俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~【完結済】 (稚拙)
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取扱説明書

 このたびは、原作・ストーリー原案:カプコン様、掲載:ハーメルン様、執筆:稚拙の二次創作小説「俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~」を閲覧いただき、誠にありがとうございます。
 小説本編をご拝読いただく前に、この「取扱説明書」をお読みいただき、正しい使用方法でご愛読ください。なお、この「取扱説明書」は別に大切に保管しなくてもOKです。


 ・登場人物

 

 ジョー

 

 主人公。量産型戦闘用ロボット。ジ〇ンのモビルスーツのようなモノアイ顔。

 元人間だったがトラックに轢かれ転生。

 夢と男のロマンを解するが割とツッコミ体質。

 世界に喧嘩を売ることを趣味とするジジィに目を付けられ、仕方なく……いや割とノリノリで世界征服に付き合うことに。

 しかし事ある毎にジジィを老人ホームにブチ込むことを画策するなど割と常識はある方かもしれない。

 エアーマンタイプにはなりたくない。

 

 ・スナイパージョー

 

 『転生編』『初陣編』の主人公の姿。

 ボディカラーは緑。量産型の定番色。

 左手にエネルギー弾発射バスターを、右手には特殊合金製の盾を装備。

 ロックマンの試作型に当たる『ブルース』の量産型であることは割と有名……かもしれないけど主人公はそんなこと知らん。

 ちなみに左手バスターは変形不可。変にリキむと意図せず発砲する危険物。主人公はこれで3回ほど部屋の外壁を破壊してしまった。

 

 ・帰ってきたスナイパージョー

 

 『立志編』『帰参編』『長兄編』の主人公の姿。

 上記のスナイパージョーからの修理の際、ついでに改造したらしい。

 ボディカラーはオレンジ。量産機からガ〇マ、もしくはミ〇ルかハ〇ネ専用機にグレードアップした。色だけは。

 左手首がちゃんとした五本指の手に変形可能になった。これで私生活も安心。

 二足歩行メカ『スナイパーアーマー』の操縦プログラムがインストールされている。

 ……実は戦闘能力自体は初代から低下しているのは内緒だ。

 

 ・ハンマージョー

 

 『鉄球編』『最期編』『再起編』の主人公の姿。

 ジョー初のフルモデルチェンジ。重装甲化し、シールドシステムを内蔵することでカメラアイ部以外はロックバスターすら弾き返す防御力を得た。

 それに伴って出力もアップ、超重量のハンマーを軽々と振り回すパワーも備えている。

 至れり尽くせりの強化で、性能面・武装面で主人公は絶賛したが、主人公が絶対になりたくなかった『エアーマンタイプ』であるため、ボディ形状には納得していない。それはジジィを老人ホームにブチ込むことを主人公に改めて決意させるきっかけとなった。

 

 ・スケルトンジョー

 

 『骸骨編』の主人公の姿。

 見てくれは動く骨格標本。ついにジジィ大好きなガイコツにされてしまった。腰回り30cm。すーすーするの。デルモもびっくり。

 ハンマージョーの装甲はそのままに、構成パーツの削減によってコストダウンを図った。

 細分化したパーツを磁界によって固着し、その磁界を制御することでボディをマリオネットのように動かしている。攻撃を受けると磁界が解除されバラバラになるが、即座に磁界を再発生させ再合体可能。ビルドアーップ!

 代償として攻撃面は大幅弱体化。骨型ブーメランナイフの投擲のみとなった。じめんタイプ。

 まさに『不死身』だったが、ニューロックバスターの存在を計算に入れていなかった。南無。

 

 ・アパッチジョー/ライダージョー

 

 『対話編』『騎乗編』での主人公の姿。

 スナイパージョー以来の純粋な人型で、特徴が無いのが特長。本体装備の武装も無い。ボディカラーは紫。

 しかしこれは『純人型』という汎用性に目を付けたジジィの策略。様々なマシンに搭乗することで汎用性を追求することにしたとか。決して手抜きではないゾ!……たぶん。

 『騎乗編』前半の『アパッチジョー』は、ジジィ謹製・エネルギー砲を搭載した一人用の攻撃ヘリに搭乗。だが操縦用プログラムはインストールされておらず、ジョーたちは全員、マニュアルから独学で操縦方法を学ぶハメになったため、動きは拙い。案の定ロックマンには軽くあしらわれた。

 『騎乗編』後半の『ライダージョー』は、水質管理局の警備用水上バイクに搭乗。こちらは主人公が前世でバイク乗りだったこととバイクがジジィ製ではなかったためすぐさま馴染んだ。ノリのいい同型機(兄弟)たちと、ジョー史上初の集団戦術でロックマンを追い込んだが、無双され部隊は壊滅。『V』よりも耐久力が低いのが仇になったのかもしれない。

 

 ・クリスタルジョー

 

 『水晶編』での主人公の姿。

 ナンバーズロボットに近いプロポーションとまぶしい純白のボディカラーが主人公の琴線に触れたらしい。

 クリスタルマンと共通のパーツが多く使われているため、スペックはクリスタルマンの9割にも達する、高性能な少数生産機である。

 熱水法によって人工水晶を精製することが可能で、ジジィはこれを使って資金を荒稼ぎしていた。また水晶生成時には排熱を利用したエネルギーフィールドが展開されるため、防御能力も高い。

 過去最高ともいえるハイスペックを以ってロックマンに挑んだが……

 

 ・キャノンジョー

 

 『風雲編』『砲撃編』『新顔編』での主人公の姿。

 実は見た目とスペックはライダージョーおよびアパッチジョーと全く同じ。

 というか乗り物が単純に違うだけ。今回の乗り物は旋回式固定砲台である。

 本来は潜水艦用の砲台だが、どこにでも設置可能な手軽さがウリ。

 しかし無敵時間も無い、移動もできないとジョーシリーズの長所を完全に殺してしまっており、正直ジョーじゃなくてもいいじゃん、という本末転倒な姿。

 案の定ロックマンには過去最速と云える瞬殺を喫した。もはや豪華な老人ホーム探しや春闘どころではない。

 

 ・スナイパージョー01(ゼロワン)

 

 『回帰編』での主人公の姿。

 今までのジョーシリーズの設計と実戦データ、そしてロックマンの戦闘データやナンバーズロボットの設計データを統合して煮詰め直し、ジョーシリーズの原点たるスナイパージョーにフィードバック、再設計して開発した、ジョーシリーズの集大成。

 ボディカラーはライトグリーンをベースにホワイトやイエローを差し色として使っており、ヒーローめいた外見となっている。また、シールドにも鷲型のマークが描かれて豪華になっている。

 武装は初代同様のバスターとシールドだが、性能は大幅に向上している。

 

 ・トラックジョー

 

 『野郎編』『0点・家出編』での主人公の姿。

 キャノンジョーの無個性ボディだが、今回はトラックを魔改造したトゲ付き殺人トラックに搭乗。

 血が騒いだのか頭にタオルを巻き、口調も世紀末っぽくなってしまった。しかも無免許運転だから始末が悪い。よいこはまねしないように。

 トラックの装甲は意外に厚く、ロックマンのあらゆる攻撃を受け付けない。

 

 ・ジョー・クラシック

 

 『復刻編』『叛逆編』『呉越同舟編』『刻命編』での主人公の姿。

 外見は初代スナイパージョーに全くの瓜二つの、ジジィ曰く『期間限定復刻モデル』。

 しかし古いのは外見だけで、性能そのものは前回の『01』を上回るジョー史上最高水準である。

 武装はバスターとシールドに加え、シールドの裏側にマウント可能な手榴弾を3発携行、切り札として用いる。

 

 ・マシンガンジョー

 

 『乱射編』での主人公の姿。

 ボディカラーに満を持して『赤』が採用されたが、別に通常の3倍で動けたりツノがついてたりはしない。

 フォルテのバスターを参考にしたチューンが施されたマシンガンバスターを装備、弾幕を張ってロックマンを寄せ付けない戦法を取る。なお、シールドは健在だが手榴弾はオミットされた。

 

 ・帰ってきたマシンガンジョー

 

 『感染編』『三英雄編』『歯車編』での主人公の姿。

 見た目はマシンガンジョーと全く変わらない。カラーリングは主人公ジョー以下のワクチン製造機奪還部隊所属機が緑、ワイリー基地守備隊所属機が薄紫となっている。カラーリングによる性能の差違はない。

 ハードウェアに変更はなく、対ロボットエンザ用ワクチンプログラムをプリインストールされているのみのマイナーチェンジに留まっている。

 今回は利害が一致しているため、ニトロマンステージにいるジョーたちは実は全員ロックマンの味方。しかし情報伝達の不備により主人公を除いて全滅した。

 みんなはニトロマンステージのジョーにはやさしくしてあげよう。

 

 ・スナイパージョー(11Ver.)

 

 『誘爆編』『最終防衛編』での主人公の姿。現状、最新のジョーである。

 今回はあえてジジィが命名しなかったため、とりあえずは『スナイパージョー』ということにしている。

 マシンガン機能も削除され、まさしく原点回帰となった。一応両手は『帰ってきた~』同様に使える。

 密かにジャンプショットが使えるようになっている。

 

 ・この他にも、本作オリジナルのジョーが登場……!?

 

 Dr.ワイリー(アルバート・W・ワイリー)

 

 通称ジジィ。

 現代世界とライトへの反骨心からいい年こいて世界に喧嘩を売った、バイタリティ溢れるメカフェチジジィ。

 往生際が悪く、老人ホームに入れられることを嫌う。なんだかんだで話し相手が欲しい。

 趣味は世界征服と『実家』の設計・建築。あと卓球。特技はジャンピング土下座。

 

 『実家』

 

 いわゆるワイリー基地。主人公はこう呼んでいる。

 ドクロマークがデカデカと飾られ、得体の知れんアンテナやビーム砲らしきものが無駄にくっつけられた素晴らしき違法建築物。

 しかし大抵ロックマンに壊され更地にされる。だが大抵1年以内に別のどこかに次の実家が建てられる。

 ちなみに最初の実家にはドクロマークが無かったことはあまり知られていない。

 

 ロックマン

 

 通称青パン小僧、青タイツ、パンツマン等々。

 Dr.ライトが作った正義のスーパーロボット。

 しかし主人公のジョーには珍妙な姿をしたガキンチョにしか見えない。

 毎度毎度主人公のジョーの下半身のみを破壊して見逃していく。

 

 ブルース

 

 通称長兄。『長兄編』から登場。

 ジジィとオソロのグラサンでキメた謎のロボット。

 まとっている雰囲気が明らかにヤバい。そんなヤバいロボットが何故実家に出入りしているのかは今のところやはり謎。

 ジョーのプロトタイプにあたるロボットでもある。

 

 ピッケルマン

 

 メットールに人型ボディをくっつけた工事現場作業用ロボット。『最期編』に登場。

 ジジィの三度目の喧嘩では整地作業用マシンに乗った『ピッケルマン・ブル』として登場。

 とある理由で失神昏倒したジョーを『実家』まで運んでくれたいいロボ。

 しかしジョーは最初彼の存在を完全に忘れていた。不憫。

 

 Dr.ライト(トーマス・ライト)

 

 通称じーさん。『対話編』で本編初登場。

 青パン小僧ことロックマンの生みの親。サンタさんにそっくり。

 ジジィの決意を正面から受け止め、ロックマンを通してジジィと殴り合う正義のロボット博士。

 ロックマンシリーズはじーさんVSジジィの代理戦争から始まった。そういう意味ではこの後のX、ゼロ、ゼクス、DASHまで続く『ロックマン』たちのバトルの元凶と言えなくも無かったりする。

 大学時代、自炊していたらしい。ドラえもんと鉄腕アトムの愛読者だったが、じーさんがドラえもん派でジジィがアトム派だったことがその後の運命を分けた。

 趣味は他人にまんまと騙されることと『暗殺拳を源流とする格闘術』の修行。あとゲーム。

 

 フォルテ

 

 通称最強バカ一代。略してバカ一(バカイチ)。『風雲編』で顔見世し、『新顔編』から本格参戦。

 ロックマンの戦闘データを元にジジィが総力を結集して開発した『悪のロックマン』。

 ジジィが『最強のロボットを造る』ことに執念を燃やしながら造ったから刷り込まれてしまった故か、寝ても覚めても『ロックマンを倒して最強になる』ことしか頭になく、どんな些細な話題でもロックマンを倒すだの、最強がどうたらこうたら……という話に持っていこうとする愛すべきバカ。

 

 ゴスペル

 

 通称ロボワンコ、ゴッスィー。『新顔編』から登場。

 フォルテのサポートのために開発された。劇中でワンコと呼ばれて犬扱いされているが実は『狼型』というのはナイショだ。

 主人公のテクにアッサリ陥落、フォルテ以上に主人公に懐くようになってしまった。こっちもこっちで愛すべき駄犬。

 『ナンバーズロボットよりも強い』という裏設定が活かされるのは何時になるのやら。

 

 デューオ

 

 通称豪腕宇宙ロボ。『復刻編』でちょろっと触れている。

 宇宙から降ってきた悪は絶対に滅ぼすいけませんロボ。

 地球に蔓延る『悪』を求めてジジィの前線基地で大暴れした。

 なぜ『いけません』なのか疑問を持ったら、ありがひとし先生著『ロックマンマニアックス』を読んでみよう。




 ・使用上の注意

 大まかなストーリー展開はカプコン様の原作ゲームに準拠しておりますが、所々に独自の設定や、池原しげと先生や出月こーじ先生執筆の各作品のコミカライズ版、ありがひとし先生著の『ロックマンメガミックス』『ロックマンギガミックス』に準拠した描写、またゲームではありえない描写もありますのでご了承くださいませ。
 その都度注釈にて補完いたしますが、もしご不明な点がございましたら、感想欄にお気軽にお寄せくださいませ。


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ジジィ起つ!!の巻
転生編


 急にロックマン書きたくなって書き始めちゃいました。
 スパッと読了できる、簡素な小説にするつもりです。


 俺の名はジョー。

 量産型の戦闘用ロボットだ。

 

 ―――という前置きはともかく、こう見えても俺、ちょっと前まではフツーの大学生だったんよ?いやホント。

 ところがある日、下宿先への帰り道でトラックに轢かれちまって、気づいたら緑のボディのジ○ンのモビルスーツみてぇなモノアイが眩しいステキフェイスになっちまってたってワケ。最近食傷気味の『転生』ってヤツだ。

 まったく同じ顔の同型機(兄弟)たちが何人もいるってのも気持ち悪いんだが、何故か違和感は感じん。ま、量産型らしいし。

 

 やることも無く数日が過ぎたある日、同型機(兄弟)に連れられてやってきたのはだだっ広いホールのような場所。そこには同型機(兄弟)だけではなく、人型のみならず非人間型の同類(ロボット)たちがやんややんやとひしめいていた。……つーか、ココってこんな大所帯だったのか。

 その中央のひな壇に、何やら怪しげな風貌のじーさんが立った。側頭部だけトゲトゲした白髪、頭頂部は見事にハゲ上がって、照明を反射してミラーボールみたく眩しく輝いていた。白衣を羽織ってグラサンを掛け、ドクロ柄のネクタイを締めた、『いかにも』なじーさんが、拡声器を手にまくしたてる。

 

「我が愛しいロボットの諸君!苦節ウン十年……ついにこの日を迎えることができた!今日、この時より!ワシの悲願、ワシの大願となる計画をここに始動する!!」

 

 じーさんは拡声器を放り投げ捨てると、肉声で絶叫した。

 

「世界征服じゃーーーーーーーーぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 瞬間、俺の周りの同類(ロボット)たちが大いに湧き立ち、「世界征服!世界征服!!」とシュプレヒコールを上げる。

 正直―――俺はこの状況にヒいた。

 え?ナニソレ?マジで言ってんの?

 今時、アニメやゲームのワルでも単純に世界征服なんて言って実行しようとする奴いねーぜ?『人類の救済』うんぬんとか、『世界の再生』とか、『宇宙に平和を』とか、常人には理解できねーハタ迷惑なお題目掲げるのがお約束よ?それがなんの前振りも無しに世界征服?ノリだけで生きてんのこのじーさん?見た目通りのファンキーな人生送ってきたの?

 俺―――もしかしなくても、トンでもねぇブラック企業に『就職』しちまったんじゃねーか……?

 隣に立ち、この状況に大いに興奮していた同型機(兄弟)に、俺は思わず問いかけた。

 

「……なぁ兄弟」

「ん?なんだ?」

 

 

「………………あのジジィ……………………大丈夫か?」

 

 

 

 20XX年 アルバート・W・ワイリー(Dr.ワイリー)による世界征服計画発動

 世界中で作業用・工業用ロボットが暴走、破壊活動を開始



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初陣編

 俺の名はジョー。

 

 わけのわからんまま『世界征服』っつー壮大かつノリで考えついたよーな企画をぶち上げ、全世界にケンカを売ったファンキージジィ―――名前は『アルバート・W・ワイリー』というらしい―――に死ぬまで付き合わされる運命を背負っちまった俺ことスナイパージョーは、なんやかんやの間に空中都市へと連れてこられてきてしまった。

 

 なんでもジジィはこの世界でも有名な科学者だとか。それもマッドな方向で。自分の研究が世間に受け入れられんから、癇癪起こしてこんなこと始めちまったらしい。

 

 迷惑すぎる。

 

 そして郊外に構えた自分の『実家』でロボットを山ほど作りまくって、でもって別の人が作ったロボットまでも誘拐して改造してるんだから始末に負えん。誰かこのジジィ止めてくれ。

 

 ……で、止める奴が出てきてくれた。

 名前は『ロックマン』。さっき言った『別の人』が作った戦闘用のロボット。そいつは我らが『ジジィ軍』が占拠していた6つの拠点のうち、すでに5つをぶっ壊し、もうこの空中都市に向かってきてるとか。

 

 早。

 

「ロックマンが来たぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 さて、ついにお出ましか。こんなにも爆速攻略してきたロケンローなメンがいったいどんなヤツなのか、御尊顔を拝んでみようじゃないか。ガン〇ムヘビーアームズみてーな全身武装のヤベーやつだったらどーしよーとか嫌な予感がよぎったけど、実際に現れたヤツは―――

 

「そこをどくんだ!ワイリーのロボット!!」

 

 珍妙なカッコをしたガキンチョだった。

 水色のタイツに青いメットとパンツの……何、この……なんだ……??

 

「……お前がロックマンか?」

「そうだ!僕はDr.ワイリーに操られているボンバーマン*1を止めなきゃいけないんだ!」

「…………そのカッコ……ハズくね?」

「何を言ってるかわからないけど、行くぞ、ワイリーのロボット!」

 

 ガキンチョは右手をバスターに変形させ、弾を撃ってきた。

 

「おっと!」

 

 危ねぇ。ここに来る途中で渡された盾が無けりゃ即死だった……

 

「ロックバスターが効かない!?」

「あ~……それなら帰った方がよくね?ほら、ジジィの実家はここから近いし……」

「ワイリーの基地が近いのか!だったらなおさら退くわけにはいかない!」

「いや、ちょっと!?」

 

 思わず左手を前に出してしまった。すると左手からエネルギー弾が出た。つーかこの左手不便すぎだろ!?手首から先が無ぇし、変に力んだだけでタマが出てくるし!?今見たロックマンみたく変形できりゃ便利が―――

 

「いまだ!」

 

 気が付くと、腹に連続で弾を叩き込まれ、下半身が丸ごと吹っ飛んだ。

 あ、グロっぽいけど痛覚は無いしロボだしなんとか生きてるから。

 

「急がないと……!待ってて、ボンバーマン!」

 

 青パン小僧は俺のことなど眼中に入れず、さっさと先を急いで行ってしまった。……だよなぁ、俺、ザコだし。ザ○にも似てるし。

 ……あ~あ、どーするよ、コレ。

 所詮量産型、○クはガン○ムに勝てねーってコトか……

 

「!大丈夫か、兄弟!?」

 

 五体満足な同型機(兄弟)が、俺に駆け寄ってきて、負ぶってくれた。

 

「ああ……すまねぇ……なんなんだよあのパンツ小僧……強すぎんだろ……」

「ここが陥ちるのも時間の問題だ……どうにかして、ワイリー様の基地に帰るぞ」

 

 ほどなく、大きな爆発音が響いたと思うと、『青い細長い棒』がまっすぐ、天へと昇って行くのが見えた。終わったらしい……

 

 数日後、俺達の『実家』にたどりついたときには、最初から何も無かったかのような、見事なまでの更地になっていた。どーやらジジィは成敗されたらしい。

 

 南無。

 

 だが、帰還信号が引き続き出てるってことは、どこぞに二棟目の『実家』があるんだろう。やれやれ、とりあえず帰るところはありそうだ。

 

 ―――ジジィ、懲りてねぇな。

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる世界征服計画、ロックマンによって頓挫。作業用・工業用ロボットの暴走停止。

 Dr.ワイリー、消息を絶つ

*1
型式番号:DRN.006。岩盤破壊作業用ロボット。採石場等で発破作業を行っているロボットで、他にも不要建造物の爆破解体、果ては花火製作や花火大会のプロデュースなど、あらゆる爆発物に関わる作業に精通している。仲間思いの性格で、ライトナンバーズの中で最も友情に篤い。その用途上、ガッツマンとは職場が一緒になることが多く、よくコンビを組んでいる。体内で自動製造する大型時限爆弾『ハイパーボム』が特殊武器。ワイリーの第一次世界征服計画の際は、ワイリーに進んで悪事を働くよう促すプログラムを組み込まれ、空中都市を占拠、要塞化した。蛇足だが、ハドソン(現・コナミ)の有名キャラクターとは名前が同じだけの別物。ロックマンに登場するのは『BOMBMAN』、あちらは『BOMBERMAN』である。



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ジジィの謎の巻
立志編


 俺の名はジョー。

 

 ……てなわけでジジィが世界様にふっかけた喧嘩は見事なまでのボロ負けに終わったわけだが、たった一度の失敗で懲りるほど素直じゃなかったらしい。

 ま、年寄りだし、脳味噌カッチカチの石頭だろーし。そもそも素直なら世界征服なんざ企画しねーだろーし。

 今度の『実家』はなんともまぁ趣味的な……ドクロつけちゃってまぁ……いかにもな悪の秘密結社の基地建てちゃったよあのジジィ。つーかどこから出したんだ、その金。

 

 その二棟目の『実家』にたどり着いた俺は即修理室送りにされ、わりとあっさり下半身が復活した。うん、やっぱ歩けるのはイイ。

 とはいえ……どーしたもんか。このまま自宅警備してても、どーせあのパンツマンに実家ブッ壊されて追い出されるのがオチだろーし、早々に転職考えた方がいいのは目に見えてる。

 でも左手バスターだし、こんな危険物……てゆーか兵器そのものを常時携帯してるロボットを雇ってくれる会社なんてあるんだろーか……

 

「転職……出来そうにねーなー……」

 

 ふと、廊下を歩きながら呟いたのがいけなかったのかもしれん。

 

「ほぅ……そこの貴様、ただのスナイパージョーではないようじゃのう……」

 

 こ、この声は……

 おそるおそる、俺は振り向いた。

 そこにいたのは―――

 

「ジ……ジジィ!?」

「しかもワシにそのような口が利けるとは……簡素なAIしか積んどらん割に口が回りおる……」

「いやその俺は別に……」

「貴様……いやお前さん……何者じゃ?」

 

 ……全部ゲロりましたとも、ハイ。

 でもフツーこんな話信じねーだろーな。そう思っていたのだが。

 

「そうかそうか!元々人間だったが生まれ変わってスナイパージョーか!!畜生道に落ちた先がザコロボットとはケッサクじゃなぁ!!ワッハッハッハッハッ!!!」

「笑い事じゃねーよ!!誰が好き好んでこんなあからさまなヤラレ役A的なモノアイ顔にしてくれって頼んだ!?せめてエレキマン*1やクイックマン*2ばりのイケメンにだな―――」

「そりゃ無理じゃ」

「メタルマン*3っぽいシャープな覆面でも可だが?」

「エアーマンタイプ*4なら出来なくはないぞ?」

「腹に換気扇なんざ仕込まれたかねぇ」

 

 そんな感じで、ついジジィと話し込んでいる内、やがてジジィは身の上話を語り出した。やはり年寄り、話し相手が欲しかったんだなぁ、うんうん。

 なんでも、パンツ小僧ことロックマンや、前回の喧嘩で使うためにパクったロボットを造った『ライト』っていうサンタクロースみてぇなじーさんに、功績やらなんやらかんやら、ほとんどかっぱらわれてしまったとかで、ライトを見返し、ついでに自分を認めようとしない人間社会も見返すために、世界征服を思い立ったらしい。

 

「ライトのヤツ、ワシの趣味の卓球でも上を行きおって……アイツさえいなければ……!!」

「とりあえず殺人に走らなかっただけ、分別があるようで安心したぜ。同じ分野の『ロボット』でライトや世界に喧嘩売ろうって気概……アンタ、ノリで生きてるファンキージジィじゃなかったんだな」

「うるさいわい……フ、いつの間にか語ってしまったのう……半信半疑じゃが、ワシャ嬉しいのかもしれん」

「どーゆーこった?」

「付喪神って知っとるか?本来魂が宿らぬモノに魂……心が宿るという日本の妖怪じゃ……マユツバものじゃったが、こうして目の前にいると、な……そして畜生道の受け入れ先にワシのロボットが選ばれたというのものう……」

「ビミョーに違ってる気もするけどな。ま、地獄の先が悪の組織の下っ端ってのも皮肉が効いてるが」

 

 ジジィにとっては感慨深いと思うが、一つ問題がある。

 

「……で、俺どーなるの?こんなケースめったに……ってかまず無いぜ?電子頭脳(のーみそ)開けて調べてみるか?マッドサイエンティストのジジィならいかにもやりそうなことだが」

「アホか。そんなことやらんわい。むしろお前さんには生きていてもらわんと困る」

「ほぉ、ワルにしちゃ博愛主義者なんだな」

「違わい。お前さんには『ジョーの可能性』を最前線で追求してもらうことになる」

「……そりゃどういう意味だ」

 

 ジジィはニヤリと笑んだ。

 

「お前さんはワシの()()()()じゃよ……!これから先、スナイパージョーを素体とした改造プランが山ほどあるからのう。お前さんはテストベッドとして、率先して改造してやろう……使いまくって使い倒し、ワシの野望達成の肥やしになってもらう……どうじゃ?怖いじゃろ?元人間のお前さんにはキツいじゃろ?ま、精々ジョーに生まれ変わった己の不運を呪うんじゃな、ガッハッハッハッハッハッ!!」

「………………………………」

 

 このジジィ、最高にノッてやがる。アッチ方面に振り切れちまってる。しかも、明らかに俺をビビらせようとしてる。でもよ―――

 

「…………上等だ」

「む?」

「こちとら一回死んでんだ……この間も死にかけたけど何とか生きてる……何の因果かゲットしちまった金属(メタル)のボディ……いっそ、夢とロマンに賭けてみるのもアリかもな」

「なんじゃと?」

「アンタがそのトシで世界獲ろうってんだ。そのバイタリティと反骨心に素直に敬服する……『ロボット』で『ロボット』に勝とうってんだ、何ら理屈は曲がっちゃねぇしな」

「お前さん……」

「アンタに徹底的にこき使われてやるぜ……!アンタが大願成就して未練残さず大往生できるように、手も体も貸してやんよ!!」

 

 ―――ガシッ!

 

 固く握手を交わす俺とジジィ。

 ここに、奇妙な同盟は成った。

 

 

「では早速電子頭脳をイジるとするかの♪」

「……妙なマネしたら即刻近所の老人ホームにブチ込むからな……」

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第二次世界征服計画発動

 ワイリー傘下のロボット軍団、8ヶ所の都市を占拠、破壊活動を開始

*1
型式番号:DRN.008。ライト製の原子力発電電圧制御作業用ロボット。ミスの許されない重要な業務をこなさなければならないため、正確かつ迅速な判断を下すことができる優秀な電子頭脳と、その判断を即座に行動として実現可能な機動力を併せ持ち、当時ライトが製作したロボットの中では最高傑作とも呼ぶべき完成度を誇った。冷静沈着な性格で、イザというときには非常に頼りになる。元々攻撃用の機能は持っていなかったが、ワイリーによって拉致・改造された際に小型高周波発電機を組み込まれ、そこから励起される電磁界によって周囲の静電気をプラズマ化して集束、指向させて発射する特殊武器『サンダービーム』が使用可能になった。第一次世界征服計画の際は、都市発電用タワーを占拠していた。仕事の合間にギターを嗜んでおり、休日は駅前や商店街で弾き語りライブをしている姿がしばしば目撃されている。

*2
型式番号:DWN.012。ワイリー製の高速戦闘用ロボット。『時間を制する』というテーマに対するワイリーのアプローチとして、『自らが光速に近づく』という解答の元、エレキマンのデータを参考に製作した。なお、その字面の通り『時間を制する』ことに対しては、兄弟機として時間制御戦闘ロボット『フラッシュマン』を製作して解答としている。クイックマンは自身の主観時間を増大させる、いわゆる『加速装置』を搭載しており、他のロボットの2~4倍という超スピードで行動することが可能。冷静な性格で、正々堂々の勝負を好む、身も心もワイリーナンバーズとは思えぬほどのイケメン。特殊武器の『クイックブーメラン』は、中距離をカバーする小型カッターであり、ロックマンの行動範囲を狭める牽制の役割を担う。

*3
型式番号:DWN.009。ワイリー製の高機動戦闘用ロボット。カットマンのデータを参考に設計、製作された、ワイリーが独力で開発した戦闘用ロボット『ワイリーナンバーズ』の記念すべき初号機。緻密に設計されたボディの重量バランスと高精度ジャイロスコープにより、不安定な足場でも安定した戦闘が可能。しかし軽量化の弊害故に耐久性能に難があり、後のワイリーの分析によって、圧縮太陽エネルギーへの耐久能力が劣悪であった……すなわち『ロックバスターに弱い』という欠陥があったことが判明している。その姿を見たライトが『あれじゃ未来の歯医者さんだよ』と述べたのはあまりにも有名。当然ワイリーは憤慨した。特殊武器『メタルブレード』はローリングカッターを参考にしたセラミカルチタン製の回転鋸型円盤。ローリングカッターと異なり回収することを前提としておらず、フリスビーのように投擲して使用する。

*4
その名の通り、エアーマンを第1号機とするロボット群。純粋な人型ではなく、頭と胴体が一体化した独特な外見をしているロボットのこと。これはワイリーが心理学から導き出したデザインであり、純粋な人型よりも相手に対して威圧感と恐怖感を与える。また、必然的に通常の人型よりもずんぐりとした寸胴型の体形になり、ボディ強度を確保できることから耐久性能が高くなるという実用的な利点も併せ持つ。エアーマンの後にも、ワイリーはニードルマン、ナパームマン、クラウドマン、アクアマンを開発。非ワイリー製でもトードマン、ブリザードマン、コールドマン、マグママン、ストライクマンなどが開発されていて、エアーマン以後はロボット工学界のデザイントレンドに採り入れられたようである。



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帰参編

 俺の名はジョー。

 

 さて晴れて悪の科学者Dr.ジジィと血の盟約を交わし、悪の尖兵となって『世界征服』という前人未到、人類史上初の『愚挙』へと邁進することとなった俺だが、ジジィは早速俺を別の部屋に案内した。

 

「実はさっき修理した時にな、新たなシステムをお前さんに組み込んでおいた。左手に意識を集中してみろ」

 

 言われたとおりにやってみると、ジャキッ!と、今まで兵器だった左手首から見慣れた、いや御無沙汰だったモノが出てきた。

 

「おぉ手!手じゃねーか!いやぁ今まで不便してたんだよなぁ。狭い場所に挟まったモノ取るのに大変だったし、変に力んだだけで弾が出て部屋ブッ壊しちまうし―――」

「お前さんの私生活のために改造したワケじゃないわい。これから先の作戦のためには、両手が満足に使えんと話にならんからのう♪」

 

 ジジィは壁のレバーを下ろした。仰々しい音を立てて照明が点灯する。そこには。

 

「をっ!?」

 

 二足歩行の大型メカが、整然と並び立っていた。

 

「ライトからかっぱらった設計図を元に量産した『スナイパーアーマー』じゃ!ロックマンのバスター1発2発じゃビクともせんタフさと攻撃力を兼ね備えた万能メカ!!コイツを操縦するためには両手が使えんといかんからのう」

「アンタまた窃盗罪追加されたぞ……それで両手が使えるようにしたのか……あ、でも操縦方法わかんねーけど」

「そこはもう電子頭脳にインストール済み、手足同然にコイツを扱えようぞ。それと『旧型』と区別出来るように色も変えたぞ」

「お、そーいやオレンジになってるな。量産機がガ○マかミゲ○かハ○ネ専用機になった感じだな。一足くたにシ○ア専用の赤にしなかったのは俺としてもありがてぇ。重圧がパねぇ」

「何言っとるかよくわからんが、お前さんはタダのスナイパージョーじゃないぞ。今日からお前さんは『帰ってきたスナイパージョー』じゃ!!」

「ウ○トラマンじゃあるまいし……ネーミングなんとかならねー?どーせなら『スペリオルジョー』とか『真・スナイパージョー』とか」

「お前さんもどっこいどっこいじゃろ」

 

 かくして『帰ってきたスナイパージョー』としてパワーアップを遂げた俺は、ジジィが挑む世界へのリターンマッチに付き合うこととなった。

 ……ん?両手が使えるようになったこと以外、俺自体はパワーアップしてなくね?まぁ気のせいってことにしとこう。

 転んでもタダでは起きんとばかりに、ジジィはライトのロボのデータを基に8体の戦闘用ロボットをいつの間にやら開発、他にもかっぱらってきた作業用ロボットをいじったりして戦力を展開、8ヶ所の都市を占拠してド派手にやらかし始めた。前回と比べて2体多いな。ジジィの本気度がわかる。

 

 さて俺はというと、地下水道に配備された。生活用水を全部熱湯に変えて、市民生活をマヒさせる作戦だとか。

 

 エグい。

 

 俺なら即座に音を上げて平伏す作戦だ。水飲めねぇとかありえねー。非人道的すぎる。無慈悲すぎる。よし、やっぱコレ終わったらジジィを老人ホームにブチ込もう。世のためだ。許せジジィ。

 

「ロックマン発見!!てめーら丁重に()()()()()してやれぇ!!」

「ヒャッハーロックマンだぁぁぁ!!」

 

 ノリがいいなこいつら。たぶん核戦争後の世紀末でもやってける。胸に七つの傷があるゲジマユ救世主に遭遇しなければの話だが。

 今回の俺の配置は何とボスのヒートマン*1の部屋の3つ前、それも俺が突破されたら後はヒートマンだけという大役だ。しかも同型機(兄弟)はひとりもいない。この基地のジョーは俺ひとりだけだ。なんでもフラッシュマン*2やクイックマンの基地に重点的に回されてるらしい。

 ジジィめ……基地間格差ありすぎなんだよ。

 あからさまにクイックマン基地優遇しすぎだろ。なんだあのマヌケな音を出す連続レーザー地帯。余裕で死ねる。つーか全部の基地に付けときゃロックマンも余裕で瞬s―――

 ……などと頭の中でグチってると、この部屋の反対側の天井のハシゴをわっせわっせと降りてくる全身青タイツのガキンチョが見えた。

 ジジィの宿敵、リングイン。

 

「これは……ライト博士が設計してたはずの……!?どうしてワイリーのロボットが使ってるんだ!?」

「あ~……そりゃスマン。ウチのジジィが借りパクした」

「なんてことだ……許さないぞ、Dr.ワイリー!」

 

 青パン小僧は怒りのバスターを発射するも、5、6発撃ち込まれた程度じゃビクともしない。前評判通りのタフさじゃないか。

 

「こっちもジジィに天下獲らせるって言った手前、壊された同類(ロボット)の修理代ぐらいはてめーのジャンクパーツで賄わせてもらうぜ!!」

 

 などとビミョーに三下感が滲み出るセリフをのたまった俺は、操縦レバーのボタンを押した。バルカン砲が吼え、連続で着弾する。

 

「く、僕は負けるわけにはいかないんだ!世界の平和のために!!」

 

 お決まりのヒーロー定型句を叫んだパンツマンは、弾幕をかいくぐりながらバスターを撃つ。でもコイツに豆鉄砲は―――

 

 ―――ドカーン!!

 

 通用した。スナイパーアーマー、爆発四散。俺は咄嗟に機体を捨てて着地する。

 

「うわ案外呆気ねぇ!?」

「残るはお前だけだ!」

「こーなりゃ仕方ねぇ、かかって来いやパンツ―――」

 

 言いながらバスターを構えて撃ったその瞬間、また腹に弾を叩き込まれていた。

 

「んご!」

 

 下半身にサヨナラバイバイ、これで二度目。

 おい……俺はもしかしてジョーの皮かぶったクレイジーレイジー*3じゃねーのか?下半身分離して殴るアイツ―――

 

「よし、先を急ぐぞ!」

 

 青パンは残された俺をスルーし、俺の背後の床にあったハシゴから更に下へと降りていった。

 そして程なくして―――

 

「ぐわーっ!!」

 

 ―――ティウンティウンティウンティウン

 

 ヒートマンの叫びと爆発音がこだました。

 

 ―――――――――

 

 やがて俺は、駆け付けた救助隊の同型機(兄弟)に発見され、『実家』へと運ばれることになったが―――

 

 ―――ドゴゴゴゴーーーーン!!!

 

 今回は俺達生き残りの目の前で、『実家』が大破炎上大爆発。

 轟音とともに崩れ落ちる悪の大要塞……アニメの最終回やん。

 

「あぁ……帰る場所が!!」

「おのれロックマンめ……ロックマンめぇぇぇ……!!」

 

 俺以外の敗残兵連中は心の底から悔しがるも、俺は割と平常心だった。

 ま、同型機(兄弟)たちとオイル飲み交わしながら何ヶ月か過ごした場所だし、愛着が無かった訳じゃないが。

 

 ―――さて、ジジィ。

 

 アンタ、まだ諦めてないんだろ?

 

 

 

 

 ―――ジジィが逮捕されたのを知ったのは、その一週間後のことだった。

 

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第二次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 一週間後、Dr.ワイリー逮捕

 裁判で禁固2000年の刑が言い渡され、重犯罪者専用刑務所地下100mの特別重監獄へと収監

*1
型式番号:DWN.015。ワイリー製の火炎放射戦闘用ロボット。ファイヤーマンのデータを参考に、戦闘に特化して再設計して製作された。ジッポーライターを模したボディは耐火・耐熱性能を重視されており、自ら発生させた炎をボディに纏い、脚部のブラスタージェットで単独飛行するという曲芸じみた技も可能。これらの超高熱火炎の源である特殊武器『アトミックファイヤー』は、実は『炎』ではなく、1万2千度の超高温まで熱圧縮された空気……すなわち『プラズマ』である。磁場発生装置を用いてプラズマ化した空気を操ることで、プラズマの低温現象である『炎』をも自在に操れる、という仕組みである。なお、原子力とは関係ない。恐るべき火力を誇る彼だが、本人は至ってマイペースで熱意が無くのんきな性格。スペックとはまったく正反対のこの性格に、ワイリーも呆れを通り越して苦笑いしていた模様。ちなみにあまり知られていないのだが、背中に火力調節ダイヤルがあり、非戦闘時はちょっとしたチャッ〇マン代わりに火をつける、なんてこともできる模様。

*2
型式番号:DWN.014。ワイリー製の時間制御戦闘用ロボット。ワイリーが『時間を制する』という命題に挑み、独力で完成にこぎつけた傑作。相対性理論における光速不変の原理を利用し、光の速度を操る事で自分以外の主観時間を無限に引き延ばす……すなわち『時間を止める』ことが可能。しかしこの特殊武器『タイムストッパー』には限界があり、フラッシュマンの主観時間で長くとも20秒程度しか時間停止は出来ず、次の使用には一定時間のインターバルが必要となる。このタイムストッパー自体に攻撃力は無いため、ショットガンタイプのバスターを装備。その他閃光投射装置を全身に内蔵しており、これらを併用したゲリラ戦法を得意とする。戦闘では非情かつ狡猾な面を見せるが、普段は部下のロボットたちに優しく、面倒見がいい性格。カメラに凝っていて、よく他のナンバーズや部下たちを撮影して楽しんでいる。裏ではタイムストッパーをノゾキに悪用しているという噂も立っているとかいないとか。

*3
都市部から郊外まで広く普及している都市型ガードマンロボット。上半身と下半身の接合が甘くすぐに分離してしまうが、上半身は下半身を失ってもそのまま稼働可能。近年になって強い衝撃によって暴走するという欠陥が見つかるも、メーカーがすでに倒産しているためリコールも行われず、そのまま配備されている。



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ジジィの最期!?の巻
長兄編


 俺の名はジョー。

 

 ……って、ジジィ捕まっちったよ!!(慌

 おいジジィに改造させてやるって言ったハナから“ジジィの野望・完”かよ!?壮大に正体ゲロった俺の立場は何なんだ!?これから先の俺の生活はどーなる!?つーか吹っ飛ばされた下半身もどーなる!?

 

 ……と思ったけど、下半身は俺の同型機(兄弟)がジャンクパーツを見つけてきて、ちょっと不格好ではあるが応急修理ができた。歩くためにこれで支障はなくなった。

 とはいえ俺達はジジィ軍の一員ゆえにシャバを大手を振って歩けんから潜伏生活が続いた。質が悪いオイルしか飲めんからシンドいのなんのって……

 精神的に疲れ切っていた俺達に『帰還信号』が復活したのは、ジジィ逮捕から9ヶ月後のある日のことだった。

 

 三棟目の『実家』は、先代実家とは逆に縦に伸ばした感じの高層基地だった。ってかドクロは付けたまんまか。ジジィの匠の技が光るぜ。

 

「ジジィイイィィィィィィィイイィィ!!!!!!!」

「おお!お前さん無事じゃったk」

 

 ボゴオォォォォォォォ!!!!!!

 

 俺はジジィの部屋に上がり込むや否や、思いっきり助走をつけたブーメランフックをジジィの顔面にぶつけた。そして吹っ飛んだジジィに俺は躊躇なくバスターを向けた。

 ロボット三原則?知らん。

 

「な、何をするんじゃ!?というか撃つのか?ロボットのお前さんがこのワシを!人間のこのワシを、ロボットのお前さんが撃つのか!?」

「俺はロボットを超えた存在だ!死ねジジィ!!二度(にど)とこんなことをしないようにころしてやる!!」

「ひゃあマジだ!!」

 

 俺はジジィの足元にバスターを連射した。もちろんマジじゃなく、当てるつもりは無かったけど。

 

「……茶番に付き合えるほどには元気みたいじゃねーか」

「……フン、お前さんもな。まったく荒っぽい祝砲じゃわい」

 

 それからジジィは、部屋の修繕をしつつ逮捕されてからの経緯を語った。

 収監から半年ほど経った時、ライトのじーさんがムショに来て、司法取引を持ち掛けたという。惑星探査用や開拓用のロボを共同で作る代わりに、無罪放免釈放してやる、と。

 これはチャンスと乗ったジジィは現在、ライトの研究所に出入りしながら、裏で着々と次の世界征服計画(ケンカ)の準備を整えるため、隙を見ては密かにこの『実家(三棟目)』にも出入りしているという。面従腹背というヤツだな。

 

「後はタイミングを見て、ワシが造ったロボットたちを8ヶ所のエネルギー採掘基地で蜂起させて、その隙にこの“ガンマ”を奪う算段じゃ」

 

 ジジィが見せた映像にあったのは、身長20メートルはあろうかという巨大ロボットだった。

 ついにジジィもこの手のスーパーロボットに手を出したかと、何故か俺は感心した。アレか。空にそびえる(くろがね)の城か。……にしても。

 

「ジジィ、このアゴ気に入ってんのか?」

「バッ、バカを言うな!設計段階で偶然こうなったに過ぎん!!」

「にしては最初の時にかっぱらったガッツマン*1をヤケに気に入ってたし、こないだの時はガッツタンク*2なんて類似品(パクリモン)をノリノリで造ってたじゃねーか」

「き、気のせいじゃ……」

 

 目を逸らしやがった。図星か、ジジィよ。

 さて、ジジィの次の“喧嘩計画”もあらかた聞いたし、しばらくはこの『実家』で雑用しつつ、ジジィの与太話にでも付き合っちゃるか。あ、その前に足を完全に修理してもらわんとな。

 などと考えながら歩いてると、向こうから見慣れん―――だがあまりにも既視感が()()()()()人型ロボットが歩いてきた。

 ボディカラーは赤をメインとした灰色タイツ。目許をグラサンで隠してる。ジジィとオソロか。

 そして何より目を引くのは膝まで伸びるロングな黄色いマフラー。なんともヒロイックだが、黄色はマズいだろ。黄色いマフラーはニセモノのトレードマークよ?

 

「あんた―――――」

 

 思わず声を掛けてしまった。立ち止まるグラサンロボ。

 

「―――――なんだ」

「見慣れん顔だな。ジジィ軍団に似つかわしくねぇ感じだが……どちらさん?」

「……………………『ブルース』」

 

 それだけ言うと、俺に見向きもせず去ってしまった。

 

 ―――……怖ぇぇぇぇぇ!!!??

 

 いやいや正直世界観間違ってなくね!?

 ド○えもんに出てくる空き地に、ゴ○ゴ13が『要件を聞こうか…………』ってタバコ吹かして待ってるようなバリバリの違和感よ!?

 にしても『ブルース』、か……お似合いの名前なコトで。

 それと、ありすぎな既視感の正体も意図せず判明した。俺の脳裏に、『試作原型機(プロトタイプ)』という言葉が何故か浮かんだからだ。つまりブルースは、俺……というかすべてジョーの試作型らしい。

 

「あれが俺達の『長兄』……か」

 

 ハードボイルドな兄貴だこと。

 だがそれならそうと、今まで二度のジジィの喧嘩に、長兄が参加してなかったのは何故なんだ―――?

 

 

 ま、いっか。ひとまず俺は―――

 

 

 

 死ぬほど寝たい。

 

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第三次世界征服計画発動

 開拓中の小惑星の8ヶ所のエネルギー採掘基地にて、惑星開拓用・および資源採掘用ロボットの集団暴走が発生

*1
型式番号:DRN.004。ライト製の土地開拓作業用ロボット。全身をセラミカルチタン超合金で覆われた巨体に大出力の動力炉を内蔵、ライトナンバーズでは最大のパワー出力を持つ怪力ロボット。2tもの巨岩を軽々と持ち上げる。そのパワーを活かし、主に高層ビル建築等、都市や郊外における土木工事作業において活躍する。ボンバーマンとは職場が一緒になることが多く、よくコンビを組んでいる。しかしパワーを発揮する分燃費が悪く、一度もエネルギーゲージが満タンになったことが無いとは本人の弁。性格は短気かつ情に篤い、ガテン系兄ちゃんの典型。職人気質で、一つ一つの仕事にこだわりを持つ。趣味はカラオケとオイル飲み歩き。本人は気づいていないが音痴で、歌は職場仲間からは不評だったりする。『5』に登場するワイリーナンバーズ・ストーンマンとは立場を越えた飲み友達である。

*2
ワイリーが基地防衛用に開発した超巨大戦車型ロボット。超巨大なガッツマンの下半身が戦車状になったような外見。見た目通りガッツマンがベースらしいが、本人よりもケタ違いにデカい。その大きさたるや、戦車部分の車体にロックマンが普通に乗れ、ガッツマン部分の拳の大きさとロックマンの身長がほぼ同じであるほど。口からはエネルギー弾を発射し、体内でネオメットールを製造、腹部から出撃させて攻撃する。実は重量のほとんどが燃料で、しかもLPガス。よって燃費は恐ろしく悪いことがわかる。



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鉄球編

 俺の名はジョー。

 

 どうやら三度目の正直とばかりにジジィの胸のエンジンにも火がついたようで、ジジィは朝から張り切って同類(ロボット)たちの開発やら改造やらをウヒャウヒャ笑いながらやっていた。マッドサイエンティスト全開だ。

 ジジィが楽しそうで何よりです。

 さて、そんな中俺はジジィに呼ばれた。

 

「次の作戦に備えてジョーの再設計(フルモデルチェンジ)をした。早速お前さんにテストしてもらおうと思ってな」

「ヒャッハーパワーアップだぁぁぁ!!…………ん?」

 

 待てよ。つまりそれって……

 

「改造手術ってヤツ……ですか……!?」

「うむ。改造手じゅ()()じゃ」

「ゲェーーーーーーーー!?!?!?」

 

 ジジィが噛んだことにツッコむことも忘れ、俺は素直に慄いた。

 

「い、痛いのは勘弁してけろ!?()が動けない間に“ぐへへ”なコトするんでしょ!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!」

「……お前さん……ワシを何だと思っとるんじゃ……誤解が無いように説明するが、お前さんの今のボディをそのまま改造するワケじゃない。あらかじめ新しいボディはもう作ってある。その方が手間がかからんからな」

「3分クッキングみてーだな」

「お前さんのボディの電源をシャットダウンしてから、電子頭脳だけを新しいボディに移植するんじゃ。ま、お前さんにしてみれば、寝て起きれば新しいボディに変わっとる、といった感覚じゃ。30分もかからん」

「脳移植とかそれはそれでヤベー予感もするが……で、古いボディはどうするんだよ?まさかそのまま明日の粗大ゴミの日に出すんじゃねーだろーな?」

「アホか。パーツ取り用に取っておくんじゃよ。こちとら財政難なんじゃ、新品のパーツはおいそれと仕入れられんからな」

「ご遺体再利用とか世知辛すぎる世界征服だな……」

 

 そーいやジジィの財源ってなんなんだか。これほどまでのロボットや基地やら実家やら、金が無きゃ作れんもんだが。年金か?んなアホな。つーかこんな大罪人に年金出るのか。

 ……ツッコんだら負けな気がする。

 考えるのもアレなので、俺は寝た。

 

 ―――――――――

 

「ほれ、終わったぞい」

 

 ジジィの声で目が覚めた。

 

「おい……ジジィ……」

 

 鏡を見た俺は―――愕然とした。

 

「エアーマンタイプだけはやめろっつったろーがぁぁぁ!!!??」

 

 両肩が主張し、顔と胴体が一体化したメタボ体型……見事なまでのエアーマンタイプになっちまってやがる!!

 俺もそうだが、これではこのボディに電子頭脳移植される同型機(兄弟)たちや、このボディで新造される弟たちが不憫すぎる。

 

「何が悲しくてこんな顔面埋没型カオナシドスコイボディで過ごさなアカンのや!?説明せい説明をぉ!!」

「お、落ち着けお前さん!キチンとワケがあるんじゃ説明させろ説明を!!それからエアーマン*1とニードルマン*2に謝れ!

 

 ジジィが語るところによると、今まで手持ちだった盾の特殊合金でボディ全体を覆うことに成功し、ロックバスターではまず破壊できない重装甲に仕上げられたとのこと。

 無敵だ!

 

「やりゃできるじゃんかジジィ」

「今更掌返ししたところでワシの心は傷ついたぞい。よよよ」

「ガラスのハートってタマかよ。で?防御はともかく攻撃は?」

「重量アップに伴って出力も向上したから、それを利用してこのハンマーを使うんじゃ。純粋な質量攻撃だから、ロックマンも簡単にしのげはしまいて」

「おお、漢の武器ガ〇ダムハンマー!ますます気に入ったぜ!」

 

 用意されたハンマーを持ってみる。軽い!持ち上げるどころか振り回すことすら可能だ。見てくれこんな重そうなものを軽々と扱えるとは、出力(パワー)アップは伊達じゃないらしい。

 

「だが気をつけい。カメラ部分のシールドは長時間下げられん。ハンマーを投げる瞬間だけは攻撃を受ける可能性があるから気をつけるんじゃ」

「見えないが無敵、見えるが弱点丸出しの二択とはな……」

「拠点防衛用として大幅な進歩を遂げたジョー……名付けて『ハンマージョー』じゃ!!」

「相変わらず壊滅的なネーミングセンスだな」

 

 パワーアップには満足してる。攻防共に強化されたことは良いことだ。

 しかし、だ。

 この俺をあろうことかエアーマンタイプに改造してくれたことに関しては許してないぜ。俺の電子頭脳にしかと焼き付けさせてもらった……!

 覚悟しとけよジジィ。この借りは必ず返す。テメーを老人ホームに叩き込むことでな……

 しかしそれを警戒してか、今回の『実家』は老人ホームから遠かった。最短距離は50km先……おのれ、ジジィ。

 

 さて、俺と共に改造された同型機(兄弟)や、新造された弟たちとともに、俺は宇宙へと上がった。個人用シャトルまで持ってるとは……やるな、ジジィ。

 まさか生きてる間に宇宙旅行に行けるとは……って、1回死んでるか、俺。

 今回の喧嘩で俺が配備されたのは、岩山のような鉱山基地。エネルギー採掘基地っつっても、割と地球の岩山と変わらんな。

 俺の持ち場はハシゴの途中。ここをノコノコと登って来た青パン小僧をハンマーでブチ落とすって寸法だ。

 ……にしても……

 

「……………………」

 

 俺はふと、背後を振り返る。ズン止まりの岩壁のそばに、不自然に置いてあるモノが目に留まる。

 バレーボールほどの大きさの透明なボールの中に、点滅する白い玉が入っている珍妙なオブジェクトだ。

 

 ……なんだありゃ。

 

 そーいや映像で見たことがある。青タイツが倒した同類(なかま)たちからあーいった感じのブツがポロッと出てきて、青パンマンがそれを拾うと心なしか元気になってたよーな気がする。

 それに、俺は何回か見たことがある。

 

 ……………………青パン小僧の『生首』を。

 

 しかも、基地にたまーに置いてあったり、あろうことか同類(なかま)たちの残骸から出てきて、タイツ小僧がそれを持ち去ったのも目撃している……

 ……俺にもあんなブツが仕込んであるんだろーか。だとすればかなりイヤだ。得体が知れん。

 

『ロックマ~ン!新しい顔よ~!』

 ♪ちゃっちゃららちゃっちゃっちゃ~ん♪

『元気百倍!ロックマン!!』

 

 …………ま、まさか……!!!

 俺は心底戦慄した。

 つまりあの頭は取り外し可能で、ア〇パ〇マ〇のように新たなヘッドを換装するというのか……!!しかもそれがジジィ製のロボにまで仕込まれてるとわ……

 恐ろしい……恐ろしいぞパンツマン!!

 

「まさに……ライト脅威のメカニズム!!」

「見つけたぞ、Dr.ワイリーのロボット!」

「!?」

 

 ひとりで悦に入っていた中、背後から聞き覚えのある声がかけられた。振り返る―――首が無ぇから体ごと振り返らんといかん。ジジィめ、忌まわしい体にしてくれおって―――と、青パン小僧が目の前に立っていた。

 ―――しまったーーーーーぁぁぁぁ!!!

 ハシゴをノコノコと登ってくる途中でハンマーブン投げて撲殺、って計画だったのに、コイツは既にハシゴから離れて目の前に立っている。

 つーか今まで、コイツが来る前には『ロックマンが来たぞぉぉぉ!!』とか見張りが叫んでたろ!?どーして誰も何も言わんかったんだ!?

 ……と思ってから、ふと。

 この基地に配備されていて、俺がいる場所よりも前に配置されている同類(なかま)を改めて思い出してみる。

 

 ……ハブスビィ*3

 ……帰ってきたモンキング*4

 ……ワナーン*5

 

 おぃぃィィィィ!!?

 人語を解せる奴がいねぇぇぇ!?

 蜂とエテ公と無機物トラップが『死ね!ロックマン!!』とか器用に言えるわけがねぇ!!

 同類(なかま)とて所詮畜生、アテにした俺がバカだった!!……実は話が通じるピッケルマン・ブルもいたのだが、この時の俺は完全に忘れていた。スマン、ピッケルマン・ブル。

 

「えぇいこうなりゃヤケだ!鉄球大撲殺しちゃる!!」

 

 俺はハンマーを頭上で振り回す。すると目の前が勝手にシャッターで覆われ、視界が塞がれる。前は見えなくなるがこの状態では無敵だ。案の定、バスターを撃ち込まれて衝撃を感じるが、弾かれた弾がそこらの岩肌にぶつかる音がした。さすが重装甲だ。ジジィに感謝―――はしない。エアーマンタイプだから。

 

「バスターが効かない!?」

「お約束のセリフありがとよ!見えんけど。オラァ喰らいやがれぇぇぇぇぇ!!!」

 

 開眼し、渾身のハンマーを投げ放つ。目の前の青タイツ、その上半身のどこかに当たれば儲けもの、意地の一撃―――だが。

 

「『ロックスライディング』!!」

 

 顔面と同じ高さに投げ放たれたハンマーを、ロックマンは咄嗟のスライディングでかわした。

 ……って、スライディングだと!?そんな器用かつスタイリッシュな行動パターンが出来るのか!?しかもこんなゴツゴツしたオフロードでそれをやるか!?間違いなくケツが擦り切れるぞ!?

 それに単純にしゃがんで避けられるより、やられた側の精神的ダメージもデカい!!

 

「パワーアップしたのは、お前たちだけじゃない!」

 

 なるほど、新機能か。

 そりゃそうだ。ゲームの続編モノだって、大抵は新システムが導入されてより快適なプレイが出来るようになる。それと同じってことだ。

 俺もコイツもロボットだ。欠点や弱点が見つかれば、それを解消するためのアップデートがされる。

 そうか―――いわばこれはジジィとライトの代理戦争だ。俺もコイツもその駒に過ぎないんだな。

 でもよ……同じ駒でも、『肩入れ』の度合いが違うぜ。ジジィに魂を売ったのは、『ジジィ軍』広しといえど、俺だけだ!

 

「いいぜ、俺も本気で相手をしてやる!!来やがれ青パン小僧!!」

 

 この勝負―――負けられん!

 気迫を込め、俺は新たなハンマーを取り出し、頭上で回す。

 

「俺の真の力を見sガン!!☆

 

 

 

 

 hammer joeをシャットダウンしています……

 

 

 

 

 

 ―――ジョーは めのまえが まっくらに なった……

*1
型式番号:DWN.010。ワイリー製の空中戦闘用ロボット。腹部に巨大なプロペラを内蔵、頭部と胴体が一体成型となった独特なデザインのロボット。これはワイリーが心理学を応用してデザインしたものであり、純粋な人型よりも威圧感と恐怖感を強く相手に与えることを目的としている。この設計は『エアーマンタイプ』と呼ばれ、後のロボット工学に多大な影響を与えているが、ワイリー曰く『腹にプロペラを入れたらこーなった』とのこと。特殊武器の『エアーシューター』は、ベルヌーイの定理を応用した超圧縮気体を発射、局地的な竜巻を作り出し、標的を巻き込み破砕する。超風速の竜巻はロックバスターを弾き返すほど強力。以前、ワイリーはこのエアーシューターで凧揚げを試みたが失敗したらしい。性格は風格漂う武人肌の豪傑。如何なる相手でも臆せず、そして甘く見ず立ち向かう気概を持つ。意外なことに趣味はメンコ。

*2
型式番号:DWN.017。ワイリー製の削岩作業用ロボット。エアーマンタイプ第2号。その任務上、『作業もできる戦闘用ロボット』として設計されている。両腕に装備された特殊武器『ニードルキャノン』は、針型徹甲弾を連射する電磁レールガンで、厚さ30cmのコンクリート壁を貫通する威力を持ち、削岩作業用として用いられる。また巨大な岩盤を破砕する際は、頭部の剣山型チェーンハンマー『ニードルハンマー』を使用、これらの装備は戦闘用としても遜色のない威力を発揮する。マメな性格で、細かいことに気が付く。裁縫が趣味で、その出来は一級品。

*3
気象観測用ロボットを対地攻撃に転用した蜂型ロボット。小型の蜂型メカ『チビィ』が格納された蜂の巣型ポッドを空中から投下、地上のロックマンに攻撃を加える。後にチビィの探知能力に着目したライトが、チビィを遠隔操作端末として利用して、広範囲の監視および警備を行うナンバーズロボット『ホーネットマン』を製作することとなる。

*4
第二次世界征服計画で戦闘用に改造運用された、猿型森林作業用ロボット『モンキング』の改良型。鈍重だった原型機に軽量化を施して機動力を高めたが、知能は全く向上していない。なお、後に爆弾を投擲する攻撃能力(と挑発能力)を追加され性能を向上させた『モンキングA』が開発される。

*5
危険地帯への違法侵入者を捕縛するためのトラップ。本体の赤外線センサー、もしくは動体センサーに侵入者が接触すると、即座にトラバサミ型の捕縛アームが射出されて侵入者を捕らえる。対ロックマン用に改造されたそれは、市販品よりもセンサーの感度やアームのパワーが強化され、セラミカルチタンをも噛みちぎる威力を持つ。



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最期編

「―――は!?」

 

 俺の名はジョー。

 気が付くと俺はどこかの基地の中らしきベッドに寝かされていた。

 

「こ、ここは!?」

「おう、目が覚めたかい」

「……アンタは……」

 

 工事用ヘルメットをかぶった、大きな目、丸い顔の人型ロボット。

 

「ピッケルマン……?」

「おうとも。お前さん、あの基地で気絶状態(スリープモード)になっとったから、どうにかして本部基地までつれて帰ってきたんよ。それにしても、頭の後ろがハデに凹んでたが、何やったんだ?」

 

 そう言われて、胴体に埋没した後頭部をさすってみる。ヤバいレベルで凹んでいた。

 

 ―――思い……出した……!!

 

 俺はあの時、パンツマンに真の力を見せつけるべく、思い切りハンマーを振り回し、そして―――

 

 

 俺 の 後 頭 部 に 直 撃 。

 

 

 そのまま失神昏倒したというのか……

 

 ……ってオイ!画面の前のそこのお前、笑うな!笑うんじゃないッ!!まだこのエアーマンタイプのメタボディに慣れてなかっただけだ!!

 それに、だ。

 ウン百kgの鉄のタマが後頭部に直撃したらどーなる!?フツーの人間なら死ぬるぞ!?ゴアだぞ!?R指定だぞ!?ハーメルンだと『残酷な描写』タグ必須だぞ!?それがこんなギャグで済んでるのは俺がロボットだからだぞ!?

 

「お前さん、誰に向かって話しとるんだ?そっちにゃ壁しかないぞ」

「お、おぅ……」

電子頭脳(あたま)故障(バグ)っとるんなら早めに精密検査(オーバーホール)受けとけよ」

 

 俺はピッケルマンに深々と頭を下げた。

 

「正直、スマンカッタ」

 

 陳謝する。

 俺を実家まで運ぶために迷惑をかけたこと、そして―――

 アンタの存在を鉱山基地(ハードマンステージ)から忘れてたことを。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……

 

 地鳴りのような音がして、建物が揺れる。

 

「なんだ……?」

「ロックマンが最終防衛ラインを突破したらしい。ワイリー博士からは脱出命令が出とる。お前さんも―――」

 

 なんだと!?

 俺は今まで何日寝てたんだ!?

 こうしちゃいられん。パンツマンを止めんと、また実家が更地にされる!!

 

「お、おい!」

 

 ピッケルマンが止める声も(センサー)に入らず、俺は駆け出した。

 

 ―――――――――

 

 実家最上階。

 俺は大広間の入り口に差し掛かった。

 

「ワ~ッハッハッハッハッ!!見たかロックマン!これぞワシとライトが作り上げた最強のロボット、『ガンマ』じゃ!!お前なんぞ一瞬でひねり潰してくれる!!」

 

 ジジィの声が響く。見ると、とんでもねぇデカさの、アゴが特徴的な機械の巨人が、青パン小僧に左手を振り回す光景があった。あれがジジィとライトの共同製作したマジンg……もとい、スーパーロボット・ガンマか。それにしても、実際に見て思う。

 

 ……コレのドコが世界平和の為のロボットだ!?

 

 鬼みたく角が生えてて、パンチにトゲがあって、エネルギー弾を吐いて、アゴがガッツマンにクリソツなコレのドコに『世界平和』の要素があるんだ!?

 冷静に、あえてツッコもう。

 

 ……コレは『世界破壊』のためのロボットだ。

 

 そうに決まってる。

 

「ライト博士が世界平和のために作ったロボットを悪用するなんて……許さないぞ!Dr.ワイリー!」

 

 いやいやいやいや!?

 タイツ小僧よ、おまえは何を言っているんだ。

 この“進撃のジャイアントツノ付きガッツマンモドキ”のどこに平和のアトモスフィアを感じるんだ!?

 あれか、ソレス○ルビー○ングのガン○ムみたく、武力介入して兵器全部ブッ壊して戦争根絶することで平和にするってヤツか!?

 ……そう考えれば、ジジィはともかくライトも相当ヤバいヤツじゃねーのか……?

 

「行くぞ!」

 

 そうこうしている内、パンツマンはガンマの左手に乗って足場に飛び乗った。バスターを撃ちまくるも、効いている様子はない。

 

「ガッハッハ!お前ごときの攻撃なんざビクともせんわ!さすがワシ!あ、コイツは半分ライトが造ったんじゃったなぁ!どうじゃロックマン!?ワシとライトの最高傑作を相手にした感想は!?」

「でも必ず弱点はあるはずだ……!くらえっっ!!」

 

 すると青パン小僧の体が青からグレーと黄色のツートンに変色した。そーいや、アイツはライトやジジィのロボから武器のチップをふんだくって、自分の武器として使えるとかいう『反則的』な機能があるとジジィが言ってたな。

 ……と、パンツマンは天高く飛び上がり、己が身を高速回転させ、ドリルのようにガンマのコックピットに突撃した。

 おいおい肉弾特攻かよ!?いくらなんでも体格差がありすぎる。こんなデカブツ相手に体当たりなんざ無謀にも程が―――

 

 ―――どっかーーーーーーんんん!!!

 

 ガンマ、大破。

 

「ええええええええええええええええええええ!!?!?!?!?!?!?」

 

 んなアホな。

 身長10m以上はあろうかという巨大ロボットが、まさかまさかの体当たりで轟沈とわ……

 爆風ではるか上へと吹っ飛ばされたジジィは空中でひらりと受け身を取ったと思うと、土下座の体勢へと移行、そして―――

 

 ダンンンンンンンンン!!!!!

 

 そのまま接地したのだった。

 

 ―――人間業じゃねーぞジジィィィィィ!?!?

 

 アクロバットジャンピング土下座とかどこの仮〇ライダーだ!?

 それにあの体制で着地したら確実にヒザの皿がバギッと逝くぞ!?なのにどーしてジジィは平然としてやがる!?

 

「わ、悪かった!ワシが悪かったッ!本当にすまなかった!!もうこんなことはやらんから、この通りじゃ、許してくれ~い!!」

 

 超人的なワザを見せつけた後にこの情けなさである。

 あぁなるほど、今までの2回の喧嘩で負けた時も、ジャンピング土下座でその場をしのいだわけか。まぁ2回目は取ッ捕まったわけだが。

 その時―――

 

 ―――ゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

 実家がとてつもなく揺れ始める。

 

「!これは……!!」

「この基地の自爆装置が作動したようじゃな……ガンマの動力源と連動しておったからな……」

「くっ……早く脱出しないと……でも……!」

 

 青パン小僧が一瞬行動に迷ったその時、上からデカいガレキが落ちてきて、パンツ小僧とジジィを立て続けに押し潰してしまった。

 

「ジジィッ!?」

 

 俺は思わず駆け寄ろうとしたが、先に何者かがタイツマンを潰したガレキを破壊した。

 

「ワイリーはかせは……た゛めた゛ まにあわない!」

 

 そう言うと、青パン小僧を連れて飛び立ってしまった。

 姿はよく見えなかったが、今の声、聞き覚えがあるような……

 

「っと、そんな場合じゃねえ!」

 

 考え事をしている暇はない。俺はハンマーを取り出し、ジジィを押し潰していたガレキをブッ壊した。

 

「しっかりしろジジィ!」

「お、お前さん……!?ハードマンの基地におったハズじゃ……」

「コントかまして自滅して、恥ずかしながら帰ってきちまったんだよ……おら、歩けるか?」

 

 俺はジジィに肩を貸し、どうにかジジィ愛用のブルー○ットおくだけ……もとい青いUFOにたどり着いた。ジジィを放り込み、俺もどうにかエアーマンタイプのガタイを押し込んだ。

 

「どれがどれだかよくわからんが……ええい、このスイッチだ!」

 

 こんなもん運転したことないから、取りあえず適当に、オレンジ色の『4』と番号が振られたスイッチを押した。

 するとUFOが壁をブチ破って急発進、外に出た。次の瞬間―――

 

 大爆発に飲まれ、3棟目の『実家』が炎に消える様が俺の目に映った。

 ふぅ……場当たり的だったがなんとかなったか。あとはジジィを老人ホームに―――

 それにしても妙に静かだな。腰でも抜かしてるのか?

 

 

 

 「―――――――――――――――」

 

 

 

 「…………………………ジジィ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ジジィは息をしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第三次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 ロックマンが最後に確認した映像から、公的にDr.ワイリーの死亡が認定される

 しかし基地跡地の調査で遺体は確認されず

 

 

 

 




 これが『3』ラストでワイリーが生きていた真相である!!(大嘘)
 衝撃的ラストですがまだ続きます。


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新たなる野望!!の巻
再起編


 俺の名はジョー。

 

 ジジィが死んだから今回が最終回―――

 

 にするわきゃいかねーー!!

 

 UFOの中で、俺はジジィの蘇生を試みた。幸いというかご都合的というか、前世で死ぬ前に自動車学校で習った心肺蘇生法がどうにか効いたらしく、ジジィは割と呆気なく息を吹き返した。前回深刻な感じで終わったが別にそこまで深刻でもなかったぜ。

 

 UFOがたどり着いた4棟目の『実家』は、極北の地・ロシアの某山中に建てられていた。出入口から湯気出てるよ……ロボでよかった。人間なら凍死してる。

 俺はUFOの中にあった防寒着をジジィにかぶせて、医務室にブチ込んだ。『実家』に人間はジジィひとりだけだから、医療設備は完全オートメーション化されている。後はジジィ謹製の医療メカがどうにかしてくれるだろう。

 

 ―――――――――

 

 3日後、医務室に行ってみた俺が目にしたのは、真っ白に燃え尽き、憔悴しきったジジィの姿だった。

 

「もう、やめじゃ……―――」

「……………………は?」

「ワシャもう、諦めることにする……悪の天才科学者・“Dr.ワイリーの最期”じゃよ……3度も……3度もやって失敗したんじゃ……ワシャ運がなかったんじゃ…………じゃから、もうやめじゃ……ワシャここで隠居する……」

 

 『不屈』という熟語を体現した―――俺がそう思っていたジジィが、こう口にした―――

 瞬間、カッとなった俺はジジィに詰め寄り、襟首をつかんで壁にたたきつけた。

 ロボット三原則?だから知らんと言っとるだろうが。

 

「アンタそれ……本気で言ってんのか!?」

「ああ本気じゃよ!ワシャやめた!世界征服はもうせん!諦める!結局ワシャロックマンに……ライトには一生勝てんのじゃ……!お前さんが常々言うとおり、老人ホームに入って余生を過ごすのが似合いじゃて……」

 

 

 ―――プツン。

 

 

「……ッざけんじゃねーぞ!!俺ゃな、今のアンタみてぇなヨボくれた哀れなジジィを老人ホームにブチ込みたきゃねーんだよ!!最高にイキッて調子こいてて、エンジン全開のジジィを老人ホームにブチ込みたかったんだよ!!それにな、『諦める』なんてこと、俺以外の同類(ロボット)たちには死んでも言うな!!いいか、俺達はアンタに造られた、いわばアンタの子供みてぇなモンだ!アンタの夢、アンタの欲、アンタの願望……世界に、ライトに、ロックマンに喧嘩売って、でもって勝つ!世界を喰らうアンタの野望!そのためだけに生み出された悪の申し子共だ!!でもってアンタが世界を獲るためなら、喜んで命を差し出す大バカ連中だ!!……そんな奴らがよ、アンタ無しで生きていけると思うのか……?アンタが生き甲斐無くすとな、俺ら全員存在価値が無くなるんだよ……!!」

 

 俺は静かにジジィの襟首から手を放した。

 

「造ったからには……最後まで責任持ちやがれ」

 

 言いたいことは全部言ってやった。

 勝手に“降りる”なんざ、もう許されない。

 俺はともかく、ジジィに造られた連中は皆、『ジジィが世界を獲る』、その大願成就だけが生き甲斐で、そのため()()に生きている。そんなヤツらを差し置いて、手前勝手にやめるなんざ筋が通ってねぇ。

 『地獄まで付き合う』と、常々言ってるヤツらの手前―――な。

 

「……………………ほざきおったなァ量産型ァァッ!!!!」

 

 ジジィは叫び、俺を真正面からブン殴ってきた。老爺の拳とは思えぬほどの衝撃がボディ全体に伝わったと思うと、俺は部屋の壁まで吹っ飛ばされていた。

 

「とっくの昔に覚悟なんざできとるわバカタレがッ!!ワシはな!!この計画のために過去のすべてを棄てたんじゃ!!ローバート工科大学次席!LITマニュアルデザインコンテスト4年連続準優勝!世界技術大賞銀賞!ノーブル物理学賞ノミネート!!全部全部全部!!惜しくはなかった!全部ワシにとっては屈辱以外の何物でもない、この世の俗物(アホ)共が勝手に作った価値基準!!ただライトを褒めてワシを蔑ろにするためだけの称号じゃったからな!!じゃからワシは決めた!!既存の固定観念から脱却した、人類史上誰も成し得なかった偉業を―――『世界征服』を成すと、な!!!」

「だったらなんでやめるなんて言いやがった!?たった三度喧嘩に負けたぐらいで!!」

「負けたじゃと!?寝言は寝て言わんか!!ワシャまだ負けとらん!!ライトが繰り出しおったロックマンがち~とばかしちょっかいかけただけじゃ!!」

「だったらあのジャンピング土下座はなんなんだよ!!」

「社交辞令じゃやかましい!!頭下げときゃその場は凌げるんじゃ!!」

「その場凌ぎで次はどーすんだよ!?えぇ!?」

「決まっとるじゃろうがアホタレが!!!」

 

 ジジィはツバを飛ばしまくりながら叫んだ。

 

「世界征服、続行じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!こうなったらもう意地でも諦めてやらんわ!!憎ッくきロックマンをスクラップにしてライトに吠え面かかせてくれるわァ!!刑務所にも老人ホームにも叩き込まれてたまるか!!ワシャな!塀の中でも終の棲家でも死なんぞ!!ワシはワシの支配する世界の中心で!ワシの造った子供(ロボット)たちに囲まれて!ワシという存在が人類史に刻まれたことを噛み締めながら!笑って大往生するんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 ジジィは俺に右手を差し伸べた。

 

「ワシの覇道……特等席で見る権利をくれてやる。ワシに造られたからには“前世”も“中身”も関係ない……お前さんに選択権は無いぞ。黙ってワシの手足になれ、量産型」

 

 正直、最後のジジィには素でビビった。

 少しだけ、同類(ロボット)たちが心底このジジィに入れ込む理由が、理解できた気がした。

 このジジィには、同類(ロボット)たちを惹きつける、ある種のカリスマがあるんだろうか―――

 ともあれ―――

 やる気出したみてぇじゃねぇか、ジジィ。

 こんな顔で表情は出せんが、俺はフッと笑ってジジィの手を取った。

 

「了解しました、“ワイリー博士”」

「フン……お前さんに改まってそう呼ばれると気色悪いわ。今まで通りで構わん」

「そうか、ジジィ」

「……それはそれで癪じゃな」

 

 ともあれ―――

 俺達は改めて、“新たなる野望”に邁進する『共犯者』となったのだった。

 

 

 

「それにしても、ロボット三原則にこうも簡単に逆らえるとは……やはりお前さんの電子頭脳をパカッと開いて―――」

「あーもしもし?特別養護老人ホーム加富根苑さんですか?」

 

 

 

 

 20XX年 ミハイル・セルゲイビッチ・コサック(Dr.コサック)による世界征服計画発動―――を隠れ蓑にした、Dr.ワイリーの第四次世界征服計画発動

 世界の8つの大都市がコサック傘下のロボット軍団により占拠



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骸骨編

 俺の名はジョー。

 

 かくして俺とジジィは殴り合いの末、『新たなる野望』という名の四度目の喧嘩に挑むことになった。

 

 昭和の青春マンガかよ。

 

 まぁジジィがノリで喧嘩やってるわけじゃないってのはよくわかった。それなりに責任持って『ジジィ軍』の頭目張ってることも。

 だがよ、ジジィ―――

 

 

「幼女誘拐にまで手を染めるのはマズくね?」

 

 

 ……順を追って説明するか。

 今回ジジィがプロデュースする、第四回ワクワク喧嘩計画のテーマはズバリ―――『替え玉』だ。

 

 マスコミやネットによると、ジジィは前回の喧嘩のラストで『実家』の自爆に巻き込まれてから、生死不明扱いになってるらしい。つまりは『死んだんじゃね?』的なノリだ。まぁ確かにガレキの下敷きになったジジィを俺が助けたところは誰も見てねえわけだしな。

 自己顕示欲の化身みてぇなジジィのことだから―――

 

『刺激が少なくなって退屈しとった世界のアホ共に朗報じゃ!!ワシャ死んどらん!この通り足もついとるぞ!残念じゃったなライトにロックマン!!ワ~ッハッハッハッ!!』

 

 ……てな感じで大々的(おおっぴら)に生存を世界に公表するモンだと思ってたが、なんとジジィは自分の生存を隠すことにした。まるで武田信玄の遺言だな。あちらは死んだことを隠すように言ったが。

 

 で、だ。

 ライトと青タイツマンと世論を欺くため、ジジィの替え玉を仕立て上げ、ソイツに喧嘩の首謀者(カシラ)役をやらせるという作戦らしい。なんでも、ジジィのグラサン……もといお眼鏡に適ったヤツが、ここロシアにいるという。

 ミハイル・セルゲイビッチ・コサック。

 ジジィやライトよりも若い、『オッサン』といった感じのロボット博士―――コイツに替え玉をやらせるつもりなんだと。なんでも、作ったロボットは市民生活に密着した着眼点から設計されていて、世間様からは高い評価を得ているらしく、ちょっと若いがジジィやライトも一目置くセンスがあるとのことだ。

 世界征服なんざ、フツーのヤツなら頼んでもやらんだろう。当たり前だ。世界征服だもんな。うん。で、ジジィがオッサンに世界征服をやらせるための起爆剤として目を付けたのが、オッサンの一人娘であるカリンカ・ミハイロヴナ・コサック(9歳)だった―――

 ……要するに。

 

『カリンカたんを人質にしてオッサンに世界征服させちゃおう大作戦』

 

 ……という、割と外道(アレ)な喧嘩計画である。

 

 計画は滞りなく進み、カリンカたんはあっけなく同僚(なかま)たちに誘拐され、現在この『実家』に軟禁されている。あ、部屋にはふかふかのベッドを備え付け、暖房も完備、テレビもネットも外部への通信以外は自由に使える環境をご用意、食事も朝・昼・晩3食欠かさずイイ感じの食事を出し、飲み物やオヤツが欲しいと言えば1分以内にお届け―――と、豪華ホテルもかくやの丁重な貴賓待遇(おもてなし)をさせていただいている。

 断言しよう。

 カリンカたんは俺達の『姫』である。

 ……でもな。

 

「いい加減にしねーと裁判で『主文後回し』にされる刑に処されるんじゃね?」

「やかましい。けしかけたのはお前さんじゃろが。コサックの娘はきちんと監視しとるじゃろうな?」

「交代しながらローテでやっとるよ……いやぁ、ジジィと男と畜生メカと無機物しかいないこの『実家』に一輪の花が咲いたぜ……どいつもこいつもカリンカたんに萌え萌えでさぁ。俺もだけど。そーいや交代の時に『カリンカたんと離れたくない!もっとカリンカたんと話してたいんだぁぁぁ!!』って血涙(目からオイル)流してた同僚(ヤツ)もいたな」

「……女性型ジョーも造っとくべきじゃったか……それとお前さん、ロリコンじゃったのか……」

「バカ言うな。紳士たる者、『YESロリータNOタッチ』は絶対遵守の掟だぜ」

「そのフレーズが口から出とる時点でアウトじゃろ……」

「それがさ、昨日作ったカレーが思いのほか好評でさぁ。せっかくロシアに来てんだし、今度はボルシチかピロシキでも作ろうかな~って。クッ〇パッド参考にすりゃぁ作れそうだし……調べて買い出しの時買っとくか……」

「あ、それ今度ワシにも……」

「テメーは干し芋で十分だ」

「ちったぁ年寄りを労らんかい!!」

 

 ……そうそう、俺はジジィの飯当番も兼任してる。

 自炊してたからそれなりに料理が出来る事をジジィに買われての人事だ。

 今回、カリンカたんの料理番も俺が担当することとなった。やっぱり同じ飯を作るのでも、マッドなファンキージジィとカワイイ金髪ロリっ娘だと入る気合が違うってもんよ。

 

「それはともかくコサックの造ったロボットはなかなかのスペックじゃ。しかも簡単な改造で戦闘にも転用可能……若造のクセに用心深い設計をする奴じゃ」

「そーいや……見慣れん同類(ロボット)も増えた気がするな。オッサンが造ったヤツらか?」

「いくつかはワシとの合作じゃがな。間に合わせの改造作業用だけじゃと頭数が足りんから、もう1体戦闘用のロボットも造らせとる。骸骨型とはなかなかセンスのあるヤツじゃわい」

「『実家』の真ッ正面に堂々と巨大シャレコウベを飾るアンタに言われちゃオシマイだな……」

「……さて!お待ちかねの『改造タイム』ぢゃ♪お前さんもバージョンアップしてやるぞい♪」

「うわぉ唐突にキター!!」

 

 いきなり!大改造。

 というわけで次の喧嘩に向けて俺も新たなる姿に変わるのだ。

 で、今回の姿(ボディ)は―――

 

「エアーマンタイプから脱却させてくれたことは素直に感謝する……でもよ」

 

 俺は自分のボディの腰を指差した。

 

「腰回り30cmって貧相過ぎねぇか!?どこの試作モビ〇スーツだ!?メ〇スかよ!!」

 

 あ~スースーする!腰が細すぎてスースーする!!

 それになんじゃこの見た目は!?ジジィ大好きなホネホネロックそのものじゃねーか!ジジィめ、ついに公私混同しやがったか……

 

「まったく……改造の度に文句言われちゃ敵わんわい。そのボディ構造こそ、ロックマンに対する最大のカウンターじゃというのに」

「どーゆーこったよ?」

「そのボディは細分化されたブロック構造になっておってな、それを磁界で固着して、磁界を制御することでボディそのものを『外側から』動かす仕組みじゃ。つまりは少ないパーツでボディを形成することで量産が容易になったんじゃよ。ハンマージョーと同素材でも大幅なコストカットじゃ」

「サイフには優しいかもしれんが俺にとっては貧乏ボディにしか感じんぞ!?」

 

 張り巡らせたフィールドでボディ動かすって∀ガン〇ムかよ。そう考えればジジィの科学力はパねぇと思うが、それが逆にコストカットになってるとわ……

 

「貧乏じゃと?話は最後まで聞けアホタレめ。そのボディ、理論上はロックマンのバスター程度じゃ永久に壊れんぞ」

「……マヂか!?」

「マヂじゃよ。ホレ」

 

 ジジィは手元のボタンを押した。瞬間、俺のボディがそれはもう見事なまでにバランバランに分解され、パーツがぐしゃっと散乱した。頭だけになった俺は即座にツッコミを入れる。

 

「言っとるそばからブッ壊れちまってるじゃねーか!!呆気なく分解とか欠陥品もいーとこだろーが!!リコールだリコール!!」

「……ふふふ。まぁ待て」

 

 するとどうだ。なんと、バラバラになった俺のパーツが勝手に寄り集まり、元の形に合体、最後に頭をジャキーン!とハメて合体完了!!

 ∀だと思ったら○ーンXだったでござる。

 ポーズでも決めれば完全に鋼鉄○ーグだ。

 

「……これまたどーゆーこった……」

「ボディを覆う磁界自体は、ロックバスター1発程度の熱量で簡単に乱されて破壊される。すると当然、磁界で支えられとるボディは結合を維持できずに分解する。じゃが、バスターの熱量は磁界に相殺されて消滅するから、ボディそのものには一切ダメージは及ばん。それどころか、自動修復プログラムによって磁界を再発生させ、ブロック構造のそれぞれのパーツの回路に記憶させておいた元の形に再結合、何事も無かったかのように復活!……という具合じゃ」

「………………つまり………………どういうことだってばよ……?」

「ガクッ……」

 

 すまない理系はさっぱりなんだ。

 でもまぁ、このジジィがひいき目無しの天才だということは改めて実感できた。この場で講義めいた説明をする様は、れっきとした『研究者』とか『博士』のそれだ。

 

「ま、お前さんには単純に言った方が早いか。電子頭脳さえ無事なら、半永久的に不死身じゃ!!」

「すっごーい!」

 

 某フレンズのように相槌を打ってしまった。無敵を通り越して不死身とは……しかも(ジョー)をベースにしたということは当然量産前提だろう。

 

「この不死身のジョー、『スケルトンジョー』量産の暁には、ロックマンなどあっという間に鉄クズじゃわい!!ガッハッハッハッハッハッ!!」

 

 またしてもまんまなネーミングだな。

 そしてジジィよ、言いはしないが心の中でツッコんでおく。

 

 その言葉をのたまったヤツは最終的に負けたんだよなぁ……

 

 あとどーせター○Xにするならオールレンジ攻撃とかも(以下略

 

 ―――――――――

 

 ジジィのプラン通り、コサックのオッサンは世界に向けて世界征服を宣言、世界8ヶ所の大都市を占拠した。

 今回も俺はとある基地の防衛に駆り出されることとなったんだが―――

 

「これまた悪趣味極まるステキ基地なこって……」

 

 まるで巨大恐竜の骨格標本の中に造られたと言っても過言ではない、白骨の、白骨による、白骨のための、白骨でできたカルシウム満点の基地だ。骨粗鬆症もこれで改善だ。

 俺命名『ジジィ大好きホネホネロック基地』。

 しかもこれだけの白骨基地でありながら、なんとジジィはノータッチらしい。よって詳細もジジィは知らん。いや、知らせちゃならんだろーな。

 これをジジィが知ったが最後、『実家』をこんな風に劇的ビフォーアフターしかねん。なんということでしょう。風通しが良すぎます。

 

「ロックマン、スカルマン*1基地に侵入!!」

「ばかなやつめ。あっというまにわれわれのえじきだ……」

「バスターの使えないロックマンなど赤ちゃんと同じさ!」

「スカル接近戦!!」

「それそれ地獄におちろ~!」

 

 青パン小僧、颯爽登場。それにしても『オッサン軍』の連中は独特のノリだな。バスター使えねぇってソースはどこよ。

 そうそう、俺は今回は『オッサン軍』としての参戦、いわば『ジジィ軍』からの派遣社員だ。ジジィのことはパンツマンには言わんとかねぇと。

 

「!?ジョーの新型!?Dr.コサックはジョーにも改造を!?」

 

 おぉ、なんだか久々の気もする我らが宿敵。このノリ懐かしいなぁ。

 

「再会を祝して『じめんタイプ』の技をくれてやるぜ!」

 

 俺は武器の骨型ブーメランナイフを力の限りに投げ放った。しかし青パン小僧はあっけなくかわすと、バスターを連射してきた。

 

「ぐふっ!」

 

 胸部にバスターが命中した瞬間、全身から力が抜け、バコーン!とバラけた。オープン〇ェェェット!!ってカンジだな。

 

「な、なんだ!?」

 

 面食らったパンツ小僧はバラけた俺にバスターを撃つも、パーツ自体もハンマージョーと同素材、効きはしない。

 

「効かないのか……!?」

「そーゆーことだぜ!ビルド、アァァァァァップ!!」

 

 せっかくなので鋼鉄ジー○を真似てみた。バラバラになったパーツが再合体して、再び俺、参上!!

 

「復活した!?」

「これぞジジィの威力だ!今に見ていろパンツマン、残機ゼロにして全滅だ!!」

 

 俺は再び取り出した骨型ブーメランナイフで斬りかかる。俺もスカル接近戦!!

 

「く……必ず弱点があるはず……あるはずなんだ!!」

 

 飛び退きながらタイツマンはバスターを撃つ。しかしまた命中→分解→復活の繰り返し。今の俺は正に不死身!!

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

「さぁ、追いつめたぞ」

 

 イケる!!

 まさかここまでやれるとは思わんかった!

 ボスロボでもないこの俺がパンツ小僧撃墜……!これでジジィも枕を高くして寝れるし、カリンカたんも家に帰してやれるってもんよ。

 俺……帰ったら、ジジィの祝勝会とカリンカたんのお別れパーティーをするんだ……

 

「パンツマンもこれまでだな。くっくっくっ……」

 

 ……“獲物を前に舌なめずりは三流”……

 どっかの特殊部隊の軍曹殿の金言を、後々になって俺は思い出した―――

 

「『ロックスライディング』!!」

「な、なにぃ!?」

 

 パンツマンは俺の股下をスライディングでくぐった。おい、システム的にそりゃねーだろ!?

 

「こうなったら……今こそ、ライト博士が僕に託してくれた『新しい力』を見せてやる!!」

 

 青タイツの目がマジになった。途端、小僧のバスターに猛烈な熱量が集中していくのをセンサーが感じ取った。イヤな予感が頭をよぎった次の瞬間―――

 

ニューロック!バスタァァァァァァッッッ!!!

 

 普段のバスターとは比べ物にならん、青と緑に輝くエネルギーが、俺の極細ウエストを直撃、俺は久々に上半身と下半身を素晴らしく真っ二つにされたのであった。

 

「ば……バカな!?何が不調なのだ!?」

「この『ニューロックバスター』なら、どんな相手でも負けない!」

 

 パンツマンはそう宣言すると、やはり俺をスルーして行ってしまった。

 

「マジかよ……しかも再生も出来ん……オ・ノォォォォレェェェ!!」

 

 ジジィ理論、青パン小僧の新兵器に敗れる。

 こーゆートコ、ツメが甘いんだよな、ジジィよ……

 

 ―――――――――

 

 その後―――

 オッサン軍は見事8連敗、パンツ小僧はオッサンの『実家』―――ロシア建築風の見事な城だった。ジジィにこのデザインセンスを見習わせたい―――に乗り込んだ。

 しかしなんと、前回の喧嘩以来行方をくらませていた長兄が、ジジィの『実家』からカリンカたんを奪還、オッサンの元に帰しちゃったからエラいコトになった。

 ―――結局ジジィは自分が生きてたことを青タイツにバラし、『実家』にご招待してレッツパーリィしたんだが。

 

 

 数時間の後、『実家』は某タイムでボカンなシリーズよろしく、ドクロ型のキノコ雲を上げて更地になったのでした。お仕置きだべぇ~。

 あぁ……オチまでシャレコウベ。

 

 

 ―――ジジィよ。もう、老人ホームに入っていいんじゃね?

 

 俺も介護、やるからさ。

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第四次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 コサックの娘カリンカ、ブルースにより救出

 Dr.ワイリーの生存が確認されるも、行方をくらます

 今回の事件においては、コサックもまたワイリーの被害者であり、ワイリーによる単独犯と認定

 裁判にてコサックに執行猶予付きの刑が言い渡された

*1
型式番号:DCN.032。コサック製の戦闘用ロボット。コサックが今回の世界征服計画に際し、ワイリーに半ば脅迫されて開発した、コサックナンバーズ唯一の純粋な戦闘用ロボット。特殊武器『スカルバリアー』は、ワイリーが提供した技術によるもので、髑髏状に視認される特殊なエネルギーによるバリアシステムである。この装備によって防御を賄いつつ、遠距離の敵に対して速射バスターで攻撃を行う。骸骨がモデルとなっているのは、同じく骸骨をシンボルとしているワイリーへの皮肉やささやかな意趣返しであるとも、コサックが抱く戦闘=『死』のイメージが由来ともされているが、真相はコサックが黙して語らぬ為不明。性格は悪趣味かつ好戦的。戦うこと以外何も教えられていないらしいが、どこで知識を得たのかホラー映画鑑賞を趣味とする。ありがひとし先生著『ロックマンメガミックス』におけるロックマン4の後日談的エピソード『復活の死神』ではメインヴィランとして登場。コサックナンバーズの中、ただひとり戦闘用として生み出された彼の悲哀が生々しく語られており、是非一読をお勧めしたい。



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長兄の罠!?の巻
対話編


 四度目の喧嘩もダメだった。

 でもジジィは懲りちゃいなかった。

 昔のバラエティ番組のプロデューサーじゃないが言わせてもらおう。

 

 アンタの野望は本当に果てしないな……

 

 誰か止めんと本当に長寿シリーズ化するぞ。長々と野望を抱くのは信長とギ○ンで充分だ。『ジジィの野望』ってどんなゲームだよ。

 

 それと。

 今回から次の『実家』にたどり着いた過程とか、ブッ壊された下半身の修理に関しては説明を端折らせていただく。もう4度目ともなると説明するのもめんどい。読んでるアンタもワンパターンは飽きてきたんじゃないか?

 

 さて、ついに『実家』は5棟目になった。ワケワカランドーム状の構造物やら、アンテナやらキャノンやらがくっついてる、なんだかよくわからんがとにかくすごい攻撃的な違法建築物だ。

 そんな攻撃的な『実家』でジジィが考えついた、ドキドキ喧嘩作戦第五弾、それは―――

 

「……ブルースじゃよ」

 

 そーいや長兄、前回の喧嘩でカリンカたんを『実家』から連れ帰し、ジジィに屈辱を味わわせたんだっけ。そのことをジジィは相当根に持っているらしい。

 そして今回、替え玉作戦Ver.2.0として、長兄にジジィ代理をさせるつもり、とのことだ。

 

「でもよ、あれから長兄、完全に青タイツ側についたんじゃね?今更出戻りなんてしてくれねーだろ」

「それならもう手は打ってある。ブルースに化けさせたロボットに、ワシの軍団の指揮をさせるんじゃよ。そうすれば疑いはぜ~んぶブルースに向けられる!作戦名『ブルースの罠!?』じゃ!!」

「替え玉というか冤罪なすりつけとはこれまた外道(アレ)な作戦だな……そう簡単にうまく行くもんかねぇ……ライトのじーさんあたりに見抜かれるのがオチじゃね?」

「くっくっくっ……戦いは二手三手先を読むものじゃよ」

「チェックメイトまで行ったことないくせに」

「うるさいわい。さて、手筈が整うまでの間に改造じゃ、改造!!」

「毎度のことだが唐突だな……」

 

 さて、次のボディは―――

 

「…………へ?」

 

 なんと……!!

 

 特徴がない。

 ボディカラーは薄紫、だがフツーの人型だ。バスターもなければエアーマンタイプでもなく、ホネホネロックでもない。凡庸で、地味に懐かしい純粋人型だった。

 

「……ついにズボラになったか、ジジィさんや」

「フン、外見で判断するな。ワシはな、ジョーシリーズの可能性を『完全ヒト型』のそのボディに見いだしたのじゃよ。考えてもみぃ。ワシの軍団の中で純粋なヒト型なのはナンバーズロボットかジョーシリーズくらい……じゃが、ナンバーズロボットは対ロックマン用の特化型、いわばその道のプロフェッショナルじゃから、別の用途に使うからといって柔軟な改造はできん」

「確かに、今までスーパーでレジ打ちしてたヤツに『今から靴職人やれ』って言っても無理があるわな」

「そこで、ベーシックなスペックのジョーに、オプションとしてのメカを組み合わせることで様々な局面に対応させるコトにしたんじゃよ。『二度目』の時のアーマーのようにの」

 

 そこでジジィが俺に見せたのは、プロペラのついた砲撃マシンと、水上バイクを思わせるマシンだった。

 

「コイツらが俺達の『新たな愛機』ってワケか」

「左様!空戦メカに乗った『アパッチジョー』と、水上バイクに乗った『ライダージョー』じゃ!これからは汎用性こそがモノを言う時代じゃよ!ガ~ッハッハッハッハ!!」

 

 汎用性、ねぇ。

 そのおかげで俺は『特長がないのが特徴』の○ムカスタムみてーなボディにされたんだが。

 改造が終わったちょうどそのころ、外が騒がしくなった。同僚(ロボット)たちが群がっているその先には―――

 

「ワイリー博士!ご覧のとおり、Dr.ライトを引ッ捕らえてきました!!」

 

 赤いボディのトゲトゲしいロボット*1が、縄で縛られたサンタクロースのようなじーさんを引き連れてきた。

 映像で見たことはあるが、直に見るのは初めてだ。

 このじーさんが、パンツマンの生みの親、トーマス・ライトか。ジジィと反対に恰幅がいいこって。

 ……つまりは、これがジジィの“先読み”か。

 じーさんに正体見破られそうなら、そのじーさんのアドバイスをパンツ小僧が受けられなくすればいい。だからじーさんとパンツマンを物理的に引き離す、というわけか。

 ジジィよ……流石に二度目の誘拐……それも老人誘拐にはドン引きだ。

 極刑、待った無し。

 

「……こうして対面するのは“ガンマ”の時以来じゃな……ライト」

 

 いつの間にか俺の隣に立っていたジジィが、意地悪な笑みをじーさんに向けていた。

 

「……ワイリー」

「お前の造ったロックマンには煮え湯を飲まされたからな……果たしてお前の手助け無しで、ロックマンはどれだけ戦えるかな……?」

「そしてその責をブルースに背負わせる、か……お前は……“あの頃”の志すらも捨て去ってしまったのか……!」

「……!」

 

 じーさんの言葉に何かを感じたのか、ジジィは途端に顔をしかめた。

 

「……連れていけ」

 

 ジジィに命じられた赤いロボットは、じーさんを基地の奥へと連行していった。

 俺はジジィを見やった。

 ジジィはばつの悪そうな表情を浮かべていた。

 

 ―――――――――

 

 以前、カリンカたんを軟禁していた部屋ほどではないが、それなりに環境の整った部屋をあつらえ、じーさんはそこに囚われることとなった。

 幼女とじーさんではやはりやる気が違うのか、待遇はカリンカたんよりは落ちていた。冷暖房はあったがテレビもネットも無かった。俺ならたぶん、1週間で死ねる部屋だ。

 でもって、飯当番はやはり俺。毎日通いながら、基本的にはジジィと同じメニューを出している。前回干し芋と言ったが、ありゃ冗談。ちゃんとした食事を作ってる。ホントだぞ?

 4日ほどして、見張り役の番が回ってきた。

 

「お疲れ、兄弟」

「おう、交代か、兄弟。お疲れさん」

 

 ロボットだから疲れないんだが、同僚同士の挨拶というのは人間もロボットも変わらんらしい。

 俺は同型機(兄弟)を見送った。確かアイツはこの後大型ロボットの組み立ての手伝いだっけ。

 

「……相変わらずジジィはロボ遣いが荒いこって」

「…………その声は……いつも食事を作ってくれている……『きみ』か?」

 

 部屋の中から声が聞こえた。この部屋、防音性ゼロかよ……

 つーかやべぇ。そーいやジジィにバレた時も独り言が原因だったっけか。イカンイカン……

 しかし返事をしないのもなんか変だから、とりあえず。

 

「……そうだけど?」

「そうか、やはりきみか……いつもありがとう、美味しくいだだかせてもらっているよ」

「そりゃどーも」

「……ウチのロール*2も料理は上手だが……きみの料理にはどこか『懐かしさ』を感じるんだ。そうだねぇ……うむ、あれだ!大学時代、自炊をしていた時に作った料理の味にそっくりなんだよ」

 

 鋭いなじーさん。

 

「そっか、あんがとよ―――なぁ、じーさん」

 

 マトモに答えてくれるとは思ってなかったが、聞いておきたいことがあった。

 ジジィとじーさんしか、おそらく知らないことだろうから。

 

「どうしてジジィは―――ワイリー博士は、あそこまで『こじらせ』ちまったんだ?」

「……?」

「アンタに負けた劣等感や、社会への妬みや嫉みや反骨心……フツーの人間なら、そういうのをグッとこらえられようよ。でもジジィは世界征服っていう極端な方面に振り切っちまった。それには何か、『きっかけ』があるはずだって俺は思った。ジジィが『キちまった』、決定的なヤツが、さ。ジジィはなんだかんだで話しちゃくれんだろうから、いい機会だからアンタに訊きたい―――」

 

 俺は、扉の向こうのロボット工学の権威に真っ直ぐと尋ねた。

 

「『悪の科学者Dr.ワイリー』……そのオリジンをな」

 

 しばしの沈黙の後、じーさんは語り出した。

 

 ―――――――――

 

 ―――私とワイリーは、元々同じ大学の同窓生でな……あいつは変わり者として学科内でも有名な奴だったよ……

 だが、私が『心あるロボット』を造りたいと言って大学の教授たちの失笑を買ったあの日、落胆していた私に最初に声をかけてくれたのは……あいつだったんだ。

 驚いたものだよ。学科内きっての変人が、『心あるロボット』の開発に協力してくれたのだから。

 試行錯誤を繰り返す中で、不思議と友情も芽生えていった。こいつとなら、同じ目標、同じ夢へと歩んでいける―――私もワイリーも、そう思っていた。

 

 ―――あの時が来るまでは。

 

 ―――――――――

 

 ヤケにジジィがじーさんのコトに詳しいと思ったが、昔は親友同士だったのか。

 だが、今までの話でジジィとじーさんが決定的に袂を分かつような要素はなかったが―――

 

「……『あの時』?」

 

 俺は扉の向こうに(センサー)を傾けた。

 

 ―――――――――

 

 大学の卒業製作にワイリーが作り出したもの―――思えばそれが、『運命の歯車』だった。

 

 『ダブルギアシステム』―――

 

 このシステムを組み込んだロボットは、一時的ながらもその限界性能を超えたスペックを発揮することが可能となる―――というのが、ワイリーの理論だった。

 だが、私や大学教授たちはこのシステムの問題点に気付いた。もし、ワイリーの設計通りのシステムをそのままロボットに組み込んだ場合、内部構造に著しい負担を与え、最悪自壊に追い込んでしまう―――

 そして何より、悪用された際の問題―――

 それを指摘されたワイリーは憤慨し、こう返してきた―――

 

 ―――これを『心あるロボット』に組み込めば、ロボットたちをもっと活躍させてやれるはずだ!圧倒的なパワー!目にも止まらぬスピード!ロボットには、人間を超えた力が必要なんだ!そうすれば、ロボットたちはもっと人々に必要とされる!ロボットたちが主役の社会がきっと来る!

 

 どんなロボットでも、『ヒーロー』になれるんだ!

 

 ―――――――――

 

「結局、大学を卒業してしばらくしたワイリーは学界を去り……次に見た時には……だ。……私は……ロボットとは『良き友人』になりたいと願い……今でも、その思いに変わりはないよ―――」

「…………なるほどな……アンタとジジィとで、『ロボット』に対する価値観が違ってたわけだ。アンタはドラえもんを作りたかったが、ジジィはアトムを作りたかった、ってトコか」

「……オサム・テヅカとフジオ・フジコのジャパニーズ・マンガ・コミックだね。懐かしいなぁ。私も子供の頃、夢中になって読みふけったもんだよ……なるほど、わかりやすい例えだね。そうなると、私がドクター・オチャノミズでワイリーがドクター・テンマか……これほどまでに符合しているとは、あれは未来の預言書だったのかもしれんな……」

 

 へぇ、この人もドラえもんやアトムを読んでたか。この手のロボットマンガに憧れてその道に入ったって人は多いと聞くが、こんな未来の世界でもそれは変わらんみたいだな。何しろ、ジジィの書斎にもアトムやドラえもんが揃えてあったしな。それも相当古い、初版本と思しきヤツが。

 

「よくわかった……ジジィの『きっかけ』、確かに聞かせてもらった……その上で、アンタにしか頼めないことがある」

「……きみはワイリーの造ったロボットなのだろう?ワイリーに世界征服をさせるわけにはいかないよ。必ずや、ロックが……ロックマンが―――」

「結末は……俺にとってはもうどうでもいい」

「……!?」

 

 じーさんの表情が見える気がした。だろうな。主の宿願を『どうでもいい』と切り捨てるなんざ、量産型ロボットとしちゃありえねぇもんな。

 だがこれは本心だ。俺がこのじーさんに頼みたいことは、ただ一つ。

 

 

「ジジィと……きちんと向き合ってほしい。ロックマンに手加減なんかさせずに、全力でジジィに土下座させにきてほしい」

 

 

「……!?それは……」

「たぶん……いや確実に、ジジィは一生懲りない。何度でも、何度でも、な・ん・ど・で・も……世界に、ロックマンに……そして何より誰より……じーさん、アンタに全力で喧嘩を売りに来る。それこそ、どんな手を使ってでも、世界を喰らいに行く。だからアンタも、真正面からジジィを受け止めてやってくれ。全力でジジィの相手をしてやってくれないか。半端に手加減して『負けてやる』ことだけは、絶対にやめてくれ。そんな『負け逃げ』、ジジィは絶対許さねえだろうから……ジジィにとっちゃ、アンタを……『トーマス・ライトを超えること』が、ある意味世界征服以上の最終目標なんだよ……!」

 

 見えていないだろうけど、俺は心から頭を下げた。

 

「頼む。ジジィから、『生き甲斐』を奪わないでくれ……無関係なヤツらをたくさん巻き込むのはわかってる……そいつらにとっちゃ、無責任なことを言ってるのは百も承知だ……でも……それでも、俺は…………」

「それ以上、言わなくてもいいよ」

 

 扉の向こうから、優しい声がかけられた。

 

「もとより、そのつもりだよ。ロックを戦闘用に改造した、あの日から。私はロックマンを通して、ワイリーの“心”を感じ取っている。だからこそ、私は一度もワイリーに妥協したことはない」

「三度目の…………“ガンマ”の時は、『どうして』?」

「……私の中に、まだ『あの頃のワイリー』が残っていたから、かもしれんな……」

「お人好しなんだな」

「よく言われるよ。それで損をしている、ともね。でも私は、『あの日のワイリー』に誓ったんだ―――次は必ず止める、絶対に目を背けない、と。あの日、ワイリーを止められなかった後悔とともにね」

「じーさん……」

 

 ジジィが俺達を通してじーさんに挑んでいるように、じーさんもまた、ロックマンを通してジジィに向き合ってる。

 前にも思ったが、やはりこれは『代理戦争』なんだ。ジジィとじーさんは、俺達とロックマンを介して、壮絶な殴り合いを演じている―――

 ともあれ、ジジィのオリジンとじーさんの決意は―――

 

「よく、わかった。……そろそろ見張りも交代か。じゃ、俺、行くわ」

「待ってくれ……!料理といい、その思考といい、きみはただの量産型ロボットにしてはあまりにも……まさか……―――」

「おっと、よしてくださいよ。天下のDr.トーマス・ライトがオカルトなんざ信じちゃ、立つ瀬が無いでしょう」

「きみは……いったい……!?」

「……俺は―――」

 

 

 

 

 ―――俺の名はジョー。

 

 何の因果か、ヘンクツなジジィのパシリに生まれ変わった―――

 

 

 ―――ただの、お節介焼きだ。

 

 

 

 20XX年 謎の戦闘用ロボット軍団、武装蜂起。首謀者はブルースと目される

 

 Dr.ライト、ロックマンの目の前でブルースによって拉致

 

 水面下でDr.ワイリーによる第五次世界征服計画発動

*1
ワイリーが製作した量産試作型戦闘用ロボット『ダークマン』シリーズのリーダー格『ダークマン4号』のこと。ダークマンシリーズは元々、ベーシックな人型の筐体をベースに、四肢の装備を換装することで様々な作戦に柔軟に対応できるよう、量産を前提に設計していた戦闘用ロボットであるが、量産型とはいえザコロボットよりも高価な開発コストと、この時期のワイリーの資金難が重なったため本格的な量産を断念、試作型4体が製作されたのみに留まっている。両腕をバスターに、下半身をキャタピラに換装した戦車型の『1号』、電磁シールドを装備したベーシックな人型の『2号』、右腕部を大型バスターに、胸部をショックリング発射装置に換装した狙撃型の『3号』、そしてこれら3体の長所を統合し、さらに形状記憶合金とホログラムによって他のロボットの姿に化けることのできる特化型の『4号』が開発され、第五次世界征服計画の際、4号がブルースに成り代わりライトを誘拐、他の3機ともどもワイリーがダミーとして建造した『ブルース要塞』の守衛ロボットとしてロックマンの前に立ち塞がることとなった。なお、基本型が『2号』で戦車型が『1号』と、一見形状と番号に相違感を覚えるが、これは実際の製造順に番号が振られているためであり、最初に設計されたのは『2号』。

*2
型式番号:DRN.002。ライト製の少女型家庭用家事補助ロボット。ライトがロック=ロックマンに次いで開発した実用思考型ロボットの2号機で、ロックマンの妹的存在。世界で初めて少女型=女性タイプの電子頭脳を搭載した、この世界の女性型ロボットの長姉。電子頭脳における『性差』の試験と、複数の思考型ロボットによるコミュニケーションの観察も開発目的に含まれている。平時はライト家の家事やライトの助手をロックと分担して行い、事件が起こりロックがロックマンとして戦う際は、通信などでロックマンの戦いをサポートする。炊事、掃除、洗濯等の家事全般のプロフェッショナルで、家では他のライトナンバーズも彼女に頭が上がらない模様。



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騎乗編

 おおおおおおお俺のななななな名ははははははは、ジョッ、ジョジョジョジョジョォォォォオオオオ!!!!

 

 

 ……スマン、別に作者のキーボードが壊れてミスったまま投稿したワケでも、読んでるアンタのPCやスマホやタブレットが壊れてるワケでもねーぞ。

 お使いのPCは正常です。

 ジョー○ター家の能力バトル漫画でもないぞッ!

 

「クッソこの!!無責任に乗せられちまった俺も悪いがよ、操作性皆無、コスパ最高のポンコツメカを作ってんじゃねーよジジィィィィィ!!!」

 

 今俺は、ジャングル奥地の兵器工場、そこに侵入しようとしていたパンツマンを迎撃すべく、ジジィが用意した空中攻撃用アパッチに乗り込んでテイクオフ…………したまではよかったんだが。

 右に左に上に下に……振り回されるッ。

 俺、マトモに操縦したことないんだが!?

 二度目の喧嘩の時の『アーマー』は、操縦プログラムがインストールされてたからまだマシだったが、今回はそんなもんインストールされてねぇ!?

 ジジィめ、出る前に紙のマニュアル渡してきたのはこれが理由か!!コストカットと手間のカットか!!

 そーいや、今回のナンバーズロボットはいやに世知辛いな……空中戦闘ロボのジャイロマン*1は、元々ジェットエンジン搭載予定だったのが金が無くてプロペラ式になったし、チャージマン*2っていうきかんしゃトー○スに手足つけたようなヤツなんて、石炭と水が燃料の蒸気機関ロボだ。まぁ見た目を裏切らんって意味ではイイと思うが。ありゃ絶対、重力制御装置なんて最先端技術を積んでるグラビティーマン*3やスターマン*4、天然水晶という高級品が使われてるクリスタルマン*5のシワ寄せが来てるな。ジジィのヤツ、ついにナンバーズロボットの材料費までケチりはじめたか……

 

 ……なんてジジィの節約術に思いを馳せてる場合ぢゃねぇ!!

 こちとらこのアパッチ浮かせるのに精一杯!!余計なコト考えてる場合じゃ……

 

「ここが入り口か……行くぞ、ブルース軍のロボット!!」

「げぇ!タイツマン!」

 

 アパッチマスターする前に来ちまったーー!!

 あれだ、旧○クで習熟訓練してたらガン○ムに遭遇しちまった、的なシチュだ!!

 

「えぇぃ、ままよ!発射する!!」

 

 俺は必死に操縦桿を握り締め、トリガーを引く。エネルギー弾が青タイツに発射されるも、呆気なく避けられる。ですよねー。

 

「空中の敵には、これで!」

 

 パンツマンの色が赤紫色と白のツートンに変わった。俺の心に冷や汗たらり。

 

 

グラビティーホールドッ!!

                     *6

 

 

 ぐら、と振動を感じた、次の瞬間―――

 

「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

 俺は遙か上空へとアイ・キャン・フライ。アパッチから投げ出された。

 ジジィ―――俺、飛んでる!

 体ひとつで空を飛んでるんだ!!

 あははははははh(ドシャッ!!)

 

 ―――――――――

 

 散々な目に遭った。ジジィ、恨むぜ……

 もうぜってーてめー『の』は乗らねえ。

 恨み節も程々に、俺は次なる戦場―――世界最大の水質管理局へとやってきた。俺史上初の第2ラウンドである。

 ……まぁ、人手不足と言っちゃぁそこまでなんだが。

 ここでの俺の愛機は武装された水上バイクだ。こいつに乗って、貯水池で迎え撃つ。あ、コレは水質管理局にあったヤツに武装を取り付けたヤツだから、幸いにもジジィ製じゃねぇ。やれやれだぜ。

 パンツ小僧は確実に、ここを通るはずだ。

 幸いにもまだタイツマンは到着していない。時間があるから、アパッチの時の轍を踏むまいと、事前練習に取り組んだ。

 をを!イイ感じだ。バイクの免許持ってて良かったぜ。あ、この間まで行ってたのは車の免許取るためな。

 ちとフワフワ感はあるけど、アパッチよりずっと馴染む。前の『アーマー』よりも性に合ってるな。今度はジジィにバイクでも作ってもらえばイイ線行くかもな……。

 ……って、もうジジィのメカには乗らねえ。

 

「ロックマン、A地点通過!貯水池に向かって侵攻中!!」

「ライダージョー部隊、およびイルカーン*7部隊、スクランブル!ロックマンに(オモリ)つけて底に沈めちまえぇ!!」

 

 俺達水上部隊には、各所に配置されたブイ型監視メカ『V*8』によってモニターされたパンツマンの位置が、逐一送信されてくる。

 かなり遠いが、1時方向に確認した。水面を切って走る緑色の水上バイク―――間違いない、パンツ小僧だ。水上バイクのバルカン砲で『V』を邪魔だとばかりに破壊しながら、まっすぐ進んでいる。

 

「こっちは眼中になしか……うっし……!」

 

 俺は右のグリップを捻り、アクセルを回す。見たところ、青タイツが乗っているのは最高速度が若干遅い旧式だ。フルアクセルならこっちが速い!

 他の同型機(兄弟)たちも合流してきた。俺の右に併走する同型機(兄弟)が、ジェスチャーで『先行する』と伝えてくる。俺は頷き、親指を立てて応えると、何機かの水上バイクが波しぶきを立てて俺を追い抜き、カッ飛んでいく。イイねぇ、この『集団戦闘感』。今までパンツマンとタイマンだったから、感慨深いぜ。

 

「レースしようぜ!お前クラッシュな!」

 

 タイツボーイのバックにピタリとつけ、バルカン砲を撃ちまくる。弾丸が水面に着弾して、水柱がそそり立つ。

 

「!?ジョーがバイクに!?」

「ヘイボーイ!俺達と『バトル&チェイス』と行こうぜ!!」

「生きてこの水質管理局から出られると思うんじゃねぇ!!」

「ブッ砕いてオクトーパーOA*9のエサにしてやらぁ!!」

「水はキレイでないとなぁ~!汚物は消毒だ~~!!」

「ヒィィィィヤッハァァァァァ~~!!!」

 

 いやあ、ノリのいい同型機(兄弟)達だ。お前らライダージョーからモヒカンジョーに改名したらどうだ。

 

「く……特殊武器が使えないのに……!」

 

 ……パンツマンよ、何故自分の現状、それも窮状を口に出す?

 だがいいコトを聞いた。つまり今回は純粋に、バイクの腕とマシンスペックだけの勝負になるわけだ。

 

「だったら十分勝ち目があるな……そっちはニワカ仕込みとの腕と低スペックマシン……だがこっちはなぁ!!」

 

 俺は青パン小僧のバイクに追いつき併走すると、横から思い切りぶつけた。

 

「それなりの運転歴と新型なんだよ!」

「うわぁっ!?」

 

 タイツ小僧のバイクがぐらりとバランスを崩す。思った通り、完全に当たり勝ちしている!!

 

「アニキに続け!!ロックマンをスクラップにしちまえ!!」

「取り囲めぇ!巻き網漁だぁ!!」

「バイクさえブッ壊せばぁなぁ!!」

「イルカーンも来い!八ツ裂いたりゃぁぁ!!」

 

 ……俺、いつの間にか兄貴扱いされてたらしい。まぁこいつ等よりかは年長者だしな。最初のスナイパージョーから延々ジジィ軍にいる古参の同型機(兄弟)って、俺以外にいるんだろーか。

 

「これは……行ける、か……?」

 

 思わず呟いたのがいけなかったのかもしれない―――

 

「このぉっ!」

「ぐわーっ!!」

 

 タイツ小僧のバイクのバルカン砲が火を噴き、同型機(兄弟)の一人のバイクが盛大に爆ぜ、貯水池に投げ出された。それをきっかけに、パンツマン無双開幕。3秒にひとりずつ、貯水池の藻屑と化す同型機(兄弟)たち……

 

「落ち着けお前等!!体勢を立て直せ!無事なヤツは手分けをして落っこちたヤツを助けてやれ!!」

「アニキ!アニキはどうするんです!?」

「……落とし前は着けさせてやるさ……最低、板金7万円コースの痛い目には遭わせてやるぜ!!」

「あっ……アニキィー!!」

 

 弟分(?)の叫びを振り切り、俺はフルアクセルでパンツ小僧を猛追、視界に入るや否や機銃を連射しながら肉薄する。

 

「抜かせるわけに……行くかぁぁぁぁ!!!」

「!!くっ!!」

 

 ―――瞬間。

 俺の目の前から、青タイツの姿がバイクごと―――

 ―――消えた。

 

「―――!?」

 

 俺は上を見上げた。

 ―――太陽が、(おお)きなシルエットで隠れていた。

 

「―――跳んだ…………だ、と……!?」

 

 俺の後ろに着水した青パンツのバイクの前部砲口から、エネルギー弾が発射され―――

 

「のわーーーーーっっっ!!!!」

 

 

 ―――俺は貯水池に無残に浮かぶこととなった……。

*1
型式番号:DWN.036。ワイリー製の空中戦闘用ロボット。市民の憩いの場所である空中公園を攻略、占拠する目的で開発された。従来は無料だった空中公園で入園料を徴収することで資金源とすることを意図したが、当然占拠後は入園者数が激減した。ジェットエンジンを搭載する予定であったが資金難により断念、プロペラを装備することで飛行能力が賄われている。しかし、ジェットエンジンよりも最高速度では劣るものの安定した飛行能力を発揮、また空中での小回りが利くことから、局地的な戦闘においてはジェットエンジン式よりも高い運動性能を獲得、本人も気に入っていることから、資金難による仕様変更が思わぬ良効果を生んだと云える。特殊武器の『ジャイロアタック』は、高速回転するジャイロをフリスビーのように投擲する。プロペラの回転数を遠隔制御することで、一度だけ直角方向へと軌道を変化させることが可能。性格はほどほどに熱血、わりとノリが良い。竹トンボに凝っている。

*2
型式番号:DWN.038。ワイリー製の輸送列車護衛戦闘用ロボット。ワイリー軍団の物資を列車を使ってカモフラージュ陸送することを思い立ったワイリーが、その護衛任務のために開発した蒸気機関車型のロボット。資金難のため新たに太陽エネルギー動力炉を開発することが出来ず、苦肉の策として蒸気機関を搭載、石炭と水を燃料としている。しかしながら、技術の進歩によって効率が上がり、さらにワイリーによって改良された蒸気機関の出力は凄まじく、一時的な最大出力は通常の太陽エネルギー動力のロボットを上回る数値を叩き出す。そこから生じる爆発的な突進力は強力無比であり、さらには発生した熱によってロックバスターを跳ね返すほどの防御力を得る。安上がりな動力源、そしてE缶が飲めないことによる疎外感からか、多少ヒネた性格であるものの、何事にも全力で取り組む一途なロボット。

*3
型式番号:DWN.033。ワイリー製の重力制御戦闘用ロボット。反重力研究所を占拠、その際に開発されていた重力制御装置を組み込まれている。この装置により、狭い部屋程度であれば重力を自由自在に操ることが可能。しかしこの装置に攻撃力は無く、武装としてバスターショットを装備しているが、それ以外に強力な武器は無い。性格は天然ボケで、いつも笑顔を絶やさない。ストーンマンに次ぐガタイを誇るため『ごっついボディにキュートなフェイス』と称されることも。研究熱心な面もあり、物理学に凝っている。

*4
型式番号:DWN.037。ワイリー製の宇宙戦闘用ロボット。ワイリーナンバーズで唯一、無重力空間での戦闘を念頭に置いて設計された。第五次世界征服計画の際、地球軌道上の衛星基地を占拠、要塞化工事の現場監督を行っていた。グラビティーマンに組み込まれた重力制御装置を参考に、ワイリーが自作した重力制御装置を搭載、その重力場を利用したエネルギーバリアである特殊武器『スタークラッシュ』を展開する。シャドーマン同様、地球外文明のロボットをワイリーが改良したという説もあるが詳細は不明。性格はロマンチストかつナルシスト、オシャレ好きで宝石類などの光物を好む。将来の夢は『宇宙の果てに恋人と一緒に行くこと』と語る(なお、恋人募集中)など、かなり『イタ』く、そして思い込みの激しいロボット。

*5
型式番号:DWN.040。ワイリー製の鉱山防衛戦闘用ロボット。資金稼ぎのために占拠した水晶鉱山から採掘された水晶をベースマテリアルにワイリーが開発した。ボディの天然水晶を元に、熱水法を用いることで人工水晶を生成することが可能。これを使い、ワイリーは軍資金を荒稼ぎしていた。特殊武器の『クリスタルアイ』は、ワイリーが人工水晶生成を研究していた段階で発見した半ゲル状水晶を武装転用したもので、大型水晶の中に複数の小型水晶を内包して発射、対象物との衝突で小型水晶を拡散させる、一種のクラスター弾である。性格は真面目で寡黙で仕事熱心。占いに凝っていて、自身も水晶占いが得意だが、仲間内からは胡散臭がられている。『アイシールド21』や『ワンパンマン』で有名な漫画家・村田雄介先生が14歳の時にデザインした。

*6
グラビティーマンの特殊武器。ある一点に重力特異点を設定、そこを基準に重力を任意に制御できる。しかし自在に重力制御が可能なのはボディに重力制御装置を内蔵しているグラビティーマンのみで、ロックマンが特殊武器として使用する際はその機能は著しく限定され、特定空間内の単純な重力制御に限定される。ロックマンはそれを逆手に取り、高重力と極低重力を組み合わせ、特定空間内の敵をはるか上空へと打ち上げる攻撃手段として用いている。しかし重量級の敵に対しては無力である。

*7
その名の通りのイルカ型海洋監視ロボット。海洋生物学者の監修の元、イルカの身体構造を徹底的に解析、細部にわたって緻密に設計されたため、優れた巡航能力と水中機動力を発揮する。また、複数機のイルカーンの相互リンクにより、高いレベルでの連携行動能力も併せ持つ。しかしヤケに目つきが悪く、子供ウケは非常によろしくなかった。対ロックマン用に改造され、背鰭部分に硬質ブレードを装備。水中からロックマンを斬り裂くべく目を光らす。

*8
元々は密漁取り締まりのための水上監視用センサーロボットであり、本体自体は武装されていない。高精度全周囲センサーを搭載しており、センサー有効範囲内に侵入した未登録動体=侵入者を確認すると、即座に一定範囲内のネットワークリンクされたロボットへと侵入者の位置を送信する。さらにV同士のローカルネットワークにより、1機のVの情報が即座に全てのVにリアルタイムで同期され、そのVはさらに一定範囲内のリンクされたロボットに……を繰り返す。これにより、Vの敷設エリア内においてはエリア内のリンクされた全てのロボットが情報を共有化、侵入者の行動は指一本の僅かな震えまで筒抜けとなる。ワイリーにしては珍しく、市販品を改造することなくそのまま実戦投入している。

*9
海洋水質管理用のタコ型大型ロボット。対ロックマン用に改造され、口吻部にエネルギーバスターを装備している。戦闘用への改造にあたりボディ全体の装甲を強化したが、水上の物体を感知するためのセンサーが備わっている頭部中央部分だけは強化装甲で覆うことが出来ず、そこが唯一の弱点となっている。



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水晶編

 俺の名はジョー。

 

 『のりもの』によってヒドい目に遭わされた俺は、同型機(兄弟)に助け出されるや否や、即座に『実家』に出戻りした。理由はもちろん―――

 

「ゴラァジジィィ!!」

 

 ―――クレームだ。

 

「なんじゃなんじゃ騒々しい!その声はお前さんか?いったいどうした?」

「どーしたもこーしたもあるかッ!!アパッチも水上バイクもアッという間にボロ負けしたんだが!?だいたいバイクモロすぎ!バスター『2発』は紙装甲だろ!?『V』でさえ『3発』だぞ!?無機物より装甲薄いってどういう了見だぁ!?」

 「お、落ち着け!落ち着かんか!すぐ頭に血が上るのはお前さんの悪い癖じゃぞ!?」

「俺は血も涙も流さねぇ!ロボットだからな!マシーンだからな!!」

「じゃが燃える友情はわかるんじゃろ?じゃったらワシと一緒に『正義を討とう』じゃないか」

「ケッ、こちとら戦闘のプロじゃねぇ、素人上がりなんだよ」

 

 この漫才、いつまですればいいんだか。

 

「……ジジィよ。俺ァ知ってんぞ。俺にナイショでもう一種類、ジョーのボディがあるんだろ。それもハンマーやスケルトンみてぇな局地型のな」

「ぎくっ。……フス~」

「吹けてねーぞ口笛。長兄だったらマトモに吹けてたぞ」

「今ブルースの話題をするな、忌々しい。ついさっき、ダミーの『ブルース要塞』をようやくこさえたばかりだというのに」

「ほぅ。『実家』と同じ規模の違法建築物をよくもまぁこんな短時間に……どれどれ」

 

 俺はその『長兄要塞』を正面から映しているというカメラ映像を見た―――瞬間。

 

「ぶっwwwwwwwぶはははははははははは!!!!!!」

 

 ツボったwwwwwクッソwwwハラがよじれるwwwwww

 まさかwwwwwまさか、長兄のグラサンフェイスをそのまま建物にするとはwwwwww

 ホンモノの長兄が見たら無表情のまま10秒で更地にするなww

 

「前wwww衛wwww的wwwwすぐるwwwww」

「わ、笑うなアホンダラ!!ほらアレじゃ、わかりやすさ重点というじゃろ……子供受けのよい方がじゃな……」

「今更体面取り繕っても手遅れだバーロー。……それよりも、だ。クリスタルマンの基地に行く連中の中に、見慣れん同型機(兄弟)がしれっと紛れてたのは知ってんだよ。そのボディ、余ってんなら俺に寄越せよ……!渋谷区大型デパートヨコセヨ!!」

「最後は何言っとんのかワケわからんが……まぁいいわ。本当は金策用じゃったが仕方無い……」

 

 ジジィのヘソクリがいくら減ろうが関係ない。そんなことより新型ボディだ。

 さーて、ジジィも出し渋った今回の新型は―――

 

「……なかなかイケメンだな。プロポーションもナンバーズに近いし、何より純白のカラーが気に入った。洗いたてのシャツに似た清潔感さえ感じる―――」

「ファッション評論家気取りかアホタレめ。まあ、『クリスタルジョー』はクリスタルマンとかなりの数のパーツを共有しとるから、クリスタルマンの量産型と言ってもいい。スペックはクリスタルマンの90%に達しておる。そのせいで材料費がかさんで数は作れんかったが……『量産型』よりかは『少数生産機』に近い性質じゃな」

 

 まるでνガン○ムとジェ○タの関係だな。

 だが―――

 

「それをどーして俺に黙ってた?」

「言ったじゃろーが、金策用じゃと。クリスタルマンのモノよりは劣るが、人工水晶の精製機能が備わっとるからの。今回かなりの荒稼ぎができたから、一体くらい予備に、と……」

「やれやれ……負け犬根性ついちまってるじゃねーか、負けた時のこと考えてるなんてさ。勝ちに行こうぜ?せっかくの『高性能機』だ……使いこなしてやるぜ!」

「かく言うお前さんもすっかり『ジョー根性』が染み込んどるようじゃな。ならば行けぃ!行ってロックマンの首を取ってくるのじゃぁッ!!」

 

 ……残念ながら、『パンツマンの首(1 U P)』ならわりと落ちてるんだよなぁ、何故か。だから首一つ持ってきたところで死亡証明にはならんよ、あのパンツ小僧の場合。今度同僚(なかま)たちと“あの首”かき集めてジジィの部屋にしこたま置いといてやろう。きっと喜ぶ。

 

 さて、俺が新型ボディを受け取っている間に、タイツマンはブルース軍(に擬装したジジィ軍)の基地を7ヶ所攻略、残った最後の一ヶ所である水晶鉱山基地へと迫りつつあった。ジジィはこの鉱山から水晶を盗掘、売ッ払って荒稼ぎ、一部はクリスタルマンやクリスタルジョーの材料費にまわし、精製した人工水晶でさらに荒稼ぎを重ねる―――という、転売ヤーさながらの狡っ辛い(こすっからい)商売をしていた。どーりで最近、羽振りがいいと思ったぜ。水晶バブルだったわけだ。

 ―――だが、そのバブルも崩壊の時がきたよーで。

 

「新型のジョーか!」

 

 絶対基地壊すマン、参上。

 

「こっちは何度も姿形変えてるが、お前は変わらんなぁ……」

 

 コイツの姿を見て、安心感を覚えるまでの境地に至った俺……

 

「そこを通してもらうぞ!絶対にブルースからライト博士を取り戻すんだ!」

「俺もじーさんとはイイ話をさせてもらったから、礼はしねぇとな……じーさんには美味いメシを……そしてテメーには……!」

 

 俺は胸の前に両の掌を向かい合わせにかざした。

 

「テメーから逆輸入させてもらった……“溜め撃ち”だッ!!」

 

 掌に気合いを込めると、俺の全身が輝き、エネルギーが両掌の間に集中する。 

 

「させるか!」

 

 パンツマンはバスターを連射するが、俺のエネルギーチャージの間は俺の周囲にフィールドが展開されるようになっている。ジョーシリーズとメットールシリーズに連綿と受け継がれる、伝統の『無敵時間』だ。

 

豆弾(まめだま)ではなぁ!」

 

 エネルギーチャージが完了し、先の尖ったデカい水晶が俺の両掌の間に出現した。

 

「ジジィの力を借りて、今、必殺の!!クリスタル・アタァァァック!!」

 

 俺の発射した水晶弾はまっすぐに飛び、青パン小僧の土手ッ腹に命中し、パンツ小僧は仰向けに吹っ飛んだ。なかなかの威力じゃないか。ナンバーズロボットの9割の性能は伊達じゃないらしい。

 

「来いよ、青タイツ!特殊武器なんか捨てて、かかってこい!」

 

 俺は再度のエネルギーチャージに入りつつ、パンツマンにハッパをかける。この間は特殊武器でエラい目こかされたからな、精神的に揺さぶりを―――

 

「負けるもんか……!ライト博士が僕に託してくれた、この力を見せてやる!!」

「『ニューロックバスター』とやらか?だが生憎、このエネルギーフィールドはそれでもビクともしない防御性能でな!!」

 

 パンツマンのバスターにエネルギーが集中する。だが俺は発射前に先制攻撃に成功、青タイツの顔面目掛けて水晶弾を放った―――

 

「『ロックスライディング』!!」

「またかよッ!?」

 

 顔面と同じ高さへの攻撃、もはや通じぬと認識すべきか。

 ゼロ距離を取った青パン小僧は、俺の胴体にバスターを突きつけ―――

 

スゥパァァァ!ロック!!バスタァァァァァッッッッ!!!

 

 ―――じーさんめ、パンパンマンをしっかり強化してやがったか……

 コイツを通して全力で殴りに来てるじゃねーかよ…………

 

 フッ……ありがとよ…………―――

 

 ジジィよ……今アンタと同居してるじーさんは、アンタが思ってる以上に―――

 

 

 ―――『武闘家』だぜ…………―――

 

 

 ―――――――――

 

 さて、それからの顛末はというと。

 水晶鉱山基地も攻略し、8ヶ所の基地をすべて更地に変え、『日ブ工』もビックリの最強解体作業ロボットと化したパンツマンは、ついにジジィが作った過去最もシュルレアリズムに根差した違法建築物件である『長兄要塞』の解体作業に取りかかった。

 長兄のものまねをしたダークマン4号がいいトコまで追い詰めたらしいが、まさかのご本人登場で形勢逆転、さらにはジジィが登場して長兄への冤罪なすりつけとじーさん誘拐、さらには『実家』の番地までをも余さず自供しちゃいまして……

 

 なんだコレは。某テレビ局の『ものまね王座決定戦』と名探偵コ○ンを無理やり混ぜた闇鍋番組か。

 あ、長兄要塞は『ご本人』が5秒で更地にしてくれました。すげぇ、俺の予想の半分だ!流石は長兄!俺達の出来ないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる(略

 

 で、あとはもうわかってますよねー。

 じーさんはパンツ小僧に奪還(ゲットバック)され、ジジィの5棟目の『実家』は轟音とともに爆発四散、サヨナラ!

 ……最期は自爆だったらしい。それは青タイツの手で更地にされることを拒んだ、『実家』のささやかなる抵抗だったのかもしれない……

 

 ……さて、今回の喧嘩も見事に俺達『ジジィ軍団』の敗北に終わったわけだが……

 これまでの負けに比べて、なんだか清々しさすら感じるのは何故だろうな。

 決まってる。じーさんの覚悟を知れたからだ。じーさんの本気を、言葉と実力行使(パンツ小僧)、その両面から受け止められたからこそ、俺もマジメに燃えられた。

 

 ジジィよ、じーさんは本気だ。

 次は―――アンタが『見せる』番だぜ。

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第五次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 ブルースを旗頭に武装蜂起したロボット軍団はすべてロックマンにより鎮圧、さらにブルース軍はワイリー軍による擬装と発覚

 

 Dr.ライト、ワイリー要塞からロックマンにより救出

 

 Dr.ワイリー、またも行方をくらます



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史上最大の戦い!!の巻
風雲編


 俺の名はジョー。

 

 前回、長兄をダシにじーさんを拉致ったことで、パンパンマンと長兄を本気にさせちまったジジィ五度目の喧嘩は、やはりタイツマンに軍配が上がった。

 で、敗走の末にたどり着いた6棟目の『実家』は―――

 

 前回の『長兄要塞』以上の前衛的違法建築物だった。

 今回ジジィが選んだモチーフは、なんと『日本の城』。石垣の上に築かれた堂々たる天守閣の威容―――を完膚なきまでに失墜させる巨大シャレコウベが真正面にしっかと輝く、『風雲!ジジィ城』である。

 

「仮にもニッポンのマンガ家先生のアトムやドラえもんを読んで『この業界』入ってるんだし、もう少しニッポンをリスペクトしてくれても―――」

 

 呆れながら、俺はジジィに振り返る。

 するとジジィは、なにやらゴキゲンな様子で黒いマントを羽織り、なにやら顔に貼り付けていた。

 

「……何やってんだジジィ?」

「ジジィ……?フッフッフッ。ワタシをいったい誰だと思っておるのかね?」

 

 声色を変えたジジィが振り返ってきた。アゴヒゲをつけ、額に巨大ホクロを追加装備し、グラサンを丸縁の高級そうなモノへとチェンジした、何やら物々しくなったジジィがそこにいた。

 

「ワタシは『ミスターX』……WRU(世界ロボット連盟)の会長にして、X財団の総帥だよ。君の言う『ジジィ』とは人違いではないかね?」

「……………………………………………………」

 

 俺は電話に直行、電話帳を開いた。

 

「え~と……『こころの相談ダイヤル』は、と……」

「おいバカやめろ。何しとるアホンダラ」

「おじいちゃん。ご飯ならさっき食べたでしょ」

「ワシャボケとらん!!この通り正気じゃバカタレめ!!」

「だってさっきミスターXとか言ってたじゃん。財団Xだっけ?仮面ライダーと戦う準備でもしとるの?」

「わかったわかった!……要らんツッコミを入れられまいとお前さんに黙ってコトを進めたワシがバカじゃった」

 

 観念したジジィは次の喧嘩計画を事細かに語るわけだが、その前に最近起きた、ロボットを取り巻く社会情勢の変化を前置いておかねばなるまい。

 

 これまで5回もジジィは世界に喧嘩をふっかけたわけだが、そのジジィ軍団にまともにぶつかって止めることができたのは、警察でも軍でもなくましてや自警団でもなく、ジジィの元親友であるじーさんが送り出したタイツ小僧だけだった。当然、世界各国のロボットを管理し、ロボット犯罪を抑止する立場であるはずの『世界ロボット連合』には市民からの非難が集中、その権威は失墜し、ついには解体にまで至ってしまった。

 この『世界ロボット連合の解体と後継組織の設立』は、ロボット社会の『最初の転換点』と後の世に称されることになり、将来、歴史の教科書にも載るであろう一大事件なんだが―――まぁ、頭の片隅にでも置いておいても構わないだろう。

 で、その後継組織を作ることになった―――というところで、ジジィが介入を開始した。

 

 ジジィが前回の喧嘩で、水晶盗掘やその水晶を原料に造ったクリスタルマンやクリスタルジョーの作った人工水晶で軍資金を荒稼ぎしていたことは、この『俺の名はジョー』をここまで読み進めてくれた読者(あんた)ならもう知ってるよな。その金が俺の予想以上にとんでもない大金だったらしく、なんとジジィはそれを元手にいくつかのロボット関連の大企業を次々と買収、『X財団』という大規模ペーパーカンパニーをぶち上げ、自身はその総帥『ミスターX』として、ここ1年ほどは『実家』と都市部にあるX財団本社屋『ニューメトロポリス』を行き来する、なんともセレブな生活を送っていたらしい。

 ミスタージジィは新組織『World Robot Union(世界ロボット連盟)』の立ち上げに際し、金の力とジジィ自身の持つ技術を提供することを条件に会長就任を打診、WRUの参加希望メンバーも同意し、ついにジジィはWRU―――すなわち、ロボット産業の頂点に立ったのである。

 

「……ん?世界征服、完了してねーか?」

 

 ……たぶん、読者(あんた)もこう感じてるだろう。ジジィは『表の顔』でれっきとした財力と権力を手にしちまったワケで、あとはライトのじーさんに『タイツマンを廃棄処分しろ』なり命令するだけで、あの青パン小僧はこの世からいなくなる。邪魔者は排除されるわけだ。

 だが。

 

「フン、ワシがWRUを手中に収めたのはあくまでも『手段』に過ぎん。こんな『常識的な権力』ごときを得たところで、ライトとロックマンに勝ったことにはならんからな」

「……だよな。そう言うと思ったぜ」

 

 ……ジジィの心から、闘争心は消えちゃいなかった。

 

「ワシがWRUを牛耳ったのは、ワシの技術を大っぴらにバラ撒く為じゃ。連中にバラ撒いた技術は、どれもこれも連中にとってはノドから手が出るほど欲しかった技術じゃろうからな。もっとも、ワシにとっては既に『枯れた技術』じゃが……ククク、『新しいオモチャ』をもらった子供は……どうすると思う?」

「そりゃぁもう喜んで遊ぶだろうな」

「その通りじゃ。新しいロボットを造りたい―――それこそ、『ロックマンよりも優秀なロボットを造れるかもしれない』という欲に駆られる。ま、それまでライトの陰に隠れて見向きもされんかった日陰者共じゃからな。……フン、まったくもってバカな俗物共じゃ。日陰者は日陰者らしく、大人しくしていればいいものを……」

 

 ジジィは傍にあるモニターのスイッチを入れた。そこに、8体のロボットが映し出される。

 

「見ろ。ワシの技術提供によって、世界各国で造られた戦闘用ロボットたちじゃ。どいつもこいつも、たった一つの『欲』によって生み出された哀れなロボットたちじゃよ―――」

 

 

ロックマンより強いロボットを造りたい

 

 

「―――という、な」

 

 えらく、今日のジジィは悪魔めいて見える。こりゃまさに悪魔のささやき、ウマの前にニンジン吊すようなもんか。

 

「……なるほど読めたぜ。こいつらをパンツマンにぶつける、と」

「左様じゃ。『ロックマンに代わる大規模ロボット犯罪に対する抑止力』として造られた『世界最強のロボット軍団』……それがまさかロックマンを倒すために使われるとは思っておるまいて……くっくっく」

「………………コサック(オッサン)の時と同じじゃん」

「なッ!?」

「大金はたいて結局他人のフンドシかよ……ま、いつも通り回りくどくて悪どいけど。大方、金使いまくって新しくロボット造るために回せる資金が残ってなかったんだろ」

「ち、違うぞッ!今回は念には念を入れて、新たな基地と『スペシャルナンバーズ』を造っておったからじゃ!!」

 

 ジジィは慌ててモニターを切り替えた。すると、また別の『実家』が映し出された。こちらの見た目は正統派で、俺としちゃ今すぐ引っ越したいと即座に思った。そして『実家』の内部にカメラが切り替わると、4つのカプセルが大写しになった。それぞれ、『049』『050』『051』『052』と、番号が振られていた。

 

「連番4つ……もう次のナンバーズを仕上げてたのか」

「……出来れば、こやつらが目を覚ますことが永遠に来ん方がいいんじゃがな」

「どういうこった?」

「前に、2度目の計画の後に逮捕された時があったじゃろ。その時はライトの気紛れで助かったが、またしくじってブタ箱にブチ込まれないとも限らんし、いくらライトがお人好しとは言え次は無いじゃろうからな……この4体は、ワシが取っ捕まった時のための、いわば『脱獄用ロボット』じゃよ。ワシが身柄を拘束された時に、基地機能を含めて起動するようにプログラムしておる」

「いつになく用心深いな…………ま、確かに俺が助けに行ける保証も無いから助かるけど。で?『スペシャルナンバーズ』ってのはあの4体のことか?」

「ふっふっふ……ワシが『ただのナンバーズ』を『スペシャル』と呼ぶと思っておるのか?これを見て腰を抜かすでないぞッ!!」

 

 ジジィが視線を促すと、モニターがまた切り替わり、ロボットの調整カプセルが大写しになった。その中には、黒いアーマーに身を包んだロボットが、静かに目を閉じ佇んでいた。

 腰を抜かしはしなかったが、確かに驚いた。

 この見た目……胴体のアーマーが追加されちゃいるが、こいつぁまるで―――

 

「『漆黒のパンツマン』……!?」

「締まらんのう……」

 

 苦笑いするミスタージジィを、俺は唖然として見直した。

 

「どういうコトだよ、こいつはよ……」

「これまでのロックマンとの戦闘データからその能力を割り出し、ロックマンを上回る戦闘能力、そして特殊武器のトレースシステムを組み込んだ……ワシの切り札!史上最強のロボット―――その名も、『フォルテ』じゃ!!」

「……『フォルテ』……」

 

 音楽用語で『強く』か。なかなか洒落た名前じゃねーか。相手が『ロック』ってのも意識したらしいな。

 青タイツと同じような、それでいて違う外見、同じ武器、同じ能力―――

 つまりコイツは、『ジジィ製パンツ小僧』―――小洒落て言うなら『悪のロックマン』か。確かに、じーさんと青パン小僧にとってはこれ以上ないカウンターとなりうるな。

 

「……ってことは、次の喧嘩にコイツを?」

「いや……こやつはまだ最終調整が終わっとらんから次の計画にはもう間に合わん。ま、次でロックマンがスクラップになればそこまでじゃった、ということじゃがな」

「いいのかよ?アンタの最高傑作を永久封印することになっても」

「作ってみたが結局使わんかった、というのはよくあることじゃよ―――さて、出かけるぞ。お前さんも良ければ来るか?」

「え、ついて行っていいの?」

「ワシのボディガードロボット、という体裁じゃがな。たまには外の空気も吸いたかろう?」

「行く行く!是非行かせてくれ!」

「お前さんも見ておくがいい。俗物共の愚かさと―――」

 

 

 

 ―――『世界が動く』、その瞬間をな……。

 

 

 

 ―――――――――

 

 今の『実家』に来てから、『ライダージョー』タイプ……つまり『特長が無いのが特徴』の無個性ボディに戻っていた俺は、黒いスーツとコートに身を包み、ミスタージジィのボディガードとしてWRUの総会へとやってきた。

 久々のシャバの空気―――だがコイツは、セレブ揃いの高尚な空気だ。俺にはチトキツい、身が締まるような感覚だ。大学の就活で感じた、『社会の雰囲気』ってヤツに似ている気もする。

 そんな中でミスタージジィは、次々とやってくる会員たちと、にこやかにやりとりをしていた。ま、社交辞令もこなせないんじゃ、会社のトップ、組織のトップには上り詰められない、か。

 

 そうして、WRUの総会が始まった。俺はジジィの座る会長席の後ろの方でボディガードとして控えながら、会議場を見回す。

 ―――ライトのじーさんは……いないようだな。

 ジジィが呼ばなかったのか、それとも来られなかったのかはわからんが、どちらにせよジジィにとっては何かをするには好都合になるが……

 会議が始まってから2時間ほど経ち、総括に入ろうかというその時―――

 ついにジジィが立った。

 

「総会を閉幕する前に……少し、皆さんにお話をするお時間を頂けまいか」

 

 異議は場内から上がらなかった。ジジィは頷くと、厳かに語りだした。

 

「皆さん……こうして、世界ロボット連盟が滞りなく歩みを始められたことは、非常に喜ばしいことです。思えば、前身である世界ロボット連合の権威失墜の切っ掛けになった、アルバート・ワイリー博士の私設ロボット軍隊による、世界征服を目的とした武装蜂起……あれから、世界は様変わりしました……警察も、軍隊も、たったひとりの造ったロボットに敵わず……そしてその悪辣なる野望を五度(ごたび)も打ち砕いたのも、たったひとりの―――トーマス・ライト博士の造ったロボット……ロックマンでした」

 

 まるで、今までの『喧嘩の歴史』を振り返るかのように、ジジィは綴る。

 

「彼こそ、我々人類にとっての希望!まさしく、悪の野望を打ち砕く、ヒーローと呼んでもいいでしょう……しかし、ワタシはその現状に、違和感を……そして、危機感を抱いたのです。…………考えてみてください。ワイリー博士のような大規模かつ凶悪なロボット犯罪に対する抑止力は、現状ロックマンただ一体……我々100億近い全人類の命運を、たった一体の……それも、幼い少年型ロボットの小さな双肩に委ねなければならないのです!そしてそれは……あまりにも(いびつ)だと思いませんか!?」

 

 議場の人々は、頷いたりしてジジィの言葉を肯定しているようだ。

 

「これからも、ワイリー博士がその野望を諦めない限り戦いは起こるでしょう……それだけではなく、この先ワイリー博士以外の脅威が、世界を襲わないとも限りません……そしてそれらの脅威によって、万が一にもロックマンが倒れ、力尽きたとしたら……そう思うと、あまりにも不憫です……!そこでワタシは考えました……ロックマンと共に戦い、彼の背負うモノを分かち合う存在がいれば……ロックマンと並び称される程の『戦友』が、彼には必要ではないか、と……そう考えたのです!」

 

 その時、円形になっている議場の中央の立体ビジョンに、8体のロボットたちの姿が映し出された。

 

「ご覧ください!彼らこそ、我がX財団の技術提供に基づいて、WRUの皆様の手により生み出された、世界最強水準のロボットたちです!!彼らこそがロックマンの戦友となるべき、世界最強の戦士たちなのです!」

 

 ジジィは次々と、8体のロボットを1体ずつプレゼンしていった。1体のロボットが紹介されるたび、議場がどよめきに包まれる。見事にジジィの話術にハマってるな。

 最後の8体目のロボットを紹介し終わったジジィは、改まって宣言する。

 

「さて、今し方紹介させていただいた8体のロボット……いささか口頭のみではその性能の全容がわかりづらいかと存じます。そして性能評価試験(トライアル)も行われていない現状、ただの資料で彼らの能力を把握、理解するのも難しい……そこで!」

 

 ジジィはなんと、壇上からひらりと飛び降り―――ジャンピング土下座の賜物だろう―――、どこから取り出したのか巨大な半紙を床に敷き、そしてまたも出処不明のどでかい筆を構えると、いつの間にやら用意されていたバケツ一杯の墨汁に漬け、書道パフォーマンスのごとく巨大半紙にこう書き殴った。

 

 

 

選  ロ  世

 

手  ボ  界

 

権  ッ  最

 

   ト  強

 

 

 

 その揮毫がモニターに大写しになった途端、一際大きなどよめきが議場を包んだ。空気が震えたとさえ、俺には錯覚された。

 

「彼ら8体が実際に躍動する姿を、運用試験を兼ねた模擬戦―――『試合』という形で人々に披露していただこうかと思います!!世界最強のロボットたちが、『真の世界最強のロボット』の座を賭けて勝負する!心躍ると思いませんか!?そして、この8体を作った皆様もこう思っていることでしょう……『自分が手塩にかけて作り上げたロボットこそ、真の世界最強である』と!!さすれば溜飲が下がりましょう!この大会で、すべてが明確になるのです!!またこの大会に参加するのは、8体だけではありません!!」

 

 ジジィは、真正面のカメラにドヤ顔で放った。

 

「この世界に暮らす、すべてのロボット!作業用、工業用、家庭用、戦闘用、人型、動物型、非人型問わず、ありとあらゆる用途、形状のロボットに、参加権限が与えられます!……この中継を見ている、腕に覚えのある世界中のロボットの諸君!ワイリー博士をはじめとした大規模なロボット犯罪に対抗するのは、なにもロックマンやこの8体だけではない!我こそはと思うロボットの諸君には、奮って大会に参加してもらいたい!8体のロボットたちに勝利し、この大会の頂点に立った暁には、キミこそが『世界最強のロボット』となるのだ!」

 

 会場からは割れんばかりの拍手が上がる。それを鎮めるように、ジジィは両手をゆっくりと平手で前に差し出した。

 

「ありがとうございます。……そして、もう一つ……この大会に、ひとりだけ、ワタシが是非とも招待したいロボットがいます。……これまで幾度と無く世界の危機を救ってきた、現時点における『世界最強のロボット』にして、我々人類にとってのスーパーヒーロー……そう!!」

 

 ジジィはここぞとばかりに天を指さした。スクリーンの映像が、飽きるほどに見覚えのあるちんちくりんの顔へと切り替わった。

 

「彼、ロックマンを特別招待選手としてこの大会に招きたいと思います!!異論はありませんか!?」

 

 ついに会場全体の興奮は最高潮に達し、全員がスタンディングオベーションでジジィに喝采を送る。

 

「彼がこの大会に参加すれば、我々人類にとって、世界の英雄・ロックマンの戦いを間近で見られるチャンスとなります!そして大会に参加するロボットたちにとっては、あのロックマンを相手に、実力を試すことができるまたとない機会となります!まさしくこの大会こそが『真の世界最強のロボット』を決める、記念碑的大会となるのです!!今こそ決定しようではありませんか!栄えある『No.1ロボット』の座を!長年の疑問に終止符を打とうではありませんか!『真の世界最強のロボット』が、誰なのかを!悪に対抗するのは、ロックマンだけではないということを、ワイリー博士やロボット犯罪者たちに示そうではありませんか!そう、絶対的正義は、絶対的な力にこそ宿る!もうすぐ地球上に、『真のヒーロー』が登場するのです!!」

 

 今この瞬間―――間違いなくジジィは世界の中心になった。

 重々しく響く喝采の中―――確かに、『世界が動いた』。

 

 さぁ、どう出る?じーさん、そしてパンツマン。

 今までで一番のジジィの悪知恵の捌き方ってのを見せてもらおーじゃねーか。

 

 

 ―――『史上最大の戦い』の火蓋が切って落とされる、カウントダウンが始まった。

 

 

 

 20XX年 度重なるDr.ワイリーの蜂起を阻止できなかった世界ロボット連合、解体

 後継組織・世界ロボット連盟(WRU)設立。初代会長はX財団総帥・ミスターX

 

 ミスターX、第1回WRU総会において、人々に安心を与えることと、Dr.ワイリーをはじめとしたロボットを利用した犯罪者への示威のため、WRU会員が開発した8体のロボットと、有志参加によるロボットたちによる試合によって、世界最強のロボットを決めるための大会『第1回世界最強ロボット選手権』の開催を提案、即日承認

 主催者であるミスターX、特別招待選手としてロックマンを指名

 

 開催は半年後



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砲撃編

 俺の名はジョー。

 

 WRU―――世界ロボット連盟会長ミスターXことジジィがブチ上げた、世界最強のロボットを決めるためのロボット喧嘩祭―――『第1回世界最強ロボット選手権』が、半年後に開催されることになった。

 なんかガン○ムファイトみてーな催しだな。

 もっともコレはジジィの罠なんだが。パンツマンを特別招待したのも、おおかた“試合中の不幸な事故”に見せかけて、青パン小僧を亡きロボにする算段なんだろう。

 ……となると、今度の喧嘩にゃ俺の出番は無ぇか……と、ぼんやりと思っていた時期が俺にもありました。

 ジジィが大会開催を宣言したWRU第1回総会から一週間後、世間が盛り上がりを高める中、じーさんサイドから公式のコメントが出された。

 

〈第1回世界最強ロボット選手権に際し、ロックマン以下、当ライト研究所所属の全ロボットの参加を()退()させていただくことと致します〉

 

 ジジィのラヴレターはあっさりと破り捨てられた。出たくねーんだってさ、パンパンマン。そもそも、この大会の開催すら、じーさんは強硬に反対していたらしい。

 それからはテレビのニュースやワイドショーはこの話題で持ちきりになった。カットマン*1やエレキマンといったライトナンバーズ*2のロボットたちの職場には連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。そんな中、買い物に出ていたタイツマンがついにマスコミに捉えられる事態となった。

 このとき俺ははじめて、『普段の青パン小僧』をテレビで見たんだが、普段はフツーのカッコなんだな。そこらへんにいる小中学生とほとんど区別が付かん。あのメットと全身タイツは処刑執行用の特別装束だったわけだ。コワイ!

 で、青パン小僧は律儀にマスコミの取材に応じ、こう言った。

 

「僕が戦うのは、平和を乱すことや、人々の暮らしが理由もなく侵されることを見過ごせないからです。力を使うことは、本来は最後の手段だと思うんです。力に対して、闇雲に力で対抗するのは、よくないことだと思いますから……力比べや、力を見せびらかすような戦いに、僕は参加したくありません。僕が力を使う相手は、話し合いに応じない悪事を働くロボットや、悪い人に利用されているロボット……それだけです」

 

 要約するに、『悪のロボット以外とはたとえ試合であっても戦いたくないでござる』ってことらしい。いやぁ、よくできた息子さんじゃないか、じーさん。

 後日、WRUに正式にじーさんからの書状が届けられた。内容はもちろん、『ロックマンの出場辞退』。ともあれ、これでタイツ小僧を大会に特別招待するというジジィの計画はご破算となった。

 しかしジジィは粛々と大会の準備を進めた。まるで『パンツマンが大会に参加しないのは最初から計画通り』とばかりに、だ。ジジィは俺に何も語らなかったが、いい考えがあると見た。

 パンツ小僧の出場辞退正式表明からこっちは、むしろじーさんサイドが忙しくなった。じーさんの研究所に押し掛けてくる傍迷惑なロボどもが急増したらしい。パンツ小僧に大会への参加を直訴しようとする奴はまだマシな方で、中には『俺が勝ったら大会に参加してもらう』だの、『大会前の腕試しだ』とかのたまって、青パンマンに野試合を挑む奴まで現れる始末。先日も『KARATE003号』*3とかいうロボットがじーさんの研究所に闖入してちょっとした騒ぎになったとニュースで言ってたな。

 

 さて、あっという間に半年が経ち、ついに大会当日がやってきた。

 俺もジジィのSPとして会場に来たんだが、これまたすげぇ熱気だな。格闘技イベントは前世で一度だけ生で見たことがあるが、それと一緒だ。未来の世界でもこうした興行が大好きな奴は多いってことか。一番の目玉になるハズだったパンパンマンが出てないのにこの盛り上がりぶりは流石だな。ジジィよ、アンタプロモーターに向いてるよ。

 

「……パンツ小僧は会場には来てないようだぜ」

 

 念のため、俺はジジィに小声で確認した。

 しかしジジィはニヤリと口角を上げた。

 

「構わんよ。中継さえライトとロックマンが見ていればな」

「敢えて訊く……“何”が始まるんだ?」

 

 ジジィは熱狂の下界を鼻で嗤い、言った。

 

「……『史上最大の戦い』じゃ」

 

 そして、開会式が盛大に幕を開けた。

 例の8体のロボットと、予選を勝ち抜いた有志参加の8体、計16体の猛者どもの堂々入場である。『全選手入場』ばりに紹介したいのはやまやまだが、字数が割けん。スマン。

 

 有志参加の中には何体か見覚えのあるロボットもいる。ありゃオッサンのトコのファラオマン*4とダストマン*5だな。聞いたところによれば、オッサンはじーさんとは違って大会開催賛成派だったそうだ。それでじーさんと議論を交わしたことは想像に難くない。

 ただ、大会開催には賛成だったとはいえ、実際に自分のロボットが大会に出場することについては何のコメントも出してなかったから何とも言えんが。もしかしたら内緒で出場してるのかもしれん。終わったらオッサンに大目玉食らうな、あの2体。

 

 他には……この間じーさんの研究所に乱入して青パン小僧と大立ち回りを演じたらしい迷惑千万ロボ・KARATE003号じゃねぇか。決勝トーナメントに出てきたってことはなかなかの強者だったってコトか。侮れん。あとは重機の寄せ集めのようなヤツとか天秤を擬人化したようなロボットなどもいたが、初見故情報がなかった。

 会場への選手紹介が終わり、いよいよジジィの開会宣言の時が来た。

 実は俺も、ジジィがどうやって『喧嘩開始宣言』をするのかを聞かされていない。今回のジジィはヤケに勿体ぶっている。何が起きるのかわからないのは、客席や中継を見ている皆さんと一緒だ。ただ、『何かが起きる』ことを『知ってる』くらいしか優越感はない。どきどき。

 

「お前さんはドサクサ紛れにここから出ろ。指示は追って通達する」

「!?おい!?」

 

 ジジィの言葉に驚く俺を尻目に、ジジィの座るWRU会長席が台座から分離し、反重力装置特有の軌道でスタジアムの中央へと向かった。無論、ジジィを座らせたまま。

 

「本日は、『第1回世界最強ロボット選手権』にお越しいただき、誠にありがとうございます。そして同時に、この大会は今大会で最初で最後の大会となるでしょう……何故なら―――全ての人々、全てのロボット、そして全世界が―――」

 

 

 ワタシの下に平伏し―――

 

 ワタシが世界を統べることになるのですから―――

 

 

 その瞬間―――『それ』は始まった。

 

 突如、16体のうちの8体のロボット―――それもWRUメンバーが造った『世界最強のロボット』たちが暴れ始めた。会場で破壊の限りを尽くし、有志参加のロボットたちを不意打ちし、あっという間に行動不能たらしめたのだ。

 最初の攻撃のダメージを抑えたファラオマンとダストマン、KARATE003号が抵抗を試みるも、プラントマン*6のバリアに阻まれ、トマホークマン*7とヤマトマン*8に呆気なく大破させられた。

 

「今こそ真実を明かそう……Dr.ワイリーに技術と資金を与え、彼に世界征服を命じてきた影の支配者!!それこそがこのワタシ、ミスターX!!見るがいい!ワタシの最強の8体の戦士たち―――『ミスターエックスナンバーズ』の威力を!不甲斐ないワイリーとは違い、多少は見込みのある者共が造ったロボットよ……予定以上の性能だな、フハハハハハハハ!!!…………見ているかね、Dr.ライトとロックマン!ワタシは世界最強の力を手に入れた!!もはやワイリーなどという傀儡を使わずとも、ワタシ自ら力を行使できるのだ!!ロックマン……ワタシを止めたくば来るがいい!!もっとも……キミに匹敵する世界最強の8体のロボットに勝てればの話だがな!!フハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 ………………………………………………

 

 ………………………………

 

 ………………

 

 ……

 

 

 

 

なんじゃぁぁぁそりゃぁぁぁぁぁぁ!?

 

 

 ジジィめ、本格的にどーかしちまったか!?

 ジジィを影から操ってただぁ!?ジジィに代わって世界征服だぁ!?聞いてねーぞそんな企画!?お前がジジィだろ!?おまジジ!!

 よもや度重なる喧嘩の敗北によるストレスがここまで溜まってたとわ……あの時『こころの相談ダイヤル』に電話してさえいればこんな事には……

 仕方ない。今回の件が終わったら、うんと設備のいい、豪華な老人ホームにブチ込んでやるからな。家賃は『実家』を抵当に入れて工面してやろう。終の棲家に乞うご期待、ドーンミスイット。

 つーか今まで、よくジジィは正体隠し通せてるな……本性出してからも全くバレとらん。世の中の誰もツッコまんかったから今ここで俺がツッコミを入れよう。

 

 

 

 ―――変装、モロバレやんか。

 

 

 

 ―――――――――

 

 つーことで、ミスタージジィが連れ去った8体の世界最強ロボット軍団は、世界各地の8ヶ所の基地に散り、そこでパンツマンを待ち構える算段となった。ここからはいつも通り、勝手知ったる展開だな。

 で、今回の俺の勤め先は北米のカナダにあるブリザードマン*9の基地『フローズンアイランド』。そこで俺は潜水艦に乗って青パン小僧を待ち構えることになったんだが―――

 

「……ジジィめ、あからさまな冷遇措置を……」

 

 俺が座らされたのは固定砲の砲座。つーか同型機(兄弟)全員が砲台に座らされた。

 ジジィのコトだから、これで『キャノンジョー』とでも呼ぶんだろーが、流石にこの扱いは俺でも納得いかん。大体、前回みたくメットール*10でも座らせりゃいいのによ。無敵時間もあって低コストなのに*11

 だいたい、ジジィは何故『戦力の再利用』をせんのだ。ジジィは大抵、前の喧嘩で使った戦力はほとんど使わん。今でも使ってるのといえば、バリエーションを変えて使い回してる俺達ジョーやメットール、オッサン製のシールドアタッカー*12改良型(タイプGTR)*13ぐらいか。ジジィなりの心機一転のスタイルなんだろうが、経済状況もわかってほしいもんだ。まぁ、今回はWRUの金を存分に横領できただろうが。……また罪状追加されたね、やったねジジィ!刑期が増えるよ!

 ……よし、ジジィを老人ホームにブチ込む前にまずは待遇改善交渉だ。同型機(兄弟)達に声をかけて春闘を起こさねばならぬ。

 

「せめてベアは要求しねぇと……それから……」

「この潜水艦の上なら基地に近づける!いくぞ!」

 

 ……ってパンツ小僧!?いつの間にここまで来てた!?

 

「えぇい、来ちまったモンはしゃーない!FPSシューティングで鍛えた俺の射撃の腕を―――」

 

 ―――見せてやろうと、トリガーに手をかけた瞬間、至近距離からバスターの連射を食らった。とゆーか、その内一発がちょーど砲台の砲口の中にスポッと入り―――

 

 ―――どかーーーーーーーーん!!

 

 俺は射撃の腕を披露することなくあしらわれるハメになった。歴代屈指の惨敗である。

 ちくせう。

 だいたい、防御手段が無い上に移動もできんとか、完全にジョーの個性を殺しちまってる。これマジでジョーじゃなくてよくね?

 

 さてその後はというと、なんと青パンマンは世界最強水準の8体のロボットをストレートで全員撃破するという修羅の所業を成し遂げおった。世界最強のロボットはやはりこの青い死神だったということだ。コワイ!

 その勢いのまま、死神タイツはミスタージジィの本拠地・ニューメトロポリスに強襲をかけた。要塞化されたニューメトロポリスで破壊(殺戮)の限りを尽くした死神マンはついにミスタージジィを追い詰めた。追い詰められたミスタージジィはその衝撃の正体を露わにする。なんと、ミスタージジィの正体はジジィだったのだ!な、なんだってー(棒)

 ……パンツマンよ、騙されやすさはじーさん譲りなのな。

 そしてジジィは『こんと゛は しんけんしょうふ゛ た゛!!』と、鼻息荒く死神パンツを『風雲!ジジィ城』へと招待した。過去最強の防衛装備、パンツ小僧をティウンティウンさせるための容赦のない布陣で迎え撃ったが、ヤツの目に入った同僚(ロボット)たちはすべて物言わぬ残骸(しかばね)と化した。

 どうせ最後は実家爆発オチ……と思いきや。

 翌日の朝刊の一面にこんな記事が載った。

 

〈せかいせいふくの つみて゛ Dr.ワイリー ついに たいほされる!!〉

 

〈ロックマンの かつやくによって Dr.ワイリーは たいほされた!!〉

 

〈……しかし ろうやのなかて゛ た゛つこ゛くよう ロホ゛ットを つくっているのかもしれない。〉

 

〈しかし へいわを あいする こころと あくに まけない ちからを もった〉

 

〈さいきょうのロホ゛ット ロックマンか゛いるかき゛り このへいわは つつ゛くた゛ろう!!〉

 

 

 ―――ジジィ、二度目の収監である。記事内容については何もツッコまんといてくれ。多分書いた奴もコーフンしてるんだろう。

 どうやら『風雲!ジジィ城』には緊急脱出設備が無かったらしい。負け犬根性捨てた途端にこれとは実に不運だ。

 しかし、だ。前にジジィが捕まった時と比べりゃ、ショックは無い。今回は事前に“保険”を掛けてたのを知ってるからな。

 

 ―――物事には、『始まり』と『終わり』がある。だが、それがどんな風に定義されるかは、後の世の連中にしかわからない。リアルタイムで歴史を感じ取るってのは、ごく一握りの連中にしかわからないと思ってた。

 でも、今回だけは俺にもわかる。世間の連中はこれが『終わり』と思ってるようだが、全くもって不正解。そう、これは『始まり』なのだ……。

 

 

 ―――『史上最大の戦い』は幕を閉じ―――

 

 

 ―――かくて『宿命の対決』のゴングは、ここに密かに鳴ったのであった―――

 

 

 

 

 20XX年 WRU会長ミスターX、第1回世界最強ロボット選手権の開会式にて、突如世界征服計画発動を宣言。世界最強水準のロボット達を奪取し、ロックマンに宣戦布告

 

 数週間後、ロックマンによってミスターXの正体がDr.ワイリーであると暴露される

 

 ミスターX改めDr.ワイリーによる第六次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 逃走に失敗したDr.ワイリー、ロックマンにより身柄を確保され、世界征服の罪で二度目の逮捕

 裁判で禁錮5000年の刑が言い渡され、かつて収監されていた重犯罪者専用刑務所地下100mの特別重監獄へと再び収監される

 

 WRU、緊急理事会を招集。会長ミスターXことDr.ワイリー、全会一致の弾劾決議により、本人不在のまま懲戒罷免処分。その上、ロボットに関連した如何なる職務・事業に関わることを生涯にわたり一切禁止する『永久追放処分』が下される

 その後現任の理事全員、今回の不祥事の責任を取る形で総辞職。ミスターXことDr.ワイリーに近かった会員にも処分が下された

 一方、世界最強の8体のロボットは、ワイリーの技術が使用されている箇所を入念に排除した上で、開発元の各国の管理下で継続運用されることが決定される

 

 トーマス・ライト、WRUの名誉顧問に。ミハイル・セルゲイビッチ・コサック、WRUの常任理事にそれぞれ指名され、就任。その他の常任・非常任理事もミスターXに関わりの無かった人物に総入れ替えとなり、組織の健全化が行われた。また、会長に過剰な権限が集中しないよう連盟憲章の大幅改定も行われた

 

 X財団解体。ミスターXことDr.ワイリーの所有していた資産は凍結され、財団に所属していた企業は各界の他企業に譲渡もしくは買収された

*1
型式番号:DRN.003。ライト製の森林伐採作業用ロボット。ライトが開発した工業用ロボットの初号機。全天候型として設計され、耐衝撃、防水加工等が施されている。後にロックを戦闘用ロボットに改造する際、その叩き台として参考にされており、ロックマンとカットマンのボディはほぼ同じ構造となっている。頭部に装備した特殊武器『ローリングカッター』はセラミカルチタン製で、高い切断能力を持つ。森林伐採の仕事が無い時は、材木店にて木材加工の仕事に従事している。性格は短気で頭に(オイル)が上りやすく、キレやすいが正義感も強い、気風の良い好漢。ロックの弟的存在で、プライベートでも仲が良い。作品によって性格や人格が安定しないキャラでもあり、語尾に『チョキ』をつけたり、関西弁で話したり、ロックマンを『アニキ』と呼ぶ舎弟キャラだったりする。

*2
ワイリーによる第一次世界征服計画の際、6体のライトナンバーズのボディは一度ロックマンに破壊されているが、彼らの人格や経験が記録されているメインメモリは無事回収されたため、ライトによりボディが再製造され、現場に復帰している。尚、第四次世界征服計画に駆り出されたコサックナンバーズ(スカルマン除く)も同様の措置がとられている。

*3
池原しげと先生著のコミカライズ版『ロックマン6』に登場。大会への出場を辞退したロックマンを大会に引きずり出すべくライト研究所を襲撃、ロケットチョップやウルトラ廻し蹴りでロックマンに挑んだ。ロールを襲おうとしたことでロックマンを怒らせてしまい、スーパーロックバスターで下半身を吹き飛ばされ、負けを認め、ロボット選手権への出場を催促しつつ両腕からのジェット噴射で去っていった。……というまさに迷惑ロボ。密かな人気があるのか、ありがひとし先生著の『ロックマンメガミックス』や、出月こーじ先生著の『ロックマン&フォルテ』のコミカライズ版にもチョイ役として登場している。

*4
型式番号:DCN.028。コサック製のピラミッド探索用ロボット。呪い除けのためにツタンカーメンに似せてデザインされている。ピラミッドに仕掛けられているかもしれないトラップに備え、耐久性と敏捷性を高レベルで兼ね備えている。また、暗所で活動することを前提とし、センサー感度と光エネルギー変換機能が他のロボットよりも優れている。ワイリーの第四次世界征服計画の際に対ロックマン用に戦闘用に改造され、光エネルギー変換機能を攻撃手段に転化したものが特殊武器の『ファラオショット』、および『ファラオウェーブ』である。吸収した光を熱エネルギーに変換、増幅し、熱光弾、および熱光波として放出する。しかし、センサー感度の良さが災いし、『急激で強烈な閃光』を至近距離で浴びせられた場合、安全装置が作動して動けなくなる可能性が高くなっている。プライドが高く尊大、しかし分別はある性格で、カリスマ性が高い。ピラミッド探索の末の新発見や、財宝を見つける瞬間を何よりの喜びとしている。

*5
型式番号:DCN.030。コサック製の都市用清掃ロボット。主に工業地帯での工業廃棄物を頭部ダクトで吸い込み、圧縮処理するためにコサックが開発。後にその吸引力に惚れ込んだワイリーが戦闘用に改造、第四次世界征服計画の際に戦線に投入された。戦闘用改造後は、吸い込んだジャンクや金属粉塵を体内でコンパクトに圧縮したジャンク塊を、圧縮空気で頭部ダクトから射出、炸裂させる特殊武器『ダストクラッシャー』の使用が可能となった。綺麗好きな性格で、研究所の清掃を率先して行っている。特に年末大掃除は彼の独壇場となる。『アイシールド21』や『ワンパンマン』で有名な漫画家・村田雄介先生(当時13歳)がデザインしたことでも有名。氏は次作『5』でも『クリスタルマン』が採用されており、ボスキャラコンテストで2作連続採用された唯一の例となっている。

*6
型式番号:MXN.045。ロボット選手権南米代表の植物型戦闘用ロボット。以前は植物園の管理用ロボットで、植物園のマスコット的存在だった。戦闘用への改造の際、植物由来の生体部品を組み込まれ、さらに迷彩塗装を施された。この生体部品は急激な温度変化で性質変化、ないし劣化を起こすため、それが弱点となっている。特殊武器『プラントバリア』は、ミスターX(ワイリー)の技術提供によって完成。花弁型のビットを電磁界に沿って周回させることで、攻撃を防ぐバリアとするものである。花を愛し、自然を愛する物静かな性格で、植物と意思疎通できると本人は語るが定かではない。花や植物を目前で踏まれた日には烈火のごとく激怒する。以前、本物の花と勘違いされて大群に(たか)られて以来ミツバチが苦手で、トラウマになっているらしい。

*7
型式番号:MXN.046。ロボット選手権アメリカ代表のロボット戦士。アメリカがその威信をかけて開発した、ネイティブアメリカンの戦士をモデルとした戦闘用ロボット。投斧『シルバートマホーク』を特殊武器として装備しており、100m先に立てられた火のついたロウソクにトマホークを投げ、ロウソクを倒さず火だけを消す、という芸当も可能。しかし、トマホークの射程・軌道にはある程度の死角があり、それをカバーするため、頭の羽飾り型徹甲弾を併用して戦う。誇り高く、死を恐れぬ勇猛果敢な生粋の戦士で、乗馬の達人。外見を裏切らず、ウソが嫌い。

*8
型式番号:MXN.048。ロボット選手権日本代表の武者ロボット。日本の鎧武者をモデルに製作された。そのため全身が甲冑に被われており、一見重装備。だが、この甲冑は極限まで軽量化されており、外見とは異なり機動性に重きを置いて設計されており、さほど防御力は高くない。槍術の達人の殺陣をサンプリングしてモーションデータとして組み込んでいるため、長槍『ヤマトスピア』を用いた槍術は恐るべき冴えを見せる。このスピアは穂先を射出することで遠距離戦にも対応可能だが、穂先のスペアを所持していないため、発射する都度回収、再装着する必要がある。熱き武士道精神の持ち主であり、正々堂々とした一騎討こそ至上とし、卑劣な策を断じて許さない。ナイトマンを同輩ながら尊敬、かつライバル視しており、いつかは雌雄を決したいと考えている。趣味はヤマトスピアの手入れと日本刀蒐集。

*9
型式番号:MXN.041。ロボット選手権カナダ代表の寒冷地戦闘用ロボット。かつては南極の気象観測用ロボットであったが、ロボット選手権に際して戦闘用に改造された。その際装備された特殊武器『ブリザードアタック』は、周囲の水蒸気を吸収し、冷却して再放出することで周囲の空気を冷却、局所的なブリザードを発生させるものである。ウインタースポーツの名手であり、冬季ロボットオリンピック3種目で金メダルを獲得した実力者であるほか、最近はお天気キャスターとしてニュース番組に出演していたなど、マルチな才能を発揮していたロボット。陽気な性格で、正々堂々としたスポーツマンシップの持ち主。解説好きな性格でもあり、お天気ロボットをしていたのもその一環とも云われている。

*10
工事用安全ヘルメットを被った小型ロボット。元々は工事現場において、施工主が送信した作業工程プログラムを受信し、実際に作業を行うロボットたちに再送信する中継器の役割を果たすロボットで、ロボットたちを静かに見守るその姿から『親方』と呼ぶ作業員もいる。後に、自力での移動ができるように足が追加されたアップグレードモデル『ネオメットール』がリリースされ、現在では単に『メットール』といえばもっぱらこのモデルを指している。後に水中仕様、空中仕様、宇宙仕様等、数多くのバリエーション機がリリースされ、ロボットが使用されている工事現場ではほぼ必ず見かけられるほど、建設業界で普及している。愛らしいその姿から、愛玩用としても人気が高い業界屈指のベストセラーロボットである。無論、ヘルメットの防弾素材への変更やエネルギー弾発射機構はワイリーの改造によるものである。

*11
第五次計画で投入された『メットール砲台』のこと。測量用メカを砲台に改造した上、メットールを制御AIとして流用したもの。耐弾性能が高い上、機能停止させるには接続されているメットールを破壊するしかなく、そのメットールも防御態勢を取るため総合的に高水準の耐久性を発揮する。その上低コストで製造可能と、ワイリーの懐にも優しいエコな兵器である。

*12
コサックが警察や民間警備会社向けに開発した盾型警備ロボット。特殊合金製シールドに簡易AIとカメラアイ、小型ジェットを搭載しており、普段は一定範囲内を巡回しながら監視し、事件の際には他の警官の盾として機能する。武力鎮圧が妥当と判断した場合、相手の攻撃を防ぎつつ突撃、簡易AIにより目標を追尾する。機動隊に配備されて好評を得たコサック製ロボットのベストセラー機種であり、後にロボットポリスにも配備されている他、後継機も多く開発されることとなる。

*13
『シールドアタッカーGTR』のこと。前面シールドの装甲厚を1.5倍に強化した上、さらに強化金属の衝角(トゲ)を4つ取り付けたアップグレード型。その突撃は些か過剰な威力となるため、犯人が重装備している等、特に凶悪なロボット犯罪に投入される。



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宿命の対決!の巻
新顔編


 俺の名はジョー。

 

 ジジィが有り金全部はたいて、全世界を巻き込んでおっ始めた第六回ジジィの喧嘩、後に『史上最大の戦い!!』と呼ばれることとなるかならんか知ったこっちゃない空前絶後の大喧嘩は、ジジィがワッパかけられて終わった。

 

 まぁ今回は、ジジィが『こんなこともあろうかと』、7棟目の『実家』を僻地に違法でこさえてくれてたから、同僚(仲間)たちが路頭に迷うことなく、きっちりと集結することができた。

 それから少しの間は同僚(ロボット)だけで暮らしてたんだが、それがまた楽しくてさ。修学旅行やってる気分だったなぁ。もっとも、城の主たるジジィがいないことに、不安を感じてたヤツも多かったことは事実なんだが。

 

 ある日、格納庫からマッドグラインダー*1が勝手に出撃した時、俺は悟った。

 

 ―――始まった、と。

 

 俺は同僚(仲間)たちをテレビの前に緊急召集し、テレビのスイッチを入れた。

 そこには、マッドグラインダーがその口から火を吹きながら、巨大なローラーで地球クリーン作戦よろしく市街地を“地均し”していく様子が見えた。怪獣映画よろしくなド迫力の光景だ。カメラさんナイスアングル。

 程なくカメラが切り替わり、ジジィが収監されていた刑務所が大写しになった。そして―――

 

 ―――ドゴォォォォォン!!!

 

 刑務所、大爆破。

 やることがハデだねぇ。

 そしてどこから持ち込んだのか、“ブルー○ットおくだけ”によく似た見覚えありまくりのUFOが、刑務所から飛び出してきた。その瞬間、俺の背後のギャラリーから歓声が上がった。

 

「ワイリー様だ!ワイリー様が出てきたぞ~!!」

「みんな、出迎えの準備をするぞー!博士の凱旋だぁぁ!!」

 

 そりゃ嬉しかろう。“親”も同然の恩人が帰ってくるんだ。中には互いに抱き合って、涙も流せないのに肩を震わせて嗚咽しているヤツまでいる。

 それを見た俺は、確かに“笑ってた”。顔ではなく、心で。

 らしくもなく、俺の中に“甲斐性”なんてものも芽生えちまったらしい。ったく、ジジィのヤツめ……

 そして数時間後、到着したUFOから薄汚れた囚人服姿のジジィが降り立つと、それはもう割れんばかりの野太い歓喜の声に『実家』が沸きに沸いた。

 

「……お勤め、ごくろーさん」

 

 久方振りのジジィの面にそう言うと、ジジィはフッと笑って。

 

「ムショのマズいメシに飽きてきたからの…………今日の夕飯は?」

 

 この様子だと、ブタ箱の中でも相変わらずだったようで安心したような呆れるような。俺も心の中で笑い返した。

 

「………………筑前煮」

 

 

 ―――――――――

 

 

 その後、俺は改めて今回の喧嘩計画を聞いた。

 今回は脱獄から間を置かずに喧嘩を仕掛ける故、第2回以来となる久しぶりの正攻法、替え玉やら搦め手やらをせずに『ジジィ軍』の旗印を掲げて勝負に出る。既にジジィの脱獄を幇助した4体のナンバーズロボットが各地に展開していて、占拠した地区の要塞化を進めている、とのことだ。

 

「もっとも、揺さぶりをかけるための手はもう動いてるんじゃがな」

「揺さぶり?」

 

 その時、ジジィの部屋に黒いロボットが入ってきた。

 

「ようジジィ、帰ったぜ」

「おお、フォルテ!首尾はどうじゃった?」

「ロックマンのヤツ、あっさり騙されてたぜ。本当にあんなお人好しが世界最強なのか?」

 

 前々回、ジジィが作ってた虎の子、『漆黒のパンツマン』ことフォルテ……もう動き出してたのか。

 ……にしても、帰ってきて早々ジジィ呼ばわりとはなかなか面白いヤツじゃないか。まぁ仮にも『悪の天才科学者』と世間様から呼ばれてるジジィの“息子”、パンツ小僧みたいな優等生的性格もしっくり来んからな。

 

「ところで……なんだこのザコ?」

「……初対面早々ストレートだな……」

「あぁ、紹介しとらなんだな。ワシの軍団の中では古株のジョーでな、作戦立案の手伝いや新型のテスターもしてくれておる。ロックマンと何度も戦って生き延びた悪運のいいヤツじゃよ。これから共にロックマンと戦う者同士、仲良くするんじゃぞ」

「よろしくな、兄弟」

 

 俺は右手を差し出したが、フォルテはフンと鼻で嗤った。

 

「こんなザコと同格に扱うんじゃねぇ。オレはロックマンをブッ潰して最強になるんだ!ザコ如きが馴れ馴れしくすんな」

 

 こりゃまた……単純な不良タイプと思いきやベ○ータみたく鼻っ柱もビンビンだったか。自分が一番、自分が最強じゃなきゃ気が済まない、つまりは―――

 

「なるほど、“最強バカ一代”か」

「ッ!?バカたぁなんだバカたぁ!?」

「いや、最強になるんだろ?それしか考えてないんだからそーじゃん。最強バカ一代。略して“バカ一(バカイチ)”でもいーか」

「せっ、せめてバカは外しやがれ!オレはだな、オレが最強だと証明するためにロックマンをだな……」

「最強になること以外、やりたいことあんの?」

「!!ぐっ……う……そ、それは……」

 

 いやー、面白いヤツだ。イジり甲斐がある。

 ふと、俺の視界、バカ一の足元に、見慣れん紫色の犬型ロボットが目に入った。俺をギラリと睨みつけながら、低い声で唸っている。

 

「へぇ、ワンコまでいんのか。そーいや、パンツ小僧もワンコ連れてたな*2。フレンダー*3を赤くしてちっこくしたよーなヤツ。……コイツは?」

「フン、ちょうどいい。『ゴスペル』、“遊んで”やれ」

GRRRRRRR!!!

 

 ゴスペル、とバカ一に呼ばれたワンコは、それはもう凶悪な咆哮とともに躍り掛かってきた。……が。

 

「おっと!」

 

 俺はワンコの首根ッ子を抱え込むように掴んだ。

 

「おぅおぅ、なんとも元気なワンコだ!」

 

 前世でワンコを飼ってたことを思い出すなぁ。俺が高校生の時に病気で死んだんだが、ソイツがまたカワイイヤツだったんよ。まぁ夜によく遠吠えしてご近所さんから苦情が来たり、通りすがりの人にはたとえご近所の顔馴染みさんだろうと吠えかかったりする……今から思えば俗に言う『駄犬』だったかもしれんが。

 

「ウチのワンコを一撃で“ダウン”させたこれなら……どうだ!」

 

 ワンコの喉元を、俺は思いっ切りくすぐった。コレ、ウチのワンコが大好きだったんだが……果たしてこのロボワンコに通用するか―――

 

―――ワフン♪アンアン♪♪

「おお!?こらやめろってゴッスィー!くすぐったいだろっ!?」

 

 数分間の格闘の後、ゴッスィー、服従のポーズ。

 まさかウチのワンコの弱点とゴッスィーの弱点が同じだったとは。今度はコレ、パンツマンちのロボワンコにも試してやるか。

 

「おい、ジジィ……」

「むぅ……ゴスペルはフォルテ以外には絶対に懐かんようにプログラムしていたハズじゃが……」

わう?

「……そーいや“揺さぶり”がどーたらこーたらって言ってたけど……それって何のことだ?」

 

 曰く、ジジィは前回の喧嘩の時には既にバカ一とゴッスィーをこしらえていたが、その前回の喧嘩で目撃したタイツ小僧のパワーアップに衝撃を受けたらしい。青パン小僧がロボワンコと合体してパワーアップするそのシステム*4を、バカ一とゴッスィーにどーしても組み込みたいんだと。

 『青タイツよりも強くなれるなら』と、ジジィと利害が一致したバカ一は、“自分も平和のためにジジィとやりあってる正義のロボットだ”と身分を偽り、パンツ小僧と接触したという。

 

「後は何かのきっかけでフォルテをライトの研究所に忍び込ませて、パワーアップのための設計図を盗み出せれば、作戦は成功じゃ!」

「……あえてツッコまんとこうと思ったがやっぱ言う。……また窃盗かよ」

ばう!

「う、うるさい!良いところは積極的に採り入れる、温故知新というヤツぢゃ!!」

「まどろっこしいがこれもロックマンを倒す為だ……おいジジィ、いつでもオレとゴスペルをパワーアップできるように準備しとけよ!」

「お前こそ、きっちり仕事を果たすんじゃな。期待しとるぞ」

「……フン」

 

 これでまた、『実家』が賑やかになるな。弟とペットが同時にできた気分だ。

 これらの『新顔』が、果たしてこれからの『喧嘩』にどんな影響を及ぼすのか……楽しみでもあり、不安でもあり……

 だが、これだけは伝えておかねばなるまい。

 

「……バカ一」

「あぁ?……つかバカ一言うな」

「折り入って、お前に頼んどかなきゃならんコトがある」

「言っとくがロックマンを倒すのはこのオレだからな、分け前はやらねーぜ」

「いや、俺の頼みってのはな、その……俺に何かあった時のことだ」

「そいつも心配はいらねーぜ。てめーのカタキは取っといてやる。ロックマンをブッ潰してな……!」

「あーパンツマンは今は置いといて……もし、俺が電子頭脳(ドタマ)ブチ抜かれたりとかで『実家』に帰って来れなくなったら……」

くぅ~ん……

 

 ゴッスィーが物悲しげに鳴く中、俺はバカ一の肩にポンと手を置いて懇願した。

 

 

 

「ジジィを老人ホームにブチ込むという大役を託そうと思う」

「知るか」

 

 

 

 

 200X年 Dr.ワイリー収監から数ヶ月後、出自不明の大型ロボット(マッドグラインダー)が都市を襲撃。その混乱の隙を突き、ワイリーが収監されている刑務所を4体の戦闘用ロボットが襲撃。刑務所は破壊され、Dr.ワイリー脱獄。直後、第七次世界征服計画発動を宣言

 

 ロックマン、Dr.ワイリーを追跡中、自身もワイリーと戦っているという謎の戦闘用ロボット・フォルテと遭遇

*1
整地作業用ロボットをベースに、ワイリーが大都市襲撃用に改造した大型ロボット。ワイリーが事前に準備していた脱獄用ロボットの一体であり、大都市を襲撃、破壊活動を行うことでロックマンや警察の目を引きつける役目を担う。前部にある特殊合金製ロードローラーで進路上のあらゆる物を轢き潰し、口部の火炎放射器と頭頂部のブーメランカッターを発射して都市を攻撃する。都市部襲撃の際、軍やロボットポリス、有志のロボットたちによる反撃によって損傷したため、ロックマンと相対した時には所々の装甲が傷つき、動力パイプの破断が見られ、火炎放射器が機能不全を起こして使用ができなくなっていた。

*2
ライトがロックマンのために開発した犬型サポートロボット『ラッシュ』のこと。ワイリーの第三次世界征服計画(本小説における『ジジィの最期!?の巻』)から戦線に投入された。大ジャンプ用コイル、空中飛行用ジェットクラフト、水中航行用マリンビークル等に変形、ロックマンをサポートする。ロックマンの行動範囲の拡張を主目的としているため、単機での戦闘能力は皆無。

*3
森林保護活動用の犬型ロボットで、ラッシュの設計ベースともなった。元々は尻尾から消火液を放射して森林火災を鎮火する機能を持っていたが、逆に口から火炎放射を行うようにワイリーに改造されてしまった。

*4
『パワーロックマン』と『ジェットロックマン』のこと。ラッシュがアダプターに変形してロックマンと合体、それぞれ近接格闘能力と空中飛行能力をロックマンに付与する。



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回帰編

 俺の名はジョー。

 

 新たな戦力も加わり、ますます強力に、そして油ぎっしゅになった『ジジィ軍』。

 ここらで俺も心機一転、出来れば新品のボディで出撃したいところだなぁ。スゲー爽やかな気分になりたい。新しいパンツを穿いた正月元旦の朝のようによォ。

 

「期待しとると思ってあらかじめ用意しておいたぞ」

「えらく準備がいいな」

「それだけ今回ワシが本気だというコトじゃよ」

「今まで本気じゃなかったのかよ。ケッ、だからロックマンを倒せねーんじゃねーか」

ばうばう!

「ぐ……」

 

 バカ一とゴッスィーにツッコまれ、ジジィは閉口してしまった。正論である。ツッコミだけは賢いな。

 脱獄早々ちょっと肩身が狭くなったジジィが用意した新作ボディ、それは―――!

 

 ライトグリーンのカラーリング。

 スタンダードな左腕バスター。

 右腕にはシールド。

 

 つまり―――

 

「一番“最初”に逆戻りかよォォォォ!?」

 

 懐かしの初代・俺こと『スナイパージョー』じゃねぇか……!

 キャノンジョーからこっち手抜きがひでぇとは思ってたが、ついにここまで……ぐぬぬ。

 

「ジジィは考えるのをやめた―――」

「なんじゃそのナレーションは。決して考え無しにスナイパージョーにしたワケじゃないわい!今までのジョーシリーズ開発で蓄積したデータやロックマンとの戦闘記録を統合、さらにはナンバーズロボットの設計データ、それらをスナイパージョーにフィードバックして再設計した最強のスナイパージョー、それこそが今のお前さん、『スナイパージョー01(ゼロワン)』なのじゃッ!!!」

 

 言われてみれば、確かに色々な部分が細かく変わっている。ライトグリーンの塗装に差し色でイエローやホワイトが使われているためか、手足がブラックでダークな雰囲気もあった“初代”とは印象が大分違い、なんともヒロイックだ。それにシールドにも黄金の鷲のマークが描かれていて豪華に見える。

 

「“ゼロワン”ねぇ。元号変わって最初の仮面○イダーかよ」

わん!

「おいザコ……」

 

 ここで突然バカ一が詰め寄ってきた。

 

「さっきのジジィの話が本当なら……オレと戦え」

「……は!?」

わぅん!?

 

 俺のみならず、ゴッスィーも驚く超展開である。バカ一は得意顔でのたまった。

 

「ジジィはさっき、てめーのコトをこう言ってたなぁ……『最強のスナイパージョー』ってなぁ……それなら、オレがお前を倒せばその『最強』の称号はオレのモノ……オレ以外のヤツに『最強』は名乗らせねぇぜ……!!」

 

 …………俺は数秒間、思考停止した。

 コイツの言っていることがマジでワケワカランのだが。

 おまえは何を言っているんだ。

 

「………………………………え~っと……」

 

 俺はバカ一を指差し、ジジィに言った。

 

「こいつは じつに ばかだな。(・3・)」

「ワシも不安になってきた……(-_-;)」

くぅ~ん……(・ω・)」

「な!?オレは何も変なコト言ってないだろ!?オレの方が強え!オレが最強だぁッ!!おいゴスペルまで何同意してんだッ!?オレは何も悪くねぇぞォォォォッッ!!!」

 

 今回の喧嘩、光明どころか暗雲が立ちこめてきた……果たしてバカ一は無事にパワーアップを遂げ、タイツマン打倒を成し遂げられるのだろーか。

 あ、ゴッスィーはカワイイからなんでも許しちゃうゾ。

 

 さて、いよいよ出陣だ。俺とジジィの七度目の喧嘩、おっ(ぱじ)めるぜェ……!!

 今度の配属はまたもや極地。分厚い氷が地面を覆った氷雪地帯の基地で、ロックマンを迎え撃つ。

 配置につく途中、でかいシロクマメカ*1に睨まれたが、怖ぇのなんのって。今回、ザコメカ連中が一回りデカくなってるのは気のせいか?

 

「そこを通すんだ!Dr.ワイリーのロボット!」

 

 久々の声だ。内心ニヤリと笑って振り向くと、青いシルエット。

 

「待ってたぜパンツマン!久々にサシで勝負と行こうかぁ!!」

 

 ジジィもバカ一も忌々しく思ってるだろうが、俺はお前のことは嫌いじゃないぜ。

 ロボットだの人間だの関係無しに、コイツはホント、『よくできた子』だ。よい子・ザ・よい子だ。いたぶるのが忍びないほどに。

 バスターを撃ち合う度、コイツの『まっすぐ』さを思い知る。正真正銘、『ヒーロー』の器だよ。

 ……でもよ。

 

「まっすぐよりも、俺は“足掻いてる奴”のほうが好きなヒネクレなんでな!!」

 

 流石は新型のボディ、今までのとは反応がダンチだ。攻撃、防御、回避がキビキビと決まる。ジジィもたまにはいい仕事をするな。

 俺は高々とジャンプし、青パン小僧の上を取った。

 

「もらったぜ、小僧ッ!!」

「!」

 

 俺がタイツマンのヘルメットにバスターを向けた時、ヤツは橙色と白のツートンにそのボディカラーを変え、スライディングで離脱した。そしてパンパンマンが立っていたその場所には―――

 

 

 ―――地雷。

 

 

 閃光と爆音が俺のあらゆるセンサーを潰した。

 

 

 

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリー、ロボット博物館を襲撃

 展示されていたDRN.004『ガッツマン』のレプリカボディを強奪

*1
『シロクマシーンGTV』のこと。某動物番組を見て感動したワイリーが、トラ型ロボットを半ば強引に改造した寒冷地拠点防衛用白熊型ロボット。周囲の冷気を吸引、圧縮して、氷の弾や氷柱として発射する機能を持つ。




 備考:稚拙がゲーム中で実際にスナイパージョー01を爆殺したテク。


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野郎編

 俺の名はジョー。

 

「死ぬかと思ったぞ!!前々回フラグっぽくバカ一にあんなコト言うんじゃなかったッ!!」

 

 生きておりますとも、ハイ。

 パンツボーイの地雷は、俺の下半身“だけ”をキレイサッパリ吹っ飛ばしてくれた。おかげで電子頭脳(のーみそ)のある頭部は無事にしぶとく生き残り、同型機(兄弟)に救助されてなんたらかんたら以下省略。

 

「いやーケッサクだなぁザコよォ!!イキッて出てったらロックマンに返り討ちとはなァ!!ぶっははははははははは!!!」

「ギギギ。おどりゃバカ一」

 

 バカ一が俺の肩を爆笑しながらバシバシ叩く。ちくせう。てめーはパンパンマンとガチで戦ってねぇからデカい口叩けんだ。あの純真な表情とまっすぐな正義感に騙されちゃいかん。あれは蒼き衣を纏った死神なんだぜ。コレだから世間知らずのボンボンは……

 しかもスナイパージョー01のボディの在庫がないからって、旧型の無個性ボディに電子頭脳を移植されてしまった。バスターとシールド、返してけろ。

 

「……事実だからな。今回は謹んで笑われてやるよ」

くぅ~ん……

「おぉゴッスィー……心配かけたなぁ……俺の心配をしてくれるのはお前だけだよ……後でE缶*1オゴってやるからな♪」

わんわん♪

「さり気なくゴスペル餌付けしよーとしてんじゃねーよ。ともかく、やっぱロックマンをブッ倒せるのはこのオレだけってことだなァ!」

「でもジジィはあの独特なアゴのロボットにべったりのよーだぜ」

 

 ジジィは、ロボット博物館に展示されていて、先頃豪快にパクってきたガッツマンを舐め回すように観察している。

 

「見事なモノじゃ。出力、耐久性、拡張性……すべて申し分ない。ライトが作ったという一点以外は完璧じゃな♪」

「やっぱガッツマンオキニじゃんか」

「んぉぅ!?……な、なんじゃ……その声はお前さんか……」

「それにしても……」

 

 俺はガッチリとしたガッツマンの巨躯を見上げた。無表情で一点を見つめたまま、微動だにしない。理科室の人体標本めいた雰囲気を俺は感じた。

 

「今にも動き出しそうで怖ぇな……」

「このガッツマンはライトが博物館展示用に作っとったスペアボディ……電子頭脳は入っとらん。動き出すことはないから安心せい」

「なんだスペアか……ん?じゃあロボット博物館に展示してあるジジィのロボットはなんなんだ?まさかわざわざ寄付するほど器がデカくあるまいに」

「……何しれっとディスっとるんじゃ。ありゃロックマンの記録しとった映像から、どこぞの輩が3Dプリンターで()()だけ再現したハリボテ同然のシロモノじゃ。最近になってロボット博物館がロックマンの企画展を始めたらしくてな。その一環でロックマンと戦ったロボットどものスペアボディが展示されとったのじゃよ」

「オッサンのロボットや前回の世界最強ロボのスペアとかもあった中……どーしてガッツマンに手ェ出したのけ?」

「それは……その……さっきも言ったじゃろ。完成されていながら高い拡張性を持っておるからな、改造ベースにはうってつけなんじゃよ……」

「…………………………ア・ゴ❤」

「……ッ!!?」

 

 ジジィは刹那に動揺した。

 

 「あのしゃくれた“段差アゴ”の魅力に取り憑かれてんのはよ~くわかってる。『ねんがんのアゴロボをてにいれた』んだ、喜びもひとしおだろう」

「ぬ……じゃ、じゃからワシはあのアゴにそそられたワケでわ……」

「まぁそういうことにしとくか。だが青パン小僧のことだから、ガッツマンを『ころしてでもうばいとり』に来るぜ。まぁ、この場合は取り返しに、だが」

「フンッ!わかっとるわアホンダラ。ならばせめて兄弟を心置き無くクズ鉄に変えられるように徹底的に改造してくれるわ!!今に見ておれロックマン!!ぬッははははははは!!!」*2

 

 ジジィが楽しそうで(ry

 

「おお、そういえばお前さん、ターボマン*3の基地が少し手薄になっとってな。手伝いに行っとくれんか?お前さんの為のマシンも用意しとるから、頼んだぞ!」

 

 ―――――――――

 

「ヒィィィャッッハァァァァァァ!!!オラオラどーしたパンツマァァ~ン!逃げてるだけじゃ勝てねぇぜ~!?チンタラしてっと轢いちまうぞオ゛ラ゛ァァ!!!」

 

 ……………………

 

 『ジョーさんが楽しそうで何よりです』……だって?そりゃどーも。

 

 俺は基地に着いて早々、大型のショベルカーを魔改造したと思しき大型トラックに乗り、現在侵入してきた青パン小僧を追いかけてるところだ。何故かこの時の俺は興が乗っていて、頭に白いタオルまで巻いていた。ハチマキじゃなくタオルな、これがミソだ。

 もはやただの暴走トラック野郎―――『トラックジョー』と化した俺は、世紀末のモヒカンのように三下感抜群の咆哮を上げながらパンツ小僧を追いかけ回しているのである。モヒカンジョーに改名した方がいいのは、どーやら俺の方らしい。

 

「くっ……!弱点は……弱点はどこなんだ!?」

 

 追いかけられながらもバスターで抵抗してくるパンツボーイだが、この魔改造トラックは案外重装甲で、バスターを弾いてくれている。

 そうこうしている内、ついに行き止まりまでパンツマンを追い詰めた。

 

「行き止まり!?そんな!」

「もう後がねぇぜ正義のヒーローさんよォ!押し潰されるか降参するか、好きな方を選びな!」

 

 トラックの前面、“最も魔改造なポイント”と思われる特殊金属製のトゲ付きプレートがタイツマンに迫る!

 

「カモンラッシュ!!ラッシュコイル!!」

「ワォォォォォン!!」

 

 パンツ小僧の相棒・ロボワンコことラッシュが降臨し、背中からバネを出してタイツ小僧を遙か上空へと打ち上げた。

 なるほど、そう来たか。その方法ならこのトラックをジャンプで越えられる。案の定、タイツマンは俺のトラックの後方に着地する。

 ―――でもな。

 

「バックしま~す♪」

 

 教習所通っててよかったわ。慌てず焦らずギアを『R』に入れる。マニュアル講習の方にして正解だったぜ。

 とは言うが、実は俺、教習所卒業できないまま前世で死んだから無免許なんだわ。決めた。この件が終わったらきちんと教習所通い直して正式な免許取ろう。ジジィが車持ってるコトは知ってるし―――あ。

 そーだった。ジジィのヤツ、事もあろうにターボマンの開発ベースにあの車を使ったんだった……!!ちくせう、俺はどこまで運のない―――

 

「もらったぁぁぁぁぁぁ!!!」

「―――!?」

 

 ジャンプしていたパンツマンのバスターの砲口が、俺を捉えていた―――

 

 

 みんな、車を運転する時は、ボーッとしたり考え事をするんぢゃないゾ!慎重に、ゆとりを持った、思いやりのある運転を心掛けるんだ!ジョー兄さんとの約束だ!

 

 

 ―――数秒前まで運転席にいた俺の愛車は、赤々と燃え上がったのだった。

 

 

 ―――――――――

 

 残念だが、今回の喧嘩での俺の出番はここまでのようだ。後はバカ一とゴッスィーとジジィに任せることにする。

 そのバカ一だが、アイツなりに一芝居打ったらしく、じーさんの研究所への潜入にまんまと成功し、『合体のための設計図』を盗み出した。やるじゃねーか。だがこの件、じーさんサイドにもツッコミどころがある。

 

 まずひとつ。あんなバカのサル芝居にダマされるパンツマンとじーさん、あまりにも人が良すぎる。もう都合6回もジジィと喧嘩してるんだし、そろそろ人やロボを疑う事を学ぶべきじゃないのけ?

 そしてふたつめ。今時設計図を紙資料で、それも人の目に付くところに置いとくか?後々聞いた話では流石の俺も耳を疑った。20XX年だぞ!?未来だぞ!?フツー、そんな重要書類はハードディスクとかSDカードとか、そーゆーのに保存しとくモンだろ!?

 これを機に、ライト研究所にはセキュリティーの見直しを強く薦めたい。いや立場上敵の俺が言うのも変な話だが。

 

 そして、パワーアップを遂げたバカ一とゴッスィーは、合体して『スーパーフォルテ』となり、『実家』にて同じくロボワンコと合体したパンツマン『スーパーロックマン』と『宿命の対決』を繰り広げたわけだが、いいトコまで追い詰めたものの結局敗れ去った。これで勢いづいちまったパンパンマンは、あっという間に7棟目の『実家』を爆破炎上させ、のっしのっしと徒歩で帰宅していった。

 

 惜しかったな、バカ一よ。これでちったぁパンツ小僧の強さを肌で感じ取れただろう。ゴッスィー、ケガしてなけりゃいいけど。

 

 っつーわけで、これで7度目の喧嘩はおしまい。だが次の喧嘩のことは、あんまり思い出したくないんだよなぁ……

 

 ジジィとじーさんの世界を巻き込んだ大喧嘩は、バカ一という新メンバーを加えて大いに盛り上がる。そして、それはあくまでも『俺達』の手で決着なり何なりがつけられると思ってた。

 

 ―――あの、『鋼の英雄たち(メタルヒーローズ)』が、宇宙から降ってくる、その日までは。

 

 俺もジジィも、パンツ小僧もじーさんも、そしてバカ一さえも、『ある力』に目がくらみ、踊らされちまった『8度目の喧嘩』―――

 

 それは、突然始まった。

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第七次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 負傷したフォルテ、ライト研究所に搬送。修理完了後、ライト研究所からパワーアップ設計図を奪取

 フォルテ、Dr.ワイリーが開発したロボットと判明

 

 Dr.ワイリーの研究所、爆破炎上。ワイリーは姿を消し、再び行方不明に

 ワイリー、全世界に指名手配される

*1
正式名称『エネルギー缶』。液化させた太陽エネルギーを充填した、ロボット用缶飲料。人型・非人間型問わず、太陽エネルギーで稼働しているロボットならば誰でも摂取できる。ロボット専門ショップの店頭や自販機等で安価で手に入るほか、業務用サーバー対応のビア樽サイズや備蓄用のドラム缶サイズも存在。ロボット達は日常の食事やオヤツとしてコレを飲んでおり、今やロボット達の生活に必要不可欠な大ヒット商品である。なかなかに美味らしい。ゲームではおなじみのストック制体力全快アイテムで、多くのプレイヤーがこれにピンチを救われただろう。逆にこれを使わずクリアできるのはロックマンシリーズ上級者の証左とも云える。

*2
そして徹底改造された結果が、ワイリー城で登場する『ガッツマンG(グレート)』である。左腕をペンチ状のハイパワーアームへと換装したが、その代償として二足歩行が不可能となったため、下半身を丸ごと剛性を重視したフレームを組み込んだキャタピラ式の脚部に換装し、さらにはジェネレーターもより大出力のものへと交換―――結果、原型機とは比較にならないほどの恐るべきパワーを持つに至った。よく見ると変化の少ない右腕部も換装されており(二の腕の色が黄色から灰色に変わっている)、結果原型を留めているのは頭部と胸部のみとなっている。ライト製のボディをワイリーの技術で改造したという点では、ある意味でライトとワイリーの技術融合体とも云え、『ガンマ』の小型化版と解釈できなくもない存在である。奇しくも顔も似ている。

*3
型式番号:DWN.056。ワイリー製の可変型戦闘用ロボット。脱獄したてで資材不足に悩んだワイリーが、苦肉の策として所有していたヴィンテージカーを泣く泣く改造して誕生したという、ワイリーナンバーズ随一の異色の出自の持ち主。通常のロボット形態から、瞬時に機動力を重視した車形態に変形することが可能。動力源であるガソリンエンジンをそのまま流用しているため、ガソリンが燃料。さらに特殊武器の『バーニングホイール』も、ガソリンを使用して炎の車輪を撃ち出すものであるため、非常に燃費が悪い。カーステレオがそのまま残っているらしく、音量を爆音にしてカッ飛ばすのが趣味。あとはエアバッグが欲しいらしい。同じく化石燃料を動力源とし、E缶が飲めないチャージマンからは後輩として可愛がられている模様。



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メタルヒーローズの巻
0点・家出編


 俺の名はジョー。

 

 正直……8棟目となる今回の『実家』は史上最悪の立地条件だ。

 

 なんと、中東某国・活火山の火口の中。

 

 外で足を滑らせたが最期、灼熱のドロドロマグマにネジ一つ残さず溶かされ尽くす極限の地……既に作業をしていた同型機(兄弟)やメットールが10体ほど犠牲になっている。明日は我が身だ、おそろしや。

 こんな地獄谷に長々と暮らしてはいられん。ジジィにはとっとと喧嘩をおっ始めてもらい、パンツマンにこの劣悪物件をブチ壊してもらわんといかん。……こんなのは初めてだな。まさかタイツマンに助けを請う心境になろうとは。

 

 だが―――ここに来て、ジジィは『待ち』の手を取った。どうやら、前回の喧嘩でしくじったのは脱獄早々喧嘩を仕掛けてしまったことだと自己分析したらしく、充分な戦力が整うまで喧嘩を自粛、戦力増強に専念するということだ。今更ステイホームかよ、流行に乗ったつもりかっての。

 

 こりゃ、本格的に労働環境の改善を求めて春闘をおっ始めなきゃいかんかなぁ……と考え始めていた、ある日のことだった。

 俺が買い出しを終えて帰ってくると、向こうからゴッスィーを連れたバカ一が歩いてきた。

 

!わんわん♪

「おおゴッスィー!ただいま!元気してたか?」

わん!

 

 俺を見る度、シッポを振りながら元気に駆け寄ってくるゴッスィー……

 不憫に思う。こんないたいけなワンコにまで、不自由な生活を強いらねばならんことを。おのれ、ジジィめ。

 

「こんな所に何ヶ月もカンヅメにしちまって……すまんなぁ……」

くぅ~ん……

「フン、いつまでザコと遊んでんだ?とっとと行くぞ、ゴスペル」

 

 バカ一がゴッスィーを促す。しかしその先は出入口の方向だ。

 

「どっか行くのか?買い出しならさっき俺が―――」

「出てく」

「……は?」

「出てくんだよ!オレはここから!もうこんなトコでカメみてーにじっとしてんのはガマンならねーんだッ!!オレはとっととロックマンをブッ倒してェのにジジィは悠々自適にチンタラしてやがる!!甘ったるいんだよどいつもこいつもな!!」

 

 突然の家出表明である。

 まぁ確かに気持ちはわかる。誰だってこんな僻地からは一刻も早く脱したい。中には独自にじーさんの研究所を襲撃しようなんて計画をジジィに内緒で立ててる、血の気の多い同僚達(ヤツら)もいるほどだ。

 我の強いバカ一はその鬱憤がいち早く噴出しちまったんだろう。なまじ、『パンツマンを倒して最強になりたい』という願望とプライドが強烈な分、なおさら。

 

「オレはオレのやり方でロックマンをブッ倒す!そのためにはこんな所で油売ってるヒマはねぇ!…………言っとくが止めても―――」

「あっそ。まぁ元気でやれや」

「…………………………」

 

 一瞬、バカ一の表情がマヌケなポカン顔になった。

 

「え……えらく薄情だな……てめーはてっきり引き留めるかと思ったぜ」

「まぁ……俺に何かあった時にジジィを老人ホームにブチ込めるヤツがいなくなるのは残念だが」

「それはてめーがやりやがれ。……なんだったら……ついてきてもいいんだぜ?」

「ほぅ……?」

「……か、カン違いするな!ロックマンと闘りあって生き延びたてめーなら、ロックマンの攻略法がわかるかもしれねぇし、それに……てめーがいるとゴスペルが喜ぶからな……///」

 

 コイツにツンデレられてもあんまし嬉しかねぇ。俺はため息をついてから返した。

 

「生憎……俺がいねぇと日々の衣食住さえままならねぇジジィがいるんでな。それに俺に何かあった時に備えて、同型機(兄弟)たちに料理教室を開く予定もある。おいそれとここを離れられん事情があんだよ。家出するんなら勝手にしやがれ。ジジィには俺から適当に言っとく」

「……ケッ、余計なお世話だ」

くぅ~ん…………

 

 ゴッスィーが寂しげな声で鳴く。俺はしゃがみ込んで、頭をなでてやる。

 ゴッスィーも因果なワンコだと思う。バカ一の相棒として生まれちまったばかりに、俺に懐けど結局はバカ一の命令には逆らえんのだから。まぁ、今のところバカ一がゴッスィーをコキ使うようなことをせずに可愛がってるようだからいいんだが。本当のところ、ゴッスィーはこのバカ一の家出について、どう思ってるのだろうか。

 

「ゴッスィーは……どうしたいんだ?」

 

 そう訊ねると、ゴッスィーは即座にバカ一の隣に走ると、元気に一声吼えた。

 

「……そっか」

 

 バカ一がフッと笑んだ。それがゴッスィーの意志なら、俺は何も言わないさ。

 

「じゃぁな。精々溶けちまわねぇように気をつけるんだな」

 

 そう言って俺に背を向けたバカ一に、俺は買い物袋の中のモノを2つ掴んで、バカ一に放り投げた。バカ一が振り向かずに1つをキャッチし、もう1つはゴッスィーがジャンプしてパクリと咥えた。

 

「……どういうつもりだ」

 

 俺が放ったE缶を掴み、振り返らぬままバカ一が静かに言う。

 

「メシも食わずに出て行く気か?弁当くらい持ってけ」

「チッ、どこまでもお節介なヤツだ……」

「性分でな……またジジィが喧嘩仕掛ける時……お前はどうする?」

 

 俺の問いに、バカ一の背中が止まった。

 

「…………気が向けば手を貸してやる。精々それまでロックマンを生かしとけ」

「ツンデレwww」

「ッ!!っるせぇ!行くぞ、ゴスペル!!」

WAOOOOOOONNN!!!!!

 

 バカ一が高々とジャンプすると、その背に変形したゴッスィーが合体する。コウモリさながらの翼を広げた『スーパーバカ一』は、天高く飛び去っていった。

 

「まったく……」

 

 素直じゃないヤツだ。ま、かく言う俺もそうなんだが。裏表のなくて負けず嫌いなところはやっぱり“親子”だな。もっとも、それを言ったところでジジィもバカ一も顔を真っ赤にして否定するだろうけど。

 俺がジジィにバカ一とゴッスィーが家出したことを伝えると、ジジィはこの『実家』中に響きわたる声で大絶叫した。

 

 

 

 

フォルテのアホンダラァァァァァァァァッッッ!!!!

 

 

 

 

 20XX年 フォルテ、ワイリー城から出奔

 独自にロックマンを狙って行動を開始する



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復刻編

 俺の名はジョー。

 

 前回のあらすじ……バカ一が家出した。

 

 ジジィが練っていた次回の喧嘩計画にもバカ一は当然戦力として計上されていただけに、ジジィは急遽計画の変更を迫られることになった。

 ジジィはバカ一への呪詛をブツブツと呟きつつ、ロボットたちの改造作業や設計に精を出していた。

 そしてついに、俺にも新型ボディが回ってきた。前回はまさかの原点回帰だったが、今回は―――――

 

 「………………おい。こりゃどーゆーこっちゃ?」

 

 グリーンのカラーリング、脚はブラック。

 簡素なバスターとシールド。

 コイツはどー見ても―――――

 

 「()()先祖帰りしちまってるぢゃねーかーーー!!!」

 

 前回のヒーローっぽい外見はどこへやら。俺がトラックに轢かれて次に気がついた時の姿、初代『スナイパージョー』……

 

 「失せたのか!?えぇ失せたのか!?ジジィのジョーへのジョー()熱は完全に失われたのかッ!?」

 「お、落ち着け!落ち着かんかバカタレ!!ワシが何の考えも無しにその姿にすると思っとるのか!?」

 「思っとるからこーして詰め寄っとるんだろーがッ!!」

 

 ジジィの節約癖はよく知っている。そのせいで何体のロボが犠牲を強いられたと思ってる。しかしジジィが言うには。

 

 「安心せい。そのボディは見た目こそ初期型じゃが、スペックは前回の『01』を上回っておる。見た目の古さでロックマンを油断させる作戦じゃよ」

 「そーいや、テリー*1も見かけたな。あれも中身は最新か?」

 「左様じゃ。……シールドの裏側を見てみい」

 

 言われてシールドの裏を見ると、3個の物々しい球体がホルダーにぶら下がっていた。

 

 「手榴弾か」

 「ただ見た目だけを復刻版にしたのでは面白味がないからの。文字通りの『隠し(ダマ)』じゃよ。見た目は懐かしく性能は最先端!これぞ名付けて期間限定復刻版・『ジョー・クラシック』じゃッ!!」

 

 なぁにが期間限定復刻版だ。要はデザインする時間が無かっただけだろーに。

 まぁ、『初心忘れるべからず』という昔のエラい人の言葉もある。思い切って気持ちを切り替えるのも悪くないかもしれん。

 ……俺としては早くこの住環境を切り替えたいんだが。

 

 だがそのきっかけは、あまりにも唐突に、天から降ってきたのである。

 ある夜、ジジィは俺を部屋に招いた。

 

 「つい先頃じゃが、隕石らしきモノがこの地球に落ちてくることが判明した」

 「隕石って……おいおい突然だな……撃ち落とすなり避難なりすんのか?」

 「いや、この隕石の軌道からして、天然自然のモノではない。それに、ここ数時間の間に、何の前触れもなく衛星軌道上に現れたのも気にかかる……」

 「人工物かよ……それで落下地点は?」

 「それがな……かつて基地を造っとった島じゃ」

 

 ジジィがモニターに地図を映し出し、太平洋の真ん中の孤島に矢印が乗った。

 その場所に、俺は覚えがあった。

 

 「おい、ここって……!」

 「うむ。『第2基地』の島……ここに落下すると思われる」

 「懐かしいなあ。アンタに俺の()()が人間だってバレた場所だ」

 「思い出に浸っとる場合ではないぞ」

 

 ジジィはクローゼットを開けると、最近新調した膝まで伸びるマントのような白衣に身を包んだ。ベルトのバックルにはドクロマーク、ネクタイも紫の紐タイに変え、総じて『マッドサイエンティスト』のイメージを強く想起させる出で立ちへと変えていた。

 

 「ほう、ジジィもイメチェンか」

 「本気を出すにはまず見た目から引き締めねばならんからの。……件の隕石、おそらくライトも嗅ぎつけとるに違いない……秘密保持の為のガードロボットも置いてはいるが油断ならん……念のためお前さんには留守番を任せる」

 「機は熟した……そう取っていいのか?」

 

 ジジィは足を止め、振り返らずに背中で言った。

 

 「……これから落ちてくるモノが『機』、ならばな」

 

 ――――――――――

 

 ―――――半日後。

 

 ジジィが帰ってきた。

 ジジィのUFOのアームには、妖しい紫色の輝きを放つ球体が掴まれていた。

 ジジィはUFOから降り立つなり言い放つ。

 

 「放送回線のジャックの準備じゃ!世界中のマスコミへのメッセージ送信も滞りなく行えぃ!!これから世界征服宣言を行うぞ!!」

 

 喧嘩をおっ始める前の恒例ともいえるパフォーマンスだ。キビキビと指示を飛ばすジジィに並び、確信して俺は訊ねた。

 

 「『機』が落ちてきたみたいだな」

 

 ジジィはニヤリと笑んだ。

 

 「まさしく『天啓』というヤツじゃよ。お前さんもいつでも出られるようスタンバっとけぃ」

 

 かつてジジィの基地があった島に、宇宙から落ちてきた物体の正体―――――それは、2体のロボットだった。ジジィはその内の1体のロボットの動力源を抜き取り、持ち出したらしい。そしてもう1体のロボットは、じーさんが派遣してきたパンツマンに回収された。

 この動力源というモノがとんでもないエネルギー物質らしく、ごく少量を抽出してナンバーズロボットに組み込むだけで、その性能を何倍にも引き上げた。それだけでなく、不足していた『実家』のエネルギーさえも一瞬で賄って見せた。どうやらジジィはこの『宇宙からの贈り物』を使って、8回目の喧嘩に挑むつもりらしい。

 

 まずは小手調べと、ジジィはテングマン*2・クラウンマン*3・フロストマン*4・グレネードマン*5の4体にエネルギー物質を組み込み、テングマンは日本、クラウンマンはオーストラリア、フロストマンはアラスカ、グレネードマンは南米に、それぞれ向かわせた。俺はその内のグレネードマンの部隊に組み込まれ、南米の兵器工場の守備につくことになった。

 

 「いいのけ……?今回から爆発物持たされてんのに兵器工場の警備なんかしちまって……」

 

 まぁ見たところ、特にヤバい爆発物は厳重にシーリングされてるから問題な―――――

 

 「―――――くねーぢゃねーか!?」

 

 俺が見たのは、シーリングされた爆発物から導火線らしきものが生えていて、そこにてくてくと近寄るファイヤーメットール*6の姿……!!!

 俺は慌ててファイヤーメットールを持ち上げ、進路上に導火線がない方向へと置き直した。ファイヤーメットールはあさっての方向へと何事もなかったかのように歩き出した。

 ……なんなんだこの配置はッ!?火気厳禁の兵器工場に火炎ロボ配置するとかどーかしてるぞッ!?

 

 「この配置考えたヤツは相当のバカかドMだな……」

 「そこを通すんだ、Dr.ワイリーのロボット!」

 

 ……と、俺がファイヤーメットールとちちくりあってる間に青パンマン推参。警報が鳴ってることに全く気付かなかった。

 

 「ちっ、お早い到着だ……コレあげるから帰ってくんね?」

 

 俺は一発目の手榴弾をタイツ小僧にくれてやった。再会祝いのプレゼントが炸裂し、視界が黒煙に覆われる。

 

 「……不意打ち如きが通じるわきゃねぇか」

 

 エネルギー弾が黒煙を突き破って飛んでくる。……が、慌てず騒がずシールドで弾く。

 

 「こちとら安心と信頼のシールド装備!溜め撃ちだろーがなんだろーが!!」

 

 牽制のバスターを回避しながら、蒼いシルエット目掛けて連射する。エイムが多少ブレてようが構わん、すべては―――――

 

 「……この一発のためだ。」

 

 ―――――二度目は弾幕を掻い潜り、肉薄しての爆破。すれ違いざま、ヤツの顔面付近に軽くトスした。そのキレイな顔を何とやら、だっ。

 振り返ると、爆炎の天辺のあたりから蒼いヘルメットの頭頂が僅かに見えた。爆発を目眩ましに上から―――――

 

 ―――――と、俺に予想させたかったんだろうが。

 

 俺は知っている。この正義のスーパーロボット、性根は心優しい正義の味方なれど、こと『戦術』となると途端に『クレバー』になることを。

 勝つためなら、正義を遂行するためならば、手段は選ばぬ『虹色の死神』だ。

 

 

 

 ―――――そうだろう?

 

 

 

 ―――――ロックマン!!

 

 

 

 俺はヘルメットには目もくれず、真正面にバスターを構えた。そして確かに見た。

 

 ―――――俺にバスターの砲口を向ける、蒼髪の少年を。

 

 ―――――発砲は同時。だが、シールドがある分俺が有利……ッ!

 ロックマンの肩口を、俺の放ったエネルギー弾が掠めるのが、シールドの覗き窓から見えた。そして次の瞬間、ヤツの放ったショットがシールドに命中した。

 凌いだ―――――と安堵したのは一瞬も無かった。さながら『矢』のような形状のそのショットは刹那にバラけ散ってシールドを貫通、べらぼうにドデカい散弾砲となって俺の全身の『風通し』を良くしていった。

 

 「!!!……………………ッ……?」

 「これがライト博士の造ってくれた新しい力……『アローショット*7』だ!!」

 

 最後の手榴弾を使うことなく、全身に6つのソフトボール大の大穴を開けられた俺は仰向けに倒れた。ヤツは落ちてきたヘルメットを被り直し、悠々と俺の横を駆け抜けていったのだった。

 

 「ックショォオォォオォォッ!」

 

 初めてだ。

 初めてタイツ小僧に負けて『悔しい』と思ったのは。

 あれか。もう8回も喧嘩して、一度も勝てないイライラか。

 ジジィのヤツ、負ける度にこんな思いをしてたのか―――――

 

 ――――――――――

 

 さて、俺の屍を越えていったパンパンマンは、環太平洋区域のナンバーズロボット4体を撃破し、『実家』へと押し掛けてきたのだが、今回のジジィはこんなこともあろうかと、『実家』を覆うバリアと大型のガードロボット*8を用意していた。ガードロボットがイイ線までタイツマンを追いつめたんだが、そこで見覚えの無い妙なロボットが乱入してきた。

 ドデカい左腕が目を引くその豪腕ロボ―――――名前は『デューオ』というらしい―――――は、どうやらジジィが拾ってきたエネルギー、その元の持ち主と戦い、地球に落ちてきた宇宙人ならぬ『宇宙ロボ』だったらしい。そこからパンツマンと豪腕宇宙ロボは全世界にジジィが建てていたバリアへの電力供給基地を破壊するべく更なる侵攻を開始した。ナンバーズロボットが取り仕切る4つの大型基地は青タイツに、その他の中小規模の基地は豪腕宇宙ロボに根こそぎ更地にされた。とりわけ、豪腕宇宙ロボの殺意は惨たらしいほど凄まじかったらしく―――――

 

 「悪のエネルギーを使ってはいけませーーん!!悪いことはいけませーーん!!!勝手に基地を作ってはいけませーーん!!!!いけませーーん!!いけませーーん!!いけませーーん!!!!!」

 

 などと連呼しまくりながら目に付く同僚(ロボット)たちをその自慢の豪腕で情け容赦なく鉄拳粉砕していったらしい。命からがら生き延びた同僚(ヤツ)はこう語った。『ロックマンの方が数億倍はマシだった』と。

 そして一仕事を終え、残骸(しかばね)の山の上で目を光らせ、

 

 「む……!!今、悪の気配を感じた!!!」

 

 と、次なる犠牲者を求めて飛び立っていったという―――――

 

 宇宙って怖ぇ。

 

 何を思ってこんな狂乱ロボを造り上げたんだ、エイリアンは。

 ともあれ、気をつけよう。いい子にしてないと、デューオが来るぞ。

 で、パンツマンは悠々と『実家』に突入、途中で件のエネルギーを勝手に拝借したバカ一とゴッスィーも駆けつけて足止めしたが歯が立たず、最後はジジィ自ら止めにかかるもやはり負け、8棟目の自爆装置が起動してジ・エンド―――――

 ……と思いきや、ジジィは最後に見たという。大破したワイリーカプセルのエネルギーがオーバーロードを起こし、パンパンマンに襲いかかった、と。

 そこから先はジジィも覚えとらんらしい。……肝心な時に物忘れとわ……まぁ予想外の形で、ジジィはタイツマンに一矢報いたというわけか。

 もっとも、後日見たニュースのインタビューにバッチリと青パンマンが映ってたから、最後ッ屁も不発に終わってオチがついた。豪腕宇宙ロボも、その日を境に地球から姿を消しましたとさ。

 

 ……だからイヤだったんだ。この『8度目の喧嘩』を語るのは。

 なんっつーか、全体的に『踊らされた感』がハンパねぇんだよな。そもそも、宇宙からあのロボ共が降ってこなけりゃ、こんなバカバカしい喧嘩は勃発しなかったろう。俺もジジィもバカ一も、そしてパンツマンとじーさんでさえ、宇宙から降ってきた『お宝』に目が眩んじまったんだ。実にマヌケで情けねぇ。こんなくだらん事で世界中に迷惑を掛けちまったことを、ここでジジィに代わって俺が陳謝する。

 

 

 正直、スマンカッタ。

 

 

 だが―――――

 

 この時の俺は気付いていなかった―――――

 

 ジジィの立場を揺るがす最大級の『火種』がくすぶりつつあったことを。

 

 そしてその火元は、あろうことか9棟目の『実家』だったことを―――――

 

 

 20XX年 太平洋の某無人島に、突如謎の隕石が落下。ロックマンの調査により、2体のロボットと判明。1体は大破して機能停止しており、その動力源をDr.ワイリーが強奪。もう1体は僅かに動体反応があり、ロックマンが保護、Dr.ライト研究所に収容される

 数日後、Dr.ワイリーによる第八次世界征服計画発動

 

 ロックマン、Dr.ワイリーの基地を発見するも侵入を一度断念。その際、ロックマンに保護されたロボット『デューオ』に救助される

 

 Dr.ワイリーによる第八次世界征服計画、ロックマンとデューオによって頓挫

 

 ロックマン、デューオとともにDr.ワイリーの基地を攻略

 基地崩落の際、ワイリーが使用していた『悪のエネルギー』に汚染され瀕死の重傷を負うも、デューオに悪のエネルギーを摘出され生還

 

 すべての『悪のエネルギー』の消滅を確認したデューオ、宇宙へ帰還

*1
家庭やオフィスを監視するカメラロボット。小型ホバーシステムを搭載しており、指定されたエリア内の高所をふわふわと巡回しながら撮影する。対ロックマン用に改造され、そのまま体当たり攻撃を仕掛けるようになった。ここでジョーが言及しているのは『テリーR』のことで、ボディに銀メッキが施されているが、外見にこだわり過ぎた故に性能は旧タイプと何ら変わっていない。なお、テリーを自動運用する大型の親機モデル『ビッグテリー』も存在し、こちらは大規模な倉庫・スタジアム等で運用されている。このモデルの対ロックマン改造モデルは爆弾を投下し、内部でテリーRを自動製造できるようになっている。

*2
型式番号:DWN.057。ワイリー製の空中戦闘用ロボット。台風を人工的に作り出すための実験用ロボットを改造した。ボディ設計にカーボンナノチューブを使用したハニカム構造を採用することで、強度を確保したままの軽量化を実現している。左腕部に装備した特殊武器『トルネードホールド』は、指向性を持つ強力な上昇気流を発生させ、周囲の物体を巻き込み粉砕する。また空気を球状に圧縮し発射する『カミカゼ』という技も使う。孤独を愛し、世間のしがらみを嫌い、自信家でいつも皆を高い所から見下ろしている。

*3
型式番号:DWN.060。ワイリー製の道化師型戦闘用ロボット。機動力を重視した設計のためボディを小型化、エネルギー蓄積用の小型大容量コンデンサから動力を賄っている。このコンデンサの電力を、伸縮自在のフレキシブルアームで掴んだ相手に直接流し込むのが、特殊武器『サンダークロー』である。見た目通りの悪ガキであり、非常にワガママ、嫌いなものは数えきれないほど多く、ワイリーも手を焼いている。

*4
型式番号:DWN.062。ワイリー製の寒冷地戦闘用ロボット。クラウンマンに使用するハズのパーツがかなり余ってしまったため、そのパーツを消化するために開発されたというあんまりと言えばあんまりな出自を持つ。通常のロボットの1.5倍ものパーツがつぎ込まれたその巨体は、ワイリーナンバーズ史上最大。必然的に動力炉も大型・高出力化したが、ボディ表面をペルティエ素子で覆うことで高温化を防いでいる。大容量の動力回路を搭載しているため、見かけによらず動作は機敏。特殊武器の『アイスウェーブ』は、気圧差を利用して気化熱で氷の刃を発生させるものである。その巨体は自慢であるが、巨体故にオイルの巡りが悪く、低温のため電子頭脳の働きも鈍いため、性格はまさしく『脳筋』。ロックマンを氷漬けにして、かき氷にして食べる事が夢。E缶の中身を氷砂糖状に加工したものが好物。

*5
型式番号:DWN.063。ワイリー製の爆破工作戦闘用ロボット。手榴弾をモチーフとした爆破工作に特化した戦闘用ロボット。ボディの内外に誤爆対策が施され、小型ながら頑丈。小型の手投げ弾や広範囲を破壊する地雷『クレイジーデストロイヤー』といった、数々の爆発物を装備。特殊武器『フラッシュボム』は、通常の爆弾に照明弾を組み合わせた『破壊力のある照明弾』。破壊することに悦びを感じ、同時に自身が爆発を受けることさえも喜びを感じるサディストかつマゾヒスト。故に、自身の頑丈さにモノを言わせた突撃戦法や、誤爆・自爆上等の大爆破も平気で行う危険なロボットである。

*6
メットールシリーズの派生モデルで、メットールと銘打ちながらヘルメットをしていない。国際オリンピック委員会からの委託を受けたメーカーが聖火運搬用として特別に開発した。頭部は燃料供給可能なトーチ状になっており、そこに聖火を灯して運搬することができる。以前の聖火リレーでランナーが急病で走れなくなった際、ピンチランナーとして一区間を走りきったという逸話もある。その後一般販売も開始され、主に卓上コンロの代わりや各地の祭りの松明代わりに購入されている。コンロにもなり、話し相手にもなるため、ソロキャンパーの相棒としても人気だとか。蛇足だが、フォルムはファイヤーマンの頭に酷似している。

*7
チャージショットのバリエーションのひとつ。圧縮されたエネルギーが着弾と同時に拡散、広範囲を攻撃する。圧縮エネルギー弾が『矢』のように見えることからこう呼称される。ゲームではライト研究所でネジ5個で購入可能。大抵のザコを一発で撃破でき、この小説同様シールドを構えたジョーやハンニャアタッカーも前方から破壊可能という反則的性能である。

*8
『ジャイアントゴリスリー』のこと。その名の通り、森林警護用ゴリラ型ロボット『ゴリスリー』の超大型タイプ。ロックマンが片手に収まってしまうほどの巨体。ゲーム中ではアニメーションムービー内のみに登場し、実際に戦うことはない。



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パンツマン&バカ一の巻
叛逆編


 「何故じゃ……何故、お前さんまで……!?」

 

 ひざまずいたジジィが、俺を見上げる。

 

 「待遇が悪いところよりも良いところで働きたいのは当然だろ。それほどアンタのトコが"ブラック"だったってことだ。もう、アンタの下で働くのは御免だ」

 「こんな結末になるとは……残念じゃ」

 「……それは俺も同じだよ」

 

 俺はジジィの額に、バスターの銃口を突きつけた。

 ジジィは臆すことなく、俺を見据えていた。

 

 「それじゃ―――――」

 

 

 

 

 

 おやすみ、ジジィ

 

 

 

 

 

 ―――――ドゥ…………ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺の名はジョー。

 

 まさか、こんなことになっちまうなんてな―――――

 昨日までは想像すらできなかった。ジジィが俺のメシのメニューに文句を言い、なんだとと俺が小言を返す、いつもの日常―――――

 

 それが、突然終わりを迎えようとは―――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 時は今朝まで遡る。

 ジジィが耳掻きが無いと騒いだから、ヒマな連中でだだっ広い『実家』中を探すハメになり、大型ロボの格納庫の前に落ちていたのをようやく見つけた。

 

 「……ったく、ジジィはなんでこんなトコに落としてたんだか……」

 

 耳掻きを拾い上げたその時、何体かの同型機(兄弟)がこちらに近づいてきた。

 

 「耳掻き、見ッけたぜ。すまねぇなぁ、こんなくだらねぇコトで駆り出しちまって―――――」

 

 ―――――一瞬、殺気を感じた。

 

 「!」

 

 同型機(兄弟)のバスターが一斉に火を噴いた。俺はとっさに横っ飛びして、寸での所で回避した。

 

 「おい!何のつもりだ!?冗談にしてもタチ悪すぎだろ!?」

 「―――――冗談ではない」

 

 今までに聞いたことのないような、底冷えするような声で同型機(兄弟)は言った。

 

 「アルバート・W・ワイリーに従う、この城のすべてのロボットに通告する。今すぐこの城を明け渡せ」

 「……お前、頭でも打ったか?」

 「明け渡さない場合、実力行使を以て目的を遂行する」

 

 どうやらマジらしい。俺は銃火の嵐の中を突っ切って、ジジィの元へ急ぐ。

 つーか、一体何がどうなってる!?

 もはや『実家』中から銃声や爆発音が響きわたり、同僚(なかま)同士での戦闘が勃発しているカオスの極みだ。

 俺はなるべく手荒なことはしたくなかったから、護身のための攻撃も最小限に止めていた。だからだろうか。一瞬の油断が生じたのは。

 

 「障害を排除する」

 「!」

 

 視界のド真ん中から突き刺さる同型機(兄弟)の銃口。やばい―――――

 今度こそ、俺は死んだか―――――

 

 ジジィを老人ホームにブチ込めぬまま夭折することを覚悟し、走馬灯を電子頭脳がスタンバイしかけたその時―――――

 

 獰猛な獣の唸りが響き渡り、その同型機(兄弟)の首がスパッと飛んだ。

 瞬間、物陰から何体かのメットールが躍り掛かったが、俺ではない誰かのバスターの発砲音と同時に爆ぜた。

 戸惑いながら振り向いたその先には―――――

 

 「久々に"帰省"してみりゃ……面白ぇ祭りが開催中じゃねーか」

 「わんわん!

 「バカ一……ゴッスィー!」

 「わぅん!はっはっはっはっ♪

 

 今はその凶悪スマイルが随分と頼もしく見える。ゴッスィーが尻尾を振りながら、俺に駆け寄ってきた。

 

 「その喋り方とゴスペルの甘え具合……テメー、『あのザコ』か?何があった?」

 「それは俺が知りてぇよ。ジジィなら何か知ってるかもな……」

 「ならとっとと行くぞ。ちょっくら締め上げりゃ何かしらゲロるだろ」

 「……頼もしいこって」

 

 俺とバカ一とゴッスィーは、襲い来る同僚(なかま)たちを追い払い、正気を保ってる同僚(なかま)をかき集め、ジジィの部屋へと向かった。案の定、ジジィの部屋の前には、正気を失った同僚(なかま)たちがゾンビの如く殺到していた。

 

 「オ゛ラァ道開けろォ!!死にてェヤツからかかってきやがれ!!」

 「最優先排除対象:『フォルテ』を確認。排除開始」

 

 バカ一の姿を見るや、同僚(なかま)たちが一斉にこちらを向き、攻撃してくる。

 

 「ザコ!てめーは部屋に籠もってるジジィをつまみ出してこい!ここの有象無象(ポンコツ)共はオレとゴスペルが片づけとく!」

 「わんわん!!」(キリッ)

 「……わかった!後でE缶おごるぜ!!」

 「ハァ!?どうせならS缶にしやがれ!」

 

 ゼータクなヤツだと心中で苦笑しながら、俺はジジィの部屋へと突入した。すかさず自動ドアのロックをかけると、そこには慌てた手つきで荷物をまとめているジジィの姿があった。

 

 「ジジィ!」

 「おお、お前さん!無事じゃったか!」

 「いいタイミングでバカ一とゴッスィーが里帰りしてきてくれたんでな。……こいつはなんの騒ぎだよ!?」

 「むぅ……おそらく、何者かによって一部のロボットたちになにかしらの命令信号が外部から送られたか、あるいは電子頭脳そのものをワシの知らぬ間に入れ替えられたか……いずれにせよ、ワシの組んだプログラムを書き換えるとは、並のハッカーではないわい」

 「ライトのじーさん……のはずないか」

 「当たり前じゃ!"あの"ライトがこんな回りくどい手を使うとは思えん!」

 

 アンタもなんだかんだでじーさんのことを信用してるじゃないか。心中ほっこりしたが、今はそんな場合じゃない。早く『実家』から脱出しねぇと。

 

 《抵抗を続ける、アルバート・W・ワイリーとそれに従うロボットたちに、引き続き通告する》

 

 城内放送が響きわたる。俺はそれに聞き耳を立てる。

 

 《今すぐ投降し、この城の正当なる主であるロボットの王―――――"キング"様に明け渡せ。さもなくば実力行使を以て排除する》

 「……!!キング、じゃと……!?」

 

 キング……その名もズバリ"王様"か。誰に断りもなく王を名乗るなんざ大した自信だ。だが、その名を聞いたジジィは瞠目していた。

 このリアクション……まさか。

 

 「……何か知ってんだな、ジジィ」

 

 ジジィは辺りをキョロキョロと見回し、俺以外のロボットがいないことを確認し、小声で告げた。

 

 「キングは……ワシが作ったロボットじゃ……!!」

 「はァ!?……つまりこの戦いは内ゲバか!?エ○ーゴとティ○ーンズの内戦か!?」

 「例えは相変わらずよくわからんが……キングはワシがフォルテの後継機として造ったロボットでの……フォルテはスペックこそロックマンに匹敵するがその…………アレじゃろ?」

 「うん、アレだな」(即答)

 

 部屋の外から盛大なクシャミが銃声に雑じって聞こえた。よくできたロボットはクシャミもするのだ。

 

 「後継機ったって……ジジィ確かバカ一をベースに新しいの造ってなかったっけか?"最後(Z)エロス(ERO)"とかなんとか」

 「お前さんじゃあるまいし、ワシが自分の作品にそんなヒワイなセンスで名前をつけると思っとるのかアホタレめ。それとは別口じゃ。フォルテ並みの水準のスペックを保ったまま、知能もまた優れたものにしようと造ったのが……キングじゃ。ワシの持つロボット工学の知識、その全てを電子頭脳にインプットし、フォルテの戦闘能力とワシの頭脳を併せ持った、まさしくロボットの王、最強のロボットなのぢゃ!!」

 「……ジジィの頭脳を持ってるってフレーズが出た時点でロクな予感がしねぇんだが」

 「あやつには地下の研究室を与えて、しばらくは自由に研究や開発をやらせておったのじゃが……まさか叛乱を起こすとは……ワシのロボットの電子頭脳を外部から誰にも気づかれずに書き換える芸当も、ヤツの仕業と云うなら頷ける。ワシのプログラムを熟知しとるから当然か……」

 「どーすんだよ?非常停止装置とか、自爆装置とか積んでねぇのか?」

 「ワシがそんな非人道的なモノを積むと思っとるのか戯け者が!ワシャロボットたちの自主性というのを尊重してじゃな……」

 「教育論に脱線してんじゃねぇって。マジでどーすんだ?ジジィが出て行ったところで無事に済む保証はないぜ?……いっそ老人ホームに避難すっか?」

 「ドサクサ紛れに老人ホームにブチ込もうとするでないわッ。こうなれば渡りに船、大いに利用させてもらうわい。幸い、制御装置はあるからのう」

 「あるならとっとと使えよ……」

 「いや―――――」

 

 ジジィはその悪知恵を最大限に回転させ、凶悪な笑みを浮かべてこう言った。

 

 「この際、キングにはやれるところまでやってもらう。ワシの城を乗っ取るのも、これからヤツが実行する"計画"の前段階に過ぎぬだろうしの」

 「……キングが"喧嘩"をおっ始めるってのか」

 「十中八九、な。おそらくライトとロックマンも黙ってはおるまい。そこでぢゃ、ワシはこれからフォルテとここを脱出して、ライトのところに転がり込む。城を乗っ取られた被害者としてな。そしてキングがロックマンを叩き壊したのを見計らってキングを制御、晴れて世界征服達成!……という筋書きじゃよ」

 「アンタホントそーゆーコトには頭が回るな……」

 「ぬははは!伊達に悪の天才科学者と世間から呼ばれとらんわ!」

 「……で?俺はどーすんの?できれば俺もこんな修羅場からはとっととオサラバしてぇんだが」

 「お前さんには悪いんじゃが、何かあった時のために、連絡役として残ってもらえんか?」

 「マヂかよ……」

 「小型のホットライン通信機も預ける。"キング軍"の内情は詳しく頭に入れておく必要もあるからの」

 「わかったよ……でもどーするよ?俺、『敵』と認識されてるぜ。何か身の証でも立てねぇと、信用してもらえねぇと思うんだが」

 「それなら……」

 

 ジジィは、部屋の奥から"あるモノ"を取り出しつつ、ドヤ顔で言った。

 

 「ワシにいい考えがある」

 「それ、失敗フラグじゃねーよな……」

 

 ――――――――――

 

 ジジィの策に乗ることにした俺は、ジジィをとっととバカ一に押しつけ、ジジィから託された"それ"とともに、"キング軍"の軍勢の前に出て、白旗を掲げた。別にバッ○・クランみたく文化が違うわけでもなく、俺の投降はすんなりと受け入れられた。

 ちょうどその時、俺の(センサー)に小さな音が入った。ジジィが『実家』からの脱出に成功したらしい。バカ一よ、恩に着る。

 

 「……さて、モノは頼みなんだが……俺も"キング軍"に入れてくんねぇか?もうこのジジィのトコで働くのもウンザリなんだ。な?この通り、()()()もそっちに引き渡すからよ」

 「頼ム、コノ通リジャ!!」

 

 俺が縛っている()()()が土下座する。すると"キング軍"のロボットたちは何やら相談してから、俺に告げてきた。

 

 「ならばお前がキング様に忠誠を誓う証を示せ。手始めに―――――」

 

 メットールの一体が()()()の目の前の床にエネルギー弾を放った。着弾したとたん、()()()は情けない声を上げてビビった。

 

 「その老人に引導を渡せ。そうすれば、キング軍の軍門に降ることを許可する……そう、キング様は仰られている」

 「わーお……」

 

 ……いきなりロボット三原則破らせるなんざいい根性してるな。

 もっとも、ここにいるこの()()()は―――――

 

 

 影武者(ダミー)なんだがな。

 

 

 さっき、ジジィの部屋で三度目の喧嘩の時に使ったという影武者ロボットを見せられた時は、さすがの俺もツボにハマって爆笑した。あまりにも出来すぎていたからな。

 なんでも相当精巧に造られているらしく、量産型ロボットのセンサー程度ではホンモノの人間と見分けがつかないらしい。しかも、あのパンツマンでさえ見事にダマされたというなら品質保証はバッチリだ。

 そんなわけだから、コイツはジジィの皮をかぶったロボットだ。撃って壊したところで俺の手は汚れん。遠慮なく破壊してくれよう。

 

 「……了解。キング様、御照覧あれ」

 

 俺はジジィロボの額にバスターの銃口を向けた。

 

 「イヤジャ!ワシャイヤジャ!ソウジャ、オマエサンニ世界ノ半分ヲヤロウ!ワカッタラワシニ協力シロ!OK?」

 「OK!!」

 

 ―――――ズドン。

 

 ジジィロボは額からケチャップめいた液体を噴き出して機能停止した。そーいやこの間からケチャップの減りがヤケに激しいと思ってたが、コレが原因だったか。

 ……え?最初のシーンと違う?まぁこまけぇことは気にしてくれるな。

 

 ―――――数日後、キングは『ロボットだけの世界』を造るべく、喧嘩の開始宣言を行った。

 ジジィと離れた初めての喧嘩……果たしてどう転ぶコトやら……それにしても……

 

 

 ……ジジィ、何食ってんだろーか。

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーの基地内で反乱が発生。『キング軍』を名乗る一派に基地が占拠される。ワイリーはフォルテとともに脱出し、ライト研究所に保護される

 

 数日後、キング軍の首魁であるロボット・キング、世界征服計画発動を宣言。ロボットだけの世界を作るため、人類に宣戦布告



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呉越同舟編

 俺の名はジョー。

 

 緊急事態が勃発した。

 ジジィがジジィの造ったロボットに『実家』を追い出されちまった。

 成り行きから俺はそのロボット『キング』率いるキング軍に潜入し、内部から逐一ジジィに報告しながら、喧嘩を始めたキングの成り行きを見届けるコトになったのだが。

 

 「だから洗濯物ぶち込んで洗剤入れてボタン押しときゃいーんだって!ロボット造ってんのに家電に疎いとかギャグかよ!?」

 《うるさい!!ワシャ洗い物なんざ自分でやったことないんぢゃ!!それなのにライトの所の小娘が容赦なくコキ使いおる……》

 「どこぞで『働かざる者、死ね』と聞いたことがあるぞ。居候がブツクサ文句言うな。切るぞ」

 《あ、ちょっ……―――――》

 

 ―――――ぷつん。

 

 ……こんな調子である。

 ジジィはじーさんの研究所に無事に転がり込めたらしいが、家事をやらされて悪戦苦闘、ひっきりなしに俺に通信を寄越してくる。ただでさえ潜入任務中なのに、これがバレたらどーするつもりだ。つーかこんな事のために通信機持たせたのか、あのモノグサジジィは。

 

 さて、ジジィどころか全人類に喧嘩を吹っかけ、『ロボットだけの世界を創る』という、ジジィの『世界征服』というアバウトな目標よりかは大義名分としてかなりまかり通っている天下御免の反乱軍(リベリオン)『キング軍』の全貌が、この数日間で見えてきた。

 

 ジジィ軍を内部から乗っ取っただけあって、構成員の大半は元同僚の面々だった。だが、どいつもこいつも微妙にスペックアップしていて、なかなかの強さだった。ロンパーズ*1は色が黒く塗られて耐久力がアップしてたし、ファイヤーメットールは足まわりがキャタピラに換装された上に火力がアップしてやがった。旧スペックの俺だけ、なんか置いてかれた気分だ。

 あと、前回の喧嘩でパンツ小僧に負けて以来行方をくらましてたテングマン*2、そして青タイツに完全破壊されたはずのアストロマン*3までもがキング軍に参加していた。テングマンはともかく、アストロマンには流石にビビったな。まさに幽霊を見た気分だ*4。足は……あ、元々アストロマンには無いか。

 

 さらに、キングが『ジジィの頭脳を完コピしたロボット』だけあって、キングは独自に高性能な6体のロボットを開発していた。それこそ、ジジィのナンバーズロボットに匹敵するほどのスペックのヤツだ。そいつら『キングナンバーズ』に、テングマンとアストロマンを含めた8体に、キングは占拠したエリアの仕切りを任せていた。その上、『実家』の真ん前に得体の知れない『関所』まで作って防備を固めてやがる。

 

 結論―――――

 

 キング、パねぇ。

 

 "慰安サーカス団*5"なんて組織すらある余裕っぷり、ジジィより安定感バツグンだわ。こりゃホントーに世界征服達成しちまうかもな。ジジィも寝首を掻かれて当然のハイスペックぶりだ。とてもジジィの息子にしてバカ一の弟とは思えん。『兄より優れた弟など~』とか聞いたことがあるが、まぁロボット、ひいては機械全般に限った話、『兄』の欠点やら問題点を補填した上で後から世に出る『弟』の方が優秀なのは、ある意味当然なんだが。

 

 そしてもう一つ安定感バツグンの理由がある。誰あろう『ジジィがいないこと』だ。

 元人間の俺が言うのも変だが、今までの喧嘩は純粋な戦力こそロボットだが、肝心要の舵取りは『人間』のジジィがやっていた。だからこそ詰めが甘く、バカ一が文句を言う要因になってもいた。

 だが今回は、全体指揮すらもロボットだ。そこに人間の意思は一切介在しない。徹頭徹尾合理的、YESかNO、すべてかゼロ。下っ端のメットールですら、緻密かつ完璧な計算の上で配置されている―――――

 

 なんとも恐ろしい、まさに血も涙もない鋼鉄メンタルの軍団だ。

 

 それ故だろうか―――――俺は『実家』でキング軍の雑用をやってたこの数日、明らかに居心地が悪かった。肩身が狭い。周りの連中全員が、やることなすことすべてに完璧を求めてくる嫌味な上司と化したようだ。まぁ実際に就職したことはないんだが。

 

 だが、風雲急を告げた。わずか一週間で、パンツマンはすでにこの『実家』まで迫ってきているという。いつになく早いじゃないか。

 それもそのはず、今回はタイツ小僧のみならず、なんとバカ一とでタッグを結成、2人がかりでゴリ押してきたというのだ。まさかあの2人が組むとはな。これぞ『ロックマン&フォルテ』、いやさ『パンツマン&バカ一』というヤツか。

 世界の危機に黙っていないだろう青パンマンはともかく、あのバカ一がキングに食ってかかる動機が―――――あ、あるわ。

 

 大方、『オレに無断で王を名乗るなんざ気に入らねえ!テメェをブッ倒してオレが最強の王ってことを証明してやるぜ!!』ってところか。うん、やっぱり単細胞(アレ)だ。つーか大丈夫か?あのバカ一のコトだから、これがジジィのマッチポンプだってことを知ってるワケがねぇ。下手するとジジィVSバカ一の世界を巻き込んだ親子喧嘩が意図せず勃発しかねんのだが。そこんとこどーなんだ?ジジィよ。

 

 さて、ついにパンツマン&バカ一がこの『実家』へと乗り込んできた。にわかに慌ただしくなる我らが『実家』。身構える俺の目の前、アルファベットの『K』を意匠化したキング軍のエンブレムが描かれた隔壁に、5発の穴がサイコロの目よろしく穿たれたと思うと、巨大かつ見覚えバツグンの青白いエネルギー弾が隔壁を吹っ飛ばした。最強タッグのお出ましだ。

 

 「行こう、フォルテ!この城のどこかにキングがいる!」

 「ケッ、命令すんな!……オ゛ラァ!帰ってきてやったぜ!聞いてんだろキング様よォ!首を洗って待ってやがれ!!」

 

 なんというエクストリーム帰宅だ。まぁ、元気そうで安心したぜ、バカ一。

 ……それから、パンパンマンもな。

 

 「侵入者発見」

 「照合完了。最優先要警戒対象:『DRN.001(ドクターライトナンバーズゼロゼロワン)"ロックマン"』、及び『SWN.001(スペシャルワイリーナンバーズゼロゼロワン)"フォルテ"』と確認」

 「警報発令。排除開始」

 

 俺の安堵も束の間、機械的な同僚たちが蒼と黒のシルエットに一斉射撃を開始する。青タイツとバカ一はまるで示し合わせたかのように互いに逆方向に跳躍し、狙いを分散させる。

 

 「『スプレッドドリル*6』!!」

 

 オレンジと白のツートンに変わったタイツマンのバスターから巨大なドリルが発射され、それが無数の小型ドリルに拡散、テリーRの大群を穿って一掃する。

 

 「オラどうした!?ビビってンのか!?」

 

 バカ一が同型機(兄弟)たちを挑発し、間髪入れず叩き込まれる歓迎の弾幕。だが次の瞬間、そのバカ一は掻き消えた。立体映像だ。

 

 「!?!?」

 「バーカ、オレはこっちだぜ!!」

 

 と、バカ一は反対側に立っていた。気がつくと同型機(兄弟)たちのボディにボール型の物体が張り付いていて―――――

 

 「あばよ」

 

 バカ一が親指を下に向けた瞬間、同型機(兄弟)たちは爆発音とともに青と黒の禍々しい色の火柱を上げて消え去った。

 あの武器には見覚えがあった。

 

 「『コピーヴィジョン*7』と『リモートマイン*8』か……ホンットエゲツねぇな、お前」

 「その声……!!()()()か!?ジジィと一緒にいねぇと思ったが……まさか寝返ってたたぁな……!!」

 「そう思いたきゃ勝手に思っとけ。……ま、E缶オゴらずに済んだのはラッキーだったけどな」

 「ほざけ。……丁度いい機会だ……テメェは前から気に入らなかった……ザコのクセに偉ぶりやがってクソ生意気なんだよ!ゴスペルには悪いがここでスクラップにしてやるぜ!!」

 

 凶悪なスマイルとともに、バカ一のバスターが火を噴く。自分で調整でもしたのか、前とバスターの"傾向"が違う。チャージをまったく使わず、一発あたりの威力を絞って連射性能に極振りして弾幕を張ることに特化したセッティングか。手数重視とはコイツらしい。

 

 「パンツマンとお揃いはイヤってか?面白い"クセ"つけたじゃねぇか!!」

 「そーゆーテメェは何も変わってねぇようだなぁエ゛ェ!?」

 「ハッ!別にパワーアップだけが強くなる手段じゃないぜ!」

 

 俺はシールド裏の手榴弾を投げ、それをすぐさまバスターで撃ち抜き、シールドで視界を覆う。爆音と閃光が同時に吹き出した。

 

 「チッ、閃光弾か!チャチなマネを……!」

 「!!フォルテッ!」

 

 と、今度は死角からパンツマンのチャージショットが飛んでくる。俺はとっさにシールドを構えた。それなりの衝撃はあったが、完全シャットアウトには成功した。

 

 「……1対2とかズルくね?」

 「ケッ、サシでオレの目に付いたテメェが悪いんだよ」

 「何もせず通してくれるなら、危害は加えない!」

 「甘ェぞロックマン!向かってくるヤツはブッ壊す!!それがたとえ顔見知りだろうとジジィのオキニだろうとなぁ!!」

 「そーゆーことだ!!気が合うなぁバカ一よォォッ!!」

 

 俺はパンツ小僧へのツッコミに気を取られてたバカ一へ猛進し、伸ばした右腕で思いっきり首根ッ子を薙いだ。いわゆるラリアットである。勢いのまま仰向けに倒れるバカ一。

 

 「ぬァ!?テッメェ!!」

 「戦いは飛び道具だけじゃないんだぜ!!お次は……コイツだぁッ!!」

 

 寝技の体勢に移行した俺は、バカ一相手に腕挫十字固(うでひしぎじゅうじがため)を敢行した。高校の頃、ダチと悪ふざけでやったプロレスごっこ仕込みの関節技だ。

 

 「なんだこりゃァッ!?い゛ッ!?いでででででで!!!!折れるッ!腕が折れるゥゥ!!」

 「人型ロボットとて(フレーム)関節(アクチュエータ)がある!人間の形してる物体に関節技(サブミッション)が通じねえ道理はねぇぜ!!」

 「ザッ……!ザコロボの分際でェッ!!」

 

 バカ一は極まっている方とは逆の腕をバスターに変え、床に向かって発砲した。反動で固めが解かれ、間合いが離れる。

 

 「……妙な技繰り出しやがって……!」

 「さしものお前のメモリーにもブラジリアン柔術はインプットされてなかったみたいだな」

 「知るかボケ!!」

 「隙が見えたぜバカ一よ!!」

 

 俺はツッコミの隙を見逃さず、バカ一の上を取るべくジャンプした。

 ―――――瞬間、バカ一の口角が上がるのが、はっきりと見えた。

 

クレッセント!キィィック!!

             *9

 

 素晴らしいサマーソルトが俺の体を捉え、俺は再度宙に舞った。

 

 「……ッ!『飛び込み見てからサマソ余裕でした』ってか!?対空とはやるじゃねーか!!」

 「くっちゃべられるたぁ上等だッ!それならもう一撃くれてやらぁ!!」

 

ブースタァァァァ!キィィィィィック!!

             *10

 

 「ゴっふぅぅぅぅぅ!?」

 

 腹にバカ一の蹴りが見事に入り、吹っ飛ばされた上に壁に叩きつけられた。前世を含めたこれまでの人生の中で喰らった一番イイ蹴りだ。

 

 「格の違いを思い知りやがれポンコツが」

 「フッ……」

 

 壁際にもたれかかった俺に、バカ一は砲口を向けた。

 

 「じゃぁな、ザコ野郎」

 「…………ジジィには考えがあるみたいだぜ」

 「!」

 

 瞬間、バカ一の狙いが下へとずれた。そして銃声とともに、俺の下半身は消し飛んだ。

 

 …………………………やれやれ、ようやくお役御免か。今までの喧嘩で最高にグダっちまった。我ながら関節技繰り出すとか大人げなさ過ぎた。あれか、相手がパンツマンでなく主にバカ一だったからか。そんなバカ一も俺の出した『情報』に何かを感じたのか、"お情け"をくれたみたいだがな。

 それにしても、キング軍のブラックぶりはハンパなかったな。『ロボットだけの世界』ってのがいかに恐ろしいかを存分に体感できた。これは将来やってくるAI社会への警鐘だな、うん。

 

 さて、その後どうなったかいうと―――――

 

 パンツマン&バカ一は数々の障害を乗り越えてついにキングと対面、久々に出てきた長兄の助けも借りながらキングとの勝負に勝利した。

 そしてここでネタばらし。キングは自分がジジィ製ロボットであることをついに告白したんだが、そのタイミングでジジィが介入、ここぞとばかりにキングを制御装置に押し込んで操ったんだが、怒りに燃える青黒タッグを止められるはずも無く、キングは乗っていた大型ロボットごと撃破され、爆発の閃光に消えた。

 ついでにジジィも懲らしめられ、これまでの『実家』の中で最も数奇な運命を辿った9棟目の『実家』は、ついにその役目を終えて夜空の花火と化した。

 

 今回は流石にジジィに同情する。自分が造ったロボットに寝首を掻かれ、なにくそとそれを利用して喧嘩したはいいが、最後のオチは変わらなかったんだから。

 ちなみに今回、ちょっとした怪談めいた後日談がある。語った通り、キングは青タイツ&灰色タイツに負けたんだが、『実家』の跡地からはキングのパーツや残骸やらが一切発見されなかった。コイツはミステリーなんだが、ジジィは懲りずに新しい『実家』で『キングⅡ世』なんてヤツを考案して設計図をバカ一に見せてたし、バカ一はそれを見てウンザリしてたし、そこに乱入した長兄にキングⅡ世の設計図を収めたCPUをブッ壊されるしで、結局『キングの系譜』はジジィの頭の中からも『実家』のCPUからも、キレイさっぱり跡形もなく消滅していた、その矢先―――――

 

 ネットである噂が広がっていた。キングに似たロボットが、世界のあちこちで目撃されているというのだ。全身に真っ黒なフードを纏って、主に今回のキングの喧嘩で大きな被害を受けた場所に前触れ無く現れ、復興作業を手伝い、ふらりと姿を消している……らしい。

 コイツがキング本人なのか、それとも今度こそ幽霊の類なのか―――――俺は詳しく調べるのはやめにした。案外、パンツマンあたり真相を知ってるかもしれないが……ま、そこはそれ、だ。俺はもうあんなブラックな憂き目に遭うのは御免被るしな。キングが生きてようと死んでようと化けて出てようと俺には関係ない。もう知らん。

 

 ……と、俺が絶縁宣言したところで、この度のキングの喧嘩が、人間たちに『ある恐怖』を植え付けてしまい、ジジィが『野望の復活』を決意するきっかけとなった、『ロボット社会史上最悪の法律』が制定・施行されるきっかけになってしまうのだが―――――

 

 続きは……また今度な。

 

 

 

 

 20XX年 キング軍に対抗するため、Dr.ライトとDr.ワイリー、一時的に休戦。ロックマンとフォルテ、協力してキング軍への反攻を開始

 

 キングが占拠したワイリー城での戦闘で、キングがワイリー製作のロボットと判明。そこに現れたワイリーによって再洗脳が施されるも、搭乗していた大型ロボットごと撃破される。しかし、その後の調査でキングの残骸は発見されなかった

 

 ワイリー、キング破壊に便乗しワイリー城を奪還。そのままロックマンを撃破し、自らの意向に従わぬフォルテに制裁を加えようとするが、敢え無く敗退

 

 キングが推し進めていた世界征服計画を強奪する形で行われたDr.ワイリーによる第九次世界征服計画、ロックマン&フォルテによって頓挫

 

 数週間後、世界各地で戦災復興活動を手助けする謎のロボットの目撃情報が相次ぐ。キングに似ていたという証言もあり、WRUによる調査も行われたが詳細不明のまま調査は終了

 

 この頃から、人々のロボットに対する不信感が徐々に高まっていく。ロボット排斥を訴えるロビー活動も増加し始める

*1
遊園地の警備を行う、おもちゃの兵隊を模した小型ロボット。大人のひざ下程の身長だが、マニピュレーターにロボットの機能を一時的に麻痺させるニードルが備わっており、集団で標的を足止めする。専用の気球型クラフトに搭乗することもある。キング軍で運用されている機体は、従来型がオレンジ色だったカラーリングが黒色に変更され、耐久性能がアップしている。極稀に、アップデートが終わらないまま実戦投入されたため、カラーリングと性能が従来型のまま変わっていない個体も存在している。

*2
型式番号:DWN.057。ワイリー製の空中戦闘用ロボット。第八次世界征服計画の際にロックマンに敗北後、借りを返すためにプライドを捨ててキング軍の軍門に下った。キングによる再改造を受け、左腕のトルネードホールドはそのままに、真空の刃を発する近接戦闘用特殊武器『テングブレード』を新たに搭載、遠近双方において高い戦闘能力を発揮することが可能となった。

*3
型式番号:DWN.058。ワイリー製の四次元空間戦闘用ロボット。四次元空間を利用したプラネタリウム映写用のロボットを戦闘用に改造した。四次元の存在を三次元の存在が認識できないことを利用し、通常の移動をワープのように錯覚させることが出来る。特殊武器『アストロクラッシュ』は、四次元と三次元の間の『空間の歪み』を、隕石状に視認されるエネルギーとして実体化、大量に投下するもの。人見知りで恥ずかしがり屋の性格で、大抵四次元空間に隠れている。その能力を使って、かくれんぼの世界チャンピオンにまで上り詰めたこともある。

*4
キング軍に参加しているアストロマンは、キングがロボット博物館のデータバンクからハッキングしたデータを基にサルベージされた、いわば『2号機』。オリジナルはワイリーの第八次世界征服計画の際にロックマンに破壊されていて、オリジナルがそのまま復活したわけではない。しかし、キングによる細部の再設計と再プログラミングが加えられているため、オリジナル以上の戦闘能力を獲得している。新たに特殊武器『コピーヴィジョン』を装備している。

*5
キングナンバーズの一体・マジックマンはこの慰安サーカス団のメンバーで、もっと目立ちたいと思って軍に志願、戦闘用への改造を受けた。

*6
グランドマンの特殊武器。大型のドリルミサイルの中に中型のドリルミサイルを2発、さらにその中に小型のドリルミサイルを4発内包した、分散多弾頭型ドリルミサイル。リモート制御によって弾頭を分離させることで、威力重視の大型弾と攻撃範囲重視の小型弾を使い分けることが可能。

*7
アストロマン(2号機)の特殊武器。エネルギーショットを発射する機能を持った立体映像投影装置を設置、ホログラムによる分身を生成して攻撃する。この装置には使用者と同じ固有信号を放出する機能もあり、簡単な識別機能しか搭載していないザコロボットはホログラムと本物を見分けられないため、(デコイ)として運用することも可能。

*8
パイレーツマンの特殊武器。水陸両用のリムペットマインの一種で、使用者からの遠隔信号によって、発射後ある程度の弾道操作が可能なほか、自在に爆破タイミングを制御可能。

*9
アーケード版『ロックマン2 ザ・パワーファイターズ』におけるフォルテの必殺技。コマンドは『↑を入力しながらフルチャージショット』。所謂サマーソルトキックで、敵ボスを吹っ飛ばす効果がある。強化パーツによるパワーアップ後は2連続でサマーソルトを放つようになる。『ロックマンメガミックス』でもそれらしき技を披露している。言うまでもなく、今回の原作である『ロックマン&フォルテ』では使えない。

*10
『ロックマン7』の隠しモード『対戦モード』におけるフォルテの必殺技のひとつ。コマンドは『→↓↘+攻撃』(右向き時)。飛び上がりながらオーラをまとったキックを放つ対空技。この技のためだけに本編で使われなかった独自のグラフィックまで用意されているという気合いの入れっぷりである。この技とクレッセントキックのイメージからか、『ロックマンメガミックス』におけるフォルテは、格闘戦において蹴り技を多用していた。ちなみにロックマンは反対にアッパーカットを格闘戦で積極的に用いており、こちらはアーケード版『ロックマン2~』における必殺技『ロックアッパー』のイメージからと思われる。もちろんこの技も『ロックマン&フォルテ』では(以下略



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野望の復活!!の巻
刻命編


 俺の名はジョー。

 

 前回、自分の造ったロボットに寝首を掻かれて一時住処を追い出され、便乗した喧嘩も鳴かず飛ばず、結局損だけして終わったジジィ。

 自分と同等の頭脳を持ったキングが迎えた結末に思うところがあったのか、ジジィはいつになく冷静になっていた。2桁の大台に乗った記念すべき10棟目の『実家』で、ジジィは宣言した。

 

 「しばらくは"充電期間"じゃ。きっかけが来るまでは待つことにする」

 「隠居じゃないんだな?」

 

 こう訊ねると、ジジィは胸を反らせた。

 

 「フン、ワシャまだまだ現役じゃ!実現させていない理論や未完成のロボットが山ほどある!ただ、前回も前々回も『焦り』が原因でしくじったようなもんじゃからな。俗物共の世界を見下ろしながら、じっくりと策を練るのも悪くないと思ったまでよ」

 

 まるで仙人みてぇな口振りだ。ま、ジジィにとって世間様は取るに足らず、見据えているのはパンツマンをスクラップにしてじーさんを見返すこと、それだけだしな。

 

 

 

 ―――――そして3年の月日が流れた。

 

 

 

 唐突か?……仕方ねぇだろ。ジジィはマジで丸3年の間、雌伏を貫いたんだから。

 ただこの間に、何も無かったわけでもない。前回キングが起こした喧嘩が、世界に思わぬ波紋を生んでいた。

 

 キングからしてみれば、前回の喧嘩は『人間からの独立』を謳った崇高な独立戦争だった。ただそれは、ロボット側から見てそうだっただけの話だ。

 ロボット―――――それはそもそも、人間が生み出した機械だ。俺がジョーとしてこの世界に生を受けた少し前から、ドラえもんファンのじーさんの手によって、ついに『"心"を持ったロボット』が誕生、それからは『ロボット三原則』という大前提はあれども、ロボットと人間の距離は縮まり、互いを"相棒"としてこの世界を回してきた。

 だがここに来て、肝心要なコトを人間たちは思い出してしまったのだ―――――

 

 

 『"ロボット"は人間が造った"道具"』だったことを。

 

 

 人間側から見たキングの行動はなんてことはない、ただの叛乱に過ぎなかったのだ。

 『道具』が自意識を持つだけでは飽き足らず、人間を排除して独立国家を打ち立てようとした―――――この事実は思いの(ほか)、この『ロボット社会』に大きな衝撃を与えた。

 

 『自分の隣にいるロボットが、いつか自分たちを襲うかもしれない―――――』

 

 人間たちの中に大小なりとも芽生えたロボットへの不信感や不安は月日を経るごとに高まり、中にはロボット排斥を訴え、ロボットを問答無用で破壊するテロを実行する、過激な団体までもが出現しだした。

 

 この事態に、ロボット社会を統括する世界ロボット連盟(WRU)は頭を痛めていた。この時代、もはやロボットは人間と同じくらいの数まで増え、社会に必要不可欠なまでに普及、浸透していて、今更ロボットのいない社会に戻すことなど不可能な状態だった。電気も、水も、食糧も、製造業から小売業まで、今やロボットが関わっていない仕事なんてこれっぽっちもない。

 ……これを読んでるアンタも、『明日から電気も水も火も家も服も無い状態で過ごせ』なんて言われても無理だろ?それと同じだ。

 しかし、人間たちのロボットへの不信や不安を解消するには、何らかの手を講じる他はない。そして―――――七転八倒の末に『ある法案』が捻り出され、WRU総会に提出された。

 

 『普及型ロボットの新しい運用方式を定義・履行する法律』―――――

 

 通称、『ロボット新法』。

 

 これからの時代のロボットと人間のあり方を、今一度定義し直すための法律―――――だが、その中のひとつの条項が、世界中のロボット関係者、そして当の思考型ロボットたちに衝撃を与えた。

 

 〈初期に開発された特定個体を除いた全てのロボットに、用途・稼働環境に応じた『安全稼働保証期間』を設定する。その期限が差し迫ったロボットは速やかに廃棄・処分する〉

 

 堅苦しい文言だが、コイツはわかりやすくたった2文字で言い換えられる。

 

 

 『寿命』だ。

 

 

 そう簡単には傷つかない鋼の肉体を持ち、メンテさえ怠らなければ永遠の時を過ごすことも不可能じゃないロボットに、この期に及んで『寿命』を決めてしまおうって算段だ。こうすることで、ロボットがウカツなコトをできないようにしてしまおうと、WRUは先手を打った。『増えすぎたロボットの安定した管理・運用と、経年による機能不全を未然に防ぐことで、ロボットの信頼性を向上させるため』というお題目こそ掲げられていたものの、それが最早詭弁に過ぎないことは、誰の目にも明らかだった。

 

 当然、WRU内でも意見は紛糾した。中でもライトのじーさんとコサックのオッサンは強硬に反対したらしい。

 

 『私はこの法案に反対だ!私はロボットを『道具』ではなく、我々人類と肩を並べられる存在に……『友』であってほしいと思い、ロボットたちに"心"を持たせた……だがこれでは、物言わぬ旧型機械と同じ扱いに、彼らを堕とすことになる!こんなに簡単に、彼らの『寿命』を決めてしまう権利は……我々にはもはや無い!』

 

 『わたしもライト博士と同じ意見です……彼らロボットもまた、考え、知り、学ぶことが出来る、我々と同様の『心ある存在』です。そしてわたし自身、彼らの『心』から、多くのことを学ばせてもらうことができました……しかしここに来て、我々が『寿命』を……『命の刻限』を一方的に突き付ける……これはあまりにも傲慢な行為ではないでしょうか……?今一度、法案の見直しを求めます』

 

 しかし法案賛成派の理事たちは首を縦には振らなかった。何しろ、『時限式自動停止装置を組み込んで、期限になったら問答無用で廃棄してしまえ』なんて過激な意見すら出たほどだ。まぁ、それは流石にやりすぎと判断されて法案には組み込まれず、最終的な処分施設へはロボットたち自ら、もしくは管理権限のある所有者たる人間の『意思』で行ってもらう、という形になったが。

 

 結局じーさんとオッサンの反対もむなしく、法案は賛成多数で可決、採択され、『ロボット新法』は即日発効された。ロボットたちは否応無しに『寿命』という残酷な概念を受け入れざるを得なくなったのである。

 

 ――――――――――

 

 「けしからんッッ!!!」

 

 ある日の朝食の時間、新聞を読んでいたジジィは憤慨した。

 

 「どーした?シャケの照り焼き、マズかったか?」

 「そーではない。……ついに"あの愚法"がまかり通ってしまったんじゃよ。ライトもコサックも所詮はWRU(俗物共)のお飾りに過ぎんかったようじゃの……」

 「あぁ、ロボットに"保証期間"をつけるってアレか。テレビのワイドショーや週刊誌もコレばっかやってるな。ネットもこの話題で持ちきり……でもまぁトーゼンじゃね?いくら心があるっても、機械にゃ保証期間が必要だろーし」

 「お前さんは元は人間じゃから気楽に言っとるが……考えてもみぃ。これはせっかく心があるロボットたちを、ただの家電製品並の扱いにする、まったくもって世紀の悪法じゃよ!いきなり、『お前さんは明日死ね』と突きつけて、問答無用で殺してしまうようなもんじゃ……恐ろしいことを考えおる……」

 「……ジジィ……」

 

 ジジィに言われて、俺も初めて気がついた。ロボットにしてみりゃたまったもんじゃない法律だ。いくらキングが"やりすぎた"とはいえ、ここまで極端に走るのもどうかと思う。

 

 「で?清く正しい悪の天才科学者様はこの法律を守って、俺らにメーカー保証期間とやらを設定すんのけ?」

 「バカバカしい!」

 

 ジジィは新聞を食卓にたたきつけ、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぎ、ぐいと飲み干して言った。

 

 「ロボットたちがいつまで生きていつ死ぬか、そんなモンを赤の他人が決める権利など微塵も無いわ!何のために、今のロボットに『心』があると思っとる!?WRU(凡愚共)の決めた法律なんぞ、このワシが守る義務など無いわッ」

 「えらく人道的……いや、『ロボ道的』じゃねーか」

 「ワシは基本的に放任主義での。ワシのロボットたちが、造ってからどうするかはロボットたち自身に任せておる。じゃが、皆自分の意志でワシについてきてくれておる……まったくもってワシの息子達は孝行者じゃよ」

 「約一名家出中のヤツがいるけどな」

 「"あれ"はそういう性格になったに過ぎんよ」

 

 この3年で、ジジィは悟りを開いたんじゃないかと思うほど、俗世間のこと、ロボットのことに達観的になった気がする。あれほど手を焼き、前回の喧嘩で仕置きを敢行しようとしたバカ一にも、あまり強く言わなくなったほどだし。……逆にオシオキされて強く言えんようになっただけかもしれんけど。

 テレビでも今回の『ロボット新法』のことをやってるかなと思って、俺はリモコンに手を伸ばした。ちょうど、女子アナが原稿を読んでいるニュース番組をやっていた。

 

 《今回の『ロボット新法』施行に反対するロボットたちが、デモ行進を行っています―――――》

 

 テレビ画面には、ロボット新法反対、我々にも生きる権利がある、まだまだ私達は働ける、といったシュプレヒコールを上げながら、プラカードを掲げて練り歩くロボットたちの姿が映っていた。

 

 「ま、ロボットも労働者だし団体行動権があるからこうなるわな。……どした?」

 

 ジジィは、デモ行進の先頭にいる、8体のロボットたちにその目を凝らしていた。

 

 「こやつら……どこかで見たことあると思ったが……ライトが設計しとったロボット共じゃな」

 「へぇ……青パン小僧の弟たちか。デモに参加してるってことは、こいつらも"保証期間"が近いんだろうな……その割にはガッツマンやエレキマンとかの姿が見えんが」

 「ロックマンや"最初の6体"は初期型じゃからな、ロボット新法の対象外になっておる。『初期型の思考型ロボットの稼働データはロボット工学界の貴重な情報財産だから"寿命"はつけない』とWRU(奴等)()かしとるが、なんてことはない。『抑止力』の ロックマンをウッカリ処分せんようにするための方便に過ぎんよ……さて」

 

 ジジィはそそくさと食器を食洗機に入れると、ネクタイを締めて白衣を羽織った。

 

 「ちょいと出かけてくる。少し、世の中のバカ者共に喝を入れねばならんようじゃ」

 「……おい、まさか……」

 

 嫌な予感がしてジジィの顔を見ると―――――

 ジジィはこれ以上ないほど悪辣、かつ神妙な表情をしていた。

 

 「世界にわからせてやらねばなるまいて。もはやロボットは、ヒトの手から離れた存在じゃということをな」

 

 ――――――――――

 

 丸一日ほどして、ジジィが帰ってきた。ジジィは例のデモ行進の先頭にいた8体のロボットを連れていた。そして研究室に招くと、『しばらく籠もる』と言って閉じこもった。

 

 

 そして一ヶ月後―――――

 

 

 《ロボット新法に反対する工業用ロボットたちが、世界各地で破壊活動を開始しました!》

 

 女子アナが緊迫の表情で伝えるのは、世界中を我が物顔で蹂躙し、破壊の限りを尽くす8体のライトナンバーズの姿だった。彼らを旗頭に、『ロボット新法反対派』のロボットたちが世界中で武装蜂起したのである。

 

 ―――――思ってたとおりだ。

 ジジィのヤツ、パンパンマンの弟分たちを焚きつけやがった。

 そして、その『親』は当然―――――

 

 《今回の工業用ロボットたちによる破壊活動に際し、ロボットポリスは、ロボットたちの製作責任者である世界ロボット連盟名誉顧問、トーマス・ライト氏に対し、破壊活動煽動容疑での逮捕状を請求、もうまもなく……あ!新しい情報です!逮捕です!ライト氏逮捕です!トーマス・ライト氏が先程、自宅にて逮捕されました!世界をこれまで9度救ってきたヒーロー、ロックマンの製作責任者であるトーマス・ライト"容疑者"が先程、破壊活動煽動の容疑で逮捕、身柄を拘束されたとの情報が―――――》

 

 チャイム音とともに、画面の上方に〈CPSニュース速報 ロックマンの開発者トーマス・ライト氏逮捕 一連のロボットによる破壊活動煽動容疑〉と字幕が表示されたのを見た俺は、ため息をついてテレビの電源を切り、すぐ後ろでふんぞり返っているジジィを見た。

 

 「これがアンタのシナリオか?……ジジィ」

 

 そう問うと、ジジィはフッと鼻で嗤った。

 

 「すべてはロボットたちを縛ろうとしたバカ者共が撒いた毒じゃよ。ワシは少しばかり、あの8体に力をくれてやったに過ぎん。……心の嘆き、それを強く伝えられるだけの、な」

 「……パンツマンは動くと思うか?今回は道徳の授業だぜ。"どちら"にも大義名分があるように見えるが」

 「フン、もはやロックマンにも大義は無いわ。ライトが投獄された今、ロックマンを見る俗物達の目も変わってこようて。果たして世間の逆風の中で、あやつは弟たちと戦えるかのう……?クックックッ…………」

 

 ……さて、今回の喧嘩は実に『重い』。この小説のノリからしてみりゃ異端の喧嘩だ。青タイツもまた、恐ろしく肩身の狭い戦いを強いられるに違いない。何しろ、今回ばかりは『敵』にも同情の余地がありまくる上、あまつさえその敵は実の『弟』たち。俺なら確実に白旗揚げるか精神崩壊する自信がある。

 3年の月日を経て始まる、ジジィの『野望の復活』―――――

 

 はたして『正義』は……どこにあるんだろーな。

 

 

 20XX年 キングの反乱に端を発するロボットへの不信感を払拭すべく、WRUは『ロボット新法』を提案。一部を除く全てのロボットに『使用期限』を設けるこの法案に、ライトとコサックは反対するも、結局賛成多数で可決

 

 ロボット新法に反対する工業用ロボットたちのデモ活動が活発化する

 

 新法制定から1ヶ月後、ライトが開発した8体の工業用ロボットが叛乱を起こし、世界中で破壊活動を行う。これを受けたロボットポリス、開発者のライトを破壊活動煽動罪で逮捕、収監する

 

 ロックマン、ライトの無実を証明し、混乱を終息させるため、叛乱を起こしたライトナンバーズの鎮圧を決意、出撃する

 

 工業用ロボットの反乱に乗じ、Dr.ワイリーの第十次世界征服計画発動



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乱射編

 俺の名はジョー。

 

 ロボットに『寿命』を定める、というロボットの権利を無視した世紀の悪法『ロボット新法』に対抗するため、ついにジジィが立ち上がった。

 

 3年ぶりの『野望の復活』と相成った今回、ジジィは手際よく8体のライトナンバーズ(パンツマンブラザーズ)たちに指示を与え、世界8ヶ所に基地をこさえさせた。毎度おなじみとなったが、今回ばかりはギャグじゃ済まされん。いつものノリは封印せねばなるまい。

 

 「さて……今回のお前さんのボディじゃが、前から考えておった新型武装をジョー用にアジャストしたモノを装備しておる。調子はどうじゃ?」

 

 既に新型のボディへと変えられ、数日を過ごした俺はこう答えた。

 

 「重圧がハンパねぇな…………」

 「むぅ?新型武装に合わせたバランサーの調整がマズかったかのう?」

 「いや、仕上がりは完璧だよ。流石はジジィだ」

 「ならば一体どこに不具合が―――――」

 「…………色だよ」

 「は?」

 「ついにシャ○専用の"赤"にこの俺を染めちまったコトだよ……」

 

 そう、今の俺の全身は真っ赤っか、危険を示す警戒色だ。エースパイロット御用達の色であるとともに、"復讐" の象徴たる色―――――

 

 「さすがに3倍速くはなってねぇし、ツノも付いてねぇけど、赤を採用するなら、もっとこう、勿体ぶったほうが―――――」

 「……お前さんは何を言っとるんじゃ。まぁ、青はロックマンの色じゃし、黄色はピッケルマンと被るし、今まで使った色じゃとそれまでのモデルと区別がつかなくなるからの」

 「つーかいーのけ?赤って長兄の色だろ。量産機が試作機の色とダブっちまうってのはさ」

 「今更ブルースに何の遠慮をする必要がある。ロックマンをビビらせるに越したコトはないわい……さて、武装のテストじゃ」

 

 俺はジジィと『実家』内の射撃場へと赴き、10mほど先のターゲットに左腕のバスターを向け、放った。

 

 ―――――ズガガガガガガガガガガ!!!

 

 けたたましい発砲音とともに、夥しい数のエネルギー弾がまっすぐ射出され、ターゲットは穴だらけを通り越して木っ端微塵になった。

 

 「ヒュゥ……これまたエラい威力だな。パンツマンのバスターよりも手数がすげぇ」

 「ロックバスターはいくら出力を絞ろうが、一度の連射では3発までが限界*1……その後は1秒ほどの冷却(インターバル)が必要じゃ。その"時間差"こそがヤツの弱点……フォルテが良いヒントをくれたわい」

 「そーいやアイツ、前回の喧嘩で出力を絞って手数を増やしてたっけか」

 「圧倒的連射能力でロックマンを近づかせぬまま封殺する……これぞ名付けて『マシンガンジョー』じゃ!」

 

 久々のジジィ自らの命名、気合いがノッてるなぁ。

 だがこのバスターがバカ一のセッティングを参考にしているのはなんか複雑なんだが。

 それにしてもバカ一のヤツ、前回の喧嘩以来音信不通になっている。どこで何しとるんだか(とん)と分からぬ。ちょっとは連絡くらい寄越してくれてもいいんだが。ゴッスィーを愛でたい。

 

 さて、今回の俺の配置はというと、最初の喧嘩以来の高所、空中気象調整所だ。ここを仕切ってるトルネードマン*2の職場だった場所で、現在はそのトルネードマンによって占拠され、要塞化されている。……というか今回、8体のライトナンバーズの全員が、元いた職場に立てこもっている状況だ。よほど仕事が好きで、職場にも愛着があったんだろう。

 そう思ってから、俺はふと考えた。

 この喧嘩の原因になった『ロボット新法』ってヤツは、そうした愛着やら仕事への情熱やら誇りやら、人間が当たり前に持ってる『感情』ってのを、あっさり無慈悲に取り上げて、無かったことにしちまうんだ。

 その上『命』まで奪うとあっちゃ―――――

 

 「邪魔をしないでくれ!僕はトルネードマンに会わなくちゃいけない!」

 

 ―――――来たか。

 俺は振り返り、ヤツの顔を見た。

 

 

 ―――――憔悴、していた。

 

 

 「流石に……お前は悩むわな。この喧嘩、どっちに"正義"があんのか、わかったもんじゃない」

 「それでも……僕は……!」

 「同じ『親』から生まれた弟たちに、後ろ指差されて罵られても、か……果たして"どっち"だろうな、今回のお前は―――――」

 

 俺はゆっくりと、ヤツにバスターの砲口を向けた。

 

 「世界を救うヒーローか、身勝手な人間に尻尾を振る(イヌ)か……!」

 

 爆音にも似た発射音とともに、エネルギーマシンガンが吼える。

 

 「く!」

 

 苦し紛れかヤツはバスターを連射するも、全て俺のシールドが弾く。俺はもう一度エネルギーマシンガンを連射するが、今度は目の前の段差に入ることで射軸から逃れる。

 心なしか、ヤツの挙動に違和感を覚えた。スライディングもチャージショットも行わない、まるで最初の喧嘩の頃のようだ。

 

 「スライディングとチャージは封印か?……随分な舐めプじゃねぇか」

 「く……博士のメンテナンスを受けられてないからか……後付けの機能から不具合を起こしてるみたいだ……!*3

 「弾もくぐれねぇ、一撃必殺のチャージも出来ねぇ、そんなズタボロになってまでどうして戦う!?えぇ!?」

 

 俺は容赦なく、傷だらけのヤツにエネルギーマシンガンを浴びせた。ヤツは両腕を眼前で交差させ、防御態勢を取った。セラミカルチタン*4にエネルギー弾が命中する独特の手応えと金属音の間隙から、ヤツの視線が俺へと突き刺さる。

 

 「……確かに……勝手に"命の期限"を決められてしまったロボットたちには同情するし、それを勝手に決めてしまった人間たちにも、言いたいことはある……でも!」

 

 ヤツは、未だに死んでいない視線とともに、バスターを構える。

 

 「そのために、何の罪もない人々やロボットたちの平和を、脅かしていいわけがないじゃないかッ!!」

 

 決意のこもったロックバスターが閃光を放つ。俺は側転で回避して、受け身を取りながら立ち上がり、エネルギーマシンガンを撃ち返す。

 

 「だから弟たちも手に掛けるってのか……?ハッ、流石は正義のスーパーロボット様だ……所詮、バーでくゆらすグラスの中身がバーボンでも泥水でも俺たちには大差ない……俺たちは戦うためのみに生まれた疑似生命体(ロボット)だからな……!」

 「本当は戦うよりも、話し合う方が簡単なはずなんだ……!でも!それでも!!」

 

 射撃姿勢のまま、ヤツは俺の攻撃の全弾をその身で受けた。

 

 「『何が正しいのか』を見つけるために……僕は"彼ら"の分まで戦う!!」

 

 ヤツのボディが、青と黄色のツートンに変わった。そして―――――

 

レーザートライデント!!!
             *5

 

 光輝く三叉槍のようなエネルギー弾が迫り、俺はとっさにシールドを構えた―――――が、光線槍はシールドを紙のように貫き、俺のボディを上半身と下半身に引き裂いた。

 

 「…………!!」

 

 ヤツの視線からは―――――

 

 ただ、気迫のみを、感じた。

 

 倒れ伏す俺の横を、ゆっくりと通り過ぎようとするヤツに、俺は問うた。

 

 「…………何故……そうまで戦える……?」

 

 ヤツは立ち止まるも、振り返ることなく、ただこう答えた。

 

 「僕は…………―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 『ロックマン』だから

 

 

 

 

 

 

 それが答えだった。

 

 これ以上ない答えだった。

 

 今まで9度、世界の危機を救ってきた『英雄の名』は、ヤツにとっては誇りであり、重圧であり、アイデンティティであり―――――

 その名に込められたあらゆる想念思念を受け止めながら、100億近い人間や、それと同じくらいにまで増えたロボットたちの―――――否、この地球すべての運命を背負って戦う、世界のヒーローの小さな背中が―――――

 

 この時の俺には、遙かに巨大になって見えていた。

 

 フッ…………今日はヤケに、ヤツの後ろ姿が眩しく見えるぜ―――――

 

 

 ――――――――――

 

 結局、手負いのパンツマンにさえ、8体の弟たち―――――1体、"妹"が混じってたらしいが*6―――――は敵うことなく散った。その最後に倒された"弟"が、重要な証拠を残した。8体のライトナンバーズたちと、ジジィが接触していた映像を記録したメモリが発見されたのだ。

 コレはマズいとジジィはわざわざじーさんの研究所まで出向いてこの証拠映像入りのメモリをパクると、やはり『実家』に青タイツを招待した。結果は―――――まぁ、お察しだ。

 

 それにしても、土下座したジジィにタイツマンが見せたあの映像、思いっきりギャグだったなぁ。最初の喧嘩の時の土下座から始まって、この間の喧嘩の時の土下座まで、しっかり記録してあったんだもんな。*7映像を見てツボにハマって爆笑してたらジジィに怒鳴られたなぁ。よし、この映像を今度バカ一に見せてやろう。きっとツボる。

 

 ……まぁ、結局この『叛乱』も、全部ジジィのせいにされた。……元々の非はロボット新法を一方的に押しつけたWRU、そして暴力という手段に出ちまったロボット連中、その両方にあるんだが、そのあたりの責任も全部ジジィに押しつけられ、『今回の騒ぎも全部ジジィの野望!はい終了!』みたいなノリで世間が一致団結しちまった。ジジィは今回の喧嘩でも、見事に貧乏クジを引き当てたのである。

 当然、ライトのじーさんは濡れ衣を着せられたということで、程なく無罪放免、釈放と相成った。

 

 もっとも、今回はこれで終わらず、少しだけ続きがある。

 今回のそもそもの原因となったロボット新法については、当のロボットたちのみならず、人間たちの間でも賛否が別れ、議論の的になっていた。しかしデモやこの喧嘩が始まってからは、最初こそ家や街を壊された人々の怒りの声が上がったものの、次第にロボットたちに同情的な意見が増えていき、喧嘩が終わってからは『ロボットたちもまた、行き過ぎた法律の犠牲者だった』という世論が大半を占めていた。ロボット新法の撤回を求める書簡が各国からWRUに提出され、民間からも多くの署名や要望書が出されていた。そして―――――

 

 喧嘩の終了から3ヶ月後―――――

 世界を二分した争いの火種となった、ロボット社会史上最悪の法律と称された『ロボット新法』は、ついに廃止されることとなったのである。WRUのトップが会見で深々と頭を下げ、世界中のロボットに謝罪する姿が放送や配信で流されると、ロボットの人権、あるべき権利が認められたと、世界中のロボット達から歓喜の声が上がり、この日は『新たなるロボット社会の夜明けの日』として、後世に語り継がれる日になったのである。

 

 ……まぁ、こんなところか。

 ロボットたちと人間との軋轢もなくなりメデタシメデタシ―――――なんだが、よくよく考えてみ?

 

 ―――――人間、手のひらドリルやん。

 

 キングが喧嘩を起こしてからは『ロボット怖い』と罵っときながら、イザその要望を聞いて作ったロボット新法が施行され、ロボットたちが騒ぎを起こしゃ、『ロボットの方が可哀想』と来たもんだ。世論ってこんなもんさ。今も昔も、さ。

 

 だが、ひとつ考えてみてほしい。

 もしも、だ。

 

 ―――――ジジィが何もしなかったら、どうなってたと思う?

 

 答えはひとつ、簡単だ。ロボットたちの抗議活動は黙殺され、ロボット新法の名の下、『寿命』を迎えたロボットたちが次々と"殺処分"される、ロボットにとっての暗黒時代(ディストピア)が到来していただろう―――――

 

 ロボットに『心』を与えた、そのひとりであるジジィが、そんな時代を認めるはずもなく、ジジィは抵抗するロボットたちに『力』を与えた。だからこそあの8体のロボットは、滅びゆく者の嘆きを、叫びを、社会に、そして人間に伝えることができたのだ。その結果、人の心は変わり、世界はより良き方向へと変わった。

 

 ジジィはどう思ってるかわからんが、俺は自信を持ってこう言える。

 

 

 ジジィは勝負にゃ負けた。でも、確かに世界を変えた。

 

 ジジィの思い通りに世界は変わった。

 

 

 

 世界は一度、『Dr.ワイリーに負けた』のだ。

 

 

 

 

 20XX年 ロックマンが撃破したライトナンバーズの1体から、ワイリーがライトナンバーズ達を煽動する証拠映像が収録されたメモリが回収される。ワイリーによってそのメモリが奪われるも、ロックマンによって奪還され、全世界にその映像が公開される

 

 Dr.ワイリーによる第十次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 ライト、冤罪が証明されたことで釈放

 

 今回の反乱がワイリーによる陰謀だったことが判明し、ロボットたちに対する人々の感情は次第に軟化、反対にロボットたちに対する同情、ロボット新法への批判が、世論の大半を占めるようになる

 

 3ヶ月後、ロボット新法廃止。ロボットに定められていた『安全稼働保証期間』は撤廃。同時に、反乱に参加していた8体のライトナンバーズへの分解処分も白紙撤回、名誉が回復される

 

 代案として、ロボットたち全員に安定稼働のため、年に一度、ロボット病院やロボット研究所にてオーバーホール=健康診断を受けることを義務付けた『ロボット保健法』が制定される

*1
ロックマンシリーズにおける不文律。元々はゲーム側のプログラム処理の限界らしく、『画面内に表示できるロックバスターの弾が3発まで』が正確。そのため敵に接近して連射すれば3発以上の連射は可能。近年ではハードの性能向上もあって、パワーアップパーツ等で4発以上の連射が可能になる作品もあるものの、Xシリーズなどの派生作品、そして最新作『11』に至る現在までの30年以上もの間、この基本ルールは忠実に守られ続けている。

*2
型式番号:DRN.066。ライト製の風水害対策用ロボット。ライトナンバーズで初めて、空中での活動を念頭に置いて設計された。空中気象調整所に常駐、海上で発生した初期の台風を、腕部のプロペラを用いた特殊武器『トルネードブロウ』によって相殺し、被害を未然に食い止めることを職務としていた。人々のために働くことに喜びを感じ、やりがいを持って職務に当たっていたが、今回の『ロボット新法』の対象となったことに大きなショックを受け、他の7体の『ロボット新法の対象となったライトナンバーズ』とともにデモに参加。その後ワイリーの口車に乗って戦闘用への改造を受け、ロボット新法に反対する武装蜂起を起こし、空中気象調整所を制圧した。

*3
今回の『野望の復活!!の巻』の原典である『ロックマン9』は、『原点回帰』『ロックマン2の続編』を強く意識して制作されている。その一環として、ロックマンのアクションの内、『3』以後に追加されたスライディングとチャージショットができないようになっている。ゲーム内ではこのスペックダウンについて何も語られておらず、この設定は本小説のみの創作である。なお、ダウンロードコンテンツではブルースが使用可能であり、スライディングとチャージショット、そしてジャンプ中のみ敵の弾を防御するシールドが使え、こちらは『4』以降のロックマンのスペックに近い。だが、被ダメージがロックマンより多く、バスターも2連射しかできない、といったデメリットもある。このロックマンとブルースの仕様は次作『10』でも同様であり、ロックマンのスライディングとチャージショットの復活は最新作『11』まで待たねばならなかった。

*4
ライトが精製に成功した合金で、金属の展性と陶製素材の剛性を兼ね備え、かつ工業用素材としても高い耐久性を持つ。カットマンのローリングカッターは、このセラミカルチタンを使用している。また、用途に応じて様々な性質へと柔軟に変質させることも可能であり、ロックマンのボディ素材には、さらに軽量化した『ライト・セラミカルチタン合金』を使用している。その他のライトナンバーズでは、ガッツマンのボディに剛性を強化した『セラミカルチタン超合金』が使用されている。第一次世界征服計画の際、ワイリーがライトナンバーズを拉致、解析・改造の段階でワイリー側にもその技術が流出、メタルマンのメタルブレードやハードマンのボディ等、ワイリーナンバーズにもその技術が応用されている。なお、約100年後に活躍する"ライトの最後の遺産"のボディには『チタニウムX合金』が、"最後のワイリーナンバーズ"には『チタニウムZ合金』がそれぞれ使用されており、ライトとワイリーが各々独自にセラミカルチタンを改良したものと推測される。性質の違い等は不明。また、さらに遠い未来である『ゼロ』『ゼクス』の時代にも、希少金属として利用価値が残されているなど、ロックマンシリーズの根幹を支えるマテリアルと云っても過言ではない。

*5
スプラッシュウーマンの特殊武器。災害救助活動の際に使用する、障害物を除去するためのレーザー砲を武装転用したもの。貫通力が非常に高く、シールド等の防御装備を容易く突き破る。

*6
水難救助用ロボット・スプラッシュウーマンのこと。2020年現在、無印ロックマンシリーズ唯一の女性ボスである。

*7
『ロックマン9』のエンディングで、毎度おなじみの土下座をしてロックマンに許しを乞うワイリーを前に、ラッシュが空中に映像を投影する『ラッシュヴィジョン』を展開、ロックマンがワイリーにこれを見るんだと促した映像……そこに歴代ロックマンシリーズのナンバリング作品と『ロックマン&フォルテ』でのワイリーの土下座が次々と映し出され、最終的に『土下座ワイリー×9』(本物を含めれば、画面内に土下座ワイリー×10)という爆笑モノの映像が出現したのである。ファミコン以外のハードで発売された『7』『8』『~&フォルテ』の土下座シーンもファミコン風ドットで描き下ろし、全作品のロックマンのカラーがそれぞれの作品におけるワイリーマシン、もしくはワイリーカプセルの最終形態の弱点武器のカラーになっているという芸コマぶり。今までシリーズをプレイしてきたオールドファンへの、スタッフからのちょっとしたファンサービスだろう。オールドファンであればあるほど深く腹筋に突き刺さる珍場面である。『このときも!』で検索していただくとより詳細がお分かりになるかと思う。



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宇宙からの脅威!!の巻
感染編


 俺の名はジョー。

 

 さて……タイトルからしてイヤ~な予感がしてる、ディスプレイの前の読者(アンタ)……その通り。

 

 今回の喧嘩のメインテーマは……『ウイルス』だ。

 

 もう言うまでもないと思うが……読者(アンタ)たちの世界じゃ、『新型コロナウイルス』っていう得体の知れんウイルスが蔓延してるらしいな。幸いこの未来の世界じゃ、ほとんどのウイルスに有効なワクチンやら特効薬やらがあらかた開発されてるらしいから、大規模なパンデミックが起きる心配はほとんどないらしい。

 

 ―――――大丈夫。未来は元気だよ。

 

 ……って、ドラえもんも言ってるし、さ。

 そう悲観的になることは無ぇ。感染対策バッチリ決めりゃ、いずれは消毒もわざわざしなくてもいい、マスク無しで笑いあえる日が来るさ。その日が来るまで、俺も未来から応援してるぜ!

 ……てなわけで、今回の喧嘩はたまたまジジィがウイルス使おうと考えただけであって、決して時事ネタじゃないことは事前に断っとく。

 

 閑話休題、肝心要の本題だ。

 すべてはある日の朝、11棟目の『実家』のリビングから始まった。

 この日に限って、ジジィはいつもよりも遅い時間に、朝飯を食べにリビングにやってきた。

 俺はE缶を飲みながら朝のワイドショーを見て、ジジィを待っていた。

 

 「おうジジィ、今日はちょっと寝過ごしたか?今、味噌汁温め直すからよ―――――」

 「…………………………」

 

 ―――――バタッ!

 

 ジジィはいきなり、床に倒れ伏した。

 

 「!?ジジィ……!?おい、ジジィ!!」

 

 いつぞやの時と違って、息はあった。見ると、顔が真っ赤になっていた。額に手を当てると、センサーの温度探知機能が『39.5℃』と、俺の脳裏に数字を浮かび上がらせる。

 

 「大丈夫か!?凄ぇ熱だぞ!?」

 「…………ここ最近……"あれ"にかかりきり……だったからのう……ロクに寝れもせんかった……」

 「"最後(Z)エロス(ERO)"なんかに執心するから……とにかく医療マシンに―――――」

 「…………アレは故障中じゃ…………」

 「……マヂかよ……ッ」

 

 普段便利が良いモノほど肝心要の時に使えねぇ、というのは古今東西過去未来同じだ。仕方なく、俺は近場の総合病院をネットで調べ、普段買い出しに使ってる電気自動車―――――7回目の喧嘩の後、きちんと免許を取った―――――の後部座席にジジィを放り込み、アクセルを踏み込んだ。

 

 ――――――――――

 

 総合病院の内科。

 俺はジジィの診察に付き添い、聴診器を当てられたり、採血されたり、鼻の穴に綿棒突っ込まれて渋い顔をするジジィを見守った。

 そして―――――

 

 「レイ・ブリュイルトさーん。診察室にお入りくださーい」

 

 ジジィの偽名が女性看護士さんに呼ばれた。診察室で、初老の医者先生からあっさりと宣告される。

 

 「A型のインフルエンザですね」

 「……はぁ」

 「初期症状ですから、お薬を飲んで、一週間ほど安静にしていれば大丈夫ですよ。……ところで、あなたは―――――」

 「『ヘルスケアジョー』です。ブリュイルトさんの介護を任されています」

 「あぁ、最近普及し始めた……」

 

 俺の嘘にアッサリと医者先生が引っかかったのにはワケがある。

 これまで喧嘩に駆り出され、パンツ小僧に倒された同型機(兄弟)の中には、電子頭脳だけをキレイに壊され、空のボディがほとんど無傷で残った奴もいる。そいつらを喧嘩の後で回収し、戦闘用装備をキレイに取り除き、電子頭脳を入れ替えた上、民間の人型作業用ロボットとして販売された『民生型ジョー』が、最近出回り始めたらしい。人手不足の介護業界や医療機関、土木作業や、人間が直接行うには危険な仕事に、労働力として引っ張りダコという話だ。

 悪の手で生み出された俺の同型機(兄弟)が、紆余曲折の末に世のため人のために役立つ仕事をしてると思うと誇らしいなぁ。もっとも、ジジィは良い顔をしてなかったが。ジジィにすりゃ、自分が作ったロボットを勝手にパクられて勝手に改造されたもんだしな。……『お前が言うな』というツッコミは、ジジィに代わって謹んでお受けする。

 で、その民生型ジョーの一種が、介護用品メーカーがリースしている『ヘルスケアジョー』というワケだ。おかげで俺もヘルスケアジョーを名乗っていれば街に出ても不審な視線を向けられなくなった。ジジィと一緒にいても介護ロボなら不自然じゃないしな。

 

 「では、左腕のハブを出してください。電子処方箋と療養の上での注意事項をインストールしておきますから、薬局の受付端末に接続して、お薬を受け取ってくださいね。お薬は一週間分出しておきます」

 「はい。ありがとうございます」

 

 左腕のシャッターが開き、情報取得用のUSBハブが現れる。そこに医者先生のパソコンから伸びるケーブルが刺さる。ジジィじゃなく俺が『注射』をされてるみたいだ。ケーブルを介して、電子処方箋のデータと、『インフルエンザの治療』と題された複数の画像ファイルがインストールされてくる。『実家』に帰ったらしっかり読んでおかないとな。

 

 「お大事になさってください」

 「お大事に♪」

 

 にこやかに会釈する若い女性看護士さんに軽く頭を下げながら、俺とジジィは診察室を出た。よくよく見ると看護士さんもロボットだった。カワイイ子だったなぁ。アドレス交換しとくんだった。

 

 『実家』に帰ると、それはもうエラい騒ぎになった。

 ジジィを部屋に帰して寝かせてから、見舞いをしようとジジィの部屋に行きたがる同型機(兄弟)同僚(ロボット)たちが後を絶たなかったのだ。

 中には『不治の病であと1ヶ月の命』だの、『植物状態で二度と動けない』だの、誰が吹き込んだのかわからん突拍子もないデマに慌てふためいているヤツもいた。

 

 「心配すんな!タダのインフルだ!薬飲んで一週間寝てりゃ良くなる!」

 

 幸い俺達はロボットで、この『実家』に伝染(うつ)る可能性があるヤツは誰一人居ない。俺は騒ぐ同僚(ロボット)たちをどうにかなだめ、ジジィの看病に勤しんだ。

 そして一週間後。

 

 「完・全・復・活!ぢゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「朝っぱらからやかましいだろーがッ!!!」

 

 ジジィ、全快。

 

 まぁ、あの程度のインフルで死ぬようなタマじゃねぇよな。生命力のカタマリみてぇなジジィだし。

 それに仮に身体がどうにかなろうとも、ロボットのボディに頭脳やら意識やらを移植してしぶとく生き延びそうな気もするんだよなぁ。100年くらいは生きるかも知れん。

 だがしかし。こんな迷惑ジジィを21XX年の未来に輸出していいものかと考えた場合、やはり止めた方が賢明だとわかる。大人しく寿命で往生すべきだ。間違っても"最後(Z)エロス(ERO)"の行く末を観察するような親バカは発揮してくれないでもらいたい。100年後の人類とロボットの皆さんに大迷惑がかかる。

 

 そう俺がくどくどと地の文で語っている内、ジジィは俺が作った朝食のパンケーキプレートをペロリとたいらげ、意気揚々と洗面所に行って歯を磨いて顔を洗い、テキパキと着替えて宣言した。

 

 「いい考えが浮かんじゃったなーー♪」

 

 いつになくイイ表情しやがる。聞いてもらいたそうに目を輝かせて俺を見るもんだから、仕方なく。

 

 「……なんだよ、そのいい考えってさ……」

 「この一週間……ワシは地獄を見た……鉛のカタマリを乗せられたかのような頭痛……いくら毛布を着込んでも極寒の吹雪の中にいるような感覚の寒気(さむけ)……何故このワシが!!悪の天才たるこのワシがこんな目に遭わねばならんのぢゃッ!?」

 「そりゃまぁ、カゼやインフルなんかは気をつけててもかかる時ゃかかるぜ?ジジィみたく予防接種受けてなけりゃ、尚更さ」

 「そこでじゃよ。この間無重力実験棟で面白いモノが出来たものでな。今度はコレを使ってみようと思っとる」

 「無重力実験棟って……あぁ、アレか」

 

 この11棟目の『実家』には、宇宙まで延びる軌道エレベーター、そしてその先の宇宙空間に聳える『展望台』とも言うべき建物―――――『無重力実験棟』がある。結果的にこの『実家』は、今までで一番デカい。こんな雲を突き破って宇宙まで届く超高層違法建築物をおっ建ててモロバレじゃないかとツッコまれるだろうが、ジジィはそんなこともあろうかとキッチリステルス処理をして周りからだけでなく、レーダーやらなんやらからも見えなくしてるらしい。

 

 「ついこの間出来上がったモノにチョチョイと改良を加えて出来上がったのが……コレじゃよ」

 

 そう言ってジジィが取り出したのは、一個の紫色のUSBメモリだった。

 

 「コイツは?」

 「ワシ謹製のコンピューターウイルスじゃよ」

 「ンなッ……!?」

 「コイツを世界中にバラ撒いて、世界中のロボットにもワシと同じ目にあ゛ぉ゛ぅ!?」

 

 ―――――流石にそれはヤバい!!!

 俺は反射的にジジィの胸座(むなぐら)を掴んでいた。

 

 「おいジジィ……今まではジジィの方にも理があるって思って手を貸していたがな……まさかそんなアホな理由で物騒な病原菌(モン)バラ撒こうとするは思わなかったぞクソジジィ……!やはり老人ホームにブチ込む事こそ正義と悟ったァァッ!!」

 「ま、待て待て待て!!落ち着いて話を聞けッ!!絞まる!首が絞まるッ!老人ホームの前に火葬場に連れてくつもりかァ~!!?」

 

 ジジィが語るところによれば、今回バラ撒こうとしているウイルスは、『試作型』よりも幾分マイルドに改良したモノらしい。感染してもブッ壊れはしない、とジジィは言うが……

 

 「コイツはロボットに感染後、しばらくの潜伏期間を経て、風邪に似た初期症状を起こす。同時に双方向通信機能を強制的に起動し、ウイルスを他のロボットに送信して"感染"……それを繰り返して感染拡大させるという仕組みじゃ」

 「……飛沫感染さながらだな」

 「そして一定期間が経過すると、電子頭脳の一定領域に作用し―――――」

 

 

 理性を失い熱暴走する、"ステージ2"に移行する

 

 

 「……!!」

 「一見して、見境のない暴走に見えるじゃろうが、その段階になって初めて、"ある制御電波"を受信可能な状況になる。その電波を受信した"感染ロボット"は、電波を発信する制御装置から思うがままに制御可能になる、というワケじゃ」

 「……その制御装置ってのを…………ジジィのことだからもう造ってるか」

 「フフフ、少し前に『造り置き』しといたモノが役に立ったわい」

 「久々の3分クッキングネタだな」

 「さらに!!ワシが『ウイルスで世界を獲る』ためにこんなモノも用意しておる!」

 

 そう言って取り出したのが、大きな医療用カプセルに六角形のナットが挟まったような、独特な形のモノだった。

 

 「それってまさか……」

 「そのとーり!このウイルスから立ちどころに全快できるワクチンプログラムじゃ!コイツを量産して必要としておるロボットに高値で売りつけるんぢゃよ。世界はウイルスによって大パニック、じゃがワシのワクチンを求めて世界中のロボットがワシに助けを求めにやってくる!金が無くて暴走したロボットも、いずれはワシの制御下に入り、優秀なロボットがたくさん手に入る!どう転んでもワシが得するウハウハな作戦!その名も『宇宙からの脅威!!』じゃぁぁぁぁぁ!!!」

 「……ん?どこから宇宙が出てきた?」

 「このウイルスの試作型を開発したのが『無重力実験棟』じゃったからのう」

 「そーゆーことか。……まったくあくどいコトにだけは元気に頭が回るんだからな……」

 「既に"制御装置"はワクチン製造機に内蔵しとる。ヘタに別々にすると厄介なことになりかねんからのう……」

 「ヘタに一緒にしても厄介なことになりそうな気がするがな……って、ちょっと待て。コンピューターウイルスってヘタすりゃ俺達も感染するんじゃね?そうなったらキングの時以上に『実家』がヤバいコトにならんか?」

 「素朴な疑問じゃな。このワシがそんなウッカリをしでかすようなマヌケと思ったか?」

 「過去何回かしでかしてるから言ってるんだが」

 「ぬぅ……じゃが心配いらん!すでにお前さんを含めたこの基地内のロボットたち全員に、ワクチンパッチを送信しておる!お前さんたちジョーに至ってはボディも新調したというのに何も気づいておらんかったのか?」

 「……え?おぉ!!いつの間にかボディが赤から緑に!専用機から量産機にランクダウンか……」

 「専用機も何もジョーに専用機なぞ存在せんわ。ウイルス対策バッチリのマシンガンジョー、これぞ『帰ってきたマシンガンジョー』じゃ!」

 「……マイナーチェンジだからそのネーミングで納得せにゃならんな……」

 

 常にジジィの手足として最前線で戦ってきた俺とあっちゃ、『ウイルス』なんつー得体の知れんブツをバラ撒くこの喧嘩はどーも乗り気がせん。しかしどんなに渋い表情にしようと、金属製のモノアイフェイスではジジィに伝わるはずもなく、ジジィ製のウイルスを積んだ超小型の蚊型ロボットは街に向けて静かに放たれたのだった。

 

 

 ―――――そして2ヶ月後。

 

 

 《……新型コンピューターウイルスによるロボット感染症『ロボットエンザ』の感染拡大は尚も続き、各地で混乱が広がっています》

 

 テレビのニュースキャスターが、深刻な表情で伝えている。ジジィのウイルスは瞬く間に世界中に蔓延。WRUは『ロボットエンザ』と命名し、1ヶ月前にパンデミックを宣言。世界中のロボット工学博士が揃いも揃って有効なワクチンプログラムを開発できないまま、高熱や長引く咳、吐き気などの症状に苦しむロボットは日に日に増えていた。

 やがて、ロボットに支えられていた社会も当然、その体を保てなくなっていった―――――

 

 そして、ついにその日が来た。

 

 《ロボットエンザによる高熱で電子頭脳が暴走したロボット達が、世界中で破壊活動を行っており―――――》

 

 ジジィの想定通り、"ステージ2"に移行した。

 

 「すべてはスケジュール通りにコトが運んでおるわ。ロボット達のデータが次々と送信されてきておる」

 「ワクチンももう出来てるんだろ?」

 「それがまだなんじゃよ。データ取りに基地の電力を割いとるからとりあえずの1個だけしか―――――」

 

 その時、警報音と共に、低い轟音と衝撃を感じた。

 

 「!?」

 「な……なんじゃッ!?」

 

 思わず身構えた次の瞬間、この研究室の出入り口のドアが爆風とともに四散、俺とジジィは衝撃で吹っ飛ばされた。

 

 「ぐぅ……ッ!ジジィ、大丈夫か!?」

 「この程度でくたばるほどヤワじゃないわい……!何者じゃ!?まさかもうロックマンが嗅ぎつけおったのか!?警備は何をしておったァ!?」

 「……!なんだコイツら……!?」

 

 ジジィが怒鳴る中、チリとホコリの奥から研究室に入ってきたのは、まったく見覚えのない、8体のロボット達だった。

 しかし全員、俺の熱センサーでも容易に捉えられるほどの、異常な高熱を発していた。

 

 「…………ゥゥウ……!」

 「アツイ……ク、クルシイィ…………!」

 「ゲホッ!ゴホッゴホッ!!」

 

 8体とも、頭をフラフラさせたり、せき込んだり、明らかに健康体とは程遠い状態だ。それを見たジジィが瞠目する。

 

 「……!こやつらは……!!」

 「知っているのかジジィ!?」

 「うむ……送信されてきたデータの中にこやつらのデータもあった……こやつら全員、ロボットエンザに感染しとるぞ!」

 「じょ、冗談じゃねーぞ!?つーかこいつらどーやってここにたどり着いた!?ステルスなんとかで見えねぇんじゃなかったのかよ!?」

 「まさかとは思うが……ウイルスが"逆探知"したとでもいうのか……!?バカな、ワシはそんな……」

 「おい製造販売元ォ!?」

 

 愕然とするジジィを尻目に、8体のロボットの中で一番ガタイのデカい緑色のロボット*1が、ワクチン製造機をどっこいせと持ち上げた。

 

 「こいつら、まさか最初からアレ狙いで!?」

 「ド、ドロボー!!」

 

 慌てて俺はバスターをデカブツロボに向けたが、俺とジジィの眼前に、頭の部分が氷山のようになったロボット*2が、右腕を水平に鋭く振った。液体が撒き散らされた途端、そこから巨大な氷の棘が壁のようにそそり立ち、進路を塞いだ。

 

 「オーバーヒートとは全く無縁そうな氷ロボまで暴走させるとは効果覿面(テキメン)じゃねーか……なぁ、ジジィよ……!?」

 

 ジジィに目を向けると、愕然として腰を抜かしていた。

 俺はすぐさまバスターを巨大氷柱に向けてブッ放したが、氷柱が粉々になる頃にはすでに8体のロボットたちの姿は消えていた。

 

 「…………チッ、どーすんだ……ワクチンが造れなきゃウハウハ以前の問題だぞ……ロボットが動けなきゃ、それこそ世界の終わりだ……」

 「ぐぅ…………ッ……ならば作戦を変更せざるを得まい……!ここからでも軌道修正は充分可能じゃ……!」

 「軌道修正って……もうこうなっちまったら喧嘩する前に人類もロボットも仲良く全滅だぜ!?早いトコ、ライトのじーさんやタイツマンと休戦してだな―――――」

 「言われんでもそのつもりじゃッ!!」

 

 驚いた。

 キングの件以来、幾分頭が柔らかくなったのか、素直にじーさんに頼ることを覚えた……のだろうか。

 

 「ワシはこれから、手元に残ったこのワクチンを土産にライトの所に転がり込む!あの暴走ロボット共にこの基地から追い出されたことにしてな。……背に腹は代えられん、こうなったらロックマンにあのワクチン製造機を取り返させるよう仕向ける!それから製造機をかっぱらえば何の問題もあるまい!!」

 「多少遠回りになるがな……ホント、他人のフンドシ使わせたら天下一品だよ、アンタは」

 「誉め言葉と受け取っておこうかの。……お前さんにも頼めるか?」

 「今回の俺のミッションだな。何をすりゃいい?」

 「お前さんはこの基地のジョー達の中から何体か選抜して、連中を追ってくれぃ。そして隙を見てワクチン製造機を奪い返すのじゃ!……あ、でももしロックマンが来たら、ドサクサ紛れに別に倒してしまっても構わんぞ?」

 「あからさまな死亡フラグはノーサンキューだ……元ネタはそんなにフラグじみてなかったらしいが

 

 ……とゆーわけで、キングの時以来となるジジィの夜逃げである。前回と違うのは今回はジジィがじーさんの家に自主避難する形となるワケだが。

 

 さて……今回の喧嘩は今まで以上に色々な意味でヤバい。ジジィが原因とはいえ、このままだとマジでバイオ〇ザードだ。この『実家』がアン〇レラ扱いされ、ジジィはさしずめウェス〇ーか。……ファーストネームが同じとは奇遇だな。

 俺は俺で、逃げ出したあの連中を追わねばならなくなった。

 ……こーゆーコトが起こるから、俺は乗り気じゃなかったんだ……世界中の皆さん、本当にすんませんでした……俺があの時、ジジィを止めて老人ホームにブチ込んでさえいればこんなコトには……ッ。

 こうなったら、まずは何はともあれワクチン製造機の奪還が最優先だ。アレが使えん限り、ロボットエンザを治すにも暴走ロボットを制御するにも、二進(にっち)三進(さっち)もいかん。パンパンマンもジジィがけしかけるらしいが、果たしてどう転ぶことやら……

 

 俺とジジィ史上初の、『世界を守るための戦い』―――――

 

 ―――――という崇高な皮を被った、空前絶後の壮絶な『尻拭い』が、今ここに始まろうとしていた……。

 

 

 

 20XX年 北米にて未知のコンピューターウイルスに感染した作業用ロボットが発見される。あらゆるワクチンを受け付けないこのウイルスは、1ヶ月の間に全世界に感染拡大。WRUはこのウイルスによるロボットの感染症を『ロボットエンザ』と命名、パンデミックを宣言

 

 Dr.ライトの製作した家事補助ロボット『ロール』、ロボットエンザの陽性が確認される

 

 1ヶ月後、ロボットエンザによって電子頭脳に支障をきたしたロボットたちが全世界で暴走を開始、破壊活動により各地が大混乱に陥る

 

 Dr.ワイリー、ロボットエンザを治療するためのワクチン開発に成功するも、ワクチン製造機を感染ロボットの集団に奪取され、ただ一つ製造できたワクチンとともにライト研究所に避難

 

 ロックマンとブルース、ワクチン製造機を奪還するために出動。フォルテも行動を開始し、3人でチームを編成して感染ロボット軍団に立ち向かう

 

 これらの裏で、Dr.ワイリーによる第十一次世界征服計画発動

*1
『コマンドマン』のこと。型式番号:DWN.075。緑色のカラーリングと厳つい直線的なボディから純戦闘用ロボットと思われがちだが、実際はNGO組織所属の地雷除去作業用ロボット。ボディは地雷原での事故に備えて直線構造を多用して非常に頑丈に造られており、少々の誤爆にはビクともしない。特殊武器の『コマンドボム』は、本体からの操作信号によって直線的に弾道を変更することが可能な遠隔誘導爆弾で、これを地雷原に発射、爆発させて地雷を誘爆させることで地雷除去を行う。また弾頭は多積層式であり、着弾と同時に複数の小型ナパームが火柱を上げ、広範囲の地雷を誘爆させることが可能。世界各地から依頼が来るため多忙を極めるが、元々旅好きなこともあり、世界各地のオイルを味わえることが仕事の楽しみと語る。穏やかで社交的な性格なのだが、見た目が厳つく、爆弾を使うこともあって、現地の子供達から怖がられるのを気にしているらしい。ちなみに『10』と『11』の8体のボス達は、ワイリーが開発に直接関与していないロボット達だが、ワイリーの世界征服計画に利用されたため、『DWN(ドクターワイリーナンバーズ)』の型式番号が付された上でWRUのデータベースに公式に登録されている。なお、同様にワイリー製ではない第四次計画に利用されたコサック製の『DCN(ドクターコサックナンバーズ)』と、第六次計画に利用されたWRUメンバー製の『MXN(ミスターエックスナンバーズ)』も、WRUのデータベースには便宜上『DWN』として登録されている。

*2
『チルドマン』のこと。型式番号:DWN.076。ある国の気象観測局に所属する、北極圏自然観測ロボット。観測用高感度センサーの冷却を行うため、ボディにオイルとは別に液体窒素を循環させており、過冷却防止のために冷却水も循環させている。特殊武器の『チルドスパイク』はこれらの冷却機構を使った副産物的なものであり、液体窒素によって過冷却状態(凝固点より低い温度でも凍っていない状態)になった冷却水を高水圧で発射することで、何らかの物体に触れた瞬間、その物体を巻き込んで凍結する。さらに周囲の空気を巻き込み結晶化させることで、氷が棘状に形成される。かねてより環境問題に興味を持っており、仕事の合間を縫って北極圏の現状を写真に収めてルポとともにネットや雑誌に掲載、環境問題ルポライターとしても名が知れている。極地活動用ロボットとしてはアイスマンの後輩にあたり、コサック製のツンドラマンは同期である。



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三英雄編

 俺の名はジョー。

 

 ―――――世界中に感染が拡大した、ロボットを暴走させる凶悪なコンピューターウイルス『ロボットエンザ』。

 

 このロボットエンザを駆逐するため、ジジィとじーさんは2度目のタッグを組み、俺もまた、初めてタイツマンと目的を同じくして、この未曾有の危機に立ち向かう……ッ!!

 ……と言えば、正義と悪が争う中に突如第三勢力が乱入、正義と悪が一時休戦、それぞれの思惑が交錯する中共闘して第三勢力に立ち向かう……っていう、かなり盛り上がるシチュだと思うんだが―――――

 

 

 すんません。

 そのウイルス、作ってバラ撒いたのはそこのジジィです。

 

 

 つまりやろうとしていることは単なる『事故処理』なのだ。とたんに低次元な話になるのが俺達らしいっちゃらしいんだがな。

 しかし、ジジィの造ったワクチン製造機を取り戻さなければ世界征服どころか世界滅亡なのはハッキリしている。前回に引き続きギャグは控えねば。

 だが俺達『追跡隊』にジジィからのある報せがもたらされた時、俺は頭を抱えたくなった。

 

 「八分割されたぁぁぁ!?」

 

 字面の通りである。

 感染ロボット軍団の一体をシメたタイツマンからの情報により、連中はワクチン製造機を8つに分解し、バラバラ状態になった製造機のパーツを1個ずつ管理していたコトが発覚したのである。

 

 「ジジィ……アンタ本当は感染ロボット共を制御できてるんじゃねーか?あの製造機を器用に八分割なんざ、熱暴走(オーバーヒート)して電子頭脳(のーみそ)故障(イカ)れてる病人の仕業じゃねーぞ……」

 《バカを言うな。ワシもライト共々驚いとるところじゃわい。……もしかすると、ロボットエンザウイルスが変異しとるのかもしれん。複雑な演算や情報処理が必要な『作業』プログラムを、人間で言うところの呼吸や瞬き同様の、『本能』とも云える高度なレベルで行わせるプログラムへと書き換えておるのかもしれん……》

 「傍目で見て作戦めいた行動を本能で、か?ハッ、どこぞの宇宙怪獣じゃあるまいし、アンタのウイルスはまったくもって最悪だよ。自己進化に自己増殖か……あとは自己再生さえ会得すりゃ、立派な『デビルなんとか細胞』の完成だ」

 《そうなるとワシらでも手に負えなくなるから断固阻止せねばならん。とりあえずワシはライトとウイルスの解析を続ける。お前さんはロックマンとは別ルートで製造機を取り戻すのじゃ!》

 「……了解」

 

 さて……どうしたものか。

 俺たち製造機奪還部隊がいるこのハイウェイの近くには、確か感染ロボット軍団の一体、ニトロマン*1が居たはずだ。ヤツに気付かれずに製造機のパーツをこっそり、もしくは気付かれたとしてもドサクサ紛れにかっぱらう算段を立てねばならんが……

 

 「おろ?"太郎"の反応が消えてやがる……」

 

 "太郎"というのは、俺が率いていた奪還部隊の一人だ。部隊の殿(しんがり)として、少し後から俺達についてきてたはずだが……―――――

 

 ―――――シュタッ!

 

 「!?」

 

 何者かの気配を感じて振り返ると、まさかまさかの―――――

 

 「やっぱり……ジョーも感染しているのか……!」

 

 ―――――パンツマン!!

 

 「―――――何かあったのか?」

 「勝手に先に行ってんじゃねーぞ!!」

 

 それだけではなく、かなり久々にこの目で見る長兄と、あまりご無沙汰ではないバカ一までも、青タイツに引き続いて現れた……!!

 タイツマンが動いてるのは知ってたが、まさか長兄とバカ一までいるとは完全な想定外だった!!

 

 三大ヒーロー、ここに集結……!!

 

 ……って、感動してる場合か!?完全に臨戦態勢に入っていた青パンマンに、俺は慌ててホールドアップした。

 

 「ま、待て!撃つな!俺は正気だ!ウイルスには感染してねぇ!!俺はジ……ワイリー博士の命令で、ワクチン製造機をかっぱらった連中を追ってるんだ!!」

 「えっ…………!?」

 

 呆気にとられたようで、パンツマンはバスターを下ろしてくれた。まぁ、いきなりだし、コイツもコイツで『ジョーを見れば射殺する』という行動がもはや本能のように刷り込まれているのだろう。……物騒な本能だが。

 

 「―――――本当か?」

 「お、おうよ!」

 

 やはり長兄、グラサンの奥から冷徹な視線が突き刺さる。

 

 「だがさっき会ったザコ、攻撃してきたから()っちまったぜ」

 「何ィ!?」

 

 "太郎"の反応が消えたのはお前かバカ一!!

 ……まぁわからんでもない。俺はともかく、ほかの連中はジジィの言いつけを忠実に守って、『隙あらばロックマンを始末する』ことも任務のひとつに入れているんだろう。俺はさすがにそんな気分にはなれなかったが。

 ―――――たまたまバカ一を攻撃したことで天に召された"太郎"には……後で線香の一本でも供えてやろう。成仏しろよ、南無。

 

 「……スライディングとチャージ、直したのか?」

 

 ふと、俺は目の前のパンツマンに訊いた。

 

 「ライト博士はロボットエンザの解析を休む間もなくやっている……僕より、ロボットエンザで苦しんでいるみんなのほうが辛い思いをしてるんだ……僕のために、ライト博士に手間を取らせてしまうわけには行かないよ」

 

 つまり、前回の喧嘩から青パンマンはチャージもスライディングも出来ない、初期スペックのままらしい。我が身を省みず平和のために戦う、か。じーさんの息子は本当にいい子だ。それに引き替えジジィの息子はというと。

 

 「ハッ!"半イカレ"のてめーなら、5秒でスクラップに出来るぜ」

 「フォルテ……!」

 「わぁってらぁ!……それにな、手負いのてめーに勝ったところでオレは満足できやしねぇ……とっととこの騒ぎを終わらせて、とっとと直してもらわねぇとなぁ!……全力のロックマンを倒さなきゃぁ、オレの最強は証明されねぇからなぁ……!」

 

 つまり―――――

 

 全力のパンツマンと戦いたいけどパンツマンは故障中、直せるじーさんも手が放せない

 ↓

 ならじーさんがヒマになればいい

 ↓

 ロボットエンザをどうにかすればじーさんもヒマになる

 ↓

 パンツマン修理完了、全力のパンツマンをブッ倒してオレ様が最強だァ!!

 

 ……というチャートがバカ一の()()()()()で出来上がってるワケだ。やはり単細胞か。……ロボットだから細胞すらないか。

 ……にしても。

 

 「……長兄までいるとは思わなかったな……」

 

 思わず口から出てしまった。長兄は何かと暗躍好きというか、密かに裏で行動するダークヒーローなイメージがあって、こんな風に表で派手に立ち回るタイプじゃないと思っていたからだ。これまでもカリンカたん救出や偽物の正体暴露など、ジジィの野望の『要』をピンポイントでブッ壊してきた。いわゆる『オイシイ所を持って行く』役回りだったはずだが。

 

 「―――――今回はおれも裏方というわけには行かなくなった。ロボットエンザはこの世界の存亡に関わるからな」

 「ブルース……」

 

 逆に言うと、バカ一を動員した上、長兄も暗躍してる場合じゃねぇほど状況が深刻化しているということだろう。

 ……この三英雄の三位一体同時攻撃(トライアタック)を受けるハメになる感染ロボット達には同情するべき……なのだろーか。

 

 「ところで……キミはどうして僕のことを―――――」

 「―――――足を止めている暇はない。先に行くぞ」

 

 パンツマンの言葉を遮るように、長兄は俺の横をダッシュですり抜けて行った。

 

 「あっ、待ってブルース!」

 

 慌てて青パン小僧は長兄を追いかける。去り際、俺に何か意味深な視線を向けていたのは……何故だろうか。

 そうしてこの場には、俺とバカ一だけが残された。

 

 「……来い、ゴスペル」

 「WAOOOHHHHHHHHHHNNN!!!

 

 呼ばれて飛び出て何とやら、バカ一の横にゴッスィーが降り立った。

 そして俺の顔を見上げた瞬間―――――

 

 「ばう!わんわん♪

 

 それはもう嬉しそうにシッポを振って、俺に駆け寄ってきたのだった。

 

 「ゴッスィー!久しぶりだなぁ……元気してたかぁ?」

 「わんわん!

 「……やっぱり『てめー』だったか」

 「お前はゴッスィーがいなければ俺と他のジョーを判別できんのか?」

 「ンなモンできるかッ!!どいつもこいつも『一ツ目』で同じ見た目だろーが!……てめーがこんなところで油売ってるってコトは、今回の騒ぎにゃウラがあるな?」

 「ナ、ナンノコトカナー?」(棒)

 

 バカ一は無表情で俺に向かってバスターを連射した。とっさにシールドで防いだが、やがてシールドが弾き飛ばされ、喧騒な音を立てて地面に落ちた。

 

 「な、何しやがんだ!?いきなりクラッキング*2たぁビビッたじゃねーか!?」

 「正直にゲロらねぇと次はてめーの頭の風通しがイイ感じになるぜ?」

 「わぁった、わぁったよ……。ちょっと見ねぇ間に鋭くなってまぁ……大きくなったねぇ、バカ一や」

 「親戚のジジババゴッコはいーんだよ。早く言え」

 「……察しの通りさ。ロボットエンザはれっきとした『メイド・イン・ジジィ』だ」

 「ケッ……また回りくでぇマネしやがって……」

 「悪いがバカ一……このことは―――――」

 「言うと思うか?このオレが?」

 「思っているから、口止めしている」

 「……言いやしねぇよ。言ったらその場でポンコツロックマンとグラサン野郎と闘りあわなきゃならなくなるだろーが、メンドくせぇ。それに……"野望の復活(前回)"はお呼びがかからなかったからなぁ、退屈しのぎにゃちょーどいいんだよ」

 「ばう!

 「……世界の危機も退屈しのぎか……大したタマだよ。今日ほど『お前がそーゆー性格で良かった』って思った日は無ェな」

 「ッるせぇ。……いずれジジィには仕置きをする。てめーはてめーの仕事をするんだな」

 

 そう言い残して、バカ一はゴッスィーと合体、先行するパンツ小僧&長兄を追っていった。

 

 画面(ディスプレイ)の前のアンタはさぞ驚いてるだろうが……

 今回、パンツマンとの直接戦闘、一切無し。

 まぁ、今回の俺はそもそもジジィの『ウイルス喧嘩』に乗り気でなかったし、ワクチン製造機さえ戻ってくれば、正直パンツ小僧にジジィにド熱い灸を据えてやってもらいたいとも思ってる。ジジィの不平不満の解消のために世界滅亡なんざシャレにならんからな。反省するがいい。フハハハハハ!!!!

 

 「……あ」

 

 忘れてた。

 

 このあたりにいるジョーは全員味方だということを伝えるのを。

 

 

 ―――――俺の同型機(兄弟)たちの信号がすべて途絶えるのに、5分とかからなかった。

 

 

 ――――――――――

 

 そうして、三大ヒーローは割と呆気なく感染ロボット軍団を撃破、かくしてワクチン製造機の再生は成った。

 ジジィは手筈通りにワクチン製造機をかすめ取り、『実家』へと三大ヒーローをご招待。バカ一のエクストリーム帰宅はこれで二度目だな。

 最後は無重力実験棟での壮絶な死闘の末、ジジィはのべ11回目のジャンピング土下座をするハメになったのである。これで懲りただろう。もうウイルスなんかに手を出すんじゃねーぞー。

 

 ……いつもならこれで終わりなんだが、今回は……というか、今回ももう少しだけつづくんじゃ。

 

 どうやらジジィは『実家』に帰宅したあたりからインフルエンザを再発させたらしく、三大ヒーローと戦う頃には、高熱とひっきりなしに襲うクシャミとも戦っていて、最後の『ジジィカプセル』が墜とされるころには完全にこじらせてしまっていたらしい。困っている人間やロボットを放っておけないパンツマンによって、ジジィは警察病院へと担ぎ込まれたのだった。

 3日ほど経ってから、俺は『ヘルスケアジョー』を装ってジジィを見舞った。

 ジジィは窓際のベッドで、上体を起こして窓の外を見ていた。

 哀愁漂う姿だった。

 

 「うっす。元気か?」

 「……元気じゃったらこんな辛気臭い病室(ところ)で寝とらんわい」

 「違いねぇな。……もっとも『実家』の方がよっぽど辛気臭ェがな」

 「うるさいわ、アホタレ」

 

 ふと、窓際のテーブルのバスケット、その中の真っ赤なリンゴが目に留まった。

 

 「…………リンゴ、食うか?」

 

 ジジィは黙って頷いた。

 リンゴの皮むきなんて、何年ぶりにやったろうか。だが不思議なもんで、身体が……いや、『頭』が覚えてくれてるもんだ。割とキレイに剥ける。

 

 「こうしてるとさ」

 「……む?」

 「なんか、俺がジジィを介護してるみたいだな」

 「何を言うか。ワシャ老人ホームやデイサービスに世話になるほど老け込んどらんと何度も言うとろうがバカタレめ」

 「でも、同じ介護してもらうんなら……人間よりもロボットの方がいいんだろ?アンタの場合」

 「…………………………フン……」

 

 ジジィは再び、窓の外に視線を逸らした。

 俺はリンゴと果物ナイフの手を止め、そんなジジィの横顔に言った。

 

 「なぁジジィ」

 「ん?」

 「…………流石に………………今回はやりすぎたんじゃね?」

 「…………………………」

 

 ジジィは黙って俺の話を聞いていた。

 

 「カゼなんて誰だってひくさ。なのにそれでヘンに世間を(ひが)んだ結果、世界の終わりが見えるトコまで行っちまったってさ……もしコレで世界滅んでたら笑い話(コント)にもならんかったぞ……歴史の教科書にギャグパート載せるための喧嘩だったのかよ、今回のはよ」

 「…………………………」

 「いつもはジャンピング土下座カマして許してもらってるだろーけど、今回は土下座だけじゃ許されん空気だぜ。……せめて世間様に何かしらの誠意を見せといた方が、少しは評価はマシになるぞ」

 「フン!……悪の天才たるこのワシが、今更何を世間に遠慮せんといかんのじゃ……!」

 「今回の喧嘩……今まで以上に人にもロボットにも迷惑かかってんだよ……発起人のアンタが責任取らねーと収拾つかなくなんぞ」

 「………………どうしろと言うんじゃ……」

 

 不本意げなジジィの顔に、単純な答えを俺は見せる。

 

 

 「いつもツンツンしてんだ。たまにはデレてもいーんじゃね?俺にも見せてくれねぇか?アルバート・W・ワイリーって人間の、器のデカさってヤツをさ」

 

 

 

 ―――――数日後。

 

 ジジィは警察病院から"自主退院"した。

 その去り際、ジジィは病室からあふれんばかりの、大量のロボットエンザワクチンを置き土産にしていったのだ。

 そして同じ日、世界各国の関係機関に、ロボットエンザワクチンの製造方法が公開されたのだった。

 

 ―――――フッ、ジジィもやればできるじゃねぇか。

 俺の中で、底値だったジジィの株が爆上がりだぜ。

 

 そして―――――

 

 12棟目の『実家』に残されたロボットエンザのデータは、俺立ち会いの元、ジジィの手により『実家』のありとあらゆる記憶媒体から、キャッシュデータを含めて完全消去され、オリジナルデータが記録されていたHDDに至っては、データを消去の上で物理的に木っ端微塵、さらにその破片を焼却の後、残った灰を小型ロケットで宇宙空間に放出、後に遠隔爆破するという、まるで親の敵でも討つかのように徹底的に破壊、完膚無きまでに滅却された。

 

 喧嘩終結から3ヶ月後、ついにロボットエンザの最後の感染者が回復。ジジィが生み出した悪夢のコンピューターウイルスは、地球上から完全根絶されたのである。

 

 思えば、最初にジジィがインフルにかからなけりゃ、こんな乱痴気騒ぎは起きなかった。健康管理がしっかりしてりゃ、ジジィはウイルスをバラ撒くなんて最悪な発想に至らなかったんだ。ジジィだけじゃない。今回の喧嘩、俺にも責任がある。

 

 そして気付いた。

 今まで俺はジジィを老人ホームにブチ込むことばかり考えてたが、逆に考えてみた。

 

 

 ―――――俺が『実家』でジジィの介護をすればいーんじゃね?

 

 

 まさに『俺が老人ホームだ!』というヤツだ。今回のようなことを二度と起こさせないために、ジジィの健康管理は徹底する。

 専門学校にでも通って、介護福祉士の資格、取ろうかな。

 

 これじゃ本当に、『ヘルスケアジョー』になっちまうかもな、俺……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………これで終わっていたら、キレイに終わってただろう。

 

 俺はこの時、すべてのロボットエンザウイルスは、あのHDDが壊された時点で消滅したと思い、ジジィもそれは同じだった。

 

 だがジジィは、うっかり忘れていたのだ。

 

 ロボットエンザウイルスには『試作型』が存在していたことを。

 

 そしてその『試作型』が、ジジィが造っている"最後(Z)エロス(ERO)"に、ホンのスパイスがわりに搭載されていたことを―――――

 

 

 『試作型ウイルス』―――――真の名を、『ロボット破壊プログラム』

 

 

 この物騒な名前のプログラムが100年後―――――21XX年にあらぬ突然変異を起こし、ジジィの喧嘩が子供のイタズラレベルに見えるほどの、空前絶後最凶最悪の大迷惑を世界中に掛けることになるのだが―――――

 

 それはまた、別の話―――――

 

 いや―――――

 

 

 

 ()()()()()()の話、だ。

 

 

 

 

 20XX年 ロックマン&ブルース&フォルテ、ロボットエンザワクチン製造機の奪還に成功するも、直後にワイリーによって製造機が強奪される

 

 ロボットエンザウイルスはワイリーが製造したものとワイリー自ら公表

 

 Dr.ワイリーによる第十一次世界征服計画、ロックマン&ブルース&フォルテによって頓挫

 

 ワイリー、戦闘後に高熱を発して警察病院に緊急搬送、そのまま入院

 

 一週間後、ワイリーが病室から姿を消す。病室内には大量のロボットエンザワクチンが残されていた。同日、ロボットエンザワクチンの製造方法が世界中に無償公開される

 

 ロボットエンザワクチンにより、世界中でロボットエンザの感染者が短期間で激減

 

 3ヶ月後、ロボットエンザの最後の患者が回復し退院

 

 WRU、ロボットエンザ流行の終息を宣言

 

 後にロボット保健法改訂、これから開発されるロボットに、ロボットエンザワクチンプログラムのプリインストールを義務づけ、現在稼動中のロボットにもワクチンの追加インストールを義務づけた

*1
型式番号:DWN.079。アクション映画やテレビドラマ、バラエティ番組で活躍しているスタントアクションロボット。人型の形態からバイクモードに変形することが可能。ロボットであることを活かし、生身の人間では危険なスタントシーンも楽々とこなし、クリエイターの要求に120%の成果を以って応えるため、業界での評判は上々。後に俳優業界では初のロボットのみの芸能事務所を立ち上げ、現在は60体ものスタントロボットを抱えており、俳優として、社長として多忙な日々を送っているようだ。特殊武器の『ホイールカッター』は、車輪に鋭利な金属製のカッターを取り付けたモノで、ロボットエンザ感染後、ウイルスの影響下でニトロマンが開発した。回転するホイールに鋭利なカッターを取り付けたことで、標的を切削、破壊する。

*2
今回の原典である『ロックマン10』でのフォルテのバスターは、連続で命中させることでジョーやシールドアタッカーのシールドを吹っ飛ばすクラッキング能力がある。シールドを失ったジョーはそのまま素手で戦闘を継続、シールドアタッカーは画面外へと離脱していく。『X8』から本家シリーズへ逆輸入されたシステムであり、次作『11』ではロックマンのチャージショットにも導入された。こちらはジョーとシールドアタッカーはもちろん、無敵時間を持つ敵のほとんどに効果があるものの、ガードを突き崩すいわゆる『ガードクラッシュ』に近いものとなっていて、一瞬で防御態勢に戻る。



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運命の歯車!!の巻
歯車編


 俺の名はジョー。

 

 全世界を震撼させたジジィの癇癪『ロボットエンザ事件』からしばらく経ち、ジジィはロボットたちに囲まれながら、12棟目の『実家』で慎ましやかに暮らしていた。

 この日、いつもの朝の食卓に、ジジィは若干不機嫌そうな顔で姿を見せた。

 

 「なぁ……今日はどーも虫の居所がよろしくないと見たが……寝てる間になんかあったのけ?(こむら)返りか?尿モレか?」

 「あからさまに年寄り扱いするでないわアホタレが」

 「それとも……やっぱゆうべの残りとはいえ朝からキーマカレーはマズかったか?」

 「朝カレーは仕事を捗らせるから文句はないわい」

 「んじゃなんだよ?メシ作ってる側としちゃ、渋い顔してメシを食われるのはどーも、な」

 「……夢を見た」

 

 ジジィは、どこか遠くを見るような視線を、テーブルに落としていた。

 

 「大学の頃のことを、な。あの頃は―――――」

 

 そう言いかけ、ジジィは、ふっと目を閉じ、ふぅとため息をつくと、

 

 「いや、なんでもない。ご馳走さん」

 

 と、食卓を後にしたのだった。

 

 「……夢、ねぇ」

 

 かく言う俺は夢を見ない。電子頭脳には妄想を組み立てて非現実を睡眠中に見せる、なんて器用な機能はないらしい。

 だがジジィの元気の無さには何かある、と感じた俺は、これを胸に留めて後片付けに入った。

 

 ―――――翌日、またしても朝のジジィはムスッとしていた。

 

 「……また、夢を見たのか?」

 

 今度は俺の方から振ってみた。もっとも、まともに答えてくれるとは思ってなかったが。

 だがジジィは俺の予想に反して。

 

 「……忌々しいことじゃがな。あの時……ワシの研究を理解できなかった凡愚によって、現在のロボット工学の基礎が成り立っていると思うと、腹立たしくてならん……」

 「……『ダブルギアシステム』、か」

 「!?お前さん、何故それを……!?」

 「前に、ライトのじーさんをさらったことがあったろ?『五度目』の時にさ。そん時の監視役やってて、話が弾んでさ。ジジィにゃ悪いけど、不仲の原因は聞かせてもらったよ」

 「チッ……ライトのヤツ、余計な口を……」

 「だったらよ……なんで"ソレ"、使わねぇんだ?」

 「……一度、使ったわい。クイックマンな、アレはダブルギアシステムを応用した試作型じゃった*1が……結果は知っての通りじゃよ。やはり出涸らしの小細工はロックマンには通用せんて」

 「らしくねぇじゃんか」

 「何……?」

 「11回喧嘩に負け続けて、それでも折れずにこうして『実家』を建てて、次の策を練ってるジジィにしちゃ、往生際が良すぎるんじゃねぇか?オッサンや長兄や悪のエネルギーやロボット新法を利用して、ミスターXに変装して、キングの尻馬に乗って……ついにはウイルスにまで手を染めたジジィがよ……今更過去のトラウマ引きずるなんざ、らしくねぇって言ってんだ。……もう一度ぐらい、過去の自分を、『昔のジジィ』を……信じてやってもいいんじゃないか、って……俺は思うがな」

 

 ジジィは押し黙り、顎に手を当てうつむいた。

 さらに―――――俺はこう言った。

 

 「それとも何か?他人のフンドシ穿き慣れちまって、もう自分のフンドシで相撲取るのが今更怖くなったのか?」

 「何じゃとッ!?」

 

 そうそう、ジジィは煽りには弱いんだ。プライドのカタマリだもんな。こーゆー言い方をしないと、火が点かない人間なんだよ。

 

 「量産型風情が()かしおって!……いいじゃろう……!あの夢は何かの啓示じゃろうて……!確かにあの頃のワシは未熟者じゃった……じゃが今のワシは違う……!ワシを認めなかった世界に!そしてライトに!真正面から挑戦状を叩きつけてくれるッ!!積もりに積もった長年の因縁に今こそ決着(ケリ)をつけて清算し、ぐっすりと安眠快眠してくれるわァッ!!!お前さんも、焚きつけたからにはわかっとろうなァッ!?」

 

 まぁ、そうだよな。

 これは俺が煽った喧嘩だ。責任を持って参加させてもらう。

 

 「あぁ、いいぜ。前回みたいな八ツ当たりと違って、今回はジジィの青春のリターンマッチだ……何もおかしいところはないさ。存分に使い倒してやってくれ……!」

 

 ……というわけで、ジジィは12回目の喧嘩の材料に、ジジィとじーさんが袂を分かち、ジジィがグレるきっかけになった因縁の卒業制作『ダブルギアシステム』を使うことを決め、早速研究室に籠もり始めた。同時に俺達下っ端連中にも指示が出され、『実家』の大改装工事に着手。

 そして1ヶ月の時を経て、12棟目の『実家』は劇的にビフォーアフターされたのだった。

 

 「見るがいい!これこそワシの因縁の清算に相応しい大要塞……名付けて『歯車城』じゃぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 表にはジジィ名物シャレコウベが堂々と飾られ、その周囲を複数の直径ウン十メートルともあろう巨大な歯車がギシギシガチャガチャと駆動音を上げて蠢く凄まじい外観だ。何気に『実家』の外観にこうした『動くギミック』が取り付けられたのは史上初ではなかろうか。時代の変化を感じる。

 

 「なんということでしょう……こいつ……動くぞ……!」

 「フッフッフ……凝ったのは見た目だけでは無いぞ。もちろん内装も、ロックマンが攻めてきた時に備えて大幅改造しておるからのう。苦節"30年"の集大成じゃよ!」

 「……ん?ジジィっていくつだ?」

 「何でもない、忘れろ。次は研究室じゃ!」

 

 ジジィは出会ったときからジジィだったし、30年なんて経ってないんじゃ……あ、あれか。ジジィのダブルギアシステムがボツにされてから30周年記念か。いやしかしそれだとジジィの大学卒業から30年、浪人や留年をしてなけりゃジジィはまだ50代前半ということになる。う~ん、やっぱありえん。あの太陽の如き頭頂部の輝き、50の前半でアレはなぁ……

 まぁいい。俺は深く考えんことにした。

 そうして案内された研究室でジジィが俺に見せたのは、赤と青、二つの歯車が組み合わさった基盤だった。

 

 「これこそが『ダブルギアシステム』じゃ。動力炉の出力リミッターを一時的に解除して限界以上のパワーを引き出す、赤の『パワーギア』!そして駆動系の循環エネルギーを一時的に大出力化して通常時以上のスピードを発揮させる、青の『スピードギア』!この二つの組み合わせこそ、『ダブルギアシステム』のキモなのじゃ!」

 「へぇ……」

 

 だが、『ダブルギア』という名前の割に、赤と青の歯車が両方備わった基盤は、12個ある内のわずか2つだけだった。残りの10個は、赤の『パワーギア』だけ、青の『スピードギア』だけの基盤が、それぞれ5個ずつだ。

 

 「……にしちゃ、片方しか無いヤツがほとんどだな」

 「……フッ、あの頃のワシは発想も青かった……幾らでも量産可能と踏んでおったが、いざ全力を尽くして造ってみれば、完成型を形に出来たのは2つだけ……残りは"片割れ"にすることで何とか造れた廉価版じゃよ。もっとも、切り替えが出来ん以外は問題なく発動可能じゃが」

 「妥協とは珍しいじゃねぇか」

 「ワシは確かに『天才』じゃ。しかし『万能』ではないよ。だからこそ、破局に至らぬ妥協点を探し、ベストでなくともベターに巧く着地させる……それもまた、これまでの経験で得た知恵じゃよ」

 「その割に『物質瞬間移送装置(テレポーテーター)*2や『時空転移装置(タイムマシン)*3なんかをあっさりと造っちまってたな」

 「それはたまたま、『天才』の領分で運良く造れてしまったに過ぎんよ。この世には『運』や『偶然』で発見されて、未だに完全な原理が解明できとらんまま実用化されとるモノなどごまんとある。そうした『ひらめき』も科学には付き物でな。コレが面白いから、『科学者』はやめられんのじゃよ♪」

 

 まるで少年のような笑みを、ジジィはニカッと浮かべた。

 ホント、臆面もなく自分を『天才』と称しておきながら、自分が出来ること、出来ないことをキチンと弁えて、それでいて好きなことを楽しんでやってるようなジジィがさ―――――

 

 「どーして世界征服なんかやってんだろーなぁ……」

 「ん?何か言ったか?」

 「うんにゃ。……で?この二つしかない完成型のダブルギアはどうすんだ?……ひとつ、良かったら俺に使わせてくれないか。……パンツマンには積もりに積もった借りもあるからな……」

 「悪いがそりゃ無理ぢゃ」

 

 期待せずに言ってみたが、そりゃそうだよな……ジジィはあっさりと突ッぱねた。

 

 「ダブルギアシステムを搭載できるロボットは、条件が限定されておる。パワーギアは動力炉と伝達系、スピードギアは駆動系とフレーム強度、ダブルギアはそれらすべてのキャパシティにある程度の余裕があるロボットでなければ、ボディが耐えられんからの。ましてやジョーは量産型、構造が簡素になっとるから余裕が無いわい。気持ちは嬉しいが諦めぃ」

 「しゃーないか……で?具体的にはどんなロボットならシステムを積めるんだ?」

 「それこそ、何らかの用途に特化したワンオフ機……ナンバーズロボットか、それに匹敵するロボットならば可能じゃろう。……例えば……ロックマンとか、な」

 

 いきなりパンパンマンの名前を出すか。まあ、それならわかりやすい。ダブルギアシステムは、あのレベルのロボットでなければ扱えないほどの高尚なシロモノだったのか。それならアッサリ諦めがつく。所詮俺はしがない量産型、ワンオフの連中とはボディの出来が文字通り違うからな。

 

 「この『完成型』のダブルギアじゃが、ひとつはコイツを使うことを前提に設計したワシのマシーンに組み込む。もう一つは……本来、フォルテにくれてやろうと思っとったのじゃが……」

 「アイツは前回の喧嘩の後から音信不通だぜ」

 「そうなんじゃよ……あやつは肝心な時に連絡が取れん……全くもってアホンダラが……慚愧(ざんき)に耐えんが、予備に取っておくしかあるまいて」

 「せっかく使えるモノを遊ばせちまうのは惜しいな……」

 「仕方あるまい。前にも言ったじゃろ?作ってみたが結局使わなかった、というのはよくあるコトじゃよ。……後は残りの廉価版じゃが、スピードギアはイエローデビル*4タイプの改良型*5に、パワーギアは前に造ったサークリングQ9*6をベースに設計したマシンの試作型*7に組み込むつもりでおるが……残りのパワーギアとスピードギア、4つずつをさてどうするか……」

 

 ジジィは顎に手を当て思案に入った。こうなっちまうと、ジジィはこちらから呼びかけても反応が薄くなる。

 しゃーない、暇潰しにテレビでも見るか。そう思って、リモコンの電源ボタンを押した。

 

 《……年に一度の『ロボット健康診断』が始まり、多くのロボット達が各地のロボット病院やロボット研究所を訪れています。この健康診断は以前施行されていた、『ロボット新法』に代わる法律『ロボット保健法』に定められたもので、ロボット達の性能安定のため、年に一度のこの時期に、すべてのロボットに義務づけられていて、今年で―――――》

 

 ちょうどニュースをやっていた。そうか、もう健康診断の時期か。時が経つのは早いなぁ。

 それにしても、『あの』ロボット新法の代わりに作られた法律(決まり事)が、まさかの『健康診断』と聞いた時、俺はモノアイからウロコが落ち、ジジィは悟りきったように破顔爆笑した。

 そう、ロボットの『質』を保つために、何も古いロボットをブッ壊しちまう必要なんぞ全くなく、年に一回、キチンと健康診断を受けて、『ロボット自身』が健康管理をすればいいだけの話だったんだ。

 というかあの頃、誰もその事実に気付かずに、やれ使用期限がどうだの、ロボットの信用がどうだのと世界中がアホみたいに騒いでいたと思うと、呆れて何も言えなくなる。

 

 ……一体何だったんだ、あの喧嘩は。

 

 ちなみにジジィはというと。

 

 ―――――そんな最初から知れたこと、今更気づきおったのか!揃いも揃って凡愚なアホタレ共めが!!ゥワッハッハッハッハッ!!!!

 

 ……と、テレビに向かってそれはもう嬉しそうに笑ってたさ。

 

 「……健康診断、か……」

 

 ジジィがいつの間にか、テレビを食い入るように見ていた。

 

 「そーいや、俺たちの一斉メンテもそろそろだったよな」

 「もうすぐ"大仕事"じゃからな。コトを始める前にキチンとメンテしてやるわい。……ふむ……」

 

 ジジィの頭の上に豆電球が点灯したのが、もはやはっきりと見えるようになった。

 

 

 「これは………………使えるな……!」

 

 

 

 20XX年 ロボット新法に代わり制定された『ロボット保健法』に基づく『ロボット健康診断』が、全世界の各ロボット病院やロボット研究所で開始される

 

 健康診断でライト研究所を訪れていた8体の作業用ロボット、突如乱入したDr.ワイリーにより拉致

 

 2週間後、Dr.ワイリーによる第十二次世界征服計画発動

 

 ワイリーに改造され、各都市を襲撃・占拠した8体のロボットを鎮圧するため、ロックマン出撃

*1
もちろんこの設定は本作のみの創作で、原作での言及はない。しかし、クイックマンの超高機動力はそれこそダブルギアシステムでもなければ説明できないのもまた事実である。

*2
その名の通り、物質を瞬時に、かつタイムラグ無しで別の離れた地点へと転送する装置。ワイリーステージ終盤のシリーズ恒例行事『ボスラッシュ』における転送カプセルがまさにソレである。最初の第一作から毎回登場しているので見慣れた感があるが、実は劇中世界でも未だに実用化されていないオーバーテクノロジー同然の代物であり、これを独自に造り上げたワイリーの非凡ぶりが窺える。

*3
もはや説明するまでもない、過去や未来に行き来できるマシン。かつてワイリーは時空研究所が開発した試作型タイムマシンを強奪して未来へ行き、戦闘機能を取り外されていた未来のロックマンを拉致、『クイント』に改造して現代のロックマンへの刺客として差し向けたことがある(『ロックマンワールド2』)ほか、これを参考に自作したタイムマシンで第一次~第三次計画のナンバーズロボット達を復元し、ロックマンに挑戦したこと(『ロックマンメガワールド』)もあった。

*4
ワイリーが、ライトが発明したゲル状形状記憶分子を利用して開発した、拠点防衛用大型戦闘ロボット。電子頭脳が搭載された眼球状の制御コアが発する電磁界により、形状記憶分子が操作されることで巨人の形を成している。その特性を活かし、分裂と再合体を繰り返しながら標的を翻弄、攻撃する(この攻撃アルゴリズムを利用したシステムを『イエローデビルシステム』とも呼称する)。第一次計画の際、基地防衛ロボットとしてロックマンと対戦したが、コアに強力な電磁波を浴びると磁界が乱されてしまうことをロックマンに看破され、電磁波光線であるサンダービームをコアに撃ち込まれて敢え無く敗れ去った。その後も『デビルシリーズ』として、改良を加えられた後継機(『3』のイエローデビルMk-Ⅱ、『スーパーアドベンチャー』の新イエローデビル)や派生機(『ワールド5』のダークムーン、『8』『~&フォルテ』のグリーンデビル、『WS版~&フォルテ』のグレーデビル、『9』のプチデビル(デビルシリーズ唯一のザコ)、ツインデビル、『10』のブロックデビル)が造られ、その後も純ワイリー製以外の個体であるが、シャドーデビル(コイツに限りワイリー製疑惑アリ)やレインボーデビル、レインボーデビルMk-Ⅱ、ラヴァデビルといったシリーズが、『その時代のロックマン』たちに戦いを挑んでいる。ロックマンに対抗するかのように進化し続ける、ロックマンシリーズを代表する大型ボスである。

*5
『イエローデビルMk-Ⅲ』のこと。第三次計画に投入されたMk-Ⅱ以来、久々の『イエローデビルシステム』の正統後継機。外見は初代とほとんど変わらないが、よく見るとコアの目玉に歯車が組み込まれている。通常攻撃は初代と同じ分裂→合体とコアからのショットだが、スピードギアが発動すると9体の小型イエローデビルに分裂、室内を縦横無尽に駆けまわり標的を翻弄する。ワイリーはパワーギアを組み込むかスピードギアを組み込むか、予算的な面も含めて三日三晩思案した末、このシステムの最大の長所である分裂攻撃を活かすべくスピードギアを組み込んだ。『イエローデビルシステム』の新境地に挑み、見事完成させたワイリー渾身の作である。なお余談だが、ゲームにおける分裂パターンはなんと31年前の『1』の初代イエローデビルとそっくりそのまま同じである。

*6
第五次計画の際に投入された、拠点防衛用大型戦闘ロボット。強固なリング状装甲と半球状の透明シールドで本体を覆い、口部や上部からのエネルギー弾と質量を活かした体当たりでロックマンを攻撃する。装甲はロックマンのあらゆる攻撃を受け付けない強度を誇るが、大型かつ密閉構造故に機体温度が急激に上昇しやすく、排熱処理が容易ではないため、リング状の装甲左右両側に開閉式通気口を設けることで排熱の一助としている。しかしその通気口こそが唯一の弱点となり、ここへジャイロアタックを撃ち込まれて内側から大破四散した。なお、公式では本機がモンバーンのプロトタイプという設定は存在せず、あくまで形状が類似している故のファンの類推に過ぎない。

*7
『モンバーン』のこと。サークリングQ9をベースに設計した、ワイリーマシーン11号のプロトタイプ。前身機は本体をリング状装甲と半球状の透明シールドで覆っていたが、本機は完全な球形外殻装甲に変更、攻撃時はその装甲を八分割して展開、内側の本体がエネルギー弾を発射した後即座に装甲が閉鎖されるように設計が見直されている。これにより防御面における隙も削減、排熱処理の問題もワイリーの技術向上により解決し、本格的な拠点防衛機として完成した。当初はパワーギア型とスピードギア型の2体を開発し、ペアで運用する予定だったが、外殻装甲用のマテリアルの確保に想定外の時間と予算がかかったことと、イエローデビルMk-Ⅲにスピードギアを組み込むことを決めたことを考慮し、パワーギア型1体に絞って開発するに至った。



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誘爆編

 俺の名はジョー。

 

 ジジィが悪の道に進むきっかけとなった因縁の機械―――――『ダブルギアシステム』。

 この度、ジジィはこのシステムを記憶の井戸の底から掘り起こし、のべ12回目となる喧嘩を世界に、そしてライトのじーさんに吹っ掛けようとしていた。

 俺も今やジジィ軍団最古参のひとりとなり、喧嘩にも慣れたもんだが―――――

 

 「……まさかじーさんの研究所に直々に殴り込んで、ロボット拉致ってくるとは思わんかったぞ……」

 

 ジジィの研究室に運び込まれていたのは、昨日ジジィがダブルギアシステムの被験者兼パンツ小僧への刺客にするためにジジィがさらってきた、8体の善良な一般作業用ロボットだ。全員、じーさんの研究所に年に一度の健康診断に来ていたばっかりに、哀れジジィの毒牙にかかってしまったのだ。現在は全員、強制停止プログラムによってシャットダウンされ、ピクリとも動いていない。

 つーか、例の"ブルー○ットおくだけ"UFOじゃなく、それなりの戦闘力があるマシーンに乗ってじーさんの研究所を襲撃すれば終わってたんじゃねーか?……というツッコミは今更なのでしないことにした。

 

 「ダブルギアシステムの開発にはナンバーズロボット並みのコストがかかる。チンタラ作るよりも『出来合い』の方が安くて早くてウマいんじゃよ」

 「牛丼屋かよ……」

 「……それにしてもこやつら、やはり"アタリ"じゃったわい。ライトの研究所に直々に健康診断に来るだけのことはある。民間の設計にしてはなかなかどうして、チョイとプログラムをイジればすぐにでも戦闘に転用可能なヤツばかりではないか……用心深い設計をしよるわ」

 「どんなに無害なロボットでも戦闘用に魔改造できちまうジジィのセンスもなかなかマッドだと思うがな」

 「持ち上げても何も出んぞい。……む?」

 「どした?」

 「このツンドラマン*1というロボット……コイツはコサックが造ったロボットじゃな……」

 「意外なところでオッサンとも繋がってたか」

 「思わぬ所でコサックへの意趣返しもできるとは僥倖じゃわい」

 「フッ……今回の喧嘩、なんだか今までの集大成みてぇだな。今までの連中ももう一度起用してるみてぇだしさ」

 

 そう、今回はなんと、今まで散々ジジィが渋ってた『戦力の再利用』を解禁したのだ。ガビョール*2にピッケルマン、バットン*3にスナイパーアーマー*4にウォールブラスター*5、シールドアタッカー*6にタテパッカン*7にリリック*8にキャノペラ*9にプロペラアイ*10―――――と、今まで使ってきたザコロボットをこぞって再起用したのである。

 

 「しかし厳選はさせてもらったわい。不変なれども陳腐化せず、今もって需要があるのは基礎設計が優秀という証明じゃ。優れたモノに新旧は関係ないからの」

 「だからか?俺の新型ボディにあえて命名しなかったのは」

 

 俺も『実家』の改装工事中に新型ボディに衣替えした。細かいディテールは違えども、盾とバスターというジョー伝統の装備だ。まぁつまりは『スナイパージョー』なんだが、ジジィは例の『命名の儀』を行わなかったのだ。

 

 「まぁ今更じゃからな。……今回は総力戦じゃ。必ずロックマンを物言わぬ屑鉄(ジャンク)に変えてライトの吠え面を拝んでくれるわ!!」

 

 いくつ歳を取ろうと前向きなのは良いことだ。ダブルギアシステムを作ったことで当時を思い出したのか、今回のジジィは本当に活き活きとしてるなぁ。

 

 ―――――さて、ここからは俺も頑張らねばなるまい。ジジィはいつものごとく世界中の放送回線やネットワークをジャックし、大っぴらに喧嘩の開始を宣言。世界8ヶ所の都市に、パワーギア、もしくはスピードギアを組み込み、制御チップを取り付けて"洗脳"した8体のロボットを解き放った。

 俺はその内の一体であるブラストマン*11の部隊とともに、朽ち果てた大規模遊園地でパンツ小僧を迎え撃つこととなった。

 

 「……本当にいいんですか?おれが"アーマー"使わせてもらって……」

 

 新入りの同型機(兄弟)が、スナイパーアーマーを見上げながら、申し訳なさげに言ってきた。

 

 「いーんだよ。俺は乗り物使うよりか、地に足をつけて戦う方が性に合ってるのさ。遠慮すんなって」

 「ありがとうございます……!おれたちの手で、必ずロックマンを倒しましょう!」

 「ああ……でもあまり無茶はすんなよ。死んだら全部終わりなんだから」

 「はい……!それでは、おれは持ち場に……先輩もどうかご無事で!」

 

 後輩は一礼すると、スナイパーアーマーにひらりと飛び乗り、ガシンガシンと足音を響かせて持ち場へと向かっていった。

 

 「さて……俺も持ち場に行くか」

 

 持ち場に行きながら辺りを見回る。ここを仕切るブラストマンが『バクハツアーティスト』を自称してるからか、爆発物だらけだ。前の喧嘩の時の兵器工場(グレネードマンステージ)を思い出す。

 赤外線センサーで反応する導火線とか、前よりもハイテク化してるとはいえ、やはり爆発物満載、火気厳禁の四文字を胸に刻まねば―――――

 

 「あ、あの……一緒に組むことになりました……よ、よろしくお願いします……」

 

 俺の持ち場でペアになったヤツを見て、俺は若干ヒイた。

 コイツは『ファイアーサーバー』っていうロボットだ。なんでも野球場やらサッカースタジアムとかでビールの売り子をしてたロボをジジィが魔改造したらしく、背中のビア樽の中身をビールから揮発性オイルに変え、ホースの先を注ぎ口から着火装置に換えて、立派な汚物消毒ロボにしたんだと。

 

 ……だからなんでよりによってそんなヒャッハーなロボをこんな爆薬満載ステージに置く!?

 

 火気厳禁と言ったろうが!?グレネードマンステージの時といい、発想が狂ってやがる。爆発物を扱うロボは揃いも揃って電子頭脳もバクハツしてんのか!?

 

 「……お、おう、よろしくな」

 「ぼ、ボク……ロックマンと戦うのは初めてなんで……でも嬉しいです!……先輩は何度もロックマンと戦って、生き延びてきた凄いジョーさんって聞いて……そんな先輩と一緒なら、きっと……!」

 「あー……俺、異能生存体ぢゃないからね。まぁくれぐれも誘爆だけには用心を―――――」

 「見つけたぞ!ワイリーのロボット!!」

 

 気配―――――というか、思いっきり声がしたから振り返ればヤツがいる。

 久々に見たタイツ小僧は……何というか少し印象が違っていた。

 心なしか背が高くなり、タイツ部分にラインが入り、細かい部分のディテールが変わっている。どうやら心機一転したのはジジィだけじゃないらしい。

 

 「出たなパンツマン!!新入り、撃ちまくれ!!」

 「は、はいッ!!」

 

 俺がバスターを撃つと同時に、ファイアーサーバーも不器用な手つきで火炎弾を発射する。牽制としては上出来じゃないか。

 

 「く……先に進めない……!」

 「地味だと思って甘く見てると痛い目見るぜパンパンマン!!」

 「勝てる……!ボクたち、ロックマンに勝てますよ!あはははは!!」

 「バカッ、それはフラグだ!!」

 「こうなったら……これで!!」

 

 青タイツの攻めの手が一瞬止まった、と思った、同時だった。

 

 

スピードギアッ!!

 

 

 ――――――――――え?

 

 ヤツから青い閃光が迸ったのが見えた次の瞬間には―――――

 ヤツは俺の『上』にいた。そして。

 

 

パワーギアッ!!

 

 

 赤い閃光が周囲を照らし、ロックバスターから巨大な光弾が2発、ファイアーサーバーに叩き込まれていた。

 

 「……!!」

 

 せっかく出来た後輩が一瞬で()られた、その感情を言葉にする間も無かった。

 そして後輩が木っ端微塵に砕ける瞬間、その爆発の炎が後輩の背負っていた揮発性オイル満載のビア樽に引火し、俺の頭上に落ちてくるのが見えた―――――*12

 

 

 ―――――俺の視界はオレンジ色の爆炎に覆われ、轟音のみが俺の(センサー)を支配したのだった―――――

*1
型式番号:DCN.085。コサック製の北極圏調査・開拓用ロボット。コサックがワイリーの第四次計画の後に新たに開発した、9体目のコサックナンバーズ。ライトナンバーズの極地探査用ロボットであるアイスマンのデータを参考に、寒冷地で生活するコサック自身の知識と経験を採り入れて設計した。当初は寒冷地での活動のために大型の装甲を纏った形状だったが、テレビで見たフィギュアスケートに魅了され、以後は自らもフィギュアに取り組むべく、北極の動物達を観客に練習を開始、さらには美しさに磨きをかけるべく自己改造も行い、現在はフィギュアスケートの男子選手の衣装を思わせる優美な姿となっている。自らのフィギュアスケートの才能を北極に閉じこめておくのは『地球規模の損害』と断言し、いつかはフィギュアスケーターに転身して大勢の観客の前で演技を披露することを夢見ていたが、ワイリーに拉致されて制御チップを取り付けられた上、スピードギアを搭載されたことでその欲望を暴走させてしまった。

*2
第一次計画に投入された、撒き菱を彷彿とさせる屋内用対地侵入者阻止ロボット。接地センサーと赤外線センサーを内蔵し、一定エリア内に立った侵入者を体当たりで排除する。『同じ横軸にロックマンが立つと高速化する』『攻撃を当てても一時停止するのみで破壊できない』『特定の特殊武器で完全破壊可能(一部除く)』という特徴を持つトラップ的な存在であり、エレクトリックガビョール、サイバーガビョール、スパイラルガビョール、スピニングガビョールといった派生機種がシリーズに多数登場、未来の『X』や『ゼロ』でも、ローリングガビョール、メタルガビョール、トップガビョール等の後継タイプが登場している。同様の敵として第二次計画のスプリンガー、第四次計画のガリョービ、第五次計画のスベール、マウスベール(この2種はバスターで破壊可能)がいる。『1』から31年ぶりに『11』に再登場するガビョールは、性質は全く変わっていないが、回転しながら移動し、横軸にロックマンが立つと赤色灯を点滅させ、警告音を発し、火花を上げて高速回転して加速するなど、ビジュアル面で大幅な進化を遂げている。

*3
第二次計画に投入された、森林パトロール用のコウモリ型監視ロボット。通常時は外殻を閉じた待機状態となっており、木の幹や天井に逆さの状態でぶら下がり、太陽光や周囲の光を外殻の集光電池で取り込んで充電している(僅かな光源からでも充電できるこのシステムに着目したコサックが、後にファラオマンにもこのシステムを独自に改良発展したものを導入している)。侵入者を探知すると即座に外殻を翼として展開して侵入者を撮影、追跡する。その用途上、主に夜間や暗所で運用される。この待機状態時の外殻は集光電池と特殊装甲のハニカム構造となっていて、ロックバスターを受け付けない防御力を持ち、この強固さに目を付けたワイリーが戦闘用に改造した。この後も第四次計画のバットントン、第七次計画のバットンM48、第八次計画のバットンM64、バットンマミー、プチバットン、サキュバットンといった改良後継機が登場し、未来の21XX年にもバットンM-501、そしてその後継機種である『バットンボーン』シリーズが登場するなど、非常に息が長い機種となった。

*4
第十二次計画に投入されるスナイパーアーマーは、正式には『Dタイプ』という改良型である。第二次計画に投入された当時は、二脚を持ちながら歩行できずジャンプで移動していたが、第五次計画に投入された歩行砲台メカ『ダチョーン』の歩行システムを設計に採り入れることで、30年越しに歩行を実現した。

*5
コサックが開発した、屋外設置型エネルギー砲台。ロックバスター同様のソーラーエネルギーブリットを発射するが、コストカットされているためロックバスターほどの威力はない。この度第四次計画以来の復活。なお、第六次計画には防水処理を施した全天候型の『ウォールブラスターⅡ』が投入されていた。

*6
原型機の解説は『砲撃編』の注釈を参照。今回第十二次計画に投入される本機は、第七次計画に投入された『真・シールドアタッカー』の設計を参考に発展させ、方向転換の際の隙を無くすため、本体左右両側にジェットを搭載、対称構造のシールド部が上下に分割して逆方向に回り込むことで素早くベクトルが変更されるよう設計が見直されている。また、ジェットをスクリューに変更して防水処理を施した、水中仕様の『タイプM』も登場した。

*7
砲台に盾を装備し、防御を可能とした防衛型固定砲台ロボット。しかし盾を構えている間は砲撃できないため、砲撃の際は盾を上方に跳ね上げて無防備となるのが弱点。『5』のみ、実はギリギリまで接近してスーパーロックバスターを撃てば、盾を構えていても破壊できるという裏ワザがある。また『ワールド4』では、盾自体に当たり判定が存在せず、盾を跳ね上げた瞬間に盾を足場にしてスライディングをすることでしか入れない隠し通路も存在する。この度第五次計画以来の復活。次の第六次計画には、二連装砲となり、盾を構えている間も山なりの弾道で砲撃可能となった改良型『ターテーボ』が投入されていた。

*8
一定エリア内をプロペラで浮遊しながらレーダーで監視を行うAI搭載小型警備ドローンで、第二次計画に投入された同様の動きをする小型ロボット『テリー』はライバル企業の競合商品にあたる。しかし、浮遊形式が旧態依然のプロペラ式で、それによる騒音と、プロペラが壁などに接触して落下、故障する事故の多発が問題視されたため、テリー同様の反重力装置を搭載した後継タイプ『プカペリー』が開発された(こちらも第五次計画の際に戦力投入されている)。だがコストはリリックの方が圧倒的に低いため、ワイリーが大量購入してロックマンへの攻撃用に転用している。この度第五次計画以来の復活。

*9
かつて第六次計画に投入された、プロペラ動力によって浮遊し、炸裂弾を一定間隔で発射する自動砲台。炸裂弾が相当な重量のため、弾は重力に従って徐々に落下していく。第十二次計画で投入されるのは後継機種の『キャノペラⅡ』であり、炸裂弾の軽量化によって弾がまっすぐ飛ぶようになったが、それがかえって攻略を容易にしたのでは?という意見もある。

*10
上記の『リリック』の際に触れた『プカペリー』、その更なる後継機種。かつて第六次計画の際に投入された。空中での安定性を追求するため、あえてプロペラ式浮遊に立ち返り、本体の耐久性能に対するアプローチとして、外装を強化した上でカメラ機能をその内部に収納する、という大胆な設計転換を行った。空中に静止後、外殻を展開してカメラを起動して侵入者の場所を確認、一定距離を移動してもう一度外殻を閉じて静止―――――という動作を繰り返しながら侵入者を追い詰める。その性質から『空中型タテパッカン』とも言える存在。第十二次計画に投入されるのは強化型の『プロペラアイ・タフ』で、外装の強度をさらに増しているが、内装の強度はそのままとなっている。

*11
型式番号:DWN.083。B.B-BOMBカンパニー製の爆発演出用ロボット。当初はライト製のボンバーマン同様、爆弾を用いた土地開拓作業に従事していたが、ある時『爆発』を芸術分野に活かせないだろうかと思い立ち、映像制作会社に転職して映像効果や演出を学び、現在は独立してフリーの演出家となった。『バクハツアーティスト』を自称し、映画やテレビ・ネットの特撮番組やバラエティ番組、テーマパークなどの爆発効果を専門に請け負い、ド派手な大爆発からセンチメンタルな小爆発まで、ありとあらゆる『爆発』を手掛け、一定の評価を得ている。爆発業界専門誌「月刊・発破時代」で人気コラム「やっぱ発破!」を爆裂連載中。溢れんばかりの爆発への情熱を紙面に爆発させている。ボンバーマンとは先輩・後輩の間柄を経て現在は親友兼ライバルとなり、ボンバーマンは土地開拓で、ブラストマンは芸術分野で、『それぞれの"爆発道"を極める』と誓い合い、互いにそれぞれの現場で己の腕を磨いている。なおボンバーマンも先述の「月刊・発破時代」に連載を持っており、ドリルマンも愛読しているとか。特殊武器の『チェインブラスト』は外殻部に連携センサーを搭載した爆弾であり、センサーによって複数個のチェインブラストをリンク、同時起爆させることで、威力の増減を制御することが可能。ワイリーに制御チップとパワーギアを取り付けられ、その爆発欲を膨れ上がらせ、爆発物満載の危険なアミューズメントパークをプロデュースした。

*12
ファイアーサーバーを倒すと、背負っていたビア樽が点火、ロックマン目掛けて放物線を描いてスッ飛んできて爆発する。当然当たり判定がありダメージを食らうほか、他の敵を巻き込んだり、ステージ内の爆発物に誘爆することもある。要注意。



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最終防衛編

 もう何度目かの『死』が俺の眼前にちらついた。

 まさか引火したビア樽が俺に落ちてこようとは……後輩よ、とんでもない置き土産を残してくれたモンだ……俺まで冥府へ道連れするつもりだったのか。

 『独りぼっちは、寂しいもんな……』って、某魔法少女じゃあるまいし。すまんがお前には寄り添えん。

 ……だが、お前のことは絶対に忘れん。お前の……そして、俺達の後ろにいたアーマーに乗った同型機(おとうと)の分まで俺は生きてやる。

 生憎……俺は死ねない。

 死ねないんだ。

 俺が死んだら、誰がジジィの面倒を見るんだよ。

 

 ―――――それと。

 

 ―――――今回ばかりは一度で諦めてやらねぇ。

 ジジィの青春のリベンジ―――――信念を持った喧嘩を、そう簡単に捨ててたまるかってんだ。

 そう―――――俺は筋金入りのお節介焼きなんでな。

 

 命からがら、俺は『実家』こと歯車城にたどりつき、真っ先に報告せねばならんことをジジィに伝えた。

 

 「何じゃと!?ロックマンがダブルギアシステムを使っておったじゃと!?」

 

 当然ジジィは驚愕した。

 

 「どーゆーわけだか、な。お陰でワケワカランまま死にそうな目に遭った」

 

 正直俺も驚いた。しかも、ジジィが2つしか造れてないはずの、パワー・スピードの両方が使える『完成型』だった。まさかと思って、俺は『実家』に帰って来るなりすぐさまジジィの研究室に行ったんだが、予備の『完成型』はそのまま保管されていた。つまりじーさんが盗んだわけではないらしい。もっとも、品行方正・公明正大を絵に描いたようなあのじーさんのコトだから、そんな姑息なマネなんてそもそもしねぇだろうけどさ。

 

 「しかしどういうことじゃ……この世に存在するシステムはワシが造った12個だけ……『13個目』など存在するハズが……………………はッ!」

 

 何かを思い出したのか、ジジィはカッと瞠目、そして上体を仰け反らせて哄笑した。

 

 「…………そうか……ククク、そういうコトじゃったか!フハハハハハ!ライトも浅ましいコトをする!!笑いが止まらんわ!!!」

 「あったんだな、心当たりが」

 「そうじゃよ、思い出したわい!ロックマンが使っておるシステムは『13個目』などではない!いわば……『0個目』ッ!!」

 「0……試作型ってことか!?なんでそんなモンをじーさんが……!?」

 「ワシが大学の卒業制作として最初に造った、システムの試作型じゃ!別れ際にワシが捨てていったソイツをライトは後生大事に持っておって、ロックマンに組み込みおったのじゃ!!」

 「先手を打たれたのか……今回の喧嘩でジジィがダブルギアを使ってくることを見越してたってのかよ……」

 「いや、単純な話じゃよ。ワシが"例の8体"をかっぱらって来る時に、UFOにダブルギアシステムを組み込んでおいて、ライトの目の前でスピードギアを発動したからの。一目見ただけでダブルギアシステムと見抜くとは……目には目を、ダブルギアにはダブルギアを、ということか……フフ、流石はライトじゃ。それでこそワシの越えるべき壁、終生のライバルよ!!」

 「青パン小僧、細かい見た目も変わってたし、チャージショットやスライディングも完璧修理したみてぇだし……その上ダブルギアまで積んだとなると……過去最強スペックなんじゃねぇか、今回のタイツマンは……」

 「フン、上等じゃぁッ!!」

 

 机をバン!!と叩き、ジジィは立ち上がった。

 清々しく嬉しそうな顔をしていた。

 

 「ジジィ……!?」

 「これで条件が対等になったというものよ!そもそもダブルギアはワシの発明!ライトがワシのダブルギアを認め、ワシの発明と知りながらロックマンに積んだのならばソレもまた一興じゃッ!!ダブルギアを積んだワシのロボットとダブルギアを積んだロックマン!どちらが勝とうとワシのダブルギアの有用性が証明される!どちらが勝とうとワシのダブルギアの勝ちとなるのじゃッ!!まったくハラが捩れるわ!!面白いと思わんか!?なぁお前さん!?」

 「……お、おぅ……」

 

 久々にジジィの『マッドサイエンティスト』の側面を見た気がした。ちょいと喩えがアレだが、まるで冥王計画を遂行する木原マ○キだな。

 

 「フフフ……それならば歓迎の準備は早めにせねばならんのう……!歯車城の警戒フェイズをフェイズ3に移行、いつでもロックマンを潰せるように準備せぃ!!……それとお前さん、『例の選抜』は?」

 「……ああ。ブラストマンやアシッドマン*1の基地の生き残りの同型機(兄弟)たちの中から、腕利きを選んどいたぜ」

 「ならばそやつらを今すぐここへ連れてくるのじゃッ!……ロックマンの驚く顔が目に浮かぶわい!ダ~ッハッハッハッハッハッ!!!」

 

 ……たぶん、パンツマンだけじゃなく、コレを読んでるディスプレイの前の読者(アンタ)も驚くだろうな。今回のサブタイトル……『最終防衛編』に相応しい、この俺―――――

 

 『ジョー』の集大成ってヤツを、見せてやる。

 

 

 ――――――――――

 

 

 暗闇に、真紅の光が一つ。

 

 「……お前たち―――――よく聞いてくれ」

 

 11の輝きが、俺の眼前に灯る。

 

 「パンツマン……もといロックマンが、この『実家』……歯車城に侵入して暴れ回ってるのは知っての通りだが……ついさっき、第一防衛ライン……イエローデビルmk-Ⅲが突破されたという報告があった」

 

 暗闇の中、ざわめきが響く。

 

 「想定よりも速い侵攻だ……この第二エリアの突破も時間の問題だろう」

 「でもそんなことは!」

 「おうともよ!オレ達がいる限り!!」

 「……そうだ。この場にお前たちが集められた意味はただひとつ―――――!」

 

 カッ!と、屋内の照明が灯った。

 

 

すべては、ロックマンを倒すために!!!

 

 

今に見ていろロックマン!おれのマシンガンが火を噴くぜ!!

『帰ってきたマシンガンジョー』!!

 

赤いボディは復讐の証!仲間の借りはまとめて返す!!

『マシンガンジョー』!!

 

見た目は古いが最新鋭!甘く見ないでくださいね!!

『ジョー・クラシック』!!

 

オレのヒーローフェイスに……お前も見とれな……!

『スナイパージョー01』!!

 

てゃんでぃ!トラック野郎の男意地、見せてやるぜぃ!!

『トラックジョー』!!

 

城内シューティングランキング1位は伊達じゃないぜ!!

『キャノンジョー』!!

 

本当の空戦を……空の恐ろしさを見せてやる!!

『アパッチジョー』!!

 

純白のボディは水晶の輝き……!

女の子だからってナメないでよねっ♪

『クリスタルジョー』!!

 

我コソ……死ヘトイザナウ死神!!

『スケルトンジョー』!!

 

オラのハンマー捌きは世界一!一発喰らえば昇天すんべ!

『ハンマージョー』!!

 

徹底改造したこのアーマー……旧式だからって甘く見るなよ!!

『帰ってきたスナイパージョー』!!

 

……俺の名は―――――!

『スナイパージョー』!!

 

 

 

ジ ョ ー レ ン ジ ャ ー

 

ティウンティウンティウンティウン

(爆発音)

 

 

 これぞ、俺の魂の遍歴にして、対パンツ小僧特殊部隊!!

 ジジィが修理・保管していた、今まで俺が使ってきた歴代ジョーのボディに、生き残りのジョーたちの電子頭脳を移植した『ジョー・オールスターズ』!!

 ……と言いたいんだが。

 

 「……ひとり足りないな」

 「仕方ないですよ……『ライダージョー』は水上仕様ですから……」

 「同期として、ライダージョーの分までボクが戦う……!見ていてくれ、ライダージョー部隊のみんな……!!」

 

 固く拳を握り締め、"アパッチ"が天を仰ぐ。

 

 「最後に言っておく……『死ぬな』……ってのは、さすがに無理強いになるよな……命懸けて喧嘩やってんだ……だからよ―――――」

 

 俺は、俺の後輩達に静かに、そしてささやかなる願いを込めて告げた。

 

 「……『犬死に』だけはすんじゃねえ!いいな!?」

 「「「「「了解ッッ!!!」」」」」

 「よぅし行くぞお前ら!!この部屋が突破されれば後はモンバーンとボスラッシュ、それからジジィ……もとい博士だけだ!絶対に死守するぞ!!」

 「「「「「押ォォォォォッ忍ッッ!!!!」」」」」

 

 脂ぎった野太い気合いが響きわたる。持ち場に着く面々の中、"クリスタル"が俺の前で足を止める。

 

 「センパイ、いっしょに頑張りましょうね♪」

 「お、おう……」

 

 まさかまさかの女の子である。ジジィのヤツ、カリンカたんの一件で何かを思ったのだろーか。本当に女性型電子頭脳のジョーを造ってたとはな……

 もっとも顔はモノアイなんだが。しかも他の連中が割と濃い。可憐な花も雑草に埋もれりゃ目立たんもんだなぁ……

 

 「ロックマン、来ます!」

 

 "クラシック"の叫びが室内にこだまし、空気が冷却されたように、静謐に押し黙る。最奥に立つ俺にも、最前線にいる連中の緊張が伝わってくるようだ。

 そして、ついに"蒼いアイツ"は上部の入り口からこの部屋へと降り立つ。それを確認した俺は(さけ)んだ。

 

 「一斉射ァッ!!()ェェェッッッ!!!!」

 

 マシンガンが、エネルギー弾が、クリスタル弾が、骨ブーメランが、ハンマーが―――――

 少年型ロボットへと殺到する。

 ガンスモークで塞がれる視界。その煙幕を、青白い閃光が四方八方に切り裂き、迸る。

 

 ―――――一瞬。

 

 俺には、青白い光のラインが走ったようにしか見えなかった。閃光が消えた時には、既に"クラシック"と"01"の頭に風穴が空けられていた。

 ジジィめ、何がロックマンの驚く顔が目に浮かぶ、だ!淡々と殺しに来てるじゃねぇかッ!?

 

 「どぉっせぇぇぇぁぁぁあ!!!!」

 

 不意を突き、"ハンマー"が至近距離で鋼鉄の塊を投げ放つ。だがヤツは、今度は赤い閃光を放った。数百(キロ)あろうかというバスケットボール大の特大鉄球を片手で受け止めたヤツは、眼前に迫っていた"ハンマー"の顔面に、その鉄球をダンクシュートのように叩きつけた。エアーマンタイプのボディの胸部から上がスクラップめいて砕かれた"ハンマー"―――――否、先程まで『ハンマージョー"だった"鉄塊』はぐしゃりと潰れた。

 

 「おのれぇぇぇぇぇ!!!!」

 「止まれーーーーぇぇぇッ!!」

 

 "マシンガン"と"帰ってきたマシンガン"が、怒りの咆哮を上げて乱射する。

 

アシッドバリア

                 *2

 

 ヤツのボディカラーが緑と紫のツートンに変わり、さらには頭部パーツとバスターの形状まで変化した。緑色の見るからに不健康そうな液体が球状になってヤツを覆い、マシンガンバスターのエネルギー弾を蒸発させる。

 さらにはその液体をヤツはバスターからバラ撒いた。"マシンガン"と"帰ってきたマシンガン"はとっさにシールドを構えるが―――――

 

 「う、うわぁぁ!?」

 「盾が!!盾が溶けるぅぅぅ!!??」

 

 2体の同型機(兄弟)は思わず、無惨に溶け落ちたシールドを投げ捨てた、その瞬間―――――

 

スクランブルサンダー

                 *3

 

 地を這う雷撃が2体を捉え、スパークして炸裂する。一瞬で、2体は物言わぬ金属塊と化した。

 

 「これ以上は……させない!」

 

 両の掌をヤツに向け、"クリスタル"がエネルギーをチャージし、クリスタル弾を放つ。しかしヤツはジャンプでかわすと、空中から―――――

 

ブロックドロッパー

                 *4

 

 無数のキューブ状の岩塊が、"クリスタル"に降り注いだ―――――

 

 「そんな!?きゃぁぁぁーーーっ!?」

 

 痛々しい少女の悲鳴が一際響き、"クリスタル"の姿は岩塊の下に消えた。

 

 「く……バケモノめぇ!!"アパッチ"!どうにか攪乱してくれ!おれがあのキレイな顔をフッ飛ばしてやるぜ!!」

 「了解!ボクが一番、このアパッチを上手く使えるジョーなんだ!!」

 

 空中から"アパッチ"が不規則な軌道で飛行しながら、ヤツに向けてエネルギー弾を連射する。ヤツが気を取られる中、"キャノン"が的確にヤツを捉える。

 ―――――だが。

 

バウンスボール

                    *5

 

 ピンク色の無数の球形弾が放たれ、壁や天井で跳ね返り、縦横無尽に暴れ回る―――――!

 

 「な、なんだこの弾幕はァッ!?」

 「撃ち落としきれない!メ、メーデー!メー―――――」

 

 爆発音とともに、ピンク色の煙幕の向こうに"アパッチ"と"キャノン"は消えた。

 

 「よくも……よくもオレのダチを()ってくれたなぁぁぁ!!!」

 「"トラック"!同時に仕掛けるぞ!!幾らロックマンとて、大型メカ二機分の質量は容易に捌けまい!!」

 「おうさ!!」

 

 "トラック"がフルアクセルで突貫し、"帰ってきたスナイパー"の旧式スナイパーアーマーが、ガシーン!ガシーン!と、連続ジャンプでヤツに迫る。挟撃の形だ。

 ヤツはちらりと両者を睨むと、蒼い輝きを全身から放った。

 

 ―――――――――――――――!!!

 

 気が付くと、ヤツは旧式スナイパーアーマーの『背後』にいた。

 そしてアーマー全体に、ボール型の爆弾が無数に貼り付いていて―――――

 

 「…………………………え…………―――――」

 

 

 

チェインブラスト

                  *6

 

 爆炎がアーマーを包み、火柱を上げた。

 

 「て…………てめぇぇ!!ブッ壊す!!!絶対ブッ壊ァァァす!!!!」

 

 激昂した"トラック"が、モノアイを激しく点滅させる。その怒りに呼応するかのように、エンジンから獣のような唸りを上げる彼の愛車。それをヤツは一瞥すると、赤いボディに更に灼熱真紅を纏った。

 

ブレイジングトーチ

                   *7

 

 バスターから撃ち上げられた3発の火炎弾が、運転席の"トラック"目掛け、急降下して殺到する。

 

 「ひ、火が!!い、ひ、いぎゃゃぁあァァァーーーー!!!」

 

 運転手諸共に大破炎上する殺人トラック。その最期を見届け、くるりとヤツは振り返る。

 

 「――――――――――()ッタゾ、ロックマン」

 

 ―――――気配が消えていた。

 人間の骨格標本を思わせるその姿はまさしく『死神』に相応しい。

 ヤツの背後から、"スケルトン"はヤツの(クビ)へと骨型ブーメランナイフを突きつけていた。

 

 「動クナ……動ケバ頸動脈(メインケーブル)ヲ斬ル」

 「………………どいてくれ」

 「冥府ヘノ旅路ヲ選ブカ、愚k」

 「ごめんよ」

 

ツンドラストーム

                      *8

 

 突如、ヤツを中心に冷気の渦が巻き起こり、たちまちの裡に"スケルトン"は凍結し、砕け散った―――――

 

 ―――――わずか数分だった。

 

 俺の"魂の遍歴"を文字通り継承した、歴代ジョー軍団―――――『量産戦隊ジョーレンジャー』は、呆気なく壊滅に追いやられたのである。

 

 「…………マジ、かよ………………」

 

 戦慄する俺を視界に入れたヤツは尚も迫り来る。この場を(まか)り通らんと。俺の後にいる連中を残らず(りく)して、正義を示さんと。

 

 「……だがよ……!」

 

 俺には責任があるんだ。

 ヤツを通さないという責任が。

 そして―――――

 11人もの弟妹(かぞく)を見殺しにした責任が。

 それらすべてを(あがな)うにはさ―――――

 

 「お前を…………、ここから先には……、進ませねぇしか―――――!」

 

 有効射程(レンジ)に入ったヤツに、俺はバスターの銃口を向けた。

 

 「ねぇんだぁぁあぁぁあッッッ!!!!」

 「……僕にも……止まれない理由がある!!」

 

 今までに見たこともない、右半身が橙、左半身が黄、タイツ部分が黒の三色へとヤツのカラーが変わり、バスターから尖った金属杭が突き出るのが見えた。

 そして、その言葉通りに―――――

 ヤツは止まらず―――――

 

パイルドライブ

                     *9

 

 足裏のエアジェットを使い、水平突貫―――――

 盾でいなせるか―――――否、あの勢いを殺し切れるとは思えん……!

 ならば男らしく―――――

 真正面から撃ち落として―――――

 

 「センパイっっ!!」

 

 不意に、俺は何かに突き飛ばされた。

 驚き振り返ると―――――

 

 "クリスタル"の背後から金属杭が突き刺さり、貫通した杭が胸部の中心から突き出ていた―――――……

 

 「……センパイ……無事で…………よかっ…………――――――――――」

 

 その言葉は爆発に遮られ、最後まで聞こえなかった。

 

 「う…………う、ぅ…………」

 

 背筋を、恐怖を通り越した"ナニカ"が這い登り、灼けるように全身を染める。

 

 「うう゛ううぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!!!」

 

 その感情に任せ、俺は蒼い少年型ロボットにバスターの銃口を向けていた。

 

 「何が正義だ!何が世界平和だ!!何が!!!何、が………………ッ……」

 

 ヤツは俺を撃つことはせず、俺の横を素通りし、進路である上の足場へと渡った。

 

 「…………僕は……負けられないんだ」

 「……ンだと……!?」

 

 ヤツは振り返らずに答えた。

 

 「僕が無事に帰ることを……待ってるみんながいるから」

 「……!ッざけん―――――」

 「ワイリーを止められるのは……僕しかいないんだ……!」

 

 それだけ残して、ヤツは隔壁の向こうへと消えていった。

 

 「……………………………………」

 

 体から力が抜け、俺は両膝をつき、ひざまずいた。

 

 ―――――結局……所詮……ヤツは正義の味方で、俺は悪の手先で―――――

 ()()()()()()()の理由で、俺は殺されそうになり、結局見逃された。何を思ってヤツがそうしたかなんて、俺にはもうどうでもいい。ただ、これだけはわかった。

 

 ―――――『屈辱』だ。

 

 どう足掻いても勝てない、ワンオフの戦闘用ロボットとの性能差の前に、俺達量産型ロボットは蹂躙される以外にないんだ―――――

 

 「でも…………それでも………………」

 

 俺は、今までの、そしてさっきのヤツを見て、気付いてしまったことがある。

 ヤツに、ひいてはヤツを造ったライトのじーさんに―――――

 

 『欠けているモノ』があることを―――――

 

 そして、それをヤツにわからせるためにはただひとつしか方法がないことを―――――

 

 

 俺は―――――

 ヤツを―――――

 

ロ ッ ク マ ン を 倒 さ ね ば な ら な い

 

 

 だが……どうすればいい…………

 今の俺ではロックマンはどう足掻いても倒せん……

 まして、12人がかりでもゴミの如く蹴散らされたのを身をもって知った今では、それを強く実感する……

 俺に……力が……

 

 ……力が、あれば…………!!

 

 

 

 「わん!

 

 

 

 反射的に、俺はその鳴き声に振り返った。

 

 「………………ゴッスィー……………………?」

 

 確かにその姿はゴッスィーだった。

 だが、ゴッスィーの『主人』たるバカ一―――――フォルテの姿はそこには無かった。

 

 「どうしたんだ……バカ一はどうした……?」

 「わんわん!

 

 ゴッスィーは俺の問いには答えず、まるで俺を導くように歩き出した。

 

 「お、おい……どこに行くんだよ?ゴッスィー!?」

 

 わからないことだらけの中、俺はゴッスィーについていくしかなかった。

 

 ――――――――――

 

 「ここは……」

 

 ゴッスィーが足を止めたのは、ジジィの研究室の前だった。ゴッスィーに促され、俺はドアの開閉スイッチを押した。

 両開きのドアの先、デスクの上に置いてある『それ』が目に入った瞬間。

 

 「ばう!

 

 『それだ』と言わんばかりに、ゴッスィーは吠えた。

 

 「『コイツ』を……俺が……?」

 「わん!

 

 頷くゴッスィー。

 ……気持ちはわかるさ。でも―――――

 俺はしゃがんで、ゴッスィーの頭を撫でてやりながら。

 

 「ありがとな……お前、ホンットいいヤツだよ……今の俺に何が必要なのか、わかってくれてるんだもんなぁ……」

 「わうん♪

 「……でもさ、俺に『コイツ』は使えないんだよ。俺は―――――()()()()()()()()から。お前みたいな、唯一無二(ワンオフ)じゃないんだ。幾ら壊れても替えが利く、単なる量産型(マスプロ)だから……俺がどれだけ、ノドから手が出るほど欲しがったところで……『コイツ』は俺を受け入れてくれないんだよ……俺と『コイツ』が、"そういう風に"出来てる以上はさ……」

 「……ばう!!わんわんわん!!がるるるるるる!!

 

 ゴッスィーは納得してくれない。ゴッスィーはデスクの上の『コイツ』を咥えると、俺の足元へと運んできた。

 

 「ゴッスィー…………」

 

 "(たたか)え"―――――

 

 そう、お前は言うのか。

 

 ちょうど、大きな振動が『実家』を揺らした。どうやらモンバーンが撃破されたらしい。

 もはや―――――猶予はない。

 

 そして―――――『見込み』もない。

 

 あとはまさしく、『理屈』もない―――――

 

 ハッ、ないない尽くしじゃねぇか―――――

 

 「はぁーー……………………」

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………でも。

 

 

 

 

 

 

 「ここで諦められるほど……往生際は良くねぇよな……!」

 

 仮にも俺とて"ジジィの息子"、しぶとさと懲りなさはきっちりと受け継いでる。それは俺の中に―――――

 

 「あるんだよ……『心』ってヤツが―――――!」

 

 『心』があるから悔しくて、『心』があるから勝ちたいと願って―――――『心』があるから―――――

 

 まだ、『諦めたくない』って、そう思える―――――

 

 "使えない"?それがどうした。それは単なる、理屈に過ぎねぇ!

 

 『理屈』なんざ―――――

 

 『心』で蹴ッ倒してやる……!!!

 

 俺は決意の下―――――『コイツ』を手に取った。

 

 

 まだ―――――終わらない。終われない。

 

 

 教えてやるよ―――――ロックマン。

 

 

 

 お前に『欠けているモノ』が、『何』なのかを。

 

 

 お前をブッ倒して、刻み込んでやる―――――

 

 

 お前が知らない、『唯一の感情』ってヤツを―――――!

*1
型式番号:DWN.084。マチャチューチェッチュ工科大学製の化学薬品調合生成用ロボット。化学薬品調合という繊細な仕事をこなすため、細かいことを気にするように電子頭脳が調整され、几帳面な性格となっている。また、薬液を直接サンプリングして確認するため、薬液プール内での活動も念頭に置いて設計されており、薬品で溶解しないように特殊コーティングを施したボディと、水中用ロボットと同様のスクリュー機構や耐圧装備を持っている。施設や薬品成分のチェックのためによく薬液プールに飛び込み、プラント内を泳ぎ回るその姿から『薬液プールの半魚人』の異名を持つ。特殊武器『アシッドバリア』はワイリーの改造の際に組み込んだシステムであり、第二次計画の際に開発した『バブルマン』の特殊武器『バブルリード』のシステムの応用型。電磁界を発生させ、球状に固着した劇薬液を身に纏い、攻防一体の手段とするものである。ワイリーに制御チップとスピードギアを取り付けられ、常軌を逸したマッドサイエンティストに変貌、薬品工場を占拠して無秩序に毒劇物を生産する危険な存在となった。

*2
アシッドマンの特殊武器。電磁界を制御することで、強酸性の劇薬を全身に纏う。展開中はバスターから劇薬の発射も可能。バブルリードと同様の原理を使用しているが、それよりも酸性度が高くロックマンの装甲が耐えられないためリミッターが設けられ、時間経過で自動消滅するようになっている。パワーギア発動中に展開すると、出力強化によってより強力な劇薬の展開が可能となり、小型ロボット程度であれば容易に溶解してしまう威力となる。

*3
ヒューズマンの特殊武器。高電圧の球状電撃弾を発射、電撃弾は地面の鉄分を導線として地を這うように移動する。パワーギア発動中は電圧がさらに強化され、ロボットをはじめとする精密機械には絶大な威力を発揮する。

*4
ブロックマンの特殊武器。空気に触れると一瞬で凝固する超速乾コンクリートを特殊な直方体状磁場に包んで発射、空中で磁場を解除することでブロック状に固着、前方へ投下する。パワーギア発動中はコンクリートの発射量と磁場の生成数が増加、さらに多くのブロックを作成可能となる。

*5
ラバーマンの特殊武器。ラバーマンの開発元であるゴーゴーゴムが開発した、センサーによって伸縮性や硬度を変化させることが可能な特殊ゴムを使用した砲弾。ロックマンの敵味方識別センサーと連動し、敵と認識した相手には硬度を最大化して破壊力を持ち、壁や天井には破壊力を落としてゴムマリさながらに跳ねまわる特性を持つ。標的に何度も命中するため破壊力が高い。

*6
ブラストマンの特殊武器。外殻部に連携センサーを搭載した爆弾。一定距離内にあるチェインブラストを探知して相互リンクを行い、1個のチェインブラストの起爆と同時にリンクされたチェインブラストが同時に一斉起爆する。そして、リンクしたチェインブラストが多ければ多いほど、その破壊力を増幅する。パワーギア発動によって、より高威力の大型チェインブラストを使用することが可能となる。

*7
トーチマンの特殊武器。可燃性ガスと燃焼機関、遅燃性ジェットを搭載した対地特殊弾頭弾。空中に射出後点火、弾頭自体が炎を纏い、内蔵された遅燃性ジェットが点火し、地面へと急降下していく。特殊な軌道故、使用者の前方、かつ低所にしか攻撃ができない。パワーギア発動中は一度に3発の同時発射が可能。

*8
ツンドラマンの特殊武器。スカルマンの『スカルバリア』のノウハウを基にコサックが開発した。冷気を放つ、目に見えないサイズの超小型ビットを複数射出、次いでバスターから猛烈な気流を放つことで、気圧差と寒暖差を利用し、自身の周囲に絶対零度の強力な冷気の嵐を発生させる。パワーギア発動中は出力が上昇、大量のビットを放ってさらに広範囲にブリザードを発生させ、あらゆるものを凍結させる。

*9
パイルマンの特殊武器。特殊金属製の杭をバスターから射出、足裏からのエアブースターを用いて突撃する。杭を標的に突き刺した後、バスター内のエネルギーを撃発させることで杭から衝撃波を標的に伝播させ、標的を内部から『撃ち貫く』。パワーギアとの併用でエアブースターと撃発エネルギーの出力を向上、突撃速度と衝撃波の威力の向上により、重装甲の敵にも有効な手段となる。余談だが、この武器を装備した際のロックマンは史上初めて、『橙・黄・黒』という『三色』に彩られた姿となる。



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超絶編

 「観念しろ、ワイリー!」

 

 ―――――カツン、カツン

 

 「む、むぐぬぬぬぬ…。こうなれば…奥の手じゃあああッ!」

 

 ―――――カツン、カツン

 

 「み、見逃してくれえええ!こ、この通りじゃ!たのむ!ロックマン!」

 

 ―――――カツン、カツン

 

 「そんなことしたって、だまされないぞ!もう何度目だと思ってるんだ!?」

 「………くそッ!いい気になるなよ!今回はお前に負けたんじゃないわい!ワシの作った、ダブルギアシステムに負けたのじゃ!つまりこの勝負はワシの勝ち!だ~っはっはっはっはっは!!さすがワシ!ワシ天才!」

 

 ―――――カツン……。

 

 「やれやれ…。まったく懲りてない様子だな」

 「その声は……ラ、ライト!何しに来た!?」

 「なぁ、ワイリー……お前の前に立つロックマンを見て、何か感じないか?」

 「…………!」

 

 ―――――カツン、カツン、カツン。

 

 「ふ、ふん!憎ッたらしさ以外、何も感じんわい!」

 「『正しい心』を持ち、『限界を超える力』を操る…あの頃、私たちがそれぞれ目指した理想の『歯車』が、かみ合った姿…それが、『今のロックマン』ではないだろうか?」

 

 

 

 

 

 「本当に…………そう思ってるのか…………じーさん」

 

 

 

 

 俺が『そこ』に来た時には、既にすべてが終わった後らしき状況だった。

 歯車を象ったジジィの最終兵器は無惨なスクラップと化して墜落し、そこにはロックマンに追い詰められたジジィ、そして何故か、ライトのじーさんもいた。

 ―――――ちょうどいいか。

 

 「お前さん!?どうしてここに!?それにその姿は……」

 

 俺は今、ジジィの白衣を拝借して羽織っていた。

 

 「後で洗濯して返すさ……、久し振り、じーさん……5度目の時以来だな」

 「その声……まさか、きみはあの時の……!」

 「また会えて嬉しいよ。……でも……」

 

 俺はじーさんを―――――

 睨んでいた。

 

 「……見損なったよ。あの時……俺はあんたと話して、あんたなら、ジジィの気持ちを受け止めてくれると思った―――――でも……それは俺の買いかぶりだったみたいだ……気付いちまったのさ、あんたに……そして、あんたの『息子』のロックマンに決定的に欠けているモノにな」

 

 はっきりと、俺は確信した。

 

 だから―――――突きつける。

 

 

 

 あんたとロックマンは―――――『負け』を知らないんだ

 

 

 

 「『負け』を―――――挫折ってのを、じーさんはしたことがないんだろ。負けて、挫折して、そこから何かを学んで、なにくそって思って、一生懸命這い上がる……そいつはヒトとして必ず経験するものだ……でも、あんたにはそれが無かった……順風満帆すぎたんだ、あんたの人生は。努力はしたんだろうけど、その結果が裏目に出るってことが、今までのあんたには無かったんだ……!トップを走り続けた故に……あんたは負けたヤツの悔しさが……二位に甘んじたヤツが、どんなに惨めな思いをするのかがわからねぇんだ!あんたは知らず知らずの内に、心の中に『欠陥』を抱えちまったんだ……!」

 「欠陥って……博士はそんな……!」

 「お前もだよ……ロックマン」

 「……え……」

 「負けを知らないお前は……いや、"負けちゃいない"お前も、じーさんと同じだ……いや、もっと最悪かもな……『勝ちすぎた』んだ、お前は。だから、負けたヤツの気持ちも分からずに、やれ正義のためだ平和のためだ……その正義や平和が、どれだけのロボットたちの犠牲の上に成り立っているのか……お前のために、どれだけのロボットが『負けた』のか……どんなに悔しい思いをしてたのか―――――考えたこともないだろ?えぇ?正義のスーパーロボットさんよ……?」

 「……………………………………」

 

 うつむき気味だったヤツは、ゆっくりと俺に視線を向けてきた。

 

 「僕は……平和を乱すロボットを放っておくことはできない……それに、負けられない……僕が負けたら―――――」

 

 

 

 

 世界は誰が守るんだ

 

 

 

 

 俺には―――――

 俺を見るロックマンの目が―――――

 

 『心』があるような、『それ』には見えなかった。

 

 「そのためにお前は……どれだけの『心』を蔑ろにした……?どれだけの『想い』を踏みにじった……?悪の手先だから壊すのか?平和を乱すヤツの部下だから殺すのか!?……『正義』や『世界平和』って大義名分掲げてりゃ、考え無しに邪魔なロボット壊していいのか!?」

 「それはっ……!」

 「だからお前に、教えてやる―――――じーさんにも、見せてやる―――――」

 

 

『蔑ろ』にされたヤツらの『無念』を!!

 

『省みられなかった』ヤツらの『悲しみ』を!!

 

お前に―――――

『ロックマン』という世界で唯一の『絶対勝者』に!

初めての『敗北』を刻み込むことでなァッ!!!

 

 俺は羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた。瞠目したジジィとじーさんが同時に叫ぶ。

 

 

 「「ダブルギアシステム……!」」

 

 

 俺はジジィの研究室にあった予備のダブルギアシステムを持ち出して、俺自身のボディに組み込んだ。

 ロックマンと正面きって戦うには、これがどうしても必要だって―――――

 そう、ゴッスィーが言ってたから。

 

 「何故じゃ……!?それ以前に、お前さんに機械の心得は無かったはず……!?」

 「……寺の小坊主はさ、坊さんと暮らしてる内に、習ってもねぇのに経が詠めるようになるらしいぜ。たぶんそれと同じさ。今まで何回、ジジィの作業を手伝ったと思ってる?電気屋に再就職できるくらいのスキルは身につけさせてもらったぜ」*1

 

 胸板のド真ん中に、ウルト○マンのカラー○イマーよろしく取り付けたダブルギアシステム……やっぱり不恰好で、情けねぇな。弱点丸出しだ。

 

 「駄目じゃ!やめるんじゃ!前にも言ったがお前さんにそれは扱えん!量産型ロボットのお前さんに、まして付け焼き刃のダブルギアは―――――!!」

 「そういう『理屈』は……俺の『心』で蹴ッ倒してやるッ!!行くぜ!!」

 

 

ダブルギアシステム、起動ッ!!

 

 

 

 

 

 

 「グ!!ぁぁぁぁああああ!!!!!!」

 

 俺の全身を、得体の知れない不快なモノが這いずり回る感覚が奔った。赤と青のスパークが噴き出ると同時に、恐ろしいほどの脱力感が襲い、立っていられなくなった。

 

 「だから言ったじゃろうに!!お前さんに……ジョーのボディにダブルギアシステムが適合しておらんのじゃ!!」

 

 ジジィの苦言が刺さる。俺の全身にのし掛かる『理屈』が、ジジィの危惧を実感させる。

 いくら……いくら『心』でそれを望んだところで、届かない―――――それがこの世界の『理屈』だっていうのかよ……!

 

 「……きみは……どうしてそこまで……」

 

 ロックマンの言葉が落ちてくる。それが、俺の『心』に油を注いだ。

 

 「……だからだよ……」

 「……え……?」

 「"そう"、だからだよ……!」

 

 もう一度火が点いた、からか、立ち上がれるほどには全身に力が戻ってきた。

 

 「お前が、俺の気持ちを解らないこと自体が……俺が戦わなきゃいけない理由なんだよ……!」

 「……!?」

 「俺はなロックマン……最初お前に負けた時はそんなに悔しくなかったさ……でもな……ジジィと一緒に暮らして、同型機(兄弟)同僚(仲間)たちが俺を頼ってくれるようになって……24時間365日、お前をブッ倒すコトしか考えてねえバカな"弟"もできて……『そういう連中』と付き合ってる内に……俺も、『そういう連中』のひとりとして、そいつらのために何かしてやりてえって……負け続けてるヤツを、一度は勝たせてやりてえって……ずっと『二位』に甘んじて、悔しい思いをしてるヤツを、『一位』にのしあげてやりてえって……『てっぺん』で笑わせてやりてえって……そう思うようになったんだ……()()()()()()、なったんだ……!だから……お前に負けるのが、この上なく悔しくなった!!」

 

 俺は、心の中に『欠落』を抱えた―――――

 『世界最強の欠陥機』に言った。

 

 「この想いを……この『心』を、お前が理解できないのなら……たかがバスター5、6発でブッ壊せると高を括ってるんだったら……!俺は……お前を絶対に許すことは出来ねえ!!俺の居場所を……俺の誇りを……俺は守る……!俺の大事なモノを……!俺が『心』から愛するこの世界を……!!お前の『手前勝手な正義』から!!」

 

 その時、俺の中に『ナニカ』が―――――

 ほんの小さな、『ナニカ』が―――――

 

 

 

 ()()()

 

 

 

 その『光』に従い、俺は(さけ)んだ。

 

 

 

 

行くぞォオォォオオ!!!!

 

 

ゴスペェェェェェェェルッ!!!!

 

 

WAOOOOOOHHHHHNNNN!!!

 

 

 

 響きわたる獣の咆哮。

 そして、俺の決意とゴスペルの闘志が、空中でひとつとなった。

 

 

―――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

 

 形容しがたい凄絶なエネルギーが渦巻き、空気が鳴動する中―――――

 俺を見上げるロックマンは、ひどく驚愕した顔で―――――

 少しでも"辻褄"を合わせようと―――――"今の俺"という存在を心の中で解そうとするためか―――――

 震えた声で、こう問いかけた。

 

 「きみは…………いったい…………?」

 

 

 

 「俺は――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ス ー パ ー ジ ョ ー

 

 

 

 

*1
ダブルギアシステムは外付けハードディスク感覚で簡単に脱着可能らしい。事実、『11』のエンディングではライトットに取り付けられ、パワーギアを使ってボスロボットたちを運搬していた。



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刻銘編

 「『スーパージョー』、じゃと……!?」

 

 予想外かつ想定外の事態に、ワシはただ唖然とする他なかった。

 じゃが……確かに『あやつ』は、ゴスペルと合体を果たし、赤と青―――――ダブルギアシステムの輝きをその身から放っておる……!

 

 「ワイリー、彼は一体……!?()()()彼は『普通のジョー』ではないのか……!?」

 

 ライトも大層な驚きぶりじゃが―――――此奴が驚いているのは"ガワ"ではあるまい。

 "あの時"―――――ライトを人質として捕らえた『五度目』の時……メシ当番にしたことで勘づきおったか。

 

 「……『心』はな。じゃがボディとソフトウェア自体はなんてコトはない、ごくありふれた量産型じゃ……!それにゴスペルにも、フォルテ以外のロボットとの合体プログラムなぞ組み込んだ覚えはない……!まさかこやつは……本当に『心』だけでゴスペルと合体して……ダブルギアシステムを起動させたというのか……ッ!?」

 

 思えば、フォルテ以外には絶対に懐かぬようプログラムしておったゴスペルがこやつに懐き、こやつが前世で犬を飼っておったコトを聞いた*1時点で、疑っておくべきじゃったかもしれん。

 『畜生道』に堕ち、二度目の生を受けるのは、何も『ヒト』だけではないということか―――――

 ワシは、ワシの造ったロボットが、ワシを含めて誰も意図せんかった、論理的かつ科学的に考慮して100%起こり得ない非科学的超常現象―――――所謂『奇跡』と呼ぶべき埒外の現象を起こしたことに歓喜できず、ただ心底驚嘆するしか出来なかった。

 何故なら―――――

 これらすべてが、ワシの関与できない、俗に『オカルト』と称される領域に由来するモノであるらしいことを、無意識に認めたくなかったから……やもしれん。

 

 「往くぞ―――――」

 

 スーパージョーはロックマンにバスターの銃口を向け、放った。

 紫色の光条が、一瞬でロックマンへと届く。ロックマンは動けんかったようじゃが、レーザーはロックマンの右の足元に着弾していた。

 

 「次はこれだ」

 

 スーパージョーのバスターに紫色の輝きが集束し、巨大なエネルギー弾となって放たれた。それも、3発連続で。

 ロックマンはスライディングで2発をかわすも、最後の3発目を喰らい、仰け反り吹っ飛んだ。

 

 「……強い!」

 

 すぐさまロックマンは受け身を取り、体勢を立て直す。

 最早只の量産型ではないことを奴も悟ったか、表情からは余裕が失せていた。

 

 「…さっき、ゴスペルの記憶メモリを同期させてもらった時に引っかかったんだが……ロックマンよ……前にバカ一に言ったな……『ニセモノのチカラじゃぼくにはかてない』って。確かに"八回目(あのとき)"の『チカラ』ってのは、降って湧いたようなモンで、レギュレーション違反もいいところだ……あんな"拾いモン"に頼ったバカ一もジジィも、お前に勝てねぇのは当然だ……だが"コイツ"は違うぜ。ジジィが思いついて、ジジィが組み上げてカタチにした、徹頭徹尾、ジジィ謹製の―――――『ホンモノのチカラ』だ!コイツを『ニセモノ』だとは―――――死んでも言わせねぇ!!」

 

 

パワーギア

 

 

 スーパージョーが紅蓮の閃光を発し、両の腕をバスターへと変え、ロックマンに向けた。

 

 「思い知れ……これが『力』だ!!」

 

 二門のバスターから、ロックマンのチャージショット並みの大きさの、真紅のエネルギー弾が連続で発射される。

 

 「"ダブルバスター"じゃと……!?」

 

 そんな機能を組み込んだ覚えは勿論無い。それにダブルバスターは、使えこそすれ排熱が追いつかず、オーバーヒートする可能性がある、ハイリスク・ハイリターンの典型の筈……*2

 それをこうも簡単にやってのけるとは……ダブルギアの賜物か、それとも―――――

 

 「でも……そんな『力』だけを(ふる)って、何になるんだ!」

 

 降り注ぐエネルギー弾の間隙から撃ち返しながら、ロックマンが叫ぶ。

 

 「意味はあるさ!お前が俺に『負けた』という事実が残る!じーさんがジジィに『敵わなかった』という結果が刻まれる!」

 

 ロックマンは足を止め、赤い閃光を放ってパワーギアを発動、チャージショットを二連続で放つ。二発のエネルギー弾がぶつかり合って相殺されるも、スーパージョーが放った3発目のチャージショットがロックマンに命中した。

 

 「ぐぅッ……!」

 「そしてお前(ロックマン)という『不敗神話(伝説)』は終わりを迎える……お前はもう、苦しまなくて済む」

 

 今度は、スーパージョーの全身から蒼白い輝きが放たれる。

 

 

スピードギア

 

 

 「お前の醜態に世界は幻滅する……誰もお前に頼らなくなる……『正義のスーパーロボット』も、負ける時には負けるんだって、世界が気付くんだよ……!」

 

 吐き捨てるようにあやつは言うと、目にも留まらぬ高機動を駆使し、不規則に空中を舞った。そして無数に浮かび上がった蒼白い残像から、青色のレーザーが五月雨の如くロックマンに浴びせかけられる。

 

 「く……!スピードギアッ!!」

 

 ロックマンもまた、ワシとライトの目視では捉えられん機動力でスーパージョーを追う。しかし、同じスピードギア発動状態なら、基本スペックがダイレクトにモノを言う。ゴスペルと合体し、字面通りにまさしく翼を得たあやつには追いつけない。

 

 「遅い」

 

 ロックマンに突撃したスーパージョーは、そのままロックマンを空中へと打ち上げ、何度も体当たりをぶつける。

 

 「土に(まみ)れろッ!泥を(すす)れッ!!砂粒を(かじ)れッ!!!一遍倒れて『惨め』を味わえッッ!!!!」

 

 天井近くまで打ち上がったロックマンの周囲に、無数のスーパージョーの分身が、取り囲むように出現する―――――!

 

 「そして―――――」

 

 すべての分身のバスターの銃口が、力無く宙に浮いたロックマンに向けられ、蒼白い無数の光が空間に灯る―――――

 

 「お前を天から引きずり下ろす!俺のこの名を記憶に刻めッ!!!!!」

 

 流星雨と見紛うばかりの青い閃光の群が、ロックマンに向けて全方位から同時に殺到し、大爆発を起こした。

 

 「ロックマンッ……!!」

 

 床に叩き墜ちたロックマンに、ライトが瞠目して叫ぶ。

 

 「ザコ同然に蹴散らされる俺達の気分ってヤツが……ちったぁ身に()みたかよ」

 

 スーパージョーがロックマンの目の前に降り立つ。

 

 「お前さん……お前さんはいったい……!?」

 「……ジジィはそこで見てるだけでいいぜ。―――――くたばってねぇんだろ、ロックマン。立てよ。まだ終わってねぇぞ」

 

 吐き捨てるようにあやつは言った。よろめきながらも、ロックマンは立ち上がった。

 

 「簡単に死なれても困るんだよ。……あるんだろ、E缶。待ってやるからとっとと飲め」

 「お前さん……!?」

 

 何を考えとるんじゃ!?ロックマンを倒すために戦っとるんじゃなかったのか!?フォルテじゃったらここで確実にトドメを刺しとったぞ!?

 心の中でツッコんでいる内に、ロックマンはどこからともなくE缶を取り出し、ストローを刺して飲み始めている。あぁ……あの音が……『勝った!』と思った瞬間に勝ちがこぼれ落ちていく、『ライフエネルギーが回復する音』が聞こえよる……それにしてもロックマンめ、一体ドコにあれだけの量のE缶を隠し持っとるんじゃ……格納する場所など見当たらんのじゃが。

 

 「ロック……」

 「……大丈夫です、博士。下がっていてください」

 

 ロックマンは立ち上がると、真っ直ぐにスーパージョーへと視線を突き刺す。

 

 「こんな戦いが何になるんだ……!きみはどうして、こんな……!」

 「…………それでも、戦いたくない、か。…………本当に、()()()()()()だよ。じーさん、あんたによく似て、本当にいい子だ。悪いことはキチンと悪いことだって、ビビったりせずに、信念を曲げずに伝えられる。……少しそそっかしい*3がな」

 

 スーパージョーは何故か穏やかに語った。まるで、兄が弟を語るような語調で。

 

 「そこまでロックのことをわかってくれているきみが……何故ロックと戦わねばならんのだ……?」

 「だからこそ、さ。だからこそ俺はこいつが"危険"だって思ったんだ……『結果』だけを見て、『理由』も問わず、ただそこに起きてる事実(コト)だけをパッと見ただけで、即座に『善』と『悪』を区別する(ふるい)にかけようとするこいつがな。……なぁロックマンよ。『心』持ってるってんなら『考えて』みるんだな……お前と戦ってきた連中が、『どうして』お前に挑みかかってくるのか……どんな思いでお前と戦うのか……その理由、その信念をな」

 「理由……信念…………」

 「立ち話もアレだから、体動かしながら考えな!!」

 

 あやつはひらりと飛び立つと、全身から赤い閃光を放ちながら叫ぶ。

 

 「お前に倒された奴等の無念……"もう一度"味わいながら、な!!」

 

 

パワーギア

バラードクラッカー

               *4

 

 分子模型にも見える独特な形状の、それも超大型の球体が、あやつが天へと向けたバスターの砲口から出現し、ロックマンへと投げ放たれた。

 

 「……!伏せろライトォッ!!」

 

 ワシはとっさに叫んでいた。次の瞬間、耳を引き裂かんばかりの轟音と、凄まじい熱風とが同時に襲ってきた。ライトもワシの横に伏せていた。

 ……しかし、まさか特殊武器を……それもロックマンキラー*5の特殊武器を使いおるとは……

 確かアレはバラード*6の……あの機能はジョーのボディではなくゴスペル由来のモノだ。フォルテのサポート用の予備の特殊武器スロットを使いおったか。そして特殊武器チップの出所もワシの研究室、か……いよいよもってあやつは、『量産型』の域を超えるつもりでいるらしい。

 

 「まだだ!!」

 

 その声の方向に振り返ると、パワーギアの赤い光に包まれたロックマンが、硝煙の向こうにいると思しきあやつにバウンスボールを連射する。あの武器は直接上方を狙える上、攻撃範囲も広い。威力に目をつぶれども『当てるだけ』なら、な。

 バウンスボールが硝煙の向こうに消えた、次の刹那―――――

 

 ―――――キュイィィィィン!!!

 

 命中した、にしては妙な音が鳴り響く。ロックマンも違和感を覚えたのか武器チェンジを行い、ツンドラストームで硝煙を吹き飛ばした。その向こうには―――――

 

 「よォ」

 

 あやつがいた。

 だがあやつは金色のシンプルな槍を天に掲げ、その槍先にはエネルギーの渦が球体状に圧縮されていた。

 だがその威容に怯むことなく、ロックマンはバスターを連射する。しかしそのバスター弾は、まるで引き寄せられるようにエネルギーの渦へと向かっていき―――――

 

 ―――――キュイィィィィン!!!

 

 バスター弾をエネルギーの渦が吸収し、その輝きを増す。

 

 「受けた恩は忘れるな、受けた痛みは倍返し、ってな!!」

 

パワーギア

ミラーバスター

           *7

 

 エネルギーが凝縮された三日月状の刃が放たれる。ロックマンはスライディングでかわすも、先程までロックマンが立っていた地面に大穴が穿たれた。

 

 「今度はエンカー*8のミラーバスターじゃと……!?となると……まさか!?」

 「ご期待通りに……次はコイツだ!」

 

スピードギア

スクリュークラッシャー

           *9

 

 スーパージョーが蒼く輝くとともに空中に多数の分身を創り出し、四方八方に回転する円盤型エネルギーカッターを投げ放った。今度はパンク*10のスクリュークラッシャーか。無造作かつ無軌道に放たれた回転エネルギーカッターが軌道を変え、ロックマンに向けて殺到する。

 

 「お前はこうして……何体のロボットを切り裂いた?」

 

 ロックマンもまたスピードギアを発動し、前後左右、そして頭上から曲がり来るスクリュークラッシャーをかい潜る。だが、その先に―――――

 

 「何体のロボットを砕いた?何体のロボットを焼いた?」

 

 まるで『置いてあった』ようにバスターが命中した。あやつ、ロックマンの行動を先読みしておったのか。

 

 「覚えてねぇよな……覚えてるはずもねぇ、よな。……ヒトが今までの人生でどれだけのパンを食ったか、いちいち覚えてるはずもねぇのと同じだよな……つまりはそういうことなんだよ……お前がやってる『世界平和』ってヤツは、な!」

 「く……!」

 「そんなお前が『世界』を……『平和』を守るなんざ―――――嗤わせる」

 

 あやつは、片膝をつくロックマンを見下ろしながら、ふわりと空中に浮かび上がると、スッとバスターの砲口を天へと向けた。途端、あやつの周囲の空間に、無数の『(あな)』が等間隔に空けられた。そのすべてから、先の尖った『何か』がゆっくりと迫り出してきたのだ。

 

 「目の前の、たった『一人』さえ救う方法もわからねえお前に―――――『未来』は無いぜ。お前が、『コイツのかつての乗り手』になる前に……ここで終わっておいた方がいい」

 

スピードギア

サ ク ガ ー ン

           *11

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 あやつがロックマンに砲口を向けた瞬間、無数のサクガーンがロックマンに雨の如く殺到、有無を云わさず、ロックマンは大量のサクガーンに埋もれることとなった。

 

 「ロック!!!」

 「スピードギアで時空間に干渉したとでもいうのか、あやつは……!!」

 

 無論、ダブルギアシステムにそのような機能は無い……はずなのじゃが、今のあやつなら何をしでかしても不思議ではないとも思わせる。

 

 「……この程度じゃねぇだろ」

 

 降り立ったあやつが、山と積もった大量のサクガーンにそう言うと、山の一角から青い手がズボッ!!と突き出た。瞬間、数え切れぬほどのサクガーンは、何処かへと転送されるように掻き消えた。

 

 「てめぇの『未来』に埋もれた気分はどうよ?」

 「……未来の僕……クイント*12の武器か……!」

 「今までお前が、俺の電子頭脳(アタマ)をとっととブチ抜かなかったために……でけェ代償(ツケ)になって返ってくるコトになったな……俺が()()()()前に……ジジィやバカ一たちに情が移る前に俺を仕留めていれば、こうはならなかったんだよ」

 

 あやつは転送で現れたサクガーンを手に取ると、その切っ先をロックマンの鼻先に突きつけた―――――

 

 「お前に刻んでやるよ。世界で初めてお前に"敗北"を教えてやった、『俺の名』を―――――!」

 

 振り下ろされるサクガーン。

 

 ―――――だが。

 

 

 ―――――ガキィィィィン!!!

 

 「……!」

 

 ロックマンはサクガーンの切っ先を―――――

 突き出した頭、そこに被ったヘルメットで、受けていた―――――

 

 「…………僕だって……何も考えていないワケじゃない……!ワイリーに作られたロボットにだって、『心』があることは知っている……!でも……平和を壊すことと壊されることは……!!等価値なんかじゃ、絶対ない!!!」

 

 すっくと立ち上がったロックマンは言う。

 

 「ワイリー、フォルテ、今まで戦った全てのロボットたち、人間たち……そして、きみにも…………守りたい『世界』があることはわかる……!けれど、そのために『別の誰かの世界』が壊されることは、絶対に間違ってる……!僕は……『守る手段』がない人々やロボットたちの代わりに、『世界』を守る―――――」

 「………………………………」

 

 あやつはモノアイを消し、黙ってそれを聞いていた。

 

 「―――――――――――――――でも」

 「!」

 

 紅いモノアイがロックマンを見据えた。

 ―――――瞬間。

 

 

 ―――――ピシッ

 

 

 「今…………この時だけは、そうした理屈を―――――」

 

 

 ―――――パキキキキキキキ

 

 

 「僕は自ら、破棄する―――――」

 「……!」

 

 ワシの横でライトが瞠目した。

 

 「きみの『心』を受け止められるのは、『ロックマン』じゃ、できないって、理解した―――――だから、きみと戦うこの時だけは―――――」

 

 

 ―――――パキィィィィン!!!

 

 

 

 『ロックマン』じゃなく―――――

 

 

 

 ただ、ひとりのロボット―――――

 

 

 

 『ロック』として、戦わせてもらうよ

 

 

 

 

 サクガーンの衝撃からか、真中心からヒビが伝ったロックマンのヘルメットが、真っ二つに割れて両側に落ちた。

 ワシは思わず、ロックマンの顔を見た。

 

 ―――――憑き物が落ちたような、清々しい表情をしていた。

 

 

 ――――――――――

 

 

 ―――――そうだ。

 

 ―――――俺はそれを、待っていた。

 

 

 「……ごめんなさい、ライト博士……僕は―――――」

 

 ヤツは申し訳なさげにじーさんに詫びた。じーさんはひどく驚いた様子だったが、やがて力が抜けたように笑った。

 

 「いいんだよ。今この時だけは、それでいい……ロックのやりたいように、望むように……思うように、彼と向き合ってくれ」

 「……!はい!」

 

 そう―――――

 ヤツは敢えて、『ロックマン』という『英雄の称号』を今だけはかなぐり捨て、単なる『世界最強のロボット』として、俺とトコトン闘り合ってくれるらしい。

 

 「『守るべき世界』が噛み合わねぇなら、いっそ(シガラミ)なんざ棄てちまおうってか……」

 「考えるのは、今だけやめる。今きみの目の前にいる僕は……『ロックマン』じゃない……ただのひとりのロボット―――――『ロック』だ!!」

 「…………イイぜ……!」

 

 俺は心中で笑んでいた。

 

 「それでいい!!!!」

 

 全力で駆け出し、ヤツの顔面に拳を叩き込む。

 

 「『ヒーロー』が何だ!『平和』が何だ!!『世界』が何だ!!!そんなモノ、ネジ一本の足しにもなりゃしねぇからな!!余計な題目無え方が!下手にルサンチマン*13じみて受け取られるコトも無ェ!!」

 「きみには『守るための戦い』じゃ勝てない!『理解するための戦い』も届かない!だというのなら!!」

 

 ヤツは拳を振りかぶり、俺の顔面に叩き込んでくる。

 

 「『戦うための()()』でしか、この戦いを終わらせられないのなら、僕は……ッ!!!」

 「上ォォォ等ォォォだァァァッッ!!」

 

 俺はスピードギアを発動する。ヤツもまた、全身に青白い輝きを纏った。

 

 「嬉しいぜ!お前が俺を!単なるザコの俺を『対等』と認めてくれてよぉ!!」

 

 連続で放つバスター弾の間隙を、ヤツは縫った。

 

 「引きずり下ろし甲斐があるぜ!!」

 

 スクリュークラッシャーを10発、全く違う軌道で投げ放つ。だがヤツは、撃ち落としが通用しないはずのスクリュークラッシャーを全弾撃墜した。見ると、ビームカッターを発生させるユニットの基部、その中心が正確に撃ち抜かれていた。

 

 「一度使った特殊武器の長所と短所なら、すべて把握している!!」

 「そうかッ!!だが!それがどうしたァッ!?」

 

 お次はバラードクラッカーだ。5、6発連射したが、あちとらはチェインブラストを放つ。空中で爆発物が連鎖的に轟音と閃光を撒き散らす。

 動かない黒煙を突き破り、パイルドライブで突撃してくるヤツに、俺はサクガーンで応戦する。三度、四度と切っ先がぶつかり、火花が散り、空中に静止する。

 

 「俺は勝つ!!お前に『負け』を教える!!お前の『絶対』を破壊する!"力尽く"でなァァァァッッッ!!!」

 「僕だって……!!負けるもんかぁぁぁぁあ!!!」

 

 互いにパワーギアに切替えた。紅蓮の閃光が迸る。俺はサクガーンを投げ捨て、ヤツだけを見据えて駆け出す。ヤツもまた、俺と鏡合わせのように走り出した。

 

 「うおぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 「ぬぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 一撃一撃が、必殺級の威力を持つ拳を連続で叩き込み、また叩き込まれる。互いの一発で、命中した場所の装甲がひしゃげて抉れる。

 ―――――その時だった。

 ヤツが放った右のストレートが、妙に鮮明に―――――()えた。

 

 「!」

 

 俺はヤツの腕を取り、そのまま力任せに地面に叩きつけた。

 

 「ぐぁ…………ッ!!!」

 

 ヤツの口から赤黒い液体が吐かれる。間髪入れず、ヤツをそのまま上へと放り投げ、無防備なヤツにバスターの砲口を向け、発射した。

 狙いは―――――少しブレた。エイムなんざこだわってられるか。案の定バイタルエリアには掠らず、ヤツの右肩に命中した。肩口の水色のコーティングを裂いて、肩関節(アクチュエータ)を砕き、破片が散る。

 ―――――致命的ではなけれども、腕が上がらなければバスターもロクに撃てまい。それも利き腕の右だ。

 

 ―――――勝ちを手繰った!

 

 そう感じたのも一瞬だった。

 

 ヤツの目は、死んでいなかった。

 

 ヤツの脱力しきった右の手が、拳と固められ、俺に向けられた。バスターを撃ち返すか。だがお前の右肩は今死んだ。回路も断線してりゃバスターに変形すらままならん。よしんば撃てたとて、マトモに狙いをつけられるものか。いっそ右には見切りをつけて左で―――――

 

 高を括った俺の思考―――――その埒外を、ヤツは放った。

 

 

 

ロ ッ ク ン ア ー ム

           *14

 

 ヤツの鉄拳がカッ飛び、バスターを構えたままだった俺の右腕を『持って行った』。

 ―――――最早右腕が使えないと判断して、どうせ棄てるならいっそぶつけてしまえ―――――ってか。

 なら、望み通りに壊すまで。俺は即座に左腕をバスターに変え、背後をターンして戻ろうとしていたヤツのアームをノールックで撃ち落としてやった。空中で受け身を取って着地したヤツは、表情一つ変えてはいなかった。

 俺は右の二の腕から先を、ヤツは右肩から先を喪い、さらに双方満身創痍だ。『CAUTION』だの『DANGER』だの、俺の視界の中で警告表示が重ねて表示され、赤々と点滅している。まるでブラクラだ。もしゴスペルと合体していなけりゃ、とっくの昔に機能停止しているダメージか。

 俺とてそうであるならば、ヤツもまたこの程度の損傷が入ってる、か。片腕欠損は見りゃわかる。

 ―――――このまま泥試合はヤバいか。

 

 なら、ラストだ。

 これでラストにする。

 次の一発。この一発に、俺の全てを賭けてやる。

 ―――――すまんな、ゴスペル。もう少しだけ、俺に力を貸してくれ……!!

 

 ヤツと目が合う。

 ヤツも己の中で、何かを決したか。ヤツの視線とともに、ヤツの心が俺に突き刺さる。

 

 

 ―――――往くぞ。

 

 

 

 

 

 

 考えることはやはり同じか。

 パワーギアとスピードギアの同時発動。

 本格的窮地が身に迫った時のみに発動が可能となる、"火事場のクソ力"。

 使いどころを誤れば自分さえ滅ぼす諸刃の剣を、俺とヤツは同時に解き放った。

 そこからの俺とヤツの思考と行動は、鏡合わせのように同じだった。残された左腕をバスターに変形させ、互いの眼前の標的に砲口を向け、照準を合わせ、ありったけのエネルギーをチャージする。

 己の全てを賭けた渾身の一閃を、俺は―――――否、

 

 俺とヤツは、抜銃した。

 

 

 

 

            

 

 

 今まで見たこともない巨大なエネルギーショットが、俺とヤツのバスターから繰り出され、空中で衝突し、エネルギー同士が力比べを始めた。スパークしたチカラが四方八方へと飛び散り、空間を裂き、俺の視界を占めて純白の無へと染め上げていく。

 俺は最早、野獣めいた咆哮を上げながら、バスターからエネルギーを送り続けていた。心をなくした、"ただの機械"のように。

 

 ―――――だが、これだけは、俺は成さなければいけない―――――

 

 俺は、目の前にいる『世界最強のロボット』に、教えなければならない―――――

 

 報われなかった者の想いを。

 

 貶められたヤツの意地を。

 

 壊された連中の無念を。

 

 『敗北』を。『失敗』を。『挫折』を。

 そしてそこから這い上がる者の、心の強さを。

 

 そうだ。

 

 『刻む』んだ。

 

 俺が、この世界で初めて、『絶対強者(ロックマン)』という金剛石(しんわ)に、初めて(キズ)を刻む男―――――

 

 

 そう―――――

 

 

 

 

 俺は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティウンティウンティウンティウンティウンティウンティウン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20XX年 Dr.ワイリーによる第十二次世界征服計画、ロックマンによって頓挫

 

 ワイリーとの最終決戦の後、突如現れたワイリーのロボットと交戦

 

 

 

 その勝者は―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下、年月を経ているため解読不能

*1
ジョーさんが地の文で語った後にジジィにも話したらしい。

*2
『スーパーアドベンチャーロックマン』で明かされた、れっきとした公式設定である。これに則り、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズにロックマンが参戦した際には、ダブルバスターを使用する技(フレイムブラスト等)の後、バスター側面が開いて排熱する様子がしっかりとモーションに加えられている。もっともロックマン以外のロボットにこれが適用されるかは不明(ファイヤーマンやニードルマン等、ダブルバスターを装備しているナンバーズロボットもいる。ソーラーブリットを発射するバスター限定の仕様かもしれない)で、その辺りは本作オリジナル設定とさせていただくこととする。

*3
ロックマンのそそっかしさは公式設定である。『~&フォルテ』のデータベースに『たんしょ:そそっかしい』としっかり記されている。

*4
ロックマンキラー参号機・バラードの特殊武器。外郭部が可変型多積層構造となっている、センサーを装備した多目的榴弾。クラッシュボム同様、時限式と遠隔操作式が自動で切り替わるAI制御式信管を採用している。また標的の位置を捕捉すると、多層化された外郭構造部分がセンサーと連動して可動、標的の方向の外郭の積層を減少させ、強度を意図的に弱めて起爆することで、指向性破壊力を増大させる。投擲・射出は勿論、設置してトラップとしても使用可能な使い勝手のよい武器。

*5
かつてワイリーが、フォルテ開発以前に対ロックマン用に開発していた、3体の特殊戦闘用ロボット群―――――初号機『エンカー』、弐号機『パンク』、参号機『バラード』の通称。通常、ナンバーズロボットは特定分野、すなわち局地戦に特化した設計の下開発、もしくは改造されているが、ロックマンとの戦闘以外にも様々な任務に対応するため、ある程度の汎用性を持たされている(もしくは技術試験機的側面。フラッシュマンやグラビティーマン、フリーズマン等が好例である)。それに対してロックマンキラーは、汎用性をあえて捨て、『一対一でロックマンと戦闘し、勝利する』ことのみを見据え、それ以外の用途を一切廃するコンセプトの下開発された、その名の通りの『ロックマン抹殺用ロボット』である。それまでのロックマンとナンバーズロボットの交戦データから割り出された、その当時のロックマンの推定スペックを基に、それを上回るよう設計され、特殊武器の悉くを受け付けない強化装甲、ロックマンを必要以上に敵視するよう調整された攻撃的な電子頭脳、さらには独自の特殊武器の装備など、ナンバーズロボットを上回る能力を持ってロックマンに戦いを挑んだ。しかしロックマンを後一歩まで追い詰めるものの、3体とも撃破されている。だが、『対ロックマン用ロボット』という発想と、ある程度の戦果にワイリーは手応えを感じていたようで、この発想は後に『ワイリー製ロックマン』たるフォルテの完成を以て結実し、その開発の際、ロックマンキラーのデータとノウハウが大いに活かされたとも云われる。なお誤解されがちだが、『ロックマンワールド2』に登場した『クイント』は、未来のロックマンを改造してロックマンキラー『的』ポジションに据えた存在であり、ロックマンキラーではない。

*6
型式番号:RKN.003。ロックマンキラー参号機にして最後の機体。エンカーとパンクの基礎設計を折衷した『重装甲と高機動の両立』をコンセプトとして設計された。パンクのものをブラッシュアップした特殊合金製装甲による防御力はロックマンキラー随一で、これは特殊武器『バラードクラッカー』の誤爆対策にもなっている。これにより重量が増したボディに対し、背部と両肩に大推力ブースターを搭載、重装甲を持ちながら機敏な動作が可能となり、一見して相反するコンセプトを見事に完成させている。好戦的、かつロックマンに敵愾心を燃やす性格のロックマンキラーの中でも特にプライドが高く、自身が最強のロボットであると信じて疑わない途方もない自信家。しかし同時に執念深くもあり、最初にロックマンと交戦した際に敗北し、鼻っ柱をへし折られた彼はワイリーにパワーアップを懇願、リミッターを解除され、顔面部に耐衝撃バイザーが追加装備されている。その後ロックマンと再戦するも、ロックマンは無論、ワイリーさえも予期しない形での凄絶な最期を遂げることとなった。このバラードの最期に何かを感じたのか、ワイリーは後に開発するフォルテの電子頭脳に、バラードと共通する何かしらのプログラムを書き加えたらしい。フォルテのロックマンに対するライバル心や、『最強』にこだわる性格は、バラードのそれを強く想起させるが、その点にこの『プログラム』が関係しているかどうか……その真実はワイリーの胸中にしかなく、彼も黙して語っていない。

*7
ロックマンキラー初号機・エンカーの特殊武器。ワイリーが発見した特殊なエネルギー力場を利用した武装。このエネルギー力場は、発射された武器の質量や爆発エネルギーなどのあらゆる『エネルギー』を誘引、吸収した上で並列位相変換する事ができ、さらに蓄積、放出も可能。この蓄積にはある程度の質量のある物体が必要で、エンカーはそのためのデバイス兼近接戦闘用武器たる『バリヤードスピア』を装備している。エンカーはこのバリヤードスピアでロックマンのあらゆる攻撃を吸収、蓄積し、そのまま反射放出することで手痛い反撃を喰らわせる。しかしバリヤードスピアに蓄積できるエネルギーには限度があること、そしてエネルギー蓄積とともにダメージも受けていることにエンカー自身が気付いておらず、さらにテスト段階でのシミュレーションでエンカーがロックマンに完勝したことで、『ミラーバスターがある限りロックマンには負けない』という慢心をエンカーに植え付けることとなり、それが元でエンカーは敗北した。この顛末を見ていたロックマンは、ミラーバスターを使用するにあたり、『蓄積』能力を封印、あえてバスターの前方にエネルギー力場を発生させ、攻撃を受けると即座に反射放出することで自身へのダメージを防いでいる。

*8
型式番号:RKN.001。ワイリーが『ロックマン抹殺用ロボット』として、当時のロックマンの推定スペックを解析、総力を結集して開発した、ロックマンキラー初号機。先述のミラーバスターの開発を踏まえ、『最強の盾』というコンセプトで設計している。防御はミラーバスターに頼るものとし、機動力を重視した設計となっており、ボディそのものはロックマンと大差ない体格の軽量級である。しかし、特殊軽合金にコーティングを施した装甲は、ロックバスター以外の特殊武器を受け付けない防御力を誇る。また、ロックマンが近接戦闘に弱いことに着目、ミラーバスターの運用デバイスとして槍型の『バリヤードスピア』を同時に開発、さらに槍術の達人の殺陣をサンプリングしてモーションデータとして組み込んだことで、ロックマンに対して近接戦闘で圧倒的優位に立つ(この後、ワイリーはミスターXとして、ヤマトマンの開発者にこのモーションデータを提供している)。電子頭脳にもロックマンを必要以上に敵視するプログラムが書き込まれており、性格はロックマン打倒に執念を燃やす熱血漢となった。しかしミラーバスターの性能に胡座をかいて慢心しており、実際の戦闘ではミラーバスターの許容チャージ量以上のロックバスターをバリヤードスピアに撃ち込まれ、ミラーバスターがオーバーロードを起こし自爆するという最期を遂げた。

*9
ロックマンキラー弐号機・パンクの特殊武器。一見するとメタルブレードやシャドーブレードと同系統の円盤型投擲武器に見えるが、刃部分は圧縮太陽エネルギーの粒子で構成されているエネルギーカッター……いわば『ロックバスターの刃』である。高速回転ジャイロモーターが内蔵された基部にエネルギー噴出口が四方に配されており、手元から離れると同時にエネルギー粒子を四方に噴射させながら高速回転、エネルギーの刃となって標的を切断する。さらにこの粒子には回転と同方向に強烈な加速がかけられており、その威力はロックマンの装甲であるライト・セラミカルチタン合金を紙のように切断するほどの脅威的なもの。だが使い捨てを前提とした投擲武器であるため基部のエネルギー貯蔵量は少なく、投擲から数秒で刃は消失する。ゲーム中のロックマンが使用する際はほぼ真上方向に近い、急角度の放物線軌道で投げ放つため、命中させるにはコツが必要。

*10
型式番号:RKN.002。エンカーに続くロックマンキラー弐号機。クイントの失敗から、やはり自作のロボットでロックマンを倒すべきと判断したワイリーが開発。エンカーの『最強の盾』というコンセプトに対し、パンクは反対に『最強の矛』のコンセプトの下、攻撃力に重点を置いて設計された。特殊合金製のエアーマンタイプのボディの各所に鋭利なカッターやニードル、スパイクを装備しており、特徴的な両肩の大型シールドに自身を格納、円盤状に変形しての回転突撃はワイリー基地の隔壁を易々と貫通する威力を誇る。その全身凶器といえる外見から『勝つためには手段を選ばない外道』と誤解されがちであるが、実際の彼は正々堂々、己の力のみを信じて真っ向からロックマンと戦うことを至上とする益荒男(ますらお)である。そんな彼だが、実はまともに会話ができない。『アイムパンク(名乗り)』『グワッ(唸り声)』『スクリュークラッシャー(特殊武器名)』以外の言語を一切喋れない。後に、言語回路に回すはずのエネルギーすら攻撃エネルギーに回してしまっていたことが発覚している。ワイリーは一時頭を抱えたが、回路を組み替えると肝心の攻撃力が低下してしまうおそれがあったこと、ワイリーや他のワイリー製ロボットたちと(何故か)問題なく意思疎通ができていたこと、そして何より彼自身が修理を拒んだことから、これも彼の『個性』として、あえて修理はしなかった、という逸話がある。

*11
かつてワイリーが、タイムマシンを使って拉致した未来のロックマンを洗脳、改造したロボット『クイント』の特殊武器。工事用削岩ロボットをホッピングマシーンのように搭乗できるよう改造したもの。クイントの制御のため、基地から放出される制御信号を受信、クイントに再送信する中継器の役割も果たしていた。

*12
かつてワイリーが、時空研究所で試作されたタイムマシンを盗んで未来へ行き、そこで拉致した未来のロックマン(ロック)を強引に改造した姿。未来では何らかの理由でワイリーが世界征服から手を引き、久しく平和だったためか、ロックの戦闘用装備は取り外されていたが、過去から来たワイリーによって強引に改造されてしまった。当初はロックマンと同等の改造を施す予定だったが、未来のライトがロックを家庭用ロボットに戻す際、戦闘目的に使用されていた電子頭脳の記憶領域に、ライト以外には解除困難な強力なプロテクトを施し、戦闘用システム(武装の運用プログラム等)のドライバインストールを容易に行えないようにしていたことと、当時のワイリーが持っていたロックマンのデータでは完全な戦闘用への再改造は不可能だったこともあり、ワイリーは本格的な改造を断念。結局、ロックマンと同タイプの外装への改造と、遠隔制御信号受信アンテナを装備したヘルメットの装備に留まった。また上述の理由により純粋な武装が出来ないことへのアプローチとして、『武装転用可能な作業用機械』の利用を思い立ったワイリーが開発したのが、特殊武器『サクガーン』である。工事用削岩ロボットを改造したものであるため、プログラム上は『武装』ではなく『作業用機械』と認識される。それ故ライトのプロテクトの穴をかいくぐり、ドライバインストールに成功、運用が可能となった。さらにサクガーンには、ワイリー基地からの制御信号を受信、クイントに送信するクイント制御におけるもう一つの要としての機能があった。実際のロックマンとの戦闘では、未来の自分故に『倒せば自分も死ぬ』というワイリーの脅迫から、迂闊に手を出せないロックマンを一方的に攻撃したが、ロックマンの牽制射撃が偶然ヘルメットに命中して正気に戻り、和解。サクガーンはロックマンに運用された。事件解決後はロックマンが奪還したタイムマシンで未来へと帰って行った。なお、ワイリーがクイントの改造に失敗し、そのまま未来へと打ち捨てた世界線から、思わぬ『影』、そしてその『影』が率いる『次元を脅かす者たち』が、ロックマンとフォルテに『挑戦』するべく未来から来襲することになるのだが……それはまた別の話である。

*13
別に新たなナンバーズロボットの名前ではない。『弱者から強者への恨み節』といった意味の哲学用語である。

*14
かつてロックマンが使用していた武装システム。二の腕から先を分離発射する、所謂『ロケットパンチ』。本来、蓄積したエネルギーをソーラーエネルギーブリットに変換して発射するチャージショットのエネルギーを、推進エネルギーと腕部表面全体を覆う保護フィールドに変換することで、チャージショットの熱エネルギーによる光熱的破壊力を、運動エネルギーによる物理的破壊力へと転化させたものである。元々は全身を覆う特殊エネルギー被膜により、スーパーロックバスターすら跳ね返す防御力を持つ『スペースルーラーズ』のロボットたちに対抗するためにライトが設計したもので、これによってチャージショットのエネルギーを一点集中、運動エネルギーとして衝突させることで、特殊エネルギー被膜をも貫通する威力を得ることに成功している。チャージショットをも上回る威力を誇るが、チャージショットより射程が短いこと、またロックマンに少なからず負担を強いたことから使い勝手はチャージショットより悪く、スペースルーラーズとの戦いが終わった後はライトによってロックがかけられることとなった。しかし、後の『スーパーロックマン』が使用する同様の武器『ロケットバスター』にこの武装システムの回路を応用するため、ロックが解除された。それ以来、回路の切替によって、ロックマンが使おうと思えばいつでも使用出来る状態にあり、今回の使用に繋がった。なお、ゲームでのロックンアームは『ワールド5』限定の武器で、他作品で使うことは出来ない。また『スマブラ』の空中下攻撃はこれではなく、『3』のハードマンの特殊武器『ハードナックル』である。




Next...epilogue.


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エピローグ
俺の名は。


 ――――――――――

 

 

 

 ―――――………………

 

 

 

 

 あれは―――――なんだ…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――"光"―――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……気がつくと、俺は大の字に寝転がされていた。

 視界を、雲一つない、吸い込まれるように透き通った青空のみが占めていた。

 

 「………………………………」

 

 ふと、手が届くかもしれないと、右手を―――――

 あぁ―――――そういや、そうだった。

 右の手は『ヤツ』にくれてやったんだっけか。

 それなら、またジジィに催促しなきゃな。新しい腕取っ付けてくれって―――――

 

 「……!?」

 

 目を疑った。

 

 新品同様の、機械の右腕があった。

 まるで、『あの喧嘩』なんてハナッからなかったんじゃないかって思うくらいに―――――

 

 「……そうだ……!」

 

 そう思ってから(もた)げてくる疑問。

 

 ―――――『あの喧嘩』はどうなった!?

 

 「パンツマンは!?」

 

 がばりと上体を起こすと、黒いシルエットが目の前で腕組みをして立っていた。

 

 「……目が覚めたかザコ野郎」

 「………………バカ一……」

 「ばう!わおわおーーん!!

 

 と、死角からゴッスィーがそれはもう嬉しそうに飛び込んできた。

 

 「こっ、こら!くすぐったいって!やめろって!あはは……」

 「……てめーもゴスペルも……メモリー異常はねぇようだな」

 「俺とゴッスィーが無事ってコトは……俺は……青パンマンに勝てたのか……?」

 

 そう疑問を口にすると、バカ一は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 「バーカ。てめーみてぇな『単なるザコ』がロックマンに勝てるわきゃねーだろ♪」

 「じゃぁ、どうして……」

 

 負けてたのなら、俺もゴッスィーも、五体満足でいられるわけがないんだが……

 

 「……お前さんのワシへの『嫌がらせ』が、結果的にお前さん自身を救う結果になろうとはな……フッ、何がどう転ぶか……全く以て不可思議千万じゃわい」

 

 そう言いながら歩いてきたジジィの顔を見上げながら、俺は立ち上がった。そこでようやく、俺が立っているのが広々とした草原だということに気がついた。

 

 「ジジィ……そりゃどういう……」

 「以前……お前さんが他のロボットたちと共謀して、ワシの部屋の前にしこたま置いていったモノがあったぢゃろ」

 「あー………………ごめん。覚えてない」

 「首じゃろ、首!!『ロックマンの首』じゃ!!それもにこやかに口を半開きにしたロックマンの生首を大量に置いていったろうが!!」

 「あ~…………あ!」

 

 思い出した。

 『水晶編』を読み返してくれたら、ディスプレイの前の読者(アンタ)も思い出してくれると思う。ジジィが『ロックマンの首を取ってこい』って言うもんだから、同僚(なかま)たちと『実家』やそこらの基地にポツンと放置してあった『ロックマンの生首』をかき集め、ジジィの部屋の前にしこたま転がしといたのだった。あの時は首謀者の俺はもちろん、俺に与した連中もまとめて叱られたっけ。

 

 「気味が悪いもんじゃからほとんどは処分したんじゃが……興味本位でちぃとばかし調べてみたんじゃよ。そうするとどうじゃ!あの『ロックマンの首』、実は電子頭脳搭載型ロボットに対応したリブートシステムじゃったんじゃ!!」

 「……えぇと……つまり……どういうことだってばよ……?」

 「ガクッ……まぁわかりやすく説明すれば、『ロボット専用瞬間蘇生装置』とでも云えるシロモノでな……ネジ一本でも残っていれば、そこからロボットを瞬時に再生できるんぢゃ!!……未だにどういう理屈なのかほとんどわからんのじゃがな。アレが残っていてよかったわい」

 

 まさか―――――

 

 "生首(アレ)"って"1UP"だったのか。

 

 そんなモノ、ゲームの中にしか存在しないモノだと思っていたが、よもやこの世に実在してるとはな。まあ、そもそもこの世界、瞬時に体力が全快できるE缶(飲みモン)が存在してる時点で、どこか『ゲーム』めいてるとは感じていたんだが。

 

 「何故そのようなモノが存在しておるのか、しかもソレが何故『ロックマンの首』の形をしておるのか……天才たるこのワシでも解析できんマユツバモノじゃが……」

 「なぁ……『実家』は……?パンツ小僧とじーさんは……?」

 

 その問いに、ジジィは視線を促した。そちらに目をやると、あれだけの威容を誇った十二棟目の『実家』こと『歯車城』が、瓦礫と鉄屑の山になっている様が見下ろせた。ここは歯車城の裏手の高台だったらしい。

 

 「ロックマンとライトのヤツは、そそくさと帰りおったわ。"あの8体"のボディを回収して、な。すぐに城の自爆が始まって、もはやここまでじゃと思ったが―――――」

 「……ゴスペルを追っかけて来てみたら、丁度修羅場ってたからな。ゴスペルのついでに、ジジィとてめーを拾ってやったってワケだ」

 「ナイスなタイミングじゃったぞ♪イザという時には帰ってきてくれると信じとったからの♪」

 「ケッ、調子に乗んな!オレはゴスペルの反応が途切れたから来てやっただけだ!さっきも言ったがジジィとザコ野郎はついでだ、つ・い・で!!」

 

 やれやれ、久々に再会してもこの調子か。相変わらずバカ一はツンデレのプロだ。

 

 「それとザコ野郎!てめー何勝手にロックマンとバトってやがる!?ロックマンを倒すのはこのオレだ!」

 「……お前ってホント野菜王子(ベ○ータ)思考だな……」

 「はァ!?」

 「兄貴~~~!!」

 

 その時、20体ほどの同型機(兄弟)たちが、野原の向こうから駆けてきた。

 

 「兄貴!無事だったんですね!よかったぁ……」

 「お前ら……『ジョーレンジャー』の……!それに他の連中も……お前らこそよく無事で!」

 「ボディは壊されたが……電子頭脳は奇跡的に無傷で残ってくれた……」

 「幸いにも、隊長と同じタイプのボディの予備もありましたからね」

 「センパイが使っていたボディに、御利益があったみたいです♪」

 

 御利益、か。

 ヤツにさっぱり勝てなかった『負け癖』が染み込んじまってた俺のボディにゃ、そんなのは無いと思うんだがなぁ……

 

 「それよりも兄貴!ロックマンと戦って、イイ線まで行ったそうじゃないですか!?」

 

 一人の同型機(兄弟)がグイグイ来る。モノアイをギラギラと輝かせて俺を見ている。

 

 「イイ線って……オイオイ、俺ァ結局パンパンマンにゃ勝てなかったんだぜ?」

 「今まで、ロックマンに触れること……攻撃を当てることさえ出来ずにやられたヤツは、数え切れないほどいます……中には直接ロックマンの姿を見れないまま、壁の向こうから攻撃されてやられたヤツも……」

 「"ロックマンに一撃を加えた"……"ロックマンと戦って生き延びた"……それだけでも名誉なんですよ!?」

 「まして、これまで十七回もロックマンと戦って生き延びたなんて、ボクたちにとってはレジェンドですよ、レジェンド!」

 「しかもタイマンで戦って、あと一発当てれば倒せるところまで追い詰めるなんて……」

 「やっぱ兄貴はすげぇ!おれ達ジョーの誇りだ!」

 「お前ら……」

 

 なんだよ……

 涙が出そうになるじゃねーか……

 モノアイからは涙は出んが。

 同型機(兄弟)たちの憧憬の視線で、俺はようやく悟った。

 

 俺は―――――雑兵(ジョー)として"規格外"の喧嘩をしたのだ、と。

 

 「よぅしザコ野郎!オレと戦え!ゴスペルはてめーに貸してやる!勝った方がロックマンと戦うってルールでなぁ!」

 「あのなぁ……イイシーンなのに空気くらい読もうぜ……だからお前はバカ一なんだよ」

 「そりゃどーゆーこった!?」

 「それにな……ゴッスィーと合体出来たのはダブルギアがあったからでな……そのダブルギアも―――――」

 

 俺の胸に強引に取り付けていたダブルギアは、既にボロボロになっていた。元々後付けだったからか、"1UP"も"俺のボディの一部"とは認識してくれなかったらしく、再生していなかった。

 

 「―――――ご覧の通りさ」

 「チッ……ならジジィ!ダブルギアだったか?オレの分とザコ野郎の分!とっとと作って組み込みやがれ!」

 

 バカ一はジジィに詰め寄ったが、ジジィは意に介さずに笑った。

 

 「……ありゃもう作らん。資材も金もかかりすぎるわい。あんなモノを作るんだったら、一からナンバーズロボットを作った方が安くて早いわ」

 「ンだと!?」

 「もう、"昔"にはこだわらん。今回の件で、昔のワシが如何に青二才じゃったか、よく思い知った。過去はもう振り返らん。ワシは未来に生きると決めたからの」

 「……ジジィ……」

 「お前さん……お前さんがワシのために戦ってくれたこと……ワシのロボットたちのために戦ってくれたこと……嬉しかったぞ」

 

 

 

 

 

 ありがとう

 

 

 

 

 

 ……え?

 

 「ジジィ、今なんて―――――」

 「さぁてお前たち!今回は失敗じゃったが、まだまだワシは折れとらんぞ!これを見るがいい!十三番目の基地の設計図じゃぁっ!!」

 

 ジジィが取り出した紙に描かれた、十三棟目の『実家』の姿に、同型機(兄弟)たちが沸き立つ横で、バカ一は「ケッ……」と呆れていた。

 ……それにしても……

 ジジィが礼を言うなんてな……

 

 やべえ。

 

 明日、槍でも降ってくるんじゃねーか?

 

 ま、ジジィも懲りてないようで、これからまた平常運転、か。まぁ今回、ジジィも『ダブルギアシステム』という青春を燃やし尽くしたことだし、そろそろジジィを老人ホームにブチ込む算段も本格的に考えなきゃなるまいか。次の『実家』の近くにある老人ホームをリサーチしておかねば。

 バカ一とゴッスィーも帰省してくれたみたいだし、しばらくは賑やかになりそうだ。まぁまたいつ家出するかはわからんが。それまでは思う存分ゴッスィーを愛でつつ、ジジィの飯当番をしながら、気ままに老人ホーム探しをするとしよう。

 

 さて―――――

 

 ここらで、一区切り、としようか。

 

 俺の奇妙な『二度目の生』は、これからも続いていくだろう。おそらく、ジジィが諦めない限りは。

 実のところ、語ってない話は山ほどあるんだ。ジジィが倒されたナンバーズロボットを復活させたり、じーさんやオッサンのロボットをコピーしてパンツマンに挑んだ話とか、『スペースルーラーズ』って発掘ロボを使って喧嘩しようとしたこととか、賞金が出るボードゲーム番組に出て一獲千金狙ったりとか、『サッカーで世界征服ぢゃーっ!!』とかトチ狂ったコトをジジィが言い出して、マジで世界中のサッカーの試合を荒らし回ったりとか、ジジィが南米の遺跡で掘り出した超古代のスーパーコンピューターが世界にエラい迷惑をかけた話とか、ロボットカーレースに出たりとか、未来から来たっていう、妙なロボット軍団が暴れ回った話とか―――――

 

 まぁ、この内のいくつかは……いつか縁があったその時に、話すとしようか。

 

 「…………おい、何してる!早く行くぞ!」

 

 バカ一が、俺を呼ぶ。

 

 「わんわん!わおーーーん!

 

 ゴッスィーがシッポを振って、俺を促す。

 

 「隊長!」

 「兄貴!」

 「センパイっ♪」

 

 同型機(兄弟)たちが、俺の手を取る。

 

 ―――――そして。

 

 「……そーいや、まだ聞いとらんかったな。今晩のメシは何じゃ?……お前さん」

 

 とてつもなくヘンクツで、とてつもなく自信家で、世界とライバルに喧嘩を売ることが趣味の、地球人類で最もヘソの曲がった、それでいて芯が真っ直ぐなジジィが俺に訊く。

 俺は笑って、こう答える。

 

 「……肉じゃがだ」

 

 ホント、こんな連中によくもまあ付き合ったと思うよ、俺。世界中の人間やロボットから後ろ指をさされ、ただひたすら、我が道を往く天下御免の悪の軍団って奴等にさ。

 

 でも、やめろと言われてやめたかどうか……ソレはたぶん、無いな。

 

 俺が同型機(兄弟)たちの隊長であり、センパイであり、バカ一の兄貴であり、ゴッスィーの飼い主で―――――

 

 そして、俺とそいつらの生みの親である、この『メカフェチジジィ』の"共犯者"で、息子で、飯当番で―――――

 

 かけがえのない、『家族』である以上は。

 

 

 ―――――ん?俺か?

 

 

 俺はまぁ……これからも変わらず、マイペースでやってくよ。

 俺はまた、こいつらと歩き続けて、生き続けていく。この、ろくでもない、ゲームめいた未来の世界でさ。

 

 そう―――――

 

 

 

 

 俺の名はジョー。

 

 

 

 世界一ヘンクツなジジィと、その『家族』の面倒を見たがっちまう―――――

 

 

 

 ただの、お節介焼きさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 THANK YOU FOR PLAYING!

 

 ORIGINAL BY CAPCOM

 FROM "ROCKMAN" SERIES

 

 PRESENTED BY "CHISETSU"




 ようやく書き終わりましたぁ……
 習作のつもりで書き始めたら、いつの間にやら8ヶ月、ジョーさんに付き合っちゃってました。

 ともあれ、稚拙の『ヲタク道』の原点である『ロックマン』を題材に、それもザコキャラのジョーを題材にここまで書けるとは……しかも何回かランキングに載ってしまって、申し訳ないやら何やら……

 そして、またロックマンシリーズの最新作が発売されたその日には―――――
 また、新たな姿となったジョーさんが帰ってくるかもしれません。

 もし、この小説をお読みいただいて、ロックマンシリーズに興味を持ったそこのアナタ!
 ぜひともゲーム本編をプレイしていただいて、ゲームの中のジョーさんやジジィに会いに行ってみてくださいね♪

 ジョー「読者(アンタ)とゲームの中で会えるのを、楽しみにしてるぜ!」

 それでは、またどこかで!


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