IS ~銀色の彗星~ (龍之介)
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始まりの章
1話


初投稿です。


「チューリップよりバッタの出現を確認!数は増加中です」

そばかすの残る顔のメグミ・レイナードは可愛い声で叫び声をあげている。

「エステバリス隊は0G戦フレームで出撃してください。ナデシコはチューリップを有効射程に捉え次第グラビティーブラストを発射します。それまではグラビティーブラストをチャージを行いながら第一戦速でチューリップ方向へ前進ください」

戦艦ナデシコの艦長のミスマル・ユリカがテキパキと指示をだしている。メグミが各所に指示を伝え、それとほぼ同時に艦が加速を始める。

指示を出し終え、状況が映し出されているモニターを眺めているユリカの前に黒髪のロン毛の男の顔が突然電子音と共に現れた。アカツキ・ナガレだ。いきなり現れたのはこの艦の通信システムのコミュニケである。

 

「ミスマル艦長!エステバリス隊の全機を迎撃に出すとバックアップが心配だ!マツナガは艦の付近で迎撃に当たらせたいが構わないか?」

「分かりました。マツナガさんは艦付近で迎撃を行いバックアップ要員とします。マツナガさん宜しいですね?」

 

次は青年のが現れた。

 

「了解です、艦長。では私はバックアップを行います」

 

黒髪黒目の少し幼さの残る男が画面に顔を見せていた。

 

「ではエステバリス隊は出るよ!」

アカツキはそう言い放つとコミュニケが消えた。

 

今現在ナデシコは地球近辺で哨戒をしていたところチューリップ…木星圏カニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体…略して木連のワープホール兵器と遭遇し戦闘中である。バッタとは、見た目は黄色いカナブンで背中の甲羅部分には小型のミサイルを収納しており4つのカメラアイをもち、小型で単体なら比較的雑魚ではあるが集団で来られるとなかなか厄介な相手なのだ。集団で迫りディストーションフィールドでの体当りをして弾きとばし、また同じ様に複数でディストーションフィールドに取り付きこれを破り撃破する。。だがディストーションフィールドが脆弱でエステバリスのディストーションフィールドによる体当たりのディストーションアタックやエステバリスの主力ライフルのラピッドライフルでも撃破が可能だ。

 

「エステバリス全機発艦しました!マツナガ機は艦の下方で併走します」

メグミの声がブリッジに響いた。

「了解しました」

ユリカが返事をするとブリッジの前を2機の青と、赤、黄、オレンジ色の機体がナデシコの進路前方へと飛んで行きメタリックシルバーの機体だけ艦の下の方へと飛んでいった。

 

 

 

マツナガside

 

 今はナデシコの下方でバッタの迎撃を行っている。ラピッドライフルを両手に持ちバッタを次々に撃破していく。アカツキ達はバッタの後続からで出てきたカトンボ級をフィールドランスで次々と撃破しているが戦況は均衡している。

スバル機だけはバッタに対しディストーションアタックを行い過ぎ去った後には次々と火球がまるで花火の様に生まれては消えている。

「マツナガ!そっちはどうだ?援護は必要か?」

視界の端の方にアカツキの顔が映った。コミュニケだ。

「いえ、今のところは問題ありません。そちらは順調の様ですね」

「そうだな。ナデシコがさっさとチューリップを落としてくれれば終わるけどね」

「もう少しの辛抱ですね。後7分ぐらいですか…」

 

突然ナデシコの後方、左舷機関部辺りから爆発が起こった。

 

「なにっ!」

アカツキの顔が驚きに変わる。

 

「え!?ナデシコ!何が起こったんですか!」

俺も驚いた顔をしているだろう。急いでナデシコに確認するがグラビティーブラストは見えなかった…恐らくボソン砲だ。

ナデシコの後方に回り状況を確認するがかなり酷い。ディストーションブロックは作動していたはずだが…

「マツナガさん!ボソン砲の様です!左舷相転移エンジンは出力が10%まで低下、核パルスエンジンも停止!グラビティーブラストのチャージはかなり遅れます。ディストーションフィールドの維持を最優先に行っています」

メグミの声からかなり事態が深刻であることが伺える。

(ボソン砲って事はどこかに有人戦艦がいるはず!なんで気付かなかったんだ!クソっ!)

 

ナデシコは一度、地球での会戦の時にボソン砲での攻撃を受け艦長の機転で撃退に成功している。その時は機関を停止し敵艦からのセンサーでの探知を阻害しエステバリス隊による奇襲を成功させた。恐らく敵は前回のナデシコの戦法を逆手に取ったのだろう。

(敵も機関を停止してこちらの探知を回避しているのか…今回は既に敵に肉薄されているから機関の停止は自殺行為…ならば…)

バッタの迎撃をしながら状況を考える。取れる手は一つしかないはず。恐らく艦長も同じ事を考えるはずだ!

 

「メグミさん!艦長に補給の為の帰艦を具申!」

「了解しました!」

 

「アカツキさん!殿をしますので一端戻ります!」

アカツキとは先程からコミュニケは繋がったままだ。

「…しかしっ!」

アカツキの顔が苦い表情になる。

「アカツキさんだってこの状況を分かっているでしょう!ここは逃げるしかない。でも殿は必要!だったら一番艦に近い俺が適任です!時間がないんです!いいですね!?」

この殿はかなり危険な任務だ。万が一の場合は戦死するだろう。

 

「マツナガさん…ごめんなさい…殿を命じます…」

今にも泣き出しそうな艦長の顔が視界のアカツキとは反対側の隅に映る。

「了解です!死ぬって決まった訳じゃないんですから暗い顔をしないでくださいよ。美人が台無しですよ!」

笑顔で答えるが正直俺もビビってる。

「これよりナデシコは全速力でチューリップに突入しボソンジャンプで脱出します。マツナガ機以外はナデシコ進路上の露払いを。マツナガ機は補給を受けた後に殿を!後部ハッチは開けておきますのでチューリップに突入中に帰艦を!ナデシコ全速前進!」

ミスマル艦長は作戦を説明したのちに指示を出しているが表情はやはり暗い。

指示を聞きながら俺はナデシコの前部の発着路へと機を向けた。

(…まさかこんな展開とは。さすがにこれは生き残れないかな…)

 

 

格納庫に戻りハンガーに機体を固定しコックピットを開けると

整備長のウリバタケ・セイヤが顔を見せた。

「すまねぇなマツナガ…辛い役目を負わせちまった。何が何でも帰ってこいよ!」

「ウリバタケさん!当たり前ですよ!俺だってまだ死にたくありませんからね。装備ですがラピッドライフルを両手にと腰に1丁。それと背中にフィールドランスをお願いします!それと腿のホルスターにラピッドライフルのマガジンを!」

「…お前って奴は!任せとけ急がせる!聞いたなぁ!!お前ら!!急げぇ!!」

ウリバタケさんは今まで聞いたことの無いような大きな声を上げてエステバリスの足元へ飛んでいった。格納庫は戦闘時には重力が切られている。補給のスピードを上げるためだと前に聞いたことがある。

機体のチェックをするためにコンソールに視線を戻す。バッテリーはずっとナデシコからの重力波エネルギー圏内だった為満タンだ。被弾も無し、関節部

の磨耗もほぼ無し。問題ない。

 

「トウヤ…」

突然声を掛けられ顔を上げると目の前には副操舵士のエリナ・キンジョウ・ウォンがこちらを覗き込んでいた。

 

「どうしたんですかエリナさん?戦闘配置中ですよ?」

「艦長のお使いよ…艦長が『必ず帰ってください』って…」

エリナも暗い顔をしている。今にも泣き出しそうだ。

 

エリナとは仲良くしていた。俺とシフトが一緒だったのもあるし変わり者揃いのナデシコの中でも俺は連合軍からの出向組である為かエリナから言わせると『まとも』らしい。エリナも真面目な性格だからか、時々愚痴を聞かせれていた。

 

「勿論帰って来ますよ」

笑って答えた。

 

「絶対よ!帰ってきたらまた愚痴を聞かせてあげるわ!」

エリナも笑ってそう言った。

 

「げっ…勘弁してくださいよ…」

愚痴を黙って聞いているのもなかなか大変なんだよなぁ。まぁ…あの時間も嫌いじゃないんだよなぁ。

 

俺の言葉を聞いたエリナは頬を膨らませる。時々こういう仕草はとても可愛く思う。

 

「女の愚痴を聞くのも男の仕事よ。これを御守りに渡しておくから帰ってきてちゃんと返すのよ」

エリナは左のイヤリングに手をかけるとはずし俺に差し出した。

(うわ…死亡フラグ?俺、顔ひきつってないよな?)

 

「…ありがとうございます。必ず帰ってきて返しますから心配しないでくださいよ」

青い宝石の付いたイヤリングを受け取り腰のポーチに入れる。

 

「マツナガ機補給完了でーす!!」

 

機の下の方から声がかかった。

 

「それじゃエリナさん!行ってきます」

俺は右手を振って声を掛けるとエリナも手を振りながら

「行ってらっしゃい。待ってるわ」

と機の下の方へと飛んでいった。

コックピットのハッチを閉めジェネレータの電源を入れると重低音がコックピット内に響き始めた。

 

機を重力カタパルトへと向かわせているとウリバタケからコミュニケが入った。

「オーダー通りに補給完了している。絶対に帰ってこいよ!」

「ありがとう御座います。行ってきます」

ウリバタケさんに礼を言うと重力カタパルトの始動位置へと機を進ませる。

 

「マツナガさん…必ず帰ってきてください。マツナガ機、重力カタパルト発進どうぞ」

 

銀色の髪の毛をツインテールにした少女がコミュニケで映った。ナデシコのオペレーターのホシノ・ルリだ。オペレーターとして調整されたマシン・チャイルドでありこの子一人だけでもナデシコを動かす事が出来る。とても優秀なのである。

 

「ありがとうルリちゃん、必ず帰ってくるよ。マツナガ機出る!」

 

掛け声を終えると同時に機体が急加速して通路を進み暗闇の茨の道を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

次回にはIS世界に行きます。


マツナガside

カタパルトを抜けると艦の前で迎撃を行うが数が多すぎてナデシコのディストーションフィールドに取り付くバッタの数が多くなりすぎている。

徐々にナデシコの速度が上がり始めてはいるがまだまだ遅い。

 

「マツナガさん!テツジン型が現れました!1時の方向、ボソンジャンプしながら近付いてきます!注意してください」

「チッ!」

メグミちゃんからの通信をうけて小さく舌打ちをしてしまう。

(最悪だ…テツジン型だけは倒さなきゃいけなくなった…どうする…アカツキ達を下げて総掛かりで行くか?それともアカツキ達はこのままフロントラインに残して俺が倒しに回るか?)

どっちを選んでも相当キツい。

状況を考えながらどう対応するか悩んでいるとアカツキから通信が入る。

「マツナガ!エンジェルスを向かわせる!お前はテツジン型の撃破に向かえ!」

「了解!あまり無理をしないでくださいよ」

アカツキからの通信に応じる。

 

「君に比べればなんてことないよ」

「はは!戻ったら火星丼を奢ってくださいね」

「りょ〜かい。じゃ頼んだよ」

アカツキの口調はいつもの軽いものに戻っていた。

エンジェルスとはナデシコのエステバリス隊の女性達だ。

緑色のショートカットで男勝りのスバル・リョーコ、茶髪のボブで明るい性格のアマノ・ヒカル、黒髪ロングヘアでダジャレが好きなマキ・イズミ。仲が良く何より腕が立つのスーパーエース達だ。

迎撃を続けていると彼方から青、赤、黄の機体がこちらに凄いスピードで向かってくる。

「おーいマツナガぁ!待たせたなぁ!」

リョーコだ。

「いや、すまない。尻拭い頼むわ」

「気にするなよ。むしろ殿をやらせちまってすまねぇ。ちゃんと帰って来いよ!そんときゃぁ俺が扱き倒してやる!」

「はっ!言ってろ!俺が返り討ちにしてやる!」

いつものやりとりが出来て俺もリラックスできる。

「リョーコぉ、もっと素直に…抱きしめて良い?ぐらいのこと言った方がいいよぉ?」

ヒカルだ。

「え?リョーコって俺狙いだったの?やたら絡んで来ると思ったら…ううむ…20歳の俺が言うのも何だが初々しいなぁ」

 

ヒカルのおちゃらけに俺も乗っかってみた。すると音声だけだったやり取りだったはずが、いきなりョーコの顔がドアップで現れた。顔が真っ赤になっている。

 

「コラー!ヒカルテメェ!なっ何言ってんだぁ!トウヤも乗っかってんじゃねぇ!…まぁどおしてもって言うなら抱きしめてやらないことも…」

 

やっぱりリョーコをいじるのは面白いなぁ。後半はよく聞き取れなかったが。

 

「戦闘(銭湯)に油断すると死ぬわ…愛に溺れてね…クククククク…」

イズミは相変わらずよく分からないな。

戦闘中にこんなやりとりをしていても戦果は落ちることはない。むしろ伸びる。これがエンジェルスの凄い所だ。

 

「おふざけはここまでにしてあとは頼みます」

そう言うと俺は1時の方向に向けて機体を進めた。

「おう!頼まれたぜ!」

リョーコもいつもと変わらない。

後方にナデシコが遠ざかっていく。

 

 

しかし本当に良く目立つ船だなぁ。船体の基本色は白色で船体と艦橋と機関部の上下が赤色になっている。

 

 

前方にボソンジャンプのかすかな光りが見えてくる。テツジン型だ。ゲキガンガーみたいな形をした大型機動兵器であるテツジンは胸にグラビティブラスト、両腕にロケットパンチの武装があり機動性はないが重武装なのである。

当然ディストーションフィールドもあり今までの対処は複数機で攻撃を仕掛けてフィールドランスでディストーションフィールドを突破して撃破するのだが今回は単機だ。どうしたらいいか…カワサキシティー戦の時みたいにボソンジャンプの出現時のディストーションフィールドがオフになる瞬間に射撃…これはあくまで出現場所を特定出来るときの戦術だ。

とにかくフィールドランスで突っついてみようか…右腕のラピッドライフルを腰のマウントにしまい左手のライフルは放棄。背中のフィールドランスを持って一気にテツジン型に突入する。

敵の右上辺りに取り付きフィールドランスでディストーションフィールドを破ろうとするが敵の左腕が飛んでくる。慌てて後退し距離をとる。

(やはり駄目か…ならば!)

次は持ち前の機動力で敵の周りをグルグル周り敵を撹乱する。IFSの操縦だがGは感じる。目が回るがそれを抑える。そして背中辺りでディストーションフィールドにフィールドランスを突き立てた。

ランスの先が二つに割れてディストーションフィールドが解除される瞬間にテツジン型が向きを変えて腕を振るってきた。

また慌てて後退をし距離をとる。

(クソ!あと少しだったのに!)

だが次に狙う場所はもう決まっている。敵の後方の足元。

振り返って上下反転するしかない。と言うことは2動作になる上に背が高い分時間がかかる。これはイケる!

再びテツジン型に突入と攪乱を始める為に近付く。その時いきなり左腕のロケットパンチが飛んでくるが当たる直前に小さな動作で避ける。

敵は間違った!

(俺の勝ちだ!)

これで敵は片腕で対処する事になる。撹乱しながら左側の足元にフィールドランスを突き立てる。案の定敵は反応が遅く反転を開始するも間に合わずディストーションフィールドを破った!そのまま背中の相転移エンジンにフィールドランスでのディストーションアタックを行い損害を与えさらに正面に回って胸部グラビティブラストの発射口にもフィールドランスを突き立てた。グラビティブラスト発射口に大きな傷を与えた。

テツジン型はボソンジャンプをするかも知れない為、急いで距離をとるとやはりボソンジャンプをしてどこかにいる有人戦艦へと帰って行った。

 

ひとまずナデシコにテツジン型の撤退を報告するためナデシコに通信をいれる。

「こちらマツナガ。ナデシコ聞こえますか?」

「こちらナデシコどうぞ」

メグミちゃんだ。

「テツジン型の撤退を確認。相転移エンジンとグラビティブラストに損害を与えたため後退した。其方の状況は?」

「現在はナデシコの速度がエステバリスの巡航を越えたためエンジェルスは帰艦。アカツキ機もまもなく帰艦します。マツナガさんも急いでチューリップ方向に向かってください!」

メグミちゃんの声は緊張している。

「了解。急いで戻る」

機を予定地点に向けて急がせる。宇宙では一旦加速したら速度は落ちない。空気とかの抵抗が無いためである。そうすると推進力の強い方が速度が速くなる。そのためエステバリスはナデシコに追いつけないのだ。

 

俺も全力でチューリップに向かう。チューリップ突入直前に減速をしなければならずその時が最も危険な時間になる。

 

 

 

しばらく進むとバッタがこちらに飛んできた。遙か先には小さく口を開いたチューリップが見えるが、後続はもういないらしく出てくる機体はいない。

ディストーションフィールドを最大に上げ速度を落とさずにそのまま突っ込みディストーションアタックでバッタの群れに突撃する。次々とバッタを爆散させていくが気にせずチューリップに向かう。チューリップの前にレーザー駆逐艦のカトンボ級が見えてきた。 

(あれも落とさなきゃいけない!)

進路を少し左に振りカトンボ級を目標にする。どんどんカトンボ級の船体が大きくなっていきカトンボ級のディストーションフィールドに浅い角度でフィールドランスを突き立てながら勢いをそのままカトンボ級へ圧力をかけ船体を切り裂く!

カトンボ級は傷から炎が上がり爆散した。

「こちらマツナガ。ナデシコ聞こえるか?」

「はい!ナデシコです。カトンボ級の撃破はこちらでも確認しました。チューリップ突入までの時間はあと5分です。マツナガさん以外は収容を完了しています」

さすがメグミちゃんだ。こちらの欲している情報を伝えなくても与えてくれた。

「了解!チューリップ前で迎撃を開始する」

 

フィールドランスを背中にしまい両腕にラピッドライフルを装備しバッタに射撃を開始する。ナデシコの減速開始まで大体4分程それまで持ちこたえなくてはならない。

四方八方から飛んでくるバッタに同じ場所に留まらないようにしながらラピッドライフルを放つ。上下左右へと回転し

ながらひたすら撃つ。時々曳光弾が混じり光の線がとても綺麗に思える。ラピッドライフルの弾が切れると高速で飛びディストーションアタックをしながらマガジンを交換して攻撃の手をやめない。

「こちらナデシコ!マツナガ機を確認しました!これよりナデシコは減速を開始します」

メグミちゃんの声が聞こえ視界をナデシコの来る方向に向けるとナデシコが確認出来る。しかしナデシコは酷い有り様だ。船体前部のYユニットからも黒煙が上がり、さらに船体中央右部からも黒煙があがっている。

「そちらは大丈夫なのか?被弾が酷く見えるが」

「大丈夫です。ディストーションブロックのおかげで被害は小さく抑えられてます」

ウリバタケ様々だな。

「了解。こちらも弾がキツくなってきたのでなるべく早く突入してくれ!」

機体をナデシコに向けて飛ばしバッタを次々と落とす。

ナデシコとすれ違ったらUターンを行いナデシコの後部につく。

追いかけて来るバッタを次々と落としなるべく敵の数を減らしていく…減っている気がしないが…

「マツナガさん!またテツジン型が来ます!ナデシコの6時方向です!距離は近いです!」

嘘だろ…聞きたくない情報がメグミちゃんからもたらされた。

「マツナガさん!もう戻ってください。あと2分もあれば逃げ切れます!」

ミスマル艦長の声がコックピットに響いた。

(ダメだ!ここで引いたら右エンジンまでやられる!)

「艦長!それは無理ですよ。俺だったら機関部を狙います。仕事はきちっと最後までですよ」

若干下の方から巨大な人型が近付いてくる。

「ナデシコは予定通りにチューリップへ突入してください。俺もなるべく艦へ戻るようにしますが万が一には艦の脱出を優先させてください!」

背中のフィールドランスを取り出しテツジン型に向かう。テツジン型は右腕をこちらに伸ばしてロケットパンチを飛ばしてくるが左に交わしてテツジン型に肉薄する。テツジン型は肉薄されることも構わずにナデシコへと向かっている。

(こいつ!ナデシコに目標を絞っている!!まずい!)

テツジン型の足元にフィールドランスを突き立てるがすぐに腕が飛んでくる。

一旦テツジン型から距離をとりテツジン型の周りをグルグルと飛び回る。テツジン型はこちらを気にせずナデシコへの距離を縮める。

「チューリップへの突入を開始しました!マツナガさん急いで!」

メグミちゃんの焦った声が聞こえた。

メグミちゃんの声が聞こえると同時に再びテツジン型の踵辺りにフィールドランスを突き立てる。やはり足元の対応は遅く今回は突破が出来そうだ。

「クソーさっさと破れろってんだぁ!」

思わず声がでてしまった。

急に前へ進むのを拒む抵抗がなくなった。フィールドが破れた!

推力全開のままテツジン型の背中にある相転移エンジンを狙うため方向を変える。すれ違い様に横薙に斬りつけ傷を与える。そのまま肩越しに転回し胸部グラビティブラストを狙おうとした瞬間に視界にテツジン型の右手が目の前に迫った!

「しまった!」

とっさに上に進路をとるが間に合わず脚を掴まれてしまった!

…まずいぃぃ!

まずはフィールドランスを背中にしまいラピッドライフルを装備しテツジン型の頭部に銃撃をくわえる。

赤いカメラアイを破壊するがテツジン型の動きは止まらない。俺を捕まえた腕を激しく振り回し俺はコックピット内が激しくかき回される。

「離せ!離せってんだ!」

左手にフィールドランスを握りテツジン型の腕に突き立てるが、勢いがなく装甲に阻まれる。

(どうする!どうしたら!)

ナデシコはすでに船体の半分まで突入しておりもう時間がない。

(急がなくては!この腕さえ何とかなれば!)

俺を掴んでいる腕が急に止まる。目の前にはテツジン型の胸部グラビティブラストの発射口が見えて発射口の蓋が開いた。

 

…あ!やば…

 

 

 

 

 



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3話

序章終了です。


マツナガside

 

胸部グラビティブラストの中にエネルギーが充填されていくのが見える。こんなに至近距離で撃たれたら塵も残らないだろう。

まずい!まずい!!

なんとか脱出しようともがくがびくともしない…

          

足を切り落とすか!?

 

・・・あ!その手があったか!

 

足をパージすればいいんだ!

急いでコンソールを操作し両脚をパージしてグラビティブラストの射線から離れる。射線から離れたところでグラビティブラストが発射された。

テツジン型の腕は自分のグラビティブラストで潰れている。

 

ナデシコの突入は後はエンジン部分のみだ。

「マツナガさん!早くもどって!!」

ミスマル艦長の顔がコックピット内に映る。いつも冷静な艦長には似合わない焦った顔をしている。…当たり前か。俺の命がかかっているんだもんな。

「ダメです!テツジン型だけは何としても抑えなくては!後ろから撃たれてナデシコが墜ちます!俺に構わず行ってください!」

そう言い放つとフィールドランスを構えてテツジン型に切りかかる、がテツジン型はこちらに向かって来ていた。しかもテツジン型のお腹の部分が開き自爆装置が作動している。このままナデシコに向かわせてはナデシコに影響が出てしまう。やることは一つしかない。

 

 

 

イヤリング返せないな…謝らなきゃ。

エリナにコミュニケを繋いだ。

「トウヤ!もう戻って!」

繋がった瞬間に泣き顔を見せられた。

「いや…ごめん。それは無理だよ。俺が戻ったらナデシコが墜ちちゃうよ。本当にごめん、イヤリング返せないわ」

エリナが焦っているのが分かる。珍しい。なぜか物凄くかわいいな。

右耳の青いイヤリングに目が行ってしまう。

 

「イヤリングなんか良いからトウヤが帰ってきて!お願い…」

 

 

「…ごめん。またな」

 

エリナの顔を見ていられなくなってコミュニケをこちらから切ってしまった。

泣きたくなった。

涙が溢れ出した。

前がよく見えない。

叫びたくなった。

雄叫びみたいなよく分からない声を上げてしまった。

エリナの名前を叫んでしまった

どうしようもなくなった。

 

 

覚悟を決めた!

 

 

 

テツジン型の腹を抱きしめ推力を全開にしてテツジン型をナデシコから引き離す。

コックピット内にジェネレーターのオーバーロードの警報が響いている。何とかテツジン型がナデシコに近付くのを防いでいる状況だ。

 

そしてナデシコがチューリップに入りきった所でテツジン型から手を離し急速に離脱するがテツジン型から光球が起こり一気に広がりその光球に飲み込まれた…

 

 

 

エリナside

 

私は艦橋の提督席の横に立って戦況を観ている…いいえ、トウヤの状況を見ている。状況は良くない。2機目のテツジン型が現れたからだ。これを放っておいたらきっとナデシコが墜ちる。きっとトウヤは2機目を放って置くはずがない…でもそれは本当にギリギリまで帰って来れない事になる。

 

 

彼がナデシコに来たのは月基地に立ち寄ったときだ。月基地では木星蜥蜴の正体をムネタケ提督に教えているところを盗撮されていたとは言え私がばらしてしまった。地球連合、地球政府にとっては最大の汚点。タブーである。

殺されると思っていた…しかし会長、アカツキは『殺されないよ』と言っていた。なぜかは分からない。

そんなときに彼は現れた。私は彼は刺客だと思っていた。勤務のシフトが一緒だったから。だから彼とは距離を置いていた。

いつも一緒にいる。それだけで私の精神はどんどんすり減った。

ある日、私は一緒に食事をしているときに意を決して彼に聞いた。

「いつまで私を監視しているの?早く殺したら?そうすればこんな船は早く降りれるんでしょ!?」

って。

そしたら彼は首を傾げて

「はい?いきなりどうしたんです?」

と言う。私も彼の反応に驚いた。

「あなたは連合が送ってきた暗殺者なのでしょ?」

「え?なんで俺が暗殺者なんですか?確かにあの真実にはビックリしましたが、私はアカツキ会長からあなたを護衛しろと言われてます」

え?護衛?あいつが私に?

「だってアカツキ会長もあの場に一緒に居たじゃないですか。さすがに責任感じてるみたいです。それにタイミングを考えてください。私がナデシコに乗ったのは月ですよ?ほぼ同時なんておかしいですよ。それと私の本当の立場はアカツキ会長のシークレットサービスです。連合宇宙軍でパイロットをしていて、いざという時に会長を護れるようにと此処に来たのです」

彼は笑顔でそう答えた。

…確かにそうだ。タイミングがおかしい。

「だから安心してください。あなたは私が守ります。そんな疲れた顔では美人が台無しですよ」

彼の言葉に思わず顔が赤くなり胸が一杯になって涙が溢れた。私は思わず…

 

それからの私は安心していつも通りの日課を送れるようになった。そして彼とよく話をするようになった。そして彼が気になるようになった。

彼はナデシコメンバーの中でもまともな思考をしていた。破天荒な行動が多いナデシコのメンバーだが、彼だけは普通の行動をとっていた。みんながテンション高く突拍子もない行動を起こす中、一歩引いて見守っていた。

でもノリが悪い訳ではなかった

みんなと楽しみ笑った。

 

彼の操縦技術はナデシコのエステバリス隊でも引けを取らないものだった。そのためかエンジェルスとも仲良くしていて気に食わない…

 

「マツナガ機がテツジン型に捕まりました!」

メグミ・レイナードが悲鳴に近い声をあげる!

(トウヤ!!)

やられちゃう!お願いだから逃げて!涙が出てきた…

 

「ディストーションフィールド出力安定。チューリップへの突入率70パーセントマツナガさんの帰艦可能限界まであと僅かです」

ホシノ・ルリが冷静な報告をしている。思わず睨みつける。でもそれは筋違い…

映像でマツナガ機の足がテツジン型に捕まって振り回されている。そして止まったかと思うと

「テツジン型にエネルギー反応。グラビティブラストを撃つようです」

血の気が引いた。

「トウヤ!逃げてぇ!!」

叫んでいた。

「マツナガ機脚部をパージ。無事です」

涙を流しながらホッとした。

 

「テツジン型グラビティブラスト発射。マツナガ機には当たっていません」

ホシノ・ルリの報告。

「メグミさん!マツナガ機と繋いでください!」

艦長は早口でメグミ・レイナードに指示を出す。

すぐにモニターにマツナガの顔が写る。

「マツナガさん!早く戻って!」

艦長の声が艦橋に響く。

「ダメです!テツジン型だけは何としても抑えなくては!!後ろから撃たれてナデシコが墜ちます!!俺に構わず行ってください!」

通信が切れるとマツナガ機はテツジン型にフィールドランサーを構えて突っ込んでいく。

「テツジン型にエネルギー反応。自爆装置を起動したようです」

ホシノ・ルリの声が艦橋内に響いた。

映像ではマツナガ機がフィールドランサーを捨ててテツジン型のお腹の部分にしがみつくところが映し出される。

 

急に私の前にコミュニケが現れてトウヤの顔が写る。彼の顔は申し訳無さそうにしている。

「トウヤ!もう戻って!」

思わず叫ぶ。

ただ戻ってほしい。それだけ…

「いや…ごめん、それは無理だよ。戻ったらナデシコが墜ちちゃうよ。本当にごめん…イヤリング返せないや」

彼の目が私を見ている。涙が溢れて霞んでしまう。

「イヤリングなんかいいからトウヤが帰ってきて!お願い…」

胸が熱くなって声にならなかった。

「ごめん…。またな…」

彼はそう言ってコミュニケを切った。彼の顔が見えなくなる。

映像は必死にテツジン型を抑えているマツナガ機が映っている。

 

「ナデシコチューリップに突入が完了します。ディストーションフィールド出力最大」

ホシノ・ルリがチューリップへの突入が完了したことを告げる。

そして…テツジン型が白い光に包まれる…

 

「イヤぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

そして私は、意識を手離した。

 

 

 



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IS学園に入学への章
4話


マツナガside

 

風だ。

 

風を感じるなんて久々だな。

 

宇宙には風は吹かないもんな。

 

風を感じたのは教育隊以来か…

 

同期は元気にしてるかなぁ。

 

ん?

 

俺はいつ地球に戻ってきたんだっけ?地球周辺で…

 

戦闘中だった!

 

目を開けると遠い青色が映っていた。いや、見えた。

 

空だ…

 

体を起こすと緑と紺と青が見える。草と海と空だ。

俺はいつ地球に戻ってきたんだ?

体を見るとナデシコのパイロットスーツのままだし手の甲を見ればIFSのマークは付きっぱなしだし。

ひとまず身体を覆っているパイロットスーツの皮膜を解除する。

Tシャツでは少し寒いが地球の風は気持ちがいい。

 

(ナデシコは…エリナ達はどうなったんだ?)

 

コミュニケを押してみるがエラー表示になる。

ダメか…

 

後ろを振り返ると白い建物が並んでいた。とても綺麗な建物でいくつも建っていた。しかも塔みたいな建物もある。

(ここはなんだ?木星蜥蜴の被害も無いみたいだな。ってことは…どこ?)

結論も出せずに建物の方へ歩いていく。足元には『寮→』だとか『校舎↑』とかの文字が浮かんでいる。

(学校なのか?)

ひとまず校舎に行けば人がいるはずなので校舎へと向かう。

 

 

しばらく歩くと前方から2人の女性が走ってきた。

 

「貴様!何者だ!?」

 

黒髪のロングヘアーで黒目の女性がこちらを睨んでいる。上下が黒のスカートのビジネススーツの方が立ち止まり声を掛けてきた。

 

「え?いや…すみません。私もなぜ此処にいるのか分からなくて。此処はどこですか?」

 

頭を下げて謝ってしまう。

そんな俺を見てもう一人のショートカットの緑色の髪でメガネを掛けた黄色いダボダボの服を着た女性がこちらに頭を下げて

 

「いや、こちらこそすみません。ここはIS学園で一般人の立ち入りが禁止されているのです」

 

と教えてくれた。

 

「アイエスガクエン?何ですかそれは?」

 

聞いたことの無い単語を聞き返してしまう。

その反応に二人の女性は驚いている。

 

「!?君は見た目はアジア系だが日本人か?」

 

黒い髪の毛の女性が尋ねてきた。

 

「はい。ニホンですが?」

 

首を傾げてしまった。

黒髪の女性がもう一人の女性に耳打ちをして小声で何かを言っている。

緑色の女性は頷くとこちらに歩み出て笑顔で

 

「ここでの長話はまずいので部屋を用意します。そこで話をしましょう」

 

と言う。

従うしかないよね。

 

「はい。従います」

 

黒髪の女性は白い建物へと向かい歩き始める俺もそれについて行く。緑髪の女性は俺の後ろに付く。

これは俺を警戒しての行動だ。この二人は警護や逮捕術を習ったことがあるって事だ。

少し歩くと建物の入り口を通りどこかの部屋へと通された。テーブルを挟んで座らされて女性二人が座ると黒髪の女性が口を開いた。

 

「まずは此方から自己紹介を。私はIS学園教員の織斑千冬だ」

 

次に緑髪の女性だ。

 

「同じく教員の山田真耶です」

 

次は俺だな。

 

「私は地球連合宇宙軍機動戦艦ナデシコ所属エステバリス隊のマツナガ・トウヤです」

 

俺が自己紹介をすると目の前の女性2人が怪訝な顔をした。織斑千冬が口を開く。

 

「地球連合宇宙軍とはどこの組織だ?」

 

え?

 

地球連合宇宙軍を知らない?

有り得ない!

 

「知らない?では木星蜥蜴は?」

 

俺の世界で誰もが知っている言葉を聞いてみる。

するとやはり織斑千冬が困った様な顔をしながら答えた。

 

「なんだそれは?先ほどマツナガさんはIS学園を知らないと言ったな?」

 

…まさか。

 

「はい。まさか誰もが知っている言葉なんですか?」

 

こめかみから頬にかけて汗が落ちるのが分かる。

 

「その通りだ。IS、インフィニットストラトスの操縦者を養成する機関のIS学園を知らない者は殆どいないな」

 

背中が冷たくなる。

俺はどこに来てしまったんだ?

 

「マツナガさん。あなたは軍人なのか?エステバリス隊と言っていたがパイロットか?」

 

織斑千冬の言葉が俺を現実に引き戻す。

 

「はい。エステバリスは人型機動兵器です。」

 

「木星蜥蜴とは敵なのか?」

 

またも織斑千冬だ。

 

「木星蜥蜴、正式な名称は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星反地球国家連合体と言い略して木連と言い地球に対して侵略をしています。ただ…」

 

俺は続けられなかった。木連の人々は過去に月と火星を追われた人々と。

 

「なんだ?木連とやらは宇宙人なのか?」

 

織斑千冬は腕を組んで訪ねてきた。

 

「いえ、木連の人々は元々地球人でした。月と火星の独立を訴えて追われた人々が木星圏で生きてきた人々の末裔です」

 

俺の言葉に織斑千冬も山田真耶も驚愕の顔を浮かべる。地球人の所かそれとも火星、月、木星なのか。

 

「マツナガさん…あなたは別世界の人なのか?」

 

織斑千冬が立ち上がり聞いてくる。

俺も迷ったが思ったことを口にする。

 

「その様ですね…確信が持てました」

 

俺は織斑千冬の顔を見ずに下を向いた。

信じたくは無いがあまりにも話が通じない。同じ日本人なのに…

 

「インフィニットストラトスとは機動兵器ですか?」

 

先ほど聞いて気になる単語を尋ねてみる。次は山田真耶が答えてくれるようだ。

 

「インフィニットストラトス、略してISとは宇宙での活動を目的としたマルチフォームスーツです」

 

スーツ?ロボットなのか?

 

「まぁ…ひとまずマツナガさんの素性は分かった。ひとまず休んだらどうだ?ひどい顔をしているぞ。すまないがID確認のために唾液を貰っていいか?」

 

織斑千冬はスーツのポケットからプラスチックの試験管を出す。中に綿棒が入っておりそれに唾液を付ければ良いのか。

俺は頷き試験管を受け取ると綿棒を、舌の上で湿らせて試験管に戻す。

 

「山田先生、客人用の部屋を用意してくれ。確保出来たらマツナガさんを案内して欲しい。マツナガさんはすまないが山田先生が戻ってくるまでここで待っていて欲しい。念のため言っておくが出回ったりしないでくれ。勝手に出歩くと捕まるからな」

 

そう言うと部屋から出て行ってしまった。

 

「では私も行きます。10分掛からずに戻ってきますので待っていてください」

 

山田真耶も立ち上がり俺が頷くのを確認すると部屋を出て行った。

俺は座っているソファーの背もたれに背中を預けて天井を見る。

 

(どこなんだ此処は。木連を知らないって事は戦争も起きていないって事か)

 

戦争が当たり前になりかけていた。木星蜥蜴は倒すべきもの。軍の中ではそう教わっていた。しかし街中では軍があまりにも弱すぎるため士気は低かった。諦めれば良いなんて声も聞こえた。

だがナデシコに配属になり木星蜥蜴の正体を知ってからは考えないようにしていた。

 

彼等の気持ちが分かるからだ。

 

だが、彼等が火星の人々を殺したのは許せない。

 

だが、地球がやったことに比べれば…

 

止めよう。

こんな事考えても仕方がない。

目をつぶる。

心地良い。

しばらくこうしていよう。

 

 

「マツナガさん。マツナガさん」

 

え?寝てしまった?

 

「あ!はい?」

 

目を開けると山田真耶がこちらを覗き込んでいた。二つの山脈越に見える顔は笑顔だった。

 

「よっぽど疲れてたんですね。お部屋の確保が終わりましたので迎えに来ました。それと食事は私が部屋まで持って行きます。では付いてきてください」

 

山田真耶と部屋を出て行く。建物を出て学園の中を歩く。本当に綺麗な学園だ。もしかして国家予算で運営しているのか?

 

「山田さん、この学園は国で運営しているのか?」

 

隣を歩く山田真耶に聞くと頷く。

 

「はい。アラスカ条約でこのIS学園は日本の国家予算で運営しています。しかも世界でここにしか無いんですよ!」

 

笑顔で答えているが、なんで世界で唯一の学校を日本の予算だけで運営しているんだ?押し付けとか思いやりってやつか?

通路の案内を見るとどうやら寮に向かっているようだ。

建物の前に来ると看板には「1学年学生寮」と書いてある。

中に入り一番目の部屋の前で止まる。プレートには「寮長室」と書いてある。

 

「マツナガさん、すみませんが客人用が、とれなかったので寮長室を使ってもらいます。鍵は預かっていたので渡しておきます。では後で夕食と着替えを持ってきますので寛いでください」

 

鍵を渡されて山田真耶は出口に向かっていった。

 

鍵を開けて扉を開けると…

 

ゴミ溜めの部屋だった。

 

なんだこれは…

 

しかも最近まで使っていた形跡がある。しかも洗濯物もあるし…女性物?

 

部屋は間違えてないよな?山田真耶は寮長室って言ってたもんな…

 

片付けよう…

 

 

 

たっぷり1時間かけて部屋を片付けて今は洗濯物を乾燥機にかけている。

ゴミは3袋出て玄関に置いておいた。

2つあるベッドの荷物が沢山あった方に腰を掛けて外を観る。夕焼けがやたら綺麗だ。

ベッドに横になる。

 

 

『トウヤはもう少し相手の気持ちに敏感にならなきゃダメよ!』

 

エリナが頬を赤くしながら怒っている。

 

『優しいのは良いことだけどあまり他の人まで優しくしているといつか…刺されるよ』

 

ニコ!

 

ビクッ!!

 

目が覚める。

 

あの笑顔は危険だ。

 

外はすっかり暗くなり部屋の中も暗くなっている。明かりをつけると机の上に食事とジャージが置いてあった。時間は19時だ。

ひとまず着替えて食事にしよう。パイロットスーツは圧力をかけているため意外と疲れる。

ジャージは楽で良い。

食事は和食だった。焼き魚定食だ。

食事を一人で食べるなんて久しぶりかも知れない。ナデシコの時は常にエリナと一緒に食べていたし、食堂には誰かしら知り合いがいた。機関科や整備班・ホウメイガールズなど同じシフトの連中や食堂のウエイトレス達だ。

独りの食事がなこんなに寂しいとは。

黙々と食べていると部屋の扉が開いた。中に入ってきたのは織斑千冬だ。

 

「目が覚めたのか。すまなかったな。部屋の掃除をしてもらって」

 

少し赤くなりながら目をそらす。

 

 

え?織斑千冬の部屋だったのか?

 

 

「いいえ、構いませんよ。むしろ勝手に片してしまい済みませんでした」

 

笑うしかない。

 

「食事が終わったら相談がある。今後のことだ」

 

そう言っ手にて持っている封筒を見せた。織斑千冬は俺に封筒を見せると洋服ダンスから下着を取り出しシャワー室に向かった。

俺は食事を続ける。

シャワー室から織斑千冬が出てくると少し赤い顔だけを扉から出して

 

「バスタオル知らないか?」

 

と聞いてきた。

 

「バスタオルは乾燥機の中に有ります。勝手に洗濯させてもらいました」

 

「ああ…ありがとう」

 

そういうと扉を閉めてシャワー室に戻っていった。

 

それから30分程してから織斑千冬が出てきた。髪の毛が少し濡れていて色っぽい。自分で顔が熱くなるのがわかる。

 

「マツナガさん、封筒の中身は見たか?」

 

バスタオルを肩に掛けていてジャージを着ている。

 

「いいえ…確認します。それと私の事はマツナガと呼び捨てで構いませんよ」

 

封筒の中身を出すと入学案内と書いてあった。

 

え?

 

「先程の唾液で身分とISの適性を確認させてもらった。身分は登録なし、ISの適性はAと分かった。恐らくマツナガはISを動かす事が出来るのではないかと思う」

 

冷蔵庫から缶ビールを取り出すとプシュッ!と音をさせて開けると一口呷る。ベッドに腰を掛けて話を続ける。

 

「もう直ぐ新学年が入学するのだが私の弟が入ってくる。出来れば一緒に入学して欲しい」

 

ほほぉ。弟がいて入学するのか。

 

「構いませんが他にも仲のいい奴も一緒に来るんじゃないのですか?」

 

「いや、それはない。なんせ男は一夏一人だからな」

 

…何?

…ってかなぜ?

 

「男が一人?」

 

「そうだ。なんせISは女性しか操縦出来ないからな」

 

織斑千冬が自信満々に言っている。

 

「はぁ?女性しか操縦出来ない?どんだけ欠陥兵器ですか!?今までに男性操縦者は現れた事は?」

 

「いや、一夏が初めてだ。そして私の予想ではマツナガが2人目だ」

 

織斑千冬はニヤリと笑っている。

 

「何にせよ明日の朝にISに触れて確認してもらう。もし動かせるなら入学してもらいたい」

 

女子高に男が2人だと…キツいな。

織斑千冬が2本目のビールを開けながら話を続ける。

 

「それにマツナガにとっても悪い話ではない。まず学園にいる間は他の機関や企業からの影響がない。学園の規則でそうなっている。そして、学園の規則とは国際条約だ。それと身分は私が何とか出来る。全寮制だから住む場所は困らない。卒業後は恐らく引く手あまたになる。何だったら学園で採用する事も出来る」

 

なかなか条件がいいと考えて良いのだろうか。

それとも囲い込みなのか。

だが、俺の第一の希望はナデシコに帰る事だ。

 

 

 

 




2015.07 改編


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5話

携帯での執筆のため4000字程度が限界です。


暫くは此処で世話になるのも良いかも知れない。

 

「分かりました。明日の朝の検査でISが動かせるなら入学します。ダメでも教官ぐらいならやりますよ。織斑さんにこれくらいでしか恩を返せませんから」

 

そう言うと織斑千冬は笑い始めた。

 

「気にするな。何処か分からない場所に一人でいるのは辛い。ましてや異世界だと思われるなら尚更だ。それと私の事は千冬で良い。だが仕事中は織斑先生だ。ところでマツナガは何歳なんだ?」

 

千冬は上機嫌みたいだ。

 

「俺は20歳ですよ。千冬は?」

 

年齢を言うと千冬は驚いていた。

 

「なんだ私と殆ど変わらないじゃないか私は21だ。マツナガはもう少し下だと思っていたんだがな。マツナガも飲むか?」

 

千冬はビールを差し出してきた。

 

「では頂きます」

 

ビールを受け取り一気に飲み干す。向こうと味はさほど変わらない様だ。

 

「良い飲みっぷりだな!もう一本どうだ!」

 

さらにビールを出してきた。千冬は3本目に突入。

 

「明日の検査は影響無いのですか?」

「大丈夫だ。起動の確認と動いた場合は模擬戦だ。特に数値をとる訳じゃない」

 

いや…十分不味いだろ。機体を動かすのに前日に飲酒とか…

まぁ千冬の機嫌も良いことだし付き合おう。

 

「了解です。付き合いますよ」

 

掃除の時に冷蔵庫を開けたがビール祭りだった。ビールが9摘みが1。

 

「マツナガ。戦争ってのはどういうものなんだ。私達の世界は私が思うに微妙なラインに立っていると思う。ISって言うのはアラスカ条約で軍事利用が禁止されている。だが実際には軍事利用されている。戦争になると今の学生も国がヤバくなれば駆り出されるだろう。だが私は戦争と言う物を知らない。教えて欲しい」

 

千冬は急に真面目になった。

戦争…俺がの世界は地球と木星の戦いだった。お互いに正義があり主義主張があった。

 

「はっきり言ってろくな物じゃありません。戦争に勝つために必要なことは相手の補給を断つ事が最も手っ取り早いです。補給を断つと言うことは工場を攻撃する事です。一般人が働いているんです。攻撃されれば恨みが起こり殺せと叫び、また殺し、また叫ぶ。負の連鎖です。俺も同期が初陣で何人も死にました。やはり仲良くしていた分恨みは起きました。ですが敵の正体を知ったら恨めなくなりました」

 

ここでビールを呷る。

 

「敵の正体とは木連の人々の事か?」

 

千冬も呷る。

 

「はい。開戦当初は木星の方角から蜥蜴の尻尾の様に切っても切ってもやってくることから木星蜥蜴と呼ばれていました。しかしある時、木星蜥蜴の正体が月と火星で独立運動を行った者達が追放され木星圏に逃げて行った者達の末裔と分かりました」

 

千冬の顔が驚きに染まる。

 

「そして彼らは恨みをもって火星の住民を虐殺したと思われます。私が乗っていたナデシコの当初の目的は火星住民の救出と資源の回収でしたが、敵の圧倒的な戦力の前に敗退し命からがら脱出しました。コロニーはことごとく破壊されていたそうです」

 

ビールを呷るが無くなった。千冬が渡してくれる。缶を開ける。

 

「結局どちらも恨みによる虐殺をしているようなものなのです。私も何人かは殺していますが最初はおかしくなりました。人を殺した罪悪感で狂いそうでした。戦争は技術発展は促しますが人として大切なものを捨てることになります」

 

ベッドに座りながら天井を見上げる。最後に自爆をした敵は脱出は出来たのだろうか。

 

「そうか…すまなかった。つまらん話をさせてしまったようだ。私もIS操縦者だがいつ戦争になるのかと恐怖を感じている。学生達はアラスカ条約のお陰でスポーツだと思っているが真実は兵器なのだ。そこら辺を分からせたい」

 

千冬はビールを見つめている。

覚悟の話だな。いつか人を殺す可能性がある、その覚悟。

 

「チャンスがあれば教えます」

 

俺は笑顔で答えた。覚悟は経験によって生まれる。初陣は覚悟ではなく我慢だ。恐怖に打ち勝つ我慢。

 

「たのんだ」

 

千冬は笑顔だった。

それから俺たちは色々と話しながら飲んだ。

俺の世界の事。

千冬の世界のこと。

ナデシコとは。

俺の世界の兵器の事。

白騎士事件。

地球連合軍宇宙軍。

 

俺はふとエリナから預かったイヤリングを思い出してポーチを開けるとそこにはなぜか装飾されたイヤリングがあった。

イヤリングの青色の宝石は変わらないがシルバーの花の装飾にはめられていた。

イヤリングにしては大きすぎる。ブローチとでもいうのだろうか。

 

「イヤリングが変化している」

 

「まさか…マツナガ…これを身に付けてそこの壁を透視するイメージをしてみろ」

 

千冬が急に怪訝そうな顔をながら指示をしてくるので従ってやってみる。

すると壁の向こうの状況がX線画像みたいに見えた。驚いた。

 

「ち、千冬さん向こう側が見えましたよ!何ですかこれは!?」

 

千冬さんは頭を抱えていた。

 

「468機目のISだ…」

 

 

え?

 

「なぜ俺の所に?」

 

まともな質問だと思う。

 

「私が知るか。篠之乃束に聞いてくれ」

 

條之乃束、ISの発明家にして天才にして『天災』らしい。未だにISのコアは篠之乃博士しか制作出来ないらしい。兵器としては落第だ。

 

「明日の検査でそのISも調べてみよう」

 

そう言ってビールを飲みほす。

そして次の缶に手を着ける。

俺も続く。

まさかISまで持っているとは。何が起きているんだ?

何も考えずに飲もう!

千冬と時間を気にせずに飲み明かした。

 

 

朝起きたら一緒のベッドにいたのには焦ったが千冬が酔いつぶれてただ一緒に寝ただけだったようだ。

 

 

 

 

 




2015.07 改編


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6話

織斑千冬side

 

第1アリーナで私達の目の前には国産ISの打鉄が待機状態で鎮座している。

防御力に定評があり近接戦闘に優れている。

そしてその目の前に昨日突如としてIS学園の敷地内に現れた男、マツナガ・トウヤが立っている。これからISの起動実験を行うのだが、起動する事は確定している。昨日私の部屋で専用機のハイパーセンサーを作動させたからだ。機体の全容は分かっていないが今、解析している。

 

「ではマツナガ、ISに触ってみてくれ」

 

少し緊張した面持ちのマツナガが微笑ましく思える。最初はみんなあんな感じだ。だが彼は話を聞く限りだとこっちの世界の基準で考えるならスーパーエースだ。

マツナガが打鉄に触れる。

 

「織斑先生、何かが頭の中に入ってきます。俺、このISの動かし方がわかります!」

 

マツナガの少し焦った声に笑みを浮かべてしまう。

 

「分かった。マツナガ、お前はISの適性がある。では次にそのISに寄りかかるように背中を預けてみてくれ。そうすると装着される」

 

マツナガは一回頷くと背中を打鉄に預ける。すると打金が白く輝き粒子化していきマツナガの体の周りを纏い次々実体化していく。最後に肩の10センチほど離れた所に浮遊式の盾が現れた。成功だ。

 

「マツナガ、気分はどうだ?ISの装着が完了したぞ」

 

マツナガは自分の手や足を見て驚いている。

「なんだかエステバリスを操縦している時の感覚に似ていますね。昨日話したIFSですよ」

 

昨日聞いた話では確かイメージ・フィードバック・システムだったか。脳の伝達を直接機械に繋げるナノマシーン。伝達速度ではIFSの方が上だな。此方は視線と圧力による電位差測定だからな。

 

「おそらくそのIFSと言うものよりも反応速度は下の筈だから転ばないように注意しろよ。問題ないなら歩いてくれ」

 

私たちは打鉄の前から退くとマツナガの乗った打鉄は歩き始める。徐々に早くなっていき最後には走り始めた。

…まさか初めて装着してもう早足だと…

驚いた反面、当然か…ISもエステバリスもイメージで動くものだ。イメージさえ出来れば何でも出来る。

マツナガは次にホバー走行を始めた。スケート靴を履いているみたくすいすいとそこら中を走り回る。次いで飛行に移った。

(マツナガはいきなり教官で良いような気がしてきたな)

そんな事を考えているとマツナガが私達の前に降りたった。

隣の山田先生や検査担当達は唖然としている。

 

「素晴らしい腕だな。いきなり教官としてやっていけるんじゃないか?」

 

私が声を掛けると笑いながら答えた。

 

「まだまだでしょう。飛行の仕組みとかを確認していませんが姿勢とかが勝手に補正されるという事は自動の姿勢制御とかが働いているはずです。それをマニュアルで制御出来なきゃ教える側には立てませんよ」

 

驚いた。PICの自動制御にももう気付いたのか…

やはりパイロットと言うのは伊達ではないな。

 

「その通りだ。歩行でもオートバランサーが作用している。ひとまず装着を解除してくれ」

 

そう指示するとマツナガは戸惑うこともなく打鉄の装着を解除する。やはりIFSのおかげでイメージ力が素晴らしく良いのだろう。

マツナガがこちらに歩いてきた。

 

「マツナガ、これで入学が決まった。入学は2週間後だ。それまでにお前の身分は用意しておく。この後に必読の資料と入学用の書類を渡す。夜に教えるので記入してくれ。3日でIDが発行されるので外出も出来る様になるので我慢してくれ。そして午後に私と入学前の模擬戦を行うのでそれまでその打鉄を自由に使ってくれて構わない。山田先生はマツナガのサポートを頼みます」

 

私はアリーナの出口に向かって歩みを進める。

 

…妙に気分が弾んでいる。何なのだろうか。まぁ楽しみだ。

 

 

 

マツナガside

 

ISの検査が終わり打鉄を自由に使えるようになった。昼まで残り50分。山田先生がサポートに付いてくれるらしいのでマニュアル制御の仕方を教えて貰おう。

打鉄を再び装着して山田先生に聞いてみる。

 

「山田先生、マニュアル制御の仕方を教えてくれませんか?」

 

山田先生は驚いた顔をしている。

 

「え!?もうマニュアル制御をするんですか?やり方は機体の詳細状況から機体制御のPICの自動を手動に変更で出来ます」

 

山田先生の言われたとおりに変更する。

そして歩き始めると確かに前後左右の重心移動がシビアになっている。だがこれをマニュアル制御出来ないようでは戦闘では生き残れない。

まずは歩き、そして走り、そしてジャンプと前転、側転と試す。やはりエステバリスと大差は無い。若干機体の反応速度がエステバリスより打鉄の方が悪い。

続いて飛行を始める。まずは1メートルの所で滞空する。マニュアル制御の為、最初はフラフラと前後左右に動いていたが段々と安定してくる。次は高度を維持したまま前進、停止、後進、左平行移動、右平行移動と反復で繰り返す。

地味だが基本動作の反復練習はとても重要だ。

次は高度を変えたり右回転、左回転とエステバリスの教育隊で行っていた動作を繰り返す。

段々と慣れて飛行を行う。一点を向いたまま上下左右に飛行する。またハイパーセンサーの特徴の 周囲360度を視界にあるという特徴から腕を背中方向や真下に向けたまま射撃するイメージをする。

 

「マツナガさん!お昼の時間になりました。食事にしましょう」

山田先生が下の方からインカムで通信を入れてくれる。

ハイパーセンサーの精度は物凄く山田先生の睫毛までハッキリと見える。

俺は頭から地面に向かいフルブーストを行い急加速をする。一気に速度が上がり地面の直前で反転、足からフルブーストをして作用を殺す。そして滞空する。地面まで15センチ。

まあまあかな。

 

「マツナガさん!いきなりなんてことをしているのですか!危ないですよ!」

 

山田先生に怒られた。

 

 

 

学園から借りたISスーツに昨日借りたジャージを纏い山田先生と食堂に向かう。山田先生いわく、今回向かうのは職員用の食堂らしい。男性操縦者は珍しい、と言うかセキュリティーの関係でまだ公表したくないらしいので職員用食堂で食べるらしい。そしてその時に生徒会の生徒会長と会うらしい。

校舎に入り教職員食堂と書かれたプレートのある扉を開けると一人の女生徒が立ち上がった。水色のショートカットの髪の毛でIS学園の制服だろうか

薄い黄緑色のベストに白いスカートを履いているそして右手には扇子らしき物を握っている。

俺達が近付くと会釈をした。

 

「マツナガさん、こちらが生徒会長の更識楯無さん、4月から2年生です」

 

山田先生が女生徒を紹介してくれる。

 

「初めましてマツナガ・トウヤさん。更識楯無です。宜しくお願いします」

 

更識は右手を出してくる。

(…なんだ?この威圧感と言うか、なんだ…)

よく分からない雰囲気を感じる。

 

「あら?すみません。そんなに警戒しないで下さい」

左手に持ち替えた扇子を開き口元を隠す。

扇子には『安全』と書いてある。

よく分からないがただ者ではないという事か。

 

「すまなかった。マツナガ・トウヤだ。宜しく頼む」

 

握手をする。

 

「さすがシークレットサービスの訓練を受けていただけはありますね」

 

千冬が話したのか。

 

「君は何者なんだ?何だか只ならぬ雰囲気を感じるのだが」

 

更識と握手を終えて席につく。山田先生は食事を取りに行ってくれたようだ。

 

「私はしがない生徒会長ですわ。フフフ」

 

更識はまた扇子で口元を隠して笑っている。

扇子の文字は『会長』に変わっていた。

どうなっている!?

何だか苛つく。

 

「君は私をおちょくるために話をしに来たのか?何か話があったのでは?」

 

この更識には何かがある。何かは分からないが…

 

「気を悪くしたなら謝ります。お話と言うのは来年に入学する織斑一夏君、千冬先生の弟さんの事です。彼は男性操縦者ですがあなたと違い護身術などを一切習っていません。そんな一夏君を狙う不届き者が現れる可能性がありますのでマツナガさんに護衛をお願いしたいのです」

 

更識の話は分かるがなぜ生徒会長がこんな話を?

 

「話は織斑先生からは聞いているがなぜ生徒会長の君からその話を私にしてくるのだ?そう言う話は学園側からあってしかるべきだろ」

 

更識は驚いた顔をしている。

なぜそこで驚く?

 

「確かにその通りです。では詳しい話をします。更識家は日本政府からも依頼を受けている対暗部用暗部です。更識盾無は世襲制で私は現在の更識家の当主です。今回マツナガさんへのお願いは織斑一夏君の護衛の依頼です」

 

対暗部用暗部?防諜の事か?依頼?

まぁ受けても良いか。どっちにしても千冬のお願いでもあるしな。

 

「分かった。元々織斑先生からのお願いでもあったからな。それでメインは俺でカバーとサポートが更識と言う認識で構わないか?」

 

更識は頷いた。

 

「それで構いません。それで共同で護衛に当たるにあたってマツナガさんに生徒会に副会長として入って頂きたいのです」

 

「それはなぜだ?」

 

「生徒会メンバーは私の従者で固めています。そのため連絡のやり取りや生徒会の権限の行使がし易くなるからです。それと裏の方々へのアピールです。『更識とマツナガは共同で対応している』つまり、繋がっていると言う意味です。そうすればマツナガさんの負担も少なくなるのでは?マツナガさんに手出しすれば更識が動くと言う暗黙が出来ます」

 

納得できる。そうすれば手を出してくる組織は減ってくるだろう。

 

「分かった。ではそれで構わない」

 

俺が納得すると更識が改めて右手を出してきた。俺も右手を出し握手をする。

 

「宜しく頼むよ、更識」

 

「楯無って呼んで下さい。マツナガさんの方が年上でなのですから」

 

話を終えると山田先生が戻って来た。

 

「丁度話が纏まったようですね。では食事にしましょう」

 

3人で食事を始め会話も進み、それなりに楽しい昼食となった。

 

 

 




2015.07 改編


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7話

今回は千冬様との戦闘です。
読みにくいかと思いますが勘弁してください。


マツナガside

 

昼食を食べ終えて山田先生と共に第1アリーナに戻る。

アリーナには千冬がISスーツで待っていた。

 

…エロいな、ナデシコのパイロットスーツよりエロく見える。なぜ旧スクール水着にニーハイソックスなのだ。

ここにこの世界の謎が一つ増えた。

 

 

「マツナガ、お前のイヤリングだがISであることが判明した。お前が持っていたことによりお前の専用機とする。返すので展開してみてくれ」

 

千冬からイヤリングを受け取り手に持って展開を念じる。すると身体中に粒子が展開されて装甲が装着されていく。

腿、腹部、胸部、首、顔と全て覆われた。

粒子が落ち着き千冬を見ると千冬も驚いている。

 

「マツナガ…全身装甲なのか?もしやそれがエステバリスと言う物なのか?」

自分では見えないのですよ千冬さん…

山田先生が鏡を取り出し此方に向けると…シルバーの0G戦フレームだ。俺が乗っていた機体だ。

「これはエステバリスで宇宙戦闘用のフレームで0G戦フレームと言います。俺がナデシコで使用していた機体じゃないかと思います」

 

それにしても何で0G戦なんだ?

視線で制御が出来るようだ。詳細情報で武装を確認する。

ラピッドライフル、イミディエットナイフ、フィールドランサー、吸着地雷だった。

エステバリスの標準的な装備だ。しかし俺が感じたのは0G戦フレームのフィールドランサー以外の決定打の無さだ。元々エステバリスは決定打が無い。砲戦フレームのキャノンぐらいか。

 

「よし。では慣熟訓練を始めてくれ」

 

千冬と山田先生はアリーナの端に移動する。

 

打鉄の時と同じようにマニュアル制御にして歩行、走行、ホバー、飛行と慣熟訓練をこなす。

 

「地味だが確実な訓練方法だな。あれならば直ぐにマニュアル制御も慣れるだろうな」

 

「ええ。午前中の時もやっていたのですが打鉄のマニュアル制御の慣れがとても速かったです」

 

千冬と山田先生の会話だ。暇が出来たら訓練資料を作ってあげよう。

30分も訓練をすると違和感なく動かすことが出来るようになった。

 

「織斑先生、模擬戦行けます」

 

通信を送ると織斑先生が打鉄を纏って俺の前に降り立った。

 

「レギュレーションはシールドエネルギーが80パーセントを切ったら負けだ。いいな」

 

千冬の声が高ぶっているのが分かる。俺もワクワクしている。だがどうやって戦うか迷ってもいる。決め手は間違い無くフィールドランサーだ。だがフィールドランサーはフィールドに対する装備で鍔迫り合いなどはやったことがない。強度が未知数なのだ。千冬は過去の世界大会を刀一本で優勝したと聞いている。打鉄は近接特化している。近接で攻撃してくる。

 

「了解です」

 

どうするか…

ひとまず距離をとってライフルで牽制するしかない。そしてフィールドランサーで突撃…勝てる気がしないが。

 

「では模擬戦を開始します」

 

山田先生の声が聞こえてその直後にアリーナ内にブザーが鳴り響いた。

 

開始直後に後方に飛びラピッドライフルを呼び出す。千冬も同じようにブレードを呼び出しこちらに突っ込んで来る。

後退しながら千冬にフルオートで撃つ。しかし千冬は上下左右に小刻みに機体を振り旨くかわす。

このままでは当たらないと思い千冬の上を交わすべく前進と上昇を行う。急激に千冬との距離が近くなり千冬はブレードを横薙にいれるべく腕を前に出してくる。

(今だ!)

機体を上昇させ倒立させて千冬の頭上を通り過ぎ背中が見えたところでライフルをフルオートで撃つ!

しかし千冬の機体は急に上へと逃れ俺と同じ方向に噴射をして倒立してかわした。

(なんて反応速度だよ!)

俺は倒立状態のまま後進して距離をとろうとするが千冬もいつの間にか捻りを入れてこちらに向かってブレードを構えて突っ込んでくる。

(ヤバい!)

あわててライフルの持っていない手にイミディエットナイフを呼び出しブレードが来るのを待つ。

千冬は俺の左肩方向から振り下ろしてきたがイミディエットナイフで軌道をそらし体を半身開くことでかわした。

 

「マツナガ!どうした!逃げてばかりじゃ勝てんぞ」

 

千冬が嬉しそうな声でそんなことを言っているがこっちは余裕が無い。

 

「こっちは余裕が無いんでね…」

 

ひとまず千冬から距離をとりライフルとナイフをしまい代わりにフィールドランサーを呼び出す。ランサーを両手で構えて千冬の方へ飛び込んでいく。千冬も同じくブレードを構えて此方に突っ込んできた。

俺はランサーの長さを生かして連続の突きを入れると千冬はブレードでうまく軌道をそらしてかわす。

少し左に弾くような突きを入れると千冬のブレードがうまく左に弾けその隙に右回し蹴りを入れる。しかもつま先の回し蹴りだ。

うまく回し蹴りが入り千冬は左に飛んでいった。すかさず追撃をかけてランサーを突き立てる。これもうまくフィールドに当たり有効打となった。

 

「回し蹴りとはビックリしたじゃないか!」

 

千冬は起き上がりブレードを構えてこちらを見つめている。

 

「戦闘は相手の意表を突くものです。道具や武器を持てばそれらばかり使う、と考え体術などを織り混ぜればかなり有効です」

 

千冬がブレードを構えてこちらに向かってくる。

俺はランサーを構えて上段からの斬りつけをランサーで受け止めまた左回し蹴りをいれる。しかし千冬は後ろに飛び退き避ける。しかし俺は左半身になりながらも千冬に突撃して左肩でショルダータックルをする。千冬は避けきれずもろに受けて俺の左肩から離れられずにいる。

そのまま千冬を壁まで叩きつけ右手に持っているランサーを千冬のシールドバリアに突き刺しランサーの刃を開きシールド貫通させる。これで大ダメージのはずだ。

実体ダメージを与えるために千冬の左肩の浮遊シールドにランサーを突き立てた所でブザーが鳴り響いた。

 

「織斑機シールドエネルギー80パーセント切りました。マツナガ機の勝利です」

 

山田先生の声がアリーナ内に響いた。

俺はランサーをしまい千冬を見ると何故か千冬が恍惚とした表情をしている。

 

「織斑先生、どうしました?」

 

ISの左手を出すと千冬も右手を出して掴み立ち上がった。

 

「まさか負けると思ってなくてビックリしているのさ」

 

千冬の顔が赤い。

 

「がむしゃらに形振り構わず攻撃したのですよ。まともにやってたら勝てません」

 

立ち上がるのを確認すると手を離しアリーナの入り口へと飛んでいく。千冬も後ろから追いかけてきている。

自分のシールドエネルギーを確認すると19パーセント程減っていた。つまり後少しでもエネルギーが減っていれば俺の負けだったと言う事だ。それにしてもどこでエネルギーが減ったんだ?

入り口に着くとISを解除した。千冬も打鉄を解除して地面に降り立った。

 

「では、これで模擬戦を終了する。マツナガ、また模擬戦を頼んで良いか?」

 

千冬が右手を差し出している。

俺は千冬の手を握り

 

「勿論です。いつでもお相手しますよ」

 

と答えた。なんだか清々しい気分だ。

千冬も嬉しそうに笑っている。

良いライバル?になりそうだ。

 

「よし、ではこらから毎日私と一緒に訓練しよう!目指せモンドグロッソだ!ハッハッハッハ!」

 

千冬が腰に手を当てて高笑いしている…

何だこのノリは…

 

俺はそそくさとアリーナの入り口から建物の中に逃げて行った。

 

 

 

「山田先生、織斑先生はあんな性格なのですか?」

 

途中で山田先生に聞いてみたが今までに無い奇行だったそうです。

 

 

 

 




2015.07 改編


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8話

私は負けた。

殆ど一撃も与えられなかった。

模擬戦、若しくは試合で負けたのはどれくらい振りだろうか。

完敗は無かったはずだ。

あの男、マツナガ・トウヤは私に土を付けたのだ…

 

嬉しくて仕方がない。

 

次の模擬戦が楽しみだ。

 

 

しかも男性操縦者だ…モンドグロッッソに出して優勝させれば世界中が驚く!そしてこの歪んだ世界も少しは良くなるか…

 

やっと見つけたぞ……

 

私の理想の男。

 

私よりも強い男だ!

 

これからトウヤは女だらけの世界に入る。変な虫が沢山寄ってきてしまうな。今のうちに何とか手綱を握っておかなくては。

 

どうしたものか…

 

それにしても…トウヤ…トウヤ…なんて良い響きなんだ!

 

 

あれ…トウヤはどこに行った?

 

振り返るとアリーナ内には私と誰も乗っていない打鉄しか居なかった。

 

 

 

 

 

アリーナで千冬との模擬戦を終えた俺は山田先生と寮に戻ってきた。なぜ山田先生と一緒かというとまだ学園内も自由に歩けないからだ。在学中の生徒もまだ更識盾無にしか会っていない。

 

 

「夕食はまた部屋にお持ちします。それまで入学までに必読の技術書を読んでいてください。…そのうち織斑先生が戻ると思います」

山田先生が申し訳なさそうにしている。やはり先程の奇行を気にしているのだろう。

 

「分かりました。今日はありがとうございました」

俺はあたまを下げると部屋に入る。

 

 

まずは昨日の宴会の片付けだ。

缶を袋にまとめて机を拭いて…

 

片付けが終わるとバスタオルを持ちシャワー室に行きシャワーを浴びる。

(千冬さん…様子がおかしかったな。俺に負けて凄く悔しかったのかな。回し蹴りとかしちゃったから反則だったかな)

今日の模擬戦の事を思い出してみる。

千冬の動きはとても美しかった。一切無駄と迷いがなかった。あれがサムライと言われる者なのだろうか。

たしかケンドーと言うスポーツが有ったはずだ。千冬のルーツはケンドーなのかもしれない。今晩にでも聞いてみよう。

少し熱めのお湯を頭から浴びる。気持ちいい。

 

コンコン。

扉がノックされる。

「トウヤ?」

千冬の声だ。

「なんですか?」

「一緒に入って良いか?」

 

 

はい?

 

 

「ごめん、もう一回聞いて良いか?」

「一緒に入って良いか?背中を流すぞ」

 

 

千冬が壊れた!

 

「イヤイヤイヤ…何言ってるんですか!駄目ですよ!」

慌てて拒否する。

 

「なんだ…別に良いではないか。私はお前に負けたのだ。私はお前の言いなりだぞ」

千冬さん…どうしたんですか?模擬戦以降様子が可笑しいですよ!

「俺にはそういうつもりは有りませんから!今まで通りの千冬さんでいてください!」

「そうか…意気地が無いなぁ…はぁ〜」

なんか後半に貶された気がしないでもないがいっか…

 

静かになったシャワー室で溜め息ついてしまった。

 

シャワー室から出てジャージを着て部屋を出ると千冬さんは椅子に座っていた。

 

「上がったのか。では私もシャワーを浴びよう」

千冬は普通に下着とバスタオルを持ってシャワー室に向かうが途中で

「覗くなよ。絶対に覗くなよ」

なんて言っている。これは間違い無く覗けって事だよな…

放っておこう。

 

そのまま机に向かい必読の参考書を開く。ISに関する技術が書いてある。

 

俺がエステバリスのパイロットの教育を受けているときもエステバリスの構造やプログラムも教わった。整備は整備班の仕事だが最終チェックはパイロットの仕事だからだそうだ。自分の乗る機体は自分で確認する。それが昔から乗り物に乗る者の慣習何だそうだ。

要は事故責任って事ね。

 

ISには自己診断スキャンが有るそうだが普段から待機状態でのチェックが出来るらしい。

 

俺はエステバリスを取り出し現在の状態を確認すると全ての項目でOKが出ている。

弾薬の補充はどうすればいいんだろうか。あとで千冬に聞いてみよう。

 

ポーチからメモを取り出して疑問に思ったことをメモする。

 

 

 

それから40分程経つとシャワー室から千冬が出てきた。

怒っているな…

目がつり上がって此方を睨んでいる。

 

覗かなかったからか?

 

「どうしたんだい千冬?」

声をかけると体をビクッと反応させた。

「なぜ覗きに来なかった?」

はい?そこストレートに聞く所なの?

「いや…そんなこと聞かれてもこまるんだが」

「覗くなよって言われたら覗きに来るものだ!そんなの常識だ!」

随分とぶっ飛んだ常識だな。

「…それはすまなかった」

謝っておこう。エリナも「取りあえず謝りなさい」って言ってた。

「分かれば良いんだ。次からは覗きに来るように」

腰に手を当ててエッヘン!なんてしている。

千冬はこんな人だったのか。

 

…残念過ぎる。

 

「千冬。相談何だがいいか?」

先程まとめていた内容をそうだんする。

「なんだ?」

千冬はおれのベットに横になった……

「エステバリスの弾薬の補充なのだがどうしたらいいと思う?エステバリスは他に吸着地雷もあります」

 

千冬は難しい顔をしている。

 

「そうだな。本来、専用機の弾薬は所属国家、企業が出している。しかしマツナガはどこにも所属していない。学園の訓練機は国家予算だがな…」

やはりそうか。

と言うか当然だな。俺もエステバリスを維持していくなら何かしらの情報や技術を提供しなくてはならなくなるな。

 

「やっぱりそうなるよな。千冬は企業と国家のどちらが良いと思う?俺の提供出来る技術なんてエステバリスぐらいしかないし俺のもっている情報なんて役に立たないだろ?」

「そうだな。少なくとも男性操縦者と言うだけで日本政府は支援はしてくれるだろう。だが私は情報を漏らしたくない。トウヤが異世界からの人間なんてバレてしまえばモルモットにしかねん。だから私の伝を使って誰からも干渉されないような方法を使おうと思う」

誰からも干渉されない方法?

そんな凄い方法が有るのか?

国家や企業よりも影響力があり強硬な手段を抑えられるということだよな。

「そんな事出来るのか?」

「篠之乃束を使うのさ」

千冬は怪しい笑みを浮かべる。

「篠之乃博士を?どうやって?行方不明じゃないのか?」

「篠之乃束は私の友人だ。そしてトウヤの話をしたら恐らく飛んで来るぞ」

なに?篠之乃博士が友人だと……

篠之乃束ーーISの生みの親であり稀代の天才。世界で使用されているISコアは全て篠之乃博士が作り未だ他の人間には作ることがかなわない。

極端な人見知りで特定の人にしか心を開かないとのこと。

そんな人と友人……千冬は凄い。

 

「篠之乃束のバックを得て更に私から一言国に言えば国から援助が出るしちょっかいも出してこないはずだ。それと……帰る方法も束に研究してもらえるだろう」

千冬の顔に少しだけ影が落ちる。

 

帰る方法が見つかるかも知れない!

 

俺は心が飛び跳ねそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話

仕事の日はペースが落ちます。



俺と千冬は俺のISについ話をしている。

俺のISは篠之乃束の手製であると言うことにする。そうしなければ話がややこしくなるからだ。

その事を日本政府に伝え援助を受ける。

 

そうする事にした。そこら辺の交渉は千冬がしてくれるそうだ。

 

「ありがとう、千冬。出来るだけ千冬を手助けをするようにするから何でも言ってくれ」

至れり尽くせりってこういう事を言うのかも知れない。

「きっ…気にするな。お前の為だからな。だから…お前は私の事だけを…」

千冬が赤い顔をしてボソボソ何か言っている。

「気にするな」辺りまでしか聞こえなかったが、きっと頼りにしている的な事を言ったのだろう。

 

「あと、更識楯無と一夏の護衛を協力をする事になった。取り合えずは報告だけな」

昼食の時の話を千冬にする。千冬達には両親がいないらしい。だから一の保護者は千冬になる。

 

大事だよね?報連相。

 

「ああ。山田先生から聞いた。宜しく頼む。ちなみにこの話は日本政府からの話だから更識家を通じてトウヤにも報酬が入るのでそのつもりで」

そうだったのか。

 

アカツキ会長…感謝します。シークレットサービスの技能で異世界に来ても食べていけそうです!

 

「それとトウヤの身の上のカバーストーリーなんだが、どんなのが良い?一番手っ取り早く束に拾われて束の元で専属の護衛、ってのはどうだ?」

確かに身元があやふやでも突っ込めないのは良いかもしれない。

「それで、頼むよ」

「分かった。近いうちに束を呼んでおくから会ってくれ」

話は纏まった。これで俺は一応この世界での身分が出来たわけだ。

 

この後は千冬に色々と聞きながら入学手続きの書類を書いたり必読書を読んで覚えたりと色々と有意義に過ごした。

 

千冬の距離がやたらと近かったが。

 

 

それからは殆どの時間を勉強と授業中で誰もいない時間にジムでトレーニングを行ったり、道場で千冬と武道の稽古をして時間を過ごした。

 

 

こちらに来て8日間が過ぎて今日は初めての外出の日だ。

生活必需品は千冬が買ってきてくれているから外出をする必要は無かったが千冬曰わく

「外出も必要だ。パイロットは休むのも仕事なのだろう?」

と言われて何も言えなくなり外出する事になった。

因みに部屋は相変わらず千冬と一緒だ。部屋が相変わらず取れないらしい……山田先生曰わくだが……

 

俺は黒色のデニムに白シャツの上から紺のセーターを着ている。千冬のコーディネート…と言うより千冬が買ってきた。

 

部屋のドアが開き千冬が出てきた。

黒のデニムに白シャツに紺のセーター…え?俺とペアルック?

 

「待たせたな。さぁ行くか」

千冬は俺の腕に腕を絡めると入口に向かって引っ張り出した。

千冬の横顔が見えるが頬が少し赤い。化粧をしているようだ。

「あの…腕は…」

「なんだ?何か問題が?」

 

俺の言葉を遮りギロリと横目に俺を見る。と言うより睨み付ける。

「いえ…参りましょう」

 

諦めた。

 

正門をくぐりモノレールに乗りレゾナンスに着く。

 

レゾナンスは様々な世界の雑貨や食品、アパレルなど様々なテナントの入るIS学園の学生を意識したショッピングモールだと千冬に聞いた。

確かに凄く大きい。

 

「まずは色々見てまわろう」

千冬は組んだ腕を引くとエスカレーターに乗る。

やはりこれはデートなのだろう。恋人はいなかった。エリナとは良い感じだったが恋人にはならなかった。

俺が躊躇したからだ。エリナの側にいたのは仕事だった。だが、はっきり言って戦艦の中で護衛など必要な訳がない。新しい人の出入りなど寄港地でなければない。乗員は殆ど顔が知れている。

だがアカツキ会長は俺を護衛に付けた。安心感を与えるためだろう。

そんな心が参っている時に『護る』人が近くに寄ってきたら惹かれるに決まっている。

俺はエリナという人柄がとても好きだった。真面目で礼儀が正しくユーモアがあってその癖ノリが良かった。

仕事の野望は凄く非人道的な事もやるようだが…本当はやらされていたのかも知れない。本当の事は本人しか知らない。リスクの管理と見分けぐらいつくだろ。

そんな状況だったが俺から恋愛沙汰にする事は無かった。

するとすれば俺が護衛から外れたらだと思っていた。

 

 

「おい!トウヤ!こんな美人が隣にいるのに考え事か?」

千冬が頬を膨らませている。

なかなか可愛い。

「ん?何でもない。少しぼぉーとしてた」

エリナの事を考えていたなんて言ったら機嫌を損ねてしまう。

「そうか?何か考え事をしていた気がするが?」

「まぁ…初めての外出だから色々思うところが有るんだよ」

「そうか。あまり考えずに楽しむんだな」

笑顔になる千冬。

こういう時の千冬は歳相応に見える。21歳なんて一般人なら大学生か社会人3年生だ。

こんな笑顔をするのは当たり前か。楽しんでもらおう。

俺達はウィンドウショッピングを楽しむ。

 

 

 

 

「少し早いがランチにしないか?」

 

千冬がレストラン街まで来たところで言ってくる。

 

「構わないが何を食べよう?」

 

俺も空腹を感じ始めていたのでその提案にのることにした。

 

「あそこのパスタ屋が前から気になっていたのだ」

 

千冬は俺の手を握ってパスタのお店に入っていく。

店員に案内されて窓際の座席に座りメニューを開くと様々なパスタが並んでいる。

 

「意外とメニューが多いな。トウヤはどんな味が好みなのだ?」

 

「俺は基本は和食が好きだな。IS学園の食事は美味しいから好きだぞ」

 

俺の話を聞いた千冬はますます唸りだした。

 

「千冬はどれで迷っているんだ?」

 

なかなか決まらないようだ。

 

「豆乳と湯葉か、サーモンとイクラのにするか迷っているんだ。トウヤ決まったのか?」

 

難しい顔をしながらメニューをこちらに向けて指を指す。

 

「だったら両方頼んで良いよ。俺に美味しくなかった方をくれれば良い」

 

そう言って店員を呼ぶ。

千冬は驚いて両目を大きく開いた。

オーダーをすると俺は外を観るモノレールが走り、カップルや親子連れや老夫婦が行き交っている。

 

「平和だな」

 

「トウヤの世界はどんなだったんだ?」

 

「時々バッタが飛んできて空襲をするんだがそんな状況が当たり前になっていた。市民は勝てないんだから辞めればいいだなんて言い出す始末。それもそうだよな。火星で虐殺が起きていたなんて知らない。知らないとなんでも楽観視してしまう。自分達がどれだけ危険な状況にいるかなんてね。この世界でもそうなんじゃないか?女尊男卑なんて言葉があるがISに乗っている、乗れる者が強いだけであってその他は今までと変わらない。俺なら補給を断ち、ISに乗っていないパイロットをゲリラ戦で狙うね。疲弊して弾薬、エネルギー不足で1月保たないんじゃないか?」

 

水を一口飲む。

千冬の表情からは肯定、否定は読めない。

 

「まぁ…そうならないようにするのが俺ら大人の役目なんだよな」

 

千冬に笑いかけると千冬も笑顔になった。

 

「さすがトウヤだな。この世界の歪みをもう理解したのだな。白騎士のおかげでIS最強説が出来てしまった。だが世界にたかが468機しかないのに何が出来る。最強は盲信だな」

 

IS操縦の第一人者の千冬ですらそう思うのだ。どんなに優れた兵器でも人が乗る以上は人がダメになれば使い物にならなくなる。

 

「千冬が教えてやれば良い。俺も手伝う」

 

そんな話をしているうちに頼んでいた料理が届いた。

 

俺達は料理を食べ始めた。

 

 

 

 



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10話

すみません。今回は短いです。


 私たちは今、レゾナンスのパスタ料理のお店でパスタを食べている。

改めてトウヤの戦略眼には驚かされる。ISの弱点を既に分かっている。数の少なさと女性しか動かせない体力的な弱さ、兵器への過信による補給への軽視。スポーツであり続ければ気付かずに、気にせず済むが『女性が強い』等と思ってしまっている今の世界は悲劇を生みかねない。

 

…トウヤ、お前はやはり素敵な男だ!!

 

私はもう…

 

「千冬?このパスタ食べるか?」

おっと…いかん。

 

 

ッハ!…グフフ…

 

 

「ああ。食べさせてくれ」

「え?」

「あ〜ん」

トウヤと間接キス…濡れてしまいそうだ!!

 

フフフ…トウヤが困った顔をしている。

 

「だから、あ〜んだ」

 

私は巣で親鳥から餌を待っている小鳥の様に口を開けてトウヤのフォークを…いや、スパゲティを待つ。

トウヤは自分のスパゲティをフォークで巻き取ると私の口へと…

 

ハグ…

 

あぁ!なんて美味なのだ!!

トウヤのフォー…スパゲティは!!

そしてこれが伝説の『あ〜ん』なのだな!!!

 

「美味いな。じゃあ、私のもあげよう」

いたって冷静に…

自然に…

 

一口巻き取って…

「あ〜ん」

「あ…あ〜ん」

フフフ…トウヤの顔が真っ赤だ。意識してくれている。

 

ハグ…

 

「どうだ?」

「美味しいな」

そ、そうか!旨いか!

 

すかさずスパゲティを巻き取り自分の口へ運ぶ。

パク…

 

最高だ!!

私はこの一口であと3年は戦える!!

 

本当は毎日補給したいが…な。

 

その後私たちは銀行、本屋と回った。トウヤは本屋で時間をかなり使っていた。この世界の情報を欲しかったらしく、歴史の本を中心に読んでいた。

 

話を聞くにどうやらISが現れるまでの歴史に大差はなかったらしい。今度教えて貰おう。

 

だが!

 

私にはそれよりも気になっている事がある。

 

それは…

 

トウヤのISの待機状態の時の青色の宝石だが解析した時にあの宝石は未知の鉱石だったらしい。サンプルが無いため詳しい事は分からない。だがトウヤは『イヤリング』と言っていた。男があんなに大きなイヤリングを着けるとは思えない。

誰から貰ったのだろう。

それとも誰かに渡すために買ったのだろうか。

とても気になっている。

 

彼女がいたのか?それどころか結婚をしていたのか?

 

なぜか私は聞いていない…

 

怖くて聞けていない…

 

だが!それ以上に…

 

私と同じ部屋なのに全然襲ってくる気配がない!!

もうすぐ学生になるため寮へと移ってしまうというのに!

 

私はそんなに魅力が無いのだろうか…

 

こちらから襲ってしまおうかと何度思ったか…

 

欲求が不満だと騒いでいるではないか!!

 

隣を歩いているトウヤに寝不足の気配は無い…

 

意識していないと言うことか。

 

あと5日間。

 

何としても落としてみせる!

 

ブリュンヒルデの名に掛けて!!

 

あ…鼻血が出てきた…

 

 

 

 レゾナスの外、遊歩道を歩いていると俺の隣で千冬が鼻血を出している…

 

いきなりどうした!?

 

ティッシュで鼻を抑えている。

 

「大丈夫か?」

俺は両肩を掴んでベンチに座らせる。何か興奮してしまったのか。

 

「すまない。なぜか鼻血が出てしまった」

 

千冬の顔が赤くなっている。

 

「気にするな。誰だってあるよ」

俺も千冬の横に座る。

「血が止まったら少し横になるか?膝ぐらい貸すぞ」

 

俺の提案に千冬は

 

「すまない」

 

と言ってすぐに横になった。

 

少し緊張してしまうが千冬の顔がこっちを見ている。

 

「どうだ?少しは楽になったか」

「うん。楽になった。暫くこのままでいいか?」

「いいよ」

千冬は目を瞑って静かになる。

 

時々カップルや夫婦が通り恥ずかしいが…

 

平和だなぁ。

 

ナデシコのみんなは大丈夫だろうか。

あのボソンジャンプの後はどこに行ったのか。前回は火星から8ヶ月掛けて月軌道だったか。

 

考えても仕方ないが気になる。

 

千冬を見ると…寝ているのか?

 

髪の毛を撫でる。

反応が無い。

寝ている。

最近は俺の件と新入生の準備などで忙しかったのだろう。

千冬には本当に感謝している。

ゆっくりしてもらおう。

あっ!後で携帯電話を買わなくては…って誰と連絡とるんだ?

俺の知り合いは学園の中にしかいないのに。

 

太陽の光が暖かい。小春日和と言うのだろうか。

 

眠い。

 

俺も少し寝ようかな。

 

 

 

「トウヤ。トウヤ。トウヤ起きてくれ」

肩を叩かれて目を開ける。

 

千冬が目の前に立っている。

「そろそろ帰ろう。授業が終わってしまう」

「そうだね。帰ろう」

俺が立ち上がると千冬は行きと同じく腕を組んで、俺たちは学園へと足を向けた。

 

 

モノレールの駅でモノレールを待っていると

「なぁトウヤ?」

「なんだ?」

「トウヤの持っているイヤリングはトウヤの物なのか?」

 

え?まさかコノタイミング?

 

「いや…俺のではない」

「誰のなのだ?」

 

うげ…言うのが怖い…が言うしかないよな。

 

「同僚だ」

「親しかったのか?」

 

怖い…

 

「比較的…」

「どれくらいなのだ?」

 

怖い…怖い…

 

「食事を一緒にするくらい」

「それくらいで宝石が付いたイヤリングを渡すとは思えないな」

 

神よ…

 

「そうですよねぇ…」

「恋人だったのか?」

 

ん?

 

「違うぞ?恋人ではないな。話すと長いが聞くか?」

「聞かせてくれ」

「これを俺に預けたのはナデシコの副操舵士のエリナ・キンジョウ・ウォン。彼女は俺の世界の最大手のネルガル重工と言う会社の会長秘書だった」

「なに?会長秘書で副操舵士?」

「そう。会長もパイロットとしてナデシコに乗っていたので一緒に付いて来た。そして後から会長の護衛として俺も配属されたんだ」

「フムフム」

 

ここでモノレールが来たのでモノレールに乗る。

 

「俺がナデシコに月基地で乗る前日にとある会話の映像が月面都市中に放送されたんだ。その映像はナデシコの提督に会長とエリナが木星蜥蜴の正体が元々は地球人であったこと。その事は地球連合政府と極一部の人しか知らない内容だった。その為エリナは暗殺される危険があった。元々会長の護衛に着く予定だった俺が会長の命令でエリナの護衛に着く事になったんだ。それで仲良くなった」

「それだけか?トウヤはどう思っていたんだ?」

 

ぐ…随分突っ込んで来るな…

 

「俺か…俺は好きだったのかな」

「……」

 

 

千冬が何も言わない。

 

「千冬?」

 

「あぁ、トウヤにそんな相手がいたとはな」

「まぁ…な」

 

モノレールがIS学園前に着いた。

俺たちはモノレールを降りると学園に向けて歩るく。

レゾナスの時と違い楽しい雰囲気がない。

俺達は気まずい雰囲気になっている。

 

なんて言ったら良いのか。分からない。

千冬とはなんとか良い関係でいたい。

利用するとかでなく…

 

「あの、千冬?」

「なんだ?」

明らかに沈んでいる。

「まぁ…そのなんだ?あまり気にしないでくれ。俺は3年はここにいるから」

「そうだな」

「宜しく頼むよ織斑先生!」

こんなんで良いのかな…

 

正門を入り寮へと向かう俺達は、なんとか普通に会話するまで戻っていた。

 

 



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11話

千冬のターン!


 まさか!トウヤの膝枕!!

 

幸せだ!!

 

もう死んでも良いかもしれない!

 

いや駄目だ。私は彼の子を生むまで死なない!!例え世界のISが私に襲いかかって来ようとも私は生き抜いてみせる!!

 

高鳴る心臓をトウヤに知られないかと心配になるが段々と落ち着いてきた。

この暖かい日光のせいで段々と意識が遠退いてくる。

こんな時間が続けば良いなと思った。

 

 

 

ふと目が覚めた。どれくらい時間が経ったのか。トウヤは私を膝枕したまま寝てしまったようだ。

腕時計を見るともうすぐ戻らなくてはならない時間だ。

私は起きあがりベンチから立つとトウヤを起こすために腕を伸ばし後少しで届くところで手が止まってしまう。

 

トウヤの胸元にあの青い宝石が見えた。エステバリスの待機状態だ。

 

胸がモヤモヤする。

 

誰か分からない相手に嫉妬している。

この宝石の由来すら知らないのに嫉妬している。

 

このモヤモヤを晴らすために私はトウヤの唇に私の唇を合わせてしまった。

 

ほんの短い時間だった。

 

でもとても嬉しく思ってしまった。

そして至福の時間だった。

 

 

そしてトウヤを起こす。

「トウヤ。トウヤ。トウヤ起きてくれ」

 

肩を揺すると目を開けた。

私の顔は赤くないよな…

 

「そろそろ帰ろう。授業が終わってしまう」

「そうだね。帰ろう」

トウヤは立ち上がると私はトウヤの腕に抱きつき駅に向かって歩き始めた。

 

恋人…

 

今の気分は私たちは恋人だ。

 

いつかは本当の恋人になりたい。

けどイヤリングの事は聞かなくては。

 

駅に向かいながらそんな事を考えていた。

 

 

 

駅に着きモノレールを待っている。この時間でさえとても嬉しいが…

イヤリングの事が気になる。

「なぁトウヤ?」

「なんだ?」

「トウヤの持っているイヤリングはトウヤの物なのか?」

 

遂に聞いた!

気になっていたことをやっと聞けた!

トウヤの顔は見れない。怖くて見れない。

トウヤの答えが怖くて聞きたくない…けど聞きたい。

 

「いや…俺のではない」

 

やっぱりか…

 

「だれのなのだ?」

 

声が少し強くなってしまった。何に怒っているのだろう。

 

「同僚だ」

 

ただの同僚な訳がない。

 

「親しかったのか?」

 

嫌な女だな…私は。

 

「比較的…」

 

浮気を問い詰めるみたいだ。私は恋人でもないのに。

 

「どれくらいなのだ?」

 

きっと相手はトウヤの事が好きだったんだな。

 

「食事を一緒にするぐらい」

 

きっと楽しかったんだろうな。

 

「それくらいで宝石のついたイヤリングを渡すとは思えないな」

 

もうやめたい。

 

「そうですよねぇ…」

 

これ以上は聞きたくない!

 

「恋人だったのか?」

 

…いってしまった。

 

「違うぞ」

 

え?

 

「恋人ではないな。話すと長いが聞くか?」

 

恋人じゃない!?

 

「聞かせてくれ」

 

トウヤ曰く、このイヤリングはエリナというネルガル重工会長秘書兼ナデシコ副操舵士の物でトウヤの護衛対象だったらしい。

モノレールに載ってからも話は続くが…親しい。

間違いなくエリナはトウヤに依存していただろう。

辛い時に側にいたら惚れるだろう。

トウヤは護衛になったから仲良くなったと言っているがトウヤはどうなのだ?

 

「それだけか?トウヤはどう思っていたのだ?」

 

好きだったんだろうな。

 

「俺か…好きだったのかな」

 

やっぱり。

でもなんでそんなに自信ないんだ?

護衛対象として側にいたから分からなかった?

シークレットサービスとしては良くないから?

 

分からない。

 

まぁ良い!

聞きたい事は聞けた!! 

エリナは今此処にはいないのだ!

ここは私の世界だ!

 

世界一を掴み取った私に掴み取れ無い物などない!

 

「千冬?」

 

いかん…熱くなりすぎてしまった。

 

「あぁ、トウヤにそんな相手がいたとはな」

 

待っていろよトウヤ!お前は私のものだ!

 

「まぁ…な」

 

どうやって攻めるか。

モノレールを降りてからもトウヤをどう落とすか考えている。

・胃袋(一夏に教わる)

・既成事実(トウヤが3学年になったら)

・拉致(束に助けて貰う…束もライバルになりかねん)

 

今のところはこれぐらいしか思い付かない。

学園の小娘達はどう処理しようか。常に隣に居ることは出来ないからな。注意深く見ておくしかないか。

 

「あの、千冬?」

 

いかん旦那様を放っておくとはいけない妻だな。

 

「なんだ?」

 

「まぁ…そのなんだ?あまり気にしないでくれ。3年間はここにいるから」

 

当たり前だ馬鹿者。

3年で済むと思うな。

 

「そうだな」

 

70年は一緒に居て貰おう。

 

私たちは正門を潜り寮に向かう。

その後は好きな名前を教えて貰い生まれてくる子供達の参考にしていた。ノートに書き留めておいたのは言うまでもない。

 

 

 

 



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12話

お気に入りが100件を突破しました!
とても驚いています。

感想には必ず返事を返しますので皆さん(ログイン出来ない方も)感想をお願いします!


 外出の次の日。

俺は千冬に連れられて研究施設らしき場所に連れてこられた。

寮の出口から目隠しをされイヤーマフまで着けられ手を引かれてだったので詳しい場所は全く解らない。エレベーターに乗り上に浮かぶ感覚があったので地下であることぐらいしか分からないのだ。

「トウヤ、今日は束に会って貰う。一応は束に事前に話をしておいて興味を持ったようだから会話にはなると思う。多分…」

 

珍しい…千冬が弱気だ…

少し不安になっちまうじゃないか。

なんて考えていると突然部屋の扉が開くと外から兎の耳の生えた巨乳のアリスが現れた。しかも

「ちぃーーーちゃーーーん!!」

と叫びながらだ…

「ちぃーちゃん!会いたかったよぉ!ちぃーちゃんから電話来た瞬間に鼻から愛が溢れ出ちゃって大変だったんだよ!!さぁ愛を確かめ合うためにハグしよう!!」

アリス兎は千冬に抱きつこうとするが千冬の腰の入った右ストレートを額に食らって

「フベラっ!!」

ゴン!!

なんて声と音をあげて入ってきた扉に激突した。

 

何なのでしょう。この状況は…

 

吹っ飛んだアリス兎は何事もなかったかの様におでこを押さえながら立ち上がると

「ちぃーちゃんの愛は相変わらずハードだねぇ!また鼻から愛が溢れ出ちゃうよ!!」

などと言い千冬の方へまた走り出した。

 

まさか…効いていないだと!!

奴は化け物か!!

 

「束、いい加減にしろ。話が進まん」

千冬に向かい走るアリス兎の顔を手で押さえて抱きつかせない千冬。

ん?今、束と言わなかったか?もしかしてこの人が篠ノ之束博士なのか!?

「トウヤ、こいつが篠ノ之束だ。おい束、そこにいるのが私を倒した男で異世界から来たマツナガ・トウヤだ。自己紹介ぐらいしろ!」

篠ノ之博士が走るのをやめると千冬も手を離す。

篠ノ之博士がこちらを向くとジッと見つめてくる。

…なんだ?

「やあやあ、私があの天才な束さんだよ!宜しくね!君がちぃーちゃんを倒したっていうマツナガくんかぁー!これからはトーくんだね!」

そう言った瞬間にワンステップでこちらに飛んできた!

「ど、どうも…私がマツナガ・トウヤです」

あまりの出来事に呆気に取られてしまい名前しか言えなかった。

「トー君の模擬戦を見せて貰ったよ!凄いねぇ!ちぃーちゃんを倒すなんて!正直束さん作ってたISのプラモデルを握りつぶしちゃったよ!トー君のISも面白そうだしね!ちょっと調べさせて貰えないかな?」

え?

あまりの展開の速さについて行けず千冬の方を見ると頷いていた。きっと話が出来ているのかも知れない。

俺は首に掛けてあるエステバリスを篠ノ之博士に渡すと凄い早さで入ってきた扉の向こうへ走っていった。

 

「千冬さん?」

千冬が頭を抱えていたがこちらを向くと半笑いで

「あれがあいつの普通だ。気にするな」

 

天才と何とかは紙一重って言葉が有るぐらいだから篠ノ之博士もきっとそうなのだろう。

 

「千冬と篠ノ之博士はいつ頃から知り合いなのですか?」

千冬と俺は部屋にある椅子に腰を下ろし話を始める。

「私があいつの父親の剣道場に通い始めて会ったのが初めてだ。昔から人見知りが激しくて友達がいなかったみたいだ。だが何故か私と一夏には凄く懐いてな。それとあいつは妹の箒を溺愛している。あっ、そうだ言ってなかったが箒も新入生で入学してくる。仲良くしてやってくれ」

 

ホウキ?

 

「どんな字を書くんですか?」

「竹冠に帚星(ほうきぼし)だ」

篠ノ之家は名前の付け方がずれてないか?

「面白い名前ですね」

「いや、変わってるだろ」

二人して小さく笑ってしまった。

「分かりました。話してみます」

「頼む。箒は苦労しているんだ。6年前の白騎士事件が起きてから篠ノ之一家は離散してしまった。束かISのコアを作れないから、篠ノ之一家を人質にコアを作らせない為に要人保護プログラムで各地を転々とする羽目になってしまった。しかも束は行方不明。もしかしたら箒は束を恨んでいるかもしれないな。なんせ箒は一夏に惚れていたからな」

引き裂かれた初恋ですか…箒さん、歪んでなきゃ良いが。

「注意深く見ています。箒さんが一夏に惚れてたら押してあげますか?」

「そんな事はしなくて良い。女は奪い取るぐらいが良いんだ」

そりゃ千冬さんの考えでしょう…

さすがは世界最強の女性ですね。気構えが違うわ。 

 

「トー君!IS返すね!!面白いねぇトー君のIS!重力制御なんてしちゃってるしナノマシンは神経伝達に使ってるの!?あとなんで内燃機関がないのかなぁ!?」

扉が開くと同時に物凄い勢い部屋に飛び込んできた篠ノ之博士。俺の前でぴたっと止まり質問責めをしてきた。

「束、落ち着け。それとその話は後で時間を作るからすまんが私の話の返答を聞かせてくれないか?」

千冬は篠ノ之博士を椅子に座らせる。

「あ!うん!あの話ならOKだよ!束さんに任せといて!近日中に束さんから世界に発表しとくね!んでんでさっきのISはトー君の世界の兵器?」

話終わるの早い!

なんだか心配して損した。

「そうです。エステバリス言う名前です。ナノマシンはIFS(イメージ・フィードバック・システム)で神経をエステバリスに接続して体を動かすイメージでエステバリスを動かします。重力制御は重力推進に使っていますし、私のいた世界では重力制御は戦艦やコロニーなど大容量のエネルギーが有るところで重力を発生させるのにも使用していました。エステバリスに内燃機関が無いのは母艦から重力波エネルギーを受けてエネルギーとしていたからです」

エステバリスの説明をすると篠ノ之博士は目を輝かせて俺の顔に自分の顔寄せてきて

「凄い!エネルギーを電波にしちゃう!!重力制御!!見たい!触りたい!作りたーい!!

トー君!束さんと仲良くしてね!困ったことがあったら束さん頑張って助けちゃうから」

と言った瞬間!

「たばねぇ!顔が近いぞ!!」

と篠ノ之博士の頭を鷲掴みして引き離した。

 

「あ、篠ノ之博士、宜しくお願いします。早速なのですが俺を元の世界に帰す方法とかを探して欲しいのですが」

「それは束さんでも分からないから研究するね!それとこれからは束さんの事は『ラブリィー束さん』って呼んでね」

「はい、分かりました、束さん」

ラブリィー束さんとか恥ずかしくて言えないわ。

「トー君のケチィー!」

束さんは頬を膨らませている。

あっ可愛いかも。

千冬は時計を確認してこちらを観ている。

そろそろ時間か?

「束、トウヤ他に何かあるか?」

立ち上がり腕を組んで束さんと俺を見る。

俺と束さんにアクションが無いことを確認すると

「よし、ならこれで終わりにするぞ。束、わざわざ来て貰って済まなかったな」

「束さん、ありがとうございます」

千冬と俺でお礼を言うと束さんはこちらを向いて

「お礼ならちーちゃんに『あいし…』ギャァーーー!!ちぃーーちゃん頭が割れるぅーー!!」

「さっさと帰れ!!」

千冬が束さんの頭を掴み扉の方へ投げた…

束さんは扉に激突したが何事も無かったかのように起き上がって

「ちーちゃん、トー君バイバーイ!!」

と言って走って消えてった。

嵐が去った後のように静かになった。

俺は呆気にとられてしまった。俺は千冬の顔を見ると千冬は束さんの出て行った扉を見て優しい顔をして笑っていた。

なんだかんだで束さんの事が好きなんだな。

「どうやらトウヤはお気に入りの仲間入りしたらしいな」

いつの間にかこちらを見ていた。

人見知りが激しいと言っていたがもしかして最初がそうだったのか?そうだとしたら人見知りなんてレベルじゃないぞ。存在を認識してないんじゃないか?

「そうなのか?」

「そうだぞ。アイツが人に対して騒ぐなんて見たことがない」

「そっか。助力を頂けるならとても助かる」

「助力で済めば良いがな」

「何ですかその意味深な言葉は」

「(ふふ、何でもない」

千冬は薄く笑いながらそう答えた。

 

俺はここに来たときと同じく目隠し、イアーマフをされて寮の入口まで戻された。

 

 

 

そして夕方、部屋でISの勉強をしていると千冬が慌ただしく駆け込んできてテレビを点ける。

「見てみろ。束だ」

テレビを見るとさっきと変わらない格好の束さんがテレビに映っている。

 

「世界中の束さんのファンの皆さんヤッホー!ちーちゃん見てるぅ?今日は束さんから皆さんに発表がありま~す」あ相変わらずのマイペース。千冬が頭を抱えている。

「発表と言うのは!なんと世界に2人目の男性IS操縦を紹介しちゃいまーす!名前はマツナガ・トウヤ君!束さんの護衛をして貰っていた人なんだよぉ!4月からIS学園に行くけど邪魔したら…分かるよね!!彼には束さん特性のISが有るから日本の政府の皆さん!面倒見てあげてね!でも面倒は掛けちゃダメだよ。それじゃあまたね~」

 

束さん…半端ねぇ。政府の役人に会うのマジで嫌になってきた…

俺のせいだけど迷惑かけてスミセン…

 

「あのバカ…面倒を増やしやがって…」

バキっ!!

手に持っていたリモコンが潰れた。

俺にオーラを見る力が有ったのならきっと今、千冬の周りは黒オーラを纏っているのだろう。

 

「トウヤ、きっと明日からは忙しくなるから覚悟しておけよ。それと明日から外にでる時間は自由になる。その代わりIS学園の制服を着て貰う。後で持ってくるからサイズの確認をしておいてくれ」

そういうと千冬は外に出て行った。

 

 

暫くは退屈しなくて済みそうだなぁ…

 

 

はぁ~。

 



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13話

 束さんの発表の翌日は朝から役人との面談の連続だった。先ずは国際IS委員会の日本の担当者。この人は元々千冬と知り合いだったらしく千冬から話が通っていたみたいで友好的で話がし易かった。千冬の功績の賜物だろう。

 

次は日本政府の役人だ。内閣府、防衛省、総務省、外務省、経済産業省と7人ぐらい来た。

先ずは束さんの発言について迷惑を掛けますと謝ったのだが、彼らの目的は束さんの居場所だった。

俺は

「知りません!」

と答えても

「護衛だったのだろう!知らない訳がない!」

と返ってくる。

そんなやり取りを繰り返すうちにいい加減頭に来たんで

「何だったら束さんに連絡取りましょうか?もし俺が『面倒』を掛けるって言った瞬間に何が起こるか分かりませんよ?ですから本来の話をしてくれませんか?」

 

って事でやっと話が進み。ISの稼働データを渡す代わりに報酬と更に弾薬の補充を受けれる事になった。

防衛省の役人にラピッドライフルの弾を渡し試作を作った後に試験をすることとなった。

後は今後の為の顔合わせとなった。

 

次はIS学園の理事長と会って話をした。女性の学園長で旦那様がこの学園の用務員をしているそうだ。

 

これだけで1日かかってしまった。入学まで残り3日だ。

だが今日から自由に学園を動ける様になったので夕方にIS学園をランニングがてら廻ってみた。

地図を観て知っていたが四方を海に囲まれていて、更に緑もあってとても綺麗な学園だ。港には海上自衛隊と海上保安庁の船が泊まっており警備は厳重の様だがこの島の中には駐屯地や分屯地は無いらしい。

つまり襲撃があっても陸上戦力は時間が経たなければ来ないと言うことだ。

今日は40分ほど走ったところで折り返した。

とてつもなく広い。アリーナが3つとキャノンボールファスト場があり一つ一つがとても大きい。

 

時々すれ違う女生徒達は俺を見てはひそひそと噂話しをしているようだ。

 

居心地が悪い…

 

寮に戻ると千冬が戻っていたが…シャワーを浴びたのか下着姿たった。

 

うん、とても綺麗だ!出るところは出て絞まる所は絞まっている。程よく筋肉もついていてとても健康的だ!!

 

俺はそのまま部屋を出て寮の外で10分程時間を潰した。

 

…戻りたくねぇ!!何されちまうんだ!?

 

部屋のドアをノックして恐る恐る中に入るとジャージ姿の千冬が自分のベットに座って雑誌を読んでいた。

「トウヤか。さっきの事は気にしなくて良いぞ。あれは私の不注意だったんだ。むしろすまなかったな」

千冬は怒る事もなくそれどころか謝ってきた。

 

「いや…こっちこそ済まなかった」

俺も頭を下げた。

故意ではなくても女性の下着姿を見てしまったのだ。

気にするなと言っている。何度も言われると恥ずかしいから止めてくれ」

千冬は顔を赤くしてしまった。

 

可愛い…

 

そう思ってしまったのは内緒だ。

「分かった。じゃあシャワーを浴びてくる」

俺はバスタオルと着替えを持ってシャワー室へ向かった。

大分前の千冬シャワー室乱入未遂事件以来、シャワー室の鍵を閉めるようにしている。

 

 

 

「トウヤ…いつになったら私を襲ってくれるのだ…あと3日で別々の部屋になってしまうのに」

ベッドで雑誌の『インフィニット・ストライプス』を読む振りをしながら私は悶々としていた。

私たちの関係は近付いているはず。一昨日のデートでも腕を組んでも嫌がる事もなくずっと廻った。膝枕もしてくれた。

 

でも私の下着姿を見ても反応するどころか逃げ出してしまった。

 

風呂上がりのあの姿でトウヤを待つのはとても寒かったのだぞ!

 

今からシャワー室に乗り込みいっそ私から襲ってやろうか…

 

でも嫌われたくない…

 

そんな事を私の頭の中ではグルグルとループしていた…

 

 

 

 シャワーを浴びながらこの世界に来てからの事を考えていた。

ずっと千冬に頼りっぱなしだった。千冬がいなくては俺はこの世界でこんな充実した生活を送れなかっただろう。

千冬には感謝している。

そうだ!千冬に感謝の気持ちを贈ろう!明後日の昼からレゾナンスに行って何か買ってこよう。

何が良いかな?腕時計は既に持っているし…ネックレス?良いかも…そうだ!ネックレスとピアスをセットにしよう!!

 

後でレゾナンスの宝石屋に電話して何が何でも取り寄せてもらおう!

 

急いでシャワーから揚がり、部屋に戻る。部屋の備え付けのパソコンを開きレゾナンスの宝石屋の電話番号を調べる。

すんなりと出てきたのでそれをメモして…どこで電話するんだ?

…………山田先生!!

 

制服に着替えなおして校舎へと走る!!

 

なんで俺は走っているんだ?

 

シャワーから出たばかりなのにまた汗をかいてしまったじゃないか!

 

改めて歩き校舎の職員室に着いた。

ここの場所は知っていたが入るのは初めてだ。千冬の職場でもある。大きく深呼吸をしてノックをして入るとやはり空気の違う空間が存在した。なんて言うか女の匂い?

「あれ?あなたがマツナガ君?」

知らない人が俺に声を掛けてきた。

「はい。マツナガ・トウヤです!宜しくお願いします」

なんて緊張して挨拶をしてしまった。

俺の挨拶に一斉に職員室中の人が此方を向いた…

怖いよ…

 

「あれ?マツナガさん!?織斑先生なら寮に居ませんでした?」

職員室の左の方から山田先生の声が聞こえた。

「あっ、山田先生に用があって来たんです。ちょっと良いですか?」

頭を少し下げると山田先生が此方に歩いてきてくれる。

「どうかしましたか?」

「実は少し携帯電話をお借りしたいのですが」

直球で言うと山田先生は不思議そうな顔をした。

「構いませんがどうしたのですか?」

「実はこの2週間お世話になった織斑先生に贈り物をしようと思いまして、レゾナンスのお店に見繕いを頼みたいのです」

そう言うと山田先生は笑顔になり

「素敵ですね!携帯電話を取ってきますからちょっと待ってて下さい!」

山田先生は走って職員室に戻っていった。

廊下に出て待つと山田先生が戻ってきた。

「はいどうぞ。使い方はどうですか?」

「ダイヤルは0から9ですよね?」

基本を聞いてしまった。

「はい。ボタンを押してロックを上にスライドさせて電話のマークを押してください。そしたらテンキーが出ますからダイヤルです。じゃあ私は職員室に戻っていますから終わったら返しに来てくださいね」

山田先生は職員室に入っていった。

ひとまず校舎を出て近くのベンチを探し座ると店に電話をした。

店は直ぐに電話に出たので

『贈り物をしたいがそちらには品物を選ぶために行くことが出来ないので予算が40万円(政府からの支度金で100万円あります)程でイヤリングとネックレスが欲しい。とても大切な人への感謝の気持ちを伝えたいのでそれに合った品物をお願いしたい。こちらが行けないのでノークレーム、ノーリターンで約束します。明後日取りに行きます』(要約)と伝えると了承してくれた。

最後に名前と電話番号を聞かれたのでマツナガと名乗った瞬間に大騒ぎになってしまった。

なんとかごまかしたが疑われているようだった。番号はこの携帯に掛けて欲しいがこれは借り物なので山田が出ると伝えた。

 

電話を切ると校舎へと歩き始めた。

そこへ突然背中に殺気を感じたので慌てて横の茂みに飛び込むと殺気の感じた方に更識が立っていた。

 

…イラっとしてしまった。

 

「更識!君はイタズラが好きなのか?折角今日卸したばかりの制服が汚れるだろうが!」

強めの口調で文句を言ってしまった。

更識は口元をまた扇子で隠して喋り始める。因みに扇子には『試練』と書いてあった。試験の間違えじゃないのか?

「マツナガさんが鈍ってないか試させてもらいました。問題無かったようですね。3日後の放課後に生徒会室に来て頂こうかと思って伝えに来ました。案内は同級生の布仏本音(のほとけほんね)が案内しますので教室で待っていてくださいね」

そう言うと扇子を閉じる。その口元は笑顔だった。

「分かった。だが今後は背中から殺気とかやめてくれ。いざという時に確認をするようになったら護衛対象が傷付く可能性があるんだからな。それぐらい理解しているだろうが」

「そうでした。試すような事をして申し訳ありません」

更識は頭を下げて素直に謝ったのだが…

「ですが電話の声はもう少し下げた方が良いですよ?『大切な人に感謝を伝える』マツナガさん」

そう言うと走って逃げていった。

 

 

聞かれてたのかよ!!

 

 

 



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14話

今回も短めです。


「あ、マツナガ・トウヤです。宜しくお願いします!」

この声が聞こえた瞬間私の血圧は一気に跳ね上がった。

世界です2番目の男性操縦者。一人目は私達が敬愛する織斑千冬の弟。

2人目は篠ノ之束様の護衛だとか。

許せない!敬愛する2人の関係者とは言え女性にしか操縦出来ない物に汚らわしい男が乗るなんて!

奴らは私たちからISまで奪おうと言うの!!

いつか痛い目に合わせてやる!!

 

 

 

 

 今日は午前が国際IS委員会の役人と会って、午後は健康診断か。

千冬と朝食を取りながら今日の予定思い出す。

 

昨日の午後から千冬の様子がおかしい。凄く大人しいと言うか落ち込んでる訳じゃないが今までよりも会話が少ないのだ。

やはり昨日の事を怒っているのだろうか。幻滅させてしまったのか。話し掛けにくくて困っている。

 

無言で朝食が進む。

気まずい。

千冬は隣でお茶を飲んでいる。

辛うじて待ってくれているようだ。

少し急いで朝食を食べて千冬と席を立つ。

部屋に戻ると千冬は校舎へ、俺は事務棟に向かった。

応接室に入ると国際IS委員会の役人、確か二階堂さんだったか…は窓際に立っていて既に待っていた様だ。

「すみません。待てせてしまいました」

「いえ、私が早く来たんです」

二階堂さんはソファーに腰掛けて俺にもソファーに座るように促した。二階堂さんは40代ぐらいで奥さんと子供がいるそうだ。

「明後日が入学日か」

「はい。今日は午後に健康診断です」

「所で今日は織斑君は?」

「え?来る予定だったのですか?」

まさか千冬…すっぽかしたのか?

「いや、そういうわけじゃない。君について来るかと思ってただけだよ」

「どうしてですか?」

「織斑君はね思い入れのある者を大切にするんだよ」

束さんと同じなのか。

「彼女の両親の話は聞いたかね?」

「いえ、聞いていません」

「彼女の両親はな子供を捨てて何処かに消えたのだよ」

どういう事だ?

言葉が出ない。

「その為に彼女は必死になって一夏君を育てた。篠ノ之夫妻が引き取るという話が有ったようだが織斑君が断ったようだ」

なぜだ!

何故千冬は…

「だが結局篠ノ之一家も離散してしまったがね。そして彼女は第1回モンドグロッソで優勝した。だが第2回は決勝で棄権した」

それは資料で見た。何故か決勝で棄権してしまった。

「それはね決勝直前に応援に来ていた一夏君が何者かに誘拐されたのだよ」

なに!?

「そしてドイツ軍からもたらされた情報で一夏君の誘拐された場所が分かり千冬君が救出に向かった。そのために決勝を棄権した」

そんな事があったのか。

「その後彼女はドイツ軍の要請で1年間教官をしてIS学園の教官を始めた。日本に戻って来てからの彼女は親しい人間への執着が激しくなった。君の素性は彼女から聞いている。君を気にかけるのは、彼女が孤独を知っているからだ。きっと辛かったのだろう。両親捨てられて一夏君と一緒に生活をしてモンドグロッソで日本の期待を背負って戦い、一夏君を誘拐されたため棄権してバッシングを受けた」

俺は…何も言えない。

「たから一緒にいるかと思ったのだよ」

千冬の過去にそんな事が。

「千冬君と仲良くしてやって欲しい」

「はい。出来るだけの事はします」

 

その後は特に重要な話しもなく俺の世界の話になった。

二階堂さんは決して口外しないことを約束してくれた。

 

 

千冬の過去を知った。

そんな重い過去があったのか。

なんて言ったら良いのか…

応接室を出てからの俺は気が重くなってしまった。

 

 

 

俺は元の世界に戻って良いのか……

 

 

 

午後は身体検査を受けて空き時間となった。

 

今日は学園のランニングコースを走る事にした。

1周10キロのコースだ。

一定のリズムで走る。

薄情な男だ。

元の世界に未練を残している。

帰れるか分からないのに。

 

 

結局2周も走ってしまった。

寮に戻りシャワーを浴びて制服を着て外に出て歩いた。向かうのは俺がこの世界に来て降り立った場所だ。

 

芝生で海が見える場所。

俺はそこに寝っ転がり空を見る。雲一つなくとても気持ちいい。

 

 

俺は千冬の気持ちに応えるべきなのか?

 

風が吹いた。

 

俺はこの世界から居なくなるかも知れないのに?

 

飛行機が視界を横切っている。

 

それに同情じゃないか?

 

飛行機が飛行機雲を引いている。

 

俺の気持ちは?

 

目を瞑った。

 

 

 

『トウヤはね優しいから甘えたくなるのよ』

『人のせいにするな』

『人は誰かを頼って、頼られて生きているわ。会社も同じ。どんなに大きな会社だって小さな会社が無くなるだけで業績ががた落ちするものよ?ネルガルだってそういう小さな会社が有るのよ?』

『そうなのか?』

『もちろん。その会社以外では作れない物があるの。人も一緒。その人がいなくなったら駄目になっちゃう人がいるのよ』

『ふぅーん』

『真面目に聞いてるの!?』

『もちろん』

『…本当に分かってるのかなぁ』

 

 

 

ん?

 

寝てたのか。

 

空は夕日でオレンジ色に染まっていた。

風も冷たくなっていて肌寒い。

左腕が痺れていて感覚がない。

起き上がろうとしたが妙に重い。

体の左側を見ると千冬が寝ている。

 

俺の左腕を枕にしている。

 

 

俺は頼られてるのか。

さっきの夢を思い出した。

エリナとの会話だった。

 

きっとエリナも俺を頼っていたんだな。

 

 

もう少しこのままでいよう。

 

 

「トウヤ?」

「ん?」

「起きていたのか」

「ちょっと前にな」

「すまない」

「なにがだ?」

「私は…」

「いいよ。千冬が謝ることはないよ。俺は気にしてないし、それに俺も悪いんだよ」

「しかし…」

「甘えていいんだよ」

「え?」

「誰だって疲れるさ。もう少し気を楽にね、甘えられる時は甘えときな」

「…ありがとう」

千冬の顔は見えないが肩の辺りが湿った。

左腕で千冬の頭を撫でてあげると俺はまた目をつぶった。

 

 

目が覚めると周りは暗くなっていた。

頬が冷たくなっていみ右手で触ると温かくて気持ちがいい。

左腕の千冬はまだ起きてない様だ。

「千冬、千冬」

声をかけると目を覚まし体を起こす。

それに合わせて俺も起きた。

「暗くなったから戻ろう」

「…そうだな」

俺は立ち上がり千冬に右手を差し出すと千冬は嬉しそうに左手を出したので掴んで引き上げて立ち上がらせてあげた。

俺達は並んで寮への道を進んだ。

朝までの気まずい雰囲気は無く今までの雰囲気に戻った。

 

 

そして俺達はいつも通りに勉強をしていつも通りにベッドに入り寝た。

 

 

『トウヤはやっぱり分かってないよ!』

『なにがだ?』

『甘えさせてもいいけど誰も彼もってわけじゃないんだよ!』

『はぁ?』

『ほら分かって無いじゃない!』

『だから何のはなしなんだ?』

『この前も言ったじゃない!いつか刺されるよって!』

『なんで俺が刺されるんだよ』

『……』

怒ってどっか行っちゃったようだ。

 



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15話

今回はどうもしっくりきませんでした。

恐らくチョコチョコ改編していきます


 朝起きて千冬と一緒に朝食を食べて寮に戻る。

今日の晩から学生用の部屋で生活する事になる。短い間だったが世話になった部屋。少し感慨深い。

ベットのシーツをはずして洗濯しておく。

部屋を掃除して私物…参考書と服しかないがこれらを纏めておく。

 

制服に着替えて職員室に行き千冬に新しい部屋の場所を聞くと同じ建物の10階の24号室、1024だそうだ。二人用の部屋だが一人で使って良いとのことだ。

それと荷物を運び終わったら外出する事を伝えてから、部屋に戻り新しい部屋に荷物を運ぶ。

部屋の間取りは寮長室と変わらないので目新しい物はないが

、人の匂い…千冬の匂いがしないのが寂しく感じてしまう。

クローゼットに制服をしまうとレゾナンスに向かう。

モノレールに乗りレゾナンスに着くと銀行のATMでお金をおろして宝石店に行く。確か前回ここの前は通ったが中には入らなかった。

店は高級感があり私服がカジュアルであったことを少し後悔した。カウンターで名乗ると店員はビックリした顔して奥に入っていった。

暫くして店長らしき人と先ほどの店員が戻ってきた。手には黒いケースが持たれていた。

「お待たせ致しました。マツナガ様、念の為に身分の確認をさせて頂いて宜しいでしょうか?」

…絶対必要ないだろ。店長の目が好奇心で満ちあふれている。

財布から唯一の身分証のIS学園のIDを出すと店長と店員から驚きの声が上がる。

「これで良いですか?」

「ひゃい!結構です」

店長が舌を噛んだ。

IDをしまうと店長は黒い箱を開けると白いガラスの様な物が付いたイヤリングとネックレスが入っていた。

「こちらが商品でございます。石はダイヤモンド、チェーンはプラチナです。プラチナですので金属アレルギーの心配もございません」

…今ナンツッタ?

「ダイヤモンド!?なぜ!?」

俺は思わず大声を上げてしまった。

「はい、とても大切な方と仰ったと聞きましたので恋人かと思いまして石言葉の『永遠の絆』がぴったりだと考えました」

「あの…お値段は?」

「本来ですと70万円ですが今話題のIS操縦者ですから写真を一緒に撮らせて頂けましたら45万円でいかがでしょう?」

なんて逞しい!!

「分かりました。それで結構です。プレゼント用のラッピングをお願いします」

お金をだしトレーに載せる。

未だ現金の取り扱いに慣れない。俺の世界はすべてカードだった。

「はい。ありがとうございます。ではお会計をさせていただきます。はい、丁度ですねただいま領収書を発行いたします」

店長はお金を持って奥へと下がっていった。

目の前では店員が包装している。それを見て俺は一つ思い付いた。

「あのメッセージカードは有りますか」

メッセージカードを入れようかと思ったのだ。

「はい。ございます。お書きになりますか?」

「はい」

ボールペンとカードを貰いこう綴った。

『これまでのあなたに感謝を。これからもあなたの側に トウヤ』

 

書いていてむず痒かったがこれが俺の今の気持ちだ。

 

メッセージカードを店員に渡すと「素敵ですね」と言われたが恥ずかしくて赤くなってしまった。

 

 

包装を終えると袋に入れてくれて入り口に案内された。

「では店の入口で写真を撮らせて頂いて宜しいですか?」

「ええ。良いですよ」

了承すると店員のみんなが俺の隣に並ぶ。

店長はカメラを構えるとシャッターを切った。

2枚撮るとお礼を言われて解放してくれた。

 

俺はもう一件寄るためにレゾナンスを歩いた。

携帯を買うためだ。山田先生にお世話になってしまったのもあるし、きっと千冬とメールをしたりするだろうし。

携帯は直ぐに契約できた。

急いでIS学園に戻る。

 

 

IS学園に戻ると千冬の部屋に戻ってきた。

千冬はまだ戻っていない。

なんて言って渡そうかな。

 

驚く千冬の顔が楽しみだ。

 

今の時間は17時。

もうすぐ帰って来るだろう。

扉が開き千冬が帰ってきた。

 

「お帰り、千冬」

「た、ただいまトウヤ。もう荷物の移動は終わったみたいだな」

 

部屋を見回すと少し悲しそうな顔をした。

俺の荷物がないのが分かったのだろう。仕方がない。

 

「うん。もう終わっている。後は俺が向こうに移るだけだよ」

「そうか。明日は8時30分に教室だからな、遅れるなよ?」

「大丈夫だよ。それでだな…」

 

やば…イヤリングとネックレスを渡そうと思うのだが…緊張してきた。

 

「ん?どうした?」

千冬は首を傾げている。

「千冬に…今までありがとう。千冬のおかげで今日まで楽しく過ごせた。今日までのお礼とこれからも宜しくって事でコレをプレゼントしたいんだ。受け取ってくれないかな?」

 

俺は紙袋を差し出す。

 

「…え?すまないな」

 

千冬は紙袋を受け取ると中の包装された箱を取り出す。

 

「え!?この店は…」

 

千冬は気付いたのか?レゾナンスの宝石店って事に。

包装を開けるとメッセージカードをが出てきて見つめている。

ヤバい!!恥ずかしすぎる!

 

千冬は目を潤ませている。

 

「ありがとう、トウヤ…」

 

笑顔だが涙が頬を伝わっている。

 

「いいよ。千冬。箱の中も見て欲しいな」

 

千冬が箱を開けると口元を抑えて驚いていた。

 

「トウヤ!これは!」

 

驚いている。俺は笑顔になってしまった。

 

「…トウヤ!ありがとう。こんな高価な物を貰っていいのか!?」

「勿論だよ。千冬に渡すために買ってきたんだよ」

 

千冬はイヤリングを付けると鏡に向かう。

 

「どうだ?似合っているかトウヤ?」

「似合っているよ千冬」

「ネックレスはトウヤが付けてくれないか」

 

千冬はネックレスを俺に手渡すと後ろを向いた。

ネックレスを手に取り千冬の首にかけると髪の毛をネックレスから抜く。千冬がこちらを向くと黒いスーツにプラチナのネックレスはとても似合っている。

 

「うん!とても似合ってる!」

 

千冬は鏡に向かって自分の姿を確認すると顔を覆って泣き始めてしまった。

 

「どうしたんだ、千冬?」

「こういうプレゼントは初めてだったから…感動してしまったんだ」

 

手を離すと泣きながらも笑顔の千冬がいた。

 

「そっか。甘えたい時は何時でも言ってくれ。背中か胸は貸すからさ」

 

そう言いながら千冬の頭を撫でると千冬は嬉しそうに頷き俺に抱き付いて胸に顔をうずめて暫くの間、泣いていた。

 

その後は千冬に膝枕をしてあげたらそのまま千冬が寝てしまい

俺は今日買った携帯を弄り使い方を確認して過ごした。

 

携帯を弄っているといきなり画面が変わり着信が来た。画面の発信者には『ラブリー束さん』と書いてあり恐る恐る出るとハイテンションな声が聞こえてくる。

 

「ハロー!トー君!束さんだよ!

トー君ついに携帯を買ったんだね!なかなか電話来ないからこっちから電話しちゃったよ!」

 

なぜ携帯を買ったことが分かるんだ…

 

「束さんの手に掛かればチョチョイノチョイだよ!」

 

なんで心が読めるんだよ。

 

「さて!トー君の声も聞けたことだしまた電話するねー!バイバーイ」

 

切れた。

何だったのだ…

 

俺一言も喋って無いじゃん。

 

 

時間が7時半になったので千冬を起こす。夕飯が食べられなくなってしまう。

 

「千冬、千冬。起きて」

 

頭を撫でると千冬は目を開けてこちらを見ている。

 

「夕飯は食べないのかい?」

 

耳元と首もとが照明に照らされて光っている。

 

「そうだったな。行こうか。トウヤと食べられる最後の食事だしな」

 

明日からは俺は寮の学生食堂の使用になる。

 

「休みの日に外に行けば食べられるんじゃないのか」

「それもそうか。楽しみにしていよう」

そう言うと部屋を出て行ったのだが。

千冬が慌てた様子で時計を見ると

「しまった!」

と声を上げた。

「どうしたんだ?」

「一夏が7時に事務棟の入口で待っているんだ!」

千冬は慌てて事務棟に走り出した。

俺も一緒に走り出したが

「トウヤは食事を3人分用意しておいてくれ!」

そう言われてしまった為立ち止まった。

 

 

千冬はハイヒールを履いているのを忘れてるのか物凄い早さで走っていった。

 

 



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16話

投稿削除をしてしまい申し訳ありませんでした。

改めて投稿します。



職員用食堂で3人分を用意して席に座って千冬達を待っている。

 織斑一夏は織斑千冬の弟で世界で初のIS操縦者だ。今回の俺の護衛対象者でもある。性格はまだ会っていないから何とも言えないが、恐らく千冬と一緒で我慢強い性格なのだろう。千冬の弟という事で楽しみだ。

「マツナガさん。織斑先生待ちですか?」

後ろから山田先生が声を掛けてきた。

「山田先生。そうですよ山田先生は?」

「織斑先生と7時15分に約束に約束していたんですがなかなか来なくて…」

千冬は山田先生とも約束していたのか…。

原因は俺にもあるから千冬を責めることはできない。

「もうすぐ来ますよ。今、一夏君を迎えに行ってますよ。そこに座って待っていてください」

「そうですか。食事を温め直して来ます」

山田先生は別の席に置いてある食事を取りに行った。

 

入口を見ていると千冬が男性を連れてきた。

黒い髪に黒い眼で背丈は少し千冬より高い。

千冬は俺を見つけると照れくさそうな顔をしながらこちらに向かってくる。

俺は席を立って千冬たちを迎えた。

俺の前に立つと千冬は笑って一夏を紹介してきた。

 

「すまなかった。これが弟の一夏だ。一夏、この人が2人目の操縦者のマツナガ・トウヤさんだ」

「初めまして一夏君。私がマツナガ・トウヤです。明日から一緒の学年で勉強をする。宜しく頼むね」

俺は右手を差し出すと一夏も右手で握手をしてきた。

「初めましてマツナガさん。一夏です。千冬姉がお世話になっています。これからよろしくお願いします」

なかなかの好青年だ。

体つきを見てみると一言で言うならば中途半端だ。筋肉はあるが鍛錬をしている訳ではない。千冬と剣道をやっていたがやめたのかもしれない。

「トウヤで良いよ。一夏君は16歳で良いのだよね?」

「はい。高校受験の為に試験会場に行ったら間違えてISに触れてしまいISが動かせる事が分かったんです。俺の事も一夏って呼んでください」

なぜ?間違えてISに触れるって…

「面白い事するね?とりあえず座って食事にしないか?ち・・織斑先生もそれでいいですよね?」

危ない…千冬と呼んでしまうところだった。

「ああ。ところで山田先生はいなかったか?彼女とも約束していたんだが…」

「今は食事を温め直しに行ってますよ。もうすぐ戻るのではないでしょうか?」

俺達は席に着くと山田先生を待つ。

「トウヤさんの歳はおいくつですか?束さんの護衛をやっていたと聞いてますが」

「私は20歳だよ。高校に通うにはかなりおっさんだけどね」

「じゃあ千冬姉の一つ下なんですね」

「そうだね。少し前からここにいるけど織斑先生にはとてもお世話になっているよ」

一夏と話をしていると山田先生が戻ってきた。

「お待たせしました。織斑先生酷いですよ!!」

山田先生は頬を膨らませている。

「本当にすまない」

千冬が頭を下げている。

山田先生は席に着き笑っている。

 

みんなで食事を始めた。

 

「織斑先生は明日からは担任を持つのですか?」

俺は千冬に聞く。

「ああ。私は1年1組の担任だ。マツナガと一夏は私のクラスだ。そして1学年の寮長もやる事になっているぞ。山田先生は1組の副担任だ」

おお!俺の担任か!千冬を見ると微笑んでいた。

俺も微笑んでしまうと千冬の顔が少し赤くなったような気がした。

 

「マツナガさん、織斑君、明日からよろしくお願いしますね」

山田先生も笑顔でになっていた。

 

「そうだ。織斑先生と山田先生。今日、携帯を契約してきたのであとで番号とアドレスを交換してくれませんか?あと一夏もね」

そういうと俺はポケットから携帯を取り出して見せる。

 

「おお!最新機種じゃないですか!すごい!」

一夏が形携帯をみて興奮している。

なんだ?そんなに珍しい機種なのか?

「そんなに珍しい機種なのか?」

俺は頭に浮かんだ疑問を一夏に聞いてみた。

 

「これは今年の冬に発売された一番高性能な機種なのですよ。あまりに高くて学生では手が出せないって有名なんですよ」

ああ…学生憧れの高位機種ってやつか。

 

「後でいじってみていいから番号とアドレスを入れておいてくれないか。まだ全然いじってないから使い方が分からなくて困っていたんだ。

「良いんですか!?ありがとう!」

 

一夏は目を輝かせて携帯を見ていた。

 

俺達は楽しく会話をしながら食事をした。

山田先生と千冬は代表候補生の時に一緒に訓練をした仲で千冬は近接格闘戦、山田先生は中遠距離の射撃戦が得意だったそうだ。

結局は日本代表は千冬に決まったそうだ。山田先生いわく『織斑先生はどんなに距離をとってもこちらの射撃を避けて懐に入ってくるから勝てませんでした』との事だ。確かにあの接近は本当に怖かった。

けどその千冬に勝ってしまった…

まぐれだけどね。

 

「でもマツナガさんは織斑先生に勝ちましたからね。これで日本最強はマツナガさんですよ。本当にあの模擬戦は凄かったです!あんな短時間んで織斑先生に勝っちゃうなんて今思い出すだけでも興奮しちゃいます」

山田先生が光芒とした顔をしている。

 

「え!?トウヤさんは千冬姉に勝ったんですか!?」

一夏も驚愕の顔を浮かべて椅子から半立ちになった。

「そうだぞ一夏。マツナガは私を倒した。殆ど無傷でな」

千冬が自慢げに言っている。

千冬さん…今のは自慢するところではないでしょう。

「たまたまだよ。たまたま作戦がうまくいった。ただそれだけだよ。あの模擬戦は織斑先生が俺のエステバリスの特徴、武装、俺の機動の癖を知らなかったからあの結果になったんだよ。また戦ったら次は恐らく織斑先生が勝つよ」

 

戦いとは情報だ。相手の数、武装、目的、補給状況、指揮官の癖、性格などが分かれば例えこちらの戦力が半分以下でも勝つことができる。これは軍でも教えていることだ。

千冬との模擬戦では俺は千冬の武装、戦い方、目的を知っていた。だから勝てた。

 

「謙遜するな、マツナガ。私はあの時は本気でお前を倒しに行った。だが勝てなかった。だからお前の勝ちなのだ」

 

話がループしそうなのでこれ以上はやめておこう。

 

「わかりました。では私の誇りにします」

俺がこう言うと千冬は嬉しそうに頷いていた。

 

 

食堂で解散をして俺と千冬と一夏は寮に向かっている。

一夏の部屋は俺の隣の1025室だそうだ。

護衛の件があるのでとても助かる。

 

 

「それでは明日は8時30分に一組の教室に集合だ。初日から遅刻などするなよ」

それだけ言うと寮長室に戻っていった。

俺と一夏はエレベーターを待っている。

「トウヤさん、千冬姉がやたら優しくなった様な気がするのですが何か知ってますか?」

 

絶句してしまった。

余裕が出来たのかも知れないな…原因は多分俺。

言えない…

 

「そうなのか?俺には分からないな」

「男でもできたのかなぁ…それならそれで安心なんだけど」

「どうしてだい?」

「いや…俺が言うのもなんだけど、俺を千冬姉が一人で育ててくれたから無理していたんじゃないかと思って。俺も家計を助けるためにバイトとかをしてたけど結局俺は千冬姉に助けられてばかりだったし、それどころか仕事の邪魔もしてしまったし」

最後のはモンドグロッソの事か。あれは仕方がない。

 

「あまり気にしなくていいんじゃないか?織斑先生が一夏の事を喋っている時の表情は自慢げだったぞ。どこぞのブラコンだよって思うぐらいにね」

 

ごめん、千冬…

一夏の為にブラコンにしちまった。

 

エレベーターを降りて看板にしたがって進む。

 

「そうなのかな。でも俺はこのIS学園で強くなって千冬姉を守れるようになりたいんだ」

…強くなりたいか。

「そうなのか。じゃあ明日から一緒に頑張ろう」

「ああ!よろしくトウヤさん」

「それじゃあおやすみ」

「おやすみ、トウヤさん」

 

俺達は自分の部屋に入っていった。

 

 

 

部屋の中はとても静かで生活感がなくてとても寂しい感じがする。

俺はシャワーを浴びるために服を脱いでバスタオルをもってシャワー室に入った。

 

明日からは2年振りの学生生活だ。なんだか妙な気分だ。俺はハイスクールを卒業したからまた同じことを繰り返すのだ。入学案内に書いてあったカリキュラムだとハイスクールよりかなり難しい事を教えるようだ。

IS学園は操縦者の育成とうたっているが他にも整備士と研究者も育てるらしい。実際に2学年からは操縦課、整備課、研究開発課と別れる。

IS学園を卒業後は企業、軍に就職する様だ。他にも軍の大学に進み幹部になる者もいる。

確かに今この世界を支配してるのはISといっても過言ではない。

どこの軍もISの開発の為の予算を膨大につぎ込んでいる。そのために航空戦力、陸上戦力の削減を行っている。

その為に軍内部での女性の比率も上がっているようだ。

 

女尊男卑。

 

間違った言葉だな。

 

 

 

シャワーを浴び終えて部屋に戻ると携帯の着信音が鳴っている。

千冬からだ。

 

「もしもし?」

「トウヤか?今大丈夫か?」

「問題ないよ」

「そうか。今日のお礼をもう一度言いたくてな。本当にありがとう。とても嬉しかった。一生大事にする」

「気にしなくていいんだよ。あれはお礼なのだから。大事にしてくれるとうれしい」

「それでもだ。ありがとう」

「うん」

「「………」」

無言になってしまった。

話題を考える。

束さんからの電話の事を話そう。

「そうだ。千冬が寝ている間に束さんから電話が来たんだよ」

「束から?なんであいつがトウヤの番号を知っているんだ?」

「俺もそう思ったら簡単な事だよって言っていたよ」

「あいつはまた危険な事をやっているな」

「やっぱりハッキングだよね?」

「恐らくはな」

「束さんは恐ろしい事が出来るな」

「あいつを敵に回すと大変だよ」

「みたいだな」

「「……」」

また無言だ。

気まずい。

 

「それじゃあ明日教室でな」

「わかった。宜しく頼みます。千冬先生」

「ああ。千冬先生もなかなか悪くない響きだな」

そう言って電話は切れた。

 

携帯を机の上の充電ホルダーに差し込みベッドに横になる。

 

 

 

 

明日に向けて早めに寝る事にしよう。

きっと大変な1日になるんだろうな。

 

 

 

 

 



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17話 閑話その1

UAが10000を超えました!
ありがとう御座います!

ここでどうしてもやりたかった閑話を入れさせていただきました。



「ただいま!」

トウヤがドアをくぐるとエプロン姿の千冬が玄関に小走りでやってくる。

「お帰りなさい!トウヤ!!」

千冬は黒髪を後頭部で束ねた俗に言うポニーテールにしている。

千冬は小走りのままトウヤに抱きつき唇を重ねた。

数秒重ねた後に離すとトウヤは笑顔で

「ただいま。寂しかったか?」

千冬を抱き締めたままで尋ねた。

「当たり前だ。3週間も離れていたんだ。結婚してから最長だぞ」

千冬は目に涙を浮かべながら頬を膨らませて言った。

トウヤと千冬はトウヤがIS学園を卒業と同時に結婚をし、千冬は結婚を期に退職した。そしてトウヤはISを開発する企業にテストパイロットとして開発部に就職した。

 

この結婚は世界中衝撃をもたらした。元日本代表でモンドグロッソ総合優勝者の織斑千冬、そして男性操縦者で同じく元日本代表でモンドグロッソ総合優勝者、そして人類改心の切欠となったマツナガ・トウヤの結婚だ。

人類の改心とはトウヤがモンドグロッソを優勝すると世界中の男性が狂喜乱舞した。だがトウヤの記者会見で騒ぎは沈静化させた。会見の内容は

『私は男性操縦者ですが女性達が弱いとは思いません。実際に今大会で戦った各国の代表はとても強かった。どんな訓練よりも一試合一試合がとても辛かった!そんな代表達と戦場で万が一にも戦いたくない。みなさん、今この世界は戦争の寸前であることに気付いていますか?女性至上主義者と男性至上主義者との戦争です。ISが最強と言われていますがそれは単純に個々の戦闘力です。数が少ないと言うことは結局は局地的な話なのです。ここまで言えば分かると思います。結局はISが有ろうと戦略的に一般兵器が使われるとISでは対処しきれないのです。ですからお願いです。ISを平和利用してください。兵器にしないでください!篠ノ之博士の唱えた宇宙開発に利用してください。お願いします。ご存知の通り私は篠ノ之博士と繋がっています。もし宇宙開発への利用を約束していただけるのであればコアの増産と男性の操縦の研究を進言します』

と言う内容だった。

 この記者会見後に国際世論の熱烈な後押しにより国際IS委員会にて一層の兵器利用への厳罰化が採択されて世界中の国々がISの兵器利用を放棄した。あの世界の警察をうたっている国も放棄したのだった。

 

そして世界中の人々が宇宙を見上げる様になった。

 

宇宙進出の拠点、地球衛星軌道に巨大宇宙ステーションが、開発されることが正式に決まると篠ノ之博士がコアの増産と男性の操縦を研究する事を発表した。

それからの人類は宇宙へと夢を広げるようになったのだ。

 

そんな話題の二人の結婚だ。世界中の人々が祝福しお祝いを述べた。

 

 

 

トウヤと千冬はリビングで離れ離れになっていた3週間の話をしていた。酒の入ったグラスを片手にだ。

「今は重力推進による限界速度の競争だね。宇宙では一回速度が出てしまえば維持はされるからね」

「そうか。やっとハイパーセンサーがフルに活用されるようになるんだな」

ISの開発も速度が一気に上がるようになった。その分トウヤの仕事も忙しいが千冬とトウヤにとっては嬉しい事態だ。

 

「トウヤ、風呂と食事と…どれにする?」

千冬は真っ赤になっている。

「それじゃあ一緒に風呂に入ろうか」

トウヤは余裕でそう言うと千冬は真っ赤になって頷いた。

二人は風呂場に消えて行った。

二人はなかなか出てこなかったとだけ言っておこう。

 

 

「ふぅー、ごちそうさま。とても美味しかったよ。じゃあ洗おっか」

二人は夕食を終えると二人で皿洗いをする。結婚当初から一緒に洗っている。

千冬は最初は料理が壊滅的だった。結婚の直前の一夏の懸命な指導と練習によってなんとか人並みになった。トウヤと付き合ってすぐに織斑家で千冬がトウヤに手料理を振る舞おうとしたときは大惨事になった。

「トウヤ!フライパンが爆発した!」

とか

「トウヤ!ちくわが爆発した!」

なんて謎の現象が起きて結局は二人で作る事になった。

今ではレパートリーもなかなか増えていてトウヤの胃袋を満足させている。

そしてリビングでのんびりくつろいで二人で寝室に向かい1日が終わる。

 

 

 千冬の弟の一夏はトウヤが日本代表を引退した後に日本代表となり今は世界中を回っている。卒業式でトウヤと千冬で結婚する事を伝えると

「やっぱりそうだったんだ」

と言い千冬とトウヤを驚かせた。

「いつから気づいていたんだ」

と千冬が聞くと

「初めてトウヤと会ったとき?千冬姉と久々に会ったら優しく女らしくなってるんだもん。俺ピーンと来ちゃったもんな」

などと言い千冬とトウヤを驚かせた。

一夏は二人の結婚に大賛成してくれて話はとんとん拍子で進んだ。

千冬がIS学園に退職を、申し出た時は学園が考え直してくれとかなり渋っていたが臨時の講師としてなら籍を残しても良いという事で話は纏まった。そのため月に4、5日は学園に行って講師をしている。

 

2人はとても充実した結婚生活を送っていたが気がかりがない訳ではない。

時々、束が乗り込んで来てその度にオムツやベビー服や玩具を置いていくのだ。

束いわく

「ちぃーちゃんとトー君の子が楽しみでどうしても買っちゃうんだよぉ!」

とか

「こうしておけば早く赤ちゃんが見れるかも」

と言い千冬に発破をかけるのだ。そのたびに二人は微妙な空気に包まれる。

恥ずかしいやら済まなそうな空気にだ。

そう。束のプレッシャーがひどいのだ。二人は小作りをしてない訳ではないのだがなかなか出来ないのだ。

千冬もトウヤも気にしない様にしてはいるが最近は病院に行くか本気で相談するようになった。

 

 

 

 ある日トウヤは会社のデスクで報告書を纏めているとトウヤの携帯に山田先生から着信が来た。

「もしもし、久しぶりですね山田先生」

「お久しぶりです!マツナガさん!突然ですみませんが急いで学園に来てください!!おりむ…千冬先生が!」

山田先生の言葉を聞くとトウヤは頭をISで蹴られたかの様な衝撃に襲われた。

トウヤは咄嗟に走り出し上司に私的な用事で早退する事を伝えると車に乗り込み学園へと向かった。

道中のトウヤは落ちつきなく珍しく前の車に悪態をついたりと普段では考えられないような行動をとっている。

IS学園の正門でマツナガと伝えるとすんなり通してもらえた。車を来客用に止めるて職員室に走って向かうと山田先生が待っていた。山田先生について行く道すがら山田先生に千冬の状況を聞いてみるが答えてくれない。その事がますますトウヤを不安にさせトウヤの手は震えてしまっていた。

トウヤが連れて来られたのは学園の医務室で医師が常駐している場所だ。

医師は不在のようで隣の病室に入るとカーテンに覆われたベットがあり山田先生に中に入るよう言われてトウヤは中に入った。

ベットには千冬が寝ているが顔色が良くない。しかしトウヤはホッとしてしまった。最悪の事態を考えていたのでその最悪の事態は除外された。しかし千冬に一体何が起きているのか。トウヤはまだ不安に押しつぶされそうな状態だった。

千冬の手を握るとヒンヤリとしていた。いつも千冬の手は冷たかった。だがその手を暖めるのがトウヤは好きだった。

トウヤは震える手で千冬のてを温めた。

「千冬…何が起きたんだ…いつもの様に話してくれないか…」

目を開けない千冬に掠れた声で話かけてしまうトウヤ。

山田先生がカーテンの中に入ってきた。

「マツナガさん、千冬先生は私とISで生徒達に高速近接運動を見せている途中で千冬先生が急にバランスを崩して私の機体に接触してしまいその勢いでアリーナの壁に激突し

しまいました。シールドバリアは正常に作動していましたが何故か目を覚まさないのです」

 

山田先生は責任を感じているのか顔を青くさせて目には涙を浮かべている。

「山田先生に非は有りませんよ。ISでの接触なんて日常茶飯事でしょ?」

トウヤはそう言って山田先生の肩をポンと叩く。山田先生は「はい…」と頷いているが涙はまだ止まっていない。

それからトウヤと山田先生は千冬のベットの脇に座って校医が戻ってくるのを待つ。

10分経った。

トウヤと山田先生は10分がとても長いと感じた。

それから5分経つと校医が戻ってきたようだ。

医務室にトウヤと山田先生が移動すると女性の校医は椅子に座るように促した。

「初めまして。校医の壬生谷です。先ずはマツナガ先生の状態ですが生命に関わる事ではありません。山田先生の仰っていた状況を鑑みて恐らくマツナガ先生は飛行中に気を失ったのではないかと予想されます。気を失った理由ですが…」

女性校医は話をとめた。

「それはマツナガ先生が起きてから説明しましょう。逼迫した話では有りませんので」

と言い、タバコとライターを机から出すと医務室を出て行った。

トウヤと山田先生は呆気にとられてお互いの顔を見合わせると無言で椅子から立ち、千冬のベットへと戻った。

 

千冬は相変わらずテンポよく胸元を動かして寝ており、まだ起きてはいなかった。

山田先生はトウヤにひとまず職員室に戻ると伝えて出て行った。

トウヤはまた千冬の手を握りひたすら千冬が目を覚ますのを待った。

 

 

1時間ぐらい経った頃、千冬が目を覚ました。

「ん?トウヤ?私はどうしたんだ?」

千冬は状況を理解出来ていないようだ。トウヤはこれまでの経緯を千冬に説明すると千冬は頭を抱えてしまった。

「やってしまったか。すまない、トウヤ。今日は朝から体調が優れなかったのだ。てっきり…その…昨日の晩の疲れかと思ってしまって…」

昨晩はお楽しみでしたね。

「そうだったのか。千冬に怪我とかがなくて本当に良かった。このあと壬生谷校医が原因を説明してくれるようだから一緒に聞こう。それまではゆっくり休んでいよう」

千冬は頷くと再び目を閉じた。

俺は医務室から出ると山田先生に電話で千冬が目を覚ましたこと伝えた。

暫くすると壬生谷校医が戻って来たので千冬が目を覚ました事を伝えると一緒に千冬のベットまで付いていった。

「千冬、壬生谷先生が来たよ」

トウヤが声をかけると千冬は目を開けて上半身を起こした。

「マツナガ先生、それとマツナガさん。これからマツナガ先生の状態について説明します。短刀直入に言いますが宜しいですか」

壬生谷先生は間をおいた。

トウヤと千冬はお互いに手を取り合いしっかりと握り合った。

そして壬生谷先生は

「おめでとう御座います。マツナガ先生!」

と言った。

トウヤと千冬は状況を理解出来ていないようだ。難しい顔をしたまま首を傾げている。

「ですから千冬さんは妊娠したんですよ!子供を授かったのです!」

壬生谷先生は理解出来ていない二人にもう一度分かりやすく説明をする。

千冬はやっと理解できたのかトウヤ方を向き、トウヤも理解できたのか千冬の方を向いた。

そして二人同時に

「「ヤッターーーー!!」」

と大声を上げて抱き合った。千冬もトウヤも涙を流して喜び合った。壬生谷先生も拍手をしながらおめでとうと言って二人を祝福した。

 

「まだ初期ですが安定するまでは安静にしておいてください。いいですね」

改めて壬生谷先生から話を聞き医務室から出ると山田先生が医務室に走ってきた。

「織斑先生!グアイはどうだったんですか!?」

息を切らせて千冬に訊ねている。

「山田先生、大丈夫だ。それに私はマツナガ先生だ」

千冬は山田先生の肩を優しく叩きながら答えた。

「そうですか…良かったです。それより何でお二人は嬉しそうにしているのですか?」

山田先生は首を傾げて2人を見比べていた。

トウヤははにかみ千冬は幸せそうにお腹を撫でた。

それを見た山田先生はパァーと明るくなり2人に抱きつき

「おめでとう御座います!!遂に出来たんですね!!」

と山田先生まで涙を流して喜んでいた。

千冬も泣きながら

「ありがとう、山田先生」

と言いいつの間にかトウヤを放って喜びあっていた。

 

 

3人は駐車場への道を歩いていると前の方に学園の制服を着た女生徒達が道の端に寄って立っていた。

トウヤと千冬はお互いの顔を見た後に山田先生を見ると山田先生は生徒たちの方を見ながら

「すみません。実は私、千冬先生のおめでたを壬生谷先生から先に聞いていていました。学園のみんなでお祝いしたくてみんなでお二人が出てくるのを待っていたのです!」

そう言うと生徒達みんなが

「「「「マツナガ先輩!千冬先生!!おめでとう御座います!!!」」」」

と言う声が辺りに響き紙吹雪やクラッカーが辺りに舞った。

突然の出来事に2人は驚き唖然としていたが山田先生に手を引かれて前に進むと笑顔になってみんなにありがとうと言う言葉をかけて手を振ったりしていた。

途中で横断幕まであり、かなり前から準備していたことが伺える。

駐車場まで来ると山田先生に御礼を言うと二人は車に乗って家へと帰っていった。

 

 

「トウヤ。私はとても幸せです」

 

「俺もだよ千冬。ありがとう」

 

 

その日二人はとても幸せな気分で眠りについた。

 

 

 

「千冬、千冬、起きて」

私はトウヤに起こされた。目を開けるとトウヤの顔が目の前にあった。体を起こすと私はどうやらトウヤに膝枕をして貰っていたようだ。

 

「夕飯は食べないのかい?」

そう言われて私はさっきのは夢だと悟った。

 

夢オチかよ!と少し苛ついたが…トウヤと結婚…妊娠…なんて幸せな夢だったんだ…

あんな夢なら覚めなくても良いかも…

 

現実の方が良いに決まってんだろう!!

 

 

「そうだな行こうか。トウヤと食べれる最後の食事だしな」

 

 

そんな事を思いながら食堂に行くために部屋を出た。

部屋から出て時計を見たら一夏との約束の時間を過ぎていて焦ったが。

 

いつかあの夢のような生活を送るために、私は決意新たに走り出した!!

 

トウヤ!いつかお前の子を孕んでやるからな!!




結局夢オチでした。

ですがこんな千冬も悪くない!!
私の自己満足です。

2015年1月25日一部修正・編集。


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激闘!クラス代表決定戦の章
18話


今回は千冬回です。

お気に入り150件overです!
ありがとうございます!
がんばって気に入って頂ける様な作品にしていきますので皆さん、今後ともよろしくお願いします。



 今日は山田先生に早く帰るように言われて仕事を早めに終わらせて私達の愛の巣に帰ってきた。確かにトウヤは愛の巣から飛び立ってしまう。こんな時は嬉しくもあり悲しくもあると言っていたが私は悲しみしか無いじゃないか!!

 

 

トウヤは午後から外出をしているがもう戻ってきているのだろうか。部屋の扉を開けるとトウヤは部屋にいた

「お帰り、千冬」

トウヤは笑顔で『お帰りと』言ってくれた。心が温かくなる。

「た、たたいまトウヤ」

 

あぁ!もう幸せだ!!

このまま今日がずっと続けば良いのに!!

けど、部屋を見回すとトウヤの私物が一切無くなっている。もう次の部屋に持って行ってしまったのだな。

「もう荷物の移動は終わったのだな」

現実が悲しい。

「うん。もう終わっている。後は俺が移るだけだよ」

 

本当は行かないで!と言いたい。けど立場的に言えない。

明日から私とトウヤは先生と生徒という立場になる。先生を辞めたいと思ったのは今回が初めてだ。

「そうか。明日は8時30分に教室だからな、遅れるなよ」

 

教師としての言葉が出てしまった。

 

「大丈夫だよ。それでだな…」

 

トウヤが急に緊張した面もちになった。

 

「ん?なんだ?」

 

何かあるのか?

トウヤが緊張しているのを見てるとこちらも緊張してしまう。

まさか…

 

「千冬に…」

綺麗な小さな紙袋を差し出してきた。

「今までありがとう。千冬のおかげで今日まで楽しく過ごせた。今日までのお礼とこれからも宜しくってことでプレゼントしたいんだけど受け取ってくれるかな」

 

「え?すまないな…」

 

なんだ…プロポーズかと期待してしまったではないか!

 

袋の中を取り出すと見たことのある店の名前だ。

「え?この店は…」

確かレゾナンスの宝石店じゃないか!?

包装紙を開けると中にメッセージカードが入っていた。

カードには

『これまでのあなたに感謝を。これからもあなたの側に。トウヤ』

 

胸の奥が熱くなった。

これからもトウヤが側に居てくれる。

嬉しくて涙が込み上げてくる。

 

「ありがとう、トウヤ」

私もトウヤとずっと一緒にいたい。

涙が頬を伝ってしまった。

「いいよ。千冬、箱の中身も見て欲しいな」

黒い箱の蓋を開けると中にはプラチナのイヤリングとネックレスが入っていた。しかもこの透明な石は…ダイヤモンドじゃないのか!?

ダイヤモンド!?婚約指輪に使われる愛の結晶!

トウヤは私に愛を贈ってくれたのか!?

あまりの嬉しさに

キターーーーー!!!

と叫びそうになって慌てて口元を抑えた。

 

それにしてもこれは…婚約の意味ではないのか?

これは何かの間違いではないのだろうな!?

 

「…トウヤありがとう。こんな高価な物を貰ってしまっていいのか!?」

「勿論だよ。千冬に渡す為に買ってきたんだよ」

 

私のために…トウヤ…

 

イヤリング…私の為に買ってくれた。

 

イヤリングを箱から取り出し耳に付けてみる。

そして鏡に向かって見てみると耳にトウヤから貰ったダイヤのイヤリングが光っている。

 

幸せだ…

こんなに幸せで良いのだろうか…

 

「どうだ?似合っているかトウヤ!?」

「似合っているよ千冬」

ネックレスはトウヤに付けて貰いたい。

「ネックレスはトウヤが付けてくれないか」

 

トウヤにネックレスを渡すとトウヤは私の首にネックレスを回す。

ゾゾっと快感の鳥肌が立ってしまった。

私の首にトウヤの腕が回る。

私はもう幸福絶頂。

 

ネックレスを付け終えると髪の毛を抜いてくれた。トウヤが髪の毛に触れてくれた…

 

あぁ〜なんて気持ちが良い…

 

鏡を見ると胸もとに耳と同じようにダイヤモンドが光っている。

 

トウヤに見せる。

「うん、とても良く似合っている」

トウヤはとても良い笑顔で笑ってくれた。

嬉しい…本当にうれしい…

また涙が溢れ出してしまった。

 

「どうしたんだ千冬?」

トウヤが困った顔をしていた。

慌てて笑顔になる。

「こういうプレゼントは初めてだったから…感動してしまったんだ」

本当に嬉しかったのだ。

 

「そっか。甘えたい時は何時でも言ってくれ。背中か胸ぐらいは貸すからな」

そう言うとトウヤは私の頭を撫でてくれた。

 

とても気持ちが良い。

 

トウヤがずっと一緒にいてくれる。これはもう決まりなんだよね!

 

嬉しくなって私はトウヤの胸に飛び込んで泣いてしまった。なかなか涙が止まらない。息も落ち着かない。でもとても落ち着く胸だ。厚くて広くて逞しい。トウヤの匂いもとても良い。なんて言うか…ナニかが込み上げてくるな…

暫く堪能しているとトウヤが

「膝枕しようか?」

と言ってくれたので私は遠慮なくトウヤに膝枕をしてもらった。

もうこのまま死んでしまいたい。

 

死なないけどな。

 

トウヤの匂いに包まれながらトウヤとの幸せな生活を想像しながら私は寝てしまった。

 

 

 

 

「千冬、千冬、起きて」

トウヤの声だ。

目を開けると微笑んだトウヤがこっちを見ている。

私はこの笑顔がとても好きなんだ。

「夕食は食べないのかい」

「そうだったな。行こうか。トウヤと、食べられる最後の食事だしな」

暫くはトウヤと一緒に食事が出来ない。

「休みの日に外に行けば食べられるんじゃないかのか」

誘ってくれる気があるのか。楽しみにしていよう。

「それもそうか。楽しみにしていよう」

私達は部屋を出た。

 

またデートが出来るのか…クフフ…

トウヤとデート。

一緒にご飯。

今度一夏に…!!

 

私は腕時計を見ると7時30分を指していた!

「しまった!」

一夏が事務棟で待っているんだった!!

「どうした!」

トウヤが驚いた顔でこちらに聞いてきた。

「一夏が事務棟の入口で待っているんだ」

私は急いで事務棟に走る。一夏が心配で仕方がない!

後ろからトウヤが付いてきている。

「トウヤは食事を3人分用意しておいてくれ!」

そう言うと私は事務棟に目一杯走った。

暫く走ると事務棟が見えてきた。事務棟の入口に一夏が立っている。

「一夏!済まなかった!」

入口に到着すると頭を下げる。

「いや、忙しかったんだろ?俺は大丈夫だよ」

一夏は気を使ってくれているのか怒っていない。

 

本当は寝坊なんだが…言えない。

 

「すまんな。それじゃあ行こうか。食事を用意して貰っている」

私と一夏は並んで職員食堂に向かう。

一夏と会うのはどれくらい振りなのだろうか。たや

忘れたな。

「まさか千冬姉がIS学園の教師だったなんてビックリしたよ」

「まあな」

言ってなかったか。

そうか。

 

食堂にはトウヤが待っていた。

私の大好きな人だ。

 

私の胸と耳にはトウヤの気持ちが光っている。

私の大切な人から貰った大切な物だ。




入学前は今回で終了です。
次回から原作突入です。


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19話

原作突入!


 携帯の、目覚ましが鳴っている。ベッドから立ち机の携帯を掴むと目覚ましを止める。時刻は7時だ。洗面と歯磨きをして制服に着替える。今日からはYシャツに青いネクタイをする。青いネクタイは1学年の証だ。その上に白を基調にした学園の制服を着た。これがIS学園の基本の着方だ。ただ学園の制服は改造が認められているらしい。

 

テレビをつけてニュースを見てみると俺と一夏のニュースで持ちきりだ。何か恥ずかしいので消した。

学園から支給されている鞄の中を確認してみる。筆箱とノート。鞄を持ち

「よし!行こうか」

俺は部屋を出る。

俺の新しい生活の始まりだ。

 

「あっ、トウヤさん、おはよう」

廊下には一夏が待っていた。

「ああ、一夏おはよう」

「一緒に朝飯行かないか?」

「ああ、良いよ」

俺達は2人で食堂に向かったが、食堂に向かう道中で俺達を見つけるとキャーキャー騒ぎながら後ろを付けてくる女子が増えてしまう。

「トウヤさん…俺予想以上にキツいんすけど…」

一夏の顔色が青くなってきていた。

「確かにキツいな。大丈夫か?」

俺は周りを見回すとまだまだ増えそうな状況に頭を抱える。

 

これはなんとかしないと俺達は保たないんじゃないか…

 

「一夏、購買でパンを買って教室で食べよう」

「うん。そうしよう」

 

俺達は食堂ではなく校舎の購買に向かうことにした。

 

 

 

教室に着くとまだ時間が早いせいか人は少なく俺達が入った瞬間はざわついたが俺達が疲れた顔でパンを食べ始めると遠目からそれを眺めるだけになった。

俺の席は窓側から3列目つまり真ん中の一番後ろで、一夏は『あ行』なのに真ん中の列の最前列になっていた。

千冬だな。あながちブラコンって間違ってないんじゃないか?

 

一夏の席の隣の席に座ってパンを食べている。

「これから毎朝あんな感じになるのかなぁ…」

「織斑先生にお願いして注意して貰うよ。さすがにあれは俺でもキツい」

「そっか…トウヤさん、頼みます」

一夏が少し復活した。

 

 

さっき座席割りを確認したが俺の左前に『布仏本音』の名前があった。更識の言っていた生徒会の役員で更識の部下だ。まだ教室に来ていないから顔は分からない。

それと窓際の前から3番目にまたまた謎の『さ行』の人物がいた。篠ノ之箒だ。

 

重要人物を一括りで纏めたようだ。

 

俺達は俺が座っている席の生徒が来るまで一夏と話しをしていた。

8時25分になると全員が席につき山田先生が入ってきた。

 

「みなさん、入学おめでとう御座います。私は皆さんのクラスの、副担任の山田真耶です。これから一年間宜しくお願いしますね」

黒板(ディスプレイ)に名前を映し出して挨拶をするが誰も返答をしない。

 

仕方ない。

 

「宜しくお願いします」

と俺は返答をして拍手を始めた。

俺の行動にみながつられて挨拶と拍手をしていた。

山田先生はこちらを観て『すみません』と言うような顔をしていた。

そしてその後は自己紹介が始まった。16歳の女子高生は元気が良い。みんな『彼氏がいない』を強調して自己紹介を終えていく。

一夏は篠ノ之箒の方をチラチラ見ては何かを訴えているようだ。

「次は織斑一夏君ですよ」

一夏の番になったのに一夏はうなだれて気付いいないようだ。

「織斑一夏君!」

山田先生がちょっと強めの声を上げた。

「え?あ、はいっ!」

やっと気づいたようだ。

「ごめんね、自己紹介なんだけど『あ』から始まって次は織斑君の番なんだけど自己紹介してくれないかなぁ?駄目かなぁ?」

 

…山田先生、なんでお願いなんですか…

俺はちょっと頭を抱えたくなった。

一夏は席を立ち上がり意を決したようで自己紹介を始めた。

「織斑一夏です!…」

え?もう終わり?

みんなの顔が

『もう終わりじゃないよね』とか『あとは!?』みたいな顔をしている。

後ろの扉から千冬が入ってきた。俺と目が合うとウインクをして俺の横を前に進んで行った。

そんな事を知らない一夏はあわあわした後に意を決したのか息を吸って

「以上です!」

とほざいた。

 

ズガガガガッ!!

 

と教室内に人が椅子から墜ちたり机に倒れ込む音が響いた。

 

奴はプロだ!きっとコメディアンなのだ!

 

そして千冬は右手に持っていた出席簿を振り上げるとシュッ!っと言う音とともに一夏の頭に振り下ろした。

 

パァーン!!

 

良い音が教室に響いた。

 

一夏は振り向き千冬の顔を確認すると

「げっ!張飛だ!」

と叫んでいた。

一夏の性格に自爆大好きを追加しておこう。

「誰が三国志の酒豪の無双将軍だ!って酒豪は否定出来んな…」

確かに。

 

「織斑先生、会議はもう終わられたのですか?」

山田先生は千冬に確認をとっている。

「ああ、ホームルームを押し付けてしまってすまないな」

「いいえ、構いませんよ。私は副担任ですから」

それを聞くと頷き教室中を見回して口を開いた。

「私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。今日から君たち新人を一年で操縦者に鍛えるのが私の仕事だ。先生方の言うことは良く聞き良く理解しろ。分からないことがあれば聞きに来い。分かるまで教えてやる。先生方の指示には従え。逆らっても良いが指示に従え。逆らって死ぬ奴は今すぐ出て行って退学届けを書け。良いな」

千冬は有無を言わせぬ雰囲気で『命令』をしている。

あれは軍でもよく使われるフレーズだ。

女生徒達は恐怖で萎縮してしまったことだろう…と思いきや

「「「キャーーー!!!本物の千冬様よー!!」」」

「私はずっとファンでした!」

「千冬様に会うために来たんです!喜界島からです!」

「グヘヘヘヘヘ…」

なんか最後にヤバいの聞こえちまった。

「全く…毎年よくこんな馬鹿者ばかり集めるな。まぁ…今年は素晴らしい者も来たけどな…」

気持ち分かります。後半は何を言ってたか聞こえなかったが…

「キャァーーー!お姉さま!もっと叱って!罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そして時にはつけあがらないように躾てください!」

「ジュルリ…」

ヤバい…この教室に可笑しいのがいる…

いったいこの女の園は何を飼っているんだ?

「で、おまえは満足に自己紹介も出来んのか?」

千冬はなかなか厳しい言葉を叩きつけていた。

「いや!千冬姉!俺…」

ズゴパァーン!!

おい!千冬その出席簿に何を仕込んでる!音がおかしい!

「織斑先生だ!馬鹿者」

「はい…織斑先生」

公私のけじめはつけようよ一夏…性格分析にお馬鹿を付け加えるぞ。

「え?もしかして織斑君と千冬様は姉弟?」

「じゃあ男性操縦者って遺伝?」

「いいなぁ~。変わって欲しいなぁ」

「妬ましい…」

遺伝で無いことは証明されてるだろ。

最後のは要注意だな。

 

「取り敢えずさっさと自己紹介をしろ。この後は入学式が体育館で行われる。9時30分には移動を開始するからな。それまでに終わらせろ。いいな」

そう言うと千冬は教室の端に置いてある椅子に座る。

「では次の方から再会してください」

山田先生は再開するように促して次の子が自己紹介をする。

俺の番までもうすぐだ。

自己紹介なぁ。ナデシコに乗ったときにブリッジと食堂(ホーメイガールズ相手)で自己紹介をしたな。整備班は名前言った瞬間に散られた…結構凹んだな…あれは。

さぁ、俺の番だ。

「初めまして。マツナガ・トウヤです。世界で2番目の男性操縦者として篠ノ之博士により発表されました。篠ノ之博士の護衛をしていました。年齢は20歳で皆さんよりはかなり上になってしまいますが年齢関係無く接して頂けると嬉しいですね。以上です」

無難だな。

 

「「「カッコイイーーー!!!」」」

「守られたい!!」

「ハグされたい!!」

「縛られたい!!」

「グヘヘ…グヘヘヘヘ!!」

 

耳がぁ!!

耳が何も聞こえない!

 

「静にせんかぁぁぁ!!!!」

 

ドゴォーーーン!!

 

いきなり物凄い音と声が教室に響いた…

千冬が出席簿を壁に叩きつけていたのたが…壁にヒビが入っている。

どんだけだよ…千冬…

 

「おまえ等何を騒いでおるか!!」

…千冬の目が赤く光っている。さすがにそれは怖いよ千冬さん。

生徒達は一気に静まりかえる。流石に千冬の顔を見ては騒げないだろう。山田先生なんか泡吹いて倒れてるし…衛生兵!!

 

「マツナガは従軍経験がある。パイロットだ。と言うことで所々で貴様等に教える側に回ることも。覚えておけ。それとマツナガに色目を使った奴は許さん。理由は禁則事項だ」

 

千冬の発言に教室がにわかにざわつく。

「従軍経験って元軍人?」

「凄い!エリート?」

なんて声が聞こえる。

 

また自己紹介が再開し9時20分には全員終わった。9時30分まで休憩となったので俺は急いで千冬の所に向かった。途中で色んな子に話しかけられるが断った。

「織斑先生、少し話があるのですが宜しいですか?」

「構わないが場所は変えるか?」

「いえ、問題ありません」

「そうか。で、話とは?」

仕事モードの千冬だ。

「俺と一夏の事ですが、朝の寮から食堂の間で集団に付いて来られてしまったのです。これだと警備的に問題が起こるかもしれませんので安全上を理由に全校で注意して頂きたいのです。していただかないと周りの生徒の生活にも影響が出てしまいます。大集団で食堂に詰めかけたり、トイレの前が渋滞したりなどです。本音は俺達が参ってしまうなんですが」

 

俺の話を聞いた千冬は頭を抱えた。

「やはり起きてしまったか。すまない、懸念はあったが大丈夫だろうと判断してしまった。分かった、通達を出しておく」

「宜しくお願いします」

俺は頭を下げると千冬はフッと笑う。

「生徒のお前もなかなか良いな」

すれ違いざまに耳元で呟いた

「千冬先生も格好いいですよ」

と言い返すと顔を少し赤くしていた。

 

 

それからの俺はクラスメイトに囲まれて質問責めで休憩時間を終えてしまった。

 

 

 

 

 

 



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20話

今回は短い、中途半端ですが投稿させていただきます。


入学式は物凄い式典だった。各国の来賓が何人も来ていて祝辞が何本も読まれた。

新入生代表はイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットと言う金髪の貴族の様な振る舞いの女生徒だった。日本語がかなり上手かったのがとても印象的だった。

 結局入学式で午前中が終わり教室に戻ると一夏が俺の所に来て

「昼飯食いに行こう!」

と言うので頷いたが、窓際の席の篠ノ之箒が一人で座っているのに気付いた。篠ノ之箒は頬杖を付きながら外を眺めている。俺は一夏を呼び止めた。

「なぁ一夏、確か篠ノ之箒と幼なじみだったろ?昼飯に誘わないか?」

俺の提案に一夏は大きく頷いた。そして俺と一夏は篠ノ之の席に向かった。

「箒!久しぶりだな!すぐに箒だって分かったぞ!」

一夏がとても親しげに篠ノ之箒に話しかけている。篠ノ之箒は一瞬嬉しそうな顔をしたと思ったら急に真面目な顔をして

「一夏…」

篠ノ之箒…こいつは素直じゃないのか。

「箒、昼飯食べに行こうぜ!良いだろう!」

篠ノ之箒は小さく頷いて席を立つと一夏に付いて歩き出した。そして教室の後ろへ歩き出した。俺はその光景を笑顔で見ながら歩いていると。視界の左したに布仏本音と思われる人物がいることに気が付いた。

改めて視界を移動すると布仏本音は俺の視線に気が付いてダボダボの制服の袖をパタパタ振りながら

「ヤッホーマッツー!」

などと俺のこと呼んでいた。

顔が引きつってしまった。小さく手を振って一夏達に着いて行った。

 

3人で歩いている。一夏と箒は会っていなかった間の話で盛り上がっていた。一夏いわく箒は剣道の全国大会で優勝したらしい。凄い。これは本当にすごい。箒は赤くなって

「何故知っている!?」

と吠えていたが

「新聞で見た」

と冷静に受け答えしたが箒は

「なぜ新聞など読んでいるのだ」

と酷い事を言っている。

まぁ明らかに恥ずかしさをごまかしているみたいだが…

一夏と箒。なかなかいい感じじゃないか?

 

後ろには女子が連なっている。

「おい、一夏!後ろの状況は何なのだ!」

箒が苛立たしそうに一夏に聞いていた」

「朝からこんな感じなんだよ。俺達が珍しいんんだろ」

一夏は困った顔で答えた。

「篠ノ之さん、挨拶させてもらっていいかな?俺はマツナガ・トウヤだ。宜しくな」

俺は箒に挨拶をするとしまったっていう顔をして頭を下げた。

「すまない。篠ノ之箒だ。箒って呼んでくれ」

「織斑先生から君の事は聞いている。大変たったな。此処にいる間は外部からの煩わしさや危険は無いだろう。一度しかない高校生活を楽しんで欲しい。恋もな」

俺は少しだけ口元に笑みを浮かべると箒はたちまち真っ赤になってしまった。

相当な恥ずかしがり屋なのだな。

 

その後は俺ら3人で食事をとり午後の授業が始まるまで身の上の話をしていた。

 

午後から授業が始まり記念すべき最初の授業は山田先生によるIS基礎理論であった。ISの稼働の方法、概念、仕組みなど理論的、数値的に学ぶものだ。これがなかなか独特な理論だったため俺も覚えるのに苦労をした。

授業はきっとこれが女子校なのだろうなという展開だった。彼氏だのブラジャーだの顔が赤くなるようなワードが何回か出てきた。

「ここまでで分からない所は有りませんか?」

山田先生の理解を確認する呼びかけに俺を含めて誰も手を上げない。

「織斑君何か分からないところは有りませんか?」

山田先生が教卓の目の前の一夏に聞いた。

「何か分からないことがあったら聞いてくださいね。なんせ先生ですから」

エッヘン!って言ったように胸をはる。ありゃ凶器だな。

それを聞いた一夏は元気に手を挙げた。

「先生!」

「はい、織斑君」

「全部解りません!!」

ズダダダダーン!!!

 

本日2回目の轟音が教室に響きみんなが机に頭をぶつけていた。

俺もそれに漏れず含まれておりおでこをさすっていた。

千冬が一夏の横に行くと

「織斑、入学前に送られた参考書は読んだのか?必読と書いてあったはずだが?」

あの技術書の事だな。

「あの分厚いやつですか?」

「そうだ」

「電話帳と間違えて捨てちゃいました。

ズダダダダーン!!!

再び教室に轟音が響きそして

バシーーーン!!!

と千冬の愛の出席簿が一夏の頭にヒットした。

「必読と書いてあっただろう!捨てる奴があるかぁ!再発行してやるから一週間で覚えろ!」

アイツはお馬鹿決定だ。何をどう間違えたら電話帳と間違えるのだ。

「いや!あの厚さを一週間はむり…」

「覚えろと言っている…」

一夏は無理だと訴えるが千冬のドスの利いた声と眼孔で黙り込んでしまう一夏。

「他に分からない人は居ますか?マツナガ君はどうですか?」

山田先生は心配になったようで俺に確認してきた。

「私は大丈夫です。参考書は一応一通り覚えました」

俺の返答に安心したのか山田先生が笑顔になる。

「山田先生、コイツに構わずに授業を進めてください」

千冬の一夏切り捨て発言の後に授業は再開されて5時限目は終了し休憩時間になった。

俺は携帯でニュースを見てみるとIS学園での入学式の事が載っておりやはり俺と一夏の名前が載っていた。世界的な事象である事が改めて知れた。

一体どれだけの国や組織が一夏や俺を狙うか。一夏や俺の身体を調べたがっているはずだ。下手したらクローン技術を使って操縦者を作るだろう。

そんな事を考えていると一夏が俺の席にやってきた。その隣には箒もいる。

「トウヤさんはあの授業は分かったのか?」

一夏何当たり前のことを聞いているんだ…

「勿論だよ。ちゃんと参考書を読んでおけばある程度は解るぞ。箒、一夏に教えてやってくれないか?最初に転けてしまうと今後、学校が辛くなってしまう」

箒に頼むと彼女は真っ赤になって

「私ですか?私で良いのか一夏?」

と聞き返した。プロポーズじゃないんだから…

ここに青春真っ盛りの乙女いたれり。

「勿論!頼んだよ箒!」

そんな事を話していると突然

「ちょっとよろしくて?」

と長髪で金髪、ロールがある女生徒が声をかけてきた。新入生代表で代表候補生のセシリア・オルコットだった。

「あ?」

「なんですか?」

と俺達は返事をするとオルコットは驚きの顔をして

「まぁ!なんてお返事ですの?私に話しかけられるだけでも光栄なのですからそれ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

オルコットは偉く高圧的な態度でこちらに話しかけてくる。これが今話題の女尊男卑をはなにかけた方々なのだろう。

「失礼した。ミス・オルコット。突然の事だったので無礼に振る舞った事、お詫びします」

と俺は頭を下げる。こういう時はひとまず引き下がるのが吉。

しかし一夏はだめだった。

「あ、悪いな。俺、君のこと知らないし」

 

 

爆弾落としたな。



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21話

「あ、悪い俺、君のこと誰か知らないし」

 

一夏が爆弾を落とした。

 

「なっ!私を知らない!?イギリスの代表候補生であり入試主席であるセシリア・オルコットを知らないですって!?そちらの礼儀を分かっているお方は知っているようですわよ」

俺のことを指しているようだ。

「一夏…入学式で新入生代表でスピーチしていただろ?それがこの人、オルコットさんだよ」

俺が教えると納得したようで

「ああ!そう言えば金髪の子だったなぁ!」

まただ…

「あなた!もう少し礼儀を勉強なさい!」

やっぱりね。

しかし一夏もいい加減頭に血が昇ったようで

「さっきから何なんだよ!知ってて当たり前のような言い方ばかりして!代表なんとかだからってそんなに有名なのかよ!」

確かに!

一夏の言い分も分かるな。

他国の代表候補生なんか代表候補生でも覚えていないだろうな。きっと国代表じゃないと覚えていないんじゃないか?

「代表候補生ですわ!そんなのすら分かっていないようではレベルが知れますわね」

オルコットが一夏を見下している。目線が見下しているのだ。

しかし一夏はいきなり俺の方を向くと

「トウヤさん。代表候補生って何ですか?」

 

ズダダダダーン!!!

 

はい、またずっこける音が教室に響いてしまった。

ってかみんな聞いていたんだ。

 

「あっあなた!そんな事も存じないのですか!」

オルコットの額に血管が浮いているよ…

「一夏…言葉のまんまだぞ。国代表の候補だ」

本当に全く勉強しなかったのか。

「一夏…今晩から一緒に頑張ろう」

箒は哀れに思ったのか恥ずかしがる様子もなく勉強を教えるのを頑張ろうとしている。

「そう言えば単語だけで分かるな。で、それって凄いのか?」

一夏…気付くの遅いよ。それとまた爆弾投下やめてくれ…

 

「あなた!ISの事を全く分かっていないのですわね!」

オルコットさん…高血圧で倒れないでくれよな。

見かねた箒が一夏に代表候補生の凄さを説明し始める。

「一夏、ISに使われているコアは世界で467個しかない。世界中の国や企業に渡されているため1国家当たりのコアの数はとても少ないのだ。その中で国家代表、その候補になるのはどれだけ難しいか分かるであろう。言わばエリートなのだ」

さすが箒だ…と言いたいが当たり前か。

「その通り!私はエリートなのですわ!そんな私と同じクラスで有ることを幸運であると思うのですわね」

さすがにその言い方はちょっと頂けないな。恐らくこのクラスの組み方は重要人物を集めただけたな。警備の為にな。

「そうか。それはラッキーだ」

一夏…お前はお馬鹿なんだな。それでは逆効果だよ。

「馬鹿にしてますの?」

「いや…君が幸運と言ったんじゃないか」

一夏がもっともな突っ込みを入れているがこの騒ぎの魂胆は一夏、君なのだよ。

「そもそも男でISが動かせると聞いていましたからどのような方かと思いきやそちらの方はともかくあなたは知識不足も甚だしいでは有りません事?この学園には男でISが動かせるというだけで入学できたのではありませんか?」

オルコットは腰に手を当てて一夏にまくし立てている。

オルコットさん…一夏の入学はまさにそれが理由だよ。でなきゃここに来たりしないだろ。

「俺の入学にそれ以外に理由は有るのか?ぶっちゃけそれ以外無いと思うんだが?」

うんうん。

「そうでしょうね!!そちらの方も一応は多少の知識は有るようですが所詮は男!大した実力も無いのでしょうね。まぁ土下座でもすれば入試で唯一、試験官を倒した私が色々と教えて差し上げない事も有りませんわ!!オーホホホホ…」

うわ…手の甲を口に添えて笑い始めたよ。お嬢様なんだなぁ。だがいい加減この騒動も面倒になってきた。収めよう。

 

「っぐ!てめ…ガハっ!」

一夏が怒って言い返そうとしていたが慌てて首根っこを引っ張って発言を引き留めた。

「済まないがオルコットさん、私はオルコットさんには適わないと思うが少し相手を甘く見過ぎてはいないか?何事も『出来る』人と言うのは油断せずに着々と事や計画を進める人だと思う。オルコットさんもどうやら『出来る』貴族のようなのだから我々一般庶民相手にムキにならずこれで矛を収めては頂けないだろうか。もし教えが必要な時はこちらからお願いに伺わせて頂く」

ここで予鈴のチャイムがな鳴りみんなが席に戻り始めた。

オルコットも席に戻る間際に

「まぁどうしてもと言うならばいつでも来て下さって結構ですわ!庶民に教えるのも選ばれた貴族の努めですわ」

と言い残していった。

エリートねぇ。なかなか歪んでいるな。プライドなのか。

 

一夏も箒も納得していない顔で席に戻っていった。言われっぱなしで納得がいってないのだろう。

 

全員が席に着き先生が教室に入ってくるのを待つ。授業はIS戦術論で教員は千冬だ。戦術論とはISでの戦闘の理論だ。例えば武装と特性、武装による使える戦法、その戦法を使うための動きなどを学ぶ。これはどこの軍隊でも学ぶ事だ。そしてその上の内容が戦略だ。

千冬が教室に入ってきたところで本鈴が鳴った。

「では授業を始める。ISの武装と特性についてだ。っとその前にクラス代表を決めねばな。では自薦他薦を問わない。誰かやりたい者はいないか?クラス代表は学級委員みたいなものだ。委員会に出たり生徒会の会議にでたりと色々と仕事があるが卒業時の内申はなかなか大きいな。それと学年開始時点でのこのクラスの実力を測るものだから実力で選ぶように。本来は入学試験での実技の成績で選ぶべきなのだろうがそれでは自主の精神が生まれないからな。選ばれた場合は1年間よっぽどな理由でない限り変更は認められないのでそのつもりでな」

どの学校でも大きいよな。俺は高校の時に学級委員をやったな。

「はい!マツナガ君を推薦します!」

俺か。

「じゃあ織斑君!」

案の定俺らが推薦されたな。

「他にはいないか?いなければ二人で決戦になるぞ」

千冬が他の者を確認するといきなり机を叩く音がするとオルコットが怒鳴りだした。

「納得いきませんわ!!」

椅子から立ち身を乗り出して抗議を唱えだした。

「そのような選出は認められませんわ!男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにこのような屈辱を一年も味わえと!?実力から言えば私が選ばれるのは必然なのに珍しいからという理由で極東の猿を選ばれては困ります!私はこのような島国にISの修練に来たのであってサーカス…」

「おいクソガキ!」

突然の声にオルコットの声は遮られた。千冬だ。

「誰が極東の猿だ。貴様はそんなに強いのか?高々代表候補生ごときが。良いだろう。3人で総当たりの模擬戦をやってもらおうじゃないか。織斑はさておきマツナガは強いからな。オルコット、貴様は篠ノ之束の会見を見てはいないのか?奴は篠ノ之束の護衛だったのだぞ?そしてパイロットで専用機を持っているのだぞ?その意味が分かっているのか?まぁいい。では1週間後にクラス代表決定戦を行うそれまで準備を行う様に。では授業を開始する」

千冬が授業を開始するとオルコットは悔しそうな顔をしていたが席についた。

そして教科書を開き俺達の方を見回すと千冬がこちらを見て少しだけ口の端を上げて笑った。

 

そうか。オルコットの伸びきった鼻を叩き折れって事か。それがオルコットの為か。それで立ち直れないようでは国家代表とはなれない。立ち直れば彼女は一回り大きく成るだろう。

 

授業は終わりを迎えSHRが終わった。すると布仏本音が俺の席にやってきた。

「ヤッホー。マッツ~!さぁ行こうか~」

と間の抜けた喋り方で教室の後ろのドアに向かって行ったので俺も鞄を持って追いかけた。

布仏さんは教室を出たところで待っていた。

「じゃあマッツ~会長の所へ行こうかぁ~」

袖が長くて見えない手を廊下の一方へ向けて歩き出した。

「布仏さん…マッツ~って私のことなのか?」

さっきからマッツ~と呼んでいるがあだ名なのだろうか。

「そうだよー。マツナガさんだからマッツ~。いい名前でしょう?それと私は本音で良いよ。生徒会にはお姉ちゃんも居るからねぇ」

なかなかのほほんとした喋り方だな。

 

 

廊下を本音と歩いて行くが周りの生徒の視線が凄い。

そしてあるドアの前で止まる。プレートには生徒会室と書いてある。

本音がドアを開けると中には学園の制服を着た本音と同じ色の髪の三つ編みのおさげに丸い眼鏡をかけた生徒が立っていた。この子が本音の姉か。

「あっマツナガさんですね。初めまして、私は生徒会会計の布仏虚です。こちらからお呼びたてしておきながら申し訳ありませんが更識会長はまだ来ていません。そちらの椅子に座ってお待ち頂けますか?本音、お茶とお菓子を出してくれる?」

虚は部屋で一番大きな机の前の長机の椅子を引いてくれた。

「ありがとう御座います。1年1組のマツナガ・トウヤです。宜しくお願いします。それでは失礼します」

俺は椅子に座ると周りを見渡す。正面が窓だがブラインドカーテンで外は見えない。

そして目の前の机には整理された書類が山がいくつもの山脈を築いていた。恐らく会長の机なのだろう。

 

「マッツ~どうぞー」

本音が俺の前にお茶とお菓子を置いてくれた、しかしその手には俺に置かれた以上の大量のお菓子が持たれていた。

「私のおやつ~」

と言って俺の隣でお菓子を頬張りだした。

「コラ!本音!食べ過ぎです!」

虚は叱りつけているが俺の隣のリスのように頬を膨らませて食べている本音はお構いなしのようだ。

 

 

 

俺は更識会長が来るまでのほほんとした雰囲気で本音を眺めながら待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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22話

すみません。
短い…


 本音がお菓子を食べ終えて暫くすると更識会長が部屋に入ってきた。

「いやぁ〜待てせてすみません。今日は襲撃が酷くて少してこずってしまいました」

更識会長が正面の席に座りながら扇子で顔を仰ぎながら座った。

「襲撃ですか?」

会長の会話の疑問について聞いてみる。

「この学園の生徒会会長は最強の証なの。だから私を倒せば生徒会会長になれる訳。マツナガさんも私を倒せば生徒会会長になれるんですよ?」

更識楯無。今日、2学年になったばかりだが既にロシアの国家代表でありしかも自由国籍を取得している。山田先生に引き合わされてから調べてみたが実力者だ。操縦しているISは霧纏の 霧纏の淑女、ミステリアス・レイディ。詳しい事は分からなかったがロシアの第3世代型だそうだ。

「やめておきますよ。1年までに自由国籍を手に入れてロシアの国家代表になる様な人に勝てるとは思いませんよ。私の技能はボディーガードてすよ?」

一応、分は弁えているつもりだ。

「そこまで言われるとなんだか超人みたいじゃない?こんな美少女に失礼じゃない?」

楯無は扇子を広げてクスンなんて言っているが扇子には『嘘』なんて書いてある。

「そうだ。一つ頼みがあったんだ。この学園には射撃場があっただろう?私に使用許可を出して欲しい。射撃練習をしたい」

またおちょくられると嫌なので話を変えてしまう。

学園の一角に射撃場があったが許可が必要であった。その許可を生徒会でとってもらいたいのだ。

「ちょうど良かった。これを渡しておきますね」

楯無はそう言って机の中からホルスターに入った一丁の拳銃を机に置いた。

「それはあなたの為の銃です。護衛に使用してください。一応こちらでも使う事が無いようにバックアップはしていますが何があるか分からないので持っておいてください。勿論外に持って行っても問題ないように登録はしてはります」

ホルスターには自動拳銃が入っていた。

型式などは分からないが向こうの世界と大して形が変わらない。

「分かりました。借りておきます。射撃場も使って問題無いのですね?」

「はい。登録しておきましたので管理にIDを見せれば弾も出してくれます」

 

なかなか至れり尽くせりだな。

 

「それで織斑一夏君はどんな子たでした?」

楯無しは真面目な顔をして俺に尋ねてきた。仕事の話か。

「行動はそこまで把握していないが性格はかなり直情的で注意が少し散漫なようだ。入学前の必読参考書を電話帳と間違えて捨てたと言っていた」

俺の発言に目の前の楯無とその横に立つ虚が驚いていた。

「どうやったらあれを電話帳と間違えるのよ」

俺達三人は意見が一致したようだ。

「きっと一夏には一緒に見えたのですよ。それと今日の午後にはイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットと言い合いと言うには言い過ぎですが口論になりました。オルコトットが私達を馬鹿にしたのが原因ですがまともに取り合ってしまい、頭に血が昇ったようですね。結局は時間で分かれたのですがまさに直情と言う言葉が似合いますね。ただ、何かがあった場合に仲間が傷つけられたりしたら相手を観ずに突っ込むような奴でしょう」

正直こういう奴の護衛は相当危険なのだ。自分だけでなく俺もだが周りの人間もだ。恐らく言っても聞かないしな。

「そうね。うーん…困ったかなぁ。一夏君自身を鍛えるのも必要かなぁ。ひとまず篠ノ之箒さんに剣道で身体を鍛えて貰いましょう。一夏君には専用ISが渡されるみたいだからその後も篠ノ之さんに訓練機の優先的な使用を学園側に認めさせますからマツナガさんが2人を鍛えてくれませんか?」

そうなだ。一夏を鍛える。そうすれば何かあってもなんとか逃がすことは出来るかも知れない。

「私は2学期までは少し忙しいので2学期から一夏君に指導を行うようにします」

「分かった。それでいこう。俺の方でも一夏に護身術を少しずつ教えるようにする」

「お願いします。ところでマツナガさん、いきなりですけど私と模擬戦をしませんか?」

突然の模擬戦の申し込みに俺は目を大きく開けてしまった。

なぜいきなり楯無が模擬戦を申し込んでくるんだ?

「いきなりだね?なぜ?」

「噂で織斑先生に勝ったと聞きましたので。フフ…」

楯無が扇子で口元を隠して笑った。『最強?』と書いてあった。

確かに楯無と模擬戦は行いたいが…

「すまないがその模擬戦は来週以降にしてもらって良いか?1週間後に一夏とオルコットとクラス代表をやることになっているから出来ればオルコットに手の内を明かしたくない。織斑先生に少し鼻の高くなった生徒のお仕置きを頼まれてしまってね」

「まぁ、大変ですね。じゃあその時に腕前を見せて頂きますね」

楯無はにっこりと笑っていた。そんなに楽しみか?

まぁ、気持ちは分からなくも無いが…

「それで、贈り物は喜んでもらえましたか?」

!!

楯無の顔が次はからかう顔になった!

「楯無さん?その話をここでするのですか?」

俺は真面目な顔をして楯無視線を向けるが楯無は顔色一つ変えずにニヤついている。

「いえね、今日からとても高そうなアクセサリーを付けた人がいたのでそうなのかなぁと思いまして。『純潔、清潔、永遠の絆』の意味、もう貰った方は絶対にノックダウンしちゃいますよ?」

「…店員がダイヤモンドを選んじゃったんだよ」

俺は頬を掻きながら言い訳をすると

「いや…あの電話の言い方だと仕方ないかと思いますが…」

「………」

楯無の言葉に何も言い返せない。

「あの会長?なんの話なのですか?」

虚さんまでもが興味を持ち始めてしまった。

「何でもないわ。ちょっとした話よ」

楯無は相変わらず面白そう表情を浮かべている。いたずらが

成功したような表情だ。

「それでは話は終わりでいいな?それと副会長の件の正式な発表は任せて良いんだな?実力の確認はクラス代表決定戦でいいよな」

事前に打診のあった副会長への就任の件だ。

「そうですね。発表しておきます。本来、会長だけが実力主義なのですが実力を見せつけておけば尚良いですしね」

そうなのか。

「じゃあ宜しく頼んだよ?」

俺は席を立ち扉へと向かう。

「またいつでも来てくださいね」

楯無しは手を振っている。開いた扇子には『再見』。

「必要な時は声を掛けてくれ」

生徒会室を出た俺は一端、寮に戻る。

鞄から銃を取り出しホルスターから抜きマガジンを確認する。弾は13発装填されている。

薬室には入っていないを確認して腰にさしておく。

 

携帯を取り出して一夏にかけてみるとすぐに出た。

「トウヤさん!直ぐに教室からいなくなってましたけどどうしたんですか?」

「生徒会に呼ばれていたんだよ。それより今はどこにいるんだ?」

「今は教室に居ますよ。山田先生に勉強を教えて貰っています。箒は剣道部に入部するって言うんでそっちに行きました。勉強はその後に教えてくれるそうです」

真面目に勉強しているようだ。

「了解。それじゃあ部屋に戻ったら連絡をくれないか」

「分かった。じゃあまた後で」

ひとまずは山田先生が付いているから問題は無いとして、ひとまずは射撃の腕の確認でもしておこう。使うにこしたことは無いけどいざという時は頼りになるパートナーだ。

 

俺は早速射撃場に行くと射撃の腕の確認をした。

問題はなかった。

タップリと1時間以上使って練習をして部屋に戻った。

 

 

やはり女子が沢山付いてきていたが。

 

 

 

 




ところでISの絶対防御ってシールドバリアと別ですよね?
そこら辺の質問というか皆さんの見解を教えて頂きたいです。
活動報告に内容を立てておきますので返信お願いすます。


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23話

1日開いてしまい待っていて下さった方々申し訳ありません。

原作入ると色々と進みにくくなりました。



 シャワー室の扉を開けようとした俺は突然の轟音に驚いて動きが止まった。バカン!バカン!と何かを突き破る音だ。

腰の拳銃に手を当てながら廊下に出てみると一夏が扉の前でうろたえていた。そして色々と謝っている。

「箒さん!ごめんなさい!後生ですから部屋に入れてください」

何かやらかしたみたいだね。

銃から手を離し一夏に近づくと汗だらだらの一夏がこっちを向いた。

「どうした一夏?」

話し掛けて気付いたが一夏の部屋のドアが穴が沢山開いている。銃撃戦にでもなったのだろうか。

「トウヤさん…すみません。箒を怒らせてしまいこんな感じです」

こうしてる間に他の女性とが集まってきてしまった。

「あっ!織斑君にマツナガ君!こんなところで何してるの?」

「織斑君達の部屋ってここなの?」

「まさかの織斑子猫展開!ヤバッ!鼻血が…」

みんなが好き勝手言っている…

「いや…箒は何をどうしたらこんななるんだ?」

俺はドアを指差して尋ねると突然ドアが開き箒が道着姿で腕を組んで一夏を睨み付けて

「入れ!」

と怒鳴っていた。

一夏は部屋に入る。

「箒、俺もいいか?」

「構わない」

俺は一夏に続いて部屋に入り扉を閉める。

「それで何があった…ってなぜ箒が此処にいるんだ?」

此処は一夏の部屋なのになぜか箒がここにいる。

髪の毛が濡れている事を鑑みてこの部屋でシャワーを浴びたのだろう。

「私もこの部屋なのです。そしてシャワーから上がると一夏がいたので…その…」

箒は赤くなりながらも気まずそうな顔になった。

木刀が机に立てかけてあるって事は…

恐らくこうだ。

授業が終わり箒は部活に、一夏は教室で山田先生と補習をしていた。箒の方が早く終わり割り振られていた1024号室に戻った。そしてシャワーを浴びていた。そこへ補習の終わった一夏が部屋に戻ったところ恥ずかしい姿の箒に遭遇、箒が木刀で攻撃して一夏が廊下に逃亡した。

しかしいくら恥ずかしいとはいえ木刀で攻撃はまずい。ここは注意しなきゃならないよ。

「一夏に木刀で切りかかってしまったと…箒、気持ちは分かるがそれは武道家としてやってはならない事だろう?」

「分かっています。本当にすみません」

箒は謝って頭を下げた。

「謝るのは俺にじゃない。一夏にだ。一夏も間違ったとはいえ見てしまったのなら謝っとけ」

そう言ってお互いに謝らせると俺は携帯を取り出して千冬をよびだす。

『トウヤ?どうしたんだ?』

程なく千冬は携帯にでた。

「織斑先生、部屋割りで確認したいのですがなぜ一夏と篠ノ之箒が同室で間違いないのですか?」

『間違いはない。ちょっとまて………すまん移動をしていた。まだ公開していないが近い内に男性操縦者が転校してくる。そいつはフランスのデュノア社の御子息なのだ。だからトウヤと同室にさせることにした。と言うことで篠ノ之と一夏は幼なじみだから同室にした』

納得して良いのかな。

「はぁ…織斑先生がそう言うなら納得ですが篠ノ之には伝わってなかったみたいですよ?早速トラブったので寮部屋のドアの修理の依頼をお願いします」

『篠ノ之に伝わってなかったか…で、何でドアの修理が必用なのだ?』

「まぁ…色々とあったみたいで」

『…分かった。後でそちらに見に行く』

「了解しました。では」

通話を終えて二人を見ると実に申し訳なさそうな顔をしていた。

「織斑先生に確認したら事情が有ってこの部屋割りで合ってるそうだ。一夏、大変だろうがこのまま頑張ってくれ。俺もしばらくしたら同居人が出来るそうだ」

俺は箒と一夏が同室であると伝えると二人は驚きの顔をして顔を見合わせた。箒は真っ赤になり一夏は真っ赤の後に真っ青になっていた。

何に真っ青になるんだよ…

「そういうわけだから二人とも仲良くやるんだよ?」

俺は二人の部屋を出る。

外には女生徒達がまだたむろしていた。

「みんな、もうプライベートの時間なのだからそういうのは感心しないよ?」

みんなに注意するとバツが悪そうな顔をして退散していった。

それにしても…女の子のプライベートな時間の格好はなかなか目のやり場に困るな。

まぁナデシコ操舵士のミナト・ハルカさんもかなりだったけど…

 

部屋に戻ってから改めてシャワーを浴びてさっぱりしてから水を飲んでいるとドアをノックする音がしたのでドアを開けると千冬が立っていた。

「織斑先生どうかしました?」

俺が尋ねると千冬は僅かに曇った顔をしたので

「中にどうぞ」

と言い部屋の中に招いた。これはあまり宜しくないだろうとは思うが…

千冬は中に来ると机の椅子に座る。

「お茶でも飲むか?」

今はプライベートな時間。言葉をいつもの口調に戻す。

「あぁ、頼む」

ポットに水を入れてスイッチを押す。

 

「さっきはすまなかったな。山田先生に確認したら篠ノ之にも一夏にも伝えていなかったそうだ」

山田先生…この騒動の魂胆はあなたですか。

「謝らないくて良いよ。一つ疑問なのですがデュノア社の『御子息』と言うのは?男ならなぜ騒がれていないのですか?遅かれ早かれ結局は学園に来たらばれるじゃないか。ならば宣伝も兼ねて公表するのが企業ってものでしょう?」

先程聞いたデュノアの話の疑問点を聞いてみると、千冬は鼻で笑った。

「本当に男なら大々的に発表してるんだろうな。デュノア社のトップは余程頭が回らないとみえる。デュノア社の社長には息子がいた記録が無いのだ。これは私から更織に依頼して調べて貰ったのだが恐らくデュノア社からの転校生は女だ。男装させていると思われる。そこでトウヤには彼女の監視を頼みたい。もし学園の不利益になるような行為があれば知らせてほしい。嫌な役だろうが頼まれてほしい」

千冬は立ち上がると頭を下げる。

「分かったから頭を上げてくれ。普通に頼まれてもやるから心配しないでくれ」

俺は千冬の両肩をつかみ持ち上げる。

「ありがとう」

千冬の様子から見るにきっとこの監視は不本意なのかもしれない。

「御子息の名前は?」

「シュルル・デュノアだ」

「娘の名前は?」

「シャルロット・デュノア」

隠す気あんのかよ!

「分かった。それですまないんだけど二階堂さんと連絡取りたいんだが可能か?」

国際IS委員の日本の委員だ。

「構わないがどうしたんだ?」

「保険をかけておきたくてね」

「…トウヤ…まぁ良いか」

千冬は納得いっていない。もしかしたら俺がしようとしていることを理解しているのかもしれない。

さすが千冬だな。

 

まぁひとまずは一夏とオルコットをなんとかしなきゃな。

「それじゃあ私は戻るぞ?」

「お茶をまだ出していないぞ?」

「そうだったな。ならもう少しいよう」

どことなく嬉しそうにしている千冬が可愛く思える。

お茶を出し二人でお喋りをして千冬は出て行った。

 

 

さっきの件は更織の力が必要だ。

楯無は協力してくれるだろうか。更織家からしてみれば俺からの依頼を受けるメリットといえば俺が言うことを多少聞きやすくなる程度だ。何か動きやすく、いや動きたくなるようなメリットがあれば良いのだが。

 

 



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24話

お気に入りが200件overしました!
ありがとう御座います!
そして評価してくださった方!ありがとうございます!
遂に評価のバーに色が灯りました(泣)
これからも頑張りますので読んでください。


 更織家のメリットを考えながらインターネットでデュノア社について調べてみる。

ISの開発わ行っているフランスの企業で代表的なISは第2世代型ISのラファール・リヴァイブで量産型の傑作機である。このラファールのおかげで会社は成長した。

しかし第3世代型ISの開発に遅れEUによる統合防衛整備計画『イグニッションプラン』から外されそうな事態になっているようである。

 

しかしそれにしても…余りにも計画がお粗末すぎる。目的は第3世代型の情報。それとデュノア社の宣伝。シャルルが女で目的が正解ならばシャルルが転入してきた時点でデュノア社は終わってしまう。

「こらは…どうしたらいい…」

思わず呟いてしまった。

 

携帯を取り出すと楯無にコールする。

「マツナガさんどうしました?」

楯無はすぐに携帯に出た。

「先程、織斑先生からフランスの御曹司の話と監視のを聞いたのだが御曹司は隠れお嬢様って話は確実なのか?」

ひとまずは聞いてみよう。利益の話はどう転ぶか分からないけど。

「それを聞いてどうしますか?」

楯無の口調は変わらない。しかしいつもより冷たく感じてしまうのは楯無の考えが分かっているからだろうか?

「…すまない楯無。俺には更織家に与えられる利益が無い。しかし俺はスパイではない。だから監視対象が護衛する価値があるならば相手の人生を守ってやりたいんだ。そうだな、遠回りな質問は止めよう。シャルル・デュノアはシャルロット・デュノアなのか?シャルロット・デュノアならば彼女は守るに値する人物なのか?そしてデュノア社は本気でこの計画が成功すると思っているのか?」

なぜか妙に腹立たしく思えてきた。決め付けで動いては失敗するが今回の件は当たっている気がしてならない。

「マツナガさん。あなたは何がしたいのですか?私達があなたにお願いしたいのは監視てすよ?それ以上の事は望んでいません。確かにシャルルはシャルロットでしたがシャルルでもシャルロットでも監視してスパイ行為があれば捕らえるだけです」

シャルルはシャルロットだった

やはり楯無は暗部の人間だ。損得の計算は出来ているか。

「でもなスパイでも無理矢理やらされている人間だっている。シャルロットはどうなんだ?そんな人を捕らえるなんてしたくない。もし君がピンチの時は俺は手を差し伸べる。デュノア社ではなくシャルロット・デュノアを救うには今しかない!頼む楯無!力を貸してくれ!」

俺は縋る思いで楯無にお願いをする。

「…はぁ〜。あなたはどれだけお人好しなのですか。呆れてしまいますね。分かりました、お手伝いしましょう。まず、シャルルはシャルロットと言うのは確定情報です。その理由は第3世代型の情報です。シャルロットを学園に転入させようとしているのは社長婦人のようですね。シャルロットは妾の子であり本妻との子はいません。シャルロットの母が亡くなるとシャルロットは社長に引き取られましたが本妻が激昂したらしいです。そして恐らく社長婦人の命令を受けた社長の部下がシャルロットを学園に転入させようとしています。今のまま放って置いたらマツナガさんの考える通りデュノア社は潰れシャルロットは収監されるでしょう。正直言いまして私も悩んでいました。シャルロットの元々住んでいた町の者の話を聞いてみるとシャルロットや母親はスパイを進んでするような人物ではなく社長の事も良い人物なのです。放っておいて良いような話ではなく思います」

楯無の声は先程と変わり柔らかく感じる。楯無も悩んでいたのだな。

「ならば先に手を打ちたい。俺に考えがある。まとまったら連絡を入れるので少しだけ待っていてくれ」

「分かりました。お願いします」

楯無との話を終えて携帯をしまうと俺はベットに横になった。厄介な話だ。 ネルガル重工のアカツキ会長の話を思い出した。彼は10歳の時に初めて命を狙われたと言っていた。実の兄から会長の座を狙ってだ。その話を聞いたとき背中がゾワっとしたことを今でも覚えている。俺の予想だが兄と弟に派閥ができていたのだろう。そしてアカツキ会長の暗殺も大人達が勝手に起こした事なのだろう。兄は結局、事故死してしまいアカツキ会長が会長となった。大人は勝手に子供を巻き込む。

 

俺も大人の一人だが…大人の事情に子供を巻き込みたくない。

なんとかシャルロットだけは救ってあげたい。

 

 

コンコン。

ドアがノックされた。

「はい?」

「一夏です。夕飯に行きませんか?」

一夏が夕飯に誘ってきた。

俺はそのまま出れる状況だったので廊下に出ると箒もいた。

「あのマツナガさん。先ほどは済みませんでした」

箒は会うなり謝ってきた。

「気にするな。それに俺は謝られる筋合いじゃないだろ?もう済んだ事だし一夏と仲直りしたならそれで終わりだ」

そう返すと箒は笑顔になり、はい!と頷いた。

 

 

3人で食堂で思い思いの食事を注文して席に座る。ここの食堂は本当にメニューが豊富だ。和洋西中何でも揃っている。ナデシコの食堂もホウメイシェフのこだわりでメニューが豊富だったがそれを越すメニューが並んでいる。厨房には一体何人が働いているのか不思議だ。

それとここの食堂のデザインもどこかのレストランの様にこじゃれた雰囲気になっている。座席も4人掛けの円卓のようなボックスシートから多人数用のテーブル席など多様に用意されている。観葉植物がおいてあり窓もガラス張りでとても明るく作られていて学校の食堂とは思えない。日本政府も随分と予算を使ったようだ。

 

食事を進めているうちに一人の女生徒が俺達の前に立つと話しかけてきた。リボンの色から2年生と分かる。

「君が噂の一年生達だよね?」

一夏が反応して先輩の方へ振り向いた。

「多分そうだと思いますよ」

「君、代表候補生と戦うんだって?私が教えてあげよっか?」

この女生徒はどうやら日本人のようだ。恐らく興味からの申し出なのだろう。

「結構です。一夏には私から教える事になっていますので」

箒が断った。

一夏はこの驚きの顔を見るに申し出を受けるつもりだったのだろう。

「マツナガ君だったよね?君は?専用機持ってるみたいだけど私達とどっちが操縦時間長いの?」

どうなのだろう?エステバリスの操縦時間ならもう覚えていないぞ。

「ありがたいですが私は問題ありません」

「そっか、一夏君はそちらの1年生から指導を受けてうまくなれると思ってる?」

まぁ…最もな意見だわな。

「私は篠ノ之束の妹ですから」

箒の顔が歪むのが分かった。本当は言いたく無かったようだ。

「グッ…そう、なら仕方ないね」

そう言うと女生徒は背を向けてどこかに消えて行った。

ん?そもそも此処は一年生食堂だよな?わざわざ此処に来たってのか?

「なぁ箒?なんで断ったんだよ」

一夏が箒に尋ねているが箒は無視して食事を続けている。

「一夏はまず箒から徹底的に剣道を教わるんだ。あと体力作りだ。戦いに必要なのは体力と何よりも精神力だ。恐怖に打ち勝ち、かつすり減りにくい精神力だ。だからこの一週間は徹底的に剣道をやるんだ。箒もこの意味は理解出来るよな?」

箒は俺の言葉を聞くと大きく何度も頷いた。

「ISの訓練は?」

「それは最終日に徹底的に1日で行う。一夏、ISを動かすのは人だ。人の動きをISが検知してISが動く。それはつまり人間がしっかり動かなければISはうまく動かないんだよ。一夏は剣術で箒に勝てるのか?射撃でオルコットに勝てるか?機動で俺に勝てるか?恐らくどれも無理だろう?だったら今出来ることを徹底的にやるんだ。効率良く短時間でね。なのでこの一週間のトレーニングは全て箒に従うんだ。これが最善の道だ」

押し付けになってしまったが箒も喜ぶだろうな。

「ちなみにたまに俺も参加するよ。今更だが俺は生徒会副会長に就任したんで宜しくな」

一夏と箒に伝えると二人して驚いていた、って周りのギャラリーも驚いていた。

 

俺もそのギャラリーの多さに驚いた。

 

 

 

 

 

 

 



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25話

 携帯が鳴っている。目覚ましの音だ。俺は目覚ましを止めるとベットから起きて冷蔵庫のミネラルウォーターを一口飲む流む。洗面をしてトレーニングウエアに着替えた。

今日から朝にランニングをする事にした。本当は夕方にしたかったがどうも時間が取れない日が多くなりそうだからだ。

走るのは学園のトラックで1周10キロを1周だ。あまり無理なペースにせず息が軽くあがるペースで始めて最後に一気に上げる。身体に無理のない配分だ。

部屋に戻ってシャワーを浴びてから一夏達合流する。

「「トウヤさんおはようございます」」

「おはよう、一夏、箒。というか敬語やめないか?」

何時までも敬語をやめてくれない二人に言うが二人曰わく

「トウヤさんはなんだかお兄さんだからやめるのも違和感がある」だそうだ。

無理強いは良くないので二人に任せよう、と言うことにした。

食堂に着くと見知った顔が待っていた。楯無だ。

「楯無会長、おはようございます。どうかしましたか」

「おはよう。マツナガ君。一夏君と箒ちゃんに挨拶に来たの」

楯無は笑顔だが何か含んだ笑顔だ。

「一夏、箒、こちらが生徒会会長の更織楯無さんだ」

一夏と箒は驚いた顔をした後に挨拶をしている。

「それじゃあ一緒に食事をしましょう」

俺たちは食事を受け取ると楯無の取っていた席に着いた。

食事を始めると早速楯無が一夏に話し掛けた。

「織斑君は織斑先生の弟さんなのよね?」

「そうですよ。でも入学が決まるまではここの教師だったなんて知らなかったんですけどね」

一夏が恥ずかしそうに応えた。

知らなかった?

「え?なんで知らなかったの?」

楯無も意外そうな顔をしている。

「千冬姉に育てられたんですけどISに乗るようになってからなかなか帰ってこない生活が続いていたからその延長だと思っていたんですよ。IS関係の職業なんだろうと」

そういうことか。

確かにモンドグロッソ後はドイツに行っててその後は学園で寮長などやっていれば知らせない限りは分からないな。

「ふぅーん。箒ちゃんはもう知っているよ。大変だったわね。此処にいれば安全だから安心して学園生活を楽しんでね。勉学に、恋いにね」

楯無のウインクに箒が赤くなった。分かりやすい。

「それで本題なのだけれど一夏君と箒ちゃんには2学期から私の特別講習を受けてほしいの」

楯無は扇子をバッと開くと『特訓』と書いてあった。

「特別講習ですか?」

箒は首を傾げる。

「そう。一夏君も箒ちゃんも特別な存在よね?だから狙われる可能性が高いのよ?なので体術とIS操縦を教えたいの」

楯無は真面目な顔になる。

「この学園は外部からの干渉は受けない事になってる。けどそれは表向きなの。実際には生徒の中にスパイ行為が『報告』の名目で行われているの。本人は自覚がないでしょう。そうするとあなた達の情報も外に知られてしまうのよ。するとどこかの組織が万が一にも誘拐を企てて実行する可能性があるの。その時の為の訓練よ」

一夏と箒は少し青ざめている。

「さっきは安心してなんて言ったけど万が一の為の訓練。なるべくはそうならないように努力はします」

楯無は笑顔言うと二人は頷いた。

この学園のセキュリティーは恐らく世界一だろう。しかしISで攻められたら待機でもしていない限り即応は無理だろう。

「分かりました。是非お願いします」

一夏は頭を下げた。箒も同じ様に頭を下げる。

「宜しい!じゃあそれまでも鍛錬は怠らない様にね」

 

話は纏まり少し押した時間を取り戻すために食事を急いで食べた。

 

 

 

SHRが始まった。

今日は織斑先生がでている。

「織斑。お前にはデータ取りを目的として国からISが支給されることとなった。しかし準備が遅れるため恐らくクラス代表決定戦の前辺りに搬入される事になるだろう」

千冬の発言にクラスがざわつく。

「この時期に専用機なんてすごい!私も欲しいなぁ」

などの声が聞こえる。

それもそうだ。世界で限られた数しかないのにその1機が回されるのだ。凄いことだ。みんなも羨む事だろう。もしかしたら恨む様な人間も出てくるだろう。

「これでSHRを終える」

千冬が教室を出るとオルコットが一夏の所に行くのが見える。

「良かったですわね。専用機を貰えて。訓練機だったらどんなハンデを与えようか考えていたところでしたわ!何でしたら専用機の到着が遅れるみたいですしハンデを差し上げてもよろしくってよ?」

オルコットは腰に手を当てながらお嬢様笑いをしている。

「そんなもんいるかよ!寧ろ俺の方がハンデ付けなくていいのか?」

一夏が立ち上がり反論するとクラス中の生徒が爆笑を始めた。

箒は心配そうに見ているだけだが。

「織斑君、それ本気で言っているの!?」

「女と男が戦ったら一週間保たないんだよ!?」

「今からでも遅くないからハンデ貰っておきなよ!」

言いたいほうだい言っている。

ここらで認識を改めさせておいた方が良いな。

「それは間違いだ!」

俺は立ち上がり声を張り上げた。教室内は一瞬にして静かになった。

「女性の方が強いという認識は女性のみがISを使用出来て1対1で戦ったらの話だ。けど今は一夏はISを使えるのだから話が変わってくるんじゃないか?それと戦争になったらISは負けるからな?世界でたった468機しかISは無いんだぞ?世界中の男と女が戦争をしたら、俺ならISに波状攻撃を掛けてIS操縦者を疲弊させて継戦能力を断って基地や整備場を破壊するね。いいか?戦争は単機の能力じゃ無いんだよ。世界で468機“しか”無いんだぞ?そこら辺を考えてくれ」

俺の発言を聞いたクラスの女生徒達は困惑の表情を浮かべる。

しかしオルコットだけは違った。

「そんな事有り得ませんわ!圧倒的なISの戦力の差にはかないません!」

「だったらオルコットは生身の人間が50人同時に爆発力の強いミサイルをお前に向けて構えている。その生身の人間を撃てるのか?5人乗りの爆撃機がロンドンに爆弾を落とそうとしている。の爆撃機を10機落とせるのか?」

周りの女生徒達は青ざめている。一夏もだ。

オルコットも青ざめている。

「戦争って言うのはそういう事をするのだぞ?そして主義主張の相違って言うのも火種に成りかねないんだぞ?オルコットだけではないぞ!君達全員、人を殺す覚悟があるのか?」

誰も返事をしない。

出来ないのだろう。そこまで考えていなかったから。

「みんな済まなかったな。俺が言いたいのはそれだけだ。けど今はとても危うい状況に有るということだけは覚えておいてくれな」

言い終えると俺は廊下に出たがそこには千冬が待っていた。顔はニヒルな笑みを浮かべていた。

「遂に言ったな」

「勿論さ。いつかは認識を改めないと人類の危機に陥るぞ?ところで教室にいるの気まずいので保健室で休んでて良いですか?」

「ダメに決まってるだろうが!」

割と本気で怒られてしまった。

 

 

 

その後の授業は何事もなく終わり放課後は一夏と箒と一緒に剣道をした。日本一と言うのは伊達でなく箒はとても強かった。素早く近づいては打ち込み一気離れる。女性特有の身軽さを使った素早い攻撃と回避。一夏の方は体力的にまだダメだな。完全に箒に振り回されて全く追いついていなかった。

次は俺が箒と向かい合う。正面に立つと威圧感が凄い。とてもじゃないが攻め込んで一本取れる気がしない。相手に合わせての意表を突くいわゆるカウンター狙いで仕掛けてみる。

箒が大きく振りかぶって一気に飛び出してきた。早い!!

「めぇーーん!」

気合いの入った声が始まったと同時に俺も相手の左前方向に一気に飛び出し箒の右小手を狙い打ち込む!

「ってぇぇーー」

しかし箒は俺の小手を右手を竹刀から外してかわされてしかも右足が着いたと同時に後ろへのステップに変えて面を打つ。引き面だ。これは避けられない。

「めぇーーん!」

もろに面が入ってしまった。

 

 

「さすが日本一だ。まさかあの面が誘いだったとは。全く気付かなかった」

防具を外して箒に話しかけるとほんのりと赤みがかった顔の箒は首を横に振った。

「あれは誘いなんかじゃありません。トウヤさんの小手が来るのを感じたからとっさに避けただけなんです」

なんて反応速度なんだよ。コンマ幾秒の話だぞ?

改めて箒のスペックの高さに驚きを覚えてしまう。

「凄い。場数に勝るものはないか」

 

その後も一夏と試合をしたり掛かり稽古をしたりと三人は時間目一杯使って練習をした。

 

 

寮に戻りシャワーを浴びると携帯が鳴り出した。画面には《織斑千冬》と出ている。携帯を買って千冬と番号を交換した日に千冬が《嫁》と入れていたいたずらを思い出して少しだけ笑みがでてしまった。

「トウヤです」

「私だ。二階堂さんとのアポが明日の午前に取れた。向こうがこちらに来るそうだ」

「分かりました。ありがとうございます」

「トウヤ。お前は何を差し出すつもりなのだ?」

千冬の声のトーンが少し下がる。

「俺に差し出せる物は二つしか無いじゃないですか。エステバリスと俺自身です」

本当にこれだけしかないんだ。

「そうだな。トウヤはデュノアに何を与えるつもりなのだ?エステバリスのデータか?」

「データぐらいで済めば良いですね。あちらが欲しがっているのは直ぐにでも使える技術ですよね。だとするとエステバリスの重力制御システムとかは解析とかで時間が掛かっちゃうからどうなのでしょう。ひとまず二階堂さんと話をして決めたいです」

「そうか。頼むからどこかに行ってしまわないでくれよ?」

「大丈夫だよ。どこにも行かないって」

そう言うと千冬は納得してくれたのか会話は終わった。

 

 

明日…どうなるのか。

 

 

その後は一夏達と夕食に行きクラスメイトの鷹月さんと相川さんと本音と一緒に食べた。

今日も静かに終わって良かった。



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26話

お気に入り250件overです!
まさかここまで増えるとは思いませんでした!
今後とも宜しくお願いします!


 翌日の午後、今は事務棟で二階堂さんを待っている。前回とは違い今日は二階堂さんは遅れているようだ。窓から外を眺めると桜の木は緑に変わり始めている。この景色はこっちもむこうも変わらない。これだけを見るならば異世界にいるとは思えない。けど俺は間違い無く異世界にいてさらに異世界に根付いている。

 

俺は戻れるのかな。

 

そんな考えが頭をよぎる。

そんな時に応接室のドアが開いた。振り向くと二人の男性が部屋に入ってきた。片方は二階堂さんだ。

「やぁ、待たせてすまなかったね」

二階堂さんはにこやかに詫びてきた。

「いえ、突然の面談のお願いに応えていただきありがとうございます」

頭を下げてお礼を言う。

「いやいや、君のサポートも私の仕事なのだよ。それで今回はお客さんを連れてきたのだよ。こちらはISの装備やパーツの開発を行っている富士見技研の篠田社長だ」

二階堂さんが紹介すると篠田社長は名刺を出してこちらに突き出した。篠田社長は見た目の年齢は45歳ぐらいの黒髪だが白髪が多めに混じっている。二階堂さんと同じぐらいか?

「富士見技術研究所株式会社の社長をしております篠田です。以後お見知り置きを」

名刺を受け取ると俺も挨拶をする。

「マツナガ・トウヤです。宜しくお願いします」

挨拶が終わると二階堂さんは椅子に座ったので俺も座る。

「すまないが先にこちらの用件を話しさせて貰うね。率直に言うとこちらの富士見技研とパートナーになって欲しい。君のISは模擬戦の映像を見させて貰ったがとてもバランスが良い機体なのではないかと思う。しかしあの模擬戦をみる限りでは槍がもっとも突破力がある武装なのではないかね?」

二階堂さんの指摘の通りだな。

「その通りです。あの槍が一番の突破力がある武装です」

「そこで富士見技研と組んで武装とパーツの開発と研究をして欲しい。富士見技研はISの開発は行っていないが世界でも有数の技術力は持っている。日本の国軍の自衛隊にも武器、弾薬の納入を行っている。どうだろうか?」

この話…デュノアの件に使える?

「答えを言う前に私の話をしても良いですか?繋がりそうな気がしますので」

「おお、すまない。どうぞ」

二階堂さんは頭を触って笑っていた。

「フランスのご令嬢の話は篠田さんには?」

「あぁ…篠田君、すまないが隣の待合室で少し待っていてくれないか?後で呼びに行く」

二階堂さんがそう告げると篠田さんは一礼して外に出ていった。

「そうか、デュノアの話は君にも伝わったか。やはり君は千冬君にも楯無君にも信用されているのだね。それでどうして富士見技研とデュノアが繋がるのだい?」

「更織の報告だとシャルロットはスパイをするような人物ではないと聞きました。ならば会社側の命令で性別を偽って転入してくるのだと思っています。つまり大人の事情で彼女は犯罪者に仕立て上げられようとしているのです。教育機関のIS学園がそんなのを見過ごしてはならないと私は思います。ならば富士見技研と私が手を組みそしてデュノア社に技術提携、もしくは協同開発をすればシャルロットに犯罪の片棒を担がせることは無くなると思います。そして二階堂さん、出来れば手を貸して頂きたいのですが、この性別を偽って転入させようとした黒幕は社長夫人の様なのです。その告発をして頂きたいのです」

説明を終えると二階堂さんは考えているようで目を瞑り唸っている。

「二階堂さん、どうかお力添えを!」

俺は頭を下げる。

「良いんじゃないか?いや!上手く行くぞ!マツナガ君、是非やろうじゃないか。富士見技研の研究も進むしデュノア社も外の技術が入って新型の開発が進むだろう。よし!篠田君を呼んでくるよ」

二階堂さんは部屋を出ていった。

 

なんとか第一段階はクリアーだ。後はデュノア社側がこの話を飲むかどうかだ。この話は富士見技研の技術がデュノア社よりも上を行っていなければならない。しかし二階堂さんがのったと言うことは恐らく条件が一致したのだろうか。

 ちょうど考え事が終わった所で二人が戻ってきた。

「では話を進めよう。篠田君、富士見技研はデュノア社と技術提携を結ぶ気はないかね?」

二階堂さんはまたまた率直に話を振ったね。

「ええ!?あのフランスの量産型の大手のですか?」

篠田さんは驚いて目を大きく開けた。

「そうだ。もし話に乗るならばマツナガ君は提携するという。脅しになってすまないが、悪い話ではない。君の会社の技術をデュノア社の機体で試さないか?当然私も手伝わさせてもらう」

「二階堂さん!その話は非常にありがたいのですが私の会社で良いのですか?」

どうやら謙遜しているだけのようだ。

「そうでなきゃ話をしないさ。では頼めるのだね?」

「はい!宜しくお願いします。マツナガさんも宜しくお願いします」

篠田さん頭を下げた。

「では篠田君、これから話す内容は決して他言無用だ。これはフランス国の国益に関わる話になる。そして聞いた後に引き返す事は叶わない。いいね?」

篠田さんは一瞬躊躇したようだが頷いて返事をした。

「今、IS学園にフランスのデュノア社から男性操縦者の転入の打診が来ている。その話の裏付けをしてみると性別の偽りが発覚した。その操縦者はデュノア社社長の妾の子のシャルロット・デュノアでありその子にはスパイの指示が出されている様なのだ。だがシャルロットは強要されているようなのでなんとかこの計画を止めたい。そのためにデュノア社に技術提携をして欲しかったのだ。しかし私の考えでは両社に利があると思っている。なんならシャルロットにも君の会社のテストパイロットをやってもらってもいいぞ?」

二階堂さんの話しが終わると篠田さんも大きく頷き

「デュノア社も酷いことをしますね。私の力でシャルロットさんを救えるなら力添えさせて頂きます」

「よし!話は纏まったな。ではまずは富士見技研とマツナガ君の契約だが少し休憩にしよう」

二階堂さんは席を立つとノビをする。俺も席を立ち廊下に出ると携帯を取り出し千冬をコールする。今日の午後は授業の補佐と聞いていたので恐らく出るはずだ。

「トウヤ、どうした?」

「富士見技術研究所株式会社と言うところと専属契約を結ぶことにしたんだが問題ないよね?」

「篠田社長の所か、問題ないな。もう専属契約の話が来たのか。早いな。そうか、二階堂さんも話が分かっていたのかも知れないな。恐らくデュノアの話は上手く行くぞ」

千冬の声も少し弾んで聞こえる。

「そうか、分かった。これから契約なのでもう少し時間がかかると思うよ」

「分かった。それじゃあな」

携帯をしまうと部屋に戻る。椅子に座ると二人も座った。

「千冬君かい?」

二階堂さんだ。

「はい。一応は織斑先生に確認をしておきました」

「そこは織斑先生ではなく千冬だろ?」

二階堂さんの顔は含み笑いを浮かべている。

「そうですね。良き相談相手になってくれています。頼り頼られですか」

「そうか。それは良いことだ。ハハハハハ!」

笑い声が部屋に響く。俺も多少ひきつっているかも知れないが笑う。篠田さんも笑っている。

笑うところなのかな…

 

「それじゃあマツナガ君も授業中だし契約を進めよう。まず条件だが篠田君、マツナガ君から提供される機体のデータだがこのデータは日本政府の極秘に値する。そこら辺を肝に銘じておいてくれ。マツナガ君からは機体データ、スペックの提示、富士見技研から提供されたパーツの運用データと報告書の提出、技研側からのデータ取りの依頼の完遂、その他必要に応じた要請の完遂だ。そして技研側からは試供品の提供とそれに応じた改修やサポート、専用弾薬やエネルギー等の提供、後は報酬だ。その他必要な場合は協議の上決定。こんな物だが両者は了承するかね?」

二階堂さんは両方をみる。

「万が一に試供品を戦闘や模擬戦で破損させた場合は?」

「故意でない限りはこちらで持ちます」

篠田さんが応じた。

「では依存は有りません」

「こちらもです」

これで両方が了承したので契約書に俺と技研のサインがされた。

「よし。これで完了だ。フランスの件は近いうちにまた連絡をするので待っていてくれ」

俺は席を立つと篠田さんに手を差し出して握手を求める。篠田さんも立ち上がると握手をしてくれた。

 

 

 

着々とデュノア救済の話が進んでいく。

 

 

 

 

 



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27話

UAが20000件overしました!!
ありがとうございます!!
ストーリーの展開は遅いですが内容は濃くしたく思っています。
皆さんの感想が励みになりますので簡単な一言でも構いませんから感想をお願いします。

今回は新武装を1つ出しました。
ナデシコでエステバリスと言えば!!


 俺は教室でパソコンと向かい合っている。二階堂さんとの会談を終えて2日後、先ほど富士見技研から早速新武装が届いた。新しい武装とはレールガンだそうだ。

スペック的にはシールドバリアを貫通する能力があるようだ。射出する弾に秘密が有るようで戦車の滑腔砲で使われる弾と同じ仕組みだとの事だ。貫通力が物凄く高くなっていてシールドバリアを貫通するとの事だ。

ちなみに滑腔砲は分かりやすく言えば吹き矢の原理で弾を撃ち出し弾自体に安定翼が付いていてライフル砲みたいに弾を回転させない分ジャイロ効果の弾のずれが少ないのだ。

今回のレールガンはその弾のをフレミングの法則で物体を打ち出す。

カタログを見るにレール“ガン”と言うよりライフルだ。装填は13発でマガジン装填でマガジンも3個用意されていた。

シールドバリアを貫通出来る射撃武器が有るのは物凄くありがたい。戦闘の幅が物凄く広がる。

早速試射したい所だがシールドバリアを貫通すると聞くと模擬戦で使われるのが躊躇われる。オルコット戦でいきなり使ってみようかな…あれだけ悪意をぶつけられては仕方ない、と自分で考えていながら酷い奴だと思ってしまった。

 

今は放課後のSHR待ちだ。今日は放課後に一夏とのISを使用した訓練だ。

「全員席に着け。ホームルームを始める。月曜日は朝からクラス代表決定戦を行う。場所は第一アリーナだ。ホームルームが終了し次第アリーナに向かってもらう。クラス代表決定戦の件はここまてだ。それと明日からは週末だ。外出を希望する者は今日中に提出するように。いいな?」

千冬が話を終えると全員が返事をした。

「質問の有る者はいるか?」

返事はない。

「では解散」

千冬の号令でお喋りが始まった。一夏と箒がこちらにやってきた。

「トウヤさん行きましょう」

一夏が声を掛けてきた。

俺たちはアリーナに向かう。

 

 

「よし!一夏はひとまずISの装着だ。装着が終われば歩いてみてくれ」

俺の指示に従い箒のサポートで一夏が打鉄を装着した。それに続き箒も打鉄を装着した。

そして二人とも歩き始める。

「いいぞ。そしたら二人とも自由に走り回ってくれ」

「トウヤさんはIS展開しなのですか?」

箒が不思議そうに尋ねてきた。

「うーん…俺のISはフルスキンだから顔が見れなくなるから必要な時だけにしとくわ」

一夏と箒はそこら中をバタバタと走り回っている。

「よし!足を動かすのは慣れたな?次は空を飛ぶ練習だ。まずは地面から浮くだけな?やってみてくれ」

俺の指示で二人が宙に浮き始めた。はじめは高度が安定していなかったが徐々に安定するようになった。

「よし!次はその高度を維持したまま前に進んで止まる。そして後ろに進んでまた止まる。その時に注意する事は同じ速度を維持する事!いいな?」

二人は指示されたとおりの動きをしているが速度が安定していない。

「イメージをしっかりとするんだ。そうしないと安定しない。決められた高度速度が守れないと安定した攻撃が出来ない。回避も出来ないぞ!一夏!オルコットは射撃タイプだ!細かい回避運動が勝利の鍵だからな!」

それを聞いた途端に一夏の動きが良くなる。やはり負けず嫌いのようだ。

「安定してきたな!その次は前後左右だ!」

最初はゆっくり。徐々に早くなっていく。

「いいぞ!慣れたら次はダイヤモンドだ!4点を基準にキビキビした動きをするんだ!」

これはストップ&ゴーの訓練だ。効率良く方向転換、瞬間で目的スピードに持っていく訓練だ。

「よしいいぞ!キビキビと動くんだ!」

箒も頑張って付いてきている。ひたすら歯を食いしばってこなしている。

「よし!次は旋回だ!最初はゆっくり同じ速度同じ角度で飛ぶんだ。そうすれば綺麗な円運動になる!」

打鉄二機がゆっくりと円を描いている。なんとも美しい。また徐々にスピードを上げていく。

「スピードを上げても円の半径を広げるな!」

これはかなりきつい運動だ。

「いいぞ!自分の限界を確かめるんだ!そして集中力を切らすなよ!切れたら遠心力で吹っ飛ぶからな!」

俺はパイロット過程の時にこれをやって酔った。

そんなことを考えていると一夏が吹っ飛んだ。そして地面を転がってアリーナの壁に激突した。

「一夏大丈夫か?」

プライベート回線で一夏に確認すると

「気持ちが悪い…目が回る」

やっぱりなったか。

「しばらく休んで再開だ」

さすが箒だ。剣道で培った精神力で保たせているようだ。

「箒!もういいぞ!一夏と一緒に休め」

箒が止まるとフラフラになっている。鍛えられた兵士でもかなりきつい訓練だ。

「二人ともどうだ?」

「かなりキツいですね」

「しんどいっす」

そうだろう。

「いいか?ISとは兵器なのだ。それを扱うと言うことは戦争で人間を殺すことなのだ。人を殺すことはもっと辛い」

俺は戦争をしていた。この辛さは出来れば味わいたくない。

「トウヤさんは兵士だったんですよね?」

一夏がトウヤに尋ねる。

「そうだ。パイロットだったんだよ」

「人を殺したことは?」

さすがに本当の事は言えない。

異世界の人間で異世界で戦争していたなんて。

「殺したことはないがパイロット過程の同期が墜落死した。俺が直接殺した訳じゃないのに物凄く辛かった」

殺した事の方が辛かった。

「そうなんですか。ISはバリアーがあるので墜落死は聞いたことないですね」

素晴らしい技術だな。

「そうだな。だがそれに頼っていてはまだまだだぞ。んじゃもう喋るほど余裕なら訓練再開だな。次はISで掛かり稽古だ!」

 

 

そんな感じで時間目一杯訓練をして一夏もかなりISに慣れたようだ。この1日の訓練は相当効果があるはずだ。

結局は二人とも相当疲れていたようだ。食事も手が進んでいなかったようだし。

 

 

翌日は入学してから初めての週末。今日は午前で授業が終わる。教室はどことなく浮ついた感じになっている。きっと午後から外出する生徒もいるのであろう。

授業は滞りなく進み午前が終わった。

SHRもおわるとみんな一斉に教室を出て行った。

俺は外出の予定も無いので生徒会室に寄ってみることにした。副会長になってから一度も顔を出していなかった。さすがにまずいと思い始めていたからだ。

 

生徒会室の扉を開けると虚さんがいた。

「あっ、こんにちはマツナガさん」

「どうも、虚さん。間を開けちゃってすみませんでした」

「いいえ、マツナガさんは自分の仕事をこなしているじゃないですか。織斑君と篠ノ之さんの護衛をね」

「それもそうですが…会長の書類とか手伝わなくて良いんですか?」

目の前の書類の山脈を見たら誰しも思う事だろう。一週間前に比べてあまり減っていない気がする。

「良いんです。会長は甘やかすとすぐにサボりますから」

楯無さん…気持ちは分かるがそんなんで良いのかな…

「そう言うなら良いですがやばくなったら言ってくださいね?一応は書類仕事も出来ますから」

軍人と言うのは花形の仕事になればなる程書類が増えるのだ。訓練をするにも訓練計画書、資材使用願や訓練結果報告書、飛行日誌など多岐に渡るのだ。

「分かりました。いざという時に声を掛けさせて貰います。織斑君達の訓練は如何ですか」

「篠ノ之は武道の練達者なだけあって覚えが良いですね。一夏も筋は良いです。しかし性格が短絡的なのが痛いです」

一夏はすぐに頭に血が昇ってしまう。そこさえ治ればとても強くなるだろう。あと攻撃するときの無駄な雄叫びだな。

「そうなのですか。なかなか織斑君は苦労しそうですね」

虚さんは上品な笑い方をする。なかなか癒し系なのかもしれない。ってことは姉妹揃って癒し系か。

「ところで会長はまだ来てないのでか?」

「そうてす。まだ来ていないですね。そろそろ来るはずなのですが。マツナガさんはこっちの世界には慣れましたか?」

虚は俺の素性を知っていたのか。

「知っていたのですか。向こうもこっちも基本は大して変わらないんです。違うのは技術と社会の事情だけですから」

「そうなのですか。ご家族は?」

「家族はいませんでした」

俺が返答をすると虚はしまったと言う顔をする。大抵の人が同じ顔をする。

「気にしないでください」

笑顔でそう応えると虚は困った顔をしていた。みんな同じ反応をするものだ。

 

そこで生徒会室の扉が開くと楯無が入ってきた。

「やぁマツナガさん、今日はどうかしましたか?」

「副会長としてたまには生徒会室に顔をだしたのだよ」

「そうだったのですか。そう言えば企業と専属契約を結んだとか?」

さすが楯無だな。耳が良い。

「富士見技研と契約した。しかしそれは御令嬢の件も絡んでてな。恐らく今、デュノア社に技術提携の話を持って行ってるはずだ。そしてそこで社長夫人の暴露話になるはずだ」

俺の顔はきっと悪い顔になっているんだろう。

楯無の顔もニヤリとと笑っている。

虚は引きつった顔をしていた。

「そうですか。なかなか楽しい事になっていますね。正直この件はどうしようか迷っていました。更織で動くにしては益がない。けどシャルロットを見殺しにするには可哀想すぎます。マツナガさん、本当に感謝しています。あなたの言葉がなければ私は決断出来ませんでした。ありがとう」

楯無は頭を下げている。

「頭を上げてくれ。此方こそありがとう。楯無の情報が無ければ動けなかったんだ」

楯無が頭を上げると少し顔が赤くなっている。鳴きそうなのだろうか。

「今後は二階堂さんから連絡が来るだろうから何かあったら連絡するよ」

ひとまずは富士見技研とデュノア社と話をして技術提携をして貰わなくてはいけない。

「そうですね。連絡待ってますね。ところでマツナガさんは昼食は?」

「まだだが?」

「ではみんなで食べましょう」

 

 

俺たちはこのあとは生徒会メンバーで食事を採った。初めて2年生の食堂に行ったが食堂に入った途端に歓声に包まれてさらには食事中も視線に晒されて非常に食べずらかったとだけ言っておく…

千冬にデリバリーサービスをやって欲しいと言ってみようかな。多分怒られるだけだろうけど…

 

 

 

 

 

 



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28話

 今日は日曜日。俺は朝のランニングをした後はベットで横になって本を読んでいる。楯無から昨日借りた〈噂が噂を呼びその噂から殺人事件が起きる〉と言う内容の本だ。読み初めからかなり面白い。一夏と箒は今日は一緒に出掛けるそうだ。昨日のうちに楯無に護衛を頼んでおいた。そのおかげで今日1日は特に予定はない。先週はドタバタしていたし明日はクラス代表決定戦だ。楯無の話を聞く限りては千冬に勝てるならオルコットには楽勝だそうだ。彼女には決定的な弱点があるらしい。そこに気付かせてあげるのも大人の仕事だそうだ。

一夏は…突撃お馬鹿になるだろう。

 

そんなことを考えているうちに眠くなってきた。

 

 

 

なぜだ…なぜトウヤは私を誘ってくれなかったのだ?

別々の部屋になって一週間も経って私は寂しくて寂しくて…

教室ではなかなか話も出来ないし教師という立場上寮の部屋に行くのもまずい。一回だけ行ったが何もなかった。

これからトウヤの部屋に乗り込んでしまおうか。周りの奴らに見つからなければ良いだけの事だ。

リスクは大きいがリターンも捨てがたい。

 

よし!

 

 

 

どれくらい寝ていたのか。左腕の時計を見ると12時を少し回った所だ。身体を起こし…ん?右半身が重い。目をやると…

 

千冬が寝てる…

いつの間にか寝ている。

気持ちよさそうに俺の胸元に顔を埋めている。

 

起こすのも可愛そうだしこのまま寝かせておこう。

俺はまた寝入った。

 

 

トウヤの腕枕は最高だ。トウヤの匂いも最高だ。トウヤが寝ている姿を見たときは涎が出てしまったがトウヤの腕を枕にして寝っ転がると安心感が私を満たしてくれた。優しさに包まれるとは、まさにこの事を言うのかも知れない。私は眠気に任せて意識を手放した。

 

 

暖かい。とても暖かい。

その気持ちよさに目を開けると千冬の顔が目の前にあった。

びっくりしてしまい身体が強張ってしまった。たが千冬は目を覚まさない。千冬の吐息が俺の喉の辺りに当たっている。それぐらい近いのだ。体制は俺が千冬を抱き締めている形になっている。

千冬の寝顔は普段の顔とは違いとても穏やかな顔をしている。普段の顔は格好いい、しかし今は歳相応の顔だ。

恥ずかしくなってきたので俺は身体を少し回転させて上を向きまた目を瞑る。

 

 

気が付くとトウヤが私を抱き締めていた。あまりの顔の近さに最初はとても驚いたが今は落ち着いている(心臓はバクバクだが)トウヤの顔を見ていると…またこの前の様にキスをしてしまった。また幸せな気持ちになってまた寝入った。

 

 

目が覚めて時計を見ると19時になっていた。隣ではまだ千冬が寝ている。昼を抜いたのでお腹が鳴っている。

「千冬、起きてくれ。千冬!」

俺が身体を揺すると千冬が目を開けた。俺の顔を見ると顔を真っ赤にさせていた。

「どうした?顔が真っ赤だぞ?熱でも出たか?」

俺が手を千冬のおでこに当てると千冬は慌てて手を振り払う。

「だっ大丈夫じゃ!」

じゃ?舌噛んだらのか?

千冬の首まで真っ赤になり物凄い勢いで千冬は部屋から飛び出していった。

 

なかなか可愛いじゃないか…

 

そんなことを考えながら俺は洗面をして食堂に向かった。

 

食堂で食事を受け取ると本音がこっちに向かって手を振っているのが見えたので本音の席に向かうとこの前に一緒に食事をした鷹月さんと相川さんも一緒にいた。

「マッツー元気?ご飯一緒に食べよーよ」

そう言いながら見えない手で自分の隣を指差した。相川さんも鷹月さんも笑顔で迎えてくれた。

「ねぇ〜ねぇ〜マツナガ君は今日は何して過ごしたの?」

鷹月さんは目をきらきらさせて俺に話しかけてきた。

「今日は最初は読書してたんだがそのうち寝てしまってさっき起きたばかりなんだ」

そう言うと鷹月さんも相川さんもびっくりしていた。

「ん?なんで驚くんだ?」

俺が尋ねると二人とも顔を見合わせながら

「なんだかマツナガ君はもっと勉強している感じ?というか何をしているか分からない感じなんだよね」

酷いな…

「そっか。俺も普通に昼寝もするし読書もするし釣りもするんだぞ」

笑いながら答えると本音も含めた3人とも笑っている。

「三人は外出しなかったのか?」

「今回はパス。お小遣い無くなっちゃうし」

「臨海学校に向けて新しい水着を買うために!」

「お菓子が買えなくなっちゃうし!」

そうなんだよな。みんなお小遣いなんだよな。俺みたいに収入が有る訳じゃないもんな。

「そっか、大変だよな」

「そうなんだよ!大変なんだよ~!」

「お小遣いの増額を要求しちゃう」

「もっとお菓子を!」

相変わらずマイペースの本音だ。

相川さんも鷹月さんも一般家庭ならば本当に努力して試験に合格したのだろう。

ところでこの学校は授業料は有るのだろうか。国家予算で運営って言うぐらいだから無いんだよな?

「マツナガ君って結婚してるの?」

相川さんの質問に急に周りの音が消えた。

質問した相川さんですら周りをキョロキョロしている。

なんだか答えたくなくなったが…仕方ないか。

「していないよ。因みに彼女もいない」

そう答えると一気に周りが騒がしくなった。

 

「行く!?行っとく!?」

だとか

「チャンスよ!このチャンを逃したら明日は来ないわ!」

とか

「やはり織斑君狙いなのね!」

違います。

 

など色々と聞こえてきた。

「マツナガ君…何というか、ごめんなさい」

相川さんは申し訳なさそうに謝ってきた。

「気にしないでいいよ。高校生ならば普通の会話だろ?ここがほぼ女子校だからこんな風になるんだろ?」

俺がホォローを入れると相川さんも笑顔で

「そうですね。マツナガ君と織斑君は注目の的です」

あまり認めたくないが事実なのだろう。

「だろうな。軍も女性パイロットは人気が凄かったからなぁ。本当に人気があった」

「そうなんですか?」

「うん。だって10パーセントしか女性がいなかったらそりゃ人気も有るだろう。酷い言い方だが容姿はそんなに関係なかった。きっとホルモンにやられるんだろ」

俺の言葉に三人とも笑っている。

「でもそこで付き合ってもほぼ100パーセント別れるんだってさ」

「え?何でですか?」

驚いたのは鷹月さんだ。

「部隊に行くと大抵部隊長ってのは大尉なんだよ。そして大尉ってのは優秀だと30代前半にはなれるんだよ。すると女性達は一般の幹部よりも有望な幹部を選ぶってわけ」

鷹月さんと相川さんは驚いた様子だ。

確かに酷い話だよな。全員がそうって訳じゃない。

「なんだか逞しいというか」

「ガメツいと言うか…夢が壊れるかも」

大人の世界過ぎた?

「まぁ全員がそうではないよ。中には看護科とか補給科の女性と結婚した人もいるしね。幹部は転勤が前提だから嫌がる人も居るんだよ」

「へぇ~そうなんですか」

「軍人は大変ですよね」

「でもいろいろな場所のお菓子が食べられる」

 

そんな会話をしながら夕食を食べて今日は殆どなにもせずに1日が終わった。

 

 

 

トウヤ…なぜ追いかけてくれないんだ!

私が走りだしたら追いかけてくれるはずだろう!

 

ベットで千冬が泣きながら布団を抱きしめているとも知らずに。

 

 




次回からクラス代表決定戦です!


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29話

 アリーナのピットには俺と一夏、箒と千冬がいる。

今日は1組のクラス代表決定戦が行われる。初戦は俺とオルコット。次が一夏とオルコット。最後が俺と一夏だ。

「よし。それではマツナガはISを展開して会場へ向かえ」

千冬が指示を出してきたのでISを展開する。

展開を終えるとモニターには驚いた顔の一夏と箒が写っている。

「トウヤさんのISってシルバーなのですね。名前は?」

一夏の目が驚きから好奇心に変わっている。

「特に名前は無いがエステバリスだ。花の名前でな和名はナツザキフクジュソウって言うらしいんだ」

ナデシコで得た知識を一夏に披露する。何故かナデシコの周りには花の名前が溢れていたんだよな。ナデシコ二番艦コスモス、三番艦シャクヤク、四番艦カキツバタ、強襲揚陸艇ヒナギク、連合軍の船も殆ど花の名前だった。ナデシコ級は揃えていても連合は偶然?

「マツナガ!後がつっかえているから早く出ろ!…負けるなよ」

千冬の顔をモニターに映すと千冬の顔が僅かに不安が浮かんでいる。

俺は千冬に手を挙げるとそのままカタパルトに乗り足を固定させる。

『マツナガ機、発進準備完了』

「エステバリス、マツナガ機出ます!」

声と同時にカタパルトが射出され程よいGが体に掛かった。

懐かしい!この世界に来る切っ掛けとなった戦闘の出撃以来だ。

アリーナに出るとオルコットが既に待っていた。

「遅かったですわね?てっきり逃げ出したのかと思いましたわ」

相変わらずオルコットは高圧的な態度で話掛けてくる。イラっとするが戦闘前だ。冷静にならないと戦況を正確に把握出来ない。

「済まなかったな。一夏と君を倒したらどんな罰をしてやろうか相談してたら時間が過ぎていたんだよ。結局決まった罰は俺たちの前で土下座って事になったよ」

俺の話が終わるとオルコットは肩を震わせて怒りそして

「なんですってぇぇぇ!!!」

と叫びながら手に持っていた大型のライフルをこちらに撃ってきた。試合開始の合図を待たずに攻撃とか色々と不味いだろ。

迫り来るエネルギー弾を俺は左にスライド飛行で避けそのままオルコットと一定の距離を保ったままグルグルと回る。

ひとまず相手のデータを集める。

機体名はブルー・ティアーズ(青い雫)

イギリス開発の第3世代機でブルーティアーズと呼ばれるビット兵器が特徴。中遠距離型のようだ。

 

俺は右手にラピッドライフルを呼び出しブルーティアーズに向けて発射する。移動するブルーティアーズに対して一定距離だがブルーティアーズの上下左右と進行方向を一定にせずに動き回っている。周りから見たら俺は蜂の様にグルグルと回っている感じに見えているだろう。

「ちょこまかと動き回って小賢しいですわ!」

オルコットもこちらに向きを合わせているがオルコットが射撃するタイミングで俺は進行方向を変えている。無駄弾がアリーナのシールドバリアに当たり四散する。オルコットは頭に血が昇っていてガムシャラに打ちまくっている。俺がちまちまと撃つラピッドライフルが当たっているのもあるのだろう。

「もう面倒ですわ!」

オルコットは機体の機動を止めて4機の青い物体を射出させた。あれが恐らくブルーティアーズの名前の元になったビット兵器だろう。俺は左手にもラピッドライフルを呼び出し機体の速度を更に早めて目標をビット兵器の方に変える。ビットからビームが撃ち出される。正面からのビームを避けると後ろから撃ち出されたビームがエステバリスのシールドバリアに当たる。これが3回ほど繰り返される。

どうやら本命は後ろのビットの様だ。

正面のビームが撃ち出されるのと同時に後ろを向き後ろのビットにラピッドライフルを掃射する。その弾はビットに直撃して四散する。

「なっ!」

そして次の前からのビームが来ると同じ様に後ろのビットを撃ち落とした。

ビットの残りは2機だが俺はそこでビットから距離をとるように飛び回る。両手のラピッドライフルをしまい、先日納入されたレールガンを呼び出す。

オルコットは一カ所に留まりこちらに正面を向けている。

「もう終わりかしら!?ブルーティアーズのワルツはまだ終わりではありませんわよ!」

ビットが激しくビームを撃ってくるがどの方向からビームが来るか分かっているため軽く軌道を変えて避ける。

そしてレールガンをオルコットに狙いを定める、が威力が分からないのでひとまずは腰のアーマーを狙い、撃つ!

弾は大気との摩擦で少しだけオレンジ色に発光しながらオルコットに向かい飛んで行きオルコットに命中し爆発が起こる。

煙がはれるとそこには腰のアーマーが壊れたブルーティアーズがたたずんでいた。損傷は腰のアーマーだけのようだ。

状況を確認すると俺はオルコットの逃げそうな進路に弾を次々と放ち最後に直撃コースを撃つ。するとオルコットはその内の一発に当たり次は背後のアンロックユニットに直撃し爆発が起きた。

レールガンは残り7発。

次は足のスラスターを狙い撃ち吸い込まれるように当たる。

オルコットの左足のスラスターが破損して動きが緩くなる。

「あなたはいったい!?」

オルコットの顔が焦りで歪む。

「戦闘中に足を止めるな。止まった瞬間に狙い撃ちされるぞ!そして真っ直ぐに飛ぶな!軌道の予測がしやすくなる!そして大前提は知らない相手に油断するな!全力でもって戦え!」

オルコットに直撃弾を次々と与えて弾倉の最後の一発を当てた所でブザーが鳴った。

『オルコット機シールドエネルギーエンプティー!勝者マツナガ!』

アナウンスが流れると同時にオルコットのIたSが解除され地面へと落下していく。俺は慌ててオルコットに飛び抱き抱える。意識がない。ハイパーセンサーで状態を確認するとどうやら気絶しているだけのようだ。

そのままピットへと戻ると千冬と山田先生が担架を持って待っていた。

「すみません。やりすぎでしたかね?」

俺は千冬に聞くと千冬は笑いながら

「いや、これぐらい当たり前だ。今までが余りにも緩かったのだろう」

と返事してくれた。

オルコットは箒と山田先生でアリーナの治療室へと運ばれて行った。

「織斑、オルコットが戦えないから次はお前だ。もう行けるな?」

千冬の話しかけた方を見ると一夏が薄い灰色のISを纏っていた。

「え?俺まだフィッティングもフォーマットも終わってませんよ!?そんなんでさっきのトウヤさんと戦うなんて無理ですよ!」

そうだな。さっきの俺はまだ7分だ。

「そんなものは実戦で何とかしろ」

千冬…そりゃあんまりだよ。

「だったら俺が量産機で出ましょうか?」

俺が千冬にフォローを入れるが

「そんな面倒な事はしない。ならハンデとしてマツナガ機は接近戦用の武器のみとする。ちなみにマツナガは勝ってもクラス代表は出来ないから事実上織斑とオルコットの一騎打ちだ」

千冬の発言に一夏が驚きの声を上げる。

「何でだよ千冬姉!?グヘっ!」

千冬の主席簿アタックが一夏の頭に直撃した。

「織斑先生だ。マツナガは生徒会の副会長に就任したからだ。生徒会役員とクラス代表は兼任出来ない決まりになっている」

千冬の話を聞くと一夏はうなだれた。

「なんだぁ…ガチの対決じゃなかったんだ」

「織斑、お前は胸を貸して貰う側だぞ?何が対決だ。しっかりと勉強させてもらえ」

千冬にお説教を食らう一夏。

「まぁ…今回はそのISん?なんて読むんだシロシキ?の慣らし運転だな。本命はオルコット戦だ。いいな?」

「分かりました。この機体はビャクシキと言うんです」

そう言うと一夏はカタパルトに向かい歩き始めた。

「マツナガ!一夏を頼んだぞ」

「了解!」

千冬からプライベート回線で通信が入った。俺はそれに答えるとカタパルトに歩き出した。

一夏がカタパルトで飛び出していった。

俺も続いてカタパルトで飛び出した。

 

アリーナで向かい合い開始のブザーが鳴るのを待つ。

 

 

 



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30話

 試合開始のブザーが鳴ると同時に一夏はブレードを手こちらに突っ込んで来た。

俺は後退して距離をとりフィールドランサーを呼び出す。

そして一夏の右側に回り込みシールドバリアに突きをくり出す。一夏はその勢いでバランスを崩すが持ち直してブレードを横に斬りつけてくるが急速に後退してかわす。

「一夏!動きを止めるな!常に動いて狙いを定めさせるな!」

俺は一夏の周りをグルグルと周り一夏を翻弄する。

一夏はこちらに突っ込んで切りつけてくるが攻撃は当たらない。

「ムキにならずにしっかりと回り込んで攻撃するんだ!」

一夏の軌道が直線的になったところで体当たりをして体制を崩したところに再び突きを入れる。

「クッソー!トウヤさんの動きが早すぎなんですよ!」

一夏は焦っているようだ。

「相手は合わせてはくれないぞ!!」

 

しばらく一夏と遊んでいる。申し訳ないが遊びのレベルだ。動きが直線的でフェイクすら入らないし攻撃に繋ぎすらない。恐らくは今の段階なら箒の方が強い。

仕方ないな。話によると中学生の時は千冬を助けるためにアルバイトわしていて部活などは一切やっていなかったそうだ。

 

「どうした一夏!全く攻撃が当たっていないぞ!模擬戦だからって甘ったれるなよ!」

と言い回し蹴りを一夏に食らわせる。

「ぐあ!!」

一夏が派手にすっ飛んでいった!アリーナのシールドにぶち当たった。

観客席にいた女生徒達が後ろに倒れた。そりゃ全高3メートル程のISが吹っ飛んでくればビックリするだろう。

 

一夏は起きあがると再び突っ込んできた。しかも次はブレードを振り上げて雄叫びを上げている。

「だから直線的になるな!雄叫びをあげるな!」

と叫びながら次は跳び蹴り入れる。

「ギョア!」

再びアリーナのシールドにぶち当たった。

そこで一夏の白式が光な包まれた。

「なんだ?どうした一夏」

もしかしてこれがファーストシフトと言うやつなのか?

光が収まった白式はその名の通り真っ白な機体になっていた。

「お?随分綺麗な機体だな」

「やっとフィッティングが終わりました」

「よし!ならば此処から全力で行くぞ!」

俺はブレードランサーを構えて左右にフェイクを入れながら一夏に近寄る。そして一夏の下に回り込みそして後ろから蹴り飛ばす。そして吹っ飛んだ一夏にフィールドランサーを突き立てて先端を開く。するとバリアが解除されてそのまま一夏にフィールドランサーを切りつける。すると一夏は後退して距離をとった。今のは絶対防御が発動しただろう。

一夏はブレードを構えるとブレードがビームの様な物を纏った。切り札なのか?

そしてこちらに突っ込んできたのでこちらもフィールドランサーを構えてあえて正面から打ち合った。一夏のブレードがかすると一気にシールドエネルギーが減った。俺は驚いたが一夏にフィールドランサーを突き立てシールドを破り次は一夏の胴を狙った。もろに突き刺さりそこでブザーが鳴った。

『織斑機シールドエネルギーエンプティー!勝者マツナガ機』

 

試合が終わった。

一夏はISの解除はしなかったようだ。

「さすがトウヤさんですね!全く歯が立たなかったです」

「いや、最後のあれはなんだ?一気にシールドエネルギーが持っていかれたぞ?」

ブレードが光っていたやつだ。

「あれはワンオフアビリティーの零落白夜です」

ワンオフアビリティー…機体オリジナルの固有の必殺技みたいなものか。

「そうか…あれは凄いな。ひとまずピットに戻ろう」

俺たちはピットに飛び中へと入った。そこには千冬達が待っていた。

「まぁ、当然の結果だな」

千冬が腕を組んで一夏へと話しかけた。

「うん、やっぱりトウヤさんは強かった」

一夏はISを解除すると千冬に答えた。

俺もエステバリスを解除すると千冬がタオルを渡してきた。

「ご苦労だったな。やはり強いな」

「まぁ、一応はな」

詳しくは言えないので曖昧な返事になってしまった。いつか話せる時が来るのだろうか。

「やはり機動射撃が凄いな。近接格闘も機動をおりまぜたトリッキーな物も見られた。操縦に関してはもはや生徒の域を越している。もしかしたら学園の教官でマツナガを落とせる者はいないかもしれない」

千冬は笑みを浮かべて学園最強と言い出した。まさかそこまでの技量が俺にあるとは思えない。ナデシコでも戦果は一番少なかった。後方支援のマキ・イズミにも劣っていた。

「それは言い過ぎでしょう。教官達に勝てるだなんて。ISの扱いはそちらの方が上ですよ?」

「私の目に間違いが有るとは思えないが…なら今度教官とやってみてくれ。きっとみんな食い付いて来るはずだ」

相変わらず千冬は良い笑みを浮かべていた。

 

ひとまず俺の出番は終わりだ。

オルコットと一夏の試合はオルコットは復活して向こう側のピットで待機しているらしい。後は一夏のシールドエネルギーの充填待ちらしい。俺は千冬に連れられてアリーナの管制室に来た。本来は関係者以外は立入が禁止されているが今回は千冬に連れてこられたので良いらしい。

「それでオルコットはどうだった?」

「弱いです。一番頂けないのはビット兵器を止まっていないと扱えない所と頭に血が昇ったら冷静さを取り戻すのに時間がかかる2点です」

「一番が2つ有るとは…まぁその通りだな。良い点は?」

「予測射撃のセンスがあります。下手にビット使うよりあのライフルの方が良い戦いが出来るのでは?」

「そうだな。あいつは今後も努力を惜しまないよう指導だな。それにしてもトウヤの使ったあのライフルは?」

レールガンの事を言っているのだろう。

「この前富士見技研から納入されたレールガンです。今回が初めての射撃になりました」

「そうか。随分とエグいレールガンだな。シールドバリアを貫通とは」

「試射も何もしていなかったので念のためにオルコットの腰の装甲を狙っときました」

「絶対防御があるから大丈夫だ。今のところあれを破る攻撃手段は今のところ無いな」

「そうでしたか。では次回からは遠慮なく攻撃出来ますね」

「そうだな。今度は私も模擬戦をしたいよ」

千冬の良い笑顔が見れた。

 

『織斑機シールドエネルギーの充填完了です。試合行けます』

ピットからの通信でオペレーターが両者にアリーナへの移動が指示された。

 

 

モニターには一夏とオルコットが対峙している。

オルコットの顔には油断は全くない。

「先ほどは油断して負けましたが今回は最初から全力で掛かりますわ!」

オルコットはそう言うとライフル、スターライトmk3を構える。

「そりゃこっちも同じだ。トウヤさんに教えられた戦い方でお前を落とす!」

そう言うと雪片弐型を出現させた。

両者が向かい合って10秒後にブザーは鳴った。いきなり突撃をする一夏にオルコットは後退しながらライフルを撃ちそれを一夏が左右にフェイクを入れて避ける。

「一夏はもうフェイクを覚えたのか?」

「あいつの学習能力は身体を動かす事に関してはずば抜けたものがある。人の気持ちには全く学習しないがな」

俺たちは顔を見合わせて笑った。

 

一夏はどんどんと加速して距離を詰める。しかしオルコットもライフルで射撃を加えるもなかなか当たらない。

オルコットは動きを止めてビットを放ち一夏の周りへ飛ばし一夏の足を止めるようにビームを放つ。

一夏はこれにはたまらず、回避運動へと変わってしまった。

「さぁ!踊るのです!」

先程と違い前後左右から直撃弾が繰り出される。どんどん一夏のシールドエネルギーが減っていく。一夏もなんとかビットを落とそうと動いてはいるがなかなかビットを捕らえることが出来ない。

そして一夏は突然オルコットの方へと飛び出した!

そのままオルコットに肉薄すると小刻みな切り込みをオルコットへと放ち全てが当たった。

そして横へとスライドして後ろに回り込み零落白夜を発動し横凪にに一閃するがこれは交わされる。オルコットはそのまま逃げだすが一夏はそれを逃がさないように追いかける。オルコットもライフルでビームを放つが交わされる。

徐々に距離が詰まって行き一夏の間合いに入ったところで再び零落白夜を発動。

「しまったぁ!」

オルコットの悲鳴が挙がる。

一夏が上段から切ろうとした瞬間

『織斑機シールドエネルギーエンプティー!勝者オルコット機』

 

 

勝者のアナウンスが流れた瞬間にきっとアリーナ全体でこういう声が広がっただろう。

 

「「「「はぁ?」」」」

 

 

 

 



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交渉と強行の章
31話


新章入ります。

鈴ちゃん登場までに少しオリジナルの展開を挟みます。


「それで気付かずにシールドエネルギーが尽きたと」

今は千冬による一夏の反省会だ。

「はい。零落白夜を使った後はシールドエネルギーが減っているなぁという認識しか有りませんでした」

まぁ仕方ないよな。本来新機種に乗ったら慣熟訓練をするところをいきなり試合だもんな。オルコット機を追い詰めた事を誉められても説教はないな。

「織斑先生、誉められる事はあっても責められる事は有りません。いきなりの試合だったんですから」

俺が千冬にフォローを入れると千冬は余り納得していない感じであったが

「そうだな。では精進しろよ」

と言い残してピットから出て行った。

「トウヤさん。ありがとうございます」

一夏が俺の所にやってくると礼を言う。

「それにしても惜しかったな。でもあそこまで機体の慣熟訓練なしでやったんだから凄いことだ。軌道もフェイクが入って真っ直ぐでは無かったし連続切りも出来ていた。この2点だけでも出来ていれば大分違っただろう?」

「はい!相手の射撃が全然当たりませんでした」

俺と一夏はアリーナの更衣室でシャワーを浴びて着替えて教室へと向かったが途中で知った顔を見つけたので一夏を先に戻らせた。

 

「どうかしましたか?楯無会長?」

廊下の影に隠れるように立っていた楯無が出てきた。

「よく気付いたね?別に用って訳じゃなかったけど試合観ましたよ。やっぱり強いですね?」

楯無は扇子で口元を隠す。扇子には『学園最強』と書いてあった。

「だから買いかぶり過ぎですって。どうして最強にしたがるんですか?」

頭を掻いて答えると楯無は笑いながら

「私も織斑先生も状況分析は出来ると思いますけど?」

と言う。しかし…

 

「でもマツナガさんとの模擬戦が楽しみですよ」

楯無がフフフと笑っている。

「なら非公開でお願いしますよ?会長になんかなりたくないですからね?」

俺は諦めたように言うと

「分かりました」

と言い廊下を歩いて行った。

俺は溜め息ついてから歩き出した。

 

 

時刻は12時を少し越えたぐらいで昼休みになっている。アリーナから戻った俺は教室に来たが殆ど誰もいない状況だった。しかしオルコットがいた。俺はオルコットの方に歩いていくと向こうも気付いたらしくこちらに歩いてきた。

「オルコット、さっきはやりすぎてすまなかった。身体に異常はないか?」

「いえ、大丈夫ですわ。こちらこそ今までの非礼を詫びさせて下さい。申し訳有りませんでした」

オルコットは謝ると頭を下げた。

「頭を上げてくれ。俺は全然気にしていない。これから仲良くやれたら良いから」

「はい!ありがとう御座います!それから私のことはセシリアとお呼び下さい」

オル…セシリアは頭を上げると嬉しそうに名前で呼ぶように言ってきた。

「ならば俺のこともトウヤで良いぞ」

俺がそう言うと何故かセシリアは顔を赤くして

「分かりました。と、トウヤさん」

と恥ずかしそうに言う。

「おう。それなら一緒に昼食でもどうだ?」

俺が昼食に誘うとセシリアは喜んで『御一緒しますわ!』と並んで付いて来た。

良かった。なにもシコリを残さずに今回は済みそうだ。

 

 

食堂で食事を受け取ると向こうの方で一夏が手を振っている。

「セシリア、一夏と一緒で良いか?」

セシリアに向き直るとセシリアは頷いた。

「はい。織斑さんにも謝りたかったので是非お願いします」

それを聞くと一夏の席に向かう。席の近くまで来ると一夏と箒の顔が怪訝に変わるのが分かった。

「一夏に箒、そんな顔をするな」

俺の言葉に二人の顔が困った顔になった。

そこでセシリアが口を開いた。

「織斑さん、今までのこと申し訳ありませんでした」

突然のセシリアの謝罪に一夏と箒はポカーンとしている。

「あの試合も本来なら私の負けです。宜しければお二人の決めた罰の土下座もいたします」

そう言うと食事を机に置き膝を付こうとするセシリア。

俺は慌てて腕を取り止めた。

「セシリアすまん。あれは俺の挑発だ」

俺は真実をセシリアに告げるとホッとしたような顔になる。

「一夏に箒、どうなんだ?」

俺が二人に振るとやっとフリーズから解放されたようで顔を見合わせると笑顔になり

「大丈夫だよ。俺たちも気にしていない」

と言った。

「ありがとう御座います」

セシリアは頭を下げた。

これで解決!

はぁ〜だが次はデュノアか…

 

俺とセシリアは席に着き食事を始める。

「一つ聞いて宜しいですか?」

セシリアが俺に聞いてきた。

「なんだい?」

「トウヤさんの操縦ですが相当手慣れていたようでしたが篠ノ之博士の所でどんな訓練をしていらしたのですか?」

まずい…そこら辺のカバーストーリーは考えていなかった。

「そうだなぁ。まぁ元々パイロットだったからその訓練方法を元に独自に考えてしてたよ」

嘘は言っていないよな?

「そうだったんですか。機動射撃なんかは物凄い腕でしたので是非御教授願いたいですわ!」

セシリアの視線に熱がこもっている。そんなに指導を受けたいのか。

「機会があったらな」

そういうとセシリアは大きく頷いた。

それを見ていた箒が信じられない物を見た顔をしている。隣で一夏もだ。

「二人ともどうした?」

俺が二人に問いかけると次はセシリアを見て同時にニヤリとした。

俺がセシリアを見るとセシリアは俯いていた。

「おい、二人ともなにをしているんだ?そう言うのは感心しないぞ」

というと二人は益々ニヤリとしてセシリアに

「「頑張れよ」」

と言っていた。

 

よく分からん。

 

午後からは普通に授業が行われ放課後になると俺は職員室の千冬の元に来ていた。

「模擬戦のデータが欲しいのですが」

「構わないが、ああ…富士見に出す報告書か」

千冬は書類を一枚書いて上座の方に居る人に出すとUSBメモリーを持って戻ってきた。

 

…視線を感じる?しかも殺気がこもってる。

 

千冬はパソコンからデータを移すとUSBメモリーを渡してきた。

「USBは明日には返すように」

「分かりました。ところ個人的な相談が有るのですが」

そう言って俺鋭い目つきをすると千冬は何かを察してくれたのか席を立つ。そして廊下に出ると隣に立ってくれた。

「どうしたのだ」

「職員室内で殺気のこもった視線を感じたのですが」

千冬の目つきが鋭い物に変わる。

「間違いじゃないのか?」

「間違いではないです」

俺の言葉に千冬は頭を抱えた。

「やはり現れたかった。懸念はあったんだがな」

「女性主義的な人ですか?」

「そうだ。上には通しておくが注意しておいてくれ。教員の中に居るって事だからな」

千冬はそう言うと職員室に戻っていった。

俺はその場で携帯で楯無を呼び出す。

「トウヤさん!お待ちしてました!」

「待たせた記憶はないんだが?」

「いえいえ、勝手に待ってたんです。私って一途な女なんですよ!」

妙にテンションの高い楯無が少し面倒くさい。

「用件は一夏の身辺警備の強化を頼みたい。対象は学園内部でだ」

俺の言葉で電話のむこうの雰囲気が変わるのを感じた。

「内部ですか?詳細は?」

「先程職員室内で殺気を向けられた」

「分かりました。教員の身辺を洗い直します」

通話が切れると携帯をしまって生徒会室に向かう。

 

ISの生まれた世界も歪んでいるのだな。

 

 

生徒会室を開けると虚さんがいた。

「マツナガさん、こんにちは」

「虚さんどうも」

「今日は試合だったそうで、お疲れさまでした」

「聞いていたんですか」

「ええ、本音からですけどね」

そうだった。本音も書記だったんだ。

「そうでしたね。忘れてました」

顔を見合わせて笑う。

「試合は如何でした?」

「一応は二戦やって両方とも勝ちました。経歴からでは当然ですよ」

一応人型機動兵器のパイロットですからね。人型の扱いや特性は把握してますよ。

「流石ですね。目指せ学園最強ですか?」

「それだと会長交代しちゃってるじゃないですか」

「それも良いかもしれないですね。今の会長はサボりますから」

虚さんがクスクス笑っている。

俺も苦笑い。

「残念ですが俺は会長になる気は有りませんよ。この書類の山を見たらやる気無くなりますって」

会長の机に聳える山脈。

「これは会長がサボった結果です」

虚さん結構厳しいね。

 

そこで携帯が鳴り始めた。

「マツナガです」

「どうも。二階堂てす」

IS国際委員会の二階堂さんだった。デュノア社の件だろうか。

「こんにちは。なにか有りましたか?」

「マツナガ君、篠田君と私と一緒にフランスに来てくれないかね?」

「私もですか?」

「そうだよ。御令嬢が気にならないかね?それと護衛も兼ねてね。更織通して話をしておくよ。君が了承してくれるなら千冬君に公欠扱いにするよう頼んでおくから」

「分かりました。同行させて下さい」

「助かるよ。では日程が決まったら千冬君に知らせておくよ」

通話が切れた。

「大丈夫ですか?」

虚さんが心配してくれた。

「大丈夫です。どうやら出張に行くことになりそうです。フランスまで」

俺が笑みを浮かべると虚さんも同じ様に笑みを浮かべた。

「フランスの御曹司ですか」

 

虚さんは何でも知っているのかも知れないな。

 

 

 

 

 




虚さん「知っている事しか知らないよ」

なぜ猫さんと被るのでしょう。


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32話

お気に入り300件overです。

ありがとうございます。


虚さんとの会話も適当に切り上げて剣道場に行ってみると剣道部に混ざって一夏と箒が稽古をしていた。顧問を確認すると特に変わった様子は無いので取りあえずは安心だ。

道場を出ると俺は寮に向かった。

部屋に戻るとパソコンを立ち上げてレールガンの報告書を書き始める。

性能に問題はなく貫通力は絶大でありシールドバリアを貫通して相手の絶対防御を発動させた事を記載した。

それに写真やセシリアのシールドエネルギーの減り方のグラフなどを載せる。

あとは希望として小型化と連射性能の向上とマシンガンとの複合型だが希望であって要望ではないと注書しておいた。

 

パソコンに向かい作業をしているとドアがノックされた。右手を腰の銃に手をやりドアを開けるとそこにはセシリアが笑顔で立っていた。銃から手を離した。

セシリアは制服ではなく私服であった。上は白のシャツに青いカーディガンを羽織り下は白のロングスカートであった。

「どうしたか?」

俺も笑顔で尋ねるとセシリアはお腹の前で組んだ手をモジモジさせながら恥ずかしそうに

「夕食を御一緒しませんか」

と聞いてきた。俺は腕時計を確認するともう18時を越えていることに今気付いた。

「そうだね。行こうか」

俺は部屋を出るとセシリアと食堂に歩き出した。

隣を歩くセシリアはどこか上品な感じがする。

「セシリアはイギリスの貴族なのか?」

セシリアに尋ねると嬉しそうに返事をしてきた。

「そうですわ。オルコット家はイギリスの名門貴族のひとつですわ」

本物の貴族だったとは。

「凄いな。貴族で代表候補生とは正に騎士だな」

俺の言葉にセシリアは驚いたのか立ち止まり口元を両手で押さえてそしてホロホロと涙を流し始めた。

俺はビックリしてセシリアに歩み寄り

「すっすまん!何か気に触るような事を言ってしまったか?」

と聞くが首を横に振るだけで何も言わない。

俺はポケットからハンカチを取り出してセシリアに渡すと涙を拭ってゆっくりと喋り始めた。

「子供の頃に祖母から『貴族は騎士でありなさい。騎士は皆の憧れで手本なのです』と言われました。私はその言葉を守ってきましたが騎士と言われたのが初めてでしかも初めて言われたのがトウヤさんだったのが嬉しかったのです」

そう言うことか。人に認められることはとても嬉しいことだな。とても良く分かる。

「そっか。認められるのは嬉しいことだよな」

俺はセシリアの頭をポンポンと優しく撫でてあげるとセシリアは俯いてしまった。

「強くなって国家代表になろうな」

そう言ってあげるとセシリアは顔を上げて

「はい!トウヤさん、私を強くして下さいまし!」

と言って頷いた。

なかなか可愛いではないか。

 

こうして二人で食堂に向かって再び歩き出した。しかし俺は目撃者が居ることに気付いていなかった。

 

「トウヤ君フラグ建てたな…」

そこには扇子を閉める音がしたと言う。

 

 

セシリアとの夕食は楽しく終わりセシリアの部屋の前で分かれた。そして部屋に戻ると一夏と箒の部屋から見知らぬ先生が出てきた。

自分の部屋に入ると扉の前に待機する。距離が離れたのを確認すると部屋から出て後を付ける。そして楯無にコールして楯無が出たのを確認すると

「声を確認して欲しい。今から声を掛ける」

それだけ言うと先生に声を掛ける。

「すみません!先生!」

俺が声を掛けると先生は振り返る。

「どうかしましたか?」

「教えて欲しいのですが、購買は何時までやっているのですか?」

「 20時までよ」

「わかりました。ありがとうございます」

会話を終わると一夏の部屋の前に移動して一夏の部屋をノックをするが誰もいないようだ。

部屋に戻ると楯無に話かけた。

「どうだ?誰か分かったか?」

「あの声は2年現国の高山先生だね。何かあったの?」

「その高山先生が一夏の部屋から出てきた。済まないが調べて貰えないか?それまで一夏と箒は俺が保護しておく」

「分かった。それじゃあ終わったら連絡します」

通話を終わると一夏に連絡をすると部活上がりでそのまま食堂に向かったようだ。俺も小走りで食堂に向かうが突然廊下の陰から人影が飛び出してきた。

咄嗟に横にジャンプして人影を避け後ろを振り向くと先程の高山先生だった。

「マツナガ君?どこに行くのですか?」

高山先生の右手には大きめのナイフが握られていた。どうやら俺は刺される寸前だったようだ。

「食堂ですよ。でも食堂に向かうだけでなぜ先生に刺されなきゃ行けないのですか?」

俺は右手を腰にやり銃を握る。

そして腰を少しだけ落としていつでも動けるような態勢をとる。

「それはあなたが男だからよ。ISを動かせる男なんて必要ないの。あなたも織斑君もね」

そう言って高山先生はまたこちらに突っ込んで来た。高山先生を刺される寸前で左にかわして右手を銃から離し右手で首元を強打して先生が態勢を崩したところで左足で先生の腹部を蹴り飛ばす。ナイフを落としたところで先生の左腕をひねり上げて背中へ回し身動きを取れないようにする。

「先生!もうやめて下さいよ。もし一夏を殺したら篠ノ之博士はコアをすべて停止させるかも知れないと考えないのですか?」

俺は自分のズボンのベルトを外して高山先生の両腕を縛り上げた。

周りを見ると騒ぎを聞きつけたのか 生徒達が集まり始めていた。

「全員部屋に入っていろ!!」

俺の一声で皆は散り部屋へと戻っていく。

携帯電話を取り出してたて楯無を呼び出す。

「どうかしました?」

「高山先生に襲われて今制圧した。一学年寮の10階だ」

「えっ!?すぐに人を向かわせます。一夏君達には本音を行かせます」

通話が切れると高山先生を立たせてナイフを回収してエレベーターホールへと向かう。

「そんなに男が憎いですか…」

「当たり前だ!貴様はISが生まれる前の女の扱いを知らないのか!?」

「気にしたことが有りませんね」

「だろうな。女は容姿端麗でなきゃ仕事にも就けないのだ!」

「はぁ~もう良いです。喋らないでいいです」

エレベーターが着くと警備員が4人降りてきた。見た目はただの警備員だがもしかして更織の手なのか?

「高山先生を預かります」

警備員の一人が高山先生の手に手錠を掛けている。

「分かった。宜しく頼みます。これが凶器です」

ナイフを渡すと高山先生は両脇を掴まれてエレベーターに乗せられて下に降りていった。

そのとき寮内に放送が流れた。

『一学年寮内の生徒に連絡します。寮内の生徒は至急食堂に集まって下さい。繰り返します。一学年寮内の生徒は至急食堂に集まって下さい。これは訓練ではありません。これは訓練ではありません』

放送が流れると生徒達は廊下に飛び出し小走りで階段を降りていく。

楯無は爆弾と読んだか。一番手っ取り早いからな。

女生徒達に混ざって俺も階段を降りる。みんな部屋着のまま出てきたのか少し目のやり場に困る服装の子もいる。

食堂に到着すると千冬を見つけたので近寄ると千冬は気付いて俺の右腕を取り調理場に連れて行かれ

「何が起きているのだ!?」

いきなり凄い剣幕で聞かれる。

千冬の焦りを感じる。

「高山先生が一夏の部屋に何かを仕掛けたようなのです」

千冬の顔は目が大きく開かれた。

「更に俺が高山先生が一夏の部屋から出てきたのを目撃してしまったので刺されそうになりましたが制圧して更織に引き渡しました。その時に何人かの生徒に目撃されましたので口止めをお願いしたいです」

千冬の顔は更に口まで開かれてしまった。よっぽど驚いたのだろう。

「楯無から連絡は?」

俺の問いかけでフリーズから復活したようだ。

「あぁ、とりあえす不審物が一学年の寮内に有るので学生を食堂に集めてくれとの連絡だけだ」

「そうですか。今、更織の方で確認作業をしているはずなので終わるまで待ちですね」

俺は先に調理場から出ようとすると千冬に腕を捕まれた。

「トウヤ、腕から血が出ているぞ」

千冬に捕まれた左腕を見ると制服が赤くなり手からも血が滴っていた。高山先生をかわした時に当たってしまったのか。千冬に言われるまで気付かなかった。

俺は制服の上着を脱ぎワイシャツになるとハンカチを取り出そうとポケットに手を入れるがハンカチは無かった。

そうだセシリアに渡したんだった。

周りを見回すが雑巾の様な物しかない。

ひとまず制服の赤く染まっている部分を傷口に当てて押さえておく。

「トウヤはここにいろ。その傷を他の生徒に見せると動揺してしまう。今、救護品を持ってこさせる。いいな?」

千冬はそう言うと調理場から出て行った。

俺はそこらに置いてあった椅子に座ると携帯を取り出した。まだ楯無からの連絡はない。

今更ながら左腕の傷が熱く疼いてきた。

「ダメだな。腕が落ちてきたのかな」

 

俺は背もたれに背中を預けてため息を吐く。ネルガルでさんざんやった訓練なのに傷を負ってしまった。保護対象者に血は見せてはならない。おびえて動けなくなってしまうからだ。

 

調理場に山田先生が救護品を持ってやってきた。

「マツナガ君、傷の手当てをしましょう」

俺はワイシャツを脱ぐと腕を出した。

「お願いします」

山田先生は傷を見ると消毒液で傷を消毒してガーゼを当てて包帯を巻いた。

「傷が意外と深いのでこの後に縫合して貰いましょう。ではこのワイシャツを着て下さい。それと制服は注文しますのでこれは処分します」

そう言うと血塗れの制服とワイシャツを救護品袋に入れると調理場から出て行った。

 

全員に解散が言い渡されたのは1時間後であった。

 



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33話

解散の号令がでた後に俺は医務室で腕を縫合してもらい生徒会室に来ている。

「結局は一夏の部屋には何が有ったんだ?」

俺は楯無に尋ねると楯無は苦い顔をして答える。

「爆弾よ。両隣の部屋を軽く吹き飛ばせる程の強力な物よ。タイマー式で22時に爆発するようにセットされていた」

「標的は間違いなく俺と一夏か。そのためなら周りの学生も巻き込むのも厭わないって事か」

また大人の事情で子供が巻き込まれ掛けた。本当に大人と言うのは…

「今は高山先生から背後関係を調べているところよ。あの爆弾は間違いなくプロが絡んでいる。つまり組織が絡んでいる」

そうだな。間違いないな。

「ひとまずは学園内部を洗い直して学園内の安全の確保を最優先にします」

楯無はそう言うと俺の顔を見ると笑った。

「本当にあなたが居て良かった。一夏君だけだと大変な事になっていたかも知れないですしね」

「俺がいたからこの事件が起きたのかも知れないんだぞ?」

「それでもあなたは防いだ。どう?卒業後は更織に来ない?破格で迎えるわ?」

「それはやめておくよ。すまないが俺は平穏な生活が欲しいのだ」

「それは残念ね。でも気が変わったら何時でも言ってね」

楯無の話が終わると俺は生徒会室から出た。腕時計を見ると23時になっていた。早く部屋に戻ろうと歩き始めると向こうから千冬が歩いてきて俺の前で立ち止まると突然抱きついてきた。俺はビックリしたが千冬が震えている事に気づいて抱き締めた。

「大丈夫だよ。もう大丈夫だ」

だが千冬の震えは止まらない。

「一夏も無事だった。心配するな」

きっと心配だったんだな。

「千冬?」

千冬が顔をあげると

「すまない。もう大丈夫だ」

そう言うと千冬は廊下を戻って行った。

一体どうしたんだろうか。

千冬の背中を見つめながら考えるが理由が分からなかった。

部屋に戻りシャワーを浴びてベットに入ったのは0時を回っていた。

大変な一日だった。

 

 

今日も携帯の目覚ましで目が覚めたがいつもより遅い。朝のランニングは先生に止められてはいるので今日は止めておく事にしたからだ。洗面をして制服に着替えて外に出ると一夏と箒がいる。ここ最近の流れだ。そして食堂でセシリアと合流し食事を受け取り席に着き食べ始める。だが今日の朝の話題は昨日の夜の騒動だ。昨日の夜に何があったのか。一応は高山先生の取り押さえた現場の周りの部屋の生徒には箝口令を徹底したらしいが…

ただ高山先生が今日から居ないため高山先生が絡んでいるという話だけは流れてしまうだろう。見た目はいつもと変わらない食堂だが謎の騒動で不安に包まれている。

「結局は昨日の騒動は何だったんだろうな。トウヤさんは昨日の騒動の時に食堂に居なかったけど何か知ってますか?」

一夏の質問に首を振って答える。

「私と別れた後に何処かに行ってらしたのですね?」

「生徒会室で書類を片づけてたよ」

セシリアすまん。これは嘘だ。

「そうでしたか。トウヤさんは多忙なのですね」

箒は黙って食事を続けているが目線はこっちに向いている。俺の左腕だ。左腕は動かすと若干痛みがあるのでできれば使いたくないが仕方がない。

「さっさと食べて教室に行こう。今日は面白い話がHRで聞けるはずだからな」

「そうですわね!楽しみです」

俺とセシリアが同意したのが不思議だったのか一夏と箒が首を傾げている。

俺たちは食事を済ませると教室で予鈴が鳴るまで雑談をして過ごしていた。

本礼が鳴り山田先生が教壇に立つ。

「このクラスのクラス代表は織斑一夏君で決定しました!皆さん拍手!」

クラス皆が拍手で迎えてくれたようだ。

「先生!ちょっとまってください!俺は全試合負けたのに何で俺が選ばれるのですか!?」

一夏は立ち上がって抗議の声を上げてる。

「それは私が辞退したからですわ」

セシリアの声にクラス中がセシリアに向き直った。

「あの試合は搭乗時間や機体への慣熟度を考えますと明らかに私の負けでした。それが一番大きな理由です。それとトウヤさんに織斑さんに出来るだけ経験を積ませたいと相談を受けましたので決断いたしました」

セシリアが話し終えるとクラスの女子から

「さすがセシリア!」

とか

「やっぱり織斑君だよね!」

などの声が上がった。

一夏は周りをキョロキョロして驚きの顔をしている。

そこで千冬も声を挙げた。

「マツナガは生徒会役員となりオルコットが辞退したから自動的に織斑になった。もう変更は認められないのでそのつもりで。腹を括れ織斑」

千冬の言葉でがっくりとうなだれ席に着いた一夏だった。

 

今日の午前はISの実習でアリーナに集まっている。女生徒は旧スクール水着の様なISスーツを着ておりかなり目のやり場に困っている。

ジャージ姿の千冬がやってきた。

「これより授業を始める。今日はIS実習だがまずはISの動きを見て貰う。織斑、オルコット、マツナガ前に出てきてISを装着しろ」

俺たちは前に出てISを展開する。しかし一夏だけは遅れていた。

「織斑!遅いぞ!もっと早く展開できるようになれ」

千冬の厳しい言葉に一夏は若干凹んだ様子である。

「よし。次は武装を展開しろ!」

三人は言われたとおり武装を展開する。俺はラピッドライフルをセシリアはスターライトmkⅢをそして一夏は遅れて雪片弐型を展開した。

「織斑!熟練した者ならもっと早く展開できるぞ!精進しろよ?それとオルコット!その構え方は直せ。何を狙うつもりだ?」

オルコットの片手で展開するスタイルが良くなかったのか注意を受けていたがセシリアは

「これは私が展開するイメージに必要な…」

と言い訳をしていたが千冬の

「直せと言っている」

の一言で大人しく従っていた。千冬に逆らうとはなかなか勇気のある行動ではないかセシリア君!私には真似ができる事ではないな。

「次は飛行を行って貰う。三人とも飛べ」

三人は空へと飛び上がった。俺、セシリア、一夏の順で飛んでいる。

「織斑!スペックではおまえはセシリアよりも速いんだぞ!」

千冬が地上から一夏に激を飛ばしている。千冬さん。それは無理だよ。搭乗時間はまだ1時間程度だぞ?

「そんな事言われても飛ぶイメージは頭の上に角錐をイメージだっけ?そのイメージが上手くいかないんだよなぁ」

確かにイメージとは難しい。しかも複数の動作をするのは尚更だ。

「織斑先生はああ言っているが徐々にイメージ出来るようになれば良い」

俺はフォローを入れるとそうだよなぁと一夏が納得していた。

「よし!次は地面から10センチ以内の急停止だ。織斑は無理せずに1メートルで良いぞ」

上から下を見ると皆の顔がよく見える。ハイパーセンサーの力は凄いな。確か宇宙空間での使用が前提のため倍率がとても良いのと遮光性能も良いだったかな。

ふと箒の顔を見ると心配そう

顔をしている。視線の方向には一夏がいた。完全に一夏LOVEだな。

「では先に行かせて頂きますわ」

そう言うと逆さまになってスラスターを吹かして急加速して地面へと急接近して反転するとスラスターを全開で吹かすと完全停止した。

「よし!オルコットは10センチ以内だな。次!」

さすがはセシリアだな代表候補生は伊達じゃない。

「一夏、次は俺が行くぞ。あまり無理するなよ?」

「了解です」

そう言って俺は反転してスラスターを吹かす。急激に周りの景色が移動する。一気に地面が近づき…再び機体を反転させてスラスターを全開!完全停止した所でホバリングに移行する。

「さすがマツナガだ。5センチ切ったな。次は織斑だ!」

着地して上を見上げると一夏が反転してこちらに近づいてくる。たがなかなか機体を戻さない。そのうち錐揉みを始めて…地面に激突した。地面でバウンドしてアリーナの壁に激突して止まった。

箒が一夏に駆け寄り一夏を起き上がらせるが一夏はピンピンしている。さすがはシールドバリアだな。

 

「よし。時間がまだあるからマツナガ、オルコット!ランデブー飛行をしてみろ」

セシリアに視線を移すとセシリアは頷いた。

取りあえず飛びあがり上空に上がるとセシリアと打合せをする。

「セシリアに合わせるから自由に飛んでくれ。念のためターンの時にコールを頼む」

「了解しましたわ。では参ります」

セシリアは飛び出した。セシリアの正面の1メートルに付いている。

「ライトターン…ナウ!」

その掛け声と同時に右旋回を始めて止まり直進に変わる。

「レフトターン…ナウ」

次の掛け声に合わせて左旋回をして直進に戻る。

それを繰り返してアリーナを一周し千冬の前に降り立った。

「二人とも素晴らしい出来だ。息が…んんっん!よし!では授業はここまでとする。解散!」

千冬の号令で全員が教室へと戻って行く。

 

 

俺と一夏はアリーナの更衣室を使っているため更衣室に向かい着替えて教室に戻った。

 

 



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34話

今回の出来はあまり納得がいっていませんが投稿します。


食堂でいつもの4人で昼食をとっている。俺はハヤシライスを食べているがこの味は火星丼を思い出す。たこさんウインナーは入っていないがルーをご飯に掛けて食べると懐かしい。

「トウヤさんはルーをご飯に掛けて食べる方なのですね」

セシリアが顔を引きつらせている。行儀が悪いとおもっているのだろうか。

「普段はやらないんだけど前の部隊のコックにの料理にこれに似た丼物があってな思い出してやってしまったよ。凄く良い部隊だったんだよ。軍では珍しく人を大切にする部隊で一人を助けるために部隊ごと移動したりと、とても楽しくて居心地の良い所だった」

ナデシコの事を思い出すと笑顔になってしまう。辛い戦いだったがそれでも楽しかった。

 

ナデシコの事が気になる。

 

「そんなに良い部隊だったのですか。そこで出たのがハヤシ丼ですか?」

箒は頷きながら質問してきた。

「そうだよ。ハヤシ丼にさらにたこさんウインナーが入っていた」

俺の『たこさんウインナー』のところで3人が爆笑を始めた。

「いやいや軍でたこさんウインナー!」

「たこさんウインナーですか?その話は嘘ですわよね?」

「アーハッハッハッ!!トウヤさんたこさんウインナーって可笑しいでしょ!」

俺が好きだった火星丼を笑う三人に少しイラっとしてしまった。

「嘘なんかじゃないぞ!ホウメイシェフが作る火星丼は最高だったんだぞ!あの部隊でしか食べられない逸品だったんだからな!」

次は『火星丼』がツボに入ったらしい。

「くくくくっ!!!トウヤさん!私たちを笑い殺す気ですか!?」

「トウヤさん…もうやめて下さいまし…お腹が痛い…ですわ!」

「ヒー!もう火星丼ってたこさんウインナーだから火星丼てすか!!!」

一夏達は机を叩いて爆笑している。

馬鹿にしている。ナデシコの料理を馬鹿にしている。

 

俺はハヤシライスをさっさと片付けて席を立つ。三人を置いて食堂を出て行った。後ろの方で謝っているが無視して出て行く。

 

教室に向かって歩いていると携帯が鳴った。千冬からだ。

「マツナガです」

「私だ。さっき二階堂さんから連絡があって明後日からフランスに行くことになったからトウヤも連れて行くとの事だが本当か?」

「本当のことです。二階堂さんから頼まれて了承しました」

「そうか…明後日から公休にしておく」

「お願いします」

通話が終わると携帯をしまう。

遂にデュノア社に行くことになった。この交渉が失敗すればシャルロットは収監されてデュノア社は破滅だ彼女のため、後は働いて居る人たちの為にもなんとかしたい。

 

午後からの授業は正直集中出来なかった。何回か千冬に怒られたが最後にはため息をつかれてそれ以降はあきらめられた様だった。

 

放課後は生徒会室に寄り楯無にフランス行きの話をすると既に知っていたが楯無もついて行きたがっていた。

富士見技研とデュノア社の提携は良くもなく悪くもない状況だそうだ。デュノア社としては富士見技研の技術は欲しいが会社が小さい、とのことだ。後一押ししてやれば折れるか?

 

 

 

午後の授業が終わり今日は四人でISの練習をアリーナでする事になっている。更衣室でISスーツに着替えた俺たちはアリーナで既にISを装着しておりいつでも練習を始められる。

「よし。始めようか。今日は一夏と箒で空中で掛かり稽古、俺とセシリアで射撃訓練だ」

 

一夏と箒が離れて行くのを確認すると俺はセシリアの方に向きを変え周囲に射撃目標を出す。

「セシリアは機動射撃の訓練だ。一夏戦の時の反省を踏まえて機動しながらの射撃の命中率の向上を目指す。そしてその他の時は移動しながらでもブルーティアーズを使用できるように

訓練してくれ」

俺の内容に納得してセシリアは頷いた。

「まずは周りに浮かんでいる目標をその外側から自分の出せる最速の速度で移動しながら撃ち落としてくれ」

俺はアリーナの端に寄りセシリアに頷くとセシリアは移動を開始した。

速度が上がり射撃始めた。次々落としているが徐々に命中精度が落ちていく。

「予測が甘いぞ!それに速度が遅い!もっと速度をあげろ!」

セシリアに激を飛ばすとセシリアは歯を食いしばり速度を上げる。

「そうだ!その速度を維持しながら命中精度を上げるんだ!今はまだ標的が動いていないんだから楽勝だろ!もうISがスポーツだなんて考えは捨てろ!生身に当たって相手が死ぬならばそれは兵器だ!」

 

セシリアの射撃の精度は上がっていく。

 

標的が全てなくなるとセシリアは肩で息をしながら降りてきた。

「良く頑張ったな。後半は良かったぞ。試合の時は常に動き回って相手に照準を絞らせるな。自分がやられて嫌な、苦しい事は相手にとっても同じ事なんだ」

俺の話に頷くセシリア。

「そうしたら次は移動標的射撃でもやっていてくれ。俺は二人を見てくる」

「そうですか…分かりましたわ」

なぜか悲しそうな顔をしていたがセシリアだけに構うわけににもいかず一夏と箒の方に行くと白式が打鉄に必死に切りかかっている。

いいね。一夏がガンガン攻めている。箒の顔には前まであった余裕が無くなっている。一夏の成長振りに驚く。予想外に早い。元々剣道をやっていたから下地は出来ているからかもしれない。

 

「一夏!箒!少し休もう」

俺の掛け声で一夏と箒がこちらに降りてくる。

二人とも肩で息をしている。

「箒、一夏の腕は随分と上がったな」

箒は驚いた様子だ。

「確かに腕は上がってますがトウヤさんの目にかなうほどにですか?」

「成長のスピードが半端ないだろ。箒にも大分余裕がなくなってきているだろう?」

「そうですね。余裕が無くなってきています」

やはり成長したのだな。

 

俺達は色々と話した後に全員で接近戦の練習を時間いっぱい行って解散した。

 

 

 

 

 フランスに旅立つ前日の放課後、生徒会室に来ている。楯無と向かい合い話をしている。

「明日からフランスに行ってくるが一夏と箒の事をよろしく頼んだぞ」

「もう手は回してあるわ。安心して行って来て。お土産はお菓子で良いからね。そう、あなたにお土産を渡しておくわ」

楯無の合図で虚さんが紙袋とスーツの入っている袋を持ってきた。

中身を開けると黒のスーツが入っていた。

「護衛のスーツよ。あなたは護衛として行くのだから制服では不味いでしょ?」

そして楯無は机の引き出しから拳銃のマガジンとショルダーホルスターを出してきた。

「これはお守り。使うことが無ければそれでいいけど私の勘では何かが起きる。社長夫人の周りが結構きな臭いのよ」

ホルスターとマガジンを受け取ると紙袋にしまう。

「その情報は確かか?」

俺は楯無の目を見ると軽く頷いた。

俺も頷き席を立った。

「お願いだから無事に戻ってきてね」

俺は楯無のかを見ると楯無の顔に不安の色があることに気づき笑って安心させてから部屋を出た。

 

部屋に戻ると明日からの準備をしてベッドに潜り込んだ。

明日以降の事を考えながら眠りについた…千冬がベッドに入って来なければそのまま寝ていたのだが…

 

 

 

「千冬…いきなりどうしたんだ?」

「明日から海外だろ?寝付けないと思って添い寝に来てやったんだ。ありがたく思え」

いやいや…無理があるだろう。

千冬は俺の腕を枕にしていつも通りに胸に顔をうずめている。

「デュノア社の社長夫人の周りがきな臭いらしい。もしかしたら失敗するかも知れない」

俺は先ほど楯無から仕入れた情報を千冬に伝えると千冬は顔を上げて

「無茶はしないでくれ。お前が傷ついて悲しむ人間がいる事を忘れるなよ?」

そう言ってまた顔を胸にうずめた。

「お願いだから無事に帰ってきてくれ」

千冬はまたそう言って眠りについたようだ。

俺もそのまま意識を手放し朝の目覚ましまで目は覚めなかった。

 

 

 

 

 

 



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35話

遂にフランスに旅立ちます。



 IS学園の駐車場で千冬と楯無と富士見技研からの車を待っている。手にはスーツとバックだが…千冬と楯無の雰囲気が妙に悪い。協力関係だったはずなのに何か意見の食い違いでもあったのだろうか。

今回のフランスへは富士見技研のチャーター機で行くそうだが、随分とお金がかかっている。チャーター機なんか軍の輸送機で一人乗りぐらいしか経験がないので少しわくわくしている。

 

黒塗りの車が校門の方向からやってきた。俺たちの前で止まると後部座席から二階堂さんが降りてきた。そして助手席からは篠田さんもだ。

「おはようございます。二階堂さん、篠田さん。今回はよろしくお願いします」

「よろしく頼むよ、マツナガ君」

二階堂さんは今日も笑顔が素敵なおじ様ですね。

「マツナガさんよろしくお願いします」

篠田さんは低姿勢で挨拶をしてきた。

 

運転手がトランクを開けて俺の荷物を積み込んだ。

俺は千冬と楯無の方に向き直り

「じゃあ行ってくるね」

と言うと千冬の顔が少しだけ悲しげになった。

「くれぐれも気を付けて行って来い」

と口調はいつものものだ。

「行ってらっしゃい、マツナガ君」

楯無はいつもの顔だ。

 

「大丈夫だよ千冬君、ただの交渉だからね。まるで初めての出張に送り出す新婚夫婦だな」

二階堂さんが千冬にからかい半分に声を掛けてそれを聞いた千冬が顔を真っ赤にしていた。その反面、楯無は不満そうだ。

「では参りましょう」

篠田さんが声を掛けて助手席に乗り込むと二階堂さんが後部座席に乗り込みそのあとに俺が続き乗り込んだ。

運転手が扉を閉め運転席に乗り込むと車が発車した。千冬と楯無に手を振ると二人とも見えなくなるまで手を振っていた。

 

「更識君にまで気に入られたのかね?」

二階堂さんが話しかけてきた。

「そうみたいですね。入学前から副会長の打診もありましたし結構よくしてもらっています」

そう返すと二階堂さんは小さくため息をついて

「そういう意味じゃなかったんだがね。いつか刺されるよ?」

と脅されてしまった。助手席では篠田さんも小さく笑っている。

「はぁ…前にも言われたことがあります」

そう返すと二階堂さんは豪快に笑っていた。

 

景色は流れて俺の知らない街並みになっている。考えてみれば俺が外出で学園とレゾナンス以外に行くのは初めてなんだな。しかも初めてが海外って…なかなか凄い体験だ。

2時間程走ると空港に着いた。どうやら国際空港の様で滑走路が何本もある。

車は飛行機のすぐ横に止まる。

念の為に二階堂さんに警備用の拳銃を持っていることを伝えると国際IS委員会でのチャーターなので問題ないとの事だった。

荷物は運転手から添乗員に渡されて機内に持ち込まれた。至れり尽くせりだ。

 

俺達3人は飛行機に乗り込み座席に座ると30分ほどで離陸した。

飛行時間は約14時間との事だった。機内では特にすることもないので備え付けの雑誌を読んだり楯無から借りた小説を読んでいた。ちなみに借りた小説の内容は太平洋戦争時の少年と現代の少年が入れ替わってしまい特攻隊員として死んでしまう内容で号泣してしまった。

 

 

 

 

飛行機は無事にフランスのシャルル・ド・ゴール空港に到着した。

俺は事前にスーツに着替えて拳銃もショルダーホルスターに仕舞ってある。そしてサングラスをかける。サングラスは閃光対策だ。

今日の予定はホテルにて一泊して明日にデュノア社社長との会談だ。

飛行機のハッチが開くと一番先に降り周囲を確認するとタラップの下に車が止まっておりスーツのフランス人らしき男性と女性が立っていた。俺の脇を篠田さんと二階堂さんが通り降りていき俺もそれに続いた。篠田さんが女性と話をすると女性はどうやら通訳の様だった。男性はデュノア社の担当らしい。俺たち5人は高級なワゴンに案内されて乗車する。空港から40分ほど走ると高級感のあるホテルに到着しデュノア社担当以外の4人は部屋に通された。

そのあとは4人で食事をとりその後は自由時間となった。一応外出はして良いとの事だったが今日はやめておいた。言葉が通じないのと何があるかわからないからだ。一応俺は護衛と言う立場で来ているがどこで情報が漏れて俺が男性操縦者かばれるか分からない。

 

 

翌朝、ホテルの前でデュノア社からの迎えの車に乗りデュノア社本社に向かい社長室に案内された。

篠田さんと二階堂さんはソファーに座り俺はソファーの後ろに立っている。正直身分を明かした方が良かったと後悔している。これではあからさまに警戒していると言っているようなものだ。

5分ほどすると2人の男が入ってきた。一人は金髪で40代の男ともう一人は昨日、飛行場にいた担当者だ。二階堂さんと篠田さんと通訳は立上り通訳を介して握手を交わしている。社長の名前はアドルフ。アドルフ・デュノアとの事だ。

5人がソファーに座ると会談が始まった。

 

「長い時間の旅路、お疲れ様でした。さて国際IS委員会の二階堂氏までお見えになるとは報告を聞いたときは驚きました」

アドルフが会話の先陣を切った。

「いやいや、今回お邪魔させていただいたのはご子息がIS学園に転入されるとの事でしたので面談と、富士見技研とデュノア社の提携の話を持ち掛けたのは私だったので私も着いてきたのですよ」

二階堂さんの顔が見れないのは残念だがアドルフ社長は表情をそんなに変えていないと言う事は笑顔で話しているのであろう。

「そうでしたか。では商談が終わりましたら息子に合わせましょう。」

決まった。今のアドルフ社長の会話で社長も絡んでいる。そして容認している。

腹の中に熱いものが込み上げてくる。

「よろしくお願いします。では後は篠田君の出番だよ」

 

二階堂さんが篠田さんに話を振ると篠田さんはアタッシュケースからパソコンと書類を取り出した。デュノア社の担当、エリックさんもノートを取り出した。

二人で会話が始まり富士見技研の技術の説明をしている。書類からみられるのは先日俺のエステバリスに積まれたレールガン、他にレーザーライフルなどの武装や一番目を引いたのが可変型のスラスターだった。

俺の時代にも可変ピッチスラスターはあったが今紹介された可変型のスラスターは初めて見た。背中に装着し4本のスラスターで方向を変えて圧倒的な機動性を得るものらしい。現在はまだ試作でまだ実機によるテストも行っていないらしい。

このスラスターはデュノア社側は興味深々であった。

「このスラスターがあれば新型の機動性は跳ね上がる。ぜひとも搭載させたい」

アドルフ社長は相当乗り気である。

その様子を見た篠田社長は

「ではそちらの機体とこちらの機体で実際に搭載して確認でも行ってみましょうか?」

と提案するとアドルフ社長は不思議そうな顔をした。

「こちらは構わんがそちらは機体はお持ちでないでしょう?」

「いえ最近になって専用機と契約いたしましたので1機だけ搭載できる機体があります」

アドルフ社長が驚いた。事前の情報で所持している機体がないと聞いていたのだろう。つまり俺の事だ。しかしエステバリスに搭載できるのか?機体の構造とか違うだろうに。

「そうなのか…まさか最近の専用機持ちでフリーなのは…篠ノ之博士の護衛だった男性操縦者か!!」

アドルフ社長が立ち上がり驚愕の表情をしている。

「はい。とある縁で顔を合わせる事がありまして契約をさせて頂きました」

篠田社長は特に表情を変えることなく淡々と答えていた。

アドルフ社長は座り直すと腕を組んで考え込みそして体を乗り出し

「わかった。技術提携をしよう。そしてテストベッドはこちらからも私の息子の機体を出そう。エリック、シャルルを呼び出してくれ」

エリックさんは社長室を出ていくと代わりに女性が入ってきた。手にはティーカップを載せたお盆を持っておりそれぞれの前に置いて出ていった。

ひとまず提携の話は決まった。しかしここからが本番だ。

 

 

 

シャルロットを救う話が始まるのだ。

 

 

 

 




シャルロット初登場は次回です。


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36話

 しばらく歓談をしているとエリックと金髪の男性っぽい人、シャルル・デュノアが入ってきた。スーツ姿で金色の髪の毛を後ろで束ねていて長さは背中程まである。確かに中性的だが男性と言うには骨格があまりにも違いすぎる。見る人が見ればばれるだろう。

シャルルはアドルフ社長の隣に立つとアドルフ社長がシャルルを紹介した。

 

「私の息子で世界で3人目のIS操縦者のシャルル・デュノアだ。シャルル、挨拶を」

「シャルル・デュノアです。宜しくお願いします」

 

挨拶をするとお辞儀をする。

 

「やあ…初めまして、私は国際IS委員会の日本支部の二階堂だ。宜しく頼むよ。まさか本当に男性とは…今年は素晴らしい年ですな」

 

二階堂さんが挨拶すると続いて篠田さんが名刺を取り出し

 

「富士見技術研究所の社長、篠田でございます。宜しくお願いします」

 

と名刺を渡した。

シャルルはエリックの隣に座りエリックから経緯を聞いている。何回か頷くと突然驚いた顔をしてまたすぐに戻った。

 

「では面談でしたかな?私は立ち会っても宜しいのそれかな?」

 

アドルフ社長は二階堂さんに尋ねるが二階堂さんは首を横に振り

 

「面談は私と彼とそうだな、私の護衛も立ち会ってもらう。心配はしなくても彼は優秀な護衛だ。秘密を漏らしたりはしない」

 

そういうと他の者は部屋を出て行った。通訳も残ろうとしたが二階堂さんが外で待つように言い渡し部屋から出て行った。どうやって話をするのかと思いきや二階堂さんがフランス語でしゃべり始めた。俺はフランス語が分からないが突然シャルルが日本語をしゃべり始めた。

 

「この程度ですが良いのでしょうか?」

「十分伝わっているよ。さて色々と質問をさせて貰うが構わないね?」

「はい」

 

シャルルの表情が強張った。

 

「まずはなぜこの時期に転入なのだい?会社の方での事情もあるだろうが1人目の男性操縦者が発見されてから二か月はあっただろう?」

 

二階堂さんはシャルルの目を見て質問を投げかけた。

部屋の中は静まっており外の音すら聞こえない。

 

「ISの検査は3月の後半に行われました。そこで僕のIS学園への入学が決まりました」

 

ここら辺の話は設定だな。情報はこちらでも掴んでいる。

 

「そうか。では会社の者から情報の報告の命令は出ているかい?例えば男性操縦者のISの情報を送れとかだ」

 

この質問にシャルルは体を少しだけ強張らせた。受けているのだな。

 

「心配しなくても良い。会社に報告をするのは当然だ。だが過度の情報を送るとそれはスパイ行為になってしますから注意してほしい」

 

その言葉を聞くとしシャルルは首を縦に振った。

 

「一応は報告書は送れと言われています。ですが模擬戦とかの試合を行ったりした場合と言われています」

「そうか。では最後の質問だ」

 

二階堂さんはそう告げるとこちらを少しだけ見た。本命の質問をするらしい。俺は体を少しだけ沈めいつでも動けるようにする。

 

「シャルル君、いや、シャルロット・デュノアこの茶番は君が望んでやることなのかね?それとも誰かに強要されてなのかね?君はこの行いが君の人生を左右する行動だと分かってやっているのか?」

 

二階堂さんの言葉にシャルロットは顔を青くしてさらに体を震わせている。

 

「あ…な…何のことでしょう?わ…僕はシャルル・デュノアですが…」

 

シャルロットは声も小さく言葉を絞り出している。この様子からこの件がばれたときの末路を分かっているのだろう。

二階堂さんは優しい笑顔でシャルロットに話かける。

 

「シャルロット君、心配をしなくていい。我々は君を救いに来たのだよ。そこの護衛は男性操縦者のマツナガ・トウヤ君だ。君の話を聞いて救い出したいと言ってこの提携の話をデュノア社に持ち込んだのだよ。デュノア社に第三世代機の開発に目途が立てば君がこのような真似をしなくて済むであろう?」

 

二階堂さんの話にシャルロットが驚きの顔で俺の方を見る。俺はサングラスを外して

 

「初めましてシャルロット。私がマツナガ・トウヤだ。君の事情は調べさせて貰ったが君は進んでこのようなスパイの真似事などしないだろう?もっと言ってしまえばこのばかげた話を君と社長に持ち込んだのは社長夫人なのだろう?もし君がこのような事をしたくないのであれば私たちの話に乗らないか?」

 

挨拶と事情を説明するとシャルロットは涙を流し始めた。

 

「なんで僕なんかを救ってくれるのですか?僕は生まれて来てはいけない子だったんですよ!?」

 

シャルロットの目から光が消えている。

よっぽどつらい目にあったんだろう。

 

「そんなことないよ。生まれて来てはいけない子なんていないよ。ただ残念な事に子は親を選べない。生まれが少しだけ不幸な子はいるけどね」

 

俺の言葉にシャルロットは少しだけこちらを向いてくれる。

 

「今は辛いだろう。けど少しだけ我慢して幸せを掴む努力をしてみないか?シャルロット君がIS学園で過ごしながら我々の手伝いをしてくれればいいんだ。その間に君の不安材料は私たちと君とで解決しよう」

 

二階堂さんも優しく諭すように話しかける。

シャルロットの瞳に光が戻ってきた。

 

「僕は生きていてもいいんですか?」

 

シャルロットの涙は止まり希望が見えてきたのか少しだけ笑顔になる。

 

「もちろんだ。俺達と一緒に学園に行こう。シャルロットとしてね。そして君の幸せを一緒に勝ち取ろう」

 

俺の言葉にシャルロットは大きく頷いた。

二階堂さんも何度も頷いている。

 

「さて話もまとまった事だしこれからの説明をしよう。この後私が社長とこの件について話をする。私たちの調べで社長はこの件に乗り気ではないと思っているが違うかね?」

 

二階堂さんの言葉にシャルロットは頷く。

 

「そうか。そして社長夫人がこの件を強行させ社長は仕方なく容認した。そうだね?」

 

シャルロットはまた頷いた。

 

「ではひとまずは君は富士見技研に出向という形にさせる。この件は十分にデュノア社にとって生命線を断ち切るスキャンダルになるだろう。それを我々が未然に防いだのだ。これぐらいの条件はのんでもらおう。シャルロット君もその方が安心して生活できるだろう」

 

「ひとまず学園にいれば手出しはできませんからね。それに私が護衛に付きますから何かあっても必ず守ります」

 

俺の言葉にシャルロットは少し赤くなっている。いったいどこに赤くなる要素があったのだろうか。

 

「よし。ではシャルロット君社長たちを呼んできてくれたまえ」

 

シャルロットは部屋から出て行く。

 

「更識君の調べた通りだったね。デュノア社も浅はかだな」

「そうですね。よくばれないと思えますね」

 

俺達はため息をついてしまった。

 

 

しばらくするとアドルフ社長達が戻ってきた。

 

「どうでしたかな私の息子は?」

「そうですね。とても聡明なお嬢さんですな。状況をしっかりわかっておられる」

 

二階堂さんの言葉にアドルフ社長は青くなる。

 

「な…何を仰っていますかな。シャルルは男ですよ?」

「いいえ。シャルロット君はもう白状しましたよ。我々の調査力をおなどってもらっては困りますな」

「……」

 

二階堂さんの言葉にアドルフ社長は黙り込んだ。

 

「デュノア社長、我々はあなた方の無謀な計画を止めにここに来たのです。この富士見技研との提携もあなた方を助ける為の話なのです。そもそも計画が成功すると本気で思っていたのですか?」

 

二階堂さんは黙り込むアドルフ社長の語り掛ける。

 

「デュノア社長、我々は脅迫がしたい訳じゃないんですよ。どうですか我々の話に乗りませんか?」

 

二階堂さんの話にアドルフ社長が顔を上げる。

 

「どのような話ですか?」

「今回の提携の話はこのまま進めデュノア社は第三世代機の開発を推し進める。開発さえ上手くいけばシャルロット君はこんな事をしなくて済むのでしょう」

「その通りです」

「ならばシャルロット君は女性として学園に通わせればよろしい。そして試作した装備やパーツを他国の機体の集まる学園で試験を行えばいいのです。どうです?何も無理をする必要がないでしょう」

 

二階堂さんの言葉が終えるとアドルフ社長の顔は幾分血の気が戻る。

 

「しかし私の妻が…」

「何か問題でもあるのですか?」

「…いえ、おとなしくしているとは思えないのです」

「学園に入ってしまえば問題ないです。我々の方でもシャルロット君の護衛を付けます。護衛は彼です」

 

二階堂さんが俺を指さす。

 

「初めまして、と言うのも変ですが私はマツナガ・トウヤ、IS学園生徒会副会長です。以後お見知りおきを」

 

俺は頭を下げ再び上げるとアドルフ社長が驚いていた。

 

「なんと!彼が世界で二番目の男性操縦者だったのですか!?」

「そうです。彼は護衛の技術を心得ておりまして今回は護衛として着いて来てもらったのですよ。それでシャルロット君の身と学園生活を守るためにも彼女を富士見に出向させます。これは要請ではなく命令です」

 

二階堂さんの言葉にアドルフ社長が頭を下げる。

 

「ぜひそうしてください。娘の為にもそれが一番であると思います。娘をよろしくお願いします」

 

 

 

話はまとまった。アドルフ社長と篠田さんと二階堂さんで握手を交わす。ひとまず何もなくて良かった。

俺はシャルロットを見るとシャルロットはとても良い笑顔を浮かべていた。そして俺と目が合うと少し赤くなってまた笑顔になり頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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37話

遅くなりました。仕事の日も頑張って投稿してましたが残業で出来ませんでした。
何とか帰りの電車から投下!

追記:お気に入り400件over!ありがとうございます!


 話が纏まると全員で車で10分ほど走ったホテルで昼食を採る事となった。案内された食堂のような場所は質素な作りで歴史を感じさせる作りだ。席に案内されると俺の席はシャルロットの隣になった。アドルフ社長がウエイターに話をするとワイングラスが運ばれてきた。どうやら社長二人と二階堂さんはワインを飲むようだ。ウエイターが皆にワインを注いでいるが俺とシャルロットは水をお願いした。

社長連中は契約条件の話をしているみたいだが俺は蚊帳の外だ。シャルロットも水をちびちび飲みながら大人しく座っている。

 

「なあ、シャルロットさん」

 

シャルロットを呼ぶとビックリしたのか体をビクッとさせてこっちを向いた。

 

「な、にゃにかな?ぼきゅのことはシャルロットって呼んでよ」

噛んだ。

シャルロットは顔を真っ赤にしている。

 

「いや、大したことじゃないんだが日本にお土産として喜ばれるフランスのお菓子ってあるかな?」

 

俺の質問にキョトンとした後、シャルロットはくすくすと笑って聞き返してきた。

 

「相手は女性?それとも男性?」

 

「両方だよ。シャルロットがこれからお世話になる、1年の先生と生徒会長と後はもう一人の男性操縦者だよ」

シャルロットは俺の言葉に少しだけホッとしたようだった。なぜかは分からないけど。

 

「ああ、織斑一夏君だっけ?彼はどんな人なの?」

「負けず嫌いなお馬鹿だよ」

 

俺の言葉にシャルロットはまたくすくすと笑った。

 

「そっか、お土産ならばパリ市内に良いお店があるから案内するよ。織斑君に会うのが楽しみだね」

 

「そうだな。きっと楽しい学園生活になるだろうな。ところでシャルロットの専用機はラファールリヴァイブ・カスタムだって事だがどんな機体なんだい?」

 

シャルロットの専用機について聞いてみる。

 

「僕の機体は量産機をよりも機動性とバススロットルを増設させた機体なんだよ。特別な能力は無いけど武器が豊富なんだよ」

 

俗に言うエース機ってとこだな。

武器が豊富なのはとても幅広い利点がある。対応できる敵が多くなるし継戦能力もアップする。

 

「それは良いな。完成された第二世代機の方が安心感や使い易さがあるだろうな。兵器は昔からそう言うものだよ」

 

各国の第三世代機は未だ実験機の域を出ない。そのため汎用性が低い。ブルーティアーズが良い例だ。自立制御出来ないビットと実体弾はミサイル2発のみ。バランスを考えたら間違いなく実弾装備をした方が良いはずだ。

 

「そっか。新型が貰えるならそれは楽しみだけどラファールリヴァイブにも愛着があるから少し淋しいかも」

「それもそうだね。練習機ですらそう感じるんだからな」

「練習機?」

「俺は元軍のパイロットだったんだが教育課程の時の訓練機だよ。復座で出力を抑えた機体なんだよ」

 

ナデシコ世界の話だけど。

 

「へぇ~

マツナガさんは軍人だったんですか!?」

 

シャルロットの目が輝いている。本当にこんな目は見られるんだな。

色々話をしているうちに料理が運ばれてきた。

料理を食べながら会話をして食事を進める。料理はとてもおいしかった。

 

昼食が終わると俺とシャルロットは社長達の勧めでパリ市内の観光をする事になった。シャルロットは大喜びで俺の手を握って歩き出しタクシーを拾い凱旋門やエッフェル塔色々と見て回った。途中でシャルロットオススメのお菓子を買ったりほかにも千冬に腕時計を買った。

 

シャルロットに織斑先生に時計を買うと言うと怪訝な顔をしていたがシャルロットにも買ってあげるととても喜んでいた。

 

日が暮れてきたのでホテルに向かってもらい走っている社内でシャルロットは語り始めた。

「マツナガさん、今日はありがとう。とっても楽しかった。マツナガさん達が助けてくれると言ってくれた時は本当に嬉しかったんだ。お母さんとの生活は楽しかった。お母さんが死んじゃった後はお父さんの奥さんに泥棒猫の娘って呼ばれたんだ。そしてとっても辛い生活が始まったんだ。何かある度に罵られて八つ当たりされてお前なんかが居るからだって言われるんだ。本当に辛かった。ある日から急に男として生きろって奥さんに言われてからは次は男扱い。男は弱い生き物だって言い出すし…死にたかった。何度も死のうと思った。でも我慢して良かった。こんな日が来るなんて思ってなかった…ヒック…本当にありがとう…ヒック…マツナガさん!」

シャルロットは泣いて俺に抱きついてきた。

そっと抱きしめて頭を撫でる。

 

「辛かったな。もう大丈夫だよ。俺達といれば心配いらないよ。俺が守るし俺に甘えてもいいよ」

そう言うとシャルロットは頷き泣きやんだようだ。しばらくすると寝てしまったみたい。

 

タクシーはホテルに向かって進み30分程で到着した。ホテルのロータリーで止まりシャルロットを起こすと恥ずかしそうにタクシーを降りた。

俺も荷物を持ってタクシーを降りシャルロットとホテルに向かい歩き始めると横からスーツにサングラスの男が歩いてきた。俺が視線を男にやると男はスーツの中に手を入れて何かを取り出した。

 

銃だ!

 

俺は咄嗟にシャルロットを抱きしめると地面に飛ぶと発砲音が響き俺の脇を弾丸が通り過ぎるヒュン!という音がした。

地面に倒れ込むと俺も銃を取り出し男に向かって発砲した。弾は男の左肩に当たり仰け反る。俺はその隙にしっかりと狙いを定めて右肩を撃った。弾は右肩にあたり男が倒れると男に駆け寄り拘束する。

「誰の指示だ!?」

 

男に聞くが答えない。十中八九社長夫人なのだろう。

ホテルのドアマンに救急車を呼ぶよう指示すると携帯を取り出し二階堂さんを呼び出す。

 

「マツナガ君どうしたのかね?」

「今はホテルのエントランスなのですが襲撃者です。恐らくはシャルロットが狙いではないかと。今は拘束していますが銃撃して両肩に傷を負わせました。警察沙汰にしてしまってよろしいてすか?」

俺の説明を聞くと二階堂さんは少し考えてから

 

「構わない。此方で政府の方から何とかしよう」

「分かりました。シャルロットを帰すのは危険ですのでホテルに泊めるようにします。それと部屋からは出ないで下さい。他に仲間がいる可能性があります。ドアを開けず窓から離れていてください」

「わかった」

二階堂さんに話を終えると通話を切った。

5分程で救急車とパトカーがやってきて男は救急車に乗せられて運ばれて行った。

俺は警察に学園のIDを見せシャルロットの通訳で事情を説明すると警官は驚き何処かに連絡をしていた。

 

シャルロットを警官と一緒に俺の部屋に向かわせると入れ替わりで通訳がやってきて警察署の署長に事の顛末を話すと解放された。

 

 

 

「まさかこんなに早く動くとはな…」

今は二階堂さんと部屋で話をしているが二階堂さんも今回の事が予想外だったらしく驚きを隠せない。いつかは来ると俺も思っていたがまさかこんなに早いとは思っていなかった。単独だったから助かったと思っている。

 

「シャルロット君は明日日本に連れて行こう。デュノアは信用できんな。殺されかねん」

 

二階堂さんの言葉に俺も頷い。

 

「少し早いが構わんだろう。では私は色々と手を回しておくのでシャルロット君に伝えて来てくれ。荷物は…会社は危ないか…」

「そうですね。デュノア社長に言って守って貰うようにした方が…」

会社で待ち伏せている可能性が高い。

 

「そうだな。そう伝えておこう。今夜はシャルロット君と一緒の部屋で過ごしてくれ。彼女も怖いだろう」

「分かりました。では戻ります」

 

俺は二階堂さんの部屋を後にした。自分のへ部屋に入るとシャルロットはベットに座っていてこちらに顔を向けていた。

「大丈夫か?」

声をかけるとシャルロットは小さく頷いた。怖かったのだろう。

「ところであの人はやっぱり…」

シャルロットの言葉に俺は小さく頷いた。

「恐らくは婦人だろう。事前に怪しい情報は上がっていた。けど直ぐには手は打たない。そこでシャルロットは明日、俺たちと一緒に日本に来ることになった」

シャルロットが驚いている。

 

「君の安全のためだ。それと申し訳ないんだけど部屋には戻危険過ぎて戻れないが社長に部屋を守って貰うよう二階堂さんの方から指示が出る。念のため社長と連絡が取れるなら大事な物だけでも預かって貰うよお願いしておくといいよ」

シャルロットの顔は今にも鳴きそうな顔だ。自分の父親の本妻から命を狙われている事が悲しいのだろうか。それとも部屋に戻って大切な物を、持っていけないからか。

俺には分からないが大人の勝手で子供が泣いている。

それだけは現実だ。

 

改めて大人の身勝手さに怒りを覚えた。

 

 

 

 

 



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38話

投稿が遅くなっています。
すみません。

短いですが投稿します。


 夕食はホテルのレストランで個室を借りて皆で採ることになった。二階堂さんのおかげでホテルの警備が警察の協力もあり強化されたのである。

今回はシャルロットが正面だ。シャルロットと目が合う度にシャルロットは少し赤くなって俯いてしまう。まるで恋する乙女の様だ。いったいどうしたのだろうか。

今回の夕食では特に難しい話はなく、明日の予定などを確認するだけであった。明日は午前には空港に入りそのままチャーター便で帰るそうだ。もともとこの予定だったそうだ。少し予定と違うのは襲撃があったことぐらいだろうか。

 

シャルロットを助けることが出来たしデュノア社も問題ないだろう。おみやげも買えたし観光も出来た。後は帰るだけだ。

 

 

 

夕食が終わると俺とシャルロットは部屋に戻るとシャワーを浴びる事になった。アメニティは既に届けさせている。

「シャルロットが先に入って構わないぞ?」

「うん、ありがとう。先に使わせてもらうね」

 

そう言うとシャワー室に入っていく。扉を少し閉めたところで顔を覗かせて

 

「マツナガさん、覗かないでね?」

 

と言って扉を閉めた。

 

俺は既視感を覚えた。つい最近に同じ事があった気がする。まぁ良くある話だろう。

特に気にする事もなく携帯電話でニュースを見ている。するとIS学園の記事があった。

『中国の代表候補生がIS学園に転入!今年のIS学園は代表候補生ラッシュ』

 

楯無からも千冬からも何も聞いていなかったのでビックリした。なんでこんなにも代表候補生が集まるのか。やはり一夏や俺の影響なのだろうな。男性操縦者のデータを集めたいのだろう。

中国の代表候補生の名前は鳳 鈴音と言うらしい。

 

その時携帯電話の着信音が鳴り画面を見ると千冬からであった。

「マツナガです」

「トウヤか?そっちはどうだ?」

「順調です。明日の午前には飛行機が飛び立ちますので夜には戻れるでしょう」

「そうか!その感じでは何も起きなかったようだな」

「いえ…二階堂さんから連絡は行ってないですか?」

「…いや、シャルロット・デュノアが転入してくる事ぐらいだな。何かあったのか?」

千冬の声のトーンが少し下がった。

「今日の夕方に襲撃があったのです。相手が一人だったので制圧出来ましたが、恐らく狙いはシャルロットだったと思われます。そのためにシャルロットを明日にはそちらに連れて行くという話しになったのです」

「…」

千冬が絶句しているようだ。

「心配しないでください。なんとか守り切りましたから。なのですみませんが部屋の確保をお願いします」

「あ…ああ、分かった」

千冬の様子が何かおかしい。

「大丈夫か?千冬?」

「大丈夫だ。部屋割りは一晩はトウヤの部屋に泊める。すまないがそうしてくれ。近々ドイツからも転入生が来ることが決まったからそいつと同室にする予定だ。シャルロットはどんな奴だ?」

「気立ては良いぞ。なかなかいい子だ」

「分かった。可哀想だがシャルロットと同室にしよう。ドイツの転入生は私の元教え子なのだ。ドイツ軍で教官をしていた時のな。奴は軍しか知らないから一般的な事が分からないのだ」

軍しか知らない?学生を経験したことが無いという事なのか?

「どういう事だ?なぜ軍のみなのだ?幼年学校でもあったのか?」

俺の質問に千冬は少し間を空けて口を開いた。

「ラウラは、ラウラ・ボーデヴィッヒは作られた子なのだ。ISへの適性を上げるために作られた子なのだ。だから生まれた時から軍にいたのだ。だから何も知らないのだ」

またこの手の話しか。ルリちゃんの様な話だ。ルリちゃんもナノマシンとの相性を上げるために作られた子だ。マシンチャイルドなどと呼ぶ奴もいた。

「…ドイツ軍は大戦の時の反省を忘れているのか。それともまた世界をねらっているのか?」

俺の言葉に千冬は何も言わない。

「この件はそっちに戻ったら考えよう。今は動けない。いいね?」

「分かった。すまないな」

「千冬が謝る事じゃない。それじゃあ明日の夜に」

「ああ、楽しみにしているよ」

そう言い通話は切れた。

携帯を机の上に置くとちょうどシャルロットがシャワー室から出てきた。

「電話していたの?」

髪の毛を拭きながらシャルロットは俺に尋ねてきた。なんかエロいシチュエーションじゃないか?

「そうだよ。織斑先生と話していた。学園に着いたら俺と一緒の部屋だとさ。暫くしたらドイツの転入生が来るからその子と同室になるようだよ」

「ドイツの転入生ってもしかしてシュヴァルツェア・レーゲンですよね?」

「ISの名前か?操縦者はラウラ・ボーデヴィッヒと言っていたな」

「そうですね。黒兎部隊(シュヴァルツェ・ハーゼの隊長ですね」

「黒兎部隊?どんな部隊なのだ?」

「ドイツ軍のIS部隊です。僕も詳しくは知らないですが第三世代機が 2機配備されていたかと思います」

ISの部隊か。優秀なのだろうな。

「そうか」

「気になるの?」

シャルロットは俺の顔を覗きこんでいた。

「まぁ…織斑先生の教え子らしいんだ。相当な世間知らずらしいんだよ」

俺がこう言うとシャルロット笑いはじめた。

「マツナガさんは心配性なんだね」

「失礼だな…子ども達に何かあれば心配するのは当然だろう」

「まるで先生みたいだね」

…言われてみればそうだな。これは教師の役目かも知れないな。

「そうだな。俺は大人の分類だからなぁ。それと生徒会副会長でもある。生徒の心配をするのは当然だろう?」

おれの言葉にシャルロットは更に笑う。

「じゃあ僕の事を守るって言ったのもやっぱり副会長として?」

どうなんだろう…副会長としては考えて無いな。

「違うだろうな」

「でしょ?そこがマツナガさんの良いところなのですよ」

なんだか恥ずかしくなってしまった。

「そう言うことを言うな」

俺は笑いながらシャルロットに言うとシャルロットもクスクス笑っていた。

 

俺たちはその後も昔話などをして過ごしてベッドに入り込んだ。

 



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39話

 朝、目が覚めると体が動かない。右手は動く。右足も動いた。しかし左腕、左足が動かない。なぜだ。しかもやたらと暖かい。気になって首を持ち上げて見てみると金色の頭が目に入った。やたらと髪の毛が長い。

シャルロットだ。俺に抱きついて寝ている。気持ちよさそうにだ。

「シャルロット、シャルロット起きてくれ。動けないよ」

俺は右手でシャルロットを揺すると上体を起こして眼をこすりながら

「もう朝なんだ…」

と言っている。

「シャルロット、おはよう」

俺が挨拶をすると体をビクっとさせてこちらを見る。そしてく口を開いた。

「へっ?え…マツナガさんはなんで僕のベッドにいるの?」

こいつは寝ぼけているようだ。

「周りを見てみろ。これは俺のベッドだ」

俺の言葉を聞いたシャルロットは周りをキョロキョロしたあとに顔が真っ赤になった。

「にゃんで僕はマツナガさんのベットにいるんだろう!?」

シャルロットは物凄く慌てていてあたふたしている。

「落ち着け。何もしていないから安心しろ。間違えて入り込んだのだろう?」

俺はシャルロットの頭を優しく撫でてやるとシャルロットは眼を細めて俯いて気持ちよさそうにしていた。まるで猫のようだ。

「ん…夜中に一回起きたのは気が付いたんだけどその後かな…」

俺がベットから起き上がるためにシャルロットの頭から手を離すと残念そうにしていたが俺はそのまま洗面所で顔を洗うとカーテンを開ける。

 

太陽はすでに上がっていて太陽の日差しが室内に差し込んできた。

 

荷物を支度し朝食の為にレストランに向かうと二階堂さんと篠田さんは既に朝食を取り始めていた。

「おはようございます」

俺が二人に挨拶をすると二人とも返してくれた。

「今日でフランスも終わりだ。お土産は買えたかね?」

二階堂さんは昨日の事件があったにも関わらず今日も笑顔だ。

「はい。昨日、シャルロットのおかげで買えています。私はもう帰れますよ」

そう言うとブュフェ方式の朝食を取りに行く。シャルロットが俺の後に着いて来ている。

「なぁ、シャルロット。フランスの朝食の定番は何なのだ?」

俺の質問にシャルロットは少し考えてから

「じゃあ僕がチョイスして持って行ってあげるから席で待ってて」

と言ってカウンターに向かって歩いていった。

俺はシャルロットに任せて言われた通り席で待っているとシャルロットがトレーを持って戻ってきた。

「はい、お待たせ」

持ってきたトレーにはフランスパンが数切れと数種類のジャムに数種類の飲み物だった。

「フランスの朝食は甘い物をよく食べるんだ。だから焼きたてのフランスパンに好きなジャムを付けて甘い飲み物を飲んで食べるんだよ。それじゃあパンが冷めちゃうと堅くなるから先に食べててね」

そう言うとシャルロットは再びカウンターに向かって行った。

俺はフランスパンを一切れ取りジャムを塗って口に入れると確かにフランスパンは柔らかかった。前に食べたフランスパンと違い外の皮の部分まで柔らかかった。一切れ食べ終わると次の一切れを手に取り次は茶色いジャム…と言うかこれはチョコじゃないか。食べてみるとやっぱりチョコだった。

シャルロットが戻ってくると次のトレーはフレンチトーストとカップに注がれたカフェオレだった。

「なぁシャルロット?なんでこんなに甘い物ばかりなんだ?」

シャルロットは首を傾げると

「ぇ?これがフランスの朝食だよ?後はシリアルとか?フランスの朝食は甘い物を中心に食べるんだ」

と言う。

なんと…日本人にはちょっと辛いかも…

「そうなのか。スクランブルエッグとかベーコンなどは食べないのか?」

「チーズぐらいしか食べないかな」

フランス…なんて甘党!

「そうか。色々な文化があるんだなぁ」

シャルロットは少し悲しそうな顔をして

「口に合わなかったかなぁ」

と言っている。俺は慌ててシャルロットにフォローを入れる。

「そんなことないよ。温かいフランスパンはとてもおいしかった。ジャムも美味しかったよ」

「そっか!えへへ…よかった!」

シャルロットは満面の笑みを浮かべている。

「二人はいつの間にかそんなに仲良くなったんだな。まるで夫婦みたいしゃないか」

俺達の様子を見ていたのか二階堂さんが笑みを浮かべながらからかってきた。シャルロットは二階堂さんの言葉に真っ赤になって悶えている。

「夫婦…マツナガさんと夫婦…ウフフ…」

シャルロットはどやらフリーズしてしまったようだ。何かブツブツ言っている。シャルロットは俺と夫婦と言うのが嫌だたようだ。

「なに言ってるんですか二階堂さん!」

シャルロットが嫌がっていることもあり少し強めに抗議の声を上がると二階堂さんは更に笑い声を高めた。

「いやいや!君もなかなか。千冬君も大変だなぁ」

二階堂さんと一緒に篠田さんまで頷いている。

確かに千冬には迷惑をかけているが…なぜシャルロットまで!

「酷いじゃないですか!なんで千冬まで!」

俺の言葉を聞いたシャルロットの眼が光った。

「マツナガさん?なんで織斑先生を千冬と呼び捨てなのかな?可笑しいよね」

 

なんだかシャルロットが怖い。二階堂さんと篠田さんも笑うのを辞めて素知らぬ顔で飲み物をのんでいる。この事態を起こした本人が知らん振りとは!

 

「ねぇ…マツナガさん!なんで織斑先生を呼び捨てなの?早く答えてよ…」

シャルロットの眼からは光が消えている。

「あ…シャルロットさん?なんだか…その…とっても怖いのですが…織斑先生は学園に入る前から色々とお世話になっていますし…歳も近いので呼び捨てにしてますが…はい」

怖い!千冬と違う意味で怖すぎるぞ…

 

「そっか~!じゃあ寝食を共にした僕達も親しいよね!じゃあ僕の事も呼び捨てにしてね!何だったらあだ名でもいいよ!」

突然目を輝かせ身を乗り出して迫ってきた。

 

あだ名かぁ。なんだろうな。…シャルロットだから…

「デュノッチなんかはどうだ?」

俺の言葉は黒いオーラにすぐにかき消された。

「じゃあシャルルン?」

「マツナガさんってセンス無いよね」

シャルロットの顔がひきつった。

「じゃあシャル?」

シャルという言葉に顔が明るくなった!

「うん!シャル良いね!エヘヘ…シャルかぁ~。エヘヘヘ…」

シャルロットは顔を赤くして悶えている。

何だか寿命が随分と削られた気分だ。

「よし!では、話もまとまった事だしそろそろ帰国の準備としよう!」

二階堂さんが話をまとめようとしている。

「そうですね。シャルの買い物は学園の近くにショッピングセンターがあるからそこで買うとしよう。良いねシャル?」

俺はシャルの顔を見るがシャルはまだ悶えていた。

「おーい!シャル?部屋に荷物を取りに行くよ」

俺は立ち上がりシャルの肩を叩くとやっと戻ってきたようでシャルは俺の顔を見てまた顔を赤くしていた。

「えっと…何だっけ?」

「日本に戻るから部屋に荷物を取りに行くんだよ」

俺の言葉を聞いたシャルは急いで立ち上がると俺の後を付いてきた。

やっと恐怖の食事の時間が終わったのだった。

 

 

 

荷物を持ちホテルのエントランスに向かうと車が止まっていて篠田さんが車の前で待機していた。

「マツナガさん、デュノアさん。ひとまず私は此処でお別れです。すぐに日本に戻りますがね。デュノアさんにはうちの社の人間が手続きを済ませてそちらに伺うように手筈は整っています。しばらくは不便をお掛けするとは思いますが御容赦下さい」

そう言うと篠田さんは頭をさげた。

シャルはそれを見ると慌てた様子で

「いいえ!頭を上げて下さい!僕にとって皆さんは生きる希望を与えて下さった方々です。こんな大変な事をやって下さって感謝しています。ですから頭を上げて下さい」

 

と言い慌てている。

頭をあげた篠田さんは笑うと

「子供が生きる希望を持っていない方が可笑しいのですよ。ですからデュノアさんは学園を目一杯楽しんで下さい」

 

そこに丁度、二階堂さんがやって来て車に乗り込むことになり篠田さんだけを残して車は空港へ向かった。

そして飛行機に乗り込むと一路日本にへと飛行機は飛び立った。

 

 

 

 

 



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混沌のクラス対抗戦の章
40話


11時間程で飛行機は日本に到着し車で移動中だ既に外は真っ暗で車の交通量は少ない。学園には小一時間で到着した。

駐車場に車が停まると俺とシャルは車を降りる。

「二階堂さん。どうもありがとう御座いました」

後部座席の窓から顔を出している二階堂さんにお礼を言うと二階堂さんは首を横に振る。

「今回の件は君が成し遂げた事なのだよ。私はあくまでも切っ掛けを作ったに過ぎない。シャルロット君を救ったのは紛れもなく君だ。何か困ったことがあったらいつでも連絡をくれたまえ。出来る限りの力になろう。では次はクラス対抗戦に来るからその時になまた会おう」

そう言うと窓が閉まると車は動き出した。

俺とシャルは寮へと歩き出した。

後ろを歩いているシャルはキョロキョロと物珍しそうに建物を見回している。既に消灯間近の学園は外を歩いている生徒はいない。寮の建物だけが灯りが煌々と点いている。

「IS学園は大きいんだね。なんだか学校じゃないみたいだよ」

シャルは溜め息をつきながら語っている。

「そうだな。日本と言う国が世界の代表として作った機関だからじゃないのかな」

威信だとかの話なのだろう。

俺たちは寮に入りエレベーターで10階に上がり部屋を目指す。廊下を歩いていると向こうから黒髪のツインテールの背が小さめの女の子が走ってくる。表情は俯き気味だったのでよく分からなかったがきっといい表情では無かったのだろう。すれ違うと少しだけ背中を見送ったがまた部屋に向けて歩き始めた。

自分の部屋に着くとシャルは目を輝かせていた。

「ここが部屋だ1027号室だよ」

中にはいるとシャルが「おじゃまします」と言ったのが少しだけ微笑んでしまった。

中は出たときと殆ど変わらない部屋があった…はずだがベッドの様子が何かが違う。妙に綺麗になりすぎている気がする。

「それじゃあベッドは奥を使ってくれ。シャンプーやボディソープもシャワー室の備え付け使って構わない。っとその前に寮長に挨拶に行こうか」

俺はお土産のお菓子を持つとシャルもお菓子を持ち部屋を出た。

 

 

寮長室、千冬の部屋の前に着きノックをすると直ぐに千冬は出てきた。

「ト…マツナガ、よく戻ったな」

千冬はジャージ姿だったが腕を組んだ姿は相変わらず格好良い。

「はい。ただいま戻りました。これはフランスのお土産です。小さいのが織斑先生に、大きいのは職員室の皆さんで召し上がって下さい。それと…」

少しだけ下がるとシャルの背中を優しく押す。少し前に出たシャルは頭を少し下げて挨拶を始めた。

「初めまして。シャルロット・デュノアです。この度はご迷惑を御掛けして申し訳ありませんでした。これから宜しくお願いします」

千冬は少しだけ驚いた顔をしたがまた普段の表情に戻ると

「織斑千冬だ。お前の担任であり1学年寮の寮長でもある。宜しく頼むぞ。楽しい学園生活にするんだぞ」

そう言ってウィンクをしめ微笑んだ。

それを見たシャルは涙を浮かべて笑って

「はいっ!」

と返事をした。

「では、デュノアはマツナガと同室だ。明日は入学の模擬戦を行うので朝一で職員室に訪ねて来てくれ。その時に制服を渡す。いいな?」

千冬が明日の事を言うとシャルは頷いた。

「よし。ではもう消灯時間だが二人は一時間の延長を許可するのでシャワーを浴びて寝ろよ?」

「分かりました。では失礼します。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

俺達は千冬の部屋を後にした。

 

部屋に戻りシャワーを浴びると二人ともベッドにもぐり込んだ。

「マツナガさん」

部屋の灯りを消すとシャルが呼び掛けてきた。

「なんだ?」

俺は視線を移さずに返事をした。

「僕のためにフランスまで来てくれてありがとう。さっきの二階堂さんの言葉を聞いたときは凄く嬉しかったよ」

シャルはどんな顔をしているか分からないがきっと嬉しそうな顔をしているのだろう。

「いいよ」

俺はそれだけ言うと疲れていたのか意識が遠くなっていくのを感じ意識を手放した。

「僕は決めたんだ。僕はマツナガさんと……」

何か言っているみたいだったが聞こえていなかった…

 

 

 

『トウヤはどう思う?』

『ん?どっちだって良いと思うけど?』

『何よそれ!私は絶対にアオイ君を押すわ!』

『うーん…確かにアオイ君は優秀なのだろうけど…正直覇気がないって言うか完全に補佐とか参謀タイプだよね?

艦長にはなれるけど艦隊司令は無理って言うね』

『そうなのよね…そこが否定出来ない所なのよ…』

『きっとアオイ君なら安定した生活になるんだろうな。宇宙軍一番の有名なカップル、夫婦になるだろうね。でも妻の方が上だけど』

『やっぱりそう思う?そうなるわよね。じゃあ!私達は…?』

『俺達?会長秘書と護衛』

『…馬鹿ーー!』

『………』

 

 

 

 

目覚ましが鳴り洗面をしてジャージに着替える。今日からまたランニングを始める。いつも通り半周したところで柔軟体操をして部屋に戻る。

部屋に戻るとシャルはまだ寝ていたが起こさずに先にシャワーを浴びてしまう。

シャワーを浴びて着替えた所でシャルを起こす。

「シャル、シャル、起きろ。朝だぞ」

布団の裾から見える足を叩くと体をビクつかせて目を開ける。

「…マツナガさん…おはよう…」

シャルは目を半分閉じた状態だ。

「顔を洗っておいで。食事に行くよ」

そう言って俺は今日の授業の準備を始める。今日は座学のみだ。

それと今日からは銃をショルダーホルスターに仕舞う。シャルはが襲われたので念のためだ。

準備が整うとお土産を二つ持って廊下に出ると1024号室の扉をノックする。すると箒が出てきた。

「おはよう、箒」

「あ!マツナガさん。お帰りなさい。昨日戻ったのですか?」

「そうだよ。昨日の消灯前にね。それでこれは二人にお土産だよ。食べてくれ」

そう言ってからフランスで買ったお菓子を渡すと箒は喜んで受け取った。

「ありがとうございます。この後一緒に朝食に行きませんか?」

「OK。それじゃあ準備が出来たら私の部屋に来てくれ。あ、それと今日から一人人数が増えるんで宜しくな」

箒は不思議そうな顔をしている。

「どういう事ですか?」

「多分なんだが明日紹介される転校生がいるんだよ。その子も一緒に行くから」

「転校生ですか。分かりました。一夏にも伝えておきます」

そう言うと部屋の中に戻って行った。

俺も部屋に戻るとシャルは着替えを終えて机の椅子に座っていた。

「マツナガさん何処かに行ってたんですか?」

「隣の一夏達に土産を渡しに行ってたんだ。朝食は彼らと行くからな」

シャルは笑顔で頷く。

「うん、わかった

「それと今更だが私の事はトウヤで良いぞ?皆からトウヤって呼ばれているからな」

「うん。分かった。宜しくねトウヤ」

そう言ったシャルだが急にモジモジしはじめた。シャルはなかなか不思議な子なんだな。

その後に色々と学園の事を話しているうちにドアがノックされたのでシャルを連れて表に出ると一夏と箒と何故かセシリアまでいた。

「トウヤさんお帰りなさい!フランスはどうでした?」

「トウヤさん、お帰りなさいまし。私はお帰りを首を長くして待っておりましたわ」

一夏とセシリアは笑顔で迎えてくれた。

「ただいま。急に出掛けてしまって済まなかったな。皆に紹介するな。恐らく明日にクラスへ紹介されるとは思うが、フランスからやって来たシャルロット・デュノアさんだ。」

俺が紹介するとシャルは頭を下げると自己紹介を始めた

「シャルロット・デュノアです。フランスから来ました」

シャルロットの紹介にセシリアが口を開いた。

「デュノアってラファールのデュノアですの?」

「はい。僕は社長の親族です。もしかしてあなたはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんじゃないですか?」

シャルの応答にセシリアは顔を明るくした。

「あら、あなたは私を知っていますの?」

「はい。何回か欧州の演習や展覧会であなたの顔を見たことがあります。貴族で代表候補生は凄いなぁと思っていました。正に貴族のかくある姿だと思っています」

シャルは落ち着いた口調でそう話すとセシリアはシャルの手を取り握手をした。

「ありがとうございます。私はそれを目指して頑張って来ました。これから仲良くやっていきましょう!」

 

セシリアの言葉を聞くとシャルはセシリアに抱き着いた。そしてセシリアの耳元で何かを言うと急にセシリアの顔が強ばった。そして二人は視線を交えて火花を飛ばし始めた。一体何が起きたんだか。

「取り合えず朝食に行こうか。時間が無くなるぞ。」

 

俺達5人は食堂に向かった。

 

 

 

シャル「仲良くはするけどトウヤの事は譲らないから覚悟しておいてね。貴族様」

 

 



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41話

またまた遅くなりました。
仕事が忙しく…普段はない夜勤まで起きてしまい楽しみにしてくださっている方々には大変申し訳なく思います。




食堂に向かう道すがらは俺らはフランスの話をしていた。

しかし会社同士の提携の話はまだしてはならない。口外が可となるのはプレスリリースが行われてからだ。

まぁ、セシリア辺りは検討がついているかも知れないが。

フランスの食事の話や観光の話だ。

 

食堂に着くと料理を注文して並んでいると俺達の方を睨んでいる視線に気が付いた。

「何だか視線を感じるんだが何なんだ?」

殺気ではない視線を感じるのだ。

一夏が急に申し訳無さそうな顔になり謝ってきた。

「すみません…多分それはリンです。昨日の夜に怒らせてしまいまして…多分俺の事を睨んでます」

昨日の夜…

「あぁ…黒髪のツインテールの子か。確かにすれ違ったな。一体何をやらかしたんだ?」

「いや…良く分からないんですよ。リンから昔に『料理が上手になったら毎日酢豚を奢ってくれる』って言われたんで喜んだだけなのですがそれで怒られたのです」

なんだそりゃ…俺は首を傾げてしまった。

「お前そりゃ…一夏お前は鈍感だな」

俺がそう言うと何故か全員から

「「「トウヤさんがそれを言いますか!?」」」

と怒り口調で言われてしまった。俺が何をしたと言うのだ。

「取り合えず謝っておけよ。悪かなくても謝らないと女性は収まりがつかなくなるもんなんだよ…怒らせると刺されるぞ」

俺が真顔で言うと一夏は顔を青くして

「分かりました…謝っておきます」

と言いガクブルと震えていた。

 

「ん?リンって中国の代表候補生の鳳

鈴音の事か?」

「そうですが知ってるんですか?」

一夏が驚いた顔をしている。

「いや、ニュースになっていたんだよ。今年は代表候補生の当たり年だってな」

「そうなんですか?今のところセシリアにリンに…だけじゃないですか」

一夏は指を折って数えるが二本しか折れていない。

「あとこのあとにドイツの候補生も来るらしい」

千冬の教え子のラウラ・ボーデヴィッヒだ。

「これで3人ですね。後は専用機持ちが3人ですか。1学年だけで専用機持ちが多いですね。他の学年とかどうなんでしょう?」

一夏はそう言うと料理を受け取り席に座る。俺達もそれに続いた。

「俺が知っているのは2学年の生徒会長ぐらいだな。今日の放課後にでも調べておこう」

今日の放課後は生徒会で状況報告をする予定なのでそのついでに聞いてみるつもりだ。

その後はみんなで食事を摂り少しだけ話をした後は俺とシャルは職員室に向かった。シャルはにこにことしていてご機嫌のようだ。

「そうだ。今日の放課後に買い物へ行くから外出許可を取って置いてくれ。場所はレゾナンスでね」

シャルの日用品と着替えの買い出しに行かなくてはならない。

「分かった。放課後で良いんだよね?」

「うん。ただ少しだけ生徒会室に寄るから部屋で待っててくれないか?」

「うん。分かった」

そんな会話をしているうちに職員室に到着した。

中に入ると千冬がこちらに気付き歩いてきた。そう言えば前回職員室に入ったのは高山先生の件の時以来だ。

「デュノアを連れて来たのか?」

「おはようございます。そうです。ところで少しだけ二人で話は出来ませんか?」

「…わかった。面談室で良いか?」

俺と千冬は職員室を出ると廊下のシャルを待たせて面談室に入る。

「それで話はなんだ?」

「二階堂さんから聞いているかもしれませんがフランスで襲撃がありまし。相手は単独で恐らくはシャルロットを狙ったものでした。それでもしかしたら学園でも襲撃があるかも知れないという話です」

千冬の顔が苦いものを噛み潰したものに変わった。

「それで黒幕は分かったのか?」

「いえ。ですがあのタイミングで我々に襲撃を仕掛けてくる奴は他にはいませんよ」

「そうだな。分かった。この件を更識には報告はしたのか?」

「いえ、まだです。放課後にでも生徒会に行く予定です。それと…」

俺は鞄の中から包みを取り出すと千冬に渡す」

「はい、これがフランスでの本命のお土産です。もしかしたらサイズが合って無いかもしれないけどその時は言ってくれれば直すよ」

千冬は包みを開き箱を開けると驚いた顔をした。

フランスのパリで買った腕時計だ。

「こんな高価な物を貰っていいのか!?」

ケースから腕時計を取り出すと左腕に付ける。サイズは問題ない様だ。

「良かった。似合っているね。サイズも問題ないね。それではもう時間もないので教室に戻りますね」

そういうと扉に向かう。

 

突然背中から千冬に抱き付かれた。

 

「トウヤ…本当に無事でよかった。あまり心配させないでくれ。お前がいなくなったら私は…」

後半の声は掠れて小さくて聞こえなかったが千冬の体が少し震えていた。

 

「大丈夫だよ。俺はそのための訓練を受けてきたんだ。誰も死なせない」

そう言い千冬の方に向き直り千冬を抱きしめた。

少しだけそうすると俺は千冬を離し

「さあ、もう行きますね?遅刻してしまいます」

と言い残して部屋を出て行った。

廊下ではシャルが待っていた。

「それじゃあ俺は教室に行くから後は織斑先生に従ってくれな」

「うん。ありがとう」

そう言うと俺は教室に歩き出した。

 

 

 

教室に付くとみんなから

「大丈夫?」

だとか

「具合悪かったの?」

とか聞かれた。俺は首をかしげると一夏とセシリアがやって来て俺の休みの理由は一夏、セシリア、箒以外には公表せれていなかったそうだ、と言うか確かにそうしてもらわないと危なかったかも知れない。どこから情報が漏れるか分かったものではない。もう公表しても問題ないのでみんなに自分が所属しているメーカーの関係で海外に行っていた事を話すると皆がうらやましがっていた。そこでみんなにお土産を渡すとクラス中で歓声が上がった。

 

しばらくすると予鈴が鳴り全員が着席し二分後ぐらいで山田先生が入ってきた。

「おはようございます。みなさん揃っていますね。マツナガ君も今日から出席ですね。長旅お疲れ様でした。みなさんには話をしていませんでしたが、マツナガ君は公休で所属企業の事情で海外に行っていました。詳しい事情はまだ公表できませんので皆さんには秘密にしていました。では本日のSHR連絡事項はありません。以上です」

そう言うと山田先生は教室を出て行った。

するとクラスのみんなが俺の席の周りに集まり何処に行っていたのかと聞いてくる。だが俺はまだ秘密なのを伝えると皆は残念がっていた。早い事プレスリリースが発表される事を祈るばかりだ。

 

 午前はすべて山田先生の授業だった。千冬はシャルの模擬戦の相手をしているのだろう。シャルの実力は知らないが…勝てるのだろうか。イギリス代表候補生のセシリアでも勝てないだろう事からシャルも勝てないだろう。シャルの話だと武装は実弾系で機動射撃を中心に組み立てているだろう。もしかしたら今回は以外な一手があり勝てるかもしれないが二回目以降は難しいだろう。

 

それは俺も同じだが…

 

いつものメンバーで食堂に行くと入口に制服を着たシャルロット立っていた。声を掛けると少し赤くなって

「待っていたよ。どう?制服は似合う?」

と聞いて来たので頷くと嬉しそうに微笑んで

「えへへ…似合うか~」

と笑っていた。セシリアの不満げな顔が少し気になったが…

 

 

 午後からは千冬の授業があり理論と基礎知識の授業であった。ISにはコアネットワークと言うものがありコアはどんなに遠くにいても他のコアを認識しているという事だった。入学前の必読書にも書いてあったが詳しく知ると、とても素晴らしい機能である。恐らく宇宙空間での使用を前提に開発した物であるからの機能だろう。宇宙は広い。当然上下左右が認識しずらい空間だからこそ自分の位置の確認は重要になってくる。そして僚機との位置もだ。

 

宇宙での遭難は死に直結する。絶対に母艦の位置は把握しろ。

 

これは宇宙軍の教育課程の時に叩き込まれた事だった。敵機の落とし方よりも真っ先に教わった。

 

けど俺は宇宙がとても好きだった。眼下に広がる漆黒。その中に光り輝く星々。そして星雲。その中には地球と同じ星が無いはずが無い。21世紀初頭には地球型の星が見つかっているが人類は未だに太陽系の外、それどころか木星までしか進出していない。俺の世界では未だに人類同士の戦いすら終わっていない。とても悲しい事だ。相転移エンジン、ボソンジャンプこの技術さえあれば人類は太陽系の外に進出することは容易になるだろう。

 

そんな大航海時代は何時来るのだろう。そんな事を考えながら授業を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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42話

結局、午後の授業の途中で宇宙への思いに浸っていた俺は千冬の出席簿アタックで思考を現実に戻されて授業はつつがなく終了した。なかなか頭が痛かった。SHRが終了すると一夏と箒は剣道場で剣術の訓練をセシリアは射撃場で射撃訓練をするとの事だった。セシリアに訓練を見て欲しいとせがまれたがこの後は外出すると伝えると残念がっていたが引き下がってくれた。

 生徒会室に入ると虚さんがいた。

「あらマツナガさん。お帰りなさい。向こうは大変だったようですね」

笑顔で迎えてくれた。この笑顔はなかなかの癒しだな。

「戻りました。向こうではなかなかびっくりしましたが更識の事前の情報で警戒はしていましたから全員無事に戻ってこれました。シャルロットにはかわいそうな事にはなりましたが、父親が苦肉の策で男装をさせていたことが分かったのですからこれからの関係修復は簡単に行くでしょう。それと交渉もうまくいきましたしね」

虚さんはお茶を出してくれた。

「そうですか。でもパリは花の都。観光とかもしてきたのでしょう?」

「そうですね。シャルロットに連れられていろいろと観てきました。そうだ。これは生徒会にお土産です。みなさんで召し上がってください」

俺は鞄からお菓子の包みを渡すと丁度生徒会室の扉が開きなんと本音がやって来た。

「おおー!マッツー!おひさー」

ダボダボの袖をブンブン振ってこちらに歩いてくる。

「いや…教室でも会ってるでしょ。まあ会話をするのは久しい気がするけどね」

「細かいことは気にしない!えへへ~。やっぱりこっちにもお菓子があったねー」

・・・本音の目的は生徒会へのお土産のお菓子だったのか…なんてドンピシャのタイミングなんだ。

「本音?こっちに『も』って事はクラスの方でも頂いたんでしょ?」

虚さんの言葉に本音は少しだけ顔をしかめるが

「私も生徒会だよー」

と言い包みを開け始めた。

俺と虚さんは苦笑いで本音を眺めていた。なぜか本音を見ていると憎めずまさに『のほほん』という表現が似合っている。確か一夏は本音の事を『のほほんさん』と呼んでいた気がする。

虚さんが本音にココアを出し自分はお茶を入れて椅子に座って三人でお菓子を食べて過ごしている。

しばらくすると生徒会室の扉があき楯無が入ってきた。

「やあトウヤさん。フランス旅行はどうでした?」

楯無は笑顔だが目が鋭い。一体あの鋭さは何の意味があるのだろうか。

「なかなかスリリングな旅行でしたよ。一応は観光も出来ましたしね。それと楯無から借りているおもちゃも役にたってしまいましたしね」

俺も楯無の調子に乗っかると楯無は席に座りながら「フフフ…」と笑っていた。

「なんなんですかその笑いは」

俺が指摘をすると楯無は扇子を開いて

「いいえ。色々と建設的な活動をしたみたいで…」

と少し不機嫌になっている。扇子には『建築士』と書いてあった。何の建築士なのだろう。

「どういう意味なんでしょうか?」

俺の問いには笑ってごまかしている。

「まいいや。ひとまず状況の理解は?」

「あらかた理解できています。正直、ホテルでの襲撃は予想外でしたがあなたとシャルロットさんに怪我が無くて良かったです」

楯無の顔から笑みが消えた。

「とりあえずは二階堂さんも今回の件は今は騒がないでおくとの事でしたのでそこのところは宜しくお願いしますね」

「分かりました」

「後は何かありますか?この後にシャルロットをレゾナンスに連れて行く予定があるので他に無ければ行きたいのですが?」

そう告げると楯無の片眉がピクリと動いた。そして扇子で口元を隠して

「あら、帰国そうそうデートですか?」

と茶化してきた。

「違いますよ。着の身着のままこちらに来たので日用品や着替えの買い出しに行くだけですよ」

俺がそう答えるが扇子を閉めて露になった口元はつり上がっている。

「いや、それをデートと呼ばずなんて言うんですか。虚ちゃん?何て言うかお姉さんに教えてくれないかな?」

楯無から聞かれた虚さんは笑顔になって

「逢い引きですかね?」

と答えた。

「そっか!?これは逢い引きつて言うんだ!」

楯無は手のひらをパンと鳴らして大袈裟に驚いた振りをしている。

「いや!どっちも意味は一緒じゃないですか!?だからデートでも逢い引きでもないんですよ。まぁ…いっか。それじゃあ何も無いなら行きますよ?」

席を立ち扉に向かうと楯無が呼び止めてきた。振り替えって楯無を見ると

「ちゃんと門限守るんですよ?」

 

と言われたので楯無の言葉を無視して生徒会室を後にした。

 

 

 

「お嬢様…さすがに嫌われちゃいますよ?」

虚の言葉には呆れの色が混じっていた。

「さすがにああもフラグをポンポン建てると苛ついちゃうんだもん。しかも当の本人は気付いていないし」

楯無は頬を膨らませて愚痴を溢していた。

「え~?でも織斑先生には優しいよ?今日は違うフランスのメーカーの腕時計してたからまっつんがあげたんじゃやいかなぁ?」

本音の発言に楯無の顔が強ばった。

「トウヤさん…私には個別のお土産無かったのに!」

楯無の手に持たれている扇子がギシギシと音を立てている。

「お嬢様。もう少しアピールが必要なのでは?接触時間を増やさないと厳しいですね」

虚は淡々と語る。彼女の心は分からないが一応楯無を応援しているのかも知れない。

「よし!今度、トウヤさんと一緒に出掛けてみせるわ」

楯無の宣言に本音は手を叩きながら

「おお!頑張れお嬢様~!」

と喜んでいる。楯無の隣に立っている虚はため息を吐いている。

話題の彼の居なくなった生徒会室では主人の決意の満ちた部屋になっていた。

 

 

 

自分の部屋に戻るとシャルは制服のまま椅子に座ってパソコンに向かっていた。俺に気が付くと椅子から立って

「お帰りなさい!」

と言いながらこちらに歩いてきた。

「ただいま。出掛ける準備はどうだい?」

俺の問い掛けにシャルは大きく頷いて

「うん!いつでも出られるよ」

て答えた。

「じゃあ行こうか」

と自分の机の椅子に鞄を置いて部屋を出るとシャルも後ろから付いてきた。隣を笑顔でご機嫌に歩いている。

正門を通りすぎモノレールに乗りるとシャルは窓からの景色に感動していた。シャル曰く海の上を走っている様で凄く気持ち良かったらしい。

レゾナンスに到着すると先ずは服を見に来た。あられこれと自分の身体に合わせて「どうかな?」と聞いてくるがシャルは容姿がとても整っていて何でも似合う。どれも「似合う」という言葉を使うと「真面目に答えて!」と怒られてしまった。結局は10着程試着して買ったのは5着程買い次は生活雑貨の店に入った。マグカップやバスタオルや洗面道具など細々した物を買いその後には携帯電話の契約に向かった。シャルは何故か俺の機種の色違いを選んだ。

因に今回の購入代金は富士見技研の経費として落とすそうだ。なので全て俺が立て替えて払っている。今回の買い物は一応は富士見技研に出向したシャルの転勤の一環として行われたという篠田さんの気遣いとのことだ。

他にも色々と周り俺の両手には紙袋やビニール袋がいくつも握られている。しかしどれも軽い物なのでそこまで苦ではない。シャルはまだニコニコ楽しそうにキョロキョロお店を見ている。

「他に何か欲しいものはあるか?」

シャルに問いかけると笑顔で首を傾げて

「そうだなぁ…。他には無いかなあ。ご飯を食べて帰らない?」

「そうだな。今から帰っても食堂は微妙な時間だな。何か食べたい物はあるか?」

「僕ねお寿司と言うものが食べてみたい」

シャルは目を輝かせて言っている。

「寿司か。構わないが生の魚は食べれるのか?生の魚が駄目だと食べるものが相当限られてしまうぞ?」

俺の言葉に少し悩んだ後に

「大丈夫!日本に暮らすのだから慣れないとね!」

シャルの決意に少し感動してしまった。

こうして俺とシャルはレゾナンスの寿司屋に向けて歩き始めたのだった。

 

 

 



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43話

今日は資格の試験だったのですが正直勉強不足でした。

勉強は大切ですね。


寿司屋の前まで来るとシャルの笑顔が消えてなんというか覚悟を決める前の様な息を飲む顔になっていた。なぜそこまで意気込むのか少しだけ理解は出きるが寿司にこだわらなければ良いと思うのは良くないのだろう。

「シャル?店に入っても良いのか? 生物が駄目でもかんぴょう巻きとか卵焼きとかがあるから少し食べて別の店に行くって事も出来るからな?」

俺の言葉を聞いたシャルは少しだけ頷くと意を決したのか

「よし!行こう!」

そう言うと俺の手を掴んで寿司屋に入っていった。

 

 

 

おのれ…あの小娘…私のトウヤをと二人っきりで買い物だと…。職員室で書類を書いているが手につかない。午前中にデュノアの模擬戦を行った。その時に色々と話をしたが…あいつは敵だ!話は7割がトウヤの事だったし聞いてくる事もトウヤの事ばかりだった。頭に来た私はボコボコにしてやった。少し大人げないとはいえ私も人だ。仕方ない、よな?

最近の私とトウヤは話をする機会がメッキリ減ってしまった。立場上仕方ないがメールぐらいはしてくれても良いではないか!

これでうるさい小娘が2匹なに増えてしまった。デュノアに更織だ。デュノアが同室で更織が生徒会会長。どちらも私よりアイツといる時間が長い。

私は左腕の時計を見る。今朝、トウヤから貰った腕時計だ。思わず笑みが溢れてしまう。トウヤが私のために買ってくれた物だ。とても嬉しかった。

早くトウヤを一人部屋にしないと…トウヤの為にも私の将来の為にも。フフフ…

 

 

 

寿司屋で寿司を食べているが突然背中に悪寒が走った。後ろを確認するが特に異常があるわけでは無かった。

シャルは以外と生の魚が食べられる様だった。今も烏賊を食べて柔らかいのに甘くて歯応えがあって美味しいと言っている。鮪の赤身を食べたときは顔が蕩けそうになっていた。

お会計を済ませて駅へと向かうと。シャルは満足したのかとても良い笑顔になっていた。

「トウヤさん!今日はありがとうございました」

「いいよ。シャルも知らない土地だと買い物も苦労するだろう?フランスでのお礼だと思ってくれ」

「そっか。じゃあ次回は望めないか…」

シャルは言葉を小さく呟くと少しだけ俯いた。

 

 

翌日も朝からいつものメンバーにシャルを加えたメンバーで食堂で朝食だ。シャルは今日は制服を着ている。俺の左隣はシャルが、右隣はセシリアが座っている。本来は両手に花と言う状況なのだろう。だがなんとも過ごしにくい…二人ともやたらとくっついて来てさらに俗に言う「あーん」をしてくるので周りの視線が痛い。目の前の一夏と箒は苦笑いをして眺めている。

「シャルロットさん?少しトウヤさんに近くなくて?トウヤさんが食事をしづらいですわ!」

「セシリアこそ近いよ?トウヤは右利きなんだから近すぎて肩が縮こまってるよ」

なんだって俺を挟んで言い合いを始めるかな。少し鬱陶しくなってきたので小言を言うことにした。

「二人とも、それ以上続けるならば俺は明日から一人で食べる事にするぞ?仲良く食べろよ?」

言い終わると二人は静かにご飯を食べ始めた。

 

 

朝食が終わるとシャルは職員室、俺らは教室に向かう。シャルは予想通り今日が紹介の日になるそうだ。

予鈴がなると山田先生と千冬が入ってきた。

「おはようございます。今日は転校生を紹介します。デュノアさん入って来てください」

山田先生がシャルを呼ぶ扉が開き中に入ってきた。

「シャルロット・デュノアです。フランスから来ました。不馴れな事が多々あるとは思いますが皆さん宜しくお願いします」

そう言うとペコリと頭を下げた。クラスからは拍手が上がりシャルは何回かお辞儀をすると山田先生に空いている席を指示されて席へと向かった。席は俺の左後ろ、つまり窓際の最後尾だ。羨ましい。

シャルは少しだけ身を乗り出して俺に小さい声で話し掛けてきた、

「トウヤさん。宜しくね」

言い終わった後にウインクをしていた。俺は小さく頷くと前を見る。すると目の前に鬼が立っていた…千冬なのだがその千冬は後ろに黒のオーラを発しており目は赤く光っている…

「マツナガ…貴様はショートホームルームの最中にナニをやってイル?」

千冬の言葉が何かおかしな事になってきてる…

思わず軍にいた頃を思い出してしまった。席から立ち気を付けの姿勢をとる。

「もっ申し訳有りません!マァーム!」

「キサマハワタシノハナシヨリアノコムスメのホウガダイジナノダナ!?」

視界に入っているクラスメイト達は皆座ったまま前を向いて震えている。

「滅相もありません!!申し訳有りませんでした!マァーム!!」

ついでに敬礼をする。

すると少しだけ落ち着いたのかオーラが小さくなった。

「次は無いぞ。分かったかぁ!!」

「イエス!マーム!」

千冬が教壇の方へと歩いていく。教壇にいたはずの山田先生は泡を吹いて倒れていた。

「ではホームルームを終わる!」

千冬はそう言うと山田先生の首根っこを掴むと教室を出ていった。

クラスに沈黙が続いた…

「みんな…すまなかった…」

俺が謝罪の言葉を皆に投げ掛けるとやっと周りからため息と安堵の声が聞こえるようになった。

「いやぁ~流石は織斑先生だね。正直、少しチビるとこだったよ」

「え?私は少し出た…」

「やば…鼻血出てきちゃった…」

「濡れた…」

…どうやら被害は甚大のようだ…

本鈴がなり全員が席に着いてしばらくしても1時限目の山田先生がやってこない。きっとまだ起きていないのだろう。

15分後になって千冬がやって来た。

「遅れてすまない。山田先生は諸事情で遅れているため私が授業を行う」

千冬は至って冷静に授業を開始したがクラスの雰囲気は最悪だ。みんな緊張して教室は張り積めた空気に満たされている。時々額の汗を拭う者もいる。千冬に指された者は名前を呼ばれた瞬間に起立、気を付けをしている。こうして長い…とても長い1時限目は終わった。

 

全員が休憩時間に疲れ果てたのは言うまでもない…

 

2時限目以降は山田先生の授業でとても和やかな雰囲気であった。

 

 

放課後を迎えると実機訓練を行う一夏達に付き合う事にした。セシリアとシャルもだ。

 

 

第2アリーナで待ち合わせをして全員が揃った。

「さてと、今日は何をしようかな。」

俺がメニューを考えているとシャルが手を挙げて

「いきなりだけど僕はトウヤさんと模擬戦してみたい!」

と言い出した。

「うーん。してあげたいけど今はちょっとなぁ…出来れば今度の機会の方が助かるかなぁ」

俺がそう言うとシャルは残念そうな顔をしている。

「ごめんな、今度ね」

そう言うとシャルは頷いてくれた。

するとセシリアが少し前に出ると

「デュノアさん。トウヤさんとの模擬戦は覚悟しておいた方がよろしいですわよ。本当にトウヤさんはお強いです。入学時の織斑先生を倒したと言う噂は本当ですわ」

と言い出した。シャルはそれを聞くと目を見開き

「え!?織斑先生を倒したの!?世界最強だよ!?」

そう言いながら俺の方に詰め寄ってきた。

「シャル、落ち着け!確かに倒したけど相当なハンデがあったんだよ。まずむこうは打鉄でこっちは専用機。むこうはこちらの武装を知らない。特性や癖も知らない。これだけあれば十分な敗因になるだろう?」

俺がそう言うとシャルは考える仕草をするが納得いってないようだ。

「そうかな…知らないなら知らないなりの対処があるよ?特に打鉄は防御に定評があるし武装だってイコライザで色々と増やせた。対処は幾らでも打てたよ?」

…む。そう言われると困るな。確かにその通りだ。初見だからと言って負けが決定するわけでは無いのだ。さっきシャルが言ったとおり武装の幅を持たせることによって対処が出来るのだ。

「確かに言う通りだ。だが織斑先生の面子もあるからそう言うことは言わないであげてくれ」

シャルは納得がいってないようだが頷いた。

「よし。ならば今日は一夏はシャルと簡単に模擬戦だ。その後に箒とセシリアだ。シャルは一夏に機動射撃をメインに相手をしてやってくれ。セシリアは箒をなるべく近づけない様に移動をしながら射撃をするように。そして箒はセシリアに的を絞らせない様に常に動き回って近接戦を仕掛けるんだ。一夏は…とにかく機体を自分の手足にするんだ。では始めようか」

俺の号令で一夏はとシャルは空へと上がり模擬戦の準備を始めるのだった。

 

 



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44話

今回は模擬戦回です。

箒の扱いが難しい…紅椿を使っていた時はかなり使えていた。訓練機だけしか乗っていなかったのに。ってことで今の段階だとこんなものかと言う勝手な想像で模擬戦をしました。



一夏とシャルの模擬戦が始まった。一夏はブレードを呼び出しシャルへと突撃した。しかしシャルはそれが分かっていたかの様に後方へやや上へと飛び両手に小型のマシンガンらしい物を呼び出すと一夏の白式へと銃弾を吐き出した。その弾は白式のシールドバリアへと気持ち良いように当たり一夏はたまらず右横へと軌道変更をするがシャルはまたもや読んでいたかのように同じ方向へと軌道を変えた。

「クッソー!なんで読まれるんだよ!」

一夏の声がオープンチャンネルで聞こえて来た。

「一夏の機動は単調なんだよ。簡単なフェイントでも良いから入れてから軌道変更してみろ!せっかくの重力制御が勿体無いぞ!」

俺は一夏にアドバイスをすると直ぐに下にフェイントを入れてから左へと

軌道変更をすると少しだけシャルの軌道変更が遅れて距離が空いた。そこでシャルは小型のマシンガンからアサルトライフルに持ち変えた。その時間がとても短かった。

「シャルの武装変更の時間は早いなぁ…」

俺がボソッと言うと隣にいたセシリアが説明をしてくれる。

「デュノアさんの特技のラピッドスイッチですわ。さっき更衣室で教えて下さいました。第二世代機の量産カスタム機で特徴が無いのでその分を腕で補いたくて特訓したそうですわ」

セシリアの話を聞いて俺は笑みを浮かべてしまった。

「凄いな、シャルは」

上空ではシャルのラファールが一夏の白式がアサルトライフルで執拗に追いかけ回し一夏の予測される軌道へと弾をばら蒔き本命の軌道に進路を変更したと同時に大量の弾を浴びさせていた。この様子だとワンサイドゲームになりそうだ。

「一夏!いつまでも相手から距離を自分で取っても勝ち目は無いぞ!お前の機体は近接特化なのだからお前はひたすら相手に近づかなきゃならないんだぞ!」

その声を聞いて一夏は突然進行方向を変えずに機体を180度前転させ逆さまになると一気に推力を前に変えた。この動きにシャルは慌てて速度を落として軌道変更をしようとしてしまいそこを一夏の左から右の横一線の零落百夜をもろに喰らってしまう。しかしシャルは零落百夜をくらっても慌てずに右手のアサルトライフルを捨て盾の様な物を呼び出すと一夏のシールドバリアに当てるといきなりドカン!!と言う音と共に一夏が吹き飛んだ。そこに更に追い討ちをかけるために距離を縮めて更に2発め目3発目と食らわせてそこで一夏のシールドバリアが30%を切ったので俺は模擬戦を止めた。

「一夏とシャルの模擬戦はシャルの勝ちだ!戻ってきてくれ」

二人は俺達の前に降り立つとISを解除させた。

「お疲れ様。二人とも怪我は無いな?反省会は箒とセシリアの模擬戦の後にするから休んでてくれ。では始めるよ!」

箒とセシリアが上に上がっていった。定位置に着くと箒がブレードを呼び出した。

「始め!!」

俺の声で箒の打鉄が一気にセシリアのブルー・ティアーズに距離を詰める。セシリアはスターライトmkⅢを呼び出すと上昇しながら箒へと牽制射撃を撃つ。箒は牽制射撃の合間を縫ってセシリアを追いかける。箒の機動はキビキビとしておりなかなか無駄の無い機動だ。一方のセシリアは更新しながら右、左と進路を変えながら射撃をしている。セシリアの射撃の正確さでなかなか箒は距離を詰められない。下から見ているとグルグルと周りながら時折セシリアからビームが伸びる。

「さすが箒だな。動体視力が凄いな。それにセシリアも努力したようだ。予測射撃と牽制射撃の使い方が上手くなった」

独り言を言っていると模擬戦が動いた。箒が瞬間加速を使ったのだ。セシリアの射撃の合間を狙ったのだ。

突然の出来事にセシリアは対応が出来ず上段からの切り付けを食らってしまいそのまま体勢を崩した。箒は追い討ちをかけようとフルブーストでセシリアに迫るがセシリアの腰のアーマーからミサイルが飛び出し一気に箒に迫り一発は切れたが一発は残りそのまま箒に当たり大爆発が起こった。セシリアは体勢を整えるとビットを放出して煙の収まらない箒のいるだろう場所へと ビットとライフルで射撃を行う。セシリアはビットとライフルの同時使用が出来るようになったみたいだ。

打鉄のリンクでは打鉄は射撃を食らっているようだ。シールドエネルギーが減っている。

「セシリア…えげつないな…」

隣で見ている一夏がボソッと呟く。

「何を言っている。セシリアの姿勢は間違いではない。むしろ正解だ。実戦ではあの姿があまり前なのだぞ」あまり前→当たり前

殺るか殺られるかの世界では手心は自分の死を招く。

「そうでした…ISとは兵器でした。殺らねば殺られる…でした」

「一夏、君は望まなかっただろうが此処に来た以上はそれを認めなくてはならないんだ」

「はい。ですが俺は力を与えられたのならそれを守る為に使いたい。もう守られるだけは嫌なのです」

一夏は手に拳を作って何かに耐えるような様子だ。

「だったら強くなれ。誰よりも身体を鍛え誰よりも心を強くして、誰よりも長くISに乗っているんだ。そうしていれば誰よりも長く戦っていられる」

上空では再びセシリアを箒が追いかける形で戦闘が再開されている。エネルギーは箒の方が少ない。だが逆転出来ない状況ではない。先程とは違い箒が時々セシリアに追い付いてシールドバリアに斬撃を喰らわせている。その度にシールドエネルギーが減っている。セシリアの顔には焦りの色が見えている。

やはりセシリアの武装は辛いな。弾をばら蒔いて逃げると言う事が出来ない。言わばスナイパーだな。遠距離から敵を狙い撃ち、そして移動する。つまり敵と近距離で戦う事をそこまで考えていない。

「セシリア!接近を許すな!お前の機体は近接は全く駄目だろうが!」

セシリアに 檄を飛ばすがなかなか箒から距離を取れない。また箒の一撃が

当たり遂にシールドエネルギーが

箒を下回った。

「くっ!」

セ シリアが声を漏らす。

その様子を見た箒がちゃあと思ったのか一気に攻勢をかける。2間合いぐらいあった距離を瞬時に詰めて縦横斜めに斬撃を仕掛けてセシリアは近接武器のインターセプターを呼び出しその攻撃を受けようとするが近接攻撃には箒には

敵わず次々とダメージを喰らい遂に2割を切ってしまった。

「そこまでだ!二人とも降りて来てくれ」

二人が降りて来ると二人とも肩で息をしていた。そしてセシリアの目には涙が浮かんでいた。

「お疲れ。とても良い模擬戦だった。今回の模擬戦でそれぞれの問題点が分かったと思う。今後の課題としてくれ」

二人とも頷くとISの装着を解除した。

「トウヤさん…私は…」

セシリアが俺のところに来た。

「セシリア、今回の模擬戦は箒の接近を許してしまったな。セシリアに必要な事は前にも言ったが、まずはビットを動きながらでも操作出来ることだ。それさえ出来れば相手の接近を許すことは無い。断言出来るぞ。なんたってアンロックの砲台なのだからこれ以上使い勝手の良いものは無いな。普段はその練習をするんだ。良いね?」

俺がそう言うと悔しそうではあったが頷いた。続いて箒とシャルと一夏がやって来た。

「一夏はとにかく機体に慣れて機動と言う物に慣れろ。以上!そして箒はシャルとセシリア(くっついて射撃を学べ。相手を知れば百戦危うからずだ。シャルは…左右の手に別の武器を持って対処が出来るようになれば更に強くなるぞ。そんなものかな?」そして箒はシャルとセシリア(くっついて射撃を学べ。→そして箒はシャルとセシリアにくっついて射撃を学べ。

俺が言い終えると返事をして皆で訓練を始めた。

 

少しだけ羨ましく思えてきた。俺の機体のスペック等を束ねさんから公表してもらって自由に使える様にしてもらおう。今晩辺りに連絡しようと考えていた。

 

 




箒が勝っちゃいました。セシリアの機体の弱点が…


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45話

何か話が長い…
というかなかなか進まない。
スピードアップを考えます。


その後はシャルとセシリアで一夏と箒に射撃の特性を教えて箒がセシリアとシャルに接近戦にを教えて軽く実戦形式をやって終わりを迎えた。

全員シャワーを浴びてから食事に行くことになり俺は先にシャワーを浴びて廊下で皆が出てくるのを待つことにした。廊下に出てから10分後ぐらいに一人の少女が俺の前にやって来た。前に立つとやたらと睨んでくる。

「何か用か?」

俺が尋ねると一層睨みを強くした。

「あんたがマツナガ・トウヤね。私は中国の代表候補生の鳳鈴音よ。あんたは一夏の何なの?」

あぁ…一夏とトラブったっていう幼なじみか。

「俺は一夏の護衛であり訓練を任されている」

俺の言葉を聞くと鳳は少し驚いた顔をしていた。

「あんたが訓練を?元軍人とは聞いていたけどなんで男のあんたが教える程の腕を持っているわけ?」

なかなか痛い所をついてきたな。

「俺は篠ノ之博士の元で操縦を教わった。そして戦術と戦闘は軍で教わった。何か問題があるのか?」

鳳のは「ググ…」と声を漏らすし苦い顔をしている。

「それにしてもいきなり喧嘩腰な口調とは穏やかじゃないな。一夏とトラブル起こしているからって俺にまでそれは無いだろう?少しは落ち着いたらどうなのだ?」

そう言うと鳳は顔を真っ赤にして

「誰とトラブろうとあんたには関係ないでしょ!?大体なに上から口調で喋ってんのよ!?」

とまくし立てた。

「落ち着けと言っている。それで要望は何なのだ?一夏から引けと言われてもそれは無理だぞ?俺は生徒会からの要請で鍛えているのだ。それに織斑先生からもだ。男性操縦者の価値と危険度は言わなくとも分かっているだろう?もし一緒に訓練がしたいと言うならば別に構わんが仲直りは自分でしろよ?」

俺のの言葉にカチンと来たのか鳳は右腕を振り上げた。そして部分展開をして降り下ろして来たので右腕を取り相手の力を左脚を軸に後ろに回してやった。一本背負いだ。鳳は何が起きたのか分からなかったようで仰向けのままで目をパチパチパチさせていた。

「お前は随分と短気なのだな。自分の身分を理解しているのか?国家の代表の一歩手前なのだろう?これが国際問題に成りかねないのは分からないのか?下手したら篠ノ之博士とのトラブルになるとは考えなかったのか?」

俺の話を聞いた鳳は顔を青くさせる。事の重大さ気付いたのだろう。

「心配するな。俺は篠ノ之博士に言ったりはしない。代表候補生だろうとなかろうと気を付けて行動するんだぞ?」

そう言うと俺は鳳を起こしてやる。

「ありがとう。本当にごめん。今後は気を付けます…」

鳳は制服をはたくと頭を下げて謝った。こいつは頭に血が上りやすいが根は良い奴のようだ。

「うん。自分の為だぞ。それで一夏に用か?」

「うん。あいつがなかなか謝って来ないから私から来てやったの」

「ああ…確かにアイツの朴念人ぶりを発揮してる事を言ってたな。ただあれは分かりにくいだろう?普通に好きです、愛してます…って冷静に言った方が分かりやすいんじゃないか?」

「言えたら苦労しないわよ!」

「いや…お前は一夏とどうなりたいんだ?苦労なんて今後、いくらでも有るんじゃないのか?」

「グ…そ…その通りだけど…だって…は…恥ずかしいし…」

鳳は顔を真っ赤にして俯いて小さな声でそう呟いた。

「恥ずかしいのは分かるけどな。でも大人の階段というのは恥ずかしいものなんだろうな。俺はまだ途中だけど。お前はそんなんで子作りとか出来んのか?」

俺の言葉に鳳は更に顔を真っ赤にした。

「こっ子作り!!なっ何て事を言うのよ!!」

「だってそうだろ?恋人、結婚、出産。それが流れだろ?まぁ…結婚と出産が逆になるかも知れないけど…」

ヤバい…こいつ弄るの楽しい…

「そっそんなことならないわよ!!」

次は足をバタバタさせ始めた。

「大人の階段を昇らないのか?」

「昇るわよ!付き合って子供…って何言わせんのよ!?」

「ププッ…アッハッハッハッハ!!」

俺は笑い出してしまった…

「何笑ってんのよ!!」

「いやぁ…すまん!あまりにも面白かったんでつい遊んでしまった。本当にすまん!でもまぁ…素直になれないと本当に後悔するぞ?人はいつ死んだりいなくなったりするか分からないんだからな…」

「なんで急に真面目な話になるのよ?なんか気まずいじゃないない…」

「すまんすまん。まぁ…恋せよ乙女!まだ若いんだから当たって砕けろ!」

「嫌よ!砕けたくないわ!」

「どうしたんだ?」

「どうもしないわよ!って…いっ一夏!?」

鳳は急に一夏が出てきたのにビックリしてどっかに走り去って行った…一夏と話をするつもりじゃなかったのか?

「トウヤさん…今のってリンですよね?」

一夏が鳳の走って行った方を見ながら俺に尋ねてくる。確かに足が早くてよく分からなかったが…

「そうだよ。なんだか一夏に会って話をするって言ってたけど少しからかってたら一夏に声を掛けられてどっか行ったよ。」

ほんとは君の話をしていたんだよ、と心の中では思いつつ…

「そっか…まだ謝ってないしな…」

「早く謝れ。他人に迷惑がかかる前にな。あの子はトラブルを起こす素質が有るみたいだし。いいな?」

「分かりました…はぁ…気が重い」

一夏の背中が丸くなる。気持ちが分からないでもない。

全員が揃ったのは結局は20分後だった。それからは皆で食事に行き楽しく食事をしたのだが…結局一夏は夕食後に鳳に謝りに行ったが何を言ったのかは知らないが更に怒らせたらしい。やはりアイツはお馬鹿だった。

部屋に戻ると篠ノ之博士にエステバリスについてのスペック公開をお願いしたところ全部を公開すると勿体無いとの事だったので小出しにして篠ノ之束製にしとくたとの事だった。これで皆に見られても問題が無くなる。早速会長とシャルと模擬戦をやってあげられる。隣にいるシャルに話をすると喜んでいた。何故か抱き付かれたが…

 

そして数日間はクラス対抗戦に向けて全員で一夏を鍛えた。取り敢えずイグニッションブーストとフェイクを中心にだ。なんとか箒とやりあえるまでにはなった。2組のクラス代表は鳳だと言うことで情報を調べてみると機体名は甲龍(シェンロン)で燃費と安定性を重視して開発されたらしい。特筆される武装は銃身がなくどの射角にも見えない砲弾を打ち出せる龍砲だ。なんでも空間を圧縮して打ち出すらしい。

空間を圧縮ってどんな技術なのだろうか…今度聞いてみよう。

後は青龍刀を二本だそうだ。

近中距離戦をメインに戦っていそうだな。そこら辺を踏まえて一夏には訓練したが…やはり射撃武器の特性を理解出来ていない一夏には荷が重そうだ。

 

 

 

今日はクラス対抗戦の初日。まだトーナメントが発表されていないがアリーナの観客席は熱気に包まれている。その理由はクラス対抗戦で優勝すると学食のデザート半年間フリーパスが送られるとの事だ。女子には堪らない優勝賞品だ。その為か観客席は応援合戦まで行われている。

現在、俺は千冬と来賓用の観戦室にで二階堂さんと会っている。二階堂さんからのご指名だ。

「あれからは何事も起きていないようで何よりだよ」

「そうですね。一夏も箒もまだまだ自衛の技術が備わっていませんので何事も無くて助かっています」

二階堂さんの顔には笑顔があって助かる。

「頻繁に起きてもらうと困るんだけどね…警備うんぬんの話になっちゃうからさ…」

「先日の教員によるテロ未遂はすみませんでした…」

千冬が頭を下げているが高山先生の件だな。

「あれはね…防げたのが良かったよ…話を聞いたときは気が遠くなったよ…終ったことだし気にしないでくれ」

あの事件はさすがに驚いた。結局は高山先生が女性主義的な人間で爆発物をどこから手に入れたかまでは分かっていない。つまり捜査が止まったのだ。

「ひとまずは安心して良いのかな…」

二階堂さんも苦笑いしている。

俺と千冬は笑えないが…

「本当何も起きないのが一番だね…」

なんだかプレッシャーを感じるのは気のせいなのかな…

「二階堂さん、私は管制の仕事が有りますのでここで失礼します」

千冬がお辞儀をして部屋から出ていった…って言うか逃げたよね!千冬絶対逃げ出したよ!

「千冬君は逃げたね…」

二階堂にばれてるし…

「別に責めるつもりは無いけどさすがに今年はなかなか疲れるね。それが私の仕事なのだけれどね」

一体二階堂さんは何が言いたいのだろう。ただの愚痴にも聞こえるが…それとも今年はこれだけじゃ済まないと言う警告なのだろうか。

 

二階堂さんの話はトーナメントが発表されるまで続き俺はそれまで黙って聞き続けた。

 

 

 

 

 



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46話

遅くなりました!




トーナメントが発表されてトーナメントを見た俺は笑いが出てしまった。まさかの『織斑一夏対鳳鈴音』と書いてあったからだ。まさか喧嘩中の二人が初戦から当たるとは。一夏のくじ運なかなか素晴らしいものがある。

一夏の試合は第二試合で約40分後になる。その間はピットで待つはずなので俺はピットに向かった。

ピットには箒とセシリアがいた。

「トウヤさん!まさかの初戦からリンですよ!」

一夏はピットのベンチに座っていた。すでにISスーツを着ておりいつでも出られる態勢のようだ。

「自分のくじ運の悪さを恨むんだな…」

俺の言葉に箒は頷きセシリアは笑っていた。

「そうなんですが!考えてもしょうがないか」

一夏はモニターに目を移す。モニターでは今現在行われている試合、3組対5組の試合が写し出されている。ラファールが二機で戦っている。お互いにサブマシンガンで移動しながら撃ち合っている。

どちらも

飛びながら撃ち合っているがやはりしっかりとした戦闘を習っていない為俺から見ればメチャクチャだ。お互いのシールドバリアに当たってはいるがそれはお互いに当たりに行っているようなものだ。射撃の為にスピードを緩めた所で被弾をする。

最後は少しだけ被弾の少ない方が有利になり結局は3組が勝った。

 

「よしっ!俺の出番だ!」

 

一夏はベンチから立ち上がるとタキシングスペースで白式を展開する。

「一夏、相手が鳳だからといってペースを乱すなよ。戦いは冷静さを保った方の勝ちだ。むしろ挑発しても良いからな?いいか?」

「おう!ペースを掴む…飲まれるな…飲んでやれ…」

一夏は緊張した面持ちでカタパルトに向かった。カタパルトに脚の固定が終わると一夏は箒に顔を向けると

「行ってくる」

と言い、箒は心配そうな表情から笑顔になると

「ああ!勝ってこい!」

と返していた。

鳳には申し訳ないがなかなかの良い雰囲気だな。セシリアの方を見るとセシリアも同じ事を思っていたのか慈愛に満ちた顔をしている。

「白式!出ます!」

そう一夏が言うとカタパルトが動き出して白式がアリーナへと飛んでいった。

 

俺達はピットから一番近い観客席行くとすでに観客席は大歓声が始まっていた。なんせ世界で初の男性操縦者と代表候補生との試合だ。これは世界初の出来事でもある。盛り上らない訳がない。

俺達はシャルが確保していてくれた席に座った。俺の右側にセシリアで左側にはシャルだ。

「織斑君はどうだった?落ち着いてた?取り敢えずモニターを観てる感じだと落ちついてはいるみたいだね」

シャルが俺に一夏の様子を尋ねてくる。

「落ちついてはいたが試合が始まってから雰囲気に呑まれなきゃ良いが…公式戦はこれが初だからな。初陣は大抵ガチガチになるもんだ」

懐かしい…思い出したくもない初陣…

「そうだね…僕もガチガチになったな」

「私もそうでしたわ。思ったような動きが出来ませんでした…」

シャルもセシリアも渋い顔をしていた。

「大丈夫だ…俺の初陣は悲惨だった。緊張から動けず、被弾して…死ぬかと思って…漏らしたわ…整備員に笑われて…自分で掃除して…洗濯して…部隊で笑われるんだぞ!!」

 

 

俺の初陣は地球近海の遭遇戦だった。連合宇宙軍の巡察部隊でエステバリス運用の為に改造された巡洋艦『ルピナス』のエステバリス隊に配属されて最初の任務だった。連合宇宙軍内ではまだまだエステバリスが流行っておらず巡察部隊も機動部隊もまだ創設されて半年しか経っていなかった。しかも3機編成の小隊が2個の6機だけだった。随伴艦も駆逐艦が2隻で機動部隊は搭載していなかった。

巡察を開始して8時間後に1機のバッタに遭遇して俺逹の第一小隊に出撃命令が出た。俺は新米だったので当然3番機で2機のバックアップとなった。バッタが1機だったこともあり楽勝ムードで出ると、バッタが逃げ出したので小隊で追いかけ始めた。するとどこからかバッタが集まり始め、あっという間に30機近くに包囲されてしまった。第二小隊にも出撃命令は出ていたが追撃をしていたため母艦からの距離が開いていた。1番機と2番機がオフェンスで俺がバックアップ。この形で対処すれば上手くいく予定だったが俺が恐怖と緊張から思うような動きが出来ず2番機が損傷してしまい結局は撤退…第二小隊が対処して戦闘は終了となった。

 

 

セシリアとシャルは俺の話を顔を赤くしている。

「俺の場合は命のやり取りだからどうしても恐怖が生まれてしまう。恐怖には打ち勝たなきゃいけないが忘れてはいけない。忘れたら大抵は死ぬ。二人とも無いに越したことはないが覚えておいてくれな?」

二人は頷き「はい!」と返事をしてくれた。

アリーナの方では一夏と鳳が言い合いしている。

「あんたねぇ!何で謝れないのよ!」

「俺はわるくねぇ!」

「そういう時は男が謝るのが普通でしょ!?」

「知るかよ!何で悪くも無いのに謝らなきゃいけないんだよ!大体リンが洗濯板なのは事実じゃねーか!」

…わぉ!!一夏の挑発?は凄いね…試合後のカバーが大変そうだな。

「…ろす!」

「はぁ?聞こえねーよ!」

「コロスって言ってんのよ!」

 

ここで試合開始のブザーが鳴った。

先に仕掛けたのは一夏だ。雪片弐型を呼び出して鳳へと突撃する。鳳も蒼天花月を呼び出して

一夏と鍔迫り合いになった。パワーは甲龍の方が勝っており鍔迫り合いは甲龍が押しきり白式が弾き飛ばされた。そこへ甲龍が追撃をかけるが白式がフェイントを下に入れてから上昇し少しだけ距離を稼ぐことに成功した。

「一夏!逃げんじゃないわよ!」

「うるせー!」

観客席に一夏と鳳の声が響き渡る。

白式を甲龍が追い掛ける形となりアリーナ内を高速で二機が飛び回る。速度性能は白式の方が勝っているが狭いアリーナ内では性能を十分には発揮できない。白式は左右に動き回りながら飛んでいるが突然何かに弾き飛ばされて地面に墜落しを転がり回った。

何が起きたのか…

「今のが衝撃砲なのかな!?見えなかったけど白式の弾かれた方向から考えると甲龍から放たれたと考えるべきだよね?」

シャルは背もたれから背中を浮かせてモニターから目を離さずに此方に話を振ってきた。俺もモニターから目を離さずに考えてみるが状況的に甲龍以外考えられない。そんなことを考えていると白式が再び吹き飛ばされた。

今ので分かった!一夏が吹き飛ぶ直前に甲龍の両肩のアンロックユニットの回りの空間が歪みが生まれ一夏が吹きとぷとその歪みが消えた。

「間違いない!あれが衝撃砲だ!」

なんとも使い勝手の良い武装なんだ!銃身もなく射角も広く砲弾も見えない。かなり理想的な射撃武装だ。

火薬式だと音と発火炎などが発生して大抵は位置などがばれてしまう。それが起きないのはかなりのメリットだ。

甲龍が起き上がった白式に対し衝撃砲を連射している。白式は左右にランダムに動き回りなんとか狙いを定めさせないようにしている。これはセシリアとの訓練の賜物だ。

その避ける動きを使いながら少しずつ甲龍との距離を縮めていく。そして甲龍との間合いが後少しで一夏の間合いになると言うところで甲龍が後方へと下がる。

「さすが代表候補生だな。間合いの取るタイミングが上手かった。さぁ一夏…どうする。相手は箒とセシリアを足して割ったような相手だぞ…」

一人で言葉を口にしてみたが回りには歓声のせいで聞こえてはいないようだ。

一夏は鳳を中心に上下に軌道を変えながら時計回りに回り始めた。甲龍は衝撃砲を時々撃つが当たらない。そしていつの間にか鳳は一ヶ所に留まる様になっている。

「そうか…相手の周りを回る事で一ヶ所に留まるように誘導したのか。なかなか上手いな」

一夏は時々円の軌道を少し変えて鳳に単発の攻撃を加えては離れそしてまた攻撃を加えるという行動を繰り返している。

…そうか!イグニッションブーストのタイミングを伺っているのか!

 

 

試合は動き始めている。

 

 

 

 

 

 

 



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47話

一夏が鳳の周りをグルグルと回りながら攻撃を加えイグニッションブーストのタイミングを伺っている時に突然携帯電話が鳴り始めた。画面を見ると楯無だった。急いでシャルとセシリアに電話と伝えて観客席からアリーナ内部の廊下に入り電話に出ると楯無の焦った声が聞こえてきた。

「マツナガ君!今こちらに向かっている正体不明の機体があるわ!万が一に備えてすぐにピットに向かって!」

俺は返事をせずに走り出した。

「接触までの時間は?」

「もうすぐよ!」

「織斑先生には?」

「連絡済み」

「分かった。では対処する」

「お願い!」

通話が切れ携帯をポケットにしまうと同時に今走ってきた方から大きな音と衝撃が伝わってきた。俺はそれに構わずピットに走り込んだ。そしてカタパルト付近まで来るとエステバリスを展開し踵に設置されているホイールでカタパルトを走行しアリーナへと飛び立つ。

アリーナの中央には砂埃が立ち込めていて正体不明の機体は確認できないが白式と甲龍は確認出来た。突然モニターに正体不明の機体の識別が表示された。

 

『デビルエステバリス』

 

なに…!なんでこの世界にデビルエステバリスがいるんだよ!

デビルエステバリスはナデシコが初めて遭遇した敵の機体でバッタがエステバリスを乗っ取り動かしている機体なのだ。通常よりも重いはずなのだが動きは俊敏でバッタの武装も使用出来る為高火力なのだ。

「一夏!鳳!お前逹は一旦下がれ!」

オープンチャンネルで一夏と鳳に喋りかけると鳳から返事が帰ってくる。

「あんたがなんでここにいるのよ!アリーナは緊急閉鎖されたんでしょ!?」

「連絡を受けてピットにいたんだ。取り敢えず二人は下がってくれ!こいつの相手は俺がする!」

俺と鳳がやり取りしている間に砂煙が晴れてデビルエステバリスが姿を表した。陸戦エステバリスにやはりバッタが取りついている。そして右手にはラビットライフル、左手には何も持っていないがバッタからチューブの様なものが伸びて手首の辺りで銃口の様になっている。あの銃口には要注意だろう。

「なんなのよあれは!気持ちが悪いわ!」

「トウヤさん…あれって…」

一夏はどうやら気づいたらしい。原型がエステバリスであることに。

俺はとっさに一夏へプライベートチャンネルを開く。

「その通りだ。あれはエステバリスが後ろにくっついている黄色い機体に乗っ取られた機体だ」

「トウヤさん…なんで分かるのですか?」

「その事は今は秘密だ。織斑先生と相談して了承が出れば教えてやる」

一夏とのプライベートチャンネルを切りオープンチャンネルをひらく。

「ひとまずはあいつの左手の銃口には気を付けろ。あの銃口は俺も知らない。もしかしたらビームか何かを撃って来る可能性がある。とにかく一夏は甲龍の衝撃砲を避けていた時の様にあいつに照準を定めさせるな!そして鳳は衝撃砲で援護してくれ!良いな!?」

「了解!」

「衝撃砲じゃなくて龍砲よ!援護すれば良いのね!分かった!」

右手にはレールガン、左手にラビットライフルを呼び出すとデビルエステバリスの周りを正面を向けたまま飛び回りながらラビットライフルを撃ち始めるめ、一夏は俺とは反対回りに回り始める。そして鳳は俺たちとは違い低空を飛びながら龍砲をデビルエステバリスに撃つ。

俺達の射撃はデビルエステバリスに命中するがデビルエステバリスの機体に当たる前に何かに当たった様に弾かれてしまう。シールドバリアなのかそれともディストーションフィールドなのかは分からない。甲龍の龍砲も多少デビルエステバリスがよろけるが然程ダメージを与えているようには思えない。一夏も雪片で斬撃を加えるがバリアに阻まれて直撃しない。デビルエステバリスは両手を広げて二方同時に射撃をしている。やはり左手首の銃口からはビームが撃たれていた。鳳も一夏も動き回っていてデビルエステバリスの射撃は全く当たっていない。

デビルエステバリスは射撃が当たらないと分かると空中へと浮かび上がり一夏へ追尾を始めた。

「一夏!とにかく逃げに徹しろ!」

「分かった!」

白式は上下左右にに軌道を変えながらデビルエステバリスの射撃を回避する。鳳は遠巻きに龍砲でデビルエステバリスを撃ち俺もラビットライフルで撃つがなかなかデビルエステバリスの足は止まらない。

そこで俺は少しだけ足を緩めレ-ルガンをデビルエステバリスに撃つとシールドバリアを貫通してデビルエステバリスのラビットライフルを打ち砕いた。

ラビットライフルを打ち砕かれたデビルエステバリスは動きを止めて此方を見た。その隙に一夏が零落百夜でデビルエステバリスに切り込みデビルエステバリスの右腕を切り落とした!

デビルエステバリスは右腕を失っても怯む事なく一夏に照準を合わせて左手のビームを撃ち一夏に直撃した。ビームはシールドバリアを貫通して一夏に直接当たった。

「一夏ぁぁ!!」

鳳が一夏に飛び寄る。

「鳳!一夏を回収して離れろ!その間は俺が気を引く!」

俺はラビットライフルとレールガンでデビルエステバリスに射撃を加えるとデビルエステバリスが此方にビームを撃ちながら飛んでくる。俺は機体を後退させながら上下左右に回避運動をとりながら一夏逹とは逆の方向へと進む。

俺の放った弾がデビルエステバリスの右足に当たり右足が膝から下が吹き飛んだ。

 

「マツナガさん!一夏は無傷ですが意識がはっきりしていないよ!」

「そうしたらピットに戻れ!急げ!」

鳳が一夏を抱えてピットの方向へと飛んでいく。これで一撃必殺が無くなった。

「クソ…どうやって倒す?レールガンでチマチマ当てるしか無いよな…」

レールガンを再び撃つとかわされてしまった。次は連続して弾を放つと右肩と胸に当たり爆発を起こした。左肩のアーマーが吹き飛び駆動系が見え、胸部はコックピット回りのアーマーがやはり落ちていた。

デビルエステバリスには攻撃の手段はバッタのミサイルとディストーションアタックぐらいしか残されていない。

デビルエステバリスはバッタからミサイルを大量に発射した。両手にラビットライフルを呼び出しミサイルを次々と打ち落とすが何発か撃ち漏らしシールドバリアに直撃して機体がぶれる。

「ぐぉぉ…」

上下左右から飛んでくるミサイルを避けながら打ち落とすがGが凄く胃が掻き回されて内容物が出てきてしまいそうになる。まだミサイルが残っている。今ここで止めるわけにはいかない!グルグルと景色が回る。空がどっちかは色でしか分からない。青と茶色が目まぐるしく変わる。

「後少し…後少しだ…」

後2発か…

右手のラビットライフルを向け引き金を引くが弾が出ない!弾切れだ!

左手のラビットライフルを向けて引き金を引くと一発だけ弾が出てミサイルが爆発した。しかし…左も弾切れだ!

「不味い…!!」

ミサイルはもうすぐそこまで迫っている…武器の呼び出しは間に合わない!

当たるのを覚悟したその時!

 

ミサイルが爆発した。目の前でだ。

 

当たる直前に目の前をビームが走ったのが見えた。ビームの飛んできた方向を見るとセシリアがスターライトmk3を構えていた。

「間一髪でしたわね!さぁ!さっさと片付けましょう!」

そしてその隣にはシャルがラファールを纏って立っている。

「トウヤさん!援軍だよ!早く終わらせてお昼にしようね!」

二人が飛び立ち俺と合流してデビルエステバリスを取り囲み射撃で攻め立てる。それぞれの射線が被らないようにしてセシリアとシャルがデビルエステバリスの機動を阻害して俺がレールガンで撃ちデビルエステバリスに直撃弾を当ててどんどん形を変えていく。そして最後に背中のバッタを破壊したところでデビルエステバリスが機能を停止したようで動かなくなり戦闘が終了した。

「セシリア、シャル!ありがとう、助かったよ」

二人が俺の脇に降り立つと俺は二人に礼を言う。

「いいえ!私こそ遅くなりまして済みませんでした。人の流れに捕まってしまいましてピットに着くのが遅れましたわ」

「僕たも役にたてて嬉しいよ」

二人は笑顔で答えてくれてた。

「そうか…本当に助かった。済まないがこいつの回収を手伝ってくれ。多分このあとに織斑先生から回収を頼まれるからな」

 

俺たちはデビルエステバリスの回収を行いピットに持っていくと織斑先生の指示に従って残骸を引き渡した。

 

 



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48話

今回はナデシコの歴史の復習みたいな回になりました。


デビルエステバリス戦に参加した俺たちはアリーナ内にある管制室に集められている。千冬の『命令』でだ。

管制室には俺らと千冬の他に山田先生だけがいる。

「さてお前達を呼んだのは今回のUnknownとの戦闘についてだ。このUnknownはマツナガが知っている様だがUnknownの説明をするにはマツナガについて話をしなくてはならない。マツナガ、頼めるか?」

千冬が此方に向き直り頷く。俺の正体を話してくれって事だよな?

「分かりました」

みんなの前に出て皆を見る。

「これから話す事は真実です。そしてこのメンバーだけに話をします。そしてこの話を知っているのは織斑先生と山田先生と国際IS委員会の日本支部の二階堂委員と篠ノ之博士だけです。他言無用でお願いします。それが守れないならこの部屋から出ていってください」

一旦話を切るが誰一人として部屋を出ない。それを確認すると話を続ける。

「では話を始めます。単刀直入に言うと私はこの世界の人間ではありません。別の世界から飛ばされた人間です」

この言葉で皆の顔が呆気に取られ。

「私は2176年生まれの地球人で地球連合宇宙軍所属、機動戦艦ナデシコエステバリス隊所属マツナガ・トウヤです。つまり私は別の世界のあなた方から見ると未来人ですね。私はその世界での戦闘中に爆発に巻き込まれるとこの世界に来ていました。そこで織斑先生に助けられたのです」

説明を聞いている皆の顔が困惑や驚きの顔になっている。

「そして今回の戦闘で戦ったUnknownは私達の世界で私達が乗っている機動兵器エステバリスを敵の…木製人の無人機動兵器である『バッタ』が乗っ取った通称『デビルエステバリス』と言うものです。しかし今回のデビルエステバリスはビーム兵器を搭載していたので同一の物かは分かりません。そして何故この世界に現れたのかという事も分かりません。今後も出現するかも分かりません。ひとまずは私の説明は終わります。何か今回の件で質問がある人は?」木製人→木星人

シャルが手を挙げた。頷くと喋り始めた。

「デビルエステバリスと言うのは無人機という事ですよね?」

「その通りです。」

「ではバッタの制御はどうやって行っているのですか?」

「不明です。ですが人工AIという見方が強いです。何らかの方法で基本的な指令を与えてそれに従い行動すると考えられています」

次はセシリアが手を挙げた。

「木星人と言うのは?」

「木星人とは過去に月、火星に入植し独立を求めて追われていった人々です。彼らは木星圏で生活をしていた。つまり元々は地球人でした…」

皆の顔が悲痛なものに変わった。

「元々、私達は機械と戦っていると思っていました、いやそう教わっていました。『木星の方角から切っても切ってもやって来る』と言う意味も込めて『木星蜥蜴』と呼ばれていました。しかしある日その正体が元は地球人だったと分かったのです」

次は鳳が手を挙げて喋り始めた。

「その木連は他にどんな兵器があるの?」

「基本的には無人機です。レーザー駆逐艦のカトンボ級、機動兵器としてオケラ、ゲンゴロウ、カナブン、ヤドカリ他にも無人機は色々と有ります。後は、有人の戦艦やジンタイプの人型機動兵器が有ります」

一夏が手を挙げた。

「それらは強いのですか?」

「今の私達から考えるとジンタイプが二機来たら負けます。彼らは戦闘のプロです。彼らは国力差が100倍以上差があるにも関わらず私達を火星から地球まで追い詰めたのてす。なるべく戦死者を出さないようにしてです。」

皆の顔が青ざめた。

「あくまでジンタイプが現れたらです。一機ならば対処が出来ます。だからそんなに怯えないで良いよ」

みんなは少しは安心したのか笑顔になった。

「他に聞きたい事はあるか?」

シャルが口を開いた。

「マツナガさんは何時かは帰るのですか?」

皆の顔が少しだけ悲しそうな顔になった。

「…帰りたいとは思っている。」

俺も思わず言葉がすぐに出なかった。

「他にはあるか?」

千冬が暗くなった雰囲気を遮るように声をだした。

「なければ今日の事を他言しないという誓約書を書いてもらう。破った場合は聴いた者、喋った者、両者に監視が着くと思え。良いな?」

みんながその言葉に返事をした。

「よし。では山田先生、彼らに誓約書に署名をさせて下さい。マツナガは少し残れ」

「分かりました。では皆さん此方に来てください」

山田先生が皆を引き連れて管制室を出ていった。部屋の中が静かになる。

「トウヤ…今回の件はどう思う?」

「正直訳が分からないですね。あの機体が本当に私の世界の物ならば尚更ですね。考えられるのは私と一緒に飛ばされた…ぐらいですか。ですが私が飛ばされた時の戦闘ではデビルエステバリスはいませんでした」

「そうか…」

千冬は腕を組み考え込んでいる。

「今後も現れると考えた方が良いのでしょうね」

「やはりそう思うか…なんて説明したら良いか…正直に説明したらトウヤの身の上を知らせなくてはいけなくなる。そうすると…」

俺が実験動物になる可能性がある。

「公表…しないで貰えませんか?」

「…そうだな。いざとなったら公表してその時は束に泣きつくか。」

「そうして貰えると助かります。我が儘を言ってすみません」

「いや…私だって気持ちが分かるよ。人間ってものは…」

他人の事や自分とは異なる種族、人種、生物には冷酷になれる。恐らく俺もそれに含まれるだろう。

俺の世界でも同じ人類なのにボソンジャンプの実験を行っていたようだ。

「ありがとう…千冬」

頭を下げると千冬は笑いながら

「お前の為だ。私はお前を手放したりしない。お前は私が守る」

と言い俺も

「俺もだよ。俺も千冬と一夏、手の届く範囲では守って見せる」

と言い返すと俺たちは管制室を出た。

 

 

結局はクラス対抗戦は中止となり後日に一回戦のみはデータ取りの為に行われる事となった。

食堂でこの放送を聴いた時の女子達の落胆ぶりはかなりのものであった。

 

 

「トウヤさん…」

部屋で今回のクラス対抗戦での実戦データを富士見技研向けにまとめていると隣の机で何かをやっていたシャルが話掛けてきた。

「なんだい?」

「トウヤさんの世界ってどんな所なの?未来なんだよね?」

「そうだなぁ…」

シャルに俺の世界の話をしようとしたその時にドアがノックされた。俺がドアを開けるとそこにはセシリアが立っていた。

「セシリア、どうした?」

「こんな時間にお邪魔かとは思いましたがトウヤさんと話をしたくて参りました」

どうやら

シャルと同じで俺の話を聞きたくて来たのかも知れないな。

「いいぞ。入ってくれ。ちょうどシャルにその話をするところだったんだ」

部屋の中に招き入れるとシャルの眉毛が少しだけ動いた。セシリアは手前のベッドに腰を掛けた。

「俺の世界は2195年に木連から火星の侵攻を受けたんだ。当時は火星がテラフォーミングされていて火星に大気が存在していたが人間はドームの中に暮らしていた。木連から侵攻が始まると火星宙域で地球連合宇宙軍との会戦が始まった。その戦いは地球人にとって初の『宇宙人』との戦いとなった。その戦いは地球の大敗北で終わった。その理由は木連側の兵器が技術的に上回っていたからだ。当時の地球連合の兵器はレーザー砲によるか艦隊戦が主であったな木連は機動兵器と重力波砲、グラビティーブラスとディストーションフィールド…つまり空間を歪ませてフィールドを形成し光学兵器を反らす兵器簡単に言えばバリアを使用していた。この戦いで火星は占拠され火星に住んでいた人々は虐殺された。その後地球側は地球まで戦線を押されて地球各所に敵の兵器を送り出す門、チューリップを送り各所で地球は防衛戦を展開する事になる。一先ずがここまでが俺が学んだ歴史。お茶を入れようか」

そう言うとポットを用意しはじめた。お湯が沸くまでは皆は無言で待ち続けた。



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49話

少し短いです。


お茶を入れ終え一息付くと話を続けた。

「そして地球連合アジア地区最大手の会社のネルガル重工が一隻の戦艦を建造した。その戦艦が機動戦艦ナデシコであり木連の技術と並ぶ性能を有していた。そのナデシコは火星の生存者と資源の回収を目的として出航し地球連合軍の妨害をはね除けて地球を脱出し火星に到達するが生存者は1人しか救出が出来なかった上に火星で木連に敗北して命からがら脱出した」

シャルが手を挙げた。

「機動戦艦ナデシコって言うのはトウヤさんの乗っていた船だよね?どんな船なの?」

「ナデシコって言うのは今まで地球の舟船に搭載されていなかった相転移エンジンを搭載し、それまで木連の船しか使用出来なかったグラビティーブラストとディストーションフィールドの使用を可能にしたんだ。そしてそのディストーションフィールドを纏った当時最新の人形機動兵器のエステバリスを搭載したこと、それにより事実上地球最強となったんだ。」

「トウヤさんの乗っているのもエステバリスですよね?ではあのバリアーはディストーションフィールドと呼ばれているものなのですか?」

セシリアは首を傾げながら尋ねてくる。

「正直な所分からないんだ。エステバリスがディストーションフィールドを使用できる理由はナデシコから重力波を受けていたからなんだ。そもそもエステバリスには ジェネレーターが搭載されていないんだ。だから今の私の機体がなぜ動くのかも謎なんだ。対外的には篠ノ之博士のお手製となっているが今のところは解析待ちなんだよ。」

俺の発言に二人は目を丸くしている。

「え?じゃあトウヤさんの機体はISじゃない可能性があるってこと?」

シャルはなんとも言い難い表情で言っている。

「そうだな。でも多分ISなんだろうな…」

正直な所根拠はないが…ISのコアが有るのかも分からない。

「まぁその話は置いておこう。どこまで話をしたっけ…そうだ、その後は俺が配属されてからだな。俺がナデシコに乗ったのは月基地だ。ナデシコが補給の為に月基地に寄ったときに木星蜥蜴の正体が暴かれたんだ。これは今日の管制室で話した通りだ。木星蜥蜴は人類であった。その後のナデシコは各地を転戦し木連のチューリップの撃破をしている最中に俺はこの世界に跳ばされたんだ」

「ふぅーん。ナデシコのエステバリス隊は強いの?」

シャルが尋ねてくる。

「エステバリス隊どころかナデシコ自体が凄かった。ナデシコの乗組員は性格はともかく最高の腕を持つ人を集めていた。艦長は連合大学戦略シュミレーション無敗、操舵士は元秘書、副操舵士は現役秘書、オペレーターは凄腕少女、通信士は元声優、整備班長は潜りの凄腕メカニック、調理師はレストランのオーナー兼コック、現役会長のパイロット、地球連合宇宙軍からの引き抜きパイロット。とにかく腕は凄かった。お祭り騒ぎも凄かったけどね」

シャルとセシリアは苦笑いを浮かべている。きっと想像が出来ないのだろう。

「でもとても温かい船だったよ。とにかく人の命を大切にする軍艦じゃない軍艦だったね」

「何だかとても面白そうな船ですわね」

「僕もそう思うよ。何だか乗ってみたい気もするね」

シャルとセシリアがお互いを見合いながら頷いている。

「でも常に最前線だから大変だぞ?但し会戦になると後方に下げられちゃうけどね」

「え?何でですか?」

セシリアだ。

「回りと合わせられないからさ。とにかく勝手に動き出したり独自に行動しちゃうからね。火星から月に脱出した時は寝ぼけて味方を撃っちゃったみたいだし」

「寝ぼけて?」

「味方を撃っちゃった?」

二人が声を揃えて聞き返してきた。誰だってそうなるな。

「そう。敵のど真ん中にワープしてしまって何故か艦内はオペレーター以外が寝てて敵味方を確認せずに発砲、幸い味方に死人が出なかったから良かったもののってね」

「「…………」」

二人は声が出ないようだ。

「まぁ…そんな船なんだよ」

「なんというか…」

「豪快ですわね…」

「写真とか有ったら見せてあげられるんだけど戦闘中だったからみんな部屋に置いてきちゃったんだよな。」

本当に懐かしい。

「仲の良かった人とかいたの?」

シャルとセシリアの目が光っている。一体何なんだ?

「そうだな。整備班長と副操舵士かな?」

「その二人は女性?」

「整備班長は男性でウリバタケ・セイヤさんで確か…30歳ぐらいだったかな?とにかく腕はピカイチだったよ。結構飛行機や戦車とかの話で盛り上がって改造の話で盛り上がったんで仲良くなったんだ。副操舵士はエリナ・キンジョウ・ウォンで20歳でナデシコの建造元のネルガル重工の社長秘書なんだ。私がナデシコに配属されてからは彼女の護衛をしていたからシフトも一緒で仲良くしていたね」

この話をすると二人の目付きが変わった。

「エリナさん…どんなかたさですの?」

セシリアの目付きが怖い…なんだろうな、見たことがあるぞ。この目はヤバイよ。隣のシャルもだ…

「え…そうだな…とにかく向上心が強かったね。いずれは会長になるんだって勉強は欠かして無かったけど…人一倍臆病だったね。きっと競争ばかりで心が弱っていたのかも知れないね。護衛に付いてからは良く話をしたりいっしょに出掛けたりして凄く穏やかな感じになっていたみたいだね」

俺が話を終えると二人はヒソヒソと二人で話をしている。時々頷きなんだか…疎外感が酷い。ヒソヒソ話を終えるとシャルが良い笑顔でしゃべり始めた。

「そっか!エリナさんも大変だったんだね!トウヤは時々エリナさんに怒られたりしたでしょ?」

エリナが大変?何でエリナに怒られたことが解るんだ?

「そうだな…時々怒られたりしたな。時には『刺されるよ!』なんて言われたりしたしな」

シャルとセシリアは頭を抱えてため息をついた…俺は何かをやらかしたのか?

「トウヤさんはきっと気づかないうちに他にも仲良くしていた方がいるのでしょうね。ナデシコに乗って色々な方と話をしてみたいですわ」

 

俺はこのあとは消灯時間までシャルとセシリアに色々とお説教じみたこごとを言われながら過ごした。

 

改めて女性の恐ろしさを痛感した日でもあった。

 

というか色々とあった日だった…疲れた…



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銀と黒 の章
50話


遂に50話まで来ました。
お気に入りも550件overです。
駄文を読んでいただきありがとうございます。
現在文章力を強めるべく勉強していますので今後改善を行う予定ですので今後とも宜しくお願いします。


クラス対抗戦の1回戦は翌日から行われたが無観客試合となった。その為学園内が何処と無く暗い雰囲気になっている。特に顕著にその光景が現れるのは食堂だ。普段なら朝、昼、晩と学生が沢山集まりわいわいと楽しそうに食事をしていたのだが今はその賑やかさがあまり見られない。明かされない情報に苛立ちまた、次にまた襲われるのではないかという恐怖を押さえ込んでいるのだ。仕方の無いことだ。

 

「何だか学園内の華やかさが無いですね。今まではうるさいと感じていましたがこうなると寂しく感じてしまいますよ」

放課後の生徒会室で虚さんとお茶を飲んでいる。窓の外では部活動の掛け声が聴こえてくる。今日は千冬に呼ばれてここに来ている。

「そうですね。私もこんな学園は初めてです。年の最初のイベントが潰れてしまいましたからね。しかも商品付ですから…それともUnknownが侵入したという事実からでしょうか」

虚さんも少し悲しげ表情を浮かべる。きっと学園始まって以来の事件なのだろう。しかも襲撃だ。いくら箝口令をひいても目撃している者は沢山いるだろう。そして『ここだけの話』をする者も沢山いるだろう。恐怖と憤りは伝染するものなのだ。

「なんとかしたいものですね」

「次のイベントは個人戦の学年別トーナメントですか…その間に雰囲気が戻ってくれれば良いですね」

お茶を啜りため息をついてしまう。

「そうだな…何か景品を用意出来ればいいのだが…」

虚さんと俺は無言で考えるがなかなか

良い案がでない。

そこで突然生、徒会室の扉がバン!という大きな音と共に開かれた。俺と虚さんは体をビクッとさせて扉の方へ向き直る。

「さすが副会長ね!景品を考えたわ!!私に任せて!」

そこには楯無が扉から自分の席に向かい歩きながら大声で言っている。

「何か良い景品でも有るのですか?」

虚さんが楯無に聞いているが楯無は扇子で口許を隠して笑っているだけだ。

何故かは分からないがとても不安に感じる…

「会長…何を考えているのですか?」

「優勝者と準優勝者に景品を考えたのよ」

俺の質問にも楯無は目を合わせることなくそっぽを向いている…答える気は無いみたいだ。

 

「それで、今日呼び出された理由は知ってるかい?」

「知らないのよ。そうそう、一つ教えておくことが有ったわ。5日後日にドイツからの転入生が来るのよ。名前はラウラ・ボーデヴィッヒ…」

「あぁ~知ってるわ。織斑先生から聞いてる」

楯無の説明を遮り知っている事を告げると楯無は頬を膨らませて不満げな顔をしている。こういう顔はなかなか歳相応を感じさせる。早い話が可愛いのだ。

「ぶぅ~ぶぅ~!こう言う話は最後まで聞くものよ!性格に難有ってことは?」

「知っている。軍以外の世界を知らないのだろう?」

「そうなのよ…監視をお願いしちゃいたいなぁ~」

またまた可愛い声を出しているが今回はわざとらしいので可愛くない。

「そんな声出しても可愛くないぞ。もっと素直になれば可愛いんだかなぁ」

俺の発言を聞いた楯無はキョトンとしたあとに顔を赤くしている。隣の虚さんはそんな楯無を見てクスクスと笑っている。

「なっ…可愛い…急になに言い出すのよ!お姉さんを誘惑するならそんなんじゃ足りないわよ?」

楯無が扇子で顔をを仰いでいる。なんというか…誤魔化すという感じだな。

「何を言ってる…私の方が年上だろう…素直が一番だと言っている。」

「う…そうね。ところで模擬戦はいつしてくれるの?もう…トウヤさんの機体は公表されたでしょ?他の人に見られても問題ないのでしょう?」

…まただ。先日にもシャルからお願いされたんだよなぁ。

「そうだな…近々やろうか。俺が勝てるとは思えないが…さすがに国家代表に勝とうとは思わないよ」

「またまた謙遜を…『元』日本代表に勝っておいて何を言ってるの?」

やたらと『元』のところを強調していたが何なのだ?

「それじゃあ近いうちにアリーナを取っておくから宜しくね?」

「わかった。お手柔らかに頼むよ…」

あまり気乗りがしない。楯無のIS、ミステリアス・レイディ…情報を集めてみたがかなりの曲者だ。ナノマシンを使って水を制御する?どんな仕組みなんだよ!!そんな技術は俺の世界にも無かったぞ!実弾系の武装しか無い俺には勝つ方法が検討がつかない。例えビーム兵器があったとしても水によって減退させられるだろう。近接戦闘からの一点突破…かなり危険だがこれぐらいなのだろう。

 

俺が思考に陥っていると生徒会室の扉が開かれた。入口の方を見ると千冬が入ってきた。

「すまない。待たせたか?」

そう一言謝ると俺の隣に座った。

「今日集まってもらったのは先日のUnknownの解析結果が大まかにだが出たので知らせておくためだ」

千冬の言葉に楯無の表情が真面目なものになる。

「あの機体はISでは無かった。そして本体の人形にはジェネレータらしき物がなく推進は背中の黄色い物が行っていたと思われる。そして…パイロットらしき者はいなかった。一応コックピットは有ったが誰も居ないので学園内に侵入した者は居ないと判断する…というのが公式見解だ。楯無、お前はマツナガの素性は知っているな?」

千冬の問いに楯無は無言で頷いた。

「あの機体はマツナガの世界の物だ。機器が使われていて解析不能な部分が多数発見されている。そして篠ノ之束にあの機体について問い合わせたが知らなかった。そして背中の黄色い物、マツナガの世界では『バッタ』と呼ばれている物に制御されているのではないか?と言っていた。つまり未来の機体だったと言うことになる」

「話は分かりましたが何でマツナガさんの世界の機体がここに?」

楯無がこちらに尋ねてきた。

「すまないが私にも分からない。私の世界にはボソンジャンプというワープがあるのだがそれが関係しているのかも知れない。だが私が跳ばされる以前からボソンジャンプは使われていた。デビルエステバリスの件以前はあのような機体は出ていなかったのか?」

「私の知る限りでは知らない」

楯無が答えた。

「ならば関係が無いかも知れないな。ボソンジャンプ以外には考えられる事は思い付かない」

俺達は暫く無言になってしまった。

「今後も出現すると考えておくべきかも知れないな。マツナガ、済まないがわかる範囲で構わないからマツナガの世界の機体の情報をくれないか?口頭で頼む。文章にしてしまうとどこで情報が漏れるか分からないからな」

千冬の頼みを了解して皆に俺の世界の機体情報を喋る。機体の特徴や武装など俺の知る限りを話する。

 

 

「以外と厄介なのが多いな…エステバリスのディストーションアタックか…シールドバリアでは出来ないものかな。それとジンタイプが出てきたら厄介だ…集団戦闘が前提か。…そうだ!今回の学年別トーナメントはツーマンセルにするか!そうすれば個人戦闘が前提のISも集団戦闘の勉強になるな」

 

千冬の言葉に俺達は驚いている。

ツーマンセルか…確かに集団戦にはとても有利に、対応が早くなる。

 

「良いですね。そうすれば集団戦の利点に気付くかも知れません」

俺が賛同すると楯無と虚さんも縦に首を降った。

「よし…では職員会議で議題として挙げておこう。では私からは以上だが…マツナガ、ラウラは4日後に転入するので宜しく頼むぞ?」

「分かりました」

このあと楯無と千冬が何故か言い争いを始めたので俺は虚さんに会釈をしてから逃げ出すように生徒会室を出た。

 

何故千冬と楯無は仲が悪いのだろうか…



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51話 閑話その2

今回は私の息抜きを予てifの話です。


僕は今、朝御飯を作ってます。僕の大好きな旦那様がお仕事に行くからそれに間に合う様に少し急いでいます。

 

僕とトウヤは半年前に結婚しました。IS学園を卒業した僕達は二人とも冨士見技研にそのまま就職しました。そして僕達は冨士見技研の会社の近くに部屋を買って二人で暮らし始めました。

 

結婚までするのにはかなりの険しい道のりでした…。セシリアとの決闘…楯無先生の寝とり行動…他にも同級生、下級生から何回も告白をされていました…極めつけは千冬先生の襲撃、あれは決闘などではありません。襲撃です…あの時はトウヤさんが助けてくれなければ僕は死んでいたと思います。でもその中から僕の事を選んでくれた。その事実で顔がにやけてしまう…エヘヘヘ〜。

朝食の準備が終わると旦那様を起こしに行きます。2階の寝室に入ると旦那様がベッドで気持ち良さそうに寝ています。

暫く旦那様の顔を眺めていると布団の中に入り込みたくなる衝動にかられてしまいます。毎日、そんな誘惑と戦っています。

「トウヤ…トウヤ。起きて?朝だよ」

私は肩を優しく叩きながら耳元で声をかけます。そうするとトウヤは目を開けて僕を抱き締めてくれます。僕は毎日のこの時間がとても好きなのです。

「おはようシャル」

そういうとトウヤさんは僕に口づけをしてくれるんです。出張で居ない時以外は毎日です。

「おはようトウヤさん」

結局は僕までベッドに横になってしまいますが10分位イチャイチャしたあとは二人で起きます。これが毎日の日課?なのです。

 

トウヤさんがリビングに降りてきたら二人でお喋りをしながら朝食を食べて二人で片付けて二人で洗面をして出勤の支度をしてそして二人で車で出勤です。

実は会社でも同じ部署なのです。ただ、やっている仕事は違います。僕達は開発部の試験評価を行っています。トウヤさんがテストパイロットとして試験して僕がそれを評価しています。なぜ僕が評価かというと僕とトウヤさんが卒業すると同時に結婚と決まると僕の国籍が日本になることになりました。そうするとフランスのデュノア社所有のISは日本人に持たせて良いのか?という問題になりました。企業所有のISなので問題にならない筈だったのですがフランスの高官達が問題視してデュノア社を攻め始めたので僕は辞表を出してそのまま冨士見技研に入社しました。幸いデュノア社と冨士見技研との提携には問題にならず今でも切磋琢磨しながら技術の提携をしています。デュノア社もあの事件から3年経ちラファールの改修パッケージや高機動パッケージや第三世代型の開発に成功して経営も持ち直しています。

 

運転席のトウヤさんは真剣な表情で車を運転しています。ハンドルを握る左手の薬指には結婚指輪が光っています。これも毎日眺めて心が温かくなる日課です。車は海沿いの国道を走っています。僕たちの家は冨士見技研から車で20分程の海の見える丘に建てました。トウヤさんは24歳で戸建ての土地持ちになったのです。当初は戸建てを借りる予定だったのですが篠田さんが銀行を紹介してくれて銀行へ行って融資の話をすると破格が即答でOKが出たそうです。トウヤさん曰く

「初めて男性操縦者で得をした気がする」

との事でした。

 

「ではこれよりウイングブースターのA-12パターンの機動試験を開始します。ドローンは12機、模擬弾の使用です。被弾による損傷想定は有りです。準備は宜しいですか?」

「OKだ。いつでも始めてくれ」

「では開始します。5、4、3、2、1、始め!」

合図の号令とともにトウヤさんのISが

いきなり急加速を始めました。トウヤさんの機体は1年生の後半にセカンドシフトしてさらに機動が鋭くそして早くなりました。恐らくその頃から『銀色の彗星』って言う二つ名が付けられたと思います。アリーナを飛び回る機体がキラキラと輝いて見えるからです。そしてその流星が飛び去ったあとには被弾した機体で爆炎が上がっているのです。

トウヤさんは学園に在学中は模擬戦でも公式戦でも一度も負ける事はありませんでした。非公式ですがあの史上最強の生徒会会長だった更識楯無さんにも勝ったそうです。

室内演習場を縦横無尽に飛び回るトウヤさん。ドローンを次々と打ち落として行きます。赴任してすぐの頃は余りにも早く撃ち落としてデータ取りにならなかったのですが今は逆にどの様なデータを求めているかによって最適な機動をするようになりお金と時間の効率が物凄く良いそうです。そしてトウヤさんの機動はIS乗りにとっての目標にもなっています。在学中に国家代表となった織斑一夏もトウヤさん仕込みの機動を使っています。結局は彼もトウヤさんに一度も勝つことが出来ず卒業式ではあえて

「次は絶対に倒してみせます!」

何て事を言って別れていました。今は色々な国を回っているんじゃないかな。

トウヤさんが全てのドローンを倒し終わりました。

「全ての撃墜を確認。データ採取は良好です。トウヤさん、お疲れさま。次はビームサブマシンガンとビーム刀のテストです。武装のインストールが終わったら開始です」

「了解。ではインストールに掛かる」

トウヤさんはエステバリスカスタムを解除すると控え室に入っていきました。その間に僕は今回のデータの整理をします。僕達はなるべく残業をしない様に仕事をします。理由は二人でいる(イチャイチャ)時間が減ってしまうからです。それに冨士見技研には女性の職員が多いからです…トウヤさんが僕の事を愛してくれているのは分かりますが…心配なものは心配です!

 

終業の時間になると僕達はまた二人で帰ります。トウヤさんが運転で僕が助手席です。今は10月で海辺は気持ちの良い風が吹いているので窓を開けます。二人でお喋りをしながら家に帰るんです。そして家の近くの商店街で夕飯の買い出しをします。最近では僕達は商店街で知らない人はいないぐらいの有名人になってしまいました。トウヤさんは世界で二人目の男性操縦者でその男性を決闘の末に射止めたフランスの元代表候補生…って報道されてしまったからです。後々に分かったのですがこの報道は二階堂さんが報道機関にマスコミによる殺到を防ぐために交換条件として伝えたそうです。お陰で新居には一度も報道関係者が来たことはありません。二階堂さんには感謝しています。

買い物を終わって家に着くと僕は夕飯の支度、トウヤさんは色々と勉強を始めます。先日に資格を一つ取りました。小型船舶免許だそうです。何でも前の世界では海にも敵がいたせいで釣りが出来なかったそうです。だから釣りに行きたいと言っていました。そして今は会計の資格を取ると言っています。いつか宇宙に進出したらきっと役に立つ。ナデシコの操舵士がそうだったらしい。

 

 

夕飯は二人で食べて片付けは朝と一緒で一緒に片付けます。寝るまではテレビを見たり映画を観たりと一緒に過ごしてお風呂も一緒です。

 

 

今はとっても幸せです。僕の人生はあの日…トウヤと出会った日に変わったのです。社長の元夫人はあの事件の後に逮捕されてまだ刑務所に入って離婚しました。あの人に虐げられていた日々はこの幸せのための試練だったと思えばただの思い出に出来ます。あとは赤ちゃんが出来れば…エヘヘヘ。

 

『トーマラナーイスピードデー…』

携帯が鳴り出しました。ディスプレイにはお父さんの名前が表示されているので急いで出ました。

「もしもし?お父さん?」

『シャルロットか?今は大丈夫か?』

「うん、大丈夫だよ」

『特に用事という訳じゃないんだが結婚生活はどうだ?』

驚きました。お父さんが私の心配をしてくれている。

「うん。とっても幸せだよ。トウヤさんはとっても協力的で凄く楽しいよ?」

『そうか。良かった。…私とお前の母親との話をしておきたくてな。お前が母親になる前に…』

お母さんとの事?

『私はお前の母親の事を愛していた。これは間違いないことなんだ。そしてシャルロット…お前は私達が望んで作って生んでもらったのだ。それだけは信じて欲しい』

「………」

『シャルロット、お前は私達が愛し合って出来た子なんだ。決して望まれずに生まれてきた訳ではない』

「………」

『辛い想いをさせてすまなかった…』

「ううん…今は幸せだから良いよ。もしも僕とトウヤさんの子供が出来たら…可愛がってあげて欲しいな…」

『勿論だよ。私にとっての初孫なのだ!可愛いがわらない訳が無いだろう?今も楽しみにしているのだ!』

お父さんのテンションが一気に上がったみたい。

「お父さん」

『なんだ?』

「ありがとう。僕が今幸せなのはお父さんとお母さんのお陰だよ!」

『………ありがとう』

「ううん。これからも宜しくね『おじいちゃん』」

『ああ。困ったことがあったら何でも言ってくれ。出来るだけの事をするからな』

「うん!」

『そらじゃあ、トウヤ君に宜しく頼むと伝えておいてくれ』

「分かったよ」

通話が終わると涙が零れてきた。僕は望まれて生まれてきた。そしてお母さんも愛されていた。とても嬉しい…

「シャル?」

トウヤさんが僕の所に来たので思わず抱きついてしまった。

「トウヤさん…僕ね今凄く幸せだよ!」

トウヤさんが僕の頭を撫でてくれる。

「俺もだよ。ありがとう」

 

 

 




シャルロット回でした。


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52話

大変遅くなり申し訳有りません。私の仕事柄、出張に出るとこのぐらいのペースになる可能性が有りますので了承下さい。


学年別トーナメントがタッグマッチと決まって数日。朝のホームルームをを待っていると山田先生が入って来た。

「皆さんおはようございます。今日は転校生を紹介します。ボーデヴィッヒさん、入ってきてください!」

山田先生の声の後にドアが開いた。廊下から銀髪の少女が入ってきた。教卓の脇で此方に向き直ると背筋を伸ばす。

俺は驚いてしまった。ボーデヴィッヒの左目は眼帯がされているのだ。

「ではボーデヴィッヒさん、自己紹介をしてください」

山田先生がにこやかにボーデヴィッヒに自己紹介を促すがニコリともせずに

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

とだけ喋った。

おいおい…軍隊が勘違いされるからそんな態度はやめてくれ…。

「え?以上ですか?」

山田先生も顔をひきつらせている。

「以上だ」

ボーデヴィッヒは眉をピクリともさせずに答えると目の前の一夏に歩み寄った。その目には怒りが読み取れる。俺は急いで立ち上がり一夏に走りよるが…

 

パシン!!

 

教室にボーデヴィッヒが一夏の頬を叩く音が鳴り響いた。

一夏は頬を押さえて立ち上がると

「なにすんだよお前!!」

と怒鳴る。しかしボーデヴィッヒは怒りの目をそのままに一夏を睨み付けて

「私は認めん!貴様が教官の弟など断じて認めん!」

と怒鳴っている。

教室内は静まり返りあっけにとられている。俺も席から立ち上がったまま固まってしまっている。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!そこまでにしておけ」

千冬がボーデヴィッヒに告げるとボーデヴィッヒは千冬に向き直り

「はい、教官」

と素直に従った。やはり軍の教官には逆らわないようだ。

「私は教官ではない。織斑先生と呼べ」

「はい。織斑先生」

「よし。お前の席はマツナガの後ろだ。席につけ。マツナガもいつまで立っているんだ?席につけ」

千冬に言われたので椅子に座るがボーデヴィッヒが此方を睨み付けながら此方に歩いてくる。俺の横まで来るとボーデヴィッヒはボソリと呟いた。

「貴様が教官を倒した男か…」

呟いただけでそのあとは何もなかった。

一体なんだったのだろうか。左ななめ後ろ、シャルの方を見るとシャルは首を傾げている。そして右隣のセシリアを見るとボーデヴィッヒは気にしていない様でこっちを見て微笑んでいる。

セシリアは余裕だな…

ボーデヴィッヒが席に着くと授業が開始された。

 

 

昼休み、今日はみんなは弁当を作ってきている。前日にみんなで弁当を作ろうという話になりシャルも朝早くに起きて作っていた。俺は購買でパンを買うと言ったのだがシャルが

「一つ作るのも二つ作るのも一緒だよ」

と言っていったのでシャルが作ってくれた。

屋上の芝生で俺、一夏、箒、鳳、セシリア、シャルで輪を作っている。考えて見るとなかなか豪勢なメンバーだ。各国の専用機持ちに男性操縦者が二人に篠ノ之博士の妹。要人だらけだ。

「さぁ!皆さん食べましょう」

セシリアが声をかけるとみんなが弁当を開きだす。だが掛け声とは裏腹に皆の視線は鋭い…全員が他の人の弁当に注目している。弁当を持っていない俺と一夏は緊張感が凄い…

「い、一夏!お前の分の弁当も作ってきた。食べるがよい」

箒が一夏に包みに包まれた弁当を渡した。箒の顔が少しだけ赤いのが印象的だ。

「お?箒サンキュー!」

一夏が弁当を受けとると早速開いた。

「お!旨そうじゃん!いっただきまーす!」

一夏が弁当を食べ始めた。

「お!この唐揚げは旨いな!味がしっかりしみていているよ。箒はまた腕を挙げたな!」

一夏が箒を誉めちぎっている。箒はその光景を嬉しそうに眺めている…反面、鳳の表情がみるみる怒りに染まっていく。

「オホン!」

俺が咳払いをすると鳳が此方を睨み付けてから表情を和らげた。

「一夏!これ、私が作った酢豚よ!食べなさい!」

そう言ってタッパーを開けると一夏に差し出した。タッパーには酢豚が入っている。そう…酢豚しか入っていないのだ。

「お!?鈴の酢豚かぁ!いっただっきまーす!」

一夏はタッパーを受けとると酢豚を摘まんだ。

「うん!鈴の酢豚も相変わらず旨いな!鈴も腕をあげたんたなぁ!」

一夏が旨そうに食べているのを鳳が眺めている。表情は先程と違って嬉しそうだ。

「はい、トウヤも食べて」

シャルが俺に弁当を渡してくれた。

「あぁ、すまない」

蓋を開くと色とりどりのおかずの入っている。

「味は自信ないからあまり期待しないでね」

「大丈夫だよ。いただきます」

まずは玉子焼き。シャルは本を見ながら作っていたから味の心配は無いだろう。

玉子焼きを一口食べると…うん、普通に玉子焼きだ。少し甘めで美味しい。

「うん、美味しいぞシャル」

俺の言葉を聞いたシャルはホッと胸を撫で下ろすと笑顔になった。

「口にあって良かった!どんどん食べてね」

俺は他のおかずを食べるとセシリアが此方を睨み付けていることに気が付いた。

「どうしたんだ?セシリア?」

声をかけるとパァと明るくなった。

「トウヤさん!私の料理も召し上がってください!」

そう言うとバスケットを此方に差し出した。サンドイッチだ。

「そうか。じゃあ頂こう」

俺はタマゴサンドを手に取り口に入れると………

 

 

はっ!

俺は気が付くと知らない天井を見つめていた。首を振って右を見るとシャルが寝ている。そして左を見るとセシリアが寝ている。一体何が起きたのか…腕時計で時刻を確認すると16時を過ぎている…4時間近く寝ていたことになる。体を起こし立ち上がると保険医がやって来た。

「起きたわねマツナガ君どこか身体に異常はない?」

「いいえ…ところで一体何が起きたのですか?」

俺の言葉に保険医が『え?』という顔になった。

「覚えていないの?」

「確か…弁当を食べていて………」

そこから先が分からない。

「そう…あなたはサンドイッチを食べたの。それが原因で倒れて気を失ったのよ。そこの二人も同じ」

サンドイッチ…あ!!セシリアが作ったサンドイッチかぁ!!

「思い出したみたいね…他の人の話を聞くにセシリア・オルコットの作ったサンドイッチを食べたら倒れたみたいね…」

なんてことだ…セシリアのサンドイッチは一体何が入っているんだ?人間の気を失わせ更に前後の記憶を失わせる。

「先生…薬などは検出されましたか?」

「薬物は検出されなかったけど…話を聞く限り薬物に近い機効能はあるようね」

薬物が検出されない…では食べ物だけ??

 

「彼女達も食べてしまったのですか?」

セシリアとシャルに視線を移すが先生は何も言わない。

「先生?」

「ごめんなさい。彼女たちの事は直接本人から聞いてちょうだい」

よく分からないが先生がそう言うならばそれで良いのだろう。

「それじゃあ私は織斑先生に報告に行ってくるからもう少し寝てなさい。二人が起きたらそう伝えてちょうだい」

そう言って保健室を出て行った。

ベッドに横になる。若干胃がむかむかするがそれ以外は全く異常がない。

セシリアのサンドイッチ…今度、調理に立ち会ってみよう。

「うーん…」

隣で寝ているシャルが目を開けたようだ。

「シャル?気分はどうだ?」

俺が声を掛けると上体を起こして周りを見回す。

「え?ここは?」

「保健室だ」

「え?なんで僕は保健室にいるの?」

「よく分からないがセシリアのサンドイッチが関係しているようだ」

「サンドイッチ…あ…そうだ!?セシリアのサンドイッチを食べたらこうなったんだよ!!」

「すまんが説明してくれ。」

「セシリアのサンドイッチをトウヤが食べたとたんにいきなり倒れたから慌てて僕が吐き出させようとしたんだけど…その…マウストゥーマウスで吸い出そうとしたらそのまま僕も飲み込んじゃったんだ…」

すまない…シャル…

俺は事の混沌さに言葉が出てこない。

「そのあとの事は分からないな…」

「すまない…もういいよ」

俺とシャルはハァ~と溜息をつくとベッドに横になる。

 

「トウヤ!!大丈夫か!?」

保健室のドアが弾き飛びドアから入ってきたのは千冬だった。

「織斑先生…ここは保健室ですよ?先生がそんな事をしちゃまずいでしょ?」

千冬は『うっ…』と言って少しだけ俯いた。

「体調は問題ありません。シャルも先ほど目を覚ましました。セシリアはまだですが」

「(シャル?)そうか。保険医からおおよその事情は聴いたが…サンドイッチとは何の冗談なのだ?」

千冬がセシリアの方を睨み付けている。若干黒いオーラが見える…はずが無いのだが…確かに見える。

「いや…俺もいまいち状況が理解できていないのですよ。ところで…押さえてください織斑先生。怒気が漏れてますよ…」

隣のシャルを見ると泡を吹いて倒れてしまっていた。

「あ… やり過ぎだよ千冬…」

頭を抱えて言うと千冬はすまなそうな顔をしていた。

「…最近お前がかまってくれないからだ…」

千冬がぼそっっと呟いた。

 

なんだこの可愛い生き物は!!

 

「千冬…隣に座って」

 

千冬が俺の隣に座ると千冬の頭を俺の膝の上にのせる。千冬は最初は体を固くさせていたが次第にリラックスしたようだ。

「ごめんな。今度の休みに出掛けようか」

俺は千冬の頭を撫でながら話かけると千冬はそのままの姿勢で答えた。

「どこに連れて行ってくれるんだ?」

「う~ん…ここら辺の地理は詳しくないが…観光でもしてみようか?」

「そうだな。では湘南に行ってみよう。あそこなら私でも多少は知っているからな」

こうして俺と千冬のお出掛けが決まった。

 

それから5分程そのままの姿勢で 話をしていたがセシリアが気が付き起きはじめたので慌てて千冬がベッド横の椅子に座りセシリアを睨み倒そうとしたのを阻止したのは言うまでもない…

結局全員が起きたのは夕食直前で夕食時にセシリアがみんなに謝っていた…そしてセシリアに料理を教えると言うことで話は纏まった。



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53話

大変おそくなり申し訳ありません。
筆が進まなくて遅れました。
書いてて気付いたのですが楯無はチート過ぎませんか?


『サンドイッチ事件』の数日後の放課後、俺はアリーナにエステバリスを纏って楯無と対峙している…

「やっと…やっとあなたと戦えるのね♪」

ミステリアス・レイディを纏った楯無がうっとりとした表情を浮かべている…。実はこいつはバトルジャンキーなのか?

『ではこれから楯無お嬢様とマツナガ副会長との模擬戦を開始します。この模擬戦はあくまでも非公式ですので例えマツナガ副会長が勝っても会長の交代は行われません。宜しいですねお嬢様?』

今回の模擬戦の立会人兼オペレーターとして虚さんに管制室に居てもらっている。

「う〜ん…出来れば会長は変わって欲しかったけどそれが条件じゃ仕方ないわね♪」

「マツナガは了解です」

『レギュレーションは通常の模擬戦ルールと同じくシールドエネルギーが残り二割を先に切った方の敗けとします。では試合を開始します』

アリーナ内には超満員の観客が集まっている。無観客を希望したのだが楯無に阻止されてしまった。楯無曰く、

「無観客にしても万が一私が負けた映像が出回った場合に学園内の雰囲気はトウヤさんが会長であるべきと言う流れになってしまいます。だったら非公式試合と言うことにして観客を入れてしまった方が良いんじゃない?」

との事だったが…正論だ…。何も言い返せなかった。

『3、2、1、スタート』

ブザーが鳴り響くと同時にアリーナ中が歓声に包まれて、二機が急速に距離をとった。

 

「「え!?」」 

 

俺と楯無の声が被った。完全に二人して詠み違えた。

俺は右手にレールガン、左手にラピッドライフルを呼び出し楯無に撃ち楯無も四門のガトリングを備えたランス、蒼流旋を呼び出し此方にバルカンを撃ってきた。お互いに縦横無尽に動き回り紙一重で直撃弾を避けている。

「くっ…さすがはロシア代表だ!当たらない…」

「トウヤさんも凄いですね♪なんて流れるような機動なんでしょう…惚れ惚れしちゃうな♪」

楯無には余裕が感じられる。それともそう見せているだけなのか…。

お互いの距離を一定に保ちながらアリーナ内をぐるぐると飛び回る。しかしそれぞれが撃っている弾は当たらずに地面や観客席を守るシールドバリアに当たっている。観客席は試合開始時と違い静まり返っている。皆が息を飲んで見入っているのだ。

「切りがない!」

このままでは試合が進まない…俺は状況を変えるべく両手の武器を仕舞うとフィールドランスを呼び出し楯無へと突撃をする。直線的には飛ばずランダムに上下左右に小刻みな動きを取り入れる。楯無も俺が近接戦闘に切り替えたと分かると蒼流旋のバルカンの射撃をやめて蒼流旋の回りを回転した水を纏わせた。

(あれが…ナノマシンを使って水を制御しているのか)

本当に水を制御していることに驚きを覚えるが俺は構わず楯無に突きを入れる。楯無は避けることなくそのままの突きを受け入れたが水に阻まれた!

「くっ!水が厄介だ…!」

完全に水で貫通力を奪われた…

俺は一端距離を開けてから再び楯無に突きを入れる。また楯無は避けることなくそのままの受け同じように水に阻まれた。

「ったく水を制御ってどれだけチートなんだよ…」

俺が愚痴ると楯無は口許を吊り上げて微笑んでから口を開いた。

「あら…珍しく言葉が汚いですね。そんなトウヤさんも悪くはないですが…」

俺は楯無から距離をとる。

「ふざけんな…こっちは打つ手が無いってのに余裕かましやがって!ところで…さっきからなんでさっきから水蒸気を回りに漂わせているんだ?」

離れてから気付いたのだが楯無の回りだけが妙に湿度が高く少しだけ白く靄がかっている。

「あら…気付いちゃったの?それはね…ヒ・ミ・ツ♪」

楯無の余裕の喋りに思わず頭に血が昇った…だがすぐに冷静さを取り戻した。

「切り札か…」

何が起こるか分からないので迂闊には近づけない。フィールドランサーを仕舞い再びレールガンを呼び出すと楯無に向けて撃つ。楯無は身軽に避けると再び蒼流旋で反撃をしてくる。また二人はぐるぐると回りながらの射撃戦が始まった。俺はなるべく正確に撃つが直撃させることが出来ない。左手にラピッドライフルを呼び出し牽制射を加えてからレールガンで直撃を与えようとするがうまくいかない。ぐるぐると回っているせいか段々と息が上がり始める。

その時一瞬だけ油断してしまったのか左手に直撃をくらいラピッドライフルが手から離れてしまう。離れた瞬間に爆発してダメージをおってしまった。

「ぐ…!ぬかった…」

シールドエネルギーが減っている。俺は再び左手にラピッドライフルを呼び出して打ち続ける。

なんとかしなくては…何か弱点が有るはずだ…ラピッドライフルとレールガンを撃ちながら楯無を観察するが特に不思議な点は無い様に思える。

打つ手が無い…

「この…反則な機体め!」

考えてもしょうがないのでラピッドライフルのマガジンを呼び出して楯無に投げつけそれを楯無の付近に到達した時にレールガンで撃つ。楯無は何が起きるのか分からず避けもしなかったため爆風をもろに食らってしまった。

「え?」

俺もまさか楯無が爆風を食らうと思わず声を出してしまった。

爆煙が収まると楯無の表情が険しいものになっていた。まさかダメージを与えられたのか?

「いきなり何をするのかと思いきやまさか弾薬を爆発させるとは…考えたわね」

どうやら正解のようだ。

もしかして弾速が早い物にはあの水は対応出来ないのか?だから射撃は避けていたのか…

「いや…すまん…まさか避けないとは思わなかった…」

思わず謝ってしまったが対策は見つけた。先程の爆発で楯無の回りの水蒸気は晴れたので俺は再び楯無に接近すべく楯無に向かって突撃をする。楯無も蒼流旋で此方に射撃をしてくるが俺は機体を最小限に動かして避ける。そして楯無との距離が近づいたところで吸着地雷を呼び出し信管を時限にしタイマーを2秒にセットして楯無に向かって投げる。すると楯無が後退するが俺がいつまでたっても吸着地雷を撃たないことに気付き顔をハッとさせた瞬間に大爆発が起きた。楯無は爆炎に包まれて姿が見えなくなった。

 

そしてアリーナは静寂に包まれる。

 

 



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54話

遅くなりました。



爆炎に包まれた楯無はなかなか煙から出てこない。

もともと吸着地雷は対艦用で一発で駆逐艦を中破させる威力を持っている。地雷の中に鉄の破片が入っており周囲に高速に破片を跳ばすことで破損させる。今回の爆発で俺も若干の破片を食らったが問題は無い。

爆煙が晴れ始めると楯無の姿が見えてきた。蒼流旋は持っているが水は纏っておらず機体も同様で水のベールが無くなっている。

「もう…完全に油断しちゃったな…まさか時限式とはね…」

楯無の表情は試合開始時の余裕の表情がない。そして機体も所々破損している。あれは確実に絶対防御が発動したな。

「怪我はないか?」

俺の問いかけに楯無は目を丸くして驚いている。

「戦闘中に何を聞くのよ…」

「模擬戦だ。実際の戦闘ではないんだ。心配をするのは当たり前だ。少し威力が高すぎた。さっきのは対艦用の地雷だからな」

「納得…怪我は無いわ。心配してくれてありがとう。じゃあ続きを始めましょう!!」

会話が終わると楯無は蒼流旋を構えて此方に突っ込んできた。

俺もレールガンをしまってフィールドランスを呼び出し楯無の蒼流旋を受け止めて蹴りを入れるが楯無は咄嗟に後ろに下がって交わした。俺はフィールドランスを持っていない左手を引くとナックルガードをセットして前に付き出すと手首より先を飛ばした。ワイヤードフィスト、分かりやすく言えばロケットパンチのワイヤー付きだ。楯無はまた知らない攻撃に戸惑ったのか反応が遅れて俺の左手は楯無の右肩に直撃した。そしてそのまま楯無との距離を詰めてフィールドランスを楯無に突き立てた。ランスはシールドバリアに直撃したが、楯無も蒼流旋を此方に突き立て直撃する。シールドエネルギーがみるみる減っていくが楯無も同じように減っているはずだ。そこで俺はフィールドランスの先端を開きシールドバリアをこじ開けたと同時にアリーナにブザーが鳴り響いた。

『更式機、シールドエネルギーエンプティ!勝者、マツナガ!』

アリーナが歓声に包まれた。

「あ〜あ…負けちゃったか♪」

「俺の機体の特徴や武装を知らなかったからだよ。次回は負けないだろ?」

「そうね。次回は負けない!」

俺達はそんな話をしながらピットへと向かった。

 

 

「あんな小娘に苦戦するとは…マツナガ、腕が落ちたんじゃないか?」

ピットに戻っていきなり千冬からお説教を食らっています。

「織斑先生…さすがにみんなの前で小娘は不味いですよ…。それにあの水のベールは反則ですよ?」

「あれは…確かに反則だな。私も苦戦したからな。だがお前は途中で諦めただろう?」

千冬の言葉に思わず視線をそらしてしまう。千冬はそれに気づいたのかため息をついた。

「確かにお前にとってはつまらなく、やる気の起きない試合だっただろうがせめて本気でやってやれ」

「はい…」

途中からやる気が無くなったのが分かってしまったようだ。

「ともあれお疲れ様。ゆっくり休め」

千冬がピットから出ていった。

 

「ふぅ…」

ベンチに座り一息つき今回の模擬戦について考える。

今回の模擬戦はとても苦戦した。技術が足りてなかった。結局は楯無に攻撃を一度も当てられなかった…実戦を経験しているはずなのにだ…間違いなく実戦ならば死ぬな。鍛え直さなきゃな…何故だか気分が落ち込んでしまった。まるで初陣で何も出来なかった時のようだ…暫く動けなくなってしまった。

着替え終えてピットを出るとそこにはセシリアとシャルが待っていた。もしかしてずっと待っていたのかもしれない。悪いことをしてしまったな。

「お疲れ様でした。これで学園最強ですね」

「でも随分と苦戦していたようだね」

セシリアとシャルが労ってくれるがシャルの言う通り苦戦した。その事実に俺は顔をしかめてしまった。

「やっぱりトウヤさんは納得してなかったんだね。楯無会長は強かったね…学園最強っていう肩書きは伊達じゃないね」

「ですが学園最強に勝ったのですから胸を張ってくださいまし。」

どうやら俺はセシリアとシャルに慰められているようだ。

「すまない。自分の不甲斐なさにイラついていた。これからはもっと訓練をしっかりするよ。次の楯無との模擬戦にはしっかり勝てるようにね。」

 

笑顔で謝ると二人も安心したようだ。

「では夕食をご一緒しませんか?」

「僕も一緒に行きたいなぁ。」

セシリアの提案にシャルも食い付き目を輝かせている。

「いつも一緒に食べてるのに何でそんなに嬉しそうなんだ?じゃあ行こうか。」

そう言いながら俺達は食堂に向かって歩き始めた。物陰から楯無が観ているのも気付かずに…。

 

「それで…会長は何の用なのでしょうか?」

食堂で食事を受け取り3人で席に付くと楯無までもが俺たちの席に座った。セシリアとシャルはあからさまに嫌な顔をしているが当の楯無はどこ吹く風でこちらに話し掛けてくる。

「今日はありがとう。まさか負けちゃうとは思わなかったわ。一応非公式の模擬戦だから会長の交代は約束通り無しになるわ。」

どうやら約束は守ってくれたみたいだ。

「今回の模擬戦で勝てたのはまぐれです。会長も次回は負けないと思っているでしょう?」

「そうね。弾に一発も当たらずに地雷にやられたなんて…でも負けは負け。確かに次回は負けないとは思っているけど…あなたももっと訓練しなくてはって思っているのでしょう?」

さすがは会長だ。俺の心内は完全に読まれているみたいだ。

「はい。あの体たらくでは生き残れるとは思いません。会長の腕は凄すぎです。」

これは本音だ。どうも俺は自惚れていたようだ。木連との『戦争』を経験し地球軍最強のナデシコに所属して彼らにひけをとらない戦果を挙げていた。だが楯無との模擬戦では結果的には勝ったが射撃も近接も直撃を与えられなかった。

「誉めてくれてありがとう。でもあなたの腕はもっと素晴らしい。もっと訓練をすればさらに腕をあげられるわ。」

「私もお手伝い致しますわ!」

隣に座るセシリアが俺の右腕にしがみついて協力を申し出てくれるが…

「僕も手伝うよ!」

シャルも左腕に抱き付いてきた。

二人にしがみつかれたが…なんと言うか二人の柔らかいものが俺の腕に…

「む…」

楯無が言葉の通りムッとなり立ち上がると俺の席の後ろに回り腕を首に巻き付けて抱きついてきた!!

「会長!?なにやってるんですか!」

「何って、私も訓練に付き合うわよん」

何だこれ…背中にも柔らかいものが…

「はぁ…ありがとうございます…」

「会長!あなたは忙しいでしょう?お止めになったほうがよろしくては?」

「そうだよ!会長はやめておいたほうがいいよ!」

セシリアとシャルと楯無に言葉の通り引っ張りまわされる。

右に左に後ろに体をグルグルと回された。いい加減イライラし始めてきたので声を出そうとしたその時・・・食堂中に殺気が満ちた。周りを見渡すと食堂にいた生徒達がバタバタと倒れる者が続出した。

「トウヤ・・・貴様は何をやっているか・・・」

食堂の入口に般若の姿が後ろに見える千冬が立っていた。俺の両腕にしがみついていたシャルとセシリアはガタガタと震えているが気を失ってはいない。背中の楯無だけは震えていない(顔が見えないのでそう思う)。

「織斑先生・・・周りの被害がひどすぎです。お叱りは後で受けますからひとまず怒りを抑えてください・・・」

俺が千冬に声を掛けると千冬もはっとなり周りを見回し気まずそうな表情となっている。

 

「それといい加減三人とも離れてくれないか?訓練ならば皆で行えば良いだろう?セシリアもシャルも楯無会長の技術を盗むチャンスだろう」

シャルとセシリアは納得いっていないようでなかなか離れようとしない。楯無は素直に離れた。

「デュノア?オルコット?」

俺が苗字を呼ぶと慌てて離れた。

「それじゃあ今後はみんなで訓練しよう。いいね?」

三人は首を縦に振り一先ずは落ち着いた?のだろうか。

 

さて・・・この食堂の惨劇はどうしようか・・・

 

 

 

 

 

 

 



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55話

少しだけ浮気みたいな話にしました。


白い天井が目の前に広がっていた。

ここは?

体を起こして周りを見てみるとここはナデシコの医療室だった。

 

なんでここに?

 

「エリナ、気が付いた?気分はどう?って聞いても良い訳無いわよね」

この部屋の主であるドクターのイネス・フレサンジュだ。

「…なんで私はここに?」

私が訊ね返すとフレサンジュは目を少しだけ細めた。元々細いのにさらに細くなったのだ。

「そう…やはりね…少し待っててね」

フレサンジュは私の寝ていたベッドから離れると誰かと話を始めた。その間に私は今までのことを考えてみる。ナデシコは地球―月の軌道の哨戒を行っていて敵と遭遇した。それを撃退中にテツジン型に遭遇して…チューリップに逃げ込んだ…

考え込んでいるうちに艦長のミスマル・ユリカ、戦闘指揮担当のゴート・ホーリ、会計監査のプロスペクター、それと私の上司でもあるアカツキ・ナガレがやって来た。ナデシコの運営陣である。

「エリナさん!具合はどうですか?」

艦長が底抜けに明るい声で訊ねてきた。少しイラッとしてしまった。私はこのミスマル・ユリカがあまり好きではない。連合大学戦略シュミレーションが無敗の逸材らしいけど所詮は七光りなのでしょう。温室育ちのお嬢様。確かに指揮能力はあるようだけど。けどあの天然記念物並の世間知らずさ加減は嫌いだ。

私はここまで実力で上がってきた。ネルガル重工という世界でもトップクラスの企業の秘書課に配属されて会長秘書に抜擢された…それなのに…彼女は…

 

「なんとも無いです。戦闘はどうなったの?」

 

先程の戦闘の経過を聞くとみんなが表情を曇らせた。

 

「その事なのですが…」

 

艦長とフレサンジュが頷き合うと艦長が口を開いた。

 

「先の戦闘は何とか逃げ切りましたが…その…マツナガ・トウヤさんが…MIA(戦闘中行方不明)認定されました…」

 

「え?誰がMIAなんですか?」

 

「え…トウヤさんです…」

 

「ですからトウヤとは誰なのですか?」

 

「「「「!!!!!」」」」

 

「もしかしたらと思っていたけど…やはり記憶が…」

 

フレサンジュが腕を組んで私の事を見ている。

 

「それでトウヤさんとは誰なのですか?」

 

艦長は口を押さえて驚いている。

 

「マツナガ・トウヤ、ナデシコのエステバリス隊のパイロットだ。エリナ君がナデシコ艦内で最も仲良くしていた者だ」

 

ゴート・ホーリが答えたがやはりその名前には覚えがない。

 

「私が仲良くしていた?マツナガさんと?」

「そうだ…ナデシコ艦内でその事を知らない者がいないぐらいの周知の事実だ」

 

今までこれ程気持ちが悪くなったことなどあっただろうか…。私が知らないのに周りの『知っている』人達が、私の『知らない』人と私が一番仲が良かったなどと言っているのだ…

 

「エリナ君…みんなの言っていることは事実だ。僕が彼を君に護衛として付かせたんだ」

 

アカツキ会長が言っているのだ…事実なのだろうが…気持ちが悪い…

 

「…いや…キャァーーーーー!!!」

 

私は再び意識を手放した…

 

 

 

 

 

 

『戦闘報告書

発 機動戦艦ナデシコ

宛 地球連合宇宙軍極東指令部

報告者 ゴート・ホーリ

 

我々、第13独立機動艦隊 機動戦艦ナデシコは地球、月軌道の哨戒行動の為にカワサキシティーを出港し当該軌道にて木連部隊と遭遇。これを撃破する為に戦闘状態に突入。木連部隊は無人機部隊のみを投入し我が方の機動部隊を誘導しその隙に有人機テツジン型の奇襲を仕掛けるも此方の即応予備機の奮戦によりこれを撃退した。しかし我々は木連部隊のボソン砲による機関部への攻撃を受け高速での移動が不可能となる。エステバリス隊のマツナガ少尉の囮作戦によりナデシコはチューリップへの突入によるボソンジャンプにより当該戦域の脱出に成功するもマツナガ少尉は戦闘中行方不明となる。ナデシコのチューリップ突入直前に敵テツジン型の自爆装置の作動を確認した為、生存の可能性は低いと思われる。しかし今戦闘の功労者であるため捜索に尽力されることを希望する』

 

 

私は、先の戦闘の報告書と戦闘の記録映像を見ている。シルバーのエステバリスがテツジン型と戦闘をしていてその最中に私はそのパイロットのマツナガ少尉と話をしている…しかも私は彼ととても仲が良かったようで彼が戻れないと分かると泣き始めている。

 

現在ナデシコはカワサキシティーに向かっている。ナデシコはチューリップへの突入後に地球ー月軌道の地球とは正反対の宙域にボソンアウトしたようだ。オペレーターのホシノ・ルリによる総員起こしのあとに地球連合極東指令部に連絡をとると指令部では大騒ぎだったらしい。あの戦闘から一月経っていたみたいだ。つまりナデシコは火星脱出以来再び時間を跳んでしまったみたい。その為ナデシコは指令部からの出頭命令でカワサキシティーに向かっている。

「どう?何か分かった?」

私の左隣に座っている正操舵士のハルカ・ミナトが声を掛けてくれた。

「いいえ、分からない…顔も見たことないし…なんで私は彼にイヤリングを渡したのかしら?」

私は彼にイヤリングをわたしていた。私のお気に入りのチューリップクリスタルのイヤリング。ボソンジャンプの『キー』となる貴重な物だけどとても綺麗な青色の宝石だったので研究所から貰った物。決して横領ではない。

「それは勿論あなたは彼が好きだったからよ」

…え?

私は彼を好きだった?

「それは本当?」

私が聞き返すとミナトは可笑しそうに笑いながら答えた。

「あら…エリナは気がついていなかったの?というか記憶が無いのか…あなたは彼と話をしている時はとても楽しそうにしていたのよ?それと彼が他の女性…例えばリョーコちゃんと話をしていた時なんて唇を噛んでしまうぐらいに嫉妬心をもっていたわね。後は…ホーメイガールズのサユリちゃんと食堂で話込んだらナイフを握りしめていたり。色々とあったけどあれは間違いなく恋をしていたわね」

…自分の行動に少し驚いた。

私は自分の事を冷静な女だと思っていたのにまさかここまで嫉妬深くなってしまうとは…

「本当にあの時のエリナさんは幸せそうでしたね。少し羨ましく思ってたんですよ」

通信士のメグミが会話に入ってきた。。

「あら…メグちゃんなんで?」

「だってボディーガードみたいなものじゃないですか~。私の命を体を張って守ってくれるんですよ?しかもエステバリスのパイロットですよ?強い男ですよね」

メグミはまるで夢見るは少女のような顔をしている…年齢的には少女ではないけどね…

「そぉね~♪確かにボディーガードでパイロットってなんか凄いわね…あまりにも気さくだったから気付かなかったけど実はエリートなんじゃない?ネルガルでの立ち位置はどうだったのかしら…」

「彼の事は分からないけど特別な人材だったのかも知れないわね。会長直々の命令でナデシコに乗り込むならばね」

「そうだったのね…」

ミナトとメグミの表情が暗くなる。マツナガさんのMIAでナデシコでの事実上の戦死は二人目らしい。一人目は会ったことがないけどヤマダ・ジロウというパイロットが死亡したらしい。

 

「ですがまだ戦死したと決まった訳ではありません」

 

突然喋りだしたのはホシノ・ルリだ。

 

「皆さんは諦めているのですか?映像にはマツナガさんがやられたらところは写っていません。それにもしかしたら敵の捕虜になっている可能性だってあります」

 

ホシノ・ルリがここまではっきりと声を大きめに言うなんて初めて見た。少しだけ驚いてしまった。

 

「そうね!みんなも希望は低いけどまだ生きていると信じよう!」

 

珍しく副長のアオイ・ジュンが大きく声をだしてみんなを励ましている。

それから艦内でマツナガさんの生存を信じているという雰囲気が広がり艦内が明るさを取り戻し始めた。

 

私はマツナガ・トウヤという人物が気になりはじめていた。

 

 

 

 

 



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56話

「そう!速度は落とさずに相手の進路をもっと正確に、確実に塞いで!」

楯無の声には普段のふざけた感じがなく真剣に俺に指導をしてくれている事がわかる。

「セシリアはもっと機体の操縦だけでなくビットの操作にも意識を回して!シャルロットは予測射撃が甘い!相手をもっとよく見てそして相手の嫌がる所に弾を置いていく!」

 

俺達3人はお互いに撃ち合っている。つまりバトルロワイアル方式で模擬戦闘をしている。お互いが敵なので常に他機との位置関係を意識しなければならず、更には牽制をしなければならない。格闘術での乱取りみたいなものだ。

 

「くぅ…トウヤさん…動き過ぎですわ…」

セシリアは歯を食い縛りながらも文句を言っている。

 

「当たり前だ!相手の喜ぶ事をしたって敵は落ちてはくれないぞ!」

 

こんな偉そうな事を言ってはいるが実はそんなに余裕はない…セシリアは元々後方からそんなに動かずに狙い撃つアーチャー的な役割なので機動はそこまで上手くない。だがシャルはかなりのものだ。元々シャルは第二世代機に乗っているため近距離からの射撃の手数で勝負している様で機動がとても上手い。近寄ってきてマシンガンやアサルトライフルで撃ってくるのはかなり厄介だ。

 

「トウヤは本当に…すばしっこいよね。なかなか…くっ…当たらないや…結構上手いと思ってたんだけどな…」

 

しかも喋りに余裕があるように思える。

俺は右腕にラピッドライフル、左腕にレールガンを持って相手にしているが二人は俺を主目標にしているようだ。

 

「マツナガ君!さっさと片方を潰しなさい!こういう時のセオリーは分かっているでしょう!」

 

楯無の言葉を俺は理解出来る。こう言う時のセオリーとは『弱い方を先に落とす』だ。つまりこの模擬戦で言うならばセシリアが一番落としやすい。

 

「…会長、あなたは鬼ですね…」

 

「当たり前よ。こういうのは分からせなきゃならないのよ」

 

つまりこの『機動戦闘』ではセシリアが一番弱い事を本人に分からせなければいけないと言うことだ。

 

楯無の言葉には同意なのでセシリアをターゲットにする。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…私が…一番弱いという……事ですのね!」

 

セシリアに俺の射撃が集中するとセシリアは回避に専念するようになった。

 

「セシリアちゃん!そこで攻撃の手を休めたら悪循環よ!攻撃は止めずにチャンスを作るのよ!」

 

楯無からアドバイスが飛ぶがセシリアには余裕が無いせいか攻撃が無い。そして避けきれずにラピッドライフルを食らい体勢を崩し、そこへ俺のレールガンを撃ち込み…直撃、絶対防御が発動してシールドエネルギー切れとなった。

 

「セシリアちゃんお疲れ様。ピットに戻って着替えておいてね。このあとみんなでデブリーフィングやるからね♪」

 

楯無の能天気な声が聞こえたが…反面セシリアの表情は悔しさが滲んでいた。

 

「トウヤ!模擬戦の最中に女の子をわき見するなんて余裕だね!」

 

わき見をしていた訳じゃないがセシリアに気を取られている間にシャルの接近を許してしまった。俺は急いでシャルの左側へと回り込む。人間には必ず反応の鈍い方向がある。つまりは利き手とは逆方向だ。シャルは右利きの様だったので咄嗟にシャルの左側へと回り込みそのまま後ろからレールガンを放ちシャルのシールドエネルギーも尽きた。

 

「これで模擬戦は終了ね。二人とも着替えたら食堂に集合ね…あ…セシリアちゃんに場所を伝えるの忘れたわね…じゃそう言うことで」

 

 

 

アリーナのロッカー室で着替えるとアリーナの出口でシャルが待っていた。

 

「あ、トウヤ!」

 

「シャル、待たせたか?」

 

「ううん、勝手に待ってたんだから気にしないで」

 

「そうか。じゃあ行こうか」

 

そう言うと俺達は食堂に向かって歩き始めると…右腕にシャルが俺の腕にだきついてきた。

 

「おい…」

 

「ダメ?」

 

上目遣いで言うのは反則だぞ…

なんと言うか…

 

「ダメでは…無いとは思うが…恐い人に見つかっても知らないぞ…」

 

千冬さんとかな。この前の食堂の騒動は千冬の殺気が原因とは言えず原因不明の昏倒『事件』となってしまいテロ事件の疑いまでもたれてしまった。一応、楯無には事情を説明しておいたが…楯無に借りを作ってしまった。

 

「負けないよ…」

 

なにかボソッと言っていた。

何か恐ろしい事にならなけらば良いが…

 

 

 

「それで…どういうことですか?シャルロットさん?」

「どうもこうもないよ。見ての通りだよ。僕はトウヤと腕を組んで食堂までやって来たんだよ」

 

蒼い子と黄色い子がいがみ合っている…なんでこの学園の子達はこうも仲悪いのか。やはり国の代表となると

簡単には譲れないのかな…

 

「ほら、二人とも!食事とデブリーフィングやるよ」

 

楯無はすでにしょうが焼き定食を持って席に着いていた。俺もざる蕎麦を持って席につく。セシリアとシャルはいがみ合いながらも食事を持って席につく。

 

「さて、今日の模擬戦だけどもまずはセシリアちゃん。しょうがないわね。そもそもポジション的にあのパターンはなかなか無いわね。ただし、出来るにこしたことはないわね。ベストは高機動射撃ね。」

 

その通りなのだ。セシリアが高機動であのビット攻撃とスターライトmk3が使えたらかなり強くなる。

 

「そうなのですか?私は後方から狙い撃つのがセオリーかと思っていましたが…」

 

セシリアが首を傾げながら楯無に聞き返した。確かにセシリアの質問は最もだ。セシリアの機体は間違いなく中~遠距離向けの機体だ。だが高火力は遠距離から狙うとどうしても外れやすい。特にライフルなんかは動かない、若しくは動きの鈍い敵に対しては有効だ。だがその高火力を近距離から高機動で射たれたらどうだろうか。しかも自分の意識で動くビット付きだ。俺ならば逃げ出すね。セシリアを正面に捉えていてもいきなり背後から撃たれる。つまり正面に集中出来ない。

 

「正面の相手に集中出来ない戦いなんてあまりしたくないわよ」

 

楯無の言葉にはっとなるセシリア。どうやら気付いたようだ。

 

「そうですわね…確かに恐ろしい話ですわね…」

 

「僕もやだな…」

 

シャルも頷いている。

 

「ただその域に達するには相当な訓練が必要ね。まずは姿勢制御をマニュアルにしてビットを無意識に近い形で制御してさらにそれを機動も同時に操らなければいけない。道のりは遠いわよ?」

 

楯無の表情は真剣だ。

 

「望むところですわ!やって見せます!」

 

セシリアが席を立ち胸に手を当てて高らかに宣言した。こう言う時のセシリアはかっこいいのだが…

 

「そう。ならば頑張って頂戴。次はシャルロットちゃんね…って食事をしちゃいましょうか…ごめんなさいね…話に夢中になっちゃったわね。さぁトウヤ、あ~ん♪」

 

そう言うと生姜焼をひと切れ掴むと俺の口に持ってきたのだ。

 

「会長…何をやっているんだ?」

 

箸を俺の口元に持ってきている楯無を見ながら尋ねるが楯無は相変わらずニコニコしながら

 

「あ~ん♪」

 

辞めようとはしない。

 

「楯無会長…お止めになっては?トウヤさんが困っておりますわよ?」

 

ナイスセシリア!

 

「あら…トウヤ?本当に迷惑かしら?」

 

上目使いの目線…今日は良くこの目線を見るな…

 

「う…それじゃあ…貰っておこうか…な。あーん」

 

俺が楯無の生姜焼を食べると楯無は嬉しそうに笑い、その反面セシリアとシャルはムスっとした顔になった。そして次はシャルのムニエル、セシリアのフライと続き食事の時間はやたら長くなってしまった。

 

それにしても千冬が来なくて良かった…

 

 

 

 

 

 

 



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57話

「さて…次はシャルロットちゃんね。シャルロットちゃんは機動戦闘の基礎は良くできているね。あとはどれだけ伸ばせるかね。もっと上を目指して訓練をしてね。一つ勘違いをしちゃいけないのはセシリアちゃんが弱い訳じゃないよ。シャルロットちゃんとセシリアちゃんはポジションが違うのよ。だからシャルロットちゃんはセシリアちゃんに遠距離射撃を教えてもらうのよ?セシリアちゃんはシャルロットちゃんに近接戦闘を教えてもらうとベストね!」

 

流石は楯無だな。お互いに高め合わせようとしている。

 

「さて…最後にトウヤさんだけど」

 

楯無が俺に向き直るが…笑顔が消えた。ただならぬ雰囲気にすこし身構える。

 

「ねぇ…トウヤさん?あなたは………誰が本命なの?」

 

思わず楯無の言葉が理解出来ず固まってしまった。一体何を言っているのだろうか。

 

「だから…誰が本命なの?」

 

シャルとセシリアも身を乗り出してこちらを見ている。

その時…背中に冷や汗が流れた。

 

「なんだか面白そうな話をしているな?私も混ぜてくれないか?」

 

なんと席の端に座っている。いつの間に…

 

「それで…トウヤは誰が…その…好きなのだ?」

 

千冬が顔を赤くしてもじもじしながら尋ねてきている。ちょっと可愛いとも思ってしまったが…生徒の前で恋する乙女をさらけ出すのは少し不味いのではないのかな…と言っても年齢が近いのだから立場さえなければ自然の流れなのかもしれないな…

 

「それでトウヤさんは誰が良いのですか?」

 

俺の目の前にいる四人の乙女が俺を期待と不安の眼差しで見つめている。

 

「「「「誰なの?」」」」

 

「…………」

 

答えられるわけがない…

 

「俺は…」

 

今は誰も選べない…と答えようとしたその時…

 

『♪♪♪♪♪♪』

 

楯無の携帯電話が鳴った。楯無は顔をしかめながら携帯に出ると目を険しくさせて携帯を切った。

 

「織斑先生、トウヤさん、緊急事態です。ラウラ・ボーデビィッヒさんと鈴音さんと篠ノ之さんが無許可で模擬戦を始めたそうです。ですのでトウヤさんに鎮圧のお願いをしたいのですが宜しいですね?それとアリーナまでの時間短縮のためにISの部分展開の許可を」

 

楯無が手短に状況説明を済ませ俺への許可を求める。千冬は少しだけ考えると首を縦に振った。

 

「両方とも許可する。但し、建屋内での展開は許可しない。以上だ。事後報告で良いからな」

 

俺は許可を貰うと食堂から急いで走って建物の外に出てエステバリスを展開しアリーナへと飛んだ。そしてアリーナへの入口を入ると事態の異常さに冷や汗が出てしまった。

ラウラ・ボーデビィッヒはワイヤーを両手から伸ばしリンと箒の首に巻き付けて締め上げていたのだ。このままでは二人とも命の危機に瀕してしまう。俺はイミディエットナイフを呼び出すと地面スレスレを飛びラウラ達の間に飛び込みワイヤーを切った。

 

「お前らは何をしているのだ!?これはもう模擬戦の域を越えているではないか!」

 

三人にオープン回線を開き怒鳴るがラウラは薄ら笑いを浮かべているだけで、箒とリンは咳き込んでいる。

 

「ラウラ・ボーデビィッヒ!答えろ。なにをしていた?」

 

「私はただ単にこいつらに実力この差を教えていただけだ」

 

「模擬戦の許可は出ていなかったはずだ。それにお前のやっていた事は殺人未遂にもなるぞ!?何を考えている!」

 

こいつ…少しおかしいな…

 

「ISに乗ると言う事は人の命のやり取りをする覚悟があるはずであろう?」

 

「何を言っている!彼らは学生だ。軍人と一緒にするな!それに軍人だったとしても教育課程の人間は命のやり取りなどしない!お前は軍人でありながらそんなことも分からないのか!?」

 

「ふんっ…そんなこと貴様に言われなくとも分かっている。それよりもマツナガとか言ったな。私と戦え。貴様は教官に土を着けたのだろう?」

 

 

ラウラはそう言うと肩に乗っかっているキャノン砲みたいな物を俺に向けた。

 

「よせっ!戦いたいのなら今度行われる学年別対抗戦で戦おうじゃないか!勝ち進めば必ず対戦する事になるだろう?」

 

俺の言葉にラウラは動きを止めて少し考えた後にISを解除した。

 

「良いだろう!必ず勝ち上がってこい!それ以前に負けたら貴様は教官よりも弱いと言うことだからな…」

 

そんなこと言いながらラウラはアリーナを後にした。

 

「リン!箒!大丈夫か!?」

 

ここで一夏がアリーナ内に白式を纏って飛び込んできた。…今更な気もしなくはないが…

 

「一夏!?すまぬ…大丈夫だ」

 

箒は打鉄を解除するとその場に座り込んだ。

 

「一夏!来るのが遅いわよ!ナイトはお姫様のピンチに現れるはずでしょ!?」

 

うん。リンも大丈夫のようだ。

俺もエステバリスを解除すると三人に歩み寄る。

 

「駆けつけるのが遅くなって済まなかった。医務室に行って怪我の治療をしてくれ。そしてその後に事情聴取な?」

 

俺の言葉にリンは『ゲッ!』って顔をした。

 

「当然だ。無許可での模擬戦闘を行ったんだ。因みにもう織斑先生の耳に入っているからな。大人しく事情聴取に応じないと…」

 

「分かったわよ!それじゃあ…一夏…肩貸してくれる?」

 

リンが顔を真っ赤にして一夏におねだりをして一夏も「おう」なんて簡単に答えていた。そして隣に並んで箒も一夏の腕にしがみつき共にアリーナを出ていった。二人の乙女は怪我をしているにも係わらず幸せそうな顔をしていた。

 

 

「そうか…あいつは…」

 

医務室での事情聴取を終えて生徒会室に戻ると生徒会メンバーに千冬が加わり俺の戻りを待っていた。事の結末を話すると千冬は頭を抱えていた。

 

「あの二人は何だって安易に模擬戦を受けたりしたのかが分からないのです。無許可の模擬戦には罰則が付くのを知らないとも思えないのですよ」

 

俺は机に置かれたお茶を一口の飲むと箒とリンに思っていた疑問を口にしてみた。

 

「え?そんなの大体予想がつくでしょ?」

 

楯無が驚きを孕んだ言葉を口にした。

 

 

「そうですよ。鈴さんと箒さんが怒ること、それはねぇ…」

 

虚さんまで…

 

「トウヤ…お前はどこまで…」

 

千冬も若干青筋を浮かべている…

 

「マッツーは一回爆発しちゃえば良いと思うよ?」

 

本音は物騒だな…

 

「え?なんなんだ?…まるで俺が何も分かっていないような雰囲気じゃないか…」

 

「分かってないような雰囲気ではなく分かってないのよ!!」

 

楯無がまた青筋を浮かべながら立ち上がって大声で答えてくれた…

 

「良いかトウヤ…鳳と篠ノ之は恐らく一夏の事を出されて怒ったのだろう。冷静さを失って模擬戦…いやあれはもう戦闘だな、を起こしたのだ」

 

あぁ…そういうことか。千冬の説明を聞いて何故思い付かなかったのか不思議に思ってしまったが…四人にジト目で見られてしまった。

 

「トウヤ、あいつは強さを求めている。だがあいつの求めている強さとは暴力の強さだ。私の教えて方が間違っていたのかも知れない…すまん。だが、トウヤ…あいつに教えてやってくれ。強さとは暴力ではない事を。そして『力』がすべてではないって事を…」

 

千冬が顔を頭を下げている。

 

「織斑先生、頭を上げてください。精一杯やらせていただきますよ。子供達を正しい道に導くのも大人の仕事です」

 

「そう言って貰えると助かる。宜しく頼むぞ」

 

千冬は俺を見ると笑顔で生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

「で、本命は誰なのだ?」

 

戻って来てこれが無ければ良かったのに…



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58話

今回は少し短いです。


「それで…マツナガ少尉はテツジン型の自爆に巻き込まれた可能性があると…」

 

私の目の前にいるのは地球連合宇宙軍極東方面軍指令司令部のミスマル・コウイチロウ…つまりは私の御父様である。

 

「その通りです。しかし私達はマツナガ少尉が戦死したとは思っていません。ですので捜索隊の派遣をお願いします」

 

ここはミスマル司令の執務室で今は私と司令しかいません。ですが出来る女は公私の区別がしっかり出来るのです。

 

「しかしなぁ〜戦闘詳報を見る限りでは望みが低いように思えるんだがなぁ…」

 

御父様の言っている事は百も承知だ。しかし…例え戦死していたとしてもナデシコを救ってくれた彼を探すのは人として当然の事だと私は思う。

 

「私もそう思います。ですが彼の…彼がいなければ今、私もここにはいませんでした…だから…だからこそ彼を見つけたいのです。それが悲しい現実をナデシコクルー達に突き付ける事になってもです…」

 

目が…視界が霞み目尻から涙が零れた。

今回のマツナガさんの件は私のミスでもあった…防御に撤していれば…相転移砲を使っていれば…色々と後から考えると彼の戦死は塞げたのでは!!って夜も眠れなくなる時がある。

 

「ユリカァ〜泣かないでおくれ…確かにマツナガ少尉がいなければナデシコはかなり危うかったであろう。だが…あの宙域に部隊を派遣するにはあまりにも理由が軽すぎるのだよ。他に何かしらの理由があればな…」

 

その時、司令のデスクの電話が鳴った。司令が受話器を取り短い時間だけ話をして受話器を置いた。

 

「ユリカ、捜索隊の派遣が決まった。そしてその捜索隊にナデシコも加わる事になった」

 

話が急展開した…

 

「ううむ…どうやら何処かの重工業から横槍が入ったようだな。…そうか、ナデシコには…」

 

「恐らくはお考えの通りですわ。マツナガ少尉は彼の部下です。そして彼の秘書の護衛で恋仲であったと思われます。彼も思うところがあるのかと思います」

 

「そうか…では命令書は今日中に送ろう。編成もあるので出港は早くて一週間以内だ。辛い航海になると思われるがしっかりと船を纏めて欲しい。以上だ」

 

「了解しました。ご高配感謝いたします。では!」

 

敬礼をして司令執務室を出ると中から『うおーーー!ユリカァ〜立派になったなぁ!!』と言う叫び声が聞こえてきたが私は溜め息を一つついてそのまま司令部を後にした。

 

 

 

彼の部屋は軍人らしく綺麗に纏められていた。副長の要請で彼の部屋を掃除している。中に入って気付いたのだけれど掃除の必要はあったのだろうか?むしろ入らない方が良かったのかも知れない。誰だって自分が居ない間に部屋に入られていい気はしないだろう。

机の上に写真立があったのでボタンを押して写真を見てみた。ナデシコエステバリス隊の皆で撮ったもの、知らない軍人達と撮ったもの、スーツ姿の彼と同年代の人と一緒に撮ったもの、私と並んで撮ったものがある。次は決定的だった。私と彼が肩を組んで私が彼の肩に頭をのせていた。私は顔が赤くなってしまった。

 

「これで分かっただろう?君とマツナガ君は本当に恋人の様だったのだよ」

 

入口にはアカツキ会長が立っていた。

 

「本当に…信じられないわ。私が彼を?私は仕事に生きていると思っていたのにね。ねぇ?彼との話を聞かせてくれない?」

 

「良いよ。少し長くなるけど良いのか?」

 

「構わないわ。私は特に仕事がある訳じゃないしね」

 

「そうかい。彼の経歴は読んだかい?」

 

「ええ。ネルガル重工に入社、警備部警護課に配属、警護の教育を受けた後に地球連合宇宙軍に出向、パイロット課程を受けて修了後エステバリスの操縦を学びナデシコに配属される。そして現在、こんなところよね?」

 

「そうだね。ではその前は?」

 

「え?そんなの知らないわ」

 

「だろうね。彼の経歴は隠しているんだ」

 

隠している?

 

「なぜ?」

 

「彼は僕の弟なんだよ。僕の父親が妾に生ませた子なんだよ」

 

はぁ…また彼は大変な人生を送ってきたのね…

 

「後継者争いに巻き込まないように隠しているの?」

 

「そうだ。それに彼の母親は彼が生まれて直ぐに死んでしまった。そして父親とは会ったことがない。そして生まれて直ぐにネルガルのとある施設に入れられた」

 

「とある施設?」

 

「ネルガルの為になる人間を育てる施設だね。身寄りのない子供を集めて英才教育を施して大人になっても決してネルガルを裏切らないように刷り込む。そうすればそこいらの社員よりも使えるだろう?」

 

…微妙な感情が私の心の中に生まれてきた。

 

「そう…彼には家族が居ないのね…」

 

「そうだな…だが彼は人との接し方がとても上手い。そのせいか彼には仲間がとても多い。パイロット課程での同期、警護課での同僚、彼には友人が多い」

 

「そうなの…」

 

「彼はとても子供に対する保護欲が強い。それは彼が施設にいた時に虐待が酷かったらしい…これはネルガルの闇だよ」

 

元々ネルガルが非人道的な研究や実験を行っていたのは私も知っている…私も指示を出した事もある。このアカツキと言う男は変なところで優しさがある。非人道的な実験や研究を嫌うのだ。

 

「彼が言うには『僕たちがこんな仕打ちを受けるのは大人の事情。子供達に押し付けるのは間違っている』だそうだ。言っている事は甘ちゃんだけど彼は受ける側だった。そんな彼に言われるのは堪えたね。その後は彼を僕の側に置いておく為に警護課に配属して僕専属にするつもりだったんだよ」

 

やっぱりこの男は甘ちゃんだ。そんな事でマツナガに同情するなんて…

 

「そう…でも彼は行方不明になってしまったわね。この後はどうするの?」

 

「探しに行くさ。例え死んでいたとしてもね。それが彼にできるもしかしたら最後の報いになるかも知れないだろう?」

 

探しに行く?どう言う事なの?

 

「連合にさ、捜索隊を出せって言っておいた。ナデシコも行くことになるだろうね。ナデシコの機関部の修理も意外と早く終わるみたいだからね」

 

この男は…

 

「甘ちゃんって思われても良いさ。でも俺にだって守りたい物があるんだよ」

 

そう言うとアカツキは部屋を出て行った。私はもう一度写真立を持ちマツナガの顔を見た。あのアカツキに行動をさせるほどの人物…1%以下の可能性だけで艦内の雰囲気を変えてしまう男、私を惚れさせた男、胸が苦しくなる…『会いたい』と思う私がいる。彼の使っていたベッドに寝っ転がって見るけど懐かしさは感じない。その事に少しだけ苛つきを覚えてしまった。

 

 

 



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59話

俺は今、美女に囲まれている。一夏もだが…事の始まりは終業のホームルームになる。連絡事項を山田先生が告げた後に千冬に変わった。

 

「間もなく学年別トーナメントが開催される。例年ならば個人戦で行われるのだが今年はツーマンセルで行われることになった。理由はより実戦的な経験を積んでもらうためだ。よってペアに希望がある者は申請用紙を渡すので後で私の所に来ること。ペアが見つからなかった者は抽選となる。以上だ。質問のある者は?」

 

千冬が質問者を募るとセシリアが手を挙げた。

 

「なんだ?こむ…オルコット?」

 

千冬…あからさまに嫌な顔をするのは不味いだろ…それと『こむすめ』は不味いよ…

 

「ぐぬ…専用機同士のペアは構いませんか?」

 

「構わん…」

 

妙に納得のいかない顔をしている千冬だがこの理由は後々分かったのだがどうやら俺を一人で出場させたかったらしい。千冬曰く『マツナガは一機でも優勝の可能性があるので不公平である』だそうだ。だが他の教師から『それでは『ツーマンセルの訓練にならない』と言う反対を受けて激論の末に学園長決裁で俺もペア出場になった。これも後日談だが山田先生が千冬を飲みに誘い酔ったところで千冬に理由を聞いたところ『マツナガが他の『小娘共』と一緒に訓練するのが気にくわなかった。私が出れれば私とトウヤで総当たり戦でも優勝したのに』と語っていたそうだ。

 

「他には?」

 

教室内は妙なソワソワ感が漂っていて少しだけ気持ちが悪い…

 

「無ければこれで終わる」

 

ホームルームが終わると同時にほぼ全員が一斉に立ち上がり俺か一夏の席に集まった。更に廊下のドアが破られる音がすると廊下からも 女子達が押し寄せてきた。

 

一組の教室は完全に生徒達で溢れ返ってしまい身動きが取れなくなった。

 

「あの…皆少し落ち着こう…怪我をしてトーナメントに出れなくなったら元も子も無いだろう?一先ず皆戻ってくれ」

 

そう言うと俺の回りにいる女生徒達は戻っていった。だが一夏の方がまだ残っていたので俺が皆に話すと大人しく戻っていった。

 

「トウヤさんすみません…」

 

一夏が謝ってきたので肩を軽く叩くと

 

「仕方ないさ…正直こうなることは予想できた。それでペアになりたい奴はいるのか?」

 

俺の問いかけに教室にいる女子達の会話が止まった。

 

「まて…場所を変えよう。着いてきてくれ」

 

ここで下手に希望を聞かれて騒ぎになっても困る。俺達は教室を出ると生徒会室に向かった。途中で一年生の子達に何度もペアを組んでくれと頼まれたが今はまだ決められないと全て断った。

 

生徒会室に到着すると虚さんが居た。今、ふと疑問に思ったのだがこの人はちゃんと授業には出ているのだろうか?俺がここに来ると必ずいる気がする。

 

「トウヤさんに一夏くん。今日はどうしたのですか?」

 

虚さんがお茶を出してくれたのでお礼を言って学年別トーナメントのペアの件を話すと納得してくれたようだ。

 

「確かに予想の出来る事態でしたね。それで一夏くんは誰か組みたい人はいるのですか?」

 

虚さんが一夏に聞くと一夏は首を少しだけ傾げて

 

「特に組みたい人は…あえて言うならば箒てすかね?近接二人で組むのも可笑しい話ですけど上手くいけば面白い試合になるかなぁと…」

 

ほぉ…面白い事を考えるなぁ。バランスを考えるならばシャルか鈴かセシリアなのに箒を言い出したか…

 

「ふふ…一夏くんは面白いなぁ〜」

 

部屋の入口には楯無が立っていた。

 

「まさか箒ちゃんを選ぶとはね…でもその組み合わせだと優勝狙うなら相当の訓練が必要よ?個人技もそうだけど連携もよ?個人技が出来ても連携が出来なきゃ複数の利点を生かせないわよ?」

 

楯無はそう言いながら会長の席に座った。

 

「そうなんですよね…ただ面白さを考えたらこの組み合わせだなぁと思ったんですよ。俺とのバランスを考えるならばシャルロットか鈴なのかな…ただリンはISの

蓄積ダメージがCを越えたから出場出来ないらしいんです。そしてセシリアは…ちょっと連携に不安が…」

 

「ふっ…くっ…」

 

俺は一夏の評価に笑いが出てしまった。一夏はまだセシリアに苦手意識をもっているのだろうか。

 

「トウヤさん!なんで笑うんですか?」

 

一夏が少し怒った表情になっている。

 

「いや…すまん。一夏がまだセシリアを苦手なのかなぁと思ったら笑いが出ちゃったんだよ。それでセシリアとの連携がなんでダメなんだ?」

 

「まだセシリアには背中を預けられるほどの信頼がお互いに無いかなぁと思いまして」

 

一夏の言う通りだ。ペアを組むのに最も大切な物は信頼だ。俺もナデシコにいた頃のペアでの戦闘には正直苦労した。ナデシコのパイロットは中々アクの強い連中ばかりだった。彼らの援護は大変だった…

 

「そうだな。信頼は一方通行では駄目だからな。一夏がそう思うなら組まない方が良いよ。誰と組もうが結局決めるのは一夏だ。博打に出るのも良いし確実さを求めても良いし」

 

「そうですね…じゃあ箒にします!」

 

一夏の宣言に俺は箒に心の中で拍手を送ってしまった。そして一夏から誘われる箒を想像して笑いが込み上げてくる。

 

「そうか。それじゃあ本番まで徹底的にコンビネーションの訓練をするんだぞ?」

 

「勿論ですよ!それじゃあ俺は箒を誘ってペア申請を出してきます!」

 

一夏はにこにこしながら生徒会室を出ていった。

それを見送り会長の方を見ると会長の表情が真面目な顔になっていた。

 

「会長も思うところが有りますか?」

 

「勿論よ。今回は何が飛び込んで来るのかしらね?見当は?」

 

「正直に言うと予想が当たった場合は最悪てす。エステバリスの5倍近い大きさの機動兵器です。口からはレーザー、胸からはグラビティーブラストと言う重力波を打ち出す大砲、そしてエステバリス並の大きさのロケットパンチ、これが攻撃でエステバリスの物より硬いディストーションフィールド、次が最も懸念の町を…此処ならば島を一つは吹き飛ばせる威力の自爆装置…これらを搭載したテツジン型…これが来たら…どうしたら良いですかね」

 

「なんなの…そのスーパーロボットは…」

 

楯無の眉がハの字になった。

 

「ナデシコでは集団で上下左右からのシールドを破る戦法で撃破していました。ですか今はこれを出来る機体は私の機体しかありません。会長の機体ももしかしたら破れるかも知れませんね。対策は後で案にして提出しておきますよ」

 

「そう…分かったわ。それでトウヤは誰と組むつもりなの?」

 

楯無の真面目な顔は急にニヤニヤし始めた。

 

「そうですねぇ…シャルかセシリアなのでしょうけど片方を選ぶと大変な事になる気がするのですよ。だから最後までペア申請を出さずに抽選にしちゃおうかと。そうすれば公平になりますよね?」

 

「確かにそうね、でも…怒るわよ?あの二人」

 

そこが悩み所なのだ。だけど公平さを求めるならば…

 

「今回は抽選にします。あの二人には話をして理解してもらいます。二人ばかり構っていると不満が出てしまいますからね。副会長としては不味いですしね。学年別トーナメントの成績にはこだわりませんしね。既に企業所属ですし」

 

「そう。そう言ってくれると会長としては助かるわ。正直、不満の声が少しだけ上がっていたのよ。部活、クラス、教師からとね。流石はトウヤ。気配りもなかなかね…」

 

「やっぱり不満が出ていたのですね…」

 

セシリアとシャルに話をしなきゃならないと考えると今から頭が痛い…今週末は千冬と出掛けなきゃと考えながら生徒会室を後にした。

 

「トウヤさん…大丈夫かしら?」

 

「やっぱり少し疲れてる?」

 

「ええ。ここは少し休んで貰わないと今後が…」

 

「分かったわ。二階堂さんに頼んで会社を動かして貰いましょう…」

 

 



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60話

なかなか…トーナメントに突入出来ない…色々とやりたい事が多すぎ!


「トウヤ…」

 

トウヤが私の肩に頭を乗せて眠ってしまっている。最近は忙しそうだった。あの小娘達の相手に忍者女(楯無)の無茶な仕事(生徒会の仕事)に忙殺されていた。今日は私がトウヤを癒してあげよう。

 

今、私達はモノレールに乗っている。昨日の夕方にトウヤから誘われてデートに来ている。モノレールはもうすぐ横浜に着く。そこからは電車の東海道線に乗って湘南への入口の藤沢に行かなくてはならない。モノレールは横浜で終点なので乗り過ごす心配はない…だが…起こしたくない!!なんだこの幸福感は!!だが…この後のデートも楽しみだ…どうしたら良いのだ…動けん…

 

『間もなく終点、横浜に到着です降り口は左側です。どなた様も…』

 

車内にアナウンスが流れるとトウヤの頭が私の肩から離れてしまった。

 

 

「あ…すまない。寝てしまったみたいだね」

 

トウヤ…貴様と言う奴は…

嬉しさと残念さが心の中でグルグルと混ざった変な感情になってしまっている。

 

「いや…大丈夫だ。ゆっくり休めたか?最近は忙しそうだったからな」

 

「ああ。問題ないよ。確かに先週一週間はなかなか忙しかったな。さて…乗り換えだね。行こうか」

 

そう言い席を立つとトウヤは手を差し伸べてくれた。これは…!!

 

 

 

まず私達が降り立ったのは鎌倉。鶴岡八幡宮に行きお参りをして銭洗い弁天、鎌倉の大仏と回りそれから江ノ電に乗った。その間はずっと手を繋いだまま…手汗が!!

 

途中、腰越で降り名物のしらす丼を食べた。味?そんなの覚えているか!!

 

江ノ島に着くと江ノ島灯台の展望室で景色を見て回った。途中で私が織斑千冬とばれうるさい女共に囲まれそうになったりもしたが上手く逃げた。本気で消滅させてやろうと殺気を出そうと思ったがトウヤに手を引かれて上手く逃げれた。

 

「そうだよな…千冬は有名なんだよな…忘れていたよ」

 

トウヤの私の扱いが普通なのが嬉しい…他の人ならば壁を感じてしまう。一夏とトウヤはいつでも私を『千冬』として接してくれる。回りの人達は『ブリュンヒルデの織斑千冬』として接してくる。それはとても疲れる…

 

「気にしないで良い。少しその…私も浮かれていた…」

 

「そうか…ではおやつを食べに行こうか?美味しいワッフルを出すお店が有るんだよ…って聞いた」

 

 

 

「う〜ん!美味しい!」

 

片瀬川沿いに建っているウッド調の建物のテラス席でワッフルを食べている。

 

「気持ちがいいなぁ。この季節は本当に気持ちが良い。…いつまでこの時間が続くんだろうなぁ…」

 

トウヤがのびをしながら背中を大きく反らせた。

 

「なぁ…千冬。この平和な時間はいつまで続くのだろうな。俺さ、ここに来るまでは向こうの世界での戦争を生き残れると思ってなかったんだ。でも…どういう巡り合わせかこの世界に来てしまった。この世界は危ういバランスとは言えとても平和だ。まさか生き残れるなんてね…正直、あの戦争の後の事は考えていなかった。なぁ…知ってるか?どうやら俺の居た世界とこの世界の2000年辺りまでの歴史はほとんど一緒なんだよ?って事は俺の世界もこの世界も戦争の歴史って事になるんだよ」

 

トウヤ?いったいどうしたのだろう?

 

「いや…すまない。なんだか少し参っているのかもしれない…学園に入学してからは落ち着かないからね」

 

「トウヤ…そうだな…トウヤにばかり負担をかけてしまっている。本当にすまない」

 

「いや…千冬が悪い訳じゃない。きっとそう言う体質…星の巡りなのかもしれない」

 

そんなことは…無いとは言えないな…なぜだろう…トウヤはどっちかと言えば…ついていない気もする。

 

「本当に最近はついてない…なにをやっても裏目に出る…」

 

笑えない…まぁ…多少トウヤにも原因がある(鈍感)が…

 

「あまり思い詰めるな…」

 

「いや…特に思い詰めているつもりは無いんだけどね」

 

「そう言うのは大抵気付かないものだ。気付いたときには大変な事になっているんだよ」

 

私とトウヤはコーヒーを飲み片瀬川を見ている。格別、綺麗な川ではないが時々漁船みたいな船が通る。

 

「そうだな…気を付けよう」

 

「ああ。周りを傷付け無いように気を付けるんだぞ?」

 

トウヤは私の表情を見て薄く笑った。

『♪♪♪〜♪♪〜』

突然、トウヤの携帯が鳴り始めた。

 

「千冬、ごめんね」

 

そう言うとトウヤは店を出ていった。私はトウヤの背中を視線で追いかけてしまう。その事に気付いた時、少し笑ってしまった。

 

しばらくするとトウヤが戻ってきた。

 

「ごめんね。富士見技研からだったよ。月曜日から数日間、技研の方でテストをしてくる。なので学園はお休みにさせてもらうね。それにしても突然どうしたのだろう…」

 

トウヤは顎を摩りながら考えている。確かに今回の富士見技研の要請はあまりにも急過ぎる。通常ならば一月前には要請が来る話なのだが…

またか…

 

「分かった。私も少し電話を掛けてくる」

 

嫌な予感しかしない…トウヤの会社に接触、そして影響を与えられる人間など一人しかいない。あの忍者女だ!

 

『トゥルルルル…トゥルルルル…はい…』

 

「楯無か?聞きたい事がある。貴様…トウヤを富士見技研に呼ばせたな?」

 

「はい、そうさせましたが?」

 

「どういうつもりだ?」

 

「…織斑先生…いえ織斑千冬さん。貴方はそれだけトウヤさんに着いていながらトウヤさんの状態に気付いていないのですか?」

 

「…疲れてるな」

 

「それだけですか?トウヤさんはかなりの度合いで参っています。ですから富士見技研に送って休んで貰うつもりなのです。良いですか?貴方はトウヤに頼るだけが目的なのですか?だったらトウヤが潰れます。だから離れてください。私が面倒見ます」

 

この女…だが…私は気付いていなかった…

 

「何ですか?何も言えないでしょう?貴方は気付いていなかったのですよね?ならば貴方はトウヤの隣に立つ資格は無いわね?」

 

「……………」

 

「織斑千冬さん?どうなのですか?」

 

何も言えないない…私はトウヤの状態に気付いていなかった。私は"ただ"トウヤを見ているだけだった…しかも"受かれて"だ。

 

「そうですよね…何も答えられないですよね。どうせ今もトウヤさんとデートして貴方は受かれているだけだったのでしょう?良いですか?今回の富士見技研の件は貴方は関わらないで下さい。私も関わりません。そしてシャルロットさんとセシリアさんも関わらせないで下さい。トウヤにはなるべく気を休めて欲しいのです。そして戻ってくるのは学年別トーナメントの前日です。宜しいですね?」

 

楯無の声には有無を言わさない圧力を感じる。やましい部分があるせいか私が押されてしまった。

 

「…分かった…」

 

「有り難うございます。では私からの用件は以上ですが他に何か有りますか?織斑先生?」

 

「…いや、特に無い」

 

「分かりました。では失礼します」

 

私はしばらくその場を動けなかった…いや…動きたくなかった…トウヤに逢わせる顔が無い…このまま帰ってしまいたい。そんな衝動に駆られてしまったが、何とか押さえて…席に戻った。

 

「どうしたんだい?なんか深刻そうな顔をして?」

 

トウヤが私を心配している…駄目だな私はここは何事もなく戻るところだろう…

 

「何でもないさ。コーヒー冷めちゃったな…頼み直そう」

 

コーヒーをもう一杯頼み飲み終わると店を出た。

気分はもう最悪だ…早く帰りたい…

帰りの電車は他愛もない話をして横浜で食事をしたが味も碌に覚えていない。楽しい筈の時間なのだが…

 

 

 

「それじゃあ千冬、おやすみ」

 

寮に着くと私を寮長室まで送ってくれた。トウヤは相変わらずだった。

 

「おやすみトウヤ。明日から富士見で頑張ってこい…それと…いや…何でもない」

 

謝りたい気持ちだったが今の私が謝っても訳が分からないだろう…

 

「有り難う…頑張ってくるよ」

 

そう言ってトウヤは背中を向けて部屋から離れて行った。

 

なぜか…物凄く寂しかった…そして涙が出てしまった…

 

 

 



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61話

腰痛が酷くて椅子に座っていられず集中が出来ません…きっとヘルニアなのなしょう。
皆さんも暑い日がはしまりますが体長には気を付けて下さい。


「今日からマツナガ君は会社の方へと行っている為にお休みです。そして彼からの伝言です。『学年別トーナメントの直前に申し訳ありません。ペアについてですが戻るのが学年別トーナメント前夜になりそうですので私は抽選とさせてもらいます』との事です」

 

山田先生がトウヤさんからの伝言を読み上げるとクラス中から歓声が上がった。私はトウヤと組めると思っていたから愕然としてしまった。いつトウヤから声が掛かるかと楽しみにしていたのに…

セシリアの方を見るとやっぱりセシリアも貴族らしくない口を開けたまま動いていない。まるで『信じられませんわ!』と言っているようだ。

 

――――キャアーーーーー ―――――

 

他のクラスからも歓声が上がっている。トウヤの伝言が読み上げられたんだろう。

 

「みなさん、学年別トーナメントのペア締め切りは水曜日までです。遅れた場合は如何なる理由でも受け付けられませんので忘れずに提出してください。良いですね?」

 

僕も誰とペアを組むのか考えなきゃいけなくなってしまった。でも…今はあまりかんがえたくないかな…

 

考える事を放棄しているうちにホームルームが終わってしまった。次の授業の準備をしているとセシリアが僕の席にやって来た。

 

「シャルロットさん…学年別トーナメントなのですけども、私と組みませんこと?」

 

セシリアの言葉にクラス中が静まり返ってしまった。それもそうだよね。専用機持ち同士がペアを組むなんて回りからしたら勝ち目がないよね。

 

「え…え…え?いきなりどうしたの?」

 

「シャルロットさん…私は悔しいのです…トウヤさんが貴方を選らばらたのならば仕方がないと思っておりました。そして私が選らばらたのなら当然だとも」

 

セシリアはやっぱり自信家なんだなぁ…そこまでハッキリと言い切れるなんて…

 

「ですが現実はトウヤさんは抽選を選ばれました!!私たちではなく誰でも良いという事ですのよ!こんなに悔しい事は有りません!私はトウヤさんに信頼されていると思っていたのですが、そうでは無かったのです!」

 

まずい…興奮し始めちゃってる…

 

「セシリア!ちょっと待って!トウヤが私たちを選ばなかったのは他に何か理由があるかも知れないよ?」

 

「一体どんな理由があると言うのです!?」

 

「え…えっとね…例えば…訓練は僕たちばかり教えてもらってるから不満があるとか…?」

 

僕の言葉に回りが頷いた…!?

どうやら不満があったみたいだ…知らなかった…

 

「そっ…それは…否定出来ないですわね…ですが!それならば一言有っても宜しいのでは!?」」

 

「まっ…まあね…けど…うーん…」

 

トウヤのバカぁ!

 

「と・に・か・く!私達で組んでトウヤさんを撃破して見せますわよ!宜しいですわね!?シャルロットさん!」

 

これは…受けないと大変な事になっちゃうのかな!?

 

「分かったよ…なんだか今後の風当たりが強くなるような気がしちゃうのは僕だけなのかな…」

 

トウヤ…帰ってきたら…お仕置きしたいかな…

 

 

 

 

「お久しぶりです。篠田社長、フランスの時以来ですか…」

 

 

「そうですね…お久しぶりですね

。元気そうでなによりです」

 

相変わらずの腰の低さだ。

 

「そして今回は?」

 

「うん。今回は高起動ブースターの試験と新兵器の試験をして欲しい」

 

「了解しました。早速掛かりますか?」

 

俺が聞くと社長は少し困った顔をして

 

「ん…いや…あと2日待っててくれないかな…正直に言うとまだ完成していなくて…済まないねぇ」

 

あれ…なんでか分からないが予定がずれてる?

 

「そうですか、分かりました。では…何しましょう…かね」

 

「それなんだけどね、開発部の研究員達と一緒に仕事をしててくれるかい?彼らから色々と意見を聞きたいと要望が上がっていてね」

 

篠田社長はそう言うとエントランスから社内へと歩いていったのでついていく。

 

「学園生活は大変のようだね。襲撃やテロとか今年に限ってやたらと事件が頻発しちゃってるね」

 

…そうなのだ。『今年に限って』なのだ。去年までは殆ど事件は起きていなかった。なのに今年は公になっていないが2件も事件が起きてしまっている。恐らくは『束博士の関係者』が入学したからだろう。

 

「あぁ…君のせいではないよ。ハッキリ言って篠ノ之博士の関係者が入学したからだろう。君も大変な時期に来てしまったね。はっはっはっ!」

 

篠田社長は笑っているが…笑えないんですよ。警護を任されてる俺的には…

 

「いや…まぁ…本当に事件が多いですね…」

 

「まぁ…あまり気にせずに過ごしてくれ」

 

そう言うと篠田社長はとある部屋に入っていった。この建物はかなりセキュリティが厳しいようだ。廊下にはかなりの数の監視カメラが設置されておりさらに隔壁も相当数設置されている。しかも壁にはセンサーらしき機器も設置されていた。

 

「ここが開発部の部屋だよ。さぁ入ってくれ」

 

篠田社長に促されて中に入るとそこでは10人程の白衣を着た人達がパソコンに向かっていたりしている。

 

「皆!聞いてくれ」

 

社長が声を掛けると皆が此方に向き直った。そして…あからさまに皆の目が見開きそしてワクワクを押さえられない子供のような表情に変わった。

 

「此方が巷で有名なマツナガ・トウヤさんだ。約一週間はここで新開発品のテストをしてもらう」

 

篠田社長に促されて一歩前に出る。

 

「ご紹介に与りましたマツナガ・トウヤです。短い間ですが宜しくお願いします!」

 

挨拶と同時に頭を下げると部屋中から拍手が上がった。

 

「ようこそ、開発部へ。私は部長の木村です。短い間ですが宜しくお願いします」

 

俺よりも身長の低い頭の天辺が少し薄くなったおじさんが頭を下げると握手を求めてきたので握り返す。

 

「はじめまして、マツナガ・トウヤです。短い間ですが宜しくお願いします、木村部長」

 

「本当に会えて嬉しいよ。普段は報告書と映像でしか会ってなかったのでね。我々の開発したレールガンを上手く使ってくれている様だしね。今回の高機動用のブースターも自信作なのだ。宜しく頼みますね」

 

木村部長は握手している手を放さずにもう一方の手で肩を叩いてきた。

それにしても意外と開発部の人数は少いようだ。

 

「ええ!お任せください」

 

挨拶を終えると篠田社長は部屋から出ていきそのまま開発部の人達とミーティングへと移った。

 



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62話

少しだけ長くなりました。
自分では大分話が進んで嬉しいですね。


「出航用意!」

 

「了解、出航用意!」

 

艦長の号令に通信士のメグミが各部署に号令を伝えた。

 

「左右、舫い(もやい)放せ!」

 

「左右、舫い放せ」

 

宇宙船には舫い索などありません。ですが船を固定するための機械を昔の船乗りに習って舫いと呼んでいるのです。

 

「左右舫い離しました。出航、完了です」

 

「了解、両舷前進微速!」

 

「両舷前進微速」

 

次は操舵士のミナトが号令を復唱して推力調整を始めた。すると船体が少しずつ前に進み始めた。

 

カワサキシティーに入港してから5日後にナデシコは再びカワサキシティーを出港した。機関部の修理と糧食の補給は完了している。これからナデシコは捜索部隊旗艦となってマツナガ少尉の捜索に向かう。

 

「カワサキシティーポートを出ました。前方左右には護衛艦ウメとカシが待機しています」

 

オペレーターのホシノが報告を挙げた。

 

「護衛艦ウメより入電『発、護衛艦ウメ 。宛、戦艦ナデシコ。我、これより第13独立艦隊へ編入す。指示を求める』です」

 

「了解。メグミさん、返信を。発、ナデシコ。宛、護衛艦ウメ。了解、我の後に一列で続け、以上で送ってください」

 

「了解しました」

 

ナデシコは徐々に速度を上げて次第に船体を海から離しました。回りの景色は巨大なナデシコに乗っているのに意外と速く後ろへと流れていく。艦長を後ろの席から眺めながらそんなことを考えていた。

 

「エリナさん、少し宜しいですか?」

 

隣で立っていたプロスペクターが話しかけてきた。

 

「なんですか?」

 

「いえね…今回の捜索の費用はやはり?」

 

「でしょうね、彼の方から動かしたらしいからね」

 

「やはりそうでしたか。いえね…急に特別追加予算が出たのでまさかとは思っていましたが…」

 

そういいながらもそろばん型の計算機を動かしながらも目は笑っていた。どうやら多額の予算が付いたようだ。

 

「それだけ今回の捜索にこだわったのでは?マツナガ少尉に恩を感じているとか?」

 

「ほほぅ〜。会長が…ですか。人とは場所の雰囲気に影響されるとは言いますがまさか…ねぇ」

 

プロスペクターが顎に手を当てながら考え込んでいる。確かに会長の変わり様は驚くが今日まで艦内で聞いて回ったマツナガ少尉の人となりを聞くに皆、マツナガ少尉の事をとても『いい人だ』と言う。誰一人として彼を批判的に言わない。

ホウメイシェフの下で働くホウメイガールズなんかは2人程、マツナガ少尉のファンらしい。

 

『これより本艦は大気圏脱出を行います。重力制御を行いますが万が一に備え各員は着席してください』

 

メグミの声で艦内放送がなされた。

 

 

 

 

「1直のみなさん、お疲れ様でした。2直の皆さんは頑張りましょう」

 

艦内は夜に切り替わった。宇宙には昼も夜も無いが艦内は3直体制で交代勤務となっている。しかし艦橋は2直交代で回しています。

 

「お疲れ様、ミナト」

 

「おつかれ〜特に異常なしねぇ〜」

 

「了解。お休みなさい」

 

ミナトと交代して操舵席に着くとレーダーを確認する。ナデシコの後ろには護衛艦が4隻連なっている。護衛艦ウメ、カシの他に地球軌道でさらに護衛艦アワとスギと合流した。ナデシコを先頭に二列になって付いてきている。

捜索宙域まではあと3日ある。

 

「ルリちゃん。私にライブラリの閲覧許可をちょうだい」

 

メグミとペアで直を組んでいるルリちゃん。今日はルリちゃんの番の様。

 

「分かりました。…はい、出来ました…」

 

「ありがとう。ライブラリにはナデシコの航海記録が載っているのよね?」

 

「はい。エリナさんの権限で閲覧できるものは全て見れます」

 

相変わらず淡々と喋るルリちゃん。この子はこれでも感情が豊かになった方だ。この子が最も変わったと感じられたのはこの艦内で行われた『美女コンテンスト』だった。木星蜥蜴の正体がばれてナデシコの士気ががた落ちしたときに行われた『息抜き』だった。その時にルリちゃんが飛び入り参加した。その時の様子がとても普通の女の子に思えた。

 

「うん。有り難う」

 

私はライブラリから航海記録を見始めた。

 

 

 

 

ウィーン!ウィーン!ウィーン!

 

ライブラリで航海記録を読み始めて3時間程経つと突然サイレンが鳴り始めた。

 

「ルリちゃんどうしたの!?」

 

私はライブラリを閉じてルリちゃんに状況を聞く。

 

「前方にボソン粒子反応増大。大型艦のボソンジャンプです」

 

「解ったわ。艦内放送は私がやるから解析を続けてちょうだい」

 

「分かりました」

 

私は艦長にコミュニケを繋ぐ。

 

『前方にボソンジャンプ反応。大型艦と思われます。戦闘配置、エステバリス隊に迎撃体制をとらせます』

 

『分かりました。急いで艦橋に上がりますので攻撃があった場合は回避を、駄目ならばディストーションフィールドで防いでください』

 

『分かりました』

 

指示を貰うと直ぐに艦内に状況を伝える。

 

『総員、戦闘配置。エステバリス隊は迎撃体制!艦前方に大型艦と思われるボソンジャンプを確認』

 

サイレンが鳴ってから2分程で副長が入ってきた。

 

「ルリちゃん、グラビティーブラストをチャージ、ディストーションブロックを始動、後続艦に離脱を指示。エリナさん!機関科と整備科、応急科に宇宙服の着用を指示」

 

艦橋に入ってくるなり直ぐに次々と指示を出す。ミスマルユリカに隠れがちだが副長のアオイ・ジュンも優秀なのだ。

 

「了解!」

 

すぐさまに各部署に指示を出し始めた。続々と艦橋内に艦橋要員が集まってくる。私もここでミナトと操舵を変わった。通信士のメグミ、戦闘指揮のゴートも席に着いた。

 

「護衛艦が進路を反転して離れて行きます。護衛艦から入電、『武運を祈る』です」

 

「了解」

 

副長が返事をする。艦橋の中は緊張感に包まれてはいるが不思議と恐怖は感じない。これは今までナデシコが激戦を潜り抜けて来たからなのかもしれない。

 

「敵艦に高エネルギー反応。グラビティーブラストと思われます」

 

「ミナトさん!取舵一杯下げ舵一杯急げ!」

 

「了解!」

 

ミナトが指示された通りの舵を切るとナデシコの船体が動き始める。

 

「ルリちゃん!ディストーションフィールドこ出力最大!」

 

「了解」

 

その指示が出た瞬間に前方から黒い光のようなものがナデシコの右側を通過していった。敵艦のグラビティーブラストが先程までナデシコのいた地点を通過したのだ。若干の振動がナデシコ船体を伝わった。

 

「被害報告!」

 

「了解」

 

「ミナトさん!艦首を敵艦に向けてください。メグミさん、エステバリス隊は迎撃体制のまま待機指示!」

 

「「了解!」」

 

私は操縦悍を回しディスプレイに表示されている敵艦へと艦首を向ける。

 

「遅くなりました!」

 

そこで艦長が艦橋へとやって来た。副長が艦長の横に立ち状況報告をしている。私は提督席の隣に座り状況を見守る。しきりに艦長が頷いている。

 

「対艦ミサイル1番から10番に装填!」

 

艦長が指示を出す。

 

「了解」

 

ルリちゃんが返事をする。

 

「発射と同時にグラビティーブラストの発射シーケンスを開始」

 

「了解」

 

「ミナトさんは発射直前まで正確に敵艦の方へ艦首を向けておいてください。そしてグラビティーブラスト発射直前に艦首の方向を指示します」

 

「りょ〜かい」

 

少し間の抜けた返事をするミナトだが操艦の腕は一級なのだ。前職が秘書だったと言うのが一番の謎だけど…

 

「対艦ミサイル、撃ち方用意よし」

 

「了解!目標前方の敵艦、撃てぇー!」

 

艦長の号令と同時にナデシコのYユニットの両舷からミサイルが発射されて前方へと飛んでいく。

 

「ミサイル発射、着弾まで50秒」

 

艦橋の前方にはコミュニケによる戦況プロットが表示されミサイルが敵艦へと進んでいく。

 

「両舷前進最大戦速!」

 

「了解!」

 

指示を受けたミナトが返事をするとすぐ後にほんの少しだけ体が後ろに持っていかれる。

 

「着弾まで20秒」

 

「取り舵5度!グラビティーブラスト発射用意!」

 

「「了解!」」

 

敵艦に動きはない。なぜ艦長は取り舵をとったのだろう。

 

「舵中央!下げ舵2度!」

 

「了解!」

 

「着弾まで10秒」

 

「潜舵戻せ!」

 

「了解!」

 

「着弾まで5秒…敵艦200度へ変針」

 

「グラビティーブラスト!撃てぇ!」

 

「グラビティーブラスト発射」

 

艦の前方が黒い光の筒が突き進んでいく…私はこの光景が嫌いだ…この出鱈目な重力の光が飲み込む物は何でも潰れてしまうからだ。

 

「ミサイルが敵艦に命中、グラビティーブラストは外れました」

 

冷静な口調でルリちゃんが報告をする。

 

「了解。ミナトさん、両舷前進原速、取舵一杯」

 

「了解。敵さん逃がしちゃっていいのぉ?」

 

「構いません。これから僚艦と合流、捜索宙域へ向かいます」

 

艦長がどういう意図で敵を見逃したかは分からないけど敵は間違いなく被害を負ったはず。修理のために引き返すはず。無駄な殺生は避けようというのが艦長の考えなのでしょう。

 

「艦内に被害は有りません」

 

「了解しました」

 

戦況プロットでは敵艦も艦首を反対に向けた。ナデシコと距離を取り始めた。

 

「うん。敵も離れたね。ユリカ、指揮を変わるよ。戦闘配置を解除でいいね?」

 

副長が艦長に確認を取ると艦長は良い笑顔で頷いた。

 

「了解、戦闘配置を解除!当直員残れ!」

 

「了解『戦闘配置解除、当直員は残ってください』」

 

艦内に号令が出ると私も席を立ち操舵席に向かった。

 

「お疲れ様。ゆっくり休んで」

 

ミナトに声を掛けるとミナトの顔は既に眠そうだ。

 

「ありがと〜おやすみぃ〜」

 

ミナトは艦橋を出ていった。

この後は副長の指示で護衛艦と合流して再び捜索宙域に向かって舵を切った。

 



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63話

富士見技研に来て3日目。

今日から高機動ブースターの試験が始まる。富士見技研から1時間程離れた山間部で周辺の山は全て富士見技研で買い、情報漏洩は防いでいるらしい。

 

ちなみに今日までは装備やこの機体についての打ち合わせをしていた。皆、熱心で…いやあれは熱心を通り越していた…ウリバタケさんが沢山いたと言う言い方が正しい気がする…話が逸れた…皆、熱心で此方の要望は全て聞いてくれた。中でもフィールドランスを数本作ってくれる事になったのは助かった。万が一テツジン型が来たときにフィールドランスが無いととても厳しいからだ。

 

「ではマツナガ君、早速始めてくれ。念のためにブースターにはリミッターがかけてある。出力は通常使用の8割となっている。試験を続けていき徐々にリミッターを解除する。良いね?」

 

木村さんがインカムで話している。

既にエステバリスにブースターは設置してあり見かけはかなり変わっている。以前の0G戦フレームの大型ジェネレーターは外してありX型のブースターが取り付けられている。X型にした理由は推力を偏向させる為とのことだ。高機動とは速さだけでなく機動も向上させたらしい。

 

「了解。では打合せ通りに先ずは慣熟飛行を行います」

 

俺はそう返事をすると飛行を始める。先ずはエステバリスがISとなってから追加された重力制御で滞空して…ブースターを点火させて前へと飛ぶイメージをするといきなり物凄い加速が始まった…。

 

『マツナガ君、推力はまだ50%だ。まだまだいけるよ』

 

いや…いきなり加速しすぎただけですよ…。そのままの推力を維持しながら大きく旋回して飛び回っている。確かに推力偏向をしている。事前の打合せではこのブースターならば今までの機動の20%は向上する予定らしい。

普通に飛ぶことに慣れてきたところで少しずつ旋回半径を短くしていく。

確かに機動力は上がっている。以前のエステバリスと同じ速度で飛び、旋回半径は短くなっている。

 

『どうだい?機動力は上がっているだろう?」

 

「はい。素晴らしいです」

 

動きにメリハリが出来た。これはブースターの点火がとてもうまくいっている事だ。

 

さらにスピードを上げる。

 

『いいよぉ!80%到達!暫くはこのままにしておくよ!』

 

木村さんが興奮し始めている。

その後はリミッターを解除して結果としてブースターは120%まで性能を引き出せた。最高速度も今までのエステバリスよりも30%も向上した。そして特筆すべきは機敏に変則的な機動が可能になったことだ。学園に戻ってからの学年別トーナメントが待ち遠しくなってきた。

 

後半には武装のテストも行った。デュノア社との交渉の時にも見たレーザーライフルだ。これは連射が効かないがとても強力な一撃を繰り出す。一発の威力はセシリアのスターライトmkⅢを越える様なだ。試射で撃つと平地に大穴が空いてしまった…開発部の人達は大喜び、社長以下営業、観測など開発部以外の人達は唖然…俺もどっちかと言えば唖然だ。

 

『予想通りの威力だ!』

 

『シールドバリアを貫通しますよね?』

 

『絶対防御が有るではないか!』

 

『あれも一定量越えると効きませんよ?』

 

 

『………』

 

なんてやり取りをした。

一応は俺の武器としてデータ取りをする事になった。

 

3日目のテストは終わり今は会社の一室を使って試作品のロールアウト祝賀会が行われている。社長、部長の挨拶も終わって今は皆で歓談がされている。俺も開発部の人達に囲まれて雑談をしている。話は次に開発する物の話が中心になっている。

「次は絶対にキャノンですよ!」

 

「いや!次は刀だよね!」

 

「次は追加装甲とマイクロミサイルだ!」

 

マイクロミサイル…確かに良いな…

 

「あっ!マツナガさんが反応したよ!」

 

若めの開発部員が俺を見ていたらしい。

 

「マイクロミサイルに興味が?」

 

「マイクロミサイルって小型のミサイルですよね?」

 

「その通りです!マイクロミサイルの全弾発射!これぞロマンですよね!」

 

「ロマンはともかくミサイルの軌道が全弾バラバラとか一部に穴を作るとかならばかなり使えますね。後は発射後にミサイルを積んでいたコンテナがパージ出来れば完璧ですね」

 

「そうか!射ち終わった後のは確かにデッドウエイトになりますね!」

 

若めの開発部員はメモを取りながらしきりに頷いている。

 

「他には何か有りませんか?」

 

「そうだなぁ…正直に言うとIS学園にいる機体は反則な機体ばかりだから何か特別な物が欲しいんだよなぁ」

 

「あぁ…今年はとんでもないですね。やはり男性操縦者の影響ですよね。ブルーティアーズ、白式の零落百夜、ラファールリヴァイブは…普通か…」

 

おいおい…同僚だろうが…。

 

「甲龍はなんだっけ…あの見えない衝撃砲…ああっ!龍砲だよね!?」

 

リン…お前は本当に存在感が無いな。

 

「あとシュヴァルツェア・レーゲンのAICですか…あんなのどうやって開発したんですかね?ISの基本とは言え…分からないっすね…」

 

俺も分からんよ。確かにISの飛行技術はPISだったはず。…やめよう…

 

「後は…日本の代表候補生の更識簪ちゃんの打鉄弐式ですね!」

 

「え?誰だいそれは?」

 

俺の言葉に一部の男性部員がキッと睨み付けてきた。

 

「知らないんですか!?なんで楯無さんを知っていて簪ちゃんを知らないんですか!?楯無さんの妹さんですよ!」

 

「いや…少し落ち着いてくれ…」

 

「いや!簪ちゃんを知らなかったなんて万死に値します。見てください!この可愛いお顔を!」

 

そう言ってスマートホンを取りだし俺に見せてきた。水色の髪の毛を肩まで伸ばし毛先は楯無とは逆で内側に丸まっている。眼鏡をかけており落ち着いた印象を受ける。

 

「…確かに可愛いね。一年生なんだよね?」

 

「その通りです。ただ、一応は専用機持ちなのですが機体が完成していなくて…」

 

「完成していない?」

 

「そうなんです。打鉄弐式は持倉技研の開発だったんですけど白式の開発に人を取られて完成が間に合わなかったんです…」

 

白式にね…なんとも可愛そうな…

 

「どうやらマルチロックオンシステムが完成していないみたいで。俺らに言わせりゃなんでそんなの完成させられないのか不思議でしょうがないんですよ」

 

マルチロックオンシステムがね…え?

 

「マルチロックオンシステムは出来ているのか?」

 

「はい。後はミサイルだけですよ。プログラムなんか時間さえ有ればいくらでも組めますから」

 

この人…すごい…

 

「そうなのか。学園に戻ったら楯無に聞いてみるよ」

 

「そしたら簪ちゃんのサインをお願いします!」

 

「やめてくれ…」

 

ううむ…

この人は…

 

「あまりマツナガ君を困らせないでください」

 

そこに篠田社長がやって来た。そして隣には二階堂さんもいる。

 

「二階堂さん!お久し振りですね」

 

「やぁ、マツナガ君。今日は君に会いに来たんだよ」

 

二階堂さんはニッコリと笑って答えた。

 

「私にですか?」

 

「いや、用があったわけではないよ。もうすぐ学年別トーナメントが行われるだろう?」

 

二階堂さんは顔は笑っているが目は笑っていない。

 

「そうですね。当日は二階堂さんも会場に来られるんですよね?」

 

「もちろん行くよ。毎年楽しみにしているからね。今年は専用機持ちが多いからね。本当に楽しみだよ」

 

「そうですね。それでお客様が来る予定とかは有りますか?」

 

「今のところは無いね。ただ来客があっても対応出来るようにしておいて欲しい」

 

「それは勿論。最高のおもてなしの準備をしておきます。会長と共に」

 

「それは頼もしいな。はっはっはっ…」

 

二階堂さんは笑っているが…内心はハラハラしているんだろう。今年は特にトラブルが多いから…。

 

少しだけ二階堂さんに同情してしまった…

 

 

 

 

 

 

 



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64話

遅くなりました。
出張中でした。


今回の出向も今日のみとなった。

高機動ブースターの試験は順調に進みエステバリスとのマッチングも順調だ。ちなみに、学年別トーナメントが終了したらシャルのラファールにも搭載するらしい。シャルのラファールに乗せてラファールに最適なバランスや出力を今後探っていくらしい。今回、俺の機体に乗せたのは宣伝らしい。学年別トーナメントで大々的にデビューさせて販促にするとの事だ。

 

『試験項目は全て終了。これで終了です』

 

「了解!では戻ります」

 

こうして試験飛行は終了した。

 

 

社屋に戻ると篠田社長に誘われて夕食に誘われた。車で30分程の場所にある大衆食堂だった。一軒家の一階を使っているこじんまりした店だ、

 

「ここの定食がとても私は好きなのですよ」

 

そう言って暖簾をくぐり店へと入る。店内は和という言葉が似合う作りでとても落ち着いた雰囲気がでている。カウンターとお座敷があり全部で15人ぐらいしか入れない。

 

「いらっしゃい!お!篠田さんじゃないか!さぁここに座ってくれ」

 

マスターらしき人に促されてカウンター席に座った。

 

「久しぶりだね、大将。女将は?」

 

「今、出てきますよ。おい、恵子!篠田さんが来られたぞ」

 

「はい!只今!」

 

店の奥の方から割烹着を着た女性が出てきた。黒髪長髪を頭の上で纏めていて割烹着がとてもよく似合っている。手にはおぼんを持っており湯呑みとおしぼりがのっている。

 

「篠田さん。いらっしゃいませ。今日はお連れさんと一緒ですのね」

 

「女将さん、ご無沙汰でした。こちらはわが社のパートナーのマツナガさんです」

 

「あら…と言うことは…お会い出来て光栄です。女将の矢島恵子です」

 

「どうも…マツナガです」

 

「マツナガさん…ってあの?」

 

大将が驚いた顔をしている。

 

「ニュースでやっていたじゃないですか。富士見技研が男性操縦者と提携したって」

 

「おうおう!確かに観たわ。んじゃあやっぱり」

 

「はい。その男性操縦者です」

 

「ほぇ〜まさか男性操縦者に会えるとは光栄だ…長生きしてみるものだなぁ…」

 

「確かにそうですねぇ…ISが生まれて10年と少し…まさか男性操縦者が出てくるとは思わなかった」

 

大将と女将さんは二人で頷き合っている。

 

「彼は中々の波乱万丈な方でしてね。今も中々大変な状況でして…」

 

え?俺って大変な状況なのか?篠田さんの顔を驚いた顔で見ると彼は俺の顔を見るなり驚いた顔になった。

 

「マツナガくん、君は自覚は無いのかい?」

 

俺は首を上下に動かすと篠田さんは笑い始めた。

 

「そうか…そうか。一般人ならば逃げ出す状況だよ?ここに来て副会長をやって、更には警備の責任者の用な立場に二人の警護、極めつけが男性操縦者。僕ならばお腹一杯だよ。それに明らかにオーバーロードだよ。女将さん、僕には冷酒。マツナガくんは?」

 

「あ、私はウーロン茶で。私はオーバーロードをしている自覚は無かったのですが…」

 

「マツナガくん。君がここに来た時の顔色は酷かったのだよ。それとね、口止めをされていたが今回の出向の話を持ってきたのは楯無会長だったのだよ。君の状況が良くないから息抜きさせたいと、二階堂さん経由でね。丁度、例の完成が迫っていたので二つ返事で了承したけどね」

 

楯無が…な。

 

「そうだったのですか。楯無がですか…。俺はそんなに疲れているように見えていたのですかね」

 

「そう言うことは自分では気付かないものなのですよ。あなたは愛されていますな」

 

俺が愛されている?楯無に?

 

「愛されていますねぇ」

 

「愛されてますわねぇ」

 

大将と女将さんも頷いている。

 

「相手をしっかり見ていないと気付かないですよ」

 

女将さんが飲み物を出した。

 

「乾杯しましょうか。大将、女将さんも一杯やってください」

 

「はい!有り難うございます。恵子!冷酒だ!」

 

「はい、ただいま!」

 

女将さんが冷酒ととっくりを持ってきて皆で乾杯をした。

 

「篠田さん、最近は忙しいのですか?」

 

大将がカウンターの向こう側で料理をしながら篠田さんに話しかけている。

 

「ええ。マツナガさんと会えてから仕事の回りが良くなって嬉しい悲鳴をあげていますよ」

 

そう言いながら俺の方を見て軽く頭を下げてくれた。

 

「そうですかい。羨ましい事です。マツナガさんは学園に所属ですよね?ちなみにお歳は?」

 

俺と篠田さんの前に大将が筑前煮を置いた。お通しのようだ。

 

「私は20歳です。まさかこの歳で再び高校1年生をやるとは思いませんでした・

 

一口筑前煮を食べるととても懐かしい味だった。ナデシコのジェフのホウメイさんの筑前煮とはまた少し違った味だったが…

 

「そりゃそうでしょうね。ですが頑張ってください。織斑一夏君とマツナガさんは俺達男性の代表ですからね」

 

男性の代表ですか…

 

「最近の世界は何処かおかしいですよ

。ISが女性にしか動かせないからといって女尊男卑なんてふざけた言葉が生まれちまうんです。男も女も結局はどちらが欠けても世界は廻らないですよ。確かに昔は女の立場は弱かった。けどどんな時も女と子供は保護されてきたじゃないですか。どっちが偉いなんてないんですよ」

 

大将は手を動かしながら喋っている。篠田さんは酒を飲みながらウンウンと頷いていた。

 

店内は大将の言葉が終わると大将の料理の音しかしない。なんとも落ち着いた雰囲気だ。

 

「マツナガくん。何事も諦めないでくださいね。貴方の周りには貴方に協力を惜しまない人が居るという事を忘れないでください。それに貴方は協力をしたくなる雰囲気をもっているのです。そしてそれはかけがえの無いものなのです。まぁ…今は分からないでしょうが…」

 

篠田さんはおちょこを持つと冷酒を飲んだ。

 

 

結局はこのあとは他愛のない話が続きお腹が膨れてお開きとなった。

 

 

 

「トウヤ…戻ったか!試験は上手くいったのか?」

 

IS学園に戻り職員室で千冬に報告をすると千冬は少しだけ顔を曇らせたが直ぐに明るい顔になった。最近の千冬はこんな明るい顔をすることが多くなった。

 

「はい。私の機体に装備されていますので楽しみにしていてください」

 

「そうか。楽しみにしていよう。月曜からトーナメント開始だ。お前は抽選だが初戦負けなんて無様な結果は出すなよ。なんたって私を負かせた男なんだからな…」

 

千冬は顔を少しだけ赤くさせると机に向かいパソコンをいじり始めた。

 

「はい。失礼します」

 

挨拶をして出口に向かい歩き始めると

 

「マツナガ!」

 

千冬に呼び止められた。

 

「はい?」

 

「…なんだ…その…ゆっくり休めよ」

 

「?はい…」

 

「うん…では行け」

 

よく分からないが俺は職員室を出ると生徒会室に向かって歩き始めた。

 

 

「お帰りなさい。トウヤ君。トウヤ君の機体の機動性が大幅アップしたらしいわね。次の模擬戦が楽しみよ」

 

生徒会室に入ったとたんに会長にいきなり

言われてしまった。

 

「戻りました。模擬戦はおいおいで…ところで今回の出向は会長の差し金立ったらしいですね。気を使わせてしまってすみませんでした」

 

「あら…篠田さんが話してしまったのね。最近のトウヤ君はあまりにも疲れている様子立ったからね」

 

会長席に座っている楯無は机に肘をついて手を組み顎を乗せている。顔では笑っているが目は笑っていない。怒っているのだろうか…

 

「済まなかった。自分では気付いていなかった。篠田さんにも酷い顔だって言われてしまった」

 

「でしょうね。ちょっとは気を使ってね。さて…今度のトーナメントだけれど…頑張ってね…」

 

楯無の口の端が吊上がった…何かを企んでいるのか?

 

「言われなくとも頑張るが…何を考えている…いや…何を企んでいるんだ?」

 

椅子の背も寄りかかると楯無の表情が少しだけ影がさした。

 

「いいえ…企んでなんかいないわ。頑張って欲しいだけ…それじゃあゆっくり休んでね」

 

どうやらこれ以上は話をしたくないようだ。俺は席を立ちそのまま生徒会室を後にした。

 

トーナメント開始は目の前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




現在頑張って執筆中ですが少し二作品の結び付けに苦戦しております。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。


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65話

遅くなりました!
待っていてくれた方々、ありがとうございます。
今回は簪ちゃん初登場ですが…なんかイメージが違うので会話部分を変えようかと考えています。ご了承ください。


今日から学年別トーナメントが始まる。俺は管制室でアリーナの状況を確認している。隣には楯無と千冬が立っている。今回は何も起きてほしくないが…

 

『これより学年別トーナメントの組み合わせを発表します。最寄のモニターをご覧ください。最初は第一学年です』

 

モニターに組合せが写し出されると歓声と悲鳴が上がった。自分の組を探すと…あった。

 

『マツナガ・更識VSボーデヴィッヒ・鳳』

 

え?思わず楯無を見ると首を横に振っていた。

 

「まさか妹か?」

 

楯無は首を縦に振った。

 

「簪ちゃんを宜しくね」

 

この女…良い笑顔で言いやがった。

 

「おい…更識…貴様仕組んだな?」

 

千冬の顔が少し怖くなっている。

 

「いいえ…抽選の結果ですよ?」

 

楯無は扇子で口許を隠しながらそう答えた。だが扇子には『必用悪』と書いてある。間違いなく仕組んだな。

 

「まぁ…良いですよ。全力でやることに変わりはありません。私の試合と一夏の試合の時は特に警戒を強くしてください。お願いしますね?」

 

「問題ないわよ?専用機所持者全員はアリーナの即応できる場所に集めてあるし保険で織斑先生に機体を渡してあるわ」

 

俺が居ない間に対策を考えてあったらしく今回は厳重な対応策が考えてあるらしい。

 

「分かりました。では私はピットに向かいます」

 

「マツナガくん?」

 

「なんですか?」

 

「くれぐれも簪ちゃんを宜しくね」

 

「分かった。何かあったら宜しく頼む」

 

「おい!マツナガ!負けるなよ…」

 

千冬からも激励を貰った。小さく頷き管制室から出るとアリーナの観客席に向かった。もうすぐ第一試合が始まる。

 

 

 

 

「あっ!トウヤ…こっちが空いてるよ!」

 

アリーナの専用機持ち専用席に来るとシャル手招きをされた。席にはみんな座っていたが箒もいた。恐らく警備対象として座らせているのだろう。

 

「すまない。シャルとセシリアは午後からか?」

 

この場所は観客席の入り口に一番近く、いざという時は観客席から直ぐに飛び出し対応ができるようにしてある。

 

「そうだよ。トウヤは更識さんとペアだってね。それにしても久しぶりだね…トウヤ…」

 

そう言いながらシャルは後ろの席には視線を向けた。視線の先には楯無と同じ水色の髪の毛をショートカットにして眼鏡を掛けた少女が座っていた。楯無と違って大人しい雰囲気がある。

 

「彼女が更識簪か?」

 

俺が尋ねるとシャルは頷いた。

 

それを確認すると俺は立ち上がり簪の方に向き直る。

 

「更識簪さんだね?初めまして。私は今回、君のペアとなったマツナガ・トウヤです。宜しく頼む」

 

そう言い右手を差し出すと簪は立ち上がってお辞儀をすると握手を返してきた。

 

「更識…簪です。宜しくお願いします…」

 

顔は少し赤くなっている。かなり挙がり症…ではなくただの恥ずかしがりやなのだろう。

 

「うん。一緒に頑張ろう」

 

手を離すと席に座る。それにしても…楯無の意図が読めない。なぜ楯無は俺と簪をペアにしたのだろうか…

 

「トウヤさん!」

 

突然俺の左腕にセシリアが抱きついてきた。

 

「セシリアか…どうした?」

 

「いいえ…最近、お会いしていなかったので…その…」

 

セシリアの顔が赤くなっている。

 

「そうだったな。久しぶりだな」

 

 

 

そんな話をしながら時間は過ぎて一年生の試合が始まった。ラファールと打鉄がツーマンセルで撃ったり切りつけたりとアリーナの中を縦横無尽に飛び回っている。しかしその飛び方はやはり遅く、そしてまだまだ訓練が足りない。

 

 

 

「トウヤ、御飯に行こうよ」

 

11時を回ったところでシャルが昼御飯に誘ってきた。

 

「私もご一緒してよろしいですか?」

 

セシリアも一緒に行くようだ。

 

 

 

 

「そうだな…そうだ。楯無も誘って良いか?ペアで打ち合わせもしたいんでな。簪さん!一緒に昼食を摂らないか?」

 

俺が声を掛けると身体をビクッとさせて此方を見た。

 

「驚かせてすまない。打ち合わせも兼ねて昼食を一緒にどうだい?」

 

簪は少し悩んだ後に首を縦に振った。そして席から立つと通路に出てきた。その様子を見ていたシャルとセシリアは少し不満そうな顔をしている。

 

「じゃあ行こうか」

 

俺達はアリーナから出て食堂へと向かった。

 

 

 

食堂はまだ昼時には早いためかまだ人は集まっていない。

 

券売機で俺はかき揚げ蕎麦を頼んだ。後に続く簪もかき揚げ蕎麦を頼んでいた。

蕎麦が好きなのか聞きたかったがそう言うのを聞くには、まだ距離があるだろう…

セシリアとシャルは簪の後ろを付いて来ているが正直…機嫌が悪そうだ。

 

料理を受け取り窓際のボックスシートに座ると隣にシャルが座った。セシリアが迎いに座ったがとても悔しそうな表情をしている。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

食事が始まるとしばらくは無言で食べていた。だが…その『静寂』を切ったのはシャルだった…

 

「トウヤ、はい、あーん」

 

シャルがフォークにハンバーグを一口刺してこちらに向けてきた。

 

「え?シャル?」

 

「あーん♪」

 

シャルは良い笑顔でフォームを差し出している。

 

「いや…「あーん♪」」

 

ダメだ…これは食べるしかないのか!!

 

俺は意を決してシャルの差し出しているハンバーグを食べる。するとテーブルの反対側から威圧感を感じた。

 

「あら…シャルロットさん…良かったですわね。では私も…トウヤさん、あーんですわ♪」

 

次はセシリアからチキンのソテーを一口差し出された。何故か簪が気になりちらりと視線を向けると顔を真っ赤にしながら蕎麦をチュルチュルと食べていた。

 

「セシリアさす…「トウヤさん、あーん♪」」

 

ダメだ…これも食べないと収まらないのか…恥ずかしいがセシリアの差し出したチキンにかぶり付くとセシリアは嬉しそうに微笑んでいた。

 

これは…非常に不味い…簪が悪い印象を持たないようにしなくては。

 

「簪さん」

 

俺が簪の名前を呼ぶと彼女は体をビクッとさせて顔を上げたが真っ赤だった。

 

「あ…イヤ…済まない。見せつける為に誘った訳じゃないことを先に言っておく。本当に済まない。出きれば試合前に君の得意な戦い方や戦法などを相談したかったんだ。食べ終わったら付き合ってくれないか?」

 

俺は背筋を伸ばして少しだけ頭を下げる。

 

「あっ…いえ…気にして…いません…」

 

簪は俯きながらそう答えた。相変わらず頬が赤くなっているのは気のせいじゃないだろう。

 

「いや…本当にすまない。食事が終わったら打ち合わせをお願いしていいかな?シャルとセシリアは抜きだからな。いいか?」

 

シャルとセシリアに向かって言うと二人は少し不満げな顔をしたが黙って頷いた。

 

「当然ですわね。私達はトウヤさんを倒すためにわざわざ組んだのですから。そうですわよね?シャルロットさん?」

 

セシリアが双言い放ちシャルの方へ視線を送るがシャルは苦笑いを浮かべながら『まあ…そうだね

…はぁ』と言うだけだった。

 

「そうなのか。じゃあなおさら頑張らなきゃいけないな。順調に進めば準決勝で当たるな」

 

トーナメント表ではそうなっていた。

 

俺達はその後は言葉も少なく食事を続け食事が終わるとシャルとセシリアは食堂から出て行った。

 

「さて俺の戦闘スタイルは知っているかな。俺は機動力を生かした高速戦闘が得意だが近接も一応こなせる。簪さんの得意なレンジは何かな?」

 

お茶の入った湯飲みを両手で持ちながら簪の方へと視線を向けながら尋ねる。簪は少しだけ俯きながら口を開いた。

 

「私は…打鉄かラファールしか使えないから…なんでも出きる」

 

「ん?確か簪さんは専用機の話がなかったか?」

 

俺の言葉に簪は表情を曇らせながら答えた。

 

「私の専用機は…まだ完成していない。織斑一夏君の機体に人を割かれたから…」

 

…そう言うことか。

 

「そうか。機体の受領は済んでいるか?」

 

「うん。機体は受け取って今は私が開発を続けてる」

 

なに…?自分で開発を続けているのか!?

 

「凄いな…今日の試合が終わったら機体を見せてくれないか?協力出来るところは協力させてくれないか?」

 

「いいえ…一人で完成させます」

 

「…なぜだ?」

 

「あなたはお姉ちゃんから…更識楯無から言われて仲良くしようとしてるんですよね…?私は…あの機体を一人で完成させなきゃいけないんです」

 

簪は更に俯いてしまった。

これは…どういうことだ?何故簪は一人で機体を完成させることに拘っている?現代兵器を一人で完成させるなんて無理だ。開発費の7割近くがプログラム開発に 回されているくらいプログラムが複雑化しているのに…それを一人でやるなんて無理過ぎる。

 

「確かに楯無とは仲良くさせてもらっているが…なんで一人で完成させることに拘っているんだい?」

 

「お姉ちゃんはミステリアス・レイディーを一人で完成させた。だから私も一人で完成させなきゃいけない…」

 

嘘だろ!?楯無があの機体を一人で!?

 

「それで進捗は?」

 

「…機体は完成してる。でも…マルチロックオンシステムと武器管制システムが巧く噛み合わない…」

 

え?航法と機体制御はうまくいったの!?

 

「凄いな…なぁ…俺の契約している企業の力を借りないか?調度この前にマルチロックオンシステムのプログラムが完成したって話を聞いたんだよ。正直、簪さんは充分やったぞ?楯無の『一人で完成させた』って話は多分だが『一人で指示を出して回りの人間を動かして完成させた』って話だと思うぞ?すべて一人で完成させたら開発者になった方が儲かるよ」

 

そんな奴は聞いたことがない。第5世代戦闘機ですらソフトウェアの開発だけは人数が頼りだった。人形になれば更にソフトウェア開発は複雑化したはずだからだ。

 

「そうなのかな…」

 

「そうだろう。そうでなきゃ…企業は潰れるぞ?」

 

「…」

 

簪は黙りこんでしまった。無理もない…

 

「まぁ…考えておいてくれ。それで、試合の方は出来ればラファールに乗って中、遠距離から援護をしてくれると俺は戦いやすい。どうかな?」

 

「はい。分かりました」

 

顔をあげて首を縦に振って返答してくれた。

 

このあとは試合の時間まで色々と細かい打ち合わせをしながら試合までの時間を過ごした。この時の簪は積極的に会話をしてくれてとても楽しい時間になった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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66話

「マツナガ、エステバリス出ます!」

「更識、ラファール・リヴァイヴ行きます…」

 

ピットのカタパルトで加速して俺と簪はアリーナへと飛び出した。

 

アリーナには既に2機のシュヴァルツェア・レーゲンと甲龍が滞空していた。

 

「ようやく来たか…逃げたのかと思ったぞ。まぁ、どちらにしても私が勝つのだがな」

 

シュヴァルツェア・レーゲンを身に纏った少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが此方を睨みつけながらそう口を開いた。

 

「すまん。待たせたみたいだな。良い試合をしようじゃないか。なぁラウラ?」

 

俺が『ラウラ』と名前で呼ぶとボーデヴッヒは歯を食いしばりあからさまに顔を真っ赤にして怒り出す。

 

「貴様に名前で呼ばれる筋合いはない‼」

 

はい…挑発成功。

 

確かあいつは部隊の隊長だったはずだ。指揮官、いや士官たるものは冷静に状況分析、情報取集を行い指揮を採らなきゃいけない。基本中の基本だ。

 

「ところで鳳はなんで抽選になったんだ」

 

俺の質問に凰はギクッとなり悔しそうな顔をして口を開いた。

 

「…結局ペアを組む相手が見つからなかったのよ…」

 

…しまった。なんだか可哀想な事を聴いてしまった気がする。まだ友達と呼べる人が居ないのか。

 

『試合開始まであと10秒。9、8、7…』

 

場内のアナウンスがカウントダウンが進み俺は右手にラピッドライフル、左手にレールガンを呼び出した。ちなみにレールガンは今回の試合のために威力を落とした。シールドバリアは貫通するが絶対防御への影響を落とした。よく模擬戦をするシャルとセシリアから苦情が出たからだ。二人曰く

 

「トウヤのレールガンは当たると失神するんじゃないかと思うよ」

 

とか

 

「トウヤさんはきっと私を殺す気なのですわ」

 

と言われるのだ。ただ最後には二人揃って

 

「「私(僕)を傷物にしたらトウヤ(さん)に責任を取ってもらうけどね」」

 

と言われる。

 

『試合開始!』

 

スタートの合図とともにアリーナには歓声が上がった。アリーナは満員で貴賓席にも相当な数の来賓がいる。ハイパーセンサーで拡大すると篠田社長と二階堂さんが見えた。

 

脇見も一瞬で済ませて俺はボーデヴィッヒに襲いかかる。ラピッドライフルをフルオートで撃ちながら距離をとり時々レールガンを撃つ。簪は予定通り後方に下がって凰へと牽制射撃を行い俺への射撃を抑え始めた。これは打ち合わせで決めていた事だ。

 

『恐らくあのペアはまともな打ち合わせをせずに出てくる。連携は無しに等しいが…もしかしたら凰が援護に回るかもしれない。そうなった場合は凰の抑えは簪さんに頼んだ。もし倒せる様ならば倒しちゃって構わないが間違っても倒されないでくれな。流石に二対一では勝てないよ』

 

俺は一気に加速してボーデヴィッヒに的を絞らせないようにボーデヴィッヒの回りを動き回ると案の定シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンの射撃は遥か後方を跳んで行き全く当たらない。俺は速度を落とさずに右に左にと飛び回りラピッドライフルを連続で撃つと弾丸はシュヴァルツェア・レーゲンへと吸い込まれる様に当たる。当たったボーデヴィッヒは体勢を崩したがすぐに持ち直しワイヤーブレードを飛ばしてきた。ラピッドライフルを収納してイミディエットナイフを呼び出しワイヤーを交わしざまに切り断ちその合間に出来た隙にレールガンを撃ち込むとオレンジ色の弾丸がシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアを突き破りレールカノンに当りレールカノンが砕けちった。

 

『グッ!!』

 

ボーデビィッヒは歯を噛み締めながら態勢をたてなそうとしている。

 

「ラウラ!」

 

凰の声が聞こえたかと思うと同時にいきなり背中に衝撃が走り吹き飛ばされる。後ろを振り返ると凰が甲龍の肩のアンロックユニットの口が此方を向いていた。

 

(衝撃砲か…)

 

直ぐに態勢を立て直し回避運動に入ると凰は連続して衝撃砲を撃ってきているようでエステバリスの後方のアリーナのシールドでは波紋が広がっている。

 

「トウヤさんの邪魔はさせない!」

 

簪がサブマシンガンを撃ちながら凰へと接近すると凰は俺との撃ち合いをやめて簪との接近戦を始めた。

 

「簪!無理はするなよ!」

 

「分かってる!けど早くそっちを終わらせて!」

 

「分かった!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンに向き直るとワイヤーブレードが目の前まで迫っていた。

 

「うおっ!!」

 

思わず声が出てしまったが避けるついでに再びワイヤーを断ちきる。

 

「貴様!男なら接近戦を仕掛けてこないか!」

 

ボーデヴィッヒが叫んでいる。どうやら相当頭にきているようだ。誰があえて相手の得意なレンジに入ると思う…

 

「そういう風に言うと言うことは接近戦がお前の得意なレンジなのか。お前は馬鹿か?士官教育は受けなかったのか?部隊長教育は?部隊長ってことは佐官クラスだろう?貴様は幹部失格だ。感情に身を任せ、民間人に手を上げる。法令遵守は軍人の基本だろう。ドイツ軍はジャガイモ頭の集団のようだな貴様の様なジャガイモを部隊長に抜擢するなんてな?」

 

『トウヤ…言い過ぎだ。ドイツ軍の幹部も来ているんだぞ…』

 

千冬からの通信に俺は青ざめた…

 

「シュヴァルツェハーゼを馬鹿にするなーーー!!!」

 

ボーデヴィッヒは叫びながらプラズマ手刀を出しながら此方に突っ込んできた。回避や先読みなどを全く無視したただの特攻だ。

 

(どこまで未熟なんだ…あの年齢では仕方ないのか)

 

俺はイミディエットナイフを仕舞うと再びラピッドライフルを呼び出しボーデヴィッヒと距離を一定に保ち後退しながらボーデヴィッヒに射撃を加える。

 

『アアアァァァーーー!!!』

 

ボーデヴィッヒは声にならない叫び声を挙げながら此方の弾を避ける事なく突っ込んでくる。シールドバリアで弾丸を弾いてはいる。

 

「ラウラ!落ち着いて!!」

 

凰が簪と撃ち合いながらボーデヴィッヒを落ち着かせ様と叫ぶが全く耳に入っていない。

 

俺はレールガンをシュヴァルツェア・レーゲンの残ったレールカノンに撃ち込むとまた爆発を起こしてレールカノンが吹き飛んだ。これでシュヴァルツェア・レーゲンには射撃の武器は残っていない。こちらに突っ込んでくるシュヴァルツェア・レーゲンの肩部などの装甲のある部分にレールガンを撃ち込む。綺麗に当たり爆発を起こして態勢が崩れた。

 

「私は…私は…失敗作なんかじゃない!!!」

 

そう叫ぶとシュヴァルツェア・レーゲンはグラウンドへと墜ちていった。どうやらシールドエネルギーが尽きたようだ。

 

「訓練をやり直してくるんだな。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

そう呟くと俺は凰の方へと向き直ると簪と凰は未だ中距離で撃ち合いをしていた。

 

「待たせたな簪。援護する」

 

凰へと飛びながら簪に声を掛ける。

 

「ありがとう。むしろ私が援護する」

 

「分かった。じゃあ頼んだ」

 

レールガンを凰へと撃ち込むと再び凰の乗る甲龍の回りを高速で飛び回る。これで二対一だ。戦術的にも此方の勝ちは確定だ。

 

「全く…ほんっっとやりづらいわねぇ!!あいつはあんだけ偉そうな事いっておいて私より先に落とされ…ねぇ…あれ何よ!!!」

 

凰が急に動きを止めある一点を見ながら叫んだ。俺も動きを止めてそちらの方向を見るとボーデヴィッヒの乗るシュヴァルツェア・レーゲンが立ち上がり黒い液状の物を纏い始めた。

 

「アアアアアアア!!!!」

 

ボーデヴィッヒが悲鳴を上げると同時に黒い液状の物はボーデヴィッヒを飲み込んだ。

 

「不味いよな…楯無!聞こえているか!?」

 

「ええ!此方も観ているわ。避難を開始するわ。そして専用機持ち達を出撃させる」

 

「了解。攻撃してきた場合は抑えに専念する」

 

「トウヤ。死なないでね」

 

「勿論だ。機体は消耗品ってね…誰の言葉だったかな」

 

「ふふ…確かに」

 

アリーナ内に警報音が鳴り響き客席のシャッターが降ろされる。

シュヴァルツェア・レーゲンを包み込んだ黒い液状の物は徐々に大きくなりやがて人形へと形を変えていっている。

 

「トウヤさん…あれは何なのよ!?」

 

凰は俺の隣に居てシュヴァルツェア・レーゲンだった物を眺めている。

 

「知っていたら教えているさ。もうすぐ専用機持ちと恐らく織斑先生が来る。教師部隊は恐らくアリーナを取り囲み外部への逃亡を阻止するための部隊として配置される。なのでそれまでは各員は抑えに徹するんだ。自分の命を最優先に。危なくなったら逃げろ。いいな?」

 

オープン回線で凰と簪に告げると二人は大きく頷いた。時々思うのだが、この機体はフルスキンのため俺の表情は他人から見えないのだ。そして俺の目に写る景色は自分の目で見ているかと思うぐらいに鮮明に見える。しかし明確に違うのは各戦闘情報が一緒に写し出されている。元々のエステバリスと違う点の1つなのだ。この映像?はどのような仕組みで俺の視界としているのだろう…

 

「トウヤさん!」

 

ピットから専用機持ち達がやって来た。先頭は白式の一夏でセシリア、シャル、楯無の順に続いている。そして更にその後ろに打鉄が続いた。千冬だ。シュヴァルツェア・レーゲンは完全に人形となって右手には一振の刀みたいな物を持っている。

 

「織斑先生、指揮をお願いします」

 

「いや、指揮はマツナガに任せる。やはり餅は餅屋に頼まなくてはな」

 

ふっと笑うとウインクをしてきた。

 

「了解しました。指揮を執ります。現在はまだ攻撃を受けていない。よってまずは様子見をする。前衛は織斑先生、一夏、凰で中衛はシャル、会長、簪、後衛はセシリアと俺。但し、俺は遊撃と考えてくれ。役割は…言わなくても分かるな?よし、掛かれ!」

 

俺達はシュヴァルツェア・レーゲンだった物へと攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 




一部修正しました。2015年1月26日


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67話

大分間隔が開いてしまい申し訳ありません。

もうすぐ一区切りつける予定です。


 最初は様子見をしていたが徐々に攻撃を加える。一夏と千冬、凰がそれぞれの武器で斬りかかる。それに続いてシャルと簪が中距離からそれぞれマシンガンで射撃を加える。楯無も蒼流旋のガトリング砲で攻撃をしている。セシリアも遠距離からスターライトmkⅢを撃ち込んでいるが全ての攻撃が効いていない様に見える。実弾は人型に当たってはいるが取り込まれているようでレーザーは当たる瞬間に消えてしまっている。前衛の攻撃は黒い人型の物からの刀の攻撃を受け止めたり避けたりしている。千冬が切り付けても液体が裂けるだけでダメージがあるようには思えない。

 

「マツナガ。こいつはやたら固いというか…意味がなさそうだな。どうする?このままではジリ貧だぞ」

 

千冬は黒い人型に斬りかかっては退くを繰り返しながら俺に話掛けてきた。表情には焦りが窺える。

 

「そうですね。俺もレールガンを撃ち込んでみましたが効いていないようですね。一夏の零落白夜ならいけるかも知れませんが…危険ですよね?」

 

これは最初に思い付いたが敵の動きが分からない点、ボーデヴィッヒの安全が確保出来ない点からこの方法は保留にしていた。

 

「そうだな。まぁ…一夏は本番で強いタイプだから意外とやれるかも知れないな」

 

「そうですが、ただラウラ・ボーデヴィッヒの安全の確保が難しいです」

 

「そうだな。…これは他言無用だがこの事態の原因はシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていただろうあるシステムが原因だ」

 

千冬はこの黒い人型の正体を知っているようだ。

 

「この正体を知っているのですか!?…それでこれは?」

 

「VTシステムだ。ヴァルキリー・トレース・システム、過去のモンドグロッソの戦闘をデータ化して再現するシステムだ。恐らくあれは…私だ」

 

千冬の言葉に驚き千冬の方を見ると千冬の頬がかなり赤くなっている…こんな時に恥ずかしがっている場合では無いだろう…

 

「ではあれは人類最強のデータの動きをするって訳ですか」

 

「当時の…って言葉が付くがな。私の知っている情報通りならばラウラ・ボーデヴィッヒは生きている。そしてあれを引き起こしているのもラウラだ」

 

千冬と情報交換をしている間に一夏が直撃を喰らったらしく壁に叩きつけられていた。慌てた凰が一夏に駆け寄り抱き起こすと一夏は驚愕の表情を浮かべていた。

 

『何でだよ…何であいつが千冬姉の技を使うんだよ!!訳わかんねぇ!しかもあいつの刀は雪片じゃねぇか!!あれは千冬姉のもんだ!!!』

 

不味い!一夏がキレた。

 

「凰!シャル!一夏を抑えろ!千冬はそいつの攻撃を引き受けてくれ!一夏が暴走を始めた!」

 

一夏は雪片弐型を掲げて人型に斬りかかるが人型の雪片の一撃を雪片弐型て受けるとそのまま弾かれてしまった。

 

「一夏!落ち着け!」

 

千冬が人型に攻撃を加えながら一夏に怒鳴り付けると一夏は起き上がり再び攻撃態勢にはいるがシャルと凰に両脇から固められてしまった。

 

「おい!シャル!リン!離せよ!あいつは俺がやらなきゃならないんだよ!あいつは…」

 

一夏がシャルと凰を振り払おうとするが凰の衝撃砲を至近距離から食らって再び転げて壁に激突した…凰の奴…随分ひどい事をするな。

 

「痛たたた…おい!リン!何するんだよ!」

 

一夏が頭を抱えて起き上がると凰に向かって文句を叫びだしたが…

 

「あんた、少しは頭を冷やしなさいよ。あんたが無茶苦茶やると死人が出る可能性があるのよ!良い?これは訓練じゃないの。実戦なの。あれの直撃を食らえば死ぬの。分かる?」

 

凰の言葉を聞いた一夏はハッとして冷静さを取り戻したようだ。

 

「そうだったな。冷静・・・」

 

深呼吸をして雪片弐型を正面に構えると目を瞑り再び深呼吸をして目を開けた。

 

「みんな!済まなかった!」

 

オープン回線で謝ると再び前衛へと戻った。

 

「凰良くやったぞ!後で良いものをあげよう」

 

「ふん!どうせろくな物じゃ「一夏の寝が」良いわ!それで!!!」

 

 

再び攻撃を始めるが突然山田先生の悲鳴に近い声が聞こえた。

 

「織斑先生!アリーナ上空に高エネルギー反応!アリーナのシールドに直撃します!」

 

山田先生の声が止むと同時にアリーナ全体が揺れそしてシールドバリアを破って黒い光の様な物が地面に突き刺さって爆発を起こした。近くにいたシャルや楯無を吹き飛ばした。土煙が舞い上がり視界はほぼゼロとなるがハイパーセンサーは確かに巨大な何かが降りて来ていることを捉えていた。

 

「全員気を付けろ!何かがアリーナ内に侵入した!」

 

オープン回線で全員に注意を促す。

 

 

それと同時にアリーナ内のスピーカーから山田先生の声で警告か流れた。

『アリーナに侵入してきた機体に告げる。ここはアラスカ条約にて定められた一般人が立ち入り禁止の区域である。直ちに退去せよ。退去しない場合は強制排除を行う』

 

…先程のアリーナのシールドを破った攻撃は…グラビティーブラストだった。

 

土煙が収まってくると巨大な機体が明らかになってきた。赤色でやたらと長いの四肢、青い胸部に金縁の長方形のマークみたいなオブジェ…見知った機体だった。

 

「まさか…このタイミングは無いだろう…」

 

俺は自分の頬に汗が流れるを感じた。

 

そしてみんなに…情報を伝えるためにオープン回線を開いた。

 

「全員聞いているな。あれは…ダイテツジンだ。この前に話をしたジンタイプだ」

 

「「「「「「っ!」」」」」」

 

全員が息を飲むの声が聞こえた。

 

「アリーナのシールドを破ったのがグラビティーブラストだ。つまり…シールドバリアはグラビティーブラストに対して無効というのが真っ先に証明された…」

 

アリーナのシールドバリアはISのシールドバリアの強力なものなのだ。

 

「絶対に当たるなよ!それとディストーションフィールドは実弾が有効だ。実弾兵装を持っている者は実弾を中心に、織斑先生、一夏、凰、会長、俺は同時に近接戦闘を仕掛けてディストーションフィールドの突破を計る。シュヴァルツェア・レーゲンがまだ生きているのでそちらにも注意をはらうんだ!いいな!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「では掛かれ!」

 

全員が一斉に散開しダイテツジンに攻撃を開始した。

 

俺、千冬、一夏、凰、会長で多方向からのシールド突破を仕掛ける。俺はフィールドランサーをコールし背面からの攻撃を仕掛けるがダイテツジンは左腕を振り妨害してきた。

 

どうやらエステバリスとの戦闘を経験しているパイロットが搭乗しているようだ。セオリー通りの攻撃を仕掛けてきた。

 

「トウヤ!私が正面で奴の気を引き付けている。その間に背後からバリア突破を行ってくれ!一夏!お前はシュヴァルツェア・レーゲンの気を引いておいてくれ!」

 

千冬からの指示に否定はない。

 

「「了解!!」」

 

千冬が正面からディストーションフィールドに取り掛かるのを確認すると背後に回り込み取り付く機会を伺う。千冬はダイテツジンからの腕の振り回しを避けて上から切りつけたりしてなるべく相手の気を引こうとしている。シャルとセシリアの射撃攻撃もダイテツジンの正面上方へと当たるがバリアに当たって弾かれる。

(なぜこいつはボソンジャンプをしない?)

ダイテツジンは優人部隊で使用されている機体だ。パイロットが優人部隊の者ならばボソンジャンプが使用可能なのだ。

 

千冬の攻撃が連続になったのを確認すると俺はフィールドランサーでダイテツジンのディストーションフィールドに取り掛かり全推力をフィールドランサーに押し付ける。

 

「刺され…!」

 

ダイテツジンはまだ此方に気付いていない。ディストーションフィールドに槍先が入り込むのを確認するとフィールドランサーの槍先を開く!

一気にディストーションフィールドが消えてそのままダイテツジンの背中にフィールドランサーを突き立てる!

フィールドランサーの槍先の半分以上が刺さりダイテツジンの背中から小さな爆発を起こす。

 

「全員総攻撃だ!」

 

俺の号令でシャルとセシリアは最大火力の武器を呼び出し撃つ。セシリアはスターライトと同時にミサイルを、シャルと簪はアサルトカノン『ガルム』で連続射撃をしている。千冬、凰、会長はダイテツジンを近接武器で切りつけている。

 

徐々にダイテツジンに傷が増えて満身創痍の言葉の通りになってきたところで…

 

「ぐあーーーー!!!」

 

突然一夏から悲鳴が上がった。一夏の方へ視線を向けると一夏はダイテツジンの腕に弾かれシュヴァルツェア・レーゲンの方へと飛ばされた。

 

「一夏!!!!」

 

織斑先生が慌てて一夏の方へと飛んでいった。

 

「織斑先生今は!?」

 

俺が声を掛けると同時にダイテツジンの腕が此方に向かって飛んできた!

 

ダイテツジンから気をそらしてしまったために攻撃を見落としてしまったのだ。避ける余裕も無く慌てて目の前で腕をクロスさせると物凄い衝撃が機体を襲い吹き飛ばされて壁に激突した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2015年1月25日一部編集。


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彗星の帰還の章
68話


長い期間間を開けてしまいました。。。
申し訳ありません。

不定期に更新していく予定ですので気が向いたらまた読んで下さい。。。


そこは白い砂漠が広がっていた。

そして空…いや『宇宙』が広がっていた。

 

(ここは…月なのか…)

 

辺りを見回すがゴツゴツした岩があるだけで他には少女が一人立っていた。

 

(あなたは何を望むのですか?)

え?

(あなたは何を望むのですか?)

頭の中に直接語りかけているのか?

(あなたは何を望むのですか?)

俺は…何を望むのか…

(あなたは何を望むのですか?)

俺の望み…それは…

 

 

 

 

 目を開けるとそこには白い天井があった。

腕には点滴が刺されており胸には心電図の吸盤が貼り付けられている。

(ここは病室なのか?)

横を見るとカーテンが閉められており回りの様子は見れない。

上体を起こしカーテンを開けようとするが体に激痛が走り体を起こすことが出来なかった。腕を伸ばしてカーテンを掴み少しだけ開けてみるとそこには懐かしい光景が広がっていた。

 

機動戦艦ナデシコの医務室だった。

 

(ナデシコ‼俺は帰ってきたのか!)

 

あまりの驚きに体がバランスを崩してしまいベッドから落ちてしまった。

 

「グッ!」

 

痛さのあまり声を上げてしまうと机の方から足音が向かってきた。

 

「マツナガさん!目を覚ましましたか!」

 

その声はイネス先生だった。ナデシコの医療担当で火星の生き残りだったとか。

 

「イネス先生…ここはナデシコで間違いないんですよね…?」

 

俺は未だにナデシコにいる事が信じられなかった。

 

「そうよ。ここはナデシコ艦内よ」

 

イネス先生は微笑みながら答えてくれた。

 

「そうですか。俺は戻って来れたんですね…!?」

 

「そうね。戻ってきたと言う表現が正しいのかしら?」

 

イネス先生の顔が微妙に曇る。

 

「何かおかしな事を言いましたか?」

 

その曇った表情が気になり疑問をぶつけてみると

 

「そうね。取りあえずベッドに戻って少し待っててくれるかしら?」

 

そう言いながら俺をベッドに戻しカーテンを閉めると医務室から出て行った。

 

(どう言う事だ。ナデシコに戻ってきたまでは良い。しかしなんでイネス先生は曇った表情になる…)

 

どれくらい考えたかは分からないが医務室の扉が開く圧縮空気の音が聞こえると足音が二組聞こえカーテンの前まで来るとそれは開かれた。そこに立っていたのはイネス先生と千冬だった。

 

「千冬‼なんで君がここに!?グッ!」

 

驚きのあまり体を起こそうとしてしまい激痛が走った。

 

「トウヤ‼無理をするな。私達がここにいる理由など私が知りたいくらいだ」

 

千冬は困惑した表情で答えた。ん?私達?

 

「私達?まさか…」

 

「そうだ。あのアリーナでの戦闘に参加していた生徒達はナデシコに収容してもらっている」

 

え?まさか…俺のボソンジャンプに巻き込まれた?

 

「千冬…あの後まさか、ダイテツジンは自爆したのか?」

 

「そうだ。まさかいきなり自爆するとは思わなかった…それで全員巻き込まれて気が付いたら宇宙空間にいてトウヤを抱えながらハイパーセンサーでこの船を見つけたんだ」

 

全員か。

 

「そうか…すまない。みんなを巻き込んでしまったようだ」

 

「まぁ、気にするな…とは言えないな。何とか戻る手段を探さなきゃいけないようだ」

 

気まずい雰囲気が医務室を包み込んだ。原因は間違いなくボソンジャンプだがあれは一種のワープ、瞬間移動と言うのが現在の解釈だ。しかも誰でも使える訳ではない。CC、チューリップクリスタルがキーとなって特定の人物のみが使えるようだ。

 

「そこら辺は私も研究している事だから分かり次第伝えるわ」

 

イネス先生はフォローを入れた。

 

「フレサンジュ先生、宜しく頼みます」

 

千冬が頭を下げる。

 

「イネス先生、俺からも頼みます」

 

「ませておいて、って言いたいけど何とかするわ」

 

そう言うと白衣のポケットに手を入れて医務室から出て行った。

 

「トウヤ…体の具合はどうなんだ?」

 

千冬の表情が急に悲しげな表情に変わった。

 

「あ…すまない。イネス先生から詳しい事は聞いていないが体中が痛いだけで多分骨折などは無いと思う。ところでナデシコに収容されてどれくらい経つんだ?」

 

「5日間だ」

 

「5日間!」

 

「現在は地球に戻るところだそうだ」

 

地球に戻る?と言う事は月の近海にでも居たのだろうか。

 

「そうか。他のみんなの状態は?」

 

「みんな怪我などは無い。ラウラがVTシステムの影響で気絶していたがナデシコに収容されてから直ぐに意識を取りもどした。要はトウヤが一番重症だったってことだ」

 

俺が一番の重症か。

 

「そうか。まぁ、それを聞いて安心した…と言っていいのかな」

 

「全員生きているのだ。良いんじゃないか?」

 

そう言って俺達はクスクスと笑いあった。

 

 

 

 

「トウヤ‼」

 

そう叫びながら黒い髪の女性が医務室に飛び込んできた。

 

 

 

エリナだ。

 



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69話

「エリナ!エリナなのか!」

エリナは俺の胸に飛び込んできた。暖かい。

「トウヤ!死んじゃったかと思ったんだから!戻ってこないかと思ったんだから!」

エリナは俺の胸で泣きじゃくっていた。

「良かったわね、エリナ・キンジョウ・ウォン」

イネス先生がエリナを暖かい目で見ている。

「トウヤ…」

千冬がなんとも言えない表情をしていた。

「すまない千冬。しばらくは…」

「…分かっている」

千冬はそう言って医務室から出ていった。扉が閉まる直前に少し振り返り、ちらりとこちらを見たけども。

「エリナ、落ち着いて。俺が居なくなってからの話を聞かせてくれないか?」

エリナは泣き晴らした顔を上げる。

「しょうがないわね。話をしてあがるわ」

目と顔が赤いエリナはベットの脇に置いてある椅子に座る。

「あのチューリップに突入した後は1ヶ月後の金星と地球の間に飛んだわ」

え?金星と地球?

「そうよね。意味が分からないわよね。私もも分からないわ」

エリナの後ろにイネス先生が立っていた。

「私の見解では…」

「後で聞きますんで先に経緯を聞いていいですか?」

いつもの説明が始まりそうだったので止めた。

「良いわよ。後で詳しく見解を聞かせてあげるわ」

イネス先生が嬉しそうにカーテンの外に出ていった。言葉を間違えた様だ。

「トウヤ…続けるわよ?地球と金星間に飛んだ後は地球軌道に戻ってナデシコの修理を行って再び火星方面の哨戒をするために出港。そして、またテツジン型と戦闘をして自爆をしたところあなた達が現れたの」

また自爆?あいつらはパイロットの命を何とも思わないのか?パイロット一人を育てるのに莫大な時間とお金が必要なのに?

 

「そうか。また危ない状況だったのか?」

「そうでもないわ。トウヤの件からみんな慎重になったのよ。ジン型が出てきたら自爆を前提に作戦を立てて対処してるのよ」

「そうか。なら良かった。さて、皆に帰還報告をしないとな。あと千冬達の保護も頼まないと」

ベッドから起きあがり立とうと体の向きを変えるとエリナがジト目で俺を睨んでる。

「ん?どうしたんだエリナ?」

「いえ、あなたは何処で何をしていたの?あのチフユとか言う女はあなたの側を離れようとしなかったけど?」

ただならぬ雰囲気だ。

「何をって、信じてもらえるか分からないけども、あの爆発の後は別の世界の日本に居たんだ。IS学園と言う所にね。ISとはいわばパワードスーツの一種でブラックボックスのコアで空を飛んだりバリアをはったりと軍事兵器だな。そのISのパイロットを要請する教育機関の教官をやってたんだ。千冬は…織斑千冬は同僚で世界大会の王者でもあったんだ」

「え?アイエス?彼女達の着ていた…と言って良いのか分からないほど装甲の少ないあれが?」

「そうだ。装甲は少ないけどもバリアがはってある。バリアも武装もコアのエネルギーを使って展開するんだ。あの技術は凄いよ。武装も弾薬もあのご案内の中に格納出来る。スーツ自体もな」

「なにそれ!そんなのが有ったら軍事バランスが崩壊するじゃない!」

流石はエリナだ。あのISの危険性をすぐに見破った。

「そうなんだが、あのISを開発したのが篠ノ之束博士はコアの数を制限して、さらに国際機関で管理しているんだ。だからあの世界では逆に平和だよ」

言ってみればISが世界全体を抑止していると考えても良いのかも知れない。

「なんとも使いにくい物ね。結局数が揃わなければ使えないわ」

「そうだな。元々は篠ノ之束はあれを宇宙開発の為に開発したんだ。だから数は制限している」

「シノノノダバネね。あれ?もしかしてシノノノホウキは彼女の親類?」

「ああ。彼女の妹だ。けれども博士の事は聞かないでやってくれ。彼女は姉の発明のせいで重要人保護プログラムの保護対象になって相当辛い思いをしたようなんだ。ちょっと過激な思考になっている。好きな相手を木刀で攻撃してしまう位ね」

「何よそれ。…マジ?」

「マジでだ」

「よく捕まらないわね」

「俺もそう思うよ」

俺はエリナと顔を見合わせて苦笑しあった。

「そんなわけで俺は今はIS学園の生徒兼実戦教官兼護衛としての肩書きが有るわけだ」

「そうなのね。マツナガ教官」

「やめてくれ。エリナに言われるとなんだか恥ずかしいじゃないか」

ベッドから立ち上がろうとするとエリナも椅子から立ち上がり俺に肩をかしてくれた。体に痛みがあるがなんとか歩けそうだ。

「とりあえず艦橋に行って艦長に挨拶をしないとな」

「そうね。艦長も話を聞きたがってたわ」

「だよな。さて行こうか」

カーテンを開けて医務室のドアに向かおうとすると脇からエリナが抱きついてきた。

「トウヤ…お帰りなさいなさい」

少し小さい声だったが間違いなく聞こえた。

「うん。心配かけてごめんな。ただいま」

そう言うとエリナは離れて笑顔でまた答えてくれた。

 

 

 

 

ブリッジに入ると拍手で迎えられた。この艦はなぜか二段構造になっていて上が幹部(指揮、参謀等の意思決定)席があり、下段にオペレーター、操舵、通信、パイロットの席がある。

 

「艦長!ご心配とご迷惑をお掛けしました。マツナガ只今戻りました」

ブリッジの艦長席の横で敬礼をするとミスマル艦長も立ち上がり敬礼をして

「お帰りなさい!よく戻ってくれました!マツナガさん!」

そう言うと目に涙を浮かべていた。

「艦長、泣かないでくださいよ。あの状況ではあれしか方法が無かったのですから。私は怒ったり恨んだりしていません」

敬礼の手を下ろしてミスマル艦長に差し出すと、艦長も俺の手を握ってくれた。

「本当にありがとうございます。マツナガさんのおかげでみんな無事でいられました。今度、マツナガさんは中尉に昇進します。私から提督に進言しておきました」

「ありがとうございます!」

そう言うと周りから拍手が起こった。

「良かったじゃないか!おめでとう!そしてお帰り!」

「ジュン!ありがとう!ただいま!」

ナデシコの副長だ。あまりにも普通過ぎて存在を忘れられやすいが、破天荒なナデシコクルーでは得難い良心だ。ミスマル艦長に惚れてるらしいが。

「よく戻ったな」

「はい!戻りました!また宜しくお願いします」

戦闘指揮のゴート・ホーリーで連合軍の先輩だ。

「ああ。お前の状況認識は素晴らしいものがある。こちらも頼りにしているぞ」

そう言いながら肩を叩いてくれる。

戻ってきたと実感させてくれる。

「艦長。ご相談があるのですが」

「はい。大丈夫ですよ。IS学園の生徒達の件ですよね?彼女達は『遭難者』としてナデシコで保護します。なので司令部にも報告は入れないでおいてます」

流石は連合軍大学校の首席だ。あのISの危険性をもう認識しているのか?

「ありがとうございます。彼女達をモルモットにしかねないので…連合軍は」

「はい。なので今後の事を考えなくてはなりません」

「そうですね。一応は彼女達は単独の戦闘マニューバは使えます。ですがマンセルマニューバはまだ覚えていません。万が一に備えて連携と実戦は教えるつもりでいます。あと、アカツキを使ってあれをネルガルの試作機扱いにしてしまおうと考えています。それによって彼女達の身分の保証になれば良いかと考えます」

今、千冬達はこの世界では存在しないことになっている。しかもISと言うこの世には存在していない兵器を持ってだ。ISはこの世界の個人携帯レベルの武装としてはとてつもない危険性がある。それを連合軍に目を付けられたら間違いなく『接収』に動くだろう。

 

拒否すれば手段を選ばずにだ。

 

「いいよ。その話に乗ってあげるけども、僕には何かメリットは有るのかい?」

 

俺の肩をポンポンと軽く叩いて横に立った。アカツキだ。

 

「そうですね。彼女達の協力を得られればネルガル重工独占のISの研究ですね。あのバリアなんかは喉から手が出るほど欲しいのでは?そもそもあんな軽装で宇宙空間での作業が可能になる上にパワードスーツ並みのパワーが有るんですから」

「そうだね。あれは是非とも欲しいね。分かったよ。ネルガルが全面的に支援をしよう。身分とその保護でね」

流石はネルガルのトップだ。決断が早い。

「アカツキさん、助かります」

俺は頭を下げるがアカツキは首を横に振った。

「いや、トウヤには助けられた。正直あの時は君にもう会えないかと思ったよ。また会えて良かった。あの時は本当に助かった」

「私は私の仕事をしただけです。気にしないで下さい、アカツキ隊長」

「さすがはパイロット過程の首席だよ」

「ちゃかさないで下さいよ」

そう言いながらアカツキも右手を差し出してきたので握手をした。

 

こうして彼女達の保護の方針は決まった。

 



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