恋恋ifストーリー (タッチアップ)
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お姉ちゃんが来るよ!

何時もの様に練習に励む恋恋高校・野球愛好会。

 

部では無く愛好会と呼ばれるには理由が有り、部員が8人しかいない為。

 

故に部として認められて無いので、当然公式戦はお預け。

 

だがそれでもナイン達は腐る事なく練習に励むのて有る。

 

 

 

 

 

 

5月3週間。

 

「フゥ…」

 

あおいちゃん遅いな……どうしたんだろう…?

 

 

 

 

 

彼の名は好野(よしの)

 

恋恋高校野球愛好会創立者にしてキャプテン。

 

ポジションはキャッチャー。

 

そして何時もならこの時間、エースの早川あおいとの投げ込みの時間だが、今日はまだ来ない。

 

休むという連絡も無く、補習とかも無い筈…

 

マネージャーのあおいちゃん1番の親友、七瀬はるかちゃんに聞いてみたが、彼女も理由は知らないとの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

(けど…最近、確かに様子が変なんだよな…)

 

そう、実は2、3日前からどうも彼女の様子がおかしい。

 

やたらソワソワしており落ち着きが無く、かと言って訪ねるとシラを切られる。

 

もしかして…

 

 

 

 

 

 

「お困りの様でやんすねえ好野君」

 

俺が嫌な予感を想像しているとタイミング良く親友の矢部君が不適な笑みを浮かべながら登場。

 

「な、何矢部君?」

 

「あおいちゃんの事でやんすよね?」

 

「うっ!」

 

流石だな矢部君。今俺が考えてる事を的確に当てやがる!

 

だが誤魔化しても仕方無い。此処は正直に…

 

 

「う、うん。矢部君は何か知ってる?」

 

 

 

 

「…好野君…」

 

少しの間を置いた矢部君が俺の肩にポンッと手を置き、ブルーな表情で口を開く。

 

 

「世の中には…知らない方が幸せな事も有るでやんす…」

 

「えっ、じゃあやっぱりか(ry」

 

矢部君の光の無い瞳を察し、俺は言い掛けた言葉を呑み込む…

 

 

「その先は禁句でやんす……

オイラ達は敗北者でやんす…なら……黙って知らないふりをするのが1番正解でやんす…」

 

「は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好野くーーーん!遅れてごめーーーーーん!!」

 

 

練習も終わり外野を丁度トンボで整備していた頃、ウチのムードメーカーの早川あおいちゃんが元気よく手を振りながら走って来る。

 

「あ、あおいちゃん。遅かったけど、どうしたの?」

 

聞くのは野暮かも知れないが、それでもキャプテンの自分には練習に来なかった理由を聞き、皆に報告する義務が有る。

 

「ご、ゴメンねハァ…じ、実ハァハァ…」

 

息を切らすあおいちゃん。

 

 

 

 

 

「え、何てあおいちゃん?落ち着いてからで大丈夫だよ?」

 

「う、うん!」

 

好野に促され深く深呼吸して落ち着かせる…

 

 

 

 

やっぱりあおいちゃんの様子が可笑しい…

 

まさか……彼氏の発表!?

 

(ハァ…あおいちゃん可愛いもんな…)

 

さらば俺の青春……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ…じゃあ言うよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんが野球部に入ってくれるよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜、あおいちゃんのお姉ちゃんが野球部に〜」

 

それは朗報だ。

 

後1人居たら部として認められて夏の公式戦に出られる。

 

これはまたと無いチャ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

今あおいちゃんはなんて?

 

 

 

 

「あ、あおいちゃん…今なんて?」

 

「だーかーら、お姉ちゃんが野球部に入ってくれるの!これで正式に部になるし、夏の大会にも出られるよ♪」

 

やはり俺の聞き間違いじゃない。

 

今まさにあおいちゃんはお姉ちゃんって……

 

 

 

 

 

 

ええぇぇぇぇぇぇ〜!?

 

 

 

 

「どーしたでやんすか好野君!?」

 

「どうされました!?」

 

あおいちゃんの突然のカミングアウトに人生最大の驚きを隠せない好野。

 

異常事態と感じ取り、部員全員が駆け寄る。

 

 

 

「お、おおおおおぉおぉ、お姉ちゃんんん!?」

 

「うん!」

 

 

 

はい、今日は4月1日じゃ無い。

 

しかもあの野球に対して真剣なあおいちゃんの発言。

 

オマケに俺達が1度も見た事無いような満悦の笑顔を浮かべている。

 

この状況から冗談だよね?とか口が裂けても聞けない…

 

聞けば間違い無くムード✕が付く。

 

 

 

 

「あっ、矢部君にはるかちゃん。それに皆…」

 

 

実は…

 

 

 

 

 

 

 

 

ええぇぇぇぇぇぇぇぇ〜(でやんす)!?

 

全く同じリアクションをされる部員達。

 

「そ、それは本当でやんすか好野君!?」

 

「や、矢部君!く、首が!?それに唾!?」

 

矢部が好野の胸倉を掴み、何度も揺さぶり怒鳴る様に問い詰める。

 

顔面が唾だらけ…うぇ、きたねえ…

 

 

 

「お姉ちゃんって……まさかあいちゃんの事?」

 

「うん!」

 

 

「あれ?はるかちゃんは知ってるでやんすか?」

 

「えっ、あっ、はい。あおいとは同じ中学校ですので少しだけ面識有りまして…

あおい、皆さんに説明してあげたらどうかな?」

 

「あっ、うん、そうだね!じゃあ、場所部室でも良いかな好野君?」

 

「オッケー!俺も気になるし!

全員じゃあ部室にゴー!」

 

オッー!

 

 

 

 

 

 

〜部室〜

 

男子組と女子組で綺麗に対面。

 

「じゃあ説明するねー!

 

今回ボクがスカウトしてたのはボクのお姉ちゃん早川あい(あい)!ボクとは双子だよ!」

 

 

「お〜!」

 

「双子でやんすか!!しかも似た名前とは…」

 

 

男共の歓喜の声。

 

女子が入る事に加え、何より超レアな双子が入る事にテンションアップ。

 

 

しかも同じ名前と来る…

 

ムムム…呼び方困るな…

 

 

 

 

 

「だからゴメンね?最近練習に集中出来て無かったのは、家の事とか色々有って…」

 

「……」

 

なるほど…色々複雑な家庭らしい。

 

誰にも秘密にして…あのはるかちゃんにも秘密にするなんてよっぽどの事。

 

 

 

はるかちゃんと目が合う。

 

はるかちゃんの目が訴えてる。

 

今は詮索は止めてあげてと…

 

 

 

俺達男子も目で合図を行い意見一致。

 

只新しい仲間が増える。

 

その事だけを喜ぶ。

 

 

 

「…ありがとう皆!因みにだけど、ボクのクラスに来るからね!」

 

「やっほー!俺勝ち組〜!」

 

「オイラもでやんす!」

 

『あっ、キャプテンに矢部君!お前らだけズリーよ!!』

 

 

やはり家庭事情を根掘り葉掘り聴かなくて正解。

 

あおいちゃんは終始ニコニコ。

 

やっぱりあおいちゃんには笑顔が1番。

 

 

その日、部室内は新しく来る仲間を待ち遠しくする者でむせ返り創立最大級のお祭り騒ぎとなった…

 

 

 

 

 

 

 

 

「∑皆はやっ!」

 

週明けの月曜日。

 

いつもは朝練1番乗りの好野を差置き、全員が既に練習中。

 

 

「おっ、キャプテンおはよー!」

 

「遅いでやんす好野君!」

 

全員気合のノリが…

 

矢部君なんて眼鏡の光沢がいつもより格段に輝いてるし…

 

 

 

 

 

「おはよー!あ、あれ!?もう居るの!?」

 

後から着たあおいちゃんも全く同じリアクション。

 

 

「しかもいつもより気合入ってるし…」

 

あおいちゃんの男子生徒を見る目がジト目になる。

 

 

「フフフ、あおいちゃん。あれが※転校生パワーだよ!」

 

※転校生パワー…まだ“会ってない”状態の時だけ見れる幻の状態。期待感でテンションがMAXになっている。特に女子の場合、MAXも軽く超える。

 

 

 

「何よそれ。

先に言っておくけど人のお姉ちゃんをエッチな目で見ないでよね全く!」

 

ふくれっ面してしまうあおいちゃん。

 

だが今のメンバーには焼け石に水。全く聞いていない。

 

かつてない気合の入れ用で朝練をこなす。

 

 

 

 

 

 

 

1時間後…

 

「おはよう皆!今日は授業前に転校生の紹介をしますね」

 

朝のホームルーム、担任の先生が開口一番に報告する。

 

 

あおいちゃんの言ってた通り、本当に※俺達のクラスだった。

 

※好野、矢部、あおいのクラス

 

 

 

「好野君!いよいよでやんすね」

 

俺の隣に座る矢部君がニヤニヤし、未だ未だとソワソワする。

 

俺も…心臓が高鳴るのを感じる…

 

早く会ってみたい!

 

 

 

 

 

 

ガララ〜

 

 

「……」

 

緑髪をお下げに纏めた少女が入室。

 

 

 

 

(あ、あれ…早川さんだよね?)

 

(そっくり…え、本人?)

 

所々でボソボソと聞こえる。

 

 

 

 

(驚いた…双子って聞いてたけど、マジでそっくりだ…)

 

一目で双子と分かる。

 

唯一の違いと言えば、若干だが表情が固い……というよりキツい印象…

 

 

 

 

「え〜、彼女は早川あいさん。

このクラスの早川あおいさんのお姉さんです。皆さん仲良くして上げて下さい」

 

 

「早川です。宜しくお願いします」

 

軽くお辞儀する早川さん。

 

 

「それでは席は妹さんの隣で」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

「君がキャプテンの好野君?」

 

「あっ、うん」

 

席に向かう途中、葵ちゃんが俺の前に立ち声を掛ける。

 

 

「妹から話は聞いているよ。今更説明なんて要らないよね?僕の事は“早川”って呼んでくれる?あいだと混乱しちゃうから」

 

「う、うん。分かった」

 

「取りあえずキャプテンの君には先に挨拶しとこうと思って。それじゃあまた後でね」

 

ぶっきらぼう気味、そして少し高圧的な話し方をされる…

 

 

 

 

「宜しくね!おねーちゃん♪」

 

「うん」

 

 

だかやはり身内には気を許すらしく、席に着こうとするあいちゃんが一瞬だけ険しい顔から笑顔になる。

 

その表情は最早そっくりでは無くまるで鏡。

 

 

 

 

 

 

 

 

何はともあれ新しい仲間が増えた!

 

今日からまた楽しくなるぜ!

 

 

 

早川あいちゃんに出会いました。

 

 

 

 

 




このパートで書きたかったのは

“あい”ちゃんが来るという出来事に対する部員達の反応です。

次回から全面的に描写していくつもりです。

只共演に従い、整合性の合わない所は改変していくつもりです。


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一緒に行こう

おっ、1限目終了のチャイムが鳴った!

 

早速早川姉妹の所へレッツg…

 

 

 

ドドドドッ!

 

「∑うわっ!」

 

 

瞬く間に早川姉妹の周りに人だかりが出来上がり、女子達による完全包囲網が出来上がる。

 

転校生名物、集団聞き込みの始まりだ。

 

しかもあおいちゃん込みで。

 

 

『ねーねー早川さん!前の学校はどんな感じだったの?』

 

『本当にそっくり〜!ちょっと写真撮らせて!』

 

 

「え?え??」

 

 

うわ…二人とも完全にテンパってるわ… 

 

 

 

「好野君。これはオイラ達、放課後まで喋り掛けるのは無理でやんす…」

 

「うん…まあ、今は無理だね。あの包囲網を潜り抜ける自信は俺には無いよ。

矢部君、気晴らしにジュース買いに行こうぜ」

 

「了解したでやんす」

 

 

ガララ〜

 

「…何やってるの君ら?」

 

教室の扉を開け一歩廊下に出るや、ズラッと横並びで教室の廊下窓にへばり付いているウチの男子部員達。

 

 

『あっ、キャプテン!』

 

『あいちゃん見に来たんッスけど…』

 

『花園で全く見えないッス!』

 

 

「今は無理だよ。あおいちゃんも捕まってる位だしね。

俺と矢部君ジュース買いに行くんだけど皆はどう?」

 

『ゴチになります!』

 

「いや、奢らないよ!?」

 

 

 

 

 

 

「あーーー!!そうだ!」

 

「な、何でやんすか急に!?」

 

俺は大事な事を思い出し、つい声を張り上げてしまう。

 

そう、野球“部”の正式申請に行かなくては!

 

 

クルッ

 

ドンッ!

 

「きゃあ!」

 

職員室は反対方向。

 

その場で180°回転した好野は真後ろに居た女の子の存在に気付かず吹き飛ばしてしまう。

 

 

「あっ、ご、ゴメン!」

 

「イタタ…」

 

目の前に尻餅を着く少女を見下ろす。

 

「あっ、あおいちゃ…」

 

 

「もう!ちゃんと前向いて歩けよ!」

 

「え?」

 

普段の彼女からは想像もつかない程乱暴な言葉。

 

 

ボコッ!

 

「いたっ!」

 

いきなり鳩尾にボディブローを喰らいその場に蹲ってしまう。

 

あれ?何かデジャヴを感じる…

 

 

「全く…」

 

「もしかして…お姉ちゃんの方でやんすか?」

 

矢部君の問に首を縦に頷く。

 

 

《マジか…》

 

 

男子全員冷や汗を流し固唾を飲む…

 

《絶対に怒らせちゃいけない…》

 

 

 

 

「ど、どうしたでやんす?」

 

恐る恐る矢部が葵に尋ねる。

 

 

「妹が君達と喋って来たら?と言ってくれたから追い掛けて来たんだ。質問はボクがしておくからって言ってくれて」

 

「そ、そうでやんすか…」

 

 

 

 

 

「…ふぅ…」

 

鳩尾を殴られた事による息苦しさが治まって来たので立ち上がる好野。

 

 

 

「ゴホッゴホッ」

 

まだちょっと苦しいな…

 

「あっ…ご、ゴメンね?ちょっとカァーとなっちゃって…」

 

「い、イヤイヤ…周り見ずに走ろうとした俺が悪いんだ…」

 

今度は急にしおらしくなる…

 

つ、疲れる…

 

 

「それよりあいちゃんナイスパンチだったでやんす♪オイラもあおいちゃんとの初日を思い出すでやんす」

 

あっ、デジャヴだと思ったのそれか。

 

そっか…あの日は確か矢部君が殴られてたなぁ…

 

 

 

「うん?眼鏡君…まさか妹に何かした訳じゃ無いよね?」

 

「ご、誤解でやんす!今のあいちゃん達と同じ様にぶつかっただけでやんす!」

 

どうやら矢部君の発言を変な意味で捉えてしまったらしく、また不機嫌になる葵ちゃん。

 

矢部君が慌てて弁解する。

 

 

 

「そう?それなら良いんだけど」

 

 

(ふぅ…なんとかなったでやんす…)

 

 

矢部君が安堵するのが分かる。

 

 

(何て言うか…怒りっぽいというか単純というか…)

 

兎に角感情の起伏が滅茶苦茶激しい。

 

こりゃあ苦労しそうだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば君達は何処に行こうとしてたの?」

 

「あっ…ちょっと自販機にジュース買いに…」

 

「そっか……あ、あのぉ……ぼ、僕も一緒に行っても…良いかな?」

 

 

『!?』

 

目を潤ませ恥ずかしげに尋ねる葵ちゃん。

 

余りのギャップ差に思わずドキッとしてしまい硬直する男子達…

 

 

 

「や、やっぱり駄目…かな?」

 

「いや…その…」

 

 

言葉が詰まる俺…

 

言え…!

 

今此処で言わなきゃ男が廃る!

 

 

「い…」

 

 

「行こうでやんす!」

 

 

ぐはっ!

 

矢部君に先越された!

 

 

「本当?本当に良いの?」

 

「ノープロブレムでやんす♪さあ、こっちでやんす!」

 

 

いつの間にか主導権まで矢部君に取られた…

 

 

そして楽しそうに歩く矢部君達を俺は唯一人ポツンと眺める…

 

 

 

「好野君!早く行かないと授業始まるでやんす!」

 

「あ…うん…」

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

そう言えばさっきから気になる事が…

 

「ねえ、あいちゃ…」

 

「僕の事は“早川”って呼んでって言ったよね?」

 

真面目な顔で言われた…

 

 

(な、何で俺だけ…)

 

 

 

「ただいま」

 

「あっ、お姉ちゃんお帰り!」

 

葵が教室に戻る頃、聞き込み隊は居なくなっていた。

 

自分への質問攻めは全部妹と…

 

 

 

「おはよう、あいちゃん!久しぶり!」

 

あの娘の1番の親友、七瀬はるかが対応してくれた。

 

 

 

 

「は、はるかちゃん…」

 

妹がお世話になった恩人…

 

高校では今日初めての対面となる。

 

 

 

「制服、似合ってますよ」

 

ニコリと笑顔で微笑んでくれるはるかちゃん。

 

「あっ、ありがとう…」

 

 

うわぁ…やっちゃったよ僕…

 

妹だけ考えてはるかちゃんの事すっかり忘れてた…

 

 

 

「ご、ごめん…はるかちゃんの分のジュース…買い忘れちゃった…」

 

葵は申し訳なさそうな顔で一人分のジュースを机に置く。

 

「いえいえ。構いませんから」

 

 

はるかちゃん本当に優しいな…

 

それに引き換え僕は…

 

 

「あおいゴメンね…?気が利かないお姉ちゃんで…」

 

「お姉ちゃん……はぁー…」

 

 

ピン!

 

「いたっ!」

 

鼻ピンされてしまう。

 

「一々気にしない♪ジュースありがとう!」

 

はるかちゃんに一声掛け、妹はジュースのプルタブを開け美味しそうに飲む。

 

 

 

「あっ、もうすぐ授業だから戻るね」

 

「うん!ありがとはるか!」

 

 

 

 

「そう言えば皆と喋れてた?」

 

「う、うん…そのジュース、自販機まで教えてくれて一緒に買ったんだ」

 

「うんうん!その調子だよお姉ちゃん!」

 

 

 

 



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お昼ごはんの悲劇

早弁の誘惑に耐え抜いた戦士達に待ちに待ったお昼休み到来。

 

 

男子生徒達はキャプテンで有る好野のクラスに集まりお昼ごはんを共にする。

 

だが其処で悲劇が起きる…

 

 

 

 

「……」

 

俺は自分の弁当を開けた瞬間言葉を失う…

 

二段弁当の内、1段目は白米が敷き詰められ梅干しが添えられた極一般的な日の丸弁当。

 

そう、此処までは良い…

 

問題は2段目の……本来なら主菜、副菜と色とりどりに配置されるオカズの段に土色をした歪(いびつ)な物体が一品だけ入っているのみ。

 

 

「好野君…何でやんすかそれ?」

 

「……生姜」

 

 

俺のカミングアウトに思わず吹き出しそうになる部員達。

 

だが寸での所で堪える。

 

いやもう…ひと思いに笑ってくれよな…

 

 

 

「そ、それが生姜でやんす?」

 

矢部君が物珍しくジロジロと観察する。

 

確かに普通の家庭なら生の生姜とか先ず見ないからね。

 

『えっ? キャプテン。それどーやって食べるんッスか?』

 

「どーやってって…丸かじりに決まってるだろ?」

 

『いや、初めて見たんで分かん無いッスよ!?』

 

 

まあ…そうだよな普通。

 

普通生姜のイメージって、お寿司屋さんのガリとか摩り下ろして薬味もしくは刻んで生姜焼き、後は牛丼の紅生姜が一般的。

 

 

てか母さん酷いよ…せめて皮は剥いといてくれよな…

 

 

 

 

 

 

「クソッ…!」

 

もう面倒だから“皮”事かぶりつく!

 

 

『∑!?』

 

 

うっ…口いっぱいに生姜の味が…

 

そしてボリボリとした音が辺りに響く。

 

 

「お、美味しいでやんすかソレ…?」

 

「…食べる?」

 

遠慮するでやんす…と、やんわり断れた。

 

 

 

 

「∑うわっ好野君! 何食べてるのそれ!?」

 

「生姜」

 

早川姉妹とはるかちゃんも俺の弁当に目を見開き驚愕する。

 

気付けば周りは食事を済ませており、俺だけが全く箸が進んでいない。

 

 

「ボク…初めてみたよ…」

 

「私も…」

 

 

そりゃそうっしょ。

 

俺も一目で分からなかったもん。

 

 

 

「あっ…ちょちょっとお姉ちゃん部室に案内して来るから!

後ハイ! これお姉ちゃんの入部届!」

 

俺の机の上に入部届を置き、苦笑いで顔を引きつりながらあおいちゃん達女子陣が退室する。

 

 

『キャプテン!ファイッ!』

 

「オイラ達が付いているでやんす!」

 

ありがとう皆…

 

 

 

「いや……あはは」

 

「ストイックな子なんだね。好野君って…」

 

あれが本当の食トレ…

 

僕も男の子に勝つにはあれ位―

 

 

 

 

「それは駄目!!」

 

「えっ!」

 

僕の思考を遮る様にいきなり妹からの指摘の声が入る。

 

 

「お姉ちゃん、絶対に真似しようとしたでしょ?」

 

「うっ…」

 

図星を突かれ、葵は言葉を詰まらす。

 

 

「どうせ“アレ”をメンタルトレーニングか何かだと思ってるんでしょ?」

 

「う、うん…」

 

葵は只首を縦に振るのみ。

 

 

「はぁ……

お姉ちゃん、ボクはあんなお昼ごはん食べるお姉ちゃん見るの、ぜっーーーーたいにヤダだからね!」

 

妹の力強い発言、そして曇り無きパープルカラーの瞳が僕を真っ直ぐ見据える…

 

 

「わ、分かったよあおい…」

 

 

「うん! 素直なお姉ちゃんは大好きだよ♪」

 

僕が了解した事に笑顔が戻る妹。

 

 

 

 

 

「あおい凄い…何で分かったの?」

 

「まあ…なんとなくかな?

てか好野君、お姉ちゃんにあんなゲテモノ料理見せるなんて許せない!」

 

「まあまあ」

 

 

「んぐ……っしゃ!」

 

最後は白飯で流し込む。

 

 

―勝った…!

 

俺はやり遂げたぞ…!

 

 

『カッケーーー! キャプテン!』

 

「男の中の男でやんす!!」

 

部員達から拍手喝采。

 

 

「サンキュー皆!」

 

俺は最高の部員達を見に入れてたぜ!

 

そして家に帰ったら1言、2度とこの最悪のメニューは止めてくれよと言うつもり。

 

 

 

 

 

 



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