盲目のヒーローアカデミア (酸度)
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雄英入学前
緑谷出久:オリジン


オリジナルに疲れたので初二次創作です。


 全人口の8割が個性とよばれる超能力を持つ社会。

 世界では一つの職業が脚光を浴びていた。

 それはヒーロー。

 ヴィランと呼ばれる個性犯罪者に対し、資格を元にそれを捕らえたりする。

 その他治安維持や災害救助などにも個性を使い活躍する人気職だ。

 

 

 僕、緑谷出久も他の子どもと同じようにヒーローを夢見ていた。

 4歳になった時、無個性と診断されるまでは。

 その時は、泣いて、それでも、僕はヒーローになる夢を捨てきれなかった。

 そんな僕に、第2の試練が待っていた。

 それは6歳の頃だった。

 いつものように幼馴染のかっちゃん達に無個性であることを理由にいじめられていた僕は、海浜公園に逃げ込んでいた。

 この海浜公園というのは、潮流の関係でゴミが集まりやすくそれに伴って不法投棄が相次いでいた場所だった。

 ゴミ山に逃げ込むと、かっちゃん達も追いかけてきた。

 その時、ゴミ山がかっちゃんの爆破の個性の衝撃で揺らぎ、頂上にあったドラム缶がバランスを崩した。

 それがかっちゃんに当たると思った時には、僕は駆け出していた。

 夢中でかっちゃんを突き飛ばし、僕は、ドラム缶に入っていた液体が目にかかった。

 

 それが、僕の見た最後の光景だった。

 

 覚えているのはとんでもない激痛と、目もくらむほどの暗闇だった。

 灼熱にのたうち回り、声にならない声を上げ、うずくまる僕を見て、いじめっ子達は逃げ出したらしい。

 らしいというのは、僕はそれを見ることができなかったからだ。

 唯一かっちゃんだけは、僕の手を握って、どうにか大人のところまで案内してくれたのだ。

 ドラム缶に入っていたのは、何でも近くの薬品工場で取り扱っていた研究開発中、しかも放射性物質の劇物だったらしい。

 とある個性犯罪者がそれを盗みだし、海浜公園に隠していたそうだ。

 僕は激痛に苦しむこと数週間、やっと容体の安定した僕と母に、医者は申し訳なさそうな声色でこう切り出した。

 

「息子さんの瞳が、見えることは、二度とないでしょう」

 

 その時は、一瞬何を言っているかわからなかった。

 ただ、お母さんのすすり泣く声だけが耳に響いていた。

 そう、僕の目は見えなくなってしまったのだ。

 

 

 母さんにかっちゃんの母さんが泣きながら謝っていたのが記憶に残っている。

 かっちゃんも泣いてた。俺のせいでごめんって、泣きながらかっちゃんは謝った。

 僕はその時、笑って二人に言った。

 

「大丈夫だよ。どうにかなるよ」

 

 正直何が大丈夫なのか自分でもわからなかったけど、その時は二人に泣いてほしくなくてそう言ったんだ。

 

 それからはリハビリの日々だった。点字を覚えて、歩く訓練をして。

 その時に、僕は違和感を覚えた。

 音がとても大きく聞こえるのだ。

 最初は何の音かもわからなかったドクンドクンという音。

 これが他人の発する心音だと気付くのに少しの時間が必要だった。

 他人の放つ心音を聞き分けるだけで、僕はだれかとぶつかることはなくなっていた。

 それだけではない。

 嗅覚も鋭くなった。

 他人を匂いで判別することができるようになった。

 母さんやかっちゃん、かっちゃんの母さん、主治医さんだけでなく、入院患者の一人一人に至るまではっきりと分かるようになった。

 

 退院後はさらに顕著になった。

 僕は普通にクラスメイトとサッカーや野球ができるほどまで位置が把握できるようになった。

 エコーロケーションという技術だった。

 自分が出した音を、物体が反射する。

 回りの音の反響。

 そういったものを感じ動くものを捉えることができるようになった。

 

 そうして、一年ほどして、目が見えていた時以上に視えるようになった時、もう一度転機となる出来事があった。

 いつものようにかっちゃんと遊んでいた時だった。

 

「デクぁ!! 俺の前を歩くんじゃねえ! 杖も使えや!」

 

「別に大丈夫だって、コケたりしないよ」

 あの日以来かっちゃんがいじめてくることはなくなり、口は悪いけどこちらを気遣うことが多くなった。

 大通りを歩いていると、僕の耳に泣いている声が入ってきた。

 

「ん? どうしたデク」

 

「誰か泣いてる」

 

 僕は走って裏通りに入った。そこでは、僕らと同じくらいの女の子が男に後ろから羽交い絞めにされていた。

 

「かっちゃん! 警察呼んで!」

 

「! お、おう!」

 

「んだこのガキ!」

 

 男が激高し、女の子が叫ぶ。

 

「助けて!」

 

「その子を離せ! すぐにヒーローが来るぞ!」

 

 そう言って、男を説得しようとするが、男は聞く様子がない。

 

「くそ、ガキを浚うだけの仕事だったのに、めくらのガキが邪魔しやがって!」

 

 そう叫んで男が殴りかかってくる。

 右のストレートだって、事前に分かった僕は右に躱す。

 僕の目が見えないからと侮った男は僕の動きが予想外だったのか、パンチを外してバランスを崩す。

 僕はさらに男にバランスを崩したほうに向かって思いっきり押した。

 堪らず男は転倒する。

 

「走って逃げて!」

 

「! う、うん!」

 そう言って女の子と、僕、かっちゃんは一目散に逃げ出した。

 その後、駆け付けた警察とヒーローにヴィランは取り押さえられ、僕とかっちゃんは女の子の両親に凄い褒められた。

 その後の帰り道、僕はかっちゃんに言った。

 

「かっちゃん、僕、ヒーローになりたい」

 

「デク、お前……。本気なんか」

 

 かっちゃんの声が戸惑ったような、驚いたような声になる。

 

「目の見えねえ上に無個性のお前がなれるほど、生温い職業じゃねえぞ」

 

「わかってる。けど、今日のことで、僕も、誰かの声が聴けるヒーローになれるっておもったんだ。

 助けを求める人の声を聴くヒーローに。だから、君に何と言われても、僕はヒーローになるよ」

 

「……そうかよ」

 

 かっちゃんはそう言って、僕に背を向ける。

 

「やるからにゃあ本気でやれや。ナメた真似しやがったら今度は鼓膜ぶち抜くぞ!」

 

「! はは……。頑張るよ!」

 

「あとなあ、俺はただのヒーローじゃねえ! オールマイトをも超える最強のヒーローになるからな!」

 

「じゃあ僕は、オールマイトも助けちゃうくらい最強のヒーローになるよ」

 

 そう言って二人で見つめあい、どちらともなく笑った。

 

 

 それからは勉強の毎日だった。

 図書館の点字本やインターネットの音声朗読で理化学や物理学の知識を身に着けていく。

 それと同時に体も鍛えた。

 栄養学の本を読み漁り、お母さんの協力のもと、体つくりをしていった。

 嗅覚や聴覚の訓練も欠かさなかった。

 お母さんに頼んで、近所のボクシングジムと柔道場にも通わせてもらった。

 お母さんは危ないんじゃないかとすごく渋っていたけど、根負けしたようだった。

 ボクシングと柔道のない日は、あの海浜公園で清掃のボランティアをしていた。

 これは奉仕精神を養うと同時に、あんな危ない目にあう人を一人でも減らしたいと思ったからだ。

 そして、僕は中学三年生に進級した。

 

 

「みんな進路希望のアンケート出したか? まあみんな大体ヒーロー科だよね」

 

 担任がそういうと、クラスメイト達はめいめい個性を発動し大盛り上がりになる。

 こうして視ると、みんな結構いい個性だよなあ。

 

「ああ、お前ら、言っておくが学校での個性利用は禁止な」

 

 担任はそれとなく注意する。

 そして、思い出したように口にする。

 

「そういえば、爆豪と緑谷は雄英志望だったな」

 

 そのとたん、周りはざわざわとする。

 

「雄英! 偏差値79の名門校だぞ!」

 

「そりゃ爆豪はともかく、緑谷は」

 

「は! そのざわざわがモブたる所以だ! 俺は雄英に主席で入学し! オールマイトをも超えるナンバーワンヒーローになり! 高額納税者ランキングでナンバーワンとなるのだ!」

 

 そう言い切ったあと、かっちゃんは僕の方を向く。

 僕は盲人用の杖を片手に、目に巻いたバンダナ越しに顔を合わせる。

 

「デク! お前も俺の道を塞ぐようなら容赦はしねえぞ!」

 

「別に」

 

 僕はかっちゃんに気圧されず、水筒にはいったハチミツとガムシロップのカクテルを飲みながら言う。

 

「僕はヒーローになって、あのオールマイトですら助けるようなヒーローになるんだ。

邪魔をする気もないけど、負ける気もないよ」

 

「は! そうかよ! せいぜい気張れや!」

 

 そう言ってかっちゃんは少し笑ったあと、席に着き直る。

 

「けど緑谷はなあ、無個性だろ」

 

「けどあいつ無茶苦茶ケンカつええぞ」

 

「ムキムキだしな」

 

 そう、僕は長年の訓練の成果か体脂肪率5%以下の肉体になっていた。

 世の中には戦闘向けの個性でないのに、優れた戦闘力を持っている人がいる。

 有名どころではプッシーキャッツのマンダレイや、アングラ系では抹消ヒーローイレイザーヘッドがいる。

 それにならい、僕も鍛えて、格闘技術を身に着けていた。

 それもこれも、全て幼いころの誓いを守るためだ。

 助けを求める声を聴きとどけるヒーローになるために。

 

 

 僕は帰り道、いつも通り走って帰る。

 今日はボクシングジムも柔道場も休みなので、海浜公園まで行き清掃活動をする。

 そのために、こうして急いでいるのだが、その時、ふと気配を感じる。

 エコーロケーション、僕の背後から近づく液状のものを発見。

 横っ飛びで回避する。

 

(液体……。異形系か)

 

 さらに注意深く視る。

 液体の中に二つの玉のようなものを発見する。

 

(目玉か)

 

「Mサイズの隠れミノ!」

 

 液体が僕を襲おうとするが、その前に盲人用の杖で目玉を貫く。 

 ピギャっという音とともに飛びのく液体。

 僕は距離を取りながら、携帯で警察を呼ぼうとする。

 そこで、さらに接近してくる音がする。

 身長220センチ程度? 

 デカい。

 その男は拳から放つ風圧で僕の目の前の液体を吹き飛ばした。

 

「少年! よく耐えた。私が来た!」

 

 その声に僕は息を呑む。

 

「お、オールマイト!?」

 

 僕は、思わず声を上げてしまった。

 

「いやあ、君のおかげで、ヴィランを退治できたよ。ありがとう!」

 

「は、はい、あ、あの、本当にオールマイトですか?」

 

「うん、本物だ! いやああのヴィラン相手に食い下がるとは、素晴らしい戦闘センスだ」

 

 そこで、僕はオールマイトに近づく。

 身長220センチ、体重は靴擦れの音から250キロ前後。

 そして……。

 

「君、その恰好はもしや、目が見えないのか? では家まで送ろうか……」

 

「いえ、僕は大丈夫。それよりオールマイト」

 

「……大丈夫ですか」

 

 僕は堪らず口にする。

 

「何」

 

「だって……。その呼吸音から呼吸器系にダメージが入ってますし、内臓の様子から胃に当たる部分が丸っとなくなってる。それに……」

 

「ストップストップ。なぜそんなことが。君の個性か?」

 

「いえ、僕は無個性です。訳あって常人以上に視えているので」

 

「……無個性」

 オールマイトは少し考えたように沈黙したかと思うと、

 萎んだ。

 

 

「……へ?」




盲目キャラってカッコいいよね。
デアデビルとかムテバさんとかクライベイビーサクラとか


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VSヘドロヴィラン

お気に入りの数が90超えてワロタ


 萎んだオールマイトを視て、僕は呆けてしまった。

 

「あの、オールマイト。これは一体」

 

 あのオールマイトが、ナチュラルボーンヒーローが、これほどまでに弱っている。

 レーダーセンス越しに分かる。

 凄まじく弱っていると。

 人間が持つエネルギー、熱量、そう言ったものが常人と比べ明らかに低い。

 

「中途半端に知られるくらいなら、いっそ全て曝け出そうと思ってね」

 

 オールマイトはそう言うとシャツをめくる。

 

「君の言う通り、私は5年前ヴィランと対峙して傷を負った。そしてこのザマだ」

 

「そんな、五年前って言うと、オールマイトが活動を控えていた期間ですか?」

 

「詳しいな。情報を処理する力にも長けているとみえる。

 このことは他言無用に頼むよ」

 

 オールマイトが、咳き込むと、血の匂いがした。喀血したのだ。

 

「あの、質問いいですか? どうしてそこまでするんです? 

 もうベッドに安静にしているべきなほどに重傷でしょう」

 

「それはできない。もし私が倒れればヴィランが活性化し、犯罪率も急上昇するだろう」

 

 オールマイトの覚悟を示すように、その心音に一つも揺らぎが無い。

 僕は、何一つ分かっていなかった。

 何がオールマイトでさえも助けられるヒーローになるだ。

 それでも、僕は。

 

 

 一体誰が、ヒーローを守れるだろう。

 最強の人を誰が守れるだろう。

 僕は声なき声を聞く力を得た。

 ならば僕のやるべきことは。

 

 

 何か口を開こうとした時、唐突に爆音が響いた。

 そして、僕は気づく。

 

「オールマイト! あのヴィランは?」

 

「は!? ホーリーシット! 逃げられたか!」

 

 僕たちは急いで爆心地に近づいた。

 

 

 いつもなら、どこにでもあるような商店街。

 そこには、ヘドロヴィランに纏わりつかれながら、懸命に抵抗を続けるかっちゃんがいた。

 いた。わかってしまう。僕のレーダーセンスは。

 僕のせいだ。僕のせいだ。僕のせいだ。

 かっちゃんの放つ爆炎が建物を吹き飛ばしていく。

 野次馬ののんきな声が聞こえる。

 ヒーロー達の声が聞こえる。

 誰も助けにいこうとしない。

 

「クソが」

 

 かっちゃんの声が聞こえる、

 

「クソが……!!」

 

 かっちゃんを助けないと! 

 

 

 この商店街には製麺店があった。そこにダッシュする。

 案の状あった、大量の小麦粉をカートに詰め込む。

 そして、走ってかっちゃんとヘドロヴィランの所に向かう。

 

「デクてめえ! 何しにきやが……がぼっ」

 

「てめえこのガキ───!!」

 

 僕は小麦粉を持ち上げヘドロヴィランに思いっきりたたきつけた。

 白い粉が舞う。

 思った通り、()()()()()

 そのまま、もう一回小麦粉の入った袋を叩きつける。

 ヘドロは抵抗しようとするが、僕は軽々と薙がれた腕を飛び越えた。

 そして、もう一度小麦粉を叩きつける。

 

「て、てめえ!!」

 

 水分を抜かれ個体となったヘドロを思いっきり殴りつける。

 怯んだ隙にかっちゃんを引き剥がす。

 

「てめえ!!」

 

「かっちゃん、もう一発頼むよ」

 

「言われるまでもねえ」

 

 ヘドロの怯えた心音が響く。

 かっちゃんは多分悪魔みたいな顔をしてるんだろう。

 

「わかっとるわクソが――!!」

 

 一際大きな爆音が辺りに響き渡った。

 

 

 その後、僕は、ヒーロー達にこっぴどく叱られた。

 

「君は何を考えてるんだ!」

 

「君が危険を冒す必要なんて全くなかったんだ!!」

 

 反対にかっちゃんはヒーロー達に絶賛された。

 

「すごい個性だ!」

 

「プロになったらぜひウチのサイドキックに!」

 

「でもやりすぎだよ」

 

 

 僕は、とぼとぼと帰り道を歩いていた。

 今日のは、自分で自分の始末をしただけだ。

 あまりに、情けない。

 けれど、これで良かったのかもしれない。

 オールマイトにも会えて、プロの厳しい世界を見て、それでも確信する。

 

 

 僕は、ヒーローになりたい。

 

 

 誰も彼もを助ける、そんなヒーローに。

 そんな僕に、声をかける人がいる。

 

「なに? かっちゃん」

 

 かっちゃんは僕の方を見据える。

 

「いいか、俺はお前に助けを求めてなんかいねえ」

 

「知ってるよ」

 

「お前がいなくても俺一人でどうとでもなったんだ」

 

「そうかもね」

 

 けれど。

「僕は、誰も彼も助けるヒーローになるんだ。誰に望まれるでもなく、自分がしたいから」

 

 僕の答えにかっちゃんの心臓が跳ねる。

 

「そうかよ……! クソナードが」

 

 そう言ってかっちゃんは踵を返す。

 その後ろ姿をなんとなく顔だけ向けて、僕もまた家路を急ぐ。

 僕のレーダーセンスに、接近してくる人を見つける。

 

「私が、再び来たー!! ……君ドライだね」

 

「いや、来るのは音で分かるんで」

 

 僕はオールマイトに向かって頭を下げる。

 

「すいません。僕が割り込んだせいで、ヴィランを……」

 

「いや、あれは私のミスが招いたことだ、それより、君に聞きたいことがあってきたんだ」

 

「僕に?」

 

「君はあの時、友達を守るために迷うことなく飛び出した。目も見えぬ無個性の君がだ。

それは、なぜだい?」

 

「それは……」

 

 おかしなことを聞くものだ。

 でも、問われたなら答えなければならない。

 

「だって、僕には声が聞こえたんです。苦しむ声が、だったら、僕は行かなきゃならない」

 

 僕はオールマイトに話した。6歳の頃に光を失ったこと。

 それを切っ掛けに得た異常な聴覚のこと。

 そして幼き日の誓いを。

 

「きっとどこかに、声なき声を上げてる人がいる。僕はそんな声を聞けるヒーローになりたい。

それだけです」

 

 オールマイトは少し震えたあと、僕の肩を掴む。

 

「例え無個性でも、たとえ光が見えなくても、それでも義侠を成そうとする強い意志。

それを持つ少年に一つ問いたい」

 

 

「私の後継にならないか」

 




この出久君はテレビもネットも物理的に見れないのであんまクソナードでないです。
なのでオールマイトに対しても若干原作よりドライめ。
ただ、その生きざまには胸を打たれております。


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継承の前に

 僕は、その問いに呆気に取られてしまった。

 

「後継って、どういうことですか?」

 

「私の個性、世間では超パワーやブーストなどで通っている。

 週刊誌に問われれば爆笑ジョークでお茶を濁してきた。

 私の本当の個性は“個性を譲渡する個性”、ワンフォーオール。」

 

 僕はオールマイトの言葉を復唱する。

 

「……ひとりは、みなの、ために?」

 

「……そう。かつて、巨悪と対峙した者が次代から次代へと受け継いできた義勇の結晶」

 

「それがオールマイトの個性。確かに、たった一人の身体機能ってだけでは考えられない力ですからね」

 

「はは、物分かりがいい。どうだろう」

 

 僕はあまりの急な展開に言葉も出ない。ただ、解決しなければならない疑問が一つ。

 

「なぜ、僕なんです。プロヒーローや、それこそあのかっちゃんだって、僕以上に向いている人は大勢いるでしょう」

 

「そうだな。当然の疑問だ。強さだけならね」

 

 オールマイトはそこで僕をじっと見る。

 

「例え無個性でも、光を失っても、前に進み続ける気高い意志。

 命の危険があっても友の窮地に乗り込む勇気。

 何よりも助けを求める声を取りこぼさないそのやさしさに私は可能性を見出した。

 君はあの場の誰よりもヒーローだった」

 

 僕は、枯れたはずの涙腺が熱くなるのを感じる。

 今まで、努力を重ねてきた。

 時に吐くほど食事をし、時には筋肉痛と稽古の痛みで眠れない夜もあった。

 それでも無個性であること、盲目であることは確かなハンデで、時折どうしても不安になった。

 それが今、認められた。

 幼いころ憧れたグレイテストヒーローに。

 だが、そこで僕の脳裏に一人のことが頭を過る。

 

「すいません、ありがたい話ですが、一日、一日だけ待ってくれないでしょうか?

 どうしても、けじめをつけなきゃならないことがあるんです」

 

 

 翌日、学校では昨日の騒ぎで持ち切りだった。

 かっちゃんは、クラスのみんなから賞賛された。

 僕も、クラスメイトに囲まれていた。

 

「緑谷ー。お前無個性の癖に無茶するよなあ」

 

「危うく死ぬ所だったぞ」

 

「私ニュース見たとき怖かった」

 

「はは、面目ない」

 

 笑いながら、僕はかっちゃんの方を探る。

 ああ、相当不機嫌だな、これは。

 でも、聞かなきゃならない。

 

 

「個性がもし、貰えたら~?」

 

「うん、かっちゃんならどうする?」

 

 僕らは久しぶりに、それこそ中学になってから初めてという位に二人で帰った。

 まあ、僕が誘ったんだけど。

 

「なんかネットの噂であったな。個性を奪って与える力を持つヴィランの話」

 

「ああ、僕もそれ見て、ちょっとね」

 

「お前そんな話がしたくて誘ったんか」

 

 かっちゃんの問いに僕は苦笑で返す。

 

「……俺は貰わねえ」

 

「……なんでか聞いてもいい?」

 

「俺は俺一人の力で、ヒーローになるからだ。得体の知れねえ個性なんていらんわクソが」

 

 僕はその答えに思わず感心してしまう。

 かっちゃんらしいな。

 

「……お前は貰っとけばいいんじゃねえんか」

 

「え、何で?」

 

「……お前は誰かを助けるヒーローになるんだろうが。

なら、やれること全部やらんと話にならんだろ」

 

「それでもし、誰かが死んだら、お前責任とれんのかよ」

 

 僕はその言葉にハッとする。

 確かに今までは、ただ、ヒーローになれればよかった。

 そう思ってたけど。

 もしあの時、かっちゃんが助かってなかったら、

 もし死んでたら。

 

「ありがと、かっちゃん」

 

「あ、何がだ死ね」

 

「超辛辣」

 

 思わず笑ってしまうほどだ

 

 

 でも、迷いは晴れた。

 

 

 その日、海浜公園にて僕は再びオールマイトにあっていた。

 

「僕、引き継ぎたいと思います」

 

「……理由を聞いてもいいかね」

 

「はい。僕は、いままで、ただヒーローになれればいいと思ってました。

 けど、そうじゃないんです。僕は、誰かを助けるヒーローになりたいんです。

 そのためには、何事にも全力で取り組まないとダメなんです。

 だから、目の前のチャンスを取り逃して、いつか出会う誰かの手を取れないなんてことはしたくないんです」

 

 

「僕はあなたみたいに、たくさんの人を助けたいから」

 

 

 オールマイトは僕の言葉にハッとしたように息を呑み、笑った。

 

「ならば少年、これから私が君をナンバーワンヒーローに育て上げる。

 ついてきたまえ!」

 

「はい!」

 

 そう僕が勢いよく返事をすると、オールマイトは髪を一房抜いた。

 

「では、食え」

 

「へぁ」

 

 いや、変な声出ちゃったよ。

 

「いや、DNAが取り込めるなら何でもいいんだけどね」

 

「……あ、シャンプーLadyHairですね。うちのとおんなじだ」

 

「味覚も凄いの!?」

 

 オールマイトが驚いたような声を出した。

 

 

 

 一日後。

 

 

 

 オールマイトからワンフォーオールを継承した僕は、すぐさま、使いこなすための特訓を開始した。

 まずは、オールマイトの説明から入る。

 

「君の体つきから結構使えるとは思うけど、ひとまず海に向かって撃ってみようか」

 

「え、いきなりですか」

 

「そ、車でもまずはトップギアから入れていくもんさ」

 

(そうだっけ?)

 

 僕は疑問に思いながらも、とりあえず。海に向かいなおる。

 

「さ、自由に打ってみなさい」

 

「じゃあ、ストレートから」

 

 そう言って僕はボクシングでも得意技である右ストレートを撃ってみる。

 すると、まるで体に電流が流れたような感覚に陥る。

 

「これは、すごい」

 

「ケツに力を込めて、こう叫ぶんだ。スマッシュ!!」

 

「す、スマーッシュ!」

 

 その時、海が割れた。

 

 ザバンという音が、僕の耳朶を叩く。

 レーダーセンスが意味を成さぬほど、荒れ狂う風の奔流。

 

「い、いたい」

 

 僕は激痛に顔を顰める。右腕がしびれたような感覚。

 骨に異常はない、肉離れ程度だろう。

 確かに、これは、すごい力だ。

 けれど。

 

「どうした少年? 泣いているのか」

 

「すいません、オールマイト。……うれしくて。

 ずっと無個性で、あきらめかけていたから」

 

 そういって言葉を飲み込む。

 だからこそ自制しろ。

 この力を人のために使うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、デイヴか、実は会わせたい子がいてね、一度会ってくれないか」

 凄まじい力を見せた少年を見て、私もまた笑顔になる。

 少年が本気なら、私も本気でサポートせねばなるまい。

 そう、彼が次代の平和の象徴となるまで。




 かっちゃんがヒロイン力高すぎて困ります。
 展開に影響与えすぎなんだよなあ。
 
 この出久君は7〜8年間鍛えてるのでこんなものです。


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I・アイランドへ

お気に入り登録300突破。ありがとうございます。


 僕は日課のトレーニングに加えて、ワンフォーオールの訓練も行った。

 正直言って、ワンフォーオールの使い方についてオールマイトは感覚で使えていたらしく、あまり参考にならなかった。

 今のところ、ワンフォーオールの出力は体感30%程度で慣らしている。

 今はワンフォーオールを使いながら海浜公園の清掃をしている所だ。

 

「しかし、こうして見ると、君を全盲だとは思えないな」

 

「はは、よく言われます。あと、全盲の人が皆僕みたいだと思うのは違うのであしからず」

 

「いや、そりゃそうだよ。君普通に動けてるじゃん」

 

 レーダーセンス、異常発達した聴覚で僕は入り組んだ地形でも問題なく歩くことができる。

 小学校の頃には密集した森林程度なら問題なく踏破できるほどに発達させることができた。

 まあ、もともとボランティアでしてきたこと。

 

「最近の若い者には、派手なヒーロー活動にばかり目を向ける輩が多いが、ヒーローの基本は奉仕活動。

 君は分かっているようだがな」

 

「……そんな高尚なものじゃないですよ」

 

「HAHAHA! 謙遜せずとも、君は立派な超人だよ」

 

「……周りに恵まれただけですよ」

 

「HAHAHA! ナンセンス! 自分に自信を持っていかなければならないぞ」

 

「ナンセンス」

 

 そういいながら、僕は、トラックにゴミを置いていく。

 盲人用の杖を使って音を鳴らし、全体を()渡す。

 進行状況としては半分位といった所か、このペースなら後2か月程度、夏までには終わるだろう。

 

「そうそう、ナンセンスな君に提案がある。夏休みにご両親に許可を取って、あるところに来てもらいたい」

 

「? あるところとは?」

 

「I・アイランドさ!」

 

 

 学校では、僕の個性のことで大騒ぎだった。

 

「緑谷! お前個性が発現したんだって!?」

 

「どんな個性だよ!?」

 

「うん、超パワーって言ってね。ただ、発現したてだからケガするかもしれないから、使用は控えてるんだけどね」

 

 そういいながら、右腕にワンフォーオールを纏わせると、紫電が纏われるような感覚がする。

 それにクラスメイトは歓声を上げる。

 

「お、おお、かっけえ!」

 

「こりゃマジで雄英に二人合格あるぜ」

 

「け」

 

 かっちゃんが席を立ち、教室を出ようとする。

 

「おいカツキ、緑谷の幼馴染だろ? なんかないの」

 

「ああ、何もねえよ。デクに個性があろうがなかろうが関係ねえ。

 俺は俺で上に行く。そんだけだ」

 

 その言葉を聞き、僕も覚悟を決める。

 みんなを助けるヒーローになる。

 そのために。できることをすべてやる。

 

 

 そして何より大変なのはお母さんだった。

 何せ、個性がいきなり発現したのだから。

 最初に知らせた時は驚いて泡を吹いて気絶してしまった。

 

「ええ。イズク。良かったねえ」

 

 今思えば母さんにも苦労をかけた。

 母さんは、ずっと僕を支えてくれたから。

 それこそ食事に習い事に、勉強に色々と助けてくれた。

 

「その、母さんに紹介したい人がいるんだ。僕を鍛えてくれるって」

 

「あ、あなたまだ鍛えるつもりなの?」

 

母さんは驚いて心臓を跳ねさせる。でもこれは必要なことだ。

 

「僕はまだ発現させたばかりだから、怪我とかしかねないしコントロールも利かないから、ヒーローになるには必要なんだ」

 

「そう、本当は危ないことなんてして欲しくないけど、ずっと夢だったものね、けれど怪我だけはしないでね」

 

 そう言って母さんは笑って送り出してくれた。

 母さんの瞳が少し潤んでいることに、気づかないフリをした。

 そしてオールマイトと母さんを会わせる。

 

「あのヘドロ事件で見せたガッツと機転、そして勇気溢れる行動に感銘を受けました。是非サポートさせていただきたい」

 

「あのオールマイトに!? イズクすごいじゃない!?」

 

「つきましては、夏休みの外出許可をいただきたいのです。I・アイランドで出久君の日常生活をサポートするアイテムを送らせてください」

 

「そんな、なぜそこまで」

 

「私が彼に惚れ込んだからですよ。ただしこのことはくれぐれも内密にお願いします。出久くんにも迷惑がかかってしまうのでね」

 

 そういった所で、おかあさんとの話し合いは終わった。

 

 

 海浜公園の掃除を終え、世間が夏休みに入ったころのこと。

 太平洋沖に浮かぶ人工島、I・アイランド、そこでは日夜ヒーローのサポートアイテムを作っている。

 そこに、僕はオールマイトとともに向かっていた。

 

「それでオールマイト、何故I・アイランドなんです? サポートアイテムなら日本でも十分なのでは」

 

「HAHAHA!! 実はI・アイランドには親友がいてね、君の紹介をしようと思ったのさ。

 その親友の名はデヴィット・シールド!」

 

「デヴィット・シールド! ノーベル個性賞を受賞した天才科学者じゃないですか!」

 

 思わぬビッグネームに僕の声も思わず上ずる。

 

「そういえば、オールマイトは若いころデヴィット博士とコンビを組んでアメリカで活躍していたとか。

 それで、僕のコスチュームを?」

 

「ああ! この機会だし、私の弟子ということで、頼むよ。ただし、ワンフォーオールのことは内緒にしてくれよな!」

 

「へ? そうなんですか?」

 

 僕は意外に思ったが、オールマイトはこう続ける。

 

「私達の力は知っての通り特殊なものだ。知る人には危険がついてまわる。彼を守るためにも、頼む」

 

「……そういうことなら、わかりました!」 

 

 

 そうして降り立った空港は、雑踏の密度が凄く大都会といった感じだった。

 なれない土地でも反響音により周囲の様子を探る。

 すると、人々の話し声が聞こえる。

 その会話の中に節々にあるオールマイトという単語。

 そして遠くから聞こえてくる地鳴りのような人の突撃音。

 

「オールマイト! 人が押し寄せてきます!」

 

「ム! そうか、逃げよう!」

 

 オールマイトは異国の地でも人気なんだなあと思った。

 そうして逃げ込んだ公園で、僕達は息を整える。

 

「さて、この辺で待ち合わせなんだが……」

 

「マイトおじさまー!!」

 

 その声に思わず振り向いてしまう。

 そこには、ホッピングのようなものでこちらに近づいてくる女性がいた。

 背は僕と同じくらいだろうか、匂いから白人の女性。

 背中まで伸ばしたメガネをかけたロングヘアーの女性だ。

 

「メリッサ! 迎えに来てくれたのか!」

 

「マイトおじさま! お久しぶりです!」

 

 声からでもわかる可憐な女性だ。

 その女性は僕に近づいてくる。

 

「あなたがマイトおじさまの弟子ね? 私はメリッサ・シールド。よろしく」

 

「こんにちは、僕の名前は緑谷出久っていいます。よろしくお願いします」

 

そうして、僕とメリッサさんは握手をした。

 

 彼女と、今後浅からぬ関係になるとは、この時は思っても見なかった。




ヒロイン候補その1登場

みんなも二人の英雄見ような。チームアップミッションも買おうな。


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次代の英雄と影

 僕達はメリッサさんに案内されて、研究室に通された。

 

「トシ、久しぶりじゃないか! 元気にしていたか!」

 

「やあデイヴ! そっちこそ! 研究の方は順調かな?」

 

 オールマイトとハグする中年の白人男性、この人が。

 

「ああ、順調そのものだ。そしてこっちの少年が」

 

「ああ、私の弟子だよ」

 

「やあ、君がイズク・ミドリヤだね」

 

 男性が僕に握手を求めてくる。

 

「は、はい! デヴィット・シールド博士。お会いできて光栄です」

 

「はは、ご丁寧にどうも。しかしあのトシが弟子を取るとは、時間が流れるのは早いものだ」

 

「おいおいデイヴ、年齢の話はお互いよそうぜ」

 

「ははは、それもそうだな」

 

 二人はそう言ってしばし笑い合う。どうやら、親友同士という話は本当のようだ。

 

「それで、サポートアイテムが欲しいという話だが、一体どういったものを所望なんだい?」

 

「はい、実は考えてまして、杖が欲しいんです」

 

「杖。なるほど、盲人用の杖か」

 

「はい、今は強化プラスチック製のものを使っているんですが、できれば戦闘にも耐えれるようなものがいいんですけど」

 

 今の杖も普通に使う分にはいいが、ワンフォーオールを使うとたやすく折れてしまうだろう。

 

「それなら、丁度いいものがある。といっても材料だけだが」

 

 そう言うとデイビット博士がある材料を取り出す。

 

「す、すごい質量の物体ですね」

 

 レーダーセンスの反響音から、物体がとんでもない密度を持っているとわかる。

 

「ほう、わかるのかい。これは最近の研究で偶然できた金属アダマンチウムだ。

 本来であればヴィブラニウムという金属を再現するための研究でできた副産物なのだが、強度だけで言えば変わらない」

 

「アダマンチウム」

 

「これを加工して、君のアイテムを作ろう。どうせなら他にも何か要望はあるかい?」

 

「……でしたら、ワイヤーを中に仕込んでもらえないでしょうか、拘束にも使えますし」

 

「それなら、先端をフック状に変形できるようにするのはどうかしら」

 

「メリッサさんそれいいですね。もしそうすれば物に引っ掛けて空中移動ができるかも」

 

「ええ、他にもギミックを入れたいけど、かさばるかしら」

 

 僕は、そう言いながら、ルーズリーフにスケッチしていく。

 しばらくかきこんでいると、何か空気がおかしい。

 

「あ、あの? 下手でした?」

 

「あ、いや逆だよ。うま過ぎる。君はその、目が見えないんだよね?」

 

「ええ、でも、タッチの濃さで陰影は表現できますし、皮膚の感覚でどれくらいかけるかは分かります。

えんぴつの持つ炭素の匂いでなにが書いてあるかも判別できますし」

 

「……驚いたな、本当に常人と変わりないんだな」

 

「個性は超感覚? でもマイトおじさまの弟子ということは増強系よね」

 

 メリッサさんがグイっと近づいてくる。

 強くなったいい匂いに思わず顔が赤くなってしまう。

 

「いえ、僕の感覚は自前で、個性は最近目覚めた『超パワー』です。はい」

 

 僕はパタパタと手で顔を扇ぐ。

 

「超パワーか、ならいいものがある。どのみちアイテムの強度計算のためには君の身体測定が必要だ」

 

 

「この訓練場にはプロヒーローも使う様々な測定器具がある。まずはパンチングマシーンだ」

 

「頑張ってイズク」

 

 僕はメリッサさんの声援に応え、パンチングマシーンの目の前に立つ。

 

「そうだな、まずは試しに個性無しでやってみるといい」

 

「わかりました」

 

 僕はボクシングの構えを取り、思いっきり殴ってみる。

 

「200Kg……200!?」

 

「すごーい、イズク君」

 

 大体成人男性のパンチ力の平均が70Kgという所で、普通の人の頭蓋骨が70Kgの負荷で損傷する。

 そういうことを加味すると、僕の数値は無個性の中学生としては十分だろう。

 

「そ、それでは個性を使ってみてくれ」

 

 まずは、全身にパワーを漲らせる。

 

「それは衝撃を吸収する特別な機構が備えられてる。思いっきり殴ってみてくれ」

 

「はい!!」

 

 僕は思いっきり振りかぶった。

 そしてこう叫んだ。

 

「スマッシュ!!」

 

 瞬間、突風が室内に吹き荒れる

 レーダーセンスが多少乱れる。これはちょっと訓練の余地があるな。

 というか。

 

「あの、すいません、ふっとばしちゃいました」

 

 そこには、転がってしまった機械があった。

 

「そんな、並みの増強系が撃ってもビクともしないはずなんだが。衝撃力は、測定不能!?

4トントラックが最高速度でぶつかった際の衝突も計算できる機械だぞ!?

これは規格外だ」

 

 デヴィット博士が興奮したようにまくし立てる。

 

「あの、これ弁償とかですか?」

 

 僕は不安になって問うが、博士は苦笑する。

 

「いや、正当な使用であれば補償は利くから大丈夫だ。

 しかし凄いパワーだな。トシが弟子にしようというのも頷けるというものだ」

 

 僕は、デヴィット博士の下、他にも機能測定を行っていく。

 加工にしばらく時間はかかると言われ、その間はシールド一家と過ごすことになった。

 

 

 デヴィット博士とオールマイト、二人が話している間、僕達は近くのカフェでランチをしていた。

 僕がピザをLサイズ3枚とパスタを5人前、ペロリと平らげるとメリッサさんは目を丸くする。

 

「イズク君のパワーの秘訣って、その食欲なのかしら」

 

「どうでしょう、最近個性が発現したんですけど、それまでもこんなものでしたよ」

 

 レーダーセンスが発現して以降、脳がフル回転しているからか、食欲が旺盛になっている。

 具体的に言うと、常人の5倍のカロリーが必要だ

 母さんは僕の食べる量を作るのがハードだからか、同年代の母と比べて大分痩せている。

 

「最近って、いつ頃?」

 

「ほんの2月前です」

 

「……きっと、イズク君の体が出来上がるまで、待ってたんだと思うよ」

 

 そういう訳では実際ないのだが、僕は曖昧に笑った。

 

「イズク君って本当に凄いのね、私、ビックリしちゃった」

 

「いや、そんな。メリッサさんこそ、I・アイランドのアカデミーっていったら優秀で、それに、エンデヴァーのコスチューム製作にもその年で関わっているなんて凄いですよ」

 

「ありがとう。良く知ってるのね」

 

「学術誌は毎月チェックしていて。音声ソフトで聞いてるんですけど。そこで、メリッサさんは期待の若手だって記事を拝見しました」

 

「そうなの。あの記事はちょっと書きすぎかなって思うんだけど。でもそういってもらえると嬉しいわ」

 

 メリッサさんはそう言って紅茶を啜る。

 

「ここにいる間はゆっくりしてね。あ、でもイズク君は受験生だっけ」

 

「はい。I・アイランドは治安もいいですし、個性の訓練や受験勉強に集中できたらと」

 

「受験先はひょっとして、雄英高校?」

 

「はい! オールマイトの母校で、僕も立派なヒーローになれればと」

 

「きっと、イズク君ならなれるわ」

 

 そう言って笑うメリッサさんに、僕の顔にまた血が集まる。

 目が見えなくてよかった。なければ眩しさのあまりに目がつぶされていただろう。

 その後、二人揃ってカフェを出る。

 その時、僕の耳に助けを求める声が聞こえる。

 僕はマンホールのふたをおもむろに外す。

 

「イズク君!?」

 

「ちょっと杖を持ってもらっていいですか」

 

 そういうと、僕はするするとマンホールの下に下り、濡れながら助けを求める声の主を救い出す。

 そこにいたのは、子猫だった。

 

「I・アイランドにも、迷い猫っているんですね」

 

 僕の問いかけに、メリッサさんはキョトンとした表情をしたのが分かった。

 いつのまにか集まってきたギャラリーに拍手され、僕達はその場を後にする。

 その後首輪をしていた猫を警察に預け、僕らはメリッサさんのラボへと向かった。

 

「すいません、シャワー借りちゃって」

 

「いいのよ。良かったわね、飼い主の人も喜んでた」

 

「はい!」

 

「イズク君って、やっぱりすごいわ」

 

 メリッサさんの声色がやさしい。

 

「きっとおじさまみたいな、どんな人でも助けちゃうヒーローになれるわ。その力なら」

 

「はい、僕は助けを求める声をすべて聞き届けるヒーローになります。それが、僕の夢ですから」

 

 そういうと、メリッサさんの表情が明るくなる。

 

「素敵なヒーローね。きっとなれるわ。私も精いっぱいサポートするね」

 

「は、はい、よろしくお願いします!」

 そして、僕たちは握手をした。

 

 でも、僕は知らなかった。

 ヴィランっていうのは、僕が力をつける間、悠長に待っていないってことを。

 

 

 

 アメリカにあるとあるダーツバー。そこで、スマートフォンで会話する男。

 

「I・アイランドに侵入してデヴィットシールドの研究成果を奪う。頼まれてくれるな」

 

「……随分と、簡単に言ってくれるなボス」

 

「そういうな、これもすべて私のためだ」

 

「まあ、俺は報酬さえ貰えればそれでいい。空間移動系の個性はいるんだろう?」

 

 男は会話をしながらダーツを投げていく。十数メートル離れた所から、ダーツは刺さったダーツの矢尻へと刺さり列をなす用に並んでいく。

 

「ああ、必ず個性増幅装置を手に入れろ。シールド博士は殺すなよ」

 

()()()殺すなか……分かった」

 

 通話を切った男が、最後に振りかぶってダーツを投げると、連なったダーツは縦に裂けた。

 

ブルズアイ(大当たり)

 

 




さすがにクライベイビーサクラのように常人の20倍とはいかなかった模様。(なお一流アスリート並みの消費カロリー)

そしてデアデビルタグつけた以上はこいつとあいつは出さねばならぬだろう。エレクトラは未定。
イメージは2003年映画版です。


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ビリー・クラブ

 朝は勉強、昼はオールマイトと一緒に特訓。夜はメリッサさんと一緒にアイテム開発といった感じで日々は過ぎていく。

 ある日の夜、オールマイトとデヴィットさんの話し声が聞こえ、僕ば目を覚ました。

 

「どういうことだ、トシ! この個性数値の異常な低下は!?」

 

 僕は眠りながら、その声を聴こうとする。

 

「かつてオールフォーワンと戦った後、たしかに肉体的な消耗はあった。だが、この低下速度は異常だ」

「ああ、だが、私の個性が衰えても、次代の英雄がいる。だから大丈夫さ」

「イズク・ミドリヤか。だが、彼がヒーローになり君のような抑止力となるまで、少なく見積もってあと10年はかかるだろう。

 それまで象徴の不在を日本は耐えられるのか?」

「それはそうだ。だが、日本には優秀なヒーローが大勢いる。だから心配するな」

「トシ……」

 

 そう言ってデヴィット博士は黙る。僕はゴクリとつばを呑む。

 僕がワンフォーオールを引き継いだから、オールマイトは弱体化している?。

 僕のせいで。

 

「トシ、今私はある装置を開発している」

「装置?」

「ああ、その名も個性増幅装置だ」

「何、それはまさか、私のために?」

「もともと弱個性救済のための装置という名目だったが、私は是非、君に使ってほしい。実は8割方完成しているんだ」

「そんな、だが確かに、それがあれば」

「この進行スピードでは五年持つかどうかも怪しい。だがその装置があれば……」

「……確かに、それは素晴らしい。だがデイヴ。あまり無理しないで欲しい。次代の芽は、確かに伸びているのだから。

 緑谷少年だけではない、メリッサもそうだ。これからの平和は彼ら二人で作り上げるものだからね」

「トシ……。そうだな、私は無意識に君に頼りすぎてたようだ」

「HAHAHA! だが、被験者が欲しいときは連絡したまえ、確かに私も緑谷少年とともに戦いたいからね」

「! ああ!」

 

 その後は談笑に戻ったが、僕はショックだった。

 オールマイトが、限界を迎えている。

 その時、僕は、一刻も早く。

 

 僕はサンドバッグを思いっきり叩いていく。

 ワンフォーオールを纏わせながら、足に背中に腕に、過不足なく集中させていく。

 

「どうしたのイズク君。ちょっとオーバーワーク気味じゃない?」

「め、メリッサさん。いえ、別に」

「……何かあったなら、話して欲しいな」

「……僕はオールマイトの弟子だから、もっと頑張らないとダメなんです。

 彼みたいになって、早く彼を安心させたいんです。でないと」

 

 彼はたくさんの人を救って、その彼は一体誰が救うだろう。

 

「……イズク君には、私が無個性だって、話してなかったね」

「へ?」

「昔は私もヒーローを夢見てたの、けれど無個性だって診断されて……。でもマイトおじさまとパパに励まされて、パパみたいなヒーローを助けるヒーローになりたいって思ったの」

「ヒーローを助けるヒーロー」

 

 僕とおんなじだ。

 

「だから、ね、イズク君。私にも、あなたを助けさせて」

「メリッサさん……」

「ね、お話ししよ。イズク君のこと、もっと教えて」

 

 そう言って笑うメリッサさんは、僕のレーダーセンスで捉えるまでもなく、天使か女神のようだった。

 僕は話した。四歳の頃無個性と診断されたこと。

 六歳の頃に事故で光を失ったこと。

 かっちゃんとの約束。母さんとの勉強。そして、ヘドロ事件。

 メリッサさんは僕の辿々しい話を真剣に聞いてくれた。

 勿論ワンフォーオールのことは秘密にして。

 メリッサさんは、僕の話を聞き終わると、溜め息をついた。

 

「私ね、本当はイズク君のことを、少し羨ましいと思ったんだ。だってすごい個性で、マイトおじさまの弟子で、私には無いものを一杯もってる」

 

 そこでメリッサさんは言葉を区切る。

 

「けれど、貴方の価値は、個性や超感覚じゃない。

この間、下水道で溺れる子猫を助けたように、ヴィランに襲われた友達を助けたように。

 いざという時恐れを知らず飛び込むことができる。

 それが個性よりも凄い貴方の力なの」

 

 僕の手に、メリッサさんの手が添えられる。

 

「その勇気がある限り、きっと大丈夫。だから、焦らないで」

 

 僕は、メリッサさんの手をぎゅっと握り返す。

 こんな時、なんと言えば良いのか分からない。けれど、これだけは言える。

 

「メリッサさん。ありがとう」

 

 

 そして2週間後。

 

 

「完成したよイズク君」

「これが、僕のアイテム……」

「ああ、名付けて、ビリー・クラブ」

「二つのこん棒ですか。シンプルで格好いいですね」

「ああ、その名の通り、二つに分かれることができる」

 

 二つのパーツはヌンチャクのようにつながっている。

 

「最大で10メートルほど伸縮するワイヤーにスイッチを押すとフックが飛び出す構図となっている」

「ほう、中々格好いいじゃないか緑谷少年、決まってるぜ!」

「ありがとうございます! お二人も」

「あ、あと私からはこれ、フラッシュボム、まあ簡単に言うとスタングレネードなんだけど、これは音が全くしないタイプなの」

 

 それはいい。普通のスタングレネードは大音量が鳴るのでレーダーセンスを阻害するが、これならリスクなく使える。

 

「スーツもね、私の超圧縮技術を使ったものを作ろうとしているの。ただこれは雄英にはいってからになると思うんだけど……」

「そ、それは悪いですよ。まだ合格してもいないのに……」

「フフ、イズク君なら絶対受かるわ。自信持って」

 

 僕は思わず赤面してしまう。こんなにまっすぐに僕を信じてくれる人は、今までいなかったから。

 オールマイトと出会ったことといい、母さんやかっちゃんといい、僕は恵まれすぎている。

 

 

「ありがとうございます。必ずお二人の期待に応えて見せます」

「その意気だ、緑谷少年」

「フフ、じゃあ今日は完成記念のパーティーね。どこかに食べに行きましょう」

「ああ、私のおごりだ。好きなだけ食べるといい」

 

 オールマイトが張り切って答える。

 

「え、いいんですか」

「ああ、でも緑谷少年は手加減してくれよ。君、とんでもない量食べるだろう」

「はい、腹8分にします」

 

 

 その日は楽しい時間だった。

 その日行ったステーキハウスでは初めてTボーンステーキというものを食べた。

 

「まずはヒレ、次にサーロイン、最後に骨回りを食べるのよ」

「成程、勉強になります」

 

 二人で並んで食べる様子を見て、デヴィット博士はしみじみという。

 

「こうしてみると、二人は姉弟のようだな」

「そんな、恐縮です」

「もうパパったら、イズク君に失礼よ。ねえ?」

「いえ、そんな、僕も一人っ子なので、うれしいです」

 

 メリッサさんみたいな知的な女性が姉なら、それはとても良いだろう。

 

「HAHAHA! なーに、ここにいる間は姉弟のように過ごすといい」

「……けれど、イズク君もおじさまも日本に帰らないといけないのよね」

「うむ、あと一週間もしたらビザが切れるからな」

「なーに、今の時代離れていてもいつでも会えるさ。寂しがることはない」

「……そうね。そうよね!」

 

 そう言ってメリッサさんは、花のように笑った。

 

 そしてデヴィット博士の車で戻ると。僕のレーダーセンスが異常を捉えた。

 

「オールマイト、博士。誰かいます。多分空き巣です」

「何、このI・アイランド内でまさか。サムだろうか?」

 

 サムというのは、デヴィットさんの助手のこと。

 僕も何度か見たことがある。ただし。

 

「まず体形が違います。サムさんのふくよかな体形の出す足音ではないです。

 それに、足運びから分かるこそこそした動き。呼吸音から、隠密を意識した呼吸。

 何より、電気点いてますか?」

「……点いてないわね」

「……私が様子を見てこよう。三人は念のため、離れていたまえ。緑谷少年は二人を守ってくれ」

 

オールマイトがそういうと、僕の方を向いた。

 

「はい」

 

 僕らは努めて音をたてぬよう動きだした。




メリッサさんはヒロインの器なんだけど、本編に入るとお茶子強すぎるので、今のうちに走らせておく


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デアデビル

 オールマイトが建物に入って、数分すると、衝撃音が幾度か響きはじめた。

 

「博士、警察を呼んでください。それとヒーローも」

「分かった」

「あのヴィラン、強いです」

 

 先ほどからオールマイトと普通に殴り合っている。

 いや、オールマイトが一方的に殴られており、ヴィランは攻撃をかわし続けている。

 あのオールマイトとだ。

 十中八九増強系の個性、それに加えて体術の達人。

 こっちに来たら、まずい。

 

「早く離れましょう!」

 僕はメリッサさんたちを促す。

 この二人の戦いは災害に等しい。

「え、ええ」

 

 その時、パリンとガラスが割れる音がすると同時に、ヴィランが飛び出してきた。

 レーダーセンスで見ると、手には何やら装置のようなものを持っている。

 

「あれは個性増幅装置! ヴィランの狙いはあれか」

「……オールマイトに任せましょう。とにかく避難を」

 

 そこからは、一瞬の出来事だった。

 ヴィランがこちらを見る。

 オールマイトがヴィランに突っ込む。

 ヴィランが何かをこちらに投げる。一つ、二つ、三つ、空気を切り裂き、博士の方へ。

 オールマイトがこちらに気を取られる。

 レーダーセンスにより、空気の振動から物体を捉える。

 

 GAN! GIN! GON!

 

 アダマンチウムの杖が、飛来した何か、おそらくカード、を弾き落とした。

「外した? 俺が? ありえねえ」

 男の心音が驚愕のサインを示す。

「貴様! なぜデイヴを狙う!?」

「そうすりゃ、俺を狙えないだろう。ヒーロー」

 

 そう笑い、ヴィランはだが、冷徹な声でこう告げる。

 

「だが手加減した攻撃ではあのガキに防がれるな。いい腕だ」

 

 そう言い男は腰につけたパックルから何かを取りだす。

 レーダーセンスによりシルエットを視る。

 それは手裏剣だった。

 

「博士は殺すなと言われているが、娘は言われてない」

 

「な!?」

 

 ヴィランは思いっきり振りかぶり、手裏剣を三枚続けて投擲する。

 このままでは三枚がメリッサさんの眉間と胸元、首にそれぞれ刺さるだろう。

 僕は射線に体を滑り込ませ、ワンフォーオールを起動、一個を弾き飛ばし、一個は腕に刺さり、一個が胸に刺さった。

 

「イズク君!! イヤああああ!!」

 

 メリッサさんの叫びが、大通りにこだまする。

 

「GAAAAAAAA!!!!」 

 

 その時、ヴィランの叫び声がする。

 狙い通り、僕のはじき返した手裏剣は当たってくれたらしい。

 ヴィランは逃げるように去り、装置を手落としていった。

 去り際、こちらを見た。おそらく憤怒にあふれた表情をしているのだろう。

 僕は無視した、流石にこの距離では想像だけで、表情まではわからない。

 

「……メリッサさん。大丈夫? ですか?」

 

 僕は激痛に身をよじりながらも、メリッサさんを確認する。

 レーダーセンス越しに視る彼女に外傷はない。良かった。

 

「わ、私は無事。だけど、イズク君が」

「大丈夫です。内臓は外れてるので」

 

 兎に角二人が無事で良かった。

 そんな僕にオールマイトが駆け寄ってくる。

 

「メリッサ! 緑谷少年! 大丈夫か」

「オールマイト! ヴィランと装置は?」

「いや、私がメリッサの方に視線を外した時には、あのヴィランは消えていた。それより緑谷少年の怪我だ。ヴィランより、君の方が大事だ」

「ああ、装置は君が守ってくれた。とにかく早く救急車を」

 

 しばらくして、警察が事情聴取に来た。オールマイトの証言から、犯人を照合したが、渡航履歴からはそれらしい人物はいないとのこと。

 僕は、奴とはまた会いそうな気がしていた。

 そうして、慌ただしい一日は終わった。僕のケガは大したことはなかった。数針縫う程度で済んだ。

 分厚い筋肉が刃を止めてくれたらしい。

 ただ、メリッサさんには酷く心配された。

 

「ごめんね、イズク君。私のために。けれど無茶しないで」

「すいません。その、体が勝手に動いて」

 病室にて、今はオールマイトとデヴィット博士は席を外しメリッサさんと二人っきりだ。

「でも、貴女に怪我が無くて良かったです」

「イズク君。確かに私に怪我はなかったけれど、でも、そんな大けがをされたら、たとえ助けられても、私苦しいわ」

 そういうメリッサさんの声色はいつもより固い。

「……すいません」

「だから、約束して。自分を大切にして。そうすれば、あなたはみんなを笑顔にするヒーローになれる」

「……はい」

「けど、あなたの勇気で私は今生きてる。だから……ありがとう」

 そうしてやっと、メリッサさんは笑った。

「ねえ、知ってる? あなたみたいな向こう見ずな人を何ていうか」

 メリッサさんはって言う。

 

「デアデビルって言うのよ」

「デアデビル……」

 

「それがあなたのいい所だけれど、悪い所でもある。それを忘れないで」

 そう言ったメリッサさんの言葉を、僕は忘れぬよう胸に刻み付けた。

 

 

 僕が入院して3日後。つつがなく退院し、今シールド一家とともに空港にいる。

「本当に大丈夫ですか? またあのヴィランが来るかも」

 僕の問いに、デヴィット博士が笑って答える。

「なあに、心配いらない。さらにセキュリティの高いセントラルタワーで研究を続けることになったからさ」

「それに、ヒーローも何人か警護してくれることになったの。だから大丈夫よ」

 メリッサさんの言葉に、オールマイトも納得する。

「そうか……。心苦しいが、そういうことなら安全だろう」

 4人で話していると、メリッサさんが近づいてきた。

「イズク君、これを預けるわ」

 メリッサさんから渡されたのはブレスレットだった。

「あの、これは」

「そこのボタンを押して」

 僕は言われた通りボタンを押す。

 すると、見る見ると質量がまし、ガントレットになった。

「こ、これは」

「私の発明品、フルガントレット。あなたの個性、まだ全力じゃないように感じたから」

「それはまだ3回程度しか、あなたの出力に耐えられないけど、少なくとも反動は十分軽減できると思う」

「それは、でも何で僕に」

「あなたが無茶しないようにってこと。それに、次会う時は、もっといいサポートアイテムを作って見せるわ。だから、日本でも頑張ってね」

「は、はい!」

「あなたが立派なヒーローになるって、私、信じてるから」

 

 そう言って、僕たちは別れた。

 また二人とはある事件を共にするが、それはまた、次の機会に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのオールマイトがいたんだぜ、想定外だったんだボス」

「……それでおめおめと逃げ帰ってきたわけだ。愚か者が!

 それでも装置を持ってこないか、せめて気づかれなければセキュリティが強化されることもなかったものを!」

「それがあいつ、俺がいることを知ってたようなんだ。ボス、この失敗は必ず」

「……まあいい。他にやりようはいくらでもある。お前には出向を命じる」

「出向!? どこに!?」

 

「日本のオールフォーワンの所だ」

 

 通話の切れたスマートフォンを、男は憤怒の表情で見つめる。

「まじかよ! クソ! あのガキめ!」

 そう言って男、ブルズアイは携帯を投げつけた。




 メリッサにデアデビルと言わせたいだけのI・アイランド編でした。
 ヒーローにはライバルヴィランなんだよなあ。


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雄英入学〜USJ襲撃
入試


ランキングに載ってました! ありがとう! 


 僕はI・アイランドを離れた後も、トレーニングを続けていた。週に2回ずつのボクシングと柔道のトレーニング、週3回のオールマイトとのトレーニング。

 あいた時間で受験勉強も頑張った。メリッサさんとは週に何度かインターネット通話をして、科学知識を深めていった。

 身長は少し伸びて170センチに、体重も65キロになった。

 そして、今日、ついに、受験当日。

「ここが雄英高校か」

「俺の前に立つんじゃねえデク」

「はいはい、かっちゃん」

 僕は横にずれて立ち止まる。

 すると、女の子とぶつかりそうになり、慌ててよける。

「あぶないあぶない、大丈夫?」

「え、うん平気。ウチもボーっとしとった。えっと、何で分かったん?」

 女の子は僕のバンダナが巻かれた目と、杖を見て疑問に思ったのか言う。

「ああ、耳が良くてね」

 その少女は身長は155センチ程度だろうか。

 方言の特徴から三重辺りの出身で、整髪料の量からボブカットの女の子だ。

「え、入試の場所わかるん? 大丈夫?」

「お気遣いありがとうございます。でも、僕もヒーロー志望なので、自力で頑張ります」

 僕の言葉に彼女の心臓が跳ねる。

「そっか、立派やねえ。頑張ってね」

「はい、君も是非頑張って」

 そう言って、その女の子に手を振って別れる。

「ナンパか、ヨユーだな」

「違うよかっちゃん! 人聞きの悪い!」

 僕らは言い合いながら、試験会場へ向かった。

 途中、「なあアレ、バクゴーじゃね」「ヘドロのときの……。隣は小麦粉の奴だな」という会話が聞こえる。

 僕はシェフかな?

 かっちゃんはとたんに不機嫌になる。

 かっちゃんの中で、あれは黒歴史なんだろうな。

 

 

 筆記はつつがなく終わり、実技試験。

 点字の問題用紙もあって助かった。

「さあ皆、実技試験の時間だ! 盛り上がれ-!! エヴィバディセイヘイ!」

 プレゼントマイクだ。ラジオは受験勉強しながら良く聞いていた。

「こいつはシヴィー!! それじゃあさっそく演習内容を説明していくぜ!! アーユーレディー!! イエー!!」

 僕らの反応が薄かったからか、自分で言いだした。

「リスナーの諸君にはこれから模擬市街地演習に取り組んでもらうぜ!」

「同校同士で協力させないようにか、受験地がバラバラだな」

「そりゃそうだよね」

「お前と白黒つけられねえじゃねえか」

「そんなの入学すればいくらでもできるよ」

 まあ、僕はかっちゃんとは連携を取ろうとしても取れないだろうけど。

 かっちゃんの爆破は僕のレーダーセンスを著しく阻害するから。

 それも最近の訓練で大分克服したけど。

 持ち込みは自由とのことで、ビリークラブとブレスレットを握りしめる。

「演習場には仮想敵を3種設置しており、合計のポイントで合否を決める!」

「ご質問よろしいでしょうか! プリントには4種の敵が記載されております!」

 そう言われ、僕は貰ったプリントを手でなぞる。

 インクと紙の質感から、記載された内容をチェックする。

 すると確かに、プリントには4種のヴィランが記載されていた。

「オーケー受験番号7111のリスナーナイスなお便りサンキューな!

 その4種目のヴィランは会場を所狭しと暴れまわる0Pヴィランだ!」

 どうやらこれはいわゆるお邪魔虫らしい。

 僕はゲームはやれないので例えがよくわからなかったが。

「それでは諸君、かのフランスの英雄ナポレオンボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくもの!」

 

更に向こうへ(プルスウルトラ)!」

「それでは皆、良い受難を!」

 僕はブルリと武者震いする。

 

 

 試験説明後、会場に向かって歩く。

 周りの声を聴くと、僕へのコメントが結構多い。

「ヘドロ事件で突っ込んでったやつだ」

「無個性って話じゃなかったっけ」

「目が見えないみたいだけど、大丈夫なのか?」

 そんな反応を示す周りの中に、今朝の女の子を見つける。

 声をかけようかとも思ったが、精神統一をしている最中のようで、話しかけたら悪いと思ってやめた。

「ああ、君、ちょっと良いかい」

 僕に声をかけてきた人がいる。身長は180センチ程度、音の反射からふくらはぎの辺りに違和感がある。先程プレゼントマイクに質問していた人だ。

「君は、目が見えないようだが、この試験大丈夫なのか」

 その声色は本当にこちらを気遣っているようで、僕は苦笑する。

「大丈夫。これでも結構自信あるんだよ。だから、君も僕をライバルだと思ってくれると嬉しいな」

 そういって握手を差し出すと、彼も戸惑ったように握った。

「ふむ、流石最高峰、すまない! 君を見くびった発言だったようだ!」

「真面目だね! お互い頑張っていこう!」

 そこに、プレゼントマイクの声が響く。

「スタート」

「それじゃ、行こうか」

 そう言って、僕は駆け出した。

「ワンフォーオール・フルカウル……60パーセント!!」

 僕は素早くビルの上に一踏みで飛び乗る。

 ふと、他の受験生みんなが止まっていたのが気になったが、とりあえず頭の隅に起き、目の前の仮想敵に意識を集中させた。

 

 

 

「この入試は敵の総数も配置も伝えていない」

「限られた時間と広大な敷地。そこからあぶり出される。情報力、機動力、判断力、そして戦闘力」

「今年は結構豊作ね。見てよ」

 

 

 ビリー・クラブとガントレットはなるべく使わない。

 純粋に、自分の力で勝負したかった。

「これで、30ポイント!」

 大きさは脅威だが、強度はさほどでもない。

 僕はある敵は拳で、ある敵は投げ飛ばして倒していく。

「この試験会場の中では、僕が一番のはず。いや、周りは気にするな。もっと! 誰もいないほうへ!」

 すると、丁度受験生が誰もいない地区を見つける。

 そこに入り込んだのは、僕のほかにもう一人。

 身長は186~187センチ、腕が6本生えている人だ。

「お前も探知系の個性か? たしかヘドロ事件の……」

 彼が僕に尋ねる。

「うん、まあそんなとこ。僕は向こう側から狙っていくから、君は近場を狙って」

「……かたじけない」

 僕はフルカウルにより強化した脚力で仮想敵を飛び越えていく。

 そして、さらに30ポイント程稼いだ時、急に轟音が響いた。

 レーダーセンス越しにわかる、その重量感。

 いや雄英やりすぎでしょ!

 あれがお邪魔ギミック。

 僕も他の受験生のように逃げて他の狩場を目指そうとした。

 僕はビリー・クラブを手に取り、柄の部分を耳に当て、地面と接させることで音をより深く聞く。

 するとかすかに、誰かのうめき声がする。

 僕は、迷わずそちらのほうへ走った。

「おい、そっちへ向かってどうする!? あれは0Pだろう!?」

 さっきの腕6本の人が問いかける。

 彼に僕は言い返す。

「誰かのうめき声が聞こえた! すぐ向かわないと!」

 そう言って、僕は走り出した。

 

 その女の子は、今朝話した子だった。

 いや、そんなことは関係ない。

 彼女を救う、安全で最短な方法は。

 僕は仮想敵をにらみつける。

「ちょっと! 黙ってろ!」

 僕はフルカウルを維持し、飛んだ。

「メリッサさん、使わせていただきます!」

 ブレスレットのスイッチを入れると、ガントレットが再構成される。

「フルガントレット! 起動!」

 コークスクリューブローの要領で、仮想敵を殴りぬける。

「トルネイド! スマッシュ!!」

 僕の一撃は、仮想敵をクラッシュさせ、殴り倒した。

 

 僕は着地に備え、もう一発地面を殴ろうとすると、先ほどの女の子が浮かび上がってきているのが視えた。

 そのまま、女の子にビンタされる。

 すると、ふわりと、僕の体が浮いた。

 

「試験終了―!!」

 

 僕はふわふわしたまま、試験終了の声を聞いた。

 

 女の子が個性を解除すると、地面に降り立つ。

 彼女へお礼をしようと近づくと、何と嘔吐し始めた。

 僕は慌てて女の子に駆け寄り、背中をさする。

「あ、あんま見んとい……おええ」

「だ、大丈夫!? 個性の反動? ああ、しゃべんないで」

「う、うん。ありがとうね、助けてくれて」

「いや、こちらこそ」

 そう言って、ハンカチで顔を拭ってあげる。

「わ、わるいよそんなの。ハンカチ汚れる」

「気にしないで、多分長い付き合いになるだろうからさ」

 僕は女の子をリカバリーガールに預け、試験会場を後にした。

 そういった感じで、僕の入学試験は終わった。

 

 

 

 

 

 




障子君もおんなじ会場だったから出してみた。
このイズク多分転倒しないから、お茶子をどう絡ませるか悩みました。
しばらくは原作沿いで進みます。


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個性把握テスト

「実技総合成績出ました」

「……まさか、100ポイント越えが二人も出るとはな」

「一人はレスキューポイント50ポイント、ヴィランポイント60ポイントとバランスがいい」

「こいつ本当に全盲かよ? 実は見えてんじゃねえのってくらい正確な動きだったな」

「だが素行調査では全盲の診断に間違いはなかった。筆記試験も問題ないし、何より最後の動きがいい」

「聴覚由来の索敵能力、咄嗟の時に人を助ける選択肢が出る判断力。何よりその戦闘能力、素晴らしいな」

「もう一人はヴィランポイント90、レスキューポイント15でちょっとヴィランポイントによりすぎだな」

「けど、怪我しそうな子を助ける動きも僅かながらあったから、人格的に問題があるというほどじゃないわね」

「タフネスもそうだが、機動力がスゲエ! ここまで使いこなせるには才能もそうだが相当訓練しねえと無理だぜ!」

「じゃあ、この二人は合格確定として、どう振り分ける?」

「……俺にやらせてください」

「イレイザー。理由を聞かせてもらっても?」

「個性のみでは、こいつらすぐに限界きますよ。それに同じ中学でここまで切磋琢磨してきた奴らだ。一緒にしてさらに互いに刺激を与えるのが合理的だ」

「確かに、それもそうだね。いざという時の為に、個性を消せる君が適任か」

 

 

 

 

 

 

 

 雄英からの合格通知を受け取った僕は、まず最初にパソコンの電源を入れる。そしてあの人に連絡する。

「雄英に合格したの!? おめでとう!!」

「ありがとうメリッサさん! 一番に貴女に教えたくて。ガントレットが役に立ちました!」

「そうなの!? それはサポーター冥利に尽きるわ。けれど何度も言うけど、無茶しないでね?」

「はい、気をつけます」

「フフ、夏にはエキスポがあるし、その頃にまた会いましょう」

「はい! 雄英体育祭も見ていてください!

 ……そういえば、あのヴィランはあれから現れてないですか?」

 あの時現れたヴィラン、あれは本当に強かった。どこかの国のネームドヴィランかもしれない。

「全然。あの後I・アイランドの警備も強化されたし、私達も何人かのプロヒーローが警護してくれているから大丈夫よ。

 心配してくれてありがとう。また今度新しいガントレットを送るからね」

「あ、ありがとうございます。恐縮です」

「フフ、私とイズク君の仲じゃない! それと、前言ってたコスチューム、サポート会社を通して送っておいてあげるね」

「ええ!? それは悪いですよ!」

「大丈夫、被服控除で開発費は出るから。マイトおじさまのコスチュームにも似た機構を……」

 その後は、夜遅くまで話し込んでしまい、お母さんに怒られてしまった。

 

「オールマイト、お久しぶりです」

「うむ、試験が終わってからはばたばたしてしまったからな。メリッサ達には話したかい」

「はい! 一番に!」

「そうか! 親しき仲にも礼儀あり! メリッサ達とはプロになってからも付き合うことが多いだろう。だからという訳じゃないが、仲良くしておくといい」

「プロ……」

 やっと実感が湧いてきた。

 僕も、プロヒーローになれる。

 あの幼い日の誓いとともに。

「僕は、恵まれすぎてるな……。なんかずるいや。オールマイトにメリッサさんにデヴィット博士。みんなの助力がなければ僕は」

「HAHAHA! なーに言ってる! ワンフォーオールを今ここまで使いこなしてるのは偏に、君の不断の努力があってこそ!

 メリッサ達が力を貸しているのは、個性だけでない君の強さとやさしさがあってこそだ」

 オールマイトはそこで一つ咳払いをする。

「それに、ワンフォーオールを受け継がなくても、君はヒーローになれたさ。史上初の無個性にして全盲のヒーローとしてね。私が保証する。だから自信を持ちたまえ」

「……はい!」

 

 

 そして、入学式当日。

 僕は、憧れの雄英高校の廊下を歩いていた。

「点字ブロックがあるのはありがたいな」

 地図の通り歩き、1-Aの教室までついた。

「机に脚をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者に悪いと思わないのか!」

「思わねーよ端役が! てめーどこ中だ!」

 しょっぱなからかっちゃんはフルスロットルだなあ。

「ボ……俺は私立聡明中出身、飯田天哉だ」

「聡明~? くそエリートじゃねえか! ぶっ殺しがいがありそうだな」

「君はヒドイな! 本当にヒーロー志望か! ……君は」

 僕は飯田君と目が合う。

「君は実技試験の……」

「握手した人だよね? 飯田君。僕は緑谷出久。よろしく」

「丁寧にどうも。……君はあの実技試験の構造に気づいていたのか?」

「? レスキューポイントのこと? いや、気づいてないよ」

「ム! ならなぜあんなことを!?」

「だって危ないでしょ。あのままだったらあの女の子がつぶされてたかもしれないし……噂をすれば来たね」

 そう言って、僕は後ろを向くと、女の子が近づいてくる。

「あ! そのモサモサ頭は、地味めの!」

「どうも、緑谷出久です。えーと」

「私、麗日お茶子! よろしく! あの時はハンカチありがとう!」

 元気な子だなあ。

「どういたしまして」

「そりゃあ合格してるか! 凄かったもんね! あのパンチ!」

「ああ、あれは今の所サポートアイテムがないとできなくて僕一人の力って訳では……」

 そう言おうとしたところで、僕はお茶子さんを引き寄せ、不審者に杖を突きつける。

「ほう、気づくか、それは個性か?」

「不審者ですか? 返答しだいでは」

「担任だよ。わかったらその物騒なものをしまってくれるか?」

 僕はとりあえず杖を収める。

 その担任は、すくりと立ち上がる。

「身長は183センチ、髪は長髪でぼさぼさ特に手入れはされてない。

 マフラーのようなものの材質は不明だが反響音からかなりの強度を持っていると推察される」

 そこで僕は言葉を区切り、首を傾げ言う。

「髭くらい剃られては?」

「よけいなお世話だ緑谷出久。常人以上に視えているという話は本当のようだな」

 男はそういうと、くるりと僕らを見渡した。

「担任の相澤消太だ。よろしくね。早速だが、これに着替えて表に出ろ」

 手渡されたのは材質から、体操服だった。

 

「更衣室はこちらのようだぞ」

 その人は腕が6本ある人だった。

「ありがとう。試験会場が一緒だったよね」

「……、見た所全盲のようだが、なぜわかったのか聞いても」

「光を失ってから耳が急激に良くなってね、音の反射で大概のことはわかるんだ。輪郭もはっきりわかるよ。

 ええと、君の名前は」

「失礼した、俺は障子目蔵。よろしく頼む」

「緑谷出久、よろしくお願いします」

 そう言って握手する。

「おい、早く行くぞデク」

「あ、うん。分かった」

「デク?」

「あだ名だよ。あんまいい意味じゃないけど、かっちゃんは見ての通りだから気にしないで」

「どういう意味だコラ!」

「ええ、理不尽」

 そう言いあいながら、僕たちは着替えてグラウンドへ出て行った。

 みんなそれとなく壁際に立ってくれたり、段差を指摘したり、いい人ばかりだなあ。

 

 

「これから、君たちには個性把握テストをしてもらう」

 相澤先生の突然の申し出に、麗日さんは悲鳴を上げる。

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな行事出てる暇ないよ」

「……僕、新入生代表ですけどいいんですか?」

 結構時間かけて挨拶を考えたんだけど。

「ああ、問題なし、雄英は自由な校風が売り文句、それは先生側もまた然り」

 まあ、先生が言うならいいんだろう。

「それでは、入試一位の緑谷。ソフトボール投げだが、だれか補助を」

「問題ないですよ」

 僕は靴を脱いで素足になる。

「風と太陽がおおまかな方角を、匂いが白線の位置を教えてくれます。砂の質感と石灰の質感も大分違いますからね」

 レーダーセンスより精度は落ちるが、問題ない。

 あっちですよね、と僕が指さすと、相澤先生がうなずく。

「……問題なさそうだな、では、中学時代は何メートルだった」

「98メートルです」

(((すご)))

「じゃあ個性を使って思いっきり投げてみろ」

「わかりました……スマッシュ!!」

 僕は構えると、思いっきり投げた。

 先生の持つ機械に記録が表示される。

 

「1000メートル、流石だな」

 

「なにこれすっごい面白そう!」

「1キロ越えってまじかよ!」

「個性思いっきり使えるんだすげー」

「……面白そうか」

 相澤先生の心音が、穏やかでいながら冷徹な感情をのぞかせる。

「ヒーローになるまでの3年間をそんな腹積もりで過ごすつもりか。

 そうだな、トータル成績最下位のものはヒーローの見込みなしとして除籍処分としよう」

「「「はあああああああああああ!!??」」」

「生徒の如何は俺達の自由、それが雄英高校ヒーロー科だ」

 入学初日の大事件。相澤先生の心音はそれが真実だと告げていた。

 




ヒーロー科はいい人ばかりじゃねえか!

今回は出久に余力があったため、原作よりレスキューポイント低めです。
そしてかっちゃんの様子が?


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戦闘訓練

お気に入り2500件突破ありがとうございます。


 第1種目、50メートル走。

 

「爆速!」

 スタートダッシュからかっちゃんが爆発しそうだったので、耳朶を指を使わず動かし、塞ぐ。

「フルカウル、65%!」

 僕はワンフォーオールを全身、特に下半身と背中に重点的に纏わせる。

 僅かにかっちゃんに競り負けた。

 緑谷 2.58秒

 爆豪 2.52秒

 

 他にも握力はワンフォーオールで700kgを出した。

「流石だな緑谷、この種目には自信があったのだが」

「障子君、いや、流石に僕は単純な増強系だからね、こういうので負けたら立つ瀬がない」

 

 立ち幅跳びはかっちゃんが無限をたたき出した。一方僕は30メートル。

 反復横跳びは僕の勝ち。長座体前屈は格闘技の訓練分、カエルの個性の子よりは下のクラス2位。

 

 そんなこんなで僕とかっちゃんが競いあいながら競技を終えた。

「ちなみに除籍は嘘な。君たちの全力を引き出すための合理的虚偽」

 周りが大声を出すが、僕は相澤先生の心音を探る。

(嘘だな)

 見込みがあったということだろうか。

 20位だったらしい峰田君が泣き出していた。

 僕の順位はいくつだったんだろう?

 そう思っていたら一人の女の子が近づいてきた。

 僕より少し背が高い、確か出席番号最後の。

 持久走でバイクを出してた人だな。

「一位おめでとうございます。緑谷さん」

「あ、僕一位だったんだ。見えなかったからわからなかった」

 先生も読み上げてくれればいいのに。

「君は持久走でバイク出してたよね、あれは焦ったよ」

「ええ、ですが、トータルの成績では抜かされてしまいました」

 ちなみに2位がこの人、八百万さんで、三位がかっちゃん、四位が轟君という氷を出していた生徒だった。

「クソが! おいデク! ポニテ女! いい気になるなよ! いざ戦うとなれば俺が勝つ!」

 かっちゃんが爆速で近づいてくる。

「ま! 私には八百万百という名前があるのですわ。かっちゃんさん」

 この女の子も大物だな。

「かっちゃんさんじゃねえ! 爆豪勝己だボケが!」

「かっちゃん初対面の人にもぐいぐいいくね」

「お前はすましてんじゃねえデク!」

 その時、冷たい視線を感じて、僕はそちらを向く。

「ええと、轟君、だよね、何か?」

 その心音は氷のように冷たい。

「緑谷だったか……お前には負けねえ」

 そう言い残して、彼は去っていく。

 うーん、何か知らないけど、みんな初日から元気がいいなあ。

「宣戦布告の相手間違ってんじゃねえぞクソが!」

 かっちゃんは手のひらを爆発させるが、それが不自然に止まる。

「おい、いつまで騒いでる」

 相澤先生が止めたのか? 

 個性の影響か髪の毛が逆立ってる。

「何だ個性が、使えねえだと!?」

 かっちゃんは焦ったように言う。

「そう個性を使わせるな、俺はドライアイなんだ」

(((個性凄いのにもったいない)))

 僕は個性を消すという言葉に反応する。

 ひょっとして。

「あのう、先生ってもしかして、イレイザーヘッドですか?」

「……そうだが」

「イレイザーヘッドって」

「アングラ系ヒーローだよ。確か個性を消す個性だって」

 本人から確証を得て、僕は先生に近づく。

「うわあ、イレイザーヘッド! 僕ファンなんです!

 実は最近まで個性が発現しなかったんですけど! イレイザーヘッドみたいに個性を使わなくても強いヒーローになれるよう体を鍛えていて」

「そうか、早く着替えろ」

 塩対応、く~っ想像通り。

「ファンにその対応!?」

「何言ってんの瀬呂君! そういうドライさがイレイザーヘッドのいい所じゃないか?あ、サインをください」

「やらん、早く着替えろ」

「うわー! イメージ通りだ!」

「緑谷君って、入試一位、テスト一位の割に結構ヘンだね」

 まるで楊貴妃とフランシスコザビエルを足して2で割ったような美貌の少女に言われる。

 失敬な。

 

 その後は、僕は飯田君、麗日さんと一緒に帰る。

「しかし相澤先生にはやられたよ、教師が嘘で鼓舞するとは、僕はこれが最高峰かと思ってしまった」

「うーん、でもびっくりしたよねえ、デクくん」

「ああ、うーん。麗日さん、デクっていうのは木偶の坊からとってて……」

「蔑称か」

「うん、まあかっちゃんがいまさらイズクとか緑谷とか言い出したら逆に怖いから訂正しないけど」

「ばっさりいくなあ……でもデクって私頑張れって感じで好きだな」

「デクです」

 なんてうららかなんだ。

「緑谷君! 浅いぞ! 蔑称なんだろ!?」

「まあ、麗日さんの物言いはバカにした感じではないから……」

 そういいつつ、顔が赤くなるのを感じ、僕は手で扇いだ。

 そうして、僕は入学初日から、何人も友達ができたのだった。

 

 午前は普通授業、これは点字のテキストがあるし、先生方も気遣ってくれるから問題なし。

 ランチはクックヒーローランチラッシュの昼食。

「かつ丼大盛」

「デク君くうねえ」

「それがごはんでおかずは……」

「へ?」

「コロッケにサンマに焼きそばにホイコーロー」

「ええええええええ?」

「あとミソ汁の代わりにラーメン。あと牛乳」

「ええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 僕らは席に着き食べ進む。

 僕の食いっぷりに、麗日さんは茫然と言葉を紡ぐ。

「デク君、見た目によらず大食いなんやねえ」

「脳を酷使するからね」

 僕の一日の消費カロリーは現在約2万キロカロリー。

 それほどまでに肉体を、特に脳をフルスロットルで維持している。

「さてと」

 僕はものの10分で食べ切った。そして、一息つく。

「さて……弁当食べるか」

 食堂全体がずっこけた。

 

 そして、午後。

「私が、普通にドアから来た!」

「オールマイトだ! 本当に先生やってるんだ!」

「画風違いすぎて鳥肌が……」

「今から行うのはヒーロー基礎学! ヒーローの下地を作るための訓練を行う課目だ!

 それに伴ってこちら、入学前に送ってもらった個性届と要望に沿って作られた、コスチューム!」

「「「「「「おお!」」」」」

「恰好から入るのも大事だぜ少年少女。自覚するのだ今日から君らは、ヒーローなのだと」

 

「わあ、デク君、オールマイトみたい」

 僕のコスチュームはメリッサさん謹製のスーツだ。

 多分ベースカラーは緑で、オールマイトのコスチュームに使われたギミックが搭載されている。

 それにいざという時のガントレットと、何よりビリー・クラブ。

「はは、ちょっと意識してるね。一応衝撃吸収機構がついてるハズだけど。あと、個性使って弾けるってことはないと思う」

「そうなんやあ、ウチはパツパツスーツになった。はずかしい」

「ははは、そんなことないよ。格好いいよ! 飯田君は甲冑だね。君も格好いい」

 そう話しながら演習場に着いた時、僕は、耳を閉じた。

 

 

 

 何で、何で、全裸の女子がいるんだろう?

 

「ん? どうしたんデク君」

 何でみんな普通にしてるの、僕がおかしいの?

「おお、緑谷君! 格好いいね」

 全裸の女の子が普通に近づいてくる。

 個性把握テストで、声をかけてきた女の子だ。

 何で? 僕がおかしいの?

「ええと、葉隠さん。だっけ? その格好は?」

「ふふーん、これはね、透明化の個性を存分に活かせるコスチュームなのだー」

「コスチュームって、全裸じゃん」

 そう! 個性か耳からコードの様な物が伸びてる女の子が言うとおり。全裸なんだよ!

「あの、葉隠さん! せめてマントかなんか羽織って!」

 真っ赤になった僕の顔を、不審そうな顔でみんなが見る。

「そういや、緑谷って結局どういう個性なの? 超パワーは個性で感覚は自前って前言ってたけど」

「……僕の聴覚は個性じゃないんだ。音の反射で物体の輪郭が認識できるんだよ」

 そこまで言って、葉隠さんの心臓が跳ねる。

「……もしかして、私の輪郭も」

「……バッチリです」

 そのビンタは甘んじて受け入れた。

 

 八百万さんが透明のマントを作ってくれた。

 万能個性、ありがたい。

 

「ええ、では今回の訓練。戦闘訓練の概要説明に移るが、緑谷少年は何故正座を?」

「触れないで下さい」

 僕はその後、女子から一通り非難された。 

 だか、麗日さんの取りなしにより何とか正座で許してくれた。

「葉隠少女は何か部屋の隅っこにうずくまっているし」

「別にー。何でもないでーす」

 むくれている。

「ま、いいや。今回の戦闘訓練は屋内で2vs2による戦闘を行う」

「基礎訓練も無しに?!」

「その基礎を知るための訓練さ。ヒーローチームとヴィランチームに分かれる。

 設定としてはヴィランが核ミサイルを奪い、それをヒーロー側が奪取しようとしているって所かな」

 

 その後は、くじ引きでヴィランチームとヒーローチームに分かれる。

 僕のペアは。

「何番ですか?」

「緑谷少年は、葉隠少女とのペアだな」

 あーもう何でこーなるの。

 そして相手は。

「第一戦は葉隠少女、緑谷少年ペアのヴィランチームと、轟少年、爆豪少年ペアのヒーローチームだ」

 さて、最初からクライマックスだぞこれは。




ヒロイン候補その3、葉隠さん登場。(その2は麗日)
能力の相性は間違いなくいいぞ。


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VSかっちゃん

何か書き溜め溜まったので投稿します。


 とりあえず、核のハリボテを最上階の五階に置く。

 葉隠さんと物理的にも心理的にも距離が遠い。

 違うんだ、わざとじゃないんだ。

「あの、葉隠さん、作戦会議を」

「うーん、ま、しゃあないよね。私も大人気なかったよ。叩いてごめんね」

 そう言って葉隠さんがこちらに来る。もちろんマントで体を隠しながら。

「ありがとう。えっとヒーローチーム二人の個性だけど、かっちゃんは見ての通り掌の爆破。轟君が氷と炎のハイブリッドだよね」

「そうだね。どういう感じで迎え撃とうか? わたしの透明化で背後から奇襲?」

「うん、それがベースでいいと思う。ただ轟君もかっちゃんも、素の身体能力が高いから、気をつけて確保テープを巻くことに集中して」

「うん! 分かった! 入試一位の力頼りにしてるね!」

 葉隠さんに笑って肩を叩かれて、僕も拳を握りしめる。

 僕があの二人から注意をどれだけ引き付けられるかにかかっている。

 そう気を引き締めていた時、放送が入る。

「それでは、第一戦! はじめ!!」

 オールマイトの言葉を聞き、僕らも行動を開始しようとする。

 その時、僕の皮膚感覚が異常を捉える。

 寒い!

 僕は葉隠さんを横抱きにしつつ、天井にビリー・クラブを突き刺した。

 すると、みるみる床や天井が凍りついていく。

 僕はワイヤーを伸ばし、天井から距離を取って、すこしでも自身と葉隠さんを寒さから守る。

 そして、氷の浸食が止まった。

「あ、危なかった……」

「あ、ありがとう緑谷君……ヘクシ!」

 するりと降りる。葉隠さんがブーツをしていてよかった。なければ戦うどころじゃなかっただろう。

 僕はビリー・クラブを床につけ、柄の部分に耳を近づける。

 かっちゃんと轟君は二人揃って歩いてきているようだ。

 どうやら、一階からしらみつぶしに探しているようだ。

 僕は小声で説明する。

「ど、どうする?」

「……核の周りで戦おう、演習の設定的に、かっちゃんの大規模な爆発も轟君の炎も使えないはずだ」

「成程。地の利を活かすってやつだね」

 葉隠さんの言葉に、僕も肯く。

「僕が奇襲をかけるから、葉隠さんは隙をみてテープを」

「わかった」

 

「おい、半分野郎あんまり離れるなや。油断しすぎだ」

「……凍らせたから大丈夫だ、まともに戦えやしねえよ」

「デクがんなタマかよ。避けたに決まっとるわ」

 そう言ってかっちゃんは何かを口に含んだ。

「何喰ってるんだ?」

「ハバネロキャンディー」

「ああ、寒いからか。大丈夫か?」

「余裕だわクソが! つか油断するなっつとろうが!」

 僕には、二人の位置が手に取るように分かる。

 僕は、壁越しに轟君の位置を察知すると()()()()()()()

「お」

「あ」

 冷気を放つだろう右側から思いっきり轟君を引っこ抜く。

 かっちゃんから見ると、轟くんが壁に飲み込まれたようにみえただろう。

 そのまま、僕は衝撃で昏倒した轟君に確保証明のテープを巻く。

 脈は問題ないな、よし。

 とりあえず回復体位を取らせ、かっちゃんに向き直る。

「グッドアフタヌーン。ヒーロー。地獄を届けに来たよ」

「デクお前なんだそのキャラは」

「いや、自分でもよく……」

 そう軽口を叩きあいながらも、僕たちは円を描くように対峙する。

「個性に目覚めてよお、入試1位、テスト1位。調子に乗ってるよなあ」

「言っただろ、僕はオールマイトだって助けられる位のヒーローになるって」

「なら、俺はオールマイトをも超えるヒーローになる。当然てめえも超えてな!」

 かっちゃんは僕に爆破を当てようとする。

 そこに、僕はカウンターでアッパー。

 かっちゃんはスウェーでかわしキック、僕はバックステップで回避。

 かっちゃんが爆破で近づき鳩尾に肘を当てようとするのを僕が同じく肘で受ける。

 そこに、かっちゃんが両手で爆破を食らわせようとする。

 匂いがいままでのかっちゃんの爆薬と違う。

 僕は両耳を塞ぐ。

 音が、衝撃が轟いた。

 僕はたたらを踏む。

 レーダーセンスが、機能しない。

 

 モニタールーム、寒さに凍えながらも、クラスメイト達は観戦していた。

「緑谷の野郎! 葉隠の裸体を抱きかかえただとお!!」

 峰田が血の涙を出しながら叫ぶ。瀬呂が呆れたように言う。

「お前はいつまで言ってんだよ!」

「轟の個性もずげーけど、緑谷の奇襲もすげーな! けど漢らしくねえ!」

 切島の言い分に、上鳴が反論する。

「いや、逆に男らしいだろ。なんだあの奇襲、ホラー映画かよ」

「奇襲も戦術、彼らは今実戦の真っ最中なんだぜ」

「しかし、流れるような攻防、どちらも体術に長けてますね。それも凄まじい高レベルで」

 オールマイトの言葉を返す用に、武術を修めている尾白が感嘆の言葉を述べる。

 そこに轟音が響く。

「おお、何だこっちまで爆音がしたぞ!」

「……どうやら爆発を調整して音と衝撃のみに特化した爆破をさせたようですわね」

 八百万が感嘆したように声を上げる。

「緑谷は聴覚で視覚を補っていると言っていたからな。これは詰んだか」

 障子が残念そうに言うが、オールマイトが制する。

「いや……まだだ」

 

 僕は、耳がくらくらするのをこらえ、かっちゃんを探す。

 ああ、距離を取ったな。

 背中に背負ったビリー・クラブを取りだす。

 そのまま杖を振り回し、何も視えてないフリをする。

 かっちゃんが遠距離から爆破をする。

 それでいい。

 僕は、棒高跳びの要領で爆風を飛び越え、飛び蹴りを放つ。

 かっちゃんの額に当て、さらに距離を詰める。

 柔道でいう内股をかけ、かっちゃんを倒した。

「がっ!! てめえ! 何で!!?」

「聴覚だけじゃなく、嗅覚である程度対応できるように訓練した。君に勝つために!」

 立ち技に、ラッキーパンチはある。

 だが寝技に偶然は無い。

 あるのは練習量による必然のみ。

 かっちゃんは僕を爆破させようとする。

 その爆破を躱し、腕を取る。

 そのまま腕ひしぎに移行する。

 かっちゃんは、逆の手で推進力を出し、逃れようとする。

 僕は腕を離し、かっちゃんは立ち上がる。

 僕の勝ちだ。

 僕のレーダーセンスには確保テープを持った葉隠さんが忍び寄っているのが視えていた。

 

 ビルを変えて、指導講評に入る。

「じゃあ、今の試合のMVP、誰だと思うかね」

 オールマイトの問いに、八百万さんが手をあげる。

「はい、4名とも演習の趣旨を理解した良い立ち回りだったと思います。

 轟さんは爆豪さんも言っていたように油断しましたわね。ですが氷漬けにするアイデアはすばらしかったと思います。

 爆豪さんは核のある階での大規模攻撃を避け、格闘戦主体の立ち回りが演習の趣旨に即しておりましたわ。

 葉隠さんは良く息を潜め、最後の最後に奇襲しました。ただ、最初の奇襲の時点で緑谷さんがいなければ封じられていたと思います。

 緑谷さんは最初に轟さんの奇襲への対処とその後の奇襲返し。最後の葉隠さんへのアシストが素晴らしかったですわ。

 というわけで、私は緑谷さんを推しますわ」

「(思ったよりも言われた)まあ、概ねその通りだね。当事者たちは何かコメントあるかね?」

「俺は。言われた通り油断してました。相方の意見に耳を傾けるべきでした」

「半分野郎を守れなかった時点で俺の負けだわ。それにデクと透明に完全にやられた、言うことはねえ」

「もっと自分の意見を出せばよかったです。緑谷君にばかり作戦を任せてしまいました……」

「かっちゃ……爆豪君との闘いにばかり身をいれてました。葉隠さんとの連携として考えるともっとやりようがあったと思います」

「うむ、四人とも反省点がすぐに言えるのは素晴らしい! 皆もこれにならい訓練をしてくれたまえ。ではビルを移動して第二戦! ヒーローチーム麗日少女と障子少年ペア、ヴィランチーム飯田少年と尾白少年ペアの演習をはじめる!」

 この二組の戦いは、障子君が飯田君と尾白君を防ぎ、麗日さんが隙を見て二人を無重力状態にして勝った。

 続く3戦も、みんなそれぞれの個性を活かしたものだった。

 僕はレーダーセンスで聞く他、モニターの映像を麗日さんと葉隠さんが実況してくれたおかげで、凄く勉強になった。

 

 そして、放課後。

 反省会をやろうということで、皆が教室に残っていた。

「いやあ! 初戦が熱かったぜ! 俺切島! よろしく!」

 そう言って、髪を逆立てた人が握手してくる。

 僕は戸惑いながらも手を取った。

「本当! 最初のってあれどうやって避けたの!? 私芦戸三奈!」

「俺砂藤! すげえパワーだったな! 俺の立つ瀬がねえよ!」

「ケロ、私蛙吹梅雨、梅雨ちゃんと呼んで。その後の爆豪ちゃんとの闘いも凄い達人って感じだったわ」

「緑谷ー! 葉隠のおっぱいは……ブエ!!」

「ちょ、ちょっと待ってね、今ちゃんと覚えるから」 

 そう言って、一人ひとりと握手し、匂いや質感を覚えていく。

 レーダーセンスである程度容姿は分かるけど、それだけだといざという時困ってしまうから。

「俺尾白猿夫。緑谷は何か格闘技をやってるのか?」

「よろしく。ボクシングと柔道を8歳の頃からやってるんだ」

「私耳郎響香。あの爆豪の出した音凄かったけど大丈夫だったの? 確か音で判別してるんでしょ?」

「ああ、あれは臭いでもある程度相手の居場所が分かるように訓練したんだ」

「つまりお前は全裸の女子の匂いを強く感じることができたん……(ドクン!!)ギャー!!」

「あ、ごめん緑谷、うるさかった?」

 峰田君がのたうち回っている。

「あはは大丈夫。耳郎さんはそのコードみたいなのが個性なんだね」

「うん。ねえ、私もあんたみたいに音だけで人を判別できたりするかな?」

「うーん。例えば呼吸音の位置で大体の背の高さが分かるし、声紋で大体の容姿も分かるよ。靴擦れの音で体重も正確に分かるし、訓練次第だね」

「すごいな。今度ぜひ俺にもおしえてくれ」

「障子君。僕で良ければ教えるよ」

「あ、私もいい? あんたみたいに索敵ができればやれること広がりそうだし」

 そんな話をしながら、一日が過ぎていった。

 皆、目の見えない僕にも優しくて、いい人たちばかりだった。

 けど、そんな僕達に、ある出来事が襲い掛かる。

 僕達は知ったんだ、こんな演習じゃない、本当のヴィランってやつを。

 

 

「なあ、どうなると思う? 平和の象徴が、ヴィランに殺されたら」

「さあなあ、こんな島国がどうなろうと、俺のしったことじゃないな」

 そういい、男はダーツをする。

 そのダーツは、ど真ん中にずっと刺さり続けていた。

「あんたは、俺達の護衛だ。出る幕はねえよ」

「は、楽な仕事になりそうだな」

 その男の名は、ブルズアイという。

 アメリカでは名の通った暗殺者だった。

 

 




葉隠さんまじ強い。
轟君ごめんね。でもしかたないんだ、僕は対かっちゃんを書きたかったんだ。
そしてUSJの難易度はイズクマストダイモードです


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委員長決め

つなぎ回。


 翌日はオールマイトへの取材のためか、メディアの人が多かった。

 僕は声をかけられなかったけど、他のみんなは大変だったようだ。

「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績表見してもらった。全員初めてにしては上出来だ」

 相澤先生からの誉め言葉に教室がざわつく。

「だが、お前ら有精卵が強くなろうとしている間にも、ヴィランもまた確実に力をつけ勢力を増している。焦れよ」

「「「はい!!」」」

「じゃあ、それでは今日はお前らに。学級委員を決めてもらう」

「学校ポイの来たー!!」

 皆が立候補しようと手を上げている、上げてないのは僕と麗日さん、轟君だ。

 その後は飯田君の発案で投票ということになった。

 僕は飯田君に入れた。

「デク君はやらへんの?」

「僕はそういう書類仕事とか不向きだから。それに訓練で忙しいし」

「ストイックやねえ」

 そんなこんなで結果発表。

「飯田と八百万が2票で同数か、ジャンケンしろ」

 その結果、飯田君が委員長となった。

「あれ、デク君も入っとるで」

「え? 本当? 誰だろ」

 

「お米がウマい」

「お米、豆腐、ハンバーグ、全てがウマい」

「デク君相変わらずくうなあ」

「エネルギーは重要だよ」

 むしろ麗日さんはそれで足りるのだろうか。

 女の子って、不思議。

「むむ、しかし誰が僕に投票したのだろうか。しかも二人も」

「ええと、ごめん僕です」

「私もー。だってメガネだし」

 麗日さんってざっくりいくなあ。

「そうか、君たちが、僕は緑谷君がふさわしいと思ったのだが」

「へ? そうなの。じゃああの一票は君が」

「ああ、ここぞという時の胆力と冷静さが向いていると思ったのだ」

 その言葉に、胸がポカポカするのを感じる。けれど。

「……ありがとう。でも、受験の日に目の見えない僕を気遣ってくれた君なら向いてるっておもったんだ。だから、頑張ってよ」

 僕の言葉に、飯田君はハッとする。

「……わかった。僕は必ず君達の期待に応えて見せよう」

「男の友情やなあ」

 三人で笑いあっていると、麗日さんが言葉を口にする。

「そういえばさっきから気になってたんやけど、僕って、飯田君、ぼっちゃん?」

「……そういわれるのが嫌で、一人称を変えていたんだが。ウチは代々ヒーロー一家なんだ。ターボヒーローインゲニウム。知っているかい」

「インゲニウムって東京の事務所に65人ものサイドキックを雇っている大人気ヒーローじゃないか! まさか」

「僕の兄さ!」

「あからさま! すごいや!」

 僕らが話をしていると、警報が鳴る。

「あの、セキュリティ3って何ですか?」

「侵入者が来たってことだ!」

「3年間でこんなのはじめてだ!」

 僕はレーダーセンスを起動する。すると、今朝校門前にいたメディアと先生たちが口論しているのが聞こえた。

「飯田君! ただのマスコミだよ!」

「何? だがパニックになっているな」

 飯田君は少し考えると、麗日さんに声をかける。

「麗日君、僕を浮かせろ!」

 すると、飯田君が浮かび上がり、非常口のマークのように扉の上に張り付いた。

「大丈夫! ただのマスコミです! ダイジョーブ!」

 パニックに陥っていた食堂は飯田君の決死の行動で鎮静化した。

 その後はそれを見ていた上鳴君たちの口添えもあって、飯田君を名実ともに委員長として盛り立てることになった。

 

 その翌日。

 僕たちはレスキュー訓練の為に校内をバスで移動していた。

 僕の隣は砂藤君と蛙吹さんだ。

「私、思ったことは何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

「何、蛙吹さん?」

「梅雨ちゃんと呼んで……あなたの個性、オールマイトに似てる。そのコスチュームも」

 ついに来た。言われるのは想定していた。

 僕はバンダナをいじりながら答える。

「あ、うん。でも全然違うよ。僕のはあんまり出力を上げすぎると体を壊しちゃうんだ。全然オールマイトには及ばないよ」

「いや、でも緑谷はオールマイトリスペクトしてるんだろ? シンプルな増強系はいいよなあ。俺の個性”硬化”は対人じゃつえーけどいかんせん地味だよなあ」

 そう言って切島君は腕を固める。

 会話をそらしてくれて助かった。

「いや、でも固いってことはそれだけ人を守れるってことだから、格好いい個性だと思うよ」

「おう! そういわれると照れるぜ!」

「あと、私気になってたんだけど、爆豪ちゃんと緑谷ちゃんって、仲良しなの?」

「良かねえよ蛙女! 気持ち悪いこと言ってんじゃねえ!」

 かっちゃんが叫ぶ。

 僕はブツブツとしゃべりだす。

「ええと、幼稚園の頃からの幼馴染で……。ライバルで……。うまく言い表せないや」

「ケロ。複雑なのね」

「このクソを下水で煮込んだような性格の奴とよく幼馴染できるな」

「てめえのそのボキャブラリーは何だ殺すぞ!」

 上鳴くんの茶化しに乗るかっちゃん。

 かっちゃんも言うほどは怒ってない。

「かっちゃんは口は悪いけど、性格はいい所もあるんだよ?」

「デク! てめえは何目線で俺を語る!?」

「褒めたのに!?」

 そんな会話を相澤先生が止めるまで続けた。

 

「すっげー! USJかよ!」

 僕たちがついたのは本当に遊園地かと見まごうような広大な施設だった。

「ここは水難事故、土砂災害、火事、ETC。あらゆる事故や災害を想定した、その名も嘘の災害事故ルーム」

「USJだった!」

「わー13号や! 私好きなの!」

 麗日さんがはしゃいでる。

 僕も知ってる、災害救助は僕の本願でもある。

「ええ、始めるまえに小言をみっつ、よっつ、いつつ」

(((増える)))

「皆さんも知っているでしょうが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性で人を救い上げるんですよね?」

 僕の言葉に麗日さんが首がちぎれんばかりにうなずく。

「しかし、簡単に人を殺せる力です。皆さんの中にもそういう個性の持ち主がいるでしょう」

 その言葉に何人かの息を呑む音が聞こえる。

「この個性社会は個性行使を資格制にすることでかろうじて成り立っています」

「相澤先生の授業で個性の使い方を学び、オールマイト先生の授業で個性を人に向ける危うさを知ったと思います」

「この授業では人命のため、個性をどう使うかを考えていきましょう」

「みなさんの個性は人を傷つけるためでなく、救うためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

「以上ご清聴ありがとうございました」

 そう言って頭を下げる13号先生に惜しみない拍手が送られる。

「……わかっとるわクソが」

「かっちゃん?」

 何となく不機嫌そうに、かっちゃんが僕の目をみていた。

 その時、不穏な音と臭い、気配がする。

「全員ひと塊になって動くな!! 13号! 生徒を守れ!」

 相澤先生の叫びに反応する。

「何だありゃ、また入試の時みたいにもう始まってんぞパターン?」

「動くなあれは、ヴィランだ!」

「13号にイレイザーヘッドですか。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、ここにオールマイトがいるはずですが」

 不定形のモヤのような人物がその言葉を口にする。

 僕のレーダーセンスには胴部だけが捉えられている。

 変わった肉体をしているな。

 そして、あれは。

 強そうなのは、いや、あれはまさか。

「どこだよ平和の象徴。こんなに大衆引き連れてきたのにさ。

子供を殺せば来るのかな」

 確かにこの男も強い。

 あの脳みそ剥き出しの大男も、多分強い。

 そして、あの男は。

「先生! 侵入者用センサーは」

「現れたのはここか学校全体かここだけか。いずれにせよ、センサーが反応しねえなら、そういうことができる個性持ちがいるってことだな」

「13号生徒を逃がせ、上鳴は学校に連絡」

「ダメっす! 通じません!」

「チっ! おれが食い止める」

「イレイザーヘッド! あの酒を飲んでる男!」

「何だ緑谷! 知ってるのか」

 僕はみんながパニックを起こさぬよう、小さな声で端的に答える。

「以前視たことが、あの男。オールマイトと渡り合っていました」

 I・アイランドで出会ったあのヴィランが、ここにいた。

 

 




あんま原作と変わらないですが、それでもちょっとした間違いを探して頂きたいです。
ブルズアイは今の所やる気ないです。今の所はね


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VS黒霧、ミッドレンジ

「くそったれな情報ありがとうよ緑谷。俺だけに聞かせたのは賢明だ」

 イレイザーヘッドは、ゴーグルを被る。

「先生! 一人で戦うんですか!? イレイザーヘッドの持ち味は個性を消しての捕縛だ、あの人数では」

「緑谷。俺に憧れてんなら覚えておけ。一芸ではヒーローは務まらん」

 そう言うと、相澤先生は凄まじいスピードでヴィランの群れに突っ込んでくる。

 先生は個性を消しながら、捕縛布を使いヴィラン達を倒していく。

 なぜか、あの男は動かない。おそらく酒を飲んでる。

 何故だかわからないが、チャンスだ。

「とにかく皆! 逃げよう!」

 僕は皆を促す。あの男が動き出す前に逃げないと。

「させませんよ」

 そのとたん、モヤのような奴が僕らの道を塞ぐ。

 エコーロケーションでは映らないので嗅覚に頼る。

「僭越ながら、我々の名はヴィラン連合。今日来たのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいとおもってのことでして」

 切島君が飛び出そうとするが、隣にいたかっちゃんが止めた。

「クソ髪! 宇宙服先生の邪魔だ!」

 13号先生が、モヤヴィランを吸い込もうとする。

 独特な臭いが、13号先生の後ろに来る。

「ダメだ13号先生!」

 13号先生が、ブラックホールを止めた。

「成程カンがいい生徒がいますね、あと少しで自分自身をチリにしてしまっていたところを」

「く……」

「私の役目はこれ」

 そのとたん、独特な臭いのモヤが、辺りに散らばる。

 僕は片足を高く上げた。

「散らして嬲り殺す」

 思いっきり振り下ろす。

 四股だ。

 突風と地響きが、ヴィランのモヤを吹き飛ばした。

「な……!! グフ!」

「アホが!」

 ヴィランが怯んだ隙をついて、かっちゃんがヴィランを爆破した。

「ば、爆豪なんだよ! 俺を止めたり向かって行ったり!」

「ああ!! 状況判断だよボケが!! おいメガネ! とっとと走って増援よんでこいや! 相澤先生がやべえぞ!」

 かっちゃんの一喝に、飯田君が再起動する。

「あ、ああ! わかった!」

 

 

 

 

「おいおい、黒霧のやつ、やられちゃったのか。はあ、予定より早いが仕方がない。

 行け。脳無」

 

 

 

 

 

 13号先生が、声も上げられず吹き飛んだ。

 瞬間、飯田君の目の前に、オールマイト以上の体格の大男が現れる。

「フルカウル! 65%!!」

 僕はすんでのところで飯田君の前に立ち、その一撃を受け止める。

 衝撃波が吹き荒れ、皆が吹き飛ぶ。

 僕の腕の骨が、軋む音がする。

「何だ! この脳みそ剥き出しの奴!」

 峰田君の叫びがこだまする。

「飯田君! 早く!」

「わ、わかった!!」

 そう言って今度こそ、飯田君は走り出した。

 そして、ゲートの外に出た。

 

 

 

「あ、逃げられた。……ゲームオーバーか」

 その手だらけの男は、落胆のため息を吐く。

「黒霧も使えねえなあ」

「だが、どうするんだ、あの黒霧という奴がいないんじゃ帰れねえぞ」

 酒を飲む男の声に、手だらけの男は声を荒げる。

「酒ばっか飲んでるあんたに言われたくない。出入口を奪還しよう。ブルズアイ」

「へいへい。全く世話がやけるぜ。だが、まずはイレイザーヘッドだな」

 そう言うと男は、ベルトのパックルから手裏剣を取り出した。

「さあて、Let's play」

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 僕と大男は殴り合いを始める。

 だが、こちらの攻撃は全然効いていない。

 おそらくショック吸収の個性。

 それに加えて尋常でない身体能力。

 殴り合いでは無理、集中力を切らすな、相手の攻撃をすべて躱せ。

 そのすきに、かっちゃんの爆破、瀬呂君のテープ、芦戸さんの酸、峰田君のもぎもぎ、青山君のレーザーが当たる。

 だが。

「全然効いてない!」

「何だありゃあ!」

 視ると、傷口が片っ端から再生していく。

 こいつに有効なのは。

「轟君! 凍らせてくれ!」

「わかった! どいてろ!」

 僕が離脱すると同時に大男の体が凍っていく。

 だが、こいつが、体を震わせると割れた体があっと言う間に再生してしまう。

 僕は、背中に回り、首を絞める。大男は力任せに剥がそうとする。

「デクくん!」

「麗日さん!?」

 麗日さんがこちらに駆けてくる。

「うおおおおおおおおああああああああああ!!!」

 僕は叫びながら、力の限り締めあげる。

 そのすきに、麗日さんが大男に触った。

 そのとたん無重力状態になり浮かびあがった大男を見て、皆は歓声を上げた。

 大男は拳を振り回すが、空中を漂うだけだ。

 僕はビリー・クラブを投げつけ天井を割ると、その穴からヴィランを追い出した。

 

「あらら、改人脳無が無効化されるとは」

「おいおい、あんなので本当にオールマイトがやれたのか」

 その男達がするりとやってきた。

 その途端身構える1-A19名。

 だが、その男は、別格だった。

 片腕に持っている人がいる。

「あ、相澤先生!」

 相澤先生が、視るからに重傷な彼が引きずられていた。

「さて、取引だ、そこの無重力の嬢ちゃん、個性を解除しな」

 男は、相澤先生の首元にカードを突きつける。

「さもなきゃあ、君らのために戦った勇敢な先生は、死ぬ」

「は、はったりだ麗日、トランプで何やるってんだ!」

 峰田君が叫ぶと、男はクスクスと笑う。

「確かにそうだ、これじゃ分かりにくい。ホッと」

 男が指をはじくと、トランプが鉄製の武器、琉球の武器である釵になった。

 そして、そのまま背中から、イレイザーヘッドをひと突きする。

 誰かの叫び声がこだまする。

「安心しろお嬢ちゃん、急所は外してある。だが、次はどうかな」

「ブルズアイ。あんた、趣味が悪いな」

「は、あんたらほどじゃないよ。トムラ・シガラキ。おい、どうすんだ!? 俺は気が長いほうじゃねえぞ!」

 僕たちはぎりぎりと歯噛みする。

 特に麗日さんの心音が危ない。

「……聞く……な……麗……日」

「先生!」

 相澤先生がはっきりと言葉を言う。

「最後の教えだ……お前ら、クソどもの言うことは、絶対に聞くな。ヒーローやってきゃあ、こういうことはある。

こいつらは麗日の個性を解除したら最後、その脳無とやらで俺を殺し、お前らも殺す。だから、死んでも解除するな。これが最後の……命令だ。……お前らはよくやった」

 そんなことは理屈ではわかっている。けれど。

 相澤先生は、言った。

「麗日を守れ、1年A組、最後に任せたぞ」

 そう言うと、相澤先生はブルズアイの足の甲を踏みつけ、拳を振り上げる。

「バカだぜ、アンタ」

 そう言ってブルズアイは、釵で相澤先生の胴体を貫こうとする。

 瞬間、僕の体は勝手に動いていた。

(……! 速い!)

「手、離せ!」

 ブルズアイがバク転でかわし、ポケットからカードを何枚も取り出す。

 そのカードたちは全て相澤先生のところに、僕は相澤先生に覆いかぶさった。

 




黒霧ワープ阻止。
そして麗日強すぎワロリエンヌ
やっぱ最初に爆豪と切島が飛び出さなければ良かった模様


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VSブルズアイ

「で、デク君!」

 麗日さんが叫ぶ。

 だが、メリッサさん謹製のスーツはブルズアイの投擲を肉を裂く程度に留めてくれていた。

「その格好、オールマイトリスペクトか? ムカつくなあ」

 トムラと呼ばれていた男が、僕に向かって突っ込んでくる。

 それを、青山君のレーザーと芦戸さんの酸がけん制する。

 その隙に、口田君が相澤先生を抱きかかえ、逃げ出した。

「どいてろ、トムラ・シガラキ、報酬分位は働いてやる。お前は黒霧の方を」

 ブルズアイは高く飛び上がると、トランプをさっきと同じようにばら撒いた。

 瞬間、弾丸のように放たれたそれは1-Aのメンバーに突き刺さる。

 概ね轟君の氷結と切島君の硬化で防いだようだが、何人かの腕や胸にカードが刺さっている。

「いてえええええ!!」

「ぐあ、うぐ!」

「いやあああ!!」

 皆の叫び声に、僕の頭が瞬時に沸騰する。

「やめろてめえ!!」

 僕は叫び、ブルズアイに殴りかかる。

 ワンフォーオール、70%。

 だが、ブルズアイは平然と僕の拳を受け止める。

「すげえパワーだ。お前I・アイランドで会ったよな。あの時はよくも俺の投擲を防いでくれた。そのおかげで俺はこんな東洋くんだりまで来てこき使われてる!」

「どいてろデク!」

 かっちゃんが爆破で吹き飛ばそうとするが、ブルズアイは簡単にかわしてみせ、逆にかっちゃんを殴りつける。

 

(やはり増強系! どんな個性だ!?)

 

「緑谷を離せ!」

 轟君が叫ぶと、遠距離から凍らせようとする。

「おっと」

 ブルズアイは僕を離して飛び上がると、今度は轟君にドロップキックする。

 轟君もまた、壁に叩きつけられる。

 僕もまた、高速で近づいてきた奴に顎を殴りつけられダウンした。

 グラグラと脳が揺れる。

 たまらず膝をついた。

「嘘だろ! うちの3トップだぞ!?」

「怯むな、数で潰せ!」

「見ろ! USJの他のフロアからヴィランがこっちに来てる!」

「……あっちは俺にまかせろ」

「上鳴! どうすんだ!?」

「俺の放電なら雑魚ちらしに最適だ、ここじゃ皆を巻き込むから放電できねえ」

「俺も行こう。流石に一人じゃ無茶だ!」

 そう言って、上鳴君と瀬呂君があちらに向かって行った。

「あのブルズアイとやらは俺に任せてもらおう」

「常闇!」

「行くぞ! うおおおお!!」

 常闇君のダークシャドウが、ブルズアイを叩きのめそうとする。

 さらに尾白君と切島君がそれに続く。

 

 だが。

 

 ブルズアイは弾丸のような速さで接敵すると、まず常闇君を殴りたおした。そして切島君の足首を掴むと、尾白君に叩きつけた。

 障子君と砂藤君がタックルするが、二人の膂力をもってしてもびくともしない。二人は投げ飛ばされる。

 耳郎さんと蛙吹さんが、遠距離攻撃をしようとするが、ブルズアイのトランプの方が早かった。

「うおおおおおおお!!!!! オイラだってええええええ!!」

 峰田君がもぎもぎをやたらめったら投げつけるが、ブルズアイはトランプで全て撃ち落とした。

 そのまま何枚かが峰田君に突き刺さる。

 峰田君は叫び声を上げ、倒れた。

「もう止めろおおおおお!!」

 僕は立ち上がり、ブルズアイに殴りかかる。今度は、ガントレットを装備し、100%で。

 だが、ブルズアイはカウンターの要領で僕の腹を殴る。

「すごいパワーだが、当たらなければ意味がない」

 僕は血反吐を吐いて、倒れこんだ。

「どんな気分だ。お前があの女を助けなければ、邪魔しなければ、俺がここに来ることはなかった! 装置をおとなしく俺に渡してればなあ! お友達が傷ついてるのは、お前のせいだ!」

 ブルズアイはしゃべりながら何度も何度も僕の腹を蹴る。

 何度も何度も。

 遠くで上鳴君の放電音と、怒号が聞こえる。

「その恰好つけたバンダナ! 外しな!」

 僕のバンダナを、ブルズアイが外した。すると、僕の素顔が露わになる。

 

「デク君、それ」

 麗日さんの息を呑む声が聞こえる。

 僕の顔は、おそらくだが、皆に見えているのだろう。

 白く濁った眼、夥しい傷跡が。

 もう一生治ることのない、僕の傷。

「ははは、醜い面だなあ、ええ? おい」

「調子こいてんじゃねえ! くそヴィランが!」

 かっちゃんが、大爆発を起こそうとする。だが、ブルズアイが僕を盾にして、動きが止まる。

「かっちゃん、かまわず、やって……」

「んなことできるかボケが!! 死ね!」

「爆豪さん! お退きください!」

 八百万さんが、テーザー銃を撃つ。ブルズアイは躱すと、トランプを投げつけるが、氷の壁で防がれる。

「その氷、右側でしか出せないんだろう?」

 ブルズアイはかっちゃんに手裏剣を投げながら言う。

 かっちゃんは手裏剣を胸部に喰らい、倒れた。

 ブルズアイはボクシングのフットワークで追撃すると、轟君の左側を回り、攻撃していく。

 そのうちに、轟君の体に霜が降りてくる。

「ほれ、終了」

 轟君の顎にブローが突き刺さり、ノックダウンする。

「轟さん! ああ!!」

「うっとうしい女だ。……しかししぶてえ、誰も死んでねえとは」

 そう言いながら、ブルズアイはナイフを取り出す。

「そろそろ一人位殺しとくか」

 そう言って、八百万さんにナイフが振り下ろされそうになると、途端に炎が吹き荒れる。

 轟君だ。

「くそ、そいつを、離せ!」

 轟君の決死の攻撃を、ブルズアイは嘲笑うように対処する。

「おおこわ」

 奴は八百万さんを盾にした。

 炎の勢いが弱まり、さらにブルズアイはナイフを投擲する。

 轟君はそれを氷で防ぐが、一撃で粉々に砕かれる。その時、僕は唐突にひらめく。

「……エンドルフィンか」

 八百万さんが僕に尋ねる。

「? 何を緑谷さん?」

「そいつが、行動するとき、攻撃をかわす時など、心臓が収縮して極端に集中するときに、身体機能が上昇している。だからエンドルフィンか、ドーパミンが出ているときに、身体能力が上がる個性だと、思う」

「へえ、正解だよ。盲目のガキ、エンドルフィンで正解だ」

 

 ブルズアイ 個性「エンドルフィン」

 エンドルフィンが分泌されるほど身体能力が強化される個性。

 つまり、集中すればするほど強くなる!

 

「だからよ、冥土のみやげは十分渡しただろ? さっさと、死ね」

「死なせはしないわ」

 その途端、全裸の葉隠さんが、後ろから羽交い締めにして、首を絞める。

「今だお茶子ちゃん!」

 葉隠さんが麗日さんに叫ぶと、麗日さんは裂帛の気合いで飛びかかる。

「うあああああああああああ!!」

「麗日さん!」

「なめるなああああ!!」

「きゃあ!!」

 ブルズアイは葉隠さんを力任せに引き剥がすと、思いっきり叩きつけた。

 そのまま麗日さんの腹を思いっきり殴りつける。

「やめろ! てめえ!!」

 かっちゃんが追撃するが、ブルズアイの裏拳であえなく吹き飛ばされる。

 さらにブルズアイはトランプを構える。

「皆! 首を守って!」

 僕が叫ぶと、ブルズアイのトランプが投げられた。僕の腕にザクとトランプが刺さった。

 皆のうめき声が響く中、ブルズアイは麗日さんに近づく。

 麗日さんの膝を踏みつけ、折る。

 麗日さんの悲鳴が、施設内にこだまする。

「舐めんじゃねえ!」

かっちゃんが爆速で近づき、右の大振りをするが簡単に避けられる。

「おお、まだ立つか! お前も増強系か?」

「違えよボケ! 俺の前で! もう誰にも何も失わせねえ! 自分にそう誓ったんだよ!」

 かっちゃん……。

「なら何故弱い?」

 だが、ブルズアイはアッパーを鳩尾に撃ち込み、かっちゃんは動かなくなった。

「さて、嬢ちゃん、解除しろ」

「……絶対! せえへん!」

 麗日さんの心臓が跳ねるが、震える声で叫ぶ。

「ほう、頑張るね」

 さらにぐりぐりと折れた足を踏みつける。

 麗日さんの悲鳴に、誰もが立とうとするが、立つことができない。

「じゃあ、死ね!」

 そう言ってブルズアイが腕を振り上げた瞬間、僕の中でプツリと音がする。

 

「ワンフォーオールフルカウル……100%!」

 

 衝撃音が辺りに響き、ブルズアイがこちらを見る。

 その途端、レーダーセンスがさらに聞こえるようになった。

 ブルズアイのパンチが、手に取るように分かった。

 僕はその右手を掴むと、思いっきり握りつぶした。

「GAAAAAAAA!!」

「痛いか?」

 僕は尋ねる。

 

「今からアンタを、液体になるまで、殴る」

 

 僕の拳が深々と刺さった。

 ボディブロー。テンプル。リバー。ジョーと拳を入れていく。そのたびにきしむ拳を無視し、振りぬく。

 ブルズアイもまた、殴り合う。

 僕の体に攻撃が五発当たる間に、一発がブルズアイにめり込む。

 それでもダメージは、あっちの方が多い。

 ブルズアイが中指を耳に突っ込もうとする。

 僕はその指を折った。そして、投げ飛ばす。

 ブルズアイは地面と平行に飛んで行った。

 さらに、僕は飛んでいくブルズアイに追いつき、その首を掴む。

 ブルズアイもまた、僕の首を掴み、締め上げる。

 バチバチと、ワンフォーオールが瞬くが、僕は意に介さない。

 

「お前をどこにも! 行かせない!」

「お前に皆を傷つけさせない!」

「お前をここで! 仕留める!」

 

「やっちまえ緑谷ー!!」

 峰田君の声がする。

「ぶちかませー!!」

 切島君の声がする。

「勝って! デク君ー!!」

 麗日さんの声がする。

 

「なめるなガキがああ!!」

 ブルズアイが僕の鳩尾を蹴り上げる。

 僕は顔面を殴りつける。互いに吹き飛ぶ。

 

 その時、扉が開く。

「もう大丈夫! 私が来た!!」

 オールマイトがやってきた。

 皆が安堵の声を出す。

 その顔は笑っていないのだろう。

 だが、地面を転げまわったブルズアイを、あのモヤが覆った。

「逃げられる、逃がさない!」

 けど、足が嫌な音を出して、僕は倒れた。

 ブルズアイが叫ぶ。

「ガキ! てめえはここで、仕留める!」

 ブルズアイが手裏剣を放つ。

 弾丸よりも速く飛んでくるそれを、オールマイトは拳圧で防ぐ。

 やっぱりかなわないな。

 僕はそんなことを思いながら、意識を手放した。

 




ブルズアイ強くしすぎたか?
まあでもボスキャラなんてこんなものか


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死闘終わって

今回は実は2話分でしたが、キリ良く1話分に直してます。なのでちょっと長めです


 SIDE オールマイト

 

 まるで、野戦病院だった。

 怪我がなかったのは飯田少年、口田少年、上鳴少年、瀬呂少年、だけだった。

 生徒の中で一番重傷だったのは緑谷少年。

 両足と肋骨の骨折と、腹部の打撲による内臓の損傷。

 背中には無数の裂傷、出血多量。

 麗日少女は右足の開放骨折。靭帯損傷。

 爆豪少年は内臓の出血による意識の混濁。

 他の少年少女も一様に切り傷を負っていた。

 先生も、相澤君が出血多量により意識不明の重体。

 13号も意識不明のまま救急搬送された。

 I・アイランドで会敵したあのヴィラン。

 あいつのせいで、生徒達は……。

 いや、違う。

 あの時、逃がした私のせいで、巡り巡って生徒達が怪我を負う事態となった。

 

 何が、平和の象徴。

 何が、ナンバーワンヒーロー。

 空しさが、心を貫く。

 

 許さんぞ、ヴィラン連合。

 

 SIDE 緑谷

 

 僕は、USJの一件から丸一日経って意識を回復した。

 原因は分かっている、ワンフォーオールを100%使ったからだ。

 その結果、僕の体はボロボロになり、入院を余儀なくされた。

 お母さんは泣きながら看病してくれた。

 だが、僕の心は別のことでいっぱいだった。

 僕があの時、I・アイランドで余計なことをしたせいでブルズアイはあそこに来た。

 そのせいで、皆が傷ついた。

 僕のせいで。

 オールマイトが、僕の病室にお見舞いに来た。

 その時に、僕は申し出た。

「皆に全て言う!?」

「もちろんワンフォーオールのことは言えませんけど、僕があなたの弟子としてI・アイランドに行ったことは言いたいんです。そのせいでみんなを巻き込んだから」

「だが、ブルズアイの言葉を真に受けることはないぞ」

「それでも、皆傷ついたんです。皆、僕を受け入れてくれたいい人達でした。そんな皆を、間接的にとはいえ、僕は傷つけたんです。だから、せめて真実は言いたいんです」

 そういう僕は、シーツを思いっきり握りしめた。

 灼けた涙腺から、涙は出なかった。

 

 

 SIDE 切島

 

 休校日明けの教室は、沈んだ空気だった。理由はわかってる、緑谷だ。

「なあ、爆豪、お前緑谷の様子聞いてねえか?」

「デクのことなんざ知るかよ……」

 爆豪が機嫌の悪そうに言う。

「入院先分かるか? 皆でお見舞いに行こうぜって話しててさ」

「勝手にしろ、俺は行かねえ……。丸顔はどうなんだ、あいつ除けば一番重傷だったろ」

 女子に丸顔って、お前。

「うん、リカバリーガールのおかげで何とか。爆豪君救けてくれてありがとうね」

「……救けられてねえだろ。救けたのはデクだ」

「……それでもありがとう」

 そういうと、麗日はにっこりと笑った。

 殺されそうな目にあったってのに、俺達に心配かけまいと笑っているのだろう。

 すると、相澤先生が入ってきた。

「相澤先生復帰はええええ!!!」

 相澤先生は包帯まみれだったが、何とか復帰という感じだ。

「先生! 大丈夫だったんですね!?」

「ああ、ギリギリ生きてたよ。おかげさまでな」

「それで先生! 緑谷のやつは!?」

 俺はたまらず立ち上がって、先生に聞く。

「あいつなら命に別状はない。だが、リカバリーガールの治癒による体力不足で三日間は入院だそうだ」

 その途端、みんなの安堵の声が響く。

「緑谷の見舞いにみんなで行こうって話してたんですけど、大丈夫ですか?」

「ああ、行ってやればいいが……。あんまり大勢で押しかけるなよ」

 相澤先生が、俺達を見回す。

 見るとセメントス先生やミッドナイト先生が扉の前に立っていた。

「まず、緑谷には後で言うが、全員生きていてくれてありがとう。良く麗日を守った。

 あの時、あの脳みそヴィラン……脳無と呼ばれていたか、あいつが行動開始していたら、それこそ何人死んでいたかわからねえ」

 その言葉に一同が緊張した面持ちになる。

「……そういえば、13号先生は大丈夫だったんですか?」

 麗日はおずおずと口にする。そうだ、13号先生もあのヴィランに吹き飛ばされたんだった。

「13号も命に別状はない。分厚い宇宙服ってコスチュームじゃなかったら、どうなっていたかは分からなかったそうだがな。

 だから麗日、あの時お前があいつを個性を使って封じたのは皆を助けた英雄的行動だった。ありがとうな」

 皆が麗日に感謝の声を送る。

 麗日は少し涙ぐみながら、笑った。

 そんなパワーの持ち主と殴り合っていた緑谷は、凄い奴なんだなと俺は感心した。

「そして何より、あのブルズアイと呼ばれていた男、あいつに俺が負けたせいで、お前らを辛い目に遭わせた」

 そういって、深々と相澤先生が深々と頭を下げる。

 その行動に、俺たちは驚愕するが、爆豪が大声を出す。

「あんなつええヴィランにタイマンで何とかしようなんて無理な話だろ! 謝られる筋合いねえわ!」

「爆豪の言う通りです。それ言ったら俺ら結局蹴散らされるばかりで、何もできなかった」

 轟が沈痛な面持ちで声を上げる。

「……ありがとよ」

「けど、あの男、一体何者だったのかしら。あんな強いヴィランなのに、聞いたことないわ」

 梅雨ちゃんが疑問を口にする

「緑谷ちゃんが彼を知ってた風だったけど、何だったのかしら」

「その説明に! 私が来た!」

 そこに現れたのがオールマイトだ。俺達は歓声を上げる。

「オールマイト先生!」

「一昨日はありがとうございました!」

「ありがとうか……、そんな言葉を言われる資格は、実は私にはないんだ。奴が雄英に来たのは、私が原因かもしれないからね」

 その言葉に俺達は首を傾げる。

「まず、私はおよそ1年前、I・アイランドであのヴィランと交戦したことがある。

 その時は、相手も名乗りはしなかったが、まさかあのブルズアイだとは思わなかった。

 奴の目的は私の親友デヴィット・シールドが携わったある研究開発中の装置の奪取。

 そこを偶然シールド宅に滞在していた私と緑谷少年が阻止した」

「シールド博士って? あのノーベル個性学賞のシールド博士ですか?」

「そんな人とオールマイトが、何で緑谷と一緒にいたんだよ」

「私と彼の個性は似ているだろう? それを知った私は、彼をスカウトしたんだ。彼の迷惑になるからと、公言は避けたがね」

「ってことは、緑谷ってオールマイトの弟子だったのかよ!」

「ケロ。でもそれなら納得ね」

「……ケ」

 爆豪が不満げに舌打ちする。

「緑谷のことはいいとして、『あのブルズアイ』ってことは、有名なヴィランなんですか?」

 芦戸が、手を上げて言う。

「……これは、警察に緘口令が敷かれている情報だ。

 だから他言は控えてほしい。

 奴の名はブルズアイ。アメリカ裏社会のフィクサー“キングピン”のお抱え暗殺者であり……全米全土の暗黒街にその名を轟かすヴィランだ。

 オフィシャルな記録はないが、何人もの政治家や企業家、ヴィラン、プロヒーローまでもが奴の餌食になっていると言われている」

 そのオールマイトの言葉に、俺達は震えあがった。

「そ、そんなとんでもねえヴィランだったのかよ……!! 俺もぎもぎ投げちゃったよ……!!」

 峰田は特に震えあがっていた。

「そんな凄いヴィランに恨まれているって、一体デク君は何したんですか?」

「……装置を抱えたブルズアイは、私から逃げきれないと思うと、私の隙を見つけるためにシールド博士の娘さんに手裏剣を投げつけた。

 それを緑谷少年が既のところで庇い、逆に手裏剣をはじき返し、ブルズアイは装置を取りこぼしたというわけだ」

「本当に人間か緑谷は」

 上鳴は真っ青な顔で言う。

 けど緑谷の奴、身を挺して女の子を庇うとは男だぜ。

「……では、そのキングピンという男が雄英襲撃の黒幕ということでしょうか?」

「八百万少女の言うことは尤もだが、キングピンという男は、アメリカの裏社会の中心に位置している男だ。調べようにも情報は出ないし、奴が日本に勢力を伸ばしているという話もない。

 ブルズアイ自身はもともとフリーランスの暗殺者だから、キングピンが関わっているという線は薄いんじゃないかというのが警察の見方だ」

「以上が、君達に言える全てだが、ここでヴィランと交戦したお前たちに問いたい。

 お前たちは一年生にも関わらず、俺達学校は守ることができなかった。

 もし、お前たちが望むなら、普通科への編入や、他のヒーロー科への編入を認めるとのことだ。

 お前たちはどうしたい?」

 相澤先生が俺達を見回して言う。

「ケ! くだんねえこと聞くなよ先生!」

 爆豪が立ち上がって言う。

「俺はオールマイトをも超えるヒーローになる!

 ヴィランにビビッてケツまくってられっかよ!」

 爆豪の言葉に轟も続く。

「俺も一緒だ。ヴィランにビビるヒーローなんて存在する意味がねえ」

 その言葉に、皆もめいめい決意を口にする。

 皆、怖いことはあっても、逃げだすことはしなかった。

「確かに、ビビってらんねえよな。緑谷はたった一人で立ち向かったんだ!」

「私達、ヒーローになる為に雄英に来たんだもんね!」

「よし! 皆! やってやろうぜ!」

 俺が叫ぶと、皆一斉に手を振り上げた。

 相澤先生は、ボソリと呟いた。

「ありがとうな」

 

 SIDE 緑谷

 

 僕は、入院中のベッドの上で、一心不乱に絵を描いていた。

 これで18人目っと。

 そろそろお昼時だなというところで、扉がノックされる。

「はい、どうぞ」

 僕は、思いもよらない人物に当惑する。

「め、メリッサさん? オールマイト! メリッサさんが何でここに?」

「えへへ、来ちゃった。イズク君が入院したって聞いて、心配になって、パパに無理言って来たの」

 そう言って、花のように笑った。

「そんな、申し訳ないです」

「ううん、けど、あの時私達を襲ったのがあのブルズアイだったなんて、私知らなかった。あらためてありがとう」

「いえ、僕もメリッサさんのガントレットにはずいぶん助けられました」

「ん、ちょっと見して。……やっぱり、もう壊れてるわね。新しいの、持ってきたの」

「すいません、僕はまた無茶をして。怪我しないって約束したのに」

「いいの。あなたはクラスメイトを救けたんでしょ。ヒーローとしての活動をサポートするのがサポーターの役目だもの」

 けれど、とメリッサさんは前置きする。

「あんまり無理したら、駄目。やるなら、ちゃんと帰ってきて。お願いだから、ね」

 そういってメリッサさんは僕の手を握る。

「ちゃんと戻ってきたら、私はまた貴方が飛び立てるよう、全力でサポートする。だからお願い、必ず帰ってきて」

「……はい!」

 そういった所でオールマイトが咳払いをする。

「緑谷少年、君の言う通り、皆には私達の関係を言っておいた。皆驚いていたが、君を悪し様に言う人は一人もいなかったよ」

「……そうですか。……あの、僕、雄英に居てもいいんでしょうか?」

 僕の問に、オールマイトもメリッサさんも首を傾げる。

「これであのヴィランは、今後も僕を狙ってくる。そうなった時、皆を巻き込むんじゃ……」

「……確かに、その懸念はある。だが、雄英に通いヒーローを目指す以上誰もがその危険はある。ヴィラン連合の目的はあくまで私だしね」

「でも、僕は、皆を、これ以上」

 そういってスケッチブックを握りしめる。

「皆いい人達なんです。それを、あの時、怖かった、誰か死んでしまうんじゃないかって、僕は」

「マイトおじさま、私に任せて」

「メリッサ……。緑谷少年、あまり気に病むな。君の所為ではない、私達大人の責任だ」

 そう、オールマイトは言ってくれたけど、僕の頭はグルグルとそれで一杯だった。

 その後、オールマイトは立ち去り、メリッサさんと二人きりになる。

「そのスケッチブック見せてくれる?」

「……はい」

「わあ! 素敵な絵ね! 最初のページの子は?」

「……麗日お茶子さん、無重力の個性を持ってて、いつも仲良くしてくれて、入学試験では僕を助けてくれたんです。一昨日も、相手を拘束して僕を助けてくれて」

「次の子は? 眼鏡をかけた、キリっとした子」

「飯田君、僕らのクラスの委員長で、麗日さんといっしょに三人でいることが多いです。いつも真面目で……」

 その後も、一人ひとりメリッサさんに説明する。耳郎さんや障子君は聴覚仲間で友達になったこと。峰田君は、スケベだけど気のいい奴で、いざという時勇敢に戦ったこと。蛙吹さんは、いつも冷静でクラスの為に動いてくれたこと。轟君は最初とっつきにくかったけど、クラスの皆のためにブルズアイに立ち向かったこと。

 他にも、入学して1週間程度しか経ってないけど、大切な友達と、きっとこれから友達になる人たち。

「皆、勇敢に戦ったのね……。流石ヒーローの卵たち、凄いんだ」

「はい、凄い人達です。個性じゃなくて、戦う意志が」

「……そこまで分かってるなら、信じてあげてもいいんじゃない」

「信じる?」

 メリッサさんが僕の頭を撫でて言う。

「あなたが皆を守りたいって思うことと同じくらい、皆もあなたを守りたいってこと。大切に思ってるってこと、これから友達になりたいって思ってるってこと。そして、ヴィランに負けないヒーローになりたがっていること。それくらい、信じてあげてもいいでしょう?」

 メリッサさんは、僕の頭から手を離し、席を立つ。

「お昼、買ってくるわ、イズク君沢山食べるけど、私のおごり」

 そういって、メリッサさんは立ち去る。

 僕は、メリッサさんの言葉を反芻する。

「信じる……か」

 その後はお昼を食べて、眠りについた。

 

 SIDE切島。

 

「結局全員で来ちゃったなあ」

「しょうがねえよ。あんなことあったんだし、早く行って長居せずに帰ろうぜ」

 果物の盛り合わせを片手に俺が皆に言う。

「病院の中では静かに。 皆静かに歩くんだ」

「飯田君フルスロットルや」

 飯田がせかせかカクカクと動いている。

「お、ここだな」

 緑谷と書かれた病室を見つけ、俺はノックする。

「はーい」

 女の人の声、あいつの母さんか?

 その扉を開いたのは、金髪碧眼の女の人だった。

 俺達は思わず表札を確認する。

 緑谷の個人病室だよな?

「あ、君、切島君? 麗日さんに飯田君もいるね。ていうか皆いる!」

「へ? あの、誰すか?」

「あはは、ごめん、私メリッサ・シールド。イズク君の友達なの」

 そういって、メリッサさんは俺達と握手していく。

「今、丁度眠ってるの、できれば、入ってあげて」

 そういうと、メリッサさんは俺達を病室に招き入れる。

 流石に全員は入りきらず、代わりばんこにだが、緑谷の様子を確認する。

 緑谷の様子は、両足にギブスをしていたが、血色自体はよさそうで、俺達は安堵する。

 メリッサさんは紙コップに紅茶を注ぎ、皆に配っていく。

「あのう、デク君……イズク君の容体はどうなんですか」

「リカバリーガールの治癒の甲斐あって、怪我自体はほとんど治っているの。今は体力的な面で眠っちゃってるわね。お昼なんてライスボールを20個も食べてたから元気なものよ」

「それは良かった」

 麗日はホッとした様子だ。

 八百万がおずおずと手をあげる。

「あの、シールドということは、メリッサさんのお父様は、あの」

「ええ、デヴィット・シールドよ」

 その言葉に、俺達は驚く。ノーベル個性学賞受賞者の娘か、すげえぜ。

「ってことは、緑谷がI・アイランドで守ったってのも」

「ええ、私」

「緑谷、お前よくやったぞ。こんな美人な姉ちゃん守るなんて」

 峰田がしみじみという感じで声をかける。

「今は眠っちゃってるけど、皆のこと、私に教えてくれたわ。皆親切にしてくれるって、嬉しそうだった」

 そういうとメリッサさんはどこからかスケッチブックを取り出す。

 そこに描かれていたのは、写真のような精度の、俺だった。

「え、これは、ひょっとして」

「イズク君が描いたのよ」

「「「「えええええ!!!」」」」

「う、嘘だろ。すげえ」

 めくっていくと、クラスの皆の姿が、それこそ写真と言っても信じるほどに綺麗に描かれている。

 誰もこれが全盲の人間が描いたとは思わないだろう。

 流石に芦戸の黒目みたいな色彩の部分は表現出来てないが、緑谷の優しさが出てるような筆味だった。

「葉隠さんって女の子は描いていいかわからないから描いてないって言ってたわ。その子以外は描かれているのよ」

「へえええええ!!」

「ほんま、これで食べてけそうやね」

「ケロ、凄いわ緑谷ちゃん」

「……私も描いてもらおうかな」

 そう言って盛り上がっていると、緑谷が身じろいだ。

「あ、やべえ起こしちまったか」

「……みんな、みんな!」

 緑谷がガバっと起き上がる。

「みんな、お見舞いに来てくれたの?」

 緑谷が戸惑った様な声を上げる。

「かっちゃんまで、ひょっとしてクラス全員?」

「ああ、そうだぜ!」

「俺は無理矢理引きずってこられたんだ!」

「まあ、いいじゃねえか……緑谷」

 そう言うと、俺は緑谷に向かって頭を下げて言う。

「すまねえ緑谷! お前ばっかりに任せちまって、本当は俺が盾になんなきゃならなかったのに!」

「き、切島君!?」

「お前のおかげで皆助かった。だから、ありがとう!」

 俺が叫ぶと、緑谷は困ったように言う。

「けど、あいつが現れたのは、僕のせいで」

「んなもんあいつの逆恨みだ! 気にすんな!」

 俺は躊躇いなく言い切る。

 緑谷はその一言に呆気にとられたようになる。

「切島の言う通りだ。ヴィランがヒーローを逆恨みするなんて良くあることだ。いちいちまともに取り合ってたら身がもたねえぞ」

 轟が近づいてくる。

 それを皮切りに皆が一斉に緑谷に近づいてくる。

「USJでは庇ってくれてありがとう。それに引き換え僕は逃げるばかりで。僕は委員長失格だ」

「飯田君! そんなことないよ! 君がオールマイトを呼んでくれたお陰で皆助かったんだ」

「緑谷〜おいら凄い怖かったぜ! ブルズアイってやべえ奴なのに、お前はたった一人でメリッサさん守って、かっけーやつだよお前は」

「峰田君も、あの時、峰田君の声も聞こえてたよ。ありがとう」

「俺、あん時雑魚の方行ってたけど、お前らヤバい状況だったんだな。すまなかった」

「上鳴君。君が何十人ものヴィランを倒してなかったらもっと不味い状況になってたよ。すごいよ」

 その後も口々に感謝の言葉を口にする。

 その一言一言に、緑谷は丁寧に返していく。

 やっぱこいつ、いい奴だな。

「その、ごめん、皆。僕がこの個性を使いこなせてれば、あいつにあんな……」

「おお、確かにあのふるかうる100%って技、凄かったぜ」

 と峰田が言う

「かっこよかったけど、あんまり使わないでよ? 何度もケガされたら心臓に悪いよ」

 と芦戸は心配げに言う。

「ごめんはナシな。お前のおかげで助かったんだから、言いっこなしだぜ」

 砂藤が、肩を叩いて言う。

「それに、誰かを助けるヒーローになるために私達はヒーロー科で学んでいくんだもの。だから自分のペースでいいのよ、緑谷ちゃん」

 梅雨ちゃんが、頭を撫でながら言う。

 緑谷はしばらく俯いたと思うと、泣き出しそうな顔で、笑った。

 その顔は、どこか憑き物が落ちたように晴れやかだった。




緑谷のコミュ回。
メリッサさんがどんどん聖母になってく。
もっとイズクを実験台にするなどのエキセントリックな行為をさせねば。


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雄英体育祭
退院と新たなる闘い


100,000UA突破ありがとうございます!


 皆が帰った夜、今度は相澤先生がお見舞いに来た。

 珍しく髭を剃って、スーツを着ていた。

「背中は、大丈夫だったか?」

「はい、先生こそ」

「お前に庇われたおかげで、俺は生きてる。立場があべこべだし、本当は叱らなきゃいけないんだが。ありがとよ」

「はい、僕はオールマイトだって救けられる位のヒーローになります。それが幼い日からの夢ですから」

「そうか、……ヒーローとして長くやっていると自分のことで精一杯の奴が大勢いる。そんな中で、お前は俺を助けるために力を使った。

 その夢大事にしろよ」

 そう言って相澤先生は肩を叩く。

「……はい!」

「だが、無理と怪我だけはすんな。非常事態以外でその100%とやらを使うのは今後禁ずる。いいな」

 それは当然だろう。僕は肯く。

「はい。今の許容上限は70%程度で、まだまだです。」

「百里を行くものは九十里を半ばとする。単純には言えんが、あまり焦るなよ。お前が一番分かってるだろうがな」

「はい! あ、母さんだ」

「あら、先生。早めに来ていたんですね」

 母さんが入ってくると、相澤先生は向き直る。

「お母さん、イズク君には助けられました。本来は私が助けなければならない所をです。お叱りは甘んじてうけます」

 そう言うと、先生は深々と頭を下げた。

 母さんはハッとするが、すぐに先生の肩に手を置く。

「出久から聞いているでしょうが、出久は貴方のファンでした。戦闘向けの個性でないのに肉弾戦を得意とするヒーロー。

 4歳の頃無個性と診断され、6歳の頃光を失ったこの子が8歳になったある日、突然、ボクシングジムと柔道場に通わせてくれと言い出したんです。

 それもあなたの影響です。あなたの影響で、出久は体を鍛え始めた」

 母さんはそこで言葉を区切る。

「だから、今この子の個性に体がついていけているのはあなたのおかげでもあるんです。だから、どうか、顔を上げて、この子の夢を、叶えてください」

「……全力を尽くします」

 そう言うと、僕の頭を撫でて、先生は病室を出て行った。

 

 他にも、葉隠さんが僕に絵を描いてもらいにきた。

 葉隠さんは、僕の絵を見て、これが自分の姿なのかと不思議そうだったが、何度も何度もお礼を言われた。

「葉隠さん、ブルズアイに叩きつけられてなかったっけ? 大丈夫だった?」

「平気平気傷も跡になってないし」

 透明人間ジョークなのだろうか。

 けど、僕はその傷の匂いがわかる。

「いや、打ち身になってるでしょ、リカバリーガールに見てもらった方がいいよ」

「……緑谷君には、かなわないなあ。

 きっと、私がどんなに隠れても、隠しても、容易く見つけちゃうんだね」

 葉隠さんはそう言うと、朗らかに笑って帰っていった。

 僕は何となくもう一枚、葉隠さんの絵を描いた。

 

 

 その後僕は復学した。

 

 その初めてのホームルーム。

「雄英体育祭があります」

「「「学校ぽいのキター!!」」」

「本当は開催するべきでないとの声もあった。お前ら何人もケガしたしな。けれど、だからこそ開催し雄英の管理体制が盤石であることを示す必要があるとの結論に達した」

「英断ですね先生!」

「うおー! 燃えてきた!」

 僕もまた、覚悟を決め、ブレスレットを撫でる。

「緑谷、気合入ってるな」

「うん、メリッサさんも見てくれてるからね、僕が活躍するところ見せないと」

 その時、ドクンと麗日さんの心臓が音を立てる。

 ? なんだろう。

「麗日さんどうしたの? 不整脈?」

「へ!? ううん! 何でもない!」

 気のせいだろうか。

「おい、話の途中」

 その途端しーんと静まる一同。

 統率力あるなあ流石イレイザーヘッド。

 その後は体育祭の概要説明があった。

 サポートアイテムは必要最小限のものしか持ち込めないので、ビリー・クラブもガントレットも持っていけない。訓練しないとな。

「あと、緑谷は選手宣誓があるからな」

「そっか、入試1位だもんな」

「頑張れよー!」

「ケ!」

 僕は、文言を休み時間中に考えながら、午前の授業を乗り切った。

 

 昼休み、食休みしてる時に、僕は思い切って麗日さんに尋ねた。

「で、麗日さんは、何か悩んでるの?」

「へ! 何で!」

「いや、何となく、さっきから様子がおかしいし」

「ううん、実はね。体育祭なんだけど」

 僕達は、麗日さんの家が建設会社をやっていること、経営が苦しいこと、父母に楽をさせたいためにヒーローを目指していることを告げられた。

「立派な目標じゃないか」

「そうだぞ麗日君、何を悩む必要がある?」

「けど、USJでね、危ない目にあって私思ったんだ。ヒーローになるって恰好いいだけじゃなくて大変なんだって。

私、こんな不純な目標で続けていいんかなって。だって最終的にはお金だし」

 その問に、僕は麗日さんの肩を掴む。

「麗日さん、僕も一緒だよ。お母さんを楽させたい。そのためには心配させないようなヒーローにならなきゃ駄目だって。

 だから体育祭で優秀な成績を示して、皆にこう言うんだ。僕は大丈夫って」

「デク君……」

「それに、ヒーローにだって大切な人や、特別な人がいたっていいじゃないか。

 それが家族ならなおさらさ。むしろそういう人を大切にしない人間に、誰かを思いやるなんてことできるはずがない」

 今回母さんに心配されて、母さんと相澤先生の話を聞いて思ったことだ。

 僕は母さんが大切だ。

 だから、母さんに、もう二度と心配させない。

「せやね……私、頑張るよ。母ちゃんと父ちゃんに見せてやるんや、立派なとこ!」

「その意気だ! 麗日君!」

「デク君も飯田君もライバルだからね! 負けへんで!」

「うん! のぞむ所だよ!」

 そう言いあって、僕達は笑いあった。

 

 

 

「ふむ、緑谷少年に発破をかけようと思ったが、いらない心配だったようだな」

 その巨漢は、緑谷を見据えていた。

「何してるんですかオールマイト」

「あ、相澤君。何か」

 オールマイトに相澤がするりと近づく。

「あんまり緑谷を贔屓しないでくださいよ? 他の生徒がいらん気を回しかねない。ただでさえアンタの弟子ってこととあの成績だ」

「ふむ、いらん嫉妬を起こしかねないという訳だ」

「分かってるならいいです。緑谷のこと、ちゃんと信頼してやってください」

 そう言い残し、相澤は教室に行く。

「はは、信頼か。確かにな」

 オールマイトは苦笑した。

 

 

 放課後。

「うおー、何事だー?」

 たくさんの生徒が、僕らの教室を見渡していた。

「出れねーじゃん何しに来たんだよ」

「敵情視察だろタコ」

「緑谷ー! お前の幼馴染どういう教育受けてんの?!」

 峰田君が僕に向かって叫ぶ。

「お母さんは結構厳しい人だけどねえ」

「余計なこと言うなデク! ヴィランの襲撃を勝ち抜いたクラスだもんなあ。本番前に見ときてえんだろ

 意味ねーからどけモブども」

 かっちゃんー!!

「ごめんなさい! ウチの子が本当にもう!」

「デクどけえ! 意味ねーもん意味ねーって言って何が悪いんだ!」

「僕が言いたいのはそこじゃなくてモブの方だから!」

「こういうの見ちゃうと、幻滅するなあ。普通科にはヒーロー科落ちた人間も結構在籍してるんだ」

 ずいっと男子生徒が近づいてくる。

 身長は177センチ程度かな、そしておそらく格闘技経験はないが体は鍛えている生徒だ。

「知ってるかい!? 体育祭のリザルトによっちゃあヒーロー科編入も検討してくれるんだって。

 俺は偵察じゃない。調子のってると足元ゴッソリ掬っちゃおうっていう宣戦布告に来たつもりだ」

 この人も不敵な人だな。

「おい! 隣のB組のもんだけどよ! 敵と戦ったっつうから話聞きにきたんだがよう偉く調子づいてるなあ!本番で恥ずかしいことになるぞ」

 また不敵な人来た。まあとりあえず敵の話は丁重にお断りする。

「あーすいません。警察から緘口令が敷かれているので」

「あーそうなのか! ごめんな!」

「……て、かっちゃん何帰ろうとしてんの! せめてなんか言ってから帰って!?」

「関係ねえんだよ」

 かっちゃんは言う。

「上に上がりゃあ関係ねえ」

『ああ、何もねえよ。デクに個性があろうがなかろうが関係ねえ。俺は俺で上に行く。そんだけだ』

 かっちゃん……!

 僕達を置いて、かっちゃんは去っていこうとする。

 その目の前に一人の女の子が立っていた。

 かっちゃんはその子をみて、驚いた様子だ。

「……てめえは」

 その子はかっちゃんに軽く会釈すると、僕の目の前に立つ。

 その髪の毛は反響音から、茨のようになっていることが分かる。

 背は僕の方が気持ち高い位だろう

「ええと、君は、どなたかな」

「B組の塩崎茨と申します」

「あ、どうも、A組の緑谷出久です」

 お互いに深々とお辞儀をする。

「……ずっと、お会いしたかった」

 そう言うと、塩崎さんは、僕に抱き着いた。

 

 

 ……へ?

 

 

 

 時間が静止していた。

 僕はとりあえず先ほどのB組の人に顔を向ける。

 ぶんぶんと首を振る。

 次に普通科の男子に顔を向ける。

 ぶんぶんと首を振る。

 A組の皆に顔を向ける。

 ぶんぶんと首を振る。

 僕は目の前の顔と顔を合わせる。

 彼女は僕の首元に近づき頬と頬を合わせる。

 所謂チークキスだ。

 むっちゃくちゃいい匂いした。

 そこまでされて、ようやく処理が追いついた、顔面に血が集まって来る。

 僕はとりあえず彼女から離れた。そして尻餅をつく。

「あ、え、あの、お知り合いでしたっけ?」

「……やっぱり、あなたは私を覚えていませんね。ですが、私はあなたを覚えています」

「は、はあ。ええと、どういうこと?」

「ここに来ればあなたに会えると思って、私は雄英に入学しました」

「はあ」

「ですので、私は宣言します」

 

「私は体育祭で優勝し、必ずあなたを手に入れると」

 ビシリと僕を指さし彼女は告げる。

 

「それではA組のみなさまご機嫌よう。雄英体育祭では、全力で戦いましょう」

 

 そう宣言した後、スカートをつまんでお辞儀をし、彼女は去っていった。

 

「……俺ら何見せられたの?」

 普通科の男子に言われる。

 いや、僕に言われても。

「緑谷ー!! どういうことだ!? どんな感触だった!? あの子に何したてめえ! メリッサさんだけでもギルティなのにてめえよー!!」

「峰田君落ち着いて! 僕も訳わかんないんだよ!」

「何あれ! 恋愛の気配! どういうことー!?」

「芦戸さんも落ち着いて! 僕に言われても!」

「体育祭にそういうシステムあったんだな」

「ですわね」

「轟、八百万、おそらく違うぞ。あの娘が勝手に言ってるだけだ」

 障子君の突っ込みが助かる。

「ケロ、峰田ちゃんの妄想みたいな展開ね」

「俺の妄想なら俺に訪れるべきだろー!?」

 ダメだ埒が明かない、僕はかっちゃんを呼び止める。

「かっちゃん! かっちゃん!」

「ああ!? 優勝するのは俺だわ!」

「そうじゃなくて! あの女の子と僕って知り合いなの!? どういうこと!?」

「……ああ、お前覚えてないんか」

 てことは知り合いなんだ。

「え、教えて」

「……んなもんお前が自力で思い出すか相手から聞き出すのが筋だろ」

 かっちゃんて割と筋を通すよなあ。

「あと寝れなくなって体調崩せ、そして死ね」

 ぶれないなあ。

「ええ、母さんなら覚えてるかな」

「んなことせずに直接聞くか思い出してやれや」

「……かっちゃん」

 確かに、誰かに聞くというのも少し塩崎さんに失礼かもしれない。

「わかった、何とか思い出すよ。それか本人に謝って聞く」

「そうしろや。俺は帰る」

「じゃあ、ぼくも、麗日さん飯田君帰ろう……麗日さん?」

 しばらく静止していた麗日さんが再起動する。

「う、うんそうやね、帰ろう」

 気配から明らかにしょげてる。

「麗日さん、元気ないね」

「うむ、どうかしたか?」

「! 何でもない! 何でもないから……」

 結局その日一日、麗日さんはどこか変だった。

 




4人目のヒロインはそう……相澤先生でした(違)
体育祭は塩崎さんとかっちゃんと轟回です。一応ヒロインはあと一人考えております。


何で塩崎さんって原作見返してたら可愛かったからや。
ヒロインをあまりみだりに増やすべきでないのは分かる。
でも書きたいもの書くべきジャン。

あと、感想欄での展開予想はお控えください。
何で塩崎さん出久に惚れてるんってことは体育祭終わるまでには分かるので。


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選手宣誓・障害物競争

 塩崎さんの衝撃の宣戦布告から2週間がたち、雄英体育祭当日。

 

 選手控え室で、僕は選手宣誓の練習をする。

「我々選手一同はスポーツマンシップに乗っ取り正々堂々と戦いぬくことを誓います。でいいよね」

「まあ、奇を衒わなくていいだろ、いいんじゃね」

 切島君に言われ、僕は自信を持つ。

 そんな僕に声をかける人がいる。

「緑谷」

「轟君、どうかした?」

 僕は点字の書かれた紙を折りたたんで、彼に向き直る。

「客観的に見て、お前の方が実力は上だろう。戦闘訓練じゃなすすべなく負けたし、USJでの件で実績もある。

 お前がオールマイトの弟子だって知って、嫉妬するより先に納得したくれえだ」

 轟君は淡々と僕を褒める。

「そんな急に、どうしたの?」

 轟君の意図がわからず、僕は尋ねる。

「だからこそ、俺はお前だけには負けらんねえ。

 この体育祭俺が勝つ。」

「うお、推薦入学者がクラス最強に宣戦布告?」

 僕は、目のあたりを覆うバンダナをギュッと握る。

「おい、本番前にやめろって」

「仲良しごっこじゃねえんだ。別にいいだろ」

「……まず、USJでは、助けてくれてありがとう。君が、僕をライバル視してくれて嬉しい」

 僕の言葉に、轟君は目を瞠る。

「僕は、母さんや父さん、オールマイトにメリッサさんデヴィットさん、色んな人の助けでここにいる。

 その人達に、僕が立派にやってる所をみせたい。

 目が見えなくても、ヒーローになれるんだってみせたい。

 だからこの体育祭で必ず優勝する。

 ……君にも勝つ」

 僕は湧き上がる怖気に、耐えながらもそれでも言い切った。

 轟君も真っ向からそれに応えてくれる。

「おお」

「おい、半分野郎! 宣戦布告の相手間違えてんじゃねえ!」

「爆豪」

「クソデク、てめえが何背負ってようが関係ねえ。俺はオールマイトをも超える最強のヒーローになる! 

 てめえが邪魔だ。ひねりつぶす!」

「かっちゃん……。 ああ、全力で来てよ」

 熱を帯びた切島君が硬化した拳を打ち付ける。

「良し、おめえらやるぞ!」

 皆の覇気が、部屋に充満する。行こう。

 

「「「「「プルスウルトラ!!」」」」」

 

 

『さあ、テメーラお待たせしました!! お前らの目的はこいつらだろ! ヴィラン襲撃を耐え抜き! 傷つきながらも誰一人折れなかった不屈の新星! 1年! A組だろ!!』

 プレゼントマイクが入場を宣言すると、1-A組が姿を現す。会場のボルテージは最高潮といったところだ。

「緑谷、会場大分うるさいけど大丈夫?」

「問題ないよ耳郎さん。ありがとう」

 たとえ大歓声の中であっても、人の足音を聞き分け、問題なく動くことができる。

 

「選手宣誓! 1ーA組緑谷出久!!」

「良し、一発頼むぜ」

「……デク君?」

 僕が真剣な顔をしているのを、麗日さんは気づいたようだ。

 

「宣誓! 我々選手一同はスポーツマンシップに則り、正々堂々と戦いぬくことを誓います!」

 周りからはパチパチと音がする。

 そこで僕はミッドナイトに断って、マイクを取った。

 そして、バンダナを外した。

 辺りがざわつく。

 モニターには、僕の目元についた傷跡と、白く濁った瞳が映っていることだろう。

「僕は、ご覧の通り、目が見えません。

 ですが、そのハンデを克服し、ここまで来ました。

 それは、周りのサポート、仲間たちの協力があってのことです。

 だから、僕は、周りの期待に応えるためにも、必ずこの体育祭で優勝します」

 僕の言葉に、シーンと静まり返る会場。

 やってしまったか?

 だが、その後に大歓声が会場中に響いた。

 A組の方に戻ると、皆が僕の肩を叩く。

「やりやがったな緑谷! てめえ!」

「上等だおらあ!」

「恰好よかったよー緑谷君!」

「しゃあ! やってやろうぜ!」

 僕は皆の歓迎や宣戦布告に笑ってかえす。

「デク! てめえは俺が潰す!」

「……やってみなよ。かっちゃん」

 そう言いあって、拳を合わせた。

 

 そして、何故か様子がおかしいミッドナイトの宣言が響く。

「じゃあ、さっそく第一種目の発表! 障害物競争!」

 バンダナを巻きながら、僕は、スタートに備える。

 スタートの合図の時 案の定、足元が凍り始めた。

 跳躍するなり、個性を使うなりして躱した人が結構多いな。

「フルカウル……70%!」

 僕はひとっ飛びで人の群れを避ける。僕はすぐに走り出し、トップに立つ。

『おーっと!! 一人抜け出したのは選手宣誓通り緑谷出久! あとに続くはA組轟、爆豪続いてB組塩崎が続いていくー!!』

 そして、エコーロケーションは正確に入試の仮想敵を見つけた。僕は飛んできた3Pヴィランを叩き落とす。

『さー速攻緑谷に叩きつぶされたが、まだまだ全然残ってんぞ第一関門ロボインフェルノー!!』

「入試の仮想ヴィランか!」

「でかくねえか!?」

 僕は巨大0Pヴィランの足元を正確に把握、下から一気に加速し抜ける。だが、そこで、どうしても一体だけ邪魔になり、僕は飛び上がった。

「70%。トルネイド・スマッシュ!!」

 僕はコークスクリューブローの要領で思いっきり殴りつけた。

 吹き飛ぶ0Pヴィランの上に悠々と着地する。

『スゲーぜ緑谷! 一瞬にして瞬殺ー!!』

『あいつは入試でもぶっ飛ばしていたからな。当然の結果だろう。他の奴らも着々と突破していくが、やはり機動力とパワーという2点ではあいつが抜けてるか』

『あーと! だが先頭の緑谷! 蔓!いや茨に囲まれてるぞ!』

『あれはB組の塩崎の個性だな。緑谷の着地する隙をついて良くとらえた』

 だが、僕は冷静に地面を殴りつける。

『! ここで突風! ツタがたわみその間を脱出! クレバー!!』

『やはりここぞという判断力が、ヴィラン襲撃を乗り越えたことでついたな。他の連中も、立ち止まる時間が短い』

『さあ、そうこうしている間に、次の関門だ。落ちたらアウト! それがいやなら這いずりな! ザ・フォール!』

 

 ここも、僕はクリック音を出し、位置情報を取得、何とか綱渡りを渡っていく。

 しかし、ここでも妨害された。轟君だ。

 僕は氷を飛びながら躱す。

 そしてかっちゃんも追いついてきた。

 ちんたらしてらんないな。

 

 僕はフルカウルを発動させ、道を飛び越えていく。

 リスキーだからやりたくなかったがそうも言ってられない。

 そのまま第3関門に移る。

『さあ、先頭の緑谷出久! とうとうやってきた最終関門! 怒りのアフガンだ!!

 この地雷原をどう避ける! 2位の轟はすぐそ……

 アレエ! 普通に走ってるー!!』

『おそらく、足音から生じるわずかな反響音の違いを捉えているんだろう。

 本当に目に頼った俺達以上に視えているな』

『おお! このまま一位か! おっと! 緑谷の目の前で地雷が爆発! これは塩崎の茨だ!茨を這わせてわざと地雷を起動させた。こいつはシヴィー!! 緑谷もたまらず蹲ったぞ!』

『あいつは耳が尋常じゃなく良いからな、その辺が明確に弱点だな』

 レーダーセンスが歪むが、嗅覚に切り替える。そして位置情報を修正。

 僕は、そのままワンフォーオールを起動させる。

 ワンフォーオール70%。ローリングアッパー・スマッシュ!

 僕はそれを、前ではなく後ろに放つ。

 すると土が地雷ごと盛り上がり、それがひっくり返り大爆発を起こす。

 僕は吹き飛んだ地雷に目もくれず走り出す。

『さあ、今年の雄英体育祭! 第一種目! 有言実行したのはこの男!』

 

『緑谷出久!! この男の存在とくと見よ!』

 

「すげえ! あのエンデヴァーの息子を差し置いて、一位! 圧倒的だったな!」

「いや! あの茨の子も速かったぞ! いつの間にか抜かしてた!」

「ヘドロ事件の爆豪、エンデヴァーの息子の轟、二人を凌いだ超新星か! 今年の一年は粒揃いだぜ!」

 そんな観客の叫びの中から、僕はトゥルーフォームのオールマイトを探し当てると、拳を突き出した。

 

 

 1位僕、2位塩崎さん、3位かっちゃん、4位轟君、といった感じで順位が続いていく。

 ゴールした麗日さんと飯田君が近くに来る。

「デク君凄かったね! あのパンチ!」

「いやあ、苦し紛れで」

「しかしこの個性で遅れをとるとは、ボ、俺はまだまだだ」

「でも危なかったよ、特に塩崎さん。何だかんだ僕のすぐ後ろだった。多分戦っても相当強いと思う」

 僕は塩崎さんの心音を聞く。運動能力は心臓の鼓動である程度推察できる。運動した後に心臓がはやく正常に戻る人ほど運動能力が高い。

 彼女もまた、すでに脈拍が平常に戻っていた。

「で、結局どういう知り合いか分かったん?」

「……それが、全然見当もつかなくて、かっちゃんは知ってる風だから、幼稚園か小中の友達だと思うんだけど。それで、僕がすぐわかんないってことは、レーダーセンスがまだ未発達な頃だと思う」

「ふーん、爆豪君も教えてくれればいいのにね」

「まあ、かっちゃんにも考えがあるんだと思うよ」

 そんなことを話していると、予選の終了を告げる笛が鳴る。

 そして、ミッドナイトから予選突破の順位が第42位までであることが告げられる。

『A組で一番順位が低いのが青山の25位! ヒーロー科は一クラス20人だ! そう考えると、A組の優秀さが際立つぜ!』

『共に死線を乗り越えた仲だからか、とっさの連携という点で他のクラスと一歩差が出たな。というか、B組の奴らが嫌に手を抜いていたように見えるが……』

 その後、ミッドナイトから次の種目が騎馬戦ということが説明される。

 参加者は2~4人のチームを組む、そして先ほどの予選順位の結果に従いポイントが与えられる。

 42位は5p、41位は10p。

「そして1位の人のポイントはなんと、1000万ポイントです!」

 その途端、皆の視線が僕に降り注ぐ。

 視線は見えなくても圧となってふり注ぐ。

 怖い。

 そんな時、オールマイトの教えを思い出す。

 苦しい時ほど、ビビってる時ほど、笑え。

 すると、皆目をそらした。何だろう? 不細工だった?

「では15分間のチーム決め、開始!」

「デク君チーム組もう!」

「麗日さん早い! いいの? 僕一千万ゆえに狙われるけど」

「デク君がガン逃げすれば勝てるやん! それに、仲いい人同士で組んだ方が、絶対いい!」

「……ありがとう」

 その後、僕は飯田君に声をかける。

 飯田君の機動力なら逃げ切りも可能。

 だが、飯田君は首を横に振った。

「緑谷君はUSJでも活躍していた。だが、俺はただ逃げていただけだ。これでは、君の隣に立てはしない。僕は、君に挑戦する!」

「……そっか」

 残念だけど、飯田君の覚悟に、僕は何も言えない。

 そういったところで、サポート科の人が声をかけてくる。

 要約すると、一位である僕と組めば目立つので、広告塔に最適だそうだ。

 メリッサさんとディスカッションをして科学知識にも明るい方だと自覚はあるが、それを差し引いても、すごい技術力だった。

 そして、最後の一人、意外な人が声をかけてきた。

 僕らの弱点である遠距離攻撃と防御、二つをカバー出来る人材に断る理由はない。

「じゃあ、行こうか、麗日さん!「はい!」発目さん!「フフフ!」

 

 塩崎さん!「ご随意に!」」

 

 このチームは、最強だ。

「よろしくお願いします!」




原作通りの所はダイジェストで


アンケート設置しました。
体育祭が終わった辺りで短編出します。


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騎馬戦

相互評価4500超えありがとうございます



 雄英体育祭、第二種目開始。

 スタートと同時に、僕達の足元が沈み出す。

「これは、骨抜さんの個性ですね」

「塩崎! 何でA組の奴と組んだ!」

 B組の騎馬の騎手が言う。

 宣戦布告に来ていた人だ。

 だが塩崎さんは意に介した様子はない。

「私自身の勝利の為に、最善の手段を講じたまでですよ鉄哲さん」

 そう言うと、塩崎さんは目を閉じる。

「それと、この方とは決勝であい見えたい。そう思ったのもありますが」

「またか! そいつがいるって知ってからなんか変だぞお前!」

「僕?!」

「ウチの塩崎をたぶらかしやがって、ハチマキよこせおらあ!」

「誤解だ!」

 そう言いつつ、僕は倒れるすれすれになるまでスウェーでかわし、逆に左手でハチマキを取った。

『うおおおおお!! 1000万緑谷! いきなりなんだその体幹とありえない体勢からのハンドスピードは!!』

『緑谷はボクシングと柔道をやっていると言っていたな。双方とも格闘技の中でもハンドスピードの速い競技だ。それにやはり素の身体能力が高いなあいつは』

『こいつはシヴィぃぃぃ!! というか逃げの一手じゃねえのかよ! まさかの返り討ちだー!!』

 

 開始前

「「「逃げない?」」」

 三人が驚きの声を上げる。

「え? 一千万持って逃げ切りやないの?」

「そんなことして、もし後半にハチマキが取られたら目も当てられないよ。それに、相手には飯田君やかっちゃんといった機動力に優れた人がいるからね。正直接敵なしってのは厳しいと思う。だから、時間的余裕があるウチに保険を取る」

「成程、私としては攻めた方がアピールチャンスができるのでうれしいですが」

「それにね」

 僕は3人に笑っていう。

「どうせ取るなら、全部のハチマキを取った完全な一位。取りたくない?」

 きっと、かっちゃんならこう言うだろう。

「そうですね、敵を相手に逃げしか手立てのないヒーローなど、存在する意味がありませんね。逃げるだけでなく、立ち向かわねば」

 塩崎さんも目の前で手を組んで宣言する。

 僕達の作戦は決まった。

 

「取った! 頭下げて!」

 僕は発目さん謹製のジェットパックのスイッチを入れ、飛び立つ。

 麗日さんが自分以外を無重力にしているので、実質一人分の重量で飛び立てる。

 だが、その前に。

「塩崎さん! ツルを8時! かっちゃんが来る!」

「はい!」

 塩崎さんの茨が、盾のようにあつまり、かっちゃんの爆撃を相殺する。

 その隙に僕は70%の拳を振りぬくと突風で距離を取る。

 

『爆豪! 騎馬から離れるエキセントリックプレイ! しかし緑谷も超聴覚からの索敵に死角なし! 盛り上がって来たぜー!』

『何気に塩崎の個性も相当な練度だな。相性は悪いはずだがきっちり爆豪の個性を封じ切りやがった』

 

「くそ、あの茨女! もういっかい!」

「単純なんだよ、A組」

「んだてめえ! 俺から取ろうとするとはいい度胸だ!」

 ? あれはB組の騎馬か……。

 

「かっちゃんが揉めてる! 今のうちに……」

 着地、だが。

「麗日さん! 足元に峰田君のもぎもぎがある! もっと前に!」

「え、あ、ホンマや! 危ない!」

「ちっ 緑谷! てめえは許さねえ!」

 峰田君の声だ。どこにいる。

「障子君の背中か! 凄いな障子君! 人を二人抱えるなんて!」

「二人!?」

「蛙吹さんもいる! 一応言っとくけど、僕には奇襲奇策は通じないよ!」

「梅雨ちゃんと呼んで、流石ね緑谷ちゃん」

 障子君の複製腕にすっぽり覆われる形で、蛙吹さんと峰田君が鎮座している。

「黙れてめえ! この裏切りものがー!」

 僕達は首を傾げる。僕達だけじゃなく障子君と蛙吹さんも。裏切りって、何が?

「メリッサさんだけじゃ飽き足らず! 麗日のうららかボディにサポート科のおっぱい姉ちゃんに清楚系美人の三人とハーレムでお前が乗っかるってどういう神経しとんじゃ! お天道様が許しても俺が絶対許さん!」

 峰田君は血涙を流しながら言う。

「やめろ峰田、俺が言ってるみたいで恥ずかしくなってきた」

「障子君、心中察するに余りあるよ」

『おーっと! 峰田が全国の男子リスナーの魂の叫びを代弁だー!! こいつはシヴィィィィィ!! だが俺は同意するぜー!!』

『アホだろ』

 その時、僕の手元にシュルシュルと塩崎さんの茨が伸びる。

「……とりあえず、穢らわしいやり方ですが、すり取っておきました、緑谷さん」

「……ありがと」

『おっと塩崎! 自慢のツルで後ろから複製腕に覆われた峰田のハチマキを奪取! したたかだー!!』

「……峰田ちゃん?」

「ケロケロー!!?」

 仲間割れしているうちに離れよう。

 

 さて、次は。

「180度転身! 後ろから葉隠さん耳郎さん砂籐くん口田くん!」

「流石デク君! どんどん取るで!」

「ああどんどん……裸の女の子がいるよー!!??」

 葉隠さんは上半身裸だった。

「ふははは! 緑谷君! どうしたの!? 恥ずかしがっちゃって!」

「葉隠さん! だから僕はシルエットが分かるんだって! 何でそういうことするの!?」

 僕の問いに、葉隠さんは谷間を強調するようにポーズを取る。

「べ・つ・に~! 緑谷君になら……いいよ?」

 葉隠さんの答えに、会場から歓声と僕へのブーイングが飛び交う。

『おーっと緑谷ー!! 騎馬の三人だけならいざ知らず! 敵の女まで落としにかかる! 朴訥そうな見かけによらず色男かー!!』

『生徒をあんまおちょくってやるなよ』

 

 マイク先生め、PTAに訴えられないか? それはともかく、

「女の子がそういうこと言うんじゃありません」

「ガチめに怒られた!」

「顔真っ赤や!」

 

『ウブだー!!』

『当然の反応だろ』

 

 僕は一つ咳払いをしつつ、距離を詰める。

「まあ、とりあえず葉隠さん、受けよう」

 僕はボクシングのファイティングポーズを取る。

 すると、葉隠さんもまた、ファイティングポーズを取る。これは。

「自衛隊式格闘か……シブいね」

「わかるんだ……。いくよ!」

 そういうと、僕達は左を差し合っていく。しばし、流れるような攻防が続く。

 葉隠さんの狙いは、分かり切ってる。

「悪いね耳郎さん」

 僕は伸びてきた耳郎さんのイヤホンジャックを掴み、葉隠さんの鎖骨に押し当てた。

「きゃうん!!」

 心音がおそらく葉隠さんを突き刺しただろう。

「クソ! 緑谷! やるな!」

「攻撃に戦意はあっても害意はなかったからね。本命が別にあるのはわかってた」

 僕はぐったりしてる葉隠さんからハチマキを取った。

 

『さあ、何と何と緑谷チーム! 逃げるどころか返り討ちにして容赦なくポイントを奪っていくー!! さあさあ! これでA組で無事な騎馬は爆豪と轟……、アレ! 爆豪も0だぞ!?』

『何見てる。爆豪なら、さっきからB組の騎馬に囲まれてる』

 

「クソが! 返せやあ!!」

「しつこい!」

「爆豪! 勝手すんなあ!」

「俺が取んのは! 完膚なきまでの一位なんだよ! こいつらのポイントブン取ってデクに行くぞ!」

 わーお。

「どうしますか……?」

「塩崎さんには悪いけど、かっちゃんならB組の騎馬から全部奪い取って僕の所に来るさ。その時まで待とう。それより、こっちだ」

 僕の耳はその音を先ほどから捉えている。

「8時の方角から、轟君飯田君上鳴君八百万さん接敵、警戒して」

 轟君が、冷静な声に熱を込めて言う。

「さあ、奪りにいくか」

「重役出勤だね轟君……負けないよ」

 

 途端、周りの騎馬が僕達の近くにくる。

 狙っているな。

 八百万さんが何かを出す。

「塩崎さん! 壁を! 麗日さん! 浮かせて!」

「はい!」 

「了解!」

 

 無差別放電130万V!

 

 だが、塩崎さんは茨をしならせ、飛び上がった。

 そしてその瞬間、氷がリングのように出来上がり、僕らを囲んだ。

『さあ、ここでスパーキングボーイのカミナリキリングだー!! こいつはヴィラン襲撃事件で50人以上のヴィランを拘束したスーパーパワーだぜ!』

『上鳴の個性は防げる奴でないとどうにもならないからな。そこを轟の氷結。障害物競走で結構な数に避けられたのを省みているな。そしてその連携を既の所で躱した緑谷の危機察知能力と塩崎の個性の練度、一瞬だがかなり濃い攻防だ』

『ナイス解説!!』

 

 僕の鼻が異臭を捉える。

「! 皆! ジェットパックがショートした!」

「じゃあ逃げられへん!」

「いえ、獲りましょう」

 塩崎さんが冷静に言う。

「全部のハチマキを取った完全な一位。獲りましょう。」

「! ああ! 行こう皆!」

 塩崎さんと僕の戦意に当てられたのか、麗日さんと発目さんも覚悟を決める。

「しゃあ! やったるわ!」

「私のベイビーの見せ場も作ってくださいよ!」

 僕らは轟君に向かっていく。

 その時、終了まで6分といったところ。

 

side爆豪

「爆豪! なんでそこまで!」

 俺はあの後物真似野郎以外からはポイントを取った。あとは物真似野郎の持つ俺のハチマキと物真似野郎のポイントだけだ。

「ああ! ヴィランから尻尾まくヒーローが! どこにいるんだあ!?」

「言うことが違うなあ。流石ヴィランに年一回襲撃されている人だ」

「ああ!?」

「そもそも、A組の連中は分かっていないんじゃないか?

 ミッドナイトが予選と言った段階でそこまで数を減らすことはない。ならば、ある程度の順位を維持しつつ、個性や立ち回りを観察した方がいい」

「……それでA組の騎馬からポイントを掠めとるつもりだったか? ケ! 結局デクに取られまくってるじゃねえか。くだらねえ」

「そこだよ。なんだい彼は? 大人しい顔して優勝宣言とは。そのくせリスキーに取りに来るし、仮初の一位に固執して、僕から言わせれば馬鹿みたいなもんさ。ニンジンに釣られた馬みたいなもんだ」

 そこで俺は思い出す。あいつはいつだって震えながら、立ち向かっていったこと。

 泣きそうになりながらも、それでも他人のために、考えなく飛び出せるやつだってこと。

 それは俺が一番知ってるんだ。

 バカなガキの頃は何一つ分かっていなかった。

 確かにあいつは馬鹿だ。今も馬鹿みてえに自分を追い込んで、引子おばさんやオールマイト、クラス連中の期待に応えようとしてる。

 確かに馬鹿だ。

 だがこいつほどバカじゃねえ。

「爆豪!」

「なんだクソ髪! 俺は退かねえぞ!」

「逆だ。全部ぶんどってとっとと緑谷の所行くぞ」

 クソ髪がいつもと違う威圧感のある声を出す。

「ダチ馬鹿にされてケツまくるなんて男じゃねえ!」

「あたしも、ちょーっと今の物言いツノに来た!」

「うちのクラスで緑谷馬鹿にされて黙ってるやつなんていねえぞ爆豪。あいつがどんなやつかなんて俺ら全員目撃してっからな。……やっちまえ。 必ず拾う」

 黒目としょーゆ顔が物真似野郎に慳貪な瞳を向ける。

 俺はおかしくなって笑った。

 そうか、もうとっくにあいつは一人で歩いてんだな。

「しゃあ! とるぞ! 完膚なきまでの一位をよお!」

「「「おう!!」」」

 それがあいつの覚悟に応えるってことだろう。

 

 

side緑谷

 あれから残り1分まで、僕達はなぜか使わない轟君の左側に移動し続けることで、ポイントを保持し続けた。

 僕もアタックするが、上鳴君の電撃に牽制される。

 そして、ラスト1分。

 飯田君の脚部エンジンから、異音が響く。

 僕は反射的に、カウンターを放つ。

「ワンフォーオール、オーバーセンス!」

 その瞬間、世界がゆっくりになる。

 ワンフォーオールの力を、脳にのみ作用させる。

 ワンフォーオールの力により脳が活性化し、僕の世界の動きがゆっくりになる。

 僕は、轟君のハチマキを取った。僕は1000万を逆の手で死守、代わりに轟くんは僕の首元のハチマキを二つ取った。

「くそ、すまねえ飯田!」

「く、まさか対応するとは緑谷君!」

「ポイントは十分です! ここは退きましょう!」

 八百万さんの声に轟君は歯噛みする。

「……畜生!」

 一方、僕は僕で塩崎さんに耳打ちする。

「塩崎さん、最後の作戦だ」

「了解です」

 そう言うと、僕たちは大量のツルに覆われた。

『おっと一位緑谷! 残り30秒で籠城作戦だー!!』

『確かに、残り三十秒であれだけのツルをどけながら、緑谷の索敵かわして接敵するのは不可能だろう。……一人以外はな』

 そう、相澤先生の言う通り、必ず来る。

 その爆音は必ず来る。

 ほら、掘り進んできた。

 

side爆豪

 

 爆破爆破爆破爆破爆破

『あと20秒!』

 うるせえ! 分かっとるわ! チクショウ! 爆破した側から生えてきやがる!

『あと10秒!  9! 8!7!6!やっと開通!』

 どこだ騎馬は! 女どもしかいねえ!

「ラストベイビー! スタンロッド!」

「タッチや爆豪君!」

 デクは! 上か!

 

『まさか緑谷チーム! 作っていたのは城壁ではなかったのかーー!』

『緑谷の身体能力と数的優位を活かすジャングルジム。足場と壁を作っていたのか』

 

「フルカウル70%! ジャンピングダッシュ!」

「なめんなデクがああ!!」 

「「うおおおおおおおおおおおお!!」」

 

『緑谷出久! 爆豪のハチマキをとり! 完全勝利! ここで第二回戦の勝者は一千万ポイントの『よくみろ、一千万のハチマキ』アーハン!? 何と! 一千万ポイントが、燃え滓にー!!』

『爆豪め、調整を誤ったか……。まあ。あれだけの速度でしかも周りを囲まれてたんだ。しょうがないか』

『気を取り直して、集計結果を直して、それでも一位は緑谷塩崎麗日発目チーム! 二位は爆豪切島芦戸瀬呂チーム! 三位は轟飯田八百万上鳴チーム! 四位は拳ど……あれ? 心操常闇尾白青山チームが四位だ! どうなったんだ!』

「かっちゃん……」

「デク! 今回は俺の負けだ!」

「え!? 違うよ! 一千万取られたから僕の負けだろ!」

「ああ!? それを俺が燃やしたから俺の負けだろうが!」

『何かどっちが負けかで言い争ってる! 普通逆じゃね!? ウケルーー!!』

『アホ言ってねえでとっととハケろ。決着は決勝トーナメントでつけるんだな』

 その先生の言葉に俺らはしぶしぶ睨み合いを解き、分かれた。

 

 決勝で必ず白黒つけてやる。

 

 その後退場口で、俺はクソ髪に声をかけられる。

「おーい、爆豪! メシ食おうぜ」

「いいわクソが」

「そう言うなよ、俺らこれでも感謝してんのよ。お前に」

 しょーゆ顔が肩に腕を回してくる。

「そうそう! アタシら友達じゃん! 一緒に食べようよー」

「友達ねえ」

 

 俺は鼻で笑って、奴らに問う。

「デクの目が見えなくなった原因がよお」

 

「俺だって言っても、お前ら友達って言えるんかよ」

 

 そう言うと奴ら、アホづらかまして固まった。

 俺は今度こそ飯を食いに行った。




騎馬戦は難産でした。やっぱ原作ってすげーわ。
ポイント計算とか難しくてやってらんないから各自想像で補ってください。

アンケート締め切り、土曜日の昼くらいにします。


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昼休み

みんなかっちゃん女体化好きね(挨拶)


 昼休みに入り麗日さんと一緒にご飯を食べる。

 発目さんと塩崎さんには一千万を失ったことを謝ったが、気にしてないとのことだった。

「おかげで企業に大アピールできました! 本選でもよろしくお願いします!」

「B組で残ったのは私だけ。ですので、もし当たるとなれば全力で当たらせていただきます」

 そう言って、それぞれのクラスに戻って行った。

「デク君、そんなにたくさん食べて午後大丈夫なん?」

「腹が減っては戦はできないよ」

 そう言いながら、僕はカツ丼大盛り五杯目を食べる。

 そんな僕に、袋が押しつけられる。この鼓動は。

「メリッサさん! 何でここに?」

 麗日さんの驚く声がする。そういえば言ってなかったっけ。

「メリッサさんはエンデヴァーのコスチューム会社の所で仕事してたんだ。だからあの日からずっと日本にいるよ」

「今日はエンデヴァーさんのご厚意で中に入れたのよ。こんにちはお茶子さん! カッコよかったわよ!」

「あ、ありがとうございます!」

「今日はイズク君に差し入れ! はい! ハチミツとガムシロップ!」

「ありがとうございます! 即効性のエネルギー源!」

「まだ食うん!? つうか何にかけるん?」

 僕はコップにハチミツとガムシロップをあけ、そのまま飲み込む。

 麗日さんはアングリとした顔をする。

「……飲む?」

「いらんわ! そんな冒涜物!」

 ぼうとくぶつ。

「常人の十倍のエネルギーが必要だもの、それくらい食べないとね」

 そうメリッサさんが笑っていうと、麗日さんが釈然としない声を上げる。

「これ私がおかしいんかなあ……」

 そこに、峰田君と上鳴君がやってくる。

「おーい、麗日!」

「さっき八百万にも言ったんだけどよー」

 そう言って、午後はチアガールに着替えて応援合戦との旨が伝えられる。

「え、ホントなん?」

「ウソだよ」

 僕は麗日さんに伝える。

「緑谷!? 何を根拠に!」

「今ウソつきって言われた瞬間鼓動が跳ねてだんだん落ち着いていった。典型的なウソつきの心音だよ」

「ふーん。そうなんや」

 麗日さんがジドっとした目で見つめる。

 というかそれ以前に。

「そもそも、衣装を八百万さんの個性で作れなんて言うわけないじゃん。そんなミスを相澤先生がするとも思えないし」

「確かにそうね」

「いや、それは、えーと……ってメリッサさん! 何でここに!?」

 峰田君がようやくメリッサさんを認識する。麗日さんのことで頭が一杯だったな。

「イズク君の応援。だめよ。嘘なんてついちゃ」

 そう言って、メリッサさんは軽く注意する、

「いや、違うんすよこれはえーと」

「言い訳はそこでバッチリ聞いてる耳郎さんに言ったら?」

「え、うわホントだ! ターミネーターみてえに近づいてくる!」

「緑谷てめえ! 重ね重ね覚えてろー!?」

 峰田君達が逃げ出すが、すぐに捕まった。

 そのまま引きずっていかれる。

「全く、仲間を騙すなんて何考えてるんだか」

 僕は呆れつつ、ハチミツとガムシロップのカクテルを飲む。

「それにしても、おめでとうイズク君。私感動しちゃった」

「いや、まだまだです。トーナメントからが本番ですから! ちゃんと僕が来たって見せてあげます!」

「うふふ。楽しみにしてるわね」

 そのままメリッサさんと笑い合う。

「むう……」

「? 麗日さんどうかした?」

「! ううん! 何でもない!」

 その時、切島君と轟君が、一緒に話しかけてくる。

「「緑谷話いいか?」」

 二人はしばし見つめ合い、僕は頭をかく。

「とりあえず、ジャンケンしてもらっていい?」

 結果、切島君が勝った。

 

 そこには、芦戸さんと瀬呂君もいた。そして問われる。

「かっちゃん。やっぱりまだ自分を許してないんだね……」

「てことは本当に……?」

「まあ不幸な事故なんだけどね」

 僕がかっちゃんにいじめを受けていたこと。

 かっちゃんが個性を使ってゴミ山が崩れたこと。

 そこを僕が庇って、薬剤を目に浴びたことを説明した。

 三人は驚愕の鼓動を示す。

「もっともかっちゃん家が治療費を全額出してくれたし。そもそももう10年近く前の話だけどね」

「緑谷は、それでいいのか? だって……」

「その後、かっちゃんは僕をいじめから守ってくれたし、何より、もう慣れたもんだからね。僕はとっくに許してる。けど、かっちゃんはそうは行かないみたいだ」

「けど、君ら仲良いじゃん!」 

 芦戸さんが納得いかなそうに手をぶんぶんと振る。

「そうだね。でも、やっぱりかっちゃんにとって僕は象徴なんだよ。過去に犯した罪の。だからついそうやって友達になりそうないい人の手を振り払っちゃう。中学時代はそれで柄の悪い友達も出来たりして、心配だったっけ」

 僕は自嘲気味に笑うが、三人は絶句していた。

 冗談を言い合っても、ともに切磋琢磨しあっても、どこか歪な関係。

 それが僕たちだった。

「だから、切島君達、是非かっちゃんと友達になって欲しい。君達なら、かっちゃんと対等な友達になれる」

「……お前は、対等な友達じゃないんかよ」

 切島君が苦しそうに言う。

 僕は自嘲気味に笑った。

「……僕らを繋ぐのは、かっちゃんはオールマイトを超えるヒーロー。僕はオールマイトだって助けるヒーロー。そうなるって約束だけ。それで十分さ。僕らは、ライバルであればいい。対等な友達になるには……、僕はかっちゃんに憧れすぎたし、かっちゃんは僕に罪悪感を抱きすぎた。だから、頼むよ」

 そう言って、僕は三人から別れた。

 ……ハチミツ舐めるか。

 

 

「お待たせ、轟君。待った?」

「いや、大丈夫だ。すまなかったな、休憩中に」

「別に大丈夫。もう食べたから」

「ああ、単刀直入に聞くが、お前、オールマイトの隠し子か何かか?」

 僕は一瞬フリーズし、やがてブンブンと首を振る。

「僕にはちゃんと単身赴任中の父がいるけど。まあ、証拠ってものは出せないけど……」

「そうか、まあどっちでもいい。お前はオールマイトの弟子で、つまりオールマイトから何かを受け継いだってことだ。俺の父親知ってるよな。エンデヴァー。万年二位の」

「うん。そりゃあ知ってるよ。僕、昔は結構ファンだった。あとメリッサさん知ってるでしょ? あの人の技術がエンデヴァーのコスチュームに使われているんだよ」

 そう言うと、轟君は露骨に不機嫌そうになる。

「……俺は、親父が嫌いだ」

「……そうなの? ゴメン」

「個性婚って知ってるよな?」

「う、うん。そりゃあ」

 

 そこから轟君によって話された話は映画のようだった。

 万年ナンバー2だったエンデヴァーが、個性婚に手を出したこと。

 自分をオールマイト以上のヒーローにすることで、欲求を晴らそうとしている父。

 そんな父親に心を病み、我が子に煮え湯を浴びせた母

 父親からの炎を使わず、母親からの冷気のみでナンバーワンになり父を完全否定しようとする子。

 轟君の心音はあくまで冷たく、僕は何も言えない。

 

「お前が何者か、オールマイトの何であろうがどうでもいい。俺は、右だけで一番になる。……邪魔したな」

 そう言って去っていく轟君に、僕は気になったことをぶつけてみることにした。

「一個いいかな、轟君」

「……何だよ」

 僕はUSJでのことを思い出す。

「ブルズアイに八百万さんが殺されそうになった時、君は炎を使おうとしたよね。アレは何で?」

「……! それは……」

「……ある人に、っていうかかっちゃんなんだけど。言われたんだ。『お前は誰かを助けるヒーローになるんだろうが。なら、やれること全部やらんと話にならんだろ。それでもし、誰かが死んだら、お前責任とれんのかよ』ってね」

 轟君は、僕の方を睨む。見えなくても視線が冷気となって肌に突き刺さる。だけど言わなきゃならない。

「もし、君がプロになった時、胸を張って言えるの? ベストを尽くしたって、僕は全力で君を助け出したって、今まで辛い思いをしてきた被害者に言えるの?」

「……黙れ」

「もしあの時八百万さんが殺されていて、君は後悔しないでいられたの? 炎を使えれば、助けられたかもしれないって」

「黙れ!」

「もし、君がそのままヒーローになるんなら、いつか絶対に後悔する! 

 ……だから、僕が君の目を覚まさせてやる」

 そう言い残し、僕は轟君の反対方向に歩き出した。

 きっと、苛烈な戦いになるだろうと予感しながら。

 

 

 

 結局、峰田君と上鳴君は制裁されたらしい。

 僕は峰田君に恨み言を言われるが、八百万さんたちには感謝された。

 まあほどほどにしてくれるよう助言しておいた。

 そしてレクリエーションの後、最終種目が発表される。

 その内容は一対一のガチンコバトル。

 そして対戦組み合わせは、

 

 1回戦 緑谷 VS 心操

 

 2回戦 轟  VS 瀬呂

 

 3回戦 塩崎 VS 上鳴

 

 4回戦 飯田 VS 発目

 

 5回戦 芦戸 VS 青山

 

 6回戦 常闇 VS 八百万

 

 7回戦 尾白 VS 切島

 

 8回戦 麗日 VS 爆豪

 

 となっていた。

 僕は初戦の心操君という人を思い出そうとする。

「あんたが緑谷出久か」

「……君が心操君か、よろしく」

 僕らは互いに握手する。どうやら、以前宣戦布告にきた普通科の生徒のようだ。

 どうやらベンチブレスやスクワットなどの筋トレはしてそうだが、特に格闘技経験者という訳ではなさそうだ。そして、普通科に通ってるということは、あまり戦闘向けの個性ではないのだろう。にも拘わらずここまで勝ち進んできたということは……。何かしらの絡め手系の個性だろう。十分に警戒する必要がある。

「また後で、いい試合にしよう」

「……俺、実はアンタのこと知ってるんだよ。アンタ、ヘドロ事件で……」

 突然言われ、僕は照れる。ずいぶん懐かしい話だ。

「ああ、あれは、幼馴染が攫われて、無我夢中で」

「無個性って話だったが、個性に目覚めたとか。いい個性で羨ましいよ」

 そう言う彼の感情に見えるのは諦観とそれでも消せない炎のようなものを感じる。

「そうだね、僕は、恵まれているよ」

 だからこそ負けない。

 僕が心操君と別れると、常闇君尾白君青山君が近づいてくる。

 

 今日は良く呼び出される日だなと思った。




お昼休憩。
突っ込めそうな時、欠かさずメリッサさんを投入していくスタイル。

かっちゃん女体化IFは体育祭終了後となります。気長にお待ちください。
体育祭もあと6話位で終わるので。(なお予定は覆る)

アンケートにお答えください


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第一回戦 心操人使

『さあ、始まりました! 雄英体育祭最終種目決勝トーナメント!

早速ルール説明。だが至ってシンプル!

相手を戦闘不能にするか、場外に押し出せば勝利!

リカバリーガールが待機しているから倫理はひとまず捨ておけ!

ただし! あんまりにクソな行為はアンチヒーロー行為として反則失格となるぞ!』

 シンプルすぎない?

 まあ、ヒーローを目指す自分らはそれくらいの縛りでいいのか?

 

『さあ、早速入場だ! 一回戦二回戦と一位になった優秀すぎる雄英版座頭市! このまま有言実行し、完全優勝なるか、緑谷出久!

 VS ここまで目立った活躍なし、ただしその個性は未知数! 本選進出者唯一の普通科の期待を一身に背負い参戦! 心操人使!」

 僕らは睨み合う。

「常闇だっけか? あいつから話を聞いてるだろうが。分かるだろう? これは精神の戦い」

『スタート!!』

「あのト……な!」

 僕はすかさず一直線にダッシュ。そのままボディブローを叩き込む。

 完全に決まった。

 震える手で、僕にすがりつく心操君。

「カハ、あ、てめ」

「……大丈夫?」

 ちょっとやりすぎたかも知れない。大丈夫だろうか。

 その時、ドクンと僕の心臓の音がする。

 これって、洗脳? ……。

 

『おーっと緑谷! 急にアホ面になり機能停止! 一体どうしたー!!』

『心操人使、個性洗脳。だからあの入試は合理的じゃないって言ったんだ。だが、これで緑谷の勝ちはなくなったか……』

 遠くで、先生たちの実況が聞こえる。だが、僕はそれどころではなかった。 

 

 やっと来たな。

 

 僕は数年ぶりの感覚に瞑目する。

 目が見えている。なんだ?

 

 お前が俊典の選んだ後継者か、70パーセントまで使えるとは、俊典には劣るが、それでも凄い才能だ。

 

 見ると、そこにいたのは筋肉質で黒髪の、とても美しいお姉さんだった。

 

(あなたは誰なんです? ここは?) 

 

 時間が無いから簡潔に、私は七代目だ。ここはワンフォーオールの中さ。

 特異点はもう過ぎてる。だから君は備えなくちゃならない。

 大丈夫、君は一人じゃない。

 

 見ると何人もの人達がこちらを見ている。その中にはオールマイトの姿もあった。

 

(ちょっと待って下さい! 何が何やら!)

 

 今は、大事な試合中だろう? 

 さあ、目覚めるんだ。打ち勝つんだ。

 辛い時、「限界だー」って感じたら思い出せ。

 自分の原点、オリジンてヤツを。

 それが君を、限界の少し先まで連れてってくれる!

 

 じゃあな、またいつか会えるさ、ワンフォーオールの中で。

 

 女の人の気配が消える。視界が真っ暗闇に戻る。

 ここは、試合会場! 白線までのこり1メートル!

 僕はわざと指先にワンフォーオールを100%つぎこみ爆発させる。

 折れた痛みに、僕の洗脳が解ける。

 

『な、何だそりゃあ! 緑谷! 自爆で洗脳を解いたあ!!』

「な、くそ、あとちょっとで……」

 僕は走り抜けると、心操君に掴みかかり、投げ飛ばす。

 だが、信じられない力で堪えられる。

 そして、一撃頬に食らった。

「舐めんな! アンタに! 憧れたんだよ! 無個性でもあの時飛び出したアンタに! 個性つかえよ! 俺はそんなに弱いか畜生!」

 その声に、僕は覚悟を決める。

 僕は、ワンフォーオールを5%だけ発動し、彼の後ろに回り込んだ。

 そのまま裏投げをして、彼を場外へ叩き込んだ。

 

「勝者、緑谷君!」

 

 一瞬の後、歓声が響き渡る。

 

 僕はよろよろと立ち上がる心操君に声をかける。

「……憧れたって、何?」

「……さてね。俺、そんなこと言ったかよ?」

 僕は、他にも何か言おうとして、踏み止まった。

 勝者が敗者にかける言葉はない。

 ボクシングでも柔道でもそうだった。

 ただ、それでもプロヒーロー達の心操君を称える声、そして、普通科の人達の称える声を聞いて、多分大丈夫だと思い、僕は会場を後にした。

 

 

side心操

 

 動画を見たのは、本当に偶然だった。

 その中学生は、爆炎が吹き荒ぶ中、ヘドロヴィランに立ち向かった。

 個性を使わずに、機転と鍛えた体だけで。

 それから、俺なりに体と個性を鍛え始めた。

 それでも、あいつの努力量に比べれば、きっと全然だったんだろう。

 俺は、まだ痛む腹をさすりながら、廊下を進む。

 すると、常闇、尾白、青山がいた。

 俺は、疑問に思ったことを口にする。

「お前ら、あいつに俺の個性教えなかったのか?」

 戦いの時の様子から、緑谷が俺の個性を知らなかったのは明白だった。

 俺の問いに、常闇が口を開く。

 こいつの個性はこいつの意思とは自立した存在。

 ゆえに洗脳でこいつらを騎馬にした時も、こいつのダークシャドウにみんな起こされてしまった。

「最初はそう思った。我ら全員緑谷に恩義があるゆえな。だが」

 

『例えば、僕は塩崎さんの弱点を上鳴君に教えようとも思わないし、発目さんの発明品を飯田君に教えようとも思わない。だって、ほんの一競技だったけど、確かに仲間だったんだからね』

『それに、戦いなんて前情報が無いのが普通なんだから、それで負けるんなら心操君の実力が僕より上だってこと』

『だから気にすることなんてないよ。大丈夫。前情報無しでも勝ってみせるさ』

 

「だそうだ、」

「はあ、何だ、完敗じゃん、俺」

 そう言って自嘲した後、俺は疑問に思う。

「ていうか、俺のこと、仲間だって? 冗談だろ? 洗脳で無理矢理騎馬にしたんだぜお前らのこと」

「だが、それで我々が決勝に進出したのは間違いのない事実。なら恩義は確かにある。それが友情にすり替わってもおかしくないだろう」

「だから心操、ヒーロー科に来いよ。待ってるから」

「フィナンシェ食べる?」

 青山に菓子を口に放り込まれ、俺はそれを噛み砕く。

 ああ、ヒーロー科ってこういう奴らばかりなのかね。

 そう思いながら食う菓子は、少ししょっぱかった。

 

 

side出久

 

 僕は、リカバリーガールの治癒を受けた後に、スケッチブックに鉛筆を走らせる。

「こんな女性でした」

 僕は絵をオールマイトに見せる。

「……確かに七代目、お師匠様だ」

「あの夢は何なんでしょうか? その後、他にも七人の人が現れて、その中にはオールマイトもいました」

「……すまないが、先代と話す夢というのは、私も見たことがない。モヤがかかった人影のようなものは何回か見たがね」

「……そうですか。でも、悪いものではなさそうに感じました。何となくですけど、暖かかった」

 僕がそう言うと、オールマイトも笑った。

「……お師匠様は、なんて言ってたんだい?」

「はい、限界だって感じたら自分の原点を思い出せって、それが僕を限界の少し先へ連れてってくれるって」

 僕がそう言うと、オールマイトの心音が跳ねる。

「……そうか。お師匠達先代のことなら、私が少し調べてみよう。君はとりあえず次の試合の心配をしなさい」

「そうですね、戻ります。あの、オールマイト」

「? なんだい?」

「オールマイトのお師匠様、すごい綺麗な人ですね」

「ふふ、だろう」

 そう言うオールマイトは、とてもうれしそうだった。

 

 その後、会場に戻ると、丁度リングが氷に覆われた所だった。

 轟君……。

 その心音は依然として冷たく、僕の言葉は届かなかったと見える。

 だが、こちらも退くわけには行かない。

 

 次の対決は、上鳴君と塩崎さん。

 上鳴君は先手必勝とばかりに開幕から放電するが、塩崎さんは切り離したツルで電撃を防ぐ。

 上鳴君は、塩崎さんのツルの群れにじわじわと動ける箇所を制限されていく。

 そして数分後、上鳴君の制限が切れ、塩崎さんに軍配が上がった。

 

 次の発目さんと飯田君の戦いは、名目上は飯田君の勝ちだが、実際勝ったのは発目さんだろう。

 発目さんのサポートアイテムアピールに飯田君は使われてしまった格好だ。

 僕のとなりでメリッサさんがさらに解説を加えてくれた。

 二人を引き合わせたら面白いかもなと思ってると、麗日さんが立ち上がる。心音がとても激しい。

 僕とメリッサさんは麗日さんについていった。

 

「だ、大丈夫やよ。そんな心配せんでも」

「……相手かっちゃんだよね。無理もない」

「かっちゃんって、騎馬戦の最後にイズク君と戦った爆破の子? ……確かに、強敵ね」

 メリッサさんが心配そうに、麗日さんに言う。

「……アドバイス。いる?」

 僕が思わず尋ねると、麗日さんは笑顔で言う。

「……大丈夫、いらへん」

「麗日さん。でも」

「確かにね、怖いよ。でも、一番怖いのは、デク君に頼り切ってまうのが、今は……怖いかな。

 何かね。このままデク君に頼ってたら、デク君の隣に立てなくなる気がするんや。

 本当は、飯田君が挑戦するって言った時、自分が恥ずかしくなった。

 騎馬戦で一緒にやったのだって、無意識にデク君に頼ってたのかも」

 そこで、麗日さんは言葉を区切る。

 会場から、尾白君と切島君との闘いは切島君の勝利に終わったとのアナウンスが流れてきた。

「でも、皆全力でやって、皆がライバルなんやよね。

 だから、私はこう言うよ。

 ……決勝で会おうぜ」

 僕は麗日さんのサムズアップを受け、言葉に詰まる。

 でも、これだけは言いたかった。

「麗日さん! USJで君がいなければ、僕達は乗り越えられなかった! だから……君は強い! 頑張って!」

「! ……ありがとう!」

 麗日さんは手を振り上げて、試合会場に向かって行った。

「行きましょうメリッサさん。 見届けないと」

「ええ、そうね」

 そう言って僕達はアリーナへ向かった。

 

『さあ、続いての対戦は、カタギの顔じゃねえ! 中学時代から有名人! 爆豪勝己! バーサス!

 可愛い顔して個性は触れたら一撃必殺のデンジャラスガール! 俺こっち応援したい麗日お茶子!』

 

「丸顔。あの黒改造人間との闘いじゃ、お前がいなきゃヤバかった。だから、全力でいくぞ」

「うん、爆豪君もあの時はありがとう。全力でやろう!」

 そう言いあって、二人は構えを取る。

 麗日さんの体勢が低い。何かを狙っているのか。

「ケロ、ある意味最も不穏な組み合わせね」

「ウチ、見たくないなあ」

 蛙吹さんと耳郎さんが、心配そうな声を出す。

「緑谷は、どう思う? お前は二人とは知己だろう」

 障子君に尋ねられ、僕は思うところを告げる。

「かっちゃんは確かに強い。けど相澤先生が言った通り、麗日さんがいなければ僕ら何人かこの世にいないよ。

 個性だけでみれば、はっきり言って麗日さんの方が強い個性だ」

 僕の言葉に、みんなが注目する。

「確かに、プレマイ先生の言う通り、ほとんど一撃必殺だもんな」

 上鳴君が納得したように言う。

「だが、ぼ……俺としては、麗日君が爆豪君に触れられるイメージが湧かないな」

 飯田君の言ももっともだ。

「それも言えてる。かっちゃんの持ち味は個性だけじゃない本人の戦闘力の部分だから」

「となると、お互いいかに自分の勝ち方にもっていけるか。麗日さんに相手に触れる策はあるのか。かっちゃん君の方は、それを防げるかの勝負、ということかしら」

 かっちゃん君……。

「そういうことです。メリッサさん」

「なるほど……。お前の中では、この勝負は互角と言うことか」

 障子君の結論に僕は頷く。

「うん……。ただ……。僕は麗日さんの作戦ってのが、いまいち想像つかないんだけどね。何せフィールドは平坦だ」

「ケロ、確かに、お茶子ちゃんの取れる選択肢は少なそう」

 そう話し合ってる中で、試合は始まった。

 

 結論から言えば、麗日さんは負けてしまった。

 かっちゃんの爆破によって生じた瓦礫を使っての流星群。

 しかし、それを一撃で防ぎ切ったかっちゃんの個性の強力さ。

 僕は走って、麗日さんの所に向かった。

 その途中、かっちゃんに会う。

「おい、デク、あれお前の入れ知恵か?」

「いや、あれは麗日さんの実力だよ。僕は一切麗日さんの戦略に口を挟んでいない」

「……そうかよ。ならいい」

「それに、いい作戦があったら僕が真っ先に君に食らわせるさ」

「は、言いやがる。……あと二つ、負けんじゃねえぞ」

「そっちこそ」

 そう言いあって、僕達は別れた。

 

 麗日さんは泣いていた。

「負けてしまった。いやぁー! やっぱ強いな爆豪君は」

「麗日さん」

 泣いていた。

「もっと頑張らんといかんな私も!」

「僕に、嘘は通じない」

「……デク君」

 麗日さんの動きが止まる。

「悔しい時は泣いていいんだ。僕はもう涙腺なんてないけれど。君には涙があるんだから」

「……デク君はずるいなあ。私かて、ヒーローやねん。悔しいからって泣かんねん」

「泣くよ。ヒーローだって、人間だもん」

「そうかな」

「そうだよ」

 そう言うと、麗日さんは、よろよろと僕に近づいてきた。

 

 轟君との試合が始まるまでの10分弱。僕は、胸を貸し続けた。




心操微強化。上鳴善戦。そしてイズクもちょっと強化。
流石に70%まで来て面影見えるだけもないだろうと思った。
菜奈さんは今の所、第五ヒロインではないですが、原作の展開次第ではあるかも。

デアデビル的に時折霊的な存在として助言をしてくれる存在も必要かなと。

そしてお茶子ちゃんは原作通りの動きさせるだけでヒロイン力が凄まじいなあ。

職場体験編へ向けてアンケート取りました。
一応今の所体育祭決勝までは書き溜めできております。


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第二回戦 轟焦凍

side 轟

 緑谷は、大した奴だった。

 最初は個性把握テストの時、オールマイトみたいな奴だと思った。

 戦闘訓練では、為すすべなく負けた。

 そして、USJで、あいつは黒霧というヴィランの奇襲に対応し、13号先生を一撃で倒したヴィランに近接戦で対抗し、1-A20人弱を一人で相手取ったブルズアイを撃退した。

 なんとなくだが、親父にとってオールマイトという存在はこんなものだったのかもしれない。

 絶対に勝てぬ味方。

 圧倒的な、超えられない存在。

 全盲というハンデなんてあってないようなものだ。

 

 それでも、あいつに宣戦布告をして臨んだ体育祭。

 第一種目は普通に負けた。緑谷だけじゃなく、B組の女や爆豪にまで。

 第二種目で、俺と組んだのは、飯田、上鳴、八百万。考えうる限り最高のチームだった。

 その時に俺は言った。戦闘において、熱は絶対に使わねえ。 

「あれ、USJでは、使おうとしませんでしたか?」

「……あれは例外だ」

 その時、八百万が不思議そうな顔をしたのを覚えている。

 けれど負けた。一千万を獲れず、逆に自分のハチマキすら守れずに。

 

「もし、君がプロになった時、胸を張って言えるの? ベストを尽くしたって、僕は全力で君を助け出したって、今まで辛い思いをしてきた被害者に言えるの?」

 

「もしあの時八百万さんが殺されていて、君は後悔しないでいられたの? 炎を使えれば、助けられたかもしれないって」

 

 ……認める。正論だ。

 それでも、俺は。

 

 奴は、エンデヴァーは言った。

 お前は最高傑作なんだぞ。

 俺は作品じゃない。

 俺は。

 

 なんだっけ。

 

 

side 緑谷

 僕の目の前に、熱量を持った物体がある。

 いや、人だ。

 身長は195センチ。

 体重は、120キロ前後か。

「あの、何のようですか? エンデヴァー」

「……見えるのか?」

「こんなに大きくて熱を帯びた人、一人しかいませんよ。……それで、僕もう行きませんと」

「いや、何。君の活躍見せてもらった。腕を振り回すだけであれ程の風圧。

 パワーだけならオールマイトにも匹敵する個性だ」

 ……この人もワンフォーオールについて知っているのか?

 いや、知らないようだな。

「それはどうも。ありがとうございます」

「うちの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。君との試合は、いいテストヘッドになるだろう」

 義務、か。

「……そんな、愉快な戦いにはならないと思いますよ?」

「……なに?」

「結局、僕はオールマイトじゃないですし」

「……そんなことは当たり前だ」

「そう……同じように、轟君も、あなたじゃない」

 僕はトントンと足で床を叩く。

 廊下の状況が鮮明に分かる。

 いるのは僕とエンデヴァー、たった二人

「僕の幼馴染に、口癖がオールマイトを超えるヒーローになるっていう子がいるんです」

「ふん、それは、可愛らしい夢だな」

「……でも、彼は本気です」

 僕はエンデヴァーに向き直る。

「轟くんがオールマイトを超えたとして、それで本当に、あなたの心は満たされるんですか?」

「! 貴様に何がわかる!」

 エンデヴァーの熱量が上がる。

 僕は怯まない。

「何もわかりませんよ。一つ分かるのは、今のままじゃ、轟くんもあなたも、苦しいままです」

 僕は深呼吸を一つする。

「だから、僕が救います」

 そう言い残して、僕はその場を去った。

 

『さあ、体育祭両者トップクラスの成績!

 全てを見通す心眼+全てを壊す超パワー緑谷出久! バーサス 全てを凍らす冷気+全てを燃やす熱量轟焦凍!

 両雄並び立って! ファイト!』

 

 轟くんの氷結が僕を襲う。

 それに対し、僕は片足を振り上げる。

 そして、振り下ろす。

 突風が吹き荒れ、地面がひび割れ、氷が砕ける。

『緑谷! 轟の氷壁を四股を踏んで相殺ー!!』

『USJ襲撃事件でも、あいつは四股を踏んで突風を起こしていたそうだ。

 確かに拳を使うよりも力が入りやすく合理的か』

 僕は四股を踏んだ体勢で肩を嵌めながら、様子を窺う。

 それからは、轟君が氷結を放ち、僕が四股で突風を起こすという光景が繰り返される。

 

 ……だから言ったんだ、愉快な戦いにならないって。

 

「馬鹿ものが、焦凍」

 どこかで、エンデヴァーの声が聞こえる。

「震えてるね、轟君」

「ハァ、ハァ、緑谷!」

「風速1メートルにつき、体感温度は1度下がる。僕の起こす風速が少なく見積もっても風速30メートルとして、君は30度分、僕より余分に体温が下がっていく」

 轟君の体がガクガクと震えだし、心臓の拍動も弱くなる。

「で、その震えって、左側の熱を使えば解決するんじゃないの?」

 僕はため息をつきそうになるのを堪える。

 轟くんは氷による噴出力を利用し、僕に近接戦を仕掛けようとするが、僕は5%フルカウルのボディブローを食らわせる。轟くんはもんどりうって倒れこむ。

「体が冷えてるからかな。全然遅いよ轟くん。ちゃんとウォームアップした? それ以前に僕と接近戦して勝てるわけないでしょ」

 倒れこむ轟くんを見下ろす。

「降参してくれ、轟くん。これじゃあ、弱いものいじめだよ」

「ハア! ハア! まだだ!」

「諦めないんなら、左を使え、轟くん! 何がしたいんだ! 君は!?」

「うるせえ!! 俺は! 戦闘において熱は絶対使わねえ!」

 轟くんの氷結を、僕はアッパーで相殺する。轟くんは風に吹かれた木の葉のように転げまわる。

 そのような光景が続き、観客達もしらけ始めた。

「№2の息子があのざまかよ」

「緑谷のやつも緑谷のやつだ、とっとと終わらせてやれよ」

「審判は止めねえのか、さっきの試合と比べても大分クソだぞ」

 ざわめきはさらに大きくなり、ついにはブーイングとなった。

 

sideメリッサ

「轟さんが……アレほどまでに圧倒的に……」

 八百万さんが、ショックを受けたように声を出す。

「み、緑谷のやつ、加減してやれよ……流石に見てられねえよ」

 峰田くんが目を塞ぎながら言う。

「はん、んなもん半分野郎がわりいに決まってんだろ」

 かっちゃんくんの言葉に、周りの視線が集まる。

「とっとと本気を出すか、負けを認めるのが筋だろうが、どっちもやらねえでリングにしがみついて、あれじゃあデクの方がかわいそうだ」

「確かに、あれで緑谷を悪者にするのは違うかもな」

 常闇くんが同調する。

「けど、緑谷ちゃんなら、触れずに轟ちゃんを場外に出す方法なんていくらでもありそう。なぜそうしないのかしら」

「……きっと、待ってるんや」

 麗日さんが、口を開く。

「轟くんが、本気出すのを、待っとるんや」

「だが、轟くんは戦闘で熱は絶対に使わないと」

「ああ、言ってたな」

「そうなの? じゃあ、イズク君は、轟くんのことが嫌いかもね」 

 私の言葉に、皆が目を丸くする。

「彼、言ってたわ。個性が発現する前は無個性と診断されてたって。

 それでもヒーローを目指して努力を続けてたイズク君にとって、個性があるのにそれを使わない轟くんは嫌いかもしれないわ。私も無個性だから、気持ちは分かる」

「ああ、そうかもなあ」

 かっちゃんくんが同意したように頷く。

「……でも、嫌いな人でも、轟くんが助けを求めてるんなら、イズク君は助けちゃうわね」

「……そういうものでしょうか?」

 八百万さんが、疑問を口にする。

「ええ、だって、助けを求める声をすべて聞き届けるヒーローに、彼はなるんだから」

 そう言って、私は笑った。

 

side轟

 

 緑谷は、俺を見下ろしながら言う。

「あの時八百万さんが殺されそうになった時、君は炎を使ったじゃないか」

「あれは……違う」

 俺の否定を、緑谷は否定する。

「違わない! 君は! いざって時こだわりを捨てて人を助けることができる人だ! 君の思いがどれだけ重いのかなんて知らない! けれど! 君はいざって時全力で立ち向かうことができる人間なんだ!

 僕達は、そんなヒーローになりたいんじゃないのか!?

 立ち上がれよ轟くん! 君の原点を思い出せ!」

 その言葉に、俺の記憶がフラッシュバックする。

「俺の……原点……」

 俺は親父を、違う、俺は母を、違う。

「俺は……親父の力は……」

 

 緑谷は一瞬堪えたようにつまりながら、こう叫ぶ。

「君の! 力じゃないか!」

 

 あれは昔見た、ドキュメンタリー番組。

『個性とは親から子へと受け継がれていくもの、ですが大事なのはそれが自分の血肉であると認識すること。そういう意味を込めて私は言うのです』

『いいのよ、お前は、血に囚われることなんてない』

 

『私が来たってね』

 

『なりたい自分になっていいんだよ』

 

 瞬間、俺は熱を生み出し、立ち上がる。

「緑谷……。すまなかった。迷惑かけたな」

 おれの謝罪を、緑谷は笑って返す。

「良かった。君が助かって」

 その後、雰囲気が変わる。

「フルカウル……70%!」

 相変わらずすげえ圧力だ。けれど。

「今の俺は、つええぞ」

「はは、ちょっと後悔しているよ」

 そう言って、俺達は笑いあった。

 

 そうか、俺、こいつとは最初にあった時から。

 

 熱を最大限ためて散々冷やされた大気に放ち、爆発を起こす。

 対して緑谷は、片足を地面に埋め、両手を打ち鳴らした。

 

 瞬間、視界が爆ぜた。

 記憶はない。

 けれど、妙にすっきりした。

 

 ああ、そうだ。

 こいつとは、友達になりたかったんだ。

 目が見えないのに、雄英に合格したすげー奴と、個性把握テストで俺よりすごかったすげーやつと、友達に。

 

 

 

 

「ようやく子どもじみたこだわりを捨てたか、焦凍」

 知らない天井の部屋で、親父が話しかける。

「今は休め。だが、これからだ。この戦いを越えて、お前は俺の完全な上位互換となった!」

 そんなことより、俺は結果については薄々分かっていたが、それでもはっきり聞きたかった。

「試合は、どうなった」

「……あの緑谷という少年は凄いな。結局一歩も動かなかった。」

「……そうか」

 こいつも緑谷の強さに思うところが有ったのだろうか言葉に詰まる。

「だが、すぐに追い越せる! 卒業後は俺のもとに」

 それでも懲りることのないこいつを突っぱねる。

「忘れたわけじゃねえ。お前が母さんにしたこと。なかったことにはさせねえ、けれど」

 俺は緑谷の言葉を思い出す。

「俺は、ヒーローになる。……そのまえに清算しなきゃならないことがあるけど。な」

 

 とにかく、この体育祭が終わったら、母さんに会いに行こう。

 そのあと、できれば緑谷と、友達に。

 

 

 




流石に勝ちます。
これは原作が神回なのであんま改変するのもあれかなと思いましたが、セリフとかは結構変えました。
あとメリッサさんまじヒロイン。


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第二回戦 3試合

side塩崎

 

 ああ、やはり、あの方は素晴らしい人だ。

 敵である彼を救うために、汚名を被ってまで、全力を引き出させた。

 その高潔な精神は、あの頃から変わっていませんでした。

 私は控室を出て、入場ゲートへ向かいます。

 私は私で、勝ちませんと。

 お相手の飯田さんはあのレシプロという超加速が厄介。

 対する術は……あります。

 

『さあ、フィールドの修復も終わって二回戦第2試合! 始まるぜ!

 A組祭りの中! 一人気を吐く唯一のB組! 塩崎茨! バーサス! その速度追随不可能! サラブレット飯田天哉! ファイト!』

「レシプロ……何!」

 飯田さんが驚いておられます。ですが、これが私の最善手。

『な、何をしている。塩崎茨。いきなり正座で座りだしたぞ! ストライキかー!?』

『いや、あれはまさか……』

『なんだイレイザー! 塩崎が何してるか分かるのか!?』

『……俺の考えが正しいかどうかはわからん。だが、現に飯田は止まっているのだから実際合理的なんだろうよ。見ろ、開幕レシプロをしようとした飯田の動きが完全に止まった。

 その隙に塩崎は茨を自分の周りに敷くことでガードを固め始めた』

『ムムム! 確かに納得できねーが、少なくとも奇襲を防ぐ効果はあったようだな!』

 さて、飯田さんはどうきますかね。私の予想が正しければ。

 

(塩崎くんと長期戦は不利! ゆえに、攻め切る!)

 

 レシプロによる飛び蹴りが、私の肩辺りを狙う。

 それを読み切った私は、ツルを集め衝撃を殺し掴みとると、足を逆側に極める。

 そして極まった瞬間に、私のツルが伸び拘束する。

「降参してください。飯田さん」

「ぐぐ、参った」

 

『な、なんと塩崎茨。正座した状態から飯田の目にも留まらぬ飛び蹴りを掴み極めた! アメイジング! 一体何が起きたか解説のイレイザーヘッドお願いするZE! ぶっちゃけ俺全然わかんねえ!』

 

『塩崎が使ったのは古流柔術で言う座技だな。

日本古来の武術の中には、座った状態で襲ってきた相手を仕留める技が存在する。

本来であれば非常事態用の型だが、今回塩崎は飯田の攻撃先を上半身に限定するために、あえてこの技を使ったんだろう。

だが、それを実際の戦闘でやるには豊富な練習量と、何より度胸が必要だ』

 

『こいつはすげええええ!! 一回戦で個性を見せ、二回戦では肉弾戦の強さを見せる! 塩崎茨! 文句なしのベスト4進出!!』

 

 ……本来であれば、正々堂々真っ向勝負するべきところでしょう。ですが、なりふり構っていられません。私は必ず、緑谷出久さんと戦わなければならないのです。

 

 それが私にとって、ある意味プロヒーローになることより大事なことなのですから。

 

 A組の席に、あの人を見つけます。目が見えなくても、私の音を聞いているのでしょう。

 私は、そのことに嬉しさを抑えきれず、笑ってしまいました。

 

 

side緑谷

 

「飯田君、残念だったな。塩崎さんはやっぱり強いや。あれは合気道か、それとも古流柔術か……」

「そやね。けど、塩崎さん、こっちを見てるよ。笑ってる」

 僕は麗日さんにそう言われ、手を振ってみる。

「あ、振りかえした。やっぱり知り合いなんよねえ」

「うん、そのはず。何だけどね」

「そうだな、プレイボーイが」

 慳貪な声と殺気が僕を叩く。

「峰田くん!? 何なの人聞きの悪い!」

「やかましい! 2週間前にいきなり教室に来てハグにチークキスかまされやがって! そんな深い仲の女を覚えてねえだあ!? 人生舐めんのも大概にしろよ!」

 峰田君は血涙を流しながら言う。

「確かになあ、俺も試合前にあの子にお茶しないって声かけたら、そこに緑谷さんはいますか? だってよ。愛されすぎだろ」

 上鳴君そんなことしてたのか。だから負けるんだと思う。

「あんたそんなことしてるから負けるんじゃないの?」

 耳郎さんがおんなじこと言ってる。

「まあ、イズク君はモテるのね」

 メリッサさんに笑っていわれ、僕も戸惑う。

「いや、でも本当に覚えてないんですよ」

「うーん、でも、それならなおのこと、この戦いはチャンスでしょ」

 メリッサさんは僕の肩を叩く。

「とにかく全力で向かっていけばいいの。そうすれば、通じるところもあると思うわ」

「……はい」

「やっぱプレイボーイだよあいつ!」

 峰田くんが耐えきれぬように叫んだ。

「だから人聞きが悪い!」

 

 続く芦戸さんと常闇くんの戦いは、常闇くんの圧勝だった。

 やっぱり相当強いな常闇くんの個性は。

 

 続く、切島くんとかっちゃんの試合。

「爆豪! 俺はてめえとダチになりてえ! だから! この戦いでお前に認めさせてやる!」

「そうかよ……。黙って死ね」

 かっちゃんは、開幕から爆撃を切島くんに叩き込む。

 だが、切島くんは、硬化によって防ぐと、殴りかかった。

「いつも、お前は凄かった! ヴィランにも真っ先に向かって行った! それでいていつも冷静だった!」

「褒めすぎだ! とっとと退けや!」

 かっちゃんの爆破を真っ向から受けながら、切島くんはかっちゃんに殴りかかる。

 かっちゃんはかっちゃんで、切島くんの攻撃に当たる気配がない。

「けど、そんなお前が! 実は俺達から一歩引いてんのを俺は知ってる!」

「ああ!? ダチでもねえのに何言ってやがる!」

「これからダチになれる!」

「なるかクソが!」

 切島くん、僕の言ったことを……。

 やっぱり、君なら。

『さあ! 切島の猛攻! しかし何か無茶苦茶暑苦しい内容を語り合ってんな! 何かあったのか!』

『……あんまり茶化してやるな。……何かは確かにありそうだ』

「事情は緑谷から聞いた! お前の気持ちなんて俺にはわからねえ!」

「聞いたならわかんだろうが! 俺は! ダチなんて作る気もねえし! 資格もねえ!」

 かっちゃんの爆破が胴体に当たる。だが切島くんはビクともしない。

「それはちげえ! そこまで緑谷は求めてねえ! 緑谷はとっくに許してる!」

「知っとるわ! そんなこと! だからこそ! 俺が俺を許さねえ!」

 ……かっちゃん! この流れは流石にまずいかも……!

「さっきから何話してるんだあいつら。緑谷に関係あんのか?」

 峰田くんや麗日さんが、僕の方を見る。

「デク君。何か知ってる? ……デク君?」

 瀬呂くんや芦戸さんも息を呑む。

「……はやまるなよ、かっちゃん」

 かっちゃんは、切島くんにカウンターで爆撃、距離を取る。

 切島くんは、力の限り叫んだ。

「いい加減自分を、許してやれよ爆豪! でねえと! 緑谷もお前も! 辛いまんまだろ!」

 一瞬静寂が会場を満たす。

 だが、かっちゃんはギリギリと歯を噛みしめる。

「……許せる訳ねえだろうが……」

 かっちゃん。駄目だ!

 

「俺があいつから光を! 奪ったんだぞ!」

 

 その怒号が、会場を貫く。

 会場中の視線が、かっちゃんと僕の間を行き来する。

「爆豪……お前! 全国ネットだぞ?」

「ああ、何が。地元じゃ有名な話だ」

 そう呟いて、かっちゃんはそれでも宣言する。

「だからこそ! 俺はオールマイトをも超える! ナンバーワンヒーローになる!

 じゃねえと! あいつとのその約束まで破っちまったら! 今度こそ俺は俺を殺したくなる!」

 僕はかっちゃんのセリフを歯噛みして聞く。

 かっちゃんは両手を後ろに向ける。

 爆速で近づき、空中を回転する。

 切島くんはそれを察し、硬度を上げる。

 いや、あれは無理だ、

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!」

 

 まさに人間榴弾だった。

 切島くんは地面を2バウンドし、壁にぶつかる。

 

『き、切島場外。クラップユアはーんず……』

『……やるならちゃんとやれよ』

 

 これでベスト4が出そろった。

 だが、歓声はまばらで、僕はA組皆の視線にさらされる。

 僕はため息をつきながら、皆に説明を始めた。

 6歳ころまでかっちゃんにいじめられていたこと。

 かっちゃんが個性を使って落としたドラム缶から庇ったこと。

 そのドラム缶に入った薬剤で、失明したこと。

「お、思ったより、がっつり爆豪悪いな」

 峰田君があわあわとした声を出す。

「といっても、僕としてはかっちゃんにはちゃんとした友達を作って欲しいんだけどね」

「そっか、緑谷ちゃんは、とっくに爆豪ちゃんを許してるのね」

 蛙吹さんが言う。それに僕は頷く。

「うん、だから、皆にはかっちゃんと仲良くしてあげて欲しいな」

「それはいいけど、お前は、爆豪と友達じゃねえのかよ」

 上鳴くんが、僕に問う。

「違うよ。そうなるには、ちょっと僕らの関係は、歪すぎる」

 被害者と加害者として、明確に線が引かれてしまってる。

「あと、間違ってもかっちゃんを責めないで欲しい。僕はとっくに許してるのに、なぜか被害者面してかっちゃんを責める人ほど、ムカつく人はいないからね」

「ああ、いそうだねそういう人」

 ていうかいたんだよ葉隠さん。

 中学時代はそういう人が結構いた。本当やめて欲しかった。

「じゃ、皆、行ってくる」

 僕としてはかっちゃんも気になるが、塩崎さんも気になるんだよなあ。

 頭をかきながら、僕は試合場に向かった。

 

 

side メリッサ

 イズク君は説明した後、準決勝の準備をしに行った。

 お茶子さんがおずおずと私に聞く。

「メリッサさんは、知ってましたか? 爆豪くんのこと」

「昔、いじめっ子を庇って怪我をしたとは聞いてたわ。けれど、それがかっちゃん君だったなんてね」

 私はそう言うと、周りを見渡す。

 皆、纏う空気が重苦しかった。

「何だよあいつら。割と仲良さそうに見えて、そんな過去があったのかよお」

 峰田くんが頭を抱えて蹲る。障子くんも同意する。

「ああ、緑谷の様子では、爆豪にそこまで悪感情は持ってなさそうだったからな」

「実際、持ってないと思うぜ。緑谷はとっくに許してるっつってた」

 瀬呂くんが、皆にそう言う。

「でも、爆豪ちゃんは自分を許せないのね。相手も、相手の家族も自分を許して、緑谷ちゃんはどんどん前に進んで、けれどだからこそ、爆豪ちゃんは前に進めないでいる」

「確かに、やられた方はもう気にしてないことでも、やった方はすげえ気にすることってあるよな。しかも、あれはあまりにヘビーだぜ」

 梅雨ちゃんの言に上鳴君も同意する。

「……私ら、どうすればいいんだろうね。あの二人に」

 お茶子ちゃんか呆然と言う。

「……別に思いのままにすればいいと思うな」

 私は皆に言う。この辺、みんな年下なんだなあって思うな。

「オールマイトおじさまが言ってたわ。余計なお世話はヒーローの本質だって」

「余計なお世話、か」

「でも、そうやね。私らが怖がって二人に接しても、どうにもならんもんね」

「……とにかく今は、緑谷くんの応援をしよう! 次の塩崎さんは手ごわいぞ!」

 飯田くんの号令に、皆拳を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

side塩崎

 

 とうとうこの瞬間がやってきました。私は、とうとうあの方と。

 先ほどの試合では衝撃の事実が明かされ、まだ会場がざわついてますが、私のやることは変わりません。

 クラスの皆様からの激励を受け、控室に向かいますと、爆豪さんとすれ違います。

「……その節は、ありがとうございます」

「礼を言われる筋合いなんざねえ。……お前は、俺を責めねえんかよ」

「あなたは、誰かに責めてほしいのですか?」

 私の問いかけに、爆豪さんは舌打ちします。

「あなたとあの方と私が出会う前のお話でしょう。でしたら私が責める筋合いはありません。そのようなことをすれば私は業火で焼かれねばなりません」

「……そうかよ、邪魔したな」

 やはりこの方は贖罪を求めている。ですが、私が口を出すことではありませんね。あの方とこの人の問題でしょう。ですので、私が言うのは礼だけに。

「……ありがとうございます。あの方に教えないでいただいて」

「アン?」

「おかげで全力で伝えることができます。この大舞台で私の思いを」

「そうかよ……。精々気張れや。決勝がお前なら、楽だろうからよ」

 心にもないことを言いますね。あの方の勝利を微塵も疑ってないくせに。

 胸を高鳴らせながら私は入場口へ向かう。

 

 さあ、私の8年、全てぶつけましょう。

 




これは塩崎さんなのかオリ崎さんなのか。流石に魔改造しすぎか?
飯田のレシプロ攻略しようと色々考えてたらこうなってしまった。

他には完璧に決まった三角締めで飯田くんに「あれは……俺だ!」してもらうくらいしか思いつかなかった。

だが後悔はしていない。


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準決勝 塩崎茨

感想200件突破ありがとうございます! 大変励みになっております!!


『さあ、準決勝第一試合のスタートだ! 

 試合前の情報ではこの二人はどうやら何かしら因縁があるらしいぜ!

 あのエンデヴァーの息子を屠ったリトルオールマイト! 盲目の恐れ知らず! 緑谷出久!

 

 バーサス!

 

 ベスト4の紅一点! 雷速も高速も制する柳のごときしなやかさ! 眠れる森の戦姫(いくさひめ)! 塩崎茨!』

 

 僕達は、二人揃って対峙する。

 戦略的には、塩崎さんに何もさせずに倒しきるのが正しいんだろう。

 けれど。それではいけない気がした。

 

「塩崎さん。最初に謝りたい、ごめん。結局思い出せなかった」

「それは仕方ありません。私はあの時まだ幼く、名乗ることもできませんでしたから」

 塩崎さんは相変わらず祈るような姿勢だ。

「だから、この試合が終わったら教えてくれないか。君とどこで知り合ったのか」

「……では、私からもお願いです」

 塩崎さんはそこで一つ深呼吸をする。

「どうか、全力でこの試合を戦ってください。私はあなたの隣に立つために、この8年、ひたすらに突き進んできました。個性も身体も鍛えました。その集大成を今見せます。私の持てる全ての力と策でもって」

 そう言うと、塩崎さんは体操服の上を脱いだ。

 そのしぐさに会場中がざわめく。

 分かってはいたけど、鍛え上げられていた。

 成長途中の女性の身でここまで鍛え上げるのは、並大抵の努力では無理だ。

「……分かった、受けるよ」

 そう言うと、僕はボクシングスタイルのファイティングポーズをとる。

「ありがとうございます。いざ全力で」

 塩崎さんは両手を広げ、迎え撃つ。

 

「いけー塩崎!」

「B組魂見せてやれー!」

 

「負けんな緑谷ー!」

「寝技に気を付けたまえ緑谷くんー!!」

 

『さあ、試合前の対話も終わり! 準備は整った様だ! それでは準決勝第一試合! レディゴー!』

 

 フルカウル70%! スマッシュ!

 僕の拳が暴風を生み、塩崎さんに叩きつける。塩崎さんはツルを地面に突き刺し吹き飛ぶのを防ぐ。

 その間に、僕は塩崎さんと距離を詰める。

 だが、塩崎さんはとんでもないスピードでツルを伸ばし、上空に浮かび上がった。

 そして、塩崎さんのツルの体積が、増大していく。

 

『な、なんだ塩崎! その茨の量はー! 轟の大氷結にも劣らない規模だー!』

『今まで手を抜いていたわけではないだろうが、温存していたようだな』

 

 その姿はまるで巨人のようになり、僕を見下ろす。

「この一撃、全力であなたに捧げます。巨人の一撃(ゴリアテ・フィスト)!」

 茨の巨人兵が、僕に向かって一撃を振り下ろす。

 

『塩崎の一撃ー!! 大質量にアリーナが揺れる! というか緑谷大丈夫か! 死んだんじゃねえか!?」

『いや、よく聞け、この音は』

『ん!? 確かに何かドカドカって音が、なんだそりゃ! 緑谷! ツルの大質量に拳のラッシュで応戦! 拮抗しているー!! というか、掘り進んでいるー!!』

『騎馬戦での爆豪の動きにヒントを得たな。だが、音で位置情報を得ているあいつにこれは』

 

 レーダーセンスが乱れに乱れる。だが、塩崎さんの位置はぼんやりと捉えている。

 技の発動当初から動いていない! 

「それが君のゴリアテなら、これがぼくの投石だ! トルネイド・スマッシュ!」

 そして、塩崎さんの形がほぐれた。

 何。

『あーと! 緑谷! 見当違いの方向に攻撃ー!! 何してるー!?』

『よく見とけ、塩崎は自分の形をした茨の人形を作っておいた。普段のあいつなら見分けがつくだろうが、あれだけのラッシュの風圧で奴の聴覚も鈍っていた。その間に、接敵』

 ツルの中から、彼女の姿が現れる。そのまま、僕に茨を巻き付ける。

『拘束完了! 万事休すー!!』

『まだだ、吹き飛ぶぞ』

 僕は完全に動きが封じられる前に、轟くん戦でも行った猫だましをする。瞬間、突風が吹き荒れ、茨が裂ける。

 そのまま、塩崎さんにぶつかる。

 そして塩崎さんの手首を、掴んだ。

 背負い投げに移行しようとしたところで、ふと僕は思い出す。

 

 昔、こんな風に、女の子の手を握って。

 8年間の努力、8年前、何があった。

 

 僕が一瞬動きを止めた刹那、塩崎さんは逆に僕を背負い投げる。

 僕は何とか受け身をとり、ゴロゴロと距離を取る。

 そのまま追撃しようとする塩崎さんを、僕は手で制する。

 

「もしかして、昔、かっちゃんと助けた子?」

 

 僕の問に、彼女の動きが止まる。

 そのまま静止する彼女に、僕の予感は確信に代わる。

 

「やっぱり、あの時、ヴィランにさらわれそうになってた時、助けを求めていた子? 君なんだね」

 あの時、かっちゃんと大通りを歩いていた時に、たまたま聞こえた助けを求める声。

 僕はあの事件で、自分もヒーローになれると思った。

 助けを求める声を聞けるヒーローになれると思った。

 そのきっかけになった女の子。

 僕の、原点。

「やっと、思い出して、くれましたか」

 塩崎さんの鼓動が早くなる。彼女が涙をこらえているのが分かる。

『急に止まってどうしたボーイアンドガール? アーハ―?』

『黙ってろ』

 彼女はそれでも、涙を堪えて構えを取る。

「いま、私達は、クラスの皆の期待を背負い、倒していった者たちの無念を抱えてここに立っています。

 だから、動きを止めないでください。

 ……全力で戦いましょう」

「……そうだね。そうしよう」

 僕達は構えを取ると、左手と左手を合わせる。

 彼女は僕の腕を取り、投げようとする。

 僕は自分の方から飛んで、その投げの勢いを利用し着地、フルカウルのパワーを利用し投げ返す。

 塩崎さんはツルを編み込み、まるで巨大な四足獣のように形成し、体勢を整え、僕を迎え撃つ。

巨獣闊歩(ビヒモス・メイク)!」

 それに僕はパンチを繰り出し、弾き飛ばす。

 四本脚のラッシュと二本腕のラッシュ。打ち負けたのは、僕の方だった。

 僕はゴロゴロと吹き飛ばされる。

 

 彼女があの事件がきっかけで何を思ったのかは、わからない。

 でも多分、僕がきっかけで積み上げたんだ。

 その個性も、その肉体も、その技術も、その精神も。

 だったら、僕は全身全霊で彼女を迎え撃つしかない。

 だから、使おう。

 僕の全てを。

 

『あのバカ! あとで反省文だな』

『なんだイレイザー珍しく声を荒げて……なんだありゃあ!』

 

 僕の体から、紫電が嵐のように湧き上がる。

 それに対抗するように、塩崎さんもあの巨人を編み込む。

「100%・トルネイドスマッシュ!」

巨人の一撃(ゴリアテ・フィスト)!」

 

 その瞬間、衝撃がスタジアムを揺らした。

 僕は、咄嗟に逆の拳を打ち付け、踏みとどまる。

 塩崎さんは。

 

『緑谷の奴、超パワーを全身でなく右腕一本に集中させることで、全身バキバキになるのを防ぎやがった。そうじゃなかったら説教コースだぞ』

『よくわかんねえけど! 轟戦並みの大爆発! 果たして残ったのは! っておい……』

 プレゼントマイク先生が絶句する。

 無理もない。

 確かに塩崎さんは、リング内に踏みとどまっていた。

 けれどどう考えても、戦闘続行は不可能だった。

 塩崎さんの頭髪にあたる茨、それが全部なくなっていたからだ。

 自分の武器である頭髪をなくした彼女は、それでも一歩一歩、僕を目掛けて、よろよろと歩いてくる。

『うわあ、ミッドナイト。これは』

『……少し待て』

 彼女の歩みに、観客達も戸惑う。

「茨ー!! もういいよー!!」

 B組の女子の涙声が響く。それを皮切りにプロからも悲鳴が上がる。

「もう終わらせてやれー!!」

「カメラ止めなさい! 止めなさいって!」

「緑谷! もう止めてやれー!!」

 

 僕の聴覚は、彼女の呟きを正確に拾う。

「……まだ、全部、見せてない」

「……私を、助けてくれた、ヒーローに」

「……まだ、全部、見せれてない」

「……まだ、ありがとうって、言えてない」

「……まだ、まだ」

 そこまでして、僕に。

 

「塩崎さん!」

 気が付けば僕は叫んでいた。

「僕にどれだけ感謝してるのか、僕はわからない! 手を引っ張って逃げることしかできなかった僕に!」

「けど、これだけは知っててくれ!」

「あの時、君を助けることができたから! 僕は変われた!」

「自分を鍛えることができた! 前を向くことができた! ヒーローになれると思った!」

「だから! ありがとうって言うなら、僕のほうなんだ!」

「あの時! 僕を呼んでくれて! ありがとう!」

 

 そう叫ぶと、塩崎さんは立ち止まる。

 

「……そうですか、私、ずっと、あなたの力になりたくて」

「……でも、私は、とっくにあなたの力になっていたんですね」

「……それは、良かった……です」

 

 そう言って、まるで野に咲く花のように笑った彼女は、そのまま倒れ、僕は痛む右手で抱えた。

「塩崎さん戦闘不能! 勝者、緑谷出久!」

 担架ロボより、僕の方が早い。僕はフルカウルを使いその場を離れた。

 

『お、俺達は! あの二人の間に何があったのか正確には分からない! けど、けれども想像することはできる!

 塩崎茨は確かにやり切った! 15歳の少女は確かにやりきったのだ! ゆえに! クラップユアハーンズ! クラップユアハンズプリーズ! クラップユアハーンズ!』

『泣きすぎだろ』

 相澤先生の声と割れんばかりの拍手を置いて、僕は塩崎さんを抱えて走り去った。

 

 

 

 

 

 

side あの日の少女

 

 私はあの日、家族と旅行に行っておりました。

 その時現れたのは、強い個性を持つ子どもを攫うという犯罪組織のヴィラン。

 私は誰もいない路地裏で羽交い絞めにされ、助けを求める声は届かず、もうダメかと思っておりました。

 そこに現れたのは、目元にバンダナをし、杖を持った盲目の男の子でした。

「その子を離せ! すぐにヒーローが来るぞ!」

 ヴィランは激高し、男の子を殴ろうとします。

 ですが、少年は未来でも予知したかのようにヴィランの攻撃を躱すと、逆に押し倒してしまいました。

 その後、少年は私の手を取り、もう一人の少年とヒーローのいる所まで逃げてくれました。

 

 警察に保護され、そのヴィランの背後にあった組織も摘発され、警察による監視も解かれたその日、私はその少年に会いに行きました。

 そこで見たのは、目が見えないというのにボクシングのトレーニングを続けている少年でした。

 その姿が、あまりにも真剣で、あまりにも神々しくて、私は話しかけることができませんでした。

 そして、私は決心したのです。

 彼は必ずヒーローになる。

 その時、私も隣に立てるヒーローになると。

 そこからは、辛い鍛錬の日々でした。

 個性のコントロール、度重なる限界突破の日々。

 近所の武道場に入り、大人の門下生に交じって乱取りなど実践的な稽古のトレーニング。

 それも全て、あの方のため。

 そして、雄英入学早々に起こった、敵襲撃事件を乗り切ったというA組の人達を見に言った時。

 あの日私はようやく出会ったのです。

 私の原点である。あの方に。

 

「これが私のオリジンです。すいません心配をかけて。水を飲んで日光を浴びればすぐに生えてきますので」

「いや、ありがとう。話してくれて。……そうだったんだね」

 

 緑谷さんは、淡々と私の話を聞いてくれました。

 そして、私の手を握ってくれます。

 

「君のこと、覚えてなくて、ゴメン。僕、気づかされたよ。人を助けるのって、大変だって。

 ちゃんと助けた人のこと、覚えてなくちゃいけないんだね」

「いえ、最初に言ったとおり、幼い日のことですから。でも、思い出してくれて、私嬉しかった」

 そう言うと、私は緑谷さんの右手を握ります。

 緑谷さんの右手は傷だらけで痛々しいです。

 おそらく次の試合もあるので、体力の温存のため、完全に治癒はしなかったのでしょう。

 ですが、確かに私に向かって、全力で向かってきてくれた証でもあります。

「だから、いつかまた、あなたがプロになったら、私も隣に立たせてくれますか?」

「うん! 当然だよ! 塩崎さんのツルがあれば僕の索敵範囲も広がるだろうし。それにあのゴリアテ・フィストって技、凄く強かった!」

 そう言われ、私はまた涙ぐみそうになります。

 ですが、それをぐっとこらえて、笑みを浮かべます。

 

『準決勝第二試合! 爆豪の勝利! クラップユアハーンズ!!』

 

 その時、プレゼントマイク先生の宣言が響きます。

「さあ、決勝も頑張ってください。私の分まで。それと、どうか爆豪さんをお救いください」

「かっちゃんを……救う?」

「はい、彼は贖罪を求めています。それを与えられるのは、あなただけです」

 緑谷さんは、そこで涙を堪えたように笑います。

「やっぱり、君はいい人だった。あの時君を助けられてよかったよ。じゃあ、行ってくるね」

 そう言って、緑谷さんは出ていきました。

 代わりに、B組の皆が入ってきます。

「塩崎ー!! 俺は感動したぜ! お前はB組の誇りだー!!」

 そう言うや否や、鉄哲さんは男泣きに泣いてしまいました。

「茨! あんた皆の分まで頑張ってくれたんだね! 本当に格好良かったよ!」

 拳藤さんはそう言って、私を抱きしめます。

 見ると、皆さん泣いています。

 私はそれが可笑しくて、でも、私自身も涙が出てきてしまいました。

 けれど、それは悔しさでなく、

 きっともっと、暖かな。

 

 

 

 

 

 

 塩崎茨 準決勝敗退。

 

 

 

 

 

 

 

 




茨ちゃん強くしすぎた(挨拶)
こいついつもキャラ強くしすぎてんな。

さあ、これでメリッサに対抗できるのか。


アンケート締め切ります。
意外と拮抗したので、ラーメンばりに全部載せようと思います。


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決勝 爆豪勝己

 僕は、アリーナまでの道を歩く。

 僕は足で音を鳴らすと反響音を聞き取る。目の前に、轟くんがいる。

「ここまできたら、優勝しろよ、緑谷」

「ありがとう轟くん、勝ってくる」

「……お前のおかげで、俺も前に進めそうだ。

 だから、爆豪も救ってくれ」

「轟くん……」

 轟くんの声は晴れ晴れとして、僕との試合前とは雲泥の差だ。

「お前があいつを許してんのは分かってる。でもだからこそ、お前はぶつからなきゃならねえ。

 あいつを許してんなら、だからこそ思いっきりぶんなぐってやれ」

 轟くんの真剣な言葉に、僕は自嘲気味に返す。

「……本当は、分かってたんだ。かっちゃんが苦しいままだって。けれど、僕は全力でぶつかるのを恐れてた。

 そうすると、かっちゃんが遠い所に行きそうだったから。

 君のこと、偉そうに言えないね」

 塩崎さんに言われたことだ。

 かっちゃんに贖罪を与えることができるのは僕だけだ。

 見て見ぬふりをしてた。10年間、縛り続けていた。

 それは、健全な間柄じゃない。

 だからこそ。

「僕達は、生まれて初めて全力でぶつかり合うよ。ありがとう」

 そう言って、僕は轟くんと拳を合わせる。

 

 僕はアリーナまでの道を歩く。

 その鼓動は、メリッサさんだった。

「イズク君。頑張って優勝してね」

「はい、メリッサさん。ありがとうございます」

「大丈夫? かっちゃん君のこと、本気で戦えそう?」

「……正直分かんないです。かっちゃんは憧れで、凄い奴で、だからこそ超えたくて」

 複雑なんだ、僕らは。

 そんな僕を、メリッサさんは笑って受け止める。

「でも、だからこそ。そんな人でも助けを求められたら助けるんでしょう? それがあなたの目指すヒーローだもんね」

 僕はその問にハッとし、直に笑顔を取り戻す。

「はい、僕はかっちゃんだって救ってみせます。だって僕はオールマイトだって助けてみせるんだから」

「その意気よイズク君」

 そう言って、メリッサさんは右手を上げる。

 僕は彼女とハイタッチをし、会場に向かった。

 

『さあ、登場したぜ! これで雄英1年の頂点が決まる!

 

 一人は第一種目1位第二種目1位、最終種目は連続の名試合メーカー!

 とどまるところをしらない小さなオールマイト! 緑谷出久!

 対するは、そんな緑谷に常に競り続けてきたこの男!

 圧勝ばかりのオールラウンドボマー! デンジャラスライオン爆豪勝己!

 

 それでは、さっそく始めようか!』

 

「デク! てめえを超えて、俺がナンバーワンになる」

「いや、僕が勝つよ、かっちゃん。……そう言えば、かっちゃんとケンカしたのってここ10年でないよね」

「あ? まあそうだな」

「だからさあ、かっちゃん。この大舞台で、本気でケンカしよう。

 ……僕は君に思うところがあるんだ」

「そうか、俺はねえな……。俺が興味あるのは」

 

『スタート!!』

 

「ナンバーワンの称号だけだ!」

 かっちゃんは飛び上がると、僕に向かって突っ込んでくる。

 僕の風圧とかっちゃんの爆発がぶつかり合い、突風となる。

『再三の大爆発―!』

『だが、さっきまでの戦いと違うのは、これが小手先だということだ』

『確かに! 爆豪の爆破と緑谷の左ジャブによる風圧が連続でぶつかり合う! 先にどっちが綻ぶのかー!?』

 いや、先に綻ぶのはかっちゃんの方だ、かっちゃんは、爆破に溜めが必要。だが、僕の方はただ左ジャブを撃つだけだ。

『ラッシュラッシュラッシュ! ボクサーの左ジャブによる風の一撃がダース単位で爆豪にぶつかり始める! このまま決まってしまうかー!?』

 そううまくいけば苦労はない。

 

「まだだー!!」

 

 かっちゃんは手のひらを後ろに向けると、爆速により空中を高速旋回する。

 凄まじい速度に攻撃が当たらなくなってきた。

『これはさながら、戦闘機対地対空ミサイルの戦いか! 激烈に熱いぜ! 楽しそうー!!』

『だが、やってる方は気が気じゃないだろうな。あれだけの速度で飛び回る爆豪も、それに対抗する緑谷も』

 これだけの高速移動に、僕の反響音による探査が追い付かなくなってきた。

 修正。

 かっちゃんの手のひらの爆音から、物理演算、動く位置を予測。予測。

 

 ほうら来た。

 

『爆豪の爆撃と緑谷のカウンターが正面衝突! どっちか死んでねえだろうなー!?』

『いや、カウンターで当てた分緑谷の方が明らかにダメージが少ない。それに対し爆豪は……』

 煙幕も、僕には関係ない、かっちゃんは立っていた。

 だが。

 

『ば、爆豪ー! 左腕があらぬ方向にー!』

『咄嗟に、緑谷の右カウンターを左腕で庇ったか。……これではさっきまでの攻撃も、切島戦で見せたハウザーインパクトも……もう』

『こ、これは決まってしまったか! ミッドナイトの判断は』

「まだだ!!」

 

 かっちゃんの叫びが、ミッドナイトの手を制する。すると、かっちゃんは右手だけで錐揉み回転しながら僕に突っ込んでくる。僕は迎撃しようとするが、予想外の動きに予測が間に合わず、正面からぶつかる。

 

『爆豪の頭突きが緑谷の腹部を直撃ー!!』

『まだやる気か……。止めるべきか?』

 

 あまりの痛みに、僕の頭が眩む。

 かっちゃん。

「デク! てめえには負ける訳にはいかねえんだよ!」

 そう言ってかっちゃんは右の大振りをする。

 かっちゃん。

「俺が、お前から光を奪った!」

 僕はそれを躱す。

「それなのに、お前は俺を許した!」

 かっちゃんは折れた腕でなぐりかかる。

「だから、俺は俺を許さないんだよ!」

 かっちゃんの蹴りが僕に刺さる。

「俺が! お前との約束通りナンバーワンヒーローになって! 誰かを救えるようになるまで!」

 かっちゃんの爆撃が僕を襲う。

「俺は俺を! 絶対にゆるせねえ!」

 

 そうだったんだ。

 かっちゃんはかっちゃんであの日の約束を真剣に捉えて、

 そのために毎日毎日努力して、

 かっちゃんの夢を、

 

 

 

 

「ふざけんなバカヤロー!!」

 

 

 

 

 僕の右ストレートが、かっちゃんを体ごと吹き飛ばし、かっちゃんは二転三転する。

 観客席を静寂が包む。

『……今の、個性使ってねえよな?』

『素の力だな』

 

「君が、ヒーローを目指したのはそんな理由じゃないだろ!」

「君は僕が怪我する前から! ヒーローになりたがってたじゃないか!」

「オールマイトみたいに勝つヒーローに! なりたがってたじゃないか!」

「僕への贖罪のためにヒーローになるってんなら! そんなことは間違ってる!」

 

 

 まだ、僕に光があったころ、かっちゃんと商店街のテレビでオールマイトの映像を見たことがある。

『4対1! 絶対負けるって思うよな!」

『でも見ろ! ここ避けて! 殴って! ほら勝っちゃった!』

『どんなに追い詰められても、最後に必ず勝つんだぜ!』

 そう言ってテレビを見る君の目は、とても輝いていた。

 きっとあれから、僕が光を失ってから、あんな顔をすることはなくなったんだろう。

 

 あの日、塩崎さんを助けたあとの、あの約束が君を縛ったのなら、僕が君を解放しなくちゃならない。

 

「君は! 昔っから凄いやつで! 

 僕はただのデクの坊で!

 でも! 同じ人に憧れた!

 

 その憧れのために! 君は立ち上がれ!

 僕への罪の意識で君の夢を歪めるな!

 

 君は君自身の夢のために! 立ち上がっていいんだ!」

 

 僕がそう、あらんかぎりの力で叫ぶと、かっちゃんはよろよろと立ち上がる。

 かっちゃんの心臓の鼓動が、早く。力強くなる。

 

『爆豪の目に……力が』

 

 その瞳の力を見れないのが少し残念だけど。

 

「ごちゃごちゃうるせえなあ! クソデクがよお!」

 かっちゃんは爆速で近づき、右ひじを僕に叩き込む。

 そして、すーっと息を吸い込むと、声高らかに宣言する。

「俺は! オールマイトをも超える! ナンバーワンヒーローになる!」

 かっちゃんの宣言が、アリーナ中に響き渡る。

 それは切島くんの時とは違う、本当の、かっちゃん自身の言葉だった。

 罪に囚われて言った言葉じゃない。本当に本気の、彼の夢だった。

 

「だからデク! てめえが邪魔だ!」

 そう言うと、かっちゃんは、右手を前に突き出し、叫んだ。

 僕もそれに応え、ファイティングポーズを取る。

 そして二人で激突し、額をぶつけ合った。

 

「うおー! 全力でぶつかれバクゴー!」

 切島君の叫びが聞こえる。

「デクくん! 負けないで!」

 麗日さんの叫びが聞こえる。

「全部出し切れ! バクゴー!」

 芦戸さんの声がする。

「コンパクトに! 振りぬいて!」

 葉隠さんの声がする。

「どっちも倒れないで!」

 梅雨ちゃんの声がする。

「うわーん! 何だよ二人とも! かっけーよお!」

 峰田君の涙声が響く。

 

 かっちゃんは右のおお振り、僕はコンパクトにした打撃を放つ。

 当然、僕が打ち勝ち、かっちゃんは倒れる。

 僕は寝技に持ち込み、締め上げようとする。

 その時、かっちゃんが不思議な動きをした。

 僕の首が締め上げられる。

 

 どういう技?

 

 いや、まさか!

 

『ば、爆豪! 折れた腕を利用して首を締め上げている! なんつう無茶を!!』

『バカ! すぐに止めろ! 戻らなくなるぞ!』

 

「知るかボケが! 俺はナンバーワンヒーローになるんだよ!

 ここでやりきんなきゃ! 出し切んなきゃ!

 俺は一生後悔するんだよ!」

 

 かっちゃん!

 君が明日を捨てるなら、僕は。

 

 僕は、力まかせにグリップを解く、ワンフォーオールはもうほぼ余力がない。

「勝て!」

 心操くんの声。

「緑谷!」

 轟くんの声。

「イズク君!」

 メリッサさんの声。

「出し切ってください!」

 塩崎さんの声。

 そのまま、僕は至近距離でかっちゃんを殴ろうとする。僕の今使える全てで。

 かっちゃんは、それを迎え撃とうとして、右手の爆破をする。

 

 至近距離でぶつかり合った衝撃は僕らを転げまわらせる。

 

 場外になったのは、どっちだろうか。

 

「―--君場外、優勝は―ーー」

 

 

 僕としては、もう、どっちでもいいや。

 

 

 

 




次回、体育祭編最終回


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体育祭終了

 ポンポンと、花火があがり、表彰式の準備が整った。

「さあ、表彰式の準備が整ったわ!」

 ミッドナイト先生が言うと、会場がざわめき、フラッシュがたかれる。

「さて、メダル授与よ! 今年メダルを授与するのはもちろんこの人!」

 そう言うと、巨大な塊が空気を裂いて飛んできた。

「私が、メダルを持ってき「われらがヒーローオールマイト」た」

 カブッた。

 気を取り直したオールマイトが、まずは常闇くんにメダルを持っていく。

「常闇少年、入賞おめでとう。強いな君は」

「……組み合わせに助けられたまで。この4名の中で、自分の実力が一番劣っています」

「そう謙遜するな。君の実力はトーナメントでも随一だった。だが、相性差を覆すには個性に頼り切りでは駄目だ。地力を鍛えれば取れる択も増えるだろう」

「……御意」

 そう言って、オールマイトは大きな体でハグをする。

 

「塩崎少女、入賞おめでとう。入賞者の中で唯一の女性。準決勝では、素晴らしい頑張りをみせた。……理由を聞いても?」

 塩崎さんは、まだ髪はベリーショートといった短さだが、それでも綺麗にまとめてそこに立っていた。

「……はい。昔私は、緑谷さんに命を救われました。それからずっと、彼の隣に立てるようなヒーローになりたかった。だから、彼に全力を出し切れてよかったと思います」

「君の頑張りは確かに緑谷少年に届いていたよ。そして、周りにも確かに伝播したはずだ……ハグしても? 麗しいレディ」

「はい! よろしくお願いいたします! オールマイト先生!」

 そう言うと、短くハグをする。

 

「さて、頑張ったな爆豪少年。……こっちを向いてくれるか?」

「……うるせえ、あんだけ大口叩いてこの結果だ。あんたに顔向けできるかよ」

「そう言うな、君はいつだって全力で戦った。衝撃のカミングアウトだったがね」

 その言葉にかっちゃんは少しだけ辛そうに、でも吹っ切れたように口にする。

「……犯した罪は消えねえ、けど、それでも俺はヒーローになる。あんたみたいな必ず勝つヒーローに。そしていつかあんたを超える。そんだけだ」

「過去の罪につぶされることなく、十字架を背負いながら、それでも、つねに正義に邁進する。それもまた、一つのヒーローとしての在り方だ。だから、精一杯前を向きなさい。ただし、あの締め技だけはナンセンスだ。自分を大事にしなさい」

「……っす」

 かっちゃんはリカバリーガールにも散々怒られたからなあ。

『あんたは何考えてんだい! 折れた腕で殴るだけなら飽き足らず! リミッターを外すタイプはこれだから!』

 一応リカバリーガールの尽力で後遺症は残らないそうだが、痛々しいギプスがつけられている。

 それでも、後にひかなくて良かった。

 

「さて、有言実行おめでとう。緑谷少年。素晴らしい成績だった。感想を聞いても?」

「はい、でも、正直、全然実感がわかなくて」

 僕は、言葉につまりながらも答える。

 そう、あのぶつかり合いの後、僕はギリギリ白線の内に留まり、かっちゃんの足先は僅かにステージから飛び出した。

 本当にギリギリの、差とも言えない僅かな違いだった。

「皆、強い人達でした。……抱えてるものがありました。けれど、僕はそれでもあなたや両親、そして支えてくれるみんなに、僕が来たって見てもらいたかった。

 そして、一刻もはやく、あなただって助ける位のヒーローになりたい。だから、まだまだです」

「常に自らを鍛え続けるその姿勢、常に完璧を求めるその姿勢は素晴らしい。だが、今日くらいは自分を褒めてやってくれたまえ。

 そして、私を助けるか……。それは私でさえも敵わないような危険に立ち向かうってことだ。

 そんなヒーローになるのはとても大変だが、それでも、私は君を頼りにしているよ。いつか君と隣で戦う日を楽しみにしている」

「……! はい!」

 そう言って僕とオールマイトはハグをする。

 

「さあ皆さん! 今回は彼らだった! だが、この中の誰しもがここに立つ資格はあった! 次代のヒーローは着実に芽を伸ばしている!!

 てな感じで最後に一言」

 

「「「「プルス「お疲れさまでした」」」」」

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!」

 ミッドナイトが叫ぶ。

「いや疲れただろうなって」

 最後にしまらなかったけれど、それでも僕達は笑いあった。

 そのあと、僕はよろよろと歩き出すと、かっちゃんと塩崎さんに両脇を抱えられた。

 どうやら、限界だったみたいだ。

「かっちゃん、塩崎さん、ありがとう」

「ケ! 世話が焼けやがる」

「……ずっと、こうしてあなたを支えたかった」

 そう言うと塩崎さんは、僕の頬に頬を寄せる。

 僕は耳まで赤くなりながら、退場しようとする。

 そんな僕達の様子を、フラッシュの音が覆う。

「みせもんじゃねえぞコラ!」

「いいでしょかっちゃん。今日くらいは」

「ケッ!」

 かっちゃんが舌打ちすると、塩崎さんはクスクスと笑い出した。

 

 好敵手とかいて「とも」と呼ぶ。

 なんて恥ずかしいけど、確かに今日、僕は友達ができた。

 

 

 でも、やはりヴィランは待ってはくれなかった。

 

 

「インゲニウムが、ヴィランにやられた?」

「うん、飯田くん、早退しちゃった……」

「……心配だ」

 麗日さんと、ともに話し合う。

「デクくん……」

「とにかく、連絡を待とう。今、僕達にできることは、祈ることしか……」

「……そやね」

 ……無事でいてくれ。

 

 

「おつかれっつうことで、明日と明後日は休校だ。プロからの指名等まとめて休み明けに発表する」

 飯田くんの空席を見ながら、僕は思案する。

 僕は、彼に対して、何ができるだろうか。

 

 

 それでも、今日くらいは。

 

「おーい、緑谷ってまだいる?」

「何? えっと」

「拳藤さんですわね。B組の委員長ですわ」

 八百万さんに言われる。委員長会で知り合ったのだろうか。

「はい、緑谷ですけど。何か?」

「悪いね八百万! ちょっと借りるよ!」

 そう言うと、僕はB組に連行される。

 そこには、塩崎さんが待っていた。

「……ええと、塩崎さん、さっきぶり、どうかした?」

「いえ、私も何が何やら」

 そういって二人で首を傾げあう。

「ねえ、緑谷ー! 茨とはどうなの実際?」

 僕は、耳元でささやく声にびっくりする。レーダーセンスには口だけが浮かんでいる。体のパーツを切り離す個性だろうか。

「どうといわれましても、ねえ」

「……ああ、そういうことですか」

 塩崎さんは、何やら納得したようだ。

「確かに、私は緑谷さんをお慕いしています。ですが、緑谷さんの気持ちというものも大事でしょう。ですので、今すぐどうしようという訳ではありませんよ」

 ……何か、今、さらっととんでもないこと言われなかった僕?

「お、お慕いしています!」

 麗日さんの驚く声が聞こえる。

「……ふーん、そっかー、まあそうだよねー」

 葉隠さんの納得する声が聞こえる。

「あの、おおおお慕いしていますってててて?」

 僕はどもりながら塩崎さんに尋ねる。

「言葉の通りです緑谷さん。私はあなたをお慕いしています」

 その途端、B組の女性陣から歓声が上がる。

 そっかーお慕いされちゃったかー。

「え、ええええええ!!」

「ですが、緑谷さんは素敵な方。それに、周りにも素敵な女性が多い。ですので、あまり焦って結論を出さなくていいんですよ。

 あなたが後悔しない選択をすることが、何より一番なのですから」

 そう言って、塩崎さんは聖女のように笑った。

 僕は茫然とする。

「は、え、ええと」

「もちろん、最終的に私を選んでくれればとは思います。ですが、周りに流されてあなたの意思が反映されない結果になる。

 それはあなたに救われた私にとって、一番やってはいけないことですので。ですからどうか、あなたの心のままに」

「うううう茨ー!! あんたやっぱいい子だよー!!」

 拳藤さんが、感極まった感じで塩崎さんに抱き着く。

「緑谷……」

 僕の肩を叩くのはさっき、体のパーツを切り離していた女の子だ。

「ええと、君は」

「申し遅れました、私、取蔭切奈と申します」

「ああ、どうもご丁寧に、緑谷出久です」

 そう言って握手する。

「頼む、茨と接吻してやってくれ」

 全然丁寧じゃないー!!

「さっきの塩崎さんの話聞いてた!?」

「うるせー! こんないい子が思いに蓋しなきゃいけない世界なんて滅べばよい! 私は事を急ぐ!」

「切奈やめな」

「生温いこと言うな一佳! このまま女子特有の同調圧力により一気に事を進める!」

「あんた緑谷にとって初対面なのにキャラフワフワしてんよ」

 ……B組も楽しそうだな。

 その時、するりと葉隠さんが麗日さんを引っ張って僕に近づく。

「お茶子ちゃんターッチ」

 僕の体がフワフワと浮き出す。

「瀬呂君テープ」

 そう言って、僕の体にテープが巻かれる。

「戦略的撤退!」

 そして葉隠さんに引っ張られる。酔う。

「逃げたぞ! 追えー! 男子ー!」

「いや、逃がしてやれよ」

「塩崎の意思を汲んでやれ」

 常識人っぽい男子達が冷静に突っ込む。

「逃がさないノコ!」

「あんたも悪ノリしない希乃子」

 B組も賑やかなクラスだなあ。

 

 その時、B組に怒号が響き渡る。

「おい! 何ちんたらしてやがるデク! とっとと行くぞ! おばさんから連絡ねえのか!」

 僕はかっちゃんに言われ、ポケットから盲人用スマホを取り出す。

 メッセージを開けると、自動音声読み上げ機能が働く。

『今日は爆豪さん家でお疲れ様会をやるから、二人で帰ってきなさい』

 ……そっか、そうか。

「ごめんね麗日さん、解除してもらえる?」

「……ん、分かった。……良かったね、デクくん」

「……それはとても大事な用事ですね。是非行ってください」

「ありがとう、麗日さん、塩崎さん、また明々後日」

 そう言って、僕らは別れた。

 

 かっちゃんとの帰り道、色んな話をする。

 他愛もない話だ。

 クラスのあの人はどうだの授業はどうだの。

 たどたどしくも、この10年間を埋めるように、色んな話をした。

「かっちゃんが、橋から落っこちた? そんなのあったっけ?」

「……覚えてねえんならいいわ」

「ふうん。何か傷つけた?」

「傷ついてねえわアホが!」

「あっそう。……ついたね」

 久しぶりに来るかっちゃん家だ。

 

 僕らは少し躊躇ったが、意を決して、扉を開けた。

 瞬間、いい匂いが僕らを包む。すごいごちそうだ。

 僕らは二人揃って、部屋に入ると、母さんとかっちゃんのお母さんである光己おばさんがいた。

「お疲れ様、ふたりとも」

 母さんが僕らを出迎えて、カバンとジャケットを受け取る。

 光己おばさんが、僕達によろよろと近づく。

 そして、僕達を抱きしめた。

「ババア、なにし」

「かっちゃん……」

 光己さんは震えながら、言葉を紡ぐ。

「イズク君、勝己を許してくれて、ありがとう」

「勝己、アンタ自身を、許してくれてありがとう」

「凄い戦いだった。だから、ありがとう」

 

 ああ、そうか。きっとずっとこの人は、気に病んでたんだ。

 

「光己おばさん……」

「……しみったれた顔すんじゃねえババア。未来のナンバーワンヒーローの母親がよお」

 かっちゃんは、本当に素直じゃないなあ。

「アンタは……本当にもう」

 そう言って、光己おばさんはかっちゃんの頭を叩く。

 二人にしておいて、僕は母さんのもとに近づく。

「母さん、ただいま」

「おかえり出久。頑張ったわね」

「うん、母さん」

 そう言って、今日一番伝えたかった言葉を言う。

 母さんに一番最初に伝えたかった。

 

「僕が来た!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカ、ニューヨーク。ここは通称ヘルズキッチン。

 かつて、とある個性犯罪の災禍から、スラム街となってしまった地域である。

 そんな背景のある町にしては場違いな高層ビルの最上階。

 二人の男が会話している。

「どうかね、アダマンチウム製の強化骨格の調子は」

「頗る快調だボス」

 男は写真を弄びながら答える。男は写真を指で弾くと、トランプを投げつけ、写真を壁に縫い付ける。

「AFOを頼らなかったのは正解だ」

「あんな改造人間とか作ってる奴ら頼れるかよ。……あのガキめ!」

 男はさらにトランプを投げつける。

 写真に写っているのは、雄英体育祭優勝者、緑谷出久。

「私怨では動くなよ」

「分かってるよボス。これでもプロだ」

 怒気を収め、男は憮然とした表情で言う。

「ならいい。厄介なヒーローに対する一番の方法は何か分かるか?」

 その男は、巨大な白人男性だった。

 縦にも大きいが、何より横に大きい。

 だが肥満ではない。

 見る人が見れば、その肉体のほとんどが筋肉であることが分かるだろう。

「後ろから頭蓋をブチ抜く?」

「それは次善の策だな」

 男は葉巻に火をつけ、吸う。

 彼が吸い込むと、キューバ産の上質な葉巻は一息で全て灰になった。

(これで増強系でも異形系でもねえんだから凄えな、ボスは)

 男は改めて戦慄する。

 仮に自分とボスが戦ったとして、自分が勝つビジョンが見当たらない。

 それなら、オールマイトやAFOと戦った方がマシである。

「一番の方法は、そのヒーローのテリトリー外でコトを収めることだ。

 日本に厄介なヒーローがいるとして、それはAFOに任せれば良い」

 2人がけのソファーに狭そうに腰掛けながら、彼は言う。

「成る程……」

「……雄英体育祭、私の望む個性の持ち主はいなかった。

 この八百万というお嬢さんは惜しかったがね」

「となると、やはりAFOですか」

「……個性方面ではヤツが一番情報を得やすい。

 だが一年で何の成果もないところを見ると、やはり例の装置に注力した方がいいかもしれん。

 まあ、そちらは表の顔でどうにかなりそうだが」

「となると、俺はまだ出向ですか」

 男は、不満げな声を上げる。

「苦労をかけるな」

「報酬が支払われている内は構わんですよ。だが俺が脳無とかいうヤツにされそうになったらすぐ逃げますよ」

「構わん、流石にヤツらもそこまでの無体はせんと思うがな。お前の判断でいい」

「了解、ではまた」

 そう言うと、男は窓からビルの外に降りて行った。

「頼んだぞ、ブルズアイ」

 そう言うと、男は花瓶から薔薇を一本取り出し、匂いを嗅いだ。

 その後、男は壁側まで歩いていき、部屋の壁に貼り付けられた写真をとる。

「日本のリトルヒーローか、私の脅威とならなければ良いが。

 ……せいぜい引っ掻き回してくれることを期待しよう」

 コンコンと扉がノックされる。

「入れ」

 ガチャリと、女性秘書が入ってくる。

「ウィルソンさん。シールド博士のスポンサードの件で連邦保安局が話したいことがあるそうです」

「……すぐに向かおう」

 そう言うと、男は先程までとは打って変わって人好きのいい柔和な表情を浮かべる。

「マギー、娘さんの病気は良くなったか?」

「ええ、その節は、ウィルソンさんのお陰です」

「何、家族ってのは一番大事だ。さあ今日も稼ごうじゃないか」

 

 男の名は、ウィルソン・フィスク。

 アメリカ経済界にその名を轟かす実業家。

 

 裏の名は、キングピン。

 アメリカ裏社会最大のフィクサーである。

 




本当は引き分け同時優勝とかも考えましたが、
それだと逆にかっちゃんが救われないかなと。
一度完璧に負けといた方が彼にとっていいかなと思いました。
爆豪勝己はこの戦いを機にもっともっと強くなります。


そして正義が力をつけると同時に、悪もまたその栄に限りはないのです。

アンケート設置しました。回答お願いします。
10万UA記念短編は、日曜日の12時投稿予定です。
下品です。あんまり期待しないでください。


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雄英体育祭掲示板【前編】

こちらは雄英体育祭の掲示板風短編です。

本編見てからご覧ください。

正直微妙かなと思います。

それでもご覧になりたいかたはどうぞ。


【一年】雄英体育祭掲示板【A組】

 

1   名無しのHERO

 

 このスレは、雄英体育祭一年生の部の実況スレになっております。

 他学年の話題、生徒への誹謗中傷、その他公序良俗に反する書き込みはご遠慮ください。

 まったり進行です。本スレ別にあります。

 

2   名無しのHERO

 

 波動ねじれちゃんのイチゴパンツもぐもぐ

 

3   名無しのHERO

 

 >>2 一発目からいきなりスリーアウトかましてきやがったな

 

4   名無しのHERO

 

 >>2 不覚にもワロタ

 

5   名無しのHERO

  

 今年の一年ヒーロー科で注目株教えてくれ。

 

9   名無しのHERO

 

 とりあえずエンデヴァーの息子轟とヘドロ事件の爆豪が知名度的にはツートップ。

 あとは、普通科の友達の情報だと推薦の八百万、骨抜、取蔭。

 インゲニウムの弟の飯田。あと他に入試一位の緑谷ってやつ。

 そんくらいか。

 

11  名無しのHERO

 

 今年はヴィランの襲撃を切り抜けた1年A組が注目だな。

 

12  名無しのHERO

 

 結構ヤバかったって聞いたぞ

 

13  名無しのHERO

 

 そりゃ20人中15人だか16人だか怪我して、内一人は3日入院したって言ったからな。

 

14  名無しのHERO

 

 ヤバすぎだろ。それで良く開催したな。

 

15  名無しのHERO

 

 結局誰も普通科への転科も退学もしなかったんだから、そんなガッツある生徒達のチャンス潰すわけにはいかんだろう。

 

16  名無しのHERO

 

 そのお蔭で俺らは今日楽しめるわけだから感謝しねえとな。南無

 

17  名無しのHERO

 

 >>16 言ったそばから殺してんじゃねえよ

 

 

 

 

78  名無しのHERO

 

 やっと入場だ。長かった。

 

79  名無しのHERO

 

 一年A組だろー!!

 他の組カワイソス

 

80  名無しのHERO

 

 確かに他の科はともかく、同じヒーロー科のB組は面白くないだろうな

 

81  名無しのHERO

 

 まあ、本選で見返すしかないだろ。しかしオーラあるな

 

82  名無しのHERO

 

 ヴィランの襲撃耐え抜いたってだけで、そこまで変わるかっておもったけど、やっぱ立ち振る舞いに差がでるな。

 

83  名無しのHERO

 

 しかし、皆可愛い。あのクソださ体操服でもかわいい

 

84  名無しのHERO

 

 そうでもなくね、結構格好いいデザインじゃん

 

85  名無しのHERO

  

 あのラインUA=雄英だぞ

 

86  84

 

 本当だ、だせえわ

 

 

 

 

 

 

128 名無しのHERO

 

 選手宣誓の時間だコラア! しかしミッドナイトエロいな

 

129 名無しのHERO

 

 それな。さて、入試一位はどんな奴か

 

130 名無しのHERO

 

 結構地味目だなそばかすあるし、てかバンダナ?

 

131 名無しのHERO

 

 中二病かな?

 

132 名無しのHERO

 

 目が見えないとか? にしちゃ普通に歩いてるな。

 

133 名無しのHERO

 

 んなわきゃないだろ。何か透けるバンダナじゃね?

 

134 名無しのHERO

 

 中二病の割に選手宣誓普通だな

 

135 名無しのHERO

 

 お、何かやる気だぞ、マイク取った

 

136 名無しのHERO

 

 

 

137 名無しのHERO

 

 

 

138 名無しのHERO

 

 

 

139 名無しのHERO

 

 目が、え?

 

140 名無しのHERO

 

 いや、でも普通に歩いて、え?

 

141 名無しのHERO

 

 

 

142 名無しのHERO

 

 何だよ、カッケー奴じゃん

 

143 名無しのHERO

 

 歓声うるせえ。気持ちは分かる。

 

144 名無しのHERO

 

 今まで支えてくれてたもののために勝つ。まさしくヒーローのセリフだな。

 

145 名無しのHERO

 

 でも、あれだけ言って負けたら恥ずかしいぞ

 

146 名無しのHERO

 

 それも含めて自分を追い込んでるってことだろ

 

147 名無しのHERO

 

 クラスの奴らにもみくちゃにされてる。

 何か雰囲気いいな。

 

148 名無しのHERO

 

 そりゃあ死線を同じく超えれば、親しくもなるだろ。

 

149 名無しのHERO

 

 何か青春って感じだ。

 ミッドナイトが何かエロいかんじになってね?

 

150 名無しのHERO

 

 あの人青春大好きだからな

 

151 名無しのHERO

 

 青春好きだからってエロい感じにはならないと思うんですがそれは

 

 

 

 

 

 

180 名無しのHERO

 

 すげええ! パワー!

 

181 名無しのHERO

 

 これは入学試験主席ですわ。

 

182 名無しのHERO

 

 ていうか無茶苦茶はええな。

 何だ、増強系か? でも感覚器官も凄いってことだろうし意味がわからん。

 

183 名無しのHERO

 

 全体的な能力を底上げするタイプかもしれん。

 しかし、轟や爆豪もそんなスピードに良くついていくな。

 

184 名無しのHERO

 

 あ、何か茨が出てきて捕まった。

 

185 名無しのHERO

 

 B組の個性か。こいつもとんでもない規模だな。

 

186 名無しのHERO

 

 塩崎って髪の毛茨の女の子か、この子も入試一位、爆豪、轟に競ってるとかやるやん。

 

187 名無しのHERO

 

 うお! 突風!

 

188 名無しのHERO

 

 地面殴りつけるだけでこの風圧か。はんぱねえな

 

189 名無しのHERO

 

 女の子のおっぱいむっちゃ揺れてんな

 

 

 

320 名無しのHERO

 

 流石入試一位。あっさり一位通過だったな。

 

321 名無しのHERO

 

 本スレすげえ速度。やっぱり盛り上がってんな。

 

322 名無しのHERO

 

 こっちはこっちでまったりやろうぜ

 

323 名無しのHERO

 

 何だあのちゃぶ台返しは、後続偉いことになったな。

 

324 名無しのHERO

 

 何気にあの緑谷の妨害をすんなりスルーして2位になった塩崎茨ちゃんもやべえと思う

 

325 名無しのHERO

 

 八百万って子に小さい男子が張り付いてる。

 

326 名無しのHERO

 

 本当だw これはあかんやろw

 

327 名無しのHERO

 

 ていうか緑谷って、ヘドロ事件でヴィランに小麦粉ぶつけた無個性で盲目の少年なんだな。本スレで話題になってた。

 

328 名無しのHERO

 

 そうか、何か見たことあるかなと思ったが、けど、明らかに個性あるじゃん。遅咲きなのか?

 

329 名無しのHERO

 

 何かを溜め込むタイプの個性だったり、体が出来上がるまでセーブされてたりなら分からんでもないな

 

330 名無しのHERO

 

 とにかくすげえタレント揃いだな。つうかA組にタレント揃いすぎじゃね?

 

 

 

 

525 名無しのHERO

 

 一千万w

 

526 名無しのHERO

 

 昔のクイズ番組じゃないんだからw

 

527 名無しのHERO

 

 しかし、皆が獲物を見る目で見てるのに笑って受け流す緑谷やべえな

 

528 名無しのHERO

 

 な! 何か盲目なのと相まって強キャラ感やべえぜ

 

 

 

 

588 名無しのHERO

 

 注目の騎馬は 緑谷、塩崎ちゃん、肉球ちゃん、サポート科の騎馬だな。

 A、B、サポート科 男女とバランスすげえ。

 

589 名無しのHERO

 

 轟と爆豪もそれぞれバランス良さそうだ。

 

590 名無しのHERO

 

 あとは、唯一残った普通科の騎馬が気になるな。

 とか言ってる間にスタートした。

 

591 名無しのHERO

 

 ん、何か話してるな。聞こえねえ。

 

592 超聴覚HERO

 

 どれどれ、「何でA組と組んだ塩崎」

 「この方とは決勝であいまみえたい」だそうだ

 

593 名無しのHERO

 

 ナイスな個性持ちが会場に!

 

594 名無しのHERO

 

 おお、ありがてえ。

 とか言ってる間に緑谷が返り討ちだ

 

595 名無しのHERO

 

 イナバウアーかよ。

 イレイザーヘッドの解説ありがてえな。

 無個性で盲目のころからボクシングと柔道やってるのか、すげえな

 

596 名無しのHERO

 

 ジェットパックで空中移動。

 その隙に爆豪が爆破。

 塩崎さんがガード

 

597 名無しのHERO

 

 騎馬から離れるってあり!?

 

598 名無しのHERO

 

 アリだってさ

 

599 名無しのHERO

 

 草属性で火属性カバーするとかやるな

 

600 名無しのHERO

 

 とか何とか言ってる間に、スケベ男子の騎馬が襲い掛かったぞ。

 

601 名無しのHERO

 

 くっつくボールを投げる個性か。けっこうヒーロー向きだな

 

602 名無しのHERO

 

 しかし騎馬のやつ凄い怪力だな

 

603 名無しのHERO

 

 何か許せねえとか叫びだしたぞ。

 

604 名無しのHERO

 

 wwwwwwww

 

605 名無しのHERO

 

 草生えるわこんなんw

 

606 名無しのHERO

 

 魂の叫びや

 

607 名無しのHERO

 

 プレゼントマイクの解説w

 同意すんなw

 

608 名無しのHERO

 

 しかし、メリッサって誰だ?

 

 って、塩崎さんw かすめ取っとるw

 

609 名無しのHERO

 

 >>608 彼女じゃね?

 塩崎さんできる女

 

610 名無しのHERO

 

 外国人で年上と思しき彼女いるとかこいつじゃなくても切れるわ。

 

611 名無しのHERO

 

 とか言ってる間に、今度は透明人間の騎馬が

 

612 名無しのHERO

 

 何か顔真っ赤

 

613 名無しのHERO

 

 そっか、シルエットが分かるのか

 

614 名無しのHERO

 

 痴女やん!

 

615 名無しのHERO

 

 

 

616 名無しのHERO

 

 緑谷くんになら、いいよ

 

617 名無しのHERO

 

 ブーイングすげえ! 耳がいてえ!

 

618 名無しのHERO

 

 いや、観客一体感ありすぎだろw

 

619 名無しのHERO

 

 つうか何騎馬戦でハーレムこしらえてんだよこの子

 

620 名無しのHERO

 

 言いがかりやで本人は真面目にやってそうなのに

 

621 名無しのHERO

 

 ですが、ハーレム。そりゃブドウみたいな子も血涙流すわ

 

 

 

 

 

710 名無しのHERO

 

 飯田はええええええええええええええ!!

 

711 名無しのHERO

 

 防いだ緑谷もやべえええええええええ!!

 

712 名無しのHERO

 

 実況が追い付かねえよ。何だ今の。

 

713 名無しのHERO

 

 飯田の本気スピードに対応した轟も、それを防いだ緑谷も。さらにそれで防がれたと分かるや即座に別の目標に移す轟もスゲエしやっぱり緑谷がすげえ

 

714 名無しのHERO

 

 語彙が貧困になるレベルですわ。

 

715 名無しのHERO

 

 そうこうしてるうちに塩崎さんが何か大技した件

 

716 名無しのHERO

 

 すごく、大きいです

 

717 名無しのHERO

 

 はえー、すっごい

 

718 名無しのHERO

 

 ていうかもうみんな賢者タイムじゃん。最近の子ってすげーわ

 

719 名無しのHERO

 

 このまま逃げ切りかーつまらん。

 

720 名無しのHERO

 

 バクゴー突っ込んでった。

 

721 名無しのHERO

 

 いや、無理だろ

 

722 名無しのHERO

 

 すげえ掘削してる。まあ無理だろ

 

723 名無しのHERO

 

 あと15秒

 

724 名無しのHERO

 

 ひょっとして掘り進んでる?

 

725 名無しのHERO

 

 うお! 開通した!

 

726 名無しのHERO

 

 す、すげえ!

 

727 名無しのHERO

 

 あ

 

728 名無しのHERO

 

 

 

729 名無しのHERO

 

 

730 名無しのHERO

 

 

 

 

 

 

737 名無しのHERO

 

 ガードかと思えばジャングルジムだった。箴言だな

 

738 名無しのHERO

 

 つうか、本当今の子すげえ。てか緑谷と爆豪仲いいな

 

739 名無しのHERO

 

 何かほほえましいわ

 

740 名無しのHERO

 

 個性はえげつねえけどな

 

 




いやあ難しいですね。どう面白くするんだこれ?
とりあえずこのSSの塩崎さんは周りから見てもやべえ女です


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雄英体育祭掲示板【後編】

掲示板後編


【一年】雄英体育祭掲示板【A組】3スレ目

 

 

 

1   名無しのHERO

 

 

 

 このスレは、雄英体育祭一年生の部の実況スレになっております。

 

 他学年の話題、生徒への誹謗中傷、その他公序良俗に反する書き込みはご遠慮ください。

 

 まったり進行です。本スレ別にあります。

 

 

2   名無しのHERO

 

 まさか、おっぱい談義で2スレ目落ちるとはな

 

 

3   名無しのHERO

 

 アホだったな。

 

4   名無しのHERO

 

 誰かランク表貼れよ

 

5   名無しのHERO

 

 八百万ちゃん以外は皆団子、ただしデカいって結論でただろ

 

6   名無しのHERO

 

 あと耳郎ちゃんはその中で一歩落ちるがそれでも普通に考えれば普通にあるとの検証も出てたはず。

 

7   名無しのHERO

 

 丁度一回戦始まるころだから丁度良かったと言えば丁度良かったな

 

8   名無しのHERO

 

 組み合わせ、初戦から緑谷と心操か

 

9   名無しのHERO

 

 どういう試合になるかなあ

 

 

 

68  名無しのHERO

 

 意外と盛り上がったな

 

69  名無しのHERO

 

 つうか、何を叫んでたんだ。あこがれがどうとか

 

70  名無しのHERO

 

 あんま拾ってやらん方がよさそうだが。しかし洗脳か。有用な個性だな。

 

71  名無しのHERO

 

 それでも受かんねえとか、雄英も門が狭いな

 

72  名無しのHERO

 

 多分、緑谷が例のヘドロヴィランに突っ込んだことで感銘を受けたんだろ。

 確かに、弱個性だろうが、ヒーローにはなれるって言われる気がするよあの動画見たら。

 

73  名無しのHERO

 

 確かに、俺も合間に動画見てたけどあれはすげえや

 

74  名無しのHERO

 

 誰でもヒーローになれる。

 傷ついた少年に、上着を掛けながら、世界の終わりじゃないと、声をかければいい。

 

75  名無しのHERO

 

 何だそれ

 

76  名無しのHERO

 

 超常黎明期のヒーローのセリフだな。誰だっけか?

 

77  名無しのHERO

 

 優しさをもつものをヒーロー。か

 

78  名無しのHERO

 

 おい、今一瞬観客席に緑谷と金髪の姉ちゃん映んなかったか。

 

79  名無しのHERO

 

 恐ろしく速い(ry

 

80  名無しのHERO

 

 あ、映った。あれがメリッサちゃんか

 

81  名無しのHERO

 

 ころせ

 

82  名無しのHERO

 

 通報しました

 

83  名無しのHERO

 

 んだよふざけんなよあれ彼女だろどう考えても

 

84  名無しのHERO

 

 いや、まだ慌てるような時間じゃない。ひょっとしたらお姉さんかもしれない

 

85  名無しのHERO

 

 無理がある

 

86  名無しのHERO

 

 しかし、美人だな。でもどっかで見たことあるような

 

87  名無しのHERO

 

 ひょっとしてデヴィット・シールドの娘さんじゃね?

 何か科学雑誌でみたことある

 

88  名無しのHERO

 

 金髪碧眼巨乳でスタイル抜群サポーターのホープ高学歴家柄抜群。

 盛りすぎかな

 

89  名無しのHERO

 

 そりゃブドウも血涙流すわ

 

 

 

 

569 名無しのHERO

 

 轟緑谷戦で会場冷えっ冷えだな

 

570 名無しのHERO

 

 二つの意味でな

 

571 名無しのHERO

 

 結局何だったんだ。何で炎途中まで使わなかったんだ?

 

572 名無しのHERO

 

 多分反抗期的なアレじゃねえかな

 

573 名無しのHERO

 

 緑谷的にはこいつ本気出さねえわギブアップしねえわ何度でも立ち上がって来るわどうすりゃええねん! って話かと

 

574 名無しのHERO

 

 しかし緑谷に勝てるヤツいんのか?

 時代劇に一人だけブレデターいるみたいになってるじゃん

 

575 名無しのHERO

 

 緑谷のスペック

 ・体格は中肉中背ややごつめ

 ・盲目

 ・異常なまでの聴覚

 ・おそらく認識能力は常人並みかそれ以上

 ・時速60km以上は出せるスピード

 ・ボクシングと柔道の達人

 ・殴るだけで暴風を起こせるパワー

 弱点は?

 

576 名無しのHERO

 

 でも地雷原の時の反応から大きな音には弱そう。

 

577 名無しのHERO

 

 てなると爆豪か、とか言ってる間に第2試合だ

 

578 名無しのHERO

 

 塩崎さん頑張れー

 

579 名無しのHERO

 

 飯田は超スピードあるからな

 あれに塩崎さんが対応できるかが勝負か。

 

580 名無しのHERO

 

 塩崎さんかわいい。女シスターみたい

 

581 名無しのHERO

 

 どんぐり眼でかわいいよな

 

582 名無しのHERO

 

 塩崎さん押しがおおいな。

 飯田も頑張ってるんだけどな

 

583 名無しのHERO

 

 同じスペックなら女の子を応援したい。それが人情

 

584 名無しのHERO

 

 さあ、どう来るか

 

585 名無しのHERO

 

 何かいきなり塩崎さん座りだしたんだけど。あれ何?

 

586 名無しのHERO

 

 イレイザーヘッドとプレゼントマイクの会話がまんま知っているのか雷電って感じだな

 

587 名無しのHERO

 

 え、どうすんの? これ

 

588 名無しのHERO

 

 奇策すぎるだろ

 

589 名無しのHERO

 

 まあでも塩崎さんはじわじわツタを伸ばしてるし、ほっとけばいずれつかまる

 

590 名無しのHERO

 

 

 

591 名無しのHERO

 

 

 

592 名無しのHERO

 

 

 

593 名無しのHERO

 

 何か瞬きしたらいきなり塩崎さんが飯田の足を極めてたんだけど何があった?

 

594 名無しのHERO

 

 わかんねえ、イレ先解説頼む。

 

595 名無しのHERO

 

 すげえや、説明聞いても全然わからん

 

596 名無しのHERO

 

 塩崎さん美人で強個性で体術の達人でかわいいとか何なん?

 

597 名無しのHERO

 

 誰が凄いってすんなり座技とかいう技をやろうとしていることを看破してたイレイザーヘッドだろ

 

598 名無しのHERO

 

 最初不服そうだったわりにまっとうに解説してるよな

 

 

 

 

 

830 名無しのHERO

 

 やっぱ爆豪って派手だな

 

831 名無しのHERO

 

 確かに、切島もよく食らいついてるが。

 

832 名無しのHERO

 

 でもさっきから何言ってるんだ?

 

833 名無しのHERO

 

 確かに、ダチがどうこう

 

834 名無しのHERO

 

 資格がどうとか

 

835 名無しのHERO

 

 切島は爆豪と友達になりたい

 爆豪は死ねカス

 

 って感じ?

 

836 名無しのHERO

 

 何か叫んだ

 

837 名無しのHERO

 

 

 

838 名無しのHERO

 

 

 

839 名無しのHERO

 

 え、緑、え?

 

840 名無しのHERO

 

 放送事故だろこんなの

 

841 名無しのHERO

 

 何光を奪ったって何?

 

842 名無しのHERO

 

 会場もキョロキョロしてるな

 

843 名無しのHERO

 

 え、何かあったのかこの二人

 

844 名無しのHERO

 

 だからこそ俺は俺を許さねえ

 

845 名無しのHERO

 

 本スレからの情報だと

・爆豪緑谷を6歳頃までいじめていた

・ある日、ゴミ捨て場で落ちたドラム缶から緑谷爆豪を庇う。

・零れた薬品で緑谷の目、失明

 こんな感じ

 

846 名無しのHERO

 

 トラウマ不可避

 

 

847 名無しのHERO

 

 そんなのがヒーロー志望ってどうなの

 

848 名無しのHERO

 

 でも6歳の頃だろ

 

849 名無しのHERO

 

 緑谷の方が許してそうだからなんとも

 

850 名無しのHERO

 

 加害者の方が重く捉えることってあるよな

 

851 名無しのHERO

 

 しかし、全国ネットで放送されて大丈夫なのか

 

852 名無しのHERO

 

 どんな理由があれ個性で人を傷つけるようなやつがヒーローになっていいのか

 

853 名無しのHERO

 

 過失だろ? それにだからこそ贖罪の為にヒーローになるってのもあるだろうし

 

854 名無しのHERO

 

 ヒーローに完全無欠を求めるのも分かるが、子どもの頃の過ちをいつまでも周りが責め立てたら、結局新しいヴィランを生むことになるだろ。

 誰の為にもならんわ

 

855 名無しのHERO

 

 現実に傷ついたやつがいるのにいいんか

 

856 名無しのHERO

 

 でも当の被害者は別に気にしてなさそうなんだよなあ

 

 

 

 

 

 

212 名無しのHERO 

 

 何か勢いすげえな。許す派と許さない派に分かれてレスバになってる

 

213 名無しのHERO

 

 どっちの言い分も分かるけど、結局は当の本人達が決めることだろ

 

214 名無しのHERO

 

 あ、準決勝始まった。

 

215 名無しのHERO

 

 緑谷やんにくいだろうなあ

 

216 名無しのHERO

 

 因縁あんのか? 何だ?

 

217 名無しのHERO

 

 普通科の友達に聞いたが、一週間前に塩崎さん公衆の面前で緑谷相手にハグアンドチークキスしたらしい

 

218 名無しのHERO

 

 おっしゃあ〇せ

 

219 名無しのHERO

 

 あら、塩崎さん大胆

 

220 名無しのHERO

 

 元カノとか? にしちゃあ空気すげえな

 

221 名無しのHERO

 

 何て言ってる?

 

222 名無しのHERO

 

 緑谷「結局思い出せなかった」

 塩崎「小さいころだったでしゃーない」

 緑谷「あとで何だったか教えて」

 要約するとこう

 

223 名無しのHERO

 

 サンクス。幼馴染とかか?

 

224 名無しのHERO

 

 塩崎「私の8年間、鍛えに鍛えたこの個性と肉体、その集大成でお前を貫く」

 要約するとこう

 

225 名無しのHERO

 

 やだ塩崎さんラスボス

 

226 名無しのHERO

 

 良く知らん人にこんなこと言われたら怖いわ

 

227 名無しのHERO

 

 しかし塩崎さん見た目インパクトあるのに何で分かんねえんだ?

 

228 名無しのHERO

 

 ヒント、緑谷くん目が見えない

 

229 名無しのHERO

 

 素で忘れてたわ

 

230 名無しのHERO

 

 塩崎さん脱いだ

 

231 名無しのHERO

 

 何か思ってたのと違う

 

232 名無しのHERO

 

 思ったよりムキムキだった。着やせするタイプ

 

233 名無しのHERO

 

 これはこれでなかなか

 

234 名無しのHERO

 

 いや、これに欲情するようなら破綻者だろ

 塩崎さんの努力の結晶やぞ

 

235 名無しのHERO

 

 確かに、でもきれいだ

 

236 名無しのHERO

 

 ミルコと比べればミルコだけど、リューキュウあたりと比べても遜色ないな

 

237 名無しのHERO

 

 さあ両雄並び立って

 

238 名無しのHERO

 

 

 

239 名無しのHERO

 

 開幕突風! えげつねえ!

 

240 名無しのHERO

 

 でけええええええええええ!!

 

241 名無しのHERO

 

 すごく、大きいです

 

244 名無しのHERO

 

 【悲報】塩崎さん今まで全然本気じゃなかった

 

247 名無しのHERO

 

 いや、緑谷くん死んだだろ

 

248 名無しのHERO

 

 ええ、塩崎さん……。

 

249 名無しのHERO

 

 掘り進んでるw

 

250 名無しのHERO

 

 良くわかんねえよw 神話大戦かよw

 

251 名無しのHERO

 

 接敵! 

 

252 名無しのHERO

 

 イレ先ナイス解説

 

253 名無しのHERO

 

 捕まった

 

254 名無しのHERO

 

 捕まらないよ

 

255 名無しのHERO

 

 目まぐるしく攻防が変わって良く分かんねえ

 

256 名無しのHERO

 

 掴んで

 

257 名無しのHERO

 

 ? 動き止まった?

 

258 名無しのHERO

 

 何て言ってる?

 

259 名無しのHERO

 

 あの日かっちゃんと助けた子? かっちゃんて誰だ?

 

260 名無しのHERO

 

 バクゴーじゃね? 爆豪勝己

 

261 名無しのHERO

 

 やっと思い出してくれましたかって言ってるしそうなんだろ

 

262 名無しのHERO

 

 てことは何か、緑谷は塩崎さんを助けたことがあんのか?

 

263 名無しのHERO

 

 何からなのかな?

 

264 名無しのHERO

 

 わかんねえな、情報が少ない

 

265 名無しのHERO

 

 全力でやりましょう。……いい子たちだなあ

 

266 名無しのHERO

 

 倒れていったものたちのために、倒していったものたちのために、立て

 

267 名無しのHERO

 

 何か呼吸をするように対手してんだけどこの子達何? 達人?

 

268 名無しのHERO

 

 動いた

 

269 名無しのHERO

 

 投げに容赦がない

 

270 名無しのHERO

 

 ビヒモスメイクかっけー

 

271 名無しのHERO

 

 塩崎さんは技名聖書縛りかな

 

272 名無しのHERO

 

 ラッシュすげえよ。何だこの衝撃破

 

273 名無しのHERO

 

 塩崎さん勝てるぞこれ

 

274 名無しのHERO

 

 何だありゃ

 

275 名無しのHERO

 

 緑谷から暴風と電流が

 

276 名無しのHERO

 

 お互い今まで本気じゃなかったのかよ

 

277 名無しのHERO

 

 

 

278 名無しのHERO

 

 

 

279 名無しのHERO

 

 

 

280 名無しのHERO

 

 

 

281 名無しのHERO

 

 すげえや今の子

 

282 名無しのHERO

 

 緑谷こういう展開ばっかだな

 

283 名無しのHERO

 

 どうなった

 

284 名無しのHERO

 

 絶句

 

285 名無しのHERO

 

 塩崎さんの髪が

 

286 名無しのHERO

 

 いや緑谷の勝ちでいいだろ

 

287 名無しのHERO

 

 いや、塩崎さん立ってるけど、向かってるけど

 

288 名無しのHERO

 

 何で止めねえ

 

289 名無しのHERO

 

 ふざけんなよ子どもに何させてんだよ

 

 

 

 

311 名無しのHERO

 

 緑谷何か叫んでる

 

312 名無しのHERO

 

 

 

313 名無しのHERO

 

 

 

314 名無しのHERO

 

 どれだけ感謝してるか分からない、か。

 

315 名無しのHERO

 

 緑谷塩崎さん抱えて持ってった

 

316 名無しのHERO

 

 レス止まってんじゃん

 

317 名無しのHERO

 

 何か涙とまんねえ

 

318 名無しのHERO

 

 緑谷も腕折れてなかったか?

 

319 名無しのHERO

 

 緑谷が全盲で個性も発現しない段階でヒーロー目指したのは、かつて塩崎さんを助けた成功体験があったからってことか?

 

320 名無しのHERO

 

 だから感謝してるということでしょうな

 

321 名無しのHERO

 

 その助けたってのも、落とし物一緒に探したとか迷子の所助けたとかじゃなさそうだな。

 それこそ命の恩人レベルじゃないとあそこまでやらんだろ

 

322 名無しのHERO

 

 クラップユアハーンズ

 

323 名無しのHERO

 

 これは文句なしのベストバウトだろ

 

324 名無しのHERO

 

 何か最後の塩崎さんの笑顔たまんねえわ

 

325 名無しのHERO

 

 全てを出し切った人間が出せる最高の笑顔だよ

 

326 名無しのHERO

 

 プレゼントマイク泣きすぎ

 

327 名無しのHERO

 

 B組の席全員消えたわ。そりゃそうだな

 

328 名無しのHERO

 

 お見舞いに行ったか

 

329 名無しのHERO

 

 お前らまだあと2試合残ってるからな

 

 

 

 

 

【一年】雄英体育祭掲示板【A組】 5スレ目

 

 

1   名無しのHERO

 

 

 

 このスレは、雄英体育祭一年生の部の実況スレになっております。

 

 他学年の話題、生徒への誹謗中傷、その他公序良俗に反する書き込みはご遠慮ください。

 

 まったり進行です。本スレ別にあります。

 

 

120 名無しのHERO

 

 流れはええな

 

121 名無しのHERO

 

 やっぱ爆豪アンチのレスが多いわ

 

122 名無しのHERO

 

 BANされたか、静かになった

 

123 名無しのHERO

 

 やっぱヒーローに品行方正を求めすぎるところあると思うわ

 それで強個性持ちがヴィランになったら困るの俺らだぜ

 

124 名無しのHERO

 

 それな。別に仕事なんだからそこを真面目にやってくれる人なら別にいいのに

 

125 名無しのHERO

 

 とか言ってる間に決勝か、長かったような短かったような

 

126 名無しのHERO

 

 入場してきた

 

127 名無しのHERO

 

 リトルオールマイトとデンジャラスライオンか。果たして

 

128 名無しのHERO

 

 何か話してる

 

129 名無しのHERO

 

 やっぱこの二人仲いいよな

 

130 名無しのHERO

 

 とやかく言ってんのは周りだけか

 

131 名無しのHERO

 

 僕は君に思うところがあるんだ

 

132 名無しのHERO

 

 吹き飛ぶぜ。

 

133 名無しのHERO

 

 まあた爆発ですか

 

134 名無しのHERO

 

 これが小手先ってどういうことだよ

 

135 名無しのHERO

 

 どっちもバケモンだな

 

136 名無しのHERO

 

 いや、連射性なら緑谷が上だろ

 

137 名無しのHERO

 

 確かに、爆豪も被弾しだした

 

138 名無しのHERO

 

 おいおい、終わっちまうぞ

 

139 名無しのHERO

 

 高速旋回きたこれ

 

140 名無しのHERO

 

 なんだその動き!

 

141 名無しのHERO

 

 すげーはえー

 

142 名無しのHERO

 

 これは緑谷とらえきれるか

 

143 名無しのHERO

 

 あ

 

144 名無しのHERO

 

 思いっきりぶつかった

 

145 名無しのHERO

 

 土煙で何も見えねえ

 

146 名無しのHERO

 

 プランプランしてるー!!

 

147 名無しのHERO

 

 もう終わりだろこれ

 

148 名無しのHERO

 

 まだ続けんのか

 

149 名無しのHERO

 

 痛い痛い

 

150 名無しのHERO

 

 あ、またいった

 

151 名無しのHERO

 

 鳩尾に頭突きって下手うつと死ぬぞ

 

152 名無しのHERO

 

 ラッシュラッシュ

 

153 名無しのHERO

 

 爆豪いけるぜお前

 

154 名無しのHERO

 

 何か叫んでるな

 

155 名無しのHERO

 

 歓声で聞こえねえ

 

156 名無しのHERO

 

 今さらっと折れた腕で殴ってね?

 

157 名無しのHERO

 

 ふざけんなバカヤロー

 

158 名無しのHERO

 

 むっちゃ吹っ飛んだww

 

159 名無しのHERO

 

 死んだろこれw

 

160 名無しのHERO

 

 観客も静寂だな

 

161 名無しのHERO

 

 何か叫んでる

 

162 名無しのHERO

 

 緑谷……

 

163 名無しのHERO

 

 いい言葉だな

 

164 名無しのHERO

 

 立てよ爆豪。ここで立てなきゃお前……

 

165 名無しのHERO

 

 贖罪のためじゃなくお前自身の為に立てか

 

166 名無しのHERO

 

 自分の光を失った原因となった相手にそこまで言えるか

 

167 名無しのHERO

 

 右ひじ! むっちゃいてえ!

 

168 名無しのHERO

 

 

 

169 名無しのHERO

 

 吠えたな

 

170 名無しのHERO

 

 なかなか言えることじゃねえよな

 

171 名無しのHERO

 

 オールマイトを超える。だっておww

 

172 名無しのHERO

 

 いや茶化せんでこれは

 

173 名無しのHERO

 

 何つうか、本当すげえわこいつら

 

174 名無しのHERO

 

 個性とかじゃなくて精神がすげえ

 

175 名無しのHERO

 

 額をぶつけ合うのクソ熱いな

 

176 名無しのHERO

 

 泥くせえ攻防

 

177 名無しのHERO

 

 いてえええええええええええ!!

 

178 名無しのHERO

 

 折れた腕があああああああああああ!!

 

179 名無しのHERO

 

 痛い痛い痛い痛い

 

180 名無しのHERO

 

 覚悟完了しすぎだろ!

 

181 名無しのHERO

 

 すぐに止めろ!

 

182 名無しのHERO

 

 実況おいつかねえよ!

 

183 名無しのHERO

 

 ぶつかり合った!

 

184 名無しのHERO

 

 おいおい

 

185 名無しのHERO

 

 吹き飛んだぞ

 

186 名無しのHERO

 

 どっち勝った?

 

187 名無しのHERO

 

 ミッドナイト?

 

188 名無しのHERO

 

 どっち勝ったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

780 名無しのHERO

 

 表彰式だー!

 

781 名無しのHERO

 

 オールマイトー!!

 

782 名無しのHERO

 

 被ったw

 

783 名無しのHERO

 

 常闇くん謙虚だな

 

784 名無しのHERO

 

 あの緑谷塩崎戦見たらそんな気持ちにもなる

 

785 名無しのHERO

 

 というか塩崎さんと爆豪なら塩崎さんのが強くね?

 

786 名無しのHERO

 

 相性差があるから一概には言えんが

 

787 名無しのHERO

 

 相対評価なら塩崎さんかなあ

 

788 名無しのHERO

 

 短髪塩崎さんもかわいい

 

789 名無しのHERO

 

 そっか、塩崎さんはやっぱり緑谷に命を救われてたのか

 

790 名無しのHERO

 

 ずっと隣に立ちたかったとか一途

 

791 名無しのHERO

 

 半端なストーカーより覚悟ガンギマリしている

 

792 名無しのHERO

 

 ストーカーいったんな

 

793 名無しのHERO

 

 バクゴー!

 

794 名無しのHERO

 

 いやあすげえわ

 

795 名無しのHERO

 

 犯した罪は消えない、か

 

796 名無しのHERO

 

 オールマイトのセリフ泣ける

 

797 名無しのHERO

 

 人間いつでもやり直せるんだよな

 

798 名無しのHERO

 

 やっぱ締め技怒られたな

 

799 名無しのHERO

 

 あれ褒めたら教育者としていかんだろ

 

800 名無しのHERO

 

 バクゴーは本当ダークヒーローだな

 

801 名無しのHERO

 

 みどりやー!

 

802 名無しのHERO

 

 無茶苦茶好きになった

 

803 名無しのHERO

 

 オールマイトを助ける位のヒーローになりたい

 

804 名無しのHERO

 

 こいつらオールマイトより強くなりたいって点では共通してるんだな

 

805 名無しのHERO

 

 同じ夢を見た幼馴染がこんな最高峰の舞台でぶつかり合うんだからすげえよ

 

806 名無しのHERO

 

 まだまだですか

 

807 名無しのHERO

 

 克己心の鬼かな?

 

808 名無しのHERO

 

 お疲れ様でした!

 

809 名無しのHERO

 

 www

 

810 名無しのHERO

 

 オールマイト天然

 

811 名無しのHERO

 

 お、緑谷がふらついた所を爆豪塩崎さんが支えた

 

812 名無しのHERO

 

 むっちゃいいシーンだわ

 

813 名無しのHERO

 

 何か泣けるわ、絵画みてえ

 

814 名無しのHERO

 

 ほっぺスリスリしてる

 

815 名無しのHERO

 

 殺せ

 

816 名無しのHERO

 

 そんくらいいいだろ

 

817 名無しのHERO

 

 キス位してもいいのよ?

 

818 名無しのHERO

 

 緑谷爆豪塩崎常闇轟、こいつらの活躍に期待だな

 

819 名無しのHERO

 

 いつか揃って平和の象徴と呼ばれるかもな

 

820 名無しのHERO

 

 すくなくともこいつらの管轄内で何かしようとは思わんだろ

 

821 名無しのHERO

 

 本当お疲れ様でしただわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つ、疲れました

これ書いてる間に30万いったので記念にB組If書きます

期末試験のあとに投稿すると思います


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職場体験編
緑谷出久のヒーロー名は


 僕は空港へメリッサさんの見送りに来ていた。

「イズク君、体育祭優勝おめでとう! 今度はエキスポで会おうね!」

「はい! メリッサさんも色々ありがとうございました。今度は僕が会いに行きますね!」

「うん、楽しみにしてるわ」

 そう言うと、メリッサさんは僕にハグする。

 僕もまた、メリッサさんの背中に手を回す。

「あなたは、体育祭をやり切ったわ。だから、今度は私の番。また凄いアイテムを作るからね」

「はい! メリッサさんもピンチになったら必ず僕を呼んでくださいね」

「ええ! 待ってるから! そうだ、ヒーローネーム。決まったら教えて? コスチュームに変更をしたり、イメージにあったサポートアイテムを作ったりするから」

「はい! 決まったら真っ先に教えます!」

 

「サイクロプスさんとストームさんもお元気で」

「……メリッサのことなら心配するな。ブルズアイに遅れは取らないさ。君がもたらした個性の情報もある」

「将来チームアップすることもあるかもね。貴方となら」

 この二人はメディア露出は少ないが、それでもトップヒーロー並みの実力を持つと言われるヒーローだ。

 メリッサさんの護衛として過ごすうちに、すっかり仲良くなってしまった。

「はい。その時が来るよう、精進します!」

 そして、メリッサさんの乗る飛行機に、僕は何度も手を振った。

 

 他にもボクシングジムと柔道場にも挨拶にいった。

 両方とも門下生の方たちにもみくちゃにされたものの、皆一様に喜んでくれた。

 

 そして、休校明け。

 

「あの子、雄英体育祭の子じゃないか?」

「おお、あの完全優勝の!」

「すごーい、サイン貰えないかな!」

「あ、隣は準優勝の子じゃないか」

「仲直りできたんだな。良かった」

 

 僕は、かっちゃんと一緒に通学していた。

 入学してから今まで、一度もなかったことだ。

「ケ、俺はおまけかよ」

「そういうこと言わないのかっちゃん」

 すると、電車通学中の小学生が、僕に近づいてきた。

「ん? どうかした?」

「あの……その……握手してください」

「え、僕?」

「はい!」

 僕は驚いて、思わずかっちゃんを揺さぶる。

「揺するなクソが! はよしたれや!」

「う、うん。これでいい?」

「……すごく! 格好良かったです!」

 そう言うと、その子はかっちゃんにも向き直る。

「あなたも」

「ケ! ……これでいいんかよ」

「ありがとうございます! 決勝戦、凄かったです」

「おう、……俺の真似はすんなよ」

 そう言って、かっちゃんはそっぽ向く。

 素直じゃないな。

 その後も、たくさんの人に声をかけられた。

 

「朝から疲れたね」

「お前がいちいち対応するからだろうが」

 でもやらないわけにいかないし。

 校門に近づくと、知った足音が聞こえてくる。

「何呑気に歩いているんだ緑谷くん、爆豪くん! 遅刻だぞ!」

「んだメガネ! 始業5分前だろうが!」

「雄英生たるもの10分前行動が基本だろう!」

 飯田くん、そういえば、インゲニウムは。

「兄の件なら心配かけたな! 大丈夫だ! 命に別状はなかったしな」

「そっか」

 そう言って飯田くんは先にいってしまった。

「かっちゃん、飯田くん……」

「お前じゃなくても分かるわ。ありゃやべーぞ」

 そうだよねえ。

 

 僕とかっちゃんが教室に入ると、切島君が近寄ってくる。

「おう、優勝準優勝コンビ!」

「相変わらず元気だなクソ髪」

「お前ら、仲直りして、俺は」

 切島くんが涙ぐむが、かっちゃんは青筋を立てる。

「泣くんじゃねえクソが」

「顔爆!」

「おめえらも気をつかったりコメントしたりすんじゃねえクソども! 散れ!」

 そう言って、かっちゃんはずけずけと席につく。

「ごめんね皆。こんな感じで」

「まあでも決着ついたみたいで良かったよ」 

「ありがとう……心配かけたね」

 そう言うと、皆一様に笑い出した。

「余計なお世話はヒーローの本質、らしいぜ」

「メリッサさんが言ってた、オールマイトの言葉だよ」

 その言葉に、僕の胸も温かくなる。

「ありがとう」

 何かメリッサさんには、助けられてばかりだな。

 

 チャイムが鳴って席につく。

「おはよう。お前ら。体育祭おつかれさん。早速だが今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ」

 なんだろう。テストだろうか。

「コードネーム! ヒーローネームの考案だ」

「「「「「胸ふくらむヤツ来たああああ!!!」」」」」

 騒ぐ僕らは相澤先生の眼力で鎮圧される。目が見えなくてもこわいんだなあ。

「というのも、体育祭の指名にかかわってくる。指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2・3年から。

 つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い。興味が削がれたら一方的にキャンセルとかよくある話だ」

 成程、頂いた指名が自分へのハードルになるのか。

「そして、来た指名の数が、これだ。例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った」

 音声読み上げ機能により、数字が読み上げられる。

 

 爆豪 2423

 緑谷 2225

 轟  1528

 常闇  360

 飯田  301

 上鳴  285

 八百万 108

 切島   74

 麗日   24

 瀬呂   14

 尾白    9

 葉隠    1

 

 うーん、やっぱり、盲目のハンディキャップは重いなあ。

「一位二位逆転してんじゃん」

「デクくん……」

「まあ、仕方ないよ。ていうか思ったより多いくらいだ」

「あとはB組の塩崎が二千超えだったらしい。……これを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験に行って貰う」

 成程、それでコードネーム。

「まあ仮にとはいえ、適当な名前は」

「つけたら後悔しちゃうわよ!」

「ミッドナイト先生」 

「この時の名が、世に浸透してヒーローネームになってるヒーローが多いからね」

 そうなのか。でも、実は僕は決めていたんだ。

 I・アイランドで、メリッサさんと話したあの日から。

 

 何故か発表形式で進められる。

「さあ、まずは。おっと緑谷くん早いわね! 一発目行ってみよう!」

 

「はい、盲目ヒーロー デアデビル!」

 

「意味は恐れ知らず! その心は?」

「はい! ある人に言われたんです。僕のことをデアデビルだと。いつだって、ヴィランや災害に向かって恐れを知らず立ち向かえるように!

 そして、僕自身が、ただの恐れを知らないだけのただの人であることを忘れないように、この名をつけました!」

「そう、シンプルかつキャッチー。そして強そう! いいわね!」

「ありがとうございます!」

 その後はかっちゃんが爆殺王と名付けようとしてミッドナイト先生に止められた以外は、平穏に済んだ。

 

 そして、指名。

 僕は食堂で、紙面を撫でながら思案する。

 目の前にはかつ丼とハンバーグランチと坦々うどんの空になった皿がある。

「この中で一番ランキングが高いのは、ナンバー7、ラビットヒーローミルコか……。確かサイドキックも事務所ももたないチームアップもほとんどしないヒーローだよな。

 そんな人が何で、僕に……」

「……ミルコですか」

 そう話しかけてきたのは、知った人だ。

「塩崎さん、こんにちは」

「こんにちは緑谷さん。お隣よろしいでしょうか?」

「ああどうぞ。麗日さん飯田くんいいよね?」

 僕は二人にことわる。

「うむ、かまわないぞ」

「塩崎さんこんにちは。クラスのみんなはええん?」

「ええ、その、クラスの皆さんに送り出されてしまって」

 そう言うと、塩崎さんはおずおずとバスケットを差し出す。

「その、作ってきたのですが、緑谷さんはお食べになられましたよね。

 おやつでも夕食でもいいですので、どうか」

(女子の手作り弁当だとー!!)

 その瞬間、食堂中の男子の殺気が僕に叩きつけられる。

「サンドイッチですので、クラスの皆様にあげられても……」

「いや、全部食べるよ。折角、塩崎さんが作ってくれたんだし」

 鈍い僕でも、彼女がどんな気持ちで作ったのか位わかるつもりだ。

「……良かった。飯田さんと麗日さんも、良かったら」

「え、ええよ! デクくんに作ってあげたんだよね」

「うむ、これは緑谷くんが全て食べるべきだ」

 遠慮する二人をよそに、僕はとりあえずタマゴサンドを手に取る。

 パンと卵の甘味と、卵にはいった粒胡椒の辛みがマッチしている。

「おいしい! このパンってひょっとして、手作り? 既製品じゃないよね」

「い、一応私が、生地から焼きました」

「すごいや! バターは無塩だよね? 気を使ってくれてありがとう」

「は、はい。わかるんですね」

「一応味覚も鋭敏でね。でもありがとう。女の子に手作り弁当をもらうなんて、初めてだよ」

 そう言って笑うと、塩崎さんの心音が早くなる。

 やっぱり、この人って僕のことが、好きなんだよなあ。

 そう思うと、サンドイッチもさらにおいしく感じ始めた。単純なものだ。

「あの、話が戻りますが。私はミルコは緑谷さんとあっていると思います。

 お二人とも感覚が鋭敏ですし、何より高機動力と近接戦闘で噛み合っていますし」

「そっか、他に候補がなければそうするよ。一応、プッシーキャッツがあったら受けたかったんだけどないみたいだし」

 麗日さんがへーっと声を上げる。

「デクくんワイプシのファンなん? 意外」

「昔無個性だと診断されてたって話してたよね。その時、僕が参考にしたのがイレイザーヘッドとプッシーキャッツのマンダレイなんだ」

「成程、どちらも身体強化の個性でないにも関わらず、自分の近接戦闘スタイルを確立していますね」

 そう、だから指名があれば是非受けたかったというのが本音だ。

 僕もボクシングと柔道を組み合わせているが、他にもエッセンスがあれば取り込みたい。

「そう言えば、ミルコは足技が得意なんだっけ。僕は足技の格闘技はやってないからいいかもな」

 そこで、僕は気になったことを聞く。

「塩崎さんは何処に行くか決めたの? 沢山指名来てたらしいけど」

「私は、シンリンカムイ事務所を考えております。個性も近しいですので、何か参考になればと。ランクの高い事務所ですと、ベストジーニスト事務所が一番高いですが」

「うん、でもやっぱり個性が近い方が良いかもね。シンリンカムイは僕も生で見たことあるけど、無茶苦茶強いよ」

「そうですか、頑張ってみます!」

 そう塩崎さんは張り切って宣言した。

 とりあえず弁当は完食した。

 塩崎さんは目を丸くしたが、また作りますと言っていた。

 こんど材料費を渡さないとな。

 

 そして、僕はオールマイトとも相談することにした。

「ミルコか! 私もチームアップしたことこそないが、本人に望まれて何度か手合わせをしたことがある」

「え、そうなんですか?」

「うむ、単純な格闘戦での戦闘力であれば、おそらく私を除けば日本で一番のヒーローだ。

本人の気質としては爆豪少年に似てると思うぞ。君との相性も悪くないだろう。いいんじゃないか?」

「成る程、じゃあここにしようかな」

「うむ、少し好戦的すぎるキライはあるが、だからこそ今の君が学ぶべきことも知っているだろう」

 

 僕が学ぶべきこと?

 

「おっと、それが何かは自分で気づかないとな。

 ……ところでこれは別件なんだが、君に会ってもらいたい人がいるんだ」

 オールマイトが? 珍しいな。

「誰です?」

「その人の名はグラントリノ、ワンフォーオールのことを知るお師匠様の盟友だった方で、雄英在学中の私の担任でもあった方だ」

「そんな方がいるんですね? でも何故今頃?」

「雄英体育祭で君の活躍を見たので久しぶりに接触してきてね。本当はとっくに隠居されているのだが。そこで君が見たお師匠様の夢の話をしたら是非一度会いたいと」

「そういうことなら歓迎です! いつ頃にしましょう?」

「できれば職場体験が始まる前がいいかな。今度の日曜日は空いてるかな?」

「ではそこで、よろしくお願いします!」

「うむ。すっげーこえー方だからくれぐれも粗相のないようにね。あ、足が」

 オールマイトの下半身が言うこと聞かなくなってる。

 え、どんな人なの?




デアデビル以外のマーベルキャラはチョイキャラです。
シールド親子は絶対襲われない大丈夫だよと読者に安心感を与えるためだけの登場です。
アッセンブルは多分しません

ミルコはこの時点だと多分七位かなと、違ったらごめんなさい。
(神野以降はランクアップして五位、クラストが六位をキープしていることから)

アンケート締め切り、明日の12時になります


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10万UA記念短編「かっちゃんがもし女の子だったら」

タイトルどおりです。



女体化、下ネタ、キャラ崩壊、下品、性行為の匂わせ等あります。
それらが苦手な方は。プラウザバックをお願いします。
時系列的には体育祭終了後、職場体験開始前となります。











注意書きは読みましたね?
それではくだらない話ですがよろしくお願いします。


 爆豪勝希ちゃんは、凄く目立つ生徒だった。

 入試2位。体育祭でも2位。金髪に赤目の美人。あの八百万さんを超えるダイナマイトボディ。大胆に開けられた胸元。

 頭脳は明晰で、壊滅的に口が悪く、狂暴。戦闘能力も高く、戦闘訓練ではほとんど一人で轟くんと八百万さん相手に圧勝した。

 そんな彼女は、入学当初から、というか本人たちの言では小学4年生から、緑谷出久君と付き合っている。

「おい、デク、あんまり早く歩くんじゃねえ」

「かっちゃん。遅刻しちゃうよ」

「何だよ、あたしと手をつないでいたくねえってのか」

「そういう訳じゃないけど、相澤先生に怒られちゃうから。ね?」

「……わかったよ」

 そんな会話を私の目の前でされる。

「おう、お茶子おはよう。元気か?」

「おはよう! 緑谷君も! 相変わらず仲ええね」

「へへへ」

 勝希ちゃんはそう笑うと、緑谷君にしなだれかかった。

「かっちゃん。あんま人前では」

「ケチくせえこと言うんじゃねえよ。……不満か?」

「あんまいちゃつくと、周りの目に毒だからさ」

「ぶー」

「あんまむくれないでよ。かわいいから」

 そう言って笑いあう二人、その緑谷君の目には、バンダナが巻かれていた。

 入試1位。体育祭でも1位。緑髪にもさもさ頭。鍛え上げられた肉体。勝希ちゃんとお揃いで開けられた胸元。

 そんな彼らは、いつも仲良く、二人の世界を築いていた。

 

「おはよう」

「おはよう緑谷くん爆豪くん麗日くん、君らいつも遅いぞ」

「間に合ってるからいいじゃねえかメガネ」

「雄英生徒たるもの10分前行動が基本だ」

「決まってねえよ。なあデク」

「おはよう勝希ー! 相変わらず蜜月ー!」

 そういうと芦戸さんは、勝希ちゃんに抱き着いた。

 むにょん。とかいう音がする。

「だあ三奈! 抱き着くんじゃねえ! 私に抱き着いていいのはこいつだけなんだよ!」

「勝希ちゃんって、その恰好で身持ち固いよねえ」

 葉隠さんが言う。

「私が薄着なのはいざって時すぐに体温を上昇させる訓練のためだ! それに、好きな恰好して何が悪いんだよ」

「ケロ、でも、あんまり胸元を開けすぎると男子の目に毒よ」

「梅雨ちゃんまで、んなもん見てえやつには見さしときゃいいんだよ。ブドウやアホ面に百回見られようがどうにもなんねえよ」

「何で名指し! 止めてくれる!? 流石にダチの彼女に手を出すほど落ちぶれてねえから!」

「おおーん! じゃあ接視してやろおうかおおーん!」

「やめろ峰田俺を巻き込むな! 緑谷怒らすとやべーから!」

 やいのやいのしながら席に着く。

 さあ、今日もいつもどおりの日々が始まる。

 でもなんや、胸が痛いな。

 

 午前中の授業、出久くんは全盲なのに、中間はクラスで4位と頭がいい。

 そして時々、上鳴くんや切島くんに勉強を教えている。

 すると時折勝希ちゃんが嫉妬して、その勉強風景に突っ込んでくる。

「デク、かまえ」

「わりい爆豪! 彼氏借りてるぜ」

「うお、爆豪の面倒くさいモードだ」

「誰が面倒くせえだアホ面! 人の彼氏を占有してんじゃねえ!」

「かっちゃんステイ。勉強してるから、ね」

「……私もわかんねえ」

「ないでしょ、あの程度の内容で、ていうかかっちゃんの方が成績いいし」

「「ごめんなさい」」

「ああ、ごめんそうじゃないんだ。かっちゃんならって意味で」

「わかんないもん!」

「面倒くさいモードだ」

「むー」

 勝希ちゃんはむくれると、緑谷くんの頭におっぱいを乗せる。

 むにょん。

「かっちゃん、そういうことする子はキライです」

「……うそ、うそです」

「いや、やったじゃん」

 乗るんや、すげえ。

「緑谷の頭とおんなじ大きさってなんだよ、やべえよ」

 峰田くんがエロい目で見るどころか慄いている。

 やっぱり何か私、胸が痛いな。

 

 お昼、勝希ちゃんはいつも、お重やらバスケットやらに目いっぱいお弁当を作ってくる。

 そして、それを二人で食べきる。実質緑谷くん一人だけど。

「デクは本当に良く食うなあ。どこに消えてんだあ」

「脳をよく使うからね、それに、体も鍛えてるから。僕の日常には常人の10倍のエネルギーが必要なんだよ」

「ちゃんと食って大きくなれよ。あ、これ自信作、つみれハンバーグ」

「ん、レンコンが軟骨みたいなアクセントになってるね。おいしいよ」

「へへ、ありがとう。次の段はなあ」

 そう言って、二人で一つ一つ食べていく。

「彼女の手作り弁当とか、伝説だろ。いいのかよ」

「もう峰田もあの二人は諦めようぜ、ほっとけよ」

「美人で弁当作ってくれる爆乳の幼なじみとか何だよどういうことだよ!」

 峰田くんが叫ぶが、とくに皆ノーコメントだった。

 でもやっぱり、胸が痛い。

 

 そしてヒーロー基礎学。

 

「今日のヒーロー基礎学はこれ、2vs2の市街戦闘訓練だ!」

「ただし、今回の演習では各所に市民人形を置いてある」

「それを壊したら減点、あまり減点が多すぎると失格だぞ」

「それと、今回は両方ともヒーロー想定だ。ゆえに、そもそも市民のいる所で戦わないようにしないといけない」

 オールマイトの宣言とともに、まずはチーム決めや。

「相変わらず爆豪のコスチュームは反則だぜ」

 確かに、アーミーな服にはちきれんばかりのダイナマイト。谷間も大胆に露出している。

 よだれを垂らす峰田くんの頭に手が置かれる。

 緑谷くんや。

「ああ、緑谷、これはちがくて」

「ワインかジュース、どっちがいい?」

 潰す気や!

「それ俺が辿る未来一緒じゃねえか?!」

「ハイハイ騒がないの。まずは緑谷少年麗日少女チーム対爆豪少女轟少年チームだ」

「うお、いきなりクラス最強格が揃い踏みだ」

「けどこのルールだと範囲攻撃できない爆豪たちが不利かな」

「はん、デク! いつも言ってるが私が愛しい彼女だからって手加減するんじゃねえぞ!」

 自分で言うんや。

「当然だよ。今は恋人同士じゃなくて、同じくナンバーワンヒーローを目指すライバルだからね」

「分かってんならいい、ぶっ殺す! いくぞ紅白饅頭!」

「ショートだ。悪い緑谷。彼女借りるぞ」

「うん、僕らも行こう、麗日さん」

「うん」

 

 結局、ほとんど緑谷くんだけで勝ってしまった。

 まず、勝希ちゃんと近接戦し、その隙に私がタッチ。轟くんを戦闘不能にし、私たちチームの勝利だった。

 

「くそ! また負けた!」

「悪い爆豪、守りきれなかった」

「んなこたいいわ気にすんなクソが! くそ、腹いてえ……」

「緑谷少年は良いボディブローだった。爆豪少女は大丈夫かい?」

「ああ、結構痛えっす」

「どのくらいだい? あんまり痛いようならリカバリーガールに」

「ごめんよかっちゃん」

「うーん……」

 

「デクに12時間ぶっ続けでされた後位痛い……」

 

 

 沈黙が下りる。

 

 

「すいません保健室連れてきます!」

 緑谷くんが勝希ちゃんを姫抱きして走り去る。

 逃げよった。

「何でここで言うの!?」

「悔しかったから社会的に殺してみた……」

「社会性すてみタックルやめてよ!」

 二人の会話が遠ざかってく。

 百戦錬磨のオールマイト先生が選んだのは、無視だった。

「……さて、じゃあ次の試合に……峰田少年?」

「すいません、トイレに」

 何となく煤けとる。

「峰田お前まさか……」

「……達した」

 

 マジか。

 

「? 爆豪は緑谷に何をされたんだ八百万?」

「さあ……。あと峰田さんは何処に達せられたのでしょうか?」

「分かんねえ」

 もう、うちの推薦組はかわいいなあ。

「しかし12時間か、あっちの方も常人の10倍なんだなあ」

 上鳴くん黙れ。

 

 やっぱりなんか、胸が痛い。

 

 放課後、私が忘れ物を取りに教室に戻ると、二人が教室にいた。

 勝希ちゃんは寝ちゃってて、それを、緑谷くんは愛おしそうに撫でていた。

「麗日さん、忘れ物?」

「う、うん。水筒忘れちゃって」

 私はこの機会に、気になっていた疑問をぶつけた。

「ねえ、なんで二人は付き合い始めたの?」

「……あんまり愉快な話じゃないよ?」

 昔、緑谷くんは勝希ちゃんにいじめられていたこと。

 ある日、勝希ちゃんが個性を使ったら、ゴミ山が崩れたこと。

 それがぶつかりそうになるのを緑谷くんが庇い、結果として失明してしまったこと。

 その日から、二人の関係は密接になった。

 勝希ちゃんは、緑谷くんのために何でもするようになった。

 いじめっ子から守ったり、リハビリを手伝ったり。

 そうしているうちに、お前ら付き合ってるだろとからかわれるようになり、勝希ちゃんは、じゃあ付き合ってやるとクラスの皆の前で唇を奪ったとのこと。

「だから最初はまあ、勢い?」

「そ、そうなんや。でもそれって……」

「そうだね、正直言ってあんまり健全なカップルでは無いね」

 そう言いつつも、緑谷くんの手は、愛おしそうに彼女を撫でる。

「例え、かっちゃんが贖罪の意思で付き合ってたとしても。

 これが健全な関係で無いとしても、

 僕は、かっちゃんのことが好きだから」

 

「だから、離す気はないんだ」

 

 そう話す彼の口調があまりに暗く、私は慄く。

 その時、ノビをして勝希ちゃんが起きる。

「ん〜よく寝た、帰ろう。今日ウチ誰もいねえし! 明日は休みだしでチャンスタイムだ!」

「かっちゃん、麗日さんいるから」

「おお、お茶子おはよう!」

「おはよ……」

「さあ、帰ろうぜ」

 そう言って、また、腕を組んで二人は帰る。

 私もまた、とぼとぼと帰る。

 校門の前まで来て、二人の影が重なっている。

 唇を合わせる勝希ちゃんの横顔があまりにも綺麗で。

 

 ふと、その瞳が勝ち誇ったかのように私を見る。

「これは私んだ」

 そう目が言った気がした。

 

 ああ、そうかこの人達は、互いを貪り合う蛇なのだな。

 

 

 

 

 

 

 目覚ましが鳴る。

 私はいつもどおり教室に行く。

「む、麗日くん。今日は早いな」

 私は覚醒しきらない脳でボーっと肯く。

「でさあ、かっちゃん。昨日のヒーロービルボードだけど、」

「ああ、お前猫ババア軍団好きだよな」

「プッシーキャッツに言ったら殺されるよかっちゃん」

 私は爆豪くんに近づく。

「麗日さんおはよう」

「なんだ丸顔。丸い上にアホ面し」

 

 モミモミ。

 

 勝希ちゃんのダイナマイトは、なかった。

 

「ああ、よかったー無くて……」

 しばし沈黙。

 爆豪くんの手が私の頭に伸び、万力のように締め上げる。

「イタタタただだだ!!」

「麗日さん何を!? かっちゃんもその辺で!」

「出る出る出る出る! 中身が出ちゃう!」

「……誰かメロンパン買ってこい」

「「詰め替える気!?」」

「痛い勝希ちゃん痛い!」

「誰がカツキちゃんだこらああああ!!」

 ぎゃーぎゃーと私たちは騒ぐ。

 胸の痛みは、いつのまにか消えていた。




これは夢オチか? それとも並行世界にお茶子の精神がアクセスしたのか? 本当に出久は下の方も10人力なのか? かっちゃん(女)はあっちもタフネスなのか? それは誰にも分からない。


とりあえず最高に楽しかった(最低)


解説というか言い訳ですけど、ラブラブカップルに見えて実は双方向性ヤンデレカップル的な。
男同士であそこまでこじれる奴らが男女になってこじれないわけないやろ。
クラスの奴らも見守りモードだからいいけど下手に横槍入ると地獄と化します。

あんまりあれならチラシの裏にでも移します。

あと20万UA記念掲示板SSですが、結構難産になりそうです。今度の土曜か日曜位にはできたらええね。
一応本編は滞らないようにします。


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グラントリノとサーナイトアイ

日に二度更新するやつがいるか。
コロナのせいで結構書き溜め溜まってしまった。


 僕はメリッサさんとのパソコン通話を開き、彼女にヒーロー名を告げる。

「そう、デアデビル……。私の話、覚えててくれてたんだ」

「はい! あの日のメリッサさんとのお話を忘れないように、怯まずに誰かを救えるように、名前をつけました」

「格好いいヒーローネームね! うん! 凄いアイデアが浮かんできた! 名前に合った格好良いコスチュームとアイテムを作るわね!」

「はい! それから今度職場体験ってのがあって……」

 他にも近況の報告等をしつつ、メリッサさんに日曜日の予定を話す。

「まあ、グラントリノ! おじさまの先生ね。その方に会いに行くんだ?」

「はい。メリッサさんもご存知で?」

「一度お話を伺っただけだけどね。そっか、職場体験には間に合わないけど、新しいスーツの開発急ぐわね。今度会うときには渡せると思うわ」

「はい! 楽しみにしてます!」

 

 

 僕とトゥルーフォームのオールマイトは、甲府行きの新幹線に乗っていた。

「はははははキキキ緊張しななくてもいいいよ緑谷少年! とてもやさシイ肩たたききき」

「落ち着いてくださいオールマイト、何言ってるのか全然分かりません」

「そ、そうかすまない! いやついもう久しぶりで、ねえ僕の大腿筋?」

 むっちゃ震えてる。

 本当に大丈夫なのか不安になってきた。

「そ、そういえばあの後は、お師匠様の夢は見てないのかな」

「見ていないです。……もう一回心操くんに洗脳してもらえば何かわかるでしょうか?」

「ふむ、あまり焦ってやる必要はないと思うがな、どんなリスクがあるか分からないし」

 オールマイトは渋ったような声をだす。

「そうですね……。あの、オールマイトのお師匠様ってどんな人でしたか?」

「……そうだなあ。一言で言えば私にとって」

 

「母親みたいなもの、だったなあ」

 

 そう言うオールマイトの「だった」の部分。

 そこがあまりにも重たい響きで。

 僕はそれ以上聞けなかった。

 

 山梨県

 グラントリノ事務所 

 

 おじいさんがケチャップとソーセージをまき散らして倒れてる。

「うわあああああああああああああ死んでる!!」

「落ち着いてくださいオールマイト、ケチャップとソーセージです」

 

「生きとる!」

「生きてた!」

 オールマイト、ノリがいい。

「して、誰だ君は」

「先生、お久しぶりです八木俊典です」

「雄英から来ました緑谷出久です」

「誰だ君は!」

「先生!! お久しぶりです八木俊典です!!」

「雄英から来ました緑谷出久です!!」

 

「誰だ君は!!」

 

「先生ーー!!」

「いやあ仕上がってますね……」

 いや、こちらをからかってるとは分かるんだけど。

「ま、冗談はさておいて、よく来たな俊典」

「あ、ご冗談だったんですね」

 オールマイト、天然だった。

「そして、そこの男が、お前の選んだ9代目か」

「はい、緑谷出久と申します」

 僕は失礼のないよう深々とお辞儀する。

「うむ、わしはグラントリノ。オールマイトの先生をやっておった。一年だけだけどな」

 そう言って笑うおじいさんは立ち振る舞いから、おとぼけは口だけだなと分かる。

「お話は伺っております。今日は何かお話があると」

「なあに、そう構えるな。単に昔話に花咲かせたいってだけだ。志村のことを知るヤツは年々少なくなるからな」

「志村さん……あの女の人はそういう名前なんですね」

「何だ俊典? 説明しとらんかったのか? 七代目ワンフォーオール継承者、志村菜奈、ワシの盟友であり、そこの八木俊典の師匠よ」

 そう言うと、グラントリノはお茶を出してくれた。

「あ、ありがとうございます。いただきます」

「先生、言ってくだされば私が……」

「気にすんな俊典。しかし、九代目継承者が雄英体育祭を優勝するとはな……。

 体育祭見さしてもらったが、なかなか見る目あったんじゃねえのか?

 まあ何度か無茶な場面はあったがな」

「はは、恐縮です。ですが私が教えたことなど何も。緑谷少年が自分で学び鍛え、勝ち取ったのです」

「だが、それにしてもきっちりワンフォーオールを使いこなしているじゃないか。理想は100%を使いこなすことだが、それも体が出来上がってくれば自然とそうなるだろうよ」

「ありがとうございます!」

「しかし、時間が経つのははえーもんだ。

 俺にゲロ吐かされまくってたあのガキが立派に師匠やってやがる。

 道理で俺も年をくったものだ」

「先生! その話は!」

 道理で怯えていると思った。

「お年と言いますが、未だ相当鍛えてますねグラントリノ、すごい圧力だ」

「ほう、分かるのか?」

「大体ですけどね」

 僕の言葉にグラントリノは愉快そうに笑う。

「目が見えないからこそ、見えるものもあるか……。おもしれえ、いっちょやってみるか」

 あれ、地雷踏んだ?

 

 その瞬間、グラントリノが消える。

 

 否、天井、跳ねた、加速する個性?

 右に回った、立ち上がって、いや、さらに180度、

 旋回、無理、フルカウル5%、

 ビリー・クラブを広げて、向かってくる。

 キャッチ。

 捕らえた。

 

「先生! 人が悪い!」

 オールマイトが焦って近づいてくる。

「……元気なおじいさんですね」

「はははすまんすまん。だがやるじゃないの。分析と先読みか」

「全然本気の速度ではないでしょう? 全く」

 グラントリノの心音は全くと言っていいほど乱れていない。 

 オールマイトの先生というのもわかる強さだった。

「いや、それにしても初見で捉えられるとはな、こと近接戦の才能で言えばお前を凌ぐかもな俊典。

 これはあいつを呼んでおいて良かったな」

「あいつ?」

「ああ、別にいい。それより教えてくれよ、志村は何て言ってたんだ?」

 グラントリノは僕の拘束をあっさりほどき、席に戻る。

 捕縛術も身につけないとな………。

「はい、特異点はとっくに過ぎてる、だから僕は備えなければならない、と。……何か聞いていませんか?」

「ふむ……。それが噂の個性特異点のことなのか、それともワンフォーオールに備わった何か別の意味なのか」

 個性特異点とは、ネットで時折見られる終末論で、複雑多様化していく個性により、いずれ現代社会は生まれる個性により破滅を迎えるというものだ。

「どちらとも取れる言い回しでしたね。ですが、備えると言われても……」

「ふむ、まあしばらくはワンフォーオールの上限値を解放することを考えるしかあるまい。

 今はパッと見、7割といったところか?」

「そうですね……一応この間75%で動けるようになりました」

「ふむ、着々と伸びてはいるようだね」

 入学試験では60%だったから、牛歩ではあるが伸びている。

 けれど、まだまだだ。

「まあ、俊典は100%を受け取った当初から使えていたからな」

「流石はナチュラルボーンヒーロー……」

 立つ瀬がない。

「だが、技術的な面ではお主の方が勝っている。そう落ち込むなよ」

「はい……」

 とは言っても、なかなか先は厳しそうだ。

 

 その時、チャイムが鳴る。

「お、きよったか。相変わらずキッチリした奴だ」

「先生? 誰か呼んだんですか?」

 グラントリノはニヤリと笑う。

「こないだ賭けをしてな。俊典の選んだ男が一位を取ったら素直に会う。とな」

「……まさか、呼んだんですか!?」

「とっとと会わせておけばいいだろ? お前さんの元サイドキックと現弟子をな」

「オールマイトの、元サイドキック?」

 それはつまり。

 入ってきたのは、身長2メートル程の細身の男性。

 細身の割に、凄まじく鍛え上げられた肉体。

 そして、目の見えない僕でも分かる程、鋭くこちらを射抜く眼光。

「久しぶりだな。オールマイト。そしてはじめまして、九代目継承者」

「……久しぶり。ナイトアイ」

 オールマイトの元サイドキック。

 サー・ナイトアイがそこにいた。

 

「まあとりあえず、茶でも飲め」

「……相変わらずマイペースですね、グラントリノ」

 ナイトアイはするりとオールマイトの対面に座る。

 そして、ナイトアイとオールマイトの二人が対峙する。

 重苦しい空気に、思わずグラントリノに尋ねる。

「あの、お二人、仲悪いんですか? とても仲良しだとの記憶があるのですが」

 僕が光を失う前から、オールマイトはナイトアイとコンビを組んでいた。

 丁度、オールマイトが活動を見合わせていた時期にコンビを解消したが、その時に何かあったのだろうか?

「まあ、昔ちょっとケンカ別れしてな。少し拗れている」

「……そんな人達をいきなり会わせて大丈夫なんですか?」

「なあに、老い先短いとだんだんおせっかいになってきてな」

 自由だなこの人。

 僕らの会話をよそに、ナイトアイはずずっと茶を啜る。

 そして、おもむろに切り出した。

「単刀直入に聞く、オールマイト。あの件は九代目には教えているのか」

 あの件?

「いや、教えてない」

「早急に教えるべきだ。その教え子を思い、信頼しているのであれば、なおのこと。とりあえず言いたいのはそれだけだ。

 ……あなたが無個性の中学生、それも光を失ったただの少年にワンフォーオールを継がせたと聞いた時は正気を疑った。

 だが、確かにその少年は次代の平和の象徴になるために必要なものを持っている。

 そのために、どれだけの努力が必要だったかは想像に難くない。

 だからこそ、あなたは誠意を見せるべきだ」

 ナイトアイは冷たい声でオールマイトを詰める。

 なのに、僕は自分の心音がうるさくなるのを感じる。

「しかし、それでは……」

「体育祭の表彰式であなたは言ったな、『君と隣で戦う日を楽しみにしている』と。

 何も変わっていないんだあなたは。

 あなたを支えたい、助けたい、力になりたいと思う気持ちを何故かたくなに拒絶する!」

 ナイトアイは感情に任せて立ち上がる。

「ナイトアイ……」

「あなたとその少年には私は思うところがある。

 だがヒーローとして! 私はその少年への嘘を見過ごすことはできない!

 彼が友達のために、少女のために、自分の光を奪った相手のために身を削って戦うことのできる少年だと知ったからだ!」

 ナイトアイは言葉を終える。

 何故か僕は嫌な予感がして、オールマイトに少しだけ近づく。

「……なんの話です? オールマイト、サー・ナイトアイ、グラントリノ」

「緑谷少年」

「お願いします。オールマイト。教えてください」

 僕の声は思った以上に震えている。

「僕では、あなたの重みを支えるのに足りませんか?

 体育祭で優勝して、僕が来たって見せれて、それでも、まだ足りませんか……?」

「緑谷少年、そんなことはない」

 

「だったら教えてください! とても大事な話なんでしょう!? それを何で僕に教えてくれないんです! 僕はあなたの後継者で! あなたとともに鍛えてきた! そんな僕に言えないことってなんですか!」

 

 僕が叫ぶと、オールマイトは言葉を失う。

 違う、僕はあなたにそんな辛い心音を。

「……すいません、声を荒げて……。外の空気を吸ってきます」

 僕が杖を持って立ち上がろうとすると、オールマイトは手で制する。

「いや、話すよ緑谷少年。……確かに私が不誠実だった。ナイトアイの言う通りだ」

 オールマイトはそう言うと、一つお茶を啜る。

「……ナイトアイの個性は知っているな?」

「……予知ですよね? 詳しい条件は公表されていないですけど」

「ああ、6年前、とあるヴィランと戦った私は、半死半生の重傷を負った。君にも見せたな。この傷だ」

「……はい、覚えてます」

「ナイトアイは引退を勧め、私は平和の象徴の継続を優先した。そこで意見の食い違いが出たのが私達がコンビを解消した理由だ」

 僕は頷き、話の続きを促す。

 

「その時、ナイトアイは私を予知した。そしてこう言った。『もし、このまま戦い続ければ、私はヴィランと戦い、凄惨な死を遂げる』と」

 

「結局、戦いを続けた私はナイトアイと喧嘩別れ、今に至るというわけだ」

 

 僕は、ただ、茫然とすることしかできなかった。

 

「オールマイトが……死ぬ?」

 

 杖が落ちた。甲高い音が部屋に響いた。




ラーメン全部乗せ。
すいません。プッシーキャッツはどうしても乗らなかったので、林間合宿編まで少しお待ち下さい。


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ミルコ

「オールマイトが、死ぬ?」

 

 僕は、茫然と現実を咀嚼する。

「そ、それは、いつ頃のことなんですか」

「……今年か、来年だ」

「すぐじゃないですか!」

 僕は思わず叫ぶ。

「こ、こんなことしてる場合じゃない! はやく予知と反する行為をしないと!」

「無理だ。ナイトアイの予知が外れたことはない」

「そんな……。ねえ、嫌ですよ、生きてよオールマイト……。

 僕は、あなたのおかげでここまでこれた。かっちゃんとも向き合うことができた。塩崎さんのことも思い出せた。メリッサさんと出会うことができた。1-Aの皆と、友達になれた。

 隣で戦うのを楽しみにしてるって言ったじゃないか……。僕が一人前のヒーローになるまで、生きてよ、オールマイト……」

 僕に涙腺がなくてよかった。あれば、きっと泣いていただろう。

「死ぬつもりはないさ、緑谷少年」

 オールマイトはそこで力強く言い放つ。

「例えどんなヴィランと出会うとしても、私は必ず勝って見せる。それが平和の象徴としての私の矜持だからね」

「……オールマイト」

「それに、君の隣で戦うことを楽しみにしているのは本当だ。そのために、運命なんていくらでも捻じ曲げてみせる」

 そう言ってオールマイトはマッスルフォームになる。

「……今まで黙っていてすまなかった。だが、私は決めたよ。必ず運命にあらがって見せる」

 オールマイトの言葉に、コホンとナイトアイが咳払いをする。

「……すまなかった、オールマイト。少々性急すぎたようだ」

「いや、ナイトアイ。確かにいいタイミングだった。……緑谷少年にとっても私にとってもね。

 確かに、緑谷少年の憧れに身を任せ、私は彼の気持ちをくんでいなかった。……君の気持ちもね、本当に成長しない男だ私は」

 オールマイトはそれでも、ポージングを取った。

「だが、私には頼れる仲間が付いている。だから、負けはしないさ。たとえどんな敵であってもね」

「頼れる仲間か……。その言葉を、どれほど聞きたかったか」

 ナイトアイはそう言って、僕の肩を叩く。

「どうやら、君という男は私の思う以上に大した人間のようだ。君が言った、オールマイトすら助けられるヒーローになるという君の夢、それは今この瞬間、確かにかなったのだから」

「……ナイトアイ」

「この頑固な男が、人の助けを借りようと思うとは。それは口ばかりでなく、君が雄英体育祭という場で戦いぬいたからこそだ。

 だから誇りに思いたまえ、そしてありがとう。私も彼と仲直りすることができた」

「……恐縮です」

 そこで、グラントリノが手を叩く。

「じゃあ、話も纏まった所で、今後の方策に話を進めるか」

 グラントリノはお茶のお替りを注いでいく。

 

 

「十中八九、オールマイトを殺すヴィランというのは、オールフォーワンで間違いあるまい」

 グラントリノが切り出す。

「しかし、先生。奴は確かに6年前、仕留めたはず」

「だが、雄英襲撃の際に出たらしいじゃないか、個性の複数持ちの改造人間が。奴が生き延びていたと考える方がむしろ自然だろう。

 それにお前を倒せるヴィランなぞオールフォーワンかそれこそアメリカのキングピン位のものだろうて」

 そこに僕は口を挟む。

「そのオールフォーワンというヴィランが、例のオールマイトに傷を負わせた?」

「ああ、私の宿敵であり、歴代ワンフォーオール継承者の宿敵でもある」

 ナイトアイがこくりと頷く。

「奴の個性は”人の個性を奪う”また、”人に個性を与える”というもの。その中に傷を癒す個性があってもおかしくない」

「ネットの都市伝説では見ますが、まさか実在するとは……」

 本当に、僕が関わるのは”伝説の戦い”なのだと実感する。

「そして、奴はヴィラン連合の背後に立ちながら、お前を狙っている」

「……そのせいで1-Aの皆が傷ついたなら、僕は許せません」

「緑谷少年、そう怒るな。許せんのは、私もいっしょだ」

 オールマイトは僕をいさめる。

「だが、奴のことは今のところは警察に任せるのが一番だろう。私としては、緑谷……失礼、デアデビルの底上げをするのが急務だと思うがな」

「う……。確かに、僕はまだ75%しかワンフォーオールを引き出せません……」

「それでもよくやっている方だとは思うが……。やはりオールフォーワンを相手取るとなると、100%を扱えないと心もとない」

 それほどの強敵なのだ。オールフォーワンというのは。

「だが、緑谷少年はまず職場体験だな。ミルコのところで何か掴んでくるといい」

 オールマイトがそう言うと、ナイトアイも同調する。

「ふむ、選択としては悪くない。奴は口は悪いが実力は確かだ。存分にしごかれてくるといい」

「は、はい!」

「ワシらは塚内に確認して、善後策を練ろう。

 ……既に後手なのが痛いがな」

 また知らない名前がでてきたな。

「塚内さんというのは?」

「ああ、君は会ってなかったね。私の警察内の友人だ。今後、警察に関わりができることもあるだろうし、落ち着いたら顔を繋いでおこう」

「よろしくお願いします」

 

 その後は、太陽が傾くまで議論に熱が入った。

 けれど、オールマイト、ナイトアイ、グラントリノ、三人ともどこか嬉しそうだった。

 

 その日の夜、僕は夢を見た。

 夕焼けの町、ビルの上で僕は夕陽を見ている。

「俊典が、前を向けて良かったよ、ありがとう」

「志村、菜奈さん」

 黒髪のとても美しい女性がそこにいた。

「ありがとうな緑谷くん。君のおかげで、良い流れに行きそうだ」

「いえ、僕は何も。その、特異点ってなんなんですか?」

「……それについては言えない。だが、君が早く力をつけなきゃいけないのは本当だ」

 志村さんは心苦しそうに言う。

「……グラントリノ、寂しそうでした」

「あいつには悪いことをした。結局私は、約束を破ることしかできなかったから。

 友も、弟子も、愛する息子も」

 そう自嘲する志村さんは悲しそうで、僕は我慢できなかった。

「そんなことないです。あなたの弟子のオールマイトは色んな人を助けてきました。

 それは巡り巡ってあなたが助けた人達なんです。

 そして、きっと僕もたくさんの、誰かの愛する人を守って見せます」

 そう言うと、志村さんはハッとして、嬉しそうに笑った。

「君は優しいな、緑谷出久。俊典が君を選んだのは英断だった」

 そう、あらゆる人の心を洗うような快活な笑みを浮かべ、女性は消えた。

 

 翌日、学校。

「おいらMtレディ!」

「やらしいこと考えてるわね峰田ちゃん」

「違うし!」

 ギクって言った。

「……緑谷は、どこにするんだ」

 轟くんがふらっと僕に尋ねてくる。

 体育祭のあとから、険がとれて関わりやすくなったとクラスでも評判だ。

「轟くん、僕はラビットヒーローミルコの所かなって。轟くんは?」

「俺は、エンデヴァーのところにする」

 僕は轟くんの言葉に少し驚く。

 轟くんは、はにかんだように笑った。

「勿論許したわけじゃねえ。けれど、あいつのヒーローとしての面を俺は見ようとしなかった。

 それはあんまりに、寂しい気がしてな」

「轟くん……。いいと思うよ、また何かあったら教えてくれ」

「ああ、……連絡先、教えてくれるか」

「うん! ちょっと待ってね。ヘイジャービス。連絡先を登録して」

『はい、イズクさん』

 僕のスマホから電子音声が響く。

「珍しいAIだな。それは?」

「うん、デヴィットさんが知り合いから融通してくれた人工知能ソフトで、僕用にカスタマイズしてあるって言ってた」

「そうか、お前はどんどん前に向かって行くんだな。俺も何とか置いてかれないように頑張るよ」

 そう言って連絡先を交換した所で、かっちゃんが近づいてくる。

「何だ半分野郎。お前もエンデヴァーか」

「もう半分じゃねえ。お前もってことは、爆豪もか」

「ああ、ベストジーニストやミルコとも迷ったが、どうせならナンバー1に近い方がいいと思ってな」

「……そうか、お前のオールマイトも超えるヒーローになるって宣誓、あれにあいつも思うところあったのかもな」

 かっちゃんは舌打ちする。

「あんまセンシティブな所、見せんじゃねーぞ」

「ああ……あれ、事情知ってるのか?」

「聞かんでもお前の態度見ればなんとなくわかるわ舐めんな」

「そっか」

 かっちゃんも、ミルコの指名受けてたんだ。

「おめーと一緒でも、お前を超えることはできねえからな。

 認めたくねえが、体育祭の結果で格付けはすんだ、確かに俺が下だ」

「かっちゃん、あの決着は……」

 ほとんど互角だったと言おうとした所で、かっちゃんは言葉を挟む。

「お前は半分野郎と茨女で消耗しまくってただろ。そんなお前と互角だった時点で俺の方が下だ」

「「「大して消耗させられなくてすいません」」」

 麗日さん切島くん常闇くんが謝る。

 相変わらず変な所で真面目というか、なんというか。

「だが、だからこそ! このままじゃ済まさねえぞデク!」

「うん! 僕も精いっぱい学んでくるよ!」

「男のあれだなー」

「麗日さん。麗日さんはどこ?」

「私ガンヘッド。指名来てた」

 そう言って、麗日さんはパンチの真似をする。うんかわいい。

「ゴリゴリの武闘派じゃん! てっきり災害救助方面に行くのかと」

「うん、爆豪くん戦で思ったんだ。私触れられれば強いけど触れるまでが課題やって。それにやりたい方だけ向いても見聞狭まるし。そう言えば透ちゃんにも一票入ってたよね。どこやったん?」

「ふっふーん。何と聞いてよ。あのエッジショットから指名入ってたんだあ」

「忍者ヒーローエッジショット! 成程、インビジブルガールとはイメージ的にもあうね」

「正直実力で指名取れたとは思ってないけど、折角ナンバー5に指名もらったんだから、沢山学んでくるよ!」

「そっかあお前らすげえな! 常闇もホークスから指名もらったって言ってたし、トップランカー揃い踏みじゃねえか」

 切島くんが笑顔で言う。

 みんなどんどん前に進んでいる。

 体育祭で優勝したとはいえ、うかうかしてられないな。

 

 

 そして時は流れ、職場体験当日。

 僕らは東京駅に集合していた。

「コスチューム落とすなよ」

 メリッサさんが新しくデアデビル仕様のスーツを開発してくれているが、それまではこのオールマイトリスペクトのスーツで行くことになる。

「ふふーん、やっと見せれるよ。私の最新鋭光学迷彩コスチューム」

「……それ見れるの?」

 葉隠さんと耳郎さんが楽し気な会話をしている。

 だが、僕はやはり気になる人がいる。

「飯田くん、何かあったら言ってくれ、友達だろ」

 飯田くんの行き先は保須市のマニュアルヒーロー事務所。

 間違いなく復讐を考えている。

「ああ」

 後ろを向く飯田くんに何も言えない。

 ……とにかく、僕のことも考えないと。

「あれ、デクくん、ミルコってことは広島じゃないの?」

「それが、メールで『東京駅で待て』って前日に来て……」

「ていうか、ミルコって事務所持ってないんだよね? 大丈夫なの?」

 そう言えば、じゃああのメールって本人が?

 そう思っていると、悲鳴が、多分僕にだけ聞こえる音量で響く。

「イレイザーヘッド! あっちに1km! 多分強盗です!」

「ふーん、あれが聞こえるのか。やっぱ合ってるな私とお前は!」

 僕は声がした方を向く。

 身長は160センチ、志村さんに勝るとも劣らない筋肉質な体。

 肌の匂いからおそらく褐色。そして輪郭ではっきりわかる兎の耳。

 ラビットヒーローミルコが、おそらく私服姿でそこにいた。

「んじゃ、とりあえず脱兎のごとく……」

 そう言って、彼女は、僕を小脇に抱える。

 ち、力強い!

「え、ちょっとま……」

「事件は待ってくれねえ! 行くぞ!」

 そう言うと、ミルコは凄まじい勢いで飛び出し、建物の間を跳ねるように飛び出していった。

 僕を抱えたまま。

「ええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 ドップラー効果を見せながら飛んでいく緑谷出久を見て、爆豪勝己は、声を上げた。

「……行くのやめといてよかった」

 クラスメイトは茫然と頷いた。

 

 

 




第5ヒロイン登場。そうジャービス(違いますミルコです)
と言っても、おそらく2週目にならないと攻略対象にならないタイプのヤツ。
どっちかというと師匠ポジションで書いていきたいです。


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職場体験

感想300突破ありがとうございます!
大変励みになっております!


 僕はミルコに小脇にかかえられ、高速で移動していた。

「み、ミルコ! ヴィラン達が車に乗って逃走します! 音からおそらく電気系の個性!」

「おう! 聞こえてる! だが個性まで分かるか! 耳いいな!」

「お、おろしてください! 走れます!」

「良し! 体育祭のスピード見せてみろ! 行くぞ!」

 そう言うと、ミルコは僕を放り投げる。

 僕はフルカウルを使用し、ミルコに並走する。

 射程に入った。車だ!

「脱兎のごとく! 追いついた! 私が一人で行く! よく見てろよ!」

「は、はい!」

 そう叫ぶとミルコはさらに速度を上げ、ヴィランの運転する車に近づくと、思いっきり踏みつけた。

 車がたわみ、強制的に止まる。

「ぶっ凹ました! 緑谷は避難誘導! そういやヒーロー名なんだ!?」

「デアデビルです! すいません! 皆さん! 離れてください!」

 車から、ヴィランが4人出てくるが、ミルコは一瞬にして三人を蹴飛ばした。

「ミルコ! そいつ電気を纏ってる!」

「気づいてるよ! 蹴ってねえだろ!」

「……くそ! よりにもよってミルコかよ! だが! 俺に肉弾戦は」

「ふん!」

 ミルコは気合を入れると、車から扉を引っこ抜く。

 そして、ヴィランに思いっきり投げつけた。

「へぶ!」

「良し、被害なし! 終わり!」

 一瞬通りを静寂が満たし、大歓声が切り裂く。

「すげええ! 一瞬で4人仕留めた! 流石ナンバー7!」

「事件発生からどんだけだよ! つうか何でこの街に!」

「それに隣の学生! もしかして雄英体育祭一年優勝者の緑谷じゃねえか!? 何だあのアイテム!」

 僕たちはあっと言う間にファンに囲まれる。

「ばか! まだ警察きてねえから邪魔だ! 下がってろ!」

 そう一喝し、混乱になりそうな空気を一瞬で締める。

「あとで答えてやる! 大人しくしてろ!」

「「「「は、はい」」」」

 僕は警察がくるまでの間、今までの行為を反芻する。

 最初は驚いたけど、事件に気づいてから現場に到着、解決までのスピード、とんでもなかった。

 これが、オールマイトをして、格闘戦なら自分を除いて日本一と称するヒーロー。

 確かに、身体能力、判断力、格闘技術、文句なしのトップヒーローだ。

 

「デアデビル! 早速だが、私は後輩の指導なんざしたことがねえ! だから基本お前は私の後ろを今みたいについてこい! いいな!」

「は、はい!」

 ……へ、ないの?

「じゃあまずは事件後の対応だ!」

 丁度パトカーが来た。

「ヴィランを退治するとしばらくして他のヒーローやら警察やらが来る! 基本警察の言う通りにしとけばいい! 権限はあっちが上だ!」

「成程!」

 そう言ってミルコは警察官に近づく。

「ヒーローミルコ! ご苦労様です!」

「おう! とりあえず蹴っ飛ばしておいた! 拘束してくれ!」

「はい!」

「あれは移動牢! あれに入れるまではどんな個性を使ってくるかわかんねえ! それまで油断すんな! その耳で警戒しろ!」

 成程、柔道場でも徹底的にしこまれた。残心というやつだ。

「その後は調書をとる。まあ正確に答えておけばいい」

「それで事件解決の経緯は」

「私ら、駅前で事件の音を聞く、走ってくる、蹴っ飛ばす、以上」

 そんなざっくりでいいの? 

「この車、盗難車ですね。どうしてここまでバキバキに」

「蹴っ飛ばした!」

 正直!

「その後はファンサだ! マスコミいたら取材に答える! キリがないから程ほどにな!」

「ミルコ! なんでここに!」

「移動中だ!」

「事件解決の秘訣は!」

「ウサギの聴力!」

「何で雄英の緑谷と!?」

「職場体験だ! 指名した!」

 テンポいいな。

「緑谷くん! 何故ミルコの事務所を!」

「え! 僕!?」

 僕は戸惑いながらミルコの方を向く。ミルコも頷く。

「え、ええと。僕とミルコは聴覚が優れている点と、近接戦闘主体という点で噛み合っています。それに若い女性の身でナンバー7に登り詰めたノウハウを……」

「長い! 短く纏めろ!」

 ペチン!

「「ええ!?」」

 髪の毛ではたかれた……。地味に痛いけど何かいい匂いがした。

「悪いが今から移動する! また今度なファンども! 悪いことすんなよ!」

 ミルコはそう言うと僕を小脇にかかえ、ビルの壁面を駆け上がっていく。

 下ろしてえ!

 

「何で爆豪は来なかった!? お前とセットで見たかったのに!」

 僕らはビルの上を駆けながら、会話する。

 あの後、僕はコスチュームに着替えさせられた。

 なので今はヒーロースーツ同士だ。

「かっちゃんはエンデヴァーのところに……」

「クソ! やっぱりランクか! くやしいぜ! 折角今年は指名してみようと思ったのによ!」

「あの、何で僕らに指名を? やはり機動力でしょうか?」

「それもある! 最低限の機動力がねえと私の足を引っ張るからな! だから指名したのに、クソ!」

 少し気になる言い回しだ。

「も、とは」

「お前らがいい奴だからだ!」

 ミルコは単純に言う。

「自分を傷つけたヤツを許すお前も! そんなことがあってもヒーローを目指すあいつも! いいやつだ!

 いいやつじゃないとヒーローは務まんねえ!」

 そうあっけらかんと言われ、僕は言葉に詰まる。

「……ありがとうございます。ミルコ」

「あ、何が?」

「いえ……ちょっと待ってください。妙な音が」

 そう言って僕はビリー・クラブを地面と耳に当て、聴覚を鋭くする。

「そこの雑居ビルの3階、女性のくぐもった悲鳴が聞こえます」

「すぐ行くぞ! 脱兎のごとく!」

「はい!」

 やっぱり速い。

 僕は急いでついていった。

 

 僕はレーダーセンスで詳しく視ると、大男が半裸の女性を組み伏せている。

「ミルコ!」

「お前は入ってくるな。警察呼べ。私一人でやる」

 真剣な、怒気を抑えた声でそう言って、ミルコは飛び込んでいった。

「ヘイジャービス。警察呼んで」

『了解しました。イズク様』

「昼間からさかってんじゃねえ! クズ野郎!」

「な、何でミルコが……へぶ!」

「大丈夫か? お嬢さん!」

 女性の安堵の声が聞こえた。僕はホッとすると同時に、やはり男の僕が入るべきではないと思い、そこで警察を待った。

 

「あの、女の人が無事で良かったですね」

「ああ、しかしあの女終始顔が赤かったな。心配だ」

 それは確かに心配だ。

「しかし、お前の聴覚はすげえな! ウサギの耳以上だ!」

「いえ、そんな。恐縮です」

「恐縮すんな! お前のおかげであの女の人は助かった。お前はいいヒーローになるぜ!」

「はい! 僕は助けを求める声を全て聞き届けるヒーローになります!」

「デカい目標だ! 気張れよ! デアデビル!」

「はい!」

 そうして打ち解けた所で、僕は疑問を口にする。

「あの、ところで僕らはどこに向かってるんです? パトロールにしては一直線ですし」

「あ、言ってなかったか。保須だよ。今からヒーロー殺しを蹴っ飛ばす!」

 ミルコさんの宣言に僕の心臓がドキリと跳ねる。

「え、あの。そう言えば疑問だったんですけど。ミルコさんて広島が拠点ですよね。どうして?」

「ああ、私は事務所を構えねえで、全国の手ごわそうなヴィランや組織の情報を聞いたらそれを叩く方針なのよ!」

「成程、だからその若さでナンバー7……」

「そういうこった。丁度今血狂いマスキュラーってのを追ってたんだが情報が途切れちまってな。その時にヒーロー殺しのニュースを見て、そう言えば雄英は関東近くにあるし、丁度いいなって」

 本当フットワーク軽いなこの人。

「ついででもいいんだよ! 凶悪で強いヴィランをヒーローがほっといてどうするってんだ!」

 そう言う彼女の口調は、確かに悪いが、それでもヒーローだ。

「成程、確かに、おっしゃる通りです!」

「だから保須についたら、そこで腰を落ち着けてパトロールだ。その時に色々説明はまとめてしてやる。それまで、お前は誰かの悲鳴を聞き洩らさないようにしてろ!」

「はい……。言ってるそばから! 強盗です!」

「良し! 急行するぞ! 蹴っ飛ばす!」

『今の君が学ぶべきことも知っているだろう』

 オールマイトの言葉がフラッシュバックする。

 

 オールマイト、あなたの言う通り、僕には足りないものが一杯です。

 でも、この人のもとで、それを少しでも埋めれば、あなたの助けになるでしょうか。

 

 結局、保須についたのは夜になってからだった。

「いやあ、結局あのあと3件も事件に会うとはな。にしては早かったんじゃないか」

「そ、そうですね」

 フルカウルの30%を1日中維持し続けた。その結果大分体が痛んでいる。

 というか走りっぱなしだったのに、何でこの人は息が上がってないんだ?

「しかし、お前気になってたんだが、そのパーセントってのは、個性の出力か?」

「は、はい。今は限界が75%で、100%を出すと体が壊れてしまいます」

「そっか、じゃあ体鍛えねえとな。丁度保須にもあそこがある。」

 まだやるの?

 

「ここはシルバーマンズジム。全国展開しているスポーツジムで、ヒーローやアスリート御用達だ」

「成程、噂には」

「じゃあとりあえず個性なしで、お前の体格なら……ベンチブレス100キロとりあえず上げてみるか」

「こ、個性なしですか?」

「おう、筋肉つけるには高負荷低回数。基本だろ?」

「確かにそうですが、何故筋肉?」

 僕の言葉に、ミルコさんはキョトンとする。

「あ? お前の個性見た感じ筋肉の量が増えればパワーの上限も上がるだろ? 細いロープより太いロープの方が千切れにくいしな」

 その言葉に、僕の心臓がドクンと跳ねる。

「た、確かに。シンプルすぎて逆に気づかなかった。確かに鍛えていたけど、冷静に考えたらボクシングも柔道も階級のあるスポーツで体重を増やすっていうシンプルな帰結にいかなかった。というかオールマイトもマッチョなのになぜいままで」

「おい何だブツブツと、怖いしキモイぞ」

 ミルコさんがばっさりと切る。

「キモっ!? すいません、時折出るクセで……」

 ちょっとショックだ。

「まあとりあえずやってみようぜ! 筋肉はあって困るもんじゃねえし! フォームは分かるか?」

「はい! 一応は」

「じゃあやってみろ! 今回はお前の限界値を探るからな」

 そう言ってミルコさんはどんどんバーベルのウェイトを持ってくる。

 

 

 その後は、何とか130キロまで上げることができた。

 他にもミルコさんから効率のいい筋肉の付け方を教えてもらった。

 その後、ステーキハウスでごはんを食べ、僕の食欲に呆気に取られていたが、なぜか気に入られ、全部奢ってくれた。

 そんなこんなで、職場体験初日は過ぎていった。

 




ミルコ師匠とコミュ回。
ちょっとキャラが掴めてませんが、こんな感じかなと触りさわり。
いや、キャラ云々で言えばそもそも職場体験受け入れないっぽいよなこの人……(今更)

このイズク君は、ウェイトトレーニングはそんなやってなかったです。
やってたのは格闘技の訓練や自重トレが主体で。
あとは海浜公園の掃除位。
それであんだけ食いまくって体脂肪率5%ってヤバイなこいつ。
そしてウェイト初体験で初期大田原位上げるという盛りっぷり。

まあこいつはキングピンと対峙しなきゃいけないからこんくらいはね


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それぞれの職場体験

みんなダンベル大好きなんですね。
同じくサンドロビッチ・ヤバ子原作のケンガンアシュラ、その次回作ケンガンオメガや、WEBコミック求道の拳も死ぬ程面白いからみんな読もうな(ダイマ)

なおこのSSは僕のヒーローアカデミアとデアデビルのクロスオーバー小説です!


 side 爆豪

 

 ここはエンデヴァーヒーロー事務所。俺はだだっ広い所長室でナンバー2と対面する。

「やっと覇道を歩む気になったか、焦凍」

「別に、職場体験に来ただけだ。

 それと、友達も一緒に来てるんだ。あんま贔屓しないで平等に見てくれ」

「別段友達ってほどでもねえだろ」

「え」

「え」

 半分野郎がぼんやりとした顔をする。こいつこんなキャラだったんか。

 俺ら二人の間の沈黙にエンデヴァーが咳払いをする。

「……何やら認識に差があるようだが、爆豪、ヒーローネームは?」

「……バクゴーでいい。考えてたやつ全部ボツくらった」

「ほう、なんだったんだ」

「爆殺王、爆殺卿、爆殺」

「……英断だ」

「どういう意味だコラ!」

「焦凍はショートか。まあ二人ともシンプルなのはいいことだ」

 それ短い以外取り柄がねえってことじゃねえか。

「バクゴー、貴様を指名したのは、確かめたかったことがあったからだ。

 貴様はオールマイトを超えると明言した。その重み、本当に分かっているのか」

 エンデヴァーは慳貪な目を向ける。

 それを俺は睨み返す。

「……誰が無理無茶無謀と言おうが関係ねえ。俺は他でもない俺に誓ったんだ。デクにでもお袋にでもねえ。

 何よりも俺だけに、俺はオールマイトをも超えるナンバーワンヒーローになるってな」

 俺は言い返す。一度は、デクとの約束に逃げたこともある。俺の贖罪の道具にしたこともある。

 だが、あいつは言った、俺は俺自身の夢のために立てと。

 それに応えなきゃ、今度こそ顔向けできねえ。

「それで笑われたって構わねえ。夢を見るってのはそういうことだろうが。強くなるってことはそういうことだろうが。

 俺が折れちまって誰が俺を立たせるんだ?」

「爆豪……」

 半分野郎が俺を見る。それを無視して言い切る。

「あんたが何と言おうが俺は折れねえ。俺はあんたも超えて、オールマイトも超えて、どんなヴィランにでも勝って、どんな窮地に陥ったヤツも助ける最高のヒーローになるんだよ」

 俺がそう言い切ると、エンデヴァーはしばらく俺の目を見た。

 しばらく沈黙が続くと、エンデヴァーはため息をつく。

「……今のままじゃ、俺も辛いまま、か」

 その呟きに、俺と半分野郎は首を傾げる。何だ一体。

 エンデヴァーはしばらく俯いていたが、決心したように俺を見る。

「分かった。二人とも、俺についてこい。ナンバー2を見せてやる。

 だが忘れるな。オールマイトを超えるのは……私だ」

 その言葉に半分野郎が息を呑む。何だ?

「……ガキに張り合うなよ。そしたら今度はアンタを超えるだけだ」

「ふん、言ってくれる」

 そう言うエンデヴァーは、どこか吹っ切れた顔をしていた。何なんだ一体。

 

 

「とりあえず、早速で悪いが、我々は保須に急行することになった。そしてヒーロー殺しを捕らえる」

「「急だな」」

 ハモんじゃねえわ半分野郎。

 しかし、ヒーロー殺し。メガネの兄貴を再起不能にした奴か。

「どうやら他にもヒーローランクトップランカーが捕えようと保須に集まっているらしい。確かにいざとなれば共闘するが、それでも全員がライバルだ。気を抜くな」

「餌の取り合いみてえだな」

「テンション下がること言うな半分野郎。必ず捕らえてやらあ」

「まあ、有事になっても未資格者であるお前らには、交戦の権限は与えられないがな」

「んだよ! 期待させやがって!」

「そうむくれるな。少なくとも見ることで、得るものは確かにあるはずだ。……バーニン。入れ」

「はい、ただいま」

 そう言ってはいってきたのは、髪の毛が黄緑色に燃えている女だった。

 確か有名なサイドキックらしい。詳しくは知らねえ。

「俺は、二人を見ねばならん。遠征中のサイドキックのまとめ役、任せたぞ。ギトゥとオニマーには留守を頼む」

「あれ、爆豪くんは私が見る手はずでは?」

 そう言って意地悪そうに笑う。何だこの女?

「……予定は変わるものだ。出張の準備をする。お前たちはひとまずバーニンについていけ」

「はい、じゃあ出張前に、軽く概要説明ね。行くよ」

 そう言われ俺達はとりあえずついていく。

 この経験を経て、俺はデクを超える。

 そして、トップになる。

 そう思って部屋を出ると、急に女が抱きしめてきた。何だ。

 文句を言おうとしたが、その雰囲気があまりに優しくて、何も言えなくなる。

「……ありがとね」

 ほんの数秒そうしていると、何事もなかったかのように女は快活な顔をする。

「さ、いくよ!」

 手を振り上げて進む女に遅れぬように進む。

「爆豪……ありがとよ」

「何なんださっきからてめえら」

 釈然としないながらも、俺は二人とともに向かった。

 

 そして保須市。俺達はすぐさまパトロールに入る。

「一応職場体験だからな、簡単な説明はせねばならん、手短にいくぞ。我々は国から給金を頂いているので一応公務員だ。だが成り立ちからして、公務員とは何もかも異なる、次に実務、

 ……早速でたな」

 エンデヴァーが呟くと、熱風が吹き荒れ、目を瞑った隙に姿が掻き消えた。

 ! もうあんなところに!

「行くぞ! 半分野郎!」

「く! はええ!」

 俺は爆速で、半分野郎は氷の噴出で追いつこうとするが、到着した時には既に終わっていた。

「ただのひったくりだ。見ていたか」

「来たら終わってたわクソが!」

「そっちではない。移動の方だ」

 その問いに、俺は言葉に詰まる。

「……何か炎が噴出したことは分かるが、見えてはいねえ」

「……俺もだ。熱風が吹き荒れたと思ったら、もう遠くに行ってた」

「ふむ、まあ経験がないから仕方ないか。今のは炎を一点で噴出させて動く移動技だ。ショートはもちろん、バクゴーも似たようなことはできるだろう。何度か見せるから、盗め。さて、どこまで話したか」

 簡単に言ってくれる。これがナンバー2か。クソが!

 そう思っても、俺はぎらつく何かを抑えられなかった。

 

 

 side 塩崎

 シンリンカムイが説明をはじめます。

「基本は犯罪の取り締まりだ、警察からの応援要請や今のように現行犯での逮捕など、逮捕協力や人命救助への貢献度、それらを専門の調査機関のもとに申告。まあ基本は歩合だ」

 ヴィランを5人拘束しながら。

 民衆の歓声が聞こえます。私も茨で拘束しようとしましたが、圧倒的に速度で負けております。

「ヴァイン。君の個性は私の上位互換だ。だが、この速さは実務経験によるもの。君も戦闘となれば早いが、平常時から戦闘モードにスイッチを入れるのが遅い。その辺りが改善要素だな」

「いえ、そのような……勉強になります」

 緑谷さんの言ったとおり、このかたはとても強い。

 これがプロとアマチュアの差というものでしょうか。

「何、私もこれだけ早く動けるようになるまでかなりの時間を要した。

 ……体育祭の準決勝で見せたあの心意気、あれを忘れなければどこまででも伸びるさ」

「はい、ありがとうございます」

 緑谷さんの隣に立つヒーローになる。その夢のためには、いや叶えた後にこそ、困難があるのですね。

「それに、市民をガードするためにツルを伸ばした速度は素晴らしかった。だから大丈夫だ。頑張っていこう」

「! はい!」

 やはりここに来て良かった。

 私はそう思いつつ、さらに向上を目指して、パトロールに向かう。

 いつか、あの方の隣に立つ日まで、自分を磨き続ける。

 

 side 葉隠

 

 エッジショットさんと一緒にテレビ局の廊下を進む。

「あとは、副業が認められている。という訳で、今からニュース番組に出る。初日から付き人のような真似をさせてすまないインビジブルガール」

「いえいえ大丈夫! それに、テレビ局って初めてで楽しみです! 頑張って努めます!」

「そう言ってくれると助かる。さて、少し待て」

「へ?」

 そう言うとエッジショットが男の人に声をかける。

「失礼だが、社員証を見せてもらっても、構いませんか?」

「……く!」

 何と男がナイフを取り出した!

 私が咄嗟に向かおうとするが、それよりも全然早くエッジショットが男の手を叩いて無力化した。

「警備員を呼んでくれ」

「は、はいただいま!」

 私はわけがわからないまま、とにかく大声で駆け回った。

 結局その後収録は中止になった。

 

 私は落ち着いたところでエッジショットさんとご飯を食べる。

「あの、何で不審者だって分かったんですか?」

「これでも昔は潜入や情報収集などの仕事が多くてな。その時に人間心理や犯罪心理学の勉強をした。

 今のは結構分かりやすい方だった」

「そ、そうなんですか?」

「まあ最終的には雰囲気というか第六感に頼る部分が多いが、少なくとも知ると知らないとでは全然違う」

 そう言って、エッジショットさんは蕎麦を啜る。

「インビジブルガール。確かに君の個性は潜入や情報収集に向いている。だが、本当に任務をこなすには気配の消し方を身につけなければだめだ。格闘でもそうだ。見えないというアドバンテージを活かしきれていない。実に勿体ない」

「す、すいません。こんな個性だから、何とか存在感を出そうとしてしまって」

「謝ることはない。これは言わば蛇の道、だが、君にその気があるなら、気配の消し方や起こし方。その辺りも一週間でできるかぎり教えよう」

「お、お願いします。是非教えてください」

 本当は、ちょっと怖い気持ちもある。

 誰も私を見つけられなくなるんじゃないかって。

 けれど、きっと君は私を見つけるから。

 だから、消えることも、きっと怖くない。

 

side 麗日

 

「ウラビティちゃん。初日から気合入ってるね」

「はい! まだまだいけます!!」

「……そんなに焦らなくてもいいとおもうけどな、まだ一年なんだし」

 ガンヘッドさんはそう言ってくれるけど、そうも言ってられへん。

「あの時、私が触ってれば、デクくんは怪我せずにすんだんです……。

 だから、今度は私が、相手を逃がさない」

 思い出すのはブルズアイとの接敵。あの時透ちゃんがスキを作ってくれたのに活かせなかった。

 だから、デクくんは怪我するまで頑張った。

 私がもし触ってたら、デクくんにあんな無茶を。

「……襲撃事件のことか。成程、確かにヴィランは待ってくれないからねえ」

 ガンヘッドさんは腕組みすると、ポンと手を打つ。仕草がかわいい。

「じゃあウラビディちゃんは組手は一旦休憩、柔軟を教えるよ」

 そう言うと、女性のサイドキックを手招きする。デリカシーあるなあ。

「ハンドスピードを上げるには、反復練習も大事だけど、何より柔軟性と脱力。

 緑谷くんだっけ、あの子はそんなガチガチに拳をふるってないでしょ?」

 確かに、デクくんはいつもゆったりして、流れるような攻撃やった。

「そして何より焦りは敵さ、リラックスして、相手を愛しく思うように。そうすれば、君は今より早く相手に触ることができる」

「相手を愛しく思うように……」

「僕らは相手を倒すつもりで攻撃しないといけない。でも君は触れるだけでいい。とても優しい個性だ。だから、焦らずに頑張っていこう」

「……はい!」

 もう、あんな惨めな思いしたくない。

 私は息を吐きながら、柔軟を始めた。

 

 




バーニンって可愛いよね。
爆豪とバーニンのカップリングありそうなのに一回も見かけないのは何故だ?

強化フラグをちりばめるスタイル。でないと林間合宿編で死人がでることに気づいた。
何気に緑谷が一回も出ない回始めてかもしれん。


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職場体験 接敵

「む」

「お」

「あ」

「ケ」

「ん」

 

 エンデヴァーとミルコ、僕、かっちゃん、轟くんの五人は偶然保須市の交差点で顔を合わせる。

 エンデヴァーも保須市に来ていたのか。

「おう、エンデヴァー! 久しぶり!」

「……ミルコか。貴様はいつも元気だな」

「相変わらずむっつりしてるな。そして爆豪はそんなあんたに取られちまったと」

 ミルコは残念そうに言う。

 かっちゃんはなぜかメンチを切ってた。何で?

「見てんじゃねえようさ耳女」

 やめなさいプロヒーローにメンチを切るのは。

 

「そういう貴様は何故指名を? 独りで自由にやるのが性にあってるんじゃなかったのか?」

「あの体育祭決勝を見てたまにはって思ったんだよ。あんたこそ自慢の息子以外にも指名するとは意外だぜ」

 ……口調自体は喧嘩腰だが、相性自体は悪くなさそうだ。

「ふん、俺も思うところがあったまでだ。それで、貴様の狙いもヒーロー殺しか?」

「ああ、当然だろ? なかなか蹴っ飛ばしがいのありそうなヤツだ。本当は血狂いマスキュラ―を追ってたんだが、情報が途切れちまってな」

「そうか、そうなると、俺達は同じ獲物を取り合う仲か」

「当然早いもの勝ちだ。無論いざとなれば協力はしあおうぜ」

「それも当然だ。あくまで確保が優先だからな」

「……決まりだな。じゃあな」

「あの」

 ナンバー2とナンバー7の間に入るのは勇気がいるが、それでも僕は言いたかった。

「実はインゲニウムの弟さんが、保須市にいるんです」

「「……復讐か?」」

 二人は重なるように言い、顔を見合わせる。が、すぐに離した。

「ケ! 雄英は何してんだよ!? 普通止めねえか!?」

「ああ、全くだ。監督不行といっても過言ではない。……どこの事務所だ」

「マニュアルヒーロー事務所だって言ってました」

「……誰そいつ?」

「確かランキング230位程だったか、中々優秀な男とのうわさだ」

 ミルコの反応は想像通りだが、流石ナンバー2。下の人にも詳しい。

「……事務所に連絡してそれとなく懸念を伝えておこう。まあ、かち合う可能性は低いだろうが、用心に越したことはない」

「……ありがとうございます」

「別に君だけのためではない。4月の件に引き続き、職場体験中の学生が危険な目に合えばさらに雄英への批判は高まる。それはヒーロー社会全体の信用に繋がりかねん」

 エンデヴァーはそう言うと電話を始めた。

「ま、とにかくヒーロー殺しの件をおさめることだ。お前の索敵、頼りにしてるぜデアデビル」

 そう言って、ミルコは肩を組んでくる、僕の気も引き締まる。

「ケ! デク! てめえとこれ以上差をつけるわけにはいかねえからな。ヒーロー殺しを捕らえるのは、俺だ!」

「俺達だろ。俺も負けねえ、もっと速くならねえと」

 君ら交戦できないってこと忘れてないだろうな?

 だが、今それを言うのは野暮か。

「いや、僕が必ず救けを求める音を聞く。そういうヒーローを目指しているからね」

「お前ら三人仲いいな」

 ミルコはうんうんと頷いて言う。

 僕と轟くんは頷くが、かっちゃんは納得いかなそうだった。

 

 三人と別れ、僕とミルコはビルの上に立っていた。

 そのまま二人で作戦会議する。

「ヒーロー殺しの個性は不明ですが、おそらく人を拘束する個性。決して一人にはならないようにしましょう」

「ちっしゃあねえ。見つけたら互いに連絡と増援要請な。後は、犯行場所は一目につかない路地裏が多いらしいな。多人数戦は不得意ですって言ってるようなもんだ」

 そう言って、ミルコは足を180度に開き股関節の柔軟を開始する。

 僕もそれにならい、同じように柔軟する。

 べたっと床に顔をつけながら、さらに話し込む。

「そう言えば、ミルコさんに足技を教えて貰いたかったんですけど」

「お、いいぜ! 見た所柔軟もバッチリだしな!」

 快くオーケーをもらい、僕はミルコと向かい合う。

「よし、まずは一発本気で蹴ってみろ! 個性も使っていい」

「え、では行きます!」

 そう言って僕が蹴ると、風圧がビルの上を吹く。

「うん! 完璧! 何も教えることねえわ!」

「え! ええ!?」

 ミルコはあっけらかんという。

「あとは実践で蹴っ飛ばしながら覚えろよ。大体私も我流だし」

「えー、あ、はい」

「あとはそうだな。私の動きからトレースすりゃいいんじゃねえの。つっても男女で骨格が違うからフォームも微妙に違うだろうけどよ」

 僕は釈然としないながらも、確かにミルコの動きをトレースするのはいいアイデアだと思った。

 僕は聴覚によるサーチを続けながらも、イメージトレーニングを行った。

 その日は何ごともなく終わった。だが、ヴィランは着々と準備を進めていた。

 

 

 

 

 

 ここはとあるバーの一室、ヒーロー殺しが死柄木を切り伏せていた。

「信念、はは、そんなもんないね。強いて言うなら、あんなゴミが祀り上げられている社会を、めちゃくちゃにぶっ潰したいなあとは、思っているよ」

 死柄木弔がナイフを破壊すると、ヒーロー殺しは距離を取る。

「……人は死線に本性を現す。お前には確かに、信念の芽がある。

 ……始末するのは、それからでも遅くないのかもな」

「始末するのかよ、こんなパーティーキャラ嫌だね」

 その時、ガチャリと扉が開く。

「I'm HOME ……どなた?」

「ハァ、まだ仲間がいたか」

「そいつは出向組だ、正確には仲間じゃない」

「ああ、ええとそこのイカした侍チックな方は、お前らの新しい仲間か?」

 ステインは男を値踏みする。

 強いな、とてつもなく。

「俺はステイン……。貴様は」

「ブルズアイ。ま、よろしくな。そんな深い付き合いをするつもりはないが」

「そうか、お前を殺すとなれば、俺も色々と覚悟を決めねばなるまい」

「……なんで仲間になってすぐに殺害宣言されるんだ?」

 ブルズアイはとりあえず、黒霧にウイスキーを頼んだ。

 黒霧は怪我をしていたが、ブルズアイに特に心配する様子はなかった。

 

 

 

 

 そして職場体験3日目、僕は飯田くんと昼ご飯を食べていた。

 何でかというと、ミルコが気を利かせてくれたからだ。

『別にこそこそしなくても、復讐止めさせればよくね?』

 うーん、ミルコもグラントリノと同じタイプの人だな?

「緑谷くん、心配をかけているな」

「えーと、分かっちゃう?」

「それはな。すまない。マニュアルさんにも言われたよ。私怨で動くのはやめた方がいいと」

 そう言う、飯田くんの声色は、それでも固い。

「そうだな、わかってはいるんだ。ヒーローが私怨で動くべきではないと、そんなことはヴィランと変わらない。

 けれども、悔しいんだ、悲しいんだ。どうすればいいのかな」

 そう言う飯田くんの心音は泣いていた。僕はそれでも、伝えたいことを言う。

「……飯田くん、恨んでもいいんだよ。僕はその気持ちをとめたいんじゃないんだ」

 僕は、飯田くんに言う。こんな時光がないのが悲しい。人のことをちゃんとみつめられないから。

「例えば僕だって目の前にまたブルズアイが現れたら冷静じゃいられない。大事なのは、一人で行かないことだ」

「緑谷くん」

「この街には今ミルコがいて、エンデヴァーがいて、マニュアルさんがいて、かっちゃんがいて轟くんがいて僕がいる。

 だから、きっとヒーロー殺しを捕まえられる。

 だから、皆でぼこぼこにしちゃおう」

 僕の物言いに、飯田くんが思わずという感じで呟く。

「君は、薄々わかっていたが、意外とえげつないな……」

「武道家なんてえげつないもんだよ」

「だが、そうか、よってたかってぼこぼこにすればいいのか……。しかしヒーローとしてそれでいいんだろうか」

「ミルコもエンデヴァーも、言ってたよ、まずは確保が優先だって。

 確かに正々堂々と戦って勝つのが一番だけど、それでも誰かが傷つく結果になることを一番避けねばならない。だろう?」

「そうか……そうだな」

 それっきり、飯田くんは黙ってしまう。

 何とか伝わっただろうか。

 こんな時、オールマイトならどうするだろうか?

 

 

 そして夕方、僕の耳が爆音を捉える。何だ?

 僕は飛び出そうとするミルコさんを制し、ビリー・クラブにより、音を注意深く聞く。

 西に1キロ。人々の悲鳴。これは新幹線か。

 北に1キロ。地理的に駅前か複数のヒーローの叫び声。

 そして、その時ジャービスからの人工音声が響く。

『江向通り4-2-10。飯田様からの位置情報です』

「飯田くんがここに! おそらくヒーロー殺しです!」

「わかった! とっとと行くぞ! 他の襲撃点はヒーローに任せる!」

「はい! 北の襲撃点はエンデヴァー達がいます! 任せて大丈夫かと!」

「よし! すぐに向かう……伏せろ!」

 ミルコを攫う、飛ぶ人型、これは脳無!

「ミルコ!!」

「すぐ追う! ダチの所へ急げ! 緊急事態だ個性の使用も許す!」

 そう言って、ミルコは宙がえりしながら脳無に蹴りかかる。

 

 

 side飯田

「まずは、逃げの一手か、悪くない判断だ」

 マニュアルさんとはぐれ、ヒーロー殺しを見つけてしまった僕は、それでも緑谷くんたちとマニュアルさんに位置情報を送信し、機を窺った。

 だが、ヒーローに留めを刺そうとしたため、レシプロで奇襲。その後、ヒーローを抱えて逃げ出そうとしたが、何故か体が動かなくなってしまった。

「ふむ、ヒーロースーツを着た、子ども? にしては、良い判断だ。お前はいい。生かす価値がある」

「……生かす価値だと?」

「ああ、ヒーローの名を汚す贋者とは違う。正しい社会を構成する真のヒーロー足りえる」

 その言葉に、僕の思考が沸騰する。

 

「……黙れ犯罪者! 僕なんかがいいヒーローなものか! お前の目は節穴だ!」

「……何?」

「お前にやられた僕の兄さんは! 僕なんかよりずっと立派なヒーローだった! 緑谷くんと話すまで私怨にまみれてた僕なんかより! よっぽど立派なヒーローだった!」

 

「お前のやってることは! 見当違いの価値観と審美眼で人を傷つけるだけの! ただの快楽殺人にすぎない! そんな曇った眼で見ておいて何が正しい社会だ! ふざけるな!」

「……そこまでの恨みを持ちながら、それでもなお人命を優先した。やはりいい」

 そう言うと、ヒーロー殺しは、僕が抱えたヒーローに狙いを定める。

「ふざけるな! やめろ!」

 そう叫んだ僕の上を、何かが通過する。

「ぐ! があああ!」

 ヒーロー殺しの右肩口に、見覚えのある杖が刺さる。

「く!」

 ヒーロー殺しは、刺さった杖を抜く。

「ああ、すいませんね。ちょっと何、弱いものいじめみたいで、ムカついちゃって」

 緑谷くんは笑って言った。

 まるで怒気を必死で覆い隠すように。

「だから、あなたを捕らえようと思います。ヒーロー殺し」

 緑谷くん。君は……。

「ぼくの友達に、手を出さないで貰えますか?」

 怒ると意外と怖いのだな。

 

 




次回戦闘パート。
強化緑谷は本気ステインにどう立ち回るのか

オールマイト限界オタクVSオールマイト限界オタク
ファイト!


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路地裏の戦闘

お気に入り5000件突破ありがとうございます


「ふむ、攻撃に殺意が高いのは気になるが、友達を思っての攻撃か。お前もいい」

 僕はヒーロー殺しと対峙する。そのまま路地裏の状況を確認する。

 ヒーロー殺しはビリー・クラブを抜き取り、はるか後方に投げ飛ばした。

「緑谷くん! ヤツの個性で俺は動けない! この人を連れて逃げてくれ! こいつの話では俺はどうやら殺されない!」

「……ヴィランの言うことなんて信じられないよ。それに、背中を見せたらその瞬間ザク! だ」

 僕はヒーロー殺しの重心、立ち振る舞いから戦闘力を推察する。

 間違いなくトップヒーロー級。

 ブルズアイと比べても遜色がない。

 だが、やるしかない。

「く! おそらく切りつけた後何かをすることによって動きを封じる個性だ! 一対一では危険すぎる」

 これだけ情報を出しても、飯田くんにとどめを刺す気配がない。それでも、油断はできないだろう。

「ありがとう。……もうすぐミルコと、エンデヴァーが来る。かっちゃんや轟くんもいる。それまで何とか耐えて見せるよ」

 それでも、人命がかかる以上不確実な戦闘は避けたい。

「ヒーロー殺し、いやステイン。おとなしく退くつもりはないですか? 相当不利な状況ですけど」

「ふん、人命を優先し、交戦を避けるか、悪くない判断だ。だが……。俺にはそいつを殺す義務がある。贋者のヒーローを殺す義務がな」

「贋者って、この人が何したっていうんですか?」

 僕は純粋に疑問に思って聞く。そんな不適行為をするような人には聞こえないが。

「俺相手に何もできない。それが罪だ。

 ヒーローである以上、強さは最低条件。それを満たさぬ愚物を生かして何になる」

 僕はその言葉にムッとする。

「強かろうが弱かろうが、それでも誰かを救いたいと思う気持ちがあれば、それで十分じゃないか。

 少なくとも、人殺しのあなたにヒーローを語る資格はない」

「ハァ……見解の相違だな。気持ちだけではヒーローは務まらない。オールマイトのような、社会を正しく導くヒーローで満たされるまで、俺の戦いは終わらない」

「……それで殺人を正当化出来るとでも?」

「正当化できるさ。あの人のような真の英雄の影で、有象無象が英雄像を汚す。

それが俺には我慢できない」

「ふざけんな」

「何……?」

 

 こいつは今、許せないことを言った。

 

「アンタは……オールマイトを、殺人の理由にするんだな」

「……何を」

「オールマイトは確かに格好良くてグレイテストヒーローで、だからこそ悲しみを背負いながら、懸命にあがいて戦ってる。

 そんな人を殺人の理由にするなんて、お前は許されないことをしているんだヒーロー殺しステイン!

 あの人の功績と願いを、英雄像を一番汚しているのはお前だ!」

「……貴様とオールマイトの関係は何だ」

「……師弟だ!」

 僕が叫ぶと、ステインの心臓が気持ち悪い音を立てる。

「そうか! ならば、俺とお前はどうあっても戦わなければならぬようだ!」

 そう言うと、ヒーロー殺しは剣を抜き放つ。

 僕は静かに、ボクシングスタイルのファイティングポーズを取る。

「そのつもりだよステイン。オールマイトを理由に、これ以上人は傷つけさせない。それを知ったらあの人は悲しむだろうから。

 お前をどこにも逃がさない」

「行くぞ! オールマイトの弟子……。名は?」

「……デアデビル」

「ふ、向こう見ずなことだな。行くぞ!」

 そう言って、僕達は激突した。

 

 どんな個性か分からない、何かをさせるわけにはいかない。攻撃も食らえない。

 だが、身体能力なら、僕が上だ。

「フルカウル75%!」

 僕は右ストレートを放つ、だがそれは見せ札。ヒーロー殺しは僕の手首を切り落とそうとする。

 左ジャブ、対応。バッティング、のけぞって避ける。そこを足払い。

 右足を折った!

「ぐう!」

「お前に何も! させない!」

 組技は武装している相手にはリスクが大きい。

 ミルコはたしかこうして。

 脱兎のごとく、蹴り飛ばす!

「焦りすぎだ」

 隠しナイフ!?

 足を斬り落とされる! まずい!

「おら邪魔だデク!」

「かっちゃん!」

「爆豪くん!」

「凍れ!」

「轟くんまで!」

 二人の遠距離攻撃がステインを貫こうとする。

 だが、ステインは跳ねるように避けた。なんていう反応速度と運動神経! 片足は間違いなく折れているのに!

「デク! てめえはモブとメガネ連れて逃げろ! 遠距離できる俺らが最善!」

「爆豪の言う通りだ。北のあの脳無とやらは親父が倒してるはずだ。そっちの方が安全だ。プロも大勢いる。戦闘許可も貰って来たしな」

「分かった! 多分傷つける条件で発動する拘束系の個性! 一発もくらっちゃだめだ!」

「余裕だわクソが! とっとと退け!」

「舐めるな! 贋者ども!」

 ヒーロー殺しの殺気が膨れ上がる!

 あまりの気迫に逡巡する。

 このまま行っていいのか?

「信用しろクソデク! 俺を舐めとんのか! つーか何だ贋物ってクソ程本物だわ!」

「この間までの俺じゃねえ。とっとと連れて逃げろ!」 

 二人に言われ、僕も意を決する。

 その時、エンジン音が鳴り響いた。

「飯田くん!」

「すまない。皆、迷惑をかけた」

「……時間経過で解けるのか。大したことねえ個性だな」

「は! これで四対一だ! 方針転換だ! 囲んでボコす! 行くぞ!」 

「俺は退かんぞ! そいつを! 殺すまでは!」

 そこで僕はフルカウルを使い、後ろに回り込み、ビリー・クラブを拾う。

 ヒーロー殺しをけん制し、二人の遠距離攻撃を当てやすくする。

 ヒーロー殺しはそれでも、全く隙を見せず投擲により立ち回る。

 かっちゃんの声がする。

「目瞑れ、メガネ、半分野郎」

 それは小声で、二人だけにかろうじて聞き取れる音量だ。

「スタングレネード!」

「グ!」

 おそらく眩い光が路地裏を覆ったのだろう。

 その隙に、僕は後頭部にビリー・クラブをフレイルのように投げつける。

 ヒーロー殺しは苦悶の声を上げ、蹲ろうとする。

「レシプロ! バースト!」

 そこを飯田くんの蹴りが顎にヒットし、今度こそ崩れおちた。

「……ビリー・クラブで拘束する。武器は全部外そう」

「めんどくせえ。裸にむきゃいいだろ」

「流石にそれは、絵面がヤバいかな。かっちゃん」

 そう言うと、皆少しだけ笑いあう。

 僕らはしばらく、そのぬるい空気を楽しんだ。

「すまない。皆。俺のミスで」

「……お前が応援呼んだのは賢明だメガネ。気にすんな」

「……爆豪、お前、そういうこと言うんだな」

「言うわクソが舐めとんのか半分野郎!」

「もう半分じゃねえ」

「まあまあ二人とも、とりあえず拘束しちゃおう。あなたも、大丈夫ですか?」

「ああ、君ら学生だろ? すげえな本当」

 そう言いながら、立ち上がる。

「とにかく、皆大した怪我もなくてよかった。早く他の襲撃地点にいきましょう」

 

 路地裏から出ると、町は静寂に包まれていた。

 そこに、早い動きの物体がやってくる。ミルコだ。

「ミルコ! 脳無は?」

「空中を旋回して逃げちまった! それよりヒーロー殺し! 大丈夫だったか!」

「ええ、何とか。四対一でやっとってとこです」

「そうか、……来るぞ!」

 ミルコが叫ぶ。すると、脳無が急降下してくる。そのまま僕を攫い、飛び上がった。

「舐めんなクソが!」

 かっちゃんが高速で飛び出し、爆破しようとする。この速度は、今までと比べて凄まじく速い。

「脱兎のごとく……何!?」

 ヒーロー殺しが拘束を解いて飛び出し、何らかの個性を発動。動きを止める。

 そのまま、僕と脳無は自由落下する。

 そのまま脳無にとどめを刺そうとするヒーロー殺しのナイフを、僕は手を掴んで止める。

「……助けてくれてありがとう。でも殺すことないだろ」

「……ハア。やはりお前はいい」

 そのまま、僕達は対峙する。

「ヒーロー殺し、終わりだ。大人しくしろ」

 ミルコが威圧感を込めて言う。

 そこにさらに、もう一つ影がさす。

「ショート! バクゴー! 生きているか!」

 エンデヴァーだ。

「……ヒーロー殺し!」

 エンデヴァーが炎を出した瞬間、凄まじい殺気がヒーロー殺しから噴出する。

「エンデヴァー、ミルコ、贋者」

「正さねば、誰かが血に染まらねば!」

「真の英雄を取りもどさねば!」

「来い! 来てみろ贋者ども!」

 あまりの殺気に、僕もかっちゃんも、轟くんも飯田くんも、みんな一歩下がってしまう。

 だが。

 

「俺を殺していいのは「踵半月輪(ルナ・アーク)!」」

 ミルコのかかと落としが、ヒーロー殺しの顔面に入る。

 そのまま、転げまわるヒーロー殺しに、さらに炎の追撃が入る。

「ミ、ミルコ?」

 レーダーセンス上のミルコのしっぽは逆立っていた。

 そのまま四本足で警戒するようにヒーロー殺しを見つめる。

 それが、しばらく続いていたかと思うと、収まる。

 立ち上がって、僕とかっちゃんの体をペタペタと触る。

 そしてしばらく無事を確認したと思うと、フーっと息を吐く。

「……良し! 一件落着!」

 そう言って、僕らを安心させるように、ミルコは笑った。

 

「……親父」

「……無事かショート、インゲニウムの弟」

「は、はい」

 エンデヴァーもまた、何事もなかったかのように対応する。

「良し。とにかく今は病院と警察だ。行くぞ」

 

 確かにヒーロー殺しの殺気は恐ろしかった。

 あとで聞いた話だったが、ヒーロー殺しは顎が砕けていたらしい。

 だが、ヒーロー殺しはたしかに、敵に立ち向かっていた。

 

 そして、その夥しい殺気に一歩引いてしまった僕らと、

 瞬時に立ち向かったミルコとエンデヴァー。

 二人との、プロとの差をまざまざと見せつけられ、僕らは病院へと向かった。




みどりや「オールマイト理由に殺人するとかどう言う要件だゴルァ!!」

ステイン強いから四人で囲んでボコボコにしようの回。

子を後ろに守って唸る母猫めいて威嚇するミルコがお気に入りです。


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戦後処理、プッシーキャッツと気付き

 結局あの後、僕たちは病院に直行した。

 僕、かっちゃん、轟くんは怪我は無かったものの、飯田君に切り傷があったからだ。

 そこで、僕たちは犬のおまわりさんにであった。

「私が保須警察署署長の面構犬嗣だワン」

 ワンて。

「まず、君たちの行為については、極めて重大な違反があったと言える。わかるね」

「……資格取得なく、ヴィランに危害を加えたことですよね?」

「そうだワン。まあ、デアデビル、バクゴー、ショートについては、ミルコとエンデヴァーから交戦許可を出していたと申し出があったが。インゲニウムについては正規の指示を経ていなかった」

「……ですが、飯田くんは、あくまでヒーローネイティブの救出を優先していました。逃がさなかったのはヒーロー殺しです」

「そのあとヒーロー殺しに蹴りを入れていたね。あれが良くなかった」

 確かに、それを言われるとぐうの音もでない。そこにかっちゃんが口を挟む。

「ようは、法律違反を見逃すかわりに、功績にも目を瞑れって話か?」

「大分円滑だワンね……。君達には二つ選択肢がある。飯田くんとマニュアルが処罰を受けることになるが、このまま表彰を受けるか。それとも、功績をミルコとエンデヴァーに与え、真実には目を瞑るか」

 そこで飯田くんが口を挟む。

「待ってください! 僕が処罰を受ければ、少なくとも三人の功績は明るみに出るんですよね!? でしたら!」

「それはマニュアルも言っていた。自分の監督不行で前途ある若者の功績が明るみに出ないのは納得できないと。だがら、こうして話している」

 成程。

「「「じゃあ秘密で」」いいわ」

 僕らの声が重なりかっちゃんが舌打ちする。

「別に功績が欲しくてやったわけじゃないしいいですよ」

「俺は結局全部の攻撃避けられてたし、功績なんて言われても気持ちが悪いだけだ」

「デクのおこぼれなんざいらねえ」

「君達……」

 僕は飯田くんに向き直る。

「それに、君が助けを求めてくれて、僕は嬉しかった。だから、それで十分だ」

 そう言うと、飯田くんは感極まって涙した。

「すまない……。私怨で暴走し……諭され……挙句の果てに命まで……何といえばいいか」

「気にしなくていいよ、友達だろ」

「気にすんなよ委員長。じゃあな」

「めそめそ泣くんじゃねえメガネ」

 その後、飯田くんも退院し、僕らは病院を出ようとする。

 病院の外では、ミルコとエンデヴァーが話し合っていた。

「敵連合か……気に食わねえが、チームアップの必要はあるかもな」

「……お前の口からそんな言葉を聞くとはな」

「うるせえ。思うところあんだよ。……ようお前ら。ケガなくて良かったぜ」

「……ふん、学生のおこぼれの功績などいらんのだがな」

「良く言うぜ、『ショートたちなら絶対友達を選ぶ』って言ってたくせによお」

「ぐ、貴様!」

 僕達は二人に出会い、疑問に思ったことを聞く。

「あの、最後のヒーロー殺し、あれ凄い殺気でした。立ってられなくなるぐらい。何で動けたんですか?」

 その問いに、ミルコとエンデヴァーは頭をかく。

「そりゃあ、あれだ。お前らがいたからな」

 そう言われ、僕達は首を傾げる。

「……守るべきものがあって、ヴィランがいる。ならどんなに怖くても、ヒーローはヴィランを真っ先に仕留めなくちゃならねえ」

「ヴィランをどこにも逃がさない。それがヒーローの使命だ。傍らに守るべきものがあるならなおさらだ」

 僕達は二人の言葉に押し黙ってしまう。

 それが、僕に足りないもの。

 守るための、敵意。

 確かに僕はブルズアイに立ち向かった。

 あれを、いつでも発揮しなくちゃならない。

 

 そうだ、そのために、僕は”恐れ知らず”を名乗ったのだから。

 

「ま、私はビビッてなかったけどな」

「それにしては尻尾が逆立っていたがな」

 エンデヴァーの言に、ミルコが青筋を立てる。

「ば、お前あれはちげーよお前! お前こそ一歩下がってなかったかあ!?」

「下がってなどおらぬわ戯け! 人聞きの悪い!」

「ふーんだ! 大体娘とほとんど同世代のやつに張り合って恥ずかしくないんですかあ!?」

「そう言うセリフは冬美のように淑やかになってから言うんだな!」

「ああ出ました親ばか! どうせ思春期の時は『パパと洗濯もの一緒にしないで』とかいわれてたんだろ!」

「冬美はそんなこと言わぬわああ!!」

 何か凄いレベルの低い言い争いを始めた。

「やめろ親父。恥ずかしいから」

「これがナンバー2とナンバー7かよ……」

「ほらミルコ、行きますよ」

「うむ、往来の場で迷惑です!」

 飯田くんもいつものように戻ったし、僕もフーっとエンデヴァーに威嚇するミルコを引っ張ってホテルに戻った。

 

 ホテルに戻ると凄い数の着信があった。

 塩崎さんとクラスの皆。一つ一つに返信していく。

 お茶子さんとは、心配した件、近況を報告し合った。

「そっか、ヒーロー殺し。大丈夫だったん?」

「うん! ミルコとエンデヴァーが全部やってくれたよ」

「そう……ならええねんけど」

 麗日さんはそこで言葉を区切る。

「私、デクくんがUSJの時みたいに無茶したと思った。でも、それならええわ。良かった」

 僕の心にチクりと何かが刺さる。……嘘をついてごめん。

「うん、大丈夫。それよりそっちはどうだった?」

「うん凄く有意義だよ! 今度学校であったら組手してくれへん?」

 麗日さんから呼吸音が聞こえる。空手の息吹に近いかな? 頑張っているようだ。

「うん、もちろん! 頑張って!」

 他にも何人ものクラスメイトに心配だった旨を告げられ、恐縮してしまった。

 そして、一通り通話し終えると、ミルコが僕の部屋のドアをノックした。

 僕は慌ててドアを開ける。

「ミルコ、どうしたんですか?」

「おう、明日は走ってちょっと知り合いの持ってる山にいくからな。夜更かしせずに早く寝ろよ」

 僕はいきなり言われて驚く。

「あの、いいですけど、何で急に」

「……その前に確認なんだけどよ? ヒーロー殺しにお前足を斬り落とされそうになったって警察に言ったんだってな?」

「え。ああはい……恐縮です」

「成程なー、……もったいねえ。早く寝ろよ?」

 ミルコはその後、髪をなびかせてすぐに出て言った。

 僕は首を傾げつつ、眠りについた。

 もったいない、何だろう

 

 

 保須から走ること2時間。

 僕はそこで四人の人に出会った。

「煌く眼でロックオン!!」

「猫の手手助けやってくる!!」

「どこからともなくやって来る……」

「キュートにキャットにスティンガー!!」

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」

 …………。

「先輩方! お久しぶりです! 本日はありがとうございます!」

 …………。

「ミルコ久しぶりー! しかしどうしたの急に?」

 …………。

「ちょっと職場体験先の学生と稽古したくて。山がいいかなと」

 …………。

「急にいわれるからびっくりしたけど、ここだよ? あちきらが持ってる山の一つで、放棄された林業用の杉林」

 …………。

「ありがとうございます! 禿山にしてもいいんすね!」

 …………。

「そうね、その後に広葉樹を植樹する予定だから、むしろ伐採してくれると助かるわ。人里離れた山だから、万が一土砂崩れになっても心配ないし」

 …………。

「しかし、どうしたのだ。体育祭優勝者の少年。緑谷だったか。静止しているが」

 …………。

「あ、本当だ。どうしたんだ急に。おー……」

 

「プッシーキャッツだー!!」

 

 僕は叫んで、マンダレイに話しかける。

「あの! マンダレイ!」

「へ? 私?」

「あの! 僕昔から無個性って診断されていて! その時に参考にしたのがマンダレイのキャットコンバットで! 戦闘向けの個性ではないのにただの格闘技術で数多のヴィランを拘束しつつチームの司令塔として冷静的確に指示を出しているその姿に感銘をう「うるせえキメエ」へブウ!」

 はたかれた……。

「すまん先輩。こいつオタクなんだ」

 ……事実ですけど。

「あーうん、いいけど。褒められて悪い気はしないし……」

「ねこねこねこ。そっかーマンダレイのファンなんだー」

 ピクシーボブが笑う。本当にそう笑うんだ!

「も、もちろんご三名も、ラグドールはそのサーチの個性で敵の弱点を正確に察知しピクシーボブはその強力無比な個性で防御攻撃サポートと幅広く対応しそこを虎さんが殴る蹴るの暴行「じゃあ早速やるぞ」」

 語らせてー。

 

 数メートル間を挟んで、僕達は対峙する。

「んじゃあ、とりあえず。今発揮できる最大出力のフルカウルとやらでやってみろ」

「へ、いいんですか?」

 ミルコや周りでみているプッシーキャッツの体を吹き飛ばしてしまうかも。

「おう、安心しろよ。触れられもしねえから」

 そう言われ、僕は流石にムッとする。

「……では。75%!」

 僕がそう呟くと、電流と風圧が僕の体から噴出する。

「ほう、なかなか……」

「頑張れー!」

 プッシーキャッツの方々も見てくれているし、無様な姿は見せられない。

「いきます」

「んじゃあ、ほい」

 速い。

 レーダーセンスで居場所を捉える。

 75%で、左ジャブ。

 風圧が巻き上がる。

 ミルコはものともしない。

 ミルコの右蹴りが僕の胴を貫こうとする。

 僕は返す刀で攻撃を受け止めようとし、ミルコの蹴りが軌道を変える。

 フェイク、なら僕も、パンチに移ろうとしたところで、ミルコがさらに僕に近づく。

 近い、組技に移行。ミルコの手。

 僕はあっさり押し倒され、組み伏せられる。

 

 すごい。流石プロ。身体能力はこの状態の僕なら互角のはずなのに。

 攻撃の継ぎ目を正確に。

 

 ミルコに解放され、僕は立ち上がる。

「す、すごいですミルコ。僕の攻撃の継ぎ目を……」

「うん、じゃあ、次。フルカウルとやら……そうだな。10%くらいでやってみろよ」

「へ、あ、でも75%で駄目なのに出力を下げて……」

「いいからやってみろ、面白いことが起きるから」

 僕は言われるがまま、今度は言われた通り10%の出力で行う。

「じゃあいくぞ。おら」

 ミルコは今度は左ローをする。

 僕は後退して躱し、左ジャブを放つ。

 ミルコは回り込んで手を取ろうとする。

 僕はそれを察知し、体を回転させ、バックブローをミルコに。

 ミルコはしゃがんで攻撃を躱そうとし、僕はそれを読み上から覆いかぶさる。

 ミルコは瞬時に後退し、距離をとると飛び込んで蹴り。

 僕はそれに合わせて前進し、ミルコの顔を抑える。

 そのまま、僕はミルコを組み伏せた。

 

 組み伏せ、ることができてしまった。

 

 出力を下げたのに、下げたからこそ……。

 

「ああ、そっかー」

「成程」

「へ? マンダレイ、虎。何が成程なの? 急にあの子動きよくなったけど」

「うんでもあちきも個性なかったら分かんなかった」

 

 プッシーキャッツの声が遠くに聞こえる。

 75%の時は、動きが悪い。

 

「んじゃ、私ら女子会してっから。この辺の山の杉は自由にぶっ壊していいそうだから、好きにトレーニングしろよ」

 

 いつの間にか抜け出したミルコが、土埃を落としながら言う。

 75%の力を、フルに使えていない。

 

「そうだな。素手で薪割とかいいんじゃねえか? んじゃ先輩達、いきましょう」

「そうね、お昼にしましょう」

「ねーねー教えてよー!」

「あいつのいない所で説明しますよ。自分で気づかなきゃ意味ないですから」

 

 そもそも何でヒーロー殺しの時、風圧で対抗しなかった?

 いや、ブルズアイの時もそうだ。

 僕は100%を使った。でも本当に100%だった?

 オールマイトの力だぞ?

 

 だってあまり出力を上げるとレーダーセンスが乱れる。

 無意識でブレーキを? 

 出力を上げているのに?

 出力を上げているのにブレーキを。

 

 じゃあ、僕は、いままで

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 僕の絶叫が山彦となって、辺りに響く、鳥達が飛び立った。

 すぐさま、僕は近くの木に向かって75%を振りぬく。

 破壊が、木々を何十本となぎ倒す。

 その木を一本掴みとり、手刀で木を一本一本細切れにしていく。

 

「僕は! 何て! 馬鹿なんだ! そんな! 大男が小股でダンスするような真似を! アホか! 僕は!」

 

 叫ぶ間に、僕の周りに綺麗に整形された薪が散らばる。

 

「足りないことって! それか! 僕は今まで! 力を持て余しただけの! 恥ずかしいいいいいい!!」

 

 思えば体育祭決勝の時は疲労もあって出力がせいぜい30%位だった。

 だからあれだけ動きが良かった。

 塩崎さんは戦闘の規模が僕のパワーに見合っていた。

 だから僕も応えてあれだけ動けた。

 

 ヒーロー殺しも、僕ならもっと楽に勝てた!

 ああ、これはヤバい。

 

 それから陽が沈むまで、僕の絶叫と破壊音が、辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、もう気づいたか。やっぱ頭いいなあいつ」

「……なるほど、そういうことね」

「うん、確かに。でもこれで大分強くなるんじゃない?」

「ああ、しかしあのミルコがいい先生をやるとはな」

「まあ、あんだけ勿体ないことされてたら世話を焼きたくなりますよ」

「ふふふ、んじゃ、お昼にしましょうか。? 洸汰。どうかした?」

 少年は、絶叫と破壊音のする方を見ながらつぶやく。

「……くだらん」

 

 

 




最後にギリギリプッシーキャッツ乗った。
ミルコとプッシーキャッツが仲良しなのは当SS独自の設定なので悪しからず。

緑谷の気付きについて詳しいことは期末試験編で描写します。
その前に体育祭掲示板ですが、結構難産で更新遅くなるかもです。

一つ言えるのはこのSSの塩崎さんやべえなってことですね。


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職場体験終わり

 結局あの後、僕は疲れて眠ってしまったらしい。

 そして、翌朝、プッシーキャッツとの別れ。

「いやあ、伐採したねえ」

「……まさか、一日で山を禿山にするとはな。凄まじい身体能力よ。大量の薪は使い方を考えよう」

 虎さんたちに褒められる。いやあ。

「ねこねこねこ。それで、君は何でミルコの後ろに隠れているのかな」

「……見ないでください。恥ずかしいんです」

 僕の答えに一同が笑いだす。

「いやあ、でも大分よくなったよ! 弱点が一日で消えるって中々ないよ!」

「ありがとうございます……。恐縮です……」

「ふふ、また縁があったら会いましょう」

 マンダレイに笑いかけられ、僕はさらなる羞恥で身を隠す。

「んじゃ、とっとと雄英に戻るぞ。今日で金曜日だからな」

「あ、そっか! 職場体験も終わりですね。ではまた……。あの最後に握手を」

「行くぞ!」

 ミルコに小脇に抱えられる。

「ああ! 待ってー!」

 僕は手を振るプッシーキャッツに見送られ、彼女たちの元を去った。

 

 そのまま、移動する途中。

「お! デアデビル! 何だその移動! これまでと違うな!」

「いえ! あなたの教え通りに実践したら出来ました!」

 やっぱり思った通りだ。

 出力を20%まで下げた方が速い。

「んじゃ私もスピードをあげるぜ!」

 そう言ってミルコはさらに速度を上げる。

 僕は遅れないようについていく。

「はい! ……あれは!」

「ん! ビル火災か! 行くぞ! ? デアデビル!」

 僕はミルコより早く飛び出す。ワンフォーオール! オーバーセンス!

 僕の耳朶が、二人の親子の悲鳴を捉える。

「ミルコ! 個性の使用許可を! 人が二人逃げ遅れています!」

「……ああ! 許可する! とっとと行ってこい!」

「はい!」

 僕は速度をあげ、ビルに突っ込む。そのままさらに速度をあげ、二人の親子を連れ、飛び出した。

 ビルから隣のビルに飛び移り、ビリークラブを突き立て、壁面に張り付く。

 そのままワイヤーを伸ばし、地面に降り立った。

 すぐに歓声を浴び、フラッシュが焚かれた。

 

 その後、取材に答えたあとは、何事もなく東京駅に着いた。

「んじゃ、これで職場体験は終わりな。私は広島に帰る」

「はい、その。一週間! ありがとうございました!」

 僕がお辞儀すると、ミルコは肩をバンバンと叩く。

「うし、体の使い方は学んだな。私も有意義な経験だった。仮免とったらインターンにも来な。歓迎するぜ」

「は、はい! ありがとうございます!」

「じゃあな、デアデビル。トレーニングは忘れるなよ。あとは昨日気づいたことさえ忘れなきゃ、お前はもっと強くなれる」

 僕は、さらに深々とお辞儀する。

「その、ミルコ先生! あなたのおかげで自分の馬鹿さ加減に気づくことができました! 本当に何と言っていいか……」

「ま、気にすんな。手加減ってのは難しいからな。しかし、先生か……。悪い気分じゃねえな」

 ミルコは耳をぴくぴくさせると、ポケットから携帯を取り出す。

「連絡先交換しとこうぜ。また困った時はいつでも呼びな。アドバイス位はしてやるよ」

「え! いいんですか?」

「誰かに教えんなよ? おら、携帯だせ」

「は、はい! ジャービス! 登録を……」

『了解です。イズク様』

 そして、交換したところで、発車のアラームが鳴る。

「それでは、お世話になりました」

「おう! ……気張れよ! デアデビル!」

 僕は、新幹線が通り過ぎていくまで、何度も手を振った。

 

 得るものが、多すぎる職場体験だった。

 けれど、それ以上に、僕はまだまだ体を動かしたかった。

「……今から学校で訓練……。いや、とりあえず筋トレか……。近所にスポーツジムあったっけ……」

 またああしてビルの上を飛び跳ねられないのが、とてももどかしい。

 

「仮免か……。必ず取ろう」

 僕はそう決心し、杖をついて歩き出した。

 

 

 その夜、僕はパソコンを開き、ナイトアイとグラントリノ、そしてオールマイトと会話する。

 そして、ヒーロー殺しについて詳しく話す。

 オールマイトは僕の説明を聞いた後、感嘆したようにため息を吐く。

「大変だったね」

「はい、ですが飯田くんかっちゃん轟くん。何よりミルコとエンデヴァーに助けてもらいました」

「ふむ、ヒーロー殺しに同情するメンバーだ。……ところで、ヒーロー殺しの個性、血を舐めた相手の自由を奪う個性だったそうだ」

 成る程、てっきり毒物的なものかと思ったが、だが何故急に。

「ワンフォーオールはDNAを取り込んだ相手に譲渡される……」

「僕が血を舐められたら、ヒーロー殺しにワンフォーオールが?」

「いや、本人の意志が必要だ。無理矢理渡すことは出来るが、奪うことは出来ない」

「成る程、覚えておきます」

 いつかピンチになったら、誰かに託さなければならない……。か。

 今まで、オールマイトや志村さんたちが繋いできたものを、僕の代で潰すわけにはいかない。

「それより、問題は敵連合だろうな。ヒーロー殺しの狂信的な思想、強迫観念、安い話カリスマが、悪意を引き連れヴィラン連合に集中する事態となっている」

「全国のネームドヴィラン達がヴィラン連合に与する事態となる。か」

 グラントリノとナイトアイが呟く。

「すいません。あの時きちんと仕留めておけば」

 というか、今であれば、五秒でノックアウトできる。

 それができなかったのは、偏に僕の未熟さの所為だ。

「悔やんでも仕方がない。それに無茶も怪我もなくよく乗り切った」

「いえ、あの時轟くんとかっちゃんが間に合って無かったら危なかったです」

 そう、全て僕の未熟のせいで、本当に恥ずかしい。

「ふむ、相当な強敵だったようだね。動画を見たが、かなりの気迫だった。それでも動けたミルコとエンデヴァーは流石と言える」

「ええ、ですが、何か掴めた気がします」

 そう言うと、ナイトアイが言葉を挟む。

「それで緑谷。お前は今何をしている?」

「……実は今、とりあえず空いている時間は筋トレをしようと。

 手始めに100kgのハンドグリップを買ってきました」

「そうか、確かに、ワンフォーオールの上限を上げるには肉体改造が手っ取り早いか……。まだ高校一年生だ。程ほどにしなさい」

「……いえ、焦りますよ。それは」

 ああもむざむざとプロとの差を見せつけられるとは思わなかった。

 でも、それで凹んではいられない。

「僕はもっと強くなります。それこそ貴方を超えるくらい。そうしなきゃ、いけないんです」

 それに、重大な思い違いもしていたし。

「僕、ぜんぜんワンフォーオールを使いこなせていなかった。それを今回の職場体験で痛感しました」

 そう言うと、オールマイトも頷く。

「……頑張りたまえ、緑谷少年」

「……なら早く寝ることだ。10時から2時までの睡眠が身体の成長を促す。もう休むべきだ」

「はい!ありがとうございます! ナイトアイ! グラントリノとオールマイトも」

「うむ、ではな」

 そう優しい声で言われ、通話が切られる。

 僕はその後ストレッチをし、眠りについた。

 

 夢を見た。

「もうすぐ、時がくる」

 僕の目の前に菜奈さんが現れる。

 またあの夕焼けの見えるビルの上だ。

「時……って、何ですか」

「……俊典の残り火は、消えかけている」

 僕は菜奈さんの言葉に、ゴクリとつばを飲む。

「君は巨悪に立ち向かわねばならないだろう。たった一人で」

「……オールフォーワンですか?」

「……それ以外にも、脅威となるヴィランはいる」

 確かに、世界にはまだ多くのヴィランがいるのだろう。

「それでも、勝ってみせます」

 僕の問いかけに、菜奈さんは笑う。

「心配に思っているわけじゃあない。だが覚悟はしてもらいたい」

「そうですね。でも……」

 僕は、菜奈さんの目を見る。

「僕にはかっちゃんや塩崎さん、メリッサさんや麗日さん葉隠さんたち、みんながいます。

 何よりオールマイトと、貴方たちがいます。

 だから、負けません」

 そう言うと、僕を眩しいものを見る目で見つめる。

「それが、私達と君との違いか」

 そう寂しげに笑い。だが、彼女はそれでも言う。

「ああ、自分で言ったことを忘れる所だった。ありがとう。

 改めて言うよ。君は、一人じゃない」

 彼女は僕の頬に手を伸ばし、触れようとしたところで、目が覚めた。

 

 学校が、始まる。

 

 

 




この辺で職場体験編終了です。
しかし色々考えて思ったのですが未熟なオールマイトとはいえOFA100%引き出せる人に嘔吐物吐かせられるグラントリノ(全盛期)ってヤベえ人だな。そりゃ恐れるわ。

やっぱりOFAとはいえそれが人間の扱うものである以上、高速移動できる人なら勝機はあるということか。かっちゃん頑張れ


次回は掲示板ssを挟み期末試験へ。


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期末試験編
救助訓練レース


番外編より本編のが描きやすい。
掲示板後編は明日です。

あと前話で空を飛んでたシーン。修正というか変更しました。
やっぱお師匠様の個性的に飛べるのはナシだろうと思ったので
まあでもオーバーホール戦で100%デクは空中跳ねてるし良かったか?
でも今後の展開的に……。難しいですな


 学校。

「緑谷! お前ミルコの所どうだった」

 マウントレディの所に言っていたらしい峰田くんが、僕に問いかける。

「うん、とっても有意義だったよ。どうしたの急に?」

「いやあ、Mt.レディの所で俺は女性の暗部を見ちまったからよ。他のヤツがどうだったか知りたくて」

 女性の暗部て。

「別に、すごく元気のいいお姉さんって感じで、結構優しくされて、良かったよ」

「そっかー、ミルコみてえなドエロい姉ちゃんに優しくされるなんて羨ましいぜ」

 あんま伝わってないな。

「いいよなあミルコ、うさ耳できわどいスーツで足技得意でバニーで褐色で巨乳で属性盛りすぎだろ」 

「……先生をそんな目で見るならブドウジュースにするよ?」

「ヒェ」

 全くもう。ミルコ先生をそんな目で見るなんて、僕は峰田くんの肩を掴む。

「ヒーローミルコは凄いヒーローだったよその格闘技術や身体能力個性の練度もそうだけど何よりその敵を絶対逃さない意志弱きものを助ける優しさそれをおくびにもださない凛々しい姿勢が何より素晴らしく……」

「おい、緑谷、やめてくれ顔が近いしガッチリ肩が掴まれて抜けられねえ」

「そんな彼女の鍛えられた身体は全て強くなるというただ一点に注がれておりそれが美しいというのは分かるけれどそれは決して性的なものてなくもっと神格化神聖化すべきものであり……」

 

ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……

 

「こえーよ! 誰か助けて!」

 

「久しぶりにでたなクソデクのクソナードモード」

「爆豪あれ何だ?」

「あいつ、自分が好きなものを違う捉え方されるの異常に嫌がるんだ」

 瀬呂くんが突っ込む。

「限界オタクかよ」

 

 5分後

 

「ミルコカッコいい、ヤラシイノハオノレジシン」

 そこには虚な表情で言葉を垂れ流す峰田くんが。

「分かってくれてうれしいよ」

「「「「「洗脳されてるー!!」」」」」

 僕がいい汗をかいていると、扉が開く。この心音は、麗日さんだ。

「麗日さん、おはよ……ヒェッ」

 麗日さんは、呼吸音がおかしいことになっていた。

 空手の息吹って普段使いするようなものじゃないんだけど……。

「う、麗日白目むいてどうした?」

「……上鳴殿、とても有意義な一週間だったよ」

「かみなりどの!?」

 白目むいてんの!?

「ど、どうしちゃったの麗日さん? ガンヘッドの所で何をしたの?」

「ちょっと訓練をね、フフフ」

 そう言って軽く放った麗日さんの正拳突きは恐ろしい速さだった。かっこいい。

「デクくんも、ミルコの所で有意義だったみたいだね」

「わかる? ちょっと肉体改造をね、してる途中なんだけど。あと個性の使い方をちょっと」

「ふふ、今度手合わせしようか! 今なら……やれる!」

 やられんの? 僕。

 

 瞬間、チャイムが鳴る。同時に相澤先生が入ってくる。

「おう、お前ら席に……、なんだこの状況」

 何でしょうね。

「まあ、いいか。職場体験ご苦労さん。

 ……緑谷、爆豪、轟、飯田。大変だったな。だが、それを乗り切ったお前らは一歩壁を越えられたはずだ。それをこれからの授業でも発揮してくれるとありがたい」

 僕はその言葉に背筋を伸ばす。

「ほかのやつらもだ。職場体験の一週間で学んだことを活かせ、それを周りに伝える努力をしろ。そうすれば、お前らはもっと互いに強くなれる。

 ……じゃ、早速午後はオールマイト先生の授業だ。気合入れて行けよ」

「「「はい!!」」」

 皆の気合が教室を揺らした。

 そうだ、オールマイトに見せてあげなきゃ、安心してくださいって。

 僕はさらにもう一つ気合をいれ、授業に臨む。

「ヤラシイノハオノレジシン……」

 頑張っていこう!

 

 

 

 午後。

「はい、私が来たーってね。それじゃ早速やっていくぞ」

「ヌルっと入ったな」

「パターン尽きたのかしら」

「尽きてないぞ、無尽蔵だっつーの。しかし皆、気合はいってるな。

 まあ今日はそんな君らには申し訳ないが、遊びの要素を取り入れた救助訓練レース! やっていくわけだけどね」

 そう言われ、僕達は疑問に思う。

 飯田くんが挙手し、質問する。

「救助訓練ならUSJでは? それにレースとは」

「ふふふ、ここは運動場γ。入り組んだ工場地帯を模した運動場で、ここで私は救難信号を出す。

 それを受けた君達は、街外から走って近づくという訳だ。分かったかな」

 成程、だからレース。

「それでは早速。緑谷少年、芦戸少女、尾白少年、飯田少年、瀬呂少年でスタートだ」

 これは、うってつけだ。

 

 

 

 

「誰一位だ? でも体育祭からやっぱ緑谷かなあ」

「まあ確かに、あのフルカウルってのやべえ技だぜ」

「爆豪はどう思う?」

「半分野郎。まあデクだろう。……あいつが職場体験で何も掴んでなけりゃ体育祭のままだが」

「成程、お前が見てんのは緑谷がどう成長しているか。か」

「ケ」

 

 

 

 

 それでは、スタート。

 オールマイトの合図とともに、僕は音を聞く。

 信号情報はジャービスが教えてくれる。

 いた、北北東に700メートル。

 これなら。すぐだ。

 僕はワンフォーオールを20%に設定する。

 速く、速く、速く。

 レーダーセンスが多少乱れる。

 だが、これならいける。

 僕はオールマイトのもとに真っ先に到達する。

「……掴んだようだね。緑谷少年。正解だ」

「はい! ありがとうございます!」

 

「緑谷少年一位! さあ皆頑張って」

「緑谷! 何かむっちゃ速くなってない!?」

 芦戸さんの叫びが聞こえ、僕は手を振る。

 

 

 

 

 

「おい、爆豪、今のは」

「わかってんよ。半分野郎。あいつ、掴みやがったな」

 電流の量から個性の出力は下がっているのに、速度は間違いなく上がっている。

 そうこなくちゃな、そんなお前を超えてこそナンバー1だよな。

「次は俺らか。行くか、爆豪」

「……ああ、ちったあマシになったかよ」

「……やっぱ一日の長はお前にある。だが、それでも、俺なりのやり方で掴んでみせるさ」

 

 

 

 

 

 

 

『では次、爆豪少年、轟少年、八百万少女、常闇少年、蛙吹少女、行ってみよう!』

「うーん、これも機動力ある組やな」

「そうだね」

 僕は音を聞きながら、辺りの様子を探る。

 気になるのは僕が脳無に連れられた時に見たかっちゃんのあの動き。

 あれはエンデヴァーからヒントを?

 かっちゃん、君は。

 かっちゃんは飛び出すと、僕とほとんど同じ速度で、真っ先にオールマイトの所に到着した。

「凄いね! 爆豪少年! 何だいいまの出力は?」

「……俺は俺でいろいろやってんだよ」

「お、轟少年もきたな! 二人はエンデヴァーの所で何かをつかんだようだね」

「……ええ、ですが、まだまだです」

 そんな会話が聞こえてくる。

「……デクくん。嬉しそうやね」

「ほんとだーニコニコだー」

 そう言われ、僕は表情を戻す。

「え? そうかな」

「うん、でもええと思うよ」

 

 かっちゃん、やっぱり君は僕の、ライバルだ。

 

 

「だあ、白黒ついた! 何だよスリートップあの動きはよ! 一週間前と全然ちげえじゃん!」

「職場体験でヒントをな……」

 上鳴くんと轟くんが会話する。

 やっぱり轟くん、柔らかくなったなあ。

「けど、緑谷もスゲエよな! 何だよ! 動きに無駄がなくなったっていうか」

「ああ、ちょっとした発想の転換というか今まで凄く無駄なことをしていたというか」

 僕は瀬呂くんと会話する。

 やっぱり、学校は学校でいい。

「おい、緑谷! えれえもん発見した! こっちゃこい」

「峰田くん?」

「見ろよショーシャンク! おそらく諸先輩方が頑張ったんだろう! 隣はそうさ分かるだろう! 女子更衣室!」

 学校は学校で……。

「峰田くん、今の君の叫びで耳郎さんが」

「やめたまえ峰田くん、のぞきは立派なハンザイ行為だ」

「オイラのリトル峰田は立派なバンザイ行為なんだよー!!」

 聞いて?

「八百万のヤオヨロッパイ! 麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱい!!」

 耳郎さんのイヤホンジャックが、峰田くんの眼球にささった。

「八百万。塞いどいてくれ」

「分かりましたわ轟さん!」

 峰田くんを心配する人は誰もいなかった。

 しかしうららかボディか……。

「峰田くん、麗日さんはあの明るい性格ながら実家の建設会社を助けるために……」

「追い打ちブレインウォッシュ!? やめてくれ緑谷離してくれ! 誰か!」

 みんな更衣室を出ていく。

 

「オイラがオイラじゃなくなるー!!」

 

 

 

 

「ええ、あと2カ月程で夏休みだが……。峰田は今日どうしたんだ?」

「麗らかは麗らか麗らかで麗らか麗らかの麗らかオイラは麗らか」

「さあ」

(((あいつ敵にまわすのやめよう)))

 相澤先生は無視し、話を始める。なんやかんやこの人ドライに見えて熱血に見えてやっぱりドライである。

「まあいいか、((いいんだ……))勿論君らが夏休み、30日間休める道理はない」

 僕らは相澤先生の言葉にドキリとする。

「まさか……」

「夏休み、林間合宿をやるぞ」

「知ってたよやったー!」

 その言葉に、みな一様に騒ぎ出す。

「肝だめそー!」

 芦戸さん。

「風呂!」

 峰田くん復活した。

「花火」

 蛙吹さん。

「風呂!」

 峰田くん

「カレーだな」

 飯田くん。意外と子どもっぽいところある。

「行水!」

 峰田くん。

「ただし」

 相澤先生の眼光に、僕らは一様に黙る。

 

「もしその前の期末テストで合格点に満たなかったやつは、学校で補習地獄だ」

「「みんながんばろーぜ!!」

 ふむ、じゃあ期末に向けて、勉強しなくちゃな。

「それと、期末は実技試験があるからな。勉学だけでなく訓練もしておけよ。それじゃあな」

 そういうことなら、あれをやるか。

 僕はB組の塩崎さんに連絡をとった。そして相澤先生も呼び止める。

 

 雄英には運動場が何個もあり、そこでももっとも古くて荒れ果てたところ、そこで相澤先生の監督のもと、僕と塩崎さんは対峙する。

「ヒーロー殺しの件、お疲れ様でした。……私に用とは」

 塩崎さんは相変わらず、祈る聖女のようなポーズで僕に向かう。

「いや、シンプルな用だ。……戦って欲しい。僕の75%と、君のゴリアテで」

「わかりました」

 塩崎さんはすぐさま、ツルで巨人を形成する。

「いつも言うけど、僕のお願いだからって何でも聞いてもらわなくていいからね」

 あまりに即断即決で申し訳なくなってくる。

 だが、塩崎さんはすぐにゴリアテを操作する。

「別段構いませんよ。私もシンリンカムイさんのところで学んだことを発揮したいので、では参ります」

「うん、全力でいくよ」

 最大出力を使いこなす。それも、対人相手に。

 その前段階として、フルスロットルの扱いに慣れる。

 ブレーキを、なくす。

 恐れを、なくす。

 なりたい英雄になるために。

「ゴリアテフィスト!」

「トルネイド・スマッシュ!」

 僕らは激突した。

 風が吹き荒れ、大地が割れ、レーダーセンスが乱れる。

 

 地面がひび割れ、怪獣が暴れたような状態になったグラウンドで、僕は構えを解いた。

「ありがとう、塩崎さん。ちょっとシャドーをやっていくから、また今度」

「いえ、ですが、見ていていいですか?」

「うん、75%でやっていくから、離れて見ててね」

「はい」

 組手のあとは、シャドーボクシング。

 暴風が吹き荒れ、嵐のように地面が抉れていく。

 

(……動きがよくなってる。何か掴んだか緑谷。さて、こいつは期末でどんな課題をぶつけるか。

 ……こいつの相手になるのは、もうそれこそ)

 

 個性なしでは、週三回のウェイトトレーニング、ボクシングと柔道のトレーニング。

 そして、個性ありでは、塩崎さんとのトレーニングで環境破壊の日々。

 

 こんな風景が、一カ月弱続いた。



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期末試験開始

 時は流れ6月最終週。

 上鳴くんの絶叫が教室に響く。

「全く勉強してねー!! 体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねー!!」

 そうなのか。

 上鳴くんの叫びよりも先ほどから一定のリズムで聞こえる芦戸さんの笑い声が気になる。

「いや、でも職場体験から一カ月近くあったんだから本当はやってるでしょ?」

 僕が言うと、二人はダウンした。失言だったか。

「た、確かに職場体験から、もう一か月、されど一か月、もう……」

 ごめん、とどめ刺しちゃった。

「まあ、中間は入学したてで範囲も大したことなかったからいいけど、期末は中間と違って」

「演習試験もあるのが、辛い所だな」

 確か峰田くんは中間で9位だったか。

「あんたは同類だと思ってた!」

「お前みたいな奴は馬鹿で初めて愛嬌があるんだろ? どこに需要あるんだよ」

「世界、かな」

 大きく出たなあ。

 そこで、八百万さんが声をかける。

「お二人とも、私座学ならお力になれるかもしれません」

「ヤオモモー!」

「……演習の方は、からっきしでしょうけど」

 ? 八百万さんなら大丈夫だと思うんだけどな。

 そう思ってると、同じ疑問を抱いたのだろうか、轟くんも小首をかしげる。

「お二人じゃないけど、ウチもいいかな? 二次関数ちょっと応用躓いちゃって」

「わりい俺も。八百万古文わかる?」

「おれも」

 耳郎さん瀬呂くん尾白くんが八百万さんに勉強を教えてもらおうとする。

 八百万さんは嬉しそうだ。

「イイデストモー!!」

「この人徳の差よ」

「俺もあるわテメエ教え殺したろか」

「おお、頼む」

 かっちゃんは絶望的なくらい天才肌だから教えるの下手なんだけど、切島くん大丈夫かな?

 まあ言うだけ野暮か。

「まあ、筆記試験は大丈夫として、実技試験は塩崎さんと対策するかな。でも付き合ってもらいすぎると悪いかな」

「筆記は大丈夫なんや……」

「そうだ、緑谷! 最近塩崎ちゃんと放課後よろしくやってるそうじゃねえか!」

 峰田くんはそう言って僕を詰める。人聞きの悪い。

「うん、環境破壊を少々」

「色気ねえつまらねえ」

 そう言われてもなあ。

「何か放課後凄い音しとるよね。一体何しとんの?」

「ちょっと体育祭でみせたゴリアテを出してもらって戦闘訓練をね」

 最近ようやくものになってきた。

 これなら、75%の力をフルに使える。

「あと緑谷くん。ちょっと気になったんだけど」

「葉隠さん。何?」

「……ゴツくなってない?」

 そう言われ、僕は嬉しくなる。

「本当? ちょっとこの数週間で3キロ増えたんだ! これなら上限値も上がってるかも!」

 そろそろ80%の大台に乗るかもしれない。

「はあ、お前ほんとストイックだよな。かわいい女の子と一緒に訓練して何もねえうえにやることは筋トレか」

 上鳴くんが感心したように言う。

「……話戻るけど筆記は大丈夫ってことは、ちょっと教えて貰ってもええんかな?」

 麗日さんに言われ、僕は頷く。

「うんいいよ」

「私もー」

 葉隠さんが元気よく手をあげる。

 といっても、僕は目が見えないからいざ教えるとなると難しいかも。

「飯田くんと轟くんもどうかな」

「うむ、ご一緒しよう」

「日曜日以外なら大丈夫だ」

 じゃあ、放課後集まろうか。と言ったところで通知が鳴る。

『緑谷様、塩崎様からメールです』

 ? 何だろ?

 

 

 

 自習室。

 僕と麗日さん、葉隠さん、塩崎さんは一緒の机で教え合う。

「二次関数は……」

「成る程」

「この公式は……」

「ふーん」

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 ……空気おっも。

 いや、勉強会ってこんなもの?

 何か凄い水面下で牽制しあってる空気なんだけど。

 隣の机では轟くん飯田くん鉄哲くん取蔭さんが勉強している。

「これは、凄いな」

「こう言っちゃなんだがどうやって雄英入ったんだ?」

「でしょー。これは三人がかりで何とか致すしかないじゃん」

「く、すまねえ俺が不甲斐ねえばかりに」

「ほんとだよ」

 

 

(まあ、でもそのおかげで勉強会の口実が出来たからオッケーかな。頑張れ茨)

 

 

 取蔭さんが意味あり気に笑う。

 まあ、でもこっちの机は勉学的には何とかなりそう。

 三人とも赤点ってことはないだろう。

 

「あ。麗日さん、そこの計算違う」

「あ、ほんまや……何でわかったん?」

「なに書いてるか位は判断できるよ」

「とんでもないね」

「塩崎さんは応用で躓くね。反復練習でパターンを覚えるしかないか」

「すいません、不甲斐ないばかりに」

「いいよいいよ、いつも世話になってるから」

 そこで、葉隠さんの手が止まっていることに気づく。

「葉隠さん、どうかした?」

「き、休憩をお願いします……」

 ふと気づくと90分経っていた。確かに、そろそろいい時間だ。

「そっちは……、鉄哲くん大丈夫?」

 何かシューシュー言ってる。

「そうだな、そろそろいい時間だろう」

「うむ、10分程休憩してから再開しよう」

「ごめんねえ二人とも、助かるよ」

 取蔭さんが手を合わせる。

「ジュース買ってくるか」

 鉄哲くんの一言で、僕らは動きだす。

「まあ筆記はみんな何とかなりそうだけど、実技演習はどうなるんだろうね」

 僕のつぶやきに、鉄哲くんが拾う。

「噂じゃあ対ロボの戦闘訓練らしいぜ」

「入試の? そんな簡単でいいの?」

「おう、拳藤が先輩から聞いた。勉強会やるって言ったらA組にも教えといてくれって言われたからよ」

 拳藤さんいい人だなあ。

「だが、確かに簡単すぎるかもしれないな」

 轟くんの言葉に、塩崎さんも頷く。

「そうですね、今年は襲撃事件もありましたし、もっと別の試験になる可能性もありますね」

「うへえ、やだなあ」

 葉隠さんが言う。そう言えば葉隠さんどうやってあの試験を突破したんだろう。

「あのロボ、私の姿を捉えられないから楽なんだけど」

「なるほど」

「となると、一段上となると対人訓練かな」

 取蔭さんがコーラを飲みながら答える。

「ふむ、まあいかなる試験でも、やることは一学期の反復練習だろう」

「そうだね」

 

 

 

 そう言ってまた90分ほど勉強をして解散となった。

 何となくギスギスした空気もなくなったように思う。

 

 

 

 筆記試験は、勉強の甲斐あってみんな何とかなったようだ。

 そして、実技試験。

 

 

 

 僕達は正門前で先生たちと対峙していた。

「こりゃ、何かあるな」

 僕のつぶやきに、轟くんと飯田くんがうなずく。

「諸君らなら、事前に情報収集していたと思うが、すまないな、一部生徒は想定していたようだが、やり方を変えさせてもらう」

 特に上鳴くんと芦戸さんが悲鳴をあげる。

「今回行うのは、二人一組による戦闘訓練! 相手は教師さ」

 校長先生がにゅるっと相澤先生の捕縛布から出てくる。

 いいなあうらやましい。

「ペアの組と対戦する相手は、すでに決定済み、こちらで動きの傾向や親密度、諸々を踏まえて決定したから発表していく。

 轟と八百万がチームで、俺とだ」

 相澤先生とか、強個性の二人に個性を消す相澤先生。

 中々ハードなマッチアップだ。

「そして、緑谷と爆豪がチーム」

 その途端、かっちゃんが舌打ちする。

「デクとかよ、つまらねえ」

「はいはい」

 

 その途端、何かが超速でやってくる。

 

「相手は」

「私がする!」

 オールマイトがズシンと重量音をあげ着陸する。 

 かっちゃんがその途端嬉しそうな笑い声をあげる。

「そりゃあ、願ってもねえ」

「……僕もだよ」

「ふふ、いい顔だ……」

 相澤先生がため息を吐く。

「時間は有限、とっととバスに乗れ」

「よし、皆! 全員で突破するぞ!」

 飯田くんが皆に発破をかける。

「くそ! こーなりゃやけだ! レッツゴー林間合宿!」

「海! 山! 肝試ー!!」

 

 上鳴くんと芦戸さんも覚悟を決めたようだ。

 僕達はそれぞれバスに乗り、林間合宿を賭けた試験の場に赴く。

 

 

 

 試験ルール。

 僕達はステージ中央からスタート。

 30分以内に教師にハンドカフスをかけるか、ゲートから逃げるかでクリア。

 教師陣はハンデとして体重の半分のおもりをつける。

 

 

 

 約120キログラム、人二人分の重りをつけているといっても、そこはオールマイト。

 普通なら逃げの一択なんだけど。

「当然かっちゃん、逃げる気ないよね」

「ハ、当然だ」

 僕らは市街地を模したフィールドを駆けながら話し合う。

「そこはいいよ、ただ、僕が近接でかっちゃんは中遠距離からけん制して欲しい」

「……いやにあっさり引き下がるな」

「ちょっとね」

 

 ハンデありで二人掛り、それで逃げの一手しかないなら、これからの戦いに未来はない。

「……僕も、オールマイトを倒したい、戦ってみたい」

 まだ、オールマイトが戦えるうちに、でないと、彼は安心できないだろう。

「何があったかしらねえが、そういうことならやるぞ」

「ああ、 かっちゃん危ない!」

 僕は前にパンチを打ち込む。

 

「60%!!」

 

 その瞬間、僕が生み出した衝撃と前方からやってきた衝撃が打ち消される。

 だが、周りの建物は悉く吹き飛んだ。

「さて、脅威が行く!」

 

 

 

 その途端、威圧感がやってくる。

 あの時のヒーロー殺し以上。

 だが。

 

 

 

「デク! やるぞ!」

「うん! かっちゃん!」

 

 

 この前までの僕じゃないってことを、貴方に見せたいから、本気で戦います。

 

 

 期末試験、開始。




ウルトラアナリシス見てたんですけど
鉄哲知力C
塩崎知力D

……塩崎さん?
まあでもこの知力って十中八九バトルIQのことで、塩崎さんは策を弄するタイプじゃないのでこの値ということかな。
でもあれで勉強できないのもかわいい。うーん……。


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期末試験終わり、そして遭遇

ちょっと長くなったが切のいい所まで


 簡単な話だった。

 あまりに出力の大きい力は、僕自身のレーダーセンスを乱してしまう。

 だから、手加減していた。

 

 リミッターを外す、ボクシングに限らず、格闘技をするものが真っ先に行うことだ。

 ワンフォーオールの出力は上がっていても、相手を気遣っていた僕の攻撃ではハエも殺せないものとなる。

 ワンフォーオールの出力を上げて、おっかなびっくり動いている。それが体育祭までの僕。

 

 だから、最適な出力を。

 

 相手を必要以上に痛めつけず、周りに被害も出さないギリギリの出力。

 およそ20%。

 その出力で、思いっきり動くこと。

 それがおそらく最も強く、速い。

 

 相手が増強系だったり硬度を上げる個性だった場合、目安は40%。

 おそらく僕自身の身体能力も加味し、その辺りがギリギリ許容できる範囲。

 これでも、足元がひび割れたり、ガラスが割れたりする被害が出ると思われる。

 

 強敵と出会った時、許容できるのは60%まで。

 これは方向や衝撃を考えないと自分自身で町を破壊してしまう。

 運用するときは全身ではなく体の一部分にするなどの工夫が必要。

 

 オールマイト相手なら、フルカウル40%。

 そして、攻撃の瞬間だけ60%

 

 これで十分対抗できる。

 

「緑谷少年、正解だ。動きに遠慮がなくなった」

「恐縮です、オールマイト」

 僕とオールマイトは攻撃をぶつけ合う。

 ラッシュの威力はともかく、回転率で追随していく。

「あと、相手は僕だけじゃない」

 かっちゃんが爆撃をオールマイトに当てる。

 かっちゃんは空中を高速旋回しながら、オールマイトに支援爆撃を行う。

 ダメージはある。

「GUNUNU! 甘くはないな、二人の連携は!」

 オールマイトがかっちゃんに狙いをつけるが、それはさせぬように僕は追い込んでいく。

 攻め続け、隙を作らせない。

 そして、ゲート近くまで追い込んでいく。

 

 もうすぐ、到着する。

「このままゲートまで行く気か? そりゃあ希望的観測すぎるぜ!」

「そうですね、ここまででいい」

 そう、オールマイトが出した被害地、そこに重ねるようにすれば、被害を気にすることなく戦える。

 

「行きますよ! 80%!!」

 

 これが今出せる全力。

 それを出し切った時、起こったのは移動するだけで吹き荒れる暴風だった。

 

 これがオールマイトの持つ、80%。

 確かに、これは、自分でセーブしてしまうのも分かる。

 だが、オールマイトもそれは一緒のはずだ。

 確かにまだオールマイトには敵わない。

 100%を自在に振るえるものの8割程度の力と、全力全開の80%。

 それには大きな差があるのだろう。

 そこは、食らいつく。

「オーバーセンス」

 オールマイトの未来を予測しろ。

 鼓動を聞け、心理を読め。

 僕は盲目のヒーロー、デアデビル。

 見えないものを見るものだ。

 

「はやい」

 オールマイトの方が速度で勝る。

 では、僕は拮抗できないか。

 否。

 速度で劣るなら技量で、経験で劣るなら能力で。

 とにかくそうすれば。

『轟・八百万チーム。条件達成』

 その放送に、オールマイトの意識が削がれる。

「……やられたな」

 オールマイトの動きが止まる。

 僕もまた、ワンフォーオールを収める。

「完敗だよ、緑谷少年、爆豪少年。合格だ」

 その右手には確かに、ハンドカフスが嵌められていた。

 

『緑谷・爆豪チーム! 条件達成!』

 

「ケ。デクが抑えてたから勝てただけだ。褒められてる気がしねえよ」

「ふ、そんなことはないさ爆豪少年。君の支援爆撃がなければまだやりようがあった」

「そうだね、それに一瞬動きを止めた隙によく接敵できたよ」

 僕が褒めると、かっちゃんが距離を取る。

「褒めんな気色悪い」

「ひどいなあ」

「……さ、早く戻りなさい。他のチームの試合を見ることも、また勉強のウチだ」

 そうか、オールマイト、活動限界か。

「じゃあ、行こうか」

「ケ! オールマイト! 今度はサシだからな」

 そう言い残して、かっちゃんは歩く。

 そうだね。一対一で圧倒できるようになれば、そうしたら、貴方の運命も、きっと覆せる。

 

 

 

 

 

 

 

 全く、大した少年達だ。

 ハンデありとはいえ、私は全力で戦った。

 それを乗り切ったのは、偏に彼らの才能と努力。 

 彼らの明るい未来のために、私はこれからも立たねばなるまい。

 喀血を拭い、私は立ち上がった。

 

 

 

 

「クソが! 行くぞ! 芦戸!」

「うおおおおおおおおおおおおお! 林間合宿ー!!」

 上鳴くんと芦戸さんが裂帛の気合で、最後のゲートに間に合った。

「ありゃりゃ。勝ち筋をまんまと……。うーん努力賞ってとこかな」

 校長先生のつぶやきをマイクが拾う。

 かっちゃんはため息を吐く。

「ギリギリ合格ってところだろうな。お情け合格だ」

「厳しいなあ、結構難しい試験だと思うけど」

「立ち回りがアホすぎるわあの二人」

「うーん」

 厳しい。

「そういや、お前も」

「僕も?」

「体育祭までのお前は筋肉ムキムキで女の子投げしていたようなもんか、クソダセエ」

「あああああああああああああああ!!!」

 かっちゃんって本当才能マンやだこの人!

「そりゃ増強系でもねえオッサンに苦戦するわな」

「あああああああああああああああ!!!」

「しかも自分の耳壊すのがおっかなくて動くのビビるとか6歳の頃のお前じゃねえか」

「もうやめてええええええええええ!!!」

「うるさいよアンタたち」

 僕はその後もかっちゃんの口撃にさらされた。

 もうやめて……。

 

 

 瀬呂くんと峰田くんは遠距離から瀬呂くんのテープと峰田くんのもぎもぎを合わせた即席フレイルでミッドナイト先生を捕らえた。

 切島くんと砂藤くんは、強化した砂籐くんが切島くんを投げるという荒業でセメントス先生の包囲を打ち破った。

 

 そんなこんなで。

 

 B組の実技試験日を挟んでの結果発表。

「赤点はなし。というわけで、林間合宿は全員で行きます」

「「「「しゃーおらー!!」」」」

 僕らの歓声が辺りに響き渡る。

「ただし麗日青山芦戸上鳴。お前ら赤点30点として35点位だ。油断すんなよ」

「むっちゃ水差す!」

「ギリギリや……」

「当たり前だ丸顔。お前13号先生が本物のヴィランだったら殺されておわりだぞ」

「う、返す言葉もない」

「心外☆」

「B組も赤点はなしだった。まあ、補習者なしで林間合宿できんのは俺も嬉しいよ。

 ああ、遺書は書いとけよ」

「「「「何やらされるんですか!!」」」」

 僕らの慄きに相澤先生は笑って返す。

「じゃ、合宿のしおり配っていくから、後ろに回していけ」

「こええよ」

 僕らはおっかなびっくりしおりに目を通す。

 大丈夫だよね、網走とかじゃないよね?

 

「まあ何はともあれ、全員でいけて良かったね」

「一週間の林間合宿か、荷物もいるな」

「水着とか買わねえとな」

「暗視ゴーグル」

 また峰田くんには僕の語りが必要かな?

 そう思うと峰田くんは距離をとる。勘がいい。

「あ、じゃあさ! 明日休みだし。皆で買い物にいこうよ!」

 葉隠さんの提案に僕らも盛り上がる。

「いいね、そういうの初だし!」

「爆豪、お前も行こうぜ」

「行ってたまるかかったりい」

「ええ、行こうよかっちゃん」

「そうそう」

 切島くんと僕でかっちゃんを挟む。

「だああ!! 挟むな気持ちわりい! 行きゃいいんだろいきゃあ!」

「「ヨシ」」

「ケ!」

「轟くんはどうする?」

「休日は見舞いだ」

 家族じゃしゃあない。

「何だこの差はゴラア!」

 孤独死しそうかしないかの差かなあ。

「あんま調子にのんなよ女の子投げがあ!!」

「それやめてよ!! 傷ついてんだから!!」

「何だ女の子投げって」

「こいつ体育祭の頃はよ」

「やめてえ!!」

 僕らはギャアギャアと騒ぎ出す。

 

 

 そして、当日。

 

 

 僕らは木椰区ショッピングモールに来ていた。

 そこで、僕らは何人かに別れて買い物をすることに。

「何で休みの日にまでクソデクと一緒なんだよ」

「ええやん、仲良し」

「仲良しー!」

「誰がだゴルァ!」

 僕、かっちゃん、麗日さん、葉隠さんは4人で服を買いにきていた。

 そして、僕は笑いながらも、気づく。

 何か、気配がする。

 僕は、かっちゃんに耳打ちする。

「警察呼んでかっちゃん」

「ア?」

「いや、そいつは悪手だな」

 

 いきなり、危機に接した人間は、あまりのパニックにより、逆に異常事態に際しても平常通りの行動をしてしまう。

 所謂正常性バイアスというもので、これは的確な訓練をされていないとどうしても陥ってしまう。

 この場合、麗日さんと葉隠さんがそれに辺り、彼女らはポカンとしてしまった。

「今日は話をしにきただけだ。うちの大将がな」

 だが、それが正解だったのだろう。

 こいつにとっても僕らにとっても。

「……なんのようだ? ブルズアイ」

 僕の怒気を、こいつは笑って受け流す。

「おいおい、俺はおまけかよ、悲しいぜ」

 その男は、USJであったきりだ。

 だから、正直よくわからなかった。

「死柄木……だったか?」

「ああ、よろしくな緑谷出久、いやデアデビル。あと爆豪勝己、女の子が二人」

「俺らはおまけか。舐めてやがるな」

 かっちゃんが臨戦態勢をとるが、僕が止める。

「かっちゃん、流石に、場所が悪すぎる」

「冷静で助かる。そうだな、お前と戦うなら、俺がトランプをばら巻く。死ぬのは何十人になるだろうな」

 ブルズアイの言い方に、かっちゃんは盛大に舌打ちする。

「クソのセリフだな」

「ふふ、的を射ている。俺が言うと洒落てるな」

 ブルズアイは楽し気に言う。

「マジで話をしにきただけだ。腰を落ち着かせて喋るのが最善だ。分かるよな。そっちの女の子二人もさ」

 死柄木の問いに、僕らは睨みつけながらも頷く。

 

 ひとまず、僕らはベンチで腰を落ち着けた。

 死柄木も座り、ブルズアイもまた、座りながら取り出した小瓶でウイスキーを飲む。

「さて、何から話したもんか。今話したいのはあれだ、ヒーロー殺し。

 あいつのおかげで図らずも勢力は拡大しているわけだが、ムカつくんだよなあ」

 ……やはり、ナイトアイとグラントリノの見立て通り、ヒーロー殺しの動画に当てられたヴィランが敵連合に与する状況になっているのか。

「仲間じゃ、ないん?」

 麗日さんが問いかける。

「世間はそう言ってるが、俺はそうはおもっちゃいないな。

 問題はそこだ、ほとんどの人間がヒーロー殺しに目がいっている」

 死柄木はそこで苛立たし気に首をかきむしる。

「雄英襲撃も保須襲撃も、……全部ヤツに食われた。

 あいつも俺も、気に入らないものを壊していただけだろう。何が違うってんだ?」

 その問いに、僕は、思っていたことを言う。

「僕はヒーロー殺しは……キライだ。相容れない。救われといてこう言うのも何だけどね」

「……へえ」

「だけど、言わんとしていることは分かった。やろうとしている目標も、理解はできる。やり方は絶望的に間違っているけど。

 世界をよりよくしたい。そう思っていたんだろう」

 ヒーロー殺しの思想、英雄回帰。

 その実現性はともかくとして、そう思うことは納得いく。

「だが、お前はただ壊したいだけだろう。

 逆に聞くが、何を理解して欲しい?

 君の悲しさか? 憤りか? 同情して欲しいのか?

 それで、誰かに共感して欲しいって、虫がよすぎないか?」

 僕の問いに、死柄木は少し考えて、クスクスと笑い出した。

「そうだな。そうだな。そうだな。ああ、わかったよ。俺が何をしたいのか」

 死柄木の心音が、落ち着いてくる。

 まずいことを言ったかもしれない。

「お前の言う通りだ。俺は誰かに共鳴してもらいたかったんじゃない。理解してもらいたかったんじゃない」

 死柄木は笑って言う。

 

「オールマイトが、あのゴミが救えなかった人間などいないようにヘラヘラ笑っているこの世界を俺は壊す。

 俺はただ、壊したかったんだ何もかも全部。それだけだったんだな」

 

 そう言うと、死柄木の殺気が膨れあがる。

 かっちゃんが戦闘態勢を取る。

「いや、ここではやらないさ」

 そう言うと嗅ぎ覚えのある臭いがする。

 黒霧、だったか。

「約束通り、ここではやらない。次会う時は、仲良く皆壊してやる。

 俺は全てを壊す。今日からそれを信念と呼ぶ」

 死柄木の背中に、僕は叫ぶ。

「なら言わせてもらおう。お前は何も壊せない! 必ずだ! オールマイトとともに、必ずお前を捕らえる!」

 僕の叫びを、笑って受け流す。

「やってみろよ」

「……俺からもいいか?」

「どうぞ、ブルズアイ」

 ブルズアイは僕を濃密な殺気でねめつける。

「俺の本分は暗殺だ。次会う時は不得意な戦闘じゃねえ、本気の手管、見せてやるよ」

 そう言うと、ブルズアイはトランプを投げつける。

 僕がつかみ取ると、奴らは消えていた。

 

 

 その後、僕はオールマイト、そして塚内警部と顔を合わせる。

「この警部さんが、話にあった。よろしくお願いします」

「いや、こちらこそ。君達四人が冷静だったから被害者0で乗り切ることができた。

 警察を代表して礼を言うよ」

「いえ、何もできなかっただけです」

 僕らは何もできなかった。

 資格がないとかももちろんあるけど、被害を出さずに相手を止める強さがなかった。

 だから、逃げられた。

「しかし、話を聞くに、奴らも一枚岩ではないようだな」

「そうだね。友達も来たようだ」

 三人が僕に近づく。

「……なんもできへんかったね」

「ケ、だせえ」

「まあしょうがないじゃん、個性の無断使用は犯罪だし」

 葉隠さんの正論にかっちゃんはイライラを隠さない。

「それでもやるのがヒーローだろうが」

「いや、あれで正解だ」

 塚内さんが僕らに言う。

「あの、オールマイト。オールマイトも誰かを救えなかったこと、あるんですか?」

 僕はオールマイトに尋ねる。

「確かに、死柄木もそう言ってたね」

「……あるさ、当然今でもこの世界のどこかで誰かが傷つき倒れている。

 手の届かないところにいる人間は救えない。

 だが、だからこそ私は笑って立つ。

 正義の象徴が、人々の心を常にともせるようにね」

 オールマイトの答えに僕は、奴の言った言葉に疑問に思う。

「……結局逆恨みなんじゃねえのか?」

 かっちゃんの言葉に、僕も頷く。

 だとしても、いやだからこそ、厄介だな。

 

 そうして、濃密だった前期も終わり、夏休みに入る。

 林間合宿は場所を変えて行われる運びとなる。

 その開催の前に、あるイベントがある。

 I・アイランドで行われるI・エキスポ。

 そこに、僕は体育祭優勝者ということでチケットをもらった。

 4人つづりのチケットで、僕はデヴィットさんとメリッサさんに別口で誘われたので丸々と余る。

 そこで、僕は塩崎さん、麗日さん、葉隠さん、そしてかっちゃんを誘いI・アイランドへ向かった。

 

「何でこのメンツで俺を誘うんだクソデク」

「結局来てくれるんじゃん」

「俺はおばさんに頼まれたんだ! クソが!」

「しょうがないでしょ。かっちゃんと麗日さん葉隠さんは敵連合と接敵したんだから、逆に日本に留まる方が危険じゃん」

「俺を気遣うな!」

 塩崎さんの淑やかな笑い声が飛行機内を満たす。

「お二人の仲が良くてなによりです」

「良くねえわ茨女! 舐めとんのか!」

 いや、仲良いとおもうけどな。

「三人とも、見えてきたよ!」

 葉隠さんの元気な声が響く。

 2回目のI・アイランドだ。

 

 そこで、僕達は大事件に遭遇することになる。




いやあ、普通にスペック考えたらハンデありオールマイトに二人掛りならそんな苦戦しないよね、ってことで。

という訳で駆け足ですが二人の英雄編へ。
少し出るキャラ絞ろうと思います。まあぶっちゃけデアデビル一人で事足りそうですが。
そんなに映画と変わるところないかなと思いますが、ちょっとした間違い探しを楽しんでいただければ。


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30万UA達成記念 もしB組だったなら

これはA組ではなくB組だったらというIFです。
あんまり大した内容ではないですが、一応ハーレムです。
スルーしていただいて結構ですので、ご了承ください。


 入学試験の結果を見ながらのクラス編成。

 そこで、イレイザーヘッドは緑谷と爆豪を自分に任せて欲しいと進言した。

 そこに待ったをかけたのがもう一方のヒーロー科担任ブラドキングである。

「待て待てイレイザー、後期はクラス対抗での訓練もある。あまり戦力を偏らせるのはどうかと思うんだが」

「ブラド、そうは言ってもこいつらはライバル同士、一緒にした方が相乗効果が認められるだろう」

「確かにそうだ。だが、こいつらをクラスに分け、それぞれ中心となって引っ張り合うことにより、一年ヒーロー科40人の底上げをする。こいつらの力はそうするに足るほどだと思う。俺はこいつらは分けた方がいいと思う」

 ブラドキングの弁に、イレイザーヘッドも少し考えて頷く。

「確かに、そうした方が合理的かもな」

 そこで、校長が手を叩く。

「では、緑谷くんの方をブラド君に、爆豪くんの方を相澤くんに任せようかな。爆豪くんの方が直情傾向にありそうだから、相澤くんが上手く誘導してくれ、緑谷くんの方は、個性を持て余してそうだから、ブラドくんの実戦訓練でより繊細なコントロールを学ばせて欲しい」

「任されました」

「わかりました」

 そうして、緑谷出久はB組に在籍することになる。

 

 

 sideブラドキング

 

 最初の顔合わせの時、目立っていたのは緑谷だった。

 何せ、盲目というハンディキャップ。それにも関わらず入試主席という優秀さ。

 まるで見えているのではないかというほどに、常人と変わらぬ知覚能力。

 何より、その人当たりの良さで、皆の心を掴んでいた。

 最初の個性把握テストでは圧倒的な一位を獲得し、皆にとっておおいに刺激になった。

 

 何故か、塩崎茨が当初から緑谷にべったりだったことを除けば、概ねクラスのカンフル剤になっていたといえる。

 

 最初の戦闘訓練では緑谷と小大ペア、物間と鉄哲ペアと戦い、緑谷が投擲したものを小大が大きくするという連携攻撃で圧倒。

 他にも皆の個性を見て、色々な活用法を考え付いたりとブレーンとしても活躍。

 そのまま副委員長に就任。

 総合的にみて、非の打ち所がないほどに優等生だった。

 

 だが、USJでの襲撃事件で、私はどうやらこいつの課題、というよりも問題を見つけてしまった。

 それは、余りにも自己犠牲がすぎるというものだ。

 

 緑谷は衝撃波で黒霧と呼ばれていたヴィランを倒すと、脳無と呼ばれた改造人間と戦闘。対オールマイト用と相手が喧伝したに相応しい性能に、緑谷はヤツの言う許容上限を超えた100%の力で対抗。辛くも撃退する。そして、危うくブルズアイと名乗るヴィランに殺されそうになったところをオールマイトの救援が辛くも間に合い、助かった。

 その頃私は相手の首魁、死柄木と戦闘していたが、生徒達に怪我人が出なかったのは、偏に緑谷の獅子奮迅の活躍があってのもの。

 しかし、その代償として、緑谷は1週間の入院を余儀なくされた。

「ブラド先生、ごめんなさい。ご迷惑をおかけします」

「いいんだ緑谷。礼を言うなら俺の方だ。お前のお陰で、生徒たちに人的被害はなかった」

「そんな、僕のせいで、ブルズアイは……」

「事情はオールマイトからきいた。ただの逆恨みだ。気に病むな」

 そう言いつつ、俺は常々抱えていた疑問を口にする。

「なあ緑谷。何を焦っている? お前はまだ入学して一ヶ月もたっていない。その割には随分と生き急いでいるように見える」

 緑谷は少し逡巡したようだがやがて観念したように話し始めた。

「時間が、残ってないんです。僕にではなく、僕の大切な人に。その人に安心してもらうためにも、僕は一刻も早くヒーローにならないといけないんです」

 そう言う緑谷の表情には、焦燥、悲哀と言った感情が見られ、俺は言葉をなくす。

 だからこそ、俺は緑谷の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「わ、ブラド先生」

「ならば、笑え緑谷。そんな顔で誰が安心する?」

 俺の言葉にハッとしたような緑谷に俺は笑う。

 ああ、こいつは優秀なように見えて、まだまだ子どもなのだな。

「一人でヒーローになった者はいない。何故なら、ヒーローには助けを求めてくれる人が必要だからだ。

 俺だってそうだ、多くの同輩、支えてくれるものがいる。

 そのものたちを安心させるためにも、笑え」

 無理させるなというのは簡単だ。

 だがそれではこの男は止まらんだろう。

 こいつに必要なのは隣に立ち、あるいは背中を押す友だ。

 そして、それはすでに持っている。

「ほら、皆来たぞ」

 ドタバタと騒がしい声が聞こえる。

「緑谷さん無事でしたか?」

「緑谷! あんた無茶して! 心配だったんだよ?」

 雪崩れ込んでくるB組の一同に驚いた表情をする緑谷。

「緑谷! お前は本当に凄いやつだ! お前と戦えたこと! 誇りに思うぜ!」

「全く一人で突っ込まないでくれるかな。冷や冷やさせるよ全く」

「そんなこと言って、物間のやつ、無茶苦茶心配してたんだよ」

「やめてくれないか取蔭!」

「ヴィランはウラメシかったけど、緑谷のお陰で安心できたわ、本当にありがとう」

「ん!」

 クラスの皆からの激励に、緑谷は堪え切れないように俯く。

 これから張り切って緑谷を、いや、この可愛い生徒達を導かねばなるまい。

 

 その後も緑谷は体育祭で優勝。期末では取蔭と組んでオールマイト相手に完勝するなど、八面六臂の活躍を見せる。

 何も問題がないと見せて、しかしその実、ある問題点が見えてきた。

 思わず頭を抱えたくなる。

 

「何だブラド。ため息などらしくない。それに、生徒にそんな姿を見られるのは合理的じゃないな」

「イレイザーか……。緑谷のことで一つ問題があってな……」

「? ……優秀な生徒だと思うが、何か問題でも?」

「いや、大した程ではないんだが」

 俺は眼下の中庭で、木陰ですやすやと昼寝する緑谷を見下す。

「昼寝か、適度な睡眠は集中力を向上させるからな」

「ああ、別にそこではない」

「一緒にいるのは塩崎か。命の恩人だというからな。仲が良くても不思議ではないな」

 勿論、俺とて生徒の恋愛事情に目くじらを立てるほど狭量ではない。

 雄英は生徒間の恋愛に対しても自主性に任せているし、まああの二人ならお似合いだろう。

「それだけなら良いのだかなあ」

 見ていると、またぞろ始まったようだ。

 眠る緑谷に、慈母のような表情で側にいる塩崎、その二人に忍び寄る影に俺はため息を吐く。

「あれは、小大か?」

 小大唯、その美貌からすでにファンクラブなどもできていると聞く。

 ミステリアスかつマイペースな雰囲気ながら、成績自体も優秀な生徒だ。

 その小大が、眠っている緑谷に近づくと、ごろりと寝転がり、膝に頭を乗せた。

 その瞬間塩崎の眉がピクリと動く。

 しばし、気まずい空気が流れる。

「……あれは?」

「まあ、最近ああいう光景が目に余るというか」

 塩崎の方は、緑谷が誰を選ぼうが自由と公言していることもあり、実害が出るほどではないが、困ったものだ。

「三角関係か。まあ、だからといって教師が口を出すのも野暮か」

「まあそうだな、三角で済むならな」

 そこで、緑谷の隣にさらに別の女生徒の姿が見られる。

 柳レイ子、ポルターガイストという強個性。

 だが、USJ襲撃事件では緑谷に危うい所を助けてもらったと聞く。

 その柳がするりと近づいたと思うとその肩に頭を乗せ始めた。

「……何か空気歪んでないか?」

「本当最近はこんな感じで、クラスの男連中も嫉妬すると言うより怯え始めたんだ」

「よくやるな……」

 確かに緑谷は大したやつだが、まさかここまでモテるとはな。

 最近はさらに、もう一人。

 すすすとどこからか手が飛んできたとおもうと、緑谷の手を握った。

 あれは取蔭の個性だな。全く。

「ああ、なるほどなー」

「まああんな感じで、男どもも賭けをし始めた位だ」

 その後、目を覚ました緑谷は、自分が女子に囲まれているという状況に赤面しだした。

 俺はため息をつきつつも、緑谷が後悔しない選択をすることを祈るしかできなかった。

 

 

 side拳藤

 私は教室の窓から、中庭の光景をため息をつきながら見る。

 後ろでは物間を主導にしてトトカルチョが行われていた。

「物間やめな。趣味悪いよ」

「ええでも拳藤、娯楽の少ないことだしいいじゃないか」

 物間は肩をすくめながらも、トトカルチョを続けていく。

「ちなみに一番人気はメリッサさん、2番手塩崎って所かな」

「……結局、B組からではないと?」

「まあ、足を引っ張り合って自滅するというのがおおよその見方かな」

 確かにそれはありそうかなと、私自身も思う。

「あと、何で私はいってんの?」

「あれ? 違った?」

「違うわ!」

 しかも結構票入ってるし。

「三番人気だぜ、マジで狙ったら?」

「ないよ、私は。ただ副委員長やってもらってるだけで」

 そう言いつつ、女子に囲まれ、困り顔をしている緑谷を見て、私はため息を吐く。

 思い出すのは、USJで戦い抜いた緑谷。

 そこで、雄々しく戦い抜いたあいつを見て、私の胸に宿ったのは、憧れだった。

 

 ただ、戦い抜く。

 持ちうるもの全てを使って、人を守ろうとする。

 それが確かに美しいんだろう。

 それでも、私はこれは恋愛じゃない、と思う。

 

「私は、尊敬してんだ。緑谷のこと。あんたもそうだろ?」

「……まあね」

 茶化しながらも、それでも緑谷を見守ってるのは、結局はみんな緑谷のことが好きなんだろう。

 私はそう思いながら、窓から声をかける。

「授業始まるよ! 戻ってきな!」

 さて、緑谷は結局どうするのかね。

 

「ワタシケンドーさんに一票デス!」

「ワタシもノコ!」

「お、拳藤二番手に」

 とりあえず物間に手刀を叩き込んだ。

「何で僕だけ?」

 

 

side緑谷

 

「という訳でどうしたらいいのか」

「それは自慢かデク?」

「……になるよねえ」

 僕はかっちゃんとの帰り道、ため息がでる。

「んなもん適当に一人選んどけばいいだろう」

「適当には選べないよ」

 かっちゃんは息を一つ吐く。

「とにかく一人を選べ。半端な同情は傷つけるだけだろ」

「……そうだねえ」

 とにかく、僕は、どうしたいのやら。

「全員平等に愛するなんて甲斐性お前にゃねえからな」

「いや、しないよ、下種野郎じゃん」

「わかってんじゃねえか」

 そりゃあ、嬉しい気持ちはある。

 皆真っすぐに好意をぶつけてくるから。

 だから、甘えちゃいけないんだろう。

 

 僕は強くなった日差しに胸をはせる。

 

 僕の心に巣食っているのは、結局は。

 




何かブラド先生でいいんじゃないかな?

結局足の引っ張り合いして相対的にメリッサの位置が良くなる皮肉。
何かUSJ詰まない? と思ったのでデアデビルはA組ルートより強化されてます。

次回からは二人の英雄編です。乞うご期待!


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二人の英雄
二人の英雄 その1


 I・アイランドに到着するとすぐさまメリッサさんが駆け寄ってきた。

 そして僕にハグする。

「イズク君! 久しぶり! 元気にしてた!?」

「はい! お久しぶりです!」

 何かドキリとする音が聞こえた。

「かっちゃん君、麗日さん、葉隠さんも久しぶり! 塩崎さんは初めましてね!」

「あ、ありがとうございます」

「はい! お久しぶりです!」

「初めまして。よろしくお願いします」

「ケ」

 かっちゃん舌打ちはやめなさい。

 メリッサさんはクスクスと笑う。

「とりあえずホテルに荷物を置いてこようか。案内するわね。……イズクくん、そういえばなんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「……改造手術でも受けた?」

 そう問われ、僕は体を触る。

「確かに結構ごつくなりましたけど」

「そうよね。一応体重やサイズは送ってもらってたから知ってるけど。それにしても大きくなったわね。

 許容量も増えた?」

「一応は80%まで」

 僕の答えにメリッサさんは満足げに頷く。

「そう。もう少しね! ふふ、コスチューム。新しく作ったのよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 僕らが話をしていると、かっちゃんが咳払いをする。

「とりあえず、移動してえんだがいいか?」

「あ、そうね。ごめんなさいね」

「ああ、別に」

 

(このままだとこいつら何かに変身しそうだ)

 

 僕は首を傾げつつ、ホテルへ移動した。

 

 僕らはプレオープン前のパビリオンを6人で見学していく。

 多くの展示物がデヴィットさんの特許を元にした発明品ということで、彼女も嬉しそうだ。

「いや、凄いですよ。ほとんどの発明品がシールド博士の発明なんですね」

 葉隠さんがはしゃいだように言う。

「ふふ、ありがとう。私もパパみたいな一流の科学者になって、あなた達みたいなヒーローを支えられるような人になりたいんだ」

「……きっとなれますよ。メリッサさんなら。ていうか、もうなってます」

 僕の言葉に、メリッサさんは少しハッとしつつ、はにかんだように笑った。

「ふふ、ありがとう」

 そして見つめ合い笑うと、麗日さんが咳払いする。

「……そういえば、オールマイト先生はどこに?」

 そういえば、前日入りしていたと聞いたけど、まだ見てないな。

「マイトおじさまとパパは何か検査があるとかでラボに行ってるわ。でも今夜のレセプションパーティーにはでるはずよ」

「そうですか。あと、今日はサイクロプスさんやストームさんはいないんですね」

「ええ、二人もレセプションパーティーの準備があるから。今日はイズクくんたちがいるし大丈夫だって言ってお休みをとってもらったの」

 ……あの二人の代わりが務まるとは思えないけど、信頼には応えねばなるまい。

 その時、僕は視線を感じた気がして振り返る。

「……かっちゃん。誰かいる?」

「あ? いねえが……」

「そう……」

「あ、向こうでヴィランアタックっていう催しがあるのよ。行ってみましょう」

 メリッサさんに促され、僕たちは移動する。気のせいかと思いつつも、僕らはメリッサさんの後をついていった。

 

 

 

 

「ボス。セカンドプランの周りに何人かのガキがいます。遂行は不可能かと」

「……ガキだろう。何故無理だ」

「奴ら、雄英一年ヒーロー科です。例の、ブルズアイと渡り合ったというガキもいます」

「そうか……。下手に虎の尾を踏む必要もない。すぐに戻れ」

「了解」

 

 

 

 かっちゃんがスタートの合図とともに飛び出し、仮想敵を倒していく。

「10秒! 凄まじい高記録です!」

「微妙だな。おい、デク! てめえもやれ!」

「はいはいかっちゃん。フルカウル、60%」

 僕はワンフォーオールを起動し、左ジャブを放っていく。

「9秒! なんと暫定一位に踊りでた!」

「クソおしい! もう一回だ!」

「かっちゃん。あんまり占有は」

 僕らの会話を、メリッサさんたちは笑ってみている。

「ふふ、二人とも、体育祭の頃と比べてとても強くなってるわね」

「そうですね。緑谷さんと爆豪さんは互いに切磋琢磨しあってますから」

「いいことね! 私も、コスチュームを作った甲斐があったわ」

 その言葉に、僕は顔を上げる。

「そういえば完成したんですか?」

「ええ。私のラボにあるわ。最終調整もあるから、よければ来る?」

「はい! 是非お願いします!」

 そう言って、僕達はメリッサさんのラボに向かった。

 

 

 

 

 

「トシ。やはり個性指数の低下は激しいようだね」

「ああ、だが、次代の芽は着実に育っている。だから大丈夫だ」

 オールマイトの力強い断言に、デヴィットも苦笑する。

「ああ、そうだな。すまない。あの装置さえあれば」

「構わないさデイヴ。それに、政府の圧力があったのなら仕方があるまい」

「せめて君に一度でも使えればいいのだが……。いきなり没収されてしまってね。

 正直、何か作意のようなものを感じるよ」

 デヴィットの言葉に、オールマイトがハッとする。

「……まさか、オールフォーワンか? それともキングピンか?」

「……どちらかの思惑があったとみるのが正解だろう。私の装置を使って何を企んでいるかは知らないが」

 そこで、デイヴは悪戯そうに笑う。

「なあに、実はあの装置はな……」

 

 

 

 僕は、ラボにてメリッサさんにブレスレットを渡される。

「このスイッチを使えば、すぐにヒーロースーツが装着できるはずよ」

「わあ、本当ですか?」

「はええ。すごいんやねえ」

 僕らはメリッサさんのラボで、もてなしを受けていた。

「色々な賞を受けられているのですね」

 塩崎さんが数々のトロフィーや盾をみながら言う。

「それほどでもないけど。けれど、皆本当に優秀ね。そうそう、今日のレセプションパーティー用のスーツもあるのよ。一度袖を通してくれる?」

「何から何まで、ありがとうございます」

「うふふ、いいのよ。それに、皆優秀なヒーロー候補生だもの。繋がりを作っておくに越したことはないわ」

「それ、俺もいくのか」

 かっちゃんも往生際が悪いな。

「じゃあ、夜7時に集合ってことで」

「聞けや」

 そして、僕たちはパーティーに出席するため、各々準備することになった。

「……塩崎さん。メリッサさんと一緒にいてもらえる?」

 僕は彼女に耳打ちする。

「? 了解です」

 僕は何となく昼間の視線が気になっていた。

 塩崎さんは怪訝な顔をしつつも、頷いた。

 

 

 7時、レセプション会場。

「いやあ、女性の準備って遅いねえ」

「まあなあ」

 かっちゃんと僕は待ち合わせ場所で話し合う。

「あ、そろそろ来たよ」

「いやあ、お待たせ」

「えへへ、どう? 似合う?」

 麗日さんはスカートタイプのドレスを身に纏い、葉隠さんはスパンコールドレスというのだろうか、を着てきた。

「うん、二人とも似合ってるよ」

 さらに、メリッサさんと塩崎さんの二人もくる。

 二人は、お揃いの上の方で纏めた髪型に、メリッサさんはスカートタイプ、塩崎さんはパンツスタイルのスーツを着てきた。

「4人ともお待たせ! じゃあ行こうか」

 そう言って会場に向かおうとしたところで、警告音が流れる。

『I・アイランド内に爆発物が設置されたとの情報が入りました。これより厳重警戒モードに移行します』

 

「……何かあったな」

 嫌な予感が当たった形に、僕は頭を抱える。

「ちょっと待ってて」

 僕はビリークラブを使い、辺りの様子を探る。人の気配は僕達以外にないが。

「エレベーターも、携帯電話も使えませんね」

「とりあえず、パーティー会場に行こう」

 皆の視線が集中する。

「オールマイトにデヴィットさん、サイクロプスさんにストームさんも会場にいるはずだ。

 彼らが行動していないということは」

「……とらわれているということですね」

 塩崎さんの答えに僕は頷く。

「4人のほかにもプロヒーローがいるはず。彼らに接触し、指示を仰ぐべきだ」

「異論はねえ。ここで6人で固まってても危険なだけだ」

「そうね、でももし、犯人たちがいたら」

 葉隠さんの疑問に僕は笑って答える。

「そのための僕だ」

 僕は耳をつつき、メリッサさんに向き直る。

「パーティー会場まで、案内してもらえますか」

「ええ、わかったわ」

 メリッサさんは意志の篭った声を上げる。

 僕らは努めて静かに動き出した。




今回は6人パーティーでいきます。
ここにさらに轟やら八百万やらいると超イージーなので


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二人の英雄 その2

 sideデヴィット

 

 数分前、私は一人の大物スポンサーと会話をしていた。

 ウィルソン・フィスク。

 アメリカを代表する実業家の一人、そして私の研究のスポンサーが一人でもある。

 縦にも横にも広い圧迫感のある人だが、どこか人好きのする人物だ。

「やあデヴィット博士、お会いできて光栄だ。すまないな、融資を打ち切ってしまいまして」

「いえ、構いません。各国の思惑で研究が妨げになるのはよくあることですから」

 あの研究が悪用されることもないであろう。

 それにトシの後継者であるあの少年のこともある。

「それで例の研究なのですが、どこまで進んでいるんです?」

「ええ、もう9割5分完成しているのですがね、だが臨床実験は済んでいないのです」

 そういった話をしている所に、司会が声をかける。

「それではお集まりの皆様、乾杯の発声はかの日本のレジェンドヒーロー。オールマイト氏にお任せしたいと思います」

 拍手が会場を埋め尽くすと、トシが近寄ってくる。

「デイヴ。聞いてないぞ」

「オールマイトが来るとなればそうなるさ」

 だが、その乾杯がなされようとした時、突如モニターにデンジャーの文字が。

 

 その瞬間、男達が銃声を伴って入ってくる。

「皆大人しくしていろ」

 瞬間、自動捕縛システムが会場中のヒーローを捉える。

 あれは個性因子に反応し、ヴィランを捕縛する装置。

 まずい。

「な、貴様ら」

 トシもまた反抗しようとするが、首魁と思しきヴィランの蹴りで倒される。

「警備システムを掌握させてもらった。抵抗すればこの街のどこかで人々が犠牲になるだろう」

 仮面をつけた大柄なヴィランがそう宣言する。

「何者だ貴様は!」

「俺の名はウォルフラム。お見知りおきを、あのオールマイトを転げさせた男だ」

 

 レセプションパーティーを突如襲ったヴィラン達。

 まさか、ここまで無体を犯すとは、しかし、何かがおかしい。

 頼りになるオールマイト、またサイクロプス、ストームといった強力なヒーロー達、彼らがなすすべなく捕らわれているという状況、出来が良すぎる。

 まさか……。

「あまり乱暴はよしてくれ」

 私はウォルフラムと名乗るヴィランに言葉を投げかける。

「デヴィット・シールド博士か。丁度いい。お前にはついてきてもらおう」

「……目的はなんだ」

 私が問いかけると、ヴィランは肩をすくめる。

「こちらとしても、あまり無体はしたくない。大人しくついてきてもらおうかな」

 そういうウォルフラムはパーティー会場の料理をムシャムシャと食べている。

 この状況に私は既視感を覚える。

 やはり。

 私はチラリと上を見る。

 そこには、緑色の髪をした少年がいた。

 私はしばし考え、頷く。

「……どこに向かえばいい?」

「話が早くて助かる。お前には最上階にご同行してもらおう」

 ヴィランは部下を伴って私を連れて行こうとする。

「は、博士になにを」

「お前も来い」

 ウォルフラムがサムを指さす。

 私はオールマイトと目線を合わせ、イズク・ミドリヤを目で指す。

 

 犯人の狙いがおおよそわかった。

 だが何故だ。どうしてここまでの無茶を。

 私としてはとにかくイズクくんが、何よりメリッサが何とか状況を打開してくれることを祈るしかできなかった。

 

 

 side緑谷

 

 僕は犯人の会話から、おおよその状況を把握する。

「かっちゃん、ヴィラン達は警備システムを占拠。デヴィットさんとともに最上階に向かっている」

「……女どもの方に戻るぞ」

「待って、オールマイトが」

 僕はオールマイトの声を聞く。

「ヴィランが警備システムを占拠、島内の人々を人質にとっている。ヒーロー達はパーティー会場に捕らわれている人たちで全員、逃げなさいって」

「……とにかく戻るぞ」

 かっちゃんに手を引かれ、僕らはメリッサさんが待つエレベーターホールまで戻った。

 

「そう、パパが……」

「メリッサさん」

 メリッサさんはしばし考え込む。

「私なら、警備システムの設定変更も可能な筈……。イズクくん。ジャービスはいる?」

「は、はい。スマートフォンに」

「スマートフォンを警備システムに接続して、ジャービスを送り込めば、セキュリティを正常に戻すことは可能な筈よ。

 必要なコードは、私なら解読できる」

 メリッサさんの言葉に、葉隠さん麗日さんは息をのむ。

「い、行くんですか。危ないですよ」

「それに、ヴィランも何人いるか」

 二人の意見も最もだ。

 だが、メリッサさんの意志は固い。

「分かってる。けれど、じっとしてなんかいられないわ。このままだとパパがヴィランに連れ去られちゃう」

 そういうメリッサさんの手は、震えていた。

 そうだ、メリッサさんにとっては、たった一人の肉親なんだ。

 けれど。

「けれど、やっぱり危ないですよ。ジャービスを使えばいいんですよね。だったら僕らで」

「いいだろ、連れてきゃ」

「かっちゃん」

 かっちゃんが僕の言葉を遮りながら言う。

「重要なのは、やる気だろうが。心配しねえでもこの姉ちゃんなら大丈夫だろ」

「そうですね、重要なのは戦う力ではなく意志です」

 塩崎さんもかっちゃんの意見を援助する。

 二人の意見に、僕も覚悟を決める。

「……わかりました。けれど、戦闘は僕達がやりますので、危ないことはしないでくださいね」

 僕が言うと、メリッサさんは力強くうなずく。

「分かったわ。……ありがとう」

「それで、とりあえず階段で管制室に向かうってことでいいんかな」

 麗日さんもまた覚悟を決めたように言う。

「そうね、管制室は最上階の200階だから、急いで向かわないと」

「200階かー。ハイヒール履いてらんないなあ」

 葉隠さんが靴を脱ぎながら言う。そしてスパンコールドレスも脱いだ。

「見ないでね爆豪くん緑谷くん。エッチ」

「見るかクソが」

「はは」

 僕らは少し笑い合ったあと、頷く。

「じゃあ行こうか。行動開始だ」

 僕らは黙って、拳を振り上げた。

 

 階段を上り、80階まで登る。

 何とかみんな息を切らしながらも到着した。

 しかし、息を全く乱していないかっちゃんと塩崎さんは流石だな。

「くそ、隔壁がしまってやがるな」

「どうしましょう。無理矢理破壊しますか」

「そんなことをすれば、すぐに警備システムに気づかれるわ。ジャービスをかして」

 メリッサさんは僕からスマートフォンを受け取ると、壁の端末を操作する。

 しばらくして、隔壁が開く。

「警報はならないと思うけど、もしかしてモニターを見張ってるヴィランがいたら」

「見つかる前に、急ぎますか」

 塩崎さんは体育祭で見せた、四足獣を模した蔦で僕らを包む。

「塩崎さん、負担が大きいと思うけど、頼める?」

「大丈夫です。緑谷さんとの特訓で私の許容量も上がってますので」

 僕らはするすると登り、何とか130階まで登った。だが、ここまでだった。

「また隔壁しまっとるね」

「いや、気づかれた」

 僕が話すと、中に通じる扉から大量の警備ロボが現れる。

「まずい!」

「は! 丁度退屈してたところだ!」

 かっちゃんが両手の爆破で警備ロボをまとめて吹き飛ばす。

 僕は耳をふさぎながらも、爆破の反響音をとらえる。

「塩崎さん! 天井に張り付けれる?」

「可能ですが。なるほどそういうことですか。麗日さん。皆さんを無重力に」

「わかった」

 塩崎さんは天井に張り付くと、天井につけられた扉から飛び出し、屋上に張り付く。

 

 

 そのまま、外壁に蔓を突き立て、登っていく。

 風力発電システムまで登り、あと少しといった所で、僕は心音を2つ捉える。

「ボスの言う通り、外壁をつたってきたか」

「雄英生か。セカンドプランも一緒だ」

 男達二人は何か薬剤を首筋に打ち込む。

 セカンドプラン? 何の話だ?

「何だありゃあ」

「……おそらく、個性ブースト薬というものでしょう。そういったもので個性を底上げするヴィランがいると聞いたことはあります」

「は、自分は雑魚ですって自己紹介か?」

 かっちゃんと塩崎さんが僕らを守るように立つ。

「丸顔! てめえはそいつら浮かせてやれ! デク! てめえは飛んでけ!」

「緑谷さん。メリッサさんのことは頼みます」

 二人はそう言い残すと、ヴィラン達に突撃していく。

「麗日さん頼む、メリッサさんと葉隠さんはしっかり掴まって!」

「了解! 行って!」

 僕らは空中をたどり、何とか最上階にたどり着いた。

 

「最上階、ついたね」

「待って、デヴィットさんだ。サムさんもいる」

「パパ」

 男達に囲まれ、デヴィットさんは何か作業をしている。

「パパ? 一体何をさせられてるんだろう?」

「……何とか、時間を稼いでもらうしかない。僕らは、とにかく警備システムを」

「そうだね。あっちじゃない?」

 葉隠さんが指さすほうには、部屋を挟んで向こう側に確かに通路がある。

「あの先にあるモニターに、コードを打ち込めば、葉隠さん、イズクくん。私をあそこまで」

 敵は4人、ならば最適解は。

 そうこうしている間に、サムさんはアタッシュケースのようなものを保管庫から持ってくる。

 僕が考えている間に、葉隠さんがするすると敵に接近する。

 そして、彼女が思いっきり殴りつけると、糸が切れたように敵は倒れ伏す。

 男達はわけも分からず、葉隠さんにより次々と倒される。

 やっぱ葉隠さんの個性ってえげつないなあ。

 僕はフルカウルで近づいて男達を殴りつける。

 彼女のサムズアップに答えつつ、僕はデヴィットさんたちに近づく。

 他にヴィランはいないはず。

「デヴィットさん! サムさん! 大丈夫ですか?!」

「パパ!」

 瞬間、デヴィットさんは弾かれたように叫ぶ。

「いかん二人とも、サムは!」

 そう言うと、サムさんがメリッサさんに銃を向ける。

 だが、遅い。

 僕は20%フルカウルで近づき、銃を奪い取る。

「サムさん! 一体何を!」

「……この襲撃事件は、サムの手引きで行われたものだ」

 デヴィットさんが沈痛な面持ちで言うと、メリッサさんはショックを受けたように口を覆う。

「そ、そんな。なんで」

 サムさんが膝をつくと、沈痛な表情で話し始めた。

 デヴィットさんが主導していた個性制御装置の研究が、個性社会の崩壊を恐れた各国政府の圧力により凍結されたこと。

 そして、その制御装置を手に入れようとしたヴィランがサムさんに接触し、今回の襲撃計画を企てたこと。

「以前お前が私に言った計画そのままだからな。しかし、なぜだ?

 きっぱりと断ったはずだ。装置など渡してもいい。悪事に加担することはしないと」

「? 以前打ち明けられたってこと?」

 葉隠さんの問いに、デヴィットさんは頷く。

「ああ、だがその時は聞かなかったことにした。あまりに実現性に乏しい。護衛であるサイクロプスやストームといったヒーローの目を欺いて計画を遂行するなど不可能だ。

 何より、装置などなくても、イズクくんがいる」

「僕?」

「ああ、元々個性の消えかかったオールマイトのために使おうとした装置だったが、オールマイトの弟子であるイズクくんは凄まじい勢いで強くなっている。

 体育祭やトシとの期末試験での姿をみて、その装置で現状維持をする必要はないと思った。

 未来のヒーローは、確かに育っているのだから」

 僕はじわりと胸に灯がともる感覚がした。

 一方葉隠さんが小首を傾げる。

「オールマイト先生って、個性が消えかかってるの?」

 ……まずい。

「ああと、葉隠さん、それは……」

 僕の言葉を遮ってサムさんは震えながら、デヴィットさんに叫ぶ。

「あなたが悪いんですよ! 長年あなたにつかえてきて、この装置によって受けるはずだった名誉、名声、全て失ってしまった。

 だが、あなたは装置をあっさりとスポンサーに渡し、研究成果を手放してしまった。

 せめてお金位ないと、割に合いません!」

「だからって、こんな大それたこと!」

 確かに、これって内乱罪とかになるのではないだろうか。

 葉隠さんがそこで挙手をする。僕にしかわからないんだけど。

「とにかく! 色々言いたいことはあるけど! ヴィランが戻ってくるまえに解除コードを入力しないと!」

「……そうね。イズクくん。サムさんを見張ってて」

 メリッサさんがジャービスを持って通路へ走っていく。

 一方僕は、この部屋に近づく足音を察知する。

「いけない! デヴィットさん! サムさんを見張ってください!」

 僕はデヴィットさんに拳銃を渡し、足音の方に向かう。

「イズクくん!?」

「メリッサさん走って!」

 先手必勝。40%スマッシュ!

 だが、とんでもなく硬い壁に阻まれる。

「! アダマンチウム!」

 金属を操る個性。

 そんな個性持ちがアダマンチウムで武装しているなんて。

 ヴィランは、にやりと笑う。

「やれやれ。計画は失敗だな。全く邪魔してくれる」

 

 だが、ヴィランは口調とは裏腹に冷静だった。床を触ると、メリッサさんの足元が隆起し捕らわれる。

「セカンドプランといこうか」

「あ、きゃあああ!!」

「メリッサさん!!」

 メリッサさんの首筋に、ヴィランの手元から伸びた金属が巻かれる。

 そのまま締め上げられるメリッサさんに僕の頭が沸騰しそうになる。

「メリッサ! やめてくれウォルフラム!」

「やめて欲しければ、一緒に来てもらうぞデヴィット・シールド博士」

 そう言ってウォルフラムは、笑った。

 




すげえサクサク進んだ。
やっぱかっちゃんと塩崎さんが優秀すぎるなコレ。

ウォルフラムは金属なら何でも操れるっぽいのでアダマンチウム操ってもらいました。
それだけで大分強くなる不思議


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二人の英雄 その3

 ウォルフラムは、笑いながらメリッサさんを締め上げる。

「やめろてめえ!」

「じゃあ大人しくしてるんだな。雄英体育祭優勝者、緑谷出久」

「……くわしいんだな」

「お前、自分が思ってる以上に有名なんだぜ。

 何せお前がいなければもっと計画はラクだったんだから。

 おいサム。装置を持って来い」

「は、はい」

 サムさんは慌てたように装置を持ってくる。

 くそ、何とか隙を見つけてメリッサさんを助けないと。

 そうしている間にもウォルフラムはメリッサさんを引き寄せ、部下に預けた。

 部下は手を刃に変化させ、メリッサさんに突きつける。

「ソキル。離すなよ。シールド博士もきてもらおうか」

「く、メリッサ」

 逡巡しつつも、デヴィットさんは近づく。

「良い子だ。俺らはとっととヘリでづらかるか。だがその前に」

 

 ウォルフラムはアタッシュケースからヘッドギアのような装置を取り出すと、手で弄ぶ。

「装置は95%が完成済み。だが、あと5%が問題、そうだな」

「は、はい。その設計図は博士の頭の中のみにあります」

 サムさんの言葉に、デヴィット博士は苦虫をかみつぶしたようになる。

「何故そんな面倒くさいことを。シールド博士」

 ウォルフラムは慇懃な態度でデヴィットさんに問う。

「よくも抜け抜けと、貴様らのような奴らが装置を狙っていると知った時から、この研究を完成させるには細心の注意を払わねばならなくなった。

 案の定、何者かの意図により、研究は凍結された。そして、私は装置を未完成のままにした」

「だからこそ、俺達が余分に仕事をしなければならなくなったんだ」

 ウォルフラムがため息を吐く。

「設計図を前もって手に入れ、こんなものを作らざるを得なくなった」

 そう言ってウォルフラムが取り出したのは小型の耳当てのような装置だ。

「そ、そんな馬鹿な! 私以外にその装置を完成させることができるのは! 一介のヴィランには無理なはずだ!」

「生憎、強力なスポンサーがいるのさ」

 ウォルフラムが耳当てを当て、その上から装置を当てると、奴の体がエネルギーをまとう。

「さあて、まずは、目障りなお前からだ。緑谷出久」

 そう言うと、奴は僕に手をかざす。金属片が、僕の体を包む。

 まずい。せめてメリッサさんを。でもどうやって。

 その時、葉隠さんがソキルと呼ばれた男に近づき、首を絞め上げた。

 今だ。

「フルカウル。80%!」

 瞬間、部屋に暴風が吹き荒れ、金属片が吹き飛び全ての人間が目をつぶる。

 すぐに出力を落とし、シールド博士、メリッサさん葉隠さんを連れ、離脱する。

 脱兎のごとく、逃げに徹し、通路から制御用コンピュータに近づく。

「メリッサさん! 解除を!」

「う、うん! ありがとう」

 そう言うと、メリッサさんはコードを解除し始める。

 奴らは? 逃げるか?

 その時、レーダーセンスが異常を示す。

 

 いや、これはまさか、センスは正常なのか?

 

 床が波打っている!

 

 

 

 side爆豪

 

「ハウザー・インパクト!」

 俺が必殺技をかますと、ヴィランは壁に叩き付けられ動かなくなった。

 口ほどにもねえ。

「おい、茨女。そっちは」

 ゴキ!

「ぐああああああああああ!!」

 見ると両腕を外されたヴィランが苦悶の表情を見せながらツルに拘束される。

「何か?」

 おう、やっぱやるなこいつ。

「や、やりすぎちゃう?」

「逡巡している間に被害が広がります。スイッチの切り替えが遅いのは問題ですので」

 くだらない問答してる場合じゃねえ

「おい、丸顔、俺ら浮かせろ。飛んでく」

「お願いします」

「う、うん。……何あれ?」

 見ると、最上階にあたる外壁がたわんでいた。

どう考えても個性によるものだろう。

「おい、てめえらのボスの個性は?」

 俺は茨女が拘束したヴィランに尋ねる。

「誰が言う……。ヒ!」

 見ると茨女がじっとヴィランを見つめている。

「あ、金属操作だ。でもあんな規模じゃなかった」

「おい、何かやべえぞ! 行くぞ!」

 そういったとたんタワーの天辺が破裂した。瓦礫が俺らに降り注ぐ。

「く!」

 俺は爆破で防ぎながら叫ぶ!

「お前ら俺の後ろに来い! クソデクめ! 何してやがる!」

「見てください! あれを!」

 見ると、デクの野郎が金髪女とおっさん2人を抱えて離脱し、屋上に向かった。

 おそらく透明女もいるのだろう。

「おい、とっとと行くぞ」

 

 

 side緑谷

 

 金属片をかわしながら、僕らは天井に登った。

 けれど、金属は触手のようになって次々と僕らを襲う。

「おいおい、とっととそいつらを渡せ。時間がないんだよ」

 そう言う、ウォルフラムは、個性で形成した巨大な金属の塔の上で僕らと対峙する。

「そんなことできるわけないだろう。とっとと逃げたらどうなんだ。すぐにオールマイトが来るぞ」

 僕の威嚇にウォルフラムは取り合う様子がない。

「やっぱり、お前が厄介だ。デヴィット・シールドだけでなく、セカンドプランまで守り抜くとはな」

「さっきから、メリッサさんをセカンドプランて呼ぶのは何なんだ?」

 まあ何となく目的は察するけど。

「ふん、装置の量産のためには博士の力が必要というだけだ。そのためには、一人娘ってのは手っ取り早い」

「……下種が」

「そういうな。自覚はある。だがあくまでセカンドプランだ。別段今ここで殺してもいい」

 何でもなさそうにウォルフラムは言う。

 メリッサさんが僅かに怯み、葉隠さんが彼女を庇う。

「お前らがとっとと別れてくれてたら助かったんだがな。そうすれば迎えに行ったのに」

「……かっちゃんの言う通りにして正解だったか」

 僕は背中にメリッサさんたちを庇う。

「まあいい、予定は変更されるものだ。生け捕りが無理なら、殺すまでだ。

 デヴィット・シールド最後の作品。その肩書きもまた、この装置の価値を吊り上げる」

「勝手を抜かしてるんじゃない!」

 僕の怒声をウォルフラムは受け流し、巨大な金属塊を形成する。

「別段恨んでもらって構わん。

 タワーごと潰れろ」

 そう言って金属塊を振り下ろす。

「トルネイド・スマッシュ!!」

 僕は、80%の力で、金属塊を打ち砕く。

 衝撃波が辺りに炸裂する。

「きゃああああ!!」

「メリッサ!!」

 金属の触手がメリッサさんを浚う。

 それが目的か。

 僕は砕いた金属片を足場にメリッサさんに近づき触手を砕き、彼女を抱える。

「メリッサさん! 大丈夫ですか!?」

「う、うん」

「は、ならこっちだ」

 そう言って金属の触手が今度はデヴィットさんに殺到する。

 まずいと思った所で、良く知った心音がデヴィットさんと葉隠さんを抱える。

「かっちゃん!」

「デク! 何てこずってやがる!」

「緑谷さんメリッサさんをこちらに」

 塩崎さんに言われ、僕は彼女を引き渡す。

「イズクくん。このベルトのスイッチを押して」

「メリッサさん。一体何を」

「本当はサプライズだったんだけど、そうも言ってられないよね」

 メリッサさんはそう言うと、僕の手を握る。

「緑谷さん、メリッサさん、ヴィランがヘリで逃げます!」

 ヘリの駆動音が聞こえる。中には、ウォルフラムがいる。

 このまま逃がすわけにはいかない。

 僕は、塩崎さんにメリッサさんを任せ、飛んで行った。

 

 

sideウォルフラム

 

 くそ、やはりあのガキが厄介だ。

 だがまあいい。装置は手に入った。

 これさえあれば俺は無敵だ。

 そう思っていた所で、衝撃がヘリに響く。

 

 現れたのは、赤い悪魔だった。

 さっきまでのボロボロの衣装とは明らかに違うヒーロースーツ、

 

「てめえは! 緑谷!」

「いや」

 

 緑谷は俺の方を見て、怒気を隠さず言う。

 

「デアデビルだ。捕らえに来た」

 

 そう言って殴りかかってくる。

 俺はアダマンチウムで盾を形成し、防いだ。

 衝撃波がヘリを破壊し、気持ち悪く揺れた。




次回 二人の英雄編最終回。


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二人の英雄 その4

 ヘリが墜落し、僕は人を3人抱え離脱する。

 ヴィランとサムさんを捕らえ、放り投げる。

 塩崎さんの茨が三人をキャッチし拘束する。

 僕の後ろで、巨大な金属の巨人が形成される。

「この野郎。邪魔ばかりしてくれる!」

 僕は高速で移動し金属の触手を避けていく。

 だが、ウォルフラムは僕を狙い撃ちながらも、塩崎さんやかっちゃんにも攻撃を加えていく。

「デアデビル! 右ポケットの中に!」

 メリッサさんに言われ、僕はポケットを弄る。

 中に球体を見つけ、僕は意図を察する。

「メリッサ・シールド! てめえ目障りだ!」

 金属の触腕が塩崎さんとメリッサさんに殺到し、塩崎さんは咄嗟にメリッサさんを突き飛ばす。

 悲鳴をあげ、塩崎さんが墜落し、かっちゃんが抱える。

 メリッサさんに金属の触腕が殺到し、僕は衝撃波で彼女を守る。

「ごめんなさいイズクくん。私、足手まといで」

「そんなことありませんよ」

 僕はそう言って、メリッサさんの頬に手を当てる。

「見ててください。あなたがくれたスーツとアイテムで、あいつを倒すところを」

 そう言うと、僕はかっちゃんにメリッサさんを預ける。僕はかっちゃんに向き直る。

「かっちゃん、二人を頼む」

「ああ! てめえ勝手に! うっ」

 僕の表情を見たかっちゃんが一歩後ろにさがる。

「クソが。とっとと決めてこい!」

「ありがとう」

 かっちゃんはそういうと、デヴィットさん葉隠さん麗日さんのところに向かった。

 

 流石に、キレた。

 

 僕はウォルフラムに対し、80%を解放する。

 そのまま、僕はまっすぐダッシュする。

 それだけで衝撃波が、金属片を破壊していく。

「舐めんじゃねえ!」

 ウォルフラムが叫ぶ。

 僕は球状の閃光弾を投擲する。

「ぐあ! 小細工を!」

 その一瞬で十分だった。

 僕はウォルフラムの目の前に移動する。

 咄嗟にウォルフラムはアダマンチウムを展開する。

 それでいい。

「100%フルガントレット! スマッシュ!」

 その瞬間、紫電が吹き荒れ、アダマンチウムごとウォルフラムを吹き飛ばす。

 どれだけ硬度の高い金属でも、吸収できる衝撃には限度がある。

 僕は倒れたウォルフラムをひねり上げる。

 だが、ウォルフラムは意味ありげににやりと笑った。

「イズクくん! 上!」

 メリッサさんの叫びで気づく。

 レーダーセンスで全貌を把握できないほど巨大な金属塊が、タワーの上にあることを。

「全てぶっ壊れろ……」

 ウォルフラムはそう言い残し、気絶する。

 制御を失った金属塊が落ちてくる。

 僕は飛び上がった。イケるか?

 

 もう一度飛び立ち、一撃を当てようとする。

 僕の隣に飛び立つ一人の影。

「オールマイト!」

「緑谷少年! 一人だと手に余りそうだ!」

 僕は頷き、右腕を構える。

 こういう時こそ、笑え。

 

「「ダブルデトロイト! スマーッシュ!!」」

 

 瞬間、ガントレットが、金属片がひび割れる。

 それでも、振り抜く。

「行け! オールマイト!」

「トシ! やってくれ!」

「緑谷くん!」

「デクくん!」

「緑谷さん!」

 

「イズクくん!」

 

 砕け散った金属片が、雪のように降り注いだ。

 僕はそれを音で聞きながら、皆に手を振った。

 瞬間、真っ先に駆け寄ってくるメリッサさんを抱きとめる。

 そのまま4人の女性にもみくちゃにされた僕は、朝日を浴びて、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 結局、エキスポは中止になった。

 まあ当然だろう。

 僕らに目立った怪我もなく、警察の聴取を受けることとなる。

 それが解放されたのが、昼頃。そのまま仮眠を取り、起きた時にはお腹がペコペコだった。 

 

 

 僕らは打ち上げも兼ねて、レストランでバーベキューをすることになった。

 そこで、僕らはひとまず乾杯する。

「ええ、それでは皆さんお疲れ様でした!」

「「「「「お疲れ様でーす!」」」」」

 僕らはしばし歓談する。

「かっちゃん、肉だけじゃなくて野菜も食べなきゃ」

「お前は親か?」

 僕らはわいわいと騒ぎながらも、食事をすすめていく。

 

 折を見て、葉隠さんとオールマイト、メリッサさんとともに追加の串を用意していく。

「そうか、葉隠少女とメリッサも知ってしまったか」

 僕らの話は、オールマイトの弱体化の話だった。

「はい、聞いちゃいました」

「ふむ、聞いてしまったなら仕方ない。だが、他言は避けて欲しい」

「麗日さんたちには、いいんでしょうか?」

「うむ、ここまで協力してもらって言わないのも忍びないが、こればかりは、な」

 オールマイトは沈痛な表情を浮かべる。

 葉隠さんは元気に頷いた。

「了解です!」

 

 そして、翌日には帰るというところで、僕はメリッサさんにラボに呼び出された。

「はい、予備のガントレット。よければ使って」

「ありがとうございます。何から何まで」

「ううん、助かっちゃった。私のこと、何度も守ってくれてありがとう」

 そう笑うメリッサさんは、僕の横に座る。

 何かいつもより距離が近くて、僕は少しドキドキする。

「あの時、私のことを肯定してくれてありがとう。嬉しかった」

「……メリッサさんは凄い人です。あなたのアイテムで僕は何度も助かった」

 そう言うと、メリッサさんは首を振る。

「ううん、大したことないわ。あなたは、本当にオールマイトおじさまみたいに強くて、私は少し背中を押すことしかできない」

「……その少しが、とてつもなく大きいんです。僕にとって」

 そう言うと、メリッサさんは僕の手を握る。

「そのメリッサさんこそ。僕何度もあなたを危険な目にあわせて、怖い思いをさせて」

 そう言うと、メリッサさんは強く首を振る。

「確かに、少し震えちゃった時もある。けれど、あなたのおかげで、私は立ち向かうことができた」

 メリッサさんは両手で僕の手を握る。

「あなたの背中が、私を安心させてくれた。だからありがとう」

 そう言うと、メリッサさんは、僕の手を額に当てる。

 しばらくそうしていると、メリッサさんは迷ったように口をパクパクさせる。

「あの、言いたいことがあれば何でも言ってください」

 そう言うと、メリッサさんは意を決したように言う。

 

「じゃあ、聞かせてもらいたいんだけど。イズクくんって誰か付き合ってる子いるの?」 

「へあ?」

 

「茨さん? 麗日さん? 葉隠さん? 誰?」

「いえ、あの3人とも特に、塩崎さんは僕のことを慕ってくれてますけど正式に付き合ったわけではなくてその」

「ふむ、なるほど」

 メリッサさんは口に手を当て考え込む。

「あの、何故急に」

 僕の問いに、メリッサさんは意地悪気な笑みを浮かべる。

「……何でだと思う?」

 そういうメリッサさんは、何故か触れがたく、僕は顔を赤くする。

「あの、えっと」

「……だってしょうがないじゃない。あんなに助けられて、かっこよくて……」

「メリッサさん」

「でも、困らせたいわけじゃないの。本当よ」

 そう言うと、メリッサさんは笑って、僕の頬にキスした。

 キス、された。

「いつか、逃げずにちゃんと選んでね。待ってるから」

 

 そこからは、良く覚えてないまま部屋に戻った。

 

 そして、ここを発つ。

 メリッサさんは昨日のことなどなかったかのように、塩崎さんと楽しげに話している。

 僕はボーっとしながら、麗日さんに揺すられる。

「どうしたん? 今日何か変だよ?」

「あ、いや……」

 僕は音だけの世界で、あの柔らかい感触を思い出す。

 逃げてばかりは、いられないか。 

 

 僕は何となく寂しさを覚えながら、ただ二人を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究室の一室でウィルソン・フィスクはその装置を見上げていた。

「完成度はこれで90%といったところです」

「……シールド博士の身柄さえあれば、もっと進んでいただろうがな」

 ウィルソンはため息をつきながら、巨大な装置と、それに接続された女性を見つめる。

「もうすぐ君を助けられる。ヴァネッサよ」

 そう呟く男の表情は、極めて善良なものだった。




二人の英雄編終了。
少し林間合宿編は遅れるかもです。


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林間合宿
林間合宿 始まりと出会い


お待たせしました。林間合宿です。
ちょっとこれまでの更新頻度を維持できないと思いますが、何とか完結目指して頑張ります。


 I・アイランドから戻ってすぐの、林間合宿当日。

 僕らは早朝からバスに乗り込もうとしていた。

「やあ! A組。体育祭では色々あったけどよろしく!」

「取蔭さん、その節はどうも」

 隣では轟くんと鉄哲くんが仲良さげに話している。

 僕は塩崎さんに手を振ると彼女も嬉しそうに手を振った。

「よりどりみどりじゃねえか……」

「お前駄目だぞそろそろ」

「さあ、皆、早く席に着くんだ!」

 飯田君張り切ってるなあ。

 

 バスの中で、僕は飯田くんと話をする。

「I・アイランドでは残念だったな。エキスポが中止になって」

「うん、でも仕方ないよ」

 そう返しながら、僕はメリッサさんの唇の感触を思い出す。

「ん? どうした? 顔が赤いが。体調でも悪いのか?」

「う、ううん何でもない!」

 僕の煩悶は、騒がしい車内が流してくれた。

 かに見えた。

「緑谷、もしかしてメリッサさんと何かあったんじゃねえだろうな」

 峰田くんがゆらりと僕に近づく。こわ! 何でわかんの!?

「な、ないない! 何言ってるの!」

「嘘つけー!! 絶対あった反応だろ!」

「峰田くん! 移動中のバスで席を立つんじゃない!」

 飯田くん、もっと言ってやって。

「なあ爆豪。お前も一緒に行ったんだろ? 何かあったのか?」

 上鳴くんがかっちゃんに尋ねる。

「知るかよ。発明女とデクがどうなろうが勝手だろ。んなデリカシーねえから彼女もできんのだわ」

 かっちゃんありがとう。

「ぐ、ひでえ。だがそうかもしれん」

「だからってそりゃあねえよ。何で緑谷だけこんなにモテるんじゃあ」

 峰田くんがよよいよよいと泣きながら席に戻る。

 確実に何かあった体で納得されている。

 僕隠し事が下手なのかな。

 

 そうこうしているうちに、休憩場所についた。

 見知った気配がする。

「つうか何ここ、パーキングじゃなくね?」

「……なんの目的もなくでは効果が薄いからな」

「よーうイレイザー。緑谷くんも久しぶり」

 この人たちはまさか!

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「ワイルドワイルドプッシーキャッツ!」

「ワイプシだー!!」

 僕のテンションが上がる。

「デクくんは本当にワイプシ好きなんなあ」

「正直厳しい」

 こらこら峰田くん殺されるぞ。

「ここら一帯は私らの所有地なんだけど。君らの宿泊施設はあの山のふもとね」

「遠い!」

 すっごい嫌な予感がする。

「いや、あのほら、バスに戻ろうぜ皆」

 流石に皆も察しているようだ。

「今が9:30。到着まで12時前後ってところかしらん」

 ピクシーボブがしゃがみ個性を発動。

 僕は近くにいた麗日さんを掴み飛び上がる。

 麗日さんが個性を発動し浮き上がる。

「うわあ、土流すごいー」

 何とか着地、見るとかっちゃんと轟くんも回避していた。

「ふふ、避けるとはやるねえ」

「無駄な抵抗は止めて早くいけ、ちゃんと全員で来いよ」

 やっぱ無駄な抵抗だったか。

「行けって言われりゃ行くんだよ俺らは。いきなり襲われたら避けるだろうが普通よお」

「そりゃ悪かった。早く行け」

 かっちゃんは舌打ちしながら降りていく。僕らもそれに続いた。

「お前らずるいぞ自分だけ避けて!」

「避けれねえほうが悪い」

 止めて総意みたいに言わないで。

 僕はとりあえず森の中を探る。

 んー?

「デクくんどうしたん?」

「いや、生き物の気配はそんなにないんだけど、何かが蠢いている? 何だこれ?」

「え? コワ」

 僕らが警戒していると、峰田くんがダッシュで森に近づく。おしっこ我慢してたのか。

 すると、蠢くものの正体が分かる。

「マジュウだー!」

 いや、臭いから土でできた塊だ。

 これなら。

 僕とかっちゃんが真っ先に近づき、土くれを破壊する。

「さて、どんどん行こうか! ごはん食べたいし!」

「デクお前腹減ってんのか」

 ごはんごはん。

 

 結局到着したのは3時前後だった。頑張ったんだけどなあ。

 

「何が12時前後ですか」

「腹減った。死ぬ」

「はちみつとガムシロップ舐める?」

「いや、いいわ」

 いいのか。

「悪いね、あれ私らならって意味」

「実力差自慢のためか」

「ねこねこねこ。でも結構早かったね。特にそこの6人。躊躇のなさは経験値によるものかしら」

 そう言って僕、飯田くん、かっちゃん、轟くん、麗日さん、葉隠さんを指さす。

「特に男子四人! 3年後が楽しみ! 唾つけとこー!」

 そう言って物理的に唾をつけてきた。うわあ。

「マンダレイ。あの人あんなでしたっけ」

「彼女焦ってるの。適齢期的なあれで」

 現役プロヒーローならいくらでもありそうだけどなあ。

「適齢期といえば」

「いえばて」

 グローブによりもふうと音がする。これ欲しいな。

「そのお子さんは、どなたかの息子さんですか」

 そう言って僕は先ほどからこちらを睨んでいる子どもに目を向ける。

「いや、この子は私の従甥だよ。ほら洸汰。挨拶しな」

「ええと、僕は雄英ヒーロー科の緑谷出久。よろしく」

 するといきなり股間に攻撃してきたので、思わず手のひらで受け止める。

「うお、アブねえ!」

「こら! いきなり緑谷くんの陰嚢に攻撃するとは何事だ従甥ー!」

「ああ、飯田くんいいんだよ」

 洸汰くんはこちらを睨みながら、怒りを堪えた声で言う。

「ヒーローになりたいって連中とつるむ気はねえよ」

「つるむ、いくつだ君」

 洸汰くん、何かあったのかな。

「マセガキ」

「爆豪に似てねえか」

「似てねえわクソが!」

 どれどれ。

 僕は洸汰くんに近づき、反響音で注意深く探る。

「うわー。本当ちっちゃいころのかっちゃんだー」

「うるせえはクソが! 似てねえだろ!」

「いや、兄弟でしょもはや」

「調子乗んじゃねえクソが!」

 相澤先生が咳払いする。僕らは気をつけする。

「茶番はいい。まずは時間が中途半端だが夕食。その後は入浴後就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さあ早くしろ」

 

 

「いただきます!」

 僕らは食堂でごはんを食べる。

「魚も肉も野菜も! 贅沢だぜー!」

「あ、緑谷くん。あなたはこれ」

 僕が渡されたどんぶりは、僕の頭位の量の米が盛られていた。

「常人の10倍だっけ。流石にそんだけ食べられるとおかずがなくなっちゃうからねえ」

「おかわりお願いします」

「「「「「手品かよ!」」」」」

「……フフ、やるわね。燃えてきたわ。かかってらっしゃい!」

 僕とマンダレイの間に火花が散る。

「お前らは何と戦ってんだ」

 かっちゃんが聞く。なんだろうね。

「ま、色々と世話を焼くのは今日までだから、今のうちにたんと食いな」

「あ、洸汰。そこのお野菜運んでおいて」

 洸汰くんが不機嫌ながらも野菜の入った段ボールを運んでいく。

 僕はなんとなくその姿が気になっていた。

「おかわりください」

「こ、この子。できる」

 

 そして入浴。

「いや、メシとかはね、ぶっちゃけいいんすよ。求められてるのはこの壁の向こう側なんすよ

 おいらその辺よくわかってるんすよ」

「ダメだよ峰田くん。のぞきは」

 何となく意図を察し、僕は釘をさす。

「緑谷くんの言う通りだ! 君の行為は女性陣も自分も貶める行為だ!」

「やかましいんすよ。ていうか緑谷は何でそこまでおいらの邪魔をするんだよ」

 何でってこの人ホント凄いな。

「麗日さんも葉隠さんも、皆友達だから、そういう対象にするのは良くないっていうか。

 というか何で僕責められてるの?」

 僕の言い分に、峰田くんはため息をつきながら両手を上に向ける。何そのポーズ。

「はあ、緑谷。お前はそういうことか。一応言っておくがな、友情から愛情に変わるのが普通だし、友達と思ってた女の子にドキっとするなんて普通だろ? 何もおかしいことなんてねえんだぞ」

「……そういうもの?」

 峰田くんは壁によりかかり、僕の方を見つめる。

「そうそう、塩崎ちゃんやメリッサさんのことでもそうだけど。緑谷は恋愛を難しく考えすぎなんだよな。別に今まで尊敬してたり慕ってたりした感情が恋愛に移行するなんて普通じゃん」

 ……そっか。じゃあ、僕の気持ちの変化も。

「じゃ、そういうことで」

 そう言ってもぎもぎを壁に取り付ける峰田くんの肩を抑える。

「いや、駄目だよ」

「んだよ! こちとらこれのために期末頑張って来たんだよ行かせてくれよイキたいんだよオイラは!」

 そう言って暴れる峰田くんを押さえていると、僕の腰に巻き付けていたタオルが落ちる。

 瞬間、空気が凍る。

「ん、峰田くん?」

「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

「うるさ!」

 僕のレーダーセンスが乱れるほどの声量が峰田くんから飛び出す。まさか峰田くん、声撃を?

「ふ、ふざけんなよ緑谷! 臨戦態勢でなくてそのサイズってなんだよ! メリッサさんや塩崎さん裂けちまうよこんなん!」

「うるさいよ峰田くん! 女子に聞こえるから!」

 多分手遅れだろうけど。

「ええ、そんな。普通じゃないの?」

「普通なわけねえだろ! 何を根拠に! ……まさか」

 峰田くんがかっちゃんの方を向く。

「あ、なんだ玉」

 峰田くんは露天風呂の横で座るかっちゃんに近づき、タオルをはぎ取る。

「な、なんじゃこりゃああああああああああああああ!! そっちでも才能マンかよ! ふざけんなよ折寺中学は化け物」

「死ね玉!!」

 かっちゃんが右ストレートを見舞う。

 峰田くんがバウンドした。

「いや、すげえわ。何だよ幼馴染コンビ、すげえよ」

「ああすげえ」

「何がすげえだ! 気持ちわりいんだよクソが!」

 本当かっちゃんに同意する。

 峰田くんはよろよろと壁に近づくと、隙をついて上り始めた。

「あんなんみたら覗くしかねえ! 行ったらあ!」

「どういう論理的帰結!?」

 すると、影が境の中から飛び出した。

「人としてのアレコレから学びなおせ」

「クソガキいいいいい!」

 洸汰君ナイス。

 すると、洸汰くんが何故か落ちてきた。まずい!

 僕はフルカウルで飛び出し洸汰くんをキャッチする。

 失神している。どうしたんだろうか?

「ちょっと行ってくる!」

 僕はタオルを巻きなおし、走っていった。

「てめえせめて下着くらい履いてけや!」

 

「落下の恐怖で失神しただけだね」

 マンダレイが洸汰くんを寝かせながら僕に言う。

「なんともなくて良かったです」

「よっぽど慌ててくれたんだね」

 確かに下着姿だしなあ。

「おめえ下着履いてけとは言ったがパン一はねえだろ変態野郎」

 かっちゃんが僕をからかうように言う。

「な」

「確かにねえ」

 マンダレイに笑われ僕は赤面する。気を取り直して、僕は洸汰くんを見て言う。

「洸汰くんは、ヒーローに否定的なんですね。この年頃の子どもでそういうの珍しいっていうか」

「……そうね。当然世間はヒーローに否定的な人も大勢いるけど、普通に育ってればこの子もヒーローに憧れてたんじゃないかな」

「普通」

「洸汰の両親。ヒーローだったんだけど、殉職しちゃったの」

 ピクシーボブの言葉に、僕は言葉に詰まる。

「二年前、敵から市民を庇ってね、ヒーローとしてはこの上なく立派な最期だったけど、子どもにはわかんないわね」

「両親は自分を置いていったのに、世間は褒め讃えたわけか。そりゃあ歪むわな」

 かっちゃんの言葉にマンダレイも頷く。

「私らのことも良く思ってないみたいだけど、他に身よりもないから仕方なく従ってる感じ。

 洸汰にとって、ヒーローってのは理解しがたい気持ち悪い人種なんだよ」

 

 確かに、理解できないかもしれない。

 けれど、それでも僕は人を助けたいって思った。

 それで、残された人はどう思うか。

 洸汰くんの姿に僕は何故か母さんの姿を重ねて、何も言えなくなった。




いやほら大きい方がR-18編とか書くとき楽しいじゃないですか(最低)
まあ大きけりゃ喜ぶとか童貞の発想らしいですけど。

そして林間編ではかっちゃんに頑張ってもらいたいので色々フラグ立てておきます。


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林間合宿 二日目とカレー

 結局あの後は悶々として寝れなかった。

 僕にできることは何かあるだろうか。

「何もねえだろ。思い上がんな」

「かっちゃん……」

 何でこの人僕の考えてることがすぐ分かるんだろう。

「お前わかりやすいからな。大方、あのガキに何か言えることがあるか考えてるんだろ」

 図星です。

 僕はバンダナを深く被りなおす。

「何もねえよ。たかだか一週間程度関わる位のヒーロー候補生のガキに、一体何が言えるってんだ」

「……そうだよね」

「ぐだぐだ考えてねえで、俺らがやるべきことをやるしかねえだろ。とっとと強くなって、ヴィラン連合をとっ捕まえる資格を手に入れて、奴らぶちのめすのが最優先だろうが」

 それも学生の身分からは逸脱していることだとは思うけど、概ね言う通りだ。

 やるべきことがある。か……。

「あ、皆おはよう」

 女子達も眠そうだ。

 だが、僕らの姿を認めると、麗日さんはハッと目覚めビシっと背筋が伸びる。

「お、おはよう! いい天気やね!」

「う、うんどうしたの? 何かヘンだよ?」

「丸顔は概ねいつもヘンだろ」

「ひど、嫌だってその」

 麗日さんはもじもじしながら僕らを見る。というか女性陣概ねそんな感じだ。

 首を傾げながら、僕らは相澤先生の方へ向かう。

「おう、お前らおはよう。とりあえず遺書は書いてきたんだろうな」

(まじで何されるんだろうか)

「といっても、そんなに難しいことじゃない。君らの中でもやってるやつはいるだろう。

 個性の限界突破。個性は使えば使うほど強くなる。つまり使いまくればいいわけだ」

 成程。

「君らがどれほど辛かろうが、苦しかろうが、やり続ける限り伸び続ける。そういうものだ」

「何かブラック企業の管理職研修みたいなこと言い始めたぞ」

 相澤先生はニッコリと笑う。

「死ぬほどキツイが、くれぐれも死なないように」

 やさしく殺してほしいなあ……。

 

 

 

 

side塩崎

 

「個性を伸ばす……」

「A組はもうやっている。我々も続くぞ」

 ブラドキング先生が手を振り上げ言います。

「前期はA組が目立っていたが、後期は我々だ。行くぞ」

((不甲斐ない教え子でゴメンブラキン先生!))

 ドカーン!

「でも、20通りの個性があるわけで、何をどう伸ばすのかわからないんですけど」

「具体性が欲しいな」

 ドカーン!!

「個性とは筋繊維と同じで使えば使うほど太く、強靭になる。よって君らがやるべきは、限界突破」

 

 見ると、A組の面々は各々、個性を発動しながらの訓練をしておりました。

 麗日さんはゴムボールの中に入って転がっていますがあれはなんでしょうか?

 

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ、異形型・その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬」

 ドコーン!!

「でも、私ら合わせて40人だよ。それをたった6名で管理できるんですか?」

「だから彼女らだ」

 

「煌く眼でロックオン!」

「猫の手手助けやってくる!」

「どこからともなくやってくる」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「「「ワイルドワイルド・プッシーキャッツ!!」」」」

 ドカーン!!

 

「私の個性サーチでそれぞれの弱点を把握!」

「私の土流でそれぞれに見合った場所を形成!」

「私のテレバスでそれぞれにアドバイス!」

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ」

 そう虎さんがのたまいます。

((色々駄目だろ!))

「単純な増強型は我のもとに来い! 我ーズブートキャンプを始める」

「古!!」

「増強型と言えば、緑谷さんは? あと先ほどからの爆音は」

「ああ、それは」

「虎さーん」

 その声が聞こえると、緑谷さんは上半身裸でやってきます。

 あらまあ。

「この材木どうしましょう」

 見ると、山のような材木を抱えて、緑谷さんが近づいてきます。

「うむ、相変わらず筋がいい。こいつがその気になって暴れると辺り一面禿山になってしまうからな。

 塩崎! 貴様は緑谷とスパーだ」

「ただし、今日は2、3時間と言わず限界まで全力でやれ」

 そういうことですか。

「では、お願いします」

「いえいえ、こちらこそ」

 私は手渡されたペットボトルを抱えて緑谷さんと移動します。

「がんばんなよー茨ー」

「? ええ、はい」

 私の反応に取蔭さんはため息をつきながらも見送ります。何でしょう。

 

 

 

side緑谷

 結局、塩崎さんと一緒に夕方ごろまでスパーリングをしていた。その辺りは天変地異でも起きたかのようになっていたが。

「いよう、大分激しかったねお二人さん」

「うん、迷惑だった?」

 僕が言うと、取蔭さんは手を上げ首を振る。

「何ていうか、からかいがいがないねえ二人とも」

「取蔭やめな」

 拳藤さんが取蔭さんにチョップする。一体何なんだろう。

「さあ、昨日言ったね世話するのは今日だけだと」

「オノレの食うメシ位自分で作れ! カレー!」

 皆元気ないな。

「というかあんたら二人あれだけ暴れて余裕そうだね」

「いや、結構つらいよ」

「やせ我慢です」

「……あんたら似てるわ」

「アハハ、全身筋繊維ブッチブチ! だからって雑なネコまんまつくったら駄目ね!」

 ラグドールの言葉に飯田くんがハッとする。

「確かに災害時に要救助者の心と腹を満たすのも、救助の一環。流石雄英無駄がない! 世界一ウマいカレーを作ろう皆!」

「じゃあ、僕も……」

「あなたはまずこっち」

 マンダレイが僕に袋を手渡す。これは。

「あなたのために買ってきた。業務用パスタ5kg×日数分」

「あなた食べすぎるから、まずそれオリーブオイルと塩で食べてからにしてね」

 うわあVIP待遇。

「それ母さん怒らすと出てくるやつですね」

「あんたのお母さんの心中察するわ」

 感謝してます。

「皆、カレー作りには参加できないけど頑張って!」

「うおーふざけんな!」

「てめえに食わせるカレーはねえ!」

 そんな殺生な!

「嘘です。食材位は切るから僕の分取っておいて!」

 そう言って僕は玉ねぎを材料分切っておき、自分のパスタをゆでた。

「デクくん包丁使いうまいね」

「まあ、一人で生きれるようにと料理は結構教えてもらってるから」

「そうなんやあ」

 麗日さんと話しながら作業するが、何かもじもじしている。どうしたんだろう。

「いや、何でもないんや、本当に何でもないよー!」

 何なんだろう。

 そして僕はパスタを食べ尽くし、いざカレーというところで、離れていく洸汰くんを見つける。

 僕はカレーを持って、洸汰くんを追いかけた。

 

「ちっ何やってんだかデクが」

「爆豪。どうした?」

「何でもねえ、ちょっくら席外す」

 

 洸汰くんの腹の虫の音が聞こえる。

「お腹すいたよね、カレー食べる?」

 僕が現れると洸汰くんは驚いたようだ。

「てめえ何故ここが!」

「いや、音を辿って」

「音……? いいから出てけよ、お前らとつるむ気はねえ。俺の秘密基地から出ていけ!」

「秘密基地か……」

 僕は、辺りを見回す。位置情報、修正。把握完了。

「“個性”を伸ばすとか張り切っちゃってさ。気持ち悪い。そんなにひけらかしたいかよ、力を!」

「その、僕らが、ヒーローを目指しているのは」

「いいよ興味ねえ! 何だよもう! そんなバンダナつけちゃってさあ!」

 そう言って洸汰くんが僕のバンダナを外す。

「! ……それ!」

「あ、ごめん、怖かったよね」

 僕は茫然とする洸汰くんからバンダナを受け取り、つける。

「お前、目、見えてねえの?」

「うん、まあ、事故でね」

「……そんなんで、何でヒーロー目指すんだよ。訳わかんねえよ」

 そう言うと、洸汰くんはさらに泣きそうな顔をする。

 わけわかんないか。そうだよね。

「声が、聞こえたんだ」

「声?」

「誰かが助けを求める声が、ね」

 そう言うと、洸汰くんがポカンとする。

「その声を聞きたい。誰かが助けを求めているなら、なんとしても助けたい。それが僕の理由、かな」

「……わけわかんねえ。気持ち悪い」

「……僕なんかが言えることじゃないけど、カレー食べてよ。それじゃあね」

 そう言って、僕は降りていく。そこで、僕は見知った気配を感じる。

 

「食わねえんか、カレー」

「お前は、何だよ次から次へと」

「別に、食うんならカツ位のせるだろうと、作っといた」

「んな、材料あったのかよ?」

「ちょろまかした」

 かっちゃん。いつのまに。

「んだよ、俺のことなんてほっときゃいいだろ」

「そういう訳にもいかねえんだよ。これでもヒーロー志望だからよ」

「ヒーローヒーローって何だよ。誰かの為に戦えば偉いのかよ。それで死んでも偉いのかよ」

「……どうだかなあ、死んじまったら、元も子もねえからな」

「そうだろうが! なのに、皆、パパとママを」

「……いいからくっとけ、冷めんぞ」

 そう言うと、洸汰くんは観念したのかがつがつとかきこみ始めた。

「クソ! 何なんだよ! どいつもこいつも! 皆、おかしいよ!」

 かっちゃんはスプーンを置いて話す。

「あのデクの、もじゃもじゃ頭の顔の傷な、あれ、俺のせいなんだ」

「! お前が?」

「ああ、昔、どうしようもなく力をひけらかしたくて、無個性の奴や弱え奴いじめたり、徒党汲んで粋がってたりしてた馬鹿がいたもんでな」

「……はは、そうか。ヒーロー志望ったって、一皮むけばそんなもんだろ。力をひけらかして、個性ひけらかして、そんなことしてるから」

「だが、お前の父ちゃんと母ちゃんは、ちげえだろう」

「! そんなことわかってる!」

 洸汰くんが涙を堪える。

「そんなこと、わかってるけど」

「……すまん」

 それっきりかっちゃんは何も言わず、ただ黙々と、洸汰くんと二人でカレーを食べてた。

 ……やっぱり、敵わないなあ。

 僕はそう思いながら、その場を後にした。




かっちゃんのヒロイン力に慄くばかりの酸度です。
少し更新遅れ目になりますがご容赦ください。


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