捕食少女の闘争アカデミア (エターナルドーパント)
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第1話 化物の闘争

『諸君!!俺は人外娘が好きだ!!どうもエターナルドーパントです!!』
「性懲りもなくまた始めやがったな?どうもEの暗号のデッドプールです」
『今回はリクエスト作品だ』
「他のもしっかり書けよ?」


『スタート!!』

 

背後のスピーカーから聞こえたスタートコールに、その場にいた少年少女の群れは困惑で硬直する。

その上を飛び越え、1人の少女が街の中に駆け出した。

シンプルなジャージの半袖短パンからスラリと伸びた手足は薄い緑色で、何処と無く爬虫類っぽさを感じさせる。

更に彼女の腰からは節くれた長い尻尾が生えており、それを器用にくねらせバランスを取っているようだ。

『目標捕捉!ブッ殺ス!』

 

―ガゴンッ―

 

物陰からいきなり緑色のロボットが現れ、彼女の横っ面を殴り付ける。一直線に走っていた慣性は全て横にズレ、そのままコンクリートの壁に頭から突っ込んでしまった。

「お、オイオイ、死んでねぇよな・・・?まさか、()()()()()なんてねぇよな?」

他の少年少女・・・受験生達は、その光景に絶句する。

ヒーローになりたくて、日本最高峰の高校を受験した・・・その試験が、こんな流血沙汰前提のモノだとは想像もつかなかったのだろう。

「くふッ・・・くはははは♪」

大きく響く、楽しげな笑い声。無邪気で可愛らしい筈のその声に、受験生達は何故か背骨を冷たい手でひっ掴まれたような悪寒を感じた。

笑い声の主は、先程弾丸が如く壁にぶち当たった少女だ。

「シッ!」

 

―バギャァッ―

 

塵が舞う中、彼女は一瞬でロボットに肉薄し拳を叩き込む。その拳はロボットの装甲をひしゃげさせ、機能停止に追い込んだ。

その轟音に反応し、わらわらと出てきたロボット達が一斉に彼女を視覚センサーに収める。

「ハァ・・・良い、実に良いッ!」

口角を吊り上げ、一気に踏み込み・・・否。前方に向けて跳躍。拳、手刀、蹴り、尻尾の突き刺しで一度に4体をスクラップに早変わりさせた。

「あぁ、勉強した甲斐があった!容赦無く与えられる痛み!最ッ高ッ❤️」

歯をガチガチと鳴らしながら頬を朱に染め、悦び叫ぶ少女。同時に手足と尻尾を振るい、また新たに鉄屑を作る。

「どうした機械人形(オートマタ)共ッ!ボクは此処に居るぞ!標的は此処だッ!」

大声で威嚇・・・否、挑発を投げつけ、引き続きロボットを壊し始めた。

その様は、さながら局地的な戦場。拳が、足蹴りが、手刀が、足刀が、掴みが爪が膝蹴りが肘打ちが尻尾(十字槍)が・・・何時何処から、どんな攻撃(兵器)が飛び出して来るか分からない。

しかしその戦い方は、己に返ってくるダメージを完全に度外視したものだった。それ故、拳は一分と経たず傷だらけになる。その傷から滴る紅い血は、触れた地面を悉く侵食し白煙をあげていた。強酸血液だ。

少女が息を吐き出したのも束の間、今度はロボットの一体がミサイルを発射する。

「グヴァッ!?」

それは彼女の腹を打ち据えたが、依然彼女の表情は笑みを湛えていた。寧ろ、より艶やかなモノになってさえいる。

「フハハハ・・・そうだ来い、来てみろマシンめ。その愚直な拳を、スティンガーミサイルをボクの心の臓に突き立てて見せろッ!」

己の振るう暴力、移り変わる状況、与えられる苦痛さえも楽しみ、彼女は都市区画の更に奥へと駆けた。ロボットに対しては完全に見敵必殺(サーチ&デストロイ)で、機械でありながら彼女の通った後は正に死屍累々と言えるだろう。

そんな派手な猛攻は、言わずもがなロボットを更に引き付ける。

何時しか他の受験生を振り切り、彼女の回りにはロボットしかいなくなっていた。

「此処ならもう、他人の心配はしなくて良いッ!」

尻尾で周囲を凪ぎ払い、ビルの壁に向かって跳躍。そのまま足裏で壁に張り付き、両手を前に伸ばす。そして親指と揃えた人差し指と中指で枠組のような物を作り、それ越しに右目でロボットを見遣った。

 

()()()緊縛封印術式(クロムウェル)第3、第2号、解放ッ!」

 

その宣言を合図とし、彼女の身体が変化する。

薄緑色だった手足の肌は茶色掛かった装甲皮膚に覆われ、シャツの下で胸と脇腹が少し盛り上がった。

「シャァァァァァ・・・」

垂直な壁面に両手足を着き、透明な涎をビチャビチャと大量に滴らせる少女。そして軽く壁を蹴り、地面に降り立つ。

爪先から着地し、膝と背骨で衝撃を吸収。そのバネに力を込め、右足の踵を叩き付けるように踏んで地面に力を流した。

自由落下のスピードがそのまま水平移動の初速に切り替わり、踏み締めの力でアスファルトに皹が入る。

刹那の後に、ロボット一体の頭が掴まれひしゃげた。

「ゥオッリャァァァァァァアッ!!」

更に人間で言う背骨に当たるであろう骨格をむんずとひっ掴み、あろう事か群れの中でジャイアントスイングで振り回す。それその物が鈍器と化し、また死屍累々の戦場が広がった。

「クハハハハハハハハハハハハッ!」

味を占めたのか、今度は不用意に近付いてきた2体の頭をカチ合わせて破壊し、嗤いながら両腕でダブルジャイアントスイングを始める。哀れなハンマー達は同族を叩き壊し、最後は複数体巻き込めるであろう場所を目掛けて投石機の石弾の如く放り込まれた。

「・・・アァン?」

と、そのタイミングで彼女の聴覚が人の足音を捉える。もう受験生(邪魔者)共が来ちまったかと舌打ちしつつ其方を見れば、名も知らぬ少女がロボットに挟み撃ちにされていた。大方、此処に来るまでそれ程ロボットの密度が無かったから油断して、バーサーカー染みた派手な鏖殺を繰り広げる彼女に引き付けられたロボットの一部に目をつけられたのだろう。

 

「チッ、戦えもしねぇ雑魚が来るんじゃねぇよ。糞邪魔臭い」

 

気持ち良く戦っていた所に異物が入り込み、彼女の機嫌は急降下。しかし此処でアレを見捨てれば、大好きな暴力の応酬に集中出来なくなるかもしれない。

「ゼェアッ!」

それはそれで後味が悪いと思い、重心移動で一気に加速してロボットの頭を蹴り潰す。

「オゥラッ!」

そして残りの一体は胸を尻尾で貫き、そのままモーニングスターの要領で他のロボットに叩き下ろした。

「あ・・・ありが」

「礼言う暇があるなら、とっとと尻尾巻いて逃げろよ。戦えもしねぇ癖に、ボクのお楽しみを邪魔するんじゃあない。ホラ行けよ早く(ハリー)早く(ハリー)ッ!!」

「ヒッ!」

血まみれで狂人染みた本気の憎悪を向けられ、涙目になりながら逃げ出す少女。

「フンッ、この程度で泣きべそかくようじゃ、どっち道ヒーローなんて無理だッツーの」

鼻をならしながら、背後から近付くロボットを尻尾で貫いた。

(そーいや今何ポイントだっけ・・・わっかんね。数えてなかったからなぁ)

新たなロボットの頭部をチョップで砕きつつ、大丈夫かな~と唸る少女。ロボットにペイントされている数字が撃破ポイント数なのだが、今まで好き勝手暴れすぎて数えていないのだ。

「まいっか。取り敢えず目に着く限り鏖殺すれば、そこそこ高得点にはなるでしょ」

因みに彼女は既に80体近くロボットを狩っており、既に上の上に食い込むポイント数である。

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・―

 

その時、地面が激しく揺れだす。近くまで進んでいた受験生達は地震かと狼狽えるが、彼女のピット器官にも似た熱感知能力は地下から上がってくる熱源をキッチリと感じ取っていた。

「これが・・・お邪魔虫(0ポイント)かな?」

お邪魔虫。この試験において、倒しても得点にならないから逃走を推奨されているロボット。全長は40m程度だろうか。相当デカい。

普通の感性を持つ人間ならば、この巨大な敵に恐れ(おのの)き逃げ出す所だろう。

「くふッ、クヒヒヒッ❤️」

しかし、彼女は違った。彼女は化物だ。心の底から闘争を望み、暴力の応酬を愛して止まない化物なのだ。

 

「良い、良いぞ雄英ッ!そして0Pッ!

これより貴様を、危険度第三級(カテゴリーCクラス)の敵性脅威存在と認識する!

 

催眠式緊縛封印術式(クロムウェル)第1号、解放・・・状況B、クロムウェル発動による承認認識。眼前敵の完全沈黙まで、身体能力の限定解除を開始・・・!」

 

彼女は再び指で枠を作り、自己催眠をもう一つ操作。そして壁を登り、ロボットの膝辺りの高さまで到達する。そしてそこからロボットに飛び掛かり、膝をパンチで破壊。更に上に登り、今度は自分の左腕を引っ掻いた。鋭い爪で皮膚が切り裂かれ、パタパタと血が滴る。

紅い強酸の滴はロボットの足の装甲を腐蝕し、その中のキャタピラを破壊した。

「さぁてと。どのロボットも、頭の装甲は同じ硬さだった。もしこいつもそうなら・・・」

機動力を削ぎ、次に頭へと登る。そして装甲板を拳で叩き壊した。

「ビンゴ♪」

更にその破壊孔を抉り広げ、剥き出しになった回路基盤に強酸血を纏った抜き手を突き立てる。

基盤が砕かれてシステムがダウンし、巨大ロボットは機能を停止した。

『そこまで!試験終了!』

「およ?タイムアップか」

スピーカーからストップコールが掛かり、彼女は一息吐いて下を見下ろす。

ざっと見ても瓦礫等で身動きが取れなくなっている受験生が居ない事を確認しつつ、戦闘狂の化物の癖に中途半端に甘いんだよなぁ、と自分に軽くウンザリした。それも彼女には何時もの事だ。

「ってうわっ、良く見たら服装がかーなりアウトっつーかパンクな状態に・・・」

半ズボンは切れに切れて最早ホットパンツかと言うような丈になっており、腕から流れた血でシャツもボロボロ。特に激しく飛び回ったせいで胸辺りがかなり際どい有り様になっていた。

「こりゃ~生体装甲解いたらヤバイな・・・しゃーない」

その場に座り込み、尻尾もペタンと下ろす。

緊縛封印術式(クロムウェル)第3号、発動」

 

―パキッ―

 

フィンガースナップを鳴らし、意識を集中。すると、彼女の両手足が茶色い強化皮膚から緑の柔らかい肌に戻った。

「ふぅ・・・い゙ッ!?」

急に身体を貫いた激痛に、歯を喰い縛る。

緊縛封印術式(クロムウェル)第1号・・・身体能力リミッター解除催眠、火事場の馬鹿力発動の代償だ。

「シィーッ、フシィーッ・・・はぁ・・・」

あっという間に引いていく痛み。それは彼女が並外れた治癒力の持ち主である証拠だ。

「安っぽい痛みに、安っぽい勝利・・・まぁ、今はしょうがない。

今は備えよう。次の闘争(タタカイ)の為に。次の、次の闘争の為に・・・」

そう呟き、彼女は巨大ロボットから飛び降りた。

 

―――

――

 

「なんと言うか・・・ヤバイわね、彼女」

実技試験のVTRを観て、目元を隠すマスクとボンデージのような服を身に付けた女・・・ミッドナイトが戦慄する。

「イヤーすげぇぜこのガール!俺思わずWooooooo!っつっちゃったもんな!」

「あぁ煩かったな、お前が」

黄色い鶏冠のような髪型の男(プレゼントマイク)がハイテンションに叫び、隣の細長い布を巻き付けた無精髭の男(イレイザーヘッド)がウンザリ気味に返しながら手元のタブレット端末を操作して資料を見た。

「名前、触出(フレイズ) 背納(セナ)。個性は《プレデリアン》。折寺(おるでら)中学校に在校中。

ペーパーテストの出来も高水準。実技は(ヴィラン)ポイントが96P、救助ポイントが5Pの合計101P。攻撃力やスタミナも申し分無く、しかもP付き仮想敵は全て一撃必殺。己の何がどういう武器になるかキッチリ理解してて、それをしっかりと使い熟している。技能を見れば、其処らのプロヒーローに引けを取りません」

「プレデリアン!?懐かしいわねAVP」

個性名に反応するミッドナイトを捨て置き、イレイザーヘッドは更に資料に目を通す。

 

幼少期に両親が居直り強盗に逢い死去。その際強盗犯の(ヴィラン)に誘拐されたが、自力で脱出して警察に保護される。(ヴィラン)は直ちに逮捕された。

その後親戚を盥回しにされ、その先で性的虐待を受けていたことが判明。養護施設に入り、そこから小学校に通う事となった。

 

「中々に凄まじい人生ですね」

「性的虐待って、ヒデェ野郎もいたもんだなオイ」

流石のイレイザーも、これには顔をしかめる。そして三度、資料に目を走らせた。

 

カウンセリングを実施した結果、知能指数が平均よりもかなり高い事が判明。同時に自分が「周りの子と何かが根本的に違う」と証言。虐待による精神的外傷は認められず。

小学5年生の頃、蟻等に置ける働き蟻的な性質を持つ生物、《ゼノモーフ》を生み出し使役する能力に目覚める。彼女はゼノモーフを学校に連れて来て一緒に遊んだり、放課後に模擬戦染みた取っ組み合いをする事が多かった。

また、ゼノモーフは独自の言語で彼女と会話する。彼女には容易く聞き取れている模様。

ゼノモーフの食性は雑食らしく、彼女と共に昆虫食をする事もしばしばあった。

 

(道理で戦い慣れてる筈だ)

内容を読んで、イレイザーはあの身のこなしに納得する。

 

中学校では、1年生の二学期に1ヶ月のカナダ留学を経験。ホームステイ先で、新たなゼノモーフを産み出している。

三学期初頭からカウンセリングを実施。以下の自己解釈を述べた。

・闘争本能が極めて強く、痛みさえ快楽に感じるマゾヒズムを抱えている

・恐らく自分は他者と戦い傷付け合う為に生まれ、また戦いの中で笑って死ぬだろう

・他人に暴力を振るう事に躊躇が無いので、恐らく(ヴィラン)側に傾いた精神構造である

・生まれ持った狂気はどうしようも無いので、押さえ付けて働くよりもヒーロー等になって発散しながら生活する方が安定する

・創作物は今時の物よりも超常発生前の特撮やアニメ作品の方が好きで、自分はそれらに影響されやすいタイプ

・同性愛者、またはバイセクシャルである

 

「何か、結構クレイジーっぽいかんじか?」

「それもそうだけど、ただの中学生に此処までキッチリと自己認識が出来るって言うのは中々すごいわね」

「フム・・・しっかりと自分を分析し、尚且つ受け入れているね。少し大人びている印象を受けるのさ!」

スクリーンの真正面に座っている白いネズミのような生き物が手を挙げる。実はこの生物こそが、この雄英高校の校長である。

「この子は合格発表ラインに到達している。入学を認めようじゃないか」

校長の言葉に、異を唱える者は居ない。

「まぁ、志望動機が些か欲に正直過ぎる気がするけどね」

「変に取り繕うヤツよりよっぽどマシですよ」

ガリガリに痩せた金髪の男・・・八木俊典の発言を、イレイザーが切り捨てる。

「では、次の子の審査と行きましょうか」

 

―――――

――――

―――

――

 

(背納サイド)

 

「っと」

ボロいアパートの扉を開け、靴を脱いでトテトテと上がる。

台所には電灯が灯っており、()()が何かしているんだと理解出来た。

「マックス~、ただ~いま~」

「シュルルッ!ゴバゲシ(おかえり)ブギギン(クイーン)

「ブフッ!?」

台所から声を掛けてくる()()()()()。彼女の格好に、ボクは思わず噴き出す。

だって想像してみてくれ。フリフリでキュートなショッキングピンクのエプロンを着た身長180㎝化物が、オタマ片手に此方に向き直ったのだ。

シュールだ。シュールにも程があるだろう。目一杯のシュールだ。

「あー、うん。マックス、それ何処で手に入れたの?」

ゴゴジャ(大家) () ゴバチャン(おばちゃん) () ブセダボザジョ(くれたのだよ)

「あぁ~、あの世話焼き女房のおばちゃんね」

いやいや大家のおばちゃん、どういうセンスよコレ。

バパギギザソ(かわいいだろ)?」

「可愛いっつかおぞましい」

ジドギ(ひどい)!」

プンスコと地団駄を踏むマックス。目一杯だと思ってたが、どうやらシュールの上限はまだまだ遥か高みにあるらしい。

ダザギバロドビバギダ(ただいま戻りました)・・・ゴジャ(おや)?ズギギン、ゴロドビビ(お戻りに)バデデ(なって)ギサシャシャギバギダバ(いらっしゃいましたか)

「あ、ドクお帰り」

扉を開けて、もう1体のゼノモーフが入ってくる。マックスよりも背が高く、ヒョロっとしたような体型の個体。彼女はドク。妹達の教育係だ。

「子供達の様子は?」

ドデロ(とても)バパギサギギゼスジョ(可愛いですよ)ログ(もう)ジヅン(自分)()ショブリョグ(食料)()チョグダヅゼギバス(調達出来ます)

うむ、感心感心。いやー、アパートの裏が雑木林で良かったよ。食費も浮くし。

「あ、そうだドクぅ。マックスのあれどう思う?流石にキツいよね?」

「・・・ギゲ(いえ)ドデロガギサギギバド(とても可愛らしいかと)

「ウッソだろ?」

あーもう止めだ止め。何時まで経っても終わらない。

「あ、そう言えば。マックスは何作ってるの?」

「ハチノコカレー()カミキリワーム()バサガゲ(からあげ)ゼスジョ(ですよ)

「ワオ!ご馳走じゃん!」

すぐさま服を脱ぎ捨てて下着一丁になり、食器棚に向かう。

「グギギン、ボン(この)シャツ()?」

「ん?あーそれは捨てといて。後は洗濯機にお願い。お風呂入った後で回すから」

ショグヂギダギラギダ(承知いたしました)

ご飯をよそいながらドクにお願いし、ハチノコがたっぷり入ったカレーをご飯に掛けてちゃぶ台に着いくのだった。

「いただきます♪」

 

 

―――――――

――――――――

―――――――――

 

触出背納、雄英高校志望動機

戦って戦って、呆れ返る程に戦いながら(ヴィラン)に堕ちずに生きる為。また、戦い以外の生き甲斐を見付けられるまで生き延びる資金を稼ぐ為。

 

to be continued・・・




キャラクター&用語紹介

触出背納
本作の主人公。前世の記憶がある転生者であり、今生を兎に角楽しく生きる事をモットーとしている。原作知識そこそこあり。
前世から暴力衝動が強かったものの、それに見合わずヘタレだったためトラブルはあれど喧嘩に発展した事はほぼ無かった。
父親の友人の影響でヲタクの道にのめり込み、主に人間の本性である残虐性や利己性を描いた作品に惹かれていた。が、王道のヒーロー物も勿論大好き。
今生では自分の中の狂気が未だ健在であり、尚且つ暴力への躊躇が無くより残虐になっている事を小学生時の喧嘩で自覚。以後その衝動と共存する方法を探し、その結果としてヒーローライセンス保有者が望ましいと結論付ける。
「ヒーローはなったり名乗るもんじゃない、いつの間にか英雄(ヒーロー)と呼ばれるんだ」と言う独自のヒーロー哲学を持っており、なりたいモノを聞かれると飽くまで個性使用戦闘免許(ヒーローライセンス)保有者と答える。
人間は自分の意思を持つからこそ人間であり、自分の意思無く他人に従う狗に成り下がった奴が大嫌い。
因みに雄英に落ちた場合は紛争地帯にでも飛んで傭兵デビューする予定だった。

マックス
最初に生まれたゼノモーフ。元ネタはHELLSINGのモンティナ・マックス少佐。家事万能であり、タダで取り放題な可食昆虫や野草に詳しい。
ゼノモーフ達で構成したクイーン親衛隊の隊長。
種類を問わず射撃武器が壊滅的にド下手糞であり、エアガンで木に吊るした的を狙ったらどういう訳か地面に着弾する。もはや一種の才能の域。
「ザレザドク、ガダサン♪」
「ガギッバパサズ シャゲビ グ ゼダグギラス。ドグジャデデ ギンゲギダギチョグ ビ バダダンゼスバ」
「良いんだよドク。ソイツが隊長だ」

ドク
痩せ型で背の高いゼノモーフの二女。元ネタはHELLSINGのドク。知能がかなり高く、雑木林に住み着く親衛隊員達の教育係。
同時に毒物や薬物に並々ならぬ興味を注いでおり、趣味は毒草や薬草の採集と栽培。
流石に法に触れる系の草は栽培していないが、興味は尽きない様子。

催眠式緊縛封印術式(クロムウェル)
背納が自らに施している自己催眠。元ネタはHELLSINGのアーカードに施された拘束制御術式。
第3号から第0号まであり、3号の解除で四肢の強化皮膚化。第2号で胴体の装甲化。更にこの2つの同時解除により、闘争本能のタガも外れる。第1号は解除ではなく発動で、身体能力のリミットブレイクによる火事場の馬鹿力の発揮となっているが、使ったあとは数十秒間強烈な筋肉痛に襲われる。
第0号は、いずれ使った時に。

ゼノモーフ
映画《エイリアン》シリーズ及び《エイリアンVSプレデター》シリーズに登場するクリーチャー。特定の動物に寄生し、宿主の形質を引き継いで生まれてくると言う特異な生態を持つ。
血液は強酸性であり、色は黄色。但し背納は赤である。
因みに、この世界のゼノモーフは背納の趣味の影響で流暢なグロンギ語を喋る。また特殊な生体電磁波によりテレパシーで会話を行うことが可能。
数は25体と少ないが、クイーン親衛隊を結成している。物騒な名前とは裏腹に、ゴミ拾い等の奉仕活動が主な活動内容。その為近所のおばちゃん達には馴染んでいる。尚、子供はギャン泣きする模様(泣かれると落ち込む)。

状況B
背納ちゃんが想定する戦闘パターンの一つ。
C=殺さず捕縛が望ましい場合。
B=敵の機材及び資材の確保若しくは破壊が目標である場合。
A=敵軍の構成人数に関わらず、眼前敵の完全排除、要するにサーチ&デストロイが目標の場合。

危険度
眼前敵の危険さ、厄介さの基準。大体背納ちゃんの目分量。
第五級(カテゴリーE)=有象無象の雑魚。
第四級(カテゴリーD)=そこそこ強力な敵。
第三級(カテゴリーC)=楽しめる敵若しくは強敵。
第二級(カテゴリーB)=本気を出すに値する強敵。
第一級(カテゴリーA)=愛すべき英雄、若しくは忌まわしき化物。


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第2話 化物の入学、そしてテスト

「結局こっちかよ」
『熱が冷めない内に書かないといけないんだ』
「感想来なかったけどな」
『言うなッ!!』


(背納サイド)

 

「じゃ、行ってくるね!」

「「ギデデ サシャシャギラゲ、ブギギン」」

「ボブロギブジョ~!」

春。ボクは届けられた新しい雄英高校の制服に袖を通し、新しく引っ越した学校最寄のアパートの扉を開けた。そして、ボクの後ろを150㎝程度の小柄なゼノモーフが着いて来る。

お留守番はドクとマックス。着いて来たのはシュレディンガー。ゼノモーフの中でもかなり小さく、軽い攻撃を何度も繰り返すヒット&アウェイが得意な子だ。引っ越しと共に3人を一緒に連れて来た。

「にしても、結構高いな~」

「パザパザ ボンバビ ダバブグス ジヅジョグ ガダダロババ?」

ソコソコ高い山の上にある雄英高校を眺め苦笑いするボクに、シュレディンガーが疑問を溢す。

「さぁね。ま、その方がボク等には都合が良いんじゃない?」

「ギゲデス♪」

自動車等が通る道もあるが、それは大きく迂回する形になっていた。ボク達なら道を走るより、森の木を伝って駆け抜けた方が早い。

グリグリと肩を大きく回し、尻尾でバッグを背中に固定する。

「行くよシュレディンガー!」

膝を抜き、上体を自由落下。更に腹筋を使って最速で身体を丸め、重心を前に移動すると同時に落下を加速。最後に踵を地面に打ち付け、落下分のエネルギーに脚力を掛け合わせてスタートダッシュにブチ込んだ。

化物の身体能力が馬鹿げた加速を産み、更に木の幹を蹴って駆け抜ける。

「っと?」

良い調子で走っていたが、途中で幹を掴んでストップした。

「ン?ゾグギダボ?」

「ん、この先にトラップが仕掛けられてる」

目を閉じて意識を集中すれば、額の辺りにチリチリと針で撫でられるような刺激を感じる。

「赤外線を遮断すると起動するタイプ。あと、日本の法律的には罠と言うより多分警報装置だね」

確か日本では、トラバサミなんかみたいな直接的な攻撃力のあるトラップは使用禁止だった筈。あって括り罠だけど、そんなものよりも警報の方が有用だろうしね。

「ジャ、ロドス?」

「冗談♪大昔、とある真っ赤な3倍速度の御方が言っていたよ」

楽しげに訊ねてくるシュレディンガーに、舌を出しながら人差し指を立てた。

「当たらなければどうと言う事は無い!ってね♪」

「ヂガギバギべ♪」

口角を吊り上げて、再びボク達は飛び出す。赤外線を避け、パルクールも取り入れながら突っ切った。

林の向こうに光が見えるから、多分フィニッシュだね。

「ホッと」

ザリザリッと滑りながら、両足でブレーキを掛ける。思った通り、此処で林は終了。

「フィ~、ジャママシ ブギギン ザジャギべ」

「フッフ~ン♪当然でしょ♪」

服に葉っぱや汚れが付いていないか確認しつつ、目の前のでっかい門を潜った。

スマホに入れておいた校内見取り図を見ながら、自分の教室に向かう。

「にしても、何もかも大きいなぁ~。バリアフリーかな、多分」

身長2m越えとかこの世界じゃゴロゴロいるもんね。

っと・・・中にもう誰かいる。誰か知らないけど、早いなぁ。

「よいしょっ、って言うほど重くも無いな」

最悪肩甲骨フル稼働で開けようと思った3m以上ある扉も、どういう訳かスルリと開いた。触った感じだと、多分金属なのにねぇ。

「おやっ!君もこの1年A組の生徒かね!?」

そう言って、キビキビを通り越してロボットみたいな動きで話し掛けてくる男子生徒。もう見た目が丸っきり真面目クンって感じの彼は、確か委員長の・・・そうだ思い出した。確か飯田君だったか。入試ン時も出久が何時もの癖出して怒られてたねぇ。

「へぇ、君かなり朝早いねぇ。おはよう。

ボクは触出背納。此方はシュレディンガーね。以後お見知り置きを」

「触出君と言うのか!俺は飯田天哉!宜しく頼む!」

そう言って腰を45度折りながら、中に鉄パイプでも通ってンのかと思うぐらい真っ直ぐ手を差し出してくる飯田君。

「宜しく出来るかは分かんないけど、挨拶には応じるよ」

愛想笑いを浮かべながら、握手に応じて手を握った。

「・・・♪」

つ~いでにいら~ん事思い付~いた♪

「ん?笑っているが、何か良いことでもあったかね?」

「ううん、別に?あ、そうそう。ヒーローになりたいなら・・・」

「・・・ッ!?(手が、離れない!?くっついている!?)」

掌のファンデルワールスキャッチ能力を使い、飯田君の掌をホールドする。

「こういう技術があるんだけど、どう?」

そう言いつつ半歩下がり、まず右肩甲骨を背骨側に引き寄せた。

「うっおっ!?」

「ぽいっちょ♪」

そして更に下向きに回し、相手の重心を前に引っ張ってバランスを崩す。そうすれば、あら不思議。あっという間に人間ロケット・・・え、人間ロケット?

「どわぁ!?」

「あっゴメンやり過ぎた!」

慌てて腰を落として両足を踏ん張り、尻尾で吹き飛ぶ飯田君を何とか支える。

「おぉ・・・一瞬、空を飛ぶような感覚に陥ったよ」

「マジで飛んだからね。ゴメンね?まさか普段からあんなに体幹固めてるなんて・・・」

この投げ技・・・ウェイヴ投げは、相手が引っ張られまいと踏ん張る程により強力になる。何故なら柔軟性が失われ、全身の骨格を波打たせて効率的に総動員するウェイヴの威力を諸に喰らう事になるからだ。

「いや、大丈夫だ。だがいきなり仕掛けるのは感心しないな」

「何言ってんのさ。殺し合い相手の敵さんが待ってくれる訳無いでしょ?個性使用戦闘免許取るなら、最低でも人混みに紛れて敵さんが殺しに来ても致命傷を避けられる程度にはならなきゃ」

「む、それもそう・・・なのか?」

うん、丸め込みやすいわ飯田君。こんなのとんでもない暴論なのにね。

「あと、飯田君は身体を柔軟に使う敵には弱そうだね。動きがガッチガチで」

「む、そうなのか?」

「良かったら教えてあげよっか?ボクは尻尾がある分だけちょっと勝手が違うけど、基礎ぐらいなら教えてあげられるよ。この技術習得すれば、こんな事も出来るし」

浅く膝を曲げて、バランスボールに乗っているような感覚でグリグリと腰を回す。そして左踵を右足の後ろに引くと同時に。右膝を腰椎と骨盤で反時計回りにシュバッと回した。すると、一瞬で左向きに方向転換完了だ。

「おぉっ!それは興味深い技術だ!是非ご教授願いたい!」

「時間ある時にね。もうクラスメイト達も来たっぽいし」

多数の足音と、男女混ざった話し声。

 

―ガラッ―

 

「いっちばーん!じゃなかった~!?」

先陣を切ったのは、髪と肌がピンクで黄色い角が生えた女の子・・・前世で好きだったから忘れようも無いね。三奈ちゃんだ。

「おいコラァピンク女ァ!!俺の前に立つんじゃねぇ!!」

反射的に目元に自分の右手が飛んできた。目から額にかけてゴツゴツした掌が当たり、パンッと高い音を発てる。

爆豪(アイツ)何やってんだ。初対面の美少女にそういう事言うかなぁ・・・

「あァ?つかテメェも同じ組かよ化物女!チッ、クソが」

「なッ、君!触出君になんて言動をッ!!」

「あ゙ァン!?ウッセェ黙ってろマジメ君モブ野郎!」

詰め寄った飯田君を突き飛ばし、自分の席にドカッと座って机に脚を掛ける爆豪。早くも胃がチクチクしてきた・・・大丈夫かな、ボク。

「あれぇ!?ねぇねぇ、その子って、もしかしなくてもエイリアン!?」

三奈ちゃんが目を輝かせながらシュレディンガーを撫でる。少し触っただけで仕草が猫っぽいと分かったらしく、シュレディンガーの好きな顎の下を撫で始めた。

「わぉ。人懐っこいとは言え、シュレディンガーをこんなに早く手懐けるとは・・・スゴいね君。

ボクは触出背納。君は?」

「あたしは芦戸三奈!へぇ~、この子はシュレディンガーって言うんだ~」

「ジョソギブレ~♪」

「わっ、喋れるんだ。ん~、宜しくね♪」

「え、三奈ちゃんグロンギ語聞き取れるの?」

「イントネーションで分かったよ?」

コミュ力と直感力お化けなの?凄いね三奈ちゃん。

「いい加減にしろッ!!机に脚を掛けるのは止めたまえッ!!」

あーあ、確か原点でもこんな感じだったな。三奈ちゃんと仲良くお話出来ていい気分だったのが急降下だよ。あークソ畜生め(ファック)

「うわぁ、かっちゃんがごめんなさぁい・・・」

お、キタキタ。部屋に入って早々に苦笑いしてる出久と、爆豪見て『え、この人と一年同クラス?』って顔してる麗日ちゃん。

「おはよー出久!」

「あ、おはようせっちゃん。それにシュレちゃんも」

「ララ~♪」

トテトテと出久に駆け寄り、飛び付いて甘えるシュレディンガー。うん可愛い。

「えー何々?友達なの?紹介してー!」

「うん。このチリチリグリーンボーイは緑谷出久。一応幼馴染みかな?小学生以来の付き合いなんだ」

「チリチリグリーンボーイは酷いや」

そうは言うものの、嫌な顔はせず笑って見せる出久。ただ、そこからまたシュレディンガーを撫で始める時にもう、ね。溢れ出る母性が隠せてないと言うね。男だよね?出久って。

「仲良しゴッコしたいなら他所行け。此処はヒーロー科だぞ」

突如響いた冷ややかな声に、教室全体の視線が出入り口の扉に集中した。其処にいたのは、寝袋に入ってミノムシ状態になった小汚ない男だ。

うん、合理主義のイレイザー先生だね。と言うかイレイザーヘッドって名前だったり超竜神と丸かぶりな轟君だったり、ヒロアカの作者ってガオガイガー好きなのかな?まぁどうでも良いけど。

取り敢えず・・・

「もしもしポリスメン?何か雄英高校に小汚ない不審者が」

「通報するんじゃあない。俺はここの担任の相澤だよ」

「何だ担任か。だったらもっと先生らしく見える清潔な格好をすれば良いんですよ」

って言うか、生で見るとやっぱり全身凝りだらけだな。しっかりベッドとか布団で寝ないからだ。

「あー、検討しとく。取り敢えず、全員これに着替えてグラウンド集合な」

寝袋からビニールでパッケージングされた体操着を取り出し、相澤先生は教室からのそのそと出ていった。

「着替えろってさ。更衣室行こうか・・・あ、やっべ」

しまったなぁ。ボクはどうしたら良いやら・・・

「あ、僕らはそれぞれ更衣室行くから、せっちゃんは此処で着替えたら?」

「ありがとう出久」

持つべきは理解のある友達だなぁ。女子達が首かしげてるし、近い内に説明しないと・・・

 

―――

――

 

『個性把握テストォ!?』

グラウンドに集合し、相澤先生の言葉に驚くクラス一同。ま、当然だよねぇ。

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「そんなイベント、ヒーロー科にはありゃしないよ」

「俺のクラスには必要無い、の間違いでは無く?」

「・・・あぁそうだ。入学式は今執り行われてる。君らを此処に呼び出したのは、全部俺の独断だ」

うわ、潔く認めたなぁ。

「取り敢えず、触出。あの円の中に入って、このボールを全力で()()()。円から出なきゃ、何しても良い」

およ?ボクか。原点じゃ爆豪だったと思うけど・・・まぁ良い。

「分かりました」

円の中に入り、両手の指で枠を作った。そして肺の中の空気を全て吐き出し、新しい空気で暗示を操作する。

「催眠式クロムウェル。第3、第2、第1号解放」

催眠を解放し、服の下にゼノモーフの生体装甲を生成する。

うーん、やっぱりちょい窮屈だな。これなら伸縮性のあるスポーツ下着にすりゃよかっt

 

―ブチブチッ―

 

「あっ・・・」

ブラのホックとパンツ千切れた・・・

「えぇいもうなんぼのモンじゃいッ!!」

シャツを脱ぎ捨て、ズボンのウェストを弛めて刃牙みたくジャンプでパンツごと脱いだ。ブラもすぐに剥ぎ取り、シャツを畳んでその下に素早く突っ込む。あと裸足になっとこ。

「なッ!?生ストリップ、だとォ!?雄英サイコー!ヒーロー科サイコー!」

・・・ちがうもん。これ、はだかじゃないもん。せいたいそうこうだもん。だからはずかしくないもん・・・

「もう可愛い系の下着なんて二度と着けない・・・」

深呼吸して、気分をリセット。先生からボールを受け取り、肩の力を抜く。そして全身をグリグリと揺さぶり、右肘を左手で掴んだ。

 

―ゴキッ―

 

そしてそのまま右手を右頬にくっ付け、円の後ろ側に下がる。同時に尻尾を右足の側に打ち込み、アンカーの代わりにした。

「フゥゥゥゥ・・・ッシィ!!」

右足で地面を蹴ると同時に、尻尾も使って身体を押し出す。そして左踵を地面に突き立て、下半身のみを硬直させブレーキを掛けた。身体の質量が持つ逃げ場が一つを残して断たれた運動エネルギーを、背骨を通し肩まで伝えて腕を大きく回すように振るう。

すると肘が関節で伸び、遠心力が増大。その力が全て乗り、ボールはかなり遠くまで飛んだ。

「良し!」

 

―ゴキッ―

 

そして外していた右肘を嵌め直し、筋肉で固定。数秒締め付けただけで、元通りキッチリくっつく。

「う、腕が伸びたー!?」

「背納ちゃんスゴーい!個性でそんな事も出来るんだ!」

「いや、これは脱臼しやすいように訓練しただけだよ」

『えっ!?』

イヤー、ドクとマックスに引っ張らせたのが懐かしいなぁ。最初は激痛にのたうち回りそうになったっけ。今はもう痛くも何とも無い。

「まずは、自分の限界を知る。全てはそこからだ」

先生の持っているスマホ型端末には、193mと表示されていた。まぁプロ野球選手でも確か130とからしいし、超人的っちゃ超人的だね。

「君らも、中学まで体力測定やってたろ。個性使用禁止の。このご時世でも、まだ画一的な平均を取りたがる。文部科学省の怠慢だな。

此処では個性フル活用だ。ヒーロー科生たるもの、自分の能力は把握しなくちゃいけない」

相澤先生の言葉に、皆がざわつき始める。こう言うのはやった事が無いから少し浮わついているようだ。

「何これ楽しそう!」

あ、今のはいけないな。先生の雰囲気変わった。

「楽しそう、ねぇ。これから3年間、そんな腹積もりでやっていくつもりか?

よし。このテストで最下位の者は除籍処分としよう。そうしよう」

『ハァ!?』

まぁ、確かに死地に赴く仕事だもんな。

「成る程。じゃあ皆、生存競争に負けないよう、しっかり頑張ろー!」

「いや待ってくれ触出君!流石に理不尽だと思わないか!?」

「この程度の理不尽で凪ぎ払われるような甘ったれたガキに救える命があるとでも?」

「ッ!!」

「そういう選別だよこれは。それに、あの人は多分記録云々よりも見込みがあるかどうかで除籍するか否かを決める。路頭に迷いたくなきゃ、精々工夫を凝らす事だね。

でも先生。個性が運動能力に影響しない子も居る筈なので、そこんとこは配慮してあげて下さいね」

「分かってるさ」

良かった。一応良識はあるみたい。

さぁてと、全員無事生き残れるかな?

 

to be continued・・・




キャラクター紹介

触出背納
化物主人公。雄英の山を一気に駆け登り、赤外線センサーも余裕で突破した。
飯田に見せた技術は、某現代忍者が使う零距離戦闘術の一部。関節が柔軟なので、ネットで見て盗めた。
因みに極最近になってその現代忍者がカッシスワームを演じていたと知り驚いた模様。
生体装甲が服の下に生成されるので、折角新しく買った下着がお釈迦になってしまった。憐れブラ&パンツ。

シュレディンガー
出久から生まれたゼノモーフの1人。元ネタは言わずもがなHELLSINGのシュレディンガー准尉。
この子も女の子。背納と同じくボクっ娘であり、出久をママと呼んでじゃれつく。因みに出久はシュレディンガーを撫でる時は母の顔になると言うね。


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第3話 化物のテスト 新たな親衛隊員

『最初に謝っておきます。済みませんでした。詰め込みすぎました』
「分ければ良かったのによ」
『それだと中途半端な数だったから・・・
あと、今回は少し下ネタやチョロイン注意です。耳郎ちゃんとヤオモモと三奈です』
「大丈夫な方だけゆっくりしていってね」


(背納サイド)

 

「ヒュー、流石だぁね」

把握テストの最初の種目は、個性解禁50m走。飯田君は脹ら脛のエンジンがあったり、爆豪は掌を後ろに向けて爆裂加速したり・・・やっぱり、皆化物だなぁ。

因みにシュレディンガーは木の影で見てる八木さんとお話してるね。

「さぁてと、行きますか」

股関節をしっかり伸ばし、クラウチングスタートの構えを取る。更に、左足後ろの地面に尻尾を突き立てた。

 

―ピッ―

 

電子音を認識した瞬間、両腕を離して身体の落下を開始。更に尻尾の先端の十字槍を蹴り付け、同時に折り曲げた尻尾を一気に押し伸ばした。

水平にスッ跳び更に爪先で着地し、再び蹴り出す。

 

―ピピッ―

 

「ッシィィィィィィ・・・」

ザリザリッと地面を削ってブレーキ。

「1.9秒83」

「ぃヨシッ!ど~うよボクの!大・臀・筋!」

「凄いよせっちゃん!」

多分、時速90㎞ちょいかな?爆豪も越したね。

「次出久だよ!頑張ってね!」

「うん!」

おうおう、随分と可愛く笑うねぇ出久。除籍が掛かってるってのに・・・まぁ、最下位になるつもりが更々無いだけだろうけど。

ピョンピョンとジャンプで身体を馴らし、クラウチングで構える出久。身体から緑のスパークが迸り、紅いラインのようなものが浮かび上がる。

「なっ!?」

おーおー、爆豪驚いてるぅ。ま、当然驚くよねぇ?今の今まで()()()()()()()()()()()()無個性だと見下してた奴が、いきなり個性発動したらさ。

 

―ピッ―

 

「ッシァ!」

出久が一歩蹴り出すと同時に地面が割れ、土が抉れて突風が吹く。

 

―ピピッ―

 

ゴール認識の電子音が鳴った。コースの延長線上を見れば、ブレーキを掛けた出久が・・・あれ、いない?何処?

「うわぁぁぁぁぁ!?」

上から出久の声が・・・見れば、上空8mぐらいの高さで出久が錐揉み回転して、って何してる!?

「ヒュッ」

認識してからは早かった。

膝を抜いて身体を落とし、腹筋で状態を丸めて前のめりに加速。さっきみたくテールスプリングでカッ飛ばし、一気に出久の真下まで移動する。

到着を勘で察し、前宙して踵と尾槍(びそう)を地面に突き立ててブレーキ。

そして3点で身体を支え、全てのバネを総動員して垂直に飛び上がった。

目に前に現れた出久の腕と脚を掴み、横抱きにして尻尾から着地する。

「フシィィィィィ・・・」

下半身全体を襲う痺れを気合いで跳ね退け、出久を地面に下ろした。

「・・・出久さぁ、どうしたの?何があったの?」

「え、えっと、その・・・緊張で、力加減ミスっちゃって・・・」

「あーもうおバカ」

ったく、あがり症気味なのは変わんないねぇ。いざって時にしか頼りにならないんだから。

「おいコラデクゥ!!テメェ今のどういう事だァ!!」

あ、爆豪来た。そして相澤先生が布構えてるね。ま、実力を示す良い場面かな?

横に飛び退き、先生にシーッのジェスチャーを見せる。訝しげな顔をしてるけど、な~にすぐ分かるさ。

 

―ドゴンッ―

 

ほらね。

「ダメだよかっちゃん、危ないじゃないか」

重い音のした方向を見てみれば、地面に組伏せられた爆豪と、それをまるで仏のような安らかな顔で窘めながらホールドを固める出久の姿が。

いやぁ、最初は面白半分で仕込んだ戦闘術や暗殺術を、此処まで使いこなすとはねぇ。嬉しい誤算だよ。

「おいコラ糞デクテメェ!!今の今まで無個性ぶって、何時からだ!一体何時から隠してやがったァ!!何で隠してやがったんだァ!!」

「ヘドロ事件のちょっと後からだね。

それに、個性が発現した~なんて馬鹿正直に言ったら、今みたいに面倒臭くなるのは分かってたから。

少なくとも、自殺教唆や集団無視に知らぬ存ぜぬでヘラヘラして抑止力のよの字にもなり得ない教師しかいない中学生時分は隠し通そうと決めてた。

でも雄英には、個性で持て囃さず先生(プロ)がキチンと君を叱ってくれる。だから隠すのはもう止めにしたのさ。

まぁ長々と並べたけど、要するに・・・

怒ったかこの歩く爆薬庫。怒れ怒れ。君とのバカ躍りも今日で終いだ」

怖い、怖いよ出久。何が怖いって、こんだけ溜め込んだ闇を毒として口から吐き出しても尚表情が聖母の微笑みから1ミリも変わってない所が。

「自殺教唆?おいそれどういう事だ」

目を見開く相澤先生。当然、教師としては聞き逃せないよねぇ。クラスメイトの皆も結構ザワついてるみたいだ。

「ッ!テメェ!デクの分際で余計な事すんじゃねぇ!!」

「何言ってるの?君が此処まで問題にならず進んで来られたのは、単に教師がヘタレで怠慢起こしてたのと、そんな教師に言っても無駄だと僕が眼を瞑ってあげていたからに過ぎない。相澤先生はとてもヘタレには見えないし、後でキッチリ報告するから。

今まで君は無能のデクと呼んでいたね。『中身の薄っぺらい人間程、プライドは厚い』・・・せっちゃんが教えてくれた漫画に出てくる言葉だけど、これって君の為にあるような言葉だと思わない?

過去に撒いた毒の種が、満を持して芽を出した。悪いのは君だ。因果応報だよ」

ホールドを解除し、ピョンピョンと飛び退く出久。爆豪は・・・うん、般若だね。

「ッ~~~!!死ねェデクァ!」

爆破で身体を押し出し飛び掛かる爆豪。だけど・・・

 

―バシッ―

 

「んがッ!?」

直後に相澤先生が布状の捕縛武器で爆豪を拘束した。

「か、固ェ!?」

「特殊合金とアラミド繊維で造られた捕縛武器だよ。

あんまり個性使わせるな。俺はドライアイなんだ」

髪が逆立ち、目が紅く光る。爆豪も、個性が使えなくて混乱してるみたいだね。

「あのゴーグル・・・抹消ヒーロー、イレイザーヘッドだったのか」

ん、出久も気付いたみたいだ。さて、爆豪はどうなるかな?

「ハァ・・・仕方無い。飯田と八百万。タブレット渡すから、引き続き記録しろ。最下位だった者は、終了後に職員室に来るように」

「は、はい!」

相澤先生は飯田君にタブレット端末を渡し、ギャイギャイと喚く爆豪を引き摺って行ってしまった。

「さぁてと!じゃ、生存競争再開と行きますか!」

 

―――――

――――

―――

――

 

「よーし、終わったね」

テスト種目全ての測定が終わり、八百万さんが持ってる端末からホログラムが投影される。

一位は八百万さん。出久は3位で、ボクは4位だった。

「あぁ、オイラが、オイラが・・・」

あぁ、最下位はあのブドウ君だったか。

「残念だったねグレープ君。精々良い仕事に就いてね。じゃ、さようなら(アリーヴェデルチ)

せめて、明るく送ってあげようじゃあないか。

「うぅぅぅ・・・触出、後生の願いがある・・・」

「何かな~?」

「おっぱいを揉ませてくれェ!!」

「おっとすまない尻尾が滑る」

 

―ボッ―

 

「ゴバッ!?」

「くたばれ糞ッたれが」

尻尾の横凪ぎを腹にブチ込んで黙らせ、シュレディンガーに向かって手を振った。すぐさま駆け付け、可愛らしく首を傾げるシュレディンガー。

「ゾグギダボ?」

「この転がってる生ゴミと、この端末。これ、職員室に届けて。相澤先生って言えば大丈夫だからね」

「お願いね、シュレちゃん」

「パバダダ!」

出久とボクのお願いに元気良く答え、トテトテと校舎に駆け出すシュレディンガー。ボクの娘は可愛いなぁ、なんて思って出久を見れば、丁度同じ事を思ってたみたい。顔を見合わせ、あの子の親として微笑み合った。

「な、なぁ、ちょっと良いか?」

「ん?君は・・・上鳴君だっけか。どうしたの?」

声を掛けてきたのは、帯電能力持ちの上鳴電気君。何時も思うんだけど、名前通りの個性が出なかったらどうするつもりだったんだろうね。

「その、お前ら2人ってさ。付き合ってんのかな~って」

「あ!それアタシも気になってた!何て言うか、熟練夫婦みたいな雰囲気あるもん」

おぉ、三奈ちゃんも食い付くね。

「あははっ、良く言われるんだよねぇ。でも、別に付き合ってる訳じゃ無いよ?せっちゃんとは幼馴染みで、僕に技の基礎を叩き込んでくれた師匠でもあるんだ。以心伝心が出来るのも、当然と言えば当然さ」

「ふ~ん、そんなもんか」

「な~んだ。色恋沙汰じゃないのか~」

拍子抜けしたようなリアクションをするお二方。

ではでは・・・

 

「まぁボクは出久を孕ませたけどね」

 

「ちょっせっちゃん!?」

「・・・え?」

「・・・ウェイ?」

『は?』

ハイ爆弾投下ー!

「はっ!?えっ!?はらま、えっ!?でも緑谷、えっ!?」

「ウェイィィィィィィ?」

赤面しながらボクと出久の顔を交互に高速で見比べる三奈ちゃんと、容量オーバーでバカになった上鳴君。見てみれば、他も随分とオロオロしてるね。いやはや愉快愉快。

「因みに長女は4歳で、子供は合計25人いるよ」

混乱に乗じて更に爆弾をブチ込む。出久はもう諦めたみたいで、既に遠い眼をしていた。

「み、緑谷君ッ!!君はまだ年端もいかぬ内に、一体幾度触出君に手を出してしまったんだッ!?」

「落ち着いてよ飯田君。出久がボクに産ませたんじゃあない。ボクが出久に産ませたんだ」

そう言って、ボクは口の中からカメレオンの舌に鋭い牙の生えた顎を付けたような器官・・・インナーマウスを伸ばして見せる。

「えっと、もしかして・・・エイリアンを産んだの?」

「三奈ちゃん正解♪」

流石はエイリアンシリーズ視聴者。まぁこれぐらいヒントがあれば分かるよね。

「あれ?でもエイリアンって、胸を突き破って産まれるんじゃ・・・」

「あぁ、そこは大丈夫だよ?ボクの子達は胃から口に昇ってくるんだ。だから、宿主は死なない。まぁ、一度に産み付けられるのは5人までとか制約があるんだけどね」

ウニョウニョとインナーマウスを動かし、映画の特徴との相違点を説明する。

「へぇ、それなら・・・ちょっと、産んでみたいかも」

「ウチも、ちょい興味あるかも。怖いもの見たさって言うか、何と言うか」

「っ~♪」

良いね良いねぇ!超常慣れしてるこの世界の、害が無ければ面白そうと好奇心が勝る心理ッ!!あぁ、ゾクゾクしちゃうなぁ❤️

「良いよ良いよ!寧ろ此方からお願いしようと思ってたんだ!個性を見られたのはラッキーだったよ~♪」

さて、と・・・誰に産み付けるかな?三奈ちゃんと耳郎ちゃんは確定として・・・後3人か。よし!

「じゃあ、三奈ちゃんと耳郎ちゃん。あと飯田君と上鳴君に八百万さんも来て」

「お、俺らも?」

すっとんきょうな声を上げる上鳴君。

「共通点が見られませんわね。どういう基準なのでしょうか」

コテンと首を傾げる八百万さん。可愛いねぇ。

「理由は単純。今の所、ボクの子供は兵隊蟻(ウォーリアー)ばっかりでね。個性持ちは一人だけ。

出久のDNAを取り込んでいるのに個性を引き継がなかった原因は、未覚醒の個性因子なのか。その実験も兼ねて産んで貰う。

そもそも、ゼノモーフを産んだ人間は今の所出久ともう一人だけだしね。パターンが欲しいのさ。因みにその子は変身型だった。

個性を引き継いだ個体が産まれるから、今、親衛隊に欲しい人材を選んだって訳」

「そう言う事でしたか」

「本音を言うと、爆豪の掌地雷原とか欲しかったんだけどね」

「掌地雷原って・・・」

ボクの表現に苦笑いする出久。まぁアイツが地雷原なのは掌だけとは限らないからね。

「じゃ、ボクに言われた5人と出久は、更衣室に残っててね。出久はお産婆的な感じで」

「うん、分かった」

そう言い残し、ボクは足早に教室へと駆け出した。

 

―――

――

 

「失礼しま~す」

一足先に着替え終わり、ボクは女子更衣室の扉を開ける。中には、ボクが指名した3人が待ってくれていた。

「おっ、早かったねー!」

ピョコピョコと駆け寄ってくる三奈ちゃん。小動物っぽい可愛さがある。うぅ~ん撫で回したい。

「まぁね。あと、悪いけど先に男子を済ませちゃって良いかな?」

「私は構いませんが・・・」

「ウチも別に良いよ?」

「良いよ良いよ!いっといでー!」

「ん、ではお言葉に甘えて。更衣室の外で待っててね」

部屋に入って早々、再びドアを潜る事になった。そして、男子更衣室のドアに手を掛ける。

「お待たせー!じゃ、早速やろうか!」

「お、おう」

若干顔を引き攣らせている上鳴君。何でだろ・・・あ、男子更衣室に躊躇無く入ったからかな?どうだろう・・・まぁ良いか。

「まずは上鳴君にしよう!飯田君は呼ばれるまで外で待っててね。出久は中で」

「うむ、了解した」

素直に従い、部屋を出る飯田君。クルリと上鳴君に向き直り、3歩程で距離を詰めた。

「えっと、取り敢えず俺は何をすれば?」

「うーん、まずは座って」

指示通り、ストンとその場に腰を下ろす上鳴君。そしてボクは彼の真ん前に膝立ちになり、その顔を両側から手でガッチリとホールド。そして親指を奥歯に噛ませ、口が閉じないようにした。

「うん、大丈夫。適当に、天井のタイル目でも数えてる内に終わるよ」

「え、えぇっと・・・」

有無を言わさず、ボクはくぱっと口を開ける。そして口腔からインナーマウスを伸ばし、彼の口に近付けた。

「ヒッ・・・」

 

―ずりゅっ―

 

悲鳴をあげられる前に、インナーマウスを胃袋までブチ込む。

放電されるかもしれないし、特別可愛くも征服感が満たされるような感じも無い。とっとと済ませよう。

 

―ゴクンッ―

 

―――

――

 

「お待たせ~♪」

ちょいとばかしショックを受けている男子達を出久に任せ、女子更衣室の扉を開く。さて、最初は誰にしようかな・・・よし、決めた。

「八百万さん、まずは君だ」

「は、はい!」

八百万さんの手を引き、更衣室に入る。

「八百万さん背ぇ高いねぇ。ボクは175なんだけど、ほとんど一緒だ」

他愛ない話題で緊張を解す。女子はこういうの敏感だからね。向こうには折寺のナイチンゲールこと出久がいるからどうにかなるだろうけど、こちとらセラピーはそこまで得意じゃない。ストレス掛けて、子供に響いても悪いしね。

「でも、高身長ってちょっと都合悪いんだよね。まぁ大丈夫。そっちのロッカー前に座ってくれる?」

「あ、はい。分かりました」

そう言って三角座りした彼女に、少し脚を伸ばさせる。そしてその太股を跨ぎ、また膝立ちになった。

「ちょっ、触出さん!?」

「背納で良いよ。ボクも百ちゃんって呼んで良い?」

「そ、それは構いませんがその・・・ち、近すぎ、では?」

彼女の言い分はごもっとも。ボクと百ちゃんは、セックスで言う対面座位に近い体勢・・・と言うか、まんま対面座位だ。当然顔は吐息がハッキリ聴こえる程に近く、胸元に息が掛かって擽ったい。ほんのり匂う甘い香りは、使ってるシャンプーかな?

おまけに、ボクは所謂壁ドン状態でもある。右手を壁に着き、軽く肘を曲げているのだ。

ぶっちゃけおっぱいなんか諸に乗っかってる。

「この体勢の方が都合が良いから、我慢して。ごめんね」

頬に左手を添えて眼を覗き込み、眼を細めて微笑みながらゆっくりと瞬きする。相手を安心させる心理技法だ。

「い、いえ。大丈夫でひゅ・・・っ」

・・・今この場で彼女をレイプしなかったボク自身を滅茶苦茶褒めてやりたい。

緊張の()()はもう此処までにしよう。流石にこれ以上はボクの理性の方がトびかねないから。

「ちょっと苦しいけど、君なら頑張れるよね」

「・・・はい」

ボクの心理操作で心境を誘導され、百ちゃんの表情は既に蕩けきっていた。左手で顎を掬い、尚且つ親指で口を開けさせる。

「じゃあ、いくよ」

 

―ずりゅっ―

 

「っ~!」

口から喉奥にまで侵入しきた異物感に、眼をギュッと瞑る百ちゃん。

ボクも完全に腰を下ろし、太股で彼女の腰を挟んだ。

「ッ~!?」

 

―ゴクンッ―

 

同時に胚を送り込み、無事産み付け完了。インナーマウスをズルズルと引き戻し、ちゅぷっと引き抜いて口の中に収納する。

「はぁ・・・はぁ・・・」

「よく頑張ったねぇ。ありがとう、百ちゃん」

「はぁ、ふぁい・・・」

涎を垂らしながら未だにトランス状態でほわほわしてる百ちゃんを優しく撫で、横抱きにして更衣室の奥に移動させた。

「さてと、次は・・・耳郎ちゃんかな」

扉を明け、うねうねと耳から伸びるイヤホンジャックを弄っていた耳郎ちゃんに手招きする。

「・・・ねぇ、彼処で寝てる八百万さん、どったの?」

「ちょっと疲れちゃったみたいでさ」

「あぁ、成る程?」

・・・フム、どうするかな。三奈ちゃんもだけど、耳郎ちゃんも頭半分程ボクより背が低いんだよね。さっきみたく対面座位でする必要もないし、立ったままでいっか。

「じゃあ、こっち来て」

「あ、うん」

「・・・やっぱり」

ボクは耳郎ちゃんの身体全体を見渡し、観察。予測が当たっていたと確信した。

「えっと、何?」

「左肩が下りてる」

骨格の歪みを見抜き、左肩甲骨と首の間を指で押し込む。

「んぎっ!?」

激痛が走ったのか、肩を跳ね上げて悶える耳郎ちゃん。どうしよう、ゾクゾクする。

「これ何だろう。両肩に一応同じ重量が掛かるけど、重心の位置が左右で違う・・・ギターかな?弾く時は左肩ベルトで、背負う時は右肩」

「そ、そこまで分かるの?」

「わかるわかる」

動画から技を盗んで我流格闘術を組み上げるから、服の上からでも骨格や筋肉が見えるようになった。これを使えば、何処がどう歪んでるか一目瞭然。まぁ異形型とかには効かない人もいるけど。

「しっかりストレッチとかマッサージしないと、肩から連鎖的に骨盤まで歪んじゃうよ?女の子として、それはまずいんじゃない?」

「た、確かに・・・」

「マッサージは得意だから、嫌じゃないなら施術してあげられるよ?」

「まじか。じゃあ今度お願いしようかな」

やっぱ打ち解けるには、相手によって最適なコンタクトが何かを知る事だね。

「さて、産み付けよっか」

「そう言えばそうだったね」

忘れてたか。

「じゃあ、出来るだけボクに寄って。腰と背中に手を回しても良いかな?」

「ん、良いけど・・・わ、でっか・・・」

「背丈が?おっぱいが?」

「躊躇無いな・・・両方」

「フフ~ン。ボクのおっぱいはね~、ほいっ」

「わっ」

耳郎ちゃんを胸に押し付けるようにムギュッとハグする。

「こういう風に、友達を癒す為にあるのだ~♪」

出久のガッチリした大胸筋(雄っぱい)も癒されるけどね。

「はい、じゃあ口開けてね」

「何か恥ずかしいな・・・あ~」

「ちょっと苦しいけど、我慢してね」

 

―ぐぽっ―

 

「ん゙っ!?」

 

―ゴキュッ―

 

胚を流し込み、直ぐにインナーマウスを引っ張り戻す。口から出て来たら、その先端を舌舐りしてから収納した。

「ごふごふっ」

「ふぅ。食道細いねぇ」

やっぱ体格とか、普段の食生活かなぁ。

「ふぅ・・・エッロ・・・」

聴こえてるよ。ま、指摘しないでおこうかな。

「じゃあ、次は三奈ちゃんだね。耳郎ちゃんは、モモちゃんの隣に座ってて」

「う、うん、分かった」

口元を拭い、頬を染めながら座り込む耳郎ちゃん・・・なんか、エロい。モモちゃんと別ベクトルで、香らせる程度の程好い色気が、何ともまぁ股座に響く・・・背中の流し合いとか無理そうだなぁ。

「あ、次アタシ?」

「そーだよ~、入って」

「はぁ~い♪」

三奈ちゃんは結構ワクワクしてるっぽいね。

「じゃ、早速する?」

「乗り気だね。じゃ、ボクにくっ付いて♪」

ばっと手を広げると、三奈ちゃんは何の躊躇も無くポフッと飛び込んで来た。

「じゃ、産み付けるから口開けてね」

三奈ちゃんの腰に手を回して、口からインナーマウスを伸ばす。

「・・・あれ?これ、もしかしてキスじゃない?」

「・・・そうなるね」

そう言や2人は指摘しなかったけど、ぶっちゃけめっちゃハードなディープキスだ。

「止めとく?」

「・・・いや!何事も経験!それに、エイリアン好きだしね!」

わお、男前と言うか・・・

「じゃ、苦しいけど耐えてね」

「んっ・・・」

少し怖いのか眼をギュッと瞑る三奈ちゃんの唇に、インナーマウスを押し付ける。三奈ちゃんが恐る恐る開いた口にゆっくりと侵入し、先端で舌を少しつついた。

「んぅ・・・」

途端に三奈ちゃんの顔が赤くなる。この可愛い顔を堪能したいけど、今は我慢だ。

ぃふよ(いくよ)

 

―ずぶっ―

 

「ッ!?」

反射的に溢れたであろう涙越しに、ボクは見開かれた三奈ちゃんの眼を覗き混んだ。

 

―ごっくんっ―

 

「ぷはっ」

「お疲れ様」

インナーマウスを引き戻し、脱力する三奈ちゃんを抱き留める。

「ん、ありがと・・・」

そう言う三奈ちゃんは、眼を逸らしながら顔を染めていた。

「15分から30分ぐらいで産まれるから、お腹の中で動き出したら言ってね」

「うん・・・」

半分上の空でから返事をする三奈ちゃん。まぁ、問題は無いかな。

「さてと、産まれてくるのが楽しみだ」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
身体がめっちゃ柔軟なプレデリアン娘。
女誑しの才と知識とテクがあり、それに必要なコミュ力も併せ持つ。更に顔も良いもんだから、女の子の新しい世界への扉を容易く蹴り開ける質悪い主人公。
今回はレズっ気が強かったが、多分男もイケる口。と言うか寧ろ可愛ければ男女見境無い。一応自覚はしているし人並みの貞操観念や理性もあるので、今の所一線を越えた事は無い。尚、越えられた事はある。
結構性欲強め。しかし理性を捨てれば哀れな化物から屑以下のケダモノに成り下がると分かっている為、劣情の五右衛門風呂の中で何とか耐えている。
出久以外の苗床になった変身型の子は、何を隠そうカナダ留学の時に産み付けた子。

緑谷出久
毒舌聖母。中学時代は保健委員で、実は爆豪の取り巻き以外からはそこそこ人気があった。
作者的にはマッチョにはなりにくそうな骨格に見えたので、原作とは違い技主体なスタイルになっている。
現在は、零距離戦闘術(ゼロレンジコンバット)を主体にジークンドー等を取り込んだ我流格闘術を使う。小道具もバリバリ使う。

上鳴電気
雄英生苗床第一号。
主人公の好みじゃなかったので、割とアッサリ済まされた。可哀想に。

飯田天哉
苗床第二号。描写すらカットされた。雑でごめんなさい。

八百万百
苗床第三号。上に乗っかられて更に窒息しながら子供を産み付けられるという超上級者向けなシチュエーションでメロメロになっちゃった子。作者の都合によるチョロイン化の被害者。
でもちょっとMっぽくない?気のせい?

耳郎響香
音楽趣味が骨格の歪みで見抜かれ、警戒心解除の材料にされてしまった子。
ヤオモモちゃんみたいな肉体的な色気が弱い代わりに、仕草や表情から滲み出る別ベクトルの色気がある。マッサージを痛がる仕草にすらそれが出る。
因みに生まれ持った加虐嗜好も相まって、そう言うタイプが背納のドストライク。危ない。
セクシーな舌舐りとかでドキッと来るタイプ。

芦戸三奈
背納のお気に入りな子。決めた事はやり通したいタイプ。
恋愛話大好きな割に結構ウブ。キスされて、至近距離で眼を合わせられて、体温が2度程上昇した。


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第4話 化物の報告

『どうしよう。HELLSINGにハマってから背納ちゃんを吸血鬼にしたくなってきた』
「また迷走してるよコイツ」


(背納サイド)

 

「じゃ、ドク。宜しくね」

「ショグヂ ギバギダ」

朝。昨日生まれた新しいソルジャー達の教育をドクに任せて、今日はマックスと一緒に家を出た。

「フンフフ~ン♪フンフフッフ~ン♪

フッフンフンフフ~ン♪」

スクールバッグはやっぱり邪魔なのでと引っ張り出した中学時代の米軍仕様ミリタリーバックパックを揺らし、お気に入りの鼻歌を歌いながらスキップ。バックパックには教科書やノートその他全部丸ごと入れてるから13キロぐらいあるけど、まぁ大丈夫だ。問題無い。

因みにこの曲、マックス達ゼノモーフの名前の引用元のアニメのOPだったりする。まぁアニメ版は作者がぶちギレるレベルで原作崩壊してたけどね。

「ビギデロ、グギギン。ジョブガレゾド ン ギヅザギ ゾ グレスボダギゾ リヅベラギダレ」

「ま、そこは天下の雄英高校。あれぐらい良質じゃなきゃ嘘さ」

にししっと笑いつつ、昨日と同じように木を伝って坂を登る。途中のセンサーも代わり映えしないから、何の障害にもならなかった。ま、そんな事はどうでも良いか。

「ビギデロ ゴギバダダゼグバ。キョグリョブバ《ブシゲギション》グ ザヅゲンギバギドパ」

そう。昨日生まれたゼノモーフ達は、今朝方までずっと山の中で食料を食べさせまくって急成長させたのだ。

朝起きたら、ドクに連れて来させて個性をしっかり受け継いでいるか確認してきた。結果は、帯電、エンジン、酸、イヤホンジャックが継承成功。逆に百ちゃんの創造が継承されずウォーリアーとなった。

「いや、そうでもないさ。成功だよこれは。今回で、受け継ぐ事が出来ないのはどういう能力なのかが分かってきた。勿論、まだまだデータは足りない。でも、その貴重なデータの礎になった。地味だろうが目に見えなかろうが、立派な躍進だよ。

と言うか、こういう事は寧ろマックスの方が分かるでしょ。ボクのこと試したな~?」

「ハッハッハ。ギジャギジャラダダブ、ババギラゲンバァ グギギン ビパ」

マックスと談笑しながら、雄英の門を潜る。

そう言えば、今回の増員で僕の兵力は丁度30と1人。一個小隊の台に乗った。

かの少佐殿が指揮した最後の大隊(ラストバタリオン)とは対極になるが・・・さしずめ、最初の小隊(ファーストズーグ)か。中々悪く無い響きじゃないかな。

あぁ、早く戦いたい。ボクを滾らせてくれる、脅威と驚異の軍団・・・まぁ、出久といれば因果は向こうから抱き付いてきてくれるだろう。ならばそれまで、ボク等は精々、まだ見ぬ愛しき怨敵達をもてなす準備を進めるだけだ。

「シュビドゥビドゥ♪シュビドゥビドゥッドゥドゥ~♪」

 

―――

――

 

「ねーねー背納ちゃん!どうなった!?アタシの子はどうなった!?」

教室に入るや否や、三奈ちゃんがニッコニコしながら肩を揺さぶってきた。

「うん。みんな元気に育ってくれたよ~。ゼノモーフは学習が早いから、明日明後日にでも学校に連れて来られると思う」

「うっひゃ~楽しみ~♪」

三奈ちゃんゼノ大好きだからなぁ。

「あ、あの!私の子は、どんなふうに育っているんですか?」

「ウチも、結構気になるかな」

「そーだ!俺のはどうなったよ!」

あー、宿主いっぱい集まってきた・・・

「ま、まぁまぁ。お昼時にでもね?ハイ、解散!」

「約束ね!」

約束を取り付け、この場は解散。いやはや、皆スゴい好奇心だねぇ。

「ギギ ゴドロザヂ グ ゼビラギダバ、グギギン?」

「アハハ、まぁね?」

 

―――

――

 

「背納ちゃ~ん!ご飯行こ~!」

「はいよ~!」

午前の必修科目が終わり、昼休み。弁当箱をひっ掴み、三奈ちゃんに着いて行く。

途中、百ちゃんが券売機で首を傾げたりしつつ、何とか全員テーブルに着いた。

メンバーは、出久含む苗床組。そこにマックスが一緒に座っている。

「じゃあ、早速報告しよう」

ボクが眼を細めると、皆の顔が引き締まる。出久は結構ワクワクしてるね。

「今回の出産で、継承出来る能力と出来ない能力がある事が分かった。

勿体振らずに言おう。百ちゃんの創造以外は、無事に継承出来てたよ」

「そ、そう、なのですか・・・」

目に見えてしょぼくれる百ちゃん。何かコンプレックスでもあるのかな?

「大丈夫。百ちゃんの子は、平均より体格がガッシリしてたから。劣ってる訳じゃないよ。

そして、それぞれの新種には名前を付けようと思う」

ボクはスマホのカメラ機能を起動し、今朝撮った写真を表示した。

「産み付けた順に見ていこう。まず上鳴君」

表示されたのは、黄色掛かった体色のゼノモーフ。腕や脚、頭部なんかに雷のような幾何学模様があるのが特徴だ。

「エレキモーフ。全身の筋肉が発電器官になっている」

次は、脚や背中から金属質なパイプが出ている子。

「ターボモーフ。まだ計ってないから未知数だけど、アクセルが効いたスピードタイプ。背中のマフラーはそれなりに角度が調節出来るから、壁とかを走り回りながらでも使えると思う」

次。ガッチリした大柄なウォーリアー。ガタイが良い事ぐらいしか紹介出来ないから次。

下腕からイヤホンジャックが伸びている子。

「ビートモーフ。イヤホンジャックの射程は大体6mぐらい。試しに手に刺してみたら、脳髄まで痺れるような爆音が流れ込んで来た。心肺機能が強靭なゼノモーフには相性良かったんだろうね。

あと、何故かインナーマウスの代わりに指向性スピーカーに似た発声器官が発達してた。そこにプラグを接続して爆心音を飛ばせるみたい」

「フム、元の個性をより使いこなせるように進化したって事かな?」

「それはまだわかんない。でもターボモーフみたいに、たまに寄生元よりグレードアップする事もあるみたいだね」

出久の疑問に言葉を返しつつ、最後の写真を表示。うっすら紅色の体表と、頭部の触角が特徴の子だ。

「アシッドモーフ。三奈ちゃんの個性を見た目ごと受け継いでるね。

元々強酸血液に耐えられる身体だから、相性は抜群。だけど反面、華奢だからパワーは強くないね」

「成る程。蠍や蜘蛛みたいに、能力があれば単純な身体能力が退化して、逆に能力が無ければ身体がマッシヴになる感じか。成る程成る程」

お、出久が良い例えしてくれた。

「所で、せっちゃんが気付いた継承出来るかどうかの違いって?」

「あぁ。単純に、()()()()()()()()()()()()()()()とか、()()()()()()()()()()()()()()()()()だと思う」

「・・・えっと、つまり?」

うん、上鳴君が皆の意思を代弁してくれたか。

「例えば、エレキモーフの発電能力はデンキウナギとかがいるよね。ターボはメダカハネカクシ、アシッドはマイマイカブリ・・・兎に角、自然界で似たような能力を持った生物がいるかって話だ。体脂肪を別の物質に転換出来るなんて、良く良く考えれば化物も良いとこだしね。

まぁ、多分物理学に喧嘩売るタイプの個性は無理だと思うよ。ゼログラとか念力系とか。

ハイ、以上!報告終わり!食べよ食べよ!」

手を叩いて空気を締め、ボクは風呂敷から弁当箱を取り出す。マックスはボクより小振りなやつだ。

「あそうだ!飯食わなきゃ・・・ってデッケェな!?」

「せっちゃんいっぱい食べるからね」

カパッと開けると、上段はミッチリ詰め込まれたポテトサラダ。そして下段を開けると・・・

「な、何だこりゃ!?」

「うわぁ、スゴい・・・」

「こ、これは・・・一体」

出久以外の全員が眼を見開く。

下段はおかず。バンブーワームの唐揚げに、イナゴの素揚げ、クワガタの幼虫の燻製、山菜の佃煮。いつも通り、ご機嫌な昼食だ。

「なぁ、これってもしかして・・・虫か?」

「そーだよ?バンブーワームに、イナゴでしょ、あとクワガタの幼虫!」

「美味しいよ?」

出久は結構昆虫食経験してるから、全然引かないね。

「ホラホラ、食べてみ?あーん」

「えっ、ウチ?えっと・・・あ、あ~」

イナゴの素揚げを、耳郎ちゃんの口に放り込む。耳郎ちゃんは眼をギュっと瞑って、恐る恐るといった感じで咀嚼し飲み込んだ。

「・・・エビ?エビっぽい?」

「でしょ!」

「ヤバい。これハマるかも」

フヒヒ、計画通り♪こっからどんどん染めちゃおっと♪

「あ、そうだ。マッちゃん、ドクちゃんは最近どう?」

「えぇ。最近は親衛隊員の育成と、薬草の成分の抽出等に力を注いでおりますね。母上によく似て研究熱心で・・・それが高じて、大家のおば様に許可を取って専用のラボ小屋を造る程ですよ。

あと、最近は養蜂にも挑戦しているようでしてねぇ。何時か母上に舌鼓を打って頂こうと張り切っていました」

「そっか!じゃあ、楽しみにしてるって伝えといてね!」

久し振りに長女と会えた出久も楽しそうだ。ドクの研究も面白いしね。

「まぁたまに悪巫山戯でご飯に媚薬とか劇毒混ぜられるけどね」

「「「「「は?」」」」」

いやー、ドクめ。原作と違って結構遊び心があるんだからなぁ。マッドな天才に持たせたらヤバいものランキングのトップだと思うんだよね、遊び心。

「び、媚薬って、どど、どんな!?」

「上鳴君?せっちゃんが暴力装置になるスイッチの1つが厭らしい感情を向けられることだからね、男のままでいたいならそう言うのは抑えた方が良いよ」

明らかに鼻の下が伸びた上鳴君に、出久が注意してくれる。

まぁ、出久が居ないとこじゃ言わないよ。

「媚薬って言っても、滋養強壮効果のある野草から抽出した成分だからね?コーヒーみたく少し寝付きが悪くなったりしたぐらいだよ」

まぁたまに調合が上手くいきすぎてお風呂場から出てこられなくなるけど。もうね、ドクは漢方系の製薬会社に入れば良いと思うんだ。

「で、では、劇毒とは?」

「あー、それね。ドクの奴、どっから仕入れたのやらテトロドトキシン・・・簡単に言うと河豚毒で有名なやつね。あれを入れたりしたんだよ。ボクの皿にピンポイントで」

「悪巫山戯どころか謀反じゃん。暗殺計画じゃん・・・」

顔をひきつらせる三奈ちゃん。って、皆ドン引きしてるなぁ。

「まぁ、直後にトリカブトから抽出したアコニチンっていう毒も摂取させられたお陰で助かったんだけどね。あれ作用機序が正反対で打ち消し合うから。

でもそしたら今度は河豚が先に抜けきっちゃってさ、逆にトリカブトで死にかけたよ。そんでまた河豚をおかわりして・・・そんなこんなで、まぁ少なくとも河豚毒とトリカブト毒には耐性が出来たかな。致死量が常人の数百倍か数千倍にはなってる」

これには流石の出久も呆れ顔。重い溜め息を吐きながら、カツ丼を口に運ぶ。

「ふ、触出君は一体、何を目指しているんだ?」

「何を目指す、か・・・」

「そりゃ飯田お前、ヒーローに決まってるだろ?」

キョドりながら訪ねてくる飯田君に、上鳴君がつっこんだ。

でも、ヒーローか・・・ヒーローねぇ。

「ボクの目標、と言うか夢は・・・

 

()()()()()()()()、かな」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

その瞬間、そのテーブルだけでなく周囲すらもフリーズしてしまう。

「別に自殺したい訳じゃないよ?でも・・・ボクは何より、強者との闘争を望んでいる。

その根幹にあるのは、死に対する欲求だ。誰しもが持つ死の本能(タナトス)。それが少し強過ぎるだけさ。

化物を倒すのは何時だって人間だ。何故なら、人間だけが()()()を目的とするから。

化物は死ぬ為に戦う。獣は逃げて生き延びる為に戦う。だが、人間は違う。人間だけは、恐怖を乗り越え諦めを踏破し、脅威を倒し尽くす為に戦う。

そんな美しい人間に、殺されて死にたい」

ボクはどんなに美味しいものを食べようと、友達と遊ぼうと、決して満たされない。

強い敵と戦っている時・・・それだけが、ボクが自分らしくいられる時間だ。

「さてさて。果たして憐れな化物は、人間としてこの世界の美しさを味わえるのでしょうか・・・それとも、最期まで闘争を求め死に急ぐ化物のままでしょうか・・・

午後はヒーロー基礎学。どんな内容か楽しみだ」

自分でも分かる程冷たく笑いながら、ボクは空になった弁当箱を片付けた。

「グバサギビ キョグビ。ゴセゼボゴ、パセサ ン グギギン ザ」

 

to be continued・・・



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第5話 少年の決別

『最近、ますます頭がおかしくなってきてる』
「確かに、竜ちゃん(独眼竜)にも色々言われてるしなぁ」
『ヒラコーさんの描く狂気が分かりやすすぎて、更に染まりやすい俺の気質が合体事故起こした結果だろうな。最近どうしても狂気的な人間を書きたくなる。
誰が悪いかっつったら、間違いなく自分をコントロール出来ない俺だけど』
「カウンセリングでも受けてみたら?」
『その類い、殆ど効果が無い精神構造してるからなぁ・・・』


「ウンウン!みんな、サマになってるな!」

背納の狂気が露見した日の午後。屋内訓練場の前で、ヒーロー基礎学担当のオールマイトが感心する。

A組のメンバーは各々の要望に沿って造られたコスチュームを身に纏い、勝手を確かめていた。因みにマックスは見学兼解説役である。

「アハハ、せっちゃん完全にプレデターだね」

「色々とドクが勝手に書き加えてくれたけどね」

着替えを済ませ、出久と談笑する背納。その装備は、

頭部・鼻から上を覆う合金バイザーマスク

胸部・ビキニアーマーのように左右別れたラングプレート

肩・関節を保護する蛇腹プレート

右腕・リストブレイドガントレット

左腕・シミターブレイド内蔵コンピューターガントレット

腰・ウェストポーチ付きパンツベルト

と言う、プレデターの装備を丸パクリした物だった。因みに脚と腹は丸出しである。

「て言うか、出久こそ完全にRE:BORN(リボーン)の敏郎リスペクトじゃんね。あ、マスクはアビスウォーカーか」

「まぁ、ある意味僕のオリジンみたいなモノだからね、RE:BORNは」

そう言う出久のコスチュームは、

顔・鼻から顎までを覆うメタルメッシュのマスク

上・ナイロンのような質感のダークグリーンのパーカー

下・ブラウンにダークグリーンのグラデーションが掛かったミリタリーズボン

靴・忍者足袋(たび)

と言う構成。これ等は全て防刃加工が施されており、正中線を中心とした横幅10cmにはアラミド繊維が、鳩尾から肋骨周りにかけてはダイラタンシーアーマーが組み込まれている。オマケに股間にはファールカップが付いており、急所の防御に抜かりは無い。

「さて、ではチームアップのくじ引きと行こうか!」

「適当なのですか!?」

オールマイトの決定に、白いロボットのようなスタイリッシュかつメカメカしいコスチュームを着た飯田が驚く。

「何時も慣れた相手ばっかりとは組めないから、その練習じゃないかな?臨時チームアップなんかも、良くある事だしね」

「成る程!先を見据えたシステムだったのか!失礼しました!」

出久の分析に、飯田はまた大声で反応。オールマイトは言いたかった台詞を取られ、気まずそうな顔をしていた。

それはさておき、全員がくじを引く。中にはアルファベットが書かれたボールがそれぞれ2つずつ入っており、同じ文字同士で組む事になる。

「あ、僕はAだね」

「ボクはFか。まぁ、お互いに楽しもうぜ?」

(出久がバディじゃなかったのは少し残念だけど・・・まぁ、同じスタイル同士でも面白くなさそうだしね。今回は良いか)

出久に軽口を叩きつつ、背納は自分の相方を探す。

「Fの人は誰~?」

「お、Fか。なら俺だわ」

背納の呼び掛けに反応したのは、黄色い覆面レスラーのようなコスチュームを着たガタイの良いマッチョ、砂藤力道だった。

「あ、君か。昨日のテストを見るに、筋力特化型かな?昨日は交流出来なくてゴメンねぇ?子供の世話で忙しかったからさ。

あ、ボク触出背納ね」

「おう、良いよ良いよ。そっちも事情はあるしな。

俺は砂藤力道。個性は」

「それは後で!ウチのみみっちい爆発物を筆頭に、敵になるかもしれない相手の情報は絶対聞き逃さない奴は必ずいるから。自分の事は秘密にしといた方が、対戦で有利だからね。

2人の時に話そ?」

「あ、いっけねぇ。サンキューな触出」

背納の忠告に、砂藤は口許を抑える。

因みに爆豪はと言うと、背納に向けて盛大に舌打ちしていた。図星だったようだ。

 

―――

――

(出久サイド)

 

『そこまでッ!!ヒーローチームWIN!!』

最初の戦闘が終了。腕が6本ある人(障子君)凍らせた人(轟君)の圧勝だった。まさかビルを丸ごと凍らせるなんて。

「でも、まだ敵の精神構造への理解が未熟だね」

「確かに。もしボクが敵だったら、最後はどうにかして自爆した」

「最終的に、敵の目的はヒーローへの嫌がらせみたいな所があるからなぁ。逃げ場無く追い詰められれば尚更だ」

それにしても・・・

「あの左半身を覆ってる氷みたいなコスチューム、どんな機能があるんだろ・・・」

どうしてもそこが気になってしまう。

終了後に左手で壁に触れると氷が全部溶けた所から考えると、右で凍らせて左で発熱する個性、なのかな。なら、頭の天辺から爪先まで全部覆う必要性なんて無さそうだけど・・・

「フム・・・母上。人が身体の一部を過剰武装するのは、見たくないものに蓋をするという意味もあるそうですよ」

「え?見たくないもの・・・?」

マッちゃんの言葉に、轟君の顔を思い出す。そう言えば、左の目元に火傷痕があったな・・・

「そう言えば、彼の父親はあの向上熱心なエンデヴァーらしいですなぁ。となると、あの凍らせる個性は十中八九母親のもの・・・いやはや、都合の良い女がいたものですな。燃やすも凍らすも自由自在、完全に上位互換だ」

マッちゃんが意地の悪い顔をしてる。こういう顔をするのは、大抵人の狂気を見て笑ってる時だ。

まさか、エンデヴァーって・・・

「緑谷君、次私たちだよ!」

「あ、ゴメン」

バディの麗日さんに声を掛けられ、後ろに着いて行く。

対戦カードは、飯田君とかっちゃん・・・いや、爆豪君のチームだ。

「ついてるねぇ出久は。じゃ、一発カマしておいで!」

「うん、頑張るよせっちゃん」

せっちゃんにサムズアップを返し、肩甲骨を回すルーティーンでリラックス。

さて・・・出来損ないで無能の木偶(デク)じゃ無い事を、叩き込んでやろう。

 

―――

――

 

「いやー、緊張するねぇ緑谷君」

訓練用のビルに着いて早々、麗日さんが話し掛けてきた。

「僕はそんなに緊張しないかな。僕らは勝つんだから。

肉食獣は緊張しない。草食獣は、一瞬の緊張で命を刈り取られる。

僕らは狩られる側じゃない。狩る側だ。狩る側なんだから・・・乾いた生は、傷によって力を増す。光は闇によって力を増し、表裏一体であると知る···」

麗日さんに答えつつ、自己暗示で意識を切り替える。

小さい頃に絶対強者のイメージを強烈に刷り込まれたものの、それは所詮思い出補正で誇張された記憶だ。アイツは、大した奴じゃない。

「さて、作戦会議と行こうか」

「う、うん!」

この訓練は、ヒーロー対(ヴィラン)、2人一組ずつでチーム分けして行う戦闘訓練。僕らヒーロー組の勝利条件は、(ヴィラン)の持つ核兵器の確保か、渡されたテープでの敵の捕縛。

逆に敵は僕らをテープで捕まえるか、制限時間いっぱい逃げ切れば勝ち。またルール的には、回収不可能な状態まで核兵器を破壊し自爆する事でも確実に勝てる。まぁ、そんな酔狂は早々いないだろうけど。

言うまでも無く、敵が圧倒的に有利な条件。でも、僕には個性と技術の秘密というアドバンテージがある。

「まず、爆豪。アイツは僕が始末する。アイツは僕を潰す為に独断先行するだろうから、そこが狙い目だ。アイツを釣れば、核兵器が爆発する危険もグンと下がるしね。

麗日さんは、その間に核兵器の場所の特定をお願い。なるべく見付からないように、そして爆豪を刺激しないように。良いね?」

「えっと・・・取り敢えず、入ったら手分けするって事で大丈夫?」

「そうだ、それで良い。僕が敵の主戦力を潰し、君が核を探す。

見付けたら通信で咳払い1回、敵に捕捉されれば2回が合図だ。

1回なら掛け直すから、それまで身を隠して潜伏待機。良いね?」

「・・・何か緑谷君、本物のヒーローみたい。慣れてるって言うか・・・」

・・・そうか。僕のこの指揮能力は普通じゃないんだったな。つい忘れてた。

「似たような訓練は、何度か経験済みだからね。当然、こういう襲撃者としての立ち回りも・・・」

RE:BORN冒頭のアビスウォーカー襲撃を模した訓練をゼノモーフ相手にするのは中々大変だった。何せ暗闇でも見えるんだから。

『訓練開始!』

「よし、状況開始」

インカムから聞こえたオールマイトの合図に従い、ドアを開けて侵入。

姿勢を下げながら進みつつ、麗日さんに同じようにするようハンドシグナルを送る。

建物内は···かなり複雑だな。反響音から察するに、いろんな所に横道がある。相手を捕捉さえすれば、不意討ちもし放題って訳だ。

 

―コツ コツ コツ コツ―

 

「ッ!!」

固い足音。曲がり角の向こうだ。

(前方、敵、行け、急げ)

簡単なハンドシグナルで指示を出す。麗日さんは頷き、すぐに横道に入って行った。

僕は別の角に隠れて、パーカー内の脇腹に着けたホルスターから武器を取り出す。

鎌のような刃の、不思議な形をした銀色のカランビットナイフ・・・クレッセントブレイド・ダークネスのレプリカ、陰月刀だ。

「デェクゥゥゥ・・・何処に隠れてやがんだァ~?」

そしてついに、奴が曲がり角から出てきた。掌を小さく爆ぜさせながら、見えていない僕に話し掛けてくる。

「出て来いよォ、デクゥ・・・ブッ殺してやっからよぉ~ッ・・・!!」

奴の掛けてくる圧を無視し、その瞬間を待つ。

「・・・ッ!」

「がッ!?」

一瞬で陰月刀を首に掛け、頸動脈を絞めながら僕のいる通路に引きずり込んだ。そしてウェイヴで引っ張り投げ、狭い通路に放り込む。この時点で、リアルエッジならば既に頸動脈をバックリ斬られる致命傷だ。

「ゲッホゲホッ・・・デクゥ!!調子に乗んじゃねェ!!死ねッ!!」

噎せる爆豪から眼を離さず、陰月刀を仕舞う。そして胸の縦ポケットのチャックを開き、戦闘向けの武器を取り出した。

斧のような鎌のような、2つの湾曲した刃の付いた真っ黒なカランビットナイフ・ブレイカー・・・オリジナル・クレッセントブレイド、陰陽満月刃だ。

「そんなに僕を潰したいか・・・取りに来いよ」

 

(背納サイド)

 

「何つーか緑谷、暗殺者みてーな動きしてるな。漢らしくねぇ」

切島君の呟きに、全員がウンウンと頷く。

「ひゃー、才能マンだぜ」

「違うよ上鳴君。あれは全部、努力によるものだ」

上鳴君の呟きを、ボクは強く否定する。

出久は才能は無かったが、好きなものに没頭するオタクの気質があった。だから、それに合った訓練を一緒にこなしてきただけだ。

「おわっ!?爆豪がキレたけど緑谷が決めた!!」

「肘鉄、だよな?今の手ぇ弾いたの」

モニターでは、キレた爆豪が伸ばしてきた手を出久が肘の右フックで弾き飛ばしていた。あの威力だ、ガントレットも無事じゃないだろう。

出久の肘は、4発で生木を抉り抜くからな。

「うぉっ!今度は懐に飛び込んで、横っ面に肘カマしやがったぜ!」

「ケロ・・・ねぇ見て。爆豪ちゃんの頬っぺた、バックリと斬れてるわ。先生、止めた方が良いんじゃ・・・」

「ウムム・・・」

梅雨ちゃんの言う通り、出久の肘を喰らった爆豪の左頬は斬り込まれ、血がボタボタと滴っていた。

「それだけじゃない。飛び込む瞬間、ポケットから出したフラッシュライトで視界を潰していた。反撃を防ぐのには非常に有効な手段だよ」

「しかも見なさい。あの小僧、足元がおぼついていない様子じゃないか。

流石は母上。どうやら肘に肩のウェイヴを乗せて、脳を揺らしたようだ」

爆豪は我武者羅に大振りで右掌を突き出すが、それは出久の思う壺。

右の大振りの癖を熟知した出久はブレイカーでそれを逸らし、引っ掛けて回す事で爆豪を投げ飛ばして壁に叩き付けた。

「す、スゲェ・・・」

「速過ぎて見えねぇ・・・」

すると、打ち付けられた爆豪が出久にガントレットを向ける。手榴弾型のそれに付いたレバーを引き延ばし、安全ピンが起き上がった。

「ッ!爆豪少年ッ!殺す気かッ!?」

直後、モニターの映像がホワイトアウトする。

「成る程。あの小僧、中々頭が回るじゃあないか。

汗をガントレット内に溜め込み、チャージ攻撃を放つ機構か・・・良いなぁ、指揮したいなぁ♪」

どうやら、あの発想力はマックスのお気に召したようだ。

「え、じゃあ緑谷ヤバイじゃん!?」

三奈ちゃんの危機感が緊張となり、皆に伝播する。

しかして・・・

「おぉッ!ば、爆豪が・・・倒れたッ!!」

我が愛弟子の前にて、恐るに足らず。

「な、何て子だッ・・・!!」

建物の壁を吹き飛ばし、風通しを良くしてしまう程の爆裂攻撃。それを出久は容易く回避し、挙げ句にノックダウンさせてしまった。

「成る程。あの構えを見るに・・・爆裂噴射は弾避け肩甲骨ウェイヴの応用で右前方に大きく踏み込んで回避。そこからブレイカーに可変を乗せて左頸動脈を殴り、返しで肝臓を、そして更に反対から胃袋を凪いだ。計3発を、一息で打ち抜いたか。

技の直後の気の緩む一瞬で決めたようだ。もう起きられまい」

マックスが解説している間に、出久はインカムに手を添えて何かを喋る。相方側のモニターを見ると、飯田君が核を持って走り回っていた。部屋の入り口では麗日さんが苦い顔をしている。成る程、ステルスミッション失敗って所か。

「・・・って、アイツまだ立つのか」

そんな中、何と爆豪が立ち上がる。フラフラで今にも倒れそうだが、それでも健気に出久に手を伸ばしていた。

だが、出久は無慈悲にその手を払い除ける。そして左の拳を握り、強烈なパンチを叩き込んだ。

「ひっ・・・」

「こ、これは・・・」

透明人間の葉隠さんと百ちゃんが悲鳴を上げる。爆豪が再び打ち付けられた壁には、蜘蛛の巣状のヒビが入っていたからだ。

「緑谷少年!少々やり過ぎだッ!」

出久はオールマイトの通信に短く答えながら、血混じりの吐瀉物を口から溢してぐったりとしている爆豪を確保テープで拘束。適当に床に転がし、T字角まで戻る。

そして右手でデコピンの形を取り、天井に向けた。

 

―ドゴッ―

 

デコピンは衝撃波を発生させ、天井に穴を穿つ。

「「は、ハァ!?」」

全員が眼を丸くする中、出久は壁を蹴ってパルクールの要領で穴の縁に手を掛け、懸垂で二階に登った。

「み、緑谷の奴、あんな事出来んのか・・・もしかして、さっきは手加減してた、のか?」

「まぁ、そうだろうね。無個性と嗤われた相手に、無個性のまま打ち勝った。母上なりの意趣返しだろう」

クツクツと笑いながら解説するマックス。その間に出久はドアを蹴破り、フラッシュライトを直視させ視覚を強襲。怯んだ飯田君の首根っこを掴み、膝裏を蹴っ飛ばす事でスッ転ばせた。

最後は麗日さんが核を回収し、同時に出久が飯田君を拘束してゲームセット。ヒーロー組の勝ちに終わった。

因みに爆豪は即保健室送りになった。

 

―――

――

(出久サイド)

 

「さて、今回のMVPが誰か分かる人!」

「はい」

オールマイトの問いに、八百万さんが手を上げる。

「今回は緑谷さんですわね。

敵の行動を予測し、主戦力の爆豪さんを単独で引き付け撃破。

その後、遠い階段までの移動を天井に最小限の穴を開けてショートカットする事で迅速に麗日さんと合流、飯田さんを撃破した点です。

また、戦闘中に使ったフラッシュライト等の搦め手も、非常に高度な戦闘技術と判断出来ます」

「ありがとう八百万さん。まぁ、かっ・・・爆豪君にはちょっとした私怨でやり過ぎちゃったけどね。それに、出来ればあまり建物を壊さずに移動した方が良かったと思う」

とは言え、ちょっとスッキリしたかな。溜まった鬱憤を、少しだけ晴らせた気がする。

「逆に、爆豪さんは最悪手でしたわね。

未知数の相手に私怨だけで独断先行し、案の定緑谷さんの策に大嵌まり。挙げ句大規模攻撃で建物を破壊しました。

ヒーローとしても敵としても、建物の倒壊を引き起こしかねない屋内での大規模攻撃は最悪ですわ」

爆豪が冷静じゃ無くて良かった。にしても、あの大爆裂を喰らったら大怪我じゃ済まなかったな。避けられて本当に良かった。

「よし、パーフェクトだ八百万少女!では、次のチーム行ってみよう!」

と、もう次の訓練だ。しっかり観察しとかないと。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納

【挿絵表示】

我らが化物主人公。今回は殆ど出番無し。
武装は完全にプレデターのそれ。プレデリアンが知性持ってプレデター装備使うとかどういうホラー?
流石にプラズマキャスターは付いてない。

緑谷出久

【挿絵表示】

零距離(ゼロレンジ)系魔改造原作主人公。
自己暗示で意識を戦闘用に切り替えると、温厚なママ男子から冷徹な戦闘者に早変わりする。眼もこれでもかと吊り上がる。
服は俊郎、ソウルイーター(マスク)はアビスウォーカーのモノをイメージして作っている。
専用武器は、陰月刀(クレッセントブレイド・ダークネス)陰陽満月刃(カランビット・ブレイカー)、そして今回未登場だが陽月剣(クレッセントブレイド・シャイニング)の3つ。
それぞれレプリカでありダミーエッジだが、原作通りに玉鋼で拵えてある。
グリップ両面にはそれぞれ、《陰月刀》、《陰陽満月刃》、《陽月剣》と彫り込んである厨二病大歓喜仕様。

マックス
今回は解説オンリー。この世界のゼノには視覚というか、電磁波が見えるような能力があると言う事で納得して下さい。ゼノに眼球が無いの書き終わってから思い出したんです。

麗日お茶子
原作ヒロイン兼ゲロイン。
今作では把握テスト後のコペルニクス的回転の件がまるっと欠如しているので、デク君呼びせず普通に名字呼び。

~用語解説~

・RE:BORN
坂口拓主演の異形のアクション映画。
観たら肩甲骨回したくなる。今回登場したカランビットナイフ、クレッセントブレイドが出てくる映画で、出久はこれとYouTubeの動画を教科書、背納を教師として零距離戦闘術を修めた。

・乾いた生は傷によって力を増す。光は闇によって力を増し、表裏一体であると知る。
映画RE:BORN劇中で登場するフレーズ。作中世界で昔から戦闘者の間ではバイブルとして有名な《いさおしのおわりのはじまり》と言う書籍の一節。
尚、この本は主人公の元上司であるファントムの旧い仲間が書いた物らしい。

・クレッセントブレイド・シャイニング
RE:BORNの主人公、黒田俊郎が使うカランビットナイフ。陽月剣は作者のオリジナル当て字。
鉄で出来た肉厚の草刈り鎌を逆手持ちしたような形をしており、鍔に当たる部分が下方に出っ張っていて両手からウェイヴが掛けられる構造になっている。
作者は祖父の持ってた鋼材切断用円鋸の破片から削りだして作ってみた。結構お気に入り。

・クレッセントブレイド・ダークネス
俊郎の元バディであるアビスウォーカーが使うカランビットナイフ。陰月刀はオリジナル当て字。
オーズのカマキリソードに近い形をしている。逆手順手どちらでも使いやすく、出久は主に左手で、敵の死角からの強襲に使う。
因みに出久は原作通り骨と血で焼き入れ鍛練されたモノをリクエストしたが、流石のサポート会社も呪具を造るのはアウトだったらしい。

・ブレイカー
俊郎とアビスウォーカーがバディ時代に使っていたカランビットナイフ。
シャイニングとダークネスが合体したような形をしており、公式曰く『近接戦闘において最も理想的な形状』らしい。実際取り回しが非常に良い。
作者も作ろうとしたが、途中でグリップ部分が割れた。畜生め。


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第6話 化物の蠱惑

『前回一件しか感想来なかった・・・』
「愛想つかされたか?」
『感想が欲しいゾイ』
「ならまず暴走癖直そうか」


(背納サイド)

 

「さぁて、行こうか砂藤君」

「おうよ!」

砂藤君を連れて、訓練用のビルに歩き出す。

出久のRE:BORN式戦闘を見て、かなり血が騒ぎ始めていた。相手は三奈ちゃんとヘソビーム君か・・・

「砲兵が欲しかったし、丁度良いかな」

さて、どうやら僕らは敵チーム。ならば精々、敵らしく振る舞ってみようかな♪

でも、出久の死霊(ゴースト)とは違う。ボクの今回のスタイルは・・・

 

幻影(ファントム)だ。

 

―――

――

(出久サイド)

 

『スタート!』

オールマイトの合図と共に、せっちゃんと砂藤君はそれぞれ別々に動き出す。

核は最上階である4階、階段から一番遠い西側の部屋に置かれており、せっちゃんはその部屋から通気ダクトに侵入。砂藤君は階段を駆け下り、まっすぐ入り口に向かった。

「ねぇマッちゃん。さっきせっちゃんが砂藤君にやってたあれって、もしかしなくても・・・」

「あぁ、恐らくアレでしょうな」

僕とマッちゃんの会話に、皆はハテナを浮かべる。

「あの、緑谷さん。アレ、とは?」

「うーん、言っちゃって良いのかなぁ・・・」

八百万さんからの質問だが、果たしてどう答えるべきか・・・

「母上、そこはもうクイーンが戻ってから説明しようじゃないか」

「そうだね。後で説明するから待ってて」

そう言うと、八百万さんはあっさり引き下がってくれた。

「さてと、此処からせっちゃんはどうするのかな・・・」

 

(背納サイド)

 

「オラアァァァァァァッ!!」

「おぉ、やってるやってる」

ダクトの中からピット器官で下の様子を探ると、でっかい熱源がちょい小柄な熱源を追い回していた。

「催眠も完璧。じゃあ、此方も此方で済ませますか」

砂藤君の役目は、相手チームの分断。ボクはビーム君に用があったので、相方を引き剥がし追い回して貰っているのだ。

「お、見付けた」

どうやら彼は、まんまと分断されたらしい。でも、一応任務を遂行すべく部屋を手当たり次第探ってるみたいだ。

 

―バガンッ―

 

「ひっ!?」

ダクトを蹴破り、廊下に降り立つ。

「へぇ。君、結構情けない声で鳴くんだねぇ」

「くっ、ふぅんっ☆」

歩み寄るボクに対してビームを撃ってくるが、ボクは壁に跳び移って回避。そして一気に詰め寄り、口にインナーマウスを突っ込んだ。

 

―ゴクッ―

 

有無を言わさず、胚を産み付ける。

後は確保テープで手足を縛り上げれば再起不能だ。

「さて、三奈ちゃんもちゃっちゃと終わらせよう」

 

(NOサイド)

 

「ウガァァァァァ!!」

「うひゃぁぁぁぁぁ!?」

青山が戦闘不能になったその頃、芦戸は糖分を過剰摂取した砂藤に追い掛け回されていた。

「クラスメイトに酸ぶっ掛ける訳にもいかないし~!あーもう!背納ちゃん何処だ~!」

 

―パキンッ―

 

「呼んだ?」

「うわっ!?」

突如としてフィンガースナップの音と共に現れた背納に、芦戸は驚き声を上げる。

暴走していた砂藤も、何故か急激に大人しくなった。

「あ、アハハ、流石にヤバイかも・・・」

口元を引き攣らせながら、後退りする芦戸。

「あのビーム君は、ボクが直々に始末した。三奈ちゃんも、そうしてあげるよ」

顔の横で尾槍を上下にゆったりと揺らす背納に警戒し、芦戸はファイティングポーズを構えた。

「フフフッ♪」

すると背納は徐にコンピューターガントレットを開き、タッチパネルを操作する。

「な、何・・・?」

「三奈ちゃん・・・何故、君はそこにいるんだい?」

「えっ?」

場違いな質問に、芦戸は思わず呆けてしまった。

「何故、君は戦うの・・・?

何故、君はヒーローを志すの・・・?」

 

―何故・・・―

 

―何故・・・―

 

―何故・・・―

 

―何故・・・―

 

―何故・・・―

 

その言葉が、廊下に無限に木霊する。背納は尾槍を変わらず揺らし続け、問い掛け続けている。

「ぁ・・・ぅ・・・」

すると芦戸は無気力になり、膝をついて俯いてしまった。その眼は虚ろになり、何ら意思など見出だせない。

そして背納は確保テープを巻き付け、芦戸を捕獲した。

『敵チーム!WIN!』

「フフ、こういうシチュエーションなら、ボクの独壇場だよ♪」

 

―バンッ!!―

 

「ハッ!?」「んぁっ!?」

オールマイトの放送を確認して、背納は掌を強く叩き合わせ猫騙しをする。その音で、砂藤と芦戸も意識を取り戻した。

「さ、戻ろ♪砂藤君は、ビーム君を回収してね」

 

―――

――

(出久サイド)

 

「今回の分析だが・・・取り敢えず、緑谷少年。まずは解説を頼むよ」

「分かりました」

オールマイトに指名され、僕は皆の前に出る。

「まず、せっちゃんが砂藤君に施したもの。あれは単純な暗示による催眠術の一種です。声の波長、指の動き、皮膚への刺激等の信号を組み合わせ、他者に簡単な命令を入力出来ます」

「最も、それなりに時間がかかるし、大きな破裂音の類いで解けてしまうから、戦闘時にはあまり役に立たないがね」

僕の説明にマッちゃんが補足を入れてくれた。

「せっちゃんのクロムウェルも、封印している身体能力を段階的に解放する自己催眠ですからね。

次に、せっちゃんが芦戸さんに掛けた催眠。多分、《何故》、《何故》って何度も問い掛けたんじゃないかな?」

「そうそう!なぜ~、なぁ~ぜ~、って・・・そしたら、何かぼ~っとしてきちゃって・・・」

顔を顰めてう~んと唸る芦戸。抵抗も出来ずすんなりと手玉にとられたのが度し難く悔しい上、どんな原理かも分からないらしい。

「あれはファントム・コンフュージョン。何度も同じ言葉を投げ掛ける事によってゲシュタルト崩壊を引き起こし、ユラユラと柔らかく揺れる尻尾の動きから脱力の暗示を刷り込んで無気力化させる催眠術だよ。

さっき、準備段階でせっちゃんが廊下の各所に投げていた物。あれは多分、コンピューターガントレットから受け取った音声データを再生する小型スピーカーなんじゃないかな?」

せっちゃんは砂藤君に催眠を掛けた後、ビルの1階の廊下に何かを沢山くっ付けていた。せっちゃんのファントム・コンフュージョンは、ゲシュタルト崩壊が肝心。反響音のように絶妙に被せた声を当てれば、それはスルリと脳内に入り込む。

「アハハ、流石は出久だね。正解!

厳密には、あれは通信機能付きの発信器だよ」

せっちゃんは楽しそうに笑い、尻尾を鞭のように波打たせた。

「まぁ、これも1対1でしか使えないし、ちょっとした刺激で覚めちゃうんだけどね」

「逆に、あぁいう閉鎖空間で単一の敵と戦う時には重宝するよ~♪

あ、因みにビーム君みたいな身体の一部が武器になってるタイプなら、側にいれば撃たせることも出来るね」

そう言い、にっぱりと笑って見せる。

何時も思うけど、せっちゃんは怖い。何が怖いって、こういう日常でも戦ってる時でも全く同じ笑顔を浮かべる所が・・・まぁ、闘争モードのメーターが振り切れたらもっとヤバイ笑い方になるんだけど・・・

「そう言えば、さっき青山君に胚を産み付けてたよね」

「うん。砲兵が欲しかったからね」

確かに、せっちゃんの最初の小隊(ファーストズーグ)には遠距離攻撃が出来る子は少ない。その点、青山君のビームなら狙撃も出来るから有用だろう。

「問題は、発射口が何処になるかだよねぇ。響香ちゃんのイヤホンジャックが、ゼノになると下腕から出てたし」

あー、そうなんだ・・・

「うっ!?」

突然、大人しかった青山君が呻き声を上げる。同時に、彼の腹からゴロゴロと音がし始めた。

「青山少年!?」

「へぇ、もう孵ったのか。結構早いね」

せっちゃんは口角を吊り上げ、のたうち回る青山君を押さえ付ける。

「さぁ、新しい親衛隊員の誕生だ!」

「うぅ・・・グボァ!?」

「キシャァァァァ!!」

胃から口まで上ってきた子供・・・チェストバスターならぬサファゲスクライマーを吐き出しながら、ビクビクと痙攣して白眼を剥く青山君。

それを見て雄英の苗床組は顔を青く・・・ってアレェ?女子組は何か赤面してる?八百万さんに至っては眼にハート写ってない?

さてはせっちゃん、女子組は自分好みだから印象操作の催眠掛けながら植え付けたな・・・となると、男子は好みじゃなかった訳か。

酷い依怙贔屓もあったもんだ。あぁ、でもまぁこの社会じゃ良くある事か・・・

「ちょっと出久?そんなドブの底のヘドロみたいに眼ぇ淀ませて、どうしたの?」

「ううん、ちょっとこのクソみたいな社会のゴミみたいな本質の風刺を垣間見た気がしただけだよ」

「この社会がクソったれなのは何時もの事じゃん。

はいマックス、この子のお世話お願いね?」

「仰せのままにBOSS」

サファゲスクライマーを抱え、マッちゃんが退出した。あの子がどうなるか楽しみだなぁ。

「青山君は休ませておくとして、次のチームと行きましょう。オールマイト?」

「え、あぁうん。じゃぁ、次いこうか」

多少ギクシャクしながらも、オールマイトが取り仕切る。

そしてそのまま、この戦闘訓練は続いて行った。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
化物主人公。
RE:BORNのファントムが使っていた催眠洗脳をアレンジして習得したヤベーやつ。好きな相手には苦しまないよう印象操作を行うが、好みじゃなければ割とテキトーという結構自分勝手さ。

緑谷出久
闇深系魔改造原作主人公。精神状態は今の所、母性たっぷりのママモード、冷徹無慈悲な戦闘者モード、皮肉っぽく嘲笑する闇モードの3つ。ママモードと戦闘者モードは自己暗示で切り替えられる。
この社会のクソったれさに対し、最早人間はそう言うものなんだと諦め受け流している。
因みに何度か催眠を掛けられているので、少し耐性がある。


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第7話 化物の愉悦

(背納サイド)

 

「うっわ、何これ・・・」

何時も通りに森を駆け抜け登ってくると、校門前にカメラを持ったマスメディアの報道陣が大量に群がっていた。

皆が皆、異口同音に『オールマイトの授業はどうだ』、『オールマイトはどんな教師だ』etc・・・

口を開けばオールマイトオールマイト、それ以外の言葉忘れたのかコイツら。

「ジャラゼスバ。ゾグギバス?グギギン」

「どうするも何も、ドク。普通に通るよ。あぁ言うのは相手しないに限る。ハァ、面倒臭い」

後ろのドク、マックス、シュレディンガー、そして百ちゃんから生まれた平ウォーリアーのマリスもうんざりしてる。

「あ、すいません!オールマイトについて少し―――」

「黙れ。邪魔だ、退け」

「ヒッ!?」

殺気と同時に()()()()をぶつけてやると、リポーターは情けない声をあげてへたり込んでしまった。

ボクの身体構造は、基本的にゼノモーフ。そしてどうやら、ゼノモーフの声には他生物の恐怖を掻き立てる特殊音波が含まれているらしい。それを意識的に練り上げたのが、この恐怖音波だ。まぁ何度も喰らうと耐性が付くみたいだけど。

 

「テメェ等も、退けッ!邪魔だッッ!!」

 

眼を見開き、恐怖音波を最大ボリュームで放つ。するとあら不思議、まるでモーゼの海割りみたく、人垣が左右に綺麗に別れた。

「行くよ皆。情報なんてくれてやるものか。自分達が未来の戦士を追い込んでいると気付いてすらいない、正義気取りの脳足りん共なんかに」

ポケットに手を突っ込み。、門を潜る。きっと今、ボクの眼は吊り上がっているのだろう。

 

―――――

――――

―――

――

 

「ハァ・・・」

昼休み。好物のカツ丼を前にして、出久がらしくも無く溜め息を吐いた。

「そんなに嫌なのか?俺は君が適任だと思うが・・・」

「そうそう!的確な指示飛ばしてくれるし!」

「適任なんかじゃ無いよ」

相変わらず顰めっ面で丼とにらめっこしながら、飯田君とお茶子ちゃんの意見をピシャリと否定する出久。

「僕には皆を纏めるリーダーシップも、そもそもリーダーとしての意欲も無い。そんな僕が嫌々やるより、飯田君みたいな意欲的な人が就くべき役職だよ。クラス委員長っていうのは」

何の話かと言えば、さっき投票で決まったクラス委員長について。結果は、飯田君が2票、出久が3票、他はほぼほぼみーんな自分に入れたのか1票だった。

因みにボクは飯田君に入れて0票。まぁ既にクイーン椅子に座ってるわけだし、 これ以上リーダーの役職はいらない訳よ。指揮するのだって、ファーストズーグで精一杯だしね。

 

―ヴィーッ!ヴィーッ!―

 

「おんっ?」

唐突に鳴り響くアラート。同時に、気怠げだった出久の眼が瞬時に吊り上がる。ボクも弁当を食べていた箸を置き、周囲からの情報に意識を向けた。

『警告!警告!セキュリティー3突破!』

警報の内容を聞き、周囲の先輩方が一気に浮き足立つ。どうやら相当マズイ状況みたいだね。

「ちょいちょい失礼。これ今どういう状況?」

「知らねぇのか!敵が入ってきたんだよッ!!」

へぇ、成る程。不法侵入か。

なーんて悠長に納得してる場合じゃないね。周囲が大パニックになってるし。

「うっわ、皆落ち着いて~!」

「ハイハイ、テーブルに着いといて」

人の波に流されそうになってる飯田君とお茶子ちゃんを、さっきまで座っていた椅子に引っ張り戻す。因みに出久は全部避けてた。

「マリス、ちょっと行ってくる」

「え、クイーン?行くってどちらに?」

マリスに答える事無く、ボクは靴を脱いで壁まで跳躍。窓まで登り、敵の姿を視認した。

「・・・ハァ?」

そして、自覚出来る程素っ頓狂な声をあげる。

見えるのは、カメラと収音マイクを抱えた大群・・・つか、マスゴミ共だ。

「・・・ドク、ニコ生だ。あと各SNSでリアルタイム拡散しろ」

「既にやっておりますよクイーン」

「パーフェクトだドク」

「お褒めいただき感謝の極み」

見れば、ドクは既にスマホを構えてニヤニヤ笑っていた。

「ねぇクイーン。アイツ等どうする?」

「待ち給えよマリス。私にアイディアがある」

ニコニコの良い笑顔で、指を立てるマックス。何をするつもりなんだか。

「クイーン、此方へ」

「え、ボクも行くの?」

「おぉ少佐殿、もしや、アレですな?」

「あぁ、アレだともドク」

待って、アレって何?何で意図的にテレパシーを遮断してるの?ねぇってばさ・・・

 

―――

――

(NOサイド)

 

ある男に唆され、思考停止して不法侵入を続けるマスメディアのスタッフ達。その横の並木には、気配を消したドクが仕掛けたカメラがある。そのカメラはリアルタイムで現状を各種SNS、動画サイトにアップロードしており、某笑顔の動画サイトでは既にコメントの嵐である。

「では、行きますかな」

「あぁ。さぁ、IT'S A SHOW TIME!!」

マックスのフィンガースナップと同時に、軽快な音楽が流れ出す。そのBGMに報道陣が足を止めると、マックス達は動き出した。

マックス、ドク、シュレディンガー、マリスは、報道陣の前でステップを踏む。普通なら、変わった歓迎にも見えるだろう。

 

肩に()()を担いでいなければ。

 

―トゥルルル トゥットゥルルットゥ♪トゥットゥルルールトゥルッ♪―

 

あまりにもシュールな光景に硬直する報道陣を他所に、ゼノモーフ達はその棺桶ダンス・・・ガーナ式葬送の再現を続ける。

棺桶を肩に乗せたままコサックダンスのようにバタバタと脚をスイッチさせたり、膝にのせてその上でハイタッチしたり・・・

「あ、あの、あなた方は一体・・・?」

ダンスが一段落ついた頃、漸く正気を取り戻したレポーターがゼノモーフ達に質問を投げ掛ける。

「黙れ」

しかし、その質問は重圧を伴った一言で踏み潰された。

「だれがその口を開いて良いと言った?慎み給えよマスゴミ諸君」

頬を吊り上げながら、マックスは報道陣を罵倒する。それに対し相手は苛立ちを見せるが・・・

 

―バガンッ―

 

それを言葉にする前に、棺桶の蓋が吹っ飛んだ。

「ふぅ、棺桶って意外と寝心地良いね。デップーには不評だったけど」

そして、棺桶から背納が起き上がる。作戦を聞いた背納は、目元と口角を吊り上げてノリノリの様子だ。

「所でさぁ・・・お前らがしてるのって、不法侵入だよね?」

麻痺した思考を現実に引き戻すと同時に、恐怖音波で威圧。すると報道陣の顔はみるみる内に青くなり、大多数が腰を抜かしてしまった。

「さっき警察呼んだからね、もうすぐ到着するんじゃないかな~。

あ、逃げても無駄だよ?お前らの害獣レベルな違法行動、ぜーんぶリアルタイムでSNSとかに流してるからね~♪

おぉ、スゴいスゴい!ねぇねぇ見てよ~、ニコ生なんて、今視聴者数が5万8913人!平日昼間でも、見る人は見るんだねぇ~♪

あ、もう特定班が住所見付けて拡散してる!あ~ぁあ、君達のせいで、今日から家族全員後ろ指差されながら生きる事になっちゃったねぇ♪しかも会社の顔にも泥塗っちゃったから、蜥蜴の尻尾宜しく切り捨てられるかな?かな?

アッハハハハ~♪ざ・ま・あ❤️」

天使のような微笑みで、一切容赦の無い鬼畜言動をぶつける背納。他人の情報を飯代にする報道陣にとっては皮肉な事に、今度は自分達の情報が他者の食い物にされる側に転落してしまった。

「このよーに!バカな事をすると、とんでもないしっぺ返しを喰らうのがこの世の中です♪

皆も気を付けようね♪以上!現場の化物でした!」

ドクが構えるスマホに締め括りの挨拶をし、背納は無様に逃げ出そうとしている報道陣に振り返る。

 

「誰が逃げて良いっつたゴラァ!!」

 

そして再び恐怖音波で嚇し、硬直させた。

「マリス、SNSをしっかりチェックするんだよ。人間の悪意を知るには、それが一番だからね♪

クハハ♪キャハハハハハハハハハ♪」

恐怖と絶望の板挟みになった報道陣の耳に、悪魔の嘲笑が響いた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
恐怖を掻き立てる声を操る化物主人公。ゼノモーフの声って、そんな効果ありそうだなーと思った作者の思い付きで習得。
今回で、敵に対してどれ程えげつない行動を取るかが露見した。彼女は人の悪意さえ、巧みに利用して見せる。
「気に入らない奴等を集団で追い詰める。君達人間から学んだ悪意のひとつさ♪」
因みに相澤先生は胃を痛める。

モンティナ・マックス
悪意大好きゼノモーフ。地味に初めて少佐呼びさせたかな?

ドク
自主的にカメラを回し、更に複数の媒体に同時アップロードを行った今回のMVP。
因みにこの後も、この件に関するスレにグランドプロフェッツォルのペンネームで被害情報等を大量にばら蒔き、更に炎上に拍車を掛ける。
「いやはや、愚かなサル共を手玉にとるのは堪りませんな♪」

マリス
がっしりしたウォーリアー。今回の一件で人の悪意を学習し、生まれ持った残虐性を使いこなすべく目覚める事となる。


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第8話 化物の戦場

「背納ちゃんおっそろしい事するなぁ。あ、前回背納ちゃんが言ってた俺ちゃんはライアン・レイノルズの方だから。デッドプール2ね。そっちも宜しくゥ」
『お前、俺の作品ならともかく原作は色々危ないんじゃねぇか?』
「ダイジョブダイジョブ、クレーム対応すんのは俺ちゃんじゃなくて作者だから」
『おいコラ』


マスコミ襲撃事件の翌日。

ネットではドク達の目論見通りにテレビ局や関係者が大炎上しており、逮捕された記者達は軒並み路頭に迷う事がほぼ確定していた。

朝、背納は何時もより早く登校し、ファーストズーグの異能持ち精鋭部隊・・・通称クイーン直属親衛隊と共に、面白半分で誹謗中傷を書き込みまくるネットイナゴの底知れぬ悪意を観察している。

「いやはや、人間の悪意ってのは本当に面白いなぁ~♪端から見てる分には」

誹謗中傷の羅列を眺めながら、背納は嘲笑混じりに呟いた。

彼女は人間の本質である悪意に興味が尽きない。悪意が進化を促し、進化が悪意を生むのだ。

「思考を放棄した時、人間は猿以下に堕ちる。此処テストに出るよ、覚えといてね?」

直属親衛隊のメンバーは、背納の言葉にしっかりと頷く。

「クイーン、何故こんな奴等の為に戦うのです?」

「ふむ。良い質問だねルーク」

ターボモーフ・・・ルーク・ヴァレンタインの質問に、背納はにっこりと微笑んで答える。

「極論してしまえば、ルーク。ボクには、目的など存在しないからだ」

「と言うと?」

「ボクは目的を目指して戦いに身を投じるんじゃあ無い。()()()()()()んだ。

よく言うだろ?《目的の為に手段を選ばない狂人》とか。でもね、ボクにとってはそんなもの、何の狂気でも無い。当然の行動さ。

本物のどうしようも無い狂気とは・・・()()()()()()()()()()()()連中の事を言うんだよ。尤も、流石のボクも其処までなり振り構わず振る舞えないから、現状は()()()()()()()()()()()()()状態だがね。

答えになったかな?」

「面白い闘争哲学を聞けて嬉しいです」

「それは良かった」

(そう言えば、何か敵が襲撃するイベントあったよなぁ。いつだっけねぇ?)

 

 

―――――

――――

―――

――

(背納サイド)

 

(うぅ~んむ・・・不幸中の幸いと言うか、何と言うか)

賑やかなバスの中で、コスチュームを着たボクは少々唸る。

揺らぎ掛けの前世の記憶では、確かこのバスの行き先で敵が侵入して来るシナリオ・・・だったはず。

15年も前だし、何より今生で一回()()()()()()()せいもあってか、酷く知識が曖昧だ。

(何で重要な記憶から消えていくかねぇ・・・その癖HELLSINGとかドリフターズとか、あとガオガイガーなんかは鮮明に覚えてたし。いや、コイツらはこの世界にもあったから比較は出来ないか)

兎に角、ボクは薄ボンヤリとだが此処からの展開を知っている。確かバラバラに飛ばされるんだっけね。はてさて、何処に行く事となるやら・・・

「つか触出!今日連れて来たあいつ等の事、早く紹介してくれよー!」

「んあっ、ゴメンゴメン。ちょっち考え事してた~。

じゃ、要望通りに紹介しますかね」

それぞれ自分の苗床となった相手と話していた直属親衛隊を、ちょいちょいと近くに招く。

「まずは飯田君の子。ターボモーフのルーク・ヴァレンタイン。飯田君と違って、エキゾーストパイプが脚だけじゃなく背中や腕にも生えてるね。お陰で馬力もスピードも精密性もグンと上がってる」

ルークのエキゾーストパイプは多いだけじゃなく、関節があって角度調節が利くのも特徴だね。

「次、ビートモーフのヤン・ヴァレンタイン。近~中距離で戦えるマルチレンジタイプで、エコーロケーションも出来るから索敵レーダーとしても優秀な子だね。勿論ステゴロも強いよ」

「あんたがアタシの母親か。宜しくな♪」

「えっと、うん、宜しく。さっきから思ってたけど、意外とフレンドリーなんだね」

どうやらヤンは響香ちゃんと打ち解けたらしい。

「次、エレキモーフのゾーリン・ブリッツ。側頭部や脇腹、手足に走る蛍光色のイナズマ形のライン模様が特徴だね。

前も言った通り、全身の筋肉が発電蓄電細胞になっていて、どっかのカボーン君みたく動けば動く程パフォーマンスが上がるタイプだ」

「あ゙ッ?」

ハイハイ、カボーン君がガン飛ばしてくるけど無視だ無視。

「えーっと、俺みたく使いすぎでアホになっちゃうって事は・・・」

「単に貴様の使い方に無駄が多過ぎるからだろう。どうせ放電をインパクト時のみに集中すれば良いモノを、バカスカ放電しまくってるんじゃないか?」

「うぐっ・・・」

「ハァ、こんなのが私の母親か・・・」

「ハイハイ、ゾーリン?あんまりいじめないの。

次、アシッドモーフのトバルカイン・アルハンブラ。酸液の最大粘度がゼリー直前で、これを鋭く投げ付けて攻撃する。アダ名は伊達女だよ」

「どうも。ご紹介に(あずか)った通り、わたくしがトバルカイン・アルハンブラです。お母様共々、お見知り置きを」

そう言い、紳士的に一礼するトバルカイン。やっぱ伊達女だね。間違いない。

「まだ基礎教育が終わってないから連れてこれてないけど、ビームの子はリップヴァーン・ウィンクルって名前に決めたよ」

「知ってたけど、全員名前がミレニアムの主要戦力なんだね」

「そーそ」

しかも、性格までそれによってきてるからね。名は体を成すって言うけど、ボクの場合はイメージで人格情報をインストールしてるのかな?

 

―――

――

 

「え~、USJ(嘘の災害・事故)ルームの説明が終わりましたので、まず使用する前に私から小言が~1つ、2つ、3つ、4つ・・・」

でっかいドームの中で小言を増やしているのは、プロヒーローの13号。個性はブラックホールだ。

 

「フラッシュバン・・・頸動脈、は守られてる。ひっくり返し肩を極めて破壊しつつ、顎を掴んで海老反りで背骨を破壊・・・これだな」

 

出久は小言を聞きながら殺し方のシミュレーションしてる。ボクが教育して染み込ませた癖だ。優秀で何より。

「私の個性、ブラックホールは、あらゆるものを吸い込んでチリにしてしまいます。容易く人を殺せるとても危険な個性ですが、私はそれを使って災害救助等を行ってきました。

なので、どんな力であっても人を傷付け得る事、逆に救い得る事を忘れないで下さいね!」

「この場に全身凶器の殺人兵器が5体もいるから説得力が違うよね」

「アハハ・・・ッ!!」

ボクの呟きに、乾いた笑いを漏らす出久だったが、次の瞬間。その眼が鋭く吊り上がり、瞬時にソウルイーターを装着して思考を戦闘者モードに切り替えた。

「何か来たね?」

「んあ?何だ~?入試みたくもう始まってるってパターンか?」

実践経験の無い上鳴君は呑気言ってるが、ボクと出久、そしてイレイザーヘッドも感じ取ったらしい。この項が粟立つ殺気を・・・

「13号ッ!!生徒を護れッ!!あれは―――――(ヴィラン)だッ!!」

ボクは左股関節にマウントしているレイザーディスクを手に取り、出久は肩甲骨を回してストレッチを開始。直属親衛隊達も、各々の異能を待機状態程度に発動させてキープする。

「ヴィ、(ヴィラン)ンンンン!?いや、アホだろ!?ここ雄英だぞ!?」

「いやいや、だからこそでしょ。優秀な敵を育成する機関、施設があるなら、そこを狙わない訳が無い。ヒーローを志すなら、こうやって悪意を向けられる事にも馴れなきゃねぇ?」

全く、皆人の悪意を甘く見過ぎだよ。ヒーローなんて、家族ごと敵の標的になるに決まってるのに・・・

「突然の訪問、失礼いたします。我々は(ヴィラン)連合、私は黒霧と申します。本日は、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたく、馳せ参じた次第。

しかし・・・どうやら、我々の持つ予定とは少々異なっているようです。オールマイトは、今どちらに?」

「さぁ?校長室とかで寝惚けてんじゃない?

つか、分かった。昨日ボクが地獄への片道乗車券渡してやったあのマスゴミ共、唆したのお前らだな?で、警備がそっちに集中してる間に予定表でも盗んだんだろ。見たとこ、黒霧さんは転移系っぽいしさ」

取り敢えず、出久に通信機代わりの発信器渡しとこう。

「チッ、本校舎に通信が繋がらん。妨害電波か・・・上鳴、お前も試せ!」

「う、ウッス!」

(ジャマーか・・・直属親衛隊、応答せよ)

(トバルカイン、ロンザギ ガシバゲン)

(ルーク、ゴゴス グシシン)

(ヤン、ビボゲデラグゼ)

(ゾーリン、バンゾショグボグ)

どうやら、ゼノの生体通信には効かないらしい。

「ハァ、オールマイト居ねぇのかよ・・・ガキ殺したら来るかなァ?」

黒霧の隣に立ってた男の呟きに、爆豪と切島君が飛び出す。

「その前にテメェ等が死ぬたァ思わなかったのかァ!?」

 

―ヒョヒュヒュヒュッ ガガンッ―

 

それに便乗してボクはレイザーディスクを投げ付け、出久はポケットから出したマキビシをワンフォーオールを込めた親指で弾いて射出する撒菱指弾(マキビシシダン)を2発放った。

「ギャアッ!?」「がッ!?」「ぐあッ!?」「うがッ!?」

出久の撒菱指弾は一人ずつ仕止め、そしてボクのレイザーディスクは2人の肩口を一気に斬り裂く。そしてブーメラン軌道で戻って来たレイザーディスクをキャッチし、刃を収納してマウント。

まずは小手調べ程度に見切りやすい飛び道具を放ってみたが・・・あの慌て具合から見るに、どうやら大半は対応すら出来ない雑魚チンピラらしい。

因みに、出久のマキビシの先端には唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを溶かした油が塗布されているとの事。効き目は抜群で、撒菱指弾を受けたチンピラは体内深くに捩じ込まれたカプサイシンが引き起こす焼けた火箸で肉を抉り回されるような激痛に躍り狂いのたうち回っていた。しかも刺にカエシが付いてて抜けないようになってる。もし踏んづけようものなら地獄でタップダンスする羽目になるな。

「お前ら、勝手な事を!」

「あんたの許可取る前に向こうがボク等の(タマ)獲りに来るよ」

突っ込んだ爆豪達を見やれば、どうやら初撃は外されたらしい。

「いやはや、危ない危ない。卵と言えど、流石に雄英の生徒は優秀だ。だから―――

 

―――散らして、嬲り殺す」

 

その言葉と同時に、黒い靄がボク等の足元を舐める。そしてあっという間に闇色のドームを作り出し、頭上までスッポリと覆ってしまった。

「うおっと!?」

直後、地面が消える。浮遊感の中、何とか尻尾で姿勢を制御しつつ、横に見えた壁を蹴って着地。

同時に、周囲を確認すると、周囲はかなり高温。ピットがチリチリ焼けて痛みを感じる。

恐らく、説明にあった火災ゾーンだろう。周囲には・・・人の気配多数。十中八九敵。1人に対し、最低でも5~6人で囲むつもりか。でも・・・

「個性の情報は持ってないっぽいね」

もし持ってれば、立体起動が真髄のボクをこんな立体物の多い所には飛ばす筈がない。恐らく、取っ掛かりが何も無い水難ゾーン辺りに飛ばされるだろう。

「だったら、相当なアドバンテージが出来た訳だ。

さぁてと・・・狩り、開始♪」

 

(NOサイド)

 

「さぁてと~?どーこだ~?ヒーローの卵ちゃんよぉ~♪」

「お兄さんらと、気持ちイイ事しよぉぜ~♪」

5人組の異形型のチンピラが、獣欲駄々漏れの言動を振り撒いて火災ゾーンを闊歩する。

雄英の生徒は毎年顔も身体も上玉な女が揃う。金で雇われた時にそう吹き込まれ、無垢な少女を輪姦(まわ)して楽しむ事に眼が眩んでいるのだ。

「・・・」

しかし、それを聞き心中穏やかざる者が1人。何を隠そう背納である。

過去に性的な虐待で一度人格が崩壊した経験を持つ彼女にとって、あのレイプ願望集団は度し難く腸が煮え繰り返る存在なのだ。

(心は熱く、脳は冷たく。害虫発見、狩り開始)

先程までは、闘争と苦痛、暴力の応酬を楽しむ気でいた背納。しかし、彼女は別の行動を選択する。

闘争から、狩り・・・否、()()へ。

「ひゅぅ・・・ッ!!」

「ッ!?」

まず、手首から伸ばしたフックショットのワイヤーを、一番後ろにいた2対4本の腕を持つ男の首に巻き付け締め上げる。気道を完全に潰し、呻き声さえ上げさせず裏路地に引き摺り込んだ。

「シッ」

 

―ごちゅっ―

 

「ッ~!?~ッ!!」

そして肩からウェイヴを伝えて体勢を落とさせ、開いた股座に一片の躊躇も無く膝を叩き込む。

肉が潰れる生々しい音と共に、敵の睾丸は完全に破壊。あまりの激痛に血混じりの尿を垂れ流し、発声を赦されない喉をかき毟って踞った。

「シッー!」

更に即頭部にはガントレット越しの右裏拳を打ち付け、完全に沈黙させる。

「標的、残り4。狩り、続行・・・」

壁を登りつつ再び集団の背後を取る。どうやら、最後尾が消えた事に気付いていないらしい。

次の標的は、蟹に似た甲殻類型。鋭い爪を観察しつつシミターブレイドを展開し、首の甲殻の隙間から声帯を貫いた。

「ッ!?~ッ!?」

同時に肩にウェイヴを掛け、左後ろの通路に引き摺り込む。

「おい、どうしたッ!?」

しかし、流石に仲間に気付かれた。蟹は喉笛を斬られた事に混乱しており、まともに動けない。

背納は即座に腕を捻り、レイザーディスクの刃を展開。そのまま股下まで持っていき、相手の生殖器目掛けて膝で蹴り上げた。

「丁度タンクが欲しかったんだ。素体になれ」

そして切り裂いた喉笛からインナーマウスを無理矢理突っ込み、胚を産み付ける。

それすらも一瞬で済ませ、フックショットを上に打ち上げて離脱。仲間が到着する頃には、そこに背納の姿は無い。

「な、何つームゴい真似しやがるッ!!お前ら気を付けろッ!!」

リーダー格のライオン型が猛り、仲間のタコ型の男、猫のマスクを着けた男が周囲を警戒する。

 

―ヒョヒュヒュヒュッ ジャクッ―

 

「グアァァァァアッ!?」

飛来したレイザーディスクに肩口を切り裂かれ、タコが大きく怯む。

ライオンが気付いた時、既に背納はタコの懐に飛び込んでいた。

「タコは便利だよね。貰おうか」

丁度鎖骨同士の間。そのポイントに、背納は人工呼吸器のようにインナーマウスを撃ち込む。

肉を突き破ったインナーマウスは食道を抉じ開け、無理矢理胚を送り込んだ。

序でに股間を潰しつつ、タコを蹴っ飛ばす背納。残りは、ライオンと猫だけだ。

「居たぞ!」

「此方だ!」

だが、タコの悲鳴を聞き付けて敵が複数集まって来る。何時もなら大歓迎な背納も、今回ばかりは虫の居所が悪い。

愉悦0、憎悪100で周囲の気配を探知しつつ、誰かが動くと同時にその間合いの内側まで一気に踏み込み、リストブレイドとシミターブレイドで四肢を抉る。

敵の誰かが攻撃を仕掛けようとする度に、背納はその都度出鼻を挫き続ける戦術を展開。《心眼・先の先》という技術である。

ただでさえ人外の柔軟性を持つ背納が、更に関節を自在に外しリーチを伸ばす事で急襲してくる。元からあって無いようなものだった統制は完全に崩壊。そうなれば、後は1対1が人数分あるだけだ。

「シッ!シュッ!ヒュッ!チェアッ!!」

手刀、拳打、掌底、斬撃、刺突・・・一瞬の間があるか無いかのペースで繰り出され続ける多種多様な攻撃の嵐に、周囲は30と数える間も無く死屍累々の地獄絵図と化した。

「ヒュゥ~、ヒュゥ~、シィ~・・・」

そして、最後に残ったのはライオンと猫。

「キシィ~・・・ッ!?」

余裕と狩猟本能で無意識に広角を吊り上げていた背納だったが、小さな違和感に気付く。

呼吸が切れ過ぎているのだ。更に、周囲に何時の間にかジャスミンのような香りが漂っている。

「かっ、ハッ、はぁッぁ・・・!」

気付いた途端に、それは小さな違和感ではなく、大きな動悸と息切れに変わった。

(こ、れは・・・毒?いや違う!痛みも、感覚の麻痺も、筋肉の弛緩も無い!寧ろ・・・身体が活性化して、熱くなってる?それに、この匂い・・・これって・・・ッ!まさか!)

「ハ、ハハハハ!漸く効いて来やがったかァ!」

「よしッ!でかしたぞマスク!」

厭らしく笑う猫の肩を、ライオンがバシッと軽く叩く。

()()()、いっ・・・やっぱり、そうか・・・んぅっ・・・」

炎熱から逃げられる物陰だった事が幸いし、背納は何とか言葉を紡ぐ。

しかし、その頬は紅潮し、肩は荒げた息とは別にピクンピクンと震えていた。

「この、ジャスミンみたいな香り・・・それに、この作用、んっく・・・マスクってアダ名で、キッチリ絞れたっ!」

己の下半身から脊髄を通り、脳に走る甘い電流。それに歯を食い縛りながら、背納は何とか身を起こす。

「ジャコウネコ、だろ?お前・・・」

「フッハハハハ!博学だなぁ嬢ちゃんはよぉ!大当たりだぜ、俺の個性!」

ジャコウネコ。

主に森林地帯に生息する肉食小動物。縄張りを示す分泌物・・・シベットは、香水の原料にもなる。

そしてこのシベット、かのクレオパトラも用いたとされる媚薬である。

因みに猫ではない。

「うっわ、ライオンのライオンキングがえげつない事に・・・大方、女には感度上昇、男には精力増強として働く感じか」

「おぉ~う、イロイロと詳しい嬢ちゃんだなぁ~?もしかして、アッチの経験も豊富かぁ?」

「お生憎様、思い出したくない事しか無いよ」

下世話な軽口の応酬をしつつ、ライオンとジャコウネコは股座をいきり勃たせながら背納にジリジリと近付く。

ライオンとジャコウネコは、自分達の絶対優位を確信していた。故に、気付かない。背納の頬に差していた朱が幾分か引き、息が平常時のそれに戻りかけている事に。

「さぁてと、じゃあお先に戴くぜぇ♪」

「壊さないで下さいよォ?俺も楽しみてぇンですから」

輪王座で身体を支える背納の胸に、ライオンの手が近付く・・・その瞬間だった。

「シッ」

 

―ビキッ―

 

「ごえっ」

ライオンの頭が一瞬激しく揺れて、一瞬で昏倒する。

「ふぃ~、漸く身体が言うこと聞いてきた」

「・・・は?」

軽く息を吐きながら、何ともなさげに立ち上がる背納。それを見て、ジャコウネコは目を円くする。

「な、何で俺の淫魔の麝香(サキュバスマスク)が!?」

「慣れた」

短く答え、背納はジャコウネコの両肩を掴んで左肩に送りのウェイヴ、右肩に引きのウェイヴを掛けて時計回りに反転させた。

「ハァァァァ!

アァリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィ!!」

 

そして、ウェイヴパンチとエルボーで背面から胃袋、肝臓、腎臓、横隔膜、脊髄、仙骨を何度も打ち据える。

 

―ビキィッ―

 

「アガァ!?」

サヨナラだ(アリーヴェデルチ)

そして最後。仙骨と腰椎の間を、中指を突き出したカーヴィングナックルでフックぎみに打ち抜いた。

脊髄損傷による下半身不随を起こす、凶悪な急所攻撃である。

「惜しかったね。この程度の濃度の媚薬なら、トントンなレベルのをたまにドクが飯に盛ってくるんだ。他の子だったら堕ちてただろうけど・・・相手が悪かったね」

俯せに倒れ伏して動かないジャコウネコにそう言い捨て、背納は火災ゾーンの出口へと駆け出した。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
化物主人公。
敵は躊躇無く切り裂くし、叩き割るし、潰す。
急所攻撃はプロをも凌ぐレベル。しかもウェイヴの可変で狙ってくるので動きが読めない。
媚薬を盛られるも、普段から盛られ慣れてて早々に動けるようになった。けど実は、媚薬が抜けた訳じゃない。めっちゃムラムラしてるけど、それを闘争心が上回ってる状態。

緑谷出久
現代忍者デクです。ニンニン。
戦闘時には原作の面影が0になる。もう誰だこいつ・・・
今回使ったマキビシは、4面ダイスのような4面体の4つの頂点から返し付きの太い針が突き出した物。指で弾きやすい特注品である。
敵を無力化したいが、毒は使っちゃいけない。なら苦痛で動けないようにすりゃ良いか。そんな発想から、えげつない程に濃縮したカプサイシン油が塗布された。

ルーク・ヴァレンタイン
飯田を苗床として生まれたターボモーフ。マフラーが脚だけでなく背中、腕にも付いており、走行時の安定性、精密性が向上している。
元ネタはHELLSINGのルーク。

ヤン・ヴァレンタイン
耳郎を苗床として生まれたビートモーフ。下腕からイヤホンジャックが伸びており、それを喉に刺す事で特殊声帯を通して心音を爆音化出来る。また、エコーロケーションも可能。
その代わり、インナーマウスが無い。
元ネタはHELLSINGのヤン。

ゾーリン・ブリッツ
上鳴を苗床として生まれたエレキモーフ。身体の各部に放電模様が入っているのが特徴。色も黄色がかって明るい。筋肉の運動によって発電し、それを体内に溜め込んで瞬時に放出する後半追い上げタイプ。その為異能としてはスロースターターだが、それでも身体能力がバカ高いのでカバー出来る。
元ネタはHELLSINGのゾーリン中将。

トバルカイン・アルハンブラ
芦戸を苗床として生まれたアシッドモーフ。
全体的にピンクっぽい色をしており、頭部にはオリジナルのそれと似通った触角がある。
酸液粘度の操作幅が広く、冷えた水飴レベルからサラダ油レベルまで自由自在。但し一度に作れる量はオリジナルに劣る為、少量ずつを手裏剣のように飛ばして攻撃する。
丁寧口調のお嬢様キャラ。オホホ系にしようか悩んでいる。
元ネタはHELLSINGのトバルカイン。

撒菱指弾
刀語にて、蜂の忍者である真庭蜜蜂が使った忍法。
出久はこれをワンフォーオールのパワーで再現した。
因みに針は15㎏以上の圧力を受けると飛び出してくる仕組みなので、ポケットから出す時も手に刺さらない。


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第9話 少年の戦場

『今回のは、前回と同じタイミングの出久サイド、そしてUSJ編のラストになりまーす』
「さてさて、どんな戦いを展開するか見物だなぁ」
『それではどうぞ!』


(出久サイド)

 

地面が消え、視界が一瞬暗転。次いで再び光が戻り、思わず眼を細める。

 

―ドボンッ―

 

「ガボバッ!?(水ッ!?)」

その一瞬で、僕は水の中に落っこちた。眼を開けてみると、到底底が見えない・・・10mや20mじゃ利かない深さと、その中を猛スピードで泳ぎ回る敵達が・・・

「獲物来たぜェ!!」

「ヒャッハー!!」

鮫型とピラニア型が、僕目掛けて突貫してくる。鋭い牙とヒレで、僕を切り刻むつもりだろう。

「ボゴゴゴゴゴゴッ」

焦らず、落ち着く。そして深く、深く息を吐き出す。右腕を大きく引き、ワンフォーオールを薄く纏った。

「ボハッ」

肩甲骨で波を起こし、そこにワンフォーオールの出力を乗せて拳に伝達。思いッ切り、拳を突き出す。

 

――――波拳剛撃(ウェイヴィング・スマッシュ)

 

内側に捻り込むコークスクリューブローは、前方の水を瞬時に圧縮してプラズマ化。圧力で水が沸騰し、水流の中で瞬時に無数の泡が発生と消滅を繰り返して衝撃波と共に敵を吹き飛ばした。

その激流に巻き込まれないよう、脚で水を強く踏みつけて水面へ跳躍。空中に飛び出す。

「緑谷ちゃん!此方よ!」

と、下から梅雨ちゃんの声。視界に映せば、難破船をモデルにした実演場の上で此方だと手を振る梅雨ちゃんと峰田君の姿があった。

 

―ボッ―

 

再び脚にワンフォーオールを溜め、今度は空気を踏み締めて蹴り抜く。僕の身体は急加速し、受け身を取りつつ船の上に着地した。

「ッシ・・・梅雨ちゃん、峰田君、無事だね?」

「えぇ、何とか・・・でもまずいわ。完全に囲まれちゃってる。逃げ場が無いわよ」

「どぉすんだよ緑谷ァ!!助けてくれよぉ!!」

ギャイギャイと騒ぎまくる峰田君を余所に、僕は周囲の状況を確認。

水面に顔を出している敵は、少なく見積もっても30人強。更にあの水中の様子だと、水面組と同程度、もしくはそれ以上の数が潜っているかもしれない。

「少なくとも、二個小隊、もしくは三個小隊程度の人数を始末しなきゃいけない訳か・・・」

「小隊?軍事用語かしら?」

「一個小隊が大体30~60人。この場合、多く見積もると90人以上が相手って事だ」

「ハァァ!?」

あーあ、また峰田君がパニック起こそうとしてる。

「勝てっこねぇよ・・・オイラ達、ついこの間まで中学生だったんだぜ!?イヤだぁ!!オイラ達は此処で死ぬんだぁ!!」

「死ぬのは良いが勝手に僕等まで殺すなよ。良いか?此処はもう戦場。放り込まれた以上、勝つか死ぬか(WINE or DIE)だ。

今すぐ腹を括るか、それとも首を括るか選べ玉無し野郎」

言葉の圧で峰田を黙らせ、再び周囲を見渡し思考を巡らせる。

どうやら敵は、さっきのウェイヴィング・スマッシュで警戒心を研ぎ澄ませているようだ。さっきのような、水中でのウェイヴィング・スマッシュはもう無理だろう。

だが、おかしな点がある。奴等は全員水中特化型だ。だったら普通、同じく水中特化型の梅雨ちゃんを此処に送らない。僕なら梅雨ちゃんを火災ゾーンに送るし、逆に此方には切島君や障子君を放り込む。

なら何故そうなっていないか。

至極単純。相手がその最適解に至っていないから、当てずっぽうで適当に放り込んだのだろう。つまり、個性を把握していない訳だ。だったら、幾らでもやり様はある。

「よし、僕が奴等を始末する。梅雨ちゃんの脚力は、あの岸まで届くかな?」

「・・・峰田ちゃんを抱えてても、行けない事は無いと思うわ。でも緑谷ちゃん、危険じゃないの?」

「危険じゃない戦闘なんて無い。戦闘は危険で当たり前だ。この程度は妥協しなくちゃ」

「・・・強いのね、緑谷ちゃんは」

「強くなきゃ、せっちゃんとバディなんて組めないさ。

さて、どうやらあの雑魚共もお預けはまっぴららしい。早急に決める」

ソウルイーターに手を当てて深く息を吐きながら、ワンフォーオールを全身に纏う。

血管を巡って筋肉を伝い、骨を走る濃縮された身体能力。呼吸と共に出力のギアを上げ、遂に目標値に到達した。

「僕の合図で、岸まで跳躍してくれ。それだけで良い」

「・・・分かったわ。でも緑谷ちゃん、無理はしないでね?」

「無茶はするけど無理はしないから安心して」

梅雨ちゃんにそう答え、僕は一気に跳ぶ。目指すは、この巨大な人口湖の中心。

「オイオイ、何か飛んできやがったぜ?」

「気を付けろ、さっきの大渦の奴かもしれん」

チッ、勘の良い敵は嫌いだね。

 

「今だッ!!跳べッ!!」

 

合図を出すと同時に、膝を身体に引き寄せる。そして足先が水に触れる瞬間・・・

 

―ボゴガオッッッ!!―

 

両足を同時に水面に叩き付けた。そのストンプキックは衝撃波を発生させ、水を大きく押し退ける。

水面から跳ね返って来た衝撃に乗り、僕は直ぐ様上空に離脱。下は大津波からの大渦巻きに巻き込まれ、巨大な洗濯機の中で有象無象共があっぷあっぷしていた。

更に、梅雨ちゃんの方に向かう津波は陽月剣(シャイニング)を振るって放った衝撃波で切り裂く。

後は、受け身を取って体勢を建て直すだけだ。

「す、すげェ・・・」

「あの洗濯機が止まる頃には、あいつ等全員三半規管が職務放棄してるよ。

さぁ、行こう。中央広場で先生が戦っている筈だ」

言うと同時に膝を抜き、重心を落下させて駆け出した。周囲に細心の注意を払いながら、なるべく木の根を踏んで足音を消しつつ走る。

幸運にも、道中に敵は居なかった。だが、中央広場では・・・

 

―ゴキゴキッ メシャッ―

 

「ぐッ・・・うぅ・・・」

相澤先生が、脳味噌丸出しの真っ黒肌な大男に腕をへし折られていた。

「ッ!!」

 

―ガンガンッ―

 

撒菱指弾を大男に不意討ちで撃ち込む。放ったマキビシは背中に突き刺さったが、大男はまるで何も感じていないかのように無反応だ。

(ノーリアクション!?バカな・・・普通カプサイシンを傷口に練り込まれたら、激痛でのたうち回るはずなのに・・・まさか、痛覚が無い?)

「あぁ?もう帰ってきたのかよ」

聞こえた声の方を振り返ると、身体中に人の手をくっ付けた痩せ形の男が居た。最初、黒霧って奴の隣に居た奴だ。恐らくこの群れのリーダー・・・

 

―ドガンッ―

 

「・・・オイオイ、危ねぇなぁ?」

「チッ」

撒菱指弾をリーダーであろう男に放ったが、大男が一瞬で割り込み胸で受け止めてしまった。何て瞬発力だ・・・だが、幸運な事に心臓の真上に刺さったらしい。

「梅雨ちゃん、相澤先生を。僕は時間を稼ぐ」

「緑谷ちゃん!流石に無茶よッ!!」

梅雨ちゃんの忠告を聞きながら、大男の前に立つ。手に持っていた陽月剣をガンプレイの用に風を切って回し、正中線の前で泳がせるように構えた。

「プッ、ハッハハハハハ!お前が脳無を相手にする気か?アッハハハハ!まぁ良いさ!出来るだけやってみろよ!

ソイツは対オールマイト用に造られた特性のサンドバッグ人間だ!お前に倒せる相手じゃねぇよ!」

「何だ、ワンオフものなのかソイツ。だったらどうとでもなる」

「・・・脳無、殺せ」

鼻で嗤った僕に青筋を立て、リーダーは大男・・・脳無に指示を飛ばす。そして脳無はそれを認識すると同時に、僕に向かって拳を振りかぶった。

「脳筋相手しか想定してないね」

膝を抜いて体を落下、脳無の懐に潜り込む。そして開かれた大股を潜り、同時に左の拳を股座に叩き込んだ。

 

―ぶよんっ―

 

「ッ!?」

おおよそ生殖器を叩いたとは思えない手応えが返ってくる。右足を地面に擦って姿勢を建て直すと、脳無は何とも無さげに此方を振り返った。

「成る程、造られた生物兵器なら、弱点にしかならない生殖器なんて切り取ってるか」

金的は使えない。しかも、今の柔いゴムを打ったような感触・・・打撃特化のオールマイトを殺すには、成る程、理にかなってる。

「シャラァァァッ!!」

「ッ!?」

突如、何の前触れも無く林の中から何かが飛び出し、脳無に蹴りを入れる。その唸り声には、聞き覚えがあった。

「せっちゃん!」

「シィィ・・・殺るよ、出久」

「んっ!」

脳無の肩を足場に僕の側に着地したせっちゃんは、尻尾を揺らしてレイザーディスクを構える。

僕も、バディ戦で扱う事を前提とした陰陽満月刃(ブレイカー)に持ち替えた。僕が左で、せっちゃんは右。どちらからとも無く腕を上げ、裏拳同士をぶつけ合わせた。バディ戦用のルーティーンだ。

 

―ゴウッ―

 

脳無のパンチ。右の大振りストレート。狙いは僕。

肩甲骨ウェイヴのステップで小さく躱し、手首の内側に陰陽満月刃(ブレイカー)のバックエッジを引っ掛ける。

同時にせっちゃんは両手でウェイヴを掛けつつ脳無の肘に上からレイザーディスクの刃を突き立て、そのまま自分の方に引き寄せた。タイミングを合わせつつ、僕もバックエッジからフロントエッジに引っ掛け直して手首に引き下ろすウェイヴを掛ける。

 

―ボギャッ―

 

肘関節を逆向きに曲げて完全に破壊。更に其処から脇、肋骨、股関節を順に薙いだ。せっちゃんは脇腹を切り裂き、折り返して太股、そのまま体幹を軸に回転して肩を抉る。

この間、コンマ8秒。

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

「何!?」

しかし、このバディ戦術の攻撃を諸に受けても脳無は止まらない。無事な左腕で、せっちゃんに大薙ぎの裏拳を繰り出す。

無論、そんな考え無しの攻撃は当たらない。だが2人で脳無に向き直った時、僕達は一瞬絶句した。

 

―グチュグチュグチュッ―

 

へし折った腕と、抉られた傷。それらが全て、グロテスクな音を発てながら再生したのだ。

「ハハハハハ!個性が1つだけだと思ったかぁ?ざーんねん!ショック吸収と超再生!最高のサンドバッグ人間だって言っただろォ?」

再生能力者(リジェネレーター)・・・!」

「成る程。人間が材料なだけの生物兵器、しかも中々死なないか。せっちゃん、動かなくなるまで殺し続けよう」

「元よりそのつもりだよ」

「だよねぇ」

再び意思の統一を済ませ、僕等は再び駆け出す。脳無はラッシュで応戦してくるが、やはり早くて重いだけだ。何の捻りも有りはしない。

僕は姿勢を落として躱し、逆にせっちゃんは飛び上がった。

視線は自ずとせっちゃんに集中し、其方に向けて拳を構える。僕は地面に左手を着き、全体重とワンフォーオールのパワーを乗せた右足で足払いを掛けた。

グラリと傾き、盛大にパンチを外す脳無。せっちゃんはその腕に着地し、そのまま頭を太股で挟み込んで後ろに倒し頭から叩き付けた。フランケンシュタイナーというプロレス技だ。

地面に突き刺さりめり込んだ脳無の頭。其処から身体がせっちゃんの上に落ちそうだったので、取り敢えず全力で尾底骨を蹴り上げてやる。そして陰陽満月刃(ブレイカー)を無防備な右脇に突き立て、毛細血管を抉った。

せっちゃんは尻尾で背骨を穿ち、更に抉り込んでいる。それに倣い、僕も肋骨や脇腹、上腕等を滅多刺しにする事にした。

しかしコイツ、生物の癖に血が出ない。失血ショックによる機能停止は狙えないか。

「おい何やってる脳無!さっさとソイツ等殺せッ!!」

「ア゙ッハッハッハッハッハッハッ!」

敵リーダーの命令に、歪な笑い声を上げて答える脳無。すると脊髄を断った筈なのに、脚を大きく回してきた。

「これでも効かない?ったく、化け物の相手は1人分で十分だよ」

「ちょっとヒドイよ出久、あんなガラクタと比べたらボクに失礼でしょ?一緒にしないで」

「それもそうか」

互いに軽口を叩き合いつつ、陰月刀(ダークネス)を取り出し左手に構える。

「ッシィ!!」

「シュッー!」

脳無が放つ、滝のようなラッシュ。それに対し、僕等は相討ち覚悟の捨て身で飛び込む。自分の得意とする《心眼・後の先》*1を展開し、角度と向きを見切って流す。

「足に杭打ち、マキビシにウェイヴ!」

「ヤー!」

脳無がガバッと腕を広げホールドを仕掛けてくるが、それは寧ろ願ったり叶ったり。2人で同時にしゃがんで避け、僕はダークネスを、せっちゃんはリストブレイドをそれぞれ左右の足の甲に突き立て、刃を切り離して縫い付けた。

「アガッ!?」

バランスが取れず、混乱する脳無。その股下をせっちゃんが潜ると同時に、僕は陰陽満月刃(ブレイカー)を構えた右腕を大きく引く。

 

GHOST(ゴースト)ッ!!」

ABYSS(アビス)ッ!!」

 

―ボゴッ ドゴゴンッ―

 

「「表裏双波拳(ツインウェイヴパンチ)!!」」

 

そして下からワンフォーオールを乗せたデコピンで腕を弾き上げ、胸に刺さったままのマキビシに玉鋼製のフィンガーリングでウェイヴパンチを叩き込んだ。

同時に、背中側からも力の波が拳に伝わってくる。せっちゃんのウェイヴパンチだ。

幾らショックが吸収出来ようが、内部中枢に直接衝撃を流し込めば身体はパニクる。その一瞬の硬直で、僕等の手は脳無の命を掴んだ。

僕が脳無の後頭部に、せっちゃんは後ろから顎に手を掛ける。そのままそれぞれ引きのウェイヴを掛け・・・

 

「「双波首捻壊(ツインウェイヴ・ネックツイスター)」」

 

 

―ゴキンッ―

 

首の骨を捩り折った。

脳無の首は反転し、ウルトラマンティガのガタノゾーアみたいな状態だ。

「おーい、お前らご自慢の対平和の象徴(アンチオールマイト)秘密兵器(リーサルウェポン)君がヘバっちまったぞ」

「・・・はぁ?」

向こうも想定外らしい。まぁ、これが想定内なら怖いってもんだが。

「何で・・・何で死んでんだよ脳無ッ!オールマイトにも勝てるんじゃ無かったのかよッ!?」

「確かに、脳筋なオールマイトになら良い勝負出来たかもね。でも残念。ボク達はオールマイトじゃない」

「7年間、擬似的と言えどお互いに本気で殺し合って来た僕等が相手じゃ、単純な物理攻撃しか出来ないその脳筋ではとてもじゃないが白星は上がらないよ」

僕等が答えると、敵のリーダーは癇癪のように首筋を掻き毟り始めた。

「ん・・・どうやら、ボクのファーストズーグも戻って来たみたいだ。外からも応援の反応がある」

コメカミに指を当て、ゼノモーフからの生体通信を受け取るせっちゃん。少し耳を傾ければ、後ろからチンピラ共の悲鳴が耐えず聞こえてくる。多分直属親衛隊の皆が見敵必殺(サーチ&デストロイ)してるんだろう。

「だァ~クソ、何だよアイツ等。チートじゃねぇかよ・・・帰るぞ、黒霧。ゲームオーバーだ」

「賢明です、死柄木弔」

「あなたは賢明じゃないけどね、黒霧さん?」

「シガラキ トムラ、憶えた。今夜日記に書こう」

せっちゃんはジョークを飛ばせる程余裕らしい。カールトン・ドレイクのネタかな?

なんて事をしてる内に、奴等は消えた。負け惜しみすら言わなかったか。

 

―――――

――――

―――

――

 

(背納サイド)

 

(マズい・・・)

敵は倒した。ギリギリ殺してもいない。まぁ一生シモ関係とはオサラバな身体にしてやったけど、所詮レイプ魔だから大丈夫。レイプマシスベシ・・・

あの脳無とか言うのも、あれでギリギリ生きてるらしい。

何がマズいかと言えば、闘争本能で無理矢理抑え付けてたジャコウネコの媚薬作用が復活し始めた事だ。

(クソ・・・伊達に淫魔の麝香(サキュバスマスク)なんて名前じゃないか・・・)

「クイーン、大丈夫ですかな?」

「じゃない・・・」

顔を覗き込んでくるマックスに短く返し、木にもたれ掛かって座り込む。

ドクは、カニとタコに植え付けた子供の回収に行ってくれた。残りの雑魚共も、急行したオールマイトが残らず始末したみたいだ。

「えっと、大丈夫?触出」

「立てますか?」

響香ちゃんとモモちゃんが、心配げに覗き込んでくる。

(あ・・・ヤバイ・・・頭、ボ~っとしてきた・・・)

媚薬のせいか、段々思考力まで奪われてきてる・・・駄目だ。レイプ魔にだけはなっちゃ駄目だ。ボクは化物だ。あんなケダモノじゃない・・・

 

「フム・・・八百万君、耳郎君、クイーンの介抱を頼みたいのだが、宜しいかな?」

「は、はい!私に出来る事ならなんでもいたしますわ!」

「ウチも、まぁ友達だしね」

 

両側から肩を借り、ふらつきながらも立ち上がる。モモちゃんが何かしてるけど・・・何も、分からない・・・

 

(マックスサイド)

 

「いやはや、まさかオフロードバイクを2台も創れる程の余力があったとは。八百万君は実に優秀な資材要員だ」

「お誉めいただき光栄ですわ」

校門前。私は八百万君が創ったオフロードバイクでクイーンを運んで来た。因みに服まで創って貰えたので、クイーンは既に着替えさせている。

彼女等は2人乗りで着いて来たが、残念ながら雄英の私有地は此処まで。此処からは歩いて運ばねば。

「さて、クイーンの現状を説明しておこう。

彼女は今、敵から受けた能力の影響で苦しんでいる」

「毒物の類い、と言う事ですか?ならば早く病院に搬送した方が良いのでは?」

やはり、八百万君では発想出来ないか。まぁ仕方無いな。

「いや、毒ではない。寧ろ、病院に預ける事が出来る毒ならば幾分かマシだった。

だがこれは違う。もっとデリケートな問題なのだよ」

「・・・じゃあ、どういう状態なの?」

「媚薬だ」

「「・・・え?」」

2人ともポカンとフリーズする。

「媚薬により強制的に発情させられているのだよ」

私が説明すると、時間差で理解したのか2人の顔が段々と赤らんでいく。両方ともまだ処女だろうから、仕方無いっちゃ仕方無いが。

「え、じゃあ介抱って・・・」

「・・・お察しの通り、と行っておこう」

私の答えに、耳郎君の顔がボンッと真っ赤になった。

「イヤイヤイヤ!な、何で!?何でウチ等が!?」

「そうですわ!そんな、ふしだらな・・・」

ふむ、まぁ一度拒絶されるのは想定内。

「済まない。だが、君達にしか頼めないのだよ。

クイーンは、見ず知らずの者に身体を、特にデリケートな部分を触られる事がトラウマでね。その上、全身凶器の我々が慰める訳にも行かない。

勿論、強要する気は更々無いよ。だが・・・クイーンを頼める相手が、他にいるかどうか・・・」

少し大袈裟に、右手で頭を抱える。少し様子を見てみると、ドギマギしつつも悩んでいるようだ。

「クイーンが純粋な女性なら、母上に頼めたのだが・・・生憎、クイーンの身体は特殊でね」

「・・・その、特殊、とは?」

「悪いが、やたらめったら教えられるものじゃないのだよ。君だって、身内が他人に自分の体重やらウェストサイズやらを暴露したら怒るだろう。それと同じだ。

さて、どうする?」

「んぅう・・・ハァ・・・ハァ・・・」

都合良く、クイーンが苦し気に呻いてくれた。それを見て、2人の雰囲気から読み取れる感情が段々と此方に傾いてくる。

「・・・そのままだと、触出は辛いんだよね?」

「あぁ。腹の中で、煮え湯が逆巻いているような感覚だろうな」

「・・・分かった。他の連中に出来ないなら、ウチはやるよ」

「・・・では、私も。1人に任せっきりにするのはどうかと思いますし、何よりお友達ですもの」

2人の声色には、明らかに保護欲が滲んでいた。

べらぼうに強かった味方が一転、目の前で弱りきっている・・・そのギャップが、母性本能を刺激したのだろう。

「では、クイーンの手を握って差し上げなさい。そして、そのまま私に着いて来るんだ」

私の言葉通り、2人はクイーンに手を貸して着いてくる。

八百万百、そして耳郎響香。この少女達には、クイーンの()()になって貰おうじゃないか。

 

to be continued・・・

*1
後の先・・・敵の攻撃を誘い、ギリギリで捌き躱してカウンターで仕留める戦法。出久はこれを得意としている。




~キャラクター紹介~

触出背納
化物主人公。
出久と共に脳無を撃破したが、その後痩せ我慢の限界が来て行動不能に。
出久との連携は、長年殺し合いレベルの実戦組み手をしてきた信頼故のスキル。
バディ戦シーンは、映画RE:BORNでファントムが回想したゴースト&アビスのコンビキルシーンを参考に書いた。

緑谷出久
現代忍者デク。
ワンフォーオールをほぼ完全に使いこなしているが、出力はそこまで引き出せない(と言っても10%までならノーダメージで連発出来る)。
マキビシにより体内へと直接攻撃を届けるという飛んでもない戦術を編み出し使用。しかもこれ偶然でも何でもなく、元からこういう運用方として設計している。
このマキビシは三角錐から銛が飛び出す仕組みになっており、パンチで叩き込むと傷口を裂き拡げつつ銛の返しで抜けないようになっており、更に特濃カプサイシンが擦り込まれると言う地獄のような武器である。

脳無
首を捻り折られて頭が上下反転したけど、私は元気です。
正直可哀想になるぐらい相性が悪かった。出久や背納の心眼・後の先によるカウンターを諸に喰らいまくった結果がこれ。

死柄木弔
見せ場全部完全に潰された坊や。
敗因は、子供2人がウェイヴマスター級零距離戦闘者(ゼロレンジソルジャー)だった事。そして何より、ソイツ等の人体破壊への躊躇が無さ過ぎた事。


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第10話 戦闘者達の教育

『さーて、R18の方は結構好評かな?』
「今回お前心理描写にガン振りしてたよな。あと導入長過ぎィ」
『しゃーないだろ。複雑なんだから』


(背納サイド)

 

「・・・ん?」

USJ事件明けの朝。皆が登校し始めている時分に、ボクは妙な気配をキャッチする。

ゼノモーフの生体信号なのは変わり無いが、識別反応が知らない個体だ。

反応は2つ。この教室に真っ直ぐ向かってきている。

クッソ、こんな日に限ってドクもマックス居ないんだから・・・

「おはよ~」

「おはようございます」

「・・・あれ?」

気配の元は、百ちゃんと響香だった。何で2人にゼノの反応が・・・

「っあ」

もしかして、()()()()()()()()、かぁ~!?

うん、実際それ以外要因が無さそうだし、多分間違い無い・・・けど・・・

「油断したぁ~ッ・・・」

20人以上生んでくれてる出久ですら、意識を集中すればお互いを気配で察知出来るとかその程度だったのに、まさかたった一回で此処まで改造するとは・・・

「ねぇ背納、ちょっと良い?」

「あっハイッ」

響香に突然話し掛けられ、思わず肩が跳ねる。

「何かウチ等、さっきから変な違和感があるんだよね。背納は何か分かんないかな~って思ったんだけど・・・明らかに心当たりあるねこれ」

「そうですわね。あからさま過ぎますわ」

・・・もう正直に言う以外無いなこれ。と言うか、よくよく考えれば隠す理由なんて無いし。

(・・・ねぇ、これ聞こえる?)

「「ッ!?」」

やっぱりテレパシーも通じてるっぽいねコレ。

(取り敢えず、席に着いて。他に聞かれる訳にもいかないし)

「「・・・」」

2人は黙って頷き、自分の席に着いた。

(これは恐らく・・・昨日2人が、その・・・()()()()()()のが、原因だと思う)

((っ・・・))

どうやら言葉の送信はまだ出来ないみたいだけど、受信は完璧みたいだね。

(ゼノモーフには、苗床の身体を改造する能力があるんだ。出久ともお互いに気配で察知は出来るんだけど・・・まさかたった一回でそれを飛び越えるとは思わなかったよ。

練習すれば、2人とも自由に交信出来るようになると思う)

「おはよー・・・あれ?」

と、此処で出久が教室に来た。若干困惑しつつ、ボクの方に駆け寄ってくる。

「ねぇせっちゃん、マッちゃんとドクちゃん、来てないの?」

「あー、ちょっと野暮用だってさ」

「うぅん、おかしいな。確かにドクちゃん達みたいな気配がするんだけど・・・」

「・・・多分それ、百ちゃんと響香だわ。あ、耳郎響香ね」

「・・・あっ」

出久の顔がボッと赤くなった。察し良すぎじゃん・・・

(ゴメン、出久には気配でバレたっぽい。あと細かい所はともかく、あの顔は多分ボク等の関係も察したと思う)

((っ~!?))

(ゴメン。でもマジで気配で分かるよ2人とも)

もしかして、此処までマックスの掌の上だったりするのかなぁ・・・我が腹心ながら末恐ろしい・・・

「オーイお前ら~、席着け~」

なんて考えてたら、教室にミイラ男(マミー)が入って来た。

「相澤先生、大丈夫なの?」

「婆さんの処置が大袈裟過ぎるだけだ」

相澤先生すごいな。確か顔面と腕グシャグシャにされてなかったっけ?

「まぁそれはさておきだ。お前ら、ノンビリしてる暇はない」

相澤先生の言葉に、教室内の空気がピリッと張り詰める。

「ま、まさか、また敵が・・・」

「雄英体育祭が迫っている!」

『学校っぽいのキターッ!!』

あー、体育祭か。

「煩いぞ・・・まぁ、まだ3週間の猶予がある。逆に言えばそれしかない訳だが・・・各自、鍛練を怠らないように。申告すれば放課後に訓練室を貸す事も出来る」

へぇ、それは良いこと聞いたね。

 

―――――

――――

―――

――

 

2時間の特別時間割が終わり、放課後。

ボクはクラスメイト達に声を掛けられ、体操着に着替えて訓練室に来た。何でも、零距離戦闘術(ゼロレンジコンバット)を教えて欲しいらしい。

訓練に来たのは、ボクと同じく教官の出久。教わる側は、響香、百ちゃん、三奈ちゃん、麗日さん、梅雨ちゃん、葉隠さん、飯田君、切島君、尾白君だ。

A組の女子は全員来てるね。

「じゃあ、これから実戦的戦闘術の教授を始めます!」

『お願いします!』

うん、皆元気だね。

「さて、早速だけど、皆は零距離戦闘術(ゼロレンジコンバット)を学ぶ上で何が大切か分かるかな?」

「ハイッ!腕力ッ!!」

「バカタレ」

自信満々に手を上げた切島君だが、答えが真逆だ。正解とは対極だよその答えじゃ。

撃沈する切島君を他所に、次の回答者を探す。

「体幹とか、身体のバネかしら?」

「それも無いことは無いけど、飽くまで前提。それ以上に基礎的な事があるんだよ梅雨ちゃん」

「動きのキレ!」

「当たらずとも遠からずだけど、それに直結するもっと根本的なものだよ三奈ちゃん」

うーん、皆やっぱり分かんないかな?

「えっと、ストレッチ・・・でしょうか。お2人とも、普段から肩をグリグリと回していらっしゃいますし、歩き方も独特ですわ」

「百ちゃん正解!」

「その観察眼は戦場でも活かせるから、しっかり磨いていこうね、八百万さん」

流石は百ちゃんだね。良く観てる。

「百ちゃんが言った通り、必要なのは関節のストレッチ。アウターマッスルは使わず、骨とインナーマッスルに依存するのが零距離戦闘術だよ♪

と言っても伝わり難いだろうし、実際に触って貰おっか。男子は出久ね」

「OK」

ボク等は上着を脱ぎ、深呼吸して筋肉を弛める。

「じゃ、両手で肩甲骨を触ってみてね」

「誰からでも良いよ?」

「おー、ほんじゃまずは俺頼むわ!」

「じゃあ触出はあたしー!」

切島君と三奈ちゃんが前に出た。それぞれ相手に背中を向け、手を当てさせる。

「じゃあいくよ?まずこれが平常ね。そっから、ハイ開く」

「おぉっ!」「わっ!すごい!」

まずは、肩を前に引き出して開く動き。これだけでも、出来る人と出来ない人じゃ全然違う。

「ハイ閉じる」

「おぉ~」「へぇ~」

「右肩前、左肩後ろで、ハイ回転。ハイ逆」

今度は両肩とも横からみた時時計回りになるよう同時に回す。勿論逆回転も。

「うわぁ、何だコレ・・・」「ホントに骨あるの?」

「あるよ!骨無きゃウェイヴ使えないよ!」

まぁこの回し方の体験を皆にやって貰って、お次は実践。

「じゃあ、切島君と飯田君。僕とせっちゃんは背中合わせになるから、両側から挟み討ちしてみて」

「あ、あぁ分かった!」

「おうッ!」

出久とボクは背中をくっ付け合い、互いの肩甲骨を連動させる。相手と自分が同じ一個の細胞になる事を意識しながら、敵役の飯田君に眼を向けた。

「タァッ!」「オラッ!」

「「シ~ュッ!!」」

敵が動く瞬間、出久と肩甲骨をぶつけ合わせて立ち位置をスイッチ。そのまま出久めがけて突っ込んできていた切島君をひっ掴み、中心に向かって引き倒した。

その先には同じく出久に引き倒された飯田君がおり、頭同士がぶつかる寸前でブレーキを掛ける。

「これが、ウェイヴのコンビネーション戦術の1つ、二人一細胞(ツーマンセル)。2人が1つの細胞で動く戦術だね。

まぁこれは、極めればこんなことも出来るってだけだから、今はまだ気にしなくて良いよ」

敵役を引っぱり起こしてパンパンと手を払うと、皆から拍手が湧いた。

「で、零距離戦闘術ってのはこういう事なんだけど・・・飯田君と切島君には無理だね。出久、ジークンドーとかでカバーしてあげて」

「はぁ!?ちょ、待てよ触出!そりゃあんまりだぜ!」

「仕方無いでしょ。君の戦術に合ってないんだから。もっと君向けなのもあるから!素直にそっちを出久から教わりなさい」

少ししょんぼりしつつ、出久の方に向かう切島君。多分、ジークンドーのストレートリード*1とかが合うでしょ。

「えー、出久に預けた2人は、ウェイヴの見込みは無かったんだよね。此処にいる皆は、一応出来るっちゃ出来る。見込みが無くは無い。

取り敢えず、この中で肩凝り持ちの人居る?」

「あ、はい。私すごく凝ってますわ」

予想通りと言うべきか、やはり百ちゃんが手を上げた。

「じゃあ、お尻と地面で直接背骨を支えられるように座ってみて?」

「えっと、こうでしょうか?」

百ちゃんが作ったのは、所謂ぺたん座り。骨盤の形的には女性の方がしやすい座り方だね。

「OK。じゃあ肩の力抜いてね」

百ちゃんの後ろに立ち、その両肩に手を置く。まじまじと見て触れれば良く分かる。すごい凝り方だ。僧帽筋の上中下、全部カチカチに固まってる。

「じゃ、ウェイヴ応用の施術、いってみようか」

自分の肩甲骨の回転を、腕を伝わせて百ちゃんの肩へ。可動域を連動させ、一気に落とす。

 

―コンッ―

 

「あっ❤️」

やたら艶やかな声が聞こえたが、まぁ空耳だと信じよう。

2回目。

 

―コンッ―

「はぅんっ❤️」

 

3回目。

 

―コンッ―

「んはぁっ❤️」

 

ラスト、4、5。

 

―コンッ コンッ―

 

「ひぅんっ❤️」

「うん、百ちゃん?喘ぐの止めて貰っていいかな!?」

「はぃ?・・・あっ」

漸く此方を見てる皆が顔を赤くしてる事に気付いたらしい。

「えっちなマッサージとかじゃ無いんだよ?只の筋肉に対する施術だよ?」

「本当に、すみません・・・気持ち良くて、つい・・・」

(・・・そんなに良かったの?じゃあ今度、た・っ・ぷ・り、シてあげるから、今は抑えてね?)

(っ・・・❤️)

はぁ、どうも百ちゃんがえっちな子になっちゃったなぁ・・・原因ボクか。

「で、どう?軽くなった?」

「え?あっ、すごいですわ!とっても動きやすくなりました!」

ぐるぐると肩を回す百ちゃん。肘がかなり上げられるようになったね。

「それは一時的なものだけど、毎日しっかりストレッチすればボクと同じように動かせるようになるよ♪」

実際に出久がそうだったからなぁ。

「さて、ちょっと前置きが長くなったけど、そろそろ始めようか!

と言っても、まずは身体のチューニングから。零距離戦闘術を修めるには、最低限出来なきゃいけない動きがあるからね。それを教えるよ。見ててね?」

ボクは仰向けになり、尻尾を脚側にしっかり伸ばす。そして両手を胸の前で組んだ。

「この体勢で、()()()()使()()()()()んだよ」

『あ、歩く?』

「まぁ見て貰った方が早い。いくよ、せーの!」

左右の肩甲骨を交互に回し、頭の方へと進む。これがウェイヴの第一関門、肩甲骨歩き。これが出来なきゃお話にもならない。

「わー!すごーい!」

「ケロォ・・・匍匐(ほふく)前進みたいね」

フフーン、良い事言ってくれたね梅雨ちゃん!

「確かに匍匐前進みたいだけど・・・あれよりずっとフレキシブルだよ!この姿勢のままバックしたり~・・・」

『おぉ~・・・』

「右にも・・・左にも行けちゃう!」

肩甲骨歩きで、前後左右に自在に移動して見せる。これが十分出来て、やっと入門だ。

「ハイ!じゃあやってみようッ!」

ボクの合図で早速皆仰向けに寝転んでみるが・・・

「あっれぇ?おかしいなぁ~・・・」

「けろっ、結構難しいのね・・・」

当然というべきか、皆苦戦してるね。

「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」

「ふっ、ほっ、ふっ、ほっ」

そんな中、百ちゃんと尾白君は結構移動出来ている。悪くない。

「一先ず、今日は全員が前後左右に移動出来るようになるまでね!」

『ハーイ!』

 

―パドンッ―

 

「うぉわぁっ!?」

そんなこんなで監督してたら、出久の方から切島君が吹っ飛んで来た。

「身体を上手く使えば、こんな威力を腕力使わずに発揮出来るよ」

「うぉぉぉ、重てぇぇぇ・・・」

「あーコレあれだね。ストレートリード喰らったね」

出久は実戦タイプだからなぁ。まずは体感させて、それに近付けるよう指導していくタイプ。

「切島君!大丈夫か!?」

「おう!ヘーキヘーキ!」

そう言って出久の元に駆け出す切島君。多分かなり加減したねあれ。

「お、麗日さん良いね。何か柔軟体操でもしてるの?」

「えーっと、ヨガを少々・・・」

感覚を掴んだらしく、麗日さんはもう歩けるようになった。ヨガをしてればそりゃそうか。

「さぁて・・・皆どんな戦闘者に育つかなぁ・・・楽しみだなぁ♪」

 

to be continued・・・

*1
パンチの一種。右で打つなら、右拳、右肩、左肩を一直線にして、右足を抜く事で全体重を乗せて流し込むジークンドーの真髄とも言える基本技。肩を引き出す分普通のパンチよりもリーチが長く、一撃が重い。




~キャラクター紹介~

触出背納
戦闘者系化物主人公。
今回はウェイヴ講座だが、実は1Aって結構零距離戦闘(ゼロレンジコンバット)が合ってる人が多いので、有意義な時間になりそうだとワクワクしてる。

緑谷出久
どうも、現代忍者デクです。ニンニン。
切島にはジークンドーを、飯田には躰道を教えようとしている。ただ、切島のジークンドーは兎も角飯田は回転が出来なさそう。
背納やゼノモーフの気配が分かるのは長年殺し合いレベルの実戦訓練を積んできたからだと思っていたが、実際はそれもあるものの、ゼノモーフの生体改造能力でゼノモーフ寄りの体質になっているから。
その体質は、ゼノモーフを察知出来る気配探知能力、痛覚耐性、戦闘者モードへの完全なスイッチ等である。
爆豪への意趣返しでマジでデクって訳せるコードネーム名乗ろうか本気で迷ってる。
候補としてはディストラクターでデクか、普通に戦闘者の亡霊(ソルジャーゴースト)、もしくは亡霊戦闘者(ゴーストソルジャー)か。
因みにディストラクターの場合、《Destruction(破壊・絶滅)》+《Distraction(気晴らし)》+《er(~する者)》という事でスペルはDESTRACTERとなる。

八百万百
本作の恐らくお色気担当的なポジの子。原因は背納が60%、マックスが40%。
とある事情により、ゼノモーフの生体回線の発信能力及び受信能力を手に入れた。練習すればテレパシーで会話出来るようになる。
道具を即興で創り出せる分、小道具をバンバン使う零距離戦闘と相性が良い個性。丁度拓ちゃんねるでミリタリースコップとかクリアーシールドとかの動画が出てくれて嬉しい限り。

耳郎響香
背納の女。
八百万と同じく、諸事情によりゼノモーフのテレパシー能力を獲得。因みにこれは獲得者同士でも通信可能。音のイメージが多彩なのでテレパシーは早々に使いこなせると思う。


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第11話 化物の激情

『さぁて、今回は個人的に言わせたかった事言わせます!』
「数ある内の1つだろ?」
『よく分かっていらっしゃる。それではどうぞ』


(背納サイド)

 

「何この状況・・・」

何時も通りに授業を終えて教室から出ようとしたが、其処には途轍もない人集り。他のクラスの人達かな?

「ケッ、敵情視察かよ。襲撃受けた奴等が珍しいからって動物園のパンダみてぇに見物か?フン、アホらしい。おら邪魔だ退けクソモブ共」

「何でわざわざ突っ掛かるかね。止めなよ爆豪お前。あと君ら退いて?」

こちとらこれから楽しい訓練(デート)なんだよ。そんでもって、平和的な要求1回目は無視と。

「どんなもんかと見にきたら、随分と偉そうだな。ヒーロー科の生徒は皆こんななのか?こんなん見せられると、幻滅するなぁ・・・」

「コレだけを見て十把一絡げにしないでくれる?あと退いて・・・」

ったく、爆豪のせいで僕等までマイナスイメージ刷り込まれちゃったじゃん。そんでもって2回目も無視かよ。

「なぁお前等、知ってるか?普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちて入った生徒が結構多いんだ」

そんなの知るか。どうでも良いから退いとくれ。

「今回の体育祭、成績次第では普通科からヒーロー科への編入も有り得るんだってさ。その逆も然り・・・

敵情視察?俺はそんなんじゃなくて、油断してっと足下ごっそり掬いに行くぞって宣戦布告しに来たつもり」

「あぁそう。精々ボクの命に指を掛けられる立派な敵になってね?それなら大歓迎だから。

あといい加減退けよ」

「隣のB組のモンだけどよぅ!!」

あぁもうまた来た!コイツ等もしかして親の胎内に鼓膜棄ててきたのかな?

「敵と戦ったっつうから話聞きに来たのによぅ!!エラく調()()()()()()()()()()ぁオイ!!」

「・・・あ゙?」

・・・今のは聞き捨て成らん。

「ねぇ~キミぃ~?ボク達の何処が、調子付いてるのかなぁ?」

「は?何処がって・・・ッ!?」

怒りで心拍が上がる。血圧も上がって、頸動脈やコメカミがズクズクと脈動しているのが分かる程だ。

きっとボクの眼は紅く充血してるし、何処かしらに血管も浮かんでるだろう。

 

「ボク等はなぁ、殺され掛けたんだぞ?それも、ホンの端金の為にッ!

命や身体を商品にされ掛けたッ!分かるかッ!分からないだろうなァ!?命を狙われた事も無いような甘ったれ野郎じゃなきゃ、あんな事言える訳無いもんなァ!!」

 

殺気で威圧しながら、B組から来たと言うマッチョマンに詰め寄る。

 

「それだけじゃない!もしかしたら、この中の誰かが身体を良いように弄ばれる可能性だって大いにあった!何せボクが潰した奴等が諸にソレだったからなァ!!」

 

「ッ!そ、それは・・・」

どうやら、人間の悪意についての理解が浅過ぎるらしい。

ボクは悪意の観察は好きだが、こういう悪意も考えもない奴は嫌いだ。

「その可能性を考えすらせずに、気安く口を開くな。あれを経験して調子に乗れる訳無いだろ。寧ろ自分が命を狙われると言う事実を無理矢理教え込まれて、怖い思いをした奴だって居るんだ。この程度の殺気でビビってる奴がとやかく言って良い事じゃあ無い。

・・・行くよ皆。口直し訓練(デート)と洒落混もう」

「あっ、ま、待って背納!」

ボクが歩き出すと人垣が分かれ、丁度良い道が開く。生徒達を引き連れ、ボクは訓練室に向かった。

 

―――

――

 

「フシィィィィ・・・」「ヒュゥゥゥゥゥ・・・」

ボク出久は構えを解き、深く息を吐き出す。周りの皆には基礎を教え終えたので、少しばかり組手をしていたのだ。

「ふぅん?実戦を経験して、技のキレが増してるね。碌でなしのヤンキー共を殲滅させた時とは比べ物にならない」

「そう言えば、最近はストリートファイトもしてないねぇ。またやりたいねぇ」

いやー、中学時代は夏休みとか冬休みとか、祝日とかにも治安の悪い所に遠征してたなぁ~。懐かしい。

「えっ?緑谷って、ストリートファイトしてたのか!?」

「うん、まぁね。髪を後ろでポニーテールに纏めて、ソウルイーターも着けてね。

もっと伸びたら、また括ってみようかな。僕結構伸びるの早いし」

後ろ髪をサワサワと弄りながら呟く出久。RE:BORNの敏郎も髪括ってたしね。

「・・・もしかして、《暗緑の地雷原》とか《血塗れ翡翠の悪魔》とかネットで言われてたあれ、緑谷の事だったり・・・?」

「ん?何だソレ?」

「切島知らない?休日の路地裏ストリートファイトで結構有名になってたヤツ。何でも、『動いた瞬間、地雷を踏んだみたいに吹っ飛ばされた』とか、『悪魔みたいなマスクを着けてて、強さも悪魔並み。5人以上相手に1人で圧勝した』、とか。半分都市伝説みたいなもんだけど・・・」

「あー、まぁそういう呼び方された事もあったね」

出久の肯定に、三奈ちゃんは口をあんぐりさせた。

「殺気を感じ取ったり、複数の攻撃を同時に捌く良い訓練になってたよ。何より楽しかったから、出来ればまたやりたいけど・・・ちょっと難しいね」

肩を竦めて笑う出久と、凍り付く空間。出久、こういうのに頓着しないからなぁ。

「クイーン。例の子供達の教育、完了致しました」

「おぉドク!遂にか!」

と、此処でドクが入って来てくれた。良いタイミングだね。気配も複数あるから、連れて来てくれてるっぽいし。

「ん、じゃあ入っておいで。新しい親衛隊員の御披露目と行こう」

「承知しました。ではまずは・・・」

「アタシだな!」

「うおっ、でっけぇ・・・」

切島君の言う通り、2m以上ある真っ赤な甲殻を持った随分とガタイの良いゼノモーフが入って来た。

「あぁーコラコラ、失礼だろう?クイーンの御前で・・・」

「良いってばさドク。全く、君はホントに固いなぁ。さて、その子は・・・あの蟹の子か」

ざっと全体的に見渡すと、全身甲殻に覆われてガチガチ。前腕からは蟹のハサミに付いている動かない下爪のような刃が飛び出しており、指は鋭く色が黒い。腹の甲殻は白く、蛇腹状になっていて柔軟そうだ。

「そのとーり!鉄板だって紙クズみたいに破れるし、防御力だって銃弾弾く程度はあるぜ?

あー、でも身体が重い分足が遅いけど、其処は勘弁な?」

「うん、良い自己PRだね。

よし、蟹の新兵。女王の名において、汝に名を授ける。

名は《シルヴェスター・アシモフ》。その腕力や握力、装甲の防御力に物を言わせた、対多数戦での殲滅能力に期待している。

腕の良い道場にコネがあるから、空手と柔道を学べ。その体格が活きる筈だ」

「アイアイサー!後悔はさせねぇから、戦う時はバンバン使ってくれよな!クイーン!

お前らも宜しくな!あー、シルとかヴェスって呼んでくれ!」

ガチッとポーズを決めて、皆に挨拶する

ウンウン、割りと姐御肌と言うか、グイグイ引っ張ってくれるタイプだね。

「はぁ・・・もう少し慎みなさい。ンッンン、では、次」

「あぁ、ハイ」

次に入って来たのは、肩甲骨辺りと骨盤辺りから1対ずつ触手が生えた蛸型の子・・・なのだが・・・

豹紋蛸(ヒョウモンダコ)?確か素体は真蛸とか水蛸っぽかったけど・・・」

皮膚が全体的に黄色と茶色の縦縞。そして何より、そこに鮮やかな青の輪紋が規則的に並んでいるのだ。

これは言わずと知れた猛毒蛸、豹紋蛸の特徴である。

「えっと、ドク姉さんが言うには、僕は所謂サイドシフトタイプとの事です」

「私が説明をば。

どうやらゼノモーフには、個性の受け継ぎに少なくとも3つはパターンがあるようです。

1、トバルカインのように《そのまま受け継ぐ》ストレートタイプ。

2、ルークのように、《性能面が著しく強化される》エヴォリューションタイプ。

そして3。恐らく生物型に現れるのでしょうが、《総合的な殺傷能力がより高い近縁種の形質が発現する》、と思われるサイドシフトタイプ。

現在確認しているのは、この3つで御座います」

成る程。確かに、元々ゼノモーフとは生物兵器。ならば、殺傷能力の高い能力を選ぶのも当然か。

それに、生物型の個性の子供が親のソレと近縁種ながら別の生物をベースとした能力を持つ事も多い。ゼノモーフの身で起ころうが、何ら不思議じゃないだろう。となると、サイズによって既に種別では大差無くなった筋力ではなく、明確に敵と優位に戦える毒に特化したと言う事か。

いやはや、やっぱり面白いなぁ。

「よし。女王の名において汝に名を授ける。

名は《(リュウ)》。シルと同じ道場で、中国武術の発勁を学べ。蛸の強靭な筋力と柔軟性を活かすなら、それが一番良いだろう」

「ハイ、分かりました」

冷静沈着で静かな感じだね。シルと背を預け合えば、良いコンビになるんじゃないかな?

「ではクイーン、次で最後ですが・・・恐らく、お気に召して頂けるかと」

「へぇ?それは楽しみだ」

最近産み付けたのは・・・あぁ、青山君か。そう言えばあの子は発育が普通より時間が掛かるとかドクが言ってたけど、漸く身体が完成した訳か。

「さぁ、入って来なさい」

 

―ガチッ ガチッ ガチッ ガチッ―

 

「・・・は?」

思わず変な声出ちゃった・・・でも仕方無いと思う。

何せシル以上に筋骨粒々でムッキムキな子が来たんだもん。

「え・・・っと、ドク?この子の宿主は?」

「青山優雅。あのレーザーの男で合っていますよ」

「マ?」

形質がまるで見受けられねぇ・・・突然変異か?いやドクが言った項目に突然変異(ミューテーション)は無かった。じゃあこれは一体・・・?

「えっと、取り敢えず自己PRをお願い」

「了解」

声は結構ハスキーな感じだな。

ボクが自己PRを要求すると、この子は両腕を前に突き出した。

 

―バコンッ バコンッ―

 

「・・・はい?」

何かと思い見ていると、何と前腕の甲殻が浮き上がり開いたではないか。

いや、前腕だけじゃあない。腹部、丁度ヘソの辺りと、頭の装甲も開く。

しかもその中には、レンズのような水晶体が見えた。

そのまま時計回りに回転し、ボクに見える所をピンポイントでバコバコとスムーズに開閉させていく。まるでアイアンマンのプレート可動チェックみたいだ。

更には背中の突起が大きく発達しており、その間に皮膜を張る事すら出来るらしい。自動車の窓みたく展開したり収納したり・・・

「私の特質は、まず筋力と装甲。シルには一歩劣るものの、それでも並大抵の攻撃では沈みはしない。

そして何より・・・この生体熱光線照射水晶体、此処から放つ熱線収束レーザーによる超遠距離攻撃。これは背中の皮膜から熱を吸収し放つのが主だが、それが出来ない場合は内蔵カロリーを熱に増幅転換する事で照射可能。

また、吸収した全砲撃用熱エネルギーを一極集中して放つ事も出来る」

「・・・オゥマイ仏陀・・・」

事務的と言うか機械的に自己紹介されるが、もうこの子の名前完全に決まった。最初はリップちゃん枠かと思ったけど予定変更。全然違うわ。

「汝に名を授けよう!

その名は《ゼクトール》!光学重戦車としての戦闘力、大いに期待している!」

もう最高じゃないか。ゼクトールはアプトムと並んでガイバーでも大好きなヤツだ。

「今度、ちょっと海岸に行こう。一極集中照射、災嵐終極熱線砲(ブラスターテンペスト)のテストに」

「御意」

あぁ、こんなに心が踊るのは初めてだ。

さっき、内蔵カロリーを消費すると言っていた。熱を吸収し放つとも。ならば、オリジナルの青山君が何故腹を壊すかも分かってくる。

恐らく消化器官から急激にエネルギーを奪って撃ち出しているのだろう。だから急激に消化吸収能力が弱まって腹を壊すんだ。

しかしゼノモーフの遺伝子は、それを解決した!成長に時間こそ掛かったものの、欠点をほぼ完璧に消し去る事が出来たんだ!

「あぁ、本当に、最高だ♪」

指揮のし甲斐があると言うものだなぁ♪

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
悪意は好きだが考え無しの言葉の刃は大嫌いな化物主人公。
もはや何処に地雷があるか分かったもんじゃない。ちなみにあと幾つか地雷がある。
この時代からすると大分レトロな作品が好き。
曰く、この時代では漫画やアニメの中でも大体個性があって当たり前になっているので、フィクションとしての面白味が無くなってしまったからとの事。
今回の命名、ネタは、テラフォーマーズと強殖装甲ガイバー。それぞれ推しは三条加奈子とゼクトール。

緑谷出久
どうも、現代忍者デクです。ニンニン。
背納の影響で、原作でのヒーローへの狂気的な憧れで覆い隠す事無く自らのエゴイズムや闘争本能と真正面から向き合っている。
戦闘訓練の一環として、割りと有名な治安悪い所でストリートファイトをしていた。因みにそこら辺で細々と続けていたヤクザとかからは、『縄張りの掃除をしてくれてるのは助かるけど俺達が周りに嘗められちまいそう』という感謝と危機感が混ざった複雑な感情を向けられていた。だが出久に声を掛けた所割りとすんなり仲良くなり、最近はちょくちょく出久が技を教えたりしていると言う、こっちもこっちで中々ヤバいコネクションを持っている。
一時期髪を括っていたが、受験に合わせて散髪。もうすぐまた括れるようになる。

シルヴェスター・アシモフ
タスマニアンキングクラブをベースとするクイーン直属親衛隊の新顔。手足の指まで甲殻が覆っている上に体重がバカ重い為、立体起動は不可能。
性格は豪快でフレンドリーなサバサバした姐御肌。特技は握撃。
キャラとしてのモチーフは東方の星熊勇儀。
遺伝パターンはストレートタイプ。


豹紋蛸をベースとするクイーン直属親衛隊の新顔。
性格は物静かで、一人称は《僕》。
特技は毒素散布。脊椎動物用と節足動物用で使い分けられる他、宿主が真蛸だったので墨も吐ける。
インナーマウスの先端が蛸の嘴になっており、殺傷力が増している。
遺伝パターンはサイドシフトタイプ。

ゼクトール
青山の完全上位互換。
性格は淡々とした、あまり愛想の無い機械的とも言えるもの。
上半身全体が光学砲撃兵器の塊であり、発射口は両腕に2対、胸に1対、頭部に1つの合計7つ。更に腹部にはブラスターテンペスト用の収束熱線砲がある。また、背中の皮膜から熱を吸収しレーザーを放つ。なので発熱系能力と相性が良い。
弱点として、このレンズがとても脆い事があげられる。しかし、ガタイでお察しの通りパワーも強いので、懐に潜り込まれてもステゴロに切り替えるマルチラウンダータイプでもある。
遺伝パターンはエヴォリューションタイプ。


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第12話 化物の祭典

「強化フラグを乱立させてからの体育祭。はてさてどうなることやらなぁ」
『因みに競技もちょい変える』
「破綻させんじゃねぇぞ?」
『言われるまでも無い』


―シュビッ―

 

走る閃光。割れる海。

周囲から奪った熱を一極集中して放ったそれは、一瞬ではあれど前方数十mの海水を一直線状に沸騰させしめる威力を持っていた。

「は、ははは、アッハハハハハハ!!ぶ、災嵐終極熱線砲(ブラスターテンペスト)ってスゲェーッ!!」

 

―――――

――――

―――

――

(背納サイド)

 

さぁて、なんやかんやありつつも、無事体育祭当日。

A組メンバーは控え室にて、各々の意識統一をしていた。

マックスとドクには、何か嫌な予感がするから司会室の通風口でスタンバって貰っている。

「コスチューム使いたかったねぇ~」

「全員の平等を画す為に、原則使用禁止なんだって」

三奈ちゃんと尾白君が言う通り、コスチュームは基本的に使用出来ない。しかし、事前に届け出をして相手の許可も取れればアイテムの使用は認められる。

ボクと出久も、お互いを殺す為に届けを出して許可も貰った。

「なぁ、緑谷」

「ん、どうしたの?轟君」

と、普段は一匹狼の轟君が珍しく出久に話し掛ける。

「客観的に見て、こん中ではお前が技術面でも精神面でぼ一番強いよな。

でも、俺は勝つ」

「へぇ、君も宣戦布告か・・・受けて立つ。全力で獲りに来い」

出久は一瞬ソルジャーモードになって、轟君に言い放つ。その瞬間轟君の目尻が僅かに痙攣したのを、ボク等は見逃さなかった。

「さぁ!そろそろ入場だッ!!」

「ウッシ、じゃあ行こうか!」

何時ものように肩甲骨を回して、緊張を解す。

そして名列順に列び直し、控え室から廊下へ。そしてスタジアムに入場した。

 

『色々あっけど、やっぱコイツらだろォ!?敵の襲撃を見事耐え抜いた期待の新星ッ!!1年A組だろォ~ッ!?』

 

プレゼントマイクのバカデカいシャウトが響く中、ボク等は事前に頭に入れておいた場所に整列する。

『続いてB組、あと普通科の皆さーん』

・・・よし。プレゼントマイク、有罪(ギルティ)

「選手宣誓!入試首席の・・・」

「あーちょっと待って下さい」

鞭を鳴らすミッドナイトに割り込み、ボクは前に出る。

「ドク、マックス。()()()()()()

 

―ガシャンッ―

 

『うわっちょ、Watts!?』

『なっ、コラッ!何をするッ!』

突然騒がしくなる司会席。どうしたどうしたと観客席や会場がざわつくが、すぐにスピーカーから声が響いた。

『あーあー、よし通じてるな。

ごきげんよう紳士淑女諸君。今し方、この脳足りんなプレゼントマイクがとんでもない失言をしたので、この司会席は我々がジャックした。因みにそれを咎めなかったイレイザーも同罪だ。

あとキミ、いい加減しっかり風呂入ってベッドで寝んさい。随分臭うぞ。

改めまして、此処からは実況のモンティナ・マックスと・・・』

『解説のグロンド・ドク・プルフェッツォルでお送りいたします。

さぁ選手の皆様。あの見る眼の無いバカタレントマイクはああ言いましたが、そもそも雄英に合格して今まで除籍処分になっていない時点で、貴方達は充分に優秀です。我々は公平に実況解説していきますので、何卒、宜しくお願い致します』

「グッチャ!」

皆がポカーンとする中、ボクは司会席にサムズアップする。

これから楽しい楽しい生存競争なのに、皆の気を削ぐような事を言ってくれたアイツを絶対許さん。

「えー、おほんっ。改めまして、選手宣誓!入試首席の、緑谷君ッ!!」

「はい!」

へぇ~、出久首席だったんだ。何も言わなかったな。まー出久の事だから、そんなの聞かれなきゃ自分から言わなくても良いかって考えてたんだろうね。

それにしても、爆豪の顔がスゴい事になってるな。

「宣誓・・・

 

僕達は、1人1人が戦士として鎬を削り合い、相手の喉笛に喰らい付き戦い抜く事を誓います」

 

会場が凍り付いた。まぁ、確かに度肝は抜かれるだろうね。

 

「そして・・・此処からは全員に向けて言おう。僕は、相手に一切の情け容赦無く、男女平等に殴り飛ばし、打ち据え、叩き潰す。皮が裂けようが、爪が割れようが、肉が抉られようが戦い抜く。そんな僕を相手に、生半可な気持ちで無く、本気でこの祭典の優勝を狙うと言うのであれば・・・

 

全力で、獲りに来いよッ!!」

 

シーンと静まり返る会場。ビリビリと震える出久の闘気と殺気は、彼らの口を塞ぐには充分過ぎた。

 

―パキッ―

 

出久がフィンガースナップをして、ボクに視線を送ってくる。

成る程、交代してくれるのか。

ボクはすぐに駆け出し、出久の手を取って台に上がった。

さぁ、あれをやるぞ。長年やりたくて仕方が無かった()()を。

 

「諸君。ボクは闘争が好きだ」

 

一瞬何が言いたいのかが分からなかったらしく、ポカンとする観客席の人達。

構うもんか。続けてやる。

 

「諸君。ボクは、闘争が好きだ!」

 

あぁ、テンション上がってきた!

 

「諸君!ボクは闘争が大好きだ!

殲滅戦が好きだ

突撃戦が好きだ

潜入戦が好きだ

防衛戦が好きだ

包囲戦が好きだ

突破戦が好きだ

退却戦が好きだ

掃討戦が好きだ

撤退戦が好きだ

 

平原で、街道で?塹壕で、草原で凍土で砂漠で海上で空中で泥中で、湿原で。

この地上で行われるありとあらゆる戦闘行動が大好きだ」

 

体温が上がり、興奮で頬に朱が差していくのが分かる。そして前回のUSJ戦での防犯カメラ映像を思い出し、更にイメージを膨らませる。

 

「戦列を揃えたウォーリアーの薩摩式突撃が、敵陣を切り崩すのが好きだッ!!

空中高く放り上げられたチンピラが、テールスピアでズタズタにされた時など心が踊るゥ!!

 

直属親衛隊が放つ個性の異能攻撃が、装甲自慢を打ち崩すのが好きだ。

悲鳴を上げて、我々に背を向け逃げ出す敵兵を飛び掛かり叩き倒した時など、胸がすくような気持ちだったッ・・・

 

尾剣の先を揃えたウォーリアーの集団が、敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。

興奮状態の隊兵が、発狂した敵の手足を何度も何度も刺突している様など感動すら覚えるッ・・・

 

強姦主義のレイプ魔共の股座を蹴り跳ばす時などはもう堪らない!

泣きわめく敵共が、直属の振り下ろした掌と共に、金切声を上げるウォーリアーにバタバタと薙ぎ倒されるのも最高だッ・・・!

 

憐れなチンピラ達が、なけなしの蛮勇で健気にも立ち向かって来たのを、ヤンの140デシベル爆音波砲が後続ごと一網打尽に薙ぎ倒した時など、絶頂すら覚えるッ!!

 

相棒と互いに殺し合い、切磋琢磨するのが好きだ。

必死に捌いていた攻撃が正中に届き、己の命が握られ、死んだと確信するのは、とてもとても、甘美なものだ・・・

 

獣欲にまみれた薬物中毒者共に組伏せられ弄ばれるのは嫌いだ。

四肢を縛り吊し上げられ、前後上下問わず犯し尽くされるのは、屈辱の極みだッ!!」

 

己が一度壊れた過去を思い出し、憎悪と共に眼を見開く。

 

「諸君。ボクは闘争を・・・地獄のような闘争を望んでいる。

 

諸君!ボクを女王と呼ぶ、小隊戦友諸君!

君達は一体何を望んでいる?」

 

スタジアムの穴空きドームの上から感じる気配に、ボクは今一度問い掛ける。

 

「新たな闘争を望むか・・・?

情け容赦の無い、クソのような闘争を望むか?

鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐のような闘争(タタカイ)を望むかッ?」

 

―クリィークッ!!!!―

―クリィークッ!!!!―

 

ドームの上にいた親衛隊員達が、身を乗り出して叫ぶ。『我等、闘争を望まん』、と。

 

「宜しいッ!ならば戦争(クリーク)だッ!!

 

我々は今まさに許容を超え、熱く溶け落ちんとする原子炉だ。

だが、この生温い歪な平和の中で10年以上も堪えてきた我々に、只の戦いではもはや足りないッ!

 

大ッ戦ッ争をッ!一心不乱のッ大ッ戦ッ争ッをォ!!

 

平和の象徴の時代も、もう幾許も無く終わりを告げるだろう。しかし社会は頑なにそれを否定し、臭い物に蓋をし続けている。

ならば一足先に、我々がこの先の世界の一端を垣間見せてやろう。

寝ぼけ眼に冷や水を浴びせ、目蓋を開けさせ思い知らせよう!

 

連中に狂気の味を思い出させてやる!連中に、血深泥の戦場の音を思い出させてやる!」

 

皆、固まっている。誰一人、何も喋れはしなかった。

そう、オールマイトは間も無く終わる。世界の平和を1人の背中に背負い込ませていたツケを世界中が払う時が、間も無くやって来る。

 

「この天地の狭間には、微温湯浸りの哲学では思いも寄らない事がある事を思い出させてやる」

 

――クイーン殿ッ!クイーン、総帥ッ!総帥殿ッ!!軍隊元帥殿ッ!!

――クイーン殿ッ!クイーン、総帥ッ!総帥殿ッ!!軍隊元帥殿ッ!!

 

「そしてついにニドヘッグルは蜷局を開き、黄昏へと飛ぶ!」

 

一呼吸置き、再び声高に叫ぶ。

 

「ゼノモーフ小隊(ショグダギ)各員に(バブギンビ)伝達(ゼンダヅ)ッ!隊総帥命令である(ダギゴググギ レギセギ ゼガス)さぁ(ガァ)諸君(ギョブン)・・・

地獄を作るぞ(ジゴブゾヅブスゾ)

 

そう締め括り、ボクは台を降りた。上ではウォーリアー達が大盛り上がり、拍手喝采の嵐だ。

以前空気は凍り付いたまま。はてさて、こんなもんでどうするのさ。

『ミスミッドナイト、悪いが、進めてくれないか』

「ッ!そ、そうね!」

マックスの声にミッドナイトが頷き、漸く体育祭がスタートするのだった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
雄英入試首席の現代忍者高校生。
自分がどんな手段でも使ってやると表明し、勝ちたければお前らもやって見せろと鼓舞した割りとスゴい肝っ玉母ちゃん。
因みに一応優しさはしっかり持ち合わせているので、入試の時は撃破点、救出点共にかなり高かった。
背納と戦う為にアイテムの許可を取ってあるが、背納以外に使わないとは言っていない。

触出背納
やりたかった事がやれてご満悦の化物主人公。
今回見事に少佐の演説をやりきった・・・いや、やりきりやがったヤベー奴。
因みにニドヘッグルとは北欧神話に登場する蛇龍、ニーズヘッグのドイツ語読み。ゼノモーフの別名の1つである大蛇(サーペント)と引っ掻けた洒落。

モンティナ・マックス
司会室をジャックした実況少佐。
彼女としても、背納の成長を促す脅威が眠っているであろう他クラスをその他大勢としてぞんざいに扱うのは許せなかった。因みにマイクは縛り上げられてる。

グロンド・ドク・プルフェッツォル
漸くフルネーム出た解説博士。と言っても原作で名前が出てないので、ちょっと捩ったグランドプロフェッツォルでドクと言う呼び名を挟んだだけ。


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第13話 各々の競争

『さーてと、今回は出久の容赦無さがハッキリ出ますよ』
「どんぐらい?」
『エターナル出久の口から乾いた笑いが出るくらい』
「相当やべぇじゃねぇか」
『あと、今回はほぼ情景描写が出ません。少佐とドクの解説実況をお楽しみ下さい』


(背納サイド)

 

『さーて第1種目、障害物競争!この種目の見所はズバリ何処だと思うね?解説のドク』

マックスのノリノリな実況が入りつつ、ボク達はスタート位置のトンネルに入る。

『そうですねぇ。一周4㎞のコースを走り、最後にこのスタジアムに戻って来るこの競技。ですが着目すべきは、そのルールです。

ルールとは、コースにそって進む事、ただそれだけ。

ぶっちゃけ破壊妨害何でもありで、そもそも人によっては走る必要すらありません。飛べる奴は飛べば良い。そしてそう言う輩が地べたを走る事しか出来ない他の選手達を嘗め腐った所で、思いもよらぬ攻撃に墜落!だとか・・・

まぁ要するに、走る選手の発想力や外道さ、そして意図も容易く行われるえげつない行為と、その悪意に巻き込まれる憐れな後続達がどう足掻くのか・・・何と言っても、そこが見所でしょうねぇ』

ドク、腹黒っ・・・流石は女王のカレー皿に涼しい顔してテトロドトキシンをブチ込むマッド。言う事と言うか着眼点が違う。

なーんて自分の腹心にドン引きつつ、ボクは裸足になってトンネルの壁に張り付く。態々鮨詰め状態の下を掻き分けるより、こっちは遥かにガラガラだ。

『おぉっと、壁に張り付きスタートダッシュを狙うクイーンに対して、ズルい、卑怯だ、等とヤジが飛んでおります!』

『ハンッ、なーんて甘ったるい思考回路でしょうか。ズルいと思うならそれを越える為に工夫なり努力なりしなさいって話ですよ。全く日本の政治家の考えより甘い。

まるでバーホーテンのミルクココアコップ一杯分に角砂糖10個と生クリーム1チューブにワサビ小匙一杯投入してミキサーに掛けたように甘過ぎる』

『味を想像して吐き気がしたんだがどうしてくれる?』

『それは少佐殿、自己責任と言う奴ですよ』

「ぷッくッ・・・」

何かドクとマックスが漫才始めたんだけど・・・地味に笑わせに来んの止めて欲しい。

『あー少佐殿!ランプが点灯しました!』

『おぉそうだなドク』

ドク達の言う通り、トンネルの上からぶら下がっている横並びの5連信号に光が点った。

 

―プッ プッ プッ プッ パァーッ!―

 

「チィアッ!」

信号が全て消えて、競争開始。同時にボクは手を離し上体を落下させ、ネコ科動物の飛び掛かりのようにスタートダッシュを決めた。

 

(NOサイド)

 

『さァー始まりました破壊妨害何でもアリの残虐デスマッチ障害物レェー⤴️スッ!スタートダッシュを決めたのは爆豪選手轟選手、あーっと忘れちゃいけない我らが母上、緑谷選手ッ!』

スタートすると同時に捲し立てるような解説をするマックス。才能をバリバリに活かしまくっている。

『おぉっとォ!?此処で轟選手が後続に対して大氷壁で攻撃ィ!トンネルをふさいでしまいましたッ!』

『素晴らしい勝利への執着です。汚い、流石は人間汚いッ!』

現時点で既に、観客席のギャラリー達は薄々感付いた。

コイツ煽り散らすの好きだなぁ、と。

そんな中、割りと懸命に走っていた峰田が横殴りに吹っ飛ばされる。

『あーっと!此処で最初の障害物、ロボインフェルノですッ!』

立ち塞がるのは、入試の実技試験で使われた仮想敵ロボ。2m程度から15m以上のモノまでが、一斉に生徒に襲い掛かる。

『公立や国立高校とかなら此処で税金の無駄遣いだのなんだの突っつけるのですが、生憎と雄英は私立校ですからね。どんだけ金を湯水のように使ってもイヤミかキサマッ!としか言えないのが悔しい所』

『おぉっと!此処で母上が小ロボを巨大ロボに蹴っ飛ばしたァ!思わず仰け反る巨大ロボ!

そしてその上に飛び乗りアァーーッと!前方に飛んだァァァ!!』

よろけた巨大ロボを踏み台にして、出久は大きく跳躍する。

その反動を諸に受け、巨大ロボはルートの行き先側に向かって倒れた。重心が後ろに来ていた所をめちゃくちゃな力で踏みつけられたせいだ。

『おー、流石は母上。あのロボの巨体を使って妨害しつつ、しっかりと人が居ない方に倒している』

『あーっと、轟選手も凍らせたァ!その股下を悠々と潜り抜けるゥ!

それを追う他の選手ですがアーッ潰されたァァァッ!!』

『オヤオヤ、あの質量では硬質化系の個性でもなければ圧死は避けられませんな。流石は天下の雄英、体育祭で対応力不足の者がタイヤに轢き潰された蛙のように無様に死のうがどうなろうが、心底どうでも良いらしい。

いやはや、こうやって命ごと選別すれば落ちぶれる事も無いしその後諸々で掛かる金もカット出来る。実に合理的な思想ですなぁ』

『オイ、評判を意図的に落とすような事言うな』

『おぉっと苦しいですぞイレイザーヘッド。殺す気が無いと言っても、説得力が欠片も御座いません』

 

「ダーッくそぉ!俺じゃなかったら死んでたぞッ!」

 

『おぉドク、見てみろ!潰されていた硬質化する切島選手が復活したッ!』

『奇跡的に圧死した者は居なかったようですね。取り敢えずこの殺意いじりは此処までにしときましょう』

 

「A組ホンット!性格悪ィなァ!俺じゃなかったら死んでたぞッ!」

 

『おぉ!アイツは・・・あー、えーっとォ~誰だっけ~、ホラあれだ!B組の!

すまない、このシャウトしか取り柄がないバカタレントマイクと違ってその他扱いしてるんじゃ無いんだ!ただリサーチ不足で・・・』

『泣くよ?』

どさくさに紛らわそうともせずボロクソ言いながら弁明するマックス。これにはマイクも涙目である。

鉄哲徹鐵(テツテツテツテツ)ですよ少佐殿。此処に顔写真付き名簿があります』

『人間の名前かソレ!?親が何を思って付けたか気になるな!

まぁ良いか。取り敢えずてっちゃんも頑張っております!

さーてそんなこんなしている内に、トップランカーは既に次の障害物に辿り着きました!恐怖の断崖綱渡り、ザ・フォールッ!

なァんなんだあの崖どォうやって作ったんだ雄英は変人の集まりかァァァァ!!』

『・・・強く否定出来んのが痛いな』

((((((認めちゃったよッ!?))))))

観客席の心が1つになった瞬間だった。

『おぉっと!母上と爆豪選手、そんなの関係ねェとばかりに片や跳躍で、片や爆裂加速で飛び越えて行くゥ!轟選手やクイーン、飯田選手も続きアァーッ此処でクイーン更にスピードを上げたッ!喰い付いて行きます!凄まじい追い上げですッ!』

『我々ゼノにとっては、あぁいった不安定な足場こそホームグラウンドですからねぇ。調子が出たんでしょうか』

 

「ウォラッ」

「あっ!?おまちょっ、ウヷア゙ァァァァァアァァァァァァァァッ!?」

 

『ウワァァァァ!?母上、クイーンを谷底に蹴り落としたァァァァ!!卑劣!何たる卑劣!汚いッ!流石は現代忍者汚いッ!』

『一切の躊躇無くスッコーンと綺麗に蹴り落としましたね。ある意味、信頼あって為せる所業です』

 

「ついでに、でぇいッ!!」

 

―バゴォンッ―

 

『な、なーんて事だァァァァ!?母上、ザ・フォール突破と同時にまさかの地盤踏み砕きだァッ!!ゴールに繋がる縄が全て!接合部が壊れて、谷底に落ちていきますッ!』

『後続への妨害にも抜かりありませんね。全く、母上は本当に何時も我々の予想の右斜め上に2回転半程捻り込みながらスッ飛んでいってくれます』

 

「ハッハハハハハハ!いィずくゥゥゥゥッ!!蹴り落としてその上に岩の雨とかこォろす気かテメェ!!」

 

『寧ろ何で生きてるんだクイーン。何故死なないんだ。宇宙人か』

『マジレスするとホントに宇宙人の個性だからな。あと重大な謀反行為だぞドク』

『何を今さら』

 

「ダーッハハァ!クッソォ遅れたァァァァ!!!!」

 

『おぉ!クイーンが再び怒涛の追い上げ!何と道の脇に植えてある木を伝って走っています!』

『木の反動や角度を瞬時に見極めるのも得意ですからね。これはどうなるかわかりませんよ?』

『さーて、此処でトップランナー達に視点を当ててみましょう。

おぉっと、爆豪選手轟選手、両名の間で凄絶な足の引っ張りあいが起こっております!火花と氷の欠片が舞い散り、その中での潰し合いです!

アーッ!その2人に後ろから着実に迫る母上の魔の手ッ!凄まじいストンプ力で地面を踏み砕いてグングン差を縮めて行くゥ!!

その手は掛かるかッ!?掛かるかッ!?掛かったァ!そして出ェたァーッ!ウェイヴ投げェェェェェ!!』

『両手で左右両者の首を掴み、反撃する間も無く肩甲骨をそれぞれ逆回転してウェイヴを掛け、重心を崩す事で転倒させましたね。倒された両名は頭から見事に叩き付けられました。

まぁあんなんでもヒーローの卵、流石と言うべきか、咄嗟に頭を庇って脳震盪は避けたようです』

 

「きゃあっ!?」

「ウヘヘへェ!」

「クッ、峰田さん!離れてください!」

 

『おーっとぉ!?峰田選手、此処で八百万選手に張り付きました!

全国生中継だぞ!?何をやっているんだあのエロブドウはァ!』

『あーこれはですね。背丈が大きい分歩幅も広くスピードが乗りやすい八百万選手に食い付く事で自分を運ばせる小判鮫作戦・・・と言う建前のセクハラですな、ウン。

見ての通り彼女のスタイルはかなりのモノ。あの万年発情期のエロブドウはそれを目当てに張り付いたのでしょうなぁ。

サイテーです。警察呼びます』

『大丈夫。今あのブドウのせいでスレが乱立して雄英の評判ガタ落ちしてるから最低でも謹慎処分には・・・ってスマホ弄ってる場合じゃねぇ!』

 

―ゴパンッ―

 

「クソ変態は死すべし慈悲は無い」

「せ、背納さん!有り難う御座います!」

 

『流石はクイーン!追い抜き様に変態の側頭部に尻尾を叩き込んだァ!』

『クイーンは無理矢理なセクハラの類いが感情全部シャットダウンして叩き潰しに掛かるレベルで大嫌いですからね。まぁあのエロブドウは間違い無く脱落です。脳が揺れております。何時もより強めに揺れております』

 

―Kaboom!―

 

『っと後ろがそんな事になってる間に、トップは既に最終障害物に差し掛かったッ!先頭は母上!インパクトハイクで飛翔する1位を、爆豪選手轟選手が追うゥ!』

『最終コース《怒りのアフガン》。非殺傷性の地雷原。埋めてある場所は土の色で見分けられますが、1位2位は飛んでますから関係ありませんね』

 

「シャァァァァァァアッ!!」

 

『おぉォォ!!何と此処で、またもやクイーンが追い上げて来たァ!!何と言うスタミナ!何と言う瞬発力ッ!

そして何より、地雷を1つも踏んでいませんッ!』

『我々ゼノはある程度電磁波を知覚出来ますからね。電池内蔵の最新型電子地雷を使ったのが裏目に出ましたな雄英』

 

―Kaboom!!―

 

「れでゅえッ!?」

 

『あっ、旧式もあったみたいだなドク』

『流石は雄英抜け目無い』

『しかし、幸運にも今の爆裂射出でかなり前方へ飛べたな。少なくともトップ5は堅そうだが果たしてぇ~?』

 

「クソがァ!俺の前走ってンじゃねェぞデクゥ!!」

「僕が何処をどう走ろうが僕の勝手だ。貴様には命令権も、身勝手なリンチ特権もありはしない。

追い越せない処かこうやって会話が出来る程度に僕が加減してやらなきゃ追い付く事すら出来ない奴は、その口ホッチキスか何かで縫い合わせとけ。

あーそうそう、体育祭の生中継って、貴様の家のおばさん達も見るんじゃないかな?此処でうっかり僕の口が滑れば、はてさてどうなるかなぁ?」

「テメェ、デクの分際で俺を揺する気かァ!」

「察しが早くて助かる。ついでにそのペチャクチャ煩い奥歯擦りきれた口を開かないで頂けるともっと助かる」

「死ねェェェェ!!」

「死んで欲しけりゃ自分で殺せ。

さて、いい加減そろそろ合わせるのも飽きてきたし、5%から8%に上げるから」

 

―ドワオッ―

 

『おぉっと!母上の踏み込みが地面を砕くゥ!!衝撃と抉れで、轟選手はかなり足を取られています!』

『逆にクイーンはその割れた地面を足掛かりに追いかけておりますね。あ、今し方轟選手を追い抜いて3位に躍り出ました』

『しかし既にゴールは目前ッ!そしてゴールを切るのはァァァァ!?』

 

―ドゴンッ ザリリリリリリッ!―

 

『来ましたァッ!緑谷選手ゥゥゥゥゥッ!!最初から最後まで余裕を持って走り抜き、堂々の1位通過ですッ!!』

 

「クッソがァァァァァァァァッ!!!!」

―BBBBBBOM!!!―

 

『続々とゴール者が現れる中、爆豪選手が癇癪起こして発狂しております。

これがホントの癇癪玉です』

 

「ウッセェ黙れ殺すぞクソが死ねやァァァァッ!!」

 

『あー皆さんお気になさらず。負け犬の遠吠えに耳を傾ける必要等小麦粉の粒程もありません』

 

「あ゙ァァァァァァァァ!!」

 

『おーおーぶちギレたぞあの坊や』

『キレようがキレまいが別段何かしてくる訳でも無いので大丈夫でしょう。

アイツの絶望的なみみっちさなら、此処で司会席に殴り込めばどうなるかぐらい想像出来る筈です。多分、きっと。私はそう信じます。そう自分に言い聞かせる事にします』

 

終始ドクが各方面を煽り散らして、第1種目は終了した。

 

1位・緑谷出久

2位・爆豪勝己

3位・触出背納

4位・轟焦凍

5位・塩崎茨

峰田実、雄英在籍イエローカード




~キャラクター紹介~

触出背納
腹黒次女にドン引いた化物主人公。
今回は上位をしっかりキープしていたものの、出久によって一度あっさり谷底に落下。何とか壁に張り付いたら今度は落石に見舞われて、地雷原でも旧式地雷は見抜けず爆発で吹っ飛んでと見事に踏んだり蹴ったり。
でも最後は意地で3位に収まった。

緑谷出久
D・D・D・D・C(いとも容易く行われるえげつない行為)系魔改造毒舌現代忍者高校生とかいう属性過多にも程がある原作主人公。
コイツは戦いにおいて使える手は全て使うし、寧ろ卑怯・卑劣・搦手がメイン。
正直、正々堂々真正面から勝負とか救い用の無いバカがやる事だと認識している。
とは言え流石に誰彼構わず蹴落とす訳じゃない。あれはせっちゃんなら死なないと言う信頼があったからこそ躊躇無く出来た事。
背納「ヤな信頼だよ全く、踏んだり蹴ったりも良いとこだ」

モンティナ・マックス
司会室ジャッカーの長女。
ユーモア溢れる(?)実況担当。
初手からドクと疾走感溢れる漫才を展開した少佐殿。
今回で語りの才能を思いっ切りフル活用していた。
因みに今回の語り、全部完全にアドリブである。

グロンド・ドク・プルフェッツォル
かなり毒舌が過ぎる解説担当。
初手から少佐と疾走感溢れる漫才を展開した博士。
前から腹黒なのはちょくちょく描写してたが、今回で完全に浮き彫りになった。人間がお互い攻撃し合うのを傍観するのが大好き。
SNSの炎上も毎日チェックしており、その片手間に毒やら麻酔やらを合成するヤベー奴。
今回終始いろんな所を煽りっぱなしだったが、一応嘘は一切無い。それがまた質悪い所。


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第14話 化物の乱戦

「此処の出久、マジでヤバすぎでは?」
『あーうん、しかも自分が戦闘だと認識しなかったら普通にナメプしまくると言うな』
「つまり?」
『前回のは出久にとって背納と当たった時以外全部お遊び感覚。必要無ければ技を晒さない』
「それでいて強ぇんだから質悪いな」


「さーて、予選通過は上位42名!残念ながら落ちちゃった子も安心なさい!見せ場はしっかり用意してるわ!」

 

ミッドナイトが鞭を鳴らし、声を張り上げる。出久と背納はA組のブロックスペースに戻って炭酸抜きコーラを補給し、800mlボトルを秒で飲み干した。

『ほう、炭酸抜きコーラですか。大したものですね』

『炭酸抜きコーラは、吸収の早い即効エネルギー飲料として優秀だからな。あれでエネルギーをキッチリ補給した。次の競技も、あの化物スペックにモノを言わせて暴れるぞォ?』

「あそうそう出久、さっき蹴落とされた分キッチリ仕返しするからね」

「はははっ、そう来なくっちゃ」

そう言って左裏拳を差し出す出久に、背納も同じく左裏拳を打ち合わせて応える。

「ヨシ!休憩も済んだから、そろそろ行こうかな!」

「だね!」

全身の関節をゴリゴリと解し、パキパキと骨を鳴らす出久。

そしてブロックからスタジアム内に戻り、ミッドナイトの指示を待つ。

 

「では、お次の競技ッ!それは~・・・コレッ!」

 

ミッドナイトが鞭を向けると、巨大スクリーンに文字が映し出される。

 

《チームアップ・バトルロイヤル》

 

「へぇ・・・❤️」

「・・・ちょっとは、本気出さなきゃかな」

目を細め舌舐りする背納と、戦闘者モードになる出久。

 

「ではルールを説明するわよ!

障害物競走42位以内の生徒には、下から5ポイントずつ得点が付けられるわ!チームを組んだらメンバー全員がポイントを書いたハチマキを装着し、それを奪い合うの!

因みに、チームアップは4人までね!両肩が地面に付くか、ノックダウンで退場!リーダーが退場したら、最も点を持っている子にリーダーが移るわ!そして、上位4チームが最終種目に進出ね!

ノックダウンした場合は、マックスちゃん率いる直属親衛隊のシルちゃんと劉ちゃんが回収してくれるって手筈よ!」

 

「マックスゥー!貸すなとは言わないからせめて話通してから人手貸しなさぁぁいッ!!確かにボクとほぼ同等の指揮権は与えてるけど、総帥はあくまでボクだぞォ!!」

『あぁすいませんクイーン、言い忘れておりました』

「あー、ごめんごめん女王サマ、アタシてっきり確認はもう取ってたもんだとばかり・・・」

「あー良いよ良いよ。シル達は悪くないから、うん。取り敢えず、お仕事は頑張ってね」

カリカリと頭の甲殻を引っ掻くシルに、背納は手を振って見せる。

「ボクは丁度200ポイントか。出久は普通に行けば210ポイントだけど・・・雄英がそんな生温い事するかねぇ」

「しないね」

「だよねぇ」

 

「尚、1位通過の緑谷君には、校訓に習って良き受難を!と言う事で、1000万ポイントが割り振られるわ!」

 

「・・・1000ポイントとかで良いじゃん。何でそんな過剰配点すんのさ」

「ま、分かりやすくて良いんじゃない?」

「なるべく手の内晒したくないんだけどなぁ・・・」

「・・・ふぅん?」

口では乗り気で無い風に言いつつ、出久の頬がうっすらと上がっている事を見逃す背納(相棒)ではなかった。

「取り敢えずせっちゃん、組んでくれ」

「ん、分かった。これを勝ち進んで、楽しく殺し合お♪」

「ありがとう!」

 

―カンッ―

 

ニカッと笑い合い、裏拳をぶつけ合う2人。

しかし周囲の人間には、2人の向こうに獅子と死神が幻視(みえ)ていた。

 

―――

――

 

『さぁーてェ!10分間のチームアップと作戦会議が終わりましたァ!では早速始めていきましょう!15分間の強奪蠱毒ッスタートッ!!』

 

「狙うは!」

「やっぱり!」

「「「「「「1000万ッ!!」」」」」」

 

『予想通りと言うべきか、全員母上の1000万を狙うがァアアッとォ!!母上クイーン双方容易く迎撃ィ!!』

 

「1」

「2のッ!」

「3ッ!」

 

『す、スゴいッ!背中合わせでお互いをウェイヴ射出し、それぞれ正面の敵に痛撃ッ!同時に空いた2人の背中の隙間から、麗日選手の振り向き様ボディブローが飛び出すゥゥゥッ!!何と言うコンビネーションだァ!』

『3カウント直前、クイーンが母上と麗日選手に肩甲骨ウェイヴで合図を送っていましたね。恐らく、麗日選手には素質があったのでしょう』

 

「ぬぅっ!?足元が泥濘にッ!」

「わっちょちょちょっ!リーダー、どうするッ!?」

「上鳴君はせっちゃんの尻尾に掴まって!麗日さんは左手に!」

「で、ボクは出久の左手ね!」

「OK!行くよッ!」

 

――――踏蹴脚剛撃(ストンプキック・スマッシュ)

 

―ゴパァンッ!―

 

『おぉっとォ!!泥濘化して脚に纏わり付いていた地面を、母上はストンプで全て押し流したァァァッ!』

『己の攻撃で逆にやられる、この手の意趣返しは母上の得意分野です』

 

「っと危ない!」

「フックショットか。伸びてきたのは・・・障子君が腕で作ったテントの中?

百ちゃんの気配はしない。なら、アイテムを使えるサポート科の子かな?」

「まだまだ目立ちますフフフフフフ!」

 

『おぉ!大柄な障子選手の後ろから、サポート科の発目選手が飛び出したァ!』

『あーあれは両手のフックショットで母上を狙っていますねぇ。ワイヤーも丈夫そうです』

 

「私とドッ可愛いベイビー達が目立つ為ですッ!1位のお方、お覚悟をッ!」

「させるかっての」

「どわっ!?」

 

『すかさずクイーンがワイヤーを絡めとりますッ!流石にそう易々とは行かないかァ!』

 

「上鳴君カモン」

「えっ俺ェ!?」

「GO!」

「あーもう分かったから押すなッ!」

 

『おやぁ?何か企んでいるぞクイーン!』

 

「うわっちょっ、重いぜ触出!」

「失礼だな!良いから放電!ホラ早くッ!」

「えぇ?あーもう!どーなっても知らねーかんなッ!」

 

―BAZZZZZZZZZ!!―

 

「アババババババババッ!?」

 

『おぉっとォ!!上鳴選手の放電が、クイーンの握るワイヤーを伝って発目選手にヒットォォォ!!』

『成る程。上鳴選手に負ぶさって、尚且つ上鳴選手の首筋にワイヤーをくっ付けて通電ですか。これなら出口が無いクイーンには通電しませんな』

 

「ふぅん?君のその特徴的な眼・・・ズームアップか。丁度、狙撃兵が欲しかった所だ♪」

 

―グボッ―

 

「ンゴェ!?」

「フフフッ・・・今度こそ、リップちゃん枠の子が来ると良いなぁ♪」

 

『あーっと!ここでクイーンまさかの産み付けですッ!』

『ゼノモーフとしての苗床式交配能力。クイーンは軍隊増強に余念はありませんからねぇ』

『おいスレ民、立ち上がるな。座っとけ。

何?産み付けられたい?宜しいならば面接だ』

『体育祭ってスゲェ・・・』

 

「1日5回限定って教えるの忘れんなよマックス!」

「勝手にお見合い組まれるのは良いんだ」

「来るのはフィアンセ候補じゃなくて兵士の材料だからね」

「ドライだなぁ」

 

『今のクイーンの発言が一部の特殊性癖にぶっ刺さったようです』

『日本は変態大国ですからねぇ』

 

「女王様と呼ぶ事を許してあげるよ!光栄に思え!」

 

『うわぁぁ!今度は豚が湧いたァァァ!』

『そろそろスレ実況から此方の実況に戻りましょうよ少佐殿。クイーンも、変態の油田火災にナパーム弾を撃ち込むのはお止めください。我々のバケツリレーでは収拾しきれません』

 

「フザケながらたァ随分余裕ブッこいてくれんなァアン!?」

「俺達相手に、手抜きする気か?」

 

『おぉっとォここで轟選手爆豪選手両名が2人を強襲ゥゥゥッ!!』

 

「余裕があるうちは程々に楽しむ方が得だよ♪」

「能力を半分も活かし切れてない君が手抜きを語るな」

 

―ガゴッ―

 

「がぁっ!?」「ごぇッ!?」

「キスでもしときな。スピード乗ってる分、お互い熱烈なのをさ」

 

『しかーし!やはりツーマンセルで力を逆利用し衝突させたァァ!』

『そう甘くないと言う事ですよ。そしてこのどさくさに紛れて、物間チームが葉隠れチームのポイントをカッ浚ってます』

 

「あれ!?いつの間に!?」

「漁夫の利♪」

 

「おいコラデク!テメェ、何でハチマキ取れるチャンス捨てやがった!ァアン!?」

「まさか、情けを掛けたとかじゃねぇよな?」

「いやいや、君らを此処であっさり潰してもつまらないから。ただそれだけだよ」

「そう。せっちゃん流に言うなら・・・お前達はまだ、()()()じゃない、かな?」

「そうだよねぇ。やっぱ、潰すなら徹底的にでしょ。此処じゃすぐ終わっちゃうし、何より止め刺せないじゃん」

 

『おやおや、爆豪選手轟選手、どうやら今更気付いたようですねぇ。クイーンと母上にとって、自分達は敵ではなく只の()()なのだと言う事に』

 

「実際この2人とマトモな戦闘なんてした事無いしね」

「ッ~!!クッソがァァ!!」「うおぉォォォッ!!」

「危ないッ!」「隙ありッ!」

 

―バリッ―

 

「――――ッ!?」

 

―ゴォォォォッ!!―

 

『おぉっと!!電撃を受けた轟選手、今まで出さなかった左の炎を出したァァァ!』

『彼の父親のエンデヴァーも観客席で文字通り燃え上がっています。えぇ、火柱です。はい、消防車3台と念のため救急車も』

『ドク!?いつの間に通報した!?まだだ!周りに燃え移ったら警察に引き渡そう!』

『冗談ですよ』

 

「何か上は愉快な事になってるけどさ・・・あれヤバくね?」

「上鳴君に同意。あれはちょっとヤバいで」

「出久は大砲、ボクがストッパー」

「ヤー」

 

―ドゴンッ―

 

『ほうほう、母上のパンチによる拳圧で炎を吹き飛ばすとは』

『しかし、流石にあの高出力は少しばかり堪えたようですね。パンチに使った左腕が完全に脱力状態です』

 

「ッ・・・俺は、何を・・・!?」

「あれ?漸く本気を出したと思ったらもうお終い?」

「興味無いね。本気だろうがどうだろうが、午後の競技で叩き潰す」

 

『さぁぁてッ!残り時間が僅かとなってきております!残り1分ですッ!!』

 

「そんじゃ、ラストだしシフトする?」

「だね。最後はイケイケに・・・」

「「打って出るッ!!」」

 

――~♪~♪――

 

「今宵ッ!月はッ!紅く染まりィ!」

「餓えたッ!獣ッ!群ぅらァがりィ!」

「旨いッ!匂いッ!舌舐りィ!」

「睨みッ!合うッ!」

「「DEAD or ALIVE!!」」

 

『此処でついに2人が歌ったァァァ!!』

『2人はテンションが上がると、気配と歌だけで連携しますからね。此処からは厄介ですよぉ?今までくっついていた2人が、今度は縦横無尽に駆け回りますからねぇ』

 

「この世はァ~弱肉~強~食~!」

「据え~膳~喰うよ~り~♪」

「四肢を奮ゥって!」

「「掴ァみィ!!取ッれェェェェェッ!!」」

「おガッ!?」

「カッ!!!?」

 

『おぉっと、拳藤選手と物間選手がそれぞれ延髄切りと正中四連突きでノックダウンッ!』

『遊びから狩りに意識を切り替えましたな。同時に、最終種目で自分と張り合えるかどうかの選別も兼ねているのでしょう』

 

「賭ァ~けろ!プッラッイッドッ!」

「死ィぬ~までッ!オッオッカッミィ!」

「「負け犬になァるゥ~!つもォりはァ~無い~ッ!」」

 

―バリンッ―

 

「嘘ッ!?」

 

『円場選手のブレスバリアも母上のウェイヴエルボーでアッサリ粉砕ィ!直後にクイーンの前宙踵落としが決まったァァ!』

『安物ならフライパンだって凹みますからね、母上のエルボーは』

『あれやったの母上かッ!つかやらせたのお前かッ!まだ使えたのに!』

『買い換えの後押しをしただけでしょう』

 

「ア~セは~ス~パ~イ~スッ!傷ゥ~痕~輝くッ!!」

「勝~利~のォ味を~!噛みィ!締ィ~めて~!!」

「「次のォ~ステージへ~♪」」

 

「ウボァ!?」

「ゴヘェ!?」

 

『あーっと最後の最後で庄田選手と尾白選手が2人の毒牙に掛かりフィニッシュゥゥゥゥ!!』

『ウェイヴを乗せたボディアッパーを諸に喰らいました。そして此処でタイムアップです』

『それではお待ちかね、結果発表といこうじゃないか!』

『では第4位から・・・ほう。目立つクイーン達を隠れ蓑に、影からポイントをきっちり奪っていたようです。

心操選手率いる、青山、尾白、庄田の心操チーム。しかし脱落者が2名出てしまいました。惜しかったですね』

『第3位はァ~・・・おぉっと、爆豪チーム!メンバーは芦戸選手、瀬呂選手、切島選手です!

これは彼にとっては気に喰わないでしょう!』

『えぇ、何せ彼は入学してこの方、目の敵にしている母上に1度も白星を挙げられていませんからねぇ』

 

「ウッセェェェェェッ!!黙れやクソがァァァッ!!」

 

『あー彼はもうクソがしか言えなさそうなので次いきましょう。

第2位、八百万、常闇、飯田の轟チーム。

途中リーダーが何やら精神を乱されたようですが、全員自分のポイントをキッチリ守っています』

『そして1位は言わずもがなだな!』

『そうですなぁ少佐殿。

ではお待ちかねの第1位!上鳴、麗日、クイーンこと触出の、母上こと緑谷チームッ!!

最初から最後まで余裕をもってポイントを守っていました。麗日選手のウェイヴも短期間で教わったとは思えない程の出来映え』

『上鳴選手は零距離は未履修と言う事で少し馴染めていなかったようだが、それをウェイヴ組がキッチリ上手くカバーして戦っていたな!

さぁて、これにて午前の部は終了!昼食休憩の後でレクリエーションを挟み、最終種目となる!』

『シュレディンガー准尉、後でクイーンにお弁当を持って行ってあげるように』

 

―――

――

 

「ふぃ~、良い汗かいたね♪」

「うぅ~ん・・・まぁ、そこそこ楽しめたかな」

戦闘者モードから朗らかな表情に戻り、背納に答える出久。

 

「俺は・・・何で、()を・・・」

 

「「・・・」」

しかし、2人は気配に敏感だった。故に、会場の隅にいる轟から発せられる強い憎悪の気配に気付く。

「・・・緑谷、触出・・・ちょっと良いか」

「・・・うん、良いよ」

「時間圧すような予定もほぼ無いしね(シュレディンガー。ちょっと遅くなるから、クラスの皆とお喋りして待ってなさい)」

(ハーイ!)

一匹狼に誘われて、化物と死神はその背を追った。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
何時も通り化物主人公。
戦いでテンションが上がると楽しく歌い出すって言う設定を漸く出せた。USJじゃストレスしか無かったし。
因みにトーナメントでは、世界各国生中継でスタイリッシュ国際問題を起こす予定。

緑谷出久
既に敗北のヴィジョンが見えなくなってきてる後出しじゃんけんみたいな現代忍者主人公。
因みにクレッセントブレイドとカプサイシン地獄マキビシ以外にもまだ幾つか専用武器はある。

今回は原作と差別化したくてちょいとばかし変えましたが、ちょっと無茶だったな。


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第15話 聖母の抱擁/化物の至福

『さーて、出久のママが発動します』
「ここん所、鬼畜キャラしか発揮してなかったもんな」
『・・・これBLタグいるかなぁ?』


(背納サイド)

 

「―――――だから俺は、戦いにおいて左は絶対使わねぇ。

母さんの個性だけでトップになって、アイツの全てを真っ向から否定する」

「・・・へぇ」

ボク等を連れ出した轟君は、人気の無い通路で己の過去、そして父への憎悪を語ってくれた。

放熱と冷却のハイブリッドにする為、氷結系のお母さんに結婚を強いた・・・とか、ちょっと根拠が弱い所もあったけど・・・総合的に、《まぁ、そら嫌いにもなるわな》って感じ。

「よぉし出久、出番だ」

「え、僕!?」

肩をポンポンと叩くと、出久はすっとんきょうな声をあげた。

「今の轟君に足りないものは、それはッ!

 

友人・理解者・可愛気・弛緩・希望・夢・自己肯定感ッ!そして何よりもォッ!

()()が足りないッ!!」

 

「いてっ」

バシッと出久の胸板を叩く。轟君はポカンとして、出久はちょっと顔を顰めた。

何だ、轟君も結構可愛い顔も出来るじゃないか。

「轟君、強くなりたいかね?」

「・・・あ、あぁ。当然だ」

「だったらね、張り詰め過ぎてちゃいけないんだ。普段はゆるぅ~く、有事にキチッと。これって、強い人の条件の1つなんだよ。

と言う事で、出久。折寺の聖母と呼ばれたセラピースキルの出番だ」

「うぅ~ん、まぁ20分くらいなら大丈夫だと思うけど・・・」

苦笑いしながら、頬をカリカリ掻く出久。満更でも無さそうだ。

「いや、これは俺の問題だ。誰にも頼らず、自分の力で解決する」

「・・・」

あ、出久のコイツ放っとけねぇスイッチが入った。

「轟君、ちょっとこっちのベンチに座ろうか」

「おい、俺は・・・」

「良いから・・・」

「っ・・・」

有無を言わさぬ出久の気迫に、流石の轟君も大人しく従った。通路にあったベンチに出久が座り、轟君もそれに倣うように隣に座る。

「そんでもってこう」

「なっ、ちょまっ!?」

最後の一押しとして、ボクが轟君を出久の太股の上に押し倒す。

「じゃ、ごゆっくり~♪」

ポンポンと轟君の頭を撫でる出久を尻目に、ボクはクラス別ブロックに戻るのだった。

 

(出久サイド)

 

「「・・・」」

膝の上に乗っている轟君の頭を、僕は優しく撫でる。彼は最初こそ少し強張っていたけど、1分と経たずに落ち着き、身体を預けてくれた。

「緑谷・・・お前、何か個性使ったか?」

「ん?使ってないよ?」

「・・・そっか。何か、不自然なぐらい落ち着くからさ。あの超パワー以外にも何かあんのかなって、勘繰っちまって」

少しだけ目を合わせてそう言うと、また力を抜いて頭を預けてくる。

「どっちかっていうと、暗示や催眠の類いかな」

「?どういう・・・」

「例えば・・・気付いてるかな?僕、さっきから意識して呼吸音を出してるんだけど」

「・・・そう言えば、確かに・・・ん」

だる~んと力を抜きながら、答えてくれる轟君。指先で頭皮を撫でたのが気持ちよかったのか、少しだけ声が漏れていた。

・・・猫みたいで、すごく可愛いな。さっきまでツンケンしてたけど、そのギャップも相まって・・・

「この呼吸音の深さとリズムは、最もリラックスしている時、寝ている時のものに似せてある。

群れで生きる人間は、すぐ側にリラックスしている個体がいると、それにつられてリラックスするんだ。

他にも、僕は君の耳を股関節に当ててるでしょ?血管からの脈動が聞こえると、リラクゼーション効果が高まるんだよ」

「・・・母さん、みたいだ」

「そうだよ。これは、母親の近くで安心する子供の本能の名残。

ぐっすり眠れないんでしょ?側頭筋が張ってるし、この分だと肩凝りも酷そう・・・」

よっぽど、ストレスだったんだろうなぁ。こんな状態で戦っても、すぐ身体にガタが来ちゃう。

「・・・ねぇ、轟君。1つ、質問して良いかな?」

「・・・あぁ」

「・・・さっき、言ったよね?エンデヴァーを否定する為に、氷だけでトップヒーローになるって」

「ッ・・・あぁ・・・」

全身が一瞬緊張した。やっぱり相当ストレスなんだ。

「でも、不思議なんだ。

エンデヴァーが嫌いなら・・・何で、ヒーローになりたいと思ったのか、って」

「・・・ッ!それ、は・・・」

・・・やっぱりそうか。どうにも歪と言うか、不自然だと思ったんだ。

「エンデヴァーは、君をヒーローにしたいと思っていた・・・だったらね?ヒーローを目指さず他の職に就くことが、一番の反抗なんじゃないか・・・そう思うんだよね。

でも君は、ヒーローを目指した・・・ねぇ、教えて?君はどうして、()()()()()()()()()()()()()の?」

「お・・・俺、は・・・」

 

―――特殊技能・《心の鍵開け》―――

言動や癖から心理状態を読み取り、心の歪みを分析、理解するメンタルセラピー技能。心の傷を優しく包み癒す薬にも、抉り返し苦痛を与える猛毒にもなる。

 

「・・・さっき、思わず、左・・・使っちまった、時・・・見えたんだよ・・・昔の、母さんが・・・」

「うん・・・」

「子供の頃に・・・親父みたいに、なりたくない、って・・・母さんを、虐めるっアイツみたいにっ・・・なりたくないって・・・っ」

僕のズボンを握り締め、嗚咽混じりに話す轟君。その掴む手に、僕の左手を。そして、目元には右手を当て、ゆっくりと指で触れる。

「でもっ、俺、かっこいい・・・ヒーローに、なりたくてっ!その時、母さんが・・・なりたい、自分に・・・なってっ、良い・・・って・・・!」

「うん、そっか・・・」

「うぅっ・・・!」

轟君は僕の膝から顔を上げ、胸板に顔を押し付けてきた。今度は、その頭と背中に手を回して・・・抱き締める。

「思い出せて、良かったね。君の原点・・・オリジンを・・・」

「くっ・・・うっ、うぅっ・・・」

あぁ、泣く時でさえこうやって声を圧し殺すのは、彼の不器用さの表れなんだろう。頼り方、甘え方が分からないんだ。

こう言う時は、ああだこうだ言わずに、寄り添ってあげるに尽きる。

 

―――

――

 

「・・・わりぃ」

「良いんだよ。人を癒してあげるのは好きだから。それと、こう言う時は《ありがとう》だよ♪」

「・・・あり、がと」

5分程泣き、照れているのか眼を逸らしながらお礼を言う轟君。

何だろう、可愛い。うん、とても可愛い。

「あ、それとね。君は炎の個性を、《親父の個性だ》って言ってたけど・・・それは他の誰でもない、()()、個性だよ」

「!」

「君は、振り下ろされる拳骨が嫌で、自分の手すら嫌っていた。でも、君のはエンデヴァーとは関係無い、君自身の力だ。あんまり、嫌わないであげて。

今すぐじゃなくて良い・・・でも、少しずつ、自分の身体を、力を愛せるようになろう?」

「愛・・・分からない。今までずっと、恨んだり憎んだ事しか無かった・・・愛せるなんて、思えない・・・」

僕に寄り掛かって胸を掴みながら、弱々しく答える轟君。

当然だ。今さっきまで憎んでいたものを愛するなんて、出来るのは底抜けのお人好しか頭のイカれたバカだけだ。僕の立場なら、爆豪に愛を注げと言われるようなもの・・・自分で例えといてなんだが反吐が出そうだな。

「大丈夫。君が君自身を信じられないなら・・・僕が信じる」

カミナさん・・・台詞、お借りします。

「君は、君を信じる僕を信じろ。そして、僕が信じる君を信じろ」

「緑谷が信じる、俺・・・」

僕を見上げる轟君の眼に、幾らか光が灯った。

「それでも不安だと言うのなら・・・両親が注ぐはずだった愛の、その欠片程度だけど・・・僕が愛を注ぐよ」

「ッ!」

あっ、頬に朱が差したね。年相応の可愛らしさが、しっかり出てきたみたい。

「確か・・・最終種目は、例年通りならバトルトーナメント。もしもその時、君と当たれば・・・君が左を使う、練習相手になってあげる。勿論、本気で勝ちに行くけどね?」

「・・・良いのか?俺、慣れてないし・・・ケガ、するかも知れねぇぞ?」

「はははっ、怪我ならせっちゃんとの組手で、100じゃ利かないだけ死を退けたノウハウがあるから大丈夫さ♪安心して、掛かっておいで!」

「・・・んっ、分かった」

一頻り感情を吐き出した轟君はスッキリした顔ですくっと立ち上がった。

「緑谷・・・ありがとな」

去り際に例を言いつつ、照れ隠しで駆けて行ってしまう轟君。

「・・・ヨシッ!次は負けられないぞ!」

最も、負ける気は更々無いけどね!

 

(背納サイド)

 

「クイーン!お弁当持ってきたよ!」

「おっ、シュレ・・・何その発泡ボックス・・・」

クラス別ブロックで百ちゃんや響香をマッサージで骨抜きにしていると、シュレディンガーがでっかい発泡ボックスを持って来た。しかもこれをお弁当って・・・

「ちょっとお姉ちゃん!速すぎるよぉ!」

「あ、マリス」

マリスはコンロを抱えて走って来た。厳つい見た目で言動可愛いって良いよね。

って、コンロ?

「じゃ、ご飯にしよ~!」

そう言って、シュレディンガーが箱の蓋をガパッと開ける。

「・・・これって、岩牡蠣?」

中に入っていたのは、大量の岩牡蠣。それも通常サイズの倍近くある特大サイズばかりだ。

「これ、ドクが仕入れた養殖岩牡蠣だよ!キッチリ検査も通ってるから、生食しても大丈夫!」

「生牡蠣ッ!そいつは素敵だッ!大好きだッ!」

つか、たまに家で出てた牡蠣の出所はドクか。

「はいナイフ」

シュレディンガーからナイフを受け取り、ちゃっちゃかと貝柱を切って貝を抉じ開ける。

「な、なんっつぅサイズッ!?」

切島くんの言う通り、貝殻の中の身もすごいサイズだ。牡蠣は殻だけでっかくて中身はちっちゃいとかよくあるけど、これはキッチリ大当り。掌に収まらない程の特大サイズだ。

「粗塩とレモン、あとスダチありますけど、使います?」

「おっ、気が利くねぇ!」

殻から身を外して、その上から粗塩を少々。その上からスダチ汁を掛けて・・・食らい付く。

「はんぐっ!・・・っ~❤️」

途端に広がる、クリーミーな旨味。そこに粗塩の旨味が混じり、更に味をサッパリと纏めているスダチの酸味。

口の中いっぱいまで頬張ると、味覚嗅覚全てにこの完全調和が押し寄せてくる。

「ん~っ❤️」

幾度か咀嚼すれば、コリコリムチムチとした貝柱の食感。そこから新たな出汁が染み出て、段々と味のバランスが変わってきた。

若干名残惜しくもそれを飲み込めば、後には仄かな磯の香りがフワリと抜ける。若干の癖があるかもしれないが、柑橘類と一緒に食べればほぼ気にならない程度だ。

「ん~まぁ~いッ!」

肩がビリビリと震え、無意識に脚がパタパタと跳ねる。

これを焼いたら・・・どうなってしまうのだろうか・・・

「コンロの準備出来ました」

「良し焼こうすぐ焼こう一刻も速く焼こうハリーハリーハリーッ!!」

「お、落ち着いて下さいクイーン・・・」

あーもう只では待ってられない。マリスが焼き始めると同時に、ボクは2つ目の牡蠣にナイフを突っ込む。

「す、スッゲェ豪華・・・」

「え?触出、もしかしてブルジョワ?」

さて、今度は塩とレモン!

「じゅるるっ・・・ん~っ!」

今度は、殻を皿に直接啜って口に吸い込む。すると、さっきとは逆にまずレモンの酸味と香りが来た。その痺れるような酸味を、しかしすぐに牡蠣のまったりとしたクリーミーな旨味が和らげる・・・

「パーフェクトッ!」

パーフェクト。正に完全(パーフェクト)。正直、今まで食ってきた牡蠣のなかでトップクラスだ。

「ドクゥ!この岩牡蠣めっちゃ美味しいな!何処で手に入れたァ!?」

 

『私が育てました。品種も改良済みです』

 

「何とッ!これをドクが!?美事ッ!!天晴れだよドク!!極上の絶品だッ!!」

 

『お褒めに与り感謝の極み』

 

良く出来た娘だ。最高の娘・・・いや、最高とは言いがたいな。毒盛ってくるし。

いや、それを抜きにしても、こんなに親孝行してくれる娘はそういないだろう。

 

『因みにクイーンが食中りを起こさなければこれが我が家の収入源に加わります』

 

「そう言うのは口に出さんでええねんッ!!何故にワザワザ言うんじゃ!しかも全国放送やぞ!」

思わずおかしな方言が出た。趣味で色んな作品をチャンポン読みするもんだからたまにこうなるんだ。

 

『ご安心下さい。只のジョークです』

 

「たまにボクの飯に致死量ギリギリのテトロドトキシン盛ってくるような奴が言ったジョークじゃなければアハハで流せたんだけどなぁ!?」

「クイーン、焼けましたよ」

「マジ?ちょーだい」

「「・・・どういう漫才?」」

切島君と上鳴君が欲しかったツッコミを入れてくれる。観客席でも、ちょいちょい笑ってくれてる人がいるみたいだ。

それはさておき、早速焼き牡蠣を頂こう。

「どうぞ」

「おっ、ありがとマリス」

マリスが既に割ってくれた牡蠣を渡してくれたので、まず匂いを嗅いでみる。

「・・・香ばしいな」

やっぱり焼くとね、出た汁が良い感じに焦げて香りが発つね!

「じゃあスダチをたっぷり掛けて・・・はぐっ!」

大口を開け、思い切りかぶり付く。

「んふぅっ!」

その瞬間、旨味や香ばしさが津波のように口内に押し寄せた。舌に電流が走ったような錯覚さえ感じる。

そして身の表面はほんのり固まりつつ、しかし中身はトロリと半固体状のまま。更に貝柱を噛み切れば、さっきとは違いスルスルと裂ける。

「・・・旨味が暴れまわってる」

「どれぐらい?」

「真マジンガー衝撃Z編ラストのロケットパンチ100連発くらい」

「「分かんない(りませんわ)」」

あっれぇ?マジンガー伝わらない?悲しいなぁ・・・

「クイーン、それだけで満足?」

「・・・お覚悟を」

「え?」

何時の間にか出されたNext焼き牡蠣。しかしマリスの手には、金属製のポットがあった。

「そっ、それはァ・・・!?」

シュレディンガーが何処からともなくタッパーを取り出し、牡蠣の上に中身を乗せる。

内容物は、白髪葱に玉葱、輪切りニンニク等の香味野菜。そして更に、別にタッパーに入れてあったタレをスプーンで掛けた。香りからして、生姜醤油・・・あとミリンか。

ん?これってまさか・・・ッ!!

「ちょっ、ちょっとまっ」

「参ります」

 

―ジュワァァァァァァァッ!―

 

「ア゜ァァァァァァァそんな事しちゃァァァァァァァ!!!!」

 

マリスが、持っていたポットの中身を、香味野菜がたっぷり乗せられた焼き牡蠣の上に回し掛ける。途端に飛沫が爆ぜ、香味野菜のそれをこれでもかと抱えた油・・・胡麻油の香りが襲い掛かってきた。

「ち、清蒸(チンジョン)ッ、だとォ!?此処でェ!?」

いや、正しくは清蒸()焼き牡蠣だろう。清蒸は本来蒸した食材に煮えた油を掛けるが、今回は焼きだ。

だがもうどうでも良いッ!!

「汚れは私達がしっかり掃除いたします」

「安心して食べてね♪」

「頂きますッ!!」

流石にこれを摘まんだらちょっとの火傷じゃ済まないので、マリスが渡してくれた割り箸で香味野菜ごと身を摘まむ。

牡蠣は元のうっすら黄色がかったクリーム色の上に黄金色の油を纏い()()()()と輝いている。香味野菜も高温の油でサッと揚げられ、良い具合に狐色になっていた。

二度三度息を吹き付けて温度を下げ、いざ実食。

「あぐっ―――ッッッ!!」

それは正に、味覚の大津波。

牡蠣の旨味たっぷりな熱々のエキスと共に流れ込むコッテリした甘い油。次に生姜醤油の塩味を感じ、多少火傷覚悟でハフハフしながら噛み切れば、今度はカリカリに揚がった香味野菜が食感のパレードを繰り広げ、風味が鼻に抜けていく。

頬張った身を何とか半分飲み込み・・・ラスト、殻に溜まったスープ。これを呷る。

すると、香味野菜から溶け出した風味と醤油、そして濃縮された牡蠣のエキスの全てを包含したスープが新たな旨味で口内を蹂躙し、数秒の後に胃へと流れ込む。

・・・何て事だ。さっきの生牡蠣、焼き牡蠣も完璧だった。間違い無く完璧だった。だがこれは次元が違う!完璧以上に、完成しているッ!!

更に生、焼きにも言える事だが、午前種目でたっぷり汗をかいた身体にはこの塩味が特別染みる。更に牡蠣の滋養強壮効果は香味野菜のビタミン類によって更に底上げされ、生姜の効果で血行が促進、身体が暖まってきた。

「ほぅ・・・」

午前の疲れは、全身から消し飛んだ。全身に活力が満ち溢れ、力が漲る。

「・・・シュレディンガー、マリス。ボクは暫く、身体を消化吸収に専念させる。残った牡蠣はお前達が調理して、欲しいと言う選手に配れ」

「仰せのままに、クイーン」

体力満タン、気合いも十分。これで午後も、闘争(たたか)える。

 

(NOサイド)

 

「ハァ・・・」

「ぐっ・・・ぅ」

暗い路地裏。真っ赤なマフラーと包帯状のマスクを着けた男が、1人のヒーローを追い込んでいた。

ヒーローは手足に裂傷を負っており、マフラーの男・・・通称《ヒーロー殺し》が携帯する刃こぼれだらけの日本刀から滴る血を見れば、それによって付けられたものだと分かる。

「クッソォ・・・こんな、所で・・・ッ」

「ハァ・・・信念無き贋物には、罰を」

 

―ヒュドドッ―

 

「がぁっ!?」

ヒーロー殺しが放ったナイフが、這いつくばり逃げようとするヒーロー・・・インゲニウムの手足を貫く。

「死ね」

そしてヒーロー殺しは、インゲニウムの背中に刀を突き付けた。そのまま体重を乗せ、背骨を貫く―――

 

「男2人がこんな路地裏で、なぁ~にシコシコやってんのさ」

 

―ギャギリッ―

 

「何ッ!?」

―――事は、叶わなかった。突き刺す寸前、何かに刀身を引っ張られたからだ。その刃先は、コンクリートを浅く斬り着けただけに終わる。

「誰だッ!コイツの仲間、また贋物かッ!」

「おいおい、いっぺんに質問すんなよ、英雄狂信者のオナニー野郎」

「ッ!!」

反射的に、声の元に向けてナイフを投擲。しかし、それは空中で銀に煌めく極細の糸に弾かれる。

「おぉっと、あっぶないなぁ。全く、せっかちな奴は嫌われるよ?

あぁ、もしかして、怖い相手には先制攻撃する癖して弱い者にはベラベラ喋るのは、心に余裕が無い証拠かな?」

煌めく糸を繰りながら、声の正体が姿を見せる。

それは、執事(バトラー)服に身を包んだ160センチ程の小柄な影。しかし、その頭部は異形そのもの。

鋭い牙に、眼球の無い顔。そして後方に長く伸びた頭蓋・・・言うまでもない、ゼノモーフだ。

「き、キミ・・・コイツは、危険だ・・・逃げろッ・・・」

「お生憎様、コイツの邪魔をするのがボクの任務でね」

ニヤリと口角を引き上げ、右腕を大きく後ろに引く。するとヒーロー殺しの刀は糸に引っ張られ、抵抗する間も無くゼノモーフの手に収まった。

「貴様、何者だッ!敵かッ!」

「どうだろうねぇ?少なくともお前の味方では無―――」

 

―キャインッ パシッ―

 

「へいへい、真面目にやるからナイフは投げんで下さいな。どうせ無駄だから」

投げ付けられた2本のナイフの内1本を弾き、もう1本はキャッチ。そして同時に腕を振るい、糸を飛ばして制空権を強奪する。

ヒーロー殺しは怨めしそうに睨みながら、その範囲外に逃げざるを得ず、苦虫を噛み潰して後退した。

「ハァ・・・もう一度聞く。お前は、何者だ!」

「フフッ・・・Yher!ゼノ小隊執事(バトラー)鍛冶師(ブラックスミス)、ウォルター・C(クム)・ドルネーズ!サブリーダーの命に従い、貴様に嫌がらせしに来た」

三度の問いに、今度はキチンと姿勢を正し、わざとらしく丁寧な会釈をするゼノモーフ・・・ウォルター。

「・・・チッ、間合いはそちらの方が格段に広い上、使い熟している。ハァ・・・真正面からは、分が悪い。

今回は、その贋物の命を預けておく・・・次は粛清だ」

マスク越しにも分かる程顔を顰めながら、ヒーロー殺しは撤退した。

「さぁて、大丈夫かい?インゲニウム・・・取り敢えず、止血だな」

「キミは・・・一体・・・いてっ」

「さっき言ったろ?通りすがりの鍛冶好きな執事(バトラー)さ。

取り敢えず、鋼線で程々に縛って止血した。飽くまで応急措置だから末端が少し痺れるだろうが・・・まぁ救急通報もしてあるし、救急車が来るまでの辛抱だ。じゃあな」

テキパキとやる事をこなし、ウォルターは足早に立ち去る。その背中を必死に

眼で追いながら、インゲニウムは意識を手放すのだった。

 

・・・to be continued




~キャラクター紹介~

緑谷出久
聖母を発揮したママ男子。
持ち前の観察眼で、轟をカウンセリング。トラウマの軽減、オリジンの想起を果たした。
尚、このスキルはステインにも使う予定。
因みに轟君が母親の幻を見たのは、コメカミに上鳴の電気刺激を受けたから。

触出背納
牡蠣食って超回復した化物主人公。
アサウラ先生のファングオブアンダードッグ3巻を読んでから、絶対牡蠣食わすって決めてた。
構想ではデザートに1Lの果糖水飲ませようかと思ってたけど、流石に止めた。

グロンド・ドク・プルフェッツォル
何時の間にか牡蠣の養殖にまで手を出してたヤベー博士。細かい所はご都合主義。
たまにこう言う冗談か本気か分からないブラックな毒ジョークを飛ばす。ドクだけにって?喧しいわ。

ウォルター・C・ドルネーズ
漸く出せた死神バトラー。CV:朴璐美
鋼線術をマスターしており、変幻自在。因みにシュレディンガーの次に生まれた子で、勿論無個性。
色々な鍛冶屋に弟子入りを繰り返して鍛冶技術を磨いており、出久がプライベートで持っているクレッセントブレイドシリーズは彼女が作った。
割と下品な下ネタをズバズバ言うし、戦いにおいては敵を煽りまくる。誰に似たのやら。
彼女の働きでインゲニウムの下半身不随は回避したが、4日は意識不明になるので飯田君は原作通り復讐鬼になる。


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第16話 各々の開戦

『さて、ついにお待ちかねのトーナメント!』
「地味に色々と強化されちまってっけど、大丈夫かコレ・・・」


(背納サイド)

 

()()()()()()()~ぅ

法蔵菩(ほうぞうぼ)薩囚位(さついんに)()~」

現在、ボクはちょっと煩悩退散の為に正信念仏偈を唱えている。何故なら・・・

 

A組女子全員、何かチアリーディングしてるから。

 

いや、あれよ。10分程消化吸収してトイレ行って帰って来たらコレよ。皆もう生足ヘソ出しセクシーチアガールズよ。

とまぁそんなこんなで、こう言うのを見ちゃうとどうしても・・・何処とは言わないが下半身が元気になっちゃう訳で・・・熱膨張しないように緊縛封印術式(クロムウェル)第2号を解放しつつお経を唱えてる訳だ。因みに白眼も剥いてるけど、ピット器官でシルエットぐらいは分かるんだよなぁ・・・

「背納、お経詠めるんだ・・・つか白眼恐いよ」

(ゴメンね響香。ちょっと皆のチアリーディング見てたらムラムラしちゃうから)

(っ・・・うん、分かった)

あぁ、早くトーナメント始まってぇ・・・

 

―――

――

 

『さーて、A組のサプライズもありましたが、レクリエーションは無事終了!

そして遂にお待ちかね!バトルトーナメントの開始ですッ!』

『先程搬送された発目さんはご心配無く。産み付けられたゼノモーフが活発化しただけです』

 

情欲地獄も何とか耐え抜き、何とかトーナメントまで意識を繋ぐ事が出来た。ドクめ、さてはこれも見越して牡蠣食わせたな?

 

『トーナメントの組み合わせも出ました。

第一試合、上鳴VS心操。

第二試合、轟VS瀬呂。

第三試合、芦戸VS青山。

第四試合、飯田VS緑谷。

第五試合、塩崎VS触出。

第六試合、鉄哲VS切島。

第七試合、常闇VS八百万。

第八試合、麗日VS爆豪。

因みに、怪我をしても救護ロボとリカバリーガールが控えております。普段抑え込んでいる闘争本能を存分に解放し、良心も思いやりも今はシャットダウン。死ぬ寸前まで楽しく殺し合って下さい』

 

これだよコレ、こう言うのを待ってたんだよ!

出久を見てみれば、戦闘者モードで口角を吊り上げていた。向こうも楽しみで仕方無いらしい。

まぁ、取り敢えず第五試合までボクは暇だ。精々、楽しませて貰うとしよう。

 

―――

――

 

「あーらら、アッサリとまぁ負けたねぇ」

第一試合だが、まぁ煽られた上鳴君がホイホイ相手の術中にはまって自分からリングを降りた。

自分の声に反応した相手をマリオネットにする催眠能力・・・成る程、ボクの催眠の上位互換って訳だ。但し、出久みたいな単独行動を好む戦闘者には相性悪いかな。というかそもそも、真正面から使う手段じゃない。

相手が上鳴君だったのが幸いだったね。

 

―――

――

 

「うっひゃぁ、すごい出力・・・」

第二試合。瀬呂君はテープで先手を打ったけど、そのテープを逆に導線にされて凍り付いた。これも決着は秒。観客席からドンマイコールが響く。

「でも、凍らせたのは必要最低限。メンタルは結構バランス取れてるっぽいね」

 

―――

――

 

「アッハハァ、綺麗に決まったなぁ」

第三試合。三奈ちゃんは飛んでくるレーザーを上手い事ウェイヴで避けて、キレーなアッパーカットで青山君の意識を刈り取った。

ブレイクダンスが得意だからか、ウェイヴの体捌きも覚えが早かったからなぁ。加えてあの個性・・・強い戦闘者になってくれそうだ♪

「さぁて、次はいよいよ出久かぁ・・・楽しみだなぁ♪」

 

(NOサイド)

 

『さーて第三試合!此処までは秒決着ばかりでしたが、今回はどうでしょうかァ!?』

『飯田選手がどう動くかが鍵ですな。緑谷選手こと母上は後の先の達人クラス。尻込みしては、勝率はどんどん下がります』

『では、試合スタート!』

 

「全力で行グホァ!?」

「素直過ぎる。駆け引きも糞も無い」

 

『アーッと入ってしまったァァ!!思い切って飛び込んだは良し!しかし腹にカウンター海老蹴りが炸裂ゥ!』

『突進の勢いに母上の60台後半の体重が突き刺さる蹴り、恐らく呼吸出来ないでしょうな』

 

「フンッ!」

「ぐあっ!?」

「チィアッ!」

「こぁっ・・・」

 

『決着ゥゥゥゥッ!やはり秒殺だァァァッ!!』

『膝を横薙ぎに蹴り、下がった後頭部に肘落とし。タクティカル護身術の応用ですな』

『まぁ大体の人が予想していただろうが、母上の圧勝。決して飯田選手が弱かった訳では無い。単に母上が強過ぎるだけ、また戦術のベクトルが違うだけ。

さぁ、お次はB組の塩崎選手と我等がクイーン、触出背納のバトル!どうなるだろうなぁドク。楽しみだなぁ』

 

―――

――

(背納サイド)

 

『第四試合ッ!全身凶器の戦術兵器ッ!零距離戦闘者(ゼロレンジソルジャー)緑谷出久を育て上げた、戦闘狂(バトルジャンキー)化物(フリークス)ッ!触出背納ッ!』

 

遂に試合はボクの番。ステージに上がり、相手を見据える。

 

『VS!信心深きクリスチャン!茨の修道女(シスターオブソーン)!塩崎茨ァッ!!』

 

「成る程・・・緑谷出久さんのあのバトルスタイルを形作ったのは、貴女ですか」

と、ゴング前に塩崎さんが話し掛けてくる。

「まネ。実戦、つまり勝つか殺されるかの状況で生きていけるように教育を施した。正々堂々だとかフェアプレーだとか、そんなのじゃ生きていけないからね♪

殺されない為には、先に殺すしか無いから」

「・・・とても正気とは思えません」

「ほーう、ボクの狂気は君の常識とか神様とか、その他諸々のいろんなものが保証してくれる訳だ。嬉しいねぇ♪

所で、君の信じる神様の正気は何処の誰に保証されたものだい?」

「・・・分かりました。どうやら貴女とは・・・」

 

『スタートッ!』

 

「分かり合えなッ!?」

「シュシィッ!」

何かどうでも良い事をベラベラと垂れ流す塩崎さんに向けて、落下を生かした突進。何とか目で追って蔓で迎撃しようとして来るが、ウェイヴで避けて逆に左手で絡め取った。

 

―どごッ―

 

「がはっ!?」

「無駄話が長い」

そして左手を引き寄せ、右手で鳩尾を殴り抜く。

 

『オォォッ!!早速鳩尾を打ち抜いたァァァッ!流石は化物ッ!容赦の欠片も無いじゃないかッ!』

 

失礼な。肋骨や胃袋じゃ無かった分だけ手心は加えたよ。が、まぁ内蔵は大パニックだろうなぁ。

「取り敢えず、君の個性・・・我が軍に頂くよ」

 

―グボッ―

 

「んぶっ!?」

 

『出ェたァァァァ!クイーン十八番(オハコ)の産み付けだァァァッ!!』

『2人目ですか。しかもあの個性・・・ふむ。神父服とバヨネットを手配しておきましょうかね』

 

「はい、窒息気絶。ボクの勝ちかな?

・・・そう言えば、確か聖母マリアは処女でイエスを懐妊したんだよね?

おめでとう!マリア様と同じになれたね♪まぁホントに同じかどうかは知らないけど」

 

『カメラ止めろ』

『クイーンの口からスゴくギリギリな下ネタジョークが飛びましたね』

 

―――

――

(NOサイド)

 

「ハッ!シィアッ!」

 

―コォンッ カァンッ―

 

「ぐぅっ!?」

 

『てっちゃん選手圧されているゥ!切島選手は攻撃を諸に受けず、上手く滑らせ受け流しているぞォッ!』

『敵の攻撃を受けず、逆に自分の攻撃はキッチリ喰らわせる。即席漬けではありますが、母上の教え込んだ戦術が活きていますな』

 

「どぅりゃ!」

 

―ガゴンッ!―

 

「ぐぁッ!?」

 

『おぉっと此処で捨て身の踏み込み!肋骨に左肘を突き立てたァァ!!』

『しかも、若干ですがストレートリードを応用していますね。全体重を硬化した鋭利な肘先に集中したエルボーです。中々柔軟に戦えるようになってきましたね』

『それに加えて、てっちゃんはノーガードで全ての攻撃を受けきっているからな。これなら、戦術を齧った切島選手が有利だが果たしてェ?』

 

「ケッ、やるなA組ィ!流石の俺もちっとキチィぜ!」

「ハハッ、重いだろ?俺の拳はよぉ!教えて貰った事ゼッテー無駄にしねぇよーに、身体に刷り込んであるからなァ!!」

「それ俺にも合いそうだッ!終わったらちっと教えてくれやァ!」

「おうッ!一緒に教わろうぜェ!!」

 

『えーっと、ミスミッドナイト。全国放送で涎を滝のように流すのは如何なものかと』

『良いじゃないかドク。こう言った武士道に近い青臭い戦いもまた、戦場とは違った試合の華だ。

母上達のようなタクティカルも良いが、たまにはこういうのも悪くないだろう』

『ふむ・・・まぁ、これはこれで趣はありますな。ミスミッドナイトに関しては趣所か人として捨てちゃいけない何かを捨て去ってるヤベー女にしか見えませんが』

 

「だぁりゃァァァァ!」

 

―カァァァァンッ!!―

 

「がッはァ・・・」

 

『おぉぉ決着ゥゥ!!切島選手の鋭いアッパーカットが、てっちゃん選手を打ち上げたァァァァ!!』

『素のバトルスタイルが似通った2人ゆえ中々良い勝負でしたが、やはり最低限の技術を持つ切島選手に軍配が上がりましたな』

 

―――

――

 

―パァンッ―

 

「ヒャウンッ!?」

「クッ、対策済みかッ!」

 

『常闇選手、開幕から圧されっぱなしだァ!相性が絶望的に悪いッ!』

閃光手榴弾(フラッシュバン)を多用し、常闇選手の黒影(ダークシャドウ)を完封していますね。良い戦術です』

 

「ハッ!」

「ぐあっ!」

「一本ッ・・・ですわ!」

 

『決着ッ!決め手は何と草刈り鎌ッ!!』

『グリップエンドの紐で逆手、順手を瞬時にスイッチ出来る鎌は、殺傷だけでなく敵のコントロールや武器のディザームにも優れています。直接的な攻撃力が無い人でも、戦闘能力が大幅に上がりますよ』

『極めれば固い巻藁もスパスパ斬れるからな。つまり人の首も同じく斬れる。

それはさておき八百万選手、第一回戦突破ッ!』

 

―――

――

(出久サイド)

 

「吸って・・・」

「スゥゥゥゥ・・・」

「・・・吐いて」

「ハァァァァ・・・」

第一回戦、最終試合直前。僕は麗日さんの控え室で、メンタルを調整している。

「はい、息を吐きながら、肩をスゥ~っと下ろして」

「フゥゥゥゥ・・・」

・・・呼吸は正常。脈拍は・・・少し上がり気味、か。まぁ、初めてのミッションを前にこれなら、良い方だな。

「・・・よしっ!ありがとね、緑谷くん!」

「対爆豪用の戦術、頭に入った?」

「うん!キッチリ入ったよ!」

「そっか・・・じゃあ、健闘を祈る。死にはしないし、怪我もキッチリ治して貰える。何があっても平常心で、心は熱く、脳は冷たく。良いね?」

「・・・よっし!じゃあ、緑谷くん・・・」

ドアノブに手を掛け、遠慮がちに此方を振り返る麗日さん。そして左手で精一杯サムズアップを作り、それを僕に向けて見せる。

「決勝で・・・合おうぜッ!」

「・・・うん。待ってるよ。自慢の妹弟子」

なので僕は、優しく微笑んで送り出した。

さぁ、妹弟子。あの男に一杯喰わせてやれ。

 

―――

――

(NOサイド)

 

『さぁ、遂に第一回戦最終試合!個人的にかなり見物な試合だ!

戦いに置いては、つい先日までは素人!然れど母上とクイーンの特訓にて才能を見出だされた未来の戦闘者候補!緑谷出久の妹弟子、麗日お茶子ォォォォッ!!

VS!絶対的な勝ち以外は無意味ッ!目指すは完全勝利のみッ!完璧主義の爆裂暴君ッ!爆豪勝己ィィィィッ!!』

 

「・・・最近コソコソ何してやがるかと思ったら、ンな事してやがったのか」

「フシュゥゥゥゥ・・・」

不機嫌そうに呟く爆豪には答えず、リラックスを保つ呼吸を繰り返す麗日。そしてゆらゆらと肩から先を揺らし、そのまま前傾姿勢で爆豪を見据える。

「チッ、構えまでデクの真似っこかァ?気に入らねェ・・・」

「・・・天才タイプのバクゴーくんと違って、緑谷くんは丁寧に教えてくれるからね。とっても身に付きやすかったよ」

「あ゙?俺がデクより劣ってるって抜かしやがるか?」

「ひゅー、緑谷くんの言う通り頭の回転は早いね」

「・・・ブッ殺すッ!!」

 

『スタートッ!』

 

「死ねェ!!」

迫る爆豪の右手。麗日は瞬時に出久のアドバイスを思い出す。

 

―――挑発されたら、アイツはまず確実にそれに乗り切ったフリをする。僕の名前が君から出た時点で、恐らく自分の癖・・・右の大振りの情報を得ている筈だとアタリを付けて、自分のフェイントに逆利用する筈だ。そしてアイツが狙うなら・・・―――

 

麗日は走馬灯のように走る記憶を意識外に追いやり、左手を外から振るって攻撃を叩き落とすモーションを取った。

 

―BOM!BBOM!―

 

その瞬間、爆豪の右掌が爆発。しかしそれだけでは無い。爆炎で目眩まししつつその反動で前方への慣性を上向きに転換し、台上前転の要領で身を翻して背後から更に爆破する。

「シュッ!」

 

―ボグッ―

 

「がッ!?」

然れど、それすら麗日の・・・否、出久の想定内だった。

「そのパターン、予測済みだよ」

 

『おぉぉッ!麗日選手、爆豪選手の初手フェイントを回避ッ!更に完璧な海老蹴りでカウンターを叩き込んだァァ!!』

『腹筋で何とか防がれたようですが、体重の乗った良い蹴りです』

 

「グゥゥ・・・クソが!デクの入れ知恵かッ!!」

「さぁね?バクゴーくんが読みやすいだけちゃう?」

「ッ~!」

 

―――初撃を凌いだら、兎に角挑発だ。君の作戦がバレないよう、出来るだけ頭に血を昇らせて―――

 

「死ねェッ!!」

「フッ!」

 

―BBBBOM!!―

 

押し寄せる爆破を肩甲骨で身体を引っ張って避け、重心を下げたまま突進する。そして個性を発動しようと、構えた手を突き出した。

「クソがッ!」

 

―BBBOM!―

 

「んぐッ!」

対して爆豪は爆風をぶつけ、麗日を吹き飛ばして迎撃する。

(ヨシ、計画通りッ!)

「でやぁっ!」

爆風を諸に喰らった麗日だったが、上手く受け身を取り着地。再度体勢を立て直し、またも突貫。

「チィッ!それしか無ェんかオメェはよォ!!」

 

―BOMM!!―

 

爆豪はも再び爆破で迎撃。威力は最初よりかなり強めで、麗日のジャージは焦げ、肌は熱で火傷を負う。

「んぎッ・・・はァッ!」

それでも尚、麗日は三度突貫。爆豪もまた、威力を更に引き上げて迎撃する。

「あぐっ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

(まだ、足りない・・・もう少し、もう少しッ!)

霞む視界、震える脚、上がる息。それらに苛まれながら、麗日は()()()

左手の甲を土台に、右手首を乗せその人差し指を伸ばす。そしてそれを身体の前で揺らし、正中の防御とする構え。それは奇しくも、出久が陽月剣を握って作る構えと同じもの。

出久が教えずとも、麗日の身体は自然とその形に収まった。

「だぁァァァァァッ!!」

「しつけェ!!」

 

―BBBBOM!!―

 

「うがっ!」

これで幾度目かの、迎撃。

爆煙はステージ全体まで広がり、先程よりも広く、長く漂う。

「いい加減にしろッ!女子いたぶって遊んでんじゃねーッ!」

「とっとと場外にでも投げ飛ばせェ!!」

1人、2人を発端に、観客席からブーイングの嵐が飛ぶ。それに対して爆豪と麗日は勿論、出久や背納、そして2人に稽古を付けて貰った全員が顔を盛大に顰めた。

 

『等と申しております、少佐殿』

『成る程、追放処分だ』

『聞いたなゼノ小隊諸君。今ブーイングした能無しの猿共をスタジアム外に摘まみ出しなさい』

 

すると、マックスとドクが命令を下す。それを聞いたウォーリアー達は屋根から壁伝いに素早く降り立ち、ブーイングを飛ばしたヒーロー達に飛び掛かった。

そして両手を掴んで抵抗を封じ、速やかにスタジアムの外に連れ出して行く。

 

『えーっと、館内放送から全体放送に切り替えるのは何処かな~っと』

『はい、切り替えましたよ少佐殿』

『おぉありがとうドク。

ン゙ッン゙ン。追い出されたおバカ共。お前等が摘まみ出された理由は2つある。

1つは親切心。この程度で麗日選手への警戒を解くようなら、ヒーロー免許なんぞ返納して別の仕事を探せ。お前等程度では真に賢しい敵に良いように殺され踏みにじられるだけだからな。

そして2つは、貴様等が吐いた爆豪麗日両選手への()()に対しての罰だ。

あの時、爆豪選手は少しでも嗤っていたか?麗日選手は、ちょっぴりでも諦めの色を眼に滲ませていたか?

いいや、その答えはNoだ。もし麗日選手が痛みと恐怖で震え戦意を喪失し、それでも尚爆豪選手が執拗に攻撃を加えていた・・・それならば、先程のブーイングも至極真っ当だ。だが、実際はどうだ?どちらも全く当てはまらないではないか。

麗日選手はまだまだ()()()だ。何をする気か分からなかったからこそ爆豪選手も簡単には踏み込めず、無闇に奥の手を使い決着を急ぐ訳にもいかなかった。

この拮抗状態を、貴様等は麗日選手の敗けだと断じてブーイングしたのだ』

『少佐殿、あのような低能な猿共にはもう少し噛み砕いてやりましょう。

あー、おバカな脳足りん諸君?まぁ要するに、目の前の戦いの本質も見極められないド三流以下のド素人共はその乳クセェ口開くな。そんな暇あったら転職サイト見てシコって寝てろ、と言う意味ですよ』

『おぉ実に分かりやすいな!流石はドクだ』

『お誉めいただき感謝の極み。

さて、選手両名。水を差してしまいましたが、邪魔者は摘まみ出しました。さぁ、存分に続きを』

 

「ケッ、余計な事しやがって・・・」

「・・・そう言う割には、顔険しかったけど?あ、もしかしてトイレ我慢してた?」

「黙れ」

ふらつきながらも軽口を飛ばす麗日に、短く突き放す爆豪。掌を小さく爆ぜさせ、麗日を威嚇する。

「・・・さて、ほんなら次で最後にしよかな」

「おう、来いや。ぶっ殺してや・・・あ゙?」

唐突に、爆豪が怪訝そうな顔をした。それに合わせ、麗日も計画を最終フェーズに移行する。

「漸く違和感に気付いたね・・・解除ッ!」

両手の指先にある肉球同士をくっつけ、個性を解除。すると、爆豪は全てを察して上を向いた。

その視線の先にあるのは・・・無数の石礫(いしつぶて)

爆豪に何度も突貫していたのは、単なる自棄っぱち等では無い。自分ごと周囲のコンクリートを爆破させ、この弾幕の為の破片を調達していたのだ。

(ドクちゃん達がバクゴーくんの気を引いてくれたのはツイてた。その間に、少しずつ蓄えられたから・・・!)

 

「いっけぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

礫の群れが頭上10m以下まで迫った、その時・・・

 

―KABBBBBBOM!!!!―

 

爆豪が掌を上げ、瓦礫弾全てを包む程の大爆発を起こした。それは、戦闘訓練で出久に向けて放った物と同等の指向性爆破。

「ッ・・・緑谷君の、言う通り!」

 

―――爆豪の性格から考えて、僕と同じように幾つか切り札の引き出しがある筈だ。一番可能性が高いのは、戦闘訓練で見た大爆発。それがあるなら、両手で最低2発は撃てる。あの規模の爆発なら、直撃どころか余波だけで冗談抜きの致命傷だ。だから、ダメージを最小限にする対処法を教えておくよ―――

 

しかし、それすら麗日と出久の想定内。吹き飛ばされないよう膝を着いて姿勢を下げ、両耳を塞いで鼓膜を保護。更に口を空け、爆圧を逃がす事で内臓と眼球も守る。

これもまた、麗日が出久に叩き込まれた技術である。

「うぐっ・・・だァ!」

そして爆発の振動を肌で感じなくなると、麗日は両手を着いてそのまま駆け出した。しかし、蓄積したダメージとキャパオーバー寸前の酔いで力が入っていない。

それでも尚走って来る麗日に、爆豪は右掌を向ける。

 

―BBOM!―

 

だがその掌が爆ぜる寸前で、麗日は左肩を後ろに抜いて正中をズラす事で攻撃を躱した。この動きに覚えのある爆豪は直ぐ様左手を脇下で構えるが、麗日は伸びたままの右腕の下に潜り込んでいる。

そして右拳を引き・・・

 

―ドゴッ―

 

「ぐっおっ!?」

自分の正中線ごとスライドさせるように、爆豪の右脇腹をウェイヴパンチで抉った。

しかし、同時に限界も訪れる。疲労、痛み、酔いが一気に身体に押し寄せ、力無く倒れ伏せてしまった。

 

『・・・麗日選手。まだ、やるかい?やるなら、手で合図を』

 

マックスの問いに、麗日は完全な沈黙で答える。身体は脱力しきって動かず、目の焦点も合っていない。

 

『麗日選手、健闘の末に戦闘続行不可!勝者、爆豪選手!』

 

「ッ~!!ン、だとォ!?テメェ、ふざけてんじゃねえッ!!こんな勝ち、俺ァ認めねぇぞッ!!」

 

『フフフ・・・これはもしかしたら麗日選手からの意趣返しかもしれませんねぇ。

勝てぬならば、せめて相手に噛み付きながら負けてやろうと言った所でしょうか。実際、爆豪選手からすればこれは只の自爆に等しい。

相手の勝利条件を潰し、士気を殺ぐ。成る程、何処までも有望な戦闘者です。

勝てそうに無い相手ならば、目的が変わるのは必然。勝利から嫌がらせにシフトする』

 

「クッソがァァァァァァッ!!」

 

トーナメント一回戦第八試合。勝者、爆豪勝己。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
いつもの現代忍者。
飯田は絶望的なまでのカモだった。直線的な動きは予測しやすく、腹に躰道の海老蹴りからコンボを決めて秒殺。
因みに麗日が展開した対爆豪戦術は、特訓中に出久が考えさせた《1-Aメンバーの対処法》から持ってきたもので、大筋はしっかり麗日が考えたもの。出久はちょっと細かいアドバイスをしただけ。

触出背納
ちょっとムラムラな化物主人公。地味に仏教徒(ブッディスト)
さも自分が正気でいると思い込みながら他人の狂気を語る輩は好きじゃない。ので、一発良いのをブチ込んだ。

麗日お茶子
才能アリアリな原作ヒロイン。
そもそもバッドコンディション下で真価を発揮する零距離戦闘術は、酔うという麗日のデメリットに相性が良すぎた。
原作と違い、最後に一発叩き込めている。


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第17話 戦闘者の試練

『もうね、大変だよ何もかも』
「改変しすぎてか?」
「それ以上にトーナメントの戦略練るのが」
『お前、軍師の才能無いもんなぁ』


(出久サイド)

 

「う・・・うぅん・・・っ」

「!」

ベッドの上で寝かされていた麗日さんが上げた唸り声に、僕は僅かに眼を見開いた。

「目が覚めた?」

「ここ、は?・・・いっつつ・・・!」

薄目に周囲を見渡しながら身体を起こす麗日さんだったが、痛みが襲ったであろう腕を強張らせて再びベッドに横たわった。

「無理はしないで、麗日さん。此処は医務室だ。

リカバリーガールの治癒でも、流石にあのダメージは1度に治しきれはしなかったみたいだから。と言っても、もう筋肉痛程度みたいだけどね」

肩に手を置き、緊張を解す。緊張すればする程、其処に意識が集中して痛覚が鋭敏になるからだ。

「・・・そっか。私、負けたんだ」

「・・・そうだね」

「そっか~・・・んあ゙~悔しいッ!あイテテテ・・・アハハ」

歯を喰い縛りながら腕を振るい、痛みに少し呻いて乾いた笑いを漏らす麗日さん。だが・・・

「・・・妹弟子」

「・・・はい」

「此処には、僕以外居ない」

「・・・うん」

貼り付けたような笑顔は消えども、心の内を明かすには今一歩・・・足りないか。

「・・・求められていないなら、僕からは何も出来ない。

でも・・・最後のウェイヴパンチは美事だった。良いセンスだ。

じゃあ、僕はこれで・・・」

「ま、待って!」

立ち上がりかけた僕の袖を、麗日さんが引き留める。その手の引きに委ねるように、今度は椅子では無くベッドに腰掛けた。

「・・・兄弟子。ちょっと、背中・・・貸して、貰えませんか?」

「・・・あぁ、良いとも。背中でも胸でも、好きにしなさい。これも、兄弟子として当然の事だから」

「優しいなぁ・・・うっ、うぅ・・・うわァァァァァァんッ!!」

・・・やっぱり、泣く程悔しいよね。まぁ、当然か。

「落ち着くまで、背中は貸してあげるから」

左肩と右脇腹に感じる、麗日さんの握力。悔しさで握り締められているが、不意に緩む時がある。苦し気な嗚咽と染みてくる涙が、僕にその全てを伝えてくれた。

・・・抱き締められない事を不甲斐ないと感じてしまうのは、子を産み過ぎて膨れ上がった母性故にだろうか。

「・・・あったかい」

「それは良かった」

一頻り泣き、落ち着いたらしい。嗚咽も止み、深呼吸の揺れが背骨に伝わって来る。

「麗日さん」

「何?」

「確かに、麗日さんは負けた。でも、あの爆豪相手に最後の最後で一発良いのをくれてやった。素晴らしいと思うよ。

それに・・・あのパンチは、バトンでしょ?」

「ッ!気付いてくれてたん!?」

「ハハハッ、ウェイヴマスターを嘗めちゃいけない。良く見えていたとも、君の狙いが」

「・・・えへへぇ♪」

照れくさそうに頭を掻く麗日さん。やっぱり、あれはそういう事か。

「良い判断だ。勝てずとも、ただでは死なない。己の死力を尽くしきり、それを次に繋いだ。

戦闘者として、ベストだった。花丸だ」

「ふあっ」

そう言って、僕は自慢の妹弟子の頭をクシャッと撫でる。そしてベッドから立ち上がり、部屋を出んと扉に向かった。

「・・・緑谷君!」

「ん?」

「・・・兄さん、と呼んでも?」

「・・・フハハッ、ちょっと照れくさいな。でも、悪い気はしない。好きにすると良いよ。

じゃあね」

そう優しく微笑み掛け、僕は医務室を後にした。

 

―――

――

 

「おー師範!お帰り!」

「うん。ただいま、切島君」

ブロックに戻ると、気付いた切島君が手を振って来た。ワキワキと指を曲げて答え、席に座る。

「って師範!次お前だろ?大丈夫か?」

「あっ、いっけない!」

もう轟君と・・・心操君!心操君の試合終わってたか!医務室完全防音だったから気付かなかった!

「慌ただしいなー師範。因みに轟が勝ったぜ。

じゃ、行ってらっさい」

「うん、行ってくる!」

さて、相手は教え子たる芦戸さん。せっちゃんと何時も師弟対決はしてるけど、師の側に立つのは初めてだな。

あぁ、楽しみだ。とても、とても楽しみだ。

 

―――

――

(NOサイド)

 

『第二試合ッ!纏うは強酸ッ!腐食の浸蝕ッ!ブレイクウェイヴァー・芦戸三奈ァッ!!』

 

「ルーブじゃん」

「何それ」

「ウルトラマンシリーズって言う大昔の特撮の1つ。仮面ライダーと共にオススメだよ」

 

『VS!一挙十撃!一動必殺ッ!最年少ウェイヴマスター!緑谷出久ゥゥ!!』

 

芦戸と他愛ない言葉のキャッチボールを交わしながら、出久は肩甲骨を回してストレッチする。そして上着を脱ぎ、マタドールのように両手で持ったまま肩をダルンと下げた。

「さっきは何時も通り瞬殺しちゃったけど、それじゃあ観客の皆さんも面白く無いかもだし・・・今度は、もう少し戦闘らしい戦闘をしよう。あ、ついでにウェイヴや戦闘体術のテストも済ませちゃおうか。

さぁ芦戸さん、楽しませてね?観客(ギャラリー)と、そして僕を」

「アハハ・・・師範はこれまた難しい宿題出すなぁ・・・まッ、やれるだけやってみるけどね!」

凶暴な笑みを浮かべ、楽しみたいと宣言する出久。それに苦笑いしながらも、芦戸は真面目に構える。前傾姿勢で肩甲骨を回し、顔の前で手を揺らす構えだ。

 

『レディ、Fight!』

 

「うりゃッ!」

「フッ!」

 

―バシャッ―

 

「ッシャ!」

「わっぷ!?」

 

『おぉー!流石は母上!芦戸選手の開幕酸液を上着で払い退け、それを被せて視界を奪ったァァ!!』

『しかし、追撃をしませんね。戦闘が成立するまで、決着を着けないつもりでしょうか』

 

「さぁ、次は何が来る?

蹴りか?突きか?平手か肘か、それとも酸か!

闘争はこれからだ!テストもこれからだ!夜明けはまだまだ遠いぞ!さぁ来い門下生!

早く(ハリー)ッ!早く(ハリー)早く(ハリー)ッ!早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)ッ!!」

「うわぁ~ん!スイッチ入っちゃってるぅ~!!」

 

『母上、既に闘争モードに入って眼がギンギンになってるな。泣き言を言わずに居られない芦戸選手の気持ちもよく分かるぞ』

『最初の宣言通り、母上の暴力に男女の差はありませんからな。男女平等に殴り飛ばします』

 

「さぁ、おいで。有望な門下生」

「・・・ヨシッ、覚悟完了ッ!」

芦戸は腹を括り、膝を抜いて突撃する。更にブレイクダンスで培った体幹とバランス感覚で、正中を留めず的を作らない挙動も織り混ぜる高等技術を披露した。

「シアッ!」

そして出久の大股3歩分手前で身体を左に思い切り落とし、右足を振り上げて卍蹴りを繰り出す。

 

―ボッ―

 

「痛っ!?」

「良いキレだ。スムーズになったな。80点」

 

『あーっと母上!芦戸選手の卍蹴りに、同じく卍蹴りを重ねたァッ!!』

「脛同士が綺麗にクロスしていますな。これは痛いでしょう芦戸選手。母上の脛蹴りは木製バット2本をへし折りますからね。骨折していない辺り、かなり加減したのでしょうが」

 

「さぁおいで、我が教え子・・・」

「うぐっ・・・」

出久の気迫に、芦戸はザリリ・・・と、指半分程だが後退る。

 

後退(さが)るなよ・・・ヒーローだろ?」

 

「ッ!!」

挑発であろう出久の叱責。しかし、芦戸の退きかけた精神を叩き起こすには十分だった。

「ヒーローは退かない。戦士は退かない。気高き人間は退かない。

例え、敵の眼を欺く為に逃げ回り跳び回ったとしても、例え、相性が悪過ぎて殺されかねなかったとしても・・・信頼し得る仲間に託しもせず、戦いそのものを投げ出し、みっともなく逃げ出す訳が無い。

あぁそうだ。そんなものは決してヒーローではない。諦めの1つも踏破出来ぬ者が、どうして他者を救う事が出来ようか。

それは最早、人間等ではない。血と糞が詰まった、只の肉袋だ。人の姿貌(すがたかたち)を持っているだけの、無様な負け(イヌ)だ。断じて、()()()()()()()

さぁ、門下生芦戸三奈。お前は何だ?人間(ヒト)か?狗か?それとも・・・化物か?」

「あ、アタシ、は・・・」

見つめた両手をグッと握り、構え直す芦戸。

「フゥゥゥゥ・・・

 

アタシはッ!人間だッ!!」

 

息を吹き出し、強く宣言する。只の肉袋に、無様な負け狗に成り下がるつもりなど微塵も無い。

「然らば、構えろ!零距離戦闘術の基本を思い出せ!」

「・・・スゥゥゥ、ハァァァァ・・・」

芦戸は深呼吸しながら肩甲骨を回し、上がっていた肩をゆったりと下ろして強張った筋肉を解す。其処から全身へと意識を移し、5つ数える間も無く緊張状態から脱した。

「ほう・・・この圧を前に、そうも容易く緊張状態を解くか。やはり才能の塊だ。

師として、その才を磨き上げられる事を誇りに思うよ」

「っ・・・照れるってばさ、師範・・・行きますッ!」

膝を抜いて重心を落とし、()()()と身体を溶かすように前方へ駆け出す芦戸。

そしてウェイヴを乗せて放たれる拳を、出久は腹で諸に受け止めた。

「ごふぇっ!」

出久はご丁寧に完全に衝撃をボディで完全に受け切ってから、バックステップで距離を取る。

(チッ、流し込み切れなかった!)

「フゥゥゥゥ・・・」

息を深く吐き出し、腹筋を波打たせて無理矢理痛みを緩和。身体の内側に意識を集中し、被害を感覚で読み取る。

「・・・僕が脱力して全体に逃がし散らした分もあるけど、明らかにエネルギーが入り切っていない。75点。

良いとこまでは行ってるけど、今一歩だね」

「やっぱりねぇ。だって突っかかるような感じしたもん、肘とかで」

「だが踏み込みは見事だった。良いセンスだ」

軽い称賛を贈りつつ、出久は腰を落として構え直した。

「まぁ、赤点ラインギリギリではあるが合格としとこうか。いや、そもそも修練期間が短過ぎたんだ。本来は年単位で身体に刷り込む技術、逆に良く此処まで練り上げた。

さぁ、最後だ。掛かって来なさい」

「・・・ッ」

構えを作り身体を揺らす出久に対し、芦戸は飛び込むように踏み出す。そして着地した右脚を軸に、左脚で後ろ回し蹴りを突き出した。

「どぇっ!?」

しかし、出久は左足を引いた半身で蹴り脚を捕まえて踵を左肘でホールド。其処から送りのウェイヴを流し込み、芦戸を突き倒す。

そして上がった芦戸の左腕に右腕を絡め、自分の肩に手首を引っ掛けて関節を極め、左手中指を芦戸の頸動脈に突き付けた。

「いッ!?」

「酸で僕の肌が焼けるよりも、僕の指が頸動脈を突き抜く方が早い。どうする?」

「・・・参り、ました」

 

『決着ゥゥゥゥゥッ!!師弟対決、師の勝利ですッ!』

『今回は勝負と言うより寧ろ、完全にテストでしたね。免許皆伝はまだまだ程遠いようです。

ですが、あの殺気ギンギンな母上相手に良く食い付きました。芦戸選手に拍手を』

 

「師範!これ普通に負けるより恥ずかしいんだけど!?」

「ドクちゃーん!止めたげてぇぇぇ!!」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
現代忍者高校生。そして雄英高校ウェイヴ教室(仮)の師範代で、お茶子の兄弟子。
ウェイヴだけでなく、それを他の武術と織り混ぜた戦闘術を教える。また、個性や性格に合わせてバトルスタイルの指導も出来ると言うオーバースペックっぷり。
今回で師匠属性とお兄ちゃん属性が追加。もう属性が多過ぎて通称に困る。

麗日お茶子
爆豪に一杯喰わせた原作ヒロイン。
出久に教わる門下生の中では最も好成績。
現状、出久に抱いているのは恋情ではなく純粋な安心感。此処からどうなるかは、正直作者も分からん。


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第18話 化物の激昂

「お前さ作者さ、遅すぎだろうが」
『開口一番それかい』
「当然だよ。遅すぎるったらありゃしない」
『いや、Eの暗号の方は更新しただろうが』
「俺ちゃんが出てないからノーカン」
『コイツぁ手厳しい』


(背納サイド)

 

『第二回戦、第三試合ッ!!皆様お待ちかねのバトルだぞォ!!』

『次の対戦カードを見て掲示板の豚野郎共もイキリ立っております。

では両選手、入場を』

 

マックスとドクが盛り上げたステージに、ボクは登る。正面からは、切島君が楽しげに口角を引き上げ歩を進めて来た。

 

『恐怖も苦痛も己が餌ッ!!茶飯に等しく闘争を貪り、一挙一動全身凶器ッ!!

闘争(タタカイ)殺戮(コロシ)の術磨き、次の獲物は眼前に!!

化物の女王!!触出背納ァァァァァァ!!

VSッ!!巌より堅き頑健な骨肉!充つるは闘志ッ!!手足は凶器ッ!!身体は鎧で出来ているッ!!

堅殻のハードパンチャー!!

切島ッ鋭児郎ォォォォォ!!』

 

何やら語りが豪華だねぇマックス。ではでは、その紹介に恥じぬよう闘って見せようかな!

「ッシャァ!手加減無しで行くぜ!触出ッ!!」

「望む所だね。寧ろ手加減なんぞしようものなら嬲り殺して脊髄ブッコ抜くつもりだったから、それを聞いて安心したよ」

「こ、こえぇ・・・眼がマジだぜ」

「あ、多分大丈夫だよ。半分冗談だから」

「え?じゃあもう半分は?」

「はてさて、自由にご想像下さいな♪」

プリッと舌舐りしながら、眼を薄めて微笑み掛けて見せる。おやおや、青褪めてしまったねぇ。

 

『切島選手、クイーンの先手に見事に嵌まりましたな』

『如何なる闘いを演じてくれるか!いざ開戦ッ!!』

 

マックスの声をゴングとし、僕らの試合が始まった。

「先手必勝ッ!!」

「後手対抗」

いきなり大きく踏み込みながら放たれた、右のストレートリード。全身のバネの連動も、体幹の捻りも、縦にした右拳から左肩までの直線もほぼ完璧。やっぱり合ってるねぇ、このスタイル。

ボクは冷静に右足を踏み込み、入身になりながら左拳で腕の側面を打ち払う。

「シッ」

 

―メキィッ―

 

「ぐえッ!?」

そして更に右足を抜いて重心を落下させ、右肘を目の前に迫る切島君の右肋に叩き込んだ。

しかし、骨を砕いた感触は無い。どうやら反射的に硬直して防いだみたいだ。脊髄反射でも固まるのは、利点でも欠点でもあるねぇ。

「は、反応はえェ!」

「反応じゃないよ。君はストレートリードを多用する事は分かっていた。それに出久から、ボクは闘いながら学習し強くなる事を聞いているだろうという事も確信していた。

つまり・・・全て予測済みだった訳さ」

「ッ!!」

勿論、これは半分ブラフ。確かにストレートリードを多用するスタイルは観察していたが、出久の話は口から出任せだ。

でも、反応から察するにマジで話してたっぽいな出久は。

「さて、出鼻は挫いた。次はどうする?何が来る?」

「・・・うりゃッ!!」

「・・・ほぉ?」

問いの答えは、岩より固めた正拳突きだった。ウェイヴで正中ごと身体をずらして避け、口角を吊り上げつつ切島君の眼を見遣る。

「挫かれようがどうしようが、俺に出来るのは1つだけ!全力でブッ叩く!

挫かれたなら挫かれただけ、また何度でもブッ叩いてやるだけだッ!!」

「ッ~❤️」

決意に満ちた、鋭い眼。諦める気など微塵もありはしない事がハッキリと分かった。

あぁ、これは良いなぁ・・・ゾクゾクするなぁ❤️

 

『おぉ見ろドク!あの坊や、クイーンのお眼鏡に適ったようだぞ!』

『完全にハートが浮かんでますなぁあの眼は』

 

「あぁ、あぁ・・・素敵だ。やはり人間は、素晴らしい・・・大好きだ❤️」

身体の芯から血が逆巻き、脊髄が疼く。脈拍と体温が跳ね上がり、文字通り熱い息を細長く吐けば、うっすら白い湯気になった。

「切島君・・・いや、切島鋭児郎。君を危険度第三級(カテゴリーCクラス)の標的と、認識する・・・

 

Unlock tha Hypnosis Sealed Bondage Protocols, Nos.Three,Two,and One・・・」

 

指で枠を作る何時ものルーティーンと共に、闘争本能を全解放・・・って、うっかり英語版の承認詠唱が出ちゃったな。いやはや、どうにも気が昂るとするとカナダを思い出す。

まぁ良いか。たまには、趣を変えてみるのもまた一興だ。

 

「Situation〈C〉.Recognized approval by Cromwell activation.

Start unrestricting the use of abilities until you defeat the enemy in front of me・・・」

 

『おぉ、見ろドク!クイーンが本気の化物モードで遊ぶみたいだぞ!』

『しかも英語版の暗示詠唱ですか。よっぽどお気に召したんでしょうねぇ、彼が』

 

「It's a lesson time!!

I'll teach you the battle of・・・the True MONSTER!!」

 

外骨格状であり、尚且しなやかな生体装甲を纏った。そして脳内麻薬がドバドバと溢れ出し、全ての感覚が鋭敏化する。

「ウゥゥゥウッシャァァァァァ!!」

 

―ビリビリビリビリッ ブチィッ―

 

更にズボンのウェストと上着の裾をひっ掴み、刃牙の花山薫がスペック戦でやったみたく力任せに引き千切った。ついでにブラジャーとパンツもだ。

ビチャビチャと涎を溢しつつ、これでもかと身体を落としてスパイダーマンみたいな四つん這いになる。ゼノモーフが最も瞬発力を活かせる体勢だ。

「着甲ッ!!」

 

―ガキィンッ―

 

「ぐッ!?」

足腰と背骨のバネを全て利用して飛び込み、切島君の腹に後ろ足から拳まで一直線に揃えたパンチを打ち込んだ。

 

「爆震ッ!!」

 

―ビキッ―

 

そして拳を瞬時に引き戻して捻りながら更に肩で押し込み、追加で衝撃を叩き込む事で装甲化した腹筋を叩き抜く。

着甲爆震(ブラスト・ストライク)ァ!!」

「ごっへェ!?」

切島は衝撃を諸に受けたせいで、大きく後退し膝をついてしまった。

「どうした?何をへばっている?たかが腹筋を叩き砕かれて、内臓を打ち抜かれただけだろう!ほら立て!立てよ人間ッ!!」

「ぐゥ・・・ぬおォォォォ!!」

ボクの叱咤を受け、切島は笑う膝を固めて無理矢理に立ち上がって見せる。

「まだまだァ!!」

「何だ、やれば出来る子じゃあないか!切島鋭児郎ッ!!」

やはり、この男なら立ち上がってくれると思っていた。期待通りだよ切島鋭児郎ッ!

「ショウッラァッ!!」

 

―ガゴンッ―

 

「ぬぅっ!」

再び踏み込み、右拳でブン殴る。今度は切島の十八番になった、ストレートリードだ。

だが、まだ終わらないぞ。

「イィッサァッ!!」

 

―ガァンッ―

 

「うぉッ!?」

間髪いれず左脚を踏み込み、同時に左拳で追撃。切島は踏ん張りを崩され、重心がブレる。

その胸のど真ん中に、〆の一発!

「デァアッ!!」

 

―ゴキィッ―

 

「ゴッハッ!?」

右踵を地面に打ち込んで身体を跳ねあげ、上体の落下と体重と体幹の捻り全てを右拳に注ぎ込むように大振りに打ち下ろす3撃目。打ち据えた後に、右足を前に出して身体を支えバランスを取り直す。

我流・三歩必殺、全拳撃クリーンヒット。

「ゲホッゴホッ・・・」

「どうした切島ッ!?さっきから棒立ち、まるでただの案山子ですなァ!?早く来いよ!攻撃してみろッ!!」

「い、いや触出お前・・・手が・・・」

「あぁん?手がどうか・・・」

したのか、と聞き掛けて、止めた。ボクの右拳を見れば、今の3撃目のせいだろう。手の甲の骨が折れ、生体装甲を突き破って露出していたのだ。滴り落ちた血が、ステージの地面を腐蝕して煙を上げている。

「あぁ、これか。それがどうした?まだ拳が叩き割れただけじゃねぇか。ほら、能書きを糞尿みたく垂れてないで来いよ。さっさと愉しく続きを殺ろう」

「いや、それ流石にやベェだろ!?」

「・・・はァ?」

何を、言っているんだ?コイツは・・・今、此処は戦場だろう?目の前に立ってるボクは、倒すべき敵だろう?何故戦わないんだ・・・?

「早いとこ、リカバリーガールに「下らんな」・・・は?」

呆けたような顔をする切島。

全く、何だか興醒めだ。正直、此処まで甘ったるい奴だとはねぇ。

「この程度で?狼狽えて、敵に治療を勧める?そんな下らん事の為に、反撃を止めたのか・・・ッ!

巫山戯るなよ貴様ッ!ボクを・・・オレを嘗め腐るのも大概にしろッ!!お前は仮にも、出久に師事を仰いだ戦闘者なんだろうがッ!!それがこのザマかッ!?この体たらくかッ!?エェ!?」

「ひッ!?」

 

『おぉっとこりゃマズいな。一人称が変わる程ぶちギレてるぞ』

『クイーンの前で甘ったれた事を言った切島選手の落ち度ですな』

 

切島の顔が、今度は怯えに歪んだ。全く、表情をコロコロ変えおって忙しい奴だな。

「貴様には失望したよ。まさか人間じゃあ無く、牙を抜かれ飼い慣らされた狗ッコロだったとは・・・」

 

―パキペキッ プチッポキッ―

 

右手の指を引っ張って、突き出ていた骨を元の位置に収める。そして筋肉で少し圧迫してやれば・・・ほォら、すぐ治っちまった。

「手加減などしないと、言うたじゃあ無いか・・・何度でもブッ叩いてやると、言うたじゃあ無いか・・・

しかしどうだ?たった今、オレは貴様に殺されてやる訳にはいかなくなってしまった。いかなくなってしまったじゃあないか。

あぁそうだ。そうだよ、そうだとも!貴様のような腑抜けた狗ッコロなんかに、オレの首をくれてやる値打ちなんぞ在りはしない!

 

化物を殺すのは何時だって人間だ(It's always Humans who kill the Monsters)ッ!!

人間でなければ、(Must be)いけないんだ(the Human)ッ!!」

 

怒髪はとうの昔に天を突き、視界が真っ赤に染まる。全身の筋肉がフル稼働し、体温が跳ね上がっていくのも感じる。

知った事か。オレは今怒ってるんだ。例え身体が燃えようが、知ったこっちゃない。

「貴様では、その能力は活かし切れない。オレのファーストズーグが有効活用してやるよ。喜べ、駄犬」

「ぐぅッ、うわっ!?」

 

―ガキンッ―

 

「うっ・・・」

首をひっ掴んで投げ倒し、馬乗りになりつつ両膝で切島の腕を押さえ、抜け出せないようにホールド。

そして両手を首に添え、全力で握り絞める。

「がッ~!?ッ~!?」

気道と頸動脈を絞められ、切島の顔がどんどん赤くなる。ホールドを外そうと藻掻くが、此方は掴んだ首を引っ張り寄せて足に掛かる圧を上げているんだ。外れはしない。

「ハァァァァァ」

さぁ仕上げだ。

 

―ずりょっ―

 

「ッ!?」

インナーマウスを伸ばし、半開きになっていた口から一気に挿し込んだ。数秒で胚を産み付け、ズルルッと引き抜いて終わり。

最後は、息も絶え絶えな切島を場外に捨てて試合終了だ。

あぁ、いつ以来だろうなぁ?初めてかな?こんなに気分の悪い勝ちは。

 

 

『決着!勝者、触出背納ッ!』

『いやー切島選手、相手が悪かった。クイーンは筋金入りの闘争主義者ですからなぁ。敵からの情けなど、侮辱以外の何物でも無い』

『なまじっか再生能力が強いもんだから、骨折ももはやただの掠り傷と同じような認識してるしなあのお方は。

さてさて、第四試合は爆豪選手対八百万選手です!乞うご期待!!』

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
化物主人公。
闘争主義者のモンスタークイーン。戦いこそ生き甲斐というヤベェレベルの過激派。日常生活と戦闘の切り分けは出来ているが、戦い方の選択肢は《最後までぶち殺す殺し合い》か《殺し切らないけど死ぬ寸前まで殺す殺し合い》しか無い。故に暴力を伴う戦い全般を殺し合いとしか認識出来ないので、敵への配慮、心配の必要性その物が理解出来ず、嫌悪感を抱く。
因みに、現在までの描写内で背納自身が闘争と認識したのは入試の実技試験と脳無戦のみ。他は全部本気のホの字も出していないお遊び感覚。
出久との組手では打撲骨折当たり前な上に大抵すぐ治っちまうので、怪我に対する認識が若干可笑しい。

切島鋭児郎
今回の被害者。
最初こそ気概良く戦いを挑んで背納に気に入られたが、(背納の感覚では)掠り傷程度の何でもない、それも敵の怪我を心配してしまったのが運の尽き。
試合でも怪我したら治療しなきゃという価値観と、戦いで身体が壊れるのは当然という価値観が見事に食い違い、背納の地雷を踏み抜いた。
背納に個性を使いこなせてないと言われたが、あれ完全に作者の意見。あの硬質化能力を脳筋戦法でしか使わないって勿体無さ過ぎる。
素足蹴りで安全靴キックみたく敵の脛を砕けるし、トリコのフォークみたいな形で硬化すればディザームやソードブレイカーのような武器破壊は勿論、指を引っ掛けてブレイカーのようなコントロールウェポンにもなる。
しかも指が折れないから、肩甲骨100%解放ウェイヴパンチとかウェイヴ抜き手とか普通にポンポン使える。更にフォークのままウェイヴで振るえば、でかくて重い鉤爪がコンマ数秒のスピードで襲い掛かる恐ろしい攻撃も出来る。
結論・個性が戦法に活かしきれてない。


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第19話 化物の狂喜

「随分とまぁ空いたもんだなぁ作者よぉ?」
『すまん。新小説の立ち上げとかもやっててつい』
「お前から連載とったら何が残るんだよ」
『屁理屈を捏ねくり回すヲタクでナルシストな脳筋の変態』
「最悪じゃねぇか」
『あと、尺の都合で八百万対爆豪戦はカットします』
「は?」
『代わりに最初はピンク色です』
「よし」


(背納サイド)

 

「ん···此処は···」

「おはよう、百ちゃん」

ベッドの上で目を覚ます百ちゃん。ボクは優しく声をかけながら、その頭を撫でる。

「んぁ···背納、さん?私···あっ」

何かを思い出したように顔を強張らせ、百ちゃんは俯いてしまった。でも、何を思い出したのか、ボクは分かる。

「あ、アハハ···負けちゃったん、ですね。私···」

「···いやー、惜しかったねぇ。あの手裏剣と前面破片炸裂は良いアイディアだったけど、詰めが甘かったね。上に飛んで逃げられちゃった」

「えぇ、ホントに···私は、いつも、肝心な所で···」

映像のイメージが、テレパシーを通じて流れ込んで来る。

大きな山の中腹。敵との戦いで、自分と響香をゴムマットで覆い、上鳴君に大放電をさせたらしい。でも電気が効かない敵に上鳴君を人質に取られ、其処をゾーリンに助けられた、と···USJ襲撃の時か。作戦の穴を突かれた感じだね。

「今回も···背納さんに教わったよう、面攻撃を、躊躇無く出来ていれば···勝てた試合、でしたのにっ···」

強い自己嫌悪の念が伝わって来る。いけないな、ネガティブな考えに支配され掛けてる。

「こんな···こんな、私ごときが···ヒーローになんて―――」

「百」

「んむっ!?」

顎を掴んで此方を向かせ、無理矢理キスで口を塞いだ。

驚いて見開かれていた眼は、すぐにトロンと蕩けてしまう。

 

―じゅるっ ちゅっ ぴちゅっ ぷちゅっ―

 

小さな、しかし不思議と存在感の強い水音が、医務室に響く。その音に丸で脳まで溶かされてしまったように、百の顔は一層蕩け、求めるようにボクの唇に吸い付き、貪る。

「ちゅぷっ···ぷはぁ···」

「はぁ···はぁ···❤️」

10秒以上の長いフレンチキスを終え、唇を離した。その間に掛かる透明の吊り橋が途切れる前に、ボクはそれを啜り、飲み下す。

「せ···背納、さん?」

「ボクの愛人を虚仮にする、悪~い、わるぅい口は···この口か?」

「ひゃんっ···❤️」

唇を人差し指でなぞりながら、耳元から脳まで響くよう囁く。百の身体が小さく跳ね、潤んだ眼から涙が溢れた。

「良いかい?君は直接戦闘に向かない能力でありながら、あの爆豪に冷や汗をかかせた」

「ひぅ···あぁんっ❤️」

布団を尻尾で捲り、唇から首筋、胸、腹、そして太股へと指を滑らせながら、囁き続ける。百は艶やかな喘ぎ声こそ漏らすものの、抵抗と言える抵抗は一切しない。

「今、百は生きている。四肢も、指も繋がっている。眼も耳も満足だし、鼻も落ちていないだろう?ならば君は、この敗北すら喰らい、呑み込み···

必ず、強くなれる」

「ひゃぁぁ···❤️」

強く、暗示の波長を込めて、刷り込むように呟く。百の身体は小さく震え、背中が弓のように反る。

そんな彼女の身体に指を滑らせ、下腹部で止めた。

「あっ···せ、せな、しゃん···そこ、は···」

「己の敗北を、苦い辛いと呑み込めない子には···お・仕・置・き、だ」

「っ~っっ❤️」

百の身体は更に揺れ、跳ね、熱が巡る。彼女はお仕置きと言う言葉に、あろう事か興奮と期待を感じているようだ。

「ほぉら···」

「あっ···ぁあっあっ❤️···ひゃぁん❤️」

指をゆっくり、左右に揺すりながら押し込む。ボクの指が揺れる度に、百の身体は小さく震えた。

「せなさっ、ダメっ❤️だめですのっ❤️こえ、こえが、でちゃ···むぐっ!?」

再びキスで口を塞ぎ、漏れる嬌声に蓋をする。

(それで、どうする?此処で諦めるのかな?そんな弱いままで、良いのかな?)

出ない声の代わりに、テレパシーで問う。

(い、いやっ!いやれひゅっ!わたくひは、つよくなってぇ、りっぱな、ヒーローにぃ!!)

(そうか。だったら、こんな所でへこたれてちゃ駄目だな?君なら命有る限り、貪欲に技を呑み込み、強くなれるな?)

(はいっ❤️なりましゅっ❤️なってみせましゅぅっ❤️)

(良い子だ❤️)

「っ~ッ~ッ~❤️」

その瞬間、百の身体が大きく震え、腰が跳ね上がった。

「ぷぁ···そう、そうだよ百。それで良い」

「はぁ···❤️はぁ···❤️」

「仇は、ボクが討ってやる。心配せず、今は眠って。

でも、ボクと出久の決勝は、絶対見てね」

「は、はいぃ···」

辛うじてボクの頼みに答えて、百は眠りに附く。

その紅い頬を親指で撫で、ボクは医務室を出た。

「···」

「あ···」

扉の前にはリカバリーガール。まさかの出待ちを喰らった。

「あー、えっと~あのそのー···」

「···ハァ。確かに、あぁいう慰め方も効果はあるし、誰と誰がどう恋愛しようと勝手さね。其処は口出しせんよ。

でもね、場所と時間は選びな!」

「ハイッ、すみませんでした!」

腰を折って謝罪し、ボクはその場から逃げ出すのだった。

 

―――

――

 

―ガンッ―

 

「んぐ、何か用かい?」

控え室。炭酸抜きコーラとプロテインミルクシェイクをMy Stomachにしこたま流し込んでいると、唐突に爆豪がドアを蹴り開けて入って来た。

「あ゙っ?何でテメェが···って逆かよクソがッ!」

どうやら、控え室を間違えただけらしい。全く、らしくないな。

「アハハ、どうやら君も間違える事が···いや、寧ろ間違えた事しか無かったっけか。いや~失敬失敬」

「あ゙?ンだとコラ。俺が何時何を間違えたッつぅんだ?殺すぞクソバケモンが」

オヤオヤ?こいつ、マジで頭が逝っちゃったのかな?

「へぇ~、出久への苛めやら恐喝、自殺教唆は間違った行動じゃないと思ってる訳だ。こいつァお笑いだねぇ?

嗤わせてくれたお礼にプロテインバーをくれてやろう」

「要らねぇわクソが黙れ殺すぞ死ね!」

おぉう、見事にノンブレスで安っぽい呪詛を吐いてくれたもんだねェ?

「死んで欲しいなら殺せば良いだろ?自分の手を汚してさ。

あれ?その覚悟も度胸も無い癖に、殺すだの死ねだの中身が伴わないスッカスカの呪言をぶちまけてイキり散らしてるのかな?」

「その減らず口叩けなくしてやらァ···」

「ふーん···じゃ、賭けようか?この勝敗に」

「アァン?」

「ボクが勝ったら~···お前の遺伝子を、ボクのファーストズーグに貰う。その代わり、お前が勝てばボクに出来る事なら何でも1つ命令を聞いてあげよう」

「オイコラ、誰がンなしょーもねぇ賭けに乗るっつった?調子に乗ってンじゃねぇぞ」

「あれ?でもこの提案を聞いた時点で、賭けを降りるなんてビビり宣言しないよね?だってさっき、ボクを殺すだの何だの言ってたもんねぇ?」

「···チッ、クソが」

「じゃ、君の条件は狩場で聞くから。とっとと出てって」

「···フンッ」

 

―ガァンッ―

 

入って来た時と同じくけたたましい音を発てながら、爆豪はボクの控え室を出て行った。

「クイーン。ダボバレデダロ、ロデデビダジョ」

それと同時に、シュレディンガーが通気口からニュッと現れる。そして小脇に抱えていたタッパーを、机の上に置いた。

「うん、ありがとう」

タッパーを開け、中の真っ赤な液体に手を浸す。

「さぁて、お楽しみスタートだ♪」

 

―――

――

 

『第三回戦、第一試合!激怒を呑み込み鏖殺す!死闘に活きる殺人刀(せつにんとう)ッ!

ファーストズーグ元帥、触出背納ァァァァ!

VS!天才児にして問題児!

爆音と規制音の申し子、爆豪勝己ィィィ!』

 

「オイ、バケモン」

「ん?どうした?」

グリグリとストレッチをしていると、爆豪が声を掛けて来た。

「テメェが負けたら、そのベラベラ喧しい舌切り落とせや」

「おぉっと、これは益々負けられなくなった。そんな事になったら敵わん。キスもその先も、遊びが無くなっちゃうじゃないか」

「ハッ、テメェの相手する物好きな気違いがいたらの話だがなァ?」

「···」

···これだからコイツは嫌なんだ。態々悪意振り撒かず、ボクだけを馬鹿にしていれば良いものを···

 

『あーっと、クイーンがアルカイック・スマイルを浮かべましたな』

『どうやら爆豪選手、クイーンの地雷を踏み抜いたらしい。さながら嵐の前の静けさだな。

では、暴力の暴風雨を見せていただこう。Fight!』

 

「死ねェ!!」

飛び掛かり、右の大振り。だが殺気が乗っていない。フェイントだな?

だったら、崩すだけだ。

「ヒュッ」

正中に飛んでくる掌に添わすよう、捻りを加えた右手を突き出す。

「んガッ!?」

「チッ」

眼を狙った指の刺突は、寸前で首を振るってズラされた事で頬を掠めるに留まった。だがまぁ、それでも良い。

「チッ、危ねェ···い゙っ!?」

隙。飛び込み、肩を脱力し切った右腕で思いっきり引っ叩く。

 

―バスンッッ!―

 

「い゙ッッッッッ~!?!?ぅがァァァァァっ!?」

服が破れ、皮膚が千切れて血が吹き出した。

痛みで奥歯をガタガタとかち合わせ、のたうち回る爆豪。

「隙だらけ」

 

―ぴしゃっ―

 

「ギャッ~!?」

お次は顔。真横から、優しく手を当てる。しかし、爆豪にとってはそれすらも激痛らしい。

まぁ、そりゃそうだろう。そうなるように()()()()んだから。

「フフフ~ン♪フフフッフフフッフフフ~フン♪」

痛みから立ち直れない爆豪を他所に、鼻唄を歌う。そしてその曲を、上にいるファーストズーグに伝達した。

そして、ゼノモーフ小隊によるアカペラ合唱が始まる。

 

――Heute(ホイテッ) wollen(ヴォーレン) wir(ヴィア) ein(アイン) Liedlein(リィトゥライン) singen(ズィ~ンゲン),

Trinken(トゥリッケン) wollen(ヴォーレン) wir(ヴィア) den(デン) kühlen(クーデン) Wein(ヴァイン)――

 

Und(ウンッ) die(ディー) Gläser(グレェイサー) sollen(ッツォーレン) dazu(ダッヅェー) klingen(クリ~ンゲン)

Denn(デン) es muß(エス ムス), es muß(エスッ ムス) geschieden(ゲシィーディン) sein(ザィン)♪」

皆の歌と一緒に、ボクも歌う。

我ら、イギリスへ進軍す(Denn wir fahren gegen Engeland)。ボクの大好きな歌だ。

Gib'(ギッ) mir(ミァ) deine(ダァーイネ~) Hand(ハンヅ)♪」

 

―ボグッ―

「うごぁ!?」

 

deine(ダァーイネ~) weiße(ヴァ~イセ~) Hand(ハンヅ) Leb(ルィッ)' wohl(ヴォル), mein(マィン) Schatz(シャッヅ)♪」

 

―ズパンッ―

「あっがぁ!?」

 

leb(ルィッ)' wohl(ヴォーゥル) mein(マィン) Schatz(シャッヅ)Leb(ルィッ)' wohl(ヴォーゥル), lebe(ルィーヴェ) wohl(ヴォール)♪」

歌いながらピョンピョンとステップし、横腹を蹴り抜き、背中に鞭打を見舞う。蹴りは肝臓に通ったし、背中の皮も千切れた。

 

Denn(デン) wir(ヴィア) fahren(ファ~レェ~ン)Denn(デン) wir(ヴィア) fahren(ファ~レェ~ン)

Denn(デン) wir(ヴィア) fahren(ファ~レェ~ン)

gegen(ゲィ~ゲン) Engeland(イェンゲッラントゥ)Engeland(イェンゲッラントゥ)♪」

 

「クソがァァ···なめてンじゃねェぞコラァ!!」

「フン」

 

―ベキィッ―

 

「ギッ!?」

また手が伸びてくる。今度は左手。

もう面倒になってきたから、その掌を抉るように指で打ち払う。骨が折れた感触がしたし、もう左手は使えないでしょ。

 

『あー、クイーンあれだわ。ドルフィンモードに入ったわ』

『獲物を生かさず殺さず嫐り倒して遊ぶつもりですね。

しかも相手の初動を態々許して、それを途中で刈り取る事で何もさせてやらないという何とも嫌らしい戦い方と言うか殺し方と言うか···まぁ、悪趣味なのは変わりませんな』

『しかも地味に全国生放送でイングランドの歌ブチ込んでるからな』

『ニコニコでもネタが分かる住民からアウトとかコイツやりやがったとか赤文字の雨霰ですよ。

まさにスタイリッシュ国際問題』

『イギリスが笑いドイツがキレるかな?』

 

「ッ···テメェ、俺の事は眼中にねぇってか···」

「そだネ。正直、お前との試合はパパッと終わらせても良かったんだけどさ」

「ふざけンなッ!」

「巫山戯るも何も、ボクがマトモにお前の相手をしてやるとでも思ってるのかい?」

「クッソがァァァァ!」

 

―KABBBBBOOOOM!!!―

 

先の先の応用でボクが体幹を逸らすと同時に、アイツはあの大爆破をボクの居た場所に向けて打ち出して来やがった。

掠って生体装甲焦げちゃったよ。

「あー、鼓膜がゴロゴロする···まぁ良いや。トドメ、逝ってみよーか」

前方に溶けるように踏み出し、加速。爆豪は慌てて手を向けて来るけど、その手首をインナーマウスで貫く。

そして、右手の裏手刀で目元を薙いだ。

「ウガァァァァァ!?!?」

そして両目に手をやった隙に、丸めた掌で両耳を左右からぶっ叩く。

「こァ···~ッ」

空気圧で、常人よりも丈夫であろう鼓膜を破壊。鼻血や血涙を流しながら、爆豪は声にならぬ声で唸り呻いた。

「ほら、仕上げだ」

腹の上にドカッと座り、両手首を掴んで頭の上へ。

 

―ザシュッ―

 

「ッがァァァァァァァァァァ!?!?」

掌2つを重ね合わせ、テールスピアで貫き地面に縫い付ける。

そして、右手の人差し指と中指を口の中に突っ込み、下顎を引っ張り開けた。

「オッ、ゴェッ!?ゔッ!?」

「チェックメぇ~イト❤️」

開けた口に、インナーマウスをブチ込む。胃袋まで一気に到達し、胚を産み付けた。

「チュプッ···はい、おしまい♪」

「ガェッ、か、かれェ!イテェ!?」

顔を涙と鼻水でグッチャグチャにしながら、えずく爆豪。

辛い?当然だろう。何たって、ドクが栽培したキャロライナ・リーパーで作った辣油に手を浸しておいたんだから。

あーあ、さっき軽く叩いた顔も真っ赤に腫れちゃってるよ。

 

Denn(デン) wir(ヴィア) fahren(ファ~レェ~ン)

gegen(ゲィ~ゲン) Engeland(イェンゲッラントゥ)Engeland(イェンゲッラントゥ)♪―

 

「アッハイッ♪」

 

『決着ッ!つか出血やベーな!ドクターロボ!とっとと連れていきなさい!』

『爆豪選手、最初から最後まで何もさせて貰えず見事に苗床エンドですな。

まず最初の突貫が良くなかったでしょう。フェイントとは言え、クイーンの間合いで手を伸ばせばああなります。しかも爆豪選手にはクイーンのデータは殆ど無く、逆にクイーンは爆豪選手のデータを大量に得ていますからねぇ。初手は遠距離爆破で面攻撃をすべきでしたな』

 

意外と呆気なかった。やっぱり、センスは天才的とは言っても所詮ガキだ。本物の殺し合いを知らない。

出久みたいな、フェイント序でに狩れそうなら狩るつもりの殺気の乗ったフェイントが出来なきゃ、ボクは攻略出来ないさ。

「しかし、今日だけでかなりの収穫だ。アレクサンド・アンデルセン、グリードにティグルヴルムド。そして···ブラキディオスとでもしとくか」

 

―――

――

 

「ふぃ~、食った食った~」

「巫山戯るなッ!」

「おっ?」

さっきの控え室に置いてあった物を全部食い付くし、ブロックに戻るその途中。廊下の奥から、怒気を孕んだ出久の声が聞こえた。

「巫山戯ているだと?」

あー、この高熱反応。お相手はエンデヴァーか。

「あぁそうだ。巫山戯ている。オールマイトを超える義務?ナンバーワンヒーロー?

何もかも、アンタがあの子に勝手に押し付け、背負わせようとしているだけじゃないかッ!あの子が一度でも、自分からそうなりたいと言ったか?一度でも、『親父の夢を継ぎたい』と言ったかッ!

いいや言っていないッ!アンタの押し付けは全て、あの子の心に傷を残しているだけだッ!アンタは知らないだろうが、あの子は恐らく心因性のショートスリーパーだ!表情筋、僧帽筋から側頭筋に掛けての凝り!冷たい背中!眼精疲労ッ!

僕がパッと触診しただけでも、これだけの身体的負荷が蓄積してる!寧ろ良く今まで身体を壊さなかったと言いたいレベルだ!親の癖にそんな事にすら気付きもせず、ただただあの子に重荷を背負わせる事しかしなかったアンタが巫山戯ていないなら、シリアルキラーだってきっと巫山戯ていると言えないだろうさッ!」

「さっきから知った風な口を利きおって、お前は焦凍の何だ!」

「母だッ!」

「ッ!?」

おー、困惑してる困惑してる。まぁ普通そうなるよな、息子の男友達にそんな事言われたら。

「アンタが注いで来なかった分、僕があの子に愛を注ぐッ!

覚えておけッ!あの子は轟焦凍という1人の人間だッ!あの子の夢は、あの子自身が見るッ!アンタが自分勝手に押し付けて良いモンじゃあ無いッ!次の試合で、僕はあの子をアンタの呪縛から解放するッ!」

殺気全開でそう吐き飛ばし、出久は去って行った。いやはや、母は強し。

「···さっきから其処で見ている貴様、何の用だ」

「流石はトップランクヒーロー、この程度お茶の子さいさいか」

曲がり角を出ると、2mはあるであろう炎を纏った巨漢が立っていた。轟君の父、エンデヴァーだ。

「用っつっても、愛弟子が珍しく声を荒げてるんだ。気になっちまうモノだろう?」

「フン···しかし貴様、これまでの戦績を見ていたが、良い個性だな」

···うっわ、この視線気持ち悪い···欲情するでも無く、かと言って個人を見てる訳でも無い。ボクに宿った、()()()()()()だけを見ている眼だ。

「はぁ、そりゃどうも」

「どうだ?ウチの焦凍の嫁に来ないか?」

「こりゃ嫌われる訳だ」

これマジだわ。マジで人を個性の、遺伝子の渡し船としか見てない。

「貴様の個性なら、焦凍にも相応しいだろう」

「へッ、悪いけどおことわ···」

いや、待てよ?これはチャンスじゃないか?

···よし。

「···じゃあ、賭けようか。ボクが負けたら、嫁入りも前向きに検討するよ」

「何?」

「勝負は簡単。次の試合、アンタが創った最高傑作とやらと、ボクが鍛え上げた最強の戦闘者との闘いだ。

ボクは勿論、愛弟子たる出久の勝ちに賭けよう。出久が負ければ、ボクの個性はアンタのもの同然。どうする?」

「···もし焦凍が負ければ、俺の遺伝子を要求する気か」

「話が早くて助かる。ウチのファーストズーグの精鋭、第一ハイパーゼノ部隊···通称《ハイパーゼノモーフ五人衆》に、アンタの能力が欲しいんだ。

文句は、言うまいね?ボクがアンタに要求するモノは、アンタがボクに要求したモノより段違いに安いんだから」

ボクが負ければ、くれてやるのは卒業後の人生。対して、向こうが負けても失うものは何も無い。個性を奪われるんじゃなく、複製されるだけなんだから。破格の好条件だね。

「···良いだろう。貴様のその賭け、乗ってやる」

「そう来なくっちゃ」

言質は取った。後は任せるよ、出久♪

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

触出背納
蕩けさせて、謝って、ブチギレた化物主人公。
医務室、2人きり。何も起きない筈が無く···
自分が馬鹿にされるのは飄々と流せるが、自分が気にかけている人間を馬鹿にされるのは赦せない。まぁそうでなくとも嫌がらせ目的でカプサイシン式辛痛毒手は使ってたけど。
因みに、キャロライナ・リーパーの辣油に手を浸すとか常人がやったら確実に気絶する。手もバンバラバンに腫れ上がる。でも背納は化物。痛みを無視して強行した。結果、毒手は眼に少し近付けただけで目蓋を開けられなくなる代物となった。
爆豪の動きを逆利用した初手のカウンターと鼓膜壊しは、浅井一族の暗殺ゲフンゲフン護身空手から取った動き。
因みに闘争の意識は、遊び倒して嬲り殺すドルフィンモードと遊ばず最短で狩るシャークモード、そして対等な相手と殺し合うフリークスモードがある。
???「鮫は獲物で遊びません」

八百万百
化物の愛人。日に日にエロくなってきてる。
爆豪とは一応良い勝負はしたものの、敵対しているとは言えクラスメイトに対してクレイモア地雷のように破片をぶっ飛ばしてダメージを与える事を躊躇してしまい、その隙を突かれて倒された。
その後ネガティブイメージに呑まれ掛けるが、背納の快楽式ショック療法で払拭は出来た。

爆豪勝己
普段から殺すだの死ねだの言う癖に殺す為の訓練はしなかったからこうなった。
両掌に貫通創、右手首に裂傷、左頬に唐辛子かぶれ、右肩と背中に鞭打創(カプサイシン増々)、眼は催涙スプレー状態。
目潰しは当たらなかったが、カプサイシンがたっぷり染み込んだ手で煽られれば眼は開かなくなる。
最後に産み付けられて苗床エンド。背納に対して近接戦を仕掛ければこうなると言う良い見本。

緑谷出久
ママ属性マシマシ現代忍者男子高校生。
エンデヴァーからのテストベッド扱いと轟への押し付けに、母性の怒りが爆発。
もう、轟君をこれから女体化しようかぶっちゃけ悩んでいる。


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第20話 戦闘者の愛

「さーて、Eの暗号はまだかなー?」
『初手でそれ言うか?仕方ねぇだろ、まだ出久と三奈のドレスイラスト出来てねぇんだから』
「これ書き始めた日は仕上げてたのか?」
『ナイフ作ろうと鉄叩いて七輪の簀の子壊してた』
「ギルティ」
『おっふ···あ、今回ワンフォーオールに独自解釈と言う名の屁理屈をミッチリ混ぜ込んだんで、出久がトンデモ技使います』


(出久サイド)

 

『第三回戦、第二試合ッ!最後の準決勝を飾るのはこの両雄ッ!

凍てつく吹雪の右半身!!しかして瞳は燃え滾るッ!

Cool&Heatのハイブリッド!轟焦凍ォォォォ!!

VS!!

今世(いま)を活きる現代忍者ッ!アーミークラスの戦闘者ッ!

零距離戦闘者(ゼロレンジソルジャー)ッ!緑谷出久ゥゥゥッ!!』

 

マッちゃんのシャウトと共に、観客席が沸き上がる。

「さぁ、やろうか。轟君」

「あぁ。緑谷なら、心配無い···全力で、行く」

僕の呼び掛けに、そう答える轟君。さっきとは違って、スッキリとした眼をしている。

 

『どんな戦いを見せるのかッ!Fight!!』

 

「ハァッ!」

開戦の合図と同時に、轟君は氷の壁を伸ばしてきた。これなら、大丈夫だ。

「ッシィアッ!」

 

―バギンッ―

 

左足を後ろに下げ、ワンフォーオールを纏う。そして右足を抜き、ウェイヴを乗せた右エルボーを突き出した。衝撃は内部に浸透し、氷壁を打ち砕く。

だが、これではまだ終わらない。

「チィアッ!」

抜いた右足を今度は踏み締め、左足を前方に振る。その慣性のままに右足で地面を蹴りつけ、サマーソルトキックを繰り出した。

脱力と怪力で加速した爪先は、鞭のように空気を圧縮し破裂させる。その衝撃波を氷に叩き込む事で、砕けた破片を完全に吹き飛ばした。

(脚部出力、30%!)

まだ腕では耐えられない数値。しかし、頑丈な脚ならば耐えられる。

「流石だな、緑谷!」

声と共に、再び氷壁。今度は馬跳びの要領で飛び越え、轟君本人を目指して滑り降りる。

「クッ」

脅威を感じたか、向かって右側に跳び退きながら氷で盾を作る轟君。だが、その程度の氷塊なら···

「フンッ」

 

―バキィッ―

 

「なッ!?」

鞭打で指を打ち付ければ、砕ける。

「···すげぇな。指、全然平気そうだ」

「粗塩入りの砂に抜手しまくって、鍛えてあるからね。人を打てば、骨も砕けるよ」

指をゴキゴキと鳴らしながら、教えてやる。

僕は無個性だった分、技や道具でカバーする必要があった。故に最初期から、指を固める訓練を続けている。だから僕の指は普通より少し太く、また肌の色も濃い。

こう言う骨格レベルの改造訓練は、全身に施してある。ワンフォーオールを使わずとも、せっちゃんに負けない程度には全身凶器だ。

「まだ、左は使わない?」

「···わりぃ、まだ···すぐ、覚悟決めるから」

「んっ、分かった。付き合うよ」

「···ありがとな」

柔らかい笑みを浮かべる轟君。

これは、ただの試合じゃない。僕が轟君に施す、治療の一環だ。

自分の攻撃でも、僕なら捌ける···それを教えてあげれば、自分が感じた痛みを相手に与えるかもしれないと言う恐怖は軽くなる。だから今の彼が出し得る全力を引き出し、そして僕も全力で応えよう。

「ハッ!」

「ツォラッ!」

 

―ガガガガガガッ バギャンッ―

 

「はっ···はっ···はぁ···」

荒く吐かれた吐息が、瞬時に白く曇る。冷気を放出し過ぎたのか、轟君のジャージには霜が降りていた。そろそろ、限界だろう。

「ふぅゥゥゥ···ッ」

「覚悟は、決まったみたいだね」

「···あぁ!」

 

―ゴゥッ―

 

返事と共に陽炎を放つ、轟君の左腕。満を持して、彼の精神に染み付いていた影が揺らいだらしい。

 

「焦凍ォォォォッ!!」

 

「「ッ!」」

と、良い所で観客席から割り込んで来た馬鹿デカい声。振り返るまでも無い。あの猛毒親父(エンデヴァー)だろう。

 

「そうだ焦凍ッ!今お前は、正しく俺の完全な上位互換となったッ!!俺を越えて行けッ!!焦凍ォォォォッ!!」

 

『如何致しますか?母上』

『口で言っても、埒が明かぬでしょうなぁ』

 

···そう、そうだ。ドクちゃんやマッちゃんの言う通り、あの男は口では止まらない。仕方無いな、こうしたくは無かったけど。

「···モンティナ・マックス小隊指揮官に伝達。()()()()()()()()()()。そんでもって、あの男をデカい口叩けないようにもしてやれ」

 

『御意···小隊員、諸君に伝達。あの熱中症患者製造装置殿に、速やかにご退出願え。呉々も、()()()()()()()()

『道具は各自、シュレディンガー准尉から受け取るように』

 

命令が伝わるのを見届け···ブルリと身震い。見れば、轟君が無意識に冷気を吹き出していた。

「おいッ、コラ!何だ貴様ら、何をするッ!」

「キシャーッ」「キシャーッ!」

僕の娘達に金属ワイヤーで縛られ、引き摺られて行くエンデヴァー。流石に此処では、金属を融解させる程の熱は放てまい。

「···仕切り直しだ」

「そうだね」

眼を苛立ちから闘いに切り替え、再び熱を放つ轟君。対して僕は腰を落とし、これから起こるであろう現象に備える。

「···ハァァァァァッ!!」

見えたのは、蒼く染まった轟君の左腕。それが視界に入った瞬間、僕は多少の犠牲も覚悟で右足を蹴り出す。

 

――――――轟音、衝撃波、振動

 

視界は瞬く間に真っ白に染まり、僕は宙に浮いていた。

脳内麻薬で引き延ばされた時間の中、ステージ後方、場外に向けて吹っ飛ばされているのだと理解する。

両腕を迅速に頭の上へ。そして人差し指から小指まで、計8本の指にワンフォーオールを20%ずつ流し込み、弾いた。

 

―ドンッッッッ―

 

反動が手首から伝わり、背骨、骨盤まで響く。後方へのベクトルとぶつかり合い、急激な失速によってほぼ真下、ステージへと落下した。そこは辛うじて、場外では無いギリギリのライン。

 

『スッゴい爆発だな···水蒸気爆発か?』

『それだけでは無いでしょう少佐殿。冷やされ切って凝縮されていた空気が、今の熱で一気に膨張したのです。一瞬轟選手の左腕が青くなっているのが見えましたので、恐らく一瞬で1万度以上の急加熱を行ったのでしょう』

 

「···は、ハハ。これでも、平気か」

若干乾いた笑いを溢しながら、轟君は呟いた。対して僕は、内出血を起こした指をプラプラと振って見せる。

「いや、平気ではないね。手はこんな様だし、右脚もギシギシさ。でも···まだ、終わりじゃない」

「え?」

呆ける轟君に、僕は空を指差した。その先には、真っ黒な曇が渦を巻いている。しかし、その雲は異常だ。光を通さぬ重い雲は、この上空、1ヶ所だけに固まっている。

 

―ピチャッ ピチャピチャッ ザァァァァァァァ―

 

と思えば、そこから大雨が降り始めた。

「こ、これって···!」

「君が炸裂させた、水分を多く含んだ爆風···あれを僕は、真上に蹴りあげたんだ。その結果がこの雨であり、あの曇さ。

そして···此処からが、()()()()()

ずぶ濡れになって大混乱に陥る観客席を余所に、僕は両足で思いっきり跳び上がった。

風を切り裂き、40m程。雨粒の抵抗が大きい中、今度は空気を踏み締める。

 

―ゴォォォォォォッ―

 

頭上で曇が光り、稲妻が走った。その稲光に向けて、僕は拳を突き上げる。

 

―ビッシャァァァァァンッ―

 

その拳に、落雷。しかし、僕の身体から電気が逃げる事は無い。

ワンフォーオールを全身に張り巡らせて、雷を受けた右拳を全力で握る。赤い血管のような光の中に、雷の黄色いスパークが溶け込んだ。

さぁ、充電完了だ。

バチバチと体表を爆ぜさせながら、高電圧を帯電しているせいで普通よりもゆっくりと落下していく。そのまま拳を引き絞り、全身に電光を弾けさせた。

「ハァァァァァァァァッ!!」

轟君の位置を覚え、眼を閉じる。そしてワンフォーオールを介して体内に溜め込んだ電気を、全開で放電した。

「サァンダァァァァァァッ!!ブレィィィィクゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

―BAZZZZZZZZZッ!!―

 

降り注ぐ幾つもの小分けにされた翠の雷。コンクリートの地面を焦がし、ギリギリ音速を越えた空気の熱膨張が衝撃波を生む。

「はぁぁぁぁ···」

帯電による斥力が消え、着地。前方には、轟君が倒れている。

 

『決着ッ!!勝者、緑谷出久ゥゥゥッ!!』

『オヤオヤ、皆さんポカーンとなってますね。今回のはそう簡単に打てる訳じゃありませんのでご安心を』

 

「···ドクター!」

ドクターロボを呼び、担架に気絶した轟君を乗せた。そして僕も、医務室に着いて行く。

指は真っ赤に腫れてるし、脚はガタガタ。オマケに拳はちょっと焦げちゃってる。治して貰わないと、痛くて敵わない。

 

(背納サイド)

 

「勝っちゃったね、ボクの愛弟子♪」

「···」

仏頂面でベンチに座っているエンデヴァーに、ボクはにこやかに話し掛ける。ご機嫌なボクとは反対に、エンデヴァーはかなりイライラしているみたいだ。

「じゃ、約束は約束だ。アンタの遺伝子、ボクの軍に貰うよ?」

「···好きにするが良い」

そう言って、不機嫌さを隠そうともせず口を開けるエンデヴァー。まぁ、当然だろうね。

「じゃ、遠慮無く」

何時ものようにインナーマウスを突っ込み、えずかれる前に胚を産み付ける。

そしてすぐさま引っこ抜き、ニヤリと口角を吊り上げた。

「これで、アンタの能力はボク達の元に下った。優秀な能力が宿るだろうなぁ♪あ、エヴォリューションタイプなら完全上位互換もあり得るか♪」

「ッ!」

オヤオヤ?表情が曇っちゃったねぇ?

「も・し・か・し・て~、俺が長年苦労し続けて漸く出来た事をこの小娘は一瞬で~、とか思ってる?」

「ッ···」

「図星だねぇ。仕方無いよ。ボク達は生物兵器。型落ち品より性能が上がるのは当然さ。

じゃ、次は愛しの弟子との殺し合いだから、ボクは行くね♪」

ニシシと笑いながら、ボクはその場を後にした。

 

(NOサイド)

 

「お帰り~轟君に出久~♪」

A組のブロック。出久と轟はリカバリーガールの治療を受け、自分の席に戻った。

プロテインゼリーを飲みつつ、背納が2人を迎える。

「いやー、良い闘いだったねぇ」

「スッゲェな師範!あの雷ビッシャーンッて、あれどうやったんだよ!」

「俺のアイデンティティ無くなってね?」

当然、出久の周りにはクラスメイトが集まって来た。揉みくちゃにされながら、出久は轟を見やった。

(うん、大分憑き物が落ちたね···良かった)

「!···」

(かっ、可愛いッ!)

その視線に気付き、轟は無言で微笑む。その可愛らしい表情に、思わず頭を撫でたくなった。

「あれれれれえ?もう帰ってきたのぉ?」

と、そのタイミングで横から敵意全開な声が掛けられる。B組の物間だ。

「全く、君たちのせいで、何人の人がずぶ濡れにされちゃったと思ってるんだろうねぇ?僕たちも結構濡れちゃってさぁ、オマケにステージが乾くまで試合再開不可!ホンット、自分の事以外考えてないよねぇ?

あーコワイコワイ!こんな奴らがプロヒーローになっちゃったら、周囲にどれだけ被害が出るんだろうねぇ!?」

「ッ!テメェ···」

「ストップ」

物間の煽りに冷気と熱気を纏った轟を、出久が手で制した。

「でも緑谷っ!」

「大丈夫。ほら、落ち着いて?ね?」

高温と低温の両手を柔らかく握り、ベンチに座らせる。そして頭を撫で、優しい声で落ち着かせた。

「···ごめんね?君、何て名前だっけ」

「え?物間(ものま)寧人(ねいと)だけど?」

「ものま、ねいと···成る程成る程、そう言う事か」

名前を認識し、ウンウンと1人納得して頷く出久。この態度が、物間の神経を逆撫でしまくる事は言うまでも無いだろう。

「はァ?何を納得したんだい?A組ってやっぱり失礼―――」

「個性のコピー。それも、相手に接触する事が条件」

「ッ···」

出久の放った言葉に、一瞬物間の眉が跳ねた。

「物間、寧人。ものま、ねいと···物真似···やっぱり、名は体を表すね、どういう訳か···」

呟きながら、フフッと笑う出久。物間はその笑みに、何かを見透かされたような不気味さを感じた。

「コピーしなきゃ、同じ土俵に立てない。コピーするには、素手の間合いを取るしかない。そこに誘い込むには···言うまでも無いね。挑発するのが、最も手っ取り早い。

でも···それだけが理由なら、此処で挑発する理由は無いよねぇ?何でかな?」

「ッ!」

戦法の狙いを、寸分違わず言い当てられた。しかし、物間は異常なまでに不快感を覚える。何か、もっと根幹的な部分まで見透かされているような。

「···ハッ。僕はただ、君たちの自分勝手な行動を批判しただけさ」

「そうかな?僕には、何だか個人的な怨念が籠ってるように感じたんだけど···もしかして、何かコンプレックスでもあるのかな?」

出久の柔らかい、しかし刺のある問い掛けに、物間の目尻がピクリと震えた。

「物真似、コピー。それは、味方や敵がいなければ、無個性と変わらない。戦闘ならさっきのように煽れば済む事も多いが、ことレスキューでは事前にコピーでもしておかなきゃ、動き様が無い」

「おい、止せよ」

「でも君は此処にいる。きっと、すごく努力したんだろうねぇ。色んな苦難にぶつかりながら···」

「止せって···」

「いやはや、すごいよ君は。だって···」

「おいッ!止め―――」

 

「どんなに他人に、()()()()()()()()()()()()って言われても、頑張り続けたんだから」

 

「ッ!!」

飄々とした表情だった、苦虫を噛み潰したようなそれに変わる。

「どれだけ否定されても夢を諦めず、また相応に現実も見て努力した。君の皮肉は、その努力によって染み付いた、半ば習性のような物なんじゃないかな?」

「···き、君は何が言いたいのかな?」

「別に?強いて言うなら···今更野暮な事を言うもんじゃない、って所かな。

雄英体育祭のバトルトーナメントなんて、規格外同士の衝突にならない訳が無いじゃないか。見に来てるって事は、当然それを織り込み済みなんだよ。君にとやかく言われる筋合いは無い。

あと、背後に注意」

「え···ッ!?」

 

―バァンッッ!!―

 

「がッ!?!?」

振り返った物間の眼前で、回り込んでいた背納の猫騙し(クラップスタナー)が炸裂する。

「フンッ!」「シャッ!」

 

―ドドンッ―

 

爆音で思考が吹き飛んだ隙に、左肩前方に背納が、右肩後方に出久が、それぞれウェイヴパンチを叩き込んだ。

打ち込まれた衝撃で、物間の身体は反転。意識も刈り取られ、崩れ落ちる。

「どうもこんにちはプレデリ診療所です。どんな症状ですか?A組が憎たらしくて堪らない?花粉症ですね!お薬として拳を処方しておきました!KA・TA・TA・TA・KI☆

これであなたも肩凝り知らず!花粉症に関係無い?いやいやそんな事は御座いません♪

今日の診察は終わりです!お大事に、良い夢を(Have a nice Dream)♪」

気絶した物間にジョークを落として、背納は敷居を乗り越えた。

「さて、次はいよいよ決勝だ。ちゃんとボクを殺してくれよ?」

「あぁ。ご期待に添えるよう、全力で殺してあげる」

にこやかに交わされる会話の内容は、とんでもなく異質。そしてその会話にクラスメイトが固まる中、背納がアクションを起こした。

「んちゅっ」

『ッッ!?!?』

何と、出久にキスをしたのだ。クラスメイト達は顔を赤らめアワアワと狼狽えるか、キャーキャーと騒ぐか···若干2名程血涙を流す者もいる。

 

―ゴプッ―

 

「んぐっ···ぷはっ!もうせっちゃん!このタイミングで?」

送り込まれた粘液を飲み込み、出久は咎めるような口調で背納に問う。

この粘液は、接種した者の体質を変異させる改造液だ。最近出久に教えた能力である。

「大丈夫!耐酸性上げただけだから!

あ、そうそう。ウォルターに頼んでたV()S().()()()()()、シュレディンガーが渡しに行くからね」

「あー、うん。分かったよ」

「じゃ、後でね?愛弟子♪」

「···はぁ」

出久は溜め息を吐きながら、控え室に向かう背納を見送るのだった。

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

緑谷出久
どうも、現代忍者デクです。ニンニン。
とんでもない技を繰り出したママ男子。全力を引き出す為に防戦で余裕を見せたのは、坂口拓さんがチームにやっている教育方法そのまんま。
サンダーブレイクの原理としては、ワンフォーオールの《内部にエネルギーを受け入れ、蓄える》と言う性質を応用したもの。習得したのは、オールマイトから受け取って浜辺で練習している時。
また、転生者である背納から精神面の教育も受けた為、この世界の名前の法則に気付いている。啓蒙が高い。
今回物間に対して行ったのは、心の鍵開けの応用。相手の仕草から心理状態を読み取り、痛い所をほじくり返して精神ダメージを与える攻撃。マジの戦闘なら、ここに物理的な攻撃も叩き込んでトラウマを植え付ける。

轟焦凍
出久にデレデレになる子。
原作よりもかなりスッキリしている。今回の闘いを通して、出久を全力で胸を借りられる頼もしい格上と認識した。
因みに最後のサンダーブレイク時、出久の事が天使に見えて見蕩れていた。
背納がいきなり出久にキスした時、ちょっとイラッとした。

触出背納
化物主人公。出久が啓蒙高い原因。
賭けに大勝ちし、無事エンデヴァーに産み付ける事に成功。
出久が物間に話し掛けた時、徐々に距離を詰めていた所から何をしようとしてるのか察して物間の背後に回り込んだ。そしてウェイヴパンチ!
因みに敵に対しては拳だけでなくテールスピアやリストブレイドも処方してくれる。これであなたも病気知らず!


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第21話 死欲の愛

『さぁ、対に人間と化物の頂上決戦だ』
「俺ちゃんの出番は?」
『暗号のミスコン回で絡ませてやるから』
「信用出来ねぇ···」


「···ゼデビバジョ。ギスンゼショ?」

控え室。戦闘用のパーカーに着替え、グロンギ語で呟くように言う出久。それに応えるように、シュレディンガーが現れた。勿論、通気口からだ。

「ラダダブ、ジドヅバギ グ ガサギジョ。グギギンパ」

「ゴブソグガラ。ゴセゼ?ガズバシロド ゾ パダギデブセスババ?」

「ザギ、ボセ」

出久の催促に、シュレディンガーはウェストポーチから預かり物を2つ取り出す。それを受け取り、出久は髪を後頭部で括った。

「ギデデサシャシャギ、ララ」

「ん、ギデデブスジョ」

シュレディンガーに手を振って、出久は控え室を後にした。

 

―――

――

 

『さぁ、いよいよ決勝戦ッ!究極の師弟対決だッ!

使命に活きる戦闘者ッ!敵を見据える緑の眼ッ!振るう手足が返り血に塗れる!

ウェイヴマスター!緑谷出久ゥゥ!!

VS!!

殺戮に活きる闘争者ッ!苦痛を貪るその爪牙(そうが)ッ!全身凶器が狂い舞うッ!

フリークスソルジャー!触出背納ァァ!!』

 

マックスのアナウンスを受け、ステージに上がる出久。しかし、背納は一向に現れない。

「どうしたんだ?触出のヤツ」

「何か、あったのでしょうか···?」

「背納に限って、そんな事は無いと思うけど···」

上鳴が疑問を溢し、一眠りして復帰した八百万が耳郎と共に心配する。

 

『因みにこの決勝戦。両選手の申し出により、文字通りの()()()()()となっております。何が起ころうが口出し無用で―――』

 

―PANG!―

 

ドクの注意を切り裂くように、1発の銃声が響いた。

「···何のつもりかな?」

ざわめく観客席。それを捨て置き、出久は向かいの入場口の闇、その向こうに問い掛ける。

 

―PANG!PANG!―

 

再び銃声。立て続けに2発。それに対し、出久は肩甲骨の可動で正中線をズラす。

「···兄さん、避けてる」

気付いた事を真っ先に口に出したのは、麗日だった。

そう。出久は発砲される度、飛んでくる弾を避けていたのだ。

「ねぇ、せっちゃん···良い加減に、しようか

諭すような口調で、出久は言う。だがその言葉には、煮え滾るような怒気が滲んでいる。

「そんなオモチャ如きで、僕を倒せると思ってるの?ねぇ、どんな冗談?」

「――――――ごめんよ、愛弟子」

闇の中から、背納が出て来た。右手には、迷彩ペイントが施されたグロックG17のガスガンが握られている。100と数十年程前には、18禁と銘打たれていたモノだ。

「あぁ、愛しき我が弟子、宿敵よ。そんなに怒らないでおくれ?お前の純粋な殺意の火に、こんな下らない怒りを焚べないで。どうか燻らせないでおくれよ。

少し、魔が差してしまったのさ。ボクの弟子は、この程度は平気で熟してしまう程、強い戦闘者なのだと···これを育てたのがボクなのだと、つい、自慢したくなってしまったのさ」

グロックを投げ捨て、ステージ上がる背納。対する出久は、冷めた眼で背納を睨むだけだ。

「···さぁ、始めよう。これ以上、言葉はいらない」

そう言って背納は、左手に持っていたメタルメッシュのマスク(ソウルイーター)を装着する。出久も、同じものを黙って装着した。

そして、背納はジャージを捲ってズボンのフチから、出久はパーカーのジッパーを開いて腹に巻いたサポーターから、それぞれ獲物を取り出す。

背納は陰月刀、出久は陽月剣。しかしどちらも鮮やかな緋色に染まっており、背納のモノに至っては通常の陰月刀とは形が大きく違う。

「ヴァンパイア・ゴーストヴァイト···」

出久が呟いた。背納の武器のオリジンの名は、クレッセントブレイド・ダークネス・ヴァンパイア・ゴーストヴァイトである。

アビスウォーカーがリボーンゴーストの血を求め、ブレイカーから派生させた呪具。禍々しく歪んだ鋼の牙は、獲物の血を啜らんと妖しく輝く。

出久はふと、手に持ったカランビットの銘を見た。

《緋色月 妖血劍(ようけつけん)

それが、この刃の真名。

砂鉄を背納の強酸血液で溶かし、それを鋳融かし還元した玉鋼で拵えた妖刀には、相応しい銘である。変色の理由は、そう言う事だ。背納の血が練り込まれているのだ。そのお陰なのだろうか、この仕様のナイフは背納の強酸血液でも溶けないのである。

因みに、背納のダークネスの銘は《緋色月 胤血刀(いんけつとう) 吸命牙(きゅうめいが)》である。

 

―ヒョウッ ヒョンッ ヒュヒュンッ―

 

妖血劍を指で回し、構える出久。手首を重ねて胸に寄せ、妖血劍で正中線をカバーしながらダブルウェイヴを掛けられるよう左手首を妖血劍の鍔に引っ掛ける。

一方背納は、順手持ちにした胤血刀を寝かせて首元に構えていた。

そして八百万に作り直して貰った上着の左袖を捲り、下腕を出す。その腕に鋭い刃の先端を当て、勢い良く滑らせた。

『ッ!!?』

皮膚が切り裂かれ、血が滴る。それは、胤血刀が紛れも無いリアルエッジである証拠である。流れた血がコンクリートに落ち、溶かして白煙を上げた。

対する出久も袖を捲り、腕に妖血劍で傷を入れる。斬れば血が出るリアルエッジのであると言う証明も済み、2人は腰を落として向かい合う。

背納は肩甲骨と股関節の絞り、捻りを駆使して、素早く脚のスイッチを繰り返しながら移動を続ける。対する出久はその場から動かず、唯々常に背納を正面に見ながら構えるのみ。

「これは···難しいね」

「そ、そうなのか?麗日」

「うん。師匠も、兄さ···兄弟子も、どちらも後の先は達人級。先に仕掛ければ、どんな偶然にも必然で対応されて死ぬ。痺れを切らした方が負ける。だからお互いに、下手には動かないし、仕掛けない」

麗日の声も、観客席のざわつきも、出久と背納には届いていない。集中力が研ぎ澄まされ、どんよりと減速した時間の中で、相手の出方を窺っていた。

しかし、それでは一向に埒が明かない。故に、思うように埒を開けようと、最初に隙を作ったのは出久だった。

足を僅かに摩らし、ホンの僅かに妖血劍を下げる。その瞬間、背納は後ろに下げていた右足の踵を踏み締め、更に尻尾を前方に投げ付けるように伸ばす事で重心を引っ張り前進。そこから右手の胤血刀を突き出し、テールスピアとの同時強襲を繰り出した。

出久は右手の妖血劍でテールスピアを弾き、左腕を背納の右腕に振り下ろす事で胤血刀を止める。しかし背納は、右手が打ち落とされた遠心力を逆利用。肩を軸とした落下の円運動に任せて手を胸元までコッキング。更にそこから送りのウェイヴを加えて、肩の高さから頸動脈を狙い再度突いた。

左腕を引き戻し防ぐ時間は無い。故に出久は、下がった左肩でそのままショルダータックルを仕掛ける。出久の首は胤血刀の間合いの更に内側に入り、微かに薄皮を掠めるだけに終わった。

出久の体重を乗せたショルダータックルに、堪らず背納は後退。嵐のような瞬の読み合いに、一先ず区切りがつく。

尚、この間僅か0,8秒である。

「ひ、ヒーロー志望の戦い方じゃあない···」

「これが、戦人の死闘···否、死合か···」

「え、つか今、何があった?全然見えなかったんですケド?」

戦慄する飯田、固唾を呑む常闇、理解と動体視力が追い付かない上鳴。三者三様なこの反応は、観客席全体の主な反応と同じである。

「ちょ、ちょっと!これは流石にダメよ!危険過ぎるわ!」

 

『止めに入る気なら、お勧め出来ないと言っておくよ、ミッドナイト女史。あの2人は今や、1人分の身体に無理矢理押し込められた戦争そのものだ。割って入ろうとすれば、君の個性で意識が飛ぶまでの数瞬の間に、両方から攻撃の嵐を喰らう事になるぞ。

そうなれば、クイーンは君を見る度に殺意を向けるだろう。さながら、愛しき想い人を見知りもせぬ泥棒猫に横取りされた乙女のようにな。

何より···お互いに信じているからこそ、遠慮無く攻め合う···如何にも、青春っぽくはないかね?君好みな』

 

「···アリね」

(((((引き下がったッ!?)))))

生徒の命の安全よりも趣味を優先しアッサリと引き下がったミッドナイトに、見ていた全員が戦慄。自由と無責任の境界線が、中国のパチもんクオリティである。

「フゥゥゥゥゥゥ···ッ」「ヒュィィィィィ···ッ」

外野がざわついている間も続いていた膠着が、遂に壊れた。出久は無表情に、背納は広角をつり上げながら、それぞれ深く息を吐く。

 

―ギャギンッ ギャギンッ―

 

刹那、交差する朱色の刃。

背納が繰り出した胤血刀での刺突を、出久が両手のダブルウェイヴで時計回りに振るった妖血劍で弾き上げたのだ。

更に、一周して胸元に戻った妖血劍に左手からのウェイヴを掛けて右に振るう。対する背納は、弾き上げられた勢いに乗って重心を左に落とし、頸動脈を狙う妖血劍を潜りつつテールスピアで出久の左脇を狙った。

出久は引き伸ばされた体感時間の中で眼球を転がし、テールスピアの狙いを読み取る。そして最適な回避を反射的に思い付き、それを実行。

両肘を胸元に寄せるように畳み込む事で、身体の回転を加速。テールスピアを遣り過ごし、同時に左脚に重心を掛けて右足で後ろ蹴りを放った。

 

―ドグッ―

 

「ゴッヘェ!」

脇腹に踵がめり込み、打ち飛ばされる背納。ゴロゴロと転がり、衝撃を逃がす。

「んぐぅ、ゔ、ぅお゙ぇッ···ぇうっ···クックッ、クッキッキッキッキッキキッ···」

 

―カリィンキャリーンッ―

 

えづきながらも立ち上がり、俯きながらソウルイーターをズラして口許を擦る。そして背納は不気味に笑いながら、胤血刀を投げ捨てた。

「···」

 

―カーンカラァーン―

 

無言を貫く出久も、同じように妖血劍を投げ捨てる。そして、2人は同時に前傾姿勢をとり、肩をゴリゴリと回し始めた。

そして、ここから更なる零距離戦が展開される。

先手を打ったのは出久。左脚で踏み込み、鉄板仕込みの安全靴を履いた右足の土踏まずで背納の脛を狙った。背納はこれを股関節ウェイヴによる脚のスイッチで回避し、同時にその下半身の回転を背骨から肩まで伝達させて左手を突き出す。

鋭い爪を備えた指先が首を狙うが、出久は顎を引いてソウルイーターでこれをガード。背納の鉤爪は、メタルメッシュの表面をなぞった。

しかし、これでは終わらない。背納は滑らされた左手で、今度は出久の肩を掴む。出久は蹴り脚を地に着けるが、其処は背納の股座の丁度真下。前方には踏ん張れるが、左後方がガラ空きである。

背納は掴んだ肩に突き落とすウェイヴを掛けて、支えを失った後方へと出久の身体を押し倒した。

「グッ···ッ!」

呻きつつ何とか受け身を取る出久だったが、背納が掴んだ右肩に握力を掛け始めた事を察知。肩の肉を握り潰されぬよう、馬乗りになった背納の左腕を両手でロックし、腰のツイストで左向きに転がって脱出を謀る。

 

―ゴキッ―

 

「ぬっ」

背納はホールドを崩され、同時に左肘を脱臼。

転ばされぬよう尻尾を地面に突き立てるが、左脚は浮いてしまったので出久に逃げられてしまった。

瞬時に外された肘を嵌め直し、両足を地に着け直す。

「ッシャァーッ!」

金切り声をあげ、突貫する背納。バックステップで距離を稼いでいた出久は、足元の広範囲を見渡して重心初動を読み取るイーグル・アイから、背納の手指やテールスピアを警戒して直視に切り替える。切り替えざるを得なかった。

この視線のスイッチが、背納の狙いである。

 

―カチッ シュビッ―

 

「うがッ!?」

ホワイトアウトする出久の視界。その隙を突く、背納の抜手。鋭利な爪が、出久の左肩を浅くだが抉った。

「フラッシュライトですわ!」

「爆豪とのバトルで使ったアレか!」

復帰して来た八百万が言った通り、背納は出久が視界をスイッチした瞬間に、眼をフラッシュライトで照らしたのだ。インナーマウスの中に隠しており、先程口を拭った際に手の中に忍ばせたのである。

「チィっ!―カチカチッ バキッ―ぐぶッ!?」

両手を上げて顔をガードする出久。しかし背納は手を水平に上げ、横の隙間から眼に光を当てる。そして再び隙を突き、フラッシュライトを握り込んだ左拳を出久の頬に叩き込んだ。

「ハァ、ッ···ハァ···ッ、ハァ···ッ」

パニックに陥り掛けた身体を、呼吸で何とか落ち着ける出久。そして、その眼を瞑った。

背納は飛び退って、出久が投げ捨てた妖血劍を回収。そして、出久に向けて猛進する。右手の妖血劍、左脇から前に通したテールスピアが、それぞれ出久の首と脇腹を狙う。

「や、やめ――――――」

誰のものかも定かではない声の訴えも虚しく、遂に動かない出久の急所に――――――

 

―シャギッ―

 

刃は、振るわれた。

「ッ~!」

「みど、りや···?」

その光景を見た者の反応は、実に様々である。

2人から眼を背ける者、それすら出来ず凝視し続ける者。泣き出してしまう者もいれば、絶望に打ち(ひし)がれて膝から崩れ落ちる者もいた。

 

―ピチャッ ピチャピチャッ―

 

滴る朱。地面を焼かぬそれは、人間から流れた証。

「―――――ハァ···」

「―――――ッ!!」

しかし、化物は眼を剥いた。閉じていた出久の眼が、冷たく静かに開いたのだ。

 

―バキィッ!―

 

「がッ!」

そして出久は、迫り来る2つの刃を交差させて()()()()()()()両手を開き、背納の顔面に右拳で裏拳を見舞う。打ち据えられた拍子に、背中のソウルイーターが外れてフッ飛ばされた。

「う、うそ···」

「いき、てた···」

呆然とするギャラリーに眼もくれず、出久は向かって右側によろけた背納に対して追撃を叩き込む。

 

―ドゴムッ―

「ガフェッ!?」

 

右ウェイヴエルボーで首元を打ち···

 

―ガゴンッ―

「ングェルッ!?」

 

再び右エルボーで、背中から左肋に罅を入れる。

 

「う、ゥふう···」

―ボグンッ―

「おガッ!?」

 

そして、辛うじて向き直った背納の胸に、下向きに打ち下ろすウェイヴパンチ。

殴り倒された背納は、地面に叩き付けられ、後ろ回しのように転がる。

「ふッ、フゥ···フゥ···ヴゥゥゥゥ···」

しかし、背納は気絶しない。ガタガタと力の入らない手足に鞭打ち、何とか起き上がって見せた。

「あ、ア゙ァァァァ···」

「···ヒュィィィィィ···」

くぐもった唸り声をあげ、尚も出久に手を伸ばす背納。そんな背納の右手を打ち払い、出久は右腕を引き絞る。

 

「ッヂェイッッッッ!!」

―ガゴヂョンッ!―

 

そして渾身の力を込め、ウェイヴパンチで背納を殴り飛ばした。

文字通り殴り飛ばされた背納は、場外まで転がり出てしまう。

 

『決ッッッ着ッッッ!!クイーン場外ッ!勝者!緑谷出久ゥゥゥゥゥッッッ!!』

 

背納と出久の戦いに呆けていたギャラリーを、マックスの大音量が現実に連れ戻す。

同時に、出久も膝から崩れ落ち、意識を手放した。

救急ロボがスクランブルし、2人は医務室に緊急搬送される。担架の上に寝かされた背納の顔には、微かな笑みが浮かんでいた。

 

―――――

――――

―――

――

 

「えー、おほんっ。もはや試合と呼んで良いのかさえ分からないような、ブッ飛んだバトルもありましたが···これより、表彰式を行いますッ!」

血糊を洗い流し、綺麗に整えられたステージ。ミッドナイトが宣言した通り、これより1位から3位まで、4人の表彰だ。

ステージ中央が開き、出久、背納、爆豪、轟を乗せた表彰台がせり上がってくる。

「そして!メダルを授けるのはこのお方!

我らがヒーロー!オールm「私がメダルをォ~!持って来たァ!!」

···」

「あ···ゴメン、被っちゃった」

上空からノリノリで落下して来たオールマイトだったが、段取り不足でミッドナイトと被ってしまう。

「えー、あーうん。まぁそれは置いといて···まずは轟少年!おめでとう!」

「ハイ。ありがとうございます」

「うむ!何だか憑き物が落ちたような顔をしているな!」

「緑谷のお陰です。緑谷と戦ったから、自分を見つめ直せたから···」

「ウンウン!一歩前進だな!」

轟の首に銅メダルを掛け、ギュッとハグをするオールマイト。そして次に、爆豪の前に移る。

「···」

「あー、爆豪少年。惜しかったな!今回の悔しさを呑み込んで、共に強くなって行こう!」

魂が抜けたように俯く爆豪の首にも、同じく銅メダルを掛ける。そして優しくハグして、背納の前へ。

「触出少女!ベストを尽くしたな!とは言え、正直ああいう戦いはご遠慮願いたいんだが···」

「アハハ、ベストなんて尽くせてませんよ。出久に聞けば分かります。でもまぁ···自分が育てた愛弟子の、最高の晴れ舞台で殺される···理想的で、最ッ高な、恋い焦がれていた敗北でした!その辺も、ありがとね!出久!」

「何言ってるのさ。君を殺せるのは僕だけだろ?それを果たしただけだよ」

「うむ!戦いの密度やスキルも、もはやプロでも通用するレベルだ!それでも、油断はしないように!おめでとう!」

背納の首に掛けられたのは、鏡のように輝く銀メダル。オールマイトからのハグも受け、背納はカメラ目線でメダルにキスして見せた。

そして遂に、優勝者の番が来る。

「優勝、おめでとう!緑谷少年ッ!」

「ありがとうございます、オールマイト」

微笑みながらメダルを受け取り、ハグを受ける出久。ふと背納に対し、疑問を溢した。

「そう言えば、せっちゃん。今回はかなり攻撃が鈍かったね。何かあったの?」

「え、あれで鈍かったの?」

「あぁはい。前までのせっちゃんなら、さっきの死合で多分3回は殺されてた筈です。なのに今回は、やけに甘かったなーって」

(べ、ベストじゃなかったって、そういう···)

出久の指摘に、オールマイトは薄ら寒いものを感じた。

「ん~、デストルドーが鈍った訳じゃ無いんだけどサ···リビドーが、ちょっとだけ強くなったから、かもね」

八百万と耳郎をチラリと見やりながら、そう呟く背納。出久は成る程と納得し、深くは追求せず口を噤んだ。

「···クソが」

「って、おいおい爆豪少年!?」

唐突に表彰台を降り、フラフラと立ち去ろうとする爆豪。オールマイトはその肩を掴み、引き留める。

「どうした爆豪少年」

「止めんな···オールマイト···」

「···へぇ、そう言う事」

声のトーンで、背納は何かを察する。出久に目配せすれば、彼も理解したようだった。そして同時に、落胆の色も浮かんでいる。

「重要な式典だぞ、どこに行くんだい?」

「···俺、雄英辞めるわ」

「···え?」

「はッ、んなこったろうと思ったよ」

爆豪の口から溢れ落ちた言葉に、オールマイトは絶句。背納は鼻で嗤い、爆豪を見下ろした。

「トップじゃねぇ俺になんざ、何の価値もねェ···ましてや、あのバケモン女にゃ良いように遊ばれる始末だ。歌って、踊って、その片手間でノせる···その程度なんだろうよォ···」

リカバリーガールの治療を受けて尚、ズキリと痛む両手を見下ろす爆豪。其処には、掌を左右に分断するような、縦長の貫通創があった。リカバリーガールの手腕でも消せない、一生傷だ。

「ふーん。じゃ、勝手にすれば?敗け(イヌ)

「ッ!」

「触出少女ッ!」

「闘争と進化を諦め、戦場を棄てて尻尾巻いて逃げるんだろ?そんな奴、ボクの大好きな人間な訳無いじゃないか。

《ヒト、諦めの踏破にて人と成り、また血に酔いて人を失う》···人を失う寸前まで闘って、故に化物に成り下がるのを恐れて、それで逃げるなら良い。だがコイツは、人になるまでに心が折れちまったじゃあないか。

だったら、貴様は敗け狗だ。血と糞尿が詰まった、只の肉の袋だ」

「グッ···」

「いい加減にしろ触出背納ッ!!」

背納の罵倒に、砕けんばかりに奥歯を噛み締める爆豪。オールマイトは覇気を込めて背納に詰め寄るが、当の背納は涼しい顔だ。

「···君には、失望したよ。爆豪勝己」

そして、これまで閉ざされていた出久の口が開いた。

「失望、だと?」

「あぁそうだ。君には、天才的なセンスと、絶望的な往生際の悪さがあった。自分以外の一切を喰らい、貪り、強者として登り詰めると言う野心があった。

強さへの貪欲さ···その一点に置いてだけは、爆豪勝己。癪な事に、君を尊敬している僕がいた。

でも君はたった今、その唯一の美点をドブに棄ててしまったんだよ」

「ッ~!?」

「何より、だ。此処で雄英を辞めた後、君はどうなると思う?」

「何、だと···?」

出久の問いが心に引っ掛かり、振り返る爆豪。それに対して、出久は冷たい眼のまま続けた。

「高校を中退した人は、まず何よりも職に泣く。今時、中卒で働くにはかなり苦労するからね。

そして何より、君は戦いと無縁に生きるには、明らかに闘争本能が過剰だ。戦場に飛び込めない事が、どれ程のストレスになるかは想像に難くない。そして、その性格から、中途半端な時期に新しく集団に入り込むにしても難が多過ぎるだろう」

指を2本立てて、分析と予測を組み立てる出久。爆豪は黙って、その未来予想を聞く。

「面接まで漕ぎ着けようと、中卒と言う時点でまず採用され難い。やっとの思いで身をねじ込んだ職場でも、馴染みきれず周りとはギスギス。そうなれば作業効率は落ちて、今回のように自分から辞めるだろう。

フリーター続き、ストレス漬けの毎日。トラブルが起こらない筈も無い。君の所のおばさんは何だかんだ優しいから、絶縁まではしないかもだけど、少なくとも別居状態にはなるだろう。

其処まで追い詰められれば···()()()()()のは、すぐだ」

「ッ~!!」

「生来の短気な性格も合間って、加速度的にドロップアウトしていく。そんな奴は、何時の時代も、悪い奴の眼に留まるもんさ。

敵連合や、録でも無いヤクザな集団、はたまたテロリスト団体···君が天才的なのは、皮肉にもこの場で証明されてしまった。万年人員不足を嘆く日陰者達が、これを見逃すと思うかい?」

「お、俺はそんな―――」

「そんな奴らに与しない、かい?本当に?誰が保証出来る?」

爆豪の反論を喰い殺して、出久が真っ向から捩じ伏せる。

「と言うか、君の意思なんてそもそも関係無いんだよ。家族を人質に取るか、顔が潰れるまで拷問するか···あぁ、麻薬なんかで薬漬けって手もあるな。

奴らは、何も躊躇しない。利益を喰う為なら、文字通り何でもするのさ。

それを防ぐには、プロになるまで踏ん張って、自立し巣立つしか無いんだよ。違うかい?」

「ッ···!」

ぐうの音も出ない爆豪。ふと背納を見やってみると、鋭い鉤爪を備えた指をゴキゴキと鳴らしている。《もしそうなったらボクが狩るぞ》と言う、遠回しな意思表示だ。

「お前の選択肢は、2つに1つ。前言を撤回して、煮え湯を呑みながら足掻き強くなるか、それともドロップアウトして狩られるか。さぁ、どうするね?」

「ッッ···クッソがァ···」

不気味に嗤う背納の問いに、爆豪は1つしか、答えを持ち合わせていなかった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
現代忍者で戦闘者、免許皆伝ウェイヴマスターのデクです。ニンニン。
今回からポニーテール。うなじ越しの横顔は大変艶かしい模様。
新しいクレッセントブレイドシリーズの第1号たる【妖血劍】にて奮闘した。
後半のバトルは、完全にRE:BORNの敏郎VSアビス素手戦の再現になっている。
爆豪の未来予想図に関しては、作者の知り得るヒロアカ世界の情報にリアルのヤクザ知識、更に爆豪の性格から考えた現状のメンタル状態やストレス量から予想したもの。
一応爆豪の往生際の悪さについては一定の評価はしていた。ただ、侮蔑が圧倒的に勝っていたので態度には1ミリも出ていない。
頸部に極浅い裂傷···リカバリーガールにより完治
右頬骨亀裂骨折···完治
左肩に裂傷···完治したが傷痕あり
両掌に裂傷···完治したが傷痕あり
結論=全然元気。

触出背納
愛弟子に気持ち良く敗北した化物主人公。
新しいクレッセントブレイドシリーズの第2号たる【胤血刀 吸命牙】を握って戦った。
初手射撃はアビスウォーカーのリスペクトみたいなもの。因みにこの世界ではガスガンの18禁制度がほぼ無くなっており、また発射初速の規制もかなり緩んでいる。
出久と揃って飯田にどこぞのタカくんみたいな事を言われた。
因みに爆豪がドロップアウトした場合、マジで躊躇無く狩る。今度は両腕を完全に切り落とす。
頸部軽度のムチ打ち···完治
左肋亀裂骨折···完治
消化器系···絶賛大混乱中
結論=実はボロッボロ。

・新たなクレッセントブレイド···緋色月(スカーレット·ムーン)シリーズ
背納が出久と勝負する為に、ウォルターに新造させたリメイク品。
背納の血で溶かした砂鉄を石炭還元し、それによって出来た緋色の特殊な玉鋼、《緋緋色玉鋼(ヒヒイロノタマハガネ)》(後にマックスが命名)で拵えたもの。ゼノモーフの強酸血液に対して、強い耐性がある。また酸化しにくく、加工中の酸化損失も少ない新素材である。

・妖血劍
緋緋色玉鋼で拵えたクレッセントブレイド・シャイニング。グラデーションがかった緋色をしており、背納の血液に濡れても腐食しない。
また、軟鉄の芯を鋼鉄で包んだ日本刀と同じ構造である為、本物の刀には劣るものの剛性にも優れる。

・胤血刀 吸命牙
緋緋色玉鋼で拵えたクレッセントブレイド・ダークネス。ヴァンパイア・ゴーストヴァイト仕様の形である。
但し、金色のストーキングリングと髑髏数珠、人髪の編み込みは付いていない。更に言えばヴァンパイア・ゴーストヴァイトと言う名称そのものが《髑髏数珠》と言う意味なので、そもそもヴァンパイア・ゴーストヴァイトでは無い。
順手、逆手共に使いやすく、尚且つ禍々しい形をした鋼の牙である。

グロックG17・コンバットカスタム
背納が使った改造ガスガン。グロック17に迷彩塗装を施しており、内部もゴテゴテにカスタムされている。
「ほう、これは···」
「対暴徒鎮圧実戦運用想定、グロックG17ガスブローバック・コンバットカスタム。
全長22,5センチ、重量740グラム。装弾数は25。もはやオモチャとは呼べないシロモノですよ」
「インナーバレルは?」
「6,04ミリ内径、クレイジージェットインナーバレル」
「初速は?」
「0,25グラム生分解性プラスティックボールバレットで、93,13メートル毎秒」
「有効射程は?出来るだけ分かりやすく説明してくれ」
「大体30メートル以内で真っ直ぐ当たれば、スチール缶の片面貫通は固いよ」
「パーフェクトだウォルター」
「感謝の極み」
と言う会話が納品時にあったとか無かったとか。
因みにこのデータはリアルのガスガン規制にモロ引っ掛かるレッドカード物なので呉々も真似しない事。


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第22話 前座の女子会

『さーて、今回はR18第3話の前座の茶番。そんでもって歌回だ。ちっとばかし、ウダウダと長い』
「ホントご無沙汰だな。そんでもって直球」
『仕方無いだろ?話の流れの中でヤれる所が少ないんだから。
あと今更ですが、ゼノモーフのあの頭のクリアバイザーみたいなのが眼である事を最近知りました』
「知らなかったのかよ」


「ズ~ガガガガッガガーガガー!」「ドォゴゴゴゴ~ゴゴ~!」

「ガガガガッガガーガガーッ!」「ベェキベキベキベキッ!」

「ズ~ガガガガッガガーガガー!」「ドォゴゴゴゴ~ゴゴ~!」

「ガガガガッガガーガガーッ!」「ベェキベキベキベキッ!」

 

「「ガガガガッガガーガガガ!ガ・ガ・ガ!ガ~オファ~イ~ガー!!」」

 

(···どうして、こうなったかなぁ)

黒いマイクを握り締めて、レッツファイナルフュージョンを熱唱するマックスとドク。

更に、ノリに乗ってタンバリンを叩く芦戸と葉隠。

そして、選曲の仕方を耳郎に教わる八百万と、脚を組んで自分の番を待つ背納。

こうなった経緯は、20分程前に遡る。

 


 

(背納サイド)

 

「ふぃ~♪良い具合に疲れた疲れた~···(響香、百ちゃん)」

(ん、どうした?)(何ですの?)

体育祭閉会後。

ボクはゴリゴリと肩甲骨を回しながら、2人にテレパシーを送る。

(正直かなりムラムラしてるから、もうホテル行きたいんだけど···この後大丈夫?)

((サイッテー)ですわ)

「あ、ごめん」

(ムードもクソも無いじゃん)

(直球過ぎますわ)

(しょうがないじゃん!誘った事なんて無いんだし!)

(0点)

(0点)

(論外だな)

(手厳しいってオイ、ナチュラルに混ざって来るなよマックス!)

辛口な2人の評価に、シレッとマックスが参加して来る。何処に居るかと思えば、雄英体育祭会場のドームの上に座っていた。ドクも一緒だ。

全く、何て所から生体電波ジャックして盗聴してやがるんだアイツは。

「え?少佐何処?」

「ほらあそこ」

「あんな所から!」

響香達に驚かれながら、ピョンピョンと身軽に降りて来るマックスとドク。どうやら片付けへの人員貸し出しは終わったらしい。

「クイーン。産み付けられたチェストバスターの回収、滞り無く完了いたしました。

所で、今夜はまだ牡蠣が残っていますので、カキフライで宜しいでしょうか?」

「え?あぁうん、大丈夫だよ。あ、タルタルソースはゴーヤピクルス多めでね」

「承知しました」

「あぁそれと、八百万君に耳郎君。悪いが、クイーンの()()()()に付き合ってやって貰えないか?」

「は?」

「「えっ?」」

何でマックスがそんな事頼むんだ···おい待てまさか!

「あぁクイーン、お気付きになりましたか。今日の昼食は、私がクイーンの消化吸収能力を計算して、わざと()()()()()()()ように作らせたのですよ」

「やっぱりあれわざとかお前ッ!」

とってもいい笑顔で言ってくれるドク。チラッと疑った通りだったよ畜生!

「···背納。あんた、ウチら以外を誘った事ある?」

「···無い。無いよ。自分からは、今のが初めて」

「···うん。嘘じゃないみたい。なら、仕方無いか」

「経験が無いなら、まぁ仕方ありませんわね」

呆れ混じりだった2人の視線が、妙に慈愛の籠ったモノに変わる。

えっと、これもしかしなくても、遠回しに童貞臭いって言われてるよね?

「許される理由が童貞臭さ(それ)って、地味に傷付くな···」

「ん?シたく無いの?」

「いえ、シたいです。すみませんでした」

どうにも響香には頭が上がらないな···

「···もう良いよ。ウチ今日は用事とか無いし」

「私も、習い事の類いの予定はありませし」

「···今度からは化物風情らしく、おねだりでもするかな」

アーカードの旦那みたいに、人間に服従する化物(ボク)···あれ?何だろう、凄く興奮する気が···首輪とかアリかも···いや、敢えて鎖と南京錠とかで無骨なのも所有物感があってそれもそれで···

(···何固まってんのさ。ホテルでえっちしたいんでしょ?何?行きたくないの?)

「あっすみません今行きます」

いつの間にか悶々と妄想して、脚を止めてしまっていたらしい。気付けば2人はもう5歩分程前方に立っていた。

にしても響香、見事にテレパシー使いこなしてるなぁ···

「およ?触出に耳郎にヤオモモじゃん。何処行くの?」

「ホントだー!何ー?女子会ー?」

「おっとぉ···」

大股に3歩で2人に追い付いた時、後ろから声が掛かる。三奈ちゃんと葉隠さんだ。

「あーいや、ちょっと反省会でもしようかな~って。戦法についてとか、その他色々」

「あっ、じゃあアタシ達も行って良い?師範は用事があるって、轟と一緒に行っちゃったし」

(ヤッベェ、言わなきゃ良かったかな)

しくじった。当たり障り無く、真面目な百ちゃんが参加しても違和感が無いよう繕った反省会と言う名目だけど、これだと同門の三奈ちゃんや葉隠さんの参加を断る理由が無い。

(断らないの?)

(いや、流石にね。一応ボクの弟子だから。師匠として、弟子の面倒見る責任があるし)

(責任感()あるんだね)

(《は》って何さ《は》って)

テレパシーでそんな遣り取りをしつつ、どうしたもんかな~と考える。

と言っても、最早選択肢は1つしか残っていない訳で···

「ヨシ!じゃあ行こうか。このメンバーで」

「では、会場案内はお任せを。ぴったりの場所があります故に」

(グッジョブだよマックス!)

(流石に私も其処まで性悪ではありませんよ。主人の体裁ぐらい守りますとも)

(少佐に救われましたわね)

どうやら、マックスが先導してくれるらしい。これならボクも、端から見れば行き先を任せたマックスに連れて行かれるだけだ。変な勘繰りを入れられる事も無いだろう。

やっぱ頭の回る部下は持っとくべきだな。

 

―――

――

 

「おぉー!ベッドでっか~い!」

「色々あるねぇ~!」

借りた部屋に着くなり、三奈ちゃんと葉隠さんはベッドに飛び込んだ。

まぁ気持ちは分かる。デッカいベッドはテンション上がるもんだ。

「じゃ、反省会と行きますか」

 


(NOサイド)

 

そして、今に至る。一応最初10分は名目通りに反省会をしていたが、芦戸が部屋にあったカラオケマシンに目を付けてから加速度的に只の女子会になってしまった。それもまぁ悪くは無いとして、背納達は楽しんでいる。取り敢えず、一周したら汗を流す予定だ。

「クイーン、どうぞ」

「はいよ」

そんなこんなで、背納の番が回って来た。選曲していたのは、《Los!Los!Los!》だ。

 

「···Feuer(フォイヤ)! Sperrfeuer(シュペゥフォイァ)! Feuer(フォイヤ)! Los(ロゥス)!

Achtung(アハトゥング)! Deckung(デックング)! Hinlegen(ヒンルィギン)! Halt(ハルトゥ)!

Feuer(フォイヤ)! Sperrfeuer(シュペーゥフォイァ)! Feuer(フォイヤ)! Los(ロゥス)!

Achtung(アハトゥング)! Deckung(デックング)! Hinlegen(ヒンルィギン)! Halt(ハルトゥ)!

 

Auf(アゥフェ) zum(ツム) Schlachtfelt(シュラッフェル)! Auf(アゥフェ) zur(ズー) Front(フロンッ)! Und(ウントゥ) auf(アォフ) bis(ビズェ) zu() eurem(オィレン) Tod(トォド)!

Werft(ヴェァフトゥ) das(ダス) Leben(ルィーベン) hinfort(ヒンフォァトゥ), zeigt(ツァイクトー) die(ディー) Willenskraft(ヴィーレンクラフトゥ), die in(ディーィン) euch(オィヒ) wohnt(ヴォーントゥ)!」

 

それもドイツ語アレンジバージョンである。因みに歌っている中の人が同じなので親和性はとても高い。

「ど、ドイツ語ですわね···」

「すごーい!背納ちゃんドイツ語歌えるんだねぇ!」

「爆豪さんを下した時も歌ってましたわね。そう言えば、あの曲は何と言う曲なんでしょうか?」

「あぁ、あれは第二次大戦時のドイツの進軍歌だ。我ら英国に進軍す、通称イングランドの歌。

HELLSINGという漫画のOVA作品が、エンディングテーマとして採用した。歌詞は要約すると、《俺達はイギリスをぶっ潰す楽しいピクニックに行って来る。死ぬかもしれないが、恋人よ、どうか悲しまないで》と言う内容だ。しかもそれを、寄りにも寄ってナチスドイツの被害者であるポーランドの楽団に歌わせると言う鬼畜の所業を経由し、世に発信された。

その結果、イギリスが爆笑しドイツがブチギれ、更に仕事を選ばないポーランド楽団と言うあだ名が生まれた伝説のスタイリッシュ国際問題ソングだ。

因みにアニメ内でロンドンが爆撃で火の海になるのだが、これは現地視察に行った作者殿が黄色人種且つデブでメガネでロン毛だった事で、差別と言うか嫌がらせを受けた事による私怨だった、と言うのは有名な話だ。視察中、作者殿は『漫画の中で此処はどう壊してやろうか、コイツらはどう殺してやろうか』と、半ば攻撃する場所を吟味するテロリストのような心境で資料写真を撮影していたらしい。

余談だが、この曲で流れるスタッフロールは英語版だと平均的なそれより1.5倍程早い。故に、逃げるスタッフロールだとか言われていた」

「因みに我々の名前も、そのアニメのキャラクターから取ってあります。もう著作権は切れてますから、動画サイトで《HELLSING》と検索すれば見られますよ」

背納が歌っている内に、シレッと布教を済ませるマックスとドク。この2人、自分の主人に対してかなりドライな所がある。

「終わったよ~。じゃ、次は響香?」

「あ、うん。それと背納。これデュエット曲だから、相方して貰って良い?」

「ちょっと待ってね···あー、この曲なら大丈夫。じゃあどうする?そっちがミクサイド?」

「そのつもり」

「じゃ、此方がルカね」

小波の音と共に始まる儚げなイントロに合わせ、背納はタンタンと爪先で床を弾いてリズムを取る。そして何かを思い付き、立ち上がりかけた耳郎にテレパシーを飛ばした。

(···ま、良いよ。分かった)

(よっしゃ♪)

背納が手早くテーブルにスペースを開け、其処に半ば呆れながら耳郎が腰掛ける。更にその上に被さるように背納がテーブルに膝を付いた辺りで、歌詞が表示された。

 

―――――か細い火が、心の端に灯る···いつの間にか、燃え広がる熱情···

 

艶っぽく、微熱の籠ったハスキーな声。そして指で自分の唇をなぞり、テーブルについて身体を支えていた左手で、下から掬うように背納の右手を取る。同時に背納は尻尾をその背中に回し、しっかりと支えた。

 

「「絡み合う指、解いて···」」

―――――唇から、舌へと···

 

耳郎が取った指を絡めつつ柔らかく離し、爪の先端で耳郎の唇に触れる。そして背中に回した尻尾を、腰に巻き付けた。

 

「「赦されない事ならば···」」

―――――尚更···燃え上がるの。

 

「「抱き寄せて欲しい。確かめて欲しい。間違いなど無いんだと、思わせて···

キスをして、塗り替えて欲しい。魅惑の時に、酔いしれ···溺れて、いたいの···」」

 

背納は耳郎の唇を撫でた右手を、そのまま背中に回す。右膝を耳郎の腰より少し奥につき、入身になって耳郎の背中を反らして、その首元に迫った。

(せ、背納!流石に近いよ!くすぐったい···)

(ゴメンゴメン。でも、割とノリノリじゃん?)

(···まぁ、こう言うのは嫌いじゃないし)

(あ~、可愛いなぁ!)

(う、うっさい)

間奏に入り、一時の休憩。背納に愛でられ、思わず赤面し猫のようなジト目でフイッと視線を逸らす耳郎。すると、必然的にギャラリー達の反応が眼に入る。

ひゃーっと黄色い悲鳴をあげる葉隠、ヒューヒューとからかう芦戸。ドクとマックスは腕を組み、ニヤニヤと笑いながら何故かウンウンと頷いている。

一方、八百万はと言うと···

「っ···!!」

完全に、魅入っていた。唯々、思考も追い付かない程に、のめり込んでいた。しかも、無意識に合掌までしている。

人とは古来より、どうしようも無い事に直面すると、何故か手を合わせてしまうと言う。

 

―――――束縛して。もっと、必要として···愛しいなら、執着を見せ付けて···

 

間奏が終わり、始まる第二パート。歌い出しは妖艶で、尚且つ捕食者的な危険な色気のある背納から。自分の制服のネクタイに耳郎の指を絡め、首輪のように掴ませる。

 

「「迷い込んだ心なら···」」

―――――簡単に融けてゆく···

 

歌詞通り、耳郎の蕩けるような揺らぐ声。掴んでいたネクタイをグイッと引き寄せ、背納の首元に。そして自分のマイクは切り、背納が持っていたマイクに声を拾わせた。

そのままネクタイから指を外し、背納の頬に添える。

 

「「繰り返したのは、あの夢じゃなくて。紛れも無い、現実の···私達。

触れてから、戻れないと知る。それで良いの。誰よりも、大切なあなた···」」

 

(···何ですの?この、感覚···)

第二パートが終わり、再び間奏。

八百万は、自分の中に生まれた未知の感覚に戸惑っていた。

心拍が強まり、胸の奥が締め付けられるような。しかし不快かと思えばそうでも無く、寧ろ逆。この感覚の中に微睡み、沈んでしまいたいと思える程に甘美なのだ。

自然と、口角が上がる。思わず、溜め息が出る。

美しい。故に、触れ難い。出来るならば、あらゆる不純物を排除して、その様を唯々、側で見ていたいような、そんな感覚。

(ほう、目覚めたか。流石だ、八百万君)

(少佐···これは、この感覚は···何なのでしょうか···?)

(それは···てぇてぇだ)

「てぇてぇ···」

(エモいとも言う)

無意識に、呟く。その表現の、何としっくり来る事か。

(てぇてぇやエモさは理屈では無い。故に、言える事は1つ···考えるな、感じろ)

(てぇてぇ···エモい···)

マックスとドクが八百万にいらん事を教えている間に、また間奏が終わる。勿論これを聞いていた背納は、耳郎にテレパシーで()()()()を入れようと持ち掛けた。

 

―――――夜明けが来ると不安で···泣いてしまう、私に···

―――――『大丈夫』と囁いた。あなたも···泣いていたの···?

 

「「――――ほぅ···」」

 

「~ッッ!」

短く、然れど熱く、混じり合う吐息。マイクがハッキリと拾ったそれは、鼓膜を介して八百万の脳髄に雷を落とす。

 

「「抱き寄せて欲しい。確かめて欲しい。間違いなど無いんだと、思わせて···

キスをして、塗り替えて欲しい。魅惑の時に、酔いしれ···溺れたい···

引き寄せて、磁石(マグネット)のように。例え、いつか離れても···巡り合う。

触れていて。戻れなくて良い。それで、良いの。誰よりも―――――」」

 

―――――大切な、あなた···

 

最終的に1つのマイクを共有し、百合百合しいイチャイチャを垂れ流したmagnetは、背納の一節で終わった。

「ひゃー!すごい!」

「え、もしかして2人ってデキてんの!?」

「いやいや、流石に只の演出だよ。百合曲には百合演出が合う」

(···)

(いや、ごめんって)

チリチリとした、不満の感情。ジト目の耳郎から投げ付けられたそれに、背納は脳波で謝罪を返す。

「どうだった~?百ちゃ···って、あれ?百ちゃん?」

八百万に声を掛け、その段階で漸く異常に気付く背納。

「わっ、幸せそうな顔で固まってる···」

芦戸の言う通り、八百万は硬直していた。至福の顔で、合掌しながら。

「恐らく、てぇてぇが致死量に達したのでしょう」

「···息もしてないな。それっ」

 

―ボンッ―

 

「ハッ!?」

マックスが背中を軽く叩くと、八百万は忘れていた呼吸を思い出す。紅潮した頬に触れ、呆然としつつ深呼吸を繰り返す。

「ほれ、百ちゃん次」

「い、いえ!私はもうお腹いっぱいですので!あ、暑くなってしまいましたわね!汗を流しましょうか!」

(···大分、テンパってるなぁ···)

(おぉっと、箱入りお嬢様には刺激が強かったかな?)

原因が自分達なだけに苦笑いする耳郎と、確信犯めいた性悪な笑みを浮かべる背納。腹心達の事を言えた立場じゃ無い。

「あ!この部屋サウナが備え付けられてますのね!さぁ!汗を流して頭を冷やしましょう!」

「頭冷やすのにサウナって逆効果じゃない?」

「あー、見事に空回ってらっしゃる。何より先に、百ちゃんが頭をヒヤシンスじゃんね。

ハイ、百ちゃん」

 

―バァンッ!―

 

「ひゃっ!?」

ハァ、と溜め息を吐きつつ混乱状態に陥っている八百万に詰め寄り、背納は強烈な猫騙しを繰り出した。

「はい、落ち着いた?」

「あっ···す、すみません!私···」

「良いって事」

ドクがドリンクバーで汲んで来た水を飲ませると、赤かった頬も幾分か落ち着いてくる。

「ま、元々サウナは使うつもりだったしね。

所で、この中にサウナ無理な人いる?」

 

―――

――

(背納サイド)

 

「ふぃ~っ!これこれぇ~!」

タオルで身体を隠し、マットを敷いて細長いサウナ室のベンチに座る。

すると、ボクの両脇に響香と百ちゃんが座った。いやぁ両手に華だねぇ。

因みにドクとマックスは外にいる。あの子達はそんなにサウナが好きじゃない。逆にボクは割と大好きだ。プレデターの故郷が、温暖な惑星だからかねぇ?

「私サウナ入るの初めて~!」

「実はアタシも~」

「ほう、未経験だったのか」

その割には何の不安も無く大丈夫と即答してたけど···おっと、まずいかも。

(催眠式緊縛封印術式第2号解放···)

タオルの下で、生体装甲を纏う。

(背納さん?どうしましたの?)

(···あぁ~···)

百ちゃんは分からないみたいだが、響香は分かったらしい。また冷たいジト目を向けてくる。

(いや、ゴメン。マジでゴメン。でもしょうがないじゃん。雄として当然の生理反応なんだってば)

(あっ、そういう···)

百ちゃんも気付いたらしい。

そう。ボクの()()が、元気になりかけていると言う事に。

(···まさか、サウナにもそう言う目的で?)

(いや、無い無い。これは単純にボクの好みだよ。これに関してはマジで下心とか無いから)

「あっつ~···そう言えばさ!触出って、サウナ好きなの?」

お、三奈ちゃんが良いタイミングで話題振ってくれた。乗らない手は無いネ。

「まぁね。ボクって、プレデターとゼノモーフと人間のミックスな訳だし。元々プレデターは暖かい場所が好きで、ゼノモーフは宿主に体質合わせるからさ」

「へぇ~···」

「ま、単純にこの湿度と暑さが好きってのもあるんだけどネ」

このジワジワと全身に熱が染み込んでいく感じが、これまた堪らないんだよ。

「にしてもさー、ラブホでサウナって危なくないのかな?何か、この中でもし···その、おっ始めちゃったら···」

「死ぬね、確実に。少なくとも生理食塩水を大量に持ち込まないと死ぬ。

まぁ、ホテル側もそんな事になったら迷惑だから、扉にも注意書がある訳だしね。この中でセックスしないで下さい、死にますからって」

「あ、背納ちゃんってそう言うワード抵抗無いタイプなんだ···てか、書いてたの?」

「書いてたよ。良く見るとね」

どうやら葉隠さんは読まなかったみたいだ。探索ゲーとかでも、キーアイテムとかを見落とすタイプだろう。こういう標識とかは結構重要だ。ボクは詳しいんだ。

「っと、アタシそろそろ出るわ。初心者は引き際が大事だし~」

「あ、私も~」

と、お二方はどうやらもうサウナを出るらしい。まぁ、大体7分弱か。初めて入って此処まで平気なら、まぁ大したもんでしょ。

「2人は大丈夫?無理してない?」

「ウチはまだ平気」

「私も、家庭用サウナで慣れておりますので!」

「ハハハ、お嬢様だねぇ···」

百ちゃんのブルジョワ具合に顔を引き攣らせつつ、サウナから出て行く2人を見送る···あぁ~やっぱり2人とも骨格やら体幹やら素晴らしいな~···

(所で、背納さん)

(ん、どうしたん?)

(えっと、今日の、その···プレイ内容、と言いますか)

おっと?箱入り百ちゃんからこんな言葉が飛び出すとは···何があった?

(私、マックスさんに教えて頂いた漫画サイトなんかで勉強したんです!)

「あんにゃろうまた勝手しやがったな」

「背納ん所って、部下が暴走しがちだよね」

「まぁ、迷走してないだけまだマシだけど」

「諦めてんなぁ···」

「毒物耐性を付ける為とか言う名目でグッスリ就寝中の主人に毒ガス嗅がせる時点でお察しさね」

ハハッと乾いた笑いが漏れる。まぁそのお陰でマジに毒耐性が付いたんだがね。

(···で?プレイ内容だっけ?ぶっちゃけ、普通のセックスで慣らしてからの方が良いと思うけど···)

(それは分かるのですが、どうしても気になるモノがありまして···)

(ほう?何だねそれは)

(それは―――――)

 


(NOサイド)

 

「あの2人、絶対デキてるよね~」

「ね~!間違い無いよね!」

シャワーを浴びて事前に八百万が()()()ジャージに袖を通しながら、芦戸と葉隠は背納達を出汁にして色恋話に華を咲かせる。

「しかも、背納ちゃんの方は若干こなれてる感じがしたし!」

「あー確かに。実際、触出って結構女誑しっぽいからなぁ~···」

過去、胚の産み付けの際に背納の魔性に曝された経験のある芦戸。彼女も一時的とは言え、背納に誑かされた1人である。

「それに比べて、ヤオモモはウブで可愛かったよね~」

「ホントホント!2人を見て、ポワ~ってなっちゃってた!」

「そんな3人が、ラブホテルの一室に···何も起きない筈は無く···みたいな?」

「わぁ~気になる~!」

「気になるかい?」

「わっ!?」

ベッドの横のクローゼットから、マックスが登場。そんなモノは予想出来る筈も無く、2人は驚き声をあげた。

「だったら···見ているかい?ヒソヒソと」

「このクローゼットからね」

マックスに続きクローゼットから出てきたドクが、自分達の入っていたクローゼットを指差す。

「これは、ちょっとした特別製でね。中にはスプリングクッション付きの腰掛け台と、体重を預けられるベルトが設けてある」

「わ、ホントだ」

マックスの言う通り、その中身はクローゼットと言うよりも、スパイ映画に出てくる隠し部屋のようだった。

ハンガーを掛ける棒が2本あり、それを外してクローゼットの底板を持ち上げれば、中には鉄パイプの受け口。更に外した底板は裏が布で覆われたスプリングクッションになっており、垂直に立てた棒にカチャコンと嵌め込めば、即席の椅子になった。

「どうする?」

「いや、でも流石に···」

ヒーロー志望としての良心が、悪魔の囁きに細やかながら抵抗する。

「いや、でもぶっちゃけさ···見たくね?」

「「見たい」」

「宜しい。ならば覗き見だ。若人よ、闇を暴き、深淵を覗いたまえ。

なぁに、君達が責められる事は無い。何があっても、怒られるのは唆した私だ」

自覚のある確信犯が、2人をクローゼットに押し込む。当の2人は好奇心と言う猛毒にやられてしまったようで、抵抗はしない。

雄英の制服は、消臭スプレーを吹き掛けてから2人の足元の籠に。用意周到にも程がある。

「ドク~、2人は~?」

「今し方、お帰りになります。我々が送って行く所です」

「パーフェクトだドク」

「お誉め戴き感謝の極み」

実際はしてもいない仕事を、主人にシレッと虚偽報告するドク。肝が太いなんてレベルじゃない。

「では、ごゆっくり」

そう言って扉を閉めるマックスの顔には、えげつない笑みが浮かんでい

た。

 

(背納サイド)

 

「ふぃ~♪やっぱサウナの後は、冷たいシャワーだねぇ♪」

身体中の汗や垢を、シャワーで流水を浴びながら擦り落とす。

身体からモクモクと立ち上っていた湯気は、もうすっかり退いていた。

「ひゃっ!冷たっ!」

「あら、耳郎さんは、冷たいのは苦手ですか?」

「生憎と、こちとら身体が冷えやすくてね」

「まぁ、それは大変ですわ!大丈夫ですか?クラクラしたりしません?」

「っ···」

どうやら百ちゃんは低体温症を心配したらしい。狭いシャワー室内で響香と向き合い、その額に手を置く。

と、まぁこんなとこで向き合ったら、当然百ちゃんの豊満なおっぱいが響香の胸に当たっちゃう訳で···一瞬チリッと悪感情が飛んでくる。しかし、どうやら百ちゃんには飛ばさなかったようだ。まぁ、ボクに八つ当たりしたみたいだね。最善の手段だよそれが。にしても、もう個人通信が出来るとは恐れ入ったな。

取り敢えず···

「百ちゃん、流石にそんなすぐ冷えないってばさ。変温動物じゃあるまいし。

響香、ちょっと温度上げたよ」

「あ、そうですわよね。私ったら···」

「ん、あったかい。ありがと背納」

ボクと入れ替わって、温水を浴びる響香。

その背中は、溜め息が出る程に滑らかで、綺麗で···

「···きょ~うかぁ❤️」

「えっ、背納!?」

あぁ、だから、きっと、こうやって後ろから抱き締めてしまうのも、致し方無い事なんだろう。

でも、最後の一線だけは絶対に越えない。その為に、クロムウェル2号も解放したままだ。

ボクは()()()()とは違うのだから。断じて、ケダモノでは、無いのだから。

「あぁ~···あら?背納さん、これは何ですの?」

 

―ピトッ―

 

「きゃあっ!?」

 

脊髄に雷が落ちたような、とんでもない刺激。慌てて口を抑えるが、足腰は堪えきれず、へたり込んでしまう。

「ちょ、大丈夫!?」

「す、すみません背納さんっ!」

「あぁ、うん···良いよ良いよ。でも()()、急には···触らないで」

2人に引き起こされ、また自分の足で立つ。そして、再びシャワーを浴びた。

「···熱い」

あぁ、熱い。顔が熱い。火が着いて、燃えているみたいだ。

きゃあなんて、ボクのキャラじゃ無いだろ。あぁ、恥ずかしいな。そして、何よりも···

(何で、()()()()()が性感帯になるんだよ···)

正面の鏡越しに自分を見ながら、ボクは左右両側の首筋をなぞる。

特徴的なドレッドと揉み上げに僅かに隠れながらも、そこには()()()()()()()()()()()()()が、確かに1つずつ浮かんでいた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
童貞臭い上に大誤算に見舞われた化物主人公。
心の底の方はMなので、好きな人には支配されたい。同時に、それが化物への理想像でもある。
ドイツ語が好き。なのでノリノリでドイツ語アレンジの《LOS!LOS!LOS!》を歌ったが、その間に腹心が歌そっちのけでHELLSING布教してた。
《magnet》は巡音ルカサイドを歌った。
因みに作者がmagnetを知ったのはつい最近。某百合VTuberコンビの歌ってみた動画である。

耳郎響香
辛口彼女。背納に飼い主(ご主人様)認定されつつある。
背納の影響で、ロック系以外に百合系、恋愛系の曲も聞くようになった。と言っても甘いタイプじゃなく、悲恋系や背徳系、magnetのような禁断系などが好み。
《magnet》では初音ミクサイドを歌った。理由は、上記の動画でミクサイドに低めのハスキーな声がマッチしていたから。
個人的に、擬獣化すると猫だと思う。ので、ちょっと猫っぽい仕草を意識して書いてるつもり。

八百万百
今日の被害者。この子の為に《キャラ崩壊》タグを追加した。
magnetを歌う背納と響香による強烈な百合演出は、箱入り娘には刺激が強過ぎた。その胸に渦巻く気持ちの名前を録でも無い奴から教えられ、百合に目覚める事となる。因みにパニック中は、所謂ぐるぐるお目眼になっていた。
元から割とむっつりスケベな為、マックスに教えられたエロ漫画サイトなどで色々読んだ結果、気になるジャンルを見付けた模様。

モンティナ・マックス&グロンド・ドク・プルフェッツォル
確信犯の少佐&主人殺害未遂常習犯のマッドサイエンティスト。
HELLSINGのカバー裏ネタで、レッツファイナルフュージョンを歌わせた。この2人を出す時点で、これだけは絶対させると決めていた。
背納の眼を盗んで、八百万に「こういうので勉強すると良い。あ、会員に登録しましたとかメッセージ来ても放置で良いよ、架空請求の類いだから」と言ってエロ漫画サイトを勧めた少佐。何て事してやがる。
余談だが、スパイ仕様クローゼットの設計者は言わずもがなドクである。

芦戸三奈&葉隠透
背納の大誤算そのもの。
元来の色恋沙汰好きの性で、magnetのデュエットにはテンションが跳ね上がった。
好奇心に酔わされ、覗き魔となってしまう。彼女達の運命や如何に。

https://syosetu.org/novel/231303/


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第23話 餓狼の宴

『筆が乗らぬ···』
「やる事だらけで時間ねぇしな」
『珍しいな。お前が俺に優しいって』
「言い訳じゃなく事実だからな。俺ちゃんも特殊部隊にいたし、軍隊系のキツさは分かってる」
「あぁ、ありがてぇ···これで心置き無く狩人の悪夢を攻略出来る···」
『あぁ、無理せず悪夢を···何だって?』
「BloodborneのDLC買いました!」
『前言撤回、くたばれ糞ったれ』


(背納サイド)

 

「ふぃ~、漸くご飯だー!」

昼。鳴り響くチャイムを聞き流しながら、ボクはゴキゴキと身体を伸ばす。昨日の運動量のお陰で増強した筋肉も、上手く馴染んで来た。

「じゃ···食堂、行こっか?」

「「は、ハイッ!」」

近くに居た三奈ちゃんと透ちゃんの肩を、ポンッと叩く。すると2人はビクッと大きく跳ね上がり、引き攣った返事をした。

「全く、そんなに怖がらなくても獲って喰いやしないよ···

今の所は」

「「ッ···!?」」

おや、更に青ざめてしまった。どうしたと言うのだろうねぇ?

 

「コラ背納」

―ゴスッ―

 

「タブラッ!?」

瞬間、背中の右肋骨に激痛が走る。鈍い杭を打ち込まれたようなその痛みに、思わず変な悲鳴が出た。

「悪い冗談言わないの!2人とも、気にしなくて良いからね」

「イッテテテ···敵意が無い分、余計にキツい···」

背中を擦りつつ、後ろを振り向く。痛みの正体は、響香の肘鉄を打ち込まれた衝撃だったらしい。

これで殺気でもあれば幾らか反射的に緩和出来たけど、生憎と全く殺意も敵意も感じないから防御出来ない。

って言うか、これゲリラ特殊傭兵の少年兵に教えられる極意じゃん。何で響香これ使えるの···?出久だって、中学時代の内の丸々半年使って漸く習得したってのに···

「背納さん、行きますわよ」

「あぁ、うん···」

百ちゃんに引き起こされ、ボクは教室を後にした。

 

―――

――

 

「で、何処にするか決めたの?」

「んぇ?」

プロテインバーを齧りながら、唐突に問い掛けてくる出久。急に聴いて来るもんだから、チキンジャーキー(ドクお手製)を噛み切れなかった。

「ほら、指名来てたでしょ?」

「あぁ、あれね」

指名とは、昨日の体育祭を観たプロヒーローからの職場体験のお誘いの事だ。出久もボクも轟君も、かなりの数の指名が来ていた。

「うーん、荒事が多そうだし、大阪のファットガムにしようかなーと思ってるよ。そう言う出久は?」

「八木さんから紹介された所に行ってみる。何でも凄く強いらしくて···しかも、()()()()()らしいし」

「へぇ···」

成る程、そう言えばさっき、コソコソと呼ばれてたなぁ。

「俺は···親父の所にする」

隣でざるそばを啜っていた轟君が、ボソリと呟くようにそう言った。

「そっか···頑張ってね!」

「あぁ。アイツから眼を逸らしちゃ、ダメだから···俺の道を行く為に、まずはアイツをしっかり知る」

「ヒュー、さっすがは折寺の聖母。大躍進させたねぇ?」

やっぱ出久のセラピースキルって凄い。あんだけ凝り固まってた憎悪をこうも容易く解かして···

「···」

「ん、どうしたの?」

「眼、綺麗だなって」

「アハハ、ありがと!」

···あー、成る程。理解した。

(あの轟の眼って、確実に···)

(そう、ですわよね···)

うん、響香と百ちゃんも気付いてるねこれ。

だがしかし、口は挟まぬよ。馬に蹴られるのは御免だ。

「って言うか、2人ともご飯少なくない?背納はチキンジャーキー3本だけだし、緑谷なんてバランス栄養食1本って···」

「あぁ、今日はちょっと放課後に用事があってね。お腹を空かせとかないといけないから」

「「?」」

ボクの返答に、2人して首を傾げる。可愛い。

「丁度良いや。2人も見学に来ると良いよ。2時間は掛かっちゃうと思うけどかなり面白いし、何より···為になる」

「···じゃあ、着いて行こうかな。暇だし」

「私は、今日は少し用事がありまして···」

「ん、分かった。じゃ、今日は張り切っちゃうぞ♪」

ギャラリーが多い方が、燃え上がるってものさ。

にしても···飯田君、随分と淀んだ眼をしている。憎悪と怨念を(はらわた)の奥底で煮詰めているような眼だ。

「飯田君」

と、出久が声を掛ける。元々が人の仕草に敏感な出久だ。気付くなと言う方が無理だろう。

「ん、何だね緑谷君」

「···何か思い詰めてる事があれば、相談してね···お兄さんの事とか」

「ッ···あぁ、その時は、宜しく頼む」

む、飯田君の兄···何だっけな。思い出せん。だが、出久が何かに巻き込まれるのは確定した訳だ。

「さぁてと···(どうなるかな?)」

行方知れずの未来に期待しつつ、ボクは残りのジャーキーの欠片を口に放り込んだ。

 

―――――

――――

―――

――

 

「さぁ、此処だよ」

放課後。駅を5つ越えた先にある、今宵の目的地にやって来た。

「え、此処って···スーパー?」

そう。其処は、ちょっとした田舎にある普通のスーパーマーケット。その名もライフストア。

まだチェーン展開はしていないけど、品揃えが豊富で近所の評判も良い店だ。

「さーってと、行こうか!」

「うん、行こう」

出久と拳を叩き合わせて、自動ドアを潜る。

「っ~♪」

鳴り響くおさかな天国(BGM)と、絶妙に空調が効いて程好く乾いた空気がボク達の肌を打った。そして、その中に感じる、微かな、しかしそれでいて確かな()()()()()

あぁ、やはり心地好いものだ。

『ッ~!!?』

「え?何この空気···ピリピリしてるって言うか···」

ボク等が入店した瞬間、店内の空気が一気に張り詰める。まるで火薬庫の中のニトログリセリンにでもなったような気分だ。

そんな空気も懐かしく想いながら、店の一角にある()()()()()()()()()()()に荷物と脱いだ靴、靴下を仕舞う。

「うげっ、深淵笑い(アビスラーファー)幽霊(ゴースト)···」

「あっ、火蜥蜴(サラマンダー)じゃん」

何と無く脚を運んだ乾物コーナーで、此処でのちょっとした()()()と出会った。

赤いスカジャンにジーパンを履いた、かなり筋肉質な金髪の青年。火蜥蜴(サラマンダー)の愛称を付けられた男だ。

「マジかよ、相性最ッ悪···こりゃ今夜は久々にどん兵衛かな···

あ、幽霊(ゴースト)。優勝おめでとさん。観てたぜ」

「フフ、ありがとう」

火蜥蜴(サラマンダー)は頭を抱えて呻いていたが、思い出したように出久へと向き直って祝福した。

「へぇ、二振りの死鎌(トゥーサイズ)も来たんだ。久し振りじゃん」

ほの暗い若者(ギリードゥ)!奇遇だねぇ♪」

「久し振り!」

続いて、モスグリーンのパーカーを着て前髪で目元を隠した女性が話し掛けてくる。

ほの暗い若者(ギリードゥ)の渾名を付けられた彼女も、ボク等の()()()の1人だ。

因みに、深淵笑い(アビスラーファー)がボクの、幽霊(ゴースト)が出久の渾名だ。映画RE:BORNまんまな2人を合わせて、二振りの死鎌(トゥーサイズ)と言うバディネームも付けられた。

「って言うか、その子雄英の子だよね?何?アビスの仔犬(パピー)?」

「へ?パピーって、ウチの事ですか?」

「まさか。まぁそうなってくれれば嬉しいが···少なくとも、今日は見学。(ヴォルフ)になるかは彼女次第だよ」

そう言って、ニシシッと笑って見せる。彼女としても、後輩になるかも知れない相手には興味津々みたいだね。

「ねぇ背納、どういう事?此処って···」

「まぁ、見てりゃ分かるよ。

あ、1つだけ言っておくけど、絶対に割り込まないでね。マジで死んじゃうから」

「はぁ!?ちょ、どういう――――ッ!?」

「おっ、キタキタ♪」「···」

突如としてBGMが消え、店内が静まり返った。無論、先程以上に空気も引き締まり、四方から隠す気も無い闘志が溢れ出す。

ボクと出久はソウルイーターを着け、その時を待った。

そして遂に―――――

「「狩り、開始!」」

 

(NOサイド)

 

「うん、一瞬だった。ウチは最初、何があったか分からなかった」

後日、耳郎響香は語った。己が見た、その現場を。

「背納も、緑谷も、一瞬で()()()···気が付いたら、離れた所から打撃音が聞こえて来て···」

脳内に甦る、その瞬間の映像。

 

肉を拳で打つ音が聞こえ、咆哮や気合いの声が混じり合う空間。10や20を優に超える人数が、お互いに己の肉体をぶつけ合う光景。

 

「あれは、ホンットに戦場そのものかと思った。体育祭のバトルロイヤルも大概だったけど、そんなの比じゃないぐらい···そんな中で、ウチは緑谷と背納を何とか見付けられた」

 

背納はその時、床の上を滑走するように駆けていた。

身体が水平になる程まで姿勢を下げ、太股より下の高さを走り抜ける。

一方出久は、上に居た。

ワンフォーオールを薄く纏い、天井まで跳び上がったのだ。そして更に其処から天井を蹴って、闘いの中心地へと()()()()

 

「其処からはもう、ホントに何が何だか···背納は跳び回っては人をフッ飛ばしてるし、緑谷は有り得ない人数相手に全部捌いてるし···」

 

高笑いを響かせ、次から次へと場所を変えて地獄絵図の欠片をばら蒔く背納。それに対し、出久は黙って迫り来る攻撃を滑かにぬるぬると捌き、確実なカウンターボディブローで相手を沈めて行く。

「おりゃァァァァ!!」

「フッ、ッシ」

 

―ドボグッ―

 

「おごぇッ!?」

今宵こそはと挑んだサラマンダー。周囲の空気を捲き込む程の強烈なパンチはしかし容易く打ち落とし迎撃(パリィ)を喰らい、反撃を受けてしまう。

へそ下から打ち上げるように叩き込まれたウェイヴアッパーの衝撃は、腸から胃を、そして横隔膜まで抉るように貫いた。

 


火蜥蜴(サラマンダー)

個性:鎮痛脳内麻薬(エンドルフィン)

己の痛覚を麻痺させ、火事場の馬鹿力を発揮出来る。しかし、身体を普段からしっかり鍛えて慣らして置かないと、筋肉や骨が負荷で崩壊してしまう。


 

痛覚が無くとも、呼吸が不意に、強制的に止められれば脳はパニックを起こす。その一瞬の隙を、出久は見逃さない。

「ッシュ!」

引き延ばされたようなどんよりとした時間の中で右裏拳を振るい、火蜥蜴(サラマンダー)の顎先を撫で、意識を刈り取った。

(見えている。手足も、視線も、何もかも)

身体能力の生物濃縮とも言えるワンフォーオールの特性、継承深化。そして当然ながら、その運動能力に着いて行く為に、神経伝達速度や反射速度も引き上げられる。

出久はパワーではなくその神経系の加速をメインに使い、敵の攻撃や自身の反射的悪手を防いでいるのだ。

此方の攻撃は当たらず、一方的に打ちのめされ、またその闘い方は映画《RE:BORN》のゴーストのよう。それが彼の渾名、幽霊(ゴースト)の由来である。

 

「U-Ra-Ra!U-Ra-Ra!フハハハハハハハッ♪」

渾名の由縁たる笑い声を響かせながら、背納は迫り来る敵対者達を次々と蹂躙して行く。

手足や尻尾で打ち据え、並外れた膂力で投げ飛ばし、迎撃(パリィ)し弾いた相手の攻撃を誘導して同士討ちさせる。その戦法は、獣のような獰猛さ、人間の狡猾さ、そして化物の闘争本能が混じり合った、背納の持つ全てを全開にした戦法なのだ。

「デェやァッ!」

前方からの正拳突き。左右は人垣で固められており、今し方投げ飛ばした直後で跳躍にも向かない体勢。

「よっ」

故に、背納は後方へ倒れた。膝から上を全て、90度後ろに折るように。

そして尻尾を接地させ、3点で身体を支える。これにて、()()()は完了した。

「ぬぇいッ!!」

両足の裏のファンデルワールスキャッチを発動し、土台を固定。其処から腹筋と尻尾のバネをフルに活かし、堅牢な己の頭蓋を相手の頭に叩き込む。

 

――捕食者の錨(アンカーボルトプレデリアン)重砲(キャノン)――

 

「ごッはァ!?」

洒落にならない威力の頭突きを諸に喰らい、ブッ飛ばされる挑戦者。気絶はしたものの、幸いにも怪我はしていない。硬質化系かクッション系の個性だったのだろう。

「さぁ、そろそろフィナーレだ!」「獲物は頂く」

その五体で戦場を切り開き、背納と出久は目標への経路を見出だした。そして、己の獲物へと手を伸ばし―――――

 

「2人の目的?あー、多分ワケ分かんないと思うよ。ウチもそうだったし。簡潔に言うと―――――」

 

「「イョッシャァァァアッ!!」」

 

半額弁当、だってさ」

 


 

「んーまぁいッ!やっぱ自分で勝ち取った獲物は格別だね!」

「うん。アドレナリンも出てるから、肉も美味しいしね」

激戦後。背納達は近所の公園のベンチにて、その日の戦利品を胃に納めていた。

背納の手にあるのは、『しっとりジューシーな和牛ステーキ弁当(ワサビ&醤油ソース付き)』。出久の戦利品は、『ボリュームたっぷり、甘辛砂肝のスタミナ炒め弁当』である。

「あ~♪甘い肉汁とワサビ醤油はやっぱり不変のジャスティス···」

「此方もオススメだよ。砂肝の歯応えと、味噌ニンニクのタレの風味が良い。やっぱり、此処の弁当は美味しいや」

各々の感想を交換しつつ、弁当を咀嚼する二振りの死鎌(トゥーサイズ)。しかしその勝者の隣で、敗者(サラマンダー)もまた夕飯を摂っていた。

手に収まっているのは、レトルトの卵粥である。

「あ゛~、打ち据えられた胃に粥が染みる···」

「アハハ、ごめんね?」

「全くだぜ。()()()()()()もぶっ壊されちまうしよ」

腹の虫の加護とは、空腹による食への衝動によって身体能力を解放すると言う、半額弁当争奪戦の参加者、通称《餓狼》達の必須技能である。出久のウェイヴパンチは内臓まで衝撃を届ける事に特化した打撃である為、まともに腹に受けると加護が消失してしまうのだ。

また、火蜥蜴(サラマンダー)の個性は、飽くまで()()。ダメージはしっかりと残る。謂わば出久は、餓狼に対する特効を持っているのである。

「って言うか、未だに状況が呑み込めないんだけど···まず、何であんな殴り合いしてまで弁当を取り合うの?···うわ、うまっ」

呆れと困惑にまみれた表情で問いながら、耳郎はカツカレーサンドを頬張る。見学だけだった彼女は、争奪戦後に惣菜コーナーで『肉厚!濃厚カツカレーサンド』を買って、この夕餉に参加していた。

因みに、此処にいないのはギリードゥだけである。彼女は大学生の身分なので、翌日の準備等が色々とあるのだ。

「えーっとね、あの狩りは元々大昔のラノベに出てきたヤツで···」

「アニィ!出久のアニィ!」

背納が答えようとした時、1人の男が割り込んで来た。息も絶え絶えなその男は、出久の名を叫んでテーブルに手を着く。

「え、サブ君?どうしたの?」

出久が語り掛けると、サブと呼ばれたその男は肩で息をしながら顔を上げた。

「えっ···」

その顔に、耳郎は思わず声をあげる。

獣のような縦開きの眼孔と牙。何より、頬に走る大きな切り傷跡。どう見ても堅気ではなさそうだ。

「アニィ···ジュンが、ジュンがッ···」

「···分かった。此処じゃなんだし、向こうで聞く。落ち着いて」

最後の一口を掻き込んでソウルイーターを着け、席を立つ出久。

その眼を鋭く吊り上げ、首をゴキリと鳴らした。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
現代忍者で戦闘者、更に狼でもあるデクです。ニンニン。
閉店間近のスーパーマーケットに現れる、餓えた狼の1人。背納とのバディ、二振りの死鎌(トゥーサイズ)の片割れであり、幽霊(ゴースト)の二つ名を持つ。
初手の天井三角跳びは、ベン・トーの魔術師(ウィザード)の戦法。其処からパリィ中心の零距離戦闘を展開し、美事獲物を勝ち取った。
最後に接触して来た男をサブと呼び、何らかの話をする為にフェードアウト。まぁ勘の良い読者の皆さんなら分かるでしょう。

触出背納
悪ノリが過ぎた化物主人公。
閉店間近のスーパーマーケットに現れる、餓えた狼の1人。出久とのバディ、二振りの死鎌(トゥーサイズ)の片割れであり、深淵笑い(アビスラーファー)の二つ名を持つ。
その戦法は時に荒々しく、時に狡猾。但し他の餓狼達とは違い、弁当だけで無く闘争その物も目的であり、謂わば二兎を追っているに等しい状態。それ故、腹の虫の加護は弱い。
敵を狩る際の高笑いと、敵をコントロールして闘う姿から、映画《RE:BORN》の深淵歩き(アビスウォーカー)を捩った深淵笑い(アビスラーファー)と言う二つ名が付いた。

耳郎響香
半額弁当争奪戦に困惑したヒロイン。
攻撃と言う意識を持たず、殺気を消して攻撃する、特殊少年兵の極意の欠片を自分で掴んだ凄い子。
今回、刃牙のインタビュー後日談風描写を入れてみた。
彼女が餓狼になるかは作者も知らない。

火蜥蜴(サラマンダー)&ほの暗い若者(ギリードゥ)
ベン・トー原作に登場した狼達と同じ二つ名を当てられた餓狼達。作者の気分次第でまた出るかも。

サブ
出久をアニィと呼ぶ、大分強面な青年。
どう見ても堅気じゃないのだが、こんなのに兄貴扱いされる出久とは···


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第24話 化物の逆鱗/少年の決意

『さぁて、やるか』
「おい作者、暗号は?」
『今あんな設定がカオスに煮詰まったヤツ書ける自信無い』
「俺ちゃんの出番はどうなる!」
『この前書きがあるだろう』
「俺ちゃんがデッドプールだって事忘れてる読者いるぞ絶対!」


(背納サイド)

 

「んーまいっ♪」

手に持ったファーストフードに齧り付き、思わず顔を綻ばせる。頬張っているのはチーズもんじゃライスバーガーと言う、頭の悪いカロリーの化物だ。

「ええ食いっぷりやなぁ背納ちゃん」

そう言いつつ鉄板ごと抱えたたこ焼きを食べるのは、瓢箪や鏡餅を彷彿とさせる程の肥満体の巨漢···BMIヒーロー、ファットガム。ボクの職場体験先のヒーローだ。

「クイーン、回収終わったぜ」

と、後ろから声を掛けてくる者が1人。浅黒い肌をしたゼノモーフ、グリードだ。ベースは切島鋭児郎。宿主と同じく甲殻を硬質化させる能力を持った、名付けるならハードモーフだろう。

「お、グリード。ご苦労様」

軽く労って、グリードが抱えていたチェストバスターの姿を確認する。

その姿は、ツルリとした体表に帯状のヒレが付き、背中からは細長い紐のような触手が4本生えていると言うもの。

「良いね、完全に期待通りだ。この子は3()()()()ハイパーゼノモーフになる。

ドク達と一緒に、世話してあげてね」

この子の宿主は、ファットの知り合いのデンキウナギ君。一目見た瞬間、ビビッと来たんだよねぇ♪

「あいよ、クイーン。じゃあな」

そう言って、グリードはエレゲンを抱えて去って行った。行き先は、ボク達が泊まっているホテルの一室だ。

「いやぁ、にしてもこの人数は羨ましいなぁ。ゼノちゃんらこんだけおったら、数々の検挙がどんだけ楽になったか···」

「確かに、死角からの同時奇襲とか得意だしねぇ。施設奪還ミッションとかなら、そんじょそこらの特殊部隊より強いと思うよ」

 

―ピコンッ―

 

「おっ」

ドクからスマホにメッセージが届く。内容は、っと···へぇ、これは···

「肉親喰らい···」

書かれていたのは、ここ最近の目ぼしい敵の情報だ。その中の1つが、ボクの眼を引いた。

肉親喰らい···現在中学3年生で、血縁者の血肉を経口摂取する事で個性を自身にコピー、ストックする能力を持つ。現在、両親を喰い殺して逃走中である···か。

「コイツの能力···アプトム、いやそれだけじゃないね。《近親者の》、か···クククッ、面白い事になりそうだ♪」

問題は、ボクの産み付ける胚がその能力を受け継げるかだ。生物型や物理型は兎も角···いや、そもそもゼノモーフは他者の特質を取り込む事に特化した種族だ。案外、相性は良いのかも知れないな。それに、まず()()()が無事定着したんだ。どちらにしろ、試す価値は充分にある。

「取り敢えず、3体は産み付けるか···」

なんて考えながら歩いていると、丁度持っていたライスバーガーを食べ終わった。凄く美味しくてカロリーも申し分無いけど、ちょっと口の中がクドいね。

「ファット~、ちょっとコンビニ行って来て良いですか?」

「おう、行ってら~」

コンビニに入り、ボクの脚は淀み無くドリンクコーナーへ。

「っと、ドクペあんじゃん!流石は都会、堪らないねぇ♪」

大好物であるDr.PEPPER(ド ク ペ)のペットボトル入りを発見し、迷わず抜き取る。ウチの近所じゃショッピングセンターの外国物コーナーにドクペ缶が売ってるけど、やっぱ屋外ならボトルだよね。

「おらァ!金を出しやがれ!」

レジに向かおうと振り返った所、その先にはもう1つの大好物が舞い込んでいた。

どうやら腕からブレードを展開出来る男が脅し、店員が構えたポリカーボネートシールドを痩せた男が何らかの個性でひっぺがしたらしい。そして、その後ろには素人の気配全開な新人っぽい大柄な男。合計3人。

腹ごなしに丁度良い。

「おら、ずらかるぞ!」

 

―ドグッ―

 

「ゴエッ!?」

「あ、アニキ!?」

まず、ブレードマンに落下加速で肉薄して横腹に拳を1発。肝臓(レバー)と横隔膜にダメージを入れる。序でに、手早く生み付けも済ませた。

「こンの野郎ッ!」

直ぐ様右手に持った盾で殴り掛かって来る強奪男。だけど、まぁ···

「成ってないよヘタクソ」

 

―ガゴンッ―

 

「がッ!?」

ヘタクソ過ぎる。

シールドの横縁を掴み、手首をグリップと盾板本体で巻き込むように捩じ伏せた。

「イデデデデデッ!?」

「ほいっ」―ゴキンッ―

「ギャァァァ!?!?」

そのまま関節を極め、肩を引っこ抜くように脱臼させておく事も忘れない。利き手潰しておけば、素人なんてほぼ戦闘不可能でしょ。

「ひっ、ヒィィィ!?」

「あ?逃げんのかよ腰抜け」

最後に残った独活(ウド)の大木は、情けない悲鳴をあげて逃げ出しやがった。

「沈ませ屋さんのファットさん参上!逃がさへんで!」

「おぶぐっ!?」

が、そうは問屋が卸さない。入り口ではファットが通せんぼしており、その腹に突っ込んで分厚い脂肪の中にモリモリと沈んでしまった。

「よし、捕縛完了っと···ちゅーか、アカンやろ背納ちゃん。勝手に(たたこ)うたら」

「あー、ごめんなさい。でもこうしなきゃ被害出たかもだし、体術しか使いませんでしたよ」

ま、厳密には《体術以外使()()()()()()()()()》、なんだけど。

「うーん···まぁ、今回はしゃぁないわ。俺も監督不届きとかあったし···せやけど、今後はせぇへんように!俺の許可を取る事!」

「···了解」

正直、中途半端過ぎて物足りない。さっきのは戦闘と言うより、ほぼほぼ暗殺だったし。全くもって、張り合いが無さ過ぎる···あぁ、イライラしてくるなぁ···ん?

「···この臭い···」

「うっ、うぅっ···クソぉ···どいつもコイツも、バカにしやがってェ···」

 

―カシュッ―

 

「ッ―――――!」

 

―ドパンッ―

 

拘束されつつあった男の股座を、裏拳で打ち上げる。その衝撃で、コイツの手から無針注射器が落ちた。

「クソ、やっぱりヤク中か。忌々しい···」

「ウオォォォォォッ!!」

苦虫を噛み潰すボクを余所にメリメリと筋肥大を続けるヤク中。打ったのは個性を引き上げるブーストドラッグだろうが、この甘だるい体臭···多分覚醒剤(シャブ)も混ざってるんだろう。

「こ、こらアカン!」

「ファット!戦闘許可を申請ッ!」

「はぁ!?そんな事言うたかて···」

 

―ガゴォンッ!―

 

「早くしろォッ!!」

振り下ろされた拳を、前方へのステップで潜り抜けて避ける。その拳は、歩道の石畳を難無く砕き割った。

「えぇいしゃーない!()()()()()()()()!戦闘許可や!」

「承知!アンタは店内で延びてる仲間を拘束しといて!コイツはボクが狩るッ!」

大振りな右の横凪ぎを潜り、胃と腸をウェイヴパンチで打ち抜く。だがそのダメージも、ヤクをキメてハイになったコイツには痛くも痒くも無いらしい。

「おらァ!どうしたガキ!お前のパンチなんざ、痛くも痒くもあらへんわ!」

しまいにゃ自分で言う始末だ。全くもって喧しい。

そんな馬鹿の鼻っ柱に、固めた拳を叩き込む。軟骨を砕く感触がしたが、やはりコイツは動じない。

「くっ、やっぱヤク中は厄介やな」

「いや、そうでも無い」

確保を終えて戻って来たファットの呟きを、ボクは冷静に否定する。

「薬でハイになってる輩は、自分が無敵の巨人になったかのような錯覚を起こす。こうなると、コイツらはほぼほぼ攻撃を避けなくなるんだ」

またワンパターンに振り回される拳撃を、タイミング良く迎撃(パリィ)して上に弾く。そしてがら空きになった正中線に狙いを定め、まず右手で鳩尾を打つ。同時に左手で喉仏を払いつつ、右拳をバウンドさせて人中*1を、止めに下げた左手で金的を打ち上げた。この間、コンマ3秒。

「おぐぅっ!?」

人体を発狂寸前まで追い込む技、正中線四段突き。それを喰らえば、幾ら痛覚が消えていようと身体は勝手によろめくのだ。

「だから···コイツはもう、終わってるよ」

「あがっ···あがぼあっ···!?」

苦しみ、跪くヤク中。地面をガリガリと引っ掻き、ビクビクと痙攣している。

「自分の鼻血が、何処に流れ込んでいるかも分からないんだろう。ヤクに溺れた輩は、最後は自分の血に溺れるのさ。

カハハハハ、どうだ畜生め。幾ら痛みを忘れたとて、呼吸器に血が流れ込めばみっともなく踞る事しか出来ないだろう?全ての無様醜態を晒したその有り様こそ、1厘の得をも産まない貴様ら害悪には丁度良い」

悪意たっぷりに罵りながら、倒れ伏した畜生の頭を踏みつける。

あぁ、良い気味だ。薬に溺れる屑になんか、生きる価値は無い。百害あって一利無し、食い物を喰らって糞尿を垂れるだけ、潰れた蛙の死骸より厄介だ。

「アカン!デスト・クイーン!それ以上は死んでまう!」

「死んで良いだろうこんな汚染粗大ゴミ。そうだ、このゴミはダーゼルブに焼却処分させよう」

「ええ訳あらへん!こんなんなってしもても人は人や!捕まえなアカンのや!」

「人として扱って貰える権利証を、薬物に安く売り飛ばしたのがコイツだろうッ!」

「それでもやッ!コイツから情報引き出して、クスリを捌いとる奴らも見付けられるかも知れへん!貴重な情報源なんや!」

「···」

情報源、か。それを言われちゃあ、口答えし難いな。

「···分かった」

頭を踏んづけていた足を退け、髪の毛を掴み上げる。そして潰れて変形した鼻の穴に指を突っ込んだ。

 

―ベキッ―

 

「オゴッ!?」

砕いた軟骨を、指を曲げる事で無理矢理引っ張る。潰れていた鼻腔が開放され、溜まっていた血がビチャビチャと流れ出した。

これなら、少なくとも溺れ死ぬ事は無いだろう。

「ったく、ムカつく···まぁ、ザンクルス候補を産み付けられただけ良しとするか」

ボクが結成を目指す、ハイパーゼノモーフ五人集。今居るのが、光学重戦車(ゼクトール)炎熱剛兵(ダーゼルブ)、そして高電圧工作兵(エレゲン)。もし今産み付けた子が鋭刃白兵(ザンクルス)になれば、残りは多弾頭砲台(ガスター)だけだ。かなり順調だな。

「ごぶぇ!?」

「キシャァァァッ!」

「おっ、もう産まれたか。随分とまぁ早くなったねぇ」

今さっき産み付けたザンクルス候補が、もう成長して産まれて来た。

やっぱり、女王たるボクのリビドーが増幅した影響かな?しかしどうしよう。後でドクに回収させるつもりだったのに···

「まぁ、仕方無い。この子は自分で面倒見よう」

確か、この近所に業務スーパーがあった筈。スポーツショップもあったし、蛋白質は肉のブロックを、鉄やカルシウムなんかはサプリメントをそれぞれ大量に買い込めば、この子の成長養分ぐらい賄えるだろう。

「···いやそれにしたって人手が要るな。もう良いや、ドク呼ぼ」

スマホを取り出し、LINEで現在地と欲しい人数を送信。流石に500m以上離れたらテレパシーも通らないしね。

《秒で行きます》

「既読も秒でついたな」

にしても、こう言う事が今後増えていくかもなぁ。今スマホ持ってるのはボクにドク、マックス、ウォルターにシュレディンガーだけど···取り敢えず、ゼクトールには持たせようかな。あと大尉にも持たせて良いかも。今度日本に呼び戻そうかな。

「お待たせしました」

「···58秒。ホントに秒で来たね」

無名のウォーリアーを2人引き連れ、ドクが到着した。手早くザンクルスを渡し、駆け付けた救急車で運ばれるヤク中を見遣る。

 


―――ハハハッ!散々ワガママ言いやがって、何が『注射はイヤ』だよ!結局身体は悦んでるじゃねぇか!―――


 

「ッ···!」

脳裏に過る、忌々しい過去。腸の底で煮詰まる憎悪を何とか噛み潰して呑み込み、疼いた首筋に爪の先端を走らせる。

強靭な筈の皮膚に、浅くではあるが容易く斬り込む切れ味を持った爪。その傷も、5秒と経たない内に癒着し完治した。

「···グギギン、ゴビゾダギバビ」

「···ガガ、ザギジョグブザ」

「···ゴボドバゼスバ、ザギジョグブバ バゴビパ リゲラゲン」

ドクに言われ、ふとコンビニの窓ガラスを見遣る。其処には、充血した真っ赤な眼と鋭い牙を剥き出した顔が写っていた。

···確かに、大丈夫って顔じゃあ無いな。

「···ありがとう、ドク。もう冷えたよ」

息を吐き出し、脈を鎮める。背中の放熱突起も展開し、籠った熱を外に逃がした。

「あぁ···やはり人間とは、儘ならない」

 

(NOサイド)

 

―ボッ ボッ―

 

部屋の中を縦横無尽に駆け回る、小柄な老人···オールマイトの恩師、グラントリノ。

出久はワンフォーオールの集中力操作により、その姿を常に追い掛け続ける。

(反射が速い···ダブルフェイントを掛けて、背後に意識が向いた瞬間を狙うか···って、思ってるんだろうな)

そんな出久の予想通り、グラントリノは正面から突貫。そのまま蹴ると見せ掛けて、脇に弾道変更。背後に回る。

だが、流石の出久もそれに乗る程お人好しではない。

 

―ドンッ―

 

「なっ!?」

床を蹴り、天井に()()。其処から更にジャンプし、右手を伸ばして強襲する。

 

―ゴウッ―

 

振り抜かれる、凶器と化した指先。果たしてその先端は、老齢のヒーローを捉え···

「···参りました」

ては、いなかった。

其処にあったのは、仰向けに床に組み伏せられた出久と、その喉に手を掛けるグラントリノの姿。咄嗟に身体を捻ったグラントリノが、出久の手を掴んで引き倒したのだ。

「ったく、とんでもねぇボウズだ。胃袋辺りがヒヤッとしたわい。おい、大丈夫か?」

「えぇ、頭は浮かせて背中のクッションを使ったので。それにしても、彼処から受け流されるとは···流石です」

「フン、初見でフェイント見抜かれた事ぐらい、幾らでもあるわ」

拘束を解除され、けろりとした様子で立ち上がる出久。その仕草からは、特別ダメージを受けたような様子は観られない。

「まさか、ワンフォーオールをそんな風に使いやがるとはな···よし、昼からパトロール行くか!まずは、その為の腹拵えだな!」

そう言って、グラントリノは部屋を出た。頬に出来た浅い傷、其処から滲む血を拭いながら。

 

「うん、問題無い」

微妙にバージョンアップされたコスチュームの加減を試し、満足げに頷く出久。背中は正中線のアラミド繊維に加え、その下に通気性の良い圧縮特殊ポリマーによる高性能クッションが追加されている。説明書曰く、12m上から生卵を落としても割れない程の衝撃吸収性能を誇るとの事である。

「後は···気になった、()()だね」

細々とした特殊武装を納めたトレイを持ち上げると、さながら重箱弁当のようにその下から追加装備が姿を表した。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

「えーっと、どれどれ···?」

 


スクイッド・ギリー&セパレート雨衣

本体の特殊繊維に専用の特殊塗料を希釈塗布する事で、瞬時に着色する事が可能。

目安として、付属の霧吹きに刻まれた目盛りまで水を入れ、其処に黒を1滴でライトグレー、2滴でグレー、3滴でダークグレー。4滴でほぼ黒なグレー、5滴で真っ黒。色のバリエーションは、黒、緑、黄、茶、紺の5色。

乾燥すれば、色混ざりする事無く重ね塗りする事が可能。

普通の水では落ちない為、脱色するには市販の洗濯用洗剤を使う事。

 

緑谷出久様。誠に勝手ながら、コスチュームの重ね着(ライナー)を追加させて頂きました。

要望書と体育祭を拝見した所、出久様はタクティカルな仕様を第一に、華美さは切り捨てるスタイルとお見受けしました。なので、実戦に於いて役立てられる物を考えた結果、ギリースーツと雨衣に行き着いた次第で御座います。

ご意見ご不満があれば、下記の電話番号に通達頂ければ幸いです。

今後益々のご活躍をお祈り申し上げます。


 

「···パーフェクトだ」

小さく呟き、真っ白なギリースーツ···スクイッド・ギリーを取り出す出久。雨衣と同じくセパレート仕様になっているその上衣を取り出し、早速羽織って洗面所の鏡の前に立った。

「良いね。両肩と頭のシルエットが綺麗に隠れているし、フードも額を隠せる。此処にソウルイーターも着ければ、肌色の秘匿はほぼ完璧かな···ん、コレは···使えるね。粋な気配りだ、ブラックスミス」

ギリーの内ポケットの内容物に顔を綻ばせ、再び鏡の自分と向き合う。

「···待っててね、ジュン君、サブ君。ヒーロー殺しは···必ず、狩るから」

そう呟いた出久の眼は、何時もよりも更に鋭く、吊り上がっていた。

 

to be continued・・・

*1
鼻と唇の間。人体急所の1つであり、衝撃を喰らうと呼吸困難等を引き起こす。




~キャラクター紹介~

触出背納
情緒不安定になった化物主人公。
ファットガムの元で職場体験中、かなりの収穫を得た。
コードネームは《デスト・クイーン》。デストラクションのデストであり、《破壊》と共に《憂さ晴らし》を意味する同音異義語があるので、背納にはピッタリである。
コンビニに備え付けられていたポリカーボネート製のシールドについては、稲川先生の発言から着想を獲た設定。
最近、産み付けたチェストバスターの成長速度がとんでもなく早くなっている。
因みに、今回チラリと挟んだ回想は背納のトラウマ。いつかこのトラウマの原因となったとある事件が、別地点で収束した場合のifを書く予定。
ヤク中とのバトルシーンは、《任侠転生―異世界のヤクザ姫―》と言う漫画から。

緑谷出久
新しいコスチュームにご満悦な現代忍者。
グラントリノ相手に良いとこまで行ったは行ったものの、やはり年の功は覆せなかった。
早くもファンが出来始めている模様。その中にヒーローアイテム職人がいた。原作でも勝手にコス弄られてるし、これぐらい良いよね。
そして、最後に溢した不穏な台詞。果たして其処に込められた意味とは···


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第25話 化物の対決/少年の開戦

『【朗報】めっちゃ良くしてくれる気さくなおっちゃん上司がゼロレンジ体験者だった』
「モチベ上がってんなぁ」
『辞めたい辞めたいと絶望してたけど、あの人となら頑張れる気がするわ』
「おう、頑張ってんな!」


(背納サイド)

 

「行くよゼクトール、ダーゼルブ、エレゲンにザンクルス」

「はっ」

「御意」

「承知」

「了解」

朝。ボクはハイパーゼノモーフに新たなメンバーを加え、ホテルを出た。

ザンクルスは、狙い通り腕にブレードが生えたスラッシュモーフになった。しかも拳の上からジャマダハルみたいな刃が生えていて、手は普通に物を掴めると言うから素晴らしい。

「さぁてと、今日は見付かるかなぁ···肉親喰らい」

未だ見ぬ強敵を夢想しながら、ボクはファットの事務所へと脚を進めた。

 

―――

――

 

「へぇ、そっちもまずまずなんだね」

『そうだね。昨日は自殺しようとしてた子の話も聞いてあげられたし。

新しいコスチュームも、結構使い勝手が良いから助かってるよ』

昼前。特に何事も無くパトロールを終えたボクらは、電車に乗ってちょっぴり遠出する。その間は暇だから、出久とイヤーカフスで通話中だ。

「じゃ、仇狩り頑張ってね」

『そっちもね。僕以外に殺されちゃダメだよ?』

「ハハハ、分かっているともさ」

そう挨拶を交わして、通話を切る。目を閉じて少し意識を集中すれば、別車両に分散して親衛隊員が乗って居るのが分かる。

ボクの隣と前には、ゼクトール、ダーゼルブ、ザンクルス。更に近くには、ドクとマックスも座ってる。

出久の方にもウォルターを付けてあるし、万に1つも死にはしないだろう。億に1つあるかどうかだ。

「おっ、投資が当たりました。1000万程増えましたよ」

「おぉ!でかしたぞドク!」

···何かヤバい会話が聞こえたけど、まぁ流すとしよう。そう言えば最近、口座の残高確認してないなぁ···ヤバい事になってるんだろうなぁ。管理してるのがあの自重知らずのドクだし。全く誰に似たのやら···あ、ボクだわ。方向性が違うだけだわ。

「グギギン。ゴソゴソゼスジョ」

「ん、パバデデスジョ」

スマホをポーチに仕舞い、席を立つ。

「···流石に、ボディスーツでも着るべきかな」

何か周囲の男の子達がドギマギしてる。まぁ、ほぼビキニアーマーみたいなもんだしなぁ。ボクの強酸血もガラスや炭素は侵食しないし、カーボンファイバーの通気性の良いやつでも注文しとこ。

「お、クイーンちゃん。ほな行こか」

「了解、行きますかね」

電車が駅に停まると、ファットを先頭にゾロゾロと降りる。

かなり視線が集中しているのが気配で分かるが、周囲からすればどう見ても敵な連中を連れてファットがズンズン歩いてるんだから、仕方無いっちゃ仕方無い。

 

「なぁ、あれってもしかして···」

「あぁ、間違いねぇ。少佐殿の演説カマした雄英生だ」

「すげぇ度胸してるぜ···」

 

お、どうやらHELLSINGを知ってる子も居たみたいだね。

うむ。この歪みと狂気で満ちた世界で生きるには、HELLSINGの精神論はまさに教科書だからね。

 

「うわ、エッロ···」

 

―カシャッ―

 

···うん、盗撮(ソレ)はダメだね。

(エレゲン、やれ)

(承知しました)

「ん?あれ?ど、どうなってんだ!?」

後方から、不届き者の狼狽える声が聴こえてくる。そんな盗撮魔を鼻で嗤い、エレゲンは持ち上げていた触手を下ろした。

指向性の電子ビームを打ち出す、所謂電子銃。エレゲンはそれを、体内の通電回路を操作する事で再現したのだろう。ブラウン管テレビなんかにも使われていたものだが、エレゲンのそれは出力が桁違いだ。それこそ、精密機械を即座に破壊する事が出来る処か、強くすれば遠隔で人を感電させられる。

しかも、一極集中の指向性故に目標を精密に狙う事が出来る。更にエレゲンは電磁波ソナーによって、敵方を精密に観測可能。謂わば、ピンポイント狙撃してくるEMP兵器だ。精密機械を使う相手になら、圧倒的に有利だね。

「あー、クイーンちゃん。事務所出る前も言うたけど、この辺は結構、そのー、治安が宜しゅうあらへんでな。気ぃ付けるんやで」

「あぁ、分かっていますとも。そもそも狩りとはそう言うもの。どんな奴が来ようとも、狩り返り討つだけですよ」

「クククッ···」

「フフフ···」

ドクとマックスが獰猛な笑みを浮かべ、それに続いて着いて来た親衛隊員も低く笑う。

「っ···そ、そうか!ほなら頼もしいな!」

一瞬青ざめたものの、直ぐにまた歩き出すファット。こうやって気丈に振る舞えるのもまた、彼が人気者である由縁だろう。

「この辺りでは最近、新しいタイプの()()()()が流行っているらしいですな」

「おぉ、流石ドクちゃん。よぅ調べとるな」

「トリガー、ねぇ」

トリガー···個性因子の働きを強化し、一時的に個性出力を大幅に引き上げる薬物。昨日のコンビニ強盗が使った奴もその類いだ。

聞くところによれば、エレゲンの宿主となったあのデンキウナギ君も、トリガーの過剰投与で人間態に戻れなくなったらしい。

「まぁ、トリガー自体は否定しないさ。ボクの緊縛封印術式(クロムウェル)だって、脳内麻薬を過剰分泌させて火事場の馬鹿力を出すものだし。戦闘には使えるもん使って、勝率あげるのは当然さね。不粋だの何だのと言うのは、それを赦される一部の達人か試合しか出来ない素人かだ。

ただ、其処に快楽目的のドラッグを混ぜ混むのは気に食わない。薬に酔わずとも、闘いに、血に酔えば良いものを···それでは、手段と目的がまるであべこべだ。戦いを目的に薬を使う筈が、逆に薬を使う為に戦う事になる。それでは最早、飢えた獣と何の違いがある?

薬物に魂を売り飛ばすような害獣は、即刻刈り取らねば···否、狩り取らねば!撫で斬り根切り根絶やさねばッ···!」

「ちょッ、落ち着きぃや!クイーンちゃんの過去に何があったか知らんけど、そう過激になったらアカンって···」

···あぁ、分かっているともさ。そんな事は不可能だと。

武術、買収、毒・麻薬···これらが無い国は存在しない。それらは国を回す為、常に一定の需要があるからだ。幾ら芽を狩り潰そうが、根っこの部分はキリが無い。

(グギギン!リヅゲラギダ!)

(!ジョブジャダダ!)

「ッ!クイーンちゃん!敵や!」

散会させていた親衛隊から報告が飛び込み、一拍遅れてファットにも通信が入ったらしい。

ボクはビルの壁面を駆け登り、ゼノが発するシグナルに向かって最短距離で駆け抜ける。

ビルとビルの間を飛び越え、電柱を足場に道路上を跳躍。数十秒も掛からず、野次馬の叫び声が聴こえて来た。

 

「ヴオォォォォォォォオオオオッ!!!!」

 

ビルから飛び降りながら、腹筋、肋骨、背骨の丸めまで全て使っての、即興で出し得る最大音量の猿叫。喉が若干掠れた気がするが、まぁどうでも良い。

暴れていた醜いキメラのような敵はその声に驚き、此方を振り向いた。口許は血で染まっており、地面には喰い殺されたのであろう死体が転がっている。

『あ゛···セナ、ちゃん···?』

「あ?」

コイツ、何でボクの名前を···取り敢えず、連絡するか。

(マックス!)

(送れ)

(ファットガムに伝達。敵コードネーム《肉親喰らい》と接敵、戦闘許可求む)

(了解···通達完了)

『クイーンちゃん!どうやら君が一番早う着いたらしいな。しゃあない!戦闘許可は出すが、殺したりしたらアカンで!』

「それは向こうの出方に依るねぇ」

通信を切り、再度意識を前方の肉親喰らいに戻す。どうやら律儀に待っていてくれたらしい。

『久し振りィ···だよねぇ?』

「知り合いだったっけ?」

『酷いなァ···ボクの家に、ちょっとだけ住んでたじゃない』

「···もしかして、親戚の何処かの子かな?」

そう言えば、盥回しにされた家の中には子供がいるとこもあったな。当時小学生だったろうに、良く覚えてたもんだよ。

『ネェ見てセナちゃん!俺の個性!』

そう言って、腕から歪な刃やねじくれたスパイクを生やす。更に全身の筋肉が肥大化し、黒い鱗に覆われた。

「そんなに溜め込んだのか」

『ウン!今までズッとガマンしてたケど、もうそんナ事しないよ!ボクはもう、ダレにもボクをバカにさせない!ハハハハッ!』

あぁ、これは···発狂してるな。それも、中途半端に。

表情こそ笑ってるものの、眼はまるでガラス玉。人間としての生気が消え失せている。

『あぁ···セナちゃん、いい匂イがスるなァ···

セナちゃんも、美味しそう』

バギャリと生々しい音を立てて、不揃いで鋭い牙が並ぶ口腔が開かれた。

臼歯の存在しないそれは、さながら肉を切り裂き丸呑むサメのそれ。切島鋭児郎も中々のギザ歯だったが、あれ以上だ。

「成る程、君も腹の底の狂気(バケモノ)に呑まれたか。

まぁ良い。ボクも君も、欲しがっているモノは同じだからね」

ゴキリと首を鳴らし、肩甲骨を引き出す。同時にリストブレイドとシミターブレイドを展開し、地面にギャリギャリと擦らせた。

『イただキマス』

「喰えるものならお好きにどうぞ!大火傷するかもだけどね!」

 

―ギャギリンッ―

 

両腕のブレイドを擦り付け、火花を散らす。それを合図に、奴は殴り掛かって来た。

『ア゛ァァァァァッ!』

力任せのテレフォンパンチ。図体がデカい分だけ拳の面積も大きいが、ボクなら何の問題も無い。

 

―ガギャギリンッ―

 

「···へぇ?」

シミターブレイドで拳を弾き上げながら、脇下に潜り込みリストブレイドの外縁の刃で腹斜筋辺りを撫で付けるように斬る。しかし、真っ黒な鱗は火花を散らしこそしたものの、その下の肉までは刃が通らない。

「この臭い、硫化鉄?···成る程、ウロコフネタマガイ(スケーリーフット)か」

ウロコフネタマガイ。インド洋中央領海の熱水噴出孔で発見された巻き貝であり、硫化鉄で出来た鱗を纏う事から鎧の足(スケーリーフット)とも呼ばれる。

良く見れば、肩の辺りには貝殻の名残であろう黒いアワビのような殻がある。まさかこんな個性が身内にいたとはね。精神的に色々参ってたせいか、意外と覚えてないもんだ。

『アハハハハッ!ぜーんぜん痛クないヨ!セナちゃァァァァんッ!!』

狂ったように笑いながら、今度は左腕に生えたブレードで斬り付けてくる。だが此方も馬鹿じゃない。リストブレイドの刃の窪みで受け止め、左ガントレットを振り下ろして叩き折った。

 

―バギャッ―

 

『イッテェェェェエ!?!?』

「ふーん、金属じゃないと思ったら、骨刀身(ボーンブレイド)か」

金属光沢の無いその刃を見てみれば、中には骨髄が入っている。

へし折られたボーンブレイドからは血が溢れ出すが、直ぐ様引っ込めて止血した。どうやら最低限頭は回るみたいだ。

にしても、中々攻撃的な個性だな。両親の個性は、それぞれスケーリーフットとボーンブレイドだろう。拳から飛び出していたスパイクも、ボーンブレイドの応用かな。

「まぁ、スケーリーフットは兎も角ボーンブレイドは要らないかな。凶器は四肢と尻尾で足りてるし。ほら、何時までヘバってんのさ」

『殺スッ!死ねッ!シネェッ!!』

まるで癇癪を起こしたように、肥大化した腕を振り回す。貝類の筋力は、種類によっては抵抗や水圧の強い海底で大きく跳躍する程。世間一般の鈍間なイメージとは裏腹に、意外と馬鹿に出来ないモノがあるからねぇ。それに、あの鱗。掠っただけでも紅葉おろしにされそうだ。

『クッソォォ!喰ワレロ!喰ワレロヨ!セナァァァァッッッ!!』

「クハハハハハッ!6年以上技を磨き上げた筋金入りの化物を、お前如き童貞捨てたばかりのど素人になんざ殺せると思わねぇこったなァ!

緊縛封印術式(クロムウェル)第1号、解放ッ!」

脳内麻薬を大量分泌し、視界が真っ赤に染まる。口から溢れた唾液を滴らせ、重心を大きく落とした。

そして地面を足の指で掴むように蹴り出し、コンピューターガントレットに付いていた武装を掴んで突き出した。

 

―ガギョンッ―

 

『ゴグァッ!?』

腹に叩き込んだ棒状の武器を引き戻し、リストブレイドで頬を斬り付ける。流石に僅かだが通ったようで、血を吹き出しながらすっ飛んだ。

左手に持った棒状の武器を軽く捻ると、特殊警棒のように両端が伸び、先端に三叉槍のような刃が展開する。

コンビスティックと呼ばれる、プレデターの武器。伸縮自在の槍だ。

「そのご自慢の鎧、剥いでやる!」

真っ黒な鱗を、コンビスティックで突く、突く、突く。そしてその三叉の穂先は一突き毎に鱗を剥がし、血を吹き出させた。

更にリストブレイドやレイザーディスクも使い、邪魔な鱗を削ぎ落としていく。

『アァァァァァッ!!イタイ!イタイィィィ!!』

悲鳴は上げるものの、依然戦意の喪失は見られない。寧ろ暴れ続けているまである。まぁ、周りに矢鱈目ったら当たり散らさずボクだけに向かってきてるのは素直で良い子と言えるけど。

(マックス、状況)

(周囲の邪魔物は排除しました。他のプロも到着済みですが、クイーンの闘いに少しフリーズしていますね)

(よし。連携も取れないし邪魔だから待機させといて。これはボクの獲物だから)

(了解)

『ウガァァァァッ!!』

「おっと危ない」

隙有りと見てか、殴り掛かって来る肉親喰らい。ボクは拳をシミターで流し、同時に膝を上から蹴り抜いた。

 

―ボギャッ―

 

『ギャァァァァァァアッ!?!?』

膝関節が砕け、逆向きに曲がる。更に両肩も打ち据え、神経を麻痺させた。

「ほら、どうした?もうおねむの時間かい?糞餓鬼」

リストブレイドを噛ませ、即席のギャグにする。そして頭を掴み上げ、眼を合わせてやった。

「フン、同じ化物の血が流れているかと思ったが···期待外れも良いとこだ。唯々狂気に呑まれ、力を振り回す···いや、違うな。()()()()()()()()()()だけ。最早化物じゃない。血に飢えた只の(けだもの)だ」

 

―バギッ―

 

『アガァァァァァ!?!?』

右肩から波を送って、顎を外す。

其処からインナーマウスを食道に挿入し、胚を3()()産み付けた。

「お前の力は、獣が振るうには勿体無い。ボク達が有効活用してやるよ」

トントンッと軽く地面を蹴り、後ろに下がる。そしてコンピューターガントレットを向け、バシュッと言う音と共にアラミド繊維製のネットを撃ち出した。これもプレデターの装備であり、机の上に置いといたコスチューム要望書類にドクが勝手に書き出した武装の1つだ。

頭から上半身にスッポリ覆い被さるように包み込むアラミドネット。更に、それをパラコードで絞って拘束する。

「はぁ、全く喰い足りない···やはり、獣狩りでは所詮こんなものか···ボクを満足させられるのは、出久だけだ」

出久との死闘を愛おしく想いながら、そう呟く。ヒーロー達も集まって来たし、間も無く拘束輸送車、通称処女(メイデン)がやって来るだろう。

貞操のお堅いお嬢様ってネーミングか?腹の中に人入れて運ぶなら母親系の性質だと思うんだがなぁ。それに付ける名前が処女とはこれ如何に。

兎に角、目標は達成した。これでボクは、次のステージに進化出来るだろう。

ゼノモーフの本質は、()()()()、そして()()にある。漸く、2つ目のステップを踏めるのだ。

 

(出久サイド)

 

―シャリッ―

 

「ん···ヨシ···」

研いでいたカランビットの刃を指紋で撫で、切れ味を確認。作業を終えて、シャープナーをコスチュームボックスにしまう。

最後に刀身を黒錆剤で安定させ、ウェストサポーターに付いたホルスターに収納した。

「オイ坊主、行くぞ」

「あ、ハイ。分かりました」

装備を手早く確認し、ソウルイーターを装着。アタッシュケースを手にダークグリーンのパーカーを羽織り、グラントリノと一緒にボロアパートを出る。

表街道は赤い夕日で照らされており、既に街頭の影はかなり伸びていた。

現在時刻、1700(ヒトナナマルマル)。今日はこの時間から、活動開始だ。

「しかし、リクエストが保須(ほす)か···丁度、()()()()()()が出てるんだってな。関係あんのか?」

「ええ···まぁ、そうですね」

グラントリノが問い掛けに、短く答える。

ヒーロー殺し···今、世間を賑わせている敵だ。風貌は真っ赤なマフラー、目元を覆うマスク、全身に携帯した無数の刃物、と言った具合らしい。

ウォルちゃん曰く、使っていた刀はボロボロに刃こぼれしていたとの事。恐らく、苦痛を与える為にわざとそうしているのだろうとも言っていた。しかも、その刀は銘の刻まれていない、謂わば闇刀であると来た。

日本刀は本来、それを造った刀匠が銘を切り、管理機関に登録する事を義務付けられている。それを放棄していると来れば、完全に違法な物品だ。

と、話を戻そう。

「止めなくて、良かったんですか?」

「コラ、見くびるなよ坊主。お前さんが止めて止まるタマじゃねぇ事ぐれぇ、ちっと見りゃァ分かる」

「これはこれは···」

どうやら、良く分かってくれているようだ。これなら心配無さそうだな。

「だが、それはそれとして···1つ聞いとく。

お前さんの()()は···()()()()()、怨みか何かか?」

「···」

グラントリノの言う()()···恐らく、僕の腹の奥底の悪意を見抜いての事だろう。やはり、敵わない。

「···いいえ」

たっぷりと間を置き、僕はそう答えた。

「詳しく全てを話す事は出来ません。でも···大事な友達の、そのまた友達の無念です」

 

――ジュンが、ヒーロー殺しにやられちまったんだ···ギリギリ生きちゃいるけど、丸3日経っても眼を覚まさねぇって···

なぁ、出久のアニィ!無理は承知で、お願いだよ!俺のダチの···()()()()()()()()()()()()()()()()()バカな俺に、1人だけ後ろ指差さず昔と変わらず接してくれた、大好きなダチの無念を···仇を···ッ――

 

溢れる嗚咽。零れる涙。友達に降り掛かった理不尽を、自分の事のように···否、それ以上に深く悲しむ、優しい男からの頼み。友達故に、答えたいと思った次第だ。

「ふぅーん···まぁ、濁ってりゃ蹴っ飛ばしてでも止めるかと思っちゃいたが···しっかり澄んだ眼ェしてやがるな」

「勿論です、プロですから」

「有精卵が何言ってやがる」

「あたっ」

映画ネタで返したら蹴られてしまった。うーん、コマンドー知らないかぁ。

「あと、冷静さ欠いて叫びながら正面突撃するんじゃねぇぞ。ガス抜きされちまうからな」

「あ知ってた?コマンドー知ってたんですか?」

「おうよ。ガキの頃からな」

おぉ、これは嬉しい。こういう好きな作品を共有出来る人を見付けるのは最高だ。

···まぁ、僕の教科書たるRE:BORNを知ってる人には会った事無いんだけど···

「スィ、ママ♪」

「あ、ウォルちゃん」

駅に着くなり、何時ものバトラー服姿のウォルちゃんと合流。全員で切符を買い、新幹線に乗る。

〈ショウちゃん、そっちはどう?僕はこれから保須に行くよ〉

〈こっちもだ。これから、保須に行く。会えたら良いな〉

〈そうだね〉

()()()()()()の現状を確認し、フフッと微笑む。精神的にも安定してるし、問題も無さそうだ。

「おっ、クイーンは目標達成だってさ」

「ん、連絡来た?」

ウォルちゃんの報告にパッとLINEを見てみれば、ニヒルに片頬を吊り上げてピースサインをしているせっちゃんの写真が。

「あー、でもこれは···」

「不完全燃焼だねぇ、この顔は」

これは不満に妥協して呑み下し、目標達成出来ただけ良しとしよう、って顔だ。

多分、相手が詰まらなかったんだろうなぁ。

〈帰ったら相手してあげる。頑張ってね〉

〈\(゚∀゚)/ヤッター〉

秒で顔文字が帰って来た。これは大分餓えてるな···

まぁ、求めてるハードルが高過ぎるっていう問題もあるけどね。

 

『次は~、保須~、保須~』

 

「と、そろそろ着く···あぶッ!!」

 

―ガギャァァンッ―

 

窓の外に、一瞬チラリと見えた何か。僕が反射的に頭を守ると同時に、それは新幹線に直撃。壁を突き破り、車内に転がり込んだ。

その正体は、飛行能力のあるヒーロー。しかし背中のジェットパックのようなサポートアイテムを初め、全身に纏ったプロテクターはひび割れ、砕け、ひしゃげている。そして、その惨状は外見に限ったものである筈も無く。

左上腕骨は砕け、右手の指は歪に歪んでいる。左大腿骨に至っては、折れた断面が皮膚を貫き露出、所謂開放骨折と呼ばれる状態になっていた。

「クソッ!」

 

―メリメリメリメリッ バギッ―

 

その状態を見て悪態を吐いた瞬間、新幹線に開いた大穴から更に金属が捲られ、裂き千切られる音が聴こえてくる。

そちらに眼を向けると、其処には見たくもないモノがいた。

異常に細長い両腕に、ホルマリン漬けにされたような真っ白な肌。そして何よりも、露出した脳に直接埋め込まれた4つの目玉。

(脳無―――――!)

認識と同時に、ワンフォーオールで神経系を加速。眼球を即座に転がし、周囲を確認。

 

―ドドガンッ!―

 

そして、脳無の向かいにある壁に跳躍。其処から三角跳びで方向転換し、脳無の腹に肘を叩き込んだ。

奇しくも、そのタイミングはグラントリノが脳無を蹴り飛ばしたのと同じだった。

2人分の衝撃を諸に流し込み、脳無を車外に叩き飛ばす事に成功する。

「チッ、坊主!許可は出しとく!あんま派手するんじゃねぇぞ!」

了解(ヤー)ッ!ウォルター!報告ッ!」

「脳無複数!上空に有翼飛翔タイプ1体!眼下に最低3体の近接タイプ!」

「了解!車体を防衛、負傷者の応急手当て!個別判断で下のヒーローの援助!」

「スィ、ママ!」

外に出たウォルターからの報告を受け取り、指令を返す。ウォルターはグローブからワイヤーを飛ばし、自分のテリトリーを瞬時に確立した。

「この時間帯だと···4滴染色ぐらいで良いか」

アタッシュケースに設けられた注入孔に、ペットボトルの水と紺色染色液を入れる。それを持ったまま、僕は線路に出た。

「ア゛アァァァ···」

肉を抉るつもりで肘を叩き込んだ脳無だったが、既に起き上がっている。

陽月剣を抜き、両肩と両股関節を斬った。大本になる神経の束を破壊したので、普通は動けない。

「ア゛ア゛ァァァッ!!」

「チッ」

しかし、コイツは平然と動いて反撃して来た。どうやら普通じゃないらしい。

「神経そのものが多い。その上、昆虫みたいな神経節もあるっぽいか···」

迫り来る腕を捌き、中指の第二関節を突き出した拳を、まずは左大胸筋と脇の隙間に撃ち込む。

「オ゛ガッ!?」

すると、左腕の力が弱くなった。上手く行ったらしい。

(神経節があるであろう場所···全て、打ち込んでやる)

思考を引き延ばし、針に糸を通すようなパンチのラッシュを開始する。

左肩、右肘、脇腹、首筋、太股、股関節···時には中指を開いて、刺突攻撃も織り混ぜる。

「ノッキングウェイヴ···」

とある漫画のトンデモ技術を、僕なりに再現したもの。敵の神経系が集中している場所に当たりを付け、其処に一極集中のウェイヴを染み込ませる事で、神経伝達を物理的に阻害する。

後遺症が残る危険があったり、前回の脳無は衝撃吸収型だったりしたせいで使う機会が無かった。そもそも、幾ら僕でも神経は見抜けない。サメ系のロレンチーニ瓶のような電磁波センサーでも無い限り、神経系の位置の掌握はほぼ不可能。言ってしまえば当てずっぽうで、そこそこ運が必要なのだが···今回は、上手く行ったみたいだ。

5秒経ったかどうかで、脳無は膝から頭ごと崩れ落ちた。

「ウォルター!この脳無の拘束を!念の為に手足から口まで一切の自由を奪っておいて!」

「了解!」

列車は完全にウォルターに任せて、僕は線路上から跳躍。指で空気を弾いて勢いを殺し、街頭を蹴って衝撃を吸収。そのまま地上に降りる。そして、目の前にいた下顎に直接脳ミソが乗っている眼の無い黒い脳無の脇下に滑り込み、陰月刀で下から肩関節を抉った。

そこから素早く刃を引き抜き、更に逆脇、首筋、肩口、尻側股関節を切り刻む。

 

―ボギャッ―

 

最後に脚払いを掛け、肘関節を踏み砕いて固定した。

2体目、処理完了。

「飯田くーん!クソッ、何処に行ったんだ!」

「···マニュアル?」

今必要としているワードを、脳が聞き分けた。首だけで振り向くと、其処にいたのは飯田君の職場体験先、水を操作する能力を持つヒーローであるマニュアルがいた。

「失礼、マニュアル。行方不明なんですか?飯田君が?」

「き、君は雄英の!そうなんだ!つい5分ぐらい前までは、一緒にいたのに···」

···成る程。規則を重んじる真面目君そのものみたいな飯田君が、無断で単独行動か。その原因には、1つだけ心当たりがある。

「此処までは、どんなルートで?」

「え?あっちの通りを道なりに、だけど···」

「了解」

それだけ分かれば十分。其処ら中歩き回ってないなら好都合だ。

僕は指差された方向に、勢い良く走り出す。そしてその片手間に、アタッシュケースのロックを外した。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
不完全燃焼な化物主人公。
ちょっと露出多めなのを気にし始めた。
人海戦術で即座に目標を発見し、見事目的を達成。しかし戦闘では無く蹂躙となってしまい、絶賛イライラ中。
今回始めて使った武装は、コンビスティックとネットランチャー。どちらもAVPに登場する武器である。
自分と言い肉親喰らいと言い、化物タイプの生まれやすい家系だなーと思っている。
3体の胚を産み付けたが、親衛隊員に加えるのは1体。残りの胚の使い道とは···?

エレゲン
デンキウナギの性質を持つハイパーゼノモーフ5人衆の1人。
素体は、外伝《ヴィジランテ》に登場したデンキウナギ君。しかしコミックスはBOOK・OFFで立ち読みした程度のため、彼が現在まで無事かは分からない。後からご都合主義が発動するかも。
能力は、全身の細胞での発電と放電。更に体内の電気抵抗の操作から電磁波センサー、電子ビームの照射までかなり多岐に及ぶ。

ダーゼルブ&ザンクルス
今回は顔見せだけ。
ダーゼルブは大柄でマッシブ且つ全身真っ赤。ザンクルスは対称的に細く、腕の甲側から生体ブレードが生えている。イメージはハガレンのエドがオートメイルの装甲で錬成した剣。
今回は待機してたが出番無し。なので能力の細かい解説も無し。

緑谷出久
現代忍者デクです、ニンニン。
相変わらず洞察力が異常。LINEでやり取りしてた《ショウちゃん》については、まぁ言わずもがな。
原作と違って、既にオールマイトとは別の流れを編み出してほぼほぼ使い熟している為、グラントリノからは戦闘許可を貰っている。
因みに、今回のトンデモ技術であるノッキングの原点は言わずもがな《トリコ》。正確にはアイスヘル編の鉄平が、トミーロッドをノッキングした時のインパクトノッキング。神経系まで結構弄くってあるであろう脳無を行動不能にするとかマジで何なんだコイツは···まぁ失敗する時もあるっぽい。今回は所謂初登場補正。
その次の脳無も、瞬時に無力化。ヒト型生物の身体の破壊方法を熟知し過ぎている。
今回で、ベン・トー回の最後に出た彼がどんな人物か、まぁ大まかに分かった事でしょう。

ウォルター・C・ドルネーズ
ファーストズーグ専属の執事(バトラー)であり、同時に出久の武器職人(ブラックスミス)
彼女が居なければ出久が新幹線からすぐに離れられなかったので、地味にお手柄である。
武器職人をしている都合上、武器に込められた意図等に敏感。


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第26話 少年の蹂躙

『さて、出久の猛毒舌説教タイムです』
「ステインはどうなっちゃうの?」
『アザトースを直視した人間が精神に受けるダメージに近い、とだけ言っておこう』
「発狂確定コースじゃん・・・」


「うっ・・・ぐぅッ・・・」

「ハァ・・・弱い」

地に伏す飯田。それを踏み付ける、血のような赤いマフラーと全身に携帯した刃物が特徴的な男・・・ヒーロー殺し、ステイン。

癖となった溜息と共に、落胆と侮蔑を吐き出すステイン。この男にとって、飯田は只の有象無象に過ぎなかった。

贋物(ニセモノ)だから、弱い。私情の為に力を振るわず、己を顧みず他を救う・・・それがヒーローだ」

そう言って、ステインは手に握った刃こぼれだらけの刀で、路地の奥に倒れているヒーローを示す。

「だが・・・ハァ・・・貴様は、どうだ?復讐に呑まれ、視野を狭め、仲間を見殺しにしている。ハァ・・・見苦しい」

「ぐっ・・・」

兄の仇の口から出た、しかし反論の余地の無い正論。それを、身動ぎ1つも侭ならぬ状態で聴かされる。

飯田は己の腸の底から、悍ましくも形容し難い苦痛が這い上るのを感じた。

「ハァ・・・贋物は、死ね。正しき社会の、その礎に・・・」

「くっ、クッソォォォォォッ!!!」

身体の自由を奪われ、生殺与奪をも憎き仇敵に握られた飯田の慟哭。それを冷めた眼で見下ろしながら、ステインは獲物の背を貫かんと刀を振り上げた。

 

─キィンッ─

 

「ッ!!」

だが、突如として頭上から響いた金属音に、その刃を止めて頭上を見上げる。しかし、其処には何も無い。

「何が────」

 

─ズドッ─

 

「ぐアァァッ!?」

突然の激痛に、思わず絶叫するステイン。痛みの発生源である右前腕には、短い矢のような物が突き刺さっていた。

「こ、これは・・・ッ!!」

ステインは殺気を感じ取るには長けていたが、襲撃者は殺気を操作する事に長けていた。放たれた軽合金の短矢・・・ダーツに殺気は無く、唯々ステインの腕という物体を貫いただけだ。

瞬間、神経を針のように刺す激痛にも似た殺気を感じ、反射的に飛び退くステイン。鋭く空気を裂く音を伴い、その首があった位置を何者かの貫手が通過した。

 

─ピシッ─

 

しかし、どういう訳か反らし仰け反ったステインの首下、鎖骨の辺りに、紅の横一文字が浮かぶ。其処から溢れる血に手を遣りつつ、襲撃者を見遣る。

其処に立っていたのは、()()()()()()()()()()()()だった。

何だこれは、人間じゃ無い、何をされた、個性か・・・彼の脳はパニックを起こし、敵前に置いての重要な刹那を、自問自答に囚われた。

 

─ドボグンッ─

 

「うごあッ!?」

その無意識の刹那を、異形が放った拳が狩り取る。

股関節の回転で右脚を前にスイッチし、その回転を余す事無く体幹で肩に伝達。其処から肩甲骨、肘関節を連動させ、脱力した腕の水分の重さで投げ付けるように打ち出されたパンチは、直撃した腹斜筋を素通りし、内蔵に押し潰すようなダメージを浸透させた。

「ほぅ・・・」

数瞬の残心の後、異形の襲撃者は素立ちの構えに戻る。そして、右手に嵌めていた暗器を外した。

それは、ゴムチューブに通した透明なテグスの輪。ステインの胸元を切り裂いたのは、刹那の振りにより鋭い刃と化したこの極細の糸である。

「がッ・・・ぐっウゥ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

潰れるような内臓からの激痛に、辛うじて耐えるステイン。しかし、呼吸のリズムを保つのが精一杯のようだ。

「ハァ・・・そう、か・・・ギリー、スーツか・・・ハァ・・・」

しかし、じっくりと観た事で、ステインも襲撃者の正体に気が付いた。

理解してみれば、何の事は無い。襲撃者は、闇に紛れる黒いギリースーツを着込んでいたのだ。

しかしシンプルな事実とは裏腹に、その効果は絶大である。

人の脳は、両肩と頭が作り出す三角形のシルエットと、股から差す後光によって人型を人型と認識する。ギリースーツは、そのシルエットを膨れ上がらせて丸め、人間の脳を混乱させると言うコンセプトで造られた偽装服なのだ。

「き、君は・・・もしかして・・・」

飯田の呟きにも耳を貸さず、バサリとフードを頭から外す。その中からは、黒混じりの暗い緑色をした縮れ毛と、髑髏染みたマスクに覆われた顔が現れた。

「や、やはり・・・緑谷君・・・!」

黒いマジックミラーの眼鏡・・・アイギア越しに、出久は飯田を一瞥する。しかし応える事はせず、左手に持っていたグリップが付いた鉄板のような何かを構え、スーツの中から取り出した、釣り糸のような返しの付いたダーツを其処から伸びる紐につがえる。

キリキリと引き絞るとグリップの前方に畳まれていたリムがY字に開いた。

 

─パシュッ キンッ─

 

「・・・流石に、正面からじゃ当たらないな」

ダーツを避けられようと大して落胆した様子も見せず、出久は左手の武器・・・スリングショットをホルスターに仕舞う。

「み、緑谷君・・・済まない・・・だが、其奴は俺が───」

「勘違いするな」

訴え掛けるような飯田の声はしかし、出久の温度の無い声にぴしゃりと斬り捨てられた。普段からは想像も出来ないような冷徹な声に、飯田は思わず項が粟立つのを感じる。

「僕だって、君と目的は大差無い。仇討ちだよ。友達の、その友達のね・・・」

「ハァ・・・矢張り、貴様も贋物だったか」

出久の発言に、苛立たしげに吐き捨てるステイン。内臓からの叫びを抑え、ギリギリと歯軋りして出久を睨んだ。

「・・・貴様を処理する前に、聴くべき事がある。貴様の言う、《本物》とは何だ?《贋物》とは、何だ?」

感情の無い冷たい瞳で、出久はステインに問い掛ける。相手の中で自分の敗北が確定事項になっている事に苛立ちを覚えつつ、ステインは回答した。

「ハァ・・・本物のヒーローとは、正しく自己犠牲によって偉業を成し遂げた者の事だ。己を顧みず、見返りを求めず、私欲に惑わされずに他者を救う者・・・オールマイトのような、真の英雄だ。

そして、贋物は・・・ハァ・・・それに中らぬ、俗物だ・・・ハァ・・・富を求め、名声を求め、英雄の何たるかを忘れた、この社会の癌だッ!」

「だから、貴様は斬り捨てたのか?その癌細胞とやらを・・・」

「そうだ!全ては英雄の原点回帰、真に正しき社会の為だッ!」

「・・・あぁ、そうか・・・成る程、そう言う事か・・・あぁ、全く。全く以て・・・

下らない」

「何?」

何の熱も帯びなかった出久の瞳に、初めて感情が宿る。それは、侮蔑。思考の次元の低い、目障りな蛆虫を見る眼だ。

「今・・・ハァ・・・何と、言った・・・」

「聞こえなかったか?下らない、と言ったんだよ。()()()

ソウルイーターの下でビキリと歯をむき出し、不愉快を表現する出久。出久から投げ付けられた罵倒に、ステインは眼を血走らせる。

「俺が・・・ハァ・・・糞餓鬼、だと・・・?

どう言う意味だ・・・巫山戯るなッ!」

「巫山戯る?巫山戯てなどいない。巫山戯ているのはお前だ、ステイン」

嘲笑を浮かべ、吐き出すように言葉を紡ぐ出久。次に発する言葉を組み立て、心を抉る刃と練り上げ研ぎ澄ます。

「確かに、全てのヒーローがオールマイトのようならば・・・それは素敵だ。嘸かし、素晴らしい社会が出来上がるだろう。

(ヴィラン)の活動は不活性化し、流通は活性化。産業は進み、間違い無く豊かな社会になるだろう・・・()()()()()な」

「第一世代?」

予想もしていなかった単語に、ステインは眉を顰める。一応の興味はあるのだろうか、出久に攻撃を仕掛ける素振りは無い。

「問題は、そんなヒーロー達の子供だ。己を顧みないヒーローの、何所に家族に愛を注ぐ時間がある?」

「「ッ!」」

ステインだけで無く、飯田もこの言葉に眼を見開く。しかし、それも仕方無いだろう。自分の子供と言う存在を理解しない限り、まず辿り着かない発想だからだ。だが、出久には既に子供がいる。25体のゼノモーフと言う、己が胎の内に宿した子供を産んでいる。故に、辿り着く事が出来たのだ。

「妻や夫は良いだろう。そう言う相手と添い遂げると、()()()()()()、パートナーはな。

だが、子供は違う。子供は()()()()()()()()()()()()()()()()

故に、目の当たりにするのさ。()()()()()()()()()を、()()()()()()()()()()()()()()の姿を、遠く離れた画面越しにな」

生々しく、ステインの理想の行く末を語る出久。舞台演技めいた抑揚と言葉選びは、嫌が応にも聴く者の心に入り込んで来る。

「勿論、それを誇る事が出来る子供も居るだろう。僕のパパは、ママは、こんなにスゴいんだぞー、ってな。

ならば、出来ない子供は、一体どう思うだろうか?」

意地の悪い問いである。しかし同時に、想い人を持つヒーローが必ず直面するであろう問題でもあった。

「数多の命は、決して等価では無い。明日4歳の誕生日を迎える愛娘と、何所の誰とも知らぬビール腹の小汚いおっさんの命の、何所が等価であると言えようか。

だが、ステイン。貴様が理想とするヒーローとは、これに対して真正面から等価値だと言ってのける気違いなんだよ」

当然、オールマイトは等価と言い、どちらも救おうとする。そして、本当に救ってしまうだろう。しかし、それは本来、人間としては至極異常な思考なのだ。

「そうなれば、どうなるか・・・命に関わるならば、勿論駆け付けよう。だが、それ以外なら?

誕生日、クリスマス、年越し、運動会、発表会・・・一体、どれだけをリアルタイムで、現地で、観てやれるかな?

あぁ、言わずもがなだ。殆ど観てやれない。そんな時間でも、街ではトラブルが起き、助けを呼ぶ声が上がるからだ。

そして、その埋め合わせとして、お高い豪華な夕飯をご馳走するんだろう。

だが、子供はどう思うかな?

・・・どんなにほったらかしにしても、こうやって機嫌を取れば良いと、この人は思っているんだと・・・自分との家族愛を、()()()()()()()と思うんだよ」

その言葉は、重かった。

親であり、子供である。その異色の二重人生が、その言葉に鉛のような重みを生み出した。

「その歪な闇を抱えた子が、どうなるか・・・ここまで言えば、分かるだろう?」

心を蝕む猛毒をその牙に滴らせ、出久の言葉は蛇のようにステインに絡み付く。ステインは殴られた痛みとは違う、もっと別の腸の痛みを自覚した。

「答えは・・・悪意の大爆発だ」

グワリと見開かれた出久の眼。その瞳孔は深海のように昏く開かれ、見る者を吸い込むように釘付けにさせる引力を放つ。

「闇は共鳴し、悪意は感染し、やがて社会を侵蝕する。もはや収拾は付かなくなり、目覚ましい発展の朝の時代は一転、混沌逆巻く暗黒時代になるのさ」

「あ、が・・・ッ!」

自身の理想の行く末が、絶望と混沌たる未来。心を支える柱を出久の劇毒に腐らされ、ステインを襲う心の痛みは焼け付くような熱に変わる。

「英雄回帰・・・?正しき社会・・・?

巫山戯るな。巫山戯ているのはお前だ。

 

お前は餓鬼だッ!この世の何も見えていない、哀れで無様で滑稽で、痩せっぽちの餓鬼だ」

 

「がっ・・・カハッ・・・ハッ、ハッ・・・ハァッ・・・カハッ・・・!」

吐息混じりの、揺らぐような語り掛ける声が、ステインの鼓膜から脳を犯し、心の傷を腐食する。もはやステインには、満足に呼吸のリズムを整える気力すら、残されていない。

「オラッ!」

 

─ドゴムッ─

 

「がッ!!?」

膝をつき、嘔吐くステインの腹を、出久は容赦無く蹴り飛ばす。爪先で貫くような蹴りは横隔膜を叩き上げ、胃袋を叩き潰した。

「どうした、紅いの。立てよ・・・たかが1発良いの貰ったからって、ハイお終いって訳には往かないんだよ、小僧」

 

─ゴキンッ─

 

「ウガァッ!?」

左腕の肘を踏み抜き、更に頭を鷲掴んで持ち上げて壁に押し付ける。正座程度の高さに抑え、足技を潰すのも忘れない。

「何の事も無い。結局こんなのは、子供の喧嘩に過ぎないんだよ。だから子供(ぼく)が相手をするのさ」

「かっ・・・ハァッ・・・お前は、何なんだ・・・」

「ふむ。面白い事を聞くな。だったら答えてやる。

僕は死の三日月(デッドクレッセント)。或いは暗緑の地雷原、或いは血塗れ翡翠の悪魔、或いは幽霊(ゴースト)・・・

或いは・・・()()だ」

ギリギリと壁に頭を押し付け、答える出久。その答えに理解が及ばず、只でさえ苦痛で纏まらないステインの脳内は疑問符で満たされた。

「お前がこの世を恨んで、呪って、好き勝手やってブチ蒔けまくった怨嗟・・・それが巡り巡って凝集し、お前への呪詛返しとなった呪いの藁人形、それが今の僕だ。

人を呪わば穴二つ・・・社会を憎み、人を恨み、自分勝手な呪いをばら撒いた奴は、自分さえもその呪いに呑まれるのさ。

報いの種を踏んだな、えぇ?血の染み汚れ(ステイン)

出久の眼や口から、ドロリとした黒い何かが溢れ出すような幻覚がステインを襲う。

それは、憎悪。煮詰められたタールのようなべた付く憎悪が、自分の顔に垂れ流され、口と鼻を覆ってしまうような窒息感に目眩を覚える。

「あっ、あがっ・・・や・・・」

「や・・・何だ?その続きは。やめて、か?やめろ、か?それとも立場を弁えて、やめてください、かな?

まぁ、どれでも良いとして・・・おかしな事を言うモノだ。貴様がそんな命乞いに、一度だって耳を貸した事はあったかな?」

アイギアをズラし、直接眼を合わせる。カッ開かれた真っ暗な瞳に生気を吸われ、ますますステインの顔面は蒼白になる。

「どうした?随分と顔色が悪いな、ヒーロー殺し。牛乳を拭った雑巾の方が、まだ活きが良い気がするぞ。

暖色街灯で照らせば、その顔色も少しはマシになるか?そぉらッ!」

抵抗の出来ないステインを、出久は容赦無く道路に向けて投げ飛ばした。両腕を使えないステインは真面に受け身も取れず、ゴロゴロと転がる羽目になる。

「ッ!み、緑谷君ッ!もう良い、十分だ!もう良いだろうッ!」

凝血(ステインの個性)の効果が切れていながら呆気に捕られ動けなかった飯田が、ここで出久にストップを掛ける。最早腹の奥底で煮え立っていた兄の仇への憎悪はなりを潜め、出久への怖れへと置き換わっていた。

「うん、そうだね。心もへし折って完全に磨り潰したし、もう闘う気力も無い腑抜けになっただろう。だから、完全に捕縛する。一切の抵抗も出来ぬよう、厳重に縛り上げる」

ギリーの前を開き、内側からパラコードを引っ張り出す。そして路上に投げ出されたステインを縛り上げんと、表街道に踏み出した。

「ッ!緑谷出久ッ!」

「・・・そう言えば、貴方も来ているのだったな・・・エンデヴァー?」

重く息を吐きながら、名を呼んだ男の方を振り返る。其処に立っていたのは、ヒーロー殺しを追って来たエンデヴァーだった。

「ヒーロー殺し・・・これは、貴様がやったのか」

「緑谷・・・」

「えぇ、その通り。コイツは僕が叩き潰しました。

あとゴメンね、ショウちゃん。ちょっと怖いけど、許してね」

顔を引き攣らす轟に笑いかける出久。空気は完全に切り替わり、朗らかな優しい声色だ。

「エンデ、ヴァー・・・」

その声に反応し、項垂れていたステインの眼に再び意思が宿った。

「エンデヴァー・・・贋物ッ・・・!!!」

ステインは、額を地面に擦り付けて立ち上がった。強い怒りと憎悪にこそ、限界を迎えつつある人間の心を支える力がある。

「ハァッ・・・正さねばッ・・・誰かが、血に染まらなければッ!」

腕に着けたナイフを口で噛んで引き抜き、羅刹染みた形相でエンデヴァーを睨み付ける。否、最早睨むと言うより、己の視線を凶器にしてエンデヴァーを殺そうとしていると言う表現が適切だろう。

「ハァッ・・・来いッ!来てみろ贋物ッ!俺を殺して良いのは、オールマイトだけだッ!」

「馬鹿かお前」

 

─バカンッ─

 

「うがッ!?」

脅威をガン無視して血気盛んに殺気をブチ蒔けるステインの右脛を、木製バットを軽くへし折る出久のカーフキックが襲った。足払いのように下半身を丸ごと持って行かれ、ステインは氷の上でスリップしたようにスッ転ぶ。

筋繊維は潰れ、骨は損傷して、立つ事は兎も角、動かす事はもう不可能な状態だ。

「今までずっと、他人に不本意な最期を押し付けてきた貴様が・・・まさか、理想の最期を選べるとでも思っていたのか?全く滑稽甚だしい。お前にオールマイトが拳を振り下ろす事は無い。貴様は今ここで、無様に、藁のように縛られて、死ぬ事も赦されない監獄に入れられるんだよ」

膝裏を抑えて脚の可動範囲を完全に潰し、刃物を没収していく出久。そしてまもなく丸腰にまでひん剥き、パラコードで手早く、骨に引っかけるように縛り上げる。そして其処から頸動脈を締め上げ、10秒掛けて気絶させた。

「ヒーロー殺し、捕獲完了」

20秒掛からず、完全に拘束されるステイン。後は警察の領分だろう。

「・・・1つ聞きたい。ヒーロー殺しのこの傷・・・全て、お前1人でやったのか?」

「えぇ。隙だらけだったのでちょっと警戒を誘導してやれば、面白いように間抜けを晒してくれましたよ」

出久は嘲笑混じりにそう返し、ステインの腕からダーツを無理矢理引き抜いた。

「コイツはもう動けない。警察に引き渡すだけですよ。目的も果たした。もう用はありません」

「・・・緑谷君・・・」

苦々しげに呟く飯田。出久は後ろを振り向き、飯田の手を取って引っ張り起こす。

「俺は・・・ヒーローを志していたのに・・・」

「・・・うん。復讐に呑まれるとは、感心しないね」

「ッ・・・」

「でも、分かるよ。復讐は甘いものだから」

そっと顔に手を添えて、柔らかい声で語り掛ける。

「だが、それに酔っ払って、生きる目的や支えにしちゃあいけないよ。復讐は飽くまで、明日にしがらみを残さない手段。

それが目的に転じれば、それは最早畜生の所業・・・幾ら友達であろうとも、僕達が狩らなきゃいけなくなる」

「っ・・・!」

狩ると言う、人に使うには異質な言葉。其処に含まれた、殺意にも似た明確な決意。

本気だ。もしそうなれば、本気で自分を刈り取りに・・・否、狩り捕りに来る。

「君の手は、まだ返り血に塗れてはいない。その手で、お兄さんの支えになってあげて」

「っ・・・ぁ・・・!」

兄の支えに・・・その言葉に飯田は、仇討ちに視界が塗り潰され、何の為の復讐かを忘れかけていた事に気付く。

その有様は、自分達と敵対する(ヴィラン)と、如何程の違いがあると言うのだろうか。

だが、飯田は畜生には堕ちなかった。己の手が汚れる前に、出久が始末した事で。そして皮肉にも、復讐するべき仇敵が、自分よりも強過ぎた事で。

「スィ、ママ。脳無は全て捕縛したよ」

「Good!良い子だよウォルちゃん」

街灯上に着地して報告したウォルターを労い、出久はソウルイーターを外した。

 

「おいおい、ありゃやり過ぎだろ・・・」

「やっぱヤベェ奴だったのか・・・」

「あんなのが雄英入れたってマジかよ・・・」

 

「ッ・・・」

「・・・はい、待った。大丈夫だよ」

「っ、出久・・・?」

周囲からヒソヒソと聞こえてくる、異質を怖れる声。

恩人に掛けられる心無い言葉に、冷気を吹き出しそうになる轟を、出久が頭を撫でて制する。

「彼らは分かってないだけなんだよ。コイツみたいな思想犯が、只身体を打ちのめされた程度では、決して折れない事を。

例え腕を裂かれても、脚を砕かれても、歯を折り取られても・・・何度も立ち上がり、また己の信念を貫こうとする。それは危険だ。だからこそ、完膚無きまでに叩き潰し、意思を砕き、再起不能にしなきゃいけない。例えそれが、どんなに惨い事であろうとも・・・」

まるで見てきたかのような、説得力のある言葉。周囲の群衆はその重みに思わず口をつぐみ、身を強張らせる。

「何故分かるんだって顔してるね。何故なら、僕も持っているからだ。その狂気の域にすら達した、決意を」

出久はそう言って、ニヒルに片頬を上げた。

「例えどんなに過酷な訓練でも・・・それこそ、走馬灯が脳裏に走るような、凄絶で、身体が死を真正面から認識せざるを得なくなるようなものであっても・・・その一切を呑み下す。弱かった僕が、自分に価値を見出す為に」

急速に光を失った昏い瞳が、出久の体験した過去を物語る。

死の寸前まで、己を追い込む。しかも、自ら。心折れずにそれを乗り越えるには、尋常の決意、並大抵の意思では不可能であろう。それこそ、狂気と言い表せる程で無ければ。

「僕も、コイツも、根底は似ている。周囲とは違う異質な自分の価値を、それでも尚求め続けた。その過程ならば、どのような過酷も苦難も、甘んじて受け容れられる。

故にこそ、コイツを真に倒すには、只の力では駄目なんだよ。

死に体を支え突き動かす信念を根底から否定し、希望を腐らせ、夢を潰し、潰し、潰し、潰し、潰し・・・最早立ち上がろうと思う事すら出来なくなるまで、徹底的に踏み躙らなければならないのさ」

鉛のような重さと、蜂蜜のような粘り気を帯びる空気。その雰囲気は、あって欲しくないもしもを周囲に幻視させた。

もし、この男が(ヴィラン)になったら・・・

「・・・おい、行くぞ小僧」

その空気を、しわがれ声が切り開いた。

「分かりました、グラントリノ」

声の主に着き、歩みを進める出久。その片手間で、とっくの昔に到着していた警察に、ステインの身柄を引き渡した。

「はぁ・・・疲れたな」

「おい小僧。今回確かに戦闘許可は出したが・・・流石にやり過ぎだ。自重しろ」

「済みません」

駅へと向かう道中。出久の前の景色は、その時間帯にしては、異様に開けていた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
超絶毒舌現代忍者。
濃過ぎる人生経験と過酷な訓練により、思考の主観が大分捻れている。
故に思考の癖を読み取り、その裏に何があるのかを察して、適切な刺激を与える事が出来る。心の鍵開けの本質はここにある。
自分とステインの共通点を直視した結果、精神的にオーバーキルしてSAN値を消し飛ばす作戦を決行。まぁそもそも依頼された復讐を果たす為、ズタボロにするのは確定事項だったが。
スリングショットでダーツを放ち、視線を誘導して意識外から再度狙撃。攻撃能力を大幅に削いでから、更にギリースーツの特性を活用してウェイヴパンチを叩き込むと言うコンボをキメて、懇切丁寧に根拠を提示しながら執拗に信念を否定しまくると言う心身ともに凄まじいダメージを叩き込む戦法。エグい。

飯田天哉
復讐鬼になりかけたものの、出久と実力差と言う2つの要因によって皮肉にもそれを回避。
自分の醜さに気付けたので、強くなれるんじゃないかな?

ヒーロー殺し、ステイン
本名、赤黒血染。
時代錯誤な英雄思想に取り憑かれた結果、認め難い現実から逃げ出した憐れな男。
信念があるだの何だのと言われているが、出久曰く、現実を視たがらない子供の癇癪でしか無い。
因みに彼の理想の末路として上げられた運命によって生まれたのが、実は死柄木弔だったりする。
完全な無気力状態で日本最堅の監獄(タルタロス)にブチ込まれる事になる。
人を呪わば穴2つ。蹴落とされた穴の底は、猛毒の針の蓆だった。


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第27話 新兵の調整

『明けましておめでとう御座います!』
「大遅刻だけどことよろだでぇ」
『新年一発目って事で、ちょっと短めです』
「ごめんちゃい!」


(背納サイド)

 

─ダパォッ─

 

「ッ・・・!」「っ~♪」

肉を打つ感触。内臓を抉った手応え。

飛んでくる反撃。鋭い熱。

あぁ、矢張り出久だ。ボクを満足させてくれるのは、出久しか居ない!

「ッシッ!」「チアッ!」

出久のカーフキックに合わせて跳躍し、両脚で出久の腹に組み付く。そして両手も掴んで組み伏せ、テールスピアを眼前に突き付けた。

「・・・はぁ、参りました」

「宜しい!」

ポンと跳んで立ち上がり、出久を引っ張り起こす。

「うげぇ・・・内臓が滅茶苦茶になっちゃってる・・・」

「結構本気で打ち込んだからね。でも上手いこと散らしてたじゃん」

「散らさなきゃ五臓六腑がスムージーになってるよ・・・うへぇ、痣が・・・」

出久が腹を捲ると、ボクが殴った場所が赤黒い痣になっていた。こんなダメージを叩き込まれても、怯まず反撃してくるなんて・・・あぁ、何て愛おしい弟子だろうか。

「あー・・・うっとりしてるとこ失礼。終わったかな?」

「えぇ、終わりましたよ」

若干引き気味のオールマイトに返し、頬を親指で拭う。血を滲ませる一文字の浅い切り傷は、出久の指に鋭く斬り付けられたものだ。出久の鍛え上げた指はそのコントロールによって、錐にもナイフにも鎖鞭にもなる。僕にも負けない全身凶器だ。

と言うか、ボクと違って何所がどう言う武器として作用するか一目じゃ絶対分からない事を考えると、下手すりゃボクよりタチが悪い。

「出久、大丈夫か?」

「うん。もう治ってきた」

「兄弟子回復早ない?」

「当然さ。出久が今まで、何体のゼノモーフを産んできたと思う?」

出久の肉体は細胞の一片まで、ボクの侵略改造液でバッチバチに調整してある。つまり、ゼノモーフのそれにかなり近い体質になっている訳だ。故に、化物の回復力の片鱗を持っている。

「あー、訓練は出来るって感じで?」

「オフコース♪」

「モーマンタイですよ、オールマイト」

「そ、そうか。それは良かった・・・では今回の訓練、説明しよう!」

そう言って、オールマイトからの説明が始まった。

要するに、工業地帯で立体機動を駆使しながら指定されたポイントまで競争、と言う訳だ。ボク達の十八番だね。

因みに、ゴール側にはカメラがあって、スタート地点からモニター出来るようになっている。

「ではクイーン、オープンボイスチャットを」

「オッケー」

マックスとドクがスマホでボイスチャットを開始し、其処にボクが参加する。そして2人はそれぞれ駆け出し、全体を見渡せる高所に陣取った。

『Start!!』

『さぁ始まりました立体機動レース!各選手綺麗なスタートを切りましたがおぉっと速い!速いぞ1番人気緑谷選手!』

『それを追う4番人気瀬呂選手!2番常闇選手!3番麗日選手!』

スタートと同時に始まるドクとマックスの実況。最早お家芸と化したそれを聞きながら、戦況を見遣る。

にしても、何でこんな競馬みたいな実況なんだろうか・・・

『さぁ緑谷選手逃げる逃げるッ!瀬呂選手らもかなりのハイペースで追うが、追い着けないッ!次元が違ァうッ!』

『前方に落下し続ける事で加速する母上と違い、射出と巻き取りと言う2つの手順が必要な瀬呂選手はどうしてもワンテンポ遅れてしまいますからな』

ドクの言う通り、其処が速度面での瀬呂君の弱点だね。

射出と巻き取り。この2つで移動するには、肘のロール機構の回転方向を凄まじい頻度でスイッチし続けなければならない。対する出久はと言うと、超反射神経で足場を見極め、それを最もエネルギーロスの少ない角度で蹴り、常に重心は前のめり。動作は蹴り付けるという1つだけだから、必然的に速い。

『おぉっと此所で常闇選手!影の多い低空から差すか!差すか!差したァァッ!瀬呂選手2番目から3番目に転落ッ!』

おっ、常闇君はパワーが増す下側を駆けたらしい。良いね、競わず持ち味をイカす戦法は好きだ。

『到着ゥゥゥ!緑谷選手、堂々の一着ゴールイン!』

『2着、どうにか差し切った常闇選手!3着、課題が見えた瀬呂選手!

4着は母上の妹弟子、麗日選手!加速力に難ありだったか!』

若干渋い顔をしてゴールする麗日さん。だが出久が一言二言言って頭を撫でると、照れくさそうにはにかんだ。多分、前よりも身体が酔いに耐えられてるとか、加速系能力無しにしては十分速いとか、そういう風に褒めたんだろう。

「ケッ、イケメンがよ」

「ああなりたければ日頃の行い改めろよエロ葡萄」

醜い嫉妬を吐露する雄英の恥部に簡単なアドバイスを送りつつ、ボクもスタート位置に着く。すると、非常階段で待機していた新顔がスルリと現れた。

手首からエレゲンのような触手が伸びているのが特徴で、体型はかなりスリムだ。

「じゃ、行こうか」

「分かりました。クイーンに羞じぬ結果を、御覧に入れて見せましょう」

「それは楽しみだ。期待しているよ────()()()()

 

───

──

 

「クッソがァァッ!!アイツより遅ェェェェッ!!」

結果。爆豪一着。アプトム2着。3着がボクで、4着は砂籐君。びりっけつは切島だ。

で、爆豪はタイムで出久に勝てなかったから荒れてる。餓鬼かいアイツは。

「クイーン・・・申し訳、御座いませんッ・・・!」

「え?」

何かアプトムが跪いた。凄い落ち込んじゃってるけど・・・

「クイーンから()()()能力がありながら、このような無様を・・・」

あー、それで気に病んでるのか。全く、忠誠心が強くて良い子だけど、そんな思い詰めなくて良いのに・・・

「何が無様なもんか。良くやったよお前は。寧ろ、最初の実験的運用でこれなら大成功に近い。

ボクを追い抜き、あの爆豪にギリギリまで喰らい付いたんだ。それも生まれて間も無く、加えて()()()()()()()()()()()()()()だ。

大した奴さ。胸を張れ」

「クイーンッ・・・!はっ、有り難きお言葉!」

「あぁ。それに、これでお前が最高の鬼札(ジョーカー)に成り得ると確信出来たからね」

「・・・触出少女、ちょっと良いかな?」

「おや、どうしました?」

何かオールマイトが深刻そうな顔で近寄って来た。

「その、後天的に付け加える、ってどう言う意味かな?」

「ん、あぁその事。

コイツはベースが肉親喰らいなんでね。遺伝子の経口摂取によって、その個性を完全にコピー出来るんですよ」

「何だとッ!?」

おうおう怖いよオールマイト。何か眼が青く光ってるし・・・

「つってもまぁ、血縁者に限るっていう制約があるんですがね。最初は実験的にエレゲンの形質を摂取させてみました。

結果は大成功!手首の鞭に、発電や蓄電、磁気反発による空中浮遊など正にパーフェクト!」

「そ、そうか・・・」

「・・・何か古傷でも?」

「あ、あぁ。まぁね・・・」

「そう。じゃあ聴かないでおきます。時が来れば、まぁ出久には話してやって下さい」

「あぁ、有り難う」

正直、オールマイトがどんな経験してようがどうでも良いしね。

「さて、皆を見ていこうか」

 


 

『伸びる伸びるアンデルセン選手!安定性が段違いだァァッ!』

「南ァ~無ゥゥゥ三ンッ!!」

 

『先頭ティグルヴルムド選手速い!足運びが的確だぞォ!』

「狙った的は外さないからね!」

 

『おぉっと、先行を許してしまったぞグリード選手!』

「ケッ、俺様はスピードより白兵戦向きなんだよ。どーにもならねぇ所で張り合う程、引き際知らねぇ訳じゃねぇ」

『名前と裏腹に適材適所をしっかり理解してますね。素晴らしい』

 

『あちゃーやっちゃった!ブラキディオス選手、コースを爆破解体してしまい失格です!』

「やっべぇやっちまった!」

 


 

「いやぁ~面白かったねぇ♪」

「そうだね。まぁ、ちょっとアクシデントはあったけど」

施設をちょっと壊しちゃったから、ブラキがオールマイトから注意されてた。まぁ良いだろう。

「そう言えばせっちゃん。ちょっと違和感があったんだけど・・・その背骨、どうしたの?」

「ん、あぁ、コレね」

出久が指摘した通り、今のボクの背骨は少し露出し、骨格質の生体装甲になっている。

「調整を施したのは兵士だけじゃ無い。只それだけの事さね。まぁ、気配でも探ってごらん?」

「・・・っ!?」

出久の顔が、珍しく驚愕に染まる。

「ま、まさか、これって・・・」

「うん、多分その通りだね」

「・・・手段を選ばないのは知ってたけど、まさか此所までとは・・・」

「当然だよ。こちとら侵略性寄生生物だよ?その本質は、侵蝕と汚染、そして進化。

率いる軍が進化するんだ。それに伴い、頂点たるボクも進化する。何の不思議があろうものかね」

「思い付いても、する事じゃないと思うんだよねぇ・・・」

「ボクを何だと思ってる。自他共に認める化物だぞ?普通とは掛け離れた存在さ」

「それは知ってるけど・・・」

「ま、今はまだ使えないんだけどね。ドクのアイテムの仕上がり待ちさ」

しかし、第1実験は成功した。次は第2実験。ボクの身体に、幾つ()()()()()()だ。

「クイーン!このアプトム、何時か必ずや雪辱を果たして見せます!」

「おう!その為に焦らず強くなれ!」

うーん、このアプトムの忠犬っぷりよ。ガイバーのアプトムも、最初はこんな感じだったっけ?

「アイテムかぁ。奥の手?」

「そ。このプロジェクトの内容は極秘だからね。出久にも内緒だ」

「ふぅん。無茶はしても良いけど無理はしないでね」

「分かってるって!」

寧ろ無茶しかねないのはボクの腹心・・・特にドクなんだよなぁ。

アイツ、ケロッとした顔であの()()()建設するのに一千万以上使ったって言ってたからな。それはつまり、その程度の完全出費が痛くも痒くも無いレベルの資産を持ってるって訳で・・・ホント、どう言う資産運用したらそんな巨額の資金を集められるんだ?一応、法外な闇取引の類いは禁止してるけど・・・

「そう言えば、ゼクちゃんは今日居ないんだね」

「ん、あぁ。ゼクトールは用事があってね。暫く出て来られないよ」

第2実験の被検体は、ボクとゼクトール。ボクは女王としての支配力があったから簡単だったが、ゼクトールは少し訳が違う。あの子はボクと違い従属種だから、手術の手間が少し多かったらしい。

結果、今ゼクトールは行動不能状態。身体の調整を重視して、手術室で絶対安静状態だ。ボク達ゼノモーフの細胞は、かなり我が強いからね。中枢神経系ともなれば尚更だ。

「うーん、何かとんでもない事になる気がするなぁ」

「期待しといてよ。予想の斜め上に抉りこんであげるから」

「勘弁して・・・」

「カハハハ♪」

出久の溜息に耳を貸さず、ボクはカラカラと笑う。最早誰もボクらは捕らえられない。止められはしない。

 

(NOサイド)

 

「首尾はどうかね?ドク」

「は、少佐殿」

夜。山の中に建てられた施設の中で、マックスがドクに語り掛ける。

「現在、体組織の融合率は67,9%。今朝に比べ、12時間で約9%上昇しています。また、段々と馴染む速度も上がっているようです」

「ならば結構」

マックスが満足げに呟き、円筒形の水槽にペタリと触れる。

その中には、培養液に浸され、口にチューブを繋がれたゼクトールが居た。全身に電極パッドが貼られており、モニターには脳波、心音、そしてスキャン画像が映し出されている。

「電磁パルスによる筋繊維の萎縮予防も、かなり効果的なようです。これならば、リハビリ時間も、一日あれば事足るでしょう」

「それは良い。強靱であってこそ、ハイパーゼノモーフというモノだ」

「よう、お姉様方」

報告を送受する2人の間に、小柄な影が割って入る。

「おぉ執事(バトラー)!」「ウォルターか」

ファーストズーグ専属執事(バトラー)武器職人(ブラックスミス)、ウォルター・C・ドルネーズである。

「お遣い物が済んだから、持って来たよ。ったく、人使いが荒いったら・・・」

ぼやきつつもニヒルな笑みを絶やさず、ウォルターは持っていたアタッシュケースを作業机に置く。今此処に居る彼女は、武器職人ウォルターでは無く、執事ウォルターだ。

「あぁ、ご苦労。冷蔵庫の物を好きに食べなさい。風呂と寝床も使い給え」

「あぁどうも。ふぁ~ぁあ・・・ったく、DDDDC(ディーフォーシー)の取締役も楽じゃ無い」

大きな欠伸をして、バトラー服のネクタイを緩めるウォルター。そして通風口に糸を飛ばし、その中に飛び込んで姿を消した。

「ククク。全く、扉ぐらい使い給えよ」

そう言ってマグカップに注がれた砂糖たっぷりのバーホーテンのミルクココアを飲み、マックスは笑う。その側の画面には、彼女らの計画名が表示されていた。

 

 

 

────PROJECT XENO=MIX────

 

 

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
現代忍者主人公。
縦横無尽に立体機動を行うその様はまるで忍者スレイヤーの世界観。実際速い。
背納のストレス発散の為に組み手を行い、結果久し振りに良いのを貰った。内臓がめちゃくちゃになるようなダメージでも直ぐに復帰する。半分人外の体質。

触出背納
化物主人公。
何かまたマッドな事してる。実験台に自分を使う事に躊躇が無い。

アプトム
肉親喰らいの能力を受け継いだハイパーゼノモーフ。初手はエレゲン。
忠誠心の強い、所謂忠犬キャラ。故に言動がちょっと堅く、尚且つ大袈裟。
背納の鬼札。

アレクサンド・アンデルセン
塩崎茨の能力を受け継いだハイパーゼノモーフ。
頭部と背中から茨の触手を生やし操る能力を持つ。衣装は神父では無く尼。背納が仏教徒だからね。
高速移動の手段は、スパイダーマンのドクターオクトパスのように触手で立体的に跳び回る感じ。

ティグルヴルムド・ヴォルン
発目明のハイパーゼノモーフ。
動体視力と望遠視力に特化している。メインウェポンは弓。

グリード
切島のハイパーゼノモーフ。
炭素硬化の能力として覚醒した。俺様キャラだが実は頭が切れる。モットーは適所で最善を。

ブラキディオス
爆豪のハイパーゼノモーフ。
手首全体に爆薬汗腺が発生しており、また皮膚はナックルグローブのような甲殻となっている。また尻尾は鎚矛のようになっており、打撃力に優れる。

ウォルター・C・ドルネーズ
ファーストズーグ専属執事(バトラー)
何やら不穏な名前の組織のリーダーもさせられているようだが・・・


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第28話 実験戦・VS勇

『漸く出したかった彼等を出せる』
「あのOVAのやつか」
『おう。それに、背納の最強フォームの構想も立った。
賛否あるかも知れませんが、こっから背納は体術よりもSF路線で行きます』


(背納サイド)

 

「ブギギン。ジョグジャブ、ゼビガバデデラギシラギダ」

「へぇ、これが・・・」

夜。ドクの手術室を兼ねたラボで、ウォルターからアタッシュケースを受け取る。がぱっと開くと、中には引き金の付いたメカメカしいナックルダスターのようなガジェットと、長いマグナム弾のようなシリンダーが4本。そして、ホルスターとシリンダーホルダーが付いた携行用であろうウェストベルトが入っていた。

シリンダーのラベルには、ゼクトール、エレゲン、ザンクルス、ダーゼルブの姿がそれぞれ印刷されている。

「ボセパ、()()()()()()()()()()()()()()()ゼス。バラゲパ、ラザヅギデガシラゲン」

「だったら、そうだな・・・プレデライザーにしようかな」

アタッシュケースから取り出したガジェット・・・プレデライザーを見詰めながら、ボクは自然と口角が吊り上がるのを感じた。

()()()()も馴染んだし・・・丁度良い。早速、実験してみようか」

 

─────

────

───

──

 

「えー、今回のヒーロー基礎学訓練だが・・・(イサミ)学園ヒーロー科の生徒4人が、特別に参加する事となった」

しれっと事後報告し、教室に他校から来た生徒を招き入れる相澤先生。相変わらずヌルッと決めるなぁオイ。

で、入って来たのが・・・汗っかきぽっちゃり君に銀髪赤目美女、その後ろに隠れてる女子、そんでもって・・・頬が瘦けた、大昔のホラー漫画に出て来そうな面構えの男子。何やコイツ、多感な時期にヤンキー映画観まくったミコラーシュかいな。

良い人オーラや愛想まで断捨離したようなニヤニヤ笑いと、格好いいとでも思っているのか頑として崩さない不敵な態度。何だかむかつく奴だ。ガシャドクロの方がまだ可愛げがある。

「ね~ぇ彼女ぉ、LINE教えてくんなァビャッ!?」

「他校に晒すな恥を」

上鳴君がナンパしようとしたけど、空かさず響香がジャックをブッ刺して止めた。

全く、懲りないねぇ・・・

「オホン・・・改めまして、勇学園ヒーロー科、赤外(せきがい)可視子(かしこ)ですわ。どうぞお見知り置きを」

「えっと、同じく勇学園ヒーロー科、多弾(ただん)打弾(だだん)です」

・・・ん?このぽっちゃり君、ただんだだん・・・多弾打弾?まさか、弾頭系の能力か?

だとしたら欲しい!ハイパーゼノモーフ五人衆のラスト、ガスター枠に是非とも欲しい!

藤見(ふじみ)ィ・・・」

「・・・あ゛ッ!?」

あのミコラーシュ、爆豪にガン飛ばしてるねぇ。で、爆豪も瞬間湯沸器が発動っと。

「あ、あの・・・」

「けろっ!」

「「ッ!!」」

赤外さんの後ろに隠れていた子が顔を出す。彼女は首から上が蛇のそれになった異形型だった。そして梅雨ちゃんと眼が合い、お互いに硬直する。

「梅雨ちゃん!」

羽生子(はぶこ)ちゃん!」

と、思ったらお互いに同時にハグ。どうやらかなり親しい間柄らしい。尤も、蛇と蛙と言うビジュアルのせいで見事なまでに捕食被食関係にしか見えないけど。

「おいコラ万偶数(まんぐうす)!雄英なんかと仲良くしてんじゃねぇ!」

「あららら随分と嫌われちゃってんねぇ。けどギャンギャン吠えない方が良いよ藤ミコラーシュ。一匹狼の虚勢にしか見えないから」

「あ゛?」

おうおう、コイツも爆豪と似たり寄ったりな瞬間湯沸器だね。

「おい触出、煽るな。

全員、コスチュームに着替えてグラウンドΩに集合だ。以上、解散」

相変わらずのサッパリ具合で、相澤先生は教室を出て行った。ボク達も各々のコスチュームが入ったケースを持って、更衣室へと向かう。

にしても、今回は選り取り見取りだ。ドク発案の実験も成功したし、新たな可能性に踏み切ってみるか。

ま、今回はガントレット外しとこ。瞬時に着脱出来るように改造依頼出しとくか。

 

─────

────

───

──

 

「おーおー、ドンパチ楽しそうにやってんねぇ」

山岳のフィールドから、随分と賑やかな下を見下ろす。

今回の訓練内容は、体育祭のチームアップバトルロイヤルの屋外版だ。テープを巻かれたら戦闘不能、生存戦略を磨くサバイバルバトル。

このシチュエーションだと、ボクと出久にはかなり有利だね。生き残る事も殲滅する事も、ボクらは一日の長なんてもんじゃない経験値を溜め込んでる。

「てっきり突っ走るかと思った」

「えー?心外だなぁ轟君。確かに混ざりたくてウズウズはしてるけど───」

 

─BBBBBBBBOOOOM!!!!─

 

「───こんなミサイルの雨霰が降ってる所にゃ、流石に飛び出しては行かないよぉ。

ま、獲物がいれば狩るけどね?」

ゴロンと寝転がって、チームメイトの轟君に応える。

あのミサイルは、恐らく多弾君だね。下で景気良くドッカンバッカンやってた爆豪目掛けて、って所な訳だ。

「おっ、前進するか」

勇学園組は、爆豪組が使っていたフィールドに入って行く様子。だが、嘗めちゃあいけないぜ?

「おっ、トタテグモ式トラップドアか!」

地面から突如として爆豪が飛び出し、奇襲で赤外さんを吹っ飛ばした。穴の上には、布状の繊維で出来た保護色の蓋がある。あれは多分、百ちゃんが創ったな。

「ほう!そう来るか!」

爆豪は空かさず蓋を引っ剝がし、多弾君の顔に投げ付ける。

遠距離攻撃は視界が命。友撃ちを嫌う普通の感性の射手には、あれは有効だな。

そしてあの恵まれた体躯を蹴っ飛ばし、藤ミコラを爆破でこれまた吹っ飛ばす。何とも気前の良いバトルだな。

「およ?」

と、何の前触れも無く爆豪がへにゃりと崩れ落ちた。離れた所から万偶数さんが爆豪を凝視してるし、多分彼女の能力かな?

「羽生子ちゃんの個性ね。睨んだ相手を、3秒間弛緩させるの」

「戦場の3秒はデカいねっと、おぉ百ちゃん!ナイスカバー!」

隙ありと動き出そうとする万偶数さんの顔に、白くネバネバした何かが着弾した。見れば、木の影にはスリングショットを構えた百ちゃんが。恐らくトリモチカプセルでも発射したんだろう。

しかし、成る程。飽くまで爆豪は寄せ餌で、獲物を狩ろうと無防備になる瞬間を、か。やるじゃないのさ♪

梅雨ちゃんも感心してる。

「ん?何だあれ・・・」

吹っ飛ばされていた藤ミコラから、ショッキングピンクのスモッグが広がった。

「えー、あれ明らかにNBC兵器だよね。主にB(バイオ)C(ケミカル)の」

「ケロ・・・それはどう言う物なの?背納ちゃん」

「核兵器・ヌクレウス、生物兵器・バイオ、そんで化学・ケミカル。この3種の大量虐殺兵器の頭文字さ」

幸いにも、あのモクモクピンクは空気よりは重いらしく、こっちには上がって来ないみたい。けど、明らかに吸い込んだらヤバい。仲間が居てもお構い無しに使ったって事は、糜爛(びらん)剤や神経毒じゃなく、更に致死量がかなり多くて、尚且つ後遺症が残り難いものなんだろうけど・・・

「せっちゃん!」

「おっ、出久じゃん。あの藤ミコラガスから逃げてきた?」

「まぁそんな所」

タタッと台上に上がってくる出久。そのチームメイトの葉隠さん、三奈ちゃん、麗日さんも此所まで来た。

にしても、出久のギリー凄いな。ソウルイーターとアイギアで完璧に顔も隠してるし。

しかし、あのモッサリが凄い勢いと機敏な動きでで坂を駆け上がってくるのはちょっとジワジワ来るものがあるな。麗日さんも噴いてるし。

「で、どう思う?」

「Bの可能性が濃厚」

「おっけ」

取り敢えず、ボクらはあのフィールドを観察して情報を得る事にする。戦場を左右するのは、何時だって情報だ。

「おっ、何か出て来るみたい・・・おっとぉ!?」

「ヒュゥ・・・!」

靄の奥からゾロゾロと行進してくる群れに、ボクらは一様に眼を見開いた。

「「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」」」」

黒く虚ろな眼窩。骨のように白い肌。開きっぱなしの口からは悍ましい呻き声が垂れ流され、酔っ払ったようなフラフラとした動きで此方にやって来る。

「「ぞ、ゾンビィィィ!?」」

「とんだバイオハザードもあったもんだ」

「腐りかけの牛乳溢した床で顔面モップしたみたいな顔色だね。あぁ、お労しやご主人・・・」

響香や百ちゃんを含め、あの辺りにいたメンバーは全員ゾンビ化したみたいだね。全く、ミコラーシュかと思ったらデンジャラスゾンビかよ。ゾンビ化した皆が協調性を発揮して、再誕者とかにならなきゃ良いんだけど。

「取り敢えず、気になる所上げていこうか」

「運動神経は鈍化してるみたいだけど、身体能力は変わらないみたいだね」

「あと、めっちゃくちゃ頑丈になってるっぽい。頭突きで木の幹抉れてるし」

「血も出てないから、ダメージそのものを受け付けない状態ってのも考えられる」

「デンジャラスゾンビかと思ったらハイパームテキかよ。もうアイツ檀黎斗で良いんじゃないかな。

死にかけの奴にあのウィルス投与したら、延命処置にはなるのかねぇ・・・」

ジョークを挟みつつ、資格情報を言語化して整理していく。

「まず確実に空気感染してるね」

「映画と同じなら、咬まれたら感染する可能性が高い。最悪、接触で感染すると思った方が良いかも」

例しに手首の細胞で棒手裏剣を作って投げ付ける。かなり硬い音を起てて、奴等の誰かに当たった。

ダメージは無かったものの、それに反応して何体かこっちにヨロヨロと歩いて来る。

「ん?せっちゃんそんな事出来たっけ?」

「肉親喰らいの能力の応用でね。マリスの遺伝子を取り込んで、ゲノムの未使用領域に組み込まれてた百ちゃんの個性因子を引っ張り出したのさ。

厳密な能力としては、繊維化肝細胞生成、かな」

「肝細胞?」

「肝臓の細胞って事だよね?何で肝細胞なの?」

あぁ、まぁ生体工学の知識が無いと厳しいか。

「肝細胞には、核が2つあるものが多い。また、喪失した肝臓を再生する時に、分裂では無く細胞肥大で質量と体積を取り戻す。

これを肝硬変みたく繊維化させて武具として運用すれば、細胞寿命を節約して武装化出来るって訳さ」

これのお陰で、最初は出力不足だった個性器官の生成も出来るようになった。ボクからアプローチを掛けて、マリスもこの生成能力を操れるようになったし。

「で、アレどうする?」

「実験序でに迎撃するかね」

坂を飛び降りて、先頭切って登って来てた爆豪ゾンビの頭にボレーキックを叩き込む。

「ちょっと師匠!?」

「死ぬよ師範!?」

「流石にどうかと思うようせっちゃん」

「大丈夫大丈夫。骨折った感触は無かったよ」

にしても、樫杖を軽くへし折るボクの蹴りが効かないか。本格的に不死身っぽいね。

「手加減は要らないって訳だ。封印緊縛術式(クロムウェル)3号2号、解放」

全身を装甲化してポーチの中からプレデライザーを取り出し、アコーディオンのように横に伸ばして収納モードから使用モードに変形させる。そして、2本のシリンダーを取り出した。

 

「融合!」

─ギュリリリリッ!─

 

「アイ・ゴー!」

─シャラァッ!─

 

「Here we go!!」

【融合捕食ッ!】

グリップ両端のスロットにシリンダーを装填。システムが起動し、檜山さんボイスが鳴り響く。

「雷電一閃!刹那の霹靂!」

 

─バチンッ─

 

首筋に押し付けプレデライザーから、無針注射で内部の薬液が注入された。

「ぐッ!?う、ぐぅっ・・・ル゛ゥア゛ァァァアアアアアッ!!」

血中に入った薬液が、脊髄の共生体に作用。全身の遺伝子の未使用領域に取り込んでおいたハイパーゼノ因子のストックから、狙った個性因子を発現させる。

体表が滑らかな軟質装甲に覆われ、両腕からはブレードが生成。装甲全てが圧電素子として作用し、外界からのあらゆる衝撃・圧力を電気エネルギーへと変換し始める。

【エレゲン!ザンクルス!プレデリアン・キメラ!ブリッツセイヴァー!】

「はぁ・・・完成、PROJECT(プロジェクト) XENO=MIX(ゼノミクス)!」

「「へ、変身した!?」」

驚愕する門下生を余所に、目下の阿鼻叫喚へと踊り出す。

掴み掛かって来た砂籐君ゾンビの手を逆に外に弾いて掴み、膝蹴りに派生させた。そして逆脚でその胸板を踏み台に、鉤爪を振り回す切島へと跳躍。その顔面を股に挟み、フランケンシュタイナーを決める。

「ア゛ァアアアアアア!」

「おっと?」

今度は尾白君ゾンビが、尻尾諸共しがみついて来た。筋力のリミッターが外れているのか、ボクの骨がミシミシと異音を立てる。だが、今のボクに対してそれは自殺行為だ。

「ウリェイッ!」

 

─BAZZZZ!!─

 

「オアアア!?」

脚を浮かせて、全身に溜め込んでいた電気を放出。電流は尾白君ゾンビの身体を通じて地面に逃げ、行動不能化に成功する。

「ガァァァアアアア!!」

「いてっ!?」

電流で硬直した尾白君ゾンビを振り解く隙を突いて、正面から障子君ゾンビが複製腕全て口に変化させて噛み付いて来た。地味に痛い。

「フンッ!」

両脚で胴を蟹挟みし、海老反りのように上半身を無理矢理落とす。そのまま頭から障子君ゾンビの股下を潜り抜け、脚を引き抜いた。そこから両手で腰をホールドし、ジャーマンスープレックスを叩き込む。

「なッ!?テメェ、何で俺のウイルスが効かねぇんだ!?」

「っと、いつの間に・・・」

出久達と同じ高台で、解せないと言う様子で叫ぶ藤ミコラ。成る程、ウィルスか。

「ボクに感染させるなら、並大抵のウィルスじゃ駄目だね。血管に侵入した瞬間、強酸血で蛋白殻ごとDNAが破壊されるから。何方かと言うと、ボクらのDNAを組み込んだ細菌の方が良いかもね。細胞なら耐酸性の細胞膜を獲得出来るだろうし」

「くっ、とことん規格外な化物め!」

「お褒めに預かり光栄の極み、おごっ?」

藤ミコラの様子を見ていたら、後ろから何かに羽交い締めにされた。

この背中に押し当てられる、しっとりと柔らかい感触・・・あぁ、葉隠さんゾンビだね。生乳曝け出してるのはこの子だけだし。

「よっと」

 

─ゴキョッ─

 

両肩を外してヌルリと溶けるようにすり抜け、曲げた膝をフル稼働してジャンプ。ピット器官で狙いを定めて首を脚でホールドし、頭に電気を流した。

どうした所で、指令塔は脳だ。それを痺れさせりゃ、食道下神経節も無い脊椎動物である限り、無力化出来る。

「あがああああ!?」

「あ?」

何か凄い悲鳴が聞こえた。そっちを見ると、さっき蹴り飛ばした爆豪ゾンビが藤ミコラに噛み付いている。

「ア゛アアアアアアア!」

「って、お前も感染すんのかよ」

「キングコブラみたい」

「耐NBC性能に対する意識が低過ぎだね」

しかし、派手にやり過ぎたせいでゾンビの意識が完全にボクに集中しちゃってるね。まぁ良い。こう言う囲まれた時は・・・

「ハッ!ウッリャアッ!!」

両腕のブレードを根元から触手で伸ばし、帯電状態で大きく振り回し薙ぎ払う。

エレゲンの触手鞭で周囲の敵を漏れ無く感電させ、悉くを地に伏せさせた。

「ハイバイヴブレード機能は切ってるけど、もし入れてたら此処ら一帯血の海だね」

鞭を収納し、ギャリギャリッとブレードを擦り合わせてハの字に払う。

これで、敵は全て制圧した。

「ミッション、コンプリート」

 

─ピキッ パキパキパキパキッ─

 

「っと、完全に繊維化したか」

警戒を解くと同時に、全身の追加装甲が灰のような色に変わる。そしてバキバキと罅割れ、身体からボロボロと剥がれ落ちた。

「あぐっ・・・うげっ、まっずい。味は瘡蓋で食感は焼き過ぎたレバーじゃん。

ペッペッ」

崩れた装甲を囓ってみるが、とても喰えたモンじゃ無いね。

どうやら、消費した細胞分をリサイクルするのは無理そうだな。蜘蛛糸みたいには行かないか。

「まぁ良い。訓練も、もう終わりだ。腹減ったな」

この変身、細胞自体はそうでも無いが、蛋白質を大量に消費する。早急に、飯を食わねば・・・

しかし、プロジェクト・ゼノミクス・・・あぁ、上々の出来だ。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

触出背納
SF方面に路線変更した化物主人公。まぁそもそもがSFホラー作品の個性だし問題無さそう。
今回のプロジェクトによって、ゼノモーフが受け継ぐ事の出来る個性の幅が広がった。
訓練後、勇学園生徒全員に胚を産み付けた。

緑谷出久
今回は出番が無かった現代忍者。ニンニン。
森の中って事でギリーを着てた。モリゾーの如き毛玉が坂道を駆け上がってくる様は正に腹筋ダイナマイトである。

藤見露召呂
ゾンビウィルスの能力者。
実は戦闘よりも倒壊現場なんかの災害救命なんかで活きそうな能力。
改良すればトゥームストーンみたいになれそう。

赤外可視子
可視光線域拡張能力。
ゼノモーフは電磁波なんかが見える事前提だから、どう言う形で覚醒するか。
因みにハイパーゼノモーフの能力はもう決めてる。

多弾打弾
ずっと出したかった奴。
原作のガスター枠がコイツしか居ないし、出演がOVAだしでタイミング掴みづらかった。

万偶数羽生子
梅雨ちゃんの親友。傍から見たら捕食被食関係。
睨んだ相手を弛緩させる能力。多分ポケモンの蛇睨みが元ネタかな?

~能力・用語・アイテム紹介~

・肉親喰らいの能力
血縁者のDNAを取り込み、自身のゲノムを編集して遺伝子の覚醒していない部分、未使用領域に複写して保存、また覚醒させる能力。コピー元となったDNAをベースにした薬液を血管から投与する事で、特定の遺伝子のみを覚醒させる。
これにより、個性因子が未覚醒だったゼノモーフの能力を開花させる事が出来るようになった。

・マリスの能力
自身の装甲を形成している細胞を繊維化した肝細胞のような構造とし、切り離して武器にする能力。
八百万の創造から派生したモノだが、ファーストズーグ初のデッドコピーとなっている。
実は背納は標準装備しているのだが、マリスの因子を取り込んで出力が上がった。

・PROJECT XENO=MIX
肉親喰らいの情報を得た時に発足したプロジェクト。
内容は、背納やゼクトールの脊髄に肉親喰らいの因子を継承したチェストバスターを埋め込んで融合させ、ハイパーゼノモーフの能力を使用可能にすると言うモノ。倫理観?最初の人格と一緒に消えたよ。
バイオのネメシスとテラフォーマーズのモザイクオーガン手術を合わせたような計画。

・プレデライザー
背納が使うゼノミクスガジェット。モデルはウルトラマンジードのジードライザー。
形のイメージは、血界戦線のクラウスのナックルダスターの両端にシリンダースロットが付いているような形。
檜山さんの合成ボイスが鳴ると言う素敵仕様。


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第29話 水面下の胎動

『大隊規模の軍団を作り出す算段が立った』
「なんかまたエラいこと考えてそうだな」
『我が虹色の脳細胞に任せたまえ』
「俺ちゃんこんな良い予感が消え失せたの初めて」


「何だ・・・一体、何が起きている・・・!?」

とある地下施設で、黒いコートを着たペストマスクの男が叫んだ。その傍らには、アルビノのような長い白髪と額の角が特徴的な少女が居る。

彼の名は、治崎(チサキ)(カイ)。若くして指定敵(ヤクザ)団体、死繪八斎會を率いる男である

己の研究所であり、城でもあるその施設に、何者かが侵入している。直属部下である()()()()ですら真面な足止めにもならず、既に部下の中では最も信頼している本部長とも連絡が付かない。

「クソ、忌々しい病人共めがッ・・・行くぞ、壊理(エリ)!」

せめて自分の研究だけはと、少女・・・壊理の手を取ろうとする治崎。しかし既に、死神の鎌は迫っていた。

 

─シャグッ─

 

「・・・は?」

鮮やかに舞う紅。ボトボトと落ちる肉。一拍遅れて、治崎はそれが自分の手首の成れの果てであると理解した。

「ひっ!?」

「なッ────がぁぁああああああッ!!!?」

不意打ちで手を切り落とされ、激痛でパニックに陥る。壊理は顔を青ざめさせ、短く悲鳴を上げた。

「畜生ッ!出て来い糞ッたれの病人共!」

自身の個性、オーバーホールで傷口を分解・再構築する事で無理矢理止血し、怒りに任せて叫ぶ治崎。真っ赤に充血した瞳からは、血圧が上がり過ぎたのか紅い涙が零れた。

「殺すッ!絶対に分解(バラ)してや───うがぁっ!?」

突如として治崎を襲う、強烈な痺れ。全身の筋肉が痙攣し、その場に倒れ伏して動けなくなる。

「くッ、そォ・・・もう、少しッ、だったんだ・・・!もう、少しで・・・俺の、研究は・・・」

「残念。そのノウハウは、僕らが使ってやるよ」

頭上から降って来た声と共に首にワイヤが掛けられ、治崎の意識は刈り取られた。残された壊理も、フワリと漂って来た甘い香りによって深い眠りに誘われる。

「ヒュウ、ビビレバヅグンザレ。マリス ン ゲギゲギボグリョブ ロ、ババババ ベンシバロドザ」

「ガシガドグゴザギラグ、ウォルターゴベゲガラ」

ガスマスクを着けて器用に口笛を鳴らしたウォルターの言葉に、後ろにいたマリスが一礼した。

「ボセゼ、リショションバンリョグ。ボギヅパ、ドク ン サボ ビ ザボボグバ」

治崎の無事な手を握り込ませて細長い布帯で縛り上げ、担ぎ上げるウォルター。小柄であっても彼女もゼノモーフ。人1人担ぐなど、造作も無い事である。

「ボンボ パ ゾグギラグバ?」

「ブギギンバジリ ン ベギガヅバン グ ギス。ゴヂサベギジュゼ、ザザグゲビ

ゾゴギデ ロサグ。デギチョグビ ゴザボビギソ」

「パバシラギダ」

壊理を優しく横抱きに抱え、マリスはウォルターに追随する。

 

その後、死繪八斎會の本部は倒壊した。

跡形も無く完全な瓦礫の山と化す崩壊であったが、幸いにも死者は出ず、意識不明で病床に伏していた先代組長の命にも別状は無かった。

しかし、構成員の幾人かは行方不明となっており、現在も捜索中である。

 

「止めろッ!何をする気だ!?止めろォ!!」

「素晴らしい。お前の能力が発現するならば・・・」

「おぐぁ!?」

「・・・その子の名前は─────」

 

(背納サイド)

 

「ウリェアッ!!」

─ガドグッ─

 

「ショウッラァ!」

─ダゴンッ─

 

拳を振り抜いた姿勢のまま、拓けていく視界に意識を向ける。

実験は成功。致命的なダメージを受けたコンクリートの壁は小さな瓦礫の山と崩れ、カラカラと乾いた音と共に転がった。

「良いね。思った通りの能力だ」

力を抜くと、鋭敏化していた色彩感が元に戻る。同時に身体の表面を覆っていた大柄な装甲も繊維化。ボロボロと崩れ、蛋白質のゴミの山になった。

「よし。お前の名前は、ラミア。これから君の仲間が増える。宜しく頼むよ」

「承知した、我らが女王。未だ(まみ)えぬ同胞(はらから)との邂逅、待ち侘びよう」

うむ、やっぱり名前に性格が引っ張られてるね。

「取り敢えず、次の試験にはラミアの能力を使おう」

「分かりました。酵素剤を量産しておきます」

「あと、()()()()()()()も発動する。()()()()の因子を移植してくれ」

「承知しました。施術を開始します」

クロムウェルの封印を再発動し、生体装甲を解除。そしてドクがリモコンのボタンを押すと、床が開いて手術台が迫り上がって来た。

其所に俯せに寝転ぶ。

「では、良い夢を」

首筋に当てられた無針注射器がカシュッと音を発てると、ボクの意識は急速にブラックアウトする。

あぁ、楽しみだな・・・♪

 

(NOサイド)

 

「せっちゃん、今度は何したの?」

「ん?」

朝。開口一番に要領を得ない問いを投げ付けてくる出久に、ボクは首を傾げて見せる。

「惚けないの。僕ら馴染みのあの刑事さんから、小さい女の子のカウンセリングを頼まれたんだよ。

あの人経由でこっちに話が来るなら、大元には大体せっちゃんが居る筈でしょ」

「ヒッデェ偏見だなぁ出久・・・別に大した事はしてないさ。ただちょっとヤクを流してるカス共を一網打尽にしただけで」

「充分大した事なんだよそれは」

頭痛がするとばかりに頭を押さえる出久。まぁ、何時もの事だ。

「で?依頼は受けたの?」

「受けたさ。正直、あの子はかなり危険な状態だったからね。

今は仮眠室を借りて、シュレちゃんが話し相手になってるよ」

うむ。何だかんだ言って、出久は傷ついた子を放っておけないからね。

「出久、おはよ」

「ん、ショウちゃん。おはよう」

教室に入るなり出久を捕捉し、一直線にやって来る轟。後ろから緩く抱き着き肩に顎を乗せる轟の頭を、出久は優しく撫でる。その光景をスマホでカシャカシャ撮ってる三奈ちゃんと葉隠さん。うん、気持ちはわかるよ。百合も薔薇も甘い物だ・・・と、先生の足音だ。

「先生来たよー」

『ッ!』

ボクの一言で、クラスメイト全員がまるで統制の取れた軍隊のようなスピードで速やかに自分の席に着く。かく言うボクも同じく。

「お前ら席着~いてるな。うん、時間の無駄が無くて宜しい」

入って来て早々、相澤先生は何時もの合理主義を炸裂させる。

「え~夏休みが近付いてきているが、当然ヒーロー志望の君らが30日間、丸一ヶ月休める道理は無い」

「へぇ?」

何か意味深な事言ってるね先生。で、周りも今までのパターンから何があるのかと気が気じゃ無い感じだ。

「夏休み、林間合宿するぞ」

『知ってたよヤッタァァァァァ!!』

ほぉ、林間合宿ねぇ。森の中なら、ボクの独壇場だね。

「肝を試そ~う!」

「風呂ッ!」

「花火も良いよね~」

「湯浴みッ!」

「はい、ストップザ・峰田。でないと抉り取るよ?」

「ヒャイッ」

この万年発情期め。風呂を覗こうものなら確実に踏み躙ってやる。

「因みに期末テスト赤点取った奴は学校で居残り補修だからな」

「頑張ろうぜみんな!」

鬼気迫る顔で振り返る上鳴君だが、生憎とこちとらプレデリアン。この頭脳を以てすれば、赤点など取る方が難しいのだよ。

「ま、精々頑張ろう。久々に野伏(レンジャー)としての実力を発揮出来るしね」

そう言う出久の気配は、ウキウキと弾んでいるのかとてもチリチリしたものだった。

 

─────

────

───

──

 

「っとぉ・・・よし。これで30っと・・・」

背中から生えた()()()のインナーマウスをウォーリアーから引き抜き、内側からその組織を分解して再吸収する。

コレは障子君を苗床として生み出したハイパーゼノ、ショゴスの能力だ。

「にしても、ホントに都合の良い細胞だなコレは」

酵素薬液の効果も切れたから、また注射しなければ生やす事は出来ない。しかし、どんな体組織も性能上限を超えて、つまりアップグレードして複製する事が出来る上に、それを瞬時に分解・再吸収して別の組織に組み替えられる。眼だろうが耳だろうが声帯だろうが自由自在。再生医療のシリウスだ。

「言うなれば、ベニクラゲの回帰能力を付与した超高速生殖細胞。筋肉、骨、神経系、総ての細胞を瞬時に構成し、用が済めば最初の生殖細胞に戻る。全くとんだ出鱈目だ」

「故にこそ、我々が使えば・・・差し詰め、培養槽要らずのクローンマシンと言った所ですな」

「食べ物や居住区も心配無用。既にドクと共に集めた資金で、無人島を2つ購入してあります」

「前から思ってたけどさ、お前らの資金源何所よ」

「日雇いバイトとか株とかですな」「あとマネートレード」

「銭転がし上手過ぎるだろ・・・」

コイツらに謀反起こされたら多分国際傭兵団雇って来るな。流石のボクも、遠距離からグレネードランチャーなんかで面制圧されたら一巻の終わりだ。

「あ、統計から株価や海外貨幣価の変動を予測するソフトを作りましてね。試運転中ですが、今の所は的中率84,1%です」

「オーバースペックにも程があるわこの腹心」

あーもう駄目だ。資金やら組織やら運用させたら絶対勝てないわコイツらには。

つか今更だけど、ドクはほぼ助手無しで中枢神経系の直ぐ近くをいじくり回す手術を難無く成功させてるんだよな。麻酔も野生の毒草から精製したお手製だし・・・

これ外部に漏れたらヤバいよな。グレーゾーンをノンストップで突っ切って、完全に真っ黒な犯罪行為だもんなぁ・・・

「・・・まぁ良いや、なるようになるさ」

ボクの身体はどうしたってもう違法性の塊なんだ。どうしようも無い事に何時までもウジウジするなんざ、底抜けた間抜けの仕業さね。

 

─────

────

───

──

(出久サイド)

 

夜。僕はとある依頼を受け、警察署に来ていた。

「じゃあ・・・済まんが、頼むぞ」

「お安い御用、任せて下さい」

「ありがとう・・・入るよ」

刑事さんに答えて扉を優しく叩き、ゆっくりと開く。

殺風景だった部屋にベッドを持ち込み、署内の託児スペースから集めて来た絵本や玩具が置かれた其処では、白髪の少女・・・否、まだ幼女と形容すべき年齢の女の子が居た。

「ひっ・・・」

その子は僕が入ると、引き攣ったような声を絞り出して身を強張らせる。目元には涙が浮かび、歯がカチカチと音を起てる程に震えていた。身体を庇うように抱き締めているが、特に包帯を巻かれた腕はそれが顕著だ。

僕は、この子・・・壊理(エリ)ちゃんがどんな境遇に居たのかを、ある程度聞いている。

虐待処か実験材料、素材として身を刻まれ続け、ある程度切り取られたらオーバーホールによる分解と修復。当然分解には激痛が伴うが、泣き叫ぶ事すら許されなかったのだろう。

「こんにちは・・・いや、今はもう、こんばんは・・・かな」

「・・・」

片膝を着いて視線を合わせ、離れた位置から挨拶をしてみる。しかし、当然ながら彼女は身を縮こめ、此方の様子を窺うだけだった。

「っ・・・!」

多くの子を持つ母親として、胸が締め付けられる。この子の心は傷だらけ。それだけじゃ無く、彼女を縛っていた茨の棘が、未だに刺さり残っているのだ。

「・・・まだ、怖いよね」

大体、壊理ちゃんの視線で分かる。壊理ちゃんが、他人に立ち入って欲しく無い距離・・・大体、3mって所か。

甘えた盛りな筈のこの時期にも関わらず、此所まで他者への拒絶が強いとは・・・他者に対する認識が、《依存出来る対象》では無く《極大のストレッサー》に固定されている証拠だ。

この場合は、短時間で距離を詰めるのは最悪手。確りと距離感を測って行かないと・・・

「・・・」

「・・・」

うーん・・・取り敢えずは、僕は無害な存在と認識して貰うのが先決か。下手に喋るべきでも無し。

そう判断し、僕は部屋の隅に座り込んで持ち込んだ小説を読む。

優しい異形の魔物と、平凡な町娘とのファンタジー異種間恋愛物。殺伐としたバトルアクションと同じぐらい、こう言う甘酸っぱい恋愛系も大好きだ。思わず口角が緩む。

「あ、あの・・・」

「ん?どうかした?」

怖ず怖ずとだが、壊理ちゃんが話し掛けてくれた。視線だけを送ってみれば、若干恐怖が和らいでいるらしく、先程までよりも疑問が表出している。

「えっと・・・あの、おなまえ、は・・・」

「ん、ああ。そう言えば言ってなかったか、ゴメンね。

僕は緑谷出久。出久お兄さんって呼んでね」

「ん・・・いずく、おにいさん」

「うん。それで、どうしたのかな?」

読んでいた所で栞を挟み、パタッと本を閉じる。

「えっ、いや、えっと・・・ご、ごめんなさい・・・」

「ん?・・・あぁ、本の事?良いよ良いよ。切るには丁度良い所だったから」

柔らかく、気持ち高めの声で語り掛けた。さっきよりは、警戒心が薄くなったように見える。

「そうだなぁ・・・自分からは話せないなら、教えて。例えば・・・君の好きな食べ物とか」

「食べ物・・・」

直感的に答えやすい質問で、少しずつ僕に慣れて貰おう。

「えっと・・・り、リンゴ・・・」

「リンゴか、じゃあ次は持って来よう」

 

 

 

そんな簡単な世間話を、1時間弱繰り返した。最初は3mあった拒絶の距離感は、最後には50cmまで縮まった。

 

───

──

 

(背納サイド)

 

「よし、かなり早く認可が下りた」

スマホのメールを確認して、小さく笑う。

その内容は、サポートアイテムとしてのプレデライザーの本格使用許可だ。本来は開発企業やら保険会社やらの対応が恐ろしく遅いせいでかなり時間が掛かる筈だが、何かマックス達が交渉して早急に済ませてくれるようになったんだと。

まぁ、大方右頬を百万円(こんにゃく)でビンタして左側頭部を一千万円(レンガ)で殴り付けたんだろう。うん、もう何となくパターン分かって来た。

「では、説明しましょうか。それとも質問形式にします?」

雄英の会議室にて、ボクは口を開く。聞いてくれるのは、教師陣全員だ。

「じゃあ俺から。まず、この前お前が見せたあの肉体変質。アレはそもそも何なんだ?お前の個性、プレデリアンからは明らかに逸脱してるように見えたんだが」

先陣を切ったのは相澤先生。まぁ、当然其処からだろうね。

「アレは職場体験先で遭遇した名付き敵(ネームドヴィラン)、肉親喰らいの個性をコピーして、ボクの身体に定着させた能力です。名付けて《融合捕食》」

「他人の個性を定着だと・・・!?

触出少女、それは誰の手を借りた!?場合によっては、君を拘束せねばならない・・・!」

鬼気迫る様相で、低く唸るように問うて来るオールマイト(八木さん)。窪んだ眼窩の向こうで、青い瞳が鋭く光っている。

「おぉう、落ち着いて下さいよ。前のアプトムもそうだけど、何かそう言う能力持ちに因縁がありそうですねぇ・・・まぁ、それは後々教えて貰うとして。

御心配無く。このオペの執刀医は、謀反未遂常習犯でお馴染みのボクの次女、グロンド・ドク・プルフェッツォルですので。序でに言えば、やった事も普通の外科手術です」

普通ならオールマイトに凄まれれば、萎縮してものも言えなくなるだろう。だが生憎と、ボクは化物。ライオンだろうがオールマイトだろうが、威嚇されようとも逃走の選択肢は浮かばない。

「そんな事が・・・一体、どうやったんだい?その技術があれば、医学界での大革命だよ」

コメカミに汗を滲ませて問い掛けてくるのは、我が校の外科医であるリカバリーガール。彼女の専門も外科手術だし、気になるのは当然だね。

「まぁ教えますけど、ボク以外がやるのは確実に無理なので表彰状は貰えませんね」

そう言ってボクは後ろを向き、服を捲り上げて背中を見せる。一瞬狼狽えたような気配がしたが、それは直ぐに絶句に変わった。

「触出少女、それは、一体・・・!?」

オールマイトの声が、僅かに震えている。まぁ、この前の訓練では全身を装甲化してたから気付かなかったのかもね。

ボクの背中の、()()()には。

「HeyHey、触出・・・その背骨、どうしたってんだ・・・?」

プレゼントマイクの指摘したボクの背骨。それは全体がボコリと盛り上がっており、封印を解除したような外骨格で覆われている。

「ボクの施工したオペレーション、PROJECT(プロジェクト) XENO=MIX(ゼノミクス)。その内容は、肉親喰らいの個性を継承したチェストバスターをボクの脊髄に移植し、融合させると言うもの。

肉親喰らいの誓約、《血縁者の能力しか吸収出来ない》・・・それ則ち、()()()()()()()()()()()ならば吸収出来ると言う事。だからこの共生体に、ボクの娘達であるハイパーゼノモーフの因子を組み込んだって訳です。

肉親喰らいの個性の本質は、()()()()()()()()。取り込んだ個性因子を、肉体に反映されていないジャンクDNA領域に組み込んでストックする事。

そしてこの共生体の脳に、それぞれのハイパーゼノモーフのDNAを含んだ人工活性酵素剤を摂取させる事で、狙った能力のみに覚醒命令を出させる事が出来る。

生体電波で命令も出来なくは無いけど・・・流石に、個性因子の塩基配列なんて覚えきれませんのでね。テレパシーでの無線命令(デジタルコード)より、薬液注射の有線命令(アナログコード)を採用しました。肉親喰らいは感覚で引き出してましたけど、アレは生まれ持った個性だから出来る訳で・・・

まぁ、ちょっと長々と説明し過ぎましたね。要するに、個性因子の制御装置を後付けしたんですよ」

わぁ、全員戦慄してらっしゃるね。まぁ自分でもマッドな事してるって自覚あるけど。

「ちょ、ちょっと待て!今の話で引っ掛かったんだが、その背中の・・・共生体?には、脳があるのか!?」

と、いち早く復帰して声を荒げたのは、B組担任のブラドキング。うん、良い着眼だね。

「勿論ありますよ?ただ、ボクからの発達阻害命令で人格を司る中枢神経系を消してますから、人格が出来る事はありません。所謂、無頭児*1にかなり近い状態ですね。

脳としての役割は、血中に打ち込まれた酵素剤・・・つまり外部からの命令を読み取って、それを細胞変質への内部命令に変換する機能だけです」

実の所、この脳の発達阻害命令は今までも出ていたのだ。その影響を受けるか否かの違いは、ボクからの()()()である。

この共生体の理論で、つい最近辿り着いた結論だ。ボクは名付けの際に特殊な電磁波を浴びせ、名付け相手の大脳皮質のプリオン蛋白に命令を焼き付ける事が出来るらしい。

脳に焼き付けられた内側からの信号は、外部からの発達阻害命令よりも優先される。故に、脳は人間と同程度に発達する事が出来る訳だ。そして恐らく、名前に人格が引っ張られるのもこの影響だ。ボクのイメージする人格データが、前頭葉に上書き保存されるんだろう。

尤も、それが出来るのは共有チャンネルで生体電波の送受信が出来るゼノモーフのみ。それもボクからの阻害命令を受け始めて間も無い、極めて若い個体だけだが。

「・・・現時点で、名付けが済んでいるゼノモーフはどの程度いる?」

「うーんと・・・」

結構多いんだよなぁ。

えーっと、ウォーリアーはマックス達4姉妹。後はハイパーゼノモーフのマリスにヴァレンタイン姉妹、ゾーリン、トバルカインと、今日本には居ないけど()()()()()()()()()

USJで生まれたのが、劉とシル。体育祭ではアンデルセン尼僧、ブラキディオスにグリード。職場体験ではアプトム。そんでもってハイパーゼノモーフ五人衆。そしてラミア達・・・

「名前持ちは21体ですね。そんで無名の無個性が現状24体」

合計で45体、か・・・うーん、バタリオンは遠いな。取り敢えず、もうちょっとウォーリアーが欲しい。

前線で戦うゾーリン、ヤン、ルーク、劉、シル、アンデルセンをそれぞれリーダーに据えて、各配下10体で6個分隊規模に。更に金策部隊に10体、後はウォルター率いる薄給な汚れ仕事(DDDDC)部隊にマリスやシュレディンガー含め15体は欲しい。合計で、最低・・・82体?じゃああと大体60体ぐらいウォーリアーが必要って訳か。うへぇ果てしない・・・しかもそれでまだ3個小隊弱。一個中隊が訳200人だから、中隊にも届かない。うーむ、ボク以外に生殖個体が欲しくなるな・・・

「ちょっと良いかしら。確か体育祭で唱和したり歌ってたの、名無しの子達だったと思うんだけど。知能はほぼ無いのよね?」

「そーですよ?働き蟻に脳は要らない。アレは簡単なリモコン命令です」

脳が退化するだけで、他は名付きと変わらないからね。声帯も全く同じ。だからボクがそれぞれの脳の代わりに命令を代行してやれば、ああやって遠隔で喋らせる事も出来る。

「・・・まァ、それはそれと納得するとして、だ。

お前さんの使ってたあのナックルダスターみてぇなデュアルインジェクター・・・アイツは一体、どこで造ったんだ?」

アイテムについて突っ込んで来たのは、それが本業たるサポート科のパワーローダー。訝しげな表情からは、明言した質問の他に、『どうやってこんなに早く使用の承認を受けたのか』と言う疑問も感じ取れる。

「ドク曰く、色々な中小企業にパーツを細かく依頼して、取り寄せたパーツを組み上げたらしいですよ。いやぁ凄いですね、日本の町工場って。μm単位の細工をパパッと仕上げてくれちゃうんだから。

マックスが言うには、この依頼で会社が大きく回ったらしいですね。いやー、そんな大金をPONっと払っちゃうなんて・・・アイツらの管理する資産って今一体どれぐらいなんだろ・・・」

パワーローダーの顔が若干引き攣る。恐らく、ボクと同じ結論に達したんだろう。

「と、話が逸れました。他に何かご質問は?」

「では・・・この手術を施した君の配下・・・親衛隊だったか。他にも居るのか?」

手を上げたのは塗り壁みたいな顔のセメントス。良いとこ突くねぇ。

「居ますよ?特機戦力にする予定なので、そこまでしか明かせませんが」

「フム・・・じゃあ、最後に質問するのさ」

と、ラストは根津校長殿か。

「君は、()()()()()、その手術を行ったのかな?」

「・・・フフ、面白い質問です。そして実に良い質問」

やっぱり、ハイスペックが個性ってのは伊達じゃないらしい。

「ボクはプレデリアン。つまりは侵略的寄生生物、ゼノモーフの女王。

その本質は、侵蝕と汚染と進化。強化兵を率いる者として、己の肉体も進化させる。只それだけの事ですよ」

「・・・成る程、つまり本能であると?」

「イグザクトリィ、その通りで御座います」

「分かった時間を取らせて済まなかったのさ。これでボク達の質疑応答は終わりだ」

「では、失礼します」

ぺこりと一礼して、会議室を出た。すると、狙い澄ましたようにメールが来る。

 

『個性因子、完全継承』

 

「ほう?ならば、もう名前は決めている」

とすれば、まだまだ欲しい人材が居るな。プレゼントマイク、13号、あとリカバリーガールも使えるな。

「皮算用かも知れないが、夢を見るも悪くは無い。彼等の名は─────

 

─────XENO=MIUM(ゼノミウム)

 

to be continued・・・

*1
無脳症とも呼ばれる稀少な奇形児の一種。大脳全体が全く無い、若しくは著しく縮小して機能しない状態で産まれてくる子供の事。




オバホ「何だッ!?何が起きているッ!?」
ウォルター「襲撃だッ!襲撃が起きているッ!」

~キャラクター紹介~

触出背納
中々にエグい事してるとひけらかした化物主人公。
因みに新しく組み上げようとしている部隊も、勿論他のアニメネタ。此所から8割SFに向かっていく予定。

緑谷出久
カウンセラー兼セラピストな現代忍者。
壊理ちゃん絶対救うマン。距離の取り方も上手いので、一応順調ではある。

治崎廻/オーバーホール
今回の犠牲者。
個性は手で触れたモノを自由に分解・再構築する《オーバーホール》。コレが馬鹿みたいなゼノモーフ情報網に引っ掛かったのが拙かった。
因みに情報の出所は、八斎會を警戒していた他のヤクザである。

ドク&マックス
優秀過ぎる腹心。
このとんでもない資金の源は、主にマネートレード。他にも牡蠣の養殖、日雇いバイト、その他諸々の金策を組んでいる。

壊理
チート個性幼女。
酷い虐待を受けていた為、PTSDの疑いがある。癒しに特化した出久ママのお陰で、少しだけ安定はした。


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