仮面ライダーエルフ (青ずきん)
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登場人物・用語解説 ※ネタバレ注意!

解説なのにネタバレ注意ってどうかしてると思うんだ、ぼく。


主要人物

 

仮面ライダーエルフ/ビオラ・ヒアラルク(206)

 本作の主人公。腰まで届きそうなほど長い金髪に透き通るような碧眼を有しており、その白い肌も含め「美少女」と呼んで差し支えない容姿をしている。身長と体重が小学校高学年の女子の平均レベルであるため、周囲からよく子供扱いされている。

 だが、実際年齢に関しては人間換算して12歳ほどであり、元来の甘えん坊な性格も手伝って子供扱いされても仕方ない雰囲気は出ていた。

 1年程前に勃発した『ヒューマレジスタンス』によって家族(父、母、姉、妹)を失っている。これによって人間に対し激しい憎悪を抱いており、その可憐な容姿からは想像もつかないほどの殺気を放っている。ウィルと出会ったのもこの頃。

 最近は真っ白なノースリーブのワンピースがお気に入り。乗り物酔いしやすいタイプ。

 

 

仮面ライダークリーチャ/横屋 京太郎(よこやきょうたろう)(20)

 本作のヒロイン枠。伝説上の生物に疎いため、ぶっちゃけサララ(本作におけるサラマンダー)はオーブになるちょっと特殊なトカゲ、その他の精霊はオーブになる人間(そういう亜人的な種族)だと思っている。

 大学では心理学を専攻している。

 

 

ウィル(????)

 ビオラのお目付け役(のような役割をしている)。エルフの里を創った「始祖」とかなり深い関係にあり、長らくエルフの里を見守ってきた。それだけに、エルフの里が崩落していく事に耐えかねて里も命も諦めかけていた。

 かなり長い銀髪に垂れ目をした人間態を持っているが、諸事情により偶にしか変身出来ない。

 普段は白い人魂(鬼火っぽくもある)のような姿で宙を漂っている。

 

 

仮面ライダーヒューマ/犬童 託斗(いんどうたくと)(23)

 本作の2号ライダーにあたる。常に茶髪のミディアムを整えている。しきりにビオラを実験体として手に入れようとしているが、それは彼の過去が関係していて……?

 

 

サララ(???)

 火の精霊(サラマンダー)にあたる。全長はビオラよりやや低い程度であり、黒曜石から溶岩が流れ出しているかのような外見をしている。陽気な性格をしており、そのせいで余計な発言をして周囲を怒らせることもしばしば。

 

 

ネディン(???)

 水の精霊(ウンディーネ)にあたる。身長はビオラよりやや高いが、全身が水で構成されているため体重はほぼ0に等しい。少し暗い青色の長髪、微妙にはだけている水色の着物を身に纏っている。

 ビオラの恋愛事情に首つっこむのが大好き。ある意味で若作りのてんさ(ここで文章は途切れている)

 

 

フィル(???)

 風の精霊(シルフィード)にあたる。淡い黄色のワンピース、黄緑のショートボブ、紺碧の瞳をしている。ビオラやサララよりも身長が低いが、裁縫から家事まで卒なくこなすしっかり者。

 正直な所、この物語の中で一番可哀想な子(作者談)。でもそれがかわいい(狂気)

 

 

メロノ(???)

 土の精霊(ノーム)にあたる。深緑のナイトキャップ、白い数珠のようなネックレス、紺色の着物と赤い袴を身につけている(そのため、周囲から常に変人扱いされている)。ナイトキャップを除いたメロノ本人(本精霊?)の身長は全キャラの中でも屈指の低さを誇る。達観(?)した目と頭脳でビオラ達に助言を与える。

 

 

ヴァニラ(???)

 ファヴニールオーブに封印されていた黄金の幻獣。本来腕が生えている部分に翼が生えている、所謂ワイバーンタイプのドラゴン。ビネガーアクサーと同じくらいには喧嘩っ早く、傲慢で目立ちたがり。モ◯タロスの悪いところだけが残ったようなイメージ。

 

 

石月 凱(いしづきがい)(20)

 京太郎の友人。また、京太郎の意味不明なボケに振り回される苦労人でもある。

 ……彼の解説はこれだけです。

 

 

鉄 雪人(くろがねゆきと)(???)

 第12話にて明かされた組織『NAHMU』の首魁。現時点では彼に関わる殆どの情報は明かされていない。

 

 

エルフの里の住人

 

シエラ・トルックス(85)

 明るい赤髪のサイドテールをした幼女。身長はメロノよりやや高いくらい。

85歳だけど人間換算では5歳くらいなんです本当です信じてください(早口)

 両親を目の前で殺されたりしてます。可哀想(作者の発言)

 

 

ティエラ・トルックス(85)

 明るい赤髪のツインテールをした幼女で、シエラの妹。身長はシエラと大体一緒。姉のシエラよりおおらかな性格をしている。……が、おおらかというより両親の死をあまり受け入れられてない(若しくは理解出来ていない)だけなのかもしれない。

 

 

アゼル・ムノーン(442)

 真っ赤な天然パーマをよく弄っている青年。生き残ったエルフの中で一番リーダーシップを持っている。ビオラと同じく、人間に対する憎悪が激しい。

 

 

リセラ・オシカペア(510)

 肩甲骨あたりまで伸びたクリーム色の髪をしており、9割の確率で白い服を着ている(白い服が好みらしい)。『ヒューマレジスタンス』によって旦那と息子を失っているが、復讐は負の連鎖を生むだけだとして、まず里の現状をなんとかしようと奮起している。

 

 

グライグ・ヒアラルク(享年663)

 ビオラのパパ。基本的に放任主義だが、彼なりに娘たちを愛していた。にも関わらず、人間の凶弾によって斃れてしまった。かわいそうに(作者の発言)

 

 

レイ・ヒアラルク(享年578)

 ビオラのママ。料理が大得意だが、偶に実験を兼ねたヤバげな新作料理を家族に出して一家を寝込ませたりする。そんなだから顔面を銃で撃ち抜かれたりするんだよ……かわいそうに(二回目)

 

 

メリア・ヒアラルク(享年255)

 ビオラのお姉ちゃん。どちらかといえばインドア派。妹たちには優しいが、そのおっとりした性格が災いして逃げ遅れた結果、一撃で命を落とさずにゆっくりと苦しみながら死んでいった。……かわいそうに(三回目)

 

 

ライラ・ヒアラルク(享年188)

 ビオラの妹。割と活発だがいじけやすい。ウィップアクサーに踏まれたせいで頭蓋骨はぐっちゃぐちゃ。……かわいそ(ry

 

 

仮面ライダーエルフ 用語

 

オーブ

 ビオラが仮面ライダーエルフに変身するために必要な物。精霊たちが姿を変えた物なので、オーブの状態でも自由に動き回ることが出来る。

 

 

エルフドライバー

 エルフの里を創った始祖が作り出した物。『ヒューマレジスタンス』よりも前に里を襲った危機から住人たちを救うために始祖が命をかけて作り出したので、人智を軽く凌駕する力を誇る。

 (装着者から見て)ベルト右側には白く太いレバーが具えられており、このレバーを下ろすことで必殺技を発動する。

 中央にはオーブをセットするための窪みがあり、左側には白く細いレバーが具えられている。普段は斜め上になっており、倒して斜め下向きにすることで変身/フォームチェンジを行う。

 

 

ヒューマレジスタンス

 およそ1年前、謎の怪物『アクサー』を引き連れた上で銃を担いで来た人間によってエルフの里が壊滅状態になるまで追い込まれた事件。現時点では襲撃の理由は不明。

 

 

ヒューマドライバー

 仮面ライダーヒューマの変身ツール。犬童託斗が作成。(装着者から見て)ベルト右側にフォースコネクターをセットするための窪み、左側には横に長い長方形の液晶が具えられている。

 (変身時の)液晶画面の左端には、縦向きにアイコンが並んでいる。上から、

+で表示されており、自身に様々な効果をもたらす『Option』

平行四辺形の中に四角いタイルが敷き詰められているようなアイコンで表示されており、某ゲームライダーの「ステージセレクト」の様に周囲の空間を変容させられる『Area』

同心円状に広がる幾つかの円のアイコンで表示された、周囲に微弱なエネルギー波を発して周辺のものについての情報を一瞬で得られる『Scan』

?で表示された、何が起こるか分からない『Random』

となっている。

 

 

フォースコネクター

 仮面ライダーヒューマの変身ツール。太い円柱形状のアイテムで、大きさは某てぇんさい物理学者の最終フォームの変身に使われる「ジーニアスフルボトル」ぐらい。上部1/5ほどは蓋のように下部と離れており、120度ずつ回転する。下部には無数の配線が走っており、うち2本は上部へ繋がっている。上部にも少し配線があり、変身時は右側にのみ繋がっているが必殺技発動時には2本とも繋がる。

 

 

プログラムアクター

 仮面ライダーヒューマの武装。成人男性の拳で握れるほどの大きさの正方形から、細い円柱状の持ち手が下に伸びている。正方形の正面には液晶画面が取り付けられており、『Blade』、『Magnum』、『Trident』、『Shield』、『Halberd』、『Swordbraker』の6つに変形する。

 

 

NAHMU

 12話にて明かされた謎の組織。正式名称は「Network-Active-Human-Mind-Usher」。託斗が所属する組織であり、アクサーが生み出されている施設でもある。




長髪キャラが多い気がしますが、僕はショートやおさげの方が好きです(隙自語)。

もし何か忘れてるキャラ(名前付き限定)がいたり、「これ用語っぽくてわかんねぇんだけど」とかいうのがありましたら、お手数ですがご一報の方よろしくお願いします。


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アクサー(敵怪人)解説 ※ネタバレ注意!

言いたいことはただ一つ。


これ(解説)需要ある?


アクサー

 およそ1年ほど前に起こった「ヒューマレジスタンス」を皮切りに現れるようになった怪物の名前。名前の由来は「cheat(改造などの意)」のアナグラム。

cheat→acthe

 ………かなり無理矢理だなぁ。

 

 

クリアアクサー

 第1、2話に登場。モチーフはグラスフロッグ。アクサー名は透明を意味する「クリア」から。自身を透明化する能力を持つが、初登場の怪人として名誉ある(?)死を遂げた。

 全身が透けており、内臓が丸見え状態なため常に奇妙な雰囲気を纏っている。

 

 

ベルベットアクサー

 第3、4話に登場。モチーフはパンダアリ(アリバチ)。アクサー名はアリバチの別称「ベルベットアント」から。白と黒の色合いを基本としているが、赤と黒、(濃い)青と黒など色の組み合わせを変えることにより能力も変えることが出来る。

白、黒……身体強化 赤、黒……火炎弾の使用

青、黒……毒液の使用 橙、黒……分身能力

 

 

ワックスアクサー

 第5、6話に登場。モチーフはクジャクハゴロモ。アクサー名はクジャクハゴロモの尾を構成している蝋(ワックス)から。外見は大体モチーフを人間大にしたような姿なので割愛。尻尾の触手を操る能力を持っている。一応「美少女」であるビオラ相手に触手はまずいかなと思いましたが、他に何も思い浮かばなかったので強行しました。

 

 

ボーンアクサー

 第7、8話に登場。モチーフはカサホネツノゼミ。アクサー名の由来は単純に骨(ボーン)。外見は大体モチーフを人間大にしたような姿なので割愛(適当)。バリアを展開する能力を持っているが、前面にしか展開出来ない上にバリア越しに(アクサーが)攻撃出来たりしない、展開に少し時間がかかることもあって使いどころに困る。

 

 

バージェスアクサー

 第9、10話に登場。モチーフはオパビニア。アクサー名はオパビニアが属する「バージェス動物群」から。これまでのアクサーもこれからのアクサーも、怪人態は大体モチーフ元を人間大にしたような外見なのでこれからは外見に関わる情報は全部割愛します、ごめんなさい。

 オパビニアに真っ黒な手足を生やしたような見た目をしている。また、捕食を行うことで自身を強化する能力も持っている。しかし、この能力が本編で活用されることは無かった。

 実は9話で死ぬ予定でしたが、「ヒューマの初登場だけで10話の尺もつのか?」という意見が脳内討論に投げかけられ、結果として寿命が伸びました。

 

 

ラテラリスアクサー

 第12、14、17話に登場。モチーフはトルキスタンローチ。アクサー名は学名の「blatta lateralis」から。本作の戦闘員枠。特別な能力は無いが、強いて言えば低コストなくらい……かな。

 

 

ミミクリーアクサー

 第13、14話に登場。モチーフはオオトリノフンダマシ。アクサー名は「擬態」などを意味する英語「mimicry」から。見た目がなんかハートっぽかったので、当初は「ハートアクサー」という名前でした。一度見たものに擬態する能力を持つが、完全に再現することは出来ない。本気でビオラを騙すため、ビネガーアクサーみたいな喋り方をさせたりしようかなとも考えましたが、「じゃあなんでいつも喋んないんだよ」ってなったので、あんまり喋らなくなりました。

 

 

ミリセンチアクサー

 第15、16話に登場。モチーフはマラガシーファイヤーミリピード。アクサー名はミリ(ラテン語(mille)で1000の意)とセンチ(ラテン語(centum)で100の意)から。要は足がいっぱいあるよ〜っていう名前です。本編では目立ちませんでしたが、炎を無効化する能力を持っています。

 

 

リーガルアクサー

 第17、18話に登場。モチーフはヒッコリーホーンドデビル。アクサー名はヒッコリーホーンドデビルの成虫『リーガルモス』から。脱皮するという能力で段々強くなるやつです。最終的にはリーガルモスみたいな見た目になるまで進化するんですが、3号ライダーであるクリーチャのかませ犬役に抜擢されてしまい敢えなく撃沈。

 

 

リバースアクサー

 第19、20話に登場。モチーフはアベコベガエル。アクサー名は『反転』を意味する『reverse』から。オタマジャクシをモデルにした第一形態が倒された時、小さな蛙の姿で復活する能力を持っています。戦闘能力的にはオタマジャクシっぽい時の方が高いはずなんですが、多分『仮面ライダーエルフ』の中で一番戦犯だったアクサーです。カエルモチーフのアクサーは二体目なんですが……何しに来たんだコイツ。

 

 

ベリルアクサー

 第21、22話に登場。モチーフはエメラルドゴキブリバチ。アクサー名は、エメラルドがその一種に数えられる緑柱石『ベリル』から。京太郎しかされてませんが、生物の意思を奪って操る能力があります。しかし、突如誕生したリア充のせいで能力が無効化されてしまいました。ベリルアクサーは泣いていい。

 

 

ビネガーアクサー

 第3、4、6、7、8、16、19、21、22、25、26話(14話は擬態なのでノーカン)に登場。モチーフはビネガロン(サソリモドキ)。アクサー名はビネガロンの名前の由来となっている「vinegar(酢)」から。かなりの戦闘狂で、戦うことに人生(サソリモドキ生?)を捧げている。ビオラ一家に被害を出した訳では無いが、エルフの里にはかなりの痛手を負わせた。

 

 

ウィップアクサー

 第3(回想のみ)、12、19、23、24話に登場。モチーフはウデムシ。アクサー名は英名の一つの「tailess-whip scorpion」(と「whip spider」の二つ)が由来。ビネガーアクサーに次いでエルフの里に甚大な被害をもたらした。また、ビオラの目の前でビオラの妹の頭を踏み潰すなどの残虐な行為を里の住人たちに見せつけていたため、ビオラに強く敵視されている。

 

 

キャメルアクサー

 第6、7、11、21、22話に登場。モチーフはヒヨケムシ。アクサー名は英名の一つの「camel spider」から。……ただ、camel spider(これ)って「ラクダのクモ」って意味なので、「キャメル」だけだとラクダのアクサーみたいな名前になるんですよねぇ……(乾いた笑い)

 犬童託斗ガチ勢。託斗に対するその感情はもはや崇拝に近い。

「託斗様のために常に美しくありたい」という感情からか、はたまたモチーフが関係しているのか、基本的に夜以降しか屋外に出ない。

 

 

アルテン/バナナペストアクサー

 第11、17、18、19、23話に登場。他のアクサー達と異なり、モチーフが二つ存在する。一つはケオプスネズミノミ、もう一つはフォニュートリアドクシボグモ。アクサー名はフォニュートリアドクシボグモの別名「バナナスパイダー」とケオプスネズミノミが中世のヨーロッパに流行らせた病「黒死病(ペスト)」から。

 京太郎の身体に寄生する代わりに『仮面ライダークリーチャ』の力を与えた張本人。




なんか忘れてる奴いないかなぁ。大丈夫かなぁ。
需要があれば更新していきます(なくても多分します)。

登場人物解説の時に言ってませんでしたが、イメージCV無いの本当にごめんなさい。声優に疎いんです(泣)


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第1話 Heroー隠れ里からの使者

はじめまして。この度、オリジナルライダー小説を投稿させていただきます、青ずきんと申します。中学の頃の本当に残念な脳みそ(今も。)で考えた作品なので、どうか暖かく見守っていただければと思っています。


2022/2/27 追記
本作の前書き・後書きは大体変なことを書いています。軽く流し読みしていただければ幸いです。


ーエルフの里

 

「うわああアアア‼︎?」

「キャアアアアッ‼︎」

「おかあさん! おかあさん!」

 

 銃声が響いた。

 甲高い悲鳴と命乞いの叫びが谺している。嘗て緑に満ち溢れていたこの里が、人間達の手に因って、さながら阿鼻地獄の様に成り果てているのだとしったのならば。()()()は、怒り狂うだろうか。

「お願い! この子だけは殺さないで!」

「やめてくれ! 頼む‼︎」

 …それとも、嗚咽を漏らすだろうか。何れにせよ、僕が理解出来たことは唯一つ。

───僕が下した判断は、遅過ぎたという事だけだ────。

 

 

「…えっ、違ぇの!?」

「当たり前だろお前…」

 俺 ー 横屋 京太郎 は、友人の石月 凱と大学内の休憩所で談笑を交わしていた。話題は、「エルフと妖精は違うのか」だ。…いや大体一緒じゃね?ほぼおんなじだろどうせ。

 …とか考えていると、凱が反駁してきた。

「あのなあ。そもそもとして同じだったら名前の違いとかねぇだろ。」

「そりゃあそうだけどさ、なんかあれだろ? どっちも魔法使うんだろ? じゃあ一緒じゃん」

「脳みそステゴサウルスかよ…」

「それどういうツッコミだよ!?」

などと会話していたその時。

「「!!?」」

 突然、爆音が鳴り響いた。

「はあ⁉︎ なんだ? 何が起こった⁉︎」

「落ち着け! いいからはなれるぞ!」

 パニクる俺の手を引いて凱は走り出した。

「なんなんだよアレ!」

 俺は走りながら問い掛けた。数秒の間を置いて凱は答える。

「ンなもん俺が知るか!」

 夢中で疾走していた俺たちは、いつの間にか目の前の空間が僅かに揺らめいていることに気付けず、「何か」にぶつかってしまった。

「っで! なんだ…?」

 しかし、その正体はすぐに分かった。空間が揺らめいていたわけではなかった。俺たちが空間の揺らめきだと思っていたのは、怪物の輪郭だったのだ。

 揺らめきは、元の色を取り戻す。白色透明の人体、蛙じみた頭、透けて見える内臓の様な何か。まさに、怪物と呼ぶに相応しい出で立ちだった。

「おいおい…こんなUMA知らねぇぞ…!」

 俺たち二人が立ち尽くしていたその時。

「ハアッ‼︎」

 何かの足が、俺の顔を横切り、怪物を蹴っ飛ばした。

 黒いアンダースーツに赤い装甲を身に纏った戦士。側頭部にある尖った耳の様なものが特徴的だった。

 俺たちが呆気にとられていると、白い人魂の様なものが近づいてきた。

「やあやあ人間の諸君。遅れてすまないね。こっから先は僕たちがなんとかするから、君たちは逃げなよ。」

「うええっ、しゃっ、喋ったァ⁉︎」

「…分かりやすい反応してくれるね、君。」

 人魂が喋った。嘘だろ?え?どういうことだ?え?わからんわからん…

「…いくぞ」

 凱が手を引く。俺も無言で走り出す。…でも。

「…悪りぃ。やっぱ俺もどるわ。」

「はあ⁉︎ アホかお前! 体育の成績3が敵う相手じゃねぇんだぞ‼︎」

「大丈夫だ。俺が落としてんのは…保健だからなああああああ!!!!!」

「そういう問題じゃねぇんだって‼︎」

 命の危険。それは勿論分かってはいるが、どうしても好奇心が抑えらんねぇ。凱には悪いけど、どうしても気になるんだよ。

 

「ガアッ⁉︎」

 戦士の正拳突きに、怪物が怯む。その隙を突き、戦士は必殺技を発動する。

【サラマンダー!】

「…これで終わり」

 ベルト右側の太いレバーを下ろし、力を込める。

【カモン! フレア! スピリチュアル!】

「はああああああああ‼︎」

 戦士は飛び上がり、右足を突き出して蹴りを放った。

 戦士が着地したと同時に、怪物も地面に叩きつけられ、その勢いで転がる。

「グゥッ、ガアアアッ‼︎」

 咆哮と共に怪物は爆散する。

「うおー、すっげぇぇ…」

 あまりの迫力に京太郎は声を出してしまった。

「誰ッ⁉︎」

 戦士は声を荒げながら後ろに振り向く。

「うぉっ⁉︎」

 吃驚した京太郎は声を出す。マズいことをしている自覚から、冷や汗が滴る。

「…」

 戦士はベルトに嵌まっていた球体を取り出し、変身を解いた。そこに、現れたのは。

「女…の子?」

 金髪碧眼、容姿端麗、おまけに京太郎より少し背が低いという、京太郎にとってドストライクな美少女が立っていた。

 呆然とする京太郎を尻目に、その美少女はすたすたと表情を変えることなく近づいて来た。

(えっえ?何だ?もしかして俺のこと心配してくれてる⁉︎)

 しかし、その美少女が発した言葉は、京太郎の想像の斜め上を行くものだった。

 突然京太郎の胸ぐらを掴み、鬼の様な形相で囁く。

「死にたくなかったら今すぐこの場から消えて」

 それだけ言って、荒々しく手を離す。

 状況を理解出来ずにいる京太郎を置いて、美少女は歩き去ってしまった。




もう一度はじめまして、青ずきんです。初投稿なのでビクビクしながら書いてますが、同時にドキドキもしてます。是非これからもよろしくお願いします。
よければ感想とかもお願いします。

ミスとかしてないよね?大丈夫だよね?あー怖いわー…


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第2話 Re:Heroー少女の厭悪

1話からぶっ通しで書いてます。文章力低かったり、表現分かりにくかったり、説明足りなかったり。色々ごめんなさい。


 あれから1日。俺は、昨日のあの子の言葉がまだ忘れられずにいる。

「死にたくなかったら今すぐこの場から消えて。」

 あの言葉の真意は何だ? あの人魂は一体何だ? あの子は…

「ヒーロー…なのか…?」

 

 午後2時。いつも通り講義を終えて、帰路に着く途中。すたっ、と、昨日の美少女が降って来た。…ホントに、降って来た。

 当然(?)だが今日の服装は昨日と違っていた。今日は沢山のフリルがあしらわれた、白いノースリーブのワンピースを着ていた。

 相変わらず綺麗だなと、そう考えていた時。

「がっ⁉︎」

 何の前振りもなく、唐突に首を絞められた。俺、そんなことしたか…?

「…やっぱり口封じは念入りにしとかなきゃって、そう思っただけ。恨むなら、私のことを知った自分を恨むこと。良い?」

「良い訳…あるかよ…!」

 俺は全力で抵抗した。が、少女の力は、その華奢な見た目からは想像もつかない程強力だった。ほぼ意識が切れかけていた、その時だった。

「ちょいちょい、流石にやりすぎじゃない?」

「ひと…だま…」

 白い人魂が仲裁に入った。その言葉を聞き届け、少女は放り投げる様に俺を離した。

「ぐえっえ…」

 俺が咳き込んでいるのを尻目に、少女は不服そうに人魂に話しかける。

「…ウィル。何で邪魔したの?」

 ウィル、と、そう呼ばれた人魂は軽快に答える。

「だってさあ、今ここでその人を締め上げたとして、それが別の誰かにでも見つかってみなよ。それこそお尋ね者になりかねないよ?」

「……」

「そいつ、ウィルって名前なんだな…」

 我ながら空気読まない発言だったなと、小さく反省した。

「お、そういや自己紹介してなかったよね。僕はウィル。この子のお目付け役。」

 人魂 ーウィルは少女の周りをくるりと回りながら喋る。

「で、こっちがビオラ・ヒアラルク。ツンデレだよ」

「あ"?」

「…冗談だって」

 それから、少しの間が空いた。そこで、ようやく気付いた。

「あっ、俺か。俺は横屋京太郎。よろしくな、ビオラちゃん」

「は? 何で私が人間なんかにちゃん付けされなきゃいけないの?」

「え? いや…どう見ても俺より年下だろ?だからー」

 そこで俺の言葉を遮り、ビオラちゃんは表情を暗転させたまま呟いた。

「私、206。アンタは?」

「にっ、206⁉︎それってもうお婆ちゃ」

「アンタは?」

「にっ、20…」

「はっ、赤ん坊じゃん…」

 馬鹿にした様に乾いた笑みを零し、後ろを振り向いて歩き出した。

「まぁ待ちなよビオラ。…昨日のアクサー、まだ生きてるみたいだよ?」

「⁉︎」

 ビオラ…なんて呼ぼう、うーん…もうビオラでいいや、うん。

 ビオラは歩みを止めてこちらに振り返った。

「大方、爆発した後もまだ耐えてて、透明化して逃げた、とかかな。多分、もうすぐ街で暴れ出すはずだよ」

「あの野郎…‼︎」

 ウィルが言い終わるよりも早く状況を理解したビオラは、その可愛らしい容姿にはとても似つかわしく無い言葉を吐き捨て、走り去った。

「ちょ、待てって!」

「…忙しないなあ。」

 

「ううっ、あっ、あああ…!」

 青年は壁際まで追い詰められてしまった。ゆっくりと近づいて来る恐怖。死の鐘が鳴る幻覚。怪物の腕が振り上げられた、その時。

「待ちなさい」

「…?」

 怪物はゆっくりと腕を下ろし、こちらに向き直った。

「…はあ。…めんっどくさ」

 大きなため息を吐きながら、ビオラは少しずつ怪物に歩み寄って行く。

 突如、ビオラの腹あたりから青白い炎が現れた。炎が消えると、何かの機械が腹に巻きついていて、ベルトも出て来た。気付いたら、ビオラの右手には赤い球体が握られていた。

【サラマンダー!】

 天頂のボタンが押され、機械音声が鳴り響く。

【セット アップ!】

 球体がベルトに嵌ると、神秘的な待機音が流れ始めた。

【…変身】

 その声と共に、ベルト左側のレバーが倒される。

【サモン!】

 叫びと共に半透明の赤い蜥蜴みたいなのが球体から現れた。

 直後、黄色い光がビオラを螺旋状に包み込む。光が弾け飛び、黒い素体が現れた。

【燃え盛る炎、その勢いは特急の如く! その炎、万物を溶かし尽くす!】

【フレイアーーーー…サァラマンダーー!!】

 プロ実況での解説かの様な変身音を垂れ流しながら赤い蜥蜴がビオラ?にとり憑く。

「さあ…来なさい。人智の先を見せてあげる」

 

「おい、ちょま…何だよアレ!」

 [戦士]を指差し、俺はウィルに問い掛けた。

「仮面ライダー。…仮面ライダー、エルフ。そういう風に呼んでるよ。」

「…すげぇ、そのまんまなネーミングだな…」

 

「ギャアッ⁉︎」

 昨日取り逃がした怒りからか、その拳にはいつもより怒気が込められていた。殴られ、転がる。怪物が起き上がるよりも早く、仮面ライダーエルフは缶蹴りの様に蹴り飛ばした。

「ガア…」

 エルフは苦しむ怪物の胸ぐらを掴み上げ、一切の慈悲も無く顔面を殴る。

「ギュルッ…」

「はあ…はあ…これで…終わり…!」

 エルフはもう一度球体のボタンを押す。

【サラマンダー!】

 そのままベルト右側の太いレバーが倒される。

【カモン! フレア! スピリチュアル!】

「はあああああ!」

 エルフは空中できりもみ回転をし、そのままの勢いで横に脚を振り抜いた。

「グルッ…アアアアア!!!」

「人間風情がちょっと頭を使ったところで、所詮はこの程度って訳ね」

 怪物は爆発した。今度こそ倒したろ…。

 

「そういやさ」

 大学の近くにあるソフトクリーム屋の席に座りながら、俺はふと思い出した疑問を投げかける。

「アクサーって何だ?」

「あれ? 名前言ったっけ?」

「言ったな」

 ふーむ、と少し考えてから、ウィルが答える。

「アクサーって言うのは、さっきの怪物たちの名前だね。例えばさっきのだったら…うーん、透明だったし、クリアアクサーとかでどう?」

「どうって…俺が決めて良い事なのか…?」

「さあ?」

「さあって…」

「兎に角、あいつらはアクサーって名前。実際、僕らのとこに来た奴らがそう名乗ってたからね。だから、他のも何とかアクサーって呼んでるんだ。」

「ほえ〜…」

「これでわかったでしょ。アンタみたいな雑魚が首突っ込めることじゃないの。分かったら帰って」

 横からビオラが催促して来た。が、勿論帰るつもりは無い。

「いいや帰らないね、ちょっとエルフに興味が出てきた! だから……?」

 一瞬。一瞬だけだったが、確かに今、ビオラが怯えた様な顔を見せた。それからすぐに元のしかめっ面に戻ったが、もう一つ忘れられないものが増えたことが、俺にとっては何より怖かった。




はい、2話です。ぶっ通しでやるとやばいですね。皆さんは、何かする時は休み休みしましょう。
読み返してみると、ホントに状況説明しなさ過ぎだなぁ…がんばらねば。
今更ですが、本作のヒロイン枠 横屋京太郎くんの名前は、「すごい名前生成器-創作・ゲームに使えるランダム人名ジェネレータ」様よりお借りしています。
URL貼っときまーす。
https://namegen.jp/


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第3話 Justiceー家族への墓参り

3話です。今まで短すぎたのでもっと長くしようと思ってます。
…怪人に興味持ってくれる人いるかなぁ。
いや、そもそも読んでくださる人いるかなぁ。


「ねぇ」

「うるさい」

「ねぇねぇ」

「うるさい」

「ねぇねぇねぇ」

「うるさいって言ってるでしょ‼︎」

 ビオラは激昂した。自分に執拗に話しかけてくる精霊に。

「彼氏作らないの?」

「うるさいって!」

 ここ30分ほど繰り返し聞いてくる。本当にうんざりする。

「…うえ〜ん、ビオラちゃんが意地悪するよ〜う…」

「気ン持ち悪…」

「そこまで言うことないでしょ⁉︎」

 

 

 私は、荒廃した山道を歩いていた。正直、目的を考えると気が滅入って仕方ない。私の目的は一つ。…久しぶりに、墓参りに行くこと。あの時のことを思い出すと、体中が厭悪と憤怒、哀愁で震える。

 

 

 

ー過去

『お母さん! お父さん! お姉ちゃん! ライラ!』

『お姉…ぢゃ…』

『逃…げ…』

『…!ライ…』

 

ぐしゃっ。

 

 何かが壊れる音が私の耳を劈いた。

 そして、理解した。

 

 目の前で、妹の頭が踏み潰されたのだと。

 

 人間たちにとって、エルフ(私たち)はその程度の存在なんだと。

 

 そして次は、私の番なんだと。

 

 家族を殺した「腕」が迫り来る。

 

『あ…うあ…ああああああああっっ!!!』

私は、泣き叫びながら一心不乱に走り出した。

そして考えた。

 

 私たちが何をした?

 何で人間は襲って来た?

 …なんで、みんながころされなくちゃいけないの?

 

 

     

ねえ        なんで

 

 

『…必死だね。それもそうか。命の危機だもんね。』

『…誰?それに…何でそんなに冷静なの?』

『…諦めてるからだよ。命も、里も、何もかも。』

『…』

『君は諦めないの?』

『…もう、誰も居ない。私と一緒に遊んでくれる友達も、私が馬鹿やって、叱ってくれるお兄さんも……私の帰りを待っててくれる、家族も。』

私は膝から崩れ落ち、ぼそぼそと呟いた。

『そっか。じゃあ一緒に諦めよう?』

『…うん。』

 

『ちょいと待ちぃや』

 

『…?』

 

『その台詞を黙って聞き流す訳にはいかねぇよお』

『…誰』

 ビオラたちの目の前には、半透明で赤い蜥蜴の様な何かが浮いていた。

『自己紹介だな。俺ぁサララ。しがないサラマンダーよ』

『サラ…マンダー…?』

 不思議そうにビオラが尋ねる。

『うえっ⁉︎俺のこと知らないとか言う⁉︎』

 ビオラは黙ったままこくりと頷いた。

 

『げーマジ?うーん…ってうおっ⁉︎』

 怪人達がビオラたちの元にたどり着いた。複数存在する「腕」の中で、一対だけ巨大なのが目立つ怪人。蠍の尻尾の様なものを携えた、古ぼけた大樹の様な色合いをした怪人。最早万事休すとも言えるこの状況の中、サララはとんでもない提案をしてきた。

『…この状況を何とかする方法が一つだけあるんだけど…聞く?』

『…聞くだけ聞いてみようか。』

 諦めた様な声で「人魂」は呟く。

『…そこの嬢ちゃんに、「仮面ライダー」になってもらうこと。そうすれば…』

『何でもいい』

 ビオラが零す。

『…諦めずに済んで、それで…』

 

『家族の仇に、復讐出来るなら。』

 

『良いのか?この道を選べば嬢ちゃんは…』

『何でもいいって言った。…だから、早くして。』

『…オッケー』

 そう言うとサララは、ビオラの腰あたりに手(前足?)を翳した。すると、どこからともなく青白い炎が現れた。炎が消えると、そこには「ドライバー」があった。左の方から帯が出てきて、自動的にビオラの腰に巻き付いた。

『えっ…何これ…』

 困惑するビオラを尻目に、サララは口から赤い球体を吐き出した。

『よっと。これ使ってくれ』

『えっ…本気で言ってる…?』

『…一応弁明しとくが、「何でもいい」って言ったのは嬢ちゃんだからな。』

『…』

『それは「サラマンダーオーブ」だ。俺がサラマンダーだからな。先ずはオーブのボタンを押してくれ』

 説明されている間にも、怪人達はじりじりと距離を詰めてきている。

 ビオラは、覚悟を決めた。

 

【サラマンダー!】

 

『そのまま真ん中の空いてるところにオーブを入れろ!』

ビオラはいわれるがままに動く。

 

【セットアップ!】

 

『左の方に小さいレバーがある!それを倒せ!』

 

【サモン!】

『なっ、何⁉︎』

 突然ビオラの体が螺旋状の光に包まれた。

 少しして光は弾け飛び、黒一色の素体を纏ったビオラが現れた。

 

【燃え盛る炎、その勢いは特急の如く! その炎、万物を溶かし尽くす!】

『何?ほんとに何⁉︎』

『ちょっと失礼するぞ!』

『え?え…』

 次の瞬間、サララがビオラの体目がけて突っ込んでいった。そして、そのままとり憑くかの様に装甲と化した。

【フレイアーーーー…サァラマンダーー‼︎】

『何…この力…!』

 溢れ出る力を全身で感じたビオラの頭の中には、奇妙な変身音のことなど微塵も存在していなかった。

『はあっ!』

 飛び掛かりながら怪人を殴る。それまで感じていた恐怖が嘘の様だった。

 

『これなら…いける‼︎』

 

 ビオラ…いや、「仮面ライダーエルフ」は、勘に任せてベルト右側の太いレバーを下ろした。

【カモン! フレア!スピリチュアル!】

 燃え滾る炎が右脚を包み込む。

『はああああああああっ!!!!!』

 横一直線に脚を振り抜いた。

 

『…チッ。ビネガー、一旦退却だ。』

『はあ!?ざけたことぬかしてんじゃねぇよ‼︎』

『喧しい。帰るぞ。』

『はあ?テメェ…』

 

『待ちなさい!!』

 ビオラが力の限り叫び、「腕」の怪人に飛び掛かる。それを「腕」の怪人はいとも容易くあしらい、跳ね飛ばす。

『あっが…!』

『…用はそれだけか?』

『…答え…なさい…』

 

『何だ女子(おなご)、手短に話せ。』

「腕」の怪人が後ろ向きのまま語りかける。

 

『…アンタらの…アンタらの、名前を答えなさい』

 

 怪人達が振り返り、エルフに答える。

『…良かろう。我が名は「ウィップアクサー」。…憶えて帰るが良い。』

『俺ぁ「ビネガーアクサー」だ。また遊ぼうぜ、ボッチエルフ。…っくはははははははっっ!!!』

 

 

 

ー現在

 ここからだったかな、「虚無」という感情が、「憤怒」に変わったのは。

 そんなことを思い出していると、墓場に着いた。木々が鬱蒼としており、掻き分けていかないと前に進めない。

 水を替え、辺りを軽く掃除する。線香を新しく立て、手を合わせて目を瞑る。

 でも、これは弔いにはならない。

 贖罪にはならない。

 私が、私たちが諦め、見殺しにした命の分。

 私たちは生き、そして……

 

 …アクサーを、殺さなければならない。

 

「お参り終わったぁ?」

 豪華な食事を目の前にして燥ぐ子供の様に純真な声が左から聞こえる。

「…ネディン。お参りの時は邪魔しないでっていっつも言ってるんだけど」

 ネディンと呼ばれたまるでスライムを擬人化したかの様な女性は、自分が何故怒られているのかまるで分からないといった顔をしている。

 

「…で、何の用?」

 若干面倒くさそうに問う。その疑問に対し、ネディンは近所の主婦との会話かの様に話す。

「それがねぇ、美桜坂町の方でアクサーが出たんですってぇ」

 美桜坂町と言えば、京太郎たちが住んでいる町のことだ。

「…放っといていいでしょ、別に」

 冷めた声色のままあっけらかんと答える。

「…じゃあ、こう言えばどう?」

 んふふ、とネディンは含み笑いを挟んでから、

 

「『ビネガーアクサー』が来てるって言ったら。」

「!!」

 その瞬間、ビオラは走り出した。

「ああんもう、忙しない子…」

 慌ててネディンも後を追う。

 

 

 ビオラが着いた時、町は既に荒れたい放題だった。

 叩き割られた硝子、建物全てを飲み込みそうな勢いで燃え広がる火災。

 嘗て壁や天井だったものの破片も散乱している。

 その惨状の中に佇む影が二つ。

 

 一つは、パンダの様に白黒の、それでいて蜂の様な意匠を持つ怪人。

 

 もう一つは、『闘い』に魅せられ、そして狂った蠍擬き。

 

 ヤンキー座りでこちらを見つめる蠍擬きに、ビオラは目をつけられてしまった。

「…よォ、エルフちゃん。俺とちょっと遊んでかね?」

「…殺す。」

 一言だけ発し、ビオラは変身する。

 

【フレイアーーーー…サァラマンダーー‼︎】

「へへッ…いいじゃねぇかァ、上等じゃねぇかァ、そうこなくっちゃなァァァッ!!!」

 叫んだと同時に立ち上がり、走り出す。

 ビネガーアクサーは右腕をブンブンと振り回し、エルフの顔面目がけて右ストレートをかます。

 エルフはそれを見切って躱し、お返しとばかりに右ストレートをビネガーアクサーの胸部に叩き込む。少しだけ後退りさせたが、構わず突っ込んでくる。

 もう一度殴りかかるが、今度は左手で受け止められる。手を掴んだまま振り回され、壁に叩きつけられる。

 

「がっ…」

 

 苦しむエルフに、白黒の蜂の怪人が歩み寄る。

 しかし、ビネガーアクサーが白黒蜂怪人の胸ぐらを引っ掴んで止めた。

「邪魔してんじゃねぇコラ。テメェはあっちで破壊でもしとけ」

 手を離された怪人は、怯えた様に震えて明後日の方向に走り出した。

「よ、悪りィな、邪魔が入っちまった」

 先程のやり取りをまるで無かったかの様にして言う。

「まだまだ足りねェよなァ? 遊びてェよなァ? そうだよなァ⁉︎」

 尋ねながら右脚でエルフを蹴り上げる。

「うぐあっ…!」

 耐えきれなかったのか、地面に落ちたと同時に変身が解ける。

「うっ…くう…」

「おいおい…もう終わりかよつまんねェなァ……もう帰れ。体調が万全になったらまた来い」

 それだけ言うと、ビネガーアクサーは溶ける様に消えた。

 

 

「うおあー…こりゃ酷ぇな…」

 正午過ぎ。偶々アクサー二体が襲撃して来た日と遊びに出かける日が被った京太郎と凱は、町の惨状を理解する為にかなりの時間を要した。

「…ん?」

 ふと、京太郎の目に何かが留まった。

「悪りい凱、ちょっと待って」

「んお?何だぁ?」

 京太郎は目に留まった何かに駆け寄った。

 その何かとは…

「この子! この前の美少女じゃねぇか⁉︎」

 ビオラだった。どうやら、凱の目にもビオラは美少女として映っているらしい。

「おい大丈夫か…?手ぇ貸すから頑張って立…」

「いらない」

 ビオラは冷ややかに一蹴した。

「…自分で立てるし、何より……」

「人間の手を、借りたくない」

 そうぼやくと、ビオラは壁に手を掛けたまま何処かへ歩き去っていった。

「おっ、おい! ビオラ!」

 京太郎の叫びが届くことはなかった。

 …が、代わりに凱が反応した。

「へぇー…あの子、ビオラって名前なんだなぁ〜…」

「あ…そうか、そういや凱知らなかったよな…」

「…なんだか、ボディーソープにありそうな名前だな…」

「どういう感性してんのお前…」

 いつもと少しだけ立ち位置が変わった二人は、いつしかビオラのことが頭から消え去ってしまっていた。




はーい3話ですどうも。実は2話で新フォーム出す予定だったのに4話になってしまったり、3話で今回の怪人「ベルベットアクサー」を暴れさせるはずだったのにビネガーアクサーと一緒に出したばっかりに何もさせてあげられなかったり…悉く上手くいきません泣


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第4話 Re:Justiceー水棲の女王

ようやく新フォームでござんす。
どうでもいいんですけど、本作の怪人たちは「気持ち悪い」って言われてそうな生き物をモチーフにしてます。例えば、1話で出たクリアアクサーはグラスフロッグという生き物がモチーフです。是非調べてみてください。


「だー…クソつまんねェ…おい託斗、なんか面白ェ奴いねぇか?」

 明かりの少ないとある研究室。そこの床に寝転びながら、ビネガーアクサーは問う。

 

「そう焦らないでくださーい。僕も忙しいんでーす。」

 託斗と呼ばれた男は、パソコンとにらめっこしたまま軽快に答える。

「テメェもテメェだ。いっつもカタカタカタカタるっせーんだよ…」

「…じゃあキャメルの所にでも行ったらどうです?彼女なら相手してくれるでしょうし…」

「俺アイツ無理なんだよ。口を開けば託斗様託斗様って…カセットテープかっての…」

「ふーむ…困ったねぇ…」

 託斗は、右の親指と人差し指で自分の顎の輪郭をなぞりながら呟いた。

 

 

「ねぇねぇ、君達ってさ、彼女とか居る?」

「いや、その前に…どちら様?」

 講義を受けに大学に来ていた京太郎と凱は、スライムを擬人化した様な、どことなく大人の雰囲気を醸し出している半透明の女性(?)に声をかけられていた。

「あぁ、やっぱり気になるぅ?」

 どこが「やっぱり」なのかさっぱりだった二人は、ただただ苦笑いを晒すことしか出来なかった。

「私はネディン。これから貴方達二人の内どっちかの月下氷人になる女よ。よろしくね♪」

「…なあ凱、『ゲッカヒョージン』って何だ?」

 京太郎はネディンに悟られない様に凱に耳打ちした。

「…要するに、仲人ってことだ。」

「…『ナコード』って何だ?」

「…マジかよお前…」

 そんな会話を繰り広げていた二人は、一つの足音が近づいて来ているのに気付いた。

 

「…何してんの?」

 足音の正体はビオラだった。いつも通りのしかめっ面のまま尋ねてきた。

「いや…それこっちの台詞なんd」

「アンタが私のこと言いふらさないか見張りに来てんの。アンタを殺せばその必要も無くなるんだけど…」

 バンッ!と机を叩きながらビオラは静かに告げる。

「言いふらさないかって…言いふらして何になるんだよ…」

「あぁ、それはねぇ…」

「ネディン‼︎余計なこと言わないでって‼︎」

 ビオラはネディンの方を向いて叫ぶ。

「…お前も大変なんだな…」

「…」

 

「そう言えば、彼女がどうとか言ってたよな?あれ何だったんだ?」

 横から凱が冷静に尋ねる。

「あぁそれ?実はねぇ〜、ビオラちゃんの彼氏とかどうかな〜と思ってさ〜。」

「はあ⁉︎馬鹿じゃないの⁉︎人間の彼氏とか頭おかし過ぎるでしょ!」

「ま、ビオラならそう言うよねぇ〜」

 いつの間にかウィルがビオラの後ろにいた。正直俺はウィルほど「神出鬼没」という言葉が似合う奴は居ないと思う。

「僕から言わせてもらうなら、ネディンはもうちょっと色々疑うことを覚えた方が良いよ?」

「えー?でもでも、信じないことには何も始まらないでしょー?」

人間(こいつら)を信じた所で始まるものなんてないでしょ」

「ちょ、ビオラちゃ…」

「うるさい」

 そのビオラの一言によって、辺りに静寂が訪れた。

 

「…。よし、雰囲気変えようか。ビオラ、アクサーが出たよ」

「えっ嘘でしょ⁉︎」

 ビオラは何処にいるのかも聞かずに走り出した。

「…まさかとは思うけど、ウィルが出したりとかしてる訳じゃないよな…?」

「いや〜、僕にそんな能力はないよ、第一あったとしても使うメリットが無いしね。」

「…だと良いけどな…」

「あれ?もしかして疑われてる?」

「…そんなことより、ビオラんとこ行った方が良いんじゃないのか?」

「…それもそうだね、行って来るよ。」

「…」

 

「…なあ京太郎、あの人魂みたいなのって悪い奴なのか?」

「いや…まだ分からん。あくまでも可能性の話だ」

 そう、あくまでも可能性の話。別に何かそういう素振りがあったとかじゃない。素振りっていうかなんていうか…人魂だから素振りもクソもないな…

 仮にウィルがアクサーを生み出していたとして、そのメリットはなんだ…?

 …駄目だ、分からん。結局できるのは、あいつがヤバい奴じゃないよう祈ることだけか…

 

 

「…居た」

 白と黒の色が螺旋状に絡み合っている蜂の怪人、「ベルベットアクサー」を捉えた。どうやら、まだ建物を破壊する段階には至っていないらしい。

 腹部に青白い炎を出現させ、変身の準備を整える。

【サラマンダー!】

【セットアップ!】

【サモン!】

 オーブから半透明の赤い蜥蜴、サララが呼び出された。サララはその勢いでとんぼ返りをし、光がビオラを包むよりも早くとり憑いた。赤い炎にも似たオーラが、ビオラを包んでいる。

「…いくよサララ、力を貸して」

「…合点だ」

 螺旋状の光が、オーラごとビオラの体を包む。光が弾け飛ぶと同時に、炎のオーラが装甲に変わり、エルフの体にくっついていく。

【燃え盛る炎、その勢いは特急の如く! その炎、万物を溶かし尽くす!】

【フレイアーーーー…サァラマンダーー‼︎】

 

「…さあ、来なさい。人智の先を見せてあげる」

 

 決め台詞をしっかり決めてから、エルフは走り出す。

 エルフの拳とベルベットアクサーの拳がぶつかり合う。

 少しだけエルフが押し負け後退りするが、すぐに体勢を立て直し再び拳を振るう。

 躱し躱され、偶に胸部にヒットする。そんな競り合いを嫌ったのか、ベルベットアクサーはその特徴的な白黒の色合いを、何かに侵食されるかの様に赤黒く染め上げた。

「色が…変わった…?」

 その直後、ベルベットアクサーは体の赤い箇所から無数の火球を飛ばして来た。

「ちょ、ちょっと、そんなのあり⁉︎」

 エルフは右へ左へ転がりながら火球を避ける。

「この…!」

 エルフは自らの右腕を燃やし、ベルベットアクサーに近づいて全力で殴る。

 吹き飛んだベルベットアクサーは、立ち上がりながらその燃える様に赤い箇所を濃い青に変えた。そして右腕を目の前に翳し、右手から毒を噴射した。

「くうっ、あっ!」

 流石のエルフでも毒に耐えきれず、悶え苦しむ。

「くっ、あ…」

 

 

「もう!ホントに忙しない子!」

 そこに、ネディンが近づいて来た。悶絶するエルフの後ろに立ち、喋りかける。

「ほらサララも、無理しないの。あとは私に任せなさい。」

(悪りぃ…任せたわ…)

 サララが声を出し、エルフの元から離れる。同時にエルフの装甲も無くなり、黒い素体が露わになった。

「OK、まかされたし!」

 ネディンがオーブへと姿を変え、エルフの左手に握られる。

 エルフは胸の前でオーブを構え、天頂のボタンを押し込む。

【ウンディーネ!】

【セットアップ!】

 ベルトの中央に嵌め込み、変身待機音を鳴らす。

「…変身!」

 左側のレバーを倒す。

【サモン!】

 サララ同様、オーブからネディンが飛び出す。とんぼ返りをして、エルフの上空から垂直に降りて来る。

【その淑女、泡沫の様に儚く散りゆく小さき命。荒波の如く激しく在れ!】

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

 そして、仮面ライダーエルフ ウンディーネスレイヴは顕現した。

 と同時に、エルフを侵していた毒が消え去った。いや、正確には取り込んだのだ。

「…ごめん、ありがと」

(そんなの気にしなーい!ほらいくよ?)

「…分かった。今度こそ…人智の先を見せてあげる」

 左の人差し指でベルベットアクサーを差しながら宣言する。

「…グルッ!」

 激昂したベルベットアクサーは右手から毒を噴射した。

 エルフは、歩きながらゆっくりベルベットアクサーに近づきつつ、左の掌を翳す。

 すると、どういうわけか、噴射された毒を全て吸収した。左手を握り締めて下ろし、今度は右の掌を突き出し、

「お返し。」

 掌から吸収した毒を噴射した。

「ギュレアッ!」

 まさか返されるとは思わなかったのか、ベルベットアクサーはその毒を正面から喰らった。

「ハア…グルルッ!」

 ベルベットアクサーは、やけくその様に色を橙と黒に変え、瞬時に3体に分身した。

(あら、そんなことも出来るの?奇遇ね、実は私たちもね、)

「「「「「分身出来るの。アンタより多く」」」」」

 エルフは一瞬だけ体を液体に変え、新たに4人分の体を造った。

 エルフの声が5重となって響く。

「「「「「これで5対3。5人分の必殺技を喰らいなさいな」」」」」

 次の瞬間、5人のエルフは同時に右側の太いレバーを下ろす。

【カモン! アクア! スピリチュアル!】

「「「「「はあっ!」」」」」

 飛び上がって空中で前宙返りをし、完全に同期した動きでライダーキックを繰り出す。

「「「「「はあああああっ‼︎」」」」」

 ベルベットアクサーの必死の抵抗も虚しく、5人のライダーキックを受け爆ぜ散った。

 

 

 

「なあなあ」

「なになに?」

「ウィルウィル」

「京太郎京太郎」

「なんで態々2回繰り返してんの?」

 町から少し離れた公園の隅で、京太郎、ビオラ、ウィルは屯していた。急用につき凱不在のため、ビオラがボケ二人組を捌かなければならなかった。

「あのさ、ウィルってさ、いつからさ、ビオラとさ、一緒にさ、いたのさ?」

「それはさ、そこそこさ、前からでさ、大体さ、1年くらいさ、前からさ」

「思ってたよりさ、早くってさ、吃驚したさ!」

「なんでさっきから最後に「さ」って付けてんの…?」

「「一種の遊びさ!」」

「…バカみたい」

 今日も太陽の下で、いつも通りの馬鹿騒ぎが繰り広げられていた。




4話でした。台詞が多すぎて劇の台本みたいになっちゃった。
今回ウンディーネ大活躍。途中で披露した分身、あれ実は書いてる時に思いついたもので、自分でも予想外でした。

…あれ?そう考えるとサラマンダーなんにもしてなくない?


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第5話 Breezeー修羅への侵入者

5話でさぁ。
青ずきんは感想中毒なので、どんどん感想くださいお願いします(切実)
ついでに、怪人の元ネタについて喋った方がいいかもお聞かせください。
青ずきんは怪人の方が好きなので。


「なあ京太郎」

「んだ〜?」

「お前さ、明後日提出のレポート終わってる?」

「…」

「…」

「なあ凱、ハワイ旅行って興味無い?」

「ハワイに逃亡しようとするな」

「なあ凱、ハワイに行くためのお金持ってない?」

「お前金も無しに行こうとしてたのかよ…」

「なあ凱、俺の代わりにレポートをやるって仕事に興味無い?」

「おいしれっと俺にやらせようとするんじゃねえ」

「…」

「…」

「も〜やだよぉ…無理だよぉ…」

 京太郎は机に顔を埋めて泣き言を垂れる。

「なーんかレポートの話出た時『うおっしゃ!得意なやつ来た!最高すぎるだろ!』とか言ってた人が居た様な気ィするんだけどなー」

「そいつ土星人じゃね?」

「お前のことだよ」

 大学近くに点在する洋菓子店。シックな雰囲気がとても落ち着く。そこには、この世の終わりかの様な顔をした青年と、それに呆れる青年の姿があった。

 まだ手のつけられていないチョコレートケーキが少しずつ溶け始める。

 凱は、それを大量の砂糖が入ったコーヒーを口に含みながら眺めていた。

「…お前さぁ、いくら得意な分野からレポート出たっつっても計画的にやるってことをな…」

 

『速報…す。現在、美桜……方…………現…ている、』

「んん?」

 遠すぎてよく聞こえないが、何やら外でニュースが報道されているらしい。

 京太郎は席を立ち、代金も払わないまま店の外に出ていった。

「ちょ、おい待て馬鹿!」

 凱はチョコレートケーキを一口で丸呑みにし、二人分の支払いを済ませて急ぎ足で京太郎を追いかけていった。

 

 ビルの5、6階ほどの高さに取り付けられた巨大なスクリーンにて、女性アナウンサーが報道をしていた。

『件のヒーローと思しき存在は、現代科学では解析不明な、超常的な能力を使用していると思われる部分があり、各機関は正体の究明を急いでいます…』

 

「おい、あれって…!」

 そのニュースで使われていた監視カメラの映像には、確かに仮面ライダーエルフが映っていた。

「なんか知ってんのか?」

 凱はスクリーンを見上げたまま聞いてきた。

「…間違いねぇ。あれは…ビオラだ」

 

「…あの子か」

 凱が視線を向けた先には、なんとビオラが立っていた。

 腰まで届きそうな長髪を靡かせ、何処かに歩いていった。

「うっそだろあいつ…!」

 俺は走ってビオラを追いかけようとしたが、すぐに凱に襟元をつかまれて引き戻された。

「ちょ、痛ぇって!」

「お前アホだろ」

「はあ?」

「どうせあの子んとこ行って、『お前ニュースで報道されてるぞ! 気をつけろ!』とか言うつもりだったんだろ?」

「俺そんな声してねぇし!」

 凱は中途半端に声を高くして馬鹿にしてくる。

 

「ともかく、街中で堂々とそんなこと叫んでみろ、すぐにでも怪しい実験施設行きだぞ」

「はああ? 何でだよ!? 説明してみろ10文字以内で!」

「変な制限つけんなよ…いいか、まずだな、」

「はいアウトー多分10文字越したー!」

「うぜえなそれ! あと「多分」で判断してんじゃねぇ!」

「いいからさっさと説明してくれよ」

(コイツ…殴りてぇ…!)

 凱は拳を握り締めたものの、なんとか怒りを堪えた。

「…あのな、もしあの子がー」

「あっ、やべぇ! ビオラ見失ったかも!」

 京太郎は話を聞かずにビオラが居た方へ走っていった。

(これはキレてもいいよな…?)

 凱は京太郎の後ろからとんでもない殺気を放っていたが、京太郎がそれに気づくことは無かった。

 

 

 

「くっそー…どこ行ったビオラのやつ…」

 京太郎はビオラを追いかけて森の中まで来ていた。ビオラが森の中に入って行ったのを見ただけなので、明確な居場所は分からない。既に京太郎は、陽も通さない程木々が生い茂っている森の奥の更に奥まで来てしまっていた。迷ってしまったが故、後戻りも出来ない状況。そんなことを考えもしなかった京太郎は、只管に前に進み続けていた。

 

 

 ……後ろから跡を辿って来る足音には気付かずに。

 

 

 まだ陽が照っているのにも関わらず、此処は明かり一つない真夜中の様な恐怖感を醸し出していた。

 小さな枝を掻き分けながら進んでいると、京太郎は足の爪先の方に、地面としての感覚が存在しないことに違和感を覚えた。

「ん? 何だこ…こおおおおおおおおお!?」

 京太郎が右足で踏み込むと、その勢いで地面が抜け、そのまま落とし穴の要領で落ちていった。

「うおおおおおおあああああああああ!!?」

 

 

 

「…おおお……あああ…」

 

「…なんかうるさいね」

「…うるさいね」

「…でも、なんかちかくなってきてない?」

「…ほんとに?」

「…ほんとに。」

「おおおおああああ!!!」

「「わあっ!!」」

 直後、京太郎は落とし穴(?)の下に作られていた泉に落下した。幸い怪我は無かったが、服がずぶ濡れになってしまい、おまけとして「里」の住人の注目を浴びることとなってしまった。

 

 

 エルフの里。森の奥深くまで来ているはずなのに、此処は木漏れ日が差していた。

「痛ってぇー…」

 腰をさすりながら立ち上がる京太郎に、幼い双子が尋ねる。

「…おにいちゃん、だれ?」

「…おにいちゃん、にんげん?」

「お、お兄ちゃん!?」

 鋭い目つきをした赤髪サイドテールの幼女。対して同じ髪色のツインテールの娘は穏やかな目つきをしている。ボロボロなワンピースを召しているが、あまり裕福でない家庭の子なのだろうか。京太郎は恋人繋ぎをしている幼女二人のお兄ちゃん呼びに困惑しながらも、冷静に状況を整理して質問に答える。

 

「あーえっとな、俺…いや僕? 僕の方がいいか…?」

「おにいちゃん、『おれ』でいいよ」

 榛色をした眼を輝かせながら、双子の内の一人が発言した。

「…そっか、俺は京太郎。横屋京太郎。呼び捨てで良いよ。」

「わたしはてぃえら。こっちはおねえちゃんの…」

「…てぃえら、なまえ、かんたんにいっちゃだめってままにいわれたでしょ。てぃえらだけじゃなくて、しえらまでこまるんだよ?」

「おねえちゃん、なまえ、いっちゃってる。」

「…あ」

 姉の方のシエラは、明らかにしまったという顔をしている。

 

「まあまあ…それよりさ、ここって……どこ?」

「…ここはえるふのさと。むかしは、きれいだったんだけどね…」

「え…?」

 ここまで来て漸く、京太郎の目がエルフの里の景色を捉えた。その光景は、お世辞にも美しいとは言えない、惨憺たるものであった。

 

 崩れ去ったままの家。何かの焼け跡。血腥い臭い。

 

 一体ここで何があったのか、京太郎の頭では想像も付かなかった。考えることを諦めた京太郎は、双子に聞くことにした。

「…ここでさ、一体何があったのか…教えて……くれないかな?」

「うん、いいよ。」

 ティエラは元気良く頷いた。しかし、シエラはそれを良しとせず反駁した。

「…よくない。…にんげんはてき。てぃえらもみたでしょ。……ままとぱぱがしんじゃうとこ。」

 

「えっ……?」

 俺は驚愕した。確かに、ビオラに関して気になることはいくつかあった。

 

 初対面の時、それまで一切関わりの無かったはずの俺に対し、『死にたくなかったらこの場から消えろ』と発言していた事。

 

 俺が『エルフに興味が出てきた』って言った時に、怯えた様な顔を晒していた事。

 

 そして目の前の幼女が語った、『ままとぱぱがしんじゃうとこ』……即ち、両親の死。そして、『むかしはきれいだった』という言葉。

 

 加えて、エルフの里のこの惨状。

 

 

 ここまでくれば、エルフの里、そしてエルフたちに何があったのか、俺でも分かる。

 

 ……あの、ビオラの異常な人間嫌いも。

 

 ーきっと、ビオラたちは───────

 

 

 

 

「…何で此処にいるの?」

「うれわあぁ!!!」

「腕輪?」

「違ぇよ! いつの間にか後ろに立ってんじゃねぇ!」

「じゃあ私がいつの間にか里に入ってんじゃねぇ! ってツッコんでも良いよね?」

 後ろからビオラが急に声をかけてきた。ホントにびっくりするからこういうのマジでやめて欲しい。あーホントにビビった…マジで口から心臓がまろび出るかと思った……

 

「…で、本当に何で此処にいるの?」

「…それに、シエラとティエラも」

「…おねえちゃん。」

「…おねえちゃーん。」

「…! 知り合いか?」

「そりゃあね。私たちは少数で集団作って生きてるし」

 

「……尤も、アンタら人間の所為でもっと少なくなったけど…」

「………」

「…今度は邪魔しない。…何で、此処にいるの?」

「うえっと…町でニュースやってる時にビオラが遠くに見えて、ニュースの内容がアレだったから、ビオラに危ねえぞって言おうとして、そしたら凱に止められて、」

「長い。もっと短く説明出来ないの?」

「落とし穴に落ちたら此処に居た!」

「…ごめん、私が悪かったから丁寧に説明して。」

「えっとな、ビオラ追いかけてたら迷って、でなんか落とし穴があって、それに落ちて此処に…って感じだな」

「…落とし穴?」

「そうそう」

 そう答えると、ビオラはうーんと深く考え込んでから、

「…人間一人分くらいの?」

 と尋ねてきた。それに対して俺は、

「そうそう、ちょうど俺一人入るくらいの」

 と返した。

「……なるほどね。どうせ碌に隠したりしてなかったんでしょ、サララ(あのバカ)…!」

 そう吐き捨てるビオラを気にも留めず、俺は自分の疑問を投げかけた。

「…なあ、此処ってさ、落とし穴に落とされた以上地下だよな? それなのに何で木漏れ日が差してんだ?」

「…意外。木漏れ日って言葉知ってたんだ。」

 目を見開いたままビオラが言う。

「流石にそれはバカにしすぎじゃないですかね…?」

「…ま、それは置いといて」

「置いといてんじゃねぇよ」

「うるさい。説明出来ないでしょ。此処の景色が違うのは…」

「それわたしがせつめいしたい!」

 ティエラが元気良く左手を挙げた。

「…てぃえら。」

「これくらいならいいでしょ。おにいちゃんはわるいにんげんじゃなさそうだし。」

「ちょ、ティエラちゃん、ここで『お兄ちゃん』呼びはちょっと…!」

「…大丈夫。シエラもティエラも、二人より大きかったらそう呼ぶ子たちだから」

「あ…そうなのか、ビックリした…」

「…もういい? じゃあせつめいするね! あのね、じつはここ、たぶんおにいちゃんのしらないところなんだよ!」

「…知らないとこ? …まさか異世界転生!?」

「バカなの?」

 冷めた声でビオラがツッコむ。

「えっ…じゃあどういう事なんだよ!」

「おにいちゃん、『おとしあなにおちた』っていってたでしょ? そのおとしあなってね、ちがうばしょをつなぐまほうがかけてあるの!」

「…違う場所? どういう事だ?」

「…後は私が説明する」

 ビオラは仕方なさそうにため息を吐く。

「私を追いかけたって事は、私が森に入ってったのも見てたんでしょ?」

「…そうだな」

エルフの里(ここ)は、その私が入ってったのを見られた森とは違う所なわけ。あの落とし穴……私たちからすれば『扉』なんだけどね。アレさえ塞げば、人間が里の場所を特定するのは難しくなるって仕組み。そして、その『扉』を特定されて人間たちに攻められたのが『ヒューマレジスタンス』。これで分かったでしょ? 私が、人間(アンタたち)の事が嫌いな……憎んでる様な理由と、里がこんな事になってる理由」

 ビオラは『里だった場所』に目を見やる。

「……」

 予想は当たっていた。

 ──当たって欲しくなかった、予想が。

 

「…そういえば、シエラちゃんは?」

 近くに姿が見えない。何処かに行ったか?

 

「…おねえちゃん、たすけて……!」

「「「…!」」」

 

「ラクケエ…!」

 俺たちの後ろには、かなり長い羽を背負い、イカの足みたいに白くて長い触手の様な何かを携えた怪人が、シエラを抱き抱えて…いや、人質……エルフ質?にしていた……!

「京太郎といいアンタといい…簡単に特定してくるのやめてくれる…?」

 ビオラはベルトと青い球体を出現させ、変身する。

【ウンディーネ!】

【セットアップ!】

「変身!」

【サモン!】

 球体からネディンが現れる。

(やっほー!お呼びー?)

「ネディン、アイツぶっ飛ばすから力を貸して」

(はーい!ネディえもん、参りまーす!)

【その淑女、泡沫の様に儚く散りゆく小さき命。荒波の如く激しく在れ!】

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

 

「さあ、来なさい。人智の先を見せてあげる」

「なあ、思ってたんだけどさ、その実況みたいな変身音どうにかなんねぇの?」

「…うるさい」

 その一言だけ発し、ビオラは「ワックスアクサー」に突撃していった。しかし……

「イアラッ!」

「なっ…!」

 あろうことか、そのアクサーはシエラを盾かの様に突き出してきた。

 エルフが迂闊に手を出せないでいると、ワックスアクサーは尻尾(?)を伸ばして攻撃してきた。

「ぐうっ…」

 エルフは猛攻をなんとか防ぎながら、左手から水流を噴射してみせた。

「ルガッ!」

 しかし、それすらも他の触手に防がれてしまった。

 ワックスアクサーはこの隙を突き、触手を絡めて太くし、薙ぎ払いでエルフを吹き飛ばす。

「うあっ!」

 吹き飛ばされたエルフはダメージによって変身解除を余儀なくされた。

「く…」

 地に伏しても尚強く睥睨するビオラに、ワックスアクサーはトドメと言わんばかりの触手による猛攻撃を繰り出して来た。

「……!」

 ビオラが覚悟を決めた、正にその時。

 

 

 風の様に颯爽と、その救世主は現れた。

「……ビオラに、手は出させないよ…!」

 ティエラたち程の低い背丈をしたワンピースの少女は、そう言葉を紡いだ。




回を重ねるごとに長くなってますね、嬉しい。
でも、これそのうち絶対また短くなるよ……次回短くなりそ。
今回少し危ないネタ出てきてますよね、気付いた人居ました?
まあ、気付いた人を探すことより、読んでくださる方を探すことからですね。
因みにですが今(2020/04/02)流行ってる「鬼滅の刃」は青ずきんも好きな作品で、1話がジャンプに載った時から見てました(唐突な古参アピール)
好きなキャラは零余子(下弦の肆のあの子)です。
同志と仮面ライダーエルフを読んで下さる方、そして感想募集中です(2回目)


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第6話 Re:Breezeー明日の風と今日の風

今回の怪人は「ワックスアクサー」とかいう名前してますが、学校の大掃除の時に撒くアレではありません。
じゃあ何でこんな名前してるかって?(誰も聞いてない)
この子のモチーフになったクジャクハゴロモという生き物の尻尾みたいな所がワックスって名前らしいんですよね。それが理由です。
こんな感じでマイナーな生き物たちにも興味を持っていただきたい、そんな6話です。


「ナ…!」

 ワックスアクサーは予想外の乱入者に困惑した。

 同時に、先程までの強者の余裕とでも言うべき傲慢さが消えた。

「ウリュッゼフ…」

 自身の不利を悟ったワックスアクサーは、シエラを抱えたまま触手で身を包み、そのまま段々細くなっていって消えた。

「ちょっと! 待ちなさ…!」

 倒れ伏したままビオラが叫ぶ。

「待ってビオラっ!」

 今度はワックスアクサーの攻撃を防いだ女の子が叫ぶ。淡い黄色のワンピース。限りなく薄い黄緑色をしたショートボブ。紺碧の瞳が、ビオラを優しく見つめている。

「……ごめんね、大声出しちゃって…」

 女の子はビオラに近づき、俯きながら呟く。それに続き、俺とティエラちゃんもビオラに駆け寄る。

 ビオラは震えながらも立ち上がり、

「大丈夫……それよりも、シエラが…」

 と、シエラの心配をするのだった。

 

 

 

「クラ……」

「おかえりでーす」

 託斗は、気絶したシエラを抱き抱えたまま戻ってきたワックスアクサーを迎え入れた。

 しかし、相変わらずのパソコンとのにらめっこ状態での歓迎のため、あまり愛想がある様には見えない。

「なんだぁお前? 幼女の人質とかロリコンか?」

 ビネガーアクサーが顔を近づけて言う。

「…どっちかっていうとエルフ質じゃないですかね?」

「ンなもんどうでもいいんだよ」

 軽く一蹴してからビネガーアクサーは床に着く。

 

 その時、託斗達の居る部屋の近くからドアの開く音が響いた。金属の重低音が谺している。

「……悪い子ちゃんが出たみたいだね…」

「あー……脱走した奴かぁ? 終わったな、ご愁傷様だ」

 託斗は不敵な笑みを浮かべながら椅子を立つ。それに対し、ビネガーアクサーは棒読みで弔いの言葉を述べる。

 

 

 施設の廊下。数十メートルほどもある天井にはあまり電灯が取り付けておられず、薄暗い雰囲気が恐怖感を煽る。裸足のまま死に物狂いで逃げてきた為か、コンクリートの床がとても冷たく感じる。だが、そんなことを考えている暇は無い。少しでも足を止めれば、また培養液の中に閉じ込められる。あそこの中に居続けたら、きっと私は

 

「やあやあ、そんなに焦って何処に行くんです?」

「ひっ!?」

 後ろから男の人の声がした。私はビクビクしながら後ろを振り返る。

 そこには、私のことを培養液に閉じ込めた男の人と、鋏角類の鋏角の様なものが顔になっているベージュの化け物が居た。背中から、蜘蛛の足?が5対飛び出している。アレが、男の人が言っていた怪人としての姿(ちょっと面白い体)なのだろうか。私がもう少し逃げ出すのが遅ければ、私もあんな体にさせられていたのだろうか。

 

「う…あ…」

 恐怖で後退りすることしか出来ない。逃げなきゃ。するべきことは分かっている。でも、足が動かない。言うことを、聞いてくれない。

 遂に私は尻もちをついてしまった。腕を使って必死に距離を取る。

「はあ……手が掛かりますねえ。ま、一人くらい被験体(モルモット)がいなくなったところで、別に問題は無いでしょう。後は任せましたよ、キャメル。」

「…承知致しました、託斗様」

 それだけ言って、男の人は去っていった。

 化け物が、近づいてくる。

「やだ…やだ…!」

「ごめんなさい! 私、お父さんとお母さんに捨てられて、それで、仕方なくて……!」

「…お前の遺言は聞いていない。ましてや、殺人の動機も」

「…今からお前を殺す。これは……託斗様の命令だ」

 結果として、私の命乞いは聞き入れられなかった。

「やだ、やだっ……!」

 私は立ち上がって真っ直ぐ走る。その途中で、何か吸盤の様なものが両肩にくっつく。そのまま私は化け物の元へ引き寄せられる。

「うあっ!」

 化け物の目の前で吊り上げられ、そして………

「あがっ……あ…………」

 化け物──キャメルアクサーの頭部にある鋏角によって、心臓が引き千切られる。キャメルアクサーは、その返り血を全身に浴びた。被験体の女子高生から、鮮血が滝の様に滴っている。

 辛うじてまだ動いている心臓と共に、虫の息になっている女子高生を地面に放る。

「ぁ………ぇぁ……」

 女子高生の周囲に、じわじわと血の海が形成されていく。

「…そうだった」

 

 

「……まだ、声帯が残ってた。」

 

 

 その一言だけ口にして、キャメルアクサーは触肢で首ごと声帯を()し潰した。

 

 

「これで良し…と」

 ワンピースが黄色い方の女の子は、手慣れた手つきで手当てを済ませる。

「…良しじゃないけどね」

 ビオラが冷たく言い放つ。

「おねえちゃん…おねえちゃん…!」

 ティエラが目に涙を浮かべながら呟いている。アクサーが消えてからずっとこれだが、仕方のない事ではあると思う。俺より背低いってのにビオラの奴206歳とか言ってたからな…多分ティエラも俺より長生きしてるんだろう。でも、その分精神の成長が遅いとか、そういうのがある筈だ。

「…それでさ、君は一体…誰なの…?」

 黄色いワンピースの子の方を向いて問う。それに対して、女の子は優しい笑顔のまま答える。

「私はフィルーシュ。一応、風の精霊だよ。」

「風の精霊……ってことは、ネディンとかの仲間か」

「うん、そう。これからよろしくね、京太郎」

 フィルーシュは満面の笑みでそう言った。

「えっ、名前? 俺いつ名乗ったっけ…」

「ああ、えっとね、京太郎のことは、ちょっと前からビオラに聞いてるんだ。『危険な奴だ』ーって聞いてたからどんな子かなーって思ってたんだけど……凄く良い人そうで良かった。」

 穏やかな声でフィルーシュは答える。

 

「あ、フィルーシュだと長いだろうし、フィルって呼んで良いよ。それよりも、シエラちゃんなんとかしないと…私が遅れちゃったから…!」

「違う、フィルの所為じゃない。私が弱かったから……!」

「いや、そもそも俺がアクサーを連れてきたりしたから…」

「おねえちゃんにあまえてばっかりだったのがいけなかったのかな……」

 それぞれが自己嫌悪に陥る重苦しい空間がそこにはあった。全員が自分に責任を感じ、自分を責めるだけの空間が。

「まあまあ、落ち着き給えよ紳士淑女の諸君。自責の念に駆られるのは結構だけど、それで得られるものは無いだろう?」

「……ホントお前何処にでも湧いてくんだな…」

 いつの間にかウィルが宙に浮いていた。そのままゆっくり降りてくる。

 

「ゴキブリみたいな例え方するのやめてくれないかな? これでもこの状況を何とかしに来たんだけど…」

「この状況を…何とか…?」

 俺が尋ねると、ウィルは自信満々に答えた。

「要はさ、シエラを取り戻せれば良いんだよね。それなら……まさしくフィルーシュの出番だよ」

「わ、私の!?」

 フィルは自身を指差し、動揺した表情を見せた。

「そうだよ。まあ…賭けでもあるけどね」

「…それよりも。一番に解決しなきゃいけないのは、京太郎の服じゃないかな?」

「…え?」

 時間が経っていたのとゴタゴタしていたこともあり、俺は自分の服がずぶ濡れなのをすっかり忘れていた。

 

 

 

「やったあ……やりましたよぉ! 遂に完成したっ! あぁ〜…このフォルム! カラーリング! パフォーマンス! 全て完璧だぁ…!」

 薄暗い部屋の中、自身の最高傑作(ヒューマドライバー)を舐め回す様に眺める男の姿があった。

「はあぁ……早く使いたい、早く使いたい…! くぅ〜……抑えらんないですねぇ、早く使いたいですねぇ…!」

 自分達の敵が新たに一人増えたことにビオラ達が気付くのは、まだ先のことであった。

 

 

 一方その頃、市街の方ではワックスアクサーが暴走を始めていた。…ご丁寧にシエラを連れたまま。理由は勿論、エルフと再び対峙した際に盾として利用する為だ。

 得体の知れない怪人に騒ぐ民間人のうなじに口吻を突き刺し、エネルギーを吸い取っていく。

 4、5人程から吸い上げ、次の標的を探し始めたその時。

 

「…ね? 一緒だったでしょ?」

 ビオラに語りかけるウィルの姿がワックスアクサーの目に入った。『計画』の要となる、フィルの姿も。

 ビオラは腹部に発生させた青白い炎からエルフドライバーを顕現させ、ワックスアクサーと対峙する。

「さあ、僕らにボコボコにされてもらうよ。ま、主にするのはビオラなんだけどね。」

 などとウィルが軽口を叩いている間に、既にビオラは変身の準備を終えていた。

「…変身」

 ベルト左側のレバーを倒す。

【サモン! フレイアーーーー…サァラマンダー!】

「…今回は作戦があるからね。敢えてまだ言わない」

 いつもの決め台詞を決めないまま、エルフはワックスアクサーに突撃して行く。

 炎を右腕に纏わせ、ワックスアクサーの胸部目がけて殴りかかる。

 自分にはいつでも盾にできる存在が手中にあるという慢心から、ワックスアクサーは攻撃をもろに受けてしまった。

「ジィラ…!」

「うぐうっ!」

 ワックスアクサーはすぐさまシエラを捕らえていた触手を手繰り寄せ、エルフの前に引き出した。

 が、エルフは逆にこれを待っていたかの様に叫んだ。

「引っ掛かってくれてどうもありがとね!!」

 そう叫ぶエルフの左手には、フィルーシュが姿を変えたオーブが握られている。

【シルフィード!】

【セットアップ!】

「変身!」

【サモン!】

 オーブから飛び出してきたフィルはエルフの周囲を一周し、エルフの左側に鎮座した。

「いくよ、フィル」

「呼んだ?」

「あんたじゃない…」

 右からウィルがしゃしゃり出てきた。確かに名前似てるけど…

「フィル、力を貸して」

「うん、頑張ろうね」

 今度はちゃんとフィルが反応した。そのままフィルがとり憑く。直後、巨大な風がエルフの周囲に吹き荒れる。

【刹那の突風、淡き恋心と共に漸増していく! この嵐、いざ赤口に轟かせ!】

【ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】

 風が止んだと同時に、仮面ライダーエルフ シルフィードスレイヴは姿を現した。

 全身を纏う風の様な装甲が特徴的だ。

 と思いきや、エルフの周囲に突風が発生した。ほんの一瞬エルフの周囲を周って、エルフと共に消えた。

「消えた…?」

 京太郎が呆気にとられていると、エルフはワックスアクサーの目の前で姿を現し、シエラを捕らえていた触手を風の刃で断ち切った。

「わわっ!」

 落下しそうになるシエラをお姫様抱っこの体勢で受け止め、物凄い勢いでバックして来た。

「ほら、早く逃げて」

 エルフはシエラを逃してから再びワックスアクサーに向き直り、目にも止まらぬ速さで前方を駆け抜け、すれ違いざまにワックスアクサーを斬りつける。

「ギュ…!」

 首だけ後ろを振り返ると、すぐに消えた。

 いや、眼に見えない程の速さで移動しているのだ。エルフは何度もすれ違いざまにワックスアクサーを斬りつける。8回ぐらい斬りつけてから、背を向けたままワックスアクサーの目の前で動きを止めた。

 ベルト右側の太いレバーが下ろされる。

【カモン! ブリーズ! スピリチュアル!】

「これでトドメ!」

 エルフはそう叫んでからジャンプし、後ろに振り返りながら回し蹴りを喰らわせる。

「ンギャラァッ!」

 エルフが着地してから、少し後でワックスアクサーは爆発した。

 これで、町を脅やかす存在がまた一体消え去った。

 

 

「があああああああああっっ!!!!」

 薄暗い施設の一室、完全な防音が施されたその実験室では、一人の女性の絶叫が反響している。巨大な試験管の様にも見える容器を満たす培養液の中に囚われている女性は、おおよそ正常な判断が不可能な状態にまで追い詰められていた。

「順調そうですね」

 後ろ手を組んだまま、託斗が女性を見上げて声を発する。

「大丈夫。何も心配する必要はありませんよ。寧ろ喜んで欲しいですね。貴女は第二の新たな人生を手に入れられたんですよ?」

「……ボーンアクサーとしての、ね。」

 怪しく嗤う託斗の右手には、まだ生きているカサホネツノゼミが素手で握られていた。




6話ですよ。
次のエピソードで四大精霊の最後の一体、土の精霊が登場しますが、個人的に精霊の中ではフィルが一番好きです。
今回のエピソードを執筆するにあたり、新たなタグとして「Rー15」と「残酷な描写」を付け加えました。折角付けたので、これからもっとヤバめな描写していこうと思います。


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第7話 Adventureー青年の幽閉

7話ですが、まともなネタが無いです。
それなのに書き始めてるので、凄く短くなると思います(いつも短い)。
正直な話、長編物語を創るより短編を量産する方が得意なので。


「…は、『仮面ライダー』と思われる存在の、新たな画像を入手した事を発表しました。特徴として、………」

「…またやってるな、『仮面ライダー』のニュース……」

 凱はテレビを見ながらボソッと呟く。俺、京太郎と凱は今、凱の家でニュースを視聴していた。部屋がきちんと整理整頓されているので、くつろぐ空間が十分にある。

 凱の家はアパートの一番上の階。でもって、入り口から一番遠い位置にある、端っこの部屋で一人暮らしだ。

 遠い位置にした理由は、凱曰く『もし俺が殺された時、部屋が端っこなら俺が目的である、つまり犯人や目的の特定が少ししやすくなるって事だ。単に強盗するのが目的なら出口に一番近い部屋でやるはずだろ?逃げやすいからな。わざわざ奥まで来て殺すなら、それは俺に恨みを持ってる奴って事だし。ま、そんな意味ない気するけどな』とのこと。

「…なあ、京太郎」

 凱は神妙な面持ちで話しかけてくる。

「……何だ?」

「今も、あの子……ビオラちゃんだっけ。まだあの子と関わってんのか?」

「関わってる? どういうことだ…?」

「言葉通りだ。『仮面ライダー』ってのはビオラちゃんの事だろ。……もう、あの子に関わるのは……近づくのは、やめた方がいい。」

「はあ? どういうことだよ…!」

「あの子が仮面ライダーなら」

 凱は俺の両肩を掴み、語気を強めて言う。

「戦えないお前は邪魔になる筈だ。…それに、あの子は人間を嫌っている様にも見えた。何れ人類に本気で牙を剥く日が来るかもしれない。今はまだ」

「凱、聴いてくれ」

 俺の右肩を押さえている凱の左腕に手を添えて言う。

「確かにあいつは意地っ張りだ。それに、人間も大っ嫌いだそうだ。でもな、あいつには、…あいつらには、大切なものを失った過去があるんだ。だからこそ、奪われる悔しさ、怒り、悲しみを誰よりも知っていると思うんだ。俺には、そんなやつらが本当に人間の命を取れるとは思えない。取れる筈が無いんだ」

「……お前、いつかとんでもないモノに巻き込まれるぞ」

 この凱の忠告を、おそらく未来の俺は忘れ去っているのだろう。

 

 

 

 ーエルフの里

「…おい、待てよビオラ」

「…?」

 私は誰かに呼び止められる。誰かと言っても、誰なのかは分かる。エルフの里にふたり(ウィルをひとりと数えて良いのだろうか?)しかいない男の声。それでいてウィルより低い声。………アゼルだ。

「また人間の町に行く気だろ。……お前、いつかエルフなのがバレて捕まるぞ」

 真っ赤な天然パーマを弄りながら、しかめっ面のまま言い放つ。

 アゼルは両親と弟ふたり、妹ひとりを人間に殺されている。長男として生まれて来た為、『ヒューマレジスタンス』が起きてからは私達エルフの里に住まう者の兄貴分になっている。だからこそ、「リセラさん」みたいに残ったエルフを失う事を恐れている。

 ……いや、リセラさんとアゼルだけじゃない。私もだ。おそらく、シエラとティエラも。100にん近く居たこの里で、生き残ったのは私含めエルフ5にん、ウィル、そして精霊の面々だけだ。ただでさえ、沢山の同じ里のエルフを亡くしたんだ。

 

 

 ーこれ以上、あんな悲しい想いをしたくない。

 …でも、どんな危険を払っても京太郎には注意を割かなくてはならない。私の素性も知られているし、まがりなりにも「人間」の一人だ。アイツの動向によってはまた反旗を翻されかねない。

「…でも、エルフ(私たち)の事を知ってる人間が居るから……その男の動き次第でまたヒューマレジスタンスが起きかねない。その方が問題でしょ」

「男…か。………ホの字とかねぇよな?」

「は?死んでもあり得ないんだけど」

「……だな。俺だって、例えどれだけ別嬪でも人間相手ならお断りだ」

「…同じく」

 それだけ言ってから、私はアゼルに背を向け歩き始めた。

 

 

「はあぁ……凱のやつ分かってねぇんだなー…?」

 凱の家から帰宅する道中、俺は虚空に向かって文句を垂れる。確かに、言い分としては分かる。あいつの性格上、いざとなれば俺は何かの攻撃に巻き込まれたりして殺されかねない。でも、あいつはとんでもなく大切なモンを亡くしてる。だから、殺して奪うだなんて、出来るはずが無いんだ……

「カルル…!」

「うおわっ!?」

 後ろからどつかれた。俺の体が勢いよくコンクリートの地面に打ちつけられる。徐に後ろを振り向くと、蝉の様な翅と体、口吻、そして額に枯れた木の様な、傘の骨組みの様な……葉っぱの無い枝垂れ桜の様な角を携えた怪人が立っていた。

「おいビオラ…出番だぞ、出てこいよ…」

 当然だが、そんなに都合良くビオラが現れたりはしなかった。

「おいおい、マジかよ…!」

 急いで立ち上がり走り出す。だが、それに対しアクサーは焦りもせず翅を動かし空を飛ぶ。そのまま苦もなく触肢を使って俺を掴み上げる。

「おい! 離せ! まさか二話連続でおんなじ展開にする気か!? やめとけ! 離せって……」

 俺の声はアクサー、そしてビオラに届くことは無く、そのまま何処かへ連れ去られてしまった。

 

「…ヤバそうだね、色々と。」

 京太郎が連れ去られる様子を見届けてから、ウィルは文字通り飛んでビオラの元に向かった。

 …ウィルと共に眺めていた老婆も、行動を開始した。

 

 

「京太郎が連れ去られたぁ?」

「そうそう、あっちの方にね」

 ビオラの面倒くさそうな声にウィルは動きで位置を示す。

 はあ、とため息をついてから、

「…なら別に放っといても良いんじゃ無いの?」

 と椅子にふんぞり返ったまま吐き捨てる。

「…いいの?多分京太郎待ってるよ?」

「そんなの私の知ったことじゃないし。殺されるなら殺されるで、油断したアイツの責任ってことでしょ」

「えー…助けに行ってあげない?」

「助けたとしてもデメリットしかないでしょそれ」

「じゃあ『恩を売る』と考えようよ。助けてもいいかもよ?」

「その通りだ。後悔しない選択をすることだな」

「後悔しないもなにも…って、アンタ誰…?」

 ウィルのでも自分のでも無い声を聞き、ビオラははじめてアクサーの接近に気付いた。

「態々人気の無い夜を狙ったのだ。感謝してほしい」

 鋏角類の鋏角の様な頭をしているアクサーは、いきなり背中から触肢を出してビオラ目がけて殴りかかってくる。

 ビオラはそれをジャンプで躱し、着地と同時にエルフドライバーを出現させる。

【シルフィード!】

【セットアップ!】

「変身」

【サモン!】

 ベルト左側のレバーを倒すと同時に、オーブからフィルが現れる。その直後、ビオラの体を螺旋状の光が包み込む。弾け飛び、プロ実況の様な変身音が流れる。

【刹那の突風、淡き恋心と共に漸増していく! この嵐、いざ赤口に轟かせ!】

【ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】

「…人智の先を見せてあげる」

 その言葉と共に、エルフは猛スピードでキャメルアクサーに接近し、風の刃で斬りつける。キャメルアクサーは、それを触肢でいとも容易く防いで見せた。

「アンタ…何者…?」

「私はキャメルアクサー。貴様に選択を強いるためにここまで来てやった」

 オーケストラでのアルトの様な声を響かせる。

「選択を強いるため…ね。後悔しない選択をーとか言っておきながらその実選ばせる気はないと」

「そういう事だ。奴が死にそうにでもなれば、情報を吐くかも知れない。早く行った方が良いと思うが…」

「……」

 エルフは一言も発さず、地を蹴って京太郎の元に向かった。

「…あの戦闘狂、ちゃんと託斗様の命令覚えているだろうな……」

 

 

「…なあ、本気か?マジで前回と同じ展開だぞ?」

「知るかよ。ってか展開ってどういう事だ?」

「あー話通じない系かぁ……」

 両手足を拘束されているにも関わらず、京太郎はビネガーアクサーにメタ発言を繰り返す。

 京太郎は洞窟に拘束されていた。いや、サイズ的に洞穴と表現した方が正しいだろうか。隅の方に黄色い球体が落ちている事以外は至って普通の洞穴だ。

若干宙に浮くよう固定された京太郎を、ビネガーアクサーと「ボーンアクサー」が監視していた。

「ンなこたどうでもいいんだ。俺らの作戦が成功すればな」

「作戦?」

「そう、お前を囮に仮面ライダーエルフを誘き出して、お前と変身アイテムを交換するっつう作戦だよ」

「おう、わざわざ喋ってくれてありがとな、もしビオラ来たら交換に応じないよう叫んどくわ」

「…やっべ、今殺せば間に合うか…?」

「いやここで殺したら作戦失敗だろ」

「……テメェ、嵌めやがったな!?」

「いや知らねえって!お前が勝手に嵌まったんだろ!?」

「んだとコラ!!」

「いや100パーお前の…」

 

「…はあ。急いで損した…」

「「!」」

 京太郎とビネガーアクサーは声のした方に顔を向ける。そこにはシルフィードスレイヴとなった仮面ライダーエルフが立っていた。

「さ、面倒なことになる前にソイツ返して。ソイツ生きてると面倒臭いから」

「お前まで俺を殺す気かよ!?」

「ああもううるさい。ちょっと黙ってて」

「ええ…(困惑)」

 京太郎の叫びを意に介さず、エルフは凛としたまま返答を待つ。

 ビネガーアクサーが一歩前に出て答える。

「ああ良いぜ。ただし…」

「…お前が今持ってるオーブを残らず俺に渡せ。そしたら返してやるよ」

 その言葉に、エルフは暫くの間黙りこくってしまった。




7話でした。やっぱり短くなっちゃった、ごめんなさい。
土の精霊さんは次回ちゃんと登場します。…と見せかけて、実はもう登場してます。ま、バレバレでしたね。
それはともかく、次回も短くなりそうです。重ねてごめんなさい。


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第8話 Re:Adventureー大地の守護

この回は16時起きで書き始めてます。
不健康極まりない生活ですね。


「……はあ」

 エルフは盛大にため息を吐く。

「…まさかとは思うけど、京太郎(そのバカ)とこのオーブが釣り合うとでも?」

「えひどくね?」

「…チッ、面倒臭ぇな…よっしゃあ人間! お前の知ってる限りのエルフについての情報全部吐き出せ!」

「…そのエルフって、仮面ライダーの事か? それとも種族の事か?」

「お前ぜってー女子にモテないタイプだろ! どっちもだよ!」

「…まあ関係ねぇや。おいビオラ! こいつの話を聞くな! 今すぐ帰れ!」

 拘束されたまま京太郎は叫ぶ。

「るせえ! 俺はテメェの命を握ってんだぞ!」

「…」

 ビネガーアクサーは蠍擬きの尾を京太郎の首に充てがう。その様子に、エルフは俯き加減で過去の幸せだった記憶を想起する。

 

 

 

 ー過去、エルフの里

「おーねーえーちゃーん!」

 私は全力疾走してお姉ちゃん ーメリア・ヒアラルクに勢いよく抱きつく。

 胸あたりまであるウェーブのかかった金髪が少しだけ揺れた。お姉ちゃんの巨乳は包容力抜群だ。

「…もう、そうやっていっつも私とかお母さんに抱きついてー……ビオラだってライラのお姉ちゃんでしょ? 甘えてばっかりだと立つ瀬が無くなるよー?」

「だってだって、お姉ちゃんの匂いって安心するんだもん……」

「…あーあ……」

 お姉ちゃんはやれやれといった表情で両腕を私の腰に回す。この時の私は、頬を膨らませながら赤い顔で覗き見をしている妹の存在に気付く事が出来なかった。

 

「ビオラお姉ちゃんずるいよ! ライラもメリアお姉ちゃんとかママとかに抱っこしてもらいたいのに!」

「ご、ごめんって…」

 案の定ライラは癇癪を起こした。可愛らしい顔を天狗みたいに真っ赤にして私を糾弾する。

 ライラはまだ118歳だから、私の腰くらいまでしかない。その上ショートボブをしてるから、もう見た目がお子様感満載だ。

「もうお姉ちゃんなんか嫌い! どこにでも行っちゃえばいいんだ!」

「あ、ライラ! 待って……」

 責任を感じていた私は、走り去って行くライラを追いかける事が出来なかった。

 

 

 

 そして、これが私の知る限りのライラが自由に動いている最期の姿になる事を、この時の私は知る由も無かった。

 

 

 あの時、エルフの里の殆どが人間の手によって穢された。私の家族も、穢された。

 ぐしゃっ。妹の頭が潰された時の音。形容するのなら、まさしくこんな音だった。潰れた頭蓋骨からはみ出した脳。負荷に耐えられず、眼窩から飛び出した眼球。それを妹『だった』モノだと知覚するのが怖かった。目の前のぐちゃぐちゃになったモノが、妹だと信じたくなかった。

 

 一日が始まると、今日もあの『忘れられない最悪な日』になるんじゃないかって、毎日をあの日と重ねてしまう。もう二度とあんな想いをしたくないという決意と、また自分は何か大切な物を失うんじゃないかという恐怖が、そうさせるのだ。

 

 ー現在、夜の洞穴付近

「…じゃ、私とビネガーアクサー(アンタ)が戦って、私が勝ったらそのバカ返して。負けたらオーブ渡すから」

「…なんだぁ? えらく素直だなあ? ……何か企んでんな?」

「…別に。アンタに負ける理由が無いってだけ」

「…ああそうかよ。やってやろうじゃねぇか…! おいボーン、ソイツ守っとけよ」

「ウゥ…!」

 ボーンアクサーは唸りつつも防衛体勢を整え、洞穴の入り口に結界を展開する。

 

「……さあ、来なさい。人智の先を見せてあげる」

「おうおう見せてみろやコラァ!」

 その刹那、エルフは人間の眼の限界を超える速度で動き出す。様々な方向から攻撃を仕掛ける。しかし、ビネガーアクサーはその場から一歩も動かなかった。代わりに、殿部のあたりから酢酸を強く噴射した。あまりの速度にエルフは対応することが出来ず、酢酸に吹き飛ばされて地面に倒れこむ。

「っく…!」

 装甲が僅かに溶けたのを目視で確認したエルフは、ウンディーネオーブを取り出し起動する。

【ウンディーネ!】

【セットアップ!】

 エルフは立ち上がりながら変身の準備を済ませる。

【サモン!】

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

 変身を終えた瞬間、液体に変化してビネガーアクサーの懐に潜り込んで右アッパーをかます。

 少しノックバックしてから、ビネガーアクサーはその細っこい尻尾をエルフに向けて伸ばしてくる。エルフは自身を液状化して対処し、そのまま6体に分身した。正六角形の頂角の位置に立ってビネガーアクサーをとり囲む。水の刃を作り出し、一斉に斬りかかる。

 ビネガーアクサーは、そのうちの4本を両腕で受け止め、1本は頭、最後の1本は背中で受けた。勢い良く起き上がり、その全てを吹き飛ばす。

「はっはぁ! 6人もいてその程度かぁ? コラァ!」

 ビネガーアクサーは全身から酢酸を飛沫させ、分身を消し飛ばす。

 本体も勢い良く吹っ飛ばされ、変身を解除させられる。勢いがあまりにも強かったのか、ビオラは懐に収めていたオーブを周囲にばら撒いてしまった。

「おぉ〜、助かるぜぇ、態々漁ったりする手間が省けたな」

 ビネガーアクサーはゆっくりと近づいて行き、オーブを回収する。

「ぐ…あ…!」

 地に這いつくばったまま、ビオラは必死に手を伸ばす。しかし、その手が届くことは無かった。

 そしてビオラに背を向け、ビネガーアクサーは洞穴に歩いていった。

 

 オーブを宙に軽く放り投げ、片手で受け止めまた軽く放る。洞穴に入りつつ、ビネガー、ボーンアクサー両名は京太郎を『施設』に連れる準備を始める……が、これはビオラの作戦であった。

 静かに時をまっていた精霊たちが動き出す。

「…よう、懐がガラ空きだ、ぜっ!」

 赤きサラマンダー、サララはオーブから元の蜥蜴の姿に変化し、尻尾をビネガーアクサーの顔目がけて叩きつける。

「…ガラ空きなのはお前らの方じゃねぇか?」

 …が、それを予見していたビネガーアクサーは右腕で軽く防いだ。肘を伸ばし、サララを壁に向かって跳ね飛ばす。

「ちっ…!」

 サララは小さく舌打ちをしたが、その表情には僅かに笑みが見られた。こうしてサララが時間を稼いでいる間にも、元の姿に戻ったフィルとネディンが京太郎を解放しに向かっていたからだ。勿論それを許さないビネガーアクサーは、酢酸を噴き出して動きを止めた。

「はがあっ!」

「あうっ!」

 この場にはウィルは居ない。とどのつまり、作戦は完全に失敗したのだ。

「はははははッ! 残念だったなぁ? 全部お見通しだったぜぇ? 可哀想なエルフちゃんと、その愉快な仲間共ォ!」

 

「もしこの状況を見ても『全部お見通しだった』などとほざくのなら、お主はとんだ老眼じゃな」

「誰だッ!?」

 ビネガーアクサーは怒号と共に声のした方に振り向く。

 そこには、既に拘束を外された京太郎と、深緑のナイトキャップ、数珠の様な白いネックレス、紺色の着物に赤い袴と、随分最悪なファッションセンスをした老婆が立っていた。京太郎の足の付け根ほどの高さにある細い眼が、力強くビネガーアクサーを捉えていた。

「…よいか京太郎とやら、お主は絶対に逃げられる。じゃから、儂を投げろ」

「おい話聞いてんのか!? 誰だっつってんだろ!」

「…え…えっ? 投げる!?」

 動揺した京太郎の耳にはビネガーアクサーの叫びが全くと言っていい程入って来なかった。

「そうじゃ。はようせい」

「俺の話を聞けェーー!」

 困惑する京太郎を尻目に、その老婆は黄色い球体に姿を変える。

「…よくわかんねえけど、投げればいいんだな!?」

 京太郎は、テレビで放映されているプロ野球の投球フォームを真似て黄色い球体 ─ノームオーブを力の限りぶん投げる。

 それを通すまいと、ボーンアクサーが結界を張り直す。洞穴の入り口の真ん中から、同心円状に結界が展開されていく。

 残り数メートル。ビネガーアクサーが手を伸ばすが、オーブを掴むことは出来ない。

 残り数十センチ。洞穴の入り口の6割が結界によって遮断された。

 残り数センチ。結界は入り口の壁際まで迫っており、もうオーブ一つ通るかどうか程の隙間しか無い。

 コンマ数秒後。結界によって、洞穴の入り口は完全に遮断された。ノームオーブは………

 

 地に伏したまま上空に伸ばされたビオラの左手に握られていた。ノームオーブを力強く握りしめ、徐に立ち上がる。

「……だから言ったでしょ。アンタに負ける理由が無いって」

「…まあ、今回はメロノに助けられただけなんだけどね…」

【ノーム!】

【セットアップ!】

 ビオラはノームオーブの天頂のボタンを押し、エルフドライバーにセットする。

「…変身」

 ベルト左側の細いレバーをゆっくりと倒す。

【サモン!】

 オーブからメロノと呼ばれた老婆が出現し、浮遊する。同時に、螺旋状の光が包み込みビオラに黒い素体を与えた。

「いくよメロノ…力を貸して」

「うむ、無理はせんようにな」

 そう言ってメロノはエルフにとり憑く。

【地底の技王、英明なる神の腕の下に参集されたし! 天地不可逆の理を覆せ!】

【ガイアーーーー…ノーームッ!!】

 体の一部が石化したかの様な黄色い戦士、仮面ライダーエルフ ノームスレイヴが姿を現した。

「はんっ! こっちにはボーンのバリアと人質があんだよ! 今更何が出来る?」

「…そういうのを『フラグ』って言うらしいんだけど、知らない?」

 そう言うや否や、エルフは右足を強く踏み込ませる。すると、ボーンアクサーが立っていた位置の地面がせり上がり、天井と挟んで押し潰した。

「ギャアッ!」

 潰された影響により、入り口の結界は解除された。

「…! 今だ京太郎! 俺に乗れ!」

 サララは京太郎の元へ飛んで行き、自らの背中を差し出す。

「…了解!」

 京太郎はサララに飛び乗った。オーブに姿を変えたフィルとネディンも回収し、洞穴を抜ける。

「おいコラ! テメェ…!」

「させない」

 洞穴の壁でビネガーアクサーを跳ね飛ばす。

「ジジ……!」

 なんとしても京太郎を逃がすまいと、ボーンアクサーは翅を羽ばたかせる。京太郎を捕らえようと、その人間よりも長い右腕を伸ばす。その右腕が掴んだのは、いや、掴まれたのは、エルフの左手であった。掴まれたボーンアクサーの右腕が、次第に石化していく。

「ギィィーィ…」

 呻き声が聞こえたところでエルフは手を離し、石化した腕をハイキックで砕く。

「ィィ…」

【ノーム!】

 砕かれた右腕を押さえ蹲るボーンアクサーをよそに、エルフは天頂のボタンを押して決め技の体勢を整える。

【カモン! グランド! スピリチュアル!】

「はあっ!」

 右腕を地面に向かって振り下ろし、土の塊と共にボーンアクサーを宙に打ち上げる。土の塊はボーンアクサーに貼り付いていき、やがて巨大な土の塊に変容した。エルフは右腕の肘を伸ばし、どこからともなく現れた土を纏わせて巨大な腕を作り出し、塊目がけて拳を振るった。

「───!」

 ボーンアクサーは断末魔をあげることすら許されず爆散した。

「チッ…面白くねぇな…」

 土の塊の雨を受け、ビネガーアクサーは不満げな声を漏らして闇に消えていった。

 

 

「いやぁー…素晴らしい。ワックスアクサー()はとても良い仕事をしましたねぇー…実に面白い。是非とも………」

 

 

 

「私の実験台になっていただきたい……!」

 

 エルフとボーンアクサー達の戦闘を覗き見ていた男の狂言を、月夜に漂う人魂は黙って見ていることしか出来なかった。




やっと終わったーーーっ!やったよーーーっ!
次9話かあ。ちゃんと長く書けるかねえ。
絶対短くなるよこれ(予言)


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第9話 Humanーストーカーの正体

9話でございます。みっじかいなぁ今回。あ、『今回も』か。


「ギュッ!」

「動きが遅いっ!」

 時刻は既に午前0時を過ぎている。開けた街道には電灯が設置されておらず、その暗闇は異質な不気味さを放っていた。

 そんな深夜。仕事帰りの中年男性を、一体のアクサーが襲っていた。暗闇でよく見えないが、これまで相対してきたアクサーよりも比較的体格の大きいアクサーの様だ。男性を追い詰めている現状に慢心していたアクサーが晒す背中を、ビオラは不意打ち気味に蹴飛ばす。

 

 それからすぐにエルフ サラマンダースレイヴに変身して戦闘を開始した。体格が大きいからなのか、動きが想像以上に鈍い。右腕を燃やし、腹部を複数回殴る。が、効いている様子が全く無い。構わず強く殴ると、アクサーは数歩後ろに下がった。

 直後、アクサーは後ろに振り向いて全力で走り去って行った。

「…あっ、ちょっと! 待ちなさい!」

 急いで追いかけるが、曲がり角で撒かれてしまい見失ってしまった。

「…チッ、めんどくさ……!」

 悪態をついてからエルフは変身を解除し、逆方向に歩き始めた。

「ま、待ってください!」

「…?」

 中年男性の声が、ビオラの歩みを止めた。

「あ、ありがとうございます! このご恩、絶対に忘れません!」

「……あっそ」

 自身の右手を両手で握り締めながら目を輝かせる男性をよそに、ビオラは傍目から見ても……いや、肌でも感じる程の『早く帰りたい』オーラを放っていた。

 

 

 漁港へと続く寂れた道。碌に舗装されておらず地表が剥き出しになっている道にはちらほらと小石が転がっている。眉を吊り上げたまま足早に歩を進めるビオラの後ろから、何者かがついて来ていた。しかし、その正体は明白だった。ビオラは何の前触れも無く立ち止まり、まだバレていないと勘違いしている男を自身の背にぶつけさせた。

「うおっと!?」

 想定外の事態に、男 ─京太郎は素っ頓狂な声を上げながら尻餅をつく。

「……何してんの?」

「いやー…そのさ、ほら、俺この前アクサーに誘拐された訳じゃん?」

「それが?」

「えっと…あれだ、俺人間、アクサー化け物、俺ノットストロング、アーユーオーケー?」

 京太郎は腕を大きく振ったジェスチャーで必死に用件を伝えようとする。

「ノーに決まってるでしょ。何が言いたいの?」

 ジト目で質疑を繰り返すビオラに、京太郎は冷や汗をかきながら答えていた。

 

「その、あれだ! アクサーってやばい化け物だろ? で、俺みたいなひ弱な人間じゃあ太刀打ち出来ないだろ? それで、ビオラに守ってもらおうと思って…」

「…絶対嘘でしょそれ。私以外にも目的があるんじゃないの?」

「いやっ、違う! 守って欲しいのは本当だ!」

「守って欲しいの『は』?」

「……あ」

 守って欲しいの『は』。その言葉は、守って欲しい事が本当だと認めると共に、それ以外にも何か別の目的があるということを示唆していた。

 勘案した結果、京太郎は素直に自白する事にした。

「……その、だな。疚しいことがあるって訳じゃないんだが、ウィルに色々聞きたいことがあって…」

「僕に用〜?」

「うおわあっ!?」

 唐突にウィルが声を出す。かなり前から京太郎の後ろに居たのだが、全く気付いていなかったようだ。

「びっっっっくりしたーー………心臓に悪いからやめてくれよそういうこと…」

「やーごめんごめん、もう慣れたかなーって思って…」

 軽快な口調で話しかけるウィルに、京太郎は苦笑いで答えることしか出来なかった。

 

「それで? 僕に何か用事なんでしょ?」

「あっ、そういやそうだったな。ホントはウィルだけに聞きたかったんだけど…大丈夫かな」

 ポリポリと頭を掻きながら、京太郎はその質問を口にする。

「…前にウィルが言ってた、『僕らのとこに来た奴らがそう名乗ってた』っての……その来た奴らっていうのを知りたかったんだが…」

「…!!」

 辺りに緊張した空気が流れる。尤も、ウィルには表情というものが無いので緊張感を出しているのはビオラだけだが。

「…それを知って何になるの?」

 冷淡な表情のままビオラは尋ねる。先程からの質疑に鬱陶しさすら感じていたビオラは、語気を強めて言の葉を放っていた。

「それに、『ウィルだけに聞きたかった』とか言ってるけど、だったらもう少し私にバレないようについて来るとか出来なかったの?」

「いや、バレてないと思ってたんだよ…」

「…なるほどね。京太郎は暗殺稼業には向いてないと」

「逆に向いてたら怖いだろ」

「ま、人間程度なら襲われたとしても私は全く問題な………?」

 談笑の途中で、ビオラは自分達を尾けている何者かの影に気がついた。

「ん? どしたビオラ」

「…ストーカーは一人だけじゃないってことね……!」

 シャッターの閉じられた車庫の裏側にいるであろう何者かに視線を向けて良い放ち、オーブを取り出す。

 

【シルフィード!】

 影に向かって歩きながらシルフィードオーブをベルトの窪みに挿入する。

【セットアップ!】

「変身」

【サモン! ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】

 高速移動でストーカーの後ろを取り、道路まで吹き飛ばす。

「ギュエアッ!」

 何か硬い物で黒板を引っ掻いた様な、頭の中で響くその声に嫌悪感を覚えた京太郎は両手で耳を塞ぐ。そそくさと物陰に隠れ、観戦に移る。

 その場で徐に立ち上がり、怪人 ─バージェスアクサーの姿は、3人の目に捉えられた。その風貌は、3人全員に全く同じ感想を抱かせた。

 

「「「気っっ持ち悪ッ!!!」」」

 

 丸みを帯びた頭部。そこから生えている、キノコの様な形をした汚れた緑色の眼。人間の口に当たる部分には薄汚れた桃色の蛇腹ホースの様な器官があり、その先には吻を具えていた。先端が口の様に大きく開き、鋭い牙が唾液を滴らせている。アノマロカリスにも似たアプリコットの胴体と五つの眼が怪しく輝いていた。

 

 バージェスアクサーは3人の罵倒を物ともせず、漆黒に染まった足をエルフの方に向けて距離を縮める。エルフと2頭身は差がついているであろうその巨体は、圧倒的な威圧感を身に纏っていた。

 怪人の容姿に少し戸惑いはあったものの、エルフはバージェスアクサーの腹部目掛けて高速移動し、連続攻撃を叩き込む。

 バージェスアクサーの大振りな攻撃は予見が容易で、すぐさま後ろに回り背中に攻撃を加える。攻撃しては離れるヒット&アウェイでダメージを与えていたかの様に思われた。

 が、実際には腹部への攻撃以外は殆ど効いていないに等しかった。厚い外殻に阻まれ、決定打を与えるまでに至らなかったのだ。

「じゃあこれで!」

 スピードに注視したシルフィードスレイヴでは不利だと悟り、エルフはノームスレイヴの能力による強引な突破を試みた。

 

【ガイアーーーー…ノーームッ!!】

「これならどう!?」

 エルフは自分より大きなバージェスアクサーの右腕を掴み取る。しかし……

「…!? 嘘!? 何で……!」

 バージェスアクサーの右腕が石化する事はなかった。バージェスアクサーの弱体化は失敗した。寧ろ、大きく隙を晒したエルフの方がピンチになっていた。

「キィィーーアッ!」

 バージェスアクサーは奇声を発しながら左腕をエルフの鳩尾に叩き込む。

「あうっ……!」

 痛々しい悲鳴の残響が響く。観戦していた京太郎に焦りと驚きの表情が見られた。

 

 

「いやー…良い眺めですねぇ、最高ですよ」

 漁港近くの道からかなり外れた建造物の屋上で、茶髪のミディアムをした男が双眼鏡で戦闘を眺めていた。尤も、その視線は仮面ライダーエルフにしか向いてはいなかったが。

「頑張ってくださいねえ? ビオラ・ヒアラルク……」

 

 

 

「うっ……ぅあ…」

 横たわったままエルフは腹を押さえて蹲る。動けないでいるエルフにバージェスアクサーはゆっくりと近づいていく。喜ぶ犬の尻尾の様にその吻を左右に揺らす。

 

「ビオラっ!!」

 

 物陰から身を乗り出して京太郎が叫んだ、まさにその時だった。

「…残念でした」

「ギュインッア!?」

 エルフは、バージェスアクサーが立っていた位置の地面を隆起させ、遠くまで吹き飛ばした。エルフは腹部を左手で押さえながら立ち上がり必殺技の体勢に移行する。

【ノーム!】

「さあ……これで終わり…!」

 宣言し、力を最大限に解放し始めたその時。

 

「キュウウッ、ウウ…」

 なんと、バージェスアクサーは這いずりながら自ら海に飛び込んだのだ。水面に浮かんだバージェスアクサーは、こともあろうか吻を用いて自身の手足を喰らい始めた。

「キィィーーーーッ!!」

 後ろに仰け反りながら雄叫びを上げる。その途端、まるで水を得た魚の様に海で暴れ始める。時折水面に顔を出しては、その長い消化管とその先に付いた吻でエルフに薙ぎ払いを仕掛けた。

「ぐっ…なら……!」

 エルフはウンディーネオーブを取り出し、即座にウンディーネスレイヴに姿を変えて海に飛び込む。

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

 

 水の精霊『ウンディーネ』の力を使うウンディーネスレイヴは水流を無視して海中を縦横無尽に暴れ回る。

「はあっ!」

 他の部位より柔らかいと思われる腹部を狙い、右腕を振り抜いて傷つける。バージェスアクサーは慌てて吻を振り回し、エルフを捕らえようとする。

 だがその巨体故に小回りが利かず、自由に泳ぐエルフを捕らえる事が出来ない。弱点である腹部周辺を動き回るエルフを狙って吻を振り回すが、あと一歩の所で外し、代わりに自身を傷つける物に変わってしまっていた。バージェスアクサーは、エルフに完全攻略されたものだと思われていた。

 

 しかし、勝負は時の運とでも言うのだろうか。バージェスアクサーは運良くエルフを捕らえる事に成功した。

「うぐっ!?」

 バージェスアクサーは力いっぱい吻ごとエルフを振り回す。

 

「おいおい、大丈夫なのかアレ?」

 水面に浮かんでくる泡に、不安げな表情で京太郎が問う。対してウィルは特に言葉を発する事も無くただ宙を揺蕩っていた。

「きゃうっ!?」

 バージェスアクサーは水面から顔を出し、エルフを地面に投げ飛ばした。

「うぐ……」

 エルフは疲労のため横座りから立てずにいた。今がチャンスと言わんばかりにバージェスアクサーは吻を瞬間的に肥大化させ、エルフを喰らおうとする。

「ビオラーーーッッ!!!」

 

 

 京太郎の叫びが、エルフの頭の中で反響し続けていた。




やっと投稿出来る……それなのにこの文字量。
少な過ぎる(´;ω;`)
前回の予言は本物だったんだなぁ(遠い目)
10話の投稿も遅くなると思います。本当にごめんなさい……


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第10話 Re:Humanー人類の才智

10話です。
学校が休みになって課題に殺されそうになっている状況で書いてます。
例のウイルスヤバいですね。一刻も早く特効薬が出来るか事態が鎮静化する事を心から望んでいます。


「…!」

 自身のすぐ近くまでバージェスアクサーの吻をおびき寄せたエルフは、左右に分かれて分裂、もとい分身を作り出した。完全にエルフを捉えた気でいたバージェスアクサーは、勢いよくエルフが先程までへたり込んでいた地点に食らいつく。衝撃によって砂嵐が巻き起こる。砂嵐の中で、バージェスアクサーは地面を喰らっていた。およそ1.2メートルほど抉られており、あと少し左に寄っていれば今頃口の中だっただろう。

「あっぶな……」

 ビオラが不意に呟く。同時にバージェスアクサーの隙を察知し、左手から水をブースターの様に噴射して分身と同時攻撃を図る。

「「ハアアッ!」」

「キィィーーィィーーーッッ!!!」

 言葉にならない甲高い悲鳴を上げ、バージェスは海の深くへと潜り込む。斬りつけた勢いでエルフも海へ潜り込むが、既にバージェスアクサーは戦線を離脱していた。

「…っはあ! 疲れた……」

 海から上がり、エルフは変身を解いてその場にへたり込む。バージェスアクサーを取り逃がしたからなのか、はたまた疲労からなのか、ビオラの顔色はあまり良くは見えなかった。

 重い腰を上げ、ビオラが帰路を辿ろうとしたその時。ふと、ビオラより少し背の高い中年の男性が声をかけてきた。

「あのー、すいませーん!」

 若干しわがれた声が、ビオラの足を止める。

「…?」

「はあっ…はあ。やっぱりだ……昨日の嬢ちゃんだね? いやー昨日は助かったよ! 本当に、ありがとうございます」

 中年の男性は深々と頭を下げる。寿司屋の店主の様な風貌は、しわくちゃな顔も相まって貫禄を感じさせる。

「……誰? 全く覚えが無いんだけど」

「…え? 知らない人なのか?」

 いつの間にかすぐ近くまで来ていた京太郎がビオラの方を向いて質問を投げかける。二人とも、この状況を理解できていないような顔をしている。

「いやね、昨日の夜にでっかい化け物に襲われたんだよ! その時にそこの嬢ちゃんがカッコよく助けてくれたんだよ!」

「へー……優しいとこあるじゃんビオラ」

「うっさい。……で、用件は何? 私今疲れてるから半端な用事は後にして欲しいんだけど」

「おお! それなら良かった! ちょっと待っててくださいね!」

「何が……って、聞いてないし…」

 男性は歩いて来た方と反対方向に走り出した。それから、ビオラ達の前にテーブル、椅子、俎などを用意し始めた。テレビの番組だと、ポン、ポンなどといったSEがついていそうなスピードだった。

 用事が完了するやいなや、男性はビオラ達の目の前で料理を始めた。

「私ね、実はすぐ近くで漁師をしてるんですよ! それでね、ぜひ魚料理を振る舞わせていただきたいなと思いまして…」

「いらない。私帰る」

「ちょ、おい待てって! タダ飯だぞ!?」

席を立ち上がり、ビオラは歩き出す。それを、京太郎は必死に止める。

「だから、いらないって言ってるでしょ。第一、私……」

 

「魚料理は味噌煮以外無理なの」

 

 その一言だけ告げ、ビオラは再び歩き出す。

「おっ、お待ちください! 今すぐ味噌煮にしますっ!」

 男性は必死に走り、味噌を用意して再度調理を始めた。

 

 

 それから数分後、鯖の味噌煮が完成した。高級そうな皿に乗せられ、京太郎達の前に振る舞われる。

「うっひょー! 美味そうじゃん! ほら、ビオラもこっち来て食えって!」

「…毒が入ってるかもしれないでしょ」

「目の前で料理してたのに何言ってんだよ! もう俺食うからな?」

「……うんめぇー!」

 実際に男性を助けたビオラよりも早く京太郎が料理にかぶりつく。余程味が気に入ったのか、まるで飲み物かの様に味噌煮を平らげていった。

「ほら! 毒とか無ぇだろ? ビオラも食えって!」

「……京太郎の分の皿に無いだけでしょ」

「じゃあ俺の分食う?」

「それは結構。いただきます」

 荒々しく椅子に座り、料理に口をつける。

 

「……美味しい。」

(えっちょっと待って…結構美味しいんだけどこれ……ホントに毒無いよね? 大丈夫?)

 噛み締めた瞬間、ビオラの表情が綻んだ。箸を動かし、無邪気な幼子の様にパクパクと味噌煮を自身の胃袋に送り込んでいく。

「……!」

 食べ終えてから、ビオラは夢中になっていた自分を制止して我に返った。

「…結構、美味しかった。…ありがと」

 

「……お粗末さまでした」

 恥ずかしそうに俯きながら歩き去るビオラを、男性は暖かい目で見送った。

 

 

 

 

「……そういえばさ」

 海辺からそれほど離れていないカフェテラスにて、京太郎、ビオラ、ウィルの3人は会話をしていた。ダークブラウンの机と椅子がシックな店の雰囲気によく映える。

 鼎談の口火を切ったのはビオラだった。いつもより少し声が低いあたり、より真剣に話し合いに臨んでいることが窺える。

「『ビネガーアクサー』と『ウィップアクサー』……京太郎が言ってた『私達の所に来た奴ら』のことなんだけど。………何でソイツらの事を知ろうとしたのか。知ってどうする気だったのか。……全部答えてもらうけど、準備出来てる?」

「え…えーっと………」

「ほら、早く」

 ビオラは容赦無く返答を急かす。足を組んで無言の圧力を掛ける様は、京太郎にとって威圧感の塊の様にも思えた。

 

「…その、さ。見た目とか教えてもらおうと思って。見た目が分かるんだったらさ、俺がどっかでそいつらの事見かけた時に、「こんなとこにいたー」とか言えるだろ? ……エルフの里を見て、もしアレが本当に人間のやった事なんだとしたら、ビオラ達が人間を恨む理由ってのも分かるんだ。だからこそ、俺が少しでも協力して、「良い人間も居るんだ」って思わせたくて……」

「……私の復讐に、アンタは関係ない。それに……」

 

 

「アンタだって、復讐の対象になるかもしれない」

 ビオラは目を見開いたまま顔を近づけて凄んでくる。……目の前の仇に襲い掛かって殺したい衝動を、必死に抑え込んでいる様にも見えた。

「…ま、こんな感じでビオラはまだ京太郎の事を信じ切れて無いみたい。だから、京太郎がそこまで気負う必要は無いんだよ」

 ウィルが京太郎を優しく諭す。しかし、京太郎にとってその言葉は「お前なんか必要無いから自分たちの前から消えろ」とでも言われるかの様な、自分という存在の介入を拒絶されたかの様にも取れてしまっていた。

「…それでも、俺は…」

 京太郎が自身の決意を打ち明けようとした、その刹那の出来事だった。

 

 

「────!」

 

 

 バージェスアクサーの絶叫。それは、もはや言葉として形容するには手遅れなほど言語というものを感じさせなかった。獲物を捉えた喜びか、エルフに負けた地団駄か、何れにせよ、ビオラ達は一度逃走を許した相手を再度捉えたのだ。このチャンスを逃す筈は無い。

【ウンディーネ!】

 ビオラはベルトの出現とオーブの起動を同時に行う。

【セットアップ!】

「変身!」

 少しずつバージェスアクサーに歩み寄りながらレバーを倒す。

【サモン!】

 バージェスアクサーという得体の知れない怪物を目の当たりにして逃げだす民衆をくぐり抜ける様にネディンがオーブより飛び出す。

【その淑女、泡沫の様に儚く散りゆく小さき命。荒波の如く激しく在れ!】

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

「もうアンタを逃したりなんかしない。ちょっとだけ……本気、出してあげる」

 仮面ライダーエルフがそう呟いた瞬間、1人、3人、7人、15人とその数を増やしていく。そして……

「どう?これが……人智の先ってやつ」

 最終的に、エルフは31人にまで分身した。

「じっくり見せてあげるから……ありがたく受け取りなさい!」

【カモン!】

 ベルト右側の太いレバーを下ろして飛び上がる。

【アクア! スピリチュアル!】

「はああっ!」

「「はああっ!」」

「「「「はああっ!」」」」

「「「「「「「「はああっ!」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「はああっ!」」」」」」」」」」」」」」」」

 弱点の腹部目掛けて、31人がライダーキックを放つ。同じ箇所に放たれたキックは、その威力を漸増させていく。

「ンギュゥーーウギャァウアーーーッッ!!!」

 気色悪い絶叫と共に、バージェスアクサーは海上で爆ぜた。爆発した地点にあった海水がこちらにまで飛んでくる。

「……ほら、アンタなんか要らないでしょ。分かったらもう私達に……」

 

「いやぁ実に素晴らしい! 感激しましたよ!」

「…は? 誰……?」

「何だアイツ……?」

 エルフが京太郎を指差し、自分達への干渉に断りを入れようとしたその時、突然エルフの後ろから男が拍手をしながら歩いて来た。

 茶髪のミディアムに気怠げな目つき、ボタンが一つも留められていない研究用の白衣、真っ白な長ズボンに焦げ茶の靴と、砂浜にはとても合わない服装をした男にビオラ達は訝しげな視線を向ける。

 

「やーー…バージェスアクサー()も成長していましてね、もう少し観察していたくはありましたよ。でも、やはりそれ以上に貴女という存在には興味が尽きませんよ、『仮面ライダーエルフ』!」

「アンタまでそういう呼び方………待って、何で私の事知ってんの?」

 エルフは自身の呼称に呆れていたが、その途中に違和感を感じた。少なくとも、仮面ライダーなんて呼び方を知っているのはウィル、精霊達……京太郎も知っている可能性がある。しかし、目の前の男の事を、自分は一切知らない。それなのに、何故男は仮面ライダーという呼び方を知っているのか。エルフの頭脳を持ってしても、どうしても理解することは出来なかった。

 

「まあまあ、何で知っているのかなんてことはどうでもいいじゃあないですか。それよりも、大事なのはこれから。そう、これからの貴女次第なんですよ」

「私次第……?」

「そうです! 貴女が……」

 

「僕のかわいい実験体(モルモット)になっていただけるか……ですよ」

 

 男は、はにかみながら淡々とそう告げた。

「モルモット…? アンタ、頭のネジ何本か飛んでるんじゃないの……?」

「………そうですか。それは非常に残念な返答です…まさか、実力を行使しなくてはならないとは……」

 そう言うと、男は懐からバックルの様な機械を取り出した。ベルト右側には縦に長い長方形型の不自然な窪みを持ち、左側には何も表示されていない真っ黒な液晶画面が具えられていた。

「何だアレ………」

「…僕も、知らない代物だね……」

 予想外の事態に、エルフだけでなく京太郎、ウィルまでもが驚きを隠せないでいた。

 

 男は、その機械──ヒューマドライバーを自らの腰に充てがう。ベルトが伸びて反対側に繋がる。それを確認すると、男は拳よりも少し大きい円柱状の金属を取り出した。上部には蓋にも見える、下部を不自然に切り離す黒い線が走っている。その下部には機械の配線の様な物が複雑に絡み合っていた。その内2本が何もない上部へと続いている。

 男が、全体の1/5ほどの比率をした上部を左回りに120度回転させる。すると上部に新たな配線が出現し、下部の配線の内の一つと繋がった。即座に左手に持ち替え、窪みに挿入する。

 

【Transform】

 

 ベルト左側の液晶画面が発光する。水色の無地を背景に、赤い四角に白い文字で『認証』と表示されている。男の周囲に、平仮名、片仮名、アルファベット、数字などといった文字が下から現れては上に消えていく。近未来的な待機音が、男の怪しさを際立たせる。

「…変、身」

 静かに告げ、『認証』の文字を軽くタッチする。

【Authentication.】

 女性的な機械音声が砂浜に響き渡る。同時に、男の足元から様々な文字が出現し、男の体を纏った。

【Now loading...】

 男の体を包む文字達が、黒い素体へと姿を変えた。直後、文字が現れて白銀のアーマーへと変化し、素体に張り付く。

 

 今、新たなる戦士が誕生した。

【Humanity will continue to evolve from now on.】

「私の名は『仮面ライダーヒューマ』! 我らが人類の……科学の結晶だ!」

 黒い素体は白銀の装甲を纏っており、日の光を受けて輝いている。全体的に角ばった装甲と青い複眼が恐ろしい程脳裏に焼きつく。

 

「うっそだろお前……」

「こんな事…本当にあるんだね……」

「……」

 仮面ライダーヒューマを除いた誰もが、その存在に驚愕した。

 それを尻目に、ヒューマは液晶画面左上の『+』と表示されている部分に触れる。

【Option】

 縦に並んだ幾つものアイコンから一番上にある剣の様なアイコンにタッチする。

【Weapon】

 『認証』と『キャンセル』の二択から、ヒューマは『認証』を選ぶ。

【Authentication.】

 下から上に流れる文字達が武器へと変わりゆく。ヒューマは現れた持ち手、引き金、その先に取り付けられた白い立方体、正面の正方形の画面しか備えていない簡素な武器の画面を操作する。

【Blade】

【Authentication.】

 武器──プログラムアクターが認証を完了させると、立方体の真上の面からビームソードの様に強く青白い光が現れる。

「さあ、お待たせしました仮面ライダーエルフ、私と、貴女の体を賭けた勝負を始めましょう?」

「……いいわ。アンタにも、人智の先を見せてあげる」

「承知しました。ならば僕は、人類の才智を披露して差し上げましょう」

 

 その言葉を言い終えると、2人のライダーは衝突した。尤も、片や水で生成した刃、片やビームソードにも似た剣、どちらが優勢なのかは火を見るよりも明らかだった。

「くっ……」

 少しずつ、エルフの方が押されていった。どこまで行っても、文明の利器には敵わないのか。そんな事を信じようとしないエルフは、右腕に力を込める。

 だが、ヒューマはそれを易々と弾く。エルフに生まれた僅かな隙を狙い、剣を振るう。

「うあっ!」

 吹き飛んだ勢いで地面を転がり、エルフは大きな隙を晒してしまう。

「僕の勝利……ですね」

 ヒューマはプログラムアクターを付近に放り投げ、ベルトに挿入された機械──フォースコネクターの上部を、再度左回りに120度回転させる。

【Finish attack】

【Authentication.】

 『認証』をタッチし、空高く飛び上がる。

「終わりですッ!!」

 絶えず文字を出現させる右脚を突き出し、エルフにライダーキックを発動する。

「ぐうっ、うああああッッ!!!」

 やっとの思いで立ち上がったエルフの胸部に、『ヒューマニティスパニッシュ』が炸裂する。その圧倒的な威力を前に、仮面ライダーエルフは初めて爆発を起こした。

 エルフは元のビオラの姿へ戻り、膝から崩れ落ちる。

「うん、完璧ですねぇ、さすが私」

 倒れ伏すビオラに近づきながら、ヒューマは自画自賛を始めた。ビオラを回収しようと近づくヒューマに、京太郎が駆け寄る。

「待て! お前、何者なんだ!?」

「貴方に名乗る義理はありません。そこ、大人しく退いていただけます?」

「……聞けねぇ頼みだな」

「何故です? 貴方は人間、そちらはエルフ。守る理由などないでしょう。それともなんですか? まさか自分の恋人だとでも?」

「恋人とか、そういう話じゃねぇだろ……! それに、何なんだそのドライバー、普通の人間が持つモンじゃないだろ?」

「『普通の人間が持つ物では無い』という事は、必然的に私が『普通の人間では無い』という事になると思うのですが、まさかそこまで思考が及んでいない?」

「………」

「…はあ。興冷めですね。まあ良いです。機会は幾らでもあります、し…」

 ヒューマは変身を解くと、ポケットに手を突っ込み、一枚の紙を取り出した。

「これ、彼女に渡しといてください」

 そう言い、男は京太郎に紙を押し付ける。

「何だ、これ……?」

 その紙には、『犬童 託斗』と書かれており、その下には数字やアルファベットが羅列されていた。

「それ、僕の名前と電話番号、それとメアドです。よろしくお願いしますねー」

 それだけ言ってから、犬童 託斗は後ろを向いて軽く手を振り、歩き去っていった。

 

「…いや、多分ビオラ携帯持ってないと思うんだが……」

 歩き去る託斗に、京太郎の言葉が届くことは無かった。




10話でした!やったぁ!6000字超えた!(低レベルな喜び)
新ライダー『仮面ライダーヒューマ』登場!如何でしたか?
僕は英文だらけなので「ゼロワンみたい」って言われそうな予感しかしません。
一応言います、企画しだしたのは去年の(大体)6月くらいなので、パクっているつもりは微塵もありません!(信用0)
あんま関係ないんですが、僕はスターウォーズを見た事は一切ありません。なので、実際ビームソードがどんな感じになってるのかはあんまり知りません。
それなのに出してるんだからねぇ、本当に、青ずきんって奴は…(故意犯の発言)


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第11話 Partyー怯臆の戦祭

やる事が無いッ!!
……さあ、今回どうしよう(焦)
因みに、サブタイトルは『きょうおくのいくさまつり』と読みます。


 大学の講義から帰り、俺こと京太郎はマイホームに転がり込む。割とオンボロなアパートだが、俺のバイト代でも何とか払えるくらい安くて正直助かってる。

 ドアを開け、俺一人しか居ない家に帰宅を知らせる声を響かせる。

「あー疲れた…ただいまー……」

「お帰り〜」

「お〜ただい…待て!!」

 キッチンの方から何故か声がした。泥棒の可能性を危惧し、廊下を走る。

「誰だ!!?」

 勢いよくドアを開ける。ドアは衝撃によって大きな音を立てるが、そんな事を気にしてはいられない。

 そこで、俺が目にしたのは………

 

 

「や、今日の晩ご飯はオムライスだよ」

「!?」

 

 

 そこには、腰を超えるほど長い銀髪をした女性が料理をしていた。端正な顔つきが一瞬こちらに向けられるが、すぐに料理の方に意識を戻した。一応必要かと思って買ったが一度も使うことの無かったフライパンを器用に使いこなす。

「ちょちょちょ、待てって! 何で平然とうちに入り込んで勝手に料理してんだお前!?」

「えー…勝手に入ったのは悪いとは思ったけどさ、京太郎って僕の想像通りすんごい栄養偏った食生活してるじゃん」

「人の食生活に口出ししてくれるなよ! ていうか何で俺の名前知ってんだよ!」

「…? あ、そっか。そういえば、この姿(・・・)だと京太郎ははじめましてだよね」

「何が!?」

「ちょっと待ってね〜」

 女性は完成させた料理を皿に乗せるやいなや、みるみる体を縮ませていった。そして………

「嘘だろ!? お、お前っ……!」

「これで分かるかな?」

 女性は、白い人魂の様な姿に変貌した。思えば、聞いたことのある声だった。だが、姿が違いすぎる。その事から、京太郎はあり得ないと思っていた。というより、想像もしていなかった。まさか、その声の主が……

 

「ウィル……かっ………!?」

 

 あの人魂、ウィルであるということを。

 

 その事を理解した京太郎は、途端に質問責めを始める。

「待て待て待て、ちょっと待て、落ち着け俺」

「そうだよ京太郎、一旦落ち着いた方が良いよ?」

「るせぇ! お前のせいで落ち着かねえんだよ! 何ださっきの体! どうやって家に入ってきた! 何で俺の家知ってんだ! 何で料理してんだ!」

「質問は一個ずつにしてよ」

「一度に幾つも疑問作った奴の台詞じゃねぇだろそれ! まずさっきの体なんだったのか教えろ!」

「あ、一個にしてくれるんだ。ありがと〜」

「いいから答えろ!」

 

「…そうだねぇ。さっきの体は……『本当の僕』……って言ったところかな」

「『本当の僕』……? どういう事だ?」

「えっとねー、元々さっきの体でずっと生活してたんだよ。その時はさっきの体にも、今のこの体にも自由に変われたんだけどね、『ある奴』と出会ったせいで偶にしかさっきの体になれない様になっちゃったんだよね」

「『ある奴』……やべぇ、次から次に疑問が出てくる……」

「ま、僕の過去は色々あるんだよ。話そうとするとすっごく長くなるし、先にオムライス食べちゃいなよ」

「えっ、あぁ……」

 

 京太郎は動揺しながらもオムライスをテーブルまで運び、手を合わせてから口に運び始める。

「……割と美味ぇなこれ」

「そう? ならよかった」

 ウィルは安堵の言葉を零す。人魂であるが故に、その表情を窺う事は出来ないが。

 

 

「……そういやさ、ビオラ大丈夫だったか?」

 暫しの沈黙を破ったのは京太郎だった。昨日ヒューマに敗北した後、気絶したまま倒れ伏していたビオラは、京太郎とウィルによってエルフの里まで運ばれていた。数時間近くに居たが、ビオラが一向に目を覚まさないため、講義を控えていた京太郎は家へと帰っていった。京太郎は、その後の情報を欲していた。

 

「…大丈夫……って言えるのかな。一応目は覚ましたし、精霊達がついてるから問題は無い筈だけど……」

 言いにくい事なのか、ウィルはごにょごにょとその先の言葉を濁す。オムライスを完食した京太郎は、それを訝しげな目で見ていた。

 

 

 

ー夜 エルフの里

「はあっ、はあっ、はあっ………!」

 天井が崩れ去った民家にて、ビオラは胸を押さえて苦しんでいた。呼吸は酷く乱れており、傍から見ていてとても気持ちの良い物とは言えなかった。近くにいる精霊達は、やるせなさそうな顔でビオラを囲む。

(仮面ライダー……ヒューマ。人間の、仮面ライダー。私はアイツに、負けた?あんな………人間如きに。……あり得ない。私が、負けるなんて事………)

〔事実、負けたでしょ?〕

(…ッ!?)

 真っ暗闇の中、もうひとりの自分が語りかけてくる。ヒューマに負けたという事実を、冷静に受け止めているもうひとりの自分が。

〔アイツは人間だったけど、確かに私達より強かった。だから私達は負けた。そうでしょ?〕

(違う……違う、私は、負けてなんか………)

〔いいえ、私達は負けた。負けを認めたくない……それはプライドから?それとも………〕

 

〔恐怖から? 戦う事でしか里のエルフ達(みんな)に貢献出来ない自分が、捨てられる恐怖から〕

「うるさいッッッ!!」

 ビオラは声を大にして叫ぶ。あまりの大声に、周囲の精霊達はビクッと体を反応させる。

「違う、私は……負けてない…!」

「ビオラちゃん……?」

 廃れた民家に、ビオラでも、精霊の面々でもない声が響く。ビオラが後ろを振り向くと、そこには人間年齢で30代ほどに見える女性が佇んでいた。しかし、真っ白なオフショルダーのドレスに身を包むその様は、さながら下界に降り立った天使に見紛うほどの美しさであった。

 

「リセラ…さん…」

「こんな所で何をしているの? それに、精霊の皆も……」

「えっと……見ての通り、ビオラ、すごく落ち込んでるみたいで。だから、私達で元気づけようと……」

 フィルが弱々しく答える。それは、自分達では元気づけることが出来なかったという事を示唆しているかのようだった。

「そんなの誰も頼んでなんか無いッ!!」

「…っ!」

 ビオラは右手を握りしめて床を殴りつける。拳と木材がぶつかる音に怯えたフィルが少し後退りする。

「私はッ! 私は……」

 

「負けてなんか………無い……!」

「おいおいおい! 待てって!」

「……」

 サララの制止も聞かず、ビオラはリセラのすぐ横を通り抜けて民家を後にした。その様子を、リセラはただ黙って見送ることしか出来なかった。

 

 

 

「……『平和な世界』…か」

 晴天が広がる高層ビルの屋上で、その怪人は町を俯瞰していた。交通が途絶える事の無い道路。こちらの耳朶に触れるほど大きな若者達の喧騒。何も無いこの日常こそが平和なのではないか、自身の組織がしている事は、果たして本当に世界を平和に出来るのか。

 目を閉じ、一瞬だけ逡巡する。怪人の答えは変わらなかった。

「『抑圧』は『秩序』でも『正義』でも無い。…真に求められているのは、『解放』……という事だな」

自問自答を終えると、その怪人はビルから飛び去っていった。

 

 

「うーん……ぬうぅ〜……」

「んだよさっきからずっと唸りやがって。どっか痒いとこあんのか?」

「そうじゃねぇんだよぉ〜……」

 大学までのこり数百メートル。その道中、京太郎はひたすら唸っていた。それに対し、凱は絶対に面倒臭いやつだと言わんばかりの目をしている。

「ビオラが負けちゃったんだよぉ〜……」

「…! 嘘だろ!? あの子が負けた!? どんな奴に!?」

 ビオラの敗北を伝えられた凱は、まるで結婚したい人が出来たと言って来た娘に彼氏の事を問い詰める父親の様に焦りを見せた。あの能天気な京太郎が唸っているのだ。考えられる最悪のケースが、凱の頭をよぎる。

 

「その怪人がどういう能力持ってんのかとか分かるか!? あの子はどこで負けた!?」

「ちょ、待てって! 質問は一個ずつにしてくれ!」

「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!? そのアクサーがこっちまで攻めて来るかもしんねぇんだぞ!?」

「違ぇんだって! 話を聞け! ビオラが負けたのは『人間』だ!」

「はあっ……?」

 凱に新たな疑問が生じる。てっきり、凱はビオラがアクサーに敗れたものだと考えていた。だからこそ、『人間』という単語の登場に頭を混乱させられていた。

「いいか、よく聞けよ。今日はエイプリルフールじゃねえからこれから喋ること全部ホントの事だかんな」

「…分かった。でも、講義もあるし手短に、そんでもって分かりやすく頼む」

「了解。ちゃんとついてこいよ」

 それから京太郎は、一昨日に起こった出来事を出来るだけ簡潔にして凱に話した。人間側の仮面ライダーという存在に、凱は動揺と疑念を隠せずにいた。

 

「…にわかには信じ難い話だな……ビオラちゃんは理由こそ立派だとは言い難いが、それでも人間達を守って来た筈だろ? 怪物を倒すついでだったとしても、俺達は知らず知らずのうちに守られて来たわけだ。なのに何故捕らえる必要がある? 無理矢理にでも協力して怪物共を倒せば良いものを……何故なんだ……?」

「…俺に聞くなよ。どうせその怪物と共犯(グル)とか、そんなオチだろ?」

「……お前の意見にしては珍しく説得力があるな、誰かが言ってたのか?」

「ちっげーよ!純度100%俺の意見だっつーの!」

「…それも信じ難い話だな……」

「何でだよ! あのド変態チャラ男の話より信憑性あるだろ!?」

「凄ぇなお前、信憑性って言葉知ってたんだな」

「よーし、あのド変態チャラ男の前にお前を始末する必要があるみてぇだな…」

「別にそれは良いが、今から全速力で席に着かねーと俺を始末する前にお前が教授に始末されるぞ」

「………は?」

 京太郎は左腕に取り付けた腕時計に目を見やる。

「うっっっっそだろお前! あと5分しか無ぇじゃねぇか! 何で言ってくんなかったんだよ!!」

「だから手短にっつったんだよ! いいから走るぞ!!」

「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」

 その数分後、2人はなんとか遅刻を免れたものの、かなり大きな音を立てながらドアを開けた為に講義室中の注目を集めることとなってしまった。

 

 

「私は……負けて無い………」

 うわ言の様に呟きながら、ビオラは青ざめた顔で八つ当たりの相手を探していた。森の奥深くは木々が鬱蒼としており、光一つも通していなかった。そんな暗闇にアクサーを求め、森を練り歩く。アクサーの存在を肯定し望んだわけでは無いが、今はとにかく自分が必要な存在である事の証明をしたかった。

 

 

 そんな彼女の目の前に、男は急に姿を現した。

「こんにちは、ビオラさん、お元気でしたかね?」

「アンタ…一昨日の……!」

「はい…あ、連絡先見ていただけました?」

「……その連絡先とやらなら、昨日破り捨てたけど……」

「……そうですか。残念です。なら、ここで改めて自己紹介を致しましょう」

 男は肩をがっくりと落とし、疲れた様に暗い声で自己紹介をし始める。

 

「それでは、改めてはじめまして、僕は犬童託斗(いんどうたくと)と言います。ぜひ、お見知り置きを」

「……その名前を覚える必要は無い。ここでアンタを倒せばね……!」

【シルフィード!】

「そう来てしまいますか。貴重な標本なので、出来れば傷付けたくは無いんですけどねぇ……」

【Transform】

「「変身」」

【サモン!】

【Authentication.】

【刹那の突風、淡き恋心と共に漸増していく! この嵐、いざ赤口に轟かせ!】

【Now loading...】

【ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】

【Humanity will continue to evolve from now on.】

 

 両者は互いに変身を完了させて睨み合う。ゆっくりと距離を詰め、数秒後に同時に駆け出してそれぞれの胸部にストレートパンチが繰り出される。

 直後にヒューマはノックバックして距離を取り、武器を手に取る。

【Option】

【Weapon】

【Authentication.】

 文字達が下から上へと溢れ、プログラムアクターを造り出す。剣の様なアイコンに触れて準備を整える。

【Blade】

【Authentication.】

「はあっ!」

 ヒューマはエルフの元へ飛び込み、プログラムアクターで斬りつける。エルフはそれを仰け反りで回避し、空へ飛び上がる。

「はっ!」

 空中を縦横無尽に駆け回り、風の刃をヒューマに向けて放つ。ヒューマはそれを斬りつけ、対応しきれない物はすんでの所で回避していた。

「…全く、はしゃぎたがりな方ですねえ……」

【Option】

【Thunder】

【Authentication.】

 ヒューマがプログラムアクターを軽く振ると、その刀身は雷を纏い始めた。右腕を自身の左肩まで持っていき、力を込めて横一直線に薙ぎ払う。

「ふっ!」

 すると、薙ぎ払った軌跡を辿る様に雷が発生し、エルフを地面に叩きつけた。ヒューマは今がチャンスとばかりに近づき、数回エルフを軽く斬りつけ、最後に重く振り下ろして遠くへと飛ばす。

「っく……」

(ビオラ!無理しないで!)

「…うるさい」

 エルフはフィルの気遣いを蹴って立ち上がり、巨大な衝撃波をヒューマに飛ばす。ヒューマは左手を峰に添えてなんとか衝撃波を受け止める。その隙を突いてエルフはヒューマに近づき、衝撃波ごとヒューマを蹴っ飛ばす。

 

「ぐっ…! なかなかやるじゃあありませんか……ならば…!」

 吹き飛ばされたヒューマは、膝を突いたままプログラムアクターを操作する。並べられた6つの四角の中から、上段中央の銃の様なアイコンに触れる。

【Magnum】

【Authentication.】

 認証された瞬間、プログラムアクターから無数の文字が現れ、プログラムアクターを大口径のピストルへと変貌させた。

「これならどうでしょう?」

 ヒューマはその銃口をエルフに向け、数回引き金を引いてエルフを撃ち抜く。

「うぐっ、ぐあっ!」

 銃撃に対する明確な防御手段を持たないエルフ シルフィードスレイヴは、その銃弾を全て体で受け止めてしまう。その様子に自らの勝利を確信したヒューマは、わざとらしく『マグナム』のアイコンにゆっくりと触れる。

【Finish brake】

「さて、これで戦績は2ー0……ですね」

【Authentication.】

 一度プログラムアクターを天高く掲げ、それを徐にエルフに向ける。

 そして、その引き金は引かれた。

【Fire.】

 幾つもの文字が極太のレーザーへと変化し、エルフを襲う。エルフが居たであろう地点が爆発し、視界を煙らせる。

「…っ、うああああああああッッ!!」

 エルフの甲高い悲鳴が森に響く。ヒューマはビオラを回収しようと、爆発した地点に近づいていく。念願の実験対象の入手に、ヒューマはウキウキ気分でビオラに近づく。しかし、そこには………

「……? 居ない…!?」

 ビオラの姿は無かった。ヒューマが驚愕した、その刹那。

 

 

「……残念でした」

 エルフが後ろから現れ、ヒューマの背中を斬りつける。だが、その刃がヒューマへ届くことは無かった。

「…無礼者。託斗様を相手に、不意打ちなどと言う小賢しい手を使うな」

「なっ……!」

 突然、どこからともなく現れたキャメルアクサーがその刃を触肢で防いでいた。

「…アンタ、アクサーと共犯(グル)の人間なの!?」

「…託斗様。一般アクサーの培養液に不備があったと、ボスから仰せつかっています。可及的速やかにご帰還を」

「えっ? 嘘でしょう?……そんな都合良く僕がミスるなんて事ありますかねぇ……」

「ちょっと! 聞いてるの!?」

「あーはいはい聞いてますよ、そうです共犯(グル)です、これで満足でしょう?」

【Option】

 『+』の部分に触れてから、ヒューマは液晶画面を上方向に強くスワイプする。物凄い勢いでアイコンが上へと流れていく。あっという間に一番下までたどり着き、ヒューマはその一番下のアイコンを選択する。

【Abduction】

【Authentication.】

 その音声が流れた瞬間、天から光が現れてヒューマとキャメルアクサーは吸い込まれる様にデータ化し、何処かへ消えていった。




課題が終わらないッ!(泣)
……ごめんなさい、11話でした。
なーにが「戦祭」だよ、殆ど戦ってねぇじゃん今回!サブタイトル詐欺もいいとこだよ!
…さて、最後に出てきた『アブダクション』、宇宙人が人間とかをUFOに吸収する時のアレなわけですが、青ずきんはスペルを調べるまでこれのことを『キャトルミューティレーション』だと勘違いしていました。恥ずかしい。
『キャトルミューティレーション』は内臓や血液などが存在しない状態で動物の死体が見つかる怪現象の事なんだとか。そんな事あるんですねぇ。


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第12話 Re:Partyー魔法のてんこ盛り

12話でーす。
前回言いそびれたんですけど、11話でウィルが言ってた『ある奴』、ウィルとそこそこ関係があるんです。なので、(絶対無いと思いますが、万が一)希望があればスピンオフみたいな感じのを作ろうと思います(出来は保証できません。ごめんなさい)。


もう本編の3分の1終わってるなんて言えないなぁ。


「また……倒せなかった………」

 深夜の森を徘徊しながら、ビオラはぼそりと呟く。

 仮面ライダーヒューマ、犬童託斗。今のビオラの脳内は、この男の事で埋め尽くされていた。

 

 彼は何者なのか。アクサーと結託して何をしようとしているのか。彼もヒューマレジスタンスに関わっていたのか。もしそうなら、家族にウィップアクサーを仕向けたのも彼なのか。

 

 そこでビオラは頭を強く左右に振り、これ以上悪い妄想をしないよう自身を律した。

「ビオラ」

「…フィル」

 気付くと、すぐそこにフィルが居た。他の精霊達も一緒だ。

「よ、落ち着いたか?」

「ほら、こういう時に慰めてくれたり甘えさせてくれる殿方って必要でしょう? 私的には───」

「お主の心情もよう分かる。じゃがな、儂らはお主の仲間じゃ。今のお主を放って勝手に傷付かせたとあらば、お主の父親が許さんじゃろう」

「ちょっとぉメロノおばあちゃん? 私今喋ってるところだったんだけどなぁ?」

「儂らでなくとも、ウィルもおる。お主は『頼る』という事を学べ」

「無視ィ!?」

「いや……だってお前さ、どうせKY発言しかしないだろ……?」

「サララくぅ〜ん? おねえさんが怒るよりも前に訂正してくれたらおねえさん嬉しいな〜?」

「おばあさんの間違いだろ(ボソッ)」

「あんだとゴラァ!!」

「うおおやべぇ! ネディンがキレた! ビオラ助けてくれ!」

「……ふふっ」

 ビオラは、小さな笑いを零した。目の前の精霊達のやり取りを見ているうちに、うだうだ悩んでいた自分が馬鹿らしく思えたからだ。

 

 自分の力で、こんな馬鹿みたいな日常を守りたい。アクサー、及び人間への復讐の他にもう一つ、ビオラに戦う理由が出来た。今はまだ、その束の間の幸せを堪能させて欲しい。

「おいビオラ! 笑ってねぇで助けてくれよぉ!」

「待てこのトカゲ公コラァ!」

「ヒイイィィィッ!!」

 

 

「…いやはや、友情とは素晴らしい物ですねぇ。感動しちゃいますよぉ」

 ビオラ達が歩き去って行くのを見送ってから、木に隠れていた託斗は声を漏らした。その表情には、隠しきれない悪意が見え隠れしていた。

「……それにしても」

 託斗は過去の記憶を想起する。あまり細かくは覚えていない、ずっと昔の記憶を。

 

 

 

 

「うえーーん! おがあざーん!」

 日も沈もうとする夕暮れ時。その森には、大きく口を開けて咽び泣く少年の姿があった。身長から見て小学校低学年ほどだろうか?カブトムシとアブラゼミを閉じ込めた虫かごを提げたまま、彼は森の中で彷徨っていた。

 方向も分からず、あっちへこっちへふらふらと歩いていた。そんな時、少年の前に1人の少女が現れた。記憶が曖昧なために思い出せないが、少年より少し身長が高く、また長く色の明るい髪をしていた気がする。

 

「ボク、どうしたの? もしかして迷子?」

 少女は少年の身長に合わせて屈み、優しく問いかける。

「…おねえちゃんだれ?」

「ふっふっふっ……おねえちゃんはね、『エルフ』っていって、とっても頭が良い子なんだよ!」

「…『えるふ』?」

「そう! 覚えられてえらいね! それよりもさ、おねえちゃん頭が良いから、この森の出口を知ってるんだよ!」

「…! ほんと!?」

 少年は先程までの涙を引っ込め、少女の話に耳を傾ける。その目は、この世の物とは思えないほど輝いていた。

「うん、ほんとだよ。おねえちゃんが案内してあげる」

「やったーーっ! おねえちゃんありがとう!」

 少年は飛び上がって喜ぶ。嬉しいのか、少女の方も満更でも無さそうであった。

「えへへ……人間に喜んでもらえるって良いなぁ、あとでライラに自慢しちゃおうっと」

 少女は少年と手を繋ぎ、森を抜けていった。そこから先は、もう何も思い出せない。だが、不思議と少女と出会った事は思い出せるのだ。それぐらい、自分にとっては大切な思い出だという事なのだろうか。

 

 それすらも、思い出せない。

 

「…本当に、不思議な魅力を感じますねぇ、ビオラさんには……」

 小さな欠伸をしてから木を降り、託斗は『組織』の元へ帰っていった。

 

 

 

「…よう、大丈夫だったか?ビオラ」

「……京太郎」

 正午過ぎ、郊外の廃工場近く。私は、散策の途中で京太郎に出くわした。でも、人間がまともな理由でここに来るとは思えない。京太郎はだいぶ変わった人間だとは思うけど、それでもこんな所に足を運ぶ理由は無い。とすると、目的は私だろうか。

 

 ……いけない。京太郎が人間というだけで、こんな簡単な言葉にも裏があるのではと考えてしまう。…正直、京太郎には私を騙せるレベルの知能があるとは到底思えない。………深読みが過ぎた。目的を尋ねよう。

「何しに来たの? わざわざこんな所にまで……」

「…お前が、心配なんだよ」

「私はアンタなんかに心配されるほど落ちぶれてない。…それに、ここまで私に関わろうとする理由は何?特別な力を持っているわけでもないお荷物なんだから、戦闘にだって役に立たないし」

 

「……それを言われちゃあ、おしまいなんだけどな………なんていうか、俺、なんにも知らなかったんだなって思うようになっててさ……」

「初めは、ただ気になっただけなんだ。突然現れて、俺らを襲った怪人から助けてもらって……そん時から、気になってたんだ。なんであんなに人間が嫌いなんだろうな、とか、どうやってあんな凄ぇ力手に入れたんだろう、とか………」

「……」

「でも、エルフの里を見てから考えが変わった。ずっと、独りで戦ってたんだなって。…ウィルとか、他の精霊とか、シエラとティエラ……色んな奴が居ても、心に空いた穴はでっかくて、簡単に埋まるもんじゃねぇんだなって……。お前は強ぇよ、確かに強ぇ。でも、それは復讐をしようとしてるから……怒りに身を任せた戦いをしてるからだって、俺は思う。怒りの力でゴリ押ししてるだけなんだって」

「……分かったような口を利かないで」

 京太郎が私の為に絞り出したであろう優しさを、私は冷たく一蹴する。本当は、その優しさに甘えたい。もう一度だけ、人間を信じてみたい。

 

 でも、人間を信じてみようとこの手を伸ばす度に、家族を奪われた過去がフラッシュバックする。信用すれば、また大切な物を失う。もう私には、ウィルやサララ達、里に残ったみんなくらいしか居ない。それを失うのが、怖い。

 分かってる。私が人間に向ける暴言や態度は、ただ強がってるだけなんだって。「殺す」だなんて言っておいて、本当はそんな勇気無いんだって。

 

 ……それでも、私は。

京太郎(アンタ)は人間。これ以上私に関わる様なら………」

 

 

「アンタを、殺す」

 

 

 虚勢を張ることでしか、生きられなかった。

「ビオラさんも乙女なんですし、もう少し上品な言葉遣いをしては如何です?」

「…!」

 私の少し後ろから、手を後ろに組んだ犬童託斗が歩いて来た。その腰には既にヒューマドライバーが巻かれている。

「……アンタほど敬語使ってると、私は逆に気持ち悪く感じるけどね……!」

【ウンディーネ!】

 戦闘の予感を察知して離れる京太郎を見送り、青白い炎からエルフドライバーを出現させて腰に巻く。

【セットアップ!】

「…悲しいですねぇ。実に悲しいです」

【Transform】

「思っても無いクセに…! 変身ッ!」

「…変身」

【サモン!】

【Authentication.】

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

【Humanity will continue to evolve from now on.】

 

 相手に先手を譲れば面倒な事になる。私はヒューマが行動するよりも早く5体の分身を生成し、一斉に襲いかかる。

「…! ぐっ……」

 まだ武器も出現させていないヒューマを数で押さえ込むのは簡単だった。しかし、アイツがこの程度でやられるとは思えない。

 予測通り分身で作った壁を抜け、ヒューマは液晶画面を操作する。

【Option】

「やれやれ……本当に手のかかるお方ですね……!」

【Copy】

【Seven】

【Authentication.】

 ヒューマは7体の分身を生成して反撃してくる。数が数なだけに対応が遅れてしまう。

「ぐっ、うあっ!」

 分身を全員消され、蹴り飛ばされる。その隙にヒューマはプログラムアクターを用意し、銃の形を模して銃口を私に向ける。8人からの同時射撃はかなりの痛手だった。

「うあああああッッ!」

 痛みに叫び、片膝を突いてしまう。

「さあ、今度こそ私の勝利ですね」

【Trident】

【Authentication.】

 機械的な音声が流れると、プログラムアクターは三叉の槍へとその形状を変える。

【Finish brake】

【Authentication.】

 プログラムアクターが青白く発光し、私を力強く貫く。

「があああああああああああッッッッ!!!」

 爆発を引き起こし、その場に倒れ伏す。

 

「…ふう。思いの外疲れましたねぇ……まあ大きな収穫がありましたし、良しとしますか」

 私まで残り数センチの距離。そこまでヒューマが迫ってから、私は右手に魔法陣を出現させて火炎弾を放つ。

「…!? ぐっ……!」

 その攻撃はヒューマの胸部に命中し、ヒューマを後退りさせた。

「…まさか、まだ手札があるとは思っていませんでしたよ、ビオラさ、ん……?」

 ヒューマは徐に立ち上がる私を見て言葉を詰まらせた。…それもそうか。

 

 さっきまで青かった瞳が、真っ赤に輝いていたら。

「…あんましビオラに迷惑かけたくないしな。ソッコーで終わらせる」

「なっ!? 違う声……あなた、一体誰です!?」

「……ただのしがないサラマンダーよ」

【サラマンダー!】

【セットアップ!】

「…変身」

【サモン!】

 ベルトに嵌められたオーブから極めて透明度の高いサララが現れ、その堅牢な皮膚を装甲へと変える。

【フレイアーーーー…サァラマンダーー!!】

 

 

「行くぞオラァッ!」

 その掛け声と共に、エルフは一直線に走り出す。拳に熱気を纏い、力の限りストレートをかます。先程の動揺を引きずっていたヒューマは受け止められず、胸部を守るように腕をクロスさせたまま後退してしまう。走って追いかけ、エルフは更に何発ものパンチをヒューマに放つ。

「どうよ? 俺だってやる時はやるっしょ?」

「…どうやら、そのようだな」

「!?」

 突然、ヒューマの背後から低い声が響き渡る。声の主は『ウィップアクサー』だった。一対の巨大な剛腕と、四対にも及ぶ極めて華奢な細腕が記憶の一端を抉る怪物。黒く輝く外殻は、全てを飲み込むかのような魅力すら感じさせる。しかしその声は常人であっても感じ取れる程の邪気を孕んでおり、寂れた工場の様相も相まってか周囲に異質な不気味さを与えた。

 

「久しいな…ビオラ・ヒアラルク。いや、言う程時間は過ぎていな……」

 ウィップアクサーが言い切るよりも早くエルフは疾駆していた。サラマンダースレイヴであるにも関わらず、シルフィードスレイヴの時にすら出したことの無い様な、瞬間移動にも近い速度でウィップアクサーの目の前に現れて拳を繰り出す。ウィップアクサーはそれを左腕の内の一本で軽々と受け止めて見せた。

「…疾くなったな。お前も成長を遂げているという事か」

「黙れッ!」

 これまで上げたことの無いような怒声と共に、エルフはウィップアクサーの腹部に蹴りを入れる。それを受けてウィップアクサーが少しノックバックしたのを見届けると、ヒューマは双方に気付かれないよう静かに姿を消した。

 

「…さて。そろそろ我も反撃を開始するとしよう」

 そう零してからウィップアクサーはその剛腕を振るう。しかし、エルフはそれを物ともせずに突撃し、右腕に炎を纏って殴り飛ばす。

「ふむ……我の知らぬ間に力も増している。これは余程鍛錬を積んだと……」

「黙れ黙れ黙れッッ!! お前の姿がッ! 声がッ! 全てが目障りだッ! この世から消えろッッ!!」

 ウィップアクサー。ビオラから家族を奪ったその存在は、京太郎との出会いや精霊達の励ましによって薄れかけていた怨恨と敵愾心を再燃させるには十分過ぎる存在だった。

 

 家族の仇を討つ為。

 嘗ての恨みを晴らす為。

 更なる力を求め、彼女は叫ぶ。

「サララッ! ネディンッ! フィルッ! メロノッ! 私に力を貸しなさい!」

「ちょっとビオラちゃん!? 全員一斉には無理よ!」

 

「いいから力を寄越せッッ!!!」

 

 エルフはネディンの諭しを怒号で押し潰し、サラマンダーオーブを掲げた右手に力づくで精霊達を引き寄せる。

「おいおい! マジかよ!」

「ちょっと、ビオラちゃ…!」

「ビオラ、やめてっ…!」

「………」

 4体の精霊が吸収され、赤、青、緑、黄色のグラデーションがその全貌を彩るオーブ、『カルテットオーブ』がエルフの右手に誕生した。

【【【【カルテット!】】】】

【セットアップ!】

 カルテットオーブをエルフドライバーに装填した瞬間、赤、青、緑、黄色と、次々に光の色を変えた。

「変身ッッ!」

【サモン!】

「うああああああああああッッッッッ!!!!」

 エルフが力任せにレバーを下ろすと、オーブからサララ、ネディン、フィル、メロノが順番に現れる。エルフの暴走を止める為に4体は必死にエルフの体から離れようとするが、エルフの咆哮によってオーブと同じように力づくで引き寄せられ、装甲と化してしまう。

【その共鳴、完全なる神の如く! この四神、いざ極光に煌めかせ!】

 

【パーフェクト……カルテーーット!!】

 白い複眼が発光し、仮面ライダーエルフは新たな姿を現した。右腕にサラマンダーの、左腕にウンディーネの、右脚にシルフィードの、左脚にノームの意匠を持った形態、『カルテットスレイヴ』を。

「覚悟しろ……ウィップアクサーッッ!!!」

 叫んだ直後、エルフは右脚で地を蹴ってウィップアクサーに迫り、自ら石化させた左脚で重いハイキックを放つ。

 

「……っぐ」

 これには流石のウィップアクサーも唸り、防御の体勢をとる。が、これに対しエルフは左腕に大量の水を纏わせて巨大な腕を作り出し、力づくで突破した。

「ならば……!」

 ウィップアクサーは周囲に小学校低学年程の身長をした上半身焦げ茶、下半身真っ黒の怪人──ラテラリスアクサーを呼び寄せた。一斉にエルフに突撃し、数の力で攻め込む。

「邪魔ッ!」

 しかしエルフは止まらず、右腕に纏わせた炎を使ってラテラリスアクサーの大群を薙ぎ払って消し去る。その勢いで左腕を元に戻し、エルフは必殺の構えを取る。

【カルテット!】

【カモン! カルテット! スピリチュアル!】

 エルフは両腕を地面に叩きつけ、火柱と水柱を発生させる。ウィップアクサーは足に力を込めてなんとか踏ん張るが、それも時間の問題だと思われた。

 ウィップアクサーを拘束したままエルフは右脚から強風を噴き出して高く跳び、左脚全体を石化させて突き出す。

「これで死ねッ!!」

 その攻撃は、ウィップアクサーを貫く一撃になるかと思われた。

 

 

 だが、そのキックがウィップアクサーを傷付けることは無かった。ウィップアクサーは右の剛腕でエルフのキックを受け止めたのだ。

「なッ……!」

「…確かにお前は強くなった。だが、『それだけだった』のが最大の問題点だ」

 言い終わると、ウィップアクサーはもう一方の剛腕をエルフに振るう。

「うぐうっっ……!」

 

 倒れ伏したまま立てずにいるエルフにトドメを刺すべく、ウィップアクサーは剛腕をエルフに向けた。

「…悲しいな。お前という女を失うのは………?」

 言葉の途中で、ウィップアクサーは唐突に左斜めに俯いた。暫らくしてから、細腕を口元に当てて発言した。

「…悪いな。召集が掛かった。我は此処で失礼する」

「待てッ……この……!」

 エルフの制止を聞かず、ウィップアクサーは闇へと姿を消した。

「……ッ!あ、あああああああああああああッッッッッッ!!!!!!」

 エルフは拳を地面に叩きつけ、周囲に炎を振り撒く。程なくして、行き場を無くした怒りは近くに身を潜めていた京太郎に向けられることとなった。

「うっそだろお前、マジかよ……!」

「うぅ、うがああああああッッ!!!!」

 

「……がああっ、がっ、あ…………」

 拳を握り締めたその瞬間、エルフの変身は解け、意識を失ったビオラはその場に倒れ込んだ。同時に精霊達がカルテットオーブから解放され、周囲に姿を現す。だが、精霊達は一目見ただけでも分かるほどに疲弊していた。

 サララは腹を晒したまま仰向けで倒れており、ネディンも立ってはいるが両膝を突いていて、立っているのがやっとの状態であった。

 一方でフィルも四つん這いになって咳き込んでおり、メロノに至ってはビオラと同じく気絶していた。

「流石にこれはやべぇって……おいウィル! 頼むから来てくれ!」

その声に呼応するように、ウィルは上空からふらりと現れる。

「やっほー、呼んだ? って、これは…ちょっと不味いかも……京太郎、とりあえずエルフの里にでも運びたいんだけど、手伝ってくれる?」

「…もちろんだ」

 そういうと京太郎はビオラを背負ってオーブにした精霊達を抱え、エルフの里へ歩をゆっくりと進め始めた。

 

 

 

「…遅れてしまい申し訳ありません。ウィップアクサー、只今参りました」

「よっし、これで全員揃ったね。じゃあ、話を始めよう」

 黄緑色に光る培養液を保有した容器が幾つも立ち並ぶ薄暗い一室に、ビネガー、ウィップ、そしてキャメルの3大幹部格アクサーは集合していた。しかし、先程の声の主はその誰でも無かった。同じく部屋に居合わせている託斗のものでも無かった。

 ……その声の正体は、4人をこの一室に集めた張本人であり、組織の主でもある男だった。

「実はね、皆には内緒でもう一体、か〜な〜り、強いアクサー造ってたんだけどさ」

「おいおい、ンな話初めて聞くぞ!?」

「まあ落ち着いて、ビネガーくん。大変なことになっちゃったんだよぉ〜…」

「…それがさ、その……ね。そいつに逃げられちゃったんだよ……」

「…ぷっ! だははははっ!! だっせー! っはははは! やべぇ、笑いが止まんねー!」

「そんなわけでね、皆にそいつを探して貰いたいんだ。……君にもね、ビネガーくん。」

「だははっ、は……はあ!? テメェの過失だろうが! なんで俺らがその尻拭いを…」

「喧しいぞビネガー。ボスの命令だ、速やかに遂行しろ」

「…ちっ、ウィップの堅物が……」

「何か、言ったか?」

ウィップアクサーは左の剛腕をビネガーアクサーの首元に宛てがい、低い声で問う。

「…へいへい、やりゃあ良いんだろ、やりゃあ」

「うん、皆、頼んだよ。彼は僕らに………」

 

 

 

「『NAHMU(ナーム)』に、必要な存在だからね………」




両耳同時の耳舐めASMRやばくないですか?(性癖暴露)…ども、青ずきんです。

やりたい事詰め込みすぎて超展開気味になってしまいましたが、果たして混乱せずに12話を読み終えたという方はいらっしゃるでしょうか。いや、いない(断言)

今回初登場の『カルテットスレイヴ』ですが、キバの『ドガバキフォーム』みたいに一話限りの強化フォームとして登場させたので、今後再登場することは無いかと思われます。ごめんなさい。
さて、次のエピソード(13、14話)は日常回にしようかと思っています。なので、戦闘描写が少なくても許してくださいお願いしますなんでもはしませんけど。


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第13話 Embarrassー人間界の案内人

投稿期間空きまくってごめんなさい!私生活が色々と忙しかったんです、アニメ観たりとか昼寝したりとか……(故意犯)

…第13話をどうぞ。


「ねえお姉ちゃんってば! 早く早く!」

 辺りには瑞々しいほど爽やかな若草が生い茂っており、青い空の上からは今日もお天道様が私たちを見守ってくれている。涼しげな風が吹き抜けた先には小さな少女が立っていて、大きく手を振りながら私のことを呼んでいる。

 

 しかし、その声にはおかしな点が存在していた。小さな少女は顔も見えないほど私から離れているにも関わらず、声だけは何故か耳元で騒がれているかのような……いや、違う。まるで天の声かのように、私の居る空間全てに響き渡っているかのような感覚を憶えるのだ。それに、聞き覚えもある。

 ……妹の、ライラの声だ。…あり得ない。確かに、ライラはウィップアクサーに殺された筈。ならこれは夢?だとしたら私は今…

 

 そこまで思考を巡らせてから、私は目を覚ましてハッとしたように周りを見渡した。

「ここ……は…」

 見たことのある白い天井、そして壁。奇跡的にひび割れだけで済んだ、今は誰も住んでいないある民家。エルフの里の南端に位置する場所。それを理解した直後、全身に激痛が走るのを知覚する。

「…づっ! ……あ…」

 左腕で右の二の腕を押さえる。だが、その腕も含め全身が無意識のうちに震えていた。痛みと、恐怖からくる震え。……ようやく、私は自覚した。

 私は、負けたんだ。人間に……仮面ライダーヒューマに。

 

 

 私には、何もなかった。家族を守れるだけの力も、人間に抵抗する力も。仮面ライダーとしての力だって、「私」自身が使いこなせているとかそういうわけじゃない。傲慢だったんだ。自分はエルフだから、人間なんかに負けるはず無いって。エルフだから、人間よりも頭が良いって。生まれた種族が凄かったから、それに甘えていただけだったんだ。

 ……私は、何も出来なかった。きっと、これから先も何も出来ずに一生を終えるんだ。…いや、反逆者として捕らえられて拷問されたりするかな?私が泣き叫ぶ姿を見せ物にして、人間達を笑わせるピエロにするんだ。

 

 …私には、もう、何も───

 

 

 

「…なあ凱」

「るせぇ」

「……なあ凱」

「るせぇって」

「………なあ凱」

「るせぇっつってんだろうが!」

 凱の自宅。最近レポートをまとめてる時の凱の邪魔をするのにハマってる俺は、とにかく横槍を入れる事に心血を注いだ。…ま、それ以外の目的もちゃんとあるが。

「さっきからピーチクパーチクうっせぇんだよ! ちょっとは集中させろ!」

「ピーチクパーチクとか言ってねぇけど」

「小学生みたいなこと言ってんじゃねぇ! いいから集中させろって!」

「2000円になります」

「なんで金取るんだよ! ほらこれで良いだろ!?」

「首里城では無いため認められませーん」(※二千円札の表面右側に描かれているのは守礼門です)

「うぜえええええええええええ!」

 

 凱が懐から出してきた千円札2枚を返し、精一杯の変顔で煽る。……まあ、元から金取る気なんぞさらさら無いんだけどな。

「……で、話なんだが」

 いつものちょっとした茶番を終え、強引に自分の話へと話題を変える。またしてもビオラが敗れ、今度はどんな精神状態になっているのか分からないということ。ビオラの前に最も憎んでいるらしい奴が現れたこと。そのせいで人間への警戒が初めて出会った時のレベルにまで戻っているかもしれないこと。

こういうちょっと複雑なことは凱を頼ればなんとかなる。傍からみても間違いなくナイスガイだ。凱だけに。(冬の訪れ)

 

「……めっちゃくちゃ気にかけてんじゃねぇか。ビオラちゃんの彼氏か? お前は」

「いや違うんだよ、本当、マジでホント。……凱だってさ、実際に色々知ったら絶対ビオラと仲良くなりたいとか思うって」

「うわ…お前下心で近づいてたのかよ……」

「だから違ぇんだって!それだけは1000%違う!」

「『絶対』って言いてぇなら100%で良くねぇか?」

「そんなのはどうでもいいんだよ! それよりィ! どうすりゃビオラを励ませるか意見を出せェ!」

「なんで意見を出してもらう側なのにそんな偉そうなんだよ……まあアレじゃねえか? デートっぽい事して、その流れで上手いことホテルとかに連れ込むとか……」

「だから俺を変態キャラに仕立て上げるのをやめろ!」

「え、京太郎って変態キャラじゃなかったのか……?」

「いよぉーし表出ろ、外で開脚前転披露してやる」

「だからなんだよ」

「お前もするんだよォ!」

「なんで俺がしなきゃいけねえんだよ! 第一さっきからレポートの邪魔すんなっつってるよな!? お前のせいで集中力削がれまくりなんだけど!」

「……でも改めて考えるとデートは割とアリかもな……」

「話を聞けェェェェェ!!」

「うおあああああ!?」

 その雄叫びと共に、俺は怒れる凱に家を追い出されてしまった。

 

 

「…ってな感じでここに来たわけよ」

「……バカみたい」

 エルフの里。ベッドの様な物に横たわり、上半身だけ起こしていたビオラに呆れられていた京太郎は、ばつが悪そうな顔をしたまま俯いた。

「…なあ、頼むよ。デートって言うとアレだし……旅ってことにしてさぁ」

「私そもそも行くとか言ってないんだけど」

「頼むよぉ〜」

「…帰って」

 それだけ発し、ビオラは掛け布団を頭まで被って再び寝込む。その様子を見た京太郎は、はぁと短い溜息を吐いてから徐に口を開き、必死に誘おうとする理由を語り始めた。

「…ぶっちゃけた話さ、マジで下心があるわけじゃねぇんだよ。単純にさ、もうちょっと気を抜いて欲しいだけなんだよ」

「…」

「…ここんとこさ、張り詰めすぎな気ィするんだよな。あのなんか黒っぽい奴が出てきた時とかさ、なんかすげぇキレてるみたいだったし、他にもよくわからんけど変身する人間が居たり、そいつがアクサーと結託してたりとか……」

「だからってさ、別に何が起こっても感情で動くなとか、そういうことを言いたいわけでも無いんだ。ただ、やっぱメリハリってやつはつけないと駄目だ。ちょっと頑張ったら、ちょっと休む。これってすげえ大事な事なんだぜ?」

 

「…じゃあちょっと休む。だから帰って」

「いや、その……な。それだけじゃねぇんだよ。もっと人間について知って欲しいなってのもあるんだ。人間は、別に全員が全員悪い奴じゃねぇんだって」

「そんなの知らない。…どうでも、いい」

「うーん……」

 なんとかビオラに人間についてもっと知ってもらいたい。その一心で説得を続けていた京太郎だったが、ここまで空振るのは想定外だった。

 

 …が。不意に、京太郎の頭の中に女性に対して非常に失礼な解決方法が思い浮かんだ。すぐに頭から消し去ろうとしたが、他に何も解決策が思い浮かばなかった京太郎はこの瞬間だけ感情と表情を殺し、無心で掛け布団に手を伸ばす。

 右手で力強く握りしめ、一気にビオラから掛け布団を剥ぎ取る。

「ちょっ、何なの!?」

 予想だにしていない事態に声を上げるビオラを尻目に、京太郎はビオラのスカートの裾に手をかける。そして、真顔のまま何も考えずにその腕を……

 

「きゃああああッッ!?」

「ぬおおおおおっっ!?」

 …京太郎が動かすよりも早く。何をされるか悟ったビオラは京太郎を風魔法で吹き飛ばし、壁に叩きつけた。

「おぶっ……」

 腹を手で押さえながらずり落ちていく京太郎を見てから、ビオラは再び眠りにつく。……はずだったのだが。

「…眠れない……」

 今の時間帯が昼であること。近くに横屋京太郎という人間が存在すること。そして何より、先程の京太郎の痴漢行為。これのせいでビオラの眠気は完全に覚めてしまった。

 むくりと起き上がり、ビオラは京太郎の方に顔を向けながら言葉を放つ。

「…はあ。アンタのせいで寝られなくなった。責任取って」

「責任って……言われましても……」

「…『でーと』とかって言うのに私を連れ出すんでしょ。ほら、早く支度して」

「出来れば……もっと早くその言葉を……聞きたかったなぁ……」

 叶わなかった願望を言い遺し、京太郎はかくんと項垂れてしまった。

 

 

 それからおよそ10分後。ビオラはやつれた様な顔をした京太郎を連れて繁華街へと足を運んでいた。辺りは人でごった返しており、中でも最近オープンしたパンケーキ専門店には長蛇の列が出来ていた。全面ガラス張りの天井は日の光を受けて輝き、賑わう人々を優しく照らしていた。

「で、なんかプランはあるの?」

「お! あそこのラーメン屋旨そうじゃん! 行こうぜ!」

「…なるほど、ノープランってわけね」

 呆れつつもビオラは足早に京太郎を追いかける。

 

「…で。ラーメンって何なの?」

 カウンター付近の席に着き、注文を終えてから開口一番、ビオラは眉を八の字にして尋ねてきた。

「え? まさかラーメンを知らない?」

「…知らない。()()で人間が寄越す情報は建築とかそういうのしか無かったから」

「…取引?」

「そ。人間とエルフはそれなりに前から繋がりがあったからね。私達は人間の知能を遥かに超えた叡智を、人間は家の建て方だとか、塗装とか内装とか。そんなのを交換し合って来たの」

「…なるほど。ビオラって確か206とか言ってたよな? 200年前っつったら……まだ日本が世界とバチバチ()ってた頃か? なんかさ、武器とか、そういうのは無かったわけ?」

 その京太郎の問いにビオラは、はっとした様に体を一瞬ビクつかせてから深く俯いた。暫くしてから、ビオラは顔を下に向けたまま言葉を紡ぎ始めた。

 

「……その『武器』…と、アクサーが原因で私達エルフは負けた。…人間達は、ヒューマレジスタンスの為に意図的に『銃』だとかの情報を私達に寄越さなかった。最初から情報だけが狙いで、ある程度手に入れたから『用済み』として私達エルフを殺した……それが真実なの。これが、『人間』という種族の本質なの。利用するだけ利用して、使えなくなったらポイ捨て。…京太郎(アンタ)も、そいつらと一緒。結局は…」

「お待ち遠さま」

 憎たらしい過去を想起するビオラと、それに何も言えずにいる京太郎の二人が作り出していた暗澹な空気を浄化したのは、完成したラーメンをビオラに献上した店主だった。言葉を遮られたビオラは頭を冷やして冷静さを取り戻し、器を持ち上げて麺ごと汁を平らげようとし始めた。

「ちょちょちょちょちょ! 待てって待てって! そのまま飲む気か!?」

「…え? そのまま飲むんじゃないの…?」

「バッカ! あのな、麺は普通箸で食うんだよ! 箸で!」

「…『はし』?」

「知らねぇのかよぉ!」

「だって…エルフは人間と違って別に何も食べなくたって生きていけるし……」

「…了解。まずは持ち方からだな。よーく見とけよ?」

 初めてビオラに勝てるものが見つかったからか、京太郎は心なしか普段より若干うざったい口調で箸の使い方を説明する。

 

 説明すること僅か1分。たった一度京太郎が手本を見せただけでビオラは箸の使い方をマスターしてしまった。それからすぐに京太郎の分のラーメンが出来上がったため、京太郎は涙目でラーメンを食していた。

 

 …京太郎がラーメンを完食した頃。同じように完食し、勘定を済ませた客が続々と店を後にする中、京太郎はまだ食べ終わっていないビオラを待っていた。どうやらビオラは猫舌らしく、一口ずつしっかり息を吹きかけてから麺を啜っていた。そんな様子が、ビオラの身長も相まって京太郎には本当に唯の年頃の少女というようにしか見えなかった。

 …しかし、まるで世界が一時の休みすら許さないとでも言うかの様に繁華街に女性のものらしき悲鳴が谺した。

「「…!?」」

 只事では無い事を悟った京太郎は急いで二人分の勘定を済ませ、足早に店を飛び出して行った。

「っちょ、待ちなさいって! ……あふっ」

 急いで食べ終わろうとビオラは息も吹きかけず残りの麺をまとめて口に運んだが、あまりの熱さに少し吐き出してしまっていた。

「…はぁっ! ご馳走様でしたッ!」

 なんとか耐えて全ての麺を食べきり、器を持ち上げて恐るべき勢いで汁を飲み干してからビオラも文字通り現場に飛んで向かった。

 

「…えっ!?」

 いち早く悲鳴の発生源にたどり着いた京太郎は、驚きのあまり間抜けな声を出してしまった。…何故ならば。その現場では、暴力団の組長かのような人物が20代ほどと思われる女性達に襲いかかっていたからである。金色に染まったリーゼント、レンズの茶色いサングラス、紫を基調としたアロハシャツに真っ黒なジーンズ、ビーチサンダル。ポケットに手を突っ込んだまま女性達を足蹴にしている。

 てっきりアクサーの襲撃による悲鳴だと勘違いした京太郎は、事態を静観する他無かった。

「そこの暴漢! 動くな! 止まりなさい!」

 通報があったのか悲鳴を聞きつけたのか、複数人の警察官が暴漢に向かって走って来た。と同時に、ビオラも到着した。京太郎同様、唯の暴漢だった事に唖然としていた。…のも束の間。突如暴漢の頭頂部から白い液体のようなものが溢れ出し、ものの数秒で全身を覆い尽くした。数秒後、液体の流れが止まり、暴漢らしき男は真の姿を現した。

 

「う、うわあああああっ!!」

「きゃああああああ!!」

 結論から言うと、その正体はやはりアクサーであった。ハートの形の様に膨らんでいる黄ばんだ頭部、有色透明で茶色く複数の手足を持ち、時折空を見上げるかのような不審な挙動をする怪物。名をミミクリーアクサー。自らに発砲してくる警察官には意も介さずビオラの方へ歩み寄ってくる。

「皆逃げろっ!」

 京太郎は混乱している人々を安全な場所へ誘導する。対してビオラは、何もしなかった。殴るでも、ベルトを出現させるでもなく、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

「おいビオラ! どうしたんだよ! 変身しないのか!?」

「…えっ?え…あ…」

 

 京太郎は素っ頓狂な声を上げるビオラに困惑していた。普段のビオラなら、「アクサーは絶対に潰す」とでも言って変身し、殴りかかっていた筈だからである。だが、何故ビオラが変身をしないのか、彼女の手に目をやった京太郎は理解した。……いや、「思い出した」の方が正しいのかもしれない。ビオラの手は、小刻みに震えていた。精霊たち全員の力を結集しても敵わなかったウィップアクサーがトラウマにでもなったのだろう。目の前の幹部未満のアクサー相手にも萎縮してしまっている。本を正せば、ビオラ・ヒアラルクはただの少女だ。平和な日常と決別し、戦う事に一切の躊躇を見せないなどあり得ない事なのだ。

 無力。絶望。恐怖。様々な負の感情が、ビオラの心を駆け巡る。額から冷や汗のようなものが零れ落ちる。もう彼女に、正常な判断を行う術は無かった。

 

 

 ……横屋京太郎という男が居なければ。

「おい! ビオラ! 頼む、聞いてくれ!」

 京太郎はビオラの両肩を掴み、語りかける。

「確かにあいつは、ウィップアクサーとかいうやつはクソ強ぇんだと思う。でも! お前がここで諦めたら! 喋りもしないあそこのアクサーに負けたら! お前の家族はどうするんだよ! 俺が……人間が! 憎かったんじゃないのか!? ここで投げ出したら……お前の嫌いな人間はずっとこの世界にのさばり続けるぞ! それでも良いのか!?」

「…」

「…」

「……でも」

「…お前がやらねぇんなら俺がやる。女の子の手前、男は逃げ出せねぇからな……!」

 そう言い、京太郎は右手に力を込めてミミクリーアクサーの方へ振り向こうとする。

 

「……嫌われてるって、分かってるんなら」

 ビオラは両肩に置かれた京太郎の腕を払い除け、1歩前に進み出る。

「…さっさとどっかに行って。…攻撃、当たるかもしれないから」

 震えながら声を発し、ビオラはエルフドライバーを出現させた。

「ウィル」

「やっほー、今回はここが初めての出番だね」

「…サララのオーブ出して」

「おっけー、無理はしないでよ?」

 ビオラはウィルが出したサラマンダーオーブを右手で力強く握り締め、天高く掲げる。

【サラマンダー!】

【セットアップ!】

 京太郎が離れたのを確認してから、ビオラはベルト左側のレバーを倒す。

【サモン!】

「…よう、無理だけはやめてくれな?」

「分かってる。…いくよ」

「…合点」

「「変身!」」

 召喚されたサララと会話を交わし、ビオラはサララをその身に宿す。

【燃え盛る炎、その勢いは特急の如く! その炎、万物を溶かし尽くす!】

【フレイアーーーー…サァラマンダーー!!】

「……人智の先…見せてあげる」

 震えを見せつつ右腕を正面に突き出し、ミミクリーアクサーを人差しで指す。多少ビクついているが、少しずつ、少しずつその距離を縮める。

「はぁっ!」

 エルフはミミクリーアクサーの胸部目掛けて右ストレートを繰り出す。そのまま数発拳を叩き込み、最後に蹴りを入れて吹き飛ばす。真正面から受け止めたミミクリーアクサーは数メートル後退し、片腕を地に着けてしまう。

「もう一発……!」

 エルフは正面に翳した右の掌に火球を出現させ、ミミクリーアクサーに向かって放つ。

「ギゥ……!」

 純粋な殴り合いは不利と見たのか、ミミクリーアクサーは先程のように頭部から白い液体を溢れさせる。その液体が完全に流れ落ちて再び姿を現した時、そこにミミクリーアクサーは居なかった。

 

 …いや、実際はそうではない。代わりに、等身大の剣がそこに鎮座していた。

 男の姿から変貌した事を考えると、ミミクリーアクサーは別の何かに姿を変える能力を有しているのではないか。その結論に辿り着いたエルフは、迷うこと無く薄緑色の柄をした剣に向かって走り出す。剣はその身を大きく振り回して斬りつけようとする。が、エルフはその寸前で飛び上がって攻撃を躱し、お返しとばかりに蹴りを一発入れる。着地し、再度右足に力を込めてハイキック。吹き飛んだ衝撃で剣はミミクリーアクサーへと姿を戻してしまった。

「さて……と」

 体勢を整え、エルフはオーブの天頂のボタンを押す。

【サラマンダー!】

「ギッ、キィ…!」

 同時に、最後の悪足掻きとでもいうかのようにミミクリーアクサーは仮面ライダーエルフの姿に擬態した。そして、抗うように掌に火球を作り出す。

 ……しかし、その腕がエルフに向くことは無かった。その腕は……京太郎の方へと向けられた。

「…ッ!」

「マジかっ……!」

 回避しようと試みる京太郎を前に、ミミクリーアクサーが擬態したエルフは掌の中でその火球を肥大化させていた。




投稿遅れてしまい、誠に申し訳ございませんでした(2回目)
スプラトゥーン2にアニメ鑑賞、東方ロストワードのリセマラ……色々やっていて、小説を後回しにした結果がこれですよ。大変申し訳ない。

次回の更新も遅くなるかもしれませんが、これからもどうかよろしくお願いします。


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第14話 Re:Embarrassー尖った心、裏返し。

まーた遅くなった……申し訳ないです。


「くっ……!」

 エルフは衝動的に走り出し、京太郎の前に立ち塞がった。

【カモン! フレア! スピリチュアル!】

 必殺技の発動を知らせる音声が鳴り響く。同時に、エルフに擬態したミミクリーアクサーが掌から火球を放つ。

「このっ…!」

 小さく声を漏らしてからエルフは跳び回し蹴りを繰り出す。その衝撃波が火球に触れ、小規模な爆発を起こした。辺りを薄い煙が覆い、視界を遮る。

煙が完全に晴れる頃には、ミミクリーアクサーはその場から姿を消していた。

 

「……はあ」

 変身を解除し、ビオラは安堵したようにへたり込む。それを見た京太郎は、少し困ったような顔つきのままビオラに歩み寄っていった。

「…こういう時ってさ。『ごめんな』って言えばいいのか、それとも『ありがとう』って言えばいいのか、正直よく分かんねぇんだ。…もちろん、さっき助けてくれた事には感謝してる。でも、無理矢理戦わせたのは俺だし……」

「……だからこそ俺は、言われて嬉しい方を選ぶことにした。…ありがとう、ビオラ」

「……」

 京太郎の感謝には何も返さず、ビオラは徐に立ち上がった。そのまま一言も発さずに後ろに振り返り、つかつかと歩き始める。暫くビオラが歩くと、突然振り返ってきて叫んだ。

「デート! ……するんでしょ? 早くエスコートなりしてよ」

「え、あっ…あぁ、分かっ…た」

 ぼそぼそとした声で反応し、京太郎はビオラの元へと駆け寄っていった。

 

「…つってもなあ」

 強い日差しがビオラ達を照らす真っ昼間。京太郎はビオラの隣を歩きながら思案していた。何をかというと、このデート紛いの人間界の案内についてだ。凱の元を飛び出したのは良いものの、突発的な案だったためになんのプランも無いのだ。

 今は特に行く宛もなくぶらぶらしているが、これをいつまでも続けるわけにはいかない。自分から誘った手前、「特に行きたい所は無いので自由に歩いてください」とは言えるはずも無い。万が一にでもそんなことを言い出せば、「あっそ」などと言われて帰られるに違いない。それだけは避けなければならない。

 だが、現在の持ち合わせはあまり無い。そのため、ショッピングモールを練り歩くなんて真似をすれば私生活に影響を及ぼしかねない。

「…よっしゃ」

 それらを考慮した可能な限りの最善策を思いついた京太郎は、軽やかな足取りでビオラのエスコートを始めた。

 

「おし、ここならまあ大丈夫だろ」

「…ねぇ。もしかしなくっても、ここって……」

「お、ビオラ知ってんのか。遊園地だ。中々のチョイスだろ?」

 京太郎がビオラを連れて訪れたのは、近くの遊園地だった。数回回転するジェットコースター、巨大な観覧車、メリーゴーランド。他の数多くの遊園地とそれほど差違があるようには見えないが、この遊園地は一周が短い代わりにかなり高速で動くジェットコースター『シャイニングホッパー』を強みにしている。これが人気を博しており、京太郎の地元の周辺地域に位置する遊園地の中ではトップクラスに人気なのである。

 休日なのもあってか、いつもより客足が多いように見受けられた。入り口に近づき、少し順番を待ってのりものパスを購入する。…が。

「そこの子、もしかしてお子さんですか?」

「…は? 私を子供扱いしてんの?」

「えっ? えっとね……」

「あっ、ごめんなさい! えっと……従妹、です……」

「あっ、あぁ……はい、分かりました……」

 

 …と、こんな感じで購入する際にビオラが係員に噛みついていた。正直な所ビオラは、歳を知らない状態で「小学生です」とでも紹介されれば、情報をそのまま飲み込んでしまう程に背が低い。だが、彼女の齢は206。故に、自分の歳の半分も生きていない人間に子供扱いされるのが気に食わないのだろう。

 購入を無事済ませ、アトラクションへと歩を進める。道中、京太郎とビオラはかなりの注目を浴びていた。異常なほど背丈に差がある男女、多くの人々が小学生かと見紛うほどの低身長に長い金髪を持つビオラ、そしてビオラのその整った顔立ち。すれ違った人々は思わず振り返っていた。

 

 ようやく目的のアトラクションにたどり着き、二人はそれを見上げる。

「…ねぇ、まさか……これに、乗る気…?」

 ビオラが震えながら指差した先にあったのは、4回ほどの回転をするジェットコースター『フライングファルコン』だった。マゼンタに塗装されたレールは優しい印象を与えるが、その実心臓の弱い者には追加でかなりの絶叫を与える凶悪なジェットコースターだ。

 下手をすれば先程までの戦闘よりも足を竦ませているのではと勘繰ってしまうほど震えていたビオラは、こっそり後ろに下がってアトラクションから距離を取ろうとしていた。

 

 だが、京太郎は既にビオラの分のパスまで購入したのだ。今更引き下がることなど出来はしない。そこで係員に子供扱いされてビオラが怒っていたのを思い出し、京太郎は子供扱いでビオラを煽って乗る事を決めて口を開く。

「お? もしかして怖い? まあ〜…確かにお子様目線だと怖いかもなあ、このジェットコースターは」

 その言葉を聞いたビオラは肩のあたりをピクッと反応させ、途端に京太郎を睨んだ。

「…別に怖いとか言ってないでしょ。やってやろうじゃない」

「……ちょっろ」

 

「安全バーのロックを確認します、少々お待ちください」

 ビオラはしかめっ面でシートに体重を預ける。体を覆うかのように造られた安全バーを力の限り抱きしめ、恐怖に震える自身をなんとか律しているようだった。

「怖くない、怖くない、怖くない、怖くない……!」

「めっちゃ怖がってんじゃん」

「怖くなんかないッ! 怖くなんか──」

「それでは出発いたします。翼を広げ、力に備えてください。では、いってらっしゃい」

「ッ!?」

 勢いよく京太郎の方へ振り向き、ビオラが反駁したその瞬間。係員の出発のアナウンスが入り、ジェットコースターが動き出した。その途端にビオラの心臓が激しく鼓動する。『シルフィードスレイヴ』で高速移動をしてはいるが、アレは装甲の頑丈さ故に『落っこちても大丈夫』という安心感があるからこそと言っても良い。

 しかし、今は変身などしていない。流石に人間ほど耐久力が低いわけでは無いが、死なない可能性も無い。人間が造った物を信用できないためか、ビオラは命の危機すら感じている。

 

 そんなビオラの心境など露知らず、ジェットコースターはゆっくりと高度を上げていく。頂点まで登りきり、コースターは急激に速度を上昇させて走り出す。

「わああああああっっ!!?」

「わっほーい!!」

 仮面ライダーへと変身していたのならば軽く変形させてしまうほど安全バーを抱きしめ、ビオラは怯えたような顔つきで絶叫を上げる。

「無理無理無理無理無理無理無理無理ぃぃぃ!!!」

「イェーーイ!!」

 対して京太郎は臆することもなく、ジェットコースターの疾走感を楽しんでいる。縦方向に1回転する部分に差し掛かり、乗客たちの間でも絶叫と歓声が入り乱れていた。そんな中ビオラは、全力で楽しんでいる京太郎の隣で目を三白眼にし、垂涎しながら気を失っていた。コースターの動きに合わせて体が揺さぶられるのみで、声一つすら上げていなかった。

 

「おーいビオラ、起きろって。もう終わったぞ」

「……ハッ!?」

 京太郎に肩を叩かれ、ビオラはようやく意識を取り戻した。アトラクションを降りて暫くしてからも、ジト目でよたよた歩きながら「もう二度と乗りたくない……」などとぼやいていたのを見て、京太郎は少しばかりの反省を憶えた。

 次に京太郎が向かったのは、小さい子供でも安心して乗れるジェットコースター『エキサイティングスタッグ』だった。次もジェットコースターだと知るや否や、ビオラは全力で首を左右に振った。

「無理無理無理無理無理! 絶ッッッ対に無理!」

「そう言わずにさ、これは凄く短いやつだし、ビオラでもいけるって」

「そういう問題じゃなくて! 『じぇっとこーすたー』そのものが駄目なの!」

 なんとかして誘おうとする京太郎だったが、ビオラはそれを真っ向から拒絶した。若干泣き出しそうに潤んだ小さな瞳が、その心の奥底に隠れた逃げ出したい衝動を表していた。

 それでも諦めず、ビオラにジェットコースターを楽しんでもらうために京太郎がビオラの手を引いた、まさにその時。轟音と共に、何かが空から降ってきた。着地点は『エキサイティングスタッグ』の真上。周囲が忙しなく現場から離れようとする中、その何かは潰れてしまった『エキサイティングスタッグ』から飛び出し、ゆっくりと着地。徐に立ち上がり、その姿を現す。

 

「アンタは……ビネガーアクサー……っ!」

 その正体はビネガーアクサー。こちらを睨み、無言で距離を詰めてくる。ビオラはファイティングポーズをとると同時にエルフドライバーを出現させ、ウィルを呼び出す。

「……助かった、これでジェットコースター(アレ)に乗らずに済む……ウィル! ネディンのオーブ持ってきて!」

「……相変わらず人使いが荒いなあ」

「あんたは人じゃないからセーフでしょ」

「じゃあ『使いが荒いなあ』に変更で」

「……それじゃ意味伝わらなくない?」

「え? じゃあもしかして僕って最初から負けてた?」

「……そんなのどうでもいいから、早く」

「……理不尽だなあ」

 そんな会話を交わしつつも、敵の姿をしっかりと捉えていたビオラは無策で突っ込んで来たビネガーアクサーの頭を蹴り飛ばす。いつもの彼なら物ともしないはずだったが、何故かビネガーアクサーは頭を押さえて後退りをしていた。

 

【ウンディーネ!】

【セットアップ!】

「……ミミクリーアクサー(アンタ)の擬態って、隠す気無いんじゃないかってぐらい死ぬほど分かりやすいんだけど……自覚ある?」

「……!」

 真の正体を悟られたビネガーアクサー、改めミミクリーアクサーは擬態を解き、ビオラに背を向けて逃走を始めた。

「あっ、ちょっと! 待ちなさい!」

【サモン!】

「ネディン、出番!」

「りょうかいっ!」

 ベルトに装填されたオーブからまっすぐ飛び出し、ネディンは水で鎖を作り出してミミクリーアクサーの首を絞める。

「アッ……ガァ……」

「よし、ネディンナイス!」

【その淑女、泡沫の様に儚く散りゆく小さき命。荒波の如く激しく在れ!】

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

 ビオラは走りながら変身を完了させ、鎖を解こうともがいているミミクリーアクサーを飛び蹴りで吹き飛ばした。

「グ……ング……」

 足を震わせながらも立ち上がり、ミミクリーアクサーは仮面ライダーエルフ ウンディーネスレイヴの姿へと変貌を遂げた。が、完全には再現しきれないようで、所々本家よりディテールが禍々しくなっている箇所が散見される。

 先程の仕返しと言わんばかりに、擬態仮面ライダーエルフは口のあたりから水の鎖を吐き出す。その攻撃を、本物のエルフは顔を右側に軽く傾けるだけで回避して見せた。そしてその代わりに擬態エルフの足元に鎖を放って螺旋状に上昇させ、擬態エルフの身体を締め上げた。

「これで……どう!?」

 擬態エルフの元に駆け寄り、本物のエルフは鎖ごと擬態エルフを蹴り上げる。遠くに飛ばされた擬態エルフは、それでもまだ諦めようとせず、地べたを這ったままの体勢で今度はエルフを囲うように鎖を打ち出した。それはエルフの攻撃かのように螺旋状に上昇していき、エルフの身長とほぼ同じ高さになったあたりで一気にエルフの元へ収束した。

 

 だが、これもエルフが自らを液状化させることによって回避された。擬態エルフは駄々をこねる子供のように握り締めた右の拳で地を叩き、大量のラテラリスアクサーを呼び寄せた。まるでゴキブリかのようにカサカサと動き回るラテラリスアクサーを相手に、エルフはキックとパンチを織り交ぜて応戦した。胸部を狙って攻撃し、挟まれそうになった際には片方の首を引っ掴んで後ろに振り向き、盾のように扱って防いでからもう片方に反撃した。大群をあっさりと片付け、ゆっくりと擬態エルフに近づく。

「……残念。どれだけ私に近づこうとしても、結局真似するまでが限界っぽい」

【ウンディーネ!】

 呆れたようなセリフを吐き、エルフは未だに地べたを這ったままでいる擬態エルフを見下しながら必殺キックの体勢に入る。

【カモン! アクア! スピリチュアル!】

「どうせ真似するんなら、せめて私ぐらいの独創性を持って出直すことね!」

 言い終えると、エルフは擬態が解け始めたミミクリーアクサーをサッカーボールのように天高く蹴っ飛ばした。

「ギゥッ、ギュアアアアアッッ!!」

 奇声を上げながら、ミミクリーアクサーは宙で爆発した。天高くまで蹴り上げたのは、この爆発に人間やアトラクションが巻き込まれないように配慮したからだ。その行動を振り返り、自分の中で段々と人間に対する態度が軟化していっているのではと、変身を解除したビオラは一抹の不安を憶えた。

 

 

「はああ……何かすっごい濃い一日だった…」

 ビオラは夕日をバックに背伸びをし、ひどく疲れたような表情を晒した。実際、あまり運動をするタイプではなかったビオラはかなりの疲労が溜まっており、今すぐにでも倒れ込みたいほどだった。

「つーことは、デートは成功ってことでオッケー?」

「……どこにデート要素があったんだか」

「いや、ほら……ラーメンとか……」

「どう考えてもデートでラーメンはないでしょ。恋人と食べるって感じの料理でも無さそうだったし」

「ええ〜……」

 

 そんな会話を繰り広げながら、二人はゆったりとした足取りで帰路を辿る。ビオラが元に戻ってくれて、人間の世界を少しばかり紹介できた。『じぇっとこーすたー』はアレだったけど、まあまあ楽しかった。そんな風に、今日という日は双方にとってとても良い一日となった。

 少し歪で、とてもデートとは呼べないような二人の旅路が、いつかデートと呼べるほどにビオラと親しくなること。そして、ビオラに人間のことを信じられるようになってもらうこと。あわよくば、そのまま他のエルフ達にも人間を見直してもらうこと。それが、現在の京太郎の目標だ。

 自分が、エルフと人間の橋渡しのような存在になってみせる。そんな思いを胸に抱きつつ、京太郎はまた歩を進めるのだった。

 

 

 

「……まだ見つからない?」

「……ええ。大変申し訳ございません」

 ビオラが強く嫌悪するアクサーの巣窟にして総本山である場所、『NAHMU』。薄暗いその一室で、『NAHMU』の首魁と思わしき男と託斗は会話をしていた。内容は、数日前に施設から行方を眩ませた新型のアクサーについてだ。男からそのアクサーの捜索命令が出されていたが、託斗達は捕らえるどころか発見する事さえ出来ていなかった。

「……そっかあ」

 男はため息混じりの声を上げ、虚空に目を見やる。が、男はあまり落胆しているようには見えなかった。その理由はただ一つ。

「……ま、別にいいや。最初から特別な期待とかしてなかったしね、もう帰っていいよ」

「……了解です」

 そう、この男は、最初から期待などしていなかったのだ。『無理だとは思うけど、見つけてくれたらラッキー』というほどの感情しか無かった。それは、幹部級アクサー達を含め託斗に一切の信頼が存在しないことでもある。

 

「やだっ、やだっ! 助けて! お願い!」

「嫌だ、やめてくれ、化け物になんかなりたくない!」

「……」

 培養液に閉じ込められ、否応なしにその身を怪物へと変貌させられる人々。今まで何も考えず、寧ろ悪ノリまでしていた託斗は、ここに来て初めて「平和」という言葉に疑問を感じだした。

 エルフ達は、人間よりも圧倒的に高度な知能を持ち合わせている。故に、人間では想像もつかないような兵器を開発して人間の世界に侵攻してくる可能性がある。だからこそ、そのまま何も反撃出来ず、取り返しのつかないことになる前にエルフ達を抑圧する必要がある。それは正しいことだと感じていたし、正義の行いでは無いのでは、と疑うこともしなかった。

 

 だが、それは自分たちだけの平和ではないのか?自分たち「人間」が平和に暮らしたいように、エルフ達だって平和に暮らしたいはずである。ただ「高度な知能を持っている、だから戦争を仕掛けてくるかもしれない」などと、差別にも近い感情だけでエルフ達を排斥するのは果たして正義なのだろうか?

 

 一部の人間とエルフという、自称「平和のための致し方ない犠牲」を切り捨てることで得た世界は、本当に平和な世界だと胸を張って言えるのだろうか?

 

 託斗の頭の中では、様々な形の「正義」と「平和」が鬩ぎ合っていた。




更新遅れてしまい大変申し訳ございません!

プライベートに時間を割きまくっていたら執筆の時間が取れず(サボっていただけともいう)、こんなに遅くなってしまいました。本当にごめんなさい。

今度からはもう少し更新ペースを上げます!
……と言いたいのですが。実はこれから中間考査と期末考査が始まるため、それに向けた勉強をしなくてはならなくなりまして……
まあつまり、次回も更新が遅くなってしまいます、ということです。待って頂いている方が(万が一)居ましたら本当に申し訳無いのですが、次回の投稿にもお時間をください。こんな作者ですが、見捨てないでいただければ本当に嬉しいです。では、次は第15話でお会いしましょう。


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第15話 Dragonー眠りの妨げ

失踪なんてしてませんよ! 失踪…なんて……

大変申し訳ございませんでした。


「……はあ」

 星が瞬く夜の港で、ビオラは一人ため息をついていた。その理由は、自らが抱えている不安要素たちにある。

 第一に、自身が人間に対して甘くなっているのでは、ということ。次に、もしかすると京太郎がスパイで、情報を集めるために自身に近づいているのでは、ということ。そして最後。アクサーを倒すこと―――自分の復讐は、結果的に人間を助けていることになるのでは? ……ということ。

 ビオラは、これらの不安が拭えないままでいた。このままでは、いつか人間の恐ろしさが自分の中で風化して、またあの悲劇が繰り返されてしまう。そうならないように、自分は仮面ライダーとして戦っているのだ。しかし最近は、そんな決意でさえ揺らぎ始めている。

 

「…もしかしてだけど、人間に肩入れし始めてたりする?」

「…っ! ウィル……」

 気がつくと、すぐ隣にウィルが漂っていた。その神出鬼没ぶりは相変わらずだが、今だけは言い様の無い安心感があった。

「……別に、肩入れなんか……」

「いいや、してるね。まず、覇気がないんだ。昔みたいな、人間は見つけ次第殺してやるーって感じが」

「……」

「それとも、心のどこかで迷ってる? 人間を“殺す”ってことに。まだ何も罪を犯していない、善良な人間までも巻き込むことに」

 

「……私は」

「うん?」

「私は……分からない。私が、今何をしたいのかってことすら」

「何をしたいか……ねぇ」

「たとえ私がアクサーを全滅させたとして、それでお父さんやお母さん、お姉ちゃんにライラ、それに……里のみんなが戻ってくるわけじゃない」

「……そもそも、みんなが復讐を望んでいるのかも分からない。そう考えるとさ、私がしている“復讐”っていうのも、その名前を借りただけの自己満足に過ぎないんじゃないかって……ほんとは、『みんなの為に』とかじゃなくて、ただ自分が人間にやり返したいだけなんじゃないかって……」

 

 ビオラはその場にしゃがみこんで頭を抱える。困り果てたような顔で吐露した想いが、自分の首を絞めているかのように絡みついて離れない。

 ゆったりとした歩調で歩み寄ってきた男は、そんなビオラの苦悩など知らぬ存ぜぬといった風に語りかけてくる。

「こんばんは、ビオラさん。人間ならとっくにおねんねしてる時間ですよ?」

「…犬童託斗……!」

 見上げた先に立っていた男の正体は、仮面ライダーヒューマ/犬童託斗その人だった。両手をポケットに突っ込んだまま、いつもの嘲笑が交じったような笑みを零している。

「ビオラさんも、エルフとはいえ女の子なんですから、やはり美容に気を遣った方が良いですよ? まあ、その美貌が夜景に映えるので僕は強いたりしませんけどね」

 

「……そういう気持ち悪いことばっかり言ってるから、『アクサー』とかいう気持ち悪い連中に加担できたんでしょうね」

【サラマンダー!】

【セットアップ!】

「えぇー……()る気満々じゃないですかヤダー……」

【Transform】

「変身」 「変身」

【サモン!】 【Authentication.】

 一瞬にして変身を完了させ、二人は互いに取っ組み合う。数秒経った後、エルフは右脚を上げてヒューマを蹴り飛ばした。ガラ空きになったヒューマの心臓部を狙い、拳打を放つ。負けじとヒューマは拳を左手で掴み取り、エルフの体を引き寄せて膝蹴りを喰らわせる。

「くっ……」

「まだ終わりませんよっ!」

 透かさず距離を詰め、エルフに反撃の暇を与えないように攻撃を続ける。エルフも熱波を放って抵抗してみせるが、ヒューマはそれを物ともせずにハイキックでエルフごと吹き飛ばす。

 

「…ならッ……!」

 エルフは懐からノームオーブを取り出し、サラマンダーオーブと入れ替える。

「隙ありですっ!」

【Option】

【Thunder】

【Authentication.】

 今がチャンスとばかりに、ヒューマは左手でドライバーのタッチパネル操作しつつエルフに駆け寄る。右の拳に雷を纏い、下から掬い上げるように殴りかかろうとしたその時。

【ガイアーーーー…ノーームッ!!】

 複数の石柱を周囲に隆起させ、エルフ ノームスレイヴはヒューマの攻撃をすんでのところで防いでみせた。

「あっぶな……」

「…よく防ぎましたね。流石です」

「アンタに褒められても嬉しくないけどねッ!」

 ヒューマを吹き飛ばし、体勢を整えつつ殴りかかる。暫くの間続いた攻防が、周囲を喧騒で包む。

 不意打ちのつもりで放った掌底が避けられると、エルフは再び体勢を整えるため少しだけ後ろに飛び退いた。すると、途端にヒューマが構えを解いて口を開いた。

 

「うーん…相変わらずお強い……」

「…何? まさか逃げる気?」

「まあそういうことになりますね、僕もやることいっぱいあるんで」

「……じゃあ此処に来た理由は? 私に喧嘩売るためだけに来たっていうの?」

「いえ……少し、『自分』というものを再確認してみようかなと、そう思ってきただけですよ」

「自分の……再確認?」

「ええ、そうです。しかし、ビオラさんが気にすることではありませんよ。僕自身の問題ですので」

【Option】

【Abduction】

【Authentication.】

「ちょっ、ちょっと!」

 その言葉だけを残し、ヒューマは闇夜へと消えていった。閑静な港に取り残されたエルフに、一陣の風が吹いた。

 

 

 

「……何だ、コレ……?」

 エルフの里。人間の襲撃によって見るも無残な光景と化したその地は、未だに瓦礫や肉塊が散乱している。

 生き残りの内のひとりであり、また唯一の男でもあるアゼル・ムノーンは、環境の整備に従事していた。女性陣に力仕事をさせるわけにはいかないと、責任感を背負いながら作業を行っていた途中で、彼は一枚の紙を見つけ手を止めた。

 

「アクサーの……製造方法……?」

 その紙に書かれていたのは、人間と共に里を侵略した怪物『アクサー』についての研究資料だった。製造を行う際に何が必要なのか、どんな行動を可能とするのか、どのような方法で制御するのか。酸化の影響で黄ばんだ紙には、それらが事細かく書かれていた。書かれている文字はお世辞にも綺麗とは言えず、殴り書きと呼ぶに相応しい字形であった。アゼルは紙を裏返したり、光に透かしたりしてから暫く逡巡した。

 

 何故このような紙がエルフの里に存在するのか?それとも人間が襲撃の際に持っていて、偶々落としていった? いやいや、そんなことはありえない。既に完成しているものの設計図を、どうして戦場に持ってこようか。襲撃で得られた結果やそれまでの設計図を基にして、現行のアクサーを改良したりもするはず。であれば、人間側が持ち込んできた可能性は限りなく低い。

 

 だとすると、消去法でこの紙を持ち込んできたのはエルフであるということになる。人間である可能性を捨てた訳ではないが、あまりにもメリットが無さすぎる。だが、エルフ説も正直可能性が低い。エルフの里を飛び出して人間の組織に所属しただなんて話は聞いたことが無いし、そんなことをしようとする変わり者は居ない。

 

 

 ……だが、もしもだ。もしもの話だが、生き残ったエルフの中に人間側に寝返った裏切り者がいたとしたら? エルフの知能を勝手に人間に横流しし、その代わりに自分の身の安全を選んだ奴がいたとしたら?

 

 エルフはかなり昔から人間と情報交換のようなものを行ってきた。人間が考え得る工夫を学ぶ代わりに、エルフたちが持つ高度な知恵を与えた。だが、何でもかんでも教えてきた訳ではない。身の丈に合わない力に手を伸ばした人間に反抗されるのを、陰で恐れていたからだ。

 しかし、同様に人間たちも恐れていた筈だ。自分たちよりも高度な知能を持つ存在に。いつか自分たちの知らない不可思議な力を使い、種を滅ぼされることを、エルフと同じように危惧していた筈だ。そんな不安を拭うために生まれたのが、おそらくあの怪物(アクサー)なのだろう。その情報をどこからともなく仕入れ、開発に協力する代わりに自分の身の安全を選んだ奴がいる可能性は十分にある。

「…よし」

 一息ついてから、アゼルは歩き出した。あの悲劇の真相を知るために必要な情報を新たに一つ手に入れた彼の瞳は、輝いているようにも、曇っている様にも見えた。

 

 

「早く逃げろ!」

「あ、ありがとうございます!」

 数分前までいつもと何も変わらなかった昼下がりの繁華街。その空間に人々の悲鳴を誘ったのは、漆黒の甲殻を身に纏った新たなアクサーであった。

 その名は『ミリセンチアクサー』。随所に燃え上がるような真紅のアクセントがあり、また体の前面には無数の足の存在が確認できる。

 

「悪りぃけど、ビオラがここに来るまではお前の邪魔をさせてもらうぜ!」

 そう言い放ち、京太郎はミリセンチアクサーに中断蹴りを見舞う。しかし所詮はただの人間の蹴り。怪物(アクサー)相手に効くはずもなく、返されたのは手痛い反撃だった。

「がっは……」

 両手で腹を抱えて蹲る。体中を巡る激痛が、京太郎を襲う。が、それでも京太郎は倒れなかった。骨を軋ませながらも立ち上がり、ミリセンチアクサーの行く手を阻む。この先へは行かせまいという確固たる意志が、京太郎を奮い立たせる。

 だが、根性論でなんとかなる相手ではないというのは京太郎が一番理解していた。最後の一撃にするつもりで、握りしめた右の拳をミリセンチアクサーに叩き付ける。すると、そのすぐ横からもう一つの右手が現れ、アクサーを吹き飛ばした。

 

「…!」

「…アンタってさ、無理するってことだけは得意よね」

 その拳の主は、仮面ライダーエルフ/ビオラ・ヒアラルクであった。呆れたような顔つきでサラマンダ―オーブを起動させ、ベルトに装填する。

【セットアップ!】

「変身」

【フレイアーーーー…サァラマンダーー!!】

京太郎(コイツ)をぶっとばしていい気になってたんでしょうけど、私はコイツ程ちょろくはないから…心してかかることね」

 言い終えると、エルフはゆっくりとした足取りでアクサーへと歩み寄る。右手を発火させ、力いっぱい叩き付ける。が、ミリセンチアクサーは全く動かなかった。

「なっ!?」

 驚きのあまり隙を見せたエルフの鳩尾に強烈な一撃が放たれる。負けじとエルフも蹴りを見舞うが、それが効いている様子はなかった。

「このっ……!」

 衝動に身を任せ、我武者羅に殴る。数発食らったところでミリセンチアクサーがエルフの腕を掴み、数回振り回して投げ飛ばす。

「あっ…が…」

 衝撃で、変身が解除される。ビオラは何とか立ち上がろうとするが、疲労がそれを邪魔する。

 そんなビオラを嘲笑するかのような仕草をした後、ミリセンチアクサーはゆっくりとその場を去った。

 

「おい、大丈夫かよ!?」

 物陰に身を潜めていた京太郎が慌てて飛び出す。起き上がろうとするビオラの背中を支えるが、ビオラはその手を弱々しく払いのけた。呼吸を荒くさせながらも、ビオラはおもむろに立ち上がる。

「…心配しかないけど……()()()の…力を、借りるしか…ないの、かも…」

「……()()()?」

「アンタには、関係のない……話…」

「おい、待てって! アイツって何のことだ!? おい、待てって、おいビオラ!」

 ビオラは一瞬だけ京太郎の方を振り向いてから、静かに姿を消した。




これまでかなり長い間お待たせしてしまい、本当に申し訳ございませんでした!(今も待って下さっている方がいらっしゃるかは分かりませんが)

言い訳をさせていただくと、夏休みの課題に追われていたり、部活が忙しかったりでなかなか手をつけられず、ここまで更新期間が空いてしまいました。本当にごめんなさい。

2か月も待たせておいてこんなすっくない文字数の最新話になってしまったことも含め、反省しております。また今回のように更新に時間が掛かってしまうかもしれませんが、ゆっくりお待ちいただければ幸いです。

では、何か月後になるか分からない次の最新話でお会いしましょう。


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第16話 Re:Dragonー狂喜乱舞

やっとここまで漕ぎ着けた…!これから物語を加速させていくので、どうぞよろしくお願いします!


「あ、おかえり。また随分とやんちゃしてきたねぇ?」

「…うるさい」

 

 エルフの里の入り口。疲弊したビオラを出迎えたのは、相棒のような存在でもあるウィルであった。飄々とした口調で話しかけてはいるが、内心では全身に傷を作り、少し服を焦がしてもいるのが心配でならなかった。

「…ねぇウィル」

「…なに?」

「……私、()()()を呼ぼうと思ってるんだけど…どう思う?」

「アイツって、まさかあのアイツのこと?」

「うん、多分ウィルが想像してる奴で合ってると思う」

「…でも、ちゃんと制御出来るの? 前に力を使った時は…」

「……わからない。正直な所、出来ない可能性の方が高いと思う。でも…」

「そんなことを言ってられない状況、ってことだね?」

「……新しく現れたアクサーには、私の攻撃が全くと言っていいほど効いてなかった。そういう能力なのかは知らないけど、あの防御を突破出来るのは、多分アイツだけ」

「…メロノでも駄目そうな感じ、か」

 

 ウィルは、必死に思考を巡らせていた。可能な限り避けたいことが、今目の前に迫っている。だが、あまりビオラに傷ついて欲しくもない。

 結局ウィルが選んだのは、『件の存在を呼ぶこと』だった。何よりも、ビオラが傷つくのを避けたかったからだ。しかし、これが正解なんだとは言えないような選択であった。つまり、賭けだ。覚悟を決め、その力を守るアゼルの元へ向かった。

 

 

「お前本ッ当にバカか!? アホなのか!? 頭のネジちゃんと付いてるか!?」

「分かった、俺が悪かったから、そんなに叫ばないでくれ」

 京太郎たちが通う大学からおよそ徒歩15分ほどの場所に建つ、町の中ではそこそこ大きな病院。大事には至らなかったが、念のため京太郎はそこの病室の中で静養していた。

「まあ、もう大分良くなったし、すぐに退院できると思う」

「はあ~……ほんっとにお前、マジで心臓に悪りぃからやめろよこういうこと…」

「いや〜あのさ、自分でも不思議なんだけど、ホントになんでか体が動くんだよ。誰かが辛そうにしてるのを見ると」

「…アホみたいに強え正義感だな。いつかマジで死ぬぞ」

「死なねぇようにやれってことだろ? 分かってるよ」

「こんな状態になってるくせして、お前が死なねぇようにやれると思うか?」

「違いねぇ」

「ははっ……んじゃまあとりあえずやることやったし、俺帰るわ」

「おう、また明日な」

「へいへい」

 ポケットに手を突っ込んだまま帰っていく凱を見送ってから、京太郎は軽い眠りについた。

 

 

 

「…おい、正気か? アレを使おうだなんて…」

「…正気。アレじゃないと、厳しいかもしれない」

 陽が傾いてきたエルフの里で、ビオラはアゼルと話をしていた。内容は勿論、「例のアレ」。アゼルが守っているため、使用するには彼の許可が必要なのだ。

「……マジかよ」

「マジ。私も危険だとは思ってるけど……使わせて欲しい」

「…」

 一瞬だけ逡巡してから、アゼルは口を開く。

 

「…俺とお前は血が繋がっているわけじゃない。だが、俺はお前を……里のみんなを、家族だと思っている。それぐらい大切だ。だから…」

 アゼルが言い切るよりも早く、ビオラはアゼルの手を握る。

「分かってる」

「…でも、人間(アイツら)は私達の平和を侵した。その仕返しはしないと気が済まない。アゼルが心配してくれるのも分かるけど……私は、この身が滅びることになったとしても、やっぱり人間に復讐がしたい」

「……だ、そうだよ? アゼル。僕からも、お願いできないかな?」

 ビオラの隣に漂っていたウィルが口を開く。表情も何も無いが、その言葉はアゼルに確かな気概を感じさせた。

「…はあ。どうせもう何言っても止まらねぇんだろ。これ以上なんか言うことはしねぇよ」

 呆れたような顔つきのまま懐に手を突っ込み、アゼルは金色に輝くオーブを取り出した。これまでビオラが使用してきたどんなオーブよりも強い輝きを放っており、触れることを躊躇してしまいそうになる程の美しさであった。

 他のオーブとの違いを挙げるとするならば、竜の鱗のようなものが張り付いている事だろうか。その鱗でさえも金一色に染まっており、ビオラの身体を左右反対に写していた。

 

「…ありがと」

 アゼルから金色のオーブを受け取ると、すぐに背を向けてビオラは踵を返した。

「あ、ちょっと待て」

「ん?」

 既に歩き始めていたビオラを、アゼルは思い出したかのように呼び止める。再び眉間に皺を寄せていたアゼルの表情に、真剣に耳を欹てる。

「…これを見てくれ」

「…それって…!」

 アゼルが突き出したのは、数時間前に発見したアクサーの研究資料であった。驚くべきものに、ビオラは大きく瞳孔を開いている。

「…コイツが、里の外れで見つかった。色々考えたが、もしかすると……」

 

 

「…この里に、裏切り者が居るかもしれない」

「…確かに、人間が態々ここに持ち込んで来るとは考えにくいけど……それじゃあ里を襲った理由が…」

「そう、そこだ。仮にエルフが手を貸していたとしても、その協力者の居住地を何の理由もなく襲撃する筈は無い。エルフの持ち物だと思いたくはないが……それ以上に、人間が持ち込んで来たという可能性の方が低い」

「ふうん……でも、これであの悲劇の真実に一歩近づけるようになったってことでしょ? もう少し詳しく突き詰めれば、謎を完全に解明できるかもしれないよ?」

「…ウィルの意見にも一理ある……今は、そう考えた方が良さそうだ。悪かったな、呼び止めちまって」

「…ううん、それは気にしないで。アゼルも、無理しないでね」

「分かってるよ。……でも、裏切り者が居ないと決まったわけじゃない。もう死んでるかもしれないし、まだ生きてるかもしれない。落としていったのが人間という可能性だって消えてない。一応の警戒だけはしとけよ」

「…分かった」

 こくりと頷いてから、ビオラとウィルは空を飛んで里を抜けていった。

 

 …アゼルの心に募っていく、心配を尻目にして。

 

 

 

「キャァァーーッ!」

 居待ち月が照らす夜、再びミリセンチアクサーが暴れ出した。あまり理性というものが感じられず、目に留まった物を破壊して回るだけの傀儡のようにも見えてしまう。

 公園の土手に響く悲鳴を掻き分け、強力な力を手に入れた自信と一縷の不安を抱えたビオラはミリセンチアクサーの前に立ち塞がる。

「…一応、ノームスレイヴとかも試してみたら?」

「どちらにせよあんまり気は乗らないけど……そうした方が良いかも」

 ウィルから助言とノームオーブを受け取り、出現させたエルフドライバーに装填する。

【ノーム!】

【セットアップ!】

「変身」

【サモン!】

【ガイアーーーー…ノーームッ!!】

 

「さあ……覚悟なさい。人智の先を見せてあげる」

 前口上を済ませたエルフは、その場で地面を強く踏み込んで隆起させた。その一撃は確かにミリセンチアクサーを捉えた筈だが、少し退け反らせた程度であった。

 姿勢を低くした状態で距離を詰め、石化させた拳を鳩尾に放つ。しかしこれも手応えを感じられず、ワンツーパンチの反撃を食らった。

「くうっ……やっぱ駄目そう……」

「おー、なんだか辛そうじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」

「アンタ……!」

 声の主はビネガーアクサーだった。挨拶代わりなのか、息も絶え絶えなエルフに蹴りを一発見舞う。小さく呻き声をあげて吹き飛ぶエルフに、ビネガーアクサーはゆったりとした足取りで近づいていく。疲弊しきってまともに立てずにいるエルフを、舐め回すような目つきで見つめる。

 

「…諦めんな!」

「…?」

 全員が声のした方向に振り向く。そこに立っていたのは、走ってここまで来たのか息を荒げている京太郎であった。

「お前……言ってたよな!? 俺がミリセンチアクサー(アイツ)に立ち向かって、ボコされそうになってた時…『私はコイツ程チョロくは無いから』っつってたよな!?あン時のお前は…」

「…うるさい」

 京太郎の言葉を遮り、エルフは必死に立ち上がる。京太郎と同じように息を荒くしながらも、なんとか言葉を紡ぐ。

「事あるごとにギャーギャー騒いで……アンタに見せてる私が全部じゃないの。今の状況を諦めないぐらいの覚悟は……もう出来てる」

 遂にエルフは、アゼルから渡された黄金のオーブを取り出した。眩い程の輝きが、月明かりを反射している。

 エルフとウィルを除く全ての人物がそのオーブの存在に目を見開いた。エルフは天頂のボタンを押し、閑静な公園に電子音声を響かせる。

 

【ファヴニール!】

【セットアップ!】

「……変身ッ!」

 勢いよくレバーを倒し、装填されたオーブから封印された幻獣を呼び覚ます。

【財宝の守護者、今こそその権威を振るい給え! 老獪な守銭奴共を処罰せよ!】

【トレジャーーーー…ファヴニーールッ!!】

 金色に輝くワイバーンのような生物が、エルフを翼で包み込む。暫くし、その翼を振りほどくようにして黄金のエルフ───『仮面ライダーエルフ ファヴニールスレイヴ』が姿を現した。

 全身をそのオーブのように金一色に染め上げ、節々に竜の鱗のようなものを散見させる。背中の巨大な翼と赤く光る複眼が、周囲に威圧を与えている。

「クッ……」

 瞬間、エルフは俯き加減で自身を抱いた。それからすぐに海老反りになって叫ぶ。

 

ハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!

 

「シャバだァ……久々(ひっさびさ)の…シャバの空気だァァァァッッ!!!」

 明らかにビオラのものではない、若い男の声が谺する。挙動もビオラのそれとは異なっており、ほぼ失いかけていた目の光も取り戻して爛々と輝かせていた。

「テメェ……あのエルフのガキじゃねぇな? 一体何モンだ…?」

「ヘェ…この“ヴァニラ”様に向かって随分な口の利き方するじゃねェか……面白ェ。まずはテメェからだァッッ!!」

 自身をヴァニラだと自称した仮面ライダーエルフ(?)は翼を広げ、真正面からビネガーアクサーへと突っ込んでいった。

 

 一方で、京太郎は全く状況を理解できていなかった。エルフの新しい姿、ビオラではない何者かの声。ただただ頭に?を浮かべる事しか出来ていないようだった。

「…なんじゃありゃあ……」

「…やっぱり、駄目だったみたいだね」

「うぉっ、ウィル!? 説明してくれよ! 何なんだよアレ! ビオラだけど…ビオラじゃねぇんだよ!」

「分かった分かった、ちゃんと説明するから」

 ウィルは京太郎のすぐ近くにまで移動し、穏やかな口調で話を始めた。

「結構前……ウィップアクサーがこの町の近くまで来てた時のことだけどさ、一瞬だけビオラじゃない感じがしてた時……無かった?」

「ウィップアクサー? う〜ん……」

「…あ、なんかあの、目がちょっとだけ赤くなってたやつか!?」

「そうそう、それそれ。あれね、実はサララがビオラの体を動かしてたんだよ」

「はあ!? どういうことだよそれ! なんでサララがビオラの体を動かせるんだよ!?」

「サララだけじゃないよ。ネディンも、フィルも……今あそこで暴れてる、『ヴァニラ』もね」

「バニラ……? 随分美味そうな名前だな、アイツって食い物なのか?」

「こういうとこで食い意地張れるの才能だと思うよ、僕は」

「まあ、そのバニラバーだかなんだかはどうでもいいんだよ。結局のところ、アレどうなってんだ?」

「…見て貰ったら分かる通り、ヴァニラはすごく粗暴な性格をしてるんだ。おまけに目立ちたがり。その上、ビオラの意思に関係なくビオラの体に干渉できるだけの力もあるんだ。それらが合わさると……」

「……ああなるわけか」

 

「オラよッ!」

 エルフ(ヴァニラ)は、渾身の右ストレートをビネガーアクサーに放つ。すかさずビネガーアクサーも殴り返すが、それを受け止めて背負い投げで反撃した。すぐに走り出し、地面を転がるビネガーアクサーをまるでサッカーボールかのように蹴り飛ばす。

「オラさっさと起きやがれ! 勝負はまだ終わっちゃいねェぞ!」

 翼を使った低空飛行で一気に距離を縮める。ビネガーアクサーの胸ぐらを掴み上げ、もう片方の手で何度も殴りつける。

「オイオイこんなモンかァ? まだまだやれるだろうがコラァ!」

 ビネガーアクサーの腹部に強く蹴りを入れた後、エルフは両肩を掴んで頭突きを喰らわせる。

「クッソ…ぜってぇ仕返ししてやるかんな!」

 そう吐き捨て、ビネガーアクサーは闇夜へと姿を消した。

「オイ、待ちやがれ! 逃げる気かァ!?」

 誰も居ない虚空へ憤りを叫ぶ。だが、当然ながらその返答は返ってこない。

 一方のミリセンチアクサーはこの隙を逃していなかった。エルフ目掛けて、全力で体当たりをかます。

「テメェ焼き蠍にしてや…うおっ!? ……っ()ェなあ、テメェはお呼びじゃねェんだよ!」

 叫ぶと同時に、エルフは右の掌から刀身に返しがついた金色の剣を突き出してミリセンチアクサーを吹っ飛ばす。空いている左手でベルトを操作し、必殺技を発動させる。

【カモン! ゴールデン! スピリチュアル!】

 翼を広げ、左手にも同様の剣を出現させる。高速で空を飛び回り、両手の剣でミリセンチアクサーを斬りつける。それまでのエルフのフォームが傷付けることさえ叶わなかった装甲をいとも容易く切り裂き、一瞬のうちに爆発させてみせた。

 

「……だァァクソが! あの蠍野郎ガチで逃げやがった! あんのクソがァ!」

 エルフは、八つ当たりのように四方八方を手当たり次第に破壊し始めた。周囲に出来た幾つもの穴が、その怒りを物語っている。

 

「なあウィル……アレ、まずいんじゃねぇか…?」

「…うん、大分まずいね。京太郎、ちょっとだけアレの気を引いて貰える?」

「…一応言っとくが、1秒しか保たねぇからな」

「了解。……いくよ」

「任せろ! おい! こっちだバニラバー!」

「…ああ? 誰がバニラバーだコラ!」

 京太郎の目論見通り、安い挑発に乗ったエルフは大きな隙を晒した。京太郎を狙って駆け出した……が、それよりも早くウィルがベルトに装填されているオーブを回収した。

「…! オイ! クッソてめぇ……ッ!」

 

「…っ! ぐ…」

「ビオラっ!」

 ヴァニラが言葉を言い終える前に変身が解け、エルフはビオラの姿へと戻った。無理に体を動かされていたからか、全身に軽度の痙攣が見られた。

「ウィル…アイツは……?」

「赤と黒のアクサーならヴァニラが倒していったよ。…尤も、ビネガーには逃げられたけどね」

「…そう」

「おい待てよビオラ! さっきは諦めんなとか言っちまったけど、あんま無理しすぎるのもアレだかんな? ちゃんと適度な休養は取って……な?」

「はいはい、分かった分かった」

 

 それだけ答えると、ビオラは立ち上がってゆったりとした足取りで里の方へと歩を進めていった。

 そのビオラの背中を、京太郎は遣る瀬無いといった表情で見つめていた。




はい、16話でした。やっと中間フォーム登場ですよ奥さん!かなりクセが強い上にビネガーくんとキャラがなんとなく被ってますが、これからもヴァニラくんをよろしくお願いします。


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第17話 Creatureー怪物の目覚め

……(何も書くことがない)


『…今ご覧いただいた映像の通り、「仮面ライダー」は非常に危険な存在です。いずれ人々に危害を加ええる可能性もあります。我々も引き続き捜査を…』

 

「……何なんだよ、これ」

 

 京太郎が視聴していたテレビには、昨日の戦闘の様子が映し出されていた。

 監視カメラにでも映っていたのだろうか。だが、問題はそこではない。重要視すべきは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。これが普通の戦闘であったのならなんら問題はなかった。しかし、テレビにはヴァニラが周囲に八つ当たりしていた様子まで映っていたのだ。これでは、その内人間にまで手を出すのではと考える人間が現れてしまう。

 現状ビオラは仮面ライダーとしての力をアクサーにしか振るっていないが、本人の気分次第で人間にも振るうかもしれない。一応、ビオラは仮面ライダーとして何人かの人間を救ってきてはいるが、その人間たちが彼女の味方をするとは考えにくい。自分の意思を持たず、多数派になんとなくで味方するサイレントマジョリティが殆どだ。

 

「…!」

 などと考えていると、近辺から悲鳴が聞こえてきた。京太郎はすぐにテレビの電源を落とし、鍵が掛かっていることを確認してから家を飛び出した。

 

 京太郎が現場にたどり着くと、そこには緑色をしたかなり奇妙な怪物(アクサー)がいた。かなり小さいが全身に黒い棘があり、頭部にも橙色の触覚のようなものが生えている。先端が黒く染まったそれは、ほぼ橙色の頭の動きに合わせて動いており、はっきり言ってかなり気持ち悪い。

 京太郎としては今すぐ殴りかかっても良かったが、数日前のビオラの呆れたような表情を思い出し、逃げ遅れた人の救助にまわった。

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、あっちの方にまだ子供が!」

「こ、子供!?」

 30代半ばほどの女性が指さした方向には、瓦礫の海の中心で泣いている5、6歳ほどの女の子が立っていた。

「…あの子か…!」

 安全な場所に移してから、京太郎は駆け出す。女の子の手を引き、母親のもとへ連れていくが、アクサーがそれを良しとするはずは無かった。

「グガァァァァ!」

 突如として怪物───リーガルアクサーが襲い掛かって来た。黄色と黒で彩られた気色悪い腕を女の子目掛けて振り下ろす。

「危ねぇっ!」

 女の子に覆いかぶさるようにして、京太郎はアクサーの一撃から女の子を守った。また凱やビオラに呆れられるだろうが、やはり体が自然と動いてしまっていた。数週間の入院も覚悟の上であった。しかし……

「……あれ? 俺今…殴られた……よな…?」

 その一撃は、全くと言って良い程痛みの無いものであった。それからも数回殴られたが、やはり痛みがない。

「これ…もしかして…」

「…俺でも倒せる……?」

 その考えが頭に思い浮かんだ瞬間、京太郎は水を得た魚のような目をしてリーガルアクサ―へと突撃していった。

 

 結果、リーガルアクサーにはパンチ2発とキック1発で勝利した。軽い蹴りで吹き飛んだアクサーが爆発するのを見た京太郎は、自分が初めてビオラと並べたような気がして少し嬉しかった。

 だが、これで終わりではない。敵組織も、こんな一般人に易々と負けるようなアクサーを作るはずは無い。絶対、何か裏がある。

 その時煙が晴れ、地面に倒れ伏しているリーガルアクサーの姿が見えた。やはり完全に倒し切れてはいなかった。リーガルは軽い痙攣を起こしており、色素も薄れている。京太郎が次の瞬きを終えると、リーガルの痙攣は完全に止まっていた。倒せたのか、と京太郎が思ったのも束の間、今は地に伏しているはずのリーガルが後ろから掌底を食らわせてきた。

「がはっ……!?」

 京太郎は、状況を全く理解することが出来ずにいた。色素が薄れたものではあるが、リーガルは確かに目の前に倒れているはず。なのに、どこからともなく2体目が現れたのだ。

 コイツの能力は何だ? そんな考えが京太郎の頭の中を巡る。分身の生成? 違う。そんなことが出来るのなら、最初からしていただろう。

 

 けれども、今はこの2体目のリーガルをどうにかすることの方が大事だ。一旦距離を取り、逡巡する。だが、解決策は見つからない。当然だ。そもそもとして、京太郎はただの人間に過ぎない。人間離れした戦闘力があるわけでも、アクサーたちを知り尽くしているわけでもない。そんな人間が、勝てる相手ではないのだ。

 勘案して分かったことは、自分ではこの怪物に勝てないということだけだった。

 ならば、可能な限り早く逃げてビオラに事態を収束させてもらおう。そう考え、京太郎はリーガルに背を向けて走り出す。

 瞬間、京太郎のすぐ横を、風の刃が通り過ぎていった。刃はリーガルに向かって飛んでおり、命中したリーガルを退け反らせた。

 

「…もう何か言う気も起きない」

「…! ビオラ! 来てくれて助かる!」

「はいはい」

 その刃を放ったのは、仮面ライダーエルフ シルフィードスレイヴだった。既に変身した状態でいるのは、何処かでアクサーの情報を聞きつけたからだろうか。エルフは再び手にエネルギーを収束させ、風の刃を放とうとする。

 エネルギーを溜めきり、今まさに放とうとしたその瞬間。エルフより少しだけ背の低い少年の声が、エルフの攻撃の手を止めさせた。

「…お前、『仮面ライダー』だろ? あっちいけ! 仮面ライダーは、俺たちの敵だ!」

「…はあ?」

 エルフは心底困惑したような声をあげた。確かに彼女は人間を敵視しており、仮面ライダーとして人間を助けているのもアクサー退治のおまけでしかない。それでも、これまで人間から仮面ライダーとしての活動を批難されたことは一度として無かった。それが、特に何の関わり合いもない人間の子供から『敵』と呼ばれたのだ。理解できるはずもない。

 

「戦いなら他所でやれ!」

「俺達を巻き込むな!」

「偽善の押し付けはやめろ!」

 

「…なに、ホントに何なの……?」

「ビオラ! こんなの気にするな! そのアクサーを頼む!」

「……」

 少年に便乗するように、周りの人間が次々と声をあげる。その全てが、仮面ライダーエルフに対する批難であった。無視するよう京太郎が叫ぶが、もうエルフにその声は届いていなかった。

 エルフは一言も発さず、リーガルの首を掴んで何処かへ飛び去っていった。

「…おい、皆待ってくれ! 仮面ライダーエルフ(あいつ)は、テレビで放送されていたような奴じゃない! アレには事情が…」

「…君も、あの『仮面ライダー』とかいうのの仲間なのか?」

「…そうだ。あの、なんだかんだで人間を守ってくれるヒーローの仲間だ」

 一人の男が京太郎に問う。それに対し、京太郎は敢然として答えた。注目を集めたのもあってか、京太郎は周囲に冷ややかな目線を向けられた。テレビで暴君かのように放映されていたものの味方とあっては、自分たちに何をしてくるか分かったものではない。そんな自己防衛本能が、京太郎というマイノリティを異端視していた。

 

「…ほう、いつの間にか『仮面ライダー』の株は下がっていたのだな。暫く人間を観察していなかったから、全く知らなかったよ」

「…っ!? 誰だお前!」

 京太郎が振り向いた先には、リーガルとはまた違った怪物が鎮座していた。全身が黄土色に包まれており、腫れているような背中には2対の腕らしき物が見えている。その悍ましい見てくれに怯臆したのか、エルフを批難していた人々は一目散に逃げていった。

 

「ふむ、お前は逃げないのだな。中々勇敢な男だな」

「そんなことはどうでもいい。お前……ビネガーとかと知り合いか?」

「ビネガー……ああ、あの戦闘狂のことか。確かに知り合いだな。で? それを知って何になる?」

「お前……ビネガーみたいな『幹部』の一員か?」

「こちらが質問しているのだが……まあいい。その答えは……便宜上は『NO』だ。私は宿主を探し求めている」

「お前……本当に何者だ……?」

「…特別に答えてやろう。私の名は    。これから、お前の体の主となる者だ」

 言い終えるよりも早く、その怪物は京太郎の腹を貫いた。

 

 

「これでっ!」

 比較的町の近くに位置する森の入り口。仮面ライダーエルフは、そこでリーガルとの決着をつけようとしていた。力を脚に込め、リーガルを全力で蹴り飛ばす。

 少し地面を転がってから、リーガルは完全に動きを止めた。かと思うと、先程のようにリーガルは体の色素を軽く失い、倒れたままの体を残してむくりと起き上がった。

「嘘……なにコイツ、不死身なの…?」

 再び構え、エルフは体色に茶色が混ざってきたリーガルと対峙する。真正面から突撃し、リーガルは右ストレートをエルフにかます。エルフはそれをすんでのところで回避し、リーガルの背中にハイキックを喰らわせる。

「グガアァァァ…!」

 なんとか一撃は返そうと、リーガルは我武者羅に拳を振るう。それを全て避け、エルフは鳩尾に強烈な正拳突きを放った。

「ガアッ……ア…」

「はあ…はあ、今度こそ……やったでしょ……」

 その攻撃を受け、リーガルはぱたりと地面に倒れこんだ。数秒してから、またもやリーガルは色の薄くなった体を残して起き上がって戦闘態勢をとった。

「そんな……」

 

「…どうです? 結構凄いアクサーでしょう?」

「…! またアンタの仕業ね……犬童託斗!」

 2度目の復活を目の当たりにしたエルフの前に現れたのは、いつものように白衣に身を包んだ姿の犬童託斗だった。腰には既にヒューマドライバーが巻かれており、左手には変身アイテム『フォースコネクター』が握られている。

【Transform】

「こいつは割と成功した方のアクサーなんで、時間かせ……ちょっとだけ僕と遊んで行きません?」

【Authentication.】

「変身」

 微妙に口角を上げ、託斗は仮面ライダーヒューマへの変身を遂げる。

【Humanity will continue to evolve from now on.】

「さあ、人類の才智を披露して差し上げましょう」

【Option】

【Speed】

【Authentication.】

「なるほど、スピード勝負ってわけねッッ!」

 次の瞬間、両者は残像も殆ど見えない速さで空を翔け、すれ違う度に攻撃を繰り出す。7、8回ほど火花が散った後、エルフが地面に叩きつけられた。勢いよく地面に着地してから、ヒューマはエルフに歩み寄る。手で膝を押しながらなんとか立ってみせたエルフも、少しずつヒューマとの距離を縮めていく。

 互いがトドメの一撃のために走り出した直後、空から大地を震えさせる程の勢いで何かが降ってきた。その衝撃に、木々が葉を揺らした。

「なっ……何!?」

「一体何者です……?」

 

 エルフとヒューマを隔てるように現れたその何かは、仮面ライダーを思わせるベルトのような物を腰に巻いていた。

 全身を包んでいる漆黒の装甲には黄土色の蜘蛛の足のような物がいくつか纏わりついており、周囲に薄い毒気を放っていた。生気のない煤けた灰色の複眼がヒューマを捉えると、一言も発さずにその距離を詰めてきた。

「狙いは僕ですか……それなら……!」

 ドライバーに触れ、ヒューマは自身の一時的な強化を図る。だが、ヒューマが操作するよりも早く黒い何かは距離を詰めきり、重い一撃をヒューマに放つ。

「かはっ……!?」

 ノックバックしたヒューマにミドルキックで追撃し、黒い何かはヒューマの変身を強制的に解除させた。

「く……ラテラリスっ!」

「あっ、ちょっと…待ちなさい!」

 近くの低木から十数体のラテラリスアクサーを呼び寄せ、託斗は背を向けて撤退した。ラテラリスアクサー達は一斉に『黒い何か』に飛びかかるが、黒い何かは軽く腕を横に振るっただけでラテラリス達を吹き飛ばし、一体を除いて全員を爆死させた。

 残った一体ももう一度黒い何かに突撃する。それに対し黒い何かは、その場から動くことを一切しなかった。代わりに体に纏わりついている蜘蛛の足のような物を開き、突っ込んで来るラテラリスを貫く。両膝を地面に着かせ、ラテラリスは爆発音を轟かせた。

「…」

 リーガルアクサーが既に逃げ終えていたのを確認すると、黒い何かは足早にその場を去っていった。

 一人取り残されたエルフは変身を解き、憑き物が離れたかのように地面にへたり込んだ。

「…あんなの……」

 

 

 

 

 

「……ただの化け物でしかないじゃない……!」




はい、17話でした。短かったですね。大丈夫、僕もそう思っています。
さてさて、なんかよく分からんのが登場しましたね。何だよ『黒い何か』って。…詳しくは次回で。第18話でお会いしましょう。では。


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第18話 Re:Creatureー黒い死神

遂に本作3番目のライダーの正体が判明します!
……まあ、予想できてるよ、って方もいるかもしれませんが。


「がっ…あ……」

 蜘蛛の歩脚のような物を引き抜かれた京太郎は、腹を抱えたままその場に倒れる。ぽっかりと空いた穴から血が溢れ、周囲に赤い海を作っていた。

 黄土色の怪物が近寄り、しゃがみ込む。

 

「どうだ、痛いか? 辛いか? 苦しいか? 死にそうか?」

「……お前、今まで、会ってきた奴の中で……一番、性格悪ぃ奴だな…」

「失礼な男だな。私が助けてやろうというのに」

「助ける…だと……?」

「そうだ。今、お前には2つの選択肢が与えられている。一つは、ここで来ない助けを待ち続けて野垂れ死ぬこと。もう一つは、私にお前の体を明け渡すことだ。とは言え、それほど場所は取らん。体の主導権の半分程でも有れば良い。後者を選べば、お前のその傷も治療してやろう」

「……お前……最初っから、選ばせる気、無ぇだろ……」

「言っただろう? 『お前の体の主になる』と。…で? お前はどちらを選ぶ?」

「…後者」

「ほう? 良いのか?」

「じゃねぇと……死んじまう……から、な……」

 何とか会話を続けているが、既に視界がぼやけきっている京太郎としては意識を保つのが精一杯といったところだ。一刻も早くこの会話を終わらせたい。その一心で、適当に相槌を打つ。

 

「なら、契約は成立だな」

 京太郎の背中に手を当て、怪物は吸い込まれるようにして侵入していった。それからすぐにゆっくりと京太郎の体を起こし、非常識な速度で傷を治癒した。

「…マジかよ」

〔ああ、マジだ。人間には持ち得ない能力だろう?〕

「うわああぁぁぁ……なんか、凄ぇ変な感じ………」

 怪物は、京太郎の脳内に直接語りかけていた。頭の中で自分の物ではない声が反響するというこれまで体験したことの無い感覚が、京太郎を襲う。思わず、その気持ち悪さに頭を抱える。

 しかし、怪物はそんなことはお構い無しとでも言うかのように次の話を始めた。

〔……さて、じゃあそろそろ行くとしようか〕

「行くって……どこにだよ」

〔あの『仮面ライダー』の所にだ。『仮面ライダー』が交戦していた奴……リーガルアクサーは、少し面倒な奴でな。私達が救援に向かわねばなるまい〕

「救援…ねぇ。どうする気だ?」

〔その話は道中でするとしよう。今は、『仮面ライダー』に追いつくことが最優先事項だ〕

「…あいよ」

 あまり愛想のない返事を返し、エルフが飛び去った方向へと足を向けて走り出す。怪物の影響かどうかは不明だが、不思議と疲れを感じることなく走れることを理解した京太郎はさらに速度を上げて森へと急いだ。

 

 

 時は進み、仮面ライダーヒューマ撤退後。

 戦闘を終えた黒い何か(乱入者)は、ゆったりとした足取りで森を歩いていた。その途中で、他者には聞こえない声を発する存在と言葉を交わしていた。

 

〔……さて、そろそろ感想を聞くとしようか。奴らと同じ『仮面ライダー』となり、その力を初めて振るった感想はどうだ?

 

 

 

 

 

 

…………横屋京太郎よ〕

 

「まあまあだな」

 

 問い掛けに対し、感情のこもっていない無機質な返答を口にする。と同時に、思い出したかのように変身を解除して紺一色のジーンズのポケットに手を突っ込む。

 森を抜け出ると、京太郎は軽く周辺を見渡し始めた。陽が少し傾いているとはいえ、まだ昼と呼んでも良いほどの明るさだ。今の内に逃げたアクサーの尻尾を掴めれば、視界の悪い夜間より追跡がしやすい。

 

「なあ、リーガルがどこ行ったかとか分かんねぇか?」

〔感覚的なものだが、南南西の方に何かを感じる。行く価値はあると思うぞ〕

「……なるほど」

 軽く欠伸をしてから、京太郎は再び歩き出す。あまり穏やかな表情では無かったが、心の内ではもう一度力を振るえる機会に喜びを感じていた。

 

 

「また新しい仮面ライダーみたいなのが現れたぁ!? 何だよそれ!」

「…まだそうと決まったわけでは無いし、正体も分かってないけど……今のところ、警戒すべき相手ではある」

「面倒ねぇ…」

 時を同じくして、郊外の古ぼけた公園でビオラと精霊達は漆黒の乱入者について話をしていた。錆び切ったブランコを揺らすビオラの周囲を、サララ、ネディン、フィルーシュ、メロノの4体が取り囲んでいる。

 全員に共通する感情は『困惑』。乱入者の正体は愚か、目的すらも不明なのだ。

 ビオラ達が勘案するさなか、ふとメロノが口を開く。

「何か、言動に特徴は無かったかい? そこから絞ったり……」

「少なくとも、私たちの前に現れたときにはなんにも喋って無かったよ。しかも、アクサーには何体かラテラリスを呼ばれて逃げられたんだけど、その黒いのは一瞬でラテラリスをやっつけてた」

「オイオイ、大分ヤベぇ奴じゃねえか……ただでさえヒューマとかいう面倒臭ぇのがいるのに、まだ悩みの種増えるのかよ……」

「今暴れてるアクサーも倒しきれてないんでしょお? そいつの対抗策も考えなきゃだしぃ……」

 

「今暴れてるアクサーの対抗策は、一応考えがある」

 

 ビオラの上げた声が、会話中の精霊達の注目を集める。立ち上がり、メロノに近づきながら話し始める。

 

リーガル(アイツ)は、攻撃してぶっ飛ばしたとしても体さえ残ってれば皮みたいなのを残して起き上がってくる。しかも、その度にちょっとずつ色が変わるし強くもなる。多分、アイツは『脱皮』するのが能力なんだと思う。犬童託斗が時間稼ぎって言いかけてたんだけど、その時間っていうのはアイツが脱皮しきるまでのことだと思ってる」

「ちょっと待て、時間稼ぎってどういうことだ? 仮に時間経過でも脱皮出来るんなら、わざわざ町に駆り出す必要は無いんじゃねえか?」

「私も、最初はそう思ってた。でもそうしなかったってことは、それなりの理由があるはず。その理由っていうのが……」

 

「「「「「時間経過を待つよりも、倒されて脱皮する方が早いから」」」」」

 

「…ってことだよな。時間経過でも脱皮出来ないわけじゃないが、物凄く時間が掛かる。だから倒されて復活する方のやり方で脱皮させ、いい感じのとこまで成長したらどっかに隠して完全に変態させる……随分とコスい真似してくれるな」

「でも、どうするの? 仮にこの予想が当たってるんなら、倒しても倒さなくても面倒にしかならないじゃない」

「そう、普通に戦っても面倒にしかならない。だから、その面倒な脱皮を封じるの」

「封じるぅ? どうやって?」

「メロノの力を借りて、アイツを石化する。その上で体ごと砕けば、もう脱皮は出来ないはず」

「うわー……いつの間にか、私の知らない内にビオラちゃんがサイコパスに……」

「違うから! ……まあとにかく、アイツを倒すために力が必要なの。メロノ、力……貸してくれる?」

「仕方がないねぇ。出るとしようか」

「…ありがと。じゃあ……早速、探しに行こう?」

「ゆっくり歩いておくれよ。空を飛ばれでもしたら、儂は追いつけんからの」

「はいはい、分かった分かった」

 残った3体に見送られ、ビオラとメロノはリーガルアクサーの捜索へ乗り出した。まだ話していないために人目のつく場所を拒むことをメロノに怪しまれていたが、何も口に出さないことをビオラはありがたく感じ、改めてリーガルアクサー捜索を開始した。

 

 

 

「…もう少しで……もう少しでリーガルは完璧な存在になる……!」

 犬童は、木々に囲まれている寂れた廃墟で狂気的な笑みを浮かべていた。かなりの年数が過ぎているのだろう、所々に苔が生えているのがわかる。

「このまま、再生を……繰り返、せば……」

 そこで、犬童の言葉は完全に途切れた。迷いが生じているのだ。

 犬童託斗という男は、常々周りに合わせて生きてきた人間だ。他者の評価を、誰よりも気にして生きてきた。故に、『自分らしく』生きたことが一度もない。頭の中には、いつも自分が周りにどう見られているのかという考えがあった。

 学生時代、休日は必ず地域の掃除に出かけていた。ボランティア精神が強いと言えば聞こえは良いが、その本質は周囲の自分に対する評価を上げるという下心にあった。全ては、多数派に溶け込むため。ありもしない自己を殺した気になり、自分はちゃんと社会に貢献しているのだとして聖人君子を気取っていた。

 

 しかし、これまで犬童がうまく多数派に溶け込めた試しはない。同じ意志を掲げる多数派の中にも、それぞれの意思というものがある。だが、犬童にはそれが無い。成し遂げたい目標も、将来の夢も。当たり障りのない言葉を綴って生きてきたため、未来も何も存在しなかった。暗闇に包まれた夜道を、足下だけ照らして歩いてきた。

 そんな犬童が初めて自分の意志に従って道を歩み始めたのは、『NAHMU』に所属する数日前の事だ。時代を先取りするハイテクノロジー、現代の物理学では説明のつかない製造物たち。まるで、心臓を直に握られたような衝撃だった。自分も、こんなありえない物を実現させてみたい。そんな夢を抱き、犬童は『NAHMU』の世界へ足を踏み入れた。

 

 

 その場所は、犬童の思うような世界ではなかった。阿鼻叫喚を轟かせる、人権の一切通用しない世界。狂った様相を醸し出す環境に、犬童は吐き気にも似たものを憶えた。それでも、何故か犬童はその世界から退くことはしなかった。

 気付けば初めて『NAHMU(この世界)』を知った時の憧憬は消え去り、嘗て吐き気を憶えた環境にも同化していた。慟哭する人間に実験を行うことに何の躊躇も無かったし、実験の為に街を破壊することにも抵抗を忘れていった。

 

 

 

「やっと見つけた……!」

「……おや、誰かと思えばビオラさんじゃないですか。これ以上リーガルと戦うのは無意味だと思うんですが、どうでしょう?」

「……一つ忠告してあげる。例えどれだけ自分が優位に立っていたとしても、胡座はかかない方が良い。……いつか、寝首をかかれるかもしれないから」

【ノーム!】

 

 犬童は、目の前の少女──ビオラ・ヒアラルクを、極めて短慮な少女だと見ている。一時の感情に身を任せ、傍若無人な生き方をしているように映っていた。でも、犬童はそれをどこか羨ましくも思っていた。誰かに合わせる自分ではなく、自ら未来を創る自分。

 

 彼女は、きっと後先考えずに『今』を生きているのだろう。……偶には、後先考えずに『今』を生きてみてもいいかもしれない。

 

「そうですか……憶えておきましょう」

 覚悟は決まった。

 さあ、精一杯『今』を生きよう。

【セットアップ!】 【Transform】

「「変身!」」

【サモン!】 【Authentication.】

       【Now loading…】

【ガイアーーーー…ノーームッ!!】

【Humanity will continue to evolve from now on.】

 変身の完了を告げるように突風が襲い来る。

 

 ヒューマが動き出すよりも速く、リーガルは自滅覚悟でエルフへ突っ込んでいく。この勝機を逃すまいと、エルフは構えを取る。

「ギィィッ!」

 奇声を上げながら、リーガルはエルフに殴りかかる。フォームも何もなく、飛んでくる拳の軌道は無茶苦茶だ。その軌道を捉え、エルフは拳を掴み上げた。

 力を加えた瞬間、リーガルは腕から石化を始めた。想定外の事態に、リーガルは見たことのない慌てようでエルフから腕を引き離そうとするが、既に石化の進んだ腕を無理矢理引っ張って逃げるのは現実的ではない。

「マズい……!」

 リーガルの危険を感じたヒューマは専用武器『プログラムアクター』を取り出し、エルフに向かって銃弾を放つ。それに易々と当たるわけにもいかず、エルフはリーガルを盾にして銃弾を防いで見せた。

「はあっ!」

 手を離し、エルフは右半身の殆どが石化したリーガルの腹を蹴り飛ばす。

「ィイィィーッ……」

 痛々しい叫びを上げながら起き上がるリーガルだったが、その下腹部には巨大な風穴を開けられている。

 作戦は成功だ。この調子でいけば、不死身とも思えたリーガルを攻略出来る。

 しかし、そんな状況をヒューマが良しとする筈はない。ドライバーのタッチパネルを操作し、エルフを拘束する。

【Option】

【Seal】

【Authentication.】

「……ッ!?」

 突如エルフの上腹部に薄紅色の魔法陣のようなものが現れ、腕ごとエルフを拘束した。どれだけ力を入れても、ビクともしない。

 必死に拘束を解こうとするエルフに、ヒューマはタッチパネルを操作しながら近づく。

 

【Option】

「……そういえばビオラさん、先程僕にありがた〜いお言葉、くれましたよね?」

【Finisher】

「だから僕、そのお言葉をそっくりそのままお返ししようと思うんです」

【Authentication.】

「『例えどれだけ自分が優位に立っていたとしても、胡座はかかない方が良い。……いつか、寝首をかかれるかもしれないから』」

 高く飛び上がり、宙で一回転してから右脚を突き出す。その勢いは漸増し、遂にエルフを吹き飛ばした。

「うああああっっ!」

 変身を解除させられたビオラは勢いよく長距離を転がり、壁にぶつかって漸く止まった。腹を押さえ、苦しそうに蹲っている。

 ふとリーガルに目をやると、先程開けた風穴がかなり塞がっていた。一気に畳み掛けなければならないらしい。だが、正直な所ビオラに残された体力ではそれは不可能だ。

 それでも、ビオラは諦めていなかった。震える左手をファヴニールオーブに向かって伸ばし、その後のヴァニラの暴走も覚悟の上で再び変身しようとしていた。

 

 

 だが、それよりも早く黄土色の触肢がリーガルの腹を貫いていた。唐突すぎる攻撃に、リーガルは反応すらできていなかった。

「ま〜たこんな無茶しやがってよお、少しは俺のことも考えてほしいモンだぜ、全く」

「……! 京太……郎……?」

 その声は、確かに横屋京太郎のものだった。後ろを振り返れば京太郎の姿があったし、狐に化かされた訳ではない。

 

 しかし、明らかに普段の京太郎とは違っていた。右腕だ。本来なら右手が具えられているはずの部分が、蜘蛛の触肢のような物に変わっていた。遠目からでも硬さを感じさせる触肢は、日光を受けて黄土色に怪しく輝いている。

 その場の全員が理解出来ていないのを知ってか知らずか、京太郎は更に背中から一対の触肢を出現させてリーガルを跳ね飛ばした。

 

へえ、生身(このまま)でも出来るんだな、こういうこと

 

 遂には声すらも普段の京太郎から乖離を始めた。ノイズが混じったような声は、周囲の知的生命体全てに形容し難い不安感を与えた。

 

「でも、面白くなるのはこれから。だよなぁ?」

 

 京太郎が僅かに口角を上げると、黄土色をした一対の触肢が京太郎の下腹部を覆った。引き摺られるかのようにして触肢が京太郎の背後に消えると、そこにはほぼ黒一色のドライバーが巻かれていた。

 歪な外郭の中心には卯の花色の円が在り、ドライバーの左上から右下までを陣取っている鉤爪に隠されている。鉤爪には持ち手が設けられており、持ち手に隣接する外郭はその持ち手部分を守る為か、三本の爪が張り出しているような造形になっている。

 京太郎は慣れた手つきでドライバーの端に位置する軽く尖ったスイッチを叩く。同時に、鉤爪の持ち手がおよそ45度の角度で飛び出す。

【Invade……】

 不安を煽る音声が辺りに響き、木々が色めき立つ。表情を一切変えず、京太郎は呟くように変身を宣言して鉤爪を引き抜く。

「……変身」

【Jubilation!】

【Celebrate! Today is Night's birthday.】

 ドライバーから黒い煙が噴き出し、京太郎の身体を一瞬にして覆い尽くす。煙が完全に京太郎を覆うと、背後から4対の触肢が現れて京太郎を守るように絡みついた。

 

 そして、怪物は甦った。歓喜とも、恐怖とも取れる絶叫と共に。

 

【ギャァァァァッッ!!!】

 

 やがて煙は晴れ、ラテラリスの軍勢を容易く屠った黒い怪物───仮面ライダークリーチャは、ビオラ達の前に姿を見せた。黄土色の触肢は真っ黒な装甲にバラバラに絡みついており、クリーチャのシルエットを少しだけ鋭利にしている。

「そんな……何でもない一般人が、仮面ライダーの力を使えるなんて……」

 

「……さて、準備も出来たことだし……

……お前の明日を喰らってやろう。行くぜ、()()()()

〔勿論だ〕

 

 ヒューマを指差し、アルテンと呼ばれた内側に巣食う怪物と言葉を交わす。走ることはせず、歩いてヒューマとの距離を縮める。

 ヒューマはタッチパネルを操作し、自身に雷を纏わせてから光にも似た速さでクリーチャの前に現れ、胸部を強く蹴る。が、クリーチャは微動だにしなかった。着地時に隙が生じたヒューマに、クリーチャは正拳突きを放つ。鈍重な一撃は、廃墟の壁を貫通させながらヒューマを吹き飛ばした。

「がはっ……!」

 吹き飛ばされた先で、ヒューマは変身を強制解除させられていた。

 一撃。たった一撃で、新参者に敗北した。圧倒的なまでの力の差。その絶望にリーガルのことすら忘れ、犬童は足早に廃墟を後にした。

 

「さてと、あとはお前だけだな」

「ギギ……!」

 リーガルと正面から向かい合い、歩を進める。やはりクリーチャの足取りはゆったりとしており、戦闘の意志を示しているようには見えない。そんなクリーチャにリーガルは駆け足で近寄り、殴打と足蹴を織り交ぜた連続攻撃を繰り出した。ヒューマも攻撃していた胸部を重点的に狙っていたが、やはりクリーチャに効いている様子はない。

 お返しと言わんばかりに、リーガルの鳩尾を狙ってクリーチャはアッパーを繰り出す。

「ギィッ!? ギィ……!」

 その攻撃は、ヒューマと同じように一発でリーガルの戦意を喪失させた。だが、戦えなくなったというわけではない。きちんと、終わらせる必要がある。

 

【The kill time!】

 

 トドメをさす為、クリーチャは引き抜いた鉤爪を変身時とは逆向きにセットする。スイッチを叩いて鉤爪を起こしてから、直ぐに元の位置に戻す。その部分の外郭の形も相まって獰猛な獣のような見てくれになった“クリーチャドライバー”は、そのエネルギーを右脚に集中させた。

【Dead end.】

「じゃあ、な」

 言い終えると同時にクリーチャは中段蹴りを放った。クリーチャが右脚を地に着けるよりも早くリーガルは地面に伏臥し、釣り上げられた魚のように酷く痙攣し出した。ビクビクと震える腕を使って必死にビオラの元に這い寄り、右腕を伸ばす。

 あと数十センチでビオラに届くというところでリーガルは溶解し、黒い液体へと変化して地面に零れ落ちた。

 

「……!」

 戦いの全貌を怯えたような顔つきで見届けていたビオラの顔がより一層曇った。目の前の恐ろしい空間から少しでも離れようと、尻餅をついたままの体勢で後退りする。

 そんなビオラに変身を解いてからゆっくりと近づき、京太郎は穏やかな表情で話しかける。

「大丈夫だったか? ビオラ。見ての通り俺も変身出来るようになったからさ、これからは遠慮なく俺を頼ってくれていいぞ。だからさ、」

 

「あんまり無理すんじゃねえぞ?」

 

 悪意の一切ない、純粋な笑顔。これまで『鬱陶しい』としか感じなかったその笑顔に、ビオラは別の感情を──────

 

 

 『恐怖』を、感じていた。




はい、第18話でした。
いやあ、遂に変身しちゃいましたね、京太郎くん。これからどんな道を歩んで行くんでしょうかね。
それと、更新遅れちゃってごめんなさい。こんな感じで、これからは良くて半月1更新、最悪2ヶ月くらい空いたりするかも知れません。
こんな作者ですが、どうか今後ともよろしくお願い致します。


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第19話 Loverー愛、そこに在り

更新遅くなって申し訳ありません!
テストとかあるので、また遅くなるとは思いますが……どうかこれからもよろしくお願いします……。


「……へぇ、見つけてきたんだ。偉いじゃん。……それで? そいつは今どこに居るの?」

「それが……ある人間に、寄生しておりまして……」

「……じゃあ、その人間はどこ?」

「逃がして……しまいまして……」

「……」

 

 街を襲う怪物『アクサー』を造り出し、人体実験を繰り返している組織『NAHMU』。寿命の近い電灯に照らされている質素な部屋で、NAHMUの首魁と犬童は話をしていた。話題は、少し前にNAHMUから脱走したアクサーのこと。これまでの長い実験の中でも最高傑作と呼べる個体だったのだが、どういうわけかNAHMUから離別し、そのまま行方知れずになってしまったのだ。

 

 

 NAHMUではこの世のものとは思えないほどに歪な進化を遂げた存在の製造を行なっているが、最新鋭の機械が取り揃えられているような組織ではない。余り物にも似た雑素材を弄り尽くし、人間の身体に生物の能力を無理矢理宛てがっている。

 彼らなりの配慮として、実験の被験者には死刑囚がよく選ばれている。百年近く前から存在する警察とのパイプを利用し、効率的に実験台を手に入れているというわけだ。

 

 実験を始めて暫くしてから、NAHMUは他より知能の高いアクサーの製造に成功した。その名は『ウィップアクサー』。かなり長い『腕』のような触肢が特徴的な世界三大奇虫の一匹『ウデムシ』を基に造られた個体で、明確な自我と言葉を発する知能を持って生まれた。

 次に誕生したのは『ビネガーアクサー』。ウィップと同じように言葉を発することこそ出来るが、その粗暴な性格が災いしてかあまり活かされているようには思えなかった。

 主戦力が完成し、NAHMUの“計画”は順調に進みつつあった。

 ……が、そこでNAHMUは予想だにしないトラブルに見舞われた───。

 

 

 

 京太郎の住まうアパートの一室。少し低い天井の明かりは灯されておらず、空き家かのような雰囲気を醸し出していた。曇天を覗かせる窓を背に、珍しく京太郎の元に直接赴いたビオラが正座を崩さずに口火を切る。

「……ねぇ京太郎、アンタに一体何があったのか……教えて、くれない……?」

「別にお前が心配するようなことじゃねぇよ。今まで通りの戦闘に、ちょ〜っと俺が加わるだけだ。そんな変わりゃしないって」

「……心配とかじゃなくて、ただ気になるだけ。どこで手に入れたのか、どんな力なのか。そういうことが……」

「わーった、分かった分かった。説明すれば良いんだよな? これからするから、耳クソ穿り出してよ〜く聞けよ?」

「……」

 

「……つっても、俺が説明するよりコイツがやった方が早ぇんだけどな。“アルテン”、起きてるよな?」

〔当然だ。お前より遅起きな奴など居らん〕

「……っ!? 誰!?」

「ん? あ〜……そういや、ビオラには言って無かったっけ……」

 突如、オクターブの低い男の声が何処からともなく部屋中に響く。その胡乱な声に動揺したのか、ビオラは少しだけ後退りをした。

「ほら、ビオラが怖がってんじゃねえか。さっさと説明しろよ」

〔仕方がない、か。なら、まずは自己紹介から始めるとしよう。我が名は『アルテン』。又の名を……

 

 

 

……『バナナペストアクサー』〕

「だははははっ! やっぱいつ聞いてもダサすぎるだろその名前! つけた奴のネーミングセンス絶望的すぎるんだがwwwww」

〔笑うなァ! だから『アルテン』と名乗っていると言ってるだろうが!〕

「いやバナナてwwwwwバナナはねーだろwwwww」

〔連呼するなァ!〕

「……ふふっ……バナナ……」

〔貴様もかァァァァ!!〕

 古びたアカシアの円卓を叩きながら爆笑する京太郎。自身の名を弄られ憤慨するアルテン。予想外の本名に堪らず吹き出すビオラ。傍目から見れば二人しか居ないはずのその部屋は、やけに混沌としていた。

 

 

「……ふう、悪りぃ。説明……っていうか、アルテンの自己紹介の途中だったよな」

〔貴様が盛大に邪魔をしてくれたからな〕

「……。そういえば、『アクサー』とかって言ってなかった? いい加減姿見せなさいよ」

〔生憎と、今の私は体を持ち合わせていない。この男の内部に寄生していて、そこから会話をしている〕

「京太郎に寄生……? どういうこと?」

〔私の能力は二つ。一つは『寄生』。自分とは違う存在に寄生することで、更なる力を引き出せる。もう一つは『感染』。症状が急速に進行する疫病に感染させることが出来る〕

「……アクサーが持ってる能力って、基本的には一つだけじゃないの?」

〔ああ、基本的にはな。私以外のアクサーは一種類の生物を基にしているが故、発揮できる能力は一つに限られる。だが、私は二種類の生物を基に造られたアクサーだ。だからこそ、基の生物二体に準えた能力を具えている〕

「それが……あの、リーガルを溶かして黒い液体にした技の正体?」

〔そうだ。『ペスト』とやらを流行らせた「ケオプスネズミノミ」からきている能力だな〕

「……」

 

 ……音が、聞こえる。人間を襲う怪物が闊歩する音が。……気配がする。自分と同じ、些少の闇の気配が。

「……アルテン」

〔分かっている。この女も気付いているだろう〕

「……今気付いた。アクサーが近くまで来てる……。ねぇ京太郎、何で私よりも早く気付けたの……?」

「んなこたどうでもいーんだよ。それより、さっさと現場に行くぞ」

「ちょっ、京太郎!」

 一人騒ぐビオラを置き、玄関へと歩き出す。距離はそう離れていないし、一体だけなら5秒で殺せる。……でも、何となく他の気配もする。

(……な〜んか面倒臭ぇことになりそうだな……)

(事態が悪化するよりも早く消せばいい話だ。……そうだろう?)

(だな。急ぐとするか)

 勢いよくドアを開け、地面に向かって飛び降りる。高さは3m弱しかないから、着地時の痛みは全くない。

 

 ……いや、無いわけじゃないんだろう。他の人間、例えば凱あたりが同じことをすれば、「痛ってえ!」とか叫ぶ場面であるはずだ。だが、今の俺にはそれがない。痛覚が麻痺したとかではなく、こう、何というか……体が純粋に硬くなったような感じだ。アクサーに殴られても、赤子が叩いてきた程度にしか感じなくなった。

 強くなれたということだ。今まで傍から戦闘を見守ることしか出来なかった俺が、街を守ってきたビオラの横に立てたということだ。それが凄く嬉しい。でも同時に、元々あった感覚が少しずつ無くなってきてもいる。命に対する価値観だとか、恐怖の感情だとか。ただ、五感とか第六感とかは寧ろ前よりも鋭敏になった気がする。

 色々とおかしくなった体にちょっとビビったりはしたが、今はそうでも無くなった。

 

 ビオラの横に立ち、右手となることが出来る。そう考えただけで、暫くは自分の体のことなんか全然気にならなくなるからな。

 

 

 

「グウウウ……!」

 怪物───リバースアクサーが唸る。その後ろには大勢のラテラリスアクサーを引き連れており、更にその後ろにはウィップアクサーが佇んでいた。

 閑静な住宅街は荒れに荒れ、凄惨な光景が広がっている。辺りには砂埃が舞っており、あまり周囲が見えたものでは無かった。

 だが、駆けつけたビオラの瞳は奥で構えているウィップをも捉えていた。厭悪に歪んだ顔でウィップを睥睨しながら、サラマンダーオーブを取り出す。

「…京太郎は一番前にいるあのキモい奴の相手をお願い。…出来る?」

「あたぼうよ。…ちゃんと勝つんだぞ?」

【サラマンダー!】

「……勿論」

【セットアップ!】

【Invade…】

 戦闘の決意を交わし合い、ベルトに手をかける。

「「変身!」」

【サモン!】 【Jubilation!】

【フレイアーーーー…サァラマンダーー!!】 【Celebrate! Today is Night's birthday.】

 複眼を輝かせ、二人は目標目掛けて駆け出す。

 

 背中から実体化した触肢を出現させ、ラテラリスを蹴散らしつつ仮面ライダークリーチャはリバースに向かって前進する。

「オラよっ!」

 リバースの前に立つと同時に軽いジャブを繰り出し、その巨体を仰け反らせた。しかし直ぐにクリーチャに向き直り、その灰色の身体でタックルを繰り出す。クリーチャはそれを右の前腕で受け流し、バックキックを見舞う。攻撃を躱されたリバースは憤慨し、怒声を上げながら感情任せの突撃を始めた。

「グウア……!」

「お、まだ戦る気十分じゃねぇか。良いぜ、とことん付き合ってやらぁ!」

 そうして、まだ続く粗暴な抗争は混迷を極めていった。

 

 

 

「はあああああああっっ!!」

「無駄に騒ぐな、姦しい……」

 時を同じくして、エルフとウィップアクサーの戦闘。リバースのように理性が少し欠如したエルフの拳が、ウィップに襲い掛かる。が、ウィップはそれを軽くあしらってから前蹴りでエルフをいとも容易く吹き飛ばして見せた。

「ぐっ……!」

 歯軋りをしてから、エルフは吹き飛ばされた先の地面に握り拳を力強く叩きつけた。すると、距離があるにも関わらずウィップの足元から躰全体を覆い尽くすほどの火柱が噴き出した。

 突然の出来事に些少動揺していたが、ウィップにはあまり効いていないのか、痛がる素振りをまるで見せなかった。

「……ふむ、それほど効果は無いようだな」

 

「……」

「…………いや、やるしかない……!」

 

 この瞬間、エルフ(ビオラ)は一つの決断をした。懐に手を伸ばし、ファヴニールオーブを掴んだ。決意が揺らいでいるのかすぐには天面のボタンに手を掛けなかったが、暫くしてからボタンを押し、そのまま勢い任せでフォームチェンジまで持っていった。

【サモン!】

【財宝の守護者、今こそその権威を振るい給え! 老獪な守銭奴共を処罰せよ!】

(……駄目、やっぱり……制御できな……!)

 

【トレジャーーーー…ファヴニーールッ!!】

 

「……っあぁ〜……起きんのは久々だなァ……」

「……貴様、エルフの女ではないな? 何者だ」

 呼び出されたことで眠りから覚めたヴァニラは、簡単にビオラの意識を乗っ取って欠伸と背伸びをする。これに対しウィップは訝しげな感覚を覚え、『ファヴニールスレイヴ』となったエルフに問うた。

 それに対するヴァニラの答えは……

 

「決まってんだろ? 世界最強の、イケメンドラゴン様だよォッッ!!」

 自慢げに咆哮しながら、黄金の翼を広げて挨拶代わりの飛び蹴りを放つ。片手で受け止められると侮っていたウィップだったがその蹴りは想像以上の威力があり、地に足を着けたまま大きくノックバックした。

「……何だ、その力は……!?」

「おお、お前みたいなクソカスキモキモ厨二病野郎でも俺様の最強さが分かるのか? やるじゃねぇか。お前のあだ名から『キモ』を一個消してやるよ」

 

「……舐めた真似を……!」

 怒りに震える腕をエルフへと伸ばして頭部を掴み上げ、地面に複数回叩きつける。最後に手を離してエルフを投げ捨てるが、エルフは宙で身体を捻って事なきを得た。エルフは間髪を容れずウィップを指差し、

 

「おいてめぇこのクソカスキモ厨二病野郎! 危ねぇじゃねぇか! なんてことしてくれやがる!?」

 などと宣った。対してウィップは、

「戦場に危ないも何も無い。危機的状況に追いやられたというのなら、その責任はお前にある」

「うっぜぇんだよこのクソカスシモ……クソが! 噛んだじゃねぇか!」

「知るか。お前が勝手に噛んだだけだろう」

「うぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 エルフの稚拙な発言をウィップが淡々と返す、そんな会話が暫くの間続く。しかしそれも束の間、エルフの背後にビネガーアクサーが突如現れ、拳を振り下ろしてくる。

「オラよォォッ!」

 

「……当たんねぇんだよな、これが」

 

「何だッ!?」

 エルフへ振り下ろされた拳を止める黒い腕が一つ。その正体は、リバースアクサーを仕留め終えたクリーチャであった。それに気付いたエルフは急に振り返り、掌からその装甲と同じく金色に輝くフランベルジュを出現させ、ビネガーに突き刺す。

「チッ、面倒くせぇ……!」

「おい俺様クズザリガニ、俺様はお前に言っておきたいことがある、だから黙って聞け!」

「ザリガニじゃねぇよ! ビネガロンだよビネガロン!」

「んなのどっちだって良いんだよ!」

「いいや良くねぇ! 俺はビネガ──」

「うるっせぇな! 話進まねぇだろうが空気読め!」

「ンガァッ!?」

 自身の話を遮るビネガーに痺れを切らしたのか、エルフはビネガーの顔面にストレートパンチを放つ。突然の攻撃に対応出来なかったビネガーは正面からまともに喰らい、数メートル先まで飛ばされてしまった。

 

「テメェ……黙って聞けとか抜かして急に殴る奴があるか! ぶっ飛ばすぞゴラァ!」

「その口調だよクソザリガニ!」

「だからザリガニじゃ……」

 

「てめえのその口調俺様と似すぎなんだよ! これじゃどっちが喋ってるか分かんなくなるだろうが!」

 

「……は?」

 

 思ってもいなかった内容に、ビネガーは開いた口を塞ぐことが出来なかった。口こそ開けていないが、クリーチャとウィップも思考が完全に停止している。

「今すぐ一人称を『あたし』に変えやがれ! じゃねぇと区別付かねえだろうが!」

「……駄目だわこの馬鹿、意味分かんねぇ。一回俺とウィップがボコしてやんねぇと……」

 クリーチャ達の視界の両端からラテラリスアクサーが現れ、一斉に襲い掛かってきた。すぐさま臨戦態勢に移るエルフとクリーチャだったが、ものの数秒でそれを解除することになる。

何故なら─────

 

 

【Finish attack】

【Authentication.】

 

「何ッ……!?」

 ウィップが一驚した瞬間、ラテラリスアクサーが一体も残らず吹き飛ぶ。辺りに舞う砂塵が晴れると、その正体が判明した。

 

「……何故だ、何故貴様が『そちら側』に居る……」

 

 

「……犬童託斗ッ!!」

 仮面の下で、犬童は不敵な笑みを浮かべた。




2回目になりますが、更新遅れてすみません!(多分次回もこれくらい期間開くかもしれませんが……)
最後の方のヴァニラとビネガーの会話は殆どやっつけです……どうしてもこういうメタ発言させたかったんです! すいません許してください! 何でもしますから!(何でもするとは言ってない)


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第20話 Re:Loverー哀、ここに亡き

本格的に寒くなってきましたね(今更)
風邪とコロナにはお気をつけください。


「おい託斗! せっかくのラテラリス達に何してくれてんだよ!」

「何って……見れば分かるでしょう? ただ全員吹っ飛ばしただけですよ」

「違ぇよ! 何でお前がそんなことをするのかって聞いてんだよ!」

「理由は一つしかありません。『組織』に尽くす義理が無くなったからですよ」

 怒れるビネガーアクサーの言葉に、ヒューマは淡々と返す。返答を終えると、ヒューマはドライバーのタッチパネルを操作しながらエルフとクリーチャの元へ歩み寄り、呟くように話しかける。

 

「さて、此処じゃゆっくり話せませんし、一旦安全な場所に移動するとしましょう」

「おい待ちやがれ! 俺の話は───」

「では、また今度」

 

【Abduction】

【Authentication.】

 

 ビネガーの話を遮り、エルフとクリーチャを連れてヒューマは姿を消した。取り残されたビネガーは近くの壁に八つ当たりするが、ウィップに宥められ共に本拠地へと帰っていった。

 静けさの甦った街には、ただ荒廃した風景があるばかりである。

 

 

 

「……さて、と」

 小さく犬童が零す。

 転移してきた場所は、先ほどまでの住宅街からは少し離れている寂れた公園。錆びついたブランコ、砂まみれになったタイヤ。使い古された遊具は、未だ幼いままの歴史を感じさせる。

 

 周囲を確認してから、ヒューマは変身を解除した。それに倣い、クリーチャも変身を解除する。しかしエルフだけは解除しようとせず、変身したまま会話に混ざろうとしていた。そのため、犬童はエルフドライバーに触れて「僕はビオラさんと話がしたいので」と喋りながらファヴニールオーブを引き抜いた。

 その瞬間エルフの装甲がヴァニラの叫びと一緒にオーブに吸い込まれていき、変身者であるビオラの意識が覚醒した。はっとしてからビオラは周囲を見回し、近くにいた京太郎に現状の説明を受ける。

 

「……っつーわけだ。ま、あとはコイツに聞いてくれ」

 そう言い、京太郎は犬童を指差した。笑顔で軽く手を振ってくる犬童に対しビオラは、

「……本当に何でここに居るの?」

 と、本音を露骨に態度に出す。すると犬童は顎に手を当て、

「そんなこと言って良いんですか? 僕が『1年前の事件』の真実について話してあげようというのに」

 とかました。案の定ビオラは食いつき、血相を変える。腕を組むのもやめ、神妙な面持ちで『事件』の真実について尋ねた。

「! ……それ、本当?」

「ええ、勿論ですとも。尤も、僕の知る範囲に限られはしますが」

「……どういう風の吹き回しか知らないけど、私達はアンタらの作戦に殺されたりしない。変な作戦は今すぐやめるべきだと思うけど」

 

「作戦なんかありませんよ。なにせ僕は、『NAHMU』から足を洗ったんですからね」

 

「足を洗った……? それって、その『NAHMU』とかいう組織を辞めたってこと?」

「そういうことになりますね。いきなり『事件』のことを話すのもあれですし、話は僕が『NAHMU』を辞めたとこから始めましょうか」

 犬童は数時間前のことを想起しつつ、現在までの経緯を話し始めた。

 


 話は、犬童とNAHMUを統べる首魁との会話から始まった。

「逃がして……しまいまして……」

「……」

「……そっか、じゃあもう良いよ」

「……あのアクサーを諦めるのですか?」

「んー、そうだね。ま、正確には『君と』そのアクサーを諦めるってことだけどね」

「なっ……!?」

「だって君さ、アクサー造るぐらいしかしてくれないじゃん? 正直一般化できるぐらい研究は進んだし、実質君の役目ないんだよね。僕の『目的』達成にはもういらないかな〜って」

「お待ちください! 僕はまだ……!」

「いや、まだとか言われても困るんだけど。決定事項だし」

「…………」

「そんなわけで、今までありがとね。何れ僕は『仮面ライダー』に勝利し、この世界に『真の平和』を齎してみせる。だから、君たちはそれをゆっくりと眺めてれば良いさ」

 言い終えると同時に指を鳴らし、ラテラリスを呼び寄せる。変身している状態では雑魚と呼んでも差し支えないほどの強さしかない量産型アクサーだが、変身していないとなると話が違ってくる。

 ドライバーを取り出すよりも早くラテラリスが襲ってきた為、犬童は変身する間もなく走り出した。NAHMUでの思い出と首魁に背を向け、遮二無二ひた走る。

 

 そうして抜けた場所が、ウィップ達が襲っていた住宅街であった。


 

「そこで変身して戦いに乱入して……あとは彼が説明した通りですね。話してると、『辞めた』というより『リストラされた』と表現した方が良かったかもですね」

「……ふうん。要するに捨てられたってこと?」

「……僕みたいな人間でも傷ついたりするんですよ?」

「自覚あるんなら直しなさいよ」

「それはまた別の話ですよ。それより、ここまでの経緯を話し終わったので、いよいよ『事件』の話を始めようと思います」

「待って、その前に質問良い?」

「どうぞ」

「……どうして急にそんな話をしようってことになったの? NAHMUだかに捨てられたから?」

 

 その質問に、犬童は少し頭を悩ませた。理由について回答出来ないというわけではない。どう説明すれば良いのか、それが分からないのだ。

 うまく纏まらないが、あまりビオラたちを待たせることも出来ない。悩んだ末、犬童は頭に浮かんでいるものをそのまま説明口調のように繋げることにした。

「んー……やっぱり情報を知ってる以上、あまりビオラさんに隠してたくないっていうのと……協力してほしいことがあるから、あとは……ビオラさんが好きだか…………あ」

 最後の一文字を残すところまで口走ってから、犬童は自分が隠していたかったことまで喋った事実に気が付いた。慌てて言い直そうとするが、聞き逃さなかった京太郎には既に嘲笑されていた。

 今にも堪忍袋の緒が切れそうな表情で笑いを必死に堪える京太郎に殺意と恥辱を抱いた犬童はヒューマドライバーを取り出そうとしたが、何が起こっているのか全く分からないといった表情をしたビオラが視界に入り、理性を取り戻した。

 

「……ゴホン。それでは、『事件』について話をするとしましょう。と言っても、僕の知ってる範囲に限られはしますがね」

 まだ笑いを堪えている京太郎を無視し、犬童は無理矢理話を始めた。

 

 

 

「聞いた話によれば、事の発端はエルフ側にあるそうです」

「は?」

「まあまあ、落ち着いて。話は最後まで聞くのが筋ってモノですよ」

「……」

「話を戻しましょう。NAHMUがエルフの里に手を出した理由ですが……一言で言えば、『口封じ』が目的だそうです」

 

「口封じ? 何のだ?」

「ぶっちゃけた話、何の口封じなのかは知りません。ただ、アクサーに関するとても大事なモノをあるエルフに盗まれたことがきっかけだった、という話は聞きました」

 

「アクサーに関する……それってまさか、アゼルが見つけたやつ……!?」

 

「……それはよく分かりませんが、残っていたとしてもあまり意味はないでしょうね。ともかく、アクサーのことを知られればエルフたちは人間がエルフを殺しにやってくるのだと思い、自分達が襲われる前に人間を襲いに来る。そう判断したNAHMUは、慌てて盗まれたモノを取り返しにエルフの里まで赴きました。しかし、盗まれたモノの話は既に里中に広まっていました。こうなってしまっては、エルフと人間の関係に亀裂が入ることは免れない。だから、NAHMUは考えたんです。『エルフの里ごと口封じを行う』ということを。その結果……」

 

「……『ヒューマレジスタンス』が起きたって? ……馬鹿を言うのも休み休みにして。それの何処にエルフが事の発端になる理由があるって言うの? アクサーを造ってたのはアンタらの方でしょ!?」

 

「責任というか何というか……ここは一つ、例え話をした方が良いかもしれません。時にビオラさん、突如エルフの里に宇宙人が現れたとします。その時貴女は、その宇宙人たちを信頼することは出来ますか?」

「信頼って……突然現れた奴らに信頼も何も無いでしょ。第一、目的とかも分からないわけだし」

「それですよ、それ」

「はあ?」

 

「我々人間も、『エルフ』という突如現れた亜人種族にビクビクしていたんです。私たち人間よりも頭の良い連中で、おまけに魔法を使えたりもする。人間よりも遥かに『上』の存在なんですよ。仮にそんな種族が人間を襲ったとすれば、一日も経たず人間社会はエルフに支配されることでしょう」

「ふざけないで! エルフはそんなことしな───」

「あくまでも仮の話です。でも実際、ヒューマレジスタンスが起きる前の人口全員で人間社会に乗り込めば支配することは簡単だったはずです。そうでしょう?」

「…………」

「そうやって、人間の世界を支配されることに怯えていたんです。だから、いつエルフが人間の世界に攻め込んで来てもいいようにと、アクサーが開発されたわけです」

 

 暫しの間、沈黙が続いた。というのも、話に一番聞き入っていたビオラが黙りこくったためである。

 ビオラはずっと、人間がエルフの里を支配することだけが目的でヒューマレジスタンスを起こしていたのだとばかり考えていた。だが、実際はそうでは無いらしい。話の全てが本当のことだと信じたわけでは無いが、アゼルが見つけた研究資料と繋がるかもしれないところもあって完全には否めなかった。

 

 

 

「……で、これがその紙だって?」

「アイツの話を信じるなら、そうだと思う」

 エルフの里。託斗達と別れて帰ってきたビオラは、託斗から聞いた話をアゼルに伝えていた。前に見つけた研究資料を右手に持ったまま左手を顎にやり、訝しげに眺めている。

 

 暫くビオラがその黄ばんだ紙を見つめていると、唐突にアゼルが口を開いた。

「……俺のも聞いた……っていうか、ガキの頃の話だからあんま憶えてないだけなんだがな。昔っから、人間とエルフは色々と取引をしてきたろ? 建築だとか、銃だとか」

「……何だっけ、『ひなわじゅう』? とかいうやつ?」

「そう、それだ。……後で調べて分かった事なんだが、その火縄銃とかってのは、軽く200年以上は前からあったんだとよ」

「200年……!? その時からずっと隠してたってこと……!?」

 

 思い出せないほど昔から、人間とエルフは度々情報の交換を行っていた。エルフ側は魔法の知識などを、人間側は建築技術であったり、銃などの情報を提供していた。だが、それはお世辞にもフェアな情報交換とは言えないものであった。

 託斗の発言通り、人間達はエルフという存在を予てから危惧していた。あまり情報を渡しすぎると、いつか人間の発明を上回る物を作り出して人間界を支配しにやってくるのでは、と。それを考慮した結果、人間が渡したのは『“火縄銃までの”銃の知識』だった。

 

 とは言え、最初にその情報を渡したのは今からおよそ100年近く前の事だ。その頃には既に火縄銃など使われなくなっていたが、人間は「これが最新式のものだ」と欺瞞し、それ以上の銃に関わる情報は一切与えなかった。

 そして迎えたヒューマレジスタンスでは、アサルトライフルやサブマシンガン、ショットガンなど、エルフ達に情報を譲与しなかった銃を使って圧勝することが出来た。

 

「でも、調べたりなんかしなくともみんな銃については色々考えてたんだ。建築技術の方はどんどん進歩していくのに、銃だけが何も進化していない。だからある日、人間の世界にある研究所に乗り込んでその秘密を暴こうとしたやつが里を出ていったんだ。……俺の、昔っからのダチが」

 

「……!」

 

『ただ、アクサーに関するとても大事なモノをあるエルフに盗まれたことがきっかけだった、という話は聞きました』

『「口封じ」が目的だそうです』

 突然、託斗から聞いた話がビオラの頭を過った。アクサーに関する、とても大事なモノ。それは、今アゼルが手にしているこの研究資料のことなのではないか?

 アゼルと託斗の話を纏めると、おそらく事の顛末はこうだ。

 まず、いつまで経っても銃が進化を遂げないことを怪しんだアゼルの友人がNAHMUに乗り込み、研究資料を奪って里に持ち帰る。それに気付いたNAHMUは急いで里へ資料を回収しに来るが、時既に遅し。知られてしまった以上仕方がないと、『ヒューマレジスタンス』が勃発した───。

 里に研究資料が残っていたのは、運良く戦火から逃れたからであろう。

 

 それらを理解した瞬間、ビオラは自身の心の内で燃え滾っていた憤懣と厭悪の焔が突風で掻き消されていくかの様な感覚を憶えた。

 

 託斗の例え話通り宇宙人が現れでもしたら、自分達エルフは警戒して魔法などの話を控えるかもしれない。それをエルフと人間の関係に置き換えれば、アクサーを造ったり銃の情報を隠したりということが理解できなくもない。

 それに、もし今の自分がアクサーという怪物を率いて人間が襲ってくるかもしれない、という情報をヒューマレジスタンスの前に手に入れていたのなら、人間よりも早く動こうとした筈だ。

 ただ、人間の方が早かっただけのこと。相手を滅ぼさなければ、自分達が滅びてしまう。それは、人間とエルフのどちらともが同じことだったのだ。

 

 

「凄い話の最中にあれだけどさ、ビネガーが街を襲ってるよ?」

「っ! ウィル!? い、いつから居たの……?」

「う〜んと、『で、これがその紙だって?』ぐらいからじゃないかな……」

「いや最初からじゃん! ……まあもういいや。私の中で答えは出た。アゼル、行ってくる」

 

 音もなく現れたウィルに動揺しつつも、ビオラは決心を固めてビネガーの元へ向かっていった。……だが、それを見送るアゼルの表情はあまり穏やかなものではなかった。

「……心配なんだね? ビオラが、友達みたいに帰って来なくなるのが」

「……そうならねぇように、ビオラに着いて行ってやれ」

「ほいほーい」

 軽い返事をしてから、ウィルもまたビオラと同じ方へ飛ぶ。アゼルの表情は、曇ったままだ。

 

 

 

「クッソ、野郎……!」

「悪かったなあ、ビオラじゃなくて俺みたいな野郎でよ。でも、女っ気を求めすぎると嫌われるぞ?」

「ヘッ、ンなモン最初っからお求めじゃ無ぇんだよ!」

 少し開けた大通りで、ビネガーとクリーチャはどつき合いを始めていた。街を歩いていた人間は既に避難を完了させているため、この場にいるのはビネガーとクリーチャの二人だけだ。

 

「これでも喰らいやがれ!」

 言い終えると同時に、ビネガーは尻尾から酢酸を噴射する。尻餅をつきながらも体を横にずらして9割を避けることに成功したが、残りの1割でクリーチャのスーツは少しだけ溶けてしまった。

 もう一発とばかりにビネガーが尻尾の先をクリーチャに向けた時、右足を突き出したビオラが空から現れた。見事にそのキックをビネガーに命中させ、軽く吹き飛ばしてから着地する。

「大丈夫? これ間に合ってる?」

「ナイスタイミングだな。助かった」

 ビオラが伸ばした手を掴み、クリーチャはゆっくりと立ち上がる。

 

「さ、行くよ。ウィル」

「あ、着いてきてたの気付いてたんだ」

 ビオラの近くで待機していたウィルはウンディーネオーブを出しながらビオラに近づいていく。しかしここで、想定外の事態が起きた。

「痛っ……今何かに……っ! オーブが盗られて……!」

 

「……ゲゴッ」

 

 注意して見てみると、ビネガーの近くにはウンディーネオーブを咥えた小さな蛙のような怪物がいた。その名も───リバースアクサー。正式には、『変態』を済ませたリバースアクサーである。自身の3倍程の大きさはあるオーブを落とさないようにしっかりと咥え直し、リバースは何処かへ飛び去ろうとした。

 

 ……のだが、それを許すまいとする人物が一人。犬童託斗こと、仮面ライダーヒューマである。

「もう僕は忙しく無くなっちゃいましたけど、これが無いとビオラさんが困りますし、返して貰いますね」

 そう言い、ヒューマはリバースの口から無理矢理オーブを奪い取り、ビオラに投げ返した。仕事を邪魔されたことに憤慨したリバースはヒューマに飛びかかったが……

 

「歳を重ねる度に小さくなるだなんて……まるで、圧倒的な力を手に入れた人間の心のようですね」

 

【Finish attack】

【Authentication.】

 

「ゲガァッ!」

 片足で軽く蹴り飛ばされ、リバースは宙で爆散する。それを自身の眼で確認したビネガーは、不機嫌そうにその姿を消した。

 軽く手についた埃を払い、ヒューマは変身を解除しながらビオラ達の元に歩み寄る。その表情は、いやに清々しい笑顔だった。

 

「さて、これからはこんな感じで、僕もビオラさん達の戦闘に参加させていただきます。あ、断られても僕勝手に乱入するんで、そこのところはよろしくお願いしまーす」

「お願いしまーすじゃねぇんだよ! 勝手に決めやがって!」

「安心してください! 僕はビオラさんのことなら何でも知ってますよ!」

「……は?」

 

「例えば〜……そうですね、今日のパンツはレースの付いた薄ピンクですし」

「はあっ!? ちょっと、何で知ってるの!?」

 

「昨日は無地の青、一昨日は緑を基調とした赤い薔薇模様のパンツで、一昨々日は……」

「もうやめて!! それ以上言ったらほんとに殺すッ!!!」

「じょ、冗談ですってば! あの、ほんとに、すいませんでした許してくださいぃ〜!!」

 

「ねぇ京太郎」

「……何だ?」

「ホントにさ、何でビオラのパンツのこと知ってると思う?」

「いや知らねぇよ! つか俺に聞くな!」

 

「殺す! 殺すッ! 殺すッ!!」

「ホントに許してください! もう言いませんからっ!!!」

 

 こうして、常軌を逸した変態が新たに仲間として加わるのであった。




投稿期間空いちゃってごめんなさい! テストとかで忙しかったんです許してください!
それはそうと、もう12月ですね。一年の最後の一月、ゆっくりお過ごしください。では!


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第21話 Doubleー暴虐の手

15日までに投稿出来てたらいいなあ(願望)


「……」

 

 やっと正午を過ぎたくらいの昼下がり。人でごった返している街で、ビオラはいつものようにラフな格好で闊歩していた。

 ……のだが、一つだけ気になる点がある。自身に向けられる人々の目が、若干冷たく感じることだ。大多数が黒髪の日本では、金色の髪というのは本当によく目立つ。それ故、視線を感じるのは珍しいことでは無いが……最近、その視線に軽蔑が混じってきたような気がする。

 

 この前───ヴァニラを目覚めさせた時、ヴァニラが好き放題に暴れていた様子がメディアで大々的に放映されたことが原因であるというのは想像に難くない。しかし、このままでは仮面ライダーとしての活動に支障をきたす可能性がある。これだけは何としても避けなくてはならない。

 とは言え、人間たちは『仮面ライダー』という存在そのものに嫌悪感がある。身近で戦闘が始まれば、ヤジを飛ばして追い出すはずだ。そうなれば、弁明も何もあったものではない。

 まずは、『仮面ライダー』に対する認識を改めてもらう所からだ。一度脳裏に焼き付いた第一印象を覆すのはかなり厳しいが、何もしない訳にもいかない。かといって、自分ひとりで解決できるような問題でもない。何より、「エルフ」と「人間」という、種族上の違いもある。その軋轢をどうにかするためには、人間である京太郎の協力が必要不可欠だ。

 

「……よし」

 

 そう決心し、ビオラは爪先を京太郎の住むアパートへと向けていつもより少しだけ大きい歩幅で歩き出した。

 

 

 

「……何あれ」

 京太郎の住むアパートまで残り20メートル。そこでビオラが目にした光景は、想像を絶するものだった。

 どういうわけか、周辺住民が京太郎の部屋の前に集まっているのだ。ある人はドアを叩き、またある人は大声を出して、家内に居ると推測される京太郎を呼んでいる。

 その状況を見て居ても立ってもいられず、ビオラは京太郎の部屋の前まで全力を出して走り始めた。

 

「ちょっと! 何してんの!?」

「おん……?」

 声に反応し、周辺住民達はビオラの方に顔を向ける。眉の吊り上がった、感じの悪い表情だ。

 1、2秒の僅かな沈黙の後、50代ほどと思われる真っ黒なダウンジャケットと迷彩柄のカーゴパンツを着込んだ男性が、髪からはみ出したビオラの尖った耳を指差して口を開く。

「その金髪に尖った耳……君、もしかして『仮面ライダーなんとか』っていう女の子かな……?」

「仮面ライダーエルフ。そのぐらい覚えときなさい」

 

「……その言葉遣いも気になるが、それよりもだ。君、ここに住んでる人と知り合いかい?」

「……だったら何?」

「もしそうなら……今すぐにこの街から去ってくれないか? はっきり言って、いい迷惑なんだよ。喧嘩はここじゃなく、他所でやってくれ」

「……仮に私がこの街に来なくなったとして、怪物がこの街を襲わないなんて保証は何処にも無いんだけど?」

「でも、何もしないよりはマシだろう? 僕ら何十人が動くよりも、君達二人がどっかに行く方が良いのは火を見るよりも明らかだ。それでもこの街に居続けるというのなら……力づくでも出ていってもらう」

 

「……ふうん。変身も出来ない人間が、私に勝てるって? 冗談言わないでくれる?」

「……そういう態度だ。そういう、人間を見下したような言葉遣いがムカつくんだよォ!」

 声を荒げ、男性はビオラ目掛けて拳を振り下ろす。しかしビオラはその腕を軽々と掴み、軽く締めた。しっかりと握り締め、ビオラは話を続ける。

「ぐぅっ……」

「私達が何処に行こうが、多分アクサー(アイツら)はこの街を襲いに来る。その時、私や京太郎が居なかったら誰がこの街を守るの?」

「それでも……仮面ライダー(お前ら)には頼らない……! こっちの迷惑も碌に考えないような奴らには……!」

 

「いい加減その手を離しなさい! この……クズエルフっ!」

 男性のすぐ後ろに居た小太り気味の中年女性が駆け寄り、ビオラの腕を引き剥がそうと力強く掴んできた。その瞬間にビオラの力が完全に抜け、二人は引き離された。ビオラを強く睥睨し、中年女性は叫ぶ。

 

「アンタみたいなクズ種族に守られるのなんて……こっちから願い下げよ!」

 その言葉に何も言い返さず、ビオラはただ俯く。耐えきれなくなったのか魔法を使ってその場からビオラが姿を消すと、周辺住民は京太郎の呼び出しを諦めて解散していった。

 

 

 

「……『クズ種族』……」

 エルフの里の近くの森に瞬間移動してきたビオラは、自身に放たれた言葉を想起していた。

 クズ種族。

 その言われ様に、微々たる悲哀と憤怒を感じた。

 自分達エルフがクズだと? 馬鹿も休み休みにしてほしい。自分ひとりを見ただけの奴が、自分達エルフの何を知っているというのだろうか。一を聞いて十を知ったとでも言うつもりか? 勘違いも甚だしい。よく知りもせず、軽々しく放っていい罵倒ではない。

 

 そんな言葉に出来なかった怒りが、次から次へと湧いてくる。しかし、ビオラはここである一つの事に気が付いた。

 先程の女性が言い放った『クズ種族』という言葉。彼女の知るエルフは、実際に出会ったエルフは、恐らく自分だけであるはずだ。そうだと仮定すれば、彼女は自分ひとりの印象をエルフという『種族』に重ねていることになる。それは、これまでの自分と同じなのではないか?

 

 一年前に『ヒューマレジスタンス』を受けたことで、自分の中の「人間」という種族への認識は最悪なモノへと変貌した。人間とは皆の心が薄汚く、常に自分が生き残るために他を蹴落として生きてきたクズ種族だと。

 人間に殺意を含めた視線を向け、ずっと日々を過ごしてきた。だが、その日々の中で自分が知っている人間は、世界人口の一割にも満たない数だ。そんな自分こそ、『勘違いも甚だしい』のではないか?

 

 これまでの自身の暗愚な謬見(びゅうけん)を客観視し、ビオラは自分がどれほど愚かだったのかをまざまざと見せつけられたかの様な感覚を憶えた。両膝を突き、両腕で自身を抱きしめ、過去の過ちに震える。

「私、私……は……!」

 思い返せば、これまで出会った人間達はそれほど悪人という感じはしなかった。自分の言葉に生えた棘に刺されても、穏やかな微笑みを返した人間達が何人も居た。エルフを敵視する人間も居たが、結局は自分と一緒だ。一部を見ただけなのにも関わらず、まるで全てを知ったかのような態度で侮蔑する。

 まさに、これまでの自分そのものだ。

 

「……あれ、もしかしてお取り込み中?」

 涙まで流し始めたビオラの顔を覗き込みながら、ウィルが宙を揺蕩う。その声に涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、言いたいことのまとまっていない言葉を投げかける。

「……! ウィル! ウィル、私、今までずっと人間は皆が悪いやつだって思ってて、でも違って、私が、私の今までが、」

「うん、一旦落ち着いて。何が言いたいのか全然分かんない」

「……えっと、今日、京太郎の家の前で人間に会って、色々あって、エルフのことを『クズ種族』って言われたの。それでここに逃げてきて、知ったような口きくなーって思ってたら、それがまさに今までの私で……」

「なるなる、視野が狭かったってことだね?」

「……うん」

 

「……じゃあさ。『今まで』が駄目だったんなら、『これから』を変えようよ。時間はかかるかもしれないけど、きっと分かって向こうもエルフのことを理解してくれるようになると思うよ。ビオラみたいにね」

「…………うん」

 

「ま、それはこれからやっていくとして……実は、今やんなきゃいけないことが出来たんだ」

「今やらなきゃ……いけないこと……?」

「そう、今やらなきゃ駄目なこと。それはね…………京太郎を止めることだよ」

「……京太郎を? そもそも何処に居るの? ていうか、止めるって何?」

「……何でかは知らないけど、京太郎が変身したまま一切喋らなくなっちゃったんだ。なんとか説得出来ないかなあとか思ってたけど……どうやら、新しいアクサーの能力っぽいんだよね」

「新しいアクサー? 犬童って、もうNAHMUだか何だかを辞めたって言ってなかった?」

「言ってたね。それが真実かどうかは知らないけれど……クリーチャ(京太郎)は、もうすぐ街の方まで行くと思うよ。話とか一切聞かずに暴れてるから、止めるのは厳しいと思うけど……」

「……大丈夫。私が、止めてみせる」

「そっか。じゃあ、行こうか?」

「……うん!」

 力強く頷いたビオラの瞳は、普段よりも一層輝いて見えた。

 

 

 

 陽は既に落ち、月明かりが街の大通りを小さく照らしていた。

 そこに、薄暗い影が二つ。蠍の様な尻尾を持つものと、蜘蛛にも似た触肢を備えるもの。恐らくだが、ビネガーとキャメルであろう。

 キャメルよりも少しだけ背の高いビネガーが、じりじりとにじり寄ってくる。

「よォエルフちゃん……悪りィが、こっから先は通してやれねェ。俺たちの計画を邪魔されるわけにはいかねェんだ」

「計画? 何の?」

「ウチから脱走したアクサーが憑いてるとはいえ、京太郎(アイツ)は人間だ。家のそばでガチ喧嘩するだけだった奴が、急に自分達を襲ってきたらどうする? もちろん人間共は───」

「喋りすぎだ。言葉を慎め」

 キャメルの戒めを受け、ビネガーは渋々口を閉じた。一歩前に進み出て、キャメルが口を開く。

 

「聞けビオラ・ヒアラルク。貴様も知っているだろうが、託斗様がNAHMUを抜けられた。私は当然追うつもりでいたが……どうやら、託斗様の視界にはもう貴様以外の女は映っていないらしい。その『映っていない女』の中には、私も含まれている。……こんな事は有り得ない。貴様もそう思わないか?」

 

「……いや、そんなの知らないけど……」

 

「そうか。そう思わないと言うのは勝手だ。だが───」

 

「私は、託斗様を誑かした売女を許すつもりは決して無い」

 

 言い終えると同時に走り出し、脊髄から伸びる黄土色の触肢をビオラに刺す。ビオラはそれをすんでの所で躱し、急いで変身する。

「ウィルっ!」

「分かってるよ」

 ビオラが青い炎から出現させたベルトに、ウィルがシルフィードオーブを嵌め込む。レバーを倒し、フィルーシュを呼んだ。同時に、ウィルが場から少し離れる。

【サモン!】

【ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】

「いくよフィル! まずはあの蜘蛛っぽい方から仕留める!」

〔おっけー! サポートは任せて!〕

 キャメル目掛けて、右足を突き出しながら高速で突進する。攻撃を見切れずノックバックしたキャメルに、宙を飛び回りながら跳び蹴りを喰らわせる。

 その状況を良しとしないビネガーは、尻尾から酢酸を噴出させた。しかしシルフィードスレイヴとなったエルフにはさほど意味は無く、高速移動で軽やかに避けられて回し蹴りの反撃を喰らう。月光が反射し、エルフを優美に照らす。

 

「クッソ……おいキャメル! 何とかしやがれ!」

「言われなくとも」

 そう言うと、キャメルは静かに眼を閉じてその場に立ち尽くす。辺りに、静寂が生まれた。

「今なら……!」

〔ビオラっ! 今あいつの近くに行っちゃダメ!〕

 フィルーシュの言葉が聞こえなかったのか、エルフはフェイントをかけながら距離を詰め、背後まで移動してから胴回し回転蹴りを喰らわせようとした。が、キャメルはエルフの脚を目視することなく左手で掴んだ。一回転し、その勢いのまま壁の方へと投げ捨てる。

 

「あぐっ……!」

 壁に叩きつけられながらも、エルフは身体に鞭を打って立ち上がる。

〔あいつ、多分だけどビオラが近づいたのを耳で聴いてから反撃したんだと思う……〕

「……なら、近づかずに攻撃すれば良いってこと?」

〔うん……でも、さそりの方がそれを邪魔してくるかも〕

「なるほどね。そっちにも気を───」

「よそ見は禁物だぜッ!」

「噂をすれば何とやらねッ!」

 気付くと、目と鼻の先までビネガーが迫って来ていた。攻撃を受け流そうと腕を伸ばした時、ビネガーでも、キャメルのものでもない腕がビネガーの攻撃を遮った。その腕の主は───

 

 

「いやあ危ない危ない。ギリギリセーフですね」

「犬童!? 何で此処に!?」

 

 仮面ライダーヒューマ/犬童託斗であった。眼を見開き、キャメルが口を開く。

「託斗様! 何故その女を庇うのですか? 何故私共の元を離れて行かれたのですか!?」

「うーん、質問が多い……とりあえずビオラさん、こちらの方は僕に任せてください。わけは知りませんが、お急ぎなんでしょう?」

 後ろを振り向き、穏やかな口調でそう告げる。ハッとして、ビオラは力強く答える。

「うん、任せた……!」

 一度だけヒューマの方を振り返ってから、エルフはビネガーとキャメルの間を縫うようにすり抜け、京太郎、もとい仮面ライダークリーチャの元へと急いだ。

 ビネガーは追跡を試みたが、ヒューマにプログラムアクターで撃ち抜かれて阻止されてしまった。激昂したビネガーの突撃から、NAHMUのアクサーと元NAHMUのライダーによる戦闘が始まる。

 

 

 

「……! 居た!」

 ヒューマ達の戦闘の開始とほぼ同時刻。エルフは、街を抜けて森へ進撃しようとするクリーチャを───正確には、クリーチャとクリーチャを操っているであろう謎のアクサーの2体を捕捉することに成功した。

 ウィルから聞いた通り、こちらに気付いたにも関わらずクリーチャは一言も発さない。

 いつもとは少し異なった暗澹な雰囲気を纏うクリーチャに思わず後退りしてしまったが、そのまま逃げ帰るわけにもいかない。そう覚悟を決めて、エルフは近くまでついて来ていたウィルを隠れられる場所まで指差して誘導した。

 

 

 エルフの決意に満ちた眼とクリーチャの生気のない眼が、互いを捉えた。




短いっ! 戦闘してないっ! 何がしたいのかよく分からんっ!
そんな21話でしたが、如何だったでしょうか。22話では、多分もうちょっとだけマシな展開になると思うので……
また投稿期間空いたりするかもしれませんが、どうかこれからも仮面ライダーエルフと青ずきんをよろしくお願いします。


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第22話 Re:Doubleー最愛の手

多分ですが、今回が2020年最後の更新になるかと思います。
というわけでご挨拶。良いお年を!


【Option】

【Thunder】

【Authentication.】

「はあっ!」

 

 犬童託斗───仮面ライダーヒューマは、NAHMUの幹部格である怪人『ビネガーアクサー』、及び『キャメルアクサー』と交戦している。2対1の状況だが、ヒューマドライバーの能力を駆使することで何とか凌いでいる。

 ついさっきも、左右から飛びかかって来た二体の前に雷で造られた壁を隔てて攻撃を防いでみせた。しかし、常に二体の位置を把握し続けることは不可能だ。何れはこちらが押し負けてしまう。そうなる前に、何かしらの手を打たなければならない。

 

「……仕方ないですね。そろそろ、本気出してみましょうか」

 

【Option】

 

「お待ちくださいッ!」

 ヒューマがドライバーに手をかけたその瞬間、キャメルの声が閑静な街に響く。ビネガーも予想外だったようで、一瞬だけ身体をビクつかせていた。

「まだ……私の質問に、お答えいただいてません。何故、あの女を庇ったのですか? 何故、私共の元を離れて行かれたのですか?」

 

【Copy】

 

「……じゃあ、後者から返答しましょう。理由は二つ……いえ、実質一つですね。NAHMUの長たるお方……『(くろがね) 雪人(ゆきと)』様に、お暇を出されたんですよ。丁度辞め時かなとも思ってましたし、タイミング完璧でしたね」

「なっ……!?」

 犬童の返答に、キャメルは酷く狼狽した。口元に手を当て、信じられないとでも言うかのような様相を醸し出す。

「おいおい……一体何やらかしたんだ……?」

 

【four】

 

「まあ、決め手となったのは『バナナペストアクサー』ですね。彼を逃してしまったのが痛かった」

「……あの野郎か。ホントに何処行きやがったんだ……?」

 

【Authentication.】

 

「僕を倒してビオラさんに追いつけば、その答えを得られるかもしれません。尤も、倒される気は微塵もありませんがね」

 瞬間、キャメルとビネガーの斜め後ろから分身として生成された仮面ライダーヒューマが二体ずつ現れ、それぞれ一体は頭部、もう一体は臀部を狙って蹴りを放つ。それに対し、キャメルは触肢による防御、ビネガーは回避しつつの反撃という対応を見せた。

 分身は続け様に猛攻を仕掛けるが、二体のアクサーはそれらを完璧に凌いで見せる。しかし、背後まで迫っていた()()にまでは意識が及んでいなかったようだ。ビネガーは咄嗟に右腕を振り上げたものの、ヒューマのハイキックをモロに喰らってしまう。

 

「チッ、面倒くせぇ……!」

 

 5対2を嫌ったか、ビネガーは尻尾から酢酸を噴射した。力の限り振り回し、ヒューマの分身を次々と消していく。

 残る本体に尻尾の先が向けられると、ヒューマは高く跳び上がってそれを回避しようとした。だが、その位置には既に攻撃の準備を整えたキャメルの触肢があり、薙ぎ払いによって地面に叩きつけられてしまう。

「……こ〜れはまずい……」

 倒される気はないとは言ったものの、正直体にはかなり疲労が溜まってきている。おまけに、相手は仮面ライダーヒューマ(自分)の能力の殆どを知っている幹部アクサー達だ。このまま長期戦に突入すれば、敗走するのは時間の問題だろう。

 

 ふと、街を照らす青白い街灯が目についた。何かを思いついたように、ヒューマは自身のベルトを弄くる。あまり気乗りするような案では無いのか、先程までよりも手の動きがぎこちないのが伝わってきていた。

 

【Option】

 

【Daylight】

 

【Authentication.】

 

「許してくださいね、こうでもしないと……僕、負けちゃうんで」

 申し訳なさそうな声を上げ、ヒューマは左手を天に掲げる。瞬間、夜闇の中から陽の光が差してきた。

 その光景に、ビネガーとキャメルは宇宙人でも見たかのように目を見張る。それもそうだ。何を隠そうこの『Daylight』は、ビネガーやキャメルに知られないように犬童がこっそり付け足した能力なのだ。どんな時間でも、どんな天気でも、その場に日光を呼び寄せる能力。

 この能力をドライバーに組み込んでいた頃から、犬童の心の内には『NAHMUを抜けようか』という考えが既にあった。しかし、同時に気がかりな事も一つあった。

 

 キャメルの事だ。キャメルアクサーは、犬童が初めて造った『人間(オリジナル)の改造でない純粋なアクサー』だ。特別そういう風に造ったわけではないが、意識を持ったキャメルは犬童に心酔するようになった。敬虔な信者の様に自分に尽くしてくれるのが犬童としても少し嬉しかったらしく、長らくNAHMU脱退の為の決意を阻害していた。

 

 もし自分が本当にNAHMUを抜ける事になれば、それはキャメルと敵対するようになるという事でもある。その時にキャメルと戦う自信が、犬童には無かった。だからこそ、『Daylight』を───キャメルが苦手とする『日光』を操る力を、ヒューマドライバーに組み込んだ。能力を行使することでキャメルの敬愛を霧散させ、お互い心置きなく戦えるように。

 

「くうっ……!?」

 日光に当てられたキャメルが呻いた。両腕で必死に頭部を守りながら、弱々しく声を上げている。

 既に夜の闇に順応したビネガーの眼もやられており、声こそ上げないものの手で眼を覆い隠していた。これを奇貨として、ヒューマは飛び上がりながらドライバーに装填されたアイテムを操作する。

 

【Finish attack】

【Authentication.】

 

「……さようなら」

 静かに告げ、ヒューマは右脚を突き出した。

「クソッ……帰るぞッ!」

 ヒューマのキックが炸裂するよりも早く、ビネガーはキャメルの手を引いて何処かへとその姿を消した。

 若干体勢を崩しつつも地面に着地したヒューマは徐に立ち上がり、夜空に瞬く星と何処からともなく差している陽の光に目を向ける。

 ───ビオラさんは、うまくやっているでしょうか。

 そんなことを考えながら、暫くその場に呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

「京太郎っ! 聞こえる!? 私だよ、ビオラ!」

 ビオラこと仮面ライダーエルフは、漸く見つけた京太郎こと仮面ライダークリーチャに強く呼び掛けた。風に仰られた木々が、ゆっくりとその身体を揺らす。

 

 反応は、ない。

 

「……」

 一旦クリーチャから目を離し、エルフはクリーチャのすぐ側に居た謎のアクサーの方に注目した。

 見ればそのアクサーは青緑色の金属光沢を放っており、黒い複眼と赤い大腿部というアクセントも相まってかなり派手な感じがする。臀部には蜂の針にも似た棘があり、エルフの不安感を煽った。

 視線の先に気づいたのか、クリーチャは青緑色のアクサー───ベリルアクサーを庇うように前へと進み出る。自身の、そして京太郎の日常を壊した筈のアクサーを守ろうとするその様に、一瞬だけ吐き気のような感覚を憶えた。

 

 この状況が長く続いては、自分の精神が保たない。そう判断したエルフは素早くクリーチャの背後に回り込み、そこで守られていたベリルアクサーに回し蹴りを放った。しかし、攻撃は視界の上の方から降りてきた黄土色の触肢によって防がれてしまった。この触肢の持ち主は、もちろん仮面ライダークリーチャ。京太郎が本当にアクサーを守ったという事実に動揺し、その後クリーチャが放った横蹴りをモロに喰らってしまう。

「うぐっ……!」

 痛む脇腹を左手で押さえ、なんとか立ち上がる。『容赦』という言葉を忘れたクリーチャの一撃は、骨にすら届く程の激痛がした。

「京太郎、お願いだからそんな奴に負けないでよ! 京太郎が私に…………ッ!?」

 エルフの話には耳を貸さず、クリーチャは静かにエルフの鳩尾を殴りつける。更に、腹を抱えたまま両膝を突いたエルフを、またしても鳩尾を狙って蹴り飛ばした。

「あがっ……」

 数メートル程飛ばされ、エルフは変身を解除させられた。苦しげに吐かれたビオラの唾が、何色かもよく分からない地面に滴る。

 

 苦しい。今すぐここで吐きたい程に苦しい。今すぐここで泣き喚きたい程に苦しい。

 

苦しい、苦しい、苦しい。

 

 でも、自分が『苦しい』と感じる度に、クリーチャの顔色がより一層暗くなっていくような気がした。

 今、物凄く苦しい。今まで感じたことのないような激痛が、自身の腹を襲っている。でも、それは京太郎も同じはずだ。

 京太郎も、同じように苦しんでいる。身体を操られて、望んでもいないことをさせられて苦しんでいる。

 

 だから、解放してやらなければならない。自分が苦しくなくなるだけでは駄目だ。彼を、京太郎を、救ってやらなければならない。今の自分の気持ちを……抑えていた感情を、ありのまま話そう。大丈夫、きっと上手くいく。

 

 そう決意を抱き、ビオラはゆっくりと立ち上がった。まだ腹は痛むが、そんな事を気にしている場合ではない。

 意識が無ければいいな、と心のどこかで考えながら、ビオラは口を開いた。

 

「ねぇ京太郎……聞こえる? 私の声……」

 

「もう知ってると思うけど、私さ……ずっと、人間が嫌いだったんだ……私の家族を奪った、忌まわしい奴らだから……」

 

「でも……でもね? 京太郎と会って……変わったんだ、考えが。人間にも、心優しい人がいるんだって。そう思えるようになったんだ」

 

「私がどんなに京太郎をつっぱねても、いつも私のコト気にかけてくれたよね……。ずっと酷いことばっかり言ってきたけどさ……ホントは、ほんとはすっごく嬉しかったんだよ?」

 

 ビオラの右目から、一粒の涙が零れ落ちる。

 

「どんなに辛い時でもそばにいてくれて、明るい笑顔で私を何度も助けてくれた……。いつの間にか。私も知らない内に、その笑顔に縋るようになったんだ……。その笑顔が無いと、耐えられなくなったんだ……。それで、それでさ………………」

 

 

 

「京太郎のこと、好きになっちゃった。」

 

 

 

 一瞬だけ、クリーチャの体がビクついた。涙でくしゃくしゃになった笑顔を向けて、ビオラは続ける。

 

「だから……これからは、もっと京太郎とお喋りしたい。一緒に遊んだり、お買い物とかもしてみたい。それから…………」

 

「京太郎と一緒にやりたいことが、いっぱいあるんだ。だから……一緒に帰ろ?」

 瞳を潤ませたまま、ビオラは自身の右手をクリーチャに差し出した。しかし数秒経ってもとられなかったからか、諦めたような笑顔でゆっくりと手をひっこめる。その表情を変えず、またビオラは口を開いた。

 

「どうしてもっていうんなら……私がその手を引いて、連れ戻してあげる」

 懐からファヴニールオーブを取り出し、徐に起動させる。同時に、生暖かい風が吹いたような気がした。

 

【ファヴニール!】

 

【セットアップ!】

 

 古代エジプトの王朝を彷彿とさせるサウンドが辺りに響き渡る。これまでにないほど落ち着いた、そして穏やかな声で、その言葉を告げる。

 

「……変身」

【サモン!】

〔っしゃあ! 出番だぜコラァ!〕

 

 ベルト左側のレバーを倒すと、勢いよくヴァニラが飛び出して来た。数回ビオラの周囲を旋回し、ビオラの身体に憑依する。

 

【財宝の守護者、今こそその権威を振るい給え! 老獪な守銭奴共を処罰せよ!】

【トレジャーーーー…ファヴニーールッ!!】

 黄金の装甲を纏い、同じく黄金の翼、黄金の尻尾を生やして仮面ライダーエルフ ファヴニールスレイヴはクリーチャの前へと降り立った。しかしそれは、ヴァニラが動かしているとは思えない程に静かに佇んでいた。

 それもそのはず。何せビオラは……

 

〔!? オイ、どうなってやがる? 動かねぇぞ!?〕

 

 ヴァニラの支配を克服したのだ。欲望のままに動くのではない、ビオラ自身の意思で人々を救う『ファヴニールスレイヴ』へと『変身』したのだ。

 

「……さあ、人智の……ううん、叡智の先を、見せてあげるっ!」

 

 『変身』したビオラは、これまでの殺気立った戦闘からは想像もつかない程……ともすれば、別人ではないかと疑ってもしまう程にゆったりとしていた。

 隙にしか見えなかったのか、エルフの心臓を貫こうとクリーチャは触肢を伸ばす。が、エルフはその触肢を完璧なタイミングで掴んで見せた。

 

 まるで、心と心が繋がっているとでも言うかのように。

 

 触肢を掴んだまま、エルフはクリーチャの元へと歩み寄る。零距離になったところで、エルフはクリーチャを包み込むように抱きしめた。

 エルフの両腕がクリーチャの背中で繋がると、クリーチャもその腕をエルフの背中に回した。想定外の出来事だったのだろう、ずっとクリーチャの後ろに隠れていたベリルアクサーが飛び出し、慌ててエルフに針を向けて突撃する。が……

 

「……そいつはちょっと待ってもらおうか」

 

 その針は、何者かに掴まれたためにエルフに届くことはなかった。掴んだのは、仮面ライダークリーチャ。先程まで操られていた、横屋京太郎その人だ。

「京太郎……! 意識戻ったの?」

「ああ……お前の叫び、聴こえてたよ。待たせてごめんな」

「……! ううん、大丈夫。京太郎が、戻ってきてくれたから」

「……そっか。そりゃ嬉しいな。んじゃま、とりあえず……」

「うん……」

 

ベリル(この)アクサーをブッ飛ばす!」

ベリル(この)アクサーを倒すっ!!!」

 

 飛び上がって空中から攻撃を仕掛けてくるエルフと地上で凄まじい猛攻を仕掛けるクリーチャの相手をさせられたベリルは、この時点でほぼほぼ詰んだようなものだ。そもそもとして、ベリルの最大の強みは他者を操れるところにある。自分の思い通りに動く操り人形を失った人形師に、出来ることはもうない。

「おしビオラ、決めるぞ!」

「おっけー!」

 

【カモン! ゴールデン!】 【The kill time!】

 

【スピリチュアル!】 【Dead end.】

 

「「はあああああああああああっっっ!!!」」」

 

 エルフの左脚とクリーチャの右脚から繰り出されるダブルライダーキックが、ベリルに襲い来る。ラテラリスアクサーを呼び、何とか延命しようとするも……2人の絆の前では、全てが無力に等しかった。高く、高く空に飛ばされたベリルは、そのまま空中で爆ぜ散った。

 金属光沢を放っていたベリルの体の欠片が、夜空に怪しく光って舞い落ちる。

 

 その欠片がハートマークのように見えたのは、また別の話。

 

 

 

「色々と、迷惑かけちまったな。本当にごめん」

「謝らないの。京太郎の意識が戻った、アクサーも倒せた。それで良いじゃん」

「……確かにそうだな」

 夜も更けに更け、遂には朝日まで出始めた頃、ビオラと京太郎はゆったりとした足取りで帰路についていた。心なしか、2人の距離はいつもより互いに近かった。

「今回はマジでビオラに助けられただけだったな。ありがとう」

「ううん、気にしない…………あれ?」

 ふと、ビオラの頭の中に京太郎の言葉がよぎった。

『ああ……お前の叫び、聴こえてたよ。待たせてごめんな』

 

『ああ……お前の叫び、聴こえてたよ。待たせてごめんな』

 

『ああ……お前の叫び、聴こえてたよ』

 

 

『お 前 の 叫 び 、 聴 こ え て た よ』

 一瞬にして、ビオラの顔は赤く染まった。首を小刻みに震わせながら京太郎の方を向き、確認を取る。

「……ねぇ京太郎。あのアクサーに操られてた時って、意識あった?」

「ん? まあ、ちょっとな」

「私が何か言ってたの、聴こえてた?」

「ああ、そりゃもうばっちり」

「じ、じゃあ……京太郎のこと好きって言ったのも……聴こえて、た…………?」

「ああ、お陰様で目ぇ醒めた。ありがとな」

 ボンッという音を立てて、ビオラの赤く染まりきった顔から湯気が出た。

 

 ……比喩ではなく、物理的に。

 

「き、き……」

「き……?」

「京太郎のバカっ! バカバカバカバカバカっ、京太郎のっ……ばかぁ〜っ!!!」

「痛てっ、ちょっと殴るなって、痛てえって!」

 結局、ビオラが疲れて眠るまで京太郎はぽかぽかと殴られていたのだった。




第22話ッ、完!
ようやっと書けたビオラちゃんの告白回でした。ほんと嬉しい。
途中でビオラちゃんの決めゼリフが変わってましたよね。『人間の知恵』といった意味をもつ「人智の先を〜」から、『優れた知恵』という意味の「叡智の先を〜」という風に。これ、「人間の知恵」では無くなったことで、ビオラちゃんが人間を見下すのを完全にやめたという意思の表れなんです。
……ぶっちゃけ、こういうのは敢えて書かない方が良いのかもしれませんが。


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第23話 Avengeーもう居なくなった隣

四ヶ月もお待たせしてしまい、本当にごめんなさい!


「んー……おいしい!」

 

 時刻は正午を少し超えたあたり。出店で購入したメロンソーダを飲みながら、ビオラと京太郎は人通りの少ない街道を闊歩していた。アクサー達の影響なのか、それとも仮面ライダー(ビオラ)の影響なのか。数十分は歩き回ったのだが、人の気配を未だに感じない。

 人前でないということもあり、ビオラは京太郎の方に身を寄せながら歩いている。一方の京太郎はというと、明らかにこれまでより増えたビオラの笑顔を未だに直視出来ていない。ニヤけた表情を弄られないよう力んだ顔は、傍目から見れば怒っていると勘違いされそうな程だ。

 

「……ん?」

 

 そんな京太郎の表情に気付いたのか、ビオラは足を止めた。数歩歩いてから、京太郎も同じく足を止めた。京太郎が何を考えているのかよくわからないといった表情を、困ったような笑みに変えてビオラは口を開く。

 

「なんか……色々と、ごめんね? 今思えば、京太郎には迷惑かけてばっかりだったし……」

「……! いや、別にそういうことを考えていたわけじゃなくてな……」

「じゃあ、何考えてたの?」

「それ、は……」

「……」

 

 少しだけ京太郎の前に飛び出し、ビオラは優しく言葉を紡いだ。

 

「……言いたくないことだったら、無理に言わなくても良い。でも、背負い込みすぎるのは良くないと思う」

「いや、ホントにこう、背負いこんでるとかじゃねぇんだよ。……俺からすれば、寧ろお前の方が色々と背負い込んでる感じするけどな」

「……?」

 

 どういうこと、と。ビオラがそう問おうとした時、『京太郎』から京太郎のものとは異なる声がした。……京太郎の中に巣食うアクサー『アルテン』だ。

 少し気怠げな落ち着いた声で会話に交じる。

 

〔同感だ。ビオラ(お前)の目的はウィップやビネガーを殺すことだろう? まさか家族の仇を忘れたわけではあるまい、笑顔を見せられれば無理をしていると考えるのは自然なことだ〕

「……勿論忘れたわけじゃない。ただ……」

〔ただ……何だ?〕

「……ただ、やっと京太郎に言いたいこと言えたし、すっきりしたなって。京太郎が受け入れてくれたのもあるし、前より落ち着けるようになっただけ」

〔……そうか〕

 

 無機質な返答を最後に、アルテンは言葉を発さなくなった。

 それから三十秒も経たず、会話を遮らんとして空から怪物が飛来した。

 

「久しいな、ビオラ・ヒアラルク。探したぞ」

「……! ウィップ……!」

 

 現れたのはウィップアクサー。家族の仇である、幹部格の黒い怪人だ。

 

「……ビオラに何の用だ?」

 

「……犬童託斗が、ビネガーとキャメルを攻撃したらしいな。あれはお前の差し金か?」

 

「まさか。アイツが勝手にやってるだけ。……用件はそれだけ?」

 

「いや、もう一つある。簡単な事だ。我らの障害となる貴様を消しに来た」

 

「…………!」

 

 その言葉に反応し、ビオラは瞬時にベルトを巻いてウンディーネオーブを取り出す。少しだけ遅れて、京太郎もベルトを巻いた。

 

「……ちょうど、私もアンタを消したいって思ってたところ。完璧なタイミングね」

【ウンディーネ!】

【セットアップ!】

 

「……いくよ、京太郎」

「おうよ」

【Invade……】

 

「「変身ッ!」」

 

【サモン!】

【Jubilation!】

 

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

【Celebrate! Today is Night's birthday.】

 

「いくぞッ……!」

 

 仮面ライダーへと変身した二人は同時に駆け出し、ウィップの心臓部目掛けストレートパンチを放つ。が、何れの拳打もウィップの背部から伸びる黒き細腕に阻まれてしまった。残る三対の細腕と一対の剛腕が、二ライダーを襲う。

 

「かっ……!」

「ぐっ……!」

 

 地面に受け身を取って起き上がり、何とかウィップと視線を合わせる。

 ウィップを攻略するのなら、最大の特徴である五対もの腕への対処が必須だ。あの腕の全てが稼働している限り、人数差は無いも同然。

 

 敵の『武器』を潰すため、エルフは狙いを腕に切り替えて再び飛び掛かる。

 

「はあっ!」

 

「甘いッ!」

「……そっちがね!」

「何ッ……!?」

 

 自身の攻撃がウィップに受け止められると同時に、エルフは水色の液体のようなものをウィップの背後へと飛ばす。地面に着弾すると、それはエルフの姿へと変化してガラ空きになっているウィップの背中に飛び蹴りを放った。

 

「チッ……!」

 

「今っ!」

 

 これを奇貨としてエルフは飛び上がり、鋭い針のように変化させた自身の右腕をウィップもろとも地面に突き刺す。奥で待機していたクリーチャに目配せをしつつ、大声で叫んだ。

 

「京太郎! 今のうちにとどめ刺してッ!」

「あいよっ!」

 

【The kill time!】

【Dead end.】

 

「はあああああっっ!」

 

 クリーチャの身体からドス黒いオーラが現れ、獣の頭部のような形状に変化してウィップに襲いかかる。エルフの方もまた分身を生成し、共にウィップを突き刺す。もう少しでクリーチャの攻撃が届くというところで、エルフの本体は分身にウィップを任せて飛び退いた。悲鳴すら聞こえるような一撃が、ウィップをエルフの分身ごと喰らう。

 

「チッ……!」

 

 四対の細腕でクリーチャの一撃を裂き、ウィップは辛くも危機を脱することに成功した。しかし、その隙を見逃さなかったエルフの飛び蹴りを受けてウィップは片膝を着いてしまう。

 

「……腕を上げたな、ビオラ・ヒアラルク」

 

「そりゃあね。アンタみたいなクソ野郎に勝つために、私は力を手に入れたんだから」

 

「そうか。だが……我に勝つためには、まだもう少し力が必要なようだな」

 

 静かに立ち上がると、ウィップはこの世のものとは思えないほど歪なオーラを放った。その気迫に気圧され、エルフは後ろに下がったものの一瞬でウィップに追いつかれてしまい、鳩尾に強烈な正拳突きを貰ってしまう。

 

「かはっ…………!?」

 

「ビオラッ!」

 

 地面に着いた途端にエルフの変身は解除され、破れた服の一部から素肌が覗ける状態でビオラが転がる。慌ててビオラの元へ向かうクリーチャだが、ウィップがそれを許すはずはなかった。

 

「おいビオラっ! しっかりしろっ!」

 

「よそ見などしている場合か?」

 

「んなっ……!?」

 

 すぐそこまで迫って来ていたウィップに気付かなかったのか、無防備な心臓部に攻撃を喰らってビオラ同様大きく吹き飛ばされてしまう。変身も解け、ビオラ共々追い詰められてしまった。しかし、ビオラは諦めていなかった。こんな状況でも絶望の色を見せず、代わりに威圧的な視線を向けるビオラの瞳が、余計にウィップを憤慨させる。

 

 ……が、ビオラを仕留めるには体力を消耗しすぎた。自身の身体から力が抜けていくのを感じながら、ウィップは片膝を突く。

 

「……! チッ、もう少しの所で……!」

 

「ははっ……そりゃあ、あんな馬鹿みたいな力使っといて何もないはずはないよね。でも……これで……」

 

「チェックメイト」

 

 どこか冷え切ったような笑顔を浮かべ、ビオラはウィップの前に立った。ほんの少しだけ扇情的になった衣装が風に揺れ、更なる情欲を掻き立てる。

 

 サラマンダーオーブを取り出して最速で変身したビオラは、右腕にありったけの力を込めた。自身すら燃やし尽くすような熱量に達してから、その拳を力の限り振り下ろす。

 

 それを、ウィップはすんでの所で躱してみせた。ウィップではなく地面に叩きつけられたエルフの拳が、地面を深く抉る。

 

「……悪いが、そう簡単には当たってやれない。……次こそ、貴様の息の根を止めてやる」

 

 エルフを指差して宣言し、ウィップは天高くへと飛び去っていった。とどめを刺せなかった事に舌打ちするエルフではあったが、かなり消耗していたのも事実。一旦変身を解除してから、ビオラは京太郎をエルフの里へ連れて帰っていった。

 

 

 

 

「……ま、こんなもんかな。一応治癒魔法をかけておいたとはいえ、あんまり無理をされるとアレだから、さっきみたいなのは程々にね? いざとなったら、私見捨てて逃げていいから」

 

「……こうして迷惑かけちまうのは悪いとは思ってるけど、俺にはお前を見捨てるだなんて真似できねぇよ」

 

「……そっか」

 

 以前にも使用したことがある、古びた廃墟。家具の大半が無残に破壊されている上、窓を覆うカーテンも穴だらけで役目をまるで果たしていない。ボロボロに崩れ去った天井からは、まだ高い太陽の光が射している。

 ビオラの治癒魔法によって、二人は戦闘前とほぼ変わらない所まで回復を終えていた。が、二人の間には穏やかとは少し言いづらい微妙な空気が流れている。

 

 先程まで怪我を負っていた部分を見つめながら、京太郎はビオラの家族について勘案していた。

 何度来ても慣れることのできない、廃れた里。もう復興が見込めないほど数を減らした住人達。惨憺たる光景は相変わらずだが、これに慣れろというのは無理がある。それは、残されたエルフ達も同じはずだ。

 

 幾度となく見てきた、ビオラのアクサー達に対する憤怒と厭悪。一日も経たず家族を失った悲哀の残滓が、まだ心に残っているのだろう。時折見せる少女らしい表情が、それを物語っている。

 人間に裏切られなければ、恐らくビオラはもっと天真爛漫な少女になっていたはずだ。家族の暖かさに包まれて、他のエルフ達と交流したりもして。そして、平穏な日々を慎ましやかに送るはずだったのだろう。

 

「……どうかしたの?」

 

「いんや。ちょっと、ビオラの家族について考えてただけだ」

 

「私の……家族……」

 

「そういえばあんまり聞いてなかったなーって思ってさ。……気を悪くしたのなら、ごめんな?」

 

「……ううん、大丈夫。……話しておく、べきかな」

 

 諦めたような表情で正座し、ビオラはかつての団欒に想いを馳せながら話を始めた。

 

 

「どこかでポロッと話したりしてたかもだけど、私の家は五人家族だったんだ。お父さんとお母さん、私……それから、お姉ちゃんと、妹のライラ」

 

「……どんな子だったんだ?」

 

「お姉ちゃんは、すっごく優しかった。私がしきりに抱きついても怒ったりしなかったし、なんていうか……すごく、のんびりしてた。ライラは元気いっぱいな子で、しょっちゅう里を走り回って遊んでた。私もよく引きずられてたよ」

 

「お父さんは……遠くから家族みんなを見守っててくれてるような感じだったかな。あんまり勇気が無かったから『一緒に遊んで』ってずっと言えなかったけど……やっぱり勇気を出してたら良かったなあって、後悔してる。お母さんは料理がうまくって、色んなのを作ってくれてたけど……時々、何が入ってるんだろうこれっていうような変なのを作ったりもしてた。ま、私達エルフはそんなにお腹が空いたりするような種族じゃないんだけどね」

 

 懐かしい思い出の想起に、ビオラは饒舌にならずにはいられなかった。暖かい幸福感が、全身を駆け巡る。その感覚に、自然と表情も(ほころ)んだ。

 

「……(あった)けぇ家族じゃねぇか」

 

「……うん」

 

「そんだけ暖けぇ家族だったんなら、きっと『ビオラにはまだ()()()には来てほしくない』って思ってるはずだ」

 

「……えっ?」

 

「早く死んでほしくねぇって意味な。で、それは俺も同じだ。俺は、お前に死んでほしくない」

 

「京太郎……」

 

「だから、『私を見捨てて』だなんて二度と言うな。分かったな?」

 

 ビオラは一瞬驚いたような表情を見せたが、それはすぐに安堵の色へと変わった。家族との思い出とは別の幸福感、あるいは安心感とも言える感情が、また全身を駆け巡る。まるで、荒廃した里を明るく照らす太陽のような幸福感だった。

 身体を暖め続ける感情を噛み締めながら、ビオラは静かに京太郎の手を握った。そして、安心させるような声音で語り掛ける。

 

「……うん、もう絶対言わない。でも、多少の無茶くらいはさせてね? 私だって京太郎には死んでほしくないし」

 

「駄目だ。ンなことさせられるか」

 

〔……一応聞いておくが、私の存在を忘れたわけではあるまいな? 京太郎(お前)が死ねば、依代を失った私も実質的な死を迎えるのだからな?〕

 

「おっと……そういやアルテン(お前)のこと忘れてたわ。スマソ」

 

〔貴様……。まあいい。積もる話も済んだことだろう、そろそろ()への対策を始めよう〕

 

「奴? っていうと……」

 

「ウィップのことでしょ? それなら、手がないこともないよ」

 

 落ち着いた様子でビオラが答える。先程までの安堵の色が少し残った表情で、静かに京太郎を見据えた。

 

「……マジ? いつの間にそんなのを……」

 

「でも、成功するか分からない。というより、失敗する確率の方が高いと思う。でも、やってみる価値はあると思う」

 

〔して、その手というのは?〕

 

「…………この里が出来た時から、ずっと里を守り続けてきた神獣……」

 

 

 

「『バハムート』に力を貸してもらえないか、頼んでみる」




皆さん褒めてください!() 四ヶ月も更新してなかったくせに、今回五千字とちょっとしかありません!(泣)

……改めて、大変申し訳ありませんでした。更新が遅れた理由は主に二つでございます。

一つ目の理由は、仮面ライダーエルフとは別の新しい小説の投稿を始めたからです。そっちを書くのが楽しくて、長らくエルフを放置してしまいました……。

そしてもう一つは……『Apex Legends』というFPSにどハマりしたからです。最近(ほぼ一ヶ月前)Nintendo Switch版がリリースされて、それをずっとやってました。ちなランクはゴールドIII、大体オクタンかクリプトで遊んでます。

またすごく期間が空きそうな予感がしますが、完結させる気ではいるのでどうか最後までお付き合い頂ければなと思っております。

では、また(いつ更新されるか分からない)次回。


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第24話 Re:vengeーその腕に告ぐ

投稿が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした(泣)
言い訳はあとがきでします。


「バハムート……」

 

「そう、バハムート」

 

「……なんかお菓子みてぇな名前してんな」

 

「そんなお菓子感ある?」

 

 バハムート。根底の部分から世界を支えている巨大魚の名だ。バハムートの上には牛がおり、背中にルビーの山を持つという。その上に住まう天使が宇宙を支え、そしてこの地球があると云われている。

 かのイエス=キリストもバハムートの姿を見たことがあるというが、あまりの巨大さに昏倒してしまったらしい。

 

「正直僕もお菓子感ある名前だと思うよ」

 

「おぉ、ウィルじゃねえか。いつの間に」

 

「……あれ、珍しい。驚いたりとかしないんだね」

 

 気付くと、すぐそばで白い火の玉が宙を揺蕩(たゆた)っていた。ゆらゆらと揺れながらビオラと京太郎の周囲を旋回しつつ、話を進める。

 

「……ま、慣れたってことなんだろうね。それよりも……バハムートの手を借りる事態にまで発展するとはね。始めはサララ達の力だけで十分かなって思ってたけど、向こうだってただ手をこまねいてた訳じゃないってことだ」

 

「ああ……アクサーのストックがあとどんだけあるかは知らねえが、そろそろ幹部の一人や二人は潰さねぇとマズい。だが……そのバハムートとやらは、実際どれくらいの実力があるんだ?」

 

「バハムートは、この世界を文字通り支えている巨大な生物。その力を乱暴に使えば…………きっと、この辺りのものは跡形もなくなると思う」

 

 寒気のようなものが、京太郎の全身を這う。最悪の未来図が思わず頭を過った。何もかも────ビオラすらも、その力に溺れて消え去る未来図だ。あの荒れ果てたエルフの里を連想させるような、この世の地獄。

 アルテンではない、もう一人の自分の声が警告する。ビオラにその力を使わせてはならない。後悔したくなければ、それ以上足を踏み入れるな、と。何度も何度も、頭の中で警告が反芻する。

 

 ふとビオラが京太郎の顔を覗くと、幾つもの感情を孕んだような表情があった。どこか青ざめたような、形容し難い怒りに囚われているような……おどろおどろしい顔だ。

 自身の言葉で、京太郎を不安にさせてしまっただろうか。眼前の京太郎の辛そうな表情に耐えられなかったビオラは、慌てて言葉を紡いだ。

 

「……でも、それは乱暴に使った時の話。ちゃんと使えば、多分大丈夫だから。ほら、あの……人間の、アレ……なんだっけ。人間たちが使ってる、あの……アレみたいな感じで……」

 

「……なんだよ、アレって。見た目は俺より若いのに、まさかもうボケたのか?」

 

「ボケてない! 思い出せないだけ! っていうか、名前が分かんない!」

 

「はは、じゃあどのみち駄目じゃねぇか」

 

 既に200歳を超えているビオラだが、エルフとしてはまだまだ子供もいいところだ。からかわれた悔しさはあるが、京太郎に笑顔が戻ったことに一先ず安堵した。

 しかし、バハムートの力の危険性が薄らいだ訳ではない。それに、そもそもとしてそのバハムートの力を手にすることができるのかどうかさえ怪しい。なにしろ、相手は世界の全てを支える存在だ。一介のエルフに協力してくれるとも、その力を使いこなせるとも、とてもではないが想像し辛い。

 

「……でも、やっぱり不安なんだ」

 

「不安って、何がだ?」

 

「バハムートは、最後の頼みの綱ではあるけど……私達に力を貸してくれるかどうかは全く分からない。最悪───」

 

「……お前って、そんな弱気な奴だったか?」

 

「……えっ?」

 

 蹴っ飛ばすような京太郎の言葉が、下がっていったビオラの顔を一気に上げる。呆れるような顔と声で軽く威圧しながら、続けざまに言葉を並べる。

 

「最初にお前と出会った時、胸ぐら掴みながら「消えろ」とか言ってきたのは誰だ? 家族の、里の奴らの為に何度でも立ち上がってアクサーに向かっていったのは誰だ? 誰よりも家族を愛していて、周りの奴らに優しくて、「いざとなったら自分を見捨てろ」とか言い出す馬鹿は誰だ? 全部お前だろ? いつでも真っ直ぐ生きてて、誰かの為になるならどこまでも頑張れる、それがお前だろ? 「本当はそんなんじゃない」なんて言われちゃおしまいだが、少なくとも俺の目に映るお前はそうなんだよ」

 

「……京太郎」

 

「なのになんだ? 「力を貸してもらえるか分からないから不安」? 馬鹿も休み休み言えよ。アクサーどもは人間の世界にだって手を出してるんだ。お前がやらなきゃ誰がやる? 俺か? それともあの犬童託斗(マッドサイエンティスト)か? …………お前しかいねぇだろ。家族との因縁に決着つけられんのは、お前しかいねぇんだよ」

 

「……ふふっ。またお説教されちゃった。……そうだよね。こんなとこでへこたれちゃ、ダメだよね。ありがと、京太郎。元気出た」

 

「……そうかい。そりゃ良かった」

 

 京太郎の言葉が、次々と刺さってくる感覚がした。同時に、心の中の淀みが澄んだような感覚も憶えた。それらの感覚が、ビオラを再起させた。活力を取り戻して笑顔で『バハムート』の元へと向かおうとするその姿は、どこか前のビオラに似ている。

 だが、一つだけ前と異なる点がある。

 

 あの時のような怒りと復讐心に身を委ねた行動ではなく、過去の自分に対しケジメをつけるための行動をしている。ほんの数ヶ月しかビオラと過ごしていない京太郎だったが、ビオラの背中を見守る姿は完全に両親のそれだった。軽快なステップを踏むビオラに、ただ一言。

 

 変わったな、と。どこか達観したような目で、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

「……ごめん京太郎、なんか駄目っぽい……」

「えぇ……」

 

 エルフの里、その最深部。鬱蒼とした木々はほぼ完全に日光を遮っているため、いつでも薄暗い場所だ。

 元より精霊を始めとした超常的な存在と交流を行ってきたエルフだが、バハムートのような大物と交信を行った回数は数少ない。聡明な種族ではあるが、やはりこの世界の住人であるということだ。

 

「……つーかさ、ちゃんと話してんの? 俺何も聞こえねぇんだけど」

「話……というか、交信? かな。何というか……テレパシーって言った方がいいのかな。こう、直接脳に語りかけてくるような感じで、『駄目だ』って……」

 

 バハムートは、その巨大さ故か言葉を発しない。或いは、特定の言語を持たないのかもしれない。よって、他者との意思疎通はテレパシーのようなもので行う。そしてその結果、ビオラが受信したのは『拒絶』の意思だった。

 心の内で説得を試みるものの、返答はない。

 

「……やっぱり、覚悟決めてやるしかないかな」

「だな。そうと決まったら、さっさと作戦立てよーぜ」

 

 両手を後頭部に回し、僅かな退屈さが感じられる声音で京太郎が声を掛けると、ビオラは慌てるように小走りでその背を追いかけた。

 巨大魚の瞳は、僅かに泳いでいた。

 

 

 

 暫くして、ビオラ達はウィップアクサーが街でがむしゃらに暴れているのを発見した。逃げ惑う人の海を泳ぎ切り、ビオラと京太郎、そしてウィップアクサーが対峙する。

 辺りに散逸している瓦礫と火の海が、ウィップの怒りを表しているようにも見えた。

 

「……待っていたぞ、ビオラ・ヒアラルク。今日こそ決着を付けようではないか」

 

「……望むところ」

 

 余裕そうに仁王立ちしているウィップであったが、先の戦闘で自身を追い詰めたビオラ達に対する厭悪が隠しきれておらず、その声は強い怒気を孕んでいた。

 ビオラはエルフドライバーを呼び出し、腹部に装着した。ビオラと並んで京太郎も変身の構えを取るが、ビオラがそれを制した。自分の因縁は自分で決着をつける。そう言いたげな視線を送って、優しくはにかんだ。

 ビオラは覚悟を決めたようにサラマンダーオーブを徐に取り出し、エルフドライバーの装填口の上でそっと手を離す。

 

【サラマンダー!】

 

【セットアップ!】

 

 神秘的な待機音と共に蜥蜴の姿をした精霊『サララ』がオーブから現れ、ビオラの周囲を一周してからすぐ横についた。自慢の尻尾をビオラの首に巻き付けながら、攻撃的な目つきでウィップを睥睨している。

 

「「……変身」」

 

【サモン!】

 

【燃え盛る炎、その勢いは特急の如く! その炎、万物を溶かし尽くす!】

【フレイアーーーー……サァラマンダーー!!】

 

 少し高めの声が静謐な空間に消えていく。現れたのは、蜥蜴の姿を模した真っ赤な戦士。情熱的な愛と燃え盛るような怨嗟の炎が身体に纏わりつき、長い尾を引きながら空に吸われる。

 戦闘の準備が済んだと見做したウィップアクサーがゆっくりと脚を前に出す。一呼吸置いて仮面ライダーエルフもそれに続く。

 

「さあ……叡智の先を見せてあげる」

 

「……期待しないでおこう」

 

 ほんの数秒言葉を交わしてから、それぞれの拳がぶつかり合う音を響かせた。計五対の腕がエルフの元に迫るが、エルフはそれを両手で難なく捌きながら蹴りを入れる。ウィップはこれに対抗すべくエルフを包み込むように腕を伸ばしたが、エルフはこれも巨大化させた尻尾を振るうことで払い除けた。

 

「……予想以上だな。我の想像よりも目覚ましい成長だ……」

 

「勝手に言ってなさい。今にそんな軽口叩けないように────」

 

「だがまだ甘い」

 

 ウィップの背中から生える剛腕が、エルフの腹部を強く捉えた。何枚も壁をぶち抜きながら近くの建物まで吹き飛ばし、両膝をつかせる。一方のウィップは瓦礫の山を左右に寄せつつ悠々と歩き、腹部を押さえながら蹲るエルフの元へと赴く。

 

「ビオラッ!」

 

 京太郎の叫びにも反応出来ないほど強い衝撃が、エルフの全身を駆け巡る。仇敵たるウィップアクサーが目前まで迫っても痛みが引くことはなく、更なる追撃を許した。

 

「あっ…………くぅ……」

 

「エルフと言えど所詮は女。脆く、儚く、そして……弱い」

 

 エルフの頭部を煩雑に掴み上げ、その顔面に膝蹴りをかます。既に声を上げる気力すら失ったエルフは静かに装甲を霧散させ、その場に崩れ落ちた。

 虫の息となったビオラに反撃の意思は一切感じられず、ただウィップの容赦ない暴行を享受していた。何とか止めようと京太郎が変身しながら近付くものの、ウィップは腕一本で跳ね飛ばす。

 

 瓦礫と炎が辺りを包む市街地。そこに居たのは、一対の剛腕と四対の細腕からなるウデムシの怪物、自身の力不足を嘆く怪物にも似た戦士、そして夥しい量の血を流しながら必死に息をつなぐ少女だけだ。

 頭、腕、足。あらゆる部位に傷が見られ、血が流れていた。怪物は少女から反撃の───ともすれば戦闘の意思すら感じなくなり、どこか冷めたような感情の中少女を捨てるように放った。

 

「さあ、次は貴様の番だ。幽冥(かくりよ)でこの女と───」

 

 そこまで言いかけて、ウィップは言葉を紡ぐのをやめた。理由は一つ。変身した京太郎へと進む歩みを妨げる者がいたからだ。蚊の鳴くような声で、少女は呟く。

 

「……京太郎、には…………手出し、させない……」

 

「……まだ生きていたか。その腕を離せ。さもなくば貴様を殺す」

 

「もう…………誰も……殺させない……京太郎は…………みんなは、私が守るッ!」

 

 全身の骨が軋むような感覚を黙らせながら立ち上がり、ビオラはその拳をウィップの顏目掛けて繰り出した。流していた血を付着させると共に、ウィップの驚嘆を誘う。

 生身の攻撃であるにも関わらず、その一撃は確かにウィップの核の部分にまで届いていた。額から流れる血が顔の殆どを濡らしていたからか、恐怖すらも感じさせるような様相も醸し出している。

 

 その時だった。突如として、ビオラの目の前にラベンダー色に輝く宝玉が現れた。それに込められた意思が、ビオラの脳裏に直接語りかけてくる。

 

「……これって……」

 

『………………』

 

「私に……力を?」

 

『………………』

 

「……ありがとうございます」

 

 左手で顏の血を拭い、宝玉を突き出す。

 大地が震える。木々が揺れる。鳥が羽ばたく。この地球が、宇宙そのものが共鳴している。

 

【バハムート!】

 

【セットアップ!】

 

「変身!」

 

【カモン!】

 

【震撼せよ! 偉大なる世界の守護者をその身に宿し、悪を打ち砕け!】

 

【ヒーローーーー……バハムーートッ!】

 

 少し透けている巨大な魚のような生物がビオラに覆い被さり、その姿をより美しく変えた。

 

 仮面ライダーエルフ バハムートスレイヴ。

 

 薄紫色に輝く、儚げで神秘的な守護者(ヒーロー)が舞い降りた。右眼、耳元、腰回りなどは魚のヒレのような意匠で、鱗に似た模様の全身の装甲が日の光を浴びて輝いている。

 鳥の羽根のように吹雪く鱗が心地よい音を立てながら転がり、再び戦いの火蓋を切って落とした。

 

「……さ、もう一回。叡智の先を見せてあげるッ!」

 

「……戯れ言をッ!」

 

 勢いと感情に任せてウィップアクサーが突撃する。対するエルフの方はというと、全く動く気配を見せない。

 あと数十センチでウィップの拳が届くというところで、漸くエルフが動いた。しかし、それは僅かばかりのこと。まるで蚊を払うような、攻撃にしては軽すぎる挙動。だが、エルフにとってはそれで十分だった。

 

「ぬぅっ!?」

 

 突風か何かに吹き飛ばされたような感覚だった。或いは、()()()()()()()()()()のかもしれない。何れにせよ、エルフの攻撃はウィップに多大な恐怖を与えた。

 

「……」

 

「……貴様ァッ!」

 

 強がりか否か、ウィップは激昂したまま再び腕を無造作に振るう。しかしそのどれもがエルフには届かず、空を切るばかりだった。

 

 やがて腕を掴まれると、強く地面に叩きつけられた。自身がこれまで見下してきた、ただのエルフの少女に。更なる憤怒の炎を燃やすが、もはや手遅れだった。全身の痛みがウィップの命令を阻害し、地べたを這わせる。

 

「……どう? 少しは甚振られる苦しみと恐怖が理解できた?」

 

「……抜かせェッ!」

 

「……これで終わり」

 

【バハムート!】

 

【カモン! ワールド! スピリチュアル!】

 

「さようなら…………私の、忌々しい記憶」

 

 エルフの掌がウィップアクサーを、世界を、宇宙を包み込む。何もかもを呑み込む魔性の輝きが、万物を包み殺す。

 

 誰も神秘に抗えない。

 

「ぬおおおおおおッッッ!!?」

 

 眼を灼き潰すような光が辺りを包んだ。光が消えた後の世界には、先程までの惨憺たる光景が嘘だったかのような明るい街並みと、完全に戦闘を続ける力を失った哀れなウデムシが残っていた。

 

「……大分前に、散々私を虚仮にしてくれたの、憶えてる? あれ、そっくりそのまま返してあげる。……アンタは強かった。でも、それだけだったのが問題だった」

 

「……アンタの敗因は二つ。一つは、自分の『()』を過信しすぎたこと。もう一つは……」

 

 

「……『守りたい』って思える誰かが、傍に居なかったこと」

 

巫山戯(ふざけ)るなァッ! 我が貴様のような小娘に敗れるなどあってはならない! 図に乗るなァッ……!」

 

「……」

 

「認めぬッ! 認めぬぞォッ! 認めてッ……たまるかあああああああァァァァァッッッッ!!!」

 

 攻撃的な咆哮の途中で、遂にウィップアクサーは爆ぜ散った。酷く醜い怨恨の残響は、まだ街に響いたままだ。

 

 

「は……はは…………お父さん……お母さん……お姉ちゃん……ライラ……みんな……ちゃんと見てくれた? 私……みんなの仇、とったよ……!」

 

 憑き物が落ちたように変身が解けると、ビオラはそのまま真正面に倒れ込んだ。強く衝突するかと思われたが、地面に触れる寸前で京太郎がその身を抱きかかえる。ひどく安堵したビオラの顏に一縷の心配を憶えつつも、京太郎は戦いの終焉が連れてきた一時の平和に甘んじることにした。

 

 その周囲には、ビオラを労るような顔つきをしている父と母と姉、そして妹の姿がうっすらと映っていた。




改めまして、およそ四ヶ月半もお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
理由としましては、最近リアルの方が忙しくなってきたのと、一ヶ月ぐらい前にリリースされた「東方ダンマクカグラ」というゲームに興じていたからです。
ゲームにかまけて投稿が異常なまでに遅くなっていること、大変申し訳なく思います。絶対また期間が空くと思いますが、これだけは言わせていただきます。

どれだけ時間が経とうとも、死なない限りは絶対にエタりません! 必ず完結させます!

どうか今後とも、仮面ライダーエルフをよろしくお願いします。



仮面ライダーエルフ 最終話まで───

────残り5話


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第25話 Spiritー魂魄のケツイ

今回は戦闘描写が雑になってます。
申し訳ないです……


「はい、あーん」

 

「……なあ、そろそろそれやめねぇか?」

 

「それって?」

 

「その『あーん』に決まってんだろうが! 小っ恥ずかしいんだよ!」

 

「えぇー……いいじゃーん、させてよー」

 

「ぬあああやめろ! 頼むからやめてくれ!」

 

 エルフの里。小鳥の(さえず)りが僅かに耳朶を打ち、心地よいリズムを刻んでいる。

 ビオラと京太郎の二人が頬張っているのはアイスクリームだ。里に来る前に買ってきたレギュラーサイズのもので、味はチョコレート。中に砕かれた板チョコが入っているタイプの人気フレーバーだ。

 

「随分その人間にご執心だな、ビオラ」

 

「あ、アゼル。おひさー。にひひ」

 

「……オイ人間、ビオラになんか余計なこと吹き込んだりしてねぇだろうな?」

 

「するかよ! 俺だって困ってんだから助けやがれ!」

 

「……いつの間にそんなに態度がデカくなったんだ? 人間、えぇ?」

 

 赤髪パーマの男『アゼル・ムノーン』。

 エルフの里がアクサー達に襲われてからというもの、ビオラを本当の妹のように可愛がりながら助け合ってきた青年だ。灰色のパーカーに付けられたポケットに手を突っ込んでいる様と眠たげなジト目から第一印象が悪くなりやすいが、根は優しい兄貴肌である。

 

 しかし、今回はその兄貴肌が悪い方向に作用してしまっているようだ。

 

「おうおう俺より年上の癖してこんなすぐキレんのか? あ、いや、年上だからか? あんまり怒んない方がいいぜ、血圧上がっちまうぞwww」

 

「野郎…………表出ろや、決着付けてやる」

 

「ふたりとも喧嘩しないの! ほらアゼル、私のアイス分けてあげるから怒らない!」

 

「別にキレてねぇよ!」

 

「いやバチクソにキレてて草」

 

「京太郎も煽らない! あーんしてあげるから!」

 

「それが原因なんだよそれがぁ!」

 

「……なんかうるさいね」

「……うるさいね」

 

「……でもおにいちゃん、たのしそう」

「おねえちゃんもたのしそう」

 

 シエラ・トルックス、ティエラ・トルックス姉妹。幼くして家族を失った双子だが、完全には絶望せず希望を持ち続けている。無邪気で天真爛漫な笑顔は、常に里全体も笑顔にさせてきた。

 

「こんな平和な日々がずっと続けばいいんだけどね……」

 

 リセラ・オシカペア。エルフの里の生き残りの中で最年長であり、ビオラ達と同じく家族を失った寡婦(かふ)だ。生き残ったエルフ達を自分の子どものように見ており、強い愛情を注いでいる。

 

 現在のエルフの里は未だ瓦礫が散逸する場所とは思えないほど明るく、そして暖かい世界だ。一年ほど前の襲撃などまるで夢だったかのように笑顔が溢れている。

 いつまでもこうして、みんなと笑いあっていたい。

 ここにいる全員が同じ想いを抱いていた。

 

 程なくして目的を思い出したビオラは突然立ち上がり、皆の方へ向き直った。なんだなんだと、野次馬のような注目を浴びている。

 

「うしたビオラ、なんかあんのか?」

 

「……私、皆に話したいことがあるんだ」

 

「はなしたいこと?」

「どういうこと?」

 

「私は……皆と過ごすこの日常が大好き。ずっとずっと、こんな毎日が続いてほしい。……でも、手放しで喜べるような時でもない。私達にはまだ、この平和を乱そうとしている敵がいる」

 

「『NAHMU』の連中……か」

 

「うん。そろそろ……決着をつける時だと思う」

 

 京太郎が口にした名前に頷きながら、神妙な面持ちで言い切るビオラ。その表情には、さまざまな感情が混じっているようにも見えた。後悔、憤怒、正義感…………。

 決意を固めていたビオラだったが、アゼルの疑問がそれを一瞬揺るがせた。

 

「……だがよビオラ、聞けばその人間の組織にはまだクソ強ぇ奴らが残ってんだろ? 雑魚だって無限に湧くらしいし、正直お前とそこのカス人間だけじゃ厳しくねぇか?」

 

「おいカス人間ってなんだカス人間って」

〔そうだぞ、この男には『アホ人間』という名称が相応しい〕

「うるせぇお前は黙っとけバナナ」

〔その名で呼ぶな! 私にはアルテンという名がある!〕

「どっちでもいいから黙れよ」

 

「……正直、心配してないって、怖くないって言ったら、嘘になる。でも、NAHMU(アイツら)は、この里を滅茶苦茶にして、今も人体実験を繰り返してる。これ以上、それを黙って見過ごすなんてできない」

 

「ま、そういうわけだ。俺もビオラも、必ず勝って帰ってくる。あのクソ野郎共を残らずブッ飛ばしてきてやるぜ」

 

「おにいちゃんかっこいい」

「おにいちゃんいけめーん」

 

「だろ? だろ?」

 

「いやまあ別に横屋京太郎(お前)は帰ってこなくてもいいけどな」

 

「ンだとゴラァ!」

 

「……なんであの二人は喧嘩ばっかりするんだろ」

 

「どっちもビオラちゃんのことを大事に思っているからじゃない? それに、喧嘩するほど仲が良いって聞くし」

 

「……そうかな。うん、そういうことにしとこ」

 

 嘗ての活気をほんの少しだけ取り戻したエルフの里で、二人の戦士が立ち上がった。世界を狂わせる歪みきった悪を滅ぼさんとする、正義の仮面ライダー(ヒーロー)が。

 

 

 エルフの里でのちょっとした激励会から数時間後、暫く各自で自由行動をとった後に集合するということで、ビオラと京太郎は別行動になった。

 決戦は約一日後。それまでに、京太郎には会話をしておきたい人物がいた。

 彼の唯一と言ってもいい友人『石月 凱(いしづき がい)』だ。

 近くの喫茶店に呼び出し、少し苦いコーヒーを啜りながら話を始めた。

 

「……で、こんな急に呼び出した理由は何なんだ? 京太郎」

 

「ああ。それなんだけどな……悪りぃが、明日の講義の代返頼まれてくんねぇか?」

 

「代返? 何でまた?」

 

「……どうしても、外せねぇ用事が出来ちまった」

 

「……成る程、ビオラちゃん関係か」

 

「……! 何でそれを……」

 

「お前の顔を見りゃあ分かる。ビオラちゃん関係以外でお前がそんなバカみてぇに悩むはずはねぇからな」

 

「俺、そんな分かりやすいのか?」

 

「ああ。一回鏡見てみたらどうだ?」

 

 近くのガラスに顔を近づけて自分の顔と睨めっこする京太郎だが、当然自覚することはできない。

 その様子が馬鹿らしく見えたのか、凱は口元を手で押さえながら笑っている。

 

「……お前の代返、頼まれてやってもいいぞ」

 

「本当か!?」

 

「ああ。但し、条件がある。…………絶対に、生きて帰ってこいよ」

 

「……あたぼうよ」

 

 突き合わせた二人の拳は力強い音を奏で、京太郎に勇気と安らぎのようなものを与えた。

 苦かったコーヒーは、いつしかその苦さを失っていた。

 

 

 

「全員、いるよね?」

「問題無いよ」

 

「心配すんなって、大丈夫だ」

〔ああ、今の私達に心配など無用だ〕

 

「緊張なさらず、いつも通り行きましょう。焦っては、彼らの思う壺です」

 

 「……アンタ、今まで一体どこほっつき歩いてたの? おかげで色々と大変だったんだから」

 

「いやあ、申し訳ないですね」

 

「おっしゃあ! 遂にここまで来たぜ!」

「ピクニックに来たんじゃないんだから、あんまり(はしゃ)ぎすぎちゃだめよ〜?」

「うう……やっぱり怖い……」

「大分足腰が疲れてきたのう、早めに終わらせるか」

「オイ! ちゃんと暴れさせてくれるんだろうな!? オイ!」

 

 暗色の外壁とパイプに包まれた工場のような建造物。

 非道な人体実験を繰り返してきた組織『NAHMU』の総本山と思われる建物の前に、二人の人間とひとりのエルフ、五体の精霊と一匹の龍が集まっている。

 

 一見まるで統率が取れていないようにも見えるが、『目の前の組織を滅ぼして平和を守る』という思いだけは(約一名を除き)共通している。曇天だった空も、いつしか日の光を見せ始めてきた。

 

「それじゃあ皆……行くよ」

 

 大仰な門を開いたその瞬間から、戦いの火蓋は切って落とされた。

 本物のゴキブリのように湧いて出てきたラテラリスアクサーが一斉に襲いかかってくる。「容赦」という言葉など最初から存在しなかったかのような数の暴力が、無慈悲に駆け出す。

 

「……メロノ」

「あいわかった」

 

【ノーム!】

【セットアップ!】

 

【Transform】

 

【Invade……】

 

 しかし、それに屈するビオラ達ではない。幾多の戦闘を切り抜けてきたその姿には、一縷(いちる)の動揺も見られなかった。

 ビオラに続いて京太郎達も続々とベルトを巻き、戦闘態勢を整える。全員の双眸(そうぼう)は、ラテラリスを冷ややかに捉えていた。

 

「「「変身!」」」

 

【サモン!】

 

【Authentication.】

 

【Jubilation!】

 

 

【地底の技王、英名なる神の腕の下に参集されたし! 天地不可逆の理を覆せ!】

【ガイアーーーー……ノーームッ!!】

 

【Now loading……】

【Humanity will continue to evolve from now on.】

 

【Celebrate! Today is Night's birthday.】

 

「皆、行くよッ!」

 

 仮面ライダーエルフとなったビオラの声を皮切りに、ライダー陣営はラテラリスアクサーの群れへの突撃を開始した。

 

 先頭に立つエルフが地面からせり出す土塊でラテラリス達を吹き飛ばし、クリーチャがそれを黒く太い触肢で薙ぎ払う。更に、残った分をヒューマが片すという連携でラテラリスアクサーを次々と蹂躙していく。

 

 戦闘開始時と比べてラテラリスが1/3ほどに減った頃、漸く入り口である扉がエルフ達の視界に入った。だが、そこでラテラリスの増援が現れてその道を塞ぐ。なんとしても、この先を進ませる気はないようだ。

 

「……こんまま()りあってても埒が明かねぇ。俺らが抑えとくから、お前ら二人で先に行っててくれ」

 

「京太郎っ!?」

 

「……案内をします、着いて来てください」

 

「ちょっ、アンタ何処行って……こら、待ちなさい!」

 

 慌てて追いかけるビオラと、淡々と前へ進んで行くヒューマ。どちらにも、不吉なまでの焦りが見える。少しばかりの不安を胸に抱きながら、クリーチャはラテラリスの殲滅を続けた。

 

 

 

 『NAHMU』の拠点内部は、いやに暑苦しかった。

 辺りのパイプから漏れ出ている蒸気と金網の床が耳朶を打つ。どこもかしこもオレンジ一色で、変わり映えのない景色が暫く続いた。

 数分ほど走り続けたところで、(ようや)く景色に変化が見られた。

 

 だが、それは良い意味での変化とは言えないものであった。

 

「よお、久しぶりだな。こんなとこまで何しに来たんだ?」

 

「……ビネガー」

 

 奥へと続く巨大な鉄の扉の前。

 二人の前にその姿を見せたのは、幹部怪人の一体『ビネガーアクサー』だ。

 いつもの調子で語りかけてくる姿には、エルフとヒューマの二人と対峙しても尚怯えが見られなかった。それどころか、今にも動きたくて仕方がないように全身を震わせている。

 

態々(わざわざ)質問するような事でもないでしょう?」

 

「そうだなァ。そう言われりゃあ理由なんかどうでもよくなってくるな。……要するに、お前らと全力で戦えるって事だろ?」

 

「アンタでも分かるように言えばそうかもね」

 

「馬鹿にしてんのかゴラァ!? ……決めたぜ。まずはエルフのクソガキからだ。テメェからぶっ潰す」

 

 エルフの安い挑発に乗せられ、ビネガーは構えを取る。同様に、エルフとヒューマも戦闘態勢に移行。間もなく戦いの幕が上がると思われたその状況は、ふと外から聞こえてきた悲鳴によって暗転した。

 

「なにっ!?」

 

「……ああ、そういや忘れてたわ。……入り口にラテラリスの群勢が居たろ? 門番代わりに常駐させてんだけどな。アイツらがちょいと時間を稼いでる間に、何体かアクサーを街に放ったんだよ」

 

「ッ!」

 

「いやァ、中々にベストタイミングだったんだぜ? お前らが本拠地(こっち)に集まってくれてっから、街が手薄なんだよな。なんか一人足りねぇみてェだが、万一アイツが対処に向かったとしても一人じゃきちィだろうな!」

 

「犬童! 私達も戻って───」

 

 危機的状況に陥っている事を知ったビオラは踵を返そうと後ろに振り向くが、ビネガーが酸性の液体を飛ばすことでそれを阻む。

 ……心の中の焦りが、一段と強くなる。

 

「させっかよ。それに、戻っても無駄だぜ? ウチのシステムは優秀だからな。ウチらのボスんとこにある制御装置を何とかしねぇ限り、永遠にアクサーが放たれ続ける。こうやってゆっくりお喋りしてる間にもどんどんアクサーが生まれては街に向かってるぜェ? クハハハッ!」

 

「コイツッ……!」

 

「焦らないで、ビオラ」

 

「っ! ウィル……」

 

「ここは僕が引き受けよう。ビオラ達は奥に向かって」

 

「ッ!?」

 

 仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情をするビオラを抑えたのは、ビオラの体内から音もなく抜け出たウィルだった。穏やかな口調で、諭すように語りかける。

 一方のビオラは、納得できないという様子だ。

 

「大丈夫、僕だって何の策も無いわけじゃない。安心していいから、先に行きなよ」

 

「安心なんかできるわけないでしょ!? ウィルは私の────」

 

 

「行けっつってんだろ。駄々()ねないで言うこと聞けよ」

 

 

「……!」

 

 初めてだった。

 今まで聞いたことのない、ウィルの怒声。先程までの穏やかな口調が脳に刻まれているせいか、異常なまでの恐怖が走る。

 

 自身の恫喝(どうかつ)にも似た諭しに怯えるビオラを見て我に返ると、ウィルはいつもの口調に戻して再度説得を試みた。

 

「……まあとにかく、ここは僕がやるよ。ビオラと犬童は先に行きな」

 

「……行きますよ、ビオラさん」

 

「…………」

 

「オイコラ、俺を無視してんじゃねェ!」

 

「二人の邪魔はさせないよ」

 

 人魂の状態のままウィルは光弾をビネガーの足元へ撃ち、その足を無理矢理止めさせた。その隙をつき、ヒューマはエルフの手を引きながら扉を乱暴に破って奥へと進んだ。

 

「……やってくれやがったな、このオバケ野郎」

 

「オバケじゃないよ。正式には『ウィル・オー・ウィスプ』。一応、光の精霊なんだ」

 

「どっちでもいいそんなモン! とにかく、今から俺はお前をぶっ飛ばす。何にも出来ねェとは思うが、精々死なねェようにな」

 

「うーん……それ、僕のセリフなんだけど。盗らないでくれるかな?」

 

「は? お前が? 俺を? ぶっ飛ばす? ありえねェって、冗談キツいぜ」

 

「まぁ、()()姿()()()()なら、そう思うだろうね」

 

 そう言うと、ウィルの身体は上下に伸びて人型となった。腰を超えるほどの銀色の長髪に、少女然とした顔つき。鼠色のパーカーとジーンズは、どことなく出不精を感じさせる。

 突然の変貌でビネガーが眼を見開いたのも束の間、ウィルは不慣れな手つきで腰に()()()()()()()()()()()()()()

 

「おお、よしよし。ちゃんと出たね」

 

「……は? 何だよそれ、あのエルフのガキの……」

 

「うん、ビオラのやつと一緒だね」

 

「なんで、お前が……」

 

「え、もしかしてビオラしか使えないと思ってたの?」

 

「んなこた知るかよ! テメェ、前に住処を襲った時に出張って来なかったじゃねェか!」

 

「まぁ〜あの時はすごく病んじゃったからね。でも、そんな状況でもビオラは立ち上がったんだ。だから、僕もただ近くで応援するだけじゃ申し訳ないなーって思ってさ。ちょっと、リハビリしてきた」

 

 驚きの連続で動揺するビネガーを更に驚かせるように、ウィルは自身の左胸部に手を突っ込む。ウィルの身体は液体のように滑らかに形を変え、その右手に白い球体を握らせた。

 

【ウィル・オー・ウィスプ!】

【セットアップ!】

 

「……変身」

 

【サモン!】

 

【ウィルオーー……ウィスプッッ!!】

 

 

「……さて、改めて自己紹介をしようか。僕は『仮面ライダーウィスプ』。今から君を倒す、とある惨めな精霊だ」

 




ええ、承知しております。今回は非常〜に雑な回になってしまいました。
申し訳ないです。が、そんな泣きっ面に蜂が刺してくるような出来事がありまして。

実は当方、テストが控えておるのです。。次回の投稿も遅くなる見込みです。
まあテスト勉強一切してないんですけどね初見さん。
ほんとの事言うと、最近(約二ヶ月)リリースされた音ゲーにハマってました。

割と忙しくなりそうな気はしますが、可及的速やかに投稿できるよう尽力しますので、よければ次回もよろしくお願いします。

仮面ライダーエルフ 最終話まで───

────残り4話


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第26話 Re:Spiritー人魂状の光の精霊(ウィル・オー・ウィスプ)

またもや遅れてしまい申し訳ありません。
言い訳は後書きでさせていただきます。


「仮面ライダー……ウィスプ、だと?」

 

「そ。まぁ、名付けたのは今なんだけどね」

 

 重厚な扉の前で対峙する二人の戦士。余裕そうな仮面ライダーウィスプと、若干の焦りを見せるビネガーアクサー。

 

 先に仕掛けたのはビネガーの方だった。目にも止まらぬ速さで接近し、無数の攻撃を叩き込む。ウィスプはというと、ギリギリのところで攻撃を受け止め、その後の猛攻もなんとか凌いでいた。

 

「いきなり攻撃してこないでくれよ、危ないだろう?」

 

「はんッ! 全部防ぎきった奴がよく言うじゃねぇか」

 

「いやいや、結構ギリギリだったよ? 僕動体視力あんまりよくないし、もうちょっと遅めに動いてくれると助かるな」

 

「『はいわかりました』って手加減するとでも思ってんのかコラァ!」

 

「ま、そんなうまくいかないよねー」

 

 ビネガーの攻撃は更に激しさを増した。特定の箇所を狙っている訳ではなく、とにかく当たればいいと思っているかのような攻撃だ。

 スピードも甚だしい上に防御する場所もあまり掴めず、ウィスプは数発だけ喰らってしまった。それをチャンスと捉えたのか、ビネガーはウィスプに尻尾を向けて酢酸を噴出した。

 

 ほんの一瞬───生存本能のようなものがはたらき、ウィスプは跳び上がることで酢酸を回避することに成功した。金網の床に付着した酢酸は恐ろしい速度で金網を溶かしている。血の気が引くような感情を覚えながらも、再びウィスプはビネガーに向かって自身を繰り出す。

 

 上段回し蹴りからソバットへと繋ぎ、ストレートパンチでダメージを与えつつ距離を離して光弾による遠距離攻撃をかます。反撃のタイミングを失ったために、今度は逆にビネガーの方が防戦一方となった。

 

「チッ……この野郎!」

 

「おっと危ない。怒りに身を任せていると動きが単調になるよ? 前までのビオラみたいに」

 

「あのクソアマと一緒にするな!」

 

「家族を奪った君達を相手に、泣きそうなぐらいの怒り顔だったよね、ビオラ。そんなビオラに色々ひどいこと言って煽ってたろ? それに対するささやかな仕返しとでも思ってくれればいいよ」

 

「……ナメた真似しやがって!」

 

 ビネガーは再び酢酸を噴出するが、直線的に発射されたそれはいとも容易く避けられてしまい、背後に回ったウィスプのハイキックを受ける。そのダメージは大きく、ビネガーを軽く怯ませるに至った。

 

 次いで人魂状の弾をいくつか浮かせ、多角的な攻撃を実現させた。正面からはウィスプ自身が戦闘を行い、側面・背面からは人魂状の弾が襲いかかるため、ビネガーは対処に苦労しているようだ。

 

「クソがッ!」

 

「地に足着けたままだと自由度少なそうだし、空でも飛んでみる? 天井も高いし気持ちいいと思うよ?」

 

「はっ!?」

 

 急加速してビネガーの胸ぐらを掴むと、ウィスプは垂直に上昇しつつ拳打を加える。そのまま宙を旋回し、随所に張り巡らされたパイプに叩きつけながらビネガーを弄ぶ。

 ビネガー自身には飛行能力がないため、自由に飛べるウィスプとは異なりうまく戦えていない。これまでの彼の姿からは想像もつかないほど調子が悪く、また珍妙だった。

 

「よっと。空を飛んでみた感想はある? 楽しかった?」

 

「……テメェ、マジで良い加減にしとけよ」

 

「君と僕とじゃ感覚が違うし、『良い加減』って言われてもあんまりよく分からないんだよね。もうちょっと具体的に教えてもらえるかな?」

 

「テメェのそういう所だよッ!」

 

 力任せに殴ってきたビネガーの拳を、ウィスプは片腕で受け止めてみせた。が、それは軽々というわけではなく、拮抗しているのだと傍から見ても分かるようなものだった。

 少しずつ、少しずつ。自身の力が薄れていくのを、ウィスプは感じ取っていた。口調にも声色にも出さないが、その心には僅かな焦りが覗いている。

 そして遂に、ウィスプが若干押されはじめた。

 

 

 

 

「……ねぇ犬童、アンタ先に行っててくれない? 私、やっぱりウィルが心配。ちょっと戻ってくる」

 

 ウィルの援助により先を急いでいたエルフとヒューマだったが、突然エルフがその足を止めた。心の中の憂いが拭いきれず、来た道を戻るというのだ。

 しかし、こうしている間にも建物の外ではアクサーが湧き続けている。その対処に当たっているクリーチャにも何れ限界が訪れるため、可及的速やかに制御装置を抑えないといけない。

 

「あまり時間を掛けすぎないのが吉です。それに、私達の中で此処の構造を知っているのは私だけです。迷子になってもらっては困ります」

 

「じゃあウィルを見捨てろって言うの!?」

 

「そうは言っていません。それに、彼も無策で私達を先に向かわせたわけではありません」

 

「じゃあどんな手があるって言うの?」

 

「…………エルフドライバーです」

 

「……は?」

 

「エルフドライバーを使用し、仮面ライダーとなって迎え打つんです。仮面ライダー、ウィスプとなって」

 

「……何それ、聞いたことないんだけど」

 

「でしょうね。本当は、私も口止めされていたんです。彼から、『ビオラには絶対に言わないでほしい』、と」

 

「……なんで……そんなこと……」

 

「自身の命を削る変身だからです。強大な力の代償、でしょうか」

 

「……!」

 

 絶句した。

 ウィルが自分に黙って、勝手に命に関わるような真似をしたこと。そして、犬童がそれに加担したこと。

 まともな整理のなされていないエルフの思考を占めたのは、怒りの感情だった。

 

「アンタ……それを知ってたの!? 知ってて、私に黙ってたの!?」

 

「少し前から、ウィルさんがビオラさんの前に現れる機会が少なくなっていたこと、ご存知でしょうか。あの間、ウィルさんは私を巻き込んで特訓をしていました。『リハビリ』、と言ってましたね」

 

「……」

 

「以前にも使用したことがあるそうですが、それも随分昔の話らしくって。また急に使うと負担がひどくなるらしく、それを軽減するために毎日特訓をしていました。『命に関わるって知ると絶対止めてくるだろうから、ビオラには言わないでほしい』とも、言っていました」

 

「……ふざけないでよ、なんでアンタは止めなかったの!?」

 

「……他でもないウィルさん自身の意思だったからです。ウィルさんは、普通の少女として生きるはずだった貴女を戦わせることに、負い目を感じていました。だからこそ、自分が何もしないわけにはいかない、と」

 

「そんな……」

 

「……少し喋りすぎました。急ぎましょう」

 

 悔しさの混じったような声で急かすヒューマに、エルフは力なく步を再度進めた。

 

 

 

「クッソ、次から次へと湧いてきやがる……マジでコイツら面倒臭ぇんだけど……」

 

〔そう腐るな。私は楽しいぞ? 中々に血湧き肉躍る戦だ〕

 

「お前はそうでも俺はそうじゃねぇんだよクソ野郎……!」

 

〔キツくなったら代わるんだぞ〕

 

「結局使われるのは俺の身体なんだから意味ねーんだよタコ!」

 

 NAHMUの本拠地の前では、未だにクリーチャがアクサーの群勢と格闘していた。戦況は五分五分、あるいはほんの少し優勢と言ったところか。

 

 量産型であるラテラリスだけだったアクサー達の中には、いつかその姿を見た別のアクサーも混じってきている。純粋に殴れば済むラテラリスとは違い、相手の能力も考慮した戦闘を行わなければならないという状況は、変身者である京太郎を疲労させるのに充分すぎるものだった。

 

「あっオイてめぇ! 待ちやがれこの!」

 

 その時、一体のアクサーがクリーチャの横をすり抜け、街へと向かって行った。その事に気付いた頃にはすでにかなりの距離が開いており、懸命に伸ばした触肢も僅かに届かなかった。

 

 焦るクリーチャを他所に、アクサー達は次々と数を増やしていく。そして、その間にもクリーチャを突破したアクサーは街の方へと急いでいる。エルフやヒューマを追いかける大量のアクサーか、街へと向かったアクサーか。二者択一を迫られたクリーチャは、はやる胸の鼓動を必死に抑えながら一つの答えを出した。

 

「一分でアイツを片付ける! 行くぞアルテン!」

 

〔……承知した〕

 

 勢いよく飛び出し、猛スピードでアクサーを追跡する。

 アクサーの姿を視界に捉えた頃、アクサーはちょうど民間人を襲いかけていた。怪人の姿に動揺して叫喚する人々の海をギリギリで避け、クリーチャはアクサーにその鉄鎚のような拳を叩きつける。

 

「なんだ、何が……!?」

 

「……ギリセーフか。早く逃げろ! コイツは俺が!」

 

「仮面……ライダー……?」

 

「ああそうだ! さっさと逃げねぇとコイツに……んにゃろう!」

 

 ヒーローの名を口にする人々を急かし、クリーチャはアクサーを殴り飛ばす。次いで触肢を叩きつけ、目標通り一分以内にアクサーを倒すことに成功した。更にアクサーが溢れることを想定し、クリーチャは忙しなくNAHMUの本拠地へと戻っていく。

 時間にしてほんの数十秒ではあるが、その勇姿は街にごった返す人々の目に強く焼きついただろう。

 

 

 

「……さて、そろそろおしまいにしようか。僕も疲れてきたし」

 

 一方、仮面ライダーウィスプはビネガーアクサーをあと一息というところまで追い詰めていた。弱々しく立つビネガーは文字通り虫の息で、そよ風でも吹こうものなら数秒も経たず倒れそうだ。

 

「ハァ……テメェ……ナメたこと……抜かしてんじゃ……ねェぞコラ……」

 

「息をするのも辛そうだね。一思いにやるとしよう」

 

 か細く呼吸を続けながらも悪態をつくビネガー。その様子を認めたウィスプは最後の一撃を放つため、ドライバーの操作を始める。

 しかし、それを妨害するためにビネガーは酢酸を噴出した。最後の抵抗と言わんばかりの、強烈な攻撃だった。

 あらゆる物を溶かすその強酸性の液体は、ウィスプ自身とドライバーに深刻なダメージを与えるのに成功した。激しい痛みと熱が患部を蝕んでいく。

 

「づッ……!?」

 

「やっとこさやられてくれたなァ! このクソ野郎!」

 

「……まだだっ!」

 

「ガァッ!?」

 

 ウィスプが痛みに呻く姿を認めたビネガーは、水を得た魚のように勢いを取り戻して再びウィスプに襲い掛かる。一瞬反応が遅れたもののウィスプはギリギリで攻撃を受け止め、前蹴りでビネガーとの距離を離した。

 まだ痛みが走る身体を無理矢理動かし、ウィスプは今度こそ最後の一撃の準備に入る。

 

【カモン! ウィルオー! スピリチュアル!】

 

「はあああああっっ!!!」

 

 飛び上がって右足を突き出し、ビネガーに全力のライダーキックを放つ。白い炎のようなオーラが全身を包み込んでその威力を増大させ、眼前の敵を滅ぼさんとする蹴りがその怪人の身体を貫いた。

 

「ぐああッ、ああッ、ハァ……ここまでかよ……クソッ……遊び……足りねェよ……」

 

 その言葉を残し、ビネガーアクサーは膝から崩れ落ちて爆散した。辺りには耳を(つんざ)きそうな爆音が響き、いくつもの設備を破壊していく。

 

「……ここは崩れ落ちそうだね。早めに移動しよう」

 

 天井から落ちてきた鉄塊が道を塞ぎ始めた頃、危機を感じてウィスプは先に進むために足を動かした。

 誰も居なくなった後、その道は完全に閉ざされた。

 

 

 

「……! 今の音……!」

 

「ウィルさん達の戦いに決着が着いたのだと思われます。ウィルさんに勝っていてほしい所ではありますが……」

 

 仮面ライダーウィスプの援助を受けて一足先に奥へと進んでいた仮面ライダーエルフ・仮面ライダーヒューマの両名は、アクサーを濫造する制御装置の存在する部屋の前まで来ていた。

 ヒューマの案内は的確で、迷う事なく到着出来たがその道程はかなり複雑であった。時折見失いそうになりながらも漸く到着した事実に、エルフは既にそこそこの疲労が溜まっている。

 

 そんな二人の耳に届いたのは、ビネガーアクサーが爆発四散して散る音だった。もちろん、二人はどちらが勝ったのかなど知る由もない。二人に出来るのは、ウィスプが勝利しているよう祈ることだけだ。

 

「……それより、我々は先に進みましょう。この扉の奥に制御装置があります」

 

「早く潰して、京太郎を助けないと……」

 

 分厚い鉄製の扉に、いくつもの認証。生体認証からワンタイムパスワードまで、さまざまな認証が開錠を拒んでいる。ヒューマは一旦変身を解いてから全ての認証に対応し、遂にその扉を開くことに成功した。

 

「……開きました。では、中に……」

 

「……待って、中に誰か居る!」

 

 先に進もうとする犬童を止めたのはエルフだった。その制止を受けて立ち止まった犬童は、一人の人物をその視界に映した。

 暗がりで無機質な部屋に、嫌になる程の存在感を示す男が一人。

 部屋の薄暗さに溶け込むような黒スーツを身に付けていたが、犬童にはその人物が何者なのかがすぐに分かった。

 

制御室(こんなところ)に何の用だい? 犬童託斗くん。それに、エルフのお嬢ちゃん」

 

「……犬童、あいつ誰?」

 

 

 

 

「……(くろがね) 雪人(ゆきと)。“異種族殲滅組織”『NAHMU』の首魁(しゅかい)です」

 




まず、二ヶ月以上もお待たせしてしまい大変申し訳ありません。毎回謝罪していて反省の色が見られない気がされると思いますが、これからは最低でも月一で更新していきたいなと思っていますので、どうかよろしくお願いします。

肝心の理由ですが…………ハイ、音ゲーにハマってました。具体的には、ダンカグ・プロセカ・フィグロスの3つをやってました。だって楽しいんだもん……

試験があるため更新が危ぶまれる1月ですが、なんとか月一更新したいと思っています。個人的にも3月までには終わらせたい……!

仮面ライダーエルフ 最終話まで───

────残り3話


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第27話 Climaxー人類に幸あれ

今年最後の投稿です。


「こいつが……この組織の────待って、『異種族殲滅組織』? それってどういうこと?」

 

 無機質な金属に囲まれた部屋に、自らの中に生じた疑問を問う仮面ライダーエルフの声が響く。神妙な面持ちを崩さない犬童と、不敵な笑みを浮かべるNAHMUの長・(くろがね)雪人(ゆきと)

 張り詰められた空気を崩したのは鉄だった。

 

「いやだなあ、人聞きの悪い。『人類全力守護組織』と言っておくれよ」

 

「……何そのクソダサい名前」

 

「失礼な子だなあ、全く」

 

「……表向きは、人々の生活を豊かにする事を謳う工場です。しかしその実態は、人間に害を及ぼす生命種全てを排斥しようとし、そのための手段を選ばない組織です。……少し前までは、僕もそれが人類のためになるのだと信じていました」

 

「……エルフ達の侵略を恐れて開発された『アクサー』ですが、能力次第ではエルフの脅威を感じなくなった後でも研究が続けられる予定でした。エルフ以外の、様々な『異端』を排斥することを目的として……」

 

 いつになく重い口調の犬童が、目の前の主だった人物を睥睨(へいげい)する。これまでの自身の行動がどれほど人道を外れた行為だったのかを思い知った犬童だからこその思いが、そこに在った。

 

「人類が存続するためには必要だよ? 声の小さな少数派(マイノリティ)多数派(マジョリティ)に淘汰される。世の常だろう?」

 

 犬童の発言に臆することもなく、鉄はひらひらと手を振りながら答えてみせた。その様子に激昂したエルフが、一歩ずつ鉄に近付きながら言葉を発する。

 

「……何が『人類が存続するために必要』よ。アンタらの中には、手を取り合って共に生きていくって考えは無いわけ!?」

 

「……それ、人間に復讐しようと奔走していた君が言えることなのかい?」

 

「『木を見て森を見ず』。確か、そんな感じの言葉だった。ほんの一部分に囚われて、全体を見ていないっていう意味。昔の私は、まさにそれだった。アンタらだけを見て、『人間は最低な奴らだ』って、皆がそうなんだって思って疑わなかった」

 

「……でも、それは違った。人間の中にもいい人たちがたくさん居て、私に優しく手を差し伸べてくれた。……確かに、人間の中にはアンタらみたいな外道もいる。でも、みんながみんなアンタらみたいなのじゃない。私は、京太郎のお陰でそれを知ることが出来た。だから、人間とも手を取り合っていこうって思えるようになってきた」

 

「外道って……これでも結構配慮してるんだよ? アクサーの元になった人間には犯罪者しかいないし」

 

「……は?」

 

 あっけらかんとした様子で言う鉄に、拍子抜けしたような声でエルフが返す。言葉の意味を理解していなさそうなことを悟ったのか、鉄は静かに説明を始めた。

 

「君は知らないかもしれないけれど、この世で一番人間を殺している生き物は『蚊』なんだ。では二番目は何か? 答えは『人間』だ。といっても、蚊はウイルスを媒介するから結果的に人間が死ぬのであって、殺す気はないと思うんだよね。『殺意をもって人間を殺している生き物』という名目なら、多分人間が一番人間を殺してる」

 

「何故人を殺してはいけないのか? 法律で罰せられるから? それとも悲しむ家族がいるから? 僕は、どちらも不正解だと思っている。『法律で縛られないのなら殺しても良いのか?』とか、『悲しむ家族がいなければ殺しても良いのか?』という質問を投げ掛ければ、殆どの人はNOと答えるだろう。『倫理』という言葉を持ち出してね」

 

「法律があろうとなかろうと、悲しむ家族が居ようと居まいと、殺人はしてはいけないこととされる。なら、その二つはあってもなくても変わらないから、殺人をしてはいけない理由たり得ないと思うんだよね」

 

「……全然話が見えてこない。結局アンタは何が言いたいの?」

 

「僕の中での殺人が禁止されている理由は『人間という種の繁殖を妨害する行為だから』なんだ。僕ら『NAHMU』の目的は人類に平和を齎すこと。そのためには、人間の生活を脅かす異分子に消えてもらうことが必要だとは思わないかい? なあ、異分子(エルフ)

 

 鉄は追い詰めるような口調と表情でエルフを見やる。どこか憐憫も含有したような声が消える頃、再びドライバーを腰に巻いた犬童が一歩進み出て言葉を発した。

 

「……そろそろ其処を退いてください。僕らは、貴方の後ろにある装置を破壊しにきたんだ」

 

「うんうん。で、僕が素直に明け渡すとでも?」

 

「思っていませんよ。だから、力づくです」

 

【Transform】

 

【Authentication.】

 

「……変身」

 

 ヒューマドライバーに備えられたタッチパネルを操作し、犬童はその姿を変えた。幾つもの文字が現れてはアーマーを形成し、その身を形作っていく。

 そうして、犬童託斗の最高傑作『ヒューマドライバー』により、再び仮面ライダーヒューマが顕現した。

 

 変わらない無機質な色合いは制御室と絶妙にマッチしており、表現し難い雰囲気に包まれている。

 青くなった双眸で鉄を捉えたその時、鉄は突然腹を抱えて笑い出した。エルフとヒューマが困惑する中、鉄だけがこの状況を楽しんでいた。

 

「……何がおかしいんです?」

 

「はははっ……いやね、漸く試せる時が来て楽しくなったんだよ」

 

「試せる? 何の話よ」

 

「この部屋にある制御装置は、単にアクサーを生み出すだけの装置じゃないんだよ。この装置は、()()()()()()()()()()()()()()アクサーになれる装置なんだ。犬童くんが残してくれた知識でどうにか作ったんだ。素晴らしいだろう?」

 

「人間としての……意識を……?」

 

「ああ、そうさ。……例えば、こんな風にね

 

 制御装置の裏側に付けられた扉から鉄が内部へと入り、やがて耳を(つんざ)くような奇声と共にメタリックブルーの色をした翅を持つ巨大な蝶々が、制御装置を破壊しながら飛び出した。

 

「何、あれ……!」

 

 全長28mにも及ぶその巨体はぶつかる度に壁や天井を破壊し、遂にその暗がりの部屋にも日の光が差し込んだ。しかし外はかなり日が暮れているため、その色は橙に染まってしまっている。

 

「ああ……美しい。あの装置はもう使えなくなってしまったが、そんなのはもうどうでもいい。漸く、人類に平和が(もたら)される。僕が、人類を救済する」

 

 眼前の巨蝶───メガアクサーから発せられる声はどこか気持ち悪く濁っており、その声を聞かせたものに悪寒を走らせている。

 そんなエルフ達を尻目に、メガアクサーは飛翔してどこかへと飛び去っていく。

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 慌てて風の精霊・フィルーシュを呼び出してシルフィードスレイヴへと姿を変え、エルフはメガアクサーを猛追する。空を切るような風の斬撃を飛ばすも、メガアクサーは意に介していなかった。

 次いでヒューマが地上を同じく猛スピードで駆け、建物を足場にしつつメガアクサーとの距離を詰めるが、高度を上げられたために足止めが厳しくなった。だが、メガアクサーの進行方向には(ひら)けた平地が見える。

 

 恐らく、人間に被害を出さず仮面ライダーだけ攻撃するために選んだ場所だろう。エルフとヒューマは感覚でそれを理解すると、それ以上の攻撃をやめて追跡に専念した。

 

 

 

 

「おいおい、何だよアレ!」

〔仔細は分からんが、恐らく組織の頭領だろう。何やらそんな話を進めていたような気がする〕

 

 仮面ライダークリーチャの変身者・横屋京太郎とその中に巣食う怪物・アルテンがふと見上げた空には、ゆったりと移動するメガアクサーの姿が映っていた。その巨大な影は夜を思わせるほど街を暗転させたが、数秒もするとまた日の光が差し込んで来る。

 空の色は橙で、戦い始めた時からかなりの時間が経過していることを知らせている。

 

「マジかよ……ビオラ達は……」

〔あれではないか?〕

 

 クリーチャが目を向けた先には、メガアクサーの後を追って飛び出していった仮面ライダーエルフと思われる姿があった。

 

「ビオラっ! マジか、俺も参戦してぇけど、コイツらが……」

 

 それを追いかけようとするも、依然としてクリーチャの前には大量のアクサーが立ちはだかっていた。長時間の戦闘により、その体力はとっくに限界を迎えている。油断すればすぐにでも膝を着きそうな状態だ。

 

 その時、アルテンは思い出したかのように声を上げて、京太郎にある提案を持ち掛けた。

 

〔……横屋京太郎よ。三秒だ。三秒だけ、お前の身体を私に寄越せ〕

「は? お前何言ってんの?」

〔私がお前の身体を動かし、このアクサーどもを掃討する。そして、急ぎでエルフの娘の加勢に行く〕

「加勢って……じゃあコイツらはどうすんだよ! 今いるコイツら倒しても、まだ湧いてくるかもしんねぇだろ!?」

 

「そこはご心配なく、アクサーを沸かせていた制御装置は壊れたからもう増援はないよ」

「! 誰だ……?」

 

 京太郎とアルテンの話に割り込んで来たのは、仮面ライダーウィスプへと変身したウィルであった。

 

「僕だよ、僕。ウィルだ」

「えっ、マジ? えっ、ウィル? 生きててよかったけど……なんか違ぇ……」

「ま、僕のことはどうでもいいんだ。それより、さっきでっかいちょうちょが空を飛んで行くのは見たよね? ビオラが追いかけてたり、あの規模だったり、少なくとも組織の中では文字通り大物のアクサーだと思うんだよね」

 

「……追いかけるのか?」

「うん。でも、その前に京太郎を助けてからにしようかなって」

〔要らぬ心配だ。私が何とかするから、貴様はさっさと追いついて助けてやれ〕

「まじで? 大丈夫?」

〔問題ない。私が全て片付ける〕

「ちょっ、お前勝手に……」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 呑み込みづらそうに返事をすると、ウィスプはふわりと浮き上がってメガアクサーを追い始めた。

 その様子に呆れたように息を吐く京太郎は、痛みに呻く身体を無理矢理起こし、決意を固める。

 

「……わーった。お前に身体貸してやるよ。けど、無茶すぎる動きすんなよ? 俺マジで死ぬから」

〔合点承知だ〕

 

 京太郎が合意を示す言葉を発して少ししてから、アルテンはその身体の主導権を完全に得た。

 クリーチャを取り囲んでいたアクサー達も気配が変わったことを無意識に理解したのか、警戒するように後退りする。しかし、その瞬間既にその場にいたアクサーの三分の一はクリーチャによって砕かれていた。他のアクサーがそのことを理解するよりも速く、クリーチャは残りをあっという間に始末して見せる。

 

 その後すぐに京太郎へと身体の主導権は返されたが、それは同時に強烈な痛みも伴っていた。

 

「〜ッづあああってめぇ! 無茶な動きすんなっつったよなぁ! バチクソ痛ぇんだけど!!」

〔む、少々やり過ぎたか〕

「少々じゃねぇよ馬鹿! マジでヤベェんだけどこれ!」

〔人間には少しキツいか……まあだが、騒いでいる時間はない。我々も早く応援に向かうぞ〕

「張本人のセリフじゃねぇぇぇ!!」

 

 全身に走る痛みに耐えながらも、クリーチャは足早にメガアクサーらが向かった方へと歩を進めて行く。その道中には、激痛に叫ぶ声がよく響き渡っていた。

 

 

 

 

「はあっ……なんなのコイツ……硬すぎ……」

 

 山に囲まれている開けた草原で、ビオラこと仮面ライダーエルフとメガアクサーは戦闘を繰り広げていた。

 全体的に技の威力が低いため不利と判断したフィルーシュは、水の精霊であるネディンへと交代した。それに伴い、エルフもウンディーネスレイヴへと姿を変えている。

 

「いいことを教えようか? 『勇気』と『無謀』は違う。努力は身の丈に合うだけするべきだ。因みに、君の()()は後者だよ」

 

「煩いッ!」

 

 自身の力を否定されたと感じたのか、エルフの攻撃はより一層鋭さを増した。その身体を鋭利な棘へと変化させ、メガアクサーの身体を貫かんとする。しかし、儚げで華奢そうなメガアクサーの身体は意外にも硬く、エルフの攻撃を全くと言っていいほど通していない。

 

「こんな大事な時に……何で反応しないの……?」

 

 エルフが目をやった懐には、以前手に入れたバハムートオーブがあった。あの最強の力をもってすれば眼前の巨蝶とも楽に戦えるはずなのだが、なぜか天頂のボタンを押しても反応がない。

 眠っているのか、或いは力が使われるべき時ではないのか。いずれにせよ、エルフはかなりの苦戦を強いられている。

 

「余所見をしている場合じゃないと思うなあ」

 

 エルフに一瞬生まれた隙を突き、メガアクサーはその翅振るって大量の鱗粉を撒き散らした。鱗粉は着弾すると同時に爆発し、軽く地面を抉っている。

 エルフの元にも幾つか降り注ぐが一人の人物が着弾を防ぐ。

 

「ビオラさん、大丈夫ですか!?」

 

「……今回ばかりは助かったわ、犬童」

 

 仮面ライダーヒューマだ。

 次いでそこに、仮面ライダーウィスプと仮面ライダークリーチャも駆け付ける。

 

「セーフか? これ」

〔おおよそそうだろう〕

「ただいま、ビオラ」

 

「ウィル! 生きててよかった……!」

「ま、僕ぐらいになると死亡フラグ? とやらも何とかなるってことだね」

 

「うーん……てことは、ビネガーは負けたってことだね。まあいいや」

 

 改めて、四人はメガアクサーへと視線を移す。

 エルフは火の精霊・サララを呼び出し、サラマンダースレイヴへと姿を変えた。燃えるような闘志が、エルフの中で再燃する。

 最終決戦の準備は、整ったようだ。

 

「さて、それじゃあ人類の未来を賭けた最後の戦いを始めようか。

 

 

 

───これはその、挨拶代わりだよ」

 

 その言葉が消えるよりも早く、メガアクサーは自身の身体から音速をも超えるような速さで光弾を打ち出した。そして、その光弾は…………仮面ライダーエルフの身体を半分ほど消しとばした。

 

「ビオラッッ!!」

 

 

 左半身だけになったエルフは、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 




仮面ライダーエルフ、第27話! 遂にここまできましたね。ラスト2話。
ただ、次回が実質的な最終回となります。次次回は、仮面ライダーWの最終回のような、後日談的な内容となっております。

漸くここまで漕ぎ着けたので、来年の三月までには絶対完走してみせます。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

よいお年を(来年以降読む方のほうが多い筈)


仮面ライダーエルフ 最終話まで───

────残り2話


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第28話 Re:Climaxー陳腐でチープな最後に添える花

投稿期間が空いたこと、申し訳なく思っています。
ラスト2話、よろしくお願いします。


「ビオラッッ!!」

 

 仮面ライダークリーチャ/横屋京太郎の叫びが辺りに響き渡る。

 だが、声を上げていないだけで仮面ライダーエルフを除く他のライダー達も心の内で驚愕していた。いの一番にクリーチャがエルフの元へと駆け出し、ウィスプ、ヒューマもそれぞれエルフへと駆け寄った。

 

 が、しかし。

 

「……痛ってぇな、加減しろよテメー」

 

「「えっ?」」

 

「……手加減したつもりはないんだがね。何故生きているんだい?」

 

 クリーチャとヒューマが更に驚愕する中、左半身だけとなったはずのエルフが()()()()()声を上げた。呆気にとられる二人をよそに、エルフはそのまま右半身の再生を始める。疑問に感じたメガアクサーはエルフへと質問をするが、動揺していないのか声に震えは感じられなかった。

 ものの数秒で完全に身体が戻ると、エルフはそのわけの説明を始める。

 

「トカゲの尻尾はブッ千切れても再生するだろ? それとおんなじ理論だよ馬鹿野郎(バーロー)

 

「お前……サララか?」

 

「そうだよ、今ビオラに代わるわ」

 

 声の主は火の精霊・サララだった。京太郎の質問に冷静に答えると、サララはその身体をビオラへと譲る。

 

「……あー危なかった。サララの力がなかったら完全に死んでた」

 

「ビオラか? 無事か?」

 

「うん、無事無事。ていうか京太郎知らない? サラマンダーって火を食べて再生するんだよ」

 

「知らねぇよンなモン……つーかさっきのアレ、火ぃ出てたか? 全く見えなかったけど……」

 

「まーちゃんと再生できるように飛び散る前に残さず食べさせたからね」

 

 会話もそこそこに、再び四人はメガアクサーの方へと向き直った。依然としてその姿は巨大で、形容し難い圧を感じさせる。

 

「おっしゃ! んじゃあまずは俺らから!」

 

 戦いの火蓋を切って落としたのはクリーチャだった。メガアクサーの元へ疾駆してから伸ばした触肢でメガアクサーの翅を貫く。しかし大したダメージにはなっておらず、事も無げなメガアクサーの翅の一振りによって縮めた距離を再び離されてしまった。

 

「マジか……そんな効いてる感じがしねぇ……」

 

「蚊が血を吸っているとして、その姿を見ない、もしくは腫れるまでは痛みに気付かない。君にも覚えがあるんじゃないかな? そんな感じだよ」

 

「……舐めてんなこの野郎」

 

「落ち着いて京太郎。奴を囲むように広がって多角的に責めて。数的有利を生かす感じで……ほら犬童も動いて」

 

 ファヴニールスレイヴへと姿を変えつつエルフは全員に指示を出す。それとなくエルフの思考を読んで動いていたウィスプを除き、それぞれ正四角形になるように動いてメガアクサーを囲んだ。

 

 的は分散したが、メガアクサーに不都合は一切ない。その巨体を生かした広範囲攻撃は、周囲に幾つものクレーターを作り出す。ライダー達はギリギリでそれを回避し、一斉にメガアクサーへの攻撃を始める。

 

「ハアッ!」

 

 主に狙われたのは翅の付け根だ。エルフは線対称に枝刃の付いた剣を振り下ろし、その翅を斬る。しかし、斬れたのはほんの数センチだけ。儚げな見てくれに合わず、その身体はかなり硬い。

 四人の中で唯一翅に狙いを定めたクリーチャは、背中から複数の触肢を出しながら特攻し、その翅を貫くことに成功した。幸い、翅自体は薄く比較的破れやすいようだ。

 

「……やるね。でも、所詮はその程度。微々たるものだし、特別気にするほどでもないね」

 

 軽くあしらうように言い放つと、メガアクサーはその場で回転しながら辺りに鱗粉を撒き散らした。数えきれない鱗粉の一つ一つが爆発し、周囲に爆音を響かせる。

 

「まずっ……」

 

「犬童っ!」

 

 爆発に巻き込まれそうになったヒューマを間一髪で助けたのは、意外にもウィスプだった。若干の驚きを見せながらも、ヒューマは態勢を立て直してメガアクサーに向き直る。

 

「……助かります」

 

「別にいいよ」

 

 そう淡白に返すと、ウィスプは再びメガアクサーの元へと飛び立っていく。

 その身体から僅かに粒子が漏れていることに初めて気付いたのは、ヒューマだった。

 

 

 

 その後も、変わらず拮抗状態が続きエルフ達は苦戦していた。攻撃はしっかり命中しているはずなのだが、致命傷を与えるに至っていない。一進一退の攻防が続く中で、少しずつ体力は削られている。

 

「割と耐えているね。君達が僕の同志だったら良かったのに……」

 

「ハア……死んでも御免だぜ、お前みたいなクソリーダーに付いていくなんてな……!」

 

「……大丈夫、言ってみただけさ」

 

 双方とも体勢を整えて、再び戦いの火蓋が切られたと思われたその時。

 

「……ッ!」

 

 唐突に、ウィスプが片膝を突いてその場に(うずくま)った。「ウィル!」と叫びながらエルフは近付くが、その隙を突いたメガアクサーが背後からエルフを切断せんとその身体から衝撃波を放った。

 

「ビオラッ!」

 

「……! 京太郎!」

 

「いいからウィルんとこ行け! 速く!」

 

 気付く様子のないエルフに代わって、クリーチャがその攻撃を受けた。

 エルフは自身が攻撃されようとしていたこと、その攻撃をクリーチャが庇ったことに気付き一瞬動揺したが、クリーチャは構わずウィスプの元へ駆け付けるよう促す。

 

「ウィル! ウィルっ!」

 

「……何も問題はないよ、戦闘に戻ろう」

 

「嘘つかないで! 無理しないでよ!」

 

「無理なんかしてないさ。それよりも戦線に復帰、しない、と……ッ!」

 

「ウィルっ!」

 

「ビオラさんッ! ウィルさんに無理させないでください! 此奴は僕らで対処します!」

 

「随分と余裕そうだね」

 

 戦闘に戻ろうとするウィスプをエルフに止めさせ、メガアクサーの攻撃を防ぐ。

 好機を逃すまいとするメガアクサーの攻撃は依然として激しく、ヒューマとクリーチャは苦戦を強いられている。時折ウィスプに呼び掛けるエルフを狙った攻撃も混じり、対処は困難なようにも思われた。しかし、その攻撃はエルフ達の元へは一度として届かなかった。それは、何としても二人の邪魔をさせまいと奮戦するヒューマとクリーチャの努力による結果だ。

 

 未だ抑えられない動揺を胸にしまいつつ、エルフは呼び掛けを続ける。

 

「これ以上は無理だよ! お願いだから……っ!?」

 

「……もう、大分限界が来てるっぽいね」

 

 遂に、誰の目から見ても分かるほどにウィスプは身体から淡く光る粒子を放ち始めた。ほんの僅かに、ウィスプ自身の身体も透明化している。

 

「……ねぇ、ウィル……犬童から聞いた。命を削る……変身、って」

 

「……それ喋るべきじゃなかったなあ。口軽いんだねぇ、犬童」

 

「そんなのどうでもいい。それよりも今は……ちょっと!」

 

 先程までは片膝を突いていたウィスプだったが、その体力すら失い、地面に倒れ込んでしまった。

 仰向けに身を投げ出し、何もかもを諦めたような声色で呟きを始める。

 

「……今年で1368年。随分長いこと生きてきたけど、やっぱり今年が一番濃い一年だったなあ」

 

「……なんで、なんでそんな……遺言みたいなこと言うの……?」

 

 

「今日という日、ビオラと、京太郎と……あと、犬童と過ごしてきた日々。すっごく楽しかったよ」

 

 

「……もう喋らないでっ!」

 

 

 

「お別れだね……ビオラ。でも、君はもう僕が居なくても大丈夫。京太郎達が、ビオラを成長させてくれてる。それをちゃんと知ることが出来たから」

 

 

 

「お願いだから喋らないでよ!!」

 

 

 

 

「君の『正義』が、君らしくなったから」

 

 

 

 

「お願いだからぁ!!!」

 

 

 

 

 

「今日はそんな……最高の、一日になったから」

 

 

 

 

「ウィルっっっ!!!」

 

 

 

 

 

「じゃあね、ビオラ」

 

 

 

 

 

「───────!!」

 

 その瞬間、ウィスプの身体は淡く光って霧散した。亡骸は一片も残らず、そこに在ったのはウィルが使用していた『ウィル・オー・ウィスプオーブ』のみであった。

 

「ウィルっ……うぃるぅぅ……!!」

 

 仮面に隠れている為表情こそ伺えないが、少女の内にある感情は間違いなく悲哀に支配されていた。

 行き場を失った嗚咽が虚しく空に響く。

 とめどない涙が頬を伝い流れる。

 

 オーブは何も喋らない。喋っては、くれない。肩を抱く相手も、優しく慰める相手も、今はどこにもいない。戦火の中の少女に、情けは何一つとして与えられなかった。

 

「ウィルッ!?」

「ウィルさん……!」

 

「本当に君達には緊張感というものがないねぇ」

 

 ウィルが消滅したことなど気にも留めず、容赦なくヒューマとクリーチャへと鱗粉を飛ばしては爆発させる。ウィルの方へと振り向いていた二人は対処が遅れてしまい、爆撃をモロに受けてしまった。

 共に地面に叩きつけられてしまったのもあり、かなりの大ダメージを受けている。

 

「クッソ……! ビオラ、しっかり───」

 

「ふふっ………………ごめんね。いつまでもこんなのじゃ、駄目だよね…………」

 

「ビオラ……?」

 

「ちゃんと……ウィルの分まで、頑張らなきゃ……」

 

 変身を解き、ビオラは泣きはらしたような顔を晒した。深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、未だ視界を滲ませる涙を軽く拭い、ウィル・オー・ウィスプオーブを力強く掴んだ。

 

「ウィルの為にも…………アンタだけは絶対倒す」

 

【ウィル・オー・ウィスプ!】

【セットアップ!】

 

 

「…………変身ッ!」

 

【サモン!】

 

【ウィルオーー……ウィスプッッ!!】

 

 透明度の高い鬼火のようなモノをその身に宿し、『仮面ライダーエルフ ウィル・オー・ウィスプ』は誕生した。

 

 燃え盛るように揺らめく白い複眼と頭部はさながら『ウィル・オー・ウィスプ』そのもののようであり、同じく燃えるような意匠の胸部・腕部装甲は亡きウィルを想起させる見た目となっている。

 ドライバーに収まっているウィル・オー・ウィスプオーブは頭部と同じように揺らめいており、全体的に闘志と儚さを感じさせる異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「ビオラさん……素晴らしいです! 完璧です! 結婚してください!」

 

「もうこの際犬童(こいつ)の反応とかどうでもいいや! 良いぞビオラ! 行くぜ!」

 

「もちろんッ!」

 

 その姿に感嘆しつつも、エルフとクリーチャは共にメガアクサーに向かって駆け出す。しかし、エルフの方がクリーチャよりも圧倒的に速くメガアクサーの元へ辿り着き、その翅の大部分を貫いた。

 

「グッ……!? 何だ、火事場の馬鹿力とでも言うつもりなのか……!?」

 

 勢いをそのままに、エルフはメガアクサーの周囲を旋回しながら次々と攻撃を叩き込んでいく。これまでは翅以外にあまり通用していなかった攻撃も、みるみるうちにメガアクサーの身体を削っていく。

 メガアクサーが自身の巨体を振るって反撃しようとするも、エルフは周囲に鬼火のような弾を浮かせて攻撃、メガアクサーの反撃を許さない。

 

「このッ……!」

 

「焦ってるわね」

 

 幾度となくエルフ達を苦しめてきた爆発する鱗粉も、エルフは踊るように避けてしまう。ここでクリーチャ・ヒューマが追いついてエルフと同時に胸部に蹴りを叩き込み、大きく距離を離すことができた。

 

「犬童! 京太郎! トドメ刺すよ!」

 

「はい!」

「了解!」

 

【ウィル・オー・ウィスプ!】【カモン! スピリッツ! スピリチュアル!】

【Finish attack】【Authentication.】

【The kill time!】【Dead end.】

 

 三人は夜になりかけている薄暗い空へと跳び上がり、裂帛(れっぱく)の気合いを込めた声を上げながら右足を突き出す。

 先にヒューマとクリーチャが交差するようにメガアクサーを貫いてダメージを与え、最後にエルフがその傷痕に追撃する。

 

「ハアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

 

「まだだッッ……まだ……終わってたまるかァァァッ……!!」

 

 枯葉のように朽ち果て、色も美しさも失った哀れな翅に力を入れながら必死の抵抗をするメガアクサー。しかし、僅かに込めた力が弱まった隙にエルフの蹴りが瑕疵(かし)と噛み合い、その身体を貫いた。

 

 

「ッッグアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 轟音を響かせながらメガアクサーは爆散し、その儚い命を散らした。キラキラと光る粒子が雨のように降り注ぎ、暗色の空を僅かに照らしている。

 

「勝っ…………た?」

 

 絞り出すようなエルフの声。やがて、内から湧き上がった感情が爆発する。

 

「勝ったっ! 私達勝ったよ京太郎っ!」

 

「ぃよっしゃぁぁぁぁ!!! やったぜビオラ!」

 

「やりました……やりましたよビオラさん!」

 

「京太郎ぉ〜!」

 

 ヒューマを無視してクリーチャに抱きつくエルフ。あまりのショックに呆然と立ち尽くすことしかできないヒューマは、ピクリとも動かずその場で止まっていた。

 

 暫くして落ち着き、変身も解いたビオラ達は地面に座り込んで星を眺めていた。サララ、ネディン、フィルーシュ、メロノも近くで騒ぎつつ、漸く訪れた平和を謳歌している。

 

「……綺麗な星空」

 

「だな。星空って……あんま気にしたことなかったけど、こんなに綺麗だったんだな……」

 

「京太郎くん、ちょっと」

 

「なんだ、ネディン」

 

「ちょっと、何のために耳打ちしてると思ってるの?」

 

「悪ぃ、なんだ?」

 

「満天の星空の下、敵組織の首魁を倒して平和になった今! 告白するチャンスよ!」

 

「バカかお前! できるわけねぇだろ!」

 

「……何の話してるの?」

 

「あー……気にすんな」

〔正直に言えばいいだろう。お前もその気ではないのか?〕

「うるせぇ!余計なこと言うな!」

 

「……大変そうだなぁ……」

 

 そう溢し、ビオラはまた空を仰いだ。その表情はどことなく晴れないでいる。理由はただ一つ、相棒・ウィルの消滅だ。

 未だ、その現実が受け止められない。ふと周りを見渡せばそこにいるんじゃないかと、まだ考えてしまう。

 

「……もしかして、ウィルのこと考えてんのか?」

 

「……バレてた?」

 

 ビオラの表情から察した京太郎の問いに、ビオラは苦笑いで返す。晴れない表情を続けるビオラだったが、そこにはもう一人、思い詰めた表情をしていた人物がいた。

 

「……僕の責任です。僕が……止めなかったから」

 

「ホントにね。……って言いたいとこだけど、正直貴方には責任はない。貴方がウィルに付き合わなかったとしても、きっとウィルはひとりで色々やってた。だから、貴方がウィルのことで苦しむ必要はない」

 

「でも! 僕が協力したせいで───────」

 

「それ以上言わないで」

 

 立ち上がってまで抗議する犬童を制し、ビオラは再び星空を見上げる。

 

「ウィルは私達のために頑張ってくれた。だから、これからは私達がウィルの為に頑張る。それで、いいでしょ?」

 

 頬を濡らしながら、ビオラは満面の笑みを犬童に見せた。

 その笑顔を受け止め、同じく笑顔をつくって犬童はまた地面に座り込んだ。

 

 

 遠い一番星が、静かに煌めいたような気がした。




さらばウィル。

はい、本編終了です!!!!!やったぜ!!!!!
たった2話しか登場しなかったラスボス・メガアクサーをシバき倒し、遂に本編が完結しましたぜ!
尊い犠牲はありましたが、無事仮面ライダーエルフの物語はほぼ終焉を迎えました。

次回は、今回の後日談的な内容となっております。あと1話、仮面ライダーエルフの物語にお付き合いいただければ幸いです。
それでは、また次回。

仮面ライダーエルフ───

────次回、最終回。


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最終話 Endrollー(つな)がれた手

最終話です!よろしくお願いします!

今回の話は、前回(28話)より二、三ヶ月後の話となっております。


「私宛てに手紙? 京太郎のとこに来たのに?」

 

「里に入り込むのはリスクがあるからじゃね? それより、『親展』ってあるし、ビオラが開けてくれよ」

 

「そういうとこ真面目なんだね、京太郎……」

 

 某日の真っ昼間。エルフの里に繋がる森を出て少しの所にある寂れた公園で、ビオラと京太郎の二人は一通の手紙を見つめていた。差出人は不明だが、ビオラ宛てのものであること、そしてビオラ本人に読んでほしいことがたどたどしい文字で書かれている。

 

「じゃ、俺向こう行ってるから」

 

「そこまでしなくてもいいと思うけど……えっ!?」

 

「…………」

 

「……なるほどね。だから私なのか……はた迷惑だなぁ」

 

「……なんか面倒事か?」

 

「うん、とびっきりのね。……京太郎は巻き込めない案件だから、その辺でゆっくりしててよ」

 

「……分かった。でも、ヤバくなったら呼べよ」

 

「分かってるって」

 

 ビオラはなんとか笑顔を作って京太郎に振り返るが、その表情からは面倒くさそうにしていることが見て取れる。

 一抹の不安を覚えながらも、京太郎はビオラを見送ることしかできずにいた。

 

 

 

 

「……ほう、一人で来たか。あの男に協力させるものかと思っていたのだがな」

 

「アンタのおままごとに京太郎を付き合わせられないからね。面倒事に駆り出されるのは私だけで充分」

 

「なんだと?」

 

 メガアクサーとの決戦の地にもなった開けた草原にて、ビオラ・ヒアラルクとキャメルアクサーは対峙していた。

 ビオラ達の元に届いた手紙の差出人はキャメルであった。その内容は、

『犬童託斗様の身柄を拘束した。本日未の刻、我らの頭領の散った地にて託斗様を賭けた決戦を所望する。』

……というものであった。

 

 早い話、犬童託斗争奪戦ということだ。しかし、ビオラ自身は犬童には微塵も興味はない。故に、この戦いには『面倒』以外の感情が湧き上がらない。

 しかし、だからといって犬童を見捨てるのもなんとなく寝覚めが悪い。キャメルは犬童にとって特別な存在ではあるが、自らの監禁をも享受するほどではないだろう。

 

 熱量の異なる戦いが、幕を開ける。

 

「託斗様は私の(あし)を使って拘束している。私が敗北して死ねば拘束が解けるという訳だ。もっとも、私自身は敗北するつもりなど毛頭ないがな」

 

「はいはい、じゃーさっさと終わらせましょ。ウィル」

 

「……いっけない。いい加減慣れなきゃ」

 

「何?」

 

【サラマンダー!】

【セットアップ!】

 

「変身」

 

【サモン!】

【フレイアーーーー…サァラマンダーー‼︎】

 

『おっ、アイツキャメルか? そういや倒せてなかったよなあ』

「さっさと終わらせるよ、サララ」

 

 仮面ライダーエルフ サラマンダースレイヴへの変身を済ませ、エルフはキャメルに向かって駆け出す。が、その足取りは突如として止まった。

 原因は、キャメルの腹部に現れた『エルフドライバーに似たドライバー』だ。

 

 少々形は歪だが、おおよそエルフドライバーと同じ形をしている。

 続けて、キャメルは黒と紫が混じったような色合いのオーブをその手に掴んだ。表面が丁寧に磨かれたそれは、怪しげな燐光を放っている。

 

「この数ヶ月……貴様をこの手で殺し、託斗様を私だけのものにするためにこの力を作り上げた。待っててください、託斗様……この売女は、私が殺すッ!」

 

【ダークエルフ!】

【セット!】

 

 耳の尖った人型の黒い影が、キャメルの周囲に漂う。どことなくぎこちないその動きは、強制されているようにも見える。

 

「変 身」

 

【カモン!】

【ダーク……エルフッ!】

 

「嘘……」

 

 漆黒の装甲を纏い、仮面ライダーダークエルフが顕現した。その姿はエルフのカルテットスレイヴを思わせる風貌で、右腕はサラマンダー、左腕はウンディーネ、右脚はシルフィード、左脚はノームの意匠を真似ている。しかしやはりエルフを囲う精霊達の面影はまるでなく、ただの模造であることが伝わってくる。

 紫色に光る複眼でエルフを捉え、開戦宣言とも取れる言葉を放って戦闘は始まった。

 

「さあビオラ・ヒアラルク、存分に殺し合おうじゃないか」

 

「死ぬのはアンタよ! アンタを倒して、真の平和を取り戻す!」

 

 駆け出すのとほぼ同時に両者は拳をぶつけ合う。その衝撃は周囲の草木を揺らし、次いで小鳥を驚破した。

 二人だけの空間となった草原では、泥臭い殴り合いが行われていた。華麗という言葉とは程遠い、血で血を洗うような抗争だ。

 

「さっきまでの威勢はどうしたの!? 変身しなかった方が良かったんじゃない!?」

 

「黙れッ!」

 

 ダークエルフの拳がエルフの顔面を捉えた。負けじと、エルフもダークエルフの顔面を殴り返す。そして同時に、互いの鳩尾を目掛けた攻撃を繰り出す。

 それぞれクリーンヒットし、軽く吐きつつ距離を取る。互いに殴り合いでは決着がつきにくいと考えたのか、両者は遂に能力を使い始めた。

 

 エルフの方は這うように蠢く炎を地面に放ち、ダークエルフの身体を炎で包んだ。しかしダークエルフは自身の体表から水を発生させて炎を消し、代わりに黒と紫の混じった色の炎をエルフに向けて放った。

 

 エルフは炎をまともにくらってしまっているが、現在の姿はサラマンダースレイヴ。炎を喰らってその身を再生させることができる為、あまり効果はなかったようだ。

 

「このままじゃいたちごっこだな……ごめんサララ、バハムートに代わってもらってもいい?」

『了解。悪ぃな、あんま手伝ってやれなくって』

「気にしないで」

 

【バハムート!】

 

「どうか……私に力を!」

 

【セットアップ!】

 

【カモン!】

 

【震撼せよ! 偉大なる世界の守護者をその身に宿し、悪を打ち砕け!】

 

【ヒーローーーー……バハムーートッ!】

 

「やった……!」

 

「……! 巫山戯(ふざけ)た真似を……!」

 

 エルフの想いに応え、バハムートはその力をエルフに与えた。

 仮面ライダーエルフ バハムートスレイヴ。

 無限を超える力を持つその姿には、そこに居るだけで感じさせる威圧がある。が、その程度の事で勝利を諦めるダークエルフではない。

 

 左足で地面を強く踏み鳴らし、辺りに地割れと地響きを作り出す。影響範囲はかなり広いが、エルフはピクリとも動かず平静を保っていた。

 少しでもダメージを与えようと、ダークエルフは炎弾や水弾など、様々な弾幕を展開する。だが、その攻撃は一つとしてエルフの元には届いていない。立て続けに行っている攻撃も、全てが軽くあしらわれていた。

 

 未だ地面にヒビが走り続ける中、エルフは右手を下の方へと動かしてダークエルフを強く地面に叩きつけた。重力が反転でもしたかのような、地面へと身体が引っ張られる感覚にダークエルフは必死で抗おうとしている。

 

 もはや指一本も動かせないと思われていたダークエルフだったが、彼女の必死の抵抗が功を奏したのか片膝ではあるが立ち上がることに成功した。ダークエルフにはかなりのGが掛かっているはずなのだが、それでも立ち上がることが出来たのは、彼女の異常なまでの犬童託斗への愛によるものだろう。

 

 一歩、また一歩。ゆっくりと、ダークエルフはエルフとの距離を詰めていく。

 ここまでくれば力の差は歴然だ。憐憫の情すら湧いていたエルフは、近付いてくるダークエルフを弾き飛ばすこともせずその様子を見届けている。まるで、ハイハイを覚えた赤子が近付いてくるのを見守るように。

 

「絶対に……諦めない……! 貴様に勝って……貴様を殺して……託斗様を……私の……!」

 

 だが、火事場の馬鹿力にも限界はある。片足を引き摺りながらもエルフとの距離を詰めていたダークエルフは、遂にその場に倒れ伏してしまった。

 痙攣するような微弱な抵抗は、時を経るにつれ弱まっていく。そして、完全に弱りきったダークエルフは変身の解除にまで至った。

 

 衰弱しきった様子を見てエルフも変身を解除し、キャメルの元へと歩み寄る。

 

「アンタは犬童のことをすごく大切に想ってるんだと思うし、犬童も多分アンタのことを大切に想ってる。でも、アンタのやり方は一方的すぎてる。きっと、犬童はアンタに拘束される時に抵抗したはず。アンタは、本当に犬童の気持ちを尊重してあげてる?」

 

「…………」

 

「私も、前までは人間に対する感情が一方的だった。人間のことなんてまるで考えてなかった。人間の言う事は全部嘘で、私達が正しいんだって。人間なんか、誰も信じられないって。でも、それは私が人間に歩み寄ろうとしてなかっただけだった。反発ばっかりして、ちゃんと意見を聴くってことをしてなかった」

 

「……何の話をしている。早く殺せ」

 

「……アンタ、相当無理したでしょ。やった私が言うのもなんだけど、正直アンタには相当な重力が掛かってた。それこそひしゃげてもおかしくないくらいに。アンタはそれに耐えるどころか、私のとこまで歩いて来てたんだからね」

 

「殺せと言っている」

 

「……私が殺そうとしなくとも、アンタは直に死ぬ。それとも、華々しく散りたいとかいう願望があるの?」

 

「ビオラいた! 大丈夫か?」

 

「あ、京太郎」

 

 遠くから京太郎がこちらへ走ってくる姿が目に映った。

 変身してもいない少女と、力無く伏臥している怪物。側から見ても異様な光景だが、京太郎がそれを不審に思うことは無かった。

 戦闘を予見し、そしてビオラがそれに勝利するだろうと信じていたのだろうか。それとも、これまでの経験が感覚を鈍らせているのだろうか。どちらなのか、はたまたどちらでもないのか、それは分からない。

 

「……! コイツ、確か……!」

 

「うん、もう私が…………文字通り、死ぬほど弱らせちゃったから、多分もうすぐで死ぬ」

 

「……横屋……京太郎……とか言ったか……笑ってもいいんだぞ。己の行いのせいで、大事な人に……最期を看取ってもらえない、哀れな怪物を……」

 

 

 

「『哀れ』では、ありませんよ」

 

「……! 託、斗……様……?」

 

 京太郎の陰から現れたのは、白衣に身を包んだ犬童託斗その人だった。その声に反応し、キャメルは少しだけ顔を上げる。

 

「京太郎さんが僕を解放してくれたんです。あそこまでされておいて、一つも文句が無いと言えば嘘にはなりますが……でも、ある意味嬉しくもありました。ありがとう、キャメル」

 

「ああ、ああ……! 託斗様! 私も……! 私、も…………」

 

「嬉しい…………です…………」

 

 その言葉だけを残し、キャメルアクサーは完全に力尽きた。その生命(いのち)が潰えたことを認識した犬童の眼には大粒の涙が浮かんでおり、いつまでもキャメルアクサーの身体を濡らしていた。

 

 

 

「これで本当に、終わり……なんだよね」

 

「……はい。あとは、何処かに逃げて生き延びているラテラリスアクサー数体程度でしょう」

 

「そっか。…………キャメルのこと、申し訳ないことしちゃった。ごめんなさい」

 

「いいんです、ビオラさん。貴女も知っている通り、生まれた命は消えることを運命付けられているんです。いつかは辿る結末が今だった。……ただ、それだけです」

 

「……で、キャメルの身体どうするよ?」

 

「そうですね……このままここに放置するのもしのびないですが……」

 

〔対処に困るというのなら、私がその身体を貰い受けても良いか?〕

 

「「「っ!?」」」

 

 暫く時間が経って犬童も落ち着いた頃、キャメルの身体の対処に名乗りを上げたのは京太郎の内に巣食う怪物・アルテンだった。ビオラ、京太郎、犬童の全員がその意見に驚愕を示す中、アルテンはひとり話を進める。

 

〔京太郎の身体も悪くはないが、やはりキャメルらのような身体の方が馴染む気がする。どうだ?〕

 

「……犬童次第だけど……どうだ?」

 

「…………」

 

〔困るのなら断っても良いぞ。京太郎の身体も我慢できない程ではない〕

 

「オイ」

 

「…………丁重に扱うと約束するのなら、構いませんよ」

 

「……いいの?」

 

「はい。但し……煩雑に扱った時は覚えていてくださいよ?」

 

〔承知した〕

 

 心底嬉しそうな声を上げながら、アルテンは京太郎の身体を抜けてキャメルの身体に取り憑いた。むくりと起き上がると、感覚を掴むために腕や足の運動を始める。暫く動いたところでアルテンはこちらに振り返り、子供のように無邪気な声で高らかに宣言した。

 

〔いいぞ……いいぞぉこの身体! やはりこちらの方がよく馴染む! 済まないな、犬童託斗。この身体は暫く返せそうにない!〕

 

「あっテメェ! 雑に扱うなっつったろうがああああ!!!」

 

 これまで聞いたことのないようなアルテンの嬉しい悲鳴と、犬童の怒号。この部分だけ切り取れば緊迫しているように感じられなくもないが、ビオラや京太郎のこれまでの状況を通した目線ではとても微笑ましく平和な光景として映っている。

 

「……元気ねぇ」

 

「だな」

 

「……あのさ、京太郎」

 

「……何だ?」

 

「京太郎の身体からアルテンもいなくなったことだし、改めて言わせてほしいことがあるの」

 

「へっ?」

 

「えっ、えっとね、その、えっと……」

 

 頬を紅潮させながらも、ビオラは心の動悸と緊張を必死で抑え、その言葉を口にした。

 

「その……わ、私と…………付き合って、くださいっ!」

 

「……ま、マジか。改めて言われるとすげー照れるな……」

 

「だ……駄目、かな……」

 

「いんや、すげー嬉しい。俺でよかったら、よろしく」

 

「……! ほっ、ほんとに!? ほんとにほんと!?」

 

「ああ。ほんとにほんとだ」

 

「えへへ……やったぁ……ぃやったぁーー!!」

 

「そ、そんなに喜ぶほどか……?」

 

 飛び上がり、アルテンのように無邪気に喜ぶビオラと、その喜びように若干引いてしまっている京太郎。温度差の異なる二人だが、二人に共通しているのは、これからの未来を共にする相手が明確に決まり、自分達の未来が明るいものになったと言う事実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビオラ! 後ろ来てるぞ!」

 

「了解!」

 

 例の一件から数日後、ラテラリスアクサーの残党が街を襲って来た。仮面ライダーエルフへと変身したビオラと、変身能力を失ったが状況を俯瞰したサポートで協力している京太郎が対処に当たっていた。それほど数は多くはないが、京太郎を守りつつひとりでの戦闘を強いられているエルフは少々苦しんでいた。

 

「おいビオラ! また後ろ取られて───」

 

「まずっ────」

 

 エルフの反応は若干遅れ、アクサーの攻撃は命中するものと思われた。が、

 

 

 一人の戦士がそれを防いでみせた。

 

「っ!? 誰!?」

 

 灰色の液体が斜めに渦巻いているように見える頭部、その奥に覗く黄緑色の複眼がラテラリスを確かに捉えている。首から下は四肢に白いラインの走る黒いアンダースーツに、灰色の液体が今にも滴りそうに流れ落ちている。

 腹部の、中央にある金魚鉢のような容器、それを挟むようにシンメトリーに誂えてある白いミニリフトとレバーを見るに、仮面ライダーであるようだ。

 

 エルフの誰何(すいか)には何も答えず、戦士はラテラリスの群れに突入しては次々と蹴散らしていく。

 

「すげぇ……強ぇ」

 

 半分ほど倒したところで、戦士は懐から手のひらよりも小さい、コルクで栓をされた小瓶を取り出した。中には橙色の液体が揺れている。

 親指でコルク栓を弾き飛ばすと、戦士はそれを腹部のドライバーの左側のリフトに装填した。

 

【Let's play!】

【Inject!】

 

【サクセスミックス! Let's enjoy,バッ、バッ、バースト!】

 

 流れるようにリフト下のレバーを外側に引くと、リフトが上昇して半回転、ベルト中央の金魚鉢のような容器に注ぎ込まれる。すると、ドライバーを中心に橙色の渦が発生、一瞬のうちに戦士を包んだ。渦が晴れる頃には、戦士が橙色のマッシブな装甲をまとった姿で現れた。装甲はところどころ煤けており、辺りに火薬の臭いを充満させている。

 

 戦士は自身の姿がしっかり変化したことだけ確認すると、再びラテラリスアクサーの元へ飛び込んだ。

 前蹴りや後ろ蹴りなどでラテラリスを蹴る度に、ラテラリスの身体は爆発に包まれた。とどめの回し蹴りを繰り出し、戦士はラテラリスを五体同時に爆発させる。

 軽く周囲を見渡してもうラテラリスがいなくなったことを確認すると、戦士は静かにその場を後にした。

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

 変身を解除したビオラの声に反応し、戦士は歩みを止めた。顔を半分だけこちらに向けて、様子を伺っている。

 

「あなた……一体、何者なの……?」

 

「…………アトリエ」

 

「えっ?」

 

 

「仮面ライダーアトリエ」

 

 それだけ言い残すと、戦士───仮面ライダーアトリエは、再び歩き去っていった。

 

 

 

 

仮面ライダーエルフ 完




はい!!!仮面ライダーエルフ、遂に完結です!!!!!

皆様のUA、感想に支えられてここまで来れました。
正直なところ、仮面ライダーエルフの執筆を始めた頃は、こうして最終話を迎えることを全く想像できずにいました。しかし、こうして完結させることができました。これもひとえに読者の皆様のおかげです!本当にありがとうございました!!



……さて。

新連載予告です。

































エルフ族の栄える、地球より遠く離れた惑星の新生都市『アルカディア』。
その中央に位置するアルカディア最大級の魔法学校『パラノーマル魔術学院』の錬金術科に属する少女『シャリア・ヒアラルク』は、ある日を境にその運命を大きく変容させることになる!


「誰かを傷つけるようなことは言っちゃダメだってお母さん言ってましたー」
「私は何も考えてなさそうに見えるかもしれないけど、人並みに傷つく心は持ち合わせてるよ?」

「それ以上俺に話しかけんな。馬鹿がうつる」

「……シャリアが、再び変身した……」


学校を襲う謎の怪物『マテリィ』を倒し、錬金術で日常を守れ!



新連載 仮面ライダーアトリエ!



「夢クリエ◯ション錬金術科っ!」
「最悪だ」


2022年 2月12日 始動!!


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