青い狸猫の異世界冒険記 (クリスチーネ小林)
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1話 異世界召喚

好きなキャラをぶちこんでみました。


「わーい♪どら焼きの特売でこんなに大量に買えたぞ!のび太くんに見つからないように大切に食べよう!」

 

ある日、何時もの行きつけのお店の特売で、どら焼きを買い占め、上機嫌なドラえもんは

ウキウキ気分で帰り道を歩いていた。

 

すると突然、道の真ん中に光輝く魔法陣らしきモノが現れ、ドラえもんは全く気づかずにその幾何学模様のサークルに足を踏み入れる。

 

 

その瞬間ドラえもんの姿はこの世界から消えさった····

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

とある城の豪華できらびやかな広い王室の真ん中に、奇妙な魔法陣が描かれていた。

そこに複数の少女達がお互いに顔を見合わせ動揺し、訳も分からず混乱していた。

 

 

  「な、なに!?ここはどこなの!?」

   「ピナ···ピナがいない!?」

   「ここは···?先輩···?先輩!!」

 

 「静まれい!!王の御前であるぞ!!」

 

 

鎧を身に付け武装している兵士らしき男達に怒鳴られ少女達は一様に沈黙し、目の前の豪華に着飾った初老の男、王とおぼしき人物に注目した。

 

隣には魔法使いと言って差し支えのない衣装に身を包んだ怪しげな男が卑しい目線で少女達を見下ろし、ニヤつきながら王に媚びへつらっている。

 

王らしき人物は少女達を物を品定めする様な視線で見渡し、咳払いをして話をしだした。

 

「ウオッホン。よくぞこの世界に来てくれた異世界より召喚せし勇者たちよ····むっ!なんだ?そこの勇者達の後ろにのびている、奇妙な青いタヌキの獣人は!?」

 

訳も分からずにこの世界に召喚されてしまった三人の少女達はいっせいに後ろを振り向くと、確かにそこにはタヌキに似た丸っこい奇妙な存在がいた。

 

「うう~んっっ····あれ?ここはどこ?君達は誰?」

 

さっき迄まで呑気にウキウキした気分でどら焼きの入った紙袋を抱えて家路を急いでいたのに、突然見知らぬ場所に連れて来られ、見知らぬ人間が此方を一斉に凝視しているこの状況でもドラえもんは割りかし落ち着いていた。

 

何故なら彼は幾度も地球の、世界のピンチを自らの秘密道具と信頼している仲間達と共に乗り越えてきた確かな自信と経験が有ったからだ。

 

(う~ん···何やらお城の王室らしき場所に、

中世的な格好の人達、床には魔法陣と呼べるモノが描かれているな···そしてここに場違いな現代風の学校の制服の女の子達。1人はそれっぽい格好だけど···うむむむ····?

これはもしや、暇潰しにスマホで読んだネット小説のお約束···異世界召喚ってやつかな?まさか僕がこんな事に巻き込まれるなんて。大概こういうのはのび太くんの役目なんだけどな····)

 

冷静にこの状況を把握したドラえもんに、

周りを囲っていた兵士らは一斉にがなり立ててきた。

 

   「∆∇∉≅≠∞℘~ЦХ!!」

 

しかし、お約束どうり言葉が全く通じない。

 

「何言ってるのかさっぱり分からないなぁ。

まあ、異世界だしね。よーし!ここはあの道具の出番だ」

 

この世界の人間達の言葉が理解できないと知ったドラえもんはお腹にくっつけてある

四次元ポケットに丸い手を入れまさぐった。

 

「えぇ~と···うん!あった、あった。

『ほんやくコンニャク』~!!

これを食べれば言葉を理解出来て会話が可能になるんだ!」

 

取り出したほんやくコンニャクを食べるとたちまち目の前の異世界の人間の言葉が伝わってきた。

 

「何だ貴様は!?奇妙な姿をしたタヌキの獣人めっ!他国のスパイかっ!?国の命運をかけた召喚の儀式の最中に堂々と乗り込みおって!!」

 

卑しい視線で少女達を眺めていた魔法使いらしき男は憤慨し、ドラえもんにとって最大の禁句(タブー)を口にした。

 

それを聞いたドラえもんは当然、頭から煙を吹き出して洗面器が入りそうな位大きな口を開いて全力で抗議する。

 

「コラー!!誰が狸だって!!僕は22世紀の未来の世界で作られた子守り用のネコ型

ロボットのドラえもんだー!!」

 

 

   ・・・・・・・・・・・・・

 

 

しばらくの間、城の中を気まずい空気と沈黙が支配し、少し間を置いてから魔法使いらしき人物のこめかみに余りの怒りの為、血管が浮かび、大声でがなり立ててきた。

 

 

「ネ、ネコだとぉ~!?ふざけるなっ!!

どこからどうみてもタヌキの獣人そのものだろうがっ!嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけっ!」

 

全く信じてもらえず、益々兵士達の敵愾心を煽る結果となった。

 

「ぐぬぬぬ···それよりもあんた達、恐らくそこの床に描かれてある魔法陣らしき装置を使って、違う世界から無理やりこの娘達を強制的にこっちの世界へ呼び寄せて連れ出したんだな?なんてひどい真似をするんだ!こんな事この僕が許さないぞ!」

 

「黙れぇい!!王の御前でなんたる無礼···

もはや尋問も不要!即刻首をはねよ!!」

 

ドラえもんと魔法使いらしき人物。そしてこの状況に一向に口を挟めず成り行きを見守る三人の少女達····

 

三者三様に緊張感が高まる中、一匹のネズミがドラえもんの足元に駆け寄ってきた。

 

 

      「チュゥ?」

 

 

「えっ····?な、な、な····ね、ね、ね、ね······

ネズミぃぃぃ~~~!!!!!!!!!!」

 

 

その小さなネズミを見たドラえもんは周りの人間の耳が痛くなる程の大声を張り上げ、天井まで届く程高く跳ね上がって仰天した。

 

「ぎぃああぁぁ~!!??ネズミ!ネズミ!怖い!!怖い!!!」

 

「な、なんだあの青いタヌキの獣人、突然喚きだしたぞ!?」

 

ドラえもんの尋常ではない慌てぶりにこの世界へ連れてこられた三人の娘達も、王らしき人物を護衛している兵士達も訳も分からず動揺する。

 

そして、ネズミを見て理性を失い、狂乱したドラえもんはポケットから2つの道具を取り出した。

 

「こ、こうなればぁぁ~『ジャンボ・ガン』と『熱線銃』~!!」

 

ドラえもんが手にしたこのジャンボ・ガンは戦車を一発で粉々に吹き飛ばし、熱線銃に至っては鉄筋のビルを一瞬で煙にして消し去る威力がある危険極まりない秘密道具だった。

 

子守り用ロボットが何故この様なオーバーキルで物騒な道具を所持してるのか?

 

理解に苦しむが、とにかくドラえもんは最も忌むべきネズミに対して周りの事など一切お構い無しにその凶悪な威力のひみつ道具を躊躇いなく奮った。

 

「ネズミ····滅ぶべしっ!!

目の前から消え去れぇー!!えぇーいっ」

 

丸いゴムまりの手で引き金を引くと、凄まじい炸裂音が木霊し、ジャンボ・ガンの弾によって王室の壁や床は瞬時に粉々となってデカイ穴が生まれ、熱線銃から放たれた熱線によって柱や天井が白い煙となって消滅してゆく。

 

「う、うわぁぁー!!な、なんだあのタヌキの獣人の使っている魔道具は!?」

 

「ひっ、ひいぃぃー!!!」

 

「ひっ、怯むな!王をお守りするのだ!」

 

余りの凄まじい破壊力を目の当たりにして兵士達は混乱し、一種のパニック状態に陥っていた。異世界召喚された三人の少女達もこの状況に唖然となり、一歩も動けず目を点にしていた。

 

「い、いかん···信じられん!なんという威力じゃ。こ、このままでは城が崩壊してしまう···む、どうやら幸いにも魔法陣はまだ無事な様じゃな。ならば、我が魔法でこやつだけ消し飛ばしてくれるわっ!」

 

魔法使いの男は錯乱して暴れているドラえもんを取り押さえるのは不可能と判断し、かろうじて無傷な魔法陣を使って魔法を発動しようとしていた。

 

「今から放つ、この異空間転移の魔法はこのワシでも何処へ飛ばされるかは全く皆目つかん危険な術よ。この青いタヌキの獣人め····

何処の彼方へと消え去るがいいっ!」

 

呪文を唱え魔法が発動し始めた瞬間、ドラえもんの顔面にネズミが勢いよくへばりついた。

 

     「チュウゥゥ~!!」

 

「ギャアァァァー!!!ネズミがぁー!!!」

 

 

ドラえもんは更に錯乱して唖然としている少女達三人の周りを円を描くように何度も何度も高速で泣き叫びながら走り回った。すると魔法使いの放とうとしている魔法が発現し、ドラえもんと少女達三人がまとめて光輝くサークルに取込まれてゆく。

 

「なっ、なにぃー!?い、いかん!せっかく召喚した異世界の勇者達迄巻き込んでしまったじゃとぉ!?くっ、ダメだ!!魔法の発動が止められんっ!!」

 

 

ドラえもんと少女達三人は光に包まれ跡形もなくこの異世界から消え去った·····

 

 

その様子を一匹の不気味な風体をしたフクロウらしき鳥が天井の片隅でニヤニヤしながら見つめていた。

 

 

    「ホーホッホッホッ·····」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

魔法使いの異空間転移の魔法によって飛ばされた少女達は気がつくとそこは見知らぬ暗く深い森の中だった。

 

辺り一面草や樹木に囲まれ、冷たい風が吹き、容赦なく少女達三人の体温を奪ってゆく。辺りを見渡しても同じ様な風景で闇に包まれている。

 

少女達はお互い無意識に身体を寄せあい、身を縮み込ませて今のこの現状を必死で理解しようとしていた。

 

一つハッキリと分かるのは、この見知らぬ世界でこのままだと野垂れ死ぬという状況だけは三人ともすぐに理解してしまい、どうしようもない絶望感が全身を蝕んで行った。

 

「うう~ん···あれぇ?ここは?また別の世界へ跳ばされちゃったのかなぁ?」

 

遅れてようやく目を覚ましたドラえもんは周りをキョロキョロと見渡すと例の少女達に気がつき、声をかけた。

 

「あ、ねえねえ君たち、大丈夫かい?ここが何処だか分かるかな?」

 

「い、いいえ、私達もここが何処なのかさっぱり分かりません···先輩と何時もの様に帰り道を一緒に歩いていたら眩い光に包まれ、気がつくと城らしき場所で兵士の人達に取り囲まれて異世界から召喚した勇者だとか言われて、私も全く皆目がつかないんです···」

 

青と白の清涼感のある学校の夏服に身を包んだセミロングの美少女が同じく青と白の色をしたドラえもんに説明した。

 

「わ、私、皆とALOにダイブしてゲームを楽しんでいたら突然、光輝く魔法陣みたいなのに包まれて、気がつくとあの場所に居て···ピナ···」

 

三人の中で一番華奢で小柄な、髪を可愛く

ツインテールにしている美少女が瞳に涙を滲ませて不安気に呟いた。彼女の服装は赤を基調とし、胸当てを装着した如何にも異世界で活躍する冒険者風の服装をしており、三人の中でも一際異彩を放っている。

 

「あっ、私も私も!学園都市で初春と一緒に帰り道を歩いていたら同じ様に光のサークルに包まれて気がついたらあそこに居たんですよっ!!それで···その、あなたは一体···?

(どうみてもロボットだけど)」

 

三人の中で一番身長が高く、お(へそ)が丸出しの黒いスカートの夏服のセーラー服に身を包んだ美少女が艶のある綺麗で長い黒髪に白い花の形の髪飾りを揺らしながら興奮して事情を説明し、明らかにロボットであるドラえもんに誰なのかを聞いた。

 

「あぁ、ゴメンゴメン。ちゃんと自己紹介するね。僕は22世紀の未来の世界からやって来た子守り用のネコ型ロボット···ドラえもんって言うんだ。よろしくねっ!」

 

「未来の世界の子守り用のネコ型ロボットですか····(耳がないのに?)」

 

    三人共同じ想いだった。

 

依然として暗く冷たい風が四人の身体に突き刺さる。三人の内二人は学校の制服の夏服だった為、余計に身体が冷え込む。

 

「···は、ハックシュンっ!!うう~ん···ここは暗くて寒くてとてもかなわないなぁ···取り敢えずここはこの道具で····」

 

深夜の風に晒されて寸胴な体を震わせ、ロボットなのに大きなクシャミをしたドラえもんはお腹のポケットをまさぐる。

 

少女達三人も共に仲良くポケットに視線を集めた。

 

  「え~と···あったあった!これだ。

  『ポンプ地下室』!!」

 

ドラえもんは小さな箱の様な物を取り出して、地面をスコップで土を掘り箱を埋めた。

 

    「これでよし。それっ!」

 

ドラえもんが手動スイッチを押し入れると、ボォンッと爆発音と一緒に地面が軽く揺れ響いた。

     

     「きゃあっ!?」

 

少女達は驚いて思わず声を出してしまう。

 

「あ、ゴメン、ゴメン。驚かしちゃったね。これは地下室を作る道具なんだ。

さっ、この出入口から地下室へ避難しよう。ここは暗くてとても寒いからね」

 

先ほどドラえもんが埋めた箱の場所に金属製の蓋の出入口が出来上がっており、蓋を開くと階段が見えた。

 

  「さあ皆遠慮しないで入ってよ」

 

ドラえもんを先頭に三人は困惑しながら地下室の階段に足を踏み入れる。

 

  「三人とも、ここが地下室だよ!」

 

そこは天井がとても高く、ライトが付いていて明るくそして何より果てしなく広かった。

 

 

「····う、うわあぁぁぁー!!スッゴく広~いっ!!」

 

「こ、これはどのような仕組みなんでしょうか····?」

 

「出入口から奥までが全く見えないですね····」

 

 

三人共、右や左の奥行きや、高い天井へと頭を忙しなく動かし、目と口を開いて驚愕し、余りに常識外れなドラえもんの秘密道具の力に呆気に囚われていた。

 

 グ、グッグゥゥ、キュルルル~~~~!

 

すると夏服のセーラー服を着ている黒髪ロングの少女のお腹から健康的なお腹の虫が広い地下空間に鳴り響き、他の三人が一斉に注目する。

 

「·····あっ、ハハハハっ·····お恥ずかしい····

安心したら何だかお腹が空いちゃって····

ゴメンなさい!あ~本当に恥ずかしい!!」

 

あっけらかんと言ってみたものの、やはり恥ずかしくなり、セーラー服の少女は真っ赤になった顔を両手で覆って狼狽えていた。

 

「だ、大丈夫ですよ!じ、実は私もお腹が空いちゃってて····」

 

「何とか堪えていましたが、私もです····」

 

少女達三人はお互いの顔を見渡して思わずニッコリと笑い合った。

 

「ウフフ···さっきまで訳が分からないまま、

見知らぬ異世界からこの森の中へと跳ばされた状況でみんな緊張してたんだもの。

お腹が空いて当然だよ。さっ、取り敢えずご飯にしよう!」

 

ドラえもんは再びポケットに手をやり、中から絨毯とテーブルとソファーを取り出して設置し、最後にテーブルの上にチェック柄のテーブルかけを取り出して拡げた。

 

   「『グルメテーブルかけ』」

 

「あのぉ···これは一体何の道具なんですか?」

 

どう考えてもお腹の小さいポケットから物理的に収められない程の大きさの品物が次々と出てくるのをただ、唖然としながら見ていた小柄なツインテールの美少女は躊躇いがちに訪ねた。

 

「うんこれはね、食べたい物が何でも出てくる便利な道具なんだ!え~と、冷たい風に吹かれて寒かったから何か、体が暖まる物がいいな。よーし、熱々の豚汁とおにぎりと

卵焼きにタコさんウィンナーを四人分!あとお茶も」

 

ドラえもんがテーブルかけに向かって注文するとテーブルかけの上から注文した料理が熱い湯気と香ばしい匂いを立てて出てきた。

 

「うわー♥美味しそう!これって食べて良いんですか!?」

 

「もちろんだよ。その為に注文したんだから。さっ、冷めない内に皆で食べよう」

 

長方形のテーブルの真ん中にドラえもんが1人用のソファーに座り、向かい合って三人も仲良く大型のソファーに並んで座って手を合わせた。

 

「「「いただきます!」」」 「はい、召し上がれ」

 

皆一斉に熱い湯気が立つ豚汁を啜る。

 

「「「美味しいぃ~!」」」と、三人並んで感嘆の声を上げた。

 

「このおにぎりの適度な塩気と旨味がたまんないっ~!口の中に入った瞬間に柔らかくほぐれて最高!」

 

黒髪ロングの少女がおにぎりの美味しさに思わず感激の声を上げる。

 

「卵焼きも甘くてとっても美味しいです♥」

 

「タコさんウィンナーも食感が良くて脂の旨味がたまりませんね」

 

他の二人も負けじと卵焼きとタコさんウインナーの感想をウキウキとしながら述べた。

 

「ウフフ···皆遠慮せずにおかわりもしてね!」

 

ドラえもんは共に大冒険を経験した仲間達の顔を思い浮かべながら優しく微笑んだ。

 

余りにも美味しかったのでみんな次々とおかわりをして最後に熱いお茶を啜り、冷えた身体はすっかり暖まり、お腹も満たされて三人共とても幸せな気分を満喫していた。

 

 

「はぁ~···美味しかった!ごちそうさまでした。え~と、ドラえもんさん!」

 

「どういたしまして。えっと···そう言えばまだ名前を聞いていなかった···」

 

ハッとした顔になった少女の1人が立ち上って自己紹介を始めた。

 

「これは失礼しました。落ち着いたので遅ればせながら、自己紹介を···私の名前は

姫柊雪菜と申します。彩海学園中等部3年生の15歳です。よろしくお願いします」

 

三人の中でも特に落ち着きと品のある出で立ちで自己紹介を終えた雪菜は隣の黒髪ロングの少女に視線を送った。

 

「はい、次は自分ですね。私は佐天涙子って言います!棚川中学に通っている現在中学

1年の13歳です。皆さんよろしく!」

 

明るく元気に自己紹介した佐天はウィンクしながら、最後に小柄でツインテールの髪型をした少女に視線を送る。

 

「え、えっと私は綾野珪子と言います。

とある事情から特殊な学校に通っている現在···その···14歳です···」

 

遠慮がちに恥ずかしそうに自己紹介を終えた。佐天と雪菜の二人は共に巻き込まれた少女の年齢を知って互いに唖然としている。

 

「·····え、えっと····綾野珪子···さん?私てっきりあなたの事、小学生位かなぁ~って思ってました···スミマセン·····」

 

「わ、私も佐天さんは私よりも年上のお姉さんだとばかり思ってました····」

 

「こ、この三人で一番年上が私で、一番年下が佐天さんでしたか···私よりも身長があるので、てっきり年上だとばかり···綾野さんは私の一つだけ年下ですか···」

 

三人の間に何とも気まずい空気が流れる。

 

しばらくの間三人共顔を見合わせ、思わず

一緒になって笑い合った。

 

そして全員、気持ちを一つにしてソファーから立ち上がって正面に座っているドラえもんに向かって頭を下げて礼を言った。

 

 

「「「助けてくれてありがとうございました」」」

 

 

ドラえもんは三人の大きい声でのお礼に思わずお茶を吹き出す。

 

「オットト···いやいや、そんなに頭を下げなくてもいいよ。僕には便利な道具があったからどうにか出来ただけ何だから···」

 

謙遜して照れるが結構満更でもない気持ちに包まれたドラえもんは少し思案して、改めて三人にこれからの行動指針を提案する。

 

「え~と···姫柊さん、佐天さん、綾野さん。

僕らは皆、いわゆる異世界に跳ばされてここに居ます。まだどうすればここから全員元の世界に帰れるのか検討もつきません。 

だけど、僕が必ず何とかするから一緒に行動しませんか?」

 

「は~い!ぜひぜひ、お願いします!何しろドラえもんさんがいなかったら、私達全員野垂れ死ぬのは確実ですから····それとあなたの事はドラさんって呼んでいいですか?後々、私の事はちゃん付けでお願いします!!」

 

「ウフフ···分かったよ。別に好きに呼んでいいからね」

 

「そ、それじゃ私はドラえもんさんをドラちゃんって呼んでいいですか?それと私の事は名前呼びでお願いします」

 

「私も、私も!ドラえもんさんって呼びたいです!それと皆さん、私の事は『シリカ』って呼んで下い」

 

皆一様に自己主張して呼び方を決め合った。

 

「それじゃ改めて···雪菜ちゃん、佐天ちゃん、シリカちゃん。皆よろしくね!」

 

      「「「はいっ!」」」

 

    皆満天の笑顔で返事をした。

 

「さてと···お腹も膨れて自己紹介も終わった事だし、お風呂と寝床の準備もしなくちゃね」

 

お風呂と聞いて三人共ワクワクした面持ちになる。

 

「ワーイ。やった~お風呂だー!!···って、

えぇ~と嬉しいですけど、この地下室のどこにそんなのあるんですか?」

 

広いポンプ地下室周辺をざっと一通り見渡した佐天涙子は怪訝な顔でドラえもんに尋ねた。何しろこの空間にはドラえもんがポケットから取り出したふかふかの絨毯に座り心地の良いソファーと長方形のテーブルしか設置しておらず、殺風景で寂しい雰囲気を醸し出していて、後は出入口の階段位しか見当たらなかったからだ。

 

そんな佐天にドラえもんは優しく微笑みながらポケットに手をやる。

 

「ウフフ···それはね、佐天ちゃん。この道具を使うのさ!『壁紙ハウスシリーズ』~!!」

 

ポケットから複数の巻いた紙を取り出して出入口の隣に順番に紙を広げて次々と壁に張りつけていった。

 

「ドラさん、ドラさん!それってどんな道具何ですか?」

 

瞳をキラキラ輝かせてドラえもんに迫る佐天涙子はこの三人の中で一番好奇心が強く誰よりも興奮していた。

 

「うん、これは壁に張るとね、それぞれの用途に応じた特殊な空間の部屋が出来るんだ。入って見てよ」

 

「はーい!それじゃお二人も一緒に行きましょう♪」 

 

佐天は知り合ってまだ1日も経っていない姫柊雪菜とシリカこと、綾野珪子の手をグイグイと引っ張って、こぼれそうな位の笑顔で壁紙ハウスの中へと入って行く。

 

「は、はい···!

(この人の強引さはリズさんに似てる!!)」

 

「少し落ち着いて下さい佐天さん!(この人は何だか、凪沙ちゃんに似てますね···)」

 

好奇心旺盛、天真爛漫で積極的な佐天の仕草にシリカは若干尻込みし、雪菜は少々呆れながら二人揃って、元の世界の友人の姿を彼女に重ねていた。

 

壁紙入浴場に足を踏み入れるとそこはスパリゾートを思わせる高級感溢れる贅沢な作りになっており、お風呂はライオンヘッドの口から天然温泉が溢れる程流れだし、とても広くて泳げる程の規模であった。

 

   「ゴクッ···す、凄いです···」

 

圧倒的な設備の豪華さにシリカは唾を飲んでため息をつく。   

 

「どう?気に入って貰えたかな?」

 

「いやいや!?ドラさん、気に入るも何もこんな豪華なお風呂なんて、私初めてですよ!?こんな贅沢していいんですか?もしかしてこれって夢ですか?幻なんですか?」

 

ドラえもんの道具の凄まじい恩恵に、佐天は困惑して軽く現実逃避した。

 

「さっ、佐天さんこれは紛れもなく現実です。しっかり気を持って下さい」

 

一見冷静そうな雪菜もドラえもんの底知れない道具の力に密かに戦慄を覚えていた。

 

(これって仮想空間じゃないよね?ちゃんとここは現実だよね?)

 

実はシリカも自分は、何らかのバグが発生した他のVRMMORPGの世界に巻き込まれたんじゃないかと勘繰り、自分で自分の頬を密かにつねっている。

 

「夢でも幻でもないから安心してよ

佐天ちゃん。あと、隣の壁紙寝室の中はふかふかのベッドが用意してあるから皆ぐっすりと休めるよ」

 

 三人共もう夢心地の気分に浸っていた。

 

「それじゃ皆ゆっくりと温泉に浸かって疲れを取ってね!」

 

「···ハッ!待って下さい。あの···よかったらドラさんも一緒に入りましょうよ!お背中流しちゃいますよ~♥」

 

意識を現実に戻した佐天涙子は大胆な提案をする。

 

   「えぇっ!?い、イヤ僕は····」

 

「ちょっ、ちょっと佐天さん!?なんて事を提案するんですかっ!ドラちゃん困ってるじゃないですかっ!」

 

佐天の大胆な提案に割りかし冷静だった雪菜は結構動揺し頬を赤らめた。

 

「いやいや···姫柊先輩···ここは恩人であるドラさんの背中くらい流すのが礼儀ってもんですよ?」

 

「恩人に礼をするのは分かりますが···それと私の事は名前呼びで構いません」

 

「わ、私もドラえもんさんのお背中流したいです!」

 

若干、おいてけぼりな感じのシリカも佐天に負けじと大胆な自己主張をした。

 

三人共皆、ドラえもんに深く感謝していて、どうにかこの恩義に報いたいと思っていたのだ。

 

そんな佐天の提案にドラえもんは何も言えず、顔を真っ赤にして一人そそくさと壁紙押し入れの中に入り、布団にくるまって就寝するのであった。

 

 

 



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2話 ○✕占いで情報収集

本作品のドラえもんの声は大山のぶ代さんです。これは絶対に譲れない。


ドラえもんの助けによって難を逃れた三人の異世界召喚された少女達はスパリゾートの様な『壁紙入浴場』にて入浴を楽しんだ。

 

 

「あぁ~さっぱりした!本当にドラさんのお陰ですよね」

 

他の二人、雪菜、シリカも大きく頷いた。

 

「はい佐天さん、ミックスフルーツ牛乳です」

 

「ありがとう!雪菜さん」

 

「やっぱりお風呂上がりはミックスフルーツ牛乳に限りますね!でもまさか異世界でも味わえるとは思いませんでした」

 

「ドラちゃんが居なかったら本当にどうなっていたか····」

 

 

三人は改めてドラえもんに感謝の念を押すのであった。

 

 

備え付けてあったドライヤーで髪を乾かした三人は浴場から出て、隣に張り付けてある『壁紙寝室』のドアを開き足を踏み入れると、ソコはまるで高級ホテルの様な上質な部屋にこれまた高級そうなベッドが人数分設置されていた。

 

 

「うひゃぁ~!?これはまたまた凄いですね···ガイドブックに星が幾つか載っててもおかしくないレベルのお部屋とベッドですね···」

 

 

今日だけで一体何度驚愕したのだろうか?

三人は部屋に入るなり急激な眠気に襲われ、ガールズトークもせずふかふかのベッドの中で暖かい安心感に包まれながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん···んんっ···ふぁぁ······よく寝た······

はっ!いけない!のび太くん起きろぉー!!遅刻するぞぉー!!·······って、

あららそうでした。ここは異世界で地下室の中でした」

 

 

何時もの癖で当たり前の様に朝寝坊するのび太を起こすルーチンワークをやってしまい、誰かに見られている訳ではないが妙に恥ずかしい顔をするドラえもんであった。

 

 

隣の『壁紙寝室』の扉から昨日助けた三人の少女の内の1人、姫柊雪菜がしっかりと目を覚まして起きてきた。

 

 

「おはようございますドラちゃん。昨日はありがとうございました」

 

 

「あ、おはよう雪菜ちゃん。あはは僕はそんな大したことはしてないよ」

 

 

謙遜するドラえもんの仕草に雪菜は元の世界でとても好きなマスコットのネコマタンを脳裏に浮かべた。

 

 

「おはようぅ~」「おはようございます皆さん」

 

少し遅れて他の二人、佐天涙子とシリカこと綾野珪子が目を擦って起きてきた。

 

 

「二人もおはよう。よく眠れた?顔を洗ったら朝ご飯にしよう」

 

 

「はーい!」

 

 

どこか保護者的な目線で三人娘達を見守るドラえもんであった。

 

 

 

朝食はスタンダードな和食で三人共ここが異世界だと云うのを忘れそうになってしまっていた。朝食を終え、ドラえもんは最初にやるべき事を提案した。

 

 

「さて、皆さんまず僕はこの世界について調べようと思うんだ」

 

 

「それについては賛成ですが、どうやって調べるのですか?私達は召喚された場所はおろか、現在位置すら正確に分からないのに?」

 

 

「大丈夫ですよ雪菜さん。ドラさんならきっと素敵で不思議な、確か····

ひみつ道具···でしたったけ?っで何とかしてくれますよ!」

 

 

昨日の今日でドラえもんのひみつ道具をすっかり当てにする佐天涙子であった。

 

 

「ウフフ···僕に任せて!え~とまずは

『どこでもドア』!」

 

 

ポケットから普通に考えてどうやって入っていたのか理解が追いつかない程の大きさのドアが取り出された。

 

 

「ドラえもんさんこの道具って何の効果があるんですか?」

 

「うん、これはね行きたい所を思い浮かべたり言葉で指示するとその場所に行ける道具なんだ!」

 

「えっ!?それじゃその道具で元の世界に戻れるんですかっ!?」

 

 

少し興奮してシリカはドラえもんに訪ねた。

 

 

「ううん。ゴメンね、この世界の座標と情報がインプットされていないからそれは無理なんだ···それにこれはあくまでも今いる世界の各場所を行き来出来るのであって、次元を越える事は不可能なんだ」

 

 

「そうですか····」

 

 

一気にしょんぼりしたシリカを見てドラえもんは大変申し訳ない気持ちになってしまった。

 

 

「大丈夫ですよシリカさん。慌てなくてもきっと何とかなりますよ!」

 

 

ドラえもんの道具を信頼して三人の中で一番楽観的になっている佐天だった。

 

 

「この道具を出した理由はまずこの場所の位置をインプットさせる為に出したんだ。後、簡単に外に出れるって事もあるけど」

 

 

ガチャっとドアを開くと地上の世界へと繋がり簡単に外に出られた。

 

 

「す、すごいです!!本当に外に出れました!ドアの境目の向こう側は地下室が見えるのに」

 

 

「うわぁー!!これって何だか瞬間移動みたいですねぇ!!(白井さんが見たらどんな反応するかな?)」

 

 

「確かに···これは凄い道具です····

(これがあれば何時でも暁先輩の元に····って!私は何を考えて!あ、あくまでもこれは暁先輩の監視任務をスムーズにこなす為に····)」

 

 

外に出たドラえもんはポケットの中からある道具を取り出した。

 

 

「『自家用衛星セット』!!」

 

 

ドラえもんが取り出したこの道具は四種類のロケットを飛ばして各種様々用途に仕様する道具だ。

 

 

「この道具は衛星を飛ばして色々な作業が出来るんだ!さしあたって今必要なのは、この世界の今いる周辺の情報だからそれに適した偵察衛星を飛ばそう」

 

 

ドラえもんが衛星をセットしてボタンを押すとロケットは空高く飛び、異世界の情報を得る為活動するのであった。

 

 

どこでもドアで四人は地下室に戻った。

 

 

「さぁて偵察衛星が広い範囲で巡っている間に今度は違う形で異世界の情報を得よう」

 

 

「はーい!次はどんな道具を出すんですか?私もうワクワクしちゃってますよっ!」

 

 

もうひたすら瞳を無邪気に輝かせて期待する佐天だった。

 

「うん!お次はこの道具···『○✕占い』ぃ~!!」

 

「えっ!?占い···ですか····?」

 

決して疑う訳ではないがつい思わず雪菜は怪訝な面持ちになってしまった。

 

 

「ウフフ!大丈夫だよ雪菜ちゃん。この道具はどんな質問にも答えを○か✕かで

はっきりと出してくれるんだ。そしてその占いの結果は100パーセント信用できるんだ」

 

 

「わあーっ!!それって凄く便利ですね!(これがあればキリトさんが私にも脈があるかどうか、はっきりと····イヤ、止めておこう···)」

 

(これがあれば初春や御坂さんのパンツがどんなのか判るっ!!·······イヤ、やっぱり自分で捲ってこそだな····止めとこ···)

 

 

二人の心中など知る余地もなくドラえもんはこの世界についての質問をする。

 

 

「え~とまずは、この世界から元の世界へと帰れる手段はあるか?」

 

丸い輪っかが宙に浮き「ピンポーン」と鳴り響いた。

 

「皆やったね!この世界から帰れる手段はあるそうだ」

 

「えっと、あるか、ないかと判断するだけで手段はあくまでも自分達で見つけないといけないんですね」

 

シリカが少し残念そうに言った。

 

「うん残念だけどソコは自分達で頑張るしかないんだ。それじゃ皆はこの世界について何か知りたい事はある?」

 

 

「はい!ハイ!はーい!!」

 

佐天涙子が一際元気良く立候補した。

 

「はい、どうぞ」

 

「使わせて貰います!異世界に召喚された私達には特別な能力が与えられているっ!」 

 

 

佐天涙子の元の世界の学園都市は科学の力を用いて超能力を研究し、開発する世界有数最先端を行っている機関である。

この学園都市に入った人間は皆、能力の検査を受ける。そして能力の有無が残酷なまでにハッキリと判るのだ。残念だが佐天涙子は無能力のレベル0と診断された。

 

友人と友人の先輩が所属している組織にはその学園都市においても比類なき能力者が存在し、密かに佐天涙子は強いコンプレックスを抱えていた。

 

 

どうしても能力を諦めらめきれない佐天は上手い具合に状況を利用してこの道具で確かめたかったのだ。

 

もしかしてという一縷の望みを賭けて···

 

少々罪悪感はあるが、ネット小説のセオリーならば神様女神様から凄まじい超絶チートな能力···

スキルが与えられているかも知れないと考えたのだ。

 

しかしその結果は無残にも····「ブーッ」と✕の印が音を鳴らして宙に浮いた。

 

「·····ははっ····やっぱりそう都合良く行かないか····」

 

理由は分からないが必要以上に落ち込む彼女を他の三人は気遣い、励ましの言葉を送る。

 

「大丈夫ですよ佐天さん。私達にはドラえもんさんがついてくれてます。最悪な状態じゃありませんよ」

 

「そのとうりです。私も大切な槍が手元に無く、内心少し焦っていました。ですが自分は一人では無く頼もしい皆が側に居てくれて心強く想っています」

 

「そう····ですよねっ!あはは考え方次第ですよね····よぉし!次の質問だ。この世界にはドラゴンとか危険な魔物が多数存在するっ!」

 

「ピンポーン」

 

「ではこの世界には異世界ファンタジーお約束の冒険者ギルドが存在するっ!」

 

「ピンポーン」

 

「この異世界の文化レベルは元の世界で言う中世時代のヨーロッパレベルであるっ!」

 

「ピンポーン」

 

「私達を召喚した国は私達を都合良く利用する為に召喚した!」

 

「ピンポーン」

 

「もし、ドラさんに出会って居なかったら3日以内に死んでいた可能性がある!」

 

「ピンポーン」

 

 

次から次へと質問するが正直な所、気が滅入る様な正解ばかりで精神的に重くのしかかってくるのだった。

 

 

「ふいぃぃ···本当に私達首の皮一枚でつながってましたね···」

 

ウンザリした面持ちで佐天はガックリと項垂れた。

 

「では次は私が使わせて貰います。私の槍····雪霞狼(せっかろう)はこの世界に来ている····」

 

「ブーッ」

 

「では元の世界に置き去りになっている?」

 

「ピンポーン」

 

「先輩···いえ、元の世界の皆は私が居なくなった事を認識している」

 

「ピンポーン」

 

「今回の事件は私の···私達の敵対勢力による罠、もしくば幻覚で有るか、否か!」

 

「ブーッ」

 

「ふぅ····(ホッ····)」

 

 

姫柊雪菜は政府機関「獅子王機関」に所属する剣巫(けんなぎ)という剣士と巫女の両者の特性を併せ持つ職業、特殊エージェントであった。

 

世界最強の吸血鬼となった、第四真祖こと暁古城の監視、場合によっては抹殺を任務とし、日々監視任務という名目の国家公認ストーカーとして活動していた。本人は未だに自覚はないが·····

 

 

では何故雪菜がこのような質問をしたのか?

 

 

それは雪菜が第一級の攻魔師として常に前線で戦い、幾多の魔術や特殊能力者達、人の理なぞ遥かに超越した存在に対峙してきた経験から今回の現象は強力な一種の幻覚、もしくば精神だけがこの空間に囚われている可能性が無視出来なかったからであった。

 

もしこれが敵対勢力による罠で捕らえられ、魔力無効化機構を備えた霊槍雪霞狼(せっかろう)が自分の手元に無い以上、結界を切り裂いて脱出する事が不可能という事実を認識しなければならない。

 

だが、ドラえもんのひみつ道具でわかったのは敵の罠でも幻覚でも無く今回の現象が正真正銘の

『異世界召喚』だったという真実だけであった。

 

もっとも現在社会の世間の普通の感覚から少しだけ縁遠く、ましてや鍛練と任務の日々に明け暮れていた雪菜にとってネット小説の異世界セオリーなぞ知るよしもなかったのだが。

 

 

「それじゃ私も使ってみます。えと、この世界にピナは来てますか?」

 

「ブーッ」

 

「では元の世界の····サーバーにピナは居ますか?」

 

「ピンポーン」

 

「はあぁ···良かったよぉ···ピナ···次の質問です。私のこの肉体は元の世界の綾野珪子の肉体ですか?」

 

「ブーッ」

 

「では、サーバー上のSAOの設定上の身体ですか?」

 

「ブーッ」

 

「ええっ!?つまりどういう事なのぉ!?」

 

 

シリカこと、綾野珪子は激しく動揺した。彼女はかつてSAOというMMORPGの仮想空間に二年間閉じ込められ、ビーストテイマーのダガー使いとして生き抜いてきた過去があった。

何故かこの異世界ではその世界で約二年間の間に仕様していた衣装を纏って召喚されていた。

 

 

異世界召喚に自分が巻き込まれる直前は確かにALOの世界でケットシーという猫妖精の種族として仲間達と楽しく遊んでいたはずなのだ。

 

 

こちらに召喚された際、何故か身に付けていた衣装はSAO時代のモノに変わり、種族の特徴としての耳と尻尾もない至って普通の人間種になっていた。彼女はSAOの事件の様な何らかのトラブルに巻き込まれてしまったのかと内心酷く怯えながらドラえもんと出会ったのである。

 

 

 

今此処にいる自分は紛れもなく生身の肉体のはず···だがひみつ道具の○✕占いによればそのどちらでも無いのだ。

 

 

ドラえもんのひみつ道具を信用していない訳ではない。ほんの昨日出会ったばかりだが、ドラえもんの優しい人柄とその道具には既に絶対的な信頼を寄せている。

 

だからこそ、彼女は動揺している。今の自分は果たして本当に実在している人間なのか?どちらなのだろうか?

 

 

顔色の悪くなったシリカに皆心配の声を掛ける。

 

 

「あのシリカちゃん、どうしたんですか!?顔色が悪くなって····それに今の質問の意図は···?」

 

「だ、大丈夫です雪菜さん····」

 

明らかに普通では無い状態の彼女にドラえもんは一休みするのを提案した。

 

「少し休憩しようよ。こういう時は甘い

モノが一番だよ」

 

 

昨日と同じにテーブルを囲ってティータイムとなった。『グルメテーブルかけ』から甘いモノ···どら焼きと緑茶を出してくつろいだ。

 

「何時もの行きつけのお店のどら焼きもいいけどこの道具で出したどら焼きも美味しいんだ、シリカちゃん」

 

「ふぅぅ····この抹茶どら焼き美味しいですね。ねっ、シリカさん」

 

「この細切れの栗入りどら焼きも風味が素晴らしいですよシリカちゃん」

 

共に無理やりこの世界に召喚された二人は親身になってシリカを案じ、優しい気遣いをした。

 

 

「ごっ、ゴメンなさい!皆さんが私を心配して元気づけ様としてくれているのに私ったら一人で勝手に悩んで落ち込んで····」

 

「それで···そのシリカちゃんは何にそんなに動揺しているの?」

 

ドラえもんが直球で訪ねた。

 

「····はい、実は····」

 

シリカはかつて自分が巻き込まれた事件の一部始終を皆に語った。

 

 

「···そんな酷い!楽しくゲームをやろうとしていた所にそんな横槍を入れるなんてっ!!しかもゲーム内で死んだら現実でも本当に死ぬなんてっ!その事件の首謀者の茅場晶彦って何考えてんのよっ!!」

 

佐天は憤る感情を表に出してシリカの身に起こった件の黒幕に我が事のように激しく怒りをぶつけていた。

 

「仮想空間に精神が捕らえられ、死ぬかもしれない恐怖に二年間も····悪逆非道で許しがたい所業ですね···」

 

正義感と論理感の強い雪菜はその茅場晶彦なる人物に強い嫌悪感を顕にしている。

 

「····古今東西、今も昔も変わらず自分の我欲を満たす為に他人を何とも思わない人間は数多く存在する。しかも話しを聞く限りソイツは自分が悪い事をしたとも思っていない節がある。ある意味最も厄介なタイプだよ」

 

 

ドラえもんはこれまで仲間達との冒険してきた経験から導き出される茅場晶彦の複雑な人間性に呆れかえっていた。

 

 

「シリカさん。私はその···上手く言えないけど今目の前いるシリカさんは本物だと思いますよ。だって一緒に食事をしてお風呂に入ってミックスフルーツ牛乳に舌鼓を打って···何よりドラさんのひみつ道具に一緒にワクワクして···それが何よりのリアルだと思います」

 

「私も同じ思いですよシリカちゃん」

 

「僕もだよシリカちゃん」

 

「ありがとう佐天さん、雪菜さん····ドラえもんさん」

 

 

シリカは皆の優しさが嬉しくて、とうとう堪えきれずに涙目になった。

 

 

「それにしてもう~ん何か引っ掛かるな····あっそうか!シリカちゃんもう一度質問の仕方を変えてみたらどうだろうか?」

 

「質問の仕方ですか?」

 

「うん。僕も昔ね···」

 

 

ドラえもんはかつて、この○✕占いを仕用した際に質問の仕方が悪くて正しい答えを知る事が出来なかった経緯を皆に話した。

 

「うひゃ~ドラさん凄い冒険してたんですね!!」

 

「ドラちゃんは私達の想像以上に戦いの経験が豊富何ですね」

 

佐天は不謹慎だとわかってはいるが好奇心とワクワクする感情が止められず、雪菜に至っては自分の職務上の関係上、違う観点から感心していた。

 

 

しばらく考え込んでいたシリカはもう一度○✕占いに違う質問をぶつけてみた。

 

 

「今、此処にいる私は紛れもなく綾野珪子である」

 

「ピンポーン」

 

皆一様に安堵した顔になった。

 

 

「今此処にいる私はSAO時代の

【シリカ】でもある···」

 

「ピンポーン」

 

○の効果音を聞いて佐天と雪菜の二人は思わずシリカに駆け寄って抱きしめ合った。

 

「良かった···良かったよぉぉ~!!!」

 

「はい、良かったです。ホッとしました···」

 

佐天は素直に感情を剥き出しにして喜び、雪菜は静かに安堵した。

 

 

「更に質問です···この身体は【シリカ】としての身体能力と今まで戦ってきた経験が詰まっている」

 

「ピンポーン」

 

「この肉体が死ねば元の世界に帰れますか?」

 

「ブーッ」

 

「ふーっ···ではこの肉体が死んだら綾野珪子としても【シリカ】としても死ぬ···」

 

「ピンポーン」

 

「皆···私人間だよ綾野珪子でシリカだよ!」

 

 

再び三人は喜び合い、抱きしめ合った。

 

 

そんな三人をドラえもんはしばらく優しいまなざしで暖かく見守っていた。

 

 

 




何か良いアイデアや物語を面白くするネタがあったら教えて下さいませ(本当にマジで····)


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3話 彼女達の事情

何とか今日中に更新出来ました。お楽し下さい。


ドラえもん達はひみつ道具の○✕占いで質問して異世界と自分の身の周りの変化について情報を重ねていた。

 

 

「ご心配掛けました」

 

 

先ほど質問で必要以上に自分の現状を悪く捉えたシリカは頭を下げて皆に平謝りしていた。

 

 

「そんなに謝る必要は無いですよシリカちゃん」

 

 

「そうですよ!それにシリカさんはあんな経験をしてきたんですからどうしてもネガティブになるのも仕方ないです」

 

 

 

雪菜と佐天の二人もシリカの悩み事が解決できてホッとしている。

 

 

「うんうん。それじゃ一段落した事だし

お昼ご飯にしようか!」

 

 

「わーい!賛成でーす!!」

 

 

ドラえもんの『グルメテーブルかけ』の料理をすっかり気に入った佐天は満面の笑みで返した。

 

 

 

絨毯をしいたテーブルの上のテーブルかけから料理を注文した。

昼のメニューはスープとサラダつきの

オムライスで異世界召喚少女三人組は全員瞳が輝き、口元から涎を出している娘もいた。

 

 

 

「ハイハイ、はーいっ!皆さんのオムライスにかけるケチャップは私に任せて下さい!」

 

 

 

佐天涙子が手を挙げてケチャップ担当を率先して申し出て、皆快く快諾した。

それどれのオムライスに真っ赤なトマトケチャップでドラえもんの顔を可愛く描いた。

 

 

「わあ~!僕の顔だ!いししっ、何だか照れちゃうなぁ~」

 

 

「凄いです佐天さん。こんなに可愛くケチャップで描けるなんて!」

 

 

シリカが一際、嬉々として佐天の器用さに感心して驚いていた。そして雪菜は自分のオムライスに描かれたドラえもんの顔を瞳をキラキラと輝かせて強く見入っていた。

 

 

(わぁ~ドラちゃんの顔だ····可愛い♥次に機会があったら、ねこまたんをリクエストしよう)

 

 

 

「そして、最後の仕上げにコレですっ!!更に美味しくなる魔法の呪文ですっ!

異世界なだけにっ!さあ皆さんご一緒にっ!」

 

 

佐天涙子は両手の親指と人差し指を合わせてハートマークを形作り、リズミカルに軽いダンスをしながら雪菜とシリカに一緒にやるように促した。二人は少し狼狽えつつもぎこちなく追随した

 

 

 

「それじゃあ行きますよー!美味しくなーれ♪美味しくなーれ♪」

 

「お、おっ、美味しくなぁれ、美味しくなぁれっ····」

「美味しくなーれ!美味しくなーれぇ!」

 

 

「萌え萌え♥」

「もっ、も、燃え燃えっ·····?」

「萌え萌えっ!!」

 

 

「にゃんにゃん!」

「ニャンニャンっ♥」「にゃんにゃんっ!!」

 

 

「キュンキュン!」

「きゅんきゅん!」「キュンキュン!」

 

 

「ワクワクっ!」

「わくわくっ!」「ワクワクっ!」

 

 

「ふりふりっ♥」

「フリフリっ!」「ふりふりっ♥」

 

 

「萌え萌えぇ~~~·····きゅんっ♥」

 

「燃え燃えぇーーー·····キュンっ!!」

「萌え萌えぇ~~~·····きゅんっ♥」

 

 

 

····最後の決めポーズに身体をしなやかに可愛らしくネコをイメージして動かし、男性のハートを射止める程魅力的なウィンクをして美味しくなる某メイド喫茶の呪文とダンスを佐天涙子を筆頭に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広大なポップ地下室の空間にしばらくの間、気まずい沈黙が流れた······

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃあ~!!やっぱり恥ずかしいぃ~~~!!!」

 

 

 

 

 

ついつい、調子にのってノリと勢いでやってみたものの、やり終えた直後から妙に恥ずかしい気持ちに襲われ、両手で赤面した自分の顔を覆い何度も何度も、床に右へ左へと転げ回って身悶えする佐天涙子(13歳)であった····

 

 

 

「ちょっ、ちょっと佐天さん!!人にやらせておいて一番に恥ずかしがらないで下さいっ!こっち迄恥ずかしくなるじゃないですかっ!もうぉ~!!(ここに先輩が居なくて良かった···でもやって見せたら先輩、喜んでくれるかしら?·····いえ止しておきましょう·····)」

 

 

佐天同様に顔を真っ赤にして身体を震わせながら雪菜は強く抗議するのだった。

 

 

「わ、私は何だか、ちょっと楽しかったですよ···(元の世界に戻ったらキリトさんに披露してみようかな···きゃっ!恥ずかしい)」

 

 

結構ノリの良いシリカであった。

 

 

 

「···ぷっ、プーッ、クスクスクス·····そ、それじゃあせっかく三人が美味しくなる呪文で更に美味しくなったオムライスを冷める前に頂こうか···ぷっ」

 

 

いたってマイペースで最初は微笑ましく見ていたドラえもんだったが、今は皆に背を向けて口元を抑えてその青くて丸い身体をプルプル震わせて笑いを堪えていた。

 

 

「ちょっとドラちゃん!?今スゴく笑っていたでしょう!?誤魔化しでも分かりますっ!身体がメチャクチャプルプルしてるじゃないですかっ!!」

 

 

 

「うっ····うぷぷ····ぎぃやははは~~~!!!ゴメン、ゴメン。何だかついつい笑いが込み上げ来ちゃって·······ぷー!!うひひひぃ~!!!」

 

「もーっ!!知りませんっ!!」

 

 

短い手足をバタバタさせて、とうとう堪え切れずに大笑いするドラえもんに雪菜は更に憤慨して頬を赤く染め上げるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

昼食を終えて食後のお茶を飲んでいると佐天はずっと気になっている事を雪菜に訪ねた。

 

 

「あのぉ~雪菜さん。ちょっといいですか?」

 

 

「何です佐天さん?もう恥ずかしい呪文とダンスはしませんよっ!」

 

 

「いえいえ違いますよぉ!(ちぇっ、残念!)その、さっき○✕占いの質問で槍とか言ってたじゃないてすか?それって一体何なのかな~って···つい気になっちゃって···」

 

 

「それ、私も気になっていました。雪菜さんも私の様にSAOみたいなMMORPGをやられてるのかなって」

 

 

「二人共気になるのは分かるけどそんなにズケズケと人様のプライベートに踏み込むのは余り感心しないなぁ」

 

 

明るく好奇心旺盛に踏み込んでくる佐天をドラえもんはのび太に注意する感じで(たしな)めた。

 

 

「私は大丈夫ですよドラちゃん。話しても特に差し支えありませんから。そうですね···まずは私の所属している機関から話しましょうか」

 

 

別段、気にせずに姫柊雪菜は自分の素性を話し始めた。

 

 

自分が政府機関「獅子王機関」に所属する見習い剣巫(けんなぎ)で、国家1種の攻魔師という資格を所持してること、

世界最強の吸血鬼、第四真祖になってしまった暁古城なる人物の監視任務を任されていること、

そして佐天が気になっていた槍、雪霞狼(せっかろう)の等々の詳細を語った····だが、内容の八割方は監視対象である暁古城に関する愚痴やら惚気であったのは言うまでもない。

 

 

 

「····それでですね、私が少しでも目を離すと暁先輩ったらすぐに綺麗な女性と仲良くなってて···あ、でもでも普段は私の事はちゃんと気に掛けてくれてて結構優しいんですよ!だけど油断してるとやらしい行動しちゃったりして本当にどうしようもないですよ先輩ったら!だけど私が危険な任務を遂行する時なんて私をスゴく心配してくれて···あっ、そうそうこの間なんて一緒に海に行った時なんて·····」

 

 

 

 

······どれ程の時間が経ったのだろうか?ひたすら暁古城なる人物の愚痴と惚気を交互に延々と聞かされ続けた三人の表情はズゥ~ン·····と暗くなり、精神がガリガリと削られドンドンと顔が(やつ)れていった······

 

 

(ううぅ···いつまでこの惚気話しは続くの···?それに政府機関の命令とは言え監視という名のストーカー行為のそれがまるで何だか明日奈さんと被ってるぅぅ·····)

 

 

(ううぅ···最初は結構真面目な話しで途中から恋ばなになって御坂さんの時みたいにワクワクしたけど、とてつもなく長過ぎてキツイよぉぉ·····)

 

 

(ううぅ···雪菜ちゃん、かなりストレスを溜めていたんだな。まるでスネ夫の自慢話しに匹敵する語りだよぉぉ·····)

 

 

 

最初の内こそ恋バナな話しに強く関心を抱いてウキウキ気分で聞いていた佐天とシリカだったが、雪菜が語るひたすら暁古城に対する監視任務という名の国家公認のストーカー行為の内容にドン引きしたり、愚痴、惚気、愚痴、惚気と終わる気配のない思い出話に三人のライフはゼロになり掛けていたのだった······

 

 

 

「後ですね、暁先輩ったら·····

「ストップッ!ストップッ!!ストォ~~~プッ!!!」

 

 

堪らず佐天が無理やりテーブルに乗り出し、身体を張って雪菜の愚痴&惚気の永久機関に歯止めを掛けるのに成功した。

 

 

(ふぅー····佐天さんナイスファインプレーです!)

 

密かにシリカは佐天に感謝した。

 

 

「あ、あのぉ~雪菜さんの事情とその暁さんとの関係がどんなモノかはよぉ~くっ理解しましたので、そのぉ···今回はこの辺で····」

 

 

「あっと、私としたことがつい夢中になって···失礼しました。まだ全体の4割位ですがこの辺にしときましょう」

 

 

(あ、あれで全体の4割ぃ~~~!?×3)

 

 

三人は心を一つにした。

 

 

「つい、自分の事ばかり話して申し訳ありません。それもこれも暁先輩が·····

「そ、そうだ!私、佐天さんの事もぉーと知りたいなあーって!!」

「ぼっ、僕も佐天ちゃんの事もっと知りたいなぁ~ねっ!雪菜ちゃんもそうでしょう?」

 

 

 

「····そうですね。昨日は簡単な自己紹介でしか聞いてませんし。これから一緒に元の世界への帰還の為、協力し合わなくてはなりませんからね。佐天さんの事教えて下さい」

 

 

 

あわや、無限ループ地獄になりそうな所を今度はシリカとドラえもんがファインプレーでやや、無理やりに佐天涙子に矛先を向けて関心を寄せさせた。

 

 

 

「あっははは····何だか照れくさいですね。そうですね私は···」

 

 

佐天涙子は自分の住んでいる学園都市について語り始めた。

 

 

学園都市はあらゆる教育機関・研究組織の集合体であり、学生が人口の8割を占める学生の街にして、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されている科学の街で、人為的な超能力開発が実用化され学生全員に実施されており、超能力開発機関の側面が強い。

 

 

そんな能力者集団の中、佐天涙子にもたらされた能力診断の結果はレベル0という残酷無慈悲な診断結果だった。

 

 

一番の親友の初春飾利(ういはるかざり)はレベル1の定温保存(サーマルハンド)という、触っている物の温度を一定に保つ能力を持ち、初春の所属する組織の同僚の白井黒子はレベル4の空間移動(テレポーター)で、さらにその同僚の憧れの先輩、御坂美琴に至っては学園都市の中でも7人しか存在せず、その内の序列3位という脅威のレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)で常盤台の超電磁砲(レールガン)の肩書きを持つエリート揃いであった。

 

 

佐天涙子はそんな能力者達に囲まれながらも皆と、日々親交を深めていった。

だが、どんなに笑って天真爛漫な性格と明るい言動で振る舞っても確実に拭いきれないほどの強く深い劣等感が彼女を蝕んでいった。

 

 

そして積み重なった焦りとコンプレックスはやがて限界を超え、一つの過ちを犯してしまう。

 

 

無能力者や低レベルの能力者たちの間で、ある奇妙な噂が広まっていた。それは共感覚醒を応用し能力者のレベルを上昇させるプログラム幻想御手(レベルアッパー)と呼ばれる音楽プログラムであった。これは、音楽プレイヤーを使うことで手軽に使用することが出きてバレづらく、学園都市で無能力者と診断された人間なら喉から手が出る程欲しいプログラムだった。

 

 

 

だが致命的な欠点があった。それは一定の脳波に無理矢理矯正する特性上、その副作用で使用者は数日後昏睡状態に陥ってしまい、植物人間状態になるという恐ろしいリスクを抱えていた。 まさに文字通りの電子ドラッグと呼べる極めて危険なプログラムであった。

 

 

「もしかしてヤバいかも?」と何となく直感的に危険を感じてはいた佐天涙子だが、それでもマトモな能力者になって高い学費を捻出してくれた家族に報いたい、親友やその先輩達と同じ目線に立ちたい、何より常に心に引け目を感じる日々に別れを告げて学園都市の一員として胸を張りたいという欲求に抗う事は出来なかった。

 

 

この一連の事件は常盤台の超電磁砲(レールガン)御坂美琴の活躍によって収拾し、後に

幻想御手(レベルアッパー)事件として呼ばれ未だに佐天涙子を始めとする無能力者達の胸に痛みを残し続ける苦い過去であった。

 

 

 

「····大変だったね佐天ちゃん」

 

 

「だから佐天さんは○✕占いの時に一瞬、暗い顔で落ち込んでいたんですね···」

 

 

「身近にそれだけ高い能力の持ち主に囲まれてしまってはつい、甘い誘惑に身を委ねてしまうのも無理からぬ事ですね····」

 

 

話しを聞いてしんみりとした雰囲気になったのを嫌い、佐天は必要以上に明るく振る舞って重い空気を振り払おうとする。

 

 

「い、いやぁ~ヤダなぁ~三人共、そんなに大きく受けとらなくても···私は平気ですよっ!それよりも雪菜さんとシリカさんのほうがずっと大変だったじゃないですか。命の危機に何度も去らされて····まあ確かに未だに能力判定でゼロですけど前に比べたらまだ前向きに自分と向き合ってるんですから決して悪いことばかりじゃないんですよ」

 

 

明らかに無理をして空元気で皆を気づかう佐天にドラえもんはある提案をした。

 

 

「ねえ、佐天ちゃん。まだ能力を諦めず自分の可能性を信じて努力する気はあるかい?」

 

 

「えぇ~と···それはどういう意味ですか?」

 

 

「うんとね。つまりね、少しだけ時間と労力は必要だけどちゃんと訓練すればしっかりとした本物の超能力を身につけられる道具があるんだ」

 

 

「えっ?それは本当ですかっ!?」

 

 

「うん!見せてあげるね。えぇ~と確かこの辺にしまっておいたはず····あっ、あった、あった!」

 

 

お腹のポケットをまさぐった丸い手からは妙な丸みを帯びた箱が出てきた。

 

 

「『E・S・P訓練ボックス』ー!!」

 

 

「その小さい箱····で、訓練するんですか?」

 

 

ドラえもんのひみつ道具には三人の中では誰よりも当てにして信頼しているものの、過去の痛恨の過ちからどうしても無意識に超能力関係に関して警戒の色が出てしまっていた。

 

 

「うんそうだよ!このE・S・P訓練ボックスで得られる能力は3つで、念力(サイコキネシス)透視(クリアボヤンス)瞬間移動(テレポーテーション)の3つを会得できるんだっ!」

 

 

「あ、あの、これって私達でも訓練すれば習得出来るんですかっ!?」

 

 

シリカも興味津々に聞いてきた。彼女の超常的な能力はあくまでもMMORPGの仮想空間内でしか発揮出来ず、SAO事件解決以降はALOの仮想空間でゲームとして楽しんではいたものの、心の何処かではリアルでアバターの様な身体能力を駆使して楽しみたいという欲求も密かに持っていた。

最も今現在、異世界に置ける彼女の肉体は生身と仮想空間アバターとの混成状態であり、SAO時代の身体能力を有しているが、それが発揮されるのはもう少し後のことである。

 

 

「うん、もちろんだよシリカちゃん。この小箱に向かって、それぞれの超能力を使うイメージを強く思い描くと、徐々にその力が身についていくんだ。

早ければ訓練初日から超能力が使えるようになるんだけど、初めのうちはとても不安定で満足にコントロールして超能力を自由自在に使いこなせる一人前の超能力者になるまでには、毎日3時間ずつ訓練して3年かかるんだ。しかも一人前になった後でも能力を維持するのに毎日訓練を続けなくちゃならない」

 

 

「毎日3時間の訓練をして3年····」

 

 

佐天とシリカは一人前の能力を会得する時間と歳月に若干、尻込みした。確かに確実に能力を得られる保証こそ有るものの、やはり現役十代の3年間はとても長く感じられ、一人前になっても能力維持の為の訓練時間を作らなくてはならない。最も超能力という特別な技能を得られるのなら安い代償ではあるが。

 

 

佐天涙子はしばらく沈黙した後、強い決意を秘めた眼差しでドラえもんに宣言した。

 

 

「わ、私やります!正直3時間と3年間はキツイですけどせっかくドラさんがくれたチャンスを物にしたいですっ!!」

 

 

「だったら私も参加させて下さい!一人よりも二人だったらきっと何とかやれると思うんです。お願いします」

 

 

「でしたら私も参加します。一人よりも二人、二人よりも三人です!三人だったら何とかなるかもですよ佐天さん、シリカちゃん!」

 

 

「シリカさん、雪菜さん····二人共ありがとう····」

 

 

何の因果かはわからないが共に異世界に強制召喚された三人には目には見えない確かな絆が生まれているのだった。

 

 

 

「ウフフ···よーしそんな仲良しの三人にこれもサービスしちゃおう!え~と···あった!『カンヅメカン』と『時門』と『フエルミラー』~!!」

 

 

 

ドラえもんがポケットから取り出したのはとてつもななくドでかい缶詰と水門の様な形の道具と長細い鏡台だった。

 

 

 




書き終えて気づいたけど未だに地下室から行動していない···
明日からまた少し忙しくなるので更新はタグどうり亀更新になりますがどうかよろしくお願いします!


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4話 能力訓練

 

「ドラえもんさん。これってどんな道具何ですか?」

 

ポケットから取り出した3つのひみつ道具を興味深く眺めてシリカが尋ねた。

 

 

「ウフフ。これはねシリカちゃん、まずこの『カンヅメカン』。この中は圧縮空間になっていて内側と外側の時間の流れが異なっていて、缶の中で一日過ごしても外の時間は一時間しか経過しないんだ。しかも中では作業に必要な道具がそろっていて、食事も出前が取れるし、マッサージも受けられるサービスも備えてるんだ!」

 

 

「すごいっ!すごいー!!じゃあじゃあ、この小さい水門みたいな道具はどんな効果があるんですか!?」

 

 

次に佐天涙子が目を輝かせてドラえもんに尋ねた。

 

 

「うん、この『時門』はね、このハンドルで門を閉めるとその分だけ時間の流れがゆっくりになるんだ。だけどこれはこの場所だけでなく世界中の時間の流れに影響するから余りむやみやたらと使わない様にしないといけない。だけど今回は皆の為に少しだけ使うね」

 

 

「ではこの鏡台はどの様な能力があるんですか?」

 

 

つられて姫柊雪菜も心なしかワクワクして質問する。

 

 

「それは『フエルミラー』といって増やしたい物を鏡に写すと、写っている品物を取り出して増やせるんだ。『E・S・P訓練ボックス』は一つしかないから増やす為に出したんだ」

 

 

「····も~っドラさんも人が悪いですよ。こんなに便利な道具があるなら早く言ってくれれば良いのに。もしかして私を試したんですか?」

 

 

「ゴメンゴメン、佐天ちゃんが本気なのかどうしても確かめたかったんだ。どんなに優れた道具でも本人にやる気が無いと全て台無しになっちゃうからね。それにこの道具は中途半端に扱うと非常に危険なんだ。未熟な内はコントロールが不安定で思わぬ事故にあう可能性も高いからね」

 

 

「···そうですね。生半可な覚悟で訓練に参加したら本当に危険ですから」

 

 

攻魔師として、剣巫として厳しい訓練に耐え常に前線で修羅場を潜り抜けてきた姫柊雪菜は深く頷いた。

 

 

「わっかりましたー!!私絶対にやり遂げてみせますよっ!」

 

「わ、私も頑張ります!」

 

「私もです」

 

 

「あと、訓練日数なんだけど、さすがにこの中で3年間はキツイから、まずは区切りよく体感時間で3日間頑張ってみようか?」

 

 

「妥当な日数ですね。私を含めて皆さん初心者ですから」

 

 

全員ひみつ道具を使った訓練は初めてなのでドラえもんはキリの良い3日間に限定させ、雪菜もそれに同意した。

ボックスの訓練方法を一通り説明して、『フエルミラー』に写る『E・S・P訓練ボックス』を鏡面に手を突っ込んで取り出して増やして皆に渡した。 

 

 

「よーし今度こそ能力を!絶対に3つの能力を身につけて最強の能力者に···私はなるっ!(透視能力は固法先輩で、瞬間移動は白井さんって所ね。念力は···そう、初春のスカートをより完璧に捲るのにっ!!)」

 

 

「わーい!!頑張って私も超能力を身につけて見せますよ!」

 

 

(この道具で超能力を身につければ透視で暁先輩の行動を逐一監視し、瞬間移動ですぐ側に駆けつけ、念力でいやらしい行為をした暁先輩にお仕置きも出来ますね)

 

 

若干2名かなり邪な目的でやる気に満ちていた。

  

 

「それじゃ、缶詰の中に三人共入ってね。蓋を閉めると基本的に外からしか開けられないから僕が外に待機しとくよ。訓練が終了、もしくば何かトラブルがあったらこの赤いボタンを押して知らせてね!後、時間を短縮できるけど生物の肉体年齢には影響は及ばないからそこも安心してね」

 

 

無駄に年齢を重ねてしまうリスクも排除されている親切設計だった。

 

  

 

「それじゃあお邪魔しまーす」

 

 

佐天を先頭にシリカ、雪菜も続けてカンヅメカンの中に入った。

 

 

「それではドラちゃん、後の事よろしくお願いしますね」

 

「うん、任せて。頑張るのはいいけど決して無理しちゃダメだよ。何かあったらすぐに赤いボタンを押すんだよ」

 

 

三人はカンヅメカンの中に入り、ドラえもんが蓋を閉めた。

 

 

「後はこの時門で時間を調節して···」

 

 

キーコ、キーコ

 

 

「よし、これでカンの中では3日間でも外では約30分位ですませられる。僕は衛星が取得した映像を解析して、安全なルートを割り出して人のいる町まで何れぐらいで着くか分析しておかなくっちゃ」

 

 

 

 

 

カンヅメカンの中に入った三人は部屋の中を見渡した。

 

 

「三人だと少し狭いかと思ってましたが蓋が閉じたら空間ごと部屋が広くなりましたね。では早速、訓練に励みましょう!」

 

 

「はいっ!絶対に私は能力を得てみせますよ!」

 

「佐天さん、気合いの入り方がすごい···私だって···」

 

 

全員真剣な眼差しで訓練に入った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

ドラえもんは今朝方打ち上げた衛星ミサイルからの映像を画面に映し出した。

 

 

「ふ~む····思っているよりも僕達の今居る場所は、とんでもなく広く深い森の中なんだな。あんなに巨大な狼や凶悪そうなウサギまで居て危ないなぁ···これはしっかりと事前準備して、多少時間はかかるけどなるべく安全なルートを選ばないと」

 

 

画面に映し出されている映像からは元の世界でもそう滅多にお目にかかる機会のない程、巨大な樹木に凶悪そうな出で立ちの狼やウサギやその他が、魍魎跋扈(もうりょうばっこ)している様子が映しだされていた。

 

 

「う~ん···こりゃ衛星ロケットをあと2、3発位打ち上げた方がよさそうだな···これは大分骨が折れそうだぞ」

 

 

ビービー!!

 

 

衛星からの映像分析を行っていたドラえもんの背後からカンヅメカンからのお知らせ音が鳴り響いた。

 

 

「あれぇ?あれからこっちで約5分ほど···缶の中では約半日位しか立っていないぞ?何があったんだろ?」

 

 

ドラえもんは忘れずに時門を元の状態に戻して、ポケットから専用の巨大な缶切りを取り出してカンヅメカンの蓋を切り開けた。

 

 

「うんしょ、うんしょ」

 

 

缶切りで穴を開け蓋を開くと薄い煙が立ちこめ、衣服がボロボロになって意気消沈している三人の姿があった。

 

 

「皆どうしたの!?何があったの?ケガは無い?」

 

 

心配になって自分もカンヅメカンの中に入ったドラえもんの目には壊れてひび割れ、中身が露出した訓練ボックスの残骸が映った。

 

 

「すみませんっ···壊しちゃいましたぁ·····」

 

 

自分の過失に涙目になっているシリカと、身命な顔色の雪菜、目を回している佐天の姿があった。

 

 

「いやっ、道具何かどうでもいいよっ!それよりも一体何があったの!?」

 

「はい····それが····」

 

 

雪菜が訓練の経緯を語った。話しによると特別おかしな事はせず、目の前のボックスに三人共正座をし、集中して「動け、動け」「見えろ、見えろ」「移れ、移れ」と、ひたすら三種類の能力開発の為の訓練に集中していたら、突如みるみるうちにボックスに亀裂が走り、小規模ながら爆発して今に至っていると話した。

 

 

「ふえぇぇ···なんでこうなるのぉ~····?」

 

ドラえもんの道具で能力を会得出来ると思って張り切っていた矢先に予想外のアクシデントで佐天は涙ぐんだ。

 

「う~ん···もしかしたらだけど····」

 

「何ですかっ?原因がわかったんですか?ドラちゃん」

 

「うん···ただの憶測なんだけど恐らくこれはオーバーフロー現象だと思う」

 

 

「オーバーフロー現象?何ですかそれは?」

 

 

シリカが尋ねるとドラえもんはこう答えた。

 

 

「オーバーフロー···内容物が容器からあふれることを指し示す現象で、例えばコンピューターの表現可能な値の上限を超えて発生したエラーとかをそう指し示すんだけど、今回の原因は多分三人···特に雪菜ちゃんとシリカちゃんが既に持ち得ている能力に機械が反応して、それを受け止め切れずに爆発したんだと僕は推測する」

 

 

ドラえもんの推測は当たっていた。

 

 

彼女···姫柊雪菜は剣巫としての厳しい訓練で培った技と能力、そして本人の類い稀な才能とも言える巨大な霊力が彼女の器に満たされており、言うなれば巨大なエネルギーの逆流によって訓練ボックスの耐久領域を軽く越え、とうとう耐え切れずに爆発したのであった。

 

 

シリカの場合はこの召喚された異世界において非常に特殊なケースで、生身の肉体とアバターの身体が混成した状態で活動しており、綾野珪子としての肉体にSAO時代のキャラデータと、召喚直前までリンクしていたALOのアバターの能力が一つに重なり、

【シリカ】として異世界に顕現した状態であった。訓練ボックスがシリカの既に持ち得ている能力値に反応して重大なエラーが発生し、遂に爆発に至ったのであった。

 

 

だが、それとは別にここで1つのイレギュラーな現象が佐天涙子の身に起こっていた。彼女は学園都市の能力査定においてゼロと判断されているが、それは大きな間違いであった。

 

 

単純に学園都市の判定装置が彼女の奥深く潜在している能力に追いついておらず、正確な診断が出来ていない事に誰も気づかず、本人すらも自覚出来てなかったのだ。ドラえもんの道具をきっかけに硬く分厚く覆われていた殻が崩れ去り佐天涙子の能力が発露しつつあるのだが、周りや本人が知り得るのはもう少し先の話しになる····

 

 

 

そんな事なぞ露知らずに、訓練ボックスの有り様に佐天を始めとして三人共落ち込み顔色を悪くした。

 

 

「本当にすみません。大切なひみつ道具を壊してしまって···」

 

 

「ドラさんっ、ゴメンなさいっ!弁償します····って出来るかしら···?」

 

 

壊してしまった事に深く罪悪感を抱いている三人にドラえもんは笑顔でこう答える。

 

 

「大丈夫だよ皆!すぐに元に戻せるから任せて!え~っと···ここに···うん、あった!

『タイム風呂敷』~!!」

 

 

お腹の四次元ポケットから時計の模様が付いた風呂敷を取り出した。

 

 

「この風呂敷に壊れたボックスを包んで···1、2、3っと、ほら見て」

 

 

ひび割れ、砕けてボロボロの残骸になっていた訓練ボックス3つが見事に元の形に戻っていた。

 

 

「うわうわうわっー!!?元に戻ってるぅ~!?なになにっ?この道具って壊れた物を直せる道具何ですかー?」

 

三人共驚いていたが一際好奇心の高い佐天が前のめりになってドラえもんに聞いた。

 

「ウフフ···このタイム風呂敷は包んだり、被せたりした物の時間を戻したり、進めたり出来るんだ」

 

 

「うわぁ~!!すごい、スゴい、凄いですぅー!!」

 

「なんて便利な道具!元に戻って良かったですね!佐天さん、雪菜さん」     

 

 

「···そうですねシリカちゃん。(····時間の流れを緩くするだけでなく進めたり、戻したりと自在に干渉する道具まで有るなんて···先輩の11番目の眷獣、水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)の時間遡行能力に該当する道具ですね。私の予想を遥かに越えてました。····ドラちゃんが敵でなくて心底ほっとしますね)」

 

 

「あ~でもせっかくドラえもんさんが用意してくれたのに超能力が使えなくて残念ですね佐天さん」

 

「佐天さんには気の毒ですが、それは仕方ありません。また訓練しても結果は同じになりますから、ここは潔く諦めましょう」

 

「うん、その方がいいよ。ケガをしてからじゃ遅いからね」 

 

皆の安全を最優先するドラえもんだが、そもそもひみつ道具があれば多少のケガをしても遅くはないのだった。

 

 

「ふっふっふっ····」

 

「急にどうしたんですか佐天さん?」

 

いきなり不敵な笑いをした佐天にシリカは怪訝な顔で聞く。

 

 

「実は私、能力を少しだけですが会得しましたー!!」

 

「えっ!?本当ですか佐天さん。あの短時間の内に?」

 

「あっ、そうか!佐天ちゃんは元々学園都市とかいう所で科学的な側面から様々な能力開発や、訓練カリキュラムを受けていたからその分、能力を引き出すのがスムーズに行われたんだね」

 

 

「やりましたね佐天さん」

 

「おめでとうございます!」

 

 

シリカと雪菜は自分の事のように喜び祝った。

 

 

「えへへ···といってもそう大したのじゃ無いんですけど···とにかくお披露目しちゃいまーす!」

 

 

「わぁー!!パチパチパチッ!!」

 

ドラえもん、シリカ、雪菜が拍手して迎えた。

 

 

「それじゃあ佐天涙子いきまーす···む···んっ···········ハッ!」

 

 

 

 

 

佐天が集中すること約1分後···彼女の身体がほんの僅かにぶれた。

 

 

「·····えっ?」「····んんっ?」

 

 

「今佐天ちゃんの身体が少しぶれた感じがしたけど、もしかして···」

 

「はい!瞬間移動ですっ!·········まあ、ほんの1、2cm程ですけど····」

 

 

 

「······················」 

 

「·······す、凄いですね·····ハハハッ····」 

 

「·······えっと、よ、良かったですね佐天さん·····」

 

 

いたたまれずに無言になるドラえもんに、顔を背けて視線外しながら佐天に精一杯の祝いの言葉を贈る雪菜とシリカであった。

 

 

「も~っ、変に気を使わないでよっみんなー!!!これでもゼロより多分マシ何ですからねー!?」

 

 

みんなの優しさが辛いと感じる佐天涙子

(13歳)であった。

 

 

「まだだっ、まだよっ!まだですよっ!!もう一つ、能力を得たんですからこれも見て下さいよ!」

 

 

不屈の精神で、訓練ボックスで得たもう一つの能力を見て貰うべく気合いを入れて再び集中する彼女に誰も

が思わず緊張して皆見守った。

 

 

 

 

 

 

「······うーんうーん·····えーいっ!!」

 

 

先ほど同様に約1分後、佐天は両手を下から上へと勢いよく振り上げて能力を発揮した。

 

 

バサァー!!

 

 

「えっ!?」「えっ!?」「なぁっー!?」

 

 

 

「きゃあぁぁー!!??」

 

 

····なんと、佐天の発した念力で雪菜とシリカのスカートが完全に捲れ上がったのである。

 

 

雪菜とシリカの下着と太ももが露になり、ドラえもんは目を思わず見開き、赤面して皆から背を向けた。

 

 

ちなみに雪菜の下着はオレンジ色を基調としたチェック柄のオシャレな下着で、シリカの下着は白を基調にして端の部分をピンク色でアクセントをつけた可愛いい下着であった。

 

 

「や、やった、成功したー!!やったー!!見て下さい、これが私の念力ですよっー!!(わーっ♪二人共可愛いい下着を来てますね。これで初春のスカートをより効率的に捲れる!)」

 

 

捲れ上がるスカートを両手で、必死で押さえながら雪菜とシリカは佐天に強く懇願した。

 

 

 

「きゃあぁぁー!!ダメダメだめぇー!!」

 

 

「ちょっ、ちょっと佐天さん!!もう分かりましたから止めて下さいー!!」

 

 

(なんだかのび太くんみたいな事するなぁ···)

 

 

元の世界の友人、野比のび太の顔を浮かべて呆れるドラえもんだった。

その後ようやく念力が収まり、二人共鬼の様な顔で佐天をその場に正座させて説教をし始めたのだった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「····いいですか?もし、次に同じ事したら許しませんからねっ!」

 

 

「そうです、ちゃんと反省して下さい佐天さん」

 

 

「····ううっ。は~い···気をつけまぁ~す·····」

 

 

「···どうやらまだお説教が足らない様ですね」

 

 

「いやいやっ!ちゃんと反省してますってば雪菜さん!本当に!心から!本当ですから!」

 

 

「全くもう····(いけない···つい、暁先輩に説教するノリでやらかしてしまいました)」

 

 

「あのぉ~この流れだと最後の能力は透視能力というのがベタなんですけど····実際どうなんですか?」

 

 

「透視···ハッ!まさか佐天さん私達のブラジャーとかを覗き見するつもりですか·····?」

 

「い、いえいえいえっ!しませんしませんよぉ!?シリカさん余計な事言わないでよぉ~(ブラは昨日のお風呂の時にもう見たんだけどなぁ)」

 

 

「もう、せっかく能力を得てもこんな使い方ではドラちゃんに失礼ですよ」

 

「あっ···ははは····ドラさんゴメンなさい!気を使って訓練ボックスを貸してくれて色々してくれたのに!」

 

 

「いやいや僕の事は気にしないで佐天ちゃん。それにほんの少しだけど能力が得られたって事は、可能性はゼロじゃないって事さ。元の世界に帰ってもきっと君なら能力を開花させられる。それにはまずこの異世界を生き抜いて元の世界へ戻る手がかりを得よう」

 

 

「はーい!あっ、ちなみに透視何ですけど、能力は得られなかった代わりに何だかやたらめったら目が良くなったんですよね。まあ、元々視力は良い方でしたけど···」

 

 

「視力···ですか?」

 

 

「ふむ。それじゃ確かめてみよう。え~とっ、ただの普通の視力検査シートぉ~!!」

 

 

ポケットからは学校や眼科で良く使われる視力検査の為の表が出された。

 

「それじゃあ僕が少し離れた距離から棒で指示した丸のどの部分に穴があるか見て当ててね」

 

 

「はいっ、お願いします」

 

 

ドラえもんが約1m程離れて棒で丸を指すと佐天は何の問題もなく正確に答えた。

 

 

「へぇ~凄いね。じゃあ次は2m位で別の視力検査シートを···」

 

 

別の視力検査シートを出したのは単純に穴がどの位置に開いてるかを記憶してしまって答える可能性があった為、別のシートを用意したのだ。だが結果は先ほどと同じく全て正解した。

 

 

「凄いぞ!女子中学生の平均視力を上回ってるぞ!よーし!じゃあこの距離ならどうだっ!」

 

 

ドラえもんは小走りしてなんと10mまでの距離から別の視力検査シートを広げて棒で一番下の極小の円を指し示すと佐天は難なく当てた。

 

 

「うわぁ~凄い凄いぞぉー!!」

 

 

「ええっ~佐天さん何なんですかその視力!?確実に2,5以上ありますよっこれ!」

 

 

(私も動体視力なら些か自信はありますがあれだけの距離の穴の方向を見て当てるなんてっ!?見たところ直感的に言い当てている様子もありません。これもドラちゃんの道具のお陰なのでしょうか?)

 

 

 

マサイ族と呼ばれる人達がいる。

彼らは優れた視力を持ち、草木の生い茂った100m先の遠く離れたウサギの瞳を確認できる程驚異的な眼を持っている。

科学の最先端を行っている学園都市でも近年学生の視力低下が問題に上げられているが、そんなPCや、スマホ画面の影響下にあっても佐天涙子は普通(・・)に視力が良かった。だが、明らかに今の彼女はマサイ族に匹敵する視力になっていた。

 

 

 

「いやぁ~まさかこんなに視力が良くなるなんて!透視力は会得出来なかったけどこれはこれでラッキー♪」

 

 

当の本人も気づいてはいなかった。E・S・P訓練ボックスの訓練をきっかけに佐天涙子の固く分厚つく閉ざされていた能力の扉が開き、レベル5に匹敵する能力が目覚め始めたという事実に····

 

 




読んで下さりありがとうございます。まだ地下室···短編でサクッとやるつもりだったのに長丁場になる予感が···頑張ります。良いアイディア、ネタ、質問受付けておりますのでお願いします。


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5話 着替え

お待たせしました。


E・S・P訓練ボックスによる超能力会得は残念な結果に終わった。

その代わり佐天涙子の視力は大幅に高まり、最大のコンプレックスだった能力ゼロから解放されようとしているのを本人も周りもまだ気づいてはいなかった。

 

 

「佐天さん。浮かれるのはその辺にして、

いい加減服を何とかしないと····」

 

 

佐天、雪菜、シリカの服は超能力訓練の際、オーバーフロー現象が起き、そのため機械が逆流するエネルギーの過負荷に耐えきれずに小規模の爆発を起きてしまい、三人の衣服を少なからずボロボロになっていた。

 

 

「超能力と視力の向上に浮かれてて忘れちゃってました!」

 

 

「でも私達、替えの服は壁紙寝室に掛けてあったパジャマしかありませんよ?」

 

 

三人は着の身着のまま、ここ異世界へと強制召喚されたため、持ち物はほんの僅かに身につけていた私物位で替えの衣服類などは持ち合わせていなかった。

 

 

「····正直、当てにしっぱなしで心苦しいのですがドラちゃん、何か衣服に関するひみつ道具とかは無いんでしょうか?」

 

 

三人は期待に満ちた眼差しをドラえもんにぶつけた。そして何時もの様に穏やかに笑って、

 

 

「フフフ。大丈夫いい道具があるよ!任せて!」

 

 

お腹のポケットを丸い手を入れまさぐるとカメラと丸めた壁紙を取り出した。

 

 

「じゃーんっ!『着せ替えカメラ』と『壁紙服飾店』!!」

 

 

「わーいっ!やったー!!」

 

 

「やっぱりドラえもんさんって頼りになりますね」

 

 

「ええ。ここに来てから、本当に···」

 

政府機関から剣巫としての任務を承り、前線で戦い、経験と実績を積み上げ、ささやかながらも誇らしかった姫柊雪菜は今の自分の無力さに歯痒さを感じていた。異世界に来てからまだ2日も立っていないものの、何から何まで、偶然巡り合えたドラえもんに頼りっぱなしで衣食住の全てを当てにしてしまっている己の不甲斐なさを苦々しく思っていた。生真面目でストイックな性格が余計に自身を密かに責め立ていたのだ。

 

 

そんな事露知らずにドラえもんは取り出した道具の説明をした。

 

 

「まず、この壁紙服飾店は既に壁に張り付けある壁紙同様に色んな衣服を取り揃えているんだ。上は帽子から下は靴下まで何でも揃っているからね。そしてこの着せ替えカメラなんだけど、これは服の写真や絵とかの衣服のデザイン画をカメラに入れて対象となる人をファインダーに捉えてシャッターを切ると、その人の着衣がデザイン通りのものに変わるんだ」

 

 

ドラえもんの説明を受けて佐天とシリカはお互いの手を握り合って仲良く小刻みにジャンプして全身で喜びを表現していた。年頃の女の子なので当然オシャレを楽しみたかったのだ。

 

 

「わーいっ!わーいっ♪すごい!すごーいっ!!やったねシリカさん。これがあれば好きなデザインのオシャレな服を何着でも手に入れられるっ♪」

 

 

「はい♪佐天さん。私だけSAO時代の冒険服だったから、素敵で可愛い服、実は欲しかったんですよ!もぉー今からワクワクが止まりませよっ!!ねっ、雪菜さん!」

 

 

 

「えっ?····ああ、そうですね」

 

 

柊柊雪菜は第四真祖、暁古城の監視任務の都合上、衣類を始めとした私物を殆ど持ち合わせておらず、自身も使命と任務の為、優先順位は低かった。最も暁古城の妹、凪沙に連れられて服を買いに行くこともあったのだが。

 

 

「それじゃあ壁紙を壁に張り付けてと···それとこれ、ファッション雑誌とスケッチブックと12色ペンも渡しとくよ。欲しいデザインの服がなかった場合はこのカメラを使ってね!」

 

 

ドラえもんは優しく微笑んで道具を渡した。

 

 

「うわーいっ!!とっても楽しみぃ~!!早く早く!行きましょうよ!」

 

 

「行きましょう♪すぐに行きましょう!ほら雪菜さんもっ、それ~♪」

 

 

「ちょっと、佐天さん、はしゃぎ過ぎですよ。急がなくても服は逃げたりしませんっ。なっ!?シリカちゃんそんなに押さないでっ!」

 

 

「ウフフ。みんなあんなに楽しそうに···さて、偵察衛星をもう何個か飛ばしておかなくちゃ!」

 

 

三人を微笑ましく見送ってドラえもんはさらに周辺情報の探索に勤しむのだった。

 

 

 

 

二人はとても浮かれながら雪菜を引っ張って壁紙服飾店への扉を開いた。足を踏み入れるとそこは高級デパートの服飾店と何ら遜色の無いレイアウトで華やかな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「うわ~!うわ~!見て下さいよ佐天さん、あの服とっても可愛くて素敵です!!あ、あの服もっ!どれもこれも綺麗で迷っちゃいますよ!」

 

 

「うん!うん!そうですね!あっ!あっちの服も良いデザインしてますよ!こっちのも!」

 

 

「もぉ~二人共もう少し落ち着いて下さい。本当に····浮かれ過ぎですよ····」   

 

 

マネキンに着せてある可愛いい洋服や、綺麗に折り畳んで見やすい様に並べられた様々なデザインの衣服類に二人は瞳を一際輝かせて、頭を右へ左へとひっきりなしに動かしていた。

 

 

「雪菜さんは何か気に入った服は無いんですか?」    

 

「私は余りファッションとかはよくわからなくて···高神の杜に居たときも私物類は必要最低限に留めていましたから」

 

 

「じゃあこの機会に色々見て回りましょうよ!あっちの服とか雪菜さんに似合いそうですよ!」

 

 

「ありがとうシリカちゃん」

 

 

「うひゃぁ~どれもこれもみんな素敵過ぎて首が痛くなってきちゃいますよ!····ん、あっ!」

 

 

ふと、ワゴンの中に並べてある品物に佐天は驚異的に高まった視力で鋭く見逃さずに突進した。そのワゴンの中身はセクシー系等のきわどい下着がわんさか詰まっていた。

 

 

「おぉ~!?これは良いものだ···ぬふふふっ···シリカさん、雪菜さん!ちょっと来て下さいよぉー」

 

 

二人を呼び寄せて手にした品を目の前に見せた。ワゴンから漁ったのは布面積が少なく赤色のセクシーなヒモパンと黒色のメッシュタイプのランジェリーで悪ノリして冗談混じりにシリカと雪菜に勧めた。

 

 

「ジャーンっ!!シ・リ・カ・さぁ~ん♪ゆ・き・な・さぁ~ん♥こんな下着なんてどうですか?きっと暁先輩さんや、キリトとか言うお兄ちゃん的な男性のハートを鷲掴みする事間違い無しですよぉ~♥」

 

 

「ちょっ!?何てエッチな下着を勧めるんですかー!!こんなの私無理ですよぉー!!

(あっ、でも今から着こなせば明日奈さんみたいに綺麗でセクシーな女性に成れるかも···)」

 

「な、な、何て破廉恥ものを手にしてるんですかっ!?やらしいにも程があります!!·····どうやらやはり、お説教が足らなかったみたいですねぇ···」

 

 

顔から火がでる程赤くなったシリカと当たり前の様にセクハラじみた行為をしてくる佐天に雪菜は再び鬼のごとき形相で怒気を漲らせた。

 

 

「あ···ははは···や、やだなぁ~冗談ですってば、冗談っ!」

 

また説教は勘弁とばかりに冗談だと必死で言い訳する佐天だった。

 

 

「もう、佐天さんったら····あっ!あの服可愛い!私試着してきますね」

 

 

「私も試着しよう!」

 

 

二人は小走りで服を持って試着室に向かった。

 

 

「まったく、佐天さんときたら···シリカちゃんもあんなにはしゃいで···しかしこんな品物まで揃えているなんて···むぅ···この様な破廉恥なのが男の人は好きなのでしょうか?こんな下着を着けてるのを先輩が見たらきっと私の事·····って!私は何を考えて!?やはり僅かな時間で精神が緩み、堕落し始めてきている···気を引き締め直さなければ····んっ?あっ、あれは!」

 

 

僅か2日足らずでリラックスを通り越して心身のたるみを自覚して、気を引き締めようとした雪菜だが、前方に何やら気になる衣服を見つけて駆けていった。その頃試着を終えた佐天とシリカはお互いの服の品評会を始めていた。

 

 

「おお~可愛い!良く似合ってますよシリカさん!」

 

 

「佐天さんもその服素敵ですぅ~!」

 

 

お互いのファッションを誉め合い、何度も様々なデザインの服を試着して二人は夢心地の気分に浸っていた。

 

 

「あれ?そう言えば雪菜さんはどちらに?」

 

 

「ありゃりゃ···いけない、夢中になって試着しててほったらかしにしちゃってた。どうやら雪菜さんはファッションに対しての興味が薄いみたいなので私達で似合いそうなのを何着か見繕って雪菜さんをコーディネートしちゃいません?シリカさん」

 

 

「あっ!それ良いですね!是非そうしましょう♪」

 

 

試着室から出て、何着か雪菜に似合いそうな服を見繕う二人だがその内何着かは、コスプレと言っても間違いのないマニアックな服も混じらせる懲りない佐天だった。

 

 

「これとこれで···よし!え~と雪菜さんは····んんっ···!?」

 

服をまとめて、雪菜の姿を追って周辺を見渡すと信じられない格好の雪菜が姿見で自分の出で立ちを確認しつつ、様々なポージングをしている姿がシリカの目に映った。

 

 

「わーっ♥こんなにねこまたんと似た服が有るなんて···ふふふ♪凪沙ちゃんもきっと気に入ってくれますね。素晴らしい一品です!にゃんにゃん♥」

 

 

姫柊雪菜が試着していたのは元の世界で好きなマスコットキャラ『ねこまたん』に似た着ぐるみパジャマだった。何度も姿見でねこまたんのポージングをし、悦に入っていた···

 

 

「あ···あのぉ~雪菜さん?その服は···」

 

 

「ハッ!?し、シリカちゃん?い、いやっ、その····こ、これはですねたまたま見つけて····えと···決して浮かれた気分とかではなく···その···忘れて下さいっ!」

 

 

シリカに見られてしどろもどろになってしまう雪菜だった。そんな着ぐるみパジャマ姿の雪菜を見た佐天は思わずお腹を抱えて吹き出し、

 

 

「あっははは!良いじゃないですか雪菜さん。とても似合ってますよ。ねっ!シリカさん♪」

 

 

「えっ····!?ええ、そ、そうですね。似合ってます····」

 

 

ぎこちなく取り繕うシリカだった。

 

 

(くうぅぅ~·····恥ずかしい!!私としたことが····やはり弛んでしまってる。上からの監視任務から一時とはいえ解放されて、私自身も無意識に浮かれてしまっていたというの?駄目···こんな事ではいけない!!堕落した今の私の姿を見たらきっと先輩や紗矢華さんに呆れられ軽蔑される····気を引き締めないと!)

 

 

「それより、私達何着か雪菜さんに似合いそうな服持って来たんで着てみて下さいよぉ♪シリカさんにも似合いそうなのありますからね」

 

 

頭を抱えて、自問自答している雪菜を尻目に自分が選んだ服の試着を勧めて無理やり二人を試着室へと佐天は誘い、押し込んだ。待つこと数分後····

 

 

 

「ちょっと何なんですかこの衣装はぁ~!?」

 

 

「なっ、何て破廉恥な格好させるんですかあなたはっ!!」

 

 

 

シリカと雪菜は強く抗議していた。

佐天の見繕った服の何着かはコスプレというか、きわどい物も多数混じっており、つい二人は押しの強い佐天に流されるまま試着してしまったのだ。

 

 

佐天に強引に勧められ、シリカと雪菜の着た衣装はナース服、チアガール、バニーガール、旧スクール水着、体操服(ブルマ)、メイド服、警察官、スチュワーデス等、果ては昔のファンタジー作品に多く見られたビキニアーマーといったマニアックな衣装ばかりでその手のマニアには堪らない衣装ばかりだった。

 

 

(ああっ、こんな服装を先輩に見られたらと思うと····って!絶対に着たりしませんっ!!)

 

 

(男の人ってこんな感じの衣装が好きなのかな?だとしたらキリトさんに見せたら喜んで···って恥ずかしいっ!!)

 

 

結局の所、案外満更でもなくもない二人だった。

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさいっ!」

 

 

メイド服姿の雪菜は佐天に一喝して再び正座させた。

 

 

「あなたという人は····悪のりが過ぎますよ!まったく···」

 

「そうですよ佐天さん!」

 

 

「え~?じゃあ二人は何で最後まで衣装を何度も着てくれたんですかぁ?着る前にどんなのかは確認は出来るはずですよねぇ~?」

 

 

「い、いや、そ、それはその····」

 

「それは、さ、佐天さんが、無理やりに····」

 

 

「ぬふふっ♪もしかして雪菜さん、例の暁古城とか言う先輩の為に着てみたんじゃないんですかぁ~?シリカさんはお兄さんみたいに慕っている【黒の剣士】の異名を持っていたキリトとか言う人にアプローチする為じゃないんですかぁ~?」

 

 

自分達でも自覚していなかった本心を鋭く言い当てられた二人は頬を赤く染めて身体を震わせていた。

 

 

「結局二人共ノリノリで楽しんでたんじゃないですかぁ~♥」

 

 

挑発するかの様に喜色満面の顔で録に反省もせず二人を言いくるめ様とする佐天だった。

 

 

 

····しばし沈黙して身体からオーラを出しながら雪菜は、

 

 

「····佐天さん。あなたにもこの衣装を着て貰います···」

 

「へっ?」

 

「····そうですね。そうしましょう····」

 

 

有無を言わさぬ形相で目を光らせ、二人は佐天に着せられた衣装を手にして今度は逆に無理やり着用させようと、にじり寄った。

 

 

「ちょっ!?待って待って!タンマ、タンマァ~!!」

 

「いいえ!待ちませんっ!」

 

「そうです!覚悟して下さい佐天さん!」

 

 

 

責めるのは得意で好きだが、責められるのは苦手な佐天だった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「ふえぇ~ん。自分で着ると恥ずかしいよぉ···」

 

 

二人にお返しとばかりに無理やりコスプレ衣装のバニーガールを着せられた佐天は涙目で恥じらい、その様子を眺めていた二人は彼女のスタイルの良さに少なからず精神的ダメージを負った。·····特にシリカが。

 

 

(私より二つ年が下なのにこのスタイルの

良さ····あと数年したらどんな成長を遂げるんでしょうか?)

 

 

(ううぅ····私の方が一つ上なのにぃぃ····あの胸、腰のくびれ、ヒップラインにスラリとした脚の長さ!身長は元より、スタイルでも

完全に負けてるぅぅ····直葉さんといい、私の周りの女性の発育良すぎるよぉぉ···ちゃんと毎日牛乳飲んでたのに何でなのぉぉ····?」

 

 

シリカはドラえもんに渡された着せ替えカメラを手にして、

 

 

 

「····雪菜さん。お返しはこの辺にして着せ替えカメラを試してみませんか?」

 

 

目の前の現実を直視するのに耐えられなくなったシリカが妙に凄みのある感じで提案した。

 

 

「えっ?ええっ、そうですね。せっかくドラちゃんが用意してくれたのですから使ってみないと」

 

 

シリカはドラえもんに渡されたファッション雑誌のページをめくり、気に入ったページをカメラの中に入れてレンズを佐天に向けてシャッターを切った

 

パシャ!

 

一瞬でコスプレ衣装を着ていた佐天の身体が華やかな着物姿を纏い変化した。艶やかな黒髪ロングの佐天に和服は相性が良く一層に冴え渡っていた。

 

 

「わぁ~!!着物だぁー綺麗····!」

 

 

「この着せ替えカメラすごく便利です!良く似合ってますよ佐天さん(着物なら身体のラインを見なくてすむからこれでよし!)」

 

 

何気にガッツポーズを取るシリカを余所に雪菜は白いスケッチブックにペンを走らせていた。

 

 

「着物何てめったに着ないから何だかとっても新鮮!んっ?雪菜さん何を書いてるんてすか?」

 

興味津々にスケッチブックを覗き見る佐天の目に映ったのは雪菜が着用していた自分の制服だった。

 

「私が着ていた制服を描いてます。色々見て周ったのですが同じ感じの物は見当たりませんでしたので···」

 

「あ~····確かに私もそれとなく探してたけど何か微妙に作りが違ってしっくり来なかったんですよねぇ···」

 

 

話している内に完成させた雪菜はシリカに頼んでシャッターを頼んだ。

 

 

「それじゃ雪菜さんいきますよー。ハイッチーズ!」

 

パシャ!

 

一瞬で新品同様の白と青の制服を雪菜は身に纏った。

 

「やはりこれは非常に便利ですね。このカメラとスケッチ画があればいくつも予備が出来て何の心配も入らなくなります」

 

 

メイド服から制服姿に戻った雪菜を見てシリカもスケッチブックに元の世界で和人、明日奈、篠崎 里香らと共に通っているSAO生還者たちの為の学校の制服を描き、雪菜に頼んでカメラのシャッターを切って貰った。

 

 

先程まで雪菜同様にメイド服姿だったシリカに深い紺色に白いラインが映えるショート丈のジャケットにハイウエストスカートの制服がシリカの身体に纏っていた。

 

「それがシリカちゃんを始めとするSAO生還者達に政府が用意した学校の制服なんですね。よく似合ってますよ」

 

 

「ウンウン。本当可愛いですよ!」

 

「えへへ···♪ありがとうございます♥」

 

 

二人に誉められて思わずクルリと身体を回転させてスカートを揺らして、二人と同じ制服姿になれたことを喜んだ。

 

 

着物を着て喜んでいた佐天も二人を見習ってスケッチブックに自分の着ていた夏用のセーラー服を描き、雪菜に頼んで新しく制服を作った。

 

 

「うん!やっぱりこの制服よね。しっくりくる♪」

 

 

「さすがに少しのんびりし過ぎましたね。ドラちゃんがきっと待ちわびているに違いありません。すぐに戻りましょう」

 

 

皆、両手に私服類と替えの下着、靴下、制服の予備を持って壁紙服飾店を出た。

 

 

外に出るとテーブルの上のどら焼きを頬張りながら衛星画面を見ていたドラえもんが居た。

 

 

「あっ、皆お帰り。随分長かったけど気に入った服はあったの?」

 

「はい!ドラえもんさんのお陰で素敵な服がこんなに沢山見つかりましたよ」

 

「着せ替えカメラのお陰で制服も新しいのに変えられました」

 

「私も素敵なデザインの服が得られて本当に最高ですよっ!そうそう、雪菜さんったら着ぐるみのパジャマを·····」

 

 

「····さぁ~てぇ~んん~さぁ~ん····」

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

つい、余計な事を口走り雪菜にまたもお説教されるやはり懲りない佐天だった。

 

 

 

 




皆さんの感想、意見、疑問や誤字、脱字の指摘、そしてこんなアイデアやネタ、どうですか?等々とにかくお待ちしております。確かに作者である私が執筆するのには間違いないのですが、読んで下さる皆さんとで作品が作っていけれたら誠に幸いです。
どうかよろしくお願いします!


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6話 姫柊雪菜の憂鬱

お待たせしました。


結局、またも雪菜を怒らせてお説教される佐天だった。

 

 

「·····いいですか?すぐにやらしい思考をするのはそもそも精神がたるんでいる証拠です!それに·····」

 

 

正座させられ、やたらと長い説教に佐天の足は限界を迎えていた。

 

 

(ひーんっ足が····痺れて···ツラいよおぉぉ····調子にのり過ぎたぁぁ~。初春にするノリでつい、やらかして····もう勘弁してぇぇ~)

 

 

(この説教の長さ····まるでのび太くんがママにされるお説教に匹敵するなぁ····さすがにそろそろ助け船を出すか)

 

 

「ねえねえ、雪菜ちゃん。佐天ちゃんも、もう十分に反省してるみたいだし、お説教はその辺で勘弁して皆で晩御飯にしょう。ねっ!」

 

 

ドラえもんの説得で我に返った雪菜は軽く咳払いをして長かったお説教をようやく終わらせた。

 

「ゴホンっ·····わかりました。今日の所はドラちゃんに免じて、この辺にしておきましょう。私も少し言い過ぎました」

 

 

説教と正座から解放された佐天は目に涙を滲ませて身体をぷるぷると奮わせた。

 

 

「あ"あ"ぁぁぁ~~~ん!!足、足がぁぁ~痺れたよぉー!!」

 

 

床に身体を伸ばしてジタバタしている佐天に雪菜は再び厳しい視線を送り、

 

 

「これに懲りたらもう少し自分の行動に責任を持つ事です。大体あなたは····」

 

「まあまあ」

 

説教モードに戻りかけた所を何とかドラえもんが止めるのだった。

 

 

「ひーん···長かった···ツラかった····」

 

「足、大丈夫ですか?佐天さん」

 

 

一刻も早く痺れた足が治るように伸ばして

ストレッチ(もど)きの動きをしている佐天をシリカは気遣い、一方の雪菜は自己嫌悪に陥っていた。

 

 

「····はぁっ·····(やり過ぎました。

私とした事がつい、暁先輩を重ねてあんなに傲慢に説教をしてしまうとは····八つ当たりみたいな真似をして情けない。精神鍛練が足りない証拠だな。····寧ろ私自身がしっかりと反省しなければ。やはりドラちゃんの出してくれる道具がもたらす環境に甘えて、たるんでいますね。このままでは元の世界に戻っても任務の遂行に大きく支障をきたしてしまう。何とかしなければ····)」

 

 

己の不甲斐なさに自己嫌悪し、これからの自分に微かな不安を感じる雪菜だがしかし、現状ではドラえもん以外に頼る術がなく思考の袋小路へと迷うのだった。

 

 

一人悶々と思考を巡らしていると、ドラえもんが今日の夕食メニューを言った。

 

 

「さぁて。今日の晩御飯はご飯に味噌汁にサラダ、卵焼きにメインは唐揚げにしようと思うんだけど···どうかな?」

 

 

「わーい!やった唐揚げだぁー!!」

 

 

「私、唐揚げ大好きですぅ!」

 

 

「ウフフ。それはよかった。唐揚げはそのまま食べても美味しいけど、レモン汁や胡椒、マヨネーズやタルタルソースとか付けても美味しいよね」

 

 

「マヨネーズっ····!」

 

 

ドラえもんが口にしたその言葉に鋭く反応した雪菜。余り知られていないが彼女はかなりのマヨラーだった。

 

 

「ド、ドラちゃん、その、グルメテーブルかけからはマヨネーズも出せるんですか?」

 

 

「もちろん!好きなだけだせるよ」

 

 

ドラえもんの答えに雪菜は密かにテンションを高めた。

 

 

ドラえもんは先程言ったメニューをグルメテーブルかけから注文し、一瞬で準備を整えた。

 

しっかりと手洗いの後4人は席に着いて手を合わせ、

 

「それじゃ、いただきます」

 

 

「いただきます!×3」

 

 

注文した唐揚げからは食欲を刺激する香ばしい香りが立ち上ぼり、佐天は小さい器にテーブルかけから出てきたレモンを絞ってシリカに渡した。

 

 

「はい、シリカさん」

 

 

「ありがとう佐天さん。雪菜さんはレモン汁は····」

 

 

そう言い掛けてシリカは我が目を疑い、思わず絶句した。隣の雪菜はグルメテーブルかけから出したマヨネーズをこれでもかっ!と言わんばかりに大量に唐揚げにかけていた····

 

 

もはや唐揚げにマヨネーズがかかっているのではなく逆転して、マヨネーズに唐揚げをトッピングしてある状態になっていた。その有り様にシリカは恐る恐る尋ねた。

 

 

「···雪菜さんって、その···マヨネーズがお好き何ですね····?」

 

 

「はい!マヨネーズのこの独特の旨味と酸味がより唐揚げを美味しく彩りますよね。元の世界でもマヨネーズは欠かさずストックしてありますよ♪」

 

 

「へ、へぇー···そうなんですか·····」

 

 

ぎこちなく愛想笑いするしかないシリカだった。

 

「ま、まあ人それどれですからね·····」

 

 

佐天もぎこちなく、雪菜の嗜好を肯定した。

 

 

「更にはこれですよっ!」

 

 

何をとち狂ったのか?とうとうご飯にまでマヨネーズをかけ、一味唐辛子を振りかけ

ドヤッ!っと言った面持ちで得意気に皆に自慢した。

 

 

「名づけて『姫柊スペシャル』です。やはりマヨネーズにはコレですよねっ!」

 

 

「おっ、美味しそ···う?····ですねぇ·····

(それ、単なる犬のエサァー!!って言いたいけど言えないィィー!!)」

 

 

空気を読んで本音を心の内に留めたシリカだったが佐天は口に出しそうになり、

 

 

「え~っ、それって犬のえ····モゴッ!?」

 

 

咄嗟にシリカは気を効かせて佐天の口を両手で封じた。

 

ヒソヒソ「···ダメですよ佐天さん。それを口に出したら佐天さんの人生はここで終わりますよ!?」

 

 

 

「えっ?今何か言いかけませんでした?」

 

「な、何でもありませんっ!」

 

シリカのお陰で九死に一生を得た佐天だった。

 

 

そんな皆の様子を見ていたドラえもんは微笑ましい顔で冒険を共にした仲間の顔を思い浮かべていた。

 

(フフフッ『姫柊スペシャル』か·····

まあ、『ジャイアンシチュー』に比べたら可愛いモノだね)

 

 

ここで説明しておこう。

ジャイアンシチューとはドラえもんの親友、野比のび太のクラスメイトにしてガキ大将のジャイアン(剛田武)が趣味の一つとして自ら考案したスペシャリテ(必殺料理)を指し示す。

 

 

その材料は·····

 

 

挽き肉・たくあん・塩辛・ジャム・煮干し・大福・納豆・ショートケーキ・その他色々。

 

 

味噌をベースに味が整えられ、隠し味に漢方にも用いられるセミの脱け殻を使用した薬膳料理に相通ずる概念の一品である。

 

 

その味と効果は凄まじく、一説には

とある【神の舌】を持つ美食の女王と呼ばれる女性が一口食した所、身体が紫色になって七孔噴血し、あわや生命の危機を迎えたとか···また都市伝説じみているが、噂でとある魔法少女が絶望の余り魔女に成り果てるとか、成らないとか····

 

 

ともかく、そんな料理の存在を知るドラえもんからすれば雪菜のマヨラーっぷりも、とるに足らない至極可愛いモノと受け取れたのだった。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

雪菜のマヨラーを、多少気にしつつも美味しく楽しく食事を終えた三人に現状を説明した。

 

 

「みんな、ちょっと聞いてね。最初の衛星ロケットからの情報を画面で確認したら、ここはとんでもなく広くて、深い森···樹海と言った方がいい規模で中には恐ろしい動物、魔物といった怪物がひしめいている。更に追加で三本の衛星ロケットを飛ばして範囲拡大して、なるべく安全なルートを模索するからもう少しだけ待っててね」

 

 

「魔物···ですか」

 

 

雪菜が静かにつぶやく。

 

現在の彼女の手元には相棒とも言える霊槍、雪霞狼(せっかろう)がなく、自身が身につけている「八雷神法(やくさのいかずちのほう)」と呼ばれる呪式戦闘術を用いるしか戦う術が無く、彼女は

「果たしてこの異世界の魔物に自分の力は通用するのか?」という危機感を募らせていた。

 

  

「動物···魔物···」

 

 

シリカも魔物の存在を聞いて不安と期待が入り交じった複雑な思いを抱いた。この異世界の自分は生身の肉体にSAO時代のデーターとALO時の能力が混在している状態で、ダガー使いにしてテイマーだった自分なら特定の魔物をピナの様にテイムできるかもと考えていた。

 

だが、ここは異世界にして現実の世界。

そう、都合良くゲーム時のシステムが発動するのか見当もつかず、またゲームと違って本当の、本物の血肉の通った魔物達を殺せるのか?とあれこれ考え込んでしまってた。

 

 

佐天も魔物と聞いて少し神経を尖らせた。魔物とかの知識は昔、弟と遊んだゲーム位でしか知らず、また自身は少し運動神経が良い位の普通の学生で頼みの能力も実戦では使い物に成らないレベルだと自覚しており、とても戦闘に役に立てるとは到底思えなかったからだ。

 

幻想御手(レベルアッパー)事件の際、チンピラに囲まれた学生を助けようとするが、圧倒的暴力の前に何も出来ず震え結局白井黒子に助けられ、己の無力さに打ちのめされた苦い過去が頭を巡り一人悩み始めた。

 

 

そんな三人の様子に心を痛めたドラえもんは皆を不安から守る為、ある提案をした。

 

 

「みんな···不安がらせてゴメンねぇ···よーし、ここは気分転換に色々と楽しんで遊んじゃおうっ!」

 

 

お腹のポケットからは最早定番になった壁紙ハウスシリーズを取り出し壁に引っ付けた。

 

 

「『壁紙レジャーランド』と『壁紙カラオケルーム』更に『壁紙ネットカフェ』~!!」

 

 

ドラえもんは三人の気分転換できる壁紙を次々と取り出した。

 

 

「わぁ~壁紙ハウスってまだこんなに種類があったんですねぇ~!!」

 

「ウフフ。あんまり遅くまで遊んで夜ふかしするのは感心出来ないから今日はこの中の一つだけにしぼって楽しもうね!」

 

「じゃあ、じゃあ私カラオケが良いと思いまぁ~す!」

 

「あっ!私もそれで!雪菜さんはどうします?」

 

 

「···えっ?わ、私は·····では、同じくカラオケで構いません·····」

 

 

「うん!それじゃカラオケルームでおもいッきり歌っちゃおうっ!」

 

 

「賛成!賛成!カラオケなんて久しぶりだからウキウキしてきちゃうなぁ~♪」

 

 

「私もゲーム内で皆さんと会えるけど、現実の世界だと中々、タイミングが合わない事もあったからカラオケとか久しぶりで楽しみですよ!」

 

 

(カラオケか····そう言えばだいぶ前に凪沙ちゃんに誘われて先輩達と一緒にいったんだっけ····先輩と凪沙ちゃん、今頃どうしてるんでしょうか····私がいなくなったの心配してくれてるのでしょうか·····?こんな風にダラけて楽しんでいるなんて思ってもみていないだろうな····)

 

 

 

元の世界での監視対象である人物とその妹に一人想いをは馳せる雪菜だった。

 

 

 

 

ドラえもんと三人は壁紙カラオケルームに入って、ソファーに腰掛けた。

 

「わあっ、ここのソファーもフカフカで良い座り心地で最高!」

 

「見て下さいよ、佐天さん。この選曲の数!!最新の曲が沢山入ってますよ!迷っちゃって困りますね」

 

「フフフ。このルームの中では軽い飲食も楽しめるよ。パフェとかもあるけど、どうする?」

 

 

「パフェ!?わーい♥もちろん食べるゥ~♪」

 

 

フカフカのソファーに沢山の最新の曲、甘く美味しいパフェもあって佐天とシリカのテンションは留まる事を知らずに上がりっぱなしだった。

 

 

それとは裏腹に雪菜は今のだらけている自分に危機感を募らせて迷っていた。

 

 

 

(私ったらまた流されてしまった····本来ならこんなに能天気に楽しんでいる暇など無いのに。剣巫としての使命から一時とはいえ解放されて本心では喜んでいると言うのっ?

·····いいえ、このままズルズルと流され続け、怠慢に身を委ねるのは絶対に駄目!!今からでも遅くないっ!皆の目を覚まさして鍛練をっ!)

 

 

意を決して敢えて空気を読まずに皆に苦言を呈しようとしたが····

 

 

「はぁ~い!雪菜さん。あ~んっ♪このパフェ最高ですよ♥」

 

「へっ?ハグッ!?もぐっ········甘くて美味しいィィ~♥」

 

 

 

佐天が満面の笑みでスプーンにのせたパフェを雪菜の口に運び、思わずその狂おしい程甘美な美味さにそれまでの決意が頭から吹き飛んだ。

 

 

 

「それでは!不肖私、佐天涙子が一番で歌わせて頂きまーす!」

 

「わーいわーい♪」

 

「ほら雪菜ちゃんもこれを持って振ってね」

 

 

気がつくと佐天が一番のりでスポットライトに当てられてマイク片手に全身ノリノリでリズムを取り、シリカはドラえもんに渡されたサイリウムと団扇(うちは)を持ってワクワクしながら歌を待ちわびており、雪菜にも何故かマラカスが渡された。

 

 

ドラえもんもテンションが妙に高く、ハチマキを巻いてハッピに袖を通して何やら奇妙なダンスを踊り、音頭を取った。

 

「それじゃいってみよーかー!!」

 

 

 

機械から軽やかなメロディが流され佐天涙子が額に汗を滲ませて心のままにハジケて熱唱した。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「·····はぁ、はぁ····声援ありがとうございましたぁー!!」

 

 

「わぁー!パチパチパチパチ!!」

 

 

拍手と共に息を弾ませて満足な顔でステージを降りた。

 

 

「はい!次はシリカさん!一丁ヨロシクぅ!」

 

 

「任されました♪」

 

 

歌い終わった佐天にマイクを受け取ったシリカも負けじとリズミカルにステップを刻んで歌い出した。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「わぁーパチパチパチパチ!!」

 

 

「はぁはぁ····ありがとうございました!」

 

 

拍手に包まれてステージから降りたシリカは可愛いい笑顔を見せた。

 

 

「シリカさんったら普段は大人しいのに情熱的ィ!!」

 

「シリカちゃん格好良かったよ!」

 

「エヘヘ····佐天さん、ドラえもんさん····何だか恥ずかしい····!」

 

「本当に可愛いかったですよ」

 

 

三人に誉められてそれまでのハジケた自分を振り返り照れた。

 

 

「さてさて、それじゃ三番目は雪菜さんでっ!どうぞっ!」

 

 

「えっ?私は····」

 

 

「うふふ···それじゃ雪菜さんにはランダムで選んだ選曲で歌って貰いましょう!」

 

 

佐天は悪ノリしてどこか戸惑っている雪菜の背中を後押した。

 

 

ミュージックボックスからどこかで聞いた事のある様な曲が流れ、雪菜は戸惑いながらもテレビ画面から映し出される歌詞を見ながら熱唱した。

 

 

「すごい!ランダムで選んだ曲なのに

歌詞もリズムも間違えずに完璧に歌いこなしてる!?」

 

 

佐天は心底驚いていた。だがこれにはカラクリがあった。

雪菜は剣巫として得意な霊視を使って一瞬先の未来を見て瞬時の対応を可能にしていたのだ。

 

 

カラオケの為にわざわざ霊視を使うのは些かどうかと思うが、佐天とシリカ、そしてドラえもんの楽しんでいる顔を見て躊躇いなく使って、今の仲間達の為に精一杯歌い続けた。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「わーいパチパチパチパチ!!」

 

「ふうぅ~····さすがに緊張しましたね」

 

さっき迄の憂鬱な顔は消え失せて何処かスッキリとした顔でステージを降りた。

 

 

「雪菜さんの歌声素敵過ぎますよ!結構カラオケとか行ってたんですか?」

 

「えっ?いえ、それ程···まあ、数える位には。(霊視で歌詞の先を読んだなんて言えませんね。凪沙ちゃんに連れられた成果もありましたし)」

 

 

「それじゃ最後はドラえもんさん!頑張ってー!!」

 

 

トリを務めるドラえもんに声援を送るシリカを筆頭に他の二人も拍手して注目した。

 

 

「しししっ!何だか照れちゃうなぁ。それじゃ行くよ!」

 

 

ドラえもんは例の定番の曲を歌い上げた。三人は少しだけ歌詞の意味に❓マークを浮かべながら拍手でステージを降りたドラえもんを迎えた。

 

 

(出〇迅〇落〇き無用ってどういう意味何だろう?まあ、いいか)

 

 

三人は少し歌詞の不思議さに疑問を抱きつつも、今度は佐天・シリカのデュエットで歌い、さらにそれどれ、メンバーを入れ替えデュエット、トリオと形を変えて歌いに歌いまくるのだった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

歌いに歌って汗だくになった三人は壁紙入浴場でゆっくりと湯船に使ってアイスを頬張り、壁紙寝室のベッドの上で布団にくるまりながらガールズトークに花を咲かしていた。

 

 

 

「いや~♪今日はすごく内容の濃い1日でしたねぇ~」

 

 

「そうでしたね。私、○✕占いですごく焦っちゃって···」

 

 

「ええ、でもシリカちゃんの疑問も解けて本当に良かったです。その後のお昼のオムライスの時の美味しくなる魔法の呪文は恥ずかしいのでもうやりませんけどっ!」

 

 

「いや~ハハハハっ、でもあれはあれで楽しかったんじゃないですか?結局二人共ノリノリで」

 

 

「····まあ、少しだけですけど楽しくなかったと言えば嘘になりますね···でも恥ずかしい事には違いありませんからねっ!」

 

 

「私は楽しかったですよ佐天さん。(その後の雪菜さんの先輩さんの惚気と愚痴の話しはキツかったですけどね···)」

 

 

「超能力訓練も予想と違う結果になりましたけど結果的に佐天さんの能力開発の助けになって良かったですね。でもスカートめくりは許しませんからね」

 

 

「えへへへ···まあ、あれは事故ということでご勘弁を···(初春のスカートめくりは私の日課だからつい習慣でやらかしちゃったからなぁ···なるべく気をつけよ。そう、なるべく!)」

 

 

「能力と言えば佐天さんの視力とんでもなく高くなりましたよね?」

 

 

「透視能力が身につかなかった代わりですけどね。(ぬふふふっ、お陰で二人の何気ないパンチラも拝める様になったし、本当にこれはラッキー!元の世界に帰った時が楽しみぃ~♪)」

 

 

「·····佐天さん、また何かいやらしい事考えてますね?」

 

「えっ!?イエイエそんな事ございませんですよぉ!?」

 

「あの後、壁紙の服飾店でのやらしい衣装の着替え····本当にしょうのない人ですね(そんな所がやたら暁先輩みたいで····もう!)」

 

 

「コスプレ衣装は確かに恥ずかしかったですけど、色んな可愛い服と着替えが用意出来て良かったです。私達、着の身着のままにこの異世界に突然召喚されちゃいましたから···本当にドラえもんさんが居てくれなかったら私達どうなっていたか···」

 

 

「今更ながらにドラさんに出会えたのは不幸中の幸いだったですもんね」

 

 

「このような大きな恩をどのように返せばよいのか検討もつきませんね····」

 

 

「それは私も考えてました。やっぱりお風呂に混浴で背中を流して上げたら···」

 

 

「佐天さん!」

 

 

「じょっ、冗談ですよぉ、冗談···シリカさんはどう·····」

 

 

「········スー····スー····」

 

 

「ありゃ?シリカさん眠っちゃってる」

 

「今日1日で色々しましたから···」

 

「そう···ですね···あ、私も···そろそろ限かぃ··········スー····スー····」

 

 

「クスッ、佐天さんも眠ってしまいましたか。二人共お休みなさい···私もそろそろ寝ましょう·····紗矢華さん、凪沙ちゃん、暁先輩···お休みなさい····································」

 

 

 

 

 

 

 

「····はっ!」

 

 

 

姫柊雪菜は意識を手放し欠けたが、今日の自分のだらけぶりを思い出し一瞬覚醒するも、お風呂で身体がスッキリとし、今寝ているベッドの柔らかさ、枕のシックリ加減、布団の暖かさには流石の剣巫としても抗い難く徐々に意識を手離していった。

 

 

「·····ううっ······だ····め····今日のと····こ····ろは····寝······スー·····スー····」

 

 

 

ドラえもんの道具の恩恵と優しさに包まれて雪菜も深い眠りについたのだった。

 

 

 




劇中のカラオケの部分で佐天ちゃんが歌ったのは自身のキャラソンの『ナミダ御免のGirls Beat』で、シリカちゃんが歌ったのも自身のキャラソン『☆Lovely Super Idol☆』です。雪菜ちゃんが歌ったのは『LOVESTOIC』をイメージしております。ドラえもんは例のあの歌です!色々権利関係を考慮して劇中には歌詞を書きませんでした。(ドラえもんのあれは伏せ字まみれですが)

質問、意見、疑問、感想、リクエストとかあればよろしくお願いします。


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7話 ひみつ道具で特訓です!前編

書き終えて気づいたら、今回ひみつ道具を絡めた特訓をやっていない事に初めて気づきました····ま、いっか。それと後から修正したり、セリフや説明を追加しておりますので時間があったら読み直して下されば嬉しいです。感想もよろしくです。


異世界生活約3日目の朝がやってきた。

 

 

壁紙寝室やポップ地下室の照明は外の時間に合わせて日の出と日の入りに合わせて自動的に作動する様調整されていた。

その為、地下空間の中においてもしっかりとした生活リズムが保たれていた。

 

 

そんな中、日の出と共に久々の熟睡から三人の内の誰よりも早くに目を覚ました姫柊雪菜は強い決意に燃えていた。

 

 

顔を洗い、歯磨きをし、壁紙寝室から出ると昨日同様にドラえもんも壁紙押し入れから大きな口を開けて一際デカイあくびをして眠たそうな目を擦っているのを見て思わずクスッと笑い、朝の挨拶をした。

 

 

「おはようございますドラちゃん」

 

「ファ~ァァアっ·····あっ、おはよう雪菜ちゃん。昨日はしっかりと眠れた?」

 

「はい。ドラちゃんのお陰でぐっすりと」

 

 

元の世界において雪菜は普段、第四真祖暁古城の監視任務という性質上何時、如何なる場合でも即動ける様に常に浅い眠りで寝る習慣がついていた。だが、異世界召喚により図らずとも監視任務から解き放たれ、不本意ながら深い眠りへと誘われ普段以上に頭も身体も疲労から回復してリフレッシュしていた。

 

 

「それは良かった。あっ、そうそう昨日追加で飛ばした衛星ロケットからの情報でより広い範囲から周辺の情報を得られる様になったから、何とか今日中に人のいる町への比較的安全なルートを構築するからもう少し待っててね」

 

 

「それは何よりです。それとドラちゃん。私から一つ提案したい事があるのですが·····」

 

「んっ?何々?」

 

「それはですね····」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「んっ····ん"んん~ふぁあ·····よく寝たぁ~」

 

「ん~っ···おはようございます佐天さん」

 

「おはようシリカさん。···ありゃ?雪菜さんはもう先に起きたみたい。昨日といい早いなぁ····ふぁ~···」

 

「佐天さんはまだ眠そうですね。昨日あれだけ歌いに歌ったから無理もないですけど」

 

「えへへ。久々のカラオケだったんで思っいっきり熱唱しちゃいましたから。でもまさか異世界でカラオケ出来るとは夢にも思わかったですけどね」

 

「本当ですよね。ん~っ、それじゃそろそろ本当に起きましょう」

 

 

二人は顔を洗い、歯を磨いて寝室から出ると目に前に雪菜が頭に鉢巻をし、

体操服(ブルマ)に身を包んで仁王立ちして二人を真っ直ぐに見つめていた。

 

 

「おはようございます!シリカちゃん、佐天さん!」

 

 

「お、おはようございます雪菜さん····って何で体操服なんて着てるんですか?」

 

 

「よくぞ聞いてくれました。これから皆で特訓する為です!」

 

 

「とっ、特訓···ですか?」

 

 

シリカが目を点にして尋ねる。

 

 

「そうです!私は昨日深く反省しました。勝手のわからぬ異世界に無理矢理召喚され、本来なら途轍もなく心身共に苦難し、予想のつかない事故に遭ったりと、本当なら一筋縄に行かないこの状況の下、幸運にもドラちゃんに巡り合い提供してくれるひみつ道具の恩恵にただ甘え堕落し楽しんでしまいました。私は思ったんです!このままではいけないとっ!!このままぬるま湯に浸かっていたのでは何時なんどき襲ってくる予想外の危機に対処出来ません。そこで特訓なのです!!」

 

 

雪菜は固い決心と宣言に鼻息を荒くして起きて来たばかりの二人に熱く語った。

 

 

「えと、雪菜さんの気持ちはわかりましたけど特訓って何をするんですか?」

 

 

「はい。まずはせっかくこの地下室は明るく広いのでまず手始めにウォーミングアップがてら、この出入口を起点にして軽く10キロ程ランニングして頭と身体をしっかりと目覚めさせます。その後朝食を頂き比較的短時間でも効果の高い筋力トレーニングをします。更にドラちゃんのひみつ道具をお借りして身体を総合的に鍛えた後、私自らが二人を個人指導してビシバシ鍛えようと考えています!」

 

 

「じゅ、10キロ走るんですかっ!?じょっ、冗談ですよねぇ!?」

 

 

「いいえ?本気ですよ?でも安心して下さい。初日なので高神の杜での朝の訓練メニューの約半分程度に抑えてありますから!」

 

 

(は、半分!?それじゃ雪菜さんは元の世界の高神の杜にいた時は20キロ···往復して40キロ走ってたのぉー!?)

 

 

佐天は訓練メニューと雪菜が走っていた距離を聞いただけで既に顔面蒼白になっていた。

 

 

「あ、あのね雪菜ちゃん?流石にそれはちょっと厳しいと思うからさ、とにかく朝ご飯を食べてからでも遅くは····」

 

 

二人の驚いてる様子を見てドラえもんは雪菜に提案するが、

 

 

「いいえ!まずは基本の走り込みからです!もう流されて怠慢に過ごすのは縁切りすべきですっ!もちろんドラちゃんも参加してもらいますからね!」

 

 

「ええぇっ!?ぼっ、僕もぉ!?な、な、何でっ!?」

 

 

「····昨日どれだけどら焼きを食しましたか?ドラちゃん?」

 

 

「え、えとぉ····?2、3個位かなぁ~·····」

 

 

「·····いいえ。昨日の朝のおやつタイムに3個、お昼のデザートに1個、私達が超能力訓練から出てきた際のお菓子の受け皿の減りかたから推測して3個、着替えの衣服類の調達に戻った時の減り具合から4個。お夕飯の後にも1個、そしてカラオケルームにて『どら焼きパフェ』なる品に使われていたどら焼きは約2個の計14個食べていました。

明らかに糖質を過剰摂取し過ぎです。このまま行くと糖尿病になってヒドイ目に合いますよ?故に参加を強制しますっ!!」

 

 

「えぇぇー!?僕ロボットだから糖尿病なんかにならいのにぃー!!」

 

 

姫柊雪菜は元来頭が良く、記憶力にも秀でていたが暁古城の監視任務の効果により更に観察力、洞察力などもしっかりと鍛えられた為、ドラえもんのどら焼きの食した個数を正確に把握していた·····

政府認定のストーカー能力が遺憾なく発揮された瞬間であった。

 

 

そんな雪菜の追及を聴いていたシリカこと綾野珪子は昨日どれだけの食事やおやつを頬張ったのか自覚して戦々恐々としていた。

 

 

無意識に元の世界の仮想空間の癖で食べ過ぎたのを悔やみ青ざめていた。仮想空間ではいくら食べて楽しんでも、味の情報が脳内ニューロンに伝わるだけで身体に余計なカロリーは一切貯まらず体型を気にせずに仲間達とよくスイーツ巡りをしたのを思い出し震えが来たのだ。

 

 

(そ、そうだった····今の私は元の肉体に『シリカ』としての能力を宿しているだけで、生身の身体には違いないから昨日の食べた物全部余計なカロリーに!?だっダメだっ!このままだと明日奈さんの様な綺麗でスタイルの良い大人の女性どころか、低身長のおデブにィィー!!だめダメ駄目絶対にだめぇ!!)

 

 

お腹のお肉を詰まんで、最悪な未来の自分の体型をイメージして特訓に密かにやる気を漲らせるシリカだった。

 

 

「あ、あのぉ~雪菜さん?」

「何ですかっ?佐天さんっ」

 

 

「(あっ、圧力がキツイ···)

健康の為のトレーニングは賛成何ですが···その特訓となると少しぃ····キツイかなぁ~って····そ、それにドラさんのひみつ道具があるから多分きっとそこまでしなくても大丈夫ですょ····「「黙りなさいっ!!」

 

 

「ひっ!?」

 

 

「いいですか?佐天さん。そんな風に甘えた考えではこの世界では命取りになります!私の元いた世界でも魔族に吸血鬼、強力な魔術の使い手が存在していました。ましてやこの異世界ならば、未知なる能力を持った魔物や能力者、人知を越えた存在が確実に息づいているであろうこの世界では通用しませんっ!···確かにドラちゃんのひみつ道具はとても頼もしい限りです。ですがだからといって、だらけて良い理由にはなりません!!結局の所どんなに優れた道具が有ろうともそれを扱うのは人間である以上、生かすも殺すも自分次第なのです」

 

 

雪菜の誰よりも説得力のある言葉によってかつての自分の軽はずみな行動と過ちを思い出し、思わず目を背ける佐天だった。

 

 

「····佐天さん。やりましょう···!この特訓をやり遂げてダイエッっ···ごほん、ゴホンっ·····

やり遂げてこの異世界を生き抜いて元の世界へ帰りましょう!!」

 

 

「シリカさん·····うん、わかった。やれる所まで私も頑張ります!お願いします雪菜さん!」

 

 

「二人共、わかってくれてありがとう···嬉しいです。では汗をかいても良いように着替えて特訓開始ですっ!」

 

 

「はいっ!」

 

 

二人は昨日使った壁紙服飾店から体操服

(やや裾の長めの短パン)に着替えてポップ地下室の出入口を起点にして10キロのランニングを開始した。

 

 

「うぅ~ん、何で僕まで····」

 

 

最後まで納得できず愚痴をこぼすドラえもんだった。

 

 

「ではスタート!決して無理せず完走を心掛けて頑張りましょう!」

 

 

雪菜を先頭に他の目的の為に燃えているシリカに佐天、ドラえもんと続いて走り出した。雪菜はあらかじめ距離を測って10キロ先に旗を目印に立ててあり、そこを目標にして皆一直線になって走り始めた。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「ふう···いい汗かきましたね」

 

「ええ···(思った程疲れない···?やっぱり

【シリカ】としての身体能力のお陰何だろうけど本当にこれでカロリー消費出来てるのか今一実感が湧かないなぁ···)」

 

 

案の定ランニングは雪菜とシリカのツートップ。そしてドベ決定戦を低次元で争っているのが言わずと知れた佐天とドラえもんだった。

 

 

佐天は同世代の中学生の中でも比較的身体能力こそ高い方だったが特に運動やジャッジメントの活動をしている訳でもなかったのでスタミナに限っていえば極々普通の女子中学生レベルだった。佐天とドラえもんはゼハゼハと息を苦しそうにして目を回していた。

 

 

「ひぃ~····ひぃ~····な···何とか完走·····」

 

「あっ····ひぃ····ぜひぃ~もう僕ダメぇぇ····」

 

 

ロボットなのに何故ここまで息切れを起こすのか?恐らくそこは人間に親しみを持たせる機能と考えるべきなのだろうが···?とにかくドラえもんは青い身体がより青くなって佐天と共に無事ゴールして朝の10キロのランニングをやり遂げた。

 

 

「二人も大丈夫ですか?これお水です。あとタオルも」

 

 

シリカが気を効かせてあらかじめ用意してあったタオルとグルメテーブルかけから水を出して地下室の床に体を預けて激しく呼吸を繰り返している二人に渡した。

 

 

「····あ、あり···がとう···シリカさん···ゴクゴクっ」

 

「ごくごく····プハー生き返るぅ~ありがとうシリカちゃん!」

 

 

渡された水を一気に飲み干して少し余裕のできた佐天がシリカに尋ねる。

 

 

「はぁはぁ···ふぅ···何とか落ち着いてきたよぉ····そういえば雪菜さんは当然として、シリカさんも凄いですね。息を殆ど切らさずにあれだけの距離を完走するなんて···」

 

 

「い、いいえ多分これは私、綾野珪子としての肉体ではなく【シリカ】というアバターの身体能力のお陰なので····」

 

 

「そういえばシリカちゃんはアバターの身体と混在してたんだっけ」

 

 

「いいなぁー羨ましいー!!」

 

 

(私としては数ヶ月前までランドセルを背負っていたとは思えない程の身長とスタイルの良い佐天さんの方が羨ましいんですけどね····)

 

 

ある程度回復した二人を確認して雪菜は満面の笑みで朝食を運んできた。

 

 

「それではお待ちかねの朝食です!今回は特訓に身体が耐えられる様にトレーニング用の特別メニューを私が用意しました。名付けて『姫柊スペシャルEXセット』です!

(提供はドラちゃんのグルメテーブルかけからですが····)」

 

 

「え"っ!?こ、これは·····」

 

 

佐天とシリカは思わずムンクの顔になった。

何故なら三人の目の前に置かれた朝食は筋肉の回復に必要なたんぱく質摂取の為のプロテイン(ヨーグルト味)にデザートにバナナ。

そしてメインは昨日初お披露目されたご飯にマヨネーズをぶっかけ一味を振りかけた

『姫柊スペシャル』に餡子を添えたゲテモ·····スペシャルフードだった·······

 

 

(犬のエサに猫のエサをミックスしてきたあぁぁー!!!!×2)

 

 

「いいですか?まずこのプロテインで効率よくたんぱく質を摂取し、疲れている筋肉を回復します。

そしてこの『姫柊スペシャルEX』でマヨネーズのカロリーと酸味、そして餡子の糖質とご飯の炭水化物で身体の疲労を回復させ、特訓に耐えられる身体を養います!一味の辛さが良いアクセントになって飽きの来ない一品にもなっています。どうです?我ながら完璧なメニューだと自負していますよ!」

 

 

「あ····あわ····アワワ~······」

 

 

自信満々にドヤ顔する雪菜を尻目に

シリカと佐天の二人は身体を寄せ合って小刻みに震えた。

 

 

(う~ん···『ジャイアンシチュー』よりは幾分マシだろうけど····何とかしないと·····あっ!そうだあれがあったな)

 

二人の様子にさすがにこれはいけないと感じたドラえもんはポケットからある道具を出した。

 

(『スーパーグルメスパイス・モトノアジ』ぃ~!!)

 

この道具はどんなに不味い料理も振りかけることでとても美味しい料理になり、匂いまでもが豊潤な香りになって食欲を沸き立てるひみつ道具で、かつてジャイアンシチューに振りかけて美味しく完食した実績を誇るひみつ道具だ。

 

 

「さあ、遠慮せずに召し上がって下さい」

 

 

屈託のない笑顔で『姫柊スペシャルEX』を薦めてくる雪菜に二人は元の世界でも味わったことのない恐怖と絶望に震撼していた。そこにドラえもんが二人の耳元にヒソヒソと囁いた。

 

ヒソヒソ「(二人共これをかければどんなに

不味(まず)···げふん、ゲフン···味覚の合わない料理でも美味しく食べられるよ!)」

 

 

「ほ、本当ですか?ドラえもんさん!?」

「是非、ぜひお願いします!!」

 

 

二人はドラえもんにすがり付いて懇願した。

 

 

「(うん!任せて!)」

 

 

佐天は振りかける所を見られない様に雪菜を陽動をしかけた。

 

「あっ!あんな所に暁先輩さんがっ!!」

「えっ!?暁先輩!」

 

ここは異世界。故に暁古城がいる筈など無いとわかっていてもつい、反射的に佐天の指さした方向に顔を向ける雪菜。その僅かな時間でドラえもんはどこぞのカリスマシェフの様に器用に丸い手でオシャレに、優雅にかつ、エレガントに、ほんの僅かな分量のスーパーグルメスパイス・モトノアジを振りかけた。

 

 

(これでよし。余り振りかけ過ぎてこれを美味しいと認識し過ぎるのも問題だからなぁ·····これ位で丁度いいはず)

 

 

「····って!暁先輩がここに居る訳ないじゃないですかっ!

(思わず振り向いてしまった私のバカ····)」

 

「い、いやぁ~すいません見間違えました····(うぅっ···少し心が痛むなぁ···)」

 

「····もうっ!どうやって見間違えるんですか!それよりも早く朝食を頂いて下さい!」

 

 

「はっ、はぁ~い。い、いただきます····」

 

 

ドラえもんのひみつ道具の効果を信じて口に犬と猫のエ······『姫柊スペシャルEX』を運ぶと····

 

 

「おおぉぉ~こ、これは美味しいですよ!雪菜さんっ!」

 

 

「確かにっ!マヨネーズの酸味と餡子の甘さに一味の辛さがアクセントになって渾然一体になって口に広がりますぅ!!」

 

 

「···え、ほ、本当ですか?···そうですか···♪お代わり出せますから遠慮なく言って下さい♥」

 

 

「はぁ~い♪」

 

 

(フフフ···良かった!効果は抜群だね)

 

 

ドラえもんのひみつ道具によって犬のエサと猫のエサのコラボを難なく乗りきった二人だったが、これに気を良くした雪菜がこれ以降マヨネーズを絡めた独自のスペシャルメニュー作りに精を出す事になるとはこの時まだ、誰も予想だにしていなかった·····

 

 

朝食を終えて休息を取り、次は雪菜指導の元、短時間の筋力トレーニングプログラムへと移行した。

 

 

「では次に筋力トレーニングをします。私は吸血鬼となった暁先輩の監視任務という性質上余り時間が取れないので、どうにか短時間でも身体機能の向上と維持する効果的な方法は無いかと調べてて、先輩の妹さんの凪沙ちゃんから素晴らしいトレーニング方法を聞きました。それが『HIIT(ヒット)トレーニング』です!」

 

HIIT(ヒット)」とは「High-Intensity Interval Training(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)」の略でいわゆる高強度インターバルトレーニングのことを指しめす。インターバルトレーニングとは、高負荷の運動の後に短時間の休憩、もしくば低負荷の運動を行うトレーニングである。

 

 

基本20秒間の間、全力で運動をし、10秒間の休憩を取る。それで1セットとして計8セット行うトレーニングであり、種目も基本のスクワットや、プッシュアップ、HIIT(ヒット)トレーニングの定番メニューのマウンテンクライマー、バーピージャンプ等があり、バリエーションはほぼ無限にあるトレーニングである。

 

「まあ、20秒間だけならどういう事もないかな?」

 

雪菜から説明を受けた佐天は軽く考えた。

 

 

「全力で身体を動かす事により、基礎体力、瞬間力、持久力をまとめて鍛えられ脂肪の燃焼効果も期待できますよ!」

 

「脂肪燃焼····!!佐天さん····全力で頑張りましょう!!」

 

脂肪燃焼効果と聞いて瞳に焔を燃やし、やる気を見せるシリカだった。

 

 

「もちろんドラちゃんも参加して貰いますからね!」

 

「えぇ~!?また僕も参加するの?ロボットだからトレーニングしても意味無いんだけどぉ····」

 

「さあ、つべこべ言わずに行きますよっ!」

 

ロボットとか関係なく強制参加させられるドラえもんだった。

 

 

「始めはスクワットで足腰を鍛えます!では、私と一緒にっ!」

 

 

「ふっ、はっ。

(これ位なら楽勝!余裕、余裕♪)」

 

「はっ、ふっ!

(脂肪燃焼、脂肪燃焼、ダイエット!!)」

 

 

「ふへぇっ、はひぃ~!!」

 

 

セットしたタイマーが鳴り、10秒間のインターバルを取り、次の種目になる。

 

 

「さあ、次はプッシュアップ!所謂腕立て伏せです。キツかったら無理せず膝をついて行っても構いません!行きます!」

 

「ふっ、はっ(ま、まあ余裕かな?)」

 

「はっ、ふっ

(明日奈さんの様なスタイルにぃ!!)」

 

「あひぃ!うへぇ~!!」

 

 

全員何とかこなして3セットに入った。

 

 

「3つ目の種目はマウンテンクライマーです!これは腕立て伏せの態勢から両足を交互に入れ替えて胸に引き付けます。

これは筋トレと同時に有酸素運動なので足腰を鍛えられ、お腹周りの脂肪燃焼も効率良く燃やせますよ!さあ、行きます!」

 

 

「ぜぇ!ぜぇ····!

(くっ····こ、これは効くなぁ···)」

 

「うりぃゃあぁぁー!!

(お腹の脂肪燃焼!!)」

 

 

「あうぅぅ~!?うぐぐぅぅ~!」

 

 

雪菜とシリカは難なくこなしたが佐天とドラえもんの二人は既に限界を迎えつつあった。

 

 

「さあ、4セット目。一周最後の種目はバーピージャンプですよ!これは腕立て伏せの姿勢から両足を同時に胸に引き付けてそのまま両足でジャンプして、その際両手を頭の上で合わせて着地したらまた、腕立て伏せの姿勢に戻り、これを繰り返します。この種目は自分の体重だけでやれる全身運動で、足腰、腹筋、背筋に腕立て伏せの様に腕を曲げれば胸も鍛えられ、瞬発力と持久力も鍛えられる総合的全身運動です!さあ、気合いを入れてやりましょう!!」

 

 

雪菜が声を弾ませて説明するがシリカ以外の二人は既に目を回していた。

 

「はひっ、ぜひぃ、うきぃー!!

(き、き、キツイよぉー!!)」

 

「はっ!はっ!(これは確かに全身に効く····

目指せ!大人のスタイル!)」

 

「あうぅぅ~ぼ、僕もうダメぇぇ~····!?」

 

 

何とか4セットやり終えた佐天とドラえもんは酸欠で顔が青ざめ汗だくになって床と一体になっていた。

 

 

「皆さん一周目お疲れ様でした♪さあ、ラスト2週目行きますよっ!」

 

 

「もう····勘弁して下さいぃぃ~動けませぇぇ~ん!!」

 

 

「ぼっ、僕も····死にそうだよぉ····」

 

 

常に運動している人でも一周目で息を激しくしてヘタリこむ、このトレーニングに佐天とドラえもんは涙ながらに雪菜にもう無理だと懇願するのだった。

 

 

 




今回出てきたひみつ道具のスーパーグルメスパイス・モトノアジは本来の名前は味のも〇の〇とという名前なのですが既に本当にある某調味料と名前が被るのでアニメ放送では実に7回も名前が変わった道具です。今回出すに当たって名前を足して出しました。それとこの話しで出てきたHIITトレーニングは場所を取らずに行えるトレーニングなのでコロナウイルスでスポーツセンターやジムの相次ぐ休館でもこれなら自宅や公園でもやれるオススメのトレーニングです。種目は色々あるのでグーグル先生で調べてお互い頑張りましょう!


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8話 ひみつ道具で特訓です!後編

佐天涙子とドラえもんは雪菜の指導するヒットトレーニングに早々にギブアップ宣言し、雪菜とシリカはその後2週目を楽々クリアしていた。

 

 

「·····はひぃ~····ぜぇっ····ぜぇ·····ほ、本当に死にそう······」

 

 

ロボットでありながら激しく息切れを起こして目を回して床に大の字になってドラえもんは青い体を更に青くしていた。佐天涙子も同様に最初こそ余裕があったが3種目めで既に体力が失くなるも何とか4種目やり通したが2セット目は流石に勘弁と雪菜に泣きつき、現在シリカに濡れタオルを額において貰っていたが未だ呼吸を荒くしていた。

 

 

「はぁ~····ぜぇ~····うぅ~ん·····正直このトレーニング舐めてた····キツ過ぎるよぉ~·····」

 

 

「でもでも、これって短時間で済ませられますし、トレーニングを終えた後でもアフターバーン効果でしばらくの時間、脂肪を燃焼し続けてくれるそうですよ。これならダイエッ·····筋力と体力が付きますね♪」

 

 

シリカは殆ど隠せていない本音を交えて行ったトレーニングの効果について死に体の佐天に聞かせた。

 

 

「さて····休憩はこの辺にして、次は···」

 

 

「ゆ"ぎな"ぁさぁ~ん!!私はもう疲れ果てて動けませんよぉぉ~!!」

 

 

佐天は嗚咽混じりに泣き叫んで雪菜に訴えた。

 

 

「う~ん····これは弱りましたね····ドラちゃん、ひみつ道具で何とかなりませんか?」

 

 

何気に佐天同様にひみつ道具を当てにしている雪菜だった。

 

「うぅ~んん····疲れを取る道具·····あっ!そうだっ!!あれがあった」

 

 

ドラえもんは寝そべりながらお腹の四次元ポケットに手を入れるとカエルのイラストが載った湿布薬の様な道具を出した。

 

 

「『ケロンパス』~!!これを身体に貼ると体中の疲れを全て吸い取ってくれる便利な道具なんだ!まず僕が使って見せるね!」

 

 

ドラえもんは自分の身体にケロンパスを貼るとみるみる内に疲れが吸い取られ元気を取り戻した。

 

「ウフフ。僕復活!!」

 

「素晴らしい!ドラちゃん、その道具は非常に素晴らしいですよ!

(この道具があれば24時間疲れ知らずに暁先輩を監視し続けられる。良い道具です····何としてもドラちゃんに譲って貰いたいものですね····)」

 

 

元気になって顔色も良くなったドラえもんは佐天の額にケロンパス貼った。

 

「う"ぅぅ········?あれ!?身体が!あれあれ!?嘘!疲れが無くなった!」

 

「ウフフ。この道具で佐天ちゃんの疲れを取ったんだよ」

 

「うわーいっ!ありがとうドラさん♪大好きー!!」

 

「う、うわっ!?佐天ちゃん!?」

 

 

思いっきり元気になった佐天は思わず衝動のまま無邪気にドラえもんに抱きいた。ドラえもんはさっき迄青い顔していたのが今度は赤くなったりと大忙しだった。

 

 

「これなら何の問題無く次のプログラムに移れますね。ではドラちゃん、例のモノをお願いします」

 

「うん!任せて」

 

ドラえもんはポケットから出てきたのは何やら小型の機械を取り出した。

 

 

「『アスレチック・ハウス』~!!」

 

「うわー何です?何です?この道具は!!」

 

ケロンパスで一気に元気を取り戻した佐天は好奇心丸出しでドラえもんに聞いた。

 

 

「うん。このアスレチック・ハウスはゴールとなる場所に設置してスイッチを押すとその空間がアスレチックジムになるんだ」

 

 

「うわぁ!!すごい、スゴい、凄いー!!」

 

佐天とシリカは瞳を輝かせてウキウキしていた。

 

 

「コースは初心者用、中級者用、上級者用そしてスペシャル特訓用コースがあるけど····」

 

 

「もう決まっています。スペシャル特訓用コース。そしれかありませんっ!」

 

 

雪菜も二人と同様に瞳を輝かせて有無を言わさずに決めた。

 

 

「う~ん余り気が進まないけど···しょうがない····」

 

 

ドラえもんは皆をポップ地下室の出入口の階段上部に集めて機械を設置し、スペシャル特訓用コースのボタンを押した。

 

 

「これでこの階段を下りて地下室へ入ったらスペシャル特訓コースのアスレチックになってるから皆頑張ってね!」

 

 

 

 

 

「·····何処へ行くんですか?逃がしませんよ····ドラちゃん」

 

ガシッ「グヘェッ!?」

 

暁古城のストーカ····監視任務によって鍛えられた観察力と洞察力によってさりげなく予備の壁紙ハウスを階段の横の壁に張りつけこっそりと逃げ出そうとしたドラえもんを見逃さずに首輪を後ろからとんでもない握力で掴んで離さない雪菜だった。

 

 

「うぐぐぅぅ·····い、いやぁ~ぼ、僕は衛星ロケットから送られてきた映像を解析しないとぉ····」

 

 

「····解析するのは後でもゆっくりと出来ますよね?ですからドラちゃんも参加ですっ!これは決定事項ですっ!!」

 

 

「のおぉぉー!!ショムにぃぃ~!!」

 

 

雪菜に引きづられながら半ば拉致同然に参加させられるドラえもんだった。

 

 

「では皆さんこれより特訓コースのアスレチックで総合的な身体トレーニングに入ります!私に続いて下さい」

 

「はい!×2」

 

「だから何で僕までぇ~!!」

 

 

階段を下りて地下室に入ると床が自分達から見て逆走してベルトコンベアーの様に流れている。

 

「先ずはルームランナーだね。これは一定の速さで走って向こうのゴールにたどり着かないと何かしら障害が追加されるはず···」

 

ドラえもんが不安混じりに説明した。

 

「特訓にしては初歩と言った所でしょう····では皆さん行きますよ!」

 

雪菜の号令と共に足を踏み入れると後ろの地下室の出入口にシャッターが下りた。

 

「これでもう後戻りは出来ない!何としても最後までアスレチックをゴールしないとこのシャッターは開かれない!機械を停止させる事は叶わないぞ!」

 

「も、もしかして···これスッゴく難易度高いんですか···?」

 

「そりゃそうだよっ!何せ特訓用のスペシャルコース何だから!!」

 

この道具を見たときはワクワクした佐天だが、ドラえもんのこの慌てぶりに顔を再び青くするのだった。

 

「ともかくやるしかないですよ佐天さん!この特訓コースを乗り切れば昨日のカロリーもチャラになりますよ。きっと!」

 

もはやダイエット目的を隠そうともしていないシリカだった。

 

全員で一斉に逆走してくるルームランナーに飛び込み足を必死で動かした。やはりここでも雪菜とシリカのツートップで佐天とドラえもんは懸命に走るもすぐに二人との距離はグングン開いた。

 

 

「お先にゴールです!てっ、なっ!?」

 

 

雪菜はいち早くルームランナーをゴールしたがゴールの場所に足を踏み込むといきなりその床が急な坂道になり、さしもの剣巫もこれに反応出来ずに簡単に滑り落ちていった。

 

 

「雪菜さん!?ドラえもんさーん、雪菜さんがっ!!」

 

 

目の前に居た雪菜が突然変化した床に滑り落ちていくのを間近で見たシリカは後ろを振り向きドラえもんに

頼ろうとするが他の二人は遥か後ろで録に声が届きそうにもなかった。

 

 

「と、とにかくゴールしないと!!」

 

 

雪菜同様にゴールすると今度は完全な落とし穴が開いてシリカは泣き叫びながら素直に落ちていった。

 

 

「ぴぎゃあぁぁ~!!落とし穴ー!?助けて~!!」

 

 

佐天とドラえもんは一定時間毎にどんどん速くなるコンベアーで既に息も絶え絶えになっておりとても二人を助けに行く余裕などなかった。

 

 

「あひっ!ぜひっ!ドラさぁ~ん!ふっ、二人が落とし穴にぃ~!?」

 

 

「ゴメン!この道具が作動している間は他の道具は無力化されて何も出来ないんだ!!だから何が何でも自力でゴールするしかないんだよぉ~!!」

 

「えぇぇー!?そんなの先に言って下さいよぉぉ~!!」

 

「ハァ、ハァ···そんな事よりもっと速く走らないと···」

 

言い終わる前に最後尾のドラえもんの後ろから巨大な玉が落ちて来て迫ってきた。

 

 

「ひえぇぇー!?何か来たー!!」

 

 

「さっき言ってた障害物だよぉ~!でもあくまでもアスレチックだから命の保証はある····と思う多分···」

 

 

「ちっとも安心できませんー!!」

 

 

佐天は障害物を見て何とかペースを上げてゴールしたがドラえもんは結局間に合わず玉の下敷きになって目を回していた。

 

 

「ムギュウ!?」

 

「ど、ドラさぁーん!」

 

 

だが、下敷きになった勢いを利用して何とかドラえもんもゴールした。

 

「はうっ···ヒドイ目にあったぁ~·····」

 

「よ、良かった無事なんですねっ?」

 

思わずドラえもんに抱きつくとまたも床が変形して底の見えない程の深い穴ができ、一部の床が柱となって立っていた。

 

 

「これはこの柱の内は何本かはダミーだから正解の柱を選んで渡らないとこの下に真っ逆さまに落ちる仕掛けのアスレチックだよ、これは!」

 

「イヤイヤ!もうこれアスレチックの領域じゃないですよぉ!?」

 

「よし!じゃあ先ず僕から先に行くよ。佐天ちゃんはしっかりと見ててね」

 

 

自ら率先して最初の一歩を踏み出し、選んだ柱にのったがいきなりハズレを引き当てたドラえもんは無情にも落ちていった。

 

 

「いきなり外したぁ~!?僕っておドジさんんん~!!」

 

「ドラさぁーん!」

 

佐天の呼び止める声が虚しく響いた。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

その頃の雪菜は様々な色の付いた床を踏むと柱が飛び出してくるトラップアスレチックに苦戦していた。

色の法則性が分からずつい、霊視に頼って先読みして寸前で四方八方から出てくる柱を紙一重で避けていた。

 

「くっ!霊視を使わなければ録に対処も出来ないとは····!他のみんなは無事でしょうか?」

 

 

その頃シリカは底の見えないステージを鉄棒で渡らないとゴール出来ないアスレチックに挑まされていた。

 

 

「ひえぇぇ~·····た、高すぎるよぉぉ~!!何なのこの深さは···ぜんぜん底が見えないよぉぉ。ドラえもんさん、雪菜さん、佐天さぁ~ん!!」

 

今のシリカの身体能力なら渡りきることは十分可能だが精神的に追い詰められていて上手く渡れず、達成が困難になっていた。

 

 

 

一方その頃ハズレの柱を選んで落ちていったドラえもんは太い縄でできた網に救われていた。

 

「う~ん!?どうやら安全装置はしっかりと作動してるみたいだけど流石にこれは厳し過ぎるなぁ·····とにかくこの縄を使ってよじ登らないとっ!うんしょ!よっとっ!ハッ!」

 

 

どこまでも高い天井を見上げながら必死で綱を握ってよじ登るドラえもんだった。

佐天の方は何とか覚悟を決めて選んだ柱に足を置いていた。

 

「ハァ、ハァ····な、何とかここまで正解だけど最後の三つの柱のどれかはハズレだから慎重に······って!こんなの分かる訳ないよぉ!こうなったらここは女の勘でぇ·····うりゃっ!」

 

だが悲しくも佐天の勘はあっさりとハズレて置いた足の柱は崩れ去った。

 

「うっきいぃぃ~!!女は根性ォォー!!」

 

必死で僅かなタイミングを逃さず何とか向こう側へ片手と片足を引っかけてギリギリ、クリアした。

 

 

「ぜぇ····ぜぇ····これってもう····特訓じゃなくて·····罰ゲームの間違いじゃないのぉ~!?」

 

 

佐天の叫びが虚しく響いた。

 

 

 

その頃雪菜はやたらと段差のある階段のフィールドに足を踏み入れていた。

 

「もうこれは階段とは呼べるモノではありませんね。しかし高神の杜での鍛練に比べたらこれくらいどうと言う事はありませんっ!」

 

常人とは比べようのない見事な跳躍力で高い段差の階段を駆け巡る雪菜だったが突然上から金ダライがふって来たのを寸前でかわした。

 

「なっ!?こ、これは確かバラエティ番組などであった金ダライ落とし!?こんな手には引っ掛かったりなどしませんよ!」

 

 

しかし次のステージで雪菜は頭を抱えた。

 

 

「こ、この飛行機を操縦して最高度まで飛んで、そこからパラシュートで落ちなさい····ってこんなのはもう、アスレチックじゃありませんよぉ!?そ、それに機械の扱いと高い所は私苦手なんですぅぅ~!!無理ですよぉ~!!暁先輩ィ~!!ドラちゃぁ~ん!!」

 

 

姫柊雪菜は余り知られていないが機械と高い所が大の苦手でこのお題はまさに彼女にとって最大の難関だった。

 

 

シリカの方は鉄棒渡りのステージを辛くもクリアして新しいステージを必死で泳いでいた。遥か先にフラッグが置いてあり、それに触れればゴールなのだがこの水のステージは最初のマラソンと同様に逆流して水が押し寄せてなかなか前に進めなかった。何よりやたらとバカデカいサメが鋭い牙を剥き出しにしてシリカの後ろを追撃してきているのだ。

 

 

「いやあァァー!!サメ!サメがぁー!!餌にされちゃうぅぅー!!もうこんなのアスレチックじゃないよぉー!?助けてドラえもんさん!雪菜さん!ピナァー!!」

 

 

必死で泳いで助けを求めるシリカだった。

 

 

 

その頃のドラえもんは、とにかく地道に縄をよじ登ってゴールにたどり着いた。

 

 

「はひぃ~ぜひぃ~!!ま、まだ真のゴールは遠いのかなぁ····」

 

 

ウンザリした眼差しで横の扉を開くと、そこにはハムスターがよく使って運動するやたらと巨大な回し車が設置されていた。説明文が記載されており、『この回し車を一定の速度で一定時間中で走って回せ』と書いてあった。

 

 

「はァァ~····しょうがない···やるか」

 

 

渋々ながら回し車に乗り込んで走り始めると後ろから巨大なハムスターが出現して回し車を追いかけてきた。

 

 

「ギィやあァァー!!!??ね、ね、ネズミぃぃ~!!やだやだやだぁー!!!」

 

 

ネズミではなくハムスターだが、ドラえもんにとっては同じげっ歯類で泣き叫びながらステージ内を縦横無尽に駆けまくった。

 

 

 

 

 

 

その頃の佐天は数々の障害ステージ

を危うくも切り抜けて次のステージに足を踏み入れた。

 

「ぜはぁっ、ぜひぃっ·····鉄棒で大車輪かましたり、ロッククライミングしたり、ライオンに追いかけられたり·····ってもうアスレチックでも何でもないじゃないですかァァー!?

いつまで続くのこれぇ····」

 

 

もう体力、精神力もギリギリに追い詰められている。

 

 

「この扉を開いたら、またとんでもないステージだろうなぁ····あ"ぁーもう、自棄だっ!矢でも槍でも鉄砲でも来いっ!!」

 

 

扉を開いた瞬間佐天の耳数㎝を何かが掠めた。

 

「へっ?」

 

そのステージには無数の小さな穴があり、ソコから矢じりや、槍、鉄砲の弾丸が飛び出してくる危険なステージだった。

 

 

「イヤイヤ!確かに?矢でも槍でも鉄砲でも来いって言いましたよ?だけど本当に来なくたっていいんじゃないのぉー!?」

 

 

そうこうしていると後ろから突然壁が現れ押し寄せてきた!

 

 

「って!ちょ、ちょっとこれってもう完璧に殺しにかかってるんじゃないのぉ!?死ぬ死ぬ本当に死んじゃうぅー!!」

 

 

あくまでもこの道具はアスレチック用の道具なので安全装置はしっかりと機能していたのだが、そんな事頭から抜け落ちてパニックになる佐天。いくら人体に無害とは言え、矢、槍、銃弾に囲まれて佐天の精神はピークに達した。

 

 

 

 

(···あ、あれ?これってもしかして走馬灯ってやつですかぁ!?····ドラさん、雪菜さん、シリカさん····白井さん、初春に御坂さん····

そうだ···私も御坂さんの様に····絶対に能力者に····へこたれてなんて居られないっ!!)

 

 

 

肉体と精神が疑似的とは言え追い詰められた佐天涙子にほんの僅かだが奥深く眠っていた能力が発動した。

 

 

 

佐天涙子の両の瞳が深紅に輝き、この空間全体の動きが把握出来た。

 

 

 

正面、斜め前に向かってくる銃弾と槍の動きがやけに遅く感じられ、

身体を僅かにずらすしてやると槍や銃弾がそのまま通り過ぎ去っていった。

 

 

 

特に何の感情もわかなかった····

ただ、目の前の物体を避けようとは思わずに邪魔なのは自分の身体だと感じて静かに移動しただけと認識した。

 

 

 

 

気がつくと佐天はこのステージのゴールに静かにたどり着いていた。

 

 

 

佐天の通りすぎたステージは矢や、槍が廊下を突き刺さっており、銃弾の弾痕等が所々に付いていた。

 

 

 

 

「案外こんなものか····」

 

 

 

佐天はまるで雲の中を軽く泳ぐ様な、流れに乗って歩いたという奇妙な表現をせざる得ない認識でステージを後にした。

 

 

 

 

そして次のステージの扉を開くと長く細いロープが張ってあり、当然下は底の見えない深い谷になっていた。横に説明文が立ててあり、『ここを遥か先のゴールまで綱渡りで手を使わずに立って歩いて移動せよ』と書いてあった。

   

 

 

佐天は特に乱れる事なく淡々と散歩するかの様に歩き、上から降り注ぐ槍や網が佐天を襲うがまるで槍と網が自分から避けてく様な感じで全く当たらずに渡り···そして渡った先に置いてあった赤いボタンを押した。

 

 

佐天の目の前に扉が現れ、開くとポップ地下室の出入口の階段が見えた。佐天は階段に設置してあったアスレチック・ハウスの終了ボタンを押して今回の特訓を終わらせた。

 

 

運動会で聞いた様な笛の音が鳴り響いて元の地下空間に戻った。

 

 

「ぜぇ····あひぃ····あ、あれ!?元に戻ったぁ!?」

 

 

目を回して床に這いつくばっていたドラえもんが少し遅れて気づいた。

 

 

「も、元に戻ったァァ~助かったァァ~!!」

 

 

シリカが半べそをかきながらドラえもんと佐天に抱きついた。

 

 

雪菜も周りをキョロキョロと見渡してホッと安心してため息を吐いた。

少し目に涙が滲んでいたので誰にもバレない様に涙を拭って三人をまとめて抱きしめた。

 

 

「もう本当に死ぬかと思いましたよっ!もうアスレチックとは絶対に呼べませんよこれはっ!」

 

 

何が合ったのかを三人に勢いよく喋るシリカに、雪菜は居たたまれない気持ちになって頭を下げて、皆に謝った。

 

 

「皆さん、今回は本当にすみませんでした。自分が現状に甘えてると焦って強引に考えを押し付けてしまい深く反省してます!」

 

 

「ええっと···そんなに謝らないで下さい雪菜さん。私からやると決めたのでそんなに頭を下げられると···」

 

 

「う~ん···まあ、でも雪菜ちゃんはみんなの事を考えてやった訳だからさ···僕もこれからはもう少しだけどら焼きを食べ過ぎないようにするからさ。頭を上げてよ雪菜ちゃん」

 

 

「そうそう!流石に今回みたいのは懲りごりですけど、何かあるか分からない以上もう少しだけレベルを下げてやりましょう。少なくとも決して訓練が無駄になるってことは有りませんしね!」

 

 

みんな雪菜の気持ちはしっかりと理解していたので何の遺恨もなくこの話しは終わった。

 

 

「それにしてもこの特訓用の終了ボタンを押してくれたのは佐天ちゃん何だね。一番にたどり着いてクリアするなんて凄いねぇ」

 

 

「あ~それなんですけど····私今一自分がやったという実感と自覚が妙に薄いんですよねぇ···何でだろう?」

 

 

「きっとそれだけ無我夢中になって集中してやり遂げたって事だと僕は思うよ!ようし!みんなで佐天ちゃんを胴上げだー!」

 

 

「ええェェー!!本気(マジ)ですかぁー!?」

 

 

 

ハムスターから助けられたドラえもんは佐天に感謝して胴上げする事を提案した。サメに追いかけられていていたシリカも賛同し、何処か吹っ切れた雪菜も快く参加した。

 

 

「そーれっ!バンダーイ!バンダーイっ!!」

 

 

「って!流石にっ、ちょっと、恥ずかしいんですけどォー!!····まぁいっか♪」

 

 

みんなが楽しそうにしてくれているので佐天はこの胴上げを受け入れて一緒に楽しんだ。

 

 

 



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9話 デモンストレーション

ぐうぅぅ~·····

 

胴上げされていた佐天のお腹が地下室に鳴り響いた。

 

 

「だああァァ~!また私のお腹がぁ~!

恥ずかしいー!!」

 

 

グググウウゥゥ~~······

 

 

他の三人のお腹も釣られて鳴り響いた。

 

 

「わっ、私もです····佐天さん····」

「えへへ···私も鳴っちゃました」

 

 

雪菜とシリカも頬染めて自分のお腹の虫が鳴ったのを報告した。ドラえもんも。

 

 

「デヘヘヘ····僕も。みんなあれだけ走ったり、色んな運動したからね!それじゃちょっと遅くなったけどお昼ご飯にしよう!」

 

 

「わーい♪賛成でーす」

 

 

佐天とシリカ、そして雪菜も笑顔で賛成した。

 

 

「お昼はガッツりとカツカレーなんてどうかな?」

 

 

「ヤッホー!!カレーだ!カレーだ♪しかもカツカレーなんて大賛成でぇ~す♥」

 

 

「私もカレー大好きです♪

(あれだけ走ったり、必死で鉄棒で移動したり、泳いだりしたからカロリー的には大丈夫なはず!)」

 

 

「私も賛成です。午後からの鍛練の為に必要十分なカロリー摂取は望ましいですしね」

 

 

「えっ!?」「はい!?」「ほげぇっ!?」

 

 

シリカと佐天の二人は信じられないモノを見る目で雪菜に注目し、ドラえもんも少し動揺して、

 

 

「あ、あのぉ~雪菜ちゃん鍛練というか、特訓はまだ続ける方向なのおぉ···?」

 

 

そんな三人の様子に雪菜はクスッと笑ってこう答えた。

 

 

「もちろんですっ!確かに今回は私の考えを一方的に皆さんに押しつける形になってしまいましたが、危険に素早く対処する為に鍛練するという行動そのものは決して間違ってはいないはずですよ。僭越(せんえつ)ながら私はそれなりに修羅場を潜り抜けてきた自負と経験は有りますから少しでもこの異世界を生き抜く為、頑張りましょう!」

 

 

雪菜の言ってる事は至極当然の考えなので三人も気持ちを改めて雪菜に賛同した。

 

 

「·····確かにそうですね。分かりましたよ雪菜さん!···でもお手柔らかにお願いしますよ?」

 

 

「私しもです!【シリカ】としての能力がどれ程の感じか、把握しておきたいと思ってましたからドーンと来いですっ!」

 

 

「うんうん。みんなで一丸になって頑張るのは実に良いことだ。僕も元の世界での大冒険の経験とポケットにあるひみつ道具で、出来る限りサポートするからね。あ、でもあんまりキツイのはもう勘弁だよ?雪菜ちゃん」

 

 

「ソコは私も心から反省してます。でもまた、どら焼きを食べ過ぎていたらその限りではありませんよ、ドラちゃん♪」

 

 

「イシシッ!なるべく気をつけるよ」

 

 

「ぷっ」「クスッ」「ふふっ····」

 

 

 

「アッハハハハハァァ~~!!」

 

 

 

皆何だか可笑しくなって思わず一斉に吹き出し、笑い声が地下空間に響き渡るのだった。

 

 

 

みんな着替えてテーブルに並び、ドラえもんがグルメテーブルかけから出したお昼のカツカレーを存分に味わってお腹を満たした。

 

 

食事を終えた佐天はシリカと一緒になって、ソファーに横たわって食欲を満たせれた満足感に包まれて暫しの間微睡(まどろ)んでいた。

程よく休憩を取った雪菜はドラえもんにある頼み事をした。

 

 

「度々ドラちゃんに頼るのは心苦しいのですが、私に武器を貸して貰えませんか?午後からの鍛練に必要なので出来れば槍を。もしくば槍の代わりになる長物とかあればよいのですが····」

 

 

「フムフム···槍やそれに代わる武器ねぇ···あっ!あれがあったな。えぇ~と、ここだったかな···?うん、あった!『無敵矛と盾』に鍛練用の安全棒~!!」

 

 

無敵矛と盾は弥生時代の青銅器を彷彿とさせる古風な外観をしたひみつ道具武器で、『無敵』と名前についているが決してそこまで無敵ではなく矛は鋼鉄をも貫けるものの、それ以上の硬度の物体には無力と至ってシンプルな道具で盾の方はかつて別世界にて、巨大な双頭の化け百足(むかで)が吐き出してきた強力な毒を防いだ実績を誇っていた。鍛練用の安全棒は単純に特殊セラミックの棒の両先端に衝撃を和らげる丸い厚みのあるゴムが取り付けてある道具である。

 

 

ドラえもんから渡された無敵矛と鍛練用安全棒をそれどれ手にして雪菜は感触を確かめる。

 

 

「失礼します····

(この無敵矛とやらの長さは雪霞狼(せっかろう)と比べて短め、こちらの安全棒は長さは申し分なく

やや、軽めですね。)」

 

 

一通り感触を確かめて改めて雪菜はドラえもんにお礼を言った。

 

 

「ありがとうございますドラちゃん。模擬戦をするにはこの安全棒は最適で、この矛も実戦で十分扱えそうです。有り難く使わせて貰います」

 

「うん!存分に使ってよ」

 

 

二人のやり取りをソファーから見ていたシリカは目をパッチリと見開き、やや興奮気味にドラえもんに詰め寄った。

 

「ドラえもんさん、わ、私もお願いしていいですか?」

 

「もちろんだよ」

 

「その、私は元々ダガー使いで···要するに短剣が得意武器なので、それをお願いしたいんですが····」

 

「ほいほい。えっと、短剣、短剣っと····うんしょっ。刃の部分が硬質のゴム製の訓練用のが幾つかあるから好きなのを選んでね!」

 

 

ドラえもんはポケットから様々な形状のゴム製の訓練ナイフを取り出した。シリカは幾つか手に取り、大きさ、扱い安さ、形状などを吟味してSAO時代やALOダイブ時に使用していたダガーに限りなく似た物を選んで手にした。

 

 

「ありがとうドラえもんさん。これが一番私が仮想空間で扱っていたダガーに似てるのでこれにします!」

 

「ウフフ、それは良かった。何かリクエストがあったら遠慮なく言ってね!ひみつ道具で多分どうにか出来ると思うから」

 

 

「はい!」

 

 

「本当にありがとうございますドラちゃん。これで鈍っている感覚を呼び覚ませます。僭越ながら準備運動代わりに私の槍さばきをお披露目しましょう」

 

「わぁ~それは楽しみだね!」

 

「本当ですか!是非見てみたいです!私、佐天さんを起こしてきますね」

 

 

 

雪菜が、雪霞狼(せっかろう)の代わりに訓練用の安全棒で槍術の演武を準備運動がてらに披露する事となった。シリカはソファーでウトウトしていた佐天を揺り動かして一緒に見学するよう促し、佐天は眠そうな目を擦りながら三人一緒に並んで雪菜に注目した。

 

 

 

ドラえもんから手渡された棒を手にした雪菜は目を閉じて自らの肉体の感覚の波長に耳を傾ける。己の身体の内に秘められている霊気を頭の天辺(てっぺん)から両手、両足の爪先の細部に到るまで循環する『流れ』を掴んだ。そして手にしている棒を先端から隅々まで意識を通し、今は手元に無い雪霞狼(せっかろう)と変わらぬ感覚を僅かな時間で養った。

 

 

 

両手で天高く棒を上げ鮮やかに回転させ、それを左右に移動しそのまま身体を捻り、踏み込みからの払い、斬撃、突きと連続で流れる様に一連の槍術の動きと体さばきの(ことわり)を惜し気も無く皆に披露した。

 

 

 

爪先、足首、脚、膝、腰、体幹、背中、胸、肩、肘、手首、指先の各身体のパーツが淀みなく連動し演武が演舞と称せる程の美しさで姫柊雪菜は構築されていた。

 

 

 

静と動の相反する要素が一つになって体現されていると言っても間違いなく

一呼吸して槍代わりの棒を床に一回縦に突き立て姫柊雪菜は演武(・・・)を終えた。

 

 

 

 

僅かな時間だったが、三人共雪菜の見事に洗練された動きに圧倒され夢中になって見惚れていた。佐天は槍の事など何一つ分からず、シリカもあくまでもゲーム内での他のプレイヤーの動き位の知識しか持ち合わせていなかったが、その程度でも雪菜の得物を振るう際の動きのキレと風切り音。それだけで素人同然の二人でも雪菜の底知れない実力を肌で感じ取って嘆息(たんそく)させた。

 

 

 

準備運動とは思えない程の動きに感動した三人は力一杯の割れんばかりの盛大な拍手を送った。

 

 

パチパチパチパチッ!!!

 

 

余りにも盛大な拍手と歓声に雪菜はハッ!とした表情になり、思わず顔を赤くして三人にお辞儀して演武を終えた。

 

 

「すごい!スゴい!雪菜ちゃんの演武、凄かったよ!流石だね!」

 

「本当にお見事ですよ雪菜さんっ!やっぱり···才の···、いいえ!日々の鍛練の賜物ですね!」

 

「雪菜さん素敵です!思わず見とれちゃいました。よーし!私も【シリカ】として短剣のソードスキルを····多分出せるはず····魅せちゃいますからねっ!」

 

 

「····まさかここまで絶賛されるとは思いませんでした。少し照れ臭いですね····」

 

 

自分などはまだまだ攻魔師としても、ましてや剣巫(けんなぎ)としても未熟と理解しても、こうも手放しで誉められると満更悪い気分でもないと感じる。この辺はごく普通の年相応な15歳の少女の顔をする雪菜だった。

 

 

 

雪菜に触発されてヤル気を漲らせるシリカは今の能力と使えるはずであろうスキルの確認とデモンストレーションの為、SAO時代の服装と装備に着替えて挑んだ。

 

 

「それじゃ次は私、シリカがいきまーす!」

 

 

三人の声援を受けてシリカは広大なポップ地下室の床を蹴って走り出した。凄まじい勢いで走り一瞬だけ僅かにしゃがみ込んで驚異的なジャンプ力で地下室の高い壁を蹴り、そのまま二回、三回と空中で身体を捻った軽業を披露した。明らかにプロアスリートの体操選手を軽々と凌駕する身体能力は雪菜、佐天、ドラえもん達三人の目を釘付けにした。

 

 

 

見事な着地をして間髪入れずに腰に差してあった硬質のゴム製ダガーを手にしてSAOとALO時代に培った短剣によるスキルの発動を試みる。

 

 

 

ダガー使いは手足の素早い動きが命で、伊達にデスゲームと化したSAOで生き残った訳ではない。攻略組でこそなかったが、それでも約2年間、生死の境を生き抜いたシリカの動きは真に凄まじく、雪菜に勝るとも劣らず洗練され、雪菜も無意識に頭の中で彼女との一対一の闘いのシュミレーションをさせる程に実戦の匂いを漂わせていた。

 

 

 

シリカはダガーを逆手に持ち変えて意識を集中させ、強く頭の中で自ら体得し、命をギリギリ繋いだ技、短剣のソードスキルの動きをイメージし、頭と心と身体の3つを同調させ、一つにして解き放った·····!

 

 

 

握り込んだ只の変哲のない硬質ゴム製のダガーが、何かしらのエネルギーを纏って光輝く。すると、シリカの動きが急激に一種の『型』の動きへと変化した。三人は食い入る様に僅かな動きも見落とすまいとシリカの一挙手一投足に集中し見つめ続けた。その際、佐天の両の瞳が淡く緋色になっている事にドラえもんと雪菜も、そして当の本人さえも全く気がついていなかった。

 

 

 

「ラピッド・バイト!!」

解き放つ技の名を叫び、強く前方を突進しつつ、踏み込む。シリカの脳裏にはかつて命の綱渡りをしながら戦い、勝利して葬った仮想空間の魔物の姿が浮かび、その経験から産まれたイメージを2連撃の突きで滅ぼし、ほんの僅かな間の技後硬直をも余すことなく利用して全身を捻り、次の技へと繋ぐ。

 

 

 

「ラウンド・アクセル!!」

全身の捻りの勢いを殺さず、脳裏に浮かぶ魔物の周囲を円を描いての高速移動しながら2連撃で斬り付け、先程同様に技後硬直の動きを利用し身体に力を溜め深く踏み込みそして、

 

 

 

「クロス・エッジ!!」   

一瞬で高速の斬撃を身体を入れ替え交差させてイメージした魔物の肉体に斬りつけた。

三人の(まなこ)には見えるはずの無い、見た事の無い魔物の姿が朧気ながら映り、それをシリカが突き、斬り裂き、クロスの軌道で朽ち果てさせる姿が目に焼きついた。

 

 

 

技を打ち放し、静かに床に着地して周囲を見渡すシリカを静寂が暫しの間包み込んだ。

 

 

 

シリカの演武を見終わった三人は息をするのを忘れて見入ってたのを思い出し、深い呼吸をした。

 

 

 

「·····うわっ、うわっ、うわぁ~!?

シリカさんとっても格好いいぃー!!」 

 

「····す、す、素晴らしいぃ!!素晴らしいですよシリカちゃん!!お見事でしたっ!!」

 

「ウンウンッ!!シリカちゃんの技、本当に素敵だったよっ!!」

 

 

普段は控え目で大人しいシリカの姿からは想像出来ない程、勇ましい姿に三人は驚きつつも感心して次々に称賛を浴びせた。

 

 

みんなからの絶賛の嵐にシリカは恥ずかしいそうにしながらも何処か誇らし気にしていた。

 

    

「えへへ····それ程でも···ありがとうございます。とにかく今はちゃんとイメージしたとうりに身体を動かせてソードスキルも無事発動してくれてホッとしてます」

 

 

「あれがソードスキルと言うのですね····私の見立てが間違っていなければあれは、ある決まった特定の条件に身体が反応して半ば強制的に『型』とも云える特殊な動作の攻撃が作動する···と、いった所でしょうか?」

 

 

元の世界で幼少の頃から厳しい鍛練を重ね、数々の激しい戦いをくぐり抜けてきた雪菜の見立ては実に正確に的を得ていた。

 

 

「すっ凄いです!?一度見ただけでそこまで見抜くなんて···流石は雪菜さんです」

 

 

「そっか!ゲームの、仮想空間で扱えたスキルがそのまま今の生身のシリカちゃんに宿っているんだったね。それは大したもんだ!」

 

 

「さっすが、雪菜さん!見る目が違いますねっ!····はぁ···、それにしてもい~なぁ二人共····あのぉ~ドラさん?私みたいに戦いの素人でも扱えて、二人みたい格好よくって強くなれる!そんな都合のいいひみつ道具とかってぇ···ないですよねぇ······?」

 

 

雪菜は槍、シリカは短剣とそれどれ得意の武器を手にし、見事な動きを見せた二人を見てて佐天は羨ましくなり、ついついドラえもんに無茶なおねだりをしてしまう。

そんな無茶な佐天の願いをドラえもんは笑顔で受け止めた。

 

 

「うふふ!大丈夫だよ。佐天ちゃんにピッタリなひみつ道具があるからね。えぇ~っと、あった!『名刀電光丸』~!!」

 

 

ドラえもんがポケットをまさぐって取り出したのは一本の日本刀であった。

 

 

「うわぁ~刀だぁ!ゲームとかのファンタジー世界で遥か東の国から伝わってきたって、感じで格好いいぃー!!」

 

 

佐天はドラえもんが出してくれた電光丸を手に取り感触を試しつつ、昔見た事のあるゲームや漫画、ドラマに映画とかで、出てくるポージングを次々に真似して見せた。

 

 

黒髪セーラー服の佐天に刀は妙に相性が良く、かなりはまっており三人から良く似合ってると誉められとても喜んだ。

 

 

「気に入ってくれたみたいだね。これはねコンピューターが内蔵されていて、戦う相手の動きに対して最適な行動を自動的にとれるんだ。これがあれば剣の達人にだって勝てるよ!」

 

 

「そうなんですかっ!?凄い!直ぐに試してみたいなぁ···」

 

 

「では私と試合をしてみるというのはどうでしょうか?」

 

佐天のぼやきを聞いた雪菜は模擬試合を提案した。

 

 

「えっ!?いいんですか?雪菜さん!」

 

 

「はい。どっちにしろ本来の今日の特訓プログラムの内容にも二人を指導する予定が入ってましたし、それに····その道具の力に少なからず私も興味がありますので」

 

 

「それじゃお言葉に甘えて···お願いします!」

 

 

「えっ!?ほ、本気ですか佐天さん、雪菜さん!?試合するなんて!?止めといた方がいいんじゃ···ドラえもんさんの道具を疑う訳じゃありませんが流石に危険なんじゃ···」

 

 

二人のやり取りを聞いてシリカはあわてて止めに入った。

 

 

シリカは雪菜が実際に戦っている所はまだ見ていないが彼女の事情と生きてきた環境、特訓内容の一部を知り何よりつい、今しがた雪菜が見せた槍術と体さばきから並々ならぬ実力の持ち主だと肌で感じ取っていた。

 

 

シリカも仮想空間とはいえ、ゲーム内で死ねば、現実(リアル)でも死ぬデスゲームを約2年間生き抜いてきた。それ故、少しの情報からでも、相手がどれだけの力量があるのかをほぼ正確に見抜く力をシリカは無自覚に身に付けていたのだ。

 

 

シリカは佐天と雪菜を交互に顔を見つめ返してオタオタして思わずドラえもんに視線で助けを求めた。そんなシリカに雪菜は優しく諭す。

 

 

「安心して下さいシリカちゃん。何も血味泥のケンカをしようとする訳ではありません。これはあくまでも試し合い····互いの力量をぶつけて切磋琢磨して高みを目指すいわば訓練の一環なのですから」

 

 

「そのとうりですよシリカさん。そんなに心配しなくても雪菜さんならきっと上手く手加減してくれますし、何より私は雪菜さんとドラさんの道具を信じてますから!」

 

 

「く、訓練ってそんな風に言っても····」

 

 

不安がどうしても拭えずにやはり変わらずドラえもんに二人を止めてくれる様にお願いするが、当のドラえもんは二人の試合に賛成していた。

 

 

「えぇぇ~!?ドラえもんさん、止めてくれるんじゃないんですかぁ!?」

 

 

予想外のドラえもんの答えにシリカはもう訳が分からなくなった。

 

 

「雪菜ちゃんの言うとうり別にケンカをしようって訳じゃないからね。こうやって互いの力量を把握して、どんな風に戦えるのかを実際に体験するのは決して悪くもないし、無駄でもないと僕は思うよ。なあに、もしケガをしても僕に任せてくれれば大丈夫さ!だからシリカちゃんもそんなに心配せずに二人の試合を見学しようね」

 

 

 

シリカは渋々ながら二人の試合をドラえもんと一緒に見学する事となった。

 

 

 




いろんな方々のおかげで私はこうして作品を更新出来ています。深い感謝と敬愛を。


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10話 試し合い

戦闘描写は難しい···気になった部分があったら是非教えてください。


電光丸をドラえもんから借り受けた佐天は実際の力を試す為、雪菜と試合する運びとなった。 

 

 

雪菜は雪霞狼(せっかろう)と変わらぬ感覚で訓練棒を構え、佐天はやや、右寄りに両手で電光丸を握りしめ相対した。

 

 

互いに見つめ合って対峙し、心地の良い緊張感が流れる。

 

 

(···やはり佐天さんは構えからして素人そのものですね。しかし、ドラちゃんのあの刀はコンピューターでほぼ、自動的に効率的な対処をしてくると言ってました···まずは牽制という意味で軽く突いて様子を伺いましょう)

 

 

先ず雪菜が先手を取って、牽制の為の何の変哲の無い軽い突きを佐天の胸元当たりに繰り出した。すると佐天の握っている電光丸の内部コンピューターが鋭く反応して佐天の身体を動かして対処してきた。

 

 

「わわっ!?か、身体が勝手に!これが電光丸の能力!?」

 

 

佐天は驚き、動揺してはいるが動きそのものは電光丸によって強制的に制御されて効率的な対処をしてきた。

 

 

雪菜の放った突きを佐天こと電光丸は棍の側面から刀の腹の部分で容易くさばき、その動きの流れのまま逆に突きをお見舞いした。雪菜はほんの一瞬、ハッとした表情を見せるも冷静にこれを難なく回避し、同時にそのまま佐天の左側面へと移動して今度は左下段からの払いを打ち出した。

 

 

佐天からは見えない死角の部分からの払いは直撃するかに思えたが、これも電光丸で一瞬だけ受け止めつつ、刀を滑らせて先ほど同様に突きを繰り出した。

 

 

「おっととっ!?わったた!?」

 

 

急な自分の意志とは無関係な動きに佐天は翻弄されているが、あくまで電光丸の内部コンピューターの判断は鋭く、カウンターを放つ。

 

 

雪菜は身体を小さく回転して避けて逆側からの右下段払いを放つ。

 

 

だが、これも鋭く反応されて、佐天はアクロバティックな動きで受けてカウンターで雪菜の脳天に刀が撃ち込まれ様としたが、紙一重で回避してバックステップで距離を取った。

 

 

「····す、凄い····」

 

僅かな時間での二人の無駄の無い流れる様な攻防に、シリカは唖然とした顔で二人を見渡した。

 

 

「ひっ、ひえぇぇ~·····!?あ、あんな動きが出来るなんてぇ···!」

 

 

佐天は普段なら到底こなす事が不可能な動きに驚きつつもどこか楽し気になっている。一方の雪菜は冷静な表情を崩さず、構えにも隙はなく一定の距離を保ちながら頭の中で巡るましく思考を回転させていた。

 

 

(成る程····流石ドラちゃんのひみつ道具ですね。軽い牽制や様子見での攻めでも的確に対処されて来ます···佐天さんの方は思ったとおり、あの電光丸からの強制操作によって自分の意志とは無関係に身体を動かされている。初めて行う試合に、初めて扱う武器という事もあって、完全に道具に翻弄され振り回されているだけですね···)

 

 

しばらく二人は目線を合わせた後、

雪菜は小さく息を吐きながら、摺り足で傍目からは分からない動きで距離を詰めていた。佐天自身は視力こそ驚異的に高まっていたものの、闘いに関しては図太の素人故、雪菜の繊細な動きに気がつかず、武器のリーチ差も相まって距離を分からない内に詰められ佐天の反応は遅れた。

 

 

雪菜は胸元への突きと見せかけて、棍の先端を少しせり上げて喉元へと突きを放つ。

 

 

だが、佐天自身の反応は遅れても電光丸そのものは反応して、これも容易く握っている佐天を振り回す形で対処してきた。電光丸の刀身の切っ先が棍に触れ、滑らせて突くはずが、武器同士接触するや否や雪菜は手首を捻って真っ直ぐな突きを螺旋状の動きに変化させて刀身を弾いた。

 

 

「なっ!?とっととっ···!」

 

 

佐天の身体はバランスを崩して雪菜から見て左側へと重心が寄り佐天の左側面はがら空きとなった。

 

 

ギリギリの僅かな刹那のタイミングで電光丸からのカウンターをさばき、生じた僅かな隙を逃さず雪菜は右上段からの払いを放つ。

 

 

電光丸は佐天の身体を操って片寄った右脚の重心をスムーズに回転させて上段からの攻撃を受け止めた。だがそれを読んでいた雪菜は受け止められてた部分を始点にして棍を半回転させ左下段払いへと変化させ、佐天の右脚部分を狙って放った。

 

 

決まる。そう確信したがその瞬間、雪菜の視界から佐天の身体は消え去り雪菜の全身の細胞が一気に泡立った。

 

 

幾多の戦闘の経験から電光丸の反応に引けを取らぬほどの(はや)さで雪菜は佐天からの空中で半回転しながら放たれ首筋に迫る刃を寸前で身体を沈み込ませて回避運動し、勢いそのままに床に棍を叩きつけてその反動で棍を跳ね上げて佐天に打つ。

 

 

だが、これも電光丸の抦の部分で防がれた。

 

 

「あっ、あっ、あわわヮヮッ~!!?」

 

 

佐天はもう何が何やら訳が分からずにふらついていた。

 

 

雪菜は軽く小さなため息をついた。電光丸の能力がどれ程なのかを探りを入れたのだが、(ことごと)く対処され、ほんの僅かだが呆れる様に感心していた。

 

 

(佐天さんの膂力、疾さは共にごく平均的な女子そのもの····ですが電光丸による反応と対応力が余りに卓越している····今の所私の方から攻めて佐天さんの方は受けてからのカウンターに終始している···少しだけアドバイスして流れを変えてみますか)

 

 

二人の闘いの様子を伺っていたドラえもんは佐天にアドバイスした。

 

 

「佐天ちゃんー!!受けるだけじゃなくて、今度は自分から攻めてみようか!」

  

 

(ドラちゃんが先に言ってくれましたね。さて、どうなるか····)

 

 

「えっ?は、はい!やってみます!」

 

   

やや、躊躇いがちながら、佐天は上段に電光丸を大きく振りかぶって勢いよく突進してきた。

 

 

「とっ、とおりゃあぁぁ~!!」

 

 

どこか間延びした気合いを込めて佐天は電光丸を振りかぶった。

 

 

(やはり佐天さん自身(・・・・・・)の動きは大きく隙だらけ。しかし電光丸の強制動作で鋭く踏み込んでくる。今度は私からカウンターを仕掛けてみましょう)

 

 

雪菜は(はや)く無駄なく上から向かってくる斬撃を右側へ身体を動かして回避し、その動きと同時に先程よりも更に鋭く佐天の左肩を狙って打った。

 

 

だが、これも電光丸に無理矢理身体を引っ張られ、映画マト〇〇クスの弾除けシーンみたく下半身のみをその場で固定して上半身のみを巧みに動かし、寸前で躱して腰と腕を捻ってお返しとばかりにカウンターで上段から雪菜めがけて刀身を振ってきた。

 

 

雪菜は剣巫の得意技である霊視を使用し、一瞬先の未来を読んで縦方向に棍を回転させてこの攻撃を防ぎ、右脚で佐天の両足を払った。

 

 

「うわっ!?」

 

 

両足を払われて一瞬だけ空中に浮いて隙だらけの状態になったこのチャンスを逃さず、雪菜は両手を巧みに動かし棍を回転させて斜め上段から放った。

 

 

(これならっ!)

 

 

今度こそ当てたつもりだった。しかし雪菜の霊視を持ってしても先読みの叶わない超反応で身体を空中で半回転してこれすらも避けられた。

 

 

「これも反応して避けるのですかっ!?」

 

「ハァッ、ハァッ····たっ、助かったぁ~!!」

 

 

 

思わず口に出して動揺する雪菜。当の佐天は無理な動きを電光丸にさせられて息を激しく切らしていた。雪菜との攻防による緊張感も相まって自身の想像以上に身体に疲労が重なり始めている。

 

 

どうすればこの超反応を上回れるのか思考するが、慣れてきた佐天はその隙を逃すまいと積極的に突進して、何度も電光丸を縦、横、斜めへと斬り込んできた。

 

 

「行きますよぉ雪菜さんっ!う~りゃりゃりゃあぁぁー!!」

 

 

互角に立ち回れている高揚感に支配されて自分の体力を考慮せずに勢い任せに刀を振るうも常に冷静な判断力で雪菜は回避しながら思考を絶えず続けている。

 

 

(佐天さんの体力切れを狙ってもいいのですが、それでも恐らく電光丸に強制的に動かされて逆にこちらの体力を削られる羽目になる可能性が十分にある····これではもはや、佐天さん自身が電光丸を動かす道具扱いになっていますね·····そうかっ!なら佐天さんと電光丸を切り離せば····!試してみましょう」

 

 

 

雪菜はバックステップで一旦距離を作り、槍術の基本の構えをして静止する。

 

 

それをチャンスと捉えて佐天は自身の意志で電光丸で踏み込んで突きを放った。

 

 

雪菜は霊視で突きの速度とタイミングを見極めてギリギリ当たる寸前まで佐天を引き寄せる。

 

 

「·····ここですっ!!」

 

 

雪菜は電光丸の切っ先を棍の先端で押さえ、向こうが刃を滑らしてくる動きを上手く利用し、刃の軌道に合わせてすかさず螺旋の動きで絡め取って捲き込み、電光丸を弾いた。

 

 

「きゃああっ!?」

 

 

槍の代わりの棍を巧みに操り見事に佐天の手から電光丸を切り離して無力化に成功し寸止めで棍の先端を彼女の喉元に向けた。

 

 

 

「ありゃ······?ひえェェ~!!ま、参りましたぁぁ~!!降参!降参ですぅ~!!」

 

 

遠く床に転がる電光丸を見て佐天は慌てて降参し、雪菜は試合に勝利した。

 

 

「お二人共ご苦労様です。ケガをしないか私もう心配でハラハラしましたよぉ···」

 

 

シリカは試合に夢中ににりつつも、二人がケガをしないかと胸を痛めていたのだ。

 

 

「いやぁ~アッハハハ····私は大丈夫ですよ。かすり傷一つありませんから。心配してくれてありがとうシリカさん!」

 

 

「····私も問題ありません。ありがとうございますシリカちゃん」

 

 

雪菜は佐天から電光丸を切り離すことで勝利した。だが、当の本人は結果に満足できずに悶々としていた。

 

 

(本気を出さなかったとはいえ、結局ああして佐天さんから電光丸を切り離して無力化することでしか対処出来ないとは我ながら情けない結果ですね。

自分の未熟さに腹が立ちます····それにしてもドラちゃんの道具の効果は凄まじい···素人がただ道具を持っただけであそこまで強くなれるとは···もし、これが仮に私の敵対する勢力に知られ渡ったらどうなるかなんて想像したくないですね)

 

 

結局の所、電光丸を所持した佐天に有効打を打ち込めず、苦肉の策として無力化することで辛くも勝利を拾っただけの結果に満足行かない雪菜だった。

 

 

「どうだった。雪菜ちゃん、佐天ちゃん。感想は?」

 

 

「いやぁ~本当に凄いですね、この電光丸って道具。結局負けちゃいましたけど、雪菜さん相手にあれだけ粘れましたからこの道具は非常に気に入りましたよ!」

 

 

「フフフ。それは何よりだよ。それは佐天ちゃんに貸して上げるから上手く活用してね」

 

 

「えっ!本当にいいんですか?こんな凄い道具を····ありがとうございますドラさん!」

 

 

「雪菜ちゃんもこの道具を試して見るかい?」

 

 

「····いえ、すみません。私は、私自身の力を優先的に用いて戦い、先ぱ···いえ、元の世界へ帰りたいと考えてますので。····あっ!その、決してドラちゃんの道具の力や佐天さんの試合を否定して貶めるつもりはありませんので···誤解なさらないで下さい!」

 

 

「ウフフ。大丈夫だよ雪菜ちゃん、ちゃんとわかっているからさ。ねっ、佐天ちゃんもそうでしょう?」

 

 

「はい!勿論ですよ!雪菜さんは確か···攻魔師···?と、剣巫···?でしたか?その幼少からの鍛練で培った力で戦うのは宣告承知してますから気にしないで下さいよ」

 

 

「····ありがとうございます。でも次こそは必ずあんな苦し紛れのやり方ではなく実力であの電光丸の力を上回ってみせますからね!」

 

 

(やっぱり雪菜さんってやたらと好戦的で自分の技に誇りがあるタイプだなぁ····)

 

 

「そのぉ···疲れているかも知れませんが、次は私と何方か試合をしてくれませんか?」

 

 

少しシリカが申し訳無さそうに試合を希望した。

 

 

「でしたら私が相手をしましょう。正直な所シリカちゃんの演武を見せられて機会があれば立ち合ってみたいと考えてましたので丁度良かったです」

 

 

「は、はい!雪菜さん、胸をお借りします」

 

 

「今度はシリカさんが試合ですか。さっきの技、スゴかったですもんね。二人共頑張って下さいね!」

 

 

こうして次はシリカと雪菜が試合をする事になった。

 

 

シリカがドラえもんから貸してもらった硬質のゴム製ナイフを構え、雪菜も棍を佐天の時同様に構え対峙した。

 

 

「それでは···行きます!」

 

 

シリカが先攻ダッシュして雪菜との間合いを詰めようとした。棍と短剣ではリーチの差は明らかでその差を足の速さで埋めようとする。

 

 

シリカが足を急ブレーキをかけて一瞬雪菜もそれに合わせてしまい、僅かな隙が生まれた。そこをシリカは見逃さず雪菜の背後に急旋回して間合いを詰め、ダガーを繰り出す。

 

 

雪菜は咄嗟に棍を短く持ち直してこれを難なく防ぎ、シリカは間初入れずにまたも高速移動しながら常に自分の攻撃の届く範囲を見極め、雪菜を中心にして周囲を回り隙を伺っている。

 

 

そんなシリカの戦い方を雪菜は冷静に分析していた。

 

 

(先程の演武の時よりも明らかに速く動いていますね。スピードには私も些か自信はありますがシリカちゃんの方がより疾い····!佐天さんの時は速いというより無駄が無い動きに対してシリカちゃんは逆にわざと無駄な動きをフェイントにして本命の動作を隠している感じがします)

 

 

シリカは素早い動きで雪菜を翻弄しつつ、ダガーに力を込めてまだ誰にも見せていない短剣のソードスキルを発動させ様としていた。

 

 

(雪菜さん相手に長引かせるのは悪手。だったら最初から全力で惜しみ無くまだ見せていないソードスキルを連続で叩き込むのみっ!行きますよ!)

 

 

シリカは更に脚の速度をはね上げ、未知のソードスキルを発動させた。 

ハイ・スピードで雪菜の左側面へと移動し発動。

 

 

(トライ・ピアース!!)

本来なら鎧の隙間を縫う様に3連続の刺突するのだが、今回は雪菜の身体の部分を3つに分けて突いた。

狙うは左側の肩、腕、手の甲を狙って鋭く放った。

 

 

雪菜は躊躇う事無く霊視を使い一瞬先の未来を読み、シリカがどの様な攻撃を仕掛けるのかを読んで冷静に対処する。左腕を狙ってくるのが分かったので素早く棍の中程に手を寄せて梃子の原理で回転させてこれをいなした。

 

 

(くっ!霊視を使わざるをえない速さ!!本人の小柄さと相まって余計に速く感じられます)

 

 

(やっぱり反応して簡単に防がれた。なら、これでどうですかっ!)

 

 

デモンストレーションで見せた驚異的な跳躍力で右側、左側と交互に行き交い振り向き様にダガーの斬撃。雪菜もただ、様子見するだけでなく、棍を短く持って対応し、シリカの攻撃をさばきつつ、カウンターで応戦。シリカもそれを寸前で避け、次のソードスキルを密かに発動させた。

 

 

(ダガーが光ってる。また何かソードスキルを発動するんですね)

 

 

如何に速く動こうともソードスキルを発動させようとすると得物が光を纏って輝いてスキルを発動するのが簡単に露見してしまうのはデモンストレーションの時に既に分かりきっていたので、シリカはそれを逆手に取ってフェイントに使用した。

 

 

ダガーにエネルギーの塊が蓄積して輝くがシリカはギリギリまで発動させず、正面から跳躍して上段に斬り込んできた。雪菜は難なく反応して突きを放つが、その突きがシリカを捉えたと思った瞬間に彼女の姿がまるで蜃気楼の如く消え去り雪菜の突きが虚しく空を切った。

 

「なっ!?」

 

完全に捉えた。そう確信した棍を見つめるも、雪菜は背後からの圧迫感(プレッシャー)を鋭敏に感じ取る。

 

 

(シャドウ・ステッチ!!)

このソードスキルは相手の懐や背後に忍び寄って短剣の峰や柄で3回殴る打撃スキルで強襲、奇襲に最適なスキルで、シリカはこれをギリギリまで発動を送らせ、敢えて正面から斬り込み、カウンターを受けるタイミングを見定めてスキルを解放。スキルによる半強制行動により、雪菜から見るとまるで蜃気楼の如く姿が消え去って背後へと移動していた。 

 

 

(これならっ!)

 

 

シリカは確実に当てられると確信した。がっ、雪菜は幾多の戦闘経験から背後からの存在に咄嗟に反応してしゃがみこんで棍を後ろ手で脇に抱え込み、棍の先端を地面に打ち付け、その反動で、そのまま棍を背後から脇へ伸ばしてシリカの装備している胸当てに当てた。

 

 

「なっ!?きゃあっ!!」

 

 

スキルによる特徴でフェイントを仕掛けて完全に裏をかいた筈だった。

だがこれにも雪菜は見事に対応し、しかも当てる部分にも配慮して手加減する余裕を見せた。

 

 

「す、凄い·····」

 

佐天は高まった視力で誰よりも細かく二人の攻防と駆け引きを見つめ、息を洩らした。両目を淡く緋色に輝かせながら····

 

 

胸当てに棍を当てられ、たたらを踏みながら着地し、シリカは次の一手の為、再び高速移動を始めた。

 

 

スキルでの使用ではないラウンド・アクセルの動きで雪菜の周囲を高速回転で囲み、死角から斬撃を仕掛けるが雪菜に容易くさばかれた。

 

 

(スキルによる動きを通常に真似て仕掛けるのは良いのですが、その動きは既に見切りました。スキルの強制行動と比べれば驚異とは思えません!)

 

 

シリカは雪菜の対応力に圧倒され思考に迷いが生じ、動きが一瞬鈍る。それを見逃す程雪菜は甘くなく、繊細に棍を操り、シリカの右腕の衣服の袖に棍を忍び込ませそのまま手首を捻って螺旋のうねりで衣服を絡めとり軽量のシリカを投げ飛ばした。

 

 

「なぁっ!?きぃああぁぁー!!」

 

 

「ええぇっ!?嘘でしょう!?棒であんな巧みにシリカさんを投げるなんてっ!?」

 

 

投げ飛ばされたシリカは動揺しつつも何とか壁を蹴って態勢を整えて再び雪菜と向かい合った。雪菜は依然として構えを崩さず、心の乱れも無く正に明鏡止水の面持ちで研ぎ澄まされていた。

 

 

シリカは息を整え深呼吸し、今までの仮想空間での経験を反芻していた。

 

 

(フゥ·····落ち着け、私。····雪菜さんは私以上に生身での戦いに身を投じてきた本当の強者····ただ、速度を上げただけじゃ簡単に対応される····なら、おいそれと対応しづらい動きで攻める!!」

 

 

雪菜との攻防がシリカを、綾野珪子を、SAO時代の【シリカ】へと目覚めさせ、この瞬間にも彼女を成長させていた。

 

 

シリカはさっき迄の激しい動きは影を潜め、ただ正面から真っ直ぐに雪菜を見つめながら歩いてゆく。

 

 

····穏やかだった。闘志も過剰な気負いも感じられずただ正面から歩んでくるシリカに雪菜は僅かながらも違和感を感じ取った。

 

 

(何ででしょう···シリカちゃんからは何かを仕掛ける気配が感じられなくなりました·····

ただ私の所へ歩いてくるだけ····?遅い····?

いえ、遠い·····!?····いえ、違います!これは·······低いっ!!)

 

 

シリカは雪菜の手にしている棍の長さを見極めて彼女の制空圏にゆっくり(・・・・)と歩み、制空圏に触れるや否や自然な感じで倒れ込んだ。

 

 

床にぶつかる寸前に足先に力を入れ、地面スレスレの高速の超低空の突進突きをシリカは放った。

 

 

剣巫の霊視はあくまでも目で確認出来る対象の一瞬先の未来を読むもので、如何に強力であっても目視確認出来なければ余りに無意味。知らずにシリカは霊視の弱点を突いていた。

 

 

懐を掻い潜って足元に突進してくるシリカに気づいた雪菜はかろうじて反応し、棍の先端を床に突き刺して、その反動で空中へ飛び、ギリギリにシリカの超低空からの突きを逃れる。

 

 

「まだですっ!諦めません!!」

 

 

シリカは左手を床に叩きつけ、そこを起点にして身体を一回転しっ、遠心力を利用して強く地面を繰り上げ空中に逃れた雪菜を追撃した。

 

 

(はや)いっ!しかしっ!」

 

 

雪菜は下から迫りくるシリカの突きを棍でいなそうとするがシリカの本命は別にあった。

 

 

いなす動きの棍にダガーを擦る様に引っかけ、それを足場にして蹴って更に雪菜より上空に跳躍する。

 

 

「私の更に上をっ!?」

 

 

雪菜より天高く跳躍して地下室の天井に身体を捻って蹴りを放って加速し、雪菜の頭上に迫りながらシリカはソードスキルを発動させた。

 

 

「ハァー!!ここだぁー!!グラヴィティ・マグナム!!」

 

 

『グラヴィティ・マグナム』それは短剣上位のソードスキルで弾丸の如き速度で敵の脇を通り抜け、背後から斬り掛かる4連撃。

 

 

二つの攻撃をフェイントに使い、本命のソードスキルに今の自分の全てを注ぎ込んだ。 

 

 

空中で逆方向に突進して背後を取ったシリカは勝利を確信した。だがっ、

 

 

「私は···負ける訳にはいかないんですっ!」

 

 

雪菜は迫りくるシリカのソードスキルに対抗するべく八雷神法(やくさのいかずちのほう)を使用した。

 

 

八雷神法(やくさのいかずちのほう)。それは獅子王機関の高神の杜で仲間達と共に厳しい修行で身に付けた呪式戦闘術で、素手で魔族と対等に渡り合える程の力を雪菜はその身に宿していた。

 

 

若雷(わかいかづち)土雷(つちいかづち)鳴雷(なるいかづち)伏雷(ふしいかずち)!!」

 

 

雪菜は霊気を原料に呪力を手、足、肘、膝に纏ってシリカの本命のソードスキル、グラヴィティ・マグナムの4連撃を攻撃的防御で全て迎撃し、相殺して防いだ。

 

 

全て迎撃相殺されたシリカは、驚きの声を上げる。

 

 

「そ、そんな全て防がれたっ!?」

 

 

「これで終いです!火雷(ほのいかずち)!」

 

 

雪菜は掌底に呪力を高密度に集中させてシリカの胸当てに放った。

 

 

「ぐうぅー!!私もあの人みたいに···

明日奈さんの様にっ!!」

 

 

ここで、シリカはSAO生還者の意地と根性を見せた。カウンター気味にダガーの斬撃を雪菜に放ち、辛うじて相討ちの形になった。

 

 

二人は着地の事などすっかり頭から忘れてしまっていて、お互いバランスを崩していた。そこをすかさずドラえもんがポケットからひみつ道具を取り出した。

 

 

「二人共危ないー!!『救命クッション』ー!!」

 

ポヨンッ!! 「きゃっ!?」

 

「うひゃっ!?助かりましたぁ~!!」

 

 

フリスビーの様に救命クッションを投げて見事にシリカと雪菜を救い、無事、ケガ一つせずに試合···と呼ぶには白熱し過ぎた二人の対決はこうして終わりを迎えたのだった。

 

 




捕捉説明。今回佐天ちゃんの能力の発動を期待していた方申し訳ありません。
雪菜との試合では雪菜は全く本気ではなく殺気もなかった為、電光丸の威力もそれ相応の出力なので佐天の能力は発動までには至らなかったのです。
本人も道具に振り回され、翻弄されて危機を感じていなかったので。
ただ、シリカのお披露目の際発動描写を入れたのは佐天が無意識に彼女から実戦の匂いを感じた為とシリカと雪菜の試合も実戦を感じさせたので発動の描写を入れたのです。期待を裏切る展開であったなら申し訳ありません。以前にも書いたのですが本作品は作者である私が書くことに変わりありませんが皆様と共に作っていけたなら幸いです。これからも応援よろしくお願いします。





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11話 色んなひみつ道具を試してみよう!

長々と地下室の様子ばかりでちっとも異世界らしくなかった本作品もようやく外に出れそうです(汗)



 

雪菜とシリカの試合···というには余りに熱を込めすぎた模擬戦は両者相討ちという形で終了した。

 

「雪菜さん、シリカさん二人共大丈夫ですかっ!?」

 

佐天が二人の身を案じて駆け寄ってくる。

 

 

「だ、大丈夫です佐天さん」

 

 

「私も問題ありません。心配してくれてありがとう佐天さん。それと、助かりましたドラちゃん」

 

 

「うん!間に合って良かったよ」

 

 

「いやぁ~しかし、お二人の試合凄かったですよ!シリカさんはあんなに素早く動いて、ソードスキルとそれを囮に使っての駆け引きも見事で、雪菜さんはどんな動きにも対応してあんな格好いい技も持ってて私見惚れちゃいましたよっ!」

 

 

「テヘへ、まあ、全部簡単に防がれちゃいましたけどね」

 

 

「最後はシリカさんの予想外のカウンターにしてやられてしまいました····最後の最後に気を抜いて···やはり私はまだまだ未熟。自分のツメの甘さに腹が立ちます」

 

 

「まあまあ、自分を責めるのはそれ位にしてさ、みんなで休憩して甘い物でも食べよう」

 

 

「賛成、賛成!」

 

「私も賛成です!」

 

 

ドラえもんがおやつ休憩を提案すると佐天、シリカは大喜びで賛同した。雪菜はそんな二人を見て「しょうがないですね」とやや、呆れながらも一緒にテーブルに移動した。

 

 

ドラえもんはグルメテーブルかけからおやつにプリン・アラモードを注文した。三人の前に透明に輝く器の真ん中にカスタードプリン、その横にバニラアイス、キュイ、ミカン、サクランボ等の各種フルーツが添えられ各間に甘そうな生クリームが綺麗に飾られている。豪華な盛り付けに三人の食欲は大いに刺激された。

 

 

「さあ、召し上がれ♪」

 

「いただきまーす♥×3」

 

「ウフフ。みんな嬉しそうで何よりだ」

 

ドラえもんはどら焼き・アラモードを頼んでみんなを優しく眺めた。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「はあぁぁ~·····美味しかったぁ·····♪」

 

「私、今とっても幸せですぅ····」

 

「本当に美味しかったです。いつも本当にありがとうございます。ドラちゃん」

 

「もう~雪菜ちゃんったら···そんなに畏まらくてもいいんだよ?もう少し気を楽にしていいんだからさ」

 

「そうですよ雪菜さん。もうちょっと気楽にいきましょうよ」

 

 

「佐天さんはもう少し気を引き締めた方が良さそうですね···今日の試合でもどこかお遊び気分が見え隠れしてましたし、やはりここは佐天さん用の特別訓練メニューを考案して明日から···」

 

 

「ええェ~!!ちょ、ちょっと待って下さいよっ!?今日みたいなのは

もうこりごりですよぉ~!!」

 

 

「····クスッ半分(・・)冗談ですよ。」

 

 

佐天の気の抜けた発言に雪菜は上手くたしなめた。

 

 

「って、何だぁ···冗談ですかぁ····って、半分って何なんですかー!?」

 

 

「確かにドラちゃんの道具を使用しての今日の特訓はやり過ぎたと反省してます。ですが、佐天さんには体力トレーニングは必要不可欠だと私は判断します。あの電光丸は確かに素人の人間を所持するだけで達人の域にまで強くしますが、私の見る限り道具に振り回されて身体が全く追いついて居らず息も乱れて、ヘトヘトになっていました。最悪の状況を想定してしっかりと活用出来る様に佐天さん自身が強くなる必要があると私は苦言します」

 

 

佐天は先ほどの試合を振り返り「確かに」と納得する。電光丸の一方的な反応に振り回されて電光丸のコンピューター自体は効率的な動きを提供してくれても肝心の自分自身が全くついてこれずに無駄に力んでスタミナ切れになったのを思い出していた。

 

 

「わっかりました!雪菜さん、私しっかりとトレーニングを頑張ってやっていきます。でももうあんなアスレチックはゴメンですよ?」

 

 

「それは私もですよ。あれは我ながらやり過ぎたと反省してますから。あ、でももし機会があれば初心者コースから始めてみるのもいいかもしれませんね」

 

 

「フフフ、そうだね。スペシャル特訓用コースがハード過ぎただけでそれ以外ならしっかり適度に身体を鍛えるのにあれほど使い勝手がいい道具もないからね!」

 

 

「···私はもうあんなサメに追いかけられるのは二度と嫌ですよ·····」

 

シリカが若干トラウマ気味になって呟いた。

 

 

「そう言えば、電光丸も凄いですけど初めてドラさんに出会った時に振り回していたあの道具も凄まじい威力でしたよね?」

 

 

佐天が自分達三人が異世界に強制召喚された時を振り返り、その時ドラえもんが使用していた道具を思い出してた。

 

 

「いやぁ~あの時は恥ずかしい姿をみせちゃったね。ネズミがいたからつい·····」

 

 

ドラえもんは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

「あれはなんて名前の道具何ですか?」

 

 

「うん、シリカちゃん。あれはジャンボ・ガンに熱線銃っていうんだ。

ジャンボ・ガンは一発で戦車を吹き飛ばし、熱線銃は一瞬で鉄筋ビルを煙にできちゃうんだ!」

 

 

「えっ?」「へっ?」「はいィッ!?」

 

 

雪菜とシリカと佐天は思い出していた。あの時、城の壁やら天井やらを簡単に破壊して穴だらけにしていたのを···

ドラえもんの口からあの2つの道具の威力を正確に知って三人は目を点してしまう。

 

 

「へぇ~それは凄ーい····って、とんでもなくヤバいじゃないですかぁー!!ネズミに対してオーバーキル過ぎませんかっ!?」

 

「佐天ちゃん。ネズミを殲滅するにはこれぐらいしなくちゃいけないと僕は思うんだ!」

 

 

真顔で語るドラえもんに三人はドラえもんの元いた22世紀の未来の世界のネズミとは?という疑問と子守り用なのに何でそんなに物騒な道具を所持しているのかと思ったが何となく聞くのはタブーと感じて、シリカが話題を変えた。

 

 

「え、え~と、その2つはちょっとおいといて···ドラえもんさんが元の世界で大冒険した時に使用したひみつ道具って他にどんな物があるですか?」

 

 

「私も興味がありますね。お借りしているこの槍と棒以外にも使いやすくて有効な道具があったら是非知りたいと思ってました」

 

 

「はいっ、はーい!私もこの電光丸はとっても気に入りましたけど他に何かあるのか気になりまーす!」  

 

 

雪菜も佐天も興味津々になって前のめりになっている。

 

 

「ウフフ。よぉ~し!それじゃ僕が元の世界での大冒険で使用したひみつ道具を少しだけ見せてあげるね!」

 

 

「わぁ~い!とっても楽しみぃ♪」

 

「凄くワクワクしますね!」

 

 

佐天とシリカはどんなひみつ道具が出て来るかウキウキしている。

 

 

ドラえもんはポケットから先ずシートを取り出して広げ、その上にかつて大冒険で使用したひみつ道具の一部を出し広げた。

 

 

「ジャァーン!!これが主だって冒険や戦いに使った道具だよ」

 

 

広げた布の上に色々な道具が並べられた。出した道具はお馴染みの物で、

 

 

タケコプター 通り抜けフープ テキオー灯

取り寄せバッグ 桃太郎印のきび団子 

翻訳コンニャク 空気ピストル 空気砲 

ショックガン スーパー手袋 瞬間接着銃 ひらりマント 透明マント 石ころ帽子 

ビッグライト スモールライト 尋ね人ステッキ お医者さんカバン などを出した。

 

 

「うわーうわー!!色々沢山ありますねー♪この昔懐かしい竹トンボみたいなのは何です?」

 

 

佐天はワクワクしながらタケコプターを手にした。

 

 

「それはタケコプターって言って、空を自由に飛べるんだ!」

 

 

「えっ!?空を飛べちゃうですかっ!?試してみていいですかっ?」

 

「もちろん良いよ」

 

「やたー!空まで飛べちゃうなんて!」

 

「私、仮想空間で飛んだ事あったけど、現実で飛べるなんて思いませんでしたよ♪」

 

 

 

 

「····空を····飛ぶんですか····」

 

 

空を飛べると聞いて喜んび、興奮している佐天とシリカとは真逆に雪菜は暗く沈んだ面持ちになった。

 

 

 

三人はドラえもんからタケコプターの使い方を教えてもらって早速試してみた。

 

 

「えっと、頭に付けてっとっ····」

 

 

「うっふふ♪空まで飛べちゃうなんて楽しみですよね雪菜さん♪」

 

 

「えっ?え、ええ·····そ、そ、そうですね"ぇ~······」

 

 

「頭に付けたらすぐ横のボタンを押せば飛べるよ!最初は危ないから、みんなで手を繋いで飛ぼうねっ!」

 

 

「はぁ~いっ♪×2」 「··········」

 

 

ボタンを押すとどんどん身体が地面から浮きあがり、ドラえもんを筆頭に佐天、シリカ、雪菜の順で手を繋いで約10メートル程の高さまで飛んだ。

 

 

「あっ、浮いてる!飛んでる!?私達、本当に空を飛んでるぅ~!!」

 

 

「わっ、わっ、わぁ~とっ、飛んでる私、飛んでますよっ!佐天さん、雪菜さん!!」

 

 

二人は手を繋いでるとはいえ、本当に空を飛べている事に大変驚き、喜びあった······だが雪菜は·····

 

 

シリカは手を繋いでいる雪菜の手が震えているのに気がついた。最初は何時も落ち着きのある雪菜も感動しているのかと思ったが、どうも様子が違う事に気づいた。

 

 

「雪菜さん?どうかしたん····」

 

 

 

「いっ、いやぁー!?たっ、高い!?高いっ!!高いのはイヤー!!降ろして!降ろして下さいィィーー!!!暁先輩ィ助けてぇー!!」

 

 

何時もの雪菜からは考えられない程取り乱した様子にみんな唖然としていた。

 

 

恐怖の余りにパニックを起こして手を繋いでいたみんなは雪菜の暴走に巻き込まれて、地下空間を変則飛行する羽目になった。

 

 

「なななっ!?雪菜ちゃん落ち着いてー!?」

 

 

「ちょっ!?雪菜さん!もしかして高いの苦手だったんですかぁー!?」

 

 

「そうですぅー!!高いの苦手で怖いんですぅーー!!ゴメンなさーいっ!!

イヤァー!?」

 

 

「ゆ、雪菜さんだっ、大丈夫ですから、落ち着いてェ~!?そんなにしがみつかれたら落ちゃいますからぁー!!」

 

 

「ムギュウゥ~!?わっ!わっ!?

雪菜ちゃんヒゲを引っ張らないでぇ~!?

取れちゃうぅ~!!」

 

 

「ちょっ!?雪菜さんっ待って待って!!

そ、そこスカートだから!掴んじゃダメえェェー!!」

 

 

雪菜はすぐ隣で手を繋いでいた小柄なシリカに全力で全身にしがみついてジタバタしながらの超アクロバティック飛行させてしまう。

 

 

「おっ、落ちちゃう!落ちちゃいますぅ~!!ドラえもんさーん!アスナさーん!ピナァー!!助けてぇ~!!?」

 

 

ドラえもんにはヒゲだけでなく口の両端を引っ張って伸ばしてしまっていた。

 

 

「もがあぁ~!?雪菜ヒャン待ってそんなとこヅガンだら伸びるぅぅ~!!」

 

 

佐天に至ってはセーラー服のスカートを掴まれてしまい、両手で必死に抑えながら雪菜に懇願していた。

 

 

「スカート!スカートだから!掴んでるのはスカートだからダメー!!取れちゃう、見えちゃうからダメェ~!!!」

 

 

雪菜はみんなに交互にしがみついたり掴んだりしてなお、一層泣き叫んだ。

 

 

「紗矢華さーん!!暁センパーイ!!助けてぇぇ~!!高いのはイヤァァ~!!」

 

 

天井の高い地下空間の端と端を何度も行き交い、上下に変則飛行を繰り返すこと数分後···三人は大変な目に合いながら何とかしがみつく雪菜と共に無事地面へと着陸するのだった·····

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「う"う"んん~ヒドイ目にあった····」

 

「ううぅ····気持ち悪い·····」

 

「···········」

 

 

ドラえもん、シリカの二人はソファーの上でグロッキーになって横になっていた。

 

 

 

「皆さん、申し訳ありませんでした!!」

 

 

雪菜は地下室の冷たい床の下で縮こまって見事な土下座をして皆に誠心誠意に謝罪していた。

 

 

シリカは雪菜に全身を羽交い締めにされて超アクロバティック飛行する羽目になって気分が悪くなり、顔を青くしてぐったりとしている。ドラえもんはヒゲと口の両端にバンソーコーやらガーゼ等を当てて舌を出して目を白黒させている。

 

 

佐天に至っては二人がもたれているソファーの後ろで耳まで真っ赤にして隠れながらスカートを履き直していた。

 

 

 

「ゆ、雪菜ちゃんって高い所が苦手だったんだねぇ·····」

 

 

「う"う"ぅ····スミマセン····隠すつもりはなかったんですがどうしても言えなくて····」

 

 

「で、でも雪菜さん私との試合ではあんなに高くジャンプしてたじゃないですか?」

 

 

「いえ、その自分でジャンプする分には問題ないのですが機械が絡んだりしているとどうにも耐え難く····本当にスミマセン!!」

 

 

「ま、まあ···人には苦手な物の一つや二つあるものですから···あ、アハハ。そ、そんなに気にする事ないですよ?

(こんな形で初春の気持ちを理解するなんて····元の世界に戻ったら謝ってスカートめくりも1日1回だけにしとこ)」

 

 

ピーピーピー!!

 

 

突然、絨毯の隅に置かれていた衛星ロケットからの画像を映し出す機械からお知らせ音が鳴り響いた。

 

 

「何事ですかドラちゃん!?」

 

 

雪菜が一気に険しい表情でドラえもんに尋ねる。

 

 

「ああ、大丈夫だよみんな。これは衛星ロケットからの画像を分析して安全ルートの構築が一通り終わった事をお知らせするアラーム音だから」

 

 

ドラえもんが衛星ロケットのモニター画面を見て色々ボタンを押すと機械の後部から、今いる地上の森の全体図が載った地図が出てきた。

 

 

テーブルの上に地図を広げてみんなに見せた。

 

 

「こんなに広い森の中に私達跳ばされたんですね····」

 

「さすが異世界。私の想像を遥かに越えてたわ」

 

ため息混じりにシリカと佐天がぼやいた。

 

 

「これが地上の地図····私達が今居るのはどの辺りですか?」

 

 

「え~と、今僕達が居るのが丁度この真ん中辺りの巨大な樹木の側で、ここから西方面へと行けばこの広大な森を抜けて、人のいる町へとたどり着けるよ。だけど割り出されたルートは3つあって、一番比較的安全なルートはタケコプターで空を移動したなら大体1週間前後で、歩きだと3週間以上はかかる計算になっちゃうんだ」

 

 

ドラえもんの説明を聞いて、自分のせいで移動に時間がかかる事に胸を痛めた雪菜はみんなに平謝りしてきた。

 

 

「す、すみませんっ!!私が足を引っ張ってしまって···が、頑張って高い所でも何でも耐え抜いてみせますから!」

 

 

「雪菜さん、そんなに思い詰めなくてもきっとドラえもんさんなら他の手段を用意してくれますよ」

 

 

「そうですよ雪菜さん。シリカさんの言うとうり、他にも便利な道具、あるんでしょう?」

 

 

決死の想いで高い所でも我慢しようとする雪菜に対してシリカと佐天はドラえもんなら他にも移動手段があると確信して聞いた。もちろんドラえもんは笑顔で答えた。

 

 

「エヘヘ、まあね~。空がダメでも陸から高速移動すれば良いのさ!え~と···あった。これこれ、『何でも操縦機ハンドルタイプ』~!」

 

 

「もぉーやっぱり便利なのあるんじゃないですかぁ~ドラさんも人が悪い。それにしても何だか車のハンドルみたいですね」

 

 

「ウフフ。ハンドルみたいじゃなくて本当にハンドル何だよ。これを取り付けた物体は何でも操縦出来ちゃうんだ!土管とか、ベッドとか、そこのソファーだって乗り物に出来るよ!」

 

 

「わぁ~面白そうです♪」

 

 

「はいっ、ハーイ!!操縦してみたいです!そういうの私、結構得意何ですよ?」

 

 

佐天はドラえもんから何でも操縦機を受け取りソファーの横の肘立ての部分に取り付けた。

 

「あとは真ん中のボタンを押せば普通に操縦出来るよ!」

 

「真ん中のボタンですね」

 

ボタンを押すと道具を取り付けられたソファーが少し浮かび上がり佐天は大喜びではしゃいだ。

 

 

「おおぉ~!!これは面白いですよっ!シリカさん、雪菜さん後ろに乗ってみて下さいよ~」

 

「うわぁ~ソファーが乗り物になるなんてっ♪ほら、雪菜さんも!」

 

「シリカちゃん····ありがとう···」

 

 

佐天に誘われてシリカが気にして、まだ落ち込み気味な雪菜の手を引いてソファーに乗り込んだ。

 

 

「操縦機のハンドルを前に倒せばスピードが出て、手前に引けば減速するから最初はゆっくりとやってみてね!」

 

 

「はーい!ではでは行きますよ。出発進行!」

 

 

佐天はゆっくりとハンドルを前に倒すと少し浮き上がったソファーが前に進んだ。

 

 

「進んだ、進んだ!!わぁ~♪これ面白い!どうですか?これなら移動に何の問題もないですよね雪菜さん」

 

「これ位の高さなら雪菜さんも大丈夫みたい。良かったですね」

 

「佐天さん、シリカちゃん、ドラちゃん····みんなありがとう····」

 

 

みんなの気づかいに胸が一杯になる雪菜だった。

 

 

 

 

「よーし!それじゃボチボチ、ちょっぴりスピードアップしてみますかっ?それぇ~♪」

 

 

「えっ?ちょっと、佐天さん安全運転で·····」

 

「よく考えたらこれ、ソファーだからシートベルトが有りませんから···って聞いてます?佐天さん!!」

 

 

「何人たりとも···私の前は走らせねえぜぇー!!シャッハァー!!」

 

 

 

シリカが言い終わる前に文字どうり、浮かれた佐天がスピードを出すとまるでF1並みのスピードが出てしまう。二人は必死でしがみついて悲鳴を上げるが、テンションがアゲアゲ状態な佐天は気にも止めずに地下室を端から端まで見事なドライビングテクニックを披露して大爆走した。

 

 

結局この後、シリカと雪菜から正座してこっぴどく説教を受ける羽目になる佐天だった。

 

 

「やれやれ調子にのる所は本当にのび太くんによく似てるなぁ····」

 

 

どこか懐かしむ様にみんなを見守るドラえもんだった。

 

 

 

 




皆さんの意見、感想が自分のモチベーション維持に非常に必要なのでよろしければ是非よろしくお願いします!


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12話 出発

遅くなりました。お楽しみ下さい。


もはや定番になりつつある雪菜とシリカの佐天への厳しい説教はまだ続いていた。

 

 

「·····そんな風に調子にのってばかりだといつかもっと痛い目にあうのですよ!分かってますか?佐天さん!!」

 

「はい····よぉく分かりましたから正座、崩していいですかぁ~もう足の感覚がぁ~····」

 

 

涙目になって足のキツさを訴える佐天に未だ説教の勢いを緩めない雪菜に、さっきまで一緒になって説教していたシリカはほんの少しだけ佐天を気の毒に思っていた。

 

 

「いいえっまだ駄目ですっ!!更に付け加えるなら····」

 

 

(流石にそろそろ止めるとするか····)

 

 

のび太のママ並みに佐天に説教を続ける雪菜をドラえもんは止めに入った。

 

 

「まあまあ、雪菜ちゃん。お説教はその辺にしてこれからのプランについて話し合おうよ。佐天ちゃんももう十分に反省してるだろうしさ。ねっ!」

 

「····わかりました。私もまた、少し言い過ぎましたし····」

 

「うひぃ~·····助かりましたぁ~あうぅぅ····足がぁぁ····」

 

 

ドラえもんの仲介でお説教から解放された佐天は直ぐ様正座を崩して身体を絨毯の上で大の字になって脱力するが····

 

 

「佐天さん····説教はとりあえず一旦止めますが正座はそのままですっ!」

 

 

圧の強い表情を崩さず彼女にいい放つと佐天は泣き叫ぶのだった。

 

「ヒェ~ンッ!!もう許して下さいよぉ····」

 

足を生まれたての小鹿の様にプルプル震わして許しを乞う佐天涙子だった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「それでドラえもんさん、これからのプランってどんな感じ何です?」

 

「うん、シリカちゃん。まず、明日の朝に出発して、この何でも操縦機で地図に赤ペンで引いたこの安全ルートにそって移動して、町に着いたら現地の人達に色々と話しを聞いて情報収集して帰る手段を探しだす····とまあ、こんな感じで進めよう思うんだけど、どうかな?勿論それ以外に僕がひみつ道具で情報収集を進めてるけどね」

 

 

「現状最も最善なプランですね。それに恥ずかしながら私達はドラちゃんに頼る以外に帰る手段はおろか、生きる術すら覚束ない有り様····改めてよろしくお願いします」

 

雪菜が今の自分の情けなさを恥じて頭を下げた。そんな彼女をドラえもんは、

 

「雪菜ちゃんそんなに頭を下げないで。僕は確かに便利なひみつ道具を持っているけど、僕自身はその···ポンコツロボットで学校を卒業間近になっても誰からもスカウトされない落ちこぼれで途方に暮れてたんだ。ソコをのび太くんのひ孫に当たるセワシくんが僕を拾い引き取ってくれたんだ···とても嬉しくて救われたんだよ。だから、単なる自己満足かも知れないけど今度は僕があの時のセワシくんみたいにみんなを助けたいんだ···」

 

 

「ドラちゃん····」

 

「ドラえもんさん····」

 

「どっ、どっ、ドラさーんっ!!」

 

 

ドラえもんのこの言葉に三人は感激して佐天は衝動のままに抱きついた。

 

 

「ムギュゥ!?」

 

 

「あっ、佐天さんズルい!私もっ···えいっ!」

 

「シリカちゃんっ!?」

 

佐天に感化されてシリカもドラえもんに抱きつき、そんなシリカと佐天の行動に狼狽えつつも、雪菜もモジモジして堪えきれずに

 

「····くっ~····私だって負けませんよっ!」

 

ドラえもんに突進する様に抱きついた。

 

「わっ!わっ!ちょっとみんなっ!?····もぉ~しょうがないなぁ····」

 

少し面食らいながらも優しい眼差しで三人の頭を撫でた。

 

 

その後、気持ちが落ち着いた雪菜は顔を真っ赤にし、それを佐天が懲りずにからかって又も説教される羽目になった。

 

「もぉ~佐天さんったら···」

 

「やれやれ本当に変な所はのび太くんに似てるなぁ····」

 

シリカとドラえもんは佐天に呆れて、雪菜は説教をし、佐天は再び正座させら様とした瞬間····

 

 

ゴッ・・ゴゴゴ・・・ミシミシ・・・・

 

 

突如強い揺れが地下空間を襲ってきた!!

 

 

「なっ!?じっ、地震!?」

 

「キャアアァァーー!!!??」

 

 

揺れはどんどん強くなり、佐天とシリカは抱きしめ合って悲鳴を上げ、雪菜はドラえもんと顔を合わせて頷き合ってシリカと佐天の手を取り、

 

「シリカちゃん、佐天ちゃん!壁紙ハウスの中へ避難するんだっ!!」

 

「佐天さん、シリカちゃん、しっかりっ!!こっちです」

 

壁紙ハウスへと緊急避難した。

 

壁紙ハウスの中でも振動が伝わって来て佐天とシリカは不安な表情になり、雪菜は険しい顔を崩さず密かにドラえもんから借りている無敵矛を強く握り締めて気持ちを落ち着かせ、ドラえもんは衛星ロケットからの外の画像をモニターに映して様子を伺っていた。

 

 

「みんな!大丈夫だからね。このポップ地下室はかなり頑丈で、この壁紙ハウスの空間も外部からの意図的な干渉が無ければ安定しているし、万が一生き埋めになってもどこでもドアで外に出られるから安心して!」

 

 

ドラえもんは三人の少女達を安心させる為に強く語った。

 

やがてその僅か一分足らずの後に揺れが収まった。

 

「ふぅ···収まりましたね」

「は、はぁ~····お、驚いた····」

「こ、怖かったですぅ~····」

 

 

地震が取り敢えず治まって三人も少し落ち着いてきた。

 

「異世界での地震だから余計に恐ろしかった····」

 

「本当ですね····」

 

佐天とシリカの二人は未だ密着して寄り添い互いの体温を感じて安心感を感じ取っていた。

 

雪菜は直ぐに気持ちを入れ替えモニターを注意深く見ているドラえもんに話しかけた。

 

 

「ドラちゃん、今の地震で地上に何か影響はありましたか?」

 

 

「う~ん···どうやら今の地震で土砂崩れが起きたりして地形が変わったかも知れないなぁ···でもさっき、地図で示した比較的安全なルートでの決行は変えずに行こうと思う。それ以外のルートだと多数の巨大で狂暴そうな動物や魔物とおぼしき生物達がナワバリを出張し合い、多数(うごめ)いていて余りに危険なんだ。だからプランの変更は無しで予定通り明日、日の出と共に道具で移動して森を抜けよう」

 

 

「···分かりました。それでは今日は鍛練はもう止めにして早く休みましょう」

 

「うん!それが良いと思うよ。それじゃ、みんな夕飯にしてお風呂に入って明日に備えてゆっくり休もう!」

 

「はいっ!わっかりましたー!

(取り敢えずお説教から免れた····ラッキー!····かな?)」

 

「いよいよ明日、外に····頑張ろう···

(ピナみたいな小さいドラゴンと会えるかな?」)

 

 

四人は壁紙ハウスから出て何時もの場所で夕食をとり、お風呂に入って寝室へと足を運んだ。だが、ドラえもんは寝室には向かわずに、モニターの前で1人でさっきの地震について考えていた。

 

 

(う~ん。さっきの地震は何か妙な感じがしたぞ····あれ以上みんなを不安にしない為に言わなかったけど、何処かで同じ様なのを僕は経験している····!?う~ん、駄目だ。思い出せない)

 

 

必死で思い出そうとするが、どうにも頭にモヤがかかった感じで思い出せず1人に悶々としていた。

 

 

 

その頃佐天、シリカ、雪菜は壁紙寝室のベッドに入り、明日についておしゃべりをしていた。

 

「いよいよ異世界で元の世界への帰還する為の冒険が始まりますね!」

 

「仮想空間で体験した世界と余り変わらない世界だと良いんですけどね···」

 

「二人共、期待と不安に心を乱されるのはわかりますが、明日は日の出と共に出発なのですからもう寝ましょう」

 

「はーい!でわ、お休みなさいシリカさん、雪菜さん」

 

「ふぁ····お休みなさい、佐天さん、雪菜さん····」

 

「ふふ···お休みなさい、シリカさん、佐天さん···(紗矢華さん、凪沙ちゃん、暁先輩···お休みなさい)」

 

 

一番年上で戦闘経験も豊富な雪菜に促され二人は瞳を閉じて眠りについた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さて、頃合いかな····」

 

 

とある部屋の一室に設置されている巨大なモニターを見て1人の人物が呟いた。おもむろにモニターから背を向け椅子に座り、テーブルを挟んでもう1人の人物に向かい合った。

 

 

先ほどモニターを見ていた1人は軽くウェイブがかかった髪型の少女で綺麗と言うよりも可愛らしいといった容姿で十代後半位の年齢。着ている服は妙に未来的(・・・)な衣服を着用している。

 

 

もう1人の人物の容姿は美しい艶やかな黒髪のロングヘアーの少女で、見た目とは裏腹に妖しい色香を漂わせ、服装は所謂黒を基調としたゴスロリ服を着用し、更に小柄な体格には余りにも不釣り合いな巨大な斧···正確には槍と斧の機能と形状を組み合わせた超重量の武器、ハルバードを片手で余裕で掴んで椅子に座っていた。

 

 

「さあ、説明を続けなさぁい。わざわざ私をこぉんな仰々しい儀式···いいえ、道具(・・)で呼び出して何をやらせたいのかしらぁ?」

 

 

「なに、簡単な事だよ。今から約3日後····正確には2日と6時間、17分後に強制的にあの世界に召喚され、跳ばされた三人の少女達と一体のネコ型ロボットが地上へ出て町を目指して移動する。この『災禍の森』をね····」

 

 

「災禍の森ねぇ···随分と危険な場所に跳ばされちゃったのねぇ」

 

 

「この森は所々に次元の穴と繋がりやすくなっていて、そこからとあるエネルギー····君の感覚で例えるなら、瘴気とも言えるモノが動植物や、自然現象すらも変異させ強力な魔物へと変貌させてしまっている危険極まりない場所だ。なので彼女達と彼···ドラえもんを助けてやって欲しい。頼めるかしら?」

 

 

「頼むも何も、私は貴女のサーヴァント····忠実な使い魔なのだから何の遠慮もする必要は無くってよぉ···それに私、貴女に見せて貰った記録(ログ)を見て、個人的にぃこのドラえもん····ドラちゃんを一目見て心がトキメいちゃったのよねぇぇ~♥だ・か・らぁ、早く私をこの場所へ送りなさぁい」

 

 

「私も早くそうしたいのだが、この世界を覆っているバリアフィールド···結界の僅かな隙間を探して()に気づかれ無いよう、正確にこの場所と時間に君を転移させるのは些か難しい。調整にもう少し時間が掛かる。しばらくお菓子とお茶と書物で時間を潰しててくれないかい?」

 

 

「しょうがないわねぇ···取り敢えず私としてはぁ、お茶とお菓子に読書もいいけど、罪深い悪徳の輩を切り刻むか、私と同じ位の強者とヤりあいたいわねぇ···まあ、無い物ねだりしてもしょうが無いからもう一度ドラちゃんの活躍している記録を見させて貰うわね」

 

 

「やれやれ我がサーヴァント、【ルーラー】は誠に好戦的だ···」

 

 

少女は呆れ気味に肩をすくめて自分のサーヴァントを見つめた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

地上に朝日が昇り、四人は朝食を早々に済ませて準備を整えた。

 

雪菜はドラえもんから借り受けた無敵矛を携え、佐天は貰った革ベルトを腰に巻いて電光丸を差しており、シリカも訓練用のゴム製のダガーと本物のダガーを装着していた。更に嵩張らず持ち歩きしやすいショックガンを三人共携帯している。

 

「さあ、みんないよいよ地上に出て、この危険な森を抜けるとしよう!」

 

「はいっ!×3」

 

出入口の階段を上がり、扉を開いて地上に出るとまだ周囲に朝靄が立ち込め、冷たい風が吹いていた。

 

「さ、さ、寒うぅぅ~!?」

 

夏服の佐天が両腕で身体を抱いてガクガクと震えた。

 

「あっと、いけない外は寒かったんだ!えっと···これだっ!『テキオー灯』!この道具から照射される光を浴びれば、超高温及び超低温の場所、真空の宇宙空間、高水圧の深海、高重力の空間等、どれほど過酷な環境であっても生身のまま問題無く活動する事が出来るようになるんだ」

 

「もぉ~ドラさんったらそんなに便利な道具があったら早く言って下さいよ!」

 

「ゴメンゴメン佐天ちゃん。あっ、それと忘れずに言っておくけど、この道具の効き目は24時間だからそれを忘れ無いようにね!」

 

テキオー灯を当てられると佐天の身体の震えが止まり快適な状態になった。

 

「おおっ~!!これは良いですねぇ♪さっき迄の寒さが嘘みたいに消えましたよ!」

 

「凄いですね!とっても過ごしやすいです♪」

 

「ええ、とても快適なベストな状態になりました」

 

「ウフフ。それは良かった。それじゃこれに乗り込んでね」

 

ドラえもんはポケットからヨットとおぼしき乗り物を出してなんでも操縦機を取り付けた。

 

「よーし!それじゃ出発進行!」

 

「おっー!」

 

「何だか初めてMMORPGの乗り物に乗った時を思い出しますっ♪」

 

「運転はお願いしますねドラちゃん。くれぐれも佐天さんにはハンドルを渡さない様にお願いします···」

 

昨日の事を思い出して念押しする雪菜だった。

 

「ヒドイですよー雪菜さん!私ちゃんと反省したんですからぁ~」

 

「さあ、どうでしょうか?」

 

「雪菜さん、佐天さんに厳しいなぁ···」

 

 

こうして四人は地下空間から地上へ出てこの森を抜けるべく移動を始めた。

 

 

 

道中を衛星ロケットで割り出した安全ルートを小型のモニターに映し出して木々の間を抜け、河を越えしばらくの間何の問題なく移動を続けた。だが、何かがおかしいといち早く雪菜とドラえもんは気づいた。

 

 

「···ドラちゃん····」

 

「うん····僕も気づいたよ」

 

「へっ?何に気づいたんですか?」

 

「···僕達はさっきから同じ所をグルグル廻っているみたい何だっ!」

 

「ええっ!?そうなんですかっ!」

 

 

両の眼を見開いて佐天とシリカは周囲の景色に目をやるが似たり寄ったりな感じで見分けがつかなかった。

 

 

「くっ!私とした事が···!!ハッ!」

 

 

雪菜はスカートのポケットから取り出した紙に呪力を練り込み紋白蝶(もんしろちょう)の様な式神を作り出して撃ち放った。しばらく周囲を飛び回っていた式神は少し離れた上空へと上昇すると突然一瞬で無惨にも粉々になって紙切れに戻った。

雪菜が険しく式神が粉々になった上空のある一点を睨んでいると霧の様なモノが集約して丸い輪郭と白目に裂けた口を持つ不定形なモノへと変化した。

 

 

「アハハハ~バレチャッタァァ~」

 

 

壊れたスピーカーから出てくる様な不快感を沸き上がらせる声が皆の耳に届き、シリカと佐天は驚き、悲鳴を上げてお互いを抱きしめ合った。

 

 

「なっ、なっ、何か出たぁぁー!!」

 

 

雪菜がヨットから飛び出して無敵矛を手に、跳躍して霧の魔物へと突進し矛を刺すが霧散して全くダメージを与えられなかった。

 

 

(ここに雪霞狼があればっ····)

 

 

雪菜は悔しさの余り、唇を噛み締めて再び形を作る霧の魔物を睨み続けた。

 

 

「霧状の魔物···こんなのはどうすれば···いや、待てよ?要は無理に倒さなくても一時的に無力化して逃げる隙さえ作れれば···よーし佐天ちゃん少しの間運転を代わって!」

 

 

「えっ!あ、はいっ!」

 

 

何かを思いつき、ドラえもんはヨットの運転を佐天に任せてポケットからある道具を取り出した。

 

 

「雪菜ちゃーん、ヨットに急いで戻ってー!!僕がソイツを一時的だけど無力化させるからー!」

 

「はいっ!ドラちゃん!」

 

跳躍して急いでヨットに戻った雪菜を確認してドラえもんは取り出した道具を振るった。

 

 

「これならどうだっ!『強力うちは風神』~!!それぇー!!」

 

 

ドラえもんはうちはの形をした道具を目一杯、縦、横に振るうとそこから凄まじい強風が吹き荒れ霧状の魔物は「ヲヲヲヲヲ····」と何処か寂しげな声を上げて消え去った。

 

 

「わっ!わっ!うっひゃあぁぁー!!とんでもなく勢いがぁぁー!!」

 

 

強力うちは風神によって霧の魔物は一旦消え去り、周囲の景色が代わって岩場へと変化した。それと同時にうちはの巨大な風の勢いにヨットは急加速して進んでしまう。

 

 

「だあぁぁ~!!流石にこれは速すぎますうぅぅー!!ドラさん代わってぇぇぇー!!」

 

 

「佐天さん頑張ってぇ~!!」

 

 

運転を代わっていた佐天は強力うちは風神のモーレツな風で吹き飛ばされ加速しているヨットを必死で操縦して、そんな佐天をシリカは必死で応援していた。

 

 

 




今回は過去最高に何度も1から何パターンも書き直す羽目になってしまいました。一度完成した話しを読んで色々矛盾点やら何やら納得行かなくなり、どんどん思考の袋小路に迷ってしまいました。そもそも普段からドラえもんの秘密道具を効率的に使う妄想をしていた為、あれ?わざわざ外に出なくても衛星ロケットからの情報をどこでもドアに転送して森を抜けた所に使用すりゃいいんじゃない?ッとか他にもこれではもう、ストーリー的に面白くもなく、そもそも小説書く意味無いじゃない?ッとか、もう本当に頭の中で迷走しまくりでした。他の投稿者様はどうしてるんだろう···?とにもかくにもこれからも暇潰しにでもなれば幸いなのでよろしくお願いします!


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13話 分断

持ち前の驚異的な視力で岩場の岩をすり抜けて皆のせたヨットは進んだ。

 

 

「ふう~何とか、あの霧の魔物の幻覚から抜け出せたね···」

 

 

「すみませんドラちゃん···私がもっと早く気づいていたら···なんと言う不覚····」

 

 

雪菜は己の失態を恥じて自分自身を責めた。そんな雪菜を皆は励ました。

 

 

「大丈夫ですよ雪菜さん。少なくともこうやってみんな無事にあいつから逃げだせれたんですから!」

 

「そうですよ。私なんてオタオタしてただけで、運転も佐天さんがしっかりとしてくれてましたし···」

 

「とにかく、こうやってみんな無事だから元気出して。もう少し進んだらお昼にしようね!」

 

 

「ドラちゃん、皆さん····ありがとう」

 

 

佐天から運転を代わり、衛星ロケットの地図に示したルートを見て進んでいると目の前の進行ルートのど真ん中に巨大な山がそびえ立っていた。

 

 

「ん~?あれぇ~!?おかしいなぁ····昨日モニターで確認した時にはこんな黒い山なんてなかったのに···」

 

目の前の山と昨日確認したデーターを見比べてドラえもんは困惑した。

 

 

「ドラちゃん!!これは山ではありません!!これは···」

 

 

雪菜の言葉に皆は一斉に山に注目すると黒い山と思っていたモノは蠢いた。それの正体はとぐろを巻いていた恐ろしく余りに巨大な黒蛇だった。

 

 

天辺から少し頭を下げてその巨大な頭を皆に向ける。爬虫類特有の感情を感じ取りにくい無機質な眼が獲物を見定め、特殊な魔力で皆の動きを封じていた。

 

 

かつて仲間と共に大魔境へと挑んだ際、巨大な丸太の様なアナコンダに遭遇した過去があるドラえもんは今、目の前にいるこの山脈の如し黒蛇に比べればなんと可愛いかったんだろうと感じた。

 

 

佐天とシリカは二人揃って睨まれた蛙の気持ちを理解していた。動きたくとも身体はマトモに動けずただ、小刻みに震える作業しか出来なかった。

 

 

佐天は腰に差してある電光丸を握ろうとするがそれすら出来ず黒蛇の眼に縛られていた。

 

 

シリカも黒蛇の眼から発せられる魔力に縛られていた。それとは別にかつて仮想空間で捉えられた際、巨大な怪物とよく対峙していたがそれよりも遥かに巨大で何より生身の身体で直に遭遇して巨大な存在感と圧力によって精神的にも棒立ちしていた。

 

 

沈黙を撃ち破ったのは雪菜の声だった。

 

 

「皆さんしっかり!!動いて、ハァー!!」

 

 

魔力による縛りを壊し、いち早く動いた雪菜は地面を蹴り、跳躍して自分の全体重と力をのせた無敵矛を黒蛇の頭部へと撃ち下ろした。

 

 

ガキィーン!!「なっ!?」

 

 

威力十分な矛の一撃は簡単に跳ね返された。

 

 

「くっ····!(か、硬い!あの鱗はこの鋼鉄を貫ける矛でも無傷!これではどうすれば···!?)」

 

 

黒蛇は雪菜の一瞬の迷いを見逃さず人一人簡単に丸飲み出来る程口を開きながら突進してきた。

 

 

(皮膚が駄目なら唯一柔らかい眼を狙えば!)

 

 

雪菜は無敵矛を両手で握り、踏み込んで黒蛇の左眼を狙った。だが、その動きを察知したのか、黒蛇は瞬時に頭の軌道を変えて雪菜からの刺突を避け、雪菜の遥か斜め後ろに立ち竦む佐天に狙いを変えた。

 

 

「なっ!?私の動きを読まれた!!」

 

 

黒蛇は大きく開いた顎から牙を剥き出しにして佐天に襲いかかる。

 

 

佐天は目を見開き未だ身体を震わせて棒立ちしており、腰に差してある電光丸を握る事すら叶わない状態だった。両の瞳からはうっすら涙すら滲ませてすらいた。  

 

 

「佐天さん!!黒雷(くろいかずち)!!」

 

 

雪菜は八雷神法(やくさのいかずちのほう)の一つ黒雷を発動させた。霊気を練り上げ呪的身体強化による敏捷性の上昇により、残像すら生み出せるスピードで佐天に迫る獰猛な黒蛇の牙へ向かった。

 

 

「間に合ってー!!」

 

 

雪菜は矛を握りながら右腕で間一髪で佐天を抱き寄せ庇ったが無防備になっている左側面の左腕上部に黒蛇の牙を掠めてしまった。

 

 

「う"ぅーっ!!」

 

 

左肩部分の制服が引き裂かれ傷を負い鮮血が吹き出した。

 

 

雪菜の鮮血を見てようやく正気を取り戻した

 

 

「ゆ、雪菜さーん!!」

 

 

倒れた雪菜を抱き抱えて、地面に倒れ込んだ。顔を見ると顔色は悪くなっており、意識が溷濁した状態になっていた。

 

 

「わ、私を庇って!!雪菜さんしっかり!····も、もしかしてこれは毒にやられている?そんなっ····!!ドラさーん!!」

 

 

 

一方その頃のドラえもんは魔力による縛りから解き放たれて、慌ててポケットに両手を差し込み道具を取り出そうと必死であった。

 

 

「うわぁぁ~!?えっと、えっとこういう時は、桃太郎印のきび団子ォ~って、これは但のどら焼きぃー!!だったらひらりマントで····ってこれはどら焼きの安売りのチラシー!!あーもー何で僕は慌てると何時もこうなってしまうんだぁー!!」

 

 

如何に大冒険の経験があってもこの慌てる癖は治らず今もバケツやひび割れた丼等関係無いガラクタを取り出して無意味に状況を悪化させていた。

 

 

シリカは雪菜のお陰で拘束から解き放たれたものの、極めて巨大な黒蛇の迫力と無機質なあの眼に睨まれた恐怖と圧迫感に身体がマトモに動けずにその場に伏せっていた。

 

 

(あ"っ、あ"っ····そんなっ···私はSAOや、ALOで散々巨大で手強い怪物達と戦ってきたから平気だと思っていたのに···身体が震えて何も出来ないよ·····これが仮想空間と現実の違い······怖い、怖いよぉ、ピナァ····)

 

 

巨大な黒蛇に間近で睨まれてしまい、シリカの精神(こころ)は容易くへし折られてしまっていた····

 

 

黒蛇は標的だった佐天を仕留め損なってしまったが、もう一人の無力的な獲物に気がつきその巨大な全身をしならせて身体の末端部分である尻尾を鞭の様に振るってシリカに放とうとしていた。

 

 

シリカに巨大な鞭の如き尻尾がウネリを上げて迫ってきた。それに気づいたドラえもんは咄嗟に飛び出しシリカを抱き庇った。

 

 

「シリカちゃーんっ危なーいっ!!」

 

 

バチィィィーンッ!!!

 

 

「うわぁぁ~!!!」

 

「どっ、ドラえもんさーん!!?」

 

 

尻尾の一撃がドラえもんに直撃し、シリカを抱き抱えたまま、転がる。

運悪く転がった先は昨夜の地震で崩れて出来上がっていた急角度の傾斜でそこに二人は転がりながら落ちていった····

 

 

 

ドラえもんとシリカが黒蛇の尻尾の一撃を受けて落ちて行く様を、なまじ視力が高くなった佐天はハッキリと見てしまい、唖然としてしまう。

最早この危機を打開する方法は思い付かず、目の前の黒蛇と抱き抱えている雪菜を交互に目をやりふと、ヨットが視界に入った。

 

 

(いっ、今は逃げるしかない!!)

 

 

佐天は黒蛇がシリカとドラえもんが落ちていった方角を見つめている隙にヨットに雪菜を乗せて何でも操縦機を手にして脱出を図った。黒蛇はそれに気づいて全身を伸ばして囲い込む様にして脱出経路を塞ごうとする。

 

 

「道がっ!くっ、シリカさん達が落ちていった逆方向しか逃げ道が無いっ!?·····このぉー!!」

 

 

ハンドルを握りしめて急加速して黒蛇から離れた。黒蛇は逃げる獲物を逃すまいと頭を天空に伸ばし、勢いをつけて突進してくる。

 

 

「なにくそぉー!!」

 

 

昨夜地下室で見せたドライビングテクニックを駆使してギリギリ間一髪直撃を避けて更に加速してその場から緊急離脱に辛くも成功した。

 

 

(どんどんドラさん達の落ちていった方向から遠ざかっちゃう····でも今はこうするしか····)

 

 

自分の無力さに唇を噛みしめ、悔しい気持ちに焦燥感が加わるが今はただ、逃げるより方法がなく、ハンドルを握り雪菜を連れて、ひたすら安全な場所を求めて移動する佐天だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁっ~!!!」

「ドラえもんさんっ!?」

 

 

その頃のドラえもんはシリカを抱き抱えケガをさせぬ様に庇いながら急角度の傾斜を転げ落ち、途中で倒木等にぶつかりながらもようやく平らな地面に到着して動きを止めた。

 

 

「うぅっ···ハッ!?、どっ、ドラえもんさんっ!?しっかりっ」!

 

「うぅぅ~ん····」

 

 

しばらく意識を朦朧としていたシリカは正気を取り戻し、目の前に自分を守ってくれたドラえもんに寄り添った。恐怖と絶望に支配され録に身動きすらままならない自分を抱き抱え、黒蛇の攻撃と転げ落ちている最中もケガをしないように庇ってくれたドラえもんを心から心配し、その身案じていた。

 

 

「あぁっ···私を庇って、こんなにボロボロに····私、どうすれば····」

 

 

嘆き、焦りオロオロしているとドラえもんの意識が戻った。

 

 

「ん"ん"····あっ···シリカちゃん。良かった無事だったかい?何処か痛い所はないかい?」

 

 

「わ、私なら大丈夫ですぅ!ドラえもんさんのお陰でぇ·····私、怖くて何も出来なくって····私のせいでゴメンなさぁ~い!!」

 

 

シリカは自分の不甲斐なさと弱さのせいでドラえもんにケガを負わせた事に堪えきれずにとうとう泣き叫んでしまう。そんなシリカを優しくドラえもんは慰めた。

 

 

「シリカちゃん泣かないで。僕はロボットだから少し位ボロボロになってもへっちゃら何だからさ。それに前に言ったでしょう?僕が君達を絶対守って元の世界へ戻すって!だから大丈夫さっ!」

 

 

「ドラえもんさん····」

 

 

ボロボロの状態であっても優しい言葉で励まし、慰めてくれるドラえもんにシリカは深く感激して感謝した······が、

 

 

プッシュー!!

 

 

突然ドラえもんの頭から煙が吹き出し、両目がスロットマシーンの如く回り様子が急変した。

 

 

「アバババ!テケテケテケボー!!」

 

「へっ?えっ、えっ、えっ!?」

 

「ガーガー、ピーピー!!」

 

 

「も、も、もしかしてこっ、壊れちゃたのぉ~!?そんなっ?ドラえもんさんしっかりー!!」

 

 

ドラえもんの身体を必死で揺するが一向に元に戻らない様子にシリカは混乱しつつ、慌てて頭を捻って考えて考えた。

何とかしないと!ッという焦りからシリカは自分でも気づかない暴挙に出てしまう。

 

 

(えーと、えーと·····私のせいでこうなったんだから自分で何とかしなきゃ!どうする?どうすれば?考えろ、考えろー!!·······はっ!そうだっ!!)

 

 

焦りながらも必死で頭の中で考えて突如、ある事を思い出した。それは元の世界で何気なく視聴していたバラエティ番組で、ある芸人が

「今の家電製品は精密過ぎますなぁ。昔のテレビとかだったら、こう、空手チョップとかで簡単に不具合も直せたんですのに····」

とっ、言った事を思い出した。

 

 

「ゴクッ····チョップ···素手だと痛そうだから、この借りてる模擬戦用のゴムダガーの柄で····」

 

 

思考が暴走して昔のテレビと22世紀の未来から来たロボットをごちゃ混ぜにして昭和の時代の家電製品の直し方を実践しようとするシリカを止める者は今、誰も居なかった·····

 

 

「よ、よーし行きますよぉ···ちょっと痛いかも知れないけどガマンして下さいドラえもんさん」

 

 

緊張して力み過ぎる余り、模擬戦ダガーにエネルギーが行き渡っているのにすら気づかず、シリカはドラえもんの側頭部にダガーの柄を叩きつけ様とする。

 

 

「えっと、確かこう···気合いを入れて····チェストォォー!!」

 

 

ダガーにエネルギーが行き渡り、ソードスキルが無意識に発動した。

 

 

ドゴッ、バキッ、メキィッ!!

 

 

「あ"っ····································」

 

 

プッシュ~···········

 

 

 

「あっぷくぷーのチンチロリ~ン」

 

 

 

 

「間違ってシャドウ・ステッチ発動してトドメさしちゃったぁー!?」

 

 

シリカは一人心の底から叫んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

その頃、辛くもギリギリ黒蛇から逃げる事に成功した佐天はヨットを走らせて、何とかドラえもんに合流出来ないか道を探してはいたが完全に迷子なって途方に暮れていた。

 

 

「何とかあの黒蛇のいる場所を避けてドラさん達が落ちていった所を目指さないと·····」

 

「ゴホッ!ゲホッ····」

 

「ゆ、雪菜さんっ!?しっかり!どんどん顔色が悪くなってるどうすれば·····何も浮かばないよう·····」

 

 

雪菜は黒蛇の攻撃から佐天を守る際、毒を受けてしまいひどく衰弱してしまっていた。出血部分は佐天がスカートを裂いて包帯代わりにして腕に巻いて止血したものの、顔色はどんどん悪くなりグッタリとして身体に力が抜けている様子に目に涙が溢れてしまう。

 

 

(くぅぅっ····!ダメッ。泣いてる暇なんて無いっ。とにかくさっきの道を辿ってドラさん達と合流しないと·····えっ?)

 

 

気が付くと周りの木々の配置が明らかに変わっており佐天はまた、さっきの霧の化け物の仕業なのかと思ったが良く見ると木々が移動して自分達の周りを囲い、にじり寄っている事に気が付いた。

 

 

「こ、これって確か弟のゲームで出てきた感じの樹木の姿をした魔物!?」

 

 

「ボォ~」 「ウゥ~」 「ヲォ~」

 

 

樹木に人の顔の様なシミがついており、不気味なうめき声をあげながら佐天と雪菜を標的にして近づいてきた。

 

 

佐天はさっきの黒蛇程の圧迫感や魔力による縛りはなかったので、直ぐ様腰に着けていた電光丸を手にして構えた。

 

 

「く、来るなら来いっ!斬って斬りまくってやるんだから!!」

 

 

雪菜を守る為、気合いを入れて対峙する佐天に樹木の魔物達は自分達の身体の一部である葉っぱを硬質化させ、飛び道具として放ってきた。

 

 

電光丸のコンピューターが鋭く反応して四方八方から迫ってくる硬質の葉っぱの矢を叩き落とす。

 

 

「うりゃ、うりゃ、うりゃぁー!!」

 

 

電光丸の対応は問題なく機能し、これならイケると佐天は前方だけの攻撃に集中していて背後から迫る複数の樹木の魔物に気がつかずいた。

 

 

樹木の魔物が腕と言うべき部分を槍の様に伸ばして佐天に攻撃してきた。それを電光丸でいなし、流して本体に近づき、気合いと共に斬りかかる。

 

 

「てぇりゃああぁぁー!!」

 

 

電光丸で鮮やかに自分だけ(・・・・)に向かって攻撃してくる魔物達を容易く斬ると、おかしな事に気がついた。斬られた魔物はその骸を残さずに光の粒子となって消え去り後には、大小の大きさや、輝きの異なる奇妙な石と数本の材木が残ったのだ。

 

 

(これってシリカさんに聞いたMMORPGみたいなんですけどっ!?どういう事なの?ここはゲームの世界なの?)

 

 

沸き上がる疑問を深く考える間も無く、次から次へと向かってくる魔物に佐天は集中し直すが、その直後、後ろから歓喜染みた魔物のうねり声が木霊(こだま)し、佐天は思わず後ろを振り向くと別の樹木の魔物達が毒に犯され録に抵抗も僅かな身動きすら出来ない雪菜をその樹腕で巻き付けて高く掲げ、歓喜している様子が眼に映った。

 

 

「えっ?なっ、しまった!雪菜さんっ!!」

 

 

 

注意が後ろに向いた隙を逃さず魔物達は樹腕を佐天の両手両足に巻きつかせて動きを封じてきた。

 

 

「なっ!?これじゃ、うっ、動けないっ····!!」

 

 

何とか脱出しようともがくがビクともせず、為す術がなかった。

 

 

樹木の魔物の顔の様な染みがまるで下卑た笑い顔を表し、揃った魔物達が一斉に不気味で下品なうめき声の様な笑い声を響かせ、佐天と雪菜に向けられた。そして捉えられている雪菜の首元に枝が伸びて命を刈り取ろうとしていた。

 

 

 

それが両の眼に写った佐天に急激な変化が訪れた。

 

 

 

「·····ねえ、お前達····調子に乗りすぎだよ·····」

 

 

 

佐天涙子の両目が赤く染まり、深紅の輝きを放った。

 

 

樹木の魔物達は一瞬で沈黙し、佐天から放たれる静かな圧力に怯んだ様子を見せた。

 

 

比較的年若く、勢いのある樹木の魔物が樹腕を槍の様に尖らせ佐天の身体に向かって放たれる。

 

 

バキィッ!!メキィッ!!

 

 

突き刺さる直前、佐天の身体を縛り付けていた樹腕が砕け散り、佐天の姿が消えた。

 

 

樹木の魔物が慌てた様子を見せると攻撃を仕掛けた魔物が無数の木片に斬り刻まれ、消滅した。

 

 

「ウ"ッ~!?」 「ヲ"ォ~!?」

 

 

「ふむ····今の状態(・・・・)での念動力だと至近距離でしか使えないな····まあこんなモノか·····それにしてもあんた達驚いてるの?それとも恐れているの?·······まあ、どっちでもいいか·····全部斬る事に変わりないしね······」

 

 

妖しい深紅の瞳が魔物達に向けられ、魔物達はほぼ、全員共通の意思にまとまった。

 

 

これ(・・)に手を出してしまったのは大きな過ちだった』と······

 

 

ここで、雪菜を捉えていた個体は間違いを犯す。依りにも寄って捉えている雪菜に無数の尖った枝を寄せて人質がいるのだと明ら様な行動を示したのだ。

 

 

 

「········お前何してるのかな?·········」

 

 

 

電光丸を肩に背負ってその個体の行動を確認した佐天涙子は静かに、それでいて荒々しく一瞬で間合いをつめて右手に握っている電光丸から、閃光を疾らせて雪菜を人質だと示した愚かな個体を無数の木片に斬り刻んで消滅させた。

 

 

解放された雪菜を抱き抱えそっと、地面に下ろす。

 

 

樹木の魔物達は一斉に呻き出し身体を萎々にして戦意を喪失した様子を見せるがもう余りに遅く、何より無駄だった。

 

 

 

佐天涙子が樹木の魔物達の間をすり抜けると時間差で次々と魔物達は叫び声すらあげられずに消滅していった·····

 

 

 

 

 

 



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14話 シリカの受難 

今回はシリカとドラえもんがメインです。


佐天涙子が秘められていた能力を発動させていた頃、シリカは壊れてしまったドラえもんに翻弄されていた。

 

 

「オッペケぺぇの~?ラリラリラァァ~♪」

 

 

「待って、待ってぇ~!ドラえもんさぁ~ん。何処に向かって走ってるのぉ~?これ以上進むと佐天さん達と合流するのが難しくなっちゃいますよぉ~!!」

 

 

必死で走って追いかけて、タックル気味にドラえもんに抱きついて動きを止めようとすると、

 

 

「キャァァー!!エッチィィ~!!」

 

 

「なっ、な、な、何言ってるんですかぁ!?わ、私エッチなんかじゃありませんっ!!」

 

 

かと思うと、突然立ち止まって奇妙な踊りを披露したりと、シリカの精神をゴリゴリと削る始末だった。

 

 

「ふえぇぇ~!!もうどうすればいいのぉ!?雪菜さぁ~ん、佐天さぁ~ん、ピナァ~!!」

 

 

ここが魔物達が魍魎跋扈(もうりょうばっこ)している場所だと分かってはいたが、そんな事はお構い無しに大声で泣き叫でしまう。

 

 

·····そして当然。

 

 

「グルゥ~!!」 「ギュルゥー!!」

 

 

シリカと壊れたドラえもんの前に巨大で凶悪な面構えの額にデカイ角を生やし、二本足で立っている兎に遭遇してしまう。兎達は全部で三匹で大きさは推定4㍍から5㍍で眼に狂気をはらんで二人を見つめ、口から牙を覗かせて涎を垂らしていた····

 

 

「ひっ、ひゃあァァァー!!う、兎の化け物ォォ~!!」

 

 

仮想空間で自分よりも圧倒的に巨大な怪物(モンスター)達と戦い、葬ってきたが、やはり先ほどの黒蛇の時といい現実(リアル)で対面してしまうと相手の迫力と威圧感に圧倒されてしまって怖じ気づいてしまい何も出来ずただ震えてドラえもんにしがみつくしか出来ないシリカだった。

 

 

「ゴルアァァー!!」

 

 

三匹の内の一匹が咆哮を上げて二人に襲いかかってきた。シリカは目に涙を溜めて、完全に戦意喪失している。だが、壊れたドラえもんは冷静にポケットをまさぐって何やら手袋の様な道具を取り出し装着した。

 

 

「スーパー!パワー!スーパー!パワー!!」

 

 

ドラえもんが両手に装着したのは『スーパー手袋』。この道具は両手にはめると腕力だけでなく全身をとんでもなく強化して信じられない怪力を発揮出来る22世紀脅威のひみつ道具である。

 

 

襲いかかってきた兎の魔物は二人に対してその巨体から強烈な蹴りを放ってきた。

 

 

「シャアァー!!」

 

「い、イヤァァー!!」

 

 

シリカが絶望して泣き叫ぶ。だが、その蹴りをスーパー手袋をはめたドラえもんが片手であっさりと受け止め、そのまま兎の魔物を頭上に掲げてブンブンと簡単に振り回した。

 

 

「グルゥ····?ギャウワァァ~!??」

 

「へっ·····?えええェェ~!??」

 

 

兎の魔物は自分よりも遥かに小さいタヌキの獣人とおぼしき奴に何故こうも軽々と振り回されているのか全く理解出来ずひたすら翻弄され、シリカは目の前の出来事に理解が追いつかずただ、ただ驚いて叫ぶだけだった。

 

 

「マわス、マわス、グゥ~ルグル~♪

キョウモどったんっ、ばったん、オオサワギぃっ~!!」

 

 

正気を失っているドラえもんは片手で掴んでいる魔物を右へ、左へと地面に叩きつけて(もてあそ)び、更にグルグルと回して最終的に空の彼方へと投げ飛ばした·····

 

 

「ギョウワワァァァー!!??」

 

「キャハハハー!?!バイバーイきーん♫♪♬」

 

「あわわわァァ····ど、ドラえもんさんやり過ぎなんじゃ·····」

 

 

シリカは尻餅をついてただ、唖然とするしかなかった。他の二匹は余りに信じ難い場面につい、傍観していたが正気を取り戻すと怒りに燃え咆哮する。すると周りの地面から兎達が這い出して次々と仲間達が集まりあっという間に囲まれた。

 

 

当然シリカは顔面蒼白になり、へこたれるが、一方のドラえもんは舌を出しながら何やら太極拳の様なスローな演舞をして気合いを込めていた。

 

 

「フゥ~♪フォ~♬アチョォ~♫」

 

 

それが兎の魔物達の気にさわったのか、眼を血走らせ一斉に雄叫びを上げてドラえもんに向かってきた!!

 

 

「グルガアァァァ~!!!」

 

 

ます、最初に一匹が真っ正面から額の角を向けて、ドラえもん目掛けて突進し、左右からの二匹が蹴りを放ち、残り数匹は兎らしいジャンプ力で空中から襲いかかってきた。

 

 

「きゃあぁぁードラえもんさーん!!」

 

 

巨大な兎の魔物達が一斉に襲ってきたのを目の当たりにしたシリカは勇気を振り絞って、腰に備え着けてあるダガー(真剣)を携えた。だが、ドラえもんは気合いの雄叫びを吐きながら猛烈なラッシュ(連打)を繰り出した!!

 

 

「ドラァー!!ドララララララララララララララララララララララララー!!!!!!!ドラァー!!」

 

 

無数の拳(丸いゴムまりの手)がマシンガンの如く打ち出され兎達を打ちのめして行く!!

 

 

「グブベェッ!?」

 

「ギョウワァァ~!!!」

 

「ゴブッ!?」「グバッ!?」

 

「ギベェッ!!」「ギャウウー!!?」

 

 

正面から襲ってきた兎は角をへし折られ顔面に無数の拳を受けて原型を失い、左右から蹴りを放ってきた兎達は蹴り脚がグチャグチャになって悲痛な叫び声を上げ、ジャンプして空中から襲ってきた複数の兎達は全身に無防備にラッシュを受けて骨が砕け散り、口から血や汚物をまき散らかしながら、無惨に吹き飛ばされ地面に叩きつけられた······

 

 

「あっ···あわ、あわ、あわわわぁぁ······ど、ど、ドラえもんさんクレイジー過ぎますゥゥ·····」

 

 

目の前の惨状にシリカは無駄と分かっていても訴えるしかなかった。

 

地面に横たわってピクピクと痙攣していた兎達は悲痛な断末魔の叫びを一声上げて次々と消滅していった。

 

 

「えっ!?な、何これ?死体が残らずに消えた!?これってもしかして仮想空間のシステムと同じ!?

ここってゲーム空間なのぉ!?」

 

 

シリカはドラえもんの攻撃を受けて横たわった兎達が死体を残さずに光の粒子を伴って散って行く様を見て頭を捻った。後には大小の大きさとそれどれ輝きの違う石と何やら兎の肉らしき物体や、毛皮とおぼしきアイテムが残されていた。

 

 

勝利したドラえもんは手袋を外して何故かマラカスを持って喜び、奇妙な踊りをして歓喜していた。

 

 

「ぐれーと、グレート♪ビクトリー!!」

 

 

「どっちにしても分からない事だらけだよ····とにかく今は何とかして雪菜さんと佐天さん達に合流しないと····」

 

 

疑問を振り払い、目的を明確にしたシリカだったが目の前の兎達が残していった所謂ドロップアイテムを前に、ゲームプレイヤーとしての(サガ)なのか、どうにか持って行こうとしてドラえもんのポケットに頼ろうとするがお腹に触れるとドラえもんはシリカを突飛(つきと)ばし、

 

 

「キャー!!ちかん!エッチ、スケッチ、

ひだまりぃ~!!」と、叫んで取り付く島さえなかった····

 

 

「うぅ、しょうがない····アイテムは諦めよう····って、ドラえもんさん私から離れないでぇー!?」

 

 

一難去ったと一息ついたら、またも無軌道な行動をするドラえもんを何とか首輪を引っ張ったりして足掻いて移動した。途中で洞窟らしき穴を見つけたので、引きずって一旦休息を取る事にした。

 

 

「はぁ、はぁ···うんしょ、うんしょ····ドラえもんさん、お願いだから少し大人しくしてて下さいよぉ~」

 

 

「オッケー!オッケー!シェスタ、シェスタ!お昼寝だぁー!!グーグーグー·······」

 

 

シリカの言葉を理解したのかは分からないがドラえもんはさっきまでの無軌道な行動を止めてその場に勢い良く寝っ転がり、赤い鼻から鼻提灯(はなちょうちん)を出してグースカと眠りについた。

 

 

「はぁ、はぁ·····ようやく一息つけた····凄く疲れたよぉ····はぁ····よく考えたら二人を探す処か、道もよくわからないんじゃどうしようもないし、本当にどうしよう·····」

 

 

シリカは洞窟の壁にもたれて膝を抱えて途方に暮れていた。だがふと、気がつくと洞窟の少し先の地面が妙に整地されている事に気がつく。

 

 

「あれ?何だか妙に地面がツルツルしてる様な····?」

 

 

ゲームプレイヤー特有の好奇心に刈られて少し先へと歩くと薄暗いもののハッキリと下に降る階段を発見した。

 

 

「こっ、これってもしかしてダンジョンへの階段!?やっぱりこの世界はゲームの世界!?」

 

 

思わぬ発見で、益々この異世界が自分が元の世界でプレイしていたMMORPGとよく似た仮想空間なのでは?という疑惑が高まる。

 

 

下へ降りてみようとも考えたが正直今の自分だけではどうする事も出来ず手に余ると考え、入り口へと戻ろうとするが何故かドラえもんが鼻提灯を膨らまし眠りながら此方へ歩いて来た。

 

 

「フンゴーゴゴゴ····待て待てドラヤキー♥スピー、スピー·····」

 

「眠りながら歩いてる·····!?」

 

 

呆然としてつい、見送るが真っ直ぐダンジョンの入り口らしき階段へと歩むドラえもんを見て、慌てて首輪を後ろから全力で掴んで引っ張った。

 

 

「ちょちょ、ちょっと待ってドラえもんさーん!!どら焼きなんて飛んでませんよぉ~!?この先何が起こるか分からないから戻ってぇ~!!」

 

 

願い虚しく小柄で軽量のシリカを簡単に引きずって目を覚ます事なく進み、案の定階段を踏み外してシリカを巻き込みながら階段を転がり落ちていった。

 

 

「ひゃあァァ~!?!?」

 

「ゴロン、ごろーんっ!!」

 

 

かなり長い階段を転げ落ちて、ようやく階段が終わって止まった。

 

 

「マワッタ、トマッタ。····グーグー」

 

「う"う"ぅぅ~今日はこんな事ばっかりぃ~····もうやだぁ~····」

 

 

昨日まで皆と和気あいあいで楽しかったのが、今日は打って変わって散々な状況に弱音を吐くシリカだった。だが、地面の少し先の壁が気になり立ち上がって暗い中、よく目を凝らすとそこは只の壁ではなく扉だった。

 

 

但し、自分の元居た世界よりも更に未来的(・・・)な作りの扉だった。

 

 

「こ、こんなハイテク染みた扉がこんな所に有るなんて····?中には一体何が眠っているの?····少し怖いけど調べてみよう」

 

 

シリカは恐る恐る扉に手をやって調べてみたが、やはり鍵穴やカードを通す装置の類いは見つからず、諦めかけていると目を覚ましたドラえもんも扉をまさぐる。

 

 

「····ドラえもんさん、この扉は開きそうにないです。何処にも鍵穴やカードを通す装置に音声認識する類いの機器もついてないんですよ。もうここは諦めて出ましょうよ」

 

 

「イキドマリー!すすめ!ススメ!ふーぷ!ふーぷ!」

 

 

未だ正気を失っているドラえもんは扉が閉まっていて開きそうにないと聞くと、ポケットの中から黄色くて大きい輪っかを取り出した。それはどんな強固な壁でも取り付けると穴が出来て、自在に行き来が出来る様になる便利なひみつ道具『通り抜けフープ』だった。

 

通り穴が出来るとドラえもんは

「イッテミヨー!!」と勢いよく扉の向こうへと進んで行った。

 

 

「まっ、待って、一人にしないでぇ~!?」

 

 

心細く不安に苛むシリカを無視してドラえもんはひたすらフープで出来た空間を進み、出口へと出た。

 

「デグチ、デグチでたーデター!」

 

「やっぱりここも真っ暗で何も見えないですよぉ~。ドラえもんさん何処ですかぁ~?」

 

 

扉の向こう側へと出たはいいが真っ暗で何も見えず手探りしながら進むとナニやら小さく不気味な稼働音だけ鳴り響いている。

 

 

「この音って何か機械の音?何か施設の機能がまだ生きてるの?ドラえもんさーん何か明かりをつける道具は無いですかぁー?」

 

 

不安ではあるがもしかしたらこの世界について何か分かるかもと中へと進んだがやはり暗くて周囲の様子は一切わからずドラえもんに頼った。

 

 

「おーけー、オーケー、アッカリーン!」

 

 

ドラえもんはポケットから『打ち上げライト』を打ち上げ、周囲を明るく照らした。

 

 

「わあ~明るくなったぁ!これなら何があるのか見えます·····っえ、この部屋の施設って····!?」

 

 

シリカは明るくなった部屋の周囲を見て酷く驚いた。何故なら外は異世界らしく魔物達が活動しているのに、この中はまるで未来の研究施設としか言い様のない有り様だったからだ。そして機械の稼働音を辿ってよく見るとそこには小さい透明の長細いカプセル内に小さなドラえもんが眠っていた····

 

 

「えっ、えっ!?こ、これってドラえもんさん?赤くて凄く小さいけど····」

 

 

シリカが驚ろき、困惑していると正気を失っているドラえもんが其処らのスイッチを手当たり次第に押して遊んでいた。

 

 

「ちょっ、ちょっと待って!?ドラえもんさん勝手に弄っちゃ不味いですよっ!?」

 

 

すると、偶然なのか?導きなのか?赤く小さいドラえもんが入っているカプセルは静かに開き出し、中のドラえもんが元気に動き出した!

 

 

「ドラァー!ドララァー!!」

 

「めっ、目覚めちゃった····」

 

 

シリカは目の前で目覚めた小さいドラえもんを凝視しする。元気よくラジオ体操染みた動きをして調子を整えてるかに見えた。

 

 

「(かっ、可愛い♥)

あ、あのぉ····貴方もドラえもんさん何ですか····?」

 

「ドラァッ!ドララ、ドララー♪」

 

 

手を胸にポンッと叩いて肯定する仕草をした。それを理解したシリカは必死になって懇願する。

 

 

「そっ、それじゃ、お願いしたい事あるんですけど!あ、あの···向こうの青くて大きいドラえもんさんが私のせいで壊れちゃって困ってるんです。何とかなりませんかっ····?」

 

 

小さいドラえもんはほんの少し思案顔になり、直ぐに朗らかな笑顔を見せて更に小さなポケットに両手を突っ込んだ。

 

 

(小さくてもやっぱりドラえもんさんだなぁ、何だか安心する·····でも、もしかしてドラえもんさんの弟なのかな?だとしたら、何でこんな所に眠ってたのかな?)

 

 

一人アレコレ想像してると小さいドラえもんはポケットからナニやら黒い雲の塊を出した。

 

「ドラドラッ、ドララッタァ~!!」

 

「あ、あのぉ····ゴメンなさい。なんて言ってるのか、わかんないです·····」

 

 

小さいドラえもんが出した道具は

『カミナリ雲』と言って小さな人工の雷雲で備え付けてあるプルスイッチのヒモを引っ張ると雷が落ちるひみつ道具であった。取り出したのが小さいドラえもんなので更に輪をかけて小さかった。

 

 

「ん~····それって何だかカミナリ雲みたいですよね?····って、まさかそれをドラえもんさんにっ!?ま、待ってー!!?」

 

 

小さいドラえもんは可愛くウインクして直ぐ側で、まるでバレエの白鳥の湖を踊っているドラえもんの頭の上に乗り、プルスイッチのヒモに付いている威力を調節するメモリーを最大出力にしてヒモを引っ張りつつ、巻き込まれ無いように、青いドラえもんから離脱した。

 

 

ミニカミナリ雲からミニでは無い、特大のカミナリがドラえもんの頭上に降りかかったっ!!

 

 

 

    ドギャーンッ!!

 

 

 

「ひいいィィー!!ど、ドラえもんさーん!!」

 

 

 

「うぎゃぴノバラリあばばばばー!?!?」

 

プシュ········

 

最高威力に設定したカミナリ雲のカミナリの直撃を受けたドラえもんは口から黒い煙を吐き、青色のボディも黒々と変化していた·········

 

 

シリカは泣き叫びながら真っ黒になったドラえもんを抱きしめた。

 

「ドラえもんさ~ん·····」

 

もう完全にダメだと思った····だが、

 

 

「ううぅ~ん····?はれあれ·····?ここは何処?僕は今まで何をしてたんだ?」

 

 

「あ····あ"ぁ·········ど、ドラえもんさーん!!」

 

 

「えっ!?シリカちゃん!?どうしたのそんなに泣いて?何があったの?」

 

 

シリカはドラえもんに強くハグして泣き叫んだ。ただし、それは歓喜の涙であった·····

 

 



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15話 フリーザー

ドラえもんはシリカから事の経緯を聞き、平謝りしていた。

 

 

「うわあぁ····そうだったのか···ゴメンよシリカちゃん!迷惑かけちゃって····」

 

 

「いえ、大丈夫です!元は私が···その、ソードスキルでトドメを刺しちゃったので····本当にゴメンなさい!でも、元に戻ってくれて私本当に嬉しいです。全部、この小さな赤いドラえもんさんのお陰なんです。ありがとう!えっ~と、何て呼んだら良いのかな?」

 

 

「ドラッ、ドララァ~····」

 

 

「ウフフ。この子は『ミニドラ』って言うんだよ。仲良くしてあげてね!···それにしても何でこの異世界でこんな未来の世界の研究施設みたいなのがあって、しかもこのカプセルの中にお前が保管されていたんだろうねぇ···実に不思議だなぁ」

 

 

ドラえもんは研究施設とおぼしき部屋一面を眺めて今までの経験から色んな可能性を思案する。

 

 

(もしかして誰かが、あの時(・・・)ののび太くんみたいに『もしもボックス』を使ってこの異世界を作ったのか?でも、それならわざわざ未来の技術の研究施設を設置する意味がわからない。それともここは何処か別の惑星で、僕達みたいに元の世界···故郷の星へ帰る手段を調べる為に設置したんだろうか····?う~ん何だろう····ナニかが引っ掛かるぞ·····?)

 

 

黒焦げボディのまま、アレコレ思案するドラえもんを見て、シリカは心配になってオロオロしながら声をかけた。

 

 

「あの、ドラえもんさん。とにかく先にその黒焦げの体を治さないと····」

 

 

「ドララ、ドララ!」

 

 

シリカの肩に乗っかっているミニドラもシリカと一緒になって訴えた。

 

 

「ああ、それもそうだね。よし!あれを使おう。えとえと····タイム風呂敷~!!これを、よっと····」

 

 

ポケットから取り出したタイム風呂敷を被って数秒後、見事痛々しい黒焦げボディからツヤのある青色ボディへとドラえもんは回復した。

 

 

「僕、復活!」

 

「わぁ~♪良かった····本当に···元に戻って良かったよぉ~!!」

 

 

雪菜、佐天とはぐれ、ドラえもんは壊れて正気を失い、魔物と遭遇したりと苦労と不安の絶えなかったシリカは心から安堵し、喜んだ。つい、嬉しくて元に戻ったドラえもんとお互いに両手を繋いでスキップし、ドラえもんも浮かれてシリカを両手で掴んだままぐるぐると回し始めた。そう···まるで休日のお父さんが子供と戯れるかの様に。

 

 

「キャハハハ~!!わーい、わーい♪」

 

「ドララァ~♪ドララッタァ~!!」

 

 

「そぉーれぇ、そぉーれぇ!」

 

 

シリカと肩に乗っかっているミニドラも一緒になって無邪気になって喜んだ。だが、不意に掴んでいた手が滑ってしまいシリカは勢いよく明後日の方向へと飛ばされてしまう。

 

 

ツルッ「ありゃ?」

 

 

「へっ?しょええェェ~!?」

 

「ドララァー!?」

 

 

普段のシリカとしての身体能力ならば容易く着地できるが、浮かれ過ぎてしまっていたので録に受け身を取れずに研究施設の奥の方まで飛ばされて尻餅を着いた。

 

 

「うわぁ~!?ゴメンようシリカちゃぁ~ん!!」

 

 

「うっ、うぅ~ん···?だ、大丈夫ですぅ·····んっ?何だろう。これ···」

 

 

焦ったドラえもんが直ぐ様二人に駆け寄った。幸いシリカにケガは無く、少し目を回しつつ立ち上がって後ろを振り向くとナニやら奇妙な装置に気がついた。

 

 

シリカが目にしている装置は台の上に各々3つの球体状の形をしており、コードに繋がれて鎮座してあった。球体は上半分が赤色で、下半分が白色で3つの物体の内、2つは真ん中の境目が開いてあって中身は無く、3番目の球体は閉じたままになって放置されてあった。

 

 

「ドラえもんさん、これって何なんですかね?」

 

 

「う~ん···これと似たようなのを何処かで見かけた事があるぞ?え~と···確か·····そうだっ!思い出した!これは僕がいた未来の世界で一時期、熱狂的に流行っていた道具に似ているんだ!」

 

 

かつて未来世界において、熱狂的に流行ったとされるのは【ポケットモンスター】····略して【ポケモン】と呼ばれる娯楽であった。

ひみつ道具に『クローニングエッグ』という道具がある。これは動物の遺伝子アンプルを注入して望む動物を誕生させるという道具である。だが、この道具の真の特筆すべき点は複数の遺伝子アンプルを混ぜ合わせて本来この世に存在していない動物達を誕生させる事にあった。

 

 

遺伝子アンプルを複数混ぜ合わせられて誕生した動物は遺伝子の拒絶反応や成長及び寿命等の不具合も無く元気に生まれるという特徴があった。

 

 

これをヒントに既存のクローニングエッグにとある(・・・)会社が更に道具の特性を押し進めた道具を開発した。その名も『DNAコーディネートキット』と呼ばれる道具を開発し、販売したのだ。

 

 

これは遺伝子を自らの手で操り、まるでノートに気楽にスケッチにする様に簡単に今まで存在しなかった新しい動物達や種族を創造出来るという正に生命の禁忌や論理に反し、冒涜する道具であった。

 

 

当然この道具の開発及び、販売について強い反対意見もあったのだが、そんな反対の声を押しきり、売り出すと猛烈な勢いで広まり、あっという間にブームになって未来社会に馴染んだ。

 

 

各々の感性や好みで姿、形、能力や性質を自在に決められ、自分だけの、自分好みの本来存在しない動物達を生み出す事に老若男女はこぞって夢中になり虜となった。

 

 

これに気を良くした会社の上層部達は今度は無数のユーザー達が生み出した動物を互いに闘わせ、競い合わせるというシステムを発案し、それに沿った道具の開発を急いだ。そして完成した道具とシステムは【モンスターボール】と【ポケモンバトル】と呼ばれ、更に未来世界全体を熱狂の渦へと捲き込むのに大成功するのだった。

 

 

だが、ここで大きな誤算が起きた。ポケモンバトルで負けたポケモンを心無いユーザーが見限ってそこら辺に平気で捨て去る行為が平然と行われる様になったのだ。野良となった

ポケモンは食料を求めてスーパーや飲食店を襲ったり、食べ物を持っていた子供や女性を襲う等といった事件も頻発におこって、深刻な社会問題となっていった。

 

 

それと同時に裏社会の住人がポケモンを生物兵器として利用して暗躍し、警察もこれには手を焼き悩まされ、また兵器専用として強力にデザインされて生み出されたポケモンが戦争や紛争に利用される最悪の事態となった。更に裏社会の組織や、それ専門のトレーナーでも録に制御出来ないポケモンが檻を破壊して町へ移動し民家を襲って暴れ出し、治安が度々脅かされる等、最早通常の警察では対処不可能な問題となって急激に世間からポケモンを排除せよとの流れが起きてしまうに至った。

 

 

これを受けて政府は対ポケモン用の特殊武装と組織を立ち上げ野良ポケモンや戦争と紛争に利用されていたポケモンを瞬く間に排除する事に成功した。また、ポケモンを生み出す道具を発案、販売した会社は世間と数々の国から一斉に強いバッシングを浴びせられ手痛い目に遭い、その責任を追及された。会社は上層部の間で責任の(なす)り合いを始め内部で醜い争いが始まった。

 

 

道具を発案し、研究していた研究責任者は「こんなはずじゃなかった」と言って上層部の目の前で自殺してその責任を取った·····それを目の当たりにした、ポケモンという存在を純粋に愛し、()でていた一部の研究員はデータの一部を密かに持ち出し行方を眩ませる等といった事もあった。

 

 

上層部達の責任逃れに怒りを燃やしたのはポケモンによって被害を被った被害者達だ。責任逃れの為に国外へ渡ろうとしていた上層部の人間を見つけた被害者達は激怒し、殺してしまう等といった陰惨な事も起きてしまっていた。しかも家でおとなしく穏やかに飼われていたポケモンを見つけて、わざわざ家にまで忍び込んで殺害しようとする過激な行為に走る輩も数多くいた。

 

 

 

こうして人間に勝手に生み出されたポケモンは身勝手な人間の手によって駆逐され、この世から消滅するという未来世界に悲惨な歴史を刻むのだった。

 

 

 

事の顛末を聞いてシリカはどんよりとした気分になった。

 

 

「そんな悲惨な出来事が合ったんですね····可哀想····(ピナ···)」

 

 

ビーストテイマーのシリカはピナの事を思い浮かべ未来の世界で起きた悲惨な出来事に悲痛な想いを抱く。そんなシリカを気づかってか、ミニドラはシリカの頭の上に乗って撫でてきた。

 

 

「ドラ、ドラァ~♪」

 

「····ミニドラちゃん····ありがとう」

 

 

ほっこりとした二人を見てドラえもんは微笑ましく思った。そして改めてこのモンスターボールとおぼしき物を凝視した。

 

 

「う~ん···しかし何でこんな物が異世界の地下に置いて在るんだろう····?んっ?閉じてあるモンスターボールの下に名前が書いてあるぞ。え~と····フリーザー····」

 

 

ボールが設置してある装置の下にネームプレートらしき物が張り付けてある事に気づいてドラえもんは読み上げた。隣二つのネームプレートを確認すると一番右端がファイアー。真ん中がサンダーとネームプレートに記載されていた。

 

 

「この閉じてるボールの中にフリーザーと呼ばれるその、ポケモン····?が入ってるんでしょうか?」

 

 

「うん···恐らくそうだと思う···けどかなりの年月が経ってて、ミニドラが眠っていたカプセルは機能が生きていたけど、このモンスターボールの装置は恐らく大分前に止まってたみたいだ。だから多分中のポケモンも恐らく·····」

 

 

ドラえもんの説明により、目の前のボールの中のポケモンは生きてはいないと示唆され、シリカはかつてSAO時代の事を思い出していた。PTメンバーとの諍いから、ケンカ別れをして単身で危険な森を抜けようとしていた際、手強いモンスター達に襲われ、その時使い魔のピナがシリカを庇って消え去るといった過去があった。

(最もその後、偶然通りかかったキリトによって救われ、ピナの蘇生に成功して現在でも仮想空間で楽しんでいる)

その為、目の前のモンスターボールをピナの残した羽と重ねて何とかしてあげたいと考えていた。

 

 

そんなシリカを察したドラえもんはこう提案した。

 

 

「ねえ、シリカちゃんはこのモンスターボールの中で朽ち果てているポケモンを甦らせたいかい?」

 

 

「はい···出来る事なら·····」

 

 

「さっき話したけどポケモンは生体兵器としてデザインカスタマイズされているのも数多く存在している。甦らせたとしても決して簡単に懐くとは限らない····それ所か襲いかかって来るかも知れない····それでもやるかい?」

 

 

「すみません····正直迷っています····それに、これは単なる私のワガママで独善なんですけど、こんな所でずっと1人で放って置かれて寂しく朽ち果てて····人間の身勝手さに翻弄されて····そんなの余りに酷くて悲しいじゃないですかっ!どうなるかは本当に私には分からないです····無責任な事かも知れないけど···けど、こんなのは絶対に嫌なんです!!だから···だからドラえもんさん····この子を蘇生させてあげて下さい。私は非力だけど、持てる力を注いでこのポケモンを守ってあげたい、救ってあげたいんです!お願い····します····」

 

 

気がつくとシリカの瞳から熱い涙が流れ頬を濡らしていた。ミニドラもシリカと同じ想いで賛同していた。

 

 

 

「わかったよシリカちゃん····」

 

 

 

二人の熱い眼差しに答えてドラえもんはポケットをアレコレ(・・・・)まさぐって中からタイム風呂敷を取り出し広げる。

 

 

「それじゃ···いくよシリカちゃん····いいね?」

 

 

「はい!お願いします!!」

「ドララッ!!」

 

 

ミニドラも一緒になってドラえもんにお願いした。

 

 

「よし!わかった、行くよ!!それぇー」

 

 

タイム風呂敷をモンスターボールに被せて僅か数秒後····ボールは真新しい感じになって甦えった。ドラえもんはシリカの隣に立ってモンスターボールを解き放つ為、ボールの真ん中のボタンを押して地面に軽く放り投げた。

 

 

ボールの境目が開くと中から勢い良く雪の結晶が舞散り、辺り一面を輝かせながら一匹の美しい鳥が飛び上がった。大きさはミニドラよりやや全体的に大きく、体躯は全体的に水色をしており、青白い羽毛と三対の鶏冠を持ち優雅にボールの周りの天井を飛び、尾をたなびかせながら飛んでいる。

 

 

「この鳥がポケモン····綺麗····」

 

 

余りの美しさにシリカはこのポケモンに見とれていた。

 

 

「鳥の姿をしたポケモンか····設定されている属性はどうやら氷タイプみたいだね」

 

 

ドラえもんが持ち合わせている知識から目の前のポケモンの属性を呟いた。

 

 

しばらく周辺を飛び回っていたこのポケモンは三人に気がついて、シリカ達の近くに舞い降りた。両足を揃えてステップしながら近づいてくる····ドラえもんはポケットに片手をやって何か準備をしている様子を見せ、僅かに緊張が走った。

 

 

シリカは静かに片膝を床につけてしゃがみこみ、鳥の姿をしたポケモンと目を合わせた·····

 

 

ほんの僅か数秒間だが互いを見つめ合い、そして何気なくシリカは右手を拡げて差し出す様に伸ばした。

緊張してはいたが、ミニドラの存在の助けもあって柔和な、ごく自然な微笑みが出来た。

 

 

·····そして、そのポケモンはシリカの手のひらに乗り、腕を伝って肩に乗って明らかにご機嫌な鳴き声を発してシリカの頬に身体を預けた。

 

 

「きゃっ!くすぐったいよう。ドラえもんさん····私、私達(・・)仲良くなれましたよっ!」

 

 

「····うん!やったねシリカちゃん。

(フフフ···この道具は必要無かったね)」

 

 

ドラえもんが片手をポケットの中に突っ込んで用意していたのは一個でも食べさせればどんなに凶暴で荒れ狂っている猛獣も大人しくなって従順になるひみつ道具

『桃太郎印のきび団子』だった。

 

 

生体兵器や、抗争の為に凶悪に生み出されたポケモン達を制御する為に後に開発されたひみつ道具で、あらかじめ、タイム風呂敷を取り出す際に一緒に用意したのだがその必要は無くなり、最高の結果となった。その事を心から密かに喜び、戯れている三人をドラえもんは暖かく見守った。

 

 

すっかり懐いたポケモン、フリーザーはミニドラとも仲良くなり一緒に戯れている。

 

 

「ドラ、ドララァ~♪」

 

「クピッ、クピピィ~♬」

 

 

「アハハッ♪もう二人共すっかり仲良くなっちゃって···かわいい♥」

 

 

シリカは二人の様子にすっかりメロメロになっていた。

 

 

「もうすっかり仲良しさんだね」

 

 

「はい!これも全部ドラえもんさんのお陰です。本当にありがとうございます!」

 

 

「ウフフ。僕はきっかけを作っただけさ。シリカちゃんとミニドラの決意が実を結んだんだよ」

 

 

「い、いえ、そんな私なんて····そんな風に言われたら照れちゃいます。あ、そうだこの子に名前をつけてあげないと···」

 

 

「名前かぁ····そういえば、モンスターボールが設置してある装置の下にネームプレートがあって、フリーザーて、明記されてたなぁ···でも、この名前って個人の名前じゃなくてって種族の名前みたいな感じ何だよなぁ····」

 

 

「フリーザー····ですか····う~ん。それじゃ私が、この子に新しい名前をつけてあげてもいいですか····ね?」

 

 

「うん!いいと思うよ!きっとシリカちゃんに名付けて貰った方がこの子も喜ぶよ」

 

 

「わかりました。え~と····(氷タイプで涼やかな印象があるから、それに色合いもピナと同じだから····)【ピノ】····ってどうかな?」

 

 

その名を聞いたフリーザーは歓喜して研究室の天井を飛び回ってシリカの頭の上に乗っかり一際美しい鳴き声を放った。

 

 

「アハハッ♪良かったね!どうやらこの子は気に入ってくれたみたいだよ。それじゃ改めてよろしくね!ピノちゃん!」

 

 

「クッピィ~♥」

 

 

こうして本来誰にも気づかれぬまま、朽ち果てて行く筈だったポケモン、フリーザーはドラえもんとシリカ、ミニドラ達のお陰で甦り、新たに名を【ピノ】と名付けられドラえもん達と共に元の世界への帰還を目指して一緒に歩むのだった。

 

 

 



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16話 佐天涙子の戦い

 

「さて、この研究施設の事は気になるけど、先ずは二人の行方を探そう」

 

 

「はい!」「ドラッ!」「クピッ!」

 

 

シリカ、ミニドラ、フリーザー改め、ピノが元気に返事を返した。ドラえもんはポケットから『お取り寄せバッグ』を取り出して通り抜けフープを回収し、更にどこでもドアを出して地上へ戻った。

 

 

「さてと、二人は今何処かな····えと、えと····『尋ね人ステッキ』~!」

 

 

「ドラえもんさん、その道具で雪菜さんと佐天さんを探せるんですか?」

 

 

「うん!そうだよ。この道具は地面に突き立てて手を放すと探したい人や物の方向へと倒れるんだ。ただ、的中率は70%位で絶対って訳じゃないんだけどね···」

 

 

「70%でも凄く便利ですよ!何しろここは異世界···何処に何があるなんてわからないんですから!」

 

 

「ありがとうシリカちゃん」

 

 

シリカに礼を言ってドラえもんは地面にステッキを突き立てて、倒れた。方角は東方面を指している。

 

 

「うぅ~ん····やっぱり安全ルートから大幅に外れて移動しているか····みんなに大丈夫って、大見得切っときながら僕って奴は·····」

 

 

予想外に巨大で凶悪な魔物の襲撃を受けて仲間と散り散りになってしまったのをドラえもんは責任を感じて、悔やみ自分を責めていた。しょんぼりしているドラえもんにシリカはエールを送る。

 

 

「ドラえもんさん、自分を責めないで下さいっ!!ドラえもんさんが私を····私達を助けてくれたからまだ、こうして此処に無事に居るんですよ!この子達だってドラえもんさんが居なかったらずっとあの暗い研究施設で朽ち果てて居たんです。だから元気を出して早く二人を探して笑顔で迎えましょう!」

 

 

「ドララッ!!」「クピクピッ!!」

 

 

シリカの言葉にミニドラとピノも同意してドラえもんを励ますかの様に鳴いた。

 

 

「シリカちゃん····うん!そうだね!よーし全速力で二人を探そう!」

 

 

「はいっ!」

 

 

気を取り戻したドラえもんはポケットからタケコプターを取り出し自分とシリカの頭に装着した。ミニドラも自分のポケットからタケコプターを取り出して準備を整えみんなで空を飛び立って探索に向かった。

 

 

ミニドラとピノは二人と一緒に空を飛んで移動出来る事に大層喜び二体は二人の間を交互に行き交いながら空の探索を楽しんでいる。

 

 

「ウフフ。ミニドラとピノったらあんなに、はしゃいじゃって····接触事故に気をつけるんだよぉ~」

 

 

(二人共あんなに元気に仲良く楽しんで····本当に良かった····雪菜さん、佐天さん····待ってて、すぐに迎えに行きますからっ!!)

 

 

 

こうして、二人と二体は遥か東の空へと飛び立った·····

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

その頃、樹木の魔物達を切り刻んで全滅させた佐天は能力の一端である遠視を使って何処か雪菜を静かに休ませられる場所を探していた。

 

「草むらを抜けたあっちの方向に綺麗な水辺がある····一先ずそこへ向かおう···」

 

 

場所を見つけヨットに乗り、ハンドルを握ると次第に能力の発現は収まり、佐天は己自身に対して明確な違和感を憶えた。

 

 

「·····なに、何なの?私?私があの木の化け物を電光丸でやっちゃったんだよねっ!?この感覚ドラさんのアスレチックの時と同じ····?あと、念力も使ってたよね?あんな威力を私が····」

 

 

「····はぁ、はぁ、ゴホッゴホッ!」

 

 

「雪菜さんっ!?····今はとにかく静かに休められる場所へ移動しないと。きっと····きっとドラさん達が私達を探し当てて迎えに来てくれる筈。だからそれまで持ちこたえて····」

 

 

刻一刻と黒蛇から受けた毒で雪菜の容態は悪くなる一方で佐天は祈る様にドラえもん達が来てくれるのを信じてハンドルを握りしめて移動した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ふう····やっと着いた····こんなに離れた場所を私が自分の目で見つけたんだよね·····本当に私どうしちゃったんだろう····?····ううん、それより今は雪菜さんを····」

 

 

佐天が見つけた場所は静かで荘厳さすら感じられる湖で体を休ませるのに持ってこいの場所だった。

最初に確認の為、手で少し掬って少量の水を口に含ませてみた。

 

 

「匂いも味も問題無し。良かった····早く雪菜さんに····」

 

 

スカートのポケットからハンカチを取り出し濡らして絞り雪菜の額に当てて、更に手で水を掬って雪菜の口元に寄せた。

 

 

「雪菜さんお水ですよ。さっき飲んでみて大丈夫でしたから、安心して飲んで下さい」

 

 

佐天は雪菜の頭を少し持ち上げて水を飲みやすくして唇へと運んだ。

 

 

「····ゴクッ····ゴクッ····はぁ····」

 

 

「良かった、飲んでくれた····でもこのままじゃ····

私、やっぱりバカだ。いくらあの蛇に追いかけられたからってドラさんが示してくれた安全ルートを完全に離れて····もう少し、どうしてもう少しだけ上手く出来なかったんだろう····」

 

 

今の状況を招いたのは明らかに自分だと責任を感じ一人自分を責めて悔やむ佐天の左手を雪菜が握った。

 

 

「雪菜さんっ?」

 

 

「····はぁ、はぁ···佐天さん····お水ありがとう····それと余り自分を責めてはいけませんよ·····今まであんな魔物に遭遇した経験などなかっ···ゴハッ、ゴホッゴホッ······!!」

 

 

「雪菜さんもう喋っちゃ駄目!安静にしてて、きっと····きっとドラさん達が助けに来てくれますから····だから、だから······」

 

 

佐天は声を絞り出して祈る様に呟いた。

 

 

ズッズズンッ········

 

 

ふと、気がつくと地面が少し揺れているのに気づいた。昨日の地震の続き?と佐天は思ったが、それが間違いだと次の瞬間気づいた。地面が震動し、佐天達の居るヨットから少し離れた場所の地面が盛り上がり、勢いよく何かが這い出して来た。

 

 

「シィヤァァァー!!」

 

 

「なっ!?さっきの黒蛇!?こんな距離を地下から追いかけて来たって言うの?」

 

 

先ほど襲ってきた巨大な黒蛇が再度、襲撃を仕掛けてきた。逃した獲物に執着してここまで追って来たのだ。佐天は咄嗟に雪菜を抱き抱えてヨットから迅速に離れた。間一髪難を逃れたが、黒蛇が頭ごと突進してヨットを粉々に粉砕し、最早逃げる事も叶わなくなってしまった。

 

 

何とか雪菜を引きずりながらも周りの太い樹木に身を隠しながら移動するも鋭い嗅覚で正確に佐天達を追撃してくる。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ·····駄目だ、逃げ切れない!!」

 

 

激しく息を切らしながら必死で逃げていると雪菜が佐天の耳元で囁いた。

 

 

「····佐天さん、私を囮にして先に逃げて·····後は私が·····」

 

 

その言葉を聞いた佐天は思わず感情のままに大声で雪菜に怒鳴った。

 

 

「馬鹿なんですかっ貴女はっ!!それを本気で言ってるんなら私も本気で怒りますよっ!!そんな真似を本当に私がすると思ってるんですかっ?見くびるのも大概にしてっ!」

 

 

「さ···てん····さん····」

 

 

普段は務めて明るく軽く、朗らかにしている彼女が本気で怒っているのに雪菜は意識が朦朧としながら驚いた。

 

 

「···確かに私はおバカなお調子者で楽しい事最優先にして、ついつい、雪菜さんやシリカさんをからかったりとかしちゃいますよっ?···でも友達で、仲間で、運命共同体の貴女を平気で見捨てる様なダサい奴だなんて思われてるなんてっ···

馬鹿にするのもいい加減にしてっ!!私は···私は友達を、仲間を、見捨てたりなんて絶対にしないっ!!何が何でも二人一緒に生き延びてドラさん達と合流するんですからねっ!わかりましたかっ?!」

 

 

佐天の本気の本心の怒りの感情をぶつけられ雪菜は少しだけ困惑し、そして小さく消え入りそうな過細い声で、

 

 

「····私の方が馬鹿でした····ごめんなさい····そして、ありがとう····佐天さん····」

 

 

雪菜の瞳から涙が流れ、頬を伝って地面にこぼれた····

 

 

雪菜相手に本気で怒って啖呵を切った佐天だったが、現実は極めて非情で黒蛇は淡々と先回りして二人の目の前にその巨体を現して感情の読めない冷淡な眼で獲物を定めた。

 

 

 

黒蛇の眼を佐天涙子は両の目で見つめ、そして·······

 

 

「いい加減にしてよっ!!なんでっ突然あっちの勝手な都合で異世界に召喚されて、何故デカイだけの蛇にしつこく追い回されなくちゃならないのよっ!!

迷惑かけられっぱなしでいい加減イライラするわよっ!!·····段々頭にきて、腹も立ってきた····非っ常にムカついてきたわ·····だから····

さっきの分もまとめて借りを返させて貰うわね······」

 

 

 

佐天涙子の両の瞳が深紅の輝きを放った。

 

 

 

「さっ、佐天···さん、その両目の変化は·····?」

 

 

「·····悪いけど、今は邪魔になるからあっちへ避難しますよ?」

 

 

やけに冷静な、冷めた感じの口調で雪菜を抱えて足下に念力を集約させ地面との反発力を生み出し、雪菜に負けず劣らずの跳躍力を発揮させて一時離脱し、周りで一番太い樹木の根元に雪菜を下ろし右手で腰に着けていた電光丸を握り雪菜に、

 

 

「それじゃ···暫くそこで大人しくしてて下さいね·····何処までやれるかわからないけど、少しアレの相手をしてきますから·····」

 

 

と、言ってまたも念力を足下に集約して黒蛇を雪菜から引き剥がす為に反対方向へと跳躍して行った。肝心な時に役に立てない己の不甲斐無さを呪い、祈る様に声を絞り出して彼女の名を呟いた。

 

 

「····くっ、佐天さん·····」

 

 

佐天と雪菜の後をつけてきた黒蛇は戻ってきた佐天の姿を確認して軽く警戒感を現した。最初に襲った時は、以下にも美味しい獲物だと判断したのに今、再度目の前に戻って来たこの獲物は、獲物と呼べないナニカに変貌していると感じ取ったのだ。

 

 

「じゃっ、ヤろうか····」

 

 

僅かな時間、睨み合い····そして黒蛇の方から口を開いて毒の牙を剥き出しにして突進してきた。先ずは弱らせてから確実にしとめようとしてきたのだ。だが····

 

 

「····その牙の毒で雪菜さんは苦しんでいるの··········だから」

 

 

佐天の瞳が一層の輝きを放って黒蛇の突進を僅かな小さい動きで避けつつ、その動きの流れのまま上顎の牙を電光丸の一閃で横に綺麗に皮膚ごと斬り裂いた。

 

 

「ヒッシャァァー!?!?」

 

 

黒蛇はたまらず首を捻って地面に頭を擦りつけた。予想外な反撃に明らかに狼狽えている様子を見せる。

 

 

「雪菜さんが矛の攻撃をした時私、怯えながらだけどちゃんと観てたんだ(・・・・・)····頭部を始めとして全体に生えている鱗は恐らく鋼鉄よりも強靭で硬い·····けど口周りは意外なほど柔らかいよね·····そうでなければあれだけ馬鹿みたいに大きく口を開くなんて出来ないもの·····」

 

 

淡々とした様子で佐天は黒蛇の弱点を突いた。緋色に輝く瞳が黒蛇を映し、更なる弱点を暴こうとしている。

 

 

黒蛇は初めて無機質の瞳に感情を宿した。さっき迄は本能の赴くまま獲物を狩ろうとしていたが、今は明確に目の前のこの不気味で、底知れない人間に対する怒りと殺意に溢れ、必ず仕留めてやるという気迫の様なモノが芽生えていた。

 

 

黒蛇はシリカを襲った時の様に尻尾をしならせて鞭として扱い、佐天の頭上へと掲げ一気に振り下ろしてきた。

 

 

「····当たればヤバいね。当たれば····」

 

 

自分の胴体よりも遥かに太く、巨大な尻尾の鞭を佐天は軌道を完璧に読みこなし、電光丸が導いてくれる動きを阻害する事なく全身を程よく脱力させ、寧ろ刀が誘導してくれる動きに同調して身体をしなやかに無駄なく運用して回避及び跳躍して黒蛇の背後を取った。

 

 

緋色の両の瞳は黒蛇の背全体を映し、丁度首元あたりにうっすらと光が見えた。

 

 

「硬い鱗のほんの僅かな隙間部分····ソコが弱点で柔いのね·····」

 

 

弱点を看破した佐天は念力を両足に集中させ、一瞬だけの足場を作り上げ勢いよく蹴り電光丸を両手で握りしめ力と全体重を乗せて突き下ろし、その僅かな小さい弱点部分を精密に貫いた。

 

 

 

ズブゥゥッ······!!

 

 

 

「ギィシャアァァァーー!!!??」

 

 

 

深々と弱点とおぼしき部分に電光丸が突き刺さり黒蛇はまるで断末魔のごとき咆哮を上げ、漆黒の鱗は急激にその色を失って白く染めていった。

 

 

「·····やった?·····イヤ、違う····さっきの樹木みたいなのを斬った際には消滅していったのにコイツは消えずに変色した····何かがおかしい····?」

 

 

奇妙な変化に危険を感じ、急いで黒蛇だったモノから離脱すると電光丸で突き刺した部分を起点にして縦状に身体がひび割れてゆく。

 

 

「····蛇らしく脱皮でもするつもり?」

 

 

一切気を抜かずに電光丸を両手で握り、切っ先を向けて臨戦状態を保つ。佐天の深紅の眼に映ったのはパックリと裂けた首元の部分からナニカが蠢くのを捉えた。

 

 

白く染まった元、黒蛇だったモノから誕生したのは上半身が女性で下半身が黒蛇といういかにも異世界ファンタジーで出てくる定番とも言える怪物だった。大きさは普通のごく平均的な女性の体格で、頭髪全体が一見ウェーブ状のソバージュに見えるがそれは髪の毛ではなく、細く無数に蠢く蛇だった。

 

 

 

「確か弟のゲームにあったな···そう、メデューサ····だったっけ······?」

 

 

佐天は弟のゲームに出てきたビジュアルと名称を思い出しつつ、しっかりと相手を見据える。そしてメデューサ(もど)きは佐天とその遥か後方の太い樹木にもたれて意識を朦朧とさせている雪菜を見定めた。

 

 

佐天の眼にメデューサは怒りと殺意に満ちた顔を見せ、普通に人間の形の右手を牙の鋭い蛇へと変化させ、目の前の佐天ではなく、雪菜に狙いを絞りその蛇腕を異常に伸ばして襲ってきた。

 

 

「ジャアァァー!!」

 

 

深紅の瞳でいち早くメデューサの狙いを看破した佐天は雪菜を庇う様に直線上に移動し、ヤツの攻撃を両手で電光丸を支えて刀身の腹で受け止めた。

 

 

ガキィィンッ!!

 

 

(·····くっ!お、重いっ·····!?)

 

 

辛うじて食い止めたものの、黒蛇だった時と比べて普通の女性の体格に縮小した身体から放たれたとは思えない程の重く、殺意の籠った一撃だった。

 

 

桁違いの威力に、その場に踏ん張れ切れず、地面に靴裏を擦りながら後ろへと押しやられてしまう。

 

 

「····ぐうぅっ、うあぁぁっー!!」

 

 

佐天は電光丸の腹に押し込んでくるメデューサの蛇腕に念力を展開して咄嗟に右斜め上に振り払ってしのぐのに成功した。

 

 

「ハァッ、ハァッ····(なんて威力の攻撃····!まだ両手が痺れて····明らかに黒蛇の頃より格段に強くなっている·····んっ?あれっ?何だか万能感というか、無敵感が薄れてきてる!?)」

 

 

両手の痺れよりも深刻な事態が佐天涙子を襲い始めていた。敵が強く進化して危うい最悪のタイミングで能力の発動時間の限界がやって来てしまったのだ。更にまだ慣れない能力の発動状態での実戦を間を置かずに行ってしまったので脳細胞に負担がかかり、頭痛までもがおきていた。

 

 

ズキズキ「···痛っ!····や、ヤバいよねコレ···早く片をつけないと····よしっ!一気に攻めるっ!!」

 

 

能力発現の代償を抱えながら佐天は覚悟を決めて、残りの僅かな時間で一気に勝負に出た。

 

 

メデューサが今度は左腕を無数の蛇の形に変化させ佐天に手数で襲ってきた。

 

 

「ジャアァァー!!」

 

 

変化した無数の蛇腕は佐天に四方八方に枝分かれして向かってくる。それを薄れ始めている深紅の瞳で捉え、電光丸から導びかれる動きで閃光を疾らせ斬り裂き、僅かな隙間をしなやかな動きで突破し念力で地面と両足を反発させて高く跳躍。メデューサの背後へと回り込んで電光丸に全てを込めて一撃を振るう。

 

 

「てぃりゃあァァァー!!!決まれぇっ~!!」

 

 

何とか反応したメデューサは自分の脳天に振り下ろされる刀を右腕の蛇腕で防ぐ。

 

 

「····こ、のおォォォー!!!」

 

 

今の自分の全てを込めた渾身の一撃だった······だがっ!!

 

 

パキィィィッッー!!!

 

 

期待と希望虚しく、電光丸は真っ二つに折れ、砕けた······

 

 

「なっ、そんなっ!!?(まさかっ!もしかして最初の右の蛇の腕を刀身の腹で受けたあの時にっ!?)」

 

 

佐天は雪菜を狙った攻撃を電光丸の腹で受けたあの時に、既に道具の耐久値を越える致命的なダメージを与えられていたのに気づいた。

 

 

そして····遂に能力の発動も完全に消え両目は元の黒目に戻り、右手には折れてその機能を失い、骸と化した電光丸が力無く握られていた。

 

 

反撃する手段が失われ、最悪な状況となった現実の前に佐天は呆然として敵の前で棒立ちになってしまっている。

 

 

下半身が黒蛇のメデューサは卑しく、下卑た顔をして尻尾の先端から蜂の様な棘を剥き出しにしてその尖った先から紫色の毒液を滴らせて佐天に突き刺さそうとする。

 

 

「···えっ?あっ、あ"あ"ァァ····」

 

 

素の状態に戻り、ようやく目の前の魔物が自分に毒液を滴らせた尻尾の棘を突き刺そうとしているのに気づいたが、体力と気力を著しく失い頼みの電光丸も壊れ、佐天は絶望感に支配され逃げ出すことすら、おぼつかずに立ち尽くしていた。

 

 

だがっ············ドシュッ。

 

 

「ギィリィリィリィッ~!!??」

 

 

メデューサの右目に矛が突き刺さっていた。

 

 

メデューサの痛みを叫ぶ声に正気を取り戻した佐天は後ろを振り返ると、そこには呼吸を荒くし、満身創痍の身体を引き摺りながらも無敵矛を投擲した姫柊雪菜の姿があった····

 

 

「····雪菜さん!?そんな身体で···」

 

 

「ハァ···ハァ···さ、佐天さん····早く···こっちへ···」

 

 

ふらついて倒れそうになった彼女を佐天は素早く駆け抜けて支えた。

 

 

「···雪菜さん無茶しすぎです。···でもありがとう···」

 

 

「ハァ···ハァ···無事でなにより·····」

 

 

無理を押して動いた為か、とうとう限界を越えてしまい雪菜は再び意識を失う。

 

 

(蛇のヤツがジタバタしている内に早く此処を離れないと····)

 

 

メデューサは右目に突き刺さった矛を抜くと不気味な煙を吹き出して潰れた筈の右目が再生した。治った目で佐天と雪菜の逃げようとする二人の姿を見たメデューサは今度こそ逃すまいと両手を無数の蛇へと変化させ速く強く、大量の手数で二人の背後から襲ってきた。

 

「シィヤァァァー!!!」

 

 

メデューサの咆哮に思わず後ろを確認すると無数の蛇腕が二人の目前まで迫って来てた。

 

 

「···なっ!?くぅっ····(雪菜さんっ、ゴメンなさい。私やっぱり無能でした····せめて貴女だけでも······)」

 

 

絶対に逃れられないと悟った佐天は無駄と理解しながらも雪菜を守ろうとして庇い、身体を盾にしてメデューサからの襲撃を受けようとしていた。

 

 

メデューサは口を両端まで裂かさて歓喜の笑みをみせた·······

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドバアァァァーーーンンンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

猛烈な勢いで何か、硬く、重く、速く、強い衝撃が無数の蛇の両腕を両断せしめたっ!!!

 

 

 

「ギィッ!?ギィシャアァァ~~~!!!???」

 

 

 

メデューサは突然の事態に理解が追いつかず、混乱していた。

 

 

雪菜を抱えていた佐天も同様だった。訳もわからず目線をキョロキョロと(せわ)しなく動かし、現状を把握しようと躍起になってしまっていた。

 

「なっ·····何が起こったのっ!?」

 

余りに強い衝撃が放たれた為、辺り一面土埃が舞っていたが少し経つと落ち着いてきて何かの人影が確認出来た。

 

 

「はぁ~いィィ♪どうやらギリギリだったけどぉ、間に合ったみたいねぇ~♥」

 

 

佐天は思わず我が目を疑った。何しろ目の前にいる人間は年の頃は自分と同じ位で自分の元居た世界でのファッション····所謂ゴスロリの服を着用し、シリカと同じか、もしくばもう少し小柄な少女がその体格に不釣り合いで異様にデカく重そうな斧の様な武器を片手で担いでいたのだから······

 

 

「あっ、貴女は一体······?」

 

 

「ウフフゥ。初めましてぇ、私の名はロゥリィ・マーキュリー。断罪の神エムロイに仕えし亜神にして、今はマスターにも仕えし

【ルーラー】のサーヴァントよぉ。よろしくねぇ♪」

 

 

場違いな程に陽気に明るく、コジャレた感じで自己紹介する彼女に目を離せなかった佐天だった。

 

 

 

 




すいません、急遽12話でサーヴァント『ランサー』と記載してたのを、『ルーラー』に変更させて頂きました。後からアイデアが湧いて来たので誠に申し訳ありません。何時も楽しく読んで下さる皆様にはご迷惑おかけしますがどうかよろしくお願いします。


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17話 死神ロゥリィ

 

佐天、雪菜のピンチを救ったゴスロリ少女は自分を断罪の神エムロイに仕えし亜神にして、今はマスターにも仕えし【ルーラー】のサーヴァントと名乗った。

 

 

一体何の事やら皆目つかず、ロゥリィを凝視し続ける佐天だった。

 

 

突然横槍を入れられ、更に憤怒の形相を見せるメデューサはこの少女を先に始末する事に決め、口を大きく開き口内から魔力による熱閃を放出した。だがそれをロゥリィは振り向きもせずにハルバードを片手で軽々と振って熱閃を弾き返した。

 

 

「ギィィッ!?」

 

 

「···あらぁ?あなた、何かしたのかしらぁ···?ゴメンなさいねぇ~♪余所見してたから適当にあしらっちゃったわぁ。良かったらもう一度やって見せて下さるかしらぁ?」

 

 

わざとなのか、天然なのかは計り知れないがロゥリィ・マーキュリーはこの黒蛇から強く進化した魔物、メデューサ相手にすこぶる軽いノリで挑発気味に相手をしていた。

 

 

メデューサは先ほど断ち切られた両腕を再生し、今度は鋭くデカイ刃へと変化させ強く振り回しながらロゥリィに迫った。

 

 

「あっ!危ないっ!!」

 

 

雪菜を支えていた佐天が思わず叫んだ。だがそれも杞憂に終わる。ロゥリィはその巨大なハルバードを素早く振りかざし、メデューサの2本の刃を簡単に弾いて左腕を斬り下ろした。

 

 

「ギョワァァッー!!?」

 

 

進化した魔物メデューサの皮膚は黒蛇だった頃より更に硬度を増し、ちょっとやそっとで断ち切る等不可能だとそう自負していた。だが今、目の前のコイツは簡単に斬り割いてくる。仕返しに細切れにしてやる!そう考えたメデューサは身体をより最適なモノへと変化し始めた。

 

 

「ウッフフゥ···何か対策があるなら早くしさいなぁ。出来なかったら、直ぐにケリを着けちゃうわよぉ?」

 

 

戦いを楽しみ、それを尊ぶロゥリィはわざわざメデューサの再生と変化を待ち詫びていた。

 

 

メデューサは全身に魔力を展開して行き渡らせ、背中に4本の腕を生やし刃に変化させ、尚且つ細かい無数の蛇である頭髪を逆立ててロゥリィに挑もうとしていた。

 

 

「成る程、成る程····魔力を漲らせて力と速さと手数を増大させて挑んでくれるのねぇ♪良いわぁ····面白いからかかって来なさぁい。

遊んでぇ···あ・げ・る♥」

 

 

天然なのか、わざとなのか判別しにくい挑発を受けてメデューサが計6本の刃を一斉に振りかざしできた。

 

 

「ジャアァァーーーッ!!!」

 

 

凄まじい気迫と咆哮を伴ってロゥリィに刃を喰らわそうと素早く斬りつけて来るが当の本人は鼻唄混じりに超重量のハルバードを少女の細腕だとは思えない程の驚異的な膂力を発揮させて振り回し、その全ての攻撃を相殺していた。

 

 

その様子を目を見開いて見ている佐天はとにかく唖然として身を隠す事を忘れていた。

 

 

「ギッギッギイィィィー!!!」

 

 

自分の全ての攻撃を防ぐコイツは確かに驚異だが、所詮は人間。ほんの少し長引かせれば容易く息を切らし、音を上げ膝をつく····

そう、メデューサは考えた。

 

 

数分間、互いの刃と刃のぶつけ合いは続いた。一体、何撃刃を振るっただろうか···?

そしてようやくメデューサは気づいた···否、気づかされた。

 

この少女は全く息を切らせず寧ろ一合毎に速く重く斬擊を強め、たった2本の腕で自分の6本の腕の刃と敢えて互角に撃ち合って楽しく遊んでいるだけだと言う事実にっ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!!

 

 

メデューサは目の前の少女の姿をした人間が自分を遥かに凌ぐ怪物として映っていた。

 

 

そして、防ぐだけでなく何時でも簡単に自分の首を、命を刈り取れる·····!?そう理解したメデューサは唐突に全身をしならせて全力でバックステップをしてロゥリィの斬擊から離脱する。

 

 

「あらぁ?逃げちゃう訳ぇ?いけない娘ねぇ!!」

 

 

追撃しようとしたロゥリィにメデューサは6本の腕、無数の頭髪の蛇、そして口からの魔力の熱閃を無数に一斉射出し遠距離からの砲撃でロゥリィに対抗した。

 

 

凄まじい熱閃を雪菜に負けず劣らずの跳躍力で難なく回避し、その勢いのまま超重量のハルバードをブーメラン、もしくばフリスビーの様に軽く投げ飛ばした。

 

 

「そぉっれっ!」

 

 

ハルバードは弧を描いて回転し、一週半程廻って、メデューサの死角の無防備な背中を右肩部分を中心にして突き刺さった。

 

 

「ギョオォォー!!·······ギッヒヒィッ····」

 

 

右肩に掛けてハルバードは深々と刺さりメデューサも悲鳴を上げるか直ぐ様下卑た卑しい笑みを見せた。

 

 

メデューサは突き刺さったハルバードを増やした腕全てを使って引き抜き、傷も煙を吹き上げながら再生させてロゥリィの前にニジリ寄った。

 

 

メデューサは6本の腕でロゥリィのハルバードを構えて得意気な笑みをする。

 

 

「あらぁっ?もしかして私が強いのはそのハルバードのお陰と思って自分の物にしたのかしらぁ?まあ、否定もしないけどねぇ~♫」

 

 

自分の武器を奪われても、一切の焦りや恐れを見せずに余裕ぶるこの少女の姿をした怪物を一気に真っ二つにしてやるっ!!····そう考えているとロゥリィは明ら様な挑発をした。

 

 

「どうしたのぉ····?怖がらなくても良いから使ってご覧なさいなぁ···♥」

 

 

この挑発に乗ってメデューサは残っている全魔力をフルパワーで解放し、首、肩、腕、背中、腹、蛇の下半身全てを二周り程大きく太く変化させ、筋骨隆々となって血管を浮き彫りにした。明らかなパワータイプとなってハルバードを右側へ天高く突き上げ全身全霊の一撃を振り下ろそうとした。

 

 

その構えは偶然にも日本の薩摩藩(現鹿児島)に伝えられている剣術、示現流を連想させた。

ロゥリィは一切の防御の構えも見せず、回避する気配すら感じさせなかった。

 

 

「ジャアァァァーーーッ!!!」

 

 

裂帛(れっぱく)の気合いと咆哮と共にハルバードが振り下ろされるっ!!

 

 

 

   ドッバアァァァーンッッ!!!

 

 

 

 

 

    ・・・・・・・・・・

 

 

 

 

観戦モードになっていた佐天は思わず目を閉じた····そして余りの静寂さに恐る恐る目を開き、瞳に映った光景に我が目を疑った。

 

 

メデューサが全魔力、全膂力を込めた最強最大の痛恨の一撃をロゥリィは涼し気な顔をして片手で受け止めていたのだ。

 

 

「ギグゥッ···グッグッ、ギリィィッ!!?」

 

 

「ほらほらぁ?それで全力ゥ···?もっと頑張りなさいなぁ···」

 

 

メデューサは歯を食い縛り、6本の腕に太い血管の筋が浮き出す程の限界まで全力を込めているのが浮き彫りになっている。

 

 

必死になってハルバードを押し込もうとしているが一向にロゥリィの体はびくともしなかった。

 

 

「それが限界の様ね···それじゃぁ、そろそろコチラのターンかしらぁ。私が素手でもイケちゃうって事を教えてあげるわねぇ」

 

 

ロゥリィは空いてる右腕でがら空きになっているメデューサの左の頬を拳で殴った。

 

 

「そぉれっ!」 バキィッ!!

 

「グボォッ!!?」

 

 

鋼鉄以上の硬度を持つメデューサの左頬が痛々しくへこんだ。痛みとダメージに驚き、思わずハルバードを落とした。

 

 

「それじゃあ····もっと行くわよぉ♥」

 

 

右の一発を皮切りにロゥリィの素手による撲殺劇が始まった。

 

 

「はぁいっ!」 メキィッ!!

 

「ギャウッ!?」

 

「ほいっ!次ィ♪」 ボグゥッ!!

 

「ゲヒャアッ!!?」

 

 

ワンテンポ置いてのパンチが徐々に速まり、そしてそれは猛烈な嵐の様なラッシュ(連打)となってメデューサに襲いかかって来た。メデューサは踏ん張って何とか反撃に転じようとするがロゥリィの拳の弾幕の前に成す術が無くほぼ無抵抗のままで殴られ続けた。

 

 

「うふふっ···あははっ!!ムダよぉ♥無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーー!!!!!!!!!!」

 

 

 

嬉々とした笑顔と歓喜の掛け声を上げて両拳のラッシュ(連打)が容赦無く襲いかかり、全く再生が追いつかなかった。メデューサの顔面は深くへこみ、ひしゃげ、原形を止めるのは困難になっていった·····

 

 

一向に止まないラッシュ(連打)の嵐の前にメデューサは薄れ行く意識の中、最後の思考をする。

 

 

(あ"あ"っ···こっ、コイツはぁ···人間の幼い小さな少女の姿をしているがそれは大きな間違いだあァァ~!!

コイツは····コイツは我の命を笑いながら摘み取りにやって来た【死神】だァァー!!!)

 

 

メデューサの潰れ行く眼球に映るは、奇妙な服装で年端の往かぬ少女から不釣り合いに漂う妖艶(ようぜつ)な雰囲気を身を纏い、無邪気な愛らしい笑みを浮かべる死神の姿だった。

 

 

メデューサは初めて【恐怖】という感情を知り、そして咆哮ではない明らかに怯えと絶望の悲鳴を最後に上げてその骸を残さずにこの世から消滅した······

 

 

消え去った場所には黒い結晶の様な物が落ちていた。

 

 

「はぁ~い、お死まいっ♥」

 

 

 

ロゥリィはあれだけのラッシュの後にも関わらず、一切の息を切らさず

まるで目の前の小さな羽虫を潰した程度の感覚で殺り終え、両手をはたいてハルバードを担ぎ、軽い足取りで呆然となっている佐天に近づいた。

 

 

 

「はぁ~い、待たせて悪かったわねぇ。何しろ戦いの時はどうしても血が滾っちゃうのよねぇ····」

 

 

明るく陽気に物騒な事を言う目の前のゴスロリ少女に佐天は何も言えず、その姿をひたすら眺めていた。

 

 

そんな佐天にロゥリィは懐を探って試験管の様な物を取り出した。

 

 

「はいこれ。マスターから預かった貴重な毒にも効く『万病薬』よぉ。早くその娘に飲ませてお挙げなさいなぁ」

 

 

 

「えっ···あ、はい····」

 

 

彼女からは悪意の類いは一切感じられなかったので佐天は素直にその薬を受け取って、さっきの水辺へ移動し、掌に水を掬ってその薬と一緒に意識を失っている雪菜の口へと運んだ。

 

 

「·····ゴクッ·······スゥ···スゥ···」

 

 

水と一緒に薬を飲んだ雪菜の顔色はたちまち良くなり、呼吸音も静かで穏やかとなって佐天は心から安堵した。

 

 

「よっ、良かったぁぁ~!!一時はどうなるかと····あっ、スイマセンまだお礼を言ってませんでしたね?私の名前は佐天って言います。本当に危ない所を助けて下さりありがとうございました」

 

 

「ウッフフ····礼には及ばなくてよぉ♪私はマスターの命によって、この地へ降り立って貴女達を助ける様に命令····いえ違うわね。頼みでやって来たのだからぁ」

 

 

「マスター····って人が私達を···?何故この異世界で私達の事を知ってるんですか?どうしてこの場所で危ない目に合ってるってわかったんですか!?」

 

 

「う~ん····マスターから許可されている範囲の説明はしてもいいんだけどぉ···どうせならドラちゃん達と合流してから説明した方が手間が省けて助かるからそれで良いかしらぁ?」

 

 

「えっ!?ドラちゃん·····って、ドラさんの事まで御存知何ですかっ!?」

 

 

「まぁ知ってはいるけどぉ、実際に会うのはこれが初めてになるわねぇ」

 

 

様々な疑問が頭の中で渦巻き、佐天は身体をよろめかして地面に座り込んだ。

 

 

「····あっ、あれぇ?何だか身体が重い·····」

 

 

「貴女、自分でも気づかない程疲弊しているのよぉ。ドラちゃん達が助けに来る迄今はゆっくり休みなさぁい。大体マスターが言うには後3時間足らず位で来てくれるって。もう少しの辛抱よぉ。私も愛しのドラちゃんに会えると思うと胸が高鳴るわぁ~♥」

 

 

佐天は彼女の口ぶりからドラえもんに対して並々ならぬ好意が有ると感じ、様々に質問したい気持ちを堪えてシリカ達が来るのを待った。そして自分でも認識出来なかった疲れが彼女の身体を包み込んでウトウトして、何時しか眠り込んでしまった。

 

 

「うふふっ、可愛い寝顔ねぇ····暫しの休息を堪能なさぁい。私が二人をちゃぁんと守ってあげるからぁ」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

佐天、雪菜の二人がロゥリィによって危機を脱していた頃、ドラえもん、シリカ、ミニドラ、ピノの四人は訪ね人ステッキから導き出された方角へと空から移動していた。

 

 

岩山や草の生えている似たような景色が続く。すると、少し離れた先で何かが吠えて騒いでいる声が聞こえてきた。

 

 

「んっ?何だろう···?この先で何か獣の吠えている声が聞こえる」

 

 

ドラえもんはポケットから只の望遠鏡を取り出してその場所を覗いて見た。

見えた先には中型犬位の大きさの牙がサーベルみたいにとび出している狼が複数で何かを囲って喚いている様子だった。

 

 

 

「ドラえもんさん何が見えてるんですか?」

 

 

気になったシリカがドラえもんに尋ねた。

 

 

「うん、これで見てごらん。サーベルタイガー····イヤ、サーベルウルフかな?とにかくあの牙の大きい狼達が複数で何かを囲んで吠えているんだ」

 

 

シリカが手渡された望遠鏡を覗き込むと、そのサーベルウルフ達は囲んでいた何かが逃げたので一斉に追い込みをかけている様子が見えた。

 

 

「ああっ!ドラえもんさんとても小さなウサギ····の様な耳をしている生き物が血まみれになって襲われてます!!私、助けに行ってきますっ!!」

 

 

「待ってシリカちゃん。確かに助けたい気持ちは解るけど、これは異世界であってもちゃんとした自然の営みなんだ。あのサーベル····ウルフ達も生きて行くのに必死で命を繋ぐ獲物を刈っているだけなんだよ」

 

 

「ドラえもんさん····た、確かにそうなんですけど····その····私は····偽善かも知れないけど助けたいです·····駄目ですか···?」

 

 

瞳を潤ませてドラえもんに懇願する····ミニドラとピノもシリカの想いを同じくしてドラえもんにお願いするかの様に鳴き喚いた。

 

 

(はぁ~やれやれ。優しい所はのび太くんやしずかちゃん達にそっくり何だよなぁ·····)

 

 

「····しょうがないなぁ····わかったよシリカちゃん。助けてあげよう。但し、あの狼達も生きて行く為に襲ってるだけだから傷つけないようにしたい。だから全部僕に任してね!」

 

 

「ドラえもんさん····ありがとう!」

 

「ドララッ♪」「クピピッ♪」

 

 

シリカは晴れやかな笑顔を見せ、ミニドラとピノも嬉しそうに一緒になって喜んでいる。

 

 

三人のお願いに折れたドラえもんはポケットから道具を取り出した。

 

 

「桃太郎印のきび団子ぉ~!これを食べた動物はどんなに獰猛でもすぐに大人しくなって仲良くなれるんだっ!それじゃ····それぇ~!!」

 

 

襲われている場所まで急行し、ドラえもんは桃太郎印のきび団子を幾つかデカイ牙の狼達の口に目掛けて放り投げた。

 

 

「ギャウッ!!ガルルっ!!パクっ!?

ゴックン······ギュルル····クゥンクゥン~♪」

 

 

興奮して血走った眼はすっかり穏やかな瞳になり、激しい気性は鳴りを潜め、きび団子を食べさせ空に浮かんでいるドラえもんを嬉しそうに尻尾を振りながら見上げた。

 

 

 

肝心の襲われて血まみれになっているウサギの様な生き物を見てドラえもんは驚いた。

 

 

「ややっ!これは···この生き物はポケモン!?確か····イーブイ···だったけ?何だってこの異世界のこんな場所に····もしかしてピノちゃんと同じ様に保存されていたのを何かの原因であの地下の研究所から目覚めて逃げてきたんだろうか····?」

 

 

「ドラえもんさんっ!この子、凄く傷ついてて死んじゃいそうです。何か道具はないですかっ!?」

 

 

シリカの必死の叫びに我に帰ったドラえもんは急いでポケットからタイム風呂敷を取り出し、たちまちこのイーブイというポケモンの傷をケガをする前の時間に戻して治した。

 

 

少し意識を失っていたが、ほんの数秒で気がつき···

 

 

「ブッ···ブイッ?·······ブイブイブイッー!!!」

 

 

少し周りを見渡すと目の前にはついさっき多数で襲って来たサーベルウルフ達の姿があり、それを見て酷く慌てて逃げ出そうとした。

 

 

その様子を見たミニドラとピノはイーブイの前に降り立ち、何やら事情を説明してイーブイの怯えて慌てる気持ちを落ち着かせてくれた。

 

 

事情を把握したイーブイはすっかり気を許して二匹にすり寄って頬擦りをしていた。

 

 

「ブイブイ~ッ♥」

 

 

「良かったぁ~ありがとうございます、ドラえもんさん。それに二人もこの子を落ち着かせてくれてありがとうね」

 

 

「ウフフ。これぐらいオヤツのどら焼き前さっ!」

 

「ドララッ♪」「クピピッ♪」

「イブイッ!」「ギャオギャオッ!」

 

 

シリカはすっかり大人しく従順になったサーベルウルフとイーブイの頭をなぜてご満悦になっていた。

 

 

「クゥンクゥン~♪」

 

「ブイブイ~♪」

 

 

「うわぁ~♪さっきまであんなに狂暴だったのが、こんなに大人しくなってぇ····牙はちょっと怖いけど可愛い~!!えっと、この子もその····例のポケモンのイーブイって言うんですか?」

 

 

「うん、そうなんだ。これは僕の推測だけど、恐らくさっきの地下にあった研究施設みたいなのはポケモンの為の施設みたい。そして、ミニドラはポケモン達のお世話やサポートにまわる為に連れて来て多分一緒に保存されてたんだろう····あくまで僕の勝手な推測だけど····」

 

 

「ドラえもんさんの未来の世界のポケモンの研究施設が何でこの異世界にあったんでしょうか·····もうわからない事だらけですね····」

 

 

「まあ、でも僕らがやるべき事は依然変わりない。はぐれた佐天ちゃんと雪菜ちゃんと一刻も早く合流し、みんなと一緒に元の世界へ戻る手段を探し出す!だから頑張ろうシリカちゃん」

 

 

「はいっ、頑張ります!それでは私のワガママで遅れてしまいましたから急いで二人を探しに·····」

 

 

シリカがそう言い終わろうとした瞬間·····

 

 

 

「グルオォォォーッッ!!!」

 

 

 

凄まじい獣の咆哮がこだました。

 

 

 



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18話 進化と覚醒

 

遥か後方から鳴り響いた咆哮に周囲の空気は震え、皆は一斉に振り向くと小高い岩山の上に白く巨大で額に三本の角を生やし、口からサーベル···というよりもどこか刀剣類を思わせる立派な二本の牙を持つ巨狼がドラえもん達一行を殺気に満ちた眼差しで睨んでいた。

 

 

サーベルウルフ達はその姿に怯え、どこか悲しそうな仕草をして忙しなくしている。

 

 

「あ、あれってもしかして君達の···?」

 

 

ドラえもんがサーベルウルフ達に尋ねるとウルフ達は悲しそうにドラえもんに訴える。

 

 

「····ギャウ。ガウガウッ、グルウッ·····」

 

 

「····フムフム。どうやらあの巨大な白いサーベルウルフはこの子達のボスで、少し前から様子がおかしくなったんだってっ」

 

 

「···あの、ドラえもんさんこの子達が何を言ってるのか解るんですかっ?」

 

 

「うん、まあね。翻訳コンニャクを食べていたから会話が出来るんだ。····おっと、そんな事よりもこの子達が言うには3日前当たりから空に奇妙な穴が開いて、ソコから気味の悪い光が洩れだしてその光に当てられてからボスの様子がおかしくてなって狂暴になってこの子達は仕方なく逃げて来たと言っている」

 

 

「空に奇妙な穴···ですか···?」

 

 

「正直何の現象なのかは皆目つかない。けどただ、言えるのはあのボスの狼はとても狂暴になって仲間に対して危害を平気で加える程乱暴になっているってのと、どうやら次の標的が僕らになっているのがわかったんだ。シリカちゃんここは無駄に応戦するよりも空を飛んで逃げよう!」

 

 

「わかりまし···ドラえもんさん後ろっ!!?」

 

 

シリカにとにかく逃げる様に言っているとドラえもんの背後に例の白く巨大なサーベルウルフが迫っていた。

 

 

「なっ!?あの距離を一瞬でっ!?」

 

 

「ドラえもんさーんっ!!」

 

 

シリカが叫び、ドラえもんは余りに突然の強襲に反応出来ずに目を閉じた。だが、何の衝撃もやってこず恐る恐る目を開くとそこには、三頭のサーベルウルフ達が身体から血しぶきと悲鳴を上げている様子が映った。

 

 

白いサーベルウルフの刀剣の様な牙の餌食になる寸前に三頭のサーベルウルフ達が盾となってドラえもんを庇ったのだ。

 

 

「ギャインッ!」 

 

 

背中を牙に貫かれ大地に叩きつけられたサーベルウルフ達の身体からおびただしい血が地面に染まってゆく。

 

 

「そ、そんな····」

 

 

シリカは両手で口元を押さえて目の前の光景に顔を青くし、ドラえもんは目を見開いて傷ついたウルフ達を眺め、歯を食い縛った。

 

 

「み、みんな····僕が強制的に道具で従わせたからこんな事に····くっ、許さない!いくら原因不明の現象のせいで狂っているとはいえ、自分の仲間を手にかけて平然としているお前なんか僕がやっつけてやるっ!!」

 

 

全身に闘志を漲らせてドラえもんはポケットから道具を取り出し、装着した。

 

 

「くらえー!!『空気砲』だぁー!!」

 

 

ドカーンッ!!

 

 

黒い筒から空気の塊の砲弾がボスウルフの顔面に直撃した!!

 

 

····だがっ、ボスウルフは口から生やしている牙で空気の砲弾を切り裂いて防いだ。

 

 

「なっ!空気砲の空気弾を正面から切り裂くなんて···なんて頑丈な牙なんだ···だったらこの電光丸で勝負だっ!!」

 

 

あらかじめフエルミラーで増やしておいた予備の電光丸を握り構えた。

 

 

ボスウルフはその鋭い牙の刃をドラえもんに向けて正面から突進してきた。

 

 

「でやぁー!!」 「ガルヴゥッ」

 

   

     ガキィンッ!!

 

 

刃と刃がぶつかり合い火花が散った。ボスウルフは力任せに強引に押し進み、ドラえもんは電光丸からの自動動作で身体を捻ってこれをさばき、カウンターでボスウルフの後頭部を狙った。

 

 

だがその攻撃に素早く反応し、ボスウルフも身体を捻って回避して距離を取った。

 

 

「は、速いっ···!!」

 

 

電光丸に内蔵されているコンピューターは相手の動きを瞬時に分析して、握っている人物の身体を半ば強制的に効率よく、効果的に動かせて敵を討ち果たす二十二世紀の近接戦用の道具だが、この目の前のサーベルウルフのボスは容易く電光丸の素早い反応を敏感に感じ取って攻撃をかわした。

 

 

その事実にドラえもんは頭の中で今までの大冒険の経験からどの様に対処するかを導き出していた。

 

 

(こいつ、とんでもない反応速度で電光丸の攻撃をかわした···!なら先ずは奴の動きを止めるか、こちらも道具で素早さを上げるかしないとマトモに相手出来ないぞ···)

 

 

ボスウルフはドラえもんを威嚇し続けゆったりと周りを行き来し、攻撃に移る距離とタイミングを計っていた。

 

 

そこへシリカがドラえもんの隣へ逆手で真剣のダガーを構えてやって来た。

 

 

「シリカちゃん!?」

 

 

「ドラえもんさん、わ、私も戦います!何時までも怯えていたって何も変わらない····。だから···一緒に戦わせて下さい。お願いします!」

 

 

巨大な黒蛇、巨大な角ウサギ、そして巨大な白いサーベルウルフと遭遇し、弱気になっていたシリカだが、勇気を奮い立たせてドラえもんの隣に立った。

 

 

その姿にドラえもんはかつての大冒険で普段はバカでドジでマヌケでのろまのおっちょこちょいの意気地無しのアンポンタンだが、友を守り助ける為、勇気を振り絞って立ち上がって行動する親友(のび太)の姿が重なって見えた。

 

 

 

(フフフ···いくら何でものび太くんの姿を重ねたらシリカちゃんに悪いな····プー、クスクスッ)

 

 

つい、微笑ましく笑ってしまう。

 

 

「うんっ、わかった!それじゃ一緒に戦おう!」

 

「はいっ!頑張ります!!」

 

 

シリカの姿を見たボスウルフは更に警戒心を強め、様子を伺っていた。

 

 

「私が先に仕掛けます。ドラえもんさんはその隙を狙って下さい」

 

「うん!わかった。任してっ!」

 

「お願いします、ふぅー····てりゃあーっ!!」

 

 

ソードスキル発動のエネルギーをダガーに込めながらシリカは素早く駆け出した。

 

 

ボスウルフはこれに反応して、シリカに刀剣の牙を向けて襲いかかってくる。その動きを読んでいたシリカはソードスキルを発動させた。

 

 

「サイド・バイト!!」

 

 

ダガーが光輝き、スキルが発動された。シリカは半強制的に滑らかな動きに変化してボスウルフの身体の右側面へと移動し最初の一撃を入れ、その流れのまま、Uターンの動きでボスウルフの後方から今度は左側面へとダガーの一撃を入れた。

 

 

「ギャウワッ!?」

 

 

普通(・・)に素早いシリカの動きから一種の『型』の動きへの急激な変化に、さしものボスウルフも戸惑い反応が遅れ、両サイドからのダガーの2連撃をマトモに喰らった。

 

 

ドラえもんはその隙を逃さずポケットから取り出した『瞬間接着銃』をボスウルフに撃ち放った。

 

 

「これならどうだっー!!」

 

 

ビュッ、ビュッ!ドロォ~ンッ!!

 

 

「グルガァッ!??」

 

 

ボスウルフの身体に瞬間接着銃がヒットし、取り餅の様なネバネバした液体が絡みつき動きを封じる事に成功した。必死で抜け出そうと、もがいているが無駄だった。

 

 

すかさずシリカはトドメの為のソードスキルを発動する。

 

 

「最後はこのスキルで····えっ!?」

 

 

シリカがトドメのソードスキルをボスウルフに放とうとするが、そこへさっきのソードウルフ達が立ち塞がり、何か懇願するかの様に喚き出した。

 

 

実はシリカはミニドラに頼んでひみつ道具でソードウルフ達の治療を頼んでいたのだ。ミニドラはポケットから『なんでもキズバン』を取り出してウルフ達の傷を治した。そして回復してドラえもん達の戦闘に気がつき、トドメを刺されそうになっているボスの命を助けて欲しくてシリカの前に立ち塞がったのだ。

 

 

「えっと····ど、どうしましょうか····?ドラえもんさん····?」

 

 

シリカはオロオロと困り顔になってドラえもんに答えを求めた。そこにミニドラがドラえもんに何やらアドバイスをする。

 

 

「ドララ、ドラァ·····」

 

 

「フムフム····あっ!成る程ぉ~その手が合ったかっ!!」

 

 

「えっ!?何々?なんてミニドラさんは言ってるんですか?」

 

 

シリカが困惑して尋ねるとドラえもんはこう答えた。

 

 

「ミニドラが言うには、ウルフ達の話しによると、元々あの白い狼はリーダーとして立派な狼だったんだって。そこを奇妙な光で狂暴になっただけだから、タイム風呂敷で狂暴になる前の優しいリーダーだった時に時間を巻き戻してやればいいんだよ!」

 

 

「あっ!そうか!あの例の風呂敷で元の普通だった時に戻すんですね!良かった!!」

 

 

シリカはホッとして思わず笑顔になった。

 

 

「よーし!そうと決まれば早速···」

 

 

ドラえもんがポケットからタイム風呂敷を取り出そうとしていると瞬間接着銃で身動きの取れないボスウルフはその口を大きく開いて咆哮を吐き出した。

 

 

「グルオオオォォォーーー!!!」

 

 

けたたましい咆哮が周囲に鳴り響き、ドラえもんとシリカはその声に思わず耳を塞ぐが、一瞬強い眩暈を感じて頭がグラグラした。

 

 

「な、なんて雄叫びなんだっ!目の前が···回るぅ~···」

 

 

「くっ、立って居られない····!?」

 

 

耳を塞いで尚も咆哮が頭の中を揺らし、両膝を地面について耐え忍ぶ。

 

 

意識が朦朧とする中、ボスウルフに視線をやるとみるみる内にボスウルフの身体のアチコチから刃が生えて行き、ボスウルフの顔の両端から新しい顔が生まれ、まるでケルベロスを連想させる姿となった。

 

 

背中、四本足の関節部分から刃が飛び出し、爪と角と牙は益々凶悪な形に変化した。3つの顔の口からは涎を垂れ流してドラえもん達を睨んでいた。

 

 

敢えて今のこの形態を呼称するならブレイドケルベロス(刃を持つ地獄の猛狼)と言った感じに進化したボスウルフは3つの口から炎を吐き出し、粘着液を容易く溶かして自由を取り戻してしまった。

 

 

「な、なんてこった····あんな訳のわからない姿に成長···いや、進化するなんて····奴を元の姿に戻したいけどあれじゃ、大人しく風呂敷を被らすのは難しいぞ····」

 

 

ドラえもんはボスウルフの変化に驚愕し、シリカは震えながらも必死で立ち上がって心を強く保ち、ダガーを構えた。

 

 

「ドラ、ドララッ!!」

 

「クピ、クピピッ!!」

 

「ブイ、ブブイッ!!」

 

 

そんな二人の姿にミニドラ、ピノ、イーブイの3匹達はまるで自分たちも一緒に戦う、だから負けないでっ!····と励ましているかの様にシリカには聞こえた。

 

 

「ははっ···うん!ミニドラさん、ピノ、えっと、イーブイ···だったけ?みんなありがとう···私、負けないよっ!」

 

 

暖かい安心感がシリカの心を包み、身体の震えが止まる。····するとシリカの中で唐突に何かが繋がった感覚が芽生えた。

 

 

(えっ····なに、この感覚····何だろう。まるでSAO時代とALOの世界でピナと想いが繋がっていた時みたいな不思議な感覚·····ピノとイーブイの想いと情報が頭に流れ込んで来る····)

 

 

一秒にも満たない時間でシリカは二匹の能力を、技を知り、理解した。

 

 

「·····うん解ったよ。ピノ、イーブイ···一緒に···行こう!」

 

 

「クピィッ!」「ブイブイッ!」

 

 

 

シリカの中で何かが芽生え、覚醒した······

 

 

 

ブレイドケルベロスに進化したボスウルフは全身から飛び出した刃を広げ、ドラえもんに襲いかかろうとした。

 

 

「わっー!!よーしだったらコッチはあの道具で···」

 

 

だがっやはり内心焦っているため、出て来るのはガラクタばかりだった。

 

 

「何で僕は何時も肝心な時にこうなっちゃうんだー!!」

 

 

ブレイドケルベロスが全身の刃の切っ先を向け動こうとする瞬間····

 

 

「ピノっ、こおりのつぶて!!」

 

「クッピィー!」

 

 

シリカはフリーザーこと、ピノに指示して『技』を出させた。

蒼く涼やかな両翼から氷の礫が生成され、ブレイドケルベロスの目と鼻に直撃し出鼻を挫いてたたらを踏ませた。

 

 

「グルガァァ~!?」

 

 

ダメージこそ大した事は無いがいかに魔物といえど不意討ちで目鼻に攻撃されれば隙が出来る。その間を逃さずにシリカは今度はイーブイに指示を飛ばした。

 

 

「イーブイっ!でんこうせっかっ!!」

 

 

「ブイブイブイッー!!」

 

 

不意討ちを喰らって、たたらを踏んでいる所にイーブイが高速で体当たりを顔面に喰らわし、その隙をついて更に追い討ちをかける為、シリカは二匹に指示を出している間にダガーにエネルギーを溜めてソードスキルを発動させ、駆け出した。

 

 

「でやぁー!トライ・ピアース!!」

 

 

トライ・ピアース。本来は鎧の合間を縫う様に3箇所を突き刺す短剣のソードスキルで今回相手の身体のアチコチに刃が生えてきているのでその隙間を狙ってシリカは放った。

 

 

ズガッズガッズガッ!!

 

 

「グガアァァーッ!!」

 

 

 

見事、魔物の刃の隙間に命中させてマトモなダメージを与えた。

 

 

攻撃を命中させたシリカは直ぐ様身体を跳躍し、宙返りさせてその場を鮮やかに離れ、ドラえもんの側に降り立った。

 

 

「す、すごい···しっかりと連携してあの狼を翻弄しているぞ。そしてシリカちゃんも凄いぞっ!」

 

 

「ありがとうドラえもんさん。今の内に何か道具を出して態勢を整えて下さい。そして何とか動きを弱らせてタイム風呂敷で元の狼に戻してあげましょう!」

 

 

「うんっ!わかった。任せてっ!よーしミニドラ、僕達も負けていられないぞっ!」

 

 

「ドララッ!」

 

 

少しの間見とれていたドラえもんとミニドラは我に帰り、シリカの作戦を成功させる為の打ち合わせをする。

 

 

「よし、ミニドラ。僕はシリカちゃんと一緒に道具を使って攻撃を仕掛ける。その間お前はタケコプターで上空から待機して、決定的に大きな隙が出来たらこのタイム風呂敷を被らせるんだ。お前なら小さいから隙を伺いやすからね。それじゃよろしく頼むよミニドラ!」

 

 

「ドララッター!!」

 

 

ドラえもんとミニドラは作戦どうり動き始めた。ミニドラはタケコプターで上空から待機して、ドラえもんはポケットから『ひらりマント』と『ころばし屋』に『オモチャの兵隊』、『ホームミサイル』そして『ラジコンロボ』を取り出しセットし再び、空気砲を左手に装着、右手に電光丸を握り、ひらりマントを装着して準備を整えた。

 

 

「ありがとうシリカちゃん、これでバッチリ、レディ・パーフェクトリー(準備は完全に整った)だよっ!みんな一緒に頑張ろう!」

 

 

「はいッ!それじゃ···みんな行くよ!!」

 

 

 



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19話 亜種聖杯大戦

ご意見・ご感想あればをよろしくお願いいたします。



ドラえもんはひみつ道具をフル装備し、シリカはピノ、イーブイと共に臨戦態勢をとった。ミニドラはドラえもんの指示に従いタケコプターで上空に待機して渡されたタイム風呂敷を持って大きな隙が出来るタイミングを伺っていた。

 

 

先程のシリカ達の連携プレーに不覚をとったブレイドケルベロスはシリカ達に狙いを定め、3つの口からそれどれシリカとピノとイーブイ達三人に狙って火炎を吐いた。

 

 

「ゴバアァァァー!!!」

 

 

それを読んでいたドラえもんはシリカ達の前に掛けて行き、装着しているひらりマントを身体の前面に広げ、火炎を反射させた。

 

 

「ひらりマントォー!!!」

 

 

火炎がブレイドケルベロスに跳ね返り、自ら吐いた火炎が身体を包み込んだ。

 

 

「グギイィィ~!?」

 

 

まさか自分が放った火炎が己に帰ってくるとは思わず、無防備に喰らい驚いている。その隙を逃さずシリカとドラえもんは魔物の周囲に回り込んで連携をとった。

 

 

「ピノッ、こおりのつぶて、イーブイはスピードスターを奴の顔面に放ってっ!!」

 

 

「クピピッ!」 「イブイッ!」

 

 

ピノは両翼から氷の礫を生成し、イーブイは身体から星型のエネルギー弾を無数に生成して撃ち放ち、シリカもダガーにエネルギーを溜めつつ携帯していたショックガンをブレイドケルベロスの顔面に狙って撃った。

 

 

それと同時に魔物の後ろに回り込んだドラえもんは左腕に装着した空気砲とラジコンロボ、ポケットからホームミサイルをセットして同時攻撃を展開する。

 

 

「これならどうだっー!!」

 

 

ピノ、イーブイ、シリカ、ドラえもんの一斉攻撃が魔物に容赦なく降り注いだ。

 

 

ブレイドケルベロスの右顔面にピノの氷の礫が、真ん中にシリカの撃ったショックガンが、左顔面にイーブイのスピードスターが、斜め後方からドラえもんの空気砲とラジコンロボの特攻とホームミサイルが見事命中し、堪らずブレイドケルベロスは背中に生やした翼刃で防御態勢をとった。

 

 

唯一、無防備な腹にドラえもんがあらかじめセットし、命令しておいたオモチャの兵隊が潜り込んで一斉掃射。不意討ちを喰らってのけ反り、そこをころばし屋が追い討ちをかけて見事に転ばした。

 

 

だがっ、ブレイドケルベロスは翼刃を広げ一旦、空中へ逃れようとする。それを読んでいたドラえもんとシリカがコンビネーションを組んで近接攻撃を仕掛けた。

 

 

「くらえっ、名刀電光丸ー!!」

 

 

タケコプターで上空からドラえもんが電光丸を振りかぶった。

 

 

「はぁーっ、ファッド・エッジッ!!」

 

 

シリカはジャンプしてブレイドケルベロスの腹に狙いを定めて短剣で4回突き刺す高速4連撃のソードスキルを放った。

 

 

シリカのソードスキルの4連撃が無防備な腹に見事に決まり、続けてドラえもんの一撃がブレイドケルベロスの後頭部に命中、衝撃に耐えられずに地面に叩きつけられて倒れた。

 

 

「よしっ!ミニドラ今だーっ!タイム風呂敷を被せるんだっ!!」

 

「ドララッー!!」

 

 

ドラえもんの指示で上空にて待機していたミニドラがタケコプターで全速力で地面に伏せっているブレイドケルベロスに風呂敷を向けて突進して行く。

 

 

だが突然ブレイドケルベロスの背中がやたら不気味にでこぼこと蠢き、奇っ怪な動きを見せる。

 

 

「あっ!ミニドラさんだめーッ!!」

 

 

それに一瞬早く気づいたシリカが咄嗟に駆け抜け、ミニドラを両手で羽交い締めにして止めた。

 

 

ブレイドケルベロスの背中からまるで剣山のように細く長い刃が皮膚を貫いて大量に飛び出し、まるでロケットミサイルを思わすように根元の部分から火を吹いて一斉発射されたのだっ!!

 

 

 

危険を察知したドラえもんは慌ててみんなに呼び掛ける。

 

 

「なっ!?シリカちゃん、みんなぁー!!僕の後ろに集まってーっ!!!」

 

 

それを聞いたシリカとピノ、イーブイは急いでドラえもんの背後へと集まった。ドラえもんはひらりマントを広げ、降り注いでくる細く長い刃に備えた。

 

 

上昇を続けた刃は一旦、空中で停止し、そして····方向転換して下へと集中落下し、ドラえもん達に向かってきた。

 

 

 

 

ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッーーーーー!!!!!

 

 

 

まるで目でもついているかの如く正確にシリカ達を狙って降り注ぐ剣山の雨を必死で防いではね返すドラえもん。伝わってくる激しい衝撃にシリカは堪えきれずピノとイーブイ、ミニドラを強く抱きしめて悲鳴を上げてしまう。

 

 

「キャアァァァー!!!」

 

「なっ、なんて数なんだっ!も、持ちこたえられないっ!?」

 

 

一向に攻撃が止まず、まともな跳ね返しが出来なくなり、ひらりマントの耐久限界が迫りつつあった。

 

 

「だっ、駄目だっ!!マントがもう持たないーっ!!」

 

「ドララァーッ!!!」

 

 

 

    ズドーーーンッ!!!

 

 

 

     ・・・・・・・

 

 

 

やがて大きな土煙が巻き上がり、それが止むと、ドラえもん達がいた場所はひらりマントの破片が散り散りとなって剣山に突き刺さっており、まるで墓標のような雰囲気になっている。だが、肝心のドラえもん達の姿がそこにはなかった·····

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ふうぅ~···ありがとうミニドラ、助かったよ!」

 

「ドォララッ!」

 

 

ドラえもん達は·····地面の中で無事に生存していた。

 

 

マントがもたないと判断したミニドラが機転を利かしてドラえもんの四次元ポケットの中に突っ込んで『ドンブラ粉』を取り出し、皆に振りかけたのだ。

 

 

この道具は缶に入ったパウダー状の道具で、身体にまぶす事により、触れている床や地面が水のようになって地中を泳ぐことができ、普通に地中でも呼吸が可能になる道具だ。

 

 

「私、もうダメかと思いましたよぉ~····」

 

シリカとポケモン達も無事に地中の中で危機を免れ安堵の息を漏らしている。

 

 

「しかし、あんな剣山みたいになられちゃ、もう隙を作ってもタイム風呂敷を被せる前にビリビリに引き裂かれてしまうしなぁ····う~ん····どうすれば····」

 

 

 

地中の中で腕組みして対策を考えているとふと、ポケモン達の姿が目に入り、妙案が浮かんだ。

 

 

「ピノちゃん···イーブイ····ポケモン····あっ、そうだ!これなら何とかなるかも知れないぞっ!!」

 

「何かいい案が浮かんだんですか?」

 

「うんっ!正直上手く行くかはわからないけど····」

 

「どうすれば良いのか言って下さいっ!私何でもしますよっ!!」

 

「クピッ、クピピッ!!」

 

「ブイブイッ、イブイッ!!」

 

「ドラ、ドララッ!!」

 

 

シリカとピノ、イーブイ、ミニドラ達も皆心は一つだった。

 

 

「みんな、ありがとう。えっと、先ずは······」

 

 

 

その頃地上で、再び背中に剣山を生やしてドラえもん達の匂いを嗅いで行方を追跡しようとしていたブレイドケルベロスは全く匂いがしない事に不思議がっていた。

 

 

執拗に地面の匂いを探していると不意に後ろに気配を感じて振り向く。そこにはいつの間にか頭にタケコプターを着けたイーブイが居て、ケルベロスを挑発した。

 

 

「ブイッ?····ブブイブイッ!!」

 

 

「グオォォー!!」

 

 

ブレイドケルベロスは容易く挑発に乗り先ほど同様に剣山を飛ばそうとする。だが、その瞬間己の身体がみるみる内に地面沈み、さしものケルベロスも訳がわからなくなり一瞬の隙が出来た。

 

 

そこに丁度、ブレイドケルベロスの真上の空中からどこでもドアが現れ、足にモンスターボールを掴んで飛んで来たピノがブレイドケルベロスに向かって放り投げた。

 

 

モンスターボールがブレイドケルベロスの頭に当たると真ん中からパカッと開き、光の粒子が広がりケルベロスを包んだ。

 

 

ケルベロスを閉じ込めたモンスターボールはジタバタと地面を跳ねている。そこを地面からタケコプターで浮かび上がってきたドラえもんがひみつ道具を手にしてスイッチを押した。

 

 

「『急速冷灯』ー!!お願いだ、これで決まってくれぇー!!」

 

 

ドラえもんが手にしてしている道具はどんな物でも急速に凍らせる事の出来るひみつ道具で、光を当てるとたちまちモンスターボールは凍りついて動かなくなり、そのタイミングを狙って地面からタイム風呂敷を広げたシリカがタケコプターで地上へ出て凍りついたモンスターボールに被せる事に成功した。

 

 

 

ちなみに作戦の内容はこうだ。

 

先ず、イーブイがわざと地上へ出て姿を見せ挑発し、ブレイドケルベロスが地面の匂いを嗅ぐ動きを止めさせ注意を反らす。

 

 

そして地中の中で待機していたミニドラがドンブラ粉をケルベロスの死角から振りかけ、地面に沈み込ませ、動きと視線を地面に向けさせる。

 

 

そこをどこでもドアで地中からケルベロスの真上へと移動したピノが足に掴んだモンスターボールをケルベロスの身体のどこかでもいいのでぶつける。すると自動的にボールが開いて強制的にケルベロスを封じ込められという段取りであった。

 

 

ちなみにこのモンスターボールはピノが中に入っていたのをドラえもんがそのままにしておくのも何となく嫌だったので、拾ってポケットの中に保管しておいた物だ。

 

 

だが、本来このボールはある程度力が弱まってから閉じ込める道具で、ましてや進化した魔物を封じ込められてもせいぜい5、6秒、下手をしたら2、3秒位でそこから飛び出して脱出してくる可能性が非常に高く危険な為、ドラえもんがダメ押しに急速冷灯で凍らせる役割を担った。

 

 

モンスターボールで閉じ込め、更に凍らせて完全に封印し、そこへシリカがタイム風呂敷を広げ被せる役割を担った。そして見事成功したのであった。

 

 

数秒後、タイム風呂敷を取ると氷が綺麗さっぱりと無くなり、モンスターボールは不気味に沈黙をしている。

 

 

突然ジタバタとモンスターボールが動き出し、一堂が緊張して見守る中····

パカッと勢いよく開いたボールの中から白い体毛に刀剣類を思わす牙を生やし、凛々しい眼差しをしているサーベルウルフのボスの姿があった。

 

 

「や、やったー!!作戦大成功ー!!」

 

「やったー!!やりましたね、ドラえもんさんっ!!」

 

「クピィ~♪」「ブイブイッ♫」

「ドララッタァ~♬」

 

 

ドラえもん、シリカ、ピノ、イーブイ、ミニドラ達が手を取り合って大喜びした。

 

 

サーベルウルフのボスは何が何やら訳が判らずキョトンとした顔になっていた。そこに隠れていた仲間のサーベルウルフ達が集まり、何やら事情を説明している。

 

 

やがて事情を知って理解した白いサーベルウルフのボスはドラえもん達の前に歩み頭を下げ、何か話し出した。

 

 

「ギャウ、ガウガウッ、ガウルゥ····」

 

 

「····ふんふん····そうか、成る程·····え?いやいや、僕こそ君の仲間に助けられたし、へ?·····ふむふむ」

 

 

「あのぉ~何って言ってるんですか?」

 

 

「あっ、ゴメンゴメン。えっと、このボスのウルフが言うには『此度は私の暴走を止め、同胞の命を救って下さった事、誠に感謝する。奇妙な穴から放たれる光によって自分の意識が無くなり、ひたすら破壊衝動に走ってしまい迷惑をかけた。本当にありがとう』····と言っているよ」

 

 

「な、何ですかっ、それ!?滅茶苦茶礼儀正しくて理知的じゃないですかっ!魔物ってこんなに知性が高いんですかっ!?」

 

 

「う~ん···みんなが、みんなこのサーベルウルフみたいなのかは僕にもわからないけど、少なくともこのリーダーのウルフはとても知性が高くて、話しが通じるタイプみたいだね」

 

 

かつて仮想空間で常に生きるか、死ぬかの戦いを強いられ、この世界でも黒蛇やら巨大なウサギやらに襲われたシリカにとって目の前の本物の現実の魔物がこんなに話しが通じるタイプだという事実に軽くショックを受けていた。

 

 

「ガウガウッ、グゥルルゥ····」

 

 

「ふんふん····このリーダーが言うには昔から空や地上にたまに、奇妙な穴が開いてそこへ怪しい光が放たれ、その光に当てられた魔物達は軽く興奮状態になったり、身体が強くなったりとした事は前から合ったんだって。でも数年前から頻繁に穴の数が多くなり、しかも当てられた魔物や動物達は理性を失って凶暴になって姿形まで変異して厄介な事になっていたんだってさ」

 

 

「う~ん····本当に一体なんなんでしょうかね···?」

 

 

「それについては詳しく調べないとわからないけど、少なくとも今の僕らがしなくちゃならないのは佐天ちゃんと雪菜ちゃん達と合流して元の世界へ帰る事だよ。だからもうそろそろ探索を再開しよう」

 

 

ドラえもんは再び訪ね人ステッキで二人のいる方角を探した。

 

 

「ふむ、ここから更に真っ直ぐ進むと二人と合流出来るみたいだ。まあ、確率70%だけど····」

 

 

「闇雲に探すよりずっと頼りになりますよ。あと····その、ドラえもんさん、この子···イーブイも連れてっていいでしょうか····?」

 

 

イーブイがシリカやピノ、ミニドラ達と離れるのを恐れ、必死で皆にしがみついていた。

 

 

「うふふっ。もちろんいいとも。一人、二人増えても何の問題もないさ。これからヨロシクね、イーブイちゃん!」

 

 

「イブイ、ブイブイッ~♪」

 

「ドララァ~♫」「クピィ~♬」

 

 

三匹は共にジャレ合って喜んで、イーブイを歓迎した。

 

 

「ありがとうドラえもんさんっ!よろしくね、イーブイ!それじゃ二人の探索に····

きゃっ!えっ?」

 

 

再び二人の探索に意気込もうとするシリカの足元にリーダーのサーベルウルフがすり寄って何かを訴えていた。

 

 

「ガウガウ、ギャウギャウ」

 

 

「あのぉ····ドラえもんさんお願いします···」

 

 

「はいはい。えっと···何々、この先を行くのなら是非お礼に我々の背に乗って案内させて欲しい、安全な道筋を知っているから····だってさ。確かにさっき望遠鏡で覗いた時、大きな木々が並んでてタケコプターで行ったらうっかり二人の居る場所を通りすぎちゃうかも知れないから、ここはこの子達の言葉に甘えようか」

 

 

「わー!すごく助かりますね。それじゃ今度こそ出発です!」

 

 

「うんっ!それじゃ頼んだよみんな!」

 

 

「ガウルゥー!!」

 

 

 

ドラえもん、シリカ、ピノ、ミニドラ、イーブイ達一行はこうしてサーベルウルフ達の背に乗り二人の居る場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ始まってしまうな·····」

 

 

 

とある部屋の一室に設置されているテーブルに三人向かい合わせに座ってお茶を嗜んでいた少しウェイブのかかった髪型の、未来的な服装の少女が深くため息をついた。

 

 

「そうね···今居る人類の生存をかけた戦争が···かつての古い文献や資料に残された情報からみると余りに変則的で他に類を見ない

【聖杯戦争】が····」

 

 

テーブルを挟んで座っていた黒髪ツインテールの少女がお茶の入ったカップを皿に戻して、神妙な顔つきで答えた。

 

 

「実際は聖杯なんてもうどこにも無いのに便宜上聖杯戦争と呼ぶのは無理があるね···まあ、敢えて聖杯と言うなら彼、ドラえもんが聖杯の代わりを担っているがね···」

 

 

「まあ、実際の所、赤と青と黒と白の複数の陣営が入り乱れて争うんだから敢えて名前をつけるなら【亜種聖杯大戦】って呼ぶのが相応しいかもね。もっとも私達、白の陣営は中立の立場で監督役を担っているから何とも微妙な立ち位置よね」

 

 

「まあ、仕方ないさ。私が偶々創造者で観測者と管理者をしている立場だから中立にして監督役にした方が他の陣営に任すより少なくともよっぽど公平だと判断されたからね。ただ、どっちの陣営に転ぶかわからないという不信感を持たれてしまっていて少々窮屈というのが本音だが····」

 

 

「窮屈さよりも暗殺される危険性の方が無視出来ないわよ。身の安全の為にせっかく呼び出したサーヴァントを彼、ドラえもんとあの娘達を助けるために向かわせて本当に良かったの?」

 

 

「ああ、君と君のサーヴァントが居てくれるから今の所問題はないだろ?それにそもそもサーヴァントを呼び出したのは身の危険から命を守る為だけでなく、今回の大戦での公平さを保つ為でもあるからね。本来ならあの娘達はそれどれ赤、青、黒の陣営に呼ばれる筈だったのを我が叔父の派閥が裏取引で白の陣営にまとめて呼び寄せるなどという公平さを欠いた所業を行ったからね」

 

 

「本当にあなたの叔父様って何を考えているのかしら?今はみんなが生き残るために何とか人工の魔力回路に適合出来た人間が必死になって自分の命を削ってサーヴァントを召喚して備えているというのに····」

 

 

「彼···叔父にとって中立という立場は何ともあやふやで不安定だと感じているのだろうね。表向きはどの陣営からも一目置かれてはいるが、実際はいい顔はされずに蝙蝠扱いされ自分の命すら危ういと危機感を感じて、今回何とか裏取引を成功させてあの三人娘をまとめて白の陣営に呼んで足場を固めるつもりだったんだろうね」

 

 

「それをいち早く知った貴女が私と手を結んで何とかして阻止しようとしたけど肝心の送り返す為のエネルギーが足りず、やむを得ず観測していた星のとある国で勇者召喚しようとしていたのを知って急遽あの国へまとめて召喚先をねじ曲げたのが今回全ての始まりよね···」

 

 

「ああ、そうだとも。まさか記録(ログ)キューブで繰り返し何度も見ていたあのドラえもんがまさか【降臨者】(フォーリナー)としてあの世界へ降り立つなんて夢にも思わなかった。正にこれは奇跡だったんだ····」

 

 

まるで子供が誕生日プレゼントの前で目を輝かす様に瞳をキラキラさせて軽く興奮気味に呟いた。

 

 

「でもこの情報は残念な事に既に全陣営に知られてしまって非常に厄介な事になってしまってるわね。これから先どの様に対処するかで頭が痛いわ····」

 

 

「それは正直私もだよ。だからこそ24世紀の今日に至るまで魔術師としての命脈を保ち続けてきたカレン····いや、今は当主名の

【遠坂凛】と呼ぶべきだね。遠坂凛、君の協力が必要なのさ」

 

 

「別に無理してそう呼ぶ必要は無いわよ····今の私···いいえ、今残っている全人類全てが帰る場所を失い、漂流者となっている現在じゃもう然程の意味を持たないのだから····」

 

 

少し、憂鬱気味に自分の受け継がれてきた血筋と魔力に虚しさを感じて口をつむいだ。

 

 

先程から余計な口を挟まず、静かにテーブルに座ってお茶を優雅に嗜んでいたもう一人の少女がカレンこと、遠坂凛に語りかけた。

 

 

「でもマスター、私は貴女の魔力によってここへ呼び出されたわ。代々受け継がれてきた人工ではない本物の魔力回路の力によって·····それは誇るべき事だと私は思いますよ」

 

 

 

「ふふ···そうだね。誇るべき事に違いない。しかし、古い資料を読ませてもらったけど、遠坂というのはよくよく【アーチャー】のクラスと縁深いのだね····今回の大戦においてもまさか同じクラスを召喚するとは思わなかったよ」

 

 

「····別に狙ってアーチャークラスを呼んだんじゃないわよ。知ってのとうり今の私達では呼び出したいクラスの触媒なんてもう用意する事が叶わず、ほぼ運任せでサーヴァントを呼び出すしかなかったんだから!偶然よっ!偶然!!」

 

 

「まあ、酷い。私、必要とされてなかったのですね····シクシク」

 

 

芝居かかった泣き真似をする金髪の縦ロールが綺麗に揺られ、それを見た遠坂凛はこれは演技だとわかってても、つい焦って弁解する。

 

 

「ちょっとっ!別にそこまで言ってないでしょうがっ!!ただ私は何故か遠坂の一族がアーチャーしか呼び出せないかの様に言われた事に少し憤慨しただけで別に貴女を蔑ろにするつもりなんてこれっぽっちもないわよっ!!」

 

 

「ふふ···だ、そうだよ。白のアーチャー殿····いや別に名前で呼んでも支障は無いんだったね。【巴マミ】さん?」

 

 

「ええ、勿論わかっていますよ、マスター。つい反応が可愛いので悪ノリしちゃいました」

 

 

「あんた達ねぇ~······はぁ~まあ、いいわ。とにかく今後の対策を練るわよ。いいわね、

ノノカ、マミ?」

 

 

「ああ····」

 

 

「それじゃお茶を淹れ直しますね」

 

 

 

優雅な所作で白のアーチャー巴マミは台所へと歩いた。

 

 

 



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20話 バーサーカー降臨

皆さんお久しぶりです。どうか今後も改めてよろしくお願いします。


ドラえもん達一行がサーベルウルフ達の道案内で佐天と雪菜達の元へ移動するより少し前、とある場所(・・・・・)では各陣営が数少ない人工の魔術回路に適合した者達が己の命を削る覚悟で平行世界から各クラスのサーヴァントを召喚していた。

 

 

「ゴホッゴホッ····ハァ、ハァ·····や、やったぞ····成功だっ!俺達はサーヴァントを召喚し、契約を結ぶのに成功したんだっ!!」

 

 

「やったなぁ、おめでとう」

 

 

「喜ぶのはまだ早いぞっ!これから他の陣営のサーヴァントと戦い、勝ち抜いて行かなきゃならないんだからな」

 

 

「ああ···わかってるさ···絶対に勝ち抜いて、あの星(・・・)への移住権を勝ち取るんだっ!!絶対に生き抜くぞっ!!」

 

 

 「「「「「「「おおぉぉーっ!!!」」」」」」」

 

 

複数の人間が召喚に喜びつつも気を引き閉め直し、全員が一致団結している所に突然、何の気配も漂わせず空中に髪の長い薄手の衣を身に纏った奇妙なまでにどこか現実感のない女性が現れサーヴァントの召喚に成功した陣営にこう言い放った。

 

 

「ウフフフ····気合いが入っている所悪いんだけど····残念····あなた達には少し眠ってて貰うわ····大丈夫よ。死にはしないわ。今はね···」

 

 

そう言うと軽く右手を横に振るとその場にいた複数の人間全てが意識を失い、一人残されたサーヴァントとおぼしき英霊が彼女を見上げた。

 

 

「貴女は誰だっ!!ボクのマスターに何をしたんだっ!?」

 

 

サーヴァントとおぼしき彼女は薄黒さの混じった紫色の髪を揺らしながら腰に備え着けてあった鞘から剣を引き抜き、臨戦態勢の構えを取る。

 

 

「あらあら····とても勇ましいのね。頼もしいわ。それに可愛らしい···安心なさい、眠らせただけよ。けど···貴女の態度次第でこのまま永遠の眠りに着くかも知れないけど····どうすればいいのかは、解るわよね?」

 

「くっ····!」

 

悔しそうに歯を食い縛って怒りの感情を何とか抑え込み剣を再び鞘へと戻した。

 

「そう、いい娘ね。では行きましょうかセイバーのクラスのサーヴァント、絶剣のユウキ·····」

 

セイバーのクラスとして召喚され、絶剣のユウキと呼ばれた彼女は口惜しさに手を強く握りしめ、渋々ながら目の前の女性に従いついていった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

その頃佐天、雪菜、そしてサーヴァント

【ルーラー】のロゥリィは3体の巨大な魔物に遭遇していた。

 

「ゴルラァー!!」 「ガァーッ!!」 

「グリィィ···」

 

3体の魔物の内、2体は所謂オーガ()と言うべき姿をしており、赤色と青色の敢えて言うならばレッドオーガとブルーオーガが片手にそれぞれトゲ付きの鉄棒を所持し、最後の一体は巨大な一つだけの目玉を持つサイクロプス(一眼鬼)でこちらは巨大な斧を担いで共にけたたましい咆哮をあげている。

 

 

佐天、雪菜、そしてロゥリィ達を獲物として狙い進撃してきた。

 

「ろっ、ロゥリィさんっ!!」

 

「ウッフフフ···これ位問題無いわぁ···♥貴女達はその樹の後ろから出ちゃダメよぉ?」 

 

 

3体の魔物達は自分たちに向かってくる黒服の年端のいかぬ小柄な少女に対してニヤリと笑い容易い獲物として舐めた形で獲物を振り下ろした。

 

 

····だがっ、それは余りに愚かな初手であった。 

 

 

3体の内の一体のブルーオーガの腕がトゲ付きの鉄棒振り下ろした、その瞬間···

 

 

「ピギャアァァー!!??」

 

 

ロゥリィの目にも止まらないハルバードの斬撃がブルーオーガの右腕を切り落とした。

 

 

青い腕から紫色の鮮血が迸り、ブルーオーガの悲痛な叫びが周辺に響き、他の二体も余りに予想外の出来事に未だに現実を直視していなかった。

 

 

なまじ強靭な生命力と巨体に恵まれているが故に「何故、コイツの腕が失くなったのだ?」···と少しも自分たちの認識を改める作業を進める事が出来ていなかった。 

 

 

····そして····ズバシャーッ!!!

 

 

小柄で可愛らしい少女の振り回すハルバードによってブルーオーガとレッドオーガの首が身体から永遠に別れた···· 

 

 

「···フフフッ···あははははぁぁー♥♥♥」

 

 

特地と呼ばれた世界において死と狂気、そして戦いと断罪の神「エムロイ」に仕える亜神たるロゥリィ・マーキュリーは歓喜に身を委ねる。

 

 

「···ほらぁ、ほらぁほらぁっー♥どぉしたのぉ?呆けてる余裕なんて無いわよぉ?命のある限り抗ってご覧なさぁい···それが無理ならぁ···今すぐ貴方も気持ち良くしてあげるぅぅ~♥♥♥」

 

 

二体の首から噴水の如く流血が迸り、1人残されたサイクロプスが恐怖と怒りにその巨体を奮わせ、此処に到ってこの目の前の小さく可愛らしい少女が見た目どうりの存在ではないとようやく認識を改めた。

 

 

サイクロプスは自分の武器である斧を両手で目一杯握り締め、最大級の破壊力のある一撃を放った。

だがロゥリィはいとも容易くハルバードで弾き返した。サイクロプスの両手に鈍い痛みにも似た痺れが伝わってくる。

 

 

「ウッフフ····どうしたのぉ?もっと全力でかかってきなさいなぁ」

 

 

「グギャッ!?···グオォォォー!!!」

 

 

ロゥリィの挑発を皮ぎりにサイクロプスは持てる全ての力を振り絞り、連撃を叩き込む。

 

 

一撃、二撃、三撃、四撃·······

 

 

真上から、斜め右から、斜め左から、横から···と斧による攻撃を繰り出すも、そのことごとくをロゥリィは鼻歌混じりに弾き返し、目の前の巨大な魔物に遥かなる高みに君臨する己を見せつけた。そして·····

 

 

「ご機嫌よう·····♥」

 

 

一つしかない瞳で最後に映った少女の顔は冷たくも何処か優し気で妖艶なる微笑みを浮かべてサイクロプスを2つに斬り裂いた。

 

 

返り血の一滴すらも浴びずに微笑する彼女は何処か儚く、そして美しかった。

 

 

 

大樹の影から戦闘····と呼ぶには余りに一方的なゴスロリ少女による蹂躙劇に佐天は呆気に取られていた。そんな佐天に毒の症状が緩和して一先ず命の危機を脱っして眠りにつく雪菜、そして巨大なハルバードを軽々と肩にやるロゥリィの姿を遠くから眺めている正体不明の存在がいた。

 

 

機械を通して監視している人物はタメ息をつきながら録画したロゥリィの戦闘記録映像に目を見張はる。

 

 

「はぁ···成る程。あれがサーヴァントと呼ばれる者か···凄まじい強さだ。惑星全土に張り巡らしてあるバリアフィールドの隙間を見つけて上手い具合に降り立ったんだな。

カトウ君、キミの情報どうりだ。あんなのが何体も来られたらせっかく安定させた地上···いや、この惑星に悪い影響が起こりかねない。急いで博士に連絡して対策を練らなければ···」 

 

 

「はいミサキさん」

 

 

ミサキと呼ばれた青年はこの異世界(・・・)において明らかに場違いな未来的な道具を使ってロゥリィ達に存在を察知されない程の遠距離から監視していた。監視任務の為、目立ちにくい服を着用し、腰のベルトにはモンスターボールらしき球形のモノを複数所持している。

 

 

また、カトウと呼ばれた者は人間ではなかった。真ん丸とした形状で敢えて例えるならスライムと表現して差し支えなく、空中に浮かんでいる正体不明の存在だった。

 

 

ビービービー!!

 

 

カトウと呼ばれた奇妙な存在は体からけたたましい警戒音らしき音を発した。

 

 

「み、ミサキさんっ!!もう一体、強力なエネルギーを持つサーヴァントの降臨を確認しました!!この魔力量からみて恐らくクラスはバーサーカーッ!!完全に理性というものが感じ取れませんっ!!ヤバァいです!早くここから離れるのを推奨致しますっ!!」

 

 

「バーサーカーだって!?くそっ!情報収集どころじゃないな。わかった直ぐここから離れよう」

 

 

ミサキは機材を身体に張りつけてあるポケット(・・・・)に全てしまいこんでカトウと共にその場から離脱していった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「ロゥリィさんありがとうございます!」

 

 

ロゥリィの活躍に元の世界のひとつ年上の友達の姿を重ねながら佐天は礼を言う。

 

 

「フフフッ···この程度大した事ないわよぉ♪さぁて、マスターの計算によればもうすぐドラちゃん達に····」

 

 

そう言い終わろうとする瞬間、地面が大きく揺れ彼女達の足元がみるみる内にヒビ割れてゆく。

 

 

「地震?いえ、これは···!!」

 

 

地面のヒビ割れから突然強力な雷が迸ったっ!!

 

 

「ひっ、きぃあぁぁー!!??」

 

 

佐天が雪菜を強く抱き寄せながら大きく悲鳴をあげる。ロゥリィはハルバードを盾の様に構えて佐天と雪菜の前に素早く立ち塞がった。

 

 

「あらぁ?随分とお早いお着きねぇ····」

 

 

一見変わらぬ軽妙な口調だったが明らかに警戒が増していた。

迸った雷は明確な意思を持って集まり、何かの形に変化し始める。

 

 

 

····それは余りに危険で強力で凶悪な獅子の姿をした獣だった。黒い体表を頭の立て髪を中心に眩い雷光を身に纏っている魔獣であった。そしてその傍らには何時の間にか一人の青年になり始めといった感じの人間(・・)が居た。

 

 

その人間は白いパーカーを着用しフードで顔を覆い隠し表情は伺えないが明らかにおおよそ理性というものが欠如しており、その口元から牙らしきものが見え隠れし、隣の雷の獅子同様に獣のごとき唸り声を発していた。

 

 

「えっ···えっと····?もしかしてロゥリィさんのお知り合い····って、流石に違いますよね···

ははは···」

 

「いいえ、完全に初対面よぉ。でも、仲良くお喋りとかは出来そうに無いのは確実ねぇ」

 

 

佐天は狼狽えながら自身を落ち着かせる為、敢えて何時もの感じにおどけて見せた。

ロゥリィも警戒を高めながらそれに合わせる。

 

 

突然現れたパーカーを着た人間の身体から明確な殺意と狂気が渦巻き、そして······

 

 

 

 

「···フーッ、フーッ···うぅぅッ····オオオォォォーッッッ!!!レ···獅子の黄金(レグルス・アウルム)ー!!!」

 

 

 

 

ズギャアアァァ━━━━━━━━━ンンンッッ!!!!!!

 

 

 

 

凄まじい雷鳴音が鳴り響き、轟雷が周囲に広がり、たちまち大地を擂り潰していった。

 

 

この明確な攻撃をいち早く察知して反応したロゥリィは佐天と雪菜の二人を抱き抱え驚異的な跳躍力で攻撃範囲から辛くも逃れた。

 

 

轟雷の走った周囲の地形は形を変え、周辺からは煙が立ち揺れ、まっさらな更地へと変貌していた。

 

 

ロゥリィに抱き抱えられて小高い丘に避難した佐天はこの光景を見て声もあげられず、

震えながら必死で雪菜の身体を抱きしめるしか出来なかった。

 

 

フードがはだけて顔を晒した少年の両の眼は赤く輝き殺気に満ち溢れ、雄叫びを出しながらとてつもない速さでロゥリィに襲いかかってきた。

 

 

既にそれを察知していたロゥリィもハルバードを振るって応戦する。

 

 

   ガキイィィンンンッッ!!!

 

 

小柄で華奢な見た目とは思えない凄まじい膂力を誇るロゥリィの斬撃をその少年は真っ向から素手で受け止めた。彼もまた、怪物····!

 

 

マスターからの頼みを決して忘れてはいないがワクワクする気持ちを堪えきれずに目の前の敵に無駄と解っていても問いかける。

 

 

「わざわざ確認するのもヤボだけど貴方恐らくクラスがバーサーカーのサーヴァントよねぇ?ウフフ···良いわよぉ坊や····お姉さんが相手して···ア・ゲ・ルゥ···♥」

 

 

「オオオォォォーッッッ!!!」

 

 

雷を纏った獅子が少年の身体に入り込み全身から雷を発しながら凄まじい連打(ラッシュ)を仕掛けてきた。ロゥリィも正面から受けて立ち戦闘が始まった。

 

 

バーサーカーは雷を伴った右と左のフック、左のニーキック、右ストレート、左エルボー、右のローキックと五体を余す事なく使い、全てがフルパワーの打撃を浴びせてきた。

 

 

ロゥリィも彼の攻撃を巧みに捌きながらお返しと言わんばかりのハルバードの斬撃や蹴り等をお見舞するなどして周囲に炸裂音が響き渡った。

 

 

防御にも手を抜かず対応するも全てを防げずに互いに攻撃を喰らい、鮮血を流しながらも攻撃の手は一切止めずに肉薄する。ロゥリィはようやく互角に立ち回れる存在に巡り会えた事に歓喜し艶のある喘ぎ声を上げ、対するバーサーカーも全身の所々にロゥリィの攻撃を喰らい流血するも、一切気にかけず攻撃の手を休めず雄々しい獣のごとき咆哮を上げて戦闘を続けていた。

 

 

そんな激闘の中、佐天に抱きしめられていた雪菜の瞼がゆっくりと開き、潤んだ瞳で周囲を見渡した。

 

 

「んっ?あっ···!ゆっ、雪菜さん!!」

 

 

意識を取り戻した雪菜に佐天は安堵し涙を堪えきれずに頬を濡らした。

 

 

「さっ····佐···天さん····私は一体····?」

 

 

未だハッキリとしない、ぼんやりとした彼女の意識は剣巫としての本能なのか?無意識に遠く離れた戦いに向けられ、そして小さく呟いた。

 

 

 

      「先···輩····?」

 

 

 

 



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21話 死神VS第四真祖

推敲上がり!!


 

病み上がりで未だにまともに身体を動かせない雪菜は離れた場所で繰り広げられている戦闘の光景に我が目を疑った。

 

 

「暁···先···輩····?」

 

 

見慣れたパーカー姿の人物と見慣れないゴスロリ少女の二人が互いに殺気を剥き出しにしながらぶつかり合っているのを見つめた。

 

 

「えっ!?先輩って···今戦っているあの人が雪菜さんが言ってた暁古城さんって人なんですかっ!?」

 

 

「はいっ!!私があの人を···先輩を見間違えるなんて絶対にあり得ませんっ!!」

 

 

病み上がりの身体からとは思えない程の覇気のこもった断言に佐天は少したじろぎながらも、目の前のゴスロリ少女は誰なのか、そしてどのような経緯があったのかを佐天は雪菜に簡単に説明した。

 

 

「···概ね事情は把握出来ました。ありがとう佐天さん。私を守ってくれて····」

 

 

「それはお互い様ですよ雪菜さん。それより本当にあの人が話しに聞いていた暁先輩なら様子がおかし過ぎませんっ?いきなり現れて私達に向かって攻撃してきたんですよっ!?」

 

 

「····少なくとも姿形は絶対に先輩です。でも今のあの人からは完全に理性というものが感じられない····」

 

 

「そりゃ、あんな風にロゥリィさんと血塗れになりながら戦っているんだからっ!」

 

 

雪菜は目の前で戦っている暁古城に対して上手く言葉には出来ない強い違和感を感じとっていた。

 

 

突然手にしてしまった第四真祖の能力と特性に上手く対応出来ずに暴走してしまう事も度々あったが(主に女性関係で)ここまで明確に理性を失い闘争本能を剥き出しにして狂気に身を任す行動は彼の事を彼自身以上に知って理解している雪菜からは信じられなかったのだ。

 

 

何とか彼を止めたかったが、今の雪菜は無力だった。ロゥリィがもたらしてくれた万病薬でどうにか毒から命の危機を脱したものの、病み上がりの身体に加え魔力を無効化し、ありとあらゆる結界を斬り裂き、真祖すら滅ぼせる七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)雪霞狼(せっかろう)を所持していない今の自分は悲しい程無力だと誰よりも理解し、悔しさから唇を噛みしめた。

 

 

一方ロゥリィと暴走状態の暁古城との戦いは激しさを増していった。ロゥリィはハルバードをより強く握りしめ、それをあらゆる角度から連続の斬撃を放ち、暁古城はそれら全ての攻撃に対して一切の防御をかなぐり捨てて雷を纏った拳や蹴りを繰り広げていった。

 

 

我が身のダメージを全て無視しての戦闘は通常なら自殺行為だが、最強吸血鬼第四真祖の彼は血塗れになるも傷が煙を上げて目に見えて回復していき、今も変わらずに戦闘を続行し、ロゥリィも亜神としての特性で傷を再生させて互いに互角の条件での戦いに決め手を欠いていた。

 

 

「流石バーサーカーねぇ。とってもタフで素敵だわぁ···♥でもそれだけ回復···いいえ私同様の再生能力があるという事はそれだけマスターの魔力を消耗させてしまうのよぉ?ましてや燃費の悪いバーサーカーのクラスなら尚の事負担が大きいわねぇ。」

 

 

一見互角の様子だったが理性を失い守りを捨て、攻撃のみに特化した戦い方の暁古城に対して武器のハルバードを所持し、一見同じような戦い方をしながらも防御にも手を抜かずに攻めていたロゥリィとでは当然ながらマスターの魔力の負担具合は天地程の開きがあった。

 

 

長期戦になればなる程、魔力の枯渇によりバーサーカー暁古城の敗北は明らかだった·····だが、この【亜種聖杯大戦】は全てが既存の聖杯戦争とは一線を画すイレギュラーで、本来マスターとサーヴァントは1人1体の原則的契約を無視していた。

 

 

暁古城の一撃、一撃の威力が弱まってきているのを感じたロゥリィは頃合いと判断し止めの渾身の一撃を強く踏み込み放った。通常ならば魔力の減少により成す術がなくその一撃で勝敗は決したであろう。しかし·····

 

 

 

「はぁぁ━━━━━━っっ!!!」

 

 

ドバアァァァ━━━━━━━━━ンンッッ·····

 

 

 

 

決まった筈のロゥリィ渾身の一撃を古城は真っ正面から片手で受け止めていた。

 

 

「グゥガアッ····ギッギッ·····」

 

 

「なっ!?」

 

 

常に飄々として冷静かつマイペースなロゥリィが初めて動揺する。暁古城の全身から枯渇して弱まった魔力が再チャージされ魔力を溢れんばかりに漲らせていたからだ。

 

 

「フゥーッフゥーッ、ガッ···?ヒ···メ···ラ····?」

 

 

身体に魔力が満たされた瞬間、バーサーカーは何かを感じ取り辺りを見回した。

 

 

「まさかこの坊やに複数のマスターが契約して魔力を送り込んでいるのっ!?」

 

 

自分の推測の正しさを確認する間もなくバーサーカーはありったけの魔力を使って更なる攻撃を仕掛ける。

 

 

「ぐぅぅっ····!!カッ···焔光の夜伯(カレイドブラッド)の···血脈を継ぎし者····あっ、あっ····· 暁古城が汝の枷を解き放つ···きっ···来やがれ····9番目の眷獣····双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!!」

 

 

理性を失いながらどこか躊躇い、抗う様子を見せるも大量の魔力を総員して彼は新たな眷獣を呼び寄せた。召喚した眷獣の姿は名のとおり緋色の双角獣(バイコーン)で大きく(いなな)きロゥリィを見るや否や突進してきた。

 

 

ハルバードで双角深緋(アルナスル・ミニウム)の突進を咄嗟に受け止めたが、それは悪手だった。双角深緋(アルナスル・ミニウム)は全身から高周波振動による衝撃波を放ちロゥリィを中心にして周囲に拡散して破壊した。

 

 

正面から直接受け止めてしまったロゥリィはハルバードこそ無事だったものの、物理的攻撃ではない防ぎ様のない衝撃波をマトモに喰らい、所々ゴスロリ衣装は破け、白い肌から深紅の血が吹き出していた。

 

 

「ごふぅぅッ·····!」

 

 

口からも吐血し、致命的とも言えるダメージを初めてロゥリィは味わっていた。身体の内部からも深刻な深手を負ってしまい傷の再生が明らかに遅れている。

 

 

「フフフ····こっ、こんな風に痛手を負うなんて本当に久しぶりだわぁ····」

 

 

軽口を叩くも片膝をついてハルバードを杖代わりにして立っているのがやっとの姿を晒していた。そんなロゥリィに対して一切の容赦なく暁古城は次の行動を起していた。

 

 

「···令呪による強制行動みたいね。本当に哀れだわぁ····」

 

 

どんな想いで言ったかはわからないがロゥリィは彼に対して呟いた。

 

 

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の···血脈を継ぎし者····暁古城が汝の枷を解き放つ···来やがれ···2番目の眷獣····牛頭王の琥珀(コルタウリ・スキヌム)!!」

 

 

空間から巨大な牛頭の戦士(ミノタウロス)を連想させる眷獣が出現する。所々身体から炎を吹き出し、己の身体よりも巨大な斧を携えて咆哮し、ロゥリィに情け容赦のない強力な一撃を真上から浴びせてきた。

 

 

 

ドギャアァァァ━━━━━━ンンッッ!!!

 

 

「ぐううぅぅっっー!!!」

 

 

辛うじてハルバードで防ぐも桁違いの巨体からの一撃は彼女の身体をそのまま地面へとめり込ませ、その隙を逃さず双角深緋(アルナスル・ミニウム)が衝撃波で追い討ちをかけた。

 

 

「がっはぁぁっ···!!?」

 

 

常人ならばとうに命を散らしてしまっている程の大量の血が大地に染み広がってゆく。

だが、それでもロゥリィは····

 

 

「フッフフ·····どぉしたのかしらぁ?二匹がかりでも私の命をまだ奪えないなんて、見かけ倒しにも程があるわねぇ····ほらぁ···そこの坊やもまとめてかかってらっしゃいなぁ···」

 

 

バーサーカーを喜々として挑発する。だが坊や呼ばわりされたバーサーカーはロゥリィを無視をし、

 

 

「うっ···ううっっ····があぁぁーーーーー!!!獅子の黄金(レグルス・アウルム)ー!!!」

 

 

再び雷光の獅子を召喚し、その身に宿してやたらと周囲を見渡した。そして何かを感じ取ったバーサーカーは目標を定めた。

 

 

「ハッ!?いけないっ!!佐天さんっ!!」

 

「えっ!?」

 

 

自分達の存在を感知されたと感じ取った雪菜は佐天の手を取って今居る場所からの離脱を試みるが、獅子の黄金(レグルス・アウルム)の力を宿した暁古城はとてつもない猛速で二人の前に立ち塞がった。

 

 

「くっ····!佐天さん、私の後ろに」

 

「ゆっ、雪菜さんっ!?」

 

 

逃げられない事を悟った雪菜は佐天を自分の後ろに追いやり、彼女は暁古城に正面から対峙した。

 

 

正気を失った瞳に雪菜と佐天の姿が映り雷撃が迸る右手を苦しみが伝わってくるうめき声を上げながらゆっくりと二人の前に突き出してきた。

 

 

「せっ····先輩···暁先輩····」

 

 

瞳から涙を滲ませながら雪菜は暁古城の側にゆっくりと歩み寄る。

 

 

「なっ、何をしてっ····ぐうっっ!」

 

 

マスターの願いに応えて佐天と雪菜を守る為に遥々やって来たのというのに戦いにのめり込み過ぎて二人の事を頭の隅に追いやってしまった自分をロゥリィは深く恥じていた。

 

 

何とか彼女をバーサーカーから引き離さねばと動こうとするも牛頭王の琥珀(コルタウリ・スキヌム)の追撃の巨大な斧に動きを押し止められ、身体のダメージと重なり身動きが録に取れない状態だった。

 

 

彼女···姫柊雪菜の姿を見てから、バーサーカー暁古城は頭を両手で抱え込んで息を荒く吐いていた。

 

 

「ぐうぅぅ···ハァ、ハァ····」

 

 

「先輩·····大丈夫ですよ。私がついていますから···」

 

 

姫柊雪菜は暴走を止めようと両手を広げ彼を受け入れる姿勢を見せた。

 

 

「···ひっ、ヒッ、ヒメ···ラギ·····ッ!?」

 

 

「先輩っ!」

 

 

何時もの様に自分の名前を呼んでくれた雪菜は弾けるばかりの笑顔を見せた。

 

 

·····しかし

 

 

「グルオォォォ━━━━━━━━ッッ!!!」

 

 

 

一瞬だけ正気を戻したかに見えたが再び強い狂気に全てを飲み込まれ殺意に満ちた眼を彼女に向け、そして····雷を纏わせた右手を広げ雪菜の胸元に目掛けて突き放とうとする。

 

 

雪菜の背後に守られていた佐天はバーサーカーから発する威圧感に飲まれ身体が動かせずにいた。

 

 

唐突にポンプ地下室で先輩の惚気話しをした時の雪菜の何とも言えない幸せで喜びに溢れた笑顔が脳裏に浮かび上がり、佐天は力の限り叫ぶ。

 

 

「そんな···だ···だめ···だめだよぉっー!!雪菜さぁぁーんっっ!!!」

 

 

悲痛な叫びが空しく響き渡り····

 

 

 

そして····姫柊雪菜は彼の全てを受け入れようと瞼を閉じて微動だにせず静かに佇んだ。

 

 

    

      「暁···先輩········」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ドッドッドッドッドッドッドッドッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐天、雪菜、暴走状態の暁古城達のいる小高い丘目掛け、突然青くて丸い何かがとてつもない速さで駆け抜け突進してきたっ!!

 

 

 

「石頭ロケット━━━━━━━━っ!!!」

 

 

 

ドッゴ━━━━━━━━━━ンッッ!!!

 

 

 

「ゴガァッッ━━━━━━━!!??」

 

 

 

【青い狸猫】が猛烈な勢いで飛んでやって来て自慢の石頭をバーサーカー暁古城のドテッ腹に命中させて遥か彼方へとふっ飛ばしたっ!!

 

 

「···ギリギリだったけど····何とか間に合った!」

 

 

「あっ·····あ”あ”ぁぁ······」

 

 

佐天涙子が感激の涙をとめどめもなく流しながら彼の名前を叫んだ。

 

 

 

「ドラさぁーんっっ!!!」

 

 

 

 



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22話 再会と令呪

 

ドラえもんとシリカはサーベルウルフに乗って森林地帯を移動していた。すると突然静かな森の中、ドラえもんのポケットから、とても大きくけたたましい音が鳴り響いた。

 

 

「きゃっ!?ドラえもんさん何なんです、この音は?」

 

 

シリカは音に警戒して動きを止めたサーベルウルフにしがみつきながら片手で耳をふさいで尋ねた。

 

 

「これは···『虫の知らせアラーム』のお知らせの音だっ!!これが今鳴ったって事は、佐天ちゃんと雪菜ちゃんに危機が迫っているんだっ!!」

 

 

虫の知らせアラームは蜂のような虫の形をしたアラームで、仲間に危機が訪れると鳴って知らせてくれる道具だ。

 

 

「これだけ大きく鳴ったって事は、比較的二人は近い距離に居る可能性が高い····」

 

「···佐天さん、雪菜さん····」

 

シリカはこみ上げてくる不安に胸を詰まらせる。

  

ドラえもんは白いサーベルウルフのボスの背中から降りてポケットから再び『たずね人ステッキ』を取り出し、二人の居る場所をもう一度探った。

 

 

コロン。「この方向に二人が····」

 

 

ステッキの方向に目をやると更にポケットからのアラームが強く大きく鳴った。

 

 

「不味い!これだけ大きく鳴るのはとんでもない危険が二人に····よーし!こうなったから···ゴメン、シリカちゃん!僕は道具を使って取り敢えずステッキの指し示した方角へ先行してみようと思う。ステッキの的中率は70%だから絶対に二人が居るとは限らない。だから、シリカちゃんはウルフ達と後からついてきて!」

 

 

「私なら大丈夫です。早く二人の元へ行って下さいっ!!私達も直ぐに追いつきますから!」

 

 

「ありがとう。それじゃミニドラ、ウルフの皆シリカちゃんをよろしく頼むよ」

 

 

ミニドラとウルフ達は任せろと言わんばかりに頼もしく吠えた。そしてドラえもんはポケットから小さな小瓶を取り出した。

 

 

「『チーターローション』!!」

 

 

チーターローション。この道具は中に入っているローションを足に塗ると、目にも止まらぬ速さで走ることが出来るひみつ道具だ。ただし効力は短く、使用者の体力によっても個人差が表れる道具だ。

 

 

ドラえもんは短い足に塗り、ステッキの方角を見定め身体を屈めモーレツなスピードで風を纏って森林を駆け抜けていった。

 

 

「きゃあっ!?どっ、ドラえもんさんの姿がもう見えなくなっちゃった···凄い速さ···え~と、それじゃ私達もドラえもんさんの走っていった方角へ出発!」

 

 

ミニドラ、ピノ、イーブイ、サーベルウルフ達と共に移動を再開した。

 

 

 

ドラえもんは超高速で木々の間を抜け、ひたすら走った。薄暗い森林の中、益々アラームの音が強く鳴り過ぎるので虫のしらせアラームのスイッチを切った。

 

 

「ふうぅ、流石に耳がジンジンする。でもそれだけ二人にとんでもない危険が迫ってる。とにかく急げぇ~!!」

 

 

そして遂に森林地帯を抜けるとそこは煙が立ち上る更地が広がり、遠目から小高い丘にいる佐天、雪菜の姿が見えた。

 

 

「見つけた!佐天ちゃん、雪菜ちゃん!!どうやら間に合ったか?はっ!何だっ?あの人間は?いけない雪菜ちゃんが危ないっ!!こうなったからこのまま僕の石頭で突撃だーっ!!」

 

 

ドラえもんはチーターローションによる加速を利用して前のめりのフォームで更に速く駆け抜け、ジャンプして自身を一つの砲弾の如く飛ばしてバーサーカーを自慢の石頭で吹き飛ばした。

 

 

 

 

「ドラさぁーんっっ!!」

 

 

佐天涙子は駆けつけてくれたドラえもんに全力で抱きついて人目を憚らずに号泣した。そんな佐天をドラえもんは優しく頭を撫でて泣き止ます。

 

 

「どっ、ドラちゃんっ!!」

 

 

雪菜もドラえもんに駆け寄り倒れ込むようにして寄り添った。

 

 

「良かった。どうにかギリギリ間に合って···ゴメンねぇ二人共僕のせいで怖い目に逢わせて····」

 

 

「そんなっ!ドラさんは悪くないですよぉ~っっ」

 

 

「そうですっ!ドラちゃんは何時も私達を気にかけてくれて····優しくしてくれて···あっ、此処にドラちゃんが来てるなら····」

 

 

雪菜は辺りを見渡し、そして·······

 

 

「雪菜さぁぁーんっ、佐天さぁぁーんっ!!!」

 

 

少し遅れてタケコプターで上空からシリカが涙声で二人の元に飛んで来たっ!

 

 

「シリカちゃんっ!!」

 

「シリカさんっ!!」

 

 

シリカの顔を見て二人は歓喜の声に涙を流しながら満面の笑顔を浮かべた。シリカは勢いそのままに二人に抱きつき、佐天、雪菜もシリカを互いに抱きしめ合い再会と無事の喜びに打ち震えた。

 

 

「····良かった···二人共無事で本当に···また逢えて···良かったよぉぉっっ~~~!!!」

 

 

シリカは顔をグシャグシャにしながら涙で顔を濡らし強く、強く二人を抱きしめる。つられて佐天は瞳を滲ませる。雪菜も同様だった。

 

 

「シリカさんっ····グスッ」

 

「シリカちゃんも無事で···本当に····」

 

 

「クピィ~!」「ブイブイッ!」「ドララッタァ~!」

 

シリカの後にポケモンのピノ(フリーザー)とイーブイ、そしてミニドラも笑顔で喜んでる。

 

「なっ!?何ですかこの赤くて小さいドラさんに、この青い小鳥に···え~と···ウサ···ギ?みたいに可愛いモフモフはっ!?」

 

一同再会の喜びに浸っている一方でバーサーカー暁古城の呼び出した眷獣たち二体は健在で突然現れたドラえもん達に敵意を剥き出しにして唸り声を出していた。そんな空気の読めない眷獣達にロゥリィは、

 

 

「····ウッフフフ♥駄目よぉ?せっかくの感動の再会に水を差しちゃぁ···これでも喰らって、しばらく黙ってなさいっ!」

 

 

主たる暁古城がこの場に居なくなってしまい僅かな間動きを止めていた眷獣達はロゥリィの反撃に反応が遅れてしまい、ハルバードの強烈な一撃、二撃、三撃、四撃をマトモに喰らって主同様に後方にぶっ飛んでいった。

 

 

「なっ!?あんな巨大な怪物達をあんな小さな身体で吹き飛ばしたっ!?君は一体誰なのっ!?」

 

 

凶暴な怪物達を黙らせたロゥリィを見てドラえもんは驚き、誰なのか尋ねた。

 

 

「ドラさんあの人は私達を絶対絶命のピンチに助けてくれたんですっ!頼もしい味方ですよっ!」

 

佐天はウキウキとした気持ちでドラえもんに教えた。

 

小さな身体に余りに不釣り合いなハルバードを担いで彼女はドラえもん達の側にやってきた。

 

 

「はぁい♪初めまして、ドラちゃん····♥

こんなはしたない姿で失礼。私の名は

ロゥリィ・マーキュリー····死と狂気、戦争と断罪の神『エムロイ』に仕えし亜神····そして

今はマスターノノカに仕えしサーヴァントの【ルーラー】よぉ。以後は気楽に愛を込めてロゥリィちゃんって呼んでねぇ。ウッフフフッ····♥」

 

 

「エムロイ?サーヴァント?ルーラー?聞いたことのない単語ばかりで何が何やら?」

 

 

ドラえもんの頭の中で幾つものはてなマークが飛びかう。

 

「細かい事は後でしっかり、ゆっくりと説明するからぁ···今は奴らを何とかするのが優先事項よぉ?」

 

ロゥリィが視線を後ろに向けると遥か後方で吹き飛ばされた獣達が怒りの咆哮をあげながらドラえもん達に向かって来るのが見えた。

 

 

「なぁに、大丈夫さっ!シリカちゃん、佐天ちゃん、雪菜ちゃん、ミニドラ、ピノ、イーブイ·····みんなっやろうっ!!!」

 

「はいっ!!」

 

「よぉーしっ!!いっくぞぉー!!」

 

「任せて下さいっ!!」 「クッピィーッ!!」

 

「ドララッ!!」「イブイ、ブイブイッ!!」

 

 

シリカを始めに佐天、雪菜、ピノ、イーブイ、ミニドラ達も気合いを漲らせて答えた。

 

 

危険と不安で一杯な目に会いはしたが、素敵な出逢いと大好きな仲間との再会にシリカは熱く不思議な高揚感に包まれていた。

 

ピンチと言える状況でありながらも佐天はどこかウキウキになってしてしまう。かつて元の世界で友と仲間と一緒になって例の事件(・・・・)を解決したあの時の気持ちを思い出していた。

 

雪菜は暁古城の変貌に心を痛めてはいるが、ドラえもんとその仲間たちの顔を見てきっと何とかなる!と彼女にしては楽天的な考えに至り、例え今は無力であろうとも気持ちだけは負けないと誓った。

 

 

ドラえもんはポケットから道具を取り出しみんなに渡した。

 

ロゥリィに吹き飛ばされたバーサーカー暁古城が召喚した9番目の眷獣双角の深緋(アルナスル・ミニウム)と2番目の眷獣牛頭王の琥珀(コルタウリ・スキヌム)の二体が猛気を吐きながらロゥリィとドラえもん達目掛けて再び舞い戻り、進撃してくる。

 

 

「先ずは私から!イーブイっ、スピードスターをあの二体の目線に向かって放って!!」

 

 

「イーブイっ!!」

 

 

イーブイはシリカの指示で身体から星形のエネルギー弾を大量に発生させて眷獣二体の目線を遮り、一瞬だけだがその場に止めて牽制するのに成功する。

 

 

そこへすかさずドラえもんから渡された瞬間接着銃で佐天、雪菜の二人が眷獣達に向かって撃ち放つ。

 

「当たれっ!!」「絶対に外しませんっ!!」

 

 

撃った瞬間を逃さずにドラえもんがある道具の光を当てる。

 

 

「ビッグライトー!!」

 

 

このひみつ道具は懐中電灯の形をした道具でスイッチを押し、発せられる光を物体に当てるとその物体を巨大化させる道具だ。

 

 

ドラえもんはこの道具を使って瞬間接着銃の粘液を巨大化させて巨大な体躯を持つ眷獣達へ放った。

 

 

 「ヒヒィーンンッ!?!?」

 「ブモオォォォー!?!?」

 

 

巨大な粘液が身体に粘りつき動きを封じ込められた二体が必死で暴れた。

最強吸血鬼第四真祖の眷獣達はその強靭な生命力で粘着液の拘束から逃れ様と足掻き、解き放たれようとしていた。だが、

 

 

「ミニドラァー頼んだよ!!」

 

「ドララッター!!」「私も行って来ます!」

 

 

ミニドラ、シリカの二人はタケコプターで上空へと移動して手に持っているひみつ道具『ドンブラ粉』をもがいている眷獣達二体へと振り掛けた。

 

 

粘液の拘束から逃れ様としている二体はみるみる内に地面がまるで底無し沼の様に変化した地面へと沈んで行く。如何に最強眷獣と言えど掴まれる物体が無く身体の自由が録に効かない状態ではなす術はなかった。

 

 

9番目の眷獣双角の深緋(アルナスル・ミニウム)と2番目の眷獣牛頭王の琥珀(コルタウリ・スキヌム)の二体は無念の怨嗟の唸り声を最後まで発しながら地面へと沈んでその姿を消した。

 

 

その手際を眺めていたロゥリィは拍手して称えた。

 

 

「ウフフ···ドラちゃんとその皆様方、

とぉ~っても素敵なチームプレイだったわぁ。本当に惚れ々しちゃう。でもねぇ·····」

 

 

「えっへへ!やりました!!」

 

「上手く行きました♥」「ドッララッ~♪」

 

「ブイッブイッ♫」「うんっ。本当にみんな···」

 

 

驚く程スムーズに巨大な二体の眷獣を追い帰すのに成功した佐天、シリカ、ミニドラ、イーブイは喜び浮かれて気を緩める。ドラえもんが皆の働きを労おうとした瞬間·····

 

 

「まだですっ!!皆さん油断しないでっ!!」

 

「その娘の言うとうりぃっ!油断しすぎねぇ」

 

 

この中でロゥリィを除いて唯一、雪菜が気を抜かず一番の難敵の姿を見据え構えた。

 

 

「ウオォォォ━━━━━━ッッッ!!!」

 

 

全身に雷と殺気を疾走らせたバーサーカー暁古城が舞い戻り、皆に緊張が走る。

 

 

「うわぁ···!こいつ、なんて頑丈なんだっ!僕の石頭の頭突きをマトモに喰らった筈なのに無傷だなんてっ!!」

 

 

ドラえもんの最後にして最高の武器は何なのか?

と、問われたなら、皆一様にポケットの中の様々なひみつ道具を思い浮かべるだろう。

 

 

だが、真の最後にして最高の武器はドラえもんの石頭と断言する。実際に本人もそう認識し、かつて雲の王国での自らの致命的な失態と反省の欠片など皆無の愚かな密猟者によって雲の王国の要であるエネルギー州が消されたのを目の当たりにして、天上人を救う為、彼は捨て身の特攻での頭突きで堅固なガスタンクを破壊し、それをきっかけにして雲の王国並びに地上世界をも守ったのだった。

 

 

そんな切り札の頭突きもこの暴走しているサーヴァントには残念だが効果的ではなかった。

 

 

「くっ!···暁···先輩」

 

 

警戒を一層高め身構えた雪菜が悲痛な面持ちで呟く。

 

 

「暁古城?それって、あの話しに聞いていた雪菜ちゃんの先輩さんなの!?」

 

 

「····はい、彼が私の···先輩です。ですがドラちゃん、先輩は見てのとうり理性を失い暴走している状態です!!今は躊躇わずに···ハッ!これは駄目っ!!皆、急いでここから離れてっ!!」

 

 

暁古城をよく知る雪菜が剣巫の能力の一つ

未来視によって次に来る攻撃を予知し、急いでこの場を離れる様に伝えようとするも、バーサーカーは強力かつ、大量の魔力を展開して新たな眷獣を召喚する。

 

 

「ウ"ウ"ッ···ぐうっっ!!かっ···

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血を継ぎし者···

あ····暁古城が···汝の枷を解き放つ···来やがれ···

7番目の眷獣····夜摩の黒剣(キファ・アーテル)!!」

 

 

  ゴゴゴゴッッッ・・・・

 

 

上空の大気が大きく震え、魔力の呼応によって遥か上空より空間の渦から独特の形状をした全長数百メートルに及ぶであろう巨大な剣が出現した。

 

 

この眷獣は意思を持つ武器、『インテリジェント・ウェポン』であり、重力制御能力による加速によって超音速で天空より飛来し、その力は直撃したならば、地上の範囲数十キロメートルが消滅する破壊力を有している。単純な攻撃力だけならば第四真祖の数ある眷獣の中でも最強を誇っていた。

 

 

それが今、ドラえもん達一行に迫り来る。

 

 

「なっ、なんだアレはっ!?でっ、デカイっ!!そして速いぞっ!!みんな、どこでもドアで脱出をっ!!」

 

 

ドラえもんがポケットに手をやるとバーサーカーが逃がすまいと攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「グオォォォ━━━━━ッッッ!!!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!!」

 

 

暁古城の身体から黒い猛毛に眩い雷光を纏った獰猛な獅子が飛び出し、ドラえもんに狙って襲いかかって来た!!

 

 

「グルオォォォ━━ッッッ!!!」

 

 

「なっ、ひらりマン····間に合わないー!?」

 

「ドラちゃんー!!」「ドラさんー!!」

 

「ドラえもんさーん!!」

 

 

雪菜、佐天、シリカが必死でドラえもんに駆け寄ろうとするが、到底間に合わない····

だがっ、

 

 

「ダメよぉ···獣の分際で私のドラちゃんに手を出すなんて1000年位早いわぁ!!」

 

 

ドラえもんのピンチにロゥリィがその膂力によって振るったハルバードの会心の一撃が5番目の眷獣の顔面に直撃した。

 

 

ドッバーンッッ!!!

 

 

顔面の直撃をマトモに喰らった獅子の黄金(レグルス・アウルム)は、

 

 

「キィヤァイィィーンンンッッ!!!??」

 

 

眷獣とは思えぬ情けない鳴き声を上げて、その場で消滅していった。

そして一切の気を抜かずに、すかさず天空より舞い降りようとする巨大な剣を見据える。

 

 

「ノノカァ···聞こえてるかしらぁ?バーサーカーの奴、どうやら複数のマスターと契約させられてて魔力勝負じゃ分が悪いみたいなのよねぇ···悔しいけどアレを押し返すのに今の私の残存魔力じゃ厳しいわぁ···だからマスター!!私と貴女、二つの令呪で魔力を限界までブーストさせるわよぉ!!!」

 

 

ロゥリィは何処かに存在し、こちら側を観察しているであろう己のマスターに令呪使用を要請する。

 

伝え終わるとロゥリィは自身の肉体に刻みこまれている無数の令呪の一画を発動させる呪文のごとき台詞を紡いでいった。

 

 

「【ルーラー】ロゥリィ・マーキュリーが令呪を持って自らに命ずる···私の愛しいドラちゃんとその仲間達を守り抜けっー!!」

 

 

『令呪を持って命ずる···我がサーヴァント【ルーラー】よ、ドラえもん達を守り抜けっ!!』

 

 

己とマスターらしき人物からの令呪による

魔力ブーストがロゥリィの身体に駆けめぐった。

 

 

「んっ!ふぅ···ああぁぁぁ~~~んんっっ♥良いわぁぁ···痺れちゃうぅぅ♥癖になっちゃいそう····♥」

 

 

何故か色気のある喘ぎ声を押し気もなく張り上げた。そして、

 

 

「さぁて、バーサーカーのマスター並びにいずれの陣営の小細工や裏工作が大好きな皆様方····私【ルーラー】のサーヴァントにして

【死神】ロゥリィ・マーキュリーが見事この眷獣を両断せしめてご覧に入れますわぁ♥

とくとご覧遊ばせぇ♪」

 

 

まるで一流の舞台女優の様に立ち振る舞い、軽快なステップと共に巨大な斧槍を鮮やかに廻す。大地を蹴り上げ迫り来る7番目の巨大な眷獣夜摩の黒剣(キファ・アーテル)へとハルバードを喜々として振るって向かって行く。

 

 

驚異的な跳躍力で天空より飛来せんとする剣の形をした眷獣の切っ先へと斬り込んだ。自身とマスターからの二つの令呪による魔力ブーストによる漆黒のオーラがロゥリィの身体を包みこみ輝きを放つ。そして【ルーラー】の気迫のこもった一撃が解放された。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ━━━━━━っっっ!!!!」

 

 

 

 

 

ロゥリィのハルバードが夜摩の黒剣(キファ・アーテル)と衝突した。

 

 

膨大な力と力がぶつかり合い、その影響なのか?周囲の空間が歪み、世界が塗り替えられるかのような錯覚をドラえもん達に与えた。

 

 

 

「気持ち良くイッちゃいなさいっっー!!!」

 

 

 

 

 

ロゥリィがそう発すると拮抗しあっていた力の天秤が崩れさった。そして一瞬にも満たない静寂の時間が流れた後、眷獣の身体、いや刀身に【死神】ロゥリィのハルバードの刃が食い込みやがて、刃を中心にひび割れながらその巨体は二つに別れた。

 

 

 

両断された憐れな剣の姿をした眷獣はその役目を果たす事なく惨めにその躯を晒してからゆっくりと消滅していった···

 

 

 

 




書きためた分はこれで最後です。更新ペースはこれまでより遅れますが、どうかこれからもよろしくお願いします。


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23話 雪霞狼

すみません、前話の22話冒頭を加筆修正しました。もしよろしければ本23話を読まれる前にご覧下さい。


ロゥリィは令呪による急激な魔力ブーストを二つまとめて使用して見事眷獣を一刀両断せしめた。だが、その反動が容赦なく身体を襲い余りの疲労の前に辛うじて意識を保つだけで精一杯だった。愛用のハルバードすら何時もの様に余裕を持って担ぐ事なく放り出し、その場に力なく踞うずくまった。

 

 

「ふぅ···さ、流石に少しだけ疲れたわねぇ···」

 

 

「グゥっ···ぬううっっ···!?」

 

 

理性を失い暴走状態にあるバーサーカーであったが召喚した眷獣があっさりと両断された事にほんの一瞬だけ動揺を走らせた。

 

 

雪菜はその隙を決して見逃がさず、駆け出して攻撃体勢に入った。

 

 

「ドラちゃんを狙ったのは許しませんよ

暁先輩!!しっかり反省して下さい、

はぁーっ(ゆらぎ)よっ!!」

 

 

雪菜は残り少ない体力を費やし、踏み込んで瞬間的に限界まで高めた呪力を両の掌に集約して放った。

 

 

バシィンッッー!!「ゴハァっっ!?」

 

 

暁古城の腹に呪力を込めた両掌底が直撃し、後退しながらも踏ん張る。だがまだ雪菜は攻撃を終らせずに次の攻撃を繰り出した。

 

 

伏雷(ふしいかずち)!!」

 

 

返す刀で身体を捻り、呪力を込めた回し蹴りを放つ。だが、暁古城はその蹴りを寸前でかわし、逆に隙ができた雪菜の喉元ををすかさず掴み、更に左手で彼女の頭を掴んだ。

 

 

「グゥ···ウウゥゥ····」 「ぐっ!せ、先輩·····」

 

 

暁古城は牙の生えた口を開き首元へと寄せる。

 

 

    「「雪菜さーんっ!!」」

 

 

シリカと佐天がそろって彼女の名を叫んでバーサーカーに攻撃を仕掛けた。佐天が近い距離まで接近して瞬間接着銃を暁古城に放ち、シリカはソードスキルのシャドウ・ステッチを発動させ、素早くバーサーカーの背後に忍び寄って首元、背中、腰に容赦なく短剣の柄で3連続の殴打を放つ。

 

 

大したダメージではないが、僅かな隙を作る事に成功し、すかさず雪菜は掴まれていた右腕を振りほどいて呪力を纏わせた肘鉄『土雷(つちいかづち)』を暁古城の鳩尾(みどおち)に喰らわせて距離を取った。そしてダメ押しにドラえもんがタケコプターで上空より接近し、

 

 

「これならどうだっ!!

スーパー手袋・ドラパーンチッ!!!」

 

 

手にはめれば、たちまち怪力を発揮する道具を使用してバーサーカーへ強力なパンチを上空からの落下の勢いも上乗せしてお見舞いした。

 

     「ヌゥゥン!!」

   

 

バーサーカーは咄嗟に反応してドラえもんに合わせるかの様に踏み込んで右のアッパーを放つ。互いの拳がぶつかり合い激しい衝突音が響いた。

 

 

    ガチィィーンッッ!!!

 

 

    「ぐぬぬっ~!!」

   「グウウッッ····ガアッッ!!」

 

 

拳と拳がせめぎ合い、暁古城の足元の地面がひび割れ脚が埋まりながらも更に強く踏ん張り、ドラえもんを弾き返した。それと同時にとうとう足場の地面が崩壊してゆき、咄嗟に野生の獣の如く素早い身のこなしでバーサーカーは後退していった。

 

 

     「うわあっー!!」

 

 

一方、吹き飛ばされたドラえもんは地面をゴロゴロと転がり、雪菜、佐天、シリカの三人は急いで駆け寄った。

 

 

「うぅ~ん!?」

「大丈夫ですかドラさんっ!?」

 

「ありがとう佐天ちゃん。僕は大丈夫だよ。それにしても雪菜ちゃんの先輩さんの事は話しに聞いていたけど本当に強い···!手加減してたらこっちがやられる····!」

 

ドラえもんは必死で必要以上に彼を傷つけずに止める方法を考えた。だが、その考える余裕すらなくなる。バーサーカー暁古城は三度(みたび)令呪によって魔力を注ぎ込まれ、新たな眷獣を召喚しようとしていた。

 

 

「がぁぁっ····!!ぬうぅぅ····ふうぅ·····」

 

 

「くっ···今、眷獣を呼ばれたら不味いです。何としても阻止しないとっ!う"ぅっ····」

 

 

雪菜は召喚を阻止しようと毒で受けたダメージと疲労で鈍くなる身体に鞭打って動こうとするが、バランスを崩してよろけた所をシリカに助けられた。

 

「雪菜さん無理しないで!」

 

「ありがとうシリカちゃん。しかし、このままでは····」

 

そう呟いた時、突然雪菜の耳元で聞き覚えのある声が響いた。

 

 

『·····い、····おい····聞こえ···るか···剣巫····』

 

 

雪菜は眼を見開いて辺りを見渡すが声の主の姿は全く見えず声のみが彼女の耳元で語り掛けてきた。

 

 

「こ、この声はもしかして···南宮(みなみや)先生!!?」

 

 

突如、雪菜の耳元に響いた声の主の名は南宮那月(みなみやなつき)。彩海学園の女性教師にして国家攻魔官の資格を所持しており【空隙(くうげき)の魔女】の異名を持ち、魔族から恐れられる強力な空間制御魔術の使い手であった。その彼女の声が途切れ途切れに雪菜の耳に届いていた。

 

 

『おま···えの····消えた場所から···僅かに残留してた····霊的パスを辿っていたら····突然空間の強い歪みを感知できたので一時的に空間を繋げて今、声だけ届けている···余り長くは持たないから手早く話すぞ。残念だが、

流石の私でもそこからお前を引き上げる事は難しい。だが、代わりにお前の······を届けてやる。必要だろ?どんな方法でもいいから数秒間だけ歪んでいる空間をどうにか固定しろ』 

 

突然の空隙の魔女からの無理難題とも言える指示に雪菜は迷いなく行動を起こした。

 

 

「ドラちゃんお願いがあります!さっき先輩の眷獣とロゥリィさんが衝突した際に起きたあの空に残っている空間の歪み···あれをどうにか数秒間だけでいいので固定する事は出来ませんか?とんでもない無茶な事を言っているのは承知しています。ですがドラちゃんならきっと何とかできると信じてお願いします···」

 

確かに突然の無茶な願いだった。だが、

 

「あの上空に出来てる歪みを固定すれば雪菜ちゃんがあの先輩さんを止められるんだね?よーし···僕に任せて!」

 

ドラえもんは笑顔でその無茶ぶりな願いを快く受けとめた。

 

「ドラちゃん···ありがとう···」

 

「それじゃミニドラや、みんなを頼むよ」

 

「ドララっ!」

 

ドラえもんはタケコプターで急いで先ほどの生まれた空間の歪みへと飛んで行った。

 

 

「それと佐天さん、シリカちゃん、危険を承知の上で二人にもお願いがあります。ほんの少しだけ先輩の動きを止めて時間稼ぎをしてくれませんか?そうしてくれれば後は私が···」

 

 

体力に余裕が無く、息を荒くしている雪菜は佐天とシリカを頼り、それを二人は快く引き受けた。

 

 

「ドラさんが何か雪菜さんの為に飛んで行ったんですよね?任せて下さいよ!まだ接着銃も残ってますから!ミニドラさんもよろしく!」

 

「ドララッタっ!!」

 

「雪菜さん任されました!よーし、ピノ、イーブイ皆も頑張ろう!」

 

「クピー!」「イーブイっ!」

 

「ありがとう二人共····」

 

「えっへへ···それじゃ行きますかっ!」

 

「はいっ!」

 

 

召喚の為の魔力を高めているバーサーカーに雪菜とドラえもんを除くみんなで一斉に飛び出した。

 

 

「えぇーい!この!この!このぉー!!」

 

「ドララッ~!!」

 

 

佐天は瞬間接着銃を暁古城の足元に集中して連射し、続けてミニドラが二丁のショックガンを撃って召喚の作業の集中の邪魔に成功する。

 

「グウヌゥゥッ!!?」

 

「シリカさん!」

 

「はいっ、任せて下さい!!ピノはれいとうビームを!イーブイはスピードスターをありったけ撃って!!」

 

「クピィー!」「ブイブイっ!」

 

 

シリカは二匹のポケモンに指示を出しつつ、自らもダガーにソードスキルのエネルギーを溜めた。

 

 

先制した佐天とミニドラのコンビによる足止めに続く形で、すかさずピノのれいとうビームが魔力に染まった右腕を凍らせ、イーブイはありったけのスピードスターをバーサーカーに放ち続けた。

 

 

「グオォォーッッ!!」

 

 

唯一自由な左手でイーブイのスピードスターを凪払っていた。そこへシリカが短剣のソードスキルを発動させ、追撃する。

 

「はぁー!グラヴィティ・マグナム!!」

 

弾丸の如き速度で暁古城の脇を通り抜け、背後から1撃、2撃、3撃、4撃と本来ダガーでの斬撃を柄での打撃に切り替えて容赦なく浴びせた後、素早く離脱した。

 

 

「ぐうっっ!!?グオッ·········フーッ、フーッ···うぅぅッ····オオオォォォーッッッ!!!」

 

 

足止めと時間稼ぎは成功した。だが再びバーサーカーに魔力が今まで以上に注がれ、新たなる眷獣を召喚しようとしていた。その頃、上空の空間の歪みに到着したドラえもんはポケットをまさぐり、ある秘密道具を取り出した。

 

 

「空間を固定するならこの道具でも可能なはず···あった!『空間接着剤』~!!」

 

空間接着剤。この道具は本来、空間に物や人を固定するための道具だが、『空間』そのものも固定するという用途にも使用できると判断してドラえもんはこの道具を取り出した。

 

「それぇ~!!」

 

ドラえもんは接着剤を専用のヘラで歪みの部分に塗り広げて行った。

 

「よし、完了!上手く行ったぞ。雪菜ちゃーんっ空間の固定が出来たよーっ!!」

 

 

「ありがとうドラちゃん····南宮先生どうにか空間の固定が出来ました。お願いします」

 

 

『····わかった····こちらからも感じ取れたぞ。では···受け取れ····姫柊雪菜!!』

 

 

···ピシッ···パキィ···バッキィィィンンン!!!

 

 

ドラえもんが空間接着剤で固定した空間が徐々に音を出しながら次第にひび割れて行き、そしてそこから白銀に輝く流麗なる一振りの槍がその姿を現した。

 

 

「これが雪菜ちゃんの言っていた槍····確か七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)だったっけ。なんて綺麗なんだろう····あっと見とれてる場合じゃないっ!!雪菜ちゃーん!!」

 

 

ドラえもんの呼びかけに顔を上げた雪菜の瞳に写るは、異なる空間を突き破り、上空よりまるで流星の如き輝きを放ちながら舞い降りる一振りの破魔の槍···その銘は雪霞狼(せっかろう)!!!

 

 

   

  ズドオォォ━━━━ンンッッ!!!

 

 

 

「ガッ!?ヌウウゥゥ····!!」

 

 

白銀の槍が地上に舞い降り、突き刺さった瞬間バーサーカーから発せられていた禍々しい魔力や邪気が引き裂かれたちまち霧散する。

 

 

そして獅子王機関の剣巫、姫柊雪菜はその槍を手にした。

 

 

    「「雪菜さん!!」」

 

 

佐天、シリカの声がハモった。

 

 

「····ありがとう···南宮先生···佐天さん、シリカちゃん、ミニドラちゃん、ピノちゃん、イーブイちゃん···そしてドラちゃん······みんな、後は私に任せて下さい···」

 

 

雪霞狼を手にした雪菜から清廉なる霊気が周囲に渦巻き、燻っていた巨大な力が解放された···それをとてつもなく危険だと感じ取ったバーサーカーは一気に2体の眷獣召喚を行った。

 

 

「ぐっ····ぬうぅぅ····オオォォッッー!!焔光の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者····暁古城が汝の枷を解き放つ···来やがれ···1番目の眷獣····神羊の金剛(メサルティム・アダマス)!!来やがれ8番目の眷獣蠍虎の紫(シャウラ・ヴィオーラ)!!」

 

 

   「「グオォォーッッッ!!!」」

 

 

金剛石で構成され、透き通った大小様々な結晶を周囲に浮かべた大角羊の姿をした戦士と紫の炎に包まれた獰猛な虎の姿をした眷獣2体がまとめて現れ、雪菜に迫る。

 

 

       コンッ···

 

 

吠え滾る2体の眷獣の前に雪菜は手にした槍の柄の端の石突(いしづき)部分を大地に軽く一突きすると厳かな霊気の波紋が周囲に広がり、雪菜は祝詞(のりと)を詠唱し始めた。

 

 

「·····獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る·····破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて····我に、悪神百鬼を討たせ給え!!」

 

 

眩い光が剣巫を包み、姫柊雪菜の類いまれなる霊気が止まることを知らずに上昇して行く。

 

1番目の眷獣神羊の金剛(メサルティム・アダマス)が結晶を弾丸として撃ち放ち、8番目の眷獣蠍虎の紫(シャウラ・ヴィオーラ)がそれに追随する形で襲いかかってくる。

 

 

槍を通して全身から霊気を漲らせ、雪菜は

雪霞狼を横凪へと一閃した。

 

 

「はぁぁーっ!!」

 

 

眷獣の放った結晶の弾丸を瞬時に消滅させ、雪菜は槍を構え直して突撃した。雪菜の高まった呪力に呼応して銀色の穂先に刻印されている幾何学模様の神格振動波の術式が現れ、聖なる光が輝きを放つ。

 

 

「雪霞狼!!」

 

 

ズドムッッ!!「ゴガアァァ━━━!!?」

 

 

そして瞬時に2体の眷獣がなす術なく圧倒され、まとめて貫き消滅させた。雪菜は勢いを止めずにその突きをバーサーカーに向けた。

 

 

     「オオォーッッ!!」

 

 

眷獣をまとめて消されたバーサーカーは自らの身体能力を武器に剣巫へ対峙し、吸血鬼の膂力を全開にした右拳を振り上げて強襲してきた。雪菜はそれを剣巫の未来視によって紙一重で見切り、鋭く踏み込み懐へと間合いを詰めた。そして······

 

 

 

      「暁···先輩·····」

 

 

 

雪霞狼の穂先が迷いなく暁古城の胸を貫いていた。

 

 

      「ゴッ···ハァッ·······」

 

 

 

刺さった胸を中心に白いパーカーを深紅に染め上げ···暁古城は吐血した。力無く立ちすくみ、しばらくその場を静寂が支配した。

 

 

 

ドラえもんと佐天、シリカ達は固唾を飲んで見守り、やがて····バーサーカーの両目から凶気とも言える殺意が消え失せて雪菜を真っ直ぐに見つめた。

 

 

「···ごめんなさい···先輩···私は···ここで巡り会った今の大事な仲間を···皆を守るために···あなたを···」

 

 

彼から顔を背け、槍を握る両手は震え、後から後へと止め処も無く熱い涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。

 

 

やがて、胸を貫かれた暁古城は血塗れた口から優しい声で彼女に語りかけた。

 

 

「···す···まない···雪···菜····」

 

 

「先輩····!?」

 

 

普段名字でしか呼ばない自分を名前で呼んだ先輩に背けていた顔を向けると、そこには何時ものどうしようのない、それでいて····とても優しい眼差しで見つめる暁古城の姿があった。

 

 

「迷惑かけちまったな····俺を止めてくれて····

ありがとな····」

 

 

「先輩····暁先輩·····」

 

 

かすれる声で何度も何度も先輩と囁き、どうしようもなく涙を溢れさせる。

 

 

やがて彼の、サーヴァントだった暁古城の身体は薄れ、まるで霧靄の様にこの世界から消滅していった·····

 

 

虚空を指している槍を下げて雪菜は打ちひしがれた。

 

 

ドラえもんと佐天、シリカ、ミニドラとポケモン達が心配して駆け寄った。

 

 

「雪菜ちゃん····」

 

 

掛ける言葉が見つからずに迷っていると周辺から女性の声が響いた。

 

 

『···おい、姫柊雪菜。どうやら無事に届いた様だな····ぬうぅっ!?····おいコラ!暁古城(・・・)!慌てるなっ!!』

 

『·····姫柊!!姫柊、聞こえるか!?····』

 

 

「えっ!えぇっ!?あ、暁先輩!?なっ、何で?先輩は私がたった今、この手で消滅させたのにっ!?」

 

 

雪菜はひどく混乱した。何故ならつい今しがた自らの手で引導を渡した筈の暁古城の声がはっきりと耳に届いていたからだ。

 

 

『はぁっ?消滅って何の話しだよ?イヤ、今はそんな事よりお前、どこに居るんだ?隣で一緒に歩いてたら突然お前の姿が消えて·····』

 

『えぇーいっ邪魔をするなっ!この馬鹿者がっ!ペシンッ!!』

 

 

雪菜の脳裏に何時ものように南宮那月に扇子で額をはたかれる場面が鮮明に浮かんだ。

 

 

『痛ってて····すんません、つい慌てちまって···それより早く姫柊を助けてやってくれよ

那月ちゃん········ベチイィィン!!

のわーっっ!!もっと痛てぇー!!』

 

『·····だから教師をちゃん付けで呼ぶな!何度言えば解るっ!』

 

 

二度目の扇子で叩く音が聞こえた。向こうの元の世界から普段と変わらぬ自分の日常風景の様子にどこかほっとする雪菜だが、やはり大きな疑問が心中を支配する。

 

 

ついさっきまで殺意にまみれた赤い眼で凶気に狂った先輩を消滅させたのに空隙の魔女の空間魔術から聞こえてくるのは自分のよく知る何時もの暁先輩だったからだ。

 

 

『···たくっ要らん世話を焼かせおって!すまないが姫柊雪菜、さっきも言ったが私の力を持ってしてもお前をそこの空間からこちらへ引き戻すのは難しい。奇妙な空間の歪みを利用してどうにか槍を送るだけで精一杯だった。私としては正直、不本意だが····に連···絡して····』

 

 

再び声が途切れ途切れになって届く。

 

 

雪菜は頭の中で必死で答えを出そうとしていた。

何故元の世界から先輩が無事で存在しているのか?さっき消滅した先輩は確かに本物の先輩なのに?

 

 

どんなに考えても明確な答えが出そうになかった。

 

 

『···どうやら···そろそろ···時間切れみたいだ。獅子王機関に連絡して対策をこうじてやるから、それまで何処にいるかは知らんが生き延びろ····そんな顔をするな、ほれ、変わってやる』

 

『·····姫柊!聞こえるか?姫柊!!』

 

 

「先輩···暁先輩···ちゃんと聞こえてますよ。私は大丈夫です。突然見知らぬ世界へ飛ばされちゃいましたが、そこでとても素敵な仲間と巡り会えましたから····それより先輩!ちゃんと課題と追試をしっかりと受けて下さいよ!もし、留年でもしたら私と同学年になっちゃうんですからね。それと私が居ないからって他の女の子にデレデレして、いやらしい事やハレンチな行為は断じて許しませんからねっ!」

 

 

『····いや、お前なぁ、こんな時にそんな事言ってる場合か?はぁ···全く姫柊は何時もの姫柊だな····とにかく何処に居るかはわからんが···大丈夫そうで、ひとまず安心したぜ····

必ず、必ず···俺がお前を····助け出してやるからな·····』

 

 

「その前に私が先に先輩の所へ戻りますよ。····何たって私は先輩の監視役何ですから!」

 

 

どこか吹っ切れた清々しい笑顔で元の世界の暁古城に声を届けた。

 

 

『····姫···柊·····・・・プツッ』

 

 

そして完全に元の世界との交信は終わりを告げたのだった。

 

 

 

「雪菜さん、今の声ってもしかして元の世界からの····」

 

シリカが悲しそうな顔で訪ねる。

 

 

「はい、そうです。何だか私だけすみません···」

 

 

罪悪感に曇った顔をした雪菜に佐天は慌ててみんなが思っている疑問を口にする。

 

 

「いえいえ、気にしないで下さいよ雪菜さん。それより今の聞こえてきた声って暁っていう先輩さんですか?それじゃさっき消えちゃったあの人は一体?」

 

 

「それは私にもわかりません····」

 

 

「それについては、まとめて説明してあげるわぁ」

 

 

何時の間にか雪菜達の所へハルバードをかついでいるロゥリィが居た。佐天は喜び近寄った。

 

「ロゥリィさん!無事だったんですね、良かった!」

 

「肝心な時に動けなかったけどねぇ···」

 

 

「そんな事ないですよ。ロゥリィさんがあの空から落ちてくる何だか凄く大きな剣みたいなのを真っ二つにして私達を助けてくれたんですから」

 

 

シリカはその時の事を思い出し、感謝を述べた。

 

 

「とにかくみんな無事で何よりだよ。取り敢えず一旦どこでもドアでここから離れよう。ウルフ達も心配してるだろうし···」

 

 

ドラえもんがみんなの健闘を労ってこの場から離れるのを提案した。

 

 

「そうですね。そうしま···しょう·····」 ドサッ

 

 

その時、姫柊雪菜は力無く倒れ、地面に付した。

  

 

   「「ゆっ、雪菜さーん!!?」」

 

 

 



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24話 胎動

お待たせしてスミマセン。修正と推敲にどんどん時間が取られてしまいこんなに遅くなってしまいました。最初の作品の頃と比べれば少しは成長してマシにはなってると思いたい、今日この頃です。


雪霞狼を手にした雪菜によって窮地を脱したドラえもん達だったが姫柊雪菜はその場で力無く倒れてしまった。

 

「雪菜ちゃん!?取り敢えずこれに乗せて運ぼう!」

 

ドラえもんはポケットから担架を取り出し雪菜を乗せて急いでどこでもドアでサーベルウルフ達が待機している森林地帯へと移動した。

 

   「ガウッ!ギャウギャウッ!」

 

どこでもドアから帰って来たドラえもん達一向をサーベルウルフ達は喜んで迎えたが佐天とシリカの表情は明るくなかった。二人は倒れた雪菜に必死で声をかけている。

 

「雪菜さんしっかり!死なないでぇ···」

 

「雪菜さん···ドラさんお願い!雪菜さんを助けてぇ!!」

 

「大丈夫!僕に任せて、雪菜ちゃんは絶対に助けてみせる!」

 

ドラえもんはポケットから『お医者さんカバン』を取り出して診察しようとするその時、奇妙な音が鳴った。

 

  

  グウゥゥ~~キュウルルッッ~~

 

 

    ・・・・・・・・・・・

 

 

 「えっ?」「んんっ?」「この音は····?」

 

·····深く薄暗い静かな森林の中で、白銀の槍を抱いている少女から大きなお腹の虫のメロディが周辺に鳴り響いた。

 

担架の上で皆から顔を隠し、耳まで真っ赤にした雪菜が申し訳なさそうに小さく呟く。

 

「すっ···スミマせん····その、私···お、お腹が空いてしまって···それで····倒れました·····」

 

 

   グゥゥ……キュルルルル……

 

   ギュルルルル~~グルッ……

 

   ~~~キュルルルルル~~~

 

 

何とも言えない気まずい沈黙が少しの間続くと、つられて佐天とシリカのお腹からも空腹を訴える音色が奏でられる。

 

 

グウゥゥ~ギュルルルル~グルッググゥゥ~

 

 

三人のお腹から奏でられたメロディーは一つに重なって三重奏(トリオ)となって、森の中を美しく鳴り響かせたのだった。

 

「いやぁー!!恥ずかしいぃぃっ~!!」

 

佐天は思わず両手で赤面した顔を隠して地面をゴロゴロと転がりだした。シリカも負けない位赤面し、その場でしゃがみ込んでひたすら恥辱に堪え忍んでいた。

 

その様子を僅かだが堪えていたがとうとう我慢出来なくなったロゥリィの笑い声が打ち破った。

 

「ぷっ、くっくっくっ····あっははっっ~!!とぉっても愉快で素敵な旋律ねぇ♥」

 

「うう"ぅ···穴があったら入りたい気分です····」

 

耳まで真っ赤になっている雪菜は担架の布地に顔を伏せたまま身悶えし、佐天は転がり、シリカは依然しゃがみ込んだまま沈黙を貫いている。

 

「いやいや···それはしょうがないよ。ぷっ!

お昼抜きでずっとこの世界を走り回ったり、クスッ!戦かったりしてたんだからさ·····

ぷぅ~クスクスっゲラゲラァ~~!!!」

 

「ドラちゃん、我慢している様で結局盛大に笑ってるじゃないですかっ!!!」

 

雪菜は笑いを堪えきれていないドラえもんに強く訴えた。

 

そんなドラえもん達のやり取りが愉快でロゥリィは実に楽し気に笑い続けている。

 

「フフフ···クスクスッ···ふぅ大丈夫よぉ、お腹が空くっていうのはしっかりと生きようとしている証なのだからぁ。生身の人間(・・・・・)の特権なのだから何ら恥じる必要はないのよぉ♪」

 

「ちょっとロゥリィさん。それだけ笑って、今更そんなのフォローになってないですからっ!」

    

  佐天が必死でロゥリィに抗議した。

 

「まあまあ、佐天ちゃん落ち着いて。みんな本当に無事で何よりだよ。ウルフ達も僕らをここまで乗せてくれたり、待っててくれてありがとうね。良かったらこれを受け取ってよ!」

 

ドラえもんはポケットから『万能ペットフードグルメン』を取り出した。これはどんな動物でも食べられる22世紀のペットフードで栄養も豊富に富んでいる。

 

「ワオンッ、ギャウ、ガウガウッ···ウォン」

 

サーベルウルフのボスである白いウルフが何かを伝えている。

 

何を言っているのか未だにさっぱり解らないシリカはドラえもんに振り向き頼った。

 

「····え~っと、ドラえもんさん翻訳をお願いします」

 

「うん。えっとね、シリカちゃんこのボスは···君達の仲間も無事で何よりだ。美味しそうな食物をありがとう、ありがたく頂いてゆく。他の仲間も我らの帰りを待っているので名残惜しいが、我々はこの辺で失礼させて頂こう。私と仲間の命を救ってくれた恩は決して忘れない···って言ってるよ」

 

  「本当に知性が高いですね····」

 

感心と少し呆れる気持ちが混ざったシリカは呟いた。

 

サーベルウルフ達はドラえもんから貰ったグルメンを口に咥え、他の場所に居る自分達の仲間の元へと帰るべく別れを告げる。

 

「サーベルウルフさん本当にありがとう。またどこかで····お元気で···」

 

ウルフ達との別れに寂しい気持ちがこみ上げてしまい、思わずシリカの目尻が滲む。

 

 「ガルゥ!」「ワオン!」「ギャウッ!!」

 「グッピーッ」「ドララッ」「イーブイッ」

 

ピノとミニドラ、そしてイーブイも寂しい気持ちがヒシヒシと伝わってくる鳴き声で別れの挨拶をして見送った。

 

皆はサーベルウルフ達の姿が見えなくなるまでじっと静かに向こう側を眺めていた。

 

寂しい気な姿のポケモン達を眺めた雪菜はシリカに言葉をかける。

 

「とても素敵な出会いがあったんですね

シリカちゃん···」

 

目尻に零れる僅かな涙を拭っているシリカは雪菜に返事をした。

 

「はい雪菜さん。でも、最初は本当に大変だったんですよ···」

 

「そうそう、私も大変でしたよシリカさん!変な木の怪物と遭遇したり、私達が別れる原因になった黒くて大きな蛇がしつこく追いかけてきたりして。そしたら···」

 

お互い分断させられた後、如何なる困難に遭遇したかをシリカと二人、話し合おうと勢いづく佐天をドラえもんが割って入った。

 

「二人共ちょっとタンマ。とにかく今は落ち着ける場所に移って食事してから話そうよ。なんせ雪菜ちゃんのお腹の虫が鳴いてペコペコだからね」

 

「···私を腹ペコ代表にしないでくれませんか

ドラちゃん!?」

 

雪菜が納得いかないとばかりに軽く憤慨してドラえもんに訴える。

 

「あはは、ゴメンゴメン雪菜ちゃん。えっと···確かポケットのこの辺に···あったあった。

『キャンピングハット』~!!」

 

ドラえもんが取り出したこの道具はかつてのジャングルの大魔境へ冒険した際に使用した道具で、普段は何の変哲のない帽子だが、ボタンを押すと部屋が五つもある巨大なキャンピングハウスになる道具だ。

 

ドラえもんが帽子の真ん中のボタンを押すと帽子はムクムクとたちまち大きくなり、立派なキャンピングハウスへと変化した。

 

「わぁ~凄い、凄い!!帽子がキャンプハウスになっちゃった!!」 

 

 佐天が驚きと歓喜の声をあげる。

 

 「フフフ···さっ、みんな入って」

 

ドラえもんが先頭になって登り、天辺の蓋を開いて中へ入ってゆく。

 

全員キャンピングハットの中に入ると中は意外に広く、床はふかふかの絨毯が敷いてある。

 

「この中には真ん中の部屋を中心に五つの個室があるから好きな部屋を選んでね!それからこれを····」

 

更にドラえもんはポケットから丸いテーブルと人数分の椅子、そしてお馴染みのグルメテーブルかけを出した。

 

「これで準備OK!さあ、みんな何が食べたい?」

 

ドラえもんのこの言葉に雪菜、佐天、シリカの三人はお互いの顔を見合せてニッコリと笑い合う。

 

「····そうですね···まずは熱々のお茶と豚汁に」

「美味しいお握りと」「甘い卵焼きにタコさんウィンナーをお願いします!」

 

「フフフ···よーし任せて!!」

 

ドラえもんはニッコリと優しく笑ってテーブルかけから料理を注文した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

とある空間、とある施設の通路にどこか現実感の薄い女性が剣士といえる装いをした少女を連れて歩いていた。

 

「此処には何があるのさ、キャスター?」

 

黒紫を基調にした髪色に尖った耳をしている彼女の名はユウキ。この世界(・・)にセイバーのクラスとして召喚されたサーヴァントである。

 

「フフフッ···あなたのお仲間よ···取り敢えず顔見せ位はしておいた方がいいと思ってね···

曲がりなりにも同じ陣営なのだから」

 

キャスターと呼ばれた女性はとても美しい容姿をしており、身体を覆い隠す程の長さの淡い紫色の髪色と同じ色合いの薄衣のドレスを着用しており、後頭部周辺にヒラヒラとしたカチューシャらしき装飾が浮かんでいる。

 

厳重に幾重にも警戒して閉ざされている未来的な扉を幾つか開き、奥の方へと歩いて行くと薄暗い部屋の壁に何か人のようなモノが蠢いていた。

 

     「····あれは····!?」

 

勘と視力の良いユウキは何が蠢いているのかをいち早く気づき、所持している剣の柄に手を掛け警戒態勢を取った。

 

蠢いているのは人···否、人というには半分正解で半分間違っていた。

 

「ウフフ···ご機嫌よう。気分は如何かしら?

ライダー」

 

「···あ"あ"っ~!?気分は如何かしらだぁ?

こんな身体でよぉ···良い訳ねえだろがぁ、

このアバズレがぁー!!!」

 

血眼になって怒気を伴い、汚く喧嘩越しの荒々しい口を開いたのはライダーと呼ばれたサーヴァントだった。

 

妙齢の女性で髪をハーフアップ気味のポニーテールにし、眼鏡をかけていて黙っていれば知的美人と言っても間違い容姿だ。しかし今の彼女は全てがマトモではなかった。身体の左半分は何かしらの機械の装甲を身に纏い、もう右半分は何か別の生物が混ざっていた。

 

右半身の身体には多数の目玉と涎を垂らしている唇と、小さな触手やら、翼やら角やらが飛び出して各々が不気味に蠢いている。そして暴走して動かぬ様にと見た目からして頑丈そうな太い鎖で壁に縫いつけられてるかのように拘束されていた。

 

「アラアラ····ご機嫌斜めねぇ?何時になったら素直にこちらの話しを聞いてくれるのかしら?余り貴女ばかりに時間を割いても居られないのよねぇ·····」

 

頬に手をやり、明らかに余裕がありながら、敢えてわざと困り顔で目の前のライダーに挑発めいた言動を放つ。

 

「くそが、クソが、糞がっ!!とっとと

この拘束を外しやがれぇ!!外してくれたらよぉ···一番にテメエのその澄ました面をグチャグチャにすり潰してやるからよぉ!!!」

 

「あらあら···怖い怖い···有益な話しはちゃんと聞いた方がお得よライダー?確か貴女の真名は···テレスティーナ=木原=ライフラインだったわよね?···無駄に長くて珍妙な感じがよぉく貴女に似合っていて素敵だわぁ···」

 

「···殺すっ!テメエは絶対に殺すっ!

生きながら腹を裂いて、悲鳴をBGMにしながらハラワタ引きずり出して前衛的なオブジェにして飾ってやっからなぁっ!!!」

 

不毛な罵り合いに辟易としたユウキがキャスターの服の裾を引っ張り、本題に入る様に促す。

 

「あらいけない、ついつい反応が楽しくて忘れちゃってたわ。それじゃ遅くなったけど紹介するわ。こちらが私達【碧の陣営】になったセイバーのクラス、絶剣のユウキよ」

 

「ど、どうも初めまして。よろしくお願いします···(う"う"っ···どう考えても仲良く出来そうにないなあ····)」

 

礼儀正しく頭を下げてようやく顔合わせはしたもののキャスターとのやり取りを見る限り、とてもこれから仲良くやって行けそうにはないと感じていた。

 

「はぁ?こんなチンチクリンがセイバーとかいう最優のクラスなのかよ?···つーかよぉ、そもそも私は元の世界で革新的な実験の最中に予想外の事故に巻き込まれて気づいたらこんな訳の解らん場所に1人跳ばされて来ただけで、テメエらの世界の人類の生き残りを賭けた戦争なんぞにこれっぽっちも興味なんざねえんだよっ!!ライダーとか妙な呼称で呼び腐りやがって····オマケに美しい私の身体がこんな有り様だ!とことん舐め腐りやがって·····!!」

 

「ここに来た理由は単にこの娘の紹介だけじゃないわ。貴女の身体を治し、元の世界へ帰れるだけじゃなく、貴女が遥か夢想して止まない秘めた願望も叶えられる存在が出現したのよ?」

 

「あ"あ"っ···!?何だその無駄に都合の良い存在ってのは?」

 

「あらゆる願いを叶えてくれる万能の願望機、【疑似聖杯】にして時空の因果の理すら操り、自身が特異点にして【フォーリナー(降臨者)】と呼ばれるサーヴァント、【ドラえもん】と呼ばれる存在がこの世界に現れたのよ!」

 

常に物静かで優雅な佇まいを崩さなかったキャスターが、やたらと興奮して言い終えた。

 

「私を謀ってんのかぁ···?チッ、どっちにしろ何時までもこのままじゃ埒があかねぇ。

····ドラえもん?とか言うふざけた名前の奴を手に入れる為に不本意だがテメエの下についてやるよ····キャスター・アドミニィ···」

 

「変に略さないで貰おうかしら?私の事は、そうねぇ···キャスターか『猊下』、もしくばちゃんとアドミニストレーター()って呼びなさい」

 

「ハッ!調子のってんじゃねえぞっ、この

年増ババァがぁ?」

 

「···一度しっかり調教しないといけないみたいね、この獣は····貴女にお似合いの首輪を見繕ってあげるから感謝なさい」

 

「上等だテメェ、私の前を歩く時は背中に気をつけろよぉ?隙を見せたら即潰すからなっ!せいぜい覚悟しとけやっ!」

 

 

「はぁ····(これからはこの人達と一緒に動かないといけないのか···僕、もう今から疲れてきたよ···)」

 

二人のやり取りに深いため息をつき、疲労が増すユウキだった。

 

 

 




申し訳ありません、次回も遅くなりそうです。気長に待って頂けたら幸いです。
感想もどうかよろしくお願いします。


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25話 3つの陣営

お待たせしました。お楽しみ下さい。


時は少し逆戻り、ドラえもん達がバーサーカーとの激しい戦いを繰り広げていた頃、遠くから密かに監視をしていた謎の人物、ミサキと何やら不可思議な存在のカトウと共に研究所への道を急いでいた。

 

「ここから先は森林地帯···よし、なら君に決めた!頼んだぞギャロップっ!!」   

 

「ヒヒィーン!!」

 

ベルトに備え付けてあるモンスターボールを投げると蓋が開き、中から炎を身に纏った馬の姿をしたポケモン、ギャロップが勢いよく飛び出し(いなな)いた。

 

ミサキはギャロップの背に跨がり、強くしがみついて身体を預け、至急研究所への帰還を頼むと指示を出す。

 

ギャロップはマスターであるミサキの期待に答えるべく、火の粉を撒き散らしながら全力で疾走して行った。

 

樹木の蔓延(はびこ)る森を難なく通り抜け、高い丘や崖を越え、険しい坂道を猛速で駆け上がり、岩山に偽装してある研究所へと戻って来た。

 

「ふうっ···流石ギャロップだ。お前のおかげで早く戻れたよ。ありがとな。戻って、ゆっくりと休んでくれ」

 

「ヒィ~ンッ!!」

 

役目を立派に果たしてくれたギャロップを優しく労い、ミサキは腰回りのベルトに備え付けてあるモンスターボールへと戻した。

 

 

岩山に偽装してある扉を開いて地下へと降り研究所へと戻ったミサキは、息を弾ませて白衣に身を包んだ初老の人物の元へと駆け寄る。

 

「はぁはぁ、只今戻りましたフジ博士」

 

「おお、戻ったかねミサキくん。こちらでも高いエネルギー反応を観測したよ。

とうとう奴らはこの星で始めるようじゃ

···亜種聖杯大戦を」

 

フジ博士と呼ばれた人物は悲痛な表情で陰りを見せた。

 

「カトウ君の観測情報によれば、降りて来たサーヴァントは最も厄介なクラスであるバーサーカーだと断定出来たので、危険だと判断して現場から緊急離脱してきました」

 

「うむ。こちらでもそのように判断したよ。ありがとうなカトウ君」

 

「いえいえ。情報収集と分析は私の仕事ですから」

 

空中に浮かぶ真ん丸な物体が綺麗な声で謙遜した。

 

「やあ、ミサキくん無事に戻って来てくれて何よりだ」

「あ、茅場さんありがとうございます」

 

奥からフジ博士同様白衣に身を包んだ学者らしき若い男が歩み、ミサキの無事を喜んだ。

 

「さて、今後の対応なんじゃが、やはりどうしても意見が二つに別れてしまっておる。

1つはこのまま、彼らの驚異が去るのを大人しく待つか、もう1つは積極的にこちらからあのドラえもん君に接触するかに別れとるよ」

 

「僕の意見としては監視していた様子からみて、あの黒いゴスロリ姿のサーヴァントとは、どうにか話せば通じるといった印象を受けましたね。だからと言って、完全に信用出来るかどうかはまた別ですが····」

 

監視する中、佐天とのやり取りを見ていて、ロゥリィとならば普通に話しだけするなら可能とミサキは判断していた。

 

「ふむ···儂としても出来る限り余計な奴らとの接触は避けつつも、どうにかドラえもん君にだけ近づきたい所じゃ。···のう、茅場くん、君の意見も聞きたいんじゃが···どうかね?」

 

「そうですね···正直、このまま静観していても状況は悪くなる一方···やはりここは多少の

リスクを負ってでもこちらから接触するべきでしょう」

 

「ふむ···そうか···では急いでトリノ博士にも連絡を···」

 

      ビービービー!!

 

研究所の機関室内に備え付けてある通信機器から呼び出し音がけたたましく鳴り響く。

 

慌ててフジ博士は画面のスイッチを押すと備え付けてあるモニターから妙に鼻の長く、白い長髪にトンガリ帽子を被っている白眼の老人が映った。

 

  『···フジ博士、今よいかのう?』

 

「おお、トリノ博士!今、ちょうど連絡をしようと思うとった所じゃ。やはり彼らの目的はドラえもん君が目当ての様子じゃ。

儂としては出来れば他のサーヴァントを刺激せずにドラえもん君にだけいち早く接触して話し合いが出来ればいいと思うとるんじゃが···どうだろうか?」

 

『ワシの方でも一部始終を監視(・・・・・・・)していた様子から判断するに、あのドラえもんとだけ接触するなら問題ないじゃろう。だが、あの黒髪の巨大な武具を持つサーヴァントには注意するべきとワシは判断するわい』

 

「やはりそう思うかね····どうにかドラえもん君とだけ話しが出来れば···」

 

「では、少々手荒いやり方ですが、彼ドラえもん君をこちらで強引に鹵獲するという手段はどうでしょうか?」

 

茅場が湯気の立つ珈琲の入ったカップを片手に持ってミサキに差し出しながら冷静な顔で提案してきた。

 

「珈琲、ありがとうございます茅場さん。

しかし鹵獲···ですか?···確かに少々手荒い案ですね。でもサーヴァントとイタズラに敵対してこの星に被害が及ぶよりはずっとマシかもしれませんね····

せっかく苦労の末にバリアで覆い被せて囲った、あの空間の歪みが頻繁に発生する

【災禍の森】で下手に暴れられたりでもしたら、また環境が不安定になりますし、何よりとり残されてしまっているポケモン達を無事に回収するのも困難になりますからね····」

 

茅場から珈琲の入ったカップを礼を言って受け取りながら手荒いやり方だとミサキは感じたが、最悪の事態を考え、茅場の提案に賛同しようとした矢先にトリノと呼ばれる博士が特徴的な笑い声を上げて呼びかけた。

 

『ホーホッホッホ···では一つ、ワシに任せてみてくれんかね?丁度お誂え向きの試してみたい道具があるんでな。少々手荒くなってもいいんじゃろう?なに、彼の命···自立活動には支障のない範囲でやるさね』

 

フジ博士はしばし、腕を組んで顎に手をやり思考した後、茅場の提案に賛同し、その実行をトリノ博士に託した。

 

「···ふむ。この星とポケモン達との理想郷の為にやむを得まい。少々乱暴だが、超常的な力を持つサーヴァント相手ではで仕方がないのかもな···決めましたぞ。ではトリノ博士負担をかけますが、よろしくお頼みします」

 

『ホーホッホッホ。わかりましたぞ。

では早速あの道具を試してみますかねぇ····』

 

こうして未だその正体と全貌のハッキリとしない学者らしき人間がドラえもんを狙って動き出すのだった····

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そして時は現在、キャンピングハット内にて、ドラえもんが取り出したグルメテーブルかけから料理が出され、たちまち部屋中に美味しそうな香りが漂ってくる。

 

「はい、注文の料理だよ。みんなお腹いっぱい食べてね!おっと、君達にはこれだよ」

 

ピノとイーブイのポケモン達には先ほど別れたサーベルウルフ達に餞別として渡した

『万能ペットフードグルメン』を専用皿に盛りつけて与えた。

 

「クピピッピィィ~♫」 「イ~ブイィ~♪」

 

1つ口にすると二匹はたちまち気に入り、上機嫌になって踊り出して美味しさをアピールし始めた。

 

「良かったね、ピノ、イーブイ」

 

食欲旺盛な二匹にシリカもホッとした顔で喜んだ。

 

「ふふっ、気に入りって貰えて何よりだよ。それじゃミニドラとロゥリィちゃんも席に座って一緒に食べよう」

 

 「ドララッ♬」 「悪いけど私は····」

 

ロゥリィ・マーキュリー···彼女はサーヴァントと呼ばれる特殊な存在で、通常の人間の様に食事を摂取する形での生命維持は一切不要であった。だからと言って別に飲食が不可能という訳ではなく、趣味、嗜好としての飲食は可能だった。

 

だが、そんな事を知らずに危うい所を助けてくれたロゥリィに佐天は一緒に食事を楽しもうと積極的に背中を押した。

 

「もう!ロゥリィさんたら、なに遠慮してるんですか?席に座って一緒に食べましょうよ!ドラさんのこの道具から出て来る料理はどれもみぃ~んな美味しいんですよ!!」

 

「そうですよロゥリィさん。温いうちに一緒に頂きましょう」

 

佐天同様、命を助けられた雪菜も一緒になって食事を勧めた。

 

(私はサーヴァントだから食事の類いは不要なのよねぇ···)

 

「ねえロゥリィちゃん、あれだけ激しく戦った後何だから、ちゃんと食事をしてしっかりと休もうよ!色々な事情も気になるけど先ずはしっかりと体と心を休ませなくっちゃ!」

 

「ふぅ···わかったわぁ。ちゃあんと食事を頂くわ。愛しのドラちゃんにそこまで言われたら惚れてる弱味で従うしかないしねぇ···♥ 

(これ以上、無理に断るのもヤボってヤツよねぇ)」

 

こうしてみんな揃って食事を楽しみ、満足した佐天とシリカの二人は揃って猛烈な眠気に襲われ大きなあくびをしてしまう。 

 

「ふあぁぁ····ダメ···お腹が満たされたら、急激に眠気が···」

 

「わ、私もです···あふぅ~お風呂に入って···歯磨きをしないといけないのに····」

 

「二人ともしっかりして下さい。ロゥリィさんから色々とお話を聞かないと···ふあぁ~······ハッ!」

 

雪菜も強制的にやってくる心地の良い眠気には抗えず、二人に負けない位のアクビを思わずしてしまい、自己嫌悪に襲われる。

 

「フフフ···みんな今日1日凄く頑張ったからね。しょうがないよ。ロゥリィちゃん悪いんだけど気になる話しは明日にして貰っていいかな?僕も疲れてて、頭に入ってこないからさ?」

 

「ええ、私は構わないわ。そうねぇ·····

どうせこのまま寝るんなら私はドラちゃんと添い寝させて貰おうかしらぁ···ねぇ、いいでしょう。ほらぁ···ドラァちゃぁん···♥」

 

寝転んで色っぽく片足を上げ、自らのセクシーな脚線美をアピールし、ウィンクしながら投げキッスまでして誘惑してくるロゥリィに、ドラえもんはタジタジになるも、

 

「え、え、えぇっ!?そんなぁ···照れくさいなぁ···デヘデヘ~」

 

結構満更でもないドラえもんの顔は実にだらしなく、しまりのない顔になり、ヒゲもダラリと垂れ下がっていった。

そんなみっともないドラえもんの態度に雪菜は大声を張り上げ、二人を驚かせた。

 

「言い訳ないでしょう!!!ロゥリィさん、あなたという人は何を考えているんですか!

はしたないっ!!それとドラちゃんデレデレし過ぎですっ!!それじゃまるで先輩みたいじゃないですかっ!!」

 

「しょえぇぇ~っ!!ゆ、雪菜ちゃん少し落ち着いて!?」

 

「いいえ、このままではドラちゃんが先輩のようにやらしい人間···いえ、ロボットになってしまいますっ!!こうなったら2ページ分位まできっちりとお説教です!ロゥリィさんもですよ!!」

 

雪菜は眠気が吹き飛ぶほど憤慨し、ロゥリィに目くじらを立て、ドラえもんに到っては

先輩である暁古城の姿が重なってしまい、

とうとう説教まで始める始末だった。

 

そんな雪菜達を余所に佐天とシリカは、

 

「うへへ···初春のおパンちゅ大胆~····クゥー」

「ぬふふ···キリトさんったら大胆~····スゥー」

 

二人仲良くテーブルの前に身体を支えあうようにして座ったまま瞼を閉じ、スヤスヤと幸せそうに夢の世界へと羽ばたいていた。

 

こうして困難を乗り越えたドラえもんと三人娘達は再び集い、ロゥリィも含めて四人一緒に夜はふけていった·····

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

とある空間、とある施設内にて【碧の陣営】のキャスタークラスのサーヴァント、アドミニストレーターが【人工魔術回路】に適合した複数の人間達を召集し、新たなるサーヴァントを召喚しようとしていた。

 

広く、豪華に儀式として整えられた一室に集った多数の人間達は、皆共通して一様に正気とは思えない虚ろでどこか微睡んでいるかのような顔をしており、全員が右手の甲に様々にデザインされた赤色の刺青、令呪が刻まれている。

 

「フフフ····ようこそ···疑似魔術師となり、令呪を獲得したマスター達よ。よく集まってくれました。さあ、この【英霊召喚儀式シート】に己の魔力を注ぎ、サーヴァント達を召喚なさい」

 

キャスター・アドミニストレーターの美しく、優しくて安らげる声に心酔するかのように皆は従い、床に広げられた幾何学的模様の描かれている複数の魔法陣のシートに向かって全員が一斉に右手を掲げ、召喚の詠唱を唱え始めた。

      

 

「「「─素に銀と鉄、礎に石と契約の大公、

手向ける色は【碧】───

 

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ満たせ、閉じよ満たせ、閉じよ

満たせ、閉じよ満たせ、閉じよ満たせ───

 

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 

────────告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ───

 

誓いを此処に。我は常世総の善と成る者、

我は常世総ての悪を敷しく者。

 

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より

来たれ、天秤の守り手よ──────」」」

 

 

詠唱の声が響き渡る度にシートに描かれている魔法陣が(あた)かも心の臓の鼓動の脈動の如く呼応し、光を放って輝く。そして詠唱が終わり、召喚シートの上に眩い光の柱がのぼり、部屋に一陣の風が吹き上げ、召喚された新たなるサーヴァント三体が、遂にその姿を現した。

 

 

 「ようこそ···我が愛しのサーヴァント達。

 ランサー、アーチャー、アサシン···」

 

 

「···ふむ。成る程···そういう事ですか。

いいでしょう。我が悲願の成就と因縁の輩との決着の為、貴女に私の力、惜しみなくお貸ししましょう。我が槍、零式突撃降魔双槍・冥餓狼(メガロ)に誓って」

 

最初にランサーと呼ばれた男は、年の頃は

二十歳前後の青年で、眼鏡をかけ冷静で知的な面構えをしたインテリと呼べるような風貌の男だった。

 

中華風の服装をしており、右手に黒く塗り潰され、上下に大きな穂先を結合させた奇妙な形状の槍を携えて現れ、頭の中に自動的に流れ込んでくる情報を即座に理解し、現状に納得した上で彼女に従う意思をみせた。

 

 

「あ"あ"っ?なんだぁ、テメェは····

誰が何だって···んんっ?頭の中に妙な情報が入って来やがる··········ハァンッ、成る程。

聖杯大戦かぁ···いいねぇ···丁度、浜面(はまづら)の野郎にムシャクシャさせられていた所だ。

このモヤモヤを存分に発散させるにはお(あつらえ)え向きじゃないか」

 

次にアーチャーと呼ばれたのは妙齢の女性で、スラリとした長身にふわふわとした茶髪をしており、スタイルも肉付きは豊かでモデルのようなプロポーションの持ち主であった。

 

ライダーに負けず劣らず、荒々しい口ぶりと好戦的な眼と表情が肉食動物の如き野性的な魅力を醸し出している。その反面、仕草の一つ一つに隠しきれない気品さも映り、それらが相反して彼女の美くしさをより一層際立たせていた。

 

 

「おおっ····なっ、なんという美しさだ····!

キャスター様···いや、アドミニストレーター様とお呼びすればよろしいでしょうか?私のことは出来れば是非ともクラディールとお呼び下さいませ。我が力、我が剣、我が命運の全てを貴女様に捧げ、絶対なる忠誠をここに誓いましょう!」

 

最後にアサシンと呼ばれたサーヴァントは男性で、白をメインとし、赤いラインの入っている甲冑にマントを身に付け、立っている姿だけならまさに清廉なる騎士といった出で立ちであった。

 

だが、それらも本人の見るからに神経質で、陰鬱とし、卑しさが滲み出ている顔つきのせいで全てが台無しになっていた。

初対面のアドミニストレーターの美貌に一目で心酔し、虜になったアサシンは(うやうや)しく平伏し頭を垂れ、他の二人と違い、始めから忠実な部下として仕える明確な意思を示した。

 

「フフフ···良い子達ね。とても頼もしい限りだわ」

 

アドミニストレーターは三人のサーヴァントに満足気な妖しい双眸を向け、翻ってサーヴァント召喚に貢献した疑似魔術師達をどこか塵芥を見るような視線で一瞥して声をかける。

 

「皆の者、よくお聞きなさい。あなた達は

サーヴァントの召喚を見事に成功させ、その役目を果たしました。そして辛く、厳しい苦難を乗り越え、残された人類の生き残りを掛けた聖杯大戦はここに終結し、我ら

【碧の陣営】は勝利したのです。皆の悲願は無事に果たされました····

故に約束どうり、残っている令呪は全て私に明け渡して貰うわね····」

 

虚ろな表情の疑似魔術師達は皆、何一つ疑問を抱かず、命じられるまま、揃って赤い刺青が刻まれた右手をキャスターの前に掲げ、

緋色の閃光を発すると、一度たりとも使用してない令呪は全てアドミニストレーターの

身体に刻まれ、回収されいった·····

 

 

「さあ、それじゃ本格的に始めましょうか···

私の亜種・聖杯大戦を····」

 

 

 




すみません、他の作品も執筆しなければならないので次回も少し遅れてしまいます。どうか気長にお待ち下さい。


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26話 創世セット

  

「はぁぁ·····気持ちいいィィ~·······」

 

佐天涙子が髪をシャンプーで泡立てながら、心の底からドラえもんの道具の有り難みに感謝しながら至福の一時を過ごしていた。

 

初めてのサーヴァントとの戦闘による疲労から、眠気に抗えずに風呂に入りそびれ、今日朝イチからドラえもんにお願いして壁紙ハウスの大浴場バージョンを出して貰って堪能している最中であった。

 

「結局、昨日は食事してから何時の間にか寝ちゃって、ドラえもんさんがその場に布団を敷いてくれてごろ寝でしたもんね」

 

シリカが泡立ったボディタオルで体を心地良さげな顔で洗いながら呟く。

 

「本当にドラちゃんに感謝です。こうやってのんびりと体を清めながら、昨日分断されていた間、それどれ何があったのかの情報の擦り合わせも出来ますからね」

 

昨夜、何の事情も聞けずにいた雪菜は洗髪しながら今日こそはと張りきり、コンディショナーを洗い流し終えて湯船に入る。

 

三人の中で一番髪の長い佐天がようやく洗い終えて一緒に湯船に浸かった。

 

   「「「はあぁぁ~·······幸せ······」」」

 

熱いお湯に肩まで浸かりながら、お互いに昨日のことについて話しあった。

 

 

「ええっっ!?ドラさん壊れちゃったんですかっ!!?」

 

「私がトドメをさしちゃったんですけどね···」

 

「壊れたドラちゃんと移動していて、偶然見つけた洞窟の先に謎の研究施設が放置されていて、そこでミニドラちゃんとポケモンのフリーザー···いえ、ピノちゃんと巡り会えたんですね」

 

樹木の魔物にしつこい黒蛇との戦い・ロゥリィの参戦。壊れたドラえもんにてんてこ舞いだったシリカ。運命とも言えるミニドラとピノとの出会い。

 

三人はお互い無事な再開に改めて喜び合う。

 

「でも、一番危なかったのって雪菜さんですよね。あの黒くて大きな蛇が毒まで持ってたなんて····本当にもう大丈夫なんですか?」

 

「ありがとうシリカちゃん。私は本当にもうどこにも異常なく万全ですよ。ロゥリィさんの飲ませてくれた薬とドラちゃんが出してくれた美味しい食事に、しっかりとした睡眠を十分に取り、温かいお風呂も頂いてますから」

 

心配してくれたシリカに雪菜は優しい顔で答えると浴場の入り口ドアが開かれ、ロゥリィが裸にタオルを巻いて遅れて入ってきた。

 

「ふぅ···残念~ドラちゃんったら、本当に奥手なんだからぁ~」

 

「あれ?ロゥリィさん随分遅かったですね。何してたんですか?」

 

佐天が聞くと長く鮮やかに艶めく黒髪を靡かせて残念そうな顔で答える。

 

「ドラちゃんにぃ···一緒にお風呂に入ってぇ、体を洗いっこしましょう~って迫ったら顔を真っ赤にして逃げられちゃったのよねぇ···

本当にドラちゃんったら恥ずかしがり屋さん♥」

 

「なっ!?ロゥリィさん、ドラちゃんになんてことお願いしてるんですかっ!!いやらしいな真似はやめて下さい!!」

 

思わず湯船から立ち上がってロゥリィに抗議する雪菜だったが、ロゥリィはそれを適当にあしらい、しっかり身体を洗ってから湯船に浸かる。

 

「ふぅ~♥いいお湯ねぇ~ドラちゃんの道具って本当に凄いわね」

 

「····ロゥリィさん」

 

「あらぁ?まだ何か文句を言いたいのかしらぁ?」

 

「いえ···それはそれで言いたいのは山々なのですが···それよりもあの時、私はこの手で先輩の胸を雪霞狼で貫き消滅させました···

でも私の元居た世界から、南宮先生の空間魔術による通信で先輩本人が存在しているのが確認出来ました····上手く言えませんがどちらも本物だと私の中で確信しています」

 

···しばしロゥリィと雪菜の二人は真剣に見つめ合って沈黙が流れる。

 

「安心なさい。その疑問も何もかも、全てお風呂から上がったら、ちゃあんと答えてあげるわぁ。

まっ、私というよりマスターがねっ♥」

 

「マスター···ですか···」

 

ロゥリィは丁度いい熱さの湯船に浸かり、リラックスしながら答えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

お風呂から上がり、身支度を整えてテーブルを囲ったドラえもんと三人娘達はロゥリィに注目する。

 

「さぁ、それでは皆さま方お待ちかね。諸々の詳しい事情はこの通信キューブを通してマスターから説明してくれるので何卒ご静聴の程をお願いするわぁ」

 

芝居かかったお辞儀をして手の平におさまる程の大きさの四方形のキューブを取り出しスイッチを押す。

 

     ブウゥゥンッッッ·······

 

キューブから光線が放たれ、たちまち大画面の超空間モニターが現れた。

 

画面に二人の女性の姿が映り、一人は軽い

ウェーブがかかった髪をなびかせて未来的な服装にマントを纏い、歳の頃は18から20歳前後に見える。

 

その隣には黒い髪をシリカ同様にツインテールにし、赤い服に十字架を思わせる意匠をデザインした服装に黒のミニスカートを着用し、太ももまで覆ったニーソックスを履いている。

 

 

「はぁいマスター♥少し遅れたけど、貴女の期待にそえたかしらぁ?」

 

「あぁ、完璧だよ。ありがとう私のルーラー」

 

「あなたがロゥリィちゃんのマスターさんなの?」

 

ドラえもんが画面越しに尋ねるとマントを翻しながら彼女が答えた。

 

「そのとうりだよ初めまして。私が今そちらにいるサーヴァントのルーラー、ロゥリィ・マーキュリーのマスターのノノカだ。以後よろしく」

 

「私は遠さ···カレン・A・トオサカ。彼女の相談役兼、護衛兼、幼馴染みの親友で···今は細々とだけどどうにか命脈を繋いでいる魔術師よ。よろしくね」

 

「初めまして、僕ドラえもんです」

 

「初めまして姫柊雪菜です···」「···シリカです」

 

「私は佐天涙子で~す。よろしくです!」

 

皆が簡単に自己紹介を終えるとノノカは小さいため息をつきながら呟く。

 

「さて···まずは何処から説明すれば良いのやら·····」

 

画面に映し出されているノノカと名乗った女性はどこかソワソワした面持ちでドラえもんを見つめている。

 

「ノノカ、まずは自分の素性をもう少し詳しく話したらいいんじゃないかしら?」

 

画面の隣から黒髪ツインテールの美しい女性カレンこと、【遠坂凛】がノノカにそう促した。

 

「ああ···そうだね。まず私、

ノノカ・F・タチバナは24世紀の未来の人間で、ドラえもんくん···君の親友、野比のび太くんの孫の孫であるセワシくんの更に孫の孫に該当する人間なのだよ」

 

 

「ええっ!?にっ、24世紀の未来人でのび太くんとセワシくんの子孫だってぇ~~~!!??」

 

 

衝撃的な言葉に驚きを隠せず叫ぶドラえもんの隣で、話しを聞いていた佐天・シリカ・

雪菜達の三人はお互いヒソヒソ声で話し合う。

 

「え~とぉ····確か野比のび太さんって人は

ドラさんの親友で···その人の孫のお孫さんがセワシって人でぇ····」

 

「その更に孫の孫なのが今画面に映っているノノカさんという訳ですね·····」

 

「···な、何だか気が遠くなりますね····」

 

いきなり遥か先の未来人と言われてシリカは軽く眩暈を覚えた。

 

「で、でもそんないきなりのび太くんとセワシくんの子孫と言われても簡単には信じられないよっ!!」

 

「まあ、確かにそうだろうねぇ····だがしかし、決定的な証拠としての品物もあるのだよ?ドラえもんくん····」

 

ノノカは(おもむろ)に懐からタイムカプセルとおぼしき物を取り出し蓋を開け、書類らしき物を取り出し画面に映る様に広げた。それは学校のテストの答案用紙でソコにはハッキリと『野比のび太0点』と書かれていた。

 

「あぁ~!?そっ、それはのび太くんの何時もの0点の答案用紙····うん!これは確かに決定的な証拠だっ!僕は信じるよっ!」

 

画面に映る0点のテスト用紙にドラえもんはあっさりと信じて納得した。

そんなドラえもんに雪菜が若干引き気味に訪ねる。

 

「あ、あのドラちゃん?その···あんなので信用していいんですか?」

 

「うん!もちろんさっ!!のび太くんと言えば0点のテストの常連者だからねっ!!

他の何よりも説得力があるよ!!」

 

「そっ···そうですか····(親友の野比のび太という人はどんな信用のされ方なんでしょうか···?先輩より酷いですね····)」

 

「さて···とにかく私が子孫だと信じて貰えた所で、此方の事情と君たちが今いる世界について語らせてもらうよ」

 

深く息を吐いてノノカは更に信じ難い真実を語り始めた。

 

「まず···今、君たちのいる世界は···私が

『創世セット』で創りだした人工の地球なのだよ。」

 

「ええっ!?創世セットだってぇ~!!??」

 

「何なんです?その創世セットって?」

 

「うん、佐天ちゃん創世セットというのはね····」

 

創世セット····それはかつてドラえもんがのび太の夏休みの自由研究の為に出した秘密道具だ。

 

複数の道具で構成されていて、材料を混ぜ合わせて新しい宇宙そのものを作り出すという、もはや神のごとき御業をも可能にする道具であった。

 

ソコでは通常の人類に加え、独自に進化した昆虫人なる存在までおり、更には22世紀の科学技術に引けをとらない道具すら発明されていたのだ。

 

 

「····うっひゃあ~~~!!!新しい宇宙と地球を創り出すなんて···スケール大き過ぎませんかぁっ!?」

 

科学の最先端をいくであろう学園都市の住人の佐天は余りのスケールに腰を抜かす程驚き、シリカも何やら思案顔で驚愕している。

 

「もう自由研究の範囲に収まるようなレベルじゃないですね···(キリトさんが巻き込まれて、そしてアリスさんが生まれた故郷の壮大な規模の仮想空間、アンダーワールドみたい。ううんっ、それよりも遥かに·····

でもそれがドラえもんさんの秘密道具だと夏休みの自由研究レベルでしかないんだ···二人がこれを聞いたらどんな顔するんだろう?)」

 

 

かつてシリカの元いた世界において量子的な要素を組み込んだ壮大なプロジェクトが進められていた。それは新機軸のAI「人工フラクトライト」達が暮らす第四の仮想世界アンダーワールドである。

 

一種の文明シミュレータだが、そこに生きている者達は現実と何ら変わりのない人間であり、確かな生命と意思が育まれた世界であった。シリカ自身、知らされていないが真の目的は無人兵器に軍事転用することであり、キリトはやむに負えない事情により巻き込まれる事件があった。

 

それはプレイヤーキルを喜々として行っていた犯罪者ギルド、ラフィン・コフィン(笑う棺桶)の逃げ延びた幹部が現実世界のキリトに毒物を注入し、殺そうとしたのだ。

 

かろうじて一命を取り留めるも、従来の医学で治療不可能な脳のダメージを負った彼は、回復のために半ば強制的かつ秘密裏にアンダーワールドにダイブさせられてしまう。

 

キリトはそこで約2年間仮想世界で過ごし、アンダーワールドで生きる人間と交流を深めていたが、過去の因縁が複雑に絡み合い、やがて壮絶な戦いにまで発展し、かつて共に

SAO時代を過ごした仲間達と共にアンダーワールドを救う戦いへとシリカも参戦した経緯があったのだった。

 

 

「ドラちゃんの道具は本当に私達の想像の遥か先を行ってますね···それで、何故私達三人とドラちゃんが貴女の創った惑星に召喚されたのですか?」

 

やや、呆れた顔で雪菜がノノカに訪ねる。

 

「その説明の前にまず私の、イヤ私達の陥っている現状について語らせてもらうよ···少し長くなるがね」

 

「それじゃお茶とお菓子の準備をしよう!」

 

ドラえもんはグルメテーブルかけから、お茶とどら焼きを出して準備した。

 

 

ノノカは思わず苦笑いをした。

 

 

 



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27話 ノノカの地球

今回少しごちゃごちゃして分かりづらいかもしれません。何卒ご勘弁を···


時は24世紀の未来。野比のび太の孫の孫であるセワシの、更に孫の孫に当たるノノカ・F・タチバナは地球で生まれ、普通に暮らしていた。

 

曽祖父(セワシ)から記録(ログ)キューブを譲り受け、暇さえあれば自身のご先祖様に当たる野比のび太とその親友、ドラえもんの数々の大冒険の記録を鑑賞し、幼い頃より彼らに強い憧れを抱いていた。

 

先祖である高名なロボット工学者(・・・・・・・・・・・)、野比のび太が発明したロボット、ドラえもんとその道具は素晴らしい未来社会を生み出した。

 

だが、その一方で歴史を歪ませる程の時空犯罪者を生み出すなど強い悪影響を及ぼした事により、ノノカの生きる24世紀の未来においては一部の秘密道具を除いて、大半が情報ごと廃棄処分されていた。

 

そんな環境の中、ノノカはいつか自分の手でご先祖様(野比のび太)のようにドラえもんのようなロボットや、その秘密道具を自身の手で作ってみたいと考え、ひたむきに努力を重ね、数多くの発明をして実績を積み上げ、見事24世紀の未来のにおいて最高レベルの工学系の大学に合格するなど順調にキャリアを重ねていった。

 

 

そんなある日突然、原因不明の謎の次元震による惑星消滅事件が起きる。

 

 

初めの内は、遥か遠く離れた太陽系銀河の外れにある既に廃棄された小さい資源衛星が粉々に砕けただけの出来事に過ぎなかったのだが、それを皮切りに周辺の星々が次々と消滅してゆき、人類が未だかつて経験したことのない前代未聞の大災害へと発展していった。

 

この未曾有の危機に対応するため、各国の政府首脳陣は様々な解決案を打ち出した。

その解決案の一つとして、かつて余りの危険性により廃棄された幾つかのドラえもんの秘密道具の復元を満場一致で決定した。

 

当時のノノカはその能力と実績を買われて、学生の身ながら各企業からの指名で災害避難と住居可能な惑星探索との兼用タイプの超大型宇宙船の建造に携わっていた。

 

そんなノノカに政府から直々に、最悪の事態に備え、ある秘密道具を復元してもらいたいとの依頼が来た。

 

その秘密道具こそが『創世セット』である。

 

幼い頃より憧れていたドラえもんの秘密道具の復元···人類の危機の前に不謹慎だと思っていても胸の高鳴りを抑えきれず、ノノカは

二つ返事でその依頼を受けた。

 

しかし、廃棄された情報をサルベージするも肝心な部分の情報が所々欠けており、何より道具の作成に最適な材料が資源惑星の消滅によって枯渇してしまい復元は困難を窮めた。

 

どうにか代用品を使用するなどして工夫し、限られた時間の中、幾度もの苦心の末、ようやくノノカは新しい宇宙と星々を創造する秘密道具、創世セットの復元に成功したのだ。

 

早速、試しに道具を使い新しい地球を創造してみたが、不完全な状態で復元した創世セットで創られた人工の地球は余りに不安定な環境に晒されていた。

 

人工の地球の様子を観測してみると、深刻な天変地異が常に発生しており、空は激しい嵐と雷が疾走り、山脈は噴火し灼熱のマグマが流れ、海は荒れ狂って津波が起きる等、到底人類が移住してマトモな生活は出来そうになかった。

 

更に様々な場所で【次元の渦】が開き、それが原因で惑星の生物が突然変異して凶悪な魔物に変貌したりと厳しい状況が続いていった。

 

そんなある日、ノノカが何時ものように観測を始めると、突然明らかに場違いな正体不明の謎の集団が出現しているのに気がついた。彼らは白衣姿やサバイバル的服装をしており、所持している小さなボールからモンスターらしき生物を解放して、未だ安定していない新しい地球の大地を踏みしめている様子が映った。

 

ノノカは独自に開発してあったサポートAIロボットの『カトウ』を自分の代理にして送りこんで接触を試みる。

 

ファーストコンタクトは大層、驚かれはしたものの、集団の中心的人物のフジ博士が快く話し合いに応じてくれた。

 

彼らの正体はかつてポケモンを生み出し、愛した22世紀の科学者達とその協力者達だった。かつて苦渋の決断により、自ら生み出したポケモン達をこの手で廃棄し、消去しなければならなかった行為を悔やみ、深い悲しみに明け暮れ、ポケモン達の命と存在を否定する22世紀の社会に彼らは絶望してしまっていた。

 

「このまま地球に留まっていてはポケモン達に未来がない····」

 

そう考えた彼らはポケモン達が健やかに自然に暮らせる場所を求め、科学者と研究員、そして博士達の理念に賛同した数多くのポケモンを愛する協力者らが集まり、共に皆で宇宙船に乗り込み地球を飛び出し、新しい新天地を求めて宇宙に旅立つ計画を立て、実行に移した。

 

だが、旅立った宇宙の先で突然何の前触れもなく発生した【時空乱流】によって、宇宙船は残らず次元の穴に飲み込まれる事態となる。

 

亜空間に放り込まれ、しばらく漂っていると目の前に次元空間の裂け目が発生し、博士らは藁にもすがる想いで飛び込むと、たどり着いた先は荒れ狂った未知の環境の惑星だった。

 

何の因果の巡り合わせなのか?彼らはノノカが創世した不完全な地球に降り立っていたのだ。

 

『カトウ』を通じて情報をやり取りして互いの状況を把握するとフジ博士はノノカにある提案を持ちだす。

 

それは極めて強力な能力を持つポケモンの

レックウガ、グラードン、そしてカイオーガと呼ばれる天・地・海を司る3体を活動させてノノカの創った惑星の環境を整えさせ安定させるという案だった。

 

この星の環境の安定と発展を条件にノノカにこの新しい地球でポケモンと共に暮らす事を認めて欲しいと願ったのだ。

 

ノノカはしばらく考えん込んだ後、その提案を受け入れ約束し、彼らと良好な協力関係を結んだ。

 

三体のポケモンの力は凄まじく、瞬く間に環境と気候を整え、安定した土地に22世紀から持ってきた秘密道具で研究施設を設置し、本格的に惑星の開発に取り組んだ。

 

だが、それでも次元の渦の出現は止められず、一部の森では頻繁に規模の大きい渦が生まれ、その影響により元々この星に生息していた動物と植物や、自然現象までもが邪悪で狂暴な魔物に変貌する事態となった。

 

そして、そこはいつしか【災禍の森】と呼ぶようになり、第1級危険指定領域に認定される事となった。

 

災禍の森は惑星を侵食するかの様にその規模を広げてゆき、とうとう研究施設にまで危険が迫り、やむを得ず施設を破棄せざる終えなくなった。

 

断腸の思いでモンスターボールや培養カプセルに眠っているポケモン達を置いて脱出した博士らは必死に対策を練り、苦労の末バリアフィールド発生装置を開発し、惑星全土を始め、その広まった危険領域に強力なバリアを発生させて囲って覆い尽くし、それ以上の侵食を食い止めることに成功する。

 

そして、ミサキを始めとした研究員と博士の志しに賛同した協力者達が危険領域に置き去りにされたポケモンを救い出す活動を昼夜を問わず続けているのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

    

····話しを聞いていたドラえもん達は衝撃を受けてせっかく用意したどら焼きに目もくれずに頭に入ってきた情報の整理に没頭する。

 

「まさか2世紀先の未来の世界がそんな危機的状況になっていたなんて····」

 

「私達、異世界じゃなくてドラさんの復元された道具で創られた星に居るんだ···!」

 

「ピノとミニドラさんが保管されていたあの地下の科学研究施設もイーブイも、全部その22世紀からやって来た科学者の皆さんがもたらしたんですね···」

 

「次元震による星の消滅···人工の地球···災禍の森···まさかここまで混沌とした状況だとは思いませんでした」

 

 

ドラえもん・佐天・シリカ・雪菜の四人はそれどれ深い息を吐いて考えを巡らせる。ふと、ドラえもんは自分の記憶との食い違いに疑問をもち、ノノカに尋ねた。

 

 

「あっ、そうだっ。一つ気になる事があるんだけど、のび太くんが僕を作ったロボット工学者だって言ったよね?それってどういうことなの?僕の記憶が正しければ大人になったのび太くんは動植物環境保護局員という公務員になってた筈なんだけど···」

 

「ああ、それはね···私の知ってる限りの情報だと、20世紀の過去の世界へ彼の世話をしにやって来た君は、ある日突然電池切れを起してしまい、全機能を停止させてしまったんだよ」

 

「えっ!?電池切れ?そんな馬鹿な···!!」

 

「···事実さ。そして普通ならば単純に電池を交換するだけでいいのだがここで致命的な問題が発覚したんだよ」

 

「致命的な問題って?」

 

「それは記憶のバックアップだよ。

機能停止したドラえもんくんを前に野比のび太くんはタイムテレビで君の妹のドラミちゃんに相談して初めて分かったんだ。

旧ネコ型ロボットは通常ならば電池入れ替え時の補助記憶回路を耳においてあるのだが、ドラえもんくんの場合は耳をなくしてる為、記憶のバックアップがない状態だったんだよ。故に無理に電池交換してしまうと今までのび太くんとすごしてきた全ての記憶を失うという極めて致命的な問題がね···」

 

「そっ、そんなっ····!!」

 

「そして悩みに悩んだ野比のび太くんはある重大な決断をしたんだよ···

自分でドラえもんくん。君を自分の手で直して見せるとっ····!」

 

「のび太くんが僕を····!?」

 

「無理に電池交換して記憶を失うよりも、自らの手で君を、親友を助けたかったんだろうね···そして君がのび太くんの手によって直り、改めて生まれたその日、その瞬間···

地球の文明が一足飛びに進化した日となったんだ。この事実は歴史が狂うほどの危険性をもっているため、全世界のトップ達に未来から『彼の者へノ干渉を禁ズ』とわざわざ通達される程の超重要極秘機密事項なのさ···」

 

「えっ!?私達聞いちゃいましたけど、いいんですかぁ!?」

 

シリカが顔を青くして叫ぶ。

 

「それは大丈夫だよシリカさん。今となっては(・・・・・・)最早さほどの大事じゃないから···」

 

「ノノカさんの話しを信じるならタイムパラドックスが起きたという結論になりますね」

 

「ああ、そのとうりだよ雪菜さん。恐らくあの瞬間こそが様々な未来の可能性が生まれ、数多く存在する並行世界へ枝分かれした分岐点だったのだろうね」

 

「えっと···そうなるとちょっとややこしいけど···ノノカさんの世界とドラさんの世界は同じだけど別の世界という何だか複雑な事になるんですよ···ね?」

 

余りの事実と情報に軽く困惑しながらも佐天はノノカに確認する。

 

「まあ、そういう事になるね。だが事実としてここにいる私自身は、ドラえもんくんの製作者である野比のび太くんの遠い子孫である事に変わりなく、私の生きている24世紀の地球を含めた太陽系銀河の星々は滅亡の危機にある····と、言いたい所なんだが実は

もう既に滅んでしまったんだ(・・・・・・・・・・・・・)······」

 

 

 

  「へっ?」「えっ?」「はいっ!?」

 

 

       ・・・・

 

 

 「「「「何だってぇ~~~~~!!??」」」」

 

 

ドラえもん、佐天、雪菜、シリカ達のこの日一番驚いた声がキャンピングハットの部屋に響き渡った····

 

 

 

 




今回のび太がドラえもんを発明したロボット工学者という設定は、幻の同人誌『ドラえもん最終話』から流用しました。

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28話 魔術師カレン

今回も更にごちゃごちゃしております。
自分の構成力不足に泣かされました、
すいません。


既に故郷の星、地球は滅んでいる···!

 

そうノノカに真実を聞かされたドラえもん達は驚きを隠せず、全員ノノカに視線を注ぐ。躊躇い気味にドラえもんはそれは確かな事なのかと答えを求めた。

 

「···残念だが、地球と周辺の星々の消滅は紛れもない事実なんだよ····」

 

少し間を置いて、重く閉じた唇を開いたノノカは、一見すると冷静さを保ってはいるものの、胸の前に組み合わせている両手は強く互いを握り締め悔しさに震えているのをドラえもんは見逃さなかった。

 

「私が不完全ながら創り出した地球に偶然たどり着いた22世紀からの来訪者達の協力により、惑星の環境が安定を見せた矢先だったんだ····

唐突に次元震の規模と進行速度が極端に高まったのを観測情報によって知った各国が協力し合って、予め建設して用意していた巨大宇宙船に物資を積み込めるだけ積み、エネルギーをチャージして人々を乗せ、一旦地球を離れワープを始めたその瞬間だったよ····

凄まじい振動が宇宙空間を包み、眩い光が炸裂して本物の地球···いや、太陽系銀河の星々全てが消滅し、唐突に終焉を迎えたのさ····」

 

地球消滅を説明終えたノノカは、深くため息をついて部屋の天井を仰ぐ。

目を見開き落ち着かない気持ちを必死で抑えながら更にドラえもんは問いかけた。

 

「でっ、でも船で避難した地球の人達は宇宙空間に落ち延びているんだよね?」

 

暫しの沈黙の後にノノカは口を開く。

 

「····いや、残念なことに事態はより深刻な状況なんだよ。避難の為、遥か遠い宇宙の端にワープする予定が次元震による破壊エネルギーの余波衝撃によって、ワープ航法が大きく乱れ、多数の宇宙船が散り散りになって行方知れずとなり、現在生存が確認されているのが私が居る船を含めて僅か4隻のみなんだ····

しかもワープの失敗で、船の今いる場所は超空間の狭間···亜空間と言うべき所に漂い、

言うなれば我々は帰るべき場所を失った寄る辺のない哀れなホームレス状態なのさ····」

 

「そっ、そんな····」

 

「そこまで酷い状況だとは····!」

 

「········」

 

佐天は驚愕の事実に後に続ける言葉を失い、雪菜は雪霞狼を強く握りながら状況の深刻さを噛みしめ、シリカはピノとイーブイを抱きしめて言葉を失っていた。

 

「それじゃ、生き残った人達は皆、この星に移住しているのかい?」

 

急かす様にドラえもんはノノカに聞く。

 

「いや···帰る母星を失い、他に行き場のなかった我々人類にとって最後の希望は私が創造した人工の地球だけとなり、そこへ移住する計画を立てたんだ。だけど、サポートAI

『カトウ』の観測情報による計測から実に最悪な答えが返ってきたんだ····

不完全な状態で創り出してしまったことが原因からなのか、我々『24世紀の人類』がその地球に一定数(・・・)降り立つと重大なエラーが起きて、創世セットで創られた宇宙そのものが消滅するという余りに無慈悲な答えが返ってきたんだ····」

 

眉間にシワを寄せて絞り出すようにノノカは答えた。

 

「そ、そんな···22世紀のポケモンを連れてきた人達は良くて、24世紀の人達はダメだなんて····そんなの絶対おかしいですよ!!」

 

遣る瀬ない想いからシリカが叫んだ。

 

「その『カトウ』ってAIが出した答え、本当に正しいんですか?」

 

AIの答えに納得いかない佐天が疑いの眼差しでノノカに聞いた。

 

「私も疑ったさ····だけど余りに不完全な状態で作成したからね。正直な所、何が起きても不思議ではないと私は思っているんだ。

確かめるにしても手段がなくてね···ちなみに4隻の巨大宇宙船に乗員している人間全て合わせた総数が約五千人。創世した地球に降りてもエラーが起きない人数は『カトウ』が試算した答えが約二千人。残りの三千人は犠牲になる計算だ····」

 

「そ、そんな···残りの3千人の人達が犠牲になるなんて····!」

 

シリカはかつて自分が天才量子物理学者、

茅場(・・)晶彦の手によって世界初のVRMMO

RPG「ソードアート・オンライン」の仮想空間に閉じ込められた過去を思い出し、顔色を悪くしていた。

 

そのゲーム世界で死亡した場合、現実世界のプレイヤー自身も本当に死亡するという最低最悪なデスゲームを余儀なくされ、閉じ込められた2年間の間に約1万人の内、実に4千人のユーザーが犠牲となった経緯から他人事ではないと感じていたからだ。

 

 

「私は悩みに悩んだよ····だけど結局、何の手立てがないまま時間だけが無駄に過ぎていたそんな時だった···

ある1人の魔術師が生き残れる人類の選別を、遥か昔に行われた魔術による戦争を密かに開発したこの2つの道具を使って再現して決めないか?と、各陣営の代表者に持ち掛けてきたんだ。長らく協議を重ねた結果、とうとう正式に決まり、各陣営の代理者(サーヴァント)による生き残りを掛けた殺し合いが始まろうとしており、私は途方に暮れていたんだ····だがしかし、ここにきて溢れる程の希望が出てきたのだよっ!!」

 

「希望って?」

 

「それは君だよ、ドラえもんくん!!!

君はかつて、幾度となく襲ってくる地球の危機をご先祖ののび太くんを始めとした勇敢な仲間達と共に立ち向かい救ってきた。

様々な冒険を繰り広げ皆を励まし、希望を照らしてくれる存在を、私は曾祖父(セワシくん)が残してくれた記録(ログ)キューブで知り、幼い頃から憧れ、胸を焦がれながらワクワクさせられたものさっ!!!」

 

 

先ほどまで何処か飄々としながらも、陰鬱な面立ちだったノノカは一転して、まるで無邪気な子供のような眼差しで嬉々と語りだす。

 

呆気に取られるドラえもん達を余所にテンションが上がり続けるノノカを隣で静観していた【遠坂凛】こと、カレンが手をたたいて納める。

 

「ハイハイっ!こぉらっノノカ!!一人で勝手に盛り上がり過ぎ!!駄目でしょ?まだ全部説明し終わってないんだから。

巻き込まれちゃったこの娘達の疑問をしっかりと解いて上げないと···もう、本当にそんな所は昔っから変わらないんだから····」

 

呆れながら何処かカレンも嬉しそうにノノカを(たしな)めつつ、自分のサーヴァントである白のアーチャー・巴マミにお茶の用意を頼んだ。

 

「ほら、一旦向こうでお茶でも飲んで落ち着きなさい。マミ、ハーブティーお願い」

 

「はい。すぐに用意しますね」

 

金髪でゴージャスなカールをした穏やかな顔の少女が画面越しに同じサーヴァントで仲間のロゥリィの姿を見かけ、ウィンクで挨拶しながら優雅にお茶の準備に勤しみ、まだ興奮の覚めないノノカを奥へと連れていった。

 

「ふふ···相変わらずねぇ···私のマスターとマミは···♥」

 

マスターの何時ものドラえもんに対する憧れの感情を爆発させた様子をやや、呆れながらどこか安心したような顔でロゥリィは見送った。

 

「えっ、え~と···」

 

「ああっ···ゴメンなさいねぇ?彼女ったら昔っからドラえもん····貴方に憧れていたから···

私のことは気楽にカレンって呼んでね」

 

彼女はツヤのある綺麗な黒髪をツインテールにしており、ノノカの着用している未来的な服装と違って実に現代的な装いをしていた。赤い服の胸元に十字架の刺繍が編み込まれ黒いミニスカートニーソックスを着用している。

 

「さて···取り敢えずさっきのノノカの説明で今、私達24世紀の残されている人類の現状については理解して貰えたと思うわ。ここからは先は私が説明させて貰うわね」

 

 

「···それは私達三人がこの世界に呼ばれた理由と狂気に狂わされ、強制的に操られた先輩の事も含まれていますか···?」

 

雪菜は少し険しい顔になりながら、鋭い視線でカレンに問いかける。

 

「ええ、勿論よ。理解が早くて助かるわ。結論から言うとね、貴女達は人類同士の生き残りを掛けた戦争の為の戦力として呼び出される予定(・・)だったのよ····」

 

「あっ!そうそう、そう言えば確か如何にもネット小説の異世界ファンタジーのお約束って感じで異世界の魔法使いの召喚魔法で勇者として私達呼ばれたんですよねっ!」

 

不謹慎ながらもついつい、ワクワクが止まらず佐天は浮かれた様に喋る。

 

「残念だけど実際呼び出したのはそっちの世界の人間じゃないわ。

元々最初に貴女達を召喚しようとしたのは

私達と同じ24世紀の未来人でノノカの義理の叔父にあたる人物····

クロウ・D・タチバナって奴が、貴女達をサーヴァントとして呼び出す予定だったのよ」

  

「サーヴァント····!?ロゥリィちゃんも自分をサーヴァントって言ってだけど、どういう事なの?」

 

ドラえもんに名前を呼ばれたロゥリィはニコニコ顔になって手を振っている。

 

「ちゃんと順を追って、しっかりと説明するわよ。

まず、サーヴァントとは神話や伝説にお伽噺とかに登場したり、実際に実在した英雄たちの魂【英霊】を儀式によって召喚して使役する最上級の使い魔を指すの。そしてサーヴァントのマスターとなった証として、手の甲に三回だけ強制的にどんな命令でも執行させられる呪令と呼ばれる緋色の紋章が刻まれるわ」

 

「···使い魔に強制執行の令呪ですか···」

 

理性を失い、暴走した暁古城の顔を思い浮かべ、より一層険しい表情をする雪菜。

 

「召喚されるサーヴァント達は皆、本体の情報をコピーされたような存在だと考えてくれればいいわ」

 

「えっ!それじゃ、ここに居るロゥリィさんと、雪菜さんの先輩さんも本人だけど、本人じゃない存在ってことになるんですか!?」 

 

超空間モニターの横に立つロゥリィをまじまじと見ながら佐天が驚いて叫ぶ。

 

「そのとうり、本人なんだけど貴女達の世界に存在する人物とはまた別の存在ってことになるわね」

 

「ま、又々ややこしいお話ですね···」

 

一気に様々な情報が飛び交い、シリカの頭は軽く混乱していた。

 

「···私がこの手で討った先輩は本人の情報からコピーして作成された先輩で、だだ都合よく利用されたというのですね····」

 

雪霞狼で胸を貫かれた痛みを堪えながら、優しくもどこか哀しい眼差しで自分を名前で呼んでくれた、あの暁古城の顔が脳裏に浮かび、雪菜は悲しみと怒りに震える感情を1人静かに鎮めていた。

 

「それでカレンさん、そもそも聖杯戦争って何なの?」

 

人類選別のために行われる争い···聖杯戦争についてドラえもんは訪ねた。

 

「【聖杯戦争】····それは魔術師達が、かつて古の昔あらゆる願いを叶えるとされる万能の願望機【聖杯】の所有をめぐり、一定のルールを設けて繰り広げた戦いのことなの。

サーヴァントを呼び出し互いに戦わせてバトルロイヤルを行い、最後に生き残った1人が全てを手にする魔術師達が作り出したシステムなのよ···

もっとも今回行われるのは一部の人類の生き残りを賭けた凄惨な争いだけどね····

そして私、カレン・A・トオサカは遥か昔、

地球の冬木の地にて行われた第五次聖杯戦争をパートナーのサーヴァントと共に駆け抜けた魔術師【遠坂凛】の子孫で、24世紀の

世界においてもその命脈を保ち続けている

由緒正しき魔術師よ」

 

辛うじて生き延びた人類の生存権を巡るこの戦いに、カレンは密かに心を痛めていた。

 

AIがはじき出した情報をノノカは躊躇いながら残っている4隻の宇宙船全てに通達。只でさえ先行きの見えない不安な状況下で、更なる混乱を招くのは目に見えてはいたが、それでも何も知らずに生き残った全人類が不完全な地球に降りたち、エラーが起きて全滅しては元も子もないと考えての苦渋の決断の上であった。

 

当然、全ての宇宙船内で大きな混乱が起き、各宇宙船の代表者達らは必死で超空間モニター越しに話し合いを行うも、話し合いは平行線を辿るばかりでいたずらに時間を浪費するだけの日々が続いた。

 

そんな停滞した空気が流れる中、宇宙船に避難出来ていた奇妙な(ふくろう)のような仮面を被った魔術師の1人が奇っ怪な笑い声を出しながら、こう提言してきた。

 

かつて古の昔、本物の地球で行われた聖杯戦争を復活させ、サーヴァント達を呼び寄せ互いに戦わせる代理戦争を行い、最後に勝ち残れた陣営のみがあの星へと移住して生き残れる様に選別してみてはと····

 

当時、次元震の災害が起こる前から、地球政府と太いパイプを持っていた一部の魔術師達は政府の協力で、魔術と科学を交差させた極めて特殊な道具の開発を進めていた。

 

その道具こそ【人工魔術回路】と【英霊召喚儀式シート】である。

 

この道具を開発した目的は2つあった。

1つは、24世紀の未来世界においてもごく僅かではあるものの、魔術やオカルトの世界に傾倒している人達はいまだ存在しており、

魔術師の末裔と共に寂れて久しい魔術の力と血脈、そして栄光を取り戻すのを目的とし、もう1つが古今東西南北あらゆる時代に存在し、後に英霊として奉られている者達を呼び出して既に失われた古の叡智と神秘を再び手にする為だった。

 

だが、次元震による星々の消滅によって、

本来の目的からは程遠い一部の人類の生き残りを賭けた争いの道具として使われる事となる。

 

人工魔術回路は魔力を持たない通常の一般人でも、埋め込むことによって、疑似的に魔術師にできる道具だが、元々魔術師としての適性を無視して無理矢理身体に魔力をもたらす為、細胞に多大な負担をもたらし、寿命をすり減らすというデメリットもあった。

 

英霊召喚儀式シートは魔力を宿した疑似魔術師が英霊を呼び出す触媒が無くても道具で得た魔力を注ぎ込むことで呼び出せるよう作成された。

 

本来サーヴァントを召喚するにはその英霊に関連した遺物を用意し、それを触媒として使用する必要がある。

 

だが、24世紀の未来の世界において既に貴重な触媒は入手するのは余りに困難となっており、また様々な要因が重なって遺物その物がこの世から数多く失われていたため、今回のサーヴァントの召喚はどのようなクラスの英霊が召喚されるかは、実に運任せの割合が非常に高く、また1騎のサーヴァントに複数のマスターが魔力で契約を結び、強力な存在に仕立てることも可能であった。

 

梟の仮面を被った魔術師の提案に各陣営の代表者は最初こそ疑問と非難の声を上げたものの、他に有効な手段が見つけられず幾度の議論の末、遂にやむ無く聖杯戦争を始める運びとなる。

 

生き延びた4つの宇宙船は船体に塗られたカラーリングになぞらえて赤・白・黒・碧の各陣営に分けられ、ノノカは白の陣営に属しており、創世セットを復元し人工の地球を創造した功績と、観測と管理を任されていた実績から今回行われる聖杯戦争の監督役として任命される運びとなっている。

 

更に幼馴染みにして相談役兼、専属魔術師のカレンも補佐官として認められ、4つの陣営中、唯一中立の立場を得る結果となり、今回行われる通常とは異なる聖杯戦争は敢えて言うならば【亜種・聖杯大戦】といった様相であった。

 

 

そんな中、白の陣営に属するノノカの義理の叔父、クロウはあらゆる手段を用いて魔力を得た疑似魔術師達を独自に集め、多数のサーヴァントを呼び出す手筈を整ていた。

 

その事を知ったノノカとカレンは、この様な状況下であっても任された監督役としての責務を全うしようと動く。

 

召喚の魔力の流れを辿り、そこから自分とカレンの魔力を注ぎ込んで召喚を阻止しよとするが、又も予想外な事態が起きる。

召喚の流れを邪魔している最中に時空間から何かしらのエネルギーが干渉してきたのだ。

 

これが原因で雪菜・佐天・シリカ達3人は

召喚されかけた所を別の次元世界の勇者召喚の魔法陣の流れに引き寄せられて王宮に降り立った···というのが今回の真相であった。

  

 

ただ、もう1つイレギュラーな存在も召喚されていた。

 

 

    それがドラえもんである。

 

 

 




何か意見や質問がありましたら、是非メッセージボックスの方へ下さい。感想もよろしくお願いします。


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29話 ドラえもんと聖杯 

今回も恥ずかしながら、かなりごちゃごちゃしております···


野比のび太の子孫、ノノカと魔術師・遠坂凛の子孫、カレンからモニター越しに自分たちを取り巻いている複雑な状況を知り、ドラえもん達はしばし無言になっていた。

 

そしてふと、雪菜はあることに気づき、カレンに質問する。

 

「あのぉ···カレンさん私達って、その義理の叔父の方に召喚されたってことはロゥリィさん同様にサーヴァントという存在何でしょうか?」

 

雪菜の疑問にカレンがあっさりと否定する。

 

「あっ、それは完全に違うわね。何故ならサーヴァントとはしっかりと最後まで召喚されて、マスターと契約を結んで初めて成れる存在なのだから。貴女達は私とノノカで召喚を途中で阻んだから、れっきとした生身の人間の筈よ。····ただ、召喚を阻止している最中に時空間から別の得たいの知れない奇妙なエネルギーが流れてきたのをノノカと一緒に感じたわ。恐らくそれが原因で元の世界に戻らず、別の世界の召喚に巻き込まれたんじゃないのかしら?」

 

「奇妙なエネルギー···ですか?」

 

怪訝な顔で雪菜は聞き返す。

 

「それが気になって私は『時空間トレーサー』を使い、君たち三人の行方を時空を跨いで探り当てたら、何故かドラえもんくんが君たちと一緒に召喚されたのを超空間モニターから確認して心底興奮したよ···!」

 

巴マミの淹れた、芳醇な香り漂うハーブティーを片手にノノカは画面に無理やり割り込みながら、軽くその時の興奮を伝えてきた。

 

「ちょっ、コラッ、ノノカ!?行儀悪いわよ!!全くしょうがないんだから···」

 

呆れながら、年齢を重ねても変わらない幼馴染みにどこか嬉しそうにするカレン。そんな二人のやり取りを眺めながら、シリカは恐る恐る手を上げて画面越しに質問する。

 

「あのぉ···私の場合、何故かゲームのアバターと生身の身体が混ざっている状態だってドラえもんさんの道具で判明したんですけど···

もしかしてその奇妙なエネルギーと何か関係があるんでしょうか···?」

 

シリカは元の世界から此方に召喚された際、人間綾野珪子の身体とMMORPGのシリカの能力が混ざり、容姿と装備がSAO時代のアバター姿になっている事に常々不思議に感じていた。その為、説明に出てきたその奇妙なエネルギーが何か関わっているのか気になり、カレンに聞いてみた。

 

「···残念だけど流石にそこまでは私達でも皆目がつかないわね」

 

残念ながら期待していた回答は得られず、シリカは少しガッカリして肩を竦める。

 

「だがしかし、『聖杯』的存在のドラえもんくんが一緒に君たちと召喚されたのを考えるに、決して無関係とも言い難いね」

 

すかさずノノカが自分の見解を述べる。

 

「えっ?僕が『聖杯』的存在ってどうゆう事なの?」

 

「本来の聖杯戦争は聖杯という万能の願望器を巡って争う魔術による戦争だってさっき説明したわよね?

簡単に言ってしまえば聖杯とは聖杯戦争という儀式を通して作られる膨大な魔力エネルギーの塊で、それを用いれば大抵の願いを叶えられるの。聖杯と呼んではいるけど形は実に様々で、天に輝く星のような物だったり、

特別な力を持った人間だったりと色々な形状をしているってご先祖様(遠坂凛)が残してくれた古い文献にそう記述されているわ」

 

「そんな物が存在していたのか···」

 

ドラえもんはのび太とその仲間達と過去、実に様々な世界へ行き大冒険を繰り広げてきた経験があったが、流石に聖杯については初耳であった。

 

「そして今回、数百年ぶりに行われようとしている聖杯戦争は過去に例を見ないイレギュラーまみれの例外中の例外で、私はあなたが聖杯にしてEXクラスのフォーリナー(降臨者)だと睨んでいるの」

 

遥かな過去、聖杯戦争を駆け抜けた遠坂凛の子孫、カレンは魔術師という観点から、先祖の書き記して残してくれた文献と照らし合わせてドラえもんこそが今回の聖杯にして、あらゆる事象の特異点だと考えていた。

 

「いきなりそんな、聖杯だと言われても実感がわかないなぁ····それとフォーリナーとか

EXクラスとか言ってるけど何なの?」

 

「あら、ゴメンなさい。説明不足だったわね。そもそもサーヴァントには呼び出した

英霊それぞれの能力や逸話に応じて基本的に7つのクラスに分けられるのよ。

 

剣士のクラスで剣を得意とし、最もステータスバランスが良い、最優とされるセイバー。

 

槍兵のクラスで槍を巧みに操り、機動力に秀でたランサー。

 

弓兵のクラスで遠距離からの弓矢や銃による射撃が得意なアーチャー。

 

騎乗兵のクラスで様々な乗り物に乗って天地を駆け抜けるライダー。

 

狂戦士のクラスで理性を失う代わりに高い戦闘力を得られるバーサーカー。

 

暗殺者のクラスで隠密行動が得意の別名マスター殺しとも言われるアサシン。

 

魔術師のクラスでその高い魔力で防衛戦や強力な魔術を駆使するキャスター。

 

以上がサーヴァントの基本7つのクラスよ」

 

「何だかゲームみたいな設定でワクワクしちゃいますねっ!」

 

ゲーマーなシリカはカレンの説明に思わずウキウキして心を沸き立たせる。

 

「そしてその基本7つのクラスに該当しないのがEXクラスと呼ばれるサーヴァントで、今貴女達の側に居るロゥリィがそれに該当するわね。

ロゥリィはルーラーと呼ばれる裁定者のクラスで、今回の聖杯戦争を敢えて言い換えるなら【亜種・聖杯大戦】をしっかりと成立させる審判と管理者的役割を持ち、監督役にして中立の立場にある私達、白の陣営にとって最も相応しいサーヴァントだと言えるわ」

 

ドラえもん達全員に視線を向けられたロゥリィは、クスッと艶のある笑みを浮かべ、どこか誇らし気にしている。

 

「そして···ドラえもんくん!!君こそが規格外のエクストラクラス、フォーリナー(降臨者)で聖杯以上の奇跡を起こしてくれる正に私と生き残った全人類の希ぼぉ····ムギュウッ!?」

 

落ち着く所か益々、興奮の度合いを高める

ノノカをカレンは両頬を掴んで変顔に仕立てて、とどまることを知らない彼女の勢いを強引に止めた。

 

「こぉらっー!!少しは落ち着きなさいって言ってるでしょがっ!!何の為にマミにお手製のハーブティーを淹れさせたのよっ!?

冷めない内にちゃんと全部飲み干しなさいっ!!!いいわねっ!?」

 

「ふぁい····」

 

そんな二人のやり取りを呆然と見つめるドラえもん達と堪えらきれずにクスクスとお腹を押さえて静かに笑うロゥリィだった。

 

「それで結局フォーリナーってどんなクラスなの?」

 

「あっと···ゴメンなさい、自分から言い出しといて何だけど、実は私にもハッキリとはわからないの···残ってる聖杯戦争にまつわる色んな文献を探して読んでも、しっかりとした記述が不思議と載ってなくて、私のご先祖様の書き記した文献から辛うじてその名が記載されている程度だわ。でもだからこそ、ノノカ同様に私もあなたが召喚されたのは奇跡で皆の希望で、これから始まろうとしている人類の生き残りを掛けた悲惨で不毛な争いを止められる唯一の存在だと信じているの·····

だからお願いドラえもん···どうか私達、白の陣営の宇宙船に出来るだけ急いで来て欲しいのよ···!」

 

「カレンさんとノノカさんのいる宇宙船?

確かワープの失敗で、亜空間を彷徨っているんだっけ?」

 

「ああ、そのとうりだよドラえもんくん···

今現在、亜空間を4つの宇宙船が輪になって揃い、その真ん中に小型の宇宙船を設置し、中に君たちが居る人工の地球···復元した創世セットを置いて、各陣営が着々とサーヴァントを召喚して聖杯大戦の準備を整えている最中なんだ。でも君の秘密道具の力があれば、きっとこの戦争を回避できるっ!!」

 

ハーブティーを飲み干し、少し落ち着いた

ノノカが先ほどとは売って変わって真剣な顔つきでドラえもんに現状を伝える。

 

「よーしっ!だったらこの

『宇宙救命ボート』を使って···」

 

宇宙救命ボート。この道具は地球に何らかの異変が起きた際、お手軽にボタン1つで地球から宇宙へと脱出し、安全に住める惑星を自動的に探して移動できる秘密道具だ。最も星に着陸する時は勢いよく地面にぶつかる為、その辺の安全面は保証できない道具だが、

今回は出番が無さそうであった。

 

「残念だけど、その道具ではこちらには移動出来ないんだ···」

 

「えっ?何でだい?」

 

「私が先ほど説明した時、復元した創世セットは不完全だと話したよね?それが原因なのか、頻繁に空間に歪みが生じてしまい、その影響で惑星に元々存在する生物や植物が邪悪な意思を持ち、姿が変貌するといった事例を数多く目撃しているんだ」

 

「私達を襲ってきたあの霧の化物に、大きな黒蛇···」

 

「樹木の姿をした怪物に、赤と青と目玉の鬼···」

 

「大きな角の生えたウサギにブレイドウルフのリーダーさん···!」

 

雪菜・佐天・シリカがそれどれ遭遇し、魔物と言って差し支えのない位に変貌した生物達を思い返す。

 

「君たちが今居る【災禍の森】は特に強い歪みが生まれており、偶然その地に降り立ち、私と協力関係を結んでいる博士らがそれ以上被害が及ばないようにと特殊なバリヤーをその場所を中心に惑星全土に張り巡らしてあるんだ。従ってバリヤーに遮られて直接宇宙を渡って私達の元へ行くのは難しい···」

 

「バリヤーが張ってあるのか···それじゃ宇宙救命ボートは使えないなぁ···んっ?それじゃ雪菜ちゃんの先輩さんはどうやってこの地球に降りてきたの?」

 

「恐らくバリヤーにある、ほんの小さな隙間を複数人の魔力でごり押しして拡げてネジこんだに決まってるわっ!

恐らくクロウの仕業ね。よくもまあ、

取り決めた協定を早々に破ってくれたものよねっ!」

 

カレンはノノカの義理の叔父クロウの仕業だと決めつけ、1人憤慨していた。

 

「協定って?」

 

「【亜種・聖杯大戦】を行うに当たって最低限取り決めたルールだよ。各陣営が疑似魔術回路で魔術師となり、英霊召喚儀式シートでサーヴァントを召喚し契約を結び、揃った所で博士らに被害が及ばない場所で設置した塔の内部の専用のゲートでサーヴァント達を降ろして戦争し、勝ち残った陣営がその地球に移住するという取り組みだよ」

 

「そういう仕組みだったのか···」

 

ドラえもんが納得している隣で、雪菜が険しくやや殺気染みた視線を送ってノノカに訪ねる。

 

「····ノノカさん先輩を都合よく利用したのはどの陣営か、分かりますか?」

 

少し気後れするも、淡々とノノカは答える。

 

「すまない。残念だが、巧妙に魔力の残滓を消されてどの陣営がフライングしてバーサーカーを降ろしたのかは判別出来そうにないんだ···」

 

「そうですか···」

 

嘘か真実なのか判らず、少し納得のいかない顔で雪菜は返事する。

 

「雪菜さん、貴女の気持ちは理解出来るが、変な考えは起こさない方がいい。元々こんな争いには無関係なのに、今回私の叔父の強行と不運が重なって巻き込んだ件は心よりお詫びしたい。少し時間はかかるが時空間トレーサーを使って元の世界を探り当てて三人共無事に帰すのを約束する。だからどうか心を鎮めて欲しい」

 

「···わかりました。すぐには難しいですが、そのように対処します···」

 

雪菜は深呼吸しながら雪霞狼を抱き抱え、

やさぐれたような空気を出しつつも無理やり自分の感情を圧し殺した。

 

「ありがとう···それじゃ、ドラえもんくん達にはその専用ゲートを設置してある塔を目指して貰いたい。道案内はロゥリィを頼るといい。彼女もそこから雪菜さん達の元へ向かったからね」

 

「ウフフゥ···お任せよぉ。ドラちゃんと仲良くイチャイチャしながら目指すわぁ···♥」

 

ノノカは自分のサーヴァントの受け答えに苦笑いする。

 

「あのっ、ノノカさん博士ってピノとイーブイを創った科学者の人達の事なんですよね?」

 

ピノとイーブイを撫でながらモニター画面に映るノノカにシリカは聞いた。

 

「そうだよシリカさん。彼らは私が不完全に生み出した地球の環境を整え、惑星を発展させてポケモンとの理想郷を作る活動をしているんだ。だけど空間の歪みによる被害から逃れるため、やむなく研究施設を放棄し、

バリヤーで包囲して被害を押し留めた後、

今は必死で取り残されたポケモン達の回収に勤しんでいるよ。聖杯大戦と君たちの事は博士達にも通達してあるから、もし出会っても無下にはしない筈だ」

 

「そうなんですか···良かったねピノ、イーブイ···もう少しで仲間や博士と再会できるよ」

 

 「クピィ···」「イーブイ···」

 

シリカは二匹のポケモン達にやがてそう遠くない未来に訪れるであろう別れの悲しさを胸にそっと秘めながら語りかける。

そんな二匹もシリカの気持ちが伝わり、寂しげな声を出した。

 

そんな何とも言えない、しんみりとした雰囲気を壊すように佐天が頭を抱えて唸り声を上げていた。

 

「ん~っ····あぁーっ!!沢山色んな情報が飛び交って、もう私頭がパンパンですよぉーっ!!!」

 

「ドララァ~···」

 

佐天は自分と仲間が召喚された理由と未来の人類の陥っている事情など数多くの様々な情報量に困惑していた。そんな佐天を気にかけるようにミニドラが頭を撫でている。

 

「僕も正直、色んな事に驚きすぎてお腹が空いちゃった。説明が気になって朝ご飯もまだだったから、一旦食事でもして気分を変えようか?」

 

「それ賛成!さっすがドラさん!!それじゃ···気分転換を兼ねて私に作らせて下さい。グルメテーブルかけも便利で美味しいですけど、頼り過ぎると料理の腕鈍っちゃいますから。ドラさん、キッチンと食材って、お腹のポケットの道具で用意出来ますか?」

 

もう理解(わか)っていて敢えてドラえもんに佐天はイタズラっぽく聞いた。

 

「フフフ···大丈夫だよ佐天ちゃん。この『壁紙キッチンルーム』に全て揃っているから」

 

ドラえもんは最早お約束の壁紙シリーズの1つを取り出し貼り付けると実体化して飛び出してきた。

 

「おおぉっ!?これは凄いですよーっ!!!」

 

思わず歓喜の声を出す佐天。

 

無理もなかった。設置されたキッチンは高級感溢れる造りになっており、大型冷凍庫の中には新鮮で豊富な食材がわんさか収められ、隣の3つのユニットにはそれどれ水周りのシンクにガスコンロ、調理台が広く整えられ、上に換気扇、下の戸棚には包丁一式に各鍋、フライパン等の調理器具が全て揃えられており、佐天の主婦魂に火がついた。

 

 

そんな佐天に思わずシリカは何気に辛辣な事を言ってしまう。

 

「佐天さんって料理作れるんですか?」

 

「あっ、それヒドイですよシリカさん!私、寮生活だから一通りの家事は何でもこなせる自信あるんですからねっ!!」

 

「佐天さん、どのような料理を?」

 

佐天の明るさに少し気持ちが解れたのか、

雪菜が献立を聞いてみた。

 

「そうですね···色んな情報が沢山飛び交って、もう頭がごちゃごちゃしちゃってますから···ここはズバリ、鯖を使った料理ですかね。

何たって鯖は頭に良いですし、美容と健康の全てにも効果的な万能な食材ですから。

ドラさん鯖缶ってありますか?」

 

「うん!沢山あるから遠慮なく使ってよっ!それとこれ、エプロンね!」

 

ドラえもんはお腹の四次元ポケットから可愛らしいエプロンと大量の鯖缶を取り出し並べた。

 

「わっ!可愛いエプロン、おおぉ~っ!?

これはまた、お高そうな鯖缶で···♪

よーしっ、メニューは決まりましたよっ!!ずばり、鯖カレーに決めました!!」

 

「えっ!?カレーに···鯖ですか?佐天さんっ!?」

 

鯖というと塩焼きに定番の味噌で煮付けた

物と、以外に固定概念に縛られているシリカだった。

 

「ふっふっふっ····シリカさぁん···鯖とカレーは以外と相性がいいんですよっ!!まあ、私に任せて下さいなっ!」

 

自信満々の笑みを浮かべて、ドラえもんに渡されたエプロンを着け、鯖カレーに必要な材料を手慣れた様子で冷凍庫から取り出し、

まずお米を研ぎだした。

 

雪菜も槍を置いてドラえもんからエプロンを貰い、手伝いに行った。

 

「クスッ、佐天さん私も手伝いますよ。私の方で野菜を洗って食べやすい大きさに切りますね」

 

「はい♪是非お願いします!」

 

「わっ、私も手伝いますっ!!えとえと···

うぅっ···何をしたらいいんでしょうかぁ···?」

 

慌てて二人に続くシリカだったが、何をどのように進めたらいいか判らず、ほんの少しだけ涙目になりながら両肩をガックリと落として佐天に指示を求めた。

 

 

    「ウフフフ····」 「クスッ」

 

そんな微笑ましい光景をドラえもんとロゥリィは優しい顔で眺めていた。

 

 

 




本作品のナレーションのイメージは中田譲治さんを、ノノカのイメージCVは斎賀みつきさんをイメージしております。


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30話 アドミニストレーター

時間は少し遡る。

 

通常のワープ空間から外れた斑模様の亜空間に、白・赤・黒・碧の一色にカラーリングされた4隻の巨大な宇宙船が漂い、小型の船を中心にして輪になって取り囲んでいる。

 

それらは地球が消滅する寸前に辛くも脱出するも、ワープ航法の乱れによってこの亜空間に閉じ込められ、漂流している24世紀の

生存者たち総勢約5千人が乗っている宇宙船だった。

 

ホワイトにカラーリングされてある事から白の陣営と呼ばれているノノカ達の宇宙船の乗員数は約700人と一番少なく弱小であった。

 

しかし、この場に居る全ての船の建設に携わり、不完全ながらも創世セットの復元の成功、人工の地球の創造とそれの観測と管理。それら全て、ノノカが行っていた功績から今回の聖杯戦争の監督役に任命され、4つの陣営の唯一中立の立場となり結果、乗員の全てが戦争終結後、無条件で創世セットの地球での移住が約束されている陣営だった。

 

隣に並ぶ船は赤の陣営で、乗員数約1100人と2番目に少数だが、他の船に比べて乗員たち全員の結束はどこよりも固く、一枚岩として強固な陣営だった。

 

更に隣、黒の陣営の乗員数約1400人。

この陣営は派閥が作られ、身内同士でいがみ合っていた。

これから始まろうとしている戦争でどの陣営の味方につけば有利になるかで意見が別れ、未だに争っているのだ。

 

最後に碧の陣営の乗員数は最多の約1800人を誇り、その為一番多くの疑似魔術師たちを有していた。

 

人数のアドバンテージを生かし、複数の疑似魔術師達が1つの英霊召喚儀式シートに集中して魔力注ぎ込み、強力なサーヴァントの召喚を無事に成功させた。

 

召喚したサーヴァントはキャスターのクラスで、とても美しい女性の姿をしており彼女は自らをクィネラと名乗った。

 

その優美な容姿と滲み出る色香で老若男女を虜にし、その優しく麗しい声で紡がれる囁きは聞いた者の心に安らぎを与え、碧の陣営の人間の殆どが彼女に魅了されていった。

 

召喚したマスター達も彼女の美貌に一目で引き込まれ心酔し、骨抜きになり彼女に乞われるまま全ての情報と物資を与え続けた。

 

誰も彼もが、彼女の内に秘めている底知れぬ高い利己心と支配欲、手段を選ばない冷酷さと邪悪さに気づこうともせずに·····

 

置かれている状況を概ね把握したキャスターは上手く立ち回れる算段を計り、行動に移した。

 

まず、手始めに自分を召喚して契約した複数のマスター達を魔術で洗脳や催眠暗示にかけて支配権を奪い傀儡とした。

 

同様の手口でセイバーを召喚した魔術師たちも正常な意識と思考を奪いさり、マスターの命を人質にしてユウキを従わせ、手駒を増やしていった。

 

そんな時、突如何の気配も感じさせずにキャスターの前に奇妙な梟の仮面を被った魔術師が現れ、奇っ怪な笑い声を上げながら自分をトリミーと名乗り、彼女に接触してきた。

 

最初は得体の知れない魔術師に警戒し、排除を試みるが、トリミーはあっさりと自分の正体と企みを明かし、協力を持ちかける。

 

キャスターはトリミーの正体と企みに大変興味を抱き、ドラえもんの存在を知って恍惚とし、その美しい顔を醜悪に歪ませ協力を承諾する。

 

 

キャスターはトリミーと嬉々として語り合い、謀略を巡らせている最中、突然強い爆発音が響き渡り、一時船内は混乱に陥った。

 

トリミーと一緒に爆発音のした現場に赴くと、召喚の儀式用の部屋は黒い煙が燻り、

部屋一面がボロボロに大破しており、床には碧の陣営の魔術師の1人が血を流して倒れていた。サーヴァントを召喚しようと魔力を英霊召喚儀式シートに注いでいた所、原因不明の爆発が起きたのだ。

 

倒れている魔術師の傍らには、紫色の機械の鎧に身を包み、右腕に重症を負って血を流している眼鏡を掛けた妙齢の女性が唸っていた。

 

「ちっ、糞がっ!!実験は失敗かっっ!!

爆発して終わりなんざっ、安っぽいB級映画かよっ!!!」

 

黙ってさえいれば、理知的な美人といった容姿なのだが、それら全てを乱暴な態度と汚い口調、歪んだ顔が台無しにしていた。

 

彼女の名はテレスティーナ・木原・ライフラインと言い、佐天涙子の元の世界、学園都市にて暗躍する悪名高き狂気のマッドサイエンティスト、木原幻生の実の孫娘である。

 

彼女はかつて学園都市が誇る、レベル5御坂美琴を越える未だに誰もたどり着いていない未知の領域、レベル6を創る実験を手段を選ばず行っていたが、全ての目論見を前述した御坂美琴とその仲間達の活躍によって阻止された経緯があった。

 

事件解決後は隔離施設に独り拘束されていたが、祖父の木原幻生が裏から手を回して解放し、自分の新しい実験につき合わせていた。

 

その実験は時空間の壁を崩し未知のエネルギーを取り出すという内容だったが、実験は失敗。大規模な爆発事故が発生し、テレスティーナはそれに巻き込まれる。

 

幸か、不幸か····様々な物質の化学反応によって生じた爆発の衝撃エネルギーが時空間の壁をほんの一瞬だけ崩壊させ、そこへ何の因果か?碧の陣営の魔術師によるサーヴァント召喚の魔力エネルギーと結びついて彼女は英霊として招かれたのだった···

 

息荒く周囲を見渡し、キャスターらを視認すると先程同様に唾を飛ばしながら口汚く威嚇をする。

 

「あ"あ"ぁっ~!?何だぁテメェらは?

見世物じゃねえぞぉ·····んっ、お前普通の人間じゃ無さそうだな····?周りを見る限り、実験場とは違う場所····何処だここは···」

 

自分が生身の人間ではない事を一目で見抜いた彼女に少しだけ興味を抱いたキャスターは配下にならないかと誘うが当然、

 

「はあっ!?この私に配下になれだぁぁっ···?馬鹿かテメェはっ!!寝言ほざいてんじゃねぇぞっ?カスッがっ!!!」

 

予想どうり罵詈雑言をキャスター・アドミニストレーターに浴びせ拒絶する。

 

そんなテレスティーナに興味を示したトリミーは不気味な笑い声を上げながら懐に忍ばせてあったモンスターボールを取り出す。

 

「ホーホッホッホッ···なかなか活きがよいですなぁ···丁度いい。軍事兵器用として造ったポケモンの出来損ないの実験台として使わせて貰いましょうかねぇ····」

 

モンスターボールを床に放り投げると蓋が開き、中から生物···否、まともな生物とは到底呼べない不気味に蠢く不定形な化物が現れた。

 

それはスライムのようなゼリー状の身体のあちこちから触手に角や翼、目玉に人の歯が生え涎を流す口等が無数に生えて蠢くナニかだった。

 

それ(・・)はテレスティーナを認識すると即座に触手を伸ばし、負傷している右腕に取り憑き、瞬く間に彼女の右半身を掌握していった。

 

「なっ、なんだこれはっっ!!??テメェ、

私の右腕に何を····なっ!?

コイツまさか、アタシの細胞その物に直接侵食していやがるのかぁ!?くそっ、クソッ、糞があぁぁぁー!!!」

 

即座に学者としての経験から正確に分析するが、成す術なく右半身を乗っ取られ融合し、テレスティーナは気を失い、白目になって口から泡を吹き、痙攣して倒れた。

 

「ホーホッホッホッ···これから彼女の身体がどのように変化するのか非常に楽しみで興味深いですなぁ····」

 

「あらあら奇遇ねぇ···私もとても楽しみよ」

 

キャスター・アドミニストレーターは複数の小さな魔法陣を展開し、無数の太い鎖を出してテレスティーナ・木原・ライフラインこと、ライダーを拘束して実験隔離施設の部屋へと運んだ。

 

 

あくる日、アドミニストレーターは強力な手駒を更に増やすため、傀儡状態にした疑似魔術師の少女に新しいサーヴァントを召喚させた。

 

するとそこに現れたのは伝説の第四真祖・

暁古城であった。

 

暁古城はバーサーカーとして召喚されたが、至って普通に正常な意識と理性を持っていた。

 

アドミニストレーターは彼を一目で気に入り、手篭めにしようとするが、彼女から滲み出る邪悪さを敏感に感じ取った暁古城は全力で拒絶する。

 

「悪りぃなっ、配下になる話しは断らせて貰うぜっ!!

あんたからは妖しい匂いがプンプンするんでなぁっ!!!」

 

拒絶されたキャスターはほんの一瞬だけ残念そうな顔になるが、すぐに冷酷な顔を取り戻し、排除しようと攻撃を仕掛けてきた。

やむなく暁古城は戦闘を始めるが、全てが彼にとって不利な環境だった。

 

宇宙船内というハンデから強力な眷獣を録に呼べず苦戦し、更に自分を召喚して契約を結んだマスターは、妹の凪沙と同じ位の年齢の少女で、彼女を人質に取られた暁古城はあっけなく敗北し拘束された。

 

令呪によって狂化スキルを解放して理性を奪い取られ、バーサーカーらしく狂気に身をゆだねる伝説の第四真祖・暁古城をアドミニストレーターは貴重なサンプルとして検証実験動物にして扱う事を決めた。

 

まず複数の魔術師と再契約させて、膨大な魔力を注ぎ、どの程度まで肉体が耐えられ、能力を上乗せ出来るか限界まで行った。

 

向上した戦闘能力と、理性を失い暴走状態のまま、実際どの程度操れるかの検証を行いたかったキャスターにトリミーはある提案してきた。

 

既に人工の地球に降りて行動している白の陣営のサーヴァント、ロゥリィ・マーキュリーにぶつけて戦わせてみようと言うのだ。

 

次元の歪みの対策として特殊なバリアーが惑星全土に張り巡らしてあるため、今現在、降りるには地上に立てられた塔内部に設置してあるゲートを利用しなければならない。

 

そして各陣営のゲートの解放は赤・黒・碧の陣営全てがサーヴァントを召喚し準備が整えられる迄は自由に使えないという制約があった。

 

白の陣営の監督役のノノカだけが、地上で活動している22世紀からやって来た博士らと連絡して唯一自由に使用する権限が認められていた。

 

だが、トリミーは知っていた。惑星全土に張り巡らしてあるバリアーには小さな隙間がある事を···

 

キャスターの協力の下、多数の疑似魔術師らが限界まで魔力を行使し、一時的にバリアーの小さな隙間を拡げ、バーサーカー暁古城を降ろした。

 

地上に降りたバーサーカーはキャスターからの令呪による支配に一瞬だけ抗うが、複数の契約した疑似魔術師達の令呪から送られる膨大な魔力に理性を失わされ命令のまま、ロゥリィに襲いかかる。

 

そして合流したドラえもんとその仲間たちと戦い、雪霞狼を再び手にした雪菜によって、正気を取り戻した暁古城は彼女を優しい眼差しで見つめ、名字ではなく名前で呼び、この世界から消え去るのだった·····

 

 

キャスター・アドミニストレーターとトリミーの二人はその様子を超空間モニターで眺めていた。

 

「····それなりに成果はあったみたいね」

 

アドミニストレーターはそれっきり興味を失い、踵を返して自室へと戻っていった·····

 

1人残ったトリミーは何時もの笑い声を上げて愉悦に浸る。

 

「ホーホッホッホッ·····!!アレも案外、可愛い所がありますなあ···実にゆかい、愉快っ!

····さてさて、次はどのように奴を···あの青狸を翻弄し、意趣返しをしてやりましょうかねぇ····」

 

梟の仮面の魔術師、トリミー···()はモニターから離れず、じっとしばらくの間ドラえもんの姿を見据えていた····

 

 

 



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