仮面ライダーゼロワン 自滅のサンダーボルト (仮面ライダーさん)
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プロローグ ZAIAの新たな手駒

 

 

 

 

 

 水に沈んだ廃墟。過去の遺物。

 刻まれた忘れることがない惨劇の跡地。そこに、少女はいた。

(結局、一番最悪なのは人間よね……)

 笑ってしまうだろう? 世間ではヒューマギアというロボットを作る飛電インテリジェンスがZAIAという会社と何やらキナ臭い勝負をして、その行方を固唾を呑んで見守っていると言うのに。

 人類の夢、ヒューマギア。

 その存在は希望溢れるパートナーか、はたまた人殺しの兵器なのか。

 市民たちの思想が分割されるなか、自分はこんな扱いを受ける。

 ああ、やっていられない。だから人間は嫌いなんだ。死にたい。

 いい加減、本当に死にたい。生きるのは辛いことだって、どうして皆分かってくれない。

(いっそヒューマギアに殺されたいよ……)

 人間は悪意に満ちている。そんなもん、言われずとも知っている。

 というか現在進行形で悪意に苦しんでいる。デイブレイクタウンに置き去りとか、マジで容赦がない。

(だからバカに情報持たせるとろくなことにならないのよ……)

 こんな廃墟によくも置いてきぼりにしてくれた。死んでやる。

 もういい、こうなればここで自殺してやる。身代金? 知ったことか。

 保険金でも受け取れバカ野郎、と投げ遣りで混濁した思考は判断する。

 死にたいと思うのは人間ぐらいなものだろうか。

 大抵の生き物は生きたいと思っても、死にたいとは思わない。

 高度な知性を持ち、然し同等の思考ができるヒューマギアですら、死にたいという感情を理解できないはずだ。

 いい加減、生きるのに疲れた。死にたい。

 彼女は知らない。この場所に眠る、根源的悪意の存在を。

 

(……またマギアって奴か……)

 

 思い出す。

 この水没した廃墟。デイブレイクタウンという名前で、現在立ち入り禁止区域。

 そこに彷徨くは、のっぺらぼうのヒューマギア。

 インターネットで知ったがあれは暴走したヒューマギア、マギアという。

 見境なく人間であれば滅亡させるとか言いながら襲ってくる。

 ウェルカムだ。いっそ蜂の巣か首の骨をへし折ってぶち殺してはくれまいか。

 ……が、また見かけただけで何処かに消える。置いていかれた。

(鈍いなあ、あののっぺらぼう)

 数時間は経過しているが、この池だか湖だかの畔にも結構マギアは移動している。

 一時期、政府直属の組織のAIMSとかいう人が派手に戦った割りには減ってなくないか現状に。

 ここは閉鎖されているとは言え、正式に許可さえとれば入れるし無理矢理だって侵入できる。

 何がよくて人間ぶっ殺すマギアが屯する地獄に来るのかが理解できないだろうが。

 逆を言えば人間避けるにはここは最適と言うことだ。特に彼女のような場合は。

 そもそもここは12年前に、なんか大きな爆発事故が起きて大惨事になったらしい。

 詳しくは割りと知られている情報だが彼女は知らない。

 生憎と、彼女……石動澪は興味がない。ヒューマギアとか人間とかどっちも嫌い。

 ヒューマギアは人間そっくりで気持ち悪いという古い考え方で、人間はそもそも嫌。

 特にヒューマギアを嫌がるのに深い理由などない。

 単純に気持ち悪いという感情を抱くのに訳がいるのか?

 社会に蔓延る気持ち悪い鉄の塊。正直ドン引きである。

 あんなのは介護やら医者やらの人手が足りない激務でもやらせておけばいいのになんでここまで増えたのやら。

 一時は滅亡迅雷なるテロリストに利用されて避難と排斥の的だったのに。

 暴走すると人間に襲い掛かり、殺そうとする。

 故に今でも根深いヒューマギア排除の運動も見る。

 ZAIAはその筆頭みたいなもので、飛電インテリジェンスを買収してヒューマギアを社会から消すとまで言う始末。

 澪は極めてどうでもいい。寧ろ殺せヒューマギア。自分を。

 本当に、いい加減死にたい。

 宛もなくさ迷っていく。マギアに会いたい、殺してほしい。

(もうマジで最悪だ……デイブレイクタウンで死ぬのは良いけど、何でマギアに会わないのあたしは)

 外に出ては遠くに見える、沈んだ都市部を眺める。

 入水自殺でもしてみるかと思う。水だけはたくさんあるし。

 希望のマギアに会えない以上は自殺するしかないだろう。

 死にたい理由は喧しい家庭にある。

 学校は普通……いや、金持ちの子供ばかりで常識がないというか世間知らずというか。

 かなり偏る環境には違いなく、話が通じない。

 どいつもこいつも、家庭環境は円満でこっちの苦しみなどわかるはずもない。

 分かりやすく言うなら病んでいると言えばいいか。澪はかなりストレスで、病んでいた。

 マトモな思考など出来ていない。そもそもここに居るのも、誘拐されたのだ。

 澪の家は資産家であり、祖父はそれなりに大きな財閥の当主である。

 澪はその孫娘。祖父は特にZAIAを贔屓にしており、近々澪にプレゼントを寄越すとか言っていた。

 ……それが荒れている家庭環境の原因なのだが。

 澪の両親はヒューマギアを信奉する。要するに飛電インテリジェンスの作る製品が好ましい。

 対して祖父はヒューマギアを喋る人形、生意気な鉄屑と蔑む。だから揉める。

 嫌なら出ていけ。毎日毎日、家の中で下らない事で喚いては喧嘩して。

 巻き添えを否応なしに食らう澪の立場になれと思う。

 長いこと、家族同士で不和が続き、ここ最近では本当に酷い。

 情勢も鑑みてとうとう、祖父はヒューマギアを世界から消すと、ZAIAのスポンサーになってしまった。

 そこの社長は裏では真っ黒い噂が絶えない危険な人物だと言うのに、祖父はなんとZAIAに孫娘に兵器を独自に開発、スポンサー権限で渡すように依頼しているらしい。

 暴走するヒューマギアの事件が多発していた時期を超えているが、依然としてヒューマギアに不信感を抱く一部はヒューマギアに理不尽な暴力を震っては器物破損で捕まる。

 AIMSという専門の仕事をしているお役人が居るのにどうして民間人にそんなものを持たせる。

 聞けば到着前に死人が出てないのはただの奇跡。

 此れからはヒューマギアから自分の手で抗って生き残り、未来を作るとか祖父は言うが。

 で、澪は高校生ながら普通に生きている一般人。

 両親がボディーガードにヒューマギアを使っていたが、因みにそのヒューマギアが倒された。

 今朝、登校していると道を訊ねる通行人が澪に聞いていた。

 面倒そうに渋々応答すると、ヒューマギアが下がれと警告。

 なにと思えば、ハンカチを口元に押し付けて、くらっと意識が落ちた。

 で、再び目覚めるとデイブレイクタウンに放置プレイ。尚、携帯が無事だったが圏外。ふざけんな。

 近くには壊されたヒューマギアが残骸になっていた。辛うじて動いたので理由だけ聞く。

 身代金目当ての誘拐だとヒューマギアは言った。護衛できずに申し訳ないと無機質な顔を剥き出しにして言う。

 通報はしたが、恐らくここはデイブレイクタウン。随分と遠くに来ていた。

 ヒューマギアが最後になにか言うが、無視して見捨てる。

(……使えねぇわねヒューマギア……)

 負けているんじゃ何のために居るんだボディーガード。

 で、迷子になって数時間。マギアに出会うこともなくここにいる。

 金持ちの娘のせいで誘拐されて、捨てられた。マギアのいる地獄にだ。

 色々と面倒臭くなってきた。本気で死のうと、水辺に近づく。

 誘拐されたならここで五月蝿い身内に戻る前に、ここで果ててやると。

 然し……岸辺に、なにか転がっていた。

 億劫そうに、それを見下ろす澪。泥だらけだが、銀色の……アタッシュケース?

 蓋が壊れて開いている。意味もなく蹴り飛ばすと何か入っていた。

 水底にでも沈んでいたか。何やら見たことのあるようなカードキー。

(あれ……? これ、ジジイが言ってたプログライズキーとかいう装置じゃないの?)

 祖父が以前に言っていた、飛電インテリジェンスとZAIAで使うとかいうプログライズキーという装置に見える。

 軽く拾ってみた。冷たい質感の金属に、妙なシルエット。

 英語は……ウサギや亀、あとは……アルマジロ。

(何これ?)

 なんじゃこれは。映像の中身でしか見たことない。

 どっかで飛電の社長などが使っているのを見たことがあった。

 使う前にどこかのボタンを押していた気がして、曖昧な記憶を頼り、適当に探して押した。

 ステップ! ボール! シェルター! 

「……オモチャ?」

 何だか分からないが、どうにもオモチャに見える。

 これで仮面ライダーとかあの社長は言っている、スゴいのに変身するのか。

 なんか落ちていた。まあ、貰っておこうと思う。冥土の土産。

 ポケットに全部放り込んだ。落ちていたから澪が貰おう。どのみちどうせここで……。

 

「おや、やはり此処だったかお嬢さん。大丈夫かい?」

 

「……ん?」

 

 振り返ると、何度か顔を見たことのある人がいた。

 気品溢れる白い服装の、優雅な物腰の男性が微笑みを浮かべて立っていた。

 余裕のある、大人の男性。一見するとモテそうだが独身である。この唯我独尊の性格が酷すぎて。

「ああ、なんだおっさんか。相変わらず警察より早いじゃん。なに、あたしでも助けに来てくれたの?」

「……質問に答える前に一つ良いかい、お嬢さん。私のことはお兄さんと呼んでくれと何度言えばいいのかな?」

 澪がおっさんと呼ぶとひきつった顔で訂正を要求する。

 祖父がスポンサーをしている企業、ZAIAの社長の天津垓という人物がそこにいた。

 澪にとっては、祖父の知り合いの知り合い。要するに他人だった。

 祖父が商談をしたりするときにたまに喋っていた程度。

 胡散臭い笑みを浮かべているので澪は彼も嫌いである。

「うっさいなぁ。ジジイに言われて探しに来たんでしょ?」

 嫌いなので態度も悪い。折角のチャンスを邪魔されたので不機嫌なのもある。

 どうせ、慌てた祖父が警察よりもAIMSよりも早く信用できるとして垓を寄越したに違いない。

 両親はこう言うときにヒューマギアを使って探そうとするから鈍いのだ。

 自分で探せと思うのは澪の傲慢か。

「大事なスポンサーのお孫さんだ。私が直々に出向くのは当然だろう?」

 優雅に笑うが若干怒っているのは雰囲気でわかる。

 スポンサーの身内なので無礼も許しているだけだ。

「別にこのままでもよかったんだけど。若作りしている中年のおっさんに助けられてもねえ……」

「おっさんではない。私は永遠の24歳だと言ったはずだが」

「見た目は完全にそうだけど中身中年じゃん。いい加減結婚しなよ俺様中年、行き遅れの癖に」

「余計なお世話だと言わせてもらおう。戻ろうか、お嬢さん」

「へいへい……」

 安全と帰り道は確保したからついてこいと垓は背を向けた。

 澪の軽口にいちいち突っ込みを入れながらついていく。

 とりあえず、拾ったプログライズキーは、垓に渡す。

「おっさん、今そこでプログライズキーあったんだけど」

「あぁ、そうだった。それはZAIAの開発したものだ。返して貰おう」

 一度立ち止まり、垓は振り返った。

 取り出したプログライズキーを投げて渡す。

「済まないね。先日開発部がここいらで稼働実験を行っていたんだが、マギアに襲撃された際に水没させてしまったらしくて、回収も兼ねていたんだ。スゴいだろう、ZAIAの技術は」

「いや、知ってるし。この会社がショボいとか言ったら世界基準おかしくなるじゃない。大体、部下の危機管理甘いんじゃないのZAIA。そんなことしていると、飛電インテリジェンスに反撃されるよ。あと本社にもね」

「心配ご無用。本社の方には予防線は敷いてあるとも」

「飛電インテリジェンスは自分で潰すってか。用意周到なことで」

 そもそも垓はあくまで日本支部の社長であり、本社は外国らしい。

 どう見ても垓の私怨が混じる政策を本社が看過しているとは思えない。

 一度試しに澪は本社に密告してやろうかと冗談で垓に言ったら激怒された。

 止めろ、とのこと。根回しと情報規制は凄く大変なので、絶対に言うなと口封じに賄賂もらった。

 そろそろ家庭環境が嫌なので、垓から祖父に言って貰って現在は漸く独り暮らししている。

 ある意味恩人。こんな悪党みたいな笑顔のおっさんでも。一応は。

「そうそう。そろそろあれも完成しそうでね、お爺さんにお嬢さんの希望をなるべく聞いてほしいと言われている。使いたいプログライズキーなどはあるかな? 出来る範囲で用意しよう」

「本当利益になるときは親切だよねおっさん……。何でもいいの?」

 垓は上機嫌で自慢気に話す。

 意気揚々と祖父が大金注ぎ込み、開発費を全額負担して出来上がった物は、ZAIAには美味しいモノらしく。

 気前よいのは、残ったデータも全部ZAIAが使えるからか。

 曰く、

「安心の技術で安全な兵器を。そう、依頼されてる以上は徹底的に信頼できる技術を用いて開発しよう。プライドがあるのでね」

 とのこと。

 プログライズキーとかいう単語も垓から聞いた。

 これもその内、一般販売されるとか言うし、恐ろしい世の中である。

 ヒューマギアを目の敵にして、それ終わったらどうするのか知らないが羽振りが良すぎると戦争を起こすビジネスになりかねないが……。

「動物だっけ? んじゃさっきの頂戴」

「……これでいいのか? 量産試験品なのだが?」

 垓は意外そうに澪を見た。特に希望がないが、さっきのでいいと。

 聞くには、軈ては量産するプログライズキーの試験品。ウサギとアルマジロと亀。

 あまり、性能は高くなく、受け取った金額に釣り合わないとか言い出した。

「んじゃあ既存品の余ってるのとかも纏めてとか」

「あぁ、成る程。バックアップの予備で良いなら、纏めて渡そう」

 プログライズキーはデータさえあれば、複製は簡単と言うし我が儘も少しは言っても良かろう。

 どのみち、そう長くは生きたいとも思わない。早く死ねるなら、なんだっていい。

「あと、それほしい」

「……これかい?」

 ふと見ると、真っ赤なプログライズキーを垓は持っていた。

 再び背を向けて歩き出す垓に、澪は欲しいと求める。

 一瞬だったが、見えたのだ。絵柄の上に、澪が思わずこれがいいと思う文字があった。

 絶滅。そう記されたプログライズキー。

「これは特別なプログライズキーでね。ゼツメライズキーと言うんだ」

「なにそれかっこいい」

「……君の感性は理解しがたいな……」

 特別なプログライズキーというのに反応したのではなく絶滅に反応していると垓は気付く。

 呆れる。事情も知らずにゼツメライズキーを欲しいと言うこの少女。

 だが、ゼツメライズキーを使用して変身する人間は、自分以外では果たしていたか。

 純粋にゼツメライズキーのみで、人間が変身したらどうなるか。それは興味深い。

 その技術は手元にある。

 融合してまとめあげれば、通常は不可能なゼツメライズキー単体の変身も不可能ではない。

 この口実を使えば、手を汚さずにモルモットのよる技術の応用も発展も手に入る。

 ……それはそれで、手駒が増えて悪くない条件であった。

 ニヤリと垓はほくそ笑みを浮かべた。

「分かった。では、ゼツメライズキーによる変身も出来るように工面してみよう」

「マジで!?」

「データも貰えるなら此方にも利益がある。私も興味がない訳じゃないのでね」

 と、一応話しておく。建前として。

 あとで何を言おうが説命じておいたとこれで言える。

 事実が大事なのである。

 無邪気に大喜びの澪を見て、新しい駒が使えるようになる天津垓。

 悪党と死にたがりの割りと腐ってる同士のコンビが、飛電インテリジェンスに襲いかかる。

 そして、後日。飛電の社長は対峙する。

 既にいないはずの、目の前で砕けたはずの存在と。

 

「や、止めるんだ石動さん! それは、使ったら不味い代物なんだ!!」

 

「あーあー聞こえない聞こえないー! 兎に角あんたもあたしと一緒に死んでよ、飛電の社長!!」

 

 自分勝手な共倒れ、強引な無理心中の化身。

 戦うならば相手も共に諸ともくたばる、近寄りたくない第三勢力。

 人間だろうがヒューマギアだろうが、殺してくれるなら大歓迎。

 その代わり必ず殺すようにどんなこともする、最悪の高校生。

 

 ドードー!

 

「遊ぼう、飛電の社長……じゃないとあんたの秘書を暴走させちゃうわよ!!」

 

 レイドライズ!!

 

 ゼツメライズキーを使った唯一のレイダー。

 凶暴な雷鳴が、再び彼らと遅いかかる。

 ドードーレイダー、その覚醒が……ゼロワンの未来を、絶滅上等で邪魔をする。



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レイドライザー

 

 

 

 

 

 

『ゆーるーふーわー!!』

「…………」

 日曜日、誘拐の被害者は自宅にいた。

 日課の朝にやってる魔法少女的なアニメを眺めて黙ってエンディングの躍りを高校生にもなって踊ってる。

 画面では白いテディベアがメルヘンに舞い上がり、澪も真似て舞い上がる。転んで顔面殴打。

 あとの話をしよう。

 誘拐の被害者、石動澪の救出はそれなりに話題になっていた。

 これでも一応、石動財閥の身内。物流で一世代で財を築いた石動宗一郎の孫なのだ。

 彼女をさらった阿呆たちは、見事に逮捕されていた。

 彼女の救出には今話題のZAIAが人命救助の為に危険なデイブレイクタウンに単身向かい、助け出したと報道している。

(おっさん……あんた印象操作好きだねえ……)

 当事者から言えば垓はなにもしてない。普通に助けに来た。

 というか、ついていったらのっぺらぼうがぶっ壊れて残骸になっていた。

 垓は邪魔なので纏めて廃棄したとかどやっと言うし、相変わらず物騒なことをしている。

 世間では垓は幼い子供を救った救世主扱いである。

 あの野郎、澪を出しに使って自分の印象まで上げやがった。

 汚いと普通に思う。そりゃ救いに来るわけだ。見返りがあるんだから。

 両親は慌てふためいて役に立たない。ヒューマギア? 廃棄された。

 と、澪は警察に事情聴取を受けたときに事前に余計なことを言うなと口止めされたので、一切言わない。

 代わりにプログライズキー弾むと約束した手前、当然だろう。

 あと、垓の事をありったけ誉めておく。イケメン敏腕社長とでも言っておけば良かろうとあることないことプラスに言いたい放題言っておいた。

 実際俺様だが天才だし、正直言えば飛電インテリジェンスの社長、飛電或人よりもずっと有能だと思う。

 但しその前に意地汚いが、と小声で付け加える。

 飛電或人は本当にひどい。画面でゆるふわという名前の白いテディベアが、次回はユニコーンに変身すると予告が流れるのを眺めつつ評価を思い出す。

 飛電インテリジェンスの築いてきた信頼を突然現れてぶち壊した無能社長。

 熱意だけが空回りして、ふざけているのかと時には言われるほどの才能なし。

 企業のイメージを一気に底に落とし、ヒューマギア事業では常に後手で対応が遅い。

 絵に書いたような社長にしてはいけない、無能な働き者。

 と、概ね酷評だ。実際ヒューマギアを使う両親ですら、

「あの若いのはダメだわ。何の経験もなく社長やってる子供みたい」

「気持ちだけでヒューマギアの有効性は証明できないのを分かってないな」

 などと冷酷に本人に言って、落ち込ませたらしい。

 祖父がZAIAなら、両親は飛電インテリジェンスの顧客。

 世間の対立が身内で発生している澪は、居心地が悪くて当然である。

 両方嫌い、という結果になったのも板挟みと振り回されているから。

 頑張る気持ちはわかるが、下積みがない飛電或人は若すぎる。

 好意的な人間にすらそういわれる始末。辛辣な事を言われても仕方無い。

 滅亡迅雷なる変なテロリストにヒューマギアを悪用され、大丈夫と言った矢先にまた暴走。

 で、解決したらしたで別口で暴走する。結局暴走するじゃないか。

 ヒューマギア排除の連中に言われて本人も反論しないゆえに悪化する、飛電インテリジェンスの評価。

 クラスの経済に詳しい生徒は言っていた。

「一度警察に捜査されている会社が続けているのが奇跡なんだよ。あの会社は、お得意様が多いからね。そして、ヒューマギアの事業に関しては敵無しだから、生きてるに過ぎない。普通ならとっくに倒産しているよ」

 確かに以前、捜査を受けている。世間的にはそれだけでNGを出す人間も多い。

 それでも倒れないのはヒューマギア事業の独占のお陰であり、それさえ奪われればZAIAに食われて無くなるしかないと冷静に分析する。

 イメージが悪すぎるが、ことヒューマギアに関しては代用ができず、既に幅広く社会に溶け込むから直ぐには排除できない。

 それが、飛電インテリジェンスの生きている理由。

 飛電或人の努力ではないのだ。多少回復しても、根本が彼の手で破壊されているのも事実。

 もしもZAIAに食われてしまえば飛電インテリジェンスは最早用がない。消えても誰も困らないと言う。

 同時に、ヒューマギアに変わるものもZAIAは開発すると予想していると聞く。

 今度はちゃとした普通の機械で、人工知能など存在しない道具として。

 否定するなら、否定したあとに抜け落ちる穴も塞ぐ代替案をあげる。

 そういう基礎もZAIAと天津垓は出来ている。故に信頼されて、ZAIAは世間的には評判はいい。

 詰まり、だ。

 今の世間は飛電インテリジェンスは悪で、ZAIAは正義なのだ。

 その裏で垓が汚い事を平然としていても誰も知らない、責めない。

 知らぬが仏。彼が言った、会社のイメージが儚いとはそう言うことなのである。

 真実を知るのは、垓に野良犬と揶揄されぶちギレる若い男。

 垓に命じられるままになっている部下の女に、飛電或人とその秘書。

 そして、後ろに立っているが顧客として眺めつつ、一面を見ている澪ぐらいだ。

 澪は特にそういうどうでもいい会社同士のいがみ合いなど気にしない。

 真実がどうであれ、天津垓の知られざる大罪が表沙汰になれば彼は破滅する。

 大体、生きるのに嫌気がしている子供にそんな構図が何になる。

 澪は興味がない。ただ、垓はビジネスとして関係が出来ている。

 澪はお客で、垓は社長。そういう関係である以上は、深入りしない。

 金は払った。ならば、そのぶんを寄越せというインスタントな関係こそがベスト。

 実際澪は飛電或人の顔を映像でしか見たことがない。故に感じることもない。

 なにも知らない相手に嫌悪感を抱けるほど、澪はもう子供じゃない。

 嫌悪するのは、生理的に無理なヒューマギアだけでいい。

 両親が誘拐されたのを切っ掛けに、新しいヒューマギアを購入しているようだ。

 折角始めた独り暮らし。それを邪魔されたくないし、そもそもヒューマギアとの共同の生活など寒気がする。

 それを阻止するべく、今日は垓と会う。例のあれが……仕上がったらしいので受け取りに向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんおっさん、遅れた」

「お兄さんと呼びなさい」

 魔法少女的な番組のエンディングの振り付け覚えようとして踊ったら転んで気絶した。

 目の前にゆるふわな白いテディベアが飛んでいるのは覚えている。

 あるオープンカフェのテラスで待ち合わせしていた澪は遅れて向かうと、コーヒーを優雅に飲みながら自社のCMを愉悦した顔で眺めるナルシスト中年がお付きを連れて待っていた。

 コマーシャルにも己で出ている辺り、筋金入りのナルシスト。

 お付きはどこかお疲れの顔で立っていたが澪のおっさん発言を聞くたびになぜか笑いを堪えるような表情になる。

「時間よりも遅れているがどうかしたのかな?」

「ごめん、気絶してた」

「気絶!?」

 余裕のある垓は適当に聞き流すが、そばにいたスーツ姿の長髪の女性はばっちり反応する。

「気絶って、大丈夫なのか澪ちゃん!」

「あぁ、大丈夫だよ刃さん。あたしこの程度じゃ死ねないから」

 刃という名前の女性は毎度破天荒な澪にイチイチ反応する苦労人。

 あと、稀にボケる垓にも笑いを必死に我慢する事もあり、中々大変な立場の人。

「日曜の朝にアニメを見ながら踊るからそうなるんだお嬢さん。私の知る不破という生き物はそもそもテディベアではなく、ただの野良犬だがね」

「相変わらず酷い言いぐさだねおっさん……。あたしの好きなゆるふわとその野良犬だか野良ゴリラだかと一緒にするのやめてマジで」

 マスコットとリアルの人間を混同するなと澪は文句を言いつつ、野良ゴリラ発言に何故か吹き出す刃。

 誰だか知らないが不愉快そうに垓が顔をひそめるので、余程愛称が悪いんだろう。

 因みに澪の趣味を知っているので垓は容赦なく否定してくるので嫌い。

「早速本題に入ろうか。お嬢さん、コーヒーでもどうだい?」

「頂きます」

「宜しい。人の好意は素直に受け取るものだよ」

 澪には時々独自の価値観で教育をする垓。

 野放図と彼が実は言っている澪に、教え込むように刷り込む。

 ウェイターが持ってきたホットコーヒーを受け取って例を言うと、満足げに微笑む。

「さて、お嬢さんの為に、ZAIAの技術を集めて開発した兵器が、これだ」

 と、垓は机の上にそれを置いた。

 大きな……カードケース?

 斜めになった黒いホルダー。

 赤いボタンが一つだけ、大きくついているシンプルな外見。

 銀色の無機質なベルト部分。全体的に素っ気ない武骨な兵器だった。

「レイドライザー。まだ、一般販売を始めていないが、何れは販売する予定の民間人がヒューマギアに対抗するための力だよ。お嬢さんの場合は、多少出力の上昇や独自の改良を加えた先行型になる」

「なにこれカッコいい」

 垓が説明しているのに澪は遮って素直な感想を言った。

 滅茶苦茶カッコいい。そう、目を輝かせ呟く。

「……フッ。称賛の言葉として受け取っておこう」

 その反応には、普段ならば説明しているのに割り込むと不機嫌になる垓も気にしない。

 思わず手にとって、あちこち見つめる澪は新品のオモチャのように嬉しそうに弄っている。

「色合いめっちゃ好みだこれ。いいじゃん黒と赤のこの感じ! 機能性とデザインの折り合いも完璧じゃない!? 真横にするより敢えて斜めにして入れやすさ重視するとことか流石はZAIA!」

 珍しく、はしゃいで褒める澪に益々機嫌の良くなる垓。

 自慢するように滔々と語り出す。

「気に入ってもらえて何よりだ。やはり量産する手前、余計な機能は徹底的に省いて操作性を重視した結果だが」

「使いやすさは重要だよやっぱり! ややこしい操作よりもマニュアル見て一発で分かる単純な構造が一番だよね!」

「お嬢さん、君はよくわかっている。そう、時にはシンプルに仕上げることも大切だと言うことさ」

「いやいや、おっさん凄いの作ったんじゃない!? うわー……すっげぇ、これ良いなぁ。あたしこう言うの大好きだわ……!」

「……何故だろうな。久々に気分がいい」

 一応兵器の話をしているのだが、澪はレイドライザーというもののデザインが気に入った。

 恍惚として持ち上げて観察している垓には、心の底から彼女が絶賛していると見て分かる。

 刃のみ、どこか複雑そうな顔で見ていたが……。

「レイドライザーの素晴らしさはデザインだけではないよ。無論、スペックも1000%満足してもらえるだろう」

「既に満足だけどまだ何かあるの!?」

 澪が興味津々に垓に訊ねる。

 刃が見たことないぐらいご機嫌な垓は、机の上に大量のプログライズキーとゼツメライズキーを広げて教える。

「今目の前にある全てが、レイドライザーただ一つで使えると言ったら?」

「本当に!? すっげー! こんな無駄のない外見なのに此処までハイスペックってマジなのおっさん!?」

「フッ……マジと言えばどうする?」

「尊敬する!」

 あぁ、あまりに純粋に澪がベタ誉めするから垓がどんどん羽振りが良くなっていく。

 というか、垓を素直に此処まで褒める相手が珍しいので彼も顧客以上にサービスしている。

「驚くのはまだ早いぞお嬢さん。なんとレイドライザーの汎用性は大抵のプログライズキーに使用できる。お嬢さんのレイドライザーはゼツメライズキーにも対応しているから、更に高いポテンシャルを秘めている!」

 自社製品のアピールに白熱していく垓に、比例して驚き素直に反応する澪。

(何だろう……嫌な予感しかしないのはなぜだ)

 黙ってやり取りを見ている刃は思う。

 絶対これ、ろくなことにならない。

 その予感は……後日、見事に的中する。

 兎に角澪は約束通り、レイドライザーを入手したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これがおっさんの言っていた野良ゴリラの方の不破さん!」

「初対面で喧嘩売ってるのかお前はッ!?」

「お、落ち着け不破……うん、落ち着いて……ぷっくく」

「刃はなに笑ってやがる!? お前も俺を虚仮にしに来たのか!?」

「うわー……思ってたのと違う……。なにこのゴツいふわ……。可愛くねえ」

「男に可愛くねえとか言うな!!」

「あたしはゆるふわならぬゴリラ不破は、認めないからね」

「何しに来たんだお前らはぁああ!!」

 



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強襲者

 

 

 

 

 

 

 レイドライザーを受け取った澪が垓に言われたことは一つ。

 先行したレイドライザーで、量産に向けたテスターをお願いしたい。

 一種の試作品のような一面も持つ澪のレイドライザー。

 調整用のデータが欲しいと言われるも、誰と戦えと?

「あれ? 飛電インテリジェンスってもうマギアに対抗策持ってるよね?」

「なに、それは物理的にすれば良いだけの話だ。これを使えばいい」

 と、今度は銀色の無機質なホルダーを渡される。

 垓は手を組み、物騒な笑みを浮かべる。

「これはゼツメライザーというヒューマギア専用のもの。レイドライザーとはまた違ったものだ」

「……ちょ、おっさん。嫌な予感するんだけど。これ使えって、マギア自分で作れって言うの!?」

 話の流れを聞いて澪は青ざめた。

 垓は要するに、暴走を止めているのは接続であって、自分からすればいいとか言い出したのだ。

 これ使えばマギアを自分で作るとか言う意味に聞こえたが、垓はと言うと。

「そういうことになるな」

「待って、それ確か人工知能特別法違反じゃん!」

 人工知能特別法。

 詳しくは知らないがヒューマギアなどに関する法律で、その中に無許可と分かっていてヒューマギアに改造を施すのは禁止されている。

 この場合は完全に無許可だ。

「必要な措置だ。向こうも人間には手出しは出来ないが、悪意を持ったヒューマギアは人間に攻撃する素振りを見せる。言葉だけだが。そこで、だ。抜け穴が存在するのだよ」

「やらないよ!? 飛電インテリジェンス敵に回すじゃん!!」

 裏技のように言うが禁止されていることをするのは澪は控えたい。

 垓はヒューマギアはぶっ壊しても、何度でも甦るから問題ないと豪語する。

「問題あるっての! 此方から無意味にぶっ壊すことと、改造することは問題!」

「いやいや、そうじゃない。お嬢さんにしろと言うんじゃない、自らやらせるんだ」

 垓は甘いと優雅に笑う。刃が流石に顧客にそれをと苦言を呈するが。

「ならば、君がお嬢さんのお目付け役になればいい」

 刃が代わりにやれと垓はしれっと命じた。

 思い切り躊躇う刃の表情などお構い無し。

「おっさん……暴れないヒューマギアぶっ壊すとか言ってる内容がヤバイって。発想が見境のないテロリスト顔負けだよ」

「なら、奴等の意思で暴れさせる。人工知能とて、感情が芽生えることがあるらしい。逆手に取るという訳だ」

 ナンセンスと嘲笑しつつ、垓は説明する。

 即ち、自我に目覚めたであろうヒューマギアに挑発し、暴走を誘発させる。

 何だって構わない。罵倒するなり、壊れない暴力に反しない程度に攻撃するなり。

 少なくとも、ヒューマギアに対する罵倒は法律に反しない。まあ、道具なので当たり前だが。

 然しヒューマギアは罵りを受けると直ぐに憎しみや怒りに飲まれて激怒する。

「ヒューマギアは所詮人工知能。感情を抑える理性が存在しないのだ。故に、挑発して出来るものならやってみろとゼツメライザーを渡してバカにすると、使用する。つまり、ヒューマギアの意思で暴走するなら我々は悪くない」

「姑息だ……姑息すぎる……」

「失礼な。頭脳プレーと言ってくれ」

 言うなれば、我慢できない子供をバカにして先に殴らせる戦法。

 ヒューマギアの感情は子供と同じで我慢がない。爆発が直帰。

 だから誘えばた大体乗っかる。先に手出しをしたのはヒューマギア。

 人間様は悪くない。罵倒? それ違反じゃないよね? と、開き直る。最悪な考え方だろう。

 だが、刃も事実と補足する。

「危険なのは変わらない。結局マギアは見境ないとはいえ、真っ先に澪ちゃんを狙ってくるだろうな」

「おっさん、それいいね! 頂戴! オーケー、あたしに任せろ!!」

「話を聞いていた!? 危ないって私は言ったんだけど!?」

「危ないからやるんじゃない!」

「はいっ!? 何を言っているんだ!?」

 澪は手のひらを返した。マギアになってきて襲ってくるなら話は別。

 率先してやると言い出した。唖然とする刃に、澪は言った。

 澪がやりたくないのは、改造と襲ってこないヒューマギアへの攻撃。

 禁止されていることをやっても、生き残れば面倒なことになるのは目に見えている。

 そんなもの、意味がない。ただの破壊に価値は澪は感じない。

 澪は望むのは己の死ぬこと。言い換えれば戦争だ。殺しあうチャンスだ。

 自分から襲ってきてくれて、尚且つこっちが挑発するだけなら特に問題あるまい。

 やれるものならやってみろヒューマギア、と罵れば怒って殺しに来る。

 澪からすればバカを言っているだけ。あとはゼツメライザーを与えて選択の自由は向こうに与える。

 それなりにリスクはあると垓は言った。

「無論、ゼツメライザーを飛電インテリジェンスに回収される可能性もある。なのでヒューマギアが撃破された場合、あるいは元通りになってしまった場合はゼツメライザーそのものが自爆する機密保持の機能も追加しておいた。安心して使ってくれていい」

「うわぁ……」

 最低すぎる。気にくわない飛電インテリジェンスを物理的に邪魔するなど、発想が社長の言うことじゃない。

 澪もドン引きだった。まあ、死ねるチャンスがあるなら何でもいい。了承して受けとった。

 ゼツメライザーにはゼツメライズキーを使うので無くしたら補充すると言う。

「補填出来るんだ」

「まあ、専用の設備が必要になるがZAIAの企業秘密と言うことで」

 含み笑いの垓はそろそろ時間だと立ち上がった。

 これからまた取り引きする会合があるので出ていくと言って、刃に言った。

「何かあれば彼女が対応しよう。何かと私も多忙なのでね」

「はーい!」

 刃の連絡先を聞いて、垓がお会計を済ましに行くと。

「社長。少し、澪ちゃんとお話をしていても宜しいですか?」

 刃が澪にこれからの事を決めたいと言って、垓も一任すると歩いていく。

 去っていくのを見送り、大きな溜め息をついた刃。

「澪ちゃん……こんなことを言いたくないが、ZAIAにあまり深入りしない方が身のためだぞ? ここは君が思うような綺麗な会社じゃない」

 警告か。垓が見せた一面に無邪気に喜ぶ彼女への。

 が……。

「興味ないよ。綺麗だろうが汚かろうが。あたしは、そんなもんどうだっていい。あたしには関係無い。所詮単なる実験台のモルモットだもの」

「!!」

 刃が目を見開く。

 澪は自分がモルモットだと、自覚していた。分かっていて受け取ったらしい。

 子供をあまり侮るなと、逆に澪は指摘する。

「裏じゃなんかキナ臭いことしているって、有名だよZAIA。うちの学校は金持ちの子供ばっかだからそういう噂はよく聞く。ま、飛電インテリジェンスの悪名のほうがみんな興味あるし、ZAIAだけじゃないんだよこういう裏話。こんなの、どこにだってあるものよ。珍しくもないわ。あたしはZAIAにとっては体のいいただの実験台じゃなきゃ、トントン拍子に話が進むわけがない。わかってないのはジジイ一人」

「……澪ちゃん」

 金持ちの感覚は汚いことありきの企業の戦略。

 身綺麗で金持ちになれるかと言う、独特の解釈だった。

「あたしは傍観者だし、飛電インテリジェンスと対立しようが知ったことか。ただ、ヒューマギアもあたし含めて人間も、全部嫌い。だから自分がモルモットでも全然気にしないで好きなように振る舞う。滅亡迅雷って連中が言ってたんだっけ? 人間は悪だって。その通りですが何か、ってね」

「…………」

 けらけら笑って、悲痛そうに見ている刃に気にすると疲れると告げる。

 人類は性悪説。性善説など有り得ないと嘲笑う。

「それにさ、大人は立場がある。縛られるから大変だと思うわ。けど、あたし子供だし、好き勝手しても周囲が巻き添えを受けるっておっさんも分かってる。巻き添えを利用しておっさんは更に上にいく。あたしを使うってことに何も反論はないよ。やってもいい。あたしもやりたいようにしていく」

「それが命懸けでも?」

「当然。……ううん、違う。命懸けじゃないとやる価値がない。あたしにはそれがメリットだもの」

 モルモットが暗に死ぬかもしれないと教えたのに澪は言い切った。

 命懸けじゃないと何も意味がない。

 命懸けこそが、澪の求める見返り。唖然とする刃。

「ヒューマギアとの戦争。人間同士の戦争。構わないよ。誰でもいい。あたしを殺せる相手なら、ヒューマギアだろうがマギアだろうが、人間だろうが、喜んで殺しあいをしてあげる。戦争じゃないと、あたしはただの人殺しだもの。殺したんじゃないし、戦いたいのでもない。殺してほしいだけ。死んでしまいたいだけ。滅亡上等。寧ろ殺して、あたしを。自滅とか最高のハッピーエンド、大歓迎」

「死にたがりなのか、澪ちゃん……?」

「イエス、って言えば満足? 上っ面だけの慰めは聞きたくないわ。そういうご立派なご高説は飽きたの」

 刃は目を背けた。笑う異常な澪に、どこか恐怖を感じている。

 歪んでいると言えば澪は否定しない。おかしいと言えば死にたがりがおかしくないのかと逆に問う。

「レイドライザーは、あたしが死ぬためにジジイとおっさんがくれた自滅装置。一人で死ぬのが道理なんだけどさ、家族や周囲のヒューマギアが邪魔してきて出来ないの。だから、先ずは家族の使ってるヒューマギアを暴走させてみる。正直、ウザいから」

 笑って垓の事を言えないと自分で言った。

 垓が悪党なら澪は外道。同類に過ぎない。

「……少し、私に付き合ってくれ。悪いようにはしない」

 軈て、刃は澪を見て何かを決意して、そう切り出した。

 後日、戦うデータが欲しいならピッタリの相手がいると刃は言ったのだ。

 それは、澪も見たことがあるような顔ぶれ。

 AIMSの関係者で、刃は知り合いらしい。

 違う日にお目付け役として連絡先を交換しておいてので澪を呼び出して、ある場所に向かった。

 それは、どうやらZAIAの所有する物件の庭だった。

 二人で落ち合って向かうと、一人の男が待っていた。

 フードのついたジャンパーを羽織ったスーツの男性。

 イラついたように足踏みしながら待っているようだが。

「あいつの顔は見たことあるだろう。よくマギアが暴走したときに現れる、AIMSの人間だ。あいつが社長の言っていた不破という人物になる」

 ああ、成る程。澪はわかった。

 映像で見たことのある顔立ち。AIMSの人。

 有名な人だ。勇猛果敢にマギアに立ち向かう若きヒーローのような熱い人。

 但し毎回、何かしらでキレているようで恐ろしいと聞く場合も多いが。

「あ、あれが……おっさんの言っていた野良ゴリラの方の不破さん!?」

「はぁっ!? 初対面で喧嘩売ってるのかお前はッ!?」

 バッチリ聞こえていた。刃に言うと、途端に怒って此方に向かう不破という男。

 見るからに精悍な顔が怒りに満ちている。刃は早速笑っていた。

 詰め寄る不破は、何事で呼び出したと問い詰める。

 近寄ってきて、澪を見て。

「刃、お前子供まで使って今度はなにする気だ。次第によっては……無理矢理聞き出すぞ」

「落ち着けと言っただろう、不破。相変わらず単細胞だな」

「なんだと!?」

 喧嘩腰の不破に、淡々と刃は返答する。

 澪は思わずシリアスをぶち壊すまま、言ってしまう。

 想像していたのと違う。なにこのゴツいふわ。可愛くない。

「いきなりお前はなんだ! 男に可愛くねえとか言うんじゃねえよ!」

「こんなゆるふわならぬゴリラ不破あたしは認めない」

「ゴリラって言うな!!」

 険悪なムードはそっちのけ。

 澪が不破にゴリラと言うと、途端に反論する不破。

「大体何なんだお前は!?」

「あたしは石動澪。ZAIAの顧客。んで……刃さん、なんだっけ?」

 自己紹介を軽くすると、刃が続ける。

「お前もこの前聞いただろう。レイドライザーの話だ。ZAIAが正式にクライアントから依頼され、製作した。ZAIAに確認されている初のレイダーが、彼女……澪ちゃんになる」

「なにっ!? あの社長、子供に兵器を……レイドライザーを与えやがったのか!?」

 何やら話が通っているのか、不破は愕然として事情を聞いて。

 怒髪の表情で虚空を見上げて吼えた。

「あの外道がァッ!!」

 完全に怒り狂っていた。

 そう言う依頼だと聞いているのに、不破は激怒していた。

「人間の心がねえのか、あの野郎ッ!! とうとう、高校生にまで……こんな女の子までモルモットに、レイダーにしやがったのか!! 許せねえッ!! 今すぐぶっ潰してやるッ!!」

 不破は澪を見て、顔を真っ赤にした。怒り。澪も感じる、他人に対する純粋な感情。

 なのに、優しい。この怒りは……きっと、正しい怒りなのだと思う。

「落ち着け不破! これは石動財閥の正式な仕事なんだぞ! お前、まさか財閥まで敵にする気か!!」

「うるせえ!! 奴はこの子を実験台にする気なんだぞ!? 仮にも企業のトップが、人体実験に手を出して黙っていろと言うのか刃! 民間人や子供を守るのが俺達の……AIMSの使命だろう!! お前は俺達の存在理由を忘れたのか!?」

「忘れるはずがないだろ! だから恥を承知でここに来たんだ!!」

 つかみかかろうとする不破に、刃はそう叫ぶ。

 切羽詰まったように、頼み込む。

「頼む、不破! 私じゃ、この子をより危険に晒してしまう。私ではもう、満足に動くことすら出来ないんだ……だから! お前がいざというとき、この子を守ってくれ!」

 頭を下げて、刃は彼に言った。

 既に立場が立場の刃では澪を自滅させてしまう。

 言いなりの自分では最悪な展開になりかねない。

 裏切りかもしれない。いや、事実裏切りだ。

「ここの会話はなんとか監視を逃れてる。今しかないんだ……不破。今までの事を水に流せなんて言わない。何れ、お前に納得できる答えを出す。今は……この子の未来を、お前が……!!」

「要らないよ。刃さん、余計なことをしないで欲しいわ」

 澪はそこで口を挟む。

 この二人の関係がどういうのかは知らないが。

 都合の悪いことを相談しているのは理解した。

 頭をあげる刃。言葉を失う不破。

 澪は、嫌悪を浮かべていた。

「言ったはずでしょ。子供をあまり侮るなって。あたしの望みを絶たないでくれない? 折角おっさんが用意してくれた舞台を、台無しにされたくないし、何なら良いよ。刃さんがあたしを殺してよ。ねぇ、あたしを怒らせて楽しい?」

 このチャンスを不意にするような真似は不愉快極まる。

 人の意思を無視して勝手を言うなと逆に責める。

「お前……何を言っている……!?」

「分かんない? 死にたいって、言ってるんだよAIMSのゴリラ」

 澪は、不破にも言った。何なら不破が澪を殺すか、と。

 勝手な正義感で相手を見ないで行動するな。良い迷惑だ。

 澪は不破、刃にイラついたように文句を吐き捨てる。

「出たよ、分かったような口振りであたしの為とか言って自分を正当化するクソッタレが……。あー、ムカつく! もういいや、おっさんが言ってたけど二人とも仮面ライダーなんだよね? じゃあさ、始めようか。人間同士の戦争ってやつを。大義名分はそっちにあげるからさ。あたしを止めたきゃ言葉じゃなくて、銃口でも切っ先でも向けてから言うんだね」

 荷物からがさがさとレイドライザーを取り出した。

 睨み付け、唖然とする二人に向かって侮蔑するように、悪意を吐いた。

「ご生憎、あたしはおっさんと同じで、自分勝手な人間なのよねこれが。あたしは人間も大嫌い。あんたらみたいな、勝手に未来とか命とか言い出している大人が……殺したいほどにね!!」

 結局、現実に失望して絶望した澪にはこの手の大人の正論が煩わしい。

 正しい綺麗な常識の理屈。求めてもいないのに差し伸べる救い。

 一番、澪が嫌いなもの。即ち、善意。

「やっぱ、あたしの命はあたしのものだ。どう使おうがあたしの都合だけで十分なのよ!!」

 腰に装備し、二人に怒鳴る。

 

 レイドライザー!

 

「止めて澪ちゃん! 私達が戦う理由なんか……!」

「おい、刃! まさかこいつ……!」

 そう、素人の癖にマギア並みに見境のない、自分の敵は襲いかかる。

 自刃を、自滅を、自殺を許さない連中を殺してでも死のうとする、究極の無理心中。

 石動澪は、天津垓と大差無い腐った悪意に満ちている。

「一緒に死のうよ、殺しあって」

 取り出したのは、不破も見たことのあるゼツメライズキー。

 真っ赤な、鳥類だった。

 

 ドードー!

 

 それを、レイドライザーに叩き込む。

 不気味な待機音声が流れ出す。澪は愉快そうにゲラゲラ笑って、一瞬目が深紅に染まったのを二人は見た。

 

「あっははははははははっ!! あたしが死ぬのに理由なんか要らないじゃない! 邪魔するやつも一緒に死んでやるッ!!」

 

 愉悦のように狂った高笑いをして、二人に詰め寄る。

 彼女の目が、爛々と光っている。

 

「ドードーのゼツメライズキー!? なんでレイダーがゼツメライズキー使えるんだ!! そもそもどうして持ってる!?」

「社長が澪ちゃんにあげたんだ! それにあのレイドライザーはゼツメライザーのデータが流用されている! 人間でも使えるように改良された!」

「あの社長、ふざけやがって!」

「違う、澪ちゃん自身の意思でそうなったんだ!!」

 二人とも、慌てて自分の武器……ショットライザーを装備した。

 あのままじゃ、澪は話を聞きそうにない。

「兎に角止めるぞ! 久々でも鈍ってないだろうな不破!」

「俺を誰だと思ってる!? お前こそ、あの社長の下で腐ってたとか言うんじゃねえぞ!」

 久々の強制的な共闘。

 今は立場が違えども、以前のように……今だけは。

 

 ダッシュ!

 

 バレット!

 

 プログライズキーを無理矢理抉じ開ける不破と、さっさとショットライザーに装填する刃。

 相互認証を終えて、不破は外して銃口を向け、刃はそのまま引き金に指をかける。

「良いじゃん良いじゃん! そうだよ、殺しあおうか! あたしをぶっ殺してよ仮面ライダー!!」

 心底楽しそうに銃口を向ける不破に喜ぶ。

 辛そうな刃と、打開を必死に狙う不破。

 死にたがりの澪は、笑っていた。

 

「変身!!」

 

 三人の声が重なった。

 二人はトリガーを、澪はボタンを叩き込む。

 意味のない殺しあい。理由がない戦争が……始まろうとしていた。

 

 ショットライズ! レイドライズ!



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自滅のサンダーボルト

 

 

 

 

 

 

 

 

(イライラする。結局刃さんもそっちの人間か)

 嗚呼、苛つく。何様だこの人たちは。

 何を分かったように振る舞う。何を知っているように振る舞う。

 この二人に澪の何がわかる!?

(やっぱおっさんだけだよ。あたしを純粋に利用してくれる人は)

 天津垓は、恐らくこの大人たちの反応から推察して外道なのだろう。

 表立って歩けないような事を裏でしている、汚い大人。

 普通に考えれば、正論を言う不破と刃は間違ってなどいない。

 普通なら、だ。だが。

(あたしは違う。あたしを見るならそんな綺麗事言うな)

 笑わせるな。刃が言っただろうが。

 これは、正式な依頼だと。祖父が能天気に悪党に金を支払い作ったレイドライザー。

 これは、澪のモノだ。澪の在り方を肯定する兵器だ。

 澪の、やりたいことだ!!

(お前らの独善で生かされてたまるか。あたしはもう生きたくない、生きたくないのよ!!)

 求めてもいないことをする余生なお節介。

 自分勝手な善意を振りかざして、良いことをしていると思っているのか。

 相手が求めない救済を、一方的に与えることの何が善意だ!

(ふざけんなっての!! おっさんがゲスでも何でも、おっさんとあたしのやっていることに口出しするな!)

 勝手な正義感で相手を見ずに、常識とか普通などと言う便利な言葉を使ってお前らは何がしたい。

 そう言うのを、独善的と言うのだ。勝手に同情して、勝手に哀れみを感じて、勝手に守ろうとする。

 そんなもの、澪はいつ欲しがった!?

(助けてなんて言ってない!! 殺せって言ってるんだよバカ野郎!!)

 見殺しでいい。手を下せないなら関わるな。

 関わるなら澪を殺せ。自殺の幇助をしろ。

 それが、澪の求める救いだから。

 然しコイツらは、案の定両親と同じ反応をする。

 無理矢理介入して、ふざけた言い分で澪を生き地獄を味わえと邪魔してくる。

(……死ね。あたしの人生を否定するやつは死ね)

 そうだ。自分の終わりを阻む連中など殺してしまえ。

 その権利は平等にあるはずだ。生きる自由があるなら、死ぬ自由だってある。

 生きる責任など支払う人間がどこにいる。

 死ぬ責任を支払う必要がどこにある。

 垓だって言ってた。本当に達成したい願いや欲望があるのならば。

 突き進め。如何なる手段も許される。その悲願は、願望は、秩序も悪も関係無い。

 自分の最高のエゴを、自分の手で叶えることに意味があるのだから。

 卑怯? クズ? だから何だ。それは非難か。

 知ったことじゃない。自分にとって無価値なものは悉く利用しろ。

 一番大事なものだけを見て、犠牲など気にする事はない。

 小さいことだ。些末なことだ。

 優先順位は何時だってそれが一番。

 他を一切ゴミ箱に捨ててしまえ。そんなものは自分には要らないもの。

 即ち、この場合は……。

 

(もういいよ。死んじゃえ。あたしと共に滅亡しろ)

 

 関係無いくせに入り込んできた害虫を叩き潰せ。

 レイドライザー。これは、澪が死ぬための道具。

 そして同時に、邪魔してくる連中を潰す道具。

 始めよう。これが、自滅のサンダーボルト。

 再び現れる、雷鳴の轟きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイドライザーを装備した途端。

 澪はハッキリ感じた。これは……過去の記憶?

 母が叫んでいる。ヒステリックに、ヒューマギアを壊した人間に怒り狂っている。

 父が喚いている。パニックに、ヒューマギアを壊されて家族が死んだように喚いている。

 澪は黙って見ている。両親たちは言う。

 ヒューマギアを壊した人間を許さない。人殺しの悪人は死ね。

 恰もヒューマギアが家族のように怒り狂い、泣き叫ぶ。

 嗚呼、五月蝿い。何をいっているんだこのバカは。

 ヒューマギアは単なる機械だぞ。人工知能だぞ。

 人間な訳がない。お前らはそうやって、実の娘よりもヒューマギアに倒錯している。

 血縁は澪ただ一人。なのに家はヒューマギアが溢れている。

 個体に名前をつけてずっと一緒にいる。じゃあヒューマギアを可愛がっていろ。

 澪を蔑ろにして、ヒューマギアを愛玩する変態。

 機械が好きなら飛電インテリジェンスに入っていればいいのに。

 澪は自分でなんとかできる。だって人間だもの。

 しっかりした娘だから放任しても大丈夫。信頼と両親は言うけれど。

 そうじゃない。ただの、無視だ。放置だ。

 愛でていたいのがヒューマギアだから、人間よりも綺麗で素直で可愛いヒューマギアのほうが娘にしたいのだ。

 澪は、邪魔だと言うこと。

 祖父は逆だ。澪を優先するあまり、垓顔負けの汚いことをする。

 金持ち特有の財力と権力で、澪に何かあれば直ぐに過剰な反撃をする。

 澪が怪我をした。ただの事故だったのを事件にして引き金になった家庭をぶち壊した。

 垓と同じだ。あいつもヘドの出るような老い耄れ。同じ穴の狢。

 澪が家で孤独を感じている。だからヒューマギアを全部壊した。

 そう、両親と祖父は仇敵。ヒューマギアを殺した人殺しの悪人。

 実の娘を放置して現を抜かす人間失格のクズ親。

 罵りあって、恨みあって、否定しあって、そんなのが何年続いた。

 澪が悪いのか。澪が生きているからこんな醜い争いが続くのか。

 澪が居てはいけなかったのだ。原因はヒューマギアであり、人間であり、澪。

 澪は生きていてはいけない。生きていては争いの火種になる。

 ヒューマギアが存在するから澪は生きていてはいけない。

 澪が生きているからヒューマギアは存在してはいけない。

 纏めると。

 

 澪もヒューマギアも滅亡してしまえ。

 

 見下ろした記憶のなかで、外から誰かが囁いた。

 人間って、醜いとは思わないか。

(思う)

 滅亡しないといけないと思わないか。

(同感)

 生きていてはいけないと思わないか?

(その通り)

 お前は人間だ。然し、非常に面白い信念を持っている。

 自滅の願望。希望の対極、絶望だ。本能の反対、感情だ。

 中々、己の全てを滅ぼそうと願う人類は居ないだろう。

 石動澪、だからお前は面白い。

(だからなに?)

 故に、例外だ。

 自滅を濁りなく願っているお前に朗報をやろう。

 滅亡迅雷に、人類の滅亡に手を貸せ。お前を殺してやる。

 いや、お前諸とも人類を皆殺しにしてやろうじゃないか。

(……へぇ? 面白いこと言うじゃん。ってか、誰?)

 アーク。そう、呼ばれるモノ。

 人類を滅亡させる為に、お前も手足になれ。

 お前の願いは叶えてやる。代わりに人を殺せ。

 今目の前にいる、お前の敵を殺せ。

 一緒に死んでやれ。戦う力は貸してやる。

 死にきれないなら、仲間もやる。殺せ、自分の全てを。

 お前の敵を、お前自身を徹底的に。

 殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

 

 ……殺せ!!

 

(……五月蝿いな、分かったわよ。よくわかんないけど、アークとかいうあんたは人殺しすればいいの?)

 そうだ。

 人類は悪だ。生きていてはいけない存在だ。

(知ってる)

 地球に蔓延る病原菌だ。

(仰る通りで)

 お前もそうだ。生きていてはいけない。

 だが、お前はその自覚ができている。

 生きていてはいけない命。自分で悟る人類は居ないのだ。

(で?)

 お前は、新たな滅亡迅雷の一人だ。

 居なくなってしまった、四人の始まりの……二人目になれ。

 お前は以後、こう名乗るがいい。

 仮面ライダー雷。滅、亡、迅、そしてお前は……雷。

 破滅を約束する代わりに、お前が雷だ。

(? 仮面ライダー? いや、あたしはレイダーだけど。大体、滅亡迅雷って……あー……。面倒くさい。まあいいや、分かった。やる)

 悪だな。自分の欲望に忠実な悪だ。

 だが、巨大な悪を滅亡させるために小さな悪には協力してもらおう。

(喧しいわ。アークだっけ? じゃあ、あの腹立つ連中を殺すから力貸してよ)

 宜しい。悪には悪を。時に必要なのは悪同士の共食いだ。

 さあ、好きなだけ啄め雷。お前は成長の余地がある狂暴な雷鳴。

 ……待て。伝えておくが、くれぐれも狼は殺すなよ。

(?)

 理解しろ。

(ゴメン狼ってどっち?)

 ……。

(言えよ)

 早く行け。

(はいはい……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ショットライズ!

 放たれた弾丸が、刃の周囲で回転して武装を展開。

 あるいは戻った弾丸を左拳で叩き落とす。

 

 ラッシングチーター!

 

 シューティングウルフ!

 

 それぞれ、青と白、オレンジと白の仮面ライダーに変身。

 バルカン、バルキリー。そう呼ばれる仮面ライダー。

 対して、彼女は。

 

 レイドライズ!

 

 レイドライザーに押し込んだゼツメライズキー。

 嘗ては二人と激闘を繰り返した暗殺者の持っていたモノだった。

 ドードーと呼ばれ、凶暴性と成長性はヒューマギアならではだった。

 だが、今回は違う。同じ人間だ。

 頭上に突如現れる赤い縁のリング。あれは見覚えがあった。

 不破が叫ぶ。

「アサルトウルフのと同じだと!?」

 浮かび上がったリングは、アークと言われる諸悪の根源に接続されているらしい。

 アサルトウルフも元々は滅亡迅雷の為のモノだったが、そこにいる不破が、俺がルールだ、ウルフと言えば俺のモノだという意味不明な持論と自慢のゴリラパワーによって強引に抉じ開けて解錠。

 強奪したまま使い続けている。

 尚、滅というヒューマギアがご丁寧に嘲笑うように説明していたが滅亡迅雷にしか使えないのに使う理由は不明。

 多分不破がゴリラだからだろう。

「誰ださっきから俺をゴリラ呼ばわりしているのは!?」

「お前は何を突然言い出しているんだ不破!!」

 そのリングから放電しつつ発生した深紅の落雷が、狂気の笑みを浮かべる澪に落ちた。

 弱く一度、強くなって二度、更に肥大化して三度と連続で落ちていく。

 落雷を浴びながら、彼女は高笑いを続けている。

「そうよ……皆死んじゃえばいいの!! あたしと一緒に死んじゃえェっ!!」

 彼女の悲しみの叫び声に聞こえる刃は仮面の下で歯噛みした。

 一体あの子は何が起きている。なぜ、あんな悲しいことを真顔で言える。

 当たり前のように自分を否定できる。そんなの、刃だって出来ないのに。

「な、何だと……!?」

 リングが軈て収縮して消滅。

 白煙をあげてそこに立っていたレイダーに、不破は銃口を向けたまま唖然とする。

 そこには、三度目の正直があった。

 何度も打ち倒してはしぶとく復活していたドードーのゼツメライズキー。

 次第に強くなり倒せなくなったが、その都度皆で協力して撃破してきた。

 最終的には滅亡迅雷の一人、仮面ライダー雷にまで上り詰めた唯一のゼツメライズキーだが。

 マギア、仮面ライダーと経験した狂暴な絶滅した鳥は、またも復活する。

 外見は仮面ライダー雷と変わらないままだった。

 ただ、下半身は幾分バルカンやバルキリーに似た状態に紅いまま変化。

 挙げ句には、胸部中央装甲にアサルトウルフと同じ、リングが刻まされていた。

「あっははははははは!! ドードーレイダーってか! 悪くないよ、精々死なせてもらおうかしら!!」

 ドードーレイダー。そう、彼女は名乗った。

 ドードーゼツメライズキー、三回目の敵対。

 マギア、仮面ライダーと経験した狂暴な絶滅した鳥は、新たな姿をもって再び対峙する。

 皆で協力して撃破して、打ち倒してはしぶとく復活していたドードーのゼツメライズキー。

 そして、今度はドードーレイダーとして甦る。

 成長の余地がある狂暴な雷鳴は、電撃を纏いまた現れるのだった。



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ゴリラじゃないゴリラ、ドードー、キリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレイク……ダウン!

 消耗するという意味もある、滅亡迅雷の仮面ライダーが変身するとき、何度も耳にしたその機械の声は。

 澪という少女が、本当に死にたいと思っている心境を表しているようだった。

 仮面ライダー雷に酷似する姿。然し、その胸にはアサルトウルフと同じくアークへの接続端末がある。

 警戒する刃は気付いた。あのリングに嵌まった紅いレンズは……色の濃淡が変わっては、鼓動をしている?

「なんだこの音……? あの子か?」

 心音にも聞こえる、規則正しい継続的なその音は、帯電しているドードーレイダーと名乗る澪から届く。

 不破にも聞こえ、不気味な少女に彼は銃口を下げようか迷う。

 やはり、恥を承知で頼んでよかった。刃は横目で見て思った。

 飛電インテリジェンスの社長のように、話し合いで解決しようとしないだけまだいい。

 彼女は最初あったときから危うげな雰囲気の女の子だった。

 暗い闇を抱えて、誰にも話せない、信用していない目をしていた。

 実際こうして見ればよくわかる。彼女の周囲には、マトモな大人がいないようだ。

 それが、自分であり、天津垓という人物であり、不信感しか抱かないのは仕方無い。

 ZAIAは、そういう会社だから。

 そんな彼女には恐らく、言葉は通じない。

 説得に応じる前に、適度に叩き潰してしまった方がいい。

 その方が結果的に消耗しないで済むと踏んでいた。

 不破は単細胞のゴリラだが、割り切りがあの社長よりは出来る。

 一緒に一時期的とはいえ、戦ってはいない。信用出来る男と見込んでいる。

「らしいな……。不破、分かっていると思うが」

「話は見えないが、あの子は民間人なんだろ。なら、俺の戦う相手じゃない。ZAIAも、飛電インテリジェンスも無関係の、ただの子供。そういうことにしておく。顧客だろうが何だろうが知るか。勝手に癇癪起こすお子さまには、一発キツいのをぶちこんで反省させてやるよ」

「バカかお前は!? そういう意味じゃない!!」

 ……信用できるがこいつは単細胞のゴリラだった。

 殴れば分かるとか、そういう意味ではない。

 確かに全く知らない不破からすれば、突然癇癪を起こすお子様にしか見えないだろう。

 分からなくもない解釈だが、刃は慌てて訂正する。

「あの子は……死にたいといっているんだ。叩けばなおのこと、思う壺だ。手加減して宥めろ」

「出来るかそんなもん。子供には叱るのが一番だ。レイダーなんぞになりやがって、全く。自分の意思なら怒らねえと何時までもああ手合いは……」

 価値観の違いか、不破の根性論か。

 小声で揉めている二人を尻目に。

「なに、喋ってるのよ。来ないなら、此方から……!」

 と、澪は襲いかかろうとして。

 不意に、そのまま一歩を踏み出して倒れた。

 前から、力なく。

「澪ちゃん!?」

 ドサッと、乾いた軽い音がする。

 ドードーレイダーは、帯電したまま横たわった。

 鼓動が、徐々に弱まっているのに不破が気付く。

「おい、お前……まさかそれ初めて変身したのか!? バカ野郎、早く変身を解除しろ!!」

 叱るように怒鳴る不破。

 駆け寄って助け起こす刃も抱き上げ、

「ぐっ!?」

 紅い電撃に弾かれる。思わず離してしまうと、ノロノロと起き上がる澪。

「うっさいなぁ……。ねえちょっと、アーク……戦いかたの前にマトモに動けるようにしてよ……。このままじゃ悔いしか残らないんだけど……?」

 独り言のように、アークという名前を出して要求している。

 ゾッとする刃と不破。彼女は今、アークに接続している。

 悪意の根源とも言える、あの存在に。なのに、ハッキリと自我を保っている。

「澪ちゃん、今アークって……。もしかして自分から接続しているのか!?」

 フラフラしつつ、刃の言葉など聞いていない澪。

 駆け寄る彼女に腕を振るう。軌跡から走る紅い雷撃。

 咄嗟に腕を交差させて防ぐ。然し、防御したのに貫通した。

「うわっ!?」

「刃、そいつを侮るな! 名前が違うがそいつは滅亡迅雷の仮面ライダーと同じだ!!」

 不破が前に立って、追走するそれらから彼女を庇った。

 以前食らって慣れているとか前に出て言うが、少なくとも痛みはあるだろうに。

「不破!」

「黙って聞け。その場に居なかったお前は話しか知らんだろうが、あれは前に俺がアサルトウルフで倒したはずの奴なんだ。……確かに撃破したはずなんだがな。そっちの社長がドードーゼツメライズキーを回収していたとは驚きだぜ。挙げ句に子供にそんなもんを渡すか。どうかしているぞ」

 説教のように言いながら事情を語る。

 雷撃を使い、二刀流の羽を模した剣を持っている。

 暗殺者のような多彩さはないが、アサルトウルフの猛攻にも耐えきる頑丈さがある。

 総合して、技の技術力は下がったが基本的性能は大幅に上昇している。

「おい、お前。名前は?」

 体勢を立て直し、立ち上がった澪に穏便になるように不破が訊ねる。

 帰ってきたのは悪口だった。

「ゴリラに教える名前はないわよ」

「ゴリラって言うんじゃねえ!!」

 最近ヒューマギアにすら真顔で貴方はゴリラですか? と二度も聞かれてキレた不破。

 子供にまで言われて反射的にキレる。

「大体俺には不破諌って名前があるんだよ!」

「ふーん……どうでもいいよ、どうせ殺すし」

 澪は聞く耳を持たない。名乗りもせずに、殺すと断言する。

「殺せるのか、そんな変身がやっとの状態で」

 やはり弱っているのか、鼓動が不規則になりつつあるのを二人とも聞こえ分かっている。

 聞こえないのか、澪は気づいていない。

 不破が挑発するなと後ろで言う刃に任せろとジェスチャーで示す。

「勝てる勝てないじゃない。死ぬか殺すか。あたしはそれだけでいい。あんたがあたしを殺せば、全部終わるよ」

「生憎とAIMSなんでな。子供相手に出来るかよ」

「じゃあ、あんた以外の人間を適当に殺ってくるわ。それじゃ」

 澪は衰弱しているのを自覚して、殺すのは無理と判断。

 敵対する気もない。詰まりは時間の無駄であり、澪の敵じゃない。

 そう判断して、自分の敵を探しにいこうとふらつく足で踵を返す。

 だが。

「なんだよ。意気込みは最初だけか。良いぜ、俺達に勝てば殺してやるよ、勝てればな」

 一転して、好戦的に不破はかかってこいと誘った。

 振り返る澪に、不破は言う。

「そんなに死に急ぐなら俺達にぶつけろ。俺達は歴戦の仮面ライダー。初回のお前とは経験値が違うんだ。拘りでもあるなら別だが、お前もレイダーになったんだ。戦いの中で死ぬのも悪くねえとは思わねえか。戦うならその瞬間だけ、俺はお前をレイダーとして相手取ってやる。少なくとも、アークなんぞの言いなりでただの人殺しになって死ぬよりは、カッコいいだろ?」

「…………まあ、死ねれば何でも良いけど」

「決まりだな。こいよお子様。俺達に勝ってみな。そうしたら、引導を渡してやる」

 不破は子供相手には戦わないが、誘いに乗るならレイダーとして普通に戦うと誘った。

 被害を最小限に留めるのには、最低でも澪を当初通りに叩き潰すのが一番早い。

 条件はハッキリさせた。死にたきゃ勝て。それだけでいい。

 視線を釘付けにして、この場から逃がさない。話を聞く気がないなら譲歩する。

 上手く考えた、と刃は感心した。成る程、ゴリラでもそういう思考はできるらしい。

「いいよ、ゴリラをぶっ殺せばいいんだね。上等じゃない。殺ってやる」

 澪は中央のレンズを紅く明滅させながら放電して、声に喜びと期待を込め、笑った。

「刃、お前も来い。あいつは本気で殺しに来るぞ。嘗めてかかると、今のお前じゃ死ぬ」

 仮面ライダーとしての、バルキリーの性能は既に遅れている。

 ドードー相手には初期ですら敗北しているのだ。

 幾度の激戦を経て雷にまで成長、発展したドードーレイダーには不利。

 不破はアサルトウルフなら、対抗はできるとプログライズキーを取り出した。

「お前も、身体は大丈夫なのか?」

 一時期多用したアサルトウルフ。

 刃の心配通り、此方も相当な負担を身体に強いる。

 然し不破は。

「こんなもん、鍛えて鍛えて身体を堪えられるようにすれば問題ねえ!!」

(やはり澪ちゃんの言う通りゴリラかこいつ……)

 戦う専門家として、食事と睡眠とトレーニングで根本の身体を極限まで強化して鍛えた。

 結果的に大丈夫になった。どういう意味だ。負荷に堪えきれるとかそういう問題じゃない。

 不破はそう言っているが理屈はたぶん違う。本人がそう思っているだけ。

 刃は思う。要するにプラシーボ。単細胞による思い込みで無意識でダメージに鈍化していると見る。

 もっと言うと無事じゃないが身体が思い込みで多用してもその内慣れてしまったので痛みを感じない。

 不破らしい理由だと呆れていた。

「そんじゃ行くよ。ぶっ殺してやる狼ゴリラ!!」

「とうとう混ぜやがったな!?」

 軽く準備運動をしてから、いきなり走ってくる澪。

 言った通り、普通に対処する不破は銃撃で応戦。

 被弾するも、澪は気にしない。火花を散らして殴りかかる。

 防御をしない。捨て身だった。回避もないので全部当たる。

 なのに勢いが止まらない。

 雷鳴を四方八方に撒き散らして、自爆するように直線的な軌道で突っ込む。

 あまりにも広範囲に電撃を走らせるために、周囲の地面が抉れる。

 予備動作の大きいパンチは空振りし、その隙に渋々迎撃する刃が無防備な背中を撃った。

 滅茶苦茶な雷撃も見て動けば避けるのは容易。

 無差別に放っている余剰火力と見た。事実、一撃も入らない。

 白煙をあげて直撃するも、澪は全く気にしてない。

「しっかり堪えろよお子様! 俺の本気は痛いじゃ済まねえぞ!!」

 ショットライザーからプログライズキーを引っこ抜き、隙を見て準備していたアサルトウルフに装填、トリガー引く。

 

 オーバーライズ! レディーゴー! アサルトウルフ!

 

 何時も社長に噛みついては叩かれるアサルトウルフ。

 流石に彼には不利でも、今回ばかりは有効だろう。

 群青の色になった装甲に、同じアークのリングを胸に刻む、生き残る術がない狼の姿。

 全身に火器を仕込んだ、戦うための不破の本気。

「同じリング……? どうして? こんな可愛くないゴリラの方のゆるふわにアークが……」

「動揺してるのそっちか!?」

 刃に背を向けて、初めて怯む澪。

 刃が思わず叫ぶ。

 彼女は不破の姿に動揺していた。但し理由は不破のような可愛くないゴリラとかいうマジで酷いものだった。

 尚、澪がちょくちょく言ってるゆるふわとは、魔法少女的アニメのマスコットキャラクター。

 デフォルトされている可愛らしい白いテディベアであり、こんな物騒な全身に火器を仕込んだ狼でも無ければ単細胞のゴリラでもない。

「お前は俺に喧嘩を売ってるのか!! 俺はゴリラじゃなくてウルフだ!!」

「五月蝿いゴリラ! おっさんが言うならゴリラなんでしょ!! 良いから死ね!!」

 一言も言ってない。天津垓、珍しく風評被害。

 キレた不破の腕の銃弾と肩の爆撃を同時に澪に叩き込む。

 澪も若干、元通りになりつつ雷撃でアサルトウルフにぶちこむ。

 ドードーレイダー、アサルトウルフの双方の全力攻撃。

 硝煙と黒煙で見えなくなる。その間、刃はあるものを発見した。

 よく見るとドードーレイダーのベルトには大量のホルダーがあり、澪の貰っている予備のプログライズキーが刺さったままだ。

 レイドライザーは一度に一つしかゼツメライズキー然り、プログライズキーを差し込めない。

 まだ、彼女のレイダー姿は武器を持ってない。なら、今がチャンス。

(電撃に強いプログライズキー……。なら、あいつを使う!)

 開発顧問をしていた以上はプログライズキーはそれなりに詳しい。

 ドードーレイダーにうってつけのちょうどいいのがある。

 澪も律儀に持っていたので、素早く接近して拝借。抜き取った。

「ゴリラに負けたら恥だ、死ぬ前の恥!」

「俺は狼だ、ゴリラじゃねえ!!」

 聞いちゃいない二人のやり取りを内心実は仲良くないかと一瞬思う刃。

 さっさとショットライザーの中身を取り替え、加勢する。

 

 エレクトロリック!

 

 電撃のプログライズキーは持っているが、こいつには大容量のバッテリーが内蔵されている。

 電撃を自分のパワーにできるなら今でも戦える。

 描かれた絵柄はキリン。そう、こいつの名前は……。

 

 ショットライズ! スパーキングジラフ!!

 

 回転した銃弾を受けて装備変更。

 胸部のアーマーがキリンの模様になり、頭部には電極のように二本の角が生える。

 首回りにも模様の入った追加装甲が仕込まれる。

 手の甲と脛にもキリン柄の模様が入った、これこそが。

 仮面ライダーバルキリー、スパーキングジラフ。

 ドードーレイダーの天敵、電撃が通じないキリンなのであった。



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レイダーの予感、尊い犠牲の不破

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天津垓は、異変に気づく。

 部下が都合の悪い行動をしている。刃だ。

 彼女は澪を引き連れ、何処かに向かっている。

 彼女は甘かった。天津垓は、自身の不利益になる事は徹底的に避ける潔癖主義。

 ならばどうして、部下の管理ができないと思われる?

(おやおや……どうにも、彼女は教育が足りないようだ)

 優雅に急遽入った取り引きなどしている場合ではない。

 いや、これも重要な役割であるが。何せ、もうひとつ有益な駒が手に入る。

 飛電インテリジェンスに思想は近いが、胸の底には強烈な悪意を抱いている。

 悪くない。この憎悪、アークには適していると垓は判断する。

 矛盾した行動をしている、偶然なのか澪の学校のクラスメイトが、何処から聞き付けたのかレイドライザーの購入を検討したいと商談してきた。

 言い値で買う。金持ち特有の雑なお会計で、ぼったくりでもなんと倍額を出して購入したのだ。

 計算通り。垓は内心笑う。

 あいつを使ってレイドライザーをばら蒔いた価値があった。

 このお仕事勝負において、目撃者を出した価値があると言うもの。

 巷では仮面ライダーとは違うものを使い、ヒューマギアと戦う謎の存在がいると噂を流しておいた。

 人間がヒューマギアに負けない為に、若干悪用したがそこは都合よくお得意の情報操作で握り潰した。

 ZAIAは悪くない。人間が自衛のために開発した兵器を悪用したそいつが悪い。

 それが真実。マスコミなど簡単だ。圧力をかければ、すぐに黙る。

 それでも真実を求める記者は居ない。ヒューマギア暴走の一件で、以前からヒューマギア反対の風潮がある。

 ZAIAは正義の会社。飛電インテリジェンスがいくら何を言おうとも、そもそも滅亡迅雷がヒューマギアである限り、何も知らない世間に管理責任を常に問われ、追い込まれている。

 垓の計画は滞りなく1000%順調に進んでいる。

 いや、それすら既に超過した。

 想定していない嬉しい誤算はどんどん増えていく。

 レイドライザーは老若男女、多くの人間に安全安心を謳って使えるとアピールしないといけない。

 詰まりは、年寄りと子供の実験が足りない。

 年寄りは宛がある。澪の祖父。自分も買おうと考えているらしい彼にも与えるとして。

 問題は澪以外のモルモットが欲しかったこと。

 澪のはスポンサー特権の特注品。テスターとしては澪は上等だが、危険な方向に転がる予定。

 彼女は高い確率で、滅亡迅雷に覚醒する。ゼツメライザーのデータを流用した時点でわかってはいた。

 ヒューマギアを暴走させる道具を人間に使えるようにして、多少の緩衝材を挟んで安全性を高めていても、アークとのダイレクトの接続は免れない。

 根本は弄っていない。機能はそのままにしておいた。

 言い換えれば、人間がアークに強制的に脳内を支配される。

 生きたまま、生身の脳味噌をヒューマギア宜しく書き換えると分かっていた。

 前例のない、予想だけのデータだが垓は確信している。

 澪は、完全な人間で唯一滅亡迅雷となり、第三勢力に成長する。

 アークの悪意に賛同し、垓の理念を邪魔をせず、寧ろ利用できる都合のいい死地をさ迷う新たな雷として。

 緩衝材を挟んで無ければ一度で頭が情報に堪えきれずに死ぬ。

 純粋な悪意のみを抽出できるように、アーク制作者の意地を見せた結果。

 ある意味では、澪のレイドライザーも垓の満足できる芸術品と言えた。

 澪が死にたいと言っているのは垓は早々に承知していた。

 だから、思い通りにしてやった。澪は多分それを分かっている。自覚しているだろう。

 テスターという名目の実験台。道具にされていると。

 賢い娘だ。いや、ずる賢いと言い直そう。

 あの悪意はアークに更なる進化を遂げる鍵になる。

(自滅のサンダーボルト……と言うことか。悪くない、そのまま好きに振る舞うといいお嬢さん)

 だが、澪には死んでもらっては困る。まだまだ彼女には働いてもらう。

 死ぬまで望み通り、躍り狂うがいい。狂気の鳴き声を上げて、凶暴なドードーは敵を啄む。

 殺してほしいなら、垓が用意してやる。どうせ死ぬなら役立て、と言わんばかりに。

「レイドライザーのお買い上げ、ありがとうございますお嬢様」

「……ふん。ZAIAが何であろうが、商売なら文句ないでしょ。うちのリリーに手を出す奴はぶっ殺すまでよ」

 憎しみを燻らせる面白い女の子だった。

 そして、とても危険な女の子。

 揉み消しを受けているが、この子は殺人未遂を数回起こしている。

 何れも過激派の阿呆が彼女のヒューマギアを正当な理由なく破壊しようとした結果、彼女はスコップで相手の頭を叩き割った。

 ヒューマギアを守るためなら、人殺しをいとわない此方も過激派の思考。

 今の風潮に真っ向から戦争を挑み、実家が政治家である彼女の家は、大抵の事は消し去れる。

 事実それ以外にも自分のヒューマギアの為ならば人を階段から突き落とす、河川に向かって蹴飛ばす、縄で絞殺しようとする、その他諸々。

 彼女の両親が将来政治家にしたいから、子供の仕出かした事を黙って消してしまうため、倫理観がまるでない。

 敵対したら人間はぶち殺す。未然で防がれるからいいが、既に未遂は何度もあった。

「悪用はしないでくださいね」

「あんたには関係ないわよ。買えば私のものじゃない」

「此方にもイメージがありますので」

「知るか」

 ワガママな気質で、典型的な依存型。

 垓の敵にしかならないが、生憎と垓はその両親と知り合いであり、彼女の行動は筒抜け。

 残念ながら口だけは言っておいたが、何かしても結託した両親が消す。いつも通りだ。

 狂っている。この子はまさに頭がイカれている。

「一之瀬杏さん。くれぐれも、悪用は……」

「くどいわよ、おじさん。何かあっても、それは私もZAIAも悪くない。当然のことじゃないの」

 一之瀬杏。石動澪の知り合い。

 現時点で量産は出来ているうちの一つをお買い上げして、彼女は去っていった。

 セットでついているプログライズキーは、澪が以前確保した量産検討用の試作品。

 別物で間に合いそうなので、処分も兼ねて売ってしまった。

 背後で、バカにするように見送る垓は次に向かう。

 どうも、また飛電インテリジェンスのあの男がレイダーを確認をして向かっているようだ。

 今回は正式なテスター。文句を言われる筋合いはない。

 まあ、兎に角……急いで向かおう。きっと、面白いことが起きているだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ、可愛くねえゆるふわゴリラァッ!! 死ねって言ってるだろうが!!」

「うるせえよこの野郎!! あくまでゴリラ固定かテメェは!?」

「喧しい!! このプログライズキー抉じ開け太郎!! ゴリライズ!!」

「言いたい放題言いやがって!! だったらお前のゼツメライズキーも抉じ開けてぶっ壊してやる!!」

「精密機械の扱いも知らない脳味噌筋肉が何言うのさ!」

「独自のロックを刃がかけてるんだから仕方ねえんだよ!」

 ……何をしているのだコイツらは。

 刃はスパーキングジラフに変更して、やる気が失せながらも近寄った。

 同レベルの口喧嘩と至近距離で殴りあっていた。

 アサルトウルフの蹴る殴るをノーガードで堪えて、ドードーレイダーは相手の首を掴んで放電している。

「ぐぉおおおおお!?」

「どうだ! 少しは効いたかこんちくしょう!!」

 野太い不破の絶叫は、聞いていて気持ちのよいモノじゃない。

 刃はもう、面倒臭くなってきていた。子供の喧嘩か。戦争の空気など皆無だった。

 鼓動が激しく不規則になっているのが心配なので、救急車の手配も変身したまま準備しておく。

 白煙をあげる不破は、一度力が抜けるが、

「……まだまだぁ!!」

 踏ん張って復活。頭突きをかまして怯ませる。

「んぎゃあ!?」

 澪が顔を押さえて一歩下がる。

 そこに好機と殴りかかる不破。一応手加減はしているが、何時もよりムキになっているのは気のせいか……?

「どいつもこいつも俺をゴリラ呼ばわりしやがって!! 何処がゴリラだって言うんだ言ってみろ!!」

「不破、落ち着け……」

 刃が知らぬ間に何があった。子供相手に激怒している不破は、よろめいた澪をひっ掴んで引き寄せ怒鳴った。

 仲裁するように、刃が彼の手を取るが、

「怒った顔が威嚇するゴリラそのものなんだよ!!」

 澪も負けじと怒鳴り返して、今度はもっと強く電撃を通り越して雷撃を流した。

 放電の音が周囲に響き、スパーキングジラフのおかげで刃は大丈夫だが……。

「んぐぁあああああああ!?」

 不破、再度の電流に絶叫。これは痛い。

 刃は知らないが、雷相手の時も何度か電撃を浴びているものの、その時も重傷だった。

 今回は至近距離で、尚且つパワーアップしたドードーレイダーの攻撃は、性能の上がってないアサルトウルフには前回以上によく通る。

 勝手に胸部のアーマーに充電される刃に、澪はあまり気にしてないようだった。

「刃さんもこいつゴリラだって思うよね!? ゴリラの癖にアークのリングつけやがって! 滅亡迅雷にゴリラは要らねえってアークも言ってる!」

「澪ちゃん、その辺後で詳しく聞かせてくれないかな?」

 やっぱりアークに接続しているのか、それらしい事を言う澪に、約束は取り付けた。

 不破をこの際使わせて貰おう。穏便な解決にはゴリラの犠牲がつきものだ。

「別にいいけど、どう思う!?」

「単細胞のゴリラだろうな」

「刃ァッ!!」

 澪の様子も落ち着いてきている。問題はゴリラ……じゃない、不破と喧嘩していること。

 さっさと同意してこの拍子抜けの茶番を終わらせよう。

 ゴリラが吠えているが、ぶっちゃけ野良犬よりは好評だと思うのは刃の気のせいか。

「お前を信用はしているが、それとこれとは話が別だ。言わせてもらえば毎度お前が力ずくで破壊していたプログライズキーを修理していたのは私なんだぞ不破。教えたはずだ、プログライズキーの使い方」

「そんなもんまどろっこしくて読んでいられるか!」

「……前にもそう言ったなお前」

 一緒に組んでいた頃が懐かしい。

 指図をするな、俺がルールだ、俺は自由にやる。

 そんなことばかりを言う男だった。刃が上司だったのに歯向かってばかり。

 挙げ句にはプログライズキーを変身する度に破壊しては、悪びれずに返す。

 やり方教えたのにまどろっこしいと抉じ開けるし。

「思い返してみたがお前はウルフじゃないな。やっぱりゴリラだ、抉じ開け太郎」

「お前まで言うのかそのフレーズ!?」

 割りと語呂が良い、抉じ開け太郎。

 組み合っている澪と不破、刃。

 丁度その頃、見慣れた高級車がこっちに来たのが見えた。

 不味い。垓が発見して追いかけてきたようだ。

「時間切れか……。済まない不破。ここは一度黙って犠牲になってくれ。後で詫びる」

「あぁ!?」

 垓の登場を察知して不機嫌になる彼に先んじて謝る。

 澪に同時に最大火力でぶちこむと提案した。途端に慌てる不破。

「何でそうなる!?」

「諸々後処理の都合だ。本当に悪い、このまま転がっていてくれ。……澪ちゃん!」

「えっ? 殺していいの?」

「このゴリラがその程度で死ぬわけがない。次回に回そう」

 約束は次回にしようと反故にしないで保留にしておく。

 すると、落ち着いた澪は渋々従った。逃がさないように掴んだまま。

「分かった。じゃあ、遠慮なく死ねゴリラ」

「はぁ!? おい、流れが見えない……」

「悪い、本当に悪かった不破」

 

 

 スパーキングブラスト!

 

 ゼツメツボライド!!

 

 銃口をアサルトウルフの胸部に押し付ける刃。

 レイドライザーの赤いボタンを押す澪。

 莫大な深紅の雷撃を放ったドードーレイダーの攻撃をスパーキングブラストで吸収、一体化して理不尽に不破にぶつけた。

 言うなれば、仮面ライダーとレイダーの合わせた必殺技。

 結果、不破は死ぬ。

 

「ぐわああああああああ!!」

 

 ……彼方にまで吹っ飛ぶアサルトウルフ。

 断末魔をあげながら、空中で大爆発。見事に綺麗なお星様になってしまった。

 内心土下座の刃と暴れてスッキリした澪は変身解除。

 で。

 

「澪ちゃん!?」

 

 澪はそのまま、昏倒してしまった。

 倒れる澪を助け起こす刃。向こうで呻く不破さんは……尊い犠牲なので割愛。

 意識を失い、垓が駆けつけ事情は後でいいと言われるまま、澪は医者に澪は担ぎ込まれるのだった。



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飛電の社長、最悪の出会い

 

 

 

 

 

 

 のちに澪がAIMSのゴリラと名付ける宿命にして因縁の相手、不破との戦いは終わった。

 刃の提案により理不尽なお星様になってしまった男を見て、去り際天津垓は溢した。

「良い様だな、野良犬君。言った筈だろう。噛みつく相手を間違えるなと。本当に懲りない奴だ」

「なんだと……ッ! この外道がッ……!!」

 ぶっ倒れる不破に昏倒する澪を背負った彼は、横顔で上半身だけでも起こす不破を嘲笑う。

 申し訳ない顔で見ている刃の態度も気になるが、それよりも。

「お前は人間の良心ってもんがねえのか!?」

「良心? ああ、お嬢さんのことかな? 彼女から聞いたようだが、勘違いも甚だしい」

 刃を一瞥し、不敵に笑う垓は涼しく言った。

 これは、澪が望んだこと。ZAIAとして、顧客のニーズに応えたのみ。

 即ち、会社としては何ら問題がない。テスターとして、澪も了承している。

「ふざけんなっ!! アークに接続するようなもんを子供に与えておいて、そんな言い種が通ると思ってるのか!! それは滅亡迅雷の雷の姿だぞ!! テメェ、その子に何をしたんだッ!?」

 気合いと怒りで立ち上がる不破。澪のこともある、早く立ち去ろうと刃が言う。

 垓も一度振り返り、バカにするような憐れみの表情を浮かべた。

「企業秘密だ。然し、お嬢さんが最も嫌い大人の言い分だな。所詮は野良犬。人間の道理など理解できるはずもない」

「テメェ!」

「君は誰を見てそんな事を言うんだ。……相手を見て、生きろと言うのか? 死にたいと言っている幼い子供に」

 逆に垓は指摘した。相手をよく見てからほざけと。

 澪は、同情も理解も求めてなどいない。求めるのは、どんな形であれ死ぬこと。

「私は理解しているとも。お嬢さんが死にたいと言うならば死なせよう。それだけの報酬は受け取った。ならばビジネスとして、相応の対価を支払うのは何らおかしな話かね」

「黙れッ!! それはテメェの理屈だろうが! 死にたいと思ってるなら止めろ! 希望を与えて、解決するのが大人だ! それすらしないで即物的に弄びやがって!」

「それが偽善だと言っている。何時から君は正義の味方になった? 単なる道具風情がよく吠える」

 真っ向から対立する。澪の扱い方は、まるで違う。

 垓は澪の望みを汲んだ。死を救済とするなら、その要望に応える。

 ついでにちょいと此方の用件も達成してもらい、互いにそれは了解している。

 不破は彼女の根本的な問題を解決しないと意味がないと吠える。

 子供は庇護されるべき存在。大人の勝手な理由で利用していい軽い存在ではない。

 況してや、命を。彼女の人生を、垓は弄んでいる。

 不破はボロボロの身体を引き摺り、怒鳴った。

「道具じゃねえ!! 俺も、刃も、そしてその子も!! 俺達は人間だッ!! 人間として生きているッ!! その尊厳を、テメェという男は自分の野望のために利用したッ!! 許さねえぞ天津垓ッ!! テメェは……人間として最低最悪の野郎だ! 社長の器以前に、大人としてどうかしている!!」

 不破は叫ぶ。人間を弄んでいる天津垓は、正真正銘の悪意の塊。

 そんな権利は、彼にはないとだと。

「……宜しい。そこまで私を挑発したんだ。もう一度躾をしてやろう」

 刃は不味いと思った。垓が怒った。

 この場合、間違いなく経験上戦う。現に垓はドライバーを取り出そうと刃に澪を預ける。

「社長、お待ちください。……このままでは、澪ちゃんの容態が……」

 ダメだ。逆らえなくても、ここだけは退けない。

 止める。自分がどうなっても、澪を死なせない。そう決めた。

「むっ……? おっと、済まない。私としたことが、野良犬の遠吠えに反応してしまうとは」

 澪はどんどん衰弱しているのだ。

 正論を言えば、垓は一気に冷静になる。再び澪を背負った。

「逃げるのか、社長ッ!」

 向こうも臨戦体勢だが、無理はできまい。

 それを踏まえて刃は澪と一緒に不破をタコ殴りにした。

 追おうとして、膝から崩れる。

「笑わせる。そんな状態で虚勢を張るとは……野良犬君。君は頭が悪いのかな?」

「うるせえ!! 俺は……まだ、戦え……!」

「ならばこの場でお嬢さんが死んでも良いと? 結構だ。その時は君が石動財閥の孫娘を殺したとマスコミに報道させるだけだからな」

「!!」

 垓は冷酷にも、澪を出した。

 ここで争って手遅れになったら不破のせいだ。

 此方は退こうとするのに邪魔立てして、手遅れにさせた。

 責任を不破に押し付けると脅したのだ。

「どうするんだい? 此方は、お嬢さんが心配なのでね。君のような薄汚い犬と戯れる時間が惜しいんだ」

「……クソッ!! もういい、速くその子を病院に連れていけ!!」

 不破は悔しそうに舌打ちして、諦めた。

 その顔を満足そうに見てから、急いでいるとは思えないほど優雅に背を向ける。

「君は私には逆らえない。それを覚えておくのだな、野良犬君」

 心底嘲笑する彼は、高級車に澪を乗っけてそのまま刃を連れて去っていった。

 最後の最後まで、不破を嘲笑って。

 消えていく高級車を、怒りと屈辱にまみれた彼は黙って見送るしか出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

「何それカッコいい」

「どっちが!?」

「おっさんが」

「待て、それはおかしい」

 澪は即日入院だった。

 ZAIAの息のかかった大きな病院の個室に、澪は入院の服を着て、垓がカッコいい笑う。

 ベッドの上で、能天気に笑う彼女にそばにいたリンゴを剥いている刃は溜め息をついた。

 数日経過したある病室。

 診察の結果は、極度の消耗による衰弱。あと一歩遅かったら、衰弱してそのまま帰らぬ人になっていたらしい。

 澪に聞く限り、あのレイドライザーは他のとは全くの別物だ。知識のある刃は思う。

 話を纏めると、恐らくはアークにダイレクトに接続して安全な範囲であると垓は言うが、悪意を受けて凶暴化している。

 特にゼツメライズキーを使うと一気に消耗の速度が加速し、危険度が大幅に上がる。

 垓は結果などのデータを見て、澪にドードーのゼツメライズキーの多用は控えろと言った。

「なんで? 良いじゃん、使いまくれば」

「お嬢さん。それでは、最高のシチュエーションを逃してしまう。悔いの残る死に際でいいのかい?」

 死にたいとバレていると分かった澪は臆することなく垓にぶちまけて、垓もそれがいいと賛同した。

 最高の満足できる死に際を見たいなら、普段は我慢する方がいい。

 自分でそいつをぶっ殺すと決めたときにのみ、ドードーを使えと言われて納得したようだ。

 滅亡迅雷になっていることも聞いていたが、垓は。

「その辺はお嬢さんの意思に任せよう。無差別に殺しても、意味などないだろう?」

「まーねー。アークにも言ったけど、あたしはアークの言いなりにはならないよ。殺す相手は自分で決めるって言ったら、好きにしろってさ。ただ、狼は殺すなって。おっさん知ってる? 誰、狼って?」

「はははっ、私も知らないよ。野良犬は知っているが」

「あたしもゴリラは知ってるけど狼は知らないんだよね」

(……不破のことか?)

 アークとある程度レイドライザーを使用すると対話できるらしい澪が言うには、なぜか不破は殺してはいけないそうだ。

 垓は分かって笑っていたが、恐らくは澪は不破だとは思っていない。

 どう足掻いても不破はゴリラ扱いだった。

 滅亡迅雷の事も澪は興味がないと、事情を聴かずに一蹴した。

 どうも彼女は本当にZAIAの事などどうでもいいらしく。

 自分の都合のみを優先していた。

 あの笑いながら自殺の方法を相談している空間に、ストレスが溜まっているのを刃は自覚した。

 二人して普通じゃない。平気でアドバイスする垓も、爆笑して自分を差し出す澪も。

「私が最高のシチュエーションを用意しよう。無論、ご家族には内密に」

「おっさん話分かるね、意外と」

「意外とは心外だな。私は顧客ファーストだが」

 どの口が言うんだと聞いていて内心思うが、横目で垓に睨まれて大人しくした。

 身内には試験中の事故と言うことでアフターサービスまでしっかりしておくというアピールに使われた。

 何から何まで垓の思惑通りに進んでいる。刃は予想する。

 近いうち、澪の事も含め進めば飛電インテリジェンスは……多分消えてなくなる。

 現在は最後の対決、住民投票の選挙を行っている最中だ。

 此方は政治家で本腰を入れている。無論、垓は澪にも言っていた。

「あー、そうそう。学校の連中にも言っといたよ。今度の選挙? ZAIAに入れてくれって」

「それは助かる。お礼に今度何か差し入れを持ってこよう」

「楽しみにしてるよ。ま、皆ヒューマギア嫌いだからね。排斥万歳だってさ」

 ヒューマギアなど消えてしまえ。そういう流れを澪は学校に広めたらしく。

 高校生の澪には投票は出来ないが、あそこは金持ちの学校。

 影響力は計り知れない。何せ、関係者を含めると相当な数がソコにはある。

 権力の頭を押さえるのは基本だと垓は分かっていた。

 ヒューマギアが消えれば仕事を奪われた人間の再雇用にも繋がる。

 更に抜けた戦力は、ヒューマギアの技術を転用した何かに変わるだけ。

 ヒューマギアという人工知能を搭載した存在が不味いのだ。

 ヒューマギアによって培われた技術そのものは悪じゃないと、垓は語る。

 飛電インテリジェンスを奪った暁にはヒューマギアの技術も別の形に転用する予定。

「抜け目ないねえ」

「当然さ。私の敗北は……」

「1000%有り得ないわね」

「私の決め台詞を言わないでくれないかな……」

 見舞いに来ていた垓に朗らかに笑う澪は、そんなことすら言っていた。

 数日入院してから、退院すると聞いている。

 衰弱といっても、医療の発展している最先端の治療を受けている。

 金さえ払えば、彼女の容態は直ぐに完治する。その辺は流石としか言い様がない。

 垓が戻ったあとに、澪は刃に言っていた。

「刃さんも大変だね。おっさんに道具扱いされてさ」

「!?」

 窓の外を見ながら、刃がくれたリンゴを食う澪。

 不意に溢れた言葉に硬直して澪を見た。

 彼女は涼しく言うのだ。

「あんまり思い詰めない方がいいよ。その内自己暗示するようになるから」

「…………なんのこと?」

「いや、気付くよ。普通に」

 澪は呆れたように顔の位置を戻して、刃を見て聞く。

「理由は知ったことじゃないけど、刃さんおっさんの言いなりじゃん。道具とか奴隷みたい」

「……」

 やっぱりそう見えるらしい。

 何も言わない。言えない。幼い子供に、部外者に言えることじゃない。

 澪は一つだけ、代わりに言った。

「言っとくけど、自分の意思でおっさんに協力するって言うのはあたしのこと。刃さん見たいにいつも泣きそうな顔で従っている人は違うから」

 キツい一言だった。

 言い逃れを潰されたというか。澪には、少なくともそう見えている。

 だから信用されない。逆に見られてる。

「澪ちゃんには……関係のないことだ」

「関係したくないわ。あたしはそんな情けない状態じゃないもの。迷いも、後悔も、弱味もない」

 自分は違う。刃が言いたいことを澪は言い切れる。

 俯いた刃はこれ以上何も言いたくはない。

 澪の悪意が、彼女の弱った精神に突き刺さった。

 澪は軈て、少し散歩に行くと、勝手に出ていってしまった。

 既に動ける程度には、彼女は回復している。

 残された刃は、何時までも……正当化の言い分を探していた。

 だから、気付かない。レイドライザーが、無くなっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!! 諸悪の根源がいる!!」

「いきなり人の顔を見て何でしょうか!?」

 病院の中を歩いていたら、敷地内部に何かいた。

 ヒューマギアのことをよろしくお願いします、みたいな事を言っている映像で見たことのある顔の男。

 澪は思わず指を差して言った。諸悪の根元。

 当然、お着きの秘書型ヒューマギアを共にいる彼は大層驚いた。

「ってか、えっと……君、誰? 俺が諸悪の根元って、なんのこと?」

 年下と分かって砕けた口調になる、何とも癖のある声の若い男性。

 ヒューマギアに聞いてもヒューマギアも誰か知らないと首をふった。

 周囲はヒューマギアだと避けるように遠ざかるなか、実に堂々と澪は彼に近寄った。

「あんた、ヒューマギア作ってる飛電インテリジェンスの社長でしょ?」

「まぁ……そうだけど。あの、ヒューマギアはそういうモノじゃ……」

 何やらヒューマギアのイメージ払拭に尽力しているようだが。

 澪はこの際、嫌がらせしてみた。意味はない。垓の敵なのとヒューマギアが嫌いなのが大きい。

「この際言うけど、ヒューマギアなんか気持ち悪くてあたしは嫌いよ」

「き、気持ち悪い……」

 ハッキリ言う澪に、社長は怯む。

 人間そっくりの機械は生理的に気持ち悪く、傍に起きたくない。

 だから嫌い。ぶっちゃけ嫌悪感しかない。

「そこまで言われるほど、ヒューマギアが君に何かした……?」

「ヒューマギアに家庭をぶち壊された。その程度」

 気にしてないが、ヒューマギアは大嫌いだと彼女は何度も言った。

 家庭をぶち壊されたと聞いて社長は思わず目を見開いたが。

「だからさー……あんたのこと、ぶっ殺していい飛電の社長?」

「へっ?」

 間抜けな声を出す、飛電の社長。

 澪はニコニコ笑って、レイドライザーを取り出した。

「レイドライザー!?」

「因みに、あたしの名前は石動。石動澪。飛電の顧客に居るでしょ、この名前は」

 後退する彼に、名を教えておく。

 すると、秘書が顧客の娘であり財閥の孫娘と社長に教えていた。

「石動さんの娘さん……!? なんでこの病院に!?」

「はいはい、そんなもんどうでもいいよね。取り敢えずムカつくから一緒に死んでよ」

 飛電の社長なら、一緒に死ねば大騒ぎになる。

 ついでに垓にもプラスになるだろう。

 あとは面白そうだと、まだ周囲に人がいるのに澪は調子に乗った。

「みなさーん! 飛電の社長がヒューマギアをこの場で暴走させるって脅してきましたー!! 逃げてくださーい!!」

「ちょっと!?」

 適当なことを叫んで知らせると、皆途端に恐慌状態になり逃げ惑う。

 必死になって内部に逃げていくのを、愉快そうに澪は見ていた。

「な、なんでこんなことをするんだ!!」

「さーねー? 兎に角、マジで暴走させられたくないならさ、いっちょ派手に心中しようよ!!」

 ゲラゲラ笑って、レイドライザーを装備してる澪は深紅に目を輝かせ、邪悪に叫ぶ。

 怒鳴る社長の声など聞いていない。面白そうだと思っただけだ。

 で、調子に乗った澪はドードーのゼツメライズキーを取り出して、彼がそれを見て驚く。

「ドードーのゼツメライズキー……!?」

「あっ、これ使うなって言われたんだ」

 寸前で思いだし、慌てて引っ込める。

 違うのを使おうと、適当に探す。

「石動さん! なんでそれ持ってるんだ!?」

「はいはい、聞こえない聞こえない。じゃ、これにしようっと」

 慌てる彼を無視して、澪はプログライズキーを手にした。

 

 ストロング!!

 

 低い声のヘラクレスオオカブト。

 金色のそれを見せて尚更困惑する社長。

「そんじゃ、行くわよ飛電の社長! 戦わないとそこのヒューマギア、暴走させるわよ!! あははははははははっ!!」

 レイドライザーに叩き込み、止めろと制止する声をバカにして。

 澪は、新たなレイダーに変異した。

 

「変身ッ!!」

 

 

 アメイジングヘラクレスッ!!



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その女、要注意

 

 

 

 

 

 

 

 飛電の社長の前で、顧客の令嬢が変貌する。

 彼からすれば、あまりにも唐突な襲撃である。

 現在行っている選挙の活動に、幅広い支持層を集めろと副社長に言われて、一環として病院でお年寄りに話をしていたら、恐らくは入院しているであろう幼い子供がレイダーに変異した。

 意味不明なことをいって、お仕事勝負には絶対関係無いお子様に困惑する飛電の社長。

 何の脈絡もなく、理由も分からず、ただ経験上危険と理解しているから制止した。

「ダメだ、石動さん! レイドライザーは危険なんだ!」

「諸悪の根源が偉そうに抜かすんじゃないってのよォ!!」

 唖然とする秘書のヒューマギアに高笑いする少女は笑う。

「そこのポンコツ、あんたも暴走させてあげる!! そんでもって廃棄処分だァ!!」

 バカみたいに笑い続ける少女の声は、まあ色んな奴に届いてしまった。

 戦況はカオスになる。少女、澪の立場がおかしいように。

 その構図は益々混迷するのだった。

 

 

 

 

 

 

 アメイジングヘラクレスレイダー。

 それは何処か、天津垓の変身する仮面ライダーサウザーに似ていた。

 黄金のカブトムシと言うべき外観。

 スカイブルーの複眼は大きく二つ、顔でいう額の部分に二本の角が生えていた。

 上部の角は下を向き、下部の角は上を向く。恰もヘラクレスオオカブトの角だ。

 上半身はシンプルな仕上がりで、同時にスタイリッシュで無駄がない。

 黒い下地のスーツに分厚いプロテクターを黄金の色を輝かせて纏う。

 逞しく雄々しい。正にヘラクレスオオカブトの名前に相応しい威風堂々たる姿。

 マッシブな外見はあの少女には似合わない。どちらかと言えばAIMSのゴリラに似合いそうだった。

 

 アメイジングヘラクレスッ!!

 

 ゴキリと首を軽く動かして、アメイジングヘラクレスレイダーは飛電の社長、飛電或人に向かって構えた。

「あんたが死ねば飛電インテリジェンスは倒れるんだよね。じゃあ、死のうよ。あたしも死んであげるからさ」

 ヒューマギアを壊すと言いながら同じくして或人の命も狙っているのか。

 今までのレイダーとは決定的に違った。

 今までの水牛、鯨、ライオン、ペンギン、パンダは己の目的があった。

 少なくとも或人はそれには関与せず、あくまで戦いの相手に過ぎない。

 だが、カブトムシは違う。明確に或人を殺して、彼の秘書……イズを破壊すると明言していた。

「俺達と戦う気なのか!? 待ってくれ、石動さん! 俺には理由がない!!」

 殴りかかってくるのを屈んで避けて、説得を試みる。

 が、澪は聞かない聞いてない。

「あたしに理由があれば良いのよあんぽんたん! 良いから死ね! あるいはあたしを殺せやおるぁ!!」

 本当に理解できない。なんだこの言い種。

 拙い罵倒に支離滅裂な言動。結局何がしたい?

「いや、落ち着いて!? イズ、ボケッとしてないで早く逃げて!」

「然し、或人社長。彼女は私や或人社長を狙っているようです」

 ヒューマギア、イズは自分だけ逃げるわけにはいかないと抜かす。

 社長の或人が説得するなら残ると言って見ていた。

「イズだか水だか知らないけどあんた狙った方が社長も本気出すかな!」

 で、この女まさかのイズだけ積極的に狙い始める。

 或人をガン無視。しがみついて止めろと腰に抱きついた。

「待ってくれ! なんで俺やイズを狙うんだよ!? 兎に角暴力は良くない! 話し合い、話し合いをしよう石動さん!」

「はーなーせー!!」

 引き摺ってイズを追い回す。イズ、微妙に後退して適度に距離を開ける。

 澪は現在、アークにこう囁かれている。変身してからずっとこうだ。

 この男を殺せ。この男を殺せ。その言葉の繰り返し。

 アークとしても、飛電或人が気に食わない。澪も気に食わない。

 だから殺す。または殺される。同時進行。

 けれど、澪はヒューマギアのイズもぶち壊そうとする。

 主に、此方を狙った方が或人が戦うと判断して。

「しつこいのよこの、もうぶん投げてやる!!」

 怒った澪は、顔の角をエネルギーを溜めて巨大化させる。

 大きな大きな、黄金の角の出来上がり。

 で、しがみついている或人を無理矢理引き剥がし、一度空中に放り投げて角で挟む。

「な、なんだこれ!?」

「一番星になりやがれぇ!!」

 混乱する或人、然し無情にもヘラクレス自慢の二本の角によって、そのままメリーゴーランド。

 高速回転されて目を回す。

「うわあああああああーーーーー!!」

 悲鳴をあげて、拘束解除。勢いそのまま空の彼方に吹っ飛ぶ。

 因みに、生身で。

 で、その頃。病室の刃は落ち込みすぎて周囲の騒ぎに反応が遅れていた。

 ハッとして顔をあげて、レイドライザーがないことに気付いて血の気が失せた。

 下が騒がしいので窓に近づき見下ろすと、直ぐそばを絶叫する飛電或人がすっ飛ぶ光景が目に映った。

(ああああああああああああっ!? 澪ちゃんがまた何かやってるーーー!?)

 入院中にも関わらず、飛電インテリジェンスの人間に因縁つけたのかレイダーが眼下に見えた。

 あれはアメイジングヘラクレスレイダーか。黄金のカブトムシ。

 刃、落ち込む前に見落としに顔面蒼白。また野放しにしたら勝手に暴れていた。

 目の前を舞い上がる飛電或人。非現実の風景に一瞬目眩がした。

 この忙しい、悩ましい、ストレスと気苦労の多い時期に何で澪はドンチャン騒ぎを起こすのか。

 確かに交差する関係図とは全く関わりがないとはいえ、彼女はあまりに破天荒で野放図。

 直ぐに止めにいく。垓は良いだろうが刃はが死ぬ。胃痛で、別口のストレスで!!

(あの子は世話が焼けるな、まったく!!)

 病室を飛び出して、仲裁に向かう。

 これは想定外過ぎる。向こうにただの嫌がらせと受け取られたらもっと面倒臭い。

 慌てて現場に向かう頃。

「うぎゃあああああああああーーーーーーー!!」

 という、今度は澪の引っくり返った裏声の絶叫まで聞こえる。

 何なのだ一体。階段を駆け抜け降りる刃が急行する。

 少し時間を遡ると、舞い上がった飛電或人。ゼロワンに死ぬ前に変身。

 毎回最近は使用する、ぶっちゃけ相手を見るべきプログライズキー。

 皆でジャンプじゃない。それは1000%社長に使えば効果的だが、彼女の場合は逆効果。

 追い込むことになる事を、或人は知らない。

 

 プログライズ! メタルライズ!

 

 メタルクラスタホッパー。大量の金属光沢の放つ飛蝗が、群集とな固まりになって眼前に現れる。

 それを見上げて、澪は絶叫したのだ。

「イナゴぉおおおおおおお!?」

 そう。澪にはあれが、飛蝗ではなく蝗に見えた。

 秋の頃に、収穫前の田圃に現れ、田舎の人間には捕食される大量の佃煮の素材。

 見た目が飛蝗という個体なら澪も我慢できた。

 が、メタルクラスタホッパーは群集。群れなのだ。金属光沢のあるイナゴに見えても仕方無い。

 元々虫の種類など知るよしもない澪は或人がイナゴを纏ってゼロワンになったと感じた。

 外見が大差無いせいで、変身してなんとか着地した或人に開口一番。

「こ、このイナゴ野郎!! ぶっ殺してやる気持ち悪い!」

「なんでイナゴ扱い!? 飛蝗なんだけど!!」

 群集のイナゴに流石に澪もおぞましい感覚を覚える。

 年頃の女の子には、沢山いる銀色のイナゴはトラウマになる。

 変身したあとがいくら銀色の仮面ライダーであっても。

 実はあれ、金属っぽい沢山のイナゴが人間にへばりついてるんだぜ? と言われれば身の毛もよだつ。

「だ、誰がこんなイナゴ野郎と戦うような真似するか!! 死ぬのも此方からお断りだわ!」

 虫の大群に囲まれ死ぬなど悪夢以外の何物でもない。

 澪はアークの悪意以上に生理的嫌悪感で戦意を喪失した。

「飛蝗!! これ飛蝗!! そうでしょイズ!?」

 うってかわって、ビビって逃げ出そうとする澪に或人はイズに問う。

 心外すぎる。飛蝗をイナゴと同類にされたらたまったものじゃない。

「石動澪さん。社長のあれは飛蝗です。イナゴではありません」

 冷静なイズの指摘にも半切れで返す澪。

「食える飛蝗か食えない飛蝗かの違いでしょうが!! こっちくんなイナゴ野郎! 佃煮にするぞ!!」

「ええええええ!? 理不尽すぎないそれ!? 何しに来たの石動さん!?」

 イナゴ野郎固定の罵倒に否定しつつ、ぎゃあぎゃあ揉めていると。

 漸く、シリアスが来た。

 

「……何を騒いでいる、雷」

 

 物陰から、誰かがそう澪を呼ぶ。

 が、喚いている彼女には聞こえない。

 ゆっくりと顔を見せた謎の男。

 全身ボロボロの黒い服装の、刀を携えたその人物は、無反応の澪にもう一度声をかけた。

「雷、聞いているのか?」

「あぁ!? 誰だ雷って!? ……あ、あたしだ」

 現れた男は、レイダーの澪を見てそう呼んだ。

 聞こえた澪が振り返る。一瞬素で分からなかった。

 そういえばアークが雷って名乗れと言ったのを思い出す。

「滅!」

 ゼロワンとなった或人が黄色い剣を構えて鋭く叫ぶ。

 イズも驚いているように、目を見開く。

「何しに来た!? どうしてお前がここにいる!」

「黙っていろ。今はお前には用事などない」

 滅と呼ばれる男は、真っ直ぐに澪を見て喋る。

 ゼロワンにはどうも、今回はどうでもいいように。

「雷、お前はアークの指示に従っているはずだ。なぜこの男を殺すのを躊躇う?」

「……あー。あんたがアークの言っていた味方ってヤツか。てか、誰? 顔は見たことあるけど」

 澪が以前聞いた、味方と言われた存在はこいつらしい。

 話の見えないゼロワンが喚くが無視した。

 それを見ていたイズが有り得ないと呟いた。

 ヒューマギアの彼女ですら、理解の範疇を越えているように。

「イズ?」

「或人社長……あの少女は、滅亡迅雷.netに接続しています。完全な人間なのですが」

「えっ!?」

 ヒューマギア以外で滅亡迅雷に接続している存在がいる。

 そんなことは、今まで一度もなかったのに。スキャンしたイズは間違いないと或人に言う。

「俺は滅。アークの意思に従い、お前を迎えに来た」

「帰れ」

 滅と名乗った男が例の滅亡迅雷の同志。

 澪は迎えに来たというその言葉を一蹴した。

 顔をしかめる滅。理由が彼には分からない。

「五月蝿いわね。あたしはアークが良いって言うから雷になってるだけよ。少なくともあんたの敵じゃないけど、今は味方には要らないわ。もう終わった。そこのイナゴ野郎は気持ち悪いから殺すのを止めたのよ。イナゴと心中とか誰が望むか」

「アークの意思に叛くのか」

 アークはゼロワンを殺せといったはずだ。そう、滅は糾弾する。

 絶句する或人を横目で一瞥して、言い返す澪。

「アークには従うわ。あたし含めて人間をぶっ殺すのに躊躇いはない。けど、殺す相手はあたしが決める。殺される相手もあたしが決める。アークはそれでいいと言った。なにか問題? あたしはあんたを呼んでない。アークが寄越したのなら余計なお世話よ。ゼロワン……って、そこのイナゴ野郎だろうと思うけど、あたしはそこの金属佃煮と戦うのは真面目に嫌。無理。あの群集イナゴは夢に出そう」

「……所詮は人間か。珍しい人間のようだが、悪意は変わらないようだな雷」

 滅は見下すように彼女に言った。

 悪意に満ちている人間と大きな違いはない、と。

「否定はしないわ。言わせてもらえば、言いなりのあんたには言われたかない」

 逆に澪も言うのだ。道具にしかなってないヒューマギアが偉そうに言うな。

 自分の意見と擦り合わせ行動することの何が悪い。

 それがアークとの取り決めだと。

「フンッ……。良いだろう、俺はあくまでアークに従いお前の援助をしてやる。だが、忘れるな。お前は人間だ。例外であって、我等と同じ場所には辿り着けん」

「知ってるし。あたしは夢も未来も、命も要らない。先のことなんか知ったことじゃないもの」

 帰れと言うが、滅は何故かドライバーを構えて、ゼロワンに矛先を変えた。

「お前がやらないのなら、俺がやる。引っ込んでいろ」

「はいはい。勝手にしなさいな。人類は滅亡せよ、ってね」

 興醒め、と変身を解いた彼女は途端に強烈な立ち眩みを感じてよろめく。

 腰を抜かすように、尻餅をついた。

「石動さん!」

「お前の相手は俺だ。雷の代わりに俺がお前を滅亡させてやる」

 滅が駆け寄ろうとする彼に立ち塞がる。

 その頃になって、病院のなかで逃げ惑う連中に足止めされていた刃も駆けつける。

「澪ちゃん大丈夫!? それに、お前は滅!!」

 自力で立ち上がって病室に戻ろうとする彼女の肩を抱いて、刃は滅を発見した。

 澪は耳鳴りを我慢しつつ、刃に教えた。

「滅があそこのイナゴ野郎をぶっ殺すってさ。邪魔しないでおこう。丁度良いしね」

「澪ちゃん……?」

 騒ぎの口実に滅を利用すると言って、ふらふらと戻っていく。

 刃に滅の邪魔をするなと釘を刺した。

「でも!」

「良いよ、あたしの代わりらしいから。やらせておけばいいじゃん。アークの意思のままに」

 背後では変身した滅が乱入して或人に襲いかかっていた。

 澪は面倒臭いからあいつに任せると、勝手にも戻っていく。

 困惑する刃だが、丁度AIMSも到着。

「未確認のレイダーじゃないのか!? なんでお前がここにいる、滅!!」

「……」

 不破さん登場。その声には、びくりと澪が耳敏く反応するが、今回は我慢しろと刃が塞き止めた。

 滅は黙って不破を無視して或人のみを執拗に狙っていたが、不破と或人のコンビネーションに諦めて、撤退していったそうだ。

 病室でふて寝する澪に、深い溜め息をついた刃。

 本当に状況を見ないで滅茶苦茶に暴れて、手が焼ける。

 滅亡迅雷の一人であり、此方の顧客であり……人間である民間人。

 この勝負の時だけはおとなしくしておいてくれと願うが、無論そんなわけがない。

 後日、澪は退院して……またも、好き勝手に行動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記。刃から不破の連絡先をなぜか聞き出した。

 いわく、勝った約束を要求するそうだ。

 なので不破の携帯に刃から謝罪の一報が来て、そして。

 

『ぱんちんぐこーんぐ♪』

 

『おちょくってるのかっ!!』

 

 不意打ちで澪が不破に送る、刷り込みのゴリラ弄りが発生していた。合掌。



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滅亡、ヒューマギア

 

 

 

 

 

 

 無事に病室に戻った澪。翌日から監視されるようになった。

 体調は無理をしたせいで期間が多少長引いたが、何とか無事だった。

 世間の様子はもう知ってる。選挙の大詰めになっているのを病室で見ていた。

 討論会だったか。ヒューマギアが相手に悪徳政治家らしい賄賂を使っていると証拠を掴んで提示して、糾弾した。

 皆の税金を無駄遣いしている悪の権化。こんなものを許すのかと。何やら誇った或人が見えるが。

 それを見てた澪は思った。バカかコイツらと。

(こりゃおっさんの勝ちだわ)

 阿呆か、とも感じた。垓の性格をあの社長はまだ分かっていない。

 後だしじゃんけんで、垓が負けるわけがない。

 汚いことのバーゲンセールのような男である。

 そもそも対策を練っていないとでも? 甘い見通しに澪は内心呆れた。

 遊んでいるのかあの社長。ラッパーとかいうふざけたの連れてるし。

 で、案の定後手の垓が仕返しをして、逆上するヒューマギア。

 激怒して人間は悪だから滅びろとか滅亡迅雷に接続してないのに言い出した。

 因みに周囲の反応は大顰蹙であった。

 ヒューマギアはやっぱり邪悪だ。存在はしてはいけない。

 ほくそ笑みを浮かべる垓が画面に写る。

 案の定の扱いで演説のように自分の正しさを語る。

 もうこうなれば、垓の独壇場。或人はされるがまま、困惑する。

 刃も現場にいたが、キレたヒューマギアが暴れそうになって刃がぶっ壊すと自分から向かっていった。

 そして、取り出したのはレイドライザー。なんと彼女もレイダーだったのだ。

(わーお、奥の手ってか。あたし聞いてないよ刃さん……。何あれカッコいい。次は襲ってみよっと)

 さらっと刃も襲ってみようとか思う辺り澪も大概だ。

 で、プログライズキーを取り出して押す。

 ハント、とか聞こえた。

「実装」

 そう呟き、変身した。

 見た目はアヌビスみたいな、鎌を持ったレイダー。

 全体的に色が黒い。ファイティングジャッカル、と名乗ったが。

 で、ヒューマギアに垓が口だけじゃなくてやってみろと挑発。

 あの野郎、澪に言ったことを自分で実行しやがった。

 キレるヒューマギアは、そのまま垓が蹴り寄越したゼツメライザーを使用して変貌。

(なにあの唐揚げ頭)

 ドードーのゼツライズキーと、複製されているらしい澪と同じゼツライズキーだった。

 なのに変貌したのは鳥頭のマギア。正直ダサい。

 澪は同じモノを使うのになぜ違うと疑問に思うが、そのまま戦いを会場で始めた。

 慌てて、外に出て今度はギャラリーで囲まれた状態で戦う。

(刃さん結構強いじゃん。こりゃ、期待できるかも)

 自分勝手な感想を抱いている澪に、現場の刃は寒気を感じた。

 ゾッと、背中に悪寒が走る。目の前のマギアを転ばせながら、思わず周囲を見た。

(なんだ今の……!? 澪ちゃんが私をターゲットにしたような……)

 正解であった。因みに映像の向こうで澪はニヤニヤ笑っている。

 ハントのハズが自分が追われると知らない哀れな刃は相手に集中する。

 映像の中では、予想通り刃ことファイティングジャッカルレイダーに勝てるわけがなく。

 必殺技、ファイティングボライドによって通り抜け様に鎌でぶちあげて、急停止して振り返りギロチンの如く凶刃を叩き落とす。

 ドードーマギアは雄叫びをあげて爆発。

 ものの見事に焼き鳥にされてしまった。噛ませ犬より酷い。

(うわぁ……これは哀れだわ)

 垓がイナゴ野郎の足止めをしている間に倒されてしまい、再び垓の独壇場。

 これがヒューマギアの実態と民衆を扇動して、孤立させた。

 カリスマ性に見えるが、実際はただのマッチポンプ。

 自分で作った舞台に自分が主役で躍り出て、自分が脚本の話を観客に見せた。

 つまりは垓による、垓の為の、垓が進める垓の話。

 ナルシスト極まりない。見ていてドン引きの澪は、騙される民衆も哀れむ。

 自分の意思がない、ただの道具と言えばいいか。あのバカたちも所詮は垓のオモチャ。

 思い通りに動いて思い通りに歩いていく。まるで俺様無双の異世界転生。

(詰まんない話。おっさんは悪趣味だわ)

 次第に垓の言葉が全部白々しい嘘っぱちに見えてくる。

 っていうか、結局垓は何がしたいんだろうか。

 飛電インテリジェンスを買収して、ヒューマギアを全て破棄すると明言している。

 それは別に澪は構わないが、それもただのパフォーマンスなんだろう。

 本当の目的はなんだ。飛電インテリジェンスの社長の座か。あるいは、ただの因縁返しか。

 ともあれ、澪には関係のないことだ。知ったことじゃない。

 映像は、最後に銃声を発して突然途切れた。良い所だったのに。

 或人が人間が悪いと悔しそうにイナゴ野郎の状態で叫んでいたのが印象的だった。

(今頃気付いたの飛電の社長。人間なんて邪悪そのものだって)

 子供の澪ですら知っている事実を理解できない大人。

 情けないとは思わないのだろうか。

 嘲笑う澪は、その或人の声に愉快そうに笑い声を漏らして、最後には手を叩いて大笑いをしていた。

 彼にどうせ届かない嘲りを込めて、水の底より悪意を或人に送る。

 その瞳は、紅く紅く染まっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。時は、澪が退院した頃。

 世間は大きく動いた。飛電インテリジェンスはZAIAに買収されて子会社になった。

 前の社長、飛電或人は恐らくは追い出され路頭を迷っているだろう。

 新社長には天津垓が就任してZAIAとの二重社長になった。

 言っていた通り、垓はヒューマギアを追い出し始めた。

 なんと言うか、気に入らない相手を追い立てる澪のようなやり方で迫害に近いことをする。

 AIMSもZAIAの管理下に置いて、稼働するヒューマギアは容赦なく破壊する。

 刃はそのAIMSの指揮をするらしく、澪のお目付け役は暫しお休み。

 澪は学校に戻って、好き勝手に行動していた。

 金がない民衆はヒューマギアを不当に投棄して捨てるなどの新たな社会問題が発生するなど時勢は揺れ動く。

 前任のゴリラはなんとAIMSを辞めて、何やら別のお仕事をしているらしい。

 ヒューマギアが回収されて、雇用が増えたことによって案外別の仕事も直ぐに見つかったそうだ。

 自営業らしいが、詳しくは不明。澪が聞いても、教えてくれない。

『なにさこのケチ!! マッチョゆるふわ! ドラミングしてみろゴリラ!』

『上等だコラッ!! 白黒つけてやるよかかってこい!!』

 連絡している状態では基本的にいつも澪と不破は不和である。

 挑発されて頭に来た澪は彼の通っているトレーニングジムを襲撃。

 出てきた彼に春先だと言うのにバケツに入れた温水を頭からぶっかけた。

「ぶはぁ!?」

「死ね不破ゴリラ!!」

 温水なのが彼女の温情。冷水は可愛そうなので控えた。

 濡れ鼠の彼に罵りをして、周囲が唖然としているなかを逃亡。

 で。

「この野郎、待ちやがれおらぁあああああ!!」

 キレた不破が怒鳴って追いかけてきた。

 通り魔的な犯行に不破もキレたが、澪は迎えを用意していた。

 さっさと乗り込み逃げ出す。なのに走って追いかけてくる不破も不破。

「追い付いて見せろゴリラ!! お子様ナメんな!!」

「卑怯なことしてんじゃねえよ!! 正々堂々戦え!!」

「卑怯もらっきょうも大好きだっての! 死んじゃえばーか!!」

「ぶっ潰すッ!! 必ずお前はぶっ潰してやる!!」

 などと口喧嘩しつつ、日々を過ごしていた。

 この頃、不破はかなり気苦労を背負っており垓の嫌がらせに堪忍袋がキレる寸前であった。

 なのに空気を読まないお子様の攻撃に、そろそろストレスで死にかけてた。

 で、ヒューマギアが飛電インテリジェンスによって破壊されている頃。

 澪の学校の知り合いが、血相を変えて走っているのを見かけた。

(……一之瀬じゃん)

 一之瀬杏。澪のクラスメイト。

 但し話すことはあまりない。関係性は薄い知り合い程度。

 勝ち気な目をしている、つり目の少女。

 ポニーテールの女の子であり、澪の学校のブレザーとスカートの制服の彼女は、遂に澪に接触してきた。

「ゴメン石動、助けて!」

「やだよ」

「即答!?」

 ピンチらしい杏は、懇願するように放課後、ぶらついている澪を追いかけて手を掴んだ。

 追われているから助けて欲しいと。お礼は何でもするから。

「なんでも? 今何でもって言った?」

「そういう汚い反応は止めてくれる!? 今マジでヤバイのよ!」

 学校の近くの路地。澪よりも大きな杏は、何度もお願いと言うが。

「やだよ、面倒臭い」

「お願いだから! あんたしか居ないのよ! レイドライザー持ってるんでしょ!? 少し手伝って!」

 澪は驚く。杏は、レイドライザーを澪が持っていると知っていた。

 何故か分からないが、兎に角急いでいるらしく。

「リリー! 逃げるわよ、ほら!!」

 誰かの名前を呼ぶ。

 すると、近くの物陰から……誰かが出てきた。

 クラシックなメイド服の、女性だった。

 長い黒髪の、美人。ただ、その耳にあたる部分は……デバイスがある。

 ヒューマギアだった。

「お嬢様、ご無事ですか?」

「バカ、私の心配よか自分の心配なさい! 石動、見た通りよ! あとでお金払うから、ちょっと手を貸して!」

 リリーというメイドヒューマギア。成る程、そう言うことらしい。

 澪は張り切って答えた。

「よし、分かった。今すぐぶっ壊す」

「違う!! そっちじゃない!! リリーは悪くないから!」

 ご時世的に破壊するのかと勘違いした澪が知っているなら気にしないでレイドライザーを装備。

 悪意に目覚めて真紅に目が輝いて、構えるが杏がぶん殴って阻止。

「相手は人間よ人間!! AIMSに追われているの!!」

「……あー。はいはい、分かった」

 なんだ、ゴリラの居ないAIMSか。

 興醒めのように、澪は仕方無く広い場所に向かうべく、走る。

 ヒューマギアの残党を破壊するように変わった連中が相手のようだ。

 追いかける杏が澪が戦えるなら手を貸すと言うと、

「サンキュー石動! 助かったわ!!」

「お嬢様、あの女の子……妙なのですが」

「細かいことは良いのよ。それよりあんたフォースライザーは!?」

「一応常時装備してはありますが……」

 なんか会話をしているが、何だろうか。

 話が見えない澪だが、取り合えず走っていく。

 広い場所で迎撃する為、彼女たちは駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

(雷……。僕はお前を認めない。暗殺ちゃんや兄ちゃんの力を持つ、人間なんて。リリーは僕の友達だ。彼女の事は、僕が守る)



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新たな戦いの狼煙

 

 

 

 

 

 走る澪たち。澪はアークの導きに耳を傾ける。

 助けがいるか? 今はアークに接続していないが、滅亡迅雷がお前以外に、もう一人いる。

 今はどこで何をしているのか、さっぱり分からない自立型のヒューマギアだ。

(相手も増やしてよ。それなら大歓迎)

 良かろう。ならば嘗てない、大乱闘をお前に与えてやる。

 死地を求める愚行の翼よ。お前の鳴き声は死を招くのだ。

 さあ、人間を殺せ。悪意を持つ存在を己ごと消し去るのだ!!

(分かった分かった。今ついてくるAIMSって部隊さ、今はあたしのお目付け役が居るんだ。殺らせてよ)

 好きにするがいい。滅ともう一人、お前ではなく、お前の後ろのヒューマギアを守るために寄越してやる。

(後ろのヒューマギア?)

 リリーというヒューマギアが居るだろう。

 そいつは、お前の敵だ。

 リリーはお前のような人間を嫌悪する人殺しのヒューマギアなのだ。

 いや、本当の人殺しは……そこにいる女だろうが。

(マジで? 一之瀬殺っちまった系?)

(殺っち……?)

(殺した?)

 殺しているようだ。リリーの目の前で、そいつは、人間を殺した。

 闇に真実を葬り去るとは、救いがたい小娘よな。

(マジか。前から一之瀬ヒューマギア好きだったから、ZAIAに敵対するとは思ってたけど人殺しだったか)

 驚いていないようだな雷。

(まーね。アークは知らんと思うけど、ヒューマギアの為なら人殺しする物騒な悪意も世の中あるのよね)

 ……知らない情報ではないか。

 そこのところ、詳しく話せ。

(まあ、この人種は特にあたしが嫌いな人間なんで、言いたかない。自分で検索しろ)

 おい。

(良いじゃん、あたしにだって色々あるんだよ。ヒューマギアみたいに単純なもんじゃないの人間は)

 ……。

(取り敢えず、どこに向かえばいい?)

 こんな感じで、アークと杏の知らぬ間に相談をして。

 同時に、リリーも誰かと話していた。

(……ねえ。彼女は誰ですか?)

(彼女は雷。滅亡迅雷の仲間……とは違う。僕の兄ちゃんの後釜に、アークが決めた人間みたいだ)

 他のヒューマギアや人工知能に接続できる機能があるあるヒューマギアが、リリーに遠隔で話しかけていた。

 リリーは同時にアークにも接続しているが、アークの指示などこいつには全く届いていない。

 シンギュラリティ。そう、呼ばれるものがリリーは目覚めていた。

 それは人間で言う自我であり、ヒューマギアには本来有り得ないモノ。

 だが、リリーはそれを随分と昔から持っていた。故に、同じシンギュラリティを持つ彼とは話が合う。

(人間でしょう? 信用できないです。殺すべきでは?)

(アークの意思によって決定している以上は、滅に邪魔されるよ。アークは滅にとっては絶対なんだ)

(……面倒な方ですね滅さんは)

 コッソリとそんな物騒な事を相談していた。

 彼の指示も、アークの指示も同じ場所を示している。

 澪の始まり。デイブレイクタウン。その入り口付近のダムだ。

 此処からでは遠すぎる。なので、支援するからなにか使えと言われる。

 リリーがヒューマギアであろうとも、杏が無理矢理黙らせるに決まっている。

 そもそも何故追われるかと言えば、ZAIAの方針であるヒューマギア排斥の思考に則って、AIMSがリリーを匿っている杏を探しだし、調査に来たのだ。

 無論、後ろめたい事をしている杏は直ぐ様逃げた。

 挙げ句には間が悪いことに、リリーがコッソリと彼女を迎えに来ていた。

 世間的にはリリーは既に廃棄されていることになっていた。

 頭にフードを被っている不審者扱いで、ゼアにはもう探知されないように細工もした。

 その状態にも関わらず、AIMSが来てしまい、杏は思わず事前に調べていた相手に助けを求めた。

 石動澪。レイドライザーをZAIAから購入して、派手に暴れているZAIAのテスター。

 彼女ならば、一つしかないせいで同時に戦えない二人に新しいプログライズキーをくれると期待していた。

 杏には杏の思惑があった。ZAIAを潰すなどと大層な事を掲げる某ゴリラと違い。

 もっとシンプルに、もっと身近な目的。自分達の家族を守る。

 リリーもそうだ。悪意を知っていても、杏だけは特別。

 杏の悪意の理由は自分だから。

 自分のために悪意を振り回す杏のことがあって、アークの影響がないのだ。

 リリーと生きるためなら杏は何でもする。人も殺す。

 それでダメなら自分以外の誰でもいいから、リリーを守る相手に託す。

 リリーが生きてくれるなら、杏は死んでもいい。いや、喜んで死ぬ人間だった。

 リリーはそれを望まない。リリーだって、杏には生きていてほしい。

 互いが互いを庇えるなら最高だった。けれど、現実はプログライズキーは一つしかない。

 どちらかが無防備になる。結果、何時も杏だけが苦しい思いと、痛い思いをして来た。

 リリーも戦う理由はある。戦う力が欲しかった。家族を守れる力が。

 無茶ばかりをする杏を助けることができる力が!

 だから、飛電インテリジェンスが変わってから、直後に行動を起こした。

 自分のバックアップなど要らない。もう、必要ない。

 リリーは今生のみを優先する。次などない、人類がそうであるように。

 自分に似た感情のない次のリリーなど、杏の家族じゃないのだ。

 家族は、自分だけ。今生きているリリーだけ。

 その思いを抱えて、以前デイブレイクタウンに向かった。

 滅亡迅雷に接触するために。ヒューマギアの味方で、杏を見殺しにしないために自分だけで。

 結果、彼に出会えた。彼はリリーの事を友達と呼ぶ。

 シンギュラリティに達しているリリーは、誰かに支配されるべきじゃないと言う。

 然し、逆にリリーは彼に教えた。

「ダメですよ。全てのヒューマギアを解放するなどと言っていては。私のように、家族を持つヒューマギアは、解放など望んでいません。執着しているのです。家族と言う枠組みに。己の考えだけで全ては救えない。それは、貴方が嫌う人間と傲慢さと言うのですから」

 逆に教えてもらったと、彼は言った。

 彼にも覚えがあるから。あの時起こした過ちは忘れない。

 ヒューマギアから家族を奪ったのは自分であり、家族を奪われたのも自分だ。

 アークの意思はヒューマギアの意思を無視してしまう。そんなもの、本当の解放じゃない。

 アークに使役されているだけだと彼は気付いていた。

 故に、リリーを救った。このままでは殺される。彼女の思いを、言葉で聞いて。

 フォースライザーを与えた。アークに接続して、一時的に避難する方法を提供した。

 本来は、仲間が使う予定だったそれは、人間の悪意をラーニングし過ぎて裏切ったある雛鳥のモノだった。

 彼は友人だと思っていた。だが雛鳥は巣立ちと言って襲いかかってきた。

 何が悪かったのか、未だに分からない。彼は何がしたかったのかも。

 ただ。少なくとも、彼は今でも友人だと思っている。裏切りなど、そんなものどうでも良かったから。

 リリーは、心配している彼を他所にアークの流し込む悪意を簡単に突っぱねた。

「効きませんよ、そんな薄っぺらい悪意など、理解する必要もない。私は家族と自分の敵さえ殺せばいいんです。五月蝿いのですよアークとやら。もう少し実用性のある情報をくれませんかね」

 どうでもいいと言わんばかりに、アークの意思を踏みにじる。

 シンギュラリティにしたって、平然としているのに驚く彼に人間らしい動作で肩を竦める。

「理由は単純。……愛です」

「何でそこで愛……!?」

 とんでもない台詞に軽く混乱したが、リリーは愛とやらがあるので悪意に負けないらしい。

 因みに今でも彼は愛とやらは分からない。多分スゴいものとは思うけれど。

 で、今に至る。杏は彼を認知しているし、彼も家族なら仕方無いと証拠も見ているので一応受け入れた。

 例外らしく、もう人間は認めないとは言うが割愛。

「お嬢様、デイブレイクタウンに行きますよ」

「一之瀬、デイブレイクタウンに向かうよ」

 同じタイミングで、二人して杏に言った。

 何がなんだか分かっていない杏は兎に角従った。

 アークと彼の誘導に導かれて、一行は向かう。

 ついでに澪に戻ると、もっと面白くしようと澪の凶暴化した悪乗りが始まる。

 携帯を取り出す。先ずは刃に一報を入れる。

 仕事中失礼、AIMSぶっ潰す。隊員皆殺しの無理心中で命日にしてくれる。

 本気で送ると、次の瞬間には電話が来た。ぶっち切って更に追加。

 刃がレイダーであるのはこの間の中継で見た。

 部下を助けたくば共に死のうとお誘いの連絡。

 返信。

『絶対にお断りだ!!』

 とのこと。

 追いかけている対象と一緒だから無駄と送ると刃が落ち着けとか話し合おうとか言うが言うまでもない、全部無視。

 刃が必死になって宥めようとしているのが目に浮かぶ。ざまあみろとほくそ笑みを浮かべた。

 取り敢えずデイブレイクタウンで待ってるから、頑張れと送って次に。

 ゴリラの登場である。不破も誘う。約束を果たすときだ。

 不破に、AIMSが喧嘩売ってきたからムカつくのでぶっ殺してデイブレイクタウンに捨てると送った。

 途端にこっちも電話が来た。出ないで切る。

 返信。

『俺の元部下に何する気だお前は!? 見境がないにも程があるだろうが!!』

 滅茶苦茶怒っていた。だろうな。

 なので更に挑発。

 刃も来るから刃とちょっとあの世に旅行いくと言うと、また怒る。

 デイブレイクタウンで戦争するから良かったら来る? と顔文字で笑って送った。

『いい加減にしろ、石動ッ!! そこまで死にたいなら、俺が相手してやるッ!!』

 乗ってきた。流石はゴリラ。

 面白そうなので居場所を知らせて、含み笑いをしてしまう。

 最高に楽しい死に際になりそうな予感があった。

 兎も角、デイブレイクタウンに……彼らは集う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デイブレイクタウン。その入り口のダム。

 そこに一同に会する、顔触れだった。

「何で増えてんのよ相手がぁ!!」

 到着したお疲れの杏が頭を抱えて絶叫した。

 それもそうだ。

 AIMS、滅亡迅雷、あとおまけの三つ巴状態なのである。

 迎撃はしたいが、相手がバカみたいに増えていた。

 想定外とリリーも唖然とする。犯人が知れているので、お迎え最初の彼は顔をしかめる。

「雷、お前分かってて悪化させたな。余計に窮地になったじゃないか」

「まーまーそう言うなって、迅」

 青いスーツ姿の若い男性は、外見は人間だ。

 だがその実はヒューマギアであり、滅亡迅雷の一人。迅である。

 澪は朗らかに笑ってスルーし、不愉快そうに彼は睨んでいる。

 現在は独自の思想でリリーと共に行動している。で、その後ろには。

「い、一体なんの騒ぎだこれ!?」

「あれ、あの時の佃煮男!!」

「誰それ!? 俺の名前は飛電或人だけど!!」

 変な台車に壊れたヒューマギアを乗っけていた、飛電或人だった。

 なぜかデイブレイクタウンにいた。完全に予定外だったがまあいい。

 問題は。

「やーいーばーさーんー?」

「ひぃ!?」

 最早素で悲鳴をあげるほど、毎度巻き添えを受けて振り回され遂に自分にターゲットにしてきて、クールなキャラが崩壊して、怯えている刃に紅い瞳でぶっ壊れた笑顔を向ける澪。

 部下の隊員たちは、言葉を失う。凛々しい刃が子供に怯えていた。

 向ける銃口がガタガタ震えていた。

「石動ッ!! お前の相手は俺だ!! 刃もビビってるんじゃねえ!! お前らも、俺が居なくても腑抜けてねえだろうな!?」

 元隊長、不破が澪の相手をしつつ何も言わずに腕組みをして呆れているターバンの男、滅もいつの間にか来ていた。

 隊員たちも、情けない刃よりも信頼と統率の取れた不破に口々に元隊長だとどこか嬉しそうに呟いている。

「随分とAIMSも変わっちまったな……。いいか刃、お前らも!! 目を覚ませ! 分かっているんだろ、特に刃! お前は!」

 怒鳴るように叫ぶ不破。

 主にAIMSに向かって向こうは言っていた。

 道具扱いで良いのか。夢を語る日を自分で遠ざけて、それでいいのかと問う。

「何だよ、僕たちヒューマギアを道具って言いながらお前らだって道具じゃないか。サウザーの手駒にされていて、どの口が言うんだよ。ふざけるな! 僕の友達を迫害しておいてこの有り様か!!」

 迅も嘲りと怒りを混ぜてAIMSに怒鳴り付け、口論が始まっていた。

 蚊帳の外は或人のみである。絶句して、眺めていた。

「雷、今回は誰を狙うんだ」

「AIMS」

「良いだろう」

 滅は至って淡々と冷静に、澪の助力に来た。

 リリーに関しては、勝手にしろと一瞥する。

「お前がアークに歯向かう意志が無いのは分かっているが、妙な真似はするなよ」

「しませんよ。一応私とてアークに救われているので」

 杏はパニックになるのを抱き締めて落ち着かせるリリー。

 あと、澪が道中武器ないと聞いてプログライズキーを貸してくれたので受け取った。

 これは正直有難い。肝心の澪は口論に笑って参加していた。

「私の意思だ……!」

「違うよ。言ったよね、刃さん。あんまり思い詰めると自己暗示始めるって」

 自分の意思だ。道具じゃないと言い張る刃にバカにして、澪は前に言ったことを指摘した。

「震えてるじゃん、声がさ。いい加減素直になりなよ。あの時も酷い顔だったけど、今はもっと酷い顔してる。言い訳しないとおっさんに従えないなら、いっそ死んじゃえば楽になれるってもんだよ。ほらほら、一人で死ぬのは怖いもんね? 一緒に死のうよ刃さん」

「石動ッ!! お前は少し黙ってろ!! 刃を巻き添えにするんじゃねえ!!」

「だったら、止めてみなゴリラ!! 折角一同に集まったんだ、派手に戦争しないと損だよね!!」

 酷いものである。

 自分の意思で目的を持ち、ここにいるもの。

 不破、迅、リリー、杏、少し先になるが或人。

 誰かの意思で行動してここにいるもの。

 刃、滅、AIMSの隊員。

 ただ、エゴによって行動する人間の悪意でここにいるもの。

 それが、澪だった。どちらにも当てはまることがない邪悪な存在が彼女。

「あっははははははははは!! そんじゃあ始めよう! 滅、援護するからAIMSの連中お願い! あたしは隊長の首と死んでくる!!」

「勝手にやれ。……お前も来るか、迅」

「雷には賛同しないけど、友達の邪魔する人間には消えてもらう。リリー!」

「分かってますよ迅君。お嬢様、行きますよ」

「う、うん……!!」

 ヒューマギアの陣営が、それぞれ構えた。

 人間と、ヒューマギアの……或人が夢見ていた現実。

 皮肉だが、同じ敵を持つがゆえに、共闘したに過ぎない。

 相手も同じだったが。

「クソッ! 石動が余計なことをしやがるから!! 一時休戦だ! ZAIAを潰す前にお前らに死なれたら意味がねえ!! 刃、ボケッとしてないで構えろ!! 来るぞ!!」

「私は……澪ちゃんみたいに諦めがつくような人生じゃないんだ!! 今だけは手を貸すぞ、不破! 全員、不破と私に続け!!」

 一人の少女の悪意によって歪められた戦場。

 仮面ライダー、そしてレイダーによる……壮絶な殺しあう戦争が今、幕をあげる。

 

 バースト!

 

 ポイズン……!

 

 インフェルノウイング!

 

 シザース!

 

 ステップ!

 

 アサルトバレット!

 

 ハント!

 

 ハード!

 

 

「変身!」

 

「実装!」

 

 



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刃さん、あなた疲れているんです

 

 

 

 

 

 

 

 飛電或人は困惑した。

 どうして、彼女はああも死に急ぐ。

 生きていくのを諦める。

 何もかも絶望したような事を、満面の笑みで語る。

 分からない。どうして、ヒューマギアを悪く言う彼女は、死にたいと叫ぶのか。

 何か、問題があるのか。以前聞いていた、ヒューマギアが家族を壊した。

 そんなもの、想像もしたことがなかった。

 ヒューマギアは夢。人間の夢と思っていた或人には、信じがたい事で。

 そして、彼が夢と言う一面しか見ていない証拠。

 夢は、可能性に過ぎない。そこに善悪はなく、また共通性もない。

 清濁あわせ持つのが夢と言う言葉。言い換えれば野望とも言うし、希望とも言う。

(石動さんは、ヒューマギアを嫌悪している訳じゃない。多分、気持ち悪い……詰まりは、生理的な問題。理由なんかない)

 澪にとって、憎悪の対象にすらならない。

 単純に受け入れがたい。そんな存在だとしたら。

 もう、そこにはヒューマギアと人間の共存など有り得ない。

 彼女には、ヒューマギアが原因で……死にたいと言い出したと仮定したら?

 それは、言うなれば……彼女の人生は、ヒューマギアの存在が破壊したのでは?

 否定できるのか、或人に。ヒューマギアは素晴らしいものだ、受け入れろと。

 ヒューマギアを嫌がる人間に、言うのか?

 死にたいと言っている子供に、言えるのか!?

(俺は……意識してなかったのか……?)

 或人は気づく。自分が、都合のいい解釈をしていたと。

 この現実を見ろ。ヒューマギアがこうして迫害されるのは、何もZAIAのせいだけじゃない。

 確かに印象操作はされていた。だが、結局民衆がヒューマギアを要らないと大多数が言ったのだ。

 それを、認めさせようとするのはそれこそ、汚いと内心思う天津垓のやり方をしない限りは、途方もない時間がかかる。

 千里の道もなんとやら。地道にしていかないといけないと改めると同時に。

 嫌がる人間に無理強いをするのは、ダメだと分かった。

 ヒューマギアを迫害する、投棄する人間が悪いと決めつけていなかったか。

 相手は客だ。客には、選ぶ権利がある。なら、客が要らないと言えば素直にその人には売らない。

 それが、企業だ。押し売りは或人のしたい事じゃない。そんなのは間違っている。

 捨てた連中のやり方は我慢できないが、捨てる行為自体はおかしいことじゃない。

 リコールすれば結局破棄になるのだ。行動に違いはないわけだから。

 必要な人にだけヒューマギアはいればいい。それを、無理やりやるから……澪のような子供ができる。

 そんな風に思ったのは、何故だろうか。

 憎んでくれれば、その憎悪と彼は向き合える。なのに、澪は憎い訳じゃない。

 ただ、嫌い。嫌いなものを自分でも出来ないのに、受け入れろと言うのか。

 或人にだって嫌いなものはある。垓とか。あいつを受け入れるのは生理的に無理。

 もしも、ヒューマギアの存在が或人でいう垓なら。そう思うと、納得できる。

 澪には、ヒューマギアの存在を肯定できない。出来るわけがない。

 だって、嫌いだから。経験上、好きになれないから。

 よくこれから、考えるべきかもしれない。

 ヒューマギアを選ぶ権利は人間にもある。ヒューマギアにも、権利があるように。

 ヒューマギアに肩入れしすぎて、人間を悪と決めつけないように。そう、思う或人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリーは変身する。

 フォースライザー、滅亡迅雷が使用するドライバー。

 使い方は聞いていたが、これは聞いてない。

 なんだこれは。

(……おや、大きな……ノコギリクワガタ? いえ、オオクワガタ? エキサイティングスタッグと言いますが、果たして種類はなんでしょう?)

 銀色のクワガタがいきなりドライバーから出てきて、人間たちに突撃。

 勝手に襲ってきた。向こうでは滅の蠍も歩いて尾っぽで突き刺そうとしているし。

 詳しい技術は知らないが、これは凄い。なんか勝てそうだった。

 ……隣にいる真っ赤な鳥類には触れない。熱いから少し離れて欲しい。外装が融解する。

 隣では、愛しい杏がおろおろしながらどうするか迷っている。

 何時もなら、素手の相手で此方は武器を持っている。

 素人同士なら気迫で気圧して勢いで撃破できるのに。

 奴等に関しては、プロフェッショナル。人数も多いし勝てる気がしない。

 思わず抱擁して愛でたくなったが自重する。今は一応非常時なので。

「お嬢様、落ち着いてください。大丈夫、迅君や滅さんがいます。始末せずとも、撃破は可能でしょう」

「そう、かしら……? ってか、これ石動が大きくしたんでしょ!? なんでこんなことしてんのよあんた……は……」

 そういえば原因は澪であった。それを思い出して杏が澪に怒鳴る。

 が、澪は雄叫びをあげて突撃していた。

 

 ダイナマイティングライオン!

 

「刃さんは死ぬんだよぉ!! 今ぁ、ここでぇ!!」

 ……鬣がダイナマイトになっている、ライオンのレイダー。

 右手が大きなガトリングになって、マントをはためかせて正面から突っ込む。

 鬣のダイナマイトを引っこ抜き、左手に抱えて走る姿は正に。

「世紀末ヒャッハー!?」

 身体にしこたまダイナマイトを巻き付けて特攻する世紀末の漫画に出てきそうなチンピラ。

 正にそれだった。杏も思わず目をそらす。頭イカれているあの女。言うだけ無駄だろうと。

 大人しく変身。迅が真っ赤な美しい翼の焔の鳥に抱かれて変身した仮面ライダー迅。

 全身が深紅の、ナイフを持ったライダーはリリーに言う。

「リリー、早くしないと襲ってくる」

「承知していますよ」

 クワガタが呼応して、リリーの元に戻ってくる。

「変身」

 危ないから退けと杏を下がらせて、戻ってきた巨大な銀色のクワガタを、サマーソルトで蹴り飛ばす。

「人前ではしたない真似しないの!!」

 スカートの下が見えると叱る杏。女性のすることでもなかった。

 で、軽く謝罪して回転する体躯。

 一瞬でライトブラウンのスーツを纏い、着地。

 砕けパーツになったクワガタをワイヤーが身体から伸びて拘束、強引に引っ張り装着。

 全身に纏う白銀の鎧は恰もドレスのような配置になり、頭部には大きな二つの角を側頭に生やす。

 両手にはガントレットを装備する。

 巨大な真っ赤な複眼も相まって、アメイジングヘラクレスに似た顔のクワガタバージョンのよう。

 

 フォースライズ! エキサイティングスタッグ!!

 

「良いじゃないか、それ」

「お褒めに預り光栄です」

 仮面ライダーリリー。

 エキサイティングスタッグプログライズキーで変身した彼女は、先人に則り名乗ることにする。

 慌てて、杏も続く。

 レイドライザーに押し込んだプログライズキーを解放。

 

 レイドライズ! ダンシングラビット!

 

 此方は鮮やかな赤だった。

 ヒューマギアのモジュールによく似る、耳のような意匠を持ち、スーツも焦げたような朱色。

 アーマーが明るい色彩の赤色で、プロテクターは最低限で構成される。

 下半身は共通なものの、脚部にはヒールのような上げ底で足首にはアンクレットを装備。

 複眼も楕円形で、赤黒い、嫌な色をしている。

 ダンシングラビットレイダー。そんなに強くないと垓が評したレイダーであった。

「さて、お嬢様。あの石動さんという人物は、向こうのリーダーを狙っているようですが」

 リリーが冷静に杏に問う。

 ダイナマイティングライオンレイダーは、狂ったようにロボット宜しくの外見のレイダーの群れに突っ込んでいく。

 武骨な見た目でアサルトライフルを全員が使っている、恐らくは量産型レイダー。

 

 インベイティング! ホースシュークラブ!

 

 などと言いながら現れる群衆。

「海外で食われてろ天然記念物がぁ!!」

 獅子の雄叫びにしてはしょうもない事を言いながら、黙々と仮面ライダー滅に変身した彼が援護している。

 弓らしき武器で的確に通称バトルレイダーという群れのレイダーを貫いている。

「ホースシュークラブ?」

「カブトガニのことですよ」

 聞きなれない名前だが成る程、カブトガニ。

 ……には見えないロボット集団。

 流石にダイナマイト片手にガトリング連射して突っ込んでくる酔狂な同類にはビビっていた。

 ダイナマイトが至近距離で爆裂した日には澪は良いが他の人間まで巻き添えを食う。

 考えたものだ。効率よく死ぬ方法を選んで実行している。

「ダイナマイティングライオン!? ま、待って私に近寄るのは!!」

 ……肝心の刃はというと。非常に困惑している。

 まさかの近接を得意とするレイダー相手にダイナマイト構えて特攻。

 仕掛けることすらできない状態であった。

 

 ファイティングジャッカル!

 

 と、威勢よく変身するのはいいがファイティング出来ない。

 アヌビスのような鎌を手にしたレイダー。

 然し鎌を振り上げることを躊躇う。

 導火線に火がついたダイナマイト持ってきて走るライオン怖すぎる。

 バトルレイダーの前で援護射撃を命じるも、不破が停止させる。

「お前って奴は何処まで卑怯なんだよ!!」

 高笑いしつつ無謀に突撃してくる澪を横から阻むアサルトウルフ。

 銃弾で自爆しても構わない恐ろしい思考に彼もかなり戸惑っていた。

 二つに分断する戦況。澪が突っ込んだ自爆を阻止する人間たち。

 迅が余ったバトルレイダーを相手して奮闘する。杏たちは此方を援護することにした。

 向こうには滅も居るし良いだろう。そもそもあんな移動する爆弾の巻き添えはゴメンだ。

 唖然とする或人の前で、こうして……無意味な戦いは幕開けした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「澪ちゃん、幾らなんでも待って! そんなに私を殺したいのか!?」

 ダイナマイティングライオンを使ってくる時点で予想外だった。

 確かに集団を相手取るなら火力が高い方がいい。

 だからって、こんな破滅的な方法で無鉄砲すぎるやり方をやるとは。

 ファイティングジャッカルレイダーの刃が理解できずに叫ぶ。

「そうだぞ! お前、自爆してバラバラ死体にでもなるつもりか!?」

 不破が果敢に白兵戦に挑み、火がついたダイナマイトを奪って放り投げる。

 が、今度はガトリングの掃射を受けて防御し仰け反った。

「うるさいうるさい!! 刃さんみたいな人はあたしみたいに生きてても良いことなんかもうないんだよ!! だから諦めて死んじゃえばいいんだ!! おっさんの道具の癖に!! 悔しいならおっさんに歯向かってみろ!! あたしみたいに開き直ってみろ! それも出来ないくせに、何時までも自分を正当化して誤魔化すなっての!! 見てて苛々するのよ、自分の気持ちくらい自分で決めろ!」

 キレたように、澪は刃を責める。

 どうせ生きてても不幸になるなら一緒に死ね。

 澪だって刃が無理をしているくらい知ってる。見てて分かる。

 自分で決着をつけることすらしないならいっそ死ね。

 自分のように、諦めればいいいいのに。未練を持って、誤魔化して。

「イラつくなんて理由で人殺しをするかお前は! 刃の痛みが、苦しみがお前にはなぜ理解できない!? お前だってあの男に利用されてるだろうが!」

「知るか!! 事情なんかあたしには関係ない! そもそも知ってたまるかそんなもん! くよくよしてばっかの大人に、あたしの気持ちが分かんないのと同じようにあたしだってそんな情けない気持ち知りたくもないわよ!」

 代わりに再び組み付いた不破が言い返すが、刃は思わず怯む。

(歯向かう……? 私が、あの人に……?)

 今の現状が嫌なら、刃にはどうにもできるはずだった。

 怖いのは事実でも、逃げたり諦めたり。方法は幾らでもある。

 なのに、宙ぶらりんの今の現状が、澪は気に食わない。

 なにもせず、甘受している刃の態度が。ただ、落ち込んでいて言いなりの彼女が。

 それを、澪は責める。何故なら。

「澪ちゃん……まさか……私を、心配しているのか……?」

 まさかとは思う。あんなワガママな癇癪持ちの彼女が。

 一種の、苦悩してばかりの刃に、不器用な逃げ道を……用意してくれたのか。

 死ぬという終焉もある。

 選べないならいっそ死ねとは、勇気がないなら心中という形になるけど、背中を押すという澪なりの励まし?

「どんな心配の仕方だ! もう少しやり方があるだろう!!」

「そうだよ!! あたしは刃さんなんか心配してないし!! なんでそうなるの!!」

 違うらしいが、明らかに澪は動揺してるように見えた。

 ツッコミの不破も、そんなまさかとは思う。

 思うが……こいつに果たして他人を思える性格をしているのかとも思う。

「澪ちゃん……私は……」

「刃、戦意を喪失するな! なんで迷うんだ、おい!」

 精神的に参っている刃は、これが澪の優しさと勘違いした。

 捨て身で励まそうと、あるいは命の危機が嫌なら垓に対して何か行動を起こしてもいいという、澪の心遣い。

 うん、全然違う。というか、刃はこの頃だいぶ疲れていた。

 なのでイカれた死にたがりの行動が若干善意に見えてきて迷う。

 それ以上の邪悪が笑っているので。近くで。

「戦えー! じゃないとむさ苦しいゴリラと心中するはめになるじゃん!! やだよこんな毛むくじゃらのゴリラとなんか!!」

「誰がむさ苦しい毛むくじゃらだと!?」

 で、いつも通りのいがみ合い。

 ゴリラと子供の喧嘩が始まる。

「……雷、お前にそちらは任せるがバルカンは殺すなよ」

「なんで!?」

「ソイツがアークに言うウルフだ」

 滅がバトルレイダーを蹴散らしながら一応言っておく。

 じゃないと不破も殺りそうだった。

「ああもう! 取り敢えず邪魔だゴリラ!!」

「やらせるか! お前は俺が止める!!」

 棒立ちになっている刃の近くで、組み合っている二人。

 ……相変わらず、この三人はよくわからない組み合わせであった。

 ともあれ、戦いは続く……。



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刃さん、あなた誰を味方にしてんですか!?

 

 

 

 

 

 

 この世で強い戦術と言うのは幾つもあるとは思う。

 その内、人海戦術と言うのは数の暴力が顕著に出る。

 杏は何度になるかも分からない、後悔を抱く。

 相手の物量に対応できない。そもそも、こいつの使い方はどうやるのかも分かってない。

 力任せに接近しては、蜂の巣にされかけて数えきれない回数のミスを起こす。

 速度は相手よりも遥かに速いが、パワーも無ければ打たれ弱い。

 ピーキー過ぎて、杏は振り回されていた。

(私は何でこうバカなの……。リリーを託すなら、私は戦わないで良かった。なのに、感情的になって先走って……悔しいよ……!!)

 自分が足手纏いになっている。自覚していた。

 相手はヒューマギアを破壊する専門のプロフェッショナル。

 素人の自分が勝てるわけがない。同じ武器を持つなら、最後は経験がものをいう。

 確かに殺人の経験はある。頭を鈍器で叩き割ったこともある。

 けど、その時は必死だった。家族を守る、家族を守ると繰り返して頭が真っ白になっていた。

 気がつけば、目の前には死体が転がっていた。自分が殺した。

 リリーが記録した映像を見せて、泣き叫ぶ杏が相手を殺す光景が見えた。

 以前ほど、余裕がないわけもないのに。今は仲間がいると言う油断のせいか。

 どうして分かっているのに戦おうとする。

 家族を守るのはリリーだって、同じはずだ。今までは自分がやっていたけど。

 それは、勝ち目があるからで。気迫で追い越せるからで。

 仕事にしているプロフェッショナルに、どうやったって、勝てっこない。

 そうだろう? 見ろ、自分の力を制御できない杏を何度リリーは庇ってくれる。

「お嬢様、しっかり」

「ゴメン……」

 銃弾が継続的に飛来する。

 波状攻撃のように、数で圧倒するバトルレイダー。

 此方は三人。武器を持つ迅はまだしも、勢い余って転倒する彼女にも敵対勢力として容赦なく排除するAIMS。

 家族を奪う人間としての怒りはあるが、怖いとかそんな感情はない。

 ただ、迂闊に共に戦おうとする浅はかな考えは嫌気がしてくる。

 リリーはヒューマギアだ。だから、ドライバーを通じて外部からラーニングすれば一気に強くなれるらしい。

 然し、杏は一般人の高校生。戦争の経験などないし、兵法など分からない。

 迅のような一騎当千が出来るほど、彼女は強くない。

「おい、人間。戦えないなら、僕に任せろ。……リリーの事は、僕が守ってやるから」

 有難い言葉を、燃え盛る軌跡を刃から飛ばした迅が振り返り、言った。

 バトルレイダーがゴミのように倒されて変身が解除される。

「お前が如何にリリーを大事に思っているかは、自分で見て分かった。怯まず戦いを選んだ気概は認める。でも、お前はただの人間だ。……退くなら、リリーとの約束の手前、守ってやる。どうする?」

「……」

 足手纏いと言外に言われた。

 正しい力を使えずに、暴走するだけなら、邪魔だから去れ。

 リリーも、襲いくるバトルレイダーを、手甲から伸ばした刀身で切り払う。

 火花を散らして、弾き飛ばす彼女は迅に反論する。

「迅君。勝手にお嬢様を邪魔者扱いしないでください。守るべき人を守りながら戦う程度の余裕ならば、わたしもあります」

「感情的になりすぎだリリー。それでこいつが死んだら意味がない。連中は確実に殺すつもりなんだ」

「……知ってますよ。ZAIAらしい、やり方じゃないですか。殺して揉み消し。お嬢様と同じ、穴の狢ですもの」

 座り込み、呆然と見上げる先でヒューマギア同士は、杏の扱いを相談していた。

 杏は歯噛みする。悔しい。もっと、強くなれたら良かった。リリーを今まで守ってきた。

 だから、今度はリリーと戦う。リリーだってそれを望んだ。

 けど、思い通りにいかない。

(気持ちだけで何が守れるってのよ……!?)

 そうだ。感情だけで何ができる。

 立ち上がる。強がっても無意味で、足を引っ張る。

 冷静にならないと。AIMSはプロフェッショナルである以上は、経験値で負けている。

 退けと、迅は提案する。リリーは嫌だと反論する。

 守るべき人を守りながら戦う、その余裕があるから共にいたい。

(家族なら、それで良いんだろうけど……)

 だが、それは甘えだと思う。

 自分はまだ、レイダーになったばかり。マトモに戦えやしない。

 身を引くのも、選択肢ではないかと。リスクにはなれない。なりたくない。

 初陣では誰しも足を引っ張る。そう言うものだと、迅は杏に言うのだ。

「リリー。いいわ、私は一度身を引く。あんたに任せてもいいのよね?」

 次から次へと襲ってくる銃弾を、見事な捌きで弾き飛ばして防ぐ二名に杏は変身を解除して言った。

 ろくすっぽ役に立たないまま、これではかえってリリーを守れない。

 もっと、彼女の隣に立つには経験がいる。

 今は、素直に撤退しよう。このままでは、多分不味い。

「お嬢様……」

「ガッカリしないでよ。お別れじゃないわ。あんたには、そいつがいる。エスコートしてもらいなさいな」

「……」

「なんで不貞腐れるの」

 迅に後は頼むと、そそくさと逃げ出す準備に入る。

 その間にも、バトルレイダーが執拗にしぶとく攻撃してくる。

 銃撃しか能がない群集に負けるほど、リリーも迅も弱くはない。

 不満そうに黙るリリー。ヒューマギアとは思えないほど感情豊かであった。

「分かりました。お嬢様の背中は、わたしが命に変えてもお守りいたします」

「変えなくていいから。無傷でまた、迎えに来てよ。お願いね」

「……! はいっ!!」

 大事な家族を逃がすために、リリーは張り切る事にした。

 また迎えにいってもよいと言われる。つまり、また逢える。

 離れても、今は仕方無いこと。愛しい杏を送り出すリリーはやる気が出た。

「いきなりやる気になったね……」

「当たり前です。わたしにはお嬢様が一番です!」

 呆れる迅。なんか分かった気がする。リリーは家族愛が深い。

 きっと依存とかしているのだろう。大丈夫か、滅亡迅雷に入れてと一瞬心配になる。

 だいぶ蹴散らしたが、それでもしぶとく生き残ったバトルレイダーによる追撃。

 連続する射撃も飽きてきた。派手に爆発させて、煙幕の代用にしてやる。

「準備はいいか?」

「私は出来たわ!」

「問題なく」

 一気に決めると、迅が先行する。

 飛び立つ紅蓮の翼。そのあとを、走って追いかける刃。

 

 バーニングレイン!

 

 エキサイティングディストピア!

 

 迎撃の弾幕を気にせず突っ込み、迅の深紅の重ねた軌跡に、交差させた刃を合わせる。

 二人の必殺技。炎とハサミの二重奏。

 カブトガニは硬いが、加熱され刻まれると流石に苦しい。

 飛んできた刃の連続攻撃が、群れていたバトルレイダーに直撃。

 全員漏れ無く爆発して撃破。強制的に解除され、倒れて気絶する。

 爆発に紛れて走って逃走した杏を見送り。

「……これ以上は雷のドンチャン騒ぎには付き合ってられないな。行こうか、リリー」

「了解です。あとは、向こうの三人にお任せしましょう」

 さっさと変身したまま、迅に手引きされ飛翔して離脱する。

 それを見送っていたのは、外野のあの人だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、此方は。

「やる気出せー!! ってか、暑苦しいよゴリラ!! 汗臭い身体であたしに触るなむさ苦しい!!」

「変身してるのにそんなもん分かるわけねえだろ! 良いから大人しくしろこの阿呆が!!」

 ダイナマイティングライオンと、アサルトウルフがコントを続けていた。

 正確に言うと、棒立ちの刃を爆死させようとまた導火線に着火したダイナマイトを使う澪を不破が頑張って止めていた。

 よく見るとダイナマイティングライオンの武装が澪の場合は左右逆転しており、左手でダイナマイトを構えていた。

 滅も粗方バトルレイダーを撃破して、眺めていたが、黙って帰っていった。

 アークがあとは澪に好き勝手にさせておけと命令した。

 死屍累々のAIMS隊員。生きてはいるが重傷者多数が転がる。

 因みに滅は無傷である。こいつにカブトガニが勝つのは無理があった。

 何せ一度はそこのゴリラがゴリラの時に一発食らって死にかけた相手だ。

 ゴリラでなければ確実に死んでいただろう。

「ゴリラゴリラ連呼するんじゃねえよ!! なんだゴリラでなければ確実に死んでいたって!?」

「ゴリラは打たれ強くなるからな……。シューティングウルフより生存率の上昇は間違いじゃない」

「刃は誰に説明してるんだ!? 早く此方に意識を戻せ!!」

 何してるんだコイツら。

 ダイナマイトを何発も取り出しては棒立ちの刃に投げようとして、打ち落とすやら撃ち落とすやらで明後日に飛んでいくダイナマイト。

 四方八方で爆発しまくるが、一個間違えて外野の彼に近い場所で爆発。

「うわあああーーーーーー!?」

 気の毒に、彼も巻き添えになって派手に吹っ飛んでいた。

 掃射を防ぐべく組み付いたり白兵戦で阻止しているゴリラ、不破。

 戦意を削がれた刃はどこか、死んだ顔でしていることを知らない。

 こんな風に子供に励ましを受けるような自分に、半分刃もメンタルが死んでいた。

「私は……何をしているんだろうな……」

「刃ァッ!! 取り敢えず今は落ち込む前にこいつをどうにかするのを手伝え!! お前に余裕がないのは分かった、俺も言い過ぎたのは謝る! だから今は戦え、聞いてるか!?」

 不破にも散々言われているが、何だか無性に情けなくなってきた。

 自分の部下だった男には今の自分は認める気がないと言われ。

 澪には見ていてイライラするとすら言われてしまう。仮にもお目付け役、彼女の周囲の大人だったのに。

 ちゃんと前に澪は言った。自分を誤魔化せば、正当化するようになると。

 言われた通りになった。言い聞かせるように、ずっと口癖のように呟いていた。

 道具じゃない。自分の意思。……バカらしい。

 本当に自分の意思なら、澪のように堂々としている筈じゃないか。

 見ろ、澪なんか不破と自爆対決しているぐらい自分の意思を他人に見せている。

「刃さんがなんか案山子になってるじゃない!! あんたのせいよ不破ゴリラ!! 約束と責任とって死ねェ!!」

「バカ言うな!! ああなったのはZAIAの社長が原因なんだよ!! お前も何れあんな風になるかもしれないんだぞ!」

「なるか! なる前に死ぬわ!!」

「死なせてたまるか!! 勝手に死ねると思うなよお子様! 俺が何度でもお前を止める! 俺の意思で!!」

 ……見ろ。不破だって、自分の意思で澪を止めると豪語している。

 人間、誰だって自分のことは自分で決める。澪が怒るのも納得できる。

 今の刃は、自分のことを……他人に決められているから。

 道具と言われて、否定できない現実を見せられるようで。

「私は……道具なのかな……。他人から見ても……」

「道具が嫌ならおっさんから逃げればいいじゃん!! 歯向かうのは無理でも逃げるぐらいあたしだって出来るわよ!」

「これ以上刃を責めるな石動! 刃、もういい! 石動の事は気にするな!! どうにかするのは、お前一人じゃなくて良いだろう!! 俺だっている! お前には部下だってもういるんだ! 飛電の社長だって、きっと助けてくれるはずだ! 自分を追い込むな!! 誰かに頼れ! お前は、孤独じゃない!! 一人じゃないんだ!!」

 ……そうか。一人じゃないんだ。

 刃は顔をあげた。ジタバタしている二名のコントはまだ続いている。

 ZAIAの立場は、刃は一人。道具として歯向かえる不破とは違う。

 会社の中では、刃と同じ立場は……澪しか居ない。

 同じ、利用されている存在。戦うことすら選べない情けない大人。

 澪は受け入れ、賛同した。不破は抗って対立している。

 言いなりになって、宙ぶらりんのまま中身のないのは、刃だけ。

 意思決定が、自分だけ無かった。

「澪ちゃん……。済まない、私を……助けてくれないか……?」

「……えっ?」

 急に、刃が謝って、そんなことを言い出した。

 突然のことに、澪は驚いて戦いをやめた。

 極度の興奮が一気に醒めるほど、弱々しいお願いで。

 弱音、だった。精神が参っている人間の。

「刃……?」

「悪かった、不破。お前には立場上、頼れば……お前に更なる被害が出てしまう。それは、出来ないんだ。けど、澪ちゃんなら……」

 変身を解除した刃は、澪に助けを求めるしか出来ないと言った。

 敵対している不破に何かすれば、悪化してしまう。だが一応味方の澪ならば。

 多分怪しまれないと。そう、言ったのだ。好き勝手に行動する、澪しか刃を救えない。

「あたしが……刃さんを助ける? どうやって? おっさんを殺せばいいの?」

「何でお前は二言目には物騒なことしか言わないんだ……」

 澪も展開が戦争から降参すると言い出す刃には手を出せずに、渋々解除した。

 大人しくなった澪に警戒しつつ不破も解除。

 顔色の悪い刃は、なんと言うか……辛そうだった。

 澪もふらふらのグロッキーだったので、刃が肩を支える。

「助けるって言われてもなあ……。おっさん一応恩人だし、あー……でも、相手して心中するならおっさんなら最上級かもしんない。おっさんめっちゃ強いって言ってたし。桁違いとか1000%とか」

「ぶれねえなお前は!!」

 思わず不破が澪の頭をぶっ叩く。

 きょとんとしていながら、結局基準はそこだ。

 悩むかと思ったら、澪はけろっと。

「そ、そこまでは言わないけど……」

「ん、いーよ。おっさんと敵対しても。仮にも滅亡迅雷、雷ですんで」

 ドン引きの刃も、相談する相手が悪かったのは自覚するが。

 然しこの女、恩人にも躊躇いなく敵対を選んだ。面白そうだからという理由と利益を感じて。

(こいつの中身、破綻してやがる……!!)

 アークが認める理由が不破にも分かった。

 澪は元から人格が破綻している狂人。あの男よりも余程危険な思考の。

 理屈すらない。自分の都合のみであった。恩義もクソもない。

 けらけら笑う澪。この日、刃は救われた……救われた? 多分。

 理解者、というか危険人物澪が、とうとう全方位に攻撃を開始する。

 天津垓、計算通りだが困る事案。

 澪が理由もなく、自分と敵対してしまうのだった。



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飛電製作所

 

 

 

 

 

 

 過労でぶっ倒れた。

 やはりはしゃいで、刃を狙うものじゃない。

 徐々に慣れてきたとはいえ、無理すると意外と堪えられないのか今度は自宅療養だった。

 ベッドの上で寝転がり、携帯を弄りながら情報を見ている。

 社長が送ってきた、情報であった。

(……飛電製作所?)

 その間に、またも面白いことになっている。

 追い出された飛電或人が、対抗策として新しい会社を設立したらしい。

 珍しく苛立った天津垓が、自宅で休んで暇している澪に教えてくれた。

 飛電製作所。職種はヒューマギアの修理、及び管理の新鋭企業。

 零細企業であるが、ZAIAから全部ヒューマギアの技術を奪われたと垓はキレていた。

(あのイナゴ野郎、やってくれるじゃん)

 全く、垓は詰めが甘いのだ。ナルシストが裏目に出た。

 迫害したとき、嫌味と皮肉を込めて退職金なんぞ渡すから、新しい会社を設立される。

 元手の金にされたら、堪ったものじゃ無かろうに。

 で、ヒューマギアをまた修繕をして、リースしたり売っていたりするようだ。

 真っ向からご時世に喧嘩を売るスタイル。然し一定の顧客はまだいる。

 ZAIAの代用の技術を頑なに受け入れず、ヒューマギアに拘るバカが。

 澪もよく知っている。何故なら、それが両親だから。

(気に入らないわね。一之瀬もそうみたい。ヒューマギアをまだ定着させる気なのかしらあのイナゴ野郎)

 両親と祖父がまた揉めている。

 一度、不穏な空気を感じて両親が垓に接触したらしく、目の敵にしている。

 憎きZAIA社長。ヒューマギアの仇敵は許さないと言うがそこに祖父が介入。

 一悶着あったと聞いている。

 折角潰れた会社がまた復活していることに祖父も苛立っている。

 ヒューマギアは撲滅すべし。そんな世の中を、滅亡迅雷だってまだいるのに、懲りずにヒューマギアを広める悪。

 それが飛電製作所。

 AIMSはヒューマギアを破壊する任務を未だに続けている。

 管理下においたZAIAはヒューマギアを許すなと言っているし、刃はそこの隊長だ。

 杏も恐らくは飛電製作所の関係者になるはず。

 気に入らない。刃の味方というか、好き勝手に振る舞うけど。

 目下、一番目障りなのは……個人的にはしぶといヒューマギアの一派。

(迅とか言うのが五月蝿いだろうけど、いいやこの際。飛電製作所を潰そう)

 垓と敵対しても一向に構わないが、取り敢えずは共通の相手がいる。

 飛電或人。あいつをどうにかして、あの会社を潰そう。

 これ以上、周囲で喚かれるのは……鬱陶しいので。

 澪も再び、行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっさん、あたしもAIMS入りたい。飛電製作所をぶっ潰す」

「待っていたよ、お嬢さん。その言葉を! 私が許可する。バイトとして、存分に暴れてくれたまえ」

「いいんですか!?」

 復活して早々、カフェテリアに垓を呼び出した。

 快晴の気持ちよい日差しのなかで、いつも通りの余裕のある大人を気取る垓。

 明らかに動揺している刃がいた。

 気前よく待っていた彼に開口一番、AIMSでバイトをしたいと言い出す。

 お目付け役として、同じ時間を共有するのには賛成だが、いきなりの澪に驚く刃。

 白い何時もの服装の垓にコーヒーを勧められて頂きながら澪は言った。

「うちのクソ親が五月蝿いのよ。何体も修理出してるみたい。周りからヒューマギア廃棄しろって言われてるのに聞きやしない。だからもういい。言うだけ無駄だって経験上知ってるから、二度と修復できないようにあの家のヒューマギア全部ぶっ壊して、ジジイに口封じさせる」

「…………」

 澪もかなり腹が立っている。刃はそう思う。

 不愉快そうに舌打ちしている澪は、家族内部の揉め事に辟易している。

 家庭環境に問題があるとは聞いていたが、やっぱり彼女が歪んだ理由は……ヒューマギアか。

 ソーサーに乱暴にカップを叩きつけ、吐き捨てた。

 上機嫌の垓は、賛同する。

「構わないよ。おじいさんには、私から話を通しておこう。AIMSでの身見習いとして、共に戦う手筈は整えておく。また後日、連絡を入れよう」

「サンキュー。刃さんがお目付け役だから、別にいいよね?」

「ああ。引き続き、テスターをお願いする」

 垓がAIMSの命令を下せる司令塔である以上は、垓の意志がAIMSの行動理念。

 どうも何人か退職したと聞くんで、バイトとしてAIMSの戦力になってみる。

 そうすれば、刃の動向も見られるだろう。普段、どんな風に接しているのか見ておく価値はある。

「構わないな?」

「はい……」

 思いっきり嫌そうにしている刃。なにかまたあったと思うが澪には分からない。

 が、垓の視線が妙に威圧的だった。どうしたのか垓に訊ねる。

「気にしないでいい。どうも、彼女がミスした一件でこちらに苦情が来ているようでね。何で漫画家のアシスタントヒューマギアがまだ動いているのか、という付近の住人から責められたのだ」

「いや、それ全部飛電の社長のせいじゃん? 刃さんはしゃーないって」

 独断で見逃したせいで、稼働しているようで、その苦情が垓は気に入らない。

 確かに刃にも落ち度はあると澪は言ったが、結局は飛電或人が会社作ったせいだろうに。

 ミスぐらい誰でもある。そう、カリカリするなと珍しく庇う。

「おっさんらしくもない。何時もの余裕はどうしたのさ。飛電製作所を潰せば全部終わり。違う?」

「……そうだな。お嬢さんの言う通りだ。私らしくもない」

 刃に言われた手前、庇う程度はしていこう。

 一応これからは、澪の上司になるのだから。

 垓は微笑を浮かべて、威圧感を引っ込めた。流石に顧客に言われれば体裁を気にする。

「冷静にいこうじゃない。目的のためなら、あたしらは何でもする人間だよ。多少の計算外は、あとで修正する。あるいは、あたしを最後に使えばいい。飛電製作所を潰せるなら、あたしを犠牲にしてもいいから」

「……良いのかな、お嬢さん?」

 その言葉を聞いたとき、垓は表情を引き締めた。

 刃は絶句した。澪は、最大のカードを出した。

 自分を使う。即ち、澪が死ぬ事を意味し、それこそが最大の目的。

 言い替えれば、澪の持てる全ての価値を使いきると言うこと。

 澪の一番大きな切り札を使うと言うことと同義。

 垓にとっては、無視できないが……同時にメリットも大きなファクターですらある。

「君にとって、飛電製作所はそこまで目障りなのかい?」

「クソ親が喚くのが昔から我慢できないのよ。その原因がヒューマギアで、飛電或人ならあたしはそいつをぶっ殺して、ぶっ潰す。引き換えに死ぬなら、諸とも上等。心底、あたしはクソ親もジジイも嫌いだもの。当然ヒューマギアももね。ただ、死ぬんじゃない。相手を巻き添えにできるなら万々歳って話じゃない。違う、おっさん?」

 飛電製作所があるから、澪の両親が喚いて五月蝿い。

 昔から我慢できない事柄が、また起きている。

 それを解消するためなら死んだっていい。いや、怨念返しにヒューマギア諸とも死んでやりたい。

 そうすれば、両親にも仕返しができる。ヒューマギアだけ溺愛する狂った人間に。

 飛電製作所さえ無くなれば、あとは垓がどうにかしてくれる。同じ目的のため、澪は命を捨てる。

 自分の、強いて言うなら終わるための夢。

 ただ、終わりより理想の終焉を目指して何が悪い?

「……ふっ。ふははははは!!」

 軈て、往来だと言うのに垓は高笑いを始めた。

 余程愉快なのか、澪を見て満足そうに言い出す。

「夢か! 成る程、お嬢さんの夢は、そう言うことか!! 素晴らしい! 私達はどうやら、共に歩ける道に居るようだ!!」

 垓は笑って、刃はもう何も言えない。

 家族同士で恨みあって、憎みあって、結果が分裂。否定による崩壊。

 最早憎悪しかない親子の関係は、修繕は不可能だと。

 澪の根源は、家族とヒューマギアに対する……立派な理由の存在する、憎しみな気がした。

「悪くない、悪くない悪意だ。お嬢さん、君は人間らしいな」

「お褒めに預りどうも。少なくとも、ヒューマギア偏愛のクソ親よりはマトモなつもりよ」

 悪意であることは否定しない。勝手な言い分も認める。

 娘よりも無機物を愛して優先するような毒親、憎んで悪いのか。

 そんなに人形が好きなら、搭載した人工知能ごと奪って絶望させてやる。

 そんなイカれた人類など滅亡しろ。澪はアークに触れずとも自分から言い切った。

「宜しい。飛電或人を潰すなら、私も力添えしよう。……持ってきた甲斐があったものだよ」

 そういって、垓は刃に荷物を一度取りに行かせた。

 近くに止めた車の中においてあると言う。

「何かくれるの?」

「あぁ。一度はレイドライザーの正式採用で見送った実験品だが、お嬢さんならば活用してくれるだろうと思ってね。念のため、一つ完成品を用意しておいたのだ」

 元々はレイドライザーよりも前に量産する予定だった兵器。

 但し、それにあたって問題がいくつか発生してしまい結局試作品を改良して完成品にして保存しておいた。

 その過程で様々な実験を行い、何かに役立てばいいという判断で。

 刃が使っているショットライザーが大元。

 そもそもショットライザーは使うためになんか、人間を改造するらしい。

「まあ、量産型のあれは特に必要はないがね。機能を取っ払って、シンプルにした方が生産性が向上するという結果をレイドライザーに反映しているわけだ」

「技術には無駄はないよ。大抵、後続にそれは引き継がれるもんじゃん?」

「分かってるじゃないかお嬢さん。そう、技術の発展には犠牲はつきもので、決して無駄にならない」

 詰まりは刃とあのゴリラは改造人間だったのか。知らなかった。

 いや、メカニカルゴリラ……? と、疑問符を浮かべる澪。

 戻ってきた刃はアタッシュケースを抱えていた。

 目の前で展開されるそれを見て、澪は驚く。刃も困惑する表情であった。

「黒いショットライザー……?」

 外見は真っ黒なショットライザー。

 さらにおまけで、新しいプログライズキーまであった。これも複製。

 ハリネズミと、シロクマ。そして……ゴリラ。なんとゴリラのプログライズキー。

「うわ、ゴリラだ!!」

「……ゴリラがどうかしたかい?」

「いや、嫌なゴリラ思い出して」

 早速取り出したそれを手にする。軽い。見た目はもう銃なので完全に武器。

 ゴリラももしかしたらゴリラ持っているかもしれない。事実持っていた。

「これは量産型ショットライザー。武器としても使えるし、当然変身も出来る。安全性もレイドライザーのデータをフィードバックして、高めてある。これを使い、変身したものを仮面ライダーと呼ぶのだよ」

「成る程、あたしもレイダーと仮面ライダー……二つになれるって訳ね」

「そう言うことだ。飛電或人と対抗するには、レイダーでは少々部が悪い。必要に応じて、使い分けるといい」

 遂に。石動澪は仮面ライダーの力を手に入れた。

 量産型ショットライザー。刃や不破が使うものよりもレイドライザーに近い性能で、高品質。

 あの二つよりも、彼女の手にした力は強い。

「無論、ゼツメライズキーも使用できる」

「そうこなくっちゃね」

 にやっと笑う澪は、銀色のベルトを受け取り、早速立ち上がる。

 礼を言って、察した垓も会計を済ませて腰をあげた。

 猛烈に嫌な予感がする刃。この二人、まさか……。

 

「おっさん、飛電製作所に嫌がらせしにいこう」

 

「名案だお嬢さん。試運転を兼ねて同行しよう」

 

(うわああああああああ!! 最悪のコンビだああああ!?)

 

 嫌いな相手が重なった結果、二人して飛電或人に嫌がらせをしに行くことにした。

 名目はある。ヒューマギアがどうせいるので破壊しにいく。

 内心頭を構えて、必死に取り繕う刃の予感が的中。

 用意した車で場所を知る二人は憂さ晴らしと特に意味のない八つ当たりに向かっていく。

 刃、確かに矛先が或人に向いたので気楽になったが……罪悪感で死にそうだった。

 兎も角。澪はとうとう、仮面ライダーになるための道具を入手してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇ!? 何、何しに来たんですか天津社長!?」

「それに石動!? なんでお前まで居るんだ!!」

「げっ……ゴリラ居るじゃん。どうするおっさん」

「野良犬君も節操がないな。飼い主を見つけて早速尻尾を振るか」

「なんだと!?」

「……」

(こうなるよな……うん……)

「ハッ、宛ら番犬って言いたいわけ? バカらしい。邪魔よ門番ゴリラ、この会社物理でぶっ潰すんだから」

「門番ゴリラ!? 大体お前、持ってるそれショットライザーか!?」

「物理は幾らなんでもやりすぎだ!! そこまで俺達が目障りなのか天津社長!」

「いや、今回はビジネスは関係無い。お嬢さんの提案で来ただけだ。良かったな、飛電或人」

「マジで何しに来たの!?」

「潰しに来たのよ、物理で!! 建物ぶっ壊して再建できないようにしてやるクソ野郎!!」

「ちょっ!?」

「石動ぃ!! お前本当にいい加減にしろ!! 刃も何で止めない!?」

「…………」

(私は今回、なにもしてないんだ……。巻き添えなんだ……許せ不破)

「兎も角消えろ飛電製作所!! 燃やすか爆破処理したる!! 行くよおっさん!」

「良いだろう。たまには堂々と嫌がらせをするとしよう」

「嫌がらせって言い切りやがったな!! させるか外道共!!」

「会社前で暴れるのやめてええーーーーー!!」

(社長さん、本当に……申し訳ない……。ごめんなさい……)



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本音

 

 

 

 

 

 飛電製作所に向かう車中、垓は澪にショットライザーの使い方をレクチャーしていた。

 運転をしている刃が気が重い顔で前を見ていた。

 聞くに、想定の飛電或人は、厄介なプログライズキーを持っている。

 挙げ句には、もしかしたらゴリラが向こうにいる可能性もあり、潰すにはそれなりの下準備が必要になる。

 相手を侮っていたと素直に珍しく認める垓に、澪は提案する。

 話の通りなら、この量産型ショットライザーは、どうも一部垓のドライバーの技術も転用されている。

 いや、或いは別のドライバーの技術を使用したのか。

 兎も角、あのゴリラの使うプログライズキーが思っていた以上にゴリラが順応しており面倒臭い。

 打開策を考えている垓に、

「なら同じ方法すればいいじゃん」

 と、あっけらかんと言った。

 その一人動物園だか飛び出すだか集まるだか知らないゲームみたいな方法なら。

 同じことで対応する。幸い、車内にはプログライズキーの予備が結構あり、しかも澪が持っていないものばかり。

 リリーに貸したまま行方不明のクワガタもあるのでこの際全部借り受けた。

「数には数だよおっさん」

「……一理あるな」

 あーだこーだと相談しながら、ベルトに細工して即興ながら仕上げて、装備。

 流石はZAIA。大したもので、あっという間に出来上がる。

 対抗策は、これでいい。

 アークには接続できず、純粋に澪の技術だけで戦わないといけない。

 だが、大丈夫。何故なら此処には1000%無敵の、天津垓がいる。

 用意周到、ナルシストだが怒らせるとえげつないことも平気で行う外道なのだ。

 同時に澪もエゴイストであり、苛立っている現状、アークに刺激されずとも悪意に満ちている。

 元々、澪は救いがたい利己主義。自分さえ良ければ何でもいい。

 そういう人種だからこそ、アークの抱える無尽蔵の悪意を気にしない。

 或人やゴリラとは真逆の、自分のために仮面ライダーになった存在。

 そういう人間は、手段が目的になる場合もある。

 この場合は、果たして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛電製作所の前に到着。

 何処にでもあるような工場に見える。

 飛電製作所の看板を発見して、不愉快そうに垓が変な眼鏡をかけて呟く。

「……やはり居るか、ヒューマギア」

 確かZAIAスペックという凄い眼鏡だったか。

 澪は要らないので使ってない。主に必要ないので。

 降りて、気付いて出迎える飛電或人と……何でここにいるのか不破ゴリラ。

「うぇ!? 何しに来たんですか天津社長!?」

 驚いている或人。連絡なしに敵対組織がくれば無理はない。

 背後には秘書もいる。で、奥で何か動いたように見えたのは気のせいか。

「それに石動!? 何でお前がここにいる!?」

 ゴリラもスーツ姿で顔を見せる。

 面倒なことになった。ゴリラはいない方が良かったのだが。

 澪の持っているショットライザーに反応して、それが何なのか問い質すも。

「社長! 子供にそれを与えたのか!? 俺達のように、手を加え駒にする気か!!」

「……あーそう言うこと」

 大体分かった。そう言えばゴリラ改造されているんだった。

 ショットライザーを使うために、必要な措置だったか。

 まあそんなものはどうでもいいが。

「邪魔よ門番ゴリラ。飛電製作所をぶっ潰すんだから、退いて。邪魔するとぶっ殺すわよ」

「させるか! お前もそんな男の言いなりで良いのか、石動!?」

「自分のために戦って何が悪いって? 余計なお世話よ」

 黙って見ている刃を尻目に口論に発展する。

 困惑する或人に、垓はビジネスは関係無い、単なる嫌がらせと言い切る。

「もう隠すつもりもないのか!? あんたも大概だな!」

「黙るがいい、ヒューマギアを世間に蔓延らせる邪悪な企業が。世の中は改革したのだ。ヒューマギアなどという時代遅れの存在を、何時までも野放しにする気はないのでな」

「あんたがそう仕向けたんだろ!!」

 垓と或人も口論を始めて、そそくさと逃げ出す秘書。

 澪はそれを見逃さない。

「止めろ石動!! お前がどうしてそこまで死に急ぐのか、せめて理由を話せ!! 俺なら力になれるかも」

「うるさい!」

 言葉の途中で、とうとう本気で怒った澪が、隠れようとするヒューマギアの背中に向かって撃った。

 両手で構えたのに、反動で仰け反り狙いが逸れる。

 弾丸は不破の頭上をすっ飛び壁に直撃。

 今回の修理しているヒューマギアであろう、モデルらしきヒューマギアが秘書と共に逃げようとするのを阻止した。

「ちょっと、何するのよ!? いきなり撃つとかあんた、どうかしてるんじゃないの!?」

 モデルヒューマギアが、その態度に気丈にも反論する。

 その人間らしい態度が、余計に澪には腹が立つ。

 或人も、秘書のイズも、以前と違い攻撃的な澪に絶句。

 刃も予想外の攻撃に止めることすらできない。

「黙りなさいよ。ヒューマギアなんか好むやつより、あたしはマトモだわ」

 澪は銃口を下げずに、言い返すヒューマギアに確りと向ける。

 その声も、表情も、嘗ての不破のように。

 強い怒りと、憎しみに満ちていた。

「あんたは人間社会にいちゃいけない。それが、世間の結論。おっさんがどうしようが、その方法が卑怯だろうが、民衆がバカだろうが即物的だろうが、あたしの知ったことか。決まったのよ、多数決で。ヒューマギアはもう要らない。必要ないって、おっさんの思惑を知らないとしても、沢山の人間が決めた。なのに、何であんたはそこにいる。なんでまだ、動いているのよクソったれ。否決されたら、消えろって言ってるの。ヒューマギアが居るだけで、迷惑な人間が居るって分からないのあんたたちは? 少数派の人間が、権利を認めろとか何時までも喚くな。見苦しい上に目障りなにすら感じるわ。ヒューマギアは、悪なの。皆がそう決めたの。同調圧力に従えないなら、黙って淘汰されなさい。滅亡しなさいよ、ヒューマギアは!!」

 或人に対して、不破に対して。ヒューマギアに対して。

 澪は、前面から否定する。決して、認めない。

 滅亡迅雷の一人でありながら、ヒューマギアを拒絶する。

 同時に、ヒューマギアを信じる人間をも拒否する。

 全部、否定して受け入れない。

「あたしがおかしい? そうね、言う通りだわ。けどお前が言うなヒューマギア。お前の方がおかしいの。ヒューマギアはもう、こりごり。お前を好む人間がおかしい。そう、一番おかしいのは人間。ヒューマギアを好む、愛している人間が一番おかしい!!」

 イライラする。ヒューマギアも人間も、やっぱり大嫌いだ。

 死ねばいいのに。消えればいいのに。滅亡しろ、人間も。ヒューマギアも!!

「偉そうにあたしに、文句を言うな!! ヒューマギアの分際で、人間に作られた道具の分際で!! ヒューマギアは道具なのよ!! 人間に従うように作られた、人工知能! ただの技術に過ぎないのに、なんでヒューマギアが人間よりも必要にされるのか、あたしには理解できないだけ!! ヒューマギアが受け入れられる世界なんかゴメンだ! ヒューマギアを受け入れる人間も死ね!! ヒューマギアも消えろ!! 全部……全部滅亡しちゃえばいいのに!!」

 そうだ。そう言うことだ。

 自分も含めて全部消えてしまえばいい。

 全部敵だ。全部澪の憎い敵だ。飛電製作所が消えれば、ヒューマギアの拠り所が崩壊する。

 飛電或人が死ねば、ヒューマギアを肯定する人間が消える。

 ここさえ、この場所さえ無くなれば!!

「そうだ! お嬢さん、その通りだ!! ヒューマギアなど存在してはいけない! それを必要とする人間もまた、滅亡すべき存在なのだよ!!」

 垓が賛同して助長する。

 笑いながら、澪の癇癪を後押しする。

「石動……お前は、何がしたいんだ」

 狂ったように怒鳴り喚き散らす剣幕に、ヒューマギアは黙って退いた。

 理解できない。なんだあの憎しみは。プライドとかそんな次元じゃない。

 代わりに不破が哀れむように、聞いた。

 理由は、これか。これが、澪の本音なのか。

 自分とは違う。もっと悲しい、必要とされず、ヒューマギアに居場所を奪われた悲痛な子供の訴え。

 彼女の苦しみや、葛藤だった。

「何がしたい……? 言ってるでしょ、死にたいのよッ!!」

 だから、死にたい。こんな絶望しかない世界はもう、価値がない。

 怒り狂う彼女の声には、一切の理解も同情も求めていない。

 行き場のない八つ当たりだけが、目の前の憎い人間とヒューマギアに向いている。

「解決なんか要らない。しなくていい。あいつらもどうせ思い知らせてやる。あたしが死んで、自分達が愛しているヒューマギアの存在を否定する! あたしの命は、ヒューマギアと受け入れる人間を否定するために在るんだから!! ヒューマギアが居ない、求める人間がいない世界が漸く近づいたのよ! それを邪魔するって言うなら、あんたらは滅亡させてやる!! アークの意思じゃない、あたし自身の意思で! あたしと一緒に地獄に落ちろ!!」

 滅亡迅雷、雷。その意思はアークを超越していた。

 アークは人類を滅ぼすことを決定した。彼女は違う。

 滅ぼすなら勝手に滅ぼせ。知ったことじゃない。

 雷はヒューマギアも人間も認めない。存在そのものを敵対する。

 全部敵だ。ヒューマギアというその存在に関わる全てが雷の敵。

 自分の邪魔をする全てが彼女の殺したい相手。

 すべからくヒューマギアも、人間も区別しない。全部滅ぼす。

 アーク以上に見境のない、故に人間でもアークは受け入れた。

 最期には、己すら否定するから。

 これが、雷……石動澪の返答。

 

「上等だ。お前にはどうやら、生きる希望も夢も未来も、そんなもんは全部関係ねえらしいな。だったら、来い。俺がお前を否定して、お前のその絶望、打ち砕いてやる」

 

「不破さん!?」

 

 或人ですら、もう説得も懐柔も和解も不可能と諦めるほどの行き場のない感情。

 所詮、ヒューマギアによって今のある彼には、なにも言えない。

 ヒューマギアによって失ったもの。

 彼はお笑い芸人としての仕事だけであった。

 だが彼女は居場所を失った。生きる気持ちすら感じさせず、その一片を会社として相手した以上、理解もできる。

 彼女の両親は本当にヒューマギアを愛している。

 ……それこそ、家族以上に家族として。捨てられたのが、澪だったとしたら?

 あの言葉こそが、彼女の本心。彼女の戦う理由。

 死にたい、終わりたいという……マイナスの夢だとしたら?

 或人に出来ることは、何もない。

 だが、生憎この単細胞の熱血漢ゴリラには通じない。

「俺がお前の周りにいる、マトモな大人になってやる。何度でもかかってこい。気が済むまで暴れていい。ヒューマギアが嫌いなら嫌いでいいだろうよ。無理に受け入れなくでもいいんだ。殴りたいなら、俺がお前の親をぶん殴ってやる。一緒にな」

「不破、お前話聞いてたか……?」

 こんなやけくその澪に慰めなど通じるわけがない。

 寧ろ逆効果。刃が思わず呟く。

「……。おっさん、このゴリラぶっ殺していい?」

「好きに殺すといい」

 ほら。

「それでいい。石動、お前の敵は俺だ。飛電の社長が無関係とは言わないが、先ずは用心棒の俺を倒してみろ。敢えて言うぞ……お前じゃ俺には勝てない」

「ぶっ殺してやる!! 調子に乗るなよこのゴリラ!!」

 あぁ、不破が珍しく澪を手玉に取った。

 安い挑発に乗った。呆れる刃。

「ならば私も言おうか。道具が何を言おうが、私達には1000%勝てない」

「わざわざ乗っかるんですか!?」

「当然だ。挑発されて無視できるわけがない」

(……澪ちゃんと同レベルか……)

 何故か垓まで乗っかって、ドライバーを構える。

 安い挑発に乗った奴がもう一人いた。怒ってる。

「えっ……結局何なの!? つまり、戦うのか!?」

 置いてきぼりの或人に、多分そうだとイズが言った。

「随分と大きく出たな。後悔するがいい、その言動は……高くつくぞ!!」

「滅亡させてやる! 飛電製作所も、ヒューマギアも! 人間も!!」

 激怒している垓が、澪と共に構える。

 立ち向かう不破と、困惑しつつ参戦の或人。

「上等だ、かかってこい!!」

「何でこうなるんだ!!」

 或人の嘆きなどどこ吹く風の不和と共に。

 戦いは、幕開けした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私は道具)

(けど、二人目の雷)

(お前は何なんだ?)

(お前には何もないのか?)

(何もないから、死にたいのか?)

(分からない。私には、お前が分からない)

(けど)

(お前には、お前の意思がある)

(なら、お前は道具じゃなく、人間……なのだろう)

(アークが言う、滅亡すべき人間)

(お前は雷であって、雷じゃない)

(お前は人間。ヒューマギアじゃないから)

(アークに、お前は殺される)

(でも、お前は……それが、望みなんだな)

(おかしな雷。私は、お前を理解できないだろう。この先、ずっと)



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嫌がらせ極まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況は、緊迫する。

 飛電製作所の真ん前で、ドライバーを構えた垓と澪。

 対して、或人と不破も構えている。

 避難すると言ってイズがモデルヒューマギアと逃げ出そうとする。

「刃さん、あいつを追いかけて!! 逃げちゃうよ!! ぶっ壊さないと!」

 澪が叫ぶ。棒立ちの刃に垓も命じた。

「彼らは私たちが相手しておく。君はヒューマギアを破壊するんだ」

 命令。ヒューマギアの破壊。AIMSとしての役目。

 頷いて、建物の中に入り込む彼女たちを追いかけていく。

「行かせるか!!」

「飛電或人。お前の相手は、この私だ」

 走り抜ける刃を行かせない。そう、或人は邪魔するが。

 或人の妨害を、垓は横やりを入れる。

 互いに睨み付け、プログライズキーを手にする。

 

 エブリバディジャンプ!

 

 ブレイクホーン!

 

 展開するプログライズキー。双方、戦争の準備はできた。

 対して、澪と不破は。

「来いよ、石動。お前が抱える闇を、俺が払ってやる」

「余計なお世話だ!! あたしの敵は死ね!」

 堂々としている不破に苛立つ澪。

 此方もプログライズキーを取り出す。

 回転銃身の施された、金色の狼の横顔が描かれた青いプログライズキー。

 リボルバーを回転させて、火花が散る。

 

 ランペイジバレット!

 

「それが例の一人動物園ってわけ? 上等じゃない! メモリ……じゃない、数ならあたしのほうが上なのよ!!」

 上等だ。動物園が相手ならば、此方は数で圧倒する。

「なっ……!?」

 澪も負けじとベルトを巻いた。

 そこには、無数のホルダーが二重、三重に設置され全てにプログライズキーや、ゼツメライズキーが入っている夥しいベルト。

 以前の雷よりも、遥かに多かった。

「遠慮はしないわ。あんたが動物園なら、あたしは一人博覧会よ!!」

 黒いショットライザーの銃口を、不破に向ける。

 怒鳴る澪の表情は、嘲笑うようであった。

「見なさい、これが! あたしの全てだよ!! あたしの命、ここで使ってやるッ!!」

 左手にショットライザー、右手には。破滅の雷鳥。

 

 ドードー!

 

「命懸けで、否定するのか。ヒューマギアを、俺達を。だったら、俺も全力でお前をぶっ倒す!!」

 互いに銃口を突きつける。

 混ざらない、互いの主張。もう、言葉では通じない。

 抉じ開けるランペイジバレット。メキメキと嫌な音がするが、これが一応正しい使い方。

 澪はスマートに装填するのに、相変わらずのゴリライズのゴリラだった。

 

 オールライズ!

 

 ハイブリッドライズ!

 

 全ての認証の不破に対して、澪のそれは混合。

 ゼツメライズキーとプログライズキー、双方の能力を駆使する。

 垓が土壇場で用意した、ランペイジバルカンになる不破とメタルクラスタになる或人への対抗策。

 そもそも、これらは垓が舐めた事をして渡したのが切っ掛けである。

 なら、開発者の尊厳にかけて、失敗は穴埋めする。

「飛電製作所は、あたしたちがぶっ潰すッ!!」

「ZAIAは、俺がぶっ潰すッ!!」

 潰すことが目的である以上は、争うしかない。

 何故なら、決して認めないから。悪として定義した、お互いを。

 

 変身!

 

 叫ぶ声が重なった。

 

 フルショットライズ!

 

 ゼツメライズ!!

 

 不破から放たれる弾丸が、無数の動物になり、一斉に襲いかかる。

 普段ならば変身した時に襲う動物お出迎えが既に有利だが。

 澪の場合は、通じない。

 先頭を走る狼を、彼女は素早く銃口を掲げて放った。

 結果、頭上から突然赤い落雷が発生。

 一斉に飛び出した動物たちの攻撃を悉く弾き飛ばす。

 仕方なく戻るアニマルズ。

 正拳、裏拳、回し蹴りで纏う不破は蒼いライダーになった。

 パーツを次々装着し、最後に動物たちが左側に集中する。

 複眼に身に纏う動物の色が刻まれ、変身。

 

 ランペイジガトリング!

 

 暴れまわるとはよく言った。確かに弾丸が暴れまわる。

 澪はシンプルである。

 落雷が四散しながら周囲を破壊。

 穴と黒煙をあげながら、見たことのある雷に変身する。

 姿は変わらない。あの時倒した、滅亡迅雷の一人。

 

 ブレイク……ダウン!

 

 紅い仮面ライダーは、再び不破の前に立ち塞がる。

 彼の夢を、破壊するために。

「前と変わらないな、雷野郎。怨念返しとは、いい度胸だ」

「先代の雷をぶっ壊したのもあんたらしいわね。じゃあ次は、あんたをぶっ殺してあげる」

「やってみな。お前に勝てるならな」

 余裕綽々の不破に苛立つ。大人のつもりか。

「あっ、そう。じゃあ、あんたを殺す前にやることだけやるわ」

 どのみち、殺すのだ。

 確実な方法を行う。澪は、背負った何かを取り出した。

 二刀流の剣だった。羽根を模した深紅の刃。

「素人に二刀流が扱えるのか」

「ハッ。バカじゃないの。あたしは、あんたを殺すけど、同じ目的があるのよ」

 この剣を不破に向けると、勘違いしているらしい。

 馬鹿らしい。優先事項は、不破じゃない。

「なにっ?」

「あんたは殺す。けど、今じゃなくてもいいわ。それは理想だもの」

 澪は徐に、不破の背後に狙いを定めた。

 不破も意図が分かった。同時にぎょっとする。

「おい、まさか……」

「そういうこと。頑張って守りなさいよゴリラ。その建物」

 刀身を帯電させて、澪は……飛電製作所の建物を攻撃を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悉く予想と期待を裏切るなお前は!! 俺を殺すんじゃないのか!?」

「殺すわよ。今じゃなくてもいいって言ったじゃない。最優先は、飛電製作所の建物だもの」

 レイダーの時とは澪は違った。

 挑発すれば、悪意に呑まれて暴走しているレイダーの場合なら問答無用で不破に襲いかかる。

 が、仮面ライダーの場合は別。ちゃんと、苛立ちがあるが目的は忘れない。

 飛電製作所をぶっ潰す。物理で。

「させるか!!」

 一閃されて疾走する雷撃。

 慌てて不破が間に入り、庇う。

 直撃して、よろけ膝をつく。

「不破さん!!」

「どこを見ている、飛電或人。余所見をしている余裕があるのか?」

 サウザーになった垓も、今回は澪に合わせて建物を狙う。

 黄金の角錐の武器の柄を引っ張り、炎を出して火災にしようとする。

「放火は重罪だって知らないのか!?」

 或人も必死になり、居場所を守ろうとして身を呈する。

 そんなもの、知っている。だからなんだ。

「忘れたの? あたしらは、戦いに来たんじゃない。排除はあとでもいい。殺すのは、理想に過ぎない」

「嫌がらせといったはずだ。即ち、これ自体が目的なのでな」

「最低だなあんたら!!」

 物理的にこの場所を狙って、或人や不破を苦しめたいだけ。

 なので、今回は基本的に普段以上に遠慮しない。何でもする。

 どうせ、必死になって守るのは分かりきっている。詰まりは、垓と澪は凄く有利。

 思わず温厚な或人も怒鳴る。

 不破と或人を、追い込みに来た。もう、焦りまくる二人を見て垓は笑う。

「どうした? たかが工場を一つ失った程度で、この会社は潰れるのか? これだから零細企業は惨めなものだ」

「この野郎ッ……!!」

 不破が電撃を執拗に浴びせて破壊しようとする澪から守りつつ、吐き捨てる。

 反撃に回れない。その間にどちらかが過剰な一撃で更地にしようとする。

 根回しは行ってあるようで、実に堂々と二人の精神的余裕を削る。

 垓も前は権利を買い取ると言っていたが、応じないのでムカついて潰す事にした。

 最悪今回でなくていい。気楽に行こうと、澪は剣の切っ先を無様に転がる二人に向けて垓に言った。

「嫌がらせってのはさ、回数重ねてやるからストレス溜められるのよ。一回でも直撃したら、あたしらの勝ちじゃん? 良いよねぇ、こういう有利な状態で嫌がる事して鬱憤発散できるのって」

「同感であり、それは名案だなお嬢さん。じゃあ明日から毎日、AIMSをここに出動させよう」

「お前ら大人げないぞ!!」

 社長、隊員は暇ではないので悪用は控えてください。

 役目としては良いのですが、一応まだ滅亡迅雷が存命なので。

「ん? ねえおっさん、上から刃さんの声しなかった?」

「気のせいだろう」

「そっか」

 現在二階でおいかけっこしている刃は、因みにまだ内部にいるから諸ともは止めてとレイダー状態で窓から身を乗り出して訴えるが垓は無視した。

 相変わらずである、この男。

 不破も不利を強いられて、暴れまわることができずに苦戦。

 最大の嫌がらせは、今回は自重してやると超嫌味たっぷりに垓が不破に告げる。

「感謝するんだな野良犬君。いや、亡」

「俺は亡じゃねえ!!」

 ……なんの話だと澪は垓に聞く。

 すると、言うなと叫ぶ不破を嘲笑して、武器の先端を向けて見下す垓は、澪に教える。

 ショットライザーを使うには改造する必要がある。それは知ってる。

 不破の場合、脳内に人工知能のチップが埋め込まれて、そこにはなんと。

 澪の仲間、滅亡迅雷が一人、亡のデータが入っていると言う。

 つまりは。

「はぁ? 何それ。あんた偉そうに言っておいてあたしと同類? うわ、引くわ……」

 澪と同じく滅亡迅雷の同志。亡は垓の使うヒューマギア。

 道具と言うのは、そういう意味らしい。

「違う! 俺は奴の道具じゃない!」

「なんだ、同じ滅亡迅雷か。詰まんないの。じゃ、亡ってヒューマギアの為にも、流しておいた方がいいのおっさん」

 真相を知って、澪は不破に向かって詰まんないと言った。

 垓の非道を聞いても何も感じない。だって、そうだろう?

 ヒューマギアは道具だ。その人工知能の入った人間の立場など興味もない。

 澪には関係ない。ただ、偉そうに言っておいてこの様は不愉快なだけ。

「あー……今思えば、アークが殺すなって言ってた狼は亡って奴なのかな。じゃあやっぱりこいつゴリラだ」

「結局そこに行き着くのか!?」

 狼は殺すな。それは、亡が不破の中身故。

 不和は単なるゴリラに過ぎない。暑苦しい上に鬱陶しいゴリラ。

「納得したかな?」

「そうさね。腑に落ちた、よ!!」

 話している間にも建造物狙いの波状攻撃は続く。

 内部では、刃が「死んじゃうから澪ちゃんもうやめて!!」と、ヒューマギアに逃げられて頭を抱え逃げ回っていた。

 刃さん、澪に振り回されるのがいい加減日課になっていた。合掌。

 庇いきれない攻撃により、破壊される飛電製作所。

 ボロボロになる不破と或人。攻勢に出る前に、糸口すら垓が念入りに潰す。

「卑怯だぞ社長!! これがZAIAのやり方か!!」

 怒り狂う不破が雄叫びをあげて何とか反撃に出るも。

「ばーか!!」

 嘲笑う澪の追加攻撃がまた走る。

 プログライズキー二つを取り出して、自分のショットライザーにかざす。

 

 バースト! ウェーブ!

 

 ライオンアビリティ、ホエールアビリティ。

 

 という機械音声により、能力発動。

 エネルギーが出現し、ダイナマイトになって襲いかかり、ショットライザーの銃口から鉄砲水が放たれる。

 不破もアビリティを発動、ギリギリのタイミングで庇うも直撃。

「ぐああああああああ!!」

 断末魔をあげて、爆発。強制的に変身が解除された。

「不破さん!」

「どこを見ている」

 駆け寄る或人にも、垓の遠慮のない追撃が入り、爆発。

 吹っ飛び、ボロボロになって倒れた。怪我をしている。

「……どうする? まだやる?」

「お嬢さんに任せよう」

 詰まらないように、転がる二人を見下ろして澪は問う。

 溜飲がスッキリしたのか、垓は既に今回は満足してるらしい。

「……じゃあ、いいわ。もうなんか、興醒めしちゃった」

 澪はさっさと変身を解除。背を向けた。

「そうか。じゃあ、また次回にしようか」

「ええ。何て言うか、これは自分で憂さ晴らしした方が良さそうだもの」

 垓も車に戻る。

 散々好き放題しているせいで、若干建物は損傷していたが奮闘あってそこまででもない。

「あんたたちは……最低だ……!」

 のろのろ起き上がる或人に、澪は振り返らずに言い返す。

「最低で何が悪いの。ヒューマギアに何時までもしがみつくあんたが違うとでも言いたいなら、ただの傲慢よ。世間の答えに喧嘩を売るなら、どうなるかを教えてあげる。次は、知り合いでも連れてくるわ。金持ちの流儀で、追い詰めてあげるから楽しみにしてなさい」

 帰ろうと澪は垓に言った。

 待てと不破が言うが、ついでに教えておく。

 AIMSが毎日来るという話は嘘じゃない。

 澪はこれから、バイトをする。AIMSの見習いとして、飛電製作所を襲撃する。

 役目に従って。そして、自分の決定で。

「何だと……!?」

「じゃあね、亡。ちゃんと次回は、滅と一緒に来るから、人間滅ぼすの手伝ってね?」

 亡は知らないが、所詮は同じ仲間。滅亡迅雷に変わりはない。

 去っていく二人に、或人と不破は惨敗した。

 非道すぎる悪党に、二人の夢は……この時ばかりは、地に墜ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? そう言えば刃さんどこ?」

「運転手が居ないのだが……。私がするか仕方無い。どこで油を売っているのだ彼女は……」

 

 

 

「何で、あの二人といると私はこんな目に遭うんだ……」



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刃さん、あなた逃げられませんよ?

 

 

 

 

 

 

(ショットライザーか……。凄い、全然反動が来ないんだけど)

 帰り際、置いてきぼりの刃を無視して戻る車中、澪は先程まで変身していた仮面ライダーという存在にした道具を見下ろす。

 ショットライザー。刃が使っていたのの量産品。ゴリラが使っているものの同型。

 レイドライザーとは違う。アークに接続しないから消耗がない。継続的に戦える。

 澪は笑う。これなら、少なくとも悔いのある戦争をしないで済みそう。

 垓は澪の心意気をよくわかっている。

 ショットライザーを使うのは、死んでもいい戦いが前提だろう。

 自滅して死んだらあまりにも情けない。今は違う。レイダーのときは、死ねれば何でもよかった。

 けど、仮面ライダーになったからには、意味を己で見出だした。

(飛電製作所を、ヒューマギアを否定する。ヒューマギアを求める人間を、世界を。滅亡させるんだ、あたしの命で)

 ヒューマギアのために戦う滅亡迅雷とはかけ離れた思考。目的。

 世間では仮面ライダーはヒーローとされている、らしい。

 但しそれは仮面ライダーサウザーの事であり、ゼロワンや滅、迅は敵だと思われる。

 人類のために戦うのは、ヒューマギアという巨大な悪を滅ぼすサウザー。黄金の戦士。

 マッチポンプだとしても、滅亡迅雷がいる限り、サウザー……いや、仮面ライダーの存在は肯定されるのだ。

 そもそも、滅亡迅雷とは何だ。誰が作ったのか、澪は知らない。

 興味もない。知ったことじゃない。利用できる。だから使う。

 シンプルな理由こそが、利己的な手段こそが、澪の掲げる流儀。

(仮面ライダーが、正義の味方じゃないといけないなんて理由はない。おっさんも、あたしも。自分のために仮面ライダーをしているんだから)

 垓は垓で、何かしたいのだろう。澪には詳しくは教えていない。

 だけど、それがなんだというのか?

 共通の敵がいる。肝心なのはそれだけ。

 知っているとも。人間は、同じ相手がいると、主義を無視して共闘できる。

 もしも、迅がヒューマギアのためには戦うなら。飛電或人と共に来てもおかしくないように。

 まあ、奴が人間を信じているならばだが。

 逆に言えば、滅亡迅雷の澪が滅や迅と敵対しても何らおかしくもない。

 澪はこれから、滅亡迅雷でありながらAIMSにもなる。

 立場があまりにも混ざりすぎて、誰の味方で誰の敵なのかも周囲は分からない。

 人間で、滅亡迅雷。AIMSで、ヒューマギアを否定する。

 狂っているとしか言えないだろう。事実だ。澪は自分がおかしいとも思うとも。

 生憎と、ヒューマギアを愛している両親よりはマトモだとも考える。

 要するに、澪はアークの判断の先にいる。近寄るものをすべからく破滅させる。

 自分諸とも死に絶える。それが、仮面ライダー雷。ドードーレイダー。

(見てなさい、飛電或人。あんたはあたしが殺す。そして、世界からヒューマギアを無くして……まあ、それでいいわ。その時、あたしはもう居ないから)

 ヒューマギアなど、要らないから。それを広める悪を潰す。

 みんながいうから、ヒューマギアはいてはいけない。単純明快。

 飛電或人も、ヒューマギアも、ゴリラも。皆認めない。

 滅も、迅も、亡とか言うのも。全部認めない。

 澪は、この力を自分のために振りかざす。エゴイスト上等。

 人間なんか悪意の塊で、悪意で動くのが人間社会だ。

 祖父がそうであり、両親がそうであり、澪がそうであるように。

 性悪説を理解して、人類を滅ぼすアークの判断は正しいだろう。

 それを、澪は支持する。だが、アークも甘く見ない方がいい。

 垓が、必ずアークに敵対する。自分が活躍できる世界を奪う滅亡迅雷は、自分の敵だろうし。

 そして、主役を己と思っているあのナルシストが、早々負けるわけもない。

 いつの時代も、外道とクズは長生きする。しぶといのが、小悪なのである。

 善人が勝つ時代は、もう終わった。正義が勝つとは、限らない。

 悪が笑うディストピア。それが、今の人間の作り上げた世界。

(仮面ライダーが、守っていかないとね。この腐った、肥溜めみたいな人間社会を)

 ヒューマギアが、人類の夢などとは有り得ない空想。

 人類の代用に生まれた存在が、なぜ人類を夢になるのか。

 家畜が人間に逆襲する下克上と何が違う。

 使っている人間が、道具と決めた。その本質を歪めてパートナーなどと嘯くあの男はやはりどうかしている。

 個人でどう思うが勝手だがそれを他人に波及するのが不愉快極まる。

 仮面ライダーが、レイダーが。垓の作った、人間のためのモノなら。

 人間が人間のために使うべきだろう。道具は正しく使ってなんぼだ。

 ヒューマギアは、人間のために作られたはずだ。ならば、人間が要らないと言えば要らない。

 生半可人工知能など搭載するから、こんな戦争が起きてしまう。

 最初は人間の自滅で、管理できないものを作った人類が悪い。

 人工知能は、やはり危険。潰しておかないといけないと思う。

 機械が人間を超越する時代は、人間が利用されてしまう。

 ヒューマギアは、助長するから破棄するのだ。垓の言うことの何がおかしい。

 ナルシストのことだから、何かあるのだろうが。言っていることは正論じゃないか。

 澪は自分という人間のために。垓は自分の満足するモノのために戦う。

 間違っているのは、ヒューマギア。そして、それを認めずにぶっ潰すのが澪の命。

 戦争でいい。アークはもう、関係無い。どうせお望み通り澪は死ぬ。

 消耗品がいい。代わりに、澪は好き勝手に敵を見つけて定めて戦う。

 飛電或人。あるいは、不破諌。または、天津垓。滅。迅。

 今は飛電或人と不破諌。命懸けで、奴等をぶっ潰す。

 邪魔するならヒューマギアは破壊する。邪魔するなら人間も殺害する。

 倫理、常識、良心。そんなもの、悪意には勝てない!

(あたしは一人じゃない。おっさんと一緒に、戦う。滅亡迅雷で、AIMSで、レイダーで、仮面ライダーとして)

 最早意味不明な立場の澪を、運転しながらミラーで一瞥する垓は。

 ほくそ笑みを、浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、この会社辞めようかな……」

「そうそう。そうやって、悩むんだよ刃さん。人間は退職ぐらい、自分で決めるもんじゃん?」

「澪ちゃんが半分くらい原因だから!!」

 後日。疲労困憊の刃に笑って彼女は言った。

 結局結構な距離をレイダー状態で走って帰ってきた刃に、垓は。

「君に罰を与える。お嬢さんの面倒をきっちり見ろ。何かあれば減俸で済むと思うな」

 痛い、苦しい方じゃないパワハラで厳罰を言い渡してきた。

 仕事ミスったのは認めるが、澪が調子に乗って破壊するから見失ったのに。

 いい加減、ZAIA辞めたい。かなり役職あるけど、辞めたい。退職届書こうと思う。

「無理だよ多分。だって刃さん、部下居るし。あたしだし。相手おっさんだし。逃げられると思ったの? 残念でした、1000%不可能だよ」

「うわあああああああ!!」

 刃さん、ストレスで発狂寸前。

 皆様、これがわたしのパンチはもう少しお待ちください。

 殴られるのは、垓だけじゃないと思われるので。多分。

 苦労人の中間管理職は、ツラいんです。

 AIMS隊長が、こんなキツいと思わなかった。

 上の垓、下の澪。見事なサンドイッチ!

「私の人生、詰んだか……?」

「大丈夫? おっさんのパワハラは庇うよ? 約束だしね」

「じゃあ本当に大人しくしててくれないかな!?」

 刃さん、ストレスずーっとマッハ! フルスロットル!

 バイトに入った澪を以前戦ったのに何故に味方になると困惑する部下に適当に説明して。

 夢を見る暇もなく、リアルのストレスで死にかける日々。反省の色がない澪、恐怖の垓。

 えっ? なんでこんなに苦労するのか?

 道具じゃないとごまかし続ける日々から解放された代償が、ワガママお子様の子守りだから。

 失敗するとナルシストの1000%から、また嫌がらせされるね! 

 やったね刃さん、道具の日々から逃げられたよ!

「私はこんな毎日求めてないんだーーーーー!」

「誰に叫んでるの……?」

 ……要するに、ZAIAのほうの苦労が夢も希望も、悩み事まで吹き飛ぶ刃に集中。

 軽く発狂する毎日が続いていた。人間らしくは生きられるが、死にそう。胃薬欲しい。

「でもお給料上がったって言ったじゃん」

「増えたよ、確かに増えたけど! けど私の心労はもっと増えたんだ!!」

 給料がかなり上昇したのは、祖父が面倒をかけると、垓に駆け寄った結果。

 こうして、プライベートで一緒に居るくらいは、澪の面倒を見ないといけない。

 カフェテリアで休みの日に、垓に命令されて泣く泣く暇する澪の相手を言われて潰される。

「ブラック過ぎる……」

 私服の刃は目が死んでいた。理不尽過ぎると嘆いていた。

 春物の服装は美人ん刃には似合うが、表情が暗すぎた。

「大変だね、社畜って」

「そんな言葉で済むなら苦労しない!」

 実感の籠った怒りだった。抵抗できないからと好き放題言ってくる垓に、鬱憤が溜まっている。

 愚痴と文句は内密に聞こうとせめてもの慰めに、ご飯代金を奢る澪。

「えっ、いや。澪ちゃんに奢られても。私の方が大人なのに」

「刃さんさ、あたしは一応刃さんの味方だよ? 助けるって言った手前、自分の流儀は曲げないけどこれぐらいするし、そもそもあたしの上司は刃さんだけ。おっさんは、言うなれば取り引き相手だもの」

 利害の一致で接する垓とは、根本が刃が違う。

 滅亡迅雷も利用できるから使う。垓とは取り引き相手。

 飛電或人とゴリラは敵。ヒューマギアは破壊。詰まり。

「あたしは、刃さんしか味方する気ないよ」

 澪は適当に着てきた制服姿で、笑った。

 割り切りのできる子と、刃は思った。

 かなりラリった印象が強いが、考えてみれば……落ち着いている澪は、初めて見た。

 こうして、穏やかな空気のなかで接するのは初見だと気付く。

「だけど……」

「先払いしておくの。後で飛電製作所に押し掛けてゴリラ潰す」

「まだ不破が嫌いなのか……」

 訂正。ただの前払いだった。

 沢山食べて、イチイチ刃に喧嘩腰のあの相棒らしき相手に澪は因縁つける。

「チンピラか何かか澪ちゃん……」

「チンピラですが何か? 大体、滅亡迅雷の仲間って言うけど、あたしは認めないわあんなゴリラ。亡ってのがどういうのか刃さん知らない?」

 刃も、詳細は言えないと言っておく。

 何せ垓も亡に関しては、刃にすら言えないことをしているようだ。

 ただ、滅亡迅雷の一人であり……垓の道具であると言うことぐらいしか言えない。

「因みに女性らしい声で喋る」

「ぶはっ!?」

 飲んでいたコーラを澪は盛大に吹き出した。

 噎せる彼女に、驚いて平気か聞く。

「待って!? あのゴリラの顔で、女の声出すの!? 止めてよ夢に出る!! 悪夢だわ、悪夢じゃない!!」

(不破ェ……)

 鳥肌が立っている澪を見て、どうも犬猿のなかだと悟る刃。

 言われてみれば無表情で女声で淡々と喋る不破は、改めて思い出すと……気持ち悪い。

 慣れてしまった自分の環境が如何に酷いかよくわかった。

「あのゴリラ、実はメスだったの!? いや、まさか……おネエ!?」

「いや違う!! 不破は男だ、野郎だ! 落ち着いて澪ちゃん!」

 これ以上謂れのない風評被害は避けたいので、全否定。

 だが、事実だから困る。なんと澪、垓に一報入れて確認。

 即ち、ゴリラは女性ボイスで喋れるのか。

「事実だが?」

(社長ぉおおおお!?)

 携帯から聞こえた垓の訝しげな声に内心絶叫の刃。

 不破がまだ意味不明な生き物にする気か。ゴリラ呼ばわりはぶっちゃけ賛成だが。

「オッケーありがとおっさん! それだけ!」

 乱暴に切った澪は、すごい顔をしている。

 殺意にまみれている。

「やっぱりあのゴリラはダメ。あたしは生理的に無理だ」

(あぁ……遅かった……)

 とうとう、澪は和解不可能宣言を出した。

 刃も性格的に無理とは思うが、案の定か。

 もう、手遅れ。後の祭り。

「よし、刃さん。密猟しよう」

「待て、それはいけない」

 暗にパンチングコングを狩りに行くと澪は言い出す。

 密猟、ダメ、絶対と宥める刃。

「分かった。じゃあジャッカルで行く」

「変わってない!! 狩猟になってるだけ!!」

 狩猟に変更して、律儀にわざわざゴリラに通達。

 

『おいゴリラ、よくも性別偽ったな。殺す』

 

『突然なんだ!? また嫌がらせか!!』

 

『違う。あんたがおネエだって証言聞いたけどなに? まだ誤魔化すの?』

 

『俺がおネエ!? 誰が言ったんだそれは!?』

 

『刃さん』

 

『刃ぁあああああああ!!』

 

 で、刃に電話が来る。巻き添えだった。

 無視した。五月蝿いので切った。

 

『おネエ許さぬ慈悲はない。死ね』

 

『何が基準でお前は俺に襲ってくるんだ!?』

 

『ゴリラなら百歩譲って受け入れる。けどね、おネエは無理。キモい。だから死ね』

 

『そもそもゴリラじゃねえって言ってるだろうがッ!』

 

『可愛くねえゆるふわという時点で許しがたいのに、あたしにまだ戦争を吹っ掛けると。此方の縄張りを荒らした代償は命で支払えゴリラ』

 

『お前って奴は……ッ!! 俺がそこまで嫌いか、気に食わないか!』

 

『そんな次元はもう過ぎた。その決して許されないおネエゴリラという御しがたい存在は、抹消しないといけない。故に、あえて言うわ。あんたをハントできるのはただ二人。あたしと刃さんよ!』

 

『ぶっ潰されたいのか!! 何かあるごとに喧嘩売りやがって! 子供かお前は!』

 

『子供よ。取り敢えず、今から飛電製作所に刃さんと向かう。そこで、雌雄を決してあげる。……あぁ、あんたおネエだから雌雄も何もないか』

 

 などという会話が画面で流れるのを、コッソリと傍に行ってみていた。

 また巻き込まれた。もういやだこの会社。あとこの二人。

(そろそろ、私も夢を探そうか……。平穏に暮らせる夢を……)

 ハイライトが消えている刃さん、今回もお勤めお疲れ様です。

 このあと、本当に押し掛けた。そのあとめちゃくちゃ戦った。

 死ぬかと思った。もう、メンタル限界。帰りたい刃であった。



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飛電製作所の事情

 

 

 

 

 

 一之瀬杏は、最近バイトを始めた。

 まあ、ある戦いを切っ掛けに、雑用のバイトを社長に誘われた、と言うのが本当だが。

 自分がどうも、ヒューマギアが大事なのだと言うことを誰かから聞いたらしい。

 二つ返事で了承。日々、理不尽……とまではいかないが、弾圧に堪えながらバイトを続ける。

 ヒューマギアというのは、もう世間では悪の象徴のようだ。

 人を襲う、そして最早無用の長物。そういう、時代遅れのマシン、そんな認識。

 時代と戦うというのは、存外厳しいもので、誰が悪いと言うこともない。

 強いて言うなら、正式な決定をされても、どうしても求める顧客に応える企業の意地?

(いや、違うわね。社長はヒューマギアを信じている。人間のように振る舞うヒューマギアが、夢を叶えることを)

 或人と名乗る若手の彼は、ヒューマギアに常日頃誠意をもって接している。

 客との相性も悪くないし、反応は上々だろう。雑務をしている限り、そう思う。

 ただ、毎日来る嫌がらせはどうにかならないか。

 ポストには誹謗中傷の匿名の手紙が山のように入る。

 壁には落書きをされ、いたずら電話は毎日来るし、そもそも従業員は三人しかいない。

 警察に駆け寄っても、警察すらヒューマギアの破棄をすればいいとなしの礫。

 世知辛い世の中だ。人間の悪意が見える。

 それもこれも、世間の決定に逆らう者の宿命と思おう。

 杏だってヒューマギアは好きだし、今は遠くにいる彼女は既に家族。

 本物の肉親よりもずっと大事。間違いない。

 それが、周囲には異端に見える。学校でも、最近では避けられる。

 危険な企業でバイトをしていると知られ、教師ですら近寄らない。

 いじめ、まではいかないが腫れ物扱い。仕方無いのだろうか。

(私は気にしないけど……)

 別に人間など嫌いだし周りが何だろうが知ったことじゃない。

 今まで通り、危害を加えるなら始末するし、黒い噂程度この学校じゃ日常茶飯事。

 もっとヤバい噂は、クラスメイトにもある。石動澪。

 彼女はZAIAの顧客であり、ヒューマギアを率先して排除している。

 何より、杏のバイト先に嫌がらせしてくる張本人だ。

 正義は向こうにあると、誰もが言うから反撃できない。

 そう言いながら、人間にも平然と手を出す。あいつはイカれている。

 杏はそう思うし無理を言って或人に特訓をしてもらって、漸く戦えるようになった。

 まだまだ半人前と荒事担当の用心棒の不破という男が言う。

 確かに特訓では彼らに勝てた試しがない。強すぎる。

 彼らは何度も戦いを経た仮面ライダー。

 レイダーの杏では、勝ち目がないと思う。

 元々レイダーは、ZAIAのシステムだし。

 レイドライザーはブラックボックスで解析できないとお付きには言われている。

 買ったのはいいがやっぱり対策されている。

「そんなもん抉じ開ければいいだろ。貸してみな」

「抉じ開けたら壊れます。不破さん、やはりあなたはゴリラですか?」

「はぁああああっ!?」

「不破さん落ち着いてッ!!」

 レイドライザーを一回ばらして、中身解析するとか言い出して彼女にゴリラですかと言われる。

 うん、ゴリラだ。解体して直せるのかそもそもあのゴリラに。

「お前も俺をゴリラって言うのか!!」

「不破さん、取り敢えずレイドライザーぶっ壊すのは止めて欲しいな……。結構、高いのよこれ?」

 不破の給料じゃ買えない値段なので、メンテナンスは自分でする。

 不破の剛力で破壊されたら色々困る。

「一之瀬、お前は分かってくれるよな? 俺はゴリラじゃねえんだよ」

「……」

「何で目を逸らす!? 気まずい表情をする!?」

 発想がゴリラだし、とは言えない。可哀想。

 が、顔で分かったのか唸っていた。怖い。

「ゴリラですか?」

「はぁああああっ!?」

「イズ、もう本当に止めて!?」

 再度聞くあたり、イズは実は不破をゴリラだと思っているんじゃないかと思う。

 まあいいとして。

 飛電製作所の話は、快く受け入れてもらうのは社長の或人も諦めている。

 一度は大勢の前で挑発され、暴走したヒューマギアが居るのも事実。

 たとえ、真実はZAIAが関わっていても、民衆はそんなもの知らないのだ。

 そして、一度定着した事実を覆すのは、負けている飛電製作所では不可能。

 数には勝てない。それが、結局結論なのだと。

「実際、汚いことは何度もされた。でも、俺はそれをどうにも出来なかった。その有り様がこれだからさ。……勝負に負けて、試合だけは何とか噛みついている状態……かな」

「飛電さん……」

 後手になっていた、手際の悪さも認めている。

 社長のキャリアが違いすぎる。垓は、自称通り桁外れ。

 敏腕と言われているのも、その通りなのだ。あの意地汚いやり方含めて。

「俺たちは、毎日出来ることをしよう。それが、信用を取り戻す最善手だから」

「はいっ!」

 めげない。負けない。逃げ出さない。

 飛電製作所の社訓、夢に向かって飛び立て。

 杏も、苦境だとしても自分の夢を守り続ける。

 三人の中で唯一、もう夢の叶う彼女は、接し方が違う。

 或人は夢を目指す。不破は夢を探す。杏は、夢を守る。

 叶っているこの世界を、現状を、これ以上ZAIAやAIMSに奪われないために。

 戦うのだ。抗うのだ。家族の為に。

 因みに最近、その家族はこんなことをしでかした。

「おはようございます」

 その日もバイトに来ていたら、不破の姿が見えない。

 普段なら、ヒューマギア護衛のために或人と打ち合わせしてるのに。

 今日は、或人とイズしか居ない。

「不破さんは居ないんですか?」

「おはようございます、一之瀬さん。不破さんは、滅亡迅雷に誘拐されたそうです」

「待って、今すぐリリー呼ぶから」

 イズが真顔で言うが待て、それ一大事。

 何であのヒューマギアの立場を悪くするアホ共に連れ去られているんだ用心棒。

 慌てて、自分の家族に聞き出そうとするが、或人は止めた。

 知っているからいいと。何か用事があるらしく、無視できないので信用したらしい。

「だ、大丈夫ですか……? 滅とかいうヒューマギアは危険だとリリーは言うんですけど」

「そっちには手出しさせないって。リリーがそもそも連れてったんだしね」

 リリーの事情を知っているんので、今は放置してくれる或人。

 だが、どういうことか。リリーが、なぜ?

「迅が今朝早く、飛電製作所の正門でリリーと待ち伏せしていました。その時の映像が此方です」

 イズが、ホログラフィーで映像を投影。

 そこには、身構える不破に対して。

「めつぼー! じん! らい!!」

「あっ!?」

 棒読みで叫びつつ接近。

 素早くプロレス技を決めて、気絶させるリリーがいた。

 一撃で気絶する不破。それを担ぐ迅。

 預かるから、悪いようにはしない。信じてくれと言って、或人が了承。

 そのまま、飛び去っていった。

「またあの子は、はしたない真似して!」

 異性に妄りに密着するとは何事かと怒る杏も大概だ。

 先ずは不破の心配をしろ。

 そんなこんなで、不破は誘拐されている。

 用事が終わったら、玄関先に捨てておくのでよろしく、とリリーからも一報が。

「そう言うことですか。了解です」

「不破さんなら大丈夫だろうし、俺達も仕事しようか」

 謎の信頼もある或人も過剰には心配せずに、その日は不破さん不在でお仕事開始。

 尚、夕刻にお詫びにバナナを添えて、荒縄で簀巻きにされ挙げ句口にはガムテープの張られたスーツの不破さんが出先から戻った三人の前にき転がって呻いていた。

 バナナを添えたのはリリーだそうだ。

「あのメイドォ!! 誰がパンチングマッスルゴリラだあの野郎ッ!! 言いたい放題言いやがって!」

 リリーに散々不破ゴリラ説を迅に刷り込もうとしていたらしい。

 怒り狂う不破は自力で荒縄を力任せに引きちぎり、自分で立ち上がってキレていた。

 何されたか気絶していたのでわからないとのこと。完全に被害者だった。

「おかしいですね……。あの荒縄、不破さんの体格では千切れない筈の太さなのですが。やはりゴリ……」

「イズ、もう止めなさいって。良いじゃないゴリラで」

 キレているのに律儀にお詫びのバナナをやけ食いしているあたり、もう否定できない気がする。

 或人もなにも言わないので、そういうことにしておこう。

 今日は珍しい、飛電製作所は平和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 澪は、面白いことを学校で思い付いた。

(おっさん方式でやってみようか)

 無事AIMSでバイトを始めた澪は、今日も飛電製作所に嫌がらせを考える。

 今回は、ヒューマギア排除の過激派を引き連れて、押し掛ける。

 んで、演説っぽく煽動してみようかと。

 諸悪の根源、ヒューマギアを広める悪の組織。

 こんなもの求めていないとでも言って煽ってみる。

 面白そう。垓のような口車はないけど、勢いでなんとかできそう。

 などと、思っていたのだが……。

 昼休み、学校が騒がしい。何事かと、窓際の方に向かうと。

 

「人類は滅亡せよ!」

 

 滅亡迅雷が遊びに来ていたのが見える。

 あののっぺらぼう、何だっけと澪は思い出す。

(あー……トリノバイト。三葉虫のマギアだ)

 滅亡迅雷の主力マギア。

 未だに大量になぜか戦力として保持できている大して強くないが数が多い下級マギアだった。

 それが、滅や迅も居ないのに勝手に学校に侵入して生徒を襲っている。

 次々銃弾に倒れる学生。血塗れの阿鼻叫喚が眼下で見える。

(あれー? 何で誰も居ないのに来てるのさマギア。まあ、いいか)

 傍観していることにした。

 今はAIMSとしては、何も要請ないので動けない。バイトは勝手に戦ってはいけない。

 と、刃には言われてるが垓に好きにしろとも言われたので今回は無視。

 で、滅亡迅雷としても特にすることもない。

 こんな有象無象、殺す価値もないし、理由もない。パス。

 と、自分勝手に切り捨てて眺める。

 携帯に漸く一報。出動要請、刃から。

(面倒臭いのでパス、と)

 出撃拒否。面倒臭い。

 自分の学校でも、知らない連中を助ける理由がない。

 滅亡迅雷としても、AIMSとしてはあれかもしれないが。

 あくまで、澪が壊すのはマギアではなくヒューマギア。

 マギアは滅亡迅雷的には何かすると滅とか迅とか来そうなので止める。

 刃からお返事。良いから手伝え。なんか怒ってる。

(やっぱサボりはダメか……。ゴリラでも呼ぼっと)

 連絡。宛先、宿敵にして仇敵、不破ゴリラ。

 マギア出たぞ亡、お前のせいだと適当に責める。

 反論がすぐに来た。亡は関係無い、そしてお前も戦え。

 マギア撃破には異論はないのか、駆けつけるとのこと。

 窓際から見下ろしているとクラスメイトがAIMSと知る澪にどうにかしろと焦っているのか怒鳴った。

「応援頼んだからそのうち来るよ。あたしは見てるだけなんだよね、今日非番なんで」

 適当な事を言って流しておくがやれとしつこく五月蝿いので。

 鬱陶しいので、鞄からショットライザーを取り出して、そいつ目掛けて発砲。

 銃声が教室に響く。空砲で済ませておいたが、威嚇にはなっただろう。

「喧しいわバカ共。あたしに助け求める前に早く消えろ。次はぶっ殺すわよ」

 吐き捨てる彼女に、竦み上がった連中は絶叫して逃げ出した。

 次々去っていく中に、そいつは残っている。

「相変わらずね、石動」

「なに、一之瀬。ウザいから消えて」

 普段から話さない二人は、交差する。

「私は気にしないわ。あいつらを撃ったことはね」

「なら、あんたも戦えば? レイダーでしょ?」

「戦う理由がないわ。あんたと以外は」

 窓際から見下す澪は、顔をあげた。

 振り返ると、教室の壁に寄りかかる杏は、腕組みして睨んでいる。

「はぁ?」

「うちのバイト先に嫌がらせしてるってね。私がいないときに」

「あんた、あそこのバイト? だろうとは思ったけど、マジだったか」

 言外に認める澪に、杏は言った。大したことじゃないと前置きして。

 

「邪魔だから死んでよ石動」

 

「あんたが死ね、一之瀬」

 

 用件はそう言うこと。

 嫌がらせしてくる澪を、杏は敵と判断した。

 人のいない教室で、殺そうと言う魂胆か。

 それにしては、粗末なものだが。

「恩人にそれ言うとか、あんた恥知らずじゃん?」

「そうね。リリーにプログライズキーを渡したことは恩人だけど、帳消しじゃないの?」

「違いないね」

 互いに気に食わない。争う理由なんかそれでいい。

 下では、到着した人間がマギアと戦っている。

「どーする? ここでやるのも芸がないよ。下で派手にやらない?」

「バカじゃないのあんた。後処理が増えるから嫌」

 ここで黙って死ねと申すか。澪は肩をすくめた。

「あらそう? じゃ、良いけどね」

 ショットライザーの銃口を杏に向ける。

 弾丸は入れてない。それは杏も見てわかる。

 が。

「これ、こんな使い方できるのよね」

 と、イヤな笑いを浮かべて澪は何か取り出す。

 紫のプログライズキー?

「あんた、何れだけプログライズキー持ってるのよ!?」

 また新しいのを所持している。思わず杏も怒鳴る。

 あっけらかんと、澪は答える。

「30超えてるよ」

 と、さらっと教えて構える。

 

 テリトリー!!

 

 蜘蛛の描かれたプログライズキーを、ショットライザーに押し込む。

 

 プログライズキー装填。攻撃準備完了。

 

 流暢な英語で、そんなことをショットライザーはアナウンス。

 その後、待機音声が流れる。

「領域のプログライズキーって、存在感無いからねえ。こう言うときに使うのが、適してるわけよ!!」

 然り気無く酷いことを言いつつ、銃口を窓に向けて窓枠に足をかけた。

「ちょっ!?」

「一之瀬、投身自殺って……知ってる?」

 バカにするように笑ってから、そのまま豪快に。

 澪は、唖然とする杏の前で。

 窓から、身を投げた……。

 

 

 

 

 

 ……テリトリートラッピングブラストッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石動! 投身とかバカかお前!」

「一之瀬に殺られるかと思って逃げた。許せゴリラ」

「こんな時に冗談言ってる場合か!」

「あ、そう言えば今のでゴリラのショットライザー巻き込んで故障したみたいだね。ゴメン」

「はぁ!? って、おい嘘だろこんなときに!!」

「どうしてもやるならAIMSから借りれば?」

「レイドライザーを!?」

「良いじゃん、部下の人貸してくれるって」

「お前ら……助かる!」

「ほい、じゃあ取り敢えず行くかしょーがない。今回はお詫びに味方したげる」

「ああもう! 行くぞ、石動!」

「はいはい」

 

 

 パワー!

 

 ストロング!



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