異世界に腕力転生 (madamu)
しおりを挟む

ゴジラ
異世界に腕力転生


一話完結。思いつき


トラック転生の良し悪し、というのを議論し始めるとトラック運転手の事件後の加害者としての償いに帰結すると思う。

などと妙に冷静に考えられるは、すでに事後であり私が死んでいるからであろうか。

 

すでに、諸々の手続は終わり私はロビーのソファで呼び出しを待っていると

院内に設置されたスピーカーから呼ぶ声が聞こえ立ち上がる。

 

チートの付与というのは病院での問診と処方箋に似ているのかもと漠然と思う。

死後に案内されたのは総合病院の様な建物で受付もあり、死亡時の状況で案内される科も違う。

 

「129番の番号札をお持ちの方は問診室22へお入りください」

 

まんま病院である。

手元の番号札が呼び出しと同じ番号だと確認し、足元の「問診室20~29」と書かれた黄色い誘導線を追い歩き始めた。

 

 

問診室のドアを横にスライドさせる。

院内は白を基調とした綺麗な作りだったが、問診室の扉の向こうは病院というよりまるでカジノだ。

カジノには行ったことはないが、映画で見るカジノと変わらない

 

皆正装、女性はイブニングドレスで男性はスーツ、それも吊るしのビジネススーツではなくフォーマルさの残るオーダーメイドの様な作りだ。

 

入口から見える範囲では、スロットにルーレット、ポーカー台とまるでラスベガスをイメージさせる。

 

「君はこういうところ初めてかね?」

正面の人だかりから現れたのは白衣の中年男性だ。

面長でやや痩せぎすな印象。フレームの細い丸メガネが少し胡散臭さを醸し出している。

「君の問診担当だ。ある程度問診室は担当者の遊びを反映できてね。せっかくのチート選択なんだから少し博打要素があれば面白いかと思ってね」

 

男は私の手を取るとカジノを楽しむ人たちをかき分け、空間の奥にあるひときわ大きいスロット台へ案内する。

カジノ内の男女、白人もいれば黒人も、アジア系もいれば、リザードマン?ライオン頭の男性など多種多様だ。

 

人々は男性(主治医)と俺に好奇の視線を送るが、主治医は意に返すこともない。

「さて、このスロットは特別性だ。横のハンドルを回すと全部で8個のラインが回転を始める。そしてそこの、ほらスロット台の前のボタンを押すと左端から順に止まっていく。そしてそこで表示される筋が君のチートとなる。ドゥユーアンダースタン?」

 

イエスと答える前に、主治医は私の手をスロットマシーンの横のハンドルへいざなう。

パチンコ、スロットとはあまり縁のない人生だった。

「ちなみにチート選択後はある程度、希望に沿って調整するからこのスロットの結果が絶対ではないので安心して欲しい」

 

 

寒村の夕暮れと言うのは意外と眺めが良い。

王国の都市部や、王弟の納める領地では蒸気機関や魔道具も発達しており多少空気が悪いらしいが

このあたりの寒村は空気が澄んでおり、秋口の夕焼けは信じられないほど美しい。

 

既に13歳となった俺は過去の出来事を全て思い出しつつも、家族を養うためずっとこの村で働いている。

父が無くなり、労働力として動けるのは母と兄と俺、3人の妹は祖母の監督を受けて裏庭の畑に肥料をまくのがせいぜいだ。

祖父は15年前の戦争、父は3年前の病気ですでに亡く、17歳の兄が家長としてなんとか体裁を取り繕っていた。

 

「にいちゃん」

3人の妹で一番下の4歳児が呼んでいる。

3日に一度の鉱山での作業も終わり、帰路につくと家の前では下の妹が心配そうな顔で呼んでいる。

 

「おおにいがせんそうにいくかも」

パタパタと走って来て俺にしがみつくとそう言った。

そうなのだ。この数日村内で噂になっているのが近隣の国王領で起きている反乱騒動の鎮圧だ。

その鎮圧にうちの村から男手を供出する話が出ていること。

そしては秋の野菜の収穫に対しての人での減少を意味する。

 

この世界には収穫は人数がいる。収穫量とはどれだけ作れたかだけではなく「どれだけ収穫」できたかでもある。

収穫作業が少ないと冬を越せない。

寒村の冬は動かず家の中で、内職を延々とすることとなる。

薪割りや針仕事。

兄は手先の器用さもあって、冬は都市部向けの敷物の製作にかかりきりになる。

肉体労働は年の割に力の強い俺の仕事。

 

大事な労働量が一人いなくなる。

そうなると我が家が冬を超せるかどうかが怪しくなってくるのだ。

妹の頭を撫でてやり、家に一緒に戻る。

 

我が兄という人は敷物の製作やちょっとした学もあり村内からは頼られがちな立場にある。

我が家に逗留した薬師から薬学と薬草識別を教わっており、簡単な薬ならも調合もできる。

つまり、力仕事しかしない俺よりも村内での役割としては重要で、戦争に取られるのは我が家の村での貢献度を下げることになのだ。

 

家の扉を開けると、中では村の顔役と母、兄が話し合っていた。

「この子を取られると」

「だがな、税の払いが少ないのはお前さんのところで、金がダメなら人でだな」

「それはわかってるよ。だが実際秋の収穫までは待ってもらえないか」

母は心配して妹のように泣きそうになっている。

顔役は同情しつつも、うちの納税額の低さを上げ、兄は冬まで待つよう話をしている。

 

みな疲れた顔だ。すでに話は並行線で長く続いているのだろう。

 

「母さん、兄さん、俺が行くよ」

 

横から声をかける。その言葉にハッと驚く母。少し安心する顔役。厳しい表情をする兄。

 

13歳。この村の同年代に比べる身体つきは大人に近い。力も大人に負けない。

兄が戦争に行くと労働力以上の我が家の問題だ。

 

俺が戦争に行けば、労働力は減るがそれと同じだけ食料の消費も減る。

戦争に行くのであれば俺が行く方が良いのだ。

 

「俺が戦争に行くよ」

もう一度宣言をする。

この言葉に母は泣き始め、兄は母の背中をさすり、顔役は立ちがあり「やっと決まった」とだけ言った。

 

 

想像以上だった。

周りは領主から貸し与えられた木製の板を鎧のように体に巻き付けた農夫や傭兵たち。

皆口々「だめだ!」「逃げろ!」と叫び走り回る。

 

反乱騒ぎは戦争の度を超えていた。

辺境の寒村のさらに先。荒れた岩場を持つ山岳地帯。

隣国との国境線というより緩衝地帯として存在する広大な山岳地帯は数匹のドラゴンと数百の亜人、ゴブリン、オーガーたちが進軍する騒ぎとなっていた。

 

「行け!立ち向かえ!」

各農村から徴発された農夫たちを率いた代官が激を飛ばすが、魔物を見たこともない農夫たちはキメラの姿を見て我先に逃げ出している。

 

別動隊はドラゴンの火の息にやられたのか少し先の岩場では黒い煙がいくつも立ち昇っている。

 

俺は同村の農夫と一緒に戦場に来たが、農夫は足元でうずくまり体を震わせ泣いている。

「神様!神様…」

最初にキメラを見かけたときに恐怖にやられて神に祈るばかりだ。

 

時折どこからか飛んでくる矢で周りの兵隊が撃たれ倒れていく。

金属製の鎧などほぼ皆無。木板や皮鎧、最高でも鎖帷子だ。

「逃げ」

最後まで言葉を言えずに兵士が矢によって死んでいった

 

「向こうからドラゴンだ!」

誰かが叫ぶ、だがその声もこの岩場の地獄では小さな声だ。

叫び声、祈り、言葉にならない声、恐怖に侵され逃げる先もなく走り出す兵士、農民はその場でへたり込み血に濡れる。

 

一匹のドラゴンが地面に降り立つ。

赤い体表。火の息を吐く赤いドラゴンだ。

家にいた薬師から聞かされた話だと双子の騎士によって倒されたのも赤いドラゴンだ

 

「ああああああ」

「うわーーーー!」

残り少なくなった農民や兵士たちがまた逃げ出そうと走り出すがドラゴンは手近な一人を口にくわえる。

そのまま火の息を吐くと人間が絶命する。

もう、肉の焼ける匂いなどを気にする状況じゃない。

 

俺は棒立ちのままドラゴンが一歩一歩近づいてくるのを見ていた。

恐怖は無い。悲しみもない。家族と別れることのイメージもわかない。

 

チートなどなくても、それなりに家庭で楽しく暮らしていた。

 

三人の妹たちもいつかは適当な男と結婚するんだろうし、兄も誰かと結婚する。

俺も15くらいになったら都市部で丁稚奉公でもして仕送りをして、30くらいになったら村の中で兄の農家を手伝いつつ兼業で雑貨なんかも売って、嫁さん探してなどと思っていた。

 

足元にはどこかの死体から流れ出た血がたまり始めていた。

だが、幸せのためにはチートを覚醒させる必要がある。

 

「汚い農民の小僧か。食べ応えは無さそうだな」

歯の間にはちぎれた足を挟んだまま目の前の赤いドラゴンは俺に呟く。

槍や鎌では傷もつかぬ鱗。巨大な翼。

その肉体は俺の住んでいた家と変わらぬほどデカい。

 

「ふん、ここも終われば次は領主の街か」

わざとだろう。人間でもわかる言葉を話してくる。

ドラゴンの知性の高さは伝説でもよく語られる

 

「おい、トカゲ」

ドラゴンの意識が向くよう喋りながら数歩前に歩き、赤いドラゴンの鼻先まで近づいた。

「全く、食いものが口を利くとろくなことを言わんな」

確かにブタや牛が人間の言葉を話すと考えると同じような感想がでるかもな。

 

俺は嘆息するドラゴン目がけて思い切り振りかぶり鼻面を殴りつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チートの名前は「怪獣王」

2019年日本でも公開された「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」に登場するゴジラの能力を身に宿す。

 

1秒前までそこに存在していた赤いドラゴンは、地面と平行に20m以上吹き飛び山岳地帯の地形を少しだけ変えて遥か先まで転がっていった。

 

俺は左右の手を何度か握り、このチートがちゃんとコントロールできていることを再確認する。

身長119m、体重9万9千トンに匹敵する俺の腕力をもってすれば家と変わらぬサイズのトカゲなど大した存在じゃない。

 

走り出すと手近なゴブリンの頭を殴り、トロールの背中を蹴る。

ちょっと体格のいい子供の打撃ではない。

もう一度言おう、身長119m、体重9万9千トンだ。

 

「$&!」

少し先にいたゴブリンの集団が一斉に槍を投げる。槍は数本の俺の身体にあたるが、すぐ地面に落ちる。

 

米国陸軍のミサイル喰らっても「痛い」で済む肉体を持つ俺に槍などは無意味だ。

俺は先ほど蹴り殺したトロルの死体(蹴りの威力で腹から上は無いが)を片手で掴み、ゴブリンの集団へ投げつける。

 

その後を簡単に説明しよう。細かい描写を重ねてもむなしいだけだ。

走り回りながら片っ端からゴブリンなどの敵を殴りつけ、噛みついてきたキメラをぐちゃぐちゃにして、攻撃を仕掛けてきたドラゴンを過去形にして夜明けを迎えたころには戦争は終わっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キングギドラ
異世界に腕力転生2


終わったと思ったら続きというか別話。


魔王というモノは尊称だ。

王というのだから何かしらの組織をまとめるだけの器量が必要なのだ。

魔王を称する人物は、北の魔術師集団から生まれた反体制思想を持つ集団を複数まとめた人物である。

 

その居城は城というよりは館に近い。

ただ、それは広大かつ何重の区画に別れており一種の迷宮だ。

 

「こっちの区画を調べ終われば戻りだ」

後ろから小声で俺に話しかけるのは護衛対象の斥候だ。

俺の服装も斥候と同じ鼠色の服で、音が出ないように底が布張りの靴。

斥候はここ数年この館の南側を調べ、今後の王国軍侵攻の手掛かりとなる情報を集めている。

年齢は俺の雇い主よりも上だ。

50か60。ベテランと言った年齢で実際腕が良い。

 

組んで半年以上たつが最初の頃は足音の殺し方など教えてくれた。

捨て子であった俺を拾った傭兵団は戦に負け、団として機能しなくなると俺は今度は国王軍に売られた。

最前線の斥候のお供。

護衛であり監視役であり、斥候が情報を持ち帰られるように身を挺す肉壁である。

 

屋敷の外壁の影。

もう少しでこの辺りの地図も出来上がる。

この様子なら国王軍がここを攻めるのは時間の問題だ。

数年内には国王軍のジェリド騎士団辺りが出馬して、魔王の館への一斉攻撃と周辺の魔王領を自認する村々の平定が舞っている。

 

 

「キサマらニンゲンは我々魔王軍を舐めタノだ!」

双頭の黒龍が高圧的に話しかけて来る。

既に魔王館の中庭に無数の龍たちが溢れている。

哀れな人間二匹を嬲り殺そうというのだ。

 

死霊というのは厄介で肉眼で確認するには相当の時間と注意力が必要となる。

区画建物の角からずっと監視されていたことに気付いた時には中庭に追い立てられ、竜たちに取り囲まれた状態だ。

ひときわ体格の良い双頭の黒龍がどうやらこの竜の群れを率いている様だ。

 

横で斥候の親父が顔中に冷や汗をかいている。

俺も背中が異様に暑い。

 

俺は両手を前に出し、掌をそれぞれ左右に向ける。

「マホウか」

黒龍が喝破したようにつぶやく。

雷光が俺の肩から発生する。

「雷ノマホウなど無駄なのにな」

周辺の竜から声が出る。これが魔法に見えるのか。

 

「坊主、煙玉出すから逃げ」

戦功の親父はカタカタと歯を鳴らし腰に下げた袋に手を伸ばす。

しかし俺はそれを遮る。

「おっさん、一発かましたら逃げるぜ。連発出来ない切り札だ」

 

俺は両の掌から金色の光線を出す。雷に近いがどちらかと、もっと高カロリーな攻撃だ。

強大な神の雷。その威力は最新の耐震ビルだろうと、野球のスタジアムだろうと何だろうと容易に薙ぎ払う。

どこかで竜の、いや竜ならざる遥か天空の三頭首の邪竜の鳴き声がこだましたようにも思える

 

両手の雷が数匹の竜を消し炭、いや消した。

竜が吐く、魔法の息、火の息や酸の息、竜によっては氷や雷、変わり種では魅了の息とかもあるらしい。

俺が行ったものは、生物の最上位種である竜の息とは全く別。魔法とも違う。

これは銀河より飛来する悪神の怒りの雄たけびの象徴だ。

その雷は大地を割り、100万の人々の悲鳴を奏で、そして巨神の皮膚を貫く。

 

中庭に集まる竜の群れが半分以下になったとき、その群れの横合いから

勢いよく駆けだしてくる存在がいる。

それは冷静な突進というよりも狂乱による突撃だ。

 

ベヒモス。

地霊と雄牛を掛け合わせた魔獣だ。

目玉が異常に大きく凶暴性の高い牛。

 

その巨体は俺にぶち当たるが…俺は小動もしない。

158m、14万トン。

俺の肉体はそれと同じだけの理力を持つ。決して俺の体重が14万トンある訳ではない。

俺の肉体を取り巻く、いや俺の肉体に流れる理力は古代の巨人以上の腕力を俺に与えている。

 

小山ほどの牛の突進。だから何だという感じだ。

俺を押しやろうとするベヒモスの頭を殴りつけると、拳が頭蓋に埋まりベヒモスの動きも止まる。

 

牛、絶命。

 

竜たちはのたうち回るもの、そそくさと遥か中空に逃げるもの。

周囲の屋敷には火が付いており、煙が中庭に充満する。

「おっさん!」

俺は斥候のおっさんに声をかけ、煙の中、中庭を抜け半壊した屋敷を通り、屋敷外の森へ逃げる。

 

3日逃げ続けなんとか前線の基地についた。

 

我が名はキングギドラ。

 

金色の三つ首竜。遥か彼方より現れし災厄の存在。

生態系の王者と幾度となく争い破れ、そして復活した最悪の巨神。

 

格好つけて言ったが俺のチートは「キングギドラ(ギャレス版)」だ。

 

と言っても完璧じゃない。先ほどの雷霆も異様に腹が減る。

過去に3連射したことがあるか膝の力が抜けて動けなくなったこともあるので連発出来ない。

殴ればそこら辺の魔獣など粉微塵だ。

 

だが過剰な戦力は結局のところ使いつぶされて死んでいくだけだ。

それならば最前線でそれなりの危険手当をもらいながらギャーギャー生きる方を選んだ。

もう何年かいれば国王軍の年期も明ける。

そうすればそこそこの金を持って適当に隊商護衛でもやっていればいい。

弓矢や魔法なんて相手にならない。

 

そんな人生設計を思いながら前線基地の汚いテントで汚い毛布に包まれて俺は眠りについた。

ただ一人の巨神の能力者として。

 

 




あちらを出したらこちらも出す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。