犬上小太郎(偽)の往く、なんか違うネギま!世界 (谷原きり)
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始まりは赤ちゃんで半妖

取り敢えずさらっと流す程度の第一話


自分ではない自分になりたい、なんて思ったことはないだろうか。

俺はそれが高じて役者を志し、どうにか食っていける程度にやっていけていた。しかしまぁ、過労気味ではあったことは認める。

役者を目指す人間なんてのは大抵が金欠、必死にバイトしながらオーディションを受け、受かったら時間を捻出して稽古に励み、そうでなくともワークショップやらに参加。好きなことやってるから、とはいえ相当にハードだ。

 

だからって、よもや生まれ変わるだなんて思いもしなかった。

 

二次創作界隈ではありふれ過ぎていて、最近ではネットのいわゆるな◯うとかでも溢れ返っている、転生。

俺はどうやらそれに当てはまるようだ。

 

産まれてしばらくして、自意識がゆっくりと戻っていった。生後半年くらいだろうか。やっと思考がまともに取れるようになった。

 

しかしすぐさま頭を抱える(イメージで)。俺の素性が問題だった。転生憑依だった。

 

犬上小太郎。

 

魔法先生ネギま!における主人公のライバル。狗族なる妖怪とのハーフで、最終的にはそれなりに強キャラにはなるものの、主人公には強さの差を付けられてしまう少し微妙なライバル。

 

まじかぁ、と声を漏らしたつもりが、あうぁぁ、としか出ない。舌も口も未発達、母音すらもあまり覚束ない。

 

ネギま!という作品において、危機的状況は多数存在する。鬼神復活で京都がヤバイとか、魔法が世界にバレて大混乱するとか魔法世界消滅とか。その全てに犬上小太郎は当事者として巻き込まれる、或いは関与する。

 

つまり、その全てに関与しない選択肢を取ることで、魔法世界は多分崩壊するし、鬼神復活…はどうなるか解らない。そもそも俺が憑依したことによるバタフライエフェクトはどうなるのか。

 

考え、乳を吸って、寝て、漏らして。

 

何だかどうでもよくなった。

俺を抱く女性、母の温もり。優しい視線や言葉。それに絆されてしまったとでも言おうか。

あまり泣かない子供だし、母と違って耳も尻尾もある。母は人間であり、父はいない。必然的に人間社会での生活を母一人で、頼れる夫もなく、俺という枷付きでしなくてはならなくなった。

 

それでも必死に日々を生きる母の姿に、俺は後々の原作を気にしていられなくなった。

 

そんなこと考えるより母の生活を楽にしてやらねば。生後3ヶ月掛けずに立ち、言葉を喋れるようにしていく。幸い半妖という異常要素があるのだ。そこまでおかしいと感じずにいてくれた。或いは、勘づいても気にしない振りをしてくれたのかも。

 

原作において犬上小太郎は天涯孤独である。つまりこの母が死んでしまうのだ。

 

「…かあちゃんはおれがまもる」

「小太郎、何言うてんの?」

「な、なんでもない」

 

微笑ましげな母の視線から逃れるように顔をそらす。

 

犬上小太郎、生後11カ月の昼であった。




母は死ぬ予定でしたがなんか生かしてしまいました。
この先殺すかどうか迷ってます


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幼少期と言っても原作が既に幼少期

一万文字とか書ける気がしないっす


半妖スペックや前世知識を生かすことで俺にかかずらわされることが少しは減った母ちゃんではあるが、それでも忙しいことには変わりない。パートで金を稼ぎ、安アパートで子供と二人で暮らす。産後間もない体への負担は大きい。

 

というかだ。そもそも母ちゃんが若すぎる。パートに出す履歴書を見たが、15。中卒かと思うがしかし、俺は聞いた。実はうちの母、14。

父たるクソ妖怪に拐われたのが13。その後俺を身籠って、クソ親父は産まれるや否やすぐにどこぞへ消えた。

 

マジでクソ過ぎる。これでよく恨みとかなく俺に愛情注げたな、聖女かよ。俺の母ちゃん。

 

とにかくこんな環境じゃあ母ちゃん死んじまう。そこで考えた。

 

とにかく今は疲労を少しでも減らす。そのために、気とか使った治療ができないか、と。

 

ネギまにおける不思議エネルギーは三つ。魔力、気、二つの混合である感卦の気。

原作において犬上小太郎は気を主に使っていた。ならば俺にもその適性はあるはず。

そして何より、気とはいわゆるオド、体内の生命エネルギーであると説明されていた。これで持って、少なくとも母の疲労回復程度出来ないかという考えである。

 

まぁまず気の扱いでつまづいたんだがな!

 

前世はただの売れない役者である。ダンスとかアクロバットとか練習はしたが波動拳とか出せる世界の住人ではなかったわけで。

それでも気の存在を知っているというのは大きなアドバンテージになったのか、数週間で気はなんとか使えた。

最低限の気の感知と肉体強化は出きるようになった。

 

そんでもって愕然とする。母の気がかなり弱っている。

 

俺の気は半妖ではあるが、まだ一歳の子供だ。それが弱々しいと感じるならば、倒れる一歩手前なんだろう。

奮起した。うちに金はない。倒れたら病院にかかることも出来ない。そんな崖っぷちで倒れたら、本当に死んでしまう。

 

尻に火がついた俺は、僅か一日足らずで気による簡易回復を習得した。術式とかのムダはアホみたいにあるだろう。とりあえず今はこれでいい。

 

帰ってきたフラフラの母ちゃんに、申し訳ないが食事を用意してもらい、入浴を済ませ、眠るタイミングで簡易回復を使う。頑強な俺の体はもうベビーベッド(手作り)を使う必要がない。一緒に寝たいと我が儘を言って、回復をかけるのだ。俺の気が減っていく=俺の生命力が減る訳だが、伊達に半妖ではない。ちゃんと飯食って寝ればどうにでもなるのは実証済みだ。

 

「小太郎…あんた温いね…」

「ん、かあちゃんもぬくい」

「ふふ、そっか」

 

翌日、青白い顔だった母ちゃんは、少しましな白い顔で出ていった。

 

「よっしゃ」

 

出掛けるギリギリまで母ちゃんにしがみついて回復しただけあって、俺の気は既にレッドゾーン。出ていった五分後には、気絶するように眠りについた。

 

 

 

数ヶ月経つと、母ちゃんの肌が健康的な赤みを取り戻していた。

ニキビや肌荒れもなく、健康そのもの。

多分、回復のおかげだろう。ニキビを見つけた時に、回復の気を集中的に当てている。翌日にはツルツルの玉のお肌だ。

 

取り敢えず、喫緊の問題はどうにかなった。毎日の回復で、気の扱いには慣れてきたし、次の問題。

 

金がない。

 

まだ十代半ばの少女が住むにはこの安アパートは良くない。最低限の鍵、風呂トイレ共用、六畳一間の部屋。

 

どうにかならんかと考えたり部屋のものを弄るうちにヤバイものが出てきた。

 

玉手箱に入った大量の小判。

 

どう考えてもこんな場末のアパートに似つかわしくない財宝。蓋を持った手が震える。

どうしたのかと母ちゃんに聞けば、

 

「お父ちゃんがね、あんたのために、ってくれたんよ」

 

なるほど。ろくなことしないクソ野郎かと思えば、最低限のことは気を回したらしい。

しかし残念、評価は上がらない。何でって?こんな小判十代の少女が売れる訳ないだろう。下手すりゃ誘拐監禁や強盗の餌食だ。やっぱりクソ野郎だった。

 

とにかく、これの処理をどうにかせねば。こんなところ(非力な少女と幼児二人暮らし)にこんなもの(大量の小判とかいう厄ネタ)があれば、不味いことが起こる気しかしない。

 

結局、この玉手箱を処理出来たのは三年後。俺が気による変化術を身に付けてからだった。

 

原作でもあった、年齢詐称薬。アレの効果をどうにか気で再現できないかと頑張った。

気は、使い方次第で長瀬楓の用いた影分身のように実態ある分身なども作れる。この分身、粘土細工のようにある程度弄れるのだ。なので、自分の体にそのこね繰り回した分身を被せることで我流変化の術を体得。

我流変化術のお陰で、通常の幼児を偽ることも、逆に変身も可能。これにより、何となく裏っぽい(魔力とかやたら感じる)質屋に漸く行けた。

 

けれども、因果とやらはあるのだろうか。

 

「いらっしゃーい。査定か買い取りか知らんけど」

「…!取り敢えず査定を頼むわ」

「はいはい」

 

偶然訪れた質屋のカウンターに居たのは、和服に大きな丸眼鏡、つり目の少女。

恐らくは、天ヶ崎千草。修学旅行編の黒幕。

 

今はかなり幼げの残る少女だが、何となくキツネっぽいあの感じのままだ。

 

何でこんなところに、と考えるも、魔法使いも麻帆良で先生やってたりするのだ。陰陽術師が副業で質屋やっててもおかしくはない。

それに天ヶ崎千草の両親は、魔法世界の大戦で失われたとか。この店は、その遺産なのかもしれない。

 

「こいつや」

「んー?お、ざくざくやん。これどこで?」

「聞かんといて。んで、足がつかんように流したいんやけど、いくら?」

「ず、随分せっかちやな。んー…ほんなら、出所不明やし…前金で千やね」

「前金?」

「うちに今纏まった金ないんや。すぐに用意出来るんはそれだけ」

「解った。それで」

 

面食らったように目を瞬かせる。

 

「…ええん?口約束なんよ?」

「はようこんなん売っ払いたいんや。邪魔やねんこれ」

「ふーん…」

 

札束をぽいぽいと積む千草。じろじろと興味深そうに見てくるのに緊張する。

最後に手形を置いて、

 

「一月したらその手形持ってきぃ。お金用意しとくからな」

「おう」

 

風呂敷に包んでさっさとその場を後にする。その背中越しに声が掛かる。

 

「今度はその…ようわからん変化を解いて来ぃや?」

 

…見抜かれていた。

ネギまにおける天ヶ崎千草は、それなりに優秀な能力を持ち合わせているようではあった。自身の魔力(呪力)を大幅に上回る近衛木乃香の魔力を制御し、仮にも鬼神たるリョウメンスクナの封印を解除・操るという凄まじいことを仕出かしている。マンガではギャグチックな描写やその後のエヴァの大活躍、フェイトの強キャラ感で霞んだが。

 

それにしたって、見た感じ十代半ば…母ちゃんと同い年くらいだろう少女に見抜かれるとは。これでもかなり 完成度を高めたつもりだったのだが。

 

出会ってしまったのは仕方がない、怪しまれないように…なんて考えていたが、してやられた。

ため息を吐いて、あのボロアパートへと帰る。10日の後、俺たち親子はやっとまともなマンションに移り住んだ。

 

 

余談だが。

 

変化を解いて天ヶ崎千草に手形を渡した際、中々に形容しがたいすっとんきょうな声を上げて驚いてくれた。

その上でちゃんと金を渡し、飴を渡し、心配そうに見送りまでするという後の悪役らしからぬ姿まで見せられた。

意外と、優しいのだろうか…?




独自設定・解釈を多用しています

■犬上佳奈子(17)
名前を出す機会がないため母ちゃんとしか表記されないママ少女。ちょっぴりつり目の濡れ羽色な髪をポニーテールにした小柄な女の子。
クソ妖怪の狗族に惚れてしまったはいいが、小太郎を授かって産むや否や仕来たりとかで放り出される。最近生活が落ち着いてきて、冷静になってみると狗族のクソさ加減に気付いて愛が消え去っていた。
小太郎が普通ではないことは知っていたが、半妖ならそんなもんかと勘違いしていた。最近薄々気付いてきた。それでも我が子が可愛くてしょうがないらしい。


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原作開始時点の年齢でも小児という闇

短い


天ヶ崎千草と知り合ったのは、案外幸運だったのだろう。

俺も母ちゃんも裏の世界には全く伝がない。知識もないし、そして悲しいことに母ちゃんには同年代の友人がいない。

 

クソ親父の拉致監禁→受胎のクソコンボのせいで、母ちゃんは学校で得られる筈だった友情がない、或いは切れてしまった。

 

そんなところに千草は、俺たちに裏への繋ぎを取り、知識をくれ、何よりも母ちゃんの友人となってくれた。

年の近い友人が出来て、母ちゃんは笑顔が増えた。売っぱらった金で生活と時間にも余裕が出来て、母ちゃんと過ごす時間は増えた。

 

人間関係は広くはないが、それでもちゃんとした同年代の人付き合い。それが非常に母ちゃんの心を癒やしてくれたのか、笑顔が更に増えた。

 

「なぁ」

「なんや」

「母ちゃんのダチになってくれて、あんがと」

「アホ言いなや。良い奴だったから友達になったって、それだけや」

「…さよか」

 

びっくりするぐらい良い奴で、本当に原作からは想像もつかなかった。

こいつが、一般人として過ごす近衛木乃香を誘拐して儀式に使うーーそんなことが、まるで信じられないくらいに。

 

「ま、それとは全く関係ないんやけど、何か困ったことがあったら手助けくらいはしたるわ。母ちゃんのダチやしな」

「アホウ。ガキに頼るほど落ちぶれとらんわ。…前から思うとったけど、アンタホンマに子供か?」

「んー。体は少なくとも」

「体『は』か…やっぱりなんかの記憶があるんやな?」

 

実は結構内心ではビクビクしながらの暴露だったが、予想通りみたいな顔をされてしまう。拍子抜けだ。

 

「稀に居るんや。特に『裏』やとな。アンタは天才児って柄やない。いや天才やけど肉体的な感覚とか気の扱いとかは、って奴や。頭はそこそこって感じやな」

「………よう見とんな」

「独学で変化までやらかす変態の観察くらいはするわ」

「ひどっ!?」

 

変態評価には流石に傷つく。

 

「んで?どんな記憶や?過去の偉人とか…って柄やなさそやな」

「ん、まぁせやな。ホンマにただの一般人や。せいぜい売れん役者やっとったくらいか」

「はぁん。そら噛み合うわな」

「なんで?」

 

聞くと、千草はピッと指を立てる。探偵とか、教師みたいな。

…陰陽女教師千草、始まります。

 

「何や邪念感じたけど?」

「気のせいちゃう?」 

「…ともかく。役者は観察、再現、修正を執拗に繰り返す職や。自分の肉体使ってのトライ&エラーの繰り返し。それがアンタの肉体の才覚と噛み合った結果があの変態やな」

「変化や」

 

ひどい言い草である。昆虫でもないのに変態は勘弁。

…だからといって仮○ライダー無印とかで『変態!』って叫ばれてもそれはそれで悲しい。

 

「つかなんでそんな詳しいん?」

「呪術の祝詞は歌と近しいし、奉納の舞かてある。演劇は神降ろしや降霊に近い。芸は大抵霊能やら呪術に通ずるんよ。覚えとき」

「ほーん」

「じ、自分で聞いといてこの薄っすい反応…!」

「んにゃ、よう考えたら母ちゃん楽させんのに必要な情報やないなって」

「このマザコンが…」

「嫌いよかええやん」

 

胸を張る俺に千草は呆れて眼鏡のツルを押さえる。

まあこうした反応が楽しいのもあって、千草いじりはやめられんのだが。真面目さんは反応が良くて楽しい。

だから、ではないけど、コイツが好きなのだ。

 

「話戻るけどな」

「何や」

「本当に成し遂げたい何かがあるんなら、遠慮なく言えや。クソッタレなことでも、手伝うたる。母ちゃんのダチやからな」

「………そんな日が来んこと祈るわ」

 

嫌そうな、少しだけ嬉しそうな、そんな複雑な表情をして、千草はそっぽを向いた。

 

本当に、そんな日が来ないといいのだけれど。



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