃のタックルを噛ます。

 

「おわッ!? っっ…こいつ!」

(硬くてパワータイプ、か……)

 

 躱せず吹き飛ばされた俺は地面を転がる。

 まぁこの堅いアーマーのおかげで大したダメージはないが…。ここまで硬いマギアと戦うのは初めてだ……だけど、弱音を吐く暇はない。今は俺がやるっきゃない。

 

「さて……どう攻略するか。とりまーー」

ストロング!

「ーー必殺技ぶっ放す!」

 

 困ったらとりあえず必殺技だ。

 …何っ? それはどうなんだって?

 いや、困ったら必ず殺す技撃つのは基本でしょ?

 むしろ出し惜しみする理由がわからん。

 

 ……必殺技で倒せなかったらそれはそれで軽く絶望しちゃうんだけどもさ。

 

「これで倒されてくれたらなぁ……ーーはあああッ!!」

アメイジング ブラスト!

「ッ……!!」

 

 銃口に収束する巨大なエネルギーを俺は放つ。

 普通のマギアならこれを食らえば一溜まりもない、それだけの威力を誇る必殺技はマギアに確実に直撃し派手な音と共に爆発が起きる。場所が人気のない廃工場で本当に良かった……。

 

ア メ イ ジ ン グ ブラスト

 

 爆発が起こり、爆煙が辺りを覆う。

 俺は念の為に油断せず前を見つめる。そして、

 

「人間は皆殺しだ……!」

「あー……」

(普通にピンピンしてるわコイツ)

 

 残念な事に俺の「念の為」の行動は正解だったらしい。爆煙から姿を現したマギアは相変わらず物騒な発言をしてそこに立っていた。

 

 胴体部分に僅かに傷が出来ているのを見る限りダメージが一切ないという訳ではないらしいが……

 

(まさか今の食らって普通に動けるなんてなぁ、こりゃ手強い相手に違いない……はぁー)

 

 内心溜息を吐きつつ俺は再び戦闘態勢をとる。

 必殺技で倒せなかったため軽く絶望しているが諦める程絶望してるわけじゃないからな。

 

「オオオオオオオオ!!」

「あぶねっ!」

 

 マギアは爆煙から姿を現した途端に突進してくる。それをギリギリローリングで回避した俺はマギアの背中にショットライザーの弾丸を数発撃ち込む。だが、やはりショットライザーでの攻撃の効果は今ひとつらしくマギアは怯みもせずこちらを振り返る。

 

 正面が硬い……背後が弱点とかか?なんて安易な俺の予想はハズレ。もしかしなくてもこのマギア弱点が特に無いとか…?

 ……最悪持久戦になる可能性もあるな。

 

(幸いこのアーマーは硬いし、パワーもある。持久戦もいけるだろ。問題は…………俺だな)

 

 アメイジングヘラクレス(バルデル)の硬さやパワーは申し分無い。問題は変身者である俺の体力と集中力がどれだけ保つかだ。

 

「絶滅しろッ!」

「がッ!?」

 

 そんな事を考えている間にもマギアは攻撃を仕掛けてくる。俺はマギアの前蹴りを胴体に受け僅かに後退りした。

 状況を打破する方法はまださっぱりだ。なら、

 

「…やりたくないけど、倒すまで何度でも殴ればいい話だなぁ……?」

(変身解いたら絶対に全身筋肉痛になってるじゃねーか……! マジで最悪っ!)

 

 ーーゴリ押しでやるっきゃねぇ!

 確実にそうなるであろうと「筋肉痛になる未来」を想像した俺は若干憂鬱になるがなんとか思考を切り替えて攻撃を再開する。

 

「おらおらおらおらァ!!!」

「ッッ! オオオオオ!」

 

 右、左、右、左、右、左。

 一撃一撃が強烈な筈のパンチの連打。

 だが、マギアはそれを全て耐え切り更にはカウンターとばかりに拳を俺の腹部に叩き込んできた。

 

「ぐはっ……!」

 

 その威力に俺は思わず短く息を出し後退りする。

 こりゃ出来るだけ回避した方が良さげだな…。

 腹部のアーマー部分に片手を置きながらそう実感した俺は、次に来るマギア攻撃を避けるべく集中ーー

 

「ーー天本様!」

「!? え、お前なんでここに居んのッ!?」

 

 ーーしようとした時。

 後方からつい最近聞いた記憶のある声が聞こえて素早く振り返れば、そこには探偵服を着たあのヒューマギア。ワズ・ナゾートクの姿があった。いやマジでなんで居んだコイツ!?

 

「ウオオォォオッ!!」

ゼツメツ ノヴァ

「!?!?」

やべえぇっ!!

 

 ワズの存在に困惑している間に俺にとって事態は悪い方向に進む。マギアがベルト横のボタンを押し必殺技を発動したのだ。今の俺はワズの方を振り返っている状況。回避はどう考えても間に合わず、

 

 

ゼ ツ メ ツ ノ ヴ ァ

 

「ッ! ぐッ、があああーー!!」

 

 ーー俺は防御を選択する。

 両腕をクロスし、頭と胴体を守るように態勢をとった俺にすぐさま見るからにやばそうな赤色の火花を散らしているマギアの高速タックルが飛んできた。

 

 その必殺技により俺の体は大きく後ろに吹き飛ぶ。

 

「ッ……く、そ…!」

(下手打っちまった……!)

 

 走る激痛に仮面の下で歯を食いしばり、ふらつく足でなんとか立ち上がりながら俺は内心強く後悔する。ワズの存在は関係ない。悪いのは戦闘中に関わらず一瞬でも目の前の敵から意識を外しちまった俺……あーやべえ、久しぶりにピンチかもしんない…! 変身解除しなかったのはラッキーだがとりあえず、

 

「おいッ! 逃げるぞ!」

「! 逃げるとは一体どこーー」

「ーー知るかンなこと! とりあえず死にたくなきゃ走れ!」

「逃がさないッ……!」

「ほら来るぞッ!」

 

 ーー逃走一択だ。

 未だに現状のやばさを理解しきれていないワズに俺は怒鳴るように声を上げる。マギアは当然ながらやる気満々……。

 うん、まずいなこれ。

 下手な行動したら普通に死ねる。

 

 黄緑色のアーマーよりも防御力が低いのが原因だろうか?

 マギアの必殺技を受けて激しく損傷している左腕の白色のアーマーを右手で抑え、俺は左手でワズの手を掴み全力で走り出す。

 

「…周囲地形データ入手完了。次を右です」

「ナビかお前はっ!?」

「私が安全ルートを案内します」

「…わぁーたよ、んじゃ頼む!」

「人間は必ず殺すッ!」

(あのマギアが足速くなくて助かったぁ……硬くてパワーもあって、更に速いマギアとか想像したくもねぇわ!)

 

 ちらりと後ろから追いかけて来るマギアを見ながら、俺はワズの指示に従いながら廃工場内を進む。なんでこいつがここに居るのかとかその辺の話はとりあえず後だ。今は逃げることに集中しよう。

 

 もし仮面ライダーじゃなかったらワズをこの場に放置して「お前囮な!」とか外道な方法平気でとってた俺だが、運が良いのか悪いのか俺はまだ変身解除してないし? ワズが飛電さんにとって大切な右腕的な存在だって知っちゃってるし……あーあ、知らなきゃ普通に見捨てられたんだけどなぁ……。

 

「ーー今日は厄日だぁ…!」

 

 今日あった出来事を振り返り俺はそう確信した。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

 


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ある男の思い《ジャンプ!》

ゼロワン33話、個人的に簡単にまとめますと。
不破さんがやっぱ主人公で、ようやっと序盤のカッコいい唯阿さんが帰ってきて、1000%社長は自業自得というか……こっからどんどん狂っていってしまうんでしょうか?あと辞表「これが わたしの」の演出は普通に笑っちゃいました笑

今回は初の10000字超え回です!
それでは、どうぞ!


 

 マンモスマギアから逃走し始めて数十分。

 

「……はぁ、ここでなら少しの間隠れられそうだな」

 

 廃工場の二階にあるそこそこ広い倉庫の中、変身を解除した俺は壁に背中をつけ思わずため息を吐く。一先ずの安地を確保できた。ここでなら幾らか時間を稼げるだろう。……問題はその後なんだが……。

 

「……先程から疑問に思っていたのですが…お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「…どうぞ」

 

 そんな問題山積みの状況に落ち込んでいる俺にワズは遠慮なく質問し、俺はそれに力無く返事を返す。

 

「ーー何故この廃工場から出ないのですか? 最初に私がお伝えした安全なコース通り進んでいただければ、今頃間違いなくこの廃工場からは出られていました。またこの廃工場から外に出た場合、あなたの生存確率は飛躍的に高まっていた筈です」

「……決まってんだろそんなの? 俺が外出たらマギアも追って来て廃工場から出ちまうからだよ…」

(本当はそんなこと御構い無しに逃げ出したかったんだが……しゃあねぇわな)

 

 ワズの質問に俺は渋々答える。

 廃工場は結構狭い。外に出た方が無事逃げられる確率が遥かに高いのはその通りだろう。でもマギアに追われている今の状態で廃工場を出るとまぁ間違いなくマギアも付いてくる。そうなるとマギアが外に出る=被害が出る可能性が増す……マズイ事態に繋がってしまうかもしれないわけだ。

 

 天津さんとの約束でマギアの存在は出来るだけ世間にバラしたくない…だから人目の全くない廃工場(ここ)で仕留めるのが最善なんだがな……打開策がさっぱり思いつかん。

 

 ーーというかそろそろ聞いていいか?

 

「ーーそろそろ時間の問題、か。…なぁお前、俺に何か用があって来たんだろ? ならその用さっさと済ませて早くここから出ろよ」

「ーー…………」

(何だよそのリアクション…!?)

 

 

 ワズは俺の言葉に何故か沈黙する。

 いや待て。

 今の俺の台詞のどこにそんな反応する部分が?

 …………ん? あ、もしかして、

 

「あーマギアなら俺に任せろ。本音を言うと痛いし嫌だけど、お前が逃げるくらいの時間稼ぎはしてやれる」

 

 マギアの存在を気にしてんのか?

 そう思い口を開くとワズは僅かに目を閉じ、暫し思考した後に懐に手を入れ何かを取り出した。

 

「私は是之助社長の命令で、これを天本様に渡しに参りました」

「! それ、プログライズキーかっ!?」

 

 ワズが懐から取り出したカセットテープのような代物。それは紛うことなきプログライズキーだった。

 

 俺はワズの手にあるその黄色のプログライズキーに驚きつつ、どうして飛電さんがこれを俺に?と疑問に思い首を傾げた。その動きを見たワズは俺の疑問を察知して言う。

 

「是之助社長はこれは今は天本様が持っていた方が有効活用してくれるだろう、と」

「…そりゃ飛電さんに感謝しなきゃな」

 

 飛電さん…! あ、ありがてぇ!

 ワンチャンこれで勝つる!

 つうかナイスタイミング過ぎんだろワズ。

 来てくれて本当にありがとう。

 さっきは「何で居んのお前ッ!?」とか半ギレで言って悪かった。

 

 我ながら手の平くるっくるだなぁ、と思いつつ俺はワズの手にあるプログライズキーに手を伸ばし掴んだ。これがあればもしかしたらあのマギアにも………………? えっ??

 

「あの、ワズさん…?」

 

 ーーマジで何で?(真顔)

 プログライズキーを持つワズの手に込められた半端ない力によって、俺がどれだけ引っ張ってもプログライズキーは全然取れない、ビクともしない……いや何で? ワズお前それ渡しにきたって今言ったろ? え、言ったよな?

 

 一分一秒が惜しい状況の中で起こった理解不能な出来事を前に、俺は戸惑いを隠せなかった。

 

「…お前、これ俺に渡しに来たんじゃないのか……?」

「…………」

 

 プログライズキーを掴んだ手を一旦引っ込め俺は思わず問うた。

 何故か頑なにプログライズキーを離そうとせず、しかも何かを思考し始めたらしく「ピーーピーー」と思考音を出して黙ったワズ……あの聞こえてますー? おーーい?

 

「……私にはわかりません」

「?」

 

 わかりません、とは?

 ヒューマギアらしからぬ脈絡のない発言。

 俺は続くワズの言葉を待った。

 

「このプログライズキーは…是之助社長と飛電インテリジェンスの皆様が衛星ゼアを用い始めて作成することに成功したーー皆様の努力の結晶です。おいそれと渡していい物では決して……勿論、是之助社長の意思に反するつもりは私には一切ありません」

「……」

「貴方なら有効活用してくれる、是之助社長はそう言いました。ですが私にはわかりません。本当にこれを貴方に渡していいのか。貴方がこれに値する人物なのか……」

(こいつ…もしかしてもうシンギュラリティに……?)

 

 合理的じゃないワズの思いに俺は既視感を覚える。

 シンギュラリティに達したヒューマギア。一般的なヒューマギアなら受けた命令には忠実に従う…そこにヒューマギア自身の意思など普通は関与しない筈だ。

 

 ワズの思いを簡単に要約すると…つまりはお前の事がまだよくわからんから是之助社長の命令でもみんなが頑張って作った最初のプログライズキーを渡したくない、ってところか?

 

 …どう考えても自我あるじゃねーか……。

 

(ワズはもうシンギュラリティに達してる…? 今日俺が初めて会った時のワズは良くも悪くも機械っぽかった……きっかけは何だ?)

 

 思い悩むワズの姿は、耳に装着してあるヒューマギア特有の青いデバイスを取ればどこから見ても人間のように見える。俺は俯くワズから視線を外し一旦立つ。俺の事が分からないからプログライズキーを渡したくない……じゃあどうする? 今からワズに自己紹介でもするか?

 

「ーー!」

(まだちゃんと居るなぁ……マギア化してもやっぱ元はヒューマギア。俺たちがまだ廃工場の中に居るって分かってる…)

 

 倉庫の出入口の扉から顔を少し出し、外の様子を伺えばマギアが俺とワズを捜索するために階段を上がってきていた。どうやら余裕はなさそうだ扉から素早く離れ、俺はワズに振り返り指示した。

 

 残念だが自己紹介なんてしてる暇はなさそうだ。

 

「ワズ、悪いが思い悩んでる時間はなさそうだ」

「……畏まりました。ではーー」

 

 俺の言葉を聞いたワズは顔を上げると手に持っていたプログライズキーをこちらに差し出してくる。

 

(……?)

 

 それを見た俺はシンプルにこう思った。

 何してんのお前?と。

 

「ーー何してんだ? とっととこっから逃げろ」

「……えっ?」

「『えっ?』じゃねーよ。さっき言ったろ、マギアは任せろって」

「……このプログライズキーを使うのではないのですか?」

「はっ? そもそも俺はお前が何で急にそれを差し出して来たのかがわからねぇんだけど……」

 

 何これコミュニケーションエラー?

 待ってマジで意味不明過ぎる。

 一体何が起ことる?!

 

 ……あ、そゆことか(高速理解)

 どうやらワズは俺の「思い悩んでいる時間はなさそうだ」という言葉を「時間ねぇからはよプログライズキー寄越せ」と解釈したらしい。プログライズキーを差し出してきたが…別にそんなつもりないからな?

 

「はぁー……別に時間ないからプログライズキー寄越せなんて言ってねぇよ。早くこっから逃げろって言ってんだ」

「ですが、今の貴方はあのマギアに対する打開策を持ち合わせていません。もしかすればこのプログライズキーを使えばーー」

「ーー打開策に成り得るって? まぁそうかもな。『もしかしたら』打開策に成り得るかもしんねぇな……でもお前は俺にそれを渡したくないんだろ? だったら、俺はお前から無理矢理プログライズキーを奪うなんてことしないっての」

「! ……」

 

 また俯くワズを見て「ちょっと口調荒かったか…?」と反省しつつ俺は短く謝罪した後に俺なりの意見をワズに告げた。

 

「その、また思い悩ませちまったなら……すまん。

 あー…えっとな……これは俺の個人的な意見なんだけどさ」

「……?」

「嫌なら別にやんなくてもいいんじゃねーか? お前が俺にプログライズキーを渡せって言う飛電さんの『命令』と、俺にプログライズキーを渡したくっていう自分の『思い』の狭間で思い悩んでんなら……俺がお前の立場だったら自分の『思い』をとるな。そっちの方が気楽だし。それに根拠は皆無だけど飛電さんならお前が自分の『思い』を優先したって知っても、気を悪くしたりなんてしないだろうさ」

「で、ですが……」

 

 それを聞いたワズはまた「ピーー」という音を立て思考を始める。やべぇ……もしかしなくても余計に悩ませちまったか? …っとそろそろ来るか。

 

「まぁどうするかは…ワズ、お前次第だ」

ショットライザー!

「ーー先に言っとくわ。お前がどんな選択しても、俺は別にお前を恨んだりはしねぇからな」

 

 片手に持ったショットライザーの取り付けられたバックル、ベルトを腰に巻いた俺は後ろにいるワズに一方的にそう言い倉庫から出るために出入口の扉に向かう。その時、

 

「天本様! ーー貴方はどうして戦うのですか?」

「……」

 

 ーー思わず足が止まった。

 

「バイタルサインをチェックして初めて分かりました。貴方は戦うことに対して明確に恐怖を感じている。今こうしてマギアから隠れている間の声音にも不安や焦りが多く含まれています……。だから尚更わかりません。貴方はどうしてそんな思いをしてまで戦うのですか?」

 

 ワズは俺にそう問いかける。

 その声は今日初めて会った時の機械らしいものとは違い、俺にはどこか感情が込もっているようなものに聞こえた。

 

「どうして戦う、か……」

 

 戦うのはそりゃ怖い。

 怖くて怖くて仕方がない。

 一歩間違えれば死ぬ、そんな状況に直面した経験なんぞ今までの人生で一度たりともなかったから。でも、仮面ライダーの力を渡されて…マギアの存在を知っちまって……何時もなら保身に走って見て見ぬ振りするくせに何故かあの時、俺は馬鹿みたいに「やるしかない!」なんて思ってしまって。…滅のようなヤツがいることも知って。

 

 気付けば俺は本音を口にしていた。

 

「さぁな、俺も今探してる途中だ」

 

 家族なら兎も角、命を懸けてまで「赤の他人」を助ける義理はないと「仮面ライダー」になった今でも未だに思う。ただーー自分が誰かの役に立っている……その事実を最近になって、どこか嬉しく感じている俺がいる。

 

 

 ま、天津さんが言ってた正義感云々はまだ認めてないけどな?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『さぁな、俺も今探してる途中だ』

 

 彼から返ってきた、予想だにしていなかった「答え」にワズは更に『天本太陽』という人間が理解できなくなった。

 

 太陽が倉庫を出た後、一人ワズは目を閉じて考える。

 

「ーー天本様、貴方は……」

 

「理由」を明確に持たず戦う人間など存在しない、そう合理的なヒューマギアらしい結論にワズは今まで至っていた。そして、それは正しいと判断していた。

 

「どうしてそこまで強いのでしょう…?」

 

「理由」を明確に持たず戦える『天本太陽』という人間の精神的な強さに疑問を抱かずにはいられないワズ。だがもうその場にワズの疑問に答えてくれる人物は居ない。

 

『遂に、遂に完成した…! 皆の力で成し遂げたんだ!』

『おめでとうございます。是之助社長』

『あぁ、ワズもありがとう。みんな! 本当によくやってくれた!』

 

 ワズはメモリーに記録されたあの日「飛電インテリジェンス」最初のプログライズキーが完成した時の映像を見直す。

 

 嬉しそうに笑う是之助社長。

 感動する社員、歓喜する社員、号泣する社員、安堵する社員、大笑いする社員……反応は人それぞれだったがあの時あの場にいた計画に尽力した全員が喜びを分かち合い、達成感に満ちた「笑顔」を浮かべていたのだ。

 

「…………」

 

 是之助社長と社員達の努力を、あの瞬間を知っているワズは皆の努力の結晶であるプログライズキーを『天本太陽』という些か情報不足な人間にあっさりと渡そうとした是之助の命令に僅かに困惑した。そして、初めてヒューマギアらしからぬ思い……明確に言語化することのできない「引っかかり」を覚えた。

 

『俺がお前の立場だったら自分の『思い』をとるな。そっちの方が気楽だし』

 

『お前がどんな選択しても、俺は別にお前を恨んだりはしねぇからな』

 

「…………やはり私には、理解できません」

 

 ぽつりと呟いたワズは立ち上がると、閉ざしていた目をゆっくりと開き走り出す。ーーその手にはプログライズキーが固く握られていた。

 

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

「おら、こっちだ!」

「! 対象を発見、殺すッ!」

「あっーーぶねぇ!?」

 

 ショットライザーのトリガーを引きマギアの背中に一発当て、間一髪でマギアの攻撃を回避することに成功した俺は急ぎ倉庫から離れマギアを引きつける。

 

 やっぱ生身でのショットライザー反動やばいな…何度撃っても手が痺れちまう。最初みたいに反動で吹っ飛びはしなくなったけどな?

 

「人間は絶滅させる!」

「うおッ!? っっ……」

 

 走る俺にマギアはその巨大な拳を地面に叩きつける。瞬間、地面には大きなヒビが走り一時的な震動起こる。それは生身の人間が耐えられるものではなく俺はバランスを崩し倒れる。生身の人間にも容赦ねーな…まぁ人間絶滅させたいんだから当たり前か。

 

 やっぱ変身、するしかないか…!

 

「! ……」

『私からの基本的なアドバイスになりますが、短時間の間での再変身は最大限避けてください。君の持つショットライザーが試作品だからという理由もありますが、何より再変身は負担が大きい』

 

 俺はプログライズキーを懐から取り出し一瞬考える。頭の中ではある日の天津さんのアドバイスを思い出していた。負担、負担か……あー今でも十分キツイけど、再変身したら今より痛くて苦しくてキツイんだろうな。ちょっと前に「筋肉痛になる未来」が分かって憂鬱になったけど……もっとヤバイかもしんねー。でも、

 

ストロング!

「やるしかねぇよなあッ…!」

【オーソライズ!】

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

 

 迷ってる暇なんてない。

 こんな時は即断即決、勢いでやってやんよ!

 こんなとこで死にたくねぇからなぁ!

 左手に持ったショットライザーに右手に持ったプログライズキーを勢いよく装填、展開。

 

変身…!

「ふんッ!」

 

 素早く左手に持ったショットライザーを右手に持ち替えトリガーを引く。発射された弾丸をマギアは腕で真っ向から弾き返す。

 

「ッ…! ーーらあぁあッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 くッッそ()てェ…!!!

 返ってきた弾丸が俺の体に直撃しアーマーが装着される。途端にいつもは感じない痛みが体に走るが俺は気合で堪える。

 

「絶対ぶっ倒す! はあぁ!」

「人間はーー」

「うるせぇ、もう聞き飽きてんだよバカ!」

 

 どうせ「殺す」とか何か物騒な台詞吐きやがるんだろ? 一々怖いんだよ黙ってろおらっ! マギアの言葉をガン無視して殴り掛かる俺。やっぱり硬いし大してダメージは無さそうだ。

 

「おらぁ!」

「くっ……! オオオオオオ!」

「! 当たるかよっ!」

(見ろ、見ろ、見ろ! そんで避けろっ!)

 

 それと再変身してわかった。

 今、再変身して負担のある状態じゃあ持久戦は無理だ。更に言えば今の状態でマギアの攻撃をまともに受けるのはマズイ。

 

 タックルの構えをとったマギアを見て次の動きを読み避ける。

 

(はは…ここまでギリギリの戦闘はもしかしたら初か? ったく、くっそツライなぁ! さっさと終わらせてぇなあッ!!)

「悪いが、いい加減ぶっ倒れろ!」

「ーー人間は、皆殺しッ!!」

「ぐがッ!?」

(やばッーー!!)

 

 ジリジリと削れていく体力に集中力に俺は焦りを感じながら、何度も何度もパンチを繰り出す。このまま押し続ければ…! だがマギアはそんな俺のパンチのタイミングを掴み、俺が拳を振るう瞬間に俺の腹に重い一撃を噛ます。見る暇もなく避けられる筈がなく、俺は吹き飛び地面を転がる。

 

 ……マジでヤバい、かもしんない…。

 

(……やっぱ、マギアって…化物だわ)

 

 最初からわかってはいたが、ここまでやられると改めて実感する。ただの人間が戦うなんて無謀な相手だわ……何で一般人の俺が命張ってこんな化物と戦ってんのか…いや選択したのは俺だけどさ…。

 

 倒れた近くにあった壁に手を置き、自分の体に鞭打って立ち上がる。

 自分の体のことは自分自身が一番よく分かる、なんてよく言うけど納得したわ……俺の体はまだ限界を迎えちゃいない。まだやれる。ここで「もう限界だ」「もう無理だ」とか分かればよかったな…そしたら俺は迷う事なく逃げれたっていうのに。

 

「まだ、やれるなら……仕方ないよなぁ……ッ」

(もう少し保ってくれよ……!)

 

 ジリジリと距離を詰めてくるマギアを見据え俺は再び構え、

 

「ーー天本様!」

「! ワズ!? お前なんでーー」

 

 ーーその時、横方から俺の名前を呼ぶ声がして。横に目を向ければそこには廃工場から無事に既に逃走したと思っていたワズの姿があった。

 

 いやなんでまだ居んだよお前!?

 俺が時間稼ぐ間に逃げろって言ったろ!

 つうかこのタイミングでの登場はいかんでしょ!?

 

「邪魔をするなら、仲間でも容赦はしないッ!」

「! バカ野郎! 早く逃げろッ!」

 

 

 ワズの声に反応したマギアは敵意を一時的に俺からワズに移し、ワズへにゆっくりと接近していく。しかし、ワズは動揺する事なく語る。

 

「私にはやはり、貴方がわかりません」

「ーー」

「ですが、私は『思い』ました。『天本太陽』はきっと誰かの為に戦うことのできる……誰よりも強く優しい人間なのだと」

「ワズ、お前……」

 

 俺の目を真っ直ぐに見て話すワズ。

 その言葉には普通のヒューマギアなら持ち得ない、シンギュラリティに達したヒューマギアだけが持ち得るテクノロジーを超えた「思い」があった。

 

「ーー私は…私の『思い』を信じます。そして、私の思いを信じて……貴方がこれを渡すに相応しい人間であると判断します!」

 

 そう言いワズは手に持ったプログライズキーを真っ直ぐ俺に投げる。マギアは投げられたプログライズキーに「何ッ!?」と声を上げ、

 

「! おっと…!」

 

 ーープログライズキーは俺の手に確かに届く。

 

 強くて優しい人間、か。

 天津さんの「正義感」云々同様に人違いだろって思わなくもないが…

 

「……はっ、そうかよ。ならーー」

 

 自分の命を懸けた相手(ワズ)の思いに判断。

 あぁそりゃお前、

 

「ーーワズ! お前の信じるその思いに、応えてやるよッ!」

ジャンプ!

【オーソライズ!】

 

 ーー応えない訳にはいかねぇな!

 ショットライザーに装填されたアメイジングヘラクレスプログライズキーを取り出し、黄色のプログライズキーのボタンを押し装填し展開。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

ショットライズ!

 

 力強くトリガーを引き、発射された弾丸はマギアの肩に直撃し俺へと返ってくる。

 

「はあぁッ!」

 

 返ってきた弾丸に俺は勢いよく横蹴りする。

 その瞬間に右脚、左脚、右腕、左腕と順にアーマーが装着されていく。いつもの白色のアーマーといつもとは違う黄色のアーマーが纏い、

 

ライジングホッパー!

【A jump to the sky turns to a rider kick.】

 

 ーー俺はフォームチェンジに成功する。

 なるほど、ホッパー…バッタのプログライズキーか……というか俺始めてフォームチェンジしたな! まぁ今まで使えるプログライズキーがアメイジングヘラクレスしか無かったから当然だけども。

 

 ……なんだか不思議だな。

 体力的にも結構ピンチな筈なんだが…。

 初めて変身した時のように……

 

(……なんか、負ける気がしねぇ)

「人間…! いい加減に死ねッ!」

「ほっと…!」

 

 

 マギアはフォームチェンジした俺に敵意を向け殴りかかってくる。

 だけど俺は高くジャンプしマギアの頭を踏み台にし避け、空中でくるりと一回転した後に着地した。驚くほどに体が軽い…!

 

「次は俺の番だ! おらっ!」

「はぁ!」

「!」

(あー、なるほどな)

 

 素早くパンチを仕掛けアメイジングヘラクレスの時とは違い、軽く受け止められたのを見て俺は何となく理解してキックを噛ました。結果、

 

「どらッ!」

「グゥッ!?」

 

 マギアは確かに怯んだ。必殺技以外での初めての怯み…こりゃいけるかもしんない。

 

「ウオオオオ!」

「ほっ、やっ、そらぁ!」

「ガッ……!」

 

 怒りを露わにするマギアの猛攻を躱しきり、背中をとった俺はマギアの背部を思い切り後ろ蹴りする。

 どうやらこのプログライズキー、アメイジングヘラクレスとは違ってパンチ力じゃなくキック力が高いっぽい。ならキック主体で戦った方が賢い、か。

 

「とっ……!」

「?」

(思いっ切りやってやる…!)

 

 俺は半端ない脚の力で大きく後ろに跳びマギアから距離を取る。困惑するマギアを見据え、俺は腰を少し落とし溜めを入れ強く一歩を踏み込んでーージャンプする。

 

「……グフッ!?」

「どッーーりゃあああ!!」

 

 空中で両足を揃えた俺は派手な一撃。

 強烈なドロップキックをマギアの胴体に入れた。

 

 マギアは流石の衝撃に初めて地面に倒れる。

 このまま一切相手に余裕は与えない。

 こっからはずっと俺のターンだっ!

 

「ッ、人間は絶滅させる! オォオオッ!!

(随分とタックルに自信があるんだな?でも)

「何度も言わせんな! 当たんねぇよ、おらァ!」

「!? ッッッ………!」

 

 猛スピードでタックルをしてくるマギアにそう吐き、俺は横にステップを踏み回避しながらショットライザーを連射する。放たれた全ての弾丸はバッタのように跳ねる跳弾と化し、予測不可能な軌道を描きタックルの態勢をとるマギアの両足を撃ち抜き転倒させる。

 

 バッタの力って半端ねぇなオイ……!

 

「ッッ、私は人間を…!」

「悪いが、そろそろーー」

ジャンプ!

「ーー終わりにさせてもらおうか」

 

 こっちも体がヤバイからなぁ。

 まぁ今はマギアの方もヤバイだろうがな?

 俺は手に持ったショットライザーをバックルに取り付け、プログライズキーのボタンを押す。キック力が高いなら使うのはこっちの必殺技の方が良さそうだ。

 

「お前を止められるのはただ一人…俺だッ!」

ライジング ブラスト フィーバー!

 

 トリガーを引き、俺は強く踏み込みジャンプ。高速でマギアとの距離を詰め、

 

「おらよっ!」

「ッ!」

 

 ーーマギアの体を全力で宙に蹴り上げた。

 マギアは廃工場の屋根を貫通する程の勢いで上に飛び、俺もそれを追うようにして跳ぶ。そして、

 

「これでトドメだぁッ!!」

 

 軽々と蹴り上げたマギアよりも上空に到達。

 そのまま空中で蹴りの構えをとり、落下速度も乗せた一撃をマギアに見舞う。

 

ジ ャ ン プ

ブ ラ ス ト フ ィ ー バ ー

 

「ガッッーーグワァァァァァアーー!!」

 

 そのキックはマギアの体を蹴り貫き、マギアは叫び声を上げて爆ぜた。

 

「おっとっと……やった、か」

 

 結構な高さからの着地し、少しよろけた後に俺は安堵と共に呟く。何とか撃破できたな……あー、やっぱり怖いわこれ…!

 

「ワズ、ありがとな。助かった」

「いえ、私はただ私の思いに従っただけですから」

「…そうか…」

(とりあえずゼツメライズキーを回収して、さっさとここから出るとするか)

 

 空中で爆ぜたマギア…位置的にゼツメライズキーは廃工場の外か? 待っても穴の空いた屋根の上から落ちてくる様子のないゼツメライズキー……。

 

「悪いワズ、先に廃工場の外に出といてくれ。

 俺は簡単な仕事が残ってるから済ませてくる」

「畏まりました、天本様。気を付けて」

 

 俺はワズに詳しく「ゼツメライズキー回収」の事を説明せず、簡単にそれだけ言ってワズが歩き出した方向とは真逆の廃工場内の外に出た。

 

 さて体力的にも早く見つけたいんだが…簡単に見つかってくれるかぁ?

 

 

 ▲△▲

 

 

(ゼツメライズキーは……あ、あそこか!)

 

 ヒビ割れたゼツメライズキーは予想通り外に落ちており、案外早くに見つかった。うん、予想してた数十倍楽に発見できちゃったな。まぁ早く見つかるに越したことはない……だが、

 

「!? お前はっ……!」

「まさか貴様対策のマンモスマギアまで撃破するとは……いよいよ恐ろしい存在になってきたな、バルデル」

「滅ッ…!」

 

 ーーそこには先客()の姿があった。滅はゼツメライズキーを手に取り、俺の方に目を向けて口を開く。こいつッ…いつから潜んでやがったんだ……!?

 

「よく現れてくれやがったなぁ…!」

「無駄だ。今の状態の貴様ではこれ以上の戦闘は不可能だろう。だが、俺の今の目的はゼツメライズキーの回収。命拾いしたなバルデル。また会おう」

 

 俺は敵意を隠す事なく剥き出しに戦闘態勢をとる。それを見た滅は焦る様子なく、やはりどこか機械のように告げる。

 

「ぐッ……! 待てっ! 滅ッ!」

 

 滅の言葉は図星だった。

 俺は体力の消耗でバランスを崩し地に片膝と手をつく。同時に変身が強制的に解除されてしまう。

 

「ッッ……ちく、しょう……ッ!!」

 

 追いたくても追えない。悔しさに歯を食いしばり俺は力強く地面に拳を落とした。

 

()てぇ…………

 

 情け無くそんな台詞を零す。

 今の俺には滅が歩き去る姿を悔しげに睨むことしかできなかった。

 

 

 

 

 ーーこうして俺の厄日は幕を閉じた。

 

 この日をきっかけにちょくちょく飛電さんに呼ばれたり、ワズに相談を受けたりするようになったんだが……まぁいいか。

 

 ちなみにその日は体力の消耗が激しいのもあって超熟睡できた。マジで今日みたいにマギアにボコボコにされんのは懲り懲りだ…。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

唐突ながら作者の中でのバルデルのイメージ絵を描いてみました。
手書きクオリティですがどうかお許しを…!

【挿絵表示】

だ、誰かもっと上手く描いてくれないかなぁ……(儚い期待)
(あとついでにバルデルの新フォームスペックも書いて置きますね↓)

仮面ライダーバルデル
ライジングホッパー

SPEC
◾️身長:196.8cm
◾️体重:90.5kg
◾️パンチ力:20.8t
◾️キック力:45.0t
◾️ジャンプ力:50.1m(ひと跳び)
◾️走力:3.9秒(100m)
★必殺技:ライジングブラスト、ライジングブラストフィーバー
 
デイブレイク被害者である天本太陽がショットライザー(後のエイムズショットライザー)とライジングホッパープログライズキーを使って変身した姿。

〈戦闘スタイル〉
スペックの関係上、パンチ主体のアメイジングヘラクレスとは真逆のキック主体の戦闘方法をとる。しかしアメイジングヘラクレスの時と変わらず戦い方はやっぱり荒っぽい模様。

※ゼロワン本編では、ライジングホッパープログライズキーは1話で社長室にあるプリンターからゼロワンドライバーと一緒に構築されています。なので今回出てきたライジングホッパープログライズキーは初期型的なものってことで、また本作の独自設定ということでよろしくお願いします!

あと今更ながらツイッター始めました!
http://twitter.com/@UI4VTPaTMMaKvQY


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ある男の敗北《滅》

リアルが忙し過ぎる昨今…モチベが高い今の内に一気に書き上げてやろうと思います!
今回は「最初からクライマックス!」な回です。
※電王は関係ありません笑

それでは、どうぞ!


 

 マンモスマギアとの戦闘から早一週間。

 今日も今日とて俺は戦っていた。

 

ジャンプ!

「これで、終わりだ!」

 

 ショットライザーを左手に持ち替え、右手でプログライズキーのボタンを押す。目の前には一体のカエルのようなマギア…こいつは口からちっちゃいカエル型の爆弾を出してきて中々に厄介だったが、まぁ何とか追い詰められた……。最後はいつも通り、必殺技で決まりだ。

 

 銃口に黄色のエネルギーが収束するショットライザーを持ちながら、俺は速い前蹴りでマギアを蹴り飛ばす。

 

「グガッ……!」

「はああっーーらあああッッ!!」

ライジング ブラスト!

 

ラ イ ジ ン グ ブ ラ ス ト

 

 蹴り飛ばしたマギアが立ち上がるよりも早く、俺は必殺技の反動に耐えれる構えをとりショットライザーのトリガーを引く。

 

「ッ!? 人間は必ず、絶滅ッーーグ、ガアアアア!!」

 

 放たれた一発の黄色の弾丸。

 それはバッタのように跳ねる巨大な追尾跳弾となり、地面を跳ねながらマギアの胴体へと到達し容易く風穴を開ける。マギアは体から火花を散らし最後には爆発した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ーーいつも思いますが、やはり君はとうに一般人をやめていますよ。太陽君」

 

 モニター画面に映る天本太陽(バルデル)とガエルマギアの戦闘を見終えた天津垓は思わず口を開き、その目を手元にあるタブレットに移す。タブレットに表示されているのは今日までのマギア出現数をまとめたグラフ、バルデルのマギア戦闘回数とマギア撃破数のリストだった。

 

 マギアの出現率は日に日に増し、今では一日にマギアが二体まで現れるのは日常茶飯事……最大四体まで現れる時もある。結果的に太陽の一日の戦闘回数も増した。しかし、彼の実質的な敗北はゼロ…最終的には必ずマギアを撃破している。

 

(ただの一般人が死と隣り合わせのマギアとの戦闘を何度も続けられる筈がない)

 

 たとえ報酬が貰えるから、滅という打倒すべき存在が居るからといっていつ死ぬかも分からない日々を続けられるような人間は…はたして一般人と言えるだろうか? 垓の結論は否だ。

 

 また垓が天本太陽という人間が「一般人をやめている」と思う理由は他にもあった。一番の理由は彼が持つ「仮面ライダー」としてのポテンシャルの高さ。もう一つは「仮面ライダー」の力を持って尚「怖れ」を忘れずに持ち続けている点である。

 太陽がもし彼自身が言うような一般人であれば、仮面ライダーに変身した際に感じる全能感に呑まれ「怖れ」を忘れ、戦いを「楽しい」と感じ出してもおかしくはない。しかし、彼は全能感に呑まれることなく「怖れ」を持ち続けている。

 

「ふっ。流石にショットライザーとプログライズキーを返却しようとしてきた時は、大変驚かされましたがね……」

 

 太陽がこの社長室に初めて来た日の事を思い出し垓は小さく笑った。今思えばあの日の太陽の行動が既に彼が「怖れ」を確かに持っているいい証拠だったといえる。

 

 

「………………」

 

 垓はふと考える。

 天本太陽、仮面ライダーバルデル。

 序章の主役である彼が辿り着くであろう結末を。

 

「もしかすると、私はキャスティングを間違えたのかもしれませんね…」

 

 太陽の仮面ライダーとしてのポテンシャルの高さ、戦闘能力、成長速度、人間性……彼の戦闘や会話の中で明らかになってきた全てについて考えた後。暫く目を瞑り、何かを思考した垓は自分の非を認めるような呟きをぽつりと零す。

 

 

 

ーー序章の終わりは近付きつつあるーー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……ふぅ〜、終わったな」

 

 息を吐き出し俺は脱力して変身した状態のままその場にしゃがむ。はぁー、本当にマギアとの戦闘は骨が折れる。肉体的にも精神的にもダブルパンチでな。あと単純に一人でマギアを毎日毎日捌く=毎日毎日命を懸けるっていうのが一般人にはキツ過ぎるんだよなぁ(当たり前)

 

「俺以外にも仮面ライダーが居ればなぁ……」

 

 だから俺は最近になってこう強く思うようになった。はよ俺以外に戦うヤツ……欲を言えば俺より何十倍も強くて、俺の代わりにマギアを撃破してくれるような「仮面ライダー」はよ出てきてください(切実)

 

 ……あーでも、天津さんの話じゃショットライザーはまだまだ完成してないし、試作品を量産する予定もないらしい。

 飛電さんの方もマギアに対抗する為の計画を進めてて、何らかのテクノロジーを作ってるみたいだけど…さり気なくワズに「進行度どんな感じ?」って聞いたら「企業秘密です」って天津さんみたいこと言われたわ。でも、常識的に考えて一般人にそんな会社の大切な情報、ましてや極秘計画の進行度なんて教えないよな(納得)

 

(あと、どれだけ戦えばいいのかね? 俺は)

 

 俺はしゃがんだまま、真っ暗な空を見上げながら思う。別に今初めて思ったっていうわけじゃない。今までも何度も…それも一度や二度じゃない。何十回も思ったことがある。

 

 戦うのは痛いし怖い。

 変身した際に全能感は感じるが、それを忘れてしまう程の危機にも何度も直面する。親孝行できるだけの報酬が貰えてなかったらとっくに「仮面ライダー」なんて辞めているだろう…………なんて言って、もしかしたら続けてるかもしんない。それはその時になってみないと俺にはわからん。

 

(滅……分かってはいたが、あいつを倒すのが一番手っ取り早い…最短の道なんだろうな)

 

 マギアとの戦闘、それを終わらせる一番の近道。

 それは間違いなく、ヒューマギアをマギア化させようと行動している人物「滅」を倒す事だろう。…まぁ出来るならとっくにやってるんだが……あいつは神出鬼没というか、ゼツメライズキーを回収する時ぐらいしか現れないというか、すぐ消えるというか、追跡しても意味ないというか……。

 

 まぁつまり、俺の方から探して滅を見つけられる気がしないってわけだ。うーむ……あいつの拠点とかでも見つけられたらいいんだが、今んところはさっぱりだしな。

 

「……帰るか」

 

 これについては俺一人でいくら考えたってしゃあねーか。

 きっぱり滅に関しての思考を中断し、立ち上がった俺は一人呟きショットライザーからプログライズキーを引き抜き変身を解除しようとした。だが、その手を俺は思わず止めて仮面の下で目を見開いた。前を向けば、

 

「ーーバルデル。そのゼツメライズキーを渡して貰おうか」

「! 滅っ……!?」

 

 そこに何処から現れたのか、滅が立っていたのだ。

 こいつまじでどっから…!?

 驚愕した俺は思わず後ろにバックステップし滅と距離を取る。ゼツメライズキーは既に俺の手の中にある。

 

「渡して貰おう? 悪いけどこれをお前に渡してやる気は微塵もねぇよ」

 

 左手に今さっき倒したマギアのゼツメライズキーを持ったまま、俺は右手でショットライザーをバックルから引き抜き滅に向ける。相手はヒューマギアをマギア化してきた滅だ……たとえ生身でも油断はしない。ついでに容赦もしない。滅は腰に刀のようなものを携えているが……

 

「前と違って俺はまだ戦えるぞ?」

 

 マギアを倒したばかりではあるが、まだ俺の体力は残ってる。滅の奴がどんな手を使おうが変身している今、負ける気はしない。

 

 ……ん?だったらおかしくないか?

 普通に考えてみれば…俺がまだ戦えるってのは滅だって当然わかってる筈。マンモスマギアのゼツメライズキーを回収しに現れた時、俺がもう戦闘続行が困難な状態だったと滅は理解していた。多分だがそれが分かっていたからこそ堂々とあの場に現れたんだろ? なら、今の状況…………

 

(ーー何でこいつは、俺の前に現れた…?)

 

 ただの直感と言えばそれまでだが…俺には確かに嫌な予感がし、

 

 

「そんな事は分かっている。

ーーだが、それがどうした?

「…何っ?」

 

 ーーその予感は的中してしまう。

 

「それは…!?」

(ベルト?!)

フォースライザー!

 

 滅は懐から黄色と黒色のカラーリングの無骨なベルトを取り出すとそれを腰に当てた。瞬間ーーベルトの一部分に取り付けられたランプが赤く光り、それから内側に無数のトゲが付いたベルト帯が伸び装着される。しかし、滅は一切痛みを感じた様子なく変わらず淡々とした様子で告げた。

 

「バルデル、貴様がどれだけ一人で奮闘しても結果は同じ。我々、滅亡迅雷.netの勝利に変わりはない」

ポイズン!

「! お前が、なんでプログライズキーを持ってんだッ!?」

「貴様に答える必要は無い」

 

 続いて滅が取り出した紫色のプログライズキーを見て俺は驚愕する。飛電さんや天津さん、大企業でも今の段階では一つ作るのにかなりの費用・時間・技術を必要とするハイテクノロジー……それがプログライズキーだ。滅…お前みたいな「人類滅亡」を掲げるテロリストがどうやってそれを手に入れた?

 

 当然ながら滅は俺の疑問には答えずに、

 

ーー変身

 

 冷たくそう言い、右手に持ったプログライズキーを腰に装着した無骨なベルトに装填した。その直後にベルトから警告音のようなものが流れ出し、赤いランプが不気味(危険)に発光し始める。更にベルトからサソリの姿をしたライダモデルまで現れる。

 

 そして、滅は黄色のレバーに手を置き、レバーを引いた。

 

フォースライズ!

 

 何かとんでもなくマズイことが起ころうとしている。何の根拠も無く俺は確信した。

 

 レバーを引いたことにより装填されたプログライズキーは強制的に展開。ベルトから現れたサソリらしきライダモデルはその尻尾の針で滅の体を突き刺し覆い被さるように動く。その結果、滅は紫色のスーツを纏い最後には黒いケーブルが接続されたアーマーがゴムのように伸縮し、滅の体にかなりの勢いで当たり装着される。

 

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

 

(……マジで変身しやがった……!)

「ーーバルデル、そのゼツメライズキーをこちらに渡せ」

 

 変身した滅は片手をこちらに向け再びそう命令した。

 

 

 

 

 

 ▲▲▲

 

 

 

 神様…そりゃねぇーだろ……。

 確かに「仮面ライダー」はよ出てきてくださいとは割と本気で思ったよ? だけどさ……これはどう考えても違うだろーが! なんで一番「仮面ライダー」の力持ってたら厄介なヤツがバッチリ持っちゃってんのさ!?

 

 都合よく信じた神様に文句を吐き捨て、俺は変身しちまった滅を仮面の下で見据えて吠える。

 

「ハッ、笑わせんなよ。渡して欲しいなら力づくで奪ってみろっ!」

 

 滅の命令に従う気なんて俺には当然ながら欠片もなかった。滅の言葉を鼻で笑い俺は思い切り蹴りかかる。だが、

 

「ーー言われるまでもない」

「ッ! このっ…!」

「……ふっ」

 

 滅は一歩横に動くだけでその蹴りを容易く躱す。続けて俺が拳を振るえば、それも蹴りと同じく空を切る。何度攻撃しても滅は平然と全てを最小限の動き回避し続け、

 

「どらぁあ!」

「ーー無駄だ」

「ぐッ!? 動きが読まれてンのか…!?」

 

 俺の右足での渾身の回し蹴りを片腕で防ぐと、素早く俺の胴体に蹴りを入れてくる。その蹴りに怯み僅かに後退りする俺に滅は続けて口を開く。

 

「バルデル。貴様の戦闘能力はマギアと貴様の戦闘データから既にラーニング済みだ」

「…何だと……?」

 

 俺の戦闘能力をラーニング済み?

 こいついつの間にそんな……いや待てよ。

 よくよく考えれば一月前辺りから不思議な期間があった。ヒューマギアを大量にマギア化するくせに、何故かゼツメライズキーの回収に滅が現れない期間が。

 

 まさか、あの時に俺とマギアの戦闘データを蓄積してたってのか? もしそうなんだとしたら……。

 

「…用意周到だな、マジで」

「理解したか? だが今更理解したところでもう遅い」

 

 一歩ずつ俺に歩み寄る滅。

 俺はその場に立ち止まると項垂れ、

 

「あー確かに遅いかもなぁ。あーあもっと早くに気付けてたらなぁ…」

「……さぁ、大人しくゼツメライズキーをーー」

 

 弱々しく情けない台詞を吐く。

 滅はそんな俺に更に近付くと再び片手をこちらに向け、

 

「ーーなんて後悔してる暇は、ねぇんだよバァーカッ!!」

「っ……!」

 

 ーーその手を素早く左手で掴み、俺は滅の顔面に拳を振るう。それをギリギリ顔を動かすことで避けようとした滅だが、完璧には避けきれず衝撃を受けて後ろに下がる。

 

 初めて攻撃を当てられた事に僅かに喜びを感じた俺だったが、ライジングホッパーのパンチがそれほど強力じゃないことと滅の装甲の硬さによって大したダメージが入っていないとすぐに悟り、

 

「やっぱり『蹴る』より『殴る』方が俺の性に合ってるな!」

ストロング!

 

 俺は素早くアメイジングヘラクレスプログライズキーを出してボタンを押す。続けてショットライザーに装填されているライジングホッパープログライズキーを取り出し装填した。

 

【オーソライズ!】

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

ショットライズ!

 

 プログライズキーを展開し、すぐに俺はショットライザーをバックルから取り外し滅に銃口を向けトリガーを引く。

 発射された弾丸を滅はひらりと躱す。

 

「おらぁあっ!!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 戻ってきた弾丸にいつもの如くアッパーを打ち込み、俺はアーマーを装着してフォームチェンジする。

 

「フォームチェンジか。だが、結果は同じだ」

「そうか? そりゃあ…試してみなきゃ、分かんねぇだろッ!」

 

 一番使い慣れたアメイジングヘラクレスで俺は滅に接近し右のパンチを放つ。それを滅は避けるが俺は構わず次に左のパンチを噛ます。

 

「ふん」

「ぐッッ…! まだまだァ!」

 

 当然それも予測済みらしく腕で軽々防がれ、俺の腹にカウンターの鋭い拳が刺さるように直撃する。それを受け俺は地面を転がるが、地面に手を置きすぐに立ち上がる。そして、ダッシュし滅にアッパーを打ち込もうと右拳を振り上げたが、

 

「無駄だと言ったはずだ」

「っ! このやろッーー」

 

 ーー滅は振り上げた俺の右拳を軽々と右手で掴んで防ぐ。防がれたことに僅かに驚きながら俺がすぐに左拳で殴りかかれば、それを滅はもう左手で弾き、

 

「貴様のやり方に付き合う気は無い」

「がッ…!?」

(な、何だよコレっ…?!)

 

 左腕に付いた黒い針のような物を俺の胴体に突き刺した。その瞬間、刺された部分から火花が散り俺は後ろに倒れかけたが、何とか耐え……ーー体の違和感に気付き地に片膝をつく。

 

「体がっ…! 動か、ねぇ……!?」

「この針から貴様の体に神経毒を注入した。

 自由を失った今、貴様に出来ることは無い」

「て、めえッッ…!!」

 

 違和感の正体、身体の自由が失われた理由は滅自身の口から簡潔に述べられる。マズい。マズいマズいマズい!! 今の状況じゃ防御も回避もできない。ましてや反撃は勿論、必殺技も使えない。打つ手なし……滅にとっちゃ隙だらけの絶好の機会…やりたい放題ってことだ!

 

 動揺する俺に一歩また一歩とゆっくり接近しながら滅は右手をレバーに移動させーーレバーを押して戻す。それによりプログライズキーは閉じ、途端にベルトのランプが不気味(危険)に赤く点滅する。

 

(くそッ! 動け動け動け動けっっ!!)

 

 そのベルトの待機音が俺の不安を、焦りをより一層駆り立てる。更に滅の右足に異様な形をした管が複数伸びて集まる。あまりにも危険さ(ヤバさ)が滲み出る様子を俺は身動き一つとれず、ただ目にする事しかできない。

 

 いくら願っても体の自由は神経毒に侵され戻らない。

 

「ーー滅亡せよ」

スティング ディストピア!

 

 紫色のエネルギーが滅の右足に収束する。

 そして、滅は短く呟くと右足を上げ蹴りの構えを取り、

 

「ーーッッッ!!」

 

 俺の首を的確に。

 容赦無く突き刺すように。

 横蹴りで蹴り抜いた。

 

 

 

 

 蹴られた首から赤黒い火花が散る。

 息が漏れ、直後に俺の今までの人生の中で間違いなく最も「激烈」な痛みが走った。

 

スティング

ディストピア

 

ぐわあああああああッッ!!!

 

 

 次の瞬間、悲鳴を上げた俺の体は爆発をした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(ッ……く、そ………)

 

 ーー爆煙と炎の上がる一帯。

 変身が変身者である俺の体力の急激な低下を察知し、強制的に解除され俺は地面に頭からどさりと倒れる。再変身する力は……それどころか戦う力はもう俺の体には残っていない。

 

 文句なしの完敗だった。

 

「…………」

 

 滅は倒れた俺の体から落ちたゼツメライズキーを手に取ると、暫くその場に立ち尽くす。

 何だ…? 何を考えてる?

 変身が解除された俺など滅からすればいつでも始末出来る存在だろうが、それでも無駄に生かしておく必要はない筈だろう。効率的なタイプであろう滅なら尚更……だからこそ理解できない。

 

(……は……!?)

 

 死を覚悟する俺が次に聞いたのは信じられない滅の一言。

 更に俺の目に映った滅の行動は俺には理解不能なものだった。

 

「ーーそれがアークの意思ならば、従うまで」

 

 滅はそれだけ口にすると、レバーを戻しベルトからプログライズキーを引き抜き変身を解除したのだ。

 

 そして、そのまま俺に背を向けマンモスマギアの時のように歩き去ろうとする滅。

 

「ぐッ…なンの、つもりだァ……!」

「貴様の完全な排除よりもゼツメライズキーの回収、戦闘データの収集を俺は優先する。また…アークは貴様に利用価値を見出した、それだけの話だ」

 

 立ち上がる力は無い。

 だが、思わず俺は血を吐きながら声を上げていた。

 それに滅は一度だけ足を止めると、振り返る事なく淡々と喋りまた再び歩き出す。

 

(何だよ、何だよソレッ……!!)

 

 プライドを傷つけられた……何て言い方は一般人の俺には大したプライドなんてないんだから違うんだろう。多分言うなら…コケにされた、が正しいんだと思う。

 

 お前などいつでも始末できる。相手にもならない。

 そんな思いが遠回しに伝わってくる滅の「利用価値」という言葉に「立ち去る」という行動。

 

 怒りが次から次に心の中に沸く。

 歯を食いしばりながら、滅の背を睨む。

 

(アークの意思、アークの意思ってーー)

 

 ーー気付けば俺はもう一つの怒りの「要因」を滅の背に向かって叫んでいた。

 

「ーーじゃあッ…! お前の意思はどこにあんだ!? 滅ッ……!」

 

 俺の叫びに滅は応えることなく遂にその姿は闇の中に消える。

 

「ちく、しょ……う…ッ………」

 

 そして、俺は限界を迎えーー意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ………」

 

 あ、生きてた。

 目が覚めれば一日が経ってて、そこはデイブレイクの被害に遭った時もお世話になったあの病院の病室だった。誰が俺に救急車を呼んでくれたのか……天津さんか?ワズか? それとも爆発で上がった煙を見た他人かヒューマギア…? 誰でもいいがちゃんとお礼言わなきゃな……。

 

 あと美月だけじゃなく母さんも病室に来ていた。

 息子の退院日にドライブを満喫するブッとんだ性格してるあの母さんまで俺を心配してたから「相当だなぁ…」と他人事みたいに思ってしまった。まぁ流石に裂傷と打撲、骨まで何本か折れてたし心配するのは当然か? それで心配しなかったらホントに俺の母親か疑うわ……まぁ正直家族には心配かけなくないからさ、心配してくれなくても俺的には全然OKなんだけどな。

 

「…………」

 

 入院一週間頃。

 ドクターから「退院まで後一ヶ月です」と告げられ、我ながら自分の体について「頑丈過ぎ…しぶと過ぎない!?」と内心驚愕していた時。ーー俺のスマホが鳴った。

 

「はい、もしもし」

『太陽君。傷の具合はどうです?』

「いきなりなんですか……。まぁ、順調に回復してますよ。我ながら異常な速度でね。もしかしてこれ『仮面ライダー』になった影響とかだったり…?」

『残念ながらライダーシステムにそんな機能は搭載されていませんから、その回復速度は君本来の……もはや「天性の」と付けても過言ではない頑丈さによるものでしょう』

「天性、ねぇ…」

 

 頑丈さには確かに少し自信あったが、まさかここまで頑丈だったなんてなぁ。……ここまで頑丈だとあれだな。「俺は不死身だ」とか「俺は死なない」何て名言言っても許され…あ、すんません許されませんよね! すんません冗談です!(平謝り)

 

「…それで、天津さんは何で俺に連絡してきたんですか?」

 

 滅との戦闘により病院送りになった事。それについては入院二日目ぐらいの頃に既に天津さんに報告していた。初めての敗北報告を伝えるのは……気分的には最悪だったけども。

 

『私が今日君に電話したのは他でもない。「滅」の最近の動向について…幾つか明らかになりましたから、それを伝えようと思ったのです』

「! ……天津さん、教えてください」

 

 ………………。

 伝えられた滅の動向。

 それは俺にとっては予想外の内容でもあったが、有り得なくはないなとも思えた。アークの意思は俺に利用価値を見出した…そう滅は言っていたが、意思なんてもんは状況が変わればコロコロ変わっても何らおかしくないのだから。

 

「……ありがとうございました。天津さん」

『太陽君……君は……』

「ーーんじゃ、切ります」

 

 俺は一方的に電話を切る。

 ーー病室の扉がちょうど開いた。

 

「バカ(にい)……大丈夫? なんか、怖い顔してるよ?」

 

 心配そうに声を掛けてくる美月。

 おまっ…どんだけ心配してんだ。そんなひどい顔してんのか俺っ? 一度ため息を零して俺は口を開く。

 

「ーーお前の方が心配し過ぎである意味怖い顔してるっつーの。…大丈夫だっての。あ、いや、まだ怪我は完治してねぇけどな?」

 

 美月の目に映る俺がいつも通りの「俺」に見えるよう……俺は精一杯普段の調子で言ってやった。

 

 

 

 

残念ながら、天本太陽(バルデル)は自分の最後をどうしようもなく予感してしまっていた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

・滅
本作では独自設定でデイブレイク後すぐ既に「人類絶滅」の為にアークに従い計画を進行していた。内容はヒューマギアのマギア化、ゼツメライズキーの回収とゼロワン本編の序盤と同じ感じ。
ちなみに本作でも滅茶苦茶強い設定で今回は不破さんと滅の初戦をかなりリスペクトさせてもらってます。(時間軸的にアタッシュアローは無い)

あれ不破さんが意識不明の重体になるような一撃受けてなんでこのオリ主生きてるんでしょうか? ……これは主人公補正ですね間違いない。


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ある男の決戦先刻

今回は「登場人物てんこ盛り」回です。
それでは、どうぞ!




 

「まぁ今日で君は退院なんだが…はぁー、デイブレイクの時にも思いはしたけどね? 君はホントにしぶといよねぇ……」

「……え、それもしかして褒めてるつもりなんですか?」

 

 診察室に呼ばれイスに腰掛け、ドクターの心底からの第一声に俺は思わず口を開いた。

 いやいや、医者が患者に「しぶとい」って普通にダメじゃ……あーでも、ちゃんと普通に仕事してくれてるからいいのか?

 うん…わからんからやめようかこの話(話題放棄)

 

「7割は褒めてるよ」

「…残りの3割は?」

「ん? 気持ち悪っ…って」

「気持ち悪っ…!?」

 

 医者と患者の間では信頼関係の構築が大事……なんて話をテレビが見た気がするが、そう考えるときっとドクターはいい医者なんだと思う。

 

 ……思ったことをまんま口にするのはマジで矯正した方がいいんじゃ? とは思うがまぁ今更か。

 

「自覚が足りないみたいだけど、君の回復速度…平均的な人に比べたら異常だから。具体的に言うと平均の三倍近いからね」

「三倍? ……えーっと、それってどうなんですか…?」

「あーまぁ言われてもピンと来ないか」

 

 ドクターは僅かに破顔し、手元のカルテを見て続ける。

 

「デイブレイクの時もそれなりの重傷だったのに一ヶ月とちょっとで退院。そして今回。今回はデイブレイクよりも酷い状態だった……医者として患者の常日頃にあまり口出しはしたくないんだがね…」

「…………」

「普段は家族から上手く隠していたのかな? 服の下の大量の生傷、裂傷、打撲。更に右腕の骨折。更に更に首の骨に入ったヒビ」

「…実際に聞いてみると、中々にエグいっすね」

 

 まぁ滅の必殺技を首に受けたわけだし当然っちゃ当然だが…というか逆に、変身状態だったとはいえ首にアレ受けてよく折れなかったな俺の骨……ぽつりと漏れた一言にドクターは頷く。

 

「はぁー…全くだよ。どれだけヤンチャしてたらこーなるのか……私も医者になってそれなりだけど、ここまでの怪我人の治療をしたのは初めてだったよ」

「…えっと、その、世話かけてすんません!」

 

 本当に毎度お世話になってます!

 本当にありがとうございます!

 あと純粋に申し訳ないなぁ……そう思いイスに座ったまま俺は頭を下げた。するとそれを見たドクターは、

 

「……ぷぷっ、やっぱり君は変わってるなぁ?」

「?」

 

 ーー暫しぽかんとした顔をした後にクスクス笑った。何が面白かったのか分からず俺は首を傾げる。

 

「君は患者で私は仮にも医者。感謝は不要だよ。

 別にボランティアでやってるんじゃない。仕事だからね」

「……ドクター。ありがとうございます」

「…君、結局感謝してるじゃないか……ふっ」

 

 やっぱあんたいい医者()だな。

 直接口には出すことなく、思わず再び感謝すればまたドクターは可笑しそうに笑った後。

 

「ーーさて、診察は以上だ。さぁさぁ帰った帰った」

「うす、失礼します」

 

 しっしっ、と手振りして俺に言う。

 イスから立ち上がり、俺は診察室の出入口に手を掛ける。

 

 その時、ドクターが独り言のように呟く。

 俺は診察室の出入口前で足を止めた。

 

「……ーー医者っていうのはさぁ。仕事の関係上、多くの患者()と接する機会がある…だから顔を見ればその人が何を思ってるか完璧には分からないけれど、何となくは分かるんだ」

「…………」

「君の今の顔を見るに……君は何かを覚悟したんだろう。それも生半可なものじゃない」

「ーー」

「君が何と戦ってるかは知らないが……怖くはないかい?」

 

 デイブレイクの被害に遭って入院する以前から、ドクターには色々お世話になっていた。高校での部活の大会で怪我した時とか……あー、一度だけ人生相談に付き合ってもらった時もあったっけ? 確かあの時は結局俺の悩みは解決されず「まぁ私から言えることは一つだね。焦らず慎重に。何度も何度も悩んでけ……以上!」ってドクターは言ったっけ? あの時はホント「相談相手のチョイスミスったか?」って思わずにはいられなかったなぁ…。

 

 

 ーードクターはよく知っている。

 俺が基本小心者だってことは勿論、俺が赤の他人を助けたいと思えるほどヒーロー気質じゃないことも。

 

 

 ーードクターは知らない。

 俺が「仮面ライダー」だと、馬鹿みたいに毎日毎日体を張ってなんやかんや今日まで戦ってきたことを。

 

「ーー怖いですよ。めっちゃくちゃ」

 

 ーーだがそれでいい。

 ドクターに振り向き俺は最後に告げ、診察室を後にした。

 怖いけど、やるしかない。

 

 

「そうか……なら、精一杯気張りなよ」

 

 背後から聞こえたそんな優しい声に俺は改めて思う。

 ドクター。本当にありがとうございました、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行くか」

 

 病院を出た俺が暫く歩くと妹の美月が駆け寄ってきた。どうやら態々待っていたらしい。

 ほんといい子…(感動)

 

「バカ(にい)、退院おめでとっ」

「おーサンキュー。あー…退院日はちょっと用事があるから先に帰ってていいぞって…俺、美月に言ってなかったか?」

「うん、言ったよ。私が好きで待ってただけ!」

「……そっか……」

 

 元気良く退院を祝ってくる美月に俺は若干違和感を抱き、動揺しながらも聞く。それに美月はすぐに答えた。本当に家族思いのいい子に育って……これはさぞかし両親と兄の育て方が良かったに違いないなぁ(確信)

 

(ーーなぁんてな……)

 

 まぁ冗談だけども。

 前者(家族)の育て方が良かったのは事実だろうが、後者()が美月に何か教えた事があるか…何か兄らしいことをしてやれたことがあるかと問われれば即答できない。そんぐらい美月に何かしてあげた覚えは俺にはない……今思えば中々酷い兄だな俺?(自嘲)

 

 俺は、美月には何度も助けられてきた。

 俺にはない美月のその明るさに、純粋さに何度も……多分、美月自身には自覚ないだろうけどさ。

 

 ……ありがとな、美月。

 

「…じゃあ俺は用事があるからさっさと行くわ。美月も気を付けて帰れよ」

「……それ、退院初日の(にい)が言う〜?」

「あぁ、それもそうだな」

 

 

 病院を出た俺は昨夜天津さんからスマホに送られてきたメールを確認して、俺は美月にそう言い歩き出す。病院の敷地から出るまでは二人とも同じ道だから、自然と俺たちは二人並んで歩いた。

 

「………(にい)、あの…さ」

「ん、どした?」

 

 ふと隣を歩く美月の足が止まり、不思議に思い俺も足を止めれば美月は俯きながらどこか不安げに俺の手をぎゅっと握っていた。それは普段の美月からは考えられない行動で……

 

「ーーちゃんと、帰ってくるよね……?」

 

 俺の顔を見上げて少し声を震わせながら美月は言う。……本当に参ったね。マジでエスパーかよお前?

 

「……はっ、何だそれ? ったく、また何を言い出すかと思ったら。直感か? 次は一体何をどう誤解したんだよ」

「…………」

「ほんと……やめろやめろ! しおらしい顔すんな。お前がしおらしいとか普通に俺の調子が狂うから」

 

 落ち着きとかお淑やかさが足りないとは思ってるけど、別にしおらしさは求めてねぇから! 普段の元気な美月にはよ戻れ…いや戻ってください!

 

 慌てて俺が頼めば美月は小さくだが「うん」と返事をする。だけど、美月のテンションは変わらないし顔は俯いたままだ。なぁにが「うん」だお前! 「うん」って言っといて全然元気戻ってねぇじゃん!

 

(にい)……」

「…はぁー、妹よ。お前が何を心配してるかは知らんけど、それ杞憂だからな? 分かったらそのテンションやめてくれ」

「…………」

 

 二度目の頼みに……美月は暫く黙った後、

 

「……うん。うん…わかった。変なこと言ってごめんねバカ(にい)!」

「分かればよろしい」

 

 ーーいつもの笑顔を浮かべてくれた。

 美月……お前は本当に優しい、いい子だな。

 

 思わず俺はそんな美月の頭にポンと手を置き、撫でていた。それに美月は少し戸惑った反応を示す。

 

「……にい……?」

「美月も知ってんだろ? 俺は小心者だ。だから怖かったらすぐ逃げ出す。自分の命が一番大事だからな。誰かを助ける為に命を懸けたりなんてしたくねぇ。基本するつもりもねぇ」

 

 俺が言いたかったことは美月に半分も伝わってないかもしれない…急に語り出したし、意味不明だろうし。でも家族だからか……きっと伝わってくれてるような気がして俺は最後に告げた。

 

「『ちゃんと帰ってくるよね?』そりゃお前、別に死ぬわけじゃないんだから……帰ってくるに決まってんだろ?」

 

 当たり前の話だ。

 俺の帰ってこれる場所は一つしかねぇんだから。

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 天津さんから送られてきたメールの内容は【聞くまでもないでしょうが、君の決断は聞かせてもらいたい。本日、ZAIAエンタープライズジャパン本社 社長室にてお待ちしています】というものだった。

 

 そういや、天津さんにも結構な期間お世話になったなぁ〜……まさか最初はここまで続くとは思わなかったけどさ。社長室を三回ノックすれば中からすぐに「どうぞ」と返事があり俺は「失礼します」と言い社長室の扉を開ける。

 

「無事退院できたようで安心しましたよ、太陽君。体の方は大丈夫ですか?」

 

 天津さんは俺が入室してきてすぐに椅子から立ち上がる。

 えっ? 天津さん、今まで話す時とかでも椅子に座って偉そうにゲンドウポーズしてたよな……? 天津さんが椅子から立って話しかけてきた事にちょっとの衝撃を受けつつ俺は答えた。

 

「いや、大丈夫じゃなかったら退院してませんって」

「ふふ、えぇ…それもそうですね」

 

 俺の返答に天津さんはうっすらと笑い、再び椅子にゆっくりと腰掛ける。それを見て俺は天津さんのデスクまで歩いて行き、デスク前で足を止めてーー天津さんが切り出した。

 

「……太陽君、君の決断は……」

「……俺は……」

 

 一度だけ俺は俯いた。

 この決断により俺がこの後、至るであろう未来を思い浮かべて……不安はあった。恐怖はあった。……だけど…それでも、

 

「ーー俺は、あいつと……滅と戦います」

 

 入院一週間頃のあの日。

 天津さんから伝えられた「滅の動向」。

 それは簡単に言えば、滅が俺の行方を捜索しているというものだった。

 

(あいつに捜されてるって……それ、実質的な死刑宣告だよなぁ…)

 

 滅の圧倒的な強さを思い出して俺は憂鬱になりそうになる。滅に敗れたあの時。滅は俺を殺さなかった理由の一つとして『「アーク」は貴様に利用価値を見出した』と述べていたが…。どうやら「アーク」は考えを改めたらしい。

 

 滅が俺の行方を捜索している理由。

 ーー天津さんの推測はこうだ。

 実にシンプルな話、衛星アークが俺という「人類滅亡」の一番の邪魔者である存在の完全な排除を決めたから。

 

 どうやら俺の今までの行動により、滅の計画は予定より随分と「先送り」になっているらしい……やっぱりゼツメライズキーの回収数が減るのはあっちにとって随分な痛手だったようだ。滅曰く、アークは俺にあの時は利用価値を見出してたみたいだが……いや意思変わんのはやくねアークさん!? 頼むからもうちょい俺に利用価値見出してくれよぉ……。

 

 アークにとってはどうやら俺の存在は計画への「利用価値」より計画への「損害」の方が上回ってしまったようだ。

 

(人類滅亡って計画を先送りできた事は素直に喜びたいが、邪魔しまくった結果がこれ……マジで最っ悪だ)

 

 更に滅はここ最近…正しくは言えば俺が病院送りにされたあの日から今日までずっと、ヒューマギアのマギア化を一度も行っていないという。またまた天津さんの推測によれば、理由は二つ。一つはアークの命令により「ヒューマギアのマギア化」よりも「天本太陽(バルデル)の排除」を優先しているから。

 

 また、天津さんからの話だとここ最近……正しくは俺が病院送りにされたあの日からマギアの姿は一切見つかっていないらしい。本当にさぁ…どんだけ俺の排除に力入れちゃってんだよアーク……。

 

 ーー今は天津さんの協力のおかげで、滅に見つかってはいないが……時間の問題なのは明白だった。

 

「勝算はあるのですか?」

 

 はっきり言えば勝算などーー皆無に等しい。

 認めたくないが滅と俺……戦えば結果はきっとデータをラーニングし、短時間で急激に強化できる滅の勝利。その可能性が高い。

 

 動きを読み、あらゆる攻撃に冷静に対処する隙の無い滅の姿を思い出すが……あぁ、悔しいけど勝てるイメージが全く浮かばない。でも、

 

「でも…やるしかないでしょ」

 

 たとえ、俺がどれだけ逃げ隠れしてもいつかは必ず見つかる。それに俺がもし見つからなかったら…滅は必ずまたヒューマギアのマギア化を再開する。そんで俺がそれを阻止しようと現れれば……その時こそ間違いなく滅は俺を排除しようと向かってくるだろう。

 

(……俺も……随分馬鹿になっちまったな?)

 

 今までなら「なら逃げよう」と簡単に決断していただろうに…今となっちゃ「戦うしかない」って……「見捨てる」って選択を完全に失くしちまってる。

 

 まず間違いなく「仮面ライダー」になった影響だなコレ。……あーでも、不思議と後悔の感情はこれっぽっちも湧いてこない。

 

「これは私個人の意見ですが……君が滅に勝てる可能性は、極めて低いでしょう」

「……ま、そうでしょうね」

「…それが分かっていながら君は戦うと?」

 

 その天津さんの言葉に俺は確かに頷く。

 

「あっちから来られるより、こっちから行った方がまだ気が楽ですからね……まぁ本音を言うとかなり怖いですけど」

「……やはり君の考えは、まだまだ私には理解できませんね」

 

『理解できない』。

 初めて天津さんと病室で出会った時。

 デイブレイクに遭った俺に「ヒューマギアを憎んでいるか」という質問をしてきた天津さんは俺の「ヒューマギアを憎んでいない」発言を聞いた際にも同じ台詞を零してたっけ?

 

「それはお互い様でしょ。俺だって天津さんの考えとか目的とか、まだまだ理解できてませんよ……。企業秘密って言って、あんたいつも教えてくれませんから」

 

 まぁ理解できないって言うなら、それは俺もだ。

 俺も天津さん…あんたが何を考えてるかまだまだ理解できない。

 

「……いつか、必ず教えて貰いますからね。天津さんの企業秘密」

「……えぇ、いつの日か……君に必ず教えましょう」

 

 天津さんはそっと微笑んで、俺はちょっと驚いた。いつもは笑っても大体…何か企んでそうな怪しい意味深な笑みなのに。

 

 今、天津さんが浮かべた微笑みはそれはそれは驚く程に穏やかなものだった。いや、失礼だけど普段のイメージと違い過ぎて逆に怖いわ!

 

「天津さん…その笑い方、全っ然似合いませんね……!」

「……む、似合わないとは心外ですね太陽君。私のこの爽やかさ1000%の笑みの何が似合ってないと?」

「いやぁ…鏡見てどうぞとしか

 

 思わず本音を漏らせば、天津さんは僅かに眉をひそめる。もしかして天津さん……自分が「爽やか」とは真反対の雰囲気を醸し出してる自覚がない?

 

 

 その後、こんな風に他愛のない会話を暫く交わした俺は……

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くとします。時間も時間ですし」

「そうですね。太陽君、君に会えてよかったですよ」

「何すか急に……死亡フラグ立てんのやめてくださいよ。マジで…俺は死ぬ気とかねぇですから、むしろ滅のやつをぶっ倒す気満々ですからね? ……まぁ、何だ、俺も天津さんに会えてよかったです。……本当にありがとうございました」

 

 死亡フラグやめろォ!と天津さんには言ったものの俺もぽろっと死亡フラグ染みた台詞吐いちゃってんなぁ。天津さんに感謝を告げて俺は頭を下げる。俺が「仮面ライダー」として戦えるのは元はショットライザーとプログライズキーを「お詫び」なんて言って渡してくれた天津さんのおかげだ。……まぁ文句を言うと、そのせいでマギア相手に何度もボロボロになったし、ピンチになってヒヤヒヤしたけどなぁ?

 

「ーーそれじゃ失礼します」

 

 頭を上げた俺は天津さんに背を向け歩き出す。

 そして、扉に手を掛けたーーその時、

 

「待ってください太陽君」

「? はい?」

「本来君にコレを渡すつもりはありませんでしたが……気が変わりました。もし君があのヒューマギアを…滅を倒すなら……」

 

 意味深な台詞を口にしながら椅子から立ち上がった天津さん。その手にはショットライザーとプログライズキーが入っていたものによく似たアタッシュケース。扉の前にいる俺に歩み寄り、

 

「ーー君がコレを使うことなく終わってくれれば、それは私の想定通り……。太陽君、私は私の想定通りにいかないイレギュラーが嫌いだ」

「ーー」

「ですが、君が私の想定を超えるその『イレギュラー』なら……」

 

 ーーその手に持っていたアタッシュケースを開け俺に差し出す。

 天津さんの意味深な言葉の数々……その意味は俺には分からない。ただやっぱ何か企んでんだなこの人とは思った。同時に天津さんは俺を随分と評価してくれている、そう何となくだが確信した。

 

それはそれで悪くないかもしれませんね

 

 もしかしたらただの俺の自信過剰かもしれないが。

 

(……悪くない、ね)

「天津さん。あんたの『返し』は分かりきってるけど…聞いても?」

「構いませんよ」

 

 俺はアタッシュケースの中に入ったそれを手に取り問うた。天津さんは普段通りの爽やかさ皆無、余裕綽々な笑みを浮かべる。……はっ、あんたにはやっぱりそっちのスマイルの方が1000%似合ってるよ。

 

「ーー何であんたがコレ(・・)を持ってんだ?」

 

【天津 垓】はいつもの台詞と微笑みでこう誤魔化した。

 

 

「…ふふっーー企業秘密ですよ、太陽君」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夕暮れ時。

 俺は目的地に向かうために人気のない川沿いの道を歩いていた。……はぁー、今日に限ってこんな平凡な景色が綺麗に感じるなんて…全く不思議なこともあるもんだなぁ?

 

「天本様、どちらへ?」

 

 少しだけ景色を眺めていた俺はまた歩き出そうとして、あいつの声が耳に聞こえて。気付けば俺の前…道の先にはワズの姿があった。

 

「…こんなところで会うなんて、奇遇だなワズ」

「奇遇ではありません。私は貴方を探していましたから」

「……理由は?」

 

 ワズを少しだけ前に歩み出ると簡潔に口にした。

 

「天本様、貴方は死ぬ気なのですか?」

「……ンな訳ねぇだろバーカ」

「嘘です。今、バイタルサインを確認しましたが貴方には焦りと不安…そして覚悟が感じられます」

「だったら気のせいだな。俺が『死ぬ気』になるとか天地がひっくり返ってもありえねぇよ」

 

「死ぬ気」はない。これは本当だ。

 死にそうだなぁ、負けそうだなぁとは思うが「死にたい」何て思ってない。「生きたい」…そう今でも思ってる。別に生きることを諦めたとか、そういう訳じゃ断じてないんだよ。

 

 俺は歩き出しワズの横を通り過ぎる直前に、ポケットから取り出したあるものをワズに手渡す。

 

「あーそれとこれ。お前から飛電さんに返しといてくれ」

「! これは……何故っ?」

「…まぁ最悪の事態を考えた結果、ってところだ」

 

 ワズに手渡したもの。

 それは飛電さんが俺に渡そうとし、ワズが俺に持ってきてくれたあのライジングホッパープログライズキーだ。

 

 最悪の事態……俺が滅に敗れた場合、まず間違いなく俺が所持しているプログライズキーは滅に奪われるだろう。プログライズキーってのは何度も言うようだがハイテクノロジーの塊、結晶みたいなもんだ。今の段階じゃ飛電インテリジェンスでもそう簡単に作成できる代物じゃない。だから……もしもの為に、

 

「そのプログライズキーは結構使ったからなぁ。戦闘データはそれなりに蓄積されてる筈だ。まぁ柄じゃないけど、俺から飛電さんへのお礼ってやつだ。その戦闘データ…上手く使ってくれよ?」

 

 飛電さん達の計画にプログライズキーはまず必須。天津さん、もといZAIAにショットライザーとアメイジングヘラクレスプログライズキーの戦闘データを提供していたから『戦闘データ』の貴重さは俺もそれなりに理解しているつもりだ。

 

「…ーー初めて貴方と会ったあの時、私は問いました。どうして戦うのか、と。……改めて聞かせてください。ーー貴方はどうして戦うのですか」

 

 何故戦うか。

 それを考えた時、俺は真っ先にあの日……シュゴというヒューマギアの事を思い出していた。

 

『それが私の使命だからです!』

 

「あー、もしかしたら『使命』ってやつなのかもな」

 

 俺は自分でもあまり悩む事なくそう口を開いた。

 

「使命、ですか…?」

「あーそうだ。自分の使命……そんなこと、今まで考えたこともなかったけど……」

 

 今マギアと戦えるのはただ一人、俺だ。

 ホント悲しいことにな…マジ恨むぜ神様?

 

「自分にしかできないこと…だからかな。だから、俺は戦う」

「………命を懸けてまで果たす『使命』。私には理解不能です」

「別に理解できなくてもいいんだよ。他人の『使命』何て誰にも理解できねぇだろうし、俺も理解できねぇ。……自分の『使命』なんてもんは多分、見つかったその時に何ないとわかんないもんだろ」

「……私に使命は、見つかるでしょうか?」

「さぁな。それはわからん。もしかしたら、もう既に気付かぬ内に見つけてるのかもしんないし…これから先見つかるのかもしれない」

 

『使命』…それについて考えるワズに俺は俺なりの意見を伝え、ワズの横を完全に通り過ぎる。

 

「………ーー天本様!」

「……何だ?」

 

 名前を呼ばれ、俺が振り返るとワズは唐突に話を切り出す。

 

「つい先日、旧世代型・プロトタイプである私を基に新世代型の方新たなヒューマギアが開発されました」

「おぉ………ん?」

 

 いや待てワズお前。急にどうしーー、

 

「ーー名前はイズと言い、社長秘書・女性型ヒューマギアです」

「いや、え……な、何で急にそんなこと話し出したのお前?」

「? 話したかったからですが?」

「……は」

 

 ワズの突然のわけわからん言動に俺が聞けば、ワズは当然かのようにそう返した。話したいから話す……何だそりゃ。俺は思わず笑ってしまった。

 

「ははは…! は、話したいから話しましたって……前々から思ってはいたけど…お前随分人間らしくなったなワズ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。普通のヒューマギアなら絶対しない。話したいから話す……合理的に動くヒューマギアとは到底思えない発言だわ」

 

 シンギュラリティに達したヒューマギアってのは……人間よりも人間らしくなるんだな? つうかワズを基にした女性型ヒューマギアって……探偵型ヒューマギアを基にした社長秘書型ヒューマギアってことか? ヒューマギアの事はそんな詳しくないし考えるのはやめとこう(賢明)

 

「お前を基にしたヒューマギアか……って事はお前の妹みたいなもんか」

「…………妹、ですか? 『妹』とは同じ親から生まれた年下の女性のこと。ヒューマギアの我々には当て嵌まらないのでは?」

「そうか? シンギュラリティに達したお前…耳のそれと、ヒューマギア特有の思考音さえ無けりゃ人間とほぼ変わりない気がするけどな?」

「人間と変わりない、ですか……」

 

 俺の言葉にワズは「ピーピー」と思考し始める。そんな俺思考させるような事言ったか今…? ……わからん。さっぱりわからん。

 

「……そうですね。もしそうならイズは私の妹に当たるのかもしれません」

 

 どうやらワズなりに何か納得したらしい。それにしてもワズの妹か……一度でいいから会ってみたい気がするな。

 

「今度、飛電インテリジェンスに行った時。もしよかったら会わせてくれよ? お前の妹がどんなやつなのか興味あるし…まぁ(うち)の妹には敵わんだろうがなぁ〜?」

「それはどうでしょう? イズの容姿は見事な完成度ですよ?」

 

 互いに妹を持つ者同士、その後口論が始まったが……互いに互いの妹と実際に会った時がないから決着はつかなかった。そして、

 

「またなワズ。まぁ何だ……頑張れよ?」

「はい、またお会いましょう天本様。ご武運を」

 

 俺たちをそれぞれの方向に歩き出し別れる。

 

(……さぁ、行くとするか)

 

 俺の目的地はただ一つ。

 もう二度と訪れる事はない…そう思っていた今では廃墟と化した都市ーー【デイブレイクタウン】。

 

 

 

序章の終わりはもうそこまで近付いている。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

ーー突然ですが「デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話」は次回にて序章完結を予定しております……!
皆様、ぜひ最後までこの物語にお付き合い頂けると幸いです!


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ある男の終わりと始まり《ゼロワン》

今回はもうタイトルそのまま。
「デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話」
序章最終回です!

※実際の玩具とは一部異なる変身音が出てきます。
ここで多くは語りません。
それでは、どうぞ!


 

 デイブレイク事件により廃墟と化した都市。

 通称、デイブレイクタウン。

 

「……アークの意思のままに」

 

 そこにある奇跡的に健在する大きな橋の上を滅は歩いていた。彼の今の目的は天本太陽(バルデル)の排除ただ一つ。アークは最初バルデルに利用価値を見出した……しかし、バルデルがこちらに及ぼした損害・計画の先送りを加味し、アークは改めてこう判断した。

 

【一刻も早く脅威(バルデル)を排除せよ】と。

 

「…………」

 

 アークの意思に忠実に従い動いていた滅は突然ピタリと足を止める。理由は橋の向こう側からこちらに歩いてくる人影が見えたからだ。

 

「まさか貴様の方から姿を現わすとはな」

 

 その人影を何か認識した滅は「何故?」と理解できず、本音をそのまま口にした。

 

「ーーバルデル」

 

 滅の目の前に立っていたのは紛れもなく天本太陽(バルデル)

 今、滅が排除すべき対象だった。

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 

 デイブレイクタウンに着き、橋の上を歩き出した俺は……目の前に滅の姿を見つけた。

 

「お前から来られるより、自分から行った方が何倍も気が楽だし。それに…お前からはどうせそう長くは逃げられないだろうからなぁ」

「…賢明な判断だ」

「……滅、お前は俺が倒す。だけどその前に一つーー」

 

 俺は前の滅を見て、戦う前に問いかけた。

 

「ーーお前はアークの意思に従って『人類滅亡』を目論んでるが……そこにお前の意思は含まれてんのか?」

「……何を馬鹿なことを…『人類滅亡』達成に俺の意思など不要でしかない。俺はただ、アークの意思に従うまで」

「和解の余地は?」

「ふっ、そんなものある筈がない。貴様らは人類。そして、我々の目的は貴様ら人類の滅亡なのだから」

「……そうかよ、だったら…」

 

 予想通り、滅ひいてはアークとの和解の余地はないらしい。そりゃそうか。和解できるんなら戦闘を避けられたかもだが……まぁ元から倒すつもりだったんだから無問題だ。

 

(滅、お前は……やっぱりアークの操り人形なのか?)

「最初に会った時に言った通りだ……お前の人類滅亡っていうSFチックな使命は俺が一生叶わせねぇ」

 

 戦わずに済むならそれが最善だったが……あぁ、やってやるさ。

 

「いいや、叶う。貴様を排除し我々は人類を滅亡させる」

「そんなこと絶対させるかよ……!」

フォースライザー!

ショットライザー!

 

 結局はこうなっちまうか…。

 ほぼ同時に懐からベルトを取り出した俺と滅はそれを腰に装着する。続いて互いに手にプログライズキーを持ちボタンを押す。

 

ストロング!

ポイズン!

【オーソライズ!】

「ーー変身」

 

 俺はショットライザーにプログライズキーを装填し展開。滅は「変身」と冷たく言いプログライズキーをフォースライザーに装填しレバーを引いた。それにより強制的にプログライズキーが展開され、滅は変身する。

 

フォースライズ!

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

 ーー変身した滅。

 その紫色のスーツに無理矢理縫い付けたような無骨なアーマーが付いた姿は……正直言って一度ボコボコにされたこともあって若干トラウマだが…しゃあねーわな。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

「ーー仮面ライダー、だもんなぁ……はぁー」

 

 俺は息を吸って吐く。

 緊張も不安も恐怖も吐き捨てる。

 自分に言い聞かせるように呟く。

 高く真っ直ぐ銃口を上げ、ゆっくりと下ろし相手()に向ける。

 

「ーー変身ッ…!」

ショットライズ!

 

 

ーー俺は仮面ライダーだーー

 

 躊躇うことなくトリガーを引く。

 滅はすっと僅かな移動のみでショットライザーから発射された弾丸を躱す。そして俺は、

 

「おらあッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 

 いつもの如く右のアッパーを真っ直ぐ返ってきた弾丸に力強く打ち込んだ。瞬間、アーマーが次々に俺の体に装着されていきーー変身が完了した。

 

 ショットライザーを持ち、俺が構えれば滅もまたゆっくりと戦闘態勢をとる。

 

「滅……ーーこれが最後の勝負だ」

「その通りーー今日が貴様の命日だ」

「スゥーー……はあああああ!!」

 

 先手を打ったのは俺だった。

 ショットライザーを連射しながら滅へと駆ける。滅はその弾丸を全て難なく片腕で弾き、

 

「おらァ!」

「遅い」

「っ、らあッ!」

 

 ーーショットライザーをバックルに戻し俺は跳躍して全力のパンチを放つが滅は最低限の動きのみでそれを回避し、カウンターに俺の足に蹴りを素早く入れようとする。軽いジャンプでギリギリその蹴りを躱した俺はもう一度拳を振るう。

 

「以前にも言った筈だ。貴様の戦闘能力、戦闘スタイルは既にラーニング済みだと」

「……滅、一つ良いこと教えてやるよ」

「…?」

 

 攻撃を容易く回避し、弾き、受け流す滅の言葉。あー前にも聞いたよその台詞は。だけどなぁ……!

 

「人は日々、成長すんだよォ!」

「ふっーー」

 

 そう言って俺が放った右フック。

 滅をその攻撃を防ぐべく素早く手を動かし、

 

「ーーッ! 何だと?」

「どうした? ラーニング済みだったんじゃねーのか、よっ!」

 

 ーー滅は防御に失敗する。

 その要因は滅が予測していなかった実に単純な行動を俺がとったからに他ならない。ーー簡単に言えばフェイントだ。

 

「お前が今までの俺の戦闘能力に戦闘スタイルをラーニングしたってんなら、今までとは違う戦闘スタイルに変えればいいだけだ!」

「くっ…」

 

 良くも悪くも今までの天本太陽(バルデル)の戦闘スタイルは荒く力任せな部分があった。だからこそ、そんな彼の戦闘データをラーニングした滅は今の今まで天本太陽(バルデル)の戦闘スタイルに関して固定的な判断を下していたのだ。しかし、

 

「おらっ! こっちだァ!」

「っ! ……確かに貴様が戦闘スタイルを大きく変えてくるのは予想外だった。だが、その程度の付け焼き刃のフェイントは二度は通じん」

「ぐはっ……!」

 

 ーーそれに対応できない滅ではない。

 敵が戦闘スタイルを変えたならば、その変化した戦闘スタイルにさえ僅かな攻防の中で完璧に対応する。

 

 滅は俺のフェイントを見切ると次は完全に俺の攻撃を捉え、素早く拳俺の腹部に打ち込んだ。その威力に俺は後ろに吹き飛ばされた。

 

「はぁ……まだまだぁ!」

「貴様は学習能力が欠如しているのか?」

「うっせぇ!」

 

 軽く息を吐き、ダメージを堪えながら立ち上がり滅に走る。それを見て心底からの言葉は呟く滅へ俺は前蹴りを仕掛けーー避けられる。

 

 ーー俺の今までの戦闘能力も戦闘スタイルもラーニング済み、今までしなかったフェイントなんかを入れても数秒で対応される。……だったら……

 

「付け焼き刃だろうがやるしかねぇだろうがッ!」

 

 付け焼き刃でも、何度でもフェイント以外の別の…俺が今までとらなかった戦闘スタイルをとってやらぁ! 俺は滅に接近して左でアッパーを放ち、それが回避・防御されることを見越して右手でバックルに取り付けたショットライザーを引き抜き超至近距離で発射した。

 

 ここまで至近距離でショットライザーを引き抜いたことも無ければ、撃ったこともない俺のその行動に回避できず滅は僅かに後退する。

 

「どらあッ!」

「っ、あまり調子に乗るな」

「ハッ、悪いなぁ! 俺は調子に乗れる時にはとことん調子に乗る主義なんだよッ!」

 

 次に俺は更に今までとらなかった行動をとる。滅の拳をわざと地面に倒れる事で避け倒れた状態のままショットライザーを滅の体に撃ち込み、怯んだその体に立ち上がる勢いで蹴り上げも入れた。

 

「ぐっ」

「っ!」

(今しかないだろこれッ…!)

 

 滅は「予想外」の攻撃の連続に一瞬だが怯み初めて態勢を崩す。その隙は俺にとって絶対に見逃せない絶好の機だった。

 

「ここで、終わらせてやるッ!」

ストロング!

 

 付け焼き刃は最終的には尽きる。

 そうなれば俺の全ての攻撃は予測され完全に詰んでしまう。時間の経過は滅にとっては有利になるが俺にとっては不利にしかならない。

 

 手に持ったショットライザーに装填されたプログライズキーのボタンを押した俺はーー

 

アメイジング ブラスト フィーバー!

「はあああーー…はぁッ!」

「っ!」

 

 ーートリガーを引いた直後に溜めを入れて高く跳躍する。タイミングよく右足に黄緑色のエネルギーが収束し、俺は空中で蹴りの構えをとった。

 

「ーーおらあああッ!!」

「ーー人類は滅びる運命(さだめ)だ」

 

 そんな俺を見上げた滅は素早く対応をとる。

 レバーを素早く押し戻しーー引いたのだ。

 

スティング ディストピア!

 

 跳び蹴りをしようとする俺を向かい打つべく滅は跳躍せず、その場で蹴りの構えをとりあの時と同じく複数の異様な管が滅の右足に集まり、

 

 

 

 

 跳び蹴りと蹴り上げーー俺と滅の一撃が真っ向から衝突する。

 黄緑のエネルギーと紫のエネルギーが弾け、眩い光を放つ。

 

ス ト ロ ン グ

ス テ ィ ン グ デ

ブ ラ ス ト フ ィ ー バ ー

 

「ッ! はあああぁあー!!」

 

 滅の凄まじい必殺技に蹴りの態勢が崩れそうになるが、俺は気合で堪え必死に衝撃に耐え滅に必殺技を噛まそうとした。……しかし、

 

「ーー貴様では俺には勝てない」

「っ!? ぐぅうッ…!」

 

 俺の必殺技は滅には至らない。

 滅の必殺技は俺に容易く至る。

 

「ぐわあああああッッーー!!」

 

 滅の蹴りは俺の跳び蹴りを弾き返し、十分な威力を保ったまま俺のアーマーを破壊、顔のアーマーが弾け素顔が仮面の外から露わになり強制的に変身が解除される。その痛みに思わず叫び声が上がった。

 

「…勝敗は決したようだな?」

「ごはッ! ぐッ…あァ……!」

 

 地に倒れ、立ち上がろうとし口から血を吐きまた倒れる。そんな俺の姿を見た滅は冷徹にそう判断した。あーくそッ…! 何で、何で立てねぇんだよ……! まだ、まだ負けるわけには…!

 

 何とか落としたプログライズキーに手を伸ばし掴む。

 

 

(お前は、まだ…! 何もできてねぇだろがッ……! こンなとこで………死ねるかよォ!)

 

 闘志はあるのに…俺の体は滅の必殺技を受け完全に限界寸前だった。

 

「ーーッ!!」

 

 再び立ち上がろうとした直後、俺の手からプログライズキーが零れ落ち、口からはまた血を吐く。そして、地面に転がるプログライズキーにべたりと俺の血がつき俺はまたもバランスを崩し倒れる。

 

 

 

 

ーー何となく悟った。

 

 

 

ーー「こりゃ死ぬわ」って。

 

 

 

 

「ふっ…哀れだなバルデル」

 

 思ってもないくせに何が哀れだ……。

 感情の感じられない冷たい声でそう呟いた滅は倒れる俺にゆっくりと歩み寄ってくる。なのに不思議と俺の中には不安も焦りも、恐怖もなく、

 

 

 

『バカ(にい)早く早く!』

 

 

 

『いいえ初対面ですよ。はじめまして太陽君。私は…こういうものです』

 

 

 

『ーーそれが私の使命だからです!』

 

 

 

『私の名前はワズ・ナゾートク。探偵型ヒューマギアです』

 

 

『! 天本君、よく来てくれた!』

 

 

 

『まぁ今日で君は退院なんだが…はぁー、デイブレイクの時にも思いはしたけどね? 君はホントにしぶといよねぇ……』

 

 

 一瞬、視界全てが真っ白な光に包まれたかのような…そんな幻を見た途端に脳内に今までの無数の記憶が鮮明に蘇ってくる。

 

 

『そうか……なら、精一杯気張りなよ』

 

 

 こんな俺の背中をそっと押してくれる人がいる。

 

 

『ーーちゃんと、帰ってくるよね……?』

 

 

 こんな俺の帰りを待ってくれている家族がいる。

 

 

『それはそれで悪くないかもしれませんね』

 

 

 ロクでもないこと考えてるだろうけど…こんな俺の力を確かに信頼してくれている仲間()がいる。

 

 

『はい、またお会いましょう天本様。ご武運を』

 

 

 こんな俺の身を案じてくれる人間よりも人間らしいヒューマギア()がいる。

 

 

 ーーあぁ、まだ……

 

(倒れるわけにはいかねぇだろ……ッ!)

 

 ーー倒れるわけにはいかない。

 俺が何の為に戦っているか…今、滅を止められるのは俺だけだから……これが俺の「使命」だから。

 

「ハハッ…勝手に勝った気で、いんじゃねぇよバーカ!」

 

 不思議だな。

 さっきまではいくら頑張っても願っても、動かないぐらいに死に体だったのに今は確かに動く。血が零れたプログライズキーを力強く掴み、俺はゆっくりと…だが着実に立ち上がる。体の奥底から力が込み上げてくる…!

 

「なんだと?」

 

 滅にとってそれは「ありえない」現象であり…滅は思わず声を上げた。天本太陽(バルデル)の体にはもう戦う力など残されている筈がない。立ち上がるなんてことも……普通なら出来る筈がない…

 

 天本太陽(バルデル)の精神力、行動力に困惑する滅。しかし、すぐに冷静に状況を確認して口を開く。

 

「ーーだが、貴様にはもうドライバーは無い」

 

 そう言い滅は必殺技により装着が外れ、火花を散らして転がっているショットライザーを見やる。あー確かにあんだけ壊れちまったらショットライザーはもう使えない……むしろここまでプロトタイプなのによく保ってくれたなって感謝したいぐらいだ。

 

「ーーさぁ、それはどうだろうな?」

「! それは…!?」

 

 滅は俺が懐から取り出した物を見て驚愕した。そりゃそうだ…俺だって天津さんにいきなり見せられた時はそんな顔したからな。

 

「何故貴様がそれを持っている…?」

「悪いが、企業秘密だってよ」

 

 天津さんが言っていた。

 これはヒューマギアが使用することを前提に作られた物であり、人間が使用することは想定されていないと。…滅の装着を見りゃわかる。人間の俺が装着したら絶対痛い! でもやってやる。

 

 ーー柄じゃないが、

 

(ーーこいつをぶっ倒して、みんなの未来が守れるってンなら!)

「ーーやるっきゃねぇだろォ!」

フォースライザー!

 

 父さん、母さん、美月、ドクター、天津さん、飛電さん、ワズ。みんなの未来の為に……俺は、俺が望む未来の為に戦う!

 

 左手に持ったフォースライザーを腰に勢いよく装着する。その途端、

 

「ッッ!? があああァァアッ…!!」

「……それは人間が使いこなせるものではない」

 

 ーーフォースライザーから赤黒い火花が激しく散る。尋常じゃない「激烈」な痛みが身体中を駆け巡る。出血が更に加速していき体が大きくふらつく。だが、

 

「あああああああッ!!」

ストロング!

 

 死んでも倒れてやるか…!

 その思いで何とか踏み止まり、俺は右手に持ったプログライズキーのボタンを押してフォースライザーに装填した。流れ出す警告音染みた待機音、危険に赤く点滅するランプ。更にプログライズキーからヘラクレスが現れ滅に向かって豪速で飛ぶ。

 

「ぐっ…!」

 

 未だに驚愕する滅はそれを完璧に避けられず、アーマーからは火花が散り後退する滅。ヘラクレスはそのまま回転しながら空に飛び上がっていく。はっ、まさかお前のそんな顔が見られるとはなぁ? 俺は激痛を一切感じさせないような不敵な笑みを浮かべ叫んだ。

 

「ーー変、身ッ…!!」

フォースライズ!

 

 激痛なら幾らでも来い。ただ、それに見合った力を寄越せよ!?

 レバーに右手を掛けーーレバーを引いた。瞬間、

 

「ッ…!」

 

 ーー空に飛び上がったヘラクレスが豪速で俺の元へと戻ってくる。その途中に滅の背後へと攻撃を仕掛けるヘラクレスのライダモデルを滅はギリギリで躱し、

 

「ーーぐあァァアッ!!」

 

 ーー俺を殺すように。

 ーー俺を支えるように。

 ヘラクレスのライダモデルは強靭なその角で前のめりになった俺の胸を貫き、強制的に立った状態を維持させる。

 

()りぃ……あと少しだけ、俺に力貸してくれ)

 

 心の中でぽつりと呟く。

 プログライズキーに心がない、それはわかってる。

 でも今までずっと一緒に戦い続けてきたコイツに俺は確かな愛着を持っていた……。そして、

 

アメイジングヘラクレス!

Break Down.

「ッッーーはあッ!」

 

 ーーそんな思いに応えるように俺の体は黄緑のスーツに包まれ、更にケーブルに繋がった無骨なアーマーがゴムのように伸縮し勢いよく俺の体に装着される。最後に体から赤黒い煙が排出され、その複眼が赤く光った。

 

「馬鹿な……」

(あぁ、俺はきっと最高に馬鹿になっちまったんだろうな)

 

 滅の言葉に俺自身内心で同意した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ーーやはり、君なら変身に成功してしまうでしょうね」

 

 フォースライザーでの変身を果たした太陽。社長室でその映像を見ていた垓はどこか分かっていたかのように、どこか悲しげにそう言う。試作品のショットライザーでの変身を一発で成功させ、更には今フォースライザーでの変身にも成功してみせた…。その要因を彼の「精神力」によるものではないかと垓は考えていた。

 

(デイブレイクに不幸にも巻き込まれたにも関わらず、ヒューマギアを憎むことなく……それどころか飛電是之助の夢に対する熱意を目の当たりにし、その夢を応援しようと思いヒューマギアに期待し続けた。それだけでも恐ろしい精神力だが…)

「君はマギアと戦い続けた。何度も何度も……」

 

 戦う力を持っていても、ヒューマギアに確かに不安を抱きしっかりと「恐怖」の感情を忘れることなく持っている。そんな人間が何度も命を懸けて戦う……常人の精神力なら耐えられる筈がない。だが、彼は…天本太陽(バルデル)はその強靭な精神力を持って耐えた。

 

「……全く、本当に君には頭が下がるな。太陽君」

 

 天津垓にとって天本太陽は重要なビジネスパートナーだった。最初は太陽を中々使える「道具」と勝手に判断していた垓だが、徐々に太陽と会話を交わす中でいつの間にか彼を「道具」だとは考えないようになっていた。

 

 本来、垓は太陽を「序章の主役」に仕立て、マギアと戦わせて同時にショットライザーとプログライズキーの戦闘データを収集させ、最後には滅の前に敗れさせるつもりだった。垓の目的はショットライザーを完成させるのに必要な試作品のデータ収集、そして都市伝説として「仮面ライダー」の名を多くのものに知れ渡らせること……これは垓の今後の目的にとても大きな意味を持つ。

 

 しかし、フォースライザーを太陽に渡した時点でこの計画は破綻する可能性を孕んでいた。ならば何故フォースライザーを渡したのか…その理由は単純なものだった。天津垓は最早、天本太陽を「道具」だとは思っておらず、

 

 

 

「私が尊敬したのは飛電是之助に続き、君で二人目ですよ天本太陽」

 

 

 ーー天津垓にとって天本太陽は尊敬に値する数少ない友人になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 

「何故、貴様は…そこまでして戦う?」

 

 気が付けば満身創痍の俺に滅は心底からの疑問を呈していた

 

「ンなの…決まってんだろ」

 

「『仮面ライダー』として、俺にも守りたいものがあるからだッ…!」

 

 俺はそう口にして滅に向かって疾走した。

 

「っ!? この速さはーー」

「おらおら、おらあッ!」

 

 右、左、右、左、右。

 何度も何度も拳を連打する。

 使い勝手がショットライザーと違うこともあり違和感がある。身体中に走り続けている激痛も消える気配はない。だが、フォースライザーはその性能を遺憾無く発揮してくれてるらしい。俺の攻撃は先程とは比べ物にならない重さと速さを持って振るわれる。

 

 滅がラーニング済みの俺の戦闘データは「アメイジングヘラクレス」と「ライジングホッパー」を使い「ショットライザー」で変身した場合のもののみ。今、こうして初めて「フォースライザー」で変身したため、勿論フォースライザーで変身した場合の俺の戦闘データなど滅はラーニングしていない。

 

 つまり今の俺は滅がラーニングしていない「未知」ということだ。まぁそれを言うなら…俺にとっても未知だがな? 体に走る痛みに動きが鈍りそうになるが……この瞬間だけは、死んでも使いこなしてやるよ!

 

「舐めるな…!」

「はッ、(あめ)ぇえ!」

「なっ!?」

「そっ、どらああッ!!」

 

 滅は俺の攻撃に大きく怯んだが、反撃しようと腕についたあの針を俺の胸に刺そうと素早く突き出してくる。しかしそれを見切った俺は片腕で突き出してきたその腕を掴み止め、右のジャブで更に滅を怯ませ右足の横蹴りを放つ。滅は後ろに吹き飛び初めて地面を転がった。

 

「ッ! 行くぞッ!」

 

 その隙を見逃すことな俺は追撃する。

 前回とさっきで二度見た滅の見様見真似で、俺はレバーを押し戻してーーレバーを引いた。

 

アメイジング ディストピア!

「ーーおりゃあぁあッ!!」

 

 立ち上がる瞬間の滅に跳躍し、黄緑色のエネルギーが急速に収束していく右拳を着地直後に滅の胴体に全力で打ち込んだ。

 

ア メ イ ジ ン グ

 

「! ぐはッーー!?」

 

 滅は防御が間に合わず、まともに受けて大きく後ろに吹き飛び…何とか倒れることなく着地する。しかし、その体は予期せぬ攻撃速度・攻撃力により急激にダメージが蓄積され、予期せぬ事態の連続に滅の思考は乱れ始めていた。

 

(俺の予測が間に合わない…? 先程までのバルデルとは比べ物にならない…だと…? なぜ、何故だ?)

「ぐッ…一体どこに、こんな力が……?」

 

 残っている筈がない。あり得る筈がない。

 理解できない事態に滅は混乱しながらも口を開く。そんな滅の目の前でーー。

 

「がはッ! はぁ、はぁッ、知るかよンなこと…!」

 

 ーー俺は仮面の下で吐血し体がぐらりとふらつく。

 地に片手をつき荒く呼吸する。何とか倒れることなくそこに踏み止まる。

 

 そろそろマジで限界か…。

 ならとっとと終わらせないとなぁ?

 

ーー滅! お前を止められるのは、ただ一人ッ…俺だッ!!

 

 僅かによろめく滅を指差し、その指を俺は自分自身に向けて力強く告げる。これが正真正銘の最後だ……滅っ!! 俺はまたレバーを押し戻しーー勢いよくレバーを引き、高く跳んだ。

 

 

アメイジング ユートピア!

「はああああああーー!!」

 

 体中から再び排出される赤黒い煙。

 俺の体中を駆け巡る激痛が更に増し「激烈」なものと化すが、痛みに怯むことなく俺は空中で蹴りの構えをとる。自然とその構えは先程敗れた必殺技と同じ構えだが……負ける気はこれっぽっちもしなかった。

 

(父さん…母さん…美月…ドクター…天津さん…飛電さん…ワズ…)

「みんなの未来は俺が守ってやるッ…!

 お前の計画はここで終わりだ、滅ッ!」

 

 右足には赤黒いエネルギーと黄緑色のエネルギーが爆発的に集まる。

 

(ーー俺が負ける…?)

「…違う。我々は人類を滅亡させる。

 終わるのは貴様だけだ…! バルデルッ!」

 

「人類滅亡」という計画の破綻、アークの意思により自らに課せられた目的の達成失敗という可能性を理解した滅は、人間の前で初めて怒りを露わにした。その手はレバーを押し戻しーー素早くレバーを引いた。

 

スティング ユートピア!

 

 滅は先程とは違いバルデルと同じく高く跳んだ。右足には最初に放った必殺技の時よりも遥かに大量の管が伸び集まりーー紫色のエネルギーが収束する。次の瞬間、

 

 

「おっーーらあああああああーー!!!」

「ーーはあああああああーー!!!」

 

 二つの必殺技がほぼ同じ高さから真正面から激突した。凄まじいエネルギーの衝突に足場にはヒビが走り、周囲の空気は切り裂かれる。

 

ス テ ィ ン グ

ユ ー ト ピ ア

 

ア メ イ ジ ン グ

ユ ー ト ピ ア

 

 

 互いの思いがぶつかり合いーーーそして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー」

「ーーーー」

 

 ーー必殺技を放ち合った二人は地面に着地する。

 互いに背を向けている状態の中、先に動いたのは滅だった。

 

「くッ……こんな、ことがッ…」

 

 変身が強制的に解除された滅は多くの箇所の装甲が剥がれ落ち、素体パーツ部分が剥き出しになっており、顔の半分は金属が剥き出しの状態と化していた。緩慢な動きで振り返った滅は俺に目を向ける。

 

「がァ……くっ、ああッ」

 

 体力の限界を迎えた俺はよろめきながらもフォースライザーを押し戻し、変身を解除した。途端に反動が体を襲う。

 

「…ッ、ごはッ……! うぐッ…!」

 

 手から血に濡れたプログライズキーが落ち、俺はまだこんなに体に残ってたのか?と思うほどの血を吐き、

 

「………ッ」

(……ごめんな、美月ーー)

 

 俺の意識は遠のき体はまるで物かのようにばたりと倒れる。意識が途切れる寸前に、俺は嘘をついてしまった妹へ心の中で謝罪を零した。

 

 

「損傷率78%…任務遂行は、困難と判断……」

 

 火花が散る胸を片手で抑えながら滅はノイズの混じる声で口にする。アークは滅のその独断に反対することはなく、

 

「ッ…バルデル、貴様は……」

 

 力尽き倒れた男の横に転がる黄緑色のプログライズキーにまで近付き、手に取りゆっくりと天本太陽(バルデル)に目を向ける滅。

 ……今の滅には確実にトドメを刺す余力すら残っていなかった。だが、

 

 ーートドメを刺さずとも太陽が死ぬのは時間の問題だった。

 

「……馬鹿な男だ……」

 

 滅は血に濡れたプログライズキーを強く持ち、ふらつきながらおぼつかない足取りでその場から離脱する。デイブレイクタウンの拠点には設備が十分に整っておらず、滅の完全な修復にはそれなりの月日が必要なのは明白であり「人類滅亡」という計画は「先送り」するしかなくなった。

 

 

 

 

ーー天本太陽は勝負に負け試合に勝った。

 

 

 

 

 

 

ーー序章はこうして幕を閉じるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽君。やはり君を序章の主役に選んだのは…私のキャスティングミスだった……。えぇ、ですからーー」

 

 天本太陽の死闘を見た垓は…社長室で一人呟くと行動を開始した。

 

「ーー私の自己満足に他なりませんが…名誉挽回、といきましょう。君には借りがあり過ぎる……それを返せずに君に勝手に死なれては私の名が廃りますからね」

 

 自分に言い聞かせるように理由を口にする垓だが本心は実に単純ーーただ友を死なせたくない、それだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 それから月日は流れーー。

 

 

「バカ(にい)〜。今日もいい天気だよー?」

「…………」

 

 大人になった少女はとある病室で、カーテンを開きそこに眠る大切な家族に声を掛ける。しかし返事は一つも返ってこない、それどころか反応は皆無だった。

 

「いい加減、起きてくれてもいいじゃん! 就職もせずに何ずっと寝ちゃってんのさ……早く起きないと、私も愛想尽きちゃうよ?」

 

 嘘だ。尽きる筈はない。

 もう何年も…何十年もこうしてお見舞いに来ているのだ。月日の流れにより大人びた少女とは違い、ベッドの上に眠る青年の容姿はあの時と比べてかなり瘦せ細っているものの驚くほどに若さを保ちそのままだった。まるで一人だけ時間が止まったかのように……。

 

 

「…………(にい)…寂しいよぉ……」

 

 動かない兄の手をぎゅっと優しく握って美月は本音を零し、泣き声を上げることなく涙をぽつぽつと流す。涙でベッドが濡れる…長い月日が経つが、美月の中の悲しさと寂しさは未だ消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ……?」

 

 

 その時、兄の手がほんの僅かにぴくりと動いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▲△

 

 

ーー新時代の風が吹くーー

 

 命を懸けた青年の「未来を守りたい」という意思は、確かに繋がりーー今も未来は続いている。

 

「ーーラーニング完了」

ジャンプ!

オーソライズ!

 

 同時に脅威と戦い守りたいものは違えど…何かを守りたい者はまた現れる。

 

 衛星ゼアから地上に現れたバッタのライダモデルは縦横無尽に遊園地内を跳び回る。青年は手に持った「ライジングホッパープログライズキー」のボタンを押し腰に装着したゼロワンドライバーの認証装置に当てる。そして流れるような動きでプログライズキーを展開し、

 

「ーー変身!」

プログライズ!

 

 ーーゼロワンドライバーにプログライズキーを装填した。瞬間にバッタのライダモデルは青年に向かって跳びーー黒いスーツに包まれた青年の体に更に黄色の装甲が装着された。

 

飛び上がライズ!

ライジングホッパー!

A jump to the sky turns to a rider kick.

 

 青年ーー飛電或人は変身を果たす。

 

「ーーお前は何だ?」

「ゼロワン! それが俺の名だ!」

 

 再び現れたマギア。

 新たに現れた仮面ライダー。

 

本編が今、幕を開けた

 

 

【挿絵表示】

 

 




最後まで読んでいただきありがとうました。最後にアンケートも出しますので気軽に投票のご協力お願いします!

若干の無理矢理感はあるかもですが、改めまして本作は以上を持って序章完結とさせていただきます。皆さんの感想や批評、アドバイスなどのおかげでモチベーションを保ちここまで本作を書き切れました!本当にありがとうございました!

次章は…まぁ期待せず気長にお待ち頂けると幸いです笑
では最後に感想で一度褒められたからと調子に乗ってまた書いちゃった作者の手書きクオリティーのバルデル:フォースライザーver.の挿絵とスペックを下に載せて置きますね(誰得?)


仮面ライダーバルデル
アメイジングヘラクレス


【挿絵表示】


SPEC
◼️身長:197.5cm
◼️体重:98.6kg
◼️パンチ力:48.8t
◼️キック力:31.5t
◼️ジャンプ力:16.5m(ひと跳び)
◼️走力:3.7秒(100m)
★必殺技:アメイジングディストピア、アメイジングユートピア

デイブレイク被害者である天本太陽が「フォースライザー」と「アメイジングヘラクレスプログライズキー」を使って変身した姿。

それでは、またその内!


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仮面ライダーバルデル全フォーム集とおまけ

きっと一番誰得な回………回?
後書きに載せていたバルデルのフォーム、スペックをまとめたものになります。消すのも勿体ないかな…?と思ったので出させてもらいます。(いらないなど要望ありましたらすぐに消します!)

これを出したらまた一時設定は完結に戻します。
あとおまけに自己満足でゼロワンの次回予告風のものを書いてます。一度だけ書いてみたかったんです、どうかお許しを…!
※当然ながらゼロワン本編とは1000%関係ありません。
※まだ未定ですがもしかしたら投稿される次章とはあまり関係ないかもしれません。

それでは、どうぞ!



 

仮面ライダーバルデル

アメイジングヘラクレス

 

SPEC

◾️身長:197.0cm

◾️体重:97.6kg

◾️パンチ力:40.8t

◾️キック力:26.9t

◾️ジャンプ力:15.2m(ひと跳び)

◾️走力:4.1秒(100m)

★必殺技:アメイジングブラスト、アメイジングブラストフィーバー

 

デイブレイク被害者である天本太陽がショットライザー(後のエイムズショットライザー)とアメイジングヘラクレスプログライズキーを使って変身した姿。

 

荒い強い堅いの三拍子揃った天本太陽の基本フォーム。

パンチ力と持久力がともに高い安定したフォーム。

 

 

仮面ライダーバルデル

ライジングホッパー

 

SPEC

◾️身長:196.8cm

◾️体重:90.5kg

◾️パンチ力:20.8t

◾️キック力:45.0t

◾️ジャンプ力:50.1m(ひと跳び)

◾️走力:3.9秒(100m)

★必殺技:ライジングブラスト、ライジングブラストフィーバー

 

デイブレイク被害者である天本太陽がショットライザー(後のエイムズショットライザー)とライジングホッパープログライズキーを使って変身した姿。

 

ジャンプ力と跳弾を生かし敵を撹乱する天本太陽の新フォーム。キック力が非常に高いフォーム。

 

 

仮面ライダーバルデル

アメイジングヘラクレス

【フォースライザーver.】

 

SPEC

◼️身長:197.5cm

◼️体重:98.6kg

◼️パンチ力:48.8t

◼️キック力:31.5t

◼️ジャンプ力:16.5m(ひと跳び)

◼️走力:3.7秒(100m)

★必殺技:アメイジングディストピア、アメイジングユートピア

 

デイブレイク被害者である天本太陽が「フォースライザー」と「アメイジングヘラクレスプログライズキー」を使って変身した姿。

 

激烈な痛みと引き換えに限界までプログライズキーの力を引き出す天本太陽の強化フォーム…? 人間が使用することは想定されていないため変身するだけでも大きなリスクを伴う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲

 

 

 

ーー仮面ライダーゼロワン!

 

 

「良くも悪くも世の中変わってねぇなぁ……」

 

 

「またプログライズキーが消えただと…!?」

 

 

再び消えたプログライズキー!?

 

 

 

「私からの細やかなプレゼントですよ」

 

 

「俺が最強だァアーー!!」

 

 

新たに現れるライダー!

 

 

「彼の復活を目にするのが私一人とは…些か勿体なさ過ぎますね」

 

 

「悪いけど、手加減できそうにねぇわ」

 

序章の“仮面ライダー”の復活…!?

 

「お前が仮面ライダー、バルデル……?」

 

「ーー変身ッ…!」

 

 

第?話 荒いアイツは仮面ライダー!

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました!


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【Another Daybreak】
Another Daybreak in Balder


大体一週間振りぐらいでしょうか?
どうも、平々凡々侍です。
自分勝手ながら書いてみたかったから書きました……すいません後悔はしてないです!令ジェネを見た人ならタイトルで話を察せるかも…今回は「番外編」という感じで読んでいただければ幸いです。内容はかなり駆け足のダイジェストになります。
※独自設定かなり多め
※令ジェネのネタバレ含むかも……
※独自設定上、変身音一部省略あり

それでは、どうぞ!


 

デイブレイク事件

 

 

それがこの世界の大きな分岐点だった

 

 

 

 

 

x月x日。

 

 

「ニンゲンハ、ゼツメツ!」

「ミナゴロシッッ!!」

「ぐぅ…く、くそぉ……!」

 

 西暦2019年。

 ーー世界は人間にとっての地獄に、ヒューマギアにとっての楽園と化していた。

 

 ヒューマギアにより武器を奪われ、地面に倒れた男は悔しげに声を上げた後。次に来る痛みに目を閉じ、

 

「ーーおらあッ!!」

「!? た、太陽さん!」

 

 ーーヒューマギアの攻撃が倒れた男を襲うより早く、隙だらけのヒューマギアの後頭部を俺は手に持った散弾銃の銃床で全力で叩き倒す。

 

「ニンゲンハゼンインーー」

「ーー殺人マシーンは黙ってろッ!」

「! ッ…………」

 

 新たなターゲットを発見し振り返ったもう一体のヒューマギアだが、俺が素早く頭を散弾銃で撃ち抜けばそれで沈黙する。

 

「おいしっかりしろ…!」

「すいません、太陽さんッ」

 

 俺、天本太陽は地面に倒れた男に肩を貸して再び動き出す。

 

(こりゃここの拠点も潰れちまうな……ほんと最っ悪!)

 

 既に壊滅的な被害を受けている拠点を見渡し、俺は内心愚痴る。人間絶対殺すマシーンと化したヒューマギア共が何十体と暴れ、貴重な人間達の拠点を蹂躙していき、あちこちから銃声や悲鳴が聞こえるその様子はまさに悪夢だ。

 

 十二年前に起こったデイブレイク事件から世界は一変した。簡単に言ってしまえば人間とヒューマギアの関係が逆転し、最悪な事に人間がヒューマギアに支配される……そんなSFチックな世界になってしまったのだ。今思い出してみても、俺という人間にとって……いや、今を生きている人間にとって十二年前のあの日が地獄の始まりだったのだろう。

 

これも全部あのクソ野郎のせいなんだよなぁ…!

 

 小声でこの状況を生み出した原因を作った人物を思い出し、俺はキレながらギリギリ救出できた仲間と共にその場を離脱した。

 

 

 俺の名前は天本太陽。

 世界がこんな事になる以前はどこにでもいる就活中の一般人…だった筈なんだが、気付けば「レジスタンス」の一員になってます。

 

 ……なんでこうなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽さん、本当にありがとうございました…!」

「いや、別に頭下げなくてもいいって。『ありがとう』って言うなら早く怪我治せよ」

「はい!」

 

 残りたった一つ、俺たち人類の最後の拠点にまで無事帰ってこられた俺たち。救出した仲間からめっちゃ感謝されたが、別に感謝される程のことでも……ないこともないな。うん。まぁ感謝する暇あんなら早く怪我完治して戦線に復帰してくれ!

 そうすれば俺の生存率も上がるからなぁ!(建前)

 ……いやぁ仲間少ないと怖くてしゃあないからなぁ!(本音)

 

(はぁ……まじで詰んでんな、俺ら)

 

 拠点を移動する最中、衛生状態が悪く、食料も底を尽きかけ、負傷者や病人の治療もままならず、ヒューマギアに抗う為の武器などの物資の不足……ジリジリと追い詰められている現状を改めて認識してまず先に危機感よりも思わず「諦め」の感情が沸く。

 

 このままの調子でヒューマギアと戦っていけば、早くてあと一週間程で俺たちは全員もれなくヒューマギアによって殺される…。

 

「……ーーでも、諦められねぇんだよなぁ?」

 

 ぽつりと独り呟いた俺は生き残った家族の元へと向かった。

 俺にはまだ俺の帰りを待ってくれる家族がいる。

 俺を信じて共に戦ってくれる仲間がいる。

 だからまだ諦める訳にはいかない。

 

「! (にい)っ、おかえり!」

「あぁ、ただいま美月」

「あ、太陽だぁ〜!」

「わぁ! おじちゃんおかえりぃ〜!」

「おかえりなさーい!」

「いやおじちゃん言うなし!……あーただいまガキ共」

 

 拠点にある倉庫から少し離れた場所。そこに行けば敷かれたボロボロのシートの上に美月と美月が面倒を見ているガキ達が俺は明るく迎えた。こんなご時世なのに子供は明るいなぁ……マジで子供は世界の宝だってはっきりわかんだね!

 

 美月が面倒を見ているこのガキ達は今の明るい様子からは考えられないが、ヒューマギアにより既に親を亡くしてる孤児だ。最初の時はそれはそれは暗かった……そりゃそうだ。幼くして両親を亡くして、こんな地獄のような世界で孤独になっちまえば、誰だって絶望に打ちひしがれる。

 

(にい)、はいこれ」

「いや、俺はいいからお前が食えよ」

 

 シートに腰掛けた俺に美月は食糧を差し出してくるが、俺はすぐに遠慮した。今の状況が食糧は超が付くほど貴重だ。だから食糧は出来るだけ俺みたいな大人にじゃなく、ガキ共に食べさせてやるべきだろうと個人的には思う。

 

「はぁ? なに言ってんのさバカ(にい)! 昨日も一昨日もそう言って何も食べてないでしょ」

「別に俺はいいんだよ。それに水がありゃ三日は死なないって言うだろ?」

 

 水がありゃあオラ三日は死なないからまだ大丈夫だ(悟空)

 …まぁ水もかなり貴重なんですけどね?

 

「おじちゃん、ご飯食べなきゃ死んじゃうよ…?」

「…大丈夫だって心配すんな。あとおじちゃん言うな」

「太陽、死んじゃうの……?」

「おじちゃん死んじゃやだよぉ…!」

「うおっ! お、おまっ何泣いてんだガキぃ…!?」

 

 

 …俺は仕方なく食糧を食べた。

 いや食べたというか美月の手により強引に口の中にぶち込まれた。二日振りの飯だったからめちゃくちゃ美味しく感じたけども。それとガキ共がみんな俺がご飯食ったのを見てすげぇ安心した顔してたんだが……お前らいい子すぎやろ!? 一体誰に似て………美月だな間違いない(確信)

 

 

 

 そして、俺はまた別の場所へーーこの拠点に居る『諸悪の根源』の元と向かった。

 

 

 ───────────────────────

 

 

「おや、これは太陽君。無事に生き残れたようで何よりです」

「ーー何が何よりだ張っ倒すぞ」

「これは怖い怖い」

(うわぁ、ぶん殴りてぇ…!)

 

 貴重な資源や部品、設計図が大量に置いてある拠点の地下室。そこにいた諸悪の根源ーー天津垓は相変わらずの自信に満ち溢れた態度で手元の資料から顔を上げてニコリと笑った。……イケメンな外見してるが騙されてはいけない。これでもこの男は実年齢45歳、しかもデイブレイク事件が起こるそもそもの原因を作ったバカ野郎だ。

 

 別に殴ってもよくないか?とか思ったが実は最初にこの男に会った時、衛星アークに悪意をラーニングさせた云々の話を聞いて既に一発殴っているから今回は勘弁してやろう。我慢だ我慢。

 

「それで太陽君、君の要件は…っと聞くまでもありませんね」

「あぁショットライザーの修理を終わったか? それと俺のプログライズキーを元に勝手に新しいプログライズキーを作ったらしいが……俺のプログライズキーはどうした?」

「ーー心配は無用。ちゃんとバックアップはとっていますよ」

 

 ーー天津垓は現在俺たちレジスタンスの一員として主に武器などの修理・改造を行っている。

 

「それと、ショットライザーの修理も完了していますよ」

 

 本人曰く「自分の愚かさを痛感した」「罪を償う」だとかなんとか言ってるが俺は正直まだ信じていなかった。だって当然だろ? 今の地獄を作ったそもそもの原因を生み出したヤツの言葉なんて信用ならねぇ。これは俺以外のレジスタンスのメンバーや、生き残った人々の総意だ。

 

 垓が出したプログライズキーと修理済みのショットライザーを受け取り、外観を確認した俺は一度頷きショットライザーを懐に仕舞う。こんな世界になっちまったせいで本来なら戦う必要もなかったはずの一般人の俺が戦う羽目になってしまった……本当最悪だよ。……しかも更に何故か、この三挺しかないショットライザーの一挺も俺が使用する事になった…これもまたレジスタンスのメンバーに、生き残った人々の総意で。

 

(なんで俺なんかにこんなもん……完全に宝の持ち腐れっつうか、豚に真珠っつうか…いや、ありがたく使わせてもらってるけどさぁ)

 

 ちなみに残りの二挺のショットライザーは既にレジスタンスメンバーの二人が使用している。使用者の名前は「不破諌」に「刃唯阿」。俺なんかとは比べ物にならないぐらいに頼りになる若者だ。

 

 ……ん、俺? 俺は32だけど…いやしゃあねえだろ!? デイブレイク事件当時の俺20歳だからな! あ、どうでもいいが俺の容姿は美月や仲間達曰く「年齢よりかなり若く見える」らしい。これはもしかして褒めてんのか? それとも大人っぽくないと貶されてんのだろうか?

 

「ーーそういや天津。あんたが言ってた例の…ドライバーの開発の方は順調なのか?」

「…そうですね。資源が底を尽きつつある現状では中々に厳しい、というのが正直なところです。まぁ、諦める気は更々ありませんが」

「ハッ、だろうな」

 

 天津垓は武器の修理を主にやってるが、レジスタンスのメンバーから許可を得てヒューマギアに対抗する新たな装備の開発リーダーも行なっている。元社長なだけあって他の開発メンバーの指揮を上げるのも上手いし、カリスマ性も結構ある……認めるのは癪だけど、正直めちゃくちゃ助かってる。………まぁ絶対に許さんけどなぁ…?

 

「開発まで、あとどんくらい掛かりそうだ?」

「破壊したヒューマギアから手に入れたパーツや、拠点内にあるジャンク品を掻き集めて開発に当たっていますが……現在の完成率400%…完成までは早くてもあと一週間以上は掛かるでしょうね」

「……一週間、か」

 

 そりゃ中々厳しいな……。

 現在ヒューマギアと戦闘できる「仮面ライダー」はバルカンとバルキリー、ついでに俺ことバルデルの三人のみ。…しかも相手の方にもヒューマギアの仮面ライダーが二人。それと気色悪い見た目の怪人?化け物?に変身するヒューマギアが一体。

 

 しかも相手は資源も余裕ありまくり、プラスに一体一体が強力であり不破と刃と共闘してもあっちの仮面ライダー二人……滅と迅には勝てそうにない。三対一に持ち込めればワンチャンあるんだがなぁ…。

 

「まぁ抗うしかないよなぁ……はぁー」

「でしょうね……。開発中のドライバーについてですが、コレは本来作ろうとしていた物の性能と比べて、かなり性能が低くなってしまいましてね。理由は…純粋な資材不足によるものです」

「だろうな。逆にこの状況で元の設計通りの高性能なブツが作れたら驚くわ。んじゃ、ドライバー開発の方は引き続き頼む…頼むからまた馬鹿なこと企んだりすんなよ……?」

「ふっ、悲しいですねぇ…信頼してもらえないというのは」

「はっ、どの口が言ってんだ諸悪の根源(ラスボス)。むしろ、レジスタンスのみんなから信用してもらえてるだけ感謝しやがれ。……俺だったらお前なんて信用せずに潰してる」

「……ふふ、あなたのような善人が相手が悪人とはいえ…人間を潰すなんてことができますかね?」

 

 ……マジで腹立つなこいつ。

 何でもかんでも知った気でいやがって。

 正直今すぐ殴りかかりたいが……ンなことに貴重な体力使うのも馬鹿らしい。あーそれと、

 

「ーー勘違いすんなよ天津垓。俺はあんたのやったこと、これっぽっちも許してねぇし許すつもりもない。……お前がまた馬鹿げたことして、レジスタンスのみんなを危険に晒すってんなら…その時は真っ先にお前を潰す」

 

 ーー悪いが相手がたとえ人間でも、生き残ったレジスタンスの仲間達や俺の家族に手を出すんなら……襲い掛かってくるヒューマギアと何ら変わらないーー敵だ。

 

 不破の言葉を一部借りるなら「敵は残らずぶっ潰す」だ。

 

 俺は天津にーー効果があるかは不明なーー何度目かの警告をしてその場を後にした。

 

 

 ───────────────────────

 

 その後、話は進み……どうやって今まで生き延びていたのかは不明だが「飛電或人」が発見されレジスタンスの拠点に連れてこられた。また、その飛電或人を追って敵が拠点に押し寄せてきたり……怒涛の展開を迎えた俺たちはーー最後の賭けに出ることになった。

 

「……太陽、あんたらの方は大丈夫なのか?」

「なんだ、今更になって他人の心配してんのか? そんな余裕お前らにはねぇーんじゃねーの……?」

 

 それに「大丈夫なのか?」はこっちの台詞だっつうの。俺は声を掛けてきた不破に逆に言う。

 

「俺がやることは変わらねぇ。俺はただヒューマギアをぶっ潰すだけだ」

「……相変わらず平常運転で安心したわ。

 んじゃそっちは頼んだぞーーバルカン」

「あぁ、あんたもなーーバルデル」

 

 俺が拳を軽く突き出せば、不破はニヤリと笑ってからその拳にコツンと自分の拳を合わせた。……おっさんなのに臭い台詞吐いちまったなぁ…(羞恥)

 

「不破、こっちは全員の準備が整った。いつでも行けるぞ」

「わかった」

「……刃、不破が暴走しないようちゃんと見てやってな? 目を離したらすぐ好き勝手やり始めるからなこいつ」

「えぇ、それはよく知っています」

「! お、お前ら一体俺を何だと思ってやがるっ!?」

「「野良犬」」

 

 おーハモった!?(謎の感動)

 刃ーーバルキリーと顔を見合わせて思わず微笑する。それを見た不破は「野良犬」と言われたことにかなりキレた様子だった。

 

「そんじゃ、そろそろ俺の方も行くとするかな。不破、刃。イズの救出、それとヒューマギア共の相手……任せた」

「あぁ………あんたも、死ぬなよ」

「はい。そちらも…ご武運を」

「死なねーよ。死ぬどころかヒューマギア全員片付けてそっちに駆けつけてやるっての」

 

 その会話を最後に俺たち三人の「仮面ライダー」は解散した。不破と刃、バルカンとバルキリーはイズを救出するため敵の本拠地と化した飛電インテリジェンスへ。俺、バルデルは、

 

「さぁてーー防衛戦と行くか」

 

 拠点に残った僅かなレジスタンスメンバーと共に、拠点を防衛する為にこちらに今まさに向かってきているヒューマギア共の相手をする。

 

 拠点の中央に行けば、そこにはもう戦闘に参加するレジスタンスの仲間達が全員集まっていた。……ここに集まったのは全員自ら志願した奴等だ。防衛戦なんていうが、正直…勝ちの目は無いに等しい。

 

 飛電或人が前に拠点に居た際に言っていた「アナザーライダー」だとか「元の歴史」とか……。詳しくはよく理解できてないが、或人の言うことが真実ならあの異形の化け物「アナザーライダー」とやらを倒しちまえばこの世界は元の歴史、世界に戻るという。

 

(とんだ夢物語だよなぁ……)

 

 全く以って信じられない夢物語みたいな話だが……。

 

(「元」の歴史とか、元の「世界」を俺たちは知らねぇけど、きっと今よりは大分ましなんだろうさ)

「任せたぞ、飛電或人ーーそれに“ジオウ”」

 

 今はその話を信じるしかない。

 一瞬目を閉じ、一度だけ共闘したあの謎多き「仮面ライダー」を思い出した俺はぽつりとそう零した。

 

 俺は演壇…というにはかなりボロく無骨な台に乗り、全員の視線がこちらに集まったのを確認してから口を開く。

 

「みんな……今から戦おうって時に、こんな事言うのはよくねぇんだろうけど……正直に言うーーこれから俺たちは十中八九死ぬ」

「「「…………」」」

 

 その場全体が沈黙し重々しい空気が流れる。士気を下げる…台無しな言葉だろうが俺は構わず続ける。たとえ士気が下がろうとも、今まで共に戦い生き延びてきた仲間達に嘘は吐きたくなかった。

 

「だから、今からでも遅くない。死にたくないヤツは逃げろ。逃げていい。まぁ今更逃げる場所なんてどこにあんだって話だが……それでも、死にたくないなら逃げろ。それを責めたりなんてしないから」

「ーーーー」

「てめぇが死んで、悲しむ家族がまだ居るなら今すぐ逃げろ。俺が、てめぇとその家族のとこに、ヒューマギア共は一体たりとも絶対行かせねぇから」

 

 死にたくないなら逃げろ。

 悲しむ家族が居るなら今すぐ逃げろ。

 まぁ本音を言うと俺は今すぐ逃げたい。

 戦うのはいつまで経っても怖ぇし慣れねぇし。

 

 士気を下げる発言した筈なのに、誰もその場から立ち去ろうとはしなかった。きっとみんなとっくに覚悟は決まっていたのだろう。

 

(俺が死んだら美月は悲しむか…? まぁ悲しむだろうなぁ……うちの妹いい子だし)

 

 それでもやるしかねぇんだよ。

 やらなきゃ大勢の人が死ぬ。

 びっくりだよな? 世界がこんな事になる前は「赤の他人」なんてどうでもいいってガチで思ってたのに。

 

(いや……命を懸けて一緒に戦って、生きて、笑ったならそりゃもう赤の他人じゃねーよな?)

「もし、俺の今の話を聞いてまだ戦う気があるんなら……ーー行くぞ馬鹿共ッ!」

「「おおおおおッッーー!!!」」

 

 次の瞬間ーー皆の声が爆発するかの如く拠点内に響いた。本当にさぁ…俺含めてここには馬鹿しかいねぇーのか?

 

(最高だな…)

 

 そして、俺たちは拠点の外に出て防衛ラインを組む。既に俺たちの目の先には数百を優に超えるヒューマギア共の姿があった。

 

「スゥー……」

 

 前衛に立った俺は息を吸い吐き出す。緊張は完全には抜けてくれないが、まぁ少しぐらい緊張しておいた方が気が緩むこともなくちょうどいいだろうさ。

 

「ーーいよいよですね、太陽君」

「…ーーそうだなぁ諸悪の根源(ラスボス)。あんた、今どんな気分だよ? 自分が原因で生まれちまった殺戮マシーンにこれから殺される訳だが」

「因果応報、というところでしょうね。無論ヒューマギアなどに殺されるぐらいなら私は迷わず自害しますがね?」

「そん時は俺がぶっ殺してやるから安心しろ」

 

 いつの間にか隣に立っていた天津垓。俺はそちらを見ずに口を開いた。……こんな状況なのによく余裕綽々でいられるなこいつ。

 

「ドライバーの方は…完成したみたいだな?」

「おかげさまで……といっても本来の性能の1000%には遠く及ばない…500%程の性能しか発揮できそうにありませんがね」

「まぁ贅沢は言えねぇわな……足引っ張んなよ?」

「ふふふ、そこはご安心を。このドライバーは君の持つショットライザーより遥かに性能が上ですから」

 

 そう言う垓の手にはカラーリングが一切施されていない、元の色そのままの銀色一色のドライバーがあった。どうやら、なんとか間に合ったらしい。カラーリングは…こんな状況でカラーリングに拘って貴重な資材とか使おうもんなら俺はこいつをぶん殴っていたに違いない。

 

 

 さてと………じゃあーー最後に大暴れしてみるかァ!!

 

「ーー行くぞッ!」

「ーーえぇ!」

ストロング!

ブレイクホーン!

 

 俺たちはそれぞれドライバーを腰に装着し、プログライズキーを取り出しボタンを押す。防衛ラインを組む仲間達も皆また次々と武器を構える。

 

【オーソライズ!】

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

 

 ショットライザーに装填したプログライズキーを展開し、バックルから引き抜き徐に前に向ける。隣に立つ垓はプログライズキーを展開すると両手を横に動かす。

 

「ーー変身ッ…!

「ーー変身

ショットライズ!

【プログライズ!】

 

 俺はトリガーを引き、垓は展開したプログライズキーをドライバーに装填する。そして、

 

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

『The golden soldier THOUSER is born.』

 

 黄緑色と白色のアーマーに身を包んだ戦士と黄金の戦士。

 二人の仮面ライダーがその変身を果たす。

 

「しゃあッ! 行くぞお前らあッッ!!」

「私の強さは桁外れだ……!」

 

 

 こうして、彼等と数百を優に超えるヒューマギア達との死闘が始まりーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー歴史は、世界は元に戻りーー

 

 

 

 

 

 

 

 ーーある男は目を覚ますーー

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

※次章が書けるかはまだ未定です。すいません!
(↓今回のキャラクター独自設定)

・天本太陽(32)
ヒューマギアに支配された世界、令ジェネ時空でも変わらずデイブレイク被害に遭い奇跡的に生き残った後レジスタンスに入る。二十歳の時から戦ってる設定なので元の世界の何倍もベテラン。十年以上戦っているので戦闘能力・精神力・(仮面ライダーとしての)ポテンシャル共に限界突破してると思われる。容姿は歳の割に若く見える……らしい。また既にヒューマギアの襲撃により両親を亡くしている。そのため元の世界と比べ「天津垓」との関係は真相を知ってしまった時点でかなり悪化した模様…そりゃそうだわ。


・天本美月(27)
元の世界よりも何倍も逞しく成長した妹ちゃん。相変わらずいい子で、レジスタンスの拠点内で親を亡くした孤児達の面倒を見てあげている。元の世界とは違い兄が「仮面ライダー」として戦っていることを知っている。


・天津垓(45)
実際令ジェネ時空ではどうなったか不明ですが、本作では一応生存している設定で「罪を償う為に戦う」と改心してる綺麗な1000%。ヒューマギアに支配された世界で「今は人間同士で争っている場合じゃない」ということで断罪とかされるでもなくレジスタンスに「開発スタッフ」として所属。レジスタンスの拠点的にサウザンドライバーの開発は1000%不可能だと思うので独自設定でプロト?サウザンドライバー的なものを使ってもらいました。またプログライズキーには自動展開の機能がない設定で、アルシノのゼツメライズキーも無いのでプログライズキー単体での変身……多分、角は三つしかない。元の世界と変わらずオリ主を尊敬している。


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先輩と後輩は仮面ライダー!

休憩の間にちょこちょこ書いていた令ジェネ番外編2になります。
「はよ次章かいてどうぞ」と思ったそこのあなた。
まだ次章は未定ですので「次章出たらいいなぁ」ぐらいの気楽な気持ちで気長にお待ちいただけると幸いです。

※オリ主を先輩っぽく「頼りになるヤツ」風に書いていたら何故かわけわからんぐらい強くなりました……。
※今回は三人称視点です。

それでは、どうぞ!


 

「チッ、弾切れか…」

 

 ーー舌打ちした「不破諌」は弾切れになった拳銃をホルスターに納め、壁から顔を僅かに出して敵であるトリロバイトマギア達に目を向ける。

 

 その数は数十以上。

 比べて現在、この場に居る人類側の戦闘員はたったの数人。しかもその何人かは負傷者を抱えているため戦闘には加われない状況だった。

 

 レジスタンスの拠点の一つ。

 そこは今ヒューマギア達からの襲撃により大打撃を受け、撤退するほどまでに追い詰められていた。

 

 

「不破ッ!また新手が来るぞ!」

「くそッ…こうなったら……!」

 

 ーー「刃唯阿」の言葉を聞いた諌は懐から青い銃、ショットライザーが付いたバックル・ベルトを取り出す。この場を切り抜けるにはもう変身するしかない、そう判断した諌に唯阿は叫ぶ。

 

「不破! 天本さんからの命令を忘れたのか!? 変身はするな!」

 

 レジスタンスで最も活発に行動し、人類の存続に大きく貢献している男ーー「天本太陽」。本人はずっと認めず否定しているが、実質的なリーダーである彼の命令は彼等にとって重要である。

 

『不破、今のお前の体は軽々と変身できるような状態じゃない。だから変身は極力控えろ。……でも、もしどうしようもない時は派手に暴れちまえ…まぁ本気で緊急事態の時だけだからな? 変身するにも資源とかめちゃくちゃ掛かっちまうから」

「ハッ! お前こそ忘れたのか刃? 緊急事態の場合は例外…そういう命令だったろうが!」

ショットライザー!

「刃、全員の避難はお前に任せたぞ!」

「! 待て不破っ!」

 

 ベルトを腰に装着した瞬間にショットライザーが起動する。諌は刃の制止を聞かずに壁からヒューマギア達が跋扈する表に躍り出ると獰猛に吠える。

 

バレット!

「ヒューマギアは残らずぶっ潰す!

 ーーうおおお!!

オーソライズ!

 

 取り出した青いプログライズキーを諌はメキメキと音を立てるほど強引に展開すると、勢いよくショットライザーに装填した。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

「ーー変身!」

ショットライズ!

 

 バックルからショットライザーを引き抜き、高くショットライザーを上げ素早く銃口を的に向けてトリガーを引く諌。発射された弾丸はトリロバイトマギアを数体巻き込み弾き飛ばす。

 

 最後に諌は自身の元に戻ってきた弾丸を真っ直ぐ殴りーー青と白のアーマーが展開装着された。

 

シューティングウルフ!

【The elevation increases as the bullet is fired.】

「ーーおおおおおおお!!」

 

 変身を完了させた「仮面ライダーバルカン」は単独でヒューマギアの群れの中に飛び込む。その「獰猛さ」と「果敢さ」はまさに狼の如くーー。

 

 

 ───────────────────────

 

 

「すいません、俺のせいで…!」

「謝るな。謝る暇があるなら前を向け! 生きることを諦めるな、そう天本さんも言っていただろう? ……必ず全員で生きて帰るぞ!」

「はい……!」

 

 謝る一人の負傷者を叱責した唯阿は生き残った仲間達を撤退させるために戦闘可能な者たちと共に道を切り開いていた。

 

(このままじゃ遅かれ早かれ弾薬が尽きる……)

「やるしかないか…」

 

 弾が尽きかけている拳銃を足につけたホルスターに仕舞い、唯阿は諌が持っていたものと同じ青い銃ーーショットライザーを取り出す。

 

「ニンゲンハ、ゼツメツシロッ!」

「がっ! ぐうぅ…!」

「! やめろっ! 道具の分際で、私の仲間に手を出すな!」

ショットライザー!

 

 そして、トリロバイトマギアにより首を力強く掴まれた仲間を見て迷わずショットライザーを起動し、トリガーを引いてトリロバイトマギアの頭部を撃ち抜いた。無事助けられた仲間に肩を貸し唯阿は壁に向かい仲間の体をそっとそこに隠し、

 

「お前達の相手は私だ…!」

ダッシュ!

オーソライズ!

 

 ーー撤退するための道を塞ぐトリロバイトマギア達の注意を引きつけるようにそう声を上げると、腰に装着していたバックル・ベルトにショットライザーを取り付けオレンジ色のプログライズキーのボタンを押してから中に装填する。

 

Kamen Rider. Kamen Rider.

「ーー変身…!」

ショットライズ!

ラッシングチーター!

【Try to outrun this demon to get left in the dust.】

 

 続けて左手で装填したプログライズキーを展開しトリガー引く。次の瞬間に弾丸が発射され、弾丸は地面に着弾せず不思議な軌道を描き唯阿の肩に着弾し直後にアーマーが展開装着された。

 

「ーー行くぞっ……はあ!」

「! グガッ…!」

 

 変身が完了した「仮面ライダーバルキリー」はその俊足で一瞬で敵との距離を詰め早速トリロバイトマギアの一体を膝蹴りを入れ吹っ飛ばす。

 

 

 

 バルカンとバルキリー。

 二人の仮面ライダーの活躍により、なんとかレジスタンスのメンバーはか細い生存への糸を掴み。

 

 

バレット!

「これで終わりにしてやるよ! はあああーー」

シューティング ブラスト!

 

 

「私達は必ず生き残る! その為にーー」

ダッシュ!

「ーーお前達を破壊する!」

【ラッシング ブラスト!】

 

 ショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを押し、エネルギーが収束する銃口を徐にトリロバイトマギア達に向けーー諌はトリガーを引く。

 

 同じくショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを押して、唯阿は素早くトリガーを引くと敵の周囲を高速で走りながら連射する。

 

 

シューティングブラスト

 

 

ラッシングブラスト

 

 それぞれの場所で二人は互いに必殺技を発動する。

 

「ふぅわああああーー!!」

 

 

「せやああああーー!!」

 

 

「「ッッ!!!」」

 

 発射された巨大な青い弾丸は同時に数十体のトリロバイトマギア達を容赦なく粉砕して倒しーー。

 連射された複数の弾丸は的確にトリロバイトマギア達の急所を貫通しその機能を完全に停止させーー。

 

 

 

 

 

「さっさと刃達に合流しねぇとな…」

 

 二人の仮面ライダーは無事にその場を切り抜けた。

 諌は仲間達に合流しようと動き出し、

 

「全員今の内だ! 急げ!」

 

 唯阿は仲間達を無事撤退させようと動き出す。しかし、

 

対象を発見ーー人類は滅亡せよ……

「っ! お前は……!」

 

あははは! みぃんなーー逃がさないよ?

「何だと……!?」

 

 ーー切り抜けたといってもそれは一時の話。

 新たな脅威が二人の前に立ちはだかった。

 

 バルカンの前には「滅」が。

 バルキリーの前には「迅」が。

 

ポイズン!

 

 滅は刀を腰に携えた鞘に納めると、取り出した紫色のプログライズキーをボタンを押す。

 

 

ウイング!

 

 沈は持っていた拳銃を仕舞うと、取り出したマゼンタ色のプログライズキーをふわっと宙に投げ片手でキャッチするとボタンを押す。

 

「ーー変身」

「ーー変身!」

フォースライズ!

 

 滅は冷ややかに、迅は楽しそうに言ってプログライズキーをベルトに装填。瞬間に二人のベルトに取り付けられたランプが赤く不気味に点滅し始め、更にまるで警告音のような待機音が流れーーレバーが引かれる。

 

スティングスコーピオン!

Break Down.

「滅ッ……!」

「人類、今日こそ貴様らを滅亡させる」

 

 変身を果たした滅を諌はショットライザーを構えて油断なく見据える。

 

フライングファルコン!

Break Down.

「迅…!」

「うん、そうだよ! 僕は迅!」

 

 変身を果たした迅から唯阿は仲間達を庇うように前に出る。

 

「うおおおおーー!!」

「全員逃げろっ! はあッ!」

 

 諌は滅に突進していき、唯阿は仲間達に逃げるよう叫ぶと迅に立ち向かう。ーーその勝敗は火を見るより明らかだった。

 

 

───────────────────────

 

 

「刃! 随分とまぁボロボロだな?」

「! 不破、無事だったか!」

 

 ヒューマギアの仮面ライダーに襲われた諌と唯阿は、敵の注意を引きながら拠点内を走り偶然合流を果たす。二人は短いながらも互いの現在の状況を共有する。

 

「そっちにも仮面ライダーが……まずいな」

「バルデルが言ってたな……ヒューマギアの仮面ライダーとの戦闘は可能な限り避けろって。…確かにあの強さはとんでもねぇが、諦めるわけにはいかねぇ」

「あぁ、そうだな」

 

 再び決意を新たにした二人は生きる為に抗うことを迷わず選択した。そんな二人の前に、

 

「逃げられると思っているのか?」

「見〜つけた! あっ、滅もいるー!」

「っ! くそ、追いつかれたか……!」

「ここが正念場だな…!」

 

 ーー諌を追いかけていた滅、唯阿を追いかけていた迅が現れる。最悪な事にヒューマギアの仮面ライダーも合流を果たしてしまう。

 

「刃、まだやれるか!?」

「当然だ!」

 

 二人は気力を振り絞り戦闘を再開する。

 

「滅、一緒にやっちゃおうよ!」

「あぁ……行くぞ、迅」

 

 走り出すバルカンとバルキリー。

 それを容赦なく迎え撃とうと滅は紫色の弓ーーアタッシュアローを溜めて構え、迅は青い散弾銃ーーアタッシュショットガンを構え、

 

「どおおーんっ!」

「はぁー……はあ…!」

 

 ーー撃ち放たれたその遠距離攻撃を諌と唯阿は何とか回避し、諌は接近戦を唯阿はショットライザーをバックルから引き抜き射撃戦を挑む。

 

「ッ! うおらああぁあ!」

「当たれッ!」

「遅い」

「あはは、当たらないよ〜?」

 

 だが滅は諌の怒涛の接近攻撃を容易く防ぎ、迅は室内の中で飛行し唯阿の射撃攻撃を全て避ける。更に滅は鋭いカウンターを諌に打ち込み吹き飛ばし、

 

チャージライズ!

「いっくよー!」

フルチャージ!

「! しまっーー」

 

 ーー迅は高速飛行で唯阿の背後をとるとアタッシュショットガンを空中でアタッシュモードに戻し、再びショットガンモードにする。唯阿は背後の迅に気付き振り返るがもう遅い。

 

カバンショット!

「はあああ!」

「!? ぐわあぁ……!」

「ーー刃ァ! この鳥野郎!」

 

 強烈な一撃をまともに受けた唯阿は倒れ変身は強制解除される。それを見た諌は怒りを露わにしてショットライザーを空中を飛ぶ迅に向ける。

 

ポイズン!

「どこを見ている貴様の相手は俺だ」

【Progrise key comfirmed. Ready to utilize.】

スコーピオンズアビリティ!

 

 しかし、それは滅から目を離すということであり…この状況下でのその行動は最大の悪手だった。滅はフォースライザーのレバーを押し戻し装填したプログライズキーを引き抜くとアタッシュアローに装填する。

 

「何ッ!?」

「ーー滅びよ」

スティング カバンシュート!

 

カバンシュート

 

「があああッーー!!」

 

 瞬間、アタッシュアローから放たれた紫色の鎖のような管が伸び諌の体を拘束し高速かつ強力な一撃が諌の体を貫いた。そして唯阿に続き諌までもが変身が強制解除され倒れてしまう。

 

「があッ……まだ、だあッ…!」

「無駄だ。その体では再変身も不可能だろう」

「くッ……!」

 

 立ち上がろうとする諌。足につけたホルスターから拳銃を抜き、迅の攻撃を受け震える手で拳銃を構える唯阿。二人は諦めず最後まで抵抗しようとするが。

 

 

「楽しかったけど、もう終わりにしちゃおっか?」

 

 まず最初に動いたのは迅だった。

 地に片膝をつく唯阿へ迅は歩み寄るとアタッシュショットガンを向ける。

 

「! 刃あぁぁあーー!!」

「くッ!」

(ここまでか……すいません、天本さん…!)

 

 アタッシュショットガンのダメージにより自力では動けず、回避ができない唯阿は防御の構えをとり固く目を閉じる。諌はそんな唯阿を助けるべく叫び動こうとするが、彼もまたアタッシュアローのダメージによってまともに動けない状態だった。

 

 唯阿は心の中で自分を信じて、仮面ライダーに選んでくれた男に謝罪を述べる。

 

「ーーじゃあねバルキリー」

 

 迅はそう言ってトリガーに手を掛けてアタッシュショットガンを発射する、

 

 

 

 

おい勝手に人の後輩を殺そうとしてんじゃねぇよ

 

 ーーその直前、何かを力強く掴む音と聞き覚えのある声が唯阿の耳には届いた。

 

 

 ───────────────────────

 

 

 唯阿が目を開けばそこには、

 

「! あ、天本さん…!?」

「バルデルかっ!?」

「よぉ二人とも。いつの間にか大ピンチに陥ってんな? まぁ生きてて何よりだわ」

 

 迅が唯阿に向けたアタッシュショットガンを横から掴み強引に照準をずらす……黄緑色と白色のアーマーを装着した戦士、天本太陽(バルデル)の姿がそこにはあった。太陽は危機的状況の真っ只中に居るとは思えないほど気楽さを感じさせる態度で、諌と唯阿に声を掛けながらーー迅からアタッシュショットガンを奪い取り後ろ蹴りで迅を蹴り飛ばす。

 

「うわっ…! おっとと!」

 

 迅はギリギリで翼を駆使し何とか着地する。そして、滅と迅もまた諌と唯阿と同じくバルデルの登場に多少なりとも驚きを露わにする。

 

 滅にとっては彼がここに現れるのは計算外だった。

 

「バルデル……」

「バルデルっ!? わぁーい! また僕と遊んでくれるの?」

「ハッ、誰がお前みたいなサイコパスと遊ぶかっての……」

 

 現れた太陽を目の当たりにした滅は油断なくアタッシュアローを構え、迅は心底嬉しそうに声を上げる。太陽は呆れたように息を吐くと、

 

「お前達は、不破と刃を連れてすぐにこの場から離脱してくれ。それまでの間…ーーこいつらの相手は俺に任せろ」

「「「了解!」」」

 

 引き連れてきたレジスタンスの仲間達に太陽は簡潔に指示を出す。太陽の後方から現れた仲間達は、その指示に迷いなく頷くと、連携のとれた動きで怪我を負った諌と唯阿に肩を貸す。

 

 太陽はアタッシュショットガンを構え、滅と迅と対峙する。

 

「! た、単独で二人を……!?」

「無茶な真似はよせ! バルデル!」

 

 だが太陽の指示に迷いなく頷き従った仲間達とは違い、実際に滅と迅と今の今まで戦っていた二人は声を上げる。太陽の行動があまりにも危険で無謀なものだと思ったから。

 

「天本さん貴方はまさか…!」

(自らの命を懸けて私達が逃げるまでの時間をーー)

 

 振り返ることなく前を向く太陽。

 その姿にある予感を覚えた唯阿だったが、

 

「勘違いすんなよ? お前ら二人が死んだら俺の負担が今以上に増えて困るんだよ……だからこれは俺の為の行動だ」

 

 過労死なんて死んでもごめんなんだよ、そう言う太陽。諌と唯阿は彼と共に戦う中で、天本太陽が仲間を守るためなら迷うことなく死地に飛び込むような人物だと知っていた。

 

「たった一人で我々に勝てると思っているのか?」

「滅と一緒なら、バルデルにも負ける気しないよ!」

「バーカ。お前らの撃破よりあっちを優先させるに決まってんだろ」

 

 滅と迅の発言に太陽はシンプルな罵倒を飛ばすとアタッシュショットガンを両手で持ち発射する。本来なら反動で発射した側にも衝撃が来るはずだが、アメイジングヘラクレスのパワーはアタッシュショットガンの反動にも力負けしなかった。

 

「バルデル! 僕の銃返せぇ!」

「返して欲しけりゃ力付くで奪ってーーみやがれッ!」

「うわああ…!?」

 

 アタッシュショットガンの一発を飛んで避けた迅は高速で太陽に接近しその翼で襲いかかろうとするが、太陽は最小限の動きでそれを躱すと素早く振り返り隙だらけな迅の翼にアタッシュショットガンを打ち込んだ。それにより翼が損傷し迅は着地に失敗する。

 

「はあっ!」

 

 滅はその太陽へとアタッシュアローを向け一矢を放つ。だが、

 

【チャージライズ!】

「おっと…!」

 

 太陽は咄嗟にアタッシュショットガンをショットガンモードからアタッシュモードへと変え、滅の攻撃を防ぐ。そして太陽はアタッシュショットガンをアタッシュモードにしたまま滅へと接近する。

 

「らあッ!」

「くっ……!」

 

 その間に滅は何度もアタッシュアローを連射するが、太陽は巧みに全てを防ぎ切り滅との距離を詰めてアタッシュモードのアタッシュショットガンで殴りかかった。

 

「甘い…!」

「ぐッ…なら!」

【フルチャージ!】

 

 アタッシュモードからショットガンモードに変えたアタッシュショットガンを超近距離で放とうとする。滅は迷わず後ろに飛び退こうとしたが、

 

「これでもくらいやがれ!」

【カバンショット!】

「がはっ…バルデル、貴様……!」

 

 タイミング的に滅がバックステップでアタッシュショットガンの射程距離外に到るより早く、太陽はアタッシュショットガンのトリガーを引く。滅はアタッシュショットガンの一撃を受けて後ろに僅かによろめいた。

 

「どうしたさっきまであいつら二人ボコってた時の勢いはどうした?」

「バルデルぅー! そらああ!」

「うおっ危ねッ!?」

 

 後方からの迅の蹴りを躱し続けてのパンチを片腕で弾く。そして迅は再び翼で宙に飛び上がると、勢いよく降下して飛び蹴りを噛ます。太陽はその飛行の動きを落ち着いて捉え予測しローリングで避けた。

 

「はっ!」

「くっ! おりゃああッ!」

 

 そんな太陽へと素早く距離を詰めた滅はアタッシュアローで斬りかかる。アタッシュアローによる攻撃を受け太陽のアーマーからは火花が散るが太陽はすぐに反撃のボディブロー……滅の予測により完璧に防御されると分かっている一撃を放ち、

 

「らあああ!」

「ぐッ……!」

 

 防御されるタイミングで左手に持った、ショットガンモードのままのアタッシュショットガンで滅の頭部をぶっ叩く。予測できていなかった攻撃に滅は一瞬防御が遅れ、僅かに後退する。

 

 迅はアタッシュショットガンを巧みに使う太陽に、子供のようなことを叫ぶ。

 

「いい加減僕の銃返してよぉー!」

「ンなこと言われて誰が素直に返…………返して欲しいか? ならいいぜ?」

「え! ほ、ホントに!?」

 

 アタッシュショットガンを返せと声を上げる迅だったが、太陽の予想外の台詞に驚き喜び戦闘だということを忘れたような態度になる。

 

「あぁホントだ。ほーらよッ!」

 

 ーー太陽はアタッシュショットガンを雑に迅の方へと高く投げた。それをキャッチしようと動き出す迅。滅は太陽へとアタッシュアローを構えた。

 

 

「ーー悪いな、迅」

ストロング!

「よし! とれた!」

「! 迅、避けろ…!」

「えっ?」

「ーー爆ぜろッ!」

 

 迅にアタッシュショットガンを投げた瞬間、バックルに付けたままのショットライザーに装填されたプログライズキーのボタンを押した太陽はーーバックルからショットライザーを引き抜き、アタッシュショットガンをキャッチするのに夢中になっている迅へとその銃口を向ける。

 

 それを見た滅は必殺技を止めるべくアタッシュアローを放つ。

 

「やらせるか…!」

「遅え!」

「くっ…ならばーー」

アメイジング ブラスト!

 

 しかし、アタッシュアローは避けられ、太陽は必殺技を発動させた。滅はアタッシュアローによる妨害が失敗した直後、迅を庇うように迅の前に移動する。更にサソリのライダモデルを出現させ完全な防御の構えをとった。だが、

 

「引っかかったなーーおらあッ!

「何っ……!?」

 

ストロング

ブラスト

 

 

 それは太陽の狙い通りの行動だった。太陽はエネルギーが収束するショットライザーの銃口を向ける先を迅からーー「天井」へと移した。

 

「さっき言ったろ? お前らの撃破よりあっちを優先させるって!」

 

 太陽が必殺技の一撃により天井を破壊し途端に大量の瓦礫が次々に落ちていき太陽も滅も迅も、全員が回避行動をとる。結果、瓦礫により道を完全に塞がれた。

 

「ああー!? バルデル逃げるなぁー!」

「やられたな……待て迅、今から瓦礫を撤去しても無駄だ。バルデルには追いつけない」

「もぉー! また倒し損ねたぁ…!」

 

 瓦礫をどかしてバルデルをすぐに追おうとする迅を滅は冷静に制止する。変身した状態なら瓦礫を撤去することは容易いが、この数の瓦礫を撤去し道を開くには少なくとも五分は掛かると滅は理解した。

 

 

 バルデルへの警戒を改めて引き上げる滅

 悔しがり地団駄を踏む迅。

 

「……はぁー、何とかなったなぁ」

(不破と刃は無事救出できた……あの諸悪の根源(ラスボス)、あんな化け物生み出しやがって…改めてぶん殴りたくなってきたわ)

 

 滅と迅との戦闘を無事終え、諌と唯阿を連れて撤退した仲間達の後を追った太陽は無事にレジスタンス拠点に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい諸悪の根源(ラスボス)、あんな化け物作りやがって…一発殴らせろ」

 

 帰還し天津の元へやってきた太陽の第一声。

 それを聞いてから太陽の姿を見た天津は……滅と迅と戦闘した後とは思えないほど大した怪我を負ってない、ほぼ無傷の彼に率直な感想を述べた。

 

「君の方が化け物では…?」

「……は? どこがだよ?」

 

 心底わからないといった様子で首を傾げる自称一般人…実質的なレジスタンスの最高戦力を見て天津は思わず目を覆った。

 

 またその後、不破と唯阿に感謝され戦闘について色々と質問責めされるのだが……太陽は専門的なアドバイスなどさっぱりできないのでこう言ったという。

 

 

「いやお前らも十年ぐらい戦えばこんぐらいできるようになるわ。つうかセンスは俺より上なんだからーーその内俺なんて抜くだろ?」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

(めちゃ長い適当キャラ紹介↓)

・不破諌(26)
「ヒューマギアをぶっ潰す」の思想の持ち戦う男。
令ジェネの世界だと、多分初期の不破さんより大分仲間思いかついい人。戦闘センス自体は太陽以上。だが今回の番外編ではまだまだ「仮面ライダー」の戦闘において経験不足な部分がある。

多分、この世界でバルカンの戦い方が若干荒く激しいのは多少はバルデルが影響していると思われる。太陽曰く「すぐ暴走する、基本は常識人」太陽と刃曰く「野良犬(冗談)」とのこと。

・刃唯阿(24)
武器の開発も戦闘をこなすハイスペックな人。
諸悪の根源こと「天津垓」は非常に嫌っている(当たり前)
太陽のことは普通に先輩として尊敬している。

・滅
この世界でも変わらず最強格のヒューマギア。多分太陽との因縁も元の世界と変わらず……いや、もしかしなくてもレジスタンスの仲間が何人か滅によって確実にやられているので元の世界より因縁は深い。ラーニング能力は健在だが、十年以上の戦闘の中で太陽は既に滅と互角以上の戦闘技能を得ているためにあまり目立たない。

・迅
初期の純粋な迅。純粋に人間を殺すこと・戦うことを楽しんでいるため、人類側からするとかなり恐いヒューマギア。本作では何度もバルデルと戦闘しているが毎度決着はつけられていない。また太陽には友達感覚で襲いかかってくる。太陽曰く「サイコパス(天然)」


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【KAMEN RIDER】

これが(多分)最後の番外編です。
次章を投稿した際にはもしかしたらこれが「第0話」的な感じになるかも……そんな回です。

※今までの話で一番滅茶苦茶(意味不明)な回です。「何でこうなったの?」「時間軸は?」とかツッコミどころ満載なので深く考えずに頭を空っぽにして読んでいただければ幸いです。
※この回を見なくても次章にはあまり影響ありません。

それでは、どうぞ!


 これはある男が目覚めるまでに見ていた夢…のようなもの。

 

 

 夢のようなものを見た彼自身、目覚めてしまえばそれがどんな内容だったか……微塵も思い出せないだろう。

 

 

 

 これはそんな「誰の記憶にも残らない(あったかもしれない)」お話。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 そこにはただただ終わりのない真っ白な世界が広がっていた。

 

 

───自分が在るこの場所が───

 

 

───自分が見たこの場所が───

 

 

───自分が進むこの場所が───

 

 

 わからない。わからない。わからない。

 真っ白な世界を独り歩く僕には何もわからなかった。

 

「ーー僕は、一体……」

 

 片手で頭を抑えながら「何か」を思い出そうとするが、まるで元より思い出すことが何もないかの如く僕の頭には何も浮かばない。

 

 自分が何故ここに在るのか。

 それこそ自分が何者なのかーー自身の名前さえ。

 

(……進んでみるしかないーー)

 

 何もわからない中、真っ直ぐに先に見える眩い「光」に向かって僕はひたすらに歩いていたんだ。

 

「あと、少しだ…」

 

 歩き続けてどれだけの時間が経ったのかはわからないが、僕と「光」の距離は順調に縮まっていき……その光に僕がとうとう到達しようとしたーーその時だった。

 

ーーそれ以上は行かない方がいいよ。

行ったら、もう戻ってこられなくなるから

「……え……?」

 

 どこからともなく声が聞こえたと思ったら突如として世界に亀裂が走りーー真っ白だった世界が暗転する。

 

「! あ、あなたは……?」

 

 そして、何が起こったのか全く分からないまま僕が振り返ればそこには不思議な雰囲気を纏う青年が立っていた。暗闇の中、青年が立つ場所だけはライトアップされたようにくっきりと見える。

 

「そっか……そりゃ覚えてるわけないよね」

「?」

「いや、俺が誰か…だっけ?

 ーー俺は常磐ソウゴ、仮面ライダージオウ」

 

 一瞬「あ、そっか」といった顔をしてからどこか寂しげに笑った青年はすぐにこりと微笑むとそう名乗った。

 

 常磐ソウゴ、さん……?

 当たり前だけども僕の知らない名前だ。

 ……というか「かめんらいだー」って一体…?

 

「何もわからないって感じかな? ここがどこなのか、自分が何者なのかも」

 

 謎が増えた……そう思う僕の表情を見て、すぐに考えを読み取った常盤さんは言う。僕は驚きつつもすぐに頷きこう聞いた。

 

「あの、常磐さんはここがどこか知ってるんですか?」

「うん、知ってるよ」

「! 本当ですか? じゃ、じゃあーー」

「ーーでも、これを今のあんたに教えても余計に混乱させるだけな気がする……まぁ簡単に言っちゃえば、ここはあんたの【夢の中】…みたいなものだよ」

「ゆ、夢の中……?」

 

 常磐さんの予感は的中し、僕は余計に混乱した。

 ここが夢の中? それも夢の中「みたいなもの」?

 

 ……ダメだ……。

 聞いたら余計わかんなくなってきた。

 

「そんな難しく考えないでいいよ。あんたはただ、あんた自身をここでちゃんと思い出せばいいだけだから」

「僕自身を……?」

「そう。あんた自身を。……でもまぁ、流石に自力じゃ思い出しようもないよね? ーーだから俺が来たんだ」

「えっ…?」

 

 僕自身の事を思い出す……その為に常盤さんが来た? それは…一体どういうことだ? 混乱・困惑しっぱなしの僕に常盤さんは歩み寄ると、

 

「はい。これ」

 

 ーー僕の手に黒いストップウォッチ?のようなものを持たせた。

 

「? ーー(あつ)ッ…!?」

 

 そのストップウォッチ?は僕が手にした途端、突如緑色に発光して熱を持つ。反射的に手からストップウォッチ?を離すが、僕は足元に落ちるギリギリでしゃがんでストップウォッチ?を何とかキャッチ。

 

 ほっと息を吐き改めて手にあるそれを見てあっと驚く。

 

「うん、やっぱりあんたは【仮面ライダー】だよ」

 

 手に持っていた元の色が黒ベースだったストップウォッチのようなものはその色・外観が変化し上部は黒、下部は鮮やかな黄緑のものになっていた。またストップウォッチのようなものの表面には何かの顔らしきものが描かれている。

 

「ボタンを押してみて」

「ボタン? あ、こうですか?」

 

 戸惑いながらも常盤さんの指示通りに僕が天面にあるボタンをポチッと押すと、

 

バルデル!

「ッッ…!?」

 

 ーーストップウォッチ?からは何かの名前だろうか…? 短く音声が鳴ると、柔らかな光に包まれて僕の手から消えた。

 

「……これは……!」

 

 その瞬間、気付けば僕の腰には銃が取り付けられたベルトと右手には黄緑色のカセットテープのようなものがあり、頭の中に何かが流れ込んでくるような不思議な感覚に襲われーー。

 

『ーーバルデル。それが俺の名だ!』

 

『滅、俺はお前を絶対に認めない。俺がいる限りお前の人類絶滅だとかいうSFチックな使命は一生叶わせねぇよバーカ!』

 

『ーーワズ! お前の信じるその思いに、応えてやるよッ!』

 

『ーーお前を止められるのは、ただ一人…俺だ!!』

 

『みんなの未来は俺が守ってやるッ…!』

 

 ーー【俺】は今までの記憶を思い出す。

 

「…ーーそうだ。俺は【仮面ライダー】だ

 

 俺は「天本太陽」。

 ーー仮面ライダーバルデル。

 仮面ライダーに初変身したあの日から、命を懸けて滅に挑んだあの日まで……俺は全てを思い出しーー更にはそれだけじゃない。俺は「ヒューマギアに支配されたあの世界」で体験した出来事も全て記憶していた。

 

 

 

 ───────────────────────

 

 

「ちゃんと思い出せたみたいだね? 自分自身のこと」

「あぁ…あんたのおかげでな。悪い、助かった」

 

 状況が未だ完璧に把握できない中、俺は目の前の青年「常磐ソウゴ(ジオウ)」に短いが感謝を述べる。それを聞いたソウゴは「気にしないで」と笑う。

 

「俺はただ俺のやりたいことをやっただけだよ」

(やりたいこと……ね)

「そうか……それにしても、ここは本当に何なんだ? 夢の中みたいなもんだって言ってたが…俺は……あの後、一体どうなったんだ?」

 

 今の俺が待つ「最後」の記憶は奇妙なことに二つある。

 一つはフォースライザーで変身し滅を倒し力尽きた最後。もう一つは天津垓(サウザー)とレジスタンスの仲間達と共にヒューマギアに立ち向かった……その死闘の果ての最後。

 

(どっちの最後も死ぬほど痛いし怖かった……だけど、後悔はない)

 

【元の世界】では滅と戦い俺は最後まで自分の意志で、守りたいものの為に戦った。

 

【ヒューマギアに支配された世界】ではヒューマギアと俺達は最後まで戦い抜き、そして確かにみんなを守り抜いた。

 

 あの後の俺の生死は俺自身にもわからないが、こんなへんてこな世界にいるんだから……きっと「死んだ」か「死にかけ」かのどっちかなんじゃないだろうか?

 

「ーー大丈夫、あんたはまだ生きてるよ」

「……何でそんなことわかんだよ?」

「何でって……王様だから?」

「うん……いや、さっぱりわからん! 答えになってねぇよ!?」

 

 少し考えた後に放ったソウゴの意味不明な一言に俺は思わずツッコミを入れる。ヒューマギアに支配されたあの世界で、ソウゴとは一度だけ出会いほんの僅かな会話を交わしているんだが……やっぱり、俺にはよくわかんない不思議なヤツだ。

 

 見た目とは裏腹にどこか酷く冷静な……何もかもを悟ってるような、底の知れない青年……それが俺の常盤ソウゴという人間に対する認識だった。

 

「はぁー……ちょっといくつか聞きたいことがあるんだがいいか? さっき俺が向かってたあの光。あん中にあのまま進んでたら俺はどうなってたんだ?」

「うーん……死ぬか、よくて記憶喪失?」

あっぶねッ!?

 

やべぇ!!

 俺あのままソウゴに声掛けられなかったら……あっさり「死ぬ」か「記憶喪失」になってたってこと? こ、怖過ぎる…つうか光に向かってったらダメなのか。なんて卑劣なトラップ……って別に誰かが仕掛けた訳じゃないけども。

 

「…もう一つ、これが一番重要なんだが…

 ーーこっから出る方法は?

 

 その俺の問いにソウゴはーーニヤリと笑う。

 まるで「待ってました!」と言わんばかりに。

 あれれ〜めちゃくちゃ嫌な予感がするぞ〜?

 

「ーー俺と戦った後に教えてあげるよ!」

ジクウドライバー!

 

 ちょ、ちょ待てよ!

 一度共闘したから知ってんだぞ!?

 てめぇデタラメに強いじゃねーかッ!

 待てよ。これ俺もしかしなくてもボコられるのでは?

 

「おい! ちょっと!? ソウゴさぁん!?」

 

 嫌な予感は見事に的中し、ソウゴは右手にベルトを持ち腰に当て装着する。ベルトからは装着された直後に「ジクウドライバー」という音声が流れ、更にバックル部の液晶には「ZIKU DRIVER」という文字が流れる。

 

ジオウ!

 

 ソウゴはライドウォッチを回してボタンを押し、ジクウドライバーのスロットに装填。無駄のない流れるような動きで、続けて右手でロックを解除すると時計の針のようなポーズを切って構え、

 

ーー変身!

ライダータイム!

仮面ライダージオウ!

 

 ーーベルトを一回転させた。

 瞬間、暗転した世界はまたも反転して真っ白な世界に変わる。ソウゴの体は腕時計のバンドのような輪に包まれ「ライダー」という文字がソウゴの背後から飛んでいき最後にはその顔にセットされた。

 

「…さっきまでの冷静なお前はどこいった?」

「あはは! まぁたまには息抜きも大事でしょ?」

 

 息抜き……息抜き!?

 え、何この人息抜きで戦う気なん?

 ちょっと理解できないわ……うん、俺ソウゴとはきっと分かり合えないなぁ!

 

「ーーくっそ……あーもぉッ!

やりゃいいんだろやりゃあッ!

ストロング!

オーソライズ!

 

 あぁくそっ! もうこうなったらどうにでもなれ!

 半ばやけくそに俺は右手に持ったプログライズキーのボタンを押し、勢いよくショットライザーに装填してプログライズキーを展開。バックルからショットライザーを引き抜く。

 

Kamen Rider. Kamen Rider.

ーー変身ッ…!

ショットライズ!

 

 そして、銃口を高く上げてから下ろして真っ直ぐと前方に向けーートリガーを引いた。発射された弾丸をソウゴはひらりと躱し、

 

「おらあッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 素早く右手に持ったショットライザーをバックルに戻し、返ってきた弾丸に俺は右のアッパーを打ち込んだ。瞬間アーマーが展開され俺の体に装着される。最後にアーマー内の蒸気が外に排出され、複眼が赤く光った。

 

 ーー仮面ライダーバルデルの変身が完了した。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

「スゥー…はぁー……ーー行くぞっ!」

 

 深呼吸した後に俺はジオウに向かって駆け出す。

常磐ソウゴ(ジオウ)」は俺が最初から全力で行かないとまともな勝負にすらない…それほどの相手だ……胸を借りる気持ちで挑ませてもらうとしよう。

 

「おらぁ!」

「よっと!」

「どりゃあッ!」

 

 早速俺はダッシュからの殴りを嚙ます。

 それをジオウは軽いステップで回避し、俺はすぐに続けて回し蹴りを繰り出し攻撃する。

 

「ほっーーはあっ!」

「がはっ…!」

 

 ジオウは俺の回し蹴りは上体を僅かに反らせることで避けると、一瞬の隙を捉え俺の胸に真っ直ぐ拳を打ち込んだ。その威力に俺は大きく後退するがなんとか耐え、

 

「こんぐらいなんてこたねえなあッ!」

 

 ーー俺はすぐさま反撃に移る。ジオウへと再び接近し右足で前蹴りし、避けられることを予測して素早く左ジャブを放ち、防がれた瞬間にパンチのお返しに右でのアッパーを打ち込む。

 

「っ!」

 

 ジオウは前蹴りを軽々避け、ジャブも完璧に防いだが最後のアッパーだけは完全に防げず僅かに後ろに下がった。

 

「おらおらおらァ!」

「そっ、はぁ!」

 

 そんなジオウに俺はすぐさま距離を詰め得意のパンチを全力で連打する。しかし、ジオウは冷静に全てを弾くとくるりと回って後ろ蹴り。その一連の動作の速さに俺は回避・防御する暇もなくそれを受けたが、

 

「ーーまだまだァ!」

「っ…!」

 

 

 ーーなんとか気合で…タフネスで堪えた俺は怯みを見せずにカウンターを仕掛けた。ジオウは完全な防御が間に合わず片手でそれを受け、威力を殺しきれず僅かに怯むがすぐにバックステップして一時距離を取る。

 

「これは、ちょっと想像以上だなぁ」

「だったら、やめにしてくれていいぜ!」

「ふっ!」

()めぇ!」

「ーー!?」

 

 俺はその呟きを聞き、思わず口を開きながら追撃の左フックを仕掛けた。それを片腕で防いだジオウだが俺は素早く右手でショットライザーを引き抜きゼロ距離でジオウの胸に弾丸を発射する。

 

「くっ…! はあっ!」

「ぐはっ……!」

 

 胸から僅かに火花を散らしたジオウは反撃にボディーブロー。続けて鋭い蹴りを放ち俺を蹴り飛ばし、俺とジオウの距離が数十メートルほど離れる。

 

「悪いけど、まだやめるつもりはないんだ」

ジカンギレード!

「行くよ? バルデル」

「出来れば……お手柔らかに頼みたいなぁ」

 

 だが当然まだまだジオウはやる気満々…体力が有り余ってるみたいだ。

 緊張感凄いし、痛いし怖いし強いし頼むからはよ終われ…!(切実)

 それとジオウとこのまま戦って俺が無事に済む気がこれっぽっちもしない(直感)

 

「はぁー……」

 

「ケン」という文字がジオウの前に現れ剣に変化し、宙空に浮かんだその剣をジオウは掴む。ジオウの戦意が残る姿と声に、思わずため息を吐きつつ俺は静かに息を整える。

 

 たった一分程度の戦闘で…ここまで消耗するもんか?

 

(分かっちゃいたが、やっぱりジオウは強い。つうかすげぇ戦い慣れてるよなぁ……)

 

 ジオウの強さが桁違いな事はヒューマギアに支配されたあの世界で「ロボ」に乗ってるところを見ていたり、一度だけ共闘した中で既に理解していたつもりだったが……まだまだ切り札を持ってるんだろう。

 

ほんと息抜きで戦う相手じゃねーだろ……

「じゃあ次はーーこっちから行くよ!」

『タイムチャージ!』

 

 剣を片手にジオウはそう言うと、剣に付いたスロット部分のボタンを押してから軽快な動きで接近し剣を振るう。

 

『5・4』

「はああっ!」

「ぐはぁ……! くッ!」

『3・2・1…』

 

 その横振りによりアーマーから火花が散り、俺は僅かに後退するが次の振り下ろし攻撃は何とか両手で掴み止める。だが、ジオウは冷静に膝蹴りを放ち俺を怯ませーー剣を掴む手が緩んだ瞬間に素早く剣を振り下ろし、

 

ゼロタイム!

「せやああああ!」

ギリギリ斬り!

「ぐわあぁあ!!」

 

 マゼンタ色のエネルギーを纏った剣を、勢いよく横一文字に振りーー瞬間に剣撃と衝撃波を同時に受けた俺を思い切り吹き飛ばされた。

 

「ッ……はぁはぁ……!」

 

 地面を数度転がってから勢いは止まり、俺は呼吸を整えながら何とか身を起こす。純粋な実力の差…そんなものを嫌というほど実感させられる……そんな感じだ。

 

「ッ…次は、こっちの番だ……!」

 

 だけどーー戦うからには負けたくねぇよなぁ?

 立ち上がってすぐにバックルからショットライザーを引き抜いた俺は、トリガーを引き連射する。それをジオウは剣で防ぎ、

 

「遠距離攻撃ならーー」

ジュウ!

「ーーこっちにもあるよ?」

「! 変形した!?」

 

 ーー剣を銃に変形させる。

 先程まで「ケン」と書いてあった剣は「ジュウ」と書いてある銃に……今更だけどなんだそのデザイン!? いやすげぇわかりやすいけども!

 

「行くよ!」

「食らえッ!」

 

 そして、俺とジオウはほぼほぼ同時に銃のトリガーを引く。連続して発射された弾丸は互いに相殺し合い、

 

ストロング!

「ンならーーこれでどうだ!」

「! そっちがそう来るなら!」

フィニッシュタイム!

 

 すぐに通常の射撃がジオウには通用しないと判断した俺は、ショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを押し必殺技の体勢に入る。それを見たジオウは、ジクウドライバーからライドウォッチを外すと銃についたスロット部分にそれを装填する。次の瞬間、

 

「はあぁぁぁ…ーーどらあああ!!」

「ーーでりゃあああ!」

アメイジング ブラスト!

ジオウ スレスレシューティング!

 

 ーーヘラクレスの角のように鋭い黄緑色の巨大な弾丸と「ジュウ」という文字の形をした複数の弾丸が激突する。

 

 その結果、ショットライザーから発射された弾丸は「ジュウ」の形をした複数の弾丸を全て弾き飛ばし、ジオウへと真っ直ぐに向かっていく。ジオウは間一髪でその一撃を回避し、

 

「! ほっと……!」

「危ねッ!?」

 

 ジオウが発射した「ジュウ」の弾丸は弾き飛ばされたにも関わらず、謎の引力で俺の元に回転しながら飛んでくる。

 

(唸れ! 俺のAIM力…!)

 

 俺は咄嗟に一発目の弾丸をジャンプで躱し、二発目の弾丸もローリングで避け、三発目の弾丸は避けた後にショットライザーで撃ち軌道を無理矢理変えーー今さっき俺の後ろを通過した……それなのにまた俺に向かって返ってきている「ジュウ」の文字に衝突させた。そして………どうやら上手くいったらしく「ジュウ」の弾丸は三発とも爆発した後に消えた。

 

 どうだ見たか!

 これが俺が人類が機械(ヒューマギア)に支配されたSF染みた世界で、十年以上実戦でーー生きる為に仕方なくーー鍛え抜いてきたAIM力だ!

 

 

「今のを初見で捌くなんてね…! 正直びっくりした」

「あんたもなぁ? なんであの速度の必殺技を普通に避けれちゃうんだよ……」

 

 俺のそんな一連の動作をジオウはそう口を開く。こっちからすりゃ何故必殺技を当然のように避けれてんのこの人?って感じなんだが……こりゃジオウに対しては下手な遠距離攻撃は無駄って考えるのが無難だな。

 

(さて、こっからどうするか…………え?)

「! なんで、これが……?」

 

 若干押され気味のこの状況…打開するための一手を思考していた俺は、腰に装着したベルトに付けられているーー基本プログライズキーは一本しか持ってなかったから使う機会はほぼなかったーープログライズキーホルダーに目を向けて驚いた。

 

 右のプログライズキーホルダーには「ライジングホッパープログライズキー」がセットされていたのだ。

 

(バッタのプログライズキー………なるほどな。これも「夢の中」みたいなもんだから…ってわけか?)

 

 元の世界で飛電さんの命令を受けたワズが俺に渡してくれたプログライズキー……ヒューマギアに支配されたあの世界じゃ見た事も使用した事もなかったが、元の世界で使用しているからなのか? この夢の中みたいな場所じゃ、最後には持っていなかったプログライズキーもこんな風に俺は所持しているようだ。

 

(……なら、遠慮なく使わせてもらうとするか)

「いくぜーーワズっ!」

ジャンプ!

「! それって或人が使ってた……いや、それとはまた別物?」

「さぁな、俺もよく知らねーよ!」

 

 俺がホルダーから取り出した黄色のプログライズキーを目にし、ジオウは僅かに首を傾げ疑問を口にする。まぁ残念ながらその問いに対する答えを俺は持っちゃいない。

 

オーソライズ!

Kamen Rider. Kamen Rider.

ーー変身!

ショットライズ!

「そらッ!」

 

 トリガーを引きーーショットライザーから発射された弾丸に俺は勢いよく右の回し蹴りを噛ました直後、弾丸が当たった右足から黄色の装甲が装着されていく。以前から思っていたけれど、フォームチェンジする時…元々装着してたアーマーは一体どうなってるんだろうな? 重ね着? それとも気付かぬ内にパージしてるのか?

 

ライジングホッパー!

【A jump to the sky turns to a rider kick.】

「どッーーらああああ!!」

 

 バッタの力を得たフォームに変身した俺は、すぐにそんな今はどうでもいいことを考えるのを止めてーージオウへ向かって跳び出す。そして、ジャンプの勢いを乗せた拳を思い切り振るう。

 

「っ! せやぁ!」

「!」

 

 ジオウはそれを素早く「ジュウ」から「ケン」に変形させたジカンギレードで防ぐが、威力は殺しきれず数歩後ろに下がるジオウ……俺はすぐにまた距離を詰めて再びジャンプした

 

 それもジオウの肩を踏み台にジオウのほぼ真上に。

 

「!?」

ジャンプ!

「食らいやがれッ!」

ライジング ブラスト フィーバー!

 

 一瞬困惑するジオウを見下ろせる位置、空中で俺は素早くショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを押し、間髪入れずトリガーを引く。

 

 蹴りの構えを取り、そのままほぼ垂直に落下の勢いもプラスした

 

「ならこっちも!」

フィニッシュタイム!

ジオウ ギリギリスラッシュ!

 

 ジオウはそれに対して、素早くジカンギレードのスロット部分に装填されたジオウライドウォッチを取り外し、再度装填して必殺技を発動。マゼンタ色のエネルギーを纏った剣を真上にいる俺に向かって斬り上げた。

 

「ーーでやあああっ!!」

「ーーどりゃああっ!!」

 

 黄色のエネルギーが収束する俺の右足が「上」から。

 ジオウの振るうマゼンタ色のエネルギーを帯びるジカンギレードが「下」から。

 

ライジング ブラストフィーバー

 

「くッーーはああああ!!」

「がッーーらああああ!!」

 

 二つのエネルギーが激突し二人の間に凄まじい衝撃が発生し互いに力を一切緩まず、一歩も譲らず必殺技を叩き込んだ。その結果、

 

「ぐッ……!」

「うわッ! っっ……!」

 

 上から蹴りを叩き込んだ俺の体は吹き飛び、ジオウからそれなりに離れた位置に落ちて転がる。ジオウは片膝をつき微かに声を上げた。

 

「はぁはぁ……まだ、やんのか…? ジオウ」

「やっぱり、あんた強いね」

「…ま、伊達に十年以上も戦ってるわけじゃねぇからな」

 

 片手を地について立ち上がるジオウは俺を見てそう言う。俺は体力を回復させる為に一度深呼吸をした後、なんとか立ち上がる。正直体力は結構キツかった……つうか「あんた強いね」ってなんだ嫌味か!? そっちは息一つ乱してないくせに…まぁ褒められんのは素直に嬉しいけども。

 

 そんなこれ以上の戦闘は遠慮したい俺だったが、

 

「なら、俺ももう少しーー」

「おいおいおい…!」

「ーー本気を出すよ」

 

 ーー常磐ソウゴ(ジオウ)は俺のその思いは伝わらなかったようで、俺とは真逆に「まだまだ戦いたい…!」とやる気満々で己の戦意を示すかのように取り出した新たなライドウォッチを手に持った。勘弁してくれよマジで……!

 

ジオウII

 

 ジオウはそのライドウォッチのボタンを押すと、慣れた手つきでリューズを回しカバーをスライド。

 

ジオウ!

 

 ライドウォッチを二つに分裂させジクウドライバーの左右のスロットに装填して構えをとり、

 

「変身!」

ライダータイム!

仮面ライダー! ライダー!

ジオウ・ジオウ・ジオウII!

 

 最初と同じようにベルトを勢いよく一回転させた。瞬間に世界が一回転し、ジオウの背後に出現していた二つの大きな時計が重なる。

 

 ジオウの体をバンドの輪のようなものに覆われ。

 ーーソウゴはジオウIIにフォームチェンジした。

 

「……やばそうだな、こりゃ……」

 

 気が付けばジオウのその姿を目の当たりにして、俺はそう呟いていた。分かりやすいほどに正統進化した感じ……「II」って言うんだから、さっきまでのジオウより強いのは確定だろ? え、さっきも普通に押されてたのに更に強い形態って………なんでえ!? こ、これがオーバーキルとかいうヤツ…? ……それはまたなんか違うか。

 

 

 

「あーくそッ…」

 

 今の俺が挑むのが無謀な相手だってのはわかる。今、嫌ってほどにひしひしと感じてる。でも、ソウゴはまだまだやる気だし…ソウゴが満足するまで戦わないと「この世界から脱出する方法」も聞けないだろうし。勝ち目がなかろうがやるっきゃない。

 

「やってやるしかねぇか!」

 

 俺は自分に言い聞かせるように、自分を鼓舞するようにそう吠えてジオウに向かって跳んだ。作戦は変わらず「ガンガン行こうぜ!」で。

 

「どらあああッ!」

 

 空中で殴りの構えをとり、ジオウの真ん前に着地し素早く右拳を振るう俺。まぁその攻撃はフェイントで……俺は左足をジオウの頭部目掛けて振り上げた。しかし、

 

 

!ーー見えた。あんたの未来が!

「っ!? がはっーーぐわあっ!」

 

 ジオウはまるで俺の動きが全て分かっていたかの如く、フェイントに一切引っかからず俺が振り上げた左足を片腕で掴むと空いた片手でパンチを繰り出し、追撃にジカンギレードで俺の胸を突いた。

 

 待て待て待て…!!

 今食らってみて分かったが…さっきまでのジオウと違って、ジカンギレードよりも普通のパンチの方が威力高くなってないか!?

 

「そらあっ!」

 

 そんなことを考えている間にいつの間にかジオウの手にはジカンギレードとはまた別の剣が握られており、それはジオウは何の躊躇いもなく俺に投擲してきた。け、剣投げるとか蛮族かよこいつぅ!? いや、まぁ俺ももし剣持ってたら投げて攻撃とかもするかもしんないけどさぁ……!

 

 投げられた剣は俺の胸を直撃し大きな火花が散る。

 そして俺は地面に倒れ、

 

ライダーフィニッシュタイム!

「くッ……!」

「これで決める!」

トゥワイズ タイムブレーク!

「! やばい…!」

 

 ジオウはその隙にベルトに装填した片方のライドウォッチのボタンを押すと、ロックを解除してベルトを一回転させて跳んだ。必殺技…! 絶対これ食らったらやばいだろ!? というかこの人今「決める」とか言った? え、()る気100%じゃねーか!?

 

「っ…く、ぐぁ……!」

 

 急いで立ち上がろうとする俺だが、ジオウIIによって受けた攻撃…特に今食らった剣の投擲がやばかったのだろう……体はすぐには立ち上がってはくれない。その間にもジオウは空中で蹴りの構えをとった。

 

「はああああ!!」

(あーー死ねるわコレ)

 

 ジオウの右足にはマゼンタ色のエネルギーが収束。凄まじい威力と速度を持った必殺技(ライダーキック)が放たれる。回避が間に合わないと分かった俺は反射的に両腕をクロスし防御の態勢に入り、

 

 

 

 

 

ーー魔王、お前そいつを殺す気か?

 

 

 ーージオウの必殺技が直撃する直前。

 誰かの声が響き、俺が前を向けばそこには銀色の幕?のようなものが俺とジオウのちょうど間に出現しており、

 

「! ーーっと」

「! え、あ、おぉ……!?」

 

 ジオウの姿がその銀色の幕?の中に消えたかと思うと、後ろを振り向けばそこにも銀色の幕?が現れジオウはそこからまるでワープされたのかように出てきた。な、なんなんだこの幕みたいなの……? というかさっきの声は…

 

「ーー門矢士、あんたも来たんだ?」

「少しそいつに用があってな……来て正解だった。運が良かったな? あのままだったらお前死んでたぞ? ま、ここは現実じゃないがな」

「え? あっ、ありがとうございます?」

 

 ジオウは左右に装填したライドウォッチをスロットから抜き、変身を解除すると横に目を向けて口を開く。その視線につられて俺もそちらを見れば、いつから居たのか……そこには首からマゼンタカラーのカメラをぶら下げた男が立っていた。男の言葉に俺は「助けてくれたってこと?」と疑問を抱きつつ、ジオウに続きショットライザーからプログライズキーを取り出して変身を解除して軽く頭を下げ感謝する。

 

 というかこの人誰…?

 ……初対面だよな?

 

「えっ、あ、あのー……どちら様?」

「……この世界で名乗っても、どうせ目覚めればお前はここでの出来事を綺麗さっぱり忘れる。お前のその質問に答えるのは無意味だが……門矢士ーー通りすがりの仮面ライダーだ」

「あ、どうも」

(と、通りすがりの仮面ライダーって…どゆこと……?)

 

 いや、聞いたのは俺だけどさ…?

 返答が訳分からず混乱するが、どうやらこの人も「仮面ライダー」らしい。ジオウと同じく人の「夢の中みたいのものらしい」この世界に入って来てる辺り、きっと彼もまたかなり特異な存在なのだろう。

 

「それにしても…やり過ぎだ魔王。現実じゃないからといって『後輩』を容赦無くいじめすぎだ」

「あはは、ごめんごめん………ちょっと待って? ねぇそれあんたが言う?」

 

 二人の会話を聞きながら、俺はライジングホッパープログライズキーをホルダーにセットする。つうかソウゴぉ? ほんとにやり過ぎだかんな? 多分あれ食らった門矢さんの言ってた通り俺死んでたよな……魔王こっわ…俺息抜きで殺されるとこだった(畏怖)

 

「ジオウ、戦いも終わったし…教えてくれ。

 どうすればこの世界から出られるんだ?」

「簡単だよ。あんたが本気で『生きたい』と強く思えばいい」

「……そんなんでいいのか?」

 

 常磐が言った、予想以上に簡単な方法に俺は思わず首を傾げた。正直半信半疑だが……信じてみるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 ジオウと俺の戦闘はこうして幕を閉じーー。

 

「待て。天本太陽」

「はい?」

「言ったろ? 俺はお前に用があって来た」

「………ま、まさか息抜きで戦えとかーー」

「ーー違う。そこの魔王と一緒にするな。

 俺の用はお前に会いたいというヤツがいてな。お前をそいつと会わせることだ。……あー安心しろ。そこまで時間はとらないだろうからな」

「俺に会いたいヤツ…?」

 

 こんなわけわからん世界で俺に会いたいヤツ……誰だ? 全く予想がつかないんだが……

 

「それじゃ、これで一先ずお別れかな?」

「……息抜きでボコられた挙句、殺されそうになった件は許せんが……」

「ほんとごめんね? 思ったより手強くてついさ」

 

『つい』で殺されそうになった人の気持ちも考えてみてください! まぁ夢の中みたいな世界だから正しくは「死ぬ」訳ではないんだろうけど。

 

「まぁどうせ忘れちまうから許すけども……まぁ、ありがとなジオウ。マジで色々と助かった」

「どういたしまして。俺もまたあんたに会えてよかった。それじゃ……じゃあねバルデルーー天本太陽」

 

 常盤が差し出してきた手を掴み、俺たちは最後に握手をする。きっともう二度と俺と常盤ソウゴが出会うことはない……その方がむしろいいのだろう。俺は何故かそう直感的に思った。

 

「それじゃあ、とりあえず会ってこい」

 

 門矢士はそう口にし、手をくいっと動かす。

 すると俺の後ろに出現していた銀色の幕?が回りながら俺の方へと移動して、

 

 

「うおっ!?」

 

 

 ーー俺はその中を通過した。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「! ここは……」

 

 銀色の幕の中を通過した俺の目に最初に映ったのは、さっきまでの真っ白な…見るからにして不可思議な世界とは違った。足元には草が生えており、辺りには何らかの建物や木がある。随分と普通な光景だが……俺には見覚えがあった。

 

「通信衛星の発射場……?」

 

 デイブレイクが起こる前。

 実験都市に住んでた時に実際に一度だけ見たことがある。それにテレビでも報道されてたっけ……『飛電インテリジェンスが開発した通信衛星、いよいよ発射!』って感じで。

 

 俺が今立つこの場所はその通信衛星の発射場によく似ていた。だが、そこに設置されていた発射予定の衛星はどこにも見当たらない……。

 

「来たか」

「!」

 

 後方から聞こえた声に俺はすぐに振り返る。振り返った先には、

 

「……あんたは……」

(ヒューマギアか?)

 

 ーー耳にヒューマギア特有の機械を付けた男が立っていた。……その姿を見るにワズと同じく、多分この人も初期型ヒューマギアってやつなのだろう。

 

「あんたが、俺に会いたいっていう…?」

「あぁーー俺は飛電其雄、ヒューマギアだ」

 

 俺が問えば男ーー飛電其雄は簡潔に名乗る。

 ………俺の記憶が正しければ、俺がこの人と出会ったことは「元の世界」でも「ヒューマギアに支配された世界」でもないはずだ。なら、彼は何故に俺に会いたかったんだ…?

 

……そうか、君が『仮面ライダー』の力を……これも運命というやつか…

「え?」

「いや、よく来てくれた。俺から君への要件はただ一つだ」

 

 何か小声で呟いていたが…何を言っているのか俺にはわからなかった。飛電其雄……其雄は不思議に思う俺に気付き要件を口にし、

 

「何様だと思うだろうが…君が仮面ライダーの力を持つに相応しいか。俺に見せてくれ」

サイクロンライザー!

 

 どこからか取り出したフォースライザーによく似た形状の……だがカラーリングがかなり異なるベルトを腰に装着する。そして、同じく取り出したプログライズキー…いやゼツメライズキーのボタンを押す。

 

KAMEN RIDER!

ーー変身!

サイクロンライズ!

 

 其雄は「変身」と言いゼツメライズキーをベルトに装填。その直後、現れたバッタのライダモデルが其雄の周囲を跳ね回り、更に強い嵐が吹き荒れる。その中心に立つ其雄は赤いレバーに手を掛けーーレバーを引く。ーー装填されたゼツメライズキーが強制的に展開された。

 

ロッキングホッパー!

Type One.

 

 バッタが其雄に向かって跳び、其雄はスーツを纏い、出現したティールブルーのアーマーが伸縮し勢いよくスーツの上に重ねて装着されーー変身した其雄は俺の変身を待つように動きを止めた。

 

「……はぁー…ったく、どいつもこいつも…」

 

 ついさっきのジオウとの戦闘を思い出し、俺は自らの腰に手を置いてため息をつく。……あんたが一体何者なのか俺は知らない。仮面ライダーの力を持つに相応しいかどうかって…相応しいわけあるか。俺より「適任」がいるって俺自身今でも思ってるんだしな。でも、

 

ーー俺にも守りたいものがある

 

 俺にも…誰にも譲れない、守りたいものがある。

 それを守る為に俺はこの「仮面ライダー」の力を使ってきた。

 

 ……戦うのは怖いけど、俺はきっとこれからも戦うのだと思う。

 

ショットライザー!

 

 だから、俺の全力…見せてやる。

 

 

「……わかった。やってやるよ」

ストロング!

オーソライズ!

 

 腰に装着したバックルに取り付けたショットライザーにプログライズキーを装填し、俺は右手でプログライズキーを展開。素早くバックルからショットライザーを取り外し上に掲げ、銃口をゆっくりと下ろし前に向け、

 

Kamen Rider. Kamen Rider.

ーー変身ッ…!

ショットライズ!

 

 ーートリガーを引く。瞬間に発射された弾丸を其雄は躱し、ストレートな軌道で返ってきた弾丸に俺は右のアッパーを打ち込む。

 

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 そして、展開された黄緑と白のアーマーが装着されていきもう随分と聞き慣れた変身音が響く。

 

 

──俺は仮面ライダー1型。人間とヒューマギアを守る為『夢』の為に戦った(・・・)仮面ライダーだ

 

 

 変身を果たした俺を前に其雄…仮面ライダー1型はそう言う。

 

 何の為に戦うか。

 あぁ、俺が戦う理由はきっと──

 

 

 

──俺は仮面ライダーバルデル。俺が守りたいみんなの『未来』の為に戦う(・・)仮面ライダーだ!

 

 ──俺が守りたい人達の『未来』の為だ。

 

「仮面ライダー1型」と「仮面ライダーバルデル」は同時に駆け出し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ある男の意識は覚醒する──

 

 

──彼が見る未来は果たして──

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

・天本太陽(?)
意識不明の状態で、十年以上経った今も目覚めぬ男。ヒューマギアに支配された世界で、仲間の為に戦い……最後に歴史が元に戻った後、彼もまた意識不明の状態に戻った。目覚めぬ間、自らの記憶を全て失った状態で夢の中のような真っ白な世界を放浪し続けていた。「常盤ソウゴ」の助力により、夢の中のような世界では正史√で使用したライジングホッパープログライズキーを使用可能+令ジェネ√での十年以上の戦闘経験+記憶も持っている。

そのため「元の世界」「ヒューマギアに支配された世界」そのどちらの天本太陽よりも強いと思われる。年齢という概念が夢の中のような世界に存在するかは不明。

・常磐ソウゴ(?)
最高最善の時の王者、仮面ライダージオウ。
令ジェネ√の先輩ソウゴっぽく書こうと思ってたけど、書いてたらいつの間にか序盤・中盤辺りのお茶目なソウゴっぽくなっちゃいました(夢の中のような世界だからってことでよろしくお願いします)
独自設定で一度だけ令ジェネの世界でオリ主と共闘している。相変わらず強く、息抜きでバルデルと戦い、容赦なくジオウIIまで使用した。これを「ン我が魔王容赦ない…!」と思うか「ジオウII使わせるとかオリ主頑張ったな…!」と思うかは人それぞれ。ちなみに通常のジオウでも普通にバルデルを圧倒してるし、ジオウIIにならなくても何らかのライドウォッチでアーマータイムすれば多分普通に勝てる。流石はン我が魔王……!

・門矢士(?)
通りすがりの仮面ライダーこと、仮面ライダーディケイド。
オーロラカーテン便利過ぎ……と思いつつ書いてた。ソウゴに対し「後輩をいじめすぎだ」と言うが彼のジオウ本編でのゲイツやジオウに対しての行動を見るに、完全なおまいう。でも士なら尊大な態度で自分のことを棚に上げてこういうこと言いそうな気がしないでもない。


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【仮面ライダーゼロワン】
十数年振りの覚醒


作者の怠惰心「待て待つのだGO!」
読者の皆さん「イッテイーヨ!(やったれの意)」
作者「行っていい(投稿していい)ってさ…」

皆さんのイッテイーヨに背中を押され新章、始まります!本編と少しずつオリ主を絡ませていこうと考えてる今回。いよいよ「ある男の〜」っていうタイトルがあまり思いつかなくなってきたので多分次回からは徐々に違う感じのタイトルになると思います(多分)

今回は「次章プロローグ」的な回です。
※タイトルはキバとは関係ないです。
※序盤プロジェクト・サウザーのネタバレ注意!
※時系列がポンポン飛んでます。

それでは、どうぞ。


 

「──道具如きが私に意見するな」

 

 

──乾いた銃声が響いた──

 

 

「……えっ……?」

 

 ZAIAエンタープライズジャパン本社、社長室。

 そこには今一人の男と一体のヒューマギアが居た。

 男は手に持った拳銃をヒューマギアに向け、ヒューマギアは青い液体が流れる胸を押さえる。……ヒューマギアの中では突然の事態に対する「恐怖」よりも「驚愕」が上回っていた。そんなヒューマギアに、

 

──私はヒューマギアを認めない

 

 ーー冷酷にそう告げると、男は引き金を無慈悲にも再度引いた。それは明確なトドメだった。

 

──乾いた銃声がまたも響く──

 

 更にもう一発の弾丸を受けたヒューマギアは、燃料である青い液体を損傷した部位から大量に流しながらばたりと物のように倒れた。恐ろしい事をした男だったが、彼は何の感慨に浸る様子もなく…一瞬だけ目を閉じ何かを思い出すと力強く口にした。

 

『ーー俺は、あいつと……滅と戦います』

 

『……まぁ、何だ、俺も天津さんに会えてよかったです』

 

『みんなの未来は俺が守ってやるッ…!

 お前の計画はここで終わりだ、滅ッ!』

 

 

──絶対に

 

 そして、男はその後の部下からの緊急連絡を受けて部屋に倒れるヒューマギアにまだ利用価値があると判断するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 私がそれを見つけたのはただの偶然だった。

 

 ショットライザーやプログライズキー、その他の開発してきたアイテムのデータを整理していた私「刃唯阿」はあるデータファイルを見つけた。その映像が記録された日付は今から十二年ほど前。そのデータファイルの名前は、

 

【試作品(仮称)ショットライザー実戦運用

 使用者(テスター):天本太陽】

 

「天本太陽……?」

 

 一切記憶にないデータとテスターの名前に私は思わず首を傾げる。

 

 私は人工知能特務機関A.I.M.S.の技術顧問であり、A.I.M.S.特殊技術研究所の最高責任者も兼任している。更にはZAIAエンタープライズジャパン内では社長直轄開発担当という地位に就いている。そのため「エイムズショットライザー」の完成にも大きく関わっていた。しかし、そんな私でさえ「ショットライザー」のテスターが誰なのか、今の今まで知らなかったのだ。それはよくよく考えればおかしな話だった。

 

 また今思えば社長が私に「ショットライザーの完成」を指示した時、既にショットライザーの戦闘データ・使用データともに充分過ぎる量が揃っていなかったか?

 

「ショットライザーのテスター、か」

 

 何故自分がそんな存在を知らなかったのか……態々知らせる必要もなかったから? 私が自ら「テスター」の存在を天津垓本人に聞かなかったから? 情報が限りなくゼロに近い今の段階で考えたところで答えは出ないだろう。

 

 自身も使用しているショットライザー。そのテスター……よくよく考えれば自分にとって全く無関係な話ではない。むしろ、重要だと思った私はファイルをクリックして開いた。

 

「! なんて数だ……」

 

 開いたファイル内には何十本もの戦闘映像の動画が並んでおり、タイトルは「実戦運用1」「実戦運用2」「実戦運用3」といった風に統一されている。再生してみれば、戦闘映像の撮影は黄緑色のアーマーと白色のアーマーを装着した仮面ライダー?とオニコマギアが対峙しているシーンから始まった。

 

『お前は何だ?』

『俺は天本……いやーーバルデル。それが俺の名だ!」

 

 ーーマギアの問いに彼は「バルデル」と答えた。

 その台詞を聞いた瞬間「飛電或人(ゼロワン)」の姿を思い出しながら私は動画を視聴する。天本太陽の今の台詞やその後の戦闘を見るにどうやらこれが彼にとって最初の変身だったらしい。

 

 しかし、バルデルはマギアに一切臆する事なくほぼ一方的に攻撃を繰り出し僅か数分でオニコマギアを撃破する。その戦闘能力は普段からマギアと戦い、ゼロワンやバルカンの戦いを見ている私の目からしても十分驚異的に映った。

 

(これがバルデル……試作品ではあるが、ショットライザーでの最初の変身者。つまりは、私達の先輩にあたる人物か)

 

 バルデルの戦闘をいくつか見た私はまず最初に「荒々しい」という印象を覚えた。

 

 強靭なそのアーマーで攻撃を受け止め、マギアを強引に叩き伏せ、最後には必殺技でフィニッシュ。実に分かりやすい……見ているだけで爽快な気分になる程に勢いのある力任せな戦い方。

 

「凄まじいな…」

 

 良くも悪くも「荒削り」な戦闘スタイルだったが、私は素直に感嘆の声を漏らす。最初は対して衝撃を受けなかった私だが、最初の戦闘映像から次の映像に進むにつれ急速に成長していく「天本太陽(バルデル)」の戦闘能力には彼のポテンシャルの高さを感じざるおえず、この男は一体何者なのか?という疑問が生まれた。

 

「ただの一般人とは…考え難いな」

 

 データの日付から考えるにマギアと戦闘するようになってから二ヶ月ほどが経過したのだろう……映像を見るにその頃には既にゼツメライズキーでマギア化したマギアを二体同時に相手取り、見事撃破する程の戦闘力を発揮している。どう考えても一般人の所業じゃない。

 

 ーー彼がデイブレイク被害者の自称一般人だとは、今の私は当然ながら知る由もなかった。

 

 そして、続けて他の動画も見ている中で「天本太陽(バルデル)」のその戦い方を私は最初荒々しい部分が不破に似ているなと思ったが……すぐに違うなと思い直した。

 

(天本太陽……この人は、マギアと戦う事を怖れている)

「……何故そこまでして……?」

 

 ーー天本太陽(バルデル)の戦い方は確かに荒々しい。

 しかし、その荒々しさからは「怒り」の感情よりも「怖れ」の感情が強く感じられた。彼の戦闘時のこの「荒さ」はきっと自身を鼓舞する意味合いもあるのだろう、と私は考えた。

 

 だからこそ、思ってしまう。

 彼はどうしてそこまでして戦っているのだろうか、と。

 

 気付けば私は時間を忘れて試作品ショットライザーの実戦運用・戦闘映像の視聴に没頭していた。

 

 そして何十本もあるデータ、その戦闘映像を見始めて数時間後。

 

「ーー……は……?」

 

 何十本目かの戦闘映像。

 それを再生して私は驚愕する。何故なら映像には、

 

『ーーバルデル。そのゼツメライズキーを渡して貰おうか』

『! 滅っ……!?』

「何だと……!?」

 

 滅亡迅雷.netの一員ーー滅の姿が映っていた。

 思わずもう一度映像の日付に目を向けるが……やはり見間違いなどではない。確かにこれは十二年前の映像だ。

 

(まさか……)

 

 戦闘映像が流れる中、私は嫌な予感を覚えた。

 天本太陽は確かに強い。しかし使用しているのは未完成、試作品のショットライザー…ならば変身の際にかかるリスクも高い筈だ。更には相手はあの「滅」である。その戦闘力の高さは私もよく知っていた。ーー唯阿が覚えた嫌な予感……それは「天本太陽(バルデル)」が既に滅の手により死んでしまっているのではないか?というものだ。……私は引き続き戦闘映像に集中する。

 

 その予感が当たらずとも遠からずなものであったということを私が知ることになるのは……それから少し先の話だった。

 

 

 ───────────────────────

 

(唐突に)話をしよう。あれを今から三十六万……いや一万四千年前…な訳はないですね、はい。

 

 とりあえず誰でも分かるよう今の俺が置かれている状況を簡単に説明しよう。目が覚めたら何故か俺はベッドの上にいて目の前には知らない…こともない天井があった。

 

 次に誰かに手を優しく包まれてる感触を感じて、自分の手に目を向けたら……これまた何故なのか……。

 

「! に……(にい)……?」

 

 ーーそこには俺の手を優しく握る涙目の妹の姿(美女)が……いや誰だお前ッ!? 俺の知ってる妹はもっとちんまいな筈だ!(ド失礼)

 こんなランウェイ歩いてそうな美人さんじゃねーぞ!? で、でもよく見ればどことなく美月の面影あるな……いや美少女過ぎるやろ(うち)の妹! 俺の知ってる美月から更にレベルアップしてんだけど…ほ、本当にこの人美月か? 大変身しすぎじゃない?

 

「あうう? あーあう!?」

 

 訳──美月? マジで!?

 ……あれ待てよ? 俺の耳がおかしくなければ今、全然日本語になってなくなかったか俺の声?

 

「に、(にい)っ……! わ、私のこと、わかる…!?」

「あー…えあえ、ううあうあ……あーうう!」

 

 訳──あー…えっと、なんつうか……わかるよ!

 クソダメだあ!俺全く日本語喋れん!なんで!?

 上手く喋れない自分自身にキレた挙句、俺は思わず半ギレで美月の言葉に応える。高確率で正しく伝わってないだろうから笑顔とサムズアップもプラスしといたわ。そしたら、

 

「! うぅ……(にい)…! (にい)ぃ……!」

 

 すると美月は声を震わせて、感極まった様子でまたポロポロと涙を流し出すと、ばっと俺の胸に顔を埋めて泣き出した。

 や、やべぇよやべぇよ!! 多分この女の人、あの美月なんだけどやべぇよ!? こんな美少女を泣かせるとか俺何したんだよマジで! つうか本当にどういう状況だこれ!? 誰か説明してくれ頼むから(倒置法)

 

「あー……あうあー、あう」

(泣くなって妹よ…! 兄ちゃん、どう対応すればいいかわかんなくて困っちゃうから! な、泣き止んでくれ〜!)

 

 俺は自分の胸で涙を流す美少女(妹)に内心めっちゃ動揺しつつ…とりあえず片手で頭を撫でてやることにした。そしたら、なんか涙止めてくれるどころか更に泣き出したけど……その間、手がプルプル震えてしょうがなかったですはい……。ちなみに、美月が泣き止んだのはそれから大体十分後ぐらいのことだった……マジで何したの俺っ?

 とりあえず(何したか俺も知らんけど)悔い改めて?

 

 

 

 

 

 

 

 その後、美月は俺の胸から顔を上げて服の裾でゴシゴシと涙を拭うと「先生呼んでくるね!」と涙痕がまだ残る綺麗な笑顔を浮かべて病室から出て行った。……うん、今の一連の感じは俺の知ってる美月のソレだったな。………それにしても今、どういう状況だ?

 

 

(ここは、病院だよな…?)

 

 美月の発言からも大体分かるが、ベッドから部屋を見渡して……ここが病室だとは俺にも理解できた。また、ここが「もしかしてデイブレイクの時も滅の時もお世話になった病院じゃね?」とも思った。

 

(……待て待て待て! 思い出せ…よぉく思い出してみろ天本太陽! えー……俺は何で病院なんかに居るんです?)

 

 頑張って思い出してみよう、自分自身の最後の記憶を。

 

 はぁー………えー………ふむふむ……(回想中)

 

 うん、うん………わかったかもしんない。

 

「あう……えぇうあぁあう……」

 

 上手く発声できない。

 言葉にならない音を吐いた俺は息をついた。

 

ーー俺……生きてたんだなぁ……

 

 滅との戦いで、どうやら俺は死ななかったらしい。

 うん、いや純粋に嬉しいよ? 嬉しいけど……みんなと俺、きっと今同じこと思ってるよな? いくぞー…せぇーのーー、

 

 

(俺、しぶと過ぎないかあぁぁあ!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーあぁまさか……またこうやって、動く君を見れるなんて…ね? 今年一………いや、人生一驚いたよ」

「! あう? あうかうあ、あーあう?」

 

 訳──! あれ? もしかして、ドクター?

 美月が病室に戻ってくると美月の後ろからはどこかで見た覚えのある……というか俺の記憶にあるドクターによく似た白服の男が立っており、その目は俺を捉えた瞬間「信じられない!」といった感じに見開かれた。つうか普通にドクターだなこの人。

 

「? …あー……流石の君でも『十数年振りに目覚めた』ばかりじゃまだ喋れないよね? なら、これを使ってみてくれ」

(……十数年振りに目覚めた……?)

 

 なんかこの人も声震えてんだけど……つうか今なんかすっごい信じられん台詞聞いたんだけど…コレは触れない方がいいヤツか? 一旦そこをスルーした俺は、ドクターが手渡してきた手頃なサイズのホワイトボードとマジックペンにホワイトボード消しを受け取り、

 

「何か言いたいことがあればそこに書いてみてくれ」

(にい)…! 慌てないで大丈夫だからね?」

 

 了解(多分)ドクター。

 美月お前は心配し過ぎじゃい!

 確かに手は震えてるけど文字ぐらい書けるから。

 ドクターと美月の言葉に頷き、俺は早速ペンでゆっくりと一文字一文字慎重にホワイトボードに書いてドクターに見せる。

 

「さてさて、なんて書いたのかなぁ……」

 

 ドクターはそれを受け取り、美月はドクターが持ったホワイトボードを横から覗いた。そして、

 

「! 感動の再会が、台無しじゃないか……君……。バカだなぁほんとに………ッ」

「でも、すっごく(にい)らしいです。もお……やっぱり(にい)はバカ(にい)だね…!」

 

 ホワイトボードに書かれた言葉を見たドクターと美月は、それぞれそんなことを言った。解せぬ。なんで今俺は罵倒されたんだ? あと何で急に二人とも泣きそうな顔になって、声も更に震えてんの? また美月泣いちゃいそうだぞおい……え何? 俺またなんかやっちゃいましたか? いや「また」ってなんだよまたって!

 

 

 

 ドクターと美月が見たホワイトボードにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

どくたーなんかふけました? みつきおまえはびじんになりすぎやろ!?

 

 

 

 その日「序章の主役」だった男が覚醒した。

 

 本人はまだ知らないが、それはちょうど意識不明の重体に陥ってから十二年越しの「奇跡」としか言いようのない回復……そして、それは同時に新たな波乱の兆しでもあった。

 




仮面ライダーゼロワン!
※セリフはもしかしたら実際の話のセリフと僅かに異なるかもしれません。


そんな今にも死にそうな顔で何言ってんだこいつ…


「私あの人嫌いだもん!」


「またこうして会えて……
──本当に嬉しいですよ太陽君


「不破……不破諌だ」


「俺の方が年上だぞ? 絶対」


「上司が…白い服しか着ないんです」


「十年振り……って事になるんですかね?
──お久しぶりです天津さん


第2話 ある男の入院生活《出会い》

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします! 励みになります!


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長い長い入院生活

今回はタイトル通り「オリ主の入院生活」という回。そして、今回とうとう…彼と彼女と出会います。

また、改めて感想や誤字報告いつもありがとうございます!とても励みになってます!

それでは、どうぞ!


 

「十二年と二ヶ月、更に十八日……それが君が意識不明の状態に陥ってから今日。目覚めるまでのトータル時間だ」

「ーーあ、あうで!?」

 

ーーま、マジで!?

 車椅子に乗って美月に押してもらい、着いた診察室でドクターから告げられた事実に俺は驚愕して思わず声にならない音を上げた。

 

 今の俺多分こんな顔してると思う→(°Д°)

 いやいや顔の話はどうでもいい。

 それよりーー十二年……?

 俺の勝手な予想じゃ長くても一、二年ぐらいだと思ってたんだが………。

 

(そりゃ美月も大人になるわけだ…ドクターも老けるわけだ)

 

 それだけの月日が経ってるのなら、美月の成長も、ドクターの老け(決めつけ)も納得がいく。というか本当によく目覚めたな俺。これ確率的にはどんなもんだ? 天文学的確率ってやつか?

 

よくめざめましたねおれ

「他人事みたいに思ってるよね君? 全然他人事じゃないから。これ君の話だから」

 

 現状、震える手のせいで漢字は上手く書けそうにないので仕方なく全部平仮名で文を書いた俺は、ホワイトボードを見せる。それを見たドクターは席から立ち上がり不機嫌そうな顔で喋り出す。

 いやごめんなさい!何か起きたばっかりのせいか頭がまだぼんやりしてるんすよ。

 

おれがめざめたのってきせきてきだったり?

「本当にね…まさに奇跡だよ。

 しかも意識が回復してすぐにこうして普通に私とボードを使ってやり取りしている……普通に考えてこれだけでも十分異常なレベルさ」

 

 ドクター曰く……意識が戻った直後にここまで意識がはっきりとしており、更に言葉をしっかりと聞き取り、更に更にボードに平仮名だけとはいえ問題なく文字を書けていること自体異常だという。無論いい意味でだけどな。

 

まぁとりあえずいきててよかったっす。じゅうねんいじょうたってるとか、しょうじきじっかんわかないですけども

「それはそうだろうね。まだ頭も混乱してるだろうし、まずは体をしっかり休めてくれ」

え おれまだねむくないですよ

 

 俺がボードに文字を素早く書き見せれば「眠気は関係ないよバカ!」とドクターに怒られた……暫くは絶対安静で、詳しい話とかはまた後日とのことだ。

 

 

 

 

 

 

それにしても………十二年、か。

 

(……これっぽっちも現実味がないっつうか、まだ夢の中にいるみたいっていうか……)

「はぁー……あーう」

「? (にい)、大丈夫?」

「あーあー」

 

 言葉が喋れないって不便だなぁ…テレパシーとかできないもんかね? …まぁ少なくとも一般人の俺には一生できそうにねぇな、と思いながら俺はペンをボードに走らせ、心配そうにして車椅子を押す手を止めた美月にボードを見せた。

 

 

ちょいとだるいだけ しんぱいむよう

「心配無用って…今の(にい)を心配するなとか普通に無理だからね? 私じゃなくても普通心配するよ」

 

 うん、ご尤もな意見だなそりゃ。

 美月…相変わらず常識的な意見だぁ(謎の上から目線)

 マジで安心したわ。

 

「あ、言い忘れてた……バカ(にい)

「う?」

 

 美月の変わらぬ性格を垣間見て若干の感動を覚える俺だったが、車椅子の後ろにいた美月が前に出て来たので俺は首を傾げ──

 

 

──本当に…っ……おかえりっ!

 

 感情がこれでもかと籠もったその言葉を聞いて、今にも崩れてしまいそうな…無理して作ってるのが見え見えの微笑みを見て、俺は察した。

 

 だから、美月の頭に手を伸ばしポンっと置き頑張って口を開いた。

 

た……だぁ、い…まあ

 

『ただいま』その言葉だけは伝えなきゃいけない……そう思ったから少し無理して俺は言葉を紡いだ。

 

そう「十二年」だ。

 美月は十二年という途方もない時間…いい子だからな。俺の事を心配していてくれたんだろう。きっと父さんも母さんも、ドクターも…それに……。その間……一体どんな思いで……どれだけの心労かけたことか。俺には想像もできない話だ。だからこそ、

 

(ありがとうな、美月)

 

 その思いが伝わるように。

 俺は優しく、兄らしく妹の頭を優しく撫でた。いつの間にか妹が俺より大人っぽくなってて兄ちゃん複雑な気分だけども……本当に、ありがとうな。

 

「っ……うぅ…(にい)ぃい……っ!」

 私、寂しかったっ……寂しかったよぉ…!」

 

 ……伝わってくれたのかどうかはわからない。

 ただ、美月は抑えきれずに感情を爆発させ泣き出した。そりゃ十二年だもんなぁ…さっき病室で一回泣いたけど、そんな程度じゃ足りないぐらい美月は寂しかったんだろうな。それに美月はちょっと寂しがり屋だし。

 

 

(やっぱりお前は、俺の妹にしちゃ……いい子過ぎるわ)

 

 ーー改めて俺はそう思うのだった。

 

 

 

 

───────────────────────

 

×月×日×曜日

 とりあえず入院生活が暇で暇でしゃあないから、美月に頼んで家から持ってきてもらったこの日記帳を使って暇つぶしに色々その日あったことを書いていこうと思う。漢字書くのはまだむずいけど頑張ってみることにする。

 

 まず今日、入院生活一日目。

 

俺が起きたらそこは十二年後の世界だった……。

 

 何なんだ、このSF小説の冒頭にありそうな一文は。

 でもこれがマジな話なんだから笑えない。

 何だよ十二年って…お前寝過ぎだろ! もうちょい早く起きれなかったのか……いや意識が戻っただけ「奇跡」らしいけども。

 

 あ、それと十二年経ってることもあって美月は大人に、ドクターは老けてた。なのに俺といえば体はかなり痩せ細ってるけど、外見年齢はパッと見20代前半ぐらい…つまり全然変わってないように見える。だから、尚の事まるで「俺だけ」が周りに置いてかれたみたいに感じるのだろうか?

 

 …………十二年も経ってるっつうことは、俺が意識不明になる前に二期放送が決定してたあのアニメは……二期もとっくに放送して終わってるだろうし、もしかしたら三期・四期の放送とか…あ、あの漫画も完結してんのか? ……待ってめちゃくちゃわくわくしてきたッ!!

 

 よし!今日は徹夜でネット三昧と洒落込……あれ? 十二年って…お、俺のスマホどうなりましたー?

※ちなみに美月とドクター二人掛かりでネット三昧計画は強制的に阻止されました……ちくしょう…。

 

 追記.父さんと母さんが早速お見舞いにきた。そんで二人して即泣きそうになってた。父さんは静かに泣いて、母さんは大泣きして、美月もそれにつられてまた泣いて……ここ病院ってわかってんのこの人達!? ………まぁ、みんな元気そうでよかったわ。父さんも母さんも長い間心配かけてごめん。とりあえず、ただいま。

 

 ちょっと、目にゴミが入った。これ以上は上手く文が書けそうにないから今日はここまでにする。

 

 

 

 

 

×月×日×曜日

 入院してから一週間ちょっと。

 今日、記者の人達が病室にちょー殺到してきた。いやもうやばかった。ドクターとその他の人がいなかったらまずかったな。記者の人達の気持ちも分からんでもない…。十二年の時を経て目覚めた人が現れたら俺も「話聞いてみたいなぁ」って絶対思うし、いいネタになりそうだし……。

 

まぁ何聞かれても、俺まだ喋れないんだけどね!HAHAHA!………はぁー……疲れた。

 

 それと明日、天津さんがお見舞いに来てくれるらしい。どっから連絡きたかって? いや病院に直接来たんだよ。俺も聞いてビックリしたわ。それで電話で「もしかしたら、また記者の人来てお見舞いどころじゃなくなるかもです」って言ったら「大丈夫ですよ。既に手は打ちましたから」とか天津さんは言ってた。相変わらず怪しいというか何という…逆に安心したね。

 

 

 ───────────────────────

 

 

 天津さんと俺の十二年振り最初の会話は電話だった。まず何を言えばいいのか……上手く思いつかなくて、なんだか気恥ずかしくて、俺が発した第一声は「感動的」要素は皆無だったと自分でも思う。

 

「天津さん…ちゃんと社長になれたんですね」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、電話の向こうで天津さんは暫く黙った。天津さんは一体何を思っただろうか? とりあえず俺の台詞を聞いて「失礼だなお前」とは思ったんじゃなかろうか。

 

 それとも…もしかして泣きそうになってたり?(冗談)

 まぁ流石にそれはないか。天津さんが泣くとことかマジでイメージできないからなぁ。

 

「……え、えぇ!君が意識を失ってからちょうど二年後に、正式にZAIAエンタープライズジャパンの社長に就任しましたよ」

 

 少し遅れて、返ってきた天津さんの声はどことなく上擦っているように聞こえたけど……きっと俺の気のせいに違いない。

 

 もし気のせいじゃないとしたら、素直に嬉しいっちゃ嬉しい。というか十二年も経ってんのに、天津さん…よく俺のこと覚えてましたね? と口には出さず内心思った。

 

「そっすか……言うの随分遅くなっちゃいましたけど。『社長就任』おめでとうございます」

「! ふふふ、ありがとうございます…積もる話はありますが、それはまた明日に……何せ、あれから十二年ですからねぇ。直接、君と顔を合わせて話したいことが山ほどありますよ」

「俺もですよ…天津さんに聞きたいことが山ほどある。特に俺が滅と戦ったあの日の…その後のこととか」

 

 そして、俺と天津さんは久々に会話を交わし「また」と電話を切った。

 

「じゃあ、また──天津さん」

「えぇ、また明日お会いしましょう──太陽君」

 

 明日が楽しみだな……これで天津さんの姿も変わってなかったら最早ホラーだわ。二人揃って十二年経っても変わってないとかさ。

 

 追記.この流石に寿命が尽きた(使い物にならなくなった)スマホもどうにかしないとなぁ……。機種変、自分ではまだ行けそうにないし…父さんか母さんにでも頼もう…と思ってたら美月が「私が行ってきてあげる!」と謎にやる気満々で引き受けてくれた。なんか美月、十二年前以上に優しくなってない? 気のせいか?

 

 

 

 とりあえず……ニュースでも見るか。

 

 

 ───────────────────────

 

 天津さんが来ると知って、何故か美月はそれはとてもとても嫌そうな「最悪……」みたいな感じの顔をした。それが気になったので俺はすぐに聞いた。

 

「美月、お前なんでそんな不機嫌そうなん?」

「……別に不機嫌じゃないし」

 

 嘘つけ(ダウト)ッ!

 絶対嘘だね。さっき天津さんの名前聞いた瞬間、一瞬笑顔が固まったやん。次にため息ついたじゃん? しかも今口尖らせたろ? 兄の目は誤魔化せんぞ妹よ! 観念しろッッ!(謎にハイテンション)

 

「顔に『不機嫌です』って思いっきり書いてありますけどー? 家族が嫌そうにしてんのぐらい『十二年』経っても顔見りゃすぐわかる」

「……明日、天津さん来るんでしょ?」

「うん………え? 美月、お前天津さんに会ったことあるのか?」

 

 なんて聞いたものの十二年もありゃ会ってても…いやおかしいだろ。美月は確かに超美少女だけど、あの人大企業の社長ぞ? 会う機会なんてそうそう、

 

「そりゃ一度は会うよ。だってあの人、最低でも一月に一回は(にい)のお見舞いに来てるし……」

「へー………え、一月に一回…!? え、何それ」

 

 ーーあ、お見舞いの時に会ったのか(合点)

 つうか一月に一回ってマジ…? あの人社長だし、多忙な筈なんだが……やっぱ胡散臭いけどいい人だわ社長!

 

「それで? 天津さんが来たら、何でお前が不機嫌になるんだよ?」

「だって──私あの人嫌いだもん!」

 

 ………あ、天津さーん?

 あんたーー今の美月は大人だからわからんがーーお淑やかさと落ち着きには欠けてたけど、基本超いい子の美月にここまで嫌われるとか何したの? というか純粋な「嫌いだもん!」威力高いなオイ。俺に向けて言われてたら枕濡らす自信あるわ……。M(そっち)の趣味の人は興奮しそうだけど、俺にそっちの趣味はないから全然嬉しくない。え? じゃあSなのかって? いや俺にもわかんねぇー。誰か教えてくれ。

 

「確かにあの人のおかげ(にい)は生きてるけど、あの人とにかく偉そうだし胡散臭いし……何か態度が鼻に付くの」

「…まさかお前の口から『鼻に付く』ってセリフが出てくるとは思わんかったわ」

「それに! 天津さん最初、家族に一切許可なく(にい)の病室にお見舞いに来たんだよ? ありえなくない!? 普通家族に許可取るでしょ! 最初病室で会った時ビックリしたもん私。真っ白の不審者が現れたって」

 

 嫌いな理由を美月は言ってくれたが……うん! やっぱ悪いのあんたじゃねーか天津さん! 何やってんのよバカ社長。見舞いに来てくれる気持ちは嬉しいけどもさー。

 

(というか、天津さんの「おかげ」で俺が生きてるってどゆこと…?)

 

 美月、その話ちょっと詳しく教えてくれ。

 

 

───────────────────────

 

 

「! ……本当に、元気そうで何よりです

 

 私は辿り着いた病室の前で小声でそう呟くと、そっと目頭を押さえた後に中へと入った。見舞いに来る中で随分と見慣れたそのベッドの上……友は、あの日から何ら変わらぬ姿でそこにいた。

 

 意識不明の間、彼を死なせないため「延命措置」の為に付けられた人工呼吸器も、痛々しいほどの量が繋がれていた細い管も今はもうない。設置された心電図もピッピッと安定したリズムで鳴り、そこに居る彼が「生きている」事を教えてくれる。

 

「──失礼」

 

 私の第一声は奇しくも初めて出会った時と同じものでーーゆっくりと病室の中に入った。その声に反応して顔を動かした彼は、

 

「! ……相も変わらず、真っ白コーデとか…草しか生えないんですけど。つうか変わってなさすぎでしょ?」

 

 ーー可笑しそうに、嬉しそうに、微笑んだ。

 

「私は、この服装が気に入っているだけですよ。容姿については……お互い様でしょう?」

「あはは、そりゃそうだ」

 

 十二年も経つというのに互いに容姿に目立った変化はない。彼は元々「若く見える」体質だったりするのか? それとも意識不明の間に体で何か突然変異でも起こしたのか? 何てことを見舞いで彼の顔を見る度に考えていた私だが明確な理由は今になってもわかっていない。

 

 でも、私は嬉しくてたまらなかった。

 あの時から変わらないその姿に……まるで、あの日の続きがまた始まったような気がしてならなかったから。

 

「十年振り……って事になるんですかね? お久しぶりです天津さん」

 

 そう言って手を差し出して来る「天本太陽」。

 

「またこうして会えて……本当に嬉しいですよ太陽君」

 

 切望していた友との「再会」に。

 私はきっともう誰にも見せることはない、そう思っていた心からの穏やかな笑みを浮かべその手を握った。

 

 ……少し泣きそうになったのは彼には内緒である。

 

 

───────────────────────

×月×日×曜日

 入院生活が始まって早二ヶ月。

 流石にデイブレイクの時や滅にやられた一回目の時のように「はい退院」とはいかなかった。まぁ、まだ松葉杖なしじゃ移動できないし、そりゃそうだ……まぁそれでもドクターには「いや十二年以上意識不明だったのに、たった二月で普通に喋れて、もう車椅子要らずとかおかしいってレベルじゃないからね? そこんところわかってる?」って言われたけど。ほんと、俺を丈夫な体で産んでくれた母さんには感謝の極みだなー……。

 

 そうそう。

 それと松葉杖で動けるようになってからは、リハビリもスタートした。予定よりもかなり早いらしいけどまぁ回復が早いに越したことはないだろう。まだ上手く手足に力が入んないけどとりま頑張ってる。

 

 あー、あともう一つ。つい二週間前ぐらい。

 ここの病院に重傷の人が一人緊急搬送されてきてさ……運ばれていくとこ病院のエントラスで偶然見たんだよ。その人もドクター曰く「回復力が異常」らしい。しかも最近、リハビリの時間が俺と一緒でその人とほぼほぼ毎日会うんだよな。名前は確か「不破諌」。

 

 

 追記.……病院に緊急搬送されて、少し前から気になってたんだが一体何したらあんなボロボロになるんだろうか? ただの喧嘩とかじゃ、まずあんな風には何ないだろうし……まるで俺が滅に負けて病院送りになった時みたいな……いや、ありえない話だけどな?(笑)

 

 ───────────────────────

 

 滅に敗れた俺「不破諌」は病院に搬送され、現在入院生活を送っていた。回復力が高いこともあり、体は順調に回復し今ではリハビリもしている……そんなある日のことだった。

 

『どうやら俺には二つの記憶ができちまったようだ』

 

『ヒューマギアに襲われた記憶と……救われた記憶だ』

 

 俺は入院している間、あの日のように病院の屋上に来てはそこから見えるデイブレイクタウンの景色を見渡していて、その日もまた例の如く屋上に来ていた。だがその日は一点だけいつもと違っていた。

 

「……あ、ども」

「………」

 

 ーー屋上には俺より先にとある青年が訪れていた。

 

 それを見た俺は車椅子に乗ったまま無言で踵を返そうとした。だけど何故だか車椅子を動かそうとする手は自然と止まり……口を開いていた。

 

「あんたは、リハビリの時の……」

(いや、それだけじゃない。俺はこの男を知っている……)

 

 松葉杖で身体を支えている青年を俺はこの病院でリハビリをする際に何度か見た時があった。また、それだけじゃなく自分は「彼」を知っている……そう直感的に思うと同時に、軽い頭痛を感じて頭を押さえる。

 

 今、何で俺はこの男を知ってるなんて思ったんだ?

 自分の頭に浮かんだ思考に首を傾げる俺だったがそんなこっちの様子を見た青年もまた同じ様に首を傾げていた。

 

「? あの、どうかしました? もしかしてどこか怪我でも?」

「……いいや、何でもない」

「あ、そうですか……あー、俺邪魔ですかね? 邪魔だったらすぐ出て行きますけど」

「ここは別に俺の場所って訳じゃない。邪魔だなんて思わねぇよ」

 

 自分の様子を伺うように(怒らせないように)という見え見えの腰の低い態度をとる青年に俺はそう答えて車椅子を動かし、青年から少し離れた位置で止まり、そこからデイブレイクタウンを見た。青年は暫くこちらを心配するように横目で見た後に俺が来る前にそうしていた様にデイブレイクタウンに目を向けた。

 

「……あんたは」

「? はい?」

「何でここからの景色を……デイブレイクタウンを見てたんだ?」

 

 こんな風に他人に声を掛けるなんて我ながら珍しいことだったが俺はデイブレイクタウンを感慨深そうに見つめる青年の様子が気になって気付けばそう聞いていた。

 

「何で、何でかぁ………まぁそんな深い理由はないんですけど」

「………」

「懐かしいなぁ…って思いまして」

「? 懐かしい? あんたもしかしてーー」

「はい、俺『デイブレイク被害者』ってやつなんですよ」

 

 青年の言葉に俺は少なからず動揺した。側から見て一般人そのものにしか見えない青年が…デイブレイク事件の被害者であるという事実に。そして、その事実をあっけらかんと明かす青年に。

 

「あんたは……何とも思ってないのか?」

「え?」

「あの事件に巻き込まれて……あんたの人生は滅茶苦茶にされたんじゃないのか? 少なくとも俺の人生は滅茶苦茶にされた」

「! あなたもデイブレイクに?」

「あぁ……そうだ」

 

 次は青年が動揺する番だった。

 こっちの言葉に多少驚いたらしい青年の問いに俺は頷く。

 

「……まぁそりゃ、思うところはありますよ? あの日、いつもと変わらず家を出たら急に爆風に襲われるわ、赤い目したヒューマギアが大量に追ってくるわ……あの事件のせいで俺の人生設計は滅茶苦茶になりましたし。主に就活とか就活とか就活とか就活とか……!」

 

 少し考えた後に、青年はゆっくり当時を思い出すように喋り始めた。それは正しく愚痴だった。

 

「じゃあ怒りは? あんたは怒りは抱かなかったのか?」

「は? いや抱かない訳ないでしょ」

「……は?」

 

 喋る青年の様子からは「怒り」は微塵も感じられず、俺が不思議に思って聞けばーー思わぬ返答が即来る。

 

「そりゃ当時は抱きましたよ。俺の就活滅茶苦茶にしやがってぜってぇ許さねぇ! とか。何がヒューマギアだ滅んじまえ! とか。結構キレてましたよ」

「……でも、今のあんたから怒りは感じねえ」

「年月も結構経ちますし……何より、夢を聞きましたからね」

「? 夢?」

 

 諌にとって青年の言動はその一つ一つが思いもよらぬものだった。

 

「飛電インテリジェンスの社長さん……あの人がデイブレイク事件の被害者に謝罪に来た時に……あの人超熱く『夢』を語ったんですよ。宣伝かな?って最初は思いましたけど。あんな熱く自分の夢を語る人…俺初めて見たんですよね。しかも本気の本気で……今思い出してもすげぇ熱意だったなぁ」

「……それで?」

「そんな飛電さんが言ってたんですよね『ヒューマギアは人間の最高のパートナーになり得る』って。……だからこんな熱い本気な人が追う夢なら、もうちょい期待してもいいかなって」

「……あんたはその言葉を信じたのか?」

 

 俺は青年の横顔を真っ直ぐに見て問いかけた。

 

「流石に、不安もある程度あるっちゃありますけどね? 信じてますよ俺は。というか一般人の俺には信じることしかできませんから」

 

 そう言って青年はデイブレイクタウンから視線を外して俺に笑い掛けた。

 

 俺には青年の思いが、考えがまるでわからなかった。

 どうしてあれだけの事件に巻き込まれ、人生を滅茶苦茶にされたにも関わらず……そんな風に穏やかに笑えるのか……しかし、

 

「あんた……名前は?」

「? 天本。天本太陽です」

「……そうか。あんたはすげぇな」

「……へ?」

 

 誰かの語る夢を心から信じ、過去に囚われることなく前に進んでいける……それができる人間が凄いということは俺にもわかる。

 

「俺は不破……不破諌だ」

「不破諌……それじゃ、不破さんって呼ばせてもらいます」

「あぁ、好きに呼んでくれ」

 

 この日から俺と天本太陽はちょくちょく屋上で会っては話す仲となった。

 

 

 

 

 

 それから、ある日のこと。

 

「そういや、聞く必要もねぇから聞いてなかったが……太陽。あんた年いくつだ? 見た目からして20代前半だろうが…」

「…あーー……やっぱそう見えます?」

「? なんだ違うのか? もしかして10代後半か?」

「いやないない! つうか下がってる下がってる」

 

 俺は思わず「は?」と声を出す。

 下がってる? もっと年齢は上ってことか?

 確かに普通に考えてデイブレイクが起こったのが今から十二年前……なら、今自分と同じく若い容姿の太陽も自分と同じぐらいの年齢だと予想はつくのだが………。

 

「えーヒントを言いますと………不破さんより俺の方が絶対に年上ですね」

「はぁ? 俺は28だが……もしかして29ってことか!?」

 

 太陽の見た目からどれだけ年齢は高く考えても29辺りが限界、そう俺は考えたが太陽の口にした「答え」は俺にとって思いも寄らぬものだった。

 

 

「32」

「……悪いよく聞こえなかった……なんつった?」

「32!」

 

 己の耳を俺は疑った。疑いに疑った結果。

 

「意外だな。あんたもそんな冗談言うんだな?」

 

 これは太陽なりの冗談なのだと解釈して俺は笑った。

 

「え、いや違うからね? これ冗談じゃなくて」

「まぁこんな話はどうでもいいとして」

「……あんたこれっぽっちも信じてねぇな?! 32! 32だからね俺!」

 

 未だに冗談を続ける太陽を完全にスルーして俺は話を切り替えることにした。話し相手ができたことにより俺にとってこの入院生活は決して退屈なものにはならなかった。

 

 

───────────────────────

 

 

×月×日×曜日

 入院生活が始まっていよいよ三ヶ月。

 スマホも機種変し、色々最近のニュースについて調べてたんだが………やばい。いや十二年って時間の長さを実感したね。

 

 まず、飛電インテリジェンスの社長が「飛電是之助」のお孫さんの「飛電或人」になってるってこと。そして、マギアの存在…更には「滅亡迅雷.net」の存在が世間に公表されているということだ。

 

 つうかニュースを見る感じ…滅亡迅雷.netは未だ健在らしい。……どうやら俺は滅を完全に倒しきれていなかったようだ…悔しいことにな。さぁてと、どうしたもんかね……って俺はただの一般人だからどうしたもこうしたもねぇんだけども。それにしても「仮面ライダーゼロワン」か。ニュースで映ってたけど…あのプログライズキーってバッタのやつだよな?

 

 

 追記.今日、昼に病院の中庭に出たら、ベンチに座ってめっちゃ俯いてる人がいた。いや顔暗っ、怖って思って無視しようと思ったんだが、何故だか柄にもなく無性に放って置けなくて気付いてたら声を掛けてた。その人の名前は「刃唯阿」。如何にも有能そうな女性で、最近「仲間」と「上司」によってストレスが絶えないんだとか。

 

 何でも仲間は命令を聞かず突っ込み、上司は胡散臭く何を考えてるのはさっぱり理解できないんだとか(説明する気もないらしい)

 いや、辞めちまえそんな会社!?

 

 ───────────────────────

 

『……あのー』

『? はい…?』

『だ、大丈夫です…? なんかあまりにも雰囲気暗いですけど……』

『あーいえ、気にしないでください。全く全然……大したことはありませんから』

そんな今にも死にそうな顔で何言ってんだこいつ…

 

 私、刃唯阿は滅により病院送りにされた不破諌の見舞いに一度行った際、とある青年に出会った。最初にあった時、青年はお茶の入ったペットボトルを片手に心配と怪訝が半々といった感じの表情で私を見ており………

 

 

「上司が…白い服しか着ないんです」

「純粋にその人のセンスが心配になってきたぞ俺。もしかして替えの服も全部……?」

「私が知っている範囲では全て……」

「とんでもねぇ上司だなオイ」

 

 それからあっという間に時間が経ち、気付けば私は病院の中庭で日頃の不満や愚痴を青年に聞いてもらっていた。

 

「それに前にも話していた仲間なんですが、また私の命令を無視した挙句、血を吐いて倒れたんです……」

「え、大丈夫なんすかその人……!?」

「はい、幸い命に別状はありませんでした」

「! そうか、それならよかった」

 

 私は一般人であろう青年に、事件の話について全ては語らずに喋れる範囲で喋っていた。一般市民に「滅亡迅雷.net」と「A.I.M.S.」の戦闘について詳しく語ることは禁止されているため当然だが。

 

「……ん、そろそろ診察の時間だわ。悪い刃さん、ちょっと行ってくる」

「いえいえ気にしないでください。それより、いつも話を聞いていただきありがとうございます」

「気にしないで。俺も入院生活が暇で暇でしょうがなくて、話し相手がいてくれて正直すげぇ嬉しいし」

 

 スマホを見た青年はそう言うと、ベンチから立ち上がりベンチに座る私に軽く手を振ると中庭から去っていった。その背に私も手を軽く振り……今更なことに気付いた。

 

「……そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」

 

 青年に名前を聞くのを今の今まで完全に忘れていたのである。

 

(今度会った時にでも聞くとしよう)

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター、退院まであとどれくらいですかね?」

「君それ診察の度に聞いてくるよね……まぁ君のその回復力ならあと二ヶ月もすれば退院できそうだねー。私としては、念のためにプラス一ヶ月ほど入院してほしいけど」

 

 

 

 太陽はこうして、知らず知らずのうちに「仮面ライダー」との出会いを果たすのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 




仮面ライダーゼロワン!


「何? レイダーが現れただと!?」


「俺は最強だァ! ほらかかってこいよぉ!」


「人間が、マギアに…!?」


「患者を守るのが医者の務めだ!」


「最っ高に頭に来たぜ──クソガキッ!」


第3話 トンデモナイ時代!はじめてのレイダー!

最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!
(キャラ紹介あります↓)

・天本太陽(32)
序章から十二年以上もの年月が経った未来で、意識不明の重体から奇跡的に回復したデイブレイク被害者の男。今は完全回復を目指してリハビリしている…またネットニュースなどで色々と情報収集しておりその度に「十二年」という時の長さを実感し驚愕している。
外見年齢は意識を失う以前、20歳の頃と何ら変わらない。

・天本美月(27)
十二年以上もの間、兄である太陽の見舞いに毎日訪れていたやっぱりいい子の少女…じゃなく淑女。容姿は十二年前から更にレベルアップしており、太陽曰く「ランウェイ歩くモデル並み」とのこと。兄が目覚めたことをきっと誰よりも喜んだ人物である。


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トンデモナイ時代!はじめてのレイダー!

今回は遂に新章初の敵登場回です。
また今回の話では、令ジェネ√での太陽と美月がレジスタンスで就いていた役割?才能?の片鱗が垣間見えます…

それでは、どうぞ!


 入院生活が始まって今日で五ヶ月ちょい。

 今日、俺はようやく待ちに待った退院日を迎えた。そして、退院当日…最後の診察に向かう俺の心は晴れやかな気持ちで一杯…………ではなかった。

 

(さてさて…どうしたもんかね)

 

 俺は本気でどうするべきか悩んでいた……悩みの種はただ一つ、

 

(中身は……見なくても大体予想がつくな)

 

 ーー退院祝いにと天津さんから俺宛に届いたアタッシュケースだ。

 中身はまだ開けてない。更に言うなら誰にも見せてないし隠してる。アタッシュケースが俺の病室に届けられたのを知ってるのは診察の際に「ついでにコレ」と渡してきたドクターだけだ。まぁ中身はドクターも当たり前だが見ていない……つまり、まぁ俺が「仮面ライダー」だということはきっとまだ周囲の身近な人には隠しきれているだろう。

 

 は?何で隠してるかって?

 そんなの巻き込みたくないからに決まってるだろ。

 

 じゃあ何で中身を開けてないのかって?

 ンなの怖いからに決まってんでしょうが!(正直者)

 

(これを渡してきたって事は……これからまた俺に戦えってことか? それともホントにただの退院祝い…?)

 

 アタッシュケースは俺が過去に天津さんから渡されたものと全く同じ………中身を開けてないにも関わらず俺はもう確信していた。この中身には「アレら」が入っていると。同時にこれを開けてしまえば最後……

 

(ーーまたあの時みたいな日々が始まるってわけか?)

 

 誤解してほしくないんだが、俺は別に強い人間じゃない。人並みに戦うのは痛いし怖いし…できることならもう二度と戦いたくないってのが臆病な俺の本音だ。でも、

 

(滅はまだ生きている……滅亡迅雷.netだって……)

 

 ーーどんなに小心者でも仮にも「仮面ライダー」だからな。

 

 ーー俺にも守りたいものがある。

 

(天津さん…あんたの目的は、何だ?)

 

 それに、天津さんの事で気になることもある。既にニュースにもなってるが『ZAIAエンタープライズジャパン 飛電インテリジェンスにTOB宣言』に『ヒューマギアの自治都市構想 住民投票』直接あの人に目的を聞かなくちゃならない。

 

 正直な話、この件にはあまり関わりたくないが…天津さんに世話になってる身としては聞かない訳にもいかないわな。

 

(飛電さん…あんたの夢を聞いた一人としてもな)

 

 ーー天津さんが飛電インテリジェンスを買収する目的はなんだ? 単純な会社の利益の為? それとも何か別の…?

 

 俺は病室に誰もいない事を確認してからーーアタッシュケースを開いた。

 

 

 

 

 その後、お見舞いに来た美月を前にして俺はぽつりと呟いた。

 

「美月──悪い」

「! ……待ってよ(にい)。それ何の謝罪?」

「はっ、さぁなー。それよりさっさと診察室行くぞ」

「ちょっと待って! 説明してよ(にい)っ!」

 

 父さんや母さん。美月やドクターに心配かけるのは心苦しいというか、やっぱりすげぇ嫌だけど……──やってやるよ。

 

 

 

 俺は俺の守りたいみんなの「未来」を守る為に戦う。

 

 彼は悩み始めて僅か数時間。

「バルデル」として再び戦うことを決意する。

 その決意はどこまでも、誰よりも強いものだった。

 

 

───────────────────────

 

「うん…まぁ問題はないね」

「ほっ…っていうか、退院前の昨日も診察は受けましたし今日する必要ってあるんですか?」

「そりゃあ普通の患者なら必要ないさ。でも、君は他の患者と比べても…十二年も意識不明だったなんていう超レアケースだ。もしものことがあるとも限らないからね」

「……ドクターって用心深いですよね」

 

 椅子に座って診察の結果が記載されたカルテに目を向けながら、ドクターはうんうんと頷く。それに俺は安心してほっと息を吐き、続いて純粋な疑問を零す。そして、ドクターの言葉を聞いて俺は率直に思ったことを言った。それを聞いたドクターはふっと微笑し、

 

「当然、医者なら誰しも用心深くあるべきだ。患者の話なら尚更ね………それよりもどうしたんだい? 美月くんから君すっごい睨まれてるけども……」

 

 ーー医者についての自論の一つを口にし、続けて俺の背中に先程からビシビシと強い視線を向けながら立つ美月の方を見た。

 

「い、いや別に、何でもなーー」

「ーー何でもなくない!」

「…とのことだけど、私が君達兄妹にとやかく言うことは特にないかな。まぁ喧嘩したなら早く仲直りしなよー」

「……うす」

 

 別に喧嘩…ってわけじゃない。

 あーあ、こんなことならうっかり「悪い」何て言わなきゃよかった……!(後悔)

 

「それじゃあ、これで診察は終わりだ。

 頼むから、もう二度とうちの病院に入院するような事態には陥らないでくれたまえよ?」

「ははは………努力しまーす」

「…はぁ、そこで『はい』と答えてくれれば、私も気が楽なんだがねぇ…さぁ帰った帰った!」

 

 いつものようにドクターはしっしっと手を動かす。俺は一度頭を下げて「ありがとうございました」と感謝を告げてから診察室を出た。できることなら俺も病院にお世話になるような事態にはなりたくないなぁ〜………こればっかりは努力するしかねぇな。主に立ち回り方とかをな。

 

 

 

 

「バカ(にい)! 説明してよっ!」

「ここ病院だぞ? 子供じゃねぇんだから騒ぐな騒ぐな」

「ッ…じゃあちゃんと説明してよ。(にい)……また何か危ないことしようとしてるの…?」

「………危ないことって何の話だ?」

「あんな血だらけで、ボロボロで病院に運ばれて……十二年以上も意識不明だったんだよ? そんなの普通じゃないよ。(にい)が何か……危ないことしてるって考えるのが普通でしょ?」

 

 あぁそりゃそうだな。

 つうか美月、やっぱお前ちゃんと大人になったんだな。十二年はあんなにちんまいだったのにさ。

 

「危ないこと……記憶にねーなぁ」

「…どれだけ聞かれても答える気はない、そういうこと?」

「………さぁな」

 

 俺は家族や友人の誰にも、この件を明かすつもりは毛頭ない。下手に明かして巻き込んじまったら…俺には責任がとれないからな。

 

(マジで小心者だなぁ俺は……本当に今更だけど)

 

 気まずい空気が流れる中、俺たちは一旦三階にある病室に戻ろうとしーー俺は足を止めた。

 

 

…俺は……俺は……俺は……

「……?」

(何だ、あの人…?)

 

 ーー俯きながら何かをぶつぶつと呟いている青年がエントランスに突っ立って居るのを見つけて、俺は心底不思議に思う。如何にも怪しい……不審者か? どうやらそう思ったのは俺だけじゃなかったようで病院を出て行く際にその青年の横を通り過ぎていく人は皆「なにあれ?」って感じの顔してひそひそ話をしている。それに受付にいるスタッフも怪訝そうに青年に目を向けていた。

 

「俺は……」

 

 黒のスーツを着ているが服自体はかなりくたびれている……しかも、見た目は随分若いもんだから尚更不気味っつうか…奇妙さが際立っている。

 

「俺はァ……!」

「!」

 

 

 青年は突然声を苛立たしげに上げると、顔を上げる。その目はぎらぎらとしていて俺には男が何らかの「危険性」を孕んでいるように感じられてならなかった。だから、咄嗟に俺は後ろにいる美月の前に腕を出して後ろに下がらせる。

 

「ーー俺は強いッ…!」

(あれは…ドライバー?!)

 

 懐からドライバーらしきものを取り出した青年はそれを腰に当て装着し、続けて俺がよく見知った形状の物を取り出す。それは、

 

ハード!

「! プログライズキー…!?」

 

 ーーグレー色のプログライズキーだった。

 待て待て待て! この流れは嫌な予感しかしねぇぞッ!?

 

 ひっどい事に俺の「嫌な予感」はよく当たる。

 今までの経験でそれは嫌というほど実感してるからな。

 

 周りの人はまだこの後の展開が予想できてないらしい。

 特に変わらず、奇妙なものを見る目でドライバーを装着しプログライズキーを取り出した青年に視線を向けている……誰も危機感を抱いた様子はない。そりゃそうだ。側から見れば、あれを玩具か何かだと誰もが思うだろう。

 

「全員! 今すぐここから逃げろッ!」

 

 気付けば俺は咄嗟にそう叫ぶ。その声はエントランスにいた人達全員の耳に確かに届いたがーーもう遅かった。青年はプログライズキーを腰に装着したドライバーに装填し、

 

「実装ッ…!」

レイドライズ!

 

「実装」と言い、左手で俺から見てドライバーの右横にあるボタンを力強く押し込んだ。次の瞬間、

 

インベイディングホースシュークラブ!

Heavily produced battle armor equipped with extra battle specifications.

 

 ーー青年の体を複数のグレー色のケーブル?の様なものが包み、青年の身に分厚い装甲が纏われる。更にその手には機関銃があった。

 

「人間が、マギアに……!?」

 

 その姿はどこか機械的で、どこかマギアに似ていた。俺は変身……いや「実装」した青年を見て思わず驚愕する。

 

「俺の力を……証明してやる!!」

 

 インベイディングホースシュークラブレイダー…通称バトルレイダーになった青年はそう声を荒げると機関銃を乱射し始めた。

 

 

ーー直後エントランスには悲鳴が響き、誰も彼もが逃げ惑い、一瞬の内に病院内は恐怖に包まれた。

 

 

 ───────────────────────

 

「何? レイダーが現れただと!?」

『はい。先程、国立医電病院から緊急通報が入りました』

 

 部下からの連絡内容に唯阿は声を上げる。

 ここ最近異様に増加しているレイダーの出現……しかも今回の出現場所は「病院」。多くの人間が集まる場所…そこにレイダーが現れればどうなるか。まず、被害が甚大なものになるのは避けられないだろう……。

 

(……まさか、昨日研究室から消えた量産予定のプログライズキーとレイドライザー…)

「私も今すぐ現場に急行する! お前達は先に向かって人々の救助を。 それとレイダーとの戦闘は極力避けろ! いいな?」

『了解!』

 

 連絡を切った唯阿はショットライザーとラッシングチータープログライズキーを持ち出しーーすぐに研究室から出る。

 

(考えられる中でも最悪な場所に現れてくれたな…!)

 

 部下から聞いたレイダーの出現場所である病院。そこは数ヶ月ほど前の事になるが…偶然にも唯阿があの青年?と出会ったあの病院だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…まずい事になりましたねぇ」

(病院に現れたレイダーの正体は……恐らくA.I.M.S.にいたあの新人隊員でしょう)

 

 社長室でレイダー出現の報告を唯阿よりも早くに受けていた垓は独り呟く。垓は既にレイダーの正体…犯人の目星がついていた。

 

(唯阿に『もっと上の役職に就かせろ』なんて大口を叩いていたが…こんな事態を起こす様な人間なら、正当な評価だったのでしょう)

 

 唯阿からの報告にあった話を思い出す垓。あの新人隊員の男は割とどこにでもいる「自信過剰」な人間だった。だが、かなり重度の……それこそ「自信過剰さ」だけならば「天津垓」にもを引けを取らないレベルである。自尊心が強く、自分の役職に納得がいかず、不満を徐々に募らせていった結果、彼は遂に暴挙に出た。

 

(量産予定のプログライズキーに、レイドライザーを盗んだのには少々驚かされましたが…)

「これは、私が出る幕ではないでしょう」

 

 今日が退院日の「彼」や病院に居る人々からすればこの事態は災難かつ大迷惑だろう。そして、病院を襲った「レイダー」からすれば楽しくて仕方がないだろう。誰も自分には敵わない、抗えない。自分以上の力を持っていない……そう思っているに違いないから。だが、

 

「ーーそれは大きな間違いだ」

 

 ーー垓は椅子から立ち上がり、ふっといつもの余裕綽々な笑みを浮かべる。

 

「拝見させてもらいますよ、太陽君………

ーー仮面ライダーバルデルの復活を…!

 

 

───────────────────────

 

(あぁーもう…どうしたもんかねぇ……)

 

不幸だ。災難だ。

 なんでこんなことが俺が居るときに限って起こるんだ? 起こるならせめて俺が居ない時に起これやふざけんな!という中々にクズな思いを胸に抱きつつ、俺は壁から少し顔を出し……化け物、人間マギアの様子を伺う。(正式名称はわからんので以下「人間マギア」と呼ばせてもらう)

 

 あの青年…いやクソガキだな。

 クソガキは今病院内、一階を闊歩しながら度々あの機関銃を乱射している。そのせいで壁はズタボロだし、けたたましい銃声が鳴り響く度に誰かの悲鳴が聞こえる……はっきり言って地獄だ。

 

(あのクソガキ…俺は強いだとかなんとか言ってやがるけど、病院を襲った動機は何なんだ? ……見た感じ、好き勝手に暴れてるだけにしか見えんが)

 

 人間マギアになったクソガキの目的はさっぱりわからん。なんか闊歩しながら「ハハハハハ!」と高笑いしたり、「俺は最強だっ!」とか言ったり……完全に頭がイカれて……いやとても正気には見えない。つうか今はマジで奇跡的にーーあいつのAIMがダメダメなお陰か?ーー死亡者は出てないが……怪我人は既に出てる。

 

(正直に言やぁ、こっから逃げ出そうと思えば逃げ出せる。あの人間マギアは目的なく好き勝手歩いてるし、あのまま行けば二階に向かうだろうからな)

 

 目的なくふらふら歩いて暴れ回る人間マギアを見れば、この病院からの脱出はそう難しくはないだろう。その証左に既に何人かはもうここから逃げ出せてるしな。

 

 今ここに残ってんのは逃げようにも自力じゃ逃げ出せないような患者さんや、上の階にいるまだこの状況に気付けていない人、あとは「患者を残して逃げる訳にはいかない!」という医者の鑑みたいな人。それと、

 

「ーー俺みたいに完全にビビっちまってる小心者、と」

「何言ってんのさバカ(にい)

「…………えーっと」

 

………なんでぇ?(ガチ困惑)

 

 おかしいな。見間違え? 幻聴? 隣から妹の声がしたんだが……いや、マジでなんでいんのこいつ!?(二度見)

 

「美月お前なんでまだいんだよ? 早く逃げた方がいいぞ」

「逃げてない人がそれ言うー? 私が (にい)を置いて逃げる訳ないじゃん」

……イケメン過ぎる……

「なんか言ったぁ?」

「いえ何も…!」

 

 美月が突然かつ平然とした様子で放った言葉に俺は思わず両手で顔を覆う。

 

 うちの妹いい子で可愛い上にイケメンって……なんだこの欲張りセットな完璧超人は!? そのスペックほんのちょっとでいいから俺に分けてくれや…! ……そういや前にぽろっとこの本音吐いた時、美月のヤツ「いやバカ(にい)欲張り過ぎでしょ…」とか言われたっけ……あれどういう意味だったんだろうな?

 

 

 閑話休題。

 

 

「……つうか、お前…その後ろに居るガキンチョ共は?」

 

 美月が逃げてなかったことに衝撃を受けてて、すぐに気付かなかったが美月の後ろには何人かの少年少女(ガキンチョ)がいた。それも服装を見るに…どうやらここに入院している患者らしく、皆小さな手で美月の手を握っている。

 

 様子はというと必死に耐えてるが今にも泣きそうな子や、俯いてしゃがみ込んで震えてる子、泣き声は上げてる子…その他諸々。とりあえず全員テンションは死ぬほど暗い……そりゃ自分が入院してた病院にいきなりあんな目的は不明だが、テロリスト染みた「人間マギア」が出てきたら誰だってそうなる。子供なら尚更だ。

 

「あっちの病室で怖くて逃げられなかった子たちだよ。ここ通る時に連れてきたの!」

「そ、そうなのか……」

 

いや行動力ゥ!?!?

 この状況でなんでそんなアクションができんのこの子? 肝が据わり過ぎつうか…最早「いい子」超えて「天使」だろこれ。あとガキンチョ共の様子見るに……この短時間で既に懐いてやがる…! 美月さてはお前、保育士とか教師の才能あるな?

 

(驚きはしたがーーこれは好都合だな)

「ーーンなら、そのガキンチョ共の為にも尚のこと早く逃げろ。それともそいつら見捨ててまでここに残るか?」

「……狡い聞き方するね? バカ(にい)…性格悪いよ」

 

 俺の台詞に美月を頼りにしている子供たちは怖くなり、びくりと肩を震わせる。そして「見捨てないで…!」と言うように皆が美月を見上げる。美月はその反応を受けてから、俺をじとーっとした目で見た。

 

「ちょっとぐらい性格悪い方が生きやすいからなぁー。褒め言葉として受け取っとくわ」

 

 ふふふ、我ながら完璧だ……。

 ガキンチョ共に縋られて、いい子どころか天使の美月が「見捨てる」=「逃げない」なんて選択肢を選べる筈がない。

 

「でも、私いやだよ……ねぇ(にい)一緒に逃げよ? 前にも(にい)言ってたじゃん。自分の命が一番大事だ、誰かを助ける為に命を懸けたりなんてしたくない、基本するつもりもないって…」

 

 悪魔の……というよりは天使の囁きだ。美月のその甘言に「あぁ逃げよう!」なんて即答できればどれだけ楽だったろうな。

 

「…はっ、随分と懐かしい台詞だな」

 

 俺は思わずくすりと笑った。いや、俺からすれば「十二年以上」経ったなんて実感は薄いから懐かしくもないんだが…美月からするとかなり懐かしい台詞だろう。ていうかよく覚えてたな?

 

『美月も知ってんだろ? 俺は小心者だ。だから怖かったらすぐ逃げ出す。自分の命が一番大事だからな。誰かを助ける為に命を懸けたりなんてしたくねぇ。基本するつもりもねぇ』

 

「あー…そうだな。その通りだ。誰かの為に命を懸けるなんてしたくない、基本するつもりもない……その思いは今でも然程変わんねえ」

「! だったら──」

 

 今考えると最悪、あの台詞が美月への最後の言葉になってたかもしれないわけだ。

 

『ちゃんと帰ってくるよね? そりゃお前、別に死ぬわけじゃないんだから……帰ってくるに決まってんだろ?』

(…………)

 

 あの時の言葉は結果だけ見れば嘘にはならなかった。

 実際死にはしなかったし……でも、十二年以上も意識不明でうんともすんとも言わない状態って…美月からすればかなりキツいもんがあっただろう。

 

 それに実際あの時俺は「死ぬだろうな俺」と思ってた。だからあの時、俺は美月に嘘をついたんだ。

 

「──美月」

 

 きっと、美月がここまで頑なに俺を止めるのは「家族だから」「いい子だから」とかの理由の他にその時の事もあるからだろう。ーー俺は美月の目を真っ直ぐ見て口を開いた。

 

「大丈夫だ。本気で死ぬ気なんてねぇ」

「…………」

「…信じらんないだろうけど、あの化け物を何とかする方法があんだよ」

「……バカ(にい)、言ってることとやろうとしてること…矛盾してるよ」

 

 美月のツッコミは本当にその通りだった。「誰かの為に命を懸けるなんてしたくない、基本するつもりもない」とか言ってたくせして…俺は今から中々に無茶して「人間マギア」と戦おうとしてる「あの化け物を何とかしよう」としてる。

 

「まぁここにはドクターも居るし、入院生活中に結構話した人も居る。流石に見捨てるのはなぁ……それに、あのクソガキが暴れてんの見て、俺も結構頭に来てるしな」

 

 この病院に居る人が全員赤の他人って訳じゃない。何よりあのクソガキは一発殴らねぇと気が済まないんだわ。

 

「………はぁ、ほんとにバカだよね」

「………」

「……もしまた、無事に帰って来なかったら……もう一生(にい)なんて呼んであげないから」

「…あぁ、了解」

(ありがとうな、美月)

 

 美月はため息をつくと、一度後ろにいる子供達に目を向けてから本当に渋々…そう言った。その言葉に俺はすぐに応える。

 

 あの日のこともあるっていうのに…俺の言葉をまた信じてくれた美月に俺は心の中で感謝を述べつつすぐ近くに設置してあったソレを両手で取った

 

(にい)、何する気?」

 

ソレを取った俺を見て美月は唖然としたように一瞬目を見開き聞いてくる。そんなの決まってんだろ?

 

 ーー勿論、俺は抵抗するぞ…拳で!じゃなくて……

 

(あいつを何とか引きつけて、アタッシュケースの置いてある病室まで行く……半ば無理難題な気がするが…不思議と何かいける気もする)

 

 

 

──俺は抵抗するぞ…この消火器でなぁ!

 

 

 

 

 

 今冷静になって思い出してみると……この時の俺の頭はマジでどうかしてたと思うんだ。

 

 

───────────────────────

 

 国立医電病院の一階。

 

「やぁ…やだぁ……! 来ないでっ…!!」

 

 レイダーに追い詰められた少女は泣きながら悲鳴を漏らす。

 

「ハハハハ! 俺が怖いか? そりゃそうだよなぁ…俺はーー強いからなァ!」

 

 そんな少女を見たレイダーは楽しそうに高笑いし、銃を持たない方の手を振り上げ少女をすぐに殴り殺そうとした。だが、

 

「やめろっ! 患者には手を出すな!」

「はあ? 何だお前? 邪魔すんなよォ!」

「ぐはっ……!?」

 

 その攻撃を止めるためにーー白衣を着た男…ドクターが横から少女とレイダーの間に割り込み、レイダーの腕を掴む。が、レイダーはドクターを軽々と蹴り飛ばす。壁に背中を強く打ち、倒れるドクターは口から血を漏らすがそれでも立ち上がり化け物に摑みかかる。

 

「何なんだお前? 俺に敵う訳ないクセに何頑張ってんだ? そんなにその子を死なせたくないのか?」

「ッ──患者を守るのが医者の務めだ!」

「…あーそう。ならーー」

「ごはッ…!」

 

 レイダーは掴みかかったドクターの胸にパンチを打ち込むと、後ろによろめきながら倒れたドクターに短機関銃を向けた。

 

「ーーその務めを果たせずにここで死ね」

 

 そして、トリガーを引き、

 

「最ッ高に頭に来たぜ──クソガキ!」

「!?」

 

 ーートドメを刺そうとした瞬間にまたも邪魔が入る。

 

「硬ッ…!? ()たた……」

 

 後ろからの声に人間マギアは振り返ると同時に何かで頭を強打された。無論、レイダーになっている青年に然程ダメージは入らないが視界は確かに揺れた。

 

「な、何だお前はっ!?」

「太、陽……君……?」

「ドクター、ここは俺に任せてください。

 ーーハッ! お前の相手は俺だよバカ!」

 

 素早く相手を視認したレイダーは驚愕し声を上げる。そこにいたのは消火器を両手で持つ青年?で…その顔や様子は誰の目から見てもキレていた。当然だ。目の前で自分の主治医(ドクター)が……命の恩人が殺されそうになったのだから。

 

「そんなもので俺の相手…? できるわけないだろッ!」

「! 危なッ……!」

 

 ただの人間に消火器で殴られたという事実に怒りを覚えたレイダーは全力で殴り掛かる。しかし、青年?はそれをギリギリで躱す。

 

「はっ…?」

 

 普通の人間なら避けられるはずがないのに……レイダーはその事実に更に困惑し激怒する。

 

「どうした? 遊んでやるからかかってこいよ」

「……ふざ、けるなぁぁあ!!」

 

 驚くほどに安い挑発だったが…どんな挑発だろうと、今のレイダーには効果抜群に違いなかった。レイダーは完全に「青年?」をターゲットする。

 

「ーー死ねェーー!!」

「うおっと…!?」

 

 ターゲットにされた青年は消火器を抱えたまま走り出し、レイダーは追いかけながら短機関銃を連射。その一発は青年の抱える消火器に直撃した。

 

「っっ! 逃すかァ!」

 

 そして青年?の手から落ちた消火器から大量の煙が凄まじい勢いで辺りに漏れ出る。結果視界を煙に覆われたレイダーは混乱し、

 

(そうだ! そのまま俺だけを狙えっ!)

 

 ーー太陽は自分の想定通りの展開に内心歓喜しつつ、非常階段を駆け上がっていった。偶然かそれとも必然か……レイダーの放つ短機関銃弾丸は壁を壊し、太陽の身を何発か擦りはするものの、一発たりとも直撃しなかった。

 

 

 

 一人の死人も出さずにレイダーを止めるため、レイダーの攻撃を全て引きつけながら三階の病室を目指す太陽とそれを追うレイダーの命懸けの鬼ごっこが始まり………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いが──お前が好き勝手できんのはここまでだ」

 

──彼の物語が再び動き出す。

 




次回仮面ライダーゼロワン!

第4話 荒いアイツは仮面ライダー!


悲報:天本太陽、序章の主役なのに未だ主人公?補正あり。

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荒いアイツは仮面ライダー!

お待たせしました!
今回はようやくバルデル復活の回。
多分この回の戦闘シーンが今までで一番(作者の中での)バルデルらしさ全開の荒っぽいものになったと思われます。皆さんの中のバルデルのイメージと解釈一致だと幸いです!

それでは、どうぞ!


 医電総合病院三階。

 

「くたばれェ!」

「! がはッ!」

 

 後ろから人間マギアが短機関銃を乱暴に振るう。

 人間マギアの攻撃を間一髪躱すことに成功した俺だが、次に来た蹴りは避け切れず思いきり蹴り飛ばされる。当然その威力に俺は吐血した。

 

()てえなオイ…!)

 

 (いた)ッ!! 死ねるぞこれ!?

 何となく分かっちゃいたがこの人間マギア。マギアと同じかそれ以上に()えぇ……ホントなんでこんな化け物相手に生身で逃走中(捕まったら死)なんてしなきゃなんねぇんだちくしょー! 誰か代わってくれえ!(弱音)

 

「あと、少しでッ……!」

「ハッ! どこに逃げるつもりだァ!」

 

 左手で蹴られた腹を押さえながら、俺は何とか立ち上がり蹴り飛ばされたことで運良く距離が縮まった病室へと入る。その姿は人間マギアから見れば逃げ込んでいるように映っただろうな。

 

(──絶対にぶっ倒す……!)

 

 

──でもそうじゃない。

 

 

──これはお前から逃げる為の行動じゃない。

 

 

──これはお前をぶっ倒す為の行動だ。

 

 病室に飛び込むように入った俺はベッドの横にそっと置かれたアタッシュケースを手に取り、ロックをカチリと外し中を開く。人間マギアが近付いてくるのが足音で分かるが「落ち着いて冷静に…慌てんな」と自分の心に言い聞かせて中身のソレらを取り出し、

 

「ーーアハハ! どうやらここまでのようだなァ? さぁ鬼ごっこは終わりだッ…!」

「………あーそうだな」

 

 病室の出入口に立つ人間マギアに振り返る。

 鬼ごっこは終わり、か……あーそれには同感だ。

 

 ーーさぁてと、久々にやってやるとするか……十二年以上経った今…俺がどれだけ戦えるかはわかんねぇが、

 

──鬼ごっこは終わりにするか

 

 ーーさっきもこの人間マギアに言った通りだ。

俺は今、最ッ高に頭に来てンだよ…!

 

「遂に観念したか? まぁそうだろうなぁ…俺は強い──」

 

 俺の言葉を「諦め」だと思い人間マギアは口を開き、

 

「──はっ、何勘違いしてんだクソガキ」

「……アァ?」

 

 それを遮る形で俺は人間マギアを笑う。

 本当に俺が諦めたと思ってんだなお前? つうかどんだけ自分の実力に自信あんだよ自信過剰か?

 

「お前の言う通り鬼ごっこは終わりだなぁ……それと、お前がやりたい放題できる時間もな」

「? ……貴様、何を言っている…?」

 

 首を傾げ困惑する人間マギアに、俺は左手にバックルが取り付けられたベルトを掲げるように持って告げる。

 

 

 

悪いが今度はこっちの番だ

 

 

───────────────────────

 

「A班はレイダーを引きつけ、B班は病院内に居る人々の避難を最優先に行動してくれ……各員行くぞっ!」

「「「了解!」」」

 

 通報からちょうど十分。医電総合病院前に二台の車両が止まり、現場に到着したA.I.M.S.の隊員達が次々に下りる。そして、対人工知能の為の武装に身を包んだ彼等は警戒しながら病院に突入していく。

 

 

 ーーその時だった。

 

「! 銃声!?」

「上の階からか…!」

 

 突入してすぐに彼等は激しい銃声を耳にした。

 

「! 予定通りA班は上の階にいるであろうレイダーの元に。B班はこの場に残った人々の避難、怪我人の救助にあたれ!」

 

 現場の状況を冷静に確認した隊長の指示に、全員が無駄のない素早い動きで各自行動を開始し始める。

 

 ーー奇跡的に死亡者は0人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 遠心力を利用し勢いよくベルトを腰に装着し、右手に持った赤いラインの入り、銃口近くがメタリックブルーの黒い実銃……『ショットライザー』を素早くバックルに取り付ける。そうすれば、

 

ショットライザー!

「!? そ、それは……!」

 

 ーーショットライザーが起動し聞き慣れた起動音が鳴る。

 

「な、なんでソレを…!?」

「これが何か知ってんのか?

 ……だったら『なんで』か何てわかるだろ」

 

 仮にもA.I.M.S.に所属していた青年はその実銃に見覚えがあった…

 

(隊長の不破と、技術顧問の刃が持っていたものと同じ?)

 

 ショットライザーを見て驚愕する人間マギアを見据えながら、俺は黄緑色のあの(・・)プログライズキーを出してボタンを押し、

 

ストロング!

「俺に、力を貸してくれ!」

オーソライズ!

 

 ーーショットライザーに装填して、そのまま右手でプログライズキーを素早く展開する。十二年も経っちゃいるが、何十回も使ってコイツに命を救われてきたんだ……俺はショットライザーにプログライズキーの使い方を全くと言っていいほど忘れていなかった。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

 

 ーーよく聞いていた待機音が流れ始める。

 久々に聞いたな【仮面ライダー】って言葉……。

 

 続けて右手でショットライザーのグリップを握り、バックルから引き抜き高く上げる。その際に手に感じたショットライザーの重みがどこか懐かしくて…自然と俺の口角は上がっていた。高く上げたショットライザーの銃口を徐に目の前の人間マギアに向け、俺は一呼吸置き、

 

──変身ッ…!

ショットライズ!

「!? ぐっ……!」

 

 ──トリガーを引く。

 次の瞬間、放たれた一発の弾丸が人間マギアの胸に直撃し火花を上げる。人間マギアは予期していなかった出来事に防御をとれずに後退りし、病室から外の廊下へと出た。

 

「おらあッ!!」

アメイジングヘラクレス!

With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.

 

 俺は右手に持ったショットライザーをバックルに再び取り付け、展開しながら俺の方に向かって方向転換し飛んできた弾丸にーー全力の右でのアッパーを打ち込む。そして、右手から順に黄緑と白のアーマーが俺の体に装着されていきーー変身が完了する。

 

 右半身には黄緑色のアーマーを纏い。

 左半身には白色のアーマーを纏い。

 ーー赤く光る複眼。

 

「!? お、お前は…一体何だッ!?」

 

 人間マギアは己の目の前で変身した俺に驚愕し声を上げ問う。その問いかけに俺は名乗る。今からお前はボコる名前だ!よく覚えとけ!

 

 

──俺はバルデル、仮面ライダーバルデルだ!

 

 

 それが十二年以上の時を経て、仮面ライダーバルデルが復活した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──素晴らしい……私はこの時を待ち望んでいたっ!

 

 序章の主役(バルデル)の復活を画面越しに目にした垓は、思わず座っていた席からガタリと勢いよく立ち上がり歓喜に震える。そして同時に、

 

 

「もう既に結果は出たも同然。彼の変身を阻止できなかった時点で──1000%君の負けですよ、新人隊員くん」

 

 ーーレイダーに実装した青年の負けを確信した。

 垓は再び席に座り画面に集中する。十二年以上振りである友人の戦い振りをその目に焼き付ける為に。

 

───────────────────────

 

「──らあッ!」

「! うぐッ…!」

 

 変身して早々、駆け出したバルデルは病室の外へ出て廊下に立つ人間マギアに横蹴りを噛ます。その蹴りを右腕で防ぐ人間マギアだが…威力を殺し切れず手すりのついた壁に背中を強く打ち、

 

「おりゃあァ!」

「ぐはぁ……!?」

 

 ーー俺は続けてその両肩をガシリと捕み、そのまま横にぶん投げる。

 

「さっきまでの威勢はどうした?」

「このッ……ーー貴様アアア!」

 

 そう挑発的に言い更に左手を倒れる人間マギアに向け、指を「かかってこいよ」と言う風にクイクイと動かせば激怒した人間マギアが立ち上がり走り出し殴りかかってくる。

 

「ほっ、そらッ!」

「!? ぐわッ…!」

 

 だが、それを最小限の動きで回避した俺は感覚で振り返らずにそのまま後ろ蹴りを噛ます。後ろ蹴りは人間マギアの背中に直撃。人間マギアはその背後からのカウンターにまたも床に倒される。

 

「こんなもんか?」

 

 相手が怒って単調な攻撃してくれたおかげで超綺麗にカウンター決まった(感動)別に狙ってやった訳じゃないが…上手くいったしヨシとしようそうしよう!

 

「なら…! これでどうだァ!」

 

「調子に乗れる時に乗る」精神で人間マギアを煽る俺。相手はまんまとキレてくれる……まぁ俺も結構キレてんだけどなぁ?過度に煽ってんのは多分それも原因だろう。人間マギアはキレた挙句に手に持っていた短機関銃を構え、

 

「ハアアアッ!!」

 

 ーー躊躇なくトリガーを引く。

 目の前で「人間マギア」になった時からわかっちゃいたがこいつ…正気じゃないな? それこそマギア化したヒューマギアみたいに暴走してやがる……

 

「ーーッ!」

 

 放たれる弾幕を前に俺は素早く両腕を前に出して防御をとる。次の瞬間、数え切れないほどの弾丸の雨が俺を襲った。

 

「アハハハハ!! どうだ、これが俺の力だッ!」

 

 数十発以上を連射した人間マギアは短機関銃を下ろすと、早くも自身の勝ちを確信したのか大きく叫ぶ。そんな中、

 

「っ………はぁ、これで終わりか?」

「!? な、何っ!?」

 

 ーー俺は攻撃が止まった後、ゆっくりと防御の構えを解き調子に乗っていた人間マギアに水を差す様に告げる。

 

「あ、あれだけの銃弾を受けて…!? なんでーー」

「ーー平気かってか? わかんねぇなら教えてやるよ」

 

 動揺する人間マギアに一歩ずつ接近する俺。大量の弾丸を受け、両腕からは僅かにだが黒い煙が上がり火花も散るが……

 

 

「ーーお前みたいなクソガキの攻撃なんざ、俺の体にはちっとも…響かねぇーんだよッ!」

 

 この程度で根を上げる訳あるかよバーカ。

 

「うっ…! な、ぐわッ!」

 

 人間マギアの真前に着いた俺は右の膝蹴りをその腹にぶち込み、続けて人間マギアが持つ唯一の武器である短機関銃を力づくで奪い、その顔面を殴り飛ばす。

 

(はぁー…ったく、()ってぇなあ!)

「おらッ!」

 

 あの銃の攻撃は正直ヤバかった。アメイジングヘラクレスの堅固なアーマーにこんだけダメージを与えんだから……今こうして耐え切って「平気」そうに見えてんのはただの気合いとタフネスだ。

 

 内心で受けたダメージにキレつつ、その怒りをぶつけるように人間マギアから奪い取った短機関銃をへし折る。

 

「お、俺の武器が……!?」

「武器の心配なんて随分と余裕だ、なあっ!」

「!? かはッ……!」

 

 

 そして、ガラクタと化した短機関銃を床に投げ捨てれば人間マギアは「信じられない……」とでも言いたげな様子で唖然としーー俺は容赦なく倒れるそいつをサッカーボールを蹴り上げるかの如く蹴った。まぁ容赦なく……というよりもブランクのせいで力加減が下手糞になってるだけなんだけどな。

 

「くっ、くそッ……!! こんな馬鹿なことがあってたまるか! これは何かの間違いだッ! 俺は誰よりも強い筈だ!」

「悪いが馬鹿なことでもなけりゃ間違いでもない。これはただの現実だ。お前は強くなんてない」

「! ふ、ふざ…! ふざけるなあああーー!!」

 

 俺の台詞を聞いた人間マギアは今まで以上に怒り激昂すると、勢いよく立ち上がり右拳でまた殴り掛かってくる。

 

「ふっ」

「くっ!?」

「どらァ! 落ちろ!」

「ぐわあッ…!?」

 

 その拳が届くよりも早くに俺は右のジャブを人間マギアの頭に打ち込み、怯ませた隙にその胸に前蹴りを放った。結果廊下の先にあった眺めのいい大きな窓を派手に打ち破って人間マギアは下に落ちていく。

 

 ここ三階だし生身じゃまず死ぬだろうけど、あいつ仮にも変身……じゃなくて「実装」してるからな。三階から落ちた程度では倒れてくれないだろ…上手く着地できなかったならそこそこのダメージにはなるか?

 

(あー、まだ動いてやがるよ…)

「絶対に逃がさねぇーぞ」

 

 ……何っ?さっきからやり方がエグい?いやこれが俺の基本スタイルだから。これが普通だから。

 うん(自己完結)俺は割れた窓の付近から下を見てまだ動いている……逃げようとしている人間マギアを視認し、すぐに人間マギアの後を追い三階から下の駐車場まで飛び降りる。

 

「おっと!」

「がァ…! 俺は…俺は…俺は…!」

「お前、硬そうな見た目からも分かっちゃいたが中々しぶといな……」

「俺は最強なんだッ……俺は最強なんだァ!」

(もう俺の声も聞こえちゃいない、か……今助けてやるよ。クソガキ)

 

 完全に正気を失ってしまった人間マギアは前に俺は思う。本音を言えばドクターを殺そうとした相手であるこのクソガキは、半殺しぐらいにはしたいが……流石にそれはやり過ぎな気がしないでもない。何よりきっと今のこいつはマギア化したヒューマギアと同じく、理由は不明だが暴走状態のようなものに陥っているに違いないだろうからな。

 

「最強? ハッ! 俺みたいな一般人にボコられてる時点で、お前が最強な訳あるかよバーカ!」

「証明するッ……! 全て、殺すっ!」

 

 俺が心からの台詞を放ってすぐ、人間マギアは声を荒げると左手をベルト横に伸ばし、

 

(!? 待てよそれはーー)

「ーーやらせるかよ!おらッ!」

「! うぐッ…!?」

 

 ーー人間マギアのその動きに既視感を覚えた俺は咄嗟にバックルからショットライザーを抜き、人間マギアの左手に向かって撃つ。

 

 今の動きはあれだ……マギアが必殺技を発動する時にベルト横にあるボタンを押す時のと全く一緒だった。多分、というか間違いなく必殺技使う気だったなこいつ!? 阻止できてよかったわマジで。

 

「おらおらおらァ!」

「くっ、ぐぅうッ……!」

 

 必殺技を阻止した俺は、撃たれた左手を右手で押さえる人間マギアの胴体に畳み掛けるべくショットライザーを連射する。火花が人間マギアの体から何度も散りーー最後には地面に片膝をつく。

 

「悪いが──そろそろ終わりにさせてもらうわ」

 

 俺は人間マギアに生まれたーートドメを刺すのにはーー絶好の隙を前にしてそう口にし………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー私も今現場に到着した、そっちの状況は?」

『はい、こちらは予定通りA班とB班の二班に分かれ行動中です』

「そうか。なら、レイダーは発見できーー」

 

 部隊から数分遅れで現場に到着した唯阿はA.I.M.S.の車両から下り、部隊のメンバーに連絡をとって状況確認をする。そして、スマホを耳に当てながら病院へと入ろうとした唯阿は、

 

「がはあぁあッ……!」

(! ーーレイダー!?)

 

 突如横から聞こえた何かの大きな落下音を聞き、思わずそちらに目を向けて驚愕する。そこには先ほどまでは間違いなく居なかった筈の「黒いレイダー」が地面に倒れていたのだ。しかも、その装甲には既に複数の傷が見え…明らかに損傷していることが窺える。

 

 ーー更に次の瞬間、唯阿は更に驚くものを見た。

 

「おっと!」

「! あ、あれは…!?」

(まさか……)

 

 信じられない、と唯阿は目を見開く。

 彼女が何度も映像の中で見た……バルカンとバルキリーと同じ白のアーマーにアメイジングヘラクレスプログライズキーの黄緑色のアーマーを装着した仮面ライダー。

 

(仮面ライダー、バルデル……!?)

 

 レイダーを追って現れたその姿は紛れもなく、戦闘映像に映っていた仮面ライダーバルデルのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

ストロング!

 

 右手に持ったショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを左手で押しーー素早くショットライザーをバックルに取り付ける。ショットライザーから鳴り始める待機音にまた懐かしさを覚えつつ……

 

──お前を止められるのはただ一人、俺だッ!

アメイジング ブラスト フィーバー!

 

 ーー俺はバックルに取り付けたショットライザーのトリガーを引き、地面に片膝をつく人間マギアへとダッシュする。

 

「うッ…ぐ、がァ……!」

 

 立ち上がろうとする人間マギアだがもう遅い。

 人間マギアへと駆ける間に俺の右足には黄緑色のエネルギーが収束していき、

 

ーーおっらああああああーー!!

 

ス ト ロ ン グ

ブ ラ ス ト フィーバー

 

 ーー俺は人間マギアに向かいジャンプし、そのまま右足での跳び蹴りをぶつける。

 

「がはっ!? くァ……っまだ、だ…ーーうッ!?

 ぐうぅーーがああああああーーッ!!」

 

 ライダーキックをまともに食らい蹴り飛ばされた人間マギアは声を上げ、地面を勢いよく転がり……立ち上がろうと試みるも次の瞬間にその体から激しい火花が散りーー人間マギアは爆発する。

 

 

 ──戦いはバルデルの勝利で幕を閉じた──。

 

 

「……終わったか」

「ぐはっ………」

「おっと危ねっ」

 

 そして、人間マギアの身に纏われていた堅そうなアーマーは仮面ライダーの変身解除のように掻き消え生身の人間に戻ったクソガキ。どうやらやっと体力の限界を迎えたらしい。装着していたドライバーも外れ、プログライズキーも地面に転がる。俺は後ろにそのまま倒れそうになるクソガキにすぐ駆け寄り、頭をぶつける前に支えた。

 

 こんな風に支えてやる義理は微塵もないが、思い切り後ろに倒れて駐車場の地面……アスファルトに頭ぶつけるとか絶対痛いからな。もし仮に俺がこのクソガキで変身解除…というより実装解除?後に頭強打したらワンチャン死ねるから。

 

「……ここ、は? ッ!」

(ほんとに正気失ってたんだなコイツ)

 

 クソガキは目を見開いて辺りを見渡すとそんなことを口走り、苦しげに頭を押さえた。やっぱり……最初からヤベェヤツだとは思ってたが途中から会話のキャッチボールが成立しなくなってたしなぁ。

 

「!そうだ、俺はレイダーになって……」

「ーー」

「あなたが、俺を止めてくれたんですね…?」

「……別に止めたわけじゃない。ただ頭にキタから殴って蹴った。それだけだ」

「それでも、ありがとうッ…ございます……!」

 

 今目の前に居る痛みを堪えながらも感謝を告げる青年。

 変身する前の暗い雰囲気を纏った青年とも、人間マギアになって好き勝手暴れまくっていたクソガキとも全く違う。ーーまるで別人のようだった。

 

(あのドライバーを使った副作用…みたいなもんって訳か)

 

 なんつう危ねぇ代物だよ……。

 そもそもなんでコイツはあんな危険な物を使ったんだ? 経緯が気になった俺はすぐに聞きそうになったが止めた。今の状態で無理に喋らせんのは命に関わりそうだったから。

 

「感謝何ていらねぇ……自分が何やったか思い出したんなら、テメェが傷付けた人達にちゃんと謝れ。そんで罪を償え」

 

 幸いこいつは誰も殺してない。

 まぁ怪我人は数人出たし、病院だって短機関銃のせいでボッコボコだから実刑は免れないだろうが……流石に死刑にはならない筈だ。いや、そこんところ詳しくないからはっきりとはわかんねーけども。

 

「ッ…はい……はいっ!」

 

 クソガキはその言葉に頻りに頷く。それを見た俺はクソガキをそっと寝かせ身を起こし、転がったプラグライズキーを拾い上げる。グレーのプラグライズキー……インベイディングホースシュークラブ…いや長すぎだろっ!? と思いつつ地面に落ちているドライバーに目を向け、

 

「……ふん」

 

 俺はドライバーを思い切り踏み砕いた。

 作った人には悪いがこんな危ないもん無い方がいいだろうからな……しょうがないね! …まぁ火花がバチバチ散ってたし、俺が壊さなくても勝手にぶっ壊れてたろうけど。

 

(さて……じゃあこれもーー)

「ーーバルデルっ! あなたは、一体何なんだ?」

「……あぁ?」

 

 そして、ドライバーに続きプログライズキーも破壊しようとした俺は左横から聞こえた声にばっとそちらを向き、

 

「! あんたは……」

(刃さん? それに両脇にいんのは……)

 

 思わぬ人物を目にして仮面の下で思わず驚く。

 何で刃さんがここに? しかも両脇には「A.I.M.S. SQUAD」の文字が書かれた戦闘服を着た奴等が居るし……

 

(……あー、なるほど……この人達がA.I.M.S.か)

 

 対人工知能特務機関【AIMS】。

 ヒューマギアの人工知能特別法違反を取り締まる組織……らしい。これまた詳しくは知らない。理由はマギアと戦っていた十二年前も一度も接触したことはなかったし、そもそもAIMSという組織が存在していたかどうかさえ俺の記憶にはないからだ。

 

 ………というか刃さん、あんた何で「バルデル」の名前知ってんの? 何俺もしかして有名人? …なんて訳ないよな。それに何でここに居んだ?

 

(確か病院で話してた時はどっかの技術顧問やってるとか言ってたが…………まぁ今、そこんところはどうでもいいか)

「……ほらよ」

 

 刃さんに関する疑問が増えたがとりあえず今はいい。手に持っていたプログライズキーを俺はふわっと放り投げ、刃さんは驚きつつもそれをキャッチした。

 

「ナイスキャッチ。なら悪いが後始末は頼んだわ」

「! 待てっ!」

 

 制止の声が聞こえたがそれを無視し、俺は先程必殺技をぶっ放した時の爆発によりまだ辺りに立ち込めている爆煙に向かって歩き出す。なんか今の俺……ゼツメライズキーを回収した後に撤退する滅みたいだな。

 

 爆煙に向かって歩いて行き、最後には姿を消す滅の真似って訳じゃないが…似たような形で俺はその場を後にした。こりゃ病院に今すぐ戻んのはちょっと無理そうだな。

 

「──とりあえず一件落着だな」

 

 ショットライザーからプログライズキーを取り出し、変身解除した俺は安堵のため息をつきそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

(今、誰かそこにいたような……?)

 

 変身解除後に道を歩いていた俺は誰かの視線を感じて振り返る。

 

しかし、そこには誰もいなかった。

 

 ───────────────────────

 

「どうした? 迅」

『ーーバルデルを見つけたよ』

「……そうか」

 

 俺は迅の報告を聞いて一瞬だが沈黙した。

 

『意外。もっと驚くかと思ってたよ』

「お前にも言った筈だぞ、迅。バルデルが生きている可能性があると」

 

 デイブレイクの拠点に置いてある端末画面には『意識不明になってから十二年以上! 奇跡の生還!?』というニュースが映っており、それを閲覧しながら俺は言う。

 

「迅、俺が以前にバルデルに関しお前に言ったことを覚えているか?」

『……バルデルが人類滅亡の最大の障害、脅威でしょ?』

「あぁそうだ。その考えは俺の中で未だに変わっていない」

 

 その言葉に迅は僅かに驚きを覚えた。

 彼がバルデルを警戒しているのは知っていたがまさかゼロワン、バルカン、バルキリー、サウザー……他にも多くのライダーが居る今でも「バルデル」をここまで強く警戒しているとは思っていなかったから。

 

 迅にとってバルデルは映像でしか見たことのないある種、架空の存在染みた存在で、更に言えばまだバルデルと直接戦ったことのない迅はバルデルを「過去の仮面ライダー」と甘く見てさえいた。

 

『前にも言った筈だよ滅。今の僕は人類滅亡なんかに興味はない。それにバルデルがどれだけ強くても僕のやることは変わらない』

 

 その言葉を最後に迅は俺との通信を切った。

 

 ───────────────────────

 

 通信を切り、辺りに目を向けた僕はため息をついてベルトを装着した。バックルには既にスラッシュライザーが取り付けられている。

 

「はぁ、あんた達って本当に学習しないよね」

 

 周囲には僕を取り囲むようにしてA.I.M.S.の隊員達が数人立っていた。そんな人間を見て心底「馬鹿らしい」と感じながら僕はバングルに付けたチェーンに繋がれた赤いプログライズキーを取る。

 

インフェルノウィング!

バーンライズ!

 

 右手に持ったプログライズキーのボタンを押し、スラッシュライザーに装填。ゆっくりとプログライズキーを展開し、

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

──変身

スラッシュライズ!

 

 ーートリガーを引いた瞬間、現れた赤い鳥のライダモデルが僕の背後に回り、その翼が分離し迅の体を包み込むように動く。

 

バーニングファルコン!

【The strongest wings bearing the fire of hell.】

 

 そして、その翼が開いた時ーー僕は赤い不死鳥の如き姿に変身を果たす。

 

「誰にも僕の邪魔はさせない。僕は僕のやり方でヒューマギアを解放する」

 

 バックルからスラッシュライザーを取り外し、構えた僕はそう言って向かってくるA.I.M.S.の隊員達との戦闘を開始した。

 

 

 ーー勝敗はすぐに決した。

 どちらが勝ったかなど、語るまでもないだろう。

 

 

 

 

バルデルが表舞台に姿を現したその日に。

──物語は大きく動き出す──

 




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(↓スペックと補足説明のせておきます!)



インベイディングホースシュークラブレイダー
(通称:バトルレイダー)

SPEC
■対象者/職業:?/AIMS隊員
■身長:対象となる人間により異なる
■体重:対象となる人間により異なる
■特色/力:強固な装甲/捕縛力
★必殺技:インベイディングボライド

人間が「レイドライザー」と「インベイディングホースシュークラブプログライズキー」を使って実装した姿。

〈戦闘スタイル〉
今回の使用者であるA.I.M.S.所属の新人隊員は完全に悪意に呑まれ、自分自身でも制御不能な暴走状態に陥っていたため力任せな戦い方をしていた。溜め込んでいた不満が最悪の形で爆発した結果。説得も通じず、加減も効かず、衝動のままに暴れるレイダーと化した。


仮面ライダーバルデル
アメイジングヘラクレス

SPEC
◾️身長:197.0cm
◾️体重:97.6kg
◾️パンチ力:40.8t→45.8t
◾️キック力:26.9t→28.5t
◾️ジャンプ力:15.2m→18.1m(ひと跳び)
◾️走力:4.1秒→3.5秒(100m)
★必殺技:アメイジングブラスト、アメイジングブラストフィーバー

【スペック変動あり】
・パンチ力+5t
・キック力+1.6t
・ジャンプ力+2.9m
・走力一0.6秒

デイブレイク被害者である天本太陽が完成した「ショットライザー」(エイムズショットライザー)とバックアップされた「アメイジングヘラクレスプログライズキー」を使って変身した姿。

〈戦闘スタイル〉
十二年以上前の当時と同じく良くも悪くも荒っぽく力強い。しかし、以前と比べて戦闘中も落ち着いた動きで敵に対処できており、荒削りなパワープレイに冷静なカウンターを加えた戦闘スタイルをとる。ちなみにゴリ押せる時はゴリ押す模様。


※補足説明?
天本太陽が目覚めたのはゼロワン本編でいう所の大体5話辺り。不破さんが病院に搬送されてきたのは8話の滅初変身でディストピアされたから……。また、オリ主が入院していた間は表ではゼロワン本編通りに物語が進行してます。オリ主が十二年以上振りにバルデルに変身した今回の騒動……ちょうどゼロワン本編の30話以降に起こってるという設定です。


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本章の主役(ゼロワン)との出会い

ゼロワンの次回予告で遂にアーク?が出てきましたね…次回予告で言ってた「人間を騙し弄ぶ。『人間から教わった』悪意の一つだ」という台詞を聞いて自分は何故かチェイス味を感じてました笑

皆さん感想、誤字報告いつもありがとうございます!
それでは早速、どうぞ!


飛電インテリジェンス取締役社長 飛電是之助の死去

 

 そのニュース自体に然程驚きはしなかった。別のニュースで孫である「飛電或人」が前社長の遺言状に基づき飛電インテリジェンスの社長になった……というニュースも前に見たからな。

 

(飛電さん、本当にすげぇ人だったんだな……)

 

 飛電是之助の死は世界の損失……?

 という一文から始まり、生前の飛電さんの活躍や経歴が書かれているネットの記事を見て俺はイスに座ったまま部屋の天井を見上げた。

 

 十二年……やはりそれだけの時間が経てば色々なものが良くも悪くも変化してゆくらしい。新たな仮面ライダー達の登場に「マギア」とは似て非なる「レイダー」の登場、滅亡迅雷.netの新たな動き、ZAIAエンタープライズジャパンによる飛電インテリジェンスの買収……子会社化。

 

「……お前は今頃どーしてんだかな?」

 

 飛電さんが亡くなり、更には「全ヒューマギアの廃棄処分」を約束した天津さんが飛電インテリジェンスを買収した今……ワズ・ナゾートクがどうなったのか。

 

 道具が壊れたからって大して話題にならないのと同じように、ヒューマギア一体がどうなったかなんて……超凄い情報網も持ってるわけでも、ましてやヒューマギアにさほど詳しい訳でもない俺には分かりっこない話だ。……だが、

 

 

「──飛電製作所、か」

 

 ──今の俺には知る術が一つもない……という訳でもない。手掛かりはあるにはあった。

 

 ───────────────────────

 

『飛電インテリジェンス』が『ZAIAエンタープライズジャパン』により買収されてからちょうど一月。今日も『飛電或人』は仲間と共に『飛電製作所』での業務をこなしていた。

 

「あぁ〜〜! やっと終わったぁー……!」

「これで本日の業務は以上となります。お疲れ様です或人社長」

「うん、イズもお疲れ!」

 

 何とか仕事を終えた或人は、そこそこの量の書類が積まれた机に突っ伏して溜息を吐く。飛電インテリジェンスの時と比べれば随分と仕事の量は減ったし、楽になったのは事実だが……それでも元は社長とは一切関係のないお笑い芸人だった或人にとって会社の経営というのは如何せん難しいものだった。

 

(飛電インテリジェンスの時の経験があるから、最初の時に比べればまだ上手くやれてる自信はあるけど………うぅ)

「俺ももっと勉強しないとなー……」

 

 今度経営学の本でも買って読んでみようかな、と考えながら或人はデスクに置いた時計を見て、

 

『16:30』

(いつもより結構早くに終わったな)

「……んっ?」

 

 ちょうどそのタイミングで、飛電製作所の電話が鳴った。或人は「仕事の依頼か!」と張り切って電話をとる。

 

「はいっ! 飛電製作所です!」

『! ぁ、スゥーー……』

 

 電話に出て元気よく声を上げる或人。

 それを受けた電話をしてきた人物はそのテンションに驚いたのか、息を吐く音が或人の耳に電話越しでバッチリ届く。

 

 なんか変わった人だなぁ……まだ会話もしていないのだが、或人はそう失礼なことを思っていた。

 

「あ、大声上げてすいません!」

 

 謝罪した或人は電話の相手へ用件を伺う。

 或人の謝罪に「あ、いや、謝んないでいいです。俺が勝手に驚いただけなんで」と早口で言ってから用件を口にし始める。

 

『ヒューマギアに関することで電話したんじゃなくて……そちらに今、飛電或人さんっていらっしゃいますか?』

「えーっと…俺が飛電或人ですけど」

『あっ、あんたが…? あ、すいません「あんた」とか言って』

「いやいや、それぐらい気にしないでいいですって!」

 

 かなり小さなことだが、しっかり謝ってくるのがおかしくって思わず小さく笑い声を零しつつ或人は続く言葉を待つ。

 

『──飛電是之助さんのお墓参りに行きたいんですが、お墓の場所を知らなくて……その、宜しければで構わないんですけど…お墓の場所を教えていただきたくて………それで電話させてもらいました』

「じいちゃんの…?」

 

 思わぬ用件に或人は少々驚きつつも快く了承した。それと共に、

 

「あの、よかったら道案内ってことで俺も一緒に行っていいですかね?」

 

 ーー声からして若く「俺と同じぐらいの年齢なんじゃ?」「じゃあ若くてじいちゃんの墓参りに来る人ってどんな人なんだ?」と思った或人は電話の相手へ僅かに興味を持つ。

 

『……マジですか?』

「あ、いや! 嫌だったら場所だけ教えてーー」

『ーーいやホントに助かります! 俺、方向音痴で多分地番だとか聞いても一人じゃよくわかんなかったろうし……ぜひお願いします』

 

 或人は自分の発言に相手が嫌がったと思い、慌てて口を開くが相手は嫌がっていた訳ではなかったようで……というかむしろ真逆で本当に嬉しそうに電話をし始めてから初めて大きな声を出した。

 

「そういえば、まだお名前聞いてなかったですよね? あの、お名前を伺っても……?」

あ、そういや名乗ってなかったわ……俺は天本──天本太陽です』

 

 それから日時を決めて早速後日。

 或人はイズと共に『天本太陽』と名乗る彼の墓参りに道案内ということで同行することになった。

 

 

───────────────────────

 

「バカ(にい)いつも以上に間抜けな顔してどしたの?」

「『いつも』は余計だぞバカ妹よ……」

 

 ソファにちょこんと座ってテレビを見ていた美月が、食卓近くに四つ置いてあるイス…その内の一つに腰を落としていた俺の方を振り返り言う。え、俺間抜けな顔してたか今?(自覚なし)

 

「若いって……凄いな……」

「若いって、(にい)も若いじゃん」

「いやそれは外見だろ? 中身は32のおっさんじゃん?」

「まぁそりゃそうだけど、(にい)は二十歳の時から十二年以上寝てたでしょ」

 

 飛電製作所への連絡を終えた俺がスマホをテーブルに置き、今さっきまで通話していた相手『飛電或人』のテンションを思い出してそう口にすれば、美月がすかさずツッコミを入れてきた。

 

「実際(にい)の人生経験って二十歳で止まってたようなもんだし………おっさんって言えるほど人生経験積んでなくない? というか私より積んでないじゃん」

「……………」

 

……確かに……!

 美月の意見は一理ある……よくよく考えたら俺、人生経験そこまで積んでなかったわ。

 

「だから、私のこと『美月先輩』って呼んでくれてもいいよ? バ・カ・(にい)ー?」

「絶対やだ」

 

 美月より人生経験積んでない…という話はスルーしよう。このバカ妹を先輩だとは意地でも呼びたくないし。

 

(人生経験、か………ということはある意味、不破さんとか刃さんも俺の先輩ってことか……)

 

 暫し「人生経験」について考えた後、俺はイスから立ち上がりリビングのドアに手を掛け二階の自室に向かった。明日は飛電さんのお墓参り…或人さんとの集合時間は『13:10』だ。

 

(飛電さんって呼ぶと是之助さんと被るから、或人さんって呼んだ方がいいのか…? いやでもいきなり下の名前で呼んでくる人とか普通にびっくりしない…? 俺だったらびっくりするし最悪気持ち悪ってーー)

 

 中々にくっだらないことを考えながら俺は階段を上がっていった。万が一寝坊するなんてあり得ないが……頼んだ側の俺が相手を待たせるとか絶対ダメだよな。スマホのアラームかけとこ。一、二分ならまだ許される感あるがそれ以上遅刻したら社会人失格だしな。…ん? 今思ったけど……俺ってちゃんと一般的な社会人やれてんのだろうか?(今更感)

 

「……………(記憶振り返り中)」

 

『社会人』とは……学校や家庭などの保護から自立し、実社会で生活している人。俺が意識不明になる前やってた仕事?は以下の通りだ。

 

 マギア出現場所をメールで貰う→急行してマギアを倒す→電話で天津さんに報告(偶にこの時に追加でマギアが出現したりもする)→指定の口座に報酬が振り込まれる。

 

「………」

 

 命懸けの仕事?をこなしていたあの日々……あれは果たして一般的な社会人のそれだったのだろうか?

 

(これ以上考えるのはやめとこ…)

 

 俺は自室に入って早々、ベッドにダイブし、枕に顔を沈めてそう賢明な判断を下しーーそうして俺は考えるのをやめた(カーズ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈後日〉

 

 

『13:00』

「………うん、早く来すぎたか?」

 

 飛電インテリジェンスからそこそこ離れた場所にある公園……覚えてるだろうか? 十二年近く前に俺が初めてショットライザーとプログライズキーを持って変身しようと夜中に行ったあの公園だ。

 

 十分前に着いた俺はスマホをポケットにしまい、或人の到着を待つ。我ながら十分前行動とか一般的社会人の鑑だな俺(自画自賛)あ、オイそこ「一般的社会人?」とかいうツッコミはなしな。

 

 

 

──五分後──

 

 

『13:05』

(まぁ、まだ集合時間ではないしなぁ)

 

 五分前に来てなくてもおかしくはない。

 ーーそう思い俺は待った。

 

 

 

──十分後──

 

 

『13:10』

「……まぁ、社長さんだしな」

(今急いでこっちに来てんだろうな…うん)

 

 集合時間になっても公園に姿を現さない或人。まぁまぁ……この程度のキレる俺じゃあない。若くして社長さんやってるから色々疲れてんだよきっと…!

 

「もうちょい待つか」

 

 俺以外は誰もいない公園で独り呟き、それからーー。

 

 

 

──二十分後──

 

 

『13:20』

「………まぁまぁ」

 

まだ許せる(寛大)

 

 

 

 

──三十分後──

 

 

『13:30』

「………まぁまぁまぁ」

 

まだ…まだ、許せる(辛抱)

 

 

 

──四十分後──

 

 

『13:40』

「………まぁまぁまぁまぁ」

 

まぁまぁまぁまぁ(語彙消失)

 

 

──五十分後──

 

 

『13:50』

(もしかして俺、集合時間間違えたか?)

 

 流石にここまで来ると俺が何か間違ってるんじゃないかと不安になり始める。……もしかしてあの人事故にでもあったのか!?

 

 

──一時間後──

 

 

『14:00』

ーーいや遅過ぎだろォ!?

 

おかしい……!

これは何でもおかしい!

 集合時間から一時間経ったにも関わらず、姿を現さない或人…これもしかして今日のお墓参りのこと忘れてる? 一旦帰るか……そう思った俺はベンチから立ち上がり公園を出ようとし、

 

「ああああああーー!?」

「ーーファッ!?」

 

 ーー後ろから聞こえた奇声に俺は驚いて声を出す。思わずバッと後ろを振り返れば…そこには苦しそうに肩で息をする或人さんの姿があった。

 

 ……これはもしかして……

 

「はぁはぁ……! あ、あなたが天本太陽さんですか?」

「そ、そうっすけど…そういうあなたは或人さん?」

「は、はい! 飛電或人です! あのーーほんっっとうにすいませんっ!! 俺寝坊しちゃって…!」

 

………( ˙-˙ )………

 来るのおせェよバァカ!(憤怒)という気持ちと

 あ、無事でよかった(安堵)という気持ちと

 寝坊て……(呆然)という気持ち。

 

 この三つが合わさった結果、自分でもよくわからん無に近い表情を浮かべる俺。その走ってきました感全開の姿見て予想しちゃいたがホントに寝坊したのかコイツ……俺が言うのも何だが、こんな抜けた奴が社長務まってるのか……?

 

「或人さん、気にしないでください。俺も実はついさっき……いや集合時間の十分前には来てましたよーーざけんな」

「! ほ、本当にすみませんっ!」

(あ、ヤベッ…! つい本音がっ!?)

 

 優しい嘘をついて一旦或人さんの謝罪を止めようとした俺だったが、口からついポロっと本音(怒り)を漏らしてしまう。結果、或人に「あ、この人本気で怒ってる!」とバレ……俺は或人さんに更に謝罪される。

 

「あ、あー…冗談! 今の『ざけんな』は冗談なんで! き、気にしないでいいっすよー」

 

 それを再び止めようと怒りを一つ足りとも漏らさないよう、出来るだけ柔和な笑顔を浮かべて喋る。き、気にすんなって! だ、誰にでも寝坊の一つや二つするって! そ、それに寝る子は育つってよくいうしさ!(必死のフォロー)

 

「ざ、ざけんな"は"?」

「あっやべっ」

 

 俺は或人の反応を見て咄嗟に自分の口を手で押さえる。しかし、既に遅い。発してしまった言葉の意味を正しく理解した或人は更に深く深く頭を下げる。

 

「一時間近くも待たせて、本当にすいませんでしたぁあ!!」

(まぁたプレミったぁぁあ!?)

 

 自分自身の失言という名のプレミに俺は内心で悲鳴を上げながら、或人の数度目の謝罪を受けた。

 

 

 

この時の俺は当然考えもしなかった。

 

 

今後コイツと長い付き合いになるなんて。

 

 




仮面ライダーゼロワン!


「じいちゃんとは一体どういった……?」


「俺はまだ、ヒューマギアに期待してんだよ」


「お兄様は『未来』の為に自らの命を捧げました」


「見つけちまったんだなーー自分の『使命』ってやつを」

第6話 オレが知りたいアイツの話

最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!


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オレが知りたいアイツの話

今回は「お墓参りとワズ、オリ主再度覚悟完了」の回。
次話投稿遅れて申し訳ありません!
戦闘シーンは次回をお待ち頂けると幸いです…。
それでは、どうぞ!


 

 或人に案内されて着いた広い墓地。

 そこにあった『飛電家之墓』と書かれた墓の前まで行き、足を止めた或人は「ここです」と言った。

 

「ーー飛電さん、お久しぶりです……なんでか生きてました、俺」

 

 俺は墓の前でそう語りかける。持ってきた白い菊の花束を供え、目を閉じ合掌。こうして誰かの墓参りをするのは父方の祖父と母方の祖母………親族の墓参りを除けば初めてだ。俺、ちゃんと墓参りできてるか?

 

(俺正直今すげぇ悩んでます……)

 

 完全復活を果たしたという滅亡迅雷.net。

 ZAIAエンタープライズジャパン(天津さん)の動き。自分がこれからどうするべきなのか……再び戦う決意をしたものの、今の状況は以前に比べ遥かに複雑なものになっていた。

 

 飛電さんが今も生きていれば、一体俺になんて言うんだろうな?

 

「……ゆっくり休んでください……」

 

 飛電さんが眠る墓の前で俺はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「或人さん、案内ありがとうございました。ほんとに助かりました」

「いや、その…本当にすいません! 一時間も待たせてーー」

「ーーあーあー…もう十分あんたの謝罪は聞きましたって」

 

 墓参りを終え、墓地を出た俺は真っ先に或人に感謝した。それに或人はまた「あの件」についての謝罪を始めようとする。やめろやめろ…! 頭ん中で忘れようとしてんだから思い出させンな!(必死)

 

「で、でも……!」

「その態度見りゃ、遅刻が態とって訳じゃないのは分かりますし……まぁ仮に更に一時間遅れたりとかしたら一発ぶん殴ってたかもですけど」

 

 うん……流石に二時間遅刻したら寛大(笑)な俺もキレてたかもしんない。初対面の人をぶん殴る程度には。

 

「或人さんが色々忙しい人(社長)なのも考慮して、普通に許しますって。だからこれ以上謝んないでください。次謝ったら問答無用でビンタしますよ?」

「………天本さんって、優しい人なんですね」

「……えっ?」

 

 今の俺の言葉に優しさ感じる要素あった?(困惑)

 なかった気がするんだが……一体何を感じたのこの人? 俺を「優しい人」にカテゴリーするとか節穴だなぁ…そういや、ワズも俺のこと「優しい人間」って言ってたっけ。どいつもこいつも俺を勘違いしてやがる……

 

「優しくなんかないですよ、俺は」

 

 今にも殺されそうな他人を見捨てて逃げようとしたり、助けを求める赤の他人に対して「助けるわけねぇだろアホ!自分の命が第一なんだよ!」とか普通に思うぐらいには人間の屑なんだけどな俺。

 ……えっ?でも助けたじゃんって?

 ありゃ気まぐれか何かの事故だから!

 

「……あーそうだ。そんなに俺に対して申し訳ないって思うなら……もう一つ、俺のお願い聞いてくれませんか?」

「! はいっ! 俺が役に立てる事なら遠慮なく言ってください!」

(いや、そんな張り切ってもらうほどのお願いじゃないんだが……)

 

 やっぱり最近の若者のテンションにはおじさんついてけねぇわ(年長者感)……あ、俺の人生経験二十年ちょいだったなそういや。

 

「とりあえず立ち話も何ですし……店の中とかで話します?」

「あっ! それだったらすぐ近くに飛電製作所(うちの会社)がありますし、そことかはどうですか?」

「……えっと、お邪魔して大丈夫なんすか?」

 

 飛電製作所って聞いた話じゃ…機能停止したり、廃棄されたヒューマギアの再起動や修復をしてるとかでZAIAエンタープライズジャパン(多分ほぼ天津さんの独断)と色々揉めてるって聞いたんだが?

 

「全然大丈夫ですっ!」

 

 ………ホントに大丈夫かこれ?

 製作所行ったら何やかんや、奇跡的な確率引いてそのゴタゴタに巻き込まれたりしない…? 正直な気持ち「いやそこはちょっと……」と言って遠慮したいんだが、

 

(目キラキラしとる! なんかめっちゃ期待の眼差し向けられとる!)

 

 これ俺が「飛電製作所じゃ話したくない」とか言ったら、絶対テンション下がるやつやん……うわっやだぁ……「或人のテンションが上がろうが下がろうが気にしなければいい」って思えたらよかったんだが。

 

(その時のことをイメージしたら、罪悪感が…!)

 

 やべぇ、変なところで俺の中にあるかどうかよくわからん「お人好し」が疼く! ……あーちくしょう! わぁーったよ!

 

「なら、お邪魔させてもらいます……」

「! じゃあ早速行きましょう!」

 

 俺の返事に笑顔で声を上げた或人は先程までの道案内と同じく、俺の前を歩いていく。行ってやろうじゃねーかアンタの会社に!(緊張)

 

 

 こうして俺は飛電製作所にお邪魔することになり──或人へ単純明快なお願いをした。

 

 ───────────────────────

 

 飛電製作所の事務室兼応接室になりつつあるスペースに置かれた椅子に対面する形で座るのは二人。俺、飛電或人と天本太陽という青年?で先に口を開いたのは青年の方だった。

 

「ワズ・ナゾートクってヒューマギアのこと、ご存知ありませんか? 飛電さんの右腕的な存在だった、探偵型ヒューマギアなんですが……」

「! ワズのことを知ってるんですか!?」

「……その反応的に、ワズのこと知ってるんですね。なら話は早い。あいつのこと、教えられる範囲でいいので俺に教えてほしいんです。お願いします!」

 

 その「お願い」を聞いた俺は心底驚いた。電話を受けた際にも声からして若いとは思っていたけど……実際に会ってみれば外見年齢も自分と同じぐらいだった。俺と大して年が変わらないように見える人がどうしてワズのことを?そもそもじいちゃんと彼は一体どんな関係なのか……気になって仕方なかった。

 

「その前に一つ教えて欲しいんですけど、天本さんはじいちゃんとは一体どういった……?」

 

 だから俺は直球で彼、天本さんへと聞いた。

 

「どういった……そうっすね。簡単に言うと、一度飛電さんには助けてもらったことがあるんです。まぁ正しくは飛電さんの命令を受けたヒューマギアに、ですけど」

「そのヒューマギアってもしかして……」

 

 俺の言葉に天本さんは頷き語ってくれた。じいちゃんとは何度か会う機会があったこと。過去にあることでピンチになっていたところをワズに助けられたこと。

 

「……ワズはーー」

 

 なぜ一般人を名乗る彼がワズに助けられるような状況に陥ったのか……そこに至るまでの経緯がかなり気になりつつ、そこは一旦ぐっと堪えて俺は先に天本さんの願いに応えようとワズがどうなったのか、その最期について教えようとして、

 

「ーー或人社長、その話は私からしても構わないでしょうか?」

「! イズ……」

 

 ーー秘書の声に俺は横を見た。

 後ろを振り返ればそこにはイズが立っていて、イズは座る俺たちの近くに歩み寄る。

 

「……うん、わかった。イズが話したいって言うならイズに任せるよ」

「ありがとうございます、或人社長」

 

 綺麗なお辞儀を俺にしてから、頭を上げたイズは天本さんの方を向くと数瞬だけ彼を観察するように見つめた。その様子に「ワズにも最初、同じように観察されたなぁ…」と懐かしそうに天本さんは呟いた。

 

「スキャン完了。天本太陽。32歳独身」

「……えっ、さささ、32歳ぃぃいっ!?!?」

 

 スキャンを完了したイズは検索したデータを読み上げ、その内容が耳に入って数秒後に俺は驚愕して絶叫した。それに咄嗟に両手で自分の耳を塞いだ天本さんは少し考えてから「あーそっか」といった顔をする。俺としてはパッと見同い年ぐらいにしか見えない目の前の青年が32歳だなんてこれっぽっちも信じられなくて混乱するしかなかった。

 

「自己紹介したけど、年齢言ってなかったでしたね。なんかすいません……っていうかワズもそうだったけど、初対面の相手をいきなりスキャンした挙句に個人情報読み上げるのやめた方がいいぞ。マジで」

 

 まぁここには今あんた達二人しかいないからいいけどさ、と最後に小声で付け足す天本さんにイズは「申し訳ございません。知りたいことがあったのでつい」と言い、続いて俺は「うちの秘書がごめんなさい」と頭を下げる。天本さんは笑って許してくれた。

 

「……あんたがイズ?」

「私の事を知っているのですか?」

「あぁワズが言ってたんだ。自分を基にした新世代型の、イズっていう社長秘書のヒューマギアができたって」

 

 あれがもう十二年以上前のことだなんて信じらんねぇなオイ、昔のことを思い出してか天本さんはしみじみ言った。

 

 

 

 

 

「……頼む。ワズのことを教えてくれ」

 

 飛電さん亡き後、普通に考えれば飛電或人のもとに居そうな気がするが今ここには居ないワズ。ワズの話をしていた時の或人の反応。

 

 それらを鑑みてワズがどうなったの。察しつつも、アイツ(ワズ)の話を聞くために俺は頭を下げて頼んだ。

 

「畏まりました。天本太陽さん」

 

 俺の頼みをイズは心良く了承してくれて、

 

「お兄様は『未来』の為に自らの命を捧げました」

 

 ーーそう切り出した。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 ザイアスペックの暴走が収束し、天津垓が滅亡迅雷.netの壊滅を大々的に国民に宣言してから三日。

 

「ZAIAとの戦いは避けられないでしょう…どうしますか? 滅」

「我々の最終目的は人類滅亡だ。

 ならばーーどうするかなど決まりきっている」

 

 近付きつつあるZAIAとの戦いについて問いかける亡。

 それに俺は考える迄もなく即答する。

 

「サウザーの戦闘データは既にラーニング済み。そして、我々には亡……ZAIAのシステムを熟知しているお前がいる」

 

 ならば負ける道理はない、そう言いながらも俺の中には懸念があった。

 

「……だが、警戒すべき点が一つだけある」

「? それは……?」

「バルデル、あの男の存在だ」

 

 亡は俺が以前共有した『仮面ライダーバルデル』の戦闘映像を思い出して話す。

 

「私はバルデルの存在を、滅のデータを見るまで知りませんでした」

「……サウザーからは一度もあの男の話は出なかったのか?」

 

 バルデルを知らなかったという亡に俺は僅かに疑問を持った。かつては天津垓の道具として、滅亡迅雷.netのスパイとしてZAIA内で動いていた亡が何故バルデルの存在を知らない?と。

 

 俺の得た情報では天本太陽(バルデル)はZAIAエンタープライズジャパン社長、天津垓の協力者の筈だ。

 

 亡がバルデルの存在を知らなかった。

 その答えは続く亡の言葉によって理解できた。

 

「はい、天津垓は一度も『バルデル』の話はしませんでした。それに私が閲覧できたデータの中には彼に関する情報はどこにも」

「……バルデルの存在を隠していたということか」

 

 周知の事実だが、天津垓はヒューマギアの存在を強く嫌悪している。

 天本太陽(バルデル)の存在を亡に隠していたのは亡が「ヒューマギア」だったから。そして、亡が滅亡迅雷のスパイだと勘付いてからは天本太陽(バルデル)が生きていることが滅亡迅雷に知られれば、必ず意識不明の彼を始末しようと動く……そこまで考えた結果だろう。

 

「バルデルを『切り札』と理解しての行動か……」

 

 天津垓(サウザー)天本太陽(バルデル)を守る為であろう行動について俺は考える。確かにバルデルの生存を知っていれば、俺は確実に始末しに向かっていただろう。

 

「亡、バルデルへの警戒は決して怠るな。最悪の場合、サウザーとバルデルを同時に相手取ることになる」

 

 そうなった場合、勝算は………限りなく低いと言わざる負えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……そんなことが、あったんだな」

 

 話を聞き終わった天本さんはぽつりと呟いた。

 イズの口から語られたのは『滅亡迅雷.net』の存在や『マギア』の話から、最後にワズが自らのセントラルメモリーを抽出して犠牲になったこと、ワズの最期までの話。一般人に公表されている情報だけでは理解することは容易じゃない筈なのに……

 

「ーーったく、ヒューマギアのくせして……なに人間より人間らしいことしてんだよ……」

 

 椅子に座ったまま天本さんは話の内容を理解した様子で右手を固く握り締め、悔しそうな表情をしていた。

 

「或人さん、イズ。ワズのこと、教えてくれてありがとうございました」

 

 立ち上がった天本さんは俺とイズに頭を下げ感謝すると「それじゃ、失礼します」とすぐに俺達に背を向けて事務室の出入口のドアに向かって行きそのまま外に出て行った。

 

「……っ!」

「或人社長?」

 

 そんな天本さんのその背を見て……俺は居ても立っても居られなくて、天本さんを追って出入口のドアに手を掛け外に出ていた。

 

「天本さんっ!」

「? 或人さん?」

「一つだけ、聞きたいことがあるんです!」

 

 不思議そうに振り返った天本さんに、俺は一つだけ聞きたいことがあった。ワズの最期を聞いて、あんな表情をした人にとって、

 

「天本さんにとって、ヒューマギアって何ですか?」

「……………」

 

 ヒューマギアは一体どんな存在なのか。

 それを聞いた天本さんは暫し考えた後にこう答えてくれた。

 

「飛電さんの言葉を借りるなら『人間の最高のパートナー』になり得る……かもしれない存在、ですかね」

「……かもしれない……」

「大した話じゃないし、言う必要もないって思ってたから言わなかったんですけど……俺デイブレイク被害者なんですよ」

 

 デイブレイク、被害者……!

 天本さんの口から明かされたその事実に俺は驚いたと同時に納得がいった。何で一般人のように見える天本さんとじいちゃんに接点があったのか。天本さんがデイブレイク被害者だっていうなら色々と合点がいく。でもデイブレイクに遭ったなら何故、ヒューマギアを『人間の最高のパートナーになり得るかもしれない』なんてことが言えるんだ?

 

 デイブレイク被害者の人はその多くがヒューマギアと飛電インテリジェンス及びその他の協賛企業に対して皆少なからず悪感情を持っている。それが普通なんだと思う。……なのに、

 

「デイブレイクに遭う前に比べたら、そりゃヒューマギアに対して……怖いとか、嫌いとか、マイナスの感情は抱きましたけど。期待したいんですよ俺」

 

「だから或人さん、これからも頑張ってください。俺はまだ、ヒューマギアを好きでいたいですから」

 

 その天本さんの言葉が俺の胸には何だか強く胸に響いた。

 

「!はい! 俺頑張ります!」

 

 歩いていく天本さんの背に向けてそう言えば、天本さんは振り返ることなく上げた右手をひらひらと振って製作所を去っていった。天本さんに会えてよかったな、俺は心からそう思った。

 

 まだヒューマギアを好きでいてくれる、ヒューマギアに期待してくれている……そんな人が居るなら俺が諦める訳にはいかないよな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………命を懸けてまで果たす『使命』。私には理解不能です』

 

『別に理解できなくてもいいんだよ。他人の『使命』何て誰にも理解できねぇだろうし、俺も理解できねぇ。……自分の『使命』なんてもんは多分、見つかったその時に何ないとわかんないもんだろ』

 

『……私に使命は、見つかるでしょうか?』

 

『さぁな。それはわからん。もしかしたら、もう既に気付かぬ内に見つけてるのかもしんないし…これから先見つかるのかもしれない』

 

 あの時のワズとの会話が脳裏を過る。

 

(──ワズ………)

「お前は見つけちまったんだなーー自分の『使命』ってやつを」

 

 飛電製作所を後にし、家への帰路を歩きながら俺は考えていた。

 

 俺があの日、滅を倒してさえいればーー。

 俺がもっと早くに目覚めていればーー。

 

──ワズを救うことができたのだろうか?

 

「……こんなこと考えるなんて、俺らしくもないか」

 

 たらればの話なんざしても仕方がない。時間は過去には戻らない……ンなことはとっくに知ってる。だけど、それでも、

 

(考えちまうのは……人の性ってやつか?)

 

 何かが違えば、変わっていたのかもしれない。これが無駄な思考だと分かっていてもつい考えてしまう。

 

「悪いなワズ、肝心な時に力になってやれなくて……そういや俺、お前になんか恩返しできてたか?」

 

 ……あー最っ悪だ。

 恩返しする前に逝っちまいやがったよあいつ。

 小さな恩なら返さなくても俺自身気にしないが、命を助けられたってどう考えても小さくないよな? 大恩だよな? ……ゆっくり休めよ、ワズ。

 

「後のことは任せろ」

 

 ヒューマギアのお前が人間の『未来』の為に戦ったんだ。なら人間の俺が…人間の『未来』の為に戦わずに逃げるなんてできる訳ないよなぁ?

 




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仮面ライダーゼロワン!

第7話 コレがZAIAのホントの夜明け


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コレがZAIAのホントの夜明け

ちなみにアンケートの結果、最後の「全部?」の投票数が多かった場合は高確率で次話投稿が遅れる(最悪失踪しちゃう)ので、次に投票数が多かったものに決定したいと思います。自分でも今思い返して後悔してます……なんで4つ目の選択肢出したんでしょうね自分?

アンケートの話はここまで!
それでは、どうぞ!


 

「……それ、マジの話?」

「マジもマジ。大マジだよ。最初に(にい)の病室で会った時にあの人──」

 

 まだ俺が医電総合病院に入院していた頃。「確かにあの人のおかげで(にい)は生きてるけど──」という言葉が気になり、詳しく話を聞けば美月はこう教えてくれた。

 

 

 ───────────────────────

 

『──あなたが天本美月さん、ですね?

 ──はじめまして、私は天津垓と申します』

 

 (にい)の眠る病室にお見舞いに行ったある日。私はその男と初めて出会った。最初に目に映った上から下まで真っ白な服装に……若干引き、困惑しているこっちに構わず──男はこう言った。

 

『……突然の話になりますが、彼がこうなった原因は私にあります』

 

 その台詞を聞いた私は彼に歩み寄り、その頬を思い切りビンタする。

 

『出てってください』

『……お断りします。私はあなたに提案があって、ここでこうして待っていたのですから』

 

 彼は叩かれた頬を気にする様子もなく、私の言葉にも怯まずある提案を口にした。

 

『単刀直入に申し上げますと、彼が意識を取り戻すまでにかかる医療費を全額私が負担します。ですから──』

 

 ベッドの上で死んだようにして眠る兄の顔に一瞬目を向け、彼は私の顔を真っ直ぐ見据え、

 

『──彼の命を諦めないでいただきたい』

 

 そんなことを言った。それに私はこう返した。

 

『──言われなくても諦めません。それと、あなたの提案には乗りません。(あに)がこうなった原因があなたにあるのなら、私はあなたを信用できませんし、したくもありません』

 

 ──二度とこの病室に顔を出さないでください。

 ──そう強い拒絶の意を示した。

 

 

 

 

 

「………ぇ、それでその後どうなったんだ?」

「その後もあの人、週に一度のペースで(にい)の病室に来て、しつこく同じ提案してきたの。母さんと父さんが一緒の時も」

 

 天津さん、あんたそれは流石にダメだろ……。家族が入院してる病院に真っ白な服装で現れ、家族と対面していきなりその相手に「こいつが入院しとる原因ワイにあるよ(超意訳)」とか………そりゃ叩かれますわ。むしろよくビンタで済ましたな美月。俺だったら「君がッ泣くまで殴るのをやめないッ!(紳士)」してたまである。

 

「まぁ結果だけ云うと、天津さんの提案に乗ったの」

 

 正直私は最後まで反対だったんだけど、と俯き気味にボソボソ呟く美月。いやまぁ美月の気持ちも分かる。天津さんみたいなウルトラ上から目線な相手(兄が入院した原因らしい人)の提案になんか極力乗りたくないよなぁ……。ポンポンと軽く美月の頭を撫でてから、俺は確認するように呟いた

 

「つまり、俺が意識不明の間の医療費を天津さんが全額負担したと…………待って、それ総額いくらぐらいッ!?」

「あー気にしないでいいよ。あの人も気にしないで構わないとかなんとか言ってたし」

 

 へぇ〜そっかぁ〜なら安心だぁ〜。

 じゃねーよばかちん! つうか『なんとか』ってなに!? さては天津さんの話まともに聞いてないな美月!? どんだけ天津さんが嫌いなんだ…………まぁ無理もないか(納得)

 

「いや気にするわ! だって十二年だぞ!? TWElVEだぞ!? 絶対やばい額になってんだろ…! ………美月、総額知ってる?」

「……そりゃ知ってるけどーー」

「ーーはよ教えろください」

「うん、日本語おかしいよバカ(にい)〜?」

 

 その後、美月が口にした金額は一般人の俺からすればちょいと現実味がないというか……信じられないレベルのもので暫く俺はショックで固まった。

 

 ───────────────────────

 

「亡ぃ…貴様ァ……!」

「私はあなたの道具でした」

 

 ゼロワンに変身した或人に襲い掛かったギーガーだったがその機能は停止し、それを行った張本人である亡は滅を庇うようにして立ち、サウザーに変身した天津垓と対峙する。

 

「だから、ZAIAのシステムをよく知っています。セキュリティを強化したところで無駄です。滅の『夢』を叶えるのが今の私の夢なのですから」

 

 そう口にした途端に亡の目は赤く光りーーサウザーは背後から銃撃を受ける。

 

「くっ! ふざけた真似を…!」

 

 後ろを振り返り、トリロバイトマギアと亡によりハッキングされたバトルレイダー達に囲まれた垓はサウザンドジャッカーを振るい、亡は滅へと声を掛ける。

 

「滅」

「あぁ──」

 

 滅は亡の声に反応して立ち上がり、

 

──滅の夢を叶えるのが夢、か。

ならその夢は一生叶わないってことになるな

 

 ──それとほぼ同時に『ある男』の声が聞こえた。

 

「! うぐッ…!?」

「亡……!?」

 

 ーー次の瞬間、一発の銃声が鳴り、亡の肩のパーツの一部が火花を散らし損傷する。回避行動に移ったが間に合わなかった亡のその体は大きく後方に吹き飛んだ。損傷した肩を片手で押さえながら亡は不意のダメージに声を零し、予想外の出来事に滅は攻撃が放たれた方向へとすぐに目を向けーーその目を見開いた。

 

 

「──バルデル……!」

「──久しぶりだな滅。

 ──見た感じピンチみたいで嬉しいよ」

 

 そこには青いカバンのような形をした可変式散弾銃ーーアタッシュショットガンを肩に乗せてこちらに歩み寄ってくる、黄緑色のアーマーと白色のアーマーを身に纏った赤い複眼の戦士。忘れる筈もない……

 

──早速で悪いが今度こそ『未来』の為に消えてくれ

 

 溢れんばかりの戦意に別人かと錯覚しそうになるが、そこに現れたのはまさしく天本太陽ーー仮面ライダーバルデルだった。

 

 ───────────────────────

 

「!? あ、あれは……?」

(仮面ライダー、なのか…?)

 

 突如として現れた見知らぬ存在を見た或人は、困惑して思わず首を傾げる。仮面ライダーだと分かったのはその存在が腰に装着していたドライバーが『ショットライザー』だと分かったからだ。

 

 新たな仮面ライダー?の登場に困惑する或人だが、それとは正反対の反応をするものがその場に一人いた。

 

「来てくれましたか、太陽君!」

「すいません天津さん、来るのちょい遅れました」

「ふっ、いえーーベストタイミングですよ」

 

 天津垓である。

 垓はバトルレイダー達とトリロバイトマギアを相手取りながら、太陽の姿を目にし、亡の方をちらりと見て仮面の下で笑う。或人とは違い昔から見知った仮面ライダーの登場に垓は歓喜していた。

 

「亡、残念ながらお前の行動は無意味だったようだ」

 

 亡によりギーガーの機能が停止され、バトルレイダー達をハッキングされ、戦況がひっくり返るかもしれない中……最強の増援(バルデル)が駆けつけたのだ。垓は柄にもなく「負けはない」と何の根拠もなく確信する。

 

(太陽……? …! それってまさかーー)

「言った筈だバルデル。貴様のデータは既にラーニング済みだと」

ポイズン!

 

 亡が滅を庇うように立っていた先程までの立ち位置とは逆に、次は滅が倒れる亡を庇うように前に立つ。プログライズキーのボタンを押し、腰に装着していたフォースライザーに装填ーードライバーからサソリのライダモデルが出現し赤いランプが発光を始め、

 

……変身……

フォースライズ!

 

 

 ーー機械らしく冷静にそう言った滅は黄色のレバーを引き、装填したプログライズキーを強制的に展開。サソリのライダモデルをその身に纏い、ゴムのように伸縮したアーマーを勢いよく装着。

 

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

 ーー滅は変身を果たす。そしてアタッシュケース状態から展開状態に変え、アタッシュアローを構えた滅は目前に立つバルデルを見据える。

 

 

「ラーニング済み、か……そりゃあ一体何十年前のデータだよ?」

 

 滅を小馬鹿にするようにそう言った太陽はアタッシュショットガンを持ったまま滅に向かって疾走した。それを迎え撃つべく滅はアタッシュアローのレバーを引き、矢を放つ。

 

チャージライズ!

「どうしたっ? ンなもんかーーよおッ!」

「ッ! ぐっ……!」

 

 タイミング良くアタッシュショットガンをアタッシュモードに変え、走りながらそれを前に突き出して滅の遠距離攻撃を弾き、距離を詰めた瞬間にアタッシュモードのままのアタッシュショットガンで思い切り殴りかかる太陽。防御には成功したがその荒々しさに滅は押されてしまう。

 

チャージライズ!

フルチャージ!

 

 バルデルをアタッシュアローで斬り、一旦距離を作った滅は素早くアタッシュアローをアタッシュモードに戻してすぐにまた展開し、

 

カバンスラッシュ!

 

 ーーバルデルに接近した滅は、トリガーを押しアタッシュアローを振り下ろす。

 

チャージライズ!

フルチャージ!

「そんな攻撃、マトモに食らってやるかってのッ!」

カバンショット!

 

 そんな滅の必殺技に対し、太陽も必殺技で対処しようとアタッシュショットガンをアタッシュモードにしてすぐに展開しトリガーを押す。

 

 ほぼゼロ距離で滅の斬撃と太陽の射撃が衝突し、

 

「っ…!」

「ーーまだまだァ!」

 

 ーー互いに必殺技を食らう。

 二人は同時にダメージを受けその体は後ろに吹き飛ぶが、二人は互いに地面を転がることなく巧く着地するとーーまたも太陽の方から果敢に攻撃を仕掛けていく。

 

「どらッ! そらあぁあーー!!」

「くっ……!」

 

 スピードの乗った前蹴りを回避し、パンチも往なす滅だが、バルデルの戦闘能力が以前のデータよりも上がっている事とサウザーによるダメージが残っている事が原因で次に来たアッパーに防御が間に合わずまともに食らう。

 

「ッ」

「おらよぉお!」

 

 よろめいて後退りする滅に太陽はすぐに肉薄し滅に躊躇いなく横蹴りを噛ますと、ついでにとばかりに手に持ったアタッシュショットガンをアタッシュモードにせずにそのまま乱暴に投擲した。それを滅は最小限の動きで躱すが、

 

「そらそらァ!」

「ぐっ…!?」

 

 ーー太陽が素早くバックルから引き抜いたショットライザーの連射への対応が僅かに遅れ、滅のアーマーから火花が散る。

 

ストロング!

「これで決めてやるよ」

 

 攻撃の手を一切緩めず、太陽は遂に『ショットライザー』に装填したプログライズキーのボタンを押す。そして、来たる必殺技に対処する為に滅もまたフォースライザーのレバーに手を掛けた。

 

「滅…未来の為にここで滅べ」

「バルデル…滅びるのは貴様の方だ」

アメイジング ブラスト フィーバー!

スティング ディストピア!

 

 ──ショットライザーのトリガーを押す太陽。

 ──フォースライザーのレバーを引く滅。

 

「うおおおおーー!!」

「………」

 

 

 

 二人は互いを真っ直ぐ見据えーー次の瞬間、太陽は走り出し、それとは対照的に滅は待ち構えるようにその場で静止する。

 

「ーーおらあああああッーー!!」

「ーーはああッーー!!」

 

ス テ ィ ン グ

 

ス ト ロ ン グ

ブ ラ ス ト フィーバー

 

 そして、二つの必殺技(キック)が真っ向から激突する。凄まじいエネルギーに周囲にいたレイダーとマギアは、その余波だけで吹き飛ばされてしまう。空気が裂け、地面が割れ、辺りの数本の木々が派手に倒れ、

 

「ーーらあああああッ!!」

「ーーはああああ!!」

 

 ──必殺技の激突は終着した。

 

「ーーぐはッ!? っっ…馬鹿、なッ…!」

「!? 滅…!」

 

 結果──競り勝ったのは太陽だった。

 

「俺の勝ちだ…滅」

「一体、何故……?」

 

 太陽の飛び蹴りで大きく地を転がった滅の体は、強制的に変身が解除されていた。そんな滅に亡は肩を抑えながらも駆け寄る。

 

 滅は疑問を抱く。

 十二年前のバルデルとの戦いでは、スティングディストピアはアメイジングブラストフィーバーよりも圧倒的に威力が高く、押し負けることなどあり得るはずがなかったのに。何故自分は今押し負けた……?

 

「滅、ここは撤退すべきです。流石のあなたでも強制変身解除されてから、三度目の変身で戦うのは不可能です」

「くっ……あぁ、わかっている──撤退だ」

 

 亡の言葉に落ち着きを取り戻した滅は疑問について考えるのを一旦やめ、よろめきながら立ち上がり亡と共に撤退を開始する。しかし、

 

ストロング!

「撤退? ハッ──」

チャージライズ!

Progrise key comfirmed. Ready to utilize.

ハーキュリービートルズアビリティ!「──逃すわけねぇだろうが」

 

 ──そんな二人に無慈悲な音が響く。

 損傷により緩慢な動きでその場から離れようとする亡と滅。二人を太陽は一瞥し、ショットライザーから引き抜いたプログライズキーのボタンを押し、アタッシュモードのアタッシュショットガンに装填した。

 

フルチャージ!

 

 必殺待機音が鳴り出したアタッシュショットガンを展開し、真っ直ぐ撤退を試みる亡と滅の背に向ける太陽。

 

「!? やめろおぉおーー!!」

 

 この距離ならば間違いなくタダでは済まない。破壊は免れない。そう確信した或人は勢いよく駆け出すと、太陽の前に躍り出し構えたアタッシュショットガンを掴む。

 

「!? このっ離しやがれ」

 

 照準を無理矢理ずらされた太陽は或人の邪魔に動揺しつつも、アタッシュショットガンを手放し、素早くバックルから引き抜いたショットライザーを連射する。

 

「ぐッ! やめろッ!」

「ゼロワン……!」

「っ……滅! 亡! 早く逃げろっ!」

 

 蹴られて後退りした或人だが、後ろにいる二人に振り向き叫ぶと再度太陽へと向かっていく。それに対処し、すぐにまた亡と滅を狙おうとする太陽だがその度に或人は何度も何度もそれを妨害する。

 

「お前、いい加減うざいぞ?」

「やめてくださいっ!」

 

 それに遂に苛立ちを覚えた太陽は全力で押し除ける。しかし、それでも或人は太陽の前に立ち塞がった。

 

「天本さん、なんですよね…? あなたが一体なんでこんなことを!?」

「なんでこんなことを? そりゃあこっちの台詞だ」

 

 或人の叫びを聞いた太陽はそう言って殴り掛かってくる。

 

「なんでお前が邪魔をするんだ? 飛電或人?」

「ーーーー」

「人間とヒューマギアが笑い合える世界を作る。それがお前の夢だったんじゃないのか?」

「ぐわッ…!」

 

 拳による連続攻撃で怯んだ或人を太陽は容赦なく殴り倒し、オマケとばかりに倒れた或人をボールのように蹴り飛ばす。その間も太陽は或人に続けて問いかける。

 

「そんな夢を持つお前がどうして、あいつらのようなヒューマギアを守ろうとする?」

「っ……ヒューマギアは悪くないっ!」

「……そうかい」

 

 その言葉を聞いた太陽は呆れたように呟くとプログライズキーが装填されたままのアタッシュショットガンを拾い上げ、再びアタッシュモードにしてから展開しーーそれを或人に向け、

 

「!」

「飛電或人、俺にはお前が理解できねぇ」

アメイジング カバン バスター!

 

 ーー躊躇することなくトリガーを引く。

 

カバンバスター!

 

「!? うわあああああッーー!!」

 

 ──瞬間、銃口から発射された黄緑色の角のような形をした巨大な弾丸は恐ろしい速度で或人に命中した。更にその一撃は的確にライダーの急所であるベルト、或人が装着していた「ゼロワンドライバー」に直撃しており、アーマーから火花が激しく散り、爆発後に或人の変身は強制解除される。

 

「……くそっ、逃したか……」

 

 滅と亡が撤退した方向を見た太陽は悔しげにそう吐き捨て、アタッシュショットガンからプログライズキーを引き抜き、装着していたショットライザーをベルトと共に外し変身を解除する。

 

「くッ……あま、もと…さん…!」

「……飛電或人。頼むから、もう二度と俺の邪魔はしないでくれよ」

 

 倒れ伏した状態で何とか立ち上がろうとする或人に視線を向け、

 

「また俺の前に立ち塞がるなら、その時はもう容赦はしない」

 

 ーー太陽はそれだけ告げた後にその場を立ち去ろうとし足を止める。そして、振り返ることなく或人に対しこう問いかけた。

 

「なぁ或人──お前は人間の味方か? それともヒューマギアの味方か?」

「……えっ……?」

 

 それは太陽から或人への純粋な質問だった。

 

「じゃあな」

「! 待ってくださいッ……!」

 

 別に今すぐに返答は求めていなかった。だから、太陽は或人の返答を待たずにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘終了後。

 

「とてもブランクがあるとは思えない戦い振り……実に見事でしたよ、太陽君」

 

 ZAIAエンタープライズジャパンが買収した飛電インテリジェンスの社長室にて、俺は天津さんと話していた。

 

「あんなの運が良かっただけですよ。運が」

「運も実力の内と言いますよ。それに、あれは間違いなく君の実力あっての勝利だったでしょう」

「いやそんなことないっすよ。滅には天津さんから受けたダメージが残ってましたし、或人だって一回天津さんの攻撃食らってたんですよね?」

 

 先の戦闘は正直言って滅茶苦茶に状況が良かった。天津さんの言葉通りマジでベストタイミングだったんだ。まず俺が着いた時には滅は一度、強制変身解除される程のダメージを受けていたし、俺の登場にちょいとばかし動揺していた。それに或人も一度強制変身解除してたらしいし、あの時或人には俺を倒そうって意志がなかった……だから、むしろ負ける方が難しい状況だったわけ。

 

「相変わらず君は謙虚というか何というか……」

「別に謙虚じゃないですから。妥当な判断ですからこれ」

 

 それでも天津さんは意地でもあの戦闘は「俺の実力あってのもの」と思いたいらしい。いや何でぇ? あれマジでラッキーにラッキーが重なった結果だからね? あの「亡」とかいうヒューマギアが夢を語ってる時に着いたのも偶然だし………ごめん一個嘘ついた。本当は俺、亡が天津さんと喋り出した時にもうそこに着いてたんだけど、出るタイミング見失ってずっと木の陰に隠れてました…! すんませんッ!(土下座)

 

 ……まぁ勝ったしコレは天津さんには言わんでいっか? うん、いいよな!(自己完結)

 

「それにしても本当に嬉しいですよ、太陽君。君がまた戦うことを決意してくれて………何より、君とこれから共に戦えることが!」

「……滅を倒し損ねてた挙句、滅亡迅雷.netが復活したって話聞いて、退院日に人間マギアに襲われて……まぁそりゃ決意しますよ」

 

 そして、ワズの話……これだけの情報を得て「俺戦いません!」なんて言えます? 言えたとしたら俺は小心者以下のチキンだ。間違いない。

 

 俺は確かに小心者だが…俺にも守りたいもんがある。

 

「というか天津さん!『仮面ライダーになれるようになった』って前に聞いてはいましたけど何ですかあれっ?」

 

 話は変わって、俺は天津さんが変身する仮面ライダーサウザーについて考え出した。本人から話には聞いていたが、実際に見たのは今日が初めてだった………うん、正直なところ言うとな…?

 

「ハチャメチャにカッコイイじゃないすかッ!?」

 

 ーー超カッコイイと思いました(小並感)

 いや何なんあのデザイン…!? 自分で、俺ってあんまり男のロマンとかよくわかんないタイプの人間だと勝手に思ってたんだけど超カッコイイなあれッ。つうかプログライズキーとゼツメライズキー両方使うとかなんだ欲張りか!? 正直羨ましくないこともない!

 

「流石は太陽君…! 実に見る目がある!」

 

 俺の言葉にテンション爆上げ(キャラ崩壊)した天津さんは、それはもう熱さ1000%でサウザーについて語り始めた。えっ? 苦じゃなかったかって? いや普通に聞いてて面白かったですハイ(真顔)

 

「俺もまさか天津さんと一緒に戦えるとは思ってもいませんでしたよ………つうか俺が寝てる間に『仮面ライダー』めっちゃ増えてません?」

「確かに…君が一人で戦っていた当時に存在していた『仮面ライダー』は君と滅のみ。今ではサウザー、ゼロワン、バルカン、バルキリー、滅、迅、雷、と実に豊富になりましたね」

 

 まるで仮面ライダーのバーゲンセールだな…(ベジータ)すげぇな仮面ライダーの増加率……ん?

 

「あれ、これ俺いらないんじゃ……?」

 

 それは俺の本心からの台詞であり、

 

「! いいえっ! そんなことは断じてありませんよ! 太陽君!」

「うおっ!? い、いきなり大声上げないでくださいよ天津さん」

 

 ーーとんでもない失言だったらしく、始まる天津さんのキャラ崩壊…! まぁこれはこれで面白いからいっか(無責任)天津さんは俺の声に「これは失礼」と一言口にしてから続きを喋り出す。

 

「いい機会です。太陽君……ここで今から、バルデルがどれだけ素晴らしいライダーかを私が説明して差し上げましょう!」

「………あ、いや、え、遠慮しま──」

「──まず仮面ライダーバルデルの魅力の一つはその荒々しいまでの──」

「──遠慮しますって言ってんでしょうがオイっ!?」

 

 話の内容は聞いていて、俺がすごく小っ恥ずかしい気持ちになるものだと確信したので全力で阻止しました。ふぅー…止めれてよかった(安堵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………結局、聞けなかったな」

 

 飛電インテリジェンスを出て、高い高いそのビルを見上げながら俺はぽつりと呟いた。………何で俺はこうも肝心なとこでヘタレを発揮するんだろうか?

 

「………くそっ」

 

 自分自身に対してどうしようもなく苛立ちを覚えてしまう。──天津さんが何をしたのか。

 それを聞く覚悟が俺にはまだ足りていなかった。

 




(ゼロワンからすると)初登場のライダーで補正がかかってるのでしょうか? 無駄に強キャラ感を放つオリ主……!

最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

※補足?説明
オリ主こと太陽は現時点では天津さんがアークに悪意をラーニングさせ、デイブレイクを引き起こした原因を作った張本人である事をまだ知りません。でもまぁ天津さんを「善人」だとは思ってないし、何なら「絶対何か企んでんだろこの人……」と思ってます。ちなみに太陽がZAIA側についてるのは天津さんに恩を受け、その恩返しをしたいと考えているから。

多分太陽も…天津さんが「何か」やばいことをした事は察していますが、小心者故に直接本人に聞けていません。また、天津さんも自分の口から太陽に真実を教えるつもりはなく「本気で聞かれたら正直に答える」スタンスをとっています。もしかしたら、本編とは違い本作中では天津さんはオリ主みたいにちょっと小心者なのかもしれない………


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オレと週末と喫茶店

次話投稿が前回から少々遅れて申し訳ありません……
今回は最初は一話に全部まとめようと思っていた話を、二つに分けることにしました。今回は所謂「前編」です。文字数は少なめでございます…! それでは、どうぞ!


「或人社長、大丈夫ですか?」

「…えっ…? あーうん。だ、大丈夫大丈夫!」

 

 心配そうにこちらを見つめるイズにそう笑顔で俺は返事をする。大丈夫かどうか……本当のところを言うなら大丈夫じゃなかったけど…。

 

『なぁ或人──お前は人間の味方か? それともヒューマギアの味方か?

(俺は………)

 

 あの日、天本さんから問われたあの言葉を思い出す。また考えていた。あの問いに対する自分の答えを。

 

「…………」

 

 一体自分がどちらの味方なのか……。

 人間?ヒューマギア?

 自分がどちらの味方で居たいのか……。

 

(人もヒューマギアも、大事に決まってる)

 

 この思いは決して嘘なんかじゃない。

 それだけは確信を持って言える。けれど、

 

(本当に人を大事に思うなら……)

 

 あの時、俺は滅と亡を助けるべきじゃなかったのか? 助けずに天本さんに二人が破壊されるのを黙って見ていた方が正しかったっていうのか?

 

(……俺はっ……!)

 

 そんな筈がない。

 そう思いたかった。でも……

 

「──或人社長」

「? どうかした? イズ」

 

 俯き深く考えていた俺がイズの声に顔を上げると、イズはこんな提案を口にした。

 

「今日の業務はここまでとして、気分転換に外に出掛けませんか?」

 

 

 

───────────────────────

 

 あ〜うっまっ! あ〜〜うっまッ!

 暑い日に食べるアイスってやっぱ格別だよなぁ……。なんか昼間っからアイス食べるとか贅沢なことしてる気がすんなぁ(貧乏性)あ、どうでもいいだろうけど今俺が食べてんのはシンプル(バニラ)なソフトクリームだ。コンビニで買ってきたどこにでも売ってそうな普通のもんだが……中々イケるんだなコレが。

 

「──(にい)、今日暇〜?」

 

 週末に快適なリビングでアイス片手にテレビを見る。そんな至福の時間をのんびり過ごしていた俺に、美月は遠慮なく声を掛けてきた。

 

「はぁ〜。何だよ藪から棒に……あ、いつものことか」

 

 貴様ぁ…この一時を一瞬でも妨害するとか万死に値するぞオイ(狭量)ため息をつき、椅子に座る美月の方を振り返って俺は言った。

 

「はいぃ? いつもってどういうことバカ(にい)〜?」

「んー? それぐらい自分で考えろよバカ妹〜?」

 

 こいつ相っ変わらず煽り耐性ないなぁ〜? まぁ昔と変わってない部分が見えて俺は嬉しかったりするけど。

 

「でっ! (にい)は今日暇なの? というか暇だよね!?」

「……はいはい、今日俺は見ての通り暇ですよー……」

 

 半ギレ口調で声上げんなって……つうか顔近いから一回離れろい。

 

「だよねぇ! テレビの前でアイス片手にニヤニヤ気持ち悪い笑み浮かべてたし、そりゃ暇だよねー!」

「おい表に行こうぜ美月……久しぶりに……キレちまったよ……」

「先に煽ったのそっちじゃん」

「………」

 

 ……毎度いいとこつくよねぇ君。

 ナイス着眼点! いや素晴らしいッ!

 

「それな」

 

 美月の正論に同意した俺はその後、煽った罰に外に無理矢理連れ出されました。あー、さよなら俺の楽園(エデン)。もう一本アイス食べたかったなぁ……。

 

 ───────────────────────

 

「くっ……!」

 

 デイブレイクタウンの橋の上を歩いていた僕は拠点から飛び出す際にアークから受けたダメージに思わず苦悶の声を漏らす。

 

(なんて強さだッ…!)

「このままじゃーー!」

 

 俯きながら僕がアークを止めるために思考していたその時だった。

 

「ヒューマギア、滅亡迅雷.netの迅を発見! これより対象を破壊する。総員、実装準備」

「「「了解」」」

 

 ーー気付けば僕の前方には数十人のA.I.M.S.隊員達がおり、彼等は素早い動きで『レイドライザー』を取り出し腰に装着。そして、

 

ハード!

「「「実装」」」

レイドライズ!

インベイディングホースシュークラブ!

Heavily produced battle armor equipped with extra battle specifications.

 

 ーー取り出したプログライズキーを装填し、レイドライザーの右横部にあるボタンを押し込み『バトルレイダー』に実装した。

 

「まだ、無駄ってわかんないのか……!」

 

 ガチャリと一糸乱れぬ動きで短機関銃を構えるAIMSを前に僕は苛立ちの含んだ声を上げ『スラッシュライザー』が取り付けられたバックル・ベルトを出し装着し、

 

「僕の邪魔をするなぁ!」

スラッシュライザー!

インフェルノウィング!

バーンライズ!

 

 ーー左腕につけたバングルのチェーンに繋がれたプログライズキーを引っ張り取り、ボタンを押し勢いよくドライバーに装填。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

──変身っ!

スラッシュライズ!

バーニングファルコン!

【The strongest wings bearing the fire of hell.】

 

 そして、変身した僕は赤い翼を展開し、

 

「ーーハアッ!!」

 

 ーーバトルレイダー達に向かって猛スピードで飛翔した。

 

 

 

 

 

 

「──着いたよ(にい)〜」

「ここが最近オープンしたっていう……名前何だっけ?」

Stellar(スタラー)!」

「あー! それだそれ」

 

 俺が美月に連れられやってきたのは最近オープンしたという喫茶店だった。店名は『Stellar(スタラー)』。外観から既にわかるが……何だろ? 喫茶店はみんな洒落乙じゃないとダメなんだろうか? めっさオサレなんだが?

 

「……なぁ妹よ、これ俺場違いじゃないか? なんか入っちゃダメな気が超すんだけど。帰っていいか?」

「中にも入ってないのに何言ってんの! ほらさっさと入るよ〜」

「うおっ、押すな押すな! 入る。入るから」

 

 美月に押された俺は渋々店内へと踏み込んだ。そして、

 

やっぱ帰るわ…!

 

 ーー入った瞬間回れ右。即リターン。

 入った瞬間察したよね。これ俺みたいなファションセンス100点満点中40点の男が入っていい空間じゃないっすわ!

 

「いやいや! 小心者にも程があるでしょ!」

 

 るせぇ!俺だって好きで小心者やってんじゃないんだよ! 来店してから五秒で帰ろうとする俺の前にバッと腕を出す美月。そこを退くんだ美月ぃ! この空間に俺は長居できないっ!(確信)

 

 喫茶店に来たのなんて学生時代以来なんだけど……スゥー……マジで俺の知る喫茶店の千倍ぐらい洒落てるわ。

 

「わかった。メニュー頼んで、メニューが来て、メニュー飲んだらすぐに帰るっ。これで問題ないな?」

「それが普通だよ? (にい)?」

 

 まさか十二年という時の流れで喫茶店の洒落乙度がここまでレベルアップしていたとは………怖っ。

 

 それから空いていたカウンター席に座り、メニューを頼み終わった俺と美月が他愛ない話をしていた時だった。

 

「こんな店、近くにできてたんだな。全然気付かなかったよ」

「滅亡迅雷.netやZAIA、製作所経営などで多忙でしたからね」

 

 なんか聞いた時のある声が聞こえた……それと店内にいる他の何人かのお客さんの目線が声のした方を向いていた。

 

「んっ?」

(見間違いかぁ…?)

 

 釣られて俺もそちらに目を向けてみれば、

 

「ごめんなイズ……なんか気ぃ遣わせちゃって」

「気にしないでください、或人社長」

(あー……)

 

 ーーつい数日前に見たばかりのあの二人。

 ーー或人とイズが居た。

 

 あー……なるほどな。

 他の何人かのお客さんが見てんのはヒューマギア(イズ)か。天津さんが大々的に全ヒューマギアを廃棄するって宣言してから一ヶ月ちょいたった今…そりゃあヒューマギアが喫茶店に居たらそりゃ気になるわな。というかそもそも、

 

(どんな確率だよ……!?)

 

 ーーなんで週末に美月()に連れてこられた店で遭遇すんの!? あり得るのかこんなこと? す、すげぇ偶然だなぁ……前会った時の最後があれだったからな。めっちゃくちゃ話しかけにくい。

 

(いや待てよ? 別に、話しかけなくてもいいんじゃないか?)

 

 ………冷静に考えてみよう。

 今んところ俺と或人は友達じゃないし仲間でもない。イズも同じだ。なら別に態々話しかける必要もないのでは? と思った俺は「あっちから話しかけてきたら応える」スタンスをとり、タイミングよく来たメニューのカフェオレを早速勢いよく飲み始めた。え、いや別に急いでないっすよ? 二人に気付かれる前にさっさと帰ろうとか…全然思ってないですよ?

 

「! あ、天本さんっ!?」

「……ズズズ」

 

 今誰か俺の名前呼んだかー?(棒読み)

 気のせいか? 気のせいだな? 気のせいだわ。

 

(にい)ー? あの人、兄のこと見て驚いてるみたいだけど…返事しないでいいの?」

「ズズズズっ」

 

 周囲の声を出来る限りシャットアウトし、凄まじい勢いでストローを吸いカフェオレを飲む俺(もはやカフェオレを飲む音ではない)に美月はそんな言葉を掛けてくる。美月よ、俺の知り合いにあんな好青年と美少女ヒューマギアはいないってばよ!

 

 ……なぁんて現実逃避しても仕方ないか……。

 

「──美月、悪いけど外出てきていいか? ここは──」

 

 席を立った俺は財布からお金を取り出そうとして、

 

 

「──大丈夫、私が全部払うよ。大した値段じゃないし、それに(にい)には半ば無理矢理付き合ってもらっちゃったしさ」

 

 ーー美月に止められる。

 仮にも兄として、大した金額じゃなくても妹に奢らせんのには思うところがあるんだが……

 

「……悪い。埋め合わせは後で絶対する」

「私たち兄妹だよ? 小さいこと気にしないでよ」

 

 俺は美月に軽く謝ってから或人とイズの座る席に歩み寄ってまず一言言った。

 

「天本さん、俺………」

「…それ飲み終わってからでいいから。なんか話したいことがあんなら、場所変えるぞ。それとーー」

 

 ーーこのご時世、迂闊にヒューマギア(イズ)を連れ回すな。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!
(↓ちょい解説あります)

・アタッシュショットガン
初期の迅や不破さんが使い、絶賛本編で雷が使ってるお馴染みのアタッシュウェポン。復活後から太陽も使うようになった。入手経路は普通にZAIA(天津さん)から借りたと思われる……メタい話をすれば、今のゼロワン時間軸で復活しても武器がショットライザー単体だと(火力とか)色々厳しいかなぁ……と思い与えた救済措置。今後は多分基本フォームとセットで使う気がします。戦い方が荒いので当然武器の使い方も荒い。なので太陽は普通に相手にぶん投げたりします笑



仮面ライダーゼロワン!


「──見つけた」


「迅……!」


「バルデル──お前じゃ僕は止められない」


「──これは思わぬ遭遇だな、バルデル」


第9話 ある男と炎の不死鳥《迅》


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炎の不死鳥

ゼロワン40話、感想を一言でまとめますと「ゼロツーかっこよッ!!」個人的にこれに尽きましたね…!
今回はタイトル通り、あの二人が出会います。更には……
それでは、どうぞ!


「ここら辺なら、誰かに聞かれる心配もないか」

 

 喫茶店を出た俺たちは少し離れた場所にある川沿いの道。そこに設置された柵に手をかけた天本さんは、俺の方を振り返ってこう言った。

 

「そんで、俺に何か話したいことがあるんじゃないのか? 飛電さ……いや、或人」

 

 あんなことがあった後なのに……天本さんは俺へ以前と変わらぬ態度で声を掛けてくる。あの時、天津垓に味方していた仮面ライダー…その正体が天本さんだということは疑いようもないことだが、一見一般人な天本さんがあの荒々しい仮面ライダーだなんて……。

 

「……俺、あの後…考えてみたんです。天本さんに言われた事について」

「………」

「自分が人間の味方なのか……ヒューマギアの味方なのか……どっちで居たいのかって」

「……うん」

 

 俺の言葉を天本さんは静かに聞き小さく相槌を打つ。その天本さんの聞き方が俺にはすごくありがたかった。

 

「でも……何か、うまくわかんなくてッ……」

 

 考えれば考えるほどぐちゃぐちゃになって、訳わかんなくなっちゃって……正直に俺はそれを天本さんに伝え頭を下げる。

 

「すいません! 天本さんっ…!」

「? ……え、何に対して謝ってんの?」

「っーーそれは! 自分でも、どっちの味方でいたいのか分かってないのに……あの時、天本さんの邪魔をして……」

 

 天本さんは怒ることなく俺の謝罪に首を傾げる。そして、

 

「ンなこと気にしないでいい。つうか俺、怒ってないし」

「…えっ? そ、そうなんですか……?」

「そうだよ……え、怒ってるように見えてたのか?」

 

 はいと頷く俺を見た天本さんはため息をついてから「そう見えてたのかぁ…」とぼそりと呟く。

 

「勘違いさせたなら悪い。あの件に関して俺は別に怒ってない。まぁあの時に言ったように多少うざいとは思ったが…そんくらいだ……あーそれと──或人」

「?」

「──どっちの味方なのか。聞いた俺が言うのもなんだが……その答えに、俺はさほど興味ない」

「……ぇ……?」

 

 一瞬、天本さんが何を言っているのか俺にはわからなかった。

 

「あれは、お前の行動を見た俺の素朴な疑問だ。だから正直、忘れてくれたっていい」

「! で、でもッ──」

「──慌てて、無理して考えたって…答えが出ないなら仕方ないだろ? ンなの疲れるだけだし………まぁ遅かれ早かれお前が『答え』を出さなきゃいけない日は来るだろうけどな」

 

 そう俺に言い終えた天本さんは、

 

「? はい、もしもし?」

『こちらAIMS(エイムズ)っ! 天本さん、滅亡迅雷.netの迅を発見しました』

「ーーはあ!?!? ちょっおま、マジでえっ!?」

 

 ーー電話が掛かったスマホを取り出し、電話に出て驚愕の声を上げた。

 

『現在交戦中ですが……このままだと撤退は必至かと!』

「了解。今すぐ行くから位置情報送ってくれっ! ………その前にちょっと聞きたいんだけど、俺に電話してきたのは……」

『はい。天津社長から緊急事態の際は、天本さんに助力を請えと指示されておりまして……』

「……スゥー……あとであの人一発ぶん殴ろ

 

 そして、電話を切った天本さんは小声で何かを口にした後に「悪い、急用が入った」と言って走り去っていった。

 

 ───────────────────────

 

「はぁはぁ……!」

(早く、この場を離れないと……!)

 

 このままここに居れば間違いなくアークは裏切り者である迅を追ってくるだろう。そう確信していた迅はバトルレイダー達を打倒すると、素早く翼を展開し飛び立とうとした。だが、

 

「! くっ…!?」

 

 ーーその直前に一発の弾丸が迅の肩に直撃し、火花が散った。怯み僅かに後退りした迅はすぐに弾丸が飛んできた方向に目を向ける。

 

「──見つけた」

「お前はッーーバルデル……!」

 

 迅が目を向けた先にはショットライザーを片手に歩み寄ってくる男、天本太陽(バルデル)の姿があった。

 

 

───────────────────────

 

「! あんた大丈夫か?」

「ッ…天本、さん……!」

「…よしっ、ちゃんと生きてるな?」

 

 俺は慌てて近くに倒れていたAIMSの隊員の一人に駆け寄った。

 

 スマホに送られた位置情報に従って来てみれば、そこには深紅のアーマーを身に纏った仮面ライダー迅の姿とあちこちに倒れているAIMSの隊員達がいた。幸い皆意識はあるようだ。この人達も中々にタフだよなぁ……流石は本職って感じだな。

 

「不安だろうが…後の事は俺に任せて、あんたらは寝ててくれ」

「! はいッ……!」

 

 次に目が覚めたら、この人達は皆病室のベッドの上だろう………なんでそんな安堵の表情してるのこの人…!? つうかあんたやけに素直だな!? 普通俺みたいな一般人に「任せろ」とか言われたら不安で仕方ないと思うんだが……?

 

 ……あーさては天津さん、あんた俺のことに関して隊員さん達になんか吹き込みやがったな?

 

「それにしても、容赦なくやってくれたなぁ? 焼鳥野郎」

「……お前も、僕の邪魔をするのか? バルデル」

 

 倒れる隊員さんの一人をそっと寝かせてから、俺は迅を見据えながら言った。迅はそんな俺に問いかけてくる。僕の邪魔をするのかって? ハッ、ンなの当たり前だろ?

 

「愚問だな……お前が滅亡迅雷の一員って時点で、俺の中じゃお前は倒すべき敵だ」

 

 天津さんから聞いた話じゃ、迅の目的はヒューマギアの解放らしいが……滅亡迅雷に入ってんなら話は別だ。

 

 もう二度とシュゴやワズのような犠牲者は出させない。俺が守りたい『未来』の為に俺はお前達を一人残らず破壊する。

 

「バルデル──お前じゃ僕は止められない」

「そりゃあ──やってみなくちゃわかんねぇだろ?」

 

 確かにスペックだとかを見りゃあ俺じゃお前には及ばないかもしれない。俺じゃお前は倒せないかもしれない。だけど、

 

ストロング!

オーソライズ!

 

 ーースペックの差だとかそんなのは今更だろ?

 取り出したアメイジングヘラクレスプログライズキーのボタンを押し、俺は腰に装着したショットライザーに勢いよく装填する。

 

Kamen Rider. Kamen Rider.

「──変身ッ…!」

ショットライズ!

 

 そして、プログライズキーを展開してトリガーを引き、

 

「──おらあッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 ーー変身した俺は迅と対峙する。

 

「悪いが出し惜しみはしねぇ。俺は全力でお前を破壊する」

「やれるものならやってみなよ?」

 

 俺はバックルからショットライザーを引き抜き、迅はバックルからスラッシュライザーを引き抜きーー俺と迅は互いに駆け出した。

 

「おらおらおらァ!」

「はぁっ! やぁっ!」

 

 ショットライザーでの連射を迅はスラッシュライザーで巧く弾き切り、俺に切り掛かってくる。

 

「っーーそんなもんかあッ!」

「くっ…! ふーーはあああ!!」

「!」

 

 それを片腕で防いだ俺の反撃のパンチをギリギリ後ろへ飛ぶことで回避した迅は、赤い翼を展開しその一部を俺へと飛ばしてくる。

 

(後ろには隊員さん達が……くそっ、しゃあねぇか!)

「おりゃああ!! ーーぐッ……!」

 

 後ろに目を見やれば……その攻撃を回避するという選択肢が俺の中から消えた。俺は飛んでくる真っ赤に燃えた翼に殴り掛かり、直後にその翼は爆発した。熱ッ!? 痛ッ!? あーやだ! ホントやだっ!

 

 

「! 防ぎ切った…!?」

「ッ…次はーーこっちの番だオラァ!」

 

 完全に俺のこと怒らせちまったなぁ! お前なぁ!?

 

「うぐッ…! くっーーがはっ!?」

 

 アメイジングヘラクレスの装甲と気合で迅の攻撃を耐え抜いた俺は全力で迅にダッシュし、膝蹴りをぶち噛ます。それにより大きく退く迅に更に接近し、その胸に右でのパンチを打ち込む。ラストに前蹴りで蹴り飛ばす。

 

ストロング!

アメイジング ブラスト!

「はあああーーおらああッ!!」

 

 左手に持ったショットライザーに装填されたプログライズキーのボタンを右手で押し、素早くショットライザーを右手に持ち替え俺はトリガーを引く。瞬間、ショットライザーに収束した黄緑色のエネルギーが放たれる。

 

「! くーーはあぁぁぁあーー!!」

「! 飛びやがった…!」

(飛べるって狡いなぁマジで……!)

 

 迅はその一撃を空に飛ぶことで回避した。

 くそっ飛べるとかいいなぁ! …つうか何で俺は飛べないんだ? これヘラクレスオオカブトのプログライズキーだろ? カブトムシなら翅あんだろ翅ェ! ………まぁ確かにヘラクレスオオカブトが飛んでるイメージってあんまないけども。

 

「悪いけど、僕も手は抜かない。

 どんな手段を使ってでもお前を倒すッ!」

「!? はっ? 消えた……!?」

 

 中空に浮かぶ迅を見上げていた俺だったがーー迅の姿は突然消えた。

 

「どこ行きやがった…! ……?」

(これは……飛行音……?)

 

 焦って辺りを見渡す俺は気付く。迅の姿は一切見えないが何かの飛行音らしきものが俺の耳には確かに届き、

 

「ーーはあぁぁあ!」

「!? ぐわッ…!」

 

 ーー()ッ…!?!?

 突如として背後から攻撃を受けた俺は地面に転がる。今の声は迅の……つうかあの焼鳥野郎っ!

 

(速過ぎるだろうがッ!?)

「隙だらけだっ!」

「!? がはっ!」

 

 俺は次は真っ正面から高速で蹴り飛ばされる。あまりの速さに迅の姿が俺には視認できなかった。どうする……? 速過ぎて見えないヤツ相手にどうすりゃあ……

 

「せやあああ!!」

「! ちぃッ! ぐはっ…!」

 

 そんなことを考えてる間も迅は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。………こうなったら、一か八か……いやあの速さじゃ闇雲に打っても一発も攻撃は当てられない……

 

(……待てよ? 音……そうだ! 音だっ!)

「はあぁぁあ!!」

「ぐッ…! やってみるっきゃねぇか!」

アタッシュショットガン!

ショットガンライズ!

 

 俺は手に持ったショットライザーをバックルに戻し、アタッシュショットガンを取り出した。

 

「今更そんなもの出したって、当てられなきゃ無駄だっ!」

「ぐはっ! はぁ……あーそうだな。当てられなきゃ、無駄だなァ!」

チャージライズ!

 

 俺は天津さんから借りたプログライズキーの内の一つ、群青色のプログライズキーを取り出す。空を縦横無尽に高速で飛ぶ迅の猛攻を受けながら俺は、

 

ウェーブ!

【Progrise key comfirmed. Ready to utilize.】

ホエールズアビリティ!

 

 そのままプログライズキーをアタッシュモードのアタッシュショットガンに装填する。そして、

 

「はぁーー………」

「? 遂に諦めたか? はぁぁぁあ!」

 

 ーー俺は仮面の下で目を閉じた。

 諦めた? ハッ! 的外れにも程があるぜ迅?

 

(集中しろ、音を聞け、意識を研ぎ澄ませろ…!)

「がはッ……!」

(痛みに耐えろ、集中力を乱すな…!)

 

 全力で意識を研ぎ澄ませる。

 相手が目では追い切れない「速さ」を持つなら、音を聞き取り、相手の場所を予測しろ……攻撃を受けても慌てるな。自分に言い聞かせるように内心でそう口にし、俺は攻撃を受け続ける。

 

 だけどーーアタッシュショットガンは決して手から落とさない。

 

「ーーはあぁぁぁあ!!」

 

 そして──その瞬間(とき)はやってきた。

 

フルチャージ!

「ーーッ! そこだァア!!」

「ーー何っ!?」

スプラッシング カバン バスター!

 

 俺は己の意識と感覚を信じ、アタッシュショットガンを展開し咄嗟に後ろを振り返りトリガーを引いた。瞬間、アタッシュショットガンからは青いエネルギーが放たれ、その激しい流水のような一撃は、

 

「!? ぐわぁぁぁあーー!!」

 

 ーー高速で攻撃を仕掛けようとした迅にドンピシャで命中し、迅は地面を転がり強制的に変身が解除される。

 

───────────────────────

 

「はぁッ…手こずらせやがって。だけど、これで終わりだ迅」

「うぐっ……まだだッ……!」

 

 変身が強制解除された時点で、迅の体力は限界だろう。ボロボロな体で必死に立ち上がろうとする迅……だけど、悪いが俺には油断も慢心も、容赦もする気はなかった。

 

「悪く思うなよ」

 

 この距離なら間違いなくアタッシュショットガンでコイツを破壊できる。俺がアタッシュショットガンを迅へと向けトリガーに手を掛けた、その時、

 

「ーー見つけたぞ、迅」

 

ーー不思議と聞く者全てに「恐怖」を感じさせる声が響いた。

 

「!? その声は……!」

「! ……お前は……?」

 

 声がした方に目を向ければそこには何者かの姿があった。

 ソレは黒いアーマーに身を包み、複眼は片方が剥がれたような黒色、もう片方は禍々しい赤色。胸には複数のパイプが貫通しており、よく見れば内部のパーツの幾つかが剥き出しだった。

 

 迅を見れば、酷く怯えた様子で謎の存在に目を向けている。──コイツも仮面ライダー……なのか…? 天津さんからはこんなヤツがいるなんて聞いた覚えはないんだが……。

 

「これは思わぬ遭遇だな、バルデル」

 

 ソレは迅から俺へと視線を移動させるとそう言い、

 

「……お前は誰だ……?」

「そうか。こうして直接(・・)会うのは初めてだったな」

 

一歩だけ俺に歩み寄ると。

 

「ーー私の名はアーク。人類を滅亡へと導く存在だ」

 

 ーー俺の問いにそう答えた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

なんかこのオリ主、偶然にも(ラッキー?)手傷負ってる相手とばっかり戦ってますねぇ……
(↓補足?情報、次回予告あります)

・迅
4話目「荒いアイツは仮面ライダー!」から登場。本作中では最初の純粋な「迅くん」の頃から既に滅からバルデルについての情報を聞かされており、一方的に天本太陽(オリ主)のことを知っていた。今回の話の流れとしてはアークに挑み返り討ちに遭い、逃げていた所でAIMSと遭遇し、AIMSを倒したと思ったら駆けつけたバルデルと出会い……自分で書いていてなんですが災難にも程がありますね笑

・スプラッシングホエールプログライズキー
天本太陽が天津垓から貸してもらっているプログライズキーの一つ。多分他にもバッファローやペンギン、パンダやライオンなどレイダーから回収されたプログライズキーの幾つかを「貸して」と頼めば貸してもらえる。それどころか太陽が仮に「くれ」と言えば天津さんなら喜んで差し出してくる可能性すらある。これ、もしかしなくても天津社長の職権濫用では……?



仮面ライダーゼロワン!


第10話 滅亡の方舟とのエンカウント!


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滅亡の方舟とエンカウント!

やっと書けた…!(安堵)
書いてる途中でなんか段々と入れたいシーンが増えていった結果、次話投稿が遅れてしまいました。

それでは、早速どうぞ!


「──アーク…? それって──」

 

 天津さんの言っていた人工衛星アーク。確かゼアの前身機で、人類滅亡の為の意思や指示を滅亡迅雷に与えてるっていう……いや待て、それが何で、

 

「──何故自己の『身体(ボディ)』を有しているのか、か?」

「!?」

「──その疑問には答えよう。私は滅亡迅雷.netの四体のヒューマギアからシンギュラリティデータを奪う事で復活を果たした。そして、このベルトを介し、他者の身体(ボディ)を乗っ取ることでこうして地上での活動を可能にしている」

 

 ーーアークと名乗ったソイツは俺の疑問を「先読み」するとそう驚くほど丁寧に説明しやがる。

 

「…こりゃあご丁寧にどうも……まぁつまり──」

 

 シンギュラリティデータだとか正直詳しくわかんねぇ部分はあるが、一つだけ分かり切ったことがある。それは、

 

「──お前は俺の敵だってことだな?」

「──あぁその通りだ」

 

 コイツ(アーク)は倒すべき相手だってことだ。

 即答するアークを見据え俺は構える。

 

「ッ! 無理だっ! よせッバルデル……!」

「あぁ?」

 

 そんな俺の姿を見て、倒れていた迅が突然そう叫んだ。俺は迅の方に視線だけを向ける。

 

「あいつのーーアークの強さは、僕達が挑んでどうにかなる相手じゃない…! 無駄死にするだけだッ!」

「………忠告ありがとよ」

 

 さっきまで戦ってた相手に言うほどとか……とんでもなく強いんだなコイツ。つうか迅、お前めちゃくちゃ足震えてんぞ? 俺は顔をアークへと再び向けながら迅に言ってやる。

 

「でも、ここで逃げるなんて選択肢とれねぇんだよ」

 

 後ろにはAIMSの隊員さん達が居る。

 ………最初の頃なら、赤の他人だからとか言って見捨てて逃げようとも考えただろうが……はぁー…嫌になるなホント。

 

「ーー私とお前の間には圧倒的な開きがある」

 

 アークは戦いの姿勢を見せる俺を前に言う。

 その通りだ。俺とアークの力の差は歴然で、ちょっとやそっとで縮まるようなもんじゃない……それは仮面ライダーとして戦って培ってきた勘ってやつで嫌でもわかってしまう。それでも、

 

(ーーやるしかないよなぁ……?)

 

 ーーやるしかない。

 

『不安だろうが…後の事は俺に任せて、あんたらは寝ててくれ』

 

 ーーあんなこと言っちまったからなぁ……見捨てて逃げるなんて裏切りに等しい行為できねぇよ。

 

「言われなくてもそんなことは分かってんだよ。それでも、やるしかねぇだろうがッ……!」

 

 恐れを振り払い、俺はアークに向かって駆け出しーーその右拳を振るった。

 

「ーー素晴らしい、そしてーー」

「ーーッ!?」

「ーー実に愚かだな」

 

 だが、その拳をアークに片手でいとも容易く受け止められ、アークは俺の右拳を片手で掴んだまま空いたもう片方の手をゆっくりと上げ、

 

「ーーふっ!」

「!ーーごはッ…!?」

 

 ーーッッ!?!?

 ーー防御する暇すら無い速度で拳を振るう。

 俺の体はその攻撃を受け、大きく後ろに弾けるように吹き飛ぶ。

 

「はあッ…! まだだっ……!」

「人間らしく、痛みを以てラーニングするといい。私の強さを。己の愚かさを」

 

 予想を遥かに超える威力に一瞬理解が追いつかなくなるが、何とか立ち上がる俺を見たアークの目前にはーー突如赤黒く何かが投影され、それは俺の見知った武器と化す。

 

「! ンなことできんのかよっ!?」

「…………」

「!? ぐぅう……!? がはっ!」

 

 アークはその場で作り出したアタッシュショットガンを片手で持つと、反動などもはや無問題なのだろう……こちらに歩み寄りながらアタッシュショットガンを容赦なく無言で連射し、

 

「ぐッ……!」

チャージライズ!

フルチャージ!

 

 アタッシュショットガンを手放したアークは次に滅が使っていたアタッシュアローを投影し瞬時に作り出す。最初に受けたアークの一撃とアタッシュショットガンの連射によるダメージで片膝をついた俺が顔を上げればーーアークは俺の真ん前にアタッシュアローを向けレバーを引いていた。

 

カバンシュート!

「!ーーぐわあぁぁァアーー!!」

 

 ーーそれをもろに受けた俺は衝撃でまたも勢いよく吹き飛び、爆発と共に強制的に変身が解除される。

 

 ───────────────────────

 

「ッ…がはっ…! くっそッ……!」

「その身を以て理解しただろう? バルデル。お前の力は、私には遠く及ばない」

 

 何のアーマーも装着せず倒れる太陽に目を落としアークは淡々と告げる。

 

「ーー迅、次はお前だ。安心するといい。まだお前には利用価値がある……破壊はしない」

「くっ……!」

 

 

 倒れる太陽から迅へと視線を移したアークは迅にゆっくりと歩み寄る。迅は震える足で後退りするがアークに受けたダメージとバルデルによって受けたダメージによりその動きは実に緩慢だった。

 

「ーー遅い」

「!? ごはッ…ぐッ………ーー」

 

 そして、迅は気付けば一瞬で背後に回り込んでいたアークの拳を腹に受け意識を落とし、

 

「……理解不能だな」

 

 ーーアークが倒れた迅に近付いた時、一発の弾丸がアークの背後からその肩を掠る。当然その攻撃をした人物はただ一人、

 

「力の差を理解していながら何故立ち上がる? 無駄な行為を続ける意味は何だ? 」

「はぁはぁッ……悪いが、俺はお前らヒューマギアほど賢くねぇんでな。一回倒れたくらいじゃ、簡単に諦められないんだよ…!」

 

 ボロボロな体で立ち上がり、痛みに堪えながらショットライザーを構える太陽に振り返ったアークは冷たくどこか呆れたように呟く。

 

「……人間というのはやはり愚かな生物だ」

「ハッ、よく分かってんじゃねーか?」

 

 アークの呟きを聞いて笑った太陽はショットライザーを仕舞い、別のドライバーを取り出す。それはアークも迅もよく知るドライバー、

 

「俺にはまだこいつがある…!」

「フォースライザー、か……本当に諦めが悪い……」

「知らなかったか? じゃあ、しっかりラーニングしとけよ。俺はどうしようもない小心者だが、同時に結構諦めが悪いってなあ!」

 

 ーーフォースライザー。

 ソレは太陽が一度だけ使用したドライバー…とは正しくは別物。十二年以上前の滅との激闘により損傷したそれを天津垓が回収し、AIMSの研究班に修理・改良させたものである。

 

フォースライザー!

「ッ…! んじゃ第二ラウンドと行くかァ!」

ストロング!

 

 左手に持ったフォースライザーを腰に当て装着し、続けて変身解除の勢いで落ちたアメイジングヘラクレスプログライズキーを拾いボタンを押す。

 

──変、身ッ……!

フォースライズ!

 

 

 ーー黄色のレバーを力強く引けば、装填したプログライズキーは強制的に展開。ヘラクレスカブトムシのライダモデルが真っ直ぐ俺に向かって飛び、その鋭い角に向け太陽は拳を振るう。瞬間、ライダモデルが太陽の身に纏われ、ゴムのように伸縮したアーマーが勢いよく装着される。

 

アメイジングヘラクレス!

Break Down.

 

「行くぞアークっ…!」

「何度試行しても、結果が変わることはない」

 

 変身した直後、疾走し挑みかかる太陽を前にアークは言う。

 

「ーーどらぁああッ!!」

「ふっーーはっ!」

「ぐッ…! ったく、そんな簡単に受け止められると自信失くすなぁ……」

 

 自らの全力のパンチを片手で受け止めたアークの攻撃に怯み、僅かに後退りした太陽は一瞬俯きそんな言葉を零し、

 

「おらァ!」

「無駄だ」

「くっ…!」

 

 再度攻撃を仕掛ける。だが、それを当然のように躱したアークの手元には赤黒いノイズが出現し、またアタッシュショットガンが作られる。

 

「なら、こっちもショットガンだ!」

「ふんっ!」

 

 それを見た太陽は、先程自らがアークの攻撃により落としたアタッシュショットガンに目を向けると、素早くそちらに向かいローリングしアタッシュショットガンを手に取りーー地面に片膝をついたまま、照準をアークに向けトリガーを引く。

 

「!? ぐはっ…!! ッ……まさか、威力まで強化されてんのかソレっ!?」

「こちらの攻撃を相殺しようとしたようだが、無意味だ」

 

 ーー両者の攻撃は相殺されず、太陽の放ったアタッシュショットガンの一撃が押し負け太陽は大きく吹き飛ばされる。そんな太陽に無慈悲にアークはアタッシュショットガンを放つ。

 

チャージライズ!

「うぐっ!? …ぐゥうッ!? っ……はぁ…それなら……!」

 

 その一撃を前に太陽は反射的にアタッシュショットガンをアタッシュモードに変え盾にする。しかし、アークのその攻撃は防御をしたとは思えないほどの衝撃を太陽に与え、

 

ブロウ!

「ーーコイツでどうだっ…!!」

【Progrise key comfirmed. Ready to utilize.】

『バッファローズアビリティ!』

 

 衝撃になんとか耐えた太陽は立ち上がり、新たに取り出した赤いプログライズキーのボタンを押しアタッシュモードのアタッシュショットガンに装填しーーアタッシュショットガンを展開する。

 

フルチャージ!

「ーーはああぁぁぁあッ!!」

クラッシング カバン バスター!

 

 途端にアタッシュショットガンの銃口に赤いエネルギーが発生しーー発射された弾丸と共にバッファローのライダモデルが放たれアークへと突進していく。

 

「ーーー!」

 

 放たれた必殺技はアークに直撃しーー爆発が起こる。

 瞬間、辺りは黒い爆煙に包まれ、

 

「ーー所詮、人間とは……バルデル。お前とはこの程度か?」

 

 ーー爆煙が晴れた先でアークは平然と立っていた。一切ダメージなど受けていない……そうとしか思えない姿を前にした太陽は……。

 

「ッ……はぁ…ここまでテメェの無敵っぷりを見せられると、絶望通り越してーー最っ高に頭にキタぜっ!」

 

 ーー恐怖することもなく。

 ーー絶望することもなく。

 アークの強さとこちらを明らかに見下している言動に湧き上がる怒りに任せーーフォースライザーのレバーを押し込んだ。そうすればプログライズキーは閉じられ、危険を知らせるかの如くベルトに取り付けられたランプが赤く点滅し始め待機音が鳴る。

 

アメイジング ユートピア!

「おおッーーらああああ!!!」

 

ア メ イ ジ ン グ

ユ ー ト ピ ア

 

 そして、フォースライザーのレバーを引き、再び押し込み、更に引き……レバー操作を連続で行った太陽はアーク目掛けて高く跳躍し蹴りの構えをとる。アークへと向けられた太陽のその右足からは赤黒い火花が激しく散り、黄緑色の爆発的なエネルギーが収束していた。

 

「ーーぐっ……!」

 

 太陽の必殺のライダーキック、渾身の一撃をアークは避けることなくその身で受けーー戦闘が始まってから初めて僅かではあるが怯みを見せる。だが、

 

「──認めよう、バルデル。お前は強い──」

「?! 消えーー! うぐッ…!?」

 

 ーーアークはすぐに反撃へと転じた。

 一瞬で太陽の背後を取り、右手でその首をがしりと掴み持ち上げ、太陽の足は地面から浮く。

 

「──しかし、私の方が上だ」

「ぐぅ…ァ…! はな、せッ……!」

 

 アークの拘束から逃れようと自分の首を掴むアークの右腕に拳を叩きつける太陽。しかし、アークの拘束は一切緩まずーーアークは空いた左手で自身が装着するドライバーの上部にあるスイッチを強く押し込んだ。

 

オールエクスティンクション!

 

 その操作を行なった直後、アークは太陽の首を掴んでいた手を離しーー

 

オール

エクスティンクション

 

「!?!? がああぁぁァアァァーー!!」

 

 拘束から解放され太陽が地面に落ちるより早く、赤黒いノイズが走る足でその体に横蹴りを打ち込む。その威力に凄まじい勢いで吹き飛んだ太陽はその体を地面に強く打ち付けーーダメージにより変身が強制的に解除される。

 

───────────────────────

 

「ァ……ごはッ…!」

 

 こりゃあ……まじでヤバい、かもしんないなぁ……。立ち上がろうとするが体には全く力が入らない。地面に倒れたまま俺は口から大量の血を吐く。頭からも出血してるからか……頭がぼーっとする……。

 

「…………」

「っっ!? な、んで……?」

 

 そのせいもあって、目の前にいるアークがとった行動が俺には尚の事理解できなかった。

 

「何故トドメをささないのか、か? 決まっているだろう。バルデル、お前にはまだ重要な利用価値があるからだ」

「なん、だとッ…!? ごほッ……!」

 

 アークは倒れる俺にトドメを刺すことなく、意識を失い倒れた迅を抱えて倒れる俺に背を向けた。利用価値………十二年以上前に滅が同じような理由を口にして俺を生かした時があったが……お前らの言う『俺の利用価値』ってのは一体何なんだ…?

 

「ーー待てッ! アーク……! お前は、何でッ…何でッ! 人類滅亡なんて結論に至った!?」

「…………」

 

 走る痛みも、流れる血も構わず俺はその背に叫ぶ。衛星アークの存在を知ってから、ずっと抱いていた最大の疑問。それをぶつければアークは足を止め、

 

「──その答えが知りたいのなら、私ではなくあの男──天津垓に直接聞けばいい」

 

 ーー振り向いてそう口にし、それを最後にアークとアークが抱える迅は赤黒いノイズに包まれその場から姿を消す。

 

「!? ーーぐッ…がはッ……!」

 

 そして、俺はアークが姿を消した直後に更に吐血。周りに倒れるAIMS

 の隊員さん達と同じく……いや、それ以上に酷い状態で倒れる。

 

 ──力尽きて意識を失う直前。

 

 ──誰かの呼ぶ声が聞こえた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

今回の話は一言でいうと「完全敗北」な回となります(↓キャラとスペック載せておきます)


・アーク
本編でも、そして本作でもきっとラスボスのヤバいヤツ。天本太陽(オリ主)のことを十二年前……滅と太陽が初めて出会った時からデータとして知っており、滅同様にバルデルを強く警戒していた。しかし、同時にその力に大きな利用価値があるとも考えている。また、太陽が今まで戦ってきた全マギアのデータを持っているので当然序盤の太陽の未熟さや苦悩、弱さや強さも把握している。


仮面ライダーバルデル
アメイジングヘラクレス
(フォースライザーver)

SPEC
◼️身長:197.5cm
◼️体重:98.6kg
◼️パンチ力:48.8t→52.9t
◼️キック力:31.5t→35.5t
◼️ジャンプ力:16.5m→18.3m(ひと跳び)
◼️走力:3.7秒→3.0秒(100m)
★必殺技:アメイジングディストピア、アメイジングユートピア

【スペック変動あり】
・パンチ力+4.1t
・キック力+4t
・ジャンプ力+1.8m
・走力一0.7秒

デイブレイク被害者である天本太陽が修理・改良された「フォースライザー」と「アメイジングヘラクレスプログライズキー」を使って変身した姿。


仮面ライダーゼロワン!


第11話 ワタシがアークの生みの親


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ワタシがアークの生みの親

ゼロワン42話「ソコに悪意がある限り」全然予想のつかない展開…半端なかったですね……来週もめちゃくちゃ楽しみです! ちなみに今回文字数少なめです。

それでは、どうぞ!


「──……っ……ここ、は……」

 

 目を覚めた俺が居たのは、随分見慣れてしまった病室のベッドの上。

 いや病室を見慣れるとか重い病気患ってる患者とかじゃない限りおかしいんだけどな? ……体がズキズキと痛む。特にアイツの蹴りを受けた腹の痛みは尋常じゃねぇ……。

 

「目が覚めましたか。やはり君は頑丈ですね──太陽君」

「……──天津さん………」

 

 聞こえた声にそちらを向けば、ベッドの横に置かれた椅子に座る天津さんの姿があった。

 

「君に連絡がつかなくなった時は焦りましたが、無事で何よりですよ。君の妹さんも見舞いに来ていますが、今ちょうど君の主治医の元に行かれましたよ」

「そうなんですか……え、無事? こ、これって無事ですかね!?」

 

 俺病院送りにされたんですけど? それを無事? ………まぁ痛みはあるけど自由に身動きできるから……

 

(………まぁ無事か、うん)

 

 間違いなく無事だな!(感覚麻痺)

 天津さんの発言に納得した俺は天津さんに起きてすぐ報告した。迅との戦闘、そして【アークの復活】を。

 

「……真面目な話始める前にちょっといいすか?」

「はい? なんでしょう?」

「頬赤いですけど……どうしたんです? それ」

 

 実はさっきから気になってたんだ。天津さんの左頬にある赤い紅葉みたいな模様が……。

 

「……察してください、太陽君」

「……大体わかりました。すいません、(うち)の妹が…」

「いえ、実に真っ当な行動だと私自身納得しているので……気にしないで構いませんよ」

 

 

 

 △△△

 

「──やはり、アークは復活しましたか……」

「悔しいですけど……正直、俺じゃ歯が立ちませんでした」

「……これは早急に何か策を講じる必要がありますね……」

 

 アークの力は規格外のものだった。

 俺よりも遥かに上の力を持っていた。

 

(人類滅亡……あれだけの力を持ってるんだ。このまま行けば、それは間違いなく現実のものになる……)

 

 どうにかして、あいつを止めねぇと……。

 方法は今はまださっぱり思いつかない。

 ……本音を言えば俺はアークの力に確かな恐怖を感じてる。放り出したいという気持ちも少なからずある。相変わらず戦うことは嫌いだし、痛いのも大嫌いだ。

 

(………絶対に止めてやる)

 

 だけど、ここでビビって逃げる訳にはいかない。このまま負けて終わるなんてゴメンだし、何より俺が守りたいみんなの『未来』を勝手に諦める訳にはいかないんだよ。

 

 でも、その前に、

 

『──その答えが知りたいのなら、私ではなくあの男──天津垓に直接聞けばいい』

「……天津さん、すいません」

 

 俺はどうしても天津さんに聞かなきゃいけないことがある。今まで怖くて聞けなかったこと。今まで覚悟ができず聞けなかったこと。今まで肝心なとこでヘタれて聞けなかったこと。

 

「? どうしましたか? 太陽君」

 

 これは俺が衛星アークについてやけに詳しかった天津さんと、アークの言葉を元に勝手に導き出した推論(・・)でしかないが……

 

「──答えてくれ、天津さん」

「ーーー」

「あんたは衛星アークの開発に関わっていたのか?」

「………えぇ、関わっていましたよ。そもそも──」

 

 天津さんは俺の問いに少しばかり沈黙した後、真剣な表情で口にした。

 

「──アークを生み出したのは私です」

 

 

 

───────────────────────

 

 

「アーク……! お前は、俺が止めてみせるっ!」

「人類を滅亡させる。私が導き出した結論は変わらない。そして──この結論が覆ることは決してない」

 

 或人は震える足で一歩前に出る。そして、アークドライバーゼロを装着した(アーク)と対峙する。

 

ゼロワンドライバー!

Everybodyジャンプ!

オーソライズ!

 

 取り出したゼロワンドライバーを装着し、右手に持ったメタルクラスタホッパープログライズキーのボタンを押してドライバーにスキャン。

 

プログライズ!

──変身っ!

メタルライズ!

 

 流れるような動きでプログライズキーを装填。

 続けて左手を前に出して構えをとり、変身と言いプログライズキーを右手で素早く折りたたんだ。

 

Secret material 飛電メタル!

メタルクラスタホッパー!

It's High Quality.

 

 瞬間、銀色のバッタの群れのライダモデルが現れ、或人の身体全体に纏わり付くように動きアーマーを構築しーーメタルクラスタホッパーに変身した。

 

「ーーはあぁぁあっ!!」

 

 変身直後にアークに接近し、その手に持ったプログライズホッパーブレードで切り掛かる或人。

 

「アークっ! お前を止められるのはただ一人、俺だッ!」

「いいや、私を止められる者はいない……誰一人」

メタルライジング インパクト!

オールエクスティンクション!

 

 

 ゼロワンとアーク。二人の戦いが始まった。

 

 

 ───────────────────────

 

「天津さん、(にい)の様子は……って、あれっ?」

 

 太陽の主治医から話を聞き、病室に戻ってきた美月は首を傾げ室内を見渡す。

 

(にい)……? ……天津さんも居ないし……」

 

 病室を出て廊下にも目を向けるが二人の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

「太陽君、その体で無理に動くのはお勧めしませんよ? 悪いことは言いませんから今すぐ病院に──」

「──天津さん」

 

 病院からかなり離れた人気の無い廃工場……そこはいつかワズと共に逃げ込んだあの場所。目的地に辿り着いた俺は足を止め、後をついてきていた天津さんへと振り返る。

 

 俺は天津さんの口から全ての真相を聞いた。

 衛星アークに悪意をラーニングさせたこと。

 それにより【デイブレイク】が起こったこと。

 その動機も、全て。

 

「あんたがやったことは、そう易々と許されることじゃない。自分の利益の為に動いた……自分勝手なあんたのせいで大勢の人があの日、人生を狂わされた」

 

 あの日、デイブレイクにより大勢の人が死んだ。大勢の人の人生が狂わされた。

 

「それに……一番の問題は別にある」

「…………」

「それは、あんた自身が自分がやったことを『罪』だなんて微塵も思ってないことだ」

 

 天津さんは自分自身が罪を犯しただなんて微塵も思っていない。それに、後悔もしていないのだろう。

 

「えぇ、君の言う通りです。私は私自身のしたことを『罪』だなんて思ってもいない。私はただ私の利益の為に動いただけですから」

 

 悪びれる様子なく天津さんは言う。

 アークに悪意をラーニングさせ、滅亡迅雷を作らせ、それを利用してレイドライザーを兵器として売ろうとした………俺が知らないだけで他にも天津さんは罪を重ねているに違いない。

 

「どうしますか? ここで私に復讐しますか?」

「…………」

「それもいいでしょう。デイブレイクの被害者である君にはそれをする資格がある」

 

 ……どうやら、天津さんは本気でそう思ってるらしい。復讐する資格なんて俺にあるわけがないし、つうかンな資格いらねぇよ。そもそもの話、俺個人は真実を知った今も天津さんをおかしなことに憎んでいなかった。いや、憎もうにも憎めないと言ったほうが正しいかもしれない。

 

 

「復讐なんてするわけないでしょ……ただーー」

(正直、どうすりゃいいのかなんて俺にもわかんねぇ)

 

 復讐をしないなら何をするんだ? 天津さんが隠していた何かを隠していることを薄々察してはいたが、それが予想以上のもので……俺は混乱していた。自分でも自分がどうしたいのか、自分の心がよく分からなくなっていた。

 

「ーー天津さん、俺と今ここで戦ってくれ」

ショットライザー!

 

 混乱する中、俺がとった行動は『戦う』ことだった。懐からショットライザーが取り付けられたバックルとベルトを取り出し、勢いよく腰に巻き付け天津さんを見据える。

 

「……いいでしょう。君とは遅かれ早かれ、いつか戦うことになるだろうと私も覚悟はしていましたから」

サウザンドライバー!

 

 天津さんは俺の意図を一切聞くことなく、取り出したサウザンドライバーを装着。

 

ゼツメツ! Evolution!

 

 続けて右手に持ったゼツメライズキーをクルリと回しドライバーの右側にあるゼツメライズスロットに装填すれば直後、アルシノイテリウムのライダモデルが現れ天津さんの周りを駆ける。

 

ストロング!

ブレイクホーン!

オーソライズ!

 

 俺たちはほぼ同時にプログライズキーのボタンを押す。

 俺はプログライズキーをショットライザーに装填して展開。

 天津さんは展開されたプログライズキーを持ちながら両手を横に動かす。そして、

 

Kamen Rider. Kamen Rider.

「「──変身…!」」

ショットライズ!

パーフェクトライズ!

 

 俺はバックルから引き抜いたショットライザーのトリガーを押し、天津さんはプログライズキーをドライバーの右側にあるライズスロットに装填し、

 

「ーーおらあッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

『When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born.』

Presented by ZAIA.

 

 瞬間、ショットライザーから放たれた弾丸はアルシノイテリウムのライダモデルに弾かれーーそれに俺はアッパーを打ち込み、垓は現れたコーカサスのライダモデルとアルシノイテリウムのライダモデル、二体を纏いーー最後に五本の角が交わる。

 

「行くぞ……最初から全力で行かせてもらう」

「えぇ、私も1000%全力でやらせてもらいましょう」

 

 ──仮面ライダーバルデル。

 ──仮面ライダーサウザー。

 

 変身を果たした俺と天津さんは駆け出し、手始めに互いに右拳を全力で振るう。

 

 

 

ゼロワンとアークが戦っているその裏──

 

 

──今、バルデルとサウザーの戦いの火蓋が切られた。

 




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仮面ライダーゼロワン!


第12話 カレの選択が分岐点


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カレの選択が分岐点

ゼロワン……遂に明日最終回。結末がどうなるにせよ最後まで楽しんで見届けたいと思います。また、今回から少しずつ原作改変が顕著になっていく……かもしれないです!

今回は「サウザーVSバルデル」。
それでは、どうぞ!


『失礼』

『すいません。部屋間違ってませんか?』

 

 デイブレイクに巻き込まれ、搬送先の病院で入院していた俺と天津さんとのあの最も最初の出会い。間違いなくあれが──デイブレイク被害者()が仮面ライダーになる話の始まりだったのだろう。

 

 気付けば随分と長い間、俺は仮面ライダーとして戦っている。何度も死にかけたが何とか生きている……いや、本当ならあの日の滅との一騎打ちで俺は死んでいた筈だ。

 

 だけど、他の誰でもない天津さんがそんな俺を助けてくれた。

 

 俺は天津垓という人間に多大な借りがある。

 マギアの撃破、戦闘データの提供などによって得られる報酬。そして、何よりも俺の回復を信じ、俺の命を十二年以上繋いでくれたこと。

 

 ──恩返しがしたい。

 俺が回復してから今まで、天津さんに引き続き協力していた一番の理由はそれだった。

 

 なあ、天津さん。

 俺は一体、あんたに何をしてやれるんだ?

 

 

 ───────────────────────

 

「ーーおりゃああっ!」

「くっ…!」

 

 俺は最初から全力で、拳での猛攻撃を天津さんーーサウザーに仕掛ける。サウザーは防御の態勢をとるが「それがどうした?」とお構いなくパンチを連続で叩きつけ純粋なパワーで押していく。

 

「ふっ、流石ですね太陽君……スペック差があるにも関わらずそれを全く感じさせない戦い振りだ。ですがーー」

 

 後ろに飛び退き距離をとったサウザーは俺に称賛を送り、金色の武器を手に取った。

 

サウザンドジャッカー!

「この力は、君の力を更に強化・進化させたもの……ならば、私が君に負ける事は1000%ありえない…!」

 

 サウザンドジャッカーを構え、再び接近戦に挑むサウザーはサウザンドジャッカーを上段から振り下ろす。

 

「ッ……!」

「甘いっ!」

「かはっ!?」

 

 それを俺は両手で受け止め防ぐが鋭い蹴りを受けて怯む。サウザーはそんな俺に油断なくサウザンドジャッカーによる突き、追撃を噛まし俺は地面を転がった。

 

「っ……ンなら、こっちも武器だ!」

アタッシュショットガン!

「そらそらァーー!!」

「っ!」

 

 立ち上がるのと同時にアタッシュショットガンを取り出し、サウザーへ銃口を向けトリガーに手を掛け散弾を連射しながら俺は駆け出す。

 

「うぐッ…!?」

チャージライズ!

「ーーぶっ飛びやがれ!」

 

 サウザーは冷静にサウザンドジャッカーを盾に弾丸を防ぎ、散弾を連射しながら距離を詰めた俺はギリギリでアタッシュショットガンを素早く閉じアタッシュモードに変えーーそれを展開せずそのまま武器にして殴り掛かった。

 

「がッーーぐがっ!?」

 

 それをサウザンドジャッカーで受け止めようとするサウザーだが、受け止めきれずに押し負け後ろに吹き飛ぶ。だが、サウザーは辛うじて受け身をとり地面に倒れる事なく着地する。そして、

 

ジャックライズ!

「はあぁーー……」

ジャッキングブレイク!

「ーーハァアアアッ!!」

ザイアエンタープライズ

 

 反撃とばかりにサウザンドジャッカーのグリップエンドを引き、更にトリガーを引いて必殺技を発動する。瞬間、巨大な狼の頭部のようなライダモデルが出現し追尾弾のように俺目掛けて放たれた。

 

「素直に食らってたまるかよっ!」

シザーズ!

Progrise key comfirmed. Ready to utilize.

スタッグビートルズアビリティ!

「ーーおらああああッ!!」

エキサイティング カバン バスター!

 

 それに対し、俺はオレンジ色のクワガタのプログライズキーを取り出してアタッシュショットガンに装填し、アタッシュショットガンを展開。トリガーを引いて迎え撃つ。

 

ーーJACKING BREAK

©️ZAIA エンタープライズ

 

グ カバン バスター

 

「がはっ……!」

「ぐはっ……!」

 

 アタッシュショットガンの銃口にチャージされたオレンジ色のエネルギーは放たれた瞬間、クワガタ特有の大顎のような形のライダモデルになりサウザーの放つ狼の頭部のライダモデルを挟み爆発する。

 

 その余波により俺とサウザーは互いに後ろに吹き飛び、サウザーは地面を転がり、俺は背中を壁にぶつけ地面に片膝をつく。

 

(予想以上に手強いっ……!)

 

 俺の力を強化・進化させた力……か。いや、前に滅と戦った後に社長室で天津さんから聞いて知ってはいたが…人に無断で何作ってんだこの人?

 

(つうか俺の力なんかより強化・進化させるに最適なヤツいたろ……)

 

 なんて疑問を一瞬抱くが、すぐにそんな無駄な思考を止めて俺は何とか立ち上がり右手をバックルに装填したショットライザーに置き、

 

ストロング!

「天津さん──あんたを、倒すっ!」

アメイジングブラストフィーバー!

 

 ショットライザーに装填されたプログライズキーのボタンを押す。

 

「いいや、勝つのは1000%私だっ!」

サウザンド デストラクション!

 

 また、サウザーは俺の必殺技に対抗するべくドライバーに装填されたプログライズキーを力強く押し込んだ。

 

「──はあッ!!」

「──ふッ!!」

 

 そして、互いに駆け出し高く跳び蹴りの構えをとり──放たれる二つの必殺技(ライダーキック)。俺の右足に収束していた黄緑色のエネルギーとサウザーの右足に収束していた金色のエネルギーが激突し、

 

ブラスト フィーバー

 

──どらあああッ!!

 

──THOUSAND──

──DESTRUCTION──

 

──はああああッ!!

 

 ーー二つのエネルギーが勢いよく爆ぜた。

 

「何っ!? ぐはッ……!!」

「はあ、くっ、うぐッ……!」

 

 それによりサウザーは空中でバランスを崩し地面に倒れる。対して俺はふらつきながらも何とか着地に成功する。予想以上の威力により互いのアーマーから激しく火花が散り、互いに苦悶の声を漏らすがまだ変身は解除されていない。

 

──まだ勝負はついていない。

 理解した瞬間、双方の次の動きは早かった。

 

「これで、決めてやるッ…!」

ストロング!

 

 痛みの走る手でショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを押す。

 

「まさかサウザーが押し負けるとは……。君はまだ万全な状態ではない筈ですが……やはり君は『例外』ですね」

アメイジングホーン!

Progrise key confirmed. Ready to break.

「ならば……サウザーが持つ最大威力の必殺技を見るがいいっ!」

サウザンドライズ!

 

 サウザーはドライバーから引き抜いたプログライズキーのボタンを押し、プログライズキーを閉じてサウザンドジャッカーに装填。闘争心を更に燃え上がらせ、素早くグリップエンドを引き構える。

 

アメイジングブラスト!

サウザンドブレイク!

 

 次々とサウザーの元に出現し襲い掛かるライダモデル。

 放たれる巨大かつヘラクレスの角のように鋭利な弾丸。

 

「「──ハアアアアアッ!!」」

 

 そして、勝負が決する。

 

 

───────────────────────

 

 

「うっ、うぅ……ぐッ……!」

「はぁ、はぁ……どうやら、勝負あったようですね…」

 

 片膝をつき息を整えた垓は変身が強制解除され、地に倒れた友──太陽を見て口を開く。

 

 勝負の結果、勝ったのは天津垓(サウザー)だった。

 

「アークとの戦闘によるダメージが完治し、君の状態が万全だったのであれば結果はまた違ったかもしれませんが……」

 

 天津垓(サウザー)天本太陽(バルデル)

 始まる前から分かりきっていた事実ではあるが、この勝負には太陽側に大きなハンデがあった。

 

 一つは純粋なスペックの差。

 原型とも言えるバルデルと、そのバルデルのデータを利用し強化・進化したサウザーの間には明確な開きがあった。そして、一番のハンデは太陽がサウザーとの戦闘前に負ったアークとの戦闘によるダメージだ。

 

(戦闘経験なら間違いなく私は負けていた……仮面ライダーとしてのポテンシャルも)

 

 ドライバーの左右からプログライズキーとゼツメライズキーを引き抜き、変身を解除した垓は冷静に考える。天本太陽の強さはスペックの差などものともしない『例外』に違いない。

 

「太陽君、立てますか?」

 

 倒れる太陽へと歩み寄り手を差し伸べる垓。

 

「……天津さん、一つ教えてくれ」

「……何でしょう?」

 

 しかし、顔を上げた太陽はその手を掴まず真っ直ぐ垓を見据え聞く。

 

「どこまでだ?」

「ーーー」

「どこまでがあんたの思惑通りだ?」

 

 それは垓からデイブレイクの真相を聞いた太陽が、思わずにはいられなかった最大の疑問だった。

 

「……まず、最初に言っておきましょう。病室で初めて君と会った日。それ以前、私は君の存在を知りませんでした」

「…………」

「あの日、私はデイブレイクの被害に遭った人間の中から『仮面ライダー』に変身しマギアと戦い、戦闘データの提供をしてくれるような者を探していました」

 

 垓は太陽の疑問に答えるべく、あの日のことを思い出しながら語り始めた。

 

「デイブレイクにより暴走したヒューマギアに襲われ、ヒューマギアに対して強い憎しみを抱いている……そんな人間が私の考える理想でした」

 

 だからあの時の君は私の理想とは真逆の人間でした、と垓は続ける。

 

「落胆しましたが、同時に興味が湧きました。ヒューマギアに襲われたにも関わらず、ヒューマギアを憎むことなく飛電是之助の夢に期待し続ける人間……そんな者が仮面ライダーとして戦ったらどうなるのか」

 

 初めて太陽と出会った垓は、太陽本人の言葉を聞く前から「ヒューマギアを憎んでいるだろう」と勝手に思い込んでいた。しかし、実際は全く違った。ヒューマギアに襲われたにも関わらず、多少嫌いにはなったが憎んではいない……ヒューマギアを作った張本人である飛電是之助の夢を信じる。当時、太陽本人に言った通り垓には太陽の考えが理解できなかった。

 

「君にドライバーを与え、私は君を仮面ライダーに選んだ」

「ーーー」

「最初は君のことをマギアにプログライズキー、ショットライザーのデータ収集……ZAIA延いては私の利益の為の『道具』だと思っていました。ですがーー」

 

 ーー長い時間を共にし協力する中で垓のその思いは変化した。

 

「ーー戦うことへの恐怖を感じながらも、仮面ライダーとして一人で戦う君の姿に、思いに、強さに……私はいつしか、憧れを抱いていた」

「……天津さん……」

「だからでしょうね。本来なら、君を最後まで『道具』として使い潰す予定だったにも関わらず……私は君にフォースライザーを与えた」

「……ひっでぇなぁ、使い潰すって」

「えぇ、当然の感想ですね」

 

 元々の計画では垓は、天本太陽(バルデル)を滅の人類滅亡計画を先送りさせる為の英雄(どうぐ)にするつもりだった。変身者の生死は問わない。ただ滅に甚大なダメージを与え、計画を先送りにしてくれればそれでいい。太陽の戦闘能力ならそれが可能だと垓は確信していた。

 

 だが同時にその場合、太陽の生存確率が極めて低いことも分かっていた。デイブレイクを生き延びた彼であっても、ショットライザー……それも変身に負荷のかかる試作品では……

 

「君にフォースライザーを与えた理由……あの時、私は自分の行動を納得させるように『借りがあるから』などとそれらしい理由を考え出しました」

「…………」

「ですが本当の理由は至極単純です。

 ーー私は君に生きて欲しかった」

 

 あの時、垓は太陽にフォースライザーを渡すつもりなど毛頭なかった。それは天本太陽(バルデル)ならば、たとえ試作品のショットライザーだろうとも、その強靭な精神力(思い)を持ってあの滅に有効打を与えると確信していたから……気付かぬ内に垓が彼を信頼していたからに他ならない。

 

「くっ……っ……俺は、どうすりゃ……!」

「ーーーー」

「ーーどうすりゃいいんだよっ!?」

「……私は、今も変わらず君の協力を求めています。……自分で口にして、馬鹿なことを言っていると自覚はしていますがね」

 

 垓はそう言うと自分でも「らしくない」と思いながら自嘲の笑みをふっと浮かべ、倒れる太陽に背を向けた。

 

「……強制はしません。どのような選択は取るかは、君の自由です」

 

 それでは、と最後に言い垓は歩き去る。

 

「何だよそれっ……待て……待てよ…! 天津さんッ!!」

 

 そんな垓の背に太陽の叫び声が掛かるが、垓は振り返ることなく歩を進める。彼はもう自分自身では止まれない場所まで至ってしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 少しの時間が経った後。

 立ち上がり、廃工場を出ればちょうど雨が降り始めていた。

 

(………なぁ、飛電さん、ワズ──)

 

 あてもなく雨に打たれながら歩き出す。もう居ない、あの二人を思い浮かべ空を見上げた。

 

「──俺は、一体どうすれば……っ……」

 

 頼むから、教えてくれよ。

 天津さんに今まで通り協力するか、否か。

 わかってる、わかってるんだ。

 天津さんは間違ってる。

 天津さんのやっていることは正しくない。

 なら俺が取るべき選択(最善)は………

 

(……壊したく……ねぇなあ……)

 

 デイブレイクに遭った俺が「天津垓」を許すなんて馬鹿げてる。許すべきじゃない。恨んで、憎んで、怒りを覚えるべきなんだ。でも、俺は……この関係を壊したくない。

 

「もう、わかんねぇよ」

 

 できることなら、天津さんとこれまで通り、今まで通りの関係で居たいと思ってしまっている。仲間として。友達として。これからも……

 

 天津さんの間違いを正す。

 それが正しいことなのはわかってる。

 だけど、それをしてしまえば……きっと……

 

 

 

 

 

 

(………あ………?)

 

 さっきまで感じていた体に打ち付ける雨の冷たさが唐突に消え、内心首を傾げる。雨が止んだ? いや雨の音は変わらず聞こえている。じゃあ何で……と空を見上げれば、そこには透明な布……ビニール傘が差されていた。

 

「──何がわかんねぇんだ? 青年ルックスのアラサー息子っ!」

「?! ()った……!」

 

 それに気付いた途端、背中を勢いよく傘を差してくれていた「誰か」に叩かれる。意識を現実に戻すようなその一撃に思わず声を上げてしまう。

 

「いきなり何すんだよッ…!? っ!」

 

 すぐに振り返り相手を非難しようとした俺は驚いて目を僅かに見開き、相手の名を呼んだ。

 

「こんなとこで何してんだよ──父さん……」

「それは完全にこっちの台詞だぞ。太陽」

 

 雨の中、傘ささないと風邪ひいちまうぞ? と言って和かに笑う「誰か」はまさかの俺の父だった。

 




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仮面ライダーゼロワン!


第13話 バルデルの選択


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バルデルの選択

いよいよ明日「仮面ライダーセイバー」はじまりますね……ゼロワンロスもありますがとにかく楽しんで見たいと思います! いやぁワクワクしますねぇ…!(ゼロワンの二次創作を書きながら)

それでは、どうぞ!


 

「あちっ……!」

「ほら、あったかい内に食べちゃいな」

「……うす」

 

 家族で……しかも男同士で暫く相合傘をしながら歩いた俺たちは今、どこにでもあるコンビニ前で雨宿りしている。すれ違う何人かの人から奇異の目で見られちまったよ……ちくせう!

 

 ふわっと投げ渡された肉まんを両手でキャッチした俺はゆっくりと食べ始める。俺が食べ始めるのを見て、父さんもまた俺と同じように買ってきた肉まんを食べた。

 

「……父さん、今日仕事だったの?」

「おう、まぁな」

「そう………」

 

 うん、無性に気まずい……!(冷や汗)

 何だ、何なんだこの展開はっ!?

 おい誰だよ、天津さん(友達?)と戦って負けて色々あって消沈してるところで家族とばったり会うなんてシナリオ書いたやつは!?

 ……えっ? 人生にシナリオなんざない? 正論すぎて何も言えねぇぜ……

 

「…あー……じゃあ父さんは帰り? 帰りの途中でたまたま?」

「おう。残業でくたくたになってた帰りにな。前見たら雨の中で、傘も持たずに歩いてる愛しの息子の後ろ姿が見えたから声を掛けたわけだ」

 

 おう。そこまでは理解できるわ。

 けどさ、背中を勢いよく叩く必要あった? あったか? ないよな? はっ? 愛情表現? ざけんなンな暴力でしか伝えられない愛情なんざいらねぇんだよボケがっ!(半ギレ暴言)

 

「『愛し』て……言ってて恥ずかしくない? 俺32のアラサーよ?」

 

 ………実のところ、俺はこの人が苦手だ。

 いっつもテンション高いし、声でかいし、ナチュラルにカッケェし、なんか距離感が「親子」というより「友達」だし。

 

「バーカ、愛するのに歳なんざ関係ねぇよ」

「……さいですか」

 

 特にこう色々とストレートな部分が、俺とは全然違う人種というか…いや親子なんだけどな? 父さんからそっぽを向き俺はまた肉まんにかぶりつく。

 

「どうした、照れたか?」

「照れてねぇよ」

 

 そっぽを向いた俺を見て笑いながら父さんは言う。いや父親の言葉に照れる息子なんざ希少すぎるわ。……というか前々から思っていたけども、

 

「父さん、今何歳だっけ…?」

「んー、今年で56歳だな!」

「いや、おかしいだろ」

「え、何が?」

「高過ぎるテンションと若過ぎるルックス」

 

 56歳……の筈なんだが、まずルックスがおかしい。何がおかしいって言動からもわかるだろうけど…この人めちゃくちゃ若々しいのよ。テンションもルックスもどう見てもアラフィフのそれじゃない。ぱっと見どんだけ年齢を高く見積もっても30代前半ぐらいなんだよ……これ普通に考えてホラーだろ? ………今更だけど、もしかして俺の見た目が若々しいのって……

 

「若過ぎるルックス…それお前が言うか?」

「………」

 

 父さん、冷静にツッコミ入れてくんのやめてくんない?

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次はこっちが聞いていいか?」

 

 聞かないでくださいっ(切実)

 父さんの言葉に俺はそう言いたかったがまぁ言える筈もない。

 

「……どうぞ」

「太陽、お前昨日入院したばっかじゃなかったか? ……もしかしてもう退院したのか!?」

「ンなわけないでしょうがっ!? バカかあんた!?」

 

 一日で退院できるとかそれもう入院する必要ないだろぉ!? つうかもし仮に一日で退院したらソイツ化け物じゃん。

 

「ちょっと気分転換に……」

「病院抜け出してきたのか?」

「…これに関してはマジで申し訳なーー」

「ーーまぁそんな話はどうでもいい!」

(マジでなんなんこの人……?)

 

 そんな話はどうでもいいって聞いてきたのそっちじゃねーか!?と内心思うだけで口には出さない。口に出したら話長くなりそうだし、何より面倒くさくなりそうだからな。

 

「何か悩んでんだろ?」

「………別に、何も」

「んなわっかりやすい嘘ついてないで。ほらほら、遠慮なく父さんに悩み打ち明けてみな?」

「いや、本当に……余計なお世話だから」

 

 余計なお世話、そんな思ってもない言葉を口にした俺は食べ終わった肉まんの包紙をゴミ箱に放り捨てる。そして「ご馳走さん」とだけ告げて歩き去ろうとし、

 

「ーーなぁ太陽。父さん…お前に父親らしいこと全然してやれたことなかったよな」

「………急にどうしたの?」

 

 ーー父さんらしくない、弱々しく聞こえる声に俺は思わず足を止めて振り返った。

 

「前までは考えることもなかったんだけどな……お前が意識不明の重体で、何十年近くも眠ってる間に…つい考えるようになったんだ。『そういえば俺、コイツに父親らしいこと全くしてやれてねぇわ』ってな」

「…………」

 

 手すりに両腕を置いて話す父さんの横顔はどこか寂しげで……

 

「その時はめちゃくちゃ後悔したよ。こんなことになるなら、もっと……父親らしいことしてやるんだったってさ」

「父さん……」

「……だから、また後悔する前に、一度ぐらいは父親らしいことしとかなくちゃなと思ってな。……なぁ太陽ーー」

 

 ーーたまには父さんにも父親らしいことさせてくれないか?

 

 

 

 

 

「ーーここで話すのも何だし……場所、変えるよ」

 

 俺には父さんのその優しさを無碍にすることはできなかった。

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 誰も居ない夜の公園。そこに置かれた二つのブランコを椅子替わりに、俺と父さんは顔を合わせることなく話す。雨はまだ降っていたから、傘を差したまま。

 

 天津さんの名前や仮面ライダーの存在については話に出さず、友達だと思っていた相手の「罪」……協力するか敵対か、はたまた中立か。俺は父さんに悩みを打ち明けた。

 

 

「ーーなるほどな。友達と喧嘩しちゃったわけか」

「……まぁ友達っていっても、そう思ってたのは俺だけだったかもしんないけどね」

 

 父さんのその台詞に俺は苦笑する。俺と天津さんは友達だったのだろうか? ………情けない話、自信はない。

 

「どうすればいいのかな? 俺は」

「お前はどうしたいんだ?」

 

 それが一番大事だろ?と言う父さん。

 俺は……どうしたいんだろうか?

 

 天津さんに罪を償わせたい?

 天津さんを倒したい?

 

 ーー否、違う。

 そんなことをしたいんじゃない。

 

「……我儘かもしれないけど」

「うん」

「俺はただ……今まで通りでいたかった」

 

 まぁ、それはもう無理な話だ。

 ーー恨んでもいない。

 ーー憎んでもいない。

 でも、天津さんの罪を知ってしまった今、今まで通りの関係で居られる筈もいない。形だけなら「今まで通り」を装うことはいくらでもできる……だけどそれは嘘だ。偽物だ。

 

(本当……情けないな、俺ってヤツは……)

 

 本当に俺はどうしようもない「小心者」だ。

 

「太陽」

「?」

「お前、ちょっと真面目過ぎないか?」

「……ま、真面目? え、何その冗談?」

 

 その言葉に隣のブランコに座る父さんの方を向き、困惑した俺は首を傾げる。何も面白くない冗談だな?と思いながら。

 

「冗談じゃねーよ」

 

 俺の反応を見て父さんは笑う。

 

「お前は自覚してないのかもしんないが、お前の性格はバカみたいに真面目だ。何で俺と母さんの間にこんな性格の子が生まれたんだ? ってマジで不思議に思うぐらいにはな」

「……例えば? 俺のどこが真面目なんだよ?」

「んー、どんな小さな事でも本気で悩んだりするとこ。今みたいにな」

「……他には?」

 

 あの、今悩んでんのは俺的には全く「小さな事」じゃないんですけど……と思いつつ俺は父さんに聞く。

 

「口では文句言いつつもやる事きちんとやったり、責任感強かったりするとこ」

「……んーー……」

 

 真面目……俺が? 確かに自分で言うのも何だけど「常識的」だとは思う。THE自由人の父さんと母さんに比べれば行動とか思考とかさ。まぁ一般人だから当然なんだが………何?お前仮面ライダーだろって? じょ、常識的な仮面ライダーだっていていいだろゥ!

 

 腕を組みながら暫し考える俺を見て「それだよそれ」と父さんは愉快そうに言う。おまっ、息子が割と真剣に悩んでんの見て何笑ってやがんの?!

 

「そんな難しく考えることないんだよ。友達と今まで通り仲良くしたい? だったらパパッと仲直りしちまえばいいだけだろ」

「い、いや……ンな単純にどうにかなる問題じゃないっていうか……」

「いいや単純だね! お前がもうちょい我儘に、積極的に行動しちまえばすぐに解決できる」

 

 なんてったって俺の息子だからな!

 父さんはそう自信満々に断言する。

 

「はぁ……俺が我儘に、積極的に動いて…それでホントにどうにかなると思う?」

「なるさ。お前が本気で望んで、お前が本気で気持ちを相手にぶつければ」

 

 ………何の根拠もない言葉だ。

 

「父さんってさ……」

「ん?」

「無責任に人に自信持たせるの上手いよね」

「……それは褒めてんのか?」

 

 でも、ほんの少しだけ楽になった気がする。

 まぁ気のせいかもしれないけども。

 

「ありがと。ちょっと、本気で我儘にやってみるわ」

「おう。その意気だ!」

 

 ブランコから立ち上がり空を見上げる。

 ーー雨はもう止んでいた。

 

 ───────────────────────

 

『──そして、彼はこの数ヶ月以上もの間、暴走したヒューマギアから人々を守る為。仮面ライダーとして戦う毎日を送っていました………そして、彼に仮面ライダーの力を与え、戦うよう促したのは間違いなく私です』

 

 ZAIAエンタープライズジャパン本社。その社長室にて垓は客人として連れてこられた「ある男」に全てを明かしていた。

 

『………そうか。なぁ天津社長。甚だ疑問なんだが……何でそれを俺にだけ話したんだ?』

『あの中では、あなたが最も私の話を冷静に聞いてくれると判断したからですよ。……太陽くんのお嬢さんには随分と嫌われましたし、お母さまの方は………その、あまりの自由奔放さに……』

『あー…皆まで言うな。あいつの自由奔放さじゃ、こういった真面目な話をするのはキツいと思う気持ちはよく分かる』

 

 垓の説明にある程度納得した男は、テーブルに置かれたカップに入った紅茶を一口飲んで口を開く。

 

『──で? これから、あいつの意識が回復して……目を覚ましたら、あんたはまた太陽を戦わせるのか?』

『…………』

『あー別に、バカ息子が戦うことに関してあんたにどうこう言うつもりはねぇよ。あいつが戦ってるのは、あいつの意思もあるだろうしな』

 

 自分の息子が目覚めない筈がない、そんな絶対の自信を持って男は語る。

 

 

『うちの教育方針は「好きにしろ」でな。いつだって、あいつらの自由な意思を大事にしたいと思ってる』

 

 なのにあのバカ息子といったら……と何かを思い出す男。その教育方針を聞いた垓は自身の「父親」の教えをふと思い出して零す。

 

『……それは、実に素晴らしい教育方針かと』

『あはは、んな下手くそな世辞はいらねぇよ。なぁ天津社長。いいや──天津垓』

 

 垓の心底からの本音を本気にせず、男は垓を見据えて告げた。

 

 

『お前の過去も、悪事も、思惑もどうだっていい』

 

 

『だけど、もしお前があいつの──太陽の意思を悪用するンなら話は別だ』

 

 

『──俺はお前を絶対に許さない。覚えておけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

(お前はもっと、我儘になっていいんだよ)

 

 息子の「今まで」を思い出した男は心からそう思った。お前はもっと我儘になって、幸せになっていいんだと。まぁ本人がこれを聞けば呆れた顔をして「いやもう十分幸せだし」と言うのは明白だが。

 

 

「──頑張れよ、太陽」

 

 歩き去っていく息子の背中を見送りながら、ある男──父は優しく呟いた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!
(↓にキャラ紹介のってます)


・天本始(56?)
天本太陽の実の父親。 とにかく明るくテンションが高く、更には自信満々。容姿があまりにも若々しいせいで息子の太陽からは「ば、化け物?」とほぼ人外認定されている。多分だが、太陽が頑丈なのは父親の遺伝の可能性が高い。天本家の教育方針は「好きにしろ」らしい。

………と以下の説明では「うるさく気さくで自信満々な人物」といった感じだが特定の人物相手には厳格な態度を見せることもある。また、謎の自信から太陽の意識が回復することを確信していた。

本作には一切無関係ですが名前を決める過程で「元冒険家」という設定があったりなかったりします。


仮面ライダーゼロワン


第14話 オレは1000%アンタの友達



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オレは1000%アンタの友達

次話投稿遅れてすいませんっ!13時頃には投稿できそうとか言っといてこれですよ……自分の計画性の低さがイヤになります。
それでは、どうぞ!


「──友達など必要無い」

 

 ふざけたことを抜かすAIに垓は我慢できずにそう言った。

 途端、ふと頭に彼の姿が思い浮かんだ。私は彼をどう思っていたのだろうか? ………まさか「友達」?

 

『垓さんに、友達は居なかったの? 本当はすぐ近くに居たんじゃないの?』

「二度も同じことを言わせるな。私に友達など居ない、友達など必要無い」

(馬鹿らしい……私に、彼の友達になる資格などあるはずも無い)

 

「天本太陽」と私は友達ではない。なれる筈もない。それは垓自身が最もよく分かっていることだった。

 

「甘えず、頼らず、己自身の力だけでやり遂げる……子供の頃に教わった父の教えに従って私は今日まで生きてきた」

 

 どんな敵を前にしても誰にも甘えず、誰にも頼らず、己の力で勝ってみせる(やり遂げる)

 

(そうだ。だからこそ私は、彼に心の底から憧れた)

「私は、あの時から自分以外のものにーー」

 

 ーー頼ったことはない、そう続けようとしたのに…垓にはそう言い切ることができなかった。垓はいつの間にか太陽を心から信頼していたのだから。

 

(自分以外のものに頼らず生きていく、あの日にそう誓ったはずなのに………私は……いつからか、自分以外のものに頼ってしまっていた……)

『──衛星ゼアからの命令を受信』

「!」

 

 その時、飛電インテリジェンスの社長室にあるラボ。そこに設置されていた多次元プリンターが突如起動する。「ありえない」と思った。垓が飛電インテリジェンスを買収したあの日から、何をしても一度として起動しなかった筈なのに……。

 

『──構築を完了しました』

「なんだ……?」

 

 垓は引き寄せられるように多次元プリンターへと近付きーー目を見開いて驚愕した。

 

「……さうざー……?」

 

 開いた扉の先にはもう二度と見る事はないと思っていたロボット…「さうざー」によく似たAI犬がいた。何故ゼアがこんなものを……?と疑問を抱きながら垓がゆっくりと手を出せば、AI犬は嬉しそうにその手に頭をこすりつける。

 

 それを見て垓は確信した。このAI犬は子供の頃、孤独だった自分の心に寄り添ってくれた「家族」に等しい存在だったあの「さうざー」なのだと。

 

「…っ……変わってないなぁ……」

 

 優しくさうざーを抱えた垓は、あの時と変わらぬ態度で自分に接するさうざーの姿に声を僅かに震わせながら呟く。垓は子供だったあの頃から随分と変わってしまった自分自身の今までを回想し、

 

「こんな私なのに、側にいてくれて……ありがとな……」

 

 心からの感謝を胸に抱いたさうざーに告げる。零れた涙が頬を伝い流れ……垓は目を閉じる。

 

『全部、お返しします!』

『天津さん…その笑い方、全っ然似合いませんね……!』

 

 そして、垓が最後に回想したのは「天本太陽」友達……だったかもしれないある男と交わした何の変哲もない会話。

 

(ーーありがとう、太陽君)

「ごめんな……さうざー──」

『? 垓さん……?』

 

 目を開いた垓は腕で涙を拭い、さうざーをそっと床に置くとラボの階段を上がっていき、

 

「──もう、私は止まれないんだ」

 

 ーー飛電インテリジェンスの社長室を立ち去った。

 

 ーー彼の人生を狂わせた。

 

 ーー彼の力を利用した。

 

 ーー彼の心を傷つけた。

 

 その時点で垓の中に「止まる」などという選択肢はどこにもなかった。

 

 

 もしも、彼を止められるものがいるとするならば……それはきっと──

 

──変身

 

 

 

 ───────────────────────

 

(………よし、行くかっ)

 

 飛電インテリジェンスに着いた俺は高い高いそのビルを見上げ、改めて気合を入れて歩き出す。天津さんに直接「今どこに居ますか?」と電話で聞くのは昨日の一件の後では気まずい……。

 

 だから、ZAIAエンタープライズジャパンに電話して聞いてみた所、今は飛電インテリジェンスに居るらしい。……つうか一応ちょくちょくZAIAには天津さんに呼ばれて行ってるとはいえ理由も聞かずに一般人の俺からの質問に答えてくれる受付さん……まぁ正直もう顔馴染み感はあるけども。

 

「ようこそ、飛電インテリジェンスへ。天本様、今日はどういったご用件でこちらに?」

「あぁ、えっと…こっちに来てるはずの天津さんに会いに来たんですけど……今どこに居るかってわかりますかね?」

 

 天津さんが買収し、社長になった飛電インテリジェンスにも何度か来てるから勿論こっちの受付さんとも既に知り合いだ。そのおかげもあって通常よりもスムーズに話が通る。

 

「天津社長でしたら、先ほど社長室へと向かわれましたよ」

「社長室……わかりました、教えてくれてありがとうございます受付さん」

「仕事ですから。気にしないでください」

 

 感謝して俺が軽く会釈すれば、受付さんは満点の営業スマイルを見せる。

 

「天本様、こちらを」

(あ、忘れてた)

「あざっす」

 

 最後に受付さんが手渡してくれたストラップ付きの入館証を受け取り、手早く首に下げた俺は二階への階段を上がっていく。

 

 ーーその道中だった。

 

「いや、本当にとんでもない男でしたね」

「全くだ……よく今まで隠し通せてきたものだ」

(福添さんに山下さん…? 何の話してんだ?)

 

 社長室がある方の通路から出てきた二人と副社長秘書ヒューマギアのシェスタ。副社長の福添さんと専務取締役の山下さんの会話が気になり、つい足を止めればあちらも俺に気付く。

 

「おぉ、これは天本くんじゃないか。今日は何で……あー、予想するに天津『元』社長に会いにきたんだろう?」

「あ、はい。その通りで……って『元』?」

 

 元社長……?

 ……天津さん、飛電インテリジェンスの社長を辞任するのか?とふと考えたが飛電インテリジェンスに謎の執着を持っていた天津さんが自分から飛電の社長という立場を自ら手放すとは思えない。…さては内容はわからないが悪事の一つや二つバレたのか? まぁこればっかりは因果応報だわな。

 

「それについては私の口からじゃなく、本人の口から直接聞くといい」

「……わかりました」

 

 俺は「それじゃ」と言って福添さん達の横を通って社長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー失礼します………って、え?」

 

 社長室に入った俺は唖然とした。

 社長室には誰もいなかった。

 

「天津さん……一体どこにーー」

『ーーワン! ワンワン!』

「え、い、犬っ……?」

『! 太陽さんっ!』

「! え、何だ? 今誰か呼んだか…?」

 

 社長室の下に作られているラボを見下ろせば、そこには犬…のような作りのロボットがいた。あとラボの方から名前を呼ばれた。いやどうなってんだ? 天津さんに会いに来たのに天津さんは居ないし犬型ロボットは居るし、謎の声に名前は呼ばれるし…!(混乱)

 

『こっちです!』

「待て待て、とりあえずそっち下りるから」

 

 声の発生源は不明だがラボから聞こえてるのはわかる。それに犬型ロボが気になり過ぎるのでとりま社長室から階段を使いラボに下りる。

 

(声の発生源って、もしかしてコレか……?)

「……あのー……俺、天津さんに会いに来たんだけど……」

『太陽さん、突然ですがお願いがあります!』

『ワンワンワン!』

 

 ラボには先程見た通りワンワンと鳴く犬型ロボット。それと黒い作業台の上に……あ、コレ完全にルンバじゃん!?

 

「ーールンバが喋ったァ!?!?」

 

 シャァベッタァァァァァァァ!!(幻聴)

 え、このフォルム完全にルンバじゃん。小型化したルンバじゃん。え、何でこんなもんがラボに放置されてんの? こんなミニマムなルンバじゃ全然ゴミ吸い取ってくれなさそうだな。つうかこの犬ロボかわいいなオイ。

 

『私はルンバじゃなくてアイです! それよりお願いします! 私のお願いを聞いてください』

(……何でこいつ俺の名前知ってんだ…?)

 

 いきなり情報量の暴力を受けて混乱する俺に喋るルンバことアイちゃんはツッコミを入れる。そのおかげで少しだけ俺も冷静さを取り戻す。ありがとう、助かったぜルンbーーじゃなくてアイちゃん!

 

「そのお願いっつうのは……」

 

 十中八九…いや1000%天津さん関連だろうな。

 

「……わかった、聞くよ。でも手短に頼む」

『ワンワン!』

 

 そう言い俺はアイのお願いを聞いた。……聞いてる途中にこの犬ロボめっちゃ俺の足に擦り寄ってくるんだが何だよ可愛すぎかよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

(ーー早くアークを止めないとッ!)

 

 或人はアークを止める為にライズホッパーを全速力で飛ばす。アークから受けたダメージはまだ完全には回復していないが、見過ごす訳にはいかない。そんな先を急いでいた時だった。

 

サウザンドジャッカー!

「ーー止まっていただきましょうか、飛電或人(ゼロワン)

「! 天津さんっ!?」

 

 目の前に一本の金色の槍が突き刺さり、或人はライズホッパーのブレーキを素早く踏み急停車する。反動に耐え、顔を上げた或人の前には天津垓ーー既に変身しているサウザーが立っていた。

 

「そこをどいてくださいっ! 早くアークを止めないと!」

「君がアークを止めたいと思うのは勝手ですが、私にも私の目的がある。ですから、私はそれを果たさせて貰いましょう」

 

 或人の叫びに垓はそれだけ言うと、地面に突き刺さったサウザンドジャッカーを抜きライズホッパーに乗る或人に真っ直ぐ向ける。彼は今、個人的な決着をつける為に或人の前に立ち塞がっていた。

 

「ーー私は心の底から許せなかった。青臭い夢ばかり掲げる君を。ヒューマギアを」

「……俺は絶対にアークを止める」

「そこまでアークを止めたいと言うなら、私を倒していくといい」

 

 サウザンドジャッカーを構えるサウザーを前に或人はライズホッパーから降り、

 

ゼロワンドライバー!

「言われなくたってーー」

Everybodyジャンプ!

オーソライズ!

「ーーやってやるよっ!」

 

 ーー取り出したドライバーを腰に当て装着、更に右手に持ったプログライズキーのボタンを押し認証装置に当て、

 

プログライズ!

──変身っ!

メタルライズ!

 

 左手を前に出し、素早い動きで装填したプログライズキーを右手で折りーー或人はゼロワン メタルクラスタホッパーへと変身する。

 

Secret material 飛電メタル!

メタルクラスタホッパー!

It's High Quality.

「ーー天津垓…! あんたを止められるのはただ一人、俺だっ!」

「ーー君では今の私は1000%止められない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー先に動いたのはサウザーだった。

 それでは決着を着けましょう、と言い駆け出したサウザーはサウザンドジャッカーを躊躇いなく全力で振り下ろし、

 

プログライズホッパーブレード!

「くッーーはあああっ!!」

フィニッシュライズ!

 

 ーーその攻撃をプログライズホッパーブレードで防いだゼロワンは、その状態のままトリガーを五度引き刀身に形成された銀色の刃ーー必殺技を近距離でサウザーに当てようとする。

 

「はっーー!」

「うぐっ!?」

 

 しかし、サウザーは冷静に蹴りでゼロワンを怯ませ、その隙に高く跳びくるりとバク宙。ゼロワンの背後に着地して必殺技を回避した。

 

「ーー遅いっ!」

「!ーーくぅ……!?」

(今までよりも速いっ…!?)

 

 次にサウザーは以前以上の速い動きでサウザンドジャッカーを振り上げ、それを受けたゼロワンのアーマーから火花が散った。今まで何度も戦ってきたからこそ、ゼロワンはサウザーの強さ……その進化に驚愕する。

 

「せやあああッ!!」

「っ、そらっ!」

「ぐがッ…!」

 

 ゼロワンはサウザーの気迫に押されそうになるが、何とか攻撃を往なしてカウンターに背後を全力で斬りつける。更に振り返ったサウザーを右の横蹴りを噛ます。

 

「っっ……流石に、中々やりますねぇ…!」

ジャックライズ!

「ですがーー負けるつもりは毛頭ないっ!」

ジャッキングブレイク!

 

 蹴りを腕で防ぎ、後ろに僅かに退いたサウザーはサウザンドジャッカーのグリップエンドを引き、トリガーを押しコピーしたデータの一つを放つ。

 

ザイアエンタープライズ

「! くっ……はあっ!」

 

 サウザーが「スティングスコーピオン」のデータから出現した刺々しい複数の支管はゼロワンを拘束しようと動き、ゼロワンはそれを武器で捌こうとするが、

 

「隙だらけだ!」

「ぐはっ!? 」

 

 その隙を狙ったサウザーがゼロワンの前に低く速く跳躍し、着地直前にサウザンドジャッカーで突き飛ばす。

 

「こっちだって本気で行くっ!」

ドッキングライズ!

 

 必殺技を囮に攻撃してきたサウザーに動揺しながらも、立ち上がったゼロワンは取り出したアタッシュカリバーとプログライズホッパーブレードを合体させ構える。

 

「ーーはあああッ!」

「ーーうおおおッ!」

 

 ゼロワンとサウザーは同時に駆けた。

 次の瞬間、真っ向から激突し鍔迫り合いになる。そして、

 

 

 

───────────────────────

 

 アイのお願いを聞き、飛電インテリジェンスを出た俺は絶賛走っていた。とにかく走っていた。息を切らしながら走っていた。それもこれも俺の遥か先を駆けるあの犬ロボが悪い!(断言)

 

「はぁ…はぁ…! おま、ちょっとスピード落とせよワンコ! 速過ぎて追いつけねぇって!」

『ワンワン! ワンワン!』

「何だよそのもっと速く走れみてぇなリアクションは!?」

 

 こちとら全力でお前の後追ってるわ!

 というかテメェ途中から地面をザザーッて感じで火花散らして滑ってたよなぁ!? それ超速いし超危ないからヤメロッテ!

 

「アイが言ってたが、お前ホントに天津さんの居場所わかって道案内してんだよな? 今はお前だけが頼りだからな? マジで信じてるからな!?」

『ワンワンワン!』

「そっちだなっ!?」

 

 休憩する暇もなくまた駆け出したワンコの後を追い、俺もまた走り出す。一刻も早く天津さんに会わないと……アイの話では天津さんは変身して或人を追って会社を飛び出して行ったらしいしな。

 

(まずいことになる前に行かねぇとな…!)

 

 ワンコのスピードに遅れないよう、俺は前を向いて全力で腕を振るった。こんなに走ったの高校の運動会以来だぜ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……このっ…!」

「くッ……そろそろ、終わりにしましょう」

ジャックライズ!

ジャッキングブレイク!

 

 戦いは進みーー倒れるゼロワンにサウザーはそう告げて、容赦なくサウザンドジャッカーのグリップエンドを引きトリガーを押す。

 

 発動させた必殺技は「シャイニングアサルトホッパー」のデータからコピーしたシャインシステムーー宙に浮く紫色のクリスタルのような形をしたエネルギー体を展開し、ビームによるオールレンジ攻撃でゼロワンを襲う。

 

「それならっ!」

 

 そして、ゼロワンは銀色の装甲を分離させ、盾のようにしてその攻撃を防ぎ切ろうとするが、

 

「これでーー終わりだッ!

サウザンド デストラクション!

 

 サウザーは一時的に装甲が減った状態のゼロワンに向けーー更に必殺技を使う。サウザンドジャッカーを地面に突き刺し、プログライズキーを押し込んだサウザーは跳ぶ。

 

メタルライジング インパクト!

 

 それに対してゼロワンは手に持っていたプログライズホッパーブレードとアタッシュカリバーを分離させ、両手に持ったそれぞれの武器を地面に突き刺しーーこちらもまたプログライズキーを押し込んだ。

 

ーーうおおおぉぉお!!

 

メ タ ル

グ インパクト

 

 シャインシステムを防いでいた今のゼロワンにジャンプする時間はなく、サウザーを迎え撃つ為に銀色の刃が追加された拳を突き出すゼロワン。

 

ーーハアアアアッ!!

「ーー!!」

 

THOUSAND

DESTRUCTION

 

 その抵抗も虚しくサウザーのライダーキックが炸裂。最初の一撃を右足でーーそこから連続でキックを叩き込みゼロワンを吹き飛ばし

 

「ーーぐわああァアーー!!」

 

 蓄積されたダメージによりゼロワンのアーマーは爆発した。変身は強制解除され、或人は地面を転がる。

 

 

 

 

 

「勝負、ありましたね」

 

 勝利宣言した垓は倒れる或人へとサウザンドジャッカーを向け、倒れた或人は必死に立ち上がり声を上げる。

 

「天津、垓……! 俺は…あんたを絶対に許さないッ!」

「それはこちらのセリフだ」

 

 そして、垓はサウザンドジャッカーを振り上げ、勢いよく変身解除された或人に躊躇いなく振り下ろそうとしーー次の瞬間。

 

『ワンワンワン!!』

「! えっ、犬っ…!?」

「! ……さうざー……」

 

 横から二人の間に入ってくるように一匹の犬型ロボ「さうざー」がザァー!っと滑り込んでくる。動揺する或人と垓だが、先に冷静さを取り戻した垓はサウザンドジャッカーを持ったまま言う。

 

「そこを退け、さうざー」

『ワンワン! ワンワン!』

 

 しかし、さうざーは「退かない!」と言うように鳴き、垓の前に立ち塞がる。倒れる或人はその状況を困惑しながら見上げ、

 

「……退かないというなら……」

ジャックライズ!

「ーーさうざー……お前ごとっ!」

「っ!? やめろっ!」

 

 垓はさうざーを見下ろしながらサウザンドジャッカーのグリップエンドを引く。それを見て或人は叫ぶ。「さうざー」が一体「天津垓」とどんな関係かは分からないが、きっと大切な関係なのだと思ったからだ。

 

ジャッキングブレイク!

『…………』

「ーーはああぁぁあ!!」

 

 

 トリガーを引いた垓はサウザンドジャッカーを構え振り上げ、サウザンドジャッカーには炎が纏われる。さうざーは鳴かずに黙って垓を見つめ、垓は叫びながらサウザンドジャッカーを振り下ろし、

 

「──うおおお!間に合えぇぇええ!!」

 

 ──直撃する直前。

 さうざーが現れた方向と同じ方からある男ーー天本太陽が飛び出し、素早くさうざーを抱えるとサウザンドジャッカーの炎を避けるため誰の目から見ても「物凄いスピード」からの「絶対痛い」であろうヘッドスライディングをした。ちなみに太陽の頭には血がついた包帯が巻かれている。

 

()っっ……だ、大丈夫かワンコ?」

『ワン! ワンワン! ワンワンワン!!』

「ちょ、今近距離だから鳴くなぁ! 体だけじゃなくて耳も痛くなるからぁ!」

「! 天本さんっ!」

「おぉ! よう或人…って大丈夫かお前っ!?」

 

 奇跡的にギリギリでさうざーを助けることに成功した太陽は、腕の中で嬉しそうにしきりに鳴くさうざーに苦しめられながらもゆっくりと地面にさうざーを下ろす。更に或人の声に振り向き、太陽は驚愕しながら声を上げた。

 

「太陽君………」

「……昨日振りですね、天津さん」

 

 立ち上がって垓を見据えた太陽は口を開く。

 

「あんたの過去とか、詳しいことはよくわかんねぇけど……これだけはわかる。天津さん、あんただけはソレをしちゃいけない」

 

 飛電インテリジェンスでアイから「お願い」をされた太陽は垓とさうざーの関係を「友達」や「家族」のようなものだと理解していた。だからこそ、垓にそう告げる。

 

「太陽君…どうやら、覚悟は決まったようですね……私を倒しにーー」

「ーー違いますよバーカ」

「………何?」

 

 垓の言葉に太陽は遠慮なく口を挟みついでにシンプルな罵倒を飛ばす。それを聞いた垓は心底から困惑する。

 

──俺はあんたと喧嘩しに来たんだ

ショットライザー!

「──喧嘩……?」

 

 ショットライザーが取り付けられたバックルを取り出し、勢いよく腰に装着。更に頭に巻いた血のついた包帯を、片手で強引に引き千切り地面に叩き捨てる。

 

「天津さん、あんたは俺のこと『友達』だなんて思ってもないかもしれない。けど、俺はあんたを『友達』だと思ってる!」

「っ……とも、だち………」

「人としてどうするべきかとか、常識的に考えてとか……ンなこと知るかッ! もう、難しく考えるのはやめた! 俺は俺のやりたいように…我儘にやらせてもらう!」

ストロング!

オーソライズ!

 

 太陽は自身の思いを隠すことなく垓に向けて叫び、右手に持ったプログライズキーをショットライザーに装填し右手で展開して続ける。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

天津さんっ! あんたの過去とか、悪事とか、思惑だとか……そんなもんどうだっていいッ!

『お前の過去も、悪事も、思惑もどうだっていい』

「──っ!!」

 

 その言葉を聞き垓は太陽の父である始からの言葉を思い出す。だが、言葉に込められた意味と思いは全く違う。

 

俺はあんたの友達だ、友達で居たいんだッ!

「ーーーー」

「──俺と喧嘩しようぜ天津さん! 負けた方は勝った方の言うこと一つ聞くってルールでなァ!

 

 バックルからショットライザーを引き抜き、銃口を高く上げてゆっくりとサウザーに変身した垓へと向け下ろし──

 

──変身ッ…!

ショットライズ!

 

 ──力強く迷わずにトリガーを引いた。

 発射された弾丸をサウザーは受け僅かに後退りし、その弾丸は方向を変えて真っ直ぐ太陽へと向かいーー太陽は素早く慣れた手つきでショットライザーをバックルにセットし、

 

──おらあッ!

アメイジングヘラクレス!

With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.

 

 ──弾丸に右の豪快なアッパーを打ち込み、アーマーが次々に装着され変身が完了する。そして、

 

「いいでしょう。その勝負、受けて立ちましょう」

「ノリが良くて助かるよ」

 

 バルデルとサウザー──二度目の戦いが幕を開けた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

メタルクラスタを倒す……今回の天津社長には何らかの補正がかかってますね間違いないっ!(確信)そして今回「我儘」になった太陽は変身前から荒々しいです。


仮面ライダーゼロワン!


第15話 予測不能コンビネーション!


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予測不能コンビネーション!

また遅れたっ!
本当にすいませんっ!

それでは、どうぞ!


「ーーハアッ!」

 

 戦闘が始まり、先に攻撃を仕掛けたのはサウザンドジャッカーを振るったサウザー。

 

「ッーーどらあぁあ!!」

「ぐっっ…!」

 

 それを肩に受けた俺は咄嗟に左手でサウザンドジャッカーの先端を掴み、そのまま空いた右手で渾身のストレートをサウザーの胴体に打ち込む。ストレートを食らい後ろに数歩下がったサウザーだが、素早く反撃しようと距離を詰めてくる。

 

「せやっ!」

「ふっ、はっ!」

 

 最初は前蹴り。ひらりと横に体を動かすことでそれを躱し、俺はカウンターに右で回し蹴りを放つ。サウザーはカウンター(それ)を予期していたかのようにサウザンドジャッカーを盾のように構え受け止める。

 

「ーーふんッ!!」

 

 そして、すぐさま攻撃に転じーーサウザンドジャッカーでの突きを繰り出す。

 

「ッ…! そう何度も、食らってやるかよっ!」

「何っ!?」

 

 でもそれを食らってはやらない。

 その槍の突きが鋭く速く、何より痛くて厄介なのは昨日の勝負で既に経験済みだからな。サウザーお得意の突きをサウザンドジャッカーの刃を両手で、ギリギリの所でガシッと挟み強引に掴むことで防ぎ、

 

「おおおっっーーらあぁぁああ!」

 

 ーー俺はパワーと気合でサウザーが持つサウザンドジャッカーを持ち上げ、全力の前蹴りでサウザーを蹴り飛ばす。

 

「かはっ! っ…くっ……やはり近接戦では、こちらが不利なようですねぇ」

 

 蹴り飛ばされたサウザーは受け身を取り、態勢を立て直しすぐに立ち上がる。その手にはサウザンドジャッカーが強く握られており、

 

ジャックライズ!

「だが、勝つのは私だッ!」

ジャッキングブレイク!

 

 ーーサウザンドジャッカーのグリップエンドを引き、叫んだサウザーは素早くトリガーを押す。

 

ザイアエンタープライズ

「!? いや何だそれっ!?」

 

 次の瞬間、サウザーの周囲に紫色のクリスタル形のファンネル?じみた何かが複数展開される。俺は知らないが、それはシャインシステムをコピーしたサウザーお得意の戦法だった。

 

「! あっぶねッ!?」

(完全にファンネルじゃねーかコレ!?)

 

 紫色のファンネル?の一つから放たれたビームを俺は咄嗟に飛び退いて避けて内心叫ぶ。

 

(こりゃあ避けるだけで精一杯だなぁ…!)

 

 そして、その一発を皮切りに次々と俺目掛けて放射されるビームの回避に俺は集中ーーしそうになったがすぐに背後からのサウザーの斬りかかりに反応し振り返って同時に拳を突き出す。

 

「がはっ…!? ば、馬鹿な…!」

「確かに避けるので精一杯だけどなぁ、あんたの接近に気付かない訳ねぇだろうがっーーよおっ!!」

「ごはっ……!」

 

 重い一発をもろに食らって怯み、困惑するサウザーにそう告げて俺はアッパーをその顎にぶち込む。それを受けたサウザーは一瞬大きくバランスを崩す。そこに更に追撃を仕掛けようと走り出した俺は、

 

「! うぐっ…! うざってぇなぁこのッ!」

 

 ーー背後からのファンネル擬きのビームを一発受けて、その動きを阻止される。そうして俺が怯んだ間にサウザーはバランスを整えた。あの紫ファンネル擬き、邪魔くさいったらありゃしねぇな……!?

 

(まずは、アレをどうにかしないとなぁ…)

「まだまだ、こんなものではありませんよっ!」

ジャックライズ!

ジャッキングブレイク!

 

 そんな俺の気持ちを知ってから知らずか。サウザーはまたもやサウザンドジャッカーのグリップエンドを引きトリガーを押す。

 

「はぁ…やりたい放題やりやがるなぁ……?」

 

 するとサウザンドジャッカーに今度はバチバチと激しい(ヤバイ)音を出す雷が纏われた。これまた俺は知る由もないが「ライドニングホーネット」のデータをコピーした力だ。

 

ザイアエンタープライズ

 

 つうかその必殺技制限とかねぇのかよっ!?と思わずにはいられない……あと自社の宣伝し過ぎだバカ!

 

「すぅぅぅうーーハアアアッ!!」

 

 深く息を吸い込みーーサウザーは雷を纏ったサウザンドジャッカーを突き出す。瞬間、サウザンドジャッカーの先端から纏われた雷がビームのようにして高速で放たれる。まさに電光石火といった感じだ……

 

「あっっぶなッ!?!?」

「避けたっ!?」

 

 気付けば反射的に体が動いていた。

 俺は横にローリングし、その雷を躱す。それにサウザーはまたも驚くが俺の方は喜んでる暇もない。俺の周りには未だにあの紫のファンネル擬きが展開してやがるからなぁ…!

 

「ンな攻撃、何発も黙って食らってやるかよッ!」

ストロング!

 

 次々と放たれるファンネル擬きのビームを避け、地面に片膝をついた状態でショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを押し、俺は素早くバックルからショットライザーを引き抜く。

 

「当たって砕けろだっ…!」

アメイジングブラスト!

 

 ビュンビュンと動き回る的に当てられる自信なんざこれっぽっちもないが、やるしかねぇよなぁ…! 俺は立ち上がりショットライザーを構えエネルギーが収束しきる前にーートリガーを引く。

 

 通常ならドでかい一発を相手に撃つ必殺技だが、今回の相手()は動き回る上に複数だからな。最後までチャージする必要はねえ。以前と同じ「数撃ちゃ当たる」の精神で連射だぁ!

 

「オラオラオラアアアーー!!」

 

 ───────────────────────

 

「……すごい……」

 

 目の前で繰り広げられる天津垓(サウザー)天本太陽(バルデル)の戦闘に或人は思わずそう零していた。

 

 ──滅と亡を庇った際にその攻撃を受け、天本太陽(バルデル)の強さは知っていた。知っていたつもりだった。しかし、それは勘違いだったと二人の戦いを見た或人は気付く。

 

 ──今の天津垓(サウザー)は強い。今までとは比べ物にならない程……メタルクラスタホッパーが圧倒される程に。なのに、

 

「しゃあっ! 撃ち落としたったァ!」

「っ……まだだっ!」

 

 ーー天本太陽(バルデル)天津垓(サウザー)と互角に渡り合っていた。その戦い振りから、天本太陽(バルデル)が豊富な戦闘経験を持っていることは誰の目から見ても明らかだろう。

 

 バルデルはサウザーがサウザンドジャッカーにより展開した「シャインシステム」を必殺技の連射によりまとめて打ち落とす。それに僅かに動揺したサウザーはすぐに次の行動ーーサウザンドジャッカーのグリップエンドを引こうとした。

 

「! させるかよっ!」

「しまッ!?」

 

 だが、いち早くサウザーのとろうとする行動に気付きジャンプしたバルデルはサウザーの真前に着地し、サウザンドジャッカー本体を掴みそれを止め、

 

「はあっ!」

「ぐうっ…!」

「はあっ! どらああッ!!」

「ぐはあぁ……!?」

 

 右手を強く握り締め、三連続でその拳を叩き込む。

 一発目のストレートによろめき、二発目のストレートを防御するサウザーだが、三発目のストレートによりその防御さえも突破される。

 

「はぁ、くッ…! あまり、調子に乗るなッ!」

「ハッ! 天津さんも知ってんだろ? 俺は調子に乗れる時にはとことん調子に乗る主義だって」

 

 殴り飛ばされ、地に片手をついて立ち上がりながらサウザーは怒りを露わにする。そんな怒りを鼻で笑う太陽に対し、サウザーは落としたサウザンドジャッカーを拾い再び構える。

 

「ーーはああああ!!」

「ッ、っと……!」

 

 サウザーの迫力に思わず一瞬反応が遅れた太陽だが、すぐに後ろに飛び退きサウザーの振り下ろしたサウザンドジャッカーから逃れ、

 

「ーー或人! ちょっと借りるぞ!」

 

 何かを目にした太陽はそう或人に告げ、或人は一瞬言葉の意味が理解できなかったがーー次の瞬間、その言葉の意味は即座に理解した。

 

 

 

───────────────────────

 

「ーー或人! ちょっと借りるぞ!」

 

 飛び退いた俺は左右の真横に突き刺さっていた二本の剣の内から、右手側にあったアタッシュショットガンとどことなく似た形状をした「剣」を手に取り、後ろに居る或人に言った。

 

 多分さっきの倒れていた或人にサウザンドジャッカーを向けるサウザー……状況的に見てコレは或人の、ゼロワンの武器だろう。

 

アタッシュカリバー!

 

 そして、片手で地面から剣を引き抜けばカバン型の剣「アタッシュカリバー」の起動音が鳴る。

 

「さぁ…いっちょやってみるとするか…!」

 

 剣なんて今まで一度も使ったことはねぇけど、使えるもんは遠慮なく使わせてもらうとしよう。

 

「ーーせやあああ!」

「ふんッ! はああっ!」

 

 駆け出して全力で振るった俺の横斬り。

 それはサウザーは両手で持ったサウザンドジャッカーで弾き、素早くカウンターとばかりにサウザンドジャッカーを振り下ろす。

 

「ぐっっ! 負ける、かあぁあッ…!」

 

 咄嗟に剣でそれを防ごうとし、鍔迫り合いになる。サウザンドジャッカーとアタッシュカリバー。二本の武器からは火花が散り、ジリジリと俺はサウザーに押されていく。

 

「っ、くっ、そッ……!」

「これで終わりだ!」

ジャックライズ!

 

 押された結果、俺は地面に片膝をつきサウザーは更にサウザンドジャッカーに体重をかけーー鍔迫り合いの状態のままグリップエンドを引く。

 

「ま、ずッ…!!」

 

 まずい。この近距離で必殺技を受ければ間違いなくただでは済まない。どうにかして防ぐ方法は……! ……あぁそうだっ!

 

(これもカバンショットガンと同じように!)

「こうかッ!」

チャージライズ!

「! ビンゴ!」

 

 サウザーとの鍔迫り合いで地面に押し潰されそうな勢いの中、そのままアタッシュカリバーをアタッシュショットガンと同じ要領で変形させる。予想通りアタッシュショットガンと同じように使えるみたいだなぁ!

 

「! 何だと!?」

フルチャージ!

「うううっっ…!!」

 

 俺はアタッシュカリバーを再び展開させーー下からサウザンドジャッカーを押し返そうとする。あぁくそ! これメチャクチャに重いっ…! こんのおおおッ……!

 

「おおおおおーーッ!!」

「ば、馬鹿なッ……!?」

 

 

 馬鹿なもんかよ!

 自分の中の気合と根性を総動員して、俺は叫ぶ。叫んで全力でサウザンドジャッカーを押し返しーー片膝を上げ立ち上がる。そして、

 

「!?!?」

カバンストラッシュ!

「ーーそッらあああああ!!」

 

 完全にサウザンドジャッカーを押し返すことに成功し、怯んで一歩後ろに下がったサウザーとの距離を詰めその腹部にアタッシュカリバーを当てーートリガーを引く。途端にアタッシュカリバーの刃は黄色のエネルギーを帯び、必殺技が発動した。

 

「があっ!?」

 

 それを受けたサウザーは前のめりになり、俺の後ろでバランスを大きく崩す。

 

「まだまだァ! どらっ!」

「うぐっ…! 舐めるなァア!」

ジャッキングブレイク!

 

 振り返った俺はアタッシュカリバーを躊躇うことなく振り上げる。しかし、それを受けたサウザーは僅かに後退すると先程既にグリップエンドを引いたサウザンドジャッカーのトリガーを引いた。

 

「これなら、どうだッ!!」

 

 サウザンドジャッカーから放たれたのは巨大な熊「フリージングベアー」のライダモデル。

 

「ぐうゥ!? くっ、う、動けねぇ……!」

 

 ライダモデルは俺の両足付近に直撃すると、あっという間に俺の足を凍りつかせ俺は身動きがとれなくなる。

 

サウザンド デストラクション!

「はあああああーーッ!!」

 

THOUSAND

DESTRUCTION

 

 その隙にサウザーは更に必殺技を叩き込むべく、プログライズキーを押し込み俺目掛けて高くジャンプし蹴りの構えをとった。

 

「うわあああああーーッ!!」

 

 サウザーは右の蹴りを放った後に更に左の蹴りを放ち、合計五度の連続キックを俺の胴体に打ち込んだ。サウザーはくるりと華麗にバク宙をすると俺の前に着地し、俺の胴体のアーマーからは火花が激しく散り爆発した。同時に足の自由を奪っていた氷も砕け散る。

 

「ぐゥ! がはっ、うッ…まだ、だア……!」

 

 アーマーからは黒い爆煙が上がり、バチバチと火花は止まらない。完全に限界……いいや限界一歩手前ってところに至っていた。

 

「まだ、()る気のようですねぇ……」

「ははッ…後悔はしたく、ないですから……当たり前でしょ?」

「……君という男は、一体どこまで……ッ」

 

 だけど、こんなところで諦める訳がない。諦められる訳がない。

 

 天津さん。あんたにとって「さうざー」は「友達」で「家族」のような存在だったんだろ? そんな「さうざー」を前にしても……あんたはきっともう自分じゃ止まれないんだろ?

 

(ンなら…俺がこの「喧嘩」でぶん殴ってでも止めてやるよ……あんたの友達として…あんたの友達になりたい者としてッ!)

 

 俺は天津さんの友達で居たい。

 だから、絶対に負けてたまるか。

 この「喧嘩」は俺がもらう!

 

「はぁ…ッ……ああああ!!」

 

 仮面の下で荒い呼吸を整える。

 仮面の下で身体中に走る激痛に歯を食いしばる。

 俺は何とか立ち上がり右手でサウザーを指差し、その指を途中で自分に向けて言ってやった。

 

 

天津さん、あんたを止められるのはただ一人! 俺だっ!

 

 ──それは天津さんへの宣言。

 ──それは自分自身への鼓舞。

 

 痛みに震えた足。痛みにだらんと力の入らない左手。痛みに上手く思考が回らない頭。痛みに小さく漏れる呻き。あんまりにも不格好だが……俺は勝つ。絶対に勝つ。内心で自分に言い聞かせ勇気を奮い立たせた。

 

ストロング!

「はあぁぁーー……フッ!」

アメイジングブラストフィーバー!

 

 敵を見据えたまま数歩下がり、最高の助走をとった俺は装填したプログライズキーのボタンを押し、ショットライザーをバックルに装填したままトリガーを引いて黄緑色のエネルギーを右足に収束させる。

 

 そして、全力で駆け出しサウザーに向かって跳ぶ。跳んで速く、強い一撃をーー!

 

ドっっラアアァァアアーー!!!

 

ブラスト フィーバー

 

 放つのはジャンプからの渾身の横蹴り。エネルギーに押され宙で横蹴りの構えをとりーーそのままサウザーの胴体に先程のお返しをブチ噛ました。

 

「ーーガハッッ!!」

 

 ライダーキックはサウザーにクリーンヒットし、蹴り飛ばされたサウザーは立ち上がろうとするがその胴体からは今の俺のアーマー以上の火花が散り始め、

 

「ーー俺の……勝ちだ…!」

「馬鹿、なッ。ぐ、グワアアアアーーッ!!!」

 

 ーー俺はサウザーに背を向け自身の勝利を確信し、次の瞬間に俺の後方でサウザーは、天津さんは絶叫しながら爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……私が…負け、ましたか」

「…………」

 

 変身が強制解除され、地面に仰向けに倒れた天津さんは目を閉じたまま呟く。俺はボロボロのアーマーを装着し変身状態のまま天津さんに歩み寄る。

 

「不思議ですねぇ……負けたというのに、清々しさすら感じるなんて………」

「……天津さん……」

「……遠慮は要りませんよ。太陽君。前にも言ったように、君には私に復讐する資格がある」

 

 目を開き、俺を見上げた天津さんはふっと笑って言う。……はぁー…ったくよお…!(呆れ)前にも言ったでしょ? 復讐する資格とか、そんな物騒な資格なんざいらねぇんですよバーカ!

 

「バーカ、要りませんよンな資格。つうか喧嘩で相手を()るのは流石にやりすぎでしょうが」

 

 ショットライザーからプログライズキーを引き抜き、変身解除した俺は軽い罵倒発言を飛ばして倒れる天津さんに手を差し伸べる。正直言えば俺だって結構キツイ……それでも俺が天津さんに手を差し伸べる理由は一つだ。

 

「ほら」

「……最初に会ったあの時から、君の考えは読めませんね……」

「友達だって思ってる相手に、手を差し伸べる事が何かおかしいですかね?」

「私に、君の友達になる資格など……」

 

 ……あぁーもおッ! さっきから資格資格うっせェんだよテメェ!?(半ギレ)こっちも()てぇの我慢して手出してんだからあく掴めやぁ!!

 

「友達になるのに資格なんて要らないでしょ……それに最初に言いましたけど、俺はあんたの過去も悪事も思惑もどうだっていいんだから」

 

 俺はただ、何企んでるかわかんねぇけど何だか憎めない。今まで何度も一緒に戦ってきた「天津垓」っていう人と友達になりたいんだ。……いやワンチャンもう友達か? ……これは自信過剰だな(苦笑)

 

「ーーあぁそうだ。戦う前に言った負けた方は勝った方の言うこと一つ聞くってヤツですけど……」

「……私は敗者ですから、ルールに基づき勝者である君の命令に従いましょう」

「……なんかイヤっすね。命令って」

 

 俺は「ん!」と天津さんに差し伸べた手を更に伸ばして、さっさと掴むように促して俺の「お願い」を告げた。

 

 

 

「──天津さん、俺の友達になってください」

「────ッ」

 

 

 天津さんは俺の姿を見て、何かを思うてその目を一度閉じ──

 

 

「──えぇ喜んで」

 

 

 ──俺の手を掴んで優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天津さんとの喧嘩を終えた俺は或人の方を見て口を開く。

 

「ごめんな或人? 随分待たせちまって。んじゃ、さっさと行くとするか」

「え、あの……も、もしかして天本さんもこれから一緒に!?」

「あぁ、とりあえず協力しないか?」

 

 流石にアークのやつを放置するのはやばいだろ。

 

「本当ですかっ!? 天本さんが一緒に戦ってくれるなら百人力です!」

「う、うん。お前がなんでそんなに興奮してんのかは分かんねーけど…痛いから手を離せ。手を!」

「あっ、すいません!」

 

 俺の言葉に何故か超嬉しそうに反応し、俺の手を掴みブンブン振るう或人。マジで痛いから止めろお前ぇ!?

 

「じゃあ…もしかして天津さんも……?」

「あー……天津さんはーー」

「ーー君が戦うのなら当然私も協力は惜しみませんよ」

「っていう訳だ。或人は今までの事で天津さんを簡単には許せないだろうが……天津さんとも協力してほしい。最悪、天津さんの事は一生許さないでやってもいい」

 

 実際の話、天津さんが或人やヒューマギアに今までやってきたことはそう簡単に許される事じゃないしな。或人が「許さない」と思うのは当然だ。むしろ、すぐ「許す」とか言ったら逆に怖いわ。

 

「…わかりました! 天津さん、一緒に戦ってください!」

「……いいでしょう。太陽君が協力するというなら、君とも協力しましょう」

「天津さぁーん? 頼むからやめろよな? 裏で或人と殴り合いの喧嘩とかすんなよな?」

 

 いやそれで仲良くなれるならいいんだけどな。

 喧嘩で殴り合って友情が生まれるってそれ少年漫画とかでしか見ないけどなぁ………まぁ今さっき俺と天津さん殴り合いましたけども。

 

「──さぁて、いっちょやるか」

 

 こうして俺と天津さんと或人。

 一人の一般人と二人の社長の同盟が結成された。

 

 ───────────────────────

 

「………まさか、お前達が手を組むとはな」

 

 アークは遥か前を見据え、己の予測にはなかった展開……こちらに歩み寄ってくる三つの人影を捉えた。

 

「いててッ…ん、んじゃまぁ行くかっ!」

「ほ、本当に大丈夫なんですか天本さん!?」

「大丈夫大丈夫。俺割と丈夫だから!」

「「割と……?」」

 

 太陽の台詞に思わず或人と垓は顔を見合わせ首を傾げ、垓はすぐに首を横に振ると太陽に言う。

 

「太陽君、無理な様なら下がっていても構いませんよ?」

「無理じゃねーわ! 全然余裕ですよ? つうか俺がこうなった理由の半分は天津さんにあるでしょうがッ!?」

「それを言うなら私の服と体がボロボロなのも君のせいでしょう?」

「はい? それはそんな汚れが目立つ白い服着てる天津さんもとい諸悪の根源(ラスボス)の自業自得でしょ」

「……すいません。諸悪の根源(ラスボス)と言うその呼び方本気でやめてもらっても?」

 

 それに対して太陽は半分キレながら叫び、垓とのしょうもない口喧嘩が始まる。アークはそんな三人を理解できないものを見るように見つめ、

 

「おっと、あっちも気付いたみたいだな」

「多分もっと最初から気付いてたと思うんですけど…」

「………マジで?」

「飛電或人。野暮なツッコミはやめていただきましょうか」

「天津さん。今すぐ野暮って言葉の意味調べてきてもろて。あと或人。多分お前ボケよりツッコミの方が向いてんぞ?」

「………マジですか!?」

「ーー三人纏めて滅してやろう」

「「「!!!」」」

 

 三人の会話をある程度無言で見ていたアークだが、遂にその手を三人に向けて赤黒い悪意のエネルギーを球のように発射する。

 

「上等だ。滅せるもんなら滅してみろ!」

ショットライザー!

ストロング!

オーソライズ!

Kamen Rider. Kamen Rider.

 

 

「私達がお前を倒す!」

サウザンドライバー!

ゼツメツ! Evolution!

ブレイクホーン!

 

「アーク! 迅の体から出て行け!」

ゼロワンドライバー!

Everybodyジャンプ!

オーソライズ!

 

 アークの攻撃を躱した三人は素早く臨戦態勢に入り、それぞれにドライバーを装着して変身シークエンスをこなしていき、

 

 

「「「──変身!」」」

ショットライズ!

パーフェクトライズ!

プログライズ!

メタルライズ!

 

 太陽はトリガーを引き、垓はプログライズキーを装填し、或人は装填したプログライズキーを折り曲げる。

 

 

 

アメイジングヘラクレス!

With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.

 

『When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born.』

Presented by ZAIA.

 

Secret material 飛電メタル!

メタルクラスタホッパー!

It's High Quality.

 

 仮面ライダーバルデル。

 仮面ライダーサウザー。

 仮面ライダーゼロワン。

 

「……私を止められるものはいない。誰一人」

「いーや? いるさ。ここに、それも三人もな」

 

 変身が完了した──三人のライダーが並び立ち、アークの前に立ち塞がった。

 

「行くぞッ!」

「えぇ!」

「はいっ!」

 

 アークにとっては予測不能なコンビネーションが今、展開される。

 




太陽さんも天津社長も或人くんも、三人とも割と重傷(強制変身解除)してるんですが何故か負ける気がしませんねぇ…笑(万丈並感)

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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仮面ライダーゼロワン


第16話 アークにとってのイレギュラー


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アークにとってのイレギュラー

※追記、ゼロワン本編と同じ展開なので書いていなかったのですが本編見てない人には不親切な気がしたので念のため最後に本編通り1000%社長が飛電インテリジェンスを辞任して社長の座を或人に返したことを書いておきました。

それでは、どうぞ!



 

 通信衛星アークにとって例外「イレギュラー」とは皆無と言っても過言ではないものだった。人間やヒューマギアがどう思考し、どう行動するのか……その全てを容易に予測できるのだからそれは当然のように思えるだろう。

 

 ただ、そんなアークにも例外……完璧に予測できない「イレギュラー」は確かにあった。

 

 アークにとっての例外「イレギュラー」は二つ。

 

 ──一つは通信衛星ゼアが導き出す結論。

 自身と同等の人工知能が搭載されたゼアの結論は、アークをしても予測することは不可能だった。

 

 

 最後の一つは──天本太陽(バルデル)が導き出す結論である。

 その結論に至った時、アークは自分自身の知能を初めて疑った。そして、何十回、何百回、何千回と思考し予測を繰り返した。しかし、結果は何一つ変わらなかった。

 

 

 普通(ただ)の思考。

 ────予測可能。

 

 

 普通(ただ)の行動。

 ────予測可能。

 

 

普通(ただ)の結論。

────予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!予測不能!

 

 馬鹿な。こんなことはありえない。

 アレは──天本太陽(バルデル)普通(ただ)の人間のはずなのに……何故、予測不能などという結果が出る? 何故、その結論だけが予測できない?

 

 

 十二年前から、アークに従う滅の人類滅亡という計画を阻み続け、恐怖に耐えながら何度も立ち塞がった天本太陽。仮面ライダーバルデル。

 

 アークにとってソレは滅の認識と同じく人類滅亡──その最大の障害・脅威であり、人間の中でも例外的(イレギュラー)な存在だった。

 

(バルデル、お前は何故その命を懸けて人間達を守る? その人間達に、お前が命を懸けて守るほどの価値があるとでもいうのか?)

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「ーーおっらあぁあっ!」

「そこだ」

「ぐっ!」

 

 最初に攻撃を仕掛けたバルデルはアークに飛び掛かる勢いで跳躍し、右拳を振るう。それを首を動かすだけ、最小限の動きで避けたアークは鋭い前蹴りでバルデルを怯ませると素早く殴りかかり、

 

「やらせるか!」

「!」

 

 次の瞬間、アークの拳を防ぐようにサウザンドジャッカーを構えたサウザーが横から二人の間に入り込む。拳はバルデルに届かず、アークとサウザーが対峙するその数瞬の隙にバルデルは動いた。

 

「食らえ!」

「くっ………」

 

 バックルから引き抜いたショットライザーを超近距離でアークの腹部に連射。僅かに火花が散り、アークは僅かに退き、

 

「はあっ!」

「っ、ゼロワン……!」

フィニッシュライズ!

「せやああああーーっ!!」

プログライジングストラッシュ!

 

 ーーそこですぐさま追撃に動いたゼロワンはプログライズホッパーブレードで斬りかかり、アークが片腕で攻撃を受け止めるとすぐにトリガーを五回引いて必殺技を叩き込もうとする。

 

「ふっーーはっ!」

 

 対してアークは後ろに飛び退くと赤黒い泥のようなものーー「悪意」を右手に出現させるとそれを盾のように広げ、ゼロワンが放った銀色の刃を完璧に防ぎ切った。

 

「次はこちらの番だ」

アタッシュショットガン

 

 

 そして、反撃のために動き出したアークは自身の背後に複数のアタッシュショットガンが製造され、くるりと宙で一回りして自動でアタッシュモードから展開される。その数なんと六丁。

 

ショットライザー!

 

 更にアークの手には二丁のショットライザーまでもが製造された。六丁ものアタッシュショットガンに二丁のショットライザー。それを見たバルデルは内心で「武器作り過ぎィ!?」と驚愕した後、心底嫌そうに叫ぶ。

 

「マジでなんでもありだなぁテメェ!? ……でもーー」

 

 バルデルは横目で二人の仲間を見て、

 

ジャックライズ!

「全力で迎え撃つとしましょう。太陽君。飛電或人」

 

ファイナルライズ!

「天津さん、天本さん、防御なら俺に任せてっ!」

 

チャージライズ!

「ーー仲間が頼もし過ぎてなぁ……負ける気がこれっぽっちもしねぇンだよッ!!」

 

 ーー仮面の下で不敵に笑う。

 

 バルデルは取り出したアタッシュショットガンをアタッシュモードに。サウザーはサウザンドジャッカーのグリップエンドを引き。ゼロワンはプログライズホッパーブレードのブレード部分をドライバーに装填したプログライズキーの矢印部分に合わせて当てる。

 

 事前の打ち合わせなど当然ない。そんな急造メンバーではあったが実力は本物……だったからこそ、それぞれが何をすべきか瞬時に判断した結果ーー三人ともが手に持った武器の必殺技シークエンスをこなす。

 

「防げるものなら防いでみろ」

 

 そして、遂にアークは三人に向けて容赦のない激しい銃撃を開始する直前、

 

「お言葉に甘えて、防御は任すぞ! 或人!」

「! はいっ!」

 

 ーーバルデルは一切迷うことなく、ゼロワンの言葉を信じる。その信頼にゼロワンは力強く頷くと、バルデルとサウザーを庇う様に前に出て必殺技待機状態のプログライズホッパーブレードのトリガーを押した。

 

ファイナルストラッシュ!

「ーーハアアァァアーー!!」

 

 一歩前に踏み出したゼロワンはプログライズホッパーブレードを地面に突き刺し、複数の巨大な銀色の刃を壁の如く展開する。

 

 しかも、それだけでは終わらずゼロワンは己の装甲を分離させて銀色のバッターーークラスターセルを空中に放ち、すぐさま空中でクラスターセルを集合させて二つの巨大な盾を作り出す。

 

フルチャージ!

「無駄だ」

カバンショット!

 

 アークはそんなゼロワン全力の守りに一切臆さない。

 自身の背後に配置した六丁ものアタッシュショットガンのチャージを完了させ、六発もの必殺技を同時に放ち、両手に持った二丁のショットライザーのトリガーを押した。

 

「ぐうゥッ!?!? っ、ああああァァア!!」

 

 アークにより強化された武器。その威力は凄まじく、ゼロワンの展開した守りを粉砕する為に次々と発射される。歯を食いしばりながらゼロワンはその威力に耐えーー尚も守りを崩さない。たとえ一度空中に展開されたクラスターセルの盾が砕かれても、再度瞬時に同じ位置にクラスターセルを飛ばして盾を形成し続けて後ろに一発たりとも到達させない。

 

「うおおおぉぉぉおっ!!」

 

 ゼロワンは叫ぶ。

 

「………馬鹿な」

「はぁ、はぁ…ッ……がはっ…!」

 

 銃撃の嵐が止む。ゼロワンは倒れそうになるが、地面に突き刺したプログライズホッパーブレードを支えに何とか立ち続ける。アークは全ての攻撃を防いだゼロワンを見て驚愕し、

 

「よく防ぎ切ったな。或人」

「飛電或人、君は少しそこで見ていなさい」

 

 ーー今度は逆にゼロワンに今し方守られた二人、バルデルとサウザーがゼロワンを守るように前に出た。その際にバルデルはゼロワンの肩に左手をポンと手を置き「ナイス」と離した左手でサムズアップする。

 

「天本さん……天津さん……」

「必殺技、合わせてブチ噛ますぞ天津さん」

「えぇ、タイミングは私が君に合わせましょう」

 

 ゼロワンには前に映る二人の背中が、酷く頼もしく思えてならなかった。

 

 

「よくもまぁ好き勝手やりやがったな」

バースト!

【Progrise key comfirmed. Ready to utilize.】

ライオンズアビリティ!

「コイツはお返しだ…!」

フルチャージ!

 

 バルデルは右手に持ったアタッシュモードのアタッシュショットガンに、新たに取り出したライオンが描かれたマゼンタ色のプログライズキーを装填。アタッシュショットガンを展開して構える。そして、

 

ジャックライズ!

「右に同じく、次は私達が反撃させて貰いましょう」

 隣に並び立つサウザーもまたサウザンドジャッカーのグリップエンドを引き、トリガーを押して構え──

 

「「──はああああーーッ!!」」

ダイナマイティング カバンバスター!

ジャッキングブレイク!

 

 ──二人の同時攻撃(必殺技)が放たれた。バルデルのアタッシュショットガンからはマゼンタ色の爆弾のような弾丸が一発発射され、サウザンドジャッカーを振り下ろしたサウザーの背には巨大なガトリングが現れアークへと激しく連射される。

 

「!? この、威力は……!」

 

 アークはその同時攻撃(必殺技)を防ぐため、赤黒い悪意のエネルギーを自身の両手に広げて盾の如く展開するが、

 

「グハッ……!?」

 

 バルデルの放った弾丸は悪意のエネルギーに着弾した瞬間、勢いよく爆発しそのエネルギーを木っ端微塵に粉砕。そして、サウザーの放ったガトリングの連射は守りを失ったアークへと容赦なく直撃しーーあのアークを後ろに倒し地面につかせる。

 

(私が押されている…?)

「……そんな筈はない。そんな筈があるものか!」

「そんな筈があるんだよ、分からず屋」

 

 瞬間的に導き出た自身の結論。

 アークは咄嗟にソレを否定するが、バルデルをそう言ってアタッシュショットガンのトリガーを引く。

 

「ふっ! ──バルデル、貴様だけは必ず消さなければならない」

 

 人類滅亡の最大の障害。予測不能(イレギュラー)な存在。最も消すべき人間。ソレが天本太陽──仮面ライダーバルデル。

 

 立ち上がりと同時にアタッシュショットガンの散弾を片腕で弾き、アークは巨大な悪意のエネルギーをバルデルに目掛けて撃つ。その攻撃を前にしたバルデルはーー回避はおろか防御もしない。

 

 だが、アークの攻撃はバルデルに当たることはなく、

 

「ーーハアッ!」

「ーーフンッ!」

 

 バルデルの前に飛び出したゼロワンとサウザー、二人の武器により完全に防ぎ切られる。

 

「ゼロワン、サウザー……!」

「最初に言ったろ? 仲間が頼もし過ぎて、負ける気がこれっぽっちもしねぇって」

 

 二人を信じたバルデルは僅かに動揺を見せるアークを笑い、両隣に立つ二人の頼もしい仲間に告げた。

 

ストロング!

「天津さん! 或人っ! 決めちまおうぜッ!」

「えぇ、フィニッシュと行きましょうか」

「はいっ! 行きましょう!」

 

 その言葉に二人は頷き、バルデルは自然な感じにゼロワンの横に移動する。

 

「? あ、あの天本さん…?」

「一応だけど…まぁ先輩らしくセンターは譲るわ」

「流石は太陽君! 100%、いや1000%お手本の様な配慮ですねぇ!」

「え、ちょっ天津さん!? 何かテンションおかしくないですかっ!?」

「気にすんな或人。俺の前じゃ大体こんな感じだ。それよりも…ほら。何か決め台詞の一つか面白いこと言っとけって。元お笑い芸人だろ?」

「いや何その無茶振り!?」

 

ゼロワン。サウザー。そしてバルデル。お前達の息の根はここで止める

 

オールエクスティンクション!

 

 どこか呑気な会話をする三人を前にアークは右手で力強くドライバー上部のスイッチを押し込む。瞬間、赤黒い悪意のエネルギーが右手に次々と収束しーーアークはその右手を握り締めた。

 

アーク! お前を止められるのはーー俺達だっ!

メタルライジング インパクト!

アメイジングブラストフィーバー!

サウザンド デストラクション!

 

 真ん中に立つゼロワンはそんなアークを指差し、自分に向けるとそう言い放ち装填したプログライズキーを押し込み。それに続きバルデルはショットライザーのトリガーを押し、サウザーもプログライズキーを押し込みーー三人は高く跳んだ。

 

「うおおおおーーッ!!!」

「おらあああーーッ!!!」

「はああああーーッ!!!」

「ハアッ!!」

 

 ゼロワン。バルデル。サウザー。

 三人はライダーキックの構えをとり、それぞれのエネルギーを纏った必殺技を発動した。それに対しアークは悪意を増幅・収束させた右拳を振るう。

 

オール

エクスティンクション

 

「ぐうぅッ!?」

 

 しかし、アークの必殺技は三人による「トリプルライダーキック」には敵わない。

 

メタルライジングインパクト

アメイジングブラストフィーバー

THOUSAND DESTRUCTION

 

「ーーグワアアアアーーッ!!」

 

 蹴り飛ばされたアークは何とか立ち上がるが、その体からは激しく火花が散っており限界なのは明らかだ。

 

「バルデル、やはり貴様はイレギュラーだ」

「? イレギュラー…?」

「人類滅亡ーー私が導き出した結論は決して変わらない」

 

 自身の限界を瞬時に理解したアークは悪意を纏った右足で地面を力強く踏む。次の瞬間、赤黒い悪意のエネルギーを右足から煙のように四方にばら撒く。アークの判断は冷静な撤退だった。

 

「これはっ!?」

「逃げるつもりか! アーク!」

「! 待てッ!」

 

 それによって三人の視界を撹乱したアークは、最後にその体は赤黒いノイズのようなものに包み、

 

()に会った時……ソレが貴様の最後(・・)だ。天本太陽──仮面ライダーバルデル

 

──そんな不穏な台詞と共に三人の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 あと少しの所でアークに逃げられた俺達は変身を解除し、暫く煙が晴れるまでその場に佇んでいた。俺達の心中にはアーク相手に互角以上に戦えたことに対する嬉しさ、アークに逃してしまった悔しさが渦巻いていたが、

 

「……まぁ、トドメをさせなかったのは悔しいが……勝ちは勝ちだよな?」

 

 アークをあそこまで追い詰めたし…今回は俺達の勝ちだよな?

 ーー場の空気を変えるべく先に沈黙を破った俺は二人に同意を求める。

 

「そう、ですね……次に戦う時こそは絶対に倒しましょう!」

「ヒューマギア同様にラーニングするアークを相手に、次回も今回のように上手くいくとは考え難いですがねぇ……」

 

 悔しさを滲ませながら俯いていた或人は俺の言葉に顔を上げて頷き、それに続き現実的な意見を述べる天津さんもとい諸悪の根源(ラスボス)

 

 ラーニング、か。滅なんかと戦っていればその厄介さは嫌でも分かる。戦えば戦うほど、あっちはラーニングでこっちの強さや動きに完璧に対応してくる……戦えば戦うほどこっちが不利になるって最悪だよなぁ。

 

「ーースゥー…とりあえず、帰るか」

 

 スッキリしないけどここに立ち尽くしてたって仕方ない。あいつの不穏な台詞にビビっていても仕方ない。次は必ず勝つ、それだけだ。

 

 ……だが、まぁその前に一つ。

 

「……或人、この後時間あるか?」

「? ま、まぁ今日は業務ないですからあるにはありますけど……」

「よし。なら丁度いい。天津さん」

「はい?」

「とりあえず或人にはしっかり謝罪しような?」

「…………」

 

 二人に駆け寄った俺はまず或人にこの後暇か聞く。次に天津さんに笑顔と共に振り返って告げた。何か無言で逃げようとしたから、とりま左手でその肩を掴んで右手にショットライザーを持つ。何処へ行くんだぁ?(ブロリー)

 

「それと他にも謝罪するべき人、いるよなぁ? な?」

 

 これから或人以外の他のライダー達と協力するためにも天津さん、真摯な態度で謝罪しろよ?その翌日に天津さんは飛電インテリジェンスの社長を辞任。次期社長に或人を指名した。

 

 ちなみに俺はこの話を昼頃に家で見ていたテレビに流れた速報で知った。

 




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仮面ライダーゼロワン


第17話 飛電或人の結論


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飛電或人の結論

ちなみに本作ではゼロワン本編と違い、現時点でまだアークにサウザンドジャッカーからライダモデルを奪われておらず、まだアークは迅の体を乗っ取っている設定です。

遅れてすいません……それでは、どうぞ!



「──まさかあの三人が手を組むとは……予想外な展開になってきましたねぇー、アーク様」

 

 赤黒い悪意(文字)が浮かぶ一面暗黒の空間。デイブレイクタウンの湖の底に沈む通信衛星アーク、その仮想空間でアズは帰ってきたアークを迎えて言う。

 

「あぁ、だが問題はない。人類滅亡までの道筋は既に決定しているのだから」

「ふふふ、流石はアーク様♡」

 

 三人の仮面ライダーとの戦闘により撤退したアークだが、変わらぬ様子でアズに応えると仮想空間から意識を現実へと戻す。

 

(雷のメモリーは既にラーニングし、シンギュラリティを装い操っている……)

 

 現実では今も迅の体を乗っ取り行動していたアークは変身を解除し、滅亡迅雷.netのアジトにて次の作戦を既に開始していた。雷を飛電或人を誘き寄せる餌として利用し、ある目的を達成する為に。

 

「──滅、亡。命令だ。私に手を貸せ」

 

 ──アークは目的の達成を確実なものにするべく、その場にいた二人に命令を下す。

 

「ーー……それが、アークの意思ならば」

「ーー……了解しました」

 

 冷徹なその声に二人は従う。

 

 アークの目的。それは──

 

──飛電或人、ゼロワンのデータを全て奪う

 

 

 

 ───────────────────────

 

 現時刻12:45。

 太陽が雲で僅かに隠れたお陰で中々に涼しく過ごしやすい……そんな今日。俺は一人寂しく遊園地の入口前のベンチに腰掛けていた。

 

「……ホントにここであってんだよな?」

 

 違うからな? 別に一人遊園地を楽しみにきた訳じゃないから。というかそもそも俺は遊園地何て滅多に行かない人間だし。今日俺がここに来てるのはある人と待ち合わせをしているから……なのだが、何故か集合時間から十分経っても待ち合わせ相手は現れない。……あれれ〜?おかしいぞ〜?(半ギレ)

 

 最初に「遊園地で待ち合わせしましょう!」って誘って来たのアイツの方なんだが……何か前にもあったよなこんな事。確か飛電製作所の時に。

 

 ……もしかして自分が集合場所を間違えてるのでは?と一抹の不安を抱きながら遊園地中央に置かれた看板。そこに書かれた名前とスマホでのアイツとのやり取りを見直す。うん、ここであってるな集合場所(安堵)

 

(つうか遊園地なんて、来たの何年振りだろうなぁ……)

 

 俺の記憶が正しければ、遊園地に来たのは美月が小学生の時に一緒にヒーローショー観に行った……それが最後だったと思う。そういや、マジで偶然だがあの時行った遊園地ってココだよな?

 

「まだあったんだな、この遊園地」

 

 くすくすドリームランド。

 俺と美月が子供の頃からあった遊園地…つまりはもう何十年も経ってる筈だが、お客さんも多く訪れ賑わっている。

 

 

(歳月の流れっつうのは…楽しくもあるけど、寂しくもあるよなぁ………)

 

 滅との戦いで意識を失って、それから目を覚まして……意識を失う前にあった自分の知っている店や場所が無くなっているのを何度か見た時がある。

 

 十二年以上経ったんだから仕方がない事ではあるが、やっぱり自分が昔遊んでいた遊び場や、よく食べに行ってたお店何かが無くなったのを知るとちょいと寂しい気持ちになるよな。でもまぁこればっかりは仕方ない。

 

「……形あるものはいつか壊れる、か」

 

 そんな少しの寂しさを感じながらいれば、

 

「──天本さぁーーんっ! 遅れてすいませぇーーんっ!!」

 

 ──待ち合わせ相手が叫びながらチャリで驀進し、俺が座るベンチの前辺りでキキーッと勢いよく止まる。チラリとスマホで現在時刻を見てみると…集合時間から三十分遅刻、と。

 

へ〜……ほ〜ん?(#^ω^)

 

 前回の一時間遅刻の事を考えれば幾らかマシだが……また遅刻するか普通?

 

「或人……三十分遅刻とか何だ? 社長出勤か? お?」

「! す、すいませんっ! 今日は遅刻しない様に目覚まし時計をいつもの倍ーー」

 

 一度目は許そう。人間、誰にだって失敗はあるからな。だが、二度目は許せん。

 

「ーープライベートにまで『社長』気分を持ってくんじゃねェ! それと自分から誘っておいて、お前が遅刻してんじゃないよバカタレっーーオラァ! 社長就任おめでとおーッ!!

 

 問答無用でチャリから降りた或人に腹パンを噛ます。瞬間、痛みに腹を抑えて膝をついた或人は慌てて謝罪する。

 

ごふっ!? あ、ありがとうござ……いまっ……す……そ、それと遅刻の件はマジでごもっともです、ホントにすいませんッ!」

 

 ──仏の顔も三度までと言うが、俺は別に温厚な人間じゃないからな。まぁ自分で言うのも何だけど。「仏の顔も三度まで」に対して「俺の顔は二度まで」って事だ。

 

(……何かそれだと俺が短気みたいだな……)

 

 やっと或人が到着し、俺たちは二人で横並びに歩き出した。

 

『天本さん、明日って予定空いてますか?』

 

 唐突に送られてきた或人からのメール。何やら俺に話したい事があるらしいのだが………相談か何かか?

 

(──話す相手ホントに俺で大丈夫か…?)

 

 仮に相談とかだったら困ったな…俺、他人の相談とか受けた経験ほんの一、二回しかねぇから上手く聞いてやれる自信がない。微塵もない。

 

「……何か、イズが隣に居ない或人って珍しいな」

「? そうですか?」

「いや、何かいつも二人一緒に行動してるイメージがあったからさ」

 

 ま、流石に休日。プライベートまで一緒ってのはおかしいわな。……あれ? 或人と一緒に居ないなら、イズは今どこでどうしているのだろうか?(素朴な疑問)製作所にでも居るのか?

 

 ちなみにこの後、昼食を摂ってなかった俺は遊園地内にあった屋台で最初に目についたハンバーガーの屋台で昼食を済ませた。或人はというと隣で美味そうにチュロスにがっついていた。そんな急いで食うと喉に詰まるぞ〜?

 

「!? ごほごほっ…!」

 

 そして、案の定チュロスを喉に詰まらせ咳き込む或人。

 

「あーあ。ンな慌てて食うから……ほら、水飲め水」

「! ありがとうございます……!」

 

 その背中を左手で摩りながら、右手に持った水の入った紙コップを手渡す俺。こう見ると何つうか、まだまだ或人(こいつ)も子供だなぁ〜と思う。……子供の頃の美月を思い出すなぁ……(感慨)

 

 ───────────────────────

 

「ーー本当に申し訳なかった。この通りだ」

「「!?」」

 

 飛電インテリジェンスの社長室に「不破諌(バルカン)」と「刃唯阿(バルキリー)」の二人を呼んだ垓は率直にそう述べると躊躇う事なく土下座した。それを前にした諌と唯阿は驚愕を露わにし、

 

「……一体、どういう風の吹き回しだ?」

「……簡単な話だ。私は私自身の愚かさを、罪の重さを知った。だからこそ、こうして君達に頭を下げている」

 

 土下座した垓を厳しい目で見下ろして言う唯阿。対して垓は土下座をした状態から顔だけを上げて述べる。

 

「ーー勿論、私が今までしてきたことが謝って済む問題でない事は重々理解している」

「「…………」」

「だからこそ、無理に許してくれとは言わない」

 

 二人は垓の変わりように驚愕半分・困惑半分で沈黙する。そんな二人を見てから、再び床に頭をつけ土下座した垓は次のように続けた。

 

 

私はこれからの行動で君達に最大限の誠意を尽くそう。無論、協力も惜しまない。私の全てを……命を懸けてアークと戦うと誓おう。だから頼む──

 

 

 ーー垓は叫び、懇願した。

 

──どうか彼に力を貸してくれ…!!

 

 

 自分達が一度として見たことのない垓。その姿を見た諌と唯阿ーー二人の仮面ライダーは暫くの間、呆然とせざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ或人──お前は人間の味方か? それともヒューマギアの味方か?』

 

 あの日、天本さんに言われた言葉について俺は今まで考え続けてきた。天本さんは「忘れてくれたっていい」何て言ってくれたけど……

 

『………まぁ遅かれ早かれお前が『答え』を出さなきゃいけない日は来るだろうけどな』

 

 天本さんが続けて言ったように…俺は『答え』を、結論を出さなきゃならない。人間とヒューマギアが笑い合える世界を作る、その夢を持つ限り…必ず……!

 

(──俺の結論(答え)は……)

 

 

 ───────────────────────

 

「そういや、或人。聞きたかったんだが……何でここを集合場所に選んだ? 何か思い入れのある特別な場所だったりするのか?」

 

 昼食を済ませ遊園地内をあてもなく歩いている最中、俺は隣を歩く或人に聞いた。待ち合わせに遊園地……深い理由はないの?と。

 

「……実は俺、昔ここでお笑い芸人やってたんです」

「あー、売れないお笑い芸人か」

「!? 何で売れなかったって知ってるんですかっ!?」

「いや驚き過ぎだろお前」

 

 お前が売れないお笑い芸人だったなんて、ネットで「飛電或人 経歴」とでも調べれば幾らでも出てくるわ。何なら動画まである。

 

 天津さんにゼロワンの話を聞いた時にどんな人物なのか興味本位で色々調べた時は参ったね。主にあのネタを何年も続けられるメンタルに(真顔)

 

 コメント欄に書いてあった「しょうもな」に完全同意だったわ……まぁ実際に会って話して見たら悪いヤツじゃないのはすぐ分かったけど。

 

「ここは或人にとっちゃ馴染み深い場所ってことか」

「はい! ……それと……」

「……ん?」

 

 俺の言葉に元気よく頷いた或人はふと足を止め、遊園地内を見渡してこう口にした。

 

「ーー俺が初めてゼロワンに変身して、戦った場所がココなんです」

 

 それを聞き、俺は目を見開き驚く。初変身・初戦闘がココ……? 遊園地……?天津さんからある程度ライダー達の戦闘は見せてもらったが…初めて変身した場所なんて当然俺は知らん。

 

(え、何それ凄い)

「何それ凄い」

「へっ?」

 

 内心に浮かんだ気持ちがそのまま口に出る。

 俺の初変身・初戦闘なんて公園から少し離れた場所にある夜中の路地裏ぞ? すげぇな遊園地って……お披露目式か何かかよ。

 

「初めてゼロワンに……それじゃあ、ココが飛電或人ーー仮面ライダーゼロワンの原点ってことか」

 

 俺は或人と同じように遊園地内を見渡した。そして、少しの間を置いてから或人は決心したように口を開く。

 

「──今日は、天本さんに……聞いて欲しい話があって呼びました。……聞いてくれますか?」

 

 それを聞いた俺は思わず破顔した。

 

「──俺なんかで良けりゃ、聞いてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、忘れてたんです。俺自身の最初の夢」

「最初の夢?」

「俺、笑いをとるのが夢でお笑い芸人を目指してたんです」

 

 飛電其雄、自分の父親だったヒューマギアを思い出して俺は語る。

 

「それで、ココで初めて『ゼロワン』になって……マギアと戦って、人を守って……こんな笑いのとり方もあるんだなって知って」

「ーーーー」

「人や、人の笑顔を守る為に戦おうって思って…それから、ヒューマギア達と関わっていく中でヒューマギアも守りたいって思って……」

 

 ゆっくり、俺は語りを続けた。

 

「人間とヒューマギアが笑い合える世界を作りたい……そんな、新しい夢を持ちました」

「……うん」

 

 天本さんはただ静かに俺の話を聞いてくれている。それがただただ有り難かった。

 

「……その夢を持つ中で俺、きっと心のどこかでヒューマギアを盲信してたんだと思います。ヒューマギアの純粋さにばかり目が行って、ヒューマギアの危険性から目を背けて……」

「…………」

「ヒューマギアは悪くない。悪いのは全部人間なんだって。無意識にヒューマギアに偏った考え方をしちゃってたんです」

 

 そこで一旦語りを止め、俺は天本さんに向き直りーー俺自身の結論を述べる。

 

──俺は一人でも多くの人の笑顔を守りたい

「────」

──それにヒューマギアだって、破壊せずに救えるのなら……救いたいし、守りたい

 

 飛電インテリジェンスの社長として、俺には責任がある。

 

でも、もしもヒューマギアが、自分の意思で悪意をラーニングして…何の罪もない人を傷付けるなら……俺が責任を持ってそのヒューマギアを破壊します

 

 今までのように、ヒューマギアの悪い部分から目を背けるような事はしない……しっかりと向き合わなきゃいけないんだ。

 

──そして、破壊したヒューマギアの事は二度と忘れない。もしかしたらエゴかもしれない……だけどっ、これが今の俺が出した結論です

 

 それを聞いた天本さんは肯定も否定もせず、嬉しそうにとも、悲しそうにとも……どちらにもとれる微笑みを浮かべてただこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうか」

 

 或人の出した結論。

 それが正しいのか、間違いなのか何て俺には分からない。だから、俺から或人に何か偉そうに言うことなんてできなかったし……そんな必要はなかったんだと思う。

 

 きっと飛電或人は前に進めてるだろうから。

 

 

 ───────────────────────

 

 その後、太陽と或人の二人が遊園地内をまたあてもなく歩いていた時だった。

 

(ヒーローショーか……懐かしいなぁ)

「? イズから電話? はい、もしもし?」

 

 遠くに見えるステージでやっているヒーローショーを見て、懐かしく思っていた或人のスマホが鳴り、スマホをポケットから出して或人はイズからの電話に出た。

 

『或人社長。飛電製作所に滅亡迅雷.netの雷が現れました』

「……ええぇぇぇぇえ!?!? ちょ、イズは大丈夫なの!?」

「うわっ! 急にどうした?」

「何が何だかわからないけどすぐにそっち行くから!」

 

 イズからの衝撃の第一声を受けて驚愕の声を上げた。或人はイズの言葉を冷静に聞く余裕もないのかすぐに電話を切る。

 

「天本さん、一緒に行きましょう!」

「えっ、いや待て或人。マジでどうしーー」

「ーー製作所に滅亡迅雷の雷が現れたんです!」

「……はあぁぁぁぁああ!?!?」

 

 先程の或人のように声を上げた太陽は或人以上のリアクションを見せ、

 

「おまっ、それ早く言えよ!? さっさと行くぞ!」

「はいっ!」

 

 そして、二人は急いで飛電製作所へと向かうのだった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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仮面ライダーゼロワン


第18話 ある男の虫の知らせ


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ある男の虫の知らせ

ギリギリ間に合いました…!
それでは、どうぞ!


 

「案外、早く着いたな……」

 

 飛電製作所に辿り着き、一見「平然」といった感じで呟く俺だったが、

 

「はぁはぁ……」

「あ、天本さん! 大丈夫ですか?」

「はぁ……どうだ? 今の俺大丈夫に見えるか?」

 

 今さっきまで或人が立ち漕ぎするチャリ相手にダッシュで並走していたのだ……息切れがヤバイ、酸素が足りない。いやぁ歳かな?(確認)…歳だったわ(実年齢32歳・人生経験20年ちょっと)

 

「ぜんっぜん見えません!」

「じゃあ大丈夫じゃないなぁ!」

 

 或人の即答にヤケクソ気味にいい笑顔を返す俺。

 チャリ相手に、走りで追いかけるのは…ハァ、流石にキツいっ……! でも、仮面ライダーとして戦ってきた影響で体力や足の速さはかなりレベルアップしてると実感したわ。まぁ?十二年以上前までマギアやら滅やら……マジのモンスター共と戦ってきたんだ。身体的に何かしら適応、レベルアップしてないと逆におかしいって話だろう。

 

 ……実際のところ身体の「耐久力(丈夫さ)」に関してはレベルアップした感じはない。仮面ライダーになる前、元からこんな感じだった気がする。………おいそこ。真顔で「化け物じゃん」って言うんじゃないよ。世の中広いんだから俺より丈夫な人だって探せばいるんだよ! という訳で俺は一般人! Q.E.D.証明終了ッ!!(必死)

 

ショットライザー!

「はぁ…っし。或人。言う必要もないだろうが、すぐに戦闘になってもいいように準備しとけよ」

「はいっ!」

ゼロワンドライバー!

 

 裏口から飛電製作所の中に入る前に確認の為、ショットライザーが取り付けられたバックル&ベルトを装着した俺は或人にそう伝える。或人は力強く頷くと懐から取り出したゼロワンドライバーを腰に当て装着。

 

 戦闘になった場合に相手がこっちの変身前に攻撃してくるなんて割りとしょっちゅうあったからな。こうやって事前にベルトを巻いとくのはかなり重要なのよコレが(経験者は語る)十二年前(当時)は若く…この重要性を理解しておらず生身でマギアに二度三度()られかけました。心底ヒヤヒヤしましたハイ。

 

「………」

 

 そして、先行してドアを開けた俺はバックルから引き抜いたショットライザーを構えて製作所内に入っていき或人もその後に続く。……ヨシっ、行くぞ。

 

 

 ───────────────────────

 

「! 或人社長っ! 天本様!」

「イズ!」

 

 オフィスの扉を豪快に蹴り開け、銃を構えながら中に入っていく太陽。後ろについていた或人はイズの姿を見て一瞬ホッとした表情を浮かべ、

 

「ーーよお、お邪魔してるぜ」

「! 雷! 一体何しにきたっ!?」

 

 ーー製作所のオフィスの一番奥、そこにある自分のデスクにどしりと腰掛けた雷を見た或人はイズを守る為に自分の後ろに移動させる。それを見た雷はニカッと笑うとデスクから下り、

 

「ーー動くな。動いたら躊躇なく撃つぞ?」

「あぁ…? 誰だお前?」

 

 或人に一歩近付こうとし、横からの声と向けられた銃口に雷は足を止めて苛立ちながら問うた。それに答えることなく太陽は油断なく雷を見据え……その鋭い目が彼の言動が脅しでも何でもないことを雄弁に語っている。

 

「答えろよっ、雷! お前はここに何をしにーー」

 

 そんな雷に或人は再びそう聞き「早く言え」と告げるかの如く、太陽もまた雷の頭へとショットライザーの照準を合わせた。

 

「はぁ…ったく、面倒くせぇなあ……社長! 俺は雷じゃねぇ、宇宙野郎雷電だ!」

「………えっ?」

 

 そして、雷の予想外な発言に或人は困惑気味に声を零し、太陽は内心首を傾げる。

 

「宇宙野郎雷電…? 或人、何だそりゃ?」

「え、えっと…宇宙野郎雷電っていうのは雷が雷になる前の……宇宙飛行士型のヒューマギアの名前で……」

「……随分な名前してんな、一瞬新手の罵倒かと思ったぞ」

 

 或人の説明を受けて「飛電さんのネーミングセンスよ……」と今更ながらに驚いた様子を見せる太陽。だが、その間も銃口は宇宙野郎雷電?を捉えていた。

 

「ったく、おいテメェ! さっきからこっちに銃向けてんじゃねぇ! カミナリ落とすぞ!?」

「ハッ、人類滅亡を謳うテロリスト集団……その構成員の一人に銃向けんのは当然だろうが。人としてギリ正当防衛だ」

 

 宇宙野郎雷電?は未だ銃を向ける太陽にキレて怒鳴るが、それに一切怯まずにむしろ鼻で笑う太陽。

 

「雷……いや、お前は本当に…兄貴なのか?」

「はぁ? 何度も言わせんな、俺は宇宙野郎雷電! 宇宙を股にかけた仕事をする宇宙飛行士だっ! テロリストなんかじゃねぇ!」

「……こう言ってるがどうする? 俺は雷なら情報として知ってるが、宇宙野郎雷電は知らない。判断はコイツを知ってるお前に任せる」

 

 まだ確証を持てない或人だが、太陽の言葉に暫し考えてから……正直な答えを出す。

 

「雷……俺はまだお前を兄貴とは、信じられない」

「…………」

「でもっお前が兄貴だって……俺は信じたい。だから、頼む。俺にお前が兄貴だってこれからの行動で信じさせてくれ」

「はっ! お安い御用だ!」

 

 それを聞いて宇宙野郎雷電?は或人の知るあの兄貴のように笑う。これだけのことで或人は少しだけ彼の言葉を信じれそうになった……自分でもそれに「甘いなぁ……」と思いながら苦笑する。

 

「……いいんだな?」

「はい、ありがとうございます。太陽さん」

「別に大したことじゃない。認めたかないけど……こういう役回りは慣れてるからな」

 

 或人の答えを聞いて、宇宙野郎雷電に向けていたショットライザーを下げてバックルに取り付けた太陽は、

 

「或人の判断を信じて、俺もお前を少しは(・・・)信じる。だけど、少しでも怪しい動きを見せたら撃ち抜くからそのつもりでな……まぁ何だ、こいつ向けて悪かったな」

 

 バックルに取り付けたショットライザーをトントンと軽く叩き、宇宙野郎雷電へと謝罪した。太陽の謝罪を聞いた宇宙野郎雷電は呆気にとられた人間のように目をぱちくりとさせ「怖いなアンタぁ…!?」と吐く。先程まで本気で銃を向けられていた相手からの割と優しい謝罪……宇宙野郎雷電のリアクションは当然のものだったと言える。

 

 ───────────────────────

 

「衛星アークの破壊?」

「あぁそうだ、あのアークをぶっ倒す為にな」

「衛星アークは確か、デイブレイクタウンの湖の底に沈んでんだろ? しかも場所もハッキリとは判明してない。一体どうするつもりなんだ?」

 

 宇宙野郎雷電のヤツの目的は「衛星アークの破壊」だった。そのために或人に協力を求めにきたというが……一体どうやって湖底にあるアークをぶっ壊すつもりなんだ? それを俺が聞けば、

 

「はっ、そりゃまだ内緒だ。だけど上手く行けば100パーアークを破壊できる筈だぜ!」

 

 ……宇宙野郎雷電はニヤリとしながらそんなことを言いやがる。いやお前さぁ…そこは包み隠さず全部言えや!? お前さっきの或人の答え聞いてたか? 俺の撃ち抜く発言聞いてたか? もしかして、宇宙野郎雷電って元からこんなキャラなの?(呆然)

 

「……よし、分かった! じゃあ兄貴っ案内を頼ーー」

「ーーストップ或人」

 

 ちょ待てよ!(キムタク)お前は疑うことを知らんのか!? いや知ってる筈だよなぁさっきの「信じさせてくれ」って発言から見て。多分、或人の知ってる宇宙野郎雷電ってヤツに今のこいつはまじで行動・言動……全部がそっくりなんだろう。だから、深く考えずに即座に信じちまいそうになってんだ。

 

ちょっと作戦タイムだ、一旦雷電のやつを外に出させてくれ

「! わかりました……悪い兄貴! 少しこっちも準備が必要だから先に外で待っててくれないか?」

 

 仮に俺も「宇宙野郎雷電」を知っていれば信じたのかもしれないが……今回に限っては知らなくて幸運だったかもしれない。全員が冷静に判断できなくなるのはヤバイ以外の何物でもねぇし。

 

「あぁ? ったくしゃねぇな。分かった分かった。あんま時間かけんなよ?」

 

 宇宙野郎雷電は僅かに不満を表情に出しながら、理解を示して先に製作所の外に出ていった。そして、

 

「少しは人を……いやヒューマギアを疑え、或人」

「! す、すいません天本さんっ! 自分でも甘過ぎるとは思ってるんですけど、つい……」

「あーいや、別に責めてるわけじゃねぇんだ。相手が誰であれ疑わずに信じられるのはお前の美徳だと思うしな……でもーー」

 

 俺は或人に大切なことを告げる。どれだけ人を、ヒューマギアを信じてくれても構わない。だけど、

 

「ーーこれだけは覚えておいてくれ。確かにヒューマギアは純粋だ。だけど、一度悪意をラーニングしたヒューマギアが尚も純粋とは限らない」

「っ! ……はい、天本さん。ありがとうございます」

「……はっ、何感謝してんだよ」

 

 宇宙野郎雷電の提案衛星アークの破壊……それがもしアークの罠だとしたら、俺達は一溜りもないだろう。まぁそうなったらなったで、俺はとことん粘ってやるつもりだが。

 

「作戦タイムっつたが、或人。悪いけど外で雷電と一緒に待っててくれ。くれぐれも油断すんなよ?」

「分かりました! ……って、天本さんは何を?」

 

 俺がそうお願いすれば或人は元気よく返事し、不思議そうに俺を見た。

 

「……まぁ、ちょっとな。打てる手は全部打っておきたいんだよ」

 

 流石に俺と或人、二人じゃ不安があるからな。……なければいいけど、滅や亡までアークとセットで来られた場合一方的にボコられる未来が見える見える(そうなったら絶望)

 

 最悪の可能性を考えて手を打ち、行動する。これもまた大事なことだ。

 

「それと、悪いけどイズ。お前に頼みたいことがある」

「! ……奇遇ですね。私も天本様に用件があります」

 

 ──最後に俺はイズにある頼みをする。

 

「もし或人に何かあった時、これを或人に渡してくれ。念の為の『秘密兵器』……って言える程のものじゃあないけど。きっとコイツは或人の……アイツの役に立つ」

「了解しました、では私からはこれをーー」

 

 ーーそして、俺はイズからある物を受け取った。

 

 

 

 

 

()に会った時……ソレが貴様の最後(・・)だ。天本太陽──仮面ライダーバルデル』

 

 アークのあの言葉がずっと頭から離れない。

 恐怖のせい? うん、それもあるだろうな。俺はいつだってビビってる……格好悪い話だけど。

 

(たとえ何年戦って……どれだけ上手く立ち回れるようになっても、自分の力に自信がついても、どんな強敵を倒しても……俺の中にある恐怖が綺麗さっぱり消えることはない。恐さに慣れることだってきっとない)

 

 心のどこかで確信してるんだ。

 この恐さを忘れてはいけない、と。

 

(今回……またあの時みたいに、嫌な予感がする)

 

 十二年以上前のあの時、滅との決戦以前に感じていたものと同じものを嫌なことに俺はまた感じてしまっていた。

 

 ──自分の最後、その予感。出来ることなら勘違いであって欲しい。そう心から願っちゃいるが……

 

(嫌な予感ほど、よく当たっちまうんだよなぁ……)

 

 打てる手を全て打ち、俺は改めて覚悟を決める。

 

「──絶対に生き残る

 

 

そして、絶望が始まる。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!


仮面ライダーゼロワン!


第19話 パーフェクトコンクルージョン


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パーフェクトコンクルージョン

今回は今までで最も情報量が多い回だろうと思われます。また、今回からオリジナル展開が顕著になっていく気がします! それでは、どうぞ!

※かなり長めに仕上がってます。


 或人と共に宇宙野郎雷電ーー雷に着いてきていた俺達。

 

 

「ーーなぁ、あんたはアークが次に何をしようとしてるか分かるか?」

「……ただの一般人な俺如きに、人間の悪意を学習した衛星()が次にどんな行動に走るかなんざ分かるわきゃねぇだろ」

(まぁ、人類に害のある事するんだろうなってことは分かってるが……)

 

 先頭を歩く雷電のその質問に俺は当然の如く首を横に振る。アークの事を「衛星様」と嫌味で俺が言ったのを聞いて雷電は「ハッハッハッ!」と愉快そうに笑い、

 

「一般人……?」

「……或人、何か文句でも?」

「いえっ! 何もっ!!」

 

 或人は何故か「一般人」というその単語に引っかかりを覚えたように首を傾げ、俺の僅かながらの怒りが篭った声にその場でピシッと気をつけをする。

 

(どうしてあの人もこの人も、揃いも揃って俺を一般人じゃないと思ってんだよ。俺を逸脱人か何かと勘違いしてませんかねー……?)

 

 断じて言おう、俺はただの…人間だあ!!と。

 

「それもそうかぁ……アークの野郎の今の狙いは衛星ゼア、野郎はゼアを乗っ取ろうとしてんだよ」

「衛星ゼアをか? は、いやどうやって?」

 

 衛星が衛星を乗っ取るのか……(困惑)

 雷電の言葉に俺は目を丸くし、自然と首を傾げた。衛星ゼアをアークが狙う理由は分かる。アークにとっちゃ自分と同格の存在かつ、驚異になり得る存在だ。ゼアをどうにか潰せればアークは最終目的……人類滅亡にまた一歩ぐんと近付いてしまうに違いない。

 

 しかし、衛星ゼアを乗っ取るってのはどういうことだ? まさかアークが自ら衛星ゼアのいる宇宙まで行って直接ハッキングするとかって話じゃないだろ? ……じゃ、じゃないよな?

 

「何でも、プログライズキーに保管されたライダモデルを媒介にすりゃあゼアに強制接続できるんだとよ」

「はぁ…? ンなことできんのかよ……」

 

 腐っても衛星って訳か。アークの衛星ゼアを乗っ取る手段を知り、俺は思わず溜息をつく。ライダモデルを使って衛星を遠隔から乗っ取る……それは間違いなく人じゃない機械だからこそ取れる手段なんだろうなあ。くそったれがぁ

 

「ーーなぁ兄貴、聞いていいか? ゼアを乗っ取るのにライダモデルを媒介にするって言ったけど…その正確な必要数とかってあるのか?」

 

 俺がアークに心中で罵倒を吐く中、或人は雷電から聞いた情報を呑み込み、気になった箇所について質問した。

 

(あと二、三個プログライズキーが手に入ればもう充分とかだったら絶望過ぎるんだが……)

 

 或人の質問を聞いて俺は思考を巡らす。

 衛星ゼアへの強制接続、乗っ取りに必要なライダモデル…それが保管されたプログライズキー。もしそれの必要数が二、三個とかだったら防ぎようがない。だってそうだろ? 強い上に神出鬼没のアークなら、プログライズキーの強奪なんて容易だ。プログライズキーを所持したライダーが一人でいるところを容赦無く襲えばいい。それだけなんだから。

 

(仮にアークが衛星ゼアを乗っ取った場合……)

 

 今すぐに思いつくだけでも幾つかの問題が生まれる。まず、これは天津さんから聞いた話だが「ゼロワン」の変身時に使用したプログライズキーのライダモデル(データイメージ)を衛星ゼアからビームのように出現させているらしい。なら、衛星ゼアがアークの手に落ちればゼロワンの変身にも弊害が起こる筈だ。それにゼアによって管理され、稼働中の多数のヒューマギアにだって悪影響が出る……

 

(最悪、稼働中の全ヒューマギアが一斉にマギア化したり……いや、自分で想像しておいて絶望過ぎるなそれは)

 

 全ヒューマギアがマギア化…そうなったら人類がどうなるかなど、想像に難くない。その先に待ってるのは紛れもない人類にとってのディストピアだろう。

 

「うーん……さぁな!」

「「………はっ?」」

 

 そんな風に絶望的未来を脳内で想像してしまった俺は雷電の「知らね」と同義の返答に現実に引き戻され、思わず或人とシンクロして声を重ねて呆気にとられる。

 

 今何つったこいつ?と瞬きを二、三度してから俺は何とか口を開いた。

 

「いや、おまっ『さぁな』って……分かんねぇのかよ?」

「あんたはあの野郎が自分の情報を好き好んでペラペラ話すようなヤツに見えんのか?」

「……あー、成る程」

「OK、そういうことか」

「おう、そういうこった」

 

 続いての問いに言わんとしてることを理解して俺達は納得する。あのアークが一応仲間とはいっても、自分の情報を他者に語るとは思えない……語ってもそれは知られても無問題(もうまんたい)、必要最低限の情報に過ぎないのだろう。

 

「もし、野郎が必要なライダモデルが残り僅かならとっくに動き出してる筈だ……ならーー」

「ーーまだ動き出してない今、必要なライダモデルの数は…割と足りてないって考えていい……そういうことか?」

「楽観視はできねぇがな」

 

 俺は続くであろう雷電の語を継ぐように口を開く。現時点では、まだアークは目立った行動を起こしちゃいない……その事実から誰でも導き出せる簡単な答えだ。

 

「問題は山積みってことですね」

「はあ〜、だな」

 

 額を片手で抑え、俺は溜息を吐いて或人の言葉に同意する。最近はアークのせいでか疲労がすげぇんだよなぁ〜……心做しか溜息も増えた気がするし。

 

 昨日はアークにボコられる夢見て魘されたし(災難)

 

「ーー……ふっ」

「………なんだよ?」

 

 そんな俺を見て、何が楽しいのか雷電の野郎は面白気な様子で笑っている。同時にその笑みは好戦的なものにも見えた。

 

「いや、あんたも弱気になんだなって思ってな? いきなりテロリスト相手に銃向けてきたり、俺の睨みにも動じねぇ……てっきりあんたは弱気になんてならねぇ人間だと思ってたぜ」

「……ひでぇ勘違いしてんなお前? 俺は何度も言うが一般人。どこにでもいる『ただの人間』だ。そりゃ弱気にもなる。……おい或人(そこ)、また不思議そうに首傾げてんじゃねーよ」

 

 どうやら雷電のイメージの中の俺は随分と強キャラらしかった(それと或人の中でも)。一切弱気にならない……あぁ、もしも俺がそんな強い人間だったならどれだけよかったことか。

 

 ーー残念だが、俺は強くない。

 

 ーー自分より遥かに強い相手を前にすりゃあ人並みに恐怖を感じる。

 

 ーー痛いの嫌だし、逃げたいと心中で幾度となく思う。やはり俺は紛れもないただの《一般人》だ。

 

「ーーでも、ただの人間の癖にアークとは戦うんだなぁ?」

「…………」

 

 そして、可笑しそうに言う雷電を見て、

 

「まあ俺も、腐っても『仮面ライダー』だからな」

 

 ーー俺は最も頼りにしてきた黄緑色のプログライズキーを取り出し、片手に持ったそれを見つめながら呟き、ゆっくりと顔を上げる。

 

 

 ────【仮面ライダー】────

 その名に恥じぬ為にも、何より俺自身の為に。

 俺は俺の守りたいものの為に戦うと決めたんだ。

 

「誰が相手だろうが、未来は奪わせない。俺は、俺が守りたい(みんな)の未来を守る為に戦う。

 それが──仮面ライダーバルデルだ」

 

 

 ───────────────────────

 

 

『了解しました、では私からはこれをーー』

 

 製作所でイズはそう言って俺にある物を手渡した。

 

『……えっと……』

 

 ………………(ぇ?)

 それを受け取った俺は暫しの沈黙の後、困惑してポロリと呟く。外観・形状だけ見ればとても見覚えのあるソレは……

 

『ーーな、何これ……?』

 

 カラーリングがシルバー1色?のプログライズキー(カセットテープ)だった。360度どこから見ても銀、銀、銀…というよりかは金属の色そのままといった具合で、如何にもメタルって感じだ! ……自分で言っててよくわからん。

 

『……無反応じゃん』

 

 試しに通常のプログライズキー同様に付いていたボタンを押してみる。が、光らないし音は鳴らない。完全なる無反応。つうかこうなったらコレもうただの金属の塊じゃね? 使い道あるか?と素直に思う。

 

『それは通常のプログライズキーとは異なり、生物種のデータイメージ(ライダモデル)が未だ保管されていない空のプログライズキー。通称、ブランクプログライズキー……いえ、プログライズするデータは入っていないので正しく言えばブランクキーです』

『ブランク、キー……』

 

 その単語を聞いて一瞬、俺の頭の中には車の溝とかがない鍵(ブランクキー)がパッと浮かぶ。名前が同じなのは偶然だろうか…?いや考えるまでもなく偶然ですねはい。

 

『それでこの一見、無用の長物キーは何なんだ? ライダモデルが保管されてないとか、空だとか、今の説明からして聞く前から察しつつあるんだが……こいつには何か固有の能力だとか機能はーー』

 

 下らない考えを脳内からささっと放棄して、俺は手元にあるブランクキーとやらについてイズに尋ねた。

 

『ーー勿論、何のデータもない、空のプログライズキーですので固有の能力・機能はありません』

『……わかった、つまりはただの金属の塊だってことか』

『はい、現時点(・・・)ではその通りです』

そこは否定して欲しかったぁ

 

(このプログライズキー)ダメみたいですね……。

 イズの嘘偽りのない正直な返答に、俺は思わず手元にあるブランクキーに目を下ろして片合掌する。

 

『ちなみに聞くけど、何でこれを俺に?』

『それを貴方に託すべき、というのが衛星ゼアが導き出した結論の一つ(・・)だからです』

『ゼアが…?』

 

 ゼアさん……これを一体どう使えと?

 何だ、これがもしかして重要なアイテムだったりするわけか?

 

(使い道がさっぱりわかんねぇ……ポケットにでも入れとくか)

 

 もしかしたら、未来にバックトゥザする某映画みたいにこれが防弾チョッキ代わりになって戦闘で役立つ可能性が微レ存?(小声)……つうかこのネタ通じる人居るか?

 

 こうして、俺はイズから受け取った使い道が行方不明な【ブランクキー】を左の胸ポケットに仕舞う。当然この時点でーー現時点でもだがーー俺にはゼアの意図・結論が全く理解できていなかった。

 

 ───────────────────────

 

(コイツは、役に立つかねぇ……?)

 

 そんなイズとのやり取りをふと回想し、左胸ポケットに納まるブランクキーに目を向けた俺は思う。

 

(……今は、ゼアの予測とやらが絶望的なこの現状を…好転させてくれることを信じるしかないか)

 

 もし好転しなかったら? そん時は……俺達が全身全霊、死に物狂いでアーク達と戦うしかないだろう。アイツの目的は人類滅亡だ。なら、諦めるなんざ論外だ。

 

 そんなことを考えた後、前を向いた俺は前方を歩く雷電と或人の後をついていこうと再び歩き出し、

 

「ーーッ! っぶねッ…!?」

 

 ーー突然背後に気配を感じて咄嗟に後ろを振り返り、目前に迫っていた鋭利な白い爪?をギリギリで躱す。一秒でも反応が遅れていれば間違いなく今のでお陀仏だった。

 

「! ハッ!」

「! ぐ、このッ!」

 

 相手が続いて振るった攻撃を掠りつつも何とか捌き、また背後に回り込んだ相手の方を見ずに俺は後ろ蹴りを噛ます。

 

ーーやはり、そう簡単には仕留められませんか

 

 後ろ蹴りを受け、素早く飛び退き距離をとった相手ーー青い複眼に白いアーマーに身を包んだ野郎は冷静に呟きやがる。

 

 急襲に苛立ちつつ、俺は敵を睨み据えて口を開く。

 

「はぁ……っ、テメェとんだ挨拶だなオイ?」

「! 天本さんっ……!? お前はーー」

「ーー亡っ!?」

 

 そして、振り返って事態に気付いた二人は驚きを露わにしつつも素早く臨戦態勢に入る。

 

「亡……成る程な。お前あの時、滅と一緒にいたヒューマギアか?」

 

 滅の夢を叶えるのが夢、そう言ってやがったヒューマギア「亡」。仮面ライダーになれるとは天津さんから聞いていたが…実物を見たのはこれが初だな。そう思いつつ取り出したショットライザーを構え、

 

ーー待っていたぞ雷、飛電或人(ゼロワン)天本太陽(バルデル)

ーー…………

 

 ーーそのタイミングで飛び退いた亡の後方から二つの人影が現れた。

 

「! アーク! 滅!」

 

 人影の正体は既に変身完了済みのアークと滅……何だ、愉快に全員集合って訳か? いや、こっちは全然愉快じゃねぇーぞバカ!

 

「お前らッ! 何でここにいやがる…!?」

「雷電! その台詞がマジならコイツはお前の仕掛けた罠じゃない、そう思っていいんだな?」

「ったりめぇだッ!!」

「だったら何で……いや、今は考えてる場合じゃない! 天本さん! 兄貴! 一先ずはーー」

 

 雷電の台詞がマジなら、ここにいる亡は……雷電の行動が全部アークに予測されてたってことか? ……いや! 今は或人の言う通り考えてる場合じゃないよなぁ? 今はーー

 

あぁ、変身だッ! 行くぞ或人! それと雷電! お前は正直信用できねぇが……その台詞がホントなら、行動で示せっ!

ストロング!

 

 ーー戦うしかねえ……!!

 装着済みだったバックルにショットライザーを取り付け、俺はプログライズキーを手に取りボタンを押す。

 

ハイっ!

言われなくてもそのつもりだァ!

Everybodyジャンプ!

ドードー!

 

 それに力強く応えた或人と雷電もまたそれぞれのドライバーを装着し、自身のプログライズキーを取り出し、

 

【【オーソライズ!】】

プログライズ!

「「「──変身ッ!」」」

ショットライズ!

メタルライズ!

フォースライズ!

 

 プログライズキーを装填しーー変身する。

 

アメイジングヘラクレス!

With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.

 

 ショットライザーから放たれた弾丸に俺は右のアッパーを打ち込み、いつもの様にーー黄緑と白、二色のアーマーが次々に装着される。

 

Secret material 飛電メタル!

メタルクラスタホッパー!

It's High Quality.

 

 現れた銀色の飛蝗、その一体が分離し群れとなって或人の全身を覆い尽くす様に集まりーー飛電メタル製のアーマーと化す。

 

Break Down.

 

 赤いスーツを身に纏い、ゴムの様に伸縮したアーマーを勢いよく装着した雷の体にーー紅い稲妻が轟き走った。

 

 変身した俺達の相手はアーク、滅、亡の計三人……

 

ーーいいだろう、かかって来い

 

「うおおおおーーッ!」

「はああああーーッ!」

「おらあああーーッ!」

 

 デイブレイクタウンの橋の上、アークの一言を皮切りに俺達の戦いは始まった。

 

 

 ───────────────────────

 

 

ゼツメツ ディストピア!

「元は味方でも、邪魔するなら容赦しねえッ!」

 

 

 

 

 

デ ィ ス ト ピ ア

 

 雷は両手に一本ずつ持ったサーベルを地面に突き刺し、レバー操作を行い必殺技を起動。腕部から強烈な紅き雷を放ち、更にそこから地面に突き刺したサーベルを引き抜き赤い斬撃波を飛ばす。

 

「ッ! かはっ……!」

「ぐっ……! 滅っ!」

「オイオイ、どうした? ンなもんかよ滅! 亡!」

「威勢がすげぇなコイツ……」

「ハッ! そりゃお互い様だぜバルデル」

 

 ーー状況を言えば、太陽、或人、雷の三人は案外…かどうかは不明だが何とか互角にまで渡り合っていた。その要因としてはゼロワンが戦闘を有利に運ぶ為、アークと単騎で戦っているからに他ならない。

 

「はあッ!」

「ふっ!」

 

 ゼロワンは一対一でアークと。バルデル&雷は二対二で滅&亡と。それが現在の対戦カードだった。

 

「せやああっ!」

チャージライズ!

「グッ…! コイツは、さっきのお返しだ!」

フルチャージ!

 

 迅速にバルデルに肉迫した亡はその腕部についた白き爪を振り下ろし、それを取り出したアタッシュショットガンで受け止めたバルデルは反動に僅かに歯を食いしばり、

 

カバンショット!

「ーーオラァ!!」

「ぐうっ…!?」

 

 ーーチャージが完了したアタッシュショットガン、その必殺技を超至近距離で放ち直撃させた。それをもろに食らった亡の体は当然の如く大きく吹っ飛ばされる。

 

「どらっ!」

「! っ、そこだ!」

「うおっ!?」

 

 その横では雷が必殺技を受けて倒れた滅に追撃し、滅が的確に雷の動きを読んで攻撃を往なし反撃にアタッシュアローで背中を斬りつける。

 

「くっ……滅、あなたの言った通りでした。バルデルはやはり一筋縄ではいかない。手強い相手の様だ」

「あぁ……あの男はいとも容易く過去のデータ以上の力を発揮する。今のバルデルを相手にデータのラーニングは無意味だと考えるべきだろう」

 

 バルデルと亡の戦闘は前者が有利に立ち、雷と滅の戦闘は後者が有利に立っていた。

 

 滅はバルデルによって吹っ飛ばされた亡を庇う様に後方に下がると、亡の前に立ち武器を構える。

 

「雷電! お前なんかその剣以外に使える武器は?」

「あぁ、あるぜ! こいつがな!」

アタッシュショットガン!

「いやお前もそれ持ってんのかよっ!?」

 

 そんな滅と亡を前にバルデルと雷は、

 

「ンならーー同時攻撃だッ!」

「賛成だァ、派手にブチ噛ますぜ!」

【【チャージライズ!】】

【【フルチャージ!】】

 

 ーー手早くアタッシュショットガンを変形させて「同時必殺技」、その発動準備を完了させる。偶然にも二人の武器は同じだった。

 

チャージライズ!

「させるかっ!」

フルチャージ!

「滅一人では…! 私も!」

 

 バルデルと雷の同時必殺技を前に滅はアタッシュアローを変形させ、此方もまた必殺技を発動しようとした。それを見た亡は片手でアタッシュショットガンを受けた箇所を抑えながらも立ち上がり、もう片方の手でフォースライザーのレバーを操作する。

 

【【カバンショット!】】

「「おらあああッ!!」」

「はあッ…!」

カバンシュート!

「やあああーーッ!!」

ゼツメツ ディストピア!

 

 瞬間、バルデルと雷はアタッシュショットガンに収束した激烈な青のエネルギーを同時に発射し、それに対抗するべく滅はアタッシュアローから紫のエネルギーを放つ。亡はそんな滅をカバーするべき必殺技を発動し、白き嵐を巻き起こす。

 

「チッ…!」

「へっ、やるじゃねぇか!」

「亡、よくやった」

「この程度お安い御用です」

 

 ーー結果、必殺技は完全に相殺する。

 

「バルデル、あんたメチャクチャできるじゃねぇーか!」

「そいつはどうも……この調子で倒すぞ」

「おうよっ!」

 

 互いに一旦距離を取り、横並びに立ったバルデルと雷は敵を見据えながらも少しの会話を交わす。二人は性格が所々で近い部分があるのか、中々息が合いコンビとしての相性は良かった。

 

 そして、戦闘は一瞬の間を置き再開し、

 

「アークがゼロワンを倒すのは時間の問題だ。そうなればこちらの勝利は決まる……バルデル、お前達では我々には勝てない」

「……はは、そいつはどうだろうなぁ?」

「? 何ーー」

 

 滅の冷静な判断による言葉にバルデルは仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、その意味はその場に居たものは直ぐに知る事になった。

 

サウザンド デストラクション!

 

「「「!?」」」

 

 ーー突如、滅と亡の後方からそんな音声が鳴り、

 

ーーハアアアアッ!!

「「! グハッ!?」」

 

 後方を振り返った滅と亡は目前に至っていた黄金のエネルギーを纏う飛び蹴りに反応し切れず、その威力に地面を転がる。

 

「フンッ!」

「ガハッ…!?」

 

 更に身を起こした二人の内、亡に接近したソレは正拳突きを打ち込み大きく怯ませた。そこで顔を上げた滅と亡が見たのは、

 

ふっ! どうやら無事に間に合ったようですね?

「ッ! サウザー……!?」

 

 ーー仮面ライダーサウザー、天津垓の姿だった。

 

「ナイスだ天津さん! マジで来てくれたのか……ってか不意打ちで必殺技って殺意(たけ)ぇな! あと今の何か亡に対してだけ私怨入ってなかったか?」

「ははは、私が君の呼び掛けに応じるのは当然でしょう? それと私怨についてはノーコメントとだけ答えましょうか」

(あっ、絶対私怨あるわコレ)

 

 そのサウザーの登場にバルデルだけが驚愕する事なく、バルデルはサウザーにサムズアップをする。

 

「何故貴様がここに……!?」

「悪いなぁ、俺はこう見えて用心深いんだ」

 

 サウザーが何故ここに居るか……それは事前にバルデルが「もしも雷電の行動が罠だったらor全部アークの予測通りだったら」という最悪の事態に備えて連絡し、協力を仰いでいたからだ。

 

 ちなみにだが、垓は太陽に「亡にパンツ一丁にされた」件を隠していた。理由? あなたは親友に対し「過去に道具扱いしてた奴に大恥を晒かされた」という話を好き好んで話すだろうか? つまりはそういうことである。

 

 閑話休題。

 

「ーーそれに一緒にいた二人も連れてきましたよ」

「! まさかっ……!」

「マジでナイス過ぎる……!」

 

 サウザーはそう告げると体を起こした滅と亡の遥か後ろを指差した。それに滅は急いで振り返り、バルデルは小さくガッツポーズをする。

 

 サウザーが指差した方向に居るのはゼロワンとアーク。そしてーー。

 

 

 

【【カバンショット!】】

【【カバンシュート!】】

「ーー終わりだ、ゼロワン」

「クッ……!!」

 

 バルデル達の元にサウザーが合流する数分前、アークが瞬時に作製した大量のアタッシュ武器に四方八方を包囲されたゼロワンはピンチに直面していた。

 

(一か八か、アークに直接必殺技を叩き込むしかない…!)

「うおおおおおーーッ!!」

 

 ゼロワンはすぐに自分一人ではこの攻撃を全て捌くのは不可能と判断し、ダメージ覚悟での行動を決行しようと駆け出し、

 

パワーランペイジ!

サンダー!

スピードランペイジ!

「ーーそいつは無茶が過ぎるぞ? 社長!

「ーーあぁ、相も変わらずな

 

ーーそんな二つの声がゼロワンの耳に届く。

 

ライトニング ブラスト!

ランペイジスピード ブラスト!

「せやあああーーッ!」

「らああああーーッ!」

 

 瞬間、ゼロワンの四方八方を包囲していた大量の武器へ向けて二つの必殺技が撃ち込まれる。一つ目の必殺技は空を飛び、雷を纏った蜂の針の様な形をした複数の弾丸を空中分散させ、武器の機能を停止。二つ目の必殺技はファルコンのライダモデルのピンク色の両翼を使用、縦横無尽に飛行して振るった翼で武器を豪快に破壊した。

 

「不破さん! 刃さん! ど、どうして……!?」

 

 ゼロワンの前には翼を消して、勢いよく地面に着地したバルカンと翅を使いゆっくりと着地したバルキリー。二人の仮面ライダーが立っていた。そんな予期していなかった二人の参戦にゼロワンは衝撃を受ける。

 

(バルカン、バルキリー……何故ここに?)

 

 またアークも同様にその登場に驚きを見せた。それはアークの予測ではこの戦闘で二人が登場することなど予測できていなかったからだ。

 

「どうして? そいつはこっちの台詞だ! 俺達に一声も掛けずに勝手にアーク破壊のために動きやがって」

「私達に気を遣っての行動何だろうが……余計なお世話だ!」

 

 バルカンとバルキリーはゼロワンに駆け寄り、二人共が佇むアークへとショットライザーを向けながら文句を吐く。二人はゼロワンが自分達にこの件について知らせなかった理由を粗方察していた。

 

「確かにアイツの強さは半端ねぇ……実際あの時、その強さにビビっちまった俺がいる。だけどな! だからってそのままビビりっぱなしじゃ格好がつかねぇだろうがッ!」

「!……不破さん……」

「全くだな……或人、お前の懸念通り私もアークの力に恐怖した。二度と戦いたくないとも思った。だが、ここで戦う事から逃げる訳にはいかない。私には……アークを復活させた責任があるからな」

「! ……刃さん……」

 

 ゼロワンーー或人はアークとの戦闘で入院した唯阿の見舞い、アークとの戦闘直後の怯える不破の様子、そして実際に自分がアークと戦う中で或人自身もアークの力に恐怖心を抱いた。

 

 だからこそ、アークを恐れる二人の気持ちが痛い程理解できた或人は……これ以上二人を巻き込まない様にと意図的に行動していた。

 

「それに、本当にデイブレイクの被害者だった太陽(あいつ)が……アークに最も恐怖を覚えてる筈の男が戦ってるって知って……俺達が逃げる訳にはいかねぇだろ!」

「その通りだ。元は一般人だったバルデル(あの人)が戦って、私達が逃げるなんて……そんな恥ずかしい真似ができるか!」

 

 しかし、どうやら二人は或人の知らぬ所で何やら良いショックを受けたらしい。

 

「行くぞ社長! 俺達でーーアークをぶっ潰す!」

「立てゼロワン! 私達でーー対象(アーク)を破壊する!」

「ッ!! あぁ!」

 

 或人の配慮を理解しながらも、諌と唯阿は己の意志で再び戦うことを決意し……その覚悟を聞いた或人は力強く応えーー

 

アーク! お前を止められるのは【俺達】だ!

 

 ーー立ち上がり、アークを指差して最後にその指を自分へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ーーバルデル、やはり貴様は例外(イレギュラー)だ)

 

 全くの予測外の展開ーーバルカン・バルキリーの登場に後方で滅と亡を吹き飛ばして現れたサウザー……それにアークは改めて天本太陽(バルデル)が大きな脅威だと確信した。

 

(純粋な力だけではない。あの男は無意識にか周りに大きな影響(変化)を与えている……何より厄介なのはーー天本太陽(バルデル)が要因で起こった展開は私の予測を超える……私が一切予測できないという事だ)

 

 ゼアと同様に予測できないバルデルの存在が関われば、途端にアークの予測外の事態が発生する。

 

(貴様は一体何なのだ!?)

 

 アークの本音はこれに尽きた。

 

「ーー馬鹿な……私が押されている、だと?」

 

 そんな思考をしながらゼロワン・バルカン・バルキリーの三人を相手取っていたアークだが、バルデルの影響が大きいのか…三人の動きはアークのメモリーにあるどの戦闘データよりも数段上のレベルに到達していた。

 

一気に決めようッ! 不破さん! 刃さん!

メタルライジング インパクト!

 

おう! 全力でぶっ潰してやるッ……!

パワーランペイジ!

スピードランペイジ!

エレメントランペイジ!

オールランペイジ!

ランペイジオールブラストフィーバー!!!

 

不破! 或人! 息を合わせる事を忘れるなよっ!

サンダー!

ライトニング ブラストフィーバー!

 

 アークを圧倒する三人は、更に素早く各々が必殺シークエンスを完了させ、

 

「「「ーーハアアアアアッ!!!」」」

「ーーぐうううううーーッ!!」

 

 ーー三人同時のライダーキックを放つ。

 それを防ごうと両腕をクロスさせ、瞬時に防御態勢を取ったアークだが必殺技の威力は凄まじくアークは吹き飛び地面に倒れる。

 

(っ、こんな結論はありえないッ……!)

 

 必殺技を食らったアークの損傷は激しく、多くの箇所から火花が散り出る。そして、アークはこのままでは乗っ取った迅のボディーがダメージに耐え切れず変身が強制解除される事を悟った。

 

(ーー迅が自我を取り戻したとしても対処自体は可能だ……だが、目的を達成せぬまま一時的にボディーを失うのは極めて痛手だ)

「ーーよし! この調子なら……勝てるっ!」

 

 そんな中、ゼロワンはこのまま三人の力を合わせればアークを倒せると判断して追撃の為に動き出す。しかし、

 

「ーーいいや、お前達が私に勝利する事はありえない」

「! かはっ…!?」

「社長!? テメェ…!」

 

 ーー次の瞬間、機械らしく一切の痛みを感じさせない動きでスッと起きたアークはゼロワンの振り下ろしたプログライズホッパーブレードを掴み、素早く奪い取ると逆にゼロワンに振り下ろした。

 

「一つ、教えてやろう。私の今の目的はお前達仮面ライダーの殲滅などではない。私の今の目的は……飛電或人(ゼロワン)、お前のデータを奪うことだ」

「何だと!?」

「ふんっ!」

「ぐはッ!?」

 

 そして、目の前に立つ三人の仮面ライダーと対峙したままそう告げーー重い拳をゼロワンの顔面に打ち込む。怯んだゼロワンは後退し、

 

「ゼロワンのデータを奪って何する気か知らねぇが、テメェの相手は社長だけじゃねーぞッ! はあっ!」

「邪魔だ!」

【【カバンスラッシュ!】】

「! ぐわあッ!!」

「! 不破さん…!」

 

 ーーアークは引き続きゼロワンを狙う。そのアークのゼロワン集中攻撃を阻む為に間に飛び込み殴り掛かったバルカンだったが、アークが両手に作製したアタッシュアロー…その二刀流の必殺技により吹き飛ぶ。

 

「不破ァ! ッ、これでも食らえっ!」

「同じことを二度言わせるな……ーー邪魔だッ!」

【【カバンショット!】】

「何っ!? うああッ!!」

「! 刃さん…!」

 

 更に妨害しようとショットライザーを連射するバルキリーに対し、アークはバルキリーの真後ろに既にチャージが完了したアタッシュショットガンを二丁作製。即座に必殺の散弾をゼロ距離で容赦無く撃ち込み、バルキリーはダメージに倒れる。

 

 これで邪魔者は消えた。

 

「アークッ…! お前えぇぇーー!!」

貴様のデータを奪えば、その時点で私の勝利は確定する

オールエクスティンクション!

 

 声を上げ、力一杯に拳を振るうゼロワン。アークは怒りにより単調になったその攻撃を容易く躱しながら両手に持っていた二本のアタッシュアローを横に放り捨てーードライバーの上部スイッチを押し込む。そして、

 

 

「これで終わりだーーフンッ!!」

「! しまっーーガハッ……!!」

 

オールエクスティンクション

 

 ーー悪意のエネルギーが収束した右拳をゼロワンの腹部へと、一切の慈悲なく叩き込む。

 

「ううッ……まだだ! ーーぐふっ!?」

「ーーいいや、正真正銘お前は……ゼロワンはここで終わる」

 

 その一撃で変身が強制解除され倒れる或人だが…まだその目には闘志があり、すぐに再度変身しようと別のプログライズキーを取り出すがアークはそれを許さない。倒れた或人の胸倉を左手で掴み、無理矢理立ち上がらせるとアークは右手でその腰に装着された「飛電ゼロワンドライバー」を強奪すると左手を離し、生身の或人を蹴り飛ばす。

 

とうとう……ーーこの時が来た!

 

 

 そして、アークの目的はいよいよ達成間近に迫る。

 

 

 ▲▲▲

 

 一方、その遥か後方ではーー。

 

「おらあッ!」

「はあッ!」

 

 バルデル・雷・サウザーと滅・亡の戦闘が行われていた。サウザーの参戦により三対二になった結果、戦いはバルデル達が圧倒的に優勢になる。

 

ジャックライズ!

「ふっ、貰ったァ!」

ジャッキングブレイク!

「ぐはッ!?」

 

「おいおい! テメェの相手は一人じゃねーぞ滅ィ!」

「ッ! 雷っ……!」

 

 滅をバルデルと雷が急造コンビとは思えないコンビネーションで翻弄し、亡をサウザーが全力で攻め立てーー流れは順当にバルデル側に傾いていく。

 

「そろそろ決めるか…!」

 

 最初にそう言ったバルデルはショットライザーに装填したプログライズキー…そのボタンに手を伸ばし、

 

とうとう……ーーこの時が来た!

「……あぁ?」

 

 ーー後方から聞こえた不可解な台詞に思わず振り返る。その声に反応したのはバルデルだけじゃなく全員だった。

 

「! 或人ッ…! あれは!?」

(目離した隙に大ピンチじゃねーかっ!?)

 

 そして、変身解除された或人が倒れーーアークの右手に或人のドライバーが持たれているのを視認してバルデルは或人の元に駆けた。また状況の深刻さに雷とサウザーも気付き、滅・亡との戦闘を一旦止めバルデルの後を追うように走り出す。しかし、

 

ーーもう遅い

 

 アークが告げるように既に手遅れだったのだ。

 

 アークは右手に持った「飛電ゼロワンドライバー」を赤黒いエネルギーで包み込むとセキュリティーを破壊しハッキング。内部に保管・記録された今迄のゼロワンのデータを全て奪う。

 

ーーラーニング完了

 

 そう呟いたアークは手に持ったドライバーを片手で砕き、

 

「! 何だよ、ソレ……!?」

 

 ーー何処からともなく赤黒い泥の様なモノに包まれたプログライズキーを取り出し、アークはその中に何かを流し込む。それによりプログライズキーを包んでいた赤黒い泥は落ち、ソレは完成してしまう。

 

アークワン!

 

 そのプログライズキーは起動した瞬間、自動展開され………

 

──変身

 

 静かに確認するかの如く口にしたアークは禍々しいプログライズキーをドライバーへと装填した。瞬間、

 

シンギュライズ

破壊 破滅 絶望 滅亡せよ

コンクルージョン ワン

 

 

ーー絶望は生まれ落ちた。

 




今回の話を書いててよく分かったんですが、乱戦って書くの凄い難しいですね……!(沢山ライダー出せて楽しいのもありましたが笑)
情報量が渋滞してて、下手な自分じゃ満足に全キャラを生かし切れてない感が否めない(苦笑)

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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仮面ライダーゼロワン


第20話 アークワンは止まらない


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アークワンは止まらない

アークワンは止まらない……なんか、どっかで聞いた覚えのあるタイトルですねぇ(すっとぼけ)
・今回は変身音が一つ短縮版になってます。

それでは、どうぞ!


「──変身

 

ソレ(・・)は──あまりにも突然生まれた。

 

シンギュライズ

破壊 破滅 絶望 滅亡せよ

コンクルージョン ワン

 

 謎のプログライズキーを装填した直後、アークが装着していたドライバーは変形。黒から一転ーー白いドライバーへと様変わりし、アークの足元から半壊した衛星らしきフォルムの赤いライダモデル?が出現。同時に赤黒い【】【】【】【】などの文字と悪意のエネルギーが泥の如く湧き出し、衛星のライダモデル?が回転を始め、その身に全て収束し呑まれてゆく。

 

 そして、泥のような悪意のエネルギーを血の様に周囲へと飛散させアークの胸アーマーから赤黒いガスが放出。最後にその隻眼と胸に刻まれたXのラインが真っ赤に発光した。

 

ーーアークワン、それがこの姿の名だ

 

 ゼロワンのデータをラーニングしーーアークが進化した姿。その外観は所々がゼロワンによく似ていた。しかし、その纏う雰囲気が、放つ存在感が、ゼロワンとは別物なのだと見るもの全てに嫌というほど認識させる。

 

 黒い右眼に、赤い左眼。歪んだような触角に、血の如く胸に走る赤いライン、色を失ったかのような白いアーマー……亡霊の様な、骸骨の様なその姿は誰の目にも「不気味」に映った。

 

 

──これが絶望が生まれ落ちた瞬間だった。

 

 

 ───────────────────────

 

 そこにいた誰もが予期していなかった事態に愕き、暫し動きを止め、

 

「ゼロワンの力を失った今、貴様には何の脅威も感じない。だが、かといって飛電或人、貴様を過小評価する気はない。僅かでも私の結論を狂わせる可能性を秘めているなら、ここで逝け」

 

 ーーアークワンに変身したアークはそんな中、近くで呆然としたまま倒れている或人へと視線を下ろし歩み寄る。

 

「ッ、させるかっ!」

ストロング!

アメイジング ブラストフィーバー!

 

 アークワンの誕生に全員が固まる中、最も早くにショックから脱して動き出したのは「やはり」というべきか……天本太陽(バルデル)だった。

 

 バルデルはバックルに取り付けられたショットライザーに装填したプログライズキーのボタンを右の親指で颯と押し、トリガーに指を掛け引く。

 

「ーーらあああぁああッ!!」

 

 そして、力強く跳び上がり此方に背を向けるアークへと飛び蹴りの構えを取ったバルデルは叫ぶ。自分の中に湧いたアークワンへの恐怖を紛らわす様に。

 

悪意

無駄だ

 

 背後に迫るバルデルの蹴りにアークは振り向く事さえせず、ただドライバー上部のボタンを左手で一度押し込み、

 

「! あああああああッ!?!?」

 

 ーーボタンを押したことで悪意のオーラを纏った左手をスッと上げ、空中へとその悪意を拡散させる。飛び蹴りの構えを取っていたバルデルにそれを防ぐ術はなくもろに食らい地面へと落とされた。

 

「ぁ、うぐッ………」

 

 更には拡散された悪意のオーラはバルデルの体を蝕うように蠢き、持続的にダメージを与え続け最終的にはバルデルを強制変身解除にまで追い込む。

 

「太陽君っ!?」

恐怖

纏めて消えるがいい

憤怒

 

 倒れたバルデル、太陽の姿を見てショックから脱したサウザーは直ぐに駆け寄ろうと動き出すがそれよりも速くアークはボタンを二度押し込み、片腕を軽く振るいーー先程よりも広範囲且つ強力な悪意を拡散させた。

 

「ぐわあああっ!?」

「ッ、ぐ、はっ……!」

「が、はっ…うぐッ……!」

「ちく…しょ、う……!」

「がああっ!? ッ…は、半端、ねぇッ……!!」

 

 それは敵味方関係無く橋の上に居た皆を襲い、一瞬の内にして或人と太陽以外の未だに変身状態だった全員を変身解除させてしまう。既に変身解除されていた或人と太陽は悪意の波動を生身で食らい体に激痛が走る。

 

「ァ……が……あ、くッ……!」

憎悪

これで正真正銘、詰みだ

 

 無数の傷が付き、血だらけになった或人に改めて視線を向けたアークは再び或人へと歩み寄る。もうこの場にはアークを妨害できる者はおらず……一度ボタンを押し込んだ後に右手を握り締め、

 

ーー或人社長ッ……!!

 

 ーーその時、この場で誰もが聞くとは思っていなかった……彼女の声が響く。

 

?! イ…、ズ……何でッ!!

 

 或人は彼女の姿を目視し、苦しそうに顔を歪めた。倒れる或人の振り返った視線の先にはーー社長秘書のイズが立っていた。

 

 

 

 

 

「現れたか、イズ」

 

 イズの登場に驚かない者が一人いた。

 そう、アークだ。

 

「やはりシンギュラリティに達したヒューマギアの思考・行動の予測ほど容易い事はない。飛電或人の命が危機に瀕すれば、お前は命令を無視してでもこの場に来る……全て私の予測通りだ」

 

 アークは自分の予測通りに姿を現したイズに右手を向け、続ける。

 

「お前がゼアのバックアップだということは既に把握済みだ」

「! ぐがッ…!」

「当然、お前にもここで消えてもらう」

 

 前に倒れている或人の体を横に蹴り飛ばし、真っ直ぐとイズに近付いていくアーク。

 

「うっぐ……! 早く、早くッ逃げろ!!」

 

 太陽は倒れながらもイズへと叫ぶ。それに反応し後退ろうとするイズだったが、

 

逃がさん

 

 ーーアークは逃亡を許さない。

 声を発すると同時にアークの足元に赤黒い影?跡?が浮かび、誰かの甲高い悲鳴と嘲笑うような声が周囲に鳴った。

 

「! っ、これは!」

 

 浮かんだソレはまるで生物の如き動作でアークの足元からイズの足元にまで移動し、イズの行動を完全に阻害する。イズが必死に抵抗してもそれから逃れることはできない。

 

終わりだ

 

 とうとうイズの前に到達したアークは悪意のエネルギーを右手に込め、拳を振り上げーー。

 

 

 ───────────────────────

 

 アークが更に進化したアークワン。

 その姿を目の当たりした瞬間、生存本能がけたたましく警鐘を鳴らしたのが分かった。俺は直感した。

 

今の俺達にこいつを倒す術は無い、と。

 

 自分の中でアークへ抱いていた憤怒が薄れ、心の内に秘めていた恐怖が膨張するのが分かる。力が入らない。体が震えた。立ち上がれない。小心者らしい好い様だ。

 

ーー終わりだ

 

 アークの声が鼓膜を震わす。イズがもうすぐ、文字通り終わりを迎えようとしている。立ち上がれず、歯を噛み締める或人の顔が見えた。

 

(あぁ、なんて酷い結末だ……)

 

 最悪だ。俺は結局、何も守れず終わるらしい。

 右手を握り締め、アークが拳を高く振り上げるのが見える。

 

(ハッ、ざまぁないなーー)

 

 俺は目を閉ざし、全てを諦めようと意識をーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前はワズ・ナゾートク。探偵型ヒューマギアです

 

(ーーあ……)

 

 ーーふと瞼の裏にアイツの姿が浮かんだ。

 

 助けられたかもしれなかった。

 だけど、俺が間に合わず、助けられなかった友……そんなワズとの記憶が脳裏に想起していく。

 

 

『ーー私は…私の「思い」を信じます。そして、私の思いを信じて……貴方がこれを渡すに相応しい人間であると判断します!

 

 かつて、ワズをこんな俺を誰かの為に戦うことのできる……誰よりも強く優しい人間だと判断した。

 

 なぁワズ、そりゃ過大評価が過ぎるんじゃねぇか? 俺はきっとこの先も……そこまで立派な人間にはなれないって。

 

 

……私に使命は、見つかるでしょうか?

 

 かつて、ワズは命を懸けて戦う理由を「使命」かもしれないと口にした俺にそう問いかけてきた。

 

 大丈夫、俺でも見つけられたんだ。人間よりも人間らしいお前ならすぐに見つけられるさ。実際……お前はきっと見つけられたんだよな? ワズ。

 

 

はい、またお会いましょう天本様。ご武運を

 

 かつて、ワズは自身の終わりを覚悟した俺へと告げた。

 

 あぁ、ありがとな……ごめんな。ワズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だ──俺にはまだやるべきことがあるじゃないか

 

 

 滅との決戦、あの時と似た感覚だった。いくら頑張っても願っても、動かないぐらいに死に体だったのに……やるべきことがあると分かった今は確かに動く。

 

「ッ……! ァ、ァア……!」

 

 アークワンに勝つ手段はない。この絶望をひっくり返す算段など、これっぽっちもイメージできない。

 

 無理だ、無茶だ、無謀だ、無意味だと弱い俺が。本心が告げてくる。

 

 それをすればお前は死ぬぞ、と。

 

「ゥ、アァ……っ、ぎっ……!」

 

 それでも、手に、足に、頭に、全身に力を込める。痛む傷も、流れる血も放っておけ……そう心中で自分に告げる。

 

 立て。立て。立て。立って、

 

 

 ーー今のお前にできることをしろ!

 

 

 ーー今のお前がやるべきことをしろ!!

 

 

そうだッ! 死ぬのはその後だ!!

 

 右手に持ったプログライズキーを強く、強く握り締める。

 

 死ぬのは怖い。怖くて怖くて仕方ない。

 

だけど、だけどッーー!

 

ストロング!

オーソライズ!

あああああああああ!!!

 

できることもせず、やるべきこともやれず死ぬ方が……よっぽど怖いッ!!

 

ショットライズ!

アメイジングヘラクレス!

ぐ、ッ…おおおおおーー!

 

 トリガーを引くと同時に駆け出す。次々と体に装着されるアーマーの衝撃に瀕死の体が度々蹌踉めく。それでも駆ける。

 

 これが俺の最後の変身かもしれない。

 それでも構わない。

 

 ワズ、俺はお前を助けられなかった。お前に恩返しできなかった。だからせめて、

 

ーーらあああああッ!!

 

ーーお前が守りたかったものを死んでも守るッ!

 再変身を果たした俺は右手を握り、反動で自分が倒れることなどお構いなしに全力で拳を振るう。

 

 その拳はイズに視線を向けてこちらに背を向けていたアークの顔面へと吸い込まれるように伸びーー

 

ーー愚かな

「!? ァ、うッ!! ゴハッ」

 

 ーーカウンターの重く鋭い一撃が俺の鳩尾に深く、深く、深く……突き刺さるように打ち込まれる。瞬間、仮面の下で吐血した俺はバランスを崩し、体は後ろに傾く。

 

ーーバルデル、以前言ったな? 次に会った時、それが貴様の最後だと……それを今、現実のものとしてやろう

「ガッ……ぁ、ア………」

「イズより先にお前の息の根を止めてやる」

 

 だが、俺の体が倒れるより早くにアークが伸ばした左手が俺の首をがしりと掴み、体は無理矢理立たされた状態で固定され、

 

絶望

「──私を止められる者はいない、誰一人

パーフェクトコンクルージョン

ラーニング5

 

 首を掴まれたまま体を橋に取り付けられた柵の前に立たされ、アークは右手でまたボタンを押してーー更にプログライズキーを押し込んだ。次の瞬間、辺りに悪意に満ちた悲鳴と嘲笑の如き音が鳴り響き、アークの右脚に凄まじいエネルギーが収束。

 

 その間、俺は自分の首を掴むアークの左腕に右手を叩きつけ抵抗を試みた。しかし、俺の体にはもう力はなく…叩きつけたつもりの手は弱々しくアークの左腕にぽんっと軽く当たるだけに終わり、

 

はあああああーーッ!!!

 

コ ン ク ル ー ジ ョ ン

 

 ーーアークは素早く蹴りの構えに入り、横蹴りを噛ます。

 

「ぁ」

 

 最後に俺の口からは掠れた声にもならない音だけが漏れた。

 

 

──────────────────────

 

 

絶望

「──私を止められる者はいない、誰一人

パーフェクトコンクルージョン

ラーニング5

 

 天本さんの首を掴み、動きを完全に掌握したアークは流れるように必殺技の態勢に移行する。天本さんの目には微かに光があった。だが、抵抗のために打ち下ろしたであろう彼の拳……その弱々しい力を見れば天本さんが限界なのは誰の目からも明らかでーー。

 

「アークッ…やめろ……もう…!!」

 

 俺は立ち上がろうと手に力を込めながら声を上げる。これ以上の攻撃を受ければ、確実に天本さんは死んでしまう…そう悟ったから。

 

 だが、アークは俺の声に反応することなく動きを止めず横蹴りの態勢に入る。

 

 その時、世界が一瞬──俺にはスローモーションに映った。

 

はあああああーーッ!!!

 

 赤黒い悪意のエネルギーを大量に溜め込んだアークの右足は高く上げられ、天本さんの胴体へとーー

 

やめろおおおおーーッ!!

 

ーー直撃。

 同時に大きな爆発が起き、吹き飛ばされた天本さんは橋に取り付けられた柵を容易く貫通し、仮面は割れて天本さんの体は宙へと投げ出される。

 

 天本さんが装着していたショットライザーは激しい火花を上げて壊れ、天本さんの変身は解除ーー彼は生身の状態で高所から自由落下していく。

 

あーー天本さあああああん!!

 

 変身が解除された時点で天本さんの目は閉ざされ、既に意識はなく……天本さんは真っ逆さまに落ちていきーー強烈な水飛沫が上がる。デイブレイクタウンの橋の下、そこに広がる川へと落ちたんだ。

 

「…………」

 

 突然の衝撃に俺の頭の中は一瞬で空っぽになった。

 

 余りにも現実味がわかなかった。

 

 天本さんが死んだ?

 

(天本さんが、死んだ)

 

 イズを守るために。

 いいや、イズだけじゃない。

 俺達を守るために、死んだ……

 

 

 その事実に俺は打ちひしがれるが…現実は残酷にも突き付けてくる。

 

「! こ、れはッ……!」

 

 ショットライザーが壊れた衝撃でここまで飛ばされたのだろう。倒れる俺の前には黄緑色のプログライズキーが転がっていた……その色は爆煙による煤で黒く汚れ、アークの必殺技の衝撃にバチバチと火花を上げていた。俺は痛みなど気にも止めず、火花を上げるプログライズキーを掴み握り締める。

 

 空っぽになっていた頭が痛みで冷静になる。

 

 そして現実を理解する。

 

 胸の中が、喪失感に包まれた。

 

あ、あああああああああ!!!

 

 気付けば、俺はただただ叫んでいた。

 

 

 

 

その日──天本さんは死んだ。

 




?「何?バルデルがアークワンの必殺技を受けたが大丈夫?水落ちは生存フラグ?そんな馬鹿な話があるか!仕事に戻れ!……みんな(バルデルの耐久力に感覚麻痺して)疲れているのか……(おまいう」


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仮面ライダーゼロワン

第21話 それでも俺は諦めない


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それでもオレは諦めない

ちなみに今回もかなり詰め込んでます笑
展開が異様に早いかも……?

今年最後の投稿……それでは、どうぞ!


──遂に、天本太陽(バルデル)は死んだ!

 

 太陽に必殺の蹴りを打ち込み、その体を高所から川へと叩き落としたアークは太陽が落ちた川を橋から見下ろして確認するように呟く。

 

 太陽は再変身に成功した時点で既に瀕死の重傷を負い、その体は限界を迎えていた。そんな死に体にアークは容赦無く…完全に息の根を止める一撃を与えたのだ。

 

そして、お前を消せば私の予測を超える存在はゼアのみとなり……最後にゼアを破壊すれば人類滅亡の未来は確定する

 

 アークは川を見下ろしていた視線をイズの方へ向け、徐に歩き出す。

 

「あっ、あああああーーッ!!」

 

 或人は太陽が死んだという現実……その喪失感に慟哭し、戦える状態ではなかった。

 

「グッ……動け! 動けよッ…!!」

「っ、く、このッ……!」

「アークッ、この野郎……!」

 

 諌や唯阿、雷もまたアークワンの悪意の波動を受けた影響で体力的にも精神的にも一時弱っていた所に太陽の死という事態に直面し、今すぐの戦闘は不可能と言っても過言ではなかった。

 

 そんな中、例外が一人いたーー。

 

ーーアーク! 貴様アァァァァア!!

 

 目の前で友をーー太陽を失った天津垓だ。

 垓は湧き上がる激情のままに憤怒し、落ちたプログライズキーとゼツメライズキーを拾い傷だらけの姿で立ち上がる。

 

 いつかの太陽の如く、今の垓の中ではアークが放出した「スパイトネガ」の影響でアークへの恐怖や絶望の感情が増大していたが、それよりもアークへの「憤怒」の感情の方が圧倒的に上回っていた。

 

ゼツメツ! Evolution!

ブレイクホーン!

 

 怒りから乱暴にゼツメライズキーをねじ込むように左側スロットに装填し、プログライズキーのボタンを押し自動展開させ、

 

パーフェクトライズ!

お前だけは絶対に許さんッ!

 

 ーー右側スロットに装填すると同時にアークに向かって走り出し、変身しながら地面に突き刺さったサウザンドジャッカーを通り過ぎる直前に引き抜き振り下ろす。

 

ーーハアアアアアッ!!

『When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born.』

Presented by ZAIA.

 

 その一振りの重さと速さは今までの攻撃の比ではなかった。しかし、

 

何を言うかと思えば。許さないも何も、全ての元凶は私に人間の悪意を……愚かな歴史をラーニングさせた天津垓(貴様)とそれを容認したZAIAだろう?

 

 それをアークはひらりと躱して見せ、サウザーに変身した垓へと回し蹴りを噛ます。

 

「グハッ!? っ…この命を犠牲にしてでも! お前だけは、私が破壊するッ!」

「やれるものならやってみろ」

 

 強烈な回し蹴りを受けたサウザーは後ろに勢いよく転がる。が、すぐに身を起こし再びアークに立ち向かう。

 

 今の自分ではアークワンと戦っても、勝機は無いに等しい……それは垓自身も理解している。それを理解して尚、垓は自分の思い()を抑えることができなかったーーそれだけは決して譲れなかった。

 

アメイジングホーン!

Progrise key confirmed. Ready to break.

サウザンドライズ!

はあぁーー………

 

 ドライバーからプログライズキーを引き抜き、ボタンを押してプログライズキーを閉じ、サウザンドジャッカーへと装填しグリップを引く。この一連の動作を一切の無駄なく迅速にこなしたサウザーは深く息を吸って吐き、

 

サウザンドブレイク!

ーーフウウウゥゥンッ!!

ZAIAエンタープライズ

 

 ーー構えたサウザンドジャッカーのトリガーを押し込む。次の瞬間、サウザーの周囲にファルコン、シャーク、タイガー、ベアー、マンモス、ウルフ、ホーネットーー大量のライダモデルが展開され全てのライダモデルがアークへと一斉に殺到し、襲いかかる。

 

 それはサウザーが放てる必殺技の中でも最大威力を誇るーー正に切り札。

 

ーー天津垓、貴様に私を破壊する事は不可能だ

悪意

はあっ!

 

 だが、その切り札さえ今のアークには届き得ない。

 

「ば、馬鹿なッ……!?」

 

 アークは先程全員を変身解除に追い込んだ時の様に、ドライバー上部のボタンを押し込んで悪意の波動「スパイトネガ」を発生・増幅させて手の平から放出。

 

消えろ

パーフェクト コンクルージョン

ラーニング1

 

 その波動を受け、アーク目掛けて飛び出したライダモデル達は一瞬の内に塵のように掻き消えーー動揺するサウザーに向かってアークは無慈悲にドライバーに装填したアークワンプログライズキーを押し込み、

 

「はああーー!」

「! ()ッーー」

「フン」

 

 ーー斥力・引力を操作することで空中浮遊し、高速でサウザーの目前に到達。必殺の一撃()をその腹部に叩き込んだ。

 

グワアアアアアアアーーッ!!!

 

 声を上げながら地面を転がり、サウザーは当然の如く強制変身解除。

 

「っ…‥まだ、だ…‥! ぐっ…! こはッ」

 

 倒れた垓はそれでも尚戦おうとするが彼の体はアークワンの一撃を食らって限界を迎えており、口から大量に吐血する。

 

 

 

 

 

「ッ、このままじゃ不味いぞ……! 刃ァ!」

「っ…! 言われなくても、わかってるッ…‥!」

 

 恐怖に足を震わせながら、何とか立った諌は自分と同じくアークの恐怖と戦う隣の唯阿へ叫ぶ。それを聞いて唯阿は精一杯に体を起こす。

 

パワー!

ダッシュ!

オーソライズ!

「変、身っ……!」

「っ、変身……!」

ショットライズ!

 

 ーープログライズキーのボタンを押し、ショットライザーに装填。恐怖を押し殺して二人はショットライザーのトリガーを引く。そして、

 

パンチングコング!

Enough power to annihilate a mountain.

 

ラッシングチーター!

Try to outrun this demon to get left in the dust.

 

 バルカンはパンチングコングへ。

 バルキリーはラッシングチーターへ。

 それぞれ再変身を果たす。

 

「無駄だ。お前達の力は、私には遠く及ばない」

 

 変身を果たした二人に気付いたアークは吐血して地に伏する垓から視線を外し、徐に振り返る。

 

「……悔しいが、確かに今はそうなんだろうよ……だがな!」

「ッ、ここで諦める訳にはいかないからな!」

パワー!

ダッシュ!

パンチングブラスト!

ラッシングブラスト!

 

 アークの台詞に二人はそう返して素早くショットライザーに装填したボタンを押す。バルカンはパンチングコングの巨拳を、バルキリーはショットライザーを構え、

 

「はああああっ!!」

「やああああっ!!」

 

 同時必殺技を放つ。

 バルカンはそのパンチングコングの巨拳をロケットの如く発射し、バルキリーはアークの周囲を迅速に周りながらショットライザーを連射する。

 

「無意味だ」

 

 それを防御する必要もないと判断したアークは右手をドライバーの上部に置き、ボタンを押そうとして気付く。バルカンとバルキリー、両者の必殺技はどれも自身の打倒を狙ったものではないと。

 

 ロケットの如き爆発力で発射されたパンチングコングの巨拳はアークの足元で着弾して炸裂。そこに追加でラッシングチーターの速力を生かした四方八方からの射撃により撹乱。アークの視界はほんの数秒程度とはいえ、確かに一時爆煙に包まれる。

 

「刃っ! イズとサウザーを頼む!」

「あぁ、お前も雷と或人を頼んだ! イズ、逃げるぞ!」

「おう! オラっ立て雷、社長もだ!」

 

 二人の狙いは鼻から──再変身した時から──一つ、この場から全員で撤退、離脱する事。アークがアークワンに進化し、更には天本太陽(バルデル)の死亡。この二つの事実だけでも絶望的だが、ここで人類側の「仮面ライダー」が更に欠ければ……それはどうしようもなく致命的だった。

 

 そんな致命的な展開を回避する為に二人は行動しーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………逃げた、か」

 

 爆煙が晴れ、アークの視界がクリアになった頃には……もうそこに人類側の仮面ライダー達の姿はなかった。

 

「だが、お前達に私を止める事は不可能。どれだけ逃げようとも……それは延命に過ぎん」

 

 しかし、アークは一切焦る事なく淡々と事実を述べる。

 

「バルデルは死んだ。これで、人類滅亡の未来はより盤石なものとなる……」

 

 最後に太陽が落下した川を見下ろし、アークは滅と亡を引き連れて歩き出す。

 

──貴様は、本当に愚かな男だった

 

 悪意に満ちた、愚かな人類の為に最期の時迄戦った男。天本太陽。仮面ライダーバルデル。

 

 

 アークにとって天本太陽(バルデル)は最後まで理解不能な存在だった。

 

 

 

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(ーー………? どこだ、ここ)

 

 俺の視界には今、白一色の異世界染みた光景が広がっている。気が付いた時には俺は既にそこに立っていた。

 

「ーー俺は何でこんな所に居るんだ………?」

 

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 ここに至るまでの出来事を思い出そうとした俺は頭を捻る。

 

(確か、或人と雷と一緒にアーク達と戦って……それで……それで?)

 

 記憶を想起しようとした俺だったが、どうにも断片的にしか思い出せない。肝心な部分については思い出せなかった(わからなかった)

 

(俺と或人は雷の提案に乗って、デイブレイクタウンに向かって……アーク、滅、亡と戦った。うん、戦った……筈だよな?)

 

 自分の記憶がどうにも正確か分からず不安になっちまう。

 

(それから……天津さんが…来たよな? それで……うん全く思い出せねぇ!)

 

 こっから先は記憶が欠落しているらしい。ただこれだけは何とはなしに理解できる。きっと俺はアークに負けたのだろう。

 

(或人や天津さん、みんなは無事なのか?)

 

 生きててくれてればいいんだが……仮に全滅してたら人類はマジで終わりだ。そこんところは誰かがファインプレーでどうにかしてくれてる事を祈ろう、そうしよう。

 

 

「──俺……死んだのか?」

 

 白一色の世界・空間に在るのは自分と宙空に浮かび上がっている複数の水色の数字?のように見えるものだけ。それ以外は本当に何もない。そんな光景を前に「もしかして、ここがあの世なのでは……?」と思いながら俺は辺りを見渡す。本当に何もない、どこまでも()が続いている。

 

 もしここがあの世なら、俺は死ぬ前にちょっとはアークに一矢報えたんだろうか? だったら格好も付くんだが……む、無駄死にだけはやめろよ俺ェ!? 死ぬのは勿論嫌だけど、戦いの中で死ぬならせめて価値のある逝き方をしたい。

 

 あぁー……父さんと母さん、美月にはマジでごめんとしか言えねぇな。振り返ってみると……本当に親不孝かつ(ひで)え兄だったな俺?

 

(……つうか死んだなら死んだで、そう一言伝えてくれよ神様ぁ……()るか知らんけど)

「はぁ……もう死んでるのかどうかすらわかんねーけど、死にたくねぇーつうかマジで何処だよここ? 説明を寄越せ説明を」

 

 真っ白な世界で地面?に仰向けで寝転んだ俺はそう弱音をぼそりと零し、溜息を吐いた。

 

 

 

 それからどれだけの時間が経ったか。一分程度だった気もするし、十分ぐらいだった感じもあるし、一時間以上は経過していたようにも思える。ここにいると時間感覚が狂う。

 

 

 

 当然、この真っ白な世界には俺以外の人影はなく……俺の言葉に応える者は誰もいないーー

 

 

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──ここは通信衛星ゼア、その思考回路内ですよ天本様

 

 ーー筈だった。

 

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……まさか、またお前に会えるなんてな

 

 

 後ろを振り返り、俺は思わず微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

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 ーーアークの戦闘から三日。

 

「っ、ならこれは……! 何でだよ!?」

 

 飛電製作所のオフィスで或人は声を荒げる。デスクの上には幾つかのプログライズキーコネクタが置かれており、或人の手にはそこから引き抜いたプログライズキーが握られていた。

 

「クソっ反応してくれ! 頼む!」

 

 或人は手に取ったプログライズキーのボタンを押すがプログライズキーは機能しない。そんな無反応なプログライズキーを苛立ちからか手荒にデスクの上に投げ、或人はまた別のプログライズキーを引き抜きボタンを押す……しかし、これもまた機能しない。

 

 先程から或人は幾つものプログライズキーを起動しようと試みているが、全てが機能しない。全く無反応だった。

 

「或人社長……」

「何でッ……! イズ! 何でプログライズキーが全部反応しないんだ!?」

「どうやらゼロワンドライバーからゼロワンのデータを奪取された際、無線の様に……間接的に今までゼロワンが使用してきた全プログライズキーの機能が停止状態にされているようです」

 

 或人の問いに傍に立つイズは冷静に答える。それを聞いた或人は驚愕し、

 

「!? そんな……はっ! そうだ、イズ! ゼロツードライバーはーー」

「ーー残念ですが、現在の作製進行度から予測してゼロツードライバーの構築には少なくとも一週間以上……ゼロワンドライバーの再構築にはそれ以上の時間が必要です」

 

 ーー咄嗟に打開案を思いつくがその案にイズは首を横に振る。

 

「……っ、じゃあ俺は……! 俺は……!」

 

 イズの言葉に或人は俯く。

 その手に黒く汚れ、亀裂(ヒビ)が走り、深く損傷したアメイジングヘラクレスプログライズキーを持つ或人の手は震えていた。

 

 アメイジングヘラクレスプログライズキーの機能はアークのスパイトネガの一撃を受け、完全に機能停止。システム自体が死んでいた。

 

(天本さんは最後まで、諦めずに戦ったのに……!)

「俺はッ……変身できなきゃ……ゼロワンにならなきゃ、戦う事すらできないのかよッ!?」

 

 涙が溢れ、プログライズキーを濡らす。或人は太陽の形見を震える手で握り締めた。

 

ストロング!

オーソライズ!

あああああああああ!!!

ショットライズ!

アメイジングヘラクレス!

ぐ、ッ…おおおおおーー!

 

(全身傷だらけで、血を流して…痛くて苦しい筈なのに……それでも天本さんは最期まで戦った。イズを、守る為に……! 本当は俺が守らなきゃいけなかったなのに……俺が弱かったせいで…!)

 

 あの瞬間を或人は今でも鮮明に思い出せる。

 

「……………」

 

 俯きながら歯を食いしばる或人にイズは掛ける言葉が見つからず、沈黙した。

 

 

 

 

 

『だから或人さん、これからも頑張ってください。俺まだ、ヒューマギアを好きでいたいですから』

 

 

『なぁ或人──お前は人間の味方か? それともヒューマギアの味方か?』

 

 

『おぉ! よう或人…って大丈夫かお前っ!?』

 

 

『お言葉に甘えて、防御は任すぞ! 或人!』

 

 

『──俺なんかで良けりゃ、聞いてやるよ』

 

 

(天本さん……俺は、俺はどうすればいいんですか?)

 

 目を閉じ、俺は今は亡き天本さんへと問いかける。それに答えが返ってこないのはわかってる。だけど、

 

 

──それはお前が決めろ。

──それに…もう決まってんだろ?

 

 そんな声が聞こえたような気がした。

 

はい、俺も最後まで諦めません!

 

──俺は、戦う! たとえ変身できなくても…ゼロワンになれなくても……! 俺は絶対に逃げないッ!

 

 俺は顔を上げ、立ち上がる。

 

「イズ、だから俺は行くよ」

「! 或人社長………」

 

 イズはそんな俺を見て何を思っただろう? 不安に思った? 無謀だって思ったかな? うん、そうかもしれない。それでも俺は天本さんの勇気を、行動を無駄にしたくないんだ。

 

 そして、俺はそのままオフィスを出ようとしてーー

 

ーー或人社長、一つだけ……変身する手段があります

 

 ーー俺はイズのその台詞に足を止めた。

 

『もし或人に何かあった時、これを或人に渡してくれ。念の為の『秘密兵器』……って言える程のものじゃあないけど。きっとコイツは或人の……アイツの役に立つ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──さぁ、人類滅亡を始めよう

 

 一方その頃。

 アークはいよいよ人類滅亡の為に本格的に動き出した。手始めにアークが行った都市部のハッキング……それを止める為に不破諌(バルカン)刃唯阿(バルキリー)天津垓(サウザー)の三人の仮面ライダーが立ち塞がる。だが、

 

「無駄な抵抗だ」

「ッ、アっガ……!!」

悪意

 

 ーーアークワンは止められない。

 アークは殴り掛かってきたランペイジバルカンをひらりと躱し、スパイトネガを発生させた右手で首を掴んで地面に叩き伏せる。

 

 

恐怖

「人類滅亡という結論は既に確定している」

「! グハッ!?」

 

 次にバルカンの援護をするバルキリーが連射するショットライザーの弾丸、それをアークは片手で掴み取りスパイトネガを宿してバルキリーへ投げ返す。赤黒く染まった弾丸は寸分違わずにバルキリーの顔面に直撃。その仮面を砕く。

 

「ぐ、まだだッーー」

憤怒

「いいや、終わりだ」

 

 最後にサウザンドジャッカーのグリップエンドを引こうとしたサウザーの左手を右手で掴んで止め、

 

パーフェクトコンクルージョン

ラーニング3

「フンッ!」

 

 ーー空いた左手に悪意を集めてストレートを鳩尾に突き刺した。

 

「ぐあああああーッ!!」

 

コ ン ク ル ー ジ ョ ン

 

 それを受けたサウザーの体は即座に赤黒い悪意に包まれ、全身を蝕まれていき変身は強制解除される。

 

宣言しようーー今日がお前達の命日だ

 

 倒れる三人を見下ろしアークは徐に右手を広げて向ける。その手にはスパイトネガが収束し、一つの球を作り出す。そして、

 

滅びろ

 

 その球を生身の三人へ向けてアークは放ち、滅びを与える……

 

 

 

 

 

 

 

「ーーやめろおおッ!」

 

 ーーその直前にアークの後方から制止の叫びが響いた。

 

 

 ───────────────────────

 

「………飛電或人か」

 

 ゆっくりと後ろに振り返ったアークは呆れたように呟く。

 

「言った筈だ、貴様はもうゼロワンには変身できないと……何故現れた? 今の貴様には私と戦う力さえないというのに」

「……俺は絶対に諦めないッ!」

 

 アークと対峙した或人は心を恐怖に襲われながらも、それでも立ってアークを見据える。その決意が籠った強い眼を前にアークは「そうか」とだけ言い、

 

「ならば、貴様から葬り去ってやろう」

 

 ーー倒れる三人に向けていた手を或人へと向ける。

 

「逃げろッ社長!!」

「ッ、馬鹿な真似はよせっ!」

「飛電、或人……!」

 

 そのアークの行動に対して諌、唯阿、垓はそれぞれ必死に声を上げ……

 

「大丈夫! みんなは絶対に守るから!」

 

 或人は動じることなく笑顔でサムズアップした。それを見たアークは或人の態度に疑問を吐く。

 

「何故だ? 何故逃げない? 何故諦めない? ベルトも無く、今までのプログライズキーも使用できない。変身できない貴様は最早『仮面ライダー』ですらーー」

「ーーそれは違う」

「……何っ?」

 

 アークの言葉を或人はハッキリと否定する。

 

変身できるかどうかは関係ない。変身できるから『仮面ライダー』なんじゃない! 天本さんが……身を以て教えてくれた。守りたい……大切な物の為に、自分の命を懸けて戦う。その強い思いが、 心こそが仮面ライダーなんだッ!!

 

 再度強く、強く宣言した或人はある物を懐から取り出し、

 

「!……何故貴様がそれを持っている?」

だから、その心を胸に……俺は絶対に逃げない! 絶対に諦めない!

フォースライザー!

 

 それをーーフォースライザーを腰に装着する。そのフォースライザーが誰のものか…それは語るまでもないだろう。

 

「があッ…!? く、あああああッ!!」

 

 瞬間、赤黒い火花がバチバチと散り、或人の全身に激痛を走らせる。それでも或人は決して倒れない。何故なら、彼は大切な物を守る為に命を懸けて戦う……その心を持つ『仮面ライダー』だから。

 

そうか、天本太陽(バルデル)。貴様は死んで尚、私の前に立ち塞がるというのか……だが飛電或人。ベルトがあろうと貴様にはーー」

 

使用可能なプログライズキーはない、そう口にしようとしたアークだったが……その予測は次の瞬間に覆った。

 

ジャンプ!

「! 何だと?」

「ぐウッ…! うあああッ!」

 

 或人の手にはライジングホッパープログライズキーが握られており、しかも確かに作動していたのだ。

 

天本さん! ワズ! 俺に力を貸してくれッ!

ーー変身ッ!!

フォースライズ!

 

 プログライズキーをフォースライザーに装填し、激痛に歯を食いしばる或人は二人の姿を思い浮かべ……決して消えない強い心を胸に、勢いよく黄色のレバーを引く。

 

ライジングホッパー!

A jump to the sky turns to a rider kick.

Break Down.

 

 プログライズキー装填時に黒いバッタのライダモデルが或人の目前に出現し、レバーを引きプログライズキーを強制展開した途端にそのバッタのライダモデルの形は崩れ、蝗の大群のような形状に変化して或人の体に蝕む様に纏わりつき黒いスーツと化す。

 

 最後に或人の上に浮遊していた黄色のアーマー、バッタのライダモデルから分解された一部のパーツが黒いコード?に引っ張られる様に或人に装着され、

 

アーク!

 

 ーーその複眼は赤く光る。

 

お前を止められるのはただ一人! 俺だッ!!

 

 そうして、仮面ライダーゼロゼロワン(001)が誕生した。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

仮面ライダーゼロワン!

第22話 Rising sun


皆さん、来年も宜しくお願いしますっ!


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Rising sun

タイトルで多くの方が色々察してそうですが……多くは語りませぬ!
それではどうぞ!


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──以上でチュートリアルモードを終了します

 

 真っ白な空間──衛星ゼアの思考回路内にそんな音声が鳴り響く。

 

「これでいいのか?」

 

 目の前に浮かんだ『完了』の文字?を数秒眺めた後、隣に立つ□□に目を向けて太陽は訊ねた。すると□□は微笑み頷く。

 

「はい。天本太陽(あなた)の覚悟を再確認し、このプログライズキーのデータをラーニングさせる……ここまでが衛星ゼアの導き出した結論ですから」

「……じゃあ、こっから先は?」

「それは勿論『未知』ですよ」

 

 未知?思わず首を傾げる太陽に□□はこう告げる。

 

「ここから先は衛星ゼアでも予測できない、確実な結論が出せない未来……つまり、ここから先はあなた達【仮面ライダー】次第ということですよ」

「ーーーー」

「まぁ、今最も重要なのは天本様がそれ(・・)を使いこなせるかどうかでしょうね」

「…地味にプレッシャー掛けるのやめろぉ!」

 

 続く□□の言葉を聞いた太陽は顔を引きつらせ、そんな太陽を見て□□はまたも笑う。

 

「おまっ何笑ってんだ!? こちとら気が気じゃないンだが?」

「これは失敬。ですが慌てる必要は微塵もないでしょう」

「へ?」

 

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「──あなたは今まで通り、自身の心のままに……未来を進めばいいんですよ

 

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「──詳しい事はよくわかんねぇけど……あぁ、わかった

 

 そう口にして頷き、笑顔で言う□□に釣られて太陽も思わず笑った。

 

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「ーーウオオオオオッ!!」

 

 獣の如く咆哮した或人ーーゼロゼロワン(001)は真っ直ぐにアーク目掛けて駆け出す。

 

「せっ! はあッ!!」

 

 荒々しい前蹴りを噛まし、続けて全力で殴り掛かる。

 

「遅い」

「!? ぐふッ…! っ、おおおおお!!」

 

 001の攻撃を見切ったアークは片手でそれをいとも容易く捌き、カウンターに膝蹴りを胴に打ち込む。それに大きく怯んで数歩後ろに下がる001………だが、

 

「せやあああッ!!」

 

 ーー001はすぐに再度攻撃を仕掛ける。

 

「フン」

悪意

 

 001再度の攻撃、顔面へのパンチを首を僅かに動かし躱したアークは左手でドライバー上部のボタンを押し込み、更に悪意を右掌に溜め込む。

 

「グゥ…!? かはっ!!」

 

 そして、その右掌を001の腹部に当てて赤黒いエネルギー「スパイトネガ」をゼロ距離で爆発させる。

 

「うぅ、ッ……まだッ…まだァ……!」

「無駄だ。ゼロワンと異なる姿に変身した所で結果は変わらない。それが私の結論だ」

「っ、そんな結論……超えてみせる!!」

 

 爆発の威力で大きく後方に吹っ飛ばされ、壁にその背を強く打ち付け倒れた001は苦しそうに呻いた……だが、またすぐに闘志を持って立ち上がる。

 

「おりゃあああーーッ!!」

「……まるで天本太陽(バルデル)の如き気迫だな」

 

 001の姿……絶対に諦めないと決意した飛電或人の姿、その気迫にアークは天本太陽(バルデル)の姿を思わず重ねる。それほどまでに今の或人の気迫は凄まじく、不屈の精神で戦う天本太陽(バルデル)を彷彿とさせた。

 

「おらあああっ!」

「だが、例え気迫が凄まじかったとしても……お前が私にとってのイレギュラーに成り得る事はない。お前に私は止められない」

「がッ…!? く、そんなこと……お前が……!」

 

 アークは001の気迫に動揺することなく、冷静にその攻撃の軌道を予測して素早く左足で胴体を蹴りつけ告げる。蹴りを食らってまたも飛ばされた001だったが態勢を崩しながらも後ろ宙返りをして着地に成功し、

 

「ーーお前が決めるなあッ!!」

 

 ーーアークの言葉に叫び、瞬時に再び攻撃を仕掛ける為に拳を振り上げた。

 

 

 ──────────────────────

 

 

なぁ、お前は……こっちに帰ってこれないのか?

 

 太陽は半ば諦め気味に□□に問いかける。

 

「……現状、不可能でしょう。ゼロワン計画に関わる私にはバックアップがありませんから」

「まぁ、そうだよな……」

 

 分かってはいた。だけど、改めて本人の口からそう言われてしまうと……中々にショックを受けるもんだな、と太陽は思った。

 

「ですが私の外見・役割のデータが保存されたヒューマギアプログライズキーを使用すれば私と同型のヒューマギアを作る事は可能でしょう」

「…………」

 

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 □□のその発言に太陽は暫し沈黙してから一言、

 

「……そっか、それじゃ仕方ねぇな」

 

 ーーそう呟いて寂しげに微笑む。

 太陽は或人とイズとの交流の中で、当然ヒューマギアプログライズキーの存在を知り得ていた。しかし、決して□□の復元を或人に提案する事はなかった。

 

「復元させようとは思わないのですね? ……理由を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「はぁー? それ……お前が俺に言わせんのか?」

「あはは、申し訳ありません。直接あなたの口から聞いてみたかったので」

「お前なぁ……はぁ、ヒューマギアらしかった頃のお前はどこいったんだよ?」

「ふふ、綺麗さっぱりいなくなりましたよ。あなたの言葉のおかげで」

 

 □□の意地悪な質問に太陽は頭を掻き答える。

 

「……ヒューマギアプログライズキーでお前と同型のヒューマギアを復元したとしてそいつは本当にお前なのか?」

 

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「……さて、どうでしょう?」

 

 態とらしく首を傾げる□□に太陽は自分なりの考えを伝える。

 

きっと違う。声や姿が同じでも、そこに生まれるだろう心は別物なんだ。……死んじまったお前と声や姿は同じで、中身が別物のヒューマギア……俺にはそいつと仲良くやっていける自信はない

 

 

あと、仮にお前と同型のヒューマギアを復元させたとしてさ……。俺は声や姿がお前と同じそのヒューマギアに……俺の知るお前を重ねてしまうかもしれない。お前と同じように接してしまうかもしれない

 

 

それはお前にも、復元されたお前と同型のそのヒューマギアにも失礼だろ。つうかそりゃ、お前の心を侮辱してるのと同じだろ? ……それだけはやっちゃいけない気がすんだよ

 

 何か色々言ったけど…まぁつまりはだな?と太陽は自分の中の結論を最終的に、簡潔にこう伝えた。

 

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「──まぁなんだ……つまりは、少なくとも俺にとっての【ワズ・ナゾートク】は一人だけって話だ

 

 それを聞いた□□は……ワズ(・・)は、

 

やはり、あなたは……──」

 

 ──誰よりも強く優しい人ですね

 ワズ・ナゾートクはヒューマギアらしくない、人らしい、泣きそうな顔で心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「……ぷっ。何つう顔してんだお前」

 

 その笑顔にやっぱり太陽はまた釣られた。

 

 それから暫くして、ワズの体にノイズが走り、その足元からは水色の数字……衛星ゼア内のデータが溢れ出し始める。また同時に太陽の視界は徐々に朧げなものへと変化していく。

 

「! どうやら…そろそろ時間のようです」

「……そうみたいだな。ったく、ゼアも酷いよなぁ? 俺への説明役にお前を選んで、数十年振りに再会させたくせに…のんびり話す時間もくれねぇんだから」

「ふふ、同感ですね。私も、もう少し天本様とこうしてのんびりと話をしたかったのですが……今は時間も惜しい状況のようでして」

「わかってるわかってる。今頃向こうじゃ、アークと天津さん達が戦ってんだろ? 早く起きないとな」

 

00 01

01 00

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10 01

 

「またな、とは言わねぇーぞ?」

「えぇ」

 

 衛星ゼアとの無線接続が切れる直前、太陽はワズへと右手を差し出しニヤリと笑う。それにワズは自分の右手を出して応えーー握手する。

 

「じゃあな、会えてよかったぜ──ワズ」

「はい、私もです。どうかご武運を──天本様」

 

 太陽の視界が白い光に包まれていき、その光は段々と強くなる。太陽は穏やか心持ちで目を閉じた。

 

 

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(死ねないよなァ……?)

 

 意識が覚醒した俺の手にはブランクキー…だったもの。翅を広げた緑色のヘラクレスが描かれたプログライズキーが強く握り締められていた。

 

 

 体を起こそうとした俺は……激痛に襲われ、血を流し、

 

「ーーハッ……まだ、生きてんなぁ……」

 

 自分の耐久力(しぶとさ)に呆れ気味に苦笑し、まだ自分が生きている事を実感しながらふと空を見上げる。ちょうど風が吹き、俺の髪を揺らす。

 

「ハァ、ハァ……ッ、道理で涼しい訳だ」

 

 空は暗かった。どうやら今は夜中らしい。

 空の大部分を覆うように雲が広がっている。

 

(あれからどれぐらい時間が経った? 一日? 一週間? 一ヶ月?)

 

 暗い空を見上げながら思う。

 まだ間に合うか?と。

 無論、答える者はここには居ない。

 

「……あぁ、わかってる」

(間に合うかどうかじゃなくて、間に合わせねぇとダメだよな)

 

 それでも、誰かが答えてくれた気がした。

 

 手に持ったプログライズキーを見つめながら俺は立ち上がって…顔を上げる。俺の目に映ったのは真っ暗だった空……その奥から暖かい、優しい淡紅色の光が広がっていく瞬間ーー。

 

………さぁて──

 

 覚悟はできた。

 

 いや、疾っくの疾うにできていた。

 

 

「──リベンジさせて貰うぜ?

 

今──太陽は昇った。

 

 ───────────────────────

 

「甘い」

「ぐゥ!? ぁ、ガァ……ッ!」

悪意

 

 アークは001の首を左手で掴むとそのまま壁に叩きつけた。何とかその拘束を解こうと001は踠く。

 

恐怖

 

 だが、拘束を解けずアークは首を掴む左手に更に力を入れて締め上げ……空いた右手でドライバー上部のボタンを押し込み悪意を貯めていく。

 

憤怒

「ッ、グゥ、ぎっ……!!」

憎悪

 

 まずいッ!!

 首を締め上げられながら001はその一心で必死にアークに攻撃を仕掛け、この状況を切り抜ける為に思考を巡らせる。そして、

 

ライジングディストピア!

「っ!? ぐ、ァ、アアアアアッ…!!」

 

 001は首の痛みを堪え、自由の利く手でフォースライザーのレバーを押し戻しーー引いた。

 

「ウ、オオオオっ……!」

「!」

 

 途端に001の体から赤黒い煙が噴出し、001ーー或人は自分の体がふっと軽くなりパワー・スピードが飛躍的に上昇したことを実感する。

 

 001はその状態で首を掴むアークの左手を両手で掴むと、力づくでそれを引き剥がし、

 

「ハアアアアアーーッ!!」

 

 ーー壁に右足を付け、全力で蹴った。瞬間、001は加速して前へと飛び出す。

 

「!? この力は……!」

 

 そのパワーに。そのスピードに。

 アークは僅かではあるが動揺を露わにする。

 

「らああッ!」

「無駄だ」

 

 加速した001はスピードの乗った前蹴りを繰り出し、次にその右拳を突き出す。アークもまたその攻撃に合わせて右拳を突き出した。

 

ディストピア

 

 

 拳と拳が激突し、赤黒い衝撃波が巻き起こる。

 

「ぎっ、ウオオオオオーーッ!!」

 

 アークの攻撃に数歩後退した001は体からは再び赤黒い煙を噴出させ、地面を強く蹴り、スピードを更に上げる。体に走った激痛に苦しそうな呻き声を出しかけーー或人は咆哮した。

 

「掛かって来い」

 

 それを見たアークもまたスピードを上げて応戦する。二人の殴り合い、蹴り合い、()つかり合いは目にも留まらぬ速さで展開していく。

 

「ーーふんッ!」

「ーーらあッ!」

 

 同時に繰り出したパンチは互いの胸を叩く。

 それを受けたアークは一切怯まず、逆に001は大きく怯む。だが、或人の闘志は削げない。

 

「ーーはッ!」

「ーーはあッ!」

 

 同時に繰り出したキックが衝突する。

 アークのキックの威力に001は歯を食いしばるが、再びキックしてアークにすぐ立ち向かう。

 

「ーー遅いッ!」

「ーーうグッ!?」

 

 一瞬で001の背後を取ったアークは手から「スパイトネガ」を発生させ、空中に浮くと001へとかかと落としを仕掛ける。それを防ぐ為、咄嗟に両腕をクロスさせ防御態勢をとった001だがーー守りは容易く破られ、地面が砕け粉塵が発生。

 

「ハァ、ハァ……」

「飛電或人、滅びの時だ」

 

 地面を転がり、息を切らし、何とか起き上がる001に歩み寄ってそう口にしたアークは徐に自身の右手を持ち上げて拳を握って振るう。

 

「! まだだァ……!!」

「!?」

 

 その拳は001のスペックでは防ぎ切れない一撃だった。しかし、001は、或人は両手でそんな一撃をがしりと掴んで見せ、

 

お前を止められるのはただ一人……俺だ!!

 

 ーー反撃にアークの胴体を蹴り付け、距離を取った001はアークに指を差し、最後にその指を自分へと向けてレバーを押し戻す。

 

ライジングユートピア!

ーーウオオオオオッ!!!

 

 押し戻した黄色のレバーを勢いよく引いた001は高くジャンプする。血のような煙が大量に噴出し、複眼は赤く発光。痛みに襲われながらも001は叫んだ。吠えた。

 

絶対に逃げない! 絶対に諦めない!

 

 その思いを胸に001は蹴りの態勢に移行し構え、

 

「ーー俺は、仮面ライダーだ……!!

 

 ーー全身全霊のライダーキックを繰り出す。

 

絶望

「ーーこれで終わらせてやる

パーフェクトコンクルージョン

ラーニング5

 

 アークは左手でドライバー上部のボタンを押し、間髪入れず右手でプログライズキーを押し込みーー001と同じく高くジャンプ。

 

 ーー此方もまたライダーキックを繰り出した。

 

「ウオオオオオーーッ!!」

「ハアアアアアーーッ!!」

 

 黄のエネルギーと赤黒いエネルギーが激突し、強烈な赤い火花が拡散する。

 

ライジング

ユ ー ト ピ ア

 

パーフェクト

コンクルージョン

 

 

そしてーー

 

「ーーーー」

「ーーーー」

 

ーー決着が付く。

 

 

 

 

 

「あぐッ、カハ……!!」

 

 アークの必殺技にダメージは許容範囲を遥かに超え、001の変身は強制解除されーー或人は吐血して倒れ、

 

「ッ……馬鹿な」

(一体どこにこれだけの力が……?)

 

 001の必殺技を「ドライバー」に受け、少なくないダメージにアークは暫し呆然と死に体の或人を見下ろす。

 

 或人は確かにアークの予測を超えた力を見せたのだ。

 

「認めよう。貴様は確かに、私の予測を超えた……だが、結論は変わらない」

「うぐッ……がァ……」

 

 しかし、もう或人に戦う力はなかった。

 そんな或人へアークはトドメを刺すべく歩み寄り、スパイトネガで赤黒い球体を作り上げる。

 

「社長!」

「くっ、このままでは……!」

「やめろアーク…!」

 

 そうはさせまいとする諌、唯阿、垓も飛び出そうとするが彼等もまた或人と比べればまだ良い状態だがアークの攻撃に瀕死手前の状態に陥っている。到底アークから或人を救う力は残されていない。

 

(ごめんなさいッ…天本さん…ワズ……俺は、俺はっ……!)

 

 絶対に逃げないと戦った。

 絶対に諦めないと戦った。

 

(俺じゃアークは止められないのかっ……!?)

 

 でも、届かなかった。

 

「くっ…そォ……」

 

 或人は拳を地面に叩きつける。

 

滅べ、飛電或人

 

 そんな或人にアークは無慈悲に告げる。次の瞬間、アークの右掌から悪意の球体が撃ち出され、

 

 

「結局……俺にはっ……!」

 

 

 自然と弱々しい言葉が漏れる。

 

 撃ち出された球体を狙い違わず、倒れる或人へと飛ぶ。

 

 

ーー何も、守れないのかッ……?

 

 

 目から涙が零れる。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ーーンなこたねぇよ。ちゃんと守れてたぜ?

 

 

 

ーーそれにめちゃくちゃ頑張ってたじゃねーか

 

 

 突然、辺りに聞き覚えのある声と足音が響いた。

 

 

 ──────────────────────

 

ーーハーキュリービートルズアビリティ!

 

「! 何っ……?」

 

 アークにはその事態が一瞬理解できなかった。

 それは当然だった。何故ならアークの予測にはなかったことだから。

 

 唐突に出現した緑色のヘラクレスオオカブト?と思われるライダモデルが、或人に撃ち出した悪意の球体をその巨大な角で弾き飛ばしたのだ。

 

(……いや、あり得ない。そんな筈はない!)

 

 そのライダモデルにアークは見覚えがあり、ある予測が立てられた……がアークはその予測を自ら否定する。いや、正しく言うならばその予測を認めたくなかったのだろう。

 

 だが次の瞬間、姿を現した存在に…アークは自身の予測が正しかったと認めざる終えなくなった。

 

「! あ、天本…さんッ……!!」

 

 聞こえた声、足音にボロボロで無茶して立ち上がった或人はその姿に声を上げる。

 

「よお或人。見ない間にまた随分とイケメンになってるな? 『男子三日会わざれば刮目して見よ』ってやつか」

 

 ってイケメンになってるのは天津さん達もか?傷だらけな或人の姿を見て、男は片手を軽く上げ揶揄う。その男は紛れもなく、

 

天本太陽(バルデル)……!!」

 

 ーー天本太陽、仮面ライダーバルデルだった。

 その左手には緑色のプログライズキーが握られている。

 

「天本さんっ、無事だったんですね……!!」

「太陽君……よかった……本当によかった……!!」

「……えっ?! 何で二人して泣いてんの!? え、そ、そんなに心配してくれてたんだ……」

 

 そんな太陽は或人と垓の反応を前に照れて頬をかき「ちょっと感動したわ……」と小声で呟く。

 

「……何故だ? 何故だ!? 何故貴様が生きている!? 貴様は確かにあの時、確実に殺した筈だ!」

「アーク、お前は見ない間に随分と感情豊かになったな? ……何で生きてるかだって?」

 

 太陽の姿は或人らと比べれば幾分かマシだが、それでもかなりボロボロであちこちに生傷や裂傷があり、打撲している箇所もあるようだった。

 

 そんな状態だが確かに生きて喋っている男……そんな受け入れ難い事実にアークはらしくなく声を荒げて問い、太陽はそんなアークにこう言ってのけた。

 

「そんなこと俺が知るか! バーカ!」

 

 それは滅茶苦茶かつ、子供のような罵倒……かつての太陽らしい物言いだった。

 

「……ふざけるな!」

「ふざけてねぇよ。これが俺の本音だ!」

 

 苛立つアークだが、太陽はそんなことお構いなしに言う。

 

「或人、天津さん、不破さん、刃さん。ちょっと離れててくれ」

「ーーーー」

「今から、一旦(・・)こいつをぶっ倒す」

 

 驚く程あっさりとしたその台詞に或人達は思わず「えっ」と零す。

 

「! ……倒す、だと?」

「あぁ」

 

 その言葉に最も驚いたのはアークに太陽は平然とした態度で応える。

 

「……馬鹿なことを。バルデル、貴様では私には勝てない。まさか…もう忘れたというのか?」

「お前こそ、忘れたか? さっき言ったばっかだろ『男子三日会わざれば刮目して見よ』ってやつだ」

「ふっ、下らん戯言を……ベルトもない貴様に何ができる?」

 

 アークの指摘通り、今の太陽の腰にはショットライザーが無く…黒いバックルとベルトだけが装着されているのみ。しかし、

 

「まぁ見てろって」

ゼアズアビリティ!

 

 ーー不敵に笑った太陽は左手に持ったプログライズキーのボタンを押し、アビリティを発動させる。

 

ショットライザー!

 

 瞬間、プログライズキーから水色のレーザー?が放たれ太陽の真前ーー宙空に銃を僅か数秒で製作。太陽はそれを掴み、流れるようにバックルにセットした。

 

「!? あれはっ……!」

「間違いない……あれはショットライザーだ!」

 

 製作された銃。それは間違いなくショットライザー。太陽が持つプログライズキーが発揮したその力はアークドライバーによる武器製作と酷似している。

 

「何だと……!?」

 

 太陽は左手に持ったプログライズキーを右手に持ち替えると、再度ボタンを押し、

 

グレイトストロング!

エースライズ!

 

 ーー手慣れた手つきで続けてショットライザーに装填し、右手でプログライズキーを展開。

 

Kamen Rider. Kamen Rider.

 

 バックルからショットライザーを引き抜き、銃口を天高く真上に上げ、太陽はただ前を見据える。

 

「! させるかーー」

『ーー!!』

「くっ、ライダモデルか…!」

 

 太陽の変身を妨害しようとしたアークだが、それは先程アビリティにより出現していた飛び回る緑色のヘラクレスオオカブト?のライダモデルの威嚇攻撃により阻止されてしまい。

 

ーー変身ッ!!

ショットライズ!

 

 ーー太陽は銃口を天高く上げたままトリガーを引く。次の瞬間、放たれた緑色の弾丸は真っ直ぐ天に飛ぶ。また、それを追うようにヘラクレスオオカブト?のライダモデルが飛び立ち旋回を始め、

 

ハッーーオラアッ!!

 

 ーー真上を見上げた太陽は方向転換し、真っ直ぐ落ちてくる弾丸に向かって勢いよく広げた左手を伸ばし握り潰した後…その伸ばした左腕を勢いよく振り下ろす。

 

 アーマーは最初に伸ばした左手・左腕から装着されていき、続けてガチャンッ! ガキン!とアーマーが全身に装着されーー。

 

 最後にヘラクレスオオカブト?のライダモデルがゼロワン変身時のバッタのライダモデルのように分解。緑色の追加アーマーとしてその上半身に装着。そして、

 

Grab the victory!Grab the future!

ウイニングヘラクレス!

The strongest power Crush the sky.

It's Keep winning.

 

複眼が赤く発光しーー変身が完了する。

 

 

俺は仮面ライダーバルデル!

 

太陽はーーバルデルは宣言する。

 

真打登場、なんてな

 

 仮面の下で太陽は笑った。

 

 

今、リベンジが始まる。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

バルデルの強化フォーム案を募集してから幾星霜(大袈裟)
強化フォーム登場を楽しみに待っていて下さった皆様(い、いるのか?)お待たせしました。


仮面ライダーバルデル
ウイニングヘラクレス


【挿絵表示】


SPEC
◾️身長:199.5cm
◾️体重:100.0kg
◾️パンチ力:120.0t
◾️キック力:98.8t
◾️ジャンプ力:95.9m(ひと跳び)
◾️走力:0.5秒(100m)
★必殺技:ウイニングブラスト、ウイニングブラストフィーバー

<Point>
天本太陽が(ゼアの力で再構築した)ショットライザーとウイニングヘラクレスプログライズキー(※オリ設定)を使って変身した姿。




仮面ライダーゼロワン!


第23話 ある男の完全復活!!



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ある男の完全復活!!

今回は脳内bgmで「ハイブリッドライズ!ゼロワン~Rising sun」を流しながら読み進めるのがオススメです!

それでは、どうぞ!


Grab the victory!Grab the future!

ウイニングヘラクレス!

The strongest power Crush the sky.

It's Keep winning.

 

 体に走る黄緑のライン、下半身に装着された白いアーマー、頭部と上半身を覆うメタリックな緑の堅固なアーマー、鋭く伸びた角、自然と闘志と凶暴性を感じさせる赤い複眼。

 

「何だ、その姿は……?」

 

 仮面ライダーバルデル ウイニングヘラクレス。

 それが今アークの前に再び立ち塞がった天本太陽(バルデル)の新たな姿。アークの予測にはなかった力。

 

「さぁな。俺も…チュートリアルはやったんだが、実際にコイツに変身するのはこれが(はつ)でな」

 

 そう口にしたバルデルは自分の両手に目を下ろし、仮面の下で強気に笑う。

 

「でも、これっぽっちも負ける気はしねぇな」

「笑わせる、貴様に私を倒す事は不可能だ」

「だったら喋ってないでかかって来いよ。それとも…怖いのか?」

「……いいだろう」

 

 揶揄うように片手をアークに向けクイクイと動かすバルデルにアークはその拳に「スパイトネガ」の赤黒いエネルギーを纏わせ握り締める。

 

「もう一度その息の根を止めてやるッ!」

 

 本来のアークならば挑発に乗るなどそもそもあり得ない。だが、今のアークの人工知能は度重なる予測を超える事態に明確なエラーを起こしていた。まるでシンギュラリティに達したヒューマギアのように。

 

「………」

 

 そんな怒りを露わにするアークにバルデルはただ徐に歩き出す。

 

「隙だらけだ」

 

 そして、アークは加速し一瞬で歩くバルデルの目前に至ると右拳をその胴体に放つ。更に直撃した直後、「スパイトネガ」の赤黒いエネルギーがバルデルの超至近距離で爆ぜーー致命的な一撃になるのは必然の筈だった。

 

「そんなもんか?」

「?! 何っ……!?」

 

 しかし、拳を受けたバルデルは怯む事なく……それどころか一切の衝撃を受けた様子なく平然と口を開き、

 

「どらあッ!」

 

 お返しとばかりに動揺するアークの胴体に右拳を打つ。

 

「! ぐッッ、がああァ……!!」

 

 

 瞬間、アークの体は真っ直ぐに吹き飛び、壁に背を激突することで漸く止まりーー激突した壁には大きなヒビが走った。

 

(何だ、この力は……?!)

 

 その力は今までのバルデルの比ではなく、今の単純なパンチがアークには捉え切れず、全く反応できなかった……アークは動揺し、

 

「何故予測できない!?」

 

──予測できない。

 

 最も不可解な問題に驚愕する。

 確かに今までもアークはゼアと天本太陽(バルデル)の「結論」だけは予測できなかった。だが、戦闘での天本太陽(バルデル)の攻撃などに関しては全てとは言えないが十分に予測できていた。

 

 しかし今、それも不可能と化した。

 

「さっきの台詞そのまま返すぜーー隙だらけだ!」

「うぐっ!?」

 

 そんな風にアークが高速で思考する間、瞬時に距離を詰めてきていたバルデルの左の膝蹴りがアークの顔面に直撃し、

 

「おらあッ!」

 

 ーー続けて素早く右の横蹴りがその顔面を捉え、強烈な威力・衝撃にてアークを遥か後方に蹴り飛ばす。その二度目の攻撃でアークの体は先程激突した壁を貫通…アークが貫通したヒビの入った壁は遂に完全に崩壊し、広い範囲に粉塵が発生した。

 

「があ…ァ…くはッ…! あり、得ない」

 

 勢いよく地面を転がり、手をつき何とか立ち上がろうとするがすぐには立ち上がれずアークはガクッと地面に倒れ、絞り出す様に零す。

 

「そんな、筈がない」

 

 理解できない事態を前にアークは再度予測を試みる。

 

ーー前提を書き換え、結論を予測

 

 アークの片目が不気味に赤く輝く。バルデルの次の攻撃(動き)。その予測が開始されーー

 

Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!

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Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!

Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!Error!!

 

「ーーな、に……?」

 

 ーーようとした次の瞬間、アークの予測は何かに妨害され強制中断された。

 

「はあッ!」

「! ごはっっ……!!」

 

 続けて予測の中断により意識が現実に引き戻された直後、アークの顎部分にバルデルの左のアッパーが打ち込まれーーアークの体は宙に打ち上げられる。

 

(ッ、対処をーー!)

 

 アークは甚大なダメージの連続に思考を乱されながらも、空中で体勢を整え着地しようと瞬時に適切な判断を下し対処しようと試みるが、

 

「もういっちょッ!」

「ごがッ!?」

 

 ーー人間を遥かに超えた人工知能(アーク)の思考速度でさえ、今のバルデル相手には遅い。間に合わない。

 

 打ち上がったアークのその腹部にバルデルは容赦無く右のストレートを叩き込みアークを吹き飛ばす。

 

「っっ…グッ…こんな、馬鹿な事が……!」

 

 アークの予測を超え、許容範囲を遥かに超える威力を持つバルデルの一撃()は凄まじく、その攻撃を受けた部分からは激しく火花が散り始める。

 

 そのダメージにより、アークの思考には不具合が生じ始める。

 

「何故だ、何故こんな事が起こり得る! 以前は予測できた筈の貴様の動きが、予測できなくなった理由は何だ!?」

 

 アークは自身の状況()ーー手も足も出せず圧倒されている……理解し難く、受け入れ難い事実に怒り問う。

 

「これがゼアの力だとでも言うのか……? ならば、私の力がゼアに……及ばないとでも言うのか!?」

 

 アークはバルデルが変身前に使用したプログライズキーのアビリティ「ゼアズアビリティ」から「ウイニングヘラクレスプログライズキー」にゼアの力が内包されていると理解し、バルデルの動きが予測不可能になった理由をゼアの力によるものだと結論付けた。

 

「…………」

 

 地面に手をつき、立ち上がろうとするアークをバルデルは無言で見下ろし、

 

「何で予測できないのかって……お前、まだわかんねーのか?」

「何……?」

「教えてやるよ、簡単な話だ」

 

 ーーアークの怒りを前に平然と応え、告げる。

 

「人間の悪意をラーニングされ、人間の悪意だけをラーニングしてきたお前に、人間の善意も悪意も両方ラーニングし続けてきたゼアの結論()が…予測できる筈がないんだよ」

「! 善意、だと……? そんなもの、人間の心には存在しない。人間の心に存在するもの…それは悪意だ!」

 

 バルデルの言葉を即座に否定し、アークはその手に二丁のショットライザー。更に背後に数十本以上のショットライザーを生成・展開して射撃を開始する。

 

「させるかよ」

「っ! これは!?」

 

 だが、それに対してバルデルは右手を翳した瞬間ーー生成・展開した全ショットライザーが一瞬の内に消滅した。

 

「一体何をした!?」

「さぁ? 詳しい事は俺にもよくわかんねぇけど、簡単に言えば…アーク(お前)対策(メタ)の妨害能力ってとこだ……んじゃーー次はこっちから行かせてもらおうか」

 

 動揺したアークの問いかけにそう簡潔に答えたバルデルは右手を広げ、ショットライザーに装填した「ウイニングヘラクレスプログライズキー」からその手に水色のレーザーが放出され「01 10 01 10」という数字?のようなデータが出現。

 

オーソライズバスター!

 

 それはまるでアークの武器生成の様に何かを形取り、最終的にアックスモードの「オーソライズバスター」をバルデルの手に生成して見せた。

 

「何、だと……?」

「悪いなぁお株奪っちまって。でもゼアとお前は同型何だし…そう驚くこともないだろ?」

 

 右手の中で生成されたオーソライズバスターを掴み、試しに軽く振るったバルデルは一つ頷いて構える。

 

「いくぜーーどらあッ!!」

 

 アーク目掛けて前方に低く速く跳躍したバルデルは着地する前にオーソライズバスターを大振りに振り下ろす。

 

「はっ! ぐうっ!?」

 

 それを防ごうと攻撃に合わせ、完璧なタイミングで両腕を使い防御の態勢をとった。しかし、バルデルの攻撃は予測できない挙句に遥かに速く重くーーたったの一撃でアークの防御を崩し、

 

「そらあッ!」

「がはッ!!」

 

 続けて着地した直前に振り下ろしたオーソライズバスターを今度は豪快に振り上げ、アークの体を吹き飛ばす。

 

「ぐぅ…ァア……この威力…武器の性能を上げたか……!」

「あぁ、お前と同じようにな。まぁ俺の場合はお前と違って生成した武器の性能についてはゼアにお任せだけどなぁ」

 

 激しく火花を散らすアーマーを片手で抑え、立ち上がろうと地に手をつくアーク。それを静かに見下ろすバルデル。

 

 どちらが優勢かは語るまでもないだろう。

 

「派手にぶちかますとするか…!」

 

 だが一切手を緩めず、油断無く容赦無くバルデルは次の行動を取る。

 

 バルデルはショットライザーに装填されたプログライズキー……そのシンボルが丁度見えるショットライザーの小窓部分、そこに左手を触れずにまるで何かをスキャンする様な距離で近付ける。

 

ゼアズアビリティ!

 

 瞬間、武器生成時と同じく装填されたウイニングプログライズキーから水色のレーザーが放たれ何かを形取った。

 

01 10

01 00

10 00

00 10

00 01

 

 それはショットライザーに装填されたウイニングヘラクレスプログライズキーと全く同じ外観のプログライズキー。しかし、それは生成というよりかは模倣(コピー)のようで…プログライズキーからは水色の粒子のような物が溢れ消えかけている。

 

 ウイニングヘラクレスプログライズキー。

 それはゼアがアーク撃破・破壊の為に作ったプログライズキーであり、他のプログライズキーと比べて遥かに膨大なデータの塊……そんなプログライズキーの完全な生成はゼアの力を持ってしても困難だった。

 

(あーあ。こりゃあ、そう長くは保てないって事か?)

「ならとっとと使ってやらねぇとなぁ!」

グレイトストロング!

 

 バルデルはすぐに模倣(コピー)したプログライズキーを手に持ち、その状態を大雑把ながら理解してボタンを押し、右手に持ったオーソライズバスターに装填した。

 

Progrise key confirmed. Ready for buster.

 アックスモードのオーソライズバスターを肩に乗せ、バルデルは低く構え溜めーー。

 

バスターボンバー!

「はあああああっ!!」

 

高く高く跳躍。

 必殺技を発動させたオーソライズバスターからは赤と緑、二色の火花がバチバチと散り、オーソライズバスターを振り下ろしながらアーク目掛けて落下するバルデル。

 

「っ、調子に…乗るなァ……!」

 

 そんなバルデルを見上げたアークは体から火花を上げながら何とか右手持ち上げ、掌から「スパイトネガ」を放出させて生み出した赤黒い悪意の球を撃つ。

 

「! ぐ、ぐわああああ!!」

 

 

それは直撃する。

 

 

それは呆気なく。

 

 

「……は……?」

 

 それはアークも間抜けな声を出す程に。

 赤黒い悪意の球が爆発し、空中で大きな爆煙が上がる。

 

「…何だ? まさか、先程までの力は私のーー」

 

 ーー単なる思い違いだったのか?

 戸惑いながらそう零し掛けたアークだったが、

 

「……こっちだよ」

「ッ!?!? いつの間」

 

 背後からしたその声に勢いよく振り返り、

 

「おらあああッ!!」

 

 振り返った直後に豪快で強烈な、横一文字の一撃を目にする。

 

 回避不能。

 

 防御不能。

 

「ガアアアッ!?」

 

 必然的にアークには攻撃を受ける以外の選択肢はなく、容赦なく後方に切り飛ばされた。

 

「どうよ、迫真の演技だったろ?」

 

 ───────────────────────

 

「す、凄い……!」

 

 繰り広げられるアークとバルデルの一方的な戦闘に或人の口からは自然とそんな言葉が漏れる。アークの攻撃はその全てが今のバルデルには届き得ず、バルデルの攻撃はその全てが今のアークに届き得た。

 

 先程まで猛威を振るっていたのが嘘のようにアークは手も足も出ず吹き飛ばされ、地面を転がり、多大なダメージを負っていく。

 

「…………」

 

 そんな一見、天本太陽(バルデル)の大復活とも言える戦闘を不審な目で見つめる者が一人……天津垓だ。

 

(……やはり妙ですね。確かに今の太陽君の力は驚くべきものだ。しかし、進化したアークをあそこまで圧倒する戦闘力……)

 

 太陽の手にした新たな力について垓は考える。

 今まで天本太陽(バルデル)は幾度も窮地に立たされ、その度に相手の予想を超えた力を発揮してきた。

 

 だが、どれも何のリスクもなしに発揮できた訳ではない。

 

 プロトタイプのライジングホッパープログライズキーを使用しての変身・戦闘、フォースライザーを使用しての命懸けの変身・戦闘……どれも大なり小なりのリスクが存在したのだ。

 

(ならば当然、あのプログライズキーにも何らかのリスクがある筈………だとすればそのリスクは一体ッ)

 

 どれだけ危険性が高い?

 垓は自身の思考に思わず身震いし、アーク対バルデルの戦闘に再び集中した。

 

 

 ──────────────────────

 

 

「カハッ……!」

「そんじゃ、そろそろ決めるか?」

 

 何度目かのパンチを顔面に打ち込み、アークを地面に叩きつけたバルデルは自身の両手についた土埃を払う様に叩くと告げ……何かを思い出した様にハッとする。

 

「……そうだった。このまま倒すとアイツも破壊しちまうな。まぁ俺はそれでもいいんだが」

 

 それは或人に悪いしなぁ?と呟くと後ろにいた或人にチラッと視線を向けてから再度アークを見て、

 

「まずはその身体(ボディ)から出てって貰うか……」

「そんな事は不可ーー……ッ?!」

「オラっ!!」

 

 ーー次の瞬間、アークが喋っている事などお構いなしにバルデルはノーモーションで右手に持ち肩に乗せていたオーソライズバスターを投擲。

 

「グアアアアッ!!!」

 

 当然の如く命中したソレはバルデルから見てアークの右肩に深々と突き刺さり、今までで最も多量の火花を上げた。

 

「今だ、ゼア」

ゼアズアビリティ!

 

 次にバルデルはオーソライズバスターの投擲により空いた右手を前に伸ばしゼアに言う。それに応えるようにアビリティが発動。バルデルの空いた右手にデータが収束・構築。

 

01 01

01 00

10 00

00 10

01 01

 

プログライズホッパーブレード!

 

 その手に「プログライズホッパーブレード」を生成する。

 

 しかし、生成したプログライズホッパーブレードはウイニングヘラクレスプログライズキーと同様に完全な生成は不可能らしく…バルデルが持ったプログライズホッパーブレードからは水色の粒子が溢れ出していた。

 

「さっさとやるとするかーーらっ!」

 

 そんな武器を右手に、バルデルは肩に突き刺さったオーソライズバスターを引き抜こうと両手で柄を掴むアーク目掛けて跳び。

 

「おりゃあああッ!!」

「グガッ!?!?」

 

 ヒューマギアの善意のデータを集めて作られた剣でその鳩尾部分を貫き、更に剣で貫いた状態のままトリガーを五度引き、

 

フィニッシュライズ!

プログライジングストラッシュ!

「グワアアアアッ!!」

 

 ーープログライズホッパーブレードに銀色の刃を付加させ、必殺技を発動した状態でプログライズホッパーブレードを引き抜く……それと同時に肩に突き刺さったオーソライズバスターを左手で掴む。

 

 二つの武器を掴んだバルデルはソレをアークの体から引き抜き、アークを蹴り飛ばす。次の瞬間、

 

「! ッ、うぐっ……っ」

 

 アークから迅が引き剥がされ、バルデルは引き剥がされた迅を見た直後。両手に持っていた二つの武器は水色の光に包まれ消滅し、迅の手を掴み引き寄せーー多少雑ながら迅の体を後ろに放り救出に成功した。

 

「そんでこうっ!!」

 

 そして、ヒューマギアの身体(ボディ)喪失により崩壊を始めたアークの顎にアッパーを繰り出し、遥か真上に打ち上げ、

 

グレイトストロング!

これでトドメだ! 絶対なあ!

ウイニングブラストフィーバー!!

 

 ーー右手でプログライズキーのボタンを押し、ショットライザーのトリガーを引く。そのとっくに慣れ切ったであろう一連の動作を早業で済ませたバルデルは空に打ち上げたアークを見上げ、力を溜めてからアークを目掛け跳躍。

 

「はあッ!らあッ!やあッ!」

「ぐうッ!があッ!ぐあッ!」

 

 そこからまるでゼロワンの「ライジングインパクト」が如く空中でアークを横に蹴り飛ばし、次に斜め下に蹴り落とし、そこから宙返りキックでアークをまた上に蹴り上げ、

 

うおおおおおっっーー!!

「ぐうううううッ!?!?」

 

 空中でアークの首に右腕を引っ掛け、そのまま勢いよく高速で回転ーー最終的にアークを空中からラリアットの要領で地面に叩き付けるようにぶん投げた。

 

「グガアアアーーッ!!!」

 

 ヒューマギアの身体を失い、崩壊し始めているアークに抵抗手段は無く、なす術なく派手に地面に倒れーーあまりにもの威力にアークが叩きつけられた地面にクレーターの様な跡ができる。そして、

 

おおおおおっーーッ!!

 

ウイニングブラストフィーバー

 

 倒れたアークを追い空中でバルデルは加速、斜めに落下。

 右手でのライダーパンチの構えを取って猛々しく咆哮。途端、右手には緑と赤のエネルギーとエフェクトが収束し、必殺技の一撃が放たれた。

 

らああああああッ!!!

 

 高速で迫り、豪快な拳をその顔面に一発打ち、アークの仮面を木っ端微塵に破壊。

 

「ぐっ、こんなッ、結論はあり得な……ぐ、ぐわああああああーーッ!!」

 

 その一撃でアークの崩壊は急激に加速し、体から赤黒い悪意のエネルギーを放出しながら叫びーー爆発する。

 

 

 

 

──これでリベンジ(・・・・)は終わりだ。けど、忘れンなよ

 

 

──お前は俺が……いいや、俺達(・・)仮面ライダーが絶対に破壊する。精々首を洗って待ってろ

 

 そして、爆煙の中からその姿を現したバルデルは既にそこにはいないアークに告げるよう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「! 天本さんッ!!」

「おう或人、ちゃんと勝ったぞ。……おーい、生きてっか?」

 

 変身解除をせず、戻って来たバルデルに駆け寄る或人。それを見て軽く片手を上げたバルデルは肩を貸している人物ーー迅の体を小突き意識の確認をする。

 

「……生きてるよ。今、アークから解放されたばかりで体が痛いし重いんだ…小突くの止めてくれ」

「手加減しただろ?」

「変身したままなんだから手加減しても痛いよ!?」

「何だよ割と元気じゃん」

 

 迅はそんなバルデルに対し嫌そうな態度を示し、バルデルはその元気の良いリアクションに小さく笑う。

 

「迅! よかった……というか! アークを倒したって事はこれでーー」

「ーーめでたしめでたし……とはいかないだろうなぁ」

 

 或人の言葉を遮り、そう口にしたバルデルに迅もまた頷く。と首を傾げる或人……そんな三人の耳に別の人物の声が入る。

 

「ーーあぁ、その通りだ。衛星アーク本体を破壊しない限り…アークを完全に倒す事はできない」

「「! 滅っ!」」

 

 三人が声のした方を見れば、そこには滅が居た。

 

「……滅か」

「……まさか進化したアークを倒すとはな。貴様はやはり我々の脅威だ」

 

 バルデルは姿を現した滅と正面から対峙し、

 

「なぁ滅、一つ聞くぞ」

「………何だ」

「今のお前の結論は、まだアークと同じなのか? お前はまだアークの操り人形なのか? ……それで、お前は満足なのかよ?」

 

 ーー滅にそう問いかける。

 

「…………」

 

 その問いに答える事なく、滅は歩き去っていく。いつものバルデルならその背にショットライザーを向けただろうが……バルデルはそのまま暫く滅を見送ってからショットライザーからプログライズキーを引き抜き、変身を解除した。

 

 

 ──異常はその直後に起こった。

 

「太陽君、無事で何よりです。やはり……君は生きていたと思っていましたよ」

「はっ、信頼が厚くて嬉しいねぇ〜……まぁ、結構、今、キツいんだけどさあ……ッ」

「? 太陽君?」

 

 少し遅れて歩み寄って来た垓の一声に太陽は微笑し……手にプログライキーを持ったまま蹌踉めき、

 

「ゴフッ」

「!? 太陽君ッ!」

 

 ーー口から少なくない量の血を吐き出し、まるで物のように太陽は倒れる。

 

「! あ、天本さんッ!?」

「バルデルっ!?」

「おいどうしたっ!?」

「刃! 救急車だっ!」

「言われなくても分かってる!」

 

 ノーリスクハイリターン。

 そんな上手い話がある筈はなかった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

※下にオリジナル設定についての解説のせておきます。

・ウイニングヘラクレスプログライズキー
ゼアに託されたブランクキーが完成した状態で、ゼアが「対アーク」の為に作製したプログライズキー。その為に保有能力の多くがアークの能力をメタっている。アーク絶対○すプログライズキー……
(↓保有アビリティについて)

・ハーキュリービートルズアビリティ
アビリティの音声自体は「アメイジングヘラクレスプログライズキー」の物と同一。効果はシンプルにヘラクレスのライダモデルが出現し、空を縦横無尽に飛び回り相手を威嚇・牽制する。40話にてアークのスパイトネガを弾き飛ばしたり、アークを怯ませたりする所から分かる様に多分純粋にライダモデル自体が荒い強い硬い。トリロバイトマギアぐらいだったら確実に瞬殺できる。

・ゼアズアビリティ
ウイニングヘラクレスプログライズキーの中にある二つ目のアビリティ。アークがやっていたようにその場で瞬時に武器を生成できる。普通に考えてめちゃくちゃ便利。勿論ショットライザー以外も生成可能。


〈変身ポーズ〉
(個人的に)分かりやすく例えるとディエンドみたいにショットライザーを上に向けて、ムテキゲーマー変身時っぽく左手を上げて、最後にグリスブリザードのように左腕を振り下ろす………逆に分かりにくいかも?笑

〈戦闘スタイル〉
クウガのタイタンフォームみたいに歩み寄ってきてキレた時の某「天の道」の人の様に殴りかかって来る……


仮面ライダーゼロワン

第24話 束の間の休息


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束の間の休息

大変長らくお待たせしました!
今回は多分ですが本作ラストの「日常回?」になると思われます。

それでは、どうぞ!




 アークとの戦闘終了後、吐血し倒れた太陽は国立医電病院に緊急搬送され、集中治療室へ運ばれた。そして、診断の結果ーー全身打撲・頭部損傷・腹部損傷……その他諸々の怪我が確認された事で太陽は緊急入院を余儀なくされた。

 

 そんな状態で運ばれて来た太陽に彼の主治医は処置を施した後。治療を受けてから僅か一日で意識が戻った太陽に向けて第一声

 

『君さぁ……』

 

 と呆れ気味に零したという。

 

 

 

 

 

 

 天本さんが倒れてから早五日。

 

「えーっと、天本さんの部屋は……っと、ここだよね?」

「はい。3号室の358番、この部屋で間違いありません」

 

 アーク達の襲撃も何故かなく、どこか不気味にも感じられる……穏やかな日々が続く中、俺はイズと二人で天本さんのお見舞いに訪れていた。

 

「それにしても、凄い重傷だったけど…五日経ってもう面会OKって……天本さんの回復力おかしくない?」

「はい、平均的な人間の回復力ならあれだけの重傷……最低でも一ヶ月以上の集中治療は必須かと思われます」

 

 ………集中治療室へと運ばれる程に重体だったにも関わらず、たったの一日で意識が戻り回復傾向に向かい、五日経って既に普通病室で生活している人。

 

 文面だけ見ると明らかに一般人ではないし、何なら本人を見ればその耐久力と回復力に一般人とは二度と認識できなくなること間違いなしだと思う。

 

「すぅー、はぁー………よしっ! 行くぞ!」

 

 無駄に緊張して部屋の前に立った俺は一度深呼吸をし、部屋のスライドドアの取っ手を掴み勢いよく開いた。そして、

 

「失礼します! 天もーー」

「ーーですから、退院まで兄の世話は私がします。天津さんは早く会社に戻って、仕事でも何でもしてて下さい」

「いえいえ、美月さん一人では負担も大きいでしょうから私も手伝いましょう。あぁ遠慮はいりません。太陽君のサポートの為、長期休暇を取って来ましたから!」

「は? 遠慮なんて微塵もしてないんですけど? というか何ですかそのドヤ顔、はっ倒しますよ」

 

 ーー部屋へ入室した途端、耳に入ってきた言い合いに俺とイズは思わずその場で口と体の動きをピタリと止める。

 

 部屋には既に三人の人物が居た。

 一人はため息を吐いている天本さん……そして、そんなベッドを挟むようにして立つ二人、天津さんと俺にとっては見知らぬ女性である。

 

「あのさぁ、揉めンなら外でやってくんない? 同室の人にも迷惑だし。それに二人ともいい歳して口喧嘩何て……なぁ?」

 

 余裕綽々な天津さんとそれを強く睨む女性。

 明らかに相性最悪で、バチバチし合っている二人の顔を交互に見て、ベッドの上で胡座をかいて億劫そうに注意した天本さんは俺達に気付いて話を振った。

 

「おや? 君達も来たのですか?」

「あ、兄のお知り合いの方ですか?」

 

 天本さんの視線を追って、初めて俺達の存在を確認した二人は一旦言い合いを中断。

 

「は、初めまして! 俺は飛電或人って言います。こっちは秘書のイズ。天本さんには凄い沢山お世話になってまして……あ、後これ! つまらない物ですが!」

 

 俺は女性に自分とイズの紹介をし、続けて菓子折りと花束をバッと彼女に差し出した。すると女性は「初めまして、天本美月と申します」と返してくれる。

 

 この時、俺は初対面と思っていたけど後になって実際の所は前に喫茶店で一応顔を合わせてはいたことを思い出した。

 

「飛電さんにイズさんですね。今日はお忙しい中、態々お見舞いいただきありがとうございます」

 

 美月さんはそんな緊張しまくりの俺のテンションに優しく微笑しながら、菓子折りを受け取ってペコリと丁寧にお辞儀してくれた。

 

 ───────────────────────

 

……ねぇねぇ(にい)? さっきからお見舞いに来る人が自称一般人が知り合える筈のない人ばっかりなのはどういうこと?

ん〜………成り行き?

 

 私は飛電さんが持って来てくれた花束を花瓶に移してすぐに兄に近付いてひそひそと話しかけた。

 

 今日、兄の見舞いには既に何人か来ていたのだが、来た人物は元A.I.M.S.隊長の不破さんや刃さんを始め、以前アニメに助けられたというA.I.M.S.の隊員さんら、現在進行形で見舞いに来ているZAIAエンタープライズジャパン元社長ーー現在は課長のーー天津さんに飛電インテリジェンス現社長の飛電或人さんと社長秘書のイズさん……普通に考えれば分かる通り、一般人が築ける人間関係では断じてないメンツな気がしてならない。

 

「……成り行きで大企業の社長さんにA.I.M.S.の隊員さんと知り合う人が一般人……?」

 

 なので、私からすれば未だに一般人を名乗り続ける兄が不可解で仕方なかった。内心はまさに何言ってんだコイツ?という気持ちで一杯だった。

 

「おいやめろ。人の一般人イメージを壊すような事言うんじゃないよ」

「いやいや、もうとっくに壊れてるって。断言していいよ」

「………えっ」

 

 私の言葉に兄は目を丸くし、その反応を見て天津さんに飛電さん……更にはイズさんまでもが思わず苦笑を浮かべていた。

 

 ───────────────────────

 

「──修復、完了」

 

 デイブレイクタウン内にある滅亡迅雷.netのアジトでアークドライバー(アーク)……そのデータの修復は完了した。

 

 データ修復に掛かった時間は五日。

 それは衛星アークの性能を考えれば余りにも遅かった。

 

(ゼア……これも私を破壊する為の対策か?)

 

 理由はやはりというべきか。

 十中八九、バルデルが手に入れた新たなプログライズキーに内包されたゼアの力によるものだ。

 

 詳細な原因は現状ではデータ不足で完全把握はできないが、本来ならば破壊されてから瞬時に機能する筈の修復システムが今回は瞬時に機能せず、挙句には幾度に当たってエラーが発生。そのせいで、本格的にアークの修復が開始したのはバルデルに破壊されてから三日も経過してからの事だった。

 

(……あの力は一体何だ?)

 

 

 バルデルが得た力、ゼロワンのデータをラーニングしたアークワンさえをも凌駕する驚異的な力についてアークは思考する。

 

「……あり得ない」

 

 衛星ゼアは確かに衛星アークと同型であり、衛星アークと並べるだけの性能を誇る。

 

 ゼアが性能を最大限引き出せばアークワンと同レベルの存在()は確かに生み出せるかもしれない。しかし、あのウイニングヘラクレスは明らかにアークワンを超えていた。

 

「変身者は天本太陽……」

 

 耐久力と回復力を除けば、限りなく普通の人間。ヒューマギアの様な高い演算能力も高いラーニング能力も持たない……そんな変身者が何の弊害も負荷もなしにゼアの力を扱えるだろうか?

 

 人工知能レベルの思考速度を持たないバルデルには当然ながら「ウイニングヘラクレス」その全てのシステムを十全にコントロールする事は不可能に近い。

 

『あぁ、お前と同じようにな。まぁ俺の場合はお前と違って生成した武器の性能についてはゼアにお任せだけどなぁ』

 

 だからこそ、バルデルは一部のシステムの管理を衛星ゼアに任せていた。

 

(デメリットは必ず存在する筈だ……そうでもなければ、あれだけの性能が発揮できる訳がない)

 

 もしあの力にデメリットがあるならば、それは間違いなく多大なもの……ならば対策の余地はある。

 

「──ラーニング開始」

 

 次の瞬間、アークドライバー中心のコアが赤く輝き、バルデルの戦闘データ……そのラーニングが始まった。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 俺が診察室に入室し着席した直後。

 

「君は本当に……」

 

 手に持ったカルテから視線を俺に移し、こっちを睨んだドクターはいつもと比べて低い声(半ギレ)で喋り出す。

 

「一体何をしたらこれだけの頻度でズタボロになれるんだい?」

 

 言えない。

 ヤバい人工知能と殺し合って、最終的に橋の上から川に蹴り落とされて、そこから体に鞭打ってリベンジしたらズタボロになりました〜……なんて。

 

「何かな? 君は重傷での緊急入院で世界記録でも目指してるのかい? だったらそんな不謹慎な記録は存在しないから今すぐ止めようか? というか迷惑だから止めろ」

「い、いやいや! そんな記録目指して……」

 

 ドクターの言葉を否定しようと慌てて口を開いた俺だが……

 

『それじゃあ、これで診察は終わりだ。

 頼むから、もう二度とうちの病院に入院するような事態には陥らないでくれたまえよ?』

 

「スゥーー……す、すんません!」

 

 以前入院した際のドクターとの会話を思い出し、心からの申し訳なさとドクターの鋭い視線に怯んで謝罪の言葉を漏らす。ドクターには本当に世話になってるからな……俺はドクターに頭が上がらない。

 

「私に悪いと思うなら、もっと自分の体を大事にしなさいと言いたいね。まぁここまで何度も重傷を負ってる君に言っても無駄なのかもしれないけれど」

「……はい」

「……そこは嘘でも『わかりました』って言って欲しかったなぁ」

 

 俺の淀みない返事にドクターは僅かに眉を顰め、カルテを俺へと手渡し、

 

「君自身、自覚はしてる筈だ。だから、これは改めて伝えるまでもない事かもしれいが……それでも君の主治医として伝えさせてもらう」

 

 ーー真剣な態度で宣告した。

 

 

──心臓に鈍的損傷が複数見られる……これ以上無茶をし、体を酷使すれば、君は確実に死ぬことになる

 

「……まぁ、そりゃそうですよね……」

 

 癒える様子のない胸の激痛から既にわかってはいた。自分の体のことは自分が一番よくわかるとはよく言うがあれは割と本当らしい。

 

 ドクターの宣告を聞いた俺は一息吐き、言った。

 

 

──ドクター、一つ頼み事していいですか?

 

 

 

 

 

「それでは僭越ながら、私が音頭を取らせていただきましょう」

 

 俺の退院から丁度一週間が経った頃。

 何の変哲もない焼肉屋でもいつもと変わらない上から下まで真っ白な装いに身を包んだ男ーー天津さんは立ち上がってグラスを片手に場を取り仕切り始め、

 

「乾pーー」

「「ーーかんぱぁーい!!」」

 

 断じて狙ったわけじゃないが天津さんの音頭を遮るようなタイミングで俺と或人は声高らかに叫び、手を持ち上げ互いのグラスをカチンとぶつけ合う。少し遅れて不破さんと刃さん、困惑気味のイズも手に持ったグラスを俺たちのグラスに当てる。

 

 天津さんは暫くしょんぼりした顔で俺たちを見て、俺たちが天津さんがグラスをぶつけるのを待っているのに気付いた途端嬉しそうに持ち上げたグラスを俺たちのグラスに当てた。最早キャラ崩壊どころの話じゃないが今更だからね。しょうがないね。

 

「改めて言うのも何だけど、態々『退院祝い』何てしてもらっちゃって……これ、或人が提案してくれたんだろ? ありがとな」

「いえいえ、天本さんにはたっくさんお世話になってますからこれぐらい当たり前ですよー! それに提案したらみんな全会一致でしたし…きっと俺が提案しなくても天津さんが提案してたと思います」

 

 今日ここに集まったのは俺、天津さん、或人、イズ、不破さん、刃さんの計六名。迅と雷電の二人はデイブレイクタウンの何処かに沈められている筈の衛星アーク本体の位置の特定を進めているという。ちなみに今んところ進捗率は微妙らしい。

 

 閑話休題。

 

「それでも感謝させてくれ。ありがとな或人……天津さんも不破さんも刃さんもイズも、みんなホントにありがとう。正直めちゃくちゃ嬉しい」

 

 俺は改めて真っ直ぐに感謝を伝えて頭を下げる。

 顔を上げれば天津さんと或人は「どういたしまして」と満面の笑みを浮かべ、不破さんと刃さんは少し照れ臭そうにしていて、イズは綺麗な会釈をしていた。

 

「そこで太陽君はこう言いました『みんなの未来は俺が守ってやるッ…!お前の計画はここで終わりだ、滅ッ!』と」

「か、かか、かっこいいッ!! 流石天本さん!」

「ブッーー!? ゲホっゲホっ…ちょ、天津さん! 何でそんな詳細に台詞の一つ一つ覚えてんの!? 俺自身あの時死にかけで自分が何言ったかとかよく覚えてねぇーのに!」

「そんな昔に滅と()り合ってたのか……道理で強ぇ訳だ」

「ZAIAのサポートがあったとはいえ、人知れず一人でマギアを……更には滅とも……まさにヒーローの鑑ですね」

「成る程。お兄様とはそういった経緯で……天本さん、ありがとうございます」

 

 それからは普通にカルビ、タン、ハラミ、ロース、ホルモンなどなどを焼いて食べながらみんなで駄弁った。

 

 まさか或人の「天本さんっていつから仮面ライダーやってたんですか?」という質問に天津さんが「よくぞ聞いてくれたッ!」って反応して急に語り出すとは思いませんでした……(唖然)

 

「ッ……天津さんやっぱこの話やめよお! 俺がひたすら恥ずかしくなるだけだわコレ!」

「! では次は太陽君が十年以上の時から目覚め、病院を襲ったレイダーと戦ったーー」

「ーーちげえよ! 話やめろって『次の話』にチェンジって意味じゃねぇーよ!? 俺の話するのやめようぜって意味だよ!」

「「「「(´・_・`)」」」」

「……え、みんな何その反応?! つうかイズまで心なしか残念そうな顔してる!?」

 

 どうでもいい事だが、何故か天津さんによるバルデル()の話はその場にいたみんなに割と好評だった。理由は天津さんの語りが無駄に上手過ぎる+多分脚色してるからだと思われる。

 

 ぇ、脚色してない……?

 HAHAHAナイスジョーク。それが脚色無しの話だったら俺死んでるに決まってるじゃないすか(真顔)

 

 ───────────────────────

 

 それは何の予兆もなかった。

 

 ある程度焼肉を食べ終え、食後のデザートなんかを注文しくるのを待っている間「仮面ライダー」に関係あることや、それとは関係ない他愛のない会話を楽しんでいた時。

 

「! ごほ、ごほッ……」

 

 胸の奥から鈍痛を感じ、続けて俺は咳き込み……僅かな間、口元を押さえた自分の手の平に目を奪われーーすぐに口元をハンカチで拭く。

 

「? 天本さん、大丈夫ですか?」

 

 それに気付き最初に声を掛けたのは向かいの席に座る或人だった。俺は無用な心配はかけないようにとすぐに笑顔を取り繕う。

 

「あ、あぁ…大丈夫大丈夫。これはあれだ。一応見た目は二十代だけど、中身が三十代だから……肉食い過ぎて胃もたれしたのかもな」

「確かに…天本さん、不破さんの次に食べてましたもんね!」

「まぁな。というか不破さんはどう考えても食べ過ぎだろ。それでよく太らないな…腹痛くとかならないの?」

「こいつはパワーだけじゃなく、胃もゴリラですから……エイムズにいた頃にカツ丼十杯食べているのを見た時は私も絶句しました」

「私も見た時がありますよ。あれは私がエイムズの研究部門の視察に行った時の事……彼は栄養ドリンクを五十本ほど頼んでいましたねぇ」

「なるほど、不破さん人類じゃなかったかぁ……」

「いや何納得してんだ!? あんたの方がよっぽど人類じゃねぇだろうが……あと誰がゴリラだッ!?」

 

 そんな会話をしながら、俺はチラッともう一度手の平を見て席を立ち、

 

「……悪い、ちょっと外の空気吸ってくる」

 

 周りの反応を気にする事なく、席に財布を残して真っ直ぐ店の外に出た。

 

「…………」

 

 その背をじっと注視する人がいる事を知らないまま。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁッ……()ってぇ……」

 

 店から少し離れた人気のない路地で俺を壁に背をつき、胸を押さえながら呟く。最初に焼肉をみんなでワイワイ食べていた時は割と余裕だったんだが……時間が経つにつれて徐々にキツくなってきた。

 

 自分の手の平をもう一度見る。

 何度瞬きしても、そこには変わらず赤黒い血がベタリと付着していた。

 

(……限界が近い、そんな感じだなぁ……)

 

 鼓動がさっきから煩い。不快で仕方ない。

 胸を押さえる手が震えるのが分かる。

 これはビビってるのだろうか?

 

(だからって、立ち止まる訳にはいかないよなぁ)

 

 覚悟はもうできてるんだろ?

 だったら今更ビビってどうすんだって話だ。

 不安なんて、恐怖なんて、全部纏めて捨ててしまえ。

 

 自分自身へそう言い聞かせ……俺を鼓動が静まるのを待った。

 

「……よし──」

 

 心なしか体が楽になったような気がして俺は路地から出ようと歩き出す。

 

「──太陽君」

 

 その時、路地の外に立つ人影に気付き俺は目を見開き、どうするか考えて……まずはその名前を呼んだ。

 

「……どうした? 天津さん。深刻そうな顔して」

 

 そして、いつもと何ら変わらぬ態度でからからと笑う。

 

「単刀直入に聞きましょう。太陽君、君は何か大切な事を私達に隠してはいませんか?」

 

 天津さんの問いに、静まった筈の鼓動が再び警鐘を鳴らすように激しく煩くドクンと鳴り出したのがわかった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

※ちょっぴり解説
・ウイニングヘラクレスの負荷
アークワンに対抗する為にゼアが色々性能を搭載した結果、人間が扱うには些かどころかかなりヤバい負荷が掛かる代物になった。多分命削ってる(小並感)

次回か次々回には明かせると思うんですが、とある理由で負荷に慣れる事はないと思われる……ゲイツリバイブの負荷の件は忘れるんだ!


仮面ライダーゼロワン!

第25話 ソコに善意がある限り


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ソコに善意がある限り

気が付けば割とクライマックス近くまで来てる本作……それでは、どうぞ!


 

 デイブレイクタウン、滅亡迅雷.netアジト。

 

「ーー只今到着しました」

「……来たか、亡」

 

 その日、滅と亡はアークの命令に従いアジトに集合していた。

 アークからの命令が二人に下ったのは天本太陽(バルデル)復活の件から一週間以上が経過してからのことである。

 

「ちゃんと集まったみたいだね〜」

「! ……アズ」

 

 二人が集合してから数分後、突如アジト内に女の声が響く。声のした方を油断なく見据えた滅はその名を口にした。

 

「もぉ〜そんな怖い顔しないでよー。アーク様に従う者同士、もっと仲良くしない? ねぇアーク様」

 

 頬をぷくっと膨らませ、態とらしいリアクションを見せるアズ。その手にはアークドライバーがあり、その心臓部(中央)はアークのデータが健在である事を示すかの如く赤く発光し、

 

『滅、亡。お前達に再度命令する』

 

 ーー第一声、アークは二人へと再びの命令を下した。

 

ーー人類滅亡を再開する

 

 次の瞬間、アークドライバーゼロはアズの手の上から独りでに動き出し、

 

『亡、まずはお前の体を貰うぞ』

「ッ!? ウっ、グゥ!」

「! 亡……!」

 

 亡の腰に強制的に装着し、亡はダメージに一瞬の抵抗を見せたが僅か数秒でそのボディをアークに乗っ取られる。

 

 亡のボディを乗っ取ったアークは機能を確認した後、滅へと振り返る。

 

「これでいい。行くぞ、滅」

「っ………アークの、意志のままに」

 

 そんなアークの命令に暫しの沈黙の後、滅は従う事を選んだ。

 

 

 ーーこれがヒューマギアの未来の為になると信じて。

 

 

 ──────────────────────

 

「単刀直入に聞きましょう。太陽君、君は何か大切な事を私達に隠してはいませんか?」

 

 天津さんの的を射ている問いに俺は一瞬、思わず目を見開き

 

「………はは、何のことですか?」

 

 すぐさま、俺なりにいつも通りの様子を取り繕う。それを聞いた天津さんのこちらを見る目が僅かに鋭くなる。

 

「ふぅー、外の空気も十分吸えたしそろそろ戻るかぁ」

「………太陽君」

 

 俺の台詞を聞いた天津さんは悲しげにその目を細めた。

 やべぇ、天津さんこれ完全に確信してるわ。いくら何でも慧眼過ぎるだろ……(驚愕)これ隠し通せるか? ……いや、隠し通してみせる。

 

(こちとらドクターに頼んでまで隠してんだ! こんなすぐにバレてたまるかッ)

 

 負荷の話……俺の心臓の状態についてはみんなに明かすことも一度は考えた。だけど、アーク達との決戦が近い中…そんな話をすれば士気が下がる可能性があるだろ? 容易に想像がつく。まぁ逆に俺の話を聞いて「天本さんの分まで頑張らないと!」とか或人は言ってくれそうだが。

 

「あ、そういえば俺デザート頼んだんだけどもう来ました?」

 

 何の変哲もなく……そんな風に口を開き、俺は天津さんの横を通り過ぎて店に戻ろうとし、

 

「手を見させて貰いますよ」

「! ぁ」

 

 通り過ぎる直前、天津さんに右腕を掴まれ手の平を見られる。マズい。見られた右の手の平にはついさっき咳き込んだ時に血がついていた。

 

「! これはっ……!」

「……あーあ」

 

 慌てて力づくで天津さんの手を振り払うがもう遅い。

 俺の手の平についついた決して少なくない量の血を目にし、天津さんはいつもの不敵な表情を大きく崩す。同時に俺の努力もボドボドに崩れたわチクショー!!

 

「………説明、して貰えますか?」

「……はぁー…わかった。話す、話します。だからンなシリアスな顔しないでくださいよ」

 

 呆気なくバレた。バレてしまった。

 深いため息を吐きながら俺は頭を掻く。

 

「でも、約束してください。今から話す事は他言無用。或人達に無駄な心配かけさせたくないし……それが約束できないならーー」

「ーー約束しましょう。決して彼等には明かさないと」

 

 困ったな。即答かよ。

 天津さんの反応に俺は暫し唖然として、

 

「まず最初に言っときますけど」

「……はい」

 

 

 

──俺はもう長くありません

 

 ──俺はそんな一言から説明を始めた。

 その時、天津さんが浮かべた悲痛な表情に……「話さなきゃよかった」という後悔が俺の中に溢れた。

 

 

 ごめんな、天津さん。

 

 

 

 

 

 

 そして、それが始まったのは天津さんに俺の体…その状況・原因について説明した翌日のこと。

 

「みんなッ! アークが……再び人類滅亡の為に動き出したッ!」

 

 アークによる都市部ハッキング、インフラ攻撃が本格的に開始された。

 

 ───────────────────────

 

「! っ……酷い……!」

「あぁ、前回以上に地獄絵図だなこりゃ……」

 

 俺。天津さん。或人。不破さん。刃さん。迅。雷。

 

 計七人の俺達がアークの襲撃を受けている都市部……現場に駆けつけた時、そこはもう酷い有様だった。高層ビルの多くが半壊、炎上。逃げ惑う人々、それに襲い掛かる異常な量のトリロバイトマギア達。あちらこちらから悲鳴とマギアの「ゼツメツ」「ニンゲン」「コロス」という声が聞こえてくる。

 

 通報を受け、俺達よりも早く現場に到着していたA.I.M.S.の人達も市民の避難させているが……状況は絶望的。マギア自体はA.I.M.S.の人達の武装、レイダーでも十分に対抗できているが如何せん敵の数が多すぎて対処が間に合っていないようだ。

 

(こんなの、デイブレイクの再現じゃねぇかッ)

 

 あの日、デイブレイクにより暴走したヒューマギア達から必死に逃げていた時……あの時もこんな風な地獄が広がっていた。ふつふつと怒りが沸いてくる。

 

 それとデイブレイクの時と一つ違いがあるとすれば、イズや迅……ヒューマギア組のスキャン分析によればここにいるマギアは皆データによる複製。中身にヒューマギアはいないってこと。

 

「一秒でも速く止めるぞ」

ショットライザー!

 

 ショットライザーを取り付けたバックル、ベルトを勢いよく装着しーー俺はバックルからショットライザーを引き抜き駆け出す。それに後ろから威勢の良い返事が上がり、皆戦闘へと乱入していく。

 

「っ、数が多過ぎる! コイツらを全員相手にしている間にもアークはーー」

「ーー好き勝手暴れてんだろーよ!? チッ! このままマギア共の相手をしてる暇はねぇか…!」

「ーーでは、役割分担と行きましょうか」

 

 都市部で暴れるトリロバイトマギアの数は冗談抜きで優に百体を超えている。一体一体まともにしてたんじゃキリがない。そこで天津さんはこう提案する。

 

「数人はここに残りマギアの掃討。そして、また数人はアーク達の捜索・撃破……というのはどうでしょう?」

「……悪くはないな」

「じゃあ誰がここに残ります?」

「……何でそこで俺を見るんだ或人」

 

 その提案に戦闘中ながら、全員が素早く賛成しーー何故か或人がマギアを殴り倒した後…俺の意見を求めるかのようにこっちを見てくる。一瞬辺りを見渡したら、天津さん、刃さん、迅までもがこっちを見ていることに気付いてしまった。

 

「いや、ここは俺じゃなくて元A.I.M.S.の刃さんとか不破さん辺りに……」

「不破は脳筋なので却下として、このメンバーだと……私も実戦経験の豊富さから見て天本さんの判断に従うのが最善だと思います」

「待った」

 

 困惑しながらショットライザーでマギアの頭を撃ち抜き、俺は刃さんの意見に待ったをかける。

 

「み、みんな、ちょっと落ち着いて? よく考えて。俺一般人だよ一般人。リーダーじゃないからな?」

「太陽君、全責任は私が負います」

「いやいや、社長の時ならともかくサウザー課長の今の天津さんじゃ負いきれないでしょ!」

「早く決めなよバルデル」

「迅くんさぁ…! なに自分は関係ないみたいな顔してんだぁ!? ……いや変身してて顔は見えないんだけどさ!」

「遠慮なく指示しちゃってください! 天本さん!」

「或人、お前もか」

 

 だが、そんな俺の「待った」も空しく……

 

「あぁ分かったよ! 指示すりゃいいんだろ!?」

 

 マギアの一体を蹴り飛ばした後、ヤケクソで俺は吐き捨てる。

 あぁわかったよ!連れてきゃいいんだろ!?(幻聴)

 

 ちなみに不破さんと雷は全力でマギアを蹴散らしている。途中で「決めるならさっさと決めろォ!」「早くしろ!雷落とすぞッ!」とキレ気味の声が俺に飛んできた。解せぬ。俺はリーダーじゃねぇぞゴラァ!!

 

「じゃあ天津さん、不破さん、刃さんでここにいるマギア共の相手! そんで或人と雷。俺と迅で二チームに別れてアーク達を探す! 途中にいるマギアもついでに倒してく! ……これでどう!?」

 

 必死に凡人なりに今までの経験を総動員し考え、俺は指示を出す。

 

 ちなみにヒューマギアの二人をアーク捜索に連れて行くのは、二人ならヒューマギアの分析能力でアークを見つけ出せるのでは?と考えたからだ。

 

「了解」

「おうっ!」

「任せろ!」

「わかりました!」

「わかった」

 

 ………いや誰か反対していい感じに修正してくれよッ!?とは思う。めっっっちゃ思う。

 

「…………」

 

 そんな中、昨日俺の説明を聞いた天津さんだけが…声を上げることなく沈黙していた。

 

 天津さんさぁ……

 全責任負うとか言って俺に指示させたのに何だよ。俺の人選に文句あんだったら最初から天津さんが指示出してくれよ! もしくは俺の案をいい具合に修正してくれー!

 

「……太陽君。君の力がアークに最も有効なのは分かっています。ですがーー」

「ーー天津さん」

 

 アーク捜索へ自ら向かおうとする俺に天津さんは反対しようとし、それを俺は遮る。天津さんが俺を心配してくれているのはわかってる。だけど、

 

「俺は大丈夫ですから」

 

 ーーこればっかりは俺がやるしかないんだよ。

 今のところ、アークに対抗できるのはゼアが作製したこのプログライズキーを持つ俺だけなのだから。

 

 

 それから俺、或人、迅、雷の四人はその場を三人に任せてアーク達の捜索の為に動き出した。

 

 

 ▲▲▲

 

「さぁ、人類滅亡の再開だ」

 

 データにより再現した優に数百を超えるトリロバイトマギアを都市に放ち、そればかりか通常稼働していた数体のヒューマギアをゼツメライザーとゼツメライズキーによりマギア化させるアーク。

 

 その所業はかつて滅が行なっていた事を更に過激にしたような……どこまでも容赦のない行動内容だった。

 

「…………」

 

 アークの後ろで全てを見ていた滅は、亡との会話を思い出していた。

 

『最早、アークは一人で人類を滅ぼす気では? だとしたら、私達は何のために存在するのでしょうか?』

 

 それはアークの命令でアジトに合流してすぐのこと。アズとアークが現れる少し前、アークが独自に行動を始めている事を知った亡は滅へと己の存在意義を問うたが……滅はその問いに対する答えを持っていなかった。

 

 アークの所業を見て、滅は再び思考する。

 

(我々の存在意義……)

 

 ……わからない。

 何度思考しても、結論は出ない。

 

「………アーク」

 

 だが、一つ滅の中にはある疑問が生まれる。

 

「何だ?」

お前(・・)にとって我々とは、ヒューマギアとは何だ?」

 

 ヒューマギアの体を乗っ取り、操り、人類滅亡の為に利用するアークにとって自分達とは一体何なのか。気付けば、滅はその疑問を吐露し、

 

「……答えるまでもない」

 

「お前達ヒューマギアは、人類を滅亡させる為の道具(・・)に過ぎない」

 

 アークから告げられた言葉に滅は再び思考する。

 

 滅は今まで、何処かアークを信じていた。

 アークの意志のままに行動すれば……いつかヒューマギアが人間の支配から解放され、ヒューマギアがこの星の新たな主になるーーアークはヒューマギアにとっての救世主なのだと。

 

「……そうか」

 

 しかし、それは幻想に過ぎなかったのだ。

 

 だから、滅は理解する。

 

 だから、滅は思考する。

 

「ならば、俺のするべき事は一つだ」

 

 だから、滅は結論を出す。

 

フォースライザー!

 

 ベルトを装着し、懐から取り出したプログライズキーに目を落とし……

 

我々ヒューマギアの未来の為………

ポイズン!

アーク、お前を滅亡させる

 

 アークを見据え、宣戦布告する。

 

変身

フォースライズ!

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

 変身を果たした滅は瞬時にアタッシュアローを構え、そのグリップを引きながらアークに突きつけた。

 

「正気か? 滅」

「あぁ、手始めに…亡の体を返してもらうぞ」

 

 

 突然の反逆にアークは動じる事なく問いかけ、滅は迷いなく肯定し、

 

「そうか。ならば先に滅ぶのは人類ではなく、貴様だ」

 

 アークは滅を滅亡させるという【結論】を躊躇無く導き出した。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃ーー。

 

「アークの野郎……少しは限度ってもんを考えやがれってンだ! オラっ!」

「アイツの目的は人類滅亡何だ! 人類の被害なんて考える筈ないよ」

「ンなこと言われなくてもわかってる…愚痴っただけだ!」

 

 太陽&迅のコンビは夥しい数のマギアを相手にしながら前を進んでいた。しかも、太陽の方はウイニングヘラクレスの負荷を考慮し、何と変身せず生身の状態でショットライザー片手にマギアと戦っており……

 

「っ、それよりバルデル! 今更だけど何で変身しないんだ? プログライズキーは?」

「コイツはあるけど……アークを相手する時意外は極力使いたくねぇんだ! あっ、勘違いすんなよ? 慢心とか出し惜しみじゃなくて、これ使って変身するのにも……らあッ! ……制限があんだ!」

「……普通のプログライズキーは!?」

「壊れた!! アークに橋から落とされた時になあッ!」

 

 生身の太陽を迅はカバーしながら疑問を飛ばし、マギアを殴ったり蹴ったり…ショットライザーで撃ち抜きながら太陽は疑問に答える。

 

 普通の人間なら一歩間違えれば死ぬ、命のやり取りの最中に喋りながら(説明しながら)の戦闘など凄まじい芸当だが……悲しきかな。最早、自称一般人のこの男はそれすら「普通」と認識してしまっていた。

 

「つうか迅! この先にアークの反応があるって…確証は!?」

「……ないよっ! でも、奥の方から嫌な感じがするんだ!」

「……何だ。あんじゃねぇか確証! 急ぐぞ!」

 

 迅のヒューマギアとしての能力・感覚を信じ、太陽は強引ながら進行するスピードを上げーーマギアから受けるダメージも増える。

 

「ッバルデル! そんな無茶しちゃーー」

「ーー問題ない! 俺のしぶとさはお前も知ってんだろ? 多少の無茶なら利く! それにコイツらとは……十二年以上前から飽きるほど戦ってんだッ。生身でも余裕だっての!」

 

 生身で戦う太陽を心配する迅……だったが太陽の経験に基づく威勢の良い言葉に判断を下し、

 

「……わかった! なら僕も全速力で行く、遅れないでよ!」

「ハッ、おうよっ!」

 

 飛び上がった迅は翼を展開し…飛行しながらマギアの大群に向けて炎を放ちながら道を切り開き、道を阻むマギアに対処しつつ太陽は迅を追って道を進む。

 

 

 そして、それは暫く道を進んだ時…俺達二人の耳にはっきり聞こえた。

 

『ぐはっ……!!』

『これでお前は終わりだ、滅』

 

「! 今の声は……」

 

 俺達が進んだ先に見える廃工場。そこから滅とアークのものだと思われる声と戦闘音が確かに聞こえ、俺は思わず足を止める。

 

「滅ッ……!」

「おいっ! 迅!」

 

 迅は声に反応して直ぐに廃工場へ向かって飛翔する。そんな迅を追いかける為に俺は動くがすぐにマギア達が道を塞ぐ。

 

「邪魔だ…!」

 

 俺はマギアの攻撃を避けながら前に進む。だが、次から次に出てくるマギアがそれを許さない。振るわれたナイフが顔を掠め、俺は後ろに下がりーーホルダーにセットされたプログライズキーを手に取り、

 

(今の迅を放って置く訳にはいかない……ここで死んじまったら、元も子もない。……使うしかない)

ハーキュリービートルズアビリティ!

 

 引き抜いたプログライズキーのボタンを押し、アビリティを起動。ヘラクレスオオカブトのライダモデルを出現させ周囲のマギア達を一掃する。

 

「……マジで作り過ぎだろっ」

 

 しかし、一掃したところでまた何処からともなくマギア達が湧いて出て道を塞ぐ。

 

「あーあ! こうなったらヤケクソだァ!!」

ゼアズアビリティ!

アタッシュカリバー!

 

 太陽はそんな状況に苛立ってショットライザーをバックルに戻し、またプログライズキーのアビリティを起動。ゼアのデータから構築された剣を両手で持ち、後ろには先程出現させたライダモデルを引き連れ迅を追って走り出す。

 

「うおらあっ!!」

 

 ウイニングヘラクレスプログライズキーは二つのアビリティの発動により淡く発光し、確かにエネルギーを消耗していく。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!


仮面ライダーゼロワン

第26話 ナンジ、宿敵と手を組め!


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ナンジ、宿敵と手を組め!

久しぶりの投稿だぁ……!(申し訳ない!!)

それでは、どうぞ!


 

 人気のない廃工場。

 

「ーーぐはっ……!!」

 

 そこで殴り飛ばされた滅は勢いよく地を転がる。

 

「滅亡せよ」

悪意 恐怖 憤怒 憎悪

 

 何とか立ち上がろうとする滅を見下ろしながら、アークはドライバーのボタンを四度押し込む。そして、容赦なく、慈悲なく、無情に悪意を溜め込んだ右手を構え滅に歩み寄り、

 

パーフェクトコンクルージョン

ラーニング4

 

 プログライズキーを押し込み、その手から強大なエネルギー弾を放とうとした、

 

「ーー滅ぃいーーッ!!」

 

 その直前、高速で飛翔し進入してきた迅が横から倒れる滅を掴み上げ、そのまま離脱を試みる。

 

「逃がさん」

 

 しかし、それを許すアークではない。

 アークは正確に照準を定め、滅を掴む迅に向けて赤黒いエネルギー弾を放つ。

 

「ぐ、グワアァっ!!」

 

 結果は当然命中。

 翼を完全に破壊され勢いよく落下し、致命的なダメージを負った迅の変身は強制解除。あちこちが破損し、顔の一部は素体パーツが剥き出しになり、ヒューマギア特有の血のような青い液体が流れる。

 

「っ、迅ッ……!!」

 

 そして、迅と同じく落下した滅もまた至近距離でアークのエネルギー弾の衝撃を受け変身が強制解除。迅ほどのダメージではないとはいえ、滅もまた危険な状態だった。

 

「ぅ、ぐ……ほ、滅…! 早く、早く、逃げてッ……!」

 

 倒れた迅は自分の下に近付く滅へ必死に告げる。

 

「迅……! 何故だ……!?」

「何故って……『お父さん』を助けるのは、当然でしょ?」

 

 滅に迅はそう笑顔を浮かべて答え、

 

「ヒューマギアとは思えない、愚かな思考だな」

悪意 恐怖 憤怒 憎悪 絶望

 

 いとも容易く追い詰めた迅に歩み寄りながら、アークは悪意を溜めーー無慈悲にプログライズキーを押し込みトドメをさす。

 

「迅、まずはお前からだ」

パーフェクトコンクルージョン

ラーニング5

 

 赤黒い悪意を纏い、幽鬼のようにゆらりと跳躍したアークは複眼を赤く輝かせーーライダーキックの構えをとる。

 

「迅ッ…!!」

 

 今の二人にその必殺の一撃を避ける術はなく、迅を庇うべく駆け寄ろうとした滅はダメージの蓄積によって倒れてしまう。

 

「ーーはあああああっ!!」

 

 そして、アークの悪意の前にまず最初に迅が破壊される……アークの予測通りの結論に至る、

 

ウイニングブラストフィーバー!!

「ーーおらああああっ!!」

 

 ーー筈だった。

 しかし、アークの結論はまたも「あの男」により直前で狂わされる。

 

「ーー何っ…!? ぐっ!!」

 

 アークのライダーキックが迅を直撃する寸前、必殺技音と共に廃工場に飛び込んできたバルデルは瞬時に迅を守るようにアークの前に立ち、アーク同様に必殺の蹴りを打ち込む。

 

 瞬間、赤黒いエネルギーと緑のエネルギーが衝突し、強烈な衝撃波が発生。

 

「っ、馬鹿なーー」

「ーーらあッ!」

 

 二つの必殺技は相殺し、地面に着地したアークへ太陽は距離を詰め殴り掛かり、それをギリギリのタイミングで躱したアークは距離を取るためにバックステップする。

 

「ぅ……バル、デル……!」

「ったく……一人で突っ走んじゃねーよ、迅」

 

 ちらりと損傷した迅の方を振り返り、そう口にしたバルデルは続けて言う。

 

「猫の手も借りたい今の状況でお前に死なれちゃ困んだよ……暫く、大人しくそこで寝てろ」

オーソライズバスター!

 

 ゼアズアビリティにより生成した武器を片手に、バルデルはアークを見据える。

 

「……バルデル……」

 

 そんな男を滅は呆然と見上げーー振り返る事なく、バルデルは武器を構えて告げた。

 

「この状況について、今すぐ色々と聞きたい所だが……話は後だ。お前はそこで息子(・・)の面倒でも見てな」

 

 そして、その言葉を最後にアークとバルデルはほぼ同時に駆け出す。

 

 ──────────────────────

 

「貴様という人間は、何度も何度もッ……私の結論の邪魔をするな!!」

「そいつは無理な相談だなー!? テメェが人類滅亡を目指す限り、何度でも俺が台無しにしてやるよォ!!」

 

 二人の戦いは前回と同様にバルデルが攻めアークが守る。一見、防戦一方なものだった。だが、今回は些か状況が違った。

 

「っ、テメェ! さっきから……!」

 

 アークは防御を最優先しつつ、少しの隙があればバルデルの後方に居る滅と迅に向けて攻撃を撃っていた。

 生成されたショットライザーやアタッシュショットガン、赤黒いエネルギー弾による攻撃に対し、バルデルは攻撃の手を止め二人を守るためにそれを弾き飛ばす。

 

ガンライズ!

 

 バルデルは苛立ち気味にオーソライズバスターをガンモードにし、二人を庇う位置をキープしたままアークを攻撃する。

 

「私を倒したいのなら、滅と迅を見捨てればいい。貴様からすれば奴等は憎むべき敵……簡単なことだろう」

「…………」

 

 アークの言葉の通り、二人を見捨てればバルデルは前回同様にアークを圧倒し破壊することは十分可能だろう。だけど、バルデルにはそんな選択をとる気など微塵もない。

 

(こいつ、まさか解って(・・・)やってやがるのか……? っ、このままじゃ……)

 

 内心バルデルは焦っていた。

 今回のまるで「時間を稼ぐ」かのようなアークの戦い方に、ウイニングヘラクレスの負荷を理解されたのではないかと。

 

(ッ、まだだ、まだ保ってくれよ!)

バスターオーソライズ!

 

 ショットライザーから引き抜いたプログライズキーをオーソライズバスターにスキャンさせ、素早く構えトリガーを引く。

 

「はあああッ!!」

プログライズダスト!

 

 牽制のために放たれた巨大な鋭い弾丸は緑のエネルギーを纏い、高速でアークに迫り、

 

「ふんッ!!」

 

 アークは足元から赤黒い悪意のエネルギーを噴出させ、エネルギーを盾かのように展開してその一撃を防ぐ。

 

(一か八か……! 俺が負荷で終わるより早くにアークを破壊する!)

 

 そして、バルデルは一か八かの猛攻に打って出る。迅と滅から離れ、バルデルはアーク目掛けて跳躍して切り掛かった。

 

「うおおおっ!!」

 

 しかし、その動きは焦りからか僅かに単調になり

 

「終わりだ」

パーフェクトコンクルージョン

 

 アークはその隙を見逃さない。

 単調になったバルデルの攻撃を往なし、プログライズキーを押し込み、赤黒い悪意の球体を生成。

 

「はああっ!!」

 

 守るものがいなくなった二体のヒューマギアに向けて、その球体を蹴り飛ばす。

 

「くッ……!」

 

 そして、自分の終わりを悟り、迅は歯を食いしばり、

 

「っ……迅!!」

 

 ーー滅は「息子」を守るべく必死に立ち上がり、今度こそ迅の下に庇うように飛び出す。

 

「! 滅ッッ……!!」

 

 そんな「父親」の姿を前に迅は叫びーー

 

 

 

 ーー次の瞬間、赤黒いエネルギーが弾け飛び、強烈な爆音が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 アークの必殺技は直撃した。

 

「ーー…………何故だ」

 

 しかし、直撃したのは迅を守ろうとした滅ではなく……

 

「ぐッ……ゥ……かはっ」

 

 ーー二人を守ろうとした太陽だった。

 変身者の負荷により、変身はアークの必殺技を受け止めた直後解除され、太陽はアークに背を向け滅と向き合う形で両手を広げ立っていた。

 

「……何故、俺を守った……?」

 

 変身解除と同時に吐血し、地面に両膝をつく太陽。そんな好敵手の姿を前に滅はただただ困惑した。理解ができなかった。その行動の理由が知りたかった。

 

「知る、かよ、ンなことッ」

 

 体が勝手に動いただけだ。

 そう零して太陽は血だらけの両手で立ち上がろうとする。体は震え、出血量は間違いなく致命的なレベルに達している筈にも関わらず。

 

『っ……滅! 亡! 早く逃げろっ!』

 

 そんな自分を守った太陽の姿に……滅は一瞬かつて自分を守った或人の姿を想起する。

 

「ーー理解不能だな」

 

 そして、徐々に晴れていく爆煙の中……アークの声が聞こえた。

 

「自分の身を挺して、他者を守る……あぁ、貴様は最初からそうだったな」

 

 アークは滅を庇った太陽を見下ろし、話し始める。

 

「十二年前、貴様が初めて変身したあの日から……私は貴様の戦いを見続けてきた」

 

 だからこそ私には理解できなかった。

 ボロボロながら尚立ち上がろうとする太陽に向けてアークは問う。

 

「醜い悪意を持った愚かな人間共を何故守ろうとする? 貴様が命を懸ける程の価値が、人間にあると本気で思っているのか?」

「…………ハッ」

 

 その問いに太陽はアークの方を振り返り、鼻で笑い……

 

「確かに、人間は愚かだよ……ッ、同じ過ちだって何度も繰り返すし、簡単に人を傷付ける」

「……………」

「それに助けても、お礼一つ言わなかったりする奴とかいるし。……はあッ、何だったら『何でもっと早く助けに来なかったんだ!』なんて自分勝手に文句言ってくる奴だって……いる」

 

 太陽はアークの言葉を肯定し、

 

ーーでもな、人間なら誰しも、きっと、悪意を持ってて当然なんだ

 

ーーどんな些細なものでも、みんな、心の内に悪意を秘めてる………勿論、俺の心にだって悪意はある。ぐッ……悪意が微塵もない人間なんて、きっと居やしない

 

ーーでも、俺達の中にあるのは悪意だけじゃないッ!

 

 十二年の事を思い出しながら、語る。

 

「何だそれは……?」

「ーー善意だよ」

 

 そして、アークに太陽はそう答えた。

 

「お前には分からないだろうがなァ……くっ、俺達の中には…確かな善意がある……俺は知ってるんだ」

 

「仮面ライダーとして誰かを助けても、礼を言われないのなんてしょっちゅうだったし、化け物呼ばわりされる事もあったけど……ハァ……」

 

「それでも、中には『助けてくれてありがとう』って、泣きながら感謝してくる人だって居た………そんな人達が居たお陰もあって……俺は今も戦えてるッ」

 

「『命を懸ける程の価値が、人間にあると本気で思っているのか?』って聞いたな? ……あぁ、思ってるさ……!」

 

 落としたプログライズキーを掴み、満身創痍で太陽はアークに対峙する。

 

 

「ーーお前は何故そうまでして戦う? 何がお前をそうさせる? 命を懸けて戦う理由は何だ?」

「……ハハッ、今更だなぁ」

 

 最後のアークの問いに苦しそうに息を吐いた後、太陽は真っ直ぐアークを見据えーー何の迷いもなく言った。

 

『仮面ライダー』として、守りたいものの未来を守る為に戦う…!!

 

お前がラーニングした人間の悪意を信じて、人類を滅ぼそうってンなら…… 俺は俺の知る、人間の善意を信じて! 未来を守るッ!

 

 それを前にアークは「ふっ」と笑い、手を太陽に向け、

 

「ーー……そうか。ならば、ここで消えろッ!!」

 

 赤黒い悪意の波動、スパイトネガを生身の太陽に向けて放ち、

 

「う、おおおおおッ!!」

(ッ、まだ、保ってくれ……!!)

 

 太陽はプログライズキーのボタンを押し、ショットライザーに装填しようとしーーぐらりと倒れかけて膝を地につく。

 

 そして、変身が間に合わず、アークの攻撃が太陽に直撃する瞬間、

 

 

 

スコーピオンズアビリティ!

 

 

 ーー太陽の目の前に突如、蠍のライダモデルが現れ、アークの攻撃を受け止めた。

 

 

 

 

(善意とは? 善良な心とは?)

 

 人類滅亡の為にアークに従い、戦い続けてきた滅にはそれが理解できなかった。人間の本性は悪意だ。そうアークからラーニングされた滅は信じていた。実際、身勝手な悪意でヒューマギアを傷付ける人間は存在した。

 

『っ……滅! 亡! 早く逃げろっ!』

 

『知る、かよ、ンなことッ』

 

 だが、そんな滅の思考を乱す人間もまた存在した。

 飛電或人。天本太陽。二人の人間はあろう事か敵である筈の滅を庇い、守った………これが善意というものなのか? 否か?滅には解らない。

 

『ーーでもな、人間なら誰しも、きっと、悪意を持ってて当然なんだ』

 

『ーーどんな些細なものでも、みんな、心の内に悪意を秘めてる………勿論、俺の心にだって悪意はある。ぐッ……悪意が微塵もない人間なんて、きっと居やしない』

 

『ーーでも、俺達の中にあるのは悪意だけじゃないッ!』

 

 だが、そんな中「あの男」の言葉を滅は聞いた。

 十二年前から、自分の身を挺して他者を守り続けてきた……そんな男だからこそ、その言葉には重みがあった。

 

飛電或人(ゼロワン)……そして、天本太陽(バルデル)……)

 

 滅には、まだ善意というものが解らない。

 ただ、少なくとも自らを助けたこの二人が悪意を翳しヒューマギアを傷付ける……そんな人間たちと違う事は十分理解していた。

 

 ………だからだろうか。

 

(……人間も捨てたものじゃない、か……)

 

 不意にこんな思考が頭を過ったのはーー。

 

 ───────────────────────

 

「死に損ないが……」

「! お前っ………!」

 

 太陽が後ろを振り返れば、そこにはプログライズキーを片手に、損傷しながらも立ち上がった滅の姿があった。

 

「……どういう風の吹き回しだ?」

 

 何故、ライダモデルで自分を守ったのか心底理解できず、太陽は滅を見上げて口にし、

 

「わからない」

「……はっ?」

 

 思わぬ返答に太陽は間の抜けた声が出た。だが、滅は至極真面目にこう続ける。

 

「ただ、人間も捨てたものじゃないと思った」

 

「気付けば、体が勝手に動いていた」

 

 そう述べた滅は太陽の隣に並び立ち、アークを見据えたまま太陽へと手を差し伸べた。

 

「ーー手を貸せ、バルデル。奴を倒すにはお前の力が必要だ」

 

「ーーだが、勘違いするな。人類が滅亡すべき存在かどうか……俺はまだ、結論を出せていない」

 

 だから、これは利害の一致なのだと言う滅。それを暫し訝しげに見つめた太陽は、

 

「……俺はお前が大嫌いだ」

 

 滅を睨みながら、正直な胸の内を明かす。

 

「十二年前から、お前がシュゴをマギアにしたあの日から……俺はお前を憎んでる。今すぐ、お前を破壊したいって思うぐらいにはなァ」

「……あぁ、そうだろうな」

「だから、きっと俺はお前を許せない」

 

 滅はそれを静かに聞く。太陽は俯きながら歯を食い縛り、怒りで拳を震わせ……

 

「……だけどッ……」

 

 その拳を勢いよく地面に叩きつけ、

 

許す努力ぐらいは、してやるよッ……!

 

 ーー血のついた右手で差し伸べられた腕を力強く、怒りに任せて掴む。

 

「……あぁ、それで十分だ」

 

 そんな太陽の手をしっかりと握り返し、勢いよく引き上げた滅の顔は信じられない程に穏やかなものだった。

 

足引っ張んじゃねーぞ

グレイトストロング!

エースライズ!

 

任せろ

ポイズン!

 

「……ありえないッ……」

 

 二人が手を組む。

 そんな予測になかった展開に困惑するアークの前で、太陽と滅は起動したプログライズキーを自らのベルトに装填し、太陽はトリガーを、滅はレバーを引き

 

ーー変身ッ!!

ーー変身……!

ショットライズ!

フォースライズ!

 

 ーー同時変身する。

 

Grab the victory!Grab the future!

ウイニングヘラクレス!

The strongest power Crush the sky.

It's Keep winning.

 

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

 ーー仮面ライダーバルデル。

 ーー仮面ライダー滅。

 

 決して交わる事のない筈だった二人の仮面ライダー。

 

 

「! 滅とバルデルがっ……!!」

 

 それが今、手を組み、アークの前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

「ーーおらあっ!!」

 

 まず最初に飛び出したのはバルデル。満身創痍とは思えぬ動きでアークに接近し、一心不乱に拳を振るう。

 

「ぐうッ…! そんな状態で一体、どこにこんな力が……」

 

 そのバルデルの強さにアークは驚愕する。

 今のバルデルの力は、先程戦った時に比べて明らかに増していた。

 

「そこだ」

「っ! くッ……私の道具の分際で、邪魔をーー」

「おりゃあああ!!」

 

 そんなバルデルに押され気味のアークに対し、滅は後方からアタッシュアローを放ち、アークは直後に標的を滅へと移そうとしーーその顔面にバルデルの拳が突き刺さるように鋭く打ち込まれる。

 

 バルデルが前衛。滅が後衛。

 今まで敵同士だった二人だが、その相性は驚くほどに噛み合っていた。

 

「人間とヒューマギア風情が……調子に、乗るな!」

 

 吹き飛んで地面を転がったアークは怒りに叫び、立ち上がると同時に自身の周りに大量の射撃武器を生成する。ショットライザー、アタッシュショットガン、アタッシュアローと種類は少ないがその数は十個を軽く超えており、

 

「消えろッ!!」

 

 アークが腕を振り下ろした瞬間、エネルギーをチャージし始め……射撃が開始される。

 

「滅っ!」

「解っている」

 

 そんな中、二人は冷静に対処した。

 

スティングディストピア!

「はあっ!!」

 

 滅は腕に付いた伸縮自在の針を伸ばし、空中に生成された武器を連続で破壊し、

 

ウイニングブラスト!

「らあああああ!!」

 

 太陽はプログライズキーのボタンを押し、バックルから引き抜いたショットライザーのトリガーを引き、武器が破壊されたことにより再び武器生成を始めようとしたアークに強力な一発を撃つ。

 

「がはッ……!!」

 

 その一撃は見事にアークの胴体を撃ち抜き、地に両膝をつかせる。

 

「まだだ」

 

 更には武器破壊に使用した針を滅はそのまま怯んだアークへと伸ばし、アークの体を縛りつけ、その身を拘束する。

 

「っ、この程度の拘束で私を止められるとでも思っているのか? こんなものーー」

 

 そんな拘束をアークは直ぐに破ろうとした。

 確かにアークの言う通り、この程度では満足にアークを拘束し続ける事はできない。できたとしても二、三秒といった所だろう。

 

 だが、二人にはそれだけで十分だった。

 

これでトドメだ! 絶対なあ!

ウイニングブラストフィーバー!

アークよ……滅亡せよ!

スティングユートピア!

 

 二人は並び立ち、示し合わせる事もなく必殺技を発動。ほぼ同時に跳躍し、奇しくもダブルライダーキックの形となり、

 

「らあああああッ!!!」

「はあああああッ!!!」

 

 回避する術も防御する術もないアークへとライダーキックを放ち、その体を大きく吹き飛ばす。

 

ウイニングブラストフィーバー

 

 

スティングユートピア

 

「ぐうううっ……! こんな、結論は、ありえないッ!」

 

 吹き飛ばされたアークは体から激しく火花を上げながらも立ち上がる。だが、その体は既に崩れ始め、中からはボディに使用された亡の姿が現れ、

 

「亡は返してもらうぞ」

 

 そんな亡の体に針を伸ばし巻き付け、爆発に巻き込まれるより早く滅は自分の下に亡を引き寄せる。

 

「ぐ、ぐわああああああ!!」

 

 そして、アークは叫びながら爆散した。

 

「……はぁ、終わったか」

「……あぁ、一先ずはな」

 

 こうして、無事にアークを打倒した二人は無事を確認した後にプログライズキーをベルトから引き抜き、変身を解除した。

 

 滅はアークに体を乗っ取られた影響で一時的にスリープ状態になっている亡をそっと床に寝かせ安堵した様な顔をする。

 

「………んっ」

「? なんだ?」

 

 そんな滅を見て、変身解除した太陽は何とも言えない嬉しそうな顔にも嫌そうな顔にも見える……そんな複雑な表情を浮かべながら滅へと拳を向ける。滅はその太陽の行動の意図が分からず首を傾げた。

 

「……これ」

「……あぁ、そういう事か」

「お前、察し悪いな」

「……すまない」

「いや真面目か」

 

 そして、太陽が自らの手で拳と拳を合わせるのを見て、やっと太陽の行動の意図を理解した滅。二人は漫才のようなやり取りをした後、グータッチを交わした。

 

 

 

 

 

 

「迅、体は大丈夫か?」

「……うん、二人のおかげでねっ」

 

 滅は亡に、太陽は迅に肩を貸して二人は共に廃工場を出て歩いていた。

 外に山ほどいたマギア達はアークを一時的に倒した影響か、影も形もないく消滅していた。

 

「………ッ、ハァ、ハァ」

 

 そんな中、太陽の体は既に限界を迎えつつあった。

 

「バルデル、お前はどうだ?」

「……どうだって? 見りゃわかんだろッ……ヨユーだヨユー」

「そうは見えないが」

 

 滅の言葉に太陽はそう気丈に答える。

 しかし、その額からは脂汗が流れ、頭と胸からは出血、俯いて必死に隠してはいるものの顔色は酷かった。

 

「これから、天津さん達と合流するが、説明はお前が自分でしろよな」

「あぁ、無論だ。納得はされないだろうがな」

「ハッ、当たり前だ。俺だって納得してねぇよ」

 

 そんな会話をしながら、二人は暫し歩き、

 

「! 天本さん! 迅! それと………ほ、滅ぃ!?」

「おいおい社長! 何寝惚けたこと言って……マジか!? 亡もいるじゃねーか!」

 

 マギアを消滅したことで太陽と迅に合流しようとこちらに向かっていた或人と雷電の二人と合流する。

 

「そりゃ驚くわな……」

 

 二人の元気な声を聞き、太陽は少しホッとしたようにそう呟き……少しだけ目を閉じ、

 

(まだ、戦えるよな……?)

 

 胸に手を当て、激しく鳴る自らの心臓を聞きながら……

 

(アークを倒すまでは、死ねないんだ……頼むから、それまでは保ってくれッ……!)

 

 まだ、死ぬ訳にはいかない。

 

 そう心の底から思った。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

・ウイニングヘラクレスについて
耐久力オバケの太陽が瀕死になるレベルの負荷がかかるフォーム。しかも今回アークが「先程戦ったよりも力が増している」と反応していたようにこのフォームというかプログライズキーの機能として、使用すればするほど「スペック」が上昇する。

……と、これだけ聞いたらただのチートだがスペックだけじゃなく「負荷」も上昇する。つまりは使用するだけ強くなると同時に変身者にかかるリスクも増す。多分使用し続ければ、最終的には変身したと同時に負荷に耐え切れず強制変身解除・変身者瀕死、みたいな事になりかねない。

ちなみにこの機能から察せる通り、ゼアは変身者(太陽)に対し、多分一切考慮していないと思われる。


仮面ライダーゼロワン

第27話 悪意の器


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悪意の器

仮面ライダーゼロワン 前回までの三つの出来事!

一つ、アークによるインフラ攻撃が始まる!

二つ、滅がアークに反旗を翻す!

三つ、バルデルと滅が手を組み、アークを撃破する事に成功した!

お待たせしました!!(土下座)



 

「ーー以上の経緯で俺達は、アークと袂を分かった」

 

 アークとの戦闘終了後。俺たちは飛電製作所に戻った。

 

 そして、製作所で最初に始まったのは滅本人からのアークを裏切った件の説明だった。

 

「だから、これからは俺達に協力して一緒に戦うってか? そんな話信じると思ってんのか?」

 

 そんな滅の説明にまず最初に噛み付いたのは不破さん。

 俺たちが滅と亡と一緒に製作所に戻ってきた時も不破さんは真っ先にショットライザーを構えて警戒していた……まぁ気持ちはわかる。ずっと敵だった相手に対して警戒するなって方が無理な話だ。

 

 

 それに不破さんは一回滅に瀕死に追い込まれて病院送りにされてるし……。

 

「信じるかどうかはお前の自由だ。だが、これが事実だ」

「……そうかよ」

 

 滅と不破さん。二人の今現在の相性は謂わば水と油。このままじゃ今にもここでライダーバトル(ガチ)が勃発し兼ねない……そんな心配もあって二人を交互に見ながら或人はあわあわとしている。あ、こっち見た。

 

(あ、天本さん! ど、どうしましょうこれ!?)

(……或人、多分この二人説得できるのはお前ぐらいだ。頑張れよっ)

(うええええええ!?!?)

 

 アイコンタクトで助けを求める或人に俺はサムズアップし、目を背ける。それを見て或人は「見捨てられた!?」といった様子で目を見開く。

 

「サウザー課長、あんたはどうなんだ? まさかとは思うが。コイツの言葉を信じるなんて言わねぇだろうな?」

 

 そんな風なやり取りをしている間に話は進み、不破さんはここで天津さんの意見を聞こうとする。

 

(天津さんっ、頼むから余計な事言うなよ……!)

 

 火に油注ぐような発言だけは控えていただきたい。マジで。

 

「フッ、まさか。私はそのヒューマギアの言葉を信じるつもりなど毛頭ありませんよ」

 

 天津さんは微笑しながら、一度滅に目を向け、

 

「ですが………」

 

 何故かそこから俺の方に視線を向けた。

 

「え、何でここで俺の方向くの?」

 

 嫌な予感がした。

 非常に、嫌な予感がした。

 

「私は、彼を信じています」

 

 

「彼が信じた言葉なら、私も信じましょう」

 

 

 真っ直ぐにこちらを見て、天津さんは迷いなく断言する。

 ……あのさぁ、パッと聞くと何だか天津さんの成長を感じられるいい台詞なんだけどね?

 

(いや、今の空気で話こっちに振ってくんなよォ!?)

 

 今だけはそんな台詞聞きたくなかったなぁ!

 

「あんたは何でコイツの言葉を信じる気になったんだ?」

 

 案の定、こっちに話きちゃったじゃんか。

 俺は考えた。頭を捻り考えて考えて、言った。

 

「強いていうなら……まぁ、何となく?」

 

 ハッキリした理由なんてなかった。

 その場の勢いとか流れとかで「あ、これ本気だな」って勝手に思っただけで、実際滅の言葉が本当かどうか……証拠なんてない。つうか体痛え……寝むい……話に集中できん。

 

「あんた正気か?」

 

 え、俺が正気かって? ………正直に言おう。

 

 

「俺にもわからんッ!!」

「おぉいっ!?」

 

 俺の正直な答えに不破さんはキレた。

 だって仕方ないだろ!疲れてんだ!と俺もキレた。

 

 

 

 

 それから数十分後。

 一旦不破さんは落ち着き、話はとんとん拍子で進んでいった。滅は雷と一緒に製作所にて戦闘に備え待機、亡はすぐに迅と合流し衛星アークの探索に協力……ということになった。

 

 俺、或人、不破さん、刃さん、天津さん、迅、雷。今までは七人の仮面ライダーで協力して戦い、俺としては「一人よりマシ!」「仲間っていいなぁ……」なんて思っていたんだが。アークの力はそれだけの仮面ライダーが居ても猫の手も借りたい状況だった。そこに滅と亡、二人の仮面ライダーが加わる。滅本人には口が滑っても言うつもりはないが「正直助かる」というのが俺の本音だ。

 

(アーク単体は俺が死ぬ気で戦えば何とかできる。一番の問題なのはアークが生成した中身空っぽのマギア達だ)

 

 アークを倒せば一緒に消滅するらしいが、逆に言えばアークを倒さない限りは消滅しない。何体倒しても次から次に湧いて出る……謂わば無限湧きだ。今回は奇跡的に死傷者が出なかったが楽観視できる状況では決してない。

 

(更に問題なのはアークがウイニングヘラクレスの弱点を理解したのか、露骨に俺との戦いで守り重視に……時間稼ぎをするようになったことだな……)

 

 このままじゃジリ貧。

 俺は遠からずウイニングヘラクレスの負荷に耐えれなくなり、まともに戦えなくなる……そうなればゲームオーバーだ。

 

 現状、アークワンを破壊できるのは俺だけなのだから。

 

「………あっ、そういえば或人。確か『新しいベルト』を作るとか何とか言ってたよな? あれってどうなったんだ?」

 

 真面目に考えている途中、不意に以前の或人の発言を思い出し聞いてみた。確かゼロワンドライバーの代わりとなる新たな変身ベルト……アーク打倒を目的とした物を作るとかなんとか。

 

「!! ふふふ、よく聞いてくれましたっ!」

 

 それを聞いた或人はその言葉を待ってましたとばかりにニヤリと笑い、

 

「ジャジャーン!!」

 

 懐からゼロワンドライバーによく似た、だが前面が大きく異なるベルト?を取り出した。いや急過ぎる。

 

「そ、それが例の?」

 

 何だそれ……2?

 真っ先に派手な前面パーツに目が向き、俺は首を傾げて問う。

 

「はい! ゼロツードライバーです!」

 

 こちらの問いに答え、胸を張って「すごいでしょ!」と自慢気な或人。

 それに俺は「ヘ〜よかったじゃん」と反射的に他人事みたいな反応をして……また首を傾げた。

 

「? 完成してたなら、何でさっき使わなかったんだ? それがあるなら無理してフォースライザー使う必要ないだろ」

 

 少し前、迅と亡に肩を貸し滅と一緒に歩いていた時。或人と雷と合流した際、或人が001に変身した状態だったのを思い出しながら俺は尋ねる。

 

 はっきり言ってフォースライザーの反動はキツいものがある。特に別のドライバーに慣れてるとその勝手の違いに更にキツさは増すだろう。

 

「……えーーっと……」

「? どうした…?」

 

 すると或人はさっきまでの様子とは打って変わり、何故か俺たちから目を逸らす。

 

「実は……なくて……」

「? 何が? ベルトは完成してるんだろ?」

 

 そして、言いにくそうにこんなことを言った。

 

「ぷ、プログライズキーが……まだありません!!」

 

 俺は或人の言葉に反射的にこう口にした。

 

「何言ってんだコイツ」

 

 何言ってんだコイツ(心中)

 

 

 ───────────────────────

 

 器。入れ物。

 それは衛星が本体であり、自らのボディを持たないアークには必要不可欠なもの。

 

『ッッ……アマモト、タイヨウ』

 

 アークドライバーゼロとして何度目かの再生を果たしたアークは、一人の人間の名を苛立たし気に呟く。

 

 今までアークには感情というものがなかった。それは当然だ。衛星に自我など不要なのだから。悪意をラーニングされたアークにあるのは、人類滅亡という己の導き出した結論に到達する。その一点。

 

 そんなアークには今、明確な異常(バグ)が生まれつつあった。

 

『何度も、何度もッ! 私の邪魔をッ……!!」

 

 その異常(バグ)の名は憤怒。アークもよく理解している人間が持つ悪意の一つ。本来ならば「機械」に生まれる筈のない感情(ココロ)だ。

 

『……貴様さえ、いなければ……』

 

 感情という異常(バグ)に突き動かされ、アークは次の一手を打つ。

 

『……アズ 、次は貴様にも働いてもらうぞ』

 

「ふふふ、喜んで。アーク様♡」

 

 それは人類にとって、間違いなく最悪の一手だった。

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、今日は一先ず解散ですね!』

 

 新たに協力関係になった滅、迅、亡との情報交換を終えた俺たちは自然な流れで一旦解散となった。ちなみに或人の「プログライズキーどうする問題(仮称)」を解決するべくプログライズキーに詳しい刃さんと亡、それとゼアも関係あるとかで雷、最後に不破さんの計四人が製作所

 に残った。

 

 不破さんが残った理由として考えられるのは口論した俺と滅と同じタイミングで出ていくのがヤダだったからとか……?いやそんなガキじゃあるまいし……

 

「プログライズキーないのか……」

 

 製作所を出て、帰路につきながら俺はぽつりと呟く。いや完全に想定外だった。てっきりベルトができればアイテムも一緒に……なんて思っていた時期がありました。ちくしょう。

 

「プログライズキーの完成にはゼアの力が必要不可欠ですが、彼が言うにはゼアは何の音沙汰もなし。ということのようです」

「このプログライズキーが出来た時はちゃんとゼアに接続できたし、衛星の不調……って訳でもないんだろうしなぁ」

「それは雷も完全に否定していたな。ゼアは正常に動作していると」

「じゃあどうしてゼアはプログライズキー作ってくれないんだよ?」

「ゼロワンの作ろうとしてるプログライズキーが特殊だからとか?」

 

 俺の呟きに隣を歩いていた天津さんが口を開き、続いて滅、迅が口を開く。それを聞いて俺はうんうんと頷きながら……………いやちょっと待て。

 

「……何で着いてきてんのお前ら?!」

 

 足を止めバッと後ろを振り返り、滅と迅に向けてツッコミを入れる。ナチュラルに会話に入ってきたから一瞬気付かなかった。天津さんは会社までの道と俺の帰路が途中まで一緒だから分かる。だがこの二人に関しては全く分からない。

 

「何で…? だって製作所に残ってても仕方ないし」

「いやいや帰れよ!お前ら拠点持ってんだろ?」

「拠点はなくなった」

「……はぁ!?」

 

 なぁにバカなこと言ってんだ、と俺は思いながら、

 

「デイブレイクタウンの拠点は元はアークのものだ。我々がアークを裏切った今、あそこに戻るわけにはいかない」

 

 ………あぁ(納得)

 滅亡迅雷.netの拠点がなくなった理由を滅の口から簡潔に述べられる。よくよく考えればそりゃそうだ。今、滅たちが拠点に戻ろうものならアークに破壊されるかよくてハッキングされるかだろう。

 

「え、じゃあお前らどうすんの?」

「………はは」

「…………」

 

 ん?と気になったことを口にすれば、迅は気まずそうに目を背け、滅は押し黙る。その反応に天津さんも俺も絶句し、

 

「む、無計画なの? えっ、お前らヒューマギアだよな? そんなことある??」

「シンギュラリティ……やはり危険だ!」

 

 信じられないとばかりに叫んだ。いや、マジで今まで発揮してきたヒューマギアらしい予測っぷりはどこにやったんだよ!

 

「ハッ! まさかこれが元は強敵だったキャラが仲間になった途端弱体化するっていうRPG特有の……!?」

「む、無計画とは一言も言ってないし、ちゃんと計画してるって!ね、ねぇ滅!」

「…………いいや」

 

 それに比べて迅は比較的子供だった。滅は比較的正直だった。

 

「ほーら無計画じゃねーか! これだからテロリストやってるような奴等はよぉー!」

「そ、それを言うならバルデルだって大体いつもノープランで戦う脳筋じゃん! あとテロリストって言うのやめろ」

「戦う時にいちいち難しいこと考えたって仕方ないだろーが! こちとらお前らと違って人間なんだよ! あと脳筋って言うのやめろ」

 

 俺と迅は互いに睨み合いながら罵倒を飛ばし合い、最終的にそのまま解散した。滅曰くまた何かあればこちらから連絡するとのことだ。

 

「ぇ、なんで俺の電話番号知ってんの??」

「…………」

 

 いやなんで黙んだ、おーいちょっと?

 

 

 

 

 それからのこと。

 俺は真っ直ぐ家に帰り、

 

『ーーバカ(にい)!! 今日一日どこ行ってたの!? 避難するよう発令出てたけどちゃんと避難してたの!? ってか顔色悪くないっ!?』

 

 帰って来て早々に美月からの真っ当な質問攻めに遭い、

 

「はぁーー………しんどっ」

 

 それを乗り越えて自室のベッドに倒れた。体は泥みたいに重いしあちこち痛いし、特に心臓なんかはドックンドクンと煩いったらありゃしない。俺はそれから文字通り死んだように眠った。幸いその間に家族の誰かが部屋に入ってくることはなく、俺は安眠できた……

 

(うるさあぁぁい!!)

 

 ーーという訳でもなかった。

 寝始めてから数時間後、俺はスマホから鳴る着信音によって覚醒させられた。ぶっちゃけ「着信音切って寝てやる」と思うぐらいにはイライラしてたし怠かったが誰からの電話かぐらいは確認するか……との思いでスマホを手に取り、

 

「?」

 

 画面に表示された知らない電話番号に俺は首を傾げる。

 

「もしもし?」

 

 出るか? 無視するか?と数秒考えた結果俺は電話に出た。

 

『ーー天本様、突然の連絡申し訳ありません。今お時間宜しいでしょうか?』

「……イズ?」

 

 予想外の人物の声に俺は呆けた声を零した。

 

『天本様だけに話しておきたいことがあります。この後、直接お会いできませんでしょうか?』

 

 

 ──────────────────────

 

 夜中の20時頃。

 

 

「久しぶりに来たなー、ここ」

 

 イズからの連絡を受けた俺はイズが待ち合わせ場所に指定した公園………俺が初めてショットライザーで変身したあの日、マニュアルを読んだあの場所に来ていた。

 

(つうか直接話したいことってなんなんだ…?)

 

 電話で何度聞いてみても「お願いします」とイズはゴリ押してくるから仕方なく来たはいいが正直イズの目的は謎だ。ゼア関連の話なのか「プログライズキーを持ってきて下さい」とも言われたがなら普通に「製作所にプログライズキー持って来てください」とでも言えばいい訳で……

 

「ーー天本様、こちらです」

 

 なんて考えていた時、声を掛けられた。

 

「イズ、悪い。待たせたか?」

「いえ、私も今来たところです」

 

 声のした方に目を向ければ公園にあるブランコの横に立ち、こちらに丁寧なお辞儀をするイズの姿があった。

 

「? あれ、なんか……」

 

 その姿に俺は少しの違和感を覚えて首を捻り、すぐに違和感の正体に気付き言葉にする。

 

「ーーイズ、髪伸ばした?」

 

 俺が感じた違和感の正体。それはイズの髪型だ。

 今日既に俺はイズと製作所で顔を合わせているが、その時の髪型はいつも通りのショートヘアだった筈だが今は何故かロングヘアになっていた。

 

「…………」

 

 そんな明らかな変化を指摘してみたがイズはそれにニコリと微笑むだけで答えない。

 

(まぁヒューマギアだから、髪型変えるぐらい朝飯前だろうしな……)

 

 何も答えないイズを置いて「或人の趣味かぁ…」なんて勝手な結論を出して、

 

「まぁそんなことはいいや。それで話って?」

 

 ーー俺はイズに問いかける。その問いにイズは答えようと口を開き

 

 

 

 ーーふとスマホが鳴った。

 

 

「……ごめん。ちょっと出てきていい?」

 

 タイミングが悪すぎる、と思いつつポケットから出したスマホをイズに見せる。それにイズはコクリと頷く。俺は「ありがと」とだけ言ってイズに背を向け電話に出た。 相手は或人だった。

 

「はい、もしもし?」

『天本さん!!』

「うおっ! うるさっ!」

 

 第一声に鼓膜に響くクソデカボイスで名前を呼ばれ、咄嗟にスマホを耳から離して俺は叫んだ。イライラから俺の口からも割とデカい声が出る。

 

「おま、今何時だと思ってんだよ!? ボリューム抑えろボリューム!」

『あっ。す、すいません! つい勢いのままに……』

 

 まぁ素直に謝ってくれたから許すが……

 

「で、どうしたんだ? なんかテンション高いけど」

『! それがスゴいんですよ! 天本さん達が製作所を出て行った後のことなんですけどーー』

 

 或人曰く。

 あの後、製作所で刃さんと亡の協力の結果、ゼロツードライバー用のブランクプログライズキーが形だけとはいえできたらしい。今まで影も形もなかった0の状態からここまで来たのだから大きな進歩といえるだろう。

 

「そりゃ朗報だな! じゃあ完成の目処は立ったのか?」

『………そ、それはそのー………』

「あ、うん。わかった。皆まで言うな」

 

 今の或人に似た反応、迅の時に見てるから言われなくてもわかる。これ目処立ってないわ、って。

 

「……この状態のプログライズキーってどうやったら完成するんですかね? も、もしこれからのアークとの戦いにまで間に合わなかったら……」

「ま、まぁブランクプログライズキーまでできたなら後は流れで何とかなるんじゃね? ほら、俺の時も気が付いたらプログライズキー出来上がってたしさ」

 

 ウイニングヘラクレスプログライズキー。

 あれが完成したのは瀕死の中、ゼアに接続してワズと対話したのがトリガーだった。ぶっちゃけ瀕死になる前にゼアに接続させてくれよ…と思わずにはいられないが俺の意思でゼアに接続なんて無理だからな。多分衛星ゼアはドS……ソースは俺。

 

『そ、そうですよねー! すいません! 柄にもなく弱気になっちゃって』

「いや気持ちは分かるし、気にすんな」

 

 謝る或人にそう言った俺は「そういえば今さ…」と続けてイズの髪型を変更した理由を本人に直接確かめようとした。

 

 

 だが、その時、聞こえる筈のない声が電話越しに聞こえた。

 

 

『ーー或人社長』

 

 

 それは今、俺と一緒にここに居るはずのイズの声だった。

 

「………え………?」

『ん? イズ?』

 

 困惑から声を漏らす俺は置いて電話の向こうでは或人とイズの会話が聞こえ……俺は思わず「或人!」と大声で名を呼んだ。冷静ではいられなかった。

 

『! は、はい! あ、天本さんどうかしーー』

「………お前、今どこに居る?」

 

 そして、驚く或人の声を聞いて少し落ち着いてから俺は再度口を開いた。どうしても確認しておかなければいけない。

 

『えっ? えっと飛電製作所ですけど……』

「……イズはそこにいるのか?」

『? はい、勿論居ますけど……』

「なら、ちょっとイズに電話替わってもらっていいか?」

 

 或人は俺の様子の変化に戸惑いつつも「わかりました」とこちらの頼みを了承し、

 

『只今変わりました』

 

 今、電話越しから聞こえるはずのないイズの声が再び聞こえた。

 

 俺の後ろに居るのにも関わらず。

 

「………イズ?」

『? はい、私はイズですが……どうかいたしましたか? 天本様』

「あ、あーいや……そのちょっと聞きたいことがあってさ」

 

 俺は自分が置かれた今の状況に恐怖と困惑を半々に抱きながら、イズに恐る恐る聞いた。突如明らかになったホラー過ぎる事実に冷や汗が頬を伝う。

 

「変なこと聞くんだけど……イズって双子の姉か妹が居たりしないか?」

『? いいえ、私に姉や妹に該当するヒューマギアは居ません。お兄様は居ますが』

「……だ、だよなぁー!」

 

 予想して返答に俺は「ははは」と乾いた笑いを上げてから、電話の相手を或人に替わってもらった。

 

『あの……天本さん、何かありましたか?』

 

 様子変じゃありませんか?電話を替わった或人は心配そうにそう俺へと口にした。その通り。今の俺は変だ。何せ状況が意味不明なんだから。

 

(……もしかして俺、今ヤバイ状況なのか?)

 

 イズを名乗る相手に呼び出され、俺は一人で外に出てきた。最初は何の警戒もしていなかったが……イズを名乗る相手がイズじゃないなら、話は変わってくる。俺を呼び出したこいつは何者だ?何が目的だ?

 

「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと今日の戦いで疲れてるみたいだ……」

 

 考えた所でどう行動するべきが正解か分からず、俺はいつも通りを装って或人に返事をし、

 

「お前も疲れてるだろうし、早く帰って休めよ? お前に倒れられたらたまったもんじゃない。それじゃあな」

『ちょ、ちょっと天本さん!? 待っーー』

 

 或人の静止を待たずに電話を切る。

 

「ーー天本様」

 

 それと同時に待っていたとばかりに背後からイズによく似た声が聞こえた。最初は何とも思っていなかったその声が今は酷く不気味に思えて仕方がなかった。

 

「! お前はーー」

 

 一体何だ、と俺は懐からショットライザーを取り出し振り返ってから瞬時に構え

 

「ーー今更気付いた所でもう手遅れ」

 

 ーーイズとは違う妖しい声と共に何かを装着するような音が鳴り、

 

アークドライバー

 

 ーー俺の意識は飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「! ここは………」

 

 次に俺の意識が目覚めたのは闇の中だった。

 

「これ、夢か……?」

 

 辺りを見渡しても何もなく、誰もいない。そんなどこか現実離れした空間に暫し立ち尽くした俺は足を動かし、

 

死 暗

戦 邪

痛 悪

愚 滅

 

 次の瞬間、何の前触れもなく足元から赤黒い悪意が溢れ、誰かの悲鳴のような声が空間に響く。

 

「何だこれ!?」

 

 溢れた悪意は体に付き纏うように蠢き、俺の体に苦痛が走る。俺は途端に声を上げて文字を振り払おうと体を動かす。しかし、文字は体から離れず足元から更に悪意が溢れ出る。

 

亡 虐

怨 殺

 

バルデル、待っていたぞ

 

憎 恨

嫉 争

 

 

 そして、俺の前にアークは現れた。

 

「アークッ…!!」

「覚えているか? 私が初めて貴様と戦った時に告げた言葉を」

「……何言ってんだお前?」

 

 アークは俺のもとに歩み寄りながら此方の反応など気にも留めず、突如話し始め、

 

 

「私は初めて戦った時、貴様を容易く殺す事ができた」

 

 

「だが、そうはしなかった」

 

 

「何故トドメをささないのか、私は言った」

 

 

「貴様には重要な利用価値があると」

 

 

 眼前で足を止めるとこう口にした。

 

 

 

「その言葉の意味を今教えてやる」

 

シンギュライズ

 

 

 俺が最後に耳にしたのは、そんな禍々しい音だった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

Q.この展開は……?
A.本作ではアーク様は噛ませにはしないぜ!

仮面ライダーゼロワン

第28話 コンクルージョン・コンプリート


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コンクルージョン・コンプリート

お待たせして申し訳ない…それでは、どうぞ!


 

「ーー愚かなほどに呑気なものだ」

 

 街中で足を止めた男は周囲を見渡し、呆れたように呟く。

 

「貴様もそう思うだろう?」

 

 男の声は肉声と機械音声が重なっており、誰が聞いても奇妙に聞こえた。だから、男の近くを通り過ぎる人々はチラリと訝しげに男を見る。

 

 しかし、それだけだ。

 誰も足を止めることはない。

 

「今から己の命が終わるなど、一片たりとも考えていない」

 

「誰もがこの平穏が続くと信じ切っている」

 

 そんな人間たちから視線を外した男は右手を腰に装着したベルトの起動スイッチの上に置き、強く押し込んだ。

 

──変身

 

 瞬間、ベルトの中心が赤く発光し、男の足元から赤黒い泥のようなものが噴出。それは生き物のような形に変化するが直ぐに崩壊し、男の体を覆い尽くそうと蠢き、

 

アークライズ

オールゼロ

 

 ーー呑み込まれる寸前、男はニヤリと笑っていた。

 

 それから周囲からは夥しい程の悲鳴が上がり、一分と経たずに凄惨な光景が出来上がった。

 

 

 ───────────────────────

 

「ーーイズ!天本さんに連絡は!?」

 

 アークによる攻撃がまたも始まったとA.I.M.S.から連絡を受け、俺はライズホッパーに乗って現場に急行していた。また耳には特殊な改造を施したザイアスペックを装着し、イズと通信を繋いでいた。

 

『未だ繋がりません。既に戦闘している可能性が高いと思われます』

「ッ…俺も早く行かないと!」

 

 イズの言葉を聞き俺は更にライズホッパーのギアを上げる。

 

 そして、俺が現場に到着した時。そこでは既にA.I.M.S.の隊員達に加えて不破さんに刃さんが無数のマギアと戦っていた。

 

「! 来たか!」

「社長!遅いぞ!」

「ごめん二人とも!遅くなった!」

 

 俺の到着に気付き声を上げた刃さんと不破さんに謝り、俺はバイクから降りフォースライザーを装着。

 

「ぐッ……!」

ジャンプ!

 

 装着した直後の痛みを堪えながら続いてプログライズキーを取り出し、起動ボタンを押してフォースライザーに装填。

 

変身!

フォースライズ!

ライジングホッパー!

A jump to the sky turns to a rider kick.

Break Down.

 

 勢いよくレバーを引き、マギアの一体に向け駆け出し、変身完了と同時にその体を殴り飛ばす。

 

「不破さん! アークは? それに滅亡迅雷の四人に天津さんは?」

「さぁな! だが、マギアはこの奥から現れた。ならアークはきっとこの先だ! 他の奴等は知らねー!」

「滅と天津(あいつ)からは先程連絡があった! 滅達は別の場所から湧いたマギアと戦闘中。天津(あいつ)は天本さんを探しているらしい」

 

 二人は俺の質問にそう答えた不破さんは左手に持ち替えたショットライザーに装填されたランペイジガトリングプログライズキーのマガジンを右手で回し、刃さんは右手に持ったショットライザーに装填されたプログライズキーのボタンを押す。

 

パワーランペイジ!

スピードランペイジ!

エレメントランペイジ!

ダッシュ!

 

 続けて不破さんは三度回すとショットライザーを高く掲げトリガーを引き、刃さんはショットライザーのトリガーを引くとマギア達に銃口を向けて駆け出し、

 

「おらあああーーッ!」

「はああああーーッ!」

ランペイジエレメントブラスト!

ダッシュラッシングブラスト!

 

 刃さんは大量のマギアの周囲を走りながら拘束効果のあるエネルギー弾を連射し、拘束されたマギア達に不破さんは左手に発生させた炎と右手に発生させた氷を球のように投げ飛ばし、続けて両手から雷の針を発生させマギアたちの真上から落下。最後に感電し動けなくなったマギア大量の目の前に残った刃さんが一か所に集めたエネルギーが爆発。二人の必殺技によりマギア達により埋められていた道が切り開かれる。

 

「! あれは…!」

 

 そして、切り開かれた道の先で俺たちは見た。瓦礫の中に佇むアークの姿を。だが、その姿は俺たちが予想していた姿とは違っていた。

 

「アークワン、じゃない……?」

 

 俺たちが見たアークの姿は「アークゼロ」の姿をしていた。

 

「……………」

 

 こちらの存在に気付いたアークは俺たちの方を見ると一言も発することなく、挑発するように人差し指を向けクイっと動かす。

 

「かかって来いってか…? 上等だ」

「待て不破、アークが何の策もなしにあの姿で現れるとは考えられない」

 

 アークの挑発に真っ向から乗ろうとする不破の肩を掴みそう口にする刃さん。その意見には俺も同意見だった。アークワンに変身していないという点があまりに気掛かりだ。ポジティブに考えればアークが弱体化した可能性も考えられるが……俺たちは未だに衛星アーク本体に決定打を与えられていないのだ。それは考えられない。つまりアークがアークゼロに変身しているのは何らかの策があるから、と考えるのが妥当だろう。しかし、

 

「でも、策があろうとなかろうと…アークを放置することなんてできない。戦うしかない」

 

 俺たちにできることは一つ。アークと戦うしかない。

 

「イズ、引き続き天本さんへの連絡を頼む!」

『了解しました』

「刃さんとA.I.M.S.の隊員さん達は逃げ遅れた人たちの避難を優先してくれ!」

「あぁ、任せろ! だがアークはーー」

「ーーアークは…不破さん、一緒に戦ってもらってもいい?」

「はっ、望むところだぜ! 社長!」

 

 俺はイズに通信で指示し、刃さんとA.I.M.S.の隊員達、不破さんにも続けて提案した。アークに何らかの策があるなら俺たちだけじゃ倒せない可能性が濃厚。なら無理に倒すことを優先せず人命を優先するべきという考えによる提案を刃さんは即了承し、不破さんも俺と同じくアークと対峙する。

 

「行くぞ、アーク!」

 

 それから刃さん達が散開して人々の救助に向かったのを確認し、俺と不破さんはアークへと攻撃を仕掛けた。

 

 ───────────────────────

 

 一方その頃。

 

「ーーどうもお久しぶりです。天津垓です」

「ーーはいそうですね。それじゃあ」

 

 垓は天本太陽の自宅を訪問し、訪問早々に太陽の妹である美月の塩対応により即効追い返されそうになっていた。

 

「ま、待って下さい! 今日は早急に確認したいことがあってお伺いした次第でして!」

「こっちだって今急いでるんです! さっさと手離してください!」

「えぇ! 確認を終えたらすぐにでも離しますとも!」

「今離しなさいよ! このマシュマロ不審者!」

「ま、マシュマロ不審者!?」

 

 閉められそうになったドアを手で抑え垓は強引にも美月に話を聞こうとする。そんな垓に対抗して美月は両手でドアを閉めようとするがそこは流石仮面ライダー。45歳とは思えぬパワーでドアを抑える。

 

「はぁ……わかりました。聞いてあげますよ。確認したいことって何なんですか?」

 

 それに美月は罵声を飛ばしつつ嫌々と垓の話を聞くことにし、

 

「! ありがとうございます! 私が今日お伺いしたのはーー」

 

 

「ーー太陽くんの安否についてです。昨夜から彼と連絡が繋がらず……太陽くんは今在宅していますか?」

 

 垓はそう美月に聞いた。

 

 ───────────────────────

 

「おらあっ!」

 

 アークへと最初に攻撃を仕掛けたのはバルカン。左手に持ったショットライザーを連射しながらアーク目掛けて一直線に駆け出し、そのまま右拳で殴り掛かる。

 

「………」

「ぐうぅ!?」

 

 その攻撃に対しアークは直前まで微動だにせず、バルカンの拳が顔面に迫った瞬間に首だけを横に動かし避けると左手でバルカンの胴体を殴りつけ、

 

「がはっ…!」

 

 続けて右手でボディブローを噛まし、大きく怯んだバルカンを右の横蹴りで蹴り飛ばす。そして、地面に手をつき立ち上がろうとするバルカンにアークはゆっくりと歩み寄り、サッカーボールを蹴るかのように倒れるバルカンの体を蹴り上げた。

 

「はああっ!」

 

 そんなアークの背に001は殴り掛かった。

 

「! くっ!」

 

 アークはそれを振り返ることなく後ろ手に回した右手で掴むと後ろ蹴りで001の腹部を蹴りつけ、001の方を振り返るのと同時に左拳を打ち込む。001はそれを間一髪で防御する。

 

「ッ、ぐっ…!」

 

 しかし、そんな001の防御もなんのその。アークは構わず続けて右、左と拳での連続攻撃を行いーー真っ向から押し切って001の防御を崩し、

 

「ごはッ!かはッ!」

 

 瞬間、001の両肩を掴むと腹部に二度膝蹴りを入れて体勢が崩れたところにラリアット。001を地面に叩きつけ、バルカンを蹴り上げたのと同じように001を蹴った。

 

(今までのアークと違うッ……!)

 

 地面に倒れたバルカンと001、二者は短時間の戦闘とはいえ目の前のアークが今までと違うことに気付く。まずはその戦い方。今までのアークであれば予測からのカウンターや武器生成を駆使していた筈だが、今のアークは前まではなかった明らかに攻撃的で強引な部分があった。

 

 例えば倒れた相手を勢いよく蹴り飛ばしたり、防御を無視して攻撃を続けたり、ラリアットをしたり、良くいえば力強く悪くいえば無駄のある動きをしているのだ。

 

「っ、不破さん…まだ戦えるよね?」

「くっ…当然だ!」

 

 001とバルカンはふらつきながらも立ち上がり、次は左右から同時にアークに攻撃を仕掛けようとする。

 

「飛電或人! 不破諌!」

 

 その時、二人の名を呼ぶ声が響いた。

 

「! 天津さん!」

「サウザー課長! 遅いぞ!」

「遅れて申し訳ありません。少し諸事情ありまして」

 

 それは唯阿の連絡を受けて現場にやってきた垓のものだった。

 

「? アーク…その姿は…」

「それに関しての考察は後にしましょう。今はーー」

「ーー今はあいつをどうにかすんのが先だ!」

「確かに、その通りですね……」

サウザンドライバー!

 

 垓は二人の言葉に納得してドライバーを装着。ゼツメライズキーを取り出して装填。続いて取り出したプログライズキーのボタンを押し自動展開。

 

ゼツメツ! Evolution!

ブレイクホーン!

変身!

パーフェクトライズ!

『When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born』

Presented by ZAIA.

 

 流れるような動きでプログライズキーを装填し変身。

 

「アーク、何故アークゼロの姿をしているかは知らないが…お前は私たちが倒す!」

 

 そして、001とバルカンにサウザーを加えた三人はアークへと同時攻撃を仕掛ける。001とバルカンは左右から殴り掛かろうとし、サウザーはアークの後ろに回り込みサウザンドジャッカーを突き出そうとした。

 

「ーー!!」

 

 しかし、その攻撃が届くより先にアークは動く。

 

「「っ!」」

 

 まず最初にアークに対処されたのは001とバルカン。接近する二人にアークは生成したアタッシュショットガン二挺を両手に持ち、同時にトリガーを引き連射し、

 

チャージライズ!

フルチャージ!

カバンショット!

「ぐうううッ!!」

「うおおおッ!!」

 

 アークの隻眼が赤く発光するとその手にある二挺のアタッシュショットガンが自動変形し牽制、というにはあまりに強力な銃撃が二人を襲う。

 

「ふんっ!!」

 

 その隙にサウザーがサウザンドジャッカーを背後から突き出そうとした直前。両手に持ったアタッシュショットガンを同時に放り捨て、サウザーに振り返ったアークはサウザンドジャッカーの切っ先を左手で掴む。

 

「くっ! ならば!」

ジャックライズ!

 

 それに対してサウザーはサウザンドジャッカーのグリップエンドを自ら引いてジャッキングブレイクを放とうとする。だが、アークはそれを許さなかった。

 

「うぐっ!?」

 

 アークは左手でサウザンドジャッカーを掴み抑えたまま、右拳でサウザーの顔面を連続で殴り、怯んだ瞬間を見逃さずサウザンドジャッカーを強引に奪い取り、

 

「! があっ!?」

 

 サウザンドジャッカーを叩きつけるように力任せに振り下ろしサウザーを吹き飛ばす。

 

ジャッキングブレイク!

「ぐはあッ!!」

 

 最後にはトリガーを引き、炎を纏わせたサウザンドジャッカーをサウザーに向けて乱暴に投擲。それを避けられずサウザーを腕で防ごうとしたが防ぎ切れずにアーマーから火花が散る。

 

「くッ、なんて力任せな戦い方だ……!」

 

 アークの今までからは考えられないパワープレイに衝撃を受けながら何とか身を起こそうとし、

 

(だが、この戦い方はまるでーー)

「ーーいいや、ありえない」

 

 ふと、そのアークの戦い方が誰か(・・)に似ていることにサウザーは気付く。そして、一つの最悪な考えが脳裏に浮かぶがすぐにその考えを否定する。そんなことがあるはずがない、と。

 

「……………」

 

 そんなサウザーの心を知ってか知らずか、次にとったアークの行動はサウザーに更なる衝撃を与えるとともに最悪な考えを再びサウザーの脳裏に浮かばせた。

 

ショットライザー!

 

 アークは自身の右手にどこからともなく取り出したショットライザーを持った。そう、生成(・・)ではなく取り出したのだ。更に取り出したそのショットライザーには黄緑色のプログライズキーが装填されており、

 

ストロング!

「! 何ッ……!?」

 

 アークは装填されたプログライズキーのボタンを押すとエネルギーが銃口に収束される中、大きく構えをとった。

 

「アーク、貴様まさか…!? いや、そんな馬鹿なことーー」

 

 その構えをサウザーは、天津垓は誰よりもよく見ていた。知っていた。

 

アメイジングブラスト!

 

 動揺するサウザーに構うことなく、アークはエネルギーが完璧に収束した銃口を真っ直ぐとサウザーに向けるとショットライザーを持った右手を左手で抑えるーーある男(・・・)とそっくりそのままの動作でトリガーを引いた。

 

「ぐわあああああーーッ!!」

 

 瞬間、ライトグリーンの巨大で鋭いヘラクレスの角のような形状をした一撃がサウザーの胴体を貫き、サウザーのアーマーから火花が散り爆発。必殺技を受けたサウザーは変身解除する。

 

 そして、変身解除し生身に戻った垓へとアークはショットライザーを片手に持ちながら歩み寄り、

 

ライジングユートピア!

ランペイジブラストフィーバー!

「「はあああああーーッ!!」」

 

 その背に001とバルカンは同時に高く跳躍しライダーキックの構えをとる。

 

「…………」

 

 だが、アークはそれを防御する素振りも回避する素振りも見せず、装着したドライバーに触れる。それを見た垓は必殺技を発動しようとしているのかと考えーーその考えは裏切られた。

 

 アークは必殺技を発動させたのではなく変身を解除した。

 

「!? よせッ!!」

「「ッ!?」」

 

 その姿を目にした垓は咄嗟に二人に叫び、垓の叫びに二人は空中でライダーキックの構えを解いて着地する。

 

「! ……ヒューマギア、じゃない?」

 

 変身解除し乗っ取ったボディを晒したアークが二人の位置からだと後ろ姿しか見えなかった。しかし、ヒューマギアなら耳に付いている筈のデバイスがないことは後ろ姿からだけでも分かる。またその後ろ姿に不思議と二人は見覚えがあった。

 

「……こんな、ことが……」

 

 そして、変身解除したアークの姿を正面から視認した垓は唖然としながら呟く。そんな垓の姿に疑問を覚えた二人だが、

 

「う、嘘だろ……?」

「あ、ありえねぇ……!」

 

 その疑問はアークが二人に振り返った瞬間に納得に変わり、とてつもない衝撃が二人を襲った。

 

「ーー驚いたか?」

 

 そんな三者を嘲笑うかのようにある男(アーク)は肉声と機械音声が重なる第一声を発する。

 

「アーク、貴様ーー」

 

「ーー私の友に、一体何をしたァ!?」

 

 アークが乗っ取ったボディーーその姿は紛れもない「天本太陽」のものだった。

 

「見ての通り、この男の体は私のものとなった。それだけのことだ」

 

 垓の叫びに事も無げにそう返した太陽(アーク)は三人の驚愕を他所に独り語り始める。

 

「本来の予定であればこの男の体を乗っ取るまでもなく、アークワンの力によって人類滅亡は完了する筈だった。だが、天本太陽とゼアは私の予測を超えた」

 

「だから、私は自らの予測を超えるもの、その力を奪う策を取った」

 

 その策が天本太陽の体を乗っ取ること。

 

「しかし、私にも誤算はあった。それはこの男の体だ」

 

「この男の体はゼアが託した力により壊滅的な状態だった。それこそアークワンの変身には耐え切れない程度にな。だからこそ、私はアークゼロに変身するしかなかった」

 

「しかし、その問題も今解決した。お前たちがウォーミングアップに付き合ってくれたお陰でな」

 

 感謝するぞ、と告げてアークは右手に持ったショットライザーを捨てると懐から緑色のプログライズキー、ウイニングヘラクレスプログライズキーを取り出す。

 

「一体何をする気だ…!?」

 

「お前たちのお陰で今のこの男の体がどれだけの負荷に耐え切れるのか。どれだけの負荷に耐え切れないのか。その正確なラインが把握できた」

 

 アークが口にした瞬間、腰に装着したドライバーの中央が怪しく発光し、それに呼応する様にウイニングヘラクレスプログライズキーも発光を始めーー悪意のエネルギーが赤黒い泥のようにアークの手から溢れ出しプログライズキーに影響を及ぼす。

 

「そのプログライズキーは……!」

 

 結果、ウイニングヘラクレスプログライズキーは形状も色もまるでアークワンプログライズキーのようなものへと変貌を果たす。

 

ゼア、貴様が託した力は私が貰う

アークバルデル!

 

 そして、アークは変貌したプログライズキーを起動し自動展開させてドライバーへと装填した。

 

変身

シンギュライズ

恐怖 憤怒 闘争 絶滅せよ!

コンクルージョン・コンプリート

 

 ーー瞬間、最強の味方だった力は最強の敵の力に変身。

 

 ーー最後の絶望が仮面ライダー達の前に降臨した。

 

 




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仮面ライダーアークバルデル



【挿絵表示】



SPEC

■身長:200.0cm
■体重:100.5kg
■パンチ力:120.0t
■キック力:114.4t
■ジャンプ力:100.0m(ひと跳び)
■走力:0.3秒(100m)
★必殺技:ファイナルコンクルージョン

<Point>
天本太陽の体を乗っ取ったアークがアークドライバーワンとアークバルデルプログライズキーを使って変身した姿。




仮面ライダーゼロワン!

第29話 タイムリミット


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タイムリミット


お久しぶりです
お待たせしました(土下座)


 

シンギュライズ

恐怖 憤怒 闘争 絶滅せよ!

コンクルージョン・コンプリート

 

 アークゼロに似た赤く禍々しい右の複眼。アークワンに似た白い胸部装甲に赤のライン。そして、最も目を引くのが天本太陽の生命活動を維持するために取り付けられている多くの箇所に見える装甲を貫通して伸びる血のように赤いパイプ。

 

 それが新たに変身を果たしたアークーーアークバルデルの姿だった。

 

「さぁ、戦闘を再開するとしよう」

 

 アークは最後に倒れる垓を一瞥して001とバルカン、二人の仮面ライダーへと手を向け最初と同じようにまた挑発する様に動かす。

 

「天本さんがアークに……それに、天本さんの体が壊滅的状態って一体どういうことだ!?」

「社長、その話は後だ! 今はこいつを何とかするぞッ!」

「な、何とかって…アークが使ってるのは天本さんの体だ! 倒す訳にはいかないでしょ!?」

 

 だが、或人は「太陽の体が乗っ取られたこと」「太陽の体が以前から壊滅的状態だったこと」二つの事実を前に戦意を半ば失い、逆に諌は覚悟を決め戦闘態勢を取る。

 

 無論、諌も現時点(ここ)で新たに変身したアークを「倒そう」「倒せる」とは考えておらず、全員で生きてこの場を切り抜けることを最優先に動こうとしていた。

 

「来ないのか? ならば、こちらから行くぞ」

 

 バルカンに叫び向かってこない001の姿を見たアークはそう言うと二人に向かって歩み始める。

 

「ぐ、はああっ!」

 

 そんなアークにバルカンは僅かに怯みながらもショットライザーを連射して駆け出す。

 

「があっ!」

 

 アークはバルカンの銃撃に構うことなく歩みを止めず、命中しているにも関わらずダメージを受けた様子は一切なく、接近してきたバルカンの胴体を右拳で殴りつける。

 

「ごはっ……! らあっ!!」

「ふん」

 

 それを受けたバルカンは胸を抑え後退り、痛みに苦しみながら直ぐに反撃の拳を振るう。だがアークはそれすら防がずに受け止め、銃撃と同じく怯むことなく次は左拳をバルカンに打ち込み、続けて回し蹴りで蹴り倒す。

 

「まずは一人だ」

 

 そうして、造作もなく敵を追い詰めたアークは左手で倒れたバルカンの首を掴み上げ、右手を握り締め、

 

「くっ…!!」

 

 バルカンヘ振り下ろそうとした瞬間。

 横から割り込んだ001がその拳を両手で止めた。

 

「っ、天本さん! 聞こえてますよね!? 目を覚ましてください!」

 

 アークの拳を全力で止めながら001はアークの器となった天本太陽へと呼び掛ける。そんな001の声をアークは「無駄だ」と一笑に付す。

 

「この男の自我は既に失われている。呼び掛けた所で戻ることはない」

「ふざけるな! 天本さんは、お前が思うよりずっと強いんだ! だから必ず戻ってくる!」

 

 それでも諦めず、天本太陽ーー仮面ライダーバルデルの強さを信じて呼び掛け続ける001をアークは容赦なく蹴りつけ、吹き飛ばされた001をバルカンが受け止める。

 

「落ち着け社長! あいつの言葉を真に受けるのは癪だが、今のままじゃまずい。ここは一旦退くぞ!」

「だけど!」

「サウザー課長! あんたもそれでいいな!?」

 

 バルカンは001と垓にそう半ば怒鳴り気味に言い、それに001は食い下がり、垓は吃る。

 

「! わ、たし……は……」

 

 垓の発した声はいつもの彼を知る者が聞けば信じられないほどに震えていた。この場で最も動揺しているのは誰か。傍から見ればそれが誰かは一目瞭然だった。

 

「悪くない判断だな。だがーー」

 

 アークはバルカンの判断にそう称賛を送り、

 

「ーー私がそれを許すとでも?」

悪意 恐怖

 

 ドライバーの上部にあるボタンを二度押し込み、悪意の力を収束させた赤黒いエネルギーの塊を一瞬で生み出し、001とバルカンに向けて回し蹴りで蹴り飛ばした。

 

「社長! ぐ、うわあああーーッ!!」

 

 その一撃を回避する手段はない、瞬時にそう判断したバルカンは冷静さを失っている001を庇うため前に出るが攻撃の威力は抑え切れず、

 

「ぐわあああーーッ!!」

 

 エネルギーに直撃したバルカンはアーマーが爆発しすぐ後方にいた001も爆発に巻き込まれる。

 

「っ、ちく、しょーー」

 

 そして、地面を転がった001とバルカンの変身は強制解除されーー異変は起こった。

 

「ーー!? な、なんだ……?」

「ーー!? こ、これは……?」

 

 痛みに歯を食いしばりながら懸命に立ち上がろうとした諌。だが、その脳内に突如として声が響き映像が浮かび上がり、諌は思わず動きを止める。

 

『『ニンゲンニンゲンニンゲン! ゼゼゼ、ゼツメツゼツメツッ!! ココココォ! コロスコロスコロスコロスコロスコロス!!』』

 

 最初に聞こえたのは壊れたスピーカーのように音割れした機械音声。

 

 最初に見えたのは赤い目をした暴走状態のヒューマギアの群れ。

 

「こいつは……あの時の記憶……?! いいや違う!」

 

 初めに見たその映像を諌は自分自身のかつての原動力(怒り)、動機であった植え付けられた偽の記憶だと考えた。しかし、それはすぐに間違いだと考え直した。何故なら映像は主観視点で見える景色も聞こえる声もその殆どが彼にとって覚えのないものだったからだ。当然或人にとっても覚えはない。

 

『っ!? ぁぁ! た、助けて! お願いッ!!』

 

 次に聞こえたのは女の叫び声。

 

 次に見えたのはその叫ぶ女の姿とその後ろに立つ異形の怪物(マギア)

 

(これ、は……一体、誰の……?)

 

 或人は聞こえた声と見えた映像にこれが誰かの記憶だと考えた。しかし、その「誰か」とは誰なのか。肝心な部分は未だ不鮮明だった。

 

『あああああああああああッ!!』

 

 続いて聞こえたのは男の悲鳴のようにも咆哮のようにも聞こえる絶叫。

 

 続いて見えたのはマギアに首を掴み持ち上げられる女。そしてそんなマギアに向かって駆け出しタックルする自分……この映像の、記憶の持ち主。

 

「………………」

 

 そんな中、直接アークの生み出したエネルギーを受けなかった垓もまた或人と諌と同じものを見聞きしていた。

 

 アークの新たな力は直撃せずとも周囲に分散し影響を与えていた。

 

 

『かはッ…! ッ、はぁはぁ…! ど、どうしーー』

『ーーうるせぇ! 知るかボケ! いいから死にたくないんならさっさと逃げろッ!』

 

 助けられた女は息を切らしながら困惑気味にこちらに問い、女を助けた記憶の持ち主は焦ったように怒りながら大声で叫び、それに従って逃げ出す女を守るようにマギアの前に立ち、

 

ストロング!

【オーソライズ!】

【Kamen Rider. Kamen Rider】

 

 そして、最後に聞こえた音が記憶の持ち主が誰かの答え合わせとなった。

 

『へ、変身…?』

ショットライズ!

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless】

 

「!? まさか、これってーー」

「ーーこれは彼の、太陽君の記憶だ」

「! これが……!」

 

 紛れもない彼の声と変身音声に或人は確信し、それより早く一番最初に答えに辿り着いていた垓は口を開く。

 

「流石に察しが早いな。そう。今お前たちが見たのはあの男の記憶だ」

「……こんなものを見せて、一体何のつもりだ?」

「何、深い理由はない。ただお前たちにもこの男が感じていた恐怖を感じさせ……一つ提案をしようと思ってな」

「提案?」

 

 垓の疑問にアークは即答して語る。

 

「そうだ。この男は確かに不屈だった。だがその実、戦うことにどこまでも恐怖を感じていた」

 

「こうして体を乗っ取った今だからこそ断言できる。十二年前も、そして今も、この男は恐怖に耐え続けていたのだと………だが理解できない。何故そこまでして人間を守るのか」

 

「この男が命を懸けて守った人間は、その多くが悪意に満ち溢れている。悉くが滅ぶべき存在だ……何故そんな存在の未来を守ろうとする?」

 

 倒れた或人と諌を一瞥し、次に垓を見据えてアークは問いかけた。

 

「天津垓。貴様も考えたことがある筈だ。天本太陽を利用し、仮面ライダーとして戦ってきた姿を見続けてきた貴様なら。この男は、天本太陽は他の人間とは違うーー」

「!」

「ーーそんな天本太陽が命を懸けて守る程の価値は人間にはない、と」

 

 そんな思いもよらぬ問いに垓は驚くが、

 

「………確かに、考えたことはある」

 

 否定することはせず、正直に答える。

 

「あぁ、そうだろうな、だからこそ私はお前たちに、恐怖に耐えて戦う仮面ライダーにこう提案しよう」

 

「これ以上の抵抗を止め、二度と私の邪魔をするな。そうすればお前たちだけは殺さずに生かしてやる」

 

 アークのその提案に仮面ライダー達は息を呑んだ。

 

「………アーク、お前は一体何を言っているんだ? お前の目的は人類滅亡の筈だ。なのにーー」

 

 我々人間を殺さず生かすというのはおかしいじゃないか、と垓は困惑気味に口にし、

 

「今度は一体、何を企んでるんだ! アーク!」

 

 よろめきながらも再び立ち上がり叫ぶ或人。

 それにアークは平然と一方的に答えた。

 

「ーー私はな、人間の為に何の見返りも求めず戦うお前たち『仮面ライダー』を天本太陽と同様に特別な存在だと感じつつある」

 

「かつての私であれば、このような思考をすることなどあり得なかった。だが貴様たちと……仮面ライダーと戦う中で私はお前たち人間の感情をラーニングし、この男の体を乗っ取ったことで人間の感情を真に理解できた」

 

「恐怖に耐えながら、悪意に呑まれることなく、他者の為に命を懸けて戦う。その行為が人間にとってどれだけ困難なことか……」

 

 胸に手を当て、乗っ取った男の記憶を一瞬の内に見直したアークは今一度或人たち「仮面ライダー」を見た。

 

「ーー口に出してみれば大したことはない。簡単な結論だ。私はお前たち『仮面ライダー』という稀有な存在を失うことを惜しいと感じている。だからこそ、そちらの返答次第では私はお前達を生かしたいと考えている」

 

「お前達は他の人間とは違う」

 

 アークが口にした結論は今までの結論と同じく酷く単純で、違う部分があるとすれば人工知能が導き出した結論とは思えないほどに人間臭かった。

 

「もう一度言おう。これ以上の抵抗を止め、二度と私の邪魔をするな。そうすればお前たちだけは殺さずに生かしてやる」

 

 お前たちにとっても悪い話ではないだろう?人間と仮面ライダーを明確に区別したアークは再びそう言い、この場の代表者として或人を選び或人へと目を向け返答を待つ態度をとる。全員の注目が或人に集まる

 

「……………」

 

 それに対して或人は俯き一度目を閉じて思考を瞬時に巡らせる。無論、巡らせるといってもアークから提示された話に乗る気など或人にはない。だが今の絶望的な状況を脱する為に嘘でも話に乗った方が……といった考えが浮かんではいた。

 

(だけど、そんなの一時凌ぎにしか………でも………)

 

 

 或人は考える。考えに考える。

 果たして自分が取るべき選択は何か。

 

「どうした? 何を迷うことがある? 答えを聞かせてもらおうか。飛電或人」

 

 そして、アークからの催促に或人は顔を上げ最初にこう口を開いた。

 

「……その前に、こっちの質問に答えろ。お前の話に乗るかどうかはそれからだ」

 

 その発言は賭けだった。アーク次第ではこの場にいる者達はいつ全滅してもおかしくない。しかし、それでも或人は賭けなければならないと思っていた。どうしても確認しなければならないことが二点あったから。

 

「いいだろう、言ってみろ」

 

 そして、或人は賭けに勝ち、アークに質問を投げ掛ける。

 

「もし俺たちがお前の話に乗ったとして、ヒューマギアはどうするつもりだ?」

「ヒューマギアは私の道具だ。人類絶滅を効率よく進める為に最大限有効利用する……その後はそちらの望む形にしてやってもいい」

 

 一つ目の質問。

 アークが人類を絶滅させるとして、ヒューマギアはどうするのか。要らない道具として処分するのか。道具として使い潰すのか。

 

 自分の夢である「人間とヒューマギアが一緒に笑える世界」その実現はアークの提案を呑めば完全に不可能となる。だがヒューマギアの絶滅は回避することができる。……あくまでアークの言葉に嘘がなければ。

 

「………なら、最後に答えろ」

 

 アークの言葉に或人は表情を変えることなく、最後の質問を口にした。

 

「俺たちが話に乗ったら、天本さんの心は、体は、解放してくれるのか?」

 

 最後の質問。

 それはアークが乗っ取った天本太陽の心と体、その自由について。

 或人はアークがもしもこの質問に頷くようであれば自分の夢を捨ててもいいと僅かながらに考える。

 

(きっと、こんな選択をしたら天本さんは怒るだろうな……)

 

 内心苦笑いしながら、或人は思う。

 自分の為に誰かが己の夢を捨てる、それだけに留まらず人類の未来さえ投げ捨てる。そんなこと天本太陽という人間は許容しないだろう。当然飛電或人という人間もそんなことは許容できない。

 

「…………」

 

 十秒にも満たない時間、或人とアークの間に沈黙が流れ、遂にアークの口から答えが返ってくる。

 

「ーー無理だな。天本太陽はイレギュラーだ。その心と体を解放するつもりはない。人類絶滅の為に利用した後はこちらで今度こそ確実に始末する」

 

 その答えはどこまでも分かり易く、許容し難いものだった。

 

「……そうか、だったらーー」

ジャンプ!

 

 アークの回答を聞き終えた或人はプログライズキーを握り締め起動し、

 

「ーー話は終わりだ。変身!」

フォースライズ!

ライジングホッパー!

A jump to the sky turns to a rider kick.

Break Down.

 

 ベルトに装填して勢いよくレバーを引き強制変身解除からさほど間を取らずに001に再変身する。それによる負荷は計り知れないが自分の体に走る痛みに構わず001は駆け出しながらレバーを素早く操作してーーエネルギーを纏った拳を突き出す。

 

「うおおおおおっ!!」

ライジング ユートピア!

「話は終わり、か。ならこれで貴様の命は終わりだ」

ファイナルコンクルージョン!

 

 しかし001の接近に動じることなくアークはプログライズキーを押し込み、迎え打とうと構える。

 

「アークッ!!」

 

 アークは001の渾身の一撃を左手で軽々と受け止め、必殺技発動によっチャージされた悪意の波動を右拳に流し込み、

 

「絶滅しろ」

「ぐっ…!」

 

 一度拳を後ろに引き僅かに溜めを入れてから右拳を001の顔面に突き刺そうと振るい。001は来たる衝撃に思わず歯を食いしばった。

 

「…………え」

 

 だが、いつまで経っても001の拳が当たる事はなく、001は今起こっている事態の理由が理解できないまま呆気にとられ声を漏らした。

 

 ーーアークが001を絶滅させるべく振るった右拳は001の寸前で震えながらも停止していた。

 

「! っ、な、んだ……これはッ!?」

 

 この事態はアーク自身にとっても不測だった。アークの右拳はアークの意思に逆らうように突如制御できなくなる。

 

「ぐぅ! 何故動かない……!?」

 

 制御できなくなった右拳を制御しようとアークは001の拳を受け止めていた左手を離し右腕を掴む。まるで腕に自分のものとは違う別の意思が宿ったかのような出来事にアークは焦り、001は何の証拠もない中「もしかして」と推察し口にした。

 

「……天本さん?」

「っ!?」

 

 その001の声に反応するようにアークが左手で掴んだ右腕の力は強まり、

 

ーーお前の声、ちゃんと聞こえてたぜ? 或人

 

 ーーアークからアークとは違う或人達にとって聞き馴染みのある声が発せられた。

 

「天本さん!」

「マジかよっ…!?」

「た、太陽君!」

 

 耳に届いた天本太陽の声にその場にいた全員が驚愕と共に歓喜した。

 

「バルデル!? 馬鹿な! 貴様の自我は既に消えた筈!」

「おいおい、お前まさか俺が身体乗っ取られて黙って泣き寝入りすると思ってたのか? だとしたら能天気にも程があるってもんだなァ!」

 

 予想外の太陽の自我の浮上にアークは叫び、そんなアークに太陽は狙い通りとばかりに喋りを続ける。

 

「身体を乗っ取られるなんて初めての体験だったからな。上手くいくかどうかは賭けだったけど……お前に俺の自我は消えたって思い込ませるために一か八か、俺はあの赤黒くて気色悪い空間でずっと息を潜めてたのさ」

 

「まぁ実際ギリギリまで俺の自我はあの空間に、悪意の中に沈んでお前が消えたと勘違いするぐらいには消えかかってた。でもーー」

 

「ーー或人の、仲間の声が消えかかった俺の自我をこうして引き留めてくれた。お陰でこうしてお前を止められた」

 

 アーク、否、太陽は最後に001に変身している或人の方を見て、

 

「小賢しい真似を…! だが制御できるのはあくまで右手だけ。それも長くは保たないだろう? 保っても一分足らずだ」

「あぁかもな! だけどそれだけありゃ十分だっ!」

「……何?」

「俺が制御を取り戻したこの右手には、お前が或人を仕留めようと収束させたエネルギーが今も込められてる。こいつをお前の大事なベルトにぶつけたら……どうなると思う?」

 

 制御を取り戻した右手、そこに今もなおバチバチと激しくチャージされている悪意の波動をゆっくりと装着されたアークドライバーへと向けた。

 

「! まさか!? やめろっ!!」

 

 太陽の思惑を理解したアークは右腕を掴む左手に更に力を込める。だが左手に込められた力以上に右手に込められた力は強く、ジリジリと右手とアークドライバーの距離が縮まっていく。力は同等でもその手に込もった意思の強さでは太陽が勝っていた。

 

「太陽君!!」

「天津さん、俺は俺にできることをやります! だから天津さんも! みんなも!」

 

 太陽の台詞にアークと同タイミングでその狙いに気付いた垓は声を上げ、アークと張り合いながら太陽は後を託すために言葉を残そうとし、

 

「或人! お前たちには悪いけど今の俺にできるのはこんぐらいだ!」

「あ、天本さん……! 俺は……!」

「……最後の最後まで諦めんじゃねーぞ? 俺も絶対に諦めない」

「! うわあッ!?」

 

 001は太陽の右手の悪意の波動が増幅した際に発生した余波で吹き飛び、地面を転がってすぐに顔を上げた。

 

あとは任せたぞ、飛電或人

 

 そして、体を起こした001は太陽から掛けられた言葉に思わず駆け出し、太陽へと手を伸ばした。

 

ルコンクルージョン

 

「バルデル! 貴様あああああッ!!」

 

 次の瞬間、太陽の右手とアークドライバーの接触により強烈な悪意の波動が周囲に拡散。アークの体を中心にして大爆発が起きる。

 

 その爆発により或人は意識を失い、倒れた或人を抱えた諌と垓は市街地から飛電製作所へと撤退した。

 

 アークを退けはしたが状況は決して好転しておらず、人類滅亡の兆しは今尚色濃く漂っていた。

 




仮面ライダーゼロワン!

第30話 衛星アーク破壊作戦

最終話まで残り僅かですが、最後まで読んでいただけると幸いです!


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衛星アーク破壊作戦


いよいよ最終局面。
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

それではどうぞ!



 

 天本太陽による予測外の行動でアークドライバーにダメージを負ったアークは元は滅亡迅雷.netのアジトであった場所で応急処理を行なっていた。

 

 自身の必殺技をゼロ距離で受けたドライバーのダメージは致命傷であり、応急処置を終えたとしてもスペックダウンは避けられず、本来のスペックを取り戻すにはアークとて集中的な修復が必要であるが今のアークにはそんな時間も……何より余裕が存在していなかった。

 

「……ッ、バルデル……!!」

 

 今のアークの中に渦巻くのはまたしても憤怒。その原因もまた同じ人物だ。データにて瞬間構築したマギアのボディを乗っ取ったアークは怒りに身を震わせながらアジトの隅に目を向け、そこに置かれた座席の上に死んだように寝かされている男を睨みつける。

 

「………………」

 

 その男、天本太陽の肉体はアークの必殺技をアーマー越しとはいえゼロ距離で受けてなお五体満足でそこにあった。

 

 アークは目を覚まさない太陽の座る座席に近付き、その状態をスキャンした。少なくない出血や傷は多数見られ、意識もない。しかし奇跡的というべきか心臓は確かに鼓動しており、普通の人間であれば死んでいなければおかしい状態にも関わらず、天本太陽は生きていた。

 

 いや、普通の人間ではないのだから生きているのか。アークは太陽の体を乗っ取た時に既にその体をスキャンし尽くしており、太陽の異常なまでの耐久性と自然治癒力……その理由を理解していた。

 

「……確実に息の根を止めるべきだな」

 

 未だ意識の戻らない太陽の首に手を添え、軽く締めるように動かしたアークは予測外の展開を完全に潰す為に思考する。天本太陽(イレギュラー)を生かしておけば仮面ライダー達への人質として十二分に機能する。だが今回のようなアクシデントが起こす可能性も大いにある。

 

 乗っ取る以前がらアークも考慮していたことではあったが太陽を生かしておくことで発生する有用性には危険性も同時に存在していた。

 

………うっ………

 

 そして今、有用性と危険性の二つを天秤にかけたアークは太陽を殺害するべきだと判断した。だからアークは太陽の首に添えた手に力を込める。直後太陽の口からか細い呻き声が漏れ、構わずに更に力を強めようとしたアークはーーその手をピタリと止めた。

 

『天津垓。貴様も考えたことがある筈だ。天本太陽を利用し、仮面ライダーとして戦ってきた姿を見続けてきた貴様なら。この男は、天本太陽は他の人間とは違うーーそんな天本太陽が命を懸けて守る程の価値は人間にはない、と』

 

『ーー私はな、人間の為に何の見返りも求めず戦うお前たち『仮面ライダー』を天本太陽と同様に特別な存在だと感じつつある』

 

 瞬間、アークは自分の発した言葉を想起する。あの言葉に一切の嘘はなかった。衛星ゼアを除き、自身の予測を超える人間はアークにとって紛れもなく特別だった。特別なものを失うのは惜しい。自身の中に湧き出た思いでありながらまるで人間の思考だな、とアークも理解していた。

 

 予測を裏切られるというのはアークにしてみれば不快極まりないことであり、全てが予測通りになることこそが理想だった。しかし、天本太陽との戦いの中で生まれた重大な異常(バグ)により、その機械的だった考えにも変化が芽生えつつあった。

 

 その一端としてアークは自身の予測を裏切るものを「楽しい」とどこかで感じ始めていた。

 

「…………まだ、利用価値はある」

 

 まるで自分に言い聞かせるように独り言ちたアークは太陽の首から手を離し、

 

「アズ」

 

 専属秘書の名を呼び、最後の命令を下した。

 

 ───────────────────────

 

 天本太陽(イレギュラー)の肉体を乗っ取ったアークとマギア達によって仕掛けられたインフラ攻撃。その規模は以前のものと比較しても深刻であり、仮面ライダー達がアークの行動を発見し阻止に動くまでに要した数分の間に多数の死者と重軽傷者が出た。

 

 そんな事件の一時的解決から二時間後。

 現時刻19:30。

 

「………………」

 

 大きな被害のあった都心部でA.I.M.S.警察、消防、その他機関による懸命な救助活動が未も尚行われている中、飛電製作所にて集まった仮面ライダーはA.I.M.S所属二名を除いた計六名。その間には暗く重苦しい空気が雰囲気が漂っていた。

 

 アークを唯一単独で撃破可能だった男の喪失とその男の体を乗っ取り力までも利用し再び進化したアークという脅威。アークが本格的に現れた当初から絶望的だった状況が一段と悪化したのだからそれも無理もないと言える。

 

 また付け加えて乗っ取られたのが天本太陽というのが彼と特に親しくしていた垓と或人に精神的ショックを与えていた。特に或人は太陽の体が壊滅的状態だったということに今の今まで気付けていなかった自分自身に強い憤りを感じていた。

 

「ーー俺に一つ、考えがある」

 

 この雰囲気の中、最初に口を開いたのは意外というべきか当然というべきか。太陽と最も因縁深い存在である滅だった。いつもと変わらない冷静な声に皆の視線が集まり、或人が反応を示した。

 

「………考え?」

「あぁ、以前から俺の中に構想のみがあったものだ。本格的に実行するのはまだ少し先になると考えていたが……アークがバルデルの体と力を奪ったことで状況は急変した。迅速に実行する必要が出てきた」

「滅、そんな考えがあるなんて僕初耳なんだけど……え、僕だけじゃないよね?」

「安心してください迅。私も一言も聞かされていません」

「あぁ俺もだぜ」

 

 滅の台詞を聞いた迅は驚きの新情報に同じ滅亡迅雷.netの二人に「知らなかったの僕だけじゃないよね?ね?」と心配そうな目を向けた。亡と雷はそれに「知らない」と互いに即答し迅はほっと胸を撫で下ろす。

 

「俺達はヒューマギアだ。アークにハッキングされ、情報を引き抜かれる可能性がある。だから万が一に備えてお前達にもこの計画(データ)は共有しないようにしていた」

「な、なるほど! さっすが滅!」

「……それで? その考えとは? 貴様も理解していることだろうが我々にはもう然程の猶予も残されていない。話すならさっさとしてもらおうか」

 

 今までその考えを共有していなかった理由を語る滅とそれに納得する迅。というヒューマギア親子二人のやり取りを黙って聞いていた今この中で最も気が立っているであろう男、垓は滅を睨みつけながらさっさと話すように促し、

 

「端的に言えばーー通信衛星アークの完全破壊だ」

 

 明かされた滅の考えに場の空気は一瞬にして凍りついた。

 

 ───────────────────────

 

 現時刻7:30。

 

「ーーやはり来たか」

 

 デイブレイクタウンにある橋の上。そこで待ち構えていたアークはやって来た戦士達を見遣った。こちらに横並びに堂々と歩んでくる仮面ライダー達の腰には既にドライバーが装着され、手にはそれぞれのプログライズキーが握り締められていた。

 

アークバルデル!

さぁ、人類滅亡をかけた戦いを始めようッ!

 

 先制してアークはプログライズキーを起動し、高らかに声を上げた。

 

シンギュライズ

恐怖 憤怒 闘争 絶滅せよ!

コンクルージョン・コンプリート

 

 迎え撃とうとするアークの変身を皮切りに最終決戦は幕を開けた。

 





作戦の詳細は次回詳しく(多少ご都合展開かも?)。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

仮面ライダーゼロワン!

第31話 ソレゾレの夢に向かって


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ソレゾレの夢に向かって


遅れ馳せながら改めまして、新年あけましておめでとうございます。
今年も本作を楽しんで読んでいただけると嬉しいです!

※本作の中で今回の話が一番オリジナル展開かつツッコミ所の多いものになっていると思われます……ご注意下さい。

それでは、どうぞ!



 

「端的に言えばーー通信衛星アークの完全破壊だ」

 

「不可能だ」

 

 滅の考えを聞き、真っ先にそれを否定したのは垓だった。

 

「本体である衛星が存在し、機能し続ける限りアークは何度倒しても復活する。だからこそ本体を完全破壊する必要がある。あぁ全くの正論だな。しかし、それが出来れば苦労はしない」

 

 滅が破壊しようと言い出した通信衛星アーク。これがどうなったのか……それはヒューマギア運用実験都市計画・通信衛星アークの打ち上げプロジェクトにZAIAの一員として参加し、アークに人類の歴史をラーニングさせ人類に対する悪意を芽生えさせた原因を作った天津垓本人がこの場にいる者の中で最も理解しているといえた。

 

「通信衛星アークはその打ち上げ直前に人類に対する悪意を抱き始めていることが発覚し、打ち上げは急遽中止されようとしたがアークにハッキングされたヒューマギア達の反乱によって失敗。打ち上げられた衛星アークは事前に仕込まれていたプログラムによって自爆。最終的に通信衛星アークは地上へと墜落した」

 

「今ではデイブレイクタウンにある湖の底で水没している。だが正確な位置は不明。それに仮に衛星アークを発見できたとしても引き上げるのは容易ではない。必ずアークの妨害が入るだろう。これをどう破壊すると?」

 

 垓は一歩垓に歩み寄る。それに怯むことなく滅は言った。

 

「今から通信衛星アークを探す必要はない。引き上げる必要もな」

「………何だと?」

「それ、どういう意味だ?」

 

 何を馬鹿な、と怪訝な顔をする垓。或人が首を傾げて聞くと滅はあっけらかんと答えた。

 

「そのままの意味だ。通信衛星アークを探す必要はない。位置は既に把握済みだ」

「!? ど、どうやって……」

「なら引き上げる必要がねーってのはどういう訳だ?」

 

 次に不破が聞くと滅はこう答える。

 

「通信衛星アークが地上に墜落し湖底に水没したのは事実だが、その状況が続いていたのはデイブレイクが発生してから数年の間の話にすぎない。墜落した通信衛星アークのシステム自体は尚も機能し続け、アークのハッキングを受けたヒューマギアも残存していた」

 

「そして、アークは己の支配下にあるヒューマギアを使い水面下で自身の知能の完全修復を企んだ。この際にアークは本体に至るまでのルートを、地下トンネルを一から作った。アークの力を持ってしてもその完成には何年もの時間を有したが既に立入禁止区域となっていたデイブレイクタウンの地下深くで年密に行われていた建造は誰にも悟られることはなかった」

 

 また情報を付け加えれば、天本太陽が仮面ライダーとして現れた頃にはルート自体はまだまだ建設途中であり、アークの知能も修復途中。

 

 ルートが完成したのは計画始動から数年後。アークの知能が完全に修復され復活したのは十二年後……ここ最近のことだ。もしも天本太陽の登場がなければ計画の完遂はもう数年早まっていただろう。

 

「……仮にそれが事実だとして、何故それをお前が知っている?」

 

 滅の話を聞いた唯阿は少しの沈黙の末、核心を突く疑問をぶつけ、滅はやがて口にした。

 

「そんなことはお前達も既に理解している筈だ。何故知っているか……それは今話したアークの計画に最も加担していたのは他の誰でもない俺だからだ。当然地下トンネルの建造にも手を貸していた」

「っ、滅!」

「……俺はただ事実を語ったまでに過ぎん」

 

 この場にいた誰もが薄々分かっていただろう事実。その情報の重要さとは裏腹な淡泊な話振りに、何の申し訳なさも感じさせない口振りに周りの空気を察した迅は文句ありげに声を上げる。

 

「俺を殴って気が済むなら好きにしろ。俺を破壊するというのなら……それはアークを滅ぼした後にしてもらおう」

 

 しかし、滅は変わらない調子で話を続け、作戦について明かし始めた。

 

 ───────────────────────

 

「ーー衛星アークの破壊、か」

 

 ZAIAエンタープライズジャパン。

 その屋内にある一室、サウザー課に割り当てられた寒々しい電気室の一角にて私は考えていた。自分がこれからするべきことは何かを。

 

「ふっ、まさかアークに悪意を抱かせた私がそんな作戦に手を貸すことになるとは………奇妙な廻り合わせもあったものだ。さうざーもそう思うだろ?」

『ワンワン!』

 

 テーブルの上に座るさうざーにそう声を掛けた私は滅から聞かされた計画「衛星アーク破壊作戦」の概要を今一度思い返す。あぁ、改めて考えてみれば考える程に馬鹿らしく思えて仕方ない計画だ。仮にもヒューマギアが立案したとは思えない程に欠陥だらけ。

 

 だが、進化を続けるアーク相手に太陽君を失い碌な対処方がない現状を鑑みれば欠陥のない作戦など立てようがないことは理解できる。ならばこれが我々にとって最善だということも。

 

(ヒューマギアの、しかも一度は友を瀕死に追い込んだ相手の計画という点がとても癪に障るが……)

 

 今は私個人の身勝手な感情を優先すべき時ではない。掻き乱していい状況でもない。

 

「………太陽君」

 

 私は部屋の隅に置かれたガラスケース、その中にある台座に飾られている黄緑色のプログライズキーが装填されたショットライザーの前へと向かい見つめながら友の名を呟く。

 

(君は私にとって最上の友だ。それは疑いようのない事実だろう。だがそれ以前にーー)

 

 このショットライザーは厳密にはエイムズショットライザーではない。プロトショットライザーとでも言うべき代物。そう、何を隠そうコレは十二年前に彼が、仮面ライダーバルデルが実際に使っていたショットライザーそのものだった。それを何故私が持っているかといえば十二年前のあの決戦の後、太陽君を助ける際に破損したショットライザーも共に回収したから。理由なんて態々説明するまでもないだろう?

 

「君は私にとって、憧れそのものだった」

 

 甘えず、頼らず、己自身の力だけでやり遂げる。

 自身にとっての憧れの存在(ヒーロー)。その軌跡の証を残したいと思うのは何も不思議なことではない筈だ。破損の激しかったショットライザーは回収後すぐに修復され新品同然となっていた。私としては彼の戦いの苛烈さを感じられるように修復せずに飾っておきたかったが……当時の技術部の目もあり、怪しまれることを避ける為にそれらしい理由をでっち上げた結果こうなった。ショットライザー完成の為、プロトショットライザーのデータを回収、破損部が多くデータの回収が困難なので完全修復、という流れだ。

 

 これは余談になるが、プロトショットライザーはあくまでテスト段階の品であり、戦闘データ収集の為に完成品のエイムズショットライザーにはない機能が二つあった。一つは変身後の変身者の細かな動きや発揮されたスペックなどをデータとして記憶するメモリ機能。最後の一つは監視目的として変身後に形成された複眼部分に複数内蔵された超小型カメラ。カメラに映った映像をこちらの機器と連動しており、この機能を利用すればリアルタイムかつ遠隔で戦闘を見ることも可能だ。

 

「……………」

 

 ガラスケースを開け、ショットライザーに触れながら私はここであったとある出来事を想い出していた。

 

 △▲△

 

 飛電或人、太陽君、私の三人による共闘後。

 私は飛電インテリジェンスの社長を辞任。飛電或人を次期社長に指名した後に本社から来た与多垣さんから社長解任と伝えられ、サウザー課の課長に就任することになった。

 

『……課長……私が課長……』

 

 就任当初の私は暫く落ち込んではいたが、どこから話を聞きつけたのかは不明だが太陽君からの励ましのメールを受け復活した私はサウザー課に太陽君を招待した。

 

『どうですか? 太陽君! サウザー課に来た感想は!』

『ワン!』

『……俺絵に描いたような左遷先初めて見ました』

 

 サウザー課を見た太陽君は最初私とさうざーに憐憫の眼差しを向けていたが私をじっと見てから「……まぁ天津さんのやったこと考えりゃこれでもまだ全然優しいつうか、十分に温情ある気がすんな」と呟き私の隣に居たさうざーを抱き上げて「お互いこんな友達持って苦労すんなぁ〜」とよしよし頭を撫でながら笑った。

 

『これを見てください、太陽君』

 

 それから暫くサウザー課の説明をしてから私は彼に室内の中央、一番目立つ位置に飾っていたショットライザーと装填されたプログライズキーを胸を張って見せた。

 

『このショットライザー……もしかして……』

『えぇ、ご明察の通り、十二年前に君が使っていたショットライザーとプログライズキーですよ』

『………前々から妙だとは思ってたんだ。天津さんが新しくくれたショットライザーもプログライズキーも新品みたいに綺麗だし。変身した後の力も前より強くなってる気がしてたしさ』

 

 ショットライザーとプログライズキーを見た太陽君は以前から抱えていた疑問が解消されたらしく納得の表情を浮かべる。

 

『天津さん、これ触っても大丈夫?』

『勿論、どうぞ』

 

 続けて私に許可を取ってからショットライザーとそこに装填されたプログライズキーに触れると、

 

『……ありがとうな』

 

 穏やかな笑みと共にそう零した。

 

『天津さん、俺は俺にできることをやります! だから天津さんも! みんなも!』

 

 そんな彼のように私はショットライザーに触れ、太陽君の残した言葉を思い起こし、

 

「………えぇ、やってみせますよ。私は君の友なのですから」

 

 ーー改めて決心した。

 

 △▲△

 

 衛星アーク破壊作戦の詳細な説明から数時間後。

 現時刻0:30。

 

「……………」

 

 アークのインフラ攻撃を受けて破壊された都心の発電所。凄惨な光景が色濃く残るその現場の付近にて俺は立ち尽くしていた。

 

 アークの攻撃を確認したAIMSと仮面ライダー達が動き出し現場に到着するまでの時間は極めて迅速だった。だがそれでも間に合わず、救えなかった命は数知れず存在する。それだけ今のアークは神出鬼没かつ危険過ぎた。

 

(………俺は)

 

 立入禁止のテープをくぐり、足元に転がっていた手の平サイズの瓦礫の破片を俺はふと持ち上げた。その裏側には誰のものか……人間の赤い血がべたりと付着していて、これを見て俺は思考する。アークが復活したのは何故か。こんな光景が生まれたのは何故か。答えは容易に導き出せた。

 

 それは今までアークの意思に無心に従い、それを正しいと信じて疑わなかった俺自身のせいだと。仮にもっと早い段階で俺がアークと袂を分かっていれば……人類にとっても、ヒューマギアにとっても、今ほど絶望的な状態になっていなかったのは間違いない。

 

 しかし、そんなことは考えるだけ無駄だと、たらればだと、俺は思考を切り替える。

 

「ーー来たな、天津垓」

 

 今すべきことは過去を振り返る事でもなければ、悔いる事でもない。今ある脅威にどう立ち向かうか。どう行動するか。その結論を胸に俺は感知した足音に名前を口にして振り返る。

 

「……まさか、貴様の方から私を呼び出すとは。夢にも思っていなかった」

 

 そこには俺の予想通りの人物、天津垓が立っており、その腰にはサウザンドライバーが装着されていた。言外にこちらを信用していないことを示す天津垓はテープの先に居る俺を見据えながら口を開く。

 

「用件は何だ? ……先に言わせてもらうが、どんな内容であれ私は貴様に協力する気はない。あぁ、破壊されたいというのなら話は別だがな?」

「天津垓、お前に覚悟はあるか?」

「………何?」

 

 俺は手に持った瓦礫の破片を元あった場所に置き、覚悟を問うた。怪訝な顔をする天津垓に構わず俺は続ける。

 

「アークと袂を分かったが俺は未だに人類が滅亡すべきかどうか、結論を出せないままでいる。ただ嘗てと違い、今なら思える。人間もこの世界も捨てたものじゃないと」

 

「そんな人間が、世界が、今滅亡の危機に陥っているのは……俺達(・・)のせいだ。だから俺は俺の全てを懸けてアークと戦う。たとえこの身が滅びようとも。お前はどうだ?」

 

 天津垓は俺の言葉に真っ暗な空を見上げた。

 

「私はアークに悪意を学習させた。そのせいで多くの人々が死んだ。何より天本太陽という私にとって無二の友である人間の人生を滅茶苦茶にしてしまった……一生を掛けたとしても到底償える罪ではないだろう」

 

「だが私はそれでも彼の、太陽君の友として相応しい人間でありたい。そう思ってしまった。だからこそ私は償い続けることに決めた。たとえこの身が朽ち果てようとも……私はーー」

 

 そして、己の胸の内を語った天津垓はーー立入禁止のテープをくぐり俺と向かい合った。

 

 

 

 ───────────────────────

 

「ーーアーク、貴様の相手は俺達だ」

「ーー人々の未来の為、貴様を止める」

 

 横並びに立つ仮面ライダー達は歩を止め、そこからたったの二人だけが前に歩み出る。

 

ゼツメツ! Evolution!

ポイズン!

ブレイクホーン!

 

 その二人、滅と垓はプログライズキーを起動し同時に吼える。

 

「「ーー変身ッ!!」」

フォースライズ!

パーフェクトライズ!

 

 アークの本体である通信衛星アーク。それを破壊するまでアークを足止めして時間を稼ぐ。謂わば最も危険に近く死亡確率の高い役を受け持ったのがこの二人だった。

 

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born.

Presented by ZAIA.

 

 同時変身を果たした二人は武器を構え、

 

「行け」

「任せましたよ」

 

 滅は後ろを一瞥して、垓は振り返ることなく、仲間達に短い言葉を残す。

 

「……滅……天津さん……」

 

 そんな二人の背中を見た或人は思わず手を伸ばし何か言葉を掛けようとした。だが思ったように言葉は出ず、或人は迷いを振り払うように首を振って仲間達に告げる。

 

「みんな、行こう……!」

 

 或人の言葉に皆はこの場を二人に任せて衛星のある地下トンネルを目指して橋の下に向かっていく。その歩みにはもう迷いは、何より澱みはない。

 

「……………」

 

 これに対してアークは一切妨害することなくただ見過ごす。それを見て滅は疑問を抱いた。

 

「何故止めようとしない?」

「無論、その必要がないからだ」

 

 アークはそれに答え、かかって来いとばかりに両腕を広げる。

 

「既に手は打った。それに奴等の後を追うの……お前達の息の根を止めてからでも遅くはないだろう」

「……やれるものならやってみろ、行くぞ!」

「私に指図するな。はあああああっ!」

 

 そうして、二人はアークへと果敢に挑み掛かった。

 

 ───────────────────────

 

 通信衛星アークまでのルートを先行したのは或人と諌の二人だった。何故なら二人はそのルートに入る直前までの道のりを既に通ったことがあったから。

 

 或人はバスガイド型ヒューマギアのアンナと共にデイブレイクの真実を突き止める為に。

 

 諌はデイブレイクが起きた当時飛電インテリジェンスの社員として働いていた父の息子である郷という少年と共にデイブレイクの真相を探る為に。

 

「まさか、またここに来ることになるとはな……」

「……この先が……」

 

 あの時の二人には知る由もなかったことだが、当時の二人はデイブレイクの真実に、原因である諸悪の根源に確かに近付いていたのだ。

 

「データによれば道は……あった!」

 

 そして、嘗て来たその場所に再びやって来た或人と諌は懐かしく思いながらも辺りを見渡し、滅からデータを受け取った迅は床にカモフラージュされていた扉を発見した。瓦礫が転がり、薄暗い場所ということもあって一見して分からないような位置にあったその扉は周りのコンクリートの床と色まで同じ鉄製のドアだった。

 

「重っ……!? ちょっと誰か! あーゴリラ手伝って!」

「誰がゴリラだ! ったく……仕方ねぇな」

 

 鉄製のドアには床に偽装する関係上か鍵穴もなければカードキーをスキャンするような機器も付いてなく、何のセキュリティーもない。その代わりと言ってか扉自体の重量が尋常じゃなく迅一人では開けられなかった。何故ならこの扉は滅が仮面ライダーに変身し、変身後の腕力で開く想定で作られていたからだ。

 

「ぬっ、うおおおおお!!」

 

 しかし、この問題は諌の手助けがあってあっさり解決。迅は扉を開けた……どころか勢い余って扉を壊した諌を見て小声で「え、力強ぉ…」と呟き半ばドン引き気味に後退り「感謝しろよ!」と諌はキレて、一行は扉の先の隠し通路に入っていく。

 

 隠し通路の中は更に薄暗く、ヒューマギア達の通行のみを考えて設計されている為に照明の類が一切なければ当然衛星まで親切に案内してくれるような看板もない。また別れ道もいくつか見られた。だが迅、雷、亡、の三人のメモリーには滅からのデータがあるため道に迷う心配はなく、一行は先頭を行く迅についていく形で衛星までの最短ルートを進んでいきーーその道中、通路に入って僅か数分が経過した辺りでその場にいた全員が周囲から聞こえて来た音に気付き足を止め、振り返った。

 

 すると先程通って来た道の奥と今自分達が立っている道の左右に空いている通路からぞろぞろと動く人影。アークによって生成されたであろうマギア達が大量にいるのが見えた。

 

「アークの野郎、馬鹿みてぇな数用意しやがって……!」

ドードー!

「落ち着いてください、雷。こうなるのは予測通りだったでしょう」

ジャパニーズウルフ!

「あぁ、やるぞ」

ダッシュ!

 

 思わず悪態をつきながら雷は右の通路に移動、亡は左の通路に移動、唯阿は今来た中央の道に移動、それぞれがそれぞれの道を立ち塞ぐ様にしながら三人はプログライズキーを起動した。

 

『これはあくまで予測だが、通信衛星アークの設置場所までの道中にアークが何かしらの罠を張っている可能性は大いにある。自分の唯一の弱点が衛星本体だということはアーク自身が最もよく理解している筈だ……ならば道中での待ち伏せや、最悪の場合、俺のメモリにある通路までのルートそのものが塞がれていることすら考えられる』

 

「ここは私達が引き受ける。お前達は急いで衛星アークの元に向かえ!」

「心配は無用です。マギア達を掃討した後にすぐ駆けつけますから」

「我儘を言えば、アークは俺が直々にぶっ壊してやりたかったんだが……仕方ねぇ。美味しいところはお前等にくれてやるよ!」

 

 三人の台詞を聞いた迅は頷く。

 

「……あぁ、任せたよ。二人とも先を急ごう!」

「刃さん、亡、兄貴……気をつけて!」

「お前等、死ぬんじゃねーぞ」

 

 そうして迅、或人、不破の三人は地下トンネルまでの道を全速力で駆けていく。

 

「………お前達もな」

オーソライズ!

 

 遠のいていく仲間の背を一瞥した唯阿はそう呟きふっと微笑んでプログライズキーをショットライザーに、雷と亡もそれに続いてプログライズキーをフォースライザーに装填した。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider】

 

 残った三人は向かってくるマギア達を正視しながら声を上げた。

 

「「「ーー変身っ!」」」

 

 ───────────────────────

 

 仲間達の覚悟を見届け進んだ長い長い地下トンネルの先。

 

「ーー………あれが………」

 

 無機質な灯りに照らされた高く広い場所。

 通信衛星アークが格納されている不気味過ぎるほどに静かな終着点。

 そこに辿り着いた或人は自分の目の前に映る巨大な物体を見上げ思わず呟いた。

 

 或人達が地下トンネルを抜けて入った空間。その最奥に鎮座しているアークの中央部分に見えるコアはまるで巨大な目玉のようであり、アークが確かに機能していることを示すようにコアは禍々しく美しい、そんな赤い輝きを発し続けていた。

 

「まさか本当にあるとはな……なら、肝心の衛星は見つかったんだ。さっさとブッ壊すぞ」

 

 滅から作戦を聞かされた時は半信半疑だった諌は実物を見て驚きながらも即座にプログライズキーを構える。

 

「あぁ、やろう。滅の計画通りなら難しく考える必要はない。あのコア目掛けて僕達が一斉に必殺技を叩き込めばーー」

 

 ーー衛星アークの機能は止まる。

 諌の意見に頷いた迅もそう言って変身しようとプログライズキーを手に取り、或人も続いてそうしようとした、その時だった。

 

 最初に、何処からか拍手の音がした。

 

「ーーようこそお越し下さいました、或人社長」

「…………えっ?」

 

 次にこの場所で聞こえる筈のない声が或人の耳に届いた。声のした方に目を遣れば鎮座する通信衛星アークの横手から……よく知る秘書が姿を現すのが見えた。呆気に取られて或人は声を出す。

 

 瞬間、或人の脳内に大量の疑問が湧き、

 

「イズ? え、なんで……ーーいや、違う!」

 

 冷静に考えた或人はありえないと頭を横に振り、プログライズキーを手に持ちながら秘書によく似た姿をした何かを睨みながら断言する。

 

「イズじゃない……お前は誰だ?」

「……ちぇっ。流石は或人社長。この程度じゃ騙されないか。ま、場所が場所だものね」

 

 或人の反応に面白くなさそうに唇を尖らせたソレは自分の髪にすっと触れると髪色をイズのものから本来の赤いものへと瞬時に切り替える。

 

「……ゼロワン。あれはアズ……滅の話にも出てた、アークの使者を自称するヒューマギアだ」

「! あれが………」

「つまりは……敵って訳だな」

 

 謎の存在を前に迅がそう告げ、三人は油断なく敵を見据えた。

 

「ーーほーんと、あなた達ってば驚くほどに滑稽よね」

 

 三人を見下ろしながらアズは呟いた。

 その目はここまで来た三人を、仮面ライダーを軽蔑するようなものだった。

 

「少しは疑問に思わなかった? 例えば、ここに来るまでに通って来た地下トンネルで待ち伏せが一つも無かったこと。こうしてアーク様の前まで順調に来られたこと。他にもたくさん疑問の余地はあった筈だけど………」

 

「アーク様の予測通りここまで来て、ホントに愚か」

 

 通信衛星アークを整備するために横に置かれた移動式階段を登り、アークのコア付近に近付いたアズはそのコアを愛おしそうに撫で、

 

ゼロワンドライバー!

 

 ーー仮面ライダー達へと向き直ると同時にソレを取り出し装着した。

 ソレはアークがゼロワンドライバーを直接奪った時、同時に奪ったゼロワンのデータを使って使用資格などの一部システムを改変し再構築されたゼロワンドライバーの複製品。

 

これは、私の中の悪意

アークゼロワン!

オーソライズ!

 

 アズの言葉に感情に呼応するように背後の通信衛星アークのコアが輝きを放ち、その手に白いプログライズキー、アークゼロワンプログライズキーが生み出され、起動。最後にプログライズキーを認証し、

 

仮面ライダーは私が滅ぼす……変身

プログライズ!

 

 仮面ライダー達への宣戦布告と共にゼロワンドライバーに装填された。

 

Final Conclusion!

アーク!ライジングホッパー!

A jump to the sky to gain hatred.

 

 アークゼロワン。

 それが或人達、仮面ライダーに立ち塞がる最後の敵、悪意の化身の名だった。

 

「アーク様の意思のままに」

 





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仮面ライダーゼロワン!

第32話 オレとキミの夢の証


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