自称、美少女錬金術師(26)が雄英の教師になった。 (さくあけ)
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平和の象徴から男認定されてた、男認定やめてもろて

ある方のにじさんじとの二次創作を見ててどうしても書きたくなった。
書かないと言ったな、あれは嘘だ。

にじさんじ知らなくてもわかるようには…書きたい。けど無理ぃ!


 いつか知らないけど中国のどっかで光る子供が生まれて、そこから二転三転、色々あって大半の人が『個性』を持ってる世界になった。

 ある時『個性』を悪用して犯罪を犯す『(ヴィラン)』って呼ばれるやばいやつらが沢山出てきた。怖いにもほどがあるね。そんで、悪がいるなら善もいるよねっていう感じで『個性』を使って『敵』と戦う『ヒーロー』が出てきた。

 この世界の大半の子供たちの夢はヒーローになること。もちろん私もその一人()()()()

 

 

 まぁ今の私はヒーローになって(自称)美少女錬金術師で名を馳せて…そこから色々あって、

 

 

 ある高校の教師になった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「んー、久しぶりに来た、我が母校!」

 

 早朝、№1ヒーローや№2ヒーロー、有名なヒーローを多数輩出している高校、雄英高校の門前に赤髪赤眼の女性――アンジュ・カトリーナが仁王立ちで立っていた。

 

「……教師になって戻ってくるとは思っていなかったけど」

 

 苦笑いを浮かべてアンジュは門を潜り抜けて、校舎に向かって歩き出す。

 

「確か今日は…」

 

 スマホで何かを確認するアンジュに校舎側から声がかかる。

 

「入学試験の準備だよ」

「そうですよね、ありがとうござます…ん!?」

 

 スマホから目を離し、顔を上げて声の主を確認したアンジュは驚きからか手からスマホを落とす。

 

「お、オールマイト!?…さん」

 

 目を向けた先にいたのは№1ヒーロー、平和の象徴と謳われるヒーローだったのだから。

 

「前、少し顔を合わせたよね」

「えぇ、少し…きょ、今日はどうして雄英(ここ)に…?」

 

 目を丸くして焦りを露わにするアンジュにオールマイトはアメリカンな笑い声を上げて答える。

 

「HAHAHA!君と同じさ、アンジュくん!」

「くん付けって…、私と同じってことは雄英の教師に就任したってことですか…?」

「そういうことだ!教師としては私も君も新米なんだ、仲良くしてくれ!」

「え、えぇぇぇぇ!?…も、もちろんです!…きょ、今日からよろしくお願いします」

 

 おずおずと握手の為にアンジュが手を伸ばすと両手で掴んで上下に振る。

 

「あぁよろしく、アンジュくん!」

「…あ、あのー。し、知ってるとは思いますけど、女ですよ?私」

 

 ん˝!?と、オールマイトが詰まり、アンジュは悟った。

 

――私、№1ヒーロー…平和の象徴から男だと思われてた。

 

…やってらんねぇよなぁぁぁ!!

 

 悲痛な叫びが、アンジュの心中で響いた。

 

――――――――――

 

 気まずい雰囲気でオールマイトとアンジュは校長室まで行き、他の教師に紹介することとなった。

 アンジュは世界の終わりのような顔をして、佇んでいる。それだけ自己紹介に慣れていないのだろう。

 

「――前から言っていた新しく教師に就任する二人だ、まずはオールマイト、お願いするよ」

「…平和の象徴なんて言われていますが、教職に関してはからっきしなので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

 

――すごいちゃんとしてる、ここで噛んで私羞恥心で死ぬんだぁ…

 

 一人顔を蒼くして誰にもバレないように頭を抱える、だが何も変わらずアンジュの番が来る。

 

「では、次はアンジュくん」

 

 根津校長からもくん付けされアンジュは絶望しつつ、何とか言葉を発する。

 

「え、えーと、アンジュ・カトリーナです。オールマイトさんと同じく教職に関してはからっきしなので…よろしくお願いします」

 

 何とか噛まずに言い終え、アンジュは安堵して息を吐く。

 

「私は少し、用事があるからいろいろと教えてやってくれ、じゃあね」

 

 根津校長はてちてちと歩いていき、職員室から姿を消した。

 そこからしばらくの沈黙の後、プレゼント・マイクが声を張り上げる。

 

「オールマイトに、紅の錬金術師、これからよろしく!hooooo!!」

 

 紅の錬金術師、それはアンジュの二つ名。ヒーロー名は別にあり、紅の錬金術師は国民たちがアンジュの姿を見てつけた名前。本人は「それ長いしヒーロー名で呼ぼうよ、ね?」と、マスコミやら何やらに言ったらしいが虚しくも呼び名は変わらなかった。

 

「ヒサシブリダナ、アンジュ」

「あ、エクトプラズム先生、お久しぶりです」

「先生ハ、ツケナクテイイ」

「いえ、先生は先生なので!」

 

 アンジュがなぜエクトプラズムに先生をつけるのか、その理由は簡単でアンジュが雄英高校に通っていた時の担任だからだ。これから先、エクトプラズムをアンジュが呼び捨てにしたりすることは絶対にないだろう。

 

「きょ、今日は入学試験の準備なんですよね、私は何をすれば…?」

 

 十数人のプロヒーローを目の前にして緊張を露わにして冷や汗をかきながらアンジュが聞くとミッドナイトが答える。

 

「貴女は演習場所の欠陥が無いかセメントスと見に行ってもらいましょうか、もしあれば二人の個性があればすぐに直せるでしょうし」

「はいっ、わ、わかりました」

「じゃあ、行こうか」

 

 アンジュはセメントスの後ろを取ってつけたような行進の形で追う。それを見て笑みをこぼし、ミッドナイトが背中を軽く押す。

 

「そんなに緊張しなくて大丈夫よ、私たちはもう職場の仲間なんだから」

 

 ミッドナイトの言葉にアンジュは緊張を解き、身体の力を抜いた。

 

――――――――――

 

「知っているとは思うけど俺の個性は『セメント』。触れたコンクリを自由自在に操れる」

「はい、知ってます。市街地戦では敵無しの個性、ですよね」

「そうだね、市街地では敵無しだけど森とかになると無理かな…難しいものだ『個性』って言うのは」

「ですね」

 

 緊張が解けたアンジュとセメントスは演習場所に来て喋り歩いていた。喋り歩いていたと言っても欠陥が無いか目を凝らしながらだ。

 

「君は根津校長からのスカウトだっけか」

「はい、根津校長から声を掛けて下さって、私も雄英の教師にも興味があったので了承しました」

「そうか、…っと欠陥発見」

 

 セメントスが指した方には大きなひびが入ったビルが鎮座していた。

 

「君と俺の個性は部分的に似ているから俺のを見れば直し方、解ると思うから」

「…はい」

 

 地面に両手をつけた刹那、ビルのひびが綺麗さっぱり消え去った、いや直ったと言った方が正しいか。

 

「じゃあ二手に分かれようか、俺は北と西、君は南と東」

「わかりました」

 

 その後二人は一言二言交わして、欠陥を探し直すために走り始めた。

 

――あっ…あーそう、あーそう、あっ…ふーん…なるほどね、結構広いじゃん。

 

 アンジュは結構絶望した。

 

――――――――――

 

「――じゃ、皆、持ち場についてくれるかな」

 

 根津校長の声に教員たちがはーいと声を返す。

 アンジュとオールマイトが教師として就任して一週間、雄英高校の入学試験が始まろうとしていた。

 

「紅の錬金術師、演習場所で危険なことになりそうだったら直ぐに助けに行けよ」

「わかりました、…紅の錬金術師って呼ぶのやめません?アンジュでいいですよ」

「いや、俺は何を言われようと紅の錬金術師と呼ぶ」

「そ、そうですか…?」

 

 プレゼント・マイクの謎の信念に困惑しながらアンジュは自分が任されている演習場所に向かい、受験生たちを待った。

 高いビルの上に立ち、ぞろぞろと入ってくる受験生たちを見据えてアンジュは呟く。

 

「この中にリゼいたら面白いんだけどなぁ…」

 

 ま、いなくてもいいけど。そう付け足してアンジュは耳を澄ませた。

 「はいスタート!」そんなプレゼント・マイク声がアンジュの耳に入る、少し苦笑いになりながら手をメガホンのようにして大きく呼吸を一度して精一杯叫ぶ。

 

「じゃあ、スタート!!!」

 

 カウントという優しいものなどこの高校に存在しない。

 敵は待ってくれないのだ、待ってくれる敵などただの馬鹿。

 このスタートの仕方で駆け出せた者は少数、一人いればいいところ。

 

「さて、駆け出せた子は……お、いるねぇ」

 

 目視できる範囲に一人、金髪でとげとげした髪型の男子が道路を駆け抜けていた。

 手から爆発が起きている、そこから個性を導き出す。

 

「爆発の個性かなぁ…合格しそうだな、あの子は」

 

 金髪の男子から目を離し、今頃走り出した集団に目を向ける。

 

「さーて、見所のある生徒は…」

 

―――――――――――

 

 試験も終盤に近付き、最終関門が演習場所に現れる。

 

「誰か潰すやつは出てくるかな、あの爆発くんとか潰しに来そうだけど…」

 

 巨大な敵、潰してもポイントには換算されない。いわゆるお邪魔虫。

 その敵をだれか潰しに来る者はいないかとアンジュは楽しみに0ポイント敵に目をつける。

 

「みんな逃げるのね、それが普通なんだろうけどね」

 

 やっぱりか、と言わんばかりに息を吐いて目を逸らす。が、即座に視線を戻して絶句する。

 0ポイント敵の下に女子が倒れていたのだ。

 

「あれってやばくない?…うん、やばいよね。助けに行こう、降りるの時間かかるし…」

 

 自問自答の後、アンジュは覚悟を決めたように助走をつけて――

 

あーい(I) きゃん(can) ふらーーーい(fry)!!」

 

 飛んだ(落ちた)

 

――あ、ちょっと待ってかっこつけて(?)飛んだのはいいけど…これ死ぬぅ!

 

 後悔後先立たず。アンジュは今、絶賛落下中だ。

 

 空中で動く手段がない今、アンジュ絶体絶命!――と思うじゃん?まぁ、絶体絶命なんだけどね。

 いや、あの子は助けないといけない、ちょっと危険だけどやりますか!

 

 アンジュは身を任せ、アンジュは勢い良く手を合わせる。

 

「理解、分解、再構…築!」

 

 0ポイント敵の振り下ろされる鋼鉄の手に指先をつけそのまま勢いを殺すように腕の上で一回転。

 直後、閃光があたりを包む。

 

 

 

「「お、おぉぉぉぉ!?」」

 

 

 

 周囲から驚きの声が多数上がる。

 

 0ポイント敵は、物言わぬ人形となっていた。

 

――関節部分全部固定する只の荒業!じゃなくて、これやばくない?

 

敵の腕部分に一人、アンジュは立っていた。

 

「どうやって降りよ、これ」

 

 この後受験生たちが救出した。尚、救出する間、同じ受験生だと勘違いしていた模様。

 

 女の子もちゃんと助かってた。

 

―――――――――

 

 多数のモニターがある部屋にいる雄英の教員たち全て、アンジュが任せられた演習場所のモニタを見ていた。

 

「あそこから飛び降りて助けるなんて事、誰か考えた?」

 

 ミッドナイトが呆れ交じりに周りに問う。

 全員が首を左右に振る。

 

「…あ、0ポイント敵には『抑止機能』があるのって誰か伝えたかしら?」

 

 ミッドナイトが思い出したように問う。

 今度も全員が首を左右に振る。

 

「これは私たちの落ち度ね。…それと、プレゼント・マイクの助言ね」

「「だな」」

 

 満場一致。

 

 今ここで、プレゼント・マイクへの説教が決まった。

 

「アンジュくんが戻ってきたら担任を発表しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――遅れました、すみません」

 

 数分後、息を荒くしてアンジュがモニタ部屋に戻ってきた。

 

「大丈夫さ、あの敵に『抑止機能』が搭載されていることを伝えていなかったこちらにも落ち度があるからね」

「そうでしたか…ってえぇ!?…じゃ、じゃあ私が行かなくても大丈夫だった感じですか…?」

「ま、まぁそうなるね」

 

 根津校長が目を逸らしながらそう言ってアンジュは肩を落とす。

 それを元気づけるようにオールマイトが声を掛ける。

 

「き、君がした行動は無駄じゃないから元気を出すんだ!」

「そ、そうですよね。オールマイトさん……じゃない!?」

 

 オールマイトだと思ってアンジュが目を向けたところにいたのは似ても似つかぬ骸骨金髪おじさんだったのだ。

 

「あっ」

 

 忘れていたかのように体を力ませ、いつものようなオールマイトになる。

 

「えっ?」

「……話すべきだとは思っていたんだけどね。少し長くなるけど落ち着いて聞いてくれ」

「あにm…」

 

 アニメみたいな展開で草、そう言おうとしたアンジュは何かを察し口を閉じる。

 

 オールマイトは話し始めた、今日にいたるまでのことを。

 

 

 

「――まあ、そんなこんなで今日に至る訳なんだ」

 

 オールマイトが説明を終わるとアンジュは困惑に表情を染め、数秒間唸ると納得したように顔を上げる。

 

「そうだったんですね」

 

 オールマイトがもう一言。

 

「私のこの姿のことは他言無用で頼むよ」

「もちろんです」

「じゃあ話が終わったところで、クラスの担任を発表するね」

 

 根津校長がそう言って場が切り替わる。

 

「1年A組ヒーロー科担任は相澤くん、本当はアンジュくんに頼もうと思ったんだけど一年目で担任は荷が重いからね、副担任を頼むことにするよ。1年B組ヒーロー科担任は管くん、頼むよ。次は1年C組普通科――――」

 

――――――――

 

 入学試験から二日後、アンジュは顔を真っ青にしていた。

 

「どうしたんだい?」

 

 オールマイトが心配そうに声を掛けると、首を左右に振った。

 

「わ、私の任されたクラスの担任…イレイザーヘッドは何回も除籍処分にしているんですよね、副担任から降ろされたらどうしようかと思って…」

「それは無いとは思うけどなぁ…それに君は国民からもヒーローからも認められているんだから、自信持って!」

「は、はいぃ…」

 

 そんなこんなで入学までの時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

「……ミッドナイト、なんで1年A組だけがいないんでしょうか?」

 

 入学式、1年A組で出席していたのは副担任のアンジュしかいなかった。

 ミッドナイトは呆れ交じりに言う。

 

「あいつのことだから入学式なんてもの非合理的だとか言って外で体力テストやってるんじゃないかしら」

「…じゃー、私も副担任なので行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 ミッドナイトに小さく会釈をしてアンジュは裏口から静かに出た。

 外のだだっ広い運動場の隅で体操服に身を包んだ生徒たちがヒーローコスに身を包んだイレイザーヘッドの話を聞いているようだ。

 どうやって割り込めばいいかを考えながらアンジュは走る。だが全く着く気配がしない。

 

 理由は単純明快。このヒーロー、運動神経が全くよくないからだ。例を挙げるとすると50m走、なんと驚異の15秒。そして体力も無い。

 

 半分ほどに達したとき、アンジュの足は止まった。

 

「…今日から体力トレーニングでもしようかな」

 

 少し休憩し、また走る。今度こそイレイザーヘッドのところまで走り切り、横で止まって空気を貪るように呼吸を繰り返す。

 

「ふぅ…イレイザーヘッド、体力テストするなら一声かけてください」

「次からそうする。…この人は俺の補佐――副担任のアンジュ・カトリーナだ」

「ど、どうぞよろしく」

 

 生徒の視線のすべて受け、背中に冷や汗をだらだらとかく。

 

「カトリーナ、体力テストについてだが――」

 

――最下位は除籍処分だ。そこは了承してくれ、俺の方針だ。

 

 イレイザーヘッドの言葉にアンジュは驚きつつも何度か頷く。生徒がいなければ今ここでアンジュは大声で驚いていただろう。

 そして生徒たちの中に、驚きに目を見開いている者が一人。除籍処分に対してでなく、副担任のアンジュに対して。

 

「なんで、ここに…?」

 

 白髪に青メッシュが効いた女子、リゼ・ヘルエスタであった。




年齢考慮して書いていたら教師になってました。別にいいもんね。

(続きは)ないです。


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過去の話するんだけど…僕のこと好き?

お待たせ、待った?


えーと、評価に色がついてたりお気に入り登録してくれる人がいたりして…作者驚いております。少し話を進めてアンケートの結果を見て連載するか検討します。
多分続くんでしょうけど!


今回、作者が調子乗ってたくさん書いたので大体9000字です(にっこり)
サブタイトルに深い意味はございません。


 リゼ・ヘルエスタが周りより衝撃を受けるのには理由があった。それは、9年程前から友達だということ。それがどうした、そう思うだろうが友達となったきっかけが周りとは少々違うのだ。

 きっかけはある事件が起きた、9年前に遡る――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さーん!」

 

 ある家で、子供が母を呼ぶ声が響く。

 声の主は白髪に深い青色のメッシュが効いたリゼ・ヘルエスタという名の少女。

 

「どうしたの、リゼ?」

 

 母が柔らかい笑みを浮かべ、優しい声色で返す。

 

「呼んだだけ~!」

 

 無邪気に笑い、母に抱き着く。

 

 何ら変わらない一家に、平然と悪が歩み寄って、幸せを壊して、奪い去っていく。

 

 

 

 ある冬の休日、敵の心の中を映し出したように濁る曇天の日だった。

 

「雨、降りそうだし早く帰ろうっと」

 

 空き地で一人、ボーっと過ごしていたリゼは雨を察知して普段より早く帰路についた。

 

「ふんふんふ~ん」

 

 鼻歌を歌い、余所見をし、小さくリズムを刻み、家までの道を駆け抜けていく。人気の多い場所を余所見して走っていたら誰かにぶつかるのは必然的だった。

 

「わっ」

 

 顔面から誰かの服に突っ込んで、小さく悲鳴を上げて尻もちを着く、寸前で受け止められる。

 

「ごめんね、大丈夫?」

 

 目立つ赤髪に赤眼でヒーローコスチュームを纏った女性――後の紅の錬金術師、アンジュが優しく声を掛け頭を撫でる。

 

「うん、だいじょうぶ。ありがとう、ヒーローさん!」

「…気を付けて帰ってね」

 

 丁寧にお礼を言って走って去って人混みに紛れていくリゼの背中を見つめ、地面に落ちた何かを見つけてそれを拾うとリゼを追いかけ始める。

 

「どうした、アルケミー(アンジュ)!?」

「ぶつかった女の子の髪飾りが落ちたみたいなので返してきます、(ほむら)

「迷子になられても面倒だ、わしも行こう」

 

 焔と呼ばれた女性はアンジュの後ろ追いかける。人混みをかき分けて進んで行く。

 

「いた!…ちょっと待っ―――――」

 

 人混みを抜け、リゼを見つけ制止の言葉をかけようとするが続かず、代わりのようにアンジュの顔が絶望に染まる。

 

「ヒーローだ!早く逃げるぞ!」

 

 時すでに遅し、リゼは敵の個性か何かで眠り悲鳴一つ上げず、抵抗もせず抱えられていて敵が逃げていく。

 

「動け!」

「っはい!―――あ…?」

 

 個性を発動させようとするが敵は姿形残さず、消えていた。

 

「何が…!?」

 

 辺りを散策しようとするアンジュを止め、焔は止める。

 

「多分転移系の個性だ、今は戻ってあの子の身元を探る。お前は家に帰れ、もう遅い」

「ですが…!」

「アルケミー、お前はまだ経験の浅い‘‘インターン生‘‘でしかない。この事件はわしたちプロに任せろ」

「…わかりました」

 

 悔しそうに表情を歪め髪留めを強く握りしめる。それを見て焔が呆れたように、声を掛ける。

 

「…そんなに助けたいなら、やるか?」

「本当ですか!?」

「あぁ、だが、雄英を数日間休むこと、事務所で寝泊まりすることは覚悟しろ。許可はこっちで貰う」

「もちろんです、数日間の勉強ぐらいすぐに終わらせます…!」

 

 闘志を目に灯し、アンジュは事務所に向かって歩き出す焔を追いかけて歩き始めた。

 

――――――――――――

 

 泣く子も黙る丑三つ時、事務所で緊急会議が開かれた。

 

「――拉致られた女の子の身元が判明した」

 

 資料を渡し歩きながら焔が言って、少し間を開けて続ける。

 

「女の子の名前はリゼ・ヘルエスタ、歳は八。リゼを狙っての拉致かはわからないが、わしは狙っての拉致だと思う」

「何故そう思うんですか、焔?」

 

 サイドキックが問いかけると資料の個性欄を見るように促す。

 

「個性が発現する場合は大抵、両親の片方を引き継ぐか混ざったものを引き継ぐかの二つがある。だがこの子はどうだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。狙うとしたらこれが主な理由だろう」

「なるほど…」

 

 納得するサイドキックたちとは対照的にアンジュは納得がいかなかった。

 

「個性が二つ持ちが狙う理由だとして、拉致して何の意味があるんですかね?」

「…お前なら少しわかるんじゃないか?」

「私なら、わかる…?」

「お前の個性でできる、人体錬成、とかな」

「――!」

 

 脳裏に、嫌な過去が過る。

 

「やったことがあるかは知らんが間違えれば人ではない化物ができるんだろう?――個性も持ち過ぎれば身体が耐えきれなくなって化物と化す。だがあの子(リゼ)は二つ発現させて平然と暮らしていた、じゃあ変に頭の回るやつは考える。

――二つ耐えれているんだから、増やしても耐えれるでは?ってな」

「じゃあ…!いや、でも個性を与えれるやつなんていないはずだ!」

 

 勢い良く立ち上がり、信じたくないとでもいうように否定する。

 

「聞いたことは無いか?超常黎明期、社会がまだ‘‘個性‘‘という変化に追いつけていない頃の話だ。‘‘人間‘‘という規格が突如として崩れ去り、法は意味を失い…文明が歩みを止めた」

「それが何だって言うんですか」

「まぁ聞け」

 

 首を傾げるアンジュの肩を揉みながら話を続ける。 

 

「そんな法も何もかも無くなった混沌の時代をいち早く人々をまとめ上げた人物がいた。ここからは聞いたことくらいあるんじゃないか?」

「人々から個性を奪い、圧倒的な力で勢力を拡大させ、悪の支配者として君臨した男…。そんな昔のやつが生きてるはずが…!」

「不老不死か寿命を延ばす個性でも奪ったんだろう」

「でも、奪うだけなら意味が無いじゃないですか!」

「そいつは個性を与えることも出来る」

「その男が…」

「多分な、わしも詳しいことは知らんからな」

 

 敵の心中など察せぬわ、アンジュから手を離しサイドキックたちと話を再開する。アンジュは話に耳を傾けながら、強く服を握って小さく悪態をつく。

 

「あの時動ければ…」

 

 アンジュの中には、後悔が渦巻いていた。

 

――――――――――

 

「ん、うぅ…」

 

――何してたんだっけ、そうだ家に帰る途中だったんだ。歩道で寝ちゃうなんてどうしたんだろ私…

 

 疑問一つ抱かず、リゼは重い瞼を開けて家に帰ろうと立ち上がって―――。

 

ガキン、ガチャン

 

 鉄と鉄が擦れ合う音と共にリゼは地面に座り込む。

 

「あ、あれ?足も、手も動かない」

 

 手足どちらとも鎖を巻き付けられていてリゼは思うように動くことができない。物音でリゼが起きたことを察知したのか何者かが近づく。

 

「あぁ、起きたのかい」

 

 マスクで顔を覆った男がリゼの前で腰をかがめて瞳を覗き込みながら言う。リゼは体を震わせて後退するが、壁に阻まれ後退することも許されない。

 

「そんな怖がらなくても、手は出しやしない。だって君は()()()()()だからな」

「―――!?」

 

 男の顔はマスク越しでもわかるほど、不敵な笑みを浮かべていた。

 

――誰か、助けて

 

 嗚咽も漏らさずリゼは静かに涙を流す、それを見て男は心底楽しそうに笑った。

 

―――――――――――――

 

 緊急会議から三日、事務所内ではサイドキックたちが慌ただしく動いていた。

 

「――居場所が分かったぞ!そして攫った男の名前も!」

 

 サイドキックの一人が情報を掴んで帰ってきたのだ。三日間進歩が無かった事務所は大騒ぎだった。その中で一番騒いだのはアンジュ、と言いたいところだがアンジュはソファで眠っているのでまだ聞いていないのだ。

 

「さて、これでアルケミーが起きたらオッケーだな」

 

 焔はソファに腰かけ、吐息を立てて眠るアンジュの頭を撫でる。

 

「――あんちゃん!…ってあれ?」

 

 アンジュは勢いよく起き上がり、周りを見渡し首を傾げる。それを少し笑いながら焔は声を掛ける。

 

「起きたか、アルケミー。朗報だぞ」

「ろ、朗報…?」

あの子(リゼ)の居場所が分かった」

 

 目を大きく開いてアンジュは驚愕の表情を浮かべる。

 

「場所はここ、静岡県の焼津市(やいづし)浜当目(はまとうめ)にある廃墟だ。救出作戦決行は二日後だ」

「焔の事務所だけで決行ですか?」

「そんな馬鹿のことはせんよ、あそこと一緒だ」

「あそこってまさか…」

「お前の友が行ってるところだ」

「嘘だそんなこと!」

 

 そんなに友が嫌いなのだろうか、サイドキックたち共々が疑問を抱いた時、事務所のドアが勢い良く開く。

 

「来たぞ、焔」

「そこに資料が置いてあるから目を通しておいてくれ、ベストジーニスト」

 

 ベストジーニスト、雄英の卒業生で今後の活躍が期待されるヒーロー。個性は繊維を自由自在に操るという地味な個性だと思われがちであるがかなりの熟練を要するテクニカルな個性である。

 資料を読むベストジーニストの後ろから人形を抱いた男子が出てくる。

 

「あ、アンジュさん。お久しぶり」

「あ、うん。久しぶり、(かなえ)さん」

 

 素気なく返すアンジュに叶と呼ばれた中性的な男は歩み寄って問いかける。

 

「事務所入る前に『嘘だそんなこと!』って聞こえたんですけど…もしかして僕が来ることに対してでしたか?」

「い、いや、そんなことないよ!うん!」

「ホントに?」

 

 白々しく否定し、叶に怪しまれたアンジュは降参とでもいうように両手を上げる。

 

「はい、言いました。叶さんに対して言いました」

「正直でよろしい」

 

 茶番が終わったところで焔がアンジュと叶に疑問を問いかける。

 

「アルケミーとライトニングゲイボルグ()は同い年だろう?何故さん付けなんだ?」

「「なんとなく」」

 

 精髄反射で返した言葉が重なり、二人は「げ」と顔を合わせて距離をとる。

 

「合わせて言うなよ!というか『ライトニングゲイボルグ』って言うヒーロー名長いんだよ!」

「それ以上言うならアンジュさんが勢いで付けようとしたヒーロー名バラしますよ」

「あっ、それは良くないかな。仲良くしよう、叶さん」

 

 見事に手のひらを返して、叶と握手を交わす。

 

「ライトニング、資料に目を通しておけよ」

「はーい」

 

 ベストジーニストの呼びかけに叶は気の抜けた返答を返して資料に目を通す。

 

「そっか、ライトニングって呼べばいいのか」

 

 なるほど、納得するアンジュの前で資料に目を通し終わった叶が吐き捨てるように呟く。

 

「こんな子まで狙われるのかよ」

 

 それが耳に入ったアンジュは悔しそうに頷く。が、すぐに笑みを浮かべて叶の背中を軽く叩く。

 

「助け出すんだよね、相棒?」

「相棒って…俺の相棒は葛葉(くずは)なんだけど…」

「そこはそうだなって返せばいいの!」

「そうだな、アンジュさん」

「うん、遅い!」

 

 繰り広げられる茶番は緊張していたサイドキックたちを和ませた。

 

 

 後に二人の組み合わせは『えんじぇるず』と呼ばれることになる。

 

 

――――――――――

 

「準備はできたか?」

 

 作戦決行日、アンジュたちは目的の廃墟の横の森に身を潜めていた。

 焔が控えめな声量で問うとヒーローたちは静かに頷く、それを満足そうに見て最後の確認を行う。

 

「廃墟に確実にいるのは商人の男とその手下だけ、もし別の敵が来ても冷静に対処しろ」

 

 行くぞ、短く言って警察と先頭を歩く。

 

「アンジュさん、よろしく」

「こちらこそ、…学生とはいえ一応仕事だしヒーロー名で呼ぼう、ライトニング」

「りょーかい、アルケミー」

 

 ハンドガン――ベレッタm92を指で器用に回しながら叶は返答する。叶はかなり軽装で動きやすさを重視した服装のよう。

 先頭を歩いていた警察がドアらしきところを何度か叩き、声を張り上げる。

 耳を澄ませていたアンジュが体を震わせ、顔を蒼くする。

 

「アルケミー、どうかし―――!?」

 

 叶の声は続かず、破砕音と悲鳴が森に木霊する。

 

「全員警戒態勢!」

 

 焔の切羽詰まった声が響き、ヒーロー全員が体を強張らせる。

 二人がいるのは最後尾、前で起こったことなど見えない。警戒しつつもアンジュは先頭で起こったことを確認するべく移動する。それを叶も後ろから追って移動する。

 先頭で起きたことが目に入り叶とアンジュは絶句する。

 

 警察が立っていたであろう場所は大穴が出来ていたのだ。

 

「無茶苦茶だ…」

「ここに居ても何も進歩する気がしないし、前、行こう」

 

 驚きを感じさせない声色でそう言って叶が先行して歩いていく、アンジュは何かを考えてから追いかける。

 大穴が開いた先頭に着き、焦って話しているベストジーニストと焔に二人は声を掛けた。

 

「あぁ、お前ら二人か」

「この大穴開けたのは資料に載っていない敵の個性のようだ。あの攻撃から全く攻撃が来ない」

 

 焔が軽く説明し、アンジュと叶は大穴に目をやり数秒後、顔を合わせ頷き合う。

 

「ここから私の錬金術で階段を作って下に降りましょう、暗くてわかりにくいけど下には道が続いてる。敵は、地下にいる」

「そうか、地下があったか。わしたちの目も落ちたものだな、ベストジーニスト」

「あぁ、そうだな」

 

 そこからアンジュの行動は早く、円形の模様を地面に描き両手を地面に押し付ける。

 音をたてながら瞬く間に階段が完成する、アンジュは軽く階段を叩き強度を確認して親指を立てる。

 

「アルケミーとライトニングゲイボルグは先に行け、わしたちは指示をしてから行く!」

「でも…」

 

 私たちはただの学生です、その言葉は叶に遮られる。いつものようなふわふわとした表情ではなく、真剣な表情で。

 

「僕たちを信じてくれてるから言ってくれてるんだ、裏切るわけにはいかない」

「そう、だね」

 

 両手で頬を叩いて気合を入れなおし、アンジュはリゼを救うべく走り出した。

 

―――――――――

 

「ヒーローが来てるとは思わなかったけど、まぁ仕方ないか。…本当に助かったよ」

「気に入ってもらえたようで嬉しい限りさ。で、弾むんだろうな旦那?」

 

 目の前で行われる話にリゼは体を震わせることしかできなかった。この五日間、リゼは出された食事を断固として口に入れず、見知らぬ男と過ごし体力面的にも精神面的にも弱っているはずなのに、青く透き通る瞳は死んでいなかった。そしてその瞳は‘‘ヒーロー‘‘という単語で爛々と光る。

 

「――しっかり頂きました、じゃあさいなら。気をつけな、ヒーローも直に来る」

 

 男は跡形もなく闇に姿を消し、残ったのは旦那と呼ばれた清掃を身に纏った男と鎖につながれたリゼ。ゆっくりとリゼに近づき、ごつごつとした手を伸ばす。リゼは壁に体を精一杯押し付けて、静かに唸る。

 

「大丈夫さ、心配しなくても。――個性を増やすだけだから」

 

 手がリゼの頭に触れる、寸前。

 稲妻を纏った何かがそれを遮り避けるために身体を仰け反った隙を突くように闇から現れた稲妻が鎖を潰しリゼを攫って行く。

 

「ナイス、ライトニング!」

「そっちこそ!」

 

 リゼを抱えているのは叶ことライトニングゲイボルグ。そして地面に両手をついて口角を上げるのはアンジュことアルケミー。

 

「…?あぁ、見覚えが無いと思ったらただの学生か」

「ただの学生とは、言ってくれるね」

「一応これでも、仮免取ってますから」

 

 この二人は異例で、仮免を高校一年でとっているのだ。あと一人いるが。

 

「仮免を持っていたとしても、経験を積んでいないのならば石ころと同じさ」

 

 そう薄く微笑み、男は手をかざす。

 

「君たちには恨みは無いけれど、邪魔をするというならこちらもそれなりの対応をさせてもらう」

 

 圧倒的な殺気、それに二人は怯みそうになるが無理やりに笑みを浮かべて戦闘態勢をとる。

 

「残念だ」

 

 感情の籠らない言葉と共に、二人は透明な何かに押され壁に打ち付けられる。

 

「カハッ」

「っぐ!」

 

 叶は離すまいとリゼを強く抱きしめ、アンジュの元に走る。

 

「ライトニング、その子(リゼ)を連れて逃げて。その時間の間は何としてでも稼ぐ」

「…わかった」

 

 アンジュを信じての苦渋の決断だった。取り返した女の子をここで奪われてしまえば、親族に顔向けができない。

 叶は雷を身体に纏い、リゼと共に闇に姿を消した。

 

「良い判断だ、だが、子供一人で私は止められない」

 

 また手をかざし、個性を発動させる。

 

「もう、仕組みはわかった」

 

 そう言ってアンジュが振り払うように手を動かす。来るはずの衝撃波が来なかった、アンジュが相殺したのだ。

 

「一つ分かったところで、まだまだある」

「そんなの承知の上、早く来い!」

「君も、発現させた個性も、面白いな」

「お褒めに預かりどーも!」

 

 いい捨てるように言って、アンジュは指を鳴らす。その刹那、男が爆炎に包まれる。アンジュは慢心せず、遠くから構えながら男を見る。

 

「何の個性かわからんが汎用性のある個性だ、私がもらってやろう」

 

 音も無しに目の前に現れた男は、アンジュの頭を躊躇い無く掴み、宙に持ち上げる。

 

「これで戦えない、ただの人間だ」

 

 手を離し、アンジュは地面に落ち、倒れる。勝ち誇ったような笑みを浮かべアンジュに告げる。が、アンジュは笑っていた。

 

「何が、面白い?」

「――いつ、だれが、個性を発現させたと言った!?」

「っ!?」

 

 その叫びと共に、地面から無数の棘が男に向かって伸びる。その光景に驚愕していた男は反応が遅れ、棘が両腕を捕える。

 

「!!今回は、私の完敗だ。次は必ず、奪いに来よう」

「来なくてっけっこー…」

 

 掠れた声で答え、アンジュは誰もいなくなった部屋で意識を切り離した。

 最後に聞いたのは、

 

「アルケミー、何があった!?」

 

 焔の声だった。

 

――――――――

 

ピッ、ピッ

 

 機械音が部屋に響く。その部屋には二つのベッドがあり、その一つ上で包帯を巻いた赤髪の女が鎮座していた。

 

「……やることない」

「だね」

 

 そしてもう一つのベッドには人形を抱き茶鼠色で癖毛の男がスマホ片手に鎮座していた。

 作戦決行から二日、アンジュと叶は仲良く二人で背骨を綺麗に折っていたので入院中なのだ。

 

「あーでも、今日はあの子が来るんじゃない?」

「あの子?あ、あの子か」

「そう、あの子」

 

 あの子を連発する二人にガララ、と引き戸が引かれた音が耳に届く。

 

「お客さんだ」

「誰だろうね」

「今話してた子でしょ」

 

 そっか、叶は納得したように頷く。

 そして二人の眼には一人の少女――リゼが映る。

 

「こんにちは、傷は痛まないですか…?」

「うん、大丈夫だよ」

「この叶にかかれば傷など即座に完治かのっ!?」

 

 調子に乗って立ち上がり、傷が痛んだのか呻き声を上げながらベッドに倒れる。

 

「あの人みたいに調子乗ったらだめだからね」

「う、うん」

「叶さん、この子天使だわ」

「何言ってるんですか、僕が天使ですよ」

「ナニソレハツミミー」

 

 貶すようにアンジュが感情の籠っていない言葉を返してリゼに笑いかける。

 

「大丈夫だった?怪我とか、怪我とか、怪我とか…」

「怪我しか出てこないじゃん、語彙力無いんですね」

「うっ、うるせぇ!語彙力あるんか!?」

「え?喧嘩ですか?受けて立ちますよ」

「やってやらぁ!」

「――めう?」

 

 猫撫で声でそうアンジュに言う。

 

「可愛くない」

めう

 

 先ほどの猫撫で声から想像できないほどの図太い声で眉間にしわを寄せて言う。

 

「何か、不満そう」

 

 二人のやり取りを見ていたリゼがぷっと小さく噴き出す。

 顔を両手で多い、腰を屈めて笑い声を漏らす。

 

「叶さん、私たち二人でお笑い芸人やる?」

「ところで、ちゃんリゼはお母さんたち来てないのかい?」

「ねぇ、聞いてる?…キャナウェイ?キャナウェイ!?」

「お、お母さんたちは外にいます」

 

 遂に子供からもシカとかぁ、アンジュは掛布団に包まりベッドに寝転ぶ。

 

「…助けてくれて、ありがとうございました!かっこよかったです、アルケミーさんに、ライトニングゲイボルグさん!」

 

 リゼの言葉に、二人は照れくさそうに笑った。

 

「じゃあ、また!」

 

 リゼは何度か振り返りながら病室を出た。そして数秒後、入れ替わるように焔が入ってくる。

 

「元気か?」

「はい、調子乗るくらいには元気です」

「女の子を笑わせるぐらい元気です」

「ならば良し」

 

 隅に置かれていたイスを引っ張り出し、腰かけ深刻な顔で二人に告げる。

 

「今回の事件のことだが、警察側から公表するなと言われた」

「何故ですか、焔」

「プライベートだからドーラでいい。それと理由だがわしにもわからん」

「やっぱり、あいつが関わっていたからですか、ドーラさん?」

「さぁ、どうだろうな」

「公表しないこと自体はいいけど、理由を教えてくれないならなぁ…」

 

 叶はそう言って携帯をいじる。それな、とアンジュも肯定して言う。

 

「…二人の功績が称えられることも無く、終わるんだぞ?良いのか?」

「それは悲しいけど、もう一回功績上げればいいかなぁって」

「だね、地道にやればいいさ」

「そうか、ならわしから言うことは無いな」

 

 満足そうに立ち上がり、手をひらひらと振りながらドーラは病室から出て行った。

 二人になった空間で、アンジュが呟く。

 

「二人っきりだね」

「どうしたんですか?アンジュさん」

「うん、もういいや」

 

 思うような返事が来ず、アンジュは諦めベッドに倒れる。そしてしばらく経った時、また引き戸を引く音が鳴った。

 

「次は誰だろ」

「ベストジーニストさんとか?」

「あぁ、あの人ね」

 

 二人の予想は大きく外れた。

 

「ん?ちゃんリゼじゃん、どしたの」

 

 そこにいたのは恥ずかしそうに立つ、リゼがいた。

 

「えっと、あの」

 

 リゼは何度か口をぱくぱくと開閉させて、二人に手を伸ばした。

 

「私と、友達になってくれませんか!」

 

 二人は驚きながら目を合わせ、頷き合うと声を合わせて言った。

 

「「もちろん」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、体力テスト。

 生徒の間を抜けリゼは久しぶりに会った‘‘友達‘‘に抱き着いた。

 

「おわっ!?」

 

 反射的に受け止めて、アンジュは驚いた顔でリゼを下ろす。

 

「久しぶり、アンジュ」

「…うん、久しぶり。話したいことは色々あるけど、先に個性把握テストな」

「――カトリーナ、友達か?」

「まぁ、そんなところです」

 

 アンジュはそう言って笑みを浮かべた。

 生徒たちは何が起こったかはわからなかったそうだが何故か心が温まったという。

 

「じゃ、始めるぞ。まずは、50m走からだ」

 

 イレイザーヘッドの声で生徒たちは慌ただしく動き始めた。

 ある生徒のボール投げ以外何も起きず、除籍処分も嘘だと告げられ、ただの個性把握テストとして濃い一日が終わった。

 

―――――――――

 

 窓の外はオレンジ色に染まり、かなり時間が立っていたことを実感させられる。

 

「――カトリーナ、呼ばれてるぞ」

「っは、行ってきます」

 

 軍隊のように敬礼してからアンジュは出入り口に向かう。

 そこにいたのは、笑みを浮かべたリゼだった。

 

「まだ帰ってなかったの?」

「一緒に帰りたいな~って思って」

「んー、ちょっと待ってて直ぐに終わらせてくる」

 

 自分のデスクに戻り、かなりのスピートでタイピングし、消して、タイピングして、それを繰り返して僅か五分でアンジュは荷物をまとめ、タイムカードを切った。

 

「先に失礼します」

「気を付けて~」

 

 ミッドナイトに会釈して、アンジュは職員室を出てリゼの方を見てふざけたように言う。

 

「お待たせ、待った?」

「ううん、待ってない」

「よかった、じゃあ途中まで送るよ」

 

 まぁ周りから見たら恋人たちのそれで…彼女たちからすると普通のじゃれ合いなのだろうが。

 

「あんちゃんは何してるだろうなぁ…」

 

 アンジュの呟きは、隣のリゼに聞かれることも無く風にかき消された。




しばちゃんの配信楽しみ。
次回は戦闘訓練。

説明。

あんちゃん=アンジュの兄

ドーラさん
ヒーロー名:焔(ほむら)
個性:炎の竜――炎の竜という名の元、炎を主体として戦う。普段は人型だがたまーに竜になって暴れたり…?

叶さん
ヒーロー名:ライトニングゲイボルグ(長いのでライトニングと呼ばれることが多々)
個性:稲妻――稲妻を操るという少し単調な個性だが、使い方を工夫するだけでかなり厄介な個性に変貌する。


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初授業で『男ですか』って質問する生徒いるなんてマジやってらんねぇよなぁ!

(心の底から)お待たせ、待った?
本当にお待たせしました。

遅くなった理由(言い訳)は四つです。
・別作品の執筆。
・無情にも出されたゴールデンウイーク中の課題。
・にじさんじライバーの配信が面白過ぎた。
・ライバーの絵描いてキャッキャしてた。

この作品は短編から連載に変更して不定期で投稿します。
出来れば定期的にしたいんですがどうも私の性格では無理なので、最低限執筆速度を上げれるように励みます。

というか新人ライバーの人たちってコラボ相手に遅れられる呪いかかってるんですかね?


「どーもー、おはようございます」

 

 職員室の扉を開けながら、アンジュは挨拶する。

 

「おー、おはよー」

「おはよう」

「おはよう、アンジュくん」

「おはー」

 

 一気に挨拶を返されアンジュは誰が誰だかわらなくなるが一人は確実だった。

 

「根津校長、何回目か忘れましたけど…くん付けやめませんか…?」

 

 これが、アンジュの朝である。

 

――――――――――

 

「初授業…、死ぬんだぁ…」

「頑張って!」

 

 ミッドナイトに背中を押されながらアンジュは職員室を出た。

 

「噛んだらどうしよ、マジで死ぬじゃん。いやでもインタビューとか色々噛んでないし…」

 

 ぶつぶつと言いながらアンジュは教室までの歩きなれた廊下を歩いていく。

 そしてあっという間に教室前に着き、心を落ち着かせるように一度深呼吸をして妙にでかい引き戸を引いた。

 

「えーっと、理科担当のアンジュ・カトリーナです。よろしく」

 

 教卓に持っていた教材を置いて、アンジュは質問が無いか生徒たちに問う。すると一人の生徒が綺麗に手を挙げた。

 

「出席番号4番!飯田天哉です!先生は理科で何が得意なのでしょうか!?」

「何が得意かぁ…」

 

 理科は、物理、化学、生物、地学の大きく四つに分かれる。

 

「生物が一番得意かな」

「そうでしたか!ありがとうございます!」

「教えようと思えば他教科も教えられるから…っとと脱線するところだった。他に質問はある?」

 

 聞くと、誰も手を上げなかったのでアンジュは授業を始めようとするが一人の生徒が手を挙げた。緑髪の生徒だ。

 

「出席番号18番、緑谷出久です。先生の個性ってどんなものなんですか…?」

「私の個性か…見えない人も出てくるだろうから、前においで」

 

 生徒たちを前に来るように誘導する。

 

「燃やせるもの…これでいいか」

 

 鉛筆を宙に投げ、指を鳴らす。その瞬間、鉛筆に小さい火種が灯り数秒で消し炭になる。

 

「すげぇ…」

 

 誰かが呟き、周りも便乗するように言葉を口にする。

 

「原理としては燃焼の三要素を使ってるんだよね。【燃焼物】【酸素】【点火源】この三つを個性で生成する。今のを例にすると鉛筆を【燃焼物】とし、錬金術…個性で【酸素】の濃度を調節、そこに錬金陣…この模様のことね」

 

 手にはめた特殊な手袋を見せて補足しながら言葉を続ける。

 

「錬金陣の描かれたこの発火布で作られた手袋で火花を起こして点火してるって感じかな」

 

 大半の生徒が何のことかわからないという顔をしたのがアンジュの目に映る。

 

「まぁ、火を操れるって思ってくれてたらいいかな。他にも槍を作ったりとかできるかな」

「もう先生の個性がわからないよ…」

 

 一人の生徒がそう呟きアンジュは少し笑って言う。

 

「初対面の人に個性を説明するとよく言われるよ。…じゃ、席に戻って」

 

 席に戻り、ブドウを頭につけたような髪型の生徒が手を挙げた。

 

「峰田実です。先生は男ですか!?」

 

 一瞬の沈黙の後、アンジュは答えの代わりに質問を返す。

 

「‥まず聞くけど私のどこが男に見えるの?」

「声低いところと、胸が‥」

「胸が?」

「胸がな「消し炭になるか、峰田君」‥理不尽!!」

 

 胸が無い、そう言いかけたところでアンジュが静かにキレた。

 

「――と言うのは冗談で、デリカシー無い発言すると嫌われるからやめときな。質問に答えると私は正真正銘女です、わかる?」

 

 アンジュの忠告には何故か説得力があった、何故かはわからないが。

 

「じゃあ、忘れてることは無いと思うんだけど、復習からやろうか」

 

 中学三年間の復習をし、授業は終了した。

 そしてこの授業で生徒たちは学んだ、アンジュには胸の話題を出すのは死に近い選択だということを。

 

 

―――――――――――

 

 

「先生の授業わかりやすかったわ」

「わかる」

「わからないところあったら授業止めて全員に教えてくれる先生とか初めて」

 

 リゼはアンジュのことを口々に言う生徒たちに交じって食堂に訪れていた。

 メニューを見て歩くリゼと誰かの肩がドンっとぶつかる。

 

「すみません!」

 

 リゼは即座にぶつかった人に謝る。

 

「こちらにも非があるので謝らなくても大丈夫ですよ、えっと…」

「り、リゼ・ヘルエスタです」

「リゼさん、ですね。私は月ノ(つきの)美兎(みと)と申します」

 

 そこから話が弾み、ご飯を一緒に食べることになった二人。

 

「新しく入った赤髪の先生ってどんな人なんですか?」

「?…あ、アンジュか」

 

 一瞬誰かわからず、思い出したように言う。アンジュ、と呼び捨てにしたことに美兎は疑問を持つ。

 

「お友達か何かなのですか?」

「はい、昔からの付き合いで…アンジュは、まぁ面白い人ですよ」

「そうなんですか、一度話してみたいですね」

 

 黙々と食事をする二人に遠くから声がかかる。

 

「お、美兎ちゃん!隣座ってもいいー!?」

 

 そう言いながら月ノの隣の椅子に女生徒が座る。

 

「新しい友達かなんか?」

「今仲良くなったの」

「リゼ・ヘルエスタって言います。樋口(ひぐち)さん、ですよね…?」

「そやけど、何で知ってるん?」

「去年の体育祭で優勝してたの見てて…」

 

 樋口(かえで)、昨年の体育祭で無茶苦茶な戦い方で優勝をもぎとった張本人である。

 

「そうやったんか、楓って呼んでええで」

「わかりました、楓さん」

「ヒーロー基礎学はオールマイトが担当やっけか」

「今日の午後からあるみたいですね、楽しみだなぁ」

 

 楽しく話すリゼの肩を誰かがつつく。

 

「隣、良いですか」

「あっ、どうぞ」

「けんちゃんじゃん、おひさ」

「久しぶりですね」

 

 けんちゃんと呼ばれた男はリゼの横に座り、黙々と飯を口に運ぶ。

 

「リゼちゃんも知ってるんやない? けんちゃんのこと」

「去年の体育祭準優勝の剣持(けんもち)さん、ですよね」

「そうそう、私に負けたもんな。ぷぷー」

 

 剣持刀也(とうや)、昨年の体育祭で樋口楓にあと少しのところで敗れた男。

 

「…3タテ」

 

 剣持が不意に言葉を発した瞬間、樋口はあぁ?と悪態をつく。

 

「なんだ?3タテがそんなに悪いかぁ!?」

「え、ど、どうしたんですか!?」

 

 リゼは思考が追い付かず、あたふたとする。二人を月ノが鎮めてリゼに簡単な説明する。

 

「ちょっとまえにね、あるゲームで3タテされたの」

「そ、そうでしたか?」

 

 今の樋口はただのやばいやつなのだが、周りは周りで煩いのでこのテーブルで起きていることはわかっていない様だ。

 

「わ、私食べ終わったので先に失礼しますね。ま、また会えたら」

 

 身の危険を感じたリゼは食堂をそそくさと出て教室に向かった。

 

――――――――――――――

 

 教室では全員がそわそわとオールマイトの到着を待っていた。

 

わーたーしーがー! 普通にドアから来た!!

 

 ただ入ってきただけなのに生徒たちは大騒ぎだった。平和の象徴と称えられるのことはある。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの基盤をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!!

――早速だが今日はこれだ! 戦闘訓練!!」

「「戦闘…訓練!」」

「そしてそいつに伴って‥こちら! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…戦闘服(コスチューム)!!」

「おおおお!」

 

 生徒たちが椅子から立ち上がり声を上げる。

 

「着替え終わり次第、順次グラウンド・βに集合だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学生時代を思い出す‥けどそんな良い思い出少なかった」

「HAHAHA! そんなに良い思い出が無かったのか!」

「えぇ、そりゃ嫌な思い出が沢山…というか思ったんですけど新任二人に授業任せるってどういうことなんでしょうね。それに私理科担当なんですけど…?」

「アルケミーを呼んだ理由はちゃんとあるんだけど確かに新任一人でヒーロー基礎学っておかしいよね」

 

 あれぇ?と間抜けに首を傾げる二人の前に更衣室で着替え終わった生徒たちが次第に集まってくる。

 生徒たちは自分のコスチュームを友達と見せ合って、キャッキャと騒ぐ。全員が集合したことを確認したオールマイトは声を張り上げて言う。

 

「始めようか、有精卵ども!! 戦闘訓練のお時間だ!」

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

 真新しいロボットのようなコスチュームを身に纏った飯田が手を挙げて質問する。

 

「いいや、もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 オールマイトは生徒たちに話をし、質問が飛び交い最後にはカンペを取り出して読み始める。

 

「――それではコンビ及び対戦相手を…くじで決めてもらう!」

 

 そこからごたごたが少しあり、オールマイトが出した箱をまわしてくじを引いていく。

 

「チームが『K』だった人、手挙げてくれるかな」

 

 手を挙げたのは左半身を氷に浸食されたようなコスチュームを纏った男子生徒、名を轟焦凍。

 

「残念ながら…じゃなくて、おめでとう、轟少年。君はアルケミーと対戦だ」

「‥!?」「ん゙!?」

 

 手を挙げた轟はもちろん、アンジュまでもが驚いて声を上げる。

 

「そんな話聞いてないんですが…」

 

 オールマイトが小声で申し訳なさそうにアンジュに伝える。

 

「本当は私が相手するつもりだったんだけど、制限が…」

「それなら仕方ない…?」

 

 オールマイトは轟を安心させるように告げる。

 

「心配しないでくれ、アルケミーと本気でやらせる気は毛頭ない。アルケミーには火を操る錬金術の使用を禁止するハンデを科すから」

「おぉう、まじか…」

 

 アンジュは衝撃を受けながら手袋を外して懐にしまう。

 轟はアンジュの目の前に堂々とした態度で立って、少し羨むような怒ったような声色で言う。

 

「親父がよくあんたのことを誉めてた、№2ヒーローにそれだけ言われる実力、見せてもらう」

 

――あ、これ試されてるの?というか、この子の親エンデヴァーさんって(本当)

  …オールマイトさん、恨みますよ

 

「ではお手本として…というわけではないが最初にやってもらおうかな」

「マジでハンデ有りなんですか? この子相手にハンデとか多分ですけど死にますよ?」

「謙遜するなアルケミー、君は立派なヒーローだ」

「いやいや、そういう事じゃなくて―――」

 

 駄々をこねるアンジュをオールマイトが問答無用で引っ張っていく。その様子を生徒たちはくすくすと笑いながら見守る。

 

「轟少年はビル外で待機、…アルケミーは中で準備を。スタートの合図はこちらで行う」

 

 轟がヒーローチーム、アンジュが(ヴィラン)チーム。プロであるアンジュがハンデをもろともせず勝つのか、轟が核に触れて終了となるのか。

 モニタで準備が終了したことを確認したオールマイトはマイクに向かって高らかに開始の合図を言い放つ。

 

 

『――スタート!!』

 

 

 その刹那、ビル全体が氷に包まれた。

 




戦闘は次回です。久しぶりなのに申し訳ないです。
樋口さんの設定は確定してるので書いておきます、後々設定詰め込んだ設定話を投稿するかもです。
 
ヒーロー名:でろーん
個性:言霊――言葉で相手を操る。任意で発動させることが可能、日常生活で使用することはあんまり無い(顎(剣持)に限り頻繁に使用)。使用時、多少反動がある。例えば対象に「眠れ」と言えば相手は眠り、自身は少し眠くなる等。
(「死ね」とかは自身が死ぬ可能性があるので無理です)

でろーんの歌ってみた動画とかオリ曲、人を魅了するところが有ると思うんですよね、はい。
そこから思いついた感じです。
心操と似ているのでうーんって感じなのですが、でろーんの個性は変えたくないです。(豆腐の意志)


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年下を見てると痛い目見る、マジで。

 お久しぶりです。かなり時間が空いていたのでちょっと文章力落ちてる可能性が微レ存。
 アドバイスくれた方ありがとうございました!


 一瞬にしてビルが氷に包まれ、ビル内で待機していたアンジュは絶望すると同時に困惑していた。

 

「うっそだぁ…えぇ…?」

 

 アンジュは自分が受け持つクラスの生徒が決定したとき、全員の個性に目を通した。

 個性は世代を経て混ざり、複雑化し、より強力なものとなって引き継がれていく、そのことをアンジュは知っていた。

 だが強個性であっても所詮子供、制御はできまいとアンジュで生徒たちを()めていた。

 

「これ仕掛けた錬金陣意味ないじゃん、やば。これは死んだ、うん」

 

 ビル内は氷に侵食され、壁や床、あらゆる場所に仕掛けた錬金陣が全く意味をなさなくなっていた。

 この時点で自身の負けを悟ってしまったアンジュは小さくぼやく。

 

「降参とかできないかなぁ…」

「そんなことさせねぇよ、先生」

 

 いつの間にかアンジュのいる階まで登ってきていたと轟。

 降参などさせるつもりは毛頭ないようで、薄く笑っている。

 驚きつつも轟のその笑みに応えるようにアンジュはにっこりと笑う。その笑みは少し、焦りが混じっているように見える。

 

「さっきも言った通り、あんたの実力を見させてもらう」

「――ちょっ、この訓練の終了事項聞いてた!?」

 

 轟はそう言うと、アンジュの制止の声を聞くことなく、攻撃を繰り出す。

 攻撃と同時に壁や床に氷を這わせ、このフロアを自身の(フィールド)にしていく。

 轟から繰り出される攻撃に必死のアンジュはそれに気付かず、足を滑らせ、地面に転がる。

 

「やっべ…!」

 

 アンジュは焦りを露わにしながらも転げた勢いを利用してうまく体勢を立て直し、轟と距離を取っていく。

 待て、と犬に指示をするように手を動かして見せるが轟はそれに答えず、再度アンジュに突撃する。流石に止まってくれるだろうと思っていたアンジュは予想外の行動に驚きながらも対応する。

 

「ちょ、ホントにさぁ!」

 

 そんな事を言い焦っている様子だが流石はプロ、と言ったところか。

 自身より若い男の、そして型も無い無茶苦茶な素手による攻撃にも即座に反応し、余裕をもって避ける。

 一見轟の攻撃を軽快にかわすアンジュが優勢だと思われたが、アンジュの動きが時間が経つにつれ遅くなっていく。

 まぁお察しの通り、アンジュの体力は常人と比べて異常に少ない。

 常人の体力が1Lのペットボトルとすると、アンジュはその半分、500mLにすら及ばない。

 幼少期から運動全般を嫌い、錬金術に時間を費やした結果がこれである。そのことを今、アンジュは後悔しているだろう。多少運動をしていればこんなことで息切れなどしないのだから。

 

 攻撃がやんだ隙に荒くなった息を整え、次の攻撃に備える。が、飛んできたの攻撃ではなくは轟の率直な疑問。

 

「何であんたは個性を使わない? 俺を嘗めてるのか?」

「……」

 

 

 冷え込んだ部屋に沈黙が、続く。

 

 

「何か言えよ、せんせー」

 

 

 ――……言えねー! 錬金陣が氷で隠れて使えないとかそんなダサいこと言えねー!

 

 

 アンジュは今日一焦っていた。

 

 

 

 時は遡り、モニタ室。

 ビルが大きな氷塊と化し、数秒。ビル内を映していた大半のモニタがザザッという音とともに砂嵐が流れる。

 こうなった理由はもちろん轟の氷河によるもの、気持ちが高ぶっていたのか各フロアを映していたカメラもろとも凍らしてしまったようだ。

 だがこれはカメラを凍らすな、そう注意の声を掛けなかった教師側にも問題があるだろう、これに関しては轟が注意を受けるとこは無いだろう。

 

 生徒たちは突然の出来事に体を震わせ、恐怖を露わにする。

 それを冷静にオールマイトが宥め、残ったモニタに目を向けるように指示を出す。

 

「これ、轟の勝ちじゃね……?」

 

 一人の生徒がそんなことを呟く、それにオールマイトが首を振って返答する。

 

「いやいや、まだわからないぞ! アルケミーはピンチに陥った時こそ光るんだ!」

 

 オールマイトの言葉にそうだよな、と生徒たちが頷く。が、一人の生徒――リゼだけは頷くこともせずに頭を抱えていた。

 

 ――いや、あれはアンジュの負け濃厚だよね。だって仕掛けた錬金陣全部意味成さなくなったし、体力切れかけだし。

   アンジュはピンチの時に光る(イキる)というより自分に余裕があるときしか光らないし(イキらないし)、うん。

 

 長年の付き合いからかリゼは心の中で辛辣な言葉を投げていた。アンジュが気付くことは一生ないだろうが。

 ()()もの静かな生徒のリゼに興味を持った女生徒が声を掛けた。

 

「ね、リゼちゃん」

「はっ、はいぃ!」

 

 いきなり声を掛けられ、驚きのあまりリゼの声が裏返った。

 それをふふっと控えめに笑って、言葉を続ける。

 

「私は芦戸三奈、リゼちゃんは先生と友達なのよね」

「そ、そうですけど、なにか…?」

 

 少しを距離を取るように後退ってリゼは首を傾げた。

 

「出会いはどんな感じなのかなって思って!」

 

 その言葉にリゼは硬直し、考え込む。

 リゼとアンジュが出会うきっかけになった事件のことは何故か他言無用ときつく言われているのでリゼはどうするか説明するか迷って、声を振り絞って答えた。

 

「……い、家が近くてね、小さい頃に遊んでもらってたんだ」

 

 時たま、アンジュとリゼは遊んでいたのであながち嘘ではない。

 

「そうなんだ、いいなぁ!」

「え、なんで……?」

「だってあんな優しい人が身近にいて――――」

 

 芦戸の言葉は最後まで続くことは無く、視線は一つ残ったモニタに映る。

 そのモニタに映し出されていたのはカメラを通してでも焦った表情が見て取れるアンジュと冷たい表情で淡々と攻撃を繰り出す轟の二人。

 

「……オールマイト、あれは止めなくても良いんですか?」

「轟少年にも考えがあるんだろう、見守ろう。危険なことをしようとしたら私が止めに行く」

 

 目まぐるしい戦闘に生徒たちはただ茫然と見守ることしかできず、モニタに視線が集中する。

 

『何で―――――わない? ――嘗めてるのか?』

 

 切れ切れではあるが轟の疑問が全員の耳に届いた。

 その問いに俯き黙り込むアンジュ、リゼはそれである程度のことを察した。長年の付き合いからだろうか。

 

 

 ――あぁこれ、絶対に錬金陣が隠れて使えないとかダサいと思って焦ってかっこいい理由か何か考えてるんだろうなぁ……。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 ――急募、かっこいい理由。

 

 アンジュの表情は一秒、また一秒と経つにつれ暗くなっていた。

 背中に汗を流して焦るアンジュはふと、思った。

 

 ――今思ってけど負けたらヒーローと教師、二つのことに置いて威厳失うのでは…?

 

 そんなアンジュの脳裏に過るのは嘲笑うような顔の叶と言葉。

 

『え? アンジュさん生徒に負けたってマジですか? そこまで堕ちてるとは予想外だなぁ、ホントに僕と一緒のプロの方ですか? 

・・・・・・にじさんじ所属のプロヒーローとしての自覚持ってくださいよ~』

 

 ――にじさんじ、それはこの日本で最も規模の大きいヒーロー事務所である。

 個々で事務所を開いたヒーローたちを支援する目的で数年程前に作られたもので、今では沢山のプロのヒーローを抱える有名な事務所になっている。それにアンジュと叶の二人は所属する、プロヒーローなのだ。

 

 ――閑話休題。

 

 そんな、プロヒーローのアンジュの顔に青筋が浮かび、叶への怒りが見て取れる。 

 もちろん叶はこのような発言はしていないし、この場にもいない。

 アンジュだけが見えている幻覚である。……叶なら実際に言いかねない発言だが、決して現実ではない、幻覚だ。

 

 だが、覚悟を決めようが錬金陣が無ければ錬金術を使用出来ないことには変わりない。

 どうにかして錬金術を使えれば、そう考えるアンジュはあることを思い出す。

 

 ――そう言えば、コスチュームに錬金術、思いっきり描いてたわ・・・・・・。

 

 アンジュが袖を通すコートの背中には自身で描いたであろう錬金陣が。

 学生から変わらぬコスチュームだと言うのに、存在を忘れていたのかは謎だが、コートの錬金陣の存在を思い出してからのアンジュの行動は迅速だった。

 

 地面に敷くようにしてコートを脱ぎ捨て、祈るように手を合わせ、コートの錬金陣に両手を押し付ける。

 即座に錬金術を発動し、コンクリでできた床を隆起させ、自信の腕を操るように轟を襲わせる。

 

「んなっ?! ・・・・・・やっと使ってくれたなぁ、せんせー!」

 

 突然個性を使い、先手を取ったというのに轟は怒ることもせず、欲しかったものを買ってもらえた幼児のように嬉しそうな笑みを浮かべる。少し自信が戻った笑みをアンジュは返す。

 

 その笑みを合図にしたように轟は地面を蹴ってアンジュに迫る。それを迎撃するかのように地面がうねる。その瞬間だった。

 

 

 

 

 ブーーーッ! と、ブザーの音がビル内に鳴り響いた。

 

『時間切れで中途半端になってしまったが両者ともにとてもいい勝負だった! 二人とも一度モニタ室に戻ってきてくれ!』

 

 時間切れの合図だった。

 アナウンスを聞いた二人は唖然とした表情で顔をゆっくりと見合わせ。

 

「「制限時間があるなんて一回も言われてねぇ・・・・・・」」

 

 そう呟いた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 オールマイトの雑多な講評、そして八百万と言う生徒の講評を経て、二人はモニタ室でしゃがみこんでいた。轟は心底悔しそうな表情で、アンジュは悔しそうではあるがどこか嬉しそうな表情で。

 アンジュは勝負に敗北していた可能性が存在していた為、むしろ時間切れで良かったと思っているのだろう。

 

 モニタ室に何ともいえない、暗い雰囲気が漂っている中、オールマイトは変わらず大きな声で次のチームを呼ぶ。

 

「…‥‥では次、ヒーローチーム、リゼ少女、目蔵少年、ヴィランチーム、猿夫少年、透少女! 順次配置についてくれ!」

 

 ばっ、と視線がリゼの方に向けられる。理由は分からないが、最初に少しほど目立ったからだろう。

 視線を受け、ガチガチに固まるリゼ。その背中に気合を入れてあげるように、芦戸がばしっと叩く。

 突然の出来事で、思わず声を出してしまうリゼだが、気合を貰ったように、足を動かした。

 

「芦戸さん、ありがとう」

 

 その言葉と笑みを残して。

 リゼの笑みには、男子はなおのこと、女子陣までもが心を奪われていた。・・・爆豪はまったく気にしていない様子だったが。

 

 

――――――――――――――――――

 

「目蔵・・・さん、よろしく、です」

「よろしく」

 

 二人は軽く握手をし、作戦を立てるべく話を始めた。その中で、リゼは障子にガスマスクのようなものを差し出した。それはガスマスクから邪魔なものが削除されたように、しゅっとしている。

 そんなマスクを片手に、障子を首を傾げた。

 

「・・・・・・これは?」

「えっと、それは―――――」

 

 




 次回はリゼの個性の一つ目を公開します・・・! 二つ持てるといってもかなり迷ういました・・・お察しのいい方ならもう個性はわかるはず・・・()

 そして、リゼの個性を早く公開したいがために、原作では最初に行われる試合を後回しにしています。

 では。


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スラム(ビル)街に毒を撒け!

 この更新速度、よくないですか!?(社長並感)
 テストとアンジュの誕生日絵を描くので長くは続きません。
 最近Twitter始めたんですがふとおもいついてこの小説のタイトルを打ち込んでみたら引用ツイート?してくれてる方が一人いらっしゃって、「爆笑してる」って書いてくれててめっちゃニコニコしちゃいました。バカ嬉しい。毎度毎度言ってる気がしなくも無いですがこの作品を見てくれている皆様ありがとうございます!


「――じゃあ、作戦通りにっ」

「あぁ」

 

 頷き合い、ヒーローチームの二人はオールマイトの開始の合図を待つ。

 障子は即座に索敵を行えるように個性で、耳を増やす。

 

『――スタート!!』

 

 初戦と同じように開始の合図が鳴った、障子が即座に索敵を開始する。

 

「・・・四階、北側の広間に一人、もう一人は同階のどこか、・・・素足だな」

 

 索敵を開始して一分が経とうとした時、障子がそう告げた。

 

「わかった、・・・透明の子が伏兵として私たち(ヒーロー)を捕えるつもりなんだろうけど―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――私には、関係ない」

 

 手を前に突き出して、グッと力を入れて拳を握りしめた。

 フシューー、と紫がかったような水色の煙が放出され、その煙を器用に操って、天井にある全階につながる排気管に煙を流し込んだ。

 

「行こう、目蔵さん」

 

 

――――――――――――――――――

 

 開始の合図が鳴る前に時は遡り、ヴィランチーム。

 

「尾白くんわたしちょっと本気出すわ、手袋もブーツも脱ぐわ」

「う、うん・・・」

 

 突然脱ぐと言われて困惑しながらも尾白は承諾して、核の前に立つ。

 そして開始の合図が来るのをゆっくりと待つ。

 

『――スタート!!』

 

 鳴ったと同時に、神経を鋭く尖らせ、ヒーローを迎撃する体制になる。

 そんな尾白の脳内に、つい数分前に葉隠と話した会話がフラッシュバックする。

 

『相手の障子って人は耳とか目、手、口とかいろいろ複製できる個性ってのは何となくわかってるけど――』

『あの、リゼって子だな・・・・・・』

『体力テストみたいな形でやった個性把握テストの時は、個性を使ってるようには見えなかったんだよね・・・・・・』

『そうなんだよな・・・・・・、もしあれが素だとしたらかなりやばいぞ・・・? 確か、三位だったろ』

『何かしら使ってたとは思うんだけどねー』

 

 ・・・結局、わからなかったな。

 

 目の前のことに意識を戻した瞬間、尾白の体が揺れた。

 

「ッ・・・!?」

 

 なんとか、といった様子で体を支え、立ち直す。

 同階で、同室にいる葉隠と繋がった小型無線から焦ったような声が流れ出す。

 

『大丈夫!?』

「な、なんとか・・・でも、なんだこれ・・・視界が、水色がかって・・・」

『え、水色・・・? ホントだ、なに、こ・・・』

 

 無線越しに、ドサっと葉隠が床に崩れ落ちる音が明確に尾白の耳に届く。

 

「葉隠さん!?」

 

 そう声を掛けても反応はない。葉隠が待機している場所に行こうとする尾白の意識も、どんどんと薄れていく。

 

「く、っそ・・・・・・」

 

 そんな、悔しそうな声を最後に尾白も床に崩れ落ちた。

 瞬間、ガチャリ、と唯一の入り口のドアが開く。その開閉音に反応できるものはいなかった。

 カツン、カツン、とブーツの音をたてながら部屋に堂々入ってきたのはリゼだった。その後から、障子も入ってくる。

 

「聞いてた話より、すごいな、これ・・・」

 

 尾白が倒れている現場が目に入った障子ははそう声を漏らした。

 

「体に有害ではないけど、ちょっときつめのにしちゃったかもしれない・・・」

「おいおい・・・」

 

 そう話しながら悠々と歩き、二人で同時に核に触れる。

 

「ヒーローチーム、WI----N !」

 

 ブーーーッ! 初戦と同様、引き分けではなくヒーローチームの勝利を意味する終了のブザーが鳴った。

 

―――――――――――――――――

 

「ではでは、講評と行こうか!」

 

 四人――尾白と葉隠はリゼの治療によって起きた――がモニタ室に戻り、オールマイトによる講評が始まった。

 

「今回のベストはリゼ少女だ! これは説明しなくともみんな納得できるんじゃないかな?」

 

 ベスト、そう言われてリゼはびっくりした顔をしながらも、目を光らせていた。よほどうれしかったのだろう。

 

「仲間を巻き込むことなく、そしてヴィランのいない他の階に被害が出ないように個性を操作し、敵を無力化、文句が無かったとは言えないが今の時点では最善の手だったと言えるだろう! そして目蔵少年、君の索敵あってこその勝利だ、二人とも誇れよ」

 

 そして尾白と葉隠の方に向く。

 

「そしてヴィランチーム、尾白少年は少し呆けていたところがあったな! 訓練とは言えどだ、しっかりと警戒心を保つようにしようか!」

「ハイ・・・」

「葉隠少女の作戦はとてもよかったと言える、だが相手の個性が個性だったな、ドンマイ!」

「・・・あ、それなんですけどリゼちゃんの個性っていったい何なんですか?」

「リゼ少女、説明お願いできるかな? 如何せん説明がうまくなくてな」

「あ、はい」

 

 クラスの面々が気になっていたようだ、リゼに視線が集中している。

 

「えっと、私の個性は‘‘体内に溜めた毒を操る‘‘こと、です。」

「溜めれるの?」

 

 誰かがそう返すとリゼは例を挙げて答える。

 

「体外から体に有毒な毒を摂取するとします、普通の常人なら多分摂取して数分もかからずに倒れると思います」

 

 それはそうだよな、と全員が頷く。

 

「私の場合は、その毒が個性として分解されて体内に溜まるんです。今の私の体の中には多種多様な毒が流れています、その溜めた毒を体内で合わせて体外に放出したりできるのが私の個性です」

「――強くね?」

「いやいや、ヴィランだけに効く毒とかがないから乱戦の時とかは使えないし、手から出せるだけだし――」

「ところで――」

「はい、そこまで、早くしないとやばそうだからリゼ少女に対しての質問は後! 次行こう!」

 

 オールマイトが強引に制止し、次の訓練に移るべく声を掛けた。

 

――――――――――――――――

 

「お疲れ様」

 

 モニタ室の隅で休んでいたリゼに水を差し出し、横にしゃがみ込むアンジュ。

 

「ありがとう、でもいいの? 見てなくて」

「ちょっとだけだしいけるいける」

「なにがいけるんだか・・・」

 

 受け取った水を少し飲み、アンジュに返すとリゼは手をグーパーさせた。

 

「今回の訓練で、結構感覚掴めた気がする」

「まじ? よかったじゃん。本格的に使うの初めてにしては上出来すぎるんよな」

「あ、いや、実は初めてじゃなくて・・・」

「え?」

「あの~、殺虫剤みたいな感じで使ったり・・・」

 

 アンジュから目を逸らしながらリゼがそう言うと、呆れたように息を吐く。

 

「ホントは良くないけどそれくらいは良いとして、危険だからマジで気をつけな~?」

「わかった。・・・あ、それはそうと轟さんと戦った時ってやっぱり錬金陣が隠れて使えなかったんだよね?」

「げっ・・・」

「図星、か」

「いや待って、言い訳させてください」

「どーせ、所詮年下の学生って思ってた~とかだから聞かなーい」

「いやっ、ちがっ、実際そうだけども!」

「ほら言った」

 

 アンジュは「降参」とでも言うように両手を上げた。

 

「リゼには敵わないわ、じゃ、私は戻―――」

 

 瞬間、ビル街を揺らすような轟音が響き、地鳴りが起きた。

 それらは一瞬でおさまり、静寂が訪れた。

 

「おー・・・、結構派手にやってんねぇ・・・」

 

 冷静にモニタを見たアンジュはそう言った。

 その言葉につられてリゼはモニタに目を向ける、訓練で使用しているビルを外から移していたモニタだった。

 それに映っていたのは下界から上階にかけて壁や窓もろともを抉りとり、大きく風穴を開けたビル。

 

「全員落ち着け―、これからはよくあることだからなー」

 

 と、アンジュがざわめく生徒たちに向かって冗談めかして言って静かにさせる。オールマイトはビルに向かって行ったので自分がまとべるべきと判断したのだろう。

 

「この後同じように講評あるから、今見てたこと適当にまとめておきな~」

 

―――――――――――――――

 

「――よーし、私はこれ直しますかぁ」

 

 オールマイトによる戦闘訓練の時間が終わり、ガランとしたグラウンド・βにてアンジュは廃ビルと化しそうなビル前に佇んでいた。

 

 地面に散らばっている瓦礫の中からちょうど良さそうな鉄骨を拾い上げ、慣れた手つきで錬金陣を描いていく。ビルを覆うほどの大きさだ。

 

「っしょい、これでええやろ」

 

 そう呟くと両手を合わせ、錬金陣に触れた。

 見る見るうちに崩壊していたビルが修復されていく。あの崩壊したビルの面影は一切と言っていいほど無かった。

 

「やっぱりすごいね、アンジュのソレ」

「おわっ!? ・・・いるなら一言かけてくれよ。というより、次授業でしょ、暢気にしてる暇ないんじゃない?」

「ま、まー大丈夫だよ、うん」

「っはぁー・・・ほら、走るぞ」

「え、あ、うん」

 

 仕方なく、といった様子でリゼを連れて走り出したアンジュ。

 その数十秒後、

 「り、りぜぇぇ・・・ちょっとまってぇぇ!!」

 と、情けなく走っていたとかなんとか。

 

―――――――――――――――

 

「そう言えばなーんか忘れてるような・・・」

 

 職員室にて、アンジュは自身のデスク前でそう呟いた。

 

「いつか思い出すわよ、それまで何かしてればいいわ」

 

 デスクが隣のミッドナイトが反応する。

 

「そーっすねぇ・・・、あ・・・、お? んー?」

「思い出した?」

「思い出しそうなんですけど・・・」

 

 うーんと唸るアンジュは突然、バッと立ち上がった。

 

「そうだ! 手袋だ!」

「手袋? あぁ、いつも手に着けてる・・・」

「ミッドナイト、オールマイトがどこに行ったか知りませんか?」

「オールマイト? あの人ならさっき急いで出て行ったわよ、爆豪って子がどーたらこ―たらって」

「そうですか、ありがとうございます!」

 

 イスに掛けていたコートを羽織ると、アンジュは勢いよく職員室を飛び出した。その瞬間、ドンっとアンジュと誰かがぶつかって、その誰かが尻もちをついた。

 

「っと・・・ごめんだいじょう・・・ってリゼじゃん、どしたの」

 

 手を差し伸べようとし、相手の顔が見えた瞬間アンジュはほっとした表情になった。

 

「今なんでほっとした表情になったのよ」

「・・・ほにゅ?」

 

 手を掴んで立ち上がらせながら誤魔化すようにそう言った。

 

「ほにゅじゃない、ってどこ行くの?」

「ちょっとオールマイトに野暮用が! 気を付けて帰りな!」

「えっ、あ・・・行っちゃった・・・」

 

 少し寂しそうな表情をするリゼ、アンジュに用があったのだろうか。

 

 それはさておき、アンジュは今までにないくらい急いで走っていた。その走っているスピードには触れないとして、これまで急いでいるのには理由があった。

 あの手袋は戦闘服の一部だが、自腹で手袋に改造を繰り返していて、そのお金は考えたくないほどだという。そんなものを他人に預けておくのが怖いのだろう、オールマイトを信じていないわけではないだろうが。

 

「ん、何してんだあれ」

 

 校門前に人影を見つけてアンジュは視線を動かした。映ったのは、今回の戦闘訓練で大暴れした生徒二人、緑谷と爆豪だった。

 アンジュはなんとなく、二人が話している内容に耳を傾けた。

 

 断片的にだが聞こえてきた内容にアンジュは首を傾げた。

 

 人から授かった個性・・・? 授かった・・・?

 ・・・人から人に個性を受け渡せるのなんか一人しか知らないぞ。まさかあの緑谷くんは()()()と繋がっていたりするのか・・・? 

 でもあんな真面目そうなやつが・・・?

 

 過るのは学生時代の苦い記憶だった。

 いやいや、と無理やりに思考を振り払う。そしてあの二人がいた場所にまた目を向ければ、オールマイトと緑谷がいた。爆豪の姿は消えていた。

 

「オールマイト! 手袋返してください!」

 

 数十秒ほど時間を空けて、アンジュは手を振った。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 どこか不気味な雰囲気を纏ったバーのような場所に誰かがいた。

 

「見たかコレ? 教師だってさ・・・なァ、()()()、どうなると思う? 平和の象徴が―――」

 

 ―――(ヴィラン)に殺されたら。

 

 問われた男は薄い笑いを浮かべて答える。

 

「そりゃあきっと、面白いことになるだろうねぇ」

 

 




 話の中で書けなかったんですがリゼは個性把握テストの時にはばっちり個性つかってます、無色無臭で人間に害のない毒を両手から出して、走り抜けるとかそんな感じで‥。
 アンケートちょっと取ります、この中でにじさんじ知ってる人たちとかどれくらいいるのかなってアンケートです。
 


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まいど~!

 ほんっとに申し訳ないです、めっちゃ遅れました。生きてます。
 待っててくれた方ありがとう。

 誤字脱字等ありましたらお手数ですが報告してくれると嬉しいです。


 リゼ・ヘルエスタは少し焦り気味に学校へ向かう足を動かしていた。

 携帯を開き時刻を確認すると、一安心したように息を吐く。

 学校へと向かう彼女の足がぴたりと止まり、学校の正門を二、三度見直す。

 

「いや、そうはならん……」

 

 そう呟いた視線の先には、正門が埋まりそうなほどのマスコミたち。いったい何があってきたのだろうか。

 リゼはバレないように、まるで忍者のように歩みを進めていく。

 その時。

 

「そこのメッシュの子! ちょっとお話聞いても良いですか!」

 

 がっと肩を掴まれて、後ろに向かされる。

 そこにいたのは目をキラキラと光らせ、カメラを向けるマスコミ。

 

「えっ、な、なんですか‥‥」

 

 動揺を隠せない様だが、冷静さを保ってリゼは言葉を返す。

 

「オールマイトが教師と言うことですが、授業程のような感じでしょうか! あ、あとアルケミーさんも教師だそうですが!」

「あ、えーーーーっと……」

 

 リゼの周りにはマスコミたちが続々と集まってくる、逃げようも何もさせてくれない様子だ。リゼはだらだらと冷や汗をかきながら返答を脳内で推敲する。

 リゼには数分と思える、実際には数十秒間の推敲を終え答えようと口を開けた、その瞬間。

 

「ちょっと、困ってるやないの」

「えっ」

「質問したい気持ちはわかるけど、大勢の大人で囲むのは違うんちゃうか?」

 

 どこからともなく現れリゼの横に立つのは、メイド服に身を包み長い髪を二つに括りし、それを宙にたなびかせた女性だった。

 

「は、はぁ……ところであなたは誰で…むぐっ!」

 

 その女性に誰かと、問おうとしたマスコミの一人は後ろの一人に口を押えて頭を下げた。その行動がリゼは理解できず頭の上に?マークを浮かせていると、

 

「さ、いこか」

「…え、あ、はいっ」

 

 マスコミの渦から助けてくれた女性はリゼの手を掴むと正門に向かって歩き始めた。マスコミの邪魔されることなく正門を抜けた二人、先ほどのマスコミの一人が質問の返答を聞きたかったのか追いかけてきていた。

 

「ちょっと! 少しだけで良いので!」

 

 あ、ばか。そうマスコミの中から声が聞こえた。瞬間、正門のセキュリティが働き分厚い鋼鉄の門――というより壁が下りた。

 リゼはその様子を手を引かれながら見守っていた。

 外から微かに、

 

「ちょ、戌亥!? え、私も、私も入れてよぉ!」

 

 と聞こえたそうだ。少し後になってその声の主は分かることになる。

 

―――――――――――――――――

 

 数分歩いて校内についたところでリゼが頭を深く下げた。

 

「あの、さっきはありがとうございました」

「ええんよ、気にせんで。にしても大きくなってんな~」

「え? それはどういう―――」

 

「いぬいーーー! どこ行ってたんよ! 探したんだ…ってリゼじゃん」

「あ、アンジュ!? 今日は有給取ったんじゃ」

「いやそれがね、仕事が。ほれ戌亥! 行くぞ!」

「はいはい、ほなまたどかでね‘‘リゼはん‘‘」

 

 嵐のように現れ、戌亥と呼ばれた女性を連れて一瞬に消えたアンジュ。

 

「なんで、私の名前を……?」

 

 リゼの頭上には?マークしか浮かんでいなかった。

 

―――――――――――――――――

 

「はい、昨日の戦闘訓練お疲れ様。

 Vと成績は見させてもらった。爆豪―――――」

 

 HRの時間が始まり、リゼは教室を見渡すがアンジュの姿はなかった。

 

「HRの本題に移るが、急で悪いが今日は君らの中から……」

 

 補習を受ける人が出るのか? そう緊迫した空気の中リゼは一人、

 

――講評もう終わってたのか…全然聞いてなかったな。

 

 とお気楽なことを思っていた。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「学校っぽいの来たーーーーー!!」」

 

 クラスメイトが沸き上がるのを横目にリゼは首をぶるぶると振って机にうずくまって全力でやりたくないアピールをしていた。

 結局、投票で決めることになり、リゼは迷わず「八百万 百」の名前をさらさらと書き提出した。

 

 緑谷三票、八百万三票で二人の委員長が決定した。飯田天哉という投票制を提案した彼はかなり気落ちしていたようだ。

 

 時の流れは速く、お昼時。

 リゼはふわふわとした気持ちで食堂に向かって、適当なものを購入し座る席を探していた。

 

「リゼちゃん! こっちおいでよ!」

 

 そうやって声を掛けたのは麗日お茶子だった。

 お茶子の前には緑谷と飯田が座っており、ちょうど一席置いているようだった。少しリゼは迷ったようだが、頷くとお茶子の前に座る。

 

「麗日さんありがとう」

「大勢で食べた方がご飯美味しいからね、ぜんぜん!」

 

 飯田の兄の話でわちゃわちゃとしていた四人の耳にウーーーーッ!と警報が鳴り響く。次いでアナウンスが流れる。

 

『セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 三年でさえ初めてのことのようで、パニックを起こし出入り口に向かって全員が走り出し混雑どころではないレベルで人の渋滞が起こった。

 その中で冷静に飯田は動いた。人波にのまれかけていた麗日の方に手を伸ばし、個性をわざと使用させ宙に浮いた。出入り口の上に張り付くようにターボを発動させる。

 

「手助けを……!」

 

 リゼは手をかざし、ほぼ無色無臭の精神安静剤のような毒を食堂全体にいきわたらせる。毒の蔓延は早く、全員が少し冷静を取り戻したとき。

 

皆さん… 大丈ー夫!!!!!!

 何もパニックになることはありません! ただのマスコミです! 

 ここは雄英! 最高峰に相応しい行動をとりましょう!!

 

――――――――――――――――

 

「なぁ、チャイカはん」

「なにかしら」

「雄英においたする輩は、手下してえぇお達しやっけ?」

「あー、まぁそうなんじゃないの。聞いてないけどね私は」

 

 興味がない様子のチャイカと呼ばれた肉付きのいい体にメイド服を纏ったヒーローはスマホをいじっていた。

 その様子に呆れた様子も見せず、動揺にメイド服を着た女性はとことこと歩いていく。

 

 

「まいど~! おいたしてるのはあんたらか?」




 作者のTwitterをプロフィール?に載せておきました。
 一応そこで進捗の報告をしようかと思います。このお話などに関して質問がございましたらTwitterのDMまで

 そしてpixivの方にも上げることにしました。pixivの名前はこちらと同じくですので別名であれば違う方の無断転載になります、多分そんなことはないと思いますがよろしくお願いします…!

 では次回!


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