デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン…… (葛城)
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プロローグ

無惨様がかわいそうに思えてしまうぐらいに強さがインフレしたキャラを鬼殺隊陣営に……という話。タグを見れば、まあネタバレなんですけどね

とりあえず、誰か続き書いてください


 ──フッと、目が覚めた瞬間。彼は、己が夢を見ているのだと思った。

 

 

 

 何故なら、目を開けたその先。周囲に広がっている光景全てが、己が寝ていたはずの部屋とは何もかもが異なっていたからだ。

 

 己が寝ていたベッドは無い。壁に貼り付けていたカレンダーも無いし、テレビも無い。放られて放置されていたゴミ袋も無いし、ジュースやら何やらが置かれたテーブルも無い。

 

 つまり、己の自室にある物全てがこの場にはなかった。もっと具体的に言うのであれば、見覚えが全くない部屋にいる事を……彼はぼんやりした頭で理解した。

 

 

 ……まあ、それ以前に、ベッドに寝ていた己が裸にされていて、次いで、見覚えのない椅子に座っている事に気付いた時点で……なのだが、話を戻そう。

 

 

 兎にも角にも、これが夢であるとひとまず判断した彼は、妙に座り心地の良い椅子……いや、ソファー……いや、まあ、椅子に身体を預けたまま、ぼんやりした頭を働かせる。

 

 

 ……とても、静かだ。

 

 

 不思議な事に、自分の呼吸一つ聞こえない……というか、分からない。なるほど、これが白昼夢かと妙に冷静な頭で理解した彼は、何気なく視線を左右に向け……ふむ、と目を瞬かせた。

 

 それはある種、幻想的というやつなのだろう。

 

 部屋(と称して良いのかはさておき)の四方に張られたガラスの向こうに、白い点が後方へと流れていくのが見える。

 

 まるで、夜道をポツンと照らしている電灯を遠目で見ているかのようだ。

 

 その白い光が何なのかは彼には分からないが、どうせ夢なのだからと思った彼は、特に気にせず思考を巡らせる。

 

 外から見れば、自分はさしずめ透明なガラスで作られた密室にいる……といった感じだろうか。いや、密室というより……乗り物だろうか。

 

 おそらく、己は今、乗り物か何かに乗せられているのだろう。光が後方に流れている辺り、その可能性は高い。

 

 だが、仮にそうなのだとしたら、いったい己は何処に向かっているのだろうかと、彼は思う。

 

 

 夢の中なのだから、荒唐無稽な場所に向かっているのは何となく分かる。

 

 

 だって、もう既に自分の恰好が荒唐無稽だし。何なら、フルちんだし。ぶらぶらしているのが、まだ眠いんだぜと言わんばかりにぶらぶらしているし。

 

 とはいえ……ぶらぶらなのは、置いといて。このまま、いったい何処に向かうのだろうかと彼は首を傾げた。

 

 夢であるとはいえ、未知しかないこの状況……しかし、恐怖は何も感じていなかった。同じように、興味も興奮も欠片も感じてはいなかった

 

 もしかして、このまま目が覚めるまで……なのだろうか。

 

 それはそれで……せっかく、ここまで明瞭な夢を見られているというのに。どうにも、味気ない気がしてならない。

 

 どうせ目が覚めるまでの間なのだし、こう色々と……具体的には妄想詰め合わせみたいな感じになってほしいなあ……と、考えていると。

 

 

「…………?」

 

 

 何時の間に、そこに現れたのか。

 

 幻想的とはいえ、些か代わり映えのない景色に飽き始めていた彼の視界の端に、それは映った。ハッと、反射的にそちらを見やった彼は、思わず目を見開いた。

 

 

 一言でいえば──そこに立っていたのは、裸の美女であった。

 

 

 そう、美女だ。それも、裸だ。胸は彼の掌では包めない程に大きくて、腰は細い。骨盤に合わせて広がる尻のラインも含めて、全体的なフォルムは10人に訊けば10人ともが『スタイル抜群』と称するぐらいの美女だ。

 

 背は、彼がこれまで見て来た限りでは、間違いなく高いに含まれる。美女の身長は、パッと見た限りでも160後半……いや、170以上はある。

 

 加えて目立つのが、髪だ。まるで、炎のようにゆらめく長髪は白く輝いていて、ともすれば眩しさに目を細めてしまいそうなぐらいだ。

 

 そんな美女が……距離にして数メートルの位置に立っている。

 

 羞恥心は、薄いのだろう。自らの柔肌を隠す素振りもせず、淡く輝く身体をそのままに……彼に向かって手を合わせて何度も頭を下げていた。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その際、彼が思ったのは、だ。

 

 

 美女の裸体を前にした興奮……ではない。いや、興奮していないのかと問われれば、良いもん見たぜといった感じではあるが……何よりも彼がまず思ったのは、突然の状況変化から来る困惑であった。

 

 

 何せ、突然だ。

 

 

 前触れもなく、いきなり美女だ。ステーキだって匂いやら雰囲気やら音やらで、最低限の予告なり前触れなりしてくれるのに、コレにはそれらすらない。

 

 おまけに、何を思ったのか、その美女はひたすら己に向かって頭を下げ続けているときたもんだ。

 

 これで、美女が艶やかな仕草を見せてくれたり、見事な身体をこれ見よがしにアピールしてくれていたら、彼もまだ状況が理解出来た。

 

 

 そういう夢かと、納得出来た。

 

 

 だが、これは無い。そう、率直に彼は思った。

 

 申し訳なさそうに頭を下げる眼前の美女が言葉を発さずに無言のままでいるのも、悪い。一言……そう、たった一言でも声出してくれたらまだ、話が変わっていたのかもしれないが……ま、まあいい。

 

 

 ……と、とりあえず、悪夢の類では……ないのか? 

 

 

 それだけ分かれば、後は目が覚めるまで楽しもう。

 

 そう判断した彼は、こちらから声を掛けようとした……が、声が出せない。どうやら、サイレントな感じの夢なようだ……が、けっこうご都合的なサイレントのようだ。

 

 その証拠と言わんばかりに、気にするなと軽く手を振ってやれば……心底安堵したかのように胸を撫で下ろしていた。よろしい、こちらの内心は、しっかり美女に通じるようだ。

 

 

 ……そうして、ふと、だ。

 

 

 どうせそのうち覚めるのだろうし、今の内に裸体を拝んでおこう。せっかく、こんな夢を見られたのだし。

 

 そう思った彼は、改めて美女を見やって……やっぱり美人だなあ、と先ほどと同じ評価を下して……いると。

 

 

 ──聞こえ……聞こえますか……今……あなたの心に直接呼びかけています。

「──っ!?」

 

 

 これまた唐突に、彼の脳裏に何者かの声が響いた。

 

 いや、何者というか、どう考えても眼前の美女なのだろうが……とにかく、頭の中に直接語りかけてくる自分以外の声に、彼は思わず目を瞬かせ……軽く頷いた。

 

 

 途端──目に見えて美女の表情が和らいだ。

 

 

 あまりに嬉しそうにするその姿に、彼はますます困惑を深め……それを見て、美女は幾分か慌てた様子で再び……彼へと強い眼差しを向け……それから、美女の話が始まった。

 

 

 ──申し訳ありません……私のミスで、とんでもないことを。

「……はい?」

 ──順を追って話します。

 

 

 その言葉と共に続けられた美女の話は、言うなれば話というよりは、説明であった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、だ。

 

 

 そうして幾つか分かった結論を先に述べるのであれば、まず彼のこの状況は夢ではなかった。と、同時に、彼が住まう世界でもなかった。

 

 ならばどういう世界なのかといえば、『宇宙検閲官の部屋』だとか何だとかいまいち馴染みの無い単語を並べられた(美女も、それ以外の言葉では上手く説明出来ないとのこと)ので、実の所、よく分からなかった。

 

 

 しかし、分かった部分もあった。

 

 

 まず、裸のまま座って話を聞いている彼なのだが、どうも自己として認識している己は物質的な肉体ではなく、エネルギーの塊みたいな状態になっているとのこと。

 

 ぶっちゃけ、今の彼は魂と呼ばれる状態になっており、幽霊みたいな存在になっているらしい。

 

 言い換えれば、彼の肉体は今もなお自室にあるが、仮死状態に陥っていて……まもなく、息を引き取るという話であった。

 

 

 ……どうして、彼がそんな状態になったのか。はっきり言えば、事故である。そう、事故だ。有り体に言えば、不運だ。

 

 

 美女にその気はなく、本来であれば彼の魂と美女とが接触する可能性は皆無であった。意図的にそうしようとしてもほぼ不可能なぐらいに、可能性は低かった。

 

 

 ……本来、天地がひっくり返ってもこんな状況にはならないはずであった。そう、美女は断言した。

 

 

 しかし、文字通り天文学的な確率が数百個も重なった結果、ほぼ絶対にありえないと思われていた事象が偶発的に発生し、今みたいな状況になってしまった……ということであった。

 

 ……ちなみに、これすらも夢と彼が考える事は無かった。そう思いこむには、あまりに意識や感覚がリアル過ぎたからだった。

 

 

「……つまり、幾つもの偶然が重なった結果、俺の魂と君とがピンボールの玉のようにぶつかった……と?」

 ──申し訳ないです、私とぶつかってしまったせいで貴方の魂が別の世界に弾き出されてしまって……。

「けれども、そうはならなかった。偶然にも君に引っ張られる形となって、この部屋に来てしまった。けれども、ここに来てしまった以上はもう元の場所……つまり、身体には戻せなくなった……と?」

 ──ごめんなさい。もう貴方がどの世界にいたのかが分からなくなったから、戻したくても……本当にごめんなさい。

「ああ、うん……」

 ──身体はこちらで用意出来ますけれど、でも、生まれた別の隙間に何とか貴方を押し込むのが精いっぱいで……ごめんなさい。

「……いわゆる、転生とかそういうやつ……か」

 ──本当に、申し訳ありません。

 

 

 その言葉と共に頭を下げられた時。彼が抱いた感覚というか感情は……正直、彼の語彙では到底言い表せられないぐらいに複雑なモノであった。

 

 当然な話だが、怒りはあった。何せ、彼は真っ当な被害者だ。美女の話に偽りが無いのならば、寝ていた所に突っ込んできたことになるからだ。

 

 

 しかし、そうなると、眼前の美女もまた被害者になるだろう。

 

 

 事故を起こしたくてそうなったわけじゃないし、蝶の羽ばたきが巡り巡って事故を起こしたんだぞというのと同レベルな話をされたら、誰だって困惑するだろう。

 

 当事者である彼ですら、そうなのだ。当の美女の方も、何時そのような事故が起こったかすら……おそらく、分からなかったはずだ。

 

 

 ……善人でもなければ菩薩でもないのは、彼自身も自覚している。

 

 

 しかし、被害者という立場を押し出して一方的に要求を突き付けるほど、矜持を捨て去ったわけではない。

 

 だから……彼は、己の現状を責めようとは思わなかった。

 

 そりゃあ、言ってどうにかなるならどうにかしてほしい。それが、偽りならざる彼の本音だ。被害者だと訴えている間は、気持ちも楽にはなるだろう。

 

 

 けれども、眼前の美女は誠実であった。

 

 

 少なくとも、己を亡き者にして諸々を無かった事にせず、元通りとまではいかなくとも弁償しようとはしてくれている。それだけでも、彼は自らに降りかかった不条理を呑み込むには十分な理由であった。

 

 

 ……そうして、だ。

 

 

 ひとまず、貴女(眼前の美女)に対する怒りは無い。これは誰もが望まなかった不運な事故であり、互いに落ち度は無い。むしろ、出来うる限り助けようとしてくれているだけ有り難い。

 

 そう、正直な気持ちを美女に告げた後。

 

 とりあえずは次の話に移ろうという事になり、彼は美女より現状と今後の事について、改めて教えられることとなった。

 

 

 ちなみに、その要点をまとめると、だ。

 

 

 まず、今の彼は魂とも言うべき状態であり、肉体は無い。なので、このまま放り出す事は出来ず、美女が用意する身体(要は、器だとか)を使ってほしいとのこと。

 

 そして、元の世界には戻れない。これは肉体の有無とかそういう理由ではなく、単純に元の世界が分からないから。

 

 曰く、『世界』というのはそれこそ星の数ほど存在しているらしく、例えるならそれは、パンパンに詰められた紙束から引き抜いた紙を、ヒントも無しに元の場所に戻すようなもの。

 

 探すだけなら時間を掛ければ見付けられるが、紙束の分厚さがそもそも酷い。どう頑張っても、見つけ出すまでに彼の魂そのものが寿命(厳密には違うらしいが)を確実に迎えてしまう。

 

 なので、元の世界から弾き出された衝撃で新たに生まれた隙間(この隙間は、元の世界のモノでは無いらしい)を見つけ、そこへ何とか彼を押し込む。

 

 その世界がどのような世界かなんて、詳しく調べる暇は無い。とにかく、見つけ次第、その隙間に無理やり押し込んでしまうわけだ。

 

 

 何故そうなるのかといえば、まず隙間が生まれること事態が物凄く稀であること。

 

 

 それこそブラックホールの向こうに渡って物理法則の外側に行くぐらいしないと出来ないらしい。そして、隙間は常にそこにあるわけでなく、寄せては引く波のように位置がズレるのだとか。

 

 だから、見つけ次第押し込むのだ。とにかく、選り好みしている猶予はない。ぼんやりしていると、せっかく見つけた隙間が消えてしまい、また新たな隙間を探さないとならないからだ。

 

 

 ……幸いにも、既に美女は『隙間』を見つけていた。それも、彼が暮らしていた世界にある程度近しい感じに歴史が進んでいる世界の『隙間』を、だ。

 

 

 そんな世界に生まれた『隙間』を見つけ出せたのは、単に幸運以外の何者でもない。これを逃してしまえば……次がどこに出るか分かったものではない。

 

 そんな諸々な理由があるので、美女の用意した肉体に魂を移し、その隙間へと……別の世界に行く方が良い。本当に、次回が見つかる保証は出来ない。

 

 とはいえ、怖がる気持ちもよく分かる。貴方が警戒している通り、あくまで近しいだけであって、その世界が非常に危険な世界になっている可能性はある。

 

 

 だから、対策はした。

 

 

 美女曰く、『一人でも自由に生きていける身体』を既に用意したので、後は貴方の気持ち次第……という段階の話が、美女が彼に語った内容であった。

 

 

「ここまで良くしてくれて、ありがとう。短い間だったけど、感謝する事しか俺には出来ないけれど……ありがとう、本当に、ありがとう」

 

 

 もちろん、そこまでされて、躊躇する理由が彼には無かった。

 

 感謝の言葉を述べれば、美女は嬉しそうにはにかみ……次いで、しょんぼりと肩を落とした。

 

 

 ──こちらこそ……貴方の未来を奪ってしまって……。

「気にしないでいい。全てに納得したわけじゃないけど、不運な事故だ。むしろ、ここまでしてくれただけでも感謝しかない」

 ──そう言っていただけると……では、そろそろ。

 

 

 そう促された彼は、美女に手を引かれるがまま、己が今しがたまで座っていた椅子の後方へ。

 

 そこに扉が有った事に驚く前に、何時の間にか開かれているそこからは、目が眩んでしまうほどの光が溢れ出していた。

 

 このまま……光の向こうへと飛び込むだけで良い。

 

 そう告げられた彼は、光の前に立つ。あまりの眩しさに、堪らず腕で目元を隠す。光の先に何があるのかと頑張って目を凝らしてみるが……駄目だ、全く見えない。

 

 

 ……正直、ちょっと怖いと思った。

 

 

 何も見えないというのもそうだが、何よりも足場が見えないのが怖い。というか、光の先に足場が存在しているのかどうか……いや、これって、足場が無いのでは?

 

 だが……今更だ。この土壇場で怖気づいたところでもう、どうしようもない。こうなれば、南無三の思いで飛びこむ他あるまい。

 

 そう結論を出した彼は、しばしの間、深呼吸をした後で、いよいよかと心を奮い立たせる。そうして覚悟を固めてから……ふと、背後の彼女を見やった。

 

 

「うっかりしていた、聞いていなかった。君の名前を教えてくれないか?」

 ──名前、ですか? 

 

 

 その言葉に、美女はぱちぱちと軽く瞬きをした後……フッと、寂しそうに笑った。

 

 

 ──今はもう、私に名前はありません。ですが、ずっと遠い昔に……大好きなあの人から、『ノノ』と呼ばれていました。

「そうか……ノノさん。ありがとう、行ってきます」

 ──はい、行ってらっしゃい。

 

 

 そう、彼女からの声援を受けて……そういえばと、振り返った。

 

 

「ところで、今更聞くのも何ですが、俺と何処かで以前……そう、どこかでお会いしませんでしたか?」

 ──いいえ、貴方とはお会いした事はありません。今、顔を合わせたのが初めてです。

「そうですか……いえ、すみません。ふと、そう思っただけですから」

 ──私は全ての事象の過去の始点であり終点でもあります。もしかしたら、何らかの形で私の姿を無意識に認識出来てしまった人たちが、何らかの形で残しているかもしれません。

「……はは、不勉強なので貴女の仰っていることの半分も理解出来ませんが、なんとなく言いたい事は分かりました」

 

 

 とりあえず、思いついたことは聞くだけ聞いた。もう、会う事は無いだろう。

 

 

 そう、己に言い聞かせ、そして、いよいよだと大きく深呼吸をした彼は……えいや、と光の向こうへと飛び込んだ。

 

 直後──眩しさは目を瞑った彼の皮膚を突き破り、意識すらも光の中へと飛ばし……そして。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして、だ。

 

 

 あの部屋(と、称して良いのかはさておき)で目が覚めた時も唐突なら、フッと、目が眩むどころか潰れてしまうと危機感を覚えるほどの膨大な光が収まったのもまた、唐突であった。

 

 視界と思考の全てを埋め尽くしていた光が消え去り、静寂が脳裏に訪れて、幾ばくか。ハッと、彼が自身を認識して目を開けた時にはもう……眼前の光景は一変していた。

 

 一言でいえば、緑色だ。何気なく辺りを見回した彼は……自分が、おそらくは山中のどこかにいるということを察した。

 

 根拠は、有る。平地にはあり得ない傾斜の角度であったり、周辺に繁茂する木々の分厚さであったり、住んでいた場所では嗅いだことのない濃厚すぎる緑の臭いが、そうだ。

 

 加えて、何と言い表せばいいのか……とにかく、辺りの雰囲気がそう訴えて来ていた。

 

 

 ああ……自分は今、山の中にいるのか。

 

 

 それを、これでもかと思い知らされる最中、きょろきょろと視線をさ迷わせていた彼は、木々の向こうへと目を止める。そのまま、眼下へと視線をやり……思わず、目を瞬かせた。

 

 視線の彼方、山の麓に広がっている光景を言い表すのであれば、そこに有るのは緑に溢れた田園風景であった。

 

 それも、記憶にあるそれよりも、かなり昔だ。パッと見た感じでも、100年……さらに100年……いや、それよりも更に遡ったら、眼前の光景になるだろうか。

 

 植えられた作物が並ぶ田畑や、数える程度に見られる段々畑。ちらほら見られる、往来している人たちの姿……どう見てもそこは、田舎に住まう人々の姿であった。

 

 

(人はいる……けれども)

 

 

 人間がいることに喜んだ彼だが、すぐにその笑みは曇った。

 

 何故なら、先ほども思った通り、田畑の合間を行き来する人々の姿もそうだが……何よりも、彼が暮らしていた世界なら有り触れていた物が、そこには何一つ無かったからだ。

 

 例えば、電線や車などの姿が無い。全く、何処を見ても、その二つが無い。今時、どれだけの田舎とはいえ車が一台も見当たらないというのはあり得ないことだ。

 

 加えて、人々の恰好もそうだ。みすぼらしい……というのは失礼だろうが、それを抜きにしても、あまりに軽装過ぎる。

 

 いや、それは軽装というよりは……古い。そう、古いのだ。まるで、時代劇に出てくる農民のような出で立ちをしており、見受けられる人たちの半数以上が裸足であった。

 

 それだけじゃない。点在する家屋も、古臭い。というか、全体的に変だ。どれもが木造で年期を感じさせ……教科書に載っているような、『江戸時代の田舎』を想像させる光景であった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………明確な証拠は無いが、何となく。

 

 

(……もしかして、俺が暮らしていた時代よりも……2,300年ぐらいは前になるのだろうか)

 

 

 似たような歴史を辿って来ている『世界』とはいえ、同じ時代に出られたわけではない。

 

 人々の恰好や家屋の質、重機を一切使わず全て手作業で畑仕事を行っている人たちを見て、そう、彼は思った。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そこまで考えた辺りで、ふと。

 

 

(そういえば、今の俺は……これは、餞別代わりの衣服なのか?)

 

 

 何気なく……今更な事ではあるが、最初に確認しておかなければならないことを思い出した彼は、ぐるりと自分の身体を見下ろした。

 

 率直に述べるのであれば、自らの恰好を見やった彼の感想は、『何かのコスプレかな?』であった。

 

 何せ、首から下、足先まで衣服で覆われている。それも、彼の知る衣服ではない。

 

 全身を包み込むように一体化しているソレは両手の指先までしっかり包み込んでいて、まるで細身の宇宙服のようだ。

 

 なのに、服を着ていないのかと思ってしまうぐらいに違和感が無く、着心地が良かった。

 

 

 ……そうだ、宇宙服を思わせる全体のフォルムも、そうだ。

 

 

 身体のラインに沿って作られたソレは白色を基準としているのに、身体を捻っても何処にも突っかかりはない。胸の膨らみも腰回りも張り出した尻の膨らみも違和感なくきっちり包み込んで……ん? 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………胸だと? 

 

 

 ギョッと目を見開いた彼は、足元を遮る二つの膨らみを思わず掴む。偽物……いや、違う。揉めば、両手に収まらないサイズ。しっかりと、胸を揉まれている感触が伝わって……んん? 

 

 

(これは手袋……じゃないのか?)

 

 

 肘から先が赤色にカラーリングされている指先を見やる。ツルリと滑らかなそこには爪や指紋はない。なのに、胸を掴む掌に伝わる感触に、遮るナニカは感じない。

 

 何とも、不思議な感触だ。いや、感触というより、感覚だ。

 

 分厚い手袋をしているかのような外見なのに、伝わってくる感触は素手のソレだ。「やはり、彼女からの……っ!?」思わず呟いた彼だったが、反射的に己の喉元に手を当てた。

 

 声が、高い。それも、ただ高いわけではない。それはまるで、女の……そう、十代半ばを思わせる軽やかな声色の……おっ? 

 

 

「おっ──だっ──」

 

 

 それは、ブレーカーのスイッチを切り替えるかのように、前触れもなくいきなりキタ。

 

 

 ──ぎゅるり、と。物凄い。とにかく、物凄い。

 

 

 そうとしか表現し様がない感覚と共に、彼の脳裏を埋め尽くしたのは……膨大なんて言葉では到底足り得ない、膨大過ぎる情報の濁流であった。

 

 

 ──彼には知る由もないことであったがそれは、この世界に押し込まれた彼に対する、この『世界』からのご厚意……言うなれば、お節介にも似た一方的な優しさであった。

 

 

 その優しさの中身とは、ずばり……彼に与えられた身体の扱い方であった。

 

 そう、この時の彼はまだ理解出来ていなかったが、あの美女より与えられた身体は、彼の知る人間の身体とは『根本から異なっていた』。

 

 故に、本来ならば、あまりに異なる感覚のズレを、長き時を掛けて修正し、馴染ませる必要があった。上手くいったにしても、十数年程の時を要したことだろう。

 

 だが、そうならなかった。有無を言わせない一方的なお節介を焼いた『世界』によって……その期間は、大幅に圧縮されたのだ。

 

 

 その結果が、情報を流し込まれて呆けた様子で立ち尽くす姿であった。

 

 

 もはや、それは情報の暴力と言っても過言ではなかった。彼の思考の一切合財を呑み込んだ。あらゆる思考を押し流し、混ぜ返し、露わになったソコへ続々と情報が流し込まれてゆく。

 

 ……幸いなことに、苦痛は無い。というか、苦痛を感じる余裕が無かったというのが正しいのかもしれない。

 

 何せ、苦痛を覚える前に、次から次へと流し込まれる情報によって、それら全てが何処かへどどどどっと押し流されて消え去ってしまっていたからだ。

 

 傍目から見れば……さぞ、奇妙に見えたことだろう。

 

 何をするでもなく、何処を見るでもなく、山中にてポツンと佇んでいる。場合によっては、気が触れているのかと思われたのかもしれない。

 

 しかし、傍からはそう見えていても、当人からすれば、それはパンパンに溜め込まれたダムの水を桶で抜いていくかのような、根気のいる作業であった。

 

 

 ……そうして、そのままボケッと突っ立ったまま、時間だけが流れていった。

 

 

 事実として流れた時間は、大体6か月ぐらいであった。けれども、彼の感覚としては、それは一瞬の事であった。

 

 だから、フッと気が遠くなって、我に返った直後。辺り一帯が雪景色に変わり、昼から夜に変わっていた事にも物凄く驚いた。

 

 

 だが……だが、それよりも、だ。

 

 

 6ヵ月という時間を経て、流し込まれた情報を整理し終えていた彼……いや、違う。『彼女と呼ぶに値する身体を得た元男の彼女』は……ついでにと言わんばかりに一緒に流し込まれて理解させられた事実を前に、愕然としていた。

 

 

 ……いったい、どうして? 

 

 

 それは、彼が……いや、もう彼ではない。『彼女』が思っていた以上に、与えられたこの身体がヤバかったからだ。加えて、この身体は……いや、身体だけじゃない。

 

 己に、この身体を与えてくれた『美女』の正体に……いや、この身体の本来の持ち主である彼女の姿に成ってしまったかつての彼が、気付いてしまったから。

 

 

 ──道理で、見覚えがあったわけだ。かつての彼は、確かにこの身体の『持ち主である美女』を見ていたのだ。

 

 

 学生時代、映画館に足を運んでいたSFアニメに登場するキャラクターの一人として。そのキャラが最終的にどうなったのかまでも、かつての彼は目にしていた。

 

 

 だからこそ、分かる……今なら分かる、分かってしまう。

 

 

 あの場所が、どういう場所なのか。『宇宙検閲官の部屋』というものが何なのか。そして、あの部屋で優しくしてくれた美女の正体が……あの美女が、何者なのか。

 

 

 彼は……否、彼女は、分かった。分かってしまった。

 

 

 だからこそ、彼女はヤバいと思った。分かってしまったからこそ、そのヤバさを嫌でも理解させられた。とはいえ、いったいどれぐらいヤバいのか。

 

 ……隠すのも何なので、事実をそのまま、ありのままに述べよう。

 

 

 

 ──その気になれば、己が立っているこの星を瞬時に破壊する事が出来る。何度でも、それこそバターを切り裂くようにスパッと星そのものを切り裂くことも出来る……そんなヤバさなのだ。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………もう一度、述べよう。

 

 

 

 

 その気になれば、己が立っているこの星を瞬時に破壊する事が出来る。それだけの『力』を秘めた身体……それを制御しているのが、今の己であった。

 

 

 

 

 ……ちなみに、ヤバいのは何も攻撃的な部分だけではない。

 

 いや、純粋な攻撃力もヤバすぎるが、本当にヤバいのは胸と両手の甲に搭載された半円物の……っと。

 

 

 ──にくだぁ! にくにくにく肉ニクニクにくぅ、にくうう!!! 

 

 

 その声は、静まり返った夜の雪景色の中に、思いの外響いた。ハッと我に返った彼女は、声がした背後へと振り返る。すると、彼女の視線の先に……そいつはいた。

 

 

 そいつは……一言でいえば、人の形をした怪物であった。

 

 

 頭に身体に手足が二本ずつ。人の形を取っているが、少し違う。頭部に生やした角に、鋭く伸びた牙に爪。だらだらと口から垂れ流した唾液をそのままに、人間とは思えない速度でこちらに向かって来ていた。

 

 その速さは、四足歩行の獣以上に速い。雪で足場が悪く、氷点下の中だというのに、欠片も堪えた様子は無い。まっすぐ、血走った目でこちらへと──だが、遅かった。

 

 人間相手ならば、その速さは驚異的だろう。事前にその位置を認識出来ていなかったら、成す術も無く先手を打たれ、負傷していたことだろう。

 

 

 だが、彼女を相手取るには遅すぎた。

 

 

 何故なら、仮に彼女がその動きを認識出来ていなくとも……正確には、彼女の身体に搭載されていた武装の内の一つが自動的に作動していたからだ。

 

 

『フィジカルリアクター』

 

 

 それは、彼女の両手の甲と胸に搭載された半円物の名称。

 

 赤・緑・青の3色に輝くその別名は、『物理法則書き換え機関』。具体的に言うならば、望みの物質を自由自在に作り出すばかりか、エネルギーそのものを書き換えて操る事が出来る無敵の装備である。

 

 

「いただ──きぃい!?」

 

 

 当然、移動する物体を止めることも可能である。例え、相手が異形の怪物であろうとも。しかし、怪物からすれば、さぞ異様な状況に思ったことだろう。

 

 何せ、遮る物が何もない場所で、急に身体が静止したのだ。透明な壁にぶつかったわけでもなければ、何かしらの力で強引に止められたわけでもない。

 

 なのに、いきなり自分の身体が止まったのだ。ピタリと、一時停止ボタンを押されたかのように。

 

 止められた痛みは無いし、止められた事による慣性も無い。「な、え、あ、なんだ!? なんだこれ!?」言葉では到底言い表せられない奇妙な感覚に、止められた怪物は只々目を白黒させるしか出来なかった。

 

 

 ──それが、怪物の生死の明暗を分けた。

 

 

 仮に怪物が身を反転して逃げの一手を取ろうとしていたなら、彼女は怪物を開放して、それ以上は何もしなかった。同様に、襲ってきた理由を話して、それが正当なモノであったなら、彼女は何もしなかった。

 

 しかし、怪物はそのどれもを選ばなかった。身動き一つ取れないが、それでもなお襲い掛かろうとする意志を捨てていないことを察した彼女は……そのまま、反撃に転じた。

 

 ぱしゅん、と。

 

 ともすれば聞き逃してしまいそうなぐらいの微かな異音と共に、彼女の脚部から真横に伸びる、白い発射台。そこには、水晶を思わせる半円状のレンズが取り付けられていて。

 

 

『バスターミサイル』

 

 

 ポツリと告げられた、その言葉。直後、レンズから放たれた光のレーザーが怪物の足首から上を消し飛ばし……その余波によって、瞬く間に残された足も焼失して、塵となった。

 

 怪物が彼女の前に姿を見せてから、この間、わずか7秒弱のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………無表情のまま、彼女は警戒を解除する。かしゅん、と脚部より飛び出していた武装も収まる。

 

 残されたのは、バスターミサイルの余波によって雪が抉れて剥き出しになった地面と、彼方に着弾して爆音と土埃を上げた……大惨事だけであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それらを順々に見やった彼女は、一つ、ため息を零すと。

 

 

「……ヤバい、これはヤバい、思っていた以上にヤバい」

 

 

 無表情のまま……あ、いや、違う。己が仕出かした惨状に表情が完全に固まった彼女は、誰に告げるでもなく、そう呟くしかなかった。

 

 

 ……言い訳になるだろうが、彼女とて、ここまでするつもりはなかった。

 

 

 彼女なりに、手加減はしたのだ。何せ、核ミサイルを食らってもビクともしない宇宙怪獣をも貫く、『バスターミサイル』だ。

 

 初めてなので加減が分からなかったが、かつてはアニメの中でソレが宇宙怪獣に使用されているのを見ていたから、どれほどの破壊力があるのかは想像出来ていた。

 

 だから、精一杯出力を抑えた。感覚的な話で、まだ心と体が慣れていなかったから、軽い火傷程度の威力しか出ないかもなあ……と考えたぐらいに出力を抑えた……つもりだった。

 

 

 その結果が……アレだ。

 

 

 チラリと、斜面が削れてクレーターになっている、『バスターミサイル』が着弾した辺りを見やり……思わず、気が遠くなりかけた。

 

 

 ……そうして、ふと。

 

 

 今更な事ではあるが、彼女は自身がどのような姿になっているのかに意識が向かう。まあ、調べる必要もないだが……もしかしたら、違うかもしれない。

 

 そんな、限りなく低い可能性を考えつつも、無言のまま『フィジカルリアクター』を作動させる。少しの間を置いてから精製されたのは、正方形の鏡であった。

 

 月明かりがあるとはいえ、辺りは真っ暗だ。だが、かつての彼ならともかく、今の彼にとっては何の障害にも成り得ない。実際、こうしている今も普通に夜目が利いている。

 

 故に、彼女は何の気負いもなく……いや、半ば確信を得つつも不安を感じながら、恐る恐るといった様子でそーっとそーっと……そうして鏡に映し出された己を見やった彼女は……ああ、と頭を抱えそうになった。

 

 何故なら……細部まで覚えていないとはいえ、鏡に映し出された己の姿は間違いなく……かつての彼が暮らしていた世界での、アニメに登場したキャラのソレであって。

 

 

 ――正式名称

 ――地球帝国宇宙軍太陽系直掩部隊直属

 ――第六世代型恒星間航行決戦兵器

 

 

 サイズは人間並みでありながら、超高性能の宇宙船やマシーン兵器・並びに乗組員の機能を全て兼任させた、地球帝国黄金期の最後の遺産である、自律人形人工知性体。

 

 

 ──その名を、バスターマシン7号。またの名を、『ノノ』。

 

 

 頭頂よりぴょんと飛び出すアホ毛(アドミラル・ホーン)が、彼女の意思に合わせてにょんにょんと左右に揺れる。

 

 

 瞳に浮かんでいる、帝国軍の紋章の勇ましさ。それは、バスターマシンの証。

 

 対して、情けなく眉根が下がっている、己の顔。それは、まぎれもなく自身である証。

 

 

 それは、怪物に襲われた恐怖……からくるものではない。ましてや、今が何処で、ここが何処で、夜の山に1人佇んでいるという死への恐怖からでもない。

 

 

「……まさか、だよな」

 

 

 押し込められた情報によって事実を事実として認識し、今の己がどういう存在になっているのかをようやく受け入れた彼女は、静まり返った氷点下の中で。

 

 

「あいつらがやってくる可能性が……?」

 

 

 バスターマシン……否、本来のバスターマシンたちを作り上げた帝国軍たちの……人類の絶対的な宿敵であり天敵でもある。

 

 

 ──通称、宇宙怪獣。

 

 

 人類を絶滅寸前にまで追い込んだ、宇宙のワクチンとも呼ばれた存在への予感に……バスターマシン7号となった彼女は、情けなく立ち尽くす他出来なかった。

 

 

 

 




ビーム一発で星ぶっ壊すやつを相手に、無惨様は勝てるのか……

いや、無惨様なら……無惨様なら、きっと……!


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第一話: 縁壱は人間(自己申告)です

無惨様「わっせ、わっせ、わっせ、十二人のふれんずを作って、あんぜんなパークを作るのだ!」


後々の縁壱「参る……!」


むざんさま「ぬああああああーーーーーー!!!!!!」



※本編とは関係ありません


 ──『宇宙怪獣』とは、何なのか。

 

 

 

 それは、彼女の身体の持ち主であるバスターマシン7号が登場するアニメにおいて、明確な敵役として描写された、宇宙に住まう敵対生物の総称である。

 

 その生態や種類は作中でも明確に描写されてはいないが、全くというわけではない。それを踏まえたうえで、劇中にてその姿を見た者の大半は同じことを考えただろう。

 

 

 ……人類、本当にこいつらに勝てるの……と。

 

 

 そう思うのも、無理はない。というのも、宇宙怪獣の恐ろしさは攻撃力や耐久力、大きさ等といった個別の戦闘力(もちろん、弱いわけではない)ではなく、物量……すなわち、群としての強さにこそあるからだ。

 

 つまり、数がべらぼうに多いのだ。確認された宇宙怪獣の数、おおよそ100億強。そう、確認出来ただけでも、100億以上なのだ。

 

 しかも、ただ数が多いだけではない。小さいものでもそのサイズは全長十数メートルにも達し、そのうえ……その表皮は固く、ミサイルの直撃にも耐える個体の割合が、9割9分以上。

 

 その内の3割近くに至っては、戦術核を数万発叩き込んでも反撃してくる化け物染みた個体なのだ。如何に宇宙怪獣というものが馬鹿げた存在であるかが、想像出来るだろう。

 

 加えて、100億というのはあくまで最低限であり、尖兵。全長数千キロにも及ぶ超巨大な個体もいれば、体内に数十万体近い兵士(小さい宇宙怪獣の事を、そう呼ぶ)を抱えたやつもいる。

 

 故に、その総数……つまり、本隊を含めれば、その数は数百兆にも達すると言われ、しかも時を経れば経る程、数が増えていく。それが、宇宙怪獣なのである。

 

 そんなの……普通に考えて、勝てるわけがない。例え、いくらバスターマシンが、そんな宇宙怪獣に対抗する為に作り出された存在であるとしても。

 

 現に、劇中においても人類は結局のところ、宇宙怪獣の進軍を食い止めることすら出来なかった。

 

 最後は人工的に作り出したブラックホールの中へと押しやるという周囲の星々ごと犠牲にするという荒業でしか、決着を付けられなかったぐらいに……強大なのだ。

 

 それを知っている(というか、覚えている)からこそ、彼女は恐れた。仮に宇宙怪獣がこの世界にいたとしたならば、どう足掻いても勝ち目がないからだ。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 仮に宇宙怪獣が本当に実在していたなら、途方に暮れるしかなかった彼女だ。しかし、『とある事』を思い出した事で、いちおうではあるが、平静になる事が出来た。

 

 その『とある事』とはずばり、宇宙怪獣の性質である。

 

 というのも、この宇宙怪獣……単純な戦力というか、その危険性と凶悪性は栄華を極めた地球帝国軍すらも人類滅亡を覚悟しなければならないレベルではあるのだが、実はその性質から対策手段が一つある。

 

 それは……宇宙怪獣と接触しないことである。

 

 いや、第三者が聞けばふざけるなと激怒しそうな話だが、怒るのはまだ早い。何故そうなるのかというと、それは先述した通り宇宙怪獣の性質……いや、その生態にこそ理由があった。

 

 まず……宇宙怪獣というのは基本的に群れで行動し、『巣』を作ってそこからあまり離れることはない。

 

 その『巣』があるのは、宇宙怪獣と呼ばれるだけあって宇宙にある。正確に言い直すのであれば、銀河の中心……『いて座A』と呼ばれる中心地の辺りにやつらはいる。

 

 そして、宇宙怪獣というのは一部の個体を除き、基本的に本能に従って行動する。その本能とは、生物が持つ普遍の目的である繁殖……ではない。

 

 やつらの目的は、ただ一つ。文明を発達させて宇宙へと進出してきた知的生命体の絶滅……それこそが、唯一のやつらの本能なのである。

 

 すなわち、宇宙怪獣というのは、他の生物のように縄張りや生存本能といった、持って当たり前の本能が備わっていない。

 

 また、やつらは『敵』と認識した相手には徹底的に、何処までも執拗に追いかけ続けるが、その行動範囲自体はそれほど広くはない。

 

 実際、劇中でも宇宙怪獣と人類との戦いが始まったのは、ワープ航行が実用化され銀河の中を行き来するようになった後。

 

 ワープ時に発生する波動を感知して来た宇宙怪獣と、人類の宇宙船が接触してから……とされている。

 

 つまり、宇宙怪獣はこちらから接触さえしなければ……ひとまずは、大丈夫というわけだ

 

 

 故に……心から、彼女は安堵した。

 

 

 何故なら、先ほど(実際は、半年以上前だが)見た村人たちの姿から推測する限り、とてもではないが宇宙がどうのこうのと考えられるような文明レベルに達していないのが分かったからだ。

 

 いくら文明絶対許さないマンである宇宙怪獣とはいえ、宇宙にも出られない弱小な生き物にまで攻撃は仕掛けない。というか、そもそも存在に気付かない。

 

 つまり、後100年、200年……いや、正確にはワープ技術が確立されるまで……現時点で、宇宙怪獣にそこまで怯える必要はないというわけだ。

 

 

 ──そうやって、考え始めてから小一時間。

 

 

 その結論を出した彼女は……我知らず恐怖と緊張で固まっていた身体から力を抜き、深々とため息を零し、気持ちを切り替えたのであった。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………それで、だ。

 

 

 

 ひとまず……ひとまずは『宇宙怪獣襲来か!?』と胸中にて勝手に抱いていた危機感に区切りをつけた彼女は、さて、これからどうしたものかと首を傾げた。

 

 というのも、今の彼女には……こう、目的というものが何一つ無いのだ。

 

 普通に考えれば、まず考えるのは生存の為の方法だろう。人間は、着る物と食べる物と住む場所が無ければ生きられない。最低限、衣食住を確保しなければならない。

 

 

 それはどれだけ屈強かつ頑丈な人間であろうと、変わらない。

 

 

 氷点下のこの場所では、毛皮が無い人間は服を着込まなければ凍死してしまう。食べ物だって確保しなければ餓死してしまうし、家が無いと獣などに襲われる危険性がある。

 

 なので、仮に第三者が彼女の立場になったなら、その三つを確保しようと躍起になるところだろう。少なくとも、麓の村に助けを求めるぐらいはしたはずだ。

 

 しかし、彼女は違う。彼女にとって、その三つはそこまで重要ではない。

 

 何故なら、今の彼女は人間ではない。その身体は、栄華を極めた地球帝国軍の科学力の全てを結集して作り出された……第六世代のバスターマシン7号だ。

 

 

 つまり、見た目はいくら人間に似せているとはいえ、今の彼女は機械だ。

 

 

 精神が身体に引っ張られた影響からなのか、今の彼女は無意識のうちに、自分のことを人間とは思えなくなっていた。

 

 『心は男だった』という感覚だけは残っているが、結局は残っているだけだ。

 

 そのうえ女であるという感覚も薄い。おそらくは、性的な感覚がほとんど消えてしまっているのだろう。

 

 また、性的な云々以前に、その能力というか性能は、もはや人知の域を超えているのも、理由の一つになると思われる。

 

 まず、何と言っても身体の頑強さが生物の範疇ではない。隕石の被弾すらビクともしない宇宙戦艦の装甲を突き破る宇宙怪獣の攻撃にも耐える、圧倒的な防御力。

 

 もう、それだけでイノシシや虎などの野生動物では傷一つ負わないのが確定している。同様に、たかが数百℃の気温の変化でどうにかなるからだでもない。

 

 なのに、それだけじゃない。基本スペックだけでなく、搭載された装備一つとってもそうだが、何よりも心臓でもあり動力源にもなっている……『縮退炉』の存在だ。

 

 

 ──説明は省くが、縮退炉とは、とんでもなく膨大なエネルギーを生み出す動力炉だとでも思ってくれたらいい。

 

 

 その恩恵は凄まじく、縮退炉が稼働している限り、彼女は人間のように餓死することはないし、病気を患うこともない。というか、人間ではないから病には罹らない。

 

 同様に、縮退炉が稼働している間は眠る必要も無く、体表の汚染についてもフィジカルリアクターで何時でも分解出来る。万が一傷を負っても、すぐさま修復する事も出来る。

 

 つまり、今の彼女(バスターマシン7号)は、あえて人間のフリに拘らないかぎりは、衣食住の必要が無い……というわけだ。

 

 強いて挙げるとするなら、気分的な意味合いで住居ぐらいは欲しいが……正直、この恰好ではなあ……と、己の姿を改めて見やった彼女は、軽くため息を零した。

 

 かつての彼が暮らしていた『世界』なら、大丈夫だっただろう。本物そっくりのコスプレイヤーみたいに見られるだろうが、そこまで大騒ぎにはならないだろうから。

 

 しかし、ここは『世界』が違う。どれぐらいの文明なのかは知らないが、今の己の姿は……さぞ、注目を集めることだろう。

 

 気狂い程度に見られるなら、まだマシだ。最悪、害意を持つ妖怪みたいな感じに疑われ、石を投げられる可能性も……うむ、これはイカン。

 

 

 

 ──何を始めるにしても、まずはこの世界の常識を覚えるのが先だな。先ほどの怪物の事もあるし、俺の常識で考えては駄目だな。

 

 

 

 ひとまず、その結論を出した彼女は……脚部ブースターを稼働する。ごう、と足元の大地を削って瞬時に上空250メートル辺りにまで上昇し……そのまま、夜空を駆ける彗星となった。

 

 その高さならば、場合によっては目撃される危険性はあった。だが、彼女はあまり高く飛ぶようなことはしなかった。

 

 何せ、あくまで彼女が得たこの世界の情報は、この世界に降り立った場所の近くにあった村と、その村人たちと、異形の怪物ぐらいだ。

 

 最初の予想通りの文明レベルなら、まだいい。だが、ここが辺境も辺境で、都市部とでは天と地の差があり、実際は飛行機も日夜飛び回っていたら……逆に、高度を上げ過ぎるのも危険だろう。

 

 万が一にも衝突する可能性は無いが、ミサイルか何かと勘違いされるのは不味い。

 

 とはいえ、それ以上の高度……億が一の確率でたまたまこの近くに来ていた宇宙怪獣に目撃されたなんて事態は、絶対に避けねばならない。

 

 その折衷案が、飛行するには些か低すぎる高度であった。

 

 

 ……だが、この時の彼女はまだ知らなかった。というか、深く考えていなかった。

 

 

 宇宙怪獣を恐れるがあまりに取った、その折衷案。彼女にとっては致し方なしの選択でしかなかったのだが、その姿が、地上の人々の目にはどのように映る結果となったのかを。

 

 

 ……人目に付かないように夜の間だけ飛んでいたのが、仇となった。

 

 

 何故なら夜空には、脚部ブースターの光がよく映えたからだ。また、燃える様に赤く輝く彼女の髪は時に、『夜空を翔ける女神』として目撃され、一つの伝説として語り継がれていった。

 

 

 そう……女神だ。彼女は、それを失念していた。

 

 

 いくら夜の間とはいえ、全ての人間が眠っているわけではないということを。中には夜に起きて活動している人だっているし、むしろ夜にしか活動出来ない者もいた。

 

 そんな者たちにとって、閃光が如き勢いで夜空を駆け巡り、暗闇を淡く照らし出すその姿は……とても、目に留まるものであった。

 

 時には羨望の目で見られ、時には嫉妬の目で見られ、時にはそれ以外の目で見られながらも……独り彼女だけが気付けないまま、時は流れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、彼女は時に普通の女性として紛れながらも、今の姿に見合う言葉遣いを始めとして、この世界の事を一つ一つ学び、それらしい振る舞いを身に着けていった。

 

 

 その間……色々な事があった。

 

 

 ある時は欠片も関わっていない戦争に巻き込まれ、ある時はとある部族の男から嫁として狙われ、ある時は魔女として住む町を追われて大陸を離れることもあった。

 

 山を越え、谷を越え、海を渡り、大陸を横断し、この星を数百回と往来し……人間であったなら5000回ぐらい命を落としていたぐらいに過酷な日々であったが、得る物は相応に有った。

 

 まず、一番気になっていた事である文明レベルは、彼女がこの地に降り立った時に思ったのよりも、幾らかそれ以前な感じであった。

 

 また、アニメや漫画のようなドラゴンとかそういうのは(彼女が言うのは皮肉だろうが)いなかった。エルフや、デビルとか、そんなやつ。

 

 さすがに負ける事はないだろうが、わざわざそんなやつらと遭遇したくはない。だから、念のためと思って世界中を探し回ったから、いないのは確定した。

 

 

 ……だが、しかし。彼女には一つだけ、気になる事があった。

 

 

 それは、彼女がこの世界に降り立った、あの時。自らに襲い掛かって来た異形の怪物の存在であった。

 

 当初、彼女はあいつらのようなやつが他にもいると思っていた。そういうやつらがいる世界だと思っていたし、海を渡った先にもいるものと思い込んでいた。

 

 

 けれども、蓋を開けてみれば、どうだ。

 

 

 大陸には異形の怪物はおろか、それらしい生き物すら一体もいなかった。気狂いはいたが、一目で怪物だと分かるやつすら、一度として遭遇することはなかった。

 

 故に、彼女は気になった。あの生物は、いったい何だったのかということが。

 

 見方を変えればそれは、バスターマシン7号になってから初めてとなる、『目的』だったのかもしれない。

 

 特に深い意味があったわけでもなく、彼女は日本(この世界の地名も、元の世界と一緒であった)に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして彼女が、故郷ではないが故郷とそっくりな大地を、はるか上空より見下ろしたのは……幾度かの季節が巡り、春も幾ばくか過ぎた頃であった。

 

 

 夜空より見下ろしたそこには、村というよりは……そう、街道より少しばかり外れた場所に、古びた木造家屋がぽつんとあるだけの寂しい場所であった。

 

 時刻は夜、時代が時代だから、人の往来など全く無い。家屋の中に人がいるのは、隙間から僅かに漏れ出た光と熱源探知によって分かっていた。

 

 

 特に理由があって、そこを見ているわけではない。

 

 

 ただ、そういえば最初に降り立った時もこんな感じの自然の中だったなあ……と何気なく見ていたら、ぽつんと建っているその家が目に留まったからだった。

 

 別に……その家が珍しいわけではないし、ポツンと一軒だけ建っているのもそう珍しいことではない。本当に、たまたま目に留まっただけで、もう後4秒も見ていれば、すぐに離れる程度の興味でしかなかった。

 

 

 ──が、それも眼下の家の……扉を開けて飛び出して行った男の姿によって、そうではなくなった。

 

 

 一瞬、彼女は物取りに押し入った者かと思ったが、どうも様子が違う。逃げる……というよりは、どうも何かに焦っているように彼女には見えた。

 

 事実、明かり一つ手にしていない男は、よほど急いでいるようで。

 

 月明かりしかない夜の闇を前に、躊躇一つすることなく駆けて行く。あっという間に街道を駆け抜けて……いや、待て。

 

 

(……速すぎじゃないか?)

 

 

 思わず彼女が、なにアレ……と呟いてしまうぐらいに、その男は速かった。時速50キロ……いや、60キロは確実に……いや、これは……加速している? 

 

 信じ難い事に、駆けていく男の速度がさらに上がっている。全速力で駆け抜けているのであれば、徐々に速度は落ちるはずだが……あの男は、まだ全力ではないというのか。

 

 

 まさか……自分と同じように、この世界にやってきた来訪者なのだろうか? 

 

 

 気になった彼女は、彼を追いかけようと……する前に、ふと。男が飛び出して行った家の玄関が、開きっぱなしになっていることに気付いた。

 

 よほど、慌てていたのだろう。気持ちは察するけれども、些か不用心だなと彼女は思った。

 

 いくら街道から外れて泥棒なんて来ないだろうにしても、中から明かりがやんわり漏れているのが見える。つまり、火も点けっぱなしというわけか……中に人がいれば扉を閉めるだろうが、そのような気配は見られない。

 

 

 ……いや、本当に不用心だな。

 

 

 万が一、獣等が入って蝋燭を倒してみろ。小火(ぼや)で済むなら運が良い方だ。最悪、家どころか周辺に火の粉が飛び散って、周囲にも燃え移りかねない。

 

 

 これは……消すべきだな。

 

 

 場合によっては泥棒が入り込んだと不安がらせてしまうだろうが、運悪く火事になるよりはマシだろう。燃えてからでは、遅いのだ。

 

 そう結論を出した彼女は、親切半分・好奇心半分の割合で、夜の闇に紛れて地上へと降り立つ。

 

 ふわり、と、すっかり慣れた脚部ブースターの加減によって音も無く着地した彼女は、特に気負うことなく、ヒョイッと中を覗いた。

 

 

 ──瞬間、思わず彼女の肩がビクンと跳ねた。

 

 

 何故ならば、誰もいないと思っていた部屋の中に、女性が一人。声一つ発することなく座り込んでいた事に加えて、入口からでもはっきり分かるぐらいに、顔色が青ざめていたからだ。

 

 ……医学の知識が素人である彼女の目から見ても、女性が尋常でない状態に陥っているのがすぐに分かった。

 

 堪らず、「──た、大変だ!?」室内に飛び込んで駆け寄る。「──あ、え?」突然の見知らぬ来訪者(まあ、当たり前だが)に女性は目を白黒させていたが……揺らめく彼女の赤い髪を見て。

 

 

「──日の神様?」

 

 

 ポツリと、呆気に取られた様子で呟いた。(ひの……なに?)疑問符を浮かべつつも、彼女は女性の下へと駆け寄り……あっ、と軽く目を見開いた。

 

 近づいてみて、よく分かった。この女性は、妊娠しているのだ。それも、衣服の上からでもはっきり分かるぐらいに腹が大きくなっていて……おそらく、産気づいたのだ。

 

 

 ──先ほどの男は医師か産婆を呼びに行ったのか。

 

 

 道理で、取る物も取らずに駆け出してゆくわけだ。

 

 独り納得した彼女は、改めて眼前の女性……女を見やる。彼女(不審者)の登場に驚いたおかげか、陣痛の苦しみが少しばかり飛んで……いや、待て。

 

 

(陣痛って……そんないきなり始まるものだったか?)

 

 

 ふと、そんな事を考えた瞬間……嫌な予感が、脳裏を過るのを彼女は実感した。

 

 ……かつての彼女は男で、出産を経験したことは当然のこと、立ち会った経験も無い。だから、実際の出産がどのようなものなのかを知らない。

 

 だが、サブカルチャーを通じて、一時期狂ったように様々な本を乱読した事がある。特に乱読していたのは思春期真っただ中の時で……その時の記憶から、彼女は……もしやと、目を見開いた。

 

 

 ──既に、出産が始まろうとしている? あるいは、それ以外の異変が起こった? 

 

 

 嫌な予感を覚えた彼女は、そっと、膨らんだ腹に掌を宛がう。ぴくり、と驚いた女に「──大丈夫、少し見るだけだ」声を掛けながら、彼女はおもむろに……『フィジカルリアクター』を稼働する。

 

 どうして『フィジカルリアクター』を稼働させたのか……それは単に、この状況を改善出来ると直感的に察したからだった。

 

 

 ……この世界に降り立ってから、今日まで。彼女は何も、ただぶらぶら世界を回っていたわけではない。

 

 

 この世界の事を学ぶ傍ら、彼女は常に己の制御訓練を行っていた。頭だけでなく、身体にも動かし方を馴染ませる為に、である。

 

 その結果、今では『フィジカルリアクター』の制御はほぼ完ぺきになっていて……同時に、彼女は如何に『フィジカルリアクター』がデタラメな武装であるということを、これでもかと理解させられていた。

 

 

 ……効果が及ぶ範囲が狭いという弱点こそあるが、そんなものは宇宙怪獣を相手にしない限りは些事だ。

 

 

 胎児に影響が出ないよう調整しながら、着物の上から膨らんだ腹を摩る。痛みに軽く顔をしかめる女を他所に、素早く胎内の調査を終えた彼女は……内心にて、舌打ちを零した。

 

 

(……まずい、逆子だ)

 

 

 元男でも、それが危険であることは知識として知っている。加えて、今の彼女にはリアルタイムで内部を透視出来る。実際、胎内をスキャンしてみたから、よりその危険性が分かった。

 

 この女は体質的にギリギリまで痛みが出ず、本来ならば周囲が驚くぐらいに安産が可能な恵まれた身体を持っている……が、今回は違う。運悪く、逆子の状態で出産が始まろうとしている。

 

 一般的な女性であればもっと前に異変に気付く所を、この女の場合は恵まれた体質が仇となった。この女が苦しんでいる理由が、コレだ。

 

 こうなればもう、医師や産婆が来た所でどうにかなるものでもない。危険が大いに伴う帝王切開でしか……あっ! 

 

 

 ──いっ、うくぅ!? 

 

 

 彼女が見ている目の前で、顔中に脂汗と冷や汗を噴き出した女が歯を食いしばった──直後。ぱしゃ、と微かに音がしたかと思えば、下腹部が目に見えて濡れ──いかん、破水した!? 

 

 

「──名は、何だ?」

「くっ、う……う、うた、です」

「『うた』、か。では、うた。私に対して不安を抱いているのは想像するまでもないが、単刀直入に言おう。このままでは、貴女の子は死にます」

「……え?」

 

 

 彼女の言葉に、サーッと。只でさえ青ざめていた顔から更に血の気が引くのを見やりながら、「落ち着け、あくまで、このままではの話だから」彼女はスキャンを続けつつ話を続ける。

 

 

「子が、逆さになっている。分かるね、逆子だ。このままでは赤子が出て来られない。お前の旦那が戻って来るまで、お前の体力も持たないだろう」

 

 

 あの男の健脚ならば、小一時間ぐらいでここに戻って来るだろう。

 

 だが、それでは遅い。赤子が無理にもがいたせいで、臍の緒の位置も悪くなっている。

 

 このまま放って状況が好転する可能性はあるだろう。けれども、可能性としてはこのまま赤子が窒息死する可能性の方が高い。

 

 ……元男だ何だと考えている場合ではない。このまま手をこまねいていたら、赤子も、母体も、共に息を引き取る結果になってしまう。

 

 

「……私も初めての事だ。それでも良いのなら、私が産婆を務めるが……どうだ?」

「ひ、日の神様がそうしてくださるなら、わたしは……」

 

 

 青ざめた顔だが、はっきりと、それでいて力強い眼差しを向けられた俺は……一つ頷いてから、準備を始める。

 

 

 ──断られる可能性の方が高いと思っていたが、こうも即答されるとは……全力を尽くさねば。

 

 

 フィジカルリアクターによって精製したタオルで女の汗を拭いつつ、「これを噛んで、合図と共にいきめ」うたがしっかりタオルを噛んだのを確認した彼女は……改めて、赤子に意識を向ける。

 

 

 ……同じく、フィジカルリアクターによって精製したナノマシンを用いて、ひとまず邪魔な位置にあった臍の緒は動かした。これで、絡まって窒息する事はないだろう。

 

 

 次いで、体内の赤子に負担を掛けないように気を付けながら……少しずつ、頭の位置を入れ替える。スキャンと感触から、既に子宮口が開いているのは分かっている……焦ってはならない。

 

 幸いにも、母体(うた)は直前まで健康体だった。体質というアドバンテージもある。だから、ある程度誘導してやれば、後は身体が勝手に子供を産み落とすだろう。私は、少しばかり手伝いをするだけでいいのだ。

 

 

「──まだだ、まだ力をいれるな。出来る限り力を抜け、小便や大便は垂れ流れてもいい、とにかく赤子に負担を掛けるな」

「うう、くう、いた、痛い……痛いよう、縁壱(よりいち)、縁壱……痛いよぅ……」

「耐えろ、耐えるんだ。それでも力を入れるな、大丈夫、貴女なら出来る」

 

 

 次々に精製したタオルやクッションを、うたの腰に宛がって背もたれ代わりにする。ふわりと揺らいで燃え上がる赤髪を手元に差し出してやれば、縋るようにうたはソレを掴み取った。

 

 

 深呼吸、深呼吸だ。

 

 

 そう声を掛ければ、うたは額に浮かんだ脂汗をそのままに、ふう、ふう、ふう、と唇を震わせながら言うとおりにする。

 

 僅かずつではあるが、緊張が解れて産道が緩み始めているのを彼女は感じ取り──ふと、背後に立つ気配に気づき、ハッと振り返った。

 

 

 ──玄関前に、先ほどこの家を飛び出していった男がいた。間近で見て初めて分かったが、その男は顔等に不思議な形の痣が浮き出ていた。

 

 

 虫の知らせか、あるいは別のかは定かでないが、何かしらの予感から戻って来たのだろう。しかし、さすがに状況を理解出来ないのか、ぽかんと呆けた様子で──ん!? 

 

 

 そこまで思った途端、いきなり──男の身体がブレた。

 

 

 ひゅん、と。音も無くいきなりブレて、次の瞬間には元の体勢に戻っていた。と、思ったら、ばらばらと男の足元に……肉片が転がった。

 

 

 ──何をしたか……いや、何が起こったのか。

 

 

 ありのままに述べるならば、ナニカが背後から襲い掛かって来た。それを、男は振り返ることもせず瞬時に体捌きで受け流しつつ地面に叩き付け、苦痛にナニカが呻き声を上げるよりも早く、台所から頂戴した包丁で素早くナニカを15分割したのである。

 

 

 ……え、いや、待て、何それ、どうやったんだ? 

 

 

 瞬きすれば見逃してしまいそうな、刹那の神業。あまりに展開が急すぎて、彼女は思わず手を止める。無表情のままにこちらを見やる男のこともそうだが、その足元に散らばっているナニカも……あ、これ、何時ぞやの異形のアレだ。

 

 姿形が異なってはいたが、何となく彼女は同類だと察した。雰囲気というか、何というか……上手く説明出来ないが、何やら肉片が繋ぎ合って再生しようとしているナニカに、彼女は男に注意を──促そうとする前に、さらにナニカは17分割された。

 

 

 ……え、いや……え、え? 

 

 

 バスターマシン7号としての動体視力が無ければ、ブレた事すら認識出来ない速さであった。

 

 世界中回ったが、断トツでコイツが一番速いぞと思ったぐらいに、その動きは人外染みて──っと、いかん、そっちに気を向けている場合ではなかった。

 

 ひとまず、異形の化け物は、この男(おそらく、縁壱だろう)が何とかしてくれている。男の目が凪いだ水面のように静かであったが、そういう性質なのだろう。

 

 

 そう判断した彼女は、再びフィジカルリアクターを稼働させる。

 

 

 相も変わらず無言のままにナニカを切り刻む男と、『ご、ごろじで! いっぞごろじで!』泣き言を漏らし始めたナニカの悲鳴を尻目に……彼女は、うたの出産に全力を尽くすことにした。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だからといって、いくら相手が異形の怪物で、かつ、襲ってきたとはいえ、子が産まれるまで息一つ顔色一つ変えずに切り刻むのは、ちょっと怖いと彼女は思った。

 

 

 いや、まあ、産声を上げる赤子と、それを抱き留めるうたの姿に、無表情ではあるものの、ぽろぽろと大粒の涙を零す姿は、正しく父親ではあったのだが……まあ、うん、ヤバいやつだが悪いやつではないのだろうと彼女は思った。

 

 

 ……まあ、文字通りみじん切りにされてもまだ絶命していないナニカをさらに分断しようとする(しかも、顔色一つ変えずに)のには、正直ちょっと引いた。

 

 

 怪物とはいえ哀れに思って『バスターミサイル』で止めを差そうとしたら、涙ながらに感謝の言葉を述べられた……こいつはキレさせたら駄目なタイプだなと彼女は思った。

 

 

 ……そうして、夜が明けて。

 

 

 出産の疲労から子を抱き留めたまま寝入ってしまったうたが目を覚まし、一睡もせずに番を務め切った縁壱(うたが気絶するように寝た後で名乗られた)と、改めて対面することになった彼女は。

 

 

「……本当に、お礼は何もいらないと? 妻と赤子の命ばかりか、これだけの物を譲っていただけるなんて……私に出来る事であれば、如何様にもお使いいただいて構いません」

「いや、いらん。頼まれたわけでもなく、勝手にやっただけだしね。ていうか、何度も言うけど、その手拭いは本当にいらないモノだから。贈り物とか、そういう意味合いは全くないからね」

 

 

 だから、気にするな。

 

 

 そう視線で促せば、「……恩人の言う事ならば」縁壱はしぶしぶといった様子で頷いた。うたも、旦那が受け入れたのならば、といった様子であった。

 

 そんな二人の傍には、大量に精製したタオルが山のように置かれている。彼女としてはもう必要ないから捨てるつもりだったが、いらないならくれと言われたので、譲渡したものだ。

 

 

 おそらく、お礼云々に意固地になっている理由の一つがソレなのだろう。

 

 

 フィジカルリアクターで作り出した量産品でしかないのだから、それはちと大げさ……いや、そうじゃないか。そこまで考えたところで、彼女は己の思い違いに気付いた。

 

 

 ……彼女にとっては、ただの布でしかない。しかし、それはあくまで、彼女にとってはの話、だ。

 

 

 現時点における日本(というか、日本に限らず)の産業レベルを考えれば、手拭い1枚お皿1枚というのはそれなりに高級品である。加えて、彼女が用意したタオルは……流通しているそれらに比べて質が良い。

 

 ぶっちゃけてしまえば、名の知られた武家に卸されているような超高級品の山を、ポンと譲られたようなものだ。

 

 現代であればタオルぐらいでと思われるところだろうが……この二人でなくとも、どうお礼すれば良いのか思い悩んでも何ら不思議ではない。

 

 

(……う~ん、あまり良い顔はしていないな)

 

 

 実際……チラリと二人の顔を見やった彼女は、困ったぞと内心にて頭を掻く。ふわふわと揺らぎながら赤く輝く彼女の長髪が、赤子の頬を淡く照らしていた。

 

 要は……この二人は真面目なのだ。

 

 捨てるのならばという名目があってもなお、それを『棚からぼた餅』で納得出来ない善性を持っている。親切を受けたのならば、それに報いなければという考えがあまりに強いのだ。

 

 で、あるならば……いっそのこと、何かしらの要求を……でもなあ。

 

 改めて二人の恰好と室内を見回した彼女は……ひとまず、金銭的な要求は辞めておこうと思った。ついでに、物品的な要求も。貰っても、正直な話、邪魔でしかないから。

 

 なら、どうしようか。後は、そうだな……要求出来そうなのは、縁壱が見せた超人が如き身体能力だが……ん、待てよ。

 

 

(……そうだな。私には必要なくても、他の人達にとって、彼の力は大きな手助けになる)

 

 

 そうだ、それがいい。

 

 

 私を助けるのではなく、私に助けられた分、奥さんや子供を守る傍らで良いから人々を助けていけば良い。そして、私と同じように、受けた恩をまた別の者たちへ……それならば、眼前の二人も納得するだろう。

 

 

 そう思った彼女は、早速二人にその事を提案した。

 

 すると、二人は驚きに目を見開いた。けれども、すぐに快諾した。よし、これで事件は落着だと結論を出した彼女は、それではな、と二人に答え……外に出て、ふわりと夜空へ舞う。

 

 振り返れば……ぽかん、と呆気に取られている二人。それを見た彼女は、さもありなん、と苦笑を零した。

 

 『人間ではない』という点はあっさり受け入れたというのに、空を飛ぶ事には言葉を失くすぐらいに驚く。

 

 その何ともちぐはぐとした感性に、彼女は手を振って別れを告げると、そのまま夜明けの彼方へと飛び立ち……その身を溶かしていった。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その、月明かりが降り注ぐ夜空の中で。

 

 

 

 ──あ、ヒノカミ様って何なのか聞き忘れた。

 

 

 

 そんな呟きが成されたのだが……誰も、その呟きを耳にした者はいなかった。何故なら、彼女自身、その事に大した興味を抱いていないからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ──鬼殺隊

 フラグ1『縁壱の血を受け継ぐ剣士誕生(先祖がえりによって、後々の鬼殺隊の戦力に大幅プラス)』

 フラグ2『うた(赤子)生存により、原作よりも心が平穏。父親になれたことで、自分が如何に無造作に他者を傷つけてきたかを理解した』

 フラグ3『うた生存により、鬼殺隊への呼吸指導の果てに起こる『痣』の危険性を察知出来たので、原作のような軋轢は少なくなった』



 ──正しいし間違えない御方

 フラグ1『うた生存により、後々の世に縁壱に勝るとも劣らない剣士が出現するようになる』

 フラグ2『後に上弦となる鬼が、戦力を増して地盤が前よりも堅牢になった鬼殺隊によって討伐されるようになり、全体の戦力が弱体化した』

 フラグ3『縁壱から与えられるトラウマが増大』



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第2話: まだ、降りるには早いみたいで



無惨「わっせ、わっせ、わっせ、何とか頑張ってとっても頼りになる不動のフレンズが出来たのだ! あとは、その下にいっぱいフレンズを作っていくのだ!」



年老いたはずの縁壱「参る……!」



無惨「ぬああああああああ!!!???」



※本編とはあまり関係ありません


 ──理由は分からないが、あの怪物が日本にしかいないということは、かなり早い段階から分かっていた。それは当てずっぽうではなく、これまでの経験から導き出した推測であった。

 

 

 伊達に、大陸中をあっちこっちと回ったわけではない。吸血鬼や雪男、妖精や悪魔に関する伝承は、両手足の指では到底足りない数を耳にしてきた。

 

 だが、あくまで伝承を耳にしてきただけだ。バスターマシン7号である彼女ですら、実物というやつを目にしたことは一度としてなかった。

 

 そう……見た事が無かったのだ。吸血鬼も雪男も、妖精も悪魔も、この世界にはいなかったのだ。

 

 彼女が目にしてきた生き物は全て、『かつての世界にも見られた』やつだけ。言い換えれば、彼女にとっては既存の生き物でしかなく、件の怪物は……正しく、この世界だけのオリジナルであった。

 

 

 だからこそ、彼女は気になった。

 

 

 仮にそれが(想像するのも嫌な話だが)宇宙怪獣ならば、周囲一帯を焦土に変えようが殲滅するところだが、そうでないのならば話は違う。

 

 故に、二人と別れてから、彼女は大陸でやっていた事と同じく日本中を回る事にした。どうしてかって、電話などが有るわけ無いのだから、足で探す他なかったわけだ。

 

 

 とはいえ……そこまで本腰を入れて探すつもりはなかった。

 

 

 いや、正確に言い直すのであれば、色々な意味で探す余裕が無かったのだ。

 

 何せ、日本を回ってみて改めて分かった事なのだが……どうも、今の世は戦国……後の歴史書に『群雄割拠の戦国時代』とか書かれそうなぐらいに、世が荒れ果てていたのである。

 

 もう、何処も彼処もバチバチである。さすがに目と目が合った瞬間、殺し合いになった……なんてわけではないが、それでもこう……空気がこう、不穏なのである。

 

 

 ──領民を幸せにして、自分たちも幸せになる。騙し騙され殺し殺される殺伐さなんぞ真っ平御免だと考え、その為に活動する領主はいた。

 

 

 だが、そんな天然記念物を通り越した絶滅危惧種なんぞ、本当に片手の指に数えられるぐらいしかいなかった。

 

 何処ぞで小競り合い、何処ぞで大勢死人が出た、何処ぞの城が戦を始めたなんて話が人々の話題に上がるのなんぞ、もう当たり前。

 

 昨日まで田畑を耕していたやつが、翌日には血みどろになっていたりする。昨日まで話していたやつが、翌日には数多の死骸の中に紛れて転がっていたりもする。

 

 それが、戦国の世なのだろう。覇権を手にする為に、誰も彼もが武器を手に取った。それが、今の世の流れなのかもしれない。

 

 実際、それが武士の本懐であり、それが上に立つ者の常識であったのは、彼女も分かっていた。もちろん、その中には、世の流れを嫌がるやつもいることも、彼女は分かっていた。

 

 

 だが、時代が許さなかった。何処も彼処も、野心に満ち溢れた者ばかりであった。

 

 

 そんな時代に、彼女は目立ち過ぎた。大陸とは違い、人間のフリをした時の、彼女の熟れた桃色の長髪は人目を引き過ぎた。それはもう、どうしようもない話であった。

 

 だからもう、彼女は戦国の世がある程度落ち着くまで、一旦は地上から離れる事にした。

 

 異形の怪物の件は、確かに気になる。けれどもまあ、時代が悪いのだ。幸いにも、バスターマシン7号となった今の彼女には、時間に対する感覚がかつてとはかなり異なっていた。

 

 だから、待つという行為にそれほど苦痛を覚えることはなかった。日本を離れて大陸を回るのではなく、とにかく彼女は日本の上空にて待つ事を選んだ。

 

 日中は目立つから雲の中に隠れ(ここでは、ある程度見た目を誤魔化しても目立ち過ぎてしまう為)、夜は夜で目立つから結局は雲の中に隠れたりとかして……そうして、そろそろ落ち着いて来たかなと思った彼女は……そう、彼女は。

 

 

「……日の神様ですか?」

「……もしや、縁壱なのか?」

 

 

 まさか、地上では数十年ほどの時が流れていて。記憶の中では若々しく力強い青年であったはずの男が、面影こそ有ったとしても、皺が目立つ老人に成っていようとは……夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……初めて縁壱たちと出会ったのが偶然であるならば、此度の遭遇もまた、偶然でしかなかった。

 

 

 時刻は、夜。奇しくも、初めて出会った時もまた夜で、ソコを選んだのもまた、特に深い理由は無かった。

 

 本当に、何の理由も無かった。縁壱の姿を目撃したわけでもないし、興味を惹かれるモノがあったわけでもない。

 

 強いて理由を挙げるとするなら、何となく視線を向けた先にあった、降りやすそうな所。それ以上でもそれ以下でもないソレを考えた結果が……年老いた縁壱との再会であった。

 

 

 ……ちなみに、彼女が降り立ったソコは、日本全国の至る所にある、無数に存在する何の変哲もない街道(という程に整備されているわけでもないが)の内の一つであった。

 

 

 人の往来で踏み固められた道ゆえに、そこを除けば周囲に広がっているのは雑草や木々ぐらいしかない。当然、そこに居合わせた老人……縁壱以外に人の気配はなかった。

 

 ぷん、と臭うのは緑の臭い。彼女はすっかりそれらに慣れてしまっているので気にも留めない、濃厚な臭いと自然の気配が闇に紛れて漂う、その中で。

 

 

「……こうして日の神様と相まみえる機会が二度も訪れるとは……これもまた、天の采配でしょうか」

 

 

 ポツリと、それでいて感慨深そうに呟いた縁壱は、静かに頭を下げた。

 

 その髪は、夜の中でもはっきり分かるぐらいに真っ白になっていた。年齢は……おそらく、80歳前後といったところだろうか。

 

 

 ……老いたな、と。

 

 

 胸元や額に見られる変わらぬ痣とは違い、皺が目立つ肌は確かな年月を物語っている。己とは違う、歳を重ねるという現実を前に、彼女は少しばかり寂しく思った。

 

 背丈があって、首も手足も太く若々しさに満ち溢れていた頃を見たからこそ、余計に。ああ、やはり私はバスターマシンなのだな……と思い知らされるような気がした。

 

 

 ……けれども同時に、彼女は内心にて首を傾げていた。

 

 

 何故かといえば、変わっていないのだ。いや、痣のことではない。何と言い表せば良いのか……そう、縁壱から感じ取れる、生命力とも呼べるソレが、若い頃と比べてほとんど変わっていないのだ。

 

 

 ……こいつ、やっぱり人外なのではないか……と。

 

 

 失礼な話ではあるが、あの頃とほとんど変わりない雰囲気を放っている眼前の老人(?)を見て、率直に抱いた彼女の感想が、ソレであった。

 

 

「……申し訳ありません。茶屋が近ければ団子の一つでも召し上がっていただきたいところですが、あいにく、この辺りには……」

 

 

 そんな彼女の内心を他所に、顔を上げた縁壱は困ったように視線をさ迷わせる。それを見て、しばし目を瞬かせた彼女は……堪らず、フフッと笑みを零した。

 

 縁壱が困ってしまうのも、無理は無いなと彼女は思った。事実、客観的に見ても、それは致し方ない事でもあった。

 

 彼女にとって、縁壱とのアレは数ある思い出の内の一つに過ぎないが、縁壱にとっては違う。妻と子供の命を助けてくれた恩人……それが、縁壱にとっての彼女である。

 

 

 あの頃と同じく、頑固なまでに義理堅い性格はそのままなのだろう。

 

 

 たとえ近くに茶屋が有ったとしても、こんな夜更けにやっているわけがない。見た目に出ていないから分かり難いが、けっこう動揺しているんだな……と、彼女の視線が縁壱の腰に向けられた。

 

 

「……ところで、そんな物を下げて、こんな時間にどうしてこんな場所に?」

「ああ、これですか……」

 

 

 チラリと、彼女の視線を受けて……己の腰に下げた刀を見やった縁壱は、「未熟な様を見られてしまいました」少しばかり視線をさ迷わせた後……フッと、彼女の瞳を見つめた。

 

 

「──日の神様。突然の事で申し訳ありませぬが、しばし、私の昔話に付き合っては貰えぬでしょうか?」

「……? 構わない、少し待て」

 

 

 口調や目の色こそ変わらないが、何か……そう、眼前の縁壱の雰囲気が、少しばかり変わったような気がした。なので、彼女は落ち着いて話を聞くために、フィジカルリアクターを稼働させた。

 

 ──道の傍に、彼女は掌を向ける。

 

 途端、淡く光り輝く物体がふわりと出現したかと思えば……ものの数秒後に光が消え、そこにはベンチが出来ていた。

 

 

「おお……あのふわふわの布は、このように作られたのですね」

「まあ、原理は一緒かな。立ち話も何だし、座りなよ」

「かたじけない。あの時も、今も、日の神様は慈悲深い御方だ」

 

 

 傍から見れば神の御業としか思えない光景を前にして、縁壱は子供のように目を瞬かせた。けれども、驚く様はとても静かであり、特に怖気づくこともなく、あっさりベンチに腰を下ろした。

 

 その隣に、彼女も腰を下ろす。それは、何とも奇妙で珍妙で……摩訶不思議な光景に見えた事だろう。

 

 

 片や、外ツ国とも違う歌舞伎な恰好をした、赤く光り輝く長髪をゆらゆらと靡かせる美女。

 

 片や、青年顔負けの力強さを感じさせながらも、植物のように老成した雰囲気を醸し出している剣士。

 

 

 見世物にしたら、少しは小銭を稼げるんじゃないかな……そんな感想を秘めつつも、「──さて、話とは?」さあ話をせい、と隣の縁壱に促した。

 

 

 ……促された縁壱は、すぐには話を始めなかった。

 

 

 けれども、それは迷っているわけではない。表情の変わらぬその面の奥に、積もりに積もった想いを言葉に変えようとしている。

 

 

 少なくとも、彼女はそう判断した。

 

 

 そして、その判断は間違ってはいなかった。何をするでもなく時間だけが過ぎていく最中……ポツリと零し始めた縁壱の話を聞いて、彼女は思った。

 

 

 縁壱の語りは……まず、縁壱自身の生まれから始まった。

 

 

 若かりし頃に見た太い首や尋常ならざる身のこなしから只者ではないだろうと彼女は思っていたが、どうも……それなりに名のある、とある御城の双子の弟として生を受けたらしい。

 

 彼女には理解出来ない事であったが、双子というのは凶兆とされ、基本的には弟の方が殺されてしまう。そうならなかったのは、単に母が身を呈して守ってくださったから……だと縁壱は話した。

 

 そこでは、縁壱は双子という凶兆とはまた別の理由から、望まれぬ子として周りの視線を集めていたらしい。

 

 というのも、今でこそこうして普通(?)に振る舞える縁壱だが、幼い頃の彼は白痴(はくち:昔の言葉で、知能が低い人のこと)の子として疑われ、自身もまたそう自覚していたから、とのことだ。

 

 どうして縁壱がそう思い、かつ、周囲にそう思わせてしまったのかといえば、それは物心ついた時にはもう見えていたらしい、『透き通る世界』というのが原因であった。

 

 

 『透き通る世界』とは、何ぞや? 

 

 

 そう彼女が尋ねれば、縁壱は「万物の全てが、透き通って見えるのです」と、簡潔に答えた。

 

 具体的には、相手の臓腑や鼓動や息遣いが透けて見え、次に相手がどのように動くかが手に取るように分かる……という感覚らしい。

 

 にわかに信じ難い話ではあるが、縁壱が言うのならそうなのだろう。他の奴なら一笑してしまうところだろうが、縁壱ならば、ありえなくは……話を戻そう。

 

 幼い頃の縁壱は、それが原因で頭の中が混乱しっぱなしだった。まあ、当然だろう。

 

 物心もついていない頭で、そんな光景を当たり前に視認して、普通の子供のように振る舞えるわけがない。

 

 おそらく、白痴と言われた理由は、それだ。脳に送り込まれる情報の整理に手一杯で、話し掛けられても返事が出来なかったのだろう。事実は違うが、結果的に白痴の子として見られた……というわけだ。

 

 実際……縁壱の話を聞いてそう思った彼女の推測は正しかった。縁壱自身も、似たような理由だろうと見当をつけていた。

 

 そして、幸いにも他者の声を理解することだけは出来ていた(自分がどのような立ち位置なのかも察した)ので、何とかある程度の制御が出来て会話が出来るようになるまでは、とても歯痒かった……と、縁壱は語った。

 

 

「……それで?」

「本来であれば、私はとうの昔に忌み子として死ぬはずだった。今の私があるのは、単に愛情を捧げてくださった母上と、こんな私を見守ってくださった兄上のおかげだ」

「兄……貴方の双子の兄だね?」

 

 

 彼女が訪ねれば、縁壱は静かに……それでいて寂しそうに、かと思えば何処か嬉しそうに微笑みながら頷いた。

 

 それから、縁壱はようやく『透き通る世界』をある程度制御出来るようになった後。後継ぎ問題から寺へと追いやられる際に行方を眩ませる……それまでの日々を語り始めた。

 

 とはいっても、実際に縁壱が語った話の中身の大半は『兄上』に関することだった。

 

 縁壱曰く、『兄上』はとても心優しく、未熟な私を想い、何時も私を守ろうとしてくれる、私などよりも崇高な御人……であるらしい。

 

 そうして、行方を眩ませた後。

 

 縁壱は、心から愛せる女性に(おそらく、うたの事だろう)出会い、一緒に暮らし、子供も日の神様(つまり、あの時の彼女だ)の助力で生まれ、幸せな日々を送った。

 

 正直、お前はどんだけ兄上と奥さんが好きなんだよ……と、思わないでもない彼女ではあったが、それを口に出すことはしなかった。

 

 

「実は日の神様に助けられたあの後、私たちの下にとある組織の者が訪ねて来ました」

「組織とな?」

「名を、鬼殺隊(きさつたい)。家に押し入ってきた、あの異形の者たちを討伐する組織です。私は、そこで御館様に雇われる形となり、鬼を討伐しておりました」

「鬼を?」

「どうも、私はそういった事に天性の才があったようで……荒事は嫌いでしたが、貴女様との約束や、人の為になるならばと、うたも賛同してくれたのもあって……」

「まさか、今も?」

「いえ、やつを取り逃がしてしまった責を取る為に自ら鬼殺隊を辞めました。辞めたこと自体は何とも思ってはおりませんが、やつを取り逃がしたのは……それだけは……」

「……落ち着け、怖い怖い怖い、いきなり真顔にならないで」

 

 

 それをする前に、少しばかり嬉しそうに話していた、その声色が……少しばかり冷えたからであった。

 

 

 ──縁壱曰く、異形の者たちの正体は『鬼』。鬼とは、一言でいえば人を食らう魔物であるとのことだ。

 

 

 『鬼』は全て、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)という名の主(こいつも鬼らしい)が生み出した、夜の中でしか生きられない存在である。

 

 日の下に出れば瞬く間に消滅してしまう存在ではあるが、その力は絶大。特殊な材料を用いて精製された武器でなければ仕留める事は叶わず、手足を落としてもすぐに再生してしまうのだという。

 

 

 ……なるほど、適材適所だなと彼女は思った。

 

 

 けして、その脳裏にあの時の……瞬時に鬼を数十分割し、それを夜が明けるまで息継ぎせずにやっていた光景は、思い浮かべてはいなかった。

 

 

「……で?」

 

 

 とりあえず、鬼舞辻とやらから話を変えようと思って促せば、「離れてからは、私はうた達と穏やかに過ごしました」縁壱は無表情ながらも話を変えてくれた。

 

 

「妻は25年前に、孫も大きくなりました。息子より『気遣う事なかれ』と言われたのもあって、私は一念発起し、今生の心残りを晴らす為にこうして毎夜、鬼を狩り続けております」

「……え、毎夜?」

「はい、こうして鬼が出そうな場所を見回り、見つけ次第鬼狩りをしております」

「ええ……」

「今宵は、どうにも胸騒ぎを覚えておりました。故に、急かされるがままこうして……貴女様に出会えたことを、神仏にも感謝せねばなりませぬ」

「そ、そうか……」

 

 

 今生の心残りとか、鬼殺隊とか、色々と気になる点はあったが、それよりもまず彼女の注意を引いたのは、その部分であった。

 

 

 いや、だって、冷静に考えてみてほしい。

 

 

 正確な年齢は不明(おそらく、縁壱自身も把握はしていないだろう)だが、その御年は……少なくみても70代後半である。

 

 雰囲気や佇まいこそ年齢不相応だが、肌は嘘をつかない。確かに、眼前の縁壱は年老いている。年老いているはず、なのだ。

 

 

 ……これが、かつての彼が暮らしていた、様々な分野が発達した時代であったならば、まだ話しは分かる。

 

 

 けれども、この世界は(正確には、今の文明レベルでは)そうじゃない。若かろうが何だろうが風邪やら何やらであっさり死ぬ。それが、今なのだ。

 

 生きて50年、60年。それが、ここの常識なのだ。速い者なら40代ぐらいで孫が出来ていても、何ら不思議な話ではない。

 

 そんな世界で、70後半だ。しかも、こっそり彼女がスキャンした限りでは肉体に何一つ病が発生しておらず、出会った時から僅かばかり衰えがみられるだけ。

 

 

 ……どういう身体をしているのだ、こいつ本当に人間なのだろうか。

 

 

 今更といえば今更な事を……というか、こいつ(縁壱)の事を考えるたびに同じようなことを考えているなあ……と思ったのは、彼女だけの秘密である。

 

 

「……とはいえ、私も老体となりました。さすがに三日三晩休まずに動く事叶わず、昼間は休む必要がありまして……不甲斐ないばかりです」

 

 

 そんな彼女の内心を他所に、縁壱はしみじみと……それはもうやるせないと言わんばかりに、そんな事をほざいた。

 

 

「……?」

 

 

 あまりに意味の分からない事を言い出した縁壱に、彼女はぱちぱちと目を瞬かせるしかなかった。

 

 

「今もなお戦っている若き剣士たちに負けぬ気概で頑張ってはおりますが……さすがに、若い頃のようには動けませぬ。山を五つ超えたぐらいで息切れしてしまう己の衰えに、歯痒いばかりであります」

「…………?」

 

 

 思わず、彼女は改めて縁壱の全身を見回した。それぐらい、彼女は縁壱の言っている事が分からなかったからだ。

 

 いや、言葉は分かっているのだ。縁壱の話している事は、1から10まで理解している。だが、だからこそ……彼女は首を傾げるしかなかった。

 

 

 ……この世界の老人は毎晩毎夜、山を五つも超えて動き回れるぐらいに活動的なのだろうか? 

 

 

 そんな馬鹿な……いや、もしかしたら……縁壱の常識で物を考えてはいけないと彼女も分かってはいたが、そう思わずにはいられなかった。

 

 

(あの時の私の言葉をそのまま実践してくれていたのは嬉しいが……うん、やっぱりこの人ちょっとおかしい。本当に人間か? 実は私と同じバスターマシンじゃないよね?)

 

 

 夜が明けるまでの短い付き合いでしかないが、それでも分かる。やはり、この男はもう何というか次元が違う。中身は変な所で頑固で義理堅い男なのに、それと連動している身体があまりに異次元過ぎる。

 

 実はわたくし、バスターマシン縁壱なのです……とか言われたら信じてしまうぐらいに、こう、何もかもが人外の域である。

 

 

 ……こんなやつから逃げ回れることが出来る鬼舞辻とやらも、大概なやつなのではないだろうか? 

 

 

 そう、彼女は思った。と、同時に、危険ではあるだろうが、出来る事ならその姿を拝見しておきたいものだが……ん? 

 

 

 不意に──縁壱が彼女から視線を逸らし……大きく目を見開いた。

 

 

 いったい、どうしたのか。気になった彼女は振り返り……視線の先。距離にして20メートルの位置に立つ、帯刀している異形の者に目を向けた。

 

 

 ──その異形は、人の形と人の成りをしている男であった。

 

 

 しかし、放たれる気配が違う。何よりも、その顔に備わる六つの瞳が……その異形を、異形であると証明していた。

 

 だが……その姿よりも、なによりも。

 

 彼女の興味を引いたのは、その異形の顔に浮かんでいる表情。その造形は……目玉の数こそ違いはあるが、縁壱とよく似ている。

 

 そして、何よりも……今にも目玉が零れ落ちんばかりに開かれた六つの瞳が、こちらを見つめている。その理由が、彼女は気になった。

 

 彼女の姿に驚いた……いや、違う。

 

 チラリと、異形から視線を戻し……大粒の涙を零している縁壱を見やった彼女は、思わず目を瞬かせた。そんな、彼女を他所に。

 

 

「兄上……お探し致しました」

 

 

 次から次へと溢れ出る涙をそのままに、ゆるりと縁壱が立ち上がる。「……え、兄上?」疑問符を浮かべ続けている彼女を尻目に、縁壱は……異形へと向き合う形で立ち止まった。

 

 

「……縁壱……何故……お前が此処に……」

「これもまた、日の神様のお導きでしょう……」

 

 

 ポツリと零れたその呟きに初めて、異形の視線が縁壱から……困惑している彼女へと向けられた──途端。

 

 

「日の神……日の神……日の神、だと……!」

 

 

 何故か、いきなり異形の顔色が変わった。

 

 あまりに突然の反応に、(いや、お前も私の事をヒノカミとか言うの?)と思わないでもない彼女であった……と、いうか。

 

 

「何故だ……何故、お前ばかりが……まだ生きているのだ……日の神に……何故、お前だけが……!」

「兄上……どうして、鬼舞辻の手になど……鬼などに……」

「……どうしてだと……お前が……お前がそれを……天に愛されるお前が……この私に言うのか……!」

「兄上は誤解をなされている。私もまた、歴史の中に生まれた玉石の一つに過ぎません。私なんぞ、兄上に比べれば……」

 

 

 少しぐらい状況を説明しろと彼女は思った。しかし、そんな彼女を尻目に、縁壱がその言葉を言い終えるか否かの瞬間、ばきり、と。

 

 

「己なんぞ……だと……!」

 

 

 兄上と呼ばれる異形の奥歯が砕けた……如何様な逆鱗に触れてしまったのか……それは、彼女には分からなかった。

 

 

「縁……壱……!」

「ご安心召されよ……兄上の責は私が取ります。人の愛を教えてくれた兄上と共に、私もまた地獄の業火に焼かれましょう」

「……縁壱……縁壱、縁壱、縁壱縁壱縁壱……縁壱……!!!」

 

 

 ぬらり、と。

 

 噛み締めた奥歯が砕けるままに憤怒の形相となった異形が、腰に下げた鞘から刀を抜く。血のような赤みを帯びたそれは、ただの刃でないことを物語っていた。

 

 

「……お労しや、兄上」

 

 

 対して、すらりと抜かれた縁壱の刀は、まるで日を思わせる灼色(あかいろ)をしていて。色合いこそ似ているが、まるで天と地を思わせるような、正反対の印象を与える輝きを放っていた──と。

 

 

 ──参る。

 

 

 そう、縁壱が呟いた時にはもう……戦いは始まっていた。だがしかし、それを戦いと呼ぶには……あまりに一方的な光景であった。

 

 異形は、放たれる気配に違わず常識外の力を有していた。身のこなしや振るわれる刃、普通の人間が相手なら、例え相手が100人掛かりでも2分と掛からず全滅させられるだけの速さがそこにはあった。

 

 加えて、肉体的なアドバンテージは、圧倒的に兄上と呼ばれた異形……いや、鬼の方であった。

 

 何故なら、受けた傷を瞬く間に修復してゆくのだ。深手の傷を負おうが、すぐさま傷が塞がり、応戦する。人間ならば致命傷の傷を負っても、まるで堪えた様子を見せない。

 

 

 普通に考えれば、まず勝てないだろう。

 

 

 何せ、鬼とは違い、人間はそのように傷が治ったりはしない。出血して失われた血の補充は一昼夜では利かず、骨が折れれば完治まで相応に月日を要する。

 

 手足が落とされれば鬼のように繋がることは無いし、痛みや疲労で動作が鈍る。無尽蔵の体力がある鬼とは違い、動けば動く程に息がきれてしまうのが人間なのだ。

 

 そんな、様々なアドバンテージを得てもなお……それでもなお、縁壱を相手取るには足り得なかった。

 

 縁壱の、その動き、とてもではないが老体のソレではない。人外である異形の速さをもってしても、人間である縁壱の動きにまるでついていけない。

 

 辛うじて……そう、辛うじて異形の者は致命傷こそ避けているが、それも時間の問題だろう。

 

 何せ、顔色一つ変えずに刃を振るう縁壱に対し、異形の顔色は遠目からでも分かるぐらいに悪い。このままでは成す術も無く負ける事が分かっている、そんな目をしている。

 

 憤怒、嫉妬、焦燥、おおよそ良い意味で表現出来ないであろう形相だが、形相だけ。それでもなお……縁壱の刃を防ぎ切れず、次から次に負傷し……気付けば、傷の修復が成されなくなっている。

 

 

 そうして……続けられた剣戟は、時間にして5分にも満たなかった。

 

 

 しかし、その間には、幾千幾万にも及ぶ不可視の駆け引きが二人の間で行われていたのだろう。

 

 あいにく、無知な彼女には分からなかったが……それでも、傷だらけの異形と無傷の縁壱が同時に距離を取り、向かい合う形で改めて刀を構えたのを見た時。

 

 

 ──ああ、終わるのだな。

 

 

 それだけは、理解する事が出来た。そして、実際に終わりの時は──その直後に訪れた。

 

 

 太陽の輝きを思わせる、灼刀の揺らぎ。万物を照らす温もりは灼熱へと姿を変え、闇夜に蠢く鬼を滅する一撃と成りて。

 

 月の優しさを思わせる、静かな揺らぎ。万物の心を安らげる光は、空高く輝き続ける太陽を討たんとする一撃と成りて。

 

 

 日の呼吸──その言葉を、異形は聞いた。

 

 月の呼吸──その言葉を、太陽は聞いた。

 

 

 日は、月を支えて守ることで、明日へと飛び立つ足場に成るはずだったのに。

 

 月は、日の支えを受けて、日だけでは行けぬ明日へと向かうはずだったのに。

 

 

 

 いったい、何処で間違えてしまったのか。何が、間違ってしまったのか。それは、事情も何も知らない彼女には知り得ないことである。

 

 

 

 けれども……太陽が放つ灼刀のきらめきが、異形の頸(くび)を断ち切った、その瞬間。

 

 涙を流す日と、涙を流す月。

 

 ごとん、と大地を転がる頸。合わせて、ぼろぼろと、少しずつ朽ち果て始める異形の身体。夜空へ向いた月の傍に座る、日。

 

 互いを見つめるその視線が改めて、ようやく交差したその時にはもう……取り返しのつかない全ての決着が、ついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………互いの間に流れた沈黙は、思いの外短く。互いの頬を伝う涙が一つ、零れ落ちるまでと、ほぼ同じであった。

 

 

「……縁壱……私は、お前が羨ましかった……お前が、妬ましくて堪らなかった……」

 

 

 頸だけとなった異形……いや、縁壱の兄は、ポツリと呟いた。

 

 

「天に愛されたお前の才に嫉妬した……いくら研鑽を積もうが、どれだけの血反吐を吐こうが……辿り着けぬ領域……妬ましくてならなかった……」

 

 

 それは、もしかしたら生まれて初めてとなる弟への本音の吐露だったのかも……いや、事実、そうなのだろう。「兄上……」涙で濡れた頬をそのままに、縁壱は言葉を失くした。

 

 

「お前が……いっそのこと……傲慢であれば良かった……無様な兄など蹴落とす……そんな弟であれば良かった……」

「兄上……兄上は無様などではありません。兄上を蹴落とすなど、私には……」

「……どうして、お前が生まれたのだ……どうして、お前は、私の前から消えてくれないのだ……憎い……お前が憎いのだ、縁壱……」

「……兄上」

 

 

 俯く縁壱を他所に、倒れた異形の身体の四肢は崩れ去り、既に崩壊は胴体へと達しようとしている。

 

 このまま行けば、残された頸もまた……その中で、最後の力を振り絞るかの如く、兄と呼ばれた異形は話を続ける。

 

 

「……生き恥を晒し、このような醜い姿になってまで……強さを求め続け……それでもなお、老いたお前の足元にすら……私は何をしていたのだ……何の為に、このような……」

「兄上……兄上は、誑かされてしまったのです。あの鬼舞辻に、心の隙を突かれてしまっただけなのです」

「……否……否だ、縁壱……私は望んでそうなった……家を捨て……妻を捨て……子を捨て……世のため人の為と謳いながら……ただ、お前に勝ちたいが為に……人であることすら……」

 

 

 ぽろぽろ、と。六つの目から零れ落ちる涙。静かに、けれども熱く……止まらない。

 

 

「……兄上、私は」

 

 

 その涙が……おそらく、いや、確かな切っ掛けとなったのだろう。

 

 

「私は……私だって、何時も貴方が羨ましかった」

「……なん、だと……?」

「羨ましかったのです。私が出来ない事を容易くやってのける貴方の事が」

 

 

 それも、もしかしたら……生まれて初めてとなる、兄へと向けた弟からの本音であった。

 

 

「うたに……妻に出会うまで、私は己と他者の違いが分からなかった。如何に、様々な人たちの自尊心を傷つけていたか……それを私は分からなかった」

「縁……壱……」

「兄上の言う通りです。きっと、私は傲慢にならねばならなかった。兄上がそうしたように、例え兄上を傷つける結果になるにせよ、私は……兄上を蹴落とし、上に立たねばならなかった」

 

 

 ですが……そう呟いた縁壱の顔には、苦悶の色が色濃く出ていた。

 

 

「私は兄上に甘えた。人の上に立つ責務も、家を背負う覚悟も、何もかもを兄上に押し付けて無邪気に甘えた。私はただ、わきまえたフリをした卑怯者に過ぎなかったのです」

「違う……縁壱、お前は……違う……」

「違わないのです、兄上。兄上が私に理想を押し付けていたのと同じく、私もまた兄上に理想を押し付けていた。兄上なら万事上手くやってくれると、勝手に思い込んでおりました」

 

 

 かちゃり、と。鞘に納めた刀を、頸の前に置いた。

 

 

「兄上の言う通り、私には二人といない剣の才があるのでしょう。しかし、それだけなのです。それが有っても、私はあまりに多くのモノを取り零してきました」

「…………」

「うたに出会えたから……いえ、それ以前の……兄上がいたからこそ、今の私があるのです。兄上がいなければ、私は……おそらく、ただ強いだけの無機質な男になっていたでしょう」

「…………」

「私は、兄上の思うような男ではありません。兄上から目を背け、『ありふれた生活』という恵まれた夢へ、当たり前に手に入ると思って手を伸ばした……愚か者なのです」

 

 

 その言葉と共に……縁壱は、兄上と呼んだ頸に……頭を下げた。それは、一般的には……土下座と呼ばれるものであった。

 

 

「兄上の今生が『生き恥』であるならば、私の今生は『卑怯者』です。だから、とは言いません。ですが、せめて御自身だけは蔑まないでください」

 

 

 むくりと、顔を上げた縁壱の目に浮かぶ涙……しかし、そこには先ほどのような苦悶の色は無かった。

 

 

「兄上が何と言おうと、私にとっては、兄上は憧れなのです。兄上がそう思わなくとも、私にとっては唯一無二の……憧れなのです」

 

 

 その言葉に、頸は……いや、縁壱の兄上が何を思ったのか、それは少しばかり離れた場所で成り行きを見守るしかない彼女には、分からないことであった。

 

 だが……彼女には分からなくとも、兄と弟の間には……通じる確かなモノがあったのだろう。

 

 ぼろり、と。

 

 遂に、身体中から立ち昇っていた白煙も止まり、全てが灰のように朽ち果て消えてしまった後。その崩壊がいよいよ頸から始まった……その時。

 

 

「……日の神よ。貴女は、縁壱の事をどう思う……?」

「──へ?」

「……正直に……教えてほしい……」

 

 

 不意に──六つの瞳が、手持無沙汰になっている彼女を捉えた。あまりに突然の問い掛けに、思わず変な声が出た。

 

 しかし、兄も……弟も気にしていない。どちらも、真摯な眼差しで彼女を見つめている。

 

 キラー・パスにも程があるだろう……と、言いたくなったが彼女は我慢した。自覚は無いが、伊達に今の姿になって数十年ではない。そういう細かい事は誤魔化す(スルースキル)を彼女は得ていた。

 

 

 ──さて、だ。

 

 

 気持ちを切り替えて、彼女は縁壱を見やる。今にも消えそうな兄上の為にも、いちいち考えている暇は無い。ただ、率直に思った事をそのまま伝えれば……ふむ、そうだな。

 

 

「『こいつ本当に人間か?』かな。他には、『やっぱりこいつ人間じゃない』かな」

 

 

 やっぱり、コレしかないよな。

 

 

 そう思い、言われるがまま素直に縁壱の印象について答えた。言っておくが、悪意は無い。本当に、思ったままを答えただけなのだ──が、しかし。

 

 

「……え、その、日の神様?」

「うん? 何故、驚いた顔をしているのかな? まさか貴方、自分が普通の人間だと思っていたの?」

「……人間なのですが」

「貴方みたいな人間がそう易々と生まれていたら怖いよ」

「ひ、日の神様……?」

 

 

 まさか、頸だけ(何か、白煙も出てる)になった兄が、六つある瞳と口をまん丸にさせて。

 

 その兄の首を無傷で落とした弟が、頬を伝う涙をそのままに、心外だと言わんばかりに顔をしかめる結果になろうとは、さすがの彼女も──と。

 

 

「……ふ、ふふ……」

 

 

 唐突に響いた、笑い声。驚きに振り返る縁壱と、どうしたどうしたと視線を向ける彼女を他所に、こみ上げてくる笑みを噛み殺していた兄は。

 

 

「──あははは、はーはっはっは、あははははははは!!!!」

 

 

 堪えきれないと言わんばかりに、笑った。それはもう、盛大に。

 

 

「なるほど! 日の神もそう思うか! なるほど、女神すら疑う者に追い縋ろうとした私が間抜けであったか!」

 

 

 六つの瞳から、これまでとは異なる涙を滲ませ、今はもう存在していない臓腑が震えているかのような、それはそれは盛大な笑い声を……夜空へと響かせた。

 

 あまりに突然のことに、縁壱はどうしたら良いのか分からず目を白黒させる他なかった。もちろん、彼女も縁壱と似たような思いであった。

 

 

 そうして……時間にして、十数秒ほどだろうか。兄が、笑うのを止めたのは。

 

 

 その時点で崩壊は既に頸全体に回り、ぼろぼろと顔の輪郭が崩れていた。それは六つある瞳も例外ではなく、ぴしぴしと至る所にヒビが入り、今にも砕けそうになっていた。

 

 

「……縁壱」

「──っ! 何でございましょうか」

 

 

 居住まいを正して正座する縁壱を前に、兄は……ほう、と息を吐いた。

 

 

「頼みが……ある……」

 

 

 勢いを増してゆく白煙の中で、間もなく訪れる消滅を前に……ぽつりと、兄は呟いた。

 

 

「恥の上塗りであるのは重々承知の上……頼む……我が呼吸を……月の呼吸を……どうか、後世に……」

「……っ、分かりました」

 

 

 唇を噛み締めて頷いた縁壱に、「ああ、頼む……お前なら……」兄は安堵のため息を零すと。

 

 

「地獄へは……わたしだけで……兄の……意地……を……」

 

 

 最後に、途切れ途切れにそれだけを呟き……ぽろりと崩れ落ちて灰のようになったそこにはもう……何も残されていなかった。

 

 そして、その灰すらも夜の闇へと溶け込むように消えて……その中で。

 

 

「……お労しや、兄上」

 

 

 万感の想いが込められた激情を堪えて俯く……縁壱が残されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とまあ、そんな感じの感動的で悲哀の別れが行われている、その後ろで。

 

 

(何か、よく分からんうちに兄弟が因縁に終止符を……?)

 

 

 一人(正確には、一体)、状況が呑み込めずに疑問符を胸中に浮かべまくっている彼女の姿があった。

 

 まあ……それも致し方ないことだろう。だって、本当に何も知らないのだから。

 

 何せ、ついさっきだ。

 

 つい先程、久しぶりに偶然にも再会した知り合いの昔話に付き合っていたかと思えば、その知り合いの兄……おそらくは鬼になったであろう兄と、これまた偶然にも再会し。

 

 

 そして──いきなり、殺し合いが始まったのだ。

 

 

 第三者からすれば、いきなりどうしたといった感じだろう。実際、死闘が繰り広げられている間、彼女はそんな感じのことを考えていた。

 

 もしかしなくとも、自分は全く関係ないのでは? 

 

 そう思わないわけでもなかったが、さらっと姿を消すことは出来なかった。何故かは知らないが、縁壱の兄らしき男が彼女を見て激昂したからだ。

 

 

(ヒノカミ……縁壱や、うたも私のことをそう呼んでいたが……もしかしたら、私によく似た『ヒノカミ』というやつが存在しているのだろうか?)

 

 

 にわかには信じ難い事だが、『縁壱』や『鬼』というファンタジー極まりないやつがいるのだ。人が空を飛んでも何ら不思議なことではない。

 

 

 ……まさか、バスターマシンが他にも存在すると? 

 

 

 そんな不安が脳裏を過るが……考え過ぎだろう。というか、彼女自身もこの世界ではファンタジーみたいな……この件については後に回そう。

 

 

 ……とりあえず、私はどうしたら良いのだろうか。

 

 

 この雰囲気で黙って離れる勇気は、彼女には無い。せめて、一声掛けてから離れるべきかな……と、思っていると。

 

 

「……私たちの因縁に、巻き込んでしまいました事……深くお詫びいたします」

 

 

 縁壱の方から話しかけられた。ひとまず、心の整理を付けたのだろう。立ち上がった縁壱の目じりこそ赤らんではいるものの、もう涙を流してはいなかった。

 

 しかし……その身より放たれる気配は、ほんの小一時間前に比べて5歳は年老いてしまっているように見えた。

 

 

「……その、大丈夫?」

 

 

 正直、そのままぽっくり逝きそうな気がする……という内心を隠しながら尋ねれば、「はは……大丈夫、とは言えませんな」あっさり内心を見抜いた縁壱は寂しそうに笑みを零した。

 

 

「ですが、今生の心残りは果たせました。後は、兄上に託された『月の呼吸』の指南書を記し、お館様にお渡しすれば……私の役目も終わりです」

「あ、そう」

 

 

 当たり前のように色々なキーワードが出て来たが……面倒事になりそうな気がして、彼女は何も尋ねなかった

 

 

「日の神様に会えて、良かった。先に逝ったうたにも、胸を張れる……鬼舞辻を仕留める事こそ出来なかったが、それは後の世に生まれる者たちに託そう」

 

 

 それでは──そう話し、彼女に背を向けた縁壱は──直後、そうでした、と足を止めて振り返った。

 

 

「日の神様は、何か目的があって此処に?」

「いや、特に目的はないよ。ただ、そろそろ争いも治まってきたなあ……って思って降りて来ただけ」

「なるほど、動乱の世は日の神様にとっても好ましくないというわけですね」

 

 

 納得に頷いた縁壱は、「ならば、もうしばらくは天に留まるべきかと……」けれども、困ったように首を横に振った。

 

 それはどういうわけかと尋ねれば、今はまだ落ち着いているというよりは、各々の痛み分けから来る一時的な平穏でしかないと縁壱は告げた。

 

 

「どの勢力が勝つにせよ、今は何が火種となるか分かりません。おそらくは豊臣……いえ、徳川が最後に立っているでしょうが、後50年……いや、場合によっては100年近くは様子を見るべきかと……」

「はあ、そうですか……まだ、争いは終わらないと?」

「その二つが雌雄を決する時、戦乱の世は終わると思われます。しかし、落ち着くのはもっと後……様子を見に降りに来るにせよ、今は長居をするべきではないと私は思います」

「……貴方がそう言うのであれば、そうなのでしょう。ありがとう、しばらく様子を見ましょう」

 

 

 そう彼女がお礼を言えば、恐れ多いと言わんばかりに縁壱は慌てた。

 

 しかし、彼女を否定するわけにもいかず、「そ、それでは……これにて御免」場を誤魔化すかのように一つ咳をすると……小走りに駆けだし──ん? 

 

 

 

 

 

「……ちょっと待て。まさか、あんな命がけの戦いをした後で山を越えるの? あの老体で?」

 

 

 

 

 

 あまりに普通に走って行ったから反応するのに遅れたが……その時にはもう、縁壱の背は遠く、豆粒のように彼方へと向かって行くのが見えた。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………やはり、失礼だとは思うけれども。

 

 

「……とんでもねえ縁壱だ」

 

 

 やっぱ、あいつ人間じゃないな……そんな内心を噛み殺しながら、彼女はそう呟く他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ──鬼を殺す異常者たち



 フラグ4『縁壱の兄(故・巌勝(みちかつ):鬼・黒死牟(こくしぼう)の討伐により、鬼殺隊の死亡数が永続減少(一定値で頭打ち)』



 フラグ5『縁壱により『月の呼吸』が指南書として継承され、以後、月の呼吸を習得する隊士が出現する(鬼殺隊の戦力上昇)』



 フラグ6『時々地上に降りてくるバスターマシン7号(彼女)が、たまたま遭遇した鬼を討伐するときがあり、結果的に隊士の生存率がアップ』





 ──正しく間違えず赤ちゃんにもなる御方



 フラグ4『黒死牟(後の最強戦力・不動の1位)討伐により、永続的な戦力ダウン。ならびに、老体になってもほとんど衰えていない縁壱を黒死牟越しに見てしまった事でトラウマ再発』



 フラグ5『黒死牟が存命ならば行えた戦力補充(黒死牟が行う)が出来ず、また、月の呼吸が伝わってしまったことにより、補充した鬼の消耗率がアップ』



 フラグ6『後年、何とか仕込んで育ってくれた『上弦の鬼』が、たまたま降りて来た彼女によって瞬殺されたのを見て、ストレス性胃潰瘍を発症する。髪の色が一部白くなる』





 ──コソコソ裏話



『とある組織には、とある女神の姿が描かれた、この世のものとは思えないぐらいに柔らかい布を使った御旗があって、家宝として大切にされているらしい』


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第三話: ワープするやつ絶対許さないマシン

強い肉盾&便利な手駒を揃えようと頑張っている無惨
「はあ、はあ、はあ……よ、良し、こいつの感性は良く分からんが壺は高く売れるから、表での生活資金の確保が出来そうだぞ(年収1000万)。加えて、また縁壱みたいなやつが出てきても逃げ切れるように色々考えたぞ!」

ワープするやつ絶対許さないマシン7号
「お前のところの壺、ワープするみたいやな……ほな、しょうがないな(物理無効・術無効・毒無効・弱点特攻・精神特攻・逃走阻害・回復阻害)、宇宙怪獣呼び寄せる可能性は根絶やしやで」

強い肉盾&便利な手駒を揃えようと頑張っている、無惨(無収入)
「う、うわああああああーーーー!!!????!?!?!?」



※本編とは関係あるのやらないのやら


 月明かりが降り注ぐ闇夜の中。人々はおろか鳥達も眠り始める丑三つ時。その日もまた、夜空に浮かぶ雲の一部が薄らと月を遮り大地を更に闇に染める。

 

 

 未だ夜の闇を照らす照明器具(家電)が一般的ではない、この時代……人々が未だに踏み入れていない場所は数多い。しかし、確かな存在が息を潜めている場所が、一つあるとされている。

 

 それは、雲の中……すなわち、雲海の中。

 

 空を覆う雲の中に、あるいはポツリと浮かぶ雲の中に居るとされ……何時の頃からなのかは定かではないが、人々の間で密やかに、時には隠されることなく伝わっている神様の名が、一つある。

 

 

 その名は──日の神。

 

 

 日本においては太陽の化身、あるいは天照大御神の別名だともされているその神は、意外な事に、日本のみならず諸外国にもその名が知られており、一部では神の使いとして神聖視されている。

 

 けれども、日本とは違い、諸外国における日の神の立ち位置は、その国によって異なっている。

 

 

 ある時は悪魔を連れてくる邪神として。

 

 ある時は冥界の門番として。

 

 ある時は天を司る雷神の一種として。

 

 

 ……まあ、それは良くあることなのだが、そこで、奇妙な事が一つある。

 

 

 それは、どの国でも似たような供述を成されている、日の神が住まう(あるいは、居る)場所という部分だ。

 

 不思議なことに、どの国どの地域の書物や伝承にも、『日の神は雲海の中を漂い、時に悪事を働く者に天罰を落とす女神である』とされているのだ。

 

 

 特に一致しているのが、悪事を働く者に天罰を下す女神という点だ。

 

 

 邪神としてでも、冥界の門番であっても、雷鳴を轟かせる神であっても……不思議な事に、言葉や書き方に違いはあるが、日の神にはそういった善性がある女神でもあると記され、あるいは語り継がれているのである。

 

 まあ、実際にその天罰を目にした者もいるらしい……のだが、それは今はいい、話を戻そう。

 

 そういう不思議が未だに解明されていない日の神だが、共通している部分もあれば、国や地域によってバラバラな部分もある。

 

 その中でも共通して全く定まっていないのが、『日の神の姿』だ。

 

 これまた不思議な事に、その行いよりも姿形の方がバラバラなのだ。普通は絵画や石像などで姿が先に定着する事が多いのだが、日の神に限っていえば、その逆だ。

 

 

 

 ある時は、神託を授かった美しくも心優しい村娘として。

 

 ある時は、善意を食らい悪意を産み落とす、魔女として。

 

 

 ある時は、民衆の前に立つ勇ましき聖女にして天使として。

 

 ある時は、人心を惑わせ争いを招いた、傾国の悪女として。

 

 

 

 美しく描かれる時もあれば、禍々しく描かれる時もある。ある時は匂い立つような美女として描かれ、ある時は嫌悪感を想起させる悪魔として描かれ……その姿は、実にバラエティに富んでいた。

 

 ……ちなみに、日本における日の神は、『太陽のように光り輝く長髪を揺らがせた、白き衣を身に纏う美女』とされており、時折、地上に降り立つ女神として……ああ、いや、またまた話を戻そう。

 

 ……で、だ。

 

 そんな、日本どころか世界中にその名が(正確に伝わっているかは別として)知れ渡っている……当の女神様はと言うと、だ。

 

 

「……作ったはいいが、どうしよう、これ」

 

 

 雲海の中で、困った顔をしていた。全身で、これは困った事態になったぞと物語っていた。

 

 ……まさか、雲海の中で、当の女神が途方に暮れている等とは……彼女を信仰する者たちはおろか、お釈迦様すらも……夢にも思わないだろう現実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──どうやら、私はあまり物事の先見というか、後先考えずに思いつきで行動する節があるようだ。

 

 

 

 そう、彼女が改めて実感するまでに至る数十年……いや、数百年。縁壱の言う通り、まだまだ動乱が続いていたことをこれでもかという程に体感した、事実であった。

 

 そして、それは彼女自身が気付いた事(まあ、自覚するまで長かったが)ではあるが、客観的な視点から見ても、彼女にはそういった癖とも言える性質が元々有ったのかもしれない。

 

 だが……彼女の擁護をするわけではないが、ソレに関してだけならば、彼女には特に責め立てられるような非は無い。

 

 

 ……元々、彼女は……この身体になる前の『彼』は荒事とは無縁の、いち社会人でしかなかった。普通という言い方は失礼だが、特別な何かを備えた人間ではなかった。

 

 

 言い換えれば、『彼』は凡人なのだ。可もなく不可もない、世界的に見ても平和な国の中で生まれた、凡人の一人。

 

 そんな凡人ゆえに、その視点や考え方はあくまでミクロに留まっている。つまり、自分と、その周辺……後は、おぼろげに自分の住まう国という範囲でしか物事を見た事がない。

 

 だから……というのも少し誤解を招くだろうが、『彼』はその点に関しては考えが……いや、そういうのとも、少し違う。

 

 要は、身体のデタラメさとその影響を抜きにすれば、彼女となった『彼』の精神はいたって凡人であり、彼方にそびえる山々よりも身近の草花に目が行く……そんな狭い視野しか持っていないのだ。

 

 

 ……もちろん、それが悪いわけではない。

 

 

 いや、むしろ、それが自然なのだ。二本の足で立って歩いて、普通に年老いて、死ぬ。噂を信じたり信じなかったり、食べ物の好き嫌いが有ったり無かったり、そういうありふれた人間の一人でしかない。

 

 

 しかし、それはあくまで前の話であって、今は少し違う。

 

 

 自覚はしていないが、彼女は、ある程度はバスターマシン7号の身体の影響を無意識の内に受けている……いや、受けた事で形を変えたという方が、正しいのかもしれない。

 

 そうでなければ、数百年という月日を、平常な精神のまま生きられるわけがない。脆弱な人間の精神で、誰とも話をせずに雲の中で何十年も息を潜めてなど、いられるはずもない。

 

 人間はおおよそ、孤独の中では生きられない。どれだけ孤独に耐性があっても、完全なる孤独に身を置くと、例外なく心を壊してしまうのだ。

 

 何せ、『こいつ……人間?』と誰もが首を傾げる存在であった縁壱ですら、その心は人のソレであった。

 

 

 それ以外の何物にもなれなかったから、あれほどに心を苦しめたのだ。

 

 

 

 それなのに、彼女は平気である。

 

 

 

 もちろん、人間であった頃の『彼』の部分があるから、全く何も感じていないわけではない。実際、それで再び地上に降り立ち、縁壱と再会したのだから……まあ、それもいい。

 

 重要なのは、人間としての精神を持ちつつも、同時に、バスターマシン7号としての精神性も、彼女は持っているということだ。

 

 退屈に嫌気が差すこともあるが、もう少し我慢しようと思う程度の嫌気しか覚えず、そのまま1年5年と時を待つ事が平気な程度に……その程度にしか、感じない。

 

 それは、正しく超越者(あるいは、異常者)の精神性である。普通の人間には耐えられない、上位的存在特有の考え方であった。

 

 

 ……しかし、言い換えるならば、だ。

 

 

 自覚出来ていないとはいえ、そんな精神性(バスターマシン7号の超常的な身体の影響なのだが……)が備わってしまったからこその弊害が幾つかある。

 

 

 その中でも最も表に出ているのが──己が仕出かした因果の行く末……という、客観的な視点だ。

 

 

 例えば、彼女が装備(というより、組み込まれている)している武装は本来、基本的には銃器……すなわち、長距離~超長距離が想定されたモノである。

 

 この長距離……言っておくが、地球の尺度で考えてはならない。彼女の長距離というのは、それこそ数百万メートルぐらいからが最低ラインであり、地球一周分の長さなど……である。

 

 

 なので、ぶっちゃけてしまえば彼女の射程距離は地球全体である。

 

 

 文字通り、地球という星にいる限りは射程から逃げる事は叶わない。彼女がその気になれば何時でも何処でも、裏側から攻撃する事が可能である。(ただし、地球の被害を考慮しない場合に限る)

 

 

 ……普通の感性であるなら、それが如何に馬鹿げた事であるかはすぐに思い至るだろう。

 

 

 少なくとも、以前の『彼』ならば。彼がまだ人間として生きていた時代なり世界なりの常識で考えるならば、銃口を向けただけでも、思わず腰が引けてしまっていたところだろう。

 

 だが、今の彼女はそうならない。

 

 暇潰しも兼ねて雲の中から地上を見下ろしていた際、何気なく……本当に何気なく、闇夜の中からスルリと姿を見せた異形の存在(つまり、『鬼』)を見つけた、その直後。

 

 

 ──あ、鬼発見。

 

 

 そんな呟きと共に、はるか上空を漂う雲の中からバスターミサイルを一発。時折、傍にいた人だとか獣だとかが衝撃で転げまわる事があっても、『生きているんだから、ヨシ!』で終わらせる。

 

 ミサイル一発で、地面に穴が開く。場合によっては周囲の木々もなぎ倒すことだってあるが、まあ、死者が出ないのであれば微差としか思っていないし、思えない。

 

 

 その感覚は、もはや駆除である。

 

 

 断言しておくが、鬼を倒す等といった使命感や義務感などではない。ただ、増えると色々と厄介だろうなという、そんな程度の感覚でしかなかった。

 

 ……もちろん、人間たちに対する愛着があるからこその、行動でもある。でなければ、わざわざミサイルを放ったりはしない。

 

 実際、人間に擬態をして世界中を回った時もそうだが、仲良くなった相手が寿命を迎えるのは悲しいし、縁壱が亡くなったのを知った時は、寂しくもなった。

 

 そんな彼ら彼女らの子孫が生きていてくれるのは、正直言って、嬉しい事だ。わざわざ顔を見せに行くつもりは毛頭無いが、元気にやっていることが分かれば、相応に嬉しく思う。

 

 

 しかし、それだけだ。

 

 

 死ぬのならば死ぬで、助けようとは思わない。たまたま足元を通った際に危機に陥っていれば助けもするが、わざわざ助けには行かない。

 

 

 命が終わること事態は悲しいが、生物である以上は仕方のない事である……それが、今の彼女の認識であった。

 

 

 だから……特に思う所もなく、見つけ次第、台所に湧いたネズミを駆除する程度の感覚で、彼女は地上へミサイルを放つ事を繰り返していた。既に、四ケタに達した辺りからもう、Kill数を数えてはいない。

 

 幸いにも……という言い方も変な話だが、見付けた鬼のほとんどはミサイルの直撃を受けて灰となった。稀に傷を再生させて復活するやつもいたが、肉片一つ残さず打ち抜けば同じ事。

 

 狙われた者からすれば、堪ったモノではないだろう。それが例え、常人を容易く凌駕した身体能力を持つ、異形の怪物であったとしても。

 

 何せ、彼女が居るのは上空8000メートルから10000メートルの間ぐらい。発生する雲の位置や種類によってある程度変わるが、基本的にはそれぐらい上空を飛んでいる。

 

 人間の身体を綿菓子のようにあっさり引き裂く怪物とて、そんな上空を飛ぶ彼女を捉えるのは不可能。いや、それどころか、その姿を認識することすら至難の業である。

 

 そんな位置から、一方的に砲撃されるのだ。それも、着弾位置の誤差がミクロン単位という正確なバスターミサイルで、だ。

 

 おまけに、その一発一発は早い。さすがに光速とまではいかないが、それでも肉眼では捉えるのは難しい。鬼ですら、そのほとんどが認識と同時に着弾しているのだから……そのデタラメさが窺い知れよう。

 

 そんなデタラメな事を容易く行える存在が、果たして以前の脆弱な人間の感覚のままでいられるのだろうか……答えは否。自覚の有無を問わず、遅かれ早かれ仕出かす未来が確定する。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 大分逸れていた話を元に戻すが、そんな彼女は此度、やってしまった。色々と、それはもう後先考えず、やってから後悔するというありふれた失敗をしてしまった。

 

 

 いったいそれは……答えは一つ。

 

 

 下手に地上に降りるのはマズイという縁壱の忠告をしっかり守ること、数十……降りる度に騒ぎになってしまったから、結局は百数十年近い時を待つハメになって。

 

 そうして、いいかげんに暇を持て余していた彼女は、戯れに作ってしまったのだ。この時代どころか、100年以上先でも再現不可能なオーパーツを。

 

 

 いったい何を……答えは一つ。

 

 

 たまたま地上を覗いた際に見かけた絡繰り人形なる物を見て、彼女は考えた。そうだ、暇潰しも兼ねて、私も絡繰り人形を作ってみよう……と。

 

 その結果、何が生まれたのか……答えは一つ。

 

 

「動きを再現するのに核融合炉が必要って、やっぱアイツは人間じゃない……?」

 

 

 その絡繰り人形の外観は、人間の男である。より正確に言い表すのであれば、背丈もあって首も太い、屈強な男である。

 

 装甲はバスターマシンにも併用された特殊金属。動力に縮退炉を使うのは危険すぎるので、まだ出力の弱い核融合炉を使用。

 

 それらを十二分に制御する為の量子コンピュータを内蔵することで、スムーズな……ああ、いや、そうではない。

 

 

 ……回りくどい言い方を少し止めて、はっきり言おう。

 

 

 その絡繰り人形の顔は彼女の記憶の中にある縁壱であり、見た目は何処から見ても人間だが、その身体はバスターマシンに使用される特殊金属で構成され……まあ、つまりは、だ。

 

 

「……フィジカルリアクターは万能なれど、さて、どうしたものかなバスターマシン縁壱」

『お労しや、兄上……!』

「記憶の中のお前は晴れ晴れとした最後だったのに、どうしてお前は地獄をさ迷い歩いているかのような表情になるのだろうね」

『お労しや、兄上……!』

「いや、ほんと、作った私が言うのも何だけど、何がどうなってそうなったの? さっきから同じ事しか言わないけど、本当にどうなっているの?」

『お労しや、兄上……!』

 

 

 未だにコイツは人間であったのかと疑う時がある、『鬼見必殺(鬼は絶対ぶっ殺すマン)ロボ』をこの世に作り出してしまった……というわけであった。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………え、それが、どうしてやらかしたことになるのかだって? 

 

 

 

 

 これがまた、困る話なのだ。

 

 

 

 何故なら、このバスターマシン縁壱ロボ……略して縁壱ロボだが、まず、その存在を構成している全てがオーパーツ……つまり、現在の人々の科学力では逆立ちしたって解明出来ない代物である。

 

 知識の無い人が見ても精巧に作られた人形だと思われる程度だが、知識が有る者が見れば、例外なく目を剥いて……1人の例外もなく、このロボの出所を探ろうとするだろう。

 

 というのも、この縁壱ロボ……想像するまでもなく、現在の人々の手では破壊不可能なうえに、万が一(兆が一の可能性も無いが)暴走したが最後、彼女以外に止める手段が無いのだ。

 

 対宇宙怪獣を想定した装甲は伊達ではない。さすがに、バスタービームの直撃には全く耐えられないが、銃弾……いや、戦術核程度の火力ではビクともしないぐらいに強固である。

 

 そのうえ、この縁壱ロボの機動力もヤバい。何がヤバいって、生前の縁壱と同じ動きをする……そう、アレだ、お前本当に人間かと彼女が疑ってしまった、あの動きをする。

 

 起動テストも兼ねて地上に降り立ち、見付けた鬼を相手に試してみたが……正直、こいつと相対した鬼たちに対し、僅かばかり気の毒に思えたぐらいにヤバかった。

 

 

 だって、死なないのだ。いや、正確には、死ねないのだ。

 

 

 縁壱ロボの手によって全身を170分割ぐらいされてもなお死ねず、朝日が昇るまで延々と切り分けられ……最後は誰もが同じ言葉を零した。

 

 

 ──やっと死ねる、と。

 

 

 もちろん、中には幾らか抵抗出来たやつもいた。

 

 そういうやつらは決まって瞳に文字が入っている奇妙なやつだった。共通して再生する速度が速く、他のと比べて少しばかり手間取りはしたが……結局、最後は同じとなった。

 

 だって、縁壱ロボの動きがもう生物のソレではないし。間違って縮退炉積んだかなと思うぐらいの機動性の前には、瞬殺されるか30秒持つかの、その程度の違いでしかない。

 

 だいたい、この縁壱ロボには人間の肉体という、オリジナルの縁壱すら逃れられなかった生物としての弱点が無い。鬼の方から『お前反則だろ!』と怒鳴られたのは、恐らく縁壱ロボが初めてだろう。

 

 いや、それどころか、圧倒的なアドバンテージすら得た事で……もはや、存在するだけで世の理を乱してしまう存在である。

 

 

 

 ……はっきり言おう。作ったけど、コイツやばい……それが、彼女の偽りならぬ本音であった。

 

 

 

 ……で、だ。困るというか問題となっているのは、作る前よりも、そこから後。具体的には、この縁壱ロボをどうするか……その一点である。

 

 

 何せ、初めての作品である。フィジカルリアクターという反則技を使って作ったにせよ、これは違う此処が違うと頭を悩ませ時間を掛けて作った、渾身の一品である。

 

 有り体にいえば、愛着が湧いた。少なくとも、露見すると混乱を招くから分解しようという判断を即座に却下する程度には。

 

 

 さりとて、何時までも保管はしておけない。

 

 

 何故なら、ここは空中……雲の中。当然、重力の影響は万人に降りかかっていて……縁壱も例外ではない。

 

 で、残念ながら、縁壱ロボにはロケットブースター等といった飛行装置は備わっていない。拘りが有る彼女は、そんな無粋な物は付けないのだ。

 

 

 なので、フィジカルリアクターを応用して縁壱をその場に留めておく事で落下を防いでいる……というのが現状だ。

 

 

 ……こんなことを言うのも何だが、疲れるというわけではない。だが、どうも気が休まらない。例えるなら、こう……24時間、背筋を伸ばしっぱなし……という感覚だろうか。

 

 嫌になったわけでもないし嫌いになったわけでもないが、正直……ちょっと傍に置いておくのは面倒だなあ……という気になってきたのだ。

 

 これで縁壱ロボがまともに受け応え出来ていたのなら少しばかり違っていただろうか、結果はコレ……寝ても醒めても、『お労しや兄上』の繰り返しである。

 

 ノイローゼ等になる事はないが、鬱陶しさを覚えているのは否定出来ない。かといって、分解するのは嫌と思うぐらいには愛着もあるし、ポイッと捨て置く事も出来ない。

 

 

 何せ、この縁壱ロボ……日常会話が出来ず、兎にも角にも『お労しや』としか言わないのだ。

 

 

 そのうえ、鬼に対しては絶対必殺。過敏を通り越した、鬼を絶対殺すマン。正直、我ながらヤバい物を作ってしまったと何度も何度も彼女は思っている。

 

 縁壱ならば、という憶測の下に対鬼専用レーダーを取り付けてみれば……最長10km先にいる鬼を探知したかと思えば、即座に殺しに向かうヤベーやつになってしまった。

 

 10km……彼女からすれば短すぎて有って無いのと同じ範囲だが、人間基準で考えれば驚異的だろう。

 

 しかも、どのような手段を用いて隠れたとしてもすぐさま見つけ出す……鬼たちからすれば悪夢である。

 

 

(その鬼たちとて、一撃で仕留められるのであればまだ良いが……さすがに、日が昇るまで死ぬことも出来ないまま延々と解体され続けるのは……)

 

 

 縁壱ロボは彼女とは違い、レーザー兵器の一切を搭載していない。

 

 武器はフィジカルリアクターで作り出した刀だけで……刃こぼれ等しないけれども残念ながらそれでは鬼を殺せないようだ。

 

 だから、鬼たちは日が昇るまで死ぬことすら出来ない。鬼に家族を殺された者たちからすれば、胸がすくような光景なのだろうが……とりあえず、彼女としては見ていて気持ちの良い光景ではない。

 

 

 だいたい……いくら相手が鬼とはいえ、中には人間とそう変わらない姿をした者もいる。

 

 

 そんな者が、刀を持った男に生きたまま解体されている……考えるまでもなく、猟奇的な光景だ。

 

 延々と、死ぬことすら出来ずに断末魔が如き悲鳴と命乞いを上げ続けているのを尻目に、無表情のままに刀を振り下ろし続け……どうして、こうなったのだろう。

 

 事情を知らない一般人が見れば、腰を抜かすだけでなく一生モノのトラウマになって当然の光景。ある意味、鬼よりも鬼らしい怪物なのかも……あっ。

 

 

「……そういえば」

 

 

 ふわりと、赤く輝く彼女の長髪が、雲の中で揺れる──ふと、思いだした。縁壱ロボを作った影響なのか、物凄く久しぶりにその言葉を思い出した。

 

 

 

 

 ──鬼は、特殊な材料を用いて作り出された武器でなければ殺せない。

 

 

 

 

 一つ思い出せば、それがキッカケとなったのかもしれない。忘れ去っていた記憶が次々に浮かび上がってきて……ふむ、と彼女は頷いた。

 

 その内の一つは、あの時、兄との戦いが始まる少し前。縁壱が語っていた、彼が属していた組織……名は確か、『鬼殺隊』。

 

 鬼たちを生み出し続けている鬼無辻無惨という鬼を抹殺する為に日夜行動し、鬼という存在に並々ならぬ憎悪を抱く者が多い組織……だっただろうか。

 

 

(……そこから、対鬼用の武器を分けて貰えれば……縁壱を野に解き放っても大丈夫……か?)

 

 

 この際、細かい部分には目を瞑ろう。何度か調整はしたが、それでも駄目だったのだから……まあ、よく分からないけどヨシ、だ。

 

 とにかく、人々に対して無用な攻撃さえしなければ、良い。

 

 どうにも意思疎通の取れない縁壱ロボは、鬼に対してのみ絶対的な攻撃的意志を見せる。

 

 言い換えれば、鬼を退治する以外の行動の一切をしないということでもある。

 

 

 

 ……ならば、いっそのこと……一撃離脱でさっさと鬼を仕留め、痕跡すら残さないのであれば……万が一目撃されても……? 

 

 

 

 それは正しく、発想の転換であった。少なくとも、彼女にとっては天啓に等しい考えでもあり……我ながら良い考えだぞ、と自画自賛したぐらいであった。

 

 

「──と、なれば、必要なのは縁壱が使っていたのと同じく、特殊な素材を用いて作られた刀だが……そんな刀、巷で買えるものなのか?」

 

 

 そこまで考えた辺りで、少し待てよと彼女は逸る気持ちを抑えて立ち止まる。

 

 

 

 ……どれぐらい前だったかは忘れてしまったが、刀を始めとした武器の所持が禁止されて……そうしてから、これまで。

 

 頻繁に降りてはいないから、今の法律がどのように変化しているのかは知らないが、変わっていなければ……刀なんてのはもう簡単には買えなくなっているはずである。

 

 いちおう、探せば買う事は出来るが……それで買えるのは模擬刀。本物に似せて作られた刀であり、強度も本物より劣るだけでなく、刃先も削って切れないようにされているだろう。

 

 

 ……切られないように製造された刀ですら、そうなのだ。

 

 

 人間よりも頑強な鬼を切る事が出来る刀……それも、特殊な材質を用いて作られる代物なんて、市場に出回っているわけがない。

 

 ましてや、持ち歩くだけで見咎められる物ともなれば……まず、表には出回らない。出回るとしたら、極々一部の……鬼殺隊のような組織ぐらいだろう。

 

 

 

 

 ……あれ、そう考えたら……手に入るの難しくないか? 

 

 

 

 

 思わず、彼女は唸る。実際の所は不明だが、門外不出の類であるのは考えるまでもない。しかし、そうなると……伝手も何もない彼女が手に入れる手段は……皆無である。

 

 

(いっそのこと、放熱式のヒートサーベルとかなら……いや、駄目だ、下手したら山火事が発生する)

 

 

 それでは、さすがの縁壱ロボも戦力が半減であるし、そもそも本末転倒もいいところだ……が。だからといって、フィジカルリアクターで作れるかと問われれば、そうもいかない。

 

 負け惜しみというわけではないが、作ること事態は不可能ではない。

 

 とはいえ、バスターマシン7号も全知全能というわけではない。さすがのフィジカルリアクターも、何の素材で作られたのかが分からなければ作り様がない。

 

 つまり、想像でそれっぽい物は作れても、それは巷の模造刀よりも上という程度の、新たな模造刀でしかない。例えるなら、より頑強な鉄剣と同じだ。

 

 強度の高い武器やバスター兵器や縮退炉が作れるのは、その製法……すなわち、材料を始めとした、作る為に必要な物質が何であるかを理解しているからであって……知らないモノは、作れないのだ。

 

 

 ……となれば、だ。

 

 

 チラリと、視線を傍の縁壱ロボから……遙か下方の大地へと向けられる。今の時刻は夜だが、彼女には何の問題にもならない。

 

 

(『鬼』の近辺には鬼殺隊とやらが来ている可能性が高い……)

 

 

 手っ取り早く、『鬼殺隊』の本部か何かを見付けられれば話が早いと思うけれども、いきなり現れて刀を見せてくれ等という交渉が通じる可能性は……極めて低いだろう。

 

 何かしらの社会的地位が有れば話は別だが……今更の話だ。とりあえず、いくらか仕留めているうちに遭遇するだろう。

 

 

 そう判断した彼女は、ひとまず縁壱ロボを伴って(フィジカルリアクターの作用範囲は意外と狭い為)地上へと降り立つ。

 

 

 そこは、人里から遠く離れた山間の、洞窟と呼ぶには小さい、偶発的に岩石が組み合って生まれた隙間のような洞穴であった。

 

 そこに、彼女は縁壱ロボを置いて……というか、押し込む。

 

 客観的に見れば、息絶えた人間の身体を洞穴に埋めているように見えるが……まあ、こんな山の中だ。近づくのは鬼ぐらいだし、鬼ならまあ……運が悪かったと思って諦めてもらう他あるまい。

 

 

 ……ヨシ。

 

 

 とりあえずは雨等に濡れないよう体表を特殊フィルム(フィジカルリアクターは本当に万能である)で覆った後……改めて、彼女は頷くと。

 

 

 ──カッ、と。脚部ブースターが大地を削り、土埃を辺りに撒き散らす。

 

 

 人とも獣とも異なる独特の波長を持つ存在……すなわち、鬼の所在をセンサーで拾いつつ、再び夜空へと飛び立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、気付けば時間は流れ、季節は夏。雲海より高度を下げた彼女は、眼下に広がる、鬱蒼と生い茂る森を眺めながら緩やかに飛んでいた。

 

 バスターマシンである彼女には分からない(正確には、暑くも寒くも感じないだけ)事だが、センサーの数値を見る限りでは、初夏を通り越しているものと思われる。

 

 

 その推測を裏付けるかのように、頬を擽る夜風はしっとりの湿り気を帯びている。

 

 

 鬱陶しさすら覚えるほどに纏わりつくそれらの原因は、ここ数日に渡って続いている、断続的な雨の影響だ。雲海の中は何時も変わらないので最初は新鮮味を覚えて良かったが……さすがに、飽きる。

 

 そんな不快感を紛らわせる意味も込めて、彼女は僅かばかり加速する。縮退炉からの余剰エネルギーによって発光する長髪をなびかせながら、脚部ブースターがバシュウと熱気を噴いた。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………鬼殺隊の捜索を始めてから、けっこう経つ。順調に鬼を討伐し続けるのを繰り返している彼女だが……未だ、鬼殺隊との遭遇は果たされていなかった。

 

 

 

 

 そう、会わないのだ。全くもって、鬼殺隊に出会えない。

 

 

 特に探していない時は30回に1度は鬼殺隊と鬼が交戦している所を観測出来ていたというのに、いざ、鬼殺隊を目当てにしたら……これだ。

 

 出端を挫かれるという言い回しは少し違うが、幸先が悪いと彼女は思っていた。

 

 

 ──ふわり、と。地上へと降り立った彼女は、さて、と辺りを見回す。

 

 

 人里離れた山奥の中、それも、山道を始めとした交通ルートからも外れた地点。それ故に辺り一帯どころか周辺をレーダーで探知しても、住民を探知する事は出来ない。

 

 

 代わりに、こういう場所で探知出来るのは獣(虫は除く)だ。

 

 

 人の手が入っていないだけあって、市街地に比べたら圧倒的に獣の数が多い。村が一つでもあれば獣の数が減るからこそ、こうして山奥に降り立つと、その違いがよく分かる。

 

 

 まあ、違いというのは数ぐらいで、その生態……基本的な部分は全く同じだ。

 

 

 神経をとがらせながら周囲に注意を張り巡らせ、獲物を探し、襲い、食らい、寝る。本能に忠実だからこそ、その動きはシンプルであり、レーダー越しでありながらもその行動から状況を予測するのは簡単である。

 

 これは、人間も同様だ。二足歩行のデメリットをもろに受けるせいで、獣以上に決まったルートしか通らないし、それ以外を通っている時は右に左に進行方向が定まらない。

 

 身体が縦に大きい分、動きも遅い。周囲への注意力も散漫で、獣なら気付く外敵の接近にも気付けない事が多い。だから、ある意味では獣以上にレーダーで見分けが付きやすいのが人間であった。

 

 

 ……言い換えれば、だ。

 

 

 その二つに該当しないのが……『鬼』である。一度だけ、鬼並みの動きで森の中を駆け巡っていた『忍者』と遭遇した事もあったが、アレは例外中の例外だろう。

 

 

 ……で、話を戻そう。

 

 

 鬼とその他の生物の違いは、何といっても警戒心の無さだ。鬼は、獣や人間とは違い、外敵に対する警戒心が極端に薄い。いや、もはや、無いと言っても過言ではない。

 

 他の生物と違い、内蔵を食い破られようが手足を落とされようが死なずに再生するからこその慢心なのだろう。だからこそ、獣以上に、人間以上に、『鬼』は目立つ。

 

 何せ、人間も獣も相手が何であれ、このような場所で他の生物の存在を認識すると、決まって一瞬ばかり硬直する。

 

 有り体に言えば、驚くのだ。そして、身構える。戦うにしろ、逃げるにしろ、相手を観察し、次にどう動くかを瞬時に考え、決断する。だからこそ、最初の一瞬だけは硬直する。

 

 

 対して、鬼はそのほとんどが硬直しない。

 

 

 死なないという慢心があるからこそ、そういった緊張感を持てない。他の生物と接触しても欠片も怯まないし、身構えない。

 

 レーダーで見れば、一目瞭然だ。他の個体が止まったり反転したりする最中、それだけは何一つ変わらずに動き続けているのだから……と。

 

 

(──よし、見つけたぞ)

 

 

 早速、鬼らしき反応を捉えた……が、しかし。直後、彼女は残念そうに眉根をしかめ、ため息を零した。

 

 

(うむ、今回もハズレか……やれやれ、何時になったら鬼殺隊の者たちと遭遇出来るのやら)

 

 

 ため息の理由は、ただ一つ。これまで同じく、傍に鬼殺隊らしき反応が無かったからだ。正直、ここは見逃しておこうかという気持ちが湧いたが……直後に却下する。

 

 

 ……人間ではなくなったとはいえ、感性の根っこは以前のままな部分も多い。

 

 

 ここで見逃しておけば、後で絶対に被害者が出る。伊達に、『鬼』の所業を見て来てはいない。正義の味方になどなったつもりはないが、さりとて、将来必ず起こる悲劇の種を見過ごせるほどに無機的になった覚えもない。

 

 結果、彼女が下した決断は……何時もと同じ。苦しませることなく一撃で仕留めてやろうという、せめてもの憐れみであった。

 

 

「……ん?」

 

 

 だが、しかし。

 

 何時ものように、微かな異音と共に脚部から真横に伸びる白い発射台。水晶を思わせる半円状のレンズ……発射口を、何時ものように探知した鬼へとロックオンを──しようとした、その時であった。

 

 

「──え?」

 

 

 前触れもなく──いきなり、レーダーから『鬼』が消えた。

 

 それは、彼女にとって初めて体験する現象であった。その瞬間、ステルス(あるいは、それに近しい事)の可能性が彼女の脳裏を過った。

 

 

 だが、すぐに、違うと彼女は内心にて首を横に振る。

 

 

 数年単位で一度ぐらいしか地上に降りないから、今の文明が如何ほどに進んでいるのかを詳しくは知らないが……少なくとも、彼女が『彼女』に成る前の基準にすら到達していないのは、断言出来る。

 

 現時点では、彼女のレーダーから身を隠すことはおろか、レーダーに気付くことすら不可能……のはずである。そのはずだと、彼女は思っていた……のだが。

 

 

(──別の場所に?)

 

 

 そんな、彼女の動揺と困惑をあざ笑うかのように、その直後、別の場所にていきなり出現した反応を見て……首を傾げる。

 

 撃墜されたとか、消滅したとか、そういう兆候は無い。また、高速で移動した反応も見られない。というか、捉えられない速度で移動したのならば、その反応を捉える……はずだ。

 

 けれども、そんな反応は微塵も無い。文字通り、いきなりその場から消えて、別の場所に出現したにしか思えない……と。

 

 

 ──また、だ。

 

 

 思考を巡らせている傍で再び反応が消えて、直後に別の場所に出現する。それが、何度も、何度も、何度も……なのに、探知出来ない。

 

 レーダーで探知した限りでは、同一……別の個体を間違えているのではなく、同じ個体が瞬時に移動を繰り返しているのが……ふむ。

 

 

(……どの道、見逃すわけにはいかない)

 

 

 興味を惹かれた彼女は、そのまま件の鬼を追い掛けることにした。脚部ブースターが、ごう、と大地を削って……彼女は夜空へと飛び立つ。

 

 ……幸いにも、この鬼の移動距離そのものは短い。どのような手段で移動しているのかは不明だが、見失う心配はないだろう。

 

 

 そうして……追いかける事、一分強。

 

 

 彼女の感覚では、気付かれないように彼方の上空からゆっくりと。

 

 一般的な感覚では、目玉をひん剥いて飛び上がる速度で近づかれ。

 

 

 誰にも気付かれる事なく接近に成功した彼女は……そこで、二度目となる初めてに、困惑する他なかった。

 

 何故なら……レーダーが捉え、移動を繰り返していたモノの正体が……鬼ではなく、『壺』であったからだ。

 

 そう、壺だ。暗喩でもなければ比喩でもない、タダの壺。いや、こんな場所にポツンと置かれている壺が普通の壺でないのは確実だが、少なくとも、彼女の目にはそうにしか見え──あっ。

 

 そうこうしている内に、目の前(とはいえ、直線距離にして数百メートル近くはある)の壺がいきなり消えた──ああ、いや、違う。

 

 

(消えたのではない……移動した? あれは……壺か?)

 

 

 点々と続く移動の跡から予測した次の移動先を見た彼女は、そこにポツンと置かれた壺を捉え……更にその先に点々と続いている別の壺を確認し、なるほど、と頷いた。

 

 

(どうやら、壺の中を点々と移動しているのか……こういう鬼もいるのか)

 

 

 この壺……とりあえず、どういう原理なのかはさておき、何かしらの移動手段の一つではあるようだ。

 

 その証拠に、壺の外観こそ変わらないものの、レーダーにて捉えた質量の増減が壺の内部にて行われている。つまり、この鬼は、瞬間的な移動を壺と壺の間で繰り返して……ん? 

 

 そう考えた瞬間、嫌な予感を彼女は覚えた。それが何なのか分からなかった彼女は、いったい何なのかと今しがたの思考を読み返す。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………壺と壺の間を、瞬間的に? 壺が移動するのではなく? 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………瞬間的に? 速度ではなく、点と点で? 

 

 

 

 そこまで考えた瞬間、ヒヤリ、と。背筋に走った悪寒に……それが何なのかを理解するよりも前に、彼女は数百年ぶりとなる焦りを覚えた──その、直後。

 

 

 

(それって──つまるところ、壺と壺の間をワープして──)

 

 

 

 その可能性を認識した、瞬間。気づけば、彼女はブースターを最大噴射していた。反動で、爆音と衝撃波が直下の木々をぐらぐらと揺らしたが──気にする余裕はない。

 

 

「イナズマ反転──っ!!!!」

 

 

 そう、気にする余裕など、全く無いのだ。

 

 移動を続ける鬼の──その先に有った壺の上空へと一気に迫り、反転──そして、くるりと身体を捻って、壺に向かって片足を突き出し。

 

 

「──きぃぃぃぃっくぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 宇宙怪獣すらも葬り去った、バスターマシン伝統の必殺技を放ったのであった。

 

 

 ──イナズマキック。それは、バスターマシン7号に搭載された、劇中において何度か使用された必殺技の一つである。

 

 

 言っておくが、本気で放ったわけではない。無意識に手加減出来たのは、本当に幸運であった。

 

 とはいえ、大地はおろか、マントルを破壊して星を貫通する程の威力を誇る、正真正銘の一撃必殺。

 

 本気でやったら宇宙怪獣どころではない、その一撃は……当然ながら壺を粉砕しただけでなく、大地を陥没させ、周囲に土砂を撒き散らす程の破壊力で……いや、それだけではない。

 

 縮退炉より生み出される膨大なエネルギーが込められることで生まれる高熱。それは余波となって、直径二十数メートルとはいえ、直撃した大地を溶解し、部分的にマグマへと変えた。

 

 

『────っ!!??!??!』

 

 

 タイミングはドンピシャ、手応えは有った。

 

 足先より伝わる、命を粉砕した感触。

 

 壺の中に居たであろう鬼が、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、肉片一つ細胞一つ残さず燃え尽き、消滅したのを感じ取った彼女は……異臭を放つ大地に埋まった足を引き抜くと、その場より少し離れて着地する。

 

 

 ──途端、足先に触れた雑草が一瞬で発火した。

 

 

 気付いて、慌ててもう片方の足で火を踏み消しながら……彼女は、深々とため息を吐いた。

 

 

(……仕方がないとはいえ、地上ではそう易々と使って良い武装ではないということか)

 

 

 瞬間的な冷却を行いはしたが、元々が宇宙空間にて使用する武装だ。宇宙空間では些細な温度であっても、地上では高熱過ぎる。

 

 

 視線を向ければ……ああ、駄目だ。

 

 

 このままでは他にも燃え移る。消火しなければ周囲が危険だと判断した彼女は、ふわりと空中に浮かぶ。

 

 冷却と放熱は続けているが、まだ熱過ぎるようだ。大気との温度差が違い過ぎて、陽炎のようにぐらぐらと空気が揺らいでいるのが見えた。

 

 ……絶対零度の宇宙では、熱を光に変えて放射することで冷却することが可能ではあるが……ここでは無理だ。下手にやると、足先から火炎を放つようなものである

 

 

 仕方がない……ついでに、陥没してマグマ化した大地の後始末もしておこう。

 

 

 そう判断した彼女は、フィジカルリアクターを起動させて物理法則を書き換えて対処を……しながら、今しがた仕留めた鬼の事へと意識を傾けた。

 

 

(まさか……ワープ能力を持った鬼が居るとは思わなかった)

 

 

 そう、彼女の懸念というか焦燥感の正体は、ソレに尽きた。

 

 

 ワープ能力。言い方を変えれば、ワープ技術だろうか。

 

 

 それは、バスターマシン7号である彼女も持ち合わせている機能の一つでありながら……同時に、彼女が恐れていた事態が起きている事への証明でもあった。

 

 

 何故なら──ワープ航行(距離に関係なく)を行うと、奴を引き寄せるのだ。

 

 

 バスターマシン7号が登場する劇中において、最強最大最悪の知的生命体の天敵と揶揄された、宇宙の免疫構造……通称、『宇宙怪獣』を、だ。

 

 正確には、ワープの際に開かれる『タンホイザーゲート(要は、ワープの扉みたいなもの)』の重力変動を感知するらしいのだが……まあ、細かい部分はいい。

 

 

 重要なのは、ワープ航行を使うと宇宙怪獣を引き寄せるという事。

 

 

 それ故に、彼女は自らが『彼女』となったその時から、一度としてワープ航行をした事が無い。何故なら万が一、宇宙怪獣が地球に来襲したら最後……地球を捨てて逃げ去る他、生き延びる術が無いからだ。

 

 だからこそ、焦った。ぶっちゃけてしまえるなら、お前ら何てことしてんだよと怒鳴りたい気持ちでいっぱいであった。

 

 

(さ、さすがに大丈夫……だよね?)

 

 

 一抹の不安は残るが、もう終わった事だ。当の本人は消滅したから、調べようもない。

 

 それに……劇中においても、人類が宇宙怪獣と本格的に交戦するキッカケになったのは、宇宙怪獣に直接発見された後からだ。

 

 地球に攻め込んできた時だって、命からがら地球に逃げ帰った際に、その位置を見付けられてしまったからで……なので、少なくとも地球の位置を知られない限りは、大丈夫……とは思う。

 

 さすがに、銀河の端っこにある太陽系という名の、大して大きいわけでもない恒星に囚われた小さな星の地表に起こった僅かな重力変動に気付きはしないだろうが……あっ。

 

 

 フッ、と。

 

 

 前触れもなく、またもやいきなり現れた存在を、レーダーが捉える。その位置……あれ、これってもしかして……背後? 

 

 まさか、今の一撃から逃れられたのだろうかと驚きつつ振り返った──直後。何かが眼前に迫ったのを認識した彼女は、それを掴み取った。

 

 

「なに!?」

 

 

 視線の先に居る、何か知らないけど驚いている男が一人。掴み取った……何か分からない、タコの足のようなよく分からん造形をした触手。とりあえず、彼女にはそう見えた。

 

 

 ……え、なにこれ? 

 

 

 はっきり言って、まるで意味が分からない状況であった。

 

 客観的に思い返してみても、まるで意味が分から──ていうかコレ、気持ち悪いな。

 

 視線を男から、掴んでいる触手へと向ける。触手は……正しく、触手であった。

 

 何か蛇みたいにうねうねして、口らしき部分に牙が生えていて、がぢがぢと己を腕に噛み付いているのを、首を傾げながら彼女は眺める。

 

 

 ……生物相手なら余裕で噛み千切られるぐらいの力が込められているのが分かる。

 

 

 しかし、それだけだ。生憎と、対宇宙怪獣を想定したバスターマシン7号の装甲は伊達ではない。

 

 その証拠に、必死に噛み付いている触手の牙は……いっそ憐れに思えるぐらいに、全く彼女の腕には刺さらない。

 

 

「──くっ!」

 

 

 何がしたいのか分からないし、そもそもいきなり何だ。

 

 

 そう思って視線を再び向ければ、何やら男の背後から……いや、男の背中や肩から飛び出した新たな触手が、五月雨のように彼女の全身へと降り注いだ。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 豆鉄砲の数が一つであれ十であれ、豆鉄砲は豆鉄砲。そもそもが、当たったところで何の意味もない以上は……男の抵抗(あるいは、攻撃)など、彼女にとっては無意味であった。

 

 

「──くっ! お前は、まさか……やはり、日の神なのか!?」

 

 

 そうしてしばしの間、攻撃を続けていた男は、苛立ちを露わに形相を険しくすると、トカゲのように自らの触手を引き千切って素早く距離を取り……尋ねてきた。

 

 

(……何か知らないけど、何故どいつもこいつも私を見て『ヒノカミ』と呼ぶのだろうか?)

 

 

 ふと、思い返せば、眼前の男に限った話ではない。何時の頃からかは定かではないが、気付いた時にはそう呼ばれるようになっていたし、そもそも縁壱たちもそう呼んでいた気がする。

 

 まあ、予想はつく。どうせ、夜空を飛行していた最中の姿が目撃され、そこからそんな名が付いたという程度には……いちいち否定するのも面倒だし、そのうち飽きて忘れ去られるだろうと思っていた……が。

 

 

「ヒノカミが何なのかは知らないが、私の正体に気付いたやつは皆、そのような名で呼ぶね」

 

 

 まさか、人外の化け物からもそう呼ばれるとは……その言葉を胸中で呟いていると、額に血管を浮き立たせていたそいつは……いっそ清々しさ覚えるぐらいの、派手な舌打ちを零した。

 

 

「答えろ……お前の目的は何だ?」

「……いや、尋ねたいのはこちらの方なのだが?」

「とぼけて誤魔化すつもりか?」

「誤魔化すつもりなど毛頭ないのだけれども」

 

 

 とりあえず、掴んだままの触手の切れ端を放り上げ──それをバスターミサイルで塵に変えてから、改めて……思考を巡らせる。

 

 

(……何故、私は襲われているのだろうか?)

 

 

 眼前にて、同時に、この身に起こっている状況に……その状況が欠片も理解出来なかった彼女は、只々首を傾げる他なかった。

 

 ただ、ありのままを描写するのであれば……とりあえず、眼前の人間(?)は、人間でないのは確定である。これで人間なら……ちょっと、嫌だ。

 

 おそらく、『鬼』なのだろう。というか、鬼でなかったら何なのか分からないから、とにかくコイツは鬼である……と、彼女は判断する。

 

 何せ、体内をスキャンしてみれば……驚くべきことに、この男……いや、この鬼、大脳と思わしき器官が五つ、心臓と思わしき器官が七つもある。

 

 それも、タコのように触手を動かす為の専用の臓器ではない。一つ一つが全身を統括し、生命維持を確保出来るだけの機能を備えていると思わしき質量が確認出来る。

 

 

 ……普通に考えて、生物の範疇に収まっていない特異の生命体であるのは一目瞭然。

 

 

 ……で、だ。それならそれで、私はどうしたら良いのかと、彼女は首を傾げる。

 

 退治すること自体は、これまでの鬼とそう変わりないだろう。しかし、眼前の生物が『鬼』であるのはとは別に……何だろうか。どうも、この鬼は他の鬼とはどこか異なる存在な気がしてならない。

 

 そう……何だろうか、どうにも、気配が濃いというか、存在感が大きいというか、何というか。

 

 まるで、そう、まるで……大本と言うべきか、張り巡らされた配線の根元と言うべき……ん、待てよ。

 

 

(根元……はて、こいつ、もしかして……?)

 

 

 瞬間、パッと視界が開かれたかのような感覚と共に──気づけば、彼女は脳裏に過ったその言葉を口にしていた。

 

 

「お前──もしや、鬼舞辻無惨という名の鬼か?」

「──っ!?」

「おお、その反応……なるほど、お前がそうか」

 

 

 驚愕に目を見開く眼前の……無惨を前に、彼女は納得したと言わんばかりに言葉を続ける。

 

 

「お前の事は聞いているぞ。そうか、お前が縁壱の話していたやつか」

「──そ、その名は!?」

「何だ、縁壱の事を覚えているのか。仕留め損なったと聞いていたのだが?」

「な、何故……どうして、貴様がやつの名を……!?」

「そりゃあ、当人から教えて貰ったからね」

 

 

 目に見えて──只でさえ青白い肌を、夜の闇の中でも分かるぐらいに更に青ざめ、声を震わせた無惨に……彼女は笑みを向けると。

 

 

「お前を倒せば──これ以上、鬼が増える事はないのだろう?」

「なっ──」

「ならば、刀を探す必要も無くなるし、次に私がやることはただ一つだ」

 

 

 その言葉と共に、ぼんやりと輝きを放っていた彼女の髪が、更に輝きを見せる。と、同時に、それは熱気を伴って、まるで周囲が昼間になったかのように温まり始める。

 

 

「縁壱が仕留め損なったのならば──私が代わりに果たしてやろう」

 

 

 縮退炉のリミットを緩める。

 

 途端、溢れた余剰エネルギーが光となって、彼女の全身から滲み始める。煌々と輝いて揺らめく長髪は、もはや小さな太陽が如き眩しさであった。

 

 

「────っ!!!???」

 

 

 その眩しさによって──無惨は状況と事態を理解したのだろう。

 

 焦燥感が入り混じる意味不明の奇声と共に、無惨の身体が赤黒く歪に変形──まるで獣を思わせる大小様々な口が全身の至る所からボコリと盛り上がったかと思えば。

 

 

 ──ひゅごう、と。

 

 

 無惨の全身に生まれた口から放たれる、不可視の砲撃。その正体は、大量の空気を圧縮して生み出す、空気の弾丸である。

 

 その威力は、人間相手であれば十分過ぎた。逸れた弾丸の一部は樹木に穴を開け、地面を陥没させ……大型の獣であっても、致命傷に成りかねない破壊力を有していた。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 彼女からすれば、そんなのは豆鉄砲と変わらない。星々を砕く宇宙怪獣の光線に比べたら、そよ風みたいなもので……事実、空気弾は確かに彼女に直撃したが……当の彼女は怯みすらしなかった。

 

 

 それを見て──無惨は次の手を放つ。

 

 

 まるで、赤黒い有刺鉄線。無惨の血液より生み出された、生物の体内に入れば即死を免れない猛毒によって構成された刃が、彼女を取り囲むようにして瞬く間に──が、それも同じ事。

 

 

 ──フィジカルリアクターを、使うまでもない。

 

 

 舐めるようにして叩き付けられる有刺鉄線ですら、彼女に対して攻撃になっていない。それどころか、動き一つ止める事も出来ず、彼女から放たれるエネルギーの余波を受けて……灰のように塵となって消滅する始末である。

 

 

 そんな光景を前に──無惨の胴体が、斜めに開かれた。

 

 

 まるで、胴体全部が口に変形したかのような大きなそれが、ガチリと上下の牙を噛みあわせた──その、直後。

 

 

 ──凄まじい衝撃波が、その巨大口より放たれた。

 

 

 それは、無惨にとって奥の手の一つである。爆音と衝撃波によって生み出される破壊力は絶大。近距離であれば防ぐ手段は皆無であり、受ければ最後、全身と臓腑が痙攣して動けなくなる。

 

 

「……バスターミサイル」

 

 

 はず、だった。

 

 

「──っ!?」

 

 

 かつて……縁壱に成す術もなく敗れ去り、命からがら逃げ延びた、あの日。似たような存在と相まみえた時、逃げ延びる事が出来るようにと作り出していた奥の手ですら……全く、彼女には通じなかった。

 

 驚愕に目を見開く無惨の視界に煌めく、幾つもの白き閃光。ソレは、無惨にとって初めて見る光景であった。

 

 

 ──と、同時に。

 

 

 避けることはおろか、辛うじて認識するのが精いっぱいであった閃光が、無惨の身体に風穴を開けた。

 

 思わず、無惨の思考は乱れ──次の瞬間、数多のバスターミサイルが無惨の視界を埋め尽くした。

 

 

 

 




殺意増し増しな剣士たち

フラグ7「後に、謎の剣士お労しやロボによる半自動鬼撲滅機能により、隊士たちの生存率上昇。並びに、上弦や下弦と呼ばれている鬼との交戦時、一定確率で乱入し、隊士たちが生存する確率上昇」



野望を内に秘めた臆病者

フラグ7「後々、表での活動資金にて重宝する収入源が途絶えたことで、表の顔が幾つか使えなくなる(鬼殺隊に補足されやすくなる)」

フラグ8「謎の剣士お労しやロボによる永続的追跡により、多大なストレスが降りかかり、老化が通常より加速する(能力値ダウン)」



存在自体が反則だけど敵がもっと反則だったマシン7号

フラグ1「ワープ使うやつ絶対許さない、慈悲は無い」


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第四話:わたし、また何かやっちゃいました(煽りの呼吸)

無惨「もう嫌なのだ、外に出ると怖いセルリアンがどこまでも追いかけてくるのだ。おうちに帰ってお休みするのだ」


縁壱ロボ「私は――お前を倒すために生まれてきたのだ」


無惨「ああああああああああーーーーーもうやだぁあああああ!!!!!!!」





煉獄さんが死んだので、続きです



※前話にて死んでいるはずの鬼が生きているという指摘があり、確認しましたら本当に生きていたので鬼殺致しました
 駄目じゃないか……死人はちゃんと死んでなくちゃ……そんな気持ちです




 それは正しく、数の暴力であった。

 

 

 息つく暇すら与えさせない、バスターミサイルの雨。彼女は知る由もない……驚異的な再生能力を持つ無惨ですらも再生が追い付かないほどに大量の、光線の連射。

 

 一発でも当たればタダでは済まない破壊の光が、幾重にも無惨へと突き刺さり……そのまま、大地を穿ち、山を削ってゆく。

 

 合わせて、とてつもない爆音が夜空に響いている。それはまるで、降り注ぐ雷のよう……息を尽く暇を全く与えない。

 

 事情を知らない者がこの場に居合わせていたら、あまりの光景に記憶を飛ばしたかもしれない。

 

 腰を抜かして失神、爆音に驚いて気絶するなら良い方で、悪ければ目が眩むほどの光と鼓膜が破れんばかりの音に、ショック死してもおかしくはない。

 

 事実、バスターミサイルを放ち始めてすぐに、周辺の鳥や獣たちが一斉に離れ始めている。

 

 イナズマキックの時でもそれなり(といっても、下手に火薬を爆発させるより多かったが)に離れて行ったが、今回はその比ではない。

 

 天変地異を予感しての逃走、そうとしか言えないほどの必死な形相で逃げて行く獣たち……正しくそこに、天変地異が起こっていた。

 

 ……だが、しかし、その天変地異は突如として終わった。

 

 巻き上がった砂埃がぱらぱらと落ちて来て、溶けた岩石の臭いが立ち昇る中……訪れた静寂の当人……そう、その天変地異を作り出した、当の彼女はというと……。

 

 

(──しまった、これでは追い打ちを掛けられない)

 

 

 やり方を、間違えてしまった。取り返しが付かぬ痛恨なる失敗、己の不甲斐なさに……悔しさを覚えていた。

 

 いったいどういう事なのか……要点をまとめるなら、彼女は間違えてしまったのだ。

 

 たった今、彼女は、仕留めようとしていた鬼舞辻無惨が地中へと逃げていくことに気付いた。彼女に備わっているセンサーが、ソレを知らせてくれた。

 

 しかし、気付いた所で手の打ちようがない。何せ、地中に居るヤツを仕留めるだけのバスターミサイル……間違いなく、被害はここだけに留まらなくなる。

 

 

 ……そう、最初の一発で全てを終わらせなければならなかったのだ。

 

 

 周囲への影響を考えて、レーザーの威力を抑えたうえで、出力範囲を狭めていたのが悪かったのだろう。これまでのヤツなら即死ではあったが、どうやら鬼舞辻無惨はそうではなかった。

 

 伊達に、全ての鬼の大本というわけではないというわけか。

 

 辛うじて頭一つ分程度の肉塊が、地中を掘り進んでいる。まるで、死にかけたゴキブリが慌てて排水溝へと逃げ去るかのような必死さだ。

 

 だが、問題なのはそこだけではない。

 

 相当なダメージを負っているのは、察知出来るエネルギー量から推測出来る。しかし、彼女にとって重要なのは……その状態になっている無惨への追い討ちが出来ない、それに尽きた。

 

 ……そもそも、劇中では、一度に千から万単位で放たれた宇宙怪獣の攻撃を瞬く間に迎撃した武装、それこそがバスターミサイル。

 

 本来ならば、大型クラスの宇宙怪獣にもダメージを与え、小サイズの宇宙怪獣ならば一撃で肉片一つ残さず蒸発するほどの威力を誇る。

 

 そんなモノをまともに使えば、地球なんぞ一瞬で粉々だ。そうならなくとも、直撃した周辺地域は焼け野原、クワでひっくり返されたかのような光景が広がった事だろう。

 

 なので、地上で使う場合は相応に威力を落とす。落とさないと問答無用で更地を形成してゆくから、落とすしかない。

 

 

 でも、威力を落としたところでそれはバスターマシン基準。

 

 

 超広大な宇宙空間における対宇宙怪獣を想定して作られた、バスターマシン7号。そして、その強力無比な武装を支える大出力動力源……名を、『縮退炉』。

 

 作中において『人類が生み出したモノの中でも最高で最大な動力炉』と称されるだけあって、そこから生み出されるエネルギーはもはや、人知を超えている。

 

 要は、加減が利かないのだ。たとえるなら、身の丈サイズの大タルの水を傾けて、零さずお猪口に注げと言うようなモノ。

 

 出来る限り出力を抑えてもなお、樹齢100年近い幹を貫通し、大地を削って大穴を開け、余波の高熱によって岩石が溶ける。

 

 ぶっちゃけ、考えなしで撃ったらいったいどれだけの犠牲が生じるか、分かったモノではない。

 

 しかし、地中深くのアレを仕留めるには相応に威力を持たせる必要がある。いくら彼女とて、犠牲致し方なしでやれるほど心が平坦にはなっていなかった。

 

 

(……駄目だな、射程距離外だ。おそらく、地中に居れば私が攻撃出来ないことに気付いたな)

 

 

 地中を移動している無惨(肉塊)の位置が、ある一定より上がって来ないのを察知した彼女は、軽く首を横に振って……武装を解除した。

 

 それに合わせて……いや、偶然だろうが、フッと……いきなり、捉えていた無惨の位置が動いた。

 

 

 ……ワープだ。

 

 

 反応を追跡してみれば、何か……そう、地中に広がっている謎の空間が見つかる。

 

 自然に出来た空間ではない。広さもそうだが、構造が明らかに自然のモノではない……意図を持って作られた空間だ。

 

 しかも、移動している。速度はそこまでではないが、その謎空間はゆっくりと地中を移動して──いや、駄目だ。

 

 反射的に作動しかけた武装を、彼女は意志の力で無理やり抑え込んだ。それをしてはならないと、強く己を戒めた。

 

 撃てば、解決するかもしれない。しかし、いくら何でも、何も事情を知らぬ者たちを巻き込むわけにはいかない。

 

 大を助ける代わりに小を切り捨てる……それはマクロの目で見れば正しいのかもしれないが、彼女は、分かっていてもミクロを切り捨てる選択を取れなかった。

 

 

(落ち着け、宇宙怪獣の危険性があるとはいえ、極々小規模のワープ。こんな宇宙の端の端に奴らが気付く可能性は……無いとは、言い切れないけれども……)

 

 

 とはいえ、放って置けないのもまた事実。

 

 先ほどの壺のやつは、まあ、しょうがない。突然だったし、そのうえワープの連続使用だ。鬼だったから躊躇なく仕留めたのは、間違ったとは思っていない。

 

 

 で、今回のコレもまた同様の判定なのだが……位置が悪い。

 

 

 狙ってやったのか偶然なのかはさておき、謎空間が有るのは大きな町の真下だ。つまり、彼女が直接乗り込んで暴れれば……最悪、地上の町がまるごと沈没しかねない。

 

 一発で仕留められれば良いのだが、おそらく無理だろう。微妙にしぶといので、出力を上げる必要が……駄目だ。

 

 そのまま地中に引き籠っているのならば何もしないが……先ほどの問答から推測する限り、絶対にそんな考えには至らないだろう。

 

 本音を言えば、バスターミサイルぶっ放して終わりにしたいが……やはり駄目だと再度の否定を下した彼女は……しばし、考える。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………駄目だ、思いつかない。

 

 

 うんうん、と。右に左に頭を傾げて考え続けたが、上手い考えなどそう思いつくはずもなく……仕方なく、彼女は。

 

 

「バスターマシン縁壱ロボを使うか……」

 

 

 扱いに困っていたソレを、無惨が潜伏するであろう謎空間へとぶち込むことにした。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………いや、まあ、我ながら本末転倒だろうなあ、と彼女も考えた。

 

 

 地中奥深くの謎空間へと縁壱ロボを突入させるには、ワープを使う他ない。だが、それは彼女自身が禁止と定めた行為でもある。

 

 

 出来る事なら、使いたくはない。それもまた、彼女の本音だ。

 

 

 しかし、たった一回を惜しんで止めるか、回復した無惨が好き勝手にワープを使用していくか……肉を切らせて骨を断つとは、この事を言うのかもしれない。

 

 

『お労しや、兄上……お労しや、兄上……』

 

 

 しばし迷ったが、考えても埒が明かないと判断した彼女は早速、洞窟に身体を埋めている縁壱ロボを引き寄せた。

 

 相変わらず、縁壱ロボは虚ろな眼差しで同じことを呟いている。制作した己が言うのも何だが、正直、不気味だなと彼女は思った。

 

 何がどう間違ってそうなったのか製作者すら分からないのは、ある意味致命的な気はするが……まあ、いいや。

 

 とりあえず……現在持たせている、ただ硬くて切れ味の良い刀は取り上げる。代わりに、熱式のヒートサーベル(刀型)を持たせる。

 

 

 特に、深い意味はない。

 

 

 というのも、相手は威力を絞ったとはいえバスターミサイルを数発直撃してもギリギリ即死を免れた、驚異的な生命力の持ち主だ。

 

 普通の刀で切り裂くよりも、傷口を焼くことで再生を阻害出来れば、少しはダメージになるのでは……という、安直な考えであった。

 

 後はまあ、普通の刀よりも灼刀のような、赤く焼けているように見える武器の方が見た目のインパクトが強いから、脅しになるかな……という、軽い気持ちでもある。

 

 

「縁壱ロボ……私が直接乗り込めば話は速いが、地上への影響を考えればそれは出来ない。故に、お前をあの空間へと送る」

『お労しや、兄上……!』

 

「ワープを開くのは二度だけだ。一度目は、お前を送る時。二度目は、お前が無惨を倒した、その時だ。だが、おそらくその武器では無惨を殺せない」

『お労しや、兄上……!』

 

「やつがお前に怯えて地上に出てくれば、位置によっては私が空より砲撃する。仕留められなくとも、とにかく、やつに極力ワープを使わせないようにしてほしい」

『お労しや、兄上……!』

 

「……あの、私の話は聞こえているよね?」

『お労しや、兄上……!』

 

 

 

「……ま、まあ、頑張ってくれ」

 

 

 

 この作戦、もしかしなくとも失敗するのでは? 

 

 

 そう思わずにはいられなかったが、他に何も思いつかない以上は、どうしようもない。

 

 一抹の不安から目を背けるかのように、彼女は一つ間を置いてから心を静めると……『フィジカルリアクター』を発動させ、謎空間とこちらを繋いだ。

 

 そうして、露わになったのは……一言でいえば、広大な空間に作られた迷路であった。

 

 まるで、そこだけ重力が安定していないかのように、上下左右無造作に張り巡らされた通路に家屋……正しく、『混沌』としか言い様が無い光景であった。

 

 

「──なっ!? ひ、日の神っ!!??」

 

 

 その、混沌の中心。宙にぽつんと浮いている板の間にて、何とか上半身だけは再生していた無惨が、驚きに眼を見開き、唾まで飛ばして驚いた。

 

 まあ、驚くのも無理は無い。常識的に考えれば、空間と空間を繋いで移動するワープなど、無惨のような化け物でなければまず不可能な事だから。

 

 その証拠に、無惨の傍にて控えていた単眼の女鬼も、驚愕に大きく目を見開いている。手にしている琵琶が、ぺよん、と情けなく震えて女鬼の内心を物語っていた。

 

 

 ──しかし、情けなど掛ける気はない。

 

 

 さあ行くのだ……そう、縁壱ロボへと顎で促せば、縁壱ロボは無言のままに空間を渡って謎空間へと入り、無惨の前に……すると。

 

 

「き、貴様は縁壱!? な、何故だ、何故お前が生きて……っ!!!????」

 

 

 縁壱に気付いた無惨が、只でさえ青白い顔を更に青ざめた(もはや、石灰のように真っ白だ)。びくんびくん、と痙攣する下半身の肉が気持ち悪い。

 

 それを見て彼女は、そう言えばと思い出す。

 

 

 ──縁壱は生前無惨をあと一歩の所まで追い詰めた男だから、無惨が覚えていても不思議じゃないな。

 

 

 無惨の様子を見る限り、誇張ではなく本当にあと一歩の所だったのだろう。明らかに狼狽して怯えている無惨を見て、これは勝ったなと彼女は……と。

 

 

『……何が楽しい?』

 

 

 前触れもなく、いきなり……初めて、縁壱ロボがこれまでとは異なる言葉を発した。

 

 想定外の事に思わずギョッと彼女は目を見開く。それは無惨たちも同じだったようで、彼らもまたギョッと目を見開いた。

 

 

『……何が面白い?』

 

 

 そんな彼ら彼女らの視線を他所に、縁壱ロボは……ゆるやかに、鞘よりヒートサーベルを抜く。淡く輝く灼刀のようなソレが、すらりと空気を撫でた。

 

 合わせて……無惨の身体が、目に見えて震え始めた。

 

 かたかた、ぴちゃぴちゃ、と。まるで小便のように、下半身から鮮血が零れている。蒼白な顔には鼻水が垂れて、冷や汗がにじみ、白い歯がカチカチと勝手に動いて鳴っている。

 

 

『失った命は回帰しない。何故踏みつける? 何故奪う? お前は命を何だと思っているんだ?』

 

 

 ギリギリギリ……と。

 

 握り締めた持ち手が、軋む。特にそういう作りにはなってないはずなのだが、まるで込められる力に呼応しているかのように、灼刀の輝きがきらめいた。

 

 

『絶対にお前を許さ』

 

 

 そこまで言葉を発した時点で、彼女はワープを閉じた。

 

 理由は、縁壱ロボが謎空間に入ったから。

 

 無惨を倒した方が良いとは思っているが、別に無惨に対して特別恨みを持っているわけではない彼女にとって、泣いて怯える無惨の姿を見ても思う所は何も無い。

 

 だから、入ったから閉じる、ただそれだけ。

 

 それに、縁壱ロボの強さは彼女が一番良く知っている。人間の弱点(脆い身体、有限の体力など)をクリアした、バスターマシン縁壱ロボなら……早々、遅れを取ったりはしないだろう。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、だ。

 

 

 とりあえず、現時点ではこれ以上にする事が無くなった彼女は、ふわりとその場より浮上する……雲海へと戻る。

 

 

 このまま縁壱が仕留めるのであれば、それで良い。

 

 逆に、堪らず地上に出て来たのであれば撃つだけ。

 

 

 まだまだしばらくは様子見をする必要はあるだろうが、どうせ当分は雲海の中で息を潜めなくてはならない身だ。

 

 何せ、縁壱から100年は様子見をしておけと言われたのだ。

 

 実際、最も不穏だった時期も過ぎ去り徐々に世相は落ち着きを取り戻しつつあるが、それはあくまでも見た目だけ。何時どこで何がキッカケで爆発するか分かったものじゃない。

 

 なので、彼女はもうしばらく雲海の中に潜む事に──あっ。

 

 

 ──バスターミサイル、発射。

 

 

 よほど、縁壱ロボとの対決が嫌なのだろう。早々に地上へとワープ(出現)してきた無惨を、レーダーにて感知した彼女は……雲海より、攻撃する。

 

 ぎりぎり……ぎりぎり、直撃を避けた無惨が、泥だらけの身体でゴロゴロと転がっているのを確認した彼女は……再度、バスターミサイルを放つ。

 

 

 どうして町中ではなく、町の外で……予想は付く。

 

 

 おそらく、人々に見られたくなかったのだろう。人を食う怪物だから、下手に姿を知られたくないと思う気持ちは、彼女にも推測出来た。

 

 しかし、それが結果的には逆効果……町から少しばかり離れた位置だったばかりに、実に狙いやすかったのは……正しく、皮肉だろう。

 

 

 ──あ、また地中に戻ったぞ。

 

 

 いったい、どのような葛藤が無惨の中で繰り広げられたのか、それは彼女には分からない。

 

 分かるのは、下手すれば致命傷に成りかねないバスターミサイルに怯えるよりも、例の謎空間にて縁壱ロボより逃げ回る方がマシ……そう、無惨が判断したのだと、彼女は思った。

 

 

 ……可哀想な事、したかな? 

 

 

 レーダー越しにて、縁壱ロボが縦横無尽に動き回っているのを確認した彼女は……改めて。

 

 

「気が向いたら、縁壱ロボを量産しよう」

 

 

 縁壱ロボの有用性に、思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そのまま、如何ほどの時が流れたか……歴史を緩やかに積み重ね、緩やかに情勢が落ち着くのを彼女は待った。

 

 

 もちろん、縁壱の時と同じように、特に狙ったわけでもないけれども、結果的に彼女は色々な事に首を突っ込んだ。

 

 

 ある時は、古ぼけた道場の井戸に毒を入れようとした悪人どもをお仕置きして悪事を未然に防ぎ、夫婦となった歳若い男女(と、その父親)よりお礼の言葉を述べられて。

 

 ある時は、嘘を付き続けた男の死刑が行われようとしている時、その不意を突いて襲い掛かろうとしていた鬼を粉砕し、無事に死刑が執行されたのを見届けて。

 

 

 

 そんな感じで、強きを挫いて弱きを助けるといった、お前どこの水戸○門だよと言わんばかりの世直しムーブをやったりしながら……気付けば、年号が何度も変わった。

 

 その間……特に深い意味はないが、彼女はあまり大陸の方には行かなかった。

 

 理由としては細やかに色々とあるが、一言でいえば……魔女信仰だとか何だとかが非常に鬱陶しくなってしまったからだ。

 

 ぶっちゃけ、放っておいてくれたらそれで良いのだ。だというのに、やれ神を味方に付けるだの、我らは神の使徒だの、もう、もう、もう……本当に面倒臭い。

 

 ていうか、まだ利用しようとするだけならまだマシだ。協力する気は皆無だし、その結果がどうなろうが知った事ではないからだ。

 

 

 だが……殉教は駄目だ。

 

 

 頼んでもいないのに、何が悲しくていきなり『我が子を捧げます……』と生贄を出そうとするのか……これが彼女にはサッパリ分からなかった。

 

 なので、彼女はほとんどを日本の上空にて過ごす事にした。時折様子見の為に降りる事はあっても、それ以外はずっと上空に居た。

 

 大陸に比べたら、日本のソレは何と穏やかなモノか。そりゃあ空飛んでいる女を見たら誤解する気持ちも分かるけど……彼女にとっては精神的な居心地の良さは段違いであった。

 

 とまあ、そんな感じの理由が有るのもあって、『ここはもう地元っすよ』みたいな感覚で、日本の上空を漂い続け。

 

 

 ──無惨のやつ、地上に出られないのにどうやって鬼を増やしているんだろう……とか。

 

 

 そんな事を考えながら、一向に途絶える気配のない鬼たちの姿に小首を傾げ……一度も止まる事なく(おそらくは無惨を)切り刻んでいると思われる、縁壱ロボの動きをレーダーで確認したりしながら。

 

 何となく……そう、何となくだが、少しずつ時代が進んでいるのを彼女は感じ取っていた。

 

 

 たとえば、黒船が日本にやってきて、幕府が終わって政府へと変わったり。

 

 たとえば、廃刀令が敷かれたのか、刀を所持した者が目に見えて減ってきたり。

 

 

 色々と……そう、長く続いた鎖国は終わり、日本にも西洋文化が入るようになってきたのを、彼女は感じていた。

 

 というか、うっかり縁壱より言われた年月よりも更に100年か200年か……けっこう経ったような気がするが……まあ、今更100年も200年も大した違いはないと、彼女は己に言い訳しながら。

 

 地上を離れて、おそらくは数百年ぶりになるであろう……人々の往来と喧騒が賑やかな……都会へと降り立ったのであった。

 

 

 

 

 

 ──当然ながら、彼女はそのまま降り立つ馬鹿でもなければマヌケでもない。

 

 

 いくら鈍い彼女でも、己の見た目が非常に目立つモノであることは重々承知していた。だからこそ、彼女は時が過ぎて人々の意識が改まるのを待った。

 

 何故なら、人間の姿に擬態した彼女の姿は、『トップをねらえ』劇中においては御馴染みの、ピンク色の髪が目立つ、完全な異国人の容姿であったからだ。

 

 しかも、外ツ国の顔立ちとも違う。身に纏う衣服は、セーラー服とも海兵服とも作業服とも違う、あまりに今の時代とは掛け離れている。

 

 

 だから、余計に目立つ。

 

 

 ぶっちゃけてしまえば、外ツ国ですら悪魔の類だと疑われて矢を放たれた事は一度や二度ではない。

 

 外ツ国を渡り歩いていた時には討伐隊も組まれたぐらいなのだから、その目立ちようが伺いしれるだろう。

 

 

 まあ、中には涙と涎を垂らして恍惚の眼差しを……うん、止めよう。

 

 

 とにかく、人間に擬態した時の彼女の姿は、それはそれで目立つのだが……それでも、今回はそこまで大事にはなっていなかった。

 

 

 何故なら、今は大正モダン。そう、時代が移り変わる最中。

 

 

 西洋の文化が入りこそすれ西洋への理解がほぼ皆無な者が多い日本において、目立つ恰好であっても『ああ、西洋かぶれか……』と思う者が実に多かった。

 

 おかげで、この時ばかりは目立って面倒だった容姿も、役に立つ。

 

 

 あっちにぶらぶら、こっちにぶらぶら。

 

 

 店に入って冷やかしをするわけでもなく、その視線は常に動き続けている。というか、身体もくるりくるりと反転し、その両足が止まる気配はまるでない。

 

 容姿だけでなく、明らかに異国人だと分かる雰囲気を漂わせていることもあって、物珍しさこそはあっても不審な目を向ける者はそう多くはなかった。

 

 

(おお……じ、自動車だ! ついに、自動車を再び見る日が来ようとは……!)

 

 

 まあ、前世以来初めてとなる自動車との遭遇に感動している彼女が、そんな周りからの視線に気づいたかどうかは定かではないが……まあいい。

 

 何であれ、日本の空気と西洋の空気が入り混じる、独特な建物が数多く点在する表通りを歩く彼女の機嫌は、正にご満悦であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな、浮ついた気持ちで前も確かめず歩いていたからだろう。

 

 

「ん?」

「あっ……」

 

 

 どすん、と。

 

 

 何かにぶつかったぞと思った直後、ドサッと何かが床に落ちた。

 

 何だと思って視線を下げれば、そこに居たのは……こう、何て言えば良いのか……炎のような明るい髪色の、実に特徴的な顔立ちをした少年であった。

 

 その子供は、呆然とした様子で足元に転がっている紙箱を見つめ──内部スキャン──洋菓子の可能性大──あっ(察し)。

 

 

「ご、ごめんなさい! 前を見ていなくて!」

 

 

 悪い事をしたならちゃんと謝る。

 

 

 それは前世も今世も変わらない。慌てて少年の目線に合わせて屈めば、「い、いえ、私も前をちゃんと見ておりませんでした……」我に返った少年はそう言って紙箱を拾った。

 

 ……言葉ではそうでも、明らかに気落ちしているのが彼女には分かった。

 

 おそらく、箱を拾った瞬間に中身がどうなっているかに気付いたのだろう。食べられなくなったわけではないが、綺麗な形のままが良かった……その気持ちは彼女にも分かった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………し、仕方がない。というか、胸が痛い。

 

 

「何か、御詫びをさせてもらえないだろうか」

「え?」

 

 

 するりと横を通って行った少年が、彼女の問い掛けに振り返る。不思議そうに小首を傾げる少年を前に、彼女は……そのまま言葉を続けた。

 

 

「金は持っていないが、それ以外なら……何か、困っている事はないかな?」

「いえ、そこまで御気になさらずとも……」

「しかし、こちらとしても申し訳なくて……何でもいい、何か困っていることはあるかな?」

 

 

 そう言えば、少年は困ったように眉根をしかめた。

 

 気分を害した……というわけではなく、どう断れば良いのか分からずに困っているといった感じだろうか。

 

 

 ──これは、本当に何も無いのかもしれない。

 

 

 御詫びをしたいが、困らせてまでやるわけにもいかない。

 

 そう判断した彼女は、次に断ったら引き下がろうと思って、少年の返事を待った。

 

 

「……それでは、一つお願いしたい事があります」

 

 

 すると、何かに思い至ったのか、少年はしばし視線をさ迷わせ……さ迷っているのか、これ……あ、いや、そっちじゃない。

 

 

「見た所、外ツ国の者と見込んで……貴女様のお知り合いに、お医者様か薬師様はおられるでしょうか?」

「医者? 薬師? 何だ、君は病気なのか?」

 

 

 予想外のお願いに、彼女は首を傾げた。

 

 反射的に、少年の全身をスキャンする。とりあえず、少年には何の異常も見られない。健康優良児という言葉がそのまま人の形を取ったかのような健康体だ。

 

 

「いえ、私ではなく、母が……」

「母……ふむ、身体を悪くしているのか?」

「詳しく教えられていないので分かりませんが、去年の秋頃より()せる事が多くなって、いっこうに……産後の肥立ちが悪いせいもあると、掛かりつけのお医者様からは……」

「……ふむ、それだけでは病かどうかは分からんな。とりあえず、私には医者や薬師の知り合いはいないよ」

「そう、ですか……なら、お気持ちだけで──」

「まあ、待て。知り合いは居ないが、治せるやつなら私が治してやろう。治せないのならば、それまでだが」

「え?」

「信じるか信じないかは、お前の判断に任せよう。さあ、どうする? 藁にも縋る思いで私の手を引くか、気持ちだけを受け取って帰るか……選んでほしい」

 

 

 心から、ワケが分からないと言わんばかりに目を瞬かせる少年を前に……彼女は、ズバッと言い切ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、そこから徒歩で1時間半と少々。

 

 

「……ここが杏寿郎くんの御家なのかな? ずいぶんと大きな屋敷なのだな」

 

 

 少年……いや、煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)と名乗った少年に手を引かれた彼女の前には、それはそれは見事な屋敷が姿を見せていた。

 

 瓦屋根に、屋敷全体を囲う塀。堂々たる門構えは実に立派で、西洋文化が目立ち始めた都心部に比べて、杏寿郎が暮らす家はまだ昔の空気を色濃く残している。

 

 まあ、それは屋敷がある周辺の家々もまた同様だが、この煉獄家が放っている空気は別格であった。何と言えばいいのか……代々受け継がれてきたというのが、薄らと感じ取れた。

 

 

「煉獄家は代々鬼狩りを生業とする武家の血筋ですので、ある程度広くなくては鍛錬をする場所がありません!」

 

 

 案の定……というやつなのだろうか。

 

 正門を前にぼんやりと外観を眺めていた彼女を見て、思う所が有ったのか。まるで、自慢するかのように聞いてもいない事を教えてくれた。

 

 というか、自覚は無いが自慢のつもりなのだろう

 

 その証拠に、家の事を紹介した時の杏寿郎の顔は傍目にもはっきり分かるぐらいに喜色満面であった。おまけに、声も大きく力強かった。

 

 

 ……が、それよりも、だ。

 

 

 杏寿郎の語りで彼女が気になったのは、『鬼狩り』の部分。もっとはっきり言えば……その単語に関連したキーワードを、彼女は思い出していた。

 

 

 ──それって、前に縁壱が話してくれた『鬼殺隊』というやつでは……と。

 

 

 もしそうなら、意外な所で遭遇したなというのが彼女の本音であった。

 

 せっかく作った縁壱ロボの為に鬼殺隊を探していた時は全く遭遇出来なかったというのに、特に探しているつもりでもなく街中をぶらついていたら遭遇したとは……何とも、皮肉な結果だ。

 

 あるいは、探し物のお約束というやつなのかもしれないが……さて、と。

 

 

 ちらり、と……彼女は杏寿郎と屋敷を交互に見やった。

 

 

 今更、刀を調達出来てもワープを開くつもりは毛頭ない。縁壱ロボが精力的に動き回っているのをレーダー越しに見る限り、あの謎空間から出られていないのは明白だ。

 

 しかし……こうして今も『鬼狩り』という言葉が有る通り、彼女が把握できていない鬼の数は相当数居るのは間違いない。

 

 

 ……これは、どういう事なのだろうか? 

 

 

(もしや、アイツ以外に鬼を増やせる個体が居るのか?)

 

 

 しかし、縁壱はそのような話をしていなかった……ならば、縁壱たちですら把握していない……鬼舞辻無惨と同格の個体が居る可能性が──っと。

 

 

「父上! 母上! ただいま戻りました!」

 

 

 手を引かれて玄関まで案内された彼女の思考は、杏寿郎の元気な挨拶にハッと引き戻された。

 

 見やれば、玄関(というか、内装が)も立派だ。年期は入っているが、掃除以外に定期的な手入れが成されているのが見て取れた。

 

 まあ、これだけ立派な屋敷なのだ。

 

 内より家を支える母親が伏せている今、代わりに動いてくれる女中でも雇っているのだろう。つまりは、それが出来るだけの財力を有している、見かけだけの……え? 

 

 

「──遅かったな、杏寿郎」

「申し訳ありません。ちょうど売り切れておりまして、焼き上がるまで少し店で待っていました」

「いや、責めているわけではない。ただ、帰りが遅いから何か有ったのかと心配していただけだ……で、そこの人は?」

「あ、あの、それについては……」

「ん? どうした?」

「その、帰る時にこの方とぶつかってしまい、箱を落としてしまいました。外で開けると埃が入るので確認は……たぶん、形が崩れて……」

「……なんだ、そんな事か。腐ったわけでもない、腹に入れば皆同じよ……それよりも、怪我はしていないのだな?」

「はい、軽くぶつかっただけなので、互いに怪我無く……」

「そうか、それなら良い。しかし、それならどうして彼女は……ん、どうした? 大口を開けて……?」

「……? お姉さん? どうしましたか?」

 

 

 親子の会話を尻目に、彼女は……呆気に取られていた。

 

 何故なら、通路の奥より姿を見せた男……おそらくは、いや、確実に杏寿郎の父親と思われるその男の顔は、杏寿郎と瓜二つであったからだ。

 

 杏寿郎が歳を取れば、父親に。父親が若返れば、杏寿郎に。まさかクローンなのかと疑って反射的にスキャンを行った彼女は……仕方ないだろう。

 

 はっきり言って、似ているとか、そんなレベルでは……ああ、いや、そうじゃない。

 

 彼女は内心にて首を横に振ると……こちらを見つめる親子の視線に我に返った彼女は、慌てて二人に頭を下げた。

 

 

「ノノだ。此度、杏寿郎くんの洋菓子を落とさせてしまって申し訳ない。お詫びとして、杏寿郎くんの母親を見て欲しいと提案されたので、こうして付いてきたわけだ」

 

 

 ──何を言っているのか分からない。

 

 

 

 そう言いたげな雰囲気をこれでもかと醸し出している杏寿郎の父親(ほぼ、確定)は、しばし視線をさ迷わせた後……ちらりと、傍の杏寿郎を見下ろした。

 

 それで察した杏寿郎が、父親にポツポツと説明する。

 

 父親は、傍目にも彼女を胡散臭く思っているのは見て取れたが、来てしまったのなら……といった感じなのか。一つため息を零すと、改めて彼女へと向き直った。

 

 

「……ノノさん、で良いのかな?」

「好きな様に呼んでくれて構わない。ノノは、あくまでもこの姿の名前だからな」

「そ、そうか……なら、ノノさんと呼ばせてもらおう。申し遅れた、私の名は煉獄槇寿郎(れんごく・しんじゅろう)。そこの杏寿郎の父だ」

 

 ──しかし、外ツ国の者は独特な言い回しをするのだな。

 

 

 ぽつり、と。

 

 

 おそらくは聞こえないよう口の中だけで囁いたのだろうが、彼女の耳はしっかりと聞き留めていた。バスターマシンは伊達ではない。

 

 ちなみに、彼女は全く気にしていない。

 

 基本的に雲海の中で乱世が落ち着くのを待った(誤差100年以上)のだ。言い回しも古臭いモノになるだろう……という考えがあったからだ。

 

 

「……医学の心得があると杏寿郎より聞いたが?」

「医学の心得など無い。治せるなら治すし、治せないなら治せないと話しただけだよ」

「……? 申し訳ない、仰っている意味が私にはよく分からないのだが……」

 

 

 心底不思議そうに首を傾げる槇寿郎。同じく、首を傾げる杏寿郎。見れば見る程似ている親子を前に、さて、どのように説明したら良いかと彼女は思考を巡らせ──ん? 

 

 

「槇寿郎さん、お客様を何時までも玄関に立たせて、何をしておられるのですか?」

「──瑠火(るか)!? 起きてはならんと言っただろう!」

「そうさせたくなくば、早くお客様をお連れなさってください」

 

 

 不意に、廊下の向こうより姿を見せたのは、槇寿郎とそう歳の離れていない……さらりとした清涼感を思わせる美女であった。

 

 今しがたの父親然とした雰囲気は、無い。愛する妻を心配する夫の顔を前面に見せた槇寿郎は、見事な身のこなしで駆け寄り……優しく、女の手を取って支えた。

 

 瑠火と呼ばれた美女……おそらくは、槇寿郎の妻であり、杏寿郎の母なのだろう。

 

 

「は、母上、起きて大丈夫なのですか!?」

 

 

 履物をパパッと捨て置いた杏寿郎が、慌てた様子で駆け寄るのを、彼女は見送った。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ふむ、今の内に見ておくか。

 

 

 

 気遣う父と息子と、そんな二人の気遣いをやんわり受け止める母の、仲睦まじい一時。杏寿郎の靴を揃えた彼女は、改めて瑠火の全身をスキャンする。

 

 そうして分かるのは……瑠火の容体。バスターマシン7号の身体に搭載された知識の一つが、瑠火の病名を正確に導き出した。

 

 

 ──肺がん、だと? 

 

 

 何気なく検査した結果、重病だと発覚した時の医者は、こんな感覚なのだろうか……彼女は、少しばかり心が揺らいだ。

 

 けれども、それもすぐに落ち着いた。何故なら、彼女には『フィジカルリアクター』が有るからだ。

 

 

(まだ転移はしていないようだが、相当な痛みが出ている……表に出さないのは、二人を心配させないため……かな)

 

 

 見た所、『フィジカルリアクター』を用いて精製するナノマシンによって治療は出来る。それも、カプセル状のナノマシンを飲み続ければ……ん? 

 

 

(……何だコレ?)

 

 

 煉獄親子のインパクト(お前ら似過ぎだよ)のせいで気付くのが遅れたが、変なモノが有る。何気なく視線を横に向けた先の、年期の入った掛け軸だ。

 

 その掛け軸には、女が描かれている。だが、ただの女ではない。

 

 赤と橙色が入り混じる長い髪が天へと揺らぎ、月を背にして雲の合間より地上を見下ろしている……といった感じだ。

 

 

 ……正直、珍しい構図だなと彼女は思った。

 

 

 過去、様子見のために町を覗いた時、女が描かれた掛け軸は何度か目にした。春画もその際目にしたが、空から地上を見下ろす女という構図は初めて見る。

 

 そういうのは、だいたいが吉兆を意味する鳳凰(ほうおう)や、力強さの象徴である鷹、あるいは天を意味する仏陀などの仏などが多い。

 

 他には、太陽神の異名を持つ天照大御神などがあるが……絵は、夜を示している。月を背にする太陽神……何かの暗示なのだろうか? 

 

 

「……どうされましたか?」

 

 

 しばし眺めていると、瑠火より声を掛けられた。

 

 見やれば、彼ら彼女らの間で結論が出たようで、せっかく来たのだからお茶でも飲んで行ってください……と、言われた。

 

 治療の方はいいのかな……そう思いつつ、お言葉に甘えてとあがりかまちに足を──。

 

 

「ああ、すまない。外ツ国の者たちには馴染みが薄いと思うが、この国では家に入る時は履物を脱ぐんだ」

 

 

 ──掛けようとして、槇寿郎より静止された。

 

 

 

 ……そういえば、そうだった。

 

 

 

 あんまり脱ぐ機会が無い(バスターマシン状態の時は、そもそも無い)から、靴を履いているという事すら、うっかりしていた。

 

 なので──『フィジカルリアクター』にて靴を消去し、今度こそ上がりかまちに足を──

 

 

「待て、今……何をした?」

 

 

 ──掛けた瞬間、再び槇寿郎から呼び止められた。見やれば、先ほどまで見せていた友好的な態度は無く……代わりに、射殺すかのような鋭い視線を向けていた。

 

 

「答えろ、今、何をした?」

「……? 何を、とは?」

「とぼけるな、靴をどうした?」

「……? あ、ああ、そうか、靴は消しただけだ。履物は駄目なのだろう?」

「……あくまでも、とぼける気か?」

 

 

 ゆらり、と。

 

 瑠火より離れ、一歩、二歩、歩み寄る。剣呑とした空気を漂わせ、目を逸らした瞬間に投げ飛ばされそうだなと彼女は思った。

 

 

「──槇寿郎さん、お客様に何をするつもりなのですか?」

 

 

 けれども、そうはならなかった。

 

 それよりも早く、瑠火が待ったを掛けたからだ。「何を怯えているのですか、まったく……」呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた瑠火は、スススーッと前に出て……彼女へと頭を下げた。

 

 

「お気を悪くさせてしまい、申し訳ありません。夫はどうも、心配性な所がありまして……」

「いや、気にしなくていいよ。ところで、上がらない方が良いのかな?」

「いえ、いえ。是非とも、お茶の一杯だけでも馳走になってやってください」

「ありがとう、そう言っていただけると、こちらも嬉しいよ」

 

 

 促されるがまま上がれば、瑠火はにっこりと笑った。それを見て納得いかないと槇寿郎は鼻を鳴らしたが、じろりと妻から睨まれて、そっと視線を逸らした。

 

 

「……あの、ノノさん。先ほどは何を見ていたのですか?」

「そこの掛け軸の絵を、見ていたんだ」

 

 

 そんな中、真っ先に話しかけに来たのは杏寿郎であった。特に隠す事でもないので、彼女はそのまま答えた。

 

 

「いったい、何の絵なのかなと思ってね。女の絵は振り返ったり派手に着飾っていたりするモノが多いから、珍しいなって……」

「なるほど、分かりました。それは、『日の神様』の絵です」

「え、これがヒノカミ?」

「はい、そうです。外ツ国でも、日の神の名は広まっているのですか?」

 

 

 杏寿郎の問い掛けに、それは分からないと彼女は応えた。すると、「でしたら、何処で知ったのですか?」と問われたので。

 

 

「何故かは知らないけど、ヒノカミと呼ばれる事が多いから、ヒノカミとは何なのかなと前から思っていたのだ」

「え?」

「しかし、自分の姿なんてじっくり見たのはかなり前だが……そうか、他の人達には私はこのように見えているのか」

「え?」

「これは何時頃の私を描いた絵なんだろうか……雲海から覗いている感じの絵だよね、なら、どこかで私を目撃したのだろうか」

「……え?」

「地上にちゃんと降りるのは2,300年ぐらい久しぶりだけど、こういうふうに絵が飾られる時代になったんだね……何だか感慨深いモノを感じるよ」

 

 

 率直に答えたのだが、何故か杏寿郎の反応は弱弱しかった。というか、妙に声に力が無かった。

 

 気になって振り返れば、杏寿郎だけではない。槇寿郎もそうだが、先ほどまで夫をキッチリ叱っていた瑠火も、同様にポカンと呆けた様子であった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………あっ、これはヤッチャイマシタね。油断していたというか、完全にうっかりなやつだ。

 

 

 

 大陸の時にちらほら遭遇した、『おお神よ我らに導きを(恍惚・失禁・殉教のトリプルコンボ)』の流れかな? 

 

 それとも、『神を名乗る痴れ者に天罰を! (発狂・失禁・生贄のトリプルコンボ)』という、異教徒ぶっ殺しモードのアレかな? 

 

 あるいは、『ああ……(生暖かい目)』かな。

 

 

 精神的に一番辛いのはコレだけど、何だろうか……どうも、煉獄家の反応がその三つとも違う気がする。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………いや、まあ、下手に騒がられるのが嫌だから擬態しているだけで、別にそこまで本気に隠しているわけではないし……え、いや、待って、その視線は止めてほしい。

 

 

「……っ!!!!」

 

 

 キラキラ、キラキラ、と。

 

 いや、もはやそれは、炎のよう。『わたくし、気付いてしまいました』と力強く訴えている子供の視線を前に……彼女は、思わず内心にて唸った。

 

 

(──いかん、完全に期待しているぞ)

 

 

 このまま否定するのは簡単だが、ここまで満ち溢れてしまった子供の期待を否定するのは……何というか、非常に心苦しい。

 

 普通に考えれば、この人自分を神様だと思っているのね(笑)みたいな扱いをするところなのに……よほど純粋か、まっすぐな性根なのだろう。

 

 その証拠に、見ろ……槇寿郎と瑠火は、困った様子で息子と私を交互に見やっている。

 

 ある意味、そういうのが一番辛いのだ。いっそのこと、笑い飛ばしてくれた方が幾らでも呵責無く誤魔化せるというのに…………ええい、仕方がない。

 

 

(元々、この子の洋菓子を落とした御詫びなわけだし……薬を渡して終わりにするか)

 

 

 そう、結論を出した彼女は……既に精製しおえたカプセル(30日分)の入った紙袋を、杏寿郎に手渡すと。

 

 

「ここに、君の母の病を治す薬が入っている。朝・昼・晩、各一つずつの一日3回。時間はそこまで気にしなくていいから、きっちり一つずつ、30日間掛けて飲み続けるように」

「え、あ、あの……」

「うっかり自白した私がマヌケなわけだけど、そういうことなのだ──では、おさらば!」

 

 

 一方的にそれだけを告げ──瞬時にバスターマシン7号へと戻った彼女は──有無を言わさず外へ飛び出し、青空の向こうへと飛び立ったのであった。

 

 

 

 

 

 




 戦力が整いつつある剣士たち

 フラグ8「最終的にほぼ不動の順位で固定される上弦の鬼たちの半数が、鬼にされる事無く天寿を全うor死亡により、上弦に値する鬼が三までになる」

 フラグ9「本来であれば妻を失った事で心が折れたとある剣士が、ヒノカミの慈悲により妻が助かったことで、息子たちとの交流が続く。隊士たちへの指導も行われ、全体的な戦力UP」


 もはや考える事を諦めつつある自称災害の化身

 フラグ9「時々遭遇してはコマ切れにしてくるお労しやロボに心労が溜まっていたところ、隠れ家にまで押し掛けたうえに居付いてしまって老化が更に加速する(能力値ダウン)」

 フラグ10「お労しやロボのせいで隠れ家から出る隙が無く、部下の鬼を通じて鬼を増やしている。しかし、年々戦力を整えつつある鬼殺隊によって、頭打ちになりつつある(総数制限)」

 フラグ11「彼女に隠れ家が見つかっているので、もはや隠れ家の意味が無くなっている。上から狙い撃ちされた時、鬼の親玉は……」


 今回は本当にうっかり自白しちゃったマシン7号

 フラグ2「お労しやロボがあまりにも有能だったので、量産型お労しやロボを作るべきかと考えている。ちなみに、その性能はとある岩柱(痣発現)の1.7倍である」

 フラグ3「後々、様々な悲しみの始まりである血の臭いが発生する前に叩いてたりするので、死んでいるはずの者が生きていたりする場合がある」




まだだ……まだ、無惨には逆転の目があるかもしれない(?)



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第五話: ああ、今回もダメだったよ

誰か続き書いてください


 

 ──先日、彼女は気付いた。

 

 

 

 どうやら、己は勘が鈍いというか……コミュニケーションに難があるのではないか……その可能性に。

 

 もちろん、あくまでも可能性の話だ。

 

 彼女からすれば、出会った相手が例外なく初対面。そのうえ何やら複雑な事情を抱えていそうなうえに、そもそも、彼女が理解している常識が違う。

 

 おまけに、彼女は何百年という月日のほとんどを、空の上で過ごしていた。つまり、彼女のぼっち期間は数百年……平均レベルのぼっち達が怖気づく程の、神話レベルのぼっちなのである。

 

 

 そう、思い返せば、ここ数百年、彼女は他者とまともにコミュニケーションを取った覚えがなかった。

 

 

 かつては大陸を練り歩いたり、町から町へと流浪の旅に出たり、町に降り立っては何故か領主より捕縛命令が出て逃走したりなど、色々関わっていたが……今は昔のこと。

 

 唯一の例外は、それこそ『縁壱』と、その妻である『うた』だけだ。あの二人がやべーレベルの『つよつよコミュ強(諸説有り)』だったおかげだろう。

 

 

 ……うたは別として、『縁壱』はコミュ強というよりは、いくらピントがズレた事を言っても気にしないマイペースな……話を戻そう。

 

 

 とにかく、彼女はこれまでまともに他者と接して来なかったことで、いつの間にか己は人見知りになっているのではないか……そう、思ったのだ。

 

 だから……多少なり他者とのコミュニケーションに問題が生じるのは仕方がない事なのだ。

 

 というか、そもそもいきなり本番が駄目だったのだ。いきなり人間とコミュニケーションを取ってはいけない。それが許されるのは陽キャだけなのだ。

 

 そう、何事も最初はイージーモードから始めた方が良いに決まっている。怪我をすればリハビリを、まずは徐々に身体を慣らしてからやるのが不変の鉄則。

 

 どこぞの神様だって、いきなり張り切って一週間で世界を作ったから、その後は終末までずっとお休みするハメになったじゃないか。

 

 そう、気付いてしまった彼女は、ひとまず町から離れ……色々試行錯誤した結果、今度は山奥にて練習を始める事にした。

 

 まあ、練習とはいっても、そう大した事をするわけではない。というか、出来るわけもない。だって、人が居ないのだから。

 

 何故なら、彼女が言う山奥というのは、本当の意味で山奥だ。文字通り、人類未踏の地……それこそ、踏み入れても帰られずに命を落としているような、秘境も秘境。

 

 居るのは獣や鳥や虫ばかり。何処も彼処も自然がそのままに循環し、人の気配など1年に一度は訪れれば多いぐらいの、秘境であった。

 

 

 ……賢明な者から見れば、本末転倒もいいところだ……そう、呆れた事だろう。実際、本末転倒なのだから言われてもしょうがない。

 

 

 難易度『やさしい』から始めるにしても、限度がある。

 

 スライムでもゴブリンでも、倒さなければ経験値が手に入らないのと同じく、話し相手が居なければお話にならないのだ。

 

 

 ……だが、しかし。これにも実は、深い理由が有った。

 

 

 それは、何故かは分からないが……ここ最近(とはいっても、十年単位だけれども)……出会う人、出会う人。

 

 何故か……もう、本当に何故かは分からないけれども、誰もが顔を合わせた途端、『ヒノカミ様!』と飛び退いてしまうのだ。

 

 てっきり、縁壱のようなごく一部の者たちに広まっている呼び名かと思ったが、どうも違う。思っていたよりも、人々の間に『ヒノカミ』とやらは浸透しているようなのだ。

 

 だから、別の理由で迂闊に町には降りられなくなった。杏寿郎の時と同じく、うっかり自白しては相手にも迷惑が掛かるかもしれないと思った結果……都心は候補から外れてしまった。

 

 

 とはいえ……ならば田舎に……ともいかない。

 

 

 例のアレ(ピンク髪の、ノノの姿)で接しようにも、田舎は都会ほど柔軟ではない。ピンク髪の異国の血が入った一人旅の女なんぞ、怪し過ぎて誰もが遠巻きにしてしまう。

 

 金髪碧眼ですら珍し過ぎて村中の者たちが見に来るレベルなのに、ピンク髪なんぞもはや歩く珍獣扱いだ。幾らでも対処出来るにしても、下心満載で接して来るのは……ねえ。

 

 かといって、本来の姿はもっとヤバい。具体的にいえば、拝まれる。冗談抜きで、その場に膝をついて拝まれてしまう。

 

 縁壱と出会った時はそうではなかったのに、いったい何時の間に……しかも、そこで終わりじゃない。ええ……と、ドン引きする彼女を他所に、続くのは……お祭りだ。

 

 

 そう、驚くべき話だが、神輿が登場する。

 

 

 『日の神の尊』とか書かれたノボリが取り付けられた神輿が何処からともなく登場し、彼女を乗せようとワッショイわっしょい。

 

 その騒ぎは、村の中だけで留まらない。

 

 騒ぎを聞きつけた隣村の者たちが我先にと駆け付け、右に左にワッショイわっしょい、左に右にワッショイわっしょい。

 

 正直、恥ずかしい事、この上ない。穴が有ったら入りたいとは、正しくこういう気持ちなのだろう。

 

 そりゃあ……大陸を旅していた時にも、似たような事は有った。だが、どうも……何と言い表すべきか……こう……違うのだ。

 

 大陸の方は、こう、もっと神聖な感じであった。

 

 雰囲気も厳かで、尊い御方を奉ると言わんばかりに持ち上げようとするから、彼女もけっこう気楽に逃げ出せた。

 

 だが、こっちは違う。同じように奉る空気は出ているが、扱いがどうもスターというか……降って湧いた有名人に集まる野次馬みたいな感じだろうか。

 

 おかげで、振り払って逃げようにも……こう、逃げ出すのもはばかれる空気というか、何と言うべきか。

 

 ──結果的に、人里離れた所でほとぼりが冷めるまで……と、彼女が考えるのは、自然の流れというやつだろう。

 

 

(……雲海の中に居るよりは、騒がしくて暇を感じずに済むから楽だなあ)

 

 

 ちちち、と。聞こえてくる鳥の鳴き声に、彼女は目を細める。幸いにも、彼女は時の流れをそれほど苦にはしない。

 

 劇中における『バスターマシン7号』は違ったが、ここらへんは彼女の前世(今の身体に成る前の)が影響したのか……は、不明だが、とにかくけっこう平気であった。

 

 まあ、今更と言えば、今更な話なのだが……で、だ。

 

 杏寿郎の下から一方的に飛び立ってからの日々を、こうして長々と説明したわけなのだが……実は、これもまた理由がある。

 

 理由を語るのに新たな理由を語るのはややこしい話だが、とにかく理由が有った……さて、それは何かと言えば……だ。

 

 

「……ど、どう反応すれば良いのだ?」

 

 

 人里から離れ、自然しか存在しない森の奥深くに……おそらくは己を祀っているのかもしれない神社を見つけたからであった。

 

 ふわり……と。地に降り立った彼女の両の足首あたりが、雑草で埋もれる。

 

 手入れが……いや、僅かばかり手入れの名残を感じさせる狭い境内を通り、『日ノ神尊神社』と記された小さな看板を見つめる。

 

 

 ……何度見ても、見間違いではない。

 

 

 これは……本当に、どんな反応をすれば良いのだろうか。いや、己を示すらしい『ヒノカミ』と、この『日の神の尊』が、まったく異なる存在である可能性だってあるじゃないか。

 

 

 そう、ひとまず思った彼女は、改めて神社を見やる。

 

 

 神社全体の大きさは、けして大きくはない。こんな山奥に有るという条件を外せば、掘っ立て小屋と見間違うぐらいに簡素な造りをしている。

 

 見た所、参拝者が途絶えて(あるいは、管理者か)久しいのだろう。もしくは、あまりに奥まった場所ゆえに、管理したくとも出来ないのか……それは、現時点では不明だ。

 

 社全体に降り積もった土埃もそうだが、簡素であっても相当に歴史を重ねているのが、素人の彼女の目から見ても分かった。

 

 ひとまず……ピタリと閉じられた留め金を外して、御開帳。

 

 中を拝見すれば、神具と思われる小道具が二つ三つあるぐらいで、御神体と思わしき物は見当たらない。台座代わりと思われる布きれが、ぽつんと置かれているだけだ。

 

 おそらく……盗まれたのだろう。こんな場所にまで盗みに来るやつが居るとは思えないが、無い以上は、そうなのだろう。

 

 

(……かなり劣化が進んでいるな)

 

 

 軽く触れるだけで、ポロポロと繊維が解れて崩れてゆく。正確な年数は不明だが、推測出来る範囲では……百年以上は前のモノだと思われる。

 

 つまり、この神社は百年以上も前から存在しているわけだが……よくもまあ、今日まで倒壊せずに残ったものだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………これも、何かの縁だ。

 

 

 そう思った彼女は、神社を背にして仁王立ち(別名、ガイナ立ちとも言う)すると……おもむろに、目を閉じる。

 

 

(さて、街を離れてから……約200日強か。自動車が出てきたぐらいだし、人々の関心が薄れるまで……5年も経てば十分だろう)

 

 

 胸中にて、そのように結論を出した彼女は、そのまま意識を外界に委ね、時の流れに意識を溶け込ませようと──した、その時。

 

 不意に……索敵レーダー内にて、他とは異なる物体を感知した。反射的に、彼女は目を開け……そちらへと目を向ける。

 

 彼女のレーダー範囲は、半径100メートル。

 

 やろうと思えば天文学的範囲まで広げられるが、地上でそんなことしても何の意味も無いし、反応が多過ぎるのは鬱陶しいので、区切りとして100にしている。

 

 

 もちろん、例外はある。

 

 

 それは、無惨を閉じ込めている謎空間。あそこは彼女自身に搭載されたセンサーではなく、新たに設置した別センサーによって24時間体制で監視している。

 

 正直、そこまでする必要があるのか、と思わなくはない。

 

 はっきり言って、面倒臭いし……でも、アレは放っておくと碌な事しなさそうなので、仕方なく……で、話を戻すが、その範囲に……獣とは異なる物体が侵入した。

 

 そう、獣ではない。動きが、明らかに獣のソレとは異なっている。だが、獣でないのならば、いったい……おや? 

 

 

(……子供か?)

 

 

 両目のセンサーレンズを絞れば(感覚的な話)、確かに子供だ。額の辺りに薄らとした痣と、髪と黒目が赤みがかった、特徴的な容姿をした子供だ。

 

 その子供が……えっちらおっちら、山を……いや、神社があるこちらの方へとまっすぐ向かって来ている。

 

 

 ──迷子か? 

 

 

 一瞬、そう思った彼女は間違ってはいない。

 

 何故なら、彼女が居るその場所にはおぼろげな山道が続いているが、子供が登るには辛すぎるモノであったから。

 

 けれども、彼女はすぐにソレを否定した。

 

 何故なら、登ってくる子供の動きに迷いが無いから。迷子であれば右に左に方向が動き、不安が動きを止め……そもそも、山を下ろうとするはずだ。

 

 なのに、子供の動きには迷いが無い。時折、何かを探すように足を止めているのが見えるけれども、すぐに視線が定まり……確実に、この神社へと距離を狭めている。

 

 

 もしや……参拝客なのだろうか? 

 

 

 だが、レーダーには子供の傍に人の反応はない。少し範囲を広げても、同じ。こんな辺鄙な場所に子供一人が参拝に来るのは、変な話だ。

 

 ならば、この神社の管理人か関係者……だったら、それこそ子供じゃなくて大人が動くはずだ。その大人に事情があったとしても、それなら尚更子供一人で行かせるわけがない。

 

 

 ……何か、事情があるのだろう。

 

 

 そう判断した彼女は、とりあえず放って置けないし子供に何か有っては……と思い、登って来るのを待った。

 

 

「……あっ」

 

 

 そうして、時間にして15分後。

 

 小さな足で登り辛いのに、息を切らしながらも登って来た子供……いや、少年の目が、ようやく彼女の姿を捉えた。

 

 

 ──途端、ぽかん、と呆けた様子で少年の目が大きく見開かれた。

 

 

 

 あ、これはワッショイ来るか? 

 

 

 

 内心にて身構える彼女を他所に、少年はしばしの間、呆然としたまま彼女を見つめた後……ハッと我に返ると同時に、「あ、あの、『日の神』様でしょうか!?」と尋ねてきた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………まただよ(笑)

 

 

 

 そう、呟きかけた彼女は、無言のままに首を縦に振る。

 

 これまでの経験上、首を横に振ったところで誰も信じてくれない。だから、とりあえず頷いておいた方が手間も省けるので……彼女はそのまま、少年の名を尋ねた。

 

 

「あ、あの、俺、竈門炭治郎(かまど・たんじろう)です!」

 

 

 すると、元気いっぱいな返事をされた。

 

 こんな森の奥深くにまで来ているのに、ずいぶんと声に力が有る。よほど優れた肉体を持っているのか、あるいは……そう、あるいは、だ。

 

 

(……なるほど、気力と高揚感で麻痺しているだけか。気が抜けた途端、そのまま座り込んでもおかしくない……か)

 

 

 センサーによるスキャンを経て、少年の状態を確認。いますぐ治療が必要なレベルではないが、すぐに休ませた方が良いぐらいに疲労が蓄積しているのが分かる。

 

 とりあえず……ありがたそうに拝む少年……炭治郎に拝むのを止めさせた後。改めて、どうしてここに来たのかを尋ねてみる。

 

 何せ、こんな辺鄙な場所だ。自殺志願者だと言われても驚かないだろう……というのが、彼女の正直な予想でもあった。

 

 

「あの……父さんの病気を治して欲しいです!」

「……すまない、最初から話してくれないか?」

 

 

 けれども、予想は外れた。

 

 いや、まあ、当たり前と言えば当たり前なのだが……とにかく、話を聞いてみて……簡潔にまとめれば、だ。

 

 まず、炭治郎の家は代々炭売りをしており、家はこの山の麓にほど近い場所に有る。家族は多いが仲睦まじく暮らしており、今年の冬も無事に越せるとの事。

 

 

 ……冬を越す部分の話は居るのだろうか。

 

 

 そう思っていたら、やっぱり要らなかった。まあ、子供の頭でいきなり順序良く説明出来るわけもないかと思って、さらに話を聞いてみれば、だ。

 

 どうやら……炭治郎の父は一昨年ぐらいから床に臥せる事が多くなり、最近では3日起きて1日は布団から出られなくなるぐらいにまで衰えてしまっているらしい。

 

 何度か行商より薬を手に入れ服用したものの、いっこうに良くならない。父曰く『生まれつき身体が強くない』という話らしいのだが……さて、だ。

 

 

「あの……日の神様、父さんの病を治してください、お願いします! 俺、何でもやります、頑張りますんで、どうか!」

「……色々と聞きたい事はあるけど、一ついいかな? どうして、私にそんなことをお願いするのかな? 自分で言うのも何だけど、私は医者の恰好などしていないはずなのだけど……」

 

 

 本当に色々と気になる部分は多いけど、とにかく、その中でも真っ先に気になった点を尋ねてみれば、「え、だって……」何故か炭治郎の方が不思議そうに首を傾げた。

 

 

「日の神様は、太陽神であると同時に薬祖神(やくそじん:医薬を広めたとされる神)でもあるんですよね?」

「え?」

「だから、父さんの病も治せると……あの、駄目なんですか?」

「だ、駄目じゃ……ないよ。うん、だからね、泣かないで、ね」

 

 

 今にも涙を流しそうな程に潤み始めた子供の前では、ヒノカミ(笑)も形無しである。悪党を仕留める事に戸惑いはないが、泣いている子供には弱いのだ。

 

 とりあえず……このままぐだぐだと話を聞くばかりでは埒(らち)が明かない。

 

 治すにしても、治せないにしても、当人を見なければ話が進まない。そう判断した彼女は、ひょいっと炭治郎を抱き上げた。

 

 

 当然──恥ずかしがった炭治郎は降りようとした。

 

 

 けれども、この方が速い事、手遅れになる前に、君の足では途中で動けなくなる、等々と説明すれば、渋々ながら納得した。

 

 なので、ふわりと淡く輝く赤き長髪を妖艶になびかせながら……彼女は、これまたふわりと重力に逆らって木々の頭上へと一気に浮上する。

 

 そうして、驚愕に目を見開く炭治郎から家の場所を聞き出しながら……彼の自宅へと向かう。

 

 

(それにしても……薬祖神か)

 

 

 風で身体が冷えないよう炭治郎を抱き留めながら……彼女は、内心にて溜息を零した。

 

 思い返せば、これまで何度か『フィジカルリアクター』を応用して薬を精製し、色々な人に手渡した覚えがある。

 

 言っておくが、無差別ではない。それをすると余計な争いが生じることを、彼女は経験から分かっていた。

 

 

 地上に降り立った際、偶発的に彼女と遭遇。

 

 寿命ではなく、ナノマシンで治癒が可能な範囲。

 

 環境的にそうなってしまっただけで、一線を越えていない。

 

 彼女の価値観で同情に値する、治した方が良い、等々。

 

 

 そういった条件を満たした者にだけ、治療を行ってきたが……まさか、それが巡り巡って、このような形で己の前に現れるとは……さすがの彼女も想定していなかった。

 

 

(……そういえば、梅毒で生まれつき痣が有った兄と、アルビノ(先天性にメラニン色素が欠乏した人)の妹の……あの兄妹は、あの後どうなっただろうか)

 

 

 そうして、ふと……地上の、炭治郎が指し示した先にある、ぽつんと姿を見せた家を見やった、その時。

 

 

(境遇が哀れだったからナノマシンで治して、妹の方は癇癪持ちだったけど顔立ちは整っていたし、お互いが力を合わせていけば生きていけると)

 

 

 以前、何だか煌びやかな場所だなと降り立った地(もちろん、深夜である)にて気紛れに助けた、凸凹兄妹の事を……思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、その後の話は長いので割愛しよう。

 

 

 何せ内容の大半は、降り立った瞬間の、炭治郎の家族たちのてんやわんやというか、ワッショイには至らないけど半ワッショイぐらいに騒がし……で、だ。

 

 まず、件の人物である、炭治郎の父親の炭十郎(たんじゅうろう)だが、病はナノマシンで治せる類であった。

 

 

 具体的には、白血病だ。

 

 

 遺伝的なモノではなく、生来のモノ。さすがにいきなり完治とまではいかないので、完治するまで様子見する事となった。

 

 もちろん、ただ様子見するわけではない。ナノマシンで病は治せても、衰えた身体を治すのは当人の気力であり、食べ物なのだ。

 

 なので、兎にも角にも、飯を食わねば治るモノも治らないと思った彼女は、3日に一度の割合で海や山へと向かい……適当に獲物を捕らえて来ては、振る舞うといった事を繰り返した

 

 その間……何だかんだ言いつつも竈門家とは交流が続いた。

 

 病で寿命は縮まったが、もう大丈夫だと判断した彼女は、彼ら彼女らに挨拶してから……即日、雲海へと飛び立ったのであった。

 

 

 ……ただし、だ。

 

 

 

 

 

 ──さて、竈門炭十郎と竈門葵枝(きえ)の両名、急に呼び出してすまない。

 

 ──いや、畏まらなくて良い。ただ、子供に聞かせられる話ではないので、こうしただけだ。

 

 ──その、な。余計な御世話だとは思うし、子は宝だという気持ちは私も同意見なので、そこを責めるわけではない。

 

 ──その、病み上がりなのでな。程々に、な。元気になったし、致すなとは言わないが……その、もう少し、声を、な。

 

 ──音や臭いは私が消していたので大丈夫だが……その、刺激の強い事だし……注意はしっかり……な。

 

 

 

 

 

 いちおう、子供たちの目や耳が届いてない時に、それだけは忠告しておいたのは……まあ、余計な御世話なのだろうけれども。

 

 

 

 

 

 ──滋養の薬液をあげよう。即効性だから、身体を痛め、体力が衰えても、すぐに効くやつだ……いいね、ほどほどに、だぞ。

 

 

 

 

 

 とりあえず、顔を真っ赤にして縮こまる仲睦まじい夫婦に、それだけは……言い残しておいた彼女の気持ちは……間違ってはいないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんなこんなで竈門家を離れて、早5年。雲海に潜んでいた、ある日の事。

 

 

 下手に田舎の方に行くと出会い頭のワッショイが発生する事に頭を悩ませていた彼女は、もういっそのこと町中の方が、騒ぎが起きにくいのでは……と思い至った。

 

 

 いわゆる、木を隠すなら森の中戦法、盤面をひっくり返す、逆転の発想。

 

 

 迂闊に自白さえしなければ、まずバレない。『ノノ』に化けていても注目は浴びるだろうが、もうこの際だ。『ヒノカミ』と呼ばれるよりは、ずっとマシだろう。

 

 というか、あの時はアレだ。

 

 自分で言うのも何だが、うっかり自白したから駄目だったのだ。言い換えれば、自白さえしなければ変装は上手く行っていたわけなのだ。

 

 

 そう、決断した彼女は……再び地上へと降りる。

 

 

 もちろん、人目に付かぬように夜間の内に……町から少しばかり離れた場所で。これまたもちろん、徒歩で行ける距離……で、次は候補地だ。

 

 さすがに、杏寿郎が居たあの街は止めとくとして、他にも発展している町はいっぱいある。それに、まだ……今はまだ、通信技術はそれほどではない。

 

 前世ほどに科学技術が進んでいれば、話は別だが……とはいえ、ずっと同じ町に居ると露呈する可能性が格段に上がる。なので、定期的に場所を変える必要があるわけだが……まあいい。

 

 

 テクテク、てくてく、テクテク。

 

 

 のんびり山道を歩いて(不眠不休)、町の近くへ。途中、鬼と遭遇したのでバスターミサイルで瞬殺してから、先へと進み。

 

 何件か宿を通り過ぎた頃になれば、日が登る。

 

 起き出して出発している人たちの姿がちらほらと増え始めているのを横目に、彼女は意気揚々と町へと向かう。

 

 その際、ちらちらと周囲より視線を向けられるが……まあいい。

 

 外ツ国の者なんぞ、港にほど近い場所か、日本でも有数の都市か、金持ちばかりが集う一等地か別荘地ぐらいなものだ……こんな場所で遭遇すれば、目立って当然である。

 

 

 そう、バレなければ何でもいいのだ。

 

 

 変わり物の外ツ国の女、世間知らずの外ツ国の女……そう思ってくれるのであれば、この程度の視線なんぞどうでもよい事であった。

 

 

(……そうか、今は藤の花が咲く季節か。縁起なのか流行なのかは分からないが、どの宿も見事に藤が花を咲かせて……綺麗だな)

 

 

 さて、そんな彼女の目を楽しませてくれるのは……何と言っても、よく手入れされた藤の花だろう。

 

 藤の木を植えている家はそれなりに目に留まるが、旅の宿は特に植えている場合が多い。大なり小なり違いはあるが、どの家も大切に扱われているのが見て取れる。

 

 おそらく、何かしらの意味があるのだろう。

 

 彼女にとってはそれよりも見た目だが、手入れの行き届いた花々の美しさは、彼女にとっても非常に嬉し……と。

 

 

「……あ、あの、そこの桃色髪の御方!」

 

 

 町までもうすぐ……という辺りで、道路脇にて店を構えている茶屋から声を掛けられた。

 

 

 ──辺りを見回せば……いや、見なくても桃色(ピンク)の髪なんぞ己以外居ない。

 

 

 自分の事だなと思った彼女がそちらを見やれば、「そ、その、御一つどうでしょうか!」看板娘と思われる女性が、皿に乗せた団子を差し出して来た。

 

 

 ……なんで、私に? 

 

 

 他にも通り過ぎた人は居たはずだが、どうして……思わず首を傾げた彼女だが、とりあえずは……看板娘の申し出に首を横に振った。

 

 

「あいにく、お金は持っていないんだ」

「だ、大丈夫です! 新作なので、お代はいりません!」

「え、いや、それなら他の人にでも……」

「どうぞ、こち、こちち、こちらへ!!!」

 

 

 ──吃音の癖でもあるのだろうか。

 

 

 そう思ってしまうぐらいに緊張感を隠しきれていない女性より、手招きされる。

 

 ぶっちゃけ、怪しさ満点だが……本当に厚意で言っているのであればと思い直した彼女は、手招きに従って店の中に入る。

 

 

(……何だアレ? 学生? にしては、帯刀しているようだが……中々に物騒な集団だな)

 

 

 店の中には、先客集団が居た。だが、彼女が予想していた類のソレではない。一見する限りでは学生集団に見えるが、雰囲気が異なっていた。

 

 

 特に、その集団の中でも特に目立つのが、身の丈2メートル近い男だ。

 

 

 前世の基準で考えても、相当な長身だ。飽食とまで言われた国で育ったならともかく、まだまだ貧富の差が激しく野垂れ死にも珍しくないというのに……おまけに、体格も凄まじい。

 

 バスターマシン7号として見なくても分かるぐらいに、鍛え抜かれた身体。見え隠れしている首の太さや腕の太さを見ただけでも、それがよく分かる。

 

 他の者たちも同様の気配を放っているが、この男は別格……見た目だけでなく、気配が根本から異なっている。そういうのはよく分からない彼女が見ても、強そうだと思ったぐらいだ。

 

 

 ……ただ、一つだけ。

 

 

 何故かは分からないが、その男……数珠のようなモノを手にしている。学生服に長身に数珠……まるで意味の分からない組み合わせだ。

 

 学生じゃなくて芸人か何かなのかなと、気になったので見ていると、その集団も彼女の視線に気づいたのか……彼女の方をちらちらと見返してきている。

 

 我ながら感じ悪いかなとも思ったが、学生集団からは敵意は感じない。何やら揉め事でも生じているのか、何処となく緊張しているようにも──。

 

 

「お、お待たせしました!」

 

 

 ──と、思ったら。

 

 

 先ほどの娘がお皿一杯に団子を乗せて戻ってきた。その数、15本。初めて見る団子の5段タワーに、思わず彼女は目を瞬かせた。

 

 

(……こういうのは一本だけなのでは?)

 

 

 持って来た娘を見やれば、「せ、せっかくなので!」何やら顔中から汗が噴き出て、傍目にも分かるぐらいに緊張しきった様子で……かちこちと、玩具のように店の奥へと入って行った。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………え、新作なのに味の評価とか聞かないの? 

 

 

 

 そう尋ねたくなったが、肝心の娘は奥から出てくる気配が──と、思ったら出てきた。

 

 しかし、その手に持ったお茶を半ば叩きつけるように皿の横に置くと、再び店の奥へ。そして、奥へと通じる暖簾の脇から、店主と思われる男がチラリと……ええ……? 

 

 

(これ、どういう反応をするのが正しいんだ?)

 

 

 とりあえず、娘からも、店主からも悪意は感じないが……ていうか、悪意があるにしても、アレでは騙せるやつも騙せないのでは……ま、まあ、いいか。

 

 経緯は何であれ、目の前に出来立ての団子があるのだ。食べ物に罪は無いし、放置して固くなってしまうのはしのびない。

 

 なので、早速ひと口パクリ。瞬間、彼女は口内に広がる甘味に少し目を見開いた。

 

 

(おお、これは凄い。前に食べた団子とは雲泥の甘さだ……そうか、今はこれほどに甘い団子が茶屋で作れるようになったのだな……)

 

 

 何となく、切なくなる。思い返せば、もうそれだけの月日が流れたのだなと感慨深い気持ちになり……ふと、そこで店主へと視線を向けた。

 

 

「店主、この団子は甘くて美味しいぞ」

「は、はい、ありがとうございます! そう言っていただけると作った甲斐があります!」

「いやいや、本当に美味いのだ。前に団子を食べたのが、かれこれ数百ねん──」

 

 

 そこまで告げた辺りで、彼女は気付いた。失敗を繰り返さない、それが彼女の強みなのである。

 

 

「──ぶりかと思うぐらいに久しぶりでね。特に、この……どろっとしたタレは美味しいね、何て言うのかな?」

「は、はい! み、みたらしでございます!」

「そうか、これはみたらし……みたらし団子か。ああそうだ、思い出した、そんな名前だった……おいおい、泣く程の事なのか?」

「ぐすっ、い、いえ、真っ向から褒めて貰う事が無かったもので……!」

「はは、そうか。最近は色々なモノが出来て来たなと上から見ていたが、やはり直接見た方が良いな……っと、そうだ」

 

 

 ──新作のお試しとはいえ、食べてばかりでは申し訳ない。

 

 

 そう思った彼女は、周囲にばれない様に『フィジカルリアクター』を稼働する。ポケット内にて小さな純金を数個作り出すと、それを机の上に置いた。

 

 

「店主、やはり無償で頂くのは心苦しい。少ないが、受け取って貰えるとこちらとしても気が楽になる」

「い、いえ、そんな、いただけません!」

「そう言わず、受け取ってほしい。何なら、もっと必要か?」

「そ、そんな、とんでもない! ひのかいぃふおぅ!?」

 

 

 手を振って受け取りを拒否していた店主の腹部に突き刺さる、娘の肘。ギョッと目を見開く彼女を他所に、娘は張り付いたような笑みを浮かべた。

 

 

「……す、すみません、お客様に失礼な事を……」

「え、い、いや、別に失礼でも何でも……その、大丈夫かな?」

「だ、大丈夫でございます……な、慣れておりますので……」

「それは人としてどうなのだ?」

 

 

 先ほどとは別の理由で噴き出た汗をそのままに、幾らか青ざめた顔で謝罪する店主。何とも形容しがたい顔で店主を睨みつける、ひじ打ち娘。

 

 ひじ打ちされる事に慣れていると零す店主にドン引きすれば良いのか、奇行に走った娘を哀れに思えば良いのか、見なかった事にして団子を食べれば良いのか……何とも判断に迷う所だ。

 

 

 ……と、とりあえず、団子を食うか。

 

 

 理由は何であれ、美味い団子を用意してくれたのだ。固辞するよりは、素直に食べる方が礼儀か……そう思い、彼女は再び団子に──。

 

 

「ああ、ここに居ましたか、悲鳴嶼(ひめじま)さん」

 

 

 ──唇を近付けたと同時に、新たに客が入って来た。声からして、女性だ。無意識にそちらへ目を向けた彼女は……驚きに目を瞬かせた。

 

 

 それは、入って来た長身女性が、蝶の髪飾りを付けた美人だったから……だけではない。店に居た大男と少し作りは異なるが、似たような学生服を身に纏っていた……だけでもない。

 

 ましてや、その女性の後ろに次いで入って来た女性(おそらく、姉妹なのだろう)は背が低いが美人であり、同じく蝶の髪飾りを付けていたから……でもない。

 

 あるいは、大男と親しげだったからでもない。彼女が気になった点は、反射的に行ったスキャンにて確認した長身女性(おそらく、姉だ)の……身体の状態だ。

 

 

 一言でいえば、酷い有様である。

 

 

 日常生活を営むうえでは問題ないが、走り回ったりするには注意が必要で……人よりも心肺機能が弱い。いや、弱いというより、衰えてしまっていると表現した方が正しい。

 

 

 特に衰えているのが、肺だ。

 

 

 如何なる理由でそうなったのかは不明だが、肺の機能が体格に比べて格段に悪い。看板娘のソレに比べれば、おおよそ85%程度しか稼働していない。

 

 肺が弱まれば、心臓(というより、全身だが)も弱まる。隣の、おそらくは妹の、顔立ちが似ている女に比べたら……いや、もはや比べる事すら出来ないぐらいに。

 

 

 ……と、いうか、だ。チラリ、と……彼女は、背の低い女性へと視線を向ける。

 

 

 おそらくは妹の方だが……筋力や骨格の密度が常人のそれではない。男性に比べれば細いが、看板娘のソレと比べれば……細い枝と太い幹ぐらい違う。

 

 

(……この店、町から町を繋ぐ通りなだけあって、けっこう人気があるお店なのだな。本当に、色々な客が来るものだ……)

 

 

 おまけに、傍目には分からないよう偽装されているようだが、女2人も店内の学生集団と同じく、帯刀している。

 

 まあ、女だけで町から町へと旅をするのだ。用心の為に、刃物の一つや二つは隠し持っていても何ら不思議ではない。

 

 だが、さすがに刀ともなれば……些か物騒過ぎる。それしかなかったのならともかく、二人をスキャンした限りでは……刀を振る為の身体つきだ。

 

 それだけでも怪しさ満点だと言うのに、所持している刀もまた、戦国時代で使われていたような代物ではなく……形状も独特で、特注の一品なのは明白だ。

 

 

 ……これは、下手に関わらん方が良いやつだな。

 

 

 そう、結論を出した彼女は、ようやくと言わんばかりに団子に──

 

 

「あの、ちょっといいかしら?」

 

 

 ──かぶりつく前に、声を掛けられた。(どうにも、タイミングが合わない……)言うわけにもいかない不満を胸に収め、見やれば……姉と思われる方の女が傍に立っていた。

 

 

 いったい、何だろうか? 

 

 

 姉の後方に居る、妹の強張った顔。その更に後方、おそらくは仲間と思われる集団が、こちらを見ている……あ、あの大男、盲目なのか。

 

 

 ますます、よく分からん集団だな。

 

 

 そう思いながら改めて姉へと意識を向ければ、その、細くもごつごつと角ばった指先が、机の上に置かれた金塊を突いた。

 

 

「これ、放りっぱなしは危ないから、懐にでも戻した方がいいと思うの」

「それは、店主にあげたモノだ。どう扱うかは、店主が判断したら良い」

「その店主が、困っているの。金塊を取り扱ってくれる両替屋なんて大きな街に行かないと無いし、こんな高価なモノをポンと渡されても扱いに困って当然でしょ」

「……っ!?」

 

 

 言われて、思わず店主を見やる。

 

 すると、店主は非常に申し訳なさそうにしていたが……私の視線を受けて、ぺこぺこと頭を下げて……ああ、うん。

 

 

(確かに、こんなモノを渡して強盗なんかに目を付けられたら嫌だものなあ……)

 

 

 納得した私は、机の上に置いた金塊を掌で包む。『フィジカルリアクター』は、消すことも可能なのだ。

 

 

「……同席しても、よろしくて?」

「構わないが……あそこの男たちはいいのか?」

「良いの、たまには華に囲まれて食べたいから」

「そ、そうか」

「私、胡蝶、『胡蝶カナエ』と言います。こちらは、妹のしのぶ。気軽にカナエちゃん、しのぶちゃんと呼んでね」

 

 

 笑みと共に対面に座った姉……胡蝶カナエが自己紹介をする。

 

 勝手に自己紹介をされた妹の方が、「ちょ、姉さん!?」心底驚いた様子で彼女とカナエを交互に見やり……渋々といった様子で、カナエの隣に腰を下ろした。

 

 

「あら、いいの? ありがとう」

「私一人で食べるのは勿体無いからな」

 

 

 せっかくなので、皿を差し出す。遠慮ではなく、本当に勿体無いと思ったからで……しのぶも、「じゃ、じゃあ、一本だけ……」遠慮しつつも受け取った。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、だ。

 

 

 言葉通り一本だけ食べて様子見している妹の方を他所に、姉のカナエはパクパクと平らげてゆく。

 

 バスターマシンである彼女は食べても食べなくても意味はないしどこまで言っても嗜好品でしかないので、2本食べた時点で手を止めた。

 

 そうして……ものの10分ほどで皿の上が串と零れ落ちたタレだけになって……ずずず、とカナエはお茶を啜った後。

 

 

「そういえば、出会えたら聞こうと思っていたのですが、鬼舞辻無惨についてどう思っていますか?」

「あいつなら、全身穴だらけにした後で地下に封印したよ。今も、地下でズタズタに切られまくっているはずだ」

「──では、他の鬼については?」

「いやあ、見つけ次第仕留めてはいるんだけど、どうしてか一向に減る気配が──ん?」

 

 

 聞かれたので答えた──のだが、直後に彼女は気付いた。己はいったい、何を口走ったのかという事を。

 

 

「──日の神様。非常に失礼な事だとは存じます。ですが、ここで出会えたのを、私は奇跡と捉えております」

 

 

 そして、同時に彼女は。

 

 

「どうか──我が組織、『鬼殺隊』の主であるお館様が……貴女様と是非ともお会いしたい、と」

 

 

 背筋よく綺麗に頭を下げるカナエの姿。見やれば、妹のしのぶだけではない。奥の席にいた大男たちもまた、同様に……深々と頭を下げていた。

 

 

 ……そう、彼女は、理解した。この空気を前に、彼女は思わず……内心にて呟くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ──ああ、今回も駄目だったよ……と。

 

 

 

 




ちなみに、『藤の家』のどこかには必ず『日の神』の絵が飾られておりますが、だいたいは寝室に飾られる事が多い(お金持ちなんかは玄関にも飾ったりする)ので、初見では彼女も気づきません

彼女は賢いからね、失敗はしても繰り返さないので、ちゃーんと修正しちゃうのです
ただし、自覚しないと意味がないので、自覚するまでは何度でも失敗します


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第六話: デデーン……無惨、アウト―!(有罪)

なお、無惨の所業を耳にするたびに有罪カウントが増えていく模様


ちなみに、上弦の鬼はちゃんと3体居るよ。ただ、かなりデバフが掛かった状態だけど


 ──いったい、私はどうすれば良いのだろうか。

 

 ──さっさと誤魔化して逃げるべきなのだろうか。

 

 ──でも、何かバレているから無理っぽいかも……。

 

 

 

 そう、彼女がつらつらと思ったのは、『鬼殺隊』のトップである当主が住まう屋敷の庭先……ではなく、屋敷の奥。

 

 布団の上にて、妻の『産屋敷あまね』より身体を起こされている、当主の産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)と対面した時であった。

 

 どうして彼女がそう思ったのか……それに至る理由の一つは、当主が住まうこの屋敷への招待方法にあった。

 

 というのも、まず、大前提として、当主の屋敷は鬼(正確には、鬼舞辻無惨)の目から逃れ、その所在を知られないようにする為の対策が幾つも施されている。

 

 

 一つは、屋敷の所在を知る者を厳選し、けして外部に漏らさないよう徹底すること。

 

 また、屋敷への案内人に関しては、間に幾つもの中間地点を挟むことで情報を分散し、仮に一人を捕まえても屋敷の位置が分からないようになっている。

 

 

 二つ目は、屋敷そのものを外部からは分かり難いよう細工を施し、周辺には藤の木が広範囲に渡ってパラパラと植えられている。

 

 この際、ダミーとして幾つか集中している場所を作っておく。これは、意図的に集中させると逆に怪しまれるという心理を付いたもの。

 

 

 一度だけならまだしも、二度、三度とハズレを引けば、『ああ、ここらは藤の木の群生地なのか』と鬼側も考えるのを見越しての対策であった。

 

 他にも、『藤の花』より抽出した対鬼用の猛毒や、試作段階だが藤の臭いを放つ爆発式の煙幕、引退した柱(いわゆる、鬼殺隊の中で最も強い9人を指すらしい)の常駐など、様々な対策が当主の屋敷には成されている……のだが。

 

 

 

(まあ、逃げるかどうかは後にして……言うべきだろうか、私をおんぶした3人目の女子、妊娠しているということを……!)

 

 

 

 彼女の内心に一点の陰りを落としたのは、隊員のまさかの妊娠発覚という、めでたいといえばめでたい話からであった。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 前述した対策を十二分に発揮する為に、屋敷へ招待される人間は基本的に目隠しと耳栓をされ、中継点までの案内者に背負われる形での移動となっている。

 

 これは、万が一屋敷を訪れた者が鬼にされた場合の対策だ。こうすれば、鬼にされて無惨に記憶を読まれても、屋敷の所在が分からない。

 

 彼女も、最初は良く考えているなと感心した。

 

 負担を掛けないよう、若干浮いた状態でおぶさったおかげで、誰もが楽そうにしていたが……問題が発覚したのは、3人目の案内人におぶさった時だ。

 

 

 ──あ、この人3ヵ月ぐらいだ。

 

 

 ほとんど条件反射で行ってしまったスキャンによって、彼女は己を背負ってくれている『隠(かくし:曰く、裏方みたいなモノらしい)』の状態を知ってしまったのだ。

 

 

 正直、ビックリした。

 

 

 一人目は胃腸が弱っていて、二人目は疲労が溜まっているといった感じで、三人目がコレだ。視界が塞がったからと軽い気持ちで考えていたから、余計に驚いた。

 

 何せ、鬼を殺す組織である。あの、『縁壱』が所属していた組織である。

 

 ほぼ無制限の体力と回復力を持ち、常人の何倍もの力を持ち、特殊な武器で首を落とさなければ殺せないという、『鬼』を殺す組織……それに属している女が、だ。

 

 

 ──妊娠程度で怖気づくだろうか? 

 

 

 本音を言えば、子供の事があるから辞めるべきだと訴えたい。しかし、わざわざ命の危険が有り過ぎる、『鬼殺隊』という組織に入っているのだ。

 

 相当な……鬼に対して、鬼舞辻無惨に対して、とてつもない恨みを抱いているのは、考えるまでもない。

 

 そう、彼女は、言うべきか胸に秘めておくべきか、思い悩んでしまう理由がそこにあった。

 

 

 ……だって、縁壱なのだ。

 

 

 あいつが仮に女だったら、臨月だろうが残像出しながら鬼を32分割した後に20秒ぐらいで産み落とし、へその緒の処理をしながら片手間に鬼の首をはねてそうな……そんなやつが属していた組織なのだ。

 

 さすがに縁壱並みの人間(?)はもう居ないと思うが、絶対ではない以上は……だいたい、そうでなくとも……妊娠というのは、非常にデリケートな問題である。

 

 お互いが納得したうえでの話なら何の問題もない。だが、仮に秘匿された恋、表沙汰に出来ない話であった場合を考えれば、彼女も迂闊に口出しできない。

 

 

 しかも、その女は己の妊娠に気付いていなさそうなのだ。

 

 

 先天的に悪阻(つわり)などが出ない体質なのかは不明だが、足運びや息遣いには己の胎を気遣う素振りがなければ、庇う様子もない。

 

 常識的に考えれば、ああ気付いていないのかと思うところだが……ぶっちゃけ、『鬼殺隊』の関係者でなければ、お前もう少し自分を労われよと声を掛けているところだ。

 

 

(……うわあ、何だアレ……炎症、皮膚病、免疫疾患……軽くスキャンを掛けただけでもアラートがガンガン鳴り始めているぞ)

 

 

 ……そのうえ、当主である耀哉ですら、アレだ。

 

 

 ようやく……という言い方も何だが、身体を起こし終わって、改めて姿勢を正して向き直る耀哉と奥方と、その後ろで控えている子供(顔立ちがそっくり)を見て、思う。

 

 

 まず、鼻から上全体にて広がっている赤紫色の腫れ。

 

 まるで皮膚がひび割れているかのようにボロボロで、顔の造形が整っているからこそ、余計に……僅かに開かれた目はもう……光を感じ取れていない。

 

 だぼっとした和服(おそらく、身体を締め付けない為だろう)で分かり難いが、首から下も相当にやられている。

 

 袖から伸びる腕は痩せ細り、血の気が無い。スキャンで確認すれば、肋骨は浮き出ている程に痩せ細っていて……自力で立ち上がる事も困難なのだろう。

 

 まあそれは、介助されて身体を起こしている様を見れば、考えるまでもないことだが……それはそれとして、だからこそ、彼女は耀哉に対して『アレなやつ』だと判断したのだ。

 

 

 ──さすがは……あの縁壱がお館様と認めた人物だ。

 

 

 顔を見た途端……いや、それ以前に、雰囲気もそうだが、床に付いたままの時点で察しは付いていたが……相当に症状が重いというか、状態が悪い。

 

 出血こそ……あ、いや、極々微量ではあるが体内にて出血は見られるが、それ以前に、常人ならのた打ち回るほどの激痛に苛まれているはずである。

 

 なのに、輝哉は微塵もソレを表に出していない。

 

 彼女の目から見ても、信じ難い精神力。顔色一つ変えず、呼吸一つ乱さず、震え一つ起こさず、汗一つ掻かずに……薄らと笑みを浮かべると。

 

 

 ──お願いをお聞きくださり、ありがとうございました。

 

 

 そう告げて、頭を下げた。それは耀哉だけでなく、妻も子供たちも同様で。

 

 自らの、父の、夫の、状態を分かっていても、欠片も表に出さず、静かに頭を下げる様は……もはや、圧巻の一言であった。

 

 

(……というか、その痣やら腫れやらは何なのだ? 先ほどからこっそりナノマシンを送っているというのに、修復した傍から再発していっているのだが……)

 

 

 と、同時に、彼女は耀哉の身に起こっている謎の症状、病名の特定が出来ず、内心にて首を傾げていた。

 

 何故なら、彼女の大本(前世の記憶♂)は無知でも、バスターマシン7号に搭載された情報量(医学データも)は多岐に渡っている。

 

 これは最初から持っていたモノなのか、本物がサービスのつもりで追加してくれたのかは定かではないが、問題なのは……その情報量を持ってしても、無理なのだ。

 

 これには、彼女も表にこそ出してはいないが、驚いた。

 

 ぶっちゃけ、病じゃなくて呪い(オカルト)の類ではと冗談半分に考えたぐらいだから、彼女の驚きも想像出来よう。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 で、そんな彼女の驚きを他所に、だ。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………???」

 

 

 とりあえず、諸々を抜きにして、だ。

 

 

 隊員の妊娠の事とかもそうだし、色々と今後の事(それ以外にも色々と)を考えていた彼女が、この時に思った事は、だ。

 

 

 ──ところで、何故に私は頭を下げられ続けているのだろうか……で、ある。

 

 

 しかも、頭を下げているのはお館様だけではない。部屋の端にて控えている柱たちまでもが、頭を下げたまま動かないのである。

 

 その中には、彼女を招待した胡蝶カナエと、その妹である胡蝶しのぶ(カナエは、『元』柱、らしい)と。

 

 あの店に居た大男、悲鳴嶼(曰く、岩柱という役職らしい)も、当主に倣って深々と頭を下げている。

 

 

 もちろん、他の柱も同様だ。

 

 

 本来は9人居るらしいが、突然の事だったのでこの場には他に3人……合わせて6人しか居ないが、それでも全員が一糸乱れぬ様子で頭を下げ続けていた。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………本当に、どうしようか。

 

 

 

 チラリ、と視線をさ迷わせるしかない彼女は……どうしたものかと考え込む。

 

 連れて来られて何だが、こういう対応をされるのは相当に久しぶりだ。ある意味、久しぶりを通り越して新鮮な気持ちになるぐらいに。

 

 

 だって、ほら……大陸の方だと、初手悪魔認定(あるいは、ペテン師認定)が基本だし、こちらから証拠というか主張しない限りは、『俺が上、お前は下』が基本スタンスである。

 

 

 時々、対等な立場で接してくる者もいるが……だいたいは、見返りを求めての接し方で、下心が薄らと透けて見えていた。

 

 例外は、教会などの信心深い関係者ぐらいなものだ。

 

 まあ、アレはアレで狂信的というか、『捧げる……』とか言っていきなり生贄を捧げようとしてくるけど、でも、それにしたって全てがそうでは……ああ、違う、そうじゃない。

 

 

(……仇討ちとか、義憤解消とか、そういうお願いなら力になってあげられるけど、不老不死にしろとか巨万の富をとか死者を蘇らせろとか言われても困るんだよなあ)

 

 

 このパターンから来る次の言葉は、おおよそ想像が出来る。ていうか、何度も経験してきた事である。

 

 

(戦争に協力して欲しいとかも有ったなあ……権力握っているおかげでやりたい放題していた明らかな悪人相手なら何度かバスターミサイル撃った覚えはあるけど……何か、そんな感じでもなさそうだしなあ……)

 

 

 彼女としては気が引ける事ではあるが、放って置くとほぼ確実に国や領地が荒廃するような者が上に立ったのを見た時……苦痛なく即死させた事が何度かある。

 

 

 何様かと人々より問われれば、『もっともだ』と彼女自身も頷く……だが、さすがに、アレだ。

 

 

 何もしなかった結果、その国が、その領地が、どのような末路を辿り、悲惨極まったのかを幾度となく見て来たからこそ、放って置くことが出来ないのだ。

 

 民に餓死者が出ているのに重税課すだけでなく、『放って置けば勝手に増える』みたいな感覚で居るやつが上に立てばもう、その後に来るのは地獄である。

 

 

 ……ぶっちゃけ、それで文字通り壊滅した国や領地を何度か目にしたからこそ、余計に、だ。

 

 

 他には、彼女の基準から見てゴミ畜生以下みたいな事しているのに要領良く誤魔化して、ちゃっかり『人並みの幸せ』みたいなモノを手に入れているやつも、同様にバスターミサイルの刑に処した覚えがある。

 

 

 ……こっちはまあ、アレだ。被害者の声があまりに耳に入って来たせいである。

 

 

 もちろん、そのまま動いたりはしない。今際の時に『天罰を……天罰を……』と涙ながらに訴える者を見かける回数が増えてきたので、独自に調べてみれば……だ。

 

 半分は『お前それ被害妄想だし誤解だよ』って感じで終わるが、もう半分がヤバい。

 

 

 ──やべえこいつ鬼畜外道過ぎて鬼が可愛く見えてくるよ言葉が出ねえ、である。

 

 

 正直、人の皮を被った鬼はこういうやつなのかとすら思ったぐらいだ。

 

 しかも、そういうやつに限って表向きは『ヒノカミ様万歳!』とか口にする。

 

 さすがにそんなやつに神様扱い(しかも、本気ではない)されるのは侮辱極まりないので、バスターミサイル発射である。

 

 

(……なら、アレか? 挨拶だけでもしておきたかったとか、そういうのかな?)

 

 

 それならそれで、彼女としては楽なのだが……まあ、何にせよ、だ。

 

 

(……とりあえず、何か話して欲しいね)

 

 

 ここまで沈黙を保たれるのは初めてで……とにかく、意図が全く読めないので、彼女は耀哉たちの態度に困惑するしかなかった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………いや、待って。この人たち、何時になったら頭を上げるのだろうか? 

 

 

 一向に顔を上げる気配が見えない鬼殺隊の面々に、彼女はきょろきょろと視線をさ迷わせた。

 

 

(これはアレか? 新手のわっしょいなのか? 鬼殺隊ともなると、わっしょいにも違いが出るのか?)

 

 

 こういう場合、下手に止めようとすると余計に拗れてしまう。

 

 それを経験則として知っていた彼女は……ひとまず、この場でおそらく一番会話した時間が長いカナエへと声を掛けた。

 

 

「──はい、何でございましょうか?」

 

 

 すると、頭を下げたまま返事をされた。

 

 

 ……固い、固いよ!? 

 

 

 思わず、そう言い掛けた彼女ではあったが、3度目の正直という言葉が有るらしいし、失敗を重ねた彼女はその分だけ賢くなっているのだ。

 

 

「……あの、これってどういう状況なのかな? こういう畏まった所作には疎いから、どうしたら良いか分からないんだけれども……」

 

 

 ──分からないことは素直に聞く。

 

 

 そのように思い至った彼女が心に従って尋ねれば、しばしの間を置いてから、「申し訳ない、困惑させてしまいました」耀哉が顔を上げた。一拍遅れて、柱たちも顔を上げた。

 

 

「今日、来てもらったのは他でもない。貴女様にどうしてもお礼が言いたかったのです」

「お礼、とは?」

「今日まで……長く、我々『鬼殺隊』のみならず、悪を挫き正義を成して人々を見守り続けてくださっている貴女に、言葉だけでもお伝えしたかったのです」

 

 

 そうしてようやく、耀哉は本題に入った。

 

 それを聞いて、ようやく彼女も理解した。

 

 

 ──あ、これは気楽なタイプのわっしょいだ、と。

 

 

 それさえ分かれば、もう恐れる必要は無い。前世から引き継いでいる事の一つ、彼女は、過分なお礼をされると気が滅入る性分なのだ。

 

 

「別に、お礼を言われたくてしていたわけじゃないから、気にしなくてけっこうですよ」

「……少しぐらいは」

「そういうの、間に合っているから大丈夫。気楽に、今日も空に浮かんでいるよね~、みたいな感じで結構だから」

 

 

 かなり気が楽になった彼女は、ひとまずそう言って耀哉のお礼を無理やり打ち切った。

 

 実際、結果的に助けてはいるが、使命感が有ってやっているわけではない。

 

 縁壱が狙っていたやつだし、野放しにすると大変な事になるからという、言ってしまえば己の心の平穏の為だ。結論から言えば、水戸黄門ムーブも結局は己の心の平穏の為である。

 

 なので、彼女としては気軽に笑顔で手を振って貰えるだけで満足なのだ。このように畏まった形でお礼を言われると、逆に申し訳ない気持ちになってしまうのである。

 

 

「──ところで、話は変わりますけど、さっきから気になっていた、その顔の痣というか、腫れというか……」

 

 

 とはいえ、それで引き下がるのであれば、彼女もわっしょいに怯えたりはしない。もう、神輿はこりごりなのだ。

 

 そんな思いも込めて、彼女は些か強引に話を変えながら……おもむろに、耀哉の傍まで近寄ると──。

 

 

「おお、これでも消せないのか」

 

 ──さらり、と。

 

 

 まるで汚れを拭き取るように耀哉の左目の辺りを摩った途端、痣が消え、腫れも引いた……健康的とは言い難いが、元々と思われる目と肌が露わになった。

 

 

「……え?」

「病ではないから、それが限界かな。申し訳ない、(ナノマシンでは)それ以上は貴方の身体が耐えられないし……おそらく、数日後には元に戻ってしまう」

 

 

 ──現時点ですら、ナノマシン投与量ギリギリなので。

 

 

 

 その言葉を、彼女は口には出さなかった。ナノマシンと言ったところで理解されないだろうし、説明するのも面倒くさかったからだ。

 

 おまけに、治療した理由は見た目が痛々し過ぎて気の毒に思ったからで……やれるだけはやったし、もうええやろ……そんな精神というか、その程度の考えでしかなかった。

 

 

「……ああ、あまね、少し痩せたね。こうして、子供の顔をもう一度目にする事が出来る日が来るとは……」

「──あ、あなた……」

「みんなも……壮健で何より。また、お前たちの顔を見られて嬉しいよ」

「お、お館様……!!!」

 

 

 だから、まさか泣かれるとは……いや、耀哉とその家族は予想出来ていたけど、柱の皆様方もぼろぼろと大粒の涙を零すとまでは、さすがの彼女の目を持ってしても見抜けなかった。

 

 

 ぶっちゃけ、滅茶苦茶気まずい。ここが室内でなかったら、即座に雲海の中へと戻るぐらいの気まずさである。

 

 何せ、自分以外全員泣いているのだ。

 

 まるで自分が泣かせてしまったみたいで、穴が有ったら入りたいとはこの事かと、彼女は身を持って理解した。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、ふと……という言い方も何だが、耀哉たちとは目を合わせないようにしていた彼女の興味が……離れた所にて座っている柱たち6人へと向けられる。

 

 

 その内、カナエ・しのぶ、悲鳴嶼の3人は顔馴染みだ。まあ、出会ってから大して時間も経っていないし、仲良しではないけれども。

 

 悲鳴嶼とはほとんど会話らしい会話をしてはいないが、胡蝶姉妹があれほど慕っているあたり……善人なのは見て取れた。

 

 

 ……で、残りの3人。

 

 

 鬼をぶっ殺す組織の最高戦力とだけあって、中々に個性的な風貌をしている。

 

 その中で、特に気になるのが1人居るが……まずは、他の2人から自己紹介をしてもらった。

 

 

 まず一人目は、小柄の男性だ。

 

 

 世界的に見ても珍しいオッドアイに、口元を覆い隠す包帯。首に巻かれた白いヘビがこちらを見ており、ちろちろと舌を出しては、興味深そうに彼女を見ている。

 

 名は、伊黒小芭内(いぐろ・おばない)。『蛇の呼吸』という呼吸法を修めた柱とのこと。

 

 

 二人目は、桃色髪が特徴のセクシーな女性だ。

 

 

 驚くべき事に、その女性も彼女と同じく桃色の髪をしている。違いは、毛先に進むに連れて緑に近い色になっていて……また、日本人では珍しくグラマラスな体型をしている。

 

 名は、甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)。『恋の呼吸』という呼吸法を修めた柱とのこと。

 

 

 

 ……そして、問題の三人目。

 

 

 

 ある意味、彼女の興味を一番引いているのが……後ろで軽く纏めただけの黒髪の、無表情の男。額や首筋に模様にも見える痣が浮き出たその男を見やり……彼女は、思った。

 

 

 ──あれ、こいつ縁壱の血筋では……と。

 

 

 見た目は全く違うが、雰囲気が滅茶苦茶似ている。何考えているのか全く分からんくせに、底知れぬ気配というか、何というか……そういうのを感じる。

 

 

(……え、何コイツ、骨の強度や筋肉の密度ヤバすぎて怖いんだけど……え、人間なの? こいつ本当に人間なの?)

 

 

 て、いうか、スキャンしてみてすぐに分かった。

 

 隣の桃色髪(一部は黄緑)、も筋肉の密度等が男に比べても桁違いに高いが、この男に比べたら大人と子供ぐらいの差がある。

 

 ついでに言えば、心肺機能もオカシイ。お前心臓7個備えてんじゃね―のって思うぐらいにヤバい。人間のフリをした何かだろうとすら思えてくる。

 

 

(間違いない……こいつ、絶対に縁壱の血筋だ……)

 

 

 これほどの身体機能を持った者は、今も昔も縁壱以外に知らない。まさか、血筋とはいえ縁壱と同程度の能力を備えた者が生まれるとは……ふむ。

 

 

「そこの黒い長髪の人、お名前を伺っても?」

「……冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)。『水の呼吸』を修め、水柱に就いております」

 

 

 尋ねれば、前の2人と同じく素直に答えてくれた。縁壱と同じく、基本的に寡黙な性格のようで、表情の変化は少ない。

 

 

「つかぬことを幾つかお伺いする。もしや貴方の家系に……そう、祖先に縁壱と名の付く者はおりますか?」

「……申し訳ありません、分かりません。昔は裕福だったらしいのですが、私の曽祖父の代で……」

「ふむ、ならば、その額や首筋の痣は生まれつきですか?」

「おそらく、そうだろうと思います。私の面倒を見てくれた姉さんから、そのように教えられた覚えがあります」

「なるほど、分かりました。では、もう一つ……もしやとは思いますが、貴方は生まれつき……意識を集中するだけで、生き物の身体が透けて見えたりしますか?」

「──っ! どうして、それを?」

「深く考えないでください。ただ、そうなんだろうなあと思っただけで……あ、そこの……胡蝶しのぶ、顔を真っ赤にしていますけど、勘違いしないでください。透けて見えるというのは、服とかじゃなくて、皮膚が透けて内臓の動きが見えるとか、それぐらいに透けて見えるって話ですから……ですよね?」

「……凄いです、日の神様。どうして、分かったのですか?」

「まあ、私の目は特別ですので……そのように納得してください」

 

 

 なので、率直に色々と尋ねてみれば……だ。

 

 

(……確信を得た。やはり、こいつ縁壱の血筋だ……しかも、先祖返りか何かは分からんが、縁壱と同レベルに強いぞ……)

 

 

 ぶっちゃけ、こいつ1人だけで無惨を殺せるのでは……もう何度ぶっちゃければ良いのか分からんが、とりあえず……彼女は一つ頷くと。

 

 

「……泣いているところに悪いが、私から聞きたい事がある」

 

 

 未だ、涙が止まっていない耀哉たち家族へと向き直ると。

 

 

「前々から見つけ次第『鬼』を仕留めて来たのだが、いっこうに減る気配がない。何か、思い当たる事はあるか?」

 

 

 改めて……かねてより気になっていた疑問を一つずつ尋ねたのであった。

 

 

 

 

 

 




縁壱「私たちはそれほど大そうなものではない。長い長い人の歴史の、ほんの一欠けら……いずれ、私たちの才覚を凌ぐ者が現れ、彼らもまた同じ場所へとたどり着くだろう」

――だから、なんの心配いらぬ。私たちは、いつでも安心して人生の幕を引けば良い





富岡義勇「今後ともよろしく」

縁壱「やったぜ」



切り刻まれている御方「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」


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第七話: 至れり尽くせりは気を遣う

バスターなな号さん「もう全部無惨ってやつが悪い」


無惨「しつこい(震え声)」






 

 

 

 ──時は流れ、ある日の夜。

 

 

 

 冬の時期に比べて明らかに温かくなってきているとはいえ、夜はまだ冷える。少なくとも、鬼殺隊の当主である耀哉にとっては、まだまだ肌寒い時期であった。

 

 そして、そんな耀哉の布団が敷かれている室内に集まっているのは……耀哉の妻である、あまね。子供たちは、さすがに寝息を立てている。

 

 後は、『日の神』をお連れした際に同席した5人(カナエは、外された)。そこに加えて、遠方故に間に合わなかった、残りの柱4人……計、11人の人間が、その場には集まっていた。

 

 部屋の広さは、詰めれば11人ぐらいは十分入れるサイズだ。だが、さすがに、それだけの人数が集まれば狭く感じるのは、避けられない。

 

 けれども、耀哉にとってはそれで良かったし、集まった柱たちにとっても良かった。

 

 何故なら、『日の神』によって一時的に耀哉の体調が劇的に回復したとはいえ、元々が弱り切った身体である。本来であれば、話すだけでも体力に気を使わなければならないレベルだ。

 

 対して、柱たちも耀哉の体調を理解しているからこそ、狭くとも耀哉が普段通りに話せば聞こえる……お互いを想うからこそ、それで丁度良かったのである。

 

 

「あなた……」

「ありがとう、あまね」

 

 

 痩せ細った身体を支えられながら、ゆっくりと耀哉は身体を起こす。言葉は無くとも、それは夫婦の語らいでもあるのだろう。

 

 

「……待たせてしまったね。では、始めるよ」

「──御意」

「皆も既に報告を受けていると思うけど、我が鬼殺隊が管理する蝶屋敷にて、『日の神』様が降臨してくださっている」

「……っ!」

「中には、一目お会いしたいと願う者もいると思う。でも、今だけは待ってほしい。あの御方は、そういう特別扱いを嫌っていらっしゃるからね」

「──御意」

 

 

 言葉少なくも、力強く頷いたのは、『鬼殺隊』の最高戦力である、9人の剣士たち。

 

 石油ランプの明かりに淡く照らされた室内に集った……緊急集合のために、『日の神』とはまだ顔を合わせていない柱も居た。

 

 

 ……さて、だ。

 

 

 まず、一人目……全身に傷痕がある白髪の男、名を不死川実弥(しなずがわ・さねみ)。風の呼吸を修めた、『風柱(かぜばしら)』である。

 

 その風貌のみならず、苛烈な物言いも相まって、下級隊員からは密かに怖れられている柱である。

 

 

 二人目は、集まった柱の中では2番目に長身ながら筋骨隆々。輝石(きせき:ガラス光沢を持つ鉱物の一種)をあしらった額宛てに加え、傾奇者然とした化粧を施した派手な男。

 

 二言目には派手だとか地味だとか口にするが、音の呼吸を修めた確かな実力者、音柱(一部からは派手柱、とも)である。

 

 

 三人目は、はっきり言って地味だ。男性陣の中では下から数えたぐらいに背丈が低く、年齢も低い。何処となく、子供っぽさも抜け切れていない。

 

 名を、時透無一郎(ときとう・むいちろう)

 

 しかし、その実力は確かに柱であり、『鬼殺隊』の歴史を紐解いても上位に位置する程の才覚を持つと言われている……月の呼吸を修めた……月柱である。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 胡蝶しのぶは、蟲の呼吸を修めた蟲柱。富岡義勇は水柱で、悲鳴嶼と胡蝶姉妹に呼ばれた大男(悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい))は、岩の呼吸を修めた岩柱。

 

 つまり、『鬼殺隊』の当主である耀哉の前には、水柱、蟲柱、音柱、恋柱、月柱、蛇柱、風柱、岩柱の8名と。

 

 最後の……炎の呼吸を修めた『炎柱(えんばしら)』……煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)。を入れた、9名が集まっていた。

 

 

 ……その杏寿郎は、だ。

 

 

 炎のように逆立った髪と、炎のような羽織を纏っている。ぎょろりと威圧感のある目つきは、まるで、炎そのものが人の姿を取ったかのような雰囲気を放っていた。

 

 彼の場合は、他の柱とは少しばかり事情が異なる。過去に『日の神』と応対している事も有って、まだ出会っていない他の柱に比べて、些か反応は薄かった。

 

 

「──しかし、是非ともお会いしたかった! お館様からの命令が無ければ、いの一番に蝶屋敷へ駆けつけているところだ!」

 

 

 ……反応は薄かった(約40%程度)。

 

 

「うるせぇ! いきなり大声出すんじゃねーよ」

 

 

 隣に座っていた天元は、耳を押さえながら杏寿郎に苦言を零した。

 

 

「それはすまな──」

「静かに、お館様の前だぞ」

 

 

 返事の声もまた、人並みよりも大きい。それを見越していた義勇が、素早く杏寿郎の口を塞いだ。ぎょろり、と動く瞳が、義勇を見つめる。

 

 

 ……無言のままに、杏寿郎は頷く。悪いのは、誰が見ても己だと理解出来る程度に落ち着いたからだ。

 

 

 謝罪を込めて軽く頭を下げれば、気にするなと義勇も頷いて……一拍遅れて手が外されれば、「──すみません、お館様」落ち着いた杏寿郎が耀哉へと頭を下げた。

 

 

「いや、無理もない。この中で、幼少の頃に『日の神様』と実際お会いしただけでなく、対話までしたのは、煉獄だけだからね」

「……恐縮の至り、申し訳ありません」

「気にしなくていいよ。私だって、身体が元気だったら舞い上がっていただろうからね」

 

 

 もちろん、耀哉は責めなどしなかった。何故なら、耀哉の言葉は誇張なき事実であるからだ。

 

 

 ……もちろん、他の柱も杏寿郎を責める気は全く無い。

 

 

 耀哉を始めとして、普段より明朗快活(めいろうかいかつ)で、明朗闊達(めいろうかったつ)な人柄を知っている柱のだれもが、杏寿郎の言葉に怒りは見せなかった。

 

 

 先ほど、杏寿郎が口にした『是非ともお会いしたかった』という言葉は、何も杏寿郎ただ一人の考えではない。

 

 

 何故なら、この場に居る誰もが……いや、まあ、蝶屋敷に住まう胡蝶しのぶ以外の誰もが、日本という国で生まれ育った者なら、誰もがその存在に憧れと感謝の念を抱いているからだ。

 

 

 たとえば、この場で幼少の頃に『日の神』と対面し、会話をした杏寿郎の場合は、だ。

 

 

 不治とされていた母親の病を、後遺症無く治してくれた。

 

 当時のお館様が四方八方に手を伸ばして集めてくれた様々な名医をもってしても、数か月延命させるのが限度だとされた病を、だ。

 

 そのおかげで、母の病の影響から人知れず憔悴していた、父の槇寿郎の心も持ち直した。まだ歩くことが覚束なかった千寿郎も、無事に母の愛を受けて大きくなってきている。

 

 正しく、足を向けて寝られないとはこの事だろう。

 

 

 ……で、他には……そう、ほとんど毎日のように『日の神』と対面出来ている、蟲柱の胡蝶しのぶの場合は、姉の命を助けられた。

 

 

 親を鬼に殺され、残された家族は姉のカナエのみ。その、柱にまで上り詰めた姉が、手も足も出ずに『上弦の鬼』に殺されかけたのは、しばらく前のこと。

 

 曰く、『どう足掻いても勝ち目はなく、生を諦めた』とまで言わしめるほどの強さだったらしい。

 

 

 助かった理由は、ただ一つ。

 

 

 その鬼より伸ばされた凶器が自身を切り裂く前に、天より落ちた一筋の閃光が、『上弦の鬼』を貫いたからだ。文字通り、『天罰』の二文字がカナエの脳裏を過ったらしい。

 

 さすがに仕留めるまでには至らなかったみたいだが、おかげで鬼はその場より逃げ出し、カナエも傷が悪化することも無く治療が間に合い、一命を取り留める事が出来た。

 

 

 他の柱たちだって……いや、当人には無くとも、その知り合いが大なり小なり『日の神』より助けてもらった経験がある。

 

 

 

 ──というか、直接助けられた者は稀でも、間接的に助けられた事が無い日本人の方が稀だ。

 

 

 

 ある時代では崩れた土砂を掬い上げ、ある時代では全てを呑み込む大火の上に雨を降らし、ある時代では長く続く冬の最中に幾つもの炎を生み出し、人々を温めた。

 

 

 実在した伝説、天より地上を見守る太陽神。そう呼ぶ者も、けして少なくないのだ。

 

 

 もちろん、直接的に助けられた経験がないので、他の神仏と同じ感覚で見ている者は居る。大半は、あくまでも間接的に助けられた者たちである。

 

 比較的『日の神』の逸話を見聞きする事の多い鬼殺隊ですら、実際にその姿を目にした者が限りなく少ないからだ。

 

 

 だが、逆に強烈な『日の神』信者……通称、『日の神狂い』とも呼ばれている信者も混じっている。

 

 

 その信者の代表格に当たるのが、時透無一郎。月柱の名を与えられた、狂信的な『日の神狂い』である。

 

 何故かと言えば、彼は『日の神』に三度も大切な者たちの命を助けられたからだ。

 

 肺炎を患い死にかけていた母親を助けられ、その後、雨風が吹き荒れる中で薬草探しに出ていた父をも助けられ、その後、鬼に襲われた家族全員を助けて貰ったという経歴の持ち主。

 

 

 故に、実のところは『日の神』の登場に一番顕著な反応を示したのは杏寿郎ではなく、無一郎だったりするのだが……話は割愛する。

 

 

 だって、無一郎は助けられたけど緊張と感激のあまり上手く対話出来なかった狂信者である。そんな男が、実際に対話をした人物を目の前にすれば……長くなるので戻そう。

 

 

 反対に、だ。この場では一番そういった信仰の薄いのが、だ。

 

 

 蟲柱のしのぶを除いて唯一の女の柱である甘露寺蜜璃と、オッドアイが特徴の伊黒小芭内の両名だ。

 

 この二人は、他の柱に比べて経歴もそうだが、鬼殺隊に入った理由も少しばかり他とは異なっている。故に、『日の神』に対してはある種、ドライな目で見ていた……はずだったのだが。

 

 

 ──その二人が、唐突に泣き出した。それはもう、いきなりだ。

 

 

 あまりに突然過ぎて、歴代最強ではと目されている水柱の義勇ですら反応が遅れて、「──っ!?」ギョッと目を見開いたぐらいなのだから……他の者たちの驚きが伺えるだろう。

 

 おかげで、話し掛けるべきか、否か、少しばかり迷いが生まれた。思い立ったら動く性分の杏寿郎ですら面食らっているのだから、誰もが動けなくて当然であった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、そうなれば、だ。

 

 

「どうしたんだい、蜜璃、小芭内。何か、有ったのかい?」

 

 

 組織のトップを務める耀哉が話しかけるのは、必然の流れであった。この時ばかりは、普段は馬が合わない者たちが顔を見合わせ、成り行きを見守る形となった。

 

 そうして……自然と場の空気が形成された中、最初に話を始めたのは……蜜璃からだった。

 

 

 その内容を簡潔にまとめるならば、だ。

 

 

 まず、蜜璃は先天的に常人の八倍の筋力を持ち、1歳少々で重さ4貫(かん:今でいう15kgぐらい)を持ち上げ、その筋力を支える為に常人の何倍もの食欲を宿す、特異体質である。

 

 そして、些か信じ難い話ではあるが、特徴的な髪色の理由は、桜餅の食べ過ぎである。

 

 おかげで、髪色が変色し、桜色と緑色が入り混じるグラデーションとなった……それ自体は、家族からは笑い話として受け入れられていたが、問題は家族以外であった。

 

 ある時から、蜜璃はその髪色と特異体質から『日の神』の化身……あるいは『日の神』の加護を受けたとして、特別視する者が現れ始めたのだ。

 

 もちろん蜜璃本人も、蜜璃の家族も、その都度訂正した。

 

 特異体質は本当に生まれつきだが、髪の色は桜餅の食べ過ぎだと。怪力に驚くだろうけれども、根は心優しく、朗らかな女の子である……と。

 

 けれども、人々はそれを信じなかった。信じたいモノしか信じなかった。

 

 そのせいで、蜜璃は幼い頃より様々な苦労をしたらしい。家族は理解してくれていたが、怪しい宗教組織に誘拐されそうになったことは一度や二度ではないのだという。

 

 そのうえ、家族が用意してくれたお見合いの席で、お見合い相手から酷い言葉を言われた。『日の神』の加護を受けているのに、その下品な所作は恥ずかしくないのか……と。

 

 その後、色々な事が重なった結果、『己は『日の神』ではない、自分は自分らしく心のままに想いのままに』、その一心で鬼殺隊へと入って……つい先日、偶然にも蝶屋敷にて『日の神』に対面したと、蜜璃は涙ながらに告げた。

 

 

「……何を、言われたのかな? それとも、何かを尋ねたのかな?」

 

 

 耀哉の問い掛けに、強制力は無い。その声色にも、口調にも、『話したくないのであれば、言わなくていいよ』という言外の想いが込められていた。

 

 

 そこには、優しさが込められていた。

 

 

 いったい、どのような事なのか……それは、蜜璃が(おそらく、小芭内と……報告しなかった胡蝶しのぶも)命令違反を犯していることに言及しない、それに尽きた。

 

 何故なら、『日の神』が居るのは、蝶屋敷。その屋敷の目的は、負傷した隊員の治療……すなわち、蝶屋敷とは医療施設なのである。

 

 言い換えれば、負傷なり何かしらの不調を起こしていない限り、あるいは、屋敷にて勤めている者に用が無い限り、蝶屋敷に行く理由も必要もないわけである。

 

 そして、柱たちには招集命令が下されていた。当然、負傷して動けない等の理由が無い限りは、耀哉の命令に従うのを最優先とする……ならば、だ。

 

 傷一つ負わず、不調も起こしていない蜜璃が、『日の神』と対面している……それすなわち、命令違反をして、『日の神』に会いに行った……というわけである。

 

 

 だからこそ、蜜璃は……答えた。

 

 

 言葉に甘えて、黙ったままも出来た。けれども、その優しさに甘えるのは今回、違うと思ったから。ふうふう、と軽く息を整えた後……畳から視線を外すことなく、ポツリと告げた。

 

 

「貴女は、貴女にしか見えない、と」

「それは、どのような言葉で尋ねたのかな?」

「私は、日の神様にとって、どのような人間に見えるのかと尋ねました。女なのに人一倍力持ちで、女なのに人一倍ご飯を食べて、他人とは違う髪の色の私を、日の神様の目にはどのように映っているのか……と」

「……その答えが、最初の言葉なんだね」

 

 

 ──こくり、と。静かに、蜜璃は頷いた。

 

 

 その言葉の意味に気付いた者は……そう、多くはない。

 

 人心を読む事に長けた者や、個人的に付き合いのある親友以外には、その答えが如何に蜜璃の心を震わせたのか……分からないだろう。

 

 

 『貴女は、貴女でしかない。貴女は貴女以外の何者にも成れないし、それは貴女以外も例外ではない』

 

 『人が人である事を悩み、獣が獣である事を悩み、虫が虫である事を悩むのは、生ける者の通過儀礼なのかもしれない』

 

 『だが、悩んだ所で答えなど出ない。人は何時だって、己にしか成れない。己の心のままに動く事しか出来ない』

 

 『置かれた場所で、咲きなさい。そこが貴女の居場所になる。そして、その花を見守ってくれていた人と添い遂げなさい』

 

 『答えはもう、出されている。後は、それに気付くだけ。立ち止まって、振り返りなさい。そこに、答えがあるのだから』

 

 

 続けられた言葉は、まるで聖痕のように心に打ち込まれた気がした。少なくとも、蜜璃は……日の神様の言葉によって、救われたのである。

 

 

「小芭内も、『日の神』様にお尋ねしたのかい?」

 

 

 耀哉は、視線を蜜璃より小芭内に向ける。一拍遅れて、小芭内は、「……いいえ」静かに首を横に振った。

 

 

「ただ、俺が尋ねるよりも前に、答えてくれました」

「……なるほど、『日の神』様は君が抱えているモノを見抜いた答えを貰ったのだね? 差し支えなければ、教えて貰っていいかな?」

「……申し訳ありません、それだけは……ですが……救われました。少なくとも、心を救われました」

「救われた?」

「どう、言葉に言い表せれば良いのかが分かりません。ただ……救われたと、強く思いました」

 

 

 そして、それは……小芭内も同じであった。ただ、蜜璃と違うのは……彼は、『日の神』に尋ねる事が出来なかった、その一点だろう。

 

 小芭内もまた、蜜璃と同じく……というよりは、蜜璃に連れそう形で対面したのだが……そこで、彼は何も言えなかったのだ。

 

 もちろん、言う事が無かったわけではない。『日の神』を疑ったわけでもない。むしろ、どうしても尋ねたい事が一つ有った。

 

 

 けれども、言えなかった。

 

 

 それは、小芭内にとっては誰にも知られて欲しくない事で、特に、傍に居た甘露寺蜜璃にだけは絶対に知られたくなかったからだ。

 

 

 だからこそ、黙るしか出来なかった。

 

 それを言えば、蜜璃に全てを知られてしまうから。

 

 

 だから、泣き崩れる蜜璃の背中を摩るぐらいで、とにかく、蜜璃の胸中にあった闇が晴れただけでも、小芭内としては感謝の念でいっぱいであった。

 

 

『──何時になれば、貴方は己を許すのですか?』

 

 

 故に……その言葉を告げられた時、小芭内は……安直な表現だが、時が止まったと錯覚するぐらいに驚いた。

 

 

 『生まれながらの罪人など、この世にはおりません。生きる為に物を食う、食うからこそ人は生きる。生きるという事は、罪を背負うという事』

 

 『生きる限り、人は新たな罪を背負い続けるのです』

 

 『ならば、罪を償うにはどうするか……それこそ、生を受けたその瞬間……いえ、生き物として形を成したその時から、やりなおさねばなりません』

 

 『貴方の親が、その親が、そのまた親が、遡り、遡り、遡り、遡り続けて、その果てが今日を生きる命なのです』

 

 『いいかげん、己を責め続けるのは止めなさい。それは、数多に繋がれてきた命そのものを侮辱する行為に他ならない』

 

 『穢れは所詮、そう思い込んでいるだけに過ぎない。誰しもの身体に流れている血の色に変わりがないように、貴方もまた他の誰かと変わらない』

 

 『それでも……それでも、貴方が自らを許せないと言うのであれば……罰して欲しいと望むのであれば』

 

 『──私が、覚えておきましょう』

 

 『貴方の罪を。貴方が犯した罪を。貴方に刻まれた傷の痛みを。私が滅するその時まで、遠い時の彼方にまで、貴方の罪を、私の胸に秘め続けましょう』

 

 『……貴方の罪を、私が許します。抱えた罪を、ここに置いて行きなさい』

 

 

 そうして、続けられた言葉に……もう、小芭内は何も言えなかった。

 

 

 生まれて初めて……そう、本当に、心から歓喜の涙が零れたのは、それが初めてであった。

 

 

 身体中に流れていたナニカが、涙と共に流れ落ちてゆく感覚。気づけば、摩っていた手は蜜璃に掴まれ……互いに抱き合う形で、嗚咽を零し続けていた。

 

 

 それから、ずっとずっと、涙が止まらない。

 

 

 ある程度流れれば止まってはくれるが、少しでも『日の神』の話が出ると駄目だ。掛けられた言葉が頭の中でリフレイン、止まっていた涙が再び出てしまう。

 

 おかげで、小芭内だけでなく、蜜璃も酷い顔になっていた。

 

 何とか会議に出席する前に涙が止まり、濡れた手拭いで腫れを冷やして応急処置をしたはいいが……先ほど、ちょっとしんみりした空気に成りかけた事で涙腺が決壊した、というわけである。

 

 

 ……無理もない。誰もが、自然とそう思った。

 

 

 そう思ってしまうのは、それほどに『日の神』が特別だから。嘆き悲しむ人々を憂い、この地に唯一残ってくださった神々の……慈悲深き一柱。

 

 

「……さて、話を戻そう。此度、集まって貰ったのは他でもない……宿敵、鬼舞辻無惨の討伐に関する話だよ」

「──っ!?」

「この話は、数十年前の先代が残した書記から続いている話だ」

 

 

 だからこそ──耀哉は、いや、この場に集まった誰もが、今まで雲海より見守ってくださっていた『日の神』が地上へと降りた、その理由に思いを馳せた。

 

 

「実は、以前より鬼たちの動き……正確には、鬼舞辻無惨の動きに変化が起こっているという話が、その先代の書記より登場している」

「なんと、そのような物が……」

「今までお前たちに話さなかったのは、その書記を裏付ける情報が何一つなかったからだよ。色々と私なりに調べてはみたけど、結局は……けれども、だ」

 

 

 少しばかり、間が置かれた。

 

 

「『日の神』様から幾つか言葉を交わし、確証を得られた。どうやら、かなり以前から……鬼舞辻無惨は、『日の神』様の手によって地下深くに封じられているらしい」

 

 

 その言葉に──柱たちは、表向きは平静を保っていた。

 

 柱の位を与えられたのは、伊達ではない。封じられた、ただその一言で終わるような話ではない事など、言われずとも察したからだ。

 

 

「……仕留めなかった……いや、仕留められなかった理由は、ただ一つ。『日の神』様の想定以上に、鬼舞辻無惨がしぶとかった」

「……と、言いますと?」

 

「簡単な話さ、あの男は人質を取った。『日の神』様の力が及ばぬ地下深くへ自ら潜った。そうなれば、『日の神』様は手が出せない。何故ならば──」

「……周辺に生きる、数多の命を想ったのですね?」

 

「──『日の神』様の力はあまりに強大。それ故に、手が出せなかった。だからこそ、『日の神』様は封じる事を選んだ。殺せはしないが、二度と地上へと出られぬようにと番人を置いた」

「…………」

 

「封印は、厳重だ。『日の神』様ですら、入口を開くのに難色を示すぐらいに。だからこそ監視し、封じ込める番人を置いた」

「……ですが、それでも」

 

「そう、そこなんだ。そこは、『日の神』様も分からなかったらしい。だが、おかげで分かったのは……今なら、鬼舞辻無惨を倒す事が出来るということだ」

「──本当なのですか!?」

 

「ああ、やつが地上に出ないのは番人に手も足も出せず、『日の神』様を恐れているからだ。今ならば、やつは隠れる事も逃げる事も出来ず……戦うという選択肢しか選べない」

「では、決行の日は──」

 

 

「焦ってはいけないよ。この戦いには、『日の神』様の協力が不可欠だ……まずは、入念な準備が──」

 

 

 ……ぽつり、ぽつり、と。

 

 

 その日……鬼殺隊の柱と、当主とその家族以外には誰も知らない、秘められた会議は長引き……何時もよりも一刻は長く続くことになった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、だ。

 

 そんな、人知れず決戦の日に向かって様々な作戦が連日に渡って練られ、トップを中心にして少しずつ熱気が高まりつつある……そんなある日のこと。

 

 時刻は、昼。もうすぐ、お昼ご飯が配膳される、時間帯。

 

 話題の中心となっている『日の神』が滞在している蝶屋敷では……ある種の、高揚感にも似た緊張感が漂っていた。

 

 

 ……元々、だ。

 

 

 蝶屋敷は、鬼殺隊における病院的な役割を果たしている。様々な役目を与えられた施設がある中で、蝶屋敷は他とは異なる雰囲気を感じ取る者が多い。

 

 何故なら、この屋敷で命を落とす者がそれなりにいるからで……というのも、だ。

 

 蝶屋敷に居る者は、その役割故に、怪我人や病人が大半だ。それも、『藤の家』と呼ばれる、鬼殺隊に協力する者たちでは対処できない深手を負った者たちばかり。

 

 当然、間に合わない場合も多い。処置を終えてもそのままという場合も多く……けれども、まだマシだろう。

 

 何故なら、敗れた隊士はほとんどの場合、戦った鬼に骨一つ残さず食われてしまうからだ。まだ、遺体が残るだけでも、ここでは喜ばれる事なのである。

 

 それに……鬼との戦いで負う傷は、ただの怪我ではない。常識では考えられない症状が出て、肉体そのものが変形している事もある。

 

 

 鬼と戦って、人の形を残したまま死ねるのは、ある意味幸運な事なのだ。

 

 

 実際、つい先日の事だが……とある鬼によって、肉体を蜘蛛のような形に掛けられた隊士が多数運び込まれた。

 

 適切な治療こそ続ければ元の姿に戻れるが、その姿は異様の一言。忌避感こそないものの、その姿を見た隊士の誰もが絶句し、涙を流してしまうぐらいであった。

 

 

 ……だが、しかし。それはもう、過去の事だ。

 

 

 何故なら、『日の神』が降臨しているからだ。薬祖神の側面を持つ(と、人々から思われている)『日の神』が、負傷した隊士たちを治療しているからだ。

 

 おかげで、その日から蝶屋敷の空気は変わった。穏やかで静かではありつつも、何処となく漂っていた悲しげな空気が消えた。

 

 ──隊士たちは、口を揃える。いや、隊士に成れなかった者たちも、口を揃える。

 

 

 『日の神様、ありがとう』……と。

 

 

 だからこそ、誰もがお館様の御指示通り、不必要に『日の神』に近づこうとはしなかった。

 

 『日の神』が、そういう特別扱いを嫌っているとのであれば、そうする。それは、『日の神』に対して何も返せない……せめてもの感謝の現れであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。話を戻すが、そんな最中、当の『日の神』……いや、彼女はというと、だ。

 

 

(良かった……謎の人生相談が止まってくれて、本当に良かった)

 

 

 宛がわれた自室(様々な意味での激闘の末にそうなった)にて、ようやく訪れた平穏な日常に、のんびりダラダラしていた。

 

 

 いったい何が有ったのか……色々有ったが、一番大変だったのは、『人生相談』だろう。

 

 

 何故かは分からないが、ある時から鬼殺隊の者たちから人生相談をされるようになったのだ。本当に何がキッカケでそうなったのか、彼女にもサッパリ分からなかった。

 

 もちろん、最初は断ろうとした。何せ、長生きこそしているが、彼女の人生経験はけして豊富というわけではない。

 

 何せ、大半は雲海の中に居たのだ。ついでに、地上に降りていた期間のほとんどは、今よりも数百年、数千年ぐらいは前の、ぶらぶら大陸を歩き回っていた時の事。

 

 

 ぶっちゃけてしまえば、語れる情報が古過ぎた。いちおう、相談に乗ること自体はやぶさかではない……ないのだが、しかし。

 

 

 そう、だがしかし、だ。

 

 

 動物の小便で歯を磨いていた時代の常識や、文字通り首の取り合いこそ男の誉れとか言っていた時代の常識でモノを語っても役に立たないよなあ……という事ぐらいは、彼女も分かっていた。

 

 なので、断ろうとした。素直に、君の悩みを晴らすキッカケにもならないよ~と、断ろうと思っていた。

 

 けれども……それが出来なかった。いったい何故か……なに、答えはそう複雑なモノではない。極々単純な話で、つまりは──。

 

 

(……何だろうか、私はそんなに相談し易そうに見えるのだろうか?)

 

 

 ──相談内容が、どいつもこいつも重苦しいモノばかりだったからだ。

 

 

 

 いや、だって、アレだ。

 

 

 

 別に、相談を拒否しているわけではないのだ。

 

 今日の献立とか、恋のキューピット(笑)とか、金欠で困っているとか、そういう内容なら彼女なりに相談に乗る事は出来る。

 

 何やらタダでご飯やら何やらしてもらっているのだから、それぐらいはお安い御用である。負傷した鬼殺隊員の治療だって、朝飯前というやつだ。

 

 

 ……でも、先日の二人組はナイ。

 

 

 あんな、桃色と緑色の奇抜なグラデーションをした髪の娘から、『貴女に、私はどのように映っておりますか?』とか、困る、本当に困る。

 

 

 

 ──だって、明らかに深刻な悩みじゃないか。

 

 

 

 もう、見ただけで分かる。質問内容自体はシンプルではあるが、悩みの深みレベルが底なしなのがすぐに分かる。

 

 ぽやぽやとした雰囲気とは裏腹の、可愛らしい声色とは裏腹の、真剣具合。その後ろで固唾を呑んでいるオッドアイの少年も明らかにヤバそうではあったが、この娘の本気具合も相当だった。

 

 

 ──ああ、この子は見た目で苦労してきたんだな……って。

 

 

 大陸では大して珍しくない金髪碧眼がここでは注目の的であるように、桃と緑の髪色は、この地ではさぞかし目立ったであろう事は、考えるまでもない。

 

 ていうか、彼女も大陸を歩いていた時、迫害(笑)をさんざん受けた身だし……故に、彼女は迂闊に返答が出来なかった。

 

 聞こえなかったフリをするにしても、思い詰めた顔を見やればそれをする勇気はない。かといって、答えられないと正直に言うのも……駄目な気がする。

 

 

 ……なので、彼女は……全力でそれっぽい言葉で誤魔化すことにした。

 

 

 正直、自分が何を口走ったのか全然覚えていない。

 

 とにかく、鬼舞辻無惨と戦った時以上に真剣に頭を動かし、意味深な言葉を意味深に聞こえるように並び立てた。

 

 そのおかげか……あるいは別の理由かは不明だが、娘は泣き崩れた。そういうのはグッドかバッドか分からんから非常に困る。

 

 しかし、悩んでいる場合ではない。何故なら、その娘の背中を摩るオッドアイの彼から向けられる視線もまた……こう、アレだった。

 

 

 

 ──なんで君ら、見ず知らずの相手にそんな真面目な相談するの? 

 

 

 

 そう、尋ねたかった。でも、駄目だった。だって、そのオッドアイの彼……何処となく見覚えがあるというか……ああ、そうだ、アレだ。

 

 

 ──機会が与えられれば即座に自分の首を切り落とす、アレだ。

 

 

 大陸を旅している時に、似たような目をした者に出会った青年と、同じ目をしている。ていうか、全体的な雰囲気が似ている。

 

 不義の子として生まれた己のせいで御家騒動が勃発し、何人もの人間が命を落としたとかで、ずーっと自分を責め続けていた、あの青年と……ああ、こりゃいかん。

 

 

 ──これ、自分の血は穢れているとか大罪を背負っているとか思い込んでいるタイプだ。

 

 

 そう判断してからの彼女は、とにかく思い留めるように言葉を選んだ。非常に嫌な経験だが、あの青年のこともあって二度目なので少し余裕が持てた。

 

 まあ、最後に決めるのはオッドアイの彼だ。ぶっちゃけ、思い過ごしであればそれで良い……という程度の感覚でもあった。

 

 結果……オッドアイの彼は泣いた。それはもう、大粒の涙をぼろぼろと零し、摩っていた女の背中に縋りつく勢いで。

 

 正直、冷や汗が出た。やべえ、言葉のチョイス間違えたかなと後悔した。

 

 とりあえず、たまたま近くに居た蝶屋敷の人達に預ける形でその場を離れ、その後は何事も無かったかのように振る舞って諸々を誤魔化したが……本当に、あの時は焦った。

 

 

(そういうのは、私じゃなくてお館様とやらにやるのが一番だと思うんだけどなあ……)

 

 

 まあ、この時代というか今の日本には、メンタルクリニックなんて言葉はおろか、概念すら存在していないのだ。

 

 個人的な悩みを会社の社長に相談なんて出来ないだろうし、かといって、怖そうな上司にするのも……結果、何か長生きしてそうな己に……なのかなあ、と。

 

 先ほど、わざわざ自室にまで持って来てくれたおやつ(どら焼き)を片手に、ずずず~っと、お茶を啜りながら。

 

 

「これはもしかして、鬼舞辻無惨というやつが悪いのでは?」

 

 

 ふと、何の意味も理由もないが、例のアレに責任を押し付け……ふふっと笑った。

 

 

「このどら焼き美味しいなあ」

 

 

 そんな、おやつの感想と共に。

 

 

 

 

 

 




なお、日の神狂いに対する当人の印象は

「人様の顔を見た瞬間に号泣して土下座された、やめてほしい」

で、ある


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第八話: デバフは大事

忘れたころに復活します

ついに、無惨討伐への準備に入ります


 

 うららかな昼下がり。

 

 

 その日もまた、晴天に恵まれて気持ちの良い日差しが大地を照らしている。それは、鬼殺隊に御厄介(半ば懇願され)している彼女とて例外ではなかった。

 

 というより、彼女自身の気質としては、夜間よりも昼間の方が好きだし、日なたの下をのんびり散策するのが大好きなのである。

 

 基本的に雲海の中を漂っている事の多い(100年単位で)彼女だが、別に好き好んで引き籠っているわけではない。

 

 単純に、無駄に目立つことが嫌いなだけである。より正確に言い直すのであれば、不必要に己へ注目が集まるのが苦手なだけだ。

 

 今更人間扱いされない事に腹を立てるつもりも悲しくなるわけでもないが、だからといって、神様扱いされるのは真っ平御免である。

 

 というか、どうして神様扱いされるのか……彼女としては、それが不思議であった。

 

 そりゃあ長生きしているから色々な事に手を出した覚えはある。

 

 しかし、自分から片っ端から藪に手を突っ込むような事はしていないし、せいぜい『いくら何でもそりゃあアカンよ』みたいな案件ぐらいしか手を出してはいない。

 

 加えて、基本的には地上にほとんど姿を見せないようにしていた。姿を見せる時でも、用が済んだらさっさと雲海の中に引っ込み、そのままほとぼりが冷めるまで待つを繰り返した。

 

 なので、彼女の感覚としては、お前ら何時までも昔の事を覚え過ぎじゃないかな……という呆れの感覚が強かった。

 

 おかげで、せっかく地上に降りてきた彼女は相変わらず雲海の中に居た時のように、自主的な引きこもり……良く言えば、穏やかな日常を送っていた。

 

 

 ……いちおう、彼女にとってソレは悪い意味ではない。

 

 

 いや、引き籠る必要が有るという点だけを見れば悪いが、もうそれは慣れているので問題ではない。というか、引き籠ってはいるけど、あくまでも、基本的には、だ。

 

 別に、雲海のように全く姿を隠しているわけではない。人目に付くような時間を避けているだけで、気が向いたら夜間に出歩いているわけである。

 

 彼女にとって重要なのは、兎にも角にも無駄な騒動へと発展しない事……つまりは、いちいち周囲が反応する事が嫌だというわけなのだ。

 

 

 実際、彼女の立場になって考えても見てほしい。

 

 別に、彼女は己が偉くなったつもりはない。

 

 

 やっている事は大層な事だと理解しているが、己が誰かに頭を下げられるような存在だとは欠片も考えてはいないのだ。

 

 ていうか、ぶっちゃけそういうのは止めてほしいのが彼女の正直な本音である。

 

 お礼として、頭を下げられること自体は良い。けれども、いちいちお礼を言われたいとも、されたいとも、思っていない。

 

 何なら、遠くからこっそり眺めながら、『いや、そこまで喜ばれると逆に申しわけが……』と、謎にテンションを下げるような性格……それが彼女なのである。

 

 

 

 

 

 

 ──さて、話は変わるが、晴天の霹靂(へきれき)というのは、何も人間に限った話ではない。

 

 

 言ってしまえば、ある程度の知性がある生き物ならば、予想すら出来ない突発的なナニカに見舞われれば驚いて思考が止まるわけである。

 

 もちろん、どんな状況であろうとも冷静さを失わない、怪物的な思考をするやつも居るだろう。

 

 あるいは、予想はしていなかったが、心の何処かで何かを感じ取っている本能的なタイプなら、驚きこそしても冷静さを失わないのかもしれない。

 

 

 ……で、彼女はその中でもどんなタイプかと言うと、だ。

 

 

「──え、攻め込む?」

「はい、今こそ絶好の機会かと愚考した次第でありまして……」

 

 

 おそらくは一番割合が多いと思われる、普通に驚いて言葉を失くす……であった。

 

 

 ……いや、まあ、彼女がそうなるのも無理は無い。

 

 

 何せ、何時ものように今日はどうやって暇を潰そうかなと、庭先の花を眺めていたら、何やらお館様である耀哉に呼び出されたのは、つい数時間前の事。

 

 何やら非常に恐縮している使いの者の背にて揺さぶられた後、目隠しが外されて対面した直後に深々と頭を下げられ、状況が分からず困惑して。

 

 本来であればこちらが赴くのが道理なところを、無礼にも呼び出す形になって……という、彼女からすれば『お前ら本当に気にし過ぎ!』と思うような前口上を、終えた後。

 

 

「不遜であるとは存じております。ですが、鬼舞辻無惨の討伐に、御協力をお願いしたく……」

 

 

 と、続いたわけである。

 

 で、そこから二言、三言、と続いた結果、思わずこういう意味かと率直に聞き返し、真正面から答えたのが……先述の会話というわけである。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………うん、まあ、アレだ。

 

 

 

 驚きはしたが、彼女は冷静に考える。耀哉の考えというか思惑を、彼女は薄らと察した。

 

 

 これまでの耀哉(というか、鬼殺隊)の話から推測する限り、鬼舞辻無惨という、鬼たちの大本というかボスは、非常に狡猾かつ用心深い性格だと思われる。

 

 彼女にとっては縁壱の件でもあるし、『鬼』とかいう百害有って一利無しな者をどんどん生み出すようなやつなんぞ、問答無用のバスターミサイルでフィニッシュである。

 

 なので、偶発的にも接触した彼女は、そのままに攻撃したわけだが……考えてみれば、あそこで出会ったこと自体、物凄い事なのだろう。

 

 

 実際、長きに渡って鬼舞辻無惨の討伐を悲願として戦い続けている鬼殺隊ですら、鬼舞辻無惨と遭遇した者はいないらしい。

 

 

 どのような姿をしているのか、どのような技を使うのか、どこに隠れ潜んでいるのか。

 

 全てが未知であり、未知であるが故に、鬼殺隊は常に受けに徹する他なかった。

 

 はっきり言えば、被害者が出てからでしか動けなかった。

 

 未然に防ぐのではなく、常に、これ以上の犠牲者は出さないというのが限界であり、鬼殺隊はいつも犠牲を途中で食い止める事しか出来なかった。

 

 

 だが、今回は違う。何故なら、耀哉曰く『ヒノカミ様が居る』からだ。

 

 

 彼女の存在によって、鬼殺隊は初めて鬼舞辻無惨……そう、怨敵である無惨の居場所を知る事が出来た。

 

 加えて、今ならば用心深い怨敵も、ヒノカミの御業によって逃げる事も出来ない。つまり、今ならば……無惨を真正面から討てるわけだ。

 

 

「……まあ、私に出来る事であれば力を貸すけど……でも、貴方たちが勝手に向かうのは構わないけど、私から君たちをあそこへ招待するつもりはないよ」

「委細、承知しております。あくまでも、討伐は私たち鬼殺隊が行います」

「そうした方が良い。危険は伴うし命を落とす可能性は高くとも、そうしなければ、貴方たち鬼殺隊は前へ進めない。私がやるのではなく、貴方たちの手で決着を付けた方が良いと思う」

「……っ! そうですか、そうですよね、そうでなければ、子供たちも……っ!」

「ああ、もう、頭を下げなくていいから」

 

 

 彼女としては、だ。

 

 周りの糧にもならず、何も生み出さないだけなら、まだ良い。生きる事に理由など必要ではないし、生きたいのであれば生きろというのが彼女の考えだからだ。

 

 

 しかし、無惨(というか、『鬼』全般)に対しては違う。

 

 

 何時頃からなのかは彼女もはっきりとは覚えていないが、今は『鬼は滅さなければならない』と強く考えていた。

 

 何故なら、鬼は特別な条件が揃わない限りは死なないからだ。

 

 只々周りの生命を食らい、そこで満足せず、更に多くの生命を食らう為に強くなる。仮に殺しても、その身体は灰になって散り散りになり、何も残らない。

 

 

 つまり、命が循環しないのだ。

 

 

 どんな生き物であろうとも、どれほど強大で凶暴な生き物であろうとも、数多の命を食らい続けた怪物であろうとも、死ねばそこまで。

 

 血は流れ、肉は食われ、蝿が集り、腐った肉は(うじ)に食われ、その蛆は他の生き物に……と、最後は必ず大地へと還ってゆく。

 

 それが、この世界の(ことわり)。地上の掟であり、大地の掟であると……彼女は思っている。

 

 

 だが、鬼にはそれがない。

 

 

 死ねば灰になり、数多の命は循環しない。只々、一夜の悪夢が如く、全てが消え去って……それで終わり。

 

 それは、明らかな異物だ。理から外れた、存在してはならない生き物だ。

 

 己も人の事は言えないが、それでも、アレは駄目なのだと……彼女はハッキリと考えていた。

 

 だから──ワープは使えないけど、それ以外の方法なら手を貸すよ……と、言外に告げた。

 

 

 ……そりゃあ、まあ、だって……ねえ。

 

 

(宇宙怪獣来ちゃったら、無惨とか相手にしている余裕無くなるし……無惨が宇宙怪獣の肉を食ったらどうなるんだろうか?)

 

 

 太陽そのものを苗床にして繁殖する生物に比べたら、言っちゃあなんだけど、無惨なんて彼女にとってはダンゴ虫(しかも、死にかけ)レベルの脅威でしかなかった。

 

 ていうか、食った時点で日本全土を焦土に変えてでも仕留めるほか無くなるような相手と比べる時点で間違いなのだが……と。

 

 

「……ところで、日の神様は、どう思われますか?」

「ん?」

「攻め込むというのは、あくまで手段。どんな方法であろうとも、無惨を滅すれば良い……と、私は考えております」

「そうだね、攻め込んでも仕留められなければ意味はないね」

「しかし、私は思うのです……仮に子供たち……最高戦力である柱が接敵し、その首を落としたとして……果たして、無惨はそれで死ぬのか……と」

「……言われてみれば、そうかもね」

 

 

 思ってもみなかった耀哉からの問い掛けに、彼女は頷いた。

 

 思い返してみれば、あの縁壱ですら仕留めきれなかった相手だ。そう、あの人間なのか何なのかよく分からん種族『縁壱』ですら、殺せなかったのだ。

 

 加えて、殺せなかったのは縁壱だけではない。

 

 これまで数多の鬼を瞬殺してきた彼女のバスターミサイルですら、ダメージを負わせる事は出来ても、仕留めるには至らなかった。

 

 よほどの再生能力を持っているのか、あるいは首を落としただけでは死なないのか……理由は分からないが、首を落としただけでは死なない可能性は非常に高いだろう。

 

 それは、耀哉にとっても、彼女にとっても、絶対に解決させておかなければならない疑念である。

 

 何故なら、いくら鬼殺隊が常人より強かろうが、人間である事に変わりない(ただし、縁壱は除く)。そして、鬼を殺せる武器は限られている。

 

 と、なれば、現状では総力を結集しても、正攻法では無惨を殺せないのが確定してしまう。どうにか殺せたとしても、犠牲は一気に膨れ上がるだろう。

 

 いくら犠牲を覚悟しているとはいえ、目的が達成出来ないばかりか、次にも繋がらない無駄な犠牲なんぞ、間違ってもするべきではない……というのが、耀哉の考えであった。

 

 

「故に、私は協力者の力を借りようと思います」

「協力者?」

「はい、実は既にこの場に呼んでおります……ですが、その前に御一つだけ、先にお伝えしなければならない事があるのです」

「……それって、左の部屋にいる2人? それとも、右の部屋に居る2人? まさか、襖の開け閉めをやるために待機している子供2人じゃないよね?」

 

 

 何気なく尋ねた瞬間、耀哉は僅かばかりに背筋を伸ばし……襖の奥、両隣の部屋にて息を飲む音がしたのを、彼女は感知していた。

 

 

 ……驚かせるつもりはない。ただ、彼女はバスターマシン7号。たかが襖一枚程度を隔てた場所を透視&盗聴するなんぞ、ワケは無いのだ。

 

 

 そもそも、どちらも隠れていないので嫌でも分かる。

 

 まあ、彼女のスキャンから逃れるのは至難の業だ。それこそ、地球の裏側にいたとしてもすぐに見付けられるので、これに関しては……と、話が逸れた。

 

 パッとスキャンで確認した限り、右の部屋に居る2人は……柱だ。名は、富岡義勇と……胡蝶しのぶ、だったか? 

 

 正直あんまり気に留めていなかったのでうろ覚えだが、『柱』とか言う凄い役職に就いている人物……だったような気がする。

 

 二人とも、彼女より指摘された瞬間、僅かばかり身体を固く……あ、いや、固くしたのはしのぶの方で、義勇の方はほとんど反応していなかった。

 

 

 

 ──やっぱりコイツ、縁壱の血が流れているんじゃないかな? 

 

 

 

 そんな事を思いつつも、襖越しに二人を見やれば……両隣の襖が、静かに開かれた。

 

 改めて柱の二人を見やれば、しのぶの方は緊張でカチコチ。義勇の方は……何だろう、何考えているのかよく分からん、無表情過ぎてさっぱり分からん。

 

 とりあえず、柱の2人に対しては軽く頭を下げたのでヨシとして……気になるのは、柱とは対面側になる襖の向こうより姿を見せた……男女だ。

 

 

 男の方は……これといった特徴の無い青年だ。服装は鬼殺隊の隊服ではない。顔色は病的なまでに青白く、貧血……というよりは、体質なのだろう。

 

 女の方は、完全に女性だ。歳は不明だが、20代後半だろうか。男の方と同じく、地味ではあるが柄のある和服を着ていて、男と同じく病的なまでに青白い肌をしている。

 

 

 しかし、少しだけ違う部分がある。それは、女の方が、ハッと二度見してしまうぐらいの美貌であること。色んな人間を見て来た彼女の目から見ても、美人だなと思ったほどだ。

 

 

 ……親子、のようには見えない。

 

 

 かといって、夫婦のようにも見えない。家族……のようにも見えるが、どうにも違うような気がする。

 

 上司と、その助手……だろうか。見た感じ、女の方が上司で、男が助手……かな? 

 

 この時代の常識で考えれば、男の方が上なのだろうが、何と言えばいいのか……2人から感じ取れる雰囲気から、彼女はそのように判断した。

 

 ちなみに、若作りという言葉があるけれども、女の方の美貌は、小手先でどうこうしているレベルを超えている。まだ、姉弟と言われた方がしっくりくるぐらいであった。

 

 

「……こんなことを言うのは失礼に当たるとは思うのだけれども」

 

 

 とはいえ、そんな事よりも、だ。

 

 

「そこの御二人は、ずいぶんと顔色が悪いように見える。見た所大病などは患ってはいないようだが、食が細そうだ……日を改めても構わないけれども、大丈夫か?」

 

 

 彼女としては、そちらの方がよほど気になる事であった。

 

 だって、本当に顔色が青白いのだ。それこそ、貧血になっているのかと心配してしまうぐらいに青白い。

 

 スキャンで確認した限りでは、異常は見当たらない。

 

 なので、体質的にそうなのだと判断したが……だからといって、心配が解けたかと問われれば、そんなわけもなく。

 

 

「私の事は気にしなくてよい。辛いのであれば、横になったまま話も聞こう……貴方も、それでいいだろう?」

 

 

 身体を動かす必要があるならいざ知らず、話を聞くぐらいなら横になったままでも十分だと訴えた……のだが。

 

 

「……え、なに? どうしたの?」

 

 

 何故か……そう、何故か、誰もがポカンとした顔で己を見つめている事に、彼女は気付いた。

 

 正直、状況が分からなかった。

 

 また、己の不用意な発言で誤解が生じたのかと一瞬ばかり身構えたが、どうにもそんな感じではない。

 

 

 

 ──私、また何かやっちゃいました? 

 

 

 

 そんな思いで、おもむろに耀哉へと視線を向ければ、我に返った耀哉は……フッと、肩の力を抜いた……ように、彼女には見えた。

 

 

「日の神様……そこの二人は、私の古い知り合いです。珠代(たまよ)愈史郎(ゆしろう)と言いまして、医学を始めとして様々な専門分野に精通しております」

「へえ、そうなんだ。二人は姉弟なのかな? お若いのに、ずいぶんと博識……って、そうじゃない」

 

 

 流されそうになったが、寸でのところで彼女は話を戻し……次いで、深々とため息を零した。

 

 

「まったく、貴方も大概だが、学者というやつはどうしてこう己を苛めるのか……若さに任せて無理をするのは勝手だが、後になって後悔しても私は助けたりはしないよ」

「……無理、ですか?」

 

 

 曖昧な笑みを浮かべて首を傾げる耀哉に、「人間、好きな事をしている時は特に無茶をしがちだけど……」彼女は……あえて、軽く睨みつけた。

 

 

「男女に関係なく、ツケは後で必ず支払う時が来る。5年無茶を重ねれば、治るのにも最低5年は掛かるモノ……いいですね、分かっているのですか、御二人とも」

 

 

 ズビシッ、と。

 

 失礼な事であるとは分かっていたが、あえて彼女は顔色の悪い二人を指差した。

 

 突然の事にビクッと肩を震わせる二人に対して、「いいですか、御二人とも!」彼女はそのまま……はっきりと、告げた。

 

 

「人間、上手く長生きすれば100年ぐらいは生きられるのです。しかし、学問に励むのは素晴らしいことですが、同時に、人間の身体はそこまで丈夫には出来ておりません」

 

 

 そう、そうなのである。それが、一言申さねばと彼女が思った事だ。

 

 

「誰も、学問から手を引け等とは言いません。ただ、もう少し身体を労わりなさい。貴女も御存じでしょうが、人間は『鬼』のように無理を続けられない生き物なのですから」

 

 

 これで、言わなければならない事は全部言った。

 

 そう言わんばかりに、彼女はフンスと鼻息荒く腕を組み、2人からどのような反応が来るかを──え、いや、あれ、ちょっと待って。

 

 

 ──ぽろり、と。

 

 

 どんな返事が来るのかと身構えた彼女を他所に、忠告された女……珠代が見せたのは……大粒の涙であった。

 

 これには……正直、驚き過ぎて彼女は言葉を失くした。ぶっちゃけ、こっちの方がよっぽど青天の霹靂であった。

 

 あまりに想定外の事態にどうしたら良いのか分からず困惑する彼女を他所に、珠代は……そのまま二つ、三つ、四つと続けて涙を零すと。

 

 

「私を、人間と呼んで、くださるのですね、日の神様……!」

 

 

 噛み締めるような呟きと嗚咽と共に、両手で顔を隠して……蹲るように、俯いてしまった。

 

 それを見て、オロオロと動揺を露わにする男……愈史郎と呼ばれたその男が、傍目にも困り切った顔で彼女と珠代と呼ばれた女性を交互に見ていた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あ~、うん、これは、アレだ。

 

 

 どうやら……知らぬうちに、珠代が抱えたナニカ、その琴線へとダイレクトアタックをしていたようだ。

 

 

 ……何だろうか、己はもしかして空気が読めないのだろうか……そう思いながらも、彼女にはもうどうにも出来なくて。

 

 

(だから、そういう大事な情報は先に話してほしいとあれほど……)

 

 

 何やら、薄らと涙を滲ませているしのぶの姿を横目にしつつ……彼女は、非常に気まずい空気の中で耐える他なかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、小一時間後。

 

 

 どうにか涙が止まり、青白い肌を気恥ずかしそうに赤らめている珠代より、改めて始まった話……それを大まかにまとめると、だ。

 

 

「……弱体化、と?」

「はい、『鬼舞辻無惨の弱体化』、それ以外に、無惨を殺しきる手段はないと、私どもは考えております」

 

 

 と、いう感じであった。

 

 この、弱体化……詳細を語るのであれば、正確には鬼舞辻無惨が持つ再生能力を弱らせるというものだ。

 

 というのも、どうして弱体化させるのかと言えば、唯一『鬼』にダメージを与えられる武器では、無惨を殺しきれない可能性が浮上しているからである。

 

 というより、あの無惨の事だから確実に弱点をそのままにはしてないだろう……というのが、珠代の意見である。

 

 

 つまり、鬼の共通の弱点である『(くび)』だ。

 

 

 非常に強固になっているか、あるいは、切り落とされるよりも前に再生するか、それとも、切り落とされてもしばらくは耐えられるのか……それは、当人以外には分からない。

 

 だが、確実なのは、何かしらの対策が施されている……それだけは断言出来る……というのが、珠代のみならず、耀哉の懸念でもあった。

 

 

 ……で、そこで浮上したのが『弱体化』なのだが……普通の毒では、意味が無いらしい。

 

 

 何故なら、鬼が持つ異常な再生能力によって、あらゆる毒をすぐさま解毒してしまい、足止めにすらならないから……らしい。

 

 実際、並みの隊士でも殺せる雑魚の鬼ですら、ほとんど効き目がないのは実証済み。これが上位の鬼であれば、毒を撃ち込む行為そのものが無意味である可能性が非常に高い。

 

 

「現在、鬼に対して有効が確認されているのは、藤の花より抽出して濃縮した薬液のみ……しかし、それも、言うなれば下級の鬼に対してで……おそらく、無惨相手には効果はないでしょう」

「ふむ……それで?」

「なので、私どもは無惨を殺す毒ではなく、無惨の行動を読んだうえで、弱らせる事だけに特化した毒を製作しているところなのですが……現在、非常に由々しき問題に直面しております」

「と、言いますと?」

「結論から言えば、被検体が足りません。無惨の血をより濃く分け与えられた鬼の体液を手に入れる事が出来れば、研究は飛躍的に進み……無惨の命に、手が届きます」

 

 

 ぎりぎりぎり、ばきっ、と。

 

 無惨に対して、思う所が(当たり前だが)あるのだろう。

 

 食いしばった歯が砕ける音と共に、ハッと我に返った珠代は……大きく深呼吸をした後、改めて彼女へと居住まいを正した。

 

 

「──日の神様、これを」

 

 

 それを見て、頃合いと見た耀哉が話に入ってきた。

 

 見やれば、耀哉の手には一枚のチラシが有って……サッと彼女の前に広げられたソコには、『万世極楽教』と大きく記されていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………なにこれ? 

 

 

 小首を傾げる彼女を尻目に、耀哉は「ごく一部の地域に根付いている宗教団体です」と、説明を始めた。

 

 

 ……その中身を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 この『万世極楽教』というのは、とある地域のごく狭い範囲にのみ根付いている宗教団体であり、始まりそのものは古いらしい。

 

 教義は、“穏やかな気持ちで楽しく生きることこそ神の御心にかない、辛いことや苦しいことはしなくてよい”というもの。

 

 何じゃそりゃあ……といった感想を彼女は抱いたが、周辺の貧しく辛い境遇の人たちが逃げ込む場所としてその地に住まう者たちの間では有名らしい。

 

 

 ……で、その宗教団体がどうしたのかと言えば……どうも、その教祖と思われる存在が『鬼』である可能性が非常に高い。

 

 

 それも、ただの鬼ではない。調べた限りでは、教祖は常人とは異なる見た目をしているだけでなく、歳を取らないという噂がある。

 

 それが事実なら、間違いなく教祖は人ではない。

 

 少なくとも、50年、100年は時を経た鬼であるならば、その実力は相当なモノ……無惨の血をより多く分け与えられた個体である可能性が、非常に高い……とのことだ。

 

 

「……話は分かったけど、そこで私に助力を求めるということは、つまりは私にその鬼を退治するついでに体液を取って来てくれ……というわけか?」

 

 

 一通り話を聞いた彼女は、率直に尋ねた。直接的に言われたわけではないが、話の流れから考えて、そうだろうと思ったからだ。

 

 

「いえ、そうではありません。日の神様の御力は鬼に対して絶大無比……失礼ながら、強大過ぎるあまりに体液の採取は難しいと私どもは愚考しております」

「あ~……言われてみれば、そうかも。出会い頭に終わらせてしまいそうな気がする」

「それに、おそらく教祖以外に鬼はおりません。信者と思われる人たちは鬼である事を隠すための擬態であり囮であり、食料だと思われます。信者たちは、何も知らないままに利用されていると私どもは……」

「まあ、そうだろうね」

 

 

 スルリとフォローに入る珠代の言葉に、彼女は納得して頷いた。

 

 実際、バスターマシン7号の性能というか機能は、破壊に特化していると言っても過言ではない。

 

 何せ、元は対宇宙怪獣の決戦兵器。人間サイズの敵など初めから想定しておらず、明らかなオーバーキルだ。

 

 

 ……では、いったい何をさせると? 

 

 

 考えても分からなかったので素直に尋ねてみれば、珠代は居住まいを正し……同時に、申し訳なさそうな顔で視線を軽くさ迷わせた後……フッと、やにわに顔を上げると。

 

 

「無礼であるとは存じますが、日の神様には御旗として陽動に動いて貰えないかと……」

「陽動?」

「はい、鬼を滅する為とはいえ、人を切り捨てては本末転倒。日の神様には、鬼殺隊の皆様方が鬼を捕らえて体液を採取し、仕留めるまでの間……信者たちの気を逸らしていただきたいのです」

 

 

 そう、言葉を続けたのであった。

 

 

 

 




はたして、無惨は生き残れるのか……デュエルスタンバイ!


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第九話: その顔は、憐れみを覚えるほどに……






 

 

 

 

 ――陽動、である。

 

 

 

 場所は、とある地方の山中。

 

 視線の先にて、ひっそりと佇むのは『万世極楽教』の施設。大きく『万世極楽教』と描かれた看板が……その存在を不気味にさせていた。

 

 何せ、場所が場所だ。加えて、建物は……珍妙な形をしているだけでなく、妙に大きかった。

 

 ワケ有りの者たちが集まって団体を作っているのだとしても、大き過ぎる。内部に40人、50人ぐらいは留まって寝泊まりしても問題ないぐらいの大きさであった。

 

 街中にあるならば珍妙な見世物小屋かと思われるだろうが、施設の周辺には小さな村が点在しているだけ。当然ながら、人の行き交いなんてほとんどない。

 

 

 けれども、全く無いわけではない。

 

 

 報告に有った通り、周辺地域の駆け込み寺みたいな扱いになっているようだ。時々ではあるが、明らかに困窮していたり顔色の悪い人だったりが、中へと入って行くのが見える。

 

 あるいは、ナニカに心酔しきったかのような、心ここに有らずと言わんばかりな様子で、ふらふらと出入りしている者も……おそらく、それが信者なのだろう。

 

 

 

 これもまた……報告にあった通り。

 

 

 『万世極楽教』の資金源は、そういった信者からの寄付金によって賄われている。つまり、身なりが比較的裕福な者は、そういう信者なのだろう。

 

 そして、信者にとって、教祖は神にも等しい存在だ。

 

 おそらく、教祖と対面したに違いない。食われていないのは、単純に金づるとして利用されているからなのだろうが……もしくは、鬼から術を掛けられている可能性も否定は出来ない。

 

 そして、他にも……というか、最も奇妙な点が一つ。

 

 それは、施設に入った人の数が合わない点。鬼殺隊が秘密裏に調べた限りでは、入った数に比べて出てくる数が明らかに違うのである。

 

 その数、41人。探り始めてからそれ程月日が経っていないというのに、41人もの人間が施設から出てこないのだ。

 

 鬼という一点を除いて考えるならば、異常だ。鬼という一点を加えて考えれば、これは明らかに……潜伏している可能性が非常に高いとなるわけだ。

 

 

(……で、私に鬼以外の者たちの気を引いてほしい……というわけか)

 

 

 さて、時刻は昼。時間にして、13時頃だろうか。

 

 あいにくの曇り空ゆえに、地上に届く太陽の光は非常に弱弱しい。弱り切った鬼ならともかく、雑魚の鬼でも十二分に活動できる空模様であった。

 

 

(……でも、どうやって気を引けばいいんだ?)

 

 

 そんな空模様の下で、ウンウンと考え込む女が1人。

 

 熟れた桃のような色合いの長髪をそよ風に靡かせる、特徴的な衣服に身を包んだ……言うまでもなく、彼女である。

 

 その後ろで……ガチガチに全身を硬直させている男が1人。

 

 

 男の名は、村田と言う。顔立ちは普通で、艶やかなヘアーが特徴。

 

 

 鬼殺隊の隊員の1人であり、実力こそ鬼殺隊の中では中堅より下ではあるが、死なずに生き延びている隊士である。

 

 で、そんな一般隊士の1人でしかない彼が、どうして彼女の傍に居るのか……それはまあ、そう複雑な理由があるわけではない。

 

 

 簡潔にまとめるのであれば、助言役である。

 

 

 その仕事内容は……言うなれば、やり過ぎであるならば、一声掛けろというものだ。

 

 ……よくもまあ引き受けたなと思う所だろうが、実はコレ、半ば強制的に決まったことである。

 

 というのも、鬼殺隊において位の高い隊士(すなわち、柱)で動かせる者はみな、施設の近くにて潜伏し、彼女の陽動が始まるのを待っている状態だ。

 

 これは万が一、教祖が上弦……いわゆる、鬼の中でも位を与えられた特別な鬼である可能性を考慮し、最強戦力をぶつけるためである。

 

 なので、彼女の傍に就けられる者は、『日の神狂い』ではない者であり、同時に、『日の神様に対して』当たり障りなく声を掛けられる者に限定された。

 

 

 その結果、選ばれたのが村田である。

 

 

 選ばれた最大の理由は、『日の神に対して世間話ができるから』、らしい。ちなみに、世間話云々は全くの誤解で、当人の感覚では緊張し過ぎて何を話しているのか分かっていないぐらいだ。

 

 また、当人は『日の神』に対して助言など畏れ多くて……と、辞退しようとしたが、トップの耀哉より任命され、周りからも半ば生贄みたいに見捨てられてしまった結果、こうなった次第である。

 

 

「……あ、あの、日の神様」

「ん?」

「そ、その、どのようにして陽動をするのでしょうか? お、俺でも手伝えそうな事でしたら頑張りますので、なんなりと!」

 

 

 まあ、何時までもグチグチしていても始まらない。

 

 終わったら見捨てたやつらに飯を奢らせる事を誓いつつ、村田は……先ほどから右に左に首を傾けて悩んでいる彼女へ、単刀直入に尋ねた。

 

 村田としては、力になれないのであればともかく、力になれる事なら精一杯頑張ろうという、言葉通りの気持ちであった。

 

 ……だが、しかし。村田は、忘れていた。そして、知らなかった。

 

 

「いや、陽動ってどうしたらいいのかなあって……」

「え、決まってないのですか!?」

「うん、好きな様にやっちゃってくださいって言われているけど、私はこういうのはしたことないから、自由にしろと言われても良いのが思い浮かばなくて……」

「はあ、なるほど……確かに、いきなり何かをやれって言われても混乱しますよね」

「そうなのだよ……目立つような事とは、具体的に何をしたら良いのか……参考までに、一緒に考えてくれないか?」

「えっと……はい、分かりました、精一杯頑張ります」

 

 

 彼女は――そう、彼女自身にその自覚が薄かろうとも。

 

 

「とりあえず、目立つことをするのは確定だとして……どうせやるならば、鬼と戦う柱たちが有利な状況を作っておいた方が良いと思うのだよ」

「はあ、仰る通りかと」

「しかし、何が柱たちにとって有利に働くのかが私には分からない。とりあえず、思いつくことが有れば、幾つか挙げてもらっていいかな?」

「そう、ですね……柱が有利と考えるなら、やっぱり雲が晴れて太陽が出ているような状態でしょうか」

「ふむ、太陽か」

「日の光には、鬼を殺すだけでなく、鬼が引き起こす『血鬼術』という異能を打ち消す事が出来ます。鬼の術は、日の光の下ではほとんどその力を発揮出来ませんから」

「そうか、そんなに……よし、では雲を晴らそう」

「え?」

 

 

 彼女は、『日の神』と人々より崇められている、この世で唯一その存在が確認されている太陽神――と思われている存在。

 

 

 その正体は、バスターマシン7号。

 

 

 今の人類の文明であれば、だ。

 

 最少クラスであっても一体で人類を皆殺しに出来る宇宙怪獣を、数十億、数百億、相手に出来る性能を秘めた、人類の守護者。

 

 『バスター・ビーム』

 

 人知を超えたその力には……雲を晴らすことなんぞ、容易い事であった。

 

 

 

 

 

 ――そして、その時……村田は、彼女の後ろ姿に神を見た。

 

 

 

 いや、神を見たのではない。

 

 神が、そこに降臨していた。

 

 人の姿に擬態していた神が、初めて……己の前に、本来の姿を見せたのだと村田は理解した。

 

 それは、太陽のように輝いて、炎のように燃えて揺らめく真紅の長髪。

 

 それは、太陽のように輝き、日の光が具現化したかのような白き身体。

 

 全てが、神々しかった。同時に、ああやはり貴女様は本当に日の神様なのだと、村田は心より理解した。

 

 日の神より放たれた光の束が、どんよりと広がる雲に突き刺さる。

 

 一拍遅れて、ほわっ、と……空に大きな穴が開かれたかと思えば、目に映る範囲の全てに光が降り注いだ。

 

 それは、幻想的な光景であった。

 

 生まれて初めて、目を奪われた。人知の及ばない美しさに、村田は心を奪われてしまった。

 

 

「いちおう、鳥とかに当たってないか見てくるね」

 

 

 だから……その言葉と共に、姿を見せた青空の向こうへ、ふわりと……シュン、と不思議な音と共に飛び立って行くのを。

 

 

「……お館様……勝てます。鬼殺隊は、必ず無惨を倒せます。日の神様と共に、無惨を……必ず、無惨を……!」

 

 

 手を合わせ、涙を流しながら……ただただ、天が味方に付いてくれた幸運に、震える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ――鳥とか隕石とかにも当たっていないから、ヨシ!

 

 

 そんな思いで、ひとまず何事も無い事を確認し終えた彼女は、雲海の上にて大きく胸を撫で下ろしていた。

 

 いちおう、細心の注意を払ったつもりではある。しかし、何事もイレギュラーが発生するのが常。

 

 直撃はしなくとも、余波を受けて失神したり、方向感覚がマヒしたり、何か起こっても不思議ではない。

 

 なので、急いで空の上へと飛んだ彼女は、その勢いのまま影響範囲を探り……何事もなく宇宙にてビームが四散し、消え去ったのを確認した……ところである。

 

 

「……おお、何だか人が集まっているじゃないか」

 

 

 とりあえず、次は何をしようかと考えながら施設を見下ろすと、何やら建物の中からワラワラと人々が出て来ているのが見える。

 

 この程度の距離、バスターマシンの前では目の前に居るも同じ事。

 

 出てきた人々……どう見ても信者なのだが、彼らは慌ただしい様子で互いの顔を見合わせ、空を見上げ、己を……いや、開かれた青空を指差している。

 

 考えなくても分かるし、唇の動きを見なくても想像がつく。

 

 突如雲を晴らして光が降り注いだ事で、不審に思った信者たちが出て来て……で、ぽかんと開かれ顔を覗かせた青空を見て、驚いた……といったところか。

 

 さて……とりあえず、彼らの注意を引くことは出来たが……後は、それをどれぐらい維持できるか、だろう。

 

 

(う~ん、柱たちがそろそろっと中に入って行っているけど……このままだと、そのうち彼らも中へ戻ってしまう)

 

 

 いくら珍しい光景とはいえ、10分も15分も全員の興味を引き付けられるかといえば、そんなわけがない。そのうち、飽きてしまうのは当然の流れ。

 

 しかし、そうなってしまうのは困る。鬼との戦闘がどれほど掛かるかは不明だが、さすがにそんな短時間で終わるわけがない。

 

 最低でも、30分……出来る事なら、1時間ぐらいは彼らの注意を引き付けておきたいが……さて、どうしたもの……あっ、そうだ。

 

 

(そういえば、バスターマシン7号は、太陽系を護る絶対防衛システムへとアクセスし、組み合わせることでダイバスターと呼ばれる集合体に成れた覚えが……)

 

 

 ふと、彼女は思い出す。

 

 

 彼女の、この身体が本来活躍した、『トップをねらえ2!』の劇中にて登場した、人類が生み出した最強の決戦兵器。

 

 それは、太陽系そのものを覆い隠すようにして無数に広がる防衛兵器、『バスター軍団』。その、バスター軍団にて建造する、集合構造体。

 

 バスターマシン7号を中核とし、数千億機にも及ぶバスター軍団を集合させたその身体は、全長10000kmを越える……作中においても、最強最大の人型兵器である。

 

 いちおう、構造を変えれば人形以外にもなれるらしいが……この場において重要なのは、見た目だ。

 

 劇中とは違い、この世界の彼女にはバスター軍団はいない。製造しようと思えば出来るが、今から作ろうとすれば……どう頑張っても間に合わない。

 

 しかし、見た目だけならば……全長数十メートルぐらいならば、取り繕うだけならば、ギリギリ間に合う。

 

 戦闘能力は皆無だが、問題はない。ハリボテのように継ぎ合せても、遠目からはバレないだろう。

 

 というか、いざとなったら全身を光らせて誤魔化せば……ヨシ!

 

 

 『フィジカルリアクター』

 

 

 躊躇している暇はないので、超特急で作業を進める。

 

 さすがに地上より見える位置だとバレる可能性があるので、一旦宇宙へ――そうなれば、人目を気にする必要はない。

 

 作って、作って、継ぎ合せて、継ぎ合せて、形を作る。

 

 装備は一切必要ない。兎にも角にも見た目を最優先で、中身はスカスカ。表皮(装甲)を剥がせば、骨格がそのまま露わになるような状態だ。

 

 

 そうして、所用時間……3分12秒。完成したダイバスター(張りぼて)は、中々に出来が良かった。

 

 

 全長、約50メートル。見た目は、ダイバスター……ではなく、彼女のサイズをそのまま大きくしただけだ。

 

 残念ながら、塗装の問題や造形を思い出しながら作る時間はない。ゆえに、現在の自分の姿をそのまま拡大したようなものだ。

 

 中はスカスカの空洞なので、これで宇宙怪獣と戦おうものなら4秒ぐらいで粉々にされてしまうぐらいに脆い。

 

 しかし、張りぼてとして使うには十分。いちおう、内部の構造は透けて見えないように細工もした。後は、2,3時間ぐらい誤魔化せれば、それで良いのだ。

 

 

(よし、後は私が中へ……うわ、動かしにくい……)

 

 

 早速、コントロールをする為に中核として内部に入った彼女は……直後に、動かし難さに顔をしかめる。

 

 まあ、関節を含めて何もかもが低品質。ある程度動くだけでも御の字か……そう思いながら、彼女はダイバスター(張りぼて)にリンクし、視界を同調させた。

 

 

 

 

 

 

 ――その日、『万世極楽教』の信者たちは、神を見た。

 

 

 

 最初は、曇り空に生じた異変。どんよりと、今にも雨が降り出しそうな空だったのが、突然、ぽかりと穴が開いたのである。

 

 ただ、穴が開いただけでは、驚きこそすれ、信者たちもそこまで気には留めなかっただろう。

 

 せいぜい、知らぬ間に晴れ間が覗いていたかと思うぐらいで、このまま晴れてくれたら良いなと話を流されていた。

 

 しかし……この時ばかりは、事情が違った。

 

 何故なら、数人の信者が偶発的にも目撃したのだ。

 

 光の柱と共に、雲に大きな穴が開いたのを。

 

 一瞬、見間違いかと誰もが思った。だが、実際に空に穴が空いて、その向こうより日差しが降り注げば……それが、只事ではない事に彼らは気付く。

 

 教祖に声を掛けに行くべきか……いや、それよりも、何が起ころうとしているのか。

 

 それを知る為に、手が空いている者はみな……いや、手が空いていなくとも、只事ならぬ異変に、誰しもが靴すら履かないままに飛び出し、空を見上げた。

 

 

 

 

 ――そして、彼らは見た。天より降臨する、神の姿を。

 

 

 

 

 神は、人間なんぞ比べられないぐらいに巨大であった。

 

 その身体は光り輝き、太陽のように朱く輝く髪が揺らめいて、美しいと思う事すら不敬に思わせてしまうような、美しい女神の姿をしていた。

 

 神は、地上に生まれいずる如何なる命よりも優しかった。

 

 人間であれば気にも留めぬ命すらも慈しむかのように、その足は地上を踏まず。雄大に広げた腕は、まるでこの世の命と嘆きを受け止めるかのようで。

 

 

「――ひ、日の、日の神様だ」

 

 誰かが、ポツリと言った。

 

 

「な、なんと神々しい……」

 

 誰かが、静かにその場に膝をついた。

 

 

「日の神様だ……日の神様が、我らの下に降臨なさった!」

 

 誰もが、手を合わせた。深く、深く、深く、何度も頭を下げた。

 

 

「日の神様……ああ、日の神様だ……ああ、ああ、ああ……」

 

 誰もが、涙を流した。誰もが、それ以上の言葉を出せなかった。

 

 

 この場に居る誰もが……いや、万世極楽教に入信している誰もが、辛さや悲しみから逃れる為に、この宗教へと身を浸した。

 

 事情も経緯もバラバラな彼らにとって共通するのは、只一つ。もう、これ以上の苦しみを味わいたくない、逃れたい、その一心であった。

 

 

 ……そんな、迷える者たちの前に、日の神が降臨した。

 

 

 この場に居る誰もが、御伽噺や絵巻物に記され、様々な逸話と共に伝えられた、実際には見聞きした覚えのない存在であった。

 

 一年に一度、『日の神を見たぞ!』と鼻息荒く夜空を指差す者が現れるぐらいの、実在すると信じてはいても、心の何処かで実在していないのではと疑う……そんな、存在。

 

 それが、今、目の前に居る。人知を超えた存在として、自分たちの前にその御姿を見せてくださった。

 

 

 

 

 ――日の神様は、我らを見守ってくださっていた!

 

 

 

 

 その思いが、彼らの心を幸福へと導いた。

 

 その思いは時間と共に飛躍的に増大し……5分と経たないうちに、動ける人間は全て施設の外に出て来て、神を見上げ、涙を流す。

 

 

 

 『何故、人は痛み、悲しみ、苦しむのでしょうか』

 

 

 

 そして……彼らにとっては二度と忘れられない、夢のような一時が始まった。

 

 

 

 『それは、生きているからです』

 

 『ならば、死を迎えれば楽になるのか』

 

 『確かに、それらは消えるでしょう』

 

 『しかし、真の意味で消えるわけではありません』

 

 『ただ、見えなくなるだけです』

 

 『痛みも、悲しみも、苦しみも、変わらずそこにはあるのです』

 

 『けれども、死を迎えた者たちには何も出来ません』

 

 『魂となってしまった者たちはもう、何も成し得ません』

 

 『死した者たちが出来る事は、生きている者に語りかけるだけ』

 

 『ただ、それだけ。ただ、見守るだけ』

 

 『どれほどの心残りがあろうとも、何も出来ません』

 

 『故に、生きなさい』

 

 『痛くても、悲しくても、辛くても、生きなさい』

 

 『生きる事に、理由など必要ないのです』

 

 『誰かに認められる必要など、本来は無いのです』

 

 『しかし、人は生きる理由を他者に求めます』

 

 『人は、自分が思うよりも寂しがり屋なのでしょう』

 

 『寂しいから、誰かを求める。寂しいから、知ろうとする』

 

 『求められないのは苦しく、寂しいのも苦しい』

 

 『故に、生きる事は辛くなる。辛いから、逃れたくなる』

 

 『けれども、それでも、生きなさい』

 

 『生きている間に成し得る事は星の数ほどにあります』

 

 『ですが、死してから成し得る事は一つとして存在しません』

 

 『何も成し得る事は出来ないと、思うのは間違いなのです』

 

 『貴方にとっては路傍の石を蹴る程度のことであっても』

 

 『それは巡り巡って、別の命を助ける事もあります』

 

 『これだけは、覚えておくのです』

 

 『たとえ、世界の全てが貴方を否定し、貴方を追い出しても』

 

 『私が、貴方を見守っております』

 

 『だから、精いっぱい生きなさい』

 

 『心の良心に従って、胸を張って生きなさい』

 

 『死を迎える、その時まで』

 

 『命の宿命に従って、その命の旅路を終えるまで』

 

 『私は、待ちましょう』

 

 『貴方たちが精いっぱい生きて、私の下へ来る時まで』

 

 『私は、待ち続けましょう』

 

 『そして、輪廻を巡り、貴方たちの命が新たな旅路へと向かう、その時まで』

 

 『私の下で、安らかに……眠りなさい』

 

 

 

 それは、迷い傷ついた彼らにとって……正しく、慈雨の言葉であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、そんな彼らの視線を一心に集めている、ダイバスター兼日の神様(笑)はと言うと。

 

 

(これ、それっぽいよね? それっぽく演説っぽいこと出来ているよね? ね? ね? ねえ!?)

 

 

 1人、ダイバスターの中でテンパっていた。

 

 いったい、どうしてテンパっているのか……それは単に、ダイバスター状態で登場した後の事を、何一つ考えていなかったからである。

 

 お前どうしてそんな大事な事を……と言われそうだが、やってしまった以上はどうしようもない。

 

 自覚していなかったが、彼女も色々といっぱいいっぱいだったのだ。とりあえず、ドーンと登場すれば、後は流れでどうにでもなると軽く考えていたのだ。

 

 当然ながら、そんな軽い考えで物事が上手く行くなら、誰も苦労はしない。

 

 

 確かに、登場してすぐは上手くいった。

 

 

 全長約50メートルという今の文明レベルでは巨大すぎるダイバスターの姿は、信者たちの注意を完全に奪った。

 

 だが……分かってはいたが、何時までも注目を引き付けてはいられない。

 

 やはり、変化の無い状態が続くと人は慣れてしまう。

 

 その証拠に、ほとんどはダイバスターの姿を見てその場に膝をついたが……立ち上がり、施設の中へと戻ろうとする者が3人ほど。

 

 

 これはマズいぞと、彼女は焦った。

 

 

 3人や4人や5人ぐらい、既に潜入している柱たちが瞬時に気絶させる事ぐらいは容易いだろうが……問題なのは、中に入っている鬼だ。

 

 鬼は例外なく狡猾で、どんな汚い手でも使うと鬼殺隊より聞いていた。

 

 ならば、運悪く正体を出した鬼に見つかれば、人質なり何なりに使われる。そうならなくとも、食い殺されて回復の材料にされる可能性だってある。

 

 

 ならば……どうする?

 

 決まっている……どうにかして、注意を引き続けなければ。

 

 

 そう考えた彼女は……唯一、信者たちに対して行える……『言葉』にて、注意を引く事を選んだ。

 

 まあ、ダイバスターは中身張りぼてだから、動こうと思ってもまともに動けないから、言葉以外で出来ることは皆無なんだけど……で、だ。

 

 とりあえず……イメージとしては、カウンセリングだ。

 

 相手を否定せず、かといってむやみやたらな肯定もしない。

 

 ただ、そうやって悩み傷つくのも悪い事ではなく、それもまた生きる事なのだと……そんな感じで、上から目線でそれっぽい言葉を並べてみた。

 

 そのおかげか、あるいは、ダイバスターという超常的な姿に感動したのかは不明だが……結果的には、釘づけに出来た。

 

 

(……しかし、鼻水びしゃびしゃ垂れ流しながら拝まれると、罪悪感が凄い……ごめんね、私ってばそんな大そうなアレじゃないから)

 

 

 信者に対して、心の中で謝り……次いで、ふと、思う。

 

 

(……ここはもう大丈夫そうだし、ちょっとぐらいは様子を見に行った方がいいかな?)

 

 

 基本的には手を出さないと決めてはいるが、かといって、見殺しになる結果になる可能性を放置するのは……正直、後味が悪い。

 

 

(見た所、全員動いているから誰かが戦闘不能になったわけではなさそうだけど……)

 

 

 とりあえず、ダイバスター内にてスキャンをしてみる。

 

 すると、動きが止まっている(つまり、負傷して動けなくなっている)者はいないのが分かる。

 

 しかし、このまま全員が無事に事が終わるかといえば、誰も断言は出来ない。

 

 でも、種族『縁壱』の可能性が考えられる富岡義勇が居る時点で、心配する必要は……でも、万が一の可能性が……いや、でも、種族『縁壱』だぞ?

 

 

(でもなあ……う~ん、実際に見たわけでもないし……)

 

 

 実力の程は知らないが、耀哉たちからの話では……相当に強いとは耳にしている。

 

 少なくとも、ここ数十年の間では間違いなく最強の隊士だとも……だから、心配の必要は……う~ん。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………縁壱は無事でも、他の者たちは違うし……様子だけでも、いちおうは見ておくべきか。

 

 

 そう、結論を出した彼女は、早速ダイバスターより離脱する。もちろん、外からは分からないように、足元からこっそりと。

 

 自律機能の無いダイバスター(張りぼて)は、そのままだとバランスを崩して眼下の森をベキベキとへし折りながら倒れかねない。

 

 なので、『フィジカルリアクター』にて製造した装置を内蔵させ、外部より無線にて制御出来るように改造する。

 

 ついでに、音声装置も一緒にセット。

 

 これで、只でさえ張りぼてで危ういというのに、信号の受信状況によってはそのまま倒れるという更に危うい状況へと悪化した。

 

 まあ、ダイバスターの周囲を分厚い鋼鉄で完全に囲うぐらいしないと信号の遮断は不可能なので、現時点では心配するだけ無駄だが……さて、と。

 

 信者たちに見つからないよう木々の下を低空飛行しながら、施設へ。

 

 鬼殺隊が潜入した時と同じルートを進み、スキャンを随時使用して、誰にも見つからないまま奥へ進み、地下へと潜り……で、到着。

 

 件の鬼(教祖の事)は、地下の奥……おそらくは宗教的な意味合いが強い、祭壇と思わしき場所に居た。

 

 出入り口は、突入の際に鬼殺隊が壊したのだろう。

 

 扉がへし曲がっていたり切られていたり、何とも酷い有様だが、室内の方がもっと酷い有様で……相当な戦いが繰り広げられて……ん?

 

 

(鬼殺隊の者たちに囲まれている、あの男が鬼なのは分かったが……どうにも様子が変だな)

 

 

 教祖の鬼は、鬼らしく(らしく、という言い回しも変だけど)珍妙な姿をしている。

 

 見慣れぬ衣服もそうだが、頭から血を被ったかのような、赤色が入り混じった金髪の……ふむ、目玉に『上弦』だとか『弐』だとか有るが、ちゃんと人の形をしているだけ、マシか。

 

 

 で、その鬼だが……何だろうか、これは。

 

 

 直接近付くと義勇に勘付かれそうなので、スキャンにて詳細な様子が確認出来る位置より状況を見た彼女は……軽く小首を傾げた。

 

 

 有り体にいえば、戸惑っている。誰がって、あの鬼殺隊が、だ。

 

 そして、肝心の鬼はと言えば……何だろうか、酷く痩せこけている。いや、痩せているなんて話じゃない。

 

 

 まるで、骸骨に薄皮を張りつけたかのような、異様な痩せ方だ。鬼だからなのかもしれないが、顔色も青白くて、まるで精気を感じられない。

 

 それでいて、目が笑っていない。口元は笑っているのに目だけは笑っておらず、かといって、鬼殺隊に抵抗する素振りはない。

 

 諦めている……というわけでも、なさそうだ。

 

 抵抗の機会を伺って……う~ん、そのようにも見えない。おそらく、鬼殺隊も、そんな鬼の異様な態度に、罠を疑って警戒している……ん?

 

 

 『――出来ないというのはですね、嘘吐きの言葉なんだよ』

 

 

 鬼殺隊の皆様に倣って、彼女も動向を伺っていると……唐突に、鬼はそんな事を呟き……さらに、言葉を続けた。

 

 

 『――出来ないというのはね、途中で止めてしまうから無理になるんだ。途中で止めなければ無理じゃなくなるんだよ』

 

 『――鬼に睡眠は必要ない。そもそも、必要ないってことは、疲れていないってこと』

 

『――365日間、朝な夕なと働いても眠くならないのは、それだけ怠けているってことなんだ』

 

 『――俺に言わせれば、出来ないのは本気でやってないから出来ないだけなんだ』

 

 『――365日24時間死ぬまで働け。それが、働くってこと。休みが、人間にとって幸せなのかな?』

 

 『――鼻血を出そうがブッ倒れようが、無理やりにでもやれば、それは出来ない事じゃなくなるんだ』

 

 『――本当の本当に本気になれば、いちいち肉が口に入るわけがない。腕の一本や二本かじって、それで十分』

 

 『――あの御方への“ありがとう”、掛けられる労わりの言葉、その感動だけで生きていけるんだよ』

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………え、こいつ、え、なにコイツ?

 

 

 ぞぞぞっ、と。

 

 

 思わず、彼女は背筋に怖気が走った。

 

 スキャン越しに見やれば、鬼殺隊の柱たちもまた、意味不明な言動に対して、本能的な恐怖を抱いているようだ……と。

 

 

 『――お前を切る。何か、言い残す事はあるか?』

 

 

 柱の中でも、冷静さを保っている義勇が刀を構える。さすがはやつの子孫(推測)だ、常人には出来ない事をあっさりやってのける。

 

 

『……言い残すこと?』

『無いのであれば、直ちに切る。何か、あるか?』

『何も、ないよ。何も、考えたくない……無になりたい……』

『一つぐらい、あるだろう』

『……一つ……一つ……そうだな』

 

 

 ぽつり、と。溜め息にも似た、『あ、そうだ』その言葉と共に。

 

 

『もし、生まれ変わる事があるなら……次は、貝になりたい』

『貝に?』

『深い海の底で、岩にへばりついて……何も考えず、そのまま寿命を迎えたい』

『……それが、最後の言葉で良いのか?』

『うん、いいよ……』

『……そうか』

 

 

 その言葉と共に、ひゅん、と。

 

 残像すら確認出来ないままの、一瞬の風切り音。

 

 ふわり、と。

 

 義勇の両足が、鬼の背後にて着地した……その時にはもう、ぽろりと鬼の頸は落ちていて。

 

 

 『――ああ、これでゆっくり眠れる』

 

 

 にっこり、と。

 

 それはそれは嬉しそうな顔で……灰になり、塵となって……この世から消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………こうして、今回の任務は全て終わった。結果は考えるまでもなく、全て大成功である。

 

 

 何事も無く天へと還る(まあ、フリですけど)ダイバスター。

 

 何処となく神妙な面持ちの柱たちに、鬼より採取した大量の血液。

 

 様子が異なることに首を傾げつつも、鬼舞辻無惨攻略へと本格的に動き出す珠代と愈史郎。

 

 そして、来るべき決戦に備える為に始まった特別な訓練、『柱稽古』。

 

 それは、柱より下の階級の者たちが、柱を順番に巡って稽古をつけてもらえる……というもの。

 

 その目的は、隊士たち全体の能力の底上げと……柱たちの援護。すなわち、最強戦力である『柱』の消耗を極力抑えるため。

 

 鬼舞辻無惨を確実に仕留める為に、下の隊士たちが命を賭して柱たちの消耗を抑え、万全の状態で戦わせる……いわば、捨て石。

 

 普通に考えれば、戦う下の者たちの士気は下がるところだ。何せ、肉の盾となり柱を護れ……そう言っているのだから。

 

 だが、隊士の誰一人、士気が下がる者は居なかった。弱音こそ零すが、稽古から逃げ出す者はほぼ皆無であった。

 

 何故なら、隊士たちの目的は只一つ。怨敵、鬼舞辻無惨の討伐……ただ、それだけ。

 

 己の人生全てを使ってでも、必ずヤツを殺す。その為ならば、それこそ己の命一つくれてやる……その一心。

 

 

 ――決戦の時は、近い。

 

 

 誰もが、言われずともそれを察していた。

 

 誰もが、最後の戦いが始まる事を予感していた。

 

 誰もが……少しずつ、覚悟を固めていった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな、復讐者たちの中で……ただ1人。

 

 

(鬼舞辻無惨……手下である鬼すらも、あそこまで使い潰すとは……なるほど、鬼殺隊という組織が出来るだけでなく、長き時に渡って恨みが消えることなく積もり続けるわけだ……)

 

 

 与えられた、部屋にて。

 

 

(……ワープは使わないけど、あの空間への通路ぐらいは……あいつにだけは、次を与えては駄目だな)

 

 

 彼女は……決戦の時が、耀哉から攻め込む時が来たと知らせが来る、その時を……待っていた。↓※ただし、自力で。3日事に報告要、 3日毎

 

 

 

 




 ―――――――――――――――――




 とある宗教団体の教祖を務める鬼の業務。全て、無惨の命令により拒否権無し。


 1.鬼を増やし、場合によっては鬼を減らす
※ただし、多様性を確保するため、一つの村や集落などでは1人ずつだけ。相手が血に耐えきれずに死ぬと、罰として上弦の鬼ですら悶え苦しむほどの強烈な激痛が半日与えられる。

 2.日の呼吸の素養がある者を殺す
※ただし、自力で。時間が無くて探せないは言い訳。7日間ごとに1人殺せないと、同じく半日ほど激痛でまともに動けなくなる。現在、1人も達成出来ず。

 3.青い彼岸花を探す
※ただし、自力で。3日事に報告要、出来ない場合は強烈な激痛が半日。出来ても内容次第では激痛半日。現在、手掛かりは一つも得られていない。

 4.ある程度強くなった鬼を、無惨の下へ送る
※これは、少しでも『お労しやロボ』の動きを阻害させるため。しかし、この作業の際、胸を『お労しやロボ』に切られ、思い出すたびに全身が震えてしまうとか。

 5.鬼殺隊の動向を探り、異常があれば無惨に知らせる
※ほとんどの場合、自ら赴いて解決する。ただし、最近は鬼殺隊の平均的な実力が高く、疲弊している現在の教祖では手傷を負わせるのが精いっぱい。

 6.下弦の鬼の統率
※下弦の鬼が怠けている(無惨の基準で)場合、連帯責任として教祖も激痛を半日。下弦の鬼が絶望して自殺した場合、24時間の激痛タイム

 7.無惨の苛立ち発散のサンドバック
※少しでも無惨がイラついたら、不定期に激痛タイム。これにより、教祖は毎日24時間緊張感のあるフレッシュな気分が続いている



 基本的に、無惨より与えられている任務はこの7つ。



 これによって、教祖は食事の回数が一日一回、平均所要時間6秒という早食いを習得。

ただし、激痛が始まると食事が出来なくなるので、食事は15日に一度、腕一本を食すのが平均的なサイクルとなっている。

 昔は人の心を知りたいと思っていたらしいが、最近は心を知る事よりも、何も考えたくないと思うようになっている働き者の鬼である。




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第十話: 最初で最後の攻勢

コメントに時々ありました、『富岡義勇』のやつ
あれ、わざとやっています

元のキャラとあまりに違う&縁壱の血筋(疑惑)という二つの事から、縁壱だから1足したという安直な理由からです(いちおう、他にも理由が一つあります)

なので、違うキャラなら無一郎 → 無二郎 みたいな感じになっていた可能性もありました



 

 

 

 

 ──その日、その時。

 

 

 

 彼女は、ちょいと気紛れに部屋を出て……どういうワケか、身を寄せている蝶屋敷の女たちと一緒におやつを頂く事となっていた。

 

 正直、彼女自身も何でそうなったかは分からない。

 

 ただ、タイミングと流れと一緒にお茶をしたいという胡蝶カナエのお願いによって、そうなったということだけは理解していた。

 

 不本意ながら神様扱いされることの多い彼女、これには大喜び。何故かと言えば、蝶屋敷にて働く者たちは皆、麗しい美人ばかりだからだ。

 

 お前まだ男の感性が残っているのか……そう思われるような反応だが、少し誤解がある。

 

 確かに、この身体になる前の彼女(正確には、前の世界)は男である。しかし、そんなモノは月日の流れの中で、すっかり色あせている。

 

 おそらく、バスターマシン7号という身体を得た影響もあるのだろう。

 

 元男という感覚は今も残っているし、『女』という存在に目を引かれるのは事実だが……それでも、以前のソレとは根本から異なっている。

 

 

 ──言うなれば……アレだ、美しいモノを遠くから眺めるような感覚だろうか。

 

 

 あるいは、ヨチヨチと四つん這いだった赤ん坊が、ようやく二本の足で立ち上がった瞬間を目にしているような感覚……だろうか。

 

 どうしてそんな感覚になるのかって……それは何と言っても、彼女が昔を知っているからだ。

 

 

 というのも、だ。

 

 

 日本のみならず、大陸を渡り歩いていた(時には飛んでいた)時、彼女は……それはもう、幾つもの死を目撃した。

 

 前世の事を抜きにしても、現在の大正時代の事を抜きにしても、本当に昔は人が些細な理由で死んだ。

 

 他人や動物に襲われたとか、それだけが理由ではない。あまりに信じ難い迷信によって、大人も子供も次々に命を落としていった。

 

 現在では誰も信じないだろうが、昔はとある民族の尿が虫歯の予防になるとか、傷口には馬糞を塗ると止血になるとか、病は精霊の力を借りて治すとか、そういうのが本気で信じられていた。

 

 

 だから、大人になった男女はすぐに子供を作った。

 

 言い換えれば、大人ですら本当に些細な事で死ぬのだ。

 

 

 前世と同じように成人してから交際を重ねて……なんてまだるっこしい考えでいたら、両方とも死亡してしまう可能性が出てくるのが当たり前だった。

 

 おまけに、産んだ子供が成人する割合は半分を切っていた。10人産んで、5人成人出来れば御の字……彼女の知る昔は、そんな時代だったのだ。

 

 故に、彼女は……ちゃんと歳を重ね、無事に大人へと成ろうとしている彼女たちの姿を眺めているだけでも嬉しかった。

 

 

 なので、相手が少女だと嬉しいというのは、アレだ。

 

 

 どっちも好きだけど、『子犬』と『子猫』、強いて選ぶならどっちが好きかと尋ねられて、片方を選ぶ程度の感覚。

 

 その中でも美人という形容詞が付く理由は……毛並みの色合いが好みとか、長毛とか短毛とか、そういう程度の話である。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 蝶屋敷にて入院している者の世話、薬などを受け取りに来た隠(かくし:要は鬼殺隊の裏方)への対応、諸々の日常的な業務を済ませた、午後。

 

 空は、晴れ晴れ。ぽかりと広がる穏やかな時間と、たまたま手元に来た茶菓子……それを前に、蝶屋敷の長である胡蝶カナエが、『日の神様も!』というわけであった。

 

 

 彼女としては、誰かとお茶をするのは本当に久しぶりである。

 

 

 どういうわけか、どいつもこいつも己が傍に来るとカチコチに固まってしまうから、これまで遠慮していたが……相手から誘ってきたのであればと、承諾したわけ……なのだが。

 

 

「──怒りを胸に秘めてはなりません。怒りは、己を支える足場であり、己を動かす原動力でもあるのですから」

 

 

 これまた、どういうわけか……彼女は、蝶屋敷の女たちを前に……謎の演説を行う。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………いや、違うのだ。これは、彼女も不本意なアレであった。

 

 

 

 そもそもの流れとしては、だ。

 

 

 

 まず、お茶会(おやつタイム)に集まったのは、発起人である胡蝶姉のカナエと、その姉の行動にちょっとばかり緊張している、妹のしのぶ。

 

 

 栗花落(つゆり)カナヲ、神崎アオイ、寺内きよ、中原すみ、高田なほ……ここまでは、彼女たちが順番に自己紹介してくれた。

 

 

 カナヲは、名字こそ違うが胡蝶姉妹の末妹という立場。アオイ・きよ・すみ・なほの4人は、戦えるだけの実力がないので、後方支援としてこの蝶屋敷に住み込みで働いているとのこと。

 

 後は、『緊張し過ぎて何も言えなくなっている』のと、『当人が自分で名乗りなさい』というしのぶのお叱りによって、現状では名無しのまま参加となっている少女が3名。

 

 

 いわゆる、継子(つぐこ)(鬼殺隊用語、らしい)と呼ばれている内弟子らしい。

 

 

 前髪を綺麗に横一線に整え、両サイドをお団子にした、水色の髪飾りの少女。

 

 オールバックのポニーテールが似合っている、桃色の髪飾りをしている少女。

 

 真ん中から綺麗に左右に分けた、ボブカット。緑色の髪飾りを付けた少女。

 

 

 全員、可愛らしい顔立ちをしている。これで、ガチガチに固まっていなければ良かったのだが……話を戻そう。

 

 

 お茶会は、順調(という言い方も何だけど)に進んだ。

 

 最初は取り留めのない世間話に始まり、流行の衣服がどうとか、どこそこの店が美味しいとか、本当に取り留めのないモノばかりであった。

 

 

 ──う、うう、ううぅ……! 

 

 

 その流れが変わったのは……緊張しっぱなしであった名無しの3人の内の一人が、限界に達してポロポロと涙を流し始めたのがキッカケであった。

 

 彼女としては、そこまで緊張させてしまう事が気まずくて堪らなかったが……涙を流している当人は、もっと気まずい。

 

 

 実際、胡蝶姉妹を始めとして、集まっている少女たちは泣いている子を宥めているが……それは、むしろ逆効果になってしまった。

 

 

 まあ、当人の頭の中が、今にも消えたい気持ちでいっぱいなのは想像するまでもないが……しかし、せっかくのお茶会なのだ。

 

 泣いている少女を黙って見つめるのは駄目だろうし、かといって、視線を逸らし続けるのも駄目だろうし、席を外すのはもっと悪い。

 

 

 だから、彼女は……緊張を解す意味も兼ねて、空気を入れ替えるために昔話をする事にした。

 

 

 

 内容は、悲しい話だけれども、そう複雑なモノではない。

 

 

 

 親代わりに己を育ててくれた偉大な師匠に追い付こうとするも、立ち塞がる壁に悩む少年の……生涯である。

 

 少年は、才能が無かった。努力では補えない、素質という絶対的な壁を前に苦しみ、師匠のようには成れない現実に苦悩していた。

 

 少年と師匠は、すれ違った。危険な世界よりも、日の当たる世界で生きてほしい師匠と、そんな師匠の隣を歩きたいと願う少年。

 

 すれ違うのは、当然である。そして、そんなすれ違いは……師匠の死によって、決定的となってしまった。

 

 少年は、復讐に全てを費やした。『光の世界に生きろ』と願う師匠の願いを、少年は覚えていた。けれども、少年はそれを選べなかった。

 

 憎かった。恨めしかった。何を捨ててでも、何を犠牲にしてでも、少年は復讐を果たしたかった。

 

 だからこそ、少年は修羅の道を進んだ。

 

 ありとあらゆるモノを捨てる代わりに、己が持ち合わせていなかった才能を埋めた。師匠が少年に望んでいた全てを捨てて、師匠の仇を取る為に前へと進み続けた。

 

 その結末は……命と引き換えの、復讐の完遂だった。

 

 

「……周りの人は、復讐を止めなかったのですか?」

 

 

 話し終えて、一息。

 

 改めて淹れてもらったお茶を啜っていると、神妙な面持ちで尋ねて来たのは、泣き出した少女……ではなく、しのぶであった。

 

 

「復讐の為に、協力してくれた人たちが居たんですよね? どうして、周りの人たちは止めようとしなかったんですか?」

「止めようとはしたよ。でも、あの子はもう、自分でも止められなかった。それこそ、手足を切り落とすぐらいはしないとね」

「それは……」

 

 

 絶句する、しのぶ。いや、しのぶだけでなく、彼女を除いた全員が言葉を失くしていた。

 

 まあ、そりゃあそうだ。手足を落とすってことは、実質殺すようなものだ。殺す以外に止まらないと断言されれば、それ以上は何も言えなくなる。

 

 

「何とも、ままならない話だとは思いませんか?」

「……酷い話だとは思います」

「そうだね、酷い話だ。師匠の想いも、周りの人たちの想いも、大切に想ってくれている人たちの想いも全て踏みにじって、やりたい事をやりとげた人でなしだよ」

「え?」

「ん? 何でそんな驚いた顔をするのかな? 方向性の違いがあるだけで、周りの想いに見て見ぬフリをして、やりたい事をやっているのは事実でしょ?」

 

 

 そう言えば、しのぶは……表面上は隠していたが、明らかに気分を害した様子で……いや、しのぶだけではない。

 

 他の者たちも、明らかに顔を強張らせている。例外はカナエと……ずっと無表情のままの、カナヲぐらいであった。

 

 

「結局のところ、復讐っていうのは本人の自己満足なんだよ。でもね、忘れてはいけないよ。その復讐に身を浸すというのは、貴方を想う誰かの心を傷付ける事にもなる」

「…………」

「とはいえ、それは仕方ない事なんだろうね。だって、そうしないとあの子は前に進めなかった。復讐を果たさなければ、あの子は何処へも行けなくなってしまっていた」

「…………」

「貴方たちを見ていると、時々だけど、とても哀れに思えてしまう。貴方たちの心は、ずっと、あの日から、あの夜から、止まったままなんだろうなあ……って、思うんだ」

「……日の神様は」

「ん?」

「日の神様は、私たちを……鬼殺隊を、どのように見ていらっしゃるのですか?」

 

 

 まっすぐ向けられる、視線。

 

 しのぶより、いや、全員より向けられた視線を真っ向から受け止めた彼女は……ゆっくりと、持っていた湯呑をテーブルに置いた。

 

 

「愛の為にその命を燃やし、生きる為にその愛を燃やす者……かな」

「……愛の為、生きる為、ですか?」

 

 

 意味が分からず首を傾げるしのぶに、「そうだよ、愛さ」彼女は……少年の事を思い返しながら、答えた。

 

 

「愛しているからこそ、人は命を燃やす。愛しているからこそ、想う者たちをふりきってしまう。愛というのはね、殺意よりもずっと、ずっと、ずっと……鬼よりもずっと、厄介なモノなんだよ」

 

 

 ──だって、愛も度が過ぎれば、『捧げる……』とか言い出していきなり我が子の頸を私に捧げ始めるやつが出て……止めよう、思い出したくない。

 

 その言葉を、すんでのところで呑み込みつつ……そのまま、彼女は……全員の顔を見回しながら、言葉を続ける。

 

 

「勘違いしてはいけないよ。貴方たちは、再び歩き出す為に鬼と戦っているという事を」

「もう一度……歩き出す……」

「戦い方は、人それぞれさ。でも、皆同じ。もう一度歩き出すために、もう一度生きる為に、貴方たちはここに居るんだ」

「…………」

「大丈夫、貴方たちは生きている。生きている限り、また歩き出せる。だって、それが生きている者の特権なのだから」

 

 

 そう言い終えると……彼女は、するりと席を立った。

 

 どちらへ──そう尋ねるカナエの言葉に、彼女は……にっこり笑みを浮かべると。

 

 

「お館様のところだよ……全ての決着を付ける時が、もうすぐ来るってことだろうね」

 

 

 入口より、来訪を告げる隠の呼び声が……そう告げて直後に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──無惨の能力を抑える薬の開発自体は、もう既に終わっていた。

 

 

 

 では、どうしてすぐに動かなかったのか? 

 

 それは単に、無惨を封じ込めている場所の周囲一帯を閉鎖し、包囲する為である。これは、万が一を考えての予防策であった。

 

 

 周囲の人里から距離があるとはいえ、鬼の足だ。

 

 

 疲れる事を知らない身体に加え、身体能力そのものが尋常ではない。その気になれば、山の二つや三つを駆け抜けてしまう。

 

 鬼殺隊の最高戦力である『柱』とて、限りある人間。完全に逃げの一手を取られ、持久戦に持ち込まれてしまえば、勝ち目は0になってしまう。

 

 何せ、包囲網より逃げ出されてしまったら、捕捉するのは困難。そのまま一度でも見失えば最後……また、可能性は低いが人質を取られる危険性もある。

 

 

 故に、耀哉は……かねてより、準備を進めていた。

 

 

 まず、周辺地域より(要は、回復を断つ)人間を全て他所へ移す。これで、万が一逃走された際の人質(補給)を阻害する。

 

 次に、封印されている場所の上……辺り一帯を買収し、生い茂る森林の枝葉を落とし、一部は伐採する。

 

 経済的に、後々へと響くダメージだが、手は抜けない。これを逃せば、機会は二度と訪れない……だが、あくまでも、ある一定の範囲に絞って行う。

 

 これは、無惨が逃走した際の逃げ道や場所を限定させる為。いくら無惨でも、日の当たる場所を逃げ続ける事は出来ないと考えての事。

 

 更に、それらを囲うようにして散布するのが……藤の花より抽出した薬液だ。この薬液は、鬼にとっては強烈な毒薬である。

 

 これも、要は足止めだ。ほんの数秒でも動きを遅らせる事が出来たのであれば、万々歳。効果は無くとも、わずかでも精神的なダメージを与えられても万々歳。

 

 更に更に、その散布された薬液の地点に……大きな鏡を置く。それも、いくつも。

 

 理由は、光を反射させて、少しでもより多く、より強い光を無惨に浴びせるため。一方向からだけでなく、それこそ八方向から浴びせられたならば……さすがの無惨とて、だ。

 

 そして……作戦決行日は、雲一つ無い晴天の朝。地上に出れば焼け死ぬのが確定する時間帯にて行う。

 

 

 作戦内容は、こうだ。

 

 

 鬼舞辻無惨が潜伏する空間は、おそらく空間操作系の血鬼術(けっきじゅつ)(要はスキル)を持つ配下の鬼によって管理されているというのが、耀哉の推測である。

 

 

 つまり、この配下の鬼をどうにかしない限り、最悪無惨を取り逃がす可能性が生じてしまう。

 

 なので、潜入した際に真っ先に抑えに掛かる必要な相手が、この鬼だ。

 

 上弦の鬼かどうかは不明だが、これまでほとんど情報を得られていない辺り、お気に入りとして傍に置いている可能性が極めて高い。

 

 しかし、ただ殺すだけでは駄目だ。そのまま灰になって消滅するだけならまだしも、空間そのものが崩壊して……潜入した隊士たちが生き埋めになってしまう可能性がある。

 

 どうにかして、空間が維持された状態で、無惨を仕留めねばならない。

 

 だが、頸を落としても無惨が死なない可能性がある以上は、確実に殺す為には、この鬼は絶対に討伐しておかねば……しかし、無惨を地上へと引きずり出す必要がある。

 

 

 故に、耀哉は……この鬼を利用する事にした。

 

 

 幸いにも、耀哉たち鬼殺隊は、鬼ではあるが無惨に対して強い恨みを抱き、無惨を殺す為、長年に渡って研究を続けている協力者を新たに得た。

 

 

 その協力者とは、珠代と愈史郎である。

 

 

 この二人の協力によって、無惨の能力を抑える薬を開発し、同時に、空間操作の鬼を洗脳し、空間そのものを地上へと引きずり出す方法を選ぶことが出来るようになった。

 

 その際、鬼殺隊が行うのは、無惨の注意を引き付けて注意を逸らし続ける事と、要となるこの二人……特に、鬼を洗脳する為に同行する愈史郎を守り続ける事。

 

 地上に出しさえすれば、戦況は圧倒的に鬼殺隊に傾く。無惨も攻め込まれた場合を想定して、強力な鬼を配備しているだろうが……それこそ、鬼殺隊の出番である。

 

 

 これまた、偶発的に……いや、もはや、運命なのだろう。

 

 

 そう輝哉が思ってしまったぐらいに、現在の状況は、かつてないぐらいに鬼殺隊が有利に動いている。

 

 つい先日、無惨が持つ最大戦力である上弦の鬼(?)の討伐に成功しただけでなく、『日の神様』より伝えられた情報により、それ以外の上弦と思われる鬼も討伐されている可能性が極めて高いことが分かった。

 

 対して、鬼殺隊の最大戦力である『柱』は、鬼殺隊の歴史を紐解き比べてみれば、ここ2,300年の間で最も戦力が高まった状態であると思われる。

 

 

 特に、水柱の富岡義勇がヤバい。

 

 

 何がヤバいって、いざとなれば自ら自爆して隙を作る覚悟すら固めている耀哉ですら、『もしかしたら、義勇1人だけで勝てるのでは?』と一瞬ばかり考えてしまうぐらいにヤバい。

 

 何なら、とある神様扱い(当人は否定)されている者からも、密やかに『お前、やっぱり縁壱の子孫だよね(疑いの眼差し)』と思われ、人間扱いされていないぐらいにヤバい。

 

 そして、これまで分からなかった無惨の居場所が判明し、それまで無かった新たな戦法を用意し、こちらから攻撃に打って出ることで、地の利すら得た状態で戦端を開く。

 

 これで勝てなければ、以降1000年は勝てないだろうと思ってしまう程に、千載一遇の好機であると輝哉は考えたわけである。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、出来うる限りの準備を終えた、その日。

 

 

 ついに、鬼殺隊は……その歴史上初めてであると同時に、最初で最後になるかもしれない……鬼への攻勢に動いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 『無惨ぶっ殺しに行くから、入口の封印を解いてほしい(意訳)』

 

 

 呼び出されて早々、彼女としてはまだるっこしい挨拶を交わした後で、耀哉よりお願いされた彼女は、二つ返事で快諾した。

 

 正直、恨み辛みは別として、アレは存在してよい存在ではないと彼女も考えている。

 

 他の生物と同じく繁殖するわけでもなく、死すれば命が循環するわけでもなく、ただただ他の命を食い続けるだけでなく何百年何千年と生き続ける生物なんぞ、異物も異物。

 

 しかも、生きる為に必要な数だけ殺すのではなく、ただ苛立ったとか、ただ日の下を歩けるようにとか、その程度の理由で数えきれない数の命を無作為に奪っていったのだ。

 

 縁壱も討伐失敗を悔いているような事を話していたし、鬼殺隊も無惨が死ねば、新たな一歩を踏み出すことが出来る。彼女としても、そうなってくれれば万々歳。

 

 

 だから、二つ返事で快諾した。

 

 

 少なくとも、もう向かう事はないだろうと思っていた……あの空間への道を、開くことにしたわけである。

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、その日、その時。

 

 

 季節は、梅雨。つい先日まで雨が降っていたが、しかし、計画し予測していた通り、決行日は、空は見事なぐらいに快晴であった。

 

 ぎらぎら、と。

 

 堪らずむせてしまうほどの熱気が、日光と共に降り注いでいる。常人であれば、嫌気を覚えるような不快感だが……その場に集まった誰もが、欠片も気に留めていない。

 

 いや、それどころか、誰もが喜んでいた。何故なら、日光の強さ=鬼へのダメージが増すからだ。鬼を殺す為ならば己の命など投げ出す鬼殺隊にとって、正しく天の恵みである。

 

 きらきら、と。

 

 そして、その恵みはただ降り注ぐばかりではない。地面に生じた水溜りによって、僅かではあるが光が反射する。すなわち、鬼は天と地、両方から焼かれるわけだ。

 

 

 ──まるで、天すら味方に付いたかのようだ。

 

 誰かが、ポツリと呟いた。

 

 

 ……いや、違う。

 

 誰かが、ポツリと答えた。

 

 

 ようだ、ではない。

 

 天が、味方に付いているのだ。

 

 

 曖昧なモノではない、鬼にとっては不倶戴天の天敵である……太陽神、『日の神』様が! 

 

 

 この計画に参加する鬼殺隊の誰もが、不安を覚えている。だが、同時に、誰もが心の何処かで確信を得ていた。

 

 この戦いは──鬼殺隊の勝利に終わる、と。長き時を経て繰り返された鬼との因縁に──終止符が付くのだということを。

 

 

「……あっ」

 

 

 そう、声を漏らしたのは誰だったか。あるいは、全員が多少なりズレはあっても、声をあげたのかもしれない。

 

 

 ──その日、その時……誰もが、『日の神』を見た。

 

 

 この場に居る誰もが、多かれ少なかれ、ヒノカミ様を目撃している。大半は遠くから拝む程度の事ではあるが、中には直接会話した者もいるだろう。

 

 

 しかし……そのほとんどが、真の姿となった『日の神』を見た事はなかった。

 

 

 いや、その目で見た幸運な者ですらも、悠然と佇む日の神様や、気さくな態度を取ってくれる日の神様の姿ぐらいしか知らない。

 

 そう、誰もが初めて見たのかもしれない。

 

 まるで太陽のように燃え上がる長髪を揺らめかせながら、全身より薄く光を放つ神々しき白き御姿……様々な伝承にて残された、『太陽神・日の神様』を。

 

 

 ──ふわり、と。

 

 

 天空より降り立った日の神様は、畏怖と敬意と共に開かれた道を通る。距離にして数十メートルとない先頭には、柱を始めとして……この計画の要となる者たちが集結していた。

 

 そんな、彼ら彼女らの視線を一身に集めている日の神様は、緩やかに……漂うように足跡を付けることなく、先頭にてふわりと静止する。

 

 

 ──途端、キラリ、と。

 

 

 日の神様の両手の甲と胸に輝く、赤・緑・青の三つの宝玉。それらがひと際強くきらめいたかと思えば……変化は、すぐに現れた。

 

 一言でいえば、大地が割れた。いや、割れたというより、開かれた、の方が正しいのかもしれない。

 

 

 まるで、道だ。

 

 

 地面が盛り上がり、大地が削られ、階段が形作られ……地下へと、鬼舞辻無惨が封じられている、地下の空間へと続く道が、出来上がってゆく。

 

 

 

 ──行きましょう。

 

 

 

 その言葉は、正しく神託。誰もが、動いた。誰もが、この日、この時、この瞬間──歴史が変わるのを予感した。

 

 そうして……最初で最後となる、鬼舞辻無惨討伐作戦が……決行された。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、だ。

 

 

 悲願を果たす為に戦える誰もが決死の覚悟で階段を下りて、涙と無力感に歯を食いしばりながらも地上にて待機する者たちが、交差する……その最中。

 

 

(うわぁ、怖すぎぃ……どいつもこいつも目が血走っていて怖いよぉ……)

 

 

 日の神と崇められている彼女は……正直、めちゃくちゃ引いていた。

 

 

 何と言うべきか、これはアレだ。

 

 

 はるか昔にて遭遇したが、聖戦だと言って戦いへと赴く兵士たちと同じ顔をしている。

 

 いやあ、あの時は『ちょ、おま、止めなよ』という感じで上から見下ろしていただけで、口を挟めるような状態ではなかったが……まあ、今回も口を挟める状態ではないので、同じである。

 

 

 とりあえず、一秒でも早く先へと進みたいという感じの視線をビシバシ背中に感じながらも、彼女はゆっくり地下への道を作ってゆく。

 

 

 だって、そうしないと道が崩れちゃうし……無い所に無理やり道を作るわけだし、大勢出入りするわけだから、空気の循環とかも出来るようにしなければならないわけだし。

 

 痒い所に手が届くのが『フィジカルリアクター』だけど、有効範囲が狭いという弱点があるから、どうしても彼女自身が先導して道を作る必要があるわけだ。

 

 もちろん、状況的には非常に危険である。それが彼女に通じるかはともかく、最も襲われやすい位置に居ると言っても過言ではない。

 

 そして、当然ながら……あの謎空間にて、今も縁壱ロボによって切り刻まれている無惨も、侵入者の接近に気付くわけで。

 

 当たり前といえば当たり前だが……侵入者へのカウンターを配置し、あるいは、呼び寄せるわけだ。

 

 

『嫌じゃ! もう嫌じゃ! もう嫌なのじゃ! ワシはもうあの化け物に切られとうないのじゃ!』

 

 

 それは、突然であった。

 

 彼女が作った道の途中、というより、最後方。全員が通り過ぎて、比較的手薄になっている場所にいきなり出現したのは……障子である。

 

 その障子が開かれ、奥よりぬるりと姿を見せたのは、おかっぱ頭の女鬼。6本の腕と、6個の(まり)を手にしたその鬼は、それらを──一息にぶん投げた。

 

 その勢い、正しく砲弾が如し。びゅん、と空気を貫いて進むそれは、まともに当たれば手足の一つや二つは砕けて弾けるほどの威力と硬度があった。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 

『──えっ』

 

 

 

 その毬が、隊士に当たる事はなかった。

 

 何故なら、振り返った隊士たちは誰一人動揺することもなく、実に滑らかな動きで毬を切り落とし、無効化させ──直後、女鬼の目では捉えきれない速度で一気に接近すると。

 

 

『あっ──やっと、ワシは楽になれるのじゃな』

 

 

 すぱん、と。

 

 抵抗する間もなく、その首は落とされたのであった。

 

 

 そして……それは、その女鬼だけではない。

 

 

 気付いた無惨の抵抗なのだろうが、次々に出現する障子が開く度に、新たな鬼が送り込まれてくる。

 

 けれども、誰一人……いや、どの鬼すらも、隊士1人突破する事が出来ない。

 

 

 それも、当然だ。何故なら、この作戦に参加している隊士たちはみな、厳しい稽古を突破してきた精鋭ばかり。

 

 

 故に、柱の弟子に当たる『継子(つぐこ)』ですらない、一般隊士すら一人も殺せないまま、片っ端から首が落とされてゆく。

 

 

 だが……不思議な事に、誰一人、恨みを吐き出すようなことはなかった。

 

 

 誰も彼もが、嬉しそうに笑って灰になってゆく。窪んだ頬、痩せ細った首筋、今にも折れそうな手足。

 

 何時ぞやの、貝になりたいと呟いていた鬼と似たような風貌になっている鬼たちが、笑顔と共に朽ち果ててゆく。

 

 

 それは、正しく異様であった。鬼を滅殺することに心血を注いでいる鬼殺隊ですらも、その異様さに目を剥き……次いで、無惨討伐へと意欲を燃やした。

 

 

 そうして……ついに、無惨が切り刻まれ続けている謎空間へと通路が開通し、我先にと突入した鬼殺隊が、最初に目にしたのは。

 

 縦横無尽に通路やら部屋やらが連結し、思わず目の錯覚を引き起こしてしまいそうなぐらいに入り組んだ構造となっている……謎空間、ではなく。

 

 ちょうど、鬼殺隊から見て真正面。舞台のように開けた広間の中央にて、遠目にもやる気なく仰向けになってゴロゴロしている……単眼の女鬼の傍に立てられた。

 

 

 

『本日の営業は終了しました』

 

 

 

 と、中々に達筆な字が記された……謎の看板であった。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………はい? 

 

 

 思わず、首を傾げたのは誰が最初だったか……それは、日の神と呼ばれている彼女ですら、分からない事であった。

 

 

 

 






いつから、ブラック労働が上弦だけだと錯覚していた……?

無惨様陣営はアットホームな職場、みんなで一緒に頑張って働き、やりがいのある仕事というのが売りですから


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第十一話: 勝てば良かろうなのだ!

日輪刀で首を落とされるか日に焼かれない限り死なない鬼だけど、大怪我を負ったりして体力が消耗すると失神したりする描写あるよね

当然ながら、ほぼ毎日切り刻まれていたら、無惨とて消耗するよね( ^ω^)・・・


 

 

 

「あ、鬼狩りさんですか? 首を落としに来たのでしたら、どうぞ、ご自由に落としてください」

 

 

 ──特に、私の方から抵抗は致しませんので。

 

 

 

 そう答えたのは、相変わらずゴロゴロとやる気なさそうに寝転んでいる単眼の女鬼。その姿に、鬼殺隊の反応は……三つに分かれた。

 

 一つは、単純に敵だと認識して身構えた者。割合としてはこれが一番多く、即座に鞘から刀を抜いて、今にも切り殺さんばかりに睨みつけていた。

 

 二つ目は、予想外の行動を不審に思い、警戒した者。割合としては、一つ目より少しばかり少ないぐらいで、やっぱり鞘から刀を抜いていた。

 

 そして、三つ目。これは一つ目二つ目に比べて少数ではあるが……女鬼の姿を見て、僅かばかり気恥ずかしそうにたじろいだ者たちである。

 

 いったい、どうして……それは、女鬼の姿に原因があった。

 

 

 簡潔に述べると、あられもない恰好なのだ。

 

 

 女鬼が身に纏っている衣服は、いわゆる白襦袢という寝間着である。当然ながら、寝る為の衣服故に生地は薄くて軽く、ともすれば、透けて見える。

 

 

 そう……透けて見える。というか、透けている。

 

 

 真新しい生地ならともかく、女鬼が着ているそれは、一目で年期が入っているのが分かるぐらいにボロボロだ。そして、それだけボロボロならば……生地そのものが薄くなる。

 

 女鬼は巨大な単眼という人外の特徴こそあるが、首から下は人間の女性にしか見えない。つまり、首から下だけを見れば……痴女にしか見えない姿というわけで。

 

 

 そのうえ、現在の女鬼は体勢までもだらしない。

 

 

 無造作に放り出した手足のおかげで、今にも乳房が零れそうで、股の間まで見えそうになっている。というか、乳首の色合いすらも、目を凝らせば見えてしまっている状況で。

 

 仮に年頃の娘が同じ体勢でいたならば、何と破廉恥なと誰もが視線を逸らしただろう。あるいは、小言の一つや二つは言われてもおかしくない……そんな姿であった。

 

 

「お前は、鬼だな? 無惨は何処だ?」

「あっち」

 

 ぼりぼり、と。

 

 

 尻を掻きながらとある方を指差した女鬼……何だろう、世の父親が見たら嘆いて涙の一つや二つは零すような酷い姿である。

 

 その様は、ソファーにて寝転び通販番組を視聴する暇を持て余した……いや、止めよう、これ以上は過分だ。

 

 

 しかし……だが、しかし、だ。

 

 

 ちょっと呆気に取られている隊士たちを尻目に、女鬼の傍に……突如となくドサドサッと落ちてきたのは、大量の本と……紙袋。

 

 すわ攻撃かと身構える隊士たちを、これまた尻目に……またまた無操作にそれを手に取った女鬼が……袋の中よりつまみ出したのは、淡い茶色の粒。

 

 それを、女鬼は……ぼりぼり、と食べ始める。そして、寝転んだ姿勢のまま、本を手に取り……読み始めた。

 

 

 ──非常に行儀が悪い。

 

 

 思わず、そう思ったのは誰が最初だったか。

 

 元良家、あるいは良家の娘である蟲柱の胡蝶しのぶ、恋柱の甘露寺蜜璃は、そんな女を捨ててしまったかのような姿を見て。

 

 

「えぇ……」

 

 

 と、素直に引いていた。

 

 はっきりと、ドン引きである。

 

 鬼である事を抜きにしても、これは酷い……そう思うぐらいの、情けない姿であった。

 

 必要もなく素足を露わにしただけでハシタナイと言われちゃう時代だ。

 

 そういうハシタナイ姿になるのは絶対に嫌というわけではないが、男性の前でそれをやる勇気は、鬼殺隊とて無かった。

 

 

 ──おい、どうすれば良いのだ? 

 

 

 そして、そんな女鬼を前にして……悪鬼滅殺を掲げる鬼殺隊は、迷いを見せた。

 

 それは、敵対する様子を見せない女鬼に対して情が湧いた……ではない。

 

 

 殺すか殺さないかで言えば、頸は絶対に落とす。

 

 

 それだけは全員に一致している前提である。だが、この鬼は明らかに普通ではない。何故なら……この鬼は、人間以外を食べているからだ。

 

 

 そう……たったそれだけのことだが、鬼殺隊にとっては非常に驚くべきことであり、奇妙な光景であった。

 

 

 何故なら、鬼は人間を食らう。動物等の死骸も食べる事があるらしいが、言い換えれば、人間を食らわなければ生きられない。

 

 そして、鬼は人間が食べる物を食べられない。食べないのではなく、身体が受け付けない。それは、どのような鬼とて例外ではない。

 

 その例外を、眼前の女鬼は行っている。その時点で、明らかに普通の鬼ではない。

 

 傍から見れば、ただ寝転んで物を食って本を読んでいるだけだが……新種の鬼かと、鬼殺隊が警戒して足を止めるのも、致し方ない事だったのかもしれない。

 

 しかし……何時までもこんな場所で足止めをするわけにもいかない。かといって、即座に頸を落とすわけにもいかない。

 

 何故なら、鬼舞辻無惨にとって、この空間はある意味では『日の神』の攻撃から身を守れる安全な隠れ蓑。

 

 地上に出て、空より監視を続ける『日の神』に狙い撃ちされるよりも、番人の手で閉じ込められ続けるのを選んだぐらいに、無惨は日の神を恐れている。

 

 まあ、そもそも出られるのかと言えば、番人が居る限りは出られないのだろうが……とにかく、無惨としても他の雑魚鬼と同等な扱いをしていないのは、想像するまでもない。

 

 先ほど出現した明らかな雑魚鬼であれば容易く切り捨てるが……仮に、この空間を制御している配下の鬼だとすれば、下手に頸を落とすわけにはいかない。

 

 とはいえ、片っ端から洗脳して制御するには時間が掛かり過ぎる。

 

 加えて、全ての鬼は無惨と繋がっている。下手に2度、3度と間違えれば、企みが無惨に露見してしまう危険性がある以上、おいそれと試すわけにはいかない。

 

 

「……単刀直入に問う。お前は、この空間を操っている鬼か?」

 

 

 故に、この場で……変わらず冷静さを保っている隊士……その中でも最強と目されている、富岡義勇が問い質した。

 

 義勇は、特別な目を持っている。『透き通る世界』という、当人曰く全てが透けて見える光景らしい。

 

 それにより、義勇は相手が如何に隠していようが、僅かな呼吸の乱れ、心拍の変化、筋肉や血流の動きなどから瞬時に見極める事が出来る。

 

 

「あ、うん、私で──えっと、もしかして、ここを地上に出してほしいとか、そういうやつですか?」

「む、そうだが……」

「じゃあ、地上に向かって動かすからちょっと待ってください。怪我しないように、だいたい5分ぐらい掛かるので」

「……なに?」

 

 

 だからこそ──義勇は、眼前の女鬼が全く嘘を吐いていない事を把握し……それ故に、驚いた。

 

 何故なら、鬼は嘘を吐く。

 

 大本である無惨の影響からなのか、自らが助かる為ならどんな嘘でもつくし、どんな非道でも笑いながらやる。

 

 それを知っているからこそ、義勇は驚いた。そして、驚いている義勇(と、様子を伺っている隊士たち)を尻目に、カタカタと周囲に振動が走り……はっきりと、強くなる。

 

 

「……あ~、うん、この鬼が言っている事は本当だよ。この空間が、そのまま地上に向かっているみたいだね」

 

 

 自然と、隊士たちの視線が……気配を消して隅の方に居る彼女へと向けられる。とりあえず、彼女が分かっている事をそのまま告げれば……また、視線が女鬼へと向けられた。

 

 

「女鬼、どういうつもりだ?」

「どういうって?」

「今は昼間、地上に出ればお前の命は無い。それに、無惨を裏切れば待っているのは確実な死……何が狙いだ?」

「あ、それは大丈夫です。今の私は無惨との繋がりは解かれていますので、直接殺しに来ない限りは平気ですから」

 

 

 ……少しばかり、沈黙が訪れた。

 

 

「……お前がそうなった経緯を話せ、少し混乱してきた。あと、お前が食べているそれは何だ?」

「これですか、『花ぼうろ』です。それと、経緯は……まあ、つまらない話ですけど、知りたいのなら教えます」

 

 

 そう言うと、女鬼はぼりぼりと花ぼうろ(今で言う、卵ぼうろの事)を食べながら、これまでの経緯を話し始めた。

 

 

 その内容を、簡潔にまとめると、だ。

 

 

 まず、番人によってこの空間へと釘付けにされた当初は、女鬼自身も無惨の命令に従って、何とか隙を作ろうと頑張ったらしい。

 

 でも、番人が強かった。

 

 無惨が鼻水垂らして命乞いするぐらいに強かった。あと、怖かった。ついでのように切り刻まれたけど、それでも鼻水垂らすぐらい怖かった。

 

 あまりに強くて怖くて己では時間稼ぎすら出来ず、なのに使っている武器が日輪刀でなかったせいで、死ねずにみじん切りにされるばかり。

 

 もちろん、みじん切りされたのは女鬼だけではない。多くの鬼が、ここでは死ぬに死ねないまま何度もみじん切りにされた。

 

 なので、無惨自身もそうだが、少しでも盾を増やすためにと片っ端から鬼を作っては、この空間に引っ張り込んだ……けれども、上手くはいかなかった。

 

 番人の動きが速すぎるうえに、鬼以上に無尽蔵の体力のせいで、増やせば増やすほどに速度を上げてゆく。結果、まるで効果が出ないどころか状況が悪化してしまった。

 

 そうして、そのまま、だいたい10年ぐらい経った頃……ある時、女鬼は無惨との繋がり……すなわち、命令権が消失した瞬間があるのを知覚した。

 

 最初は、女鬼も気付いていなかった。だが、何度かその瞬間を体感してから……ふと、女鬼は原因に思い至った。

 

 

 ──あの番人だ。

 

 

 あの番人に切り刻まれ続けている期間が長すぎたせいで、無惨の体力が消耗し、配下の鬼を制御する余裕が無くなってきているのだ。

 

 もちろん、日輪刀で切られない限り、本当の意味で鬼は死なない。だが、ダメージが全く無いかといえば、そんなわけもない。死なないだけで、傷を負えば僅かでも体力は消耗する。

 

 それは、無惨とて例外ではない。そして、いくら無惨とて……瞬きにも満たない一瞬にみじん切りされ続ければ、息切れもする。

 

 おまけに、番人の持つ武器は日輪刀でこそないが、刀身が炎のように熱い。断面が燃やされてしまうせいで再生も二度手間……そりゃあ、徐々に意識も散漫になるわけで。

 

 

「──で、ある時、思い切って無惨の呪いを断ち切ったわけです。おかげで私、その時から頭もスッキリで自由になりました」

「では、何故ここに引き籠っている?」

「いや、だって、日の神様怖いじゃないですか。私、今でこそこんな醜い成りになっていますけど、人間だった時は敬虔(けいけん)な日の神教の信徒でしたから」

「……ならば、どうして鬼に?」

「色々あったのです。罪人で悪人である私は、運悪く無惨のやつに襲い掛かってしまい……そのまま返り討ち、鬼にされました」

「では、どうして今も無惨に協力をしているのか」

 

 

 その問いに、女鬼は首を傾げた。

 

 

「え? 呪いに縛られていた時ならまだしも、今は協力なんてしていませんよ。あくまで配下のフリをしているだけで、あの番人様寄りですし」

「なに?」

「そこの看板だって、真っ赤なウソですから。少しでもやつの注意をここに長く留めるために、日の神様の影響で術が上手く使えず回数制限があるという感じで誤魔化しているだけで……」

「どういうことだ?」

「どういう事も何も、そのままです」

 

 

 女鬼の言い分は、こうだ。

 

 人間だった時の自我こそ取り戻したが、全ては手遅れ。もはや、己は化け物以外の何者でもない。なので、最初は自殺しようと考えていた。

 

 

 しかし、だ。

 

 

 このまま地上に出て自殺するのは構わないが、それをするとこの空間が崩壊してしまい、場合によっては無惨が逃げ出してしまう危険性がある。

 

 元々、女鬼自身は望んで鬼になったわけでもない。

 

 そして、人間としての自我が戻ったが故に、このような存在を野放しにするのだけは絶対に避けなければならないと考えるのは……ある意味では、当然の結論だったのだろう。

 

 

「──で、私は無惨の命令を聞いているフリをしながら実際は何もせず、日がな一日、無惨が切り刻まれているのを横目にこうしてダラダラ過ごしているわけです」

「……どうして、菓子を食べていた? 鬼は人以外食えないと聞いていたが……」

「食べられませんよ。私の場合は、とにかく食べられるまで吐いては食べてを繰り返した結果、これだけは食べられるようになっただけですから……味は、何も感じませんけれども」

「なるほど……」

「分かってはいるけど、人間の時の感覚が懐かしくて……花ぼうろは、仕事終わりの御褒美によく買っていたものなの。だから、これだけは……ね」

「……経緯は分かった」

 

 

 そう、締めくくった義勇は、「だが、お前は鬼だろう」だが、一番重要なことを尋ねる。

 

 

「たとえ他の物を食べる事が可能で、自我を取り戻したとしても、人を食らう事は止められないはずだが」

 

 

 ──ジロリ、と。

 

 

 代表して、義勇が女鬼を睨む。それを受けた女鬼は、「鬼殺隊のみなさんって、ある意味潔癖ですね」よっこらしょと年寄り臭く身体を起こすと。

 

 

「受け入れがたい事だとは思いますけど、死んだ方が世の為人の為っていう(やから)は探せばけっこういるんですよ。そいつが死んだおかげで、助かった命はあるのです」

 

 

 あっけらかんと、言い放った。

 

 

 瞬間、一部を除いた鬼殺隊の誰もが、憤怒に顔色を変えた。

 

 だが、「──落ち着きなさい」それまで静観していた岩柱の悲鳴嶼(ひめじま)が、パンと手を叩いて間を置いたおかげで、暴発はせず……そのまま、悲鳴嶼が言葉を続けた。

 

 

「たとえそうだとしても、それが許されない事だと分かっているのだな?」

「もちろん、分かっておりますよ。所詮はただの自己満足、役割を終えれば、それ以上私が生きる理由はない」

「……南無」

「おや、私を憐れんでくださるのですか?」

「鬼である以上は、滅殺は必定。人の時に罪を犯しているのであれば、なおさら……だが、たとえ非道であったとしても、それで助かる命があることを否定出来るほど、私は聖人ではない」

「……貴方とは、人だった時に出会いたかったですね」

 

 

 ポツリと告げた、その言葉。

 

 それに対して、悲鳴嶼は何も答えなかった。ただ、無言のままに涙を流し、懐に入れた数珠をじゃらりと奏でただけであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、間もなく、絶えず続いていた振動が、ひと際強くなったかと思えば……ピタリと、止まった。

 

 

「先端が地上に出ました」

 

 

 再び訪れた沈黙の中で、女鬼ははっきりと告げた。

 

 

「分かり難くはなっていますが、この空間は巨大な箱のようなもの。天井を壊せば、そこから地上の光が差し込みます」

 

 ──そして、無惨はあそこに。

 

 

 その言葉と共に、先ほど指差した先を、改めて指差す。監視に数名ほど残しつつ、その先を確認しに向かった鬼殺隊は……絶句した。

 

 

 

 何故なら──そこには、体重数トンはありそうな、巨大な赤ん坊がいたからだ。

 

 

 

 だが、ただ大きいわけではない。まるで肉と脂肪をこねて無理やり形作ったかのようなその姿は、強い嫌悪感を抱かせる醜い赤ん坊であった。

 

 その赤ん坊は、まるで腹を守るかのように(うずくま)っている。

 

 そして、その赤ん坊の周囲を……速すぎるがあまり残像を残しながら、1人の男が刀をきらめかせていた。

 

 

 ──番人だ。

 

 

 その姿を見た誰もが、理解した。と、同時に、日の神が無惨を封じるために置いたという番人の実力を……鬼殺隊は、思い知らされた。

 

 番人の剣技は、鬼を殺す為に命がけで肉体を磨き続けてきた隊士たちの目から見ても、言葉に出来ない程に凄まじかった。

 

 

 何が違うのかと問われれば、全てが違う……そうとしか、答えられない。

 

 

 単純な身のこなしもそうだが、重心の移動や足運び、目の配り方、腕の角度に刃の角度、振り抜く速さに力の抜き方に至るまで、全てが……極限の域。

 

 剣術を学び、鬼と戦う術を習得しているからこそ、その凄さが一目で分かる。如何に、人外染みた強さであるのかが、嫌でも思い知らされる。

 

 

 ──なにせ、無惨と思われる巨大な赤ん坊は……けして、無抵抗なわけではない。

 

 

 せめてもの、抵抗なのだろう。赤子の全身より伸びるのは、十数本もの触手。それらの先端には牙が生え揃った口が付いていて、それらが鞭のようにしなっては番人へと叩きつけられている。

 

 その速度、信じ難い速さだ。しかも、ただ速いだけでなく……切れ味も凄まじい。

 

 何せ、触手の一撃が床を切り裂き、砕いている。柱ならともかく、並みの隊士ならば反応すら出来ないままに命を落としていただろう。

 

 事実、柱を除いた隊士たちのほとんどが、顔を強張らせた。

 

 彼ら彼女らは、想像してしまったのだ。手傷を負わせるどころか、一方的に返り討ちに遭うばかりか……最悪、柱の邪魔をしてしまう可能性を。

 

 そして、柱も同様に理解した。

 

 自分たちを除けば、あの触手を掻い潜って攻撃に移れる隊士が非常に少なく……下手すれば食われて邪魔になってしまう事に。

 

 

 ──だが、しかし、だ。

 

 

 なのに、それなのに……番人の実力は、そんな柱と隊士たちの脳裏を過った懸念を、一瞬で拭い去ってしまうぐらいに桁外れであった。

 

 

 あまりに、速すぎる。

 

 あまりに、強過ぎる。

 

 あまりに、桁外れだ。

 

 

 柱ですら一歩しくじれば即死してしまうような猛攻の雨に晒されながらも、それを物ともせずに触手を切り落として断面を焼くだけでなく、瞬時に十数回も切りつけている。

 

 見たままを語るなら、触手が一つ動く度に10回切り返されているような状況だ。

 

 もはや……人の域ではない。誰しもが、畏怖の眼差しを向ける。

 

 それは、戦力の頂点に君臨する『柱』とて、例外ではない。いや、『柱』だからこそ、より強く……番人の強さを思い知らされた。

 

 

 ──だが、それがどうした? 

 

 

 隊士の誰もが……憎悪に突き動かされるがまま、鞘を持つ手に力が入る。暴走こそしなかったが、誰もが……刀を抜いて、飛び出したくなる衝動を抑えていた。

 

 だって……アレは、大切な者の仇なのだ。100回殺しても殺し足りないぐらいの、怨敵なのだ。

 

 

「……くそったれが」

 

 

 けれども、そう零したのは、柱の誰だったか……そう、それは……柱とて、例外ではない。

 

 恨みの強さに大きいも小さいもない。ただただ、憎い。常軌を逸した訓練を乗り越え、命がけで鬼を殺し続けたのも……全ては、鬼舞辻無惨を殺す為。

 

 もし、ここに鬼殺隊しか居なかったら……彼ら彼女らは、喜んで無惨を殺しに向かっただろう。

 

 けれども、現実は違う。自分たち鬼殺隊よりもはるかに強い『番人』が、無惨の動きを完全に抑え込んでいる。

 

 これでは、柱とて迂闊に横入り出来ない。柱ですら、足手まといになってしまう。

 

 下手に入って均衡を崩し、それが原因で取り逃がすような事態になれば、己の命で百万回償おうが償いきれない大罪となってしまう。

 

 けれども、憎い、憎いのだ。

 

 せめて、一太刀……そう思ってしまうのは、致し方ない事だろう。恨みが深いからこそ、己の手で少しでも晴らさねば気が済まない……そう思ってしまうのは、当然の事であった。

 

 

「──番人様が無惨を抑えている間に、天井を崩しましょう」

 

 

 しかし、そんな湧き出る憤怒を誰しもが抑えている最中……ふと、そんなことを呟いたのは……蟲柱の胡蝶しのぶであった。

 

 その場の……特に、柱たちの視線がしのぶへと向けられる。

 

 けれども、しのぶは欠片も怖気づく事もなく……静かに、首を横に振った。

 

 

「私たちは確かに鬼を殺す為にこれまで頑張ってきました。ですが、必ずしも命がけで戦わなくてはならないという話ではありません」

「……何が言いてェ?」

 

 

 これまで沈黙を保っていた柱の1人……風柱の不死川実弥が声をあげれば、「勘違いしてはいけない、という事です」しのぶはそう言葉を続けた。

 

 

 そう……手段と目的をはき違えてはならない。

 

 

 鬼殺隊の目的は、鬼を退治して人々を守る事だが、大前提として存在しているのが『鬼舞辻無惨の討伐』である。

 

 当然ながら、討伐出来るのであれば非道でない限りは何でもいいわけだ。そして、日輪刀という武器で鬼の頸を落とすのは……武士道とか、そんな話ではない。

 

 それしか方法が無いから、そうしているだけ。日に当てる以外では、それでしか殺せないから、そうしているだけ。

 

 呼吸法という技術を活用し、正面から挑むしかないから結果的に正々堂々と戦う結果になっているだけなのだ。

 

 

「鬼を仕留められるのであれば、それが刀であろうが銃であろうが毒であろうが、何の問題もありません。それこそ、『日の神様』にお願い奉ることすらも、問題ではありません」

「…………」

「そうしないのは、いえ、それに対して素直に賛成出来ない理由は只一つ。私は……いえ、私たちは……鬼に対して復讐してやりたいだけ」

 

 

 沈黙する隊士たちをくるりと見回した後……ぴん、と指を一本立てた。

 

 

「ただ、それだけ。その為ならば、己の命すらどうでもいい……私含めて、少なからずそう考えている人も……この場にちらほら居るのでは?」

「……それの何がわりぃんだよ。鬼を一匹でも多く殺せば、結果的にはより多くの人が助かるだろうが。そのための鬼殺隊だろうがよォ」

「いえ、悪いです」

「アァ!?」

「だって、日の神様は違うと仰いました。哀れだと、仰いました」

 

 

 ──その瞬間、隊士たちの視線が一斉に……隅の方で気配を消している彼女へと向けられた。

 

 

 彼女は、何も言わないし、何もしない。入口を用意した後は、あくまで傍観者に留まり……静かに、見守っているだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

(……あの、いきなりスルーパスみたいに私へ会話を振るのは止めてね、心の準備が出来ていないし、話を全然聞いていなかったから)

 

 

 傍から見れば、それは非常に神秘的な光景であった。

 

 当人の内心が何であれ、少なくとも、この場に居る誰もが……『日の神様が言った事ならば』と、沸騰しかけていた頭が冷えるぐらいの効果はあった。

 

 ちなみに、当の神様(笑)が考えていたのは、今日は何だか天ぷらが食べたいなあ……という、場違いにも程があるような事だったのは、絶対に漏れてはいけない秘密……話を戻そう。

 

 

 

 

 

 

「不死川さん、私たちは、死ぬ為にここへ来たわけではありません。無惨を倒す為に来たわけですよ」

「んなもん、当たり前だろうが」

「そう、それを、日の神様は仰いました。私たちは生きる為にここへ来た。あの日を……あの夜を乗り越え、朝を迎える為に、私たちはここへ向かうのだと」

「──っ!」

「決着を付けなくてはならないと、私は思います。どんな形であれ、私たちは己に降りかかった運命に決着をつけなくてはならないのだと……そう、日の神様はお言葉を掛けてくださいました」

「──なっ!!」

 

 

(──えっ!?)

 

 

 それは──正しく、天啓であった。雷鳴のような何かが背筋を走るのを、誰もが感じた瞬間だった。

 

 と、同時に、それは彼女にとっても正しく寝耳に水であった。

 

 少なくとも、彼女にとっては『お前急に何を言ってんの?』みたいなアレであった。

 

 誰しもが、何も言えなかった。言葉が、全く出てこなかった。柱の誰一人、神様(笑)とて例外ではなかった。

 

 それは、『鬼』という存在に……いや、鬼舞辻無惨によって人生を狂わされ、大切な者を奪われ、踏みにじられてきた隊士たちにとって……想像の外にある考えであった。

 

 その中には、代々鬼狩りを生業にしている者もいる。例外ではあるが、そういった理由以外で鬼殺隊に属している者もいる。

 

 けれども、彼ら彼女らの気持ちもまた、一般的な隊士たちと同じである。何故なら、鬼によって、無惨によって、泣き崩れる者たちを幾度となく目にしてきていたからだ。

 

 実際、これを口にしたのが……事情も知らぬ一般人から言われたら、誰しもが激昂していただろう。

 

 けれども、実際にそれを口にしたのは『日の神様』だ。

 

 古来より雲海にて人々を見守り、日本史においても幾度となくその名が出てくるほどの存在。地上に留まる唯一の神にして、数多の悪を挫き、弱きものに手を差し伸べて来た神である。

 

 だからこそ、誰しもが、しのぶの……それを教えた『日の神様』の言葉を改めて思い返し、考えて……考えて……考えて……そして。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………ぽつり、と。

 

 

「そう、だな。胡蝶、お前の言う通りだ」

 

 

 つい今しがたまで視線だけで人を殺せる程に睨みを利かせていた実弥は……大きくため息を吐くと。

 

 

「俺たちは、無惨の野郎を殺す為に来たが、死ぬ為に来たわけじゃねえ。どんな形であれ、確実にぶっ殺せる方法があるなら……それを選ぶのもまた、鬼殺隊ってもんだな」

 

 

 そう、言葉を続けた。

 

 その言葉……いや、決断に対して、異論を唱える者は……この場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………その、隊士たちの後方。これ以上突然のキラーパスをされては堪らぬと、より隅っこの方へとひっそり息を殺している、彼女であったのだが。

 

 

「あ、ああ……日の神様、私は、ああ、私は……!」

「……己の名を忘れた女鬼よ、犯した過ちを真の意味で償う事など、神ですら成し得ない。過ちを過ちと定めるのは、人が自ら定めるモノ……貴女のその言葉は、誰に捧げるモノなのですか?」

「ああ、日の神様……私は……私は……」

「……良いのです、名を忘れた女鬼よ。誰に捧げれば良いのか分からぬ言葉であっても、それでも貴女は心から悔いている。自ら打ち切るのではなく、己の命で支払おうとしている」

「…………」

「そう望むのならば、それを貫きなさい。死を迎えた貴女は、地獄の業火に焼かれて罪を償い続けるでしょう。長き時を掛けて、犯した過ちに見合う苦痛を味わい続けるでしょう」

「…………」

「そうして、全ての罪を償い終えた時……貴女の魂は私の下で休み、新たな肉体を経て……再び、現世に舞い戻るのです」

「──っ! あ、ああ、あああ……神様、日の神様……!」

「良いのです、名を忘れた女鬼よ。貴女の罪を、私も背負いましょう。禊を終えた時、貴女は……再び、日の光の下に出られる。その日を、私は何時までも待ち続けましょう」

「ああ、あああ! ああ……日の神様……日の神様……!」

 

 

 今にも己の頸を自ら断ち切らんばかりに己を責め続け、何度も額を床に擦りつけ、涙を流し続けて土下座する女鬼を前に。

 

 

(……騙しているのが辛い、これも無惨が悪いのだな)

 

 

 表面上は優しく、内面では滝のような汗を流しながら……女鬼を刺激しないように言葉を選び、ひたすら慰め続けるという作業を行っていた。

 

 何時もであれば、適当にお茶を濁してその場を後にしていただろうが……残念なことに、ここは閉鎖空間、出入り口は一つしかない。

 

 加えて、何やら背が高い盲目の男……たしか岩柱とかいう役職に就いている男がこちらを見ながら、『南無……』とかいって手を合わせているおかげで、迂闊に逃げられない。

 

 神様扱いされるのは畏れ多くて嫌なのだが、だからといって、サンタクロースを信じる者たちの心を裏切るのもまた嫌なのが、彼女の本音なのである。

 

 

 ……まあ、それはそれとして、だ。

 

 

 正直、地獄とか生まれ変わりがあるのかなんて、彼女には分からない。

 

 でも、バスターマシン7号になるという事例を、身をもって体感しているのだ。生まれ変わりの一つや二つはあっても不思議ではないと、彼女は思っていた。

 

 

 

 なので……本当に地獄があって、罪を償って人間に生まれ変わり……逢えたらいいな、というのもまた、本音であった。

 

 

 

 

 

 




大金掛けて万全の準備を整えたけど、その5%も使わずに作戦を終えられるのは幸運か、あるいはムダ金だったかと思うかは、判断に分かれると思う
個人的には、幸運だったから無駄じゃないと思う方かな









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最終話: それは歴史の小さな1ページ

忘れたころに最終話

サラッとした終わり方だけど、長ったらしくするのも変な感じだし、逆に淡々とした終わり方がこの作品らしいかなって
無惨視点だと、直接主人公と対決したのって一度きりだし、それ以外は事前に上弦の鬼化を防いでいたって感じだし、気付いたら負けてたって感じなのかな……と


 

 

 鬼という存在に成ってから、おおよそ……どれほどの時が流れただろうか。

 

 

 肉のゆりかごの中で最期が近づいているのを感じ取っていた鬼舞辻無惨は……改めて、己の敗北を実感していた。

 

 

 ──私は、負けたのだ。

 

 

 そう、明確に思うようになってから、どれ程の月日が流れただろうか。

 

 既に考える事が億劫に思えるぐらいに疲れ切っていた無惨だが、不思議とそう思うようになったキッカケだけは、何時でもすぐに思い出せる。

 

 

(……そう、あの女だ。太陽の化身、日の神だ)

 

 

 そいつの事を思い返すたびに、無惨は腸が煮えくり返るほどの憤怒が湧き起こるのを感じる。

 

 出来うるならば、その身を鬼に変え、何百何千何万と生き地獄へと叩き込んだ後で太陽の下へと送り出し、その血の一滴すらもこの世には残さなかっただろう。

 

 

 だが、出来ない。

 

 

 何故なら、無惨にその力が無いからだ。

 

 あまりにも、格が違い過ぎる。文字通り、天と地ほどの差がある。

 

 無惨の力では、どう足掻いても傷一つ付けられない存在……それが、日の神だったから。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………噂で、聞いてはいた。

 

 

 太陽の化身、日の神にはけして無礼を働いてはならぬ、と。

 

 

 全てに手を貸してくれるわけではないが、実際に慈雨の如き愛をもって見守ってくれている日の神は、人間のやることにいちいち目くじらを立てたりはしない。

 

 

 ──長い時を掛けて無惨が集めた、様々な『日の神伝説』においても、それは顕著だった。

 

 

 無礼な態度を取られても微笑みで返し、刃を向けられても悲しそうに笑って夜空へと消えるだけ。

 

 日の神が神罰を下すのは、民草たちを理不尽に虐げる者たちばかり。弱い者の味方ではなくて、道理を通さぬ者に、その力は向けられる。

 

 現に、悪政を敷いて私腹を肥やしていたとある国の王は、日の神の神罰によって築き上げた全てを失った。

 

 様々な手段を用いて数と法の力を身に纏い、合法的に非道を楽しんでいたとある国の商人も、その身を塵に変えた。

 

 生きる為に命を奪う者に対して、日の神は滅多なことでは神罰を下さない。外道な手段であったとしても、それしか生きる術を持たない者に、日の神は憐れむだけ。

 

 だが、生きる為ではなく、より楽しく生きる為に他者の幸せを奪う者に対しては、日の神は容赦しない。

 

 

 ……だからこそ、無惨は己が心の何処かで神にも許されているのだと思っていた。

 

 

 己が人を食らうのは、生きる為だ。生きる為に人を食らい、食らわねば飢えてしまう。だから、仕方がないことだ。

 

 己が人を鬼に変えるのは、己が日の下を生きられるようにするためだ。弱肉強食、ただそれだけのこと。

 

 人が寒さを乗り切る為に炎を灯らせ、飢えを凌ぐために大地を削って畑に変え、時には獣の命を奪って血肉を得る。

 

 

 そこに、何の違いがあるというのだろうか。

 

 

 相手が獣か人か、食らうのが獣の血肉か人の血肉か、それだけの違いだ。

 

 日の神は、獣と人とを区別し、人が行う獣への殺生は見逃す存在だとでもいうのか? 

 

 ならば……人を食う事を許されている己は、いったい何なのだろうか……答えは、すぐに出た。

 

 

 ──己は、天災なのだ。災厄そのものであり、人がどうこう出来る存在ではないのだ。

 

 

 それならば、納得が出来る。

 

 天の神である日の神が、何時まで経っても己に天罰を下さないことに……いつしか、そう、いつしか無惨は、そう思うようになった。

 

 天災に見舞われた人々が、天災を恨み抜いて、天災に復讐しようと大地や空に向かって何時までも槍を投げたりするだろうか? 

 

 

 そんなわけがない。それと、同じだ。

 

 

 己に食われた者は、その家族は、運が悪かったと諦めるのが筋なのだ。天の配剤にいちいち腹を立てず、日銭を稼いで慎ましく暮らせば良いのだ。

 

 そう、無惨は心から思っていた……あの日までは。

 

 

(……許されてなど、いなかった)

 

 

 あの日……初めて日の神と遭遇した時、無惨は……もしかしたら、己の最後を予感したのかもしれない。

 

 

 ──ただ、気付いていなかっただけだった。

 

 ──無惨の行いに、日の神は気付いていなかっただけ。

 

 

 そうだ、日の神は一度として無惨を許してなどいなかった。

 

 ただ、無惨の存在に気付いていなかっただけで、無惨の行いに関しては前から神罰を下していたのだ。

 

 その事に気付かなかった無惨は、ようやく使えるようになった駒が突如消滅した事を不審に思い、様子を見に行って……そこで……ああ、そこで。

 

 

 ──勝てない。どう足掻いても、人が、鬼が、勝てる存在ではない。

 

 

 己の身を以て、無惨は思い知った。

 

 己は、天災などではなかったのだ。

 

 

 たかが人外の、人を食らう怪物に過ぎない。所詮は天の意思一つで塵に変えられる、矮小な人食いに過ぎないのだと。

 

 

(……ああ、温かい。そうか、日の光とは、こうも温かいものだったのだな)

 

 

 そう、幾度目になる結論を出しながら……無惨は、己に降り注ぐ光を感じると共に、己の魂が地獄の業火へと引きずり込まれようとしてゆくのを感じ取りながら。

 

 

「     」

 

 

 最後は、声一つ出せないまま、多数の者たち……鬼殺隊の視線に囲まれながら、降り注ぐ太陽の光を浴びて……長きに渡る日々を終わらせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、数多の者たちには知る事も知られる事もなかった、長きに渡る鬼退治はついに成功した。

 

 

 討伐に参加した者たちに、少しばかりの心残りが無かったといえば、嘘にはなるだろう。

 

 なにせ、結局は仇の相手へ一矢報いることなく、その相手は死んだのだ。

 

 いや、いちおうは天井を崩して太陽の光を当てるという作業をしたから、厳密には手を下したわけではあるけれども。

 

 それでも、一太刀入れてやりたかったという想いが鬼殺隊の者たちの心に湧くのは、仕方がないだろう。

 

 

 それほどに、鬼舞辻無惨という化け物は恨まれていたのだ。

 

 

 彼が鬼と成り果ててから約1000年。記録に有る限りでは、それほどに長く生きた存在だったらしい。

 

 だが、それがいったいどうしたというのだろうか。1000年生きたから、許せとでもいうのだろうか。

 

 一度として許されたことなどない者たちへの、積もり積もった恨みの高さは……とてもではないが、言葉で言い表せられるものではない。

 

 

 しかし、誰もが……そんな想いを呑み込んだ。

 

 

 それは、鬼殺隊に限らず、日本において広く信仰されている……『日の神様』の御言葉があったからだ。

 

 

 

 ──貴方たちは恨みを晴らす為に生きるわけでも、死ぬのでもない。

 

 ──明日を生きる為に、明日へと踏み出す為に、決着を付けなさい。

 

 

 

 その言葉は、不思議なくらいに彼ら彼女らの凍り付いていた心の一部を溶かしていった。

 

 そうして、初日こそ複雑な顔をしていた者が多かったのだけれども……三日も経つ頃には、誰もが現実を受け入れ、鬼の居ない事実に笑みを浮かべるようになっていた。

 

 

 ……もちろん、鬼が全て消えたという事実を、改めて受け入れるキッカケとなった出来事が二つある。

 

 

 一つは、隊士たちの心を動かし、鬼殺隊に協力していた……愈史郎と珠代の存在だ。

 

 

 ──結論から述べるならば、二人は人間へと戻った。

 

 

 無惨を弱体化させる過程で完成させた、鬼を人間に戻す薬のおかげである。

 

 とはいえ、そうなる過程も色々と大変であった。

 

 というのも、これは結果の話なのだが……愈史郎は別として、珠代は無惨の死亡に合わせて自害しようとしていたことが直前にて発覚したからだ。

 

 

 これには、事実を知った愈史郎くん大激怒&泣き落とし発動。

 

 しかし、珠代も酔狂で自害を考えていたわけではない。

 

 

 普段なら何だかんだと愈史郎の言う事に耳を傾けるのだが、この時ばかりはとにかく首を縦には振らなかった。

 

 何故なら……昔の事ではあるが、珠代は自暴自棄になって何人もの人を食らい殺した過去があった。

 

 そう、どんな理由であれ、どんな経緯があったにせよ、珠代は無惨たちと同じく……己の為に人を食い殺した鬼なのだ。

 

 

 

 ──無惨が死ねば、無惨の手で鬼にされた己は死ぬだろう。そうならなかったとしても、おそらく長く生きられず、直に弱って死ぬ可能性が極めて高い。

 

 ──だが、死なない可能性も0ではない。最悪なのは、己の身体に流れる無惨の血が暴走し、理性を失くした化け物になること。

 

 ──鬼殺隊に首を落とされるのも、日の下に行くのも、どちらでもよい。ただ、役目を終えた己は死ぬのが筋であり、死ななければ申しわけが立たない。

 

 

 

 そう言われてしまえば、いくらか情が湧いてしまっていた者たちも、引き留める言葉を掛けるわけにはいかなかった。

 

 柱たちとて、同じだ。いや、むしろ、珠代の事情を知らされていた柱たちの方が、珠代の気持ちに理解を示した。

 

 それは、愈史郎とて例外ではない。

 

 泣き落としこそ発動したが、珠代が心から悔い続けているのを当人の次に知っているのは、他ならぬ愈史郎である。

 

 だからこそ、覚悟を完全に固めた珠代が、その命をここで終えようとしていることに……何も言えなかった。

 

 

『──え、いや、何言っているの?』

 

 

 だが……たった一人だけ。いや、たった一柱だけ……唯一、物を申せる彼女だけが、それに異を唱えた。

 

 

『生きる為に戦ったのでしょう? 明日へと進む為に足掻いてきたのでしょう? 諦めたら終了って、言いましたよね?』

 

『なに勝手に死のうとしているのですか? だったら、結果的に貴女を今へと繋いだ者たちの命はどうなるのですか?』

 

『貴女は、己がこの時に自殺する為に、その命が糧になったと仰るのですか? それは、鬼以上に傲慢な考えだとは思わないのですか?』

 

 

 と、いった感じで。

 

 怒涛の……それはもう怒涛の説得に、さすがの珠代もタジタジとなり。

 

 

『それでも悔いるのであれば、生きて償いなさい。己が培った医術を使い、殺した者たち以上の命を救いなさい』

 

『それは貴女にとって、苦難と苦悩と苦痛に満ちた道になるでしょう。生涯に渡って、貴女は過去の己が犯した過ちに追いかけられる日々を送るでしょう』

 

『それが、罰なのです。それこそが、貴女にとって相応しい罰なのです……ゆえに、生きるのです』

 

 

 最終的にはコレが決め手となり、根負けする形で人間へと戻り、余生を生きることになった。

 

 

 ──もちろん、これが通じたのは『日の神』である彼女の言葉あってこそ。

 

 

 さすがの珠代も、実在が確認出来る神様相手に反論出来ず……生きて償えと言われてしまえば、他の者たちも口を挟めず……その結果、珠代と愈史郎は人間として生きる事を決めたわけである。

 

 

 ……そして、二つ目は……無惨を封じ続けていた『番人』だ。

 

 

 どうやら『番人』は、珠代とは古い知り合い……だったらしい。

 

 らしい、という言い方になるのは、それを生み出した彼女が何も言わなかったから。そして、『番人』自身も、無惨が消滅したと同時にその場より動かなくなったからだ。

 

 

『彼は、もう十分に頑張った。話したい事もあるのでしょうが、そうする前に彼は黄泉に待つ奥さんのところへ戻ったのでしょう……その気持ちを、どうか酌んでやってください』

 

 

 気になる鬼殺隊たちもそうだし、珠代も話したそうにしていたが、彼女よりそう言われてしまえば……それ以上は何も言えず。

 

 

『──では、皆様方。鬼舞辻無惨もこの世より消え去った今、急な事ではありますが、私も彼の依り代と共に天へ帰ります』

 

『寂しいと思ってくれるのは嬉しい。しかし、本来はこれが普通なのです。私が口出しして良い事ではありません』

 

『今まで通り、私は見守っています。ただ、見守るだけ……貴方たちの未来は、貴方たちの手で切り開いてゆくべきなのです』

 

『……さあ、顔を上げて。もう、夜に怯える日は、来ないのですから』

 

 

 最後、言いたい事を好きなだけ言い切った彼女は、それはもう呆れる程に自分勝手な有様で……澄み渡った空へと飛び立ち、人々の前から姿を消したのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………とまあ、そんな感じで、だ。

 

 

 鬼殺隊は様々な事後処理を行った後で、正式に解散が決まり。

 

 労いとして、産屋敷家より財産分与が行われ、行く当てのない者は産屋敷を通じて様々な職を紹介され……そうして。

 

 

 

 

 ──長きに渡った鬼退治は、約1000年の時を経て……ここに、勝利の二文字と共に、閉幕となったわけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、そうして大団円となった人々を他所に、一方その頃空の上、雲海の中では……だ。

 

 

「……また、ほとぼりが冷めるまで待つのか」

 

 

 何故か機能停止している……本当にどうして機能停止したのか作った当人すら分からない……縁壱ロボの解体作業を行いながら、彼女は……誰に言うでもなく、愚痴を零していた。

 

 

 ……いったいどうして……それは単に、己が目立ち過ぎてしまったからだ。

 

 

 無惨討伐のために致し方なかった事とはいえ、色々とやり過ぎた。いくら箝口令を敷いているとはいえ、人の口を完全に塞ぐなど出来るわけがない。

 

 鬼殺隊の者たちは分かってくれている……いや、一部ガチで崇拝している者もいたが……外部の者たちは、そうではない。

 

 

 ……そう、彼女が嫌なのは、そういう人たちなのだ。

 

 

 彼女は、のんびり過ごしたいだけなのだ。何なら、普通にアルバイトでもして日銭を稼ぎ、安宿とかで寝起きしたい。

 

 

 ──間違っても、『日の神様』だとかで崇拝されたいわけではない。深々とお辞儀されるような存在になりたいわけではないのだ。

 

 

 だが、そうするには無駄に素性と所在が知られ過ぎた。

 

 いわゆる手遅れというやつで、こうなればもう、ほとぼりが冷めるまで時間を置くしかない。

 

 

「……まあ、あと何十年か経てばパソコンとか作られるだろうし、そしたら私の事もスパッと忘れ去られて、コスプレしている女……みたいな感じで、目立たなくなるだろう」

 

 

 結局、これまで幾度となく繰り返してきた戦法に賭けるしかない。

 

 

 ──どうか、次に降りる時は私の事など忘れていますように。

 

 

 そう願いながら、彼女は……ブツブツと愚痴をこぼしながらも、縁壱ロボの解体を進めるのであった。

 

 

 




次回、番外編というか掲示板風の話で閉廷となります


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【目撃】今日の『日の神様』その50983【情報】

2ch風のくっそ汚い掲示板のアレ
歴史関係を細かく語りだすと話が脱線するので、情報は断片的に
雰囲気がこれまでと異なりますので、番外編と思ってください

掲示板風なので、言い回しがけっこう下品だったり後世の話になりますので……センセンシャウ!


 

 

 

 1 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 

 このスレは、隠す気はあるのだけれども実際は全然隠せていない、この世界で唯一存在が確認されている神様である、『日の神様』についての情報交換スレッドという名の雑談スレッドです

 写真等は肖像権のみならず、日の神様への不敬になりますので、必ず確認を取ってから撮影するよう注意してください

 

 また、日の神様に関するスレッドは基本的に乱立されるので、どれが本スレかはその時々によって異なりますので注意

 

 ※保管庫等も日の神様のプライバシーの関係上作るのは厳禁となっております。日の神狂いに凸される可能性もあるので、作る場合は自己判断で。

 

 ※日の神様を目撃しても、けして神様扱いしてはなりません。必ず、一般のコスプレイヤーと同じような対応をするように心がけましょう

 

 また、『日の神様サイボーグ説』は、現状そう見えるだけで何一つ証拠を出せないことを此処に明記しておきます

 

 

 2 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>1乙だけど、同じスレが7個も出来とるぞwww

 

 

 3 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>1乙これは乙じゃなくてポニーテールうんたらかんたら

 

 

 4 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 とりあえず、勢いからしてこのスレ1000行くまでに落ちるだろうし、落ちるまで使おうぜ

 ところで、話は変わるが今日こそ日の神様に会えますように! 

 祈り続けて早10年、未だに会えないのは何でや! 

 

 

 5 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そりゃあ日の神様だって身体は一つだし、毎日降りてくるわけやないしね、会えない奴は何やったって会えないよ

 

 

 6 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 だいたい、会おうと思って待ち構えるほどに察して遠ざかるから、本当に会いたかったら気長に待つしかない

 というか、いっそのこと会えたらラッキー程度に考えている方がまだ会える確率高いような気がする

 

 

 7 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 毎年、日本の何処かで10回か20回ぐらいは『おいでませ日の神様』みたいな祭り開かれるけど、そういうのを開くから来ないんだってことをあれほど……

 日の神様からすれば、神輿担いでワッショイワッショイされながら練り歩かれたら恥ずかしくて近寄れんだろう

 

 

 8 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>7 アレに関しては、癒着とか予算使い切る為にとか色々理由有るらしいから、関係者は分かっていてやってんでしょ

 

 

 9 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そっちの方が罰当たり不可避やんけ

 

 

 10 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 天罰じゃないけど、去年どこそこの村で祭りが開かれた時、半日ぐらいゲリラ豪雨降ったんだっけ? 

 何か土砂崩れも起こって社が壊れたとかニュースでやってたの覚えてる

 

 

 11 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ・豪雨による土砂崩れにより、日の神を祀る社倒壊

 ・それに伴い、祭りを運営していた村長宅も倒壊

 ・後に判明したが、祭りの名目で予算着服が常習化

 ・豪雨で被害を受けたのは村長宅とその関係者のみ

 ・雲隠れしようとしたら、所持していた車全て同時に粉砕

 

 ↑ 天罰ではない!?!?!????? 

 

 

 12 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 天罰過ぎて草も生えない

 やっぱ日の神様は見てんだね、はっきり分かんだね

 

 

 13 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 というか、日の神様は自分の神社を作られるのは嫌とはっきり明言されているのに、何で神社作るんや? 

 

 

 14 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 明言するけど、日の神様自身が止めるつもりはないからじゃない? 

 見ていないところで勝手にやる分には基本的にノータッチでしょ

 

 

 15 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様って主に日本に出現するだけで、日本人を守る神様ってわけじゃないしね。各国で呼び方違うし、第二次大戦の時も別に日本の為に戦ったことなどないし

 まあ、アレは戦争継続派と戦争反対派とかがゴチャゴチャし過ぎていて、日の神様も静観していたっぽいけど

 

 

 16 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 勝手に争う分には基本的には首突っ込まないからでしょ。ただ、ルール守らんとやりたい放題し始めたら天から光が降り注ぐだけで

 日の神様だって、全ての戦争に首を突っ込まないよ

 そこらへんは歴史の本を読み解く限り、古来より一貫した考えだと思うよ

 

 

 17 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 主に日本に出現 ← マジで頻度高すぎて草

 

 

 18 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ヒノカミファッションだっけ? 

 人間に擬態している時のあの格好、一時期流行ったよな

 

 

 19 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 今は色々コスプレ道具が安価かつ簡単に手に入るようになったから、そういう意味では見分け付き難くなったよね

 後ろ姿だけ見ると、マジで分からん気がする

 

 

 20 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様めっちゃくちゃスタイル良いから一発で分かるぞ

 比較的身体のラインが出る恰好だから、むしろ後ろ姿の方が分かる

 

 

 21 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>20 ヒノカミ狂いかキサマ? 

 

 

 22 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ある程度上の世代は畏れ多くてヒノカミファッション出来ないけど、最近の若い子はマジでコスプレ感覚でヒノカミファッションするよな

 今では慣れたけど、初めて見た時マジで度肝抜かれた

 

 

 23 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 何だかんだ、日本人の心に根付いた格式高い格好だしね、アレは

 正直、若い子の間でも畏れ多いって思っている子多いし、若者だからって一括りするもんじゃないよ

 

 

 24 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ヒノカミファッションの子が集まると、ドサクサに紛れて日の神様が現れるから、それを狙っているっぽい

 日の神様、めっちゃ隠しているっぽいけど言動からして隠しきれていないからすぐバレるのほんと可愛い崇め奉りたい

 

 

 25 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 コミケには必ず出現する日の神様、完全にウォーリーを探せのアレwww

 

 

 26 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「せや! みんなコスプレしているからバレないやろ!」

 

 

 27 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 顔が美形だから、すぐにバレるんだよなあ……

 

 

 28 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「せや! お面被ってればバレないから安心や!」

 

 

 29 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ヒノカミファッションでお面被るとか、そりゃあもう看板掲げて歩いているも等しいんだよなあ……

 

 

 30 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様、現金持っていないこと多いから、ナチュラルに物々交換しようとしてバレバレなんだよなあ……

 

 

 31 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 夏のコミケの中で汗一つ掻かず涼しい顔で列に並んでいる時点でモロバレなんだよなあ……

 そのうえ、いざ自分の番が来た時に『これは、どのような列なのですか?』とか、もう隠す気あるのかと……

 

 

 32 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 マジで汗一つ掻かないし、顔色一つ変えていないから、遠目にもすぐ分かる

 というか、夏場でもあの格好で平気な顔している時点でなんだよなあ……

 

 

 33 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 冬場でも大概だゾ

 

 

 34 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 一昨年ぐらいに、普通に空から飛んできて敷地内に着地するのを見て噴いた記憶ある

 

 

 35 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>34 えぇ……(呆れ

 

 

 36 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 しかも、何を血迷ったのかわざわざ入口の方まで戻って、『入場券を買いたいのですが』とか、もうね、可愛過ぎて草生える

 困惑していた受付も、あっ(察し)みたいな感じになっていたから、そりゃあバレる

 

 

 37 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様、隠せてない……隠せてなくない? 

 

 

 38 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 隠そうと思っても見えてしまうのが神様のお辛いところ

 

 

 39 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 天気の良い日に空を見上げたら普通に飛んでいるのを見かけるぐらいだから、むしろ隠しているつもりが無い可能性が……

 

 

 40 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 この前当たり前のようにマックの列に並んでいて草生えた。列の前後の人達もざわざわしていて色々お察しだった

 

 

 41 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>40 マクドやろ糞ボケカス

 

 

 42 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>40 周りの人たち、どんな感じだった? 

 

 

 43 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 列の後ろに有名芸能人が居たって感じかな? 

 ただ、カメラを向けるなんて畏れ多くて誰も何も出来なかった。ただ、ちゃんとお金は払ってたっぽい

 

 

 44 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 けっこうそういう列に並んでいるって話聞くよな

 俺も前に近所の知る人ぞ知るケーキ屋の列に並んでいたら、当たり前のように後ろ並んで来て、店内でケーキ食ってた客の一人が、堪らずコーヒー噴いちゃったっていたよ

 

 

 45 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>44 分かる、初見時マジで飲み物噴くよね

 

 

 46 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>45 分かってくれるか

 もうね、気付いた店員も俺を含めて列の人達もそうだけど、緊張でガクガク。え、マジで、マジで日の神様!? って感じでみ~んな凄い目で日の神様を見てた

 でも、そんな俺たちの緊張した様子に気付いていない日の神様、店員からの『ご自宅まで、お時間どれくらいでしょうか?』という問いに対して

 

 そっと、天井を見上げた後、『……雲海の中は、自宅と呼んでいいのでしょうか?』恐る恐るといった返事をして、見事に店内に笑いの渦が巻き起こった

 

 

 47 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>46 隠す気ないやんけ!? 

 

 

 48 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>46 これでも当人隠し通しているつもりだから、何だろう、ちっちゃい子が一生懸命頑張っているように見えて和む

 

 

 49 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 天皇様のお通り(護衛含めて車5台)の時に普通に手を振っているのが目撃されて、天皇様を乗せた車を急停止させる神様が何だって? 

 

 

 50 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 お前が車に乗って皆様方に手を振る立場やろがい! 

 

 

 51 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 この神様、見掛けた時に手を振ると笑って手を振り返してくれるから好き

 

 

 52 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 未だかつて、これほどフレンドリーな神様が居ただろうか? 

 

 

 53 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そもそも実在する神様って日の神以外に居るの? (つぶらな瞳)

 

 

 54 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そのつぶらな瞳を潰されたくなかったら、神様の実在云々の話は止めとけ

 とりあえず、日の神様に関しては、実在が俺たちの目にも確認出来ている、イイね? 

 

 

 55 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 アッ、ハイ

 

 

 56 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様、普通に遊園地とかでエンカウントするし、ジェットコースターとかに乗ってくるのなんなん? 

 職員がシートベルトの装着確認に来たら、『脱線しても私が受け止めますので大丈夫です!』という斜め上返答で即バレするのなんなん? 

 可愛いじゃん(真顔)

 

 

 57 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 古事記にも記述が確認されている神様なのに、毎度まいど即座にモロバレ恥ずかしくないの? 

 

 

 58 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 その神様、ツイッ○ーやってるんだよなあ……

 フットワークの軽さ、さすがは日の神様や……

 

 

 59 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ご近所、ナウ! ← 推定、太平洋上空(高度2000m前後)と思われる画像

 

 

 60 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 あれ、最初はコラ画像を疑われて草生えた

 というか、日の神様絶対にコラ画像だと思われるのを前提に投稿している気が……

 

 

 61 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 疑われて当たり前なんだよなあ……

 むしろ、その後にバズりましたので、昔の話をします! 

 からの

 本能寺の変について語り出すの、マジで草草の草

 

 

 62 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 アレ、リアルで見た時マジでビール噴いた

 やっぱ神様だから、判断基準が人間とは根本から違うってわかんだね

 

 

 63 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 歴史学者さん、知りたい事あったら全部日の神様に聞いたらいいんじゃないか? 

 

 

 64 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>63

 それやると、それまでの研究が全部意味なかった事になっちゃうもろ刃の剣

 まあ、日の神様曰く『覚え間違いもあるから』らしいけど……聞かない方がいいよね

 

 

 65 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「ケネディ暗殺について知りたいのですか?」

 

 

 66 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>65 ヤメロォ!! 

 

 

 67 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>66 マジで知ってそうだから、誰も怖くて聞けないという……

 

 

 68 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 空を見上げたら普通に見掛けるから、そこまでレア感ないな……

 

 

 69 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 排気ガス漂う都会の空より、空気の澄んだ田舎の空の方が、そりゃあ日の神様も好きでしょ

 

 

 70 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 この神様、自分が神様だってこと忘れてない……忘れてない? 

 太平洋沖で事故が起こった海洋船を陸地の方まで引っ張ってきたっていう話と、セルフレジの使い方が分からず途方に暮れている話が同時に流れてくるのは日本だけ! 

 

 

 71 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 昭和30年創業の老舗和菓子屋さんより

 

 日の神様「あの、この引換券って使えないんですか?」

 店員「えっ、と……これは、何時頃に作ったものでしょうか?」

 日の神様「え~っと、今から……40年前に貰ったやつです」

 店員「え? ええ……と……ちょっとお待ちください……店長―……」

 

 

 72 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>71 見える見える、次の展開が見える見える……

 

 

 73 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>71 もはや、日の神様エピソードの鉄板

 しかも、日の神様ってばその時応対した人の名前や、店主とかの名前を憶えているから全米も涙が止まらんわ

 

 

 74 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 歳を取ったからこそ、分かる

 何年経っても覚えていてくれるって存在が居るだけで、それがどれだけ嬉しいかってことを……

 

 

 75 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「昔は、鬼っていう怪物が実在したんですよ。でも、色んな人たちが頑張って退治してくれたので、その事を忘れずにいましょうね」

 

 

 76 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>75 は~い! 

 

 

 77 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 https://www.Hinokami.jp/______.jpg

 何やら楽しそうにしていますね

 これで当人(?)、テレビに出ている人たちと記念写真撮れたぜラッキーぐらいな気持ちなのがまた可愛い

 

 

 78 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 めっちゃ笑顔だけど、後ろの首脳陣たちカチコチに固まって可哀想ナリ……

 これで、日の神様は『なんか近くを飛んでいたら呼ばれた気がしたので降りてみたらビックリです』なんて話しているんだから、違うよね……“格”が

 

 

 79 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 この神様、ほんと自由やね……

 

 

 80 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「転売は悪、汝が罪、許し難し」

 

 

 81 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 これ言い出した途端、日本から転売者超減りまくって凄い。何だかんだ言いつつ、日本人って日の神信者なんやなってそれ一番言われているから

 

 

 82 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>75 これ、ガチなん? 

 記録とか一切残されていないから、詳細を調べようにもサッパリなんだけど……

 

 

 83 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>82

 公的な記録は残されていないけど、鬼に襲われたor姿を見たっていう民間の話はよく聞くで

 真偽不明だけど、その鬼を討伐する為の非公式の組織があったって話は業界では有名だよ

 たしか、鬼殺隊って名前だったと思う

 

 

 84 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼殺隊って都市伝説みたいな扱いになっているヤツ? 

 

 あれってちょっと陰謀論というか、眉唾みたいなの多いからぶっちゃけ信じていないんだよなあ…

 

 

 85 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 信じる信じないかは別として、鬼殺隊は鬼を退治する為に、当時の最先端を一歩も二歩も進めた技術を生み出していたってのは確かだと思うぞ

 そこから転用された防護服とか医薬品、大量生産こそ出来ないけれども、その機能性は現代に通じるほどに凄かったってのはガチらしいし

 

 

 86 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼殺隊の隊服だっけ? 

 あれ、凄いよな。見た目は学生服っぽい感じで、プレートを入れているわけでもないのに強度が防弾チョッキ並みにあるらしいよな

 製造方法が失われたから再現不可能らしいけど、口径の小さい弾丸なら表面で止まるとか、マジモンのオーバーテクノロジーじゃん

 

 

 87 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 いちおう、現物は存在しているし、博物館などに展示される時があるから、機会があったら見てみろ

 『鬼』とやらの詳細は一切公開されていないけど、当時の鬼殺隊の服とか、鬼退治に使われていた刀とかも運が良ければ見られるぞ

 

 

 88 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 『悪鬼滅殺』だっけ、刀に彫られた文字

 殺意高すぎて初見時ビビったよ

 

 

 89 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そりゃあ、人を食う怪物と戦う者たちだからね。殺意無くして務まらぬ仕事でしょ

 

 

 90 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 博物館に展示されている刀って、たしか『柱』とか呼ばれていた上の階級の人達のモノだよね? 

 平の隊士たちの刀とかは無かったんかな? 

 

 

 91 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>90 有るには有ったけど、鬼殺隊が最後に活動していた時期って大正時代だからな

 刀持っているだけで捕まる時代だから、一部の者を除いて全員破棄するなり売るなりしたんじゃないの? 

 

 

 92 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

『悪鬼滅殺』は『柱』と呼ばれている階級の者たちにのみ刻むのを許された称号みたいなものだから残されたんでしょ

 その人の特性に合わせて作られているから、1人として同じ物は無いのも納得

 

 

 93 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 薬学の教科書に載っている『胡蝶しのぶ』も元鬼殺隊だって噂というか都市伝説があるぐらいだし、思っているよりも元鬼殺隊って多いのかもしれないね

 

 

 94 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>93 マ? 

 

 

 95 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 胡蝶しのぶ検索してみたらくっそ美人な小柄女性で笑える

 現代で言えばロリ巨乳じゃん。身体の線も細いし、こんなけしからんパイパイで鬼退治(意味深)してたんか? 

 

 

 96 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>95

 胡蝶しのぶを調べたなら、その姉で検索してみろ

 胡蝶カナエっていう、どえらい美人が出て来るぞ

 

 

 97 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 胡蝶カナエって、あの大正から昭和に掛けて活躍した女優の胡蝶カナエ? 

 え、もしかして姉妹って思って調べたらガチで姉妹やんけ!!!??? 

 

 

 98 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 姉が長身美人巨乳で妹が小柄ロリ巨乳とか、前世で如何ほどの徳を積めばそんな存在に生まれる事が出来るのか

 

 

 99 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 調べてみたけど、マジで現代でも通じる美貌やんか

 というか、今みたいに化粧や整形で誤魔化せない、ナチュラルボーン美人とか、もうこれ夜の鬼退治だろ……

 

 

 100 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 カナエの写真ネットで確認出来るけど、マジで綺麗だしスタイル良過ぎ

 洋服の写真見たけど、外人レベルで胸がパツンパツンやんか……! 

 

 

 101 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 嘘か真か、鬼殺隊では胡蝶姉妹のファンクラブが非公式にあったぐらいだから、そりゃあ周りの男たちも放って置かなかっただろう

 こいつ捕まえた男、一生分の運を使い果たしたも同然やろ

 

 

 102 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 まさか、富岡義勇伝説を御存じない!? 

 

 

 103 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>101 この場合、富岡義勇という人間(仮)を捕まえた胡蝶しのぶを褒め称えるべきだと思うぞ

 按摩技術の開祖みたいなやつだぞ。こいつの弟子の悲鳴嶼(ひめじま)も大概だけど、富岡義勇はずば抜け過ぎて未だに誰も真似を出来ない

 あまりの腕の凄さから、外国の記録にも残っているぐらいにヤバいからな

 

 

 104 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 富岡義勇伝説

 その1・見ただけで全身の凝り具合を見抜き、適切な手法で解す事が可能。その腕は、当時の高官たちも虜にしたとか

 その2・体力オバケなので、朝8時から夜の8時まで食事とトイレ以外の休憩を取らずに仕事を行った後でもピンピンしていた

 その3・あまりの腕の良さに快感すら覚えるらしく、生理の痛みもたちどころに軽減させたことから、妙齢の女たちがこぞって押し掛けたとか

 

 

 105 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 その3、たしか胡蝶しのぶが嫉妬してブチ切れて、二ヶ月ぐらい家の敷地から一歩も外へ富岡義勇を出さなかった裏話好き

 あまりに長く閉じこもったから、姉のカナエがわざわざ乗り込んで、裸のままゴロゴロ旦那に甘えていた妹のケツを蹴飛ばした話もっと好き

 

 

 106 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>105 当時住み込みで働いていた、助手兼義妹の栗花落カナヲの愚痴も大概面白いぞ

 

 

 107 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 栗花落カナヲ「最初ハ気恥ずかしくて仕方が無カッタ。でも、朝な夕なアンアン喘いでいる声聞いていたらダンダン腹が立ってきました。なので、カナエ義姉さんにお頼み致しましタ」

 

 

 108 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>107 鬼畜過ぎだろ

 

 

 109 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そりゃあ仕事サボって朝から晩まで布団の中でずっこんばっこんしてたら周りも呆れるわ

 いくらお若い者同士だからって、もう少しTPOを弁えんとあかんよな

 

 

 110 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 何が悲しくて頬を艶々にした義姉の顔を見ながら仕事に打ち込まねばならないのか……

 

 

 111 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 その話、最終的に日の神様が出張って来て『若い時は誰しもそういう時期があるけど、程々に、ね?』と優しく諭されて胡蝶しのぶの頭が冷えるのマジで好き

 

 

 112 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 胡蝶カナエ「妹の頭が嫉妬と色恋で茹って話を聞きません! 日の神様、どうかお助けを!」

 日の神様「どういう事なの……?」

 

 

 113 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 まさかそんな理由でお助けコールされるとは思わなかった日の神様可哀想

 あんまりな願い事を夜な夜な天に向かって呟くから気になって降りてきちゃう日の神様、何だかんだ言いつつもお優しい

 

 

 114 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼殺隊といえば、他の『柱』たちはどうなったんだろうか? 

 

 

 115 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 有名なのは胡蝶姉妹(あくまで、疑惑があるだけ)だけど、鬼殺隊の人員名簿とかは全く見つかっていないからなあ……

 ただ、胡蝶しのぶの手記にある『みんな、大病にもならず平穏で幸せな日々を送っていて嬉しい』という一文があるらしいから、その後は平穏な暮らしを送った可能性が高い

 

 

 116 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様も、鬼殺隊が有った事は明言しているけど、鬼殺隊の人員や組織構成などの詳細については絶対に教えないってのも明言しているから、知ろうとするだけ無駄だわな

 

 

 117 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼殺隊に属してはいないけど、影ながら鬼殺隊を支えていた者たちも多かったらしいし、下手に露見すると『鬼』に狙われる可能性が高いから、秘匿されていたってのも信憑性ある

 

 

 118 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 胡蝶しのぶ、あの小柄な身体で大の男を軽々と投げ飛ばしたって逸話もあるぐらいだし、マジで鬼殺隊に居たんでしょ

 

 

 119 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ていうか、博物館に展示されている鬼殺隊の品々の中に蝶の髪飾りが証拠じゃね? 

 蝶って、たしか胡蝶姉妹のトレードマークだろ

 

 

 120 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 そりゃあそうだけど、それとアレを結びつけるには証拠が足りん。現時点では、状況証拠的にそうだろうってだけで

 

 

 121 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 状況証拠も何も、保管されている鬼殺隊の隊服の中に、小柄な女性サイズのやつがあったじゃん

 アレ、今で言うバストの大きな人用に、胸の辺りに細工が施されていたから見る人が見れば一発で分かるぞ

 

 

 122 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>121 !!!?!?!?!?? 

 

 

 123 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 言われてみれば、一回り小さいサイズで女性用っぽいやつが一つあったな。胸と腰回りが大きく肩幅の部分が小さくなっているから、改めて見たら本当にすぐ分かる

 アレを男が着ようと思っても無理。身長150センチの男は探せばいるけど、肩幅が違い過ぎて相当に窮屈な感じになるぞ

 

 

 124 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 これ、見付けちゃった? 

 

 

 125 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>124 この程度、世の学者たちはとっくに見つけ出しているから気にするだけ無駄

 むしろ、それでも状況証拠にしかならんから……で終わっているんでしょ

 

 

 126 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 胡蝶姉妹と中の良かった女医の珠江と、助手の愈史郎も探ればヒントが見つかるかもしれないけど、こっちの二人は功績こそ凄いけど謙虚で派手な事を嫌う性格だったらしいからなあ……

 結局、鬼殺隊に所属していた可能性が高いと言われているのは、胡蝶姉妹ぐらいだし

 

 

 127 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 元鬼殺隊の疑惑がある人は何人かいるけど、疑惑の段階を出ないからなあ……結果的に、有名になっていた胡蝶姉妹が表に出ているだけの話だからねえ……

 

 

 128 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼殺隊という存在が表に出る様になったのも、ネットワークが構築された現代になってからだしな

 昭和の時にはいっぱい記録が残っていても、報道関係が広げないと全く広まらなかった時代だしなあ……戦争とかその他諸々で資料とかも紛失したらしいし、もしかしたら平隊士の道具とかもその時は残っていたのかもしれない

 

 

 129 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼っていう存在自体が都市伝説だけど、よりにもよって日の神様が「え、昔はいたよ」とかる~い感じで答えちゃったから、とりあえず誰もがいたんだろうと思われているのマジ草

 いや、日の神様を疑うわけじゃないけどね、せめて白骨死体でも見つかれば、信憑性爆上がりなんだけど

 

 

 130 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>129

 鬼は死亡すると着ていた衣服(場合によるらしい)すらも太陽の光を浴びて塵になっちゃうらしいから、それは無理だな

 

 

 131 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼に関しては生き残っていたら問答無用でぶち殺すって日の神様が明言しているから、生き残っていたとしても絶対に表に出てこない気がする

 

 

 132 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 鬼殺隊の人達からすれば、鬼の居ない世界こそ求めていたから、自分から話して目立ちたいとは思わないんじゃないの? 

 

 

 133 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 本当に惜しいのが、戦争で鬼殺隊の記録なり物品なりが軒並み燃えちゃったっていう……

 

 

 134 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様曰く、元々鬼殺隊のトップが、あまり後世に残したくはないってことで墓石などを除いて朽ちるに任せて破棄していったらしいから、戦争で燃えなかったとしても現存する物品限りなく少なくなりそう

 

 

 135 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 大正時代で全ての鬼を退治し終えて解散したとして、昭和だけでも約63年あるしなあ……

 美術品とかでもないし、やっぱり思い出したくない辛い事も多いから、処分してしまった人も多かったのだろう

 

 

 136 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 真偽不明だけど、世界剣道選手権で代々優勝している煉獄さんの先祖が鬼殺隊だって噂はあるね。

 

 

 137 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 煉獄さんの祖先が元鬼殺隊疑惑よりも、煉獄家クローン疑惑の方がよっぽど気になる

 

 

 138 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 あれ本当に草

 父方の遺伝子強過ぎだろ、どうなってんだよwwww

 

 

 139 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 外国でガチでクローン疑惑掛けられて裁判起こされそうになったの草生え過ぎて森になる

 

 

 140 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「気のせいかもしれないけど、君の顔は前にも見た覚えがあるような……」

 

 

 141 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 間違いなく煉獄家の祖先と顔合わせていますね間違いない

 

 

 142 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様すら困惑させる遺伝子の強さ、これもまた人の可能性というものか……

 

 

 143 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様といえば、有名なのは大正時代に本来の姿で降臨したやつでしょ

 山のように大きくて、迷える者たちを諭したっていう逸話のやつ

 

 

 144 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様に纏わる話は色々有り過ぎてどれが有名なのか分からんぐらいあるからもう全部有名でいいよ(早口)

 

 

 145 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 マジでいっぱいあるから何も言えないんだよなあ……

 

 

 146 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 この前テレビで紹介されていたけど、ヒノカミ神楽とかいう日の神に捧げるあの踊りガチできつすぎて笑えない

 なんであの人たち、アレを笑顔のまま踊り切れるのか……

 

 

 147 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ヒノカミ神楽はダンスやっていたら一度は耳にするぐらいに有名なやつだけど、アレ自体はそこまで複雑じゃないし、踊るだけならダンスやっているやつならだいたいイケるぞ

 ただ、夜から始めて翌朝までぶっ通しでやるというマッスルヘッドな神事がマッスルヘッドなだけで……

 

 

 148 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>147

 マジで頭オカシイよな

 5分ぐらい踊るだけなら一ヶ月ぐらい真面目に練習したら出来るけど、アレを12時間やれとか率直に狂人の領域だろ

 しかも、一度も足を止めずにとか無理無理かたつむり

 

 

 149 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神「……あっ、アレかぁ……」 ← いったい何を知っているんだよ(白目)

 

 

 150 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 もしかすると、アレを踊れる日の神狂いが前にいたのでは? 

 あの人たち、日の神様のこと常に最推しだから、10人に1人はヒノカミ神楽練習してるって話だし

 

 

 151 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 あんなの完遂出来るやつおるんか(戦慄)

 

 

 152 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 【速報】日の神様、マンスリーマンションを借りる【神様】

 https://www.Hinokami.jp/______.html

 

 良かったね、幸運にも10000人目の利用者ということで身分証明無しの全額タダで御利用OKなんだって

 

 

 153 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >10000人目の利用者

 ほんとぉ? (猜疑の眼差し)

 

 

 154 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 明らかに狙い撃ちしたっぽいけど、そんなん一介の担当が独断でやれることなんか? 

 日の神様、そういうのかなり鋭いから、気付かれたら即撤退しちゃう御方だぞ

 

 

 155 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>154

 なお、日の神様が引き当てたマンスリーマンションの持ち主というか不動産は、産屋敷グループとのこと

 

 

 156 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 また(産屋敷グループ)だよ(呆れ)

 

 

 157 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 産屋敷グループって24時間体制で日の神様をサポートし続けているのかってぐらい、日の神様関係の話題で出没するよな

 

 

 158 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 確実に狙い撃ちしてる(確信)

 この前も、何か50000人目の来店者ってことで新車プレゼントしていなかったか? 

 たしか、6000万円ぐらいするすげー高い奴。当時来店していた他の客がネットに上げてたやつだけど、思い出せねえ

 

 

 159 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>158 されてたけど、『免許持っていないのでいりません。その代わり、皆様方が楽しめるようにそれを展示してあげてください』ってアッサリ断ってた

 店員「あ、あの、6000万円ぐらいするやつですよ? 本当にいいんですか?」

 日の神様「その6000万円で私一人を笑顔にするより、みんなが笑顔になってくれる方が、私にとっては6000万円以上の価値になりますから(笑)」

 

 

 160 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>159

 これは日の神狂いになりますわ(尊敬)

 ご自身が空飛ぶし必要ないからって、ポンと寄付しちゃう精神マジ神様

 

 

 161 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 産屋敷グループの日の神推しをナメてはいけない(戒め)

 2年前に国際宇宙ステーションより、宇宙を漂っている日の神様を目撃した際、宇宙ステーション来訪者330人目記念とかで挨拶しようとした話は今も記憶に新しい……

 何を隠そう、その宇宙ステーションの最大スポンサーは産屋敷グループという……

 

 

 162 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 産屋敷グループに限らず、鬼殺隊もそうだったけど、日の神推しの人めっちゃ多いからな、そりゃあ仕方ない

 

 

 163 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 火星探査機からの映像公開された時、思わず噴いたやついる? 

 

 

 164 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>163 あんなん誰だって噴くわ

 何処の世界に、落下する探査機優しく受け止めて火星の地表に下ろしてくれる神様がおるん……おったわ(驚愕)

 

 

 165 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様って2000年代頃に宇宙人が製造したロボット説出たけど、マジで何一つ原理を説明出来ないから、ロボットっぽい見た目の神様って言われた方が納得出来るというバグ

 

 

 166 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>165

 あったな、そういうの

 結局、人類の科学力では1%も説明付かないから神様って結論なったけど、未だにサイボーグ説押しまくるやついるのなんなのだろうか

 

 

 167 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 よく見たら全体的なフォルムがロボット(?)っぽい印象を覚えなくはないけど、全長170cm程度で、推定出力が原発数百億基分はあるとか意味不明過ぎて妄想の領域

 しかも、過去の記録によれば全長数十メートル~数百メートルぐらいまで大きさが変わったってあるし、もうこの時点でどのようなロボットなんだって話だしな

 

 

 168 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 仮にロボットだとしても、何千年にも渡って人類を見守り続けている必要性が全く分からなくなるから余計に妄想の領域を出られないという……

 指先一つで地球粉々に出来る存在が、どうして人類を放置し続けるんやって話になるやん

 

 

 169 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 フォルムで誤解されがちだけど、日の神様は神様だよ

 日の神様を疑う人がいるの、ここに? 

 

 

 170 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 ヒェ……

 

 

 171 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神狂いじゃ、どうしてここまで放っておいたのだ!? 

 

 

 172 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様と何度か会話する機会に恵まれると、漏れなく日の神狂いになっちゃうからね、仕方ないね

 

 

 173 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 神の御許に……連れて行かれたんやなって……

 

 

 174 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>15亀レスだけど、当時の資料とか証言読む限りだと、国民全員が戦争反対って感じじゃなかったらしいよな

 末期の辺りから戦争終わってくれ……みたいな感じになっていたけど、遡ってみると、勝っているうちは戦争を賛美する国民もけっこういたって話だから

 日の神様の基準としては、お前らが望んでおいて、不利になったら助けてくれは筋が通らん! って感じじゃないの? 

 

 

 175 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>174

 何処の国もそうだけど、利益を得ている者が多いうちは対岸の火事みたいなもんだし……実際、漁夫の利を得る形で財を成した人もけっこう多かったって聞くし……

 今みたいにネットやら何やらでリアルタイムに海の向こうの光景を見られなかった時代だと、人の生死なんて数字でしか確認出来ないからしょうがない部分があったのかも……

 

 

 176 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 その辺りの話で国民はプロパガンダに騙されただけだっていまだに騒いでいるやついるけど

 戦争が起きて死者が出るってのは子供でも分かる話なのに、それを見ないフリしていた時点で大半の国民も同罪だよ

 民主主義である以上、流された時点で賛同しているも同じだしね

 

 

 177 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 実際、お国の為にガンバレ~って後押ししていた母親とか、けっこういたらしいから、それを見ていた日の神様からすれば……みたいな感じで複雑だったのだろう

 

 

 178 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様「核を落としたらお前の国を地上から消す、いいね?」

 日の神様「もう日本はボロボロだ、勝てる可能性は皆無。お互いに思う所はあるだろうけれども、ここで終いだ、いいね?」

 

 179 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 >>178

 サンキュー日の神様! 

 

 

 180 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 空襲爆撃まではギリセーフ判定だけど、核はアウト判定

 日の神様がストップ掛けなかったら、日本に核が落とされていたという戦慄の事実……! 

 

 

 181 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 明確に滅ぼすと口にした以上、核使ったら本当に滅ぼしに動くからね、そりゃあ大国も日本も顔色変えるよ

 

 

 182 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 軍部の一部が、日の神様が味方に付いたから続行だと息巻いた翌日ぐらいに天罰下されて汚い炭と化すのは、もはや様式美

 アレで一気に停戦派が勢いづいて、そのままの勢いで終戦にまで持って行ったのは凄い

 

 

 183 そこのけそこのけ@ヒノカミ様のお通りじゃ

 

 日の神様、普段はアホ可愛い振る舞いしているけど、やるときは神様ムーブしちゃうの可愛い

 そりゃあ日の神信仰根強いわけだ。プロ野球のホームランボールをうっかり上空でキャッチしちゃって頭下げまくる神様を見られるのは、この国だけやでほんまに

 

 

 

 

 

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 総レス数 183

 

 

 




これにて終わり!
閉廷! 
みんな解散!
ラブ&ピース!

カクヨムでもオリジナルやっているから、興味あるやつは見てくれよな(悟空感)

気が向いたらオーバーロードのナザリック敵対ルートやるかもね


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