抱きしめたいな、ガンプラ!【完結】 (葵 雪)
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本編
あえて言わせてもらおう、グラハム・エーカーでないと!
そして、やっぱりトライ以降は性に合わないなと思いました。
タイトルとかあらすじとか、考えるの苦手なんですorz
飛ぶ。どこまでも続いていそうなこの雄大な空を、私のガンプラ、ユニオンフラッグが飛んでゆく。
地上に見えるのは砂漠。遮蔽物が少なく、砂によって動きを阻害される面倒なフィールドだ。
そしてつんざくように響く発砲音。正面に出現したアラートを煩わしく思いながら、私はフラッグを旋回させる。飛行形態の今ならば回避はギリギリだが間に合う。
「ちぃ、どこから!」
続けて発砲される弾丸を躱しながら、敵機の方向を予測しそちらへ目を向ける。
いた。ザクアメイジング。MSVの高機動型ザクを武装を追加しチューンアップした機体。私の塗装しただけのフラッグとは異なり、隅々まで手が加えられた機体だ。ガンプラの作り込み具合によって性能が左右されるこの戦いにおいて、こちらは圧倒的に不利。
「だが、モビルスーツの性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件ではない!」
『そうだ。さあ見せてみろ、君のガンプラの力をッ!』
相変わらずバトルの時だけ急変するキャラに苦笑をこぼし、私は当たらないとわかっていながらもリニアライフルを撃つ。
砂に足を取られないホバー移動で回避されると、ロングライフルが通用しないと見たのかザクは両肩のミサイルポッドを使った。
「点で駄目なら面で、か。だが、私にその程度の攻撃が通じるとでもッ!」
フラッグを傾け、ミサイルとミサイルの間を通り抜ける。背後で爆発が起きたが、それは私にとって追い風でしかない。
だが直後、またも正面にアラート。ミサイルを躱すことを予測して、そこにロングライフルを撃ったのか!
「ぬぅう!」
被弾は避けられない。ならばと機体を強引にひねり最小限の被害に抑える。
高性能な機体ならばこの程度の攻撃かすり傷で済むが、生憎私のガンプラ製作技術は並程度。彼のザクアメイジングの攻撃となれば、全てが致命傷になり得る。
右肩に被弾し、翼が根元から吹き飛ぶ。黒煙が巻き上がり、フラッグが墜落していく。
追撃しようと両手にヒートナタを持ち替えたザクがこちらに接近するのを見て、私の脳裏にあるビジョンが浮かんだ。何度も見返した、あのシーン。
「ガンダムではないが・・・・・・抱きしめたいな、ガンダム!」
柔らかい砂に機体がこすった瞬間、わずかに浮き上がる。そのタイミングで人型に変形し、勢いのまま迫っていたザクの顔面に膝蹴りを一発。
『くっ、その程度!』
反撃として振るわれたヒートナタを、蹴りの反動を利用して回避。ついでにリニアライフルを数発食らわせる。
「ッ、やはり大したダメージは与えられんか・・・・・・」
ユウキ先輩のザクの装甲は厚い。せめてビーム兵器か、もっと威力の高いライフルが欲しいところだ。変形機構との兼ね合いでリニアライフルのままにしていたが、改良の必要があるな。
『バトルの最中に考え事とはッ!』
ヒートナタから持ち替えたビームハンドガンが火を噴く。翼が損傷しているため、回避が難しいと判断し、右腕のディフェンスロッドで弾く。
流石にグラハム・エーカーのように全て弾くことはできず、二発ほど当たり、右腕が吹き飛び爆発。
「そこだッ!」
爆発による紫煙の中に、フラッグを突撃させる。リニアライフルを捨て、プラズマソードを抜刀。
「切り捨て、ゴメェェェン!」
紫煙を抜け、距離を取ろうとしていたザクに斬りかかる。
『チッ、だが!』
しかし、攻撃が当たったのはハンドガンだった。翼が損傷していたため速度が出ず、距離が足りなかったのだ。
即座にハンドガンを手放したザクは、それらが爆発するのと同時にヒートナタを抜きこちらに急接近。突進の直後で後退も間に合わず、機体を回転させて避ける。そして、ザクが振り向きざまに薙いだナタによって左足が斬られた。
『・・・・・・勝負あったな』
そのまま倒れ込んだフラッグの首元に、ナタが突きつけられた。
《Battle Ended》
システムのメッセージが流れ、同時にプラフスキー粒子が収束していく。戦場だったものが、宙へ溶けていく。
残ったのは、無残に倒れた私のフラッグと、目立った外傷のないザクアメイジングだけだ。
GPベースのディスプレイに私の戦歴が表示される。
《エイカ・コウスケ ユウキ・タツヤとの対戦成績3戦0勝3敗
トータル命中率78% トータル回避率63% トータル防御率57% 地形対応評価B 交戦対応評価B》
その数値に己の未熟さを痛感しながら、端末を筐体から取り外した。
「流石、いい動きだったよ、エイカ君」
髪を下ろしながらユウキ先輩。
ありがとうございます、とだけ言って、私はフラッグを回収する。こちらを待っていてくれたのか、バトルを観戦していた模型部の面々がユウキ先輩に群がり、彼を褒め称える。
「いいバトルだったぞ、エイカ」
唯一私に話しかけてきたのは、同じクラスのゴリラ顔、ゴンダ・モンタだけだ。
「ありがとう、とだけ言っておこう。やはり私では彼に敵わなかった」
そう言って、手の中のフラッグを見る。右腕は大破し、他にもいくつか細かい傷が付いている。背面も、恐らくミサイルの破片によってダメージがあるはずだ。バトル中は追い風だのと言ったが、ただの強がりだ。
「しかし、バトルの時のあの口調はなんとかならんのか? 同学年のオレにまでとは言わんが、先輩であるユウキ会長には敬語をだな・・・・・・」
「一年間の付き合いで察して欲しいものだな。私のこの口調は、どうにもできんよ」
私のこの口調は、機動戦士ガンダム00に登場する、グラハム・エーカーのものだ。尊敬する彼の真似ばかりしていたら、自分の口調と混ざってしまった。モノマネとしてもクオリティが低いので直したいと思うことはあるが、今更どうにもできない。
「先輩、今日のバトルは中々でしたね。褒めてあげます」
どこか上から目線な言葉遣いで私に話しかけてきたのは、一年の後輩であるシグレ・アサヒだ。私と同じようにどこかこじらせているようで、誰に対してもこの口調である。
「ああ、ありがとう」
そう言って、私は軽く微笑んだ。褒められて悪い気はしない。
「さ、バトルはこの辺にして部室に戻ろう」
ユウキ先輩の声に返事をして、彼らが体育館から出て行く。私とユウキ先輩はバトルシステムの筐体の片付けだ。ゴンダは生徒会でやることがあるらしい。ユウキ先輩は何もないのは恐らくもう終わらせているからだろう。
今日はこの聖鳳学園にバトルシステムを設置するというので、そのテストバトルをしていたのだ。ユウキ先輩の父が学校に寄付したそうだ。
「しかし、あのミサイルをよけるとは思わなかったよ。前から思っていたが、その操縦技術、日頃からバトルをしているのかい?」
「いえ、以前戦闘機を操縦する類いのゲームにハマっていましてね。それで感覚をつかみました」
ゲーセンなどにある、レースゲームの亜種だ。ガンプラバトルがまだ普及する前は、私はアレでフラッグファイターとして戦ったものだ。
「なるほど。それで」
「私からも質問、よろしいでしょうか」
筐体を六角形のものに分割しながら、ユウキ先輩は頷いた。
「先輩は何故ザクを? 確かにバリエーションは豊富ですし、カスタマイズもしやすい。ですが、他にもいい機体は沢山あるというのに」
例えば、ガンダム。ユウキ先輩ほどのファイターがガンダムを駆り、私と戦ってくれたならば、どれほど素晴らしいだろうか。
ユウキ先輩は逡巡した後、手を再び動かしながら口を開いた。
「そうだね・・・・・・イオリ・タケシというビルダーを知っているかい?」
「ええ。第二回ガンプラバトル選手権の選手ですよね。ガンダムを使う」
RX78-2ガンダム。ファーストガンダムとも呼ばれるその機体で選手権に出場するだけでも凄まじいというのに、彼は準優勝という結果を残した。恐らく、純粋な作り込みで。
「僕はその人に憧れていてね。だから、
なるほど、それでザクを。確かに先輩のザクアメイジングならば当時のイオリ・タケシに勝るとも劣らないだろう。
「ありがとうございます。教えてくださって」
「別に隠すことでもないからね。
それより、君は出るのかい? ガンプラバトル選手権」
その問いに、今度は私が思わず手を止める。
私はガンプラバトルが好きだ。無論ガンプラも、ガンダムシリーズそのものも。
しかしそれが選手権への出場に直結するかと言えば、答えは否だ。
「・・・・・・まだ、考え中です」
それだけ返して、私は作業に戻った。
ユウキ先輩は私の思いを察してくれたのか、それ以上聞かずにいてくれた。
片付けを終えた頃にはすでに日が傾いていた。部室へ歩いていると、向かいの廊下から仕事を終えたらしきゴンダがやってきた。
「お疲れ様です、会長。エイカも」
「ありがとう、ゴンダ君」
ユウキ先輩が扉を開き、部室に入る。私とゴンダもそれに続いた。
「あ、おかえりなさい部長!」
部員の一人の声に応えながら、ユウキ先輩は自らの席についた。
「ゴンダ、君は今日は何をするんだ?」
「先ほどのバトルを見て、スモーの改良案を思いついてな。それを試す予定だ」
ニィ、とゴリラ顔を歪める彼に苦笑しながら、私は自分の机にボロボロのフラッグを置いた。
「それ、直すんですよね。なんだったら、私が手伝ってあげてもいいですけど」
席の近いシグレが椅子を傾け、こちらに話しかけてくる。
「いや、遠慮させてもらおう」
彼女の申し出はありがたかったが、自分のガンプラは自分で直す主義だ。私のような凡百なファイターでは、他人の手が加わったガンプラでは上手く動かすことができないのだ。
「ふーん、そうですか」
どこか拗ねた様子のシグレには疑問だが、まあいいだろう。
しかし、ユウキ先輩のザクアメイジング。あれはすさまじい。まさしくアメイジングだ。
普通、バトル用のガンプラを改造するとすれば、武器の換装やミキシング、ディテールアップ程度だ。というのも、下手に改造すれば完成されたバランスを崩してしまい、弱体化する結果となる。そのため、あそこまで手を加えて機体の出力を改造前よりも上げるというのは、それこそ世界大会レベルだ。まあ、当然だろう。ユウキ先輩は、文字通り世界大会出場者なのだから。
観賞用のガンプラならば、私でも作ることはできる。それこそ、模型部部室の展示棚には私の作った『GNフラッグ』が飾ってある。
だが、それではバトルできない。もし戦わせようものなら疑似太陽炉に機体が耐えきれず、十秒と経たずに爆発する。
「・・・・・・難しいな」
やはりガンプラは、ガンプラバトルは難しい。だが、だからこそ楽しいのだ。
私は頬を三日月にしながら、フラッグの改修を進めた。
エイカ・コウスケ
聖鳳学園高等部二年で、ゴンダとは同じクラス。
模型部に所属し、フラッグを始めとした飛行形態を持つ機体を好んで作る。
バトルの腕前はそこそこ。しかしバトル用のガンプラを上手く作れずにいる。
幼少期にグラハム・エーカーにハマり、彼の真似をし続けたことで本来の口調と混ざった独特な口調となっている。
アメリカ人のクォーターであり、金髪。学校でも目立つが口調がアレなので友達は少ない。
ガンプラを改造するのは簡単でも、それをバトルに使えるかって言われると微妙だと思うんです。完成された機体をいじっているわけですし、極論塗装だって塗料が均一に塗られていないと重量バランスが崩れますし。
劇中でモブのガンプラが色だけ変えた機体だったりしたのは、そういう事情があるのかな、と解釈しました。
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身持ちが堅いな、ギャン!
ただのかませ犬じゃなくて、結構強いんですよ。
ユウキ先輩とのバトルから、数日。部活を終えた私は、考え事をしながら玄関を出た。
フラッグの改良案は、武装をビーム兵器にすることと、機体の推進力を上げること。前者はすでに終えたが、後者は難しい。ただバーニアを取り付けてもそれは装飾でしかなく、キチンとシステムに認識されるように改造しなければならない。無闇に多く取り付ければ、今度は機体が耐えられずに明後日の方向へ飛んでいくか、燃料を多く使ってスタミナが切れるだけだ。出来ればバトルシステムを使って調整しながら改造をできる模型店がいいのだが。学校のシステムを使うのは、許可が費用だし場所を取るので面倒だ。
「先輩、考え事ですか?」
「む、シグレか」
校門を出たところで、シグレに話しかけられた。歩みを進めるのと同時にそのポニーテールが左右に揺れる。
「歩きながらだと、転んで怪我しますよ。ただでさえ冴えない顔を、もっと悪くしたいんですか」
「ふむ、忠告ありがとう。気をつけることにしよう」
言葉遣いは相変わらずだが、注意してくれているのは事実だ。ここは先輩として、広い心で受け止めよう。
「・・・・・・つまらないですね」
「? 何がだ?」
また拗ねた様子のシグレに、私は疑問符を浮かべるばかりだ。乙女座の私にも、乙女の感情はよくわからない。
「そうだ、シグレ。どこかいい模型店を知らないか? できればバトルシステムがある場所がいいのだが・・・・・・」
「突然ですね。何でまたそんな」
かくかくしかじかと事情を話すと、なるほどと彼女は頷いた。
「それなら、いい店を知っています」
そう言われて彼女に案内されたのは、『イオリ模型店』という店だった。
「こんな場所に、模型店があったとは・・・・・・」
私の家は商店街にあり、そこから近い電気屋内の模型店によく行っているのだが、まさかこんな何もないところに模型店があるだなんて。
「本当ですよね。立地条件という言葉を知らないんでしょうか」
「しかし、なんという僥倖! 生き恥を晒した甲斐があった!」
私に案内させたことが生き恥ですか、とジト目を向けてくるシグレに、言葉の綾だと弁明していると、店のドアが開いた。
「あの~、お客さんですか?」
青髪の少年だ。エプロンを付けてモップを片手に持っているのを見るに、店員だろうか。
「はい、お客さんです。この先輩が、バトル用のガンプラの調整を行いたいのだとか」
簡潔に私の要件を伝えてくれるシグレ。ありがたい、私はこの口調もあって余り口が上手い方ではない。
「なるほど、わかりました。じゃあ、バトルシステムの準備をするので、少し待っていてください」
店の奥に戻っていった少年に従い、私は店に入って展示されているガンプラを眺めて時間を潰すことにした。
「おぉ、ガンダム! 素晴らしい、素晴らしい完成度だ!
この美しい作品達に、私は心を奪われた! この気持ち・・・・・・まさしく愛だ!」
何より、このエクシア! ただ組み立てるだけでなく、パーツの合わせ目を消し、全身が塗装されている! GNソードは磨かれ、まるで鏡のような反射だ。つや消しもパーツごとに行われているのか。
今すぐにでも戦いたいほど、完成度が高い。
「あ、愛って・・・・・・」
「気にしないでください。先輩がキモいのはいつものことなので」
この作品を前にすれば、彼らの会話なんて耳に入らない。それほどまでに、このガンプラの完成度は高い。今の私では到底及ばないレベルだ。というか、もう準備が終わったのか。
これほどのビルダー、ならば世界大会に出場していてもおかしくないレベルだ。と、視界の隅で何かが反射した。立ち上がって棚を見てみると、ガンダムの上半身を持ったトロフィーが。そして、そこに刻まれているのは、『第二回ガンプラバトル選手権 世界大会準優勝 イオリ・タケシ』という内容。
「少年、君はイオリ・タケシの・・・・・・?」
「いやぁ、それ、僕の父さんなんです」
「へぇー。先輩、その人、そんなに凄い人なんですか?」
「ああ、ここに記されているだろう」
身長がやや足りないためか、背伸びしながらトロフィーをのぞき込むシグレ。ひとしきり関心した後、なら、と言葉を続ける。
「なら、その息子さんも強いんですか? ガンプラバトル」
「ギクッ」
・・・・・・その台詞を口に出す人物が、まだいたとは。少年は昭和の人間か?
「ガンプラの性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件ではないさ」
「前も言ってましたよね、それ」
口癖ですか? という問いにそんなものだ、と曖昧に返しておく。彼女は模型部でガンプラも作るが、そこまでガンダムに詳しいわけではない。珍しい女性部員ということもあって、彼女の入部初日にガンダムトークをしようとした部員が撃沈したのだ。
「その通り! 確かにイオリ・セイ君の作るガンプラは高性能、だからといって、ガンプラバトルに勝てるわけではなぁい!」
声の方向に振り返ると、そこには茶髪をおかっぱのように切りそろえた少年がいた。
「誰です、あの人。子供の不審者ですか?」
「サザキ・ススム。この辺じゃ名うてのファイターだ」
手で口元を隠しながらも明らかに本人に聞こえる音量の問いに、フォローも含めて説明する。私も本人に会うのは初めてだ。
「そ、そっちの金髪は知っているみたいだね。そう、僕がそのサザキさ」
「うわー、自信満々に自己紹介とか結構痛々しいですねー」
またも煽るようなことを言うシグレに、前髪をはらってキメたサザキ少年のこめかみがピクピクと痙攣している。
「いいだろう、そこまで言うなら相手してあげようじゃないか! この僕のギャンが!」
堪忍袋の緒が切れたのか、腰のケースからガンプラ──ギャンを取り出しシグレを睨み付けるサザキ少年。シグレは「自慢げに出す機体がギャンとか・・・・・・」と言っていたので、途中で口を塞いだ。
「待ちたまえ。彼女はファイターではない」
「なら君が戦えばいいだろう。ガンプラは持っているようだしね」
サザキ少年が指さしたのは、私の持っている鞄。なるほど、
「ちょっと、サザキ! お客さんに迷惑かけないでよ!」
「いいだろう」
「って、えぇ!?」
もとより、バトルのための調整に来ていたのだ、それが実戦に変わっても問題ない。
「その勝負、私とこのフラッグが受ける!」
先ほどの彼を真似て、鞄からフラッグを取り出し突き出した。
バトルルームに移り、筐体にGPベースをセットする。
《Biginning Plavsky Particle Dispersal》
筐体から粒子が放出され、戦いの場となるステージが形成される。
《Field1 Space》
此度の戦場となったのはコロニーの残骸が漂う宇宙。作品を特定することまではできないが、宇宙世紀関連のステージだろう。
《Please Set Your GUNPLA》
装備を整え、スラスターを追加したフラッグ──名付けるならばフラッグ改を筐体に置く。さて、上手く動いてくれるかどうか。
《Battle Start》
「エイカ・コウスケ。フラッグ、出る!」
宣言と共に操縦桿を押し込み、出撃。別に言う必要はないが、まあお約束というヤツだ。
デブリの漂う中を飛行形態で進んでいくと、コロニーの残骸に立つ影が見えた。
「そこか!」
当たるとは思っていないが、威力を見るためにもビームライフルを撃つ。ジャンプで躱されたが、コロニーの表面を傷つけることはできた。
「もっと威力が必要か・・・・・・」
呟きながら、目でギャンを追う。どうやらデブリに隠れながら戦うつもりらしい。
しかし、機動性の上がったフラッグの前では無意味、のはずだ。
スロットを回し、追加スラスターの起動を選択。同時に機体が加速を始める。
「ッ、これは!」
予想よりも速い。追加したのは脚部と腰、両肩で六カ所だったが、それでは多いようだ。もしガンプラではなく現実の戦いだったなら、私には相当なGがかかっているだろう。
「だが、この程度!」
世界大会レベルの速度には、遠く及ばない。ユウキ先輩のザクアメイジングにも。
デブリを回避しながらコロニーの反対側へ移動する。そこには案の定ギャンが待ち伏せていたが、ライフルより放たれた弾は一つも当たらなかった。
『なるほど、中々の速さだ!』
しかし、あまりの速度に向きを変えることもままならず、こちらから攻撃することもできない。それがわかっているのか、サザキ少年は動こうとせず機会を伺っているように見えた。
「これならどうだ!」
スラスターの出力を抑え、強引に宙返りを打つことで、ギャンに突撃する。グルグルと回る視界に酔いそうになるが、まだ耐えられる。
『なにぃ!?』
ビームライフルを連射するが、全てギャンの盾に防がれる。
「何という強度! まるでガンダリウム合金ッ!」
『僕の盾は、伊達じゃない!』
ならば、グラハムスペシャルの出番だ。ビームサーベルを構えるギャンを見据えながら、操縦桿を操作する。
「ここだ!」
ギャンとの距離がわずかとなった瞬間、変形。ギャンが放った突きを回避し、勢いのまま盾を蹴りつける。
『甘い! 甘すぎる!』
だが盾を壊すことも退かすことも適わず。
盾から、ミサイルが放たれた。
「しまった!?」
その機構を失念していた。
この距離では回避はかなわず、ディフェンスロッドも使えない。
「ぐぅ!」
直撃。フラッグの装甲が弾け、とっさに盾にした右腕が吹き飛ぶ。余波でライフルが壊れた。
これほどのミサイルならサザキ少年側にもダメージがあって欲しいものだが、盾でほとんど防御されている。
『これで、終わりにしてあげるよ!』
動きを止めたフラッグに、トドメを刺そうとギャンがサーベルを持つ手を振り上げる。
「いいや、まだだ!」
私はフラッグの左腕を動かし、ビームサーベルを抜く。
『それが、どうしたっていうのさぁ!』
振り下ろされたサーベル。私は追加したスラスターを再び起動させ、腕を動かさずに鍔迫り合いして見せた。
「うおぉぉぉお!」
腕が悲鳴を上げている。だが、スラスターの推進力が全開になれば、押し切れるはずッ!
『くっ、だったらぁ!』
と、ギャンが身を引き、横に移動した。競り合っていたものがなくなり、フラッグは宙へ飛ぶ。
「なっ、しまった!」
今更勢いは止まらず、そのまま宇宙空間を流れ星のように尾を残しながら、場外へ。
《Battle Ended》
そして、私の敗北でバトルが終わった。
「ふん、少しはやるみたいだけど、口ほどにもなかったね」
そう言って、サザキ少年はバトルルームを出て行った。
床に落ちたフラッグを拾うと、シグレが隣にいた。
「やはり調整が必要だったな。ここに来て正解だった」
「・・・・・・先輩」
落ち込んだ顔のシグレに、どんな言葉をかけるべきか判断がつかないまま、私は独り言のように続ける。
「今日はもう遅いし、帰ることとしよう。少年、バトルの代金を支払おう」
「あ、はい!」
慌ててレジへ向かうイオリ少年に続いて、バトルルームを出た。シグレも付いてきている。
その後、会計を済ませて、イオリ模型店を後にした。
夕焼けに染まった帰り道を歩きながら、私はうつむいたままのシグレに声をかけられずにいた。
「・・・・・・先輩」
立ち止まった彼女の声に、私も歩みを止める。
「今日は、すみませんでした・・・・・・私が煽ったせいで、先輩のガンプラが・・・・・・」
「それはファイターへの侮辱だぞ、シグレ」
え、と顔を上げたシグレと目を合わせ、私はない頭を絞って言葉を紡ぐ。
「バトルを受けたのは私で、負けたのも私だ。私の実力不足が原因だ。
それを自分のせいにするなど、戦った者への侮辱に他ならない」
ようは、この勝負は私の勝負だから、勝手に取るなということだ。いや、まだわかりにくいか。ええい、だから国語の評価が低いのだ、私は。
「その、つまりだな・・・・・・」
次の言葉が見つからず、しどろもどろになってしまう私に、彼女はクスリと笑った。
「そうですか。まあそうですよね、先輩が弱いから負けただけなのに、私まで落ち込むとか、馬鹿みたいでした」
スタスタと私を置いて進み始めた彼女の表情は、よく見えなかった。
「おい、シグレ?」
「私、道こっちなので」
呼び止めた声が聞こえなかったのか、そのまま横断歩道を渡って行ってしまう彼女に、私は何も言えなかった。
「・・・・・・私も道、そっちなのだが」
ようやく出た言葉は、なんとも情けないものだった。
シグレ・アサヒ
聖鳳学園一年。ポニーテールが特徴的な模型部員。
敬語だが毒舌。先輩だろうと毒を吐く。そのため模型部でもクラスでもあまり話しかけられることはない。
ガンプラは好きだがガンダム作品にそこまで興味はなく、気になった作品をいくつか視聴した程度。バトルもしない非ファイター。
作品の世界観に囚われないセンスは独特で、ポニーテールのガンダムナドレを現在制作中。
下に女子校通いの妹がいるらしい。
このオリキャラ、トライのとある人物の姉として作ったんですが、わかる人いるのやら。
サザキくん、旧キットのギャンを改良してあそこまで動かせるんだから流石ですよね。もしビルドストライクを手に入れていたら、世界大会出場くらいはできそうです(ユウキ会長という壁を除けば)。
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刮目させてもらおう、ビルドストライク
ゴンダくんのスモー、結構クオリティ高いんですよね。頭のギミックとか、足のアンカーとか。
顔はゴリラだけど結構戦略的に戦いますし。顔はゴリラだけど。
サザキ少年とのバトルから早数日。フラッグの強化について、私はゴンダと話していた。渡り廊下で話す内容ではないが、教室では他の生徒の声で会話しづらいため仕方ないのだ。
「耐久性を上げるのはどうだ? そうすれば、相手の攻撃に耐えながら飛ぶことができると思うが」
「いや、下手に装甲を厚くすると、今度は速度が落ちてしまう。それは避けたい」
「ふむ、ならば素材を変えて、同じ厚さで丈夫なパーツを──」
と、ゴンダが何かに気付いた。彼の視線をたどってみると、そこには見慣れない赤髪の少年が、三人の女子に話しかけていた。制服も着ていないことから、聖鳳学園の生徒ではないと見て間違いないだろう。
「エイカ、すまないが」
「ああ、行ってくるといい」
不審人物を取り締まるのも、生徒会の役目だ。ズカズカと彼に近づいていくゴンダを尻目に、私は一人教室に戻った。恐らく、彼はしばらく帰ってこないだろう。
机の引き出しから機動戦士ガンダム00の小説を取り出し、『武士道』の文字が描かれたしおりの挟んである箇所を開く。
十数ページほど読み進めたところで、私の視界に女子生徒の制服が入った。
「シグレか。どうかしたのか?」
「ゴンダ先輩が、中等部の生徒とバトルをするそうです。どうせ暇だろうと呼びに来たんですが、案の定でしたね」
どうして不審人物を連行したはずのゴンダがバトルを? ともかく、彼のバトルなら見ないわけにはいかないな。
「ありがとう。では向かおう」
私はしおりを再び書籍にはさみ、椅子から立ち上がる。早くしないと、バトルが始まってしまうかもしれない。
急いで体育館へ向かうと、ちょうどバトルシステムの準備が終わったところだった。ゴンダと向かい合っているのは、先日模型店の店員をやっていた少年だった。
「よもや彼がバトルをしようとは。乙女座の私には、センチメンタリズムを感じずにはいられない」
「え、何ですそのセリフ。キモいですよ」
後輩の言葉は聞き流すとして、私はイオリ少年の持つガンプラへ目をこらす。
遠目に見てもわかる。あのガンプラ、できる! ストライクガンダムをベースに、肩部へのスラスターの追加、背部バーニアの強化、腰にはビームサーベルまで。全身の塗装と墨入れ、つや消しもされている。が、ストライカーパックはないのか。
「うわー、この人自分の世界に入っちゃってますねー。わざわざ呼びに行ってあげたのは私なのに」
「それについては感謝しているとも。おかげで、いいバトルが見られそうだ」
私がイオリ少年の隣にいる赤髪の少年へ目を移すと、シグレは拗ねたようにそっぽを向いた。また何か機嫌をそこねてしまったのだろうか。
筐体から、粒子が散布され始める。ステージはコロニー内部の市街地。ゴンダのスモーと少年のガンダムがそれぞれ出撃する。
「刮目させてもらおう、ガンダム」
「先輩、独り言うるさいです」
すまない、と一言謝罪して口を閉じた。どうにも彼のセリフが使える機会には口から出てしまうのだ。
市街地に降り立ったスモーの放ったビームをガンダムは避け、サーベルを抜刀して接近。それに対し、スモーも近接武器であるヒートファンを構えた。
互いに激突し、刹那の鍔迫り合いの直後ガンダムがスモーを蹴り飛ばす。あの完成度なら納得のいい動きだ。
そのまま頭部のバルカンを放つガンダムに、反撃しようと構えたスモーのビームガンが破壊される。スモー本体はフェイスギミック等作り込まれているが、武装は塗装程度で済ませていたため、耐久度が低かったのか。
ガンダムの性能もさることながら、あの赤髪の少年の技量もすさまじい。操縦技術だけなら、ユウキ先輩に匹敵するんじゃないだろうか。
ビルを上手く使って隠れたスモーに、ガンダムはビル群を抜け人工川と隣接する道路へ。あのファイター、技術はあっても実戦経験が少ないらしい。隠れた相手に広い場所に出るなど、どういうつもりだ。
案の定ビルの上に立ったスモーに狙われた。左腕のIフィールドバンカーを改造したと思われるビーム砲から強力なビームを撃つ。流石はゴンダ、かなりの威力だ。
ガンダムも跳んで回避するが、ビームは途切れずそのまま追いかける。躱しきれないと見たのか、ビルを盾にして逃れるガンダム。そこでビーム攻撃が終わった。
穿たれた地面が爆発を起こし、ガンダムが距離を取るため離れていく。
「あれ、ゴンダ先輩って意外と弱いんですか?」
「それは違うぞシグレ。あの少年の操縦技術が飛び抜けているんだ」
あの攻撃、私のフラッグですらあの至近距離ならば回避は難しい。そして、それだけの性能を持つガンプラならば、使いこなすのにも相応の技術が必要となる。
「ふーん? なら先輩、先輩があのガンダムを使ったら?」
「高い性能に振り回されて、場外に出るのがオチだ」
あの完成度、イオリ・タケシの息子だけはある。
ビルから跳んだスモーの斬撃を回避するガンダム。ヒートファンは代わりに地面をえぐった。
互いに向き合い、次の手を繰り出そうとした瞬間、フィールドに異変が起きた。強風が吹き荒れ、スモーには追い風に、ガンダムには向かい風となる。
「内心でバトルを実況してそうなキモい先輩、あれは?」
「スモーのビーム砲で、コロニーに穴が空いたのだ。それにより、バトルフィールドが変化した」
まるでファーストガンダムの初戦闘の時のようだ。穴があれより大きいため、モビルスーツにも影響するほどの乱気流となっているのだろう。
あの金ピカ、スモーっていうんだ・・・・・・と呟くシグレはさておき、これでガンダムは不利になった。
スモーは脚部のアンカーを展開し突き立て、足場を安定させる。だがガンダムはただ耐えるだけだ。ゴンダは以前にバトルで同じことをして気流に吹き飛ばされたことがあるので、今回は対策していたのだろう。やはり、戦闘経験の差が激しいか。
左腕のビーム砲のチャージを始めるスモー。勝負を決めに行ったか。それに対し、ガンダムは真っ向から向かっていく。
「え、先輩。もしかしなくてもあれ、馬鹿なんですか?」
「いや、恐らくゴンダのビーム砲は威力が高い代わりにチャージに時間がかかる。それを読み、勝負に出たのだろう」
スモーがバーニアをふかし、ガンダムから距離をとる。理に適ってはいるが、消極的だな。ゴンダらしくない。私だったなら、追い風を利用して突進し、ヒートファンで斬りに行っている。
ガンダムがもう一本のビームサーベルを抜き、バーニアの出力を上げて突き進む。
スモーが迎撃しようとヒートファンを振りかぶったところで、コックピット部を貫かれた。そのままガンダムが離れ、スモーが爆発する。
「コックピットだけを狙うとは・・・・・・まるで初代ガンダムだな」
ゴリラ呼ばわりされ、怒りの形相で生徒を追いかけ始めたゴンダに苦笑していると、シグレが制服の袖を引っ張る。
「先輩。それより、ユウキ先輩が」
彼女の指さした方を向くと、ユウキ先輩がGPベースをセットしていた。取り出したのは、彼の愛機、ザクアメイジング。
「真剣勝負に横入りなど、無粋な!」
「先輩、一人で叫ぶとかキモいです。知り合いだと思われたくないんで、ちょっと離れてますね」
すすす、と私から距離を取るシグレ。少し傷ついたが、自業自得だと無理矢理納得する。
『少しばかり勝負が早く着きすぎた。これでは折角集まってくれたギャラリーに申し訳ないと思わないか・・・・・・いいや、私はそう思う!』
いや、絶対バトルしたくなっただけだろう。声に出すとまたシグレに引かれそうなので、心の中でそうツッコむ。
どうやら二人はバトルを受けるようで、ガンダムはビームサーベルを再び抜刀。ザクアメイジングはヒートナタの二刀流だ。
脚部のバーニアをふかし、追い風も相まってかなりの速度で接近するザク。ガンダムがサーベルを振るうが、躱される。それを読んでいたのか、腰のもう片方のサーベルを起動しザクを狙うが、これを避けられる。さらなる斬撃も、機動性の高いザクとユウキ先輩の技術によって避けられる。
しかし回避したことで風下になったザク。だがそれを感じさせないほどのスピードで動き、再びガンダムに接近。頭部から放たれるバルカンも、全て躱しきった。
振るわれたサーベルはヒートナタで受け、そのまま押し切る。二本目のサーベルも同じく。
体勢を崩したガンダムに再び風上をとったザク。バルカンをまたも回避しながら跳び、ガンダムを超えて着地。振り返る動作に合わせて足払い。倒れたガンダムが起き上がるよりも早く、その首元にヒートナタの切っ先を突きつけた。
あまりに早い決着だった。私の感傷を挟む余地などない、圧倒的な戦い。しかもユウキ先輩は、武器をヒートナタしか使っていない。恐らく、あのガンダムと対等な条件で戦うためだろう。だというのに、圧勝した。
相変わらず、すさまじい・・・・・・というか、よく先日の私は耐えられたものだ。今の動きを見るに、テストバトルだからと手加減されていたのか。
ユウキ先輩が少年達と話しながらシステムを操作し、プラフスキー粒子が霧散する。それが終わるとゴンダを始め模型部員達がユウキ先輩のところへ集まっていく。
「先輩はいかないんですか?」
その場所から動かずにいた私を気遣ってくれたのか、シグレが声をかけてくる。
「いや、私はいい。そろそろ昼休みも終りだ、教室に戻らせていただこう」
またシグレが毒を吐いているのが聞こえたが、頭に入ってこない。
熱い。燃えるように、私の中で熱が燻っている。
私は人の少ない廊下を走り、模型部の部室へ向かった。
ユウキ・タツヤ
聖鳳学園三年、生徒会長にして模型部部長にして三代目メイジン・カワグチ候補。
ガンプラ塾で磨き上げた技量は凄まじく、『紅の彗星』の異名を持つほど。第六回ガンプラバトル選手権世界大会に出場している。
バトルの時にはキャラが豹変する。
ユウキ会長、強すぎるんですよね・・・・・・漫画のAやARを読むとよくわかるんですが。
決勝戦、マシタ会長がなにもしなければ、勝っていたんじゃないかな・・・・・・。
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量産型のザクです
ラルさんも最初は弱いのかと思っていたら、凄い強い人でしたし・・・・・・。
部活の時間と放課後を使ってフラッグの改造を行った私は、日の落ちた商店街を歩いていた。
向かう場所はバー『アフターファイブ』。その場所でガンプラバトルが生まれる前からガンダムを、ガンプラを愛した男達が、夜な夜なコスプレをしながらバトルしているのは、商店街の大人達なら誰でも知っていることだ。
狭い階段を下り、唾を飲み込んでその店の扉を開く。店内の光景が、視界に入ってくる。
ガンプラバトルの筐体が二つ。どちらも稼働しており、今もバトルが行われている最中だ。彼らは皆ジオン軍の軍服に身を包み、バトルをしていない者は飲み物を飲みながら語り合っている。
「む? 君は、確かエイカ中尉の・・・・・・」
「夜の挨拶、即ち『こんばんは』という言葉を、謹んで贈らせてもらいます。八百屋のおじさん」
こちらに気付いたドレンによく似たおじさんに、私は挨拶をする。彼は席を立ち、こちらへ歩いてきた。
「ここは君のような子供が来る場所じゃないぞ。親御さんが心配するだろう、早く帰りなさい」
「いえ、父ならそこでバトルしていますので」
私が視線を向けた先にいるのは、和風な軍服のような形容しがたい服を着こなし、仮面を身につけてバトルに興じる男が。私の父、エイカ・ハムマンだ。アメリカ人とのハーフであり、私と共にガンダム00にハマり、ミスター・ブシドーにのめり込んだ男。
「そうだったな・・・・・・おーい、エイカ中尉! 息子さんが来ているぞ!」
「何!? それは
バトルを中断し、格好だけ見れば不審者な私の父がこちらへやってくる。
「どうした息子よ。私に会いたくなったのか?」
「寝言は寝て言うんだな、父よ。私はバトルをしに来たのだ」
私の回答に、父は仮面越しに目を細める。右目の辺りに傷跡が見えるが、ただのボディペイント。ファッションだ。
「どういうつもりだ」
「勝ちたい人がいる。そのために、私は強くならなければならない」
父が更に顔を険しくする。恐らく、自分のことを棚に上げて夜遊びは危ないとか気にしているのだろう。よく似た声だけあって、なんとなく読める。
「それは、ガンダムか?」
真剣な瞳で父が私に問う。結果は見えていたが、素直に答えることにした。
「いや、ザクだ」
「ならば駄目だ!」
想像通りの答えだった。父は普通の人とは違った方向性のガンダム馬鹿であり、『ガンダムに勝つため』と言えば大体納得してくれる。昔はそれでお小遣いを貰おうとして、母に怒られたものだ。
「まあまあ、もう少し話を聞いてみてはどうだ? エイカ中尉」
「今の私はミスター・ブシドーだ。エイカ中尉などではない!」
八百屋のおじさんが取りなしてくれるも、父は腕を組んでそっぽを向いたままだ。頑固なのだ、この男は。そしてしれっとセリフを入れてくる辺り、つくづく抜け目がない。
「ここは子供の遊び場ではない!」
「熟知している。だがそんな道理、私の無理でこじ開ける!」
私の説得も聞かず、父は譲らない。この分からず屋め。
「どうしてそんなに頑ななんだ、ハムm、おっと、その姿の時はミスター・ブシドーだったかな?」
「勝手にそう呼ぶ。迷惑千万だな」
口ではそう言いつつ、劇中再現が出来たためかにやける父。
「カタギリ、どうしてここに?」
「うん、君は僕のことを『さん』付けするべきじゃないのかな?」
先ほど父に話しかけたのは、近所の電気屋に務めるカタギリ・ジュンだ。白衣を着用し長髪で眼鏡という外見とその名前から基本呼び捨てにされている。
因みに父は塾の講師をしている。生徒には『ハム先生』と呼ばれているらしい。
「彼はここでガンプラを売っているのだよ。バトルでガンプラが傷つくことを視野に入れた、賢い商売だと言っておこう」
何故か父が自慢げに説明する。カタギリもおじさんも苦笑したきりだ。
「君達はファイターだ。そういったことは、バトルで決めるべきじゃぁないかい?」
カタギリの提案に、思案顔でうむと頷く父。むしろ何故それを思いつかなかったのか。
「いい案だカタギリ。だが、興が乗らん!」
「ああ、さっきスサノオは大破したんだったね。これはすまない」
キメ顔でセリフを使った父だが、カタギリの言葉が図星だったのか再びそっぽを向いた。
しかし、父はこんなナリだが元フラッグファイター。彼が負けるほどの相手がいるのであれば、やはりここは修業にふさわしい場所のようだ。
「それなら、ボクが相手するよ」
店の奥から、再び人影がやってくる。聞いたことのない声だ。
「た、隊長!? 御出陣なられるのですか!?」
八百屋のおじさんが驚いた顔向けるその人物は、この集団の中で唯一コスプレをしていなかった。スーツ姿で特徴のない顔立ちだが、私の勘が言っている。この男は、できると。
「隊長! わざわざ貴方の手を借りるわけには・・・・・・」
「いや、これはボクがやりたいことだよ。キミの息子なら、実力を見ておきたいしね」
隊長と呼ばれた男はニコリと笑うと、私へ目を向けた。
「キミもそれでいいかい?」
「ええ。望むところだと言わせてもらいましょう」
私は首筋に冷たいものを感じながら、精一杯不敵に微笑んで見せた。
バトルが始まり、私のGNフラッグが宇宙を進む。この機体は以前展示用に作ったものをフラッグのパーツとミキシングしてバトル用に作り替えたもので、武装は疑似太陽炉とケーブルで繋がったビームサーベル、右腕のディフェンスロッドと胸部のバルカン。変形機構を失ったため、人型のままだ。
今回のステージはジオンの軍事要塞、ソロモンのある宙域。
私が上がった機動性を確かめながら進んでいると、視界に隊長のものと思わしきガンプラが見えた。ザクだ。
「あれは、隊長のザク
「あの機体のバトルを、また見ることができるとはな」
八百屋のおじさんと父が何か言っているが、そちらに気を取られてはいられない。
そのザクは緑色の量産型だが、角が付いていた。隊長機である証だ。そしてその身体はいくつもの傷が付いている。武装はザクバズーカを三つ合わせたような銃器と腰部にマウントされた巨大なヒートホーク。
「刮目させてもらおうか、ザク!」
私はバーニアをふかし、ザクへ迫る。ザクはバズーカを構え、こちらへ撃ってきた。
「そんなもの!」
上がった機動性にものを言わせて回避。その直後、機体が衝撃を受けた。
「何だと!?」
ザクが、フラッグに蹴りを入れたのだ。撃ってこちらが躱すまでの僅かな時間に、ここまで移動したというのか。何という機動力!
蹴られて吹き飛ぶこちらに、容赦なく放たれるバズーカ。それをサーベルで切り裂き、爆発した紫煙に突っ込む。そのまま斬りかかろうとサーベルを構えるが、ザクの姿がない。
「くっ、何なのだ、このザクは!」
『いえ、普通のザクですよ。何の変哲もない、ありふれた、量産型のザク』
声に反応して咄嗟に振り返ると、そこにはヒートホークを構えたザクがいた。次いで横薙ぎに振るわれたそれを、サーベルで受け止める。
鍔迫り合いの
「何を!?」
そのままミシミシと悲鳴を上げ、左腕が握り潰された。
「馬鹿な!?」
ガンプラに、これほどの握力を持たせるとは!
普通、ガンプラの指は武器の取り回しやすさ、器用さを優先して改造を施す。世界レベルのビルダーでさえ、指の間接部は弱くなってしまうものだ。
だというのに、このザクはフラッグの腕を握り潰した。速度を上げるために装甲を薄くしていたとは言え、どれほど作り込めばこれほどの力が出るのだろうか。
「だが、まだだ!」
胸部のバルカンに操縦桿のスロットを動かし、選択。この至近距離ならば多少はダメージを与えられるだろうと思ったが、
「無傷だと!?」
そのまま強引に左腕を引っ張られ、蹴飛ばされる。疑似太陽炉から伸びたケーブルごと左腕が千切れる。
「武器を失ったか・・・・・・それでも!」
まだ諦めるわけにはいかない。体勢を立て直し、再びこちらからザクに向かう。
『ふん!』
迎撃するように振るわれたヒートホークをギリギリで回避し、ザクの背中にマウントされたザクバズーカに手を伸ばす。
直後。フラッグが吹き飛んだ。
「ぐぅ!?」
ソロモンにぶつかり、ザクを見ると、ヒートホークの側面で殴られたのだとわかった。なるほど、ただ大きいだけではないというわけか。
しかし、参った。今の攻撃とソロモンとの激突で、関節のほとんどがイカれてしまった。ついでに衝撃で首が取れている。眼前にイケメンなフラッグフェイスが漂っているので、恐らくそういうことだろう。
『キミの実力は、見せてもらった』
隊長がそう言うと、ステージが消えていく。バトルが終わったのだ。
「私の完敗、か・・・・・・」
傷一つ負わせることができなかった。
格が違う。次元が違う。隊長と呼ばれるこの男は、確実にユウキ・タツヤよりも強い。
「お疲れ様。いいバトルだったよ」
彼がこちらへ近づき、右手を差し出した。私は左利きなのだが、こういう時は相手に合わせるものだ。
「完敗でした。それ以外、言葉が見つかりません」
そう言って、両手で差し出された手を握る。格が違い過ぎて、語彙力を失ってしまったようだ。やはり国語は苦手だなと場違いに思う。
「それでも、キミは才能があるよ。少し戦っただけでもわかる」
そう笑いかけてくれる隊長に、私は恐縮です、と返すことしかできない。
「善戦していたぞ、息子よ」
「ああ。隊長相手に、三分も保ったのだ。上出来だろう」
父と八百屋のおじさんが彼に敬意を払うのも、今となってはよくわかる。
「エイカ中尉。この子、ボクが鍛えてもいいかな?」
「隊長!? それは望んでもみなかったことですが、しかしよろしいので?」
父が念押しするように確認すると、彼は勿論と頷いた。
「ボクと違って才能のある子には、その才能を伸ばして欲しいから」
その言葉は謙遜が過ぎるというものだ。しかし、何故これほどのファイターが世界大会に出ていないのだろうか。
「じゃあ早速、明日、同じ時間に来れる?」
「ええ、勿論! なんなら、今すぐにでも!」
私の返事に、隊長は笑ってバトルの準備を始めた。
エイカ・ハムマン
コウスケの父親。ミスター・ブシドーにハマり、歪んでしまった人物。
普段は塾の講師をしているが、『アフターファイブ』では仮面を付け和風の衣装を身に纏いミスター・ブシドーを名乗る。
ブシドー衣装の時は気づきにくいが、運動をあまりしていないため小太りな体型。ドラマCDへのリスペクトである。
隊長
ダメージモデルのザクを使う中年。その正体は、ラルさんや珍庵と同じく大会出場停止組。
普段は冴えない中間管理職だが、ガンプラバトルの業界ではラルさんと同レベルの有名人。
呼び方は『隊長』『司令』など、場合によって異なる。
ガンダムさんの『隊長のザクさん』、あれ凄い好きなんです。量産型でガンダムを狩る、やっぱり最高です。一時期、そのためだけにガンダムさんを買ったくらいです。
ただ、戦闘シーンでは無口なのであんまり小説には向いていないという・・・・・・orz
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だから私はアホなのだ!
それと、10評価が付いていて大変びっくりしました。
ギッシュさん、ありがとうございます。
隊長とのバトルから一日。私はほとんど聞いていなかった授業の道具を鞄に入れて教室を出た。向かう先は模型部の部室だ。
昨日はGNフラッグがバトルできる状態ではなかったためレンタルされていたガンプラを使ったが、やはり他人の作った機体というのは使いにくい。自分の機体より高性能であったとしても、間接の位置や四肢の長さ、武器のリーチなどを把握しきれていないため、自分の感覚とのズレが生じるのだ。
そんなことを考えていると、部室に辿り着いていた。
「失礼する!」
宣言と共に扉を開け、部屋に入りながら軽快に挨拶。
「諸君、昼の挨拶、すなわち『こんにちは』という言葉を、謹んで贈ろう」
私の入室に、ちょうど部室にいたユウキ先輩が苦笑する。
「エイカ君、もう少し声を抑えることはできないかな?」
「失礼だと言った」
しかし、ユウキ先輩がいたのは僥倖だ。いなければ生徒会室まで探しに行くつもりだったが、手間が省けた。
「ユウキ先輩、しばらく部活を休みたい」
私の発言に、彼は一度作業を止め顎に手を当てる。
「理由を訊いても?」
「ガンプラバトル選手権に出ることにした」
それ以上の言葉は必要ないだろう。私の意図を察したのか、彼は驚いた表情の後に逡巡すると、目を戦士のソレへと変貌させながら頷いた。
「いいだろう。選手権で君と戦えることを、楽しみにしている」
「望むところだと言わせてもらおう」
互いに不敵な笑みを浮かべ合う。ゴンダ含む周囲の生徒が首を傾げたりしているが、気にしない。
「それでは失礼する」
今度はゆっくりと扉を閉めて退室する。後輩たるもの、先輩の言葉は聞くべきなのだ。
「あれ、先輩。もう帰るんですか? 怠慢ですね」
ちょうどそのタイミングで、シグレが廊下を歩いてきた。今週は日直だとぼやいていたので、それで遅れていたのだろう。
「ああ。しばらく、部活を休むことにした」
私がそう言うと、シグレは目を大きく見開いて数歩後ずさる。手に持っていた荷物を落とした。
かと思えば、急に肩を掴んできた。
「ど、どうしてですか!? 私が、私がこんなだからですか!? 私がこんなだから、先輩は部活を辞めるんですか!?」
「お、落ち着けシグレ! 揺さぶるな!」
涙目で私の上半身を揺さぶるシグレに、私は困惑しながらもされるがままだ。
「落ち着けませんよ!! 先輩が辞めてしまったら、私、私は──」
「別に辞めるとは言っていないだろう! しばらく休むだけだ!」
私の悲鳴に近い声に、え、とシグレは正気に戻った。次いで、掴まれていた手が離れる。
「先日、ユウキ先輩に負けたのが悔しくてな、だからバトルの練習をして、選手権に出ることにしたのだ。しばらくそちらに専念するため、部活には出ることができない」
休むことにした経緯を詳しく説明すると、シグレは顔を赤く染めて俯いた。まあ、誤解して暴走したとわかれば恥ずかしがるのも仕方ない。
「・・・・・・それならそうと、ちゃんと言ってください」
いや、言ったつもりだったのだが。
「それでは先輩、そこを退いてください。邪魔です」
シグレの言葉で気付いたが、私は出入り口を塞いでしまっていた。すまない、と道を開ける。
ご機嫌斜めなシグレがガラリと扉を開けると、そこにはゴンダが固まった表情で立っていた。
「・・・・・・盗み聞きとは、いいご趣味ですね、ゴリラ先輩」
「き、聞いていないぞ! オレは、なにも! って、誰がゴリラだ!」
そんなやりとりを聞きながら、改めて私は学校を後にした。
それから家でGNフラッグの改修をして、『アフターファイブ』へ向かう。部活を休んだのは早計だったな、と道具の足りない家を出た。
昼とは違って人通りの少ない商店街を歩き、看板の横の階段を下りる。そして、銃撃音が聞こえてる扉を開いた。
「皆さん、夜の挨拶、即ち『こんばんは』という言葉を、謹んで贈らせていただきます」
店内にいる全員に聞こえるように、まずは挨拶。挨拶は大事だと父がよく言っていたものだ。礼儀挨拶は武士道の基本だと。
「やあ、コウスケ君。それとここでの挨拶は『ジーク・ジオン』だ」
昨日と同じく、ドレンによく似た顔をしている八百屋のおじさんが迎えてくれた。
「これは失礼。して、隊長殿はおられますか?」
「ああ、店の二階にいる。奥の階段だ」
感謝します、と言って他の人の邪魔にならないように向かった。階段を上がって見えた扉を空けると、その部屋は青白い光に満ちていた。
「いらっしゃい。早かったね」
「待ちきれませんでしたので」
その巨大なバトルシステムを見つめていた隊長が振り返る。そう、バトルシステムだ。
通常のものの二倍はあるそれは、普通一つしかないフィールドを組み合わせた地形、今であれば森林と水中、峡谷の三つがフィールドとなっている。
驚愕したままの私に、ああ、これかい? と隊長はその筐体へ視線を戻す。
「店長に頼んで設置してもらった、特殊なバトルシステムだよ。地球全部を再現することもできるけど、それには場所が足りなくてね」
「・・・・・・十分すさまじいです、隊長」
昨日行った修業は、貸し出し用の機体を使って店内の大人達とバトルすることだった。戦績は3勝11敗と負け越した。
そして、今日は、
「今日は、これらの地形で君の機体がどれだけ戦えるかを確かめる。バトルフィールドはランダムだから、どんな状況でも戦えるようにしておかないとね」
そう言って、システムに幾つものガンプラを設置していく。水中にザク・ダイバーやザク・マリンタイプ、峡谷にザクタンクやザクスナイパー、といった具合にガンプラが配置された。偏っているように感じなくはないが、野暮なことは言うまい。
「さて──」
再びこちらを向いた隊長の顔には、ニコリといつもの笑顔が浮かんでいる。だがそれが、私の背筋を冷たくした。
「君は、生き残ることができるか?」
狭い谷の間を、フラッグが飛翔する。だがそれは安心安全なフライトなどではなく、狙撃や爆撃を回避するためだ。
森林の上空を飛んでいたら砲撃の嵐に合い、ディフェンスロッドを失いながらも逃げてきたのだ。私の操縦技術では一度に十本も迫り来るビームや弾丸に突っ込むことなどできるはずがないだろう。あの赤髪の少年やユウキ先輩なら出来るだろうな、と思考がズレた瞬間、アラートが鳴る。咄嗟に身をひねれば、ビームによる狙撃が。
「何!? ここにも
ビームの方向へ機体を向けると、逆側から轟音。慌てて旋回すると、峡谷の色に溶け込んだザクタンクがいた。
「ならば先にスナイパーを──」
タンクの方が機動力はあるが、スナイパーの射程範囲の広さが厄介だと判断しサーベルを抜刀し接近。斬りかかると、そこに割って入るものがあった。
「なっ、デザートザク!? ペアで行動していたのか!」
そのザクのヒートホークが、フラッグのビームサーベルを阻んだのだ。チィ、と舌打ちをし、斧を斬り上げる。そのまま蹴りを食らわせ反撃されないようにして、サーベルを振るう。
と、右側から《CAUTION》の文字と警告音。反射的に後退すると、フラッグの装甲をビームが掠めていった。二体目のスナイパータイプか、と理解したのと、起き上がったデザートザクのタックルを受けるのが同時だった。
「ぐぅ!?」
衝撃を逃がそうと自ら後退したが、ここは峡谷。すぐに岩壁にぶつかってしまった。
「くっ、空ならばこんなことには・・・・・・」
言いながら、ビームサーベルを投擲、デザートザクの胸部を貫き、破壊。ケーブルを引いてサーベルを手元に戻す。
これは今日フラッグを改修する時に思いついた機構で、伸縮自在とまではいかないがある程度までならケーブルを伸ばせるようにしたのだ。
放たれるビームを避けながらその場から逃亡し、谷にあった窪みに身を隠す。
岩壁にぶつかったことによるダメージは少ない。スナイパーとタンクを見失ったが、どうするか。森林に戻ればまた砲撃の嵐、かといって迂闊に動けば狙撃される。射程距離よりも高く飛んでもこちらから攻撃できなくなるし、燃料が保たない。
「ええい、だから私はアホなのだ!」
こういう時にいい案が思いつかない自分が恨めしい。しかし隠れていても見つかるのは時間の問題だ。
「ならば、打って出る!」
渓谷内を低空飛行し、耳を澄ます。ザクタンクのキャタピラ音を拾おうとしたのだが、運良く別の音を拾った。
「捉えた!」
振り返りながらサーベルを投擲。射撃しようとしていたザクキャノンのモノアイを貫いた。キャノンの駆動音が聞こえたのだ。
再びサーベルを回収し、動きを止めたザクキャノンへ近づく。死体漁りのようで気は進まないが、武器がサーベルだけでは戦えない。何か武器はないかと機体を探るが、肩部のキャノンに腰部のライフルと機体側で操作する武器のみのようだ。
「外れか、だが仕方ない」
下手に触れて爆発させてはこちらが傷付く。私はその場を離れて倒したデザートザクの元へ向かう。ヒートホークとマシンガンがあったはずだ。
誘爆していなければいいが、と飛んだ私の視界に何度目かわからないアラート。回避が間に合わず、その攻撃を受けた。
「陸戦高機動型ザクⅡ!? こんなものまで!?」
そのタックルを受け、私のフラッグは岩壁に叩きつけられる。次いで放たれるマシンガンを上昇することで数発被弾しながらも躱すと、突如機体が制御を失った。ぶつかった際にエンジンを破損したようだ。
「ぬぅ、こんな時に!」
ヒートホークを掲げて迫ってくる陸戦高機動型。致命傷だけは避けねばとサーベルで受け止めるが、力負けし押し切られる。
そして峡谷のエリアを超え、隣接していた
「くっ、ここまでか」
操縦桿を動かすが、機体は反応せず。
私のフラッグは、為す術なく水中へダイブした。
その後のことは、言うまでもないだろう。
フラッグは元々空中専用。水中では戦えるはずもなく、あっさり水中戦用のザクにやられた。ズゴックやゴックを見かけなかった辺り、隊長のこだわりは強いらしい。
番外『だから先輩はアホなんです』
はあ、とため息をつきながら、帰り道を歩く。どうして私は素直になれないのだろうか。いや、あの場面で素直になったら色々とまずかったけど。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさいませー!」
私が家の扉を開けると、妹が出迎えてくれた。彼女はどうやら自分の部屋へ向かう途中だったらしく、そのまま行ってしまった。後ろ姿が見えなくなってから、またため息。靴を脱いで上がる。
「お帰りなさい。どうでしたか、学校は」
「いつも通りです、お母様」
キッチンで料理している母に少し嘘をついてから、私は気怠い身体を引きずるように妹と同じ部屋へ。この家はあまり広くないので、姉妹で同じ部屋を使っている。
そのまま身を二段ベットの下の布団へ投げだし、脱力。今日は疲れた。このまま眠ってしまいたい。
「お姉様? 寝ては駄目、ですのよ。お夕飯がまだですもの」
「・・・・・・はい、わかっていますよ」
妹にたしなめられてしまっては仕方ない。そのままゴロンと仰向けになってから起き上がる。
「そんなに部活は大変ですの? 文化部だと聞いていましたけれど」
心配そうにこちらを見る妹。勉強しているらしく、机にノートを広げていた。
「ええ、そんなところです」
「確か、模型部、ですわよね? 何を作ってらっしゃるんですの?」
曖昧に濁した私に、妹はお嬢様学校らしい口調で訊いてくる。そのまま話を続けようとするのは、子供だからこその遠慮のなさだろうか。
先輩だったなら、察して話を変えて──くれないな。あの人、鈍感だから。
と、逸れた思考を打ち消し、鞄から今日完成したガンプラを取り出す。
「最近作ったのはこれですね」
妹に見せたのは『ガンダムナドレ』という機体。髪の毛が生えた珍しいガンダムだ。それを自分に寄せてポニーテールに改造してある。
「へえ・・・・・・こんな
それは子供故の無邪気な質問だとわかっていたが、流石にムッと来たは私は、思わず言い返す。
「ええ、とても。お子様には理解できないかもしれませんが」
外で話す時と同じように、嫌味を含んだ言葉。だが悪意の込められたそれに、妹は気付いていないようだった。
「ならお姉様、
瞳をキラキラと輝かせる妹に、私は毒気を抜かれて再びベットへ脱力してしまった。子供の言うことに怒った自分が馬鹿らしくなる。
それもこれも、あの金髪の先輩のせいだ。
『しばらく、部活を休むことにした』
その言われた時、私はとても衝撃を受けた。私はどうにも人見知りをしてしまって家の外では毒を吐いてしまうため、こういった人間関係のトラブルが多かったのだ。
だから私は早とちりをしてしまって、思わず先輩の肩を掴んでしまった。
『ど、どうしてですか!? 私が、私がこんなだからですか!? 私がこんなだから、先輩は部活を辞めるんですか!?』
毒舌が出る余裕もないくらいに動揺して、慌てた。先輩に部活を辞めて欲しくなかった。週に一回でも、月に一回でもいいから来て欲しかった。
『先輩が辞めてしまったら、私、私は──』
あのとき、私は何を言おうとしていたのだろうか。わからない。私が教えて欲しいくらいだ。
ふと浮かんできたのは、クラスの女子が話していた内容。誰が好き、誰々が付き合っただの、そういった、私とは無縁な話題。
まさか、私は先輩のことを──
「・・・・・・いや、ないです。無理です」
あんな格好付けたがりな変人のどこに惚れる要素があるのだろうか。黙っていればモテそうな外見だが、中身はあの
「・・・・・・でも」
あの先輩は、私のことを遠ざけない。こんな口の悪い私にも、他の人と同じように接してくれる。今まで、そんな人はいなかった。
だから、離れて欲しくない。きっとそんな、依存に近いナニカだろう。
「アサヒ、マヒル、ご飯が出来ましたよー」
お母様が私達を呼ぶ声が聞こえる。私と妹は返事をして、競うように部屋を出た。
シグレ・マヒル
聖オデッサ女子学園に通うアサヒの妹。お嬢様学校なので、独特な敬語っぽい口調。
クラメイトのサザキ・カオルコ、サノ・ケイコとは仲が良い。
お察しの通り、七年後のギャン子の取り巻きである。
ザク、色んな種類がありますよね。フラッグにもカスタムフラッグにオーバーフラッグ、刹那使用とか作業用とか陸戦重装甲型とかエアロフラッグとかありますし。バリエーションの多さが量産型の魅力の一つです。
大量のザクとのバトル、というと漫画ARのカルロス・カイザー戦っぽいですが、本作のは全てCPUです。隊長が操縦しているわけではありません。だとしたらもっと早くやられてますので・・・・・・
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よもや君に出会えようとは
Miteaさん、評価ありがとうございます。
『隊長』と呼ばれる男との修業を始めてから、約一週間。
コウスケのフラッグは作っては壊し、また作ってを繰り返し、確実に完成度を上げていた。
細かなディテールアップが施され、そのボディは戦闘機のように飛行に適したフォルムへ。なおかつ水中戦や宇宙戦など空中以外での戦闘も考慮し、間接部の強化など、外見に大きな変化はないものの細部に手が加えられている。
武装は新たに作ったリニアライフル、『クロスファイア』。これはカスタムフラッグのライフルを改良したもので、キットこそ存在しないものの資料は存在しており、コウスケのガンプラ制作技術でも再現することができた。無論塗装やつや消しもされており、元のリニアライフルより威力も連射性能も上がっている。『やはりフラッグにはコレだ』というコウスケの拘りにより、ビームライフルは撤去された。
次に、GNビームサーベル。左肩の疑似太陽炉とケーブルで繋げられたその武器は劇中再現のためスローネアインのもの。疑似太陽炉からの粒子供給により威力やリーチは元のものより上がっている他、予備として両腕部に一本ずつ収納されている。
ディフェンスロッドは特殊な塗料を使い、角度によってはビームを弾くだけでなく切り裂くことも可能になった。あのニルス・ニールセンが使ったのと同じ塗料である。しかしそれにより以前よりも求められる技術が大きくなり扱いづらい代物になった。
そして胸部のバルカン。こちらはあくまで牽制用と割り切り、スモーク弾やペイント弾などの特殊な弾を撃てるようにしてある。コウスケの技術では制作が難しかったために隊長を始めとした大人の力も借りて改造が施された。
更に追加装備としてヒートホークを改良したヒートダガーが腰部にマウントされている。これは鉄血機体などの『ビームが通じない相手』を想定した武器で、機体の動きを妨げないために短刀として作られた。こちらは隊長との合作だ。
コウスケ自身の操縦技術も向上し、今となっては隊長のザク
ガンプラバトル選手権地区予選まで、あと三日──
夜も遅い時間、『アフターファイブ』にて、二人のファイターが戦っていた。
一人はイタリアチャンプのナイスガイ、リカルド・フェリーニ。愛機ウイングガンダムフェニーチェを操る腕前は、『イタリアの伊達男』の名に恥じない。
もう一人は赤髪にサングラスを引っ掛けた少年、レイジ。イオリ・セイとタッグを組み、打倒ユウキ・タツヤを掲げるアリアン第一王子だ。
『オラオラ、どうしたぁ! 地形に苦しめられてんじゃねぇ、利用しろ!』
『ンなコト、言われなくてもッ!』
フェニーチェのバスターライフルを避けたレイジのインパルスガンダムが森林に墜落し、土煙が上がる。その隙を逃さずビームレイピアを抜刀し接近するフェニーチェ。インパルスは悔し紛れにビームライフルを放つが、あっさり避けられ首もとにサーベルが突きつけられた。
『勝負あったな』
彼の相棒が作ったガンプラならここから反撃することも可能だが、このインパルスは店のレンタル品。先ほどの墜落でバックパックが破損し、すでに左腕とシールド、右足を失っている。勝敗は明確だった。
「クソッ、もう一回だ!」
粒子が霧散し、二体のガンプラのみとなった筐体を挟んで、レイジがフェリーニに吠える。だが彼はバーの椅子に腰掛け、休憩状態に入っていた。
「勘弁してくれ・・・・・・もう何回目だよ」
イタリアチャンプと言えど、まだまだ成長期のレイジとは体力に差があった。彼もまだ24と若いが、一戦でもかなり消耗するガンプラバトルを50回以上行っているのだ。休憩を要求したくなるのは当然だろう。店主に酒の注文を始めてしまった。
「なんだよ、情けねぇな」
むしろここまで連戦して未だに戦えるレイジが異常なのだ。底なしかよ、とフェリーニは疲れた顔で言う。
「ならば、私が相手になろう、少年!」
コツコツ、と酒場の階段から足が響く。誰だ、と構えるレイジの目に映ったのは、金髪の青年だった。
「私はエイカ・コウスケ。君のバトルの才能に、心奪われた男だ!」
「は?」
脈絡のないセリフに、思わず気の抜けた声を出してしまうレイジ。その男は決まった、とドヤ顔をしている。一目でわかる残念っぷりだ。
「・・・・・・まあいいか。お前が相手してくれんのか?」
「無論だ。こんな所で会えるとは、正に僥倖! この機会を逃す手はない」
コウスケはそう言いながら、予備で持っていたガンプラ──フラッグを取り出す。GNフラッグは先ほどまでの特訓で中破しているため、こちらを使うことにしたのだ。
「ならさっさとおっ
「望むところだと言わせてもらおう!」
フェリーニがいた位置にコウスケは立ち、筐体にGPベースをセット。粒子が戦場を満たしていく。
「あの少年は・・・・・・」
「ボクの教え子ですよ、大尉」
レイジの付き添いで来ていたラルがその聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはスーツ姿の平凡な男がいた。
「君は、隊長!? 弟子をとっていたのか!」
ラルの驚きに、隊長は首を振って否定した。
「そんな大層なものじゃないですよ。ただ、才能があると思ったので鍛えただけです」
そうか、と納得とまではいかないものの了解したラルは、それよりもバトルだと筐体へ身体を向ける。隊長もそこに並ぶと、ちょうど二つのガンプラが出撃したところだった。
「見せてもらおうか! 君の腕前をッ!」
峡谷ステージの空を飛翔するコウスケのフラッグ。対するレイジはインパルスから変えてエールストライクガンダムだ。レンタルなので破損すれば料金を払う必要があるが、恐らくラルが支払ってくれるだろう。
『ハッ、吠え面かかせてやるぜ!』
峡谷の隙間からエールストライクのビームが飛んでくる。それをフラッグは躱すと、機体を傾け谷間へ入った。
『どこへ隠れやがった!』
レイジはエールストライクを移動させフラッグを探すが、見つからない。と、彼の耳に発砲音が届いた。
『そこかッ!』
弾丸を回避しながら振り向きざまに射撃。しかしフラッグは避けた。
「ぬぅ、やはりそう簡単にはいかないか!」
次いで放たれるビームを躱しながら、コウスケは考える。この狭い空間ではグラハムスペシャルは使えず、機体の性能差で押し切られる。
「ならば!」
フラッグを上昇させ、谷間を出る。エネルギーが尽きたのかライフルを捨てて背中からサーベルを抜刀し飛翔するエールストライクを確認すると、コウスケは機体に宙返りを打たせエールストライクへリニアライフルを放つ。
『なッ、クソ!』
四発放たれたそれらは全てシールドで防がれたが、それにより勢いを削ぐことに成功した。そのままプラズマブレードを抜き、上空から落下しながら振りかぶる。そしてバーニアを全開にし、更に速度を高めた。
「もらった!」
『くっ、その程度の攻撃でっ!』
レイジは逆光に目を細めながら、ビームサーベルで落ちてきた影を切り裂いた。だが手応えが小さい。感じた違和感の正体は、エールストライクを覆うもう一つの影にあった。
「かかったな!」
『な、身体が分離した!?』
上半身と下半身の分離。フラッグにあるギミックの一つだ。それを使い、コウスケは下半身を囮にして本命の攻撃を通そうとしたのだ。
ガンダム作品への知識。レイジの相棒がいればフォロー出来た部分が、浮き彫りになってしまった。
『オレが、負けるかぁ!!』
エールストライクはシールドをパージし、左腰のアーマーシュナイダーを射出。左手でそれを構えると、フラッグのコックピットに向けて突き出した。そして右肩から胸元まで食い込むプラズマソード。一瞬の空白の後、両機共に爆発した。
《Battle Ended》
バトルの結果は──ドロー。引き分けだ。
「素晴らしい戦いだった。感謝するぞ、少年」
コウスケは特訓の後更にバトルをしたというのに、まるで疲労を感じさせない笑顔でレイジへ右腕を差し出す。
「へっ、お前も中々だったぜ。ま、セイのガンプラがありゃ勝つのはオレだったけどな」
生意気ともとれる言葉と共に、右腕を握り返す。フッ、とコウスケは軽く笑ってみせた。
「そうか。尚更選手権が楽しみになったな」
彼はそれだけ言うと、筐体からフラッグを回収して店を出た。もちろん、隊長への挨拶をしてから、だが。
「ラルのオッサン、アイツは?」
「うむ、ユウキ君やゴンダ君と同じ模型部の部員、エイカ・コウスケ君だ」
ゴンダって誰だ? とレイジは首を捻ったが、気にしないことにした。彼の脳にはゴリラとしか記憶されていないのだ。
「エイカ・コウスケねぇ・・・・・・まだあんなのがいるのか」
フェリーニやユウキ・タツヤほどではないが、確かな強者だ。レイジは再び燃え上がったバトル熱を解放するべく、フェリーニへ振り返る。
「おいフェリーニ、休憩は終わったろ、もう一回バトルだ!」
「・・・・・・ZZz」
しかし彼の視界に映ったのはイタリアの伊達男ならぬ駄目男。酔い潰れてカウンターに突っ伏している。
「レイジ君、今日はここまでにしてはどうかね? 君の方も、そろそろ限界のようだ」
ラルにそう言われて気付くが、彼の指は痙攣しており、まともに戦える状況ではない。うっすらとだが血が滲んでいる箇所もある。
「この程度のことで、音を上げられるかよ。そんなんじゃ、アイツに、ユウキ・タツヤに勝てない」
しかし尚闘争心を燃やすレイジに、ラルはやれやれとため息を付いた。ならばと隣にいた隊長が前に出る。
「それなら、しばらくボクが相手をしよう。そこのイタリアチャンプが起きるまで、だけどね」
そう言いながら、愛機のザクを筐体にセットする。レイジは次のガンプラを借りると、血の滲んだ手で操縦桿を握った。
レイジ
イオリ・セイの相棒でありアリアン王国第一王子。ガンプラバトルの才能はあるが、ガンダムへの知識はなくガンプラを作ったことさえない。
ユウキ・タツヤに敗北したことで彼へのリベンジをめざし、バトルにのめり込んでいく。
アフターファイブで修業しているんだから、やっぱりレイジ君と戦わせたいですよね。
強くなっても流石にレイジ君には勝てないよな、ということで引き分けです。
三人称だと書きづらいですが、主人公視点だと周囲のこととか書けない描写が多くて・・・・・・どうすればorz
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ファイターに戦いの意味を問うとは、ナンセンスだな!
BF、小説版だとユウキ先輩って一回戦で棄権しているんですよね。尺の都合でしょうか。
他にも差異があるので、比べると面白いです。
第七回ガンプラバトル選手権世界大会の地区予選。私がいるのはその会場となった体育館だ。
発表された組み合わせによれば、私は二回戦でユウキ先輩と戦える。
「何という僥倖! 生き恥を晒した甲斐があったというものだ」
・・・・・・思えば、私はこれから何回生き恥を晒すのだろうか。ふと冷静になった思考を頭の隅に追いやり、一回戦の相手を確認する。
「『アマダ・シロウ』、か。聞いたことのない名前だが・・・・・・」
油断していい理由にはならない。
ガンプラを入れたポーチに触れながら、08小隊の主人公と似た名前だなと少し遅れて気付いた。
『ただいまより ガンプラバトル選手権 地区予選を開始いたします』
アナウンスに従い、私は筐体へ。GPベースとGNフラッグをセットする。相手のアマダ選手も同じく。
《Field3 Forest》
ステージは森林。アマゾン川流域にある、地下に鍾乳洞がいくつもある連邦軍の基地、ジャブロー。
フラッグでは森に隠れるなどできないため、上空から索敵し撃破、というのが理想の流れだが、上手くいくかどうか。
《Battle Start》
「エイカ・コウスケ。GNフラッグ、出撃する!」
私のフラッグが射出され、ジャブローの空へ。今のところ、敵機は視認できない。
と、遠くから発砲音が聞こえた。機体を翻し回避して、音源へカメラアイを向ける。
「Ez8! それもヘビー・アームド・カスタムか!」
この機体はEz8改を砲撃用に改造した機体で、両腰にはサラミスの主砲を流用したビームキャノンを装備し、機動性などを犠牲に砲戦に特化した機体だ。Gジェネレーションの機体だが、ガンプラで再現とは。これもガンプラの醍醐味だろう。
『見つかったか! それなら!』
Ez8は膝立ちから起立し、腰の砲門と構えていた銃とでこちらを狙う。リニアライフルを構える隙もないな。放たれる銃弾を全力で回避しながら大きく弧を描き、Ez8に接近する。
「貰った!」
『クソォ!』
こちらが左腕のサーベルを振るうも、捉えたのはバックパックのみ。それをパージし盾にしてこちらの攻撃を防いだのか。
『これなら!』
と、Ez8が顔をこちらへ向け、頭部バルカンを連射。とっさに後退したが間に合わず、数発被弾してしまう。
胸部と左腕部から小さく紫煙が上がる。
『倍返しだぁぁぁあ!』
追い打ちとして構えられた三つの砲身。私は歯を食いしばりながらスロットを回し、胸部からバルカンを放つ。
『なっ、スモーク!?』
煙幕弾だ。長くは持たないが、これで追撃は防いだ。距離を取って、森林へ入る。
『どこだ! どこに行った!』
周囲を見渡すEz8。しかしあちらは陸戦用、地形への適応度ならあちらが上だ。索敵されて見つかるのも時間の問題だろう。
フラッグの損傷は微々たるもので、サーベルを振るうのに問題はない。しかしバルカンで受けたダメージと、先ほど煙幕を使ったことでもう胸部のバルカンは使えなくなった。閃光弾が使えれば奇襲をかけられたのだが、仕方ない。
「・・・・・・ならば」
森から飛び出し、右手のリニアライフルを連射する。躱されたが問題ない。そのままライフルを捨て、サーベルを起動し急接近する。
「この距離なら、自慢のキャノンも使えまい!」
『クッソォ!』
Ez8はライフルを手放し、ビームサーベルを抜刀。こちらの斬撃に合わせるように振るわれたそれを、
「見切った!」
私はサーベルの軌道を変え、サーベルを持つ手を斬り裂いた。
隊長殿との特訓のおかげで、私の動体視力はかなり鍛えられている。そのため、こんな芸当も可能となったのだ。
『畜生!』
悔し紛れに放たれたビームキャノンをディフェンスロッドで弾き、サーベルを切り返しもう一度振り抜く。
「ガンダム! 引導を渡す!」
粒子量を増やしたことで威力の高まったサーベルが、Ez8の装甲を切断した。
《Battle Ended》
収束していくプラフスキー粒子と、『アイナァァァア!』と叫ぶアマダ選手を視界から外し、私は隣でバトルしているユウキ先輩へ目を向ける。
あっさりとザクウォーリアを戦闘不能にし降参させた彼は、こちらに気付いたのか髪を下ろしながら私を見る。
交わす言葉はなく、ただにらみ合うだけだ。だが私には彼の声がなんとなく聞こえていた俗に言う、ニュータイプ式会話というヤツだ。私は隊長との特訓で身につけたが、三代目メイジン・カワグチ候補である彼ができないはずがない。
『腕前を上げたようだな、エイカ君』
『貴方も、ザクを更にチューンしたようだな』
『ああ、君に負けてはいられないからな』
『・・・・・・だが、次の試合、勝つのは私だ』
『その言葉、そっくりそのまま返させてもらおう』
視線を外し、それぞれ観客席へ向かう。そこにいた隊長に敬礼し、会場を見下ろす。
「中々のバトルだったね。特に、あの威力のビームキャノンを弾けるようになったんだから、成長を感じるよ」
「ありがとうございます」
ボクもすぐ追い越されちゃうな、と言う彼に、謙遜し過ぎです、と返す。ユウキ先輩のバトル以外で、めぼしいファイターはいない。見るだけ無駄だろう、と隊長に挨拶しようとしたところで、入口から人影が入ってきた。
「あれは、少年!」
赤髪にサングラスの少年。そうだ、彼がいた。あのファイターと、イオリ・タケシの息子のタッグが。
彼の指には痛々しく包帯が巻かれているが、彼なら問題ないだろう。その程度のハンデで負ける男ではない。
彼らはいくつか言葉を交わすと、イオリ少年は腰のケースからガンプラを取り出す。
「! あれは!」
「・・・・・・すごいな」
隊長も気付いたらしく、感嘆の声を漏らす。
彼らの機体、ビルドストライクガンダムは機体の完成度が上がっており、間接周りの補強など、バトル向きの改修がされている。そしてライフルとシールドもオリジナルデザイン。展示用ならともかく、バトル用の武器を1から作るなど、とても労力と時間がいることなのだ。
そして、バックパック。恐らく、ストライクルージュのI.W.S.P.をベースに作られたもの。元々優れている機動性を更に高めるだけでなく、二問のビーム砲による火力増強。未完成だったあの機体に足りないものが全て補われたと言っても過言ではない。
バトルが始まった。翼を得た彼らの機体は目を見張るほどのスピードで
バトルは少年らの勝利で終わった。
その後いくつかバトルを見て、トイレに寄った後帰ろうと扉を開けたところで、見慣れた人物に遭遇した。
「シグレ? 来ていたのか」
「うぇ!? せ、先輩・・・・・・」
驚かすとは趣味が悪いですね、と軽口が続く。どうしてこんなところにいるのだろうか。
「ゆ、ユウキ先輩のバトルを見に来ただけです。部員として」
シグレの慌てたような言葉に、そうか、と頷く。真面目な彼女らしい理由だ。
「今帰りか? 家まで送るが」
「・・・・・・そうですね。私、可愛いので襲われるかもしれませんし」
少し間を空けてそう言った彼女の顔は、赤かった。自分で『可愛い』と口にして、恥ずかしがっているのか。
そのまま玄関を出て、商店街で向かう。彼女の家の方向は、なんとなくわかっているからだ。
「・・・・・・先輩。先輩も、バトルしたんですよね。どうでしたか?」
しばらく歩いて、シグレがそう訊いてきた。私は今日のバトルを思い出しながら口を開く。
「なんとか勝利した。ジャブローが昼ではなく夜だったなら、危なかったな」
私のフラッグには遠距離武器がないため、隠れながら砲撃されるとかなり不利だ。今回は相手を視認できたので戦えたが、ゲリラ戦となっていたら勝ち目がなかった。
「そうなんですか。でもガンプラ、傷ついたんですよね」
シグレの疑問に首肯する。わずかだが、ダメージを受けたのは確かだ。
「何で、自分のガンプラが傷つくってわかっているのにバトルするんですか?」
ふむ。ファイターではないシグレだが、バトルに興味を持ってくれたのか。ならば私も正直に答えよう。
「そんなもの、決まっている」
私は少しもったいぶって、そこで一度区切る。格好付けられるときに格好付けるのが私だ。
「私の憧れに、理想に近づくためだ」
ガンダムに魅了され、ガンダムを愛し、憎み、宿命となり、そしてガンダムマイスターとなった男。
私は、彼のようになりたい。彼のように自分が正しいと思うことを為す男になりたいのだ。
「往来で格好付けるとか、ダサいですよ、先輩」
「む、そうか。気をつけよう」
私はともかく、シグレまで変人扱いされては問題だ。
「あ、私ここまででいいです。ユウキ先輩とのバトル、精々頑張ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
軽く手を振ってシグレの背中を見送る。彼女は商店街の隣の通りに住んでいるようだ。意外と近かったんだな、とわかっていたことながら驚く。
二回戦の相手はユウキ先輩。彼に勝てるかどうかはわからないが、そんなことは関係ない。持てる力の全てをぶつけるだけだ。
彼女の背中が見えなくなってから、私は帰路についた。
アマダ・シロウ
ガンプラバトル選手権出場者。08小隊のファンであり、主人公シロー・アマダには強く感情移入している。
Ez8を始めとした08小隊のガンプラを好んで作り、Gジェネのヘビー・アームド・カスタム、ハイ・モビリティ・カスタムをガンプラで再現するなどその愛は強い。
いい加減タイトルネタがなくなってきた・・・・・・どうしましょう。
因みにこの主人公、作中初勝利です。弱い訳じゃないんだ・・・・・・周りが強すぎるんだ・・・・・・。
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この気持ち、まさしく愛だ!
筐体へ辿り着くと、すでに彼がいた。思わず口元を緩めずにはいられない。
《Please Set Your GPBase》
端末を置くのももどかしく、焦れったい。私が我慢弱く、落ち着きのない男だからだろうか。
《Beginning Plavsky Particle Dispersal》
いや、きっと違う。尊敬する彼の言葉を借りるなら、そう―――
ステージは市街地。ゴンダとイオリ少年達のファイトの時とは違い、コロニーではなく『第08MS小隊』でEz8とグフカスタムが戦った場所だ。ガンダム並みの高さのビル群が乱立しており、身を隠しながら戦うのが一般的なフィールド。
その上の広大な空を、狙撃してくれと言わんばかりに無防備に飛ぶ。
嗚呼、やはり空はいい。ガンプラ越しに伝わる風を切る感覚、どこまでも続く青。しかしそんな感傷は、発砲音に打ち砕かれる。
「ッ! そこか!」
狙撃を回避し、音と弾丸が飛来した方向から敵の居場所を探る。白いビルの合間からザクアメイジングの
「なるほど、誘っているのか?」
肩部とライフルが少し見えただけだというのに、私の頬は上気し、胸が高鳴る。ザク相手にコレでは、彼がガンダムを使った時はどうなってしまうのだろうか。
それた思考を軌道修正し、ビルの合間に降り立つ。隊長との訓練により、市街地での戦いも想定済みだ。カーソルをホバーモードに合わせ、音なくそれでいて走るよりも速く動けるようにする。
「こちらの位置は把握されている。あの狙撃ポイントから考えるに、私を襲うとすれば・・・・・・そこだ!」
計算と直感と愛の力でザクが出現するであろう方向を予測し左手のビームサーベルを投擲すると、ちょうどそこへザクが現れた。
『何ッ!?』
撃とうとしていたハンドガンの片方に命中し、破壊。まさかここまで上手くいくと思っていなかったぞ私も。
サーベルを回収するために胸部バルカンからスモーク弾を放つ。閃光弾という選択肢もあるが、こちらは失明の危険などから大会運営が威力に制限を設けているので至近距離でないと意味がない。
サーベルを引き戻しながら後退、ついでにザクがいるであろう箇所にリニアライフルを放つ。大きなダメージはないだろうが、牽制程度にはなるだろう。そのままビルの間へフラッグを隠す。
「理想を言えば、こうして少しずつ武器を破壊していきたいが・・・・・・」
大会のバトルには時間制限があるうえ、相手はユウキ先輩だ。同じ手が二度も通用するとは思えない。こちらはほぼ無傷、あちらは武器を一つ失った程度。ならばどうするか。
「・・・・・・考えるまでもない」
こちらから打って出る! ない頭を捻るよりか、実際に動いた方がいいに決まっている。
フラッグを建物の影から出し、周囲を警戒。動きがないことを確認し、突き進む。
以前の機体だったなら狙撃されて終わりだが、今のGNフラッグならば、発砲音を聞いてからでも避けられる、はずだ。
と、突然右腕に被弾した。ディフェンスロッドが破壊され、衝撃で各関節にもダメージが走る。
「! 音がしなかった、だと!?」
大きく距離を取りながら見えたのは、
最初の攻撃で使わなかったのは、こちらを油断させるため・・・・・・それと、スナイパーライフルほど狙撃性能が高くないため、ダメージが小さいという判断か。
しかし、マズい。私はかなり耳がいいが、流石にサプレッサーの音は聞き取れない。右腕はほぼ動かなくなってしまい、一気に形勢が傾いた。
再びビルの合間にフラッグを隠す。幸いリニアライフルは生きている。左腕はサーベルを持っているため、撃つことはできないが、使いようはある。
ライフルに細工し終わったところで、ホバー音が耳に響く。索敵能力はあちらが上、恐らく見つかっているだろう。
『見つけたぞ!』
「ッ、上!」
かなり高いビルの上に、ハンドガンとヒートナタを持ったザクアメイジングがいた。ホバーではなく機体が上昇する音だったのか。
銃弾が放たれ、こちらを逃すまいとミサイルも発射される。
「チィ!」
細工を施したライフルで銃撃を受けると、ライフルが起爆。残っていた弾とミサイルもろとも爆発する。
奥の手の一つとして用意しておいた自爆装置をライフルに取り付け、爆弾にしたのだ。爆風で攻撃を防ぐが、機体にダメージがない訳ではない。直撃よりマシだ、と割り切る。
「捉えた!」
傷を受けながら爆風を抜け、ザクに斬りかかる。ヒートナタで受け止められるが、それは想定済み。操縦桿を回し、スロットを選択してビームの出力を上げる。
『なっ、刃が!』
出力の上がったサーベルは、ヒートナタの刃をも切り裂いた。鍔迫り合いに有利になれるよう改造したのだ。
『楽しませてくれる!』
ザクが跳ね、ハンドガンを連射。こちらはビームサーベルをVガンダムのもののようにハリセン型に広げ、受け止める。GN粒子を利用したもので、GNフィールドの生成と似た使い方。ビームを薄くする代わりに範囲を広げているのだ。
「そこ!」
そのままケーブルを切り離しサーベルを投擲。左肩に突き刺さる。
落下しながら紫煙と爆発を確認し、着地。右腕からサーベルを取り出しケーブルを再接続。邪魔になった右腕を肩部スラスターを残して切断する。パーツをパージする機構はギミックを増やしたせいで作れなかったのだ。自分の未熟さを痛感する。
フラッグの損傷は激しく、ザクは未だ五体満足。ダメージは与えているが、致命傷にはなっていない。状況を把握するのは大事だよ、という隊長の言葉に従って現状確認したが、やはり劣勢だな。
同じ場所に留まるのも危険なので、左右の重量比に気をつけながら移動する。
策を考じている時間はなく、そんな思いつき程度で勝てる相手ではない。何より、あのサプレッサー付きロングライフルは健在だ。先ほどは持っていなかったが、壊れたかどこかに置いてきたのか。ユウキ先輩がそんな中途半端なものを作るとは思えない。十中八九後者だ。
「・・・・・・あれは」
運良く、市街地を移動するザクの後ろ姿を発見。国道のように広い道なので視認できた。あちらは隠れるつもりはないということか。
なら、私だけ隠れているのはなしだ。父に教えられた『ブシドー』にも反する。・・・・・・まあ、普通の武士道ではないことから察して欲しいが、色々間違っているのでそこまで重要に思ってない。
ともかく。
「どこを見ている、私はここだ!」
突撃しながら声を張る。こちらに気付いたザクが片方だけになったミサイルポッドを使うが、全て回避する。ビームハリセンではビームが薄くなってしまうため受け止めきれないと判断した。
一発が直撃コースだったがサーベルで斬り捨てる。そのまま返す刀でザクに振るうが、避けられる。反撃に振るわれるヒートナタに、スラスターの推進力を回して強引に機体を捻ってサーベルを間に合わせる。出力を上げようとするも、その前にホバーで逃げられる。タイムラグを悟られたか。
ビームの出力を調整できるようにしたのはいいが、その分粒子を消費することになってしまうので一々切り替える必要があるのだ。でないと、機体の軽量化やスラスター周りに使っている粒子が足らなくなり、フラッグの性能がガタ落ちしてしまう。そういう意味では、トランザムに近いかもしれない。
『実にいいガンプラだ。様々な創意工夫がなされているッ!』
「褒めていただき光栄!」
ホバリングしながら放たれるハンドガンを、ビームハリセンで防ぐ。ビルが邪魔で避けにくい上、そろそろ粒子残量が危うい。
『オォ!』
サーベルの出力切り替えのタイムラグを狙って、ヒートナタが振るわれる。
「ここだ!」
ギリギリで躱し、胸部バルカンから閃光弾を発射。サーベルでハンドガンを持つ腕を肘のあたりで切断する。
『くっ、目くらましとは!』
ブシドー云々はもうどうでもいい! 私には私の戦い方がある!
機体の位置が入れ替わる。斬ったザクの腕が落ちるのと同時に、再び突進。サーベルの出力を最大にする。
「うおおおおおお!」
『オオォォォォオ!』
ザクのヒートナタを切断。勢いのまま回転しもう一度サーベルを振るう。
が、ナタを手放したザクの拳が、フラッグの腕を殴り砕いた。
「・・・・・・機体が保たなかった、か」
腕を失ったフラッグはそのままバランスと制御を失い、ザクにぶつかって地面に倒れる。粒子が底をついたのだ。疑似太陽炉からも煙が上がっている。
《Battle Ended》
消えていく粒子と共に力が抜け、一つ息を吐く。悔しさはあるが、それ以上に充実感が
「いいバトルだったよ、エイカ君」
こちらに歩み寄ってきたユウキ先輩が右手を差し出す。それを握り返しながら私は苦笑した。
「私の完敗だ。持てる力の全てを使って負けたのだ、それ以外に言葉はない」
敬語を使う余裕がないのは許して欲しい。文字通り全力でのバトルだったのだ、精も根も果ててしまった。
「以前とはまるで見違えたよ。君も、君のガンプラも」
「とある人が稽古してくださったのです。今の私があるのは、彼のおかげだ」
私の言葉にいい師を持ったようだね、と先輩。手を離し、ガンプラを回収する。
「では先輩、月並みですが、私の分まで勝ち上がってください」
「後輩にそう言われては、先輩として下手な試合をするわけにはいかないな。
もちろん、全力を尽くすさ」
そうして、お互い筐体を後にする。私の選手権はここまで、だ。改めて言葉にすると、なんとも寂しく感じる。
「お疲れ様です、先輩」
会場の扉の近くに、シグレがいた。ユウキ先輩のバトルだから見に来ていたのか。
「ありがとう、シグレ。見ていてくれたのか」
そう言って、隊長のいる観戦席へ向かおうとする。と、シグレが私を引き留めた。
「あの、先輩!」
なんだ、と振り返る。彼女は何か言い足そうに口を開き、ためらう。何か言いにくいことでもあるのだろうか。社会の窓は閉まっている筈だが。
「その・・・・・・格好良かった、です」
「・・・・・・?」
いまいち理解ができなかった。それはシグレからそんな言葉が聞けるとは想定していなかったからで、単語と意味が結びつかなかった。
「ですから、悪くなかったと言ってあげているんです。素人目に見ても、ユウキ先輩相手に善戦していたと思いますよ」
「ああ・・・・・・ありがとう」
後輩から慰められるとは、やはり研鑽が足りないな。少しは成長できたと思っていたが、自惚れだったようだ。
「その・・・・・・少し、バトルに興味が湧くくらいには、いいバトルでした。・・・・・・先輩、よかったら、私にバトルを教える権利をあげないこともないです」
目を反らし、赤面しながらシグレが言う。恐らく、ユウキ先輩は選手権があるため私に頼んでいるのだろう。ゴンダは・・・・・・彼女とは相性が悪い、とだけ。
「ではその名誉、謹んで受けさせていただこう」
「・・・・・・格好良いと思ったら、すぐこれですか。なんというか、変わりませんね、先輩」
回りくどい言い方と態度から恥ずかしがっているように見えたので、場を和ますジョークをと思ったのだが・・・・・・お気に召さなかったらしい。
「夏休み、どうせ暇ですよね?」
その期間にバトルを教えて欲しい、ということだろう。
ガンプラバトル選手権の世界大会は夏休み中に行われるが、私は先ほど敗退したので関係ない。直接観戦に行くほどの金もない。
私は特に抵抗なく頷いた。
この主人公、なんでこんなに鋼メンタルなの? という話ですが、これにはちゃんと設定があります。アメリカ人とのクォーターの彼ですが、五歳までアメリカに住んでいました。なので、暴言は基本気にしない、我が道を征くという性格。まあフラッグ貶されたら怒りますが。なので国語(日本語)が苦手という訳です。
そして日本語勉強の一環で00を見たからこんなことに・・・・・・。
つみれ@インド産さん、7ゲンムさん、評価ありがとうございます!
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堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞ、ユウキ・タツヤ!
ゴリラ顔だなんだと言われてるけど、影で頑張っていたのです。そりゃユウキ先輩と再会したら号泣しますよ。
一天地六さん、yardyaplog!さん、評価ありがとうございます。
時は流れ、ガンプラバトル選手権地区予選も大詰め。準々決勝まで進んだ。
私は待ち合わせていたシグレと共に、イオリ・セイ、レイジ組のバトルを見ていた。隊長は用事があって来られないそうだ。
「バトルについて色々わかった今だから言えますけど・・・・・・バケモノですね、あの機体。何であんな速度出るんです? 出せたとしても機体への負荷が大きくて木っ端み微塵になりますよ? それを操縦するファイターもバケモノ級ですけど・・・・・・」
シグレはブツブツと毒舌を交えながら彼らの機体、ビルドストライクを分析する。ついこの前までバトルに関しては素人だった彼女だが、この数日間バトルを教えていたのであの機体がどれだけ規格外かわかってきたらしい。
今もビームライフルとは思えないほど強力な攻撃で緑色の
あのライフル、上下二つの銃口で威力を使い分けている。以前使っていたライフルは私のものと同じように出力を変更するのにタイムラグがあったように見えたが、あれは違う。銃口一つか二つかで威力を調整し、切り替えにかかる時間を最小限に抑えている。チャージにかかる時間も少ない。彼は本当に中学生なのだろうか、と疑いたくなる出来映えだ。
「先輩、あの緑の、別に弱くないですよね。多分先輩とバトルしても勝てるレベルで」
「些か悪意を感じる質問だが、そうだな。勝率は四割ないだろう」
まずあのアトミックバズーカが避けられるか怪しい。いや、避けることは可能なのだが機体にダメージがない範囲にまで逃げることが難しい、とした方がわかりやすいか。機動性を重視し装甲を減らした私のGNフラッグでは余波だけでもやられかねない。
それを突破した上でサイサリス本体と戦わなければならない。ユウキ先輩が前回大会で使った『ザクアメイジング・ラピッド』のように重装甲・高機動な機体ならともかく、紙装甲のフラッグでは厳しいだろう。
「っと、ユウキ先輩の姿が見えないな」
イオリ少年達のバトルが終わった会場には、彼の対戦相手であるサザキ少年が怯えた表情でユウキ先輩を待っている。
「トイレですかね? まさか寝坊なんてする人には思えませんし」
シグレの言葉を聞きながら、私の脳裏に嫌な予感が浮かぶ。
『準々決勝第四試合は、ユウキ・タツヤ選手が出場辞退を申し出たため、サザキ・ススム選手の不戦勝となります』
そのアナウンスに私は呼吸することを忘れたように息が詰まった。出場辞退? あのユウキ先輩が?
「・・・・・・どういう」
「や、やったー! 僕の勝ちだー! 絶対負けると思っていたけど!」
歓声を上げているのはサザキ少年だけで、彼の声がやたらと響く。うるさい、と言ったのは誰だったのか。
「先輩? その、顔がドン引きするぐらい怖くなってますけど・・・・・・」
どうやら、それは私だったらしい。まずいな、このままでは喜んでいるサザキ少年につかみかかってしまいそうだ。
「・・・・・・失礼する」
私はそれだけ言って、席を離れる。行き先は聖鳳学園。確かゴンダが生徒会の仕事で学校にいるはずだ。
「え、先輩!?」
「失礼だと言った!」
シグレには申し訳ないが、今の私では彼女にも暴言を吐きかねない。この行き場のない感情をぶつけるべく携帯端末を取り出しユウキ先輩にかけるが、返ってきたのは無機質な機械音声だけだ。
舌打ちを一つして、足を早めた。
学園に辿り着き、そのまま生徒会室へ直行する。怒りのままに扉を開けると、ゴンダが窓の外を見つめていた。
「ゴンダ! どういうことだ、ユウキ先輩が選手権を辞退など!」
「・・・・・・エイカか」
振り返ったゴンダの顔に、私は言葉を失った。彼はとても疲れた顔をしていたのだ。机の上には大量の書類が積まれている。
「会長は、無期限の休学届を提出なされた」
「休学届、だとッ!?」
どういうつもりだ、と私は拳を握り、そのまま扉に叩きつけようとして、踏みとどまる。ゴンダは部長でも会長でもあった彼を尊敬していた。だから彼が去った後に残った仕事を、こうして片付けているのだろう。
だというのに、私がここで怒りを撒き散らすわけにはいかない。なんとか自分を鎮め、拳を解く。
「・・・・・・そうか。邪魔をした」
何か手伝うことはあるか、と問うが、ゴンダはただ首を振って書類作業に戻った。それもそうか。生徒会でもない私が、彼の仕事を手伝うなどと。余計な手出しは足を引っ張るだけだ。
私はどうしようもない怒りを抱えたまま、家に帰ることにした。
夜。私は『アフター
『うおおおお、ハァァァァァア!』
『なんのォ!』
目の前の筐体では、父とジオン軍服の中年―――確か、文房具屋の店主―――がバトルを繰り広げている。
けれども、それが私の糧になるかと問われれば、否だ。隊長との特訓を通してわかったことだが、ここにいるファイター達は
だからこうやって集まってバトルしているのだろう。彼らが選手権に出ないのも納得ではある。実力はあっても彼らの機体では予選すら勝ち抜けない。
「フッ、その予選落ちした私が何を偉そうに」
そう自重して、手元のグラスを煽る。因みに中身はウーロン茶だ。未成年だし炭酸は好かん。コーラサワーは嫌いではないのだが。
「何をブツブツ言っているのだ息子よ。私とバトルでもするか?」
「冗談は顔と格好だけにしてくれ父よ」
自慢でも驕りでもなく、この男では私の相手にならない。それこそサザキ少年やレイジ少年、ユウキ先輩でなければ。
「なっ、実の息子にそこまで言われるとは・・・・・・」
「うーん、コウスケ君は気付いてないかもだけど、全部口に出ていたからね今の」
そうだったのかカタギリ。どうにもやってられんのだよ。全く、ユウキ先輩は何を考えているのか。
「どうして逃げるような真似を・・・・・・!」
ガン、とグラスをテーブルに叩きつける。壊さない程度に力加減するくらいには冷静だった。
「知りたいかい?」
「ッ、隊長!」
音も気配もなく現れた隊長に、私はとっさに起立し敬礼する。父も同じく。隊長はいつものように微笑んで敬礼を返すと、私を見る。
「ユウキ・タツヤについて話すよ。それと、彼が今どうしているかも」
「本当ですか!?」
それは思ってもみなかったことだ。先輩がどこでナニをしているのか、私は知らなければならない。
ただし、と隊長は付け加える。
「ボクとバトルすることが条件だ。それで、君がどうしたいのかを見せて欲しい」
二階に上がり、二人だけの部屋で隊長がシステムを稼働させた。
《Please Set Your GUNPLA》
ユウキ先輩とのバトルの後改修したGNフラッグを筐体に乗せる。粒子によるスキャンによって機体が読み込まれ、フラッグのバイザー下の眼に光が宿る。
ステージは砂漠。砂が間接などに詰まって動きが鈍くなるなどの弊害が起きるフィールド。だが当然、砂漠用の改造を間接やスラスターには施してある。
《Battle Start》
「エイカ・コウスケ。GNフラッグ、出撃する!」
カタパルトからフラッグが飛び出し、砂風舞う戦場へ降り立つ。操縦桿を操作しホバーモードを選択。視界が悪いが、太陽は出ている。接敵すれば影でわかるだろう。
と、砂以外の音が聞こえた。フラッグのホバー音でもない。《COUTION》という表示にフラッグをその場から逃がすと、遙か上空から何かが降ってきた。
ザクだ。先ほどまで私がいた場所に着地し、そこから円形に砂が吹き飛ぶ。私は視界を塞がれまいとリニアライフルを連射し砂壁に穴を開ける。
そしてサーベルを起動しザクへと飛ぶ。モノアイが動き、こちらを視認した。
隊長のザク
「くっ!」
ホバリングで回避。何故かはわからないがあの斧はブーメランのように帰ってくるため位置に気をつけながら再度接近。牽制にライフルを放つが、斧で防がれる。その隙にサーベルの出力を最大まで上げ、斬りかかる。
「はぁ!」
こちらも当然防がれる。戦斧とビームの刃は拮抗していたが、ザクが斧の角度を少しズラすと、サーベルに斧が食い込んだ。
「何!?」
『粒子変容塗料・・・・・・粒子の波長に角度を合わせることでビームを切り裂くこの塗料、ボクが使わないとでも?』
失念していた。GNフラッグのディフェンスロッドにも使っているそれは、隊長が教えてくれたもの。実体剣を使わないため、刃に塗るという初歩的な発想を忘れようとは。
「戦いの中で戦いを忘れるというのは、こういうことかッ!」
サーベルの刃が中程まで斬られている。ヒュンヒュンと帰ってきた戦斧の音が聞こえた。
私はフラッグの身を引かせると、その巨大な斧を足場に跳んだ。そして帰ってきた斧を回転して躱し、リニアライフルを撃つ。追撃を封じる意図もあってヒートホークを踏んだのだが、ザクはライフルの弾を斧を振るっただけで吹き飛ばした。そして空いている手に帰ってきた斧が収まる。
『そして、こういうこともできる』
ブオン、とヒートホークが振るわれる。その風切り刃がそのまま飛んできた。
「真空刃とは!」
スラスターで機体を反転させ回避。そして砂に着地すると、投げられた斧が眼前にあった。
「くぅッ!?」
急旋回すると、またも斧。それを跳ねて回避した先には、両手を合わせて振り上げたザクがいた。
「一機でジェットストリームアタックだと!?」
これ以上躱すのは無理だ。そのまま振り下ろされた拳を、せめてもの抵抗で右手を伸ばし受ける。
地面に叩きつけられ、背部スラスターがきしむ。右腕はヒビが入り、ガラス細工のように割れた。原型が残っているのはポリキャップパーツくらいだ。
ザクは少し離れた場所に着地すると、両手に斧が帰ってくる。悲鳴を上げる身体を無視し、左手を使って立ち上がる。衝撃で壊れたサーベルを捨て、腕部から新しいサーベルを抜刀。
「まだだ!」
まだ、負けていない。出力を最大まで引き上げ、スラスターを全開にする。残存粒子を全て込めて、飛ぶ。
「うおおおおおお!」
ザクは斧を回転させながら投げる。それを踏み台にしてさらに加速する。蹴った左足が砕けた。
「おおおおお!」
サーベルを振るう。残った斧が軌道上に置かれるが鍔迫り合うことなく、叩っ斬った。
「オォ!」
そしてそのままサーベルをザクに。ボクン、と疑似太陽炉が煙を吹いたが、無視。
『ッ!』
ザクの手が、フラッグの左腕を掴んだ。バキン、と限界だった腕が弾ける。スラスターが焼き切れた。
ガツン、とそのままザクに頭突きを食らわせる。そして、エネルギーを使い切ったフラッグはザクに倒れかかり、機能を停止した。
《Battle Ended》
ジオラマが消え、ザクとそれに寄りかかった状態のフラッグが残った。
「また、完敗でした」
ヒートホークを一つ破壊できた。それだけでも十分な成果だが、ここまでボロボロになるのではまだ足りない。ザク本体は無傷のままだ。
「いや、そうでもないよ」
隊長の言葉に反応するように、ピシッとプラスチックが割れる音がする。筐体上の二機に目を向けると、ザクの頭部の一部が欠けていた。最後にフラッグが頭突いた部分だ。
ほんの少し。十分もかからずに直せるような傷。けれど、始めて隊長のザク
「合格だ。いいバトルだったよ」
「・・・・・・ありがとうございます」
そう返すのが精一杯だった。気が抜けて、その場に尻をついてしまう。
「コウスケ君? コウスケ君!?」
珍しく慌てた隊長の声を聞きながら、私は意識を手放した。
またも敗北する主人公。まあ、一矢報いたので・・・・・・。
主人公気絶してますが、アシムレイトではないです。アレは好きになれない。徒手空拳は奥の手でこの輝くと思っているので。
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初めましてだな、少年!
しかし、彼の口調難しいですorz
コウビコウさん、評価ありがとうございます。
夏休みが始まり、早数週間。
イオリ・セイはガンプラバトル選手権世界大会出場者を集めたレセプション・パーティに参加していた。彼と同い年で関西出身のビルダー、ヤサカ・マオと共にパーティ会場の隅にいるのは、周囲は大人達ばかりで、彼らの居場所は少ないからだ。
話しかけてくれたリカルド・フェリーニも、今は酔っ払ってナンパをしている。幻滅ですわぁ、というマオの言葉に、苦笑を返すしかない。相棒レイジの恩人のため、あまり悪く言いたくないのだろう。
「おお、見つけたぞ!」
その二人に、話しかける人物がいた。各部屋に配られたパーティ衣装ではなく自前の和服を着込み、ミスター・ブシドーの付ける仮面に酷似したもので目の周りを隠した、金髪の青年だ。
「あんさん、何ですの?」
その不振極まりない出で立ちにマオが訝しげな視線を向けるが、彼はどこ吹く風で受け流す。
「初めましてだな、少年。私はハム仮面。日本第二ブロックの優勝者だ」
日本はガンプラ、ガンダムを生み出した土地というのもあって、六カ所の地区から選手が出場できるのだ。イオリ・セイ&レイジ組は第三ブロック、ヤサカ・マオは第五ブロックの優勝者である。
「なるほど、同じ日本の選手として、挨拶に来たっちゅーことです?」
腕を組んで頷く彼は、とても予選を勝ち上がってきた猛者には見えない。マオは不信感を強める。
そして、セイは別のことを思っていた。
(この人、絶対エイカ先輩だよね・・・・・・)
以前、『イオリ模型店』にも来たことのある高等部の先輩で、模型部所属だったはずだ。金髪とグラハム・エーカーのセリフをよく言っているということで生徒の間では有名なのだ。当人は気にしていないだろうが。
「あの、エイカ先輩、ですよね?」
「言ったはずだ。私はハム仮面、エイカ・コウスケなどではない!」
こちらもドラマCDでグラハム・エーカーが放ったセリフだ。あ、あはは・・・・・・とセイは苦笑する他ない。
「セイはん、こんな変人と知り合いなんです?」
マオの耳打ちに、セイは頷きたくなかったが肯定した。変人と知り合いに思われるのは、誰だって嫌だろう。
「でも、エイカ先輩は予選で敗退したはず・・・・・・」
「えぇい、何度も言わせるな! 私はハム仮面だ! 聖鳳学園の生徒でもなければ、模型部所属でもない!」
セイの口元が更に引き攣った。ほぼ自白に近い、と。
「そちらは、ヤサカ少年と言ったか。ガンプラ心形流の噂は聞いている」
「師匠を知っとるんですか! これはますます頑張らないといけませんね」
彼の場合、『ヤサカ・マオ』としてよりも、『心形流の弟子』としての知名度が高い。そのことに不満はあるが、同時に師匠の顔を汚すわけにはいかないとやる気も出てくる。
「では私はこれで失礼しよう」
そうして言いたいことだけ言って、彼は会場を後にした。なんとも自分勝手な男だ。
謎の男(笑)ハム仮面が自室に戻ると、紫髪をポニーテールにした少女がベットで雑誌を読んでいた。『選手権出場者にインタビュー!』というコーナーで彼も取材を受けたものだ。
「早かったですね。正体はバレましたか?」
「フッ、まさか」
ハム仮面が自信満々に微笑んだので、彼女はえ、とその不審者を二度見した。まさか、本気でバレていないと思っているのか、と。
「彼らも、私がエイカ・コウスケであるとは露程も思っていないだろう」
仮面を外し、その素顔を晒す。なんとビックリ、ハム仮面の正体はエイカ・コウスケであったのだ! ここまでわかりやすい変装、彼の他には
「・・・・・・そうでした、先輩はこういう人でした」
呆れた声を出したのは彼の後輩、シグレ・アサヒだ。『夏休みの間バトルを教える』という約束を実行させるため、近くにホテルをとって付いてきたのだ。彼がパーティを早く抜けてきたのも、彼女に教鞭を振るうためである。
尚、それが建前であることなどこの男が気付くはずもない。
「では出かけようか。この時間帯の模型店ならば、すいているだろう」
と、彼女の練習相手として作ったフラッグを手に取る。しかし、アサヒは待ったをかけた。
「え、先輩。まさかとは思いますが、その格好で出かけるつもりですか?」
「何かおかしいか?」
振り返る彼が着ているのは和服。それも式典用のため装飾なども付いている。これで夜の町に繰り出せば、目立つこと間違いなしだ。
「薄々察していましたが、先輩の感性はおかしいですよね。私は外に出てるんで、着替えてください」
と、アサヒが言い切る前に、コウスケはすでに和服を脱ぎ始めていた。
「って、何でもう脱いでるんです!?」
「逆ならともかく、私が見られて困ることは何もないだろう」
私の身体に恥じるような部分はない、というコウスケに、アサヒは思わず手元にあった雑誌を投げつけた。スコーンという音と共に、コウスケの額に直撃する。
「わ・た・し・が、困るんです! 先輩の裸なんて見たら、目が腐ります!」
額を抑えうずくまる半裸の彼の横を通り、アサヒは部屋を出た。無論、ただのツンデレである。
痛むデコを擦りながら、シグレと並んで歩く。私の裸を見たくないのはわかったが、何故雑誌を投げつけられねばならんのか。そこだけは腑に落ちん。
「全く、先輩はどうしてたまにズレてるんでしょうか。やはりどこかに頭のネジを落として・・・・・・」
「む、言っていなかったか?」
何がです? と返す彼女にやはり話していなかったのだなと思い出す。別段隠すことでもないので、そのまま続ける。
「私は幼い頃、アメリカに住んでいたのだ。価値観や倫理観がズレているとすれば、その影響だろう」
思えば、ガンダム00を見たのも日本語勉強の一環だったか。父が元々ガンダムオタクだったのもあるが、私が表紙のエクシアに心奪われたため、見ることにしたのだ。
「へぇー。先輩、帰国子女だったんですね」
「そういうことになるな」
雑談をしているうちに、模型店に到着した。大きなショッピングモールの中にある、それなりに広い店だ。品揃えもよく、かなり前のガンプラや旧キットの物も取り扱っている。
「すみません、今バトルシステムって使えますか?」
「少々お待ちください」
シグレが店員に声をかけると、彼はバトルルームに入り筐体を稼働させる。
「当店では、練習用の無人機も取り扱っておりますが・・・・・・」
「そちらは遠慮しておこう」
ガンプラを借りるのもタダではない。無人機を使うと追加料金が発生するのだ。完全な初心者ならともかく、シグレには必要ないだろう。
「先輩、早くしましょうよ」
すでにバトルルームに入っているシグレに呼ばれ、私は店員に失礼、と言ってから彼女の対面に向かう。
「では、ごゆっくり」
それは挨拶として適しているのか、という疑問は放置し、ほとんど改造していないフラッグを筐体へ乗せる。
「フラッグ、出るぞ」
カタパルトから発進。飛行形態を久しぶりに感じるのは、GNフラッグばかり使っていたからか。
デブリの少ない宇宙を進むと、シグレのナドレが見えてきた。
今回は簡単な模擬戦をすることにした。お互い武器はペイントライフルだ。機体にダメージは与えない仕様で、プラフスキー粒子を変換して弾にしているのでガンプラも汚さない。
製作技術に乏しい私は、これを作るのにも苦労したものだ。
『またフラッグですか・・・・・・たまには別の機体も使ってくださいよ、このフラッグ馬鹿!』
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
罵倒と共に放たれたペイント弾を回避し、感謝を述べる。作中の刹那・F・セイエイもこんな気持ちだったのだろうか。
お返しにと回避できる程度の位置に数発弾を放つ。ナドレはそれを盾で受け止めると、旋回するこちらに弾を連射した。
「盾ばかり使っているとすぐ壊れるぞ! 衝撃で機体にも細かなダメージは入る!」
『そんなこと、言われても!』
バク転をしてみせながら回避。今度はギリギリでないと避けられないように撃つ。
『くぅ!』
五発中二発命中、一発は盾で防いだか。ナドレの白いボディが緑に染まる。
『こんの!』
再びナドレが発砲。今度はフラッグとその軌道上に撃った。なるほど、言われてないことも試したか。
「しかし、甘い!」
一発目を避け、二発目は変形することで機体を反らし躱す。可変機ならではの動きだ。
『そんなことまで、できるんですねッ!』
再び撃たれるペイント弾をスラスターをふかして回避。やはりライフルの威力がこれでは微妙だな。
「可変機はいいぞ。シグレも作るといい。オススメはやはりフラッグだ!」
『お断りです!』
布教には失敗したか。しかしこれ以上強いペイントライフルとなると、私には難しいな。それこそウルフ・エニアクルが使っていたような機体にダメージが入るものになってしまう。
『ああもう、どうして当たらないんです!』
「狙いは悪くないが、距離が遠い! そんな位置からでは、当たるものも当たらんよ」
初心者にありがちなことだが、銃の射程距離に対して機体が遠いのだ。それでは発射から着弾までのタイムラグで避けられてしまう。
『そうは言われても!』
まあ、近づけないようにこちらからも撃っているからなのだが。しかし、その攻撃をかいくぐって接近できないと、勝負にならない。シグレが遠距離戦重視でバトルするならそれでもいいが・・・・・・。
『こうなったら!』
シグレの攻撃が止む。つまり、操縦桿を別のことに使っているということだ。
「ッ、シグレ、トランザムは使うなよ!」
『トランザム!』
私の静止よりも一瞬早く、ナドレの身体が赤く輝く。しかしその輝きはどこか不安定で危なっかしい。
『これなら!』
上昇した速度でナドレがフラッグに迫る。そのままライフルのトリガーを引く、が。
『うわっ!?』
ボン、とシグレのライフルが煙を上げた。そして機体にもスパークが走り、太陽炉が火を噴くとトランザムが終了する。
「だから言ったのだ・・・・・・」
まず、太陽炉およびGNコンデンサーの作り込みが甘いと機体が耐えきれず最悪爆発する。作中でトランザムをオーバーロードさせ自爆するシーンがあったが、あれに近い。常にオーバーロード状態になってしまうのだ。
次に、武器もGN武器でないと支障をきたす場合がある。アストレアTIPE-FのNGNバズーカなど例外はあるが、圧縮された粒子量に武器が耐えきれず最悪爆発する。
その上で、上がった機体性能を把握し、操縦しなければならない。原作のように三倍とまではいかないものの、バトルで使うまでどれだけ性能が上がるか正確にはわからないのだ。
そのため、初心者がトランザムを使うのは難しい。という旨を、帰り道でシグレに話した。
「なんですか、それ・・・・・・もっと早く言ってくださいよ」
トランザム失敗でペイントライフルが壊れたらめ、今日はあのまま終わりにしたのだ。修理するにも、私は大会があるのでそちらはシグレに任せることになった。
「いや、最初に『トランザムは使うな』と言ってあっただろう」
詳しい説明はかえって混乱するだろうと思って省いたのだ。彼女はガンダム00を見始めたのだが、まだトランザムを使うシーンに到達していない。原理もわからないのに教えても理解できないだろう。
劇中の設定からガンプラバトルでのシステムを作っているので、前者を知らないとどうにもできないのだ。
「バトルしている人たちはポンポン使っているのに・・・・・・そんなに危ないものだったんですね、トランザム」
あと爆発多くないですか? という問いはさておき、危ない、というのには同意する。素組みでは劇中再現できないとは、中々にシビアだ。
「ガンプラへのダメージをバトルシステム側で設定できれば、機体がトランザムに耐えられて初心者でも使えるようになるのだが・・・・・・」
そうすれば、ペイントライフルなんて作らなくてもバトルできるというのに。システムの仕組みについては詳しくないので、言っても仕方ないか。
「あ、先輩。私の泊まっているホテル、ここです」
シグレが足を止めたのは、そこそこ高級な宿だった。料金とかよく払えるな、と思ったが、失礼に当たるため口には出さない。親しき仲にも礼儀あり、と言うだろう。私たちが親しいと言えるかはわからないが。
「そうか。ではまた明日」
「はい。また明日」
軽く手を振って、シグレが中に入るのを確認してから宿舎に戻った。
明日は選手権の第一ピリオドがある。早めに寝なくては。
ビルドダイバーズで00ダイバーがトランザム失敗していましたが、ああいう描写は好きでした。ビルダーとしての力量不足がよく表現されているな、と。
そう考えると、未完成のままトランザムを使ったユウキ先輩、結構ギリギリだったんだと思います。まあジュリアン・マッケンジーが相手でしたし・・・・・・。
作中でバトルシステムを使った後料金払う描写はありませんが、カットされてるだけの筈。小説にも漫画にも何故かそんな描写ないけど、タダはないと思います(マシタ会長がもうかっているし、大会とかも開催できているので)。
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愛を超越すれば、それは憎しみとなる!
それと、前書き後書きでの話題もなくなってきました。かなりマズいです。
ガンプラバトル選手権世界大会第一ピリオド。その内容は、四人一組による勝ち抜き戦だ。
私の出番は第四試合。対戦相手の三人―――否、三組だな。レナート兄弟という二人一組の選手達がいる―――の中に特に有名なファイターはいなかった。しかし、予選を勝ち抜いてきた猛者達だ、油断はできない。
開会のアナウンスが終わり、六つあるバトルシステムが一斉に起動する。私もその一つにGPベースをセット。『Masked Ham』の名前が表示される。
《Battle Start》
「サキガケ、出陣する!」
カタパルトから私の新たなガンプラ、サキガケが発進する。これはアヘッドを改良した機体で、原作の機体を再現するだけでなくいくつか改造を施してある。
フィールドは森林。まず様子を見ようと地上に降り立つと、容赦なくアラートが鳴った。
『ハッ、アヘッドごとき!』
リック・ドムのジャイアント・バズだ。一つ舌打ちしながらロングビームサーベルを抜刀し弾丸を切り裂く。
『クソッ!』
髑髏マークの付いたドムが悪態をつき、次弾を撃ち込もうとすると、細いビームがその機体を貫いた。
『上方不注意、ってな』
「次から次へと・・・・・・」
上を見ると、まだキットが発売していないはずのケルディムガンダムサーガがビームライフルを撃った後だった。ドムの装甲を貫くために、圧縮型のライフルを使ったのだろう。
『次もいただきだぜ!』
「そうはさせん!」
幸い、ドムは機能停止したものの大破には至っていない。私はサキガケに行った改造の一つ、ワイヤーフックをドムへ放った。これは遠距離武器の代わりとして右腕に装備させたもので、フックからは任意でビームサーベルを出せるようにしてある。
要は、GNフラッグでのケーブル付きビームサーベルの改良版だ。それを使って髑髏マークのドムを掴み、スラスターをふかして後退しながら凧揚げの要領でドムを銃をこちらに構えたケルディムにぶつける。
『のわっ!?』
まさかあちらもこんな手は予想していなかったのだろう。そのままロングサーベルを構えて飛翔し、斬りかかる。
「おおおお!」
しかし、体勢を立て直したケルディムもサーベルを抜刀しこちらに対応した。射撃だけではないということか。
『俺に
まるでロックオンのようなセリフだ。ならばこちらもグラハムで返そう。
「身持ちが堅いな、ガンダム!」
そのまま押し切り、ケルディムのバランスが崩れたところで蹴り飛ばす。ええい、こんなことならフラッグで来ればよかった! 原作再現ができる機会だったというのに!
『蹴りを入れやがった!』
反撃に連射されるビームピストルをシールドのディフェンスロッドで弾き、再度接近してサーベルで切りかかる。
『チィ!』
再びサーベル同士での鍔迫り合い。私はシールドを捨て、左腰に手を伸ばす。
「刀が一本のみだと思うな!」
右手に持ったのはショートビームサーベル。それを逆手にしてケルディムのコックピットへ突き立てる。
『クッソォ!』
一拍置いて爆発。だがこのバトルは四人一組。まだ敵はいる。
「ッ、捉えた!」
回転しながらショートサーベルを投擲する。スナイパーライフルによる狙撃と入れ違うように、ショートサーベルがライフルに突き刺さる。
『何!?』
グリーンに塗装されたジムスナイパーⅡだ。恐らく、ずっと身を隠していたのだろう。ケルディムと戦っているときに撃って来なかったのは、確実に勝利するためか、居場所を知られることを忌避してか。恐らく前者だ。
「もらった!」
そのまま接近し、ロングサーベルを振るう。ジムスナイパーの迎撃は間に合わず、その身体は上下に分かれた。
《Battle Ended》
会場に歓声が起こり、そして私の勝利がアナウンスされる。新鮮な感覚だ。地区予選では歓声を浴びることなどなかったからな。
しかし、それに酔いしいるほどの余裕は私にはない。勝利に安心しきった身体を律し、機体を回収し控え室に向かった。
三代目メイジン・カワグチ。試合を終え、イオリ・セイ、レイジらに素顔を明かした彼が部屋へ戻ろうとすると、その通路に一人の男が待っていた。
「初めましてだな、メイジン」
黒い仮面に和風の装束、そして目立つ金髪。メイジンが足を止めるには十分な変人であった。
「・・・・・・君は?」
「ハム仮面。君の存在に心奪われた男だ!」
そう名乗る変人に、メイジンはほう、と興味深そうに呟き、アランは警戒を強める。先程の少年達のこともあって、彼は少し気が張っていた。
「どこの誰か知らないが、メイジンに何の用だ?」
眉を釣り上げ睨むアランに、変人はまるで動じず答える。
「フッ、同じ仮面のファイター同士、挨拶でもするべきかと思ってな」
それだけだ、と変人は身を翻し、彼らの横を通って去った。自分勝手な男だ、とアランはその後ろ姿に思う。
「メイジン、彼は・・・・・・」
「どうやら私は、同性からの好意を集めやすいらしい」
アランを気遣って放ったメイジンの冗談は、アランをかなり動揺させたとか。
部屋に戻り、仮面を外す。まさか
「やはり彼と私は運命の赤い糸で結ばれているようだな」
そう、戦う運命にある。そうほくそ笑み、世界大会に出場することになった経緯を思い出す。
隊長とのバトルの後、彼から二代目メイジン・カワグチが倒れたと聞いた。ユウキ先輩がメイジン候補の筆頭だ、とも。そのため、ユウキ・タツヤとしてではなくメイジンとして世界大会に出場すると断言した隊長に、私も世界大会に出るチャンスを与えられたのだ。
他地区での予選参加。それが、隊長が示した抜け道だった。別段、禁止されていることではないらしい。その辺り緩いことについては、PPSEを憂うべきか感謝するべきか判断に迷う。
そして『ハム仮面』として予選に出場し、優勝。元々、ユウキ先輩やイオリ少年達が規格外なだけで、隊長によれば私には十分世界でも戦える技術があるらしい。リカルド・フェリーニやジョン・エアーズ・マッケンジー卿、カルロス・ガイザーを下したアイラ・ユルキアイネンなどを見ていると、本当かと疑いたくなるが。
私は、彼が『全力を尽くす』という約束を破ったことが許せないわけではない。それに関しての怒りは感じているが、それだけならば文句を言えばいいだけだ。
そこまでして彼は一体ナニを求めているのか、ナニをしたいのか。それを知りたいのだ。
かくして、私の戦いは再び幕を開けたのだ! 全てはユウキ・タツヤとの最再戦のために!
「一人でなに盛り上がってるんですかー、先輩?」
回想が終わったタイミングで丁度聞こえた声にギクリとしながら、悟られないようにポーカーフェイスで振り返る。
「シグレか。次の試合に向けて士気を高めていたのだよ。ファイターには大事なことだ」
ふーん? とこちらへジト目を向けてから部屋に彼女が入る。別段やましいことをしていたわけではないのだが、何故こうも焦っているのだろうか私は。
「それで、どうかしたのか? 約束の時間には、まだ早いと思うが」
バトルを教えるのは大抵夜になる。大会が午前中にあり、機体の改修やメンテナンスに夕方までかかるため、その時間にしてもらったのだ。
「用事がないと部屋に来ちゃいけないんですか、ケチ先輩」
「いや、そんなことはないが・・・・・・」
大会に出るに当たって両親に毎日連絡するように言われ、昨日のことを話したら色々聞かれたのだ。そして、年頃の少女が男の部屋に入るというのがあまり良くないとも言っていた。私にはその辺りの感覚がよくわからないのだが。
ベットに寝転び、雑誌を読んでいるシグレへ目を向ける。本人がいいなら別に問題ないだろう。
私はサキガケを取り出し、今日のバトルで傷付いた部分の修復を始めた。
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サキガケの力で勝ち取ったものは私の物!
宿舎で朝食を食べながら、昨日行われた第一ピリオドの最終戦、メイジンのバトルを思い出す。
彼の機体はザクではなく、新型のケンプファーアメイジング。機動性が高く、黒煙の中でも
武器はビームライフルとヒートダガー。ライフルは複数のパーツで構成がされており、恐らくあのグリップ部分は別の銃器になっている。形状からしてビームピストルだろうか。そして銃身も取り替えられると思われ、戦局に合わせて組み替えて戦うのだろう。と考えれば、あのバックパックのバインダーは差し替えパーツが入っているのか?
うむ、と唸り、味噌汁をすする。ここの朝食はバイキング形式で、私は白米に味噌汁、焼き鮭、漬物と和食ラインナップだ。やはり朝食はこうでなければ、と私が一人感慨にふけっていると、向かいの席に座る者がいた。何故か私の席には私しかおらず、誰も寄りつかなかったのだ。
「よう。お前、隊長んところで鍛えられたんだって? 昨日のはいいバトルだったぜ」
「リカルド・フェリーニ・・・・・・」
まさかイタリアの伊達男に興味を持たれるとは。隊長の名に泥を塗らぬよう、精進せねばな。
「そちらこそ、二日酔いの状態であっさり勝ち上がるとは、驚きでした。やはり、世界で戦うファイターはいかなるコンディションでも戦えるということか」
「あ、ああ。まあな」
なるほど、やはりか。隊長も二日酔いの状態で特訓してくれたこともあったので、もしやと思ったのだが、世界レベルともなれば体調不良は障害にならないらしい。どこか歯切れが悪いのは気のせいだろう。
「しかし、何故私の席へ? 貴方ならばまたナンパでもするかと思ったが」
「そうしたいのは山々だが、今は大会期間中だ。ナンパ用のガンプラを作る暇もねぇし、自重して・・・・・・」
フェリーニの視線がとある女性を捉えた。そして流れるような動作で立ち上がり、歩み寄る。
「ごきげんよう、麗しのセニョリータ。昨日のバトル、素晴らしいものでした」
確か、デンマーク代表のルイーズ・ヘンリクセンだったか。第一ピリオドではゲーマルグを駆りイオリ少年達と戦っていた女性ファイターだ。
しかし、リカルド・フェリーニ。舌の根も乾かぬうちに、とは言うが、彼の手のひらはドリルか何かか? 英雄色を好む、とも言うし、世界レベルのファイターともなれば美しい女性を口説くのは当たり前なのかもしれない。
「なら、邪魔するのも野暮というものだろう」
と、立ち上がって食べ終えた食器を片付ける。大会は十時からだ。時間的にまだ余裕はあるが、サキガケの調整をしておいて損はないだろう。
私は談笑しているフェリーニとヘンリクセンを視界から外し、部屋に戻った。
会場に集まったファイター達は、驚愕していた。数百基ものバトルシステムが連結され、いくつものジオラマを形成しているのだ。
アナウンスによる説明によれば、第二ピリオドの内容はバトルロワイヤル。80を超えるファイター達全員でバトルを行い、三分の一に減るまで戦うというものだ。
「ふむ、ならば数が減るまで身を隠すのが得策、か」
しかし、隠れてやりすごすつもりは毛頭ない。私はファイターだ。自ら戦い、勝利を手に入れずして何が
筐体にGPベースをセット。スクリーンが投影され、コンソールが浮かぶ。サキガケを置くと、粒子によって機体が読み込まれモノアイが光った。
「サキガケ、出陣する!」
カタパルトを出た先は、峡谷。まず水中でなかったことに安堵しながら、その谷間に降り立つ。
このサキガケもGNフラッグと同じようにどんな環境でも戦えるようにはしてあるが、それぞれに適した機体、例えばズゴックやゴックには適わない。そのため、ベストは大気圏中のステージだった。
「私は運が良い・・・・・・」
峡谷は悪くないステージだ。砂漠のように砂に動きを取られることはなく、森林のように遮蔽物が多くなく、平原のように少なすぎない。欲を言えば空で戦いたいが、地上からの射撃で墜ちることは目に見えている。
幸運を喜んでいる私の視界にアラートが出現する。回避して見れば、第一ピリオドで戦ったケルディムサーガだ。
『昨日の借り、返させてもらうぜ!』
GNスナイパーライフルによる狙撃だ。しかし、狙撃手が自分の居場所を教えるなど、愚策!
狙撃を回避していれば、隠れていたウィンダムがケルディムをサーベルで切り裂く。
これはバトルロワイヤル。敵は複数いる。
「もらった!」
そのウィンダムに向かってワイヤーフックを飛ばし、内蔵サーベルを起動してコックピットを貫く。そのまま懸架されていたビームライフルをフックに引っかけ頂戴する。隊長との特訓でザク達と戦った時の経験上、こういった手合いはどれだけ消耗を抑えて戦うかが重要だ。特に武器は奪って使うのが理想的。
『後ろがガラ空きだぜ!』
背後からハイパージャマーで姿を消していたデスサイズガンダムが斬りかかってくる。しかし、姿は消せても駆動音でいることはわかっていた。
ロングサーベルを逆手に持ち替え、コックピット部分にそのまま突き立てる。
『なっ、背中に目でも付いてんのか!?』
手応えが軽い。とっさに後退したらしく、致命傷は避けたようだ。
「フ、心眼は鍛えてある」
振り返り、バーニアやスラスターの音と直感から位置を割り出し奪ったライフルを三発放つ。二発着弾し、デスサイズが黒煙を上げ大破した姿を見せる。一発外したか。まだまだ訓練が必要だな。
『な、なんだよコイツ!?』
『クソ、こんなのがいるなんて聞いてないぞ!』
周囲にいたファイター達の声が回線に乗って聞こえる。私程度の若輩者を恐れるか。
「ならば、斬る価値もなし!」
湧いてきた不快さを、血を払うようにサーベルを振るうことで紛らわす。そのまま納刀し、代わりにデスサイズのビームサイズを拾おうとして、やめた。鎌を扱うのには慣れていない。そんな武器を使っても、扱いきれずやられるだろう。ウィンダムのライフルも、自分で作ったものとは銃口の位置も反動も違うため完全には使いこなせていない。
と、どこからか地鳴りがした。サキガケを浮上させ峡谷の上まで上がると、遠目に見えるほど巨な大ザクがいた。
「あれは・・・・・・PG? 否、メガサイズモデルか!」
1/48スケールのガンプラだ。しかし、選手権の規定では1/144スケールのガンプラしか認められていないはず。一体誰が・・・・・・。
「そこか」
突っ立っているこちらを狙おうとした機体がいたため、ショートサーベルを投擲する。振り向くとガンタンク初期型だった。運良く砲身に刺さったようで、弾が暴発し誘爆した。いるのは駆動音でわかったが正確な位置まではわからなかったため、かなり適当に投げたのだが。
ショートサーベルを失ったのは痛いな、と思いつつ、メガサイズザクへ視線を戻す。
戦っているのはイオリ少年達のスタービルドストライク、ヤサカ少年のガンダムX魔王、リカルド・フェリーニのウイングガンダムフェニーチェのようだ。というか、狙われているスタービルドストライクを二機が援護している、らしい。距離が遠いため、愛でなんとなくわかる程度だ。
「ザクでバトルを妨害するなど・・・・・・!」
隊長の弟子として、怒りを感じる。例えロワイヤルに関係のない機体だとしても、見過ごせない。
私は我慢弱く、落ち着きがない男だ。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いときている。ナンセンスだが、動かずにはいられない!
サキガケの粒子残量が問題ないことを確認し、峡谷から飛び立つ。このライフルでは接近しないと届かない。彼らの味方をするわけではないが、あの機体は気に食わない。
『爆熱! ゴッドフィンガー!』
『なんの! シャイニング・バンカァァァアア!』
「えぇい、邪魔だ!」
戦闘していたゴッドガンダムとエクストリームガンダムを叩っ斬りながら進む。砂漠のど真ん中でガンダムファイトとは、少し羨ましいではないか! しかし、迂回するよりも倒した方が早かった。不意打ちとなってしまったことは申し訳なく思う。
そうして他のガンプラを倒しながらしばらく進み、近くから聞こえた射撃音に前方を見れば、スタービルドストライクが極大のビームを放っていた。あれほどの威力の攻撃、初めて見た。
思わず足を止める。あの光の翼といい、今回のビームといい、どれほどのギミックが詰まっているのだ、あの機体は。
『クソ、なんでメイジンがこんな所に!』
声のした方向を見ると、イナクトが逃げるようにこちらへ来ていた。後ろを気にしているようなので、ライフルを向けてトリガーを引く。
『なっ、嘘だろぉ!?』
声がコーラサワーに似ていたが、気のせいか・・・・・・?
急に爆風がサキガケを襲い、再びザクへ視線を戻すと、どうやら先ほどのビームで破壊したらしい。私が出るまでもなかったか。
ここで、第二ピリオド終了のブザーが鳴った。ようやく規定人数まで減ったらしい。ということは、さっきのイナクトが最後のガンプラだったのか・・・・・・? 真相はわからないので、考えるのは止めておこう。
粒子が収束し、コンソールが消える。と、眼前に私のサキガケがあった。どうやら、それぞれのファイターの元にガンプラが戻されているらしい。巨大なバトルシステムの上から機体を探すのも面倒だし、ウィンダムのファイターにライフルを返す手間も省けた。運営の計らいには感謝だな。
それはそれとして。
「あのザクのことは別だがな」
携帯端末を取り出してみれば、観客席にいるシグレからの連絡が入っている。メガサイズモデルのザクは、運営側によるサプライズ、だそうだ。
ふざけるな。と端末を握りしめる。あれが無ければイオリ少年達は奥の手を明かさずに済んだ。私もガンダムファイトを邪魔せずに済んだ。全く、迷惑千万だ。
「ああ、全くだ。ふざけている」
ふと、隣から声がした。メイジン・カワグチだ。まさか、こんな近くにいたのか。凄い偶然があったものだ。
彼は憤った様子で通路へと入っていく。確かそちらは控え室ではなく、スタッフルームや大会主催者であるマシタ会長の部屋しかないはずだが。前回迷ったので覚えている。
まあ、あの
小説版だと、「抱きしめたいな、ガンダム!」のシーン、「これが、私流の愛のベーゼだ、ガンダム。」とも言ってるんですよね。
第二ピリオドで自分のガンプラ回収するの大変だろうな、と思ったのでファイターの元に戻ることにしました。選手達がバトルシステムの上に上がってガンプラを探す光景も、それはそれで見たいですが。
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この私、ハム仮面は武器の交換を所望する!
フラッグセブンソード・・・・・・なんだその格好よさそうな機体は・・・・・・
むう、と第二ピリオドのバトルを見ていた中年が唸る。この試合で、気になったことがあったのだ。
「久しぶりだな、隊長」
「ラル大尉! アフターファイブ以来ですね」
観客達が席を立つ中、中年が振り返ると、そこには初代ガンダムに登場するランバ・ラルによく似た──というか、そっくりな男性がいた。ラルさんである。
「うむ。して──あのザク。君の目にはどう映った?」
挨拶もほどほどに、ラルは目を細めて本題に入る。
あのザク──もちろん、バトルに乱入したメガサイズザクのことだろう。アナウンスでは運営からのサプライズ、とのことだったが・・・・・・。
「やはり、大尉にもそう見えましたか」
隊長、と呼ばれた彼は、一度バトルシステムを振り返り一組のビルドファイターへと視線を向ける。
イオリ・セイ、レイジ組。あのザクは、明らかに彼らを狙っていた。近くにいたヤサカ・マオやリカルド・フェリーニにも攻撃はしていたが、それはあくまで牽制に過ぎない。集中的に攻撃を受けていたのは、スタービルドストライクのみ。
「君から見てもそうだと言うなら、気のせいではないようだな」
ラルは神妙な顔で腕を組むと、どうしたものかと思案する。彼らはガンプラ界隈ではかなり名前を知られているが、だからと言って運営に介入できるほどの権限はない。このまま何もなければいいが。
「一応、セイ君達に注意するように言うつもりだが・・・・・・」
「ええ。今のボク達にできることは、それくらいかと」
運営側に乗り込む手も考えたが、それで彼らが選手権を退場させられても困る。ラルは大会中、周囲への警戒を強めることにした。
すでにメイジンが会長にもの申しに行ったことを、彼らが知ったらどんな顔をするのだろうか。
日付は変わり、第三ピリオドが行われる日になった。
その内容は、『オリジナルウェポンバトル』。くじ引きをし、引き当てた武器のみを使って戦うという競技だ。徒手空拳で戦われては困るため、指定された武器でしかダメージを与えられないようにシステムを調整しているらしい。それができるならダメージレベルを設定してくれ。
「日本第二ブロック代表、ハム仮面選手! ウェポンナンバー86!」
その後、全ファイターの抽選が終わり、番号順に試合が行われると伝えられる。このくじ引きは武器だけでなく、対戦相手も決めるためのものだったらしい。
「貴方がハム仮面だな」
と、彼に声をかける者がいた。金髪にどこかの制服。その服は、ガンダムEXAのジュピターXのものにそっくりだ。
「君は、確かレオス・カラックスだったか。先日はガンダムファイトに横入りしてしまって済まない」
そう、第二ピリオドでゴッドガンダムと戦っていたエクストリームガンダムのファイターだ。二人がバトルに熱中していたことと、不意打ちだったために一度は倒せたが、強力なファイターだ。
「それについて、オレからは何もないさ。そういうバトルだったんだし」
「感謝する。お互い、全力を尽くそう」
「ああ」
どちらともなく握手し、いいバトルをしようと微笑む。二人とも、バトルジャンキーなのだ。
バトルシステムに私の新たな機体、マスラオをセットする。武装は今回のレギュレーションに則り何も装備していないが、細かなディテールアップやスラスター周りの調整をしてある。スサノオではなく改良前のこちらなのは、私なりのこだわりだ。
「マスラオ、初陣だ! 出撃する!」
そうして、粒子によって作り出された空へ飛び立つ。
フィールドは草原。コンテナはすぐに見つかった。
「バスターソードか・・・・・・」
少々困った。マスラオは速度重視の機体だ。重い武器では機体制御の妨げになる上、両手でないと振るうこともままならないだろう。もっと高性能な機体だったならこの剣をたやすく扱うのだろうが、私の製作技術ではまだ足りない。
「やるしかない、か」
両手で持ち手をつかみ、持ち上げる。やはり、重い。これでは奥の手を使わねばマトモに戦えないのでは・・・・・・。
そして、センサーに敵機の反応。顔を向ければ、カラックスのエクストリームだ。カタナを片手に、妙な構えを取っている。言うなれば、牙突を真似しようとしてうろ覚えで上手くできていない、とそんなところだろうか。
『くっ、そっちはバスターソードか・・・・・・』
「そちらはカタナのようだな」
お互い近接武器。だが私はこの剣を扱えず、構えを見る限りあちらもカタナの使い方はわからない。
そこで、私にある妙案が浮かんだ。スプレーガンを引いたヤサカ・マオは相手の武器を使っていた。ならば、こういったこともできるだろう。
「カラックス。私は純粋に戦いを望む!」
『それはこちらも同じだ、ハム仮面』
私の言葉に、カラックスは頷いた。まだお互い攻撃をしていない今ならば、まだ話が通じるだろう。
「見たところ、君はカタナの扱い方をわかっていない。そして私のマスラオには、この剣は重すぎる」
私の言葉に、カラックスはこちらの言わんとすることを察したらしい。妙な構えを解き、マスラオも剣を下ろす。とても重かった。
「この私、ハム仮面は武器の交換を所望する!」
まるで、ガンダムとの果たし合いを挑むミスター・ブシドーのように、そう申し出た。
『それは、こちらも望むところだ』
合図するでもなくその場に武器を手放し、歩み寄る。そしてすれ違い、先ほど互いがいた場所へ辿り着き。
「いざ尋常に!」
『勝負!』
マスラオがカタナを左手に持ち、エクストリームがバスターソードを盾のように構える。
操縦桿を押し込み、前へ出る。速度ならばこちらが上、バスターソードが振るわれるよりも速く攻撃するのが狙いだ。
「ハァ!」
斬りかかる。しかしエクストリームは体勢を崩さず、剣で攻撃を受け止めるのみ。
ならばと連続で斬りつける。バスターソードごと切り裂くつもりだった。
『そこだ!』
しかし、攻撃と攻撃の合間で、エクストリームが動いた。構えていた剣を翻し、最小限の動きで斬撃を放つ。
「ぐぅ!」
強化したスラスターで強引に後退し、回避。装甲一枚を掠める。そして無理な動きをした機体に負荷がかかり、振るわれた剣が起こす剣風でマスラオにダメージが入る。
「これは・・・・・・」
ガンダムEXAにて叢雲・劾が放ち、レオス・アロイが学んだ技! しかし、問題はそこではない。
コンパクトな動きで、これほどの威力。粒子変容塗料ではなく、純粋な技量のみで剣風を起こしたのだ、ガンプラもファイターも、私より上だ。
『今度はこっちからだ!』
エクストリームが踏み込む。バスターソードを脇構えに持ち、スラスターをふかして突進してくる。予想される軌道は上段、横薙ぎ、斬り上げ。
「然らば!」
両手でカタナを持って八相の構えを取り、迎え撃たんとする。
『ッらあ!』
バスターソードが横薙ぎに振るわれる。私はマスラオを後退させると、剣が空を斬った。
「そこ!」
がら空きの胴体に、カタナを振るう。バスターソードはかなり質量のある武器だ、この体勢なら迎撃は間に合わない。
『くぅ、なんの!』
咄嗟に剣を手放したことで、エクストリームはダメージを右腕のみに留めていた。仕留めきれなかったか。
この至近距離ではお互いの得物を振るえない。ステップで移動し、距離を取る。
『腕を持って行かれたか・・・・・・だが!』
エクストリームが地面に突き刺さったバスターソードを抜く。手放した際に飛んでいったらしい。
そうして、土を払うように大きく振るう。片腕であの質量を支えるとは、なんという機体性能・・・・・・さすがはガンダム!
「そうこなくては!」
互いに武器を構え、間合いを詰める。あちらの剣の方が、カタナよりも間合いは広い。とはいえかなりの質量、更には片手だ。先ほどのように攻撃させ、その隙にカタナをたたき込む。
「
突撃し、カタナを振りかぶる。そして狙った通り、エクストリームが横薙ぎにバスターソードを振り抜いた。
「もらった!」
カタナを振り下ろす。直撃コースだ、回避はできまい。
『それは、どうかな!』
慣性に従い、剣が眼前を通過する。そのままエクストリームは各部スタスタ-を使い強引に一回転した。
「何!?」
腕がスパークを上げている。だが、再びバスターソードは振り抜かれる。もう攻撃の姿勢に入っているため、避けられない。
『おおおお!』
「くっ、ハアアァ!」
バスターソードが、マスラオの胴体を分断する。カタナが、エクストリームを切り裂く。
《Battle Ended》
表示されたのは──ドロー。引き分けだ。
「カラックス。武器の交換に応じてくれたこと、感謝する」
ガンプラを回収する際に、彼に礼を言った。彼ならば応じてくれるとは思ったが、それでも礼節はわきまえるべきだ。
「どういてしまして。というか、むしろこっちからお礼を言わせてくれ。オレにその発想はなかった」
まあ、真剣勝負で得物の交換なんて、どうかしている。だが私たちは全力でのバトルを望み、そしてお互い不得手とする武器を引いてしまった。偶然が重なった結果だ。
いいバトルができたのだ、私はかなり満足している。
「欲を言うと、君とはこういった戦いではなく、ノーマルなバトルで戦いたかったな。この試合形式では、エクストリームの本領を発揮できないだろう」
エクストリームは本来様々な外装パーツを持つ機体。しかし、今回のルールではできる限りの武装解除が求められていた。
「なら、選手権が終わった後にでも、またファイトしよう」
そう言ってカラックスが携帯端末を取り出す。連絡先を交換しようということだろう。私は喜んで応じるのだった。
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だが、私はしつこく諦めも悪い、俗に言う人に嫌われるタイプだ!
その後もガンプラバトル選手権では激戦が繰り広げられていた。
第四ピリオドの内容は射撃。それも限られた段数で遠くの六つのターゲットを撃ち抜くというもの。撃ったターゲットの数に応じてポイントが与えられる。
そして、サキガケを駆るハム仮面は。
「ぬうううぅ・・・・・・」
本人も言っていることだが、彼は落ち着きのない男だ。じっとしていることなど、ガンプラを作るときくらいのものである。射撃はできても、それは中距離までが限界。スナイパーの真似事なぞ、彼には合わない。
「興が乗らん!」
と、なんとか一発だけ命中したターゲットに言い訳をするのだった。
第五ピリオドは運動会。白組と紅組に分かれ、各競技に出場し、勝ち星の多いグループにポイントが加算される。
彼は白組、フラッグで玉入れに出場した。そう、アニメにも登場していたのである。イオリ・セイ、レイジ組と同じ競技ということで、彼のテンションはかなり上がっていた。
「見よ! ブシドーは、白く燃えているッ!」
赤く、ではないのは白組だからか。そんなハイテンションな彼はフラッグで高速に動き回り玉を拾っては投げ、拾っては投げと気持ち悪いくらい活躍した。狙いが甘く投げた玉が籠に入る割合は低かったが、物量でゴリ押した。
その結果、玉入れは勝利し、総合で白組も勝利したのだ。
第六ピリオドは三対三の集団戦。彼と同じグループになったのは、かのジョン・エアーズ・マッケンジーだった。
「かのホワイト・ホーキンスと共闘できるとは、光栄であります!」
もう一人は因縁浅からぬケルディムサーガのファイターだった。ケルディムは調整中とのことで、デュナメスリペアⅢを使うという。
「あのガンダムと共に戦えるとは!」
これまたハム仮面のテンションは有頂天。彼がマスラオで先行し三体を相手取り攪乱、そこをデュナメスで狙撃しながらマッケンジー卿のクロスボーンガンダムX2ジュリアで追い詰める、という作戦で戦いに挑む。
「爆・熱! ゴッド・フィンガー!」
「私の道を阻むな! ゴッド・グラハム・フィンガー!」
そして対戦相手にいたゴッドガンダムと応戦。マスラオにゴッドフィンガーは搭載していなかったが、その場のノリとテンションと愛の力でなんとかした。余談だが、その間デュナメスが敵二機を足止めしてくれていた。
そして最後はマッケンジー卿が二機を撃破、マスラオとゴッドガンダムが相打ちし、ハム仮面達の勝利となった。
「今のところ、負けはないですね。全勝、とは言えませんけど」
先輩にしては奮闘していますね、という悪態を飲み込み、シグレ・アサヒはステーキを口に運んだ。向かいに座るコウスケはうなずき、頬を緩める。
「次のバトルで勝てば、まだ本戦に出場できる見込みはあるな」
そう、予選のバトルはもう半分以上終わってしまった。この時点で脱落が決定していても、おかしくはないのだ。そして
「しかし、シグレと共に昼食とは。初めてだな」
と、彼は焼き魚の骨を取って皿の隅に退かす。彼らが今いるのはファミリーレストランの一つで、お昼時ということもありよく賑わっていた。
「まあ、なんといいますか。大会中なのに、バトルを教えて貰っているので、そのお礼みたいなものです」
と、アサヒは顔を背けながら言った。かなり小声だが、耳のいいコウスケには届いている。そうか、と好意に感謝した。
ハム仮面がフラッグやサキガケ、マスラオを使い分けているのにも理由がある。状況に合わせて機体を変えている、というのもあるが、アサヒにバトルを教える時間を確保するために、一つが大破してしまってもバトルに支障が出ないようにするためだ。
約束は守る、義理は通す、その上で自由に生きるのがエイカ・コウスケという男だった。変人だが、最低限の礼儀は持っているのだ。
「しかし、女性に支払わせるというもの些か気が引けるな。割り勘、というわけには・・・・・・」
「ダメです。お礼なんですから、払わせてください」
ブシドーの心得の一つ、『レディ-ファースト』に基づいた彼の提案は、バッサリと斬り捨てられた。他人からの好意は無下にするものでもない、というアメリカンスピリッツに従い、それ以上何も言わないことにした。忙しい男だ。
「いや、そうとも言えんぞ? 予選を全勝している選手は、結構いる」
コウスケの聡い耳が、聞き覚えのある声を拾った。身体を隠しながらそちらを伺ってみると、イオリ・セイ、レイジ、ラルさん、そして見知らぬ少女の四人がいた。
「先輩、なにストーカーっぽいことしてるんですか? キモいですよ」
少し見直したらコレだ、とアサヒはため息をつく。選手権の試合もそうだ。バトルで戦っている姿は中々格好良いのだが、彼の音声が付くと途端に残念なものができあがるため、応援すべきか否か微妙に迷うのだ。もちろん、応援はするのだが。
「いや、あそこに少年達がいてだな・・・・・・」
コウスケとしては、選手権に参加していない自分がこんなところにいことを知られるのはマズいのだ。この変人、いまだにハム仮面=自分がバレていないと思っている。
その事実にアサヒは軽く頭を押さえてから、下手な忍者のように身を隠しているコウスケに言う。
「普通に『選手権を観戦しに来た』って言えばいいじゃないですか。メイジン・カワグチ、でしたっけ? あの人がユウキ先輩なのはわかっているんですから」
そうジト目を向けるアサヒに、それもそうかと居住まいを正す。味噌汁でも飲んで落ち着こう、とお椀を持って、ハッとした。
「シグレ、いつからメイジンがユウキ先輩だと?」
気付いていたのか、と心底驚いたような表情でそう問うコウスケ。その質問に、アサヒもまた驚愕していた。
「・・・・・・先輩、まさかとは思いますが、アレでバレないと思っているんですか?」
「ああ、完璧な変装だと思うぞ。私も、隊長に言われていなければ気付かなかっただろう」
絶句した。以前からズレているとは思っていたが、まさかここまでとは。
「本当に、本当にどうしてこんな──」
アサヒはまた額を押さえる。どうしてこの人は、ここまで好感度を下げることができるのだろう。
彼女としては、エイカ・コウスケという男に惹かれていた。少なからず好意を抱いていた。だから口実を作ってホテルまでとって付いてきたというのに、どうしてそれらに気付かず、そしてこうも残念っぷりを見せてくるのだろう。
「シグレ、どこか痛むのか? 宿で休むなりした方がいいぞ?」
「誰のせいだと思ってるんですか、誰の!」
他のお客さんの注目を浴びないよう、声のボリュームを下げながらも怒りを露わにするアサヒ。コウスケとしては心当たりは一切なく、戸惑うばかりなのだが。
「はぁ・・・・・・」
疲れた、と脱力し、テーブルに突っ伏するアサヒ。きちんと食器類をどけている辺り、育ちの良さが垣間見える。コウスケはそんな彼女に疑問符を浮かべながらも、冷めてはいけないと焼き魚を頬張った。
そうして迎えた第七ピリオド。種目はガンプラによるレースだ。昨日発表された内容によれば、コースに沿って進み、ゲートをくぐっていくだけの種目。しかし、銃火器アリなのがなんともガンプラらしい。
私が出場するのは第一レース。機体はカスタムフラッグだ。スサノオも完成しているが、やはりレースならばフラッグに限る。今回は使われるフィールドも固定のため、宇宙用や水中用の改造はせず、速さを意識してチューンしてある。
『第一レース、まもなくスタートです!』
ぶらさがったシグナルが赤い光を点し、三つになったところで青に染まる。
その瞬間、選手達が一斉にスタートした。
「最前にいるのは──」
V2アサルトガンダムだ。先手必勝と言わんばかりに光の翼を使い、高速でトップを駆け抜ける。
『へっ、この速さじゃ付いてこれねぇだろ!』
しかし、代わりにあの機体は武装を何も持っていなかった。少しでも機体速度を上げるためだろう。
『させるか!』
『狙い撃ちだぜ!』
高機動型ドムと、GNアームズを装備したデュナメスがV2へ発砲。ドムはバズーカ、デュナメスはGNミサイルだ。光の翼にはIフィールドを乱す、ビーム兵器が効きづらい性質があるため、実弾を使ったのだろう。
『うおおおお!?』
結果、距離を離す前に被弾し撃沈。残り9機となった。
『またお前とか! 全く、何回目だよ!』
と、横に並んだデュナメスが話しかけてくる。声でわかったが、あのケルディムサーガのファイターだ。
「そうだな、何かと縁がある」
だがだからと言って手を緩めるつもりはないが!
操縦桿を押し、速度を上げる。見たところ、他に実弾兵器を持っている機体はいない。軽量化をしているため、弾数も少なかったのだろう、GNアームズにもうミサイルは残っていなかった。
となれば、残るはビーム兵器。実弾と比べて爆発が少なく、回避もしやすい。ミサイル等は避けた後に地面に着弾しても煙が邪魔になるのだ。
「御免!」
『うおっ!?』
変形し、プラズマブレードでドムを切り裂く。これで実弾兵器はなくなった。然らば!
「後は突き進むのみ!」
再度変形し、更に加速。二度の変形により間接に負荷がかかっているが、レースに支障はないレベルだ。そのまま突き進み、トップに躍り出る。
『逃がすか!』
声に背後モニターで確認すると、GNアームズの火器が火を吹いたところだった。
変形して迎撃する余裕も技術もない。
「ぬぅ!」
機体をそのまま直進させ、全て回避する。速度を出しながらの射撃なのだ、元々制度は低い。それこそ『避けた方が当たりそう』というヤツだ。
『野郎!』
『ならこれで!』
と、後方にいたフリーダムガンダムがバックパックを展開。ビーム砲を撃ってくる。何か長い名前があった気がしたが、忘れた。
「私の道を阻むな!」
これは直撃ルートだったので機体を反らして避ける。これで一週目が終わった。フラッグ、その少し後ろにデュナメスとフリーダム、更に後ろに六機、という並びか。
『チッ、こうなりゃ!』
デュナメスがライフルを構えた。狙撃するつもりか? GNアームズもこちらに砲門を向けている。
「させん!」
ポイ、とフラッグの手に持っていたものを落とす。フラッグ系統は変形時には両手が空くため、機体バランスを崩さない程度のものならば持てるのだ。
落としたのはスモーク玉だ。手を離す時にスイッチを押したため、一秒後には起動する。
「うおッ!」
だが彼はそこまで待ってはくれなかった。デュナメスの狙撃を受け、被弾する。足をやられた。直後にスモークが作動し、煙を吐き出す。
アラートが出現し、減速する。今回はかなり装甲を削っているため、一撃でも十分痛手だ。
『へへっ、お先!』
と、デュナメスとフリーダムが横を通過する。スモークはすでに意味を持たない。このままでは、私の敗北。
「だが、私はしつこくてあきらめも悪い、俗に言う人に嫌われるタイプだ!」
三度目の変形。そして残った右足でコースを踏み、デュナメスのGNアームズに飛び乗る。
『なっ!? お前何考えて!』
「もちろん、ナニを考えているに決まっている!」
デュナメスとフリーダムのファイターが混乱する中、二週目が終わる。
リニアライフルを構え、フリーダムを撃ち抜く。彼は咄嗟のことで対応できなかったらしく、そのまま墜ちた。
『お前、干支のネズミか!?』
「よくそんな話を知っているな!」
ついでにもう一つ持っていたスモーク玉を後方へ投げておく。後ろとの距離は離れているが、念のためというやつだ。
プラズマブレードを抜刀し、青い装甲に突き立てる。傷が浅いな。
『お前、本気で何を!?』
「だからナニをするに決まっているだろう!」
プラズマブレードを切り、ソニックブレイドとして扱う。そしてGNアームズに再び突き刺す。
『クソ!』
振り落とそうとデュナメスが奮闘しているが、自分の乗ったマシン故にどうにもできない。かといってこれを手放せばデュナメスのスペックでは追いつかれる。正に板挟みだな。
そうこうしているうちに。ゴールが見えてきた。そして、GNアームズは私が傷つけまくったことで限界を迎えている。
「そろそろ爆発するんじゃないのか?」
『誰のせいだと思っていやがる!』
と、デュナメスがGNアームズをパージした。ここからならもうゴールできると思っているのだろう。
「トウ!」
というわけで、私もフラッグをジャンプさせガンダムを追う。GNアームズが爆発し、その爆風の煽りを受けて、私はちょうど振り返ったガンダムと対面した。
「抱きしめたいな、ガンダム!」
そう、劇中再現! 私はガンダムに拳を食らわせ、温存していたスラスターを全開にしてガンダムに馬乗りになって引きずり進む。
『ぐぁ!?』
そしてソニックブレイドをコックピットに突き立て、機能停止させる。そのままガンダムを引きずりながらゴールした。
これが私流の愛のベーゼだ、ガンダム。
さあ、その顔をよく見せてくれ。
カスタムフラッグの手が、ガンダムの頭を鷲掴みにして引き上げた。
「正に、眠り姫だ・・・・・・」
主人公の変態度がどんどん上がっていく・・・・・・何故でしょうか。
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もはや愛を超え、憎しみをも超越し、宿命となった!
もがなさん、わけみたまさん、評価ありがとうございます。
第八ピリオドの内容は一対一でのバトル。そして彼の対戦相手は──
「ようやくだ・・・・・・ようやく戦える、メイジン!」
「うるさい上にキモいですよ、先輩」
感情の高ぶりにコウスケが彼の名前を呼ぶと、ベットに転がって雑誌を呼んでいたシグレ・アサヒから文句を言われる。すまない、と返したが、気にした様子はない。
「そんなにバトルしたかったなら、普通に頼めばよかったじゃないですか。『バトルしてください』って」
『ガンプラバトル選手権世界大会 本戦に残るのは誰だ!?』などと書かれた雑誌を放り投げ、面倒くさそうにアサヒは言う。今更だが尤もな発言だ。
しかし、ファイターという生き物にその理屈は通じないのだ。
「シグレ。ただ戦うだけでは足りないから、私はここにいるのだ」
カチリ、とスサノオを置き、コウスケは選手権という舞台を選んだ理由を話し出す。
「
バトルの経験を積むにも、彼とだけ戦っては意味がない。無論、隊長に紹介されたファイター達ともバトルをしたが、それでも足りない。
「なので、この選手権で私は自分を鍛えることにした。世界大会に出場するほどの選手とのバトルであれば、私はより高みに行ける」
そう、この選手権という場所はユウキ先輩と決着を付けるための場所でもあり、コウスケが自分を磨くための場所でもあるのだ。
「へぇー。で、実際のところどうなんです?」
「私は強者との戦いを望んでいた。それだけだ」
要は、『強いファイターと戦いたいから参加した』と。やっぱりですか、とアサヒは嘆息した。選手権での彼のバトルを見ていてわかったことだが、コウスケはかなりのバトルマニアだ。
「それと、シグレ。もう夜も遅い、そろそろ宿に戻ってはどうだ?」
スサノオに夢中で気付かなかったが、すでに空は真っ暗だ。そうですね、とアサヒは頷き、雑誌など荷物を纏める。
「では、送ってください」
シグレと並んで、街灯のついた道を歩く。バトルの練習も、今日はない。私が明日メイジンと戦うということで、遠慮してくれたのだ。それには感謝と申し訳なさがある。
「・・・・・・すまないな、シグレ」
本当なら、私はあの商店街でシグレにバトルを教えて、テレビで大会を見てこの夏休みを過ごす予定だった。けれど、私が選手権に出場したことで、彼女をここまで付き合わせてしまった。
その旨を伝えると、シグレはあっけにとられた表情をしていた。
「随分と今更なことを言いますね、先輩」
でもまあ、とシグレは続ける。
「謝る必要はないですよ。私は好きで付いてきたんですから」
「・・・・・・そうか」
気にするなと言ってくれるのか。いい後輩を持てたことを嬉しく思う。
と、シグレの顔が若干赤く染まっていた。熱でもあるのだろうか。
「・・・・・・コホン。先輩、何か私に訊きたいことはありますか?」
「? 特にないが」
私がむしろ今の質問がどういう意味か訊きたいと言うと、シグレははあ、とため息を一つ。
「ですよね・・・・・・どうしてこうも
「鈍い?」
まさか後輩にそのようなことを言われるとは。何か察してやるべきなのだろうか。
「・・・・・・やっぱりバトルの練習がしたくなったとか?」
「違います。もういいです、ここまでで」
気がつけば、彼女の借りた宿に辿り着いていた。彼女は玄関に向かって数歩進んで、足を止めた私を振り返った。
「明日の試合、頑張ってください」
「ああ。無論だ」
言われずとも、最善を尽くすとも。
《Please Set Your GPBase》
歓声に包まれながら、筐体に端末をセット。正面にいるのは、メイジン・カワグチだ。
《Bigininng Plavsky Particle Dispersal》
周囲に青いスクリーンが浮かび、メイジンとの相対が終わる。後は、バトルで語るのみ。
《Field1 Space》
フィールドは宇宙。ガンダム00に登場した宙域ラグランジュ
《Please Set Your GUNPLA》
各部に改造を施したスサノオを筐体に置く。粒子が取り込まれ、瞳に光が宿る。
操縦桿を握りしめる。開始までの数瞬が、とても長く感じられた。
《Battle Start》
「ハム仮面。スサノオ、出陣する!」
興奮に身を任せ、
「どこだ、どこにいる・・・・・・」
ああ、もどかしい。開始位置をもっと近づけてはくれないだろうか、運営。
そんな思いを持ちながら進んでいると、視界に緑光が飛び込んでくる。ビームだ。回転して回避する。
「そこか!」
目を向けた先にいるのはケンプファーアメイジング。バインダーを四つに増やし機動性を上げた、メイジンの機体。
「会いたかった・・・・・・会いたかったぞ、メイジン!」
認めよう。彼が選手権を棄権した怒りもフラッグファイターとしての矜持も、行動の源であってもしょせんは建前でしかなかった。この感情はごまかしようもない。
私エイカ・コウスケは、この機体、この場所をもってメイジンと戦えることに、これ以上なく――悦びを感じているッ・・・・・・!
ロングライフルが再び火を吹く。それを左手に持つサーベル『シラヌイ』で弾き、接近する。
『粒子変容塗料か・・・・・・』
「わかりきったことを!」
私の技術不足でニルス・ニールセンのようにビームを切り裂くことは困難だが、弾くことはできる。
そのまま接近し両刀を振るうが、躱される。
「逃がさん!」
両腰のスラスターに装備したアンカーフックを射出。GNクローから変更したものだ。トライパニッシャー? あんなもの、棄てた!
『くっ』
ワイヤーを引っ張りながら加速。再び斬りかかる。ケンプファーはライフルを捨て、ビームサーベルを二本抜刀した。
両者二振りの刃が鍔迫り合う。今は拮抗しているが、このままでは出力の差で押し切られるだろう。
「だが甘いぞ、メイジン!」
スサノオの後頭部から伸びたケーブルが、二本の刀に接続される。コンデンサーから粒子が供給され、その刃は切れ味を増す。
「ハァ!」
ビームを叩っ切り、蹴りを一発。離れていくケンプファーにビームチャクラムを出現させ飛ばす。
『フン』
ケンプファーは避けると、その機動性を活かして距離を取る。それを追尾しスサノオが駆ける。
『カワグチ! このしつこさ、尋常じゃないぞ!』
回線からメイジンの隣にいた金髪の声が入ってくる。私以外の金髪などッ!
メイジンはバインダーから射出したライフルで射撃してくるが、全て躱すか弾いた。しかし、機体性能の差で追いつけない。
『このままでは・・・・・・』
「埒が明かん!」
メイジンが反転、頭部マシンガンで牽制しながらヒートナイフを抜刀し近づいてくる。
それを回避しながら間合いを図り、迎撃の構えを取る。シラヌイで受け止め、ウンリュウで反撃、というオーソドックスなやり方だ。
『そこ!』
と、ケンプファーが旋回しスサノオを通り越して後ろへ。
「くっ、不覚!」
スラスターをふかし、強引に反転し振るわれたヒートナイフにウンリュウを間に合わせる。しかし熱を帯びた刃が刀身を溶解させ始める。武器が少ないこの機体にとって、ウンリュウを失うのは致命傷。
「然らば!」
胸部バルカンから閃光弾を放つ。光が私の視界も奪うが、そこは愛でどうにかする!
『その技はもう見切った!』
しかし、ケンプファーは動いた。スサノオを蹴り飛ばし、ライフルを撃ってくる。
「くっ、あのサングラスか!」
メイジンのコスチュームであるサングラス。あれで閃光弾の光を防いだのだろう。まさかそこまで対策済みとは!
ビームを躱しながら、シラヌイ、ウンリュウを連結させ『ソウテン』とする。ケーブルも接続。
そうして、ケンプファーに斬りかかった。
『同じ手をッ!』
ヒートナイフで受け止められる。しかし、ソウテンが傷つく様子はない。刃の表面にビームを纏わせ、保護しているためだ。
「まだまだ!」
押し切り、再び斬り合う。離れ、近づき、宇宙に弧を描きながら、衝撃と火花を散らす。
「オオォォ!」
『ハァァア!』
もはや、剣戟を何合重ねたのかわからぬほど。正確には、37回と言わせてもらおう!
「もはや感情を抑えることなどできぬ! トランザム!」
昂ぶった衝動のままカーソルを操作すれば、スサノオの機体が紅蓮を纏う。一度使えば止まらず、使用後は疑似太陽炉が壊れるが、もうどうでもいい!
『トランザムを使ったか・・・・・・
ならばそ本気、私の本気で応えよう!』
ケンプファーが両腰のウェポンバインダーをパージする。推進剤を使い切ったため、少しでも機体を軽くしようとしたのだろう。
「斬り捨て、ゴメェェェン!」
通常の二倍ほどのスピードで、スサノオが飛翔する。あまりの速さに機体に負荷がかかるが、無視した。
『燃え上がれ、ガンプラァァァア!』
ケンプファーもまた加速し、斬り結ぶ。両者ともに右腕を失った。
「なんの!」
振り向き様にビームチャクラムを飛ばす。バインダーの一つを破壊した。
『ハァッ!』
再び接近、鍔迫り合い。
ケンプファーの頭部バルカンによってケーブルが千切れた。弱点を晒す機体設計は相変わらずだ。ソウテンの切れ味が落ち、ナイフの刃が食い込む。
「ならば!」
腕を振るい、ナイフごと剣を投げ飛ばす。しかしソウテンは分離し、ウンリュウが手元に残る。
『武器を失った程度!』
ケンプファーの拳がスサノオのイケメンフェイスを殴る。同時に、ウンリュウをケンプファーの頭部に突き立てる。
「ぐうぅ!」
たかがメインカメラをやられただけ、愛があればどうにでもなる!
「そうだ、もはや愛を超え、憎しみを超越し、宿命となった!」
『宿命でバトルに望むなどッ!』
言いたかっただけなのは、
ケンプファーの手がウンリュウを掴み、握り砕く。スサノオの拳が、ケンプファーの胴体を捉える。もはやお互い武器はなく、残るは拳のみ。
「メイジィィィイン!」
『ハムカメェェェン!』
互いの拳が、振り抜かれる。しかし、スサノオの腕は砕け散り、ケンプファーの腕のみが胴体を貫く。
圧縮された粒子に、この細腕では耐えられなかったらしい。
直後、両腰のスラスターが爆発し、機体が黒く戻る。トランザムが終了し、疑似太陽炉が壊れたのだ。
それに連動するように、スサノオのフェイスパーツが弾け、中からフラッグの顔が現れた。
《Battle Ended》
ジオラマが解け、筐体には傷ついた二機のみが残る。
歓声、拍手。そういったものが、私達へ向けられていた。
「また負けた、か・・・・・・」
その場に座り込んでしまいたいが、その欲求を抑える。公衆の面前だ、我慢しなくては。
「引き分けに近い勝利だった。私も、どうやら未熟だったらしい」
声に顔を向ければ、メイジンがそこに立っていた。仮面こそ外して外していないが、雰囲気は限りなくユウキ先輩に近い。
「それでも、貴方の勝利だ。三代目メイジン・カワグチ」
なので、あえてその名前で呼ぶ。まさか彼も私がエイカ・コウスケだとは知らないだろうし、この場では他人で通すべきだ。
私達が握手すると、歓声はより一層強くなった。
かくして、彼の選手権は幕を閉じた。第八ピリオド開始時では16位だったハム仮面は、イオリ・セイ&レイジ組が引き分けの2ポイントを得たことで17位へと落ち、本戦への出場を逃したのだ。
しかし、彼がメイジンとのバトル後に見せた笑顔は、とても晴れやかだったという。
原作では、オマーン代表のハリファという選手がメイジンの対戦相手でした。まあ、変えちゃいましたが。どんなファイターだったんだろうか。
最終回のノリですが、もう少し続きます。
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抱きしめたいな、ガンプラ!
レコニングさん、評価ありがとうございます。
ガンプラバトル選手権世界大会会場でもある静岡では、決勝戦の前夜祭が行われていた。ちなみに『前夜』とあるが一週間前である。
「先輩、あの『ハロクッキー』って美味しそうですね。貰ってきてください」
「承知した」
国旗の代わりにガンダムに登場する組織のマークが描かれた万国旗のぶら下がる道を、エイカ・コウスケとシグレ・アサヒは並んで歩いていた。何故わざわざ二人で回っているかといえば、アサヒが『選手権出場選手は屋台の品物が全部タダになるそうです。ちょっと仮面付けて買ってきてください』と言ったからだ。もちろん建前である。
それを言葉通りに受け取りっている彼も彼だが。
「む、あのスペースは何をしているんだ? なにやら盛り上がっているが」
ハロクッキーを入手し、仮面を外しながらコウスケが指したのは黄色いテント。アサヒがパンフレットで確認すると、フリーバトルスペースのようだ。
「行ってみますか?」
「ああ」
と、テントに入ってみれば、そこでは彼の見知った面々がバトルしていた。
「ゴンダとサザキ少年か!」
コウスケと同じクラスの模型部員、ゴンダ・モンタとイオリ模型店の常連客、サザキ・ススムだ。モンタが駆るは金色に塗装されたターンX、ススムが操るはギャンを改造したギャンバルカンだ。
(あの機体、バックパックのバルカンで火力を上げるだけでなく、シールドも二つに増えたことでかなりの弾幕を敷けるようだな。サーベルも抜刀しやすいよう両肩に懸架され、機動性も上がっている・・・・・・)
コウスケは軽く冷や汗をかく。今も月光蝶を使うターンXにシールドのミサイルを放っているが、あの弾幕をかいくぐった上で盾の防御を突破しなければならないなど、フラッグやスサノオとの相性はかなり悪い。
「エイカ先輩、あのギャンめっちゃ強くなってないですか・・・・・・」
「ああ・・・・・・今の私でも勝率は三割あるかどうか」
選手権出場を逃した彼のガンプラ製作技術、及び操縦テクニックは、この短期間でかなり上がっていた。さすがは未来の選手権ベスト16である。
『これがボクの考えた、究極のギャンの力だ!』
ターンXを撃破し、ドヤ顔をキメる。しかし、彼の栄光は長く続かなかった。
「先輩、あの人・・・・・・!」
「リカルド・フェリーニ!」
そう、『イタリアの伊達男』ことフェリーニが新たな愛機『ガンダムフェニーチェリナーシタ』と共にバトルに乱入したのである。
そして左右対照になったことにより安定した機体バランス、機動性によりギャンバルカンを瞬殺した。なんて大人げない。
『ギャンバルカァァァァァァアアン!』
ススム少年の悲鳴も尤もである。リカルド・フェリーニの登場により、バトルに挑戦しようろしていたファイター達に躊躇いが生まれる。
しかし、彼に挑まんとするバトル
「挑ませていただこう、ガンダム!」
赤い尾を引きながら、
『お前は!』
「敢えて言わせてもらおう、エイカ・コウスケであると!」
彼と愛機GNフラッグである。スサノオは改修してあるが、ハム仮面でない今のコウスケが使うのは、やはりフラッグなのだ。
「え、エイカ先輩!? さっきまでここにいたのに!?」
アサヒはあまりに唐突なコウスケの参戦に先ほどまで彼がいた場所とバトルシステムで視線を往復させる。それから、はあ、と一つため息をついた。恐らくイタリアチャンプには勝てないだろうから、待つことにしたのだ。
フェリーニとのバトルの後。私とシグレは、ガンプラ製作スペースにいた。彼とのバトルにあっさり負け、大破したフラッグを修復するため、というのもあるが。
「HGブレイヴ指揮官用試験機・・・・・・よもやこのような場所で出会えようとは!」
新たなガンプラを作るため、でもある。選手権も終わったので心機一転、新しく機体を作り直すことにしたのだ。
「こんなところで興奮しないでください、先輩。キモいです」
そう私に半眼を向けるシグレの前には『
「しかし、その機体はアリオスガンダムと合体してこそ真価を発揮する機体だが・・・・・・」
「なら、先輩のそのガンプラと合体できるようにします。あ、太陽炉はこっちで乗せるんで、先輩は疑似太陽炉のままでも問題ないですよ」
まるで数日前から考えてあったようにスラスラとそう言った。しかし、ブレイヴとGNアーチャーの合体か。私の製作技術で作れるかは怪しいが、折角なのでやるだけやってみることにしよう。
「そうなると、変形機構の見直しが必要だな・・・・・・アリオスのパーツも一部使うか」
「え、本当にやるんですか・・・・・・」
それって私と先輩が合体するってことで・・・・・・と小声で言うシグレ。何か問題があるのだろうか。
「私との合体は嫌か?」
「せ、先輩!? 言い方、言い方!」
赤面し動揺するシグレに、私は首を傾げるのだった。
それから、会場に来ていた父やカタギリ、隊長らと挨拶を交わしたり、シグレと共にガンプラを作ったりしながら、数日経った。
「お久しぶりです、ユウキ先輩」
前夜祭の会場を見下ろせる高台。そこで、私はユウキ先輩と再会した。ハム仮面としてバトルしたりしていたが、私として会うのはかなり久しぶりのはずだ。
「ああ。久しぶりだね、エイカ君。いや、ハム仮面、だったかな?」
「ッ!? な、なんのことやら・・・・・・」
バレていた、だとッ!? 馬鹿な、私の変装は完璧だった筈・・・・・・。
「ははは、相変わらずみたいだね」
そう軽快に笑うユウキ先輩。しかし、彼とは雑談しに来たのではない。手短に要件を言おう。
「ユウキ先輩。エクシアを・・・・・・ガンダムを、使いましたね」
「ああ、使ったさ」
彼は自分がメイジンであることを隠すことなく肯定した。私がハム仮面だと見抜いたことに対する意趣返しのようなものだ。全く動揺しないとは、流石ユウキ先輩といったところか。
「ならば、私の要求はただ一つ! 一対一での決闘を申し込む!」
そう言い放ち、フェリーニとのバトルから改良したGNフラッグを突き出す。彼は目の色を
「その挑戦、受けて立とう! ・・・・・・とはいえ、選手権が終わった後なら、だけどね」
「無論だ。私は全力を望む」
決勝戦を控えた状態では、全力でバトルすることは難しいだろう。私は頷いて、高台を去った。
そして、決勝戦当日。バトルシステムを挟み、二組のファイターが相対していた。
一方はイオリ・セイ、レイジ。中学生とは思えないガンプラ製作技術と、バトルを始めて半年も経っていないとは思えない操縦技術の合わさったコンビ。使用ガンプラはスタービルドストライクガンダム。
もう一方は、ガンダム00に登場する刹那・F・セイエイをオマージュしたようなマフラーを巻き、オレンジに怪しく発光するフレームのサングラスを身につけた絶対王者、メイジン・カワグチ。使用ガンプラはガンダムエクシアダークマター。
メイジンの衣装には会場中の全員が驚いて──否、そのセンスのなさに引いていた。
しかし、ここには一人、変人がいた。
(あの衣装・・・・・・なんて格好良い! 闇落ちした
そう、何を隠そうこの変態、エイカ・コウスケである。彼が子供のように目をキラキラさせる中、決勝戦は始まった。
この主人公なら、あの格好気に入るだろうな、と思いまして。本当、どうしてこんな変態になってしまったのだろうか。
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未来を切り開け、ガンダム!
ちなみに、決勝戦もカットです。主人公視点で実況しても面白くないので・・・・・・。
ガンプラバトル選手権、世界大会決勝。その激しくも熱かりし戦いに勝利し、収束する粒子の中右腕を突き上げたのは、スタービルドストライクガンダム。武装は全て使い果たし、カメラアイも片方が壊れて尚ガンダムエクシアダークマターを打ち破ったガンプラ。
優勝という栄光は、イオリ・セイ、アリーア・フォン・レイジ・アスナの二人のものになった。
しかし、勝利の余韻に浸るのも束の間。マシタ会長の強い願いに反応し、粒子結晶体が暴走、『ア・バオア・クー』が出現した。
セイ達はニルスの提案に乗り、ガンプラで粒子結晶体の破壊に挑むのだった──
『これじゃあキリがない・・・・・・!』
セイはビルドガンダムMk-Ⅱで周囲のモックを撃ち抜きながら苦悶する。量が多すぎて、倒しても倒しても溢れてくるモックの群れに、彼らは押され始めていた。
『少年!』
声と共に、赤い軌跡が
『あの光は!』
トランザムによるものだ。セイはそう悟る。橙色の粒子をまき散らしながら、そのガンプラはやってきた。ブレイヴの改造機だ。そして機体背部には別のガンプラが合体している。
『未来への水先案内人は、このエイカ・コウスケが引き受けた!』
何を隠そう、この変態である。このシチュエーションならば劇場版グラハム・エーカーのセリフが使えるということに気づき、やってきたのだ。避難誘導ほっぽり出して、である。
『エイカ先輩!』
『アイツ!』
彼の新たな機体、GNブレイヴはモックの大群をものともせず進み、彼らの道を切り開く。
『これは死ではない・・・・・・ガンプラの未来のための・・・・・・!』
そうして、大量のモックと共にア・バオア・クーに突撃。爆発が起き、大穴を開けた。
このセリフを言いたかったためだけの自爆特攻である。
『野郎・・・・・・無茶しやがって!』
『でもこれで、道は開けた!』
後は要塞内部に入り、大型結晶を破壊さえすれば、ミッションコンプリートだ。
『セイ、ここは俺達に任せろ!』
リカルド・フェリーニが彼らをフォローするように機体を操り、ブレイヴの開けた大穴を塞がれないよう周囲の機体を蹴散らす。
『ここは僕たちが死守します!』
ニルスの戦国アストレイがモックを切り裂き、キララのガーベラ・テトラが銃を撃ちまくり、キャロラインのフルアーマー
『ワイもいますよ!』
その宣言と共に、極太のビーム砲がモック達を焼き尽くす。
『その声、マオか!』
そう、変態に出番と見せ場を取られた少年、ヤサカ・マオだ。新たな機体、クロスボーンガンダム魔王が胸部のスカルフェイスを展開し、先ほどのビーム攻撃『スカルサテライトキャノン』を放たんと粒子を蓄える。
『へっ、じゃあ任せたぜ!』
そう言って、セイ、レイジ、チナ、アイラはブレイヴが開けた穴から侵入する。何故女性陣も入ったかと問われれば、愛故とだけ。こんな土壇場であっても、恋する乙女は強いのだ。
『では、私も力を貸すとしよう』
『どこまで行ってもマイペースですねこの人・・・・・・誰のおかげで助かったと思っているんですか』
しれっと生きていたブレイヴ、そしてそれと合体していたシグレ・アサヒの
『お前、生きてたのか!?』
『無論だ。あの程度で死んではフラッグファイターは名乗れん』
リカルドの驚いた声に平然と返すコウスケ。
かのグラハム・エーカー氏も生きていたので、この変態が生きていても何らおかしくはない。一応、内部に侵入した四人は大破したと思っているので、格好は付いただろう。
『さあ行け、少年達。ガンプラの未来を切り開け!』
そう叫ぶなりブレイヴを飛行形態へ変形させモックの群れに突撃する。少しでも多くのモックを撃破し、彼らが粒子結晶体を破壊するまでの時間を稼ぐ。
『けど、本当にうじゃうじゃいますよ。いくら機体性能に差があるとは言え、この数じゃあ・・・・・・』
と、アサヒはGNアーチャーのライフルでモックを撃ち抜きながら言う。戦いは数だ、という彼のドズル・ザビの言葉通り、多勢に無勢だ。
『ホンマですわ・・・・・・こんなん、やられるんも時間の問題──』
『マオ、諦めるんが早いで』
そのマオを言葉を打ち破るように、声が響く。次いで、遠くでいくつもの爆発が起きた。
『し、師匠!?』
ガンプラ心形流の師範、珍庵のマスターガンダムだ。それに続くように、青いグフがマスターガンダムの背後から飛び出した。
『あのグフは・・・・・・ラル大尉!?』
そう、ラルさんのグフR35だ。彼が本当に35歳かは議論の余地があるが、今は置いておこう。
『珍庵、久々に、”アレ”を使うぞ』
『いよっしゃあ!』
グフがヒートロッドを抜き、マスターガンダムの足に乗る。そして某サッカー漫画の『スカイラブハリケーン』のように蹴り上げ、回転する。
『ウォォォォ、ハアァァァァァァ!』
そして回転は強まり、ヒートロッドにマスターガンダムの力が合わさることで、紫色の竜巻を出現させた。これがデータストームか。
竜巻はモックを破壊しながら移動し、暴虐の限りを尽くす。
『ガンプラ心形流、究極奥義ィ!』
珍庵も負けずにマスターガンダムの足に『ダークネスフィンガー』と同じ紫光を宿し、技を放つ。
『珍庵蹴りィィィィィィィイ!』
その蹴りはすさまじく、いくつものモックを葬り去り、『ガンプラ心形流』の文字をかたどる。モックが何をしたというのだろうか。
『とりゃあああああああ!!』
『キエエェェェェェィイ!!』
グフがバルカンを連射し、マスターガンダムは『かめはめ波』のような波動を放つ。その戦いぶりは、正に規格外であった。
『な、何? このデタラメな強さ・・・・・・』
『スッゲェ・・・・・・あれが『青い巨星』の、真の実力か!』
その無双ゲームのような強さにキララはドン引き。リカルドは瞳を少年のようにキラキラさせていた。
『相変わらずスゴいな、あの二人。よし、ボクも負けてられないな!』
ブン、と巨大な斧を二振り携え、ダメージモデルのザクⅡがモック達を切り裂いていく。
『はッ!』
そしてヒートホークを投擲すると、斧は回転しながらその軌道上にいたモック達をスパスパと切り裂く。そしてザク本体もまた素手でモックの首を捥いでいった。
『あのザク、隊長殿か!』
『えぇー、何ですかあの強さ・・・・・・』
隊長の参戦にこれは勝ったなとコウスケは微笑み、アサヒはドン引きしていた。
あの後、ユウキ先輩やイオリ・タケシ氏の協力もあり、イオリ少達年は粒子結晶体を破壊した。その後のイオリ少年対ユウキ先輩のバトル、そしてレイジ少年の消失を見届けてから、早一年。あれから、様々なことがあった。
ユウキ先輩は聖鳳学園を卒業し、メイジンとして各地でガンプラの楽しさを伝えているそうだ。あの金髪、アラン・アドモスも一緒らしい。
ゴンダは生徒会長の座を引き継ぎ、奮闘している。ゴリラだなんだと言われることが多いが、それは親しみやすさの証でもある。
サザキ少年は相変わらずギャンばかり作っている。最近、妹ガンプラを始めたそうで、近所ではギャン兄弟と呼ばれていたりする。
シグレもますますガンプラにのめり込み、最近ではバトルも上達してきた。ガンプラ製作技術は、もう超されてしまっている。
それから、ユウキ先輩や私、イオリ少年達のバトルに触発された生徒がいたらしく、『ガンプラバトル部』という部活ができた。私は所属していないが、たまに練習相手になったりしている。
そう、ガンプラバトルは続いているのだ!
『ただいまより、第八回ガンプラバトル選手権、第一試合を始めます』
《GUNPLA BATTLE CombatMode StandUP ModeDamageLevel Set To A》
ニルス・ニールセンがヤジマ商事と協力し、プラフスキー粒子の人工生成に成功。PPSE社に代わり、バトルシステムを開発。
《Please Set Your GPBase》
筐体にGPベースを取り付ける。この端末も、データを引き継いだヤジマ商事製の新品。ガンプラバトル復活を祝い、選手権出場者に無料で配布されたものだ。
《Beginning Plavsky Particle Dispersal》
以前とは違う声音の電子音に新鮮さを覚える。粒子が筐体に満たされ、ジオラマが形成される。この戦場が出来上がるまでのもどかしさが、妙に懐かしい。
《Field3 Forest》
フィールドは森林。『ガンダムAGE』にてフリット・アスノとユリン・ルシェルが出会った森だ。それと、レイジ少年とアイラ・ユルキアイネンが痴話喧嘩を繰り広げたフィールドでもある。あの戦いは全国生放送されていたため、このフィールドの時は毎回話題に出るのだ。
《Please Set Your GUNPLA》
セットするのはこの一年をかけて作った機体、『ガンダムエクシアリペアⅣ』。それを私好みに手を加えたガンプラ。それに合わせ、金髪を一部脱色し銀に染めた。メタル化したグラハム・エーカーへのリスペクトだ。
《Battle Start》
その音声と共に、私の新たなバトルが始まった。
「エイカ・コウスケ。グラハムガンダム、世界の歪みを破壊する!」
『抱きしめたいな、ガンプラ!』 これにて完結です。
ビルドファイターズ本編が配信されていたのと、かなり時間があったために書き始めた作品でしたが、たくさんの方に読んでいただけたようでとても驚いています。
今後、番外編のようなものは書くつもりです。『バトローグ』や『GMの逆襲』もありますからね。
それではまた。ご愛読、ありがとうございました。
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番外編
久しぶりだな、少年!
ビルドストライク・コスモスの性能なのですが、バトルシーンが全然ないので独自設定になっております。ご了承ください。
第八回ガンプラバトル選手権地区予選、中高生の部。今から行われるのは、その決勝戦だ。
《Battle Start》
「グラハムガンダム。エイカ・コウスケ、世界の歪みを破壊する!」
宣言と共に、私の新たなガンプラ、ガンダムエクシアリペアⅣが飛翔する。フィールドは雪山。氷の張った湖に吹雪が吹いている珍しい戦場だ。
しばらく進むと、対戦相手の機体が見えてくる。ガンダム特有のトリコロールカラーに、白いバックパック。そして機体を覆う透明なフィールド。
「久しぶりだな、少年! 君とこうして戦うのは初めてか」
『そうですね。前にレイジがお世話になったみたいで』
そう、イオリ少年のビルドストライク・コスモスだ。決勝戦の相手として不足はない。操縦桿を握る手に力を込め、前に突き出す。
「いざ尋常に、勝負!」
スラスターを解放し、左手にGNタチを携え接近。斬りかかるが躱される。
『そこ!』
反撃としてライフルを連射されるが、右肩のGNシールド及びそれによって発生するGNフィールドで防ぐ。流石はガンダム、イオリ少年の機体相手でも耐えられるとは。
『くっ、予想以上に堅い!』
「ハハハ! この盾はいいものだ!」
ふとサザキ少年の顔が頭に浮かんだ。彼はイオリ少年とぶつかり敗退しかが、盾を使っている時はこんな気持ちだったのだろうか。
『だったら!』
コスモスがパワーゲートを出現させ、ブースターのビームキャノンを含めた三つの砲身から火を吹いた。なるほど、威力を上げたか。
「当たらんよ!」
ガンダムタイプとしての機動性を発揮してこれを回避。追ってくるビームから逃れながら、GNベイオネットを抜刀、ライフルモードで射撃する。
しかし、その全てはコスモスのシールドに吸い込まれていった。
「やはり、ビーム兵器は効かないか・・・・・・」
あの機体が展開している『アブソーブフィールド』はビーム兵器を拡散させ、威力の低い攻撃は完全に無効化する。その壁を突破しても、あの盾によってプラフスキー粒子に変換されてコスモスのエネルギーとなる。これまでの戦いを見ていたが、ツインサテライトキャノンをも吸収できるほどになっていた。
「多少強引でなければ、ガンダムは口説けない、か」
接近し、再びタチを振るう。回避されたタイミングで、コスモスにベイオネットを向けた。
『ビームは効きませんよ!』
「わかっているとも!」
防ごうと構えられたシールドに、ベイオネットをソードモードにして振るう。破壊するまでには至らなかったが、ダメージは与えた。
『動きを読んで!?』
コスモスのライフルを避けながら、一度距離を取る。
今のでシールドを壊せなかったのは痛いな。彼ほどのファイターなら、同じ手は通用しないだろう。
「ならば! 必殺・グラハムファング!」
シールドに懸架されている『GNバトルブレイド』『GNバトルソード』が離れ、独立して動き出す。ダブルオークアンタのパーツを取り入れ、ファンネルとして扱えるように改造したのだ。
『ファンネル!?』
四本の剣はコスモスを牽制し、動きを止めさせる。ちなみに自動操縦だ。私にファンネルを扱えるほどの操縦技術はない。
その間にシールドを背中へ移動。カーソルを操作しGNコンデンサーと直結させ、スラスターにする。
「オオオ!」
そのまま加速し、コスモスへ斬りかかる。バトルブレイド、バトルソードが一本ずつ撃ち落とされていたが、その場に拘束させることができた。
『くぅ!』
赤い光を宿した左腕とGNタチがフィールドを切り裂き、その奥のシールドを叩っ斬る。エクシアリペアⅣの機能の一つ、左腕のみのトランザムだ。斬撃の瞬間のみトランザムを発動させることで圧縮した粒子を叩きつけ、アブソーブフィールドを破壊した。腕に負担はかかるが、数回程度ならば問題ない。
次いでバトルブレイドを手動で操作し、ライフルを破壊。バトルソードと共にシールドへ引き戻す。
『流石はエイカ先輩・・・・・・アブソーブフィールドをこうもあっさりと』
「前回大会の優勝者に褒められるとはな。悪い気はしない」
これであちらの武装はサーベルとバックパックのキャノンのみ。遠距離武器は健在だが、確実に手数を減らした。
『でも、僕のビルドストライクコスモスなら、まだやれる!』
コスモスが白く光り輝き、機体のフレームが青に染まる。ガンプラの内部にまでプラフスキー粒子を浸透させ、性能を上昇させる『RGシステム』だ。
「ならば、こちらも本気を出そう! グランザム!」
エクシアが紅蓮を宿し、緑のクリアパーツは橙に発光する。ちなみに『グランザム』とはビグ・ザムの発展機のことではなく、グラハムガンダムのトランザムのことだ。無論、グラハム・エーカーのセリフである。
コスモスがビームサーベルを二本抜刀すると、青い光が剣にも移り、刃が巨大化する。まさかRGシステムを武器にまで使えるようにするとは。私よりも年下だというのに、信じられん製作技術だな。
『僕は、この戦いを勝ち抜く! レイジとの約束を果たすために!』
「よく言った、ガンダムゥゥゥゥ!」
互いに高速で接近し、斬り合う。すれ違い、反転し再び加速。何度も刃を交える。
本来ならビームを断ち切るGNタチの刃は、サーベルの粒子密度が高すぎて通らない。
「その剣捌き・・・・・・間違いない、あの少年のものだ」
イオリ少年の太刀筋は、レイジ少年のものとそっくりだった。彼の戦いを間近で見ていただけのことはある!
「オオオオオ!」
『はああああ!』
再び斬り結び、すれ違う。ベイオネットが壊れた。もう一本あるが、抜刀している暇はない。ファンネルを使う余裕もない。粒子残量も残り少ない。
「だからなんだと言うのだ!」
スラスターにしているシールドに限界が来たのか、アラートが鳴る。左腕やタチの刃も圧縮された粒子に耐えられないのかヒビが入り始めた。それら全てを無視し、再び飛翔する。
『ディスチャージ!』
コスモスの前方にパワーゲートが出現し、そこを通過することで光の翼を纏った。二つのシステムの同時運用をも可能にしたというのか!
「討たせてもらうぞ、このグラハムスラッシュで!」
『RG、ダブル、ビルドスラッシュ!』
エクシアの一刀と、コスモスの両刀が振るわれた。斬撃が交錯し、互いに背中を向け合う。
コスモスの腕がスパークを放ち、ビームサーベルが二本とも砕ける。
エクシアの刃と左腕が限界を超え、パキリと音を立てて割れる。
「私の・・・・・・敗北だ」
そして、背部のGNコンデンサーが爆発した。粒子残量が尽きたのだ。同時にトランザムが終了し、エクシアの瞳から光が消える。
《Battle Ended》
粒子が収束し、スクリーンが消える。開けた視界に入ってきたのは、拍手する観客と多くの歓声、そして勝者たるイオリ少年の姿だった。
「完全なる敗北だ、少年。完膚なきまでに叩きのめされた」
私は彼に近づき、握手を求めて右手を差し出した。バトルの後にはお互いの健闘をたたえ合う。隊長の教えだ。
「それでも、『少年』呼びは止めないんですね・・・・・・」
苦笑しながらも、イオリ少年は私の手を取った。彼のマメだらけの手に、改めて少年がどれだけ努力しているかを気付かされる。彼は才能だけでなく、研鑽によって勝利を掴んだのだと。
「いいバトルだった。世界大会、期待している」
「ありがとうございます!」
それからガンプラを回収し、私はその場を去った。
「惜しかったですね、先輩」
会場の通路で、シグレが私を待っていた。私の完敗だったが、それでも『惜しい』と言ってくれたのは、彼女の優しさなのだろう。
この一年で、シグレは毒を吐くことが少なくなり、態度もかなり軟化してきた。最近では、彼女の妹のマヒルに一緒にバトルを教えたりもしている。
「ああ、ありがとうシグレ」
この後行われる表彰式までには、まだ時間がある。少し駄弁る程度はできるだろう。
「閉会式が終わったら、どこか食事でも行きますか? 準優勝祝い、ということで」
「そうだな。たまには外食も悪くない」
きっちり割り勘で、と付け足すと、シグレはどこか拗ねたようにジト目を向けてきた。しかし、ここは譲るわけにはいかない。きっちりと約束を取り付ける。
「ああ、それと。シグレ」
「・・・・・・なんですか」
ふくれっ面の彼女を視界の正面に収め、口を開く。本当はバトルに勝ったら言おうと思っていたことだが、彼女の仕草に我慢ができなくなっってしまった。
「私は君に好意を抱いている。無論、興味以上の対象、という意味ではなく、異性として」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
要は、愛の告白だ。妙に照れてしまってグラハム・エーカーのセリフに寄せてしまったが、そこは許して欲しい。
「え、えーと、待ってください。私、今、告白されました?」
「ああそうだ。何だ? 『私は、君が好きだぁ! 君が、欲しいぃ!!』の方が良かったか?」
「いえそれは恥ずかしいので結構です」
なるほど、ドモン・カッシュの真似は流石の私も羞恥心を覚えるので、そちらにしなくてよかったと心底思う。
「それで、返答は?」
「・・・・・・・・・・・・ほ、保留、でお願いします」
顔を真っ赤に染め、そっぽを向きながらシグレはそう答えた。嫌われていないだけいい、と肯定的に受け取っておこう。そうでないと羞恥心でおかしくなりそうだ。
「よし、興が乗った! シグレ、昼食は私のオゴリだ!」
「露骨な好感度稼ぎ!? いえ、先輩のお祝いなのに何で先輩が払うんですか・・・・・・」
そんなやりとりをしながら、私達は会場を後にした。
余談だが、表彰式を忘れていたことも付け足しておこう。
BFシリーズの恋愛はこれくらいの軽さがいいですよね。トライは鈍感主人公のハーレム要素があって好きになれませんでした。
エクシアリペアⅣのバトル、アニメで見たいなぁ・・・・・・
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とはいえ・・・・・・相手がガンダムタイプとは!
ほぼ読み専さん、cake.LAKEsさん、グロ魔術士さん、ケチャップの伝道師さん、評価ありがとうございます。
商店街の、イベントホール。エイカ・コウスケとシグレ・アサヒは、そこで開催される『タッグバトル大会』に参加していた。一年前には女子限定ガンプラバトル大会も行っていた場所だ。ガンプラ業界への貢献に余念のない街である。
「出番だな。行くぞ
「は、はい」
慣れないアサヒ呼びに困惑しながらも、コウスケに続いてバトルシステムへ向かうアサヒ。手にしているガンプラは、彼氏たるコウスケのGNブレイヴに合わせてカスタマイズされたGNアーチャーだ。
機体のボディは流線型にリデザインされ、胸部にはアリオスガンダムに使われていた太陽炉が搭載されている。武装に大きな変化はないが、本来桃色だった部分のカラーがブレイヴに寄せて青く塗装されている。
元々小規模な大会なこともあって、世界大会に出場したコウスケとのタッグなのだ。負けることはそうそうない。
二人は順調に勝ち上がっていった。
「まさか、君に出会えようとは・・・・・・」
筐体を挟んで向かい合うのは、『アーリージーニアス』と称される少年、ニルス・ニールセンだ。世界大会に出場するほどの腕前を持つ彼が、何故ここに・・・・・・。私? 出場したのはハム仮面だからな、何ら問題はない。
「最近、研究詰めだったので、息抜きにとキャロラインが連れてきてくれたんですよ」
なるほど、今回の世界大会に彼が出場しなかったのは、プラフスキー粒子の研究を優先したためか。彼にはダメージレベルの設定を作ってもらったりしたが、更にバトルシステムを発展させているのか。これは楽しみだな。
「今日は例の仮面は付けていないんですね、Mr.ハム仮面」
「私はエイカ・コウスケだ。ハム仮面などではない」
「言いたいだけですよね? いい加減認めたらどうです」
私がキッパリ否定すると、アサヒがジト目を向けてきた。彼女になっても、こういう所は相変わらずだな。そういう自分に素直な部分に惹かれたのだが。
「ニルス、あっちのコンビがイチャイチャしていますわ! ここは夫婦として負けていられませんわよ!」
「か、関係が進展している・・・・・・」
「む、ならばニールセン少年ではなくヤジマ少年と呼ぶべきか?」
「い、イチャイチャなんてしてません! 早くバトルを始めましょう」
キャロライン嬢が悔しそうにすると、ニールセン少年──もとい、ヤジマ少年が苦笑を浮かべる。あの年で夫婦とは、外国ではそんなものなのだろうか。アサヒが何故赤面しているのかはわからないが、バトルを始めることには賛成だ。
筐体から粒子が溢れ、ジオラマの宇宙が象られる。私たちの周囲にスクリーンが現れ、GPベースをセットすると、コンソールが浮かんだ。
《Please Set Your GUNPLA》
去年の大会後に作り、これまで改良を重ねてきたGNブレイヴをセットする。当然、飛行形態だ。
《Battle Start》
「エイカ・コウスケ。GNブレイヴ、出る!」
「シグレ・アサヒ。GNアーチャー、出撃します!」
カタパルトから射出される二つの戦闘機。私が前に出ると、GNアーチャーがその後ろに付く。そして、ドッキングした。
「操作を先輩に譲渡。ユーハブコントロール、です」
「承知。アイハブコントロール」
このやりとりは、アサヒが『やってあげてもいいです』と昨日の晩に言ってきたものだ。彼女は満足げを鳴らして頬を緩めた。・・・・・・よくグラハムのセリフを使った時に『言いたいだけですよね?』と言ってくるがそれはアサヒも同じなのでは。
「似たもの同士ということか。俗に言う、おそろいというヤツだな!」
「せ、先輩!? 唐突に何を!?」
スクリーン越しにアサヒが驚愕しているが、今はバトル中。一瞬そちらに意識を向けた瞬間、私の耳に何かが回転する音が届いた。
「ッ!」
出力にものを言わせて回避。アサヒが作った機体だけあって、完成度がかなり高いGNアーチャーの水力ならば容易に躱せる。
『不意打ちしたつもりでしたが・・・・・・避けられましたか』
視線の先にいるのは、インパルスガンダムを忍者風に改造した期待──忍パルスガンダムだ。高性能なインパルスに忍びの武装、ネーミングセンスといい、何とも格好良いガンプラだ。つい先日『ガンプラマフィア』とやらとのバトルで使っていた期待でもある。
とはいえ・・・・・・相手がガンダムタイプとは! 興奮するな!
「アサヒの機体に、傷は付けさせんよ」
表面上冷静を装い格好付ける。赤面しながら向けられるジト目なんてなんのその。
ダメージレベルは低い設定だが、それでも細かな傷は避けられない。ならば、それを可能な限り少なくするのが彼氏の務めというもの!
「必殺・グラハムファング!」
連結しているGNアーチャーのミサイルポッドだった部分から、いくつものファングが飛翔する。アサヒが改造したもので、彼女はファンネルやビットといった遠隔武器を扱うのが得意なのだ。
「操作は任せてください」
アサヒの操作によって、忍パルスにいくつもの牙が襲いかかる。ビームサーベルで対応されるが、素早く動くファングを堕とせないでいる。
「もう一機は・・・・・・」
と、右側にアラート。対応できないと悟ったため一瞬のみトランザムを使用し、回避する。アサヒのGNアーチャーは第四世代ガンダムと同じようにトランザムの途中解除が可能となっており、それは合体中のブレイヴにも適用される。だからこそできる荒技だった。機体に負担がかかるので多用はできないが。
『これも躱しますの!?』
見れば、バーサル
「先輩、そろそろファングが!」
アサヒの声に忍パルスへ視線を戻すと、細かなダメージは与えられたもののファングの大半が堕とされていた。
「アサヒ、分離してそれぞれ叩く。行けるか?」
「ッ、了解です!」
合体を解き、そのまま忍パルスへ突撃する。GNアーチャーは変形し騎士ガンダムとの近接戦に突入した。アサヒは格闘が得意ではないので、フォローしたいが──
『はぁ!』
投擲された大型手裏剣を躱し、機首にもなっているライフルとアリオスガンダムから移植したバルカンを放つ。彼相手ではアサヒの援護は難しいだろう。
『流石の機動性・・・・・・ですが、躱してよかったのですか?』
「何? ッまさか!」
背後モニターを確認すると、GNアーチャーに手裏剣が向かっていた。なるほど、こちらが躱すことを見越して!
「くっ、トランザム!」
機体が紅蓮を纏い、高速で移動する。GNアーチャーを守るように割り込むと、変形してサーベルを抜刀し、手裏剣を切り裂いた。
「助かりました、先輩」
「すまない、私の落ち度だ」
やはりカップルとなってまだ日が浅いためか、連携が
『大丈夫ですか、キャロライン』
『ええ。助かりましたわ、ニルス』
騎士の隣に忍パルスが並ぶ。さて、どうやって攻略したものか。
「先輩、どうしますか?」
「・・・・・・私が突っ込む。アサヒは援護を頼む!」
変形合体している余裕がない以上、トランザムを中断できないそのため、短期決戦に持ち込まねば部が悪い。
「オォ!」
ライフルを腰にマウントし、二本のサーベルを抜刀する。斬りかかるが、同じくサーベルを二本構えた忍パルスと鍔迫り合いになる。
「行って、ファング!」
アサヒが残り少ないGNファングを再び飛ばし、騎士へ攻撃。反撃する隙に、脚部のGNミサイルを騎士へ放った。
『二方向から!? きゃ!』
『キャロライン!』
「戦いの最中によそ見とは!」
一瞬意識が逸れたのを確認し、膝蹴りを一発。少し空いた距離を埋めるように両腕のマシンガンを解放する。
『ぐぅ!』
『よくも!』
腕を交差させ防御の構えを取った忍パルス。騎士が私を狙って剣と槍を構え加速したが、ミサイルとファングに阻まれる。
「行かせません!」
『くっ、邪魔を!』
そして忍パルスが意を決したように腰部分の斧を取り出し、それを盾に突っ込んでくる。
『これなら!』
「甘い!」
胸部バルカンから煙幕弾を発射。フラッグの頃から使っている戦術だ。
「アサヒ、合体を」
「わかりました」
スモークで視界を妨げている間にお互い変形し合体。残りわずかだったトランザムを中断する。キャロライン嬢が姦しく叫んでいるが、あまり耳に入れないようにしよう。
『あーもう! 頭に来ましたわ!』
煙幕が晴れると、騎士ガンダムは槍を構え、竜巻を発生させる。それがあるなら煙幕を退かせたのではと思ったが、視界が悪い状態では忍パルスを巻き込みかねないため使用しなかったのだろう。
『ニルス、合わせてください!』
『承知!』
忍パルスがラフレシアのようにウイングを展開し、その上に騎士が乗って回転する。緑色のビームが竜巻に加わり、その大きさを増していく。あの日のラルさんと珍庵殿の技を模倣しているのか!
「アサヒ、ファングは?」
「全部使い果たしました。どうしますか?」
考えたのは数瞬。あれほどの規模ではトランザムを使わないと回避できないが、逃げている最中にブレイヴの限界時間が来る。ならば、どうするか。
「あれに突っ込むぞ、アサヒ!」
「無茶苦茶ですね! でも理屈はわかります。アレが完成する前に決着を付ける気ですね?」
そう、あの竜巻はまだ成長途中。ラルさん達のように一秒で作り出せるほど、簡単な技ではないのだ。
「あ、でも先輩。トランザムは使わないでくださいね?」
「了解、トランザム!」
ブレイヴとGNアーチャーが真紅に染まり、圧縮された粒子が周囲に赤くあふれ出す。アサヒは私の機体を気にしてあの発言をしたのだろうが、加減して勝てる相手ではない。故に、使った。
『させませんわよ!』
騎士ガンダムが竜巻を向けてくる。それから逃れながら、徐々に距離を詰めていく。
「アサヒ、残り何秒だ!?」
「後六秒しか保ちません!」
「十分だ!」
機体状態をチェックしていたアサヒの返答に頷き、操縦桿を前に押し出す。カーソルを操作し、ミサイルやグレネードやら火器を乱射。少しでも竜巻の威力を削ぐ。
「GNアーチャー分離・・・・・・少年、これは死ではない! 人類の未来の為の──」
彼のセリフと共に竜巻の中心部にいる二機に突撃。暴風を受けながらも突き進む。
『なっ、まさか自爆特攻!?』
『無茶苦茶ですわ!?』
「せ、先輩!?」
フ、と一つ笑みを作る。案ずるなアサヒ。私が敗れたところで第二第三のグラハム信者がいる。そう不敵に笑い、正面に出現したスイッチを押す。
「私と! 一緒に! 来い!」
嵐を乗り越え、その中心にいる二機のもとへ辿り着く。そこでトランザムがオーバーロードし、盛大な爆発を起こした。
宇宙に真っ赤な華が咲き、私は思わず左手を人差し指を立てて頭の上に上げた。様式美というやつだ。
《Battle Ended》
コンソールが消えて目に入ったのは、唖然とした対戦者二人の顔と、アホを見る目をしたアサヒ。そして私は、希望の華を盛大に咲かせ満足していた。
さて、彼らの次の対戦相手なのだが。この商店街で行われる大会に、彼らが参加していないはずもなく。
「行くよ、委員長!」
「うん、イオリ君!」
「くっ、まさかイオリ少年も参加していようとはッ!」
「他の試合を見てないからそうなるんです!」
自爆なんてしたせいでGNブレイヴは半壊しており、修復用の予備パーツはコウスケがうっかり忘れ。
ビルドガンダムMk-ⅡとベアッガイⅢの前に、あっさり敗れるのだった。
タッグバトル、書くのが難しい・・・・・・グラハム成分が足りない気がします。三人称視点で書くべきでしたね。
今回はあまり自分的に納得のいく出来ではないので、しばらくしたら消すかもしれません。
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バトルが終ったら謝ります! 作者が!! 土下座もさせていただきます! 作者が!! だから!
今回下ネタ要素強めなので、苦手な方はブラウザバック推奨です。
Kazuma@SBさん、評価ありがとうございます。
刹那・F・セイエイはダブルオークアンタを駆り、ミッションに向かっていた。その内容は、奪われたガンダムを取り返すこと。略奪犯からはポイントのみが送られてきたため、現在その宙域に向かっている最中だ。
「ポイントは・・・・・・ここか」
建設途中で廃棄されたコロニーが漂う場所。敵の位置を探ろうと周囲を見回すと、こちらに飛来する機影があった。
『ハァ!』
回線越しに聞こえる声。どこかで聞いたような気がするが、思い出す暇はない。
振るわれた剣をGNソードⅤで受け止める。
「何者だ!」
『エイカ・コウスケ。君の存在に心奪われた男だ!』
エイカと名乗る彼が扱うのは、ガンダムエクシアリペアⅣ。所々カスタマイズされており、男の手が加わっていることが伺える。
「貴様、何故ガンダムを!」
『訊けば答えると思っているのか!』
エクシアの左腕が灼熱を帯び、クアンタの剣を押し切る。体勢を崩した刹那はGNソードビットを起動した。
『ならばこちらも使おう。グラハムファング!』
「何!?」
それに対応するようにエクシアの有する剣が四本離れ、ビットを迎撃していく。数はクアンタが多かったが、サイズはあちらが上。遠隔武器での戦いは五分といった具合だった。
「なら!」
刹那はビットを引き戻し、GNソードに連結。GNバスターライフルを作り出す。
「これで!」
そのままトリガーを引き、極大なビームがライフルから吐き出される。エクシアは距離を取って躱すと、漂うデブリを盾にして凌いだ。
『射撃も上手くなった。だが!』
銃撃が終わり、ソードビットがクアンタの周囲に収まる。そのタイミングを見計らって、エクシアはベイオネットを発砲した。
「そんな攻撃!」
剣を振るってビームを弾く。しかしその隙にエクシアは接近してきた。
『捉えた!』
「くぅっ!」
紅を帯びた斬撃をGNソードビットで形成したシールドで防御。しかし圧縮された粒子がぶつけられたことで、その盾は瓦解してしまった。
『もらった!』
「まだだ!」
続けて振るわれたベイオネットをGNソードで受ける。衝撃で互いの間に距離が生まれた。
「・・・・・・何が目的だ」
刹那はこれまでの斬り合いで、彼の目的がこちらを殺すことでも、クアンタを鹵獲することでもないと見切っていた。イノベイターとして覚醒した彼には、それくらいわかって当然だった。
『私の目的だと? 決まっている』
男は一度構えを解き、刹那に答えた。
『私は純粋に戦いを望む! ガンダムとの戦いを! そしてガンダムを超える! それが私の・・・・・・生きる証だ!!』
叫びと共にエクシアが突進。振るわれたGNタチをソードで受け止め、刹那はその言葉を否定する。
「違う! それはお前の言葉ではない! それは、あの男の言葉だ!」
ソードを振り抜き、彼我の間に距離を生み出す。刹那はGNソードビットを広げ、クアンタの粒子を解放した。
『ならばどうする!』
「俺はお前と、対話する!」
そう、男の真意を理解するために。何故ガンダムを奪い、己と戦うのか。それを知るために、刹那は対話という手段を選んだ。
『人と人とが分かり合える道を模索し続け、私にすらそれを行おうとするとは・・・・・・それでこそだ、少年!』
エクシアが応えるようにトランザムを発動し、クアンタと同じく粒子を爆発させる。これで準備は整った。
「クアンタムバースト!」
二機のガンダムを、閃珖が包み込んだ。
真っ白な空間で、裸のコウスケは目蓋を開けた。
「ここは・・・・・・私は涅槃に至ったというのか」
「違う。ここは対話の為の空間・・・・・・互いを理解するための場所だ」
コウスケの背後に、これまた裸の刹那が現れる。何故二人ともキャストオフしているのか。
「互いを、理解・・・・・・」
「そうだ。お前は、純粋な戦いを求めていたんだな」
刹那はコウスケの心を読み取っていた。ただ真っ直ぐに、強者と戦うこと。己の力でどこまで行けるのか、それを知ること。それが彼の目的だった。
「それもあるが・・・・・・ところで少年。今、二人っきりだな?」
「? それが、何か・・・・・・」
そして、少し赤面し恥じらうような仕草を見せた
──これは・・・・・・ハム仮面? チョリーッス? この記憶は──
「ンフフ・・・・・・もう我慢できん。少年! もっと深く、互いを理解し合おうじゃないか!」
そして、刹那がその記憶を思い出すよりも早く、変態は手をワキワキと動かし、刹那に飛びかかろうとしていた。というか飛びかかった。
「バトルが終ったら謝ります! 作者が!! 土下座もさせていただきます! 作者が!! だから!」
「俺に、触れるな! 貴様、やめ、何を!?」
「ナニをするに決まっているだろう、少年!」
「ま、待て! 許可が! 許可が降りていない!」
「はぁ、わかった・・・・・・ヤジマ少年、済まん! 聞いてるか!? ヤジマ少年! 済まんッ!!」
刹那を押し倒さんとする変態と、それに抗う少年の戦いが、今始まった。始まってしまった。
ニールセンラボでは、人工知能によってガンダムの劇中キャラを再現したバトル──そのテストが行われていた。
「僕達は・・・・・・何を見せられているんでしょう」
「・・・・・・さあ、な」
ニルス・ニールセンとメイジン・カワグチの視線の先、モニターでは裸の男二人がくんずほぐれつしていた。あの変態が今回のテストに強く志願した理由は、語るまでもない。
「・・・・・・もう一人のバトルに、切り替えても?」
「ああ・・・・・・頼む」
ニルスがリモコンのスイッチを押すと、もう一人のテストファイター──レオス・カラックスのバトルが表示される。彼もコウスケ同様、今回のバトルに強く興味を持ち、ファイターとしての資質も高いことからテスターに選ばれていた。
『東方不敗の力、学ばせてもらおう!』
『面白い! かかってくるがいい!』
こちらはマスター・アジアを対戦相手とし、エクストリームガンダムtypeレオス ゼノン・フェースで暑苦しい戦いを繰り広げていた。ちなみにこれは二戦目。一戦目はヒイロ・ユイとエクリプス・フェースによる射撃戦を行っている。
「AIのシステム、人格再現に問題なし。このまま一般化が進めば・・・・・・」
「ああ。バトルを苦手とするビルダーも、バトルを楽しむことができる」
更にレオスのように作中のパイロット達に師事を請うこともでき、ファイターの育成にも繋がる。まさに一石二鳥のシステムかに思われた。
『決着はまだついていないのだよ、少年! 心ゆくまで踊り明かそうではないか、少年! 豪快さと繊細さの織りなす武の舞いによってだ、少年! そうだ、キミは私のプリマドンナ! エスコートをさせてもらおう!』
『何キモいことやってんですかぁ!!』
『グボァ!?』
『システムに浮気ですか!? 私はAI以下の女ですか!?』
・・・・・・あちらで繰り広げられている修羅場からは、目を逸らしておこう。
「全く、どうして先輩は私の好感度をこうも下げるんですか。恋人としての自覚が足りてません」
「・・・・・・ぐぅの音も出ない」
腫れた頬を覆うガーゼを擦りながら、私はうなだれた。全裸の刹那を見て、どうにも我慢できなくなってしまったのだ。ちなみに手当もアサヒがしてくれた。飴と鞭とはこういうことか。
「その、するんだったら、彼女である私に手を出したらどうなんです」
恥じらいながら目を逸らして言うアサヒ。その提案は大変惹かれるものがあるが、私には父から受け継いだブシドーの信念がある。
「アサヒ、私は結婚するまで手を出すつもりはない」
でないと、
「つまり、ヘタレですね」
「どう受け取ってもらっても構わない」
私の返答に、アサヒははあ、とため息をついた。
「まあ、いいですよ。大切にされているって思うことにします」
そう渋々納得してもらった。おかしいな、こういったことは普通男子が言い寄るものだと思うのだが。
「乙女座だけに、私が乙女、か」
「・・・・・・すみません、そのギャグは本当にどうかと思います」
アサヒに本気で引かれていたので、今後こういった駄洒落は控えることにしよう。私はそう固く決心した。
本当はただ主人公がAI刹那とバトルするだけの話の予定だったんですが、どうしてこうなった。刹那ファンの皆さん、本当にごめんなさい・・・・・・。
ちなみにタイトル及び内容はドラマCD(公式)の台詞から抜粋。AIとは言え、グラハムさん、アンタやっぱ
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燃え上がれ、ガンダムゥゥゥゥ!
ヤマユウさん、評価ありがとうございます。
聖鳳学園ガンプラバトル部の部室。学園も部活も休みのはずのこの日、その場所には二人の男が睨み合っていた。
一人はユウキ・タツヤ。今日は三代目メイジン・カワグチとしてではなく、彼としてこの場に来ている。それは、とある約束を果たすためであった。
「待ちわびたぞ・・・・・・ガンダムと戦える、この時を!」
もう一人はエイカ・コウスケ。タツヤとバトルするためにここに居る、変態で変人なファイターだ。
「待たせてすまない・・・・・・さあ、始めようか。僕達の、バトルを」
そう言いながら、タツヤは筐体を起動しガンダムアメイジングエクシアを置く。この機体で、コウスケと戦うこと。一年以上前の、あの高台での約束だ。
「ああ。言葉は不要・・・・・・
闘志を燃やすコウスケの持つガンプラは、TGNフラッグ。GNフラッグを改造、発展させた機体で、右肩に疑似太陽炉を追加、ケーブルと出力調整可能なビームサーベルを右手にも装備し、遠距離武器を捨てた近接戦特化の機体。各部スラスターの見直しやGNコンデンサーの増設など、二つの太陽炉に耐えられるよう調整されたガンプラ。
機体名はダブルオーガンダムと同じく
《GUNPLA BATTLE CombatMode StandUP ModeDamageLevel Set To B》
筐体から粒子が溢れ出す。彼らが戦うためのジオラマを形作っていく。フィールドは砂漠、奇しくもあの日と同じ戦場だ。コウスケの口元に好戦的な笑みが宿り、タツヤが髪をかき上げる。
そうして、二人の戦いが始まった。
砂の舞う空を、飛んでいく。ああ、この感覚だ。どこまでも続くような蒼天を風を切って進んでいく心地よさ。だがそれに身を委ねているために私はここに来たのではない。
私は、戦うために来たのだ!
飛来するビームを回転しながら避ける。視線の先に、青と白のガンプラがいた。
アメイジングエクシア。ユウキ先輩の作ったガンダム。ああ、もう止まらない、止まれない。胸の中で抑えていた衝動が、熱が湧き出してくる。
「初めましてだな、ガンダム!」
左手のサーベルと右手のダガーを抜刀しながら突撃。エクシアはGNソードを剣に変形させ、左手にGNブレイドを持ちこちらの攻撃を受け止めた。
GNソードの刃がこちらのビームに食い込むが、それ以上の浸食は見られない。
『くっ、何故斬れない!?』
「その程度、対策済みだ!」
前回大会で粒子変容塗料やアブソーブシステムも普及したため、実体剣ならば必ずと言って良いほどその塗料が塗られるようになった。ならば、ビームサーベルを使うこの機体に対策を施すのは当然。
サーベルの出力を常に少しずつ変更し、粒子の波長を読まれないようにしているのだ。元々高出力で粒子濃度が濃いこのサーベルでなら、少し刃が通る程度で抑えられる。
サーベル越しに蹴りを入れて体勢を崩す。しかし流石はメイジン、一秒もせず持ち直した。
『ギミックは更に増えているということか!』
エクシアがソードで斬りかかってくる。それを迎撃しようとすると、突如エクシアが急旋回しフラッグの背後に回る。
「くぅ!」
背後モニターを出している暇はない。直感と愛の力に従い、エクシアを蹴って距離を離す。衝撃はやってこなかった。
『後ろを見ずに攻撃を躱すか!』
続けてエクシアがGNブレイドを投擲してくる。そちらはビームサーベルを間に合わせ、出力を上げて弾いた。
「ぐ、ぬぅ!」
『そこ!』
その隙にエクシアはソードを構え接近していた。左腕からはビームサーベルの刃を出現させている。かなり強引な動きをしているこちらに、迎撃する術はない。
『もらった!』
本来ならば。
「甘い!」
フラッグのボディが一瞬だけ赤熱し、残像を残して高速移動する。言わずもがな、トランザムだ。エクシアリペアⅣを作るに当たり、この『一瞬だけトランザム』を再現する必要があった。その技術をフラッグにも使ったのだ。その分ほぼ一からこの機体を作り直す羽目になったのだが、そこは愛でどうにでもなる。
『なるほど、一秒にも満たないトランザム・・・・・・だが、機体がどれだけ耐えられるかな!』
「耐えて見せるさ、私のフラッグなら!」
高速で動いたフラッグは強烈な蹴りをエクシアのシールドに入れ、吹き飛ばす。仰け反ったエクシアに更なる斬撃。GNソードを切り裂いた。
『くっ、相変わらず武器破壊が上手い・・・・・・』
「お褒めいただき光栄!」
反撃を封じるため胸部バルカンから煙幕弾を放ち、その場から離脱。一度距離を取る。
『だが、いつまでも同じ手が通用すると思うな!』
と、スモークを突き抜けてエクシアが真っ直ぐこちらに向かってきた。両手にはGNブレイドを携えている。
「なっ!?」
『私もガンプラを愛する者! ならば、私に心眼が使えてなんら疑問はない!』
! 確かに! 今まで愛の力で数々の戦いを乗り越えてきたが、私だけが使えるというのもおかしな話だ。何故今まで気付かなかったのか。
「だが敢えて言おう! それがどうした!」
振るわれる両刀に、こちらの二刀をぶつける。鍔迫り合い、スラスターを解放し推力を高める。
「うおおお!」
『オオオォ!』
互いの力が拮抗し、火花が飛び、スパークが散る。両者の顔が接吻するほど近づき、私の胸が高鳴る。
「抱きしめたいな、ガンダム!」
衝動に突き動かされるまま右手のダガーを手放し、崩れた拮抗につんのめるガンダムの顔に拳をぶつける。
『ぬぅう!』
仰け反ったガンダムだが、反撃として頭突きをしてきた。ガン、という鈍い音と共に視界が揺れる。
「ッ、ハァ!」
お返しにとその腹部に膝蹴りをし、反撃する暇を与えずもう片足で胸部を蹴りつける。そうして、彼我の距離は空いた。この間にケーブルを引いてダガーを回収する。
『このままでは・・・・・・』
「埒が開かん!」
ならば、考えることは同じだ。私はカーソルを移動させ、二つ目のスロットを選択し、宣言する。
『紅蓮を纏え、エクシア!』
「討たせてもらうぞ、ガンダム!」
「『トランザム!』」
ガンダムの純白な鎧が、フラッグの黒輝の軽装が、真紅に染め上がる。圧縮された粒子が溢れ、両者の間に満ちていく。
「オオオオ!」
『ハアァァ!』
互いに剣と剣をぶつけ合い、離れ、加速しまた剣戟を交える。牽制のバルカンをハリセン状にしたビームサーベルで防ぐ。出力を調整しワイヤーとしたサーベルを、剣で弾かれる。鍔迫り合いからの蹴りを躱され、タックルを受ける。
「らあああ!」
GNブレイドを叩っ切った。しかしすぐさまビームサーベルに持ち変えられる。相変わらずの武器の多さだ。
『ゥオオオ!』
右腕にサーベルを突き立てられる。爆発の前にダガーを逆手に持ち替え、ガンダムの左腕を道連れにした。
絡み合った腕が爆発し、離れた距離を即座に詰める。ただ一心不乱に剣を振るった。
「セアアアア!」
ガンダムの右目にサーベルを突き立てる。ミチミチと音を立て、ガンダムの首が飛んだ。
『ハアアア!』
返しの一閃でフラッグのイケメンフェイスが胴体とサヨナラする。たかがメインカメラをやられただけだ、と強がる。
「燃え上がれ、ガンダムゥゥゥゥ!」
『燃え上がれ、ガンプラァァァァ!』
フラッグのサーベルがガンダムの腹部に突き刺さり、ガンダムのサーベルがフラッグの胸部を貫いた。
直後、爆発が起き、紫煙が機体を包み込む。私達の
《Battle Ended》
収束していく粒子に合わせるように、力が抜ける。ユウキ先輩も同じく髪を下ろし、脱力した。
バトルの結果は、引き分け。敗北ではないことから、少しは前進していると考えていいものか。
「これで、約束は果たせた、かな」
「ええ、私が望む全力の戦いを、ありがとうございます」
互いに呼吸は荒く、服装も乱れている。しかし、それを整えることはせず、頬をつり上げた。
「ところでエイカ君、君もエクシアを作ったそうじゃないか」
「先輩も、新しい機体はストライクフリーダムベースだそうですね」
まだまだ時間はたっぷりとある。休日のこの場所に来る人物なんて、そうそういないだろう。
「さあ、楽しもうか。真剣に、心から!」
「言われるまでもない。私達のバトルは、これからだ!」
これにて番外編、終了となります。改めて、『抱きしめたいな、ガンプラ!』をお読みいただきありがとうございました。
書きたいものはもう書き尽くしたので、今後BFシリーズの続編が出ない限りは更新することはないと思います。続編、出るかなぁ。できればトライじゃなくて無印の続きがいいんですが・・・・・・。
ではまた。ご愛読ありがとうございました。
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登場人物&登場機体紹介
ネタバレが多分に含まれますので、本編及び番外編を読んでない方はご注意を。
エイカ・コウスケ
聖鳳学園高等部二年の模型部員。幼少期にガンダム00の登場人物『グラハム・エーカー』にドハマりし、彼の口調を真似ていた結果、今のしゃべり方になった。
ガンプラバトルは趣味程度だったが、ユウキ・タツヤやレイジのバトルに触発され、『隊長』と共にバトルの特訓を行い選手権予選に出場。二回戦でタツヤに当たり敗退する。が、タツヤが棄権したことに怒りを覚え、隊長の提案から別ブロックの予選に出場し、世界大会への切符を手に入れる。その際ミスター・ブシドーを真似て仮面を付け、『ハム仮面』を名乗る。これはメイジン・カワグチとして選手権に出場したタツヤへの意趣返しなのだが、バレバレだった(本人はバレないと思っていたらしい)。
その後世界大会を戦い抜くも、第八ピリオドまでの順位は17位。惜しくも本戦へは届かなかった。
そして粒子結晶体の破壊に協力し、イオリ・セイ&レイジ対ユウキ・タツヤのバトルを見届けた。
性格はかなりの自由人。自分の意思に従って行動し、良くも悪くも他人に左右されない。また我慢弱く、落ち着くことが苦手。加えて卑怯なことを見過ごせないなど、正義感は強い。約束は守り、義理を重んじるなど、『ブシドー』の精神を持っている。
しかし隙あらばグラハム・エーカーのセリフを使おうとするため、学園では変人として知られる。アメリカ人とのクォーターで、幼少期をアメリカで過ごしたため倫理観や価値観が他者とズレている(本人はさほど気にしていない)。
バトルにおいては近接戦闘を得意とし、機動性の高い機体を使って敵の攻撃を躱しながら接近、格闘戦に持ち込む。代わりに射撃や搦め手が苦手で、遠距離射撃の命中率は三割に満たない。また視覚、聴覚が他者より優れており、モニターに頼らず遠距離の敵を見つけ、姿が見えない機体であっても駆動音から位置を割り出すほど。元々良かった目と耳が、隊長との訓練を通してバトルに特化した結果である。加えて『愛』と称する第六感のようなナニカによって気配を掴んだり視認できない敵の状況を察するなど、かなりの変態。
使用機体
ユニオンフラッグ
初期に使っていたガンプラ。武装はリニアライフルと胸部バルカン、プラズマソード。素組みに塗装や墨入れをした程度で、完成度は高いとは言えず、バトルでも強い部類ではない。武器もほとんど手が加えられておらず、威力も低い。
後にシグレ・アサヒにバトルを教えるために二機目が作られた。
GNフラッグ
模型部で観賞用に作った機体を、上記のフラッグを使ってバトル用に作り直した機体。塗装だけでなく細部のディテールアップが行われており、疑似太陽炉の出力も相まって高い機動性を誇る。
主兵装であるGNビームサーベルにはケーブルで繋がった疑似太陽炉から供給されるGN粒子を活かした出力調整が可能となっており、ビームの強度、形状の変化が行える。これによりVガンダムのビームサーベルを真似てハリセン状にし弾幕を防いだり、鍔迫り合いで敵の武器を切断できるなど、創意工夫がなされている。またケーブルを活用し投擲、回収が可能。これは弱点を晒すどころか敵に投げつける戦法で、一歩間違えば致命傷になりかねない。
リニアライフルは資料のみ存在する『クロスファイア』を再現したものになっており、威力が向上した。ただしその分弾数は少なくなってしまっている。
ディフェンスロッドには粒子変容塗料が塗られ、角度を調節することでビームを弾き返すことが可能。しかしその分扱いが難しくなってしまっている。
胸部バルカンは牽制用と割り切り、煙幕弾や閃光弾といった特殊な弾が使用できる。
また腰部には『ビームが通じない相手』を想定してヒートダガーがマウントされているが、作中ではほとんど使われなかった。
カスタムフラッグ
選手権第七ピリオドにて使用されたガンプラ。レース用ということで最低限の武装しか携帯しておらず、リニアライフルとソニックブレイド/プラズマソードのみ。装甲もギリギリまで削られており、一発の被弾でも致命傷になり得る。
またコウスケの製作技術向上により人型形態からの再変形が可能となった。
サキガケ(アヘッド)
世界大会用に作られたガンプラ。武装に目立った変更はなく、右肩にワイヤーフックが追加されたのみである。これはビームサーベルが内蔵されているため、GNフラッグのサーベルのように『回収可能な投擲武器』としても使用可能。
彼が使う機体としては珍しく盾も持っており、他の機体と比べて装甲も厚く、バランスのとれたガンプラに仕上がっている。
マスラオ
こちらも世界大会用に作られた。武器は基本そのままで、スサノオを作る上での試験機という側面が強い。
トランザムは可能だが、圧縮された粒子に機体が耐えられないため制限時間が短く、疑似太陽炉も壊れてしまうため使われることはなかった。
スサノオ
サキガケ、マスラオの戦闘経験を元に作られたガンプラ。ディテールアップはもちろんのこと、GNクローをアンカーフックに変更するなど、彼に合わせた改造が施されている。
実体剣『シラヌイ』『ウンリュウ』には粒子変容塗料が使われており、ビームを斬ることは難しいものの剣の腹で弾くことが可能。
また目玉武器であった『トライパニッシャー』はオミットされた。これはコウスケが射撃を苦手としていたことと、使用する粒子量が多すぎたことが要因として挙げられる。
トランザムの使用時間も延長が図られ、機体の強度が上がっている他、内部にGNコンデンサーを複数搭載している。
GNブレイヴ
選手権終了後に作られたブレイヴ指揮官用試験機を改造したガンプラ。アサヒのGNアーチャーとの合体を前提に作られ、アリオスガンダムのパーツが使われている。
武装はリニアライフルに胸部バルカンと、腕部のGNグレネードに脚部GNミサイルとかなり多い。また合体用にバックパックが作成され、機動力向上とGNミサイルの追加がなされている。
ガンダムエクシアリペアⅣ/グラハムガンダム
第八回選手権のために作られたガンプラ。一部ダブルオークアンタのパーツが使われているため、GNバトルブレイド及びGNバトルソードにはファンネルとしての機能が追加されている。
左腕部は内部にクリアパーツが使われ、斬撃時のみのトランザムも再現が可能。しかし強度が足りないため、五回ほどで壊れてしまう欠点を持つ。しかしこれにより圧縮された粒子を剣に乗せて『アブソーブフィールド』を破壊することが可能となっている。
また作中では使用されなかったが、右腕部のビームバルカンは改良されビームワイヤーが使える。これはGNフラッグから使ってきたワイヤー系武器の最終形態で、出力を調整することにより敵の武器を奪取することや、巻き付けて切断するなど、様々な用途を持つ。
シグレ・アサヒ
聖鳳学園高等部一年にして模型部所属。そこそこ裕福な家庭で育ったため人見知りが激しく、家以外では他者に毒舌を振るってしまっていた。
ガンプラに興味があったことと、一人で作業に没頭できることから模型部に入部。そこで自分の毒舌を気にしないコウスケと出会い、依存に近い感情を抱いていた。
初めはガンプラが壊れることを嫌いガンプラバトルをしていなかったが、コウスケの影響を受け彼に教えを請うた。そしてそれを建前に選手権にも付いていった(コウスケは気付いていなかったが)。
ガンプラの制作技術はかなり高く、最終的にはコウスケを上回るほど。
バトルにおいては射撃や遠距離攻撃を得意とする。が、ファンネルなどの武装を使う際には機体の操作がおざなりになってしまうことが多い。
コウスケに告白された際には自分の感情が恋心だとは思えず保留にしたが、後日返答し恋人同士となった。
またシグレ・マヒルという妹がいる。
使用機体
ガンダムナドレ
バトル用ではなく、あくまで模型部として作成したガンプラ。
しかし塗装や合わせ目消しなど、ガンプラとしての完成度はそこそこ高く、バトルでも戦えないことはない。コウスケとのバトルの練習に使われていた。
GNアーチャー
選手権の前夜祭に作成されたバトル用の機体。コウスケのブレイヴとの合体を前提に作られており、シルエットが流線型にリデザインされた他、変形機構の見直し、ピンクだった部分のカラーが青に変更されている。
バトルでは遠距離戦を想定されており、二丁のGNライフル、GNミサイル、そしてスローネツヴァイのものを改造したGNファングを有する。ブレイヴとの合体時には操縦をコウスケに任せアサヒはファングの操作に集中できるため相性は良好。
またアリオスの太陽炉を移植しており、単独でのトランザム及びトランザムの中断が可能。これはブレイヴとの合体時にも適用されるため、あちらのトランザムを解除するために合体することもある。
隊長
バー『アフター
かなり謙虚で自分を過小評価しがち。あくまで自分はどこにでもいる存在だと自負している。
しかしお酒に弱く、酔った勢いで失敗することもしばしば。というかそれが理由で左遷された経験もある。仕事はデキる方なので再度出世し直しているが。
作中では偶然見かけたコウスケを弟子にとりバトルを教えた。使った機体はザクばかりであり、彼のこだわりが見え隠れする。
使用機体
ザクⅡ
機体各部にバトルで負った傷痕があり、その量はダメージモデルかと見間違うほど。しかしそれだけの傷を受けながら大破していないことから、隊長の実力がうかがえる。
武器はザクバズーカを三つ合体させた三連バズーカを巨大なヒートホークのみ。単純な武装だが、それだけで十分という位に完成されている。また素手でガンプラの首を捥ぎ取り腕や足を握りつぶす、単純な機動力でトランザム機体に追いつくなど、まさに規格外。
レオス・カラックス
ガンプラバトル選手権世界大会に出場したファイター。熱血漢で間違ったことは許せない、いわゆる主人公気質。作中ではコウスケと第三にピリオドでぶつかり、接戦を繰り広げた。
その後もガンプラバトル関わり続け、AIを使ったバトルシステムのテスターに名乗り出る。隊長とも面識があり、『ブルー君』と呼ばれている。言わばコウスケの兄弟子(お互い気付いていないが)。
ちなみに既婚者で、セシアという妻がいるらしい。
使用機体
エクストリームガンダムtypeレオス
『ガンダムEXA』に登場する機体。既存のエクストリームガンダムを塗装、ディテールアップしたガンプラで、かなり汎用性が高く様々な局面で戦えるスペックを持つ。
またゼノン・フェース、アリオス・フェースなど追加装備によって複数の姿を持ち、格闘特化、射撃特化など場面に応じて戦うことを可能にしている。
ケルディムサーガのファイター
本名ライル・リターナー。ガンプラバトル選手権世界大会に出場したファイターの一人。かなりの常識人で軽い性格。大抵のことは謝られれば許すし失敗も気にしない。
アイルランド代表のファイターで、主に狙撃や射撃戦を得意としている。コウスケとは何かと因縁がある。
既婚者であり、また双子の兄がいるらしい。なんでも、『バトルを教えて貰った相手』で『事故で右目を怪我してバトルを引退した』のだとか。
使用機体
ケルディムガンダムサーガ
ガンダムOOV、OOIに登場する機体。『セブンガン』の開発コード再現し七つの銃を持つ。
カラーリングはデュナメスや元のケルディムに寄せてグリーンに変更されており、またGNコンデンサーの作り込みによってトランザムの中断も可能。
選手権では第一、第二ピリオドにてコウスケと交戦した。
ガンダムデュナメス
第七ピリオドのレースにてGNアームズを装備し登場。機動性と火力を両立した機体、なのだが、コウスケのカスタムフラッグにボロボロにされた。そのことについてはバトル後に謝罪されており、笑って許している。
ガンダムデュナメスリペアⅢ
デュナメスの改修機で、ガンダムヴァーチェの特性を引き継いだ機体。狙撃ではなく高火力による射撃を得意としており、GNフィールドの発生も可能。燃費は悪いが機体バランスが良く、二機のガンプラを相手にしてもある程度は粘ることができる。
機体カラーはやはりグリーンに変更されている。第六ピリオドにてコウスケのマスラオと共闘した。
はい、今度こそ完結です。ありがとうございました。
個人的にザクさんやEXA、ライルが好きだったので出したキャラ達でしたが・・・・・・うん、出番もっと作りたかったですね。
レオスに関してはダイバーズの二次創作で『GBNで再現された劇中キャラ達との戦いから学ぶ』みたいなのが書けそうですよね。誰か書いてくれませんかね(他力本願)。
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隊長のザク
完結した作品故にどれほどの方が見てくださるかはわかりませんが、ネタを思いついたので深夜テンションのまま執筆、投稿するに至りました。
タイトルからわかる通り、グラハム成分はちょっと少なめです。
彼、隊長は悩んでいた。毎日仕事をしながらガンプラバトルへと時間をつぎ込んできた彼だが、ここ最近身体が思うように動かない。肩は上がらなくなったし、階段の上り下りも辛い。何より、バトルの最中に指が震える。
(これは・・・・・・ボクも歳かな)
コウスケにバトルを教えてから、約七年。その間アフターファイブでバトルしたり、お酒で失敗して北海道に
バトルを始めて、大会を出禁になってから、それなりの年月が経っていたのだ。老いるのも当然と言えよう。
(なら・・・・・・ボクに出来ることをやっておかないと)
『自分の全てを弟子に教えよう』などという大それた考えではない。ただ、『自分にできる限り鍛えておこう』という、師としての義務感を果たすためだ。
そう決意した隊長は、まず会社に有休届を提出した。
飛来する巨大なヒートホークを躱し、右腕に構えたGNベイオネットを撃つ。しかし命中することはなく、ブーメランのように返ってきた背後からの斧を必死に避ける。
『甘いよ』
そして回避した先には、両拳を合わせて振り上げた隊長のザク
「ぐっ、ぬぅ!」
私は現在、隊長とバトル中だ。こちらが駆るのはガンダムエクシアリペアⅣ、通称グラハムガンダム。私の人生で一番の出来と言っても過言ではないこのガンプラだが、隊長のザクを前に防戦一方の状況にある。
「まだまだぁ!」
追ってくる斧をGNタチで斬り払い、ザクへ向けて再度突撃。迎撃として放たれる三連ザク・バズーカをタチとベイオネットの二刀で斬り裂いて突き進む。
「うおおおお!」
『ッ!』
間合いまで接近した私はGNタチを横薙ぎに振るうが、ザクは腰にマウントしていたもう一振りのヒートホークに持ち替えて受け止める。
そこへ更にベイオネットの剣撃を加え、左腕に粒子を纏わせる。
「チョリィッッス!」
気合いを入れた叫びと共に、一瞬のみのトランザム。それによって、斧を叩き斬った。が、攻撃の瞬間、ザクは高速で回避している。何故トランザムの攻撃を避けられるのだ!
しかし、この程度で一々憤っていては憤死してしまう。隊長のデタラメぶりは、今に始まったことではないのだ。先程も首を斬ったというのに頭と身体でそれぞれ動いて、しかも再び合体していたのだ。全く、どういう仕組みだ!
これで武器を一つ破壊したが、本体は無傷。いや、ダメージモデルのため実際には傷が付いているが、言葉の綾だ。それに、あのザクは素手でガンプラを千切れるほどにはパワーがある。何一つ安心出来る要素はない。
「飛べ、グラハム・ファング!」
シールドに懸架されているGNバトルブレイド、GNバトルソードを起動する。改造によってファンネルとしての機能を有するそれらを飛来する斧へ向けて放ち、私はザクへと向かっていった。
宇宙空間で繰り広げられる隊長とコウスケのバトルを見ながら、レオス・カラックスはため息をついた。
彼もまた隊長から呼び出しを受けた一人だ。まさか選手権で戦ったハム仮面が自分の弟弟子だと知った時には、かなり驚いた。
ここは競技用のバトル会場。だが今日は隊長が貸し切りにしていた。
「やっぱり、コウスケのバトルは凄いな・・・・・・」
その手の中にあるのは、エクストリームガンダムtypeレオス ヴァリアント・サーフェイスだ。派手な武器と見た目のそのガンプラはしかし、いくつもの傷が付いていた。先程までの隊長とのバトルによるもの。
ダメージレベルは最低値のE、だというのにこうもボロボロにされたのだから、やはり自分と隊長の実力差が激しいのだろう。
「だよね・・・・・・でも、大隊長の方が強いよ」
そう言うのは、レオスの隣に座る一人の少年だ。まだ中学生でありながら隊長の弟子としてここにいる彼の名前はキタミ・アガタだと聞いている。アッガイに強いこだわりを持ち、宇宙だろうと火星だろうと森林だろうと、アッガイを使って戦うファイターだ。隊長のことは、敬意を込めて『大隊長』と読んでいる。なんでも、姉と妹がいるらしい。
彼は耳当てをした顔をバトルシステムへと向けたまま、レオスと言葉を交わす。
「そうだね。けど、コウスケはバトルの中で成長──進化している」
視線の先では、エクシアが右腕のビーム・ワイヤーを使ってザクに取り付き、高速移動する機体から引き離されんとしていた。ザクのビームコーティングによって装甲へのダメージはほとんど無いが、距離を取らせないことには成功している。
「カラックスさんは、どっちが勝つと思う?」
まだ幼いアガタの、純粋な疑問。レオスはうーんと唸り、答えに窮する。
「多分、まだ隊長が勝つ、と思う」
「『まだ』?」
そう、『まだ』だ。選手権に出場したばかりの頃と比べて、コウスケは遙かに強くなっている。だが、積み重ねた年月は隊長も同じだ。
けれども、その伸びしろには確かな『差』があった。若いコウスケの方が成長スピードは早く、隊長に追いつかんとしているのだ。
故に、『まだ』隊長が勝つ。けれども、それはじきに逆転するものだ。もちろん、このままコウスケが成長──レオスの言い方で進化──するなら、の話だが。
フィールドでは、二つの色が交錯していた。隊長のザクの緑色と、エクシアの青。周囲に散らばる粒子の緑も相まって、その空間は戦場でありながら美しさがあった。
このバトルが終われば、次はアガタが戦う番だ。彼は二人のバトルを少しでも自分の糧にするべく、意識を筐体へと集中させた。
(相変わらず、凄い才能だな、コウスケ君は)
思いながら、隊長は巨大な斧を振るう。躱されるのは想定済みだ。そのまま斧を手放し擬似的なファンネル機構によって回転しながらエクシアへと迫る。
内部にサイコミュを搭載しているため、ある程度は軌道を操作できるのだ。それでも、ここまで扱えているのは隊長の投擲技術によるものだが。
『くっ、うおおおおお!』
エクシアがGNベイオネットをヒートホークにぶつけ、威力を相殺する。剣は砕けたが、斧は弾かれた。
その動きを視界に留めながら、ザクは高速でガンダムへ接近し、蹴りを入れる。
『ぐぅ!?』
咄嗟にGNタチで防いだが、今の攻撃で左腕にヒビが入ったのを隊長は見逃さない。
コウスケのエクシアリペアⅣの左腕は、一瞬のみのトランザムを再現するために内部にクリアパーツが使われている。そのため、他の部位と比べると耐久度が落ちるのだ。それでも世界で通じるレベルの硬さではあるのだが、隊長含む殿堂入りファイター相手では足りない。
「これでもう左手のトランザムは使えない」
『だが私はしつこく諦めも悪い、俗に言う嫌われるタイプだ!』
こちらの言葉を斬り捨て、エクシアが剣を振るう。既にGNバトルブレイドとGNバトルソードは破壊され、ベイオネットも二振り目だ。タチの刀身にも傷が付いている。
(ああ、懐かしいな)
拳を振るい、ベイオネットを砕く。GNタチによる追撃を弾の切れたバズーカを身代わりにし、爆風が更なるダメージを与える。
思い出す。今までのバトルを。
友人に誘われて何となくで始めたバトル。量産型の、ありふれたやられ役な姿が自分に似ている気がして手に取ったザクⅡ。その後、オカマなガンダム使いと戦ったり、上司のビグ・ザムと戦ったり、大会に出てラルや珍庵、イオリ・タケシと戦ったり。そして、弟子を取るまでになった。
彼は自分を凡庸だと称するが、それは事実だった。
他の殿堂入り組と比べれば戦いは派手じゃないし、殲滅力も劣っている。格下相手ならば圧倒できる機体スペックも、互角以上が相手になれば決め手に欠ける。
それでも、ただひたすらに、気の遠くなるほどにバトルを積み重ねたのが彼だ。
『ハアアアアアア!』
「フン!」
剣と斧が打ち合う。どちらも刃にヒビが入り、もう少しで壊れるような状態だ。
だがエクシアはGN粒子で強度を補い、ザクは経験から負担の少ない扱い方で斧を振るう。それによって保たれた拮抗だった。
(そろそろスラスターの燃料が切れる。けど)
ガキン、と斧を打ち付ける。破砕音が鳴り、GNタチが刀身半ばで砕けた。GN兵器はかなり精密な武器だ。粒子を扱う関係上、少し欠けただけでも出力が落ちる。長さが半分ほどまでになってしまった今では、もう
「これで勝負あったね」
確信を持って、隊長は告げた。
『これで勝負あったね』
隊長の言葉に、私は俯いた。
確かに、剣は全て破壊され、機体もかなりボロボロだ。まだ五体満足なのが奇跡的ですらある。
「だが、まだだ!」
私のエクシアに肉弾戦を行えるほどの性能はない。ならば、剣を作ればいいだけの話。もっと簡単な解決方法は、
「私自身が剣になることだ!!」
シールドを背中側に回し、太陽炉を連結させる。ダブルオークアンタのパーツを使ったこの機体には、そのギミックも搭載されている。
しかし、粒子を使った空間移動などは出来ない。そもそも、やるにしてもプラフスキー粒子の残量が足りない。
「故に、グランザム!」
ガンダムの白と青の身体が赤熱し、粒子が周囲に溢れ出す。だが、それだけでは終わらない。
「うおおおおおおおお!」
左腕を天高く掲げ、そこに粒子を圧縮する。膨大な粒子量に左腕が砕け散ったが、それでいい。
『これは・・・・・・粒子の剣?』
そう、剣だ。圧縮された粒子が左腕の破壊により解放され、巨大な剣として顕現している。
ガンプラバトルに『必殺技』のシステムは無いが、それが存在する世界線もあると愛で察知した私が編み出した技。言わば、コストパフォーマンスの悪いトランザムライザーソードだ。
そう、名付けるならば!
「必殺! グラハム・ソードッ!!」
叫びと共に、腕を振り下ろす。回避されれば粒子切れでこちらの負けだが、武器を失った時点でそれは決まったような物。ならば、賭に出る!
『くっ、視界が!』
幸運なことに、粒子の過剰放出によって視界を奪えているらしい。何という僥倖!
「オォォォォォオオオオ!」
粒子の剣が、直撃した。その奔流にザクは飲まれ、私にも姿が見えなくなる。
そして、粒子の切れたエクシアは機能を停止した。
《Battle Ended》
システム音声が流れ、コンソールに勝敗が示される。そこに記された内容は、
「なっ、私の負けだと!?」
「うん、そうみたいだね」
馬鹿な!? グラハム・ソードは当たったはず!?
「多分だけど、あの剣はビームじゃなくてGN粒子の塊だよね? だから、攻撃力が設定されてなかったんじゃないかな?」
「な、そんなことが・・・・・・」
私が愛で感じ取った限りでは、アレで必殺技になるはずだったのだが・・・・・・ええい、『必殺技』がシステムとして存在していないからこうなるのだ!
「ヤジマ少年! 今すぐ『必殺技』の実装を求める!」
「コウスケ、ここにヤジマ・ニルスはいないぞ」
レオスの言葉に私はぐぬぬと唸る。ええい、だからこちらが廃れてオンラインゲームが
「こうなっては仕方ない、今からアサヒと共にダイバーズの世界へ行くしか! 私に残された道はそれだけだ!」
「メタい! 発言がメタいぞコウスケ!」
私を止めようと必死になるレオスと、こちらを放置してバトルの準備を始めるアガタ少年、苦笑しながら筐体にザクを乗せる隊長。
我々が隊長を超える日は、もう少し先らしい。
エイカ・コウスケ
七年前から成長し、エクシアリペアⅣも必殺技(モドキ)を使えるまでに強化されている。
そして持ち前の愛も進化し、とうとう他作品の電波をキャッチするまでに至った。コイツはどこまで行くのか。
アサヒとは結婚しており、たまに聖オデッサ女子学園でギャン子達にバトルを教えたりもしている。夫婦仲は良好で、一年前に第一子が産まれた。
レオス・カラックス
こちらも成長し、エクストリームガンダムもヴァリアント・サーフェイスにまで強化された。
妻もガンプラバトルを始めたとかで、タッグバトル大会などにも出場している。
四つ子の娘達もガンプラを始めたようで、全員揃ってエクストリームガンダムを使っている。
キタミ・アガタ
今回初登場のアッガイ大好きファイター。『隊長のザクさん』に登場するアガ太が元ネタ。
アッガイに限らずベアッガイやプチッガイも好きで、姉や妹と一緒に作ったりしている。
隊長のことを『大隊長』と呼んで尊敬している。
隊長
老いを自覚して弟子達を鍛えることにした人。
戦い方は地味だし決め手が足りないしで自分のことを平凡な人間だと思っているが、実際はそんなことなかったりする。
一時期ザクの目を二つ以上にしたり首から下をZガンダムにしたりと迷走していたが、今はキチンと元のザクに戻している。
今回、書きたいものを書いたので、あんまり大衆受けしなそうだなーと思っていますが、まあ書いてて楽しかったので満足です。
気が向いたら『抱きしめたいな、GBNッ!』って題名でダイバーズの二次創作を書くかもしれませんが、暫くそんなこと無いと思います。
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敢えて言おう、ハム仮面であると!
前回、グラハム成分が少なくて不完全燃焼だったので再び投稿です。
三代目メイジン・カワグチ。ガンプラビルダーの中で、その名を知らぬ者はいないだろう。バトルにおいて圧倒的な腕前を持ち、ガンプラ製作技術もトップレベル。それだけでなく、ビルダー育成のため『アーティスティックガンプラコンテスト』を開催し、最近では新型プラフスキー粒子を用いたバトルシステムのテスターとして貢献していると聞く。
その男が、いま私の目の前にいた。場所はバー『やきんどうえ』、男勝りな女性がバトルで挑戦者相手に無双しているのを尻目に、私はグラスを傾ける彼の隣に座った。
「久しぶりですね、先輩」
「あぁ。確か、先月のトリプルバトル大会以来かな。エイカ君」
彼は素顔を隠していたサングラスを額に押し上げながら、こちらを振り返る。歳を重ね、大人びいた雰囲気となったユウキ・タツヤが、そこに居た。
「えぇ。そちらのアストレイを使っている女性も出場していましたね」
私はチラリとバトルシステムへと目を向ける。様々な武器を使いこなし、手数の多さで相手を攻める戦い方は、どこかユウキ先輩に似ていた。
ちなみに、『トリプルバトル大会』というのは先月行われた中規模大会で、3対3のチーム戦ルールが適用されていた。現在の中高生によるガンプラバトル選手権と同じルールで我々も遊んでみよう、と企画されたものだったらしい。
「あの大会は楽しかった。普段の一対一でのバトルとは違った面白さがある」
「私もタッグバトルは何度かしていますが、三人でのバトルは初めてでした」
私はレオスとアガタ少年との三人組で挑み、ベスト4という結果を残した。私はブレイヴ、アガタ少年は変わらずアッガイ、そしてレオスは何故かブルーディスティニー一号機だった。途中までは良かったんだが、準決勝でメイジンへのリベンジに燃えるレナート三兄弟に敗れてしまったのだ。途中で隊長のライバルだというガンダム使いと戦ったり、そこでレオスが惚れられたり、また黒いリックディアスの三連星と戦ったりと、楽しい大会だった記憶がある。
「というか、私はもう『先輩』ではないよ。高校だって中退してしまっているし」
「いえ、私にとって先輩は目標であり、尊敬すべき人ですから」
というか、『ユウキ先輩』以外にどう呼べばいいのかわからなくなってしまっている。大会中ならともかく、プライベートでまでメイジン、と呼ぶのは流石に抵抗があったため、七年間ずっとこの呼び方だ。
彼は「そう言って貰えるのは嬉しいよ」と微笑んで、グラスを傾けた。酔っている様子はない。恐らく、メイジンとしての激務の間の休憩中なのだろう。明日は近くのプラモ屋でイベントがあるのだから。
私も運営側として参加し、間違った武士道を振りかざす悪役『ハム仮面』としてイベントを盛り上げる予定だ。まさか父に渡されたブシドー衣装が役に立つ日が来るとは思わなかったぞ私も。
「それで、どうしてこの店に? 私とバトルしたいなら、明日のイベントの余興でもいいだろう?」
「いえ。道に迷って、気付いたらココに。」
私の答えに、ユウキ先輩は目を見開いた。どうやら、かなり驚いたらしい。それから喉を鳴らして笑った。これには乙女座の私も、センチメンタリズムな運命を感じざるを得ない。
「君らしいね、エイカ君。グラハム風に言うなら、『やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ』かな?」
「オイオイ、
バトルが一区切りついたのか、バーの店主である女性が先輩の席へ寄りかかる。その後ろには、敗北したのか項垂れているファイター達が数人。
ボサボサの茶髪を長めのポニーテールに纏めた彼女の悪態に、彼は一つ苦笑した。
「今のはガンダムのセリフの引用だよカイラ。
「あー、対話がどーだの、アタシにはちと難しい内容だったな。もっとこう、手に汗握る戦い! みたいな内容の方がアタシには合ってるね」
雑談しながら、彼女はカウンターの向こう側へと入り、こちらにお冷やを差し出す。私はそのまま注文を行い、会話に参加する。
「初めましてだな、レディ。私はエイカ・コウスケ、かつてこの男を超えようと愚行を繰り返した男だ」
ちなみに今でも愚行に当たるような事を繰り返しているが、そこは気にしない。せっかく劇場版でのグラハムのセリフが使える機会だったため、思わず言ってしまったのだ。
「タツヤから聞いてるぜ、あのゴリラの同級生なんだってな。
アタシはコシナ・カイラ。色々あったが、今はこの店の経営してるぜ」
カラッとした笑みでそう名乗ると、注文した飲み物が私の前に置かれた。ちなみにウーロン茶だ。私は下戸のため、酒は飲めない。
「つーかオマエ、酒なんて飲んで明日のイベント大丈夫か? 打ち合わせもメールでしかしてねぇのに」
「これかい? ただのウーロン茶だよ、雰囲気だけ楽しんでいるのさ」
何と、先輩もか! これには乙女座関係なくテンションが上がってしまうな! とはいえ、酒は飲めないため私もバーの雰囲気を楽しむだけだが。
「そう言えばメイジン、PGのエクシアを使ったとレナート兄弟から聞いたぞ。どうだ、私のフルスクラッチ
「生憎だが、あのバトルはシステムの試験の一環で、まだ通常のバトルではPGを使うことは出来ない。
が、その提案・・・・・・実にアメイジングだ! 後でニルス君に提案してみよう!」
バトルのこと、というのもあり、素の口調になってしまった私に、先輩はメイジンとして答える。わざわざサングラスを下ろして髪をかき上げてでの返答は尊敬に値する。
「1/60をフルスクラッチぃ・・・・・・? やっぱコイツ、マトモじゃねぇよ」
コシナ殿が何か言っているが、私は気にしない。七年の月日が経った今、私の図太さはガンダムグシオンの装甲並だ。使い方を間違えている気がするが、深く考えないッ!
「ヤジマ少年で思い出したが、今度私も新型粒子を使ったバトルのテスターをすることになった。恐らくだが、バトル出来る機会も増えるはずだ」
「ほう、君もか。確かに、エイカ君の反応速度は、現在のシステムでは対応できない領域まで到達しようとしている。そう考えると、適任なのかもしれん」
お褒めいただき光栄だが、それはメイジンも同じ事だ。普段ならば私の方が反応は早いが、彼やイオリ少年などにはアシムレイトがある。アレと直接戦ったことはないが、恐らく私は超えられるだろう。
というか、私が反応出来てもシステムの処理が追いつかず、機体が回避できない、なんてことはトップファイターではよくあることだ。だからこそ、新たなる粒子を使ったバトルシステムが求められているのだが。
「しかし、だからといって明日のバトル、手を抜くつもりはない。私は全力を望む」
今後バトルする機会が増えるからといって、一戦一戦を蔑ろにする理由はない。決してグラハムっぽいセリフを言いたくなっちゃったとかではない。
「勿論。私もエキシビジョンだからといって手加減してはメイジンの名折れだ」
「オイオイ、今からそんな盛り上がって大丈夫なのか? イベント明日の昼だぞ」
ぶっきらぼうな口調や粗暴そうな外見からは余り想像できないが、どうやら彼女はかなり常識人らしい。我々のやり取りに、呆れた様子で頬杖を突いていた。
そうして迎えたイベント当日。とあるホビーショップの一角で行われているのは、ガンプラバトル教室だ。
「さぁみんな、メイジンを大きな声で呼ぼう! せーのっ!」
「「「メイジーン!!」」」
進行役の背の高い女性、クラモチ・ヤナがかけ声をかけると、それに合わせて子供達がメイジンを呼ぶ。すると、ステージの中央にスポットライトが集まった。
そして、天井からワイヤーで釣られたメイジンが下りてくる。この演出の裏ではゴンダ・モンタやコシナ・カイラが色々と動かしている。
「燃え上がれ! 燃え上がれ! 燃え上がれ、ガンプラァァァア!」
バックにサンバっぽいBGMを響かせながら、メイジンがステージに降り立った。そしてキレッキレの動きで会場を沸かせる。
「というわけで皆! メイジン・カワグチのワンランク上を目指すワンポイントガンプラ講座だ!」
マイク片手に、メイジンは解説を始める。今回は武器として『カタナ』と『メガ粒子砲』を詳しく説明し、それらを活かした戦法を紹介していく。途中、テンションの上がったメイジンがそれぞれの武器について実体験を交えた長文での解説が入ったりしたが、そこはご愛敬だ。
そしてパーツを配布し実際にバトル、と。ここまでは順調に進んだ。
そろそろ、私の出番だ。
「ちょっと待ったァ!」
ステージの脇から飛び出し、私は言う。そしてステージへ上がると、メイジンを前に再び言った。
「かなり待った!」
「すまない、熱くなって長引いてしまった!」
先程『ちょっと』なんて言ったが、そんなことはない。講習の間、私は舞台袖でずっと待機していたのだ。予定ではもっと早くこのやり取りを行うはずだったのだが・・・・・・。
故に、アドリブを入れさせて貰った!
「その不審な格好に不審なマスク、さてはキサマ、『ハム仮面』だな! ガンプラ星人の仲間だという!」
「いかにも! 私こそ『ハム仮面』だ。あと不審を強調し過ぎだ!」
『ガンプラ星人』というのは、メイジンのイベントに時々登場する悪役だ。大体「メイジンを倒して、権威を失墜させてやる!」といった理由からバトルをふっかけてくる不審人物。ちなみに中身はコシナがやっているらしい。
「ガンプラ星人は貴殿を倒して評判を下げようとしているらしいが、私はそんなのどうでもいい! ただ純粋に戦いを望む!」
「待て、かなり台本と違うぞ!」
「聞く耳持たぬ!」
本来なら「ガンプラ星人では実力不足のようだからな、私が出てきたのさ!」というセリフだが、それは私のキャラに合わない。故に、アドリブを入れさせて貰った!
「だが私はメイジン、バトルの挑戦なら受けて立とう! 先程紹介した武器を装備した、アメイジングレッドウォーリアで!」
「私もカタナとメガ粒子砲を装備したフラッグで戦わせていただこう。先程の講習はしっかりと聞いていたからな!」
「殊勝なことだ!」
もうお互い、ほぼアドリブだ。だがどうにかバトルする流れに持ち込み、ステージ上に設置されたバトルシステムを挟んで向き合う。フィールドが形成され、モニターにその様子が投影される。
「いざ尋常に、勝負!」
それっぽいことを言いながら、私は筐体に機体をセットする。
今回使うガンプラはフラッグだが、以前までの私とはひと味違い、このガンプラは
夜を思わせる漆黒のボディに、機体全体に走るブルーメタリックのライン。スジボリを行って溝を作り、その箇所に塗料を流すことによって塗装した、名付けて『ナイトフラッグ』だ。当初は『栄華フラッグ』とでも名付けようとしたのだが、アサヒに「そのネーミングはあり得ないです・・・・・・」と言われたので変更した。
「ナイトフラッグ。ハム仮面、参る!」
宣言と共に、飛行状態のフラッグが射出される。本来リニアライフルが装備されている機首にはメガ粒子砲が取り付けられ、両腰には二振りのカタナがマウントされている。他にも色々仕込んであるが、あくまで今回はエキシビジョン。それらを使うことはない。
「とでも言うと思ったか! 最初から全直でいかせてもらう!」
フィールドは夜の峡谷、ナイトフラッグが戦うにはうってつけの戦場だ。追加バーニアを軌道し、夜空を駆ける。
「そこかッ!」
心眼と愛と直感でメイジンの場所を察知し、躊躇せずメガ粒子砲を放つ。距離は離れているが、これほど高火力の武器ならば遠距離でも十分な威力が見込める。
『相変わらずの第六感だ、ハム仮面!』
攻撃を回避した赤いガンプラが、砲撃を伝ってこちらに迫る。やはり居場所を悟られたか、慣れないことはするものではないな。
メイジンのガンプラは、パーフェクトガンダム三号機レッドウォーリアをベースにした、アメイジングレッドウォーリアだ。元々高スペックな機体を、どんな状況にも対応できるようチューンアップされ、様々な武器を使い分ける凄まじいガンプラ。
あちらはガトリングガンを構え、連射。私がそれを回避すると、躱した先にメガ粒子砲が放たれる。ガトリングで牽制し、メガ粒子砲のチャージ時間を稼いだのか!
「だが、その程度!」
空中で変形し、ブレーキをかける。慣性によって機体にGがかかるが、このフラッグはその程度では支障の出ないほどに強固だ。
『その動きは、前にも見た!』
変形直後の硬直を狙って、ビームライフルが放たれる。ガトリングと連結していたその武器は、こちらの動きを読んでいたのだろう。だが、あちらの手数の多さは重々承知している。
「ヌゥン!」
腰からカタナを抜刀し、向かってくるビームを弾き飛ばす。今回の講習で扱っていた品物のため粒子変容塗料は使われていないが、今の私ならこの程度のことはできる。
『まさか技術だけでビームを弾くとは・・・・・・面白い!』
「お褒めいただき光栄ッ!」
再び敷かれるガトリングの弾幕をメガ粒子砲で相殺しながら、カタナを振りかぶって接近する。あちらもまたカタナを抜き応戦、ガキンと金属音が響く。
『その光沢・・・・・・
「流石メイジン、一目で無抜くとは思わなかったぞ!」
以前から考えていた案だったが、ようやく私の製作技術が追いついたため実現出来た、『軽くて硬い装甲』だ。以前の紙装甲と比べれば、倍以上の強度を誇る。
「ハァッ!」
鍔迫り合いから押し切り、その胸元に一つ蹴りを入れる。その勢いのまま変形し、上空へと飛翔した。可動域の広いこのフラッグならではの動きだ。
『その姿勢から変形だと!? 楽しませてくれる!』
こちらを逃がすまいと、レッドウォーリアが追ってくる。さながら浜辺の逢い引き、さあ、捕まえて見せよ!
高速で移動するこちらに追従し、ガトリングやビームライフル、ランチャーを撃ってくるメイジン。だが、こちらも無策に逃げている訳ではない。
「ブレイヴでないのが残念だが、今ならこれも再現出来るッ!」
相手の位置を確認しながら、空中で強引に変形。慣性を殺し、振り向きざまにメガ粒子砲を放つ。飛びながらチャージしていたのだ。
劇場版00にて、本来三人以上で組むフォーメーションを、グラハム・エーカーは一人で行った。その攻撃パターンだ。七年前、大量のモック相手にコレが出来ていれば良かったのだが、私の製作技術が未熟だったため叶わなかった。だが、今なら出来る!
『クッ、オオオ!』
咄嗟に回避行動に出るレッドウォーリア。だが、チャージに使った時間は長く、その分射撃時間も比例している。回避に合わせて砲門を移動し、攻撃から逃すまいとする。
だが、流石はガンダム。私の攻撃を凌ぎきった。
『今度は、こちらの番だ!』
好機と見たのか、メイジンがカタナを抜きながらこちらに接近してくる。粒子を大量に使った今では変形は間に合わない、故に迎え撃つ!
『ハァッ!』
「なんのッ!」
互いに斬り結び、一度距離が離れる。その隙にこちらは粒子の切れたメガ粒子砲を投げ捨て二本目のカタナを、メイジンはバックパックに懸架されたガンブレイドを抜刀する。
再び近づき、刃と刃をぶつけ合う。武器を取り替える時間を与えないよう、連続して斬りかかるフラッグと、ガンブレイドでの射撃も交えながら迎撃するレッドウォーリア。戦いは拮抗している、かに見えた。
「チィッ、カタナの強度が・・・・・・」
元々、今回のようにイベントで配布するための武器だ。あまり耐久値は高くない。加えて、ビームを弾くなんて格好付けたためか、片方は刀身に亀裂が走っていた。
一応、消耗を抑えて使っていたのだが・・・・・・まだまだ私も未熟ということか。
「そろそろ決着を付けねばならぬようだ、メイジン・・・・・・!」
『そうだな・・・・・・イベントの尺的にも、いい加減カタを付けるッ!』
そう言い放ち、メイジンが攻勢に出た。バックパックにマウントされた銃器を惜しみなく使って射撃、こちらの動きを制限する。
いくら弾丸やビームを弾けるとはいえ、回避も難しいほどに撃たれてはジリ貧だ。つまり、この弾幕を突破し一撃を与える必要がある。
「ウオオオオオオオ!」
両手のカタナを振るい、ビームを叩っ斬って突き進む。実弾は無視だ、この装甲ならばダメージは軽い。
しかし圧倒的な弾幕によって、装甲が確実に削られている。長くは保たないだろう。
「ッ、捉えた!」
銃弾の嵐を突破した、と思い、カタナを横薙ぎに振るう。だが、メイジンもそれを見越していたのだろう。
『捉えたのは、こちらもだ!』
構えられていたのは、メガ粒子砲。この位置からでは回避は難しく、傷ついた刃では弾ききれない。
極大のビームが放たれ、私の視界は光に包まれた。
《Battle Ended》
それから、メイジンや手伝いの金髪、アラン・アダムスは子供達と一緒にガンプラを作り、バトルを教えている。私はそれを少し離れた場所から見ていた。
「若い世代、か・・・・・・」
フ、と一つ息を吐く。思えば、私は自分のバトルにばかり熱中していて、次の世代のことなど考えていなかったな。やはり、私は未熟だ。ユウキ先輩に追いつくのは、まだ先のことになりそうだ。
「混ざらないんですか、コウスケさん」
ふと、背後から声を掛けられる。驚きながら私が振り返ると、そこには私の妻、エイカ・アサヒがいた。
「来ていたのか、アサヒ・・・・・・」
「ええ。久しぶりに、先輩のダサい仮面でも見ようかと思いまして」
相変わらずの毒舌だが、口調は柔らかいものだ。恐らく、私が一人で黄昏れているのを見て、彼女なりに気遣ってくれたのだろう。その好意に、口元が緩むのを自覚する。
「あ、あのっ!」
一人の少年が、工具箱を持ってこちらを見ていた。彼は躊躇うように俯いた後、工具箱とペンをこちらに差し出す。
「ふ、ファンです! サインください!」
「「!?」」
揃って驚いてしまう私とアサヒ。サイン、か・・・・・・確かに、第七回大会ではハム仮面の名前で出場していたし、たまにこういったイベントにも出ているが、初めての経験だ。
「ふむ。私で良ければ、喜んでサインしよう」
「あ、ありがとうございます!」
ペンを受け取り、蓋部分に『Masked Ham』と書く。少年は顔を輝かせて喜んだ。
「あの、ガンプラ、見て貰えませんかっ? 僕、フラッグが好きで・・・・・・」
「ほう、君もフラッグファイターか!」
「コウスケさんの影響でフラッグを使い始めた人、結構いるらしいですよ。良かったじゃないですか」
そんなやり取りをしながら、私とアサヒもまたガンプラを教える側に回り、次の世代のビルダー達に技術を教えていく。この日のイベントは、大盛況で終わった。
エイカ・コウスケ
とうとうシステムも付いていけなくなった変態。アシムレイトは使えないが、逆にそれなしでそれだけの反応をするヤバい男。ガンプラの製作技術も上昇し、世界大会にも何度か出場している。が、相変わらず友人は少ない模様。
エイカ・アサヒ
久しぶりに登場した本作のヒロイン。現在は家事や育児もあってあまりガンプラに触れていないが、ガンプラのコンテストにちょくちょく参加していたりする。
ユウキ・タツヤ/メイジン・カワグチ
地方だろうと小規模だろうと全力でイベントを盛り上げる名人の鏡。新型粒子のテストに若人の育成、その他イベントに参加&その打ち合わせと忙しい日々を送っている。いつもお疲れ様です。
コシナ・カイラ
バーの店主にまでなったタツヤの旧知。コウスケのことはコスプレ好きのやべーヤツだと思っている。そして大体合っている。
クラモチ・ヤナ
ちょっとだけ登場。色々と大きい人。前から思ってるけど、歳いくつなんです?
コウスケのことはタツヤさんの後輩でバトルが強い人、くらいの認識。
ゴンダ・モンタ
名前だけ登場。タツヤへの尊敬心も相変わらず。コウスケとも長い付き合いで、たまに飲みに行ったりもする良い友人。
レオス・カラックス
同じく名前だけ登場。実は元ガンプラ塾生で、タツヤともバトルした経験があったりする(
キタミ・アガタ
彼も名前だけ登場。どこまでもアッガイを使う。多分そのうちアッガイ使いとして名前が通るようになると思う。
漫画に登場するカイラ、普通に可愛いと思うんですよ。何でピクシブとかのイラストが少ないんですかね? ヤナさんもですけど。
検索したら、ゴンダの方が圧倒的に多いとか・・・・・・アニメキャラとの格差なんですかね。
個人的には、もっとグラハムとかフラッグとかのイラストが増えて欲しいですが。
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エイカ・コウスケ。ガンプラバトルに心奪われた男だ!
時系列的には第九回ガンプラバトル選手権になります。グチャグチャで申し訳ない・・・・・・
割れんばかりの歓声が反響する中、私は照明に照らされた通路から足を踏み出す。それに合わせて、マイク越しにガンプラアイドル──確か、名前キララだったか──の声が響く。
『さぁ、第九回ガンプラバトル選手権、第1ピリオドもいよいよ大詰め! トリを飾るのは、奇しくも同じ日本代表、エイカ・コウスケ選手とサザキ・ススム選手!』
強まる観客の声に高揚感を覚えた私は、思わず観客席を見回した。以前、仮面を被ってこの場に居た時には見る余裕がなかったが、良い景色だ。
ふと、視界の端に紫髪のポニーテールがよぎった。そちらを向くと、やはりアサヒがそこにいた。声は聞こえないが、唇の動きでわかる。『頑張ってください』、か。私が微笑んで返すと、恥ずかしくなったのかそっぽを向かれてしまった。
そんなやり取りを終えた私がバトルシステムに向かうと、反対側からやって来た人物が、余裕たっぷりな態度で前髪を払う。
「まさか、同じ日本代表と当たることになるとはね。けど、この僕の敵じゃぁない!」
サザキ・ススム。私がフラッグを愛するように、ギャンを愛するファイター。
「まさか、キミとこうして相まみえることになろうとは・・・・・・乙女座の私には、センチメンタリズムを感じずにはいられない」
私の呟きに、怪訝な表情を作るサザキ少年。こちらのことはどうやら覚えていない様子だが、ならば思い出させるまで!
筐体にガンプラをセットする。システムの音声と共に展開されたスクリーンによって歓声が遠のき、戦場にふさわしい静寂が、私を包み込む。この感覚は、二年ぶりだ。
《Battle Start》
「エイカ・コウスケ。フラッグセブンソード、出撃する!」
宣言と同時に射出されたのは、漆黒の装甲を持つ私の新たなるガンプラ、フラッグセブンソード。両腰に一本ずつ長剣を携え、翼の根元には疑似太陽炉とケーブルで接続されたビームサーベルが懸架されている。セブンソードとある通り剣は七本あるが、残りは隠し球、ならぬ隠し刃だ。
エクシアリペアⅣと同じように疑似太陽炉を持ちながら、その数は両肩に二つ。その上で変形機構も備えた、私の渾身のガンプラ。GNフラッグも良いが、やはりフラッグと言えば可変機なのだ。
フィールドは晴天の空。遮蔽物のない平野だ。隠れる場所もないその空を、私のフラッグが風を切って飛んでいく。この感覚が、酷く懐かしいもののように感じる。
「ッ!」
表示されたアラートに従って回避軌道を取る。フラッグのすぐ隣を通り過ぎていくビームの先、その場所にいるのは──
「久しぶりだな、ギャン!」
サザキ少年の機体は、シンプルなギャンだ。一見塗装しただけにしか思えないが、私にはわかる。可動域を考えて調節された関節部や、細部まで洗練されたフォルム。旧いキットのギャンではない、ほぼフルスクラッチでギャンを作り直したのだろう。
更に、あの盾だ。表面の光の反射からして、粒子変容塗料を使っている。恐らくだが、ビーム兵器は効かないだろう。ナノラミネートアーマー並の防御力だ。
「なんという作り込み! だが、そう来なくては!」
ギャン目がけてフラッグを接近させる。遮蔽物のないフィールドで、逃げ回っても仕方ない。ならば、突撃あるのみ!
『ハッ、いい的だよ!』
ビームライフルから放たれる攻撃を回転しつつ避け、私は思考を巡らせる。
第1ピリオドの内容は『デュエル』。試合時間は五分と短く、機体を中破させる程のダメージを与えれば勝利となるルールだ。その上、フィールドも見晴らしが良いものとなる。つまり、短期決戦をしろというワケだ。『
『ちっ、ちょこまかとぉ!』
当たらない攻撃をしても無意味と思ったのか、それともエネルギーが切れたのか。恐らくは前者。ギャンはライフルを手放し、盾の裏側からビームサーベルを引き抜く。
「ならばこちらも応えよう、グラハムスペシャル!」
ギャンに接近しながら空中で変形。そのまま機首となっていたリニアライフルを連射した。
『なんのぉ!』
予想通りにそれを盾で受けるギャン。これはあくまで牽制だ、盾の強度を見るためでもあったが、正直硬すぎて程度がわからない。ならば、実際にぶつかって確かめるしかないな!
『うわっ!?』
リニアライフルは牽制用と割り切ったため大した威力も出ないが、囮にはなる。ライフル弾に紛れさせて、胸部からスモーク弾を放ったのだ。無論、相手の視界を防いだとしても私も見えなくなる上、煙幕が相手を隠すが──
「私には心眼がある!」
動揺と共に周囲を警戒する駆動音とこれまでのバトルの経験、そして愛によって位置を割り出し、左肩から引き抜いたビームサーベルを起動させ、白煙に突撃する。
「貰った!」
疑似太陽炉によって強化されたサーベルを、ギャン目がけて振り抜く。一撃でも当たれば、こちらの勝利だろう。
『甘ぁい!』
が、ギャンのかざした盾によって、刀が防がれる。サーベルを形成する粒子が攪乱され、威力が減衰していく。
「なんと!?」
このビームサーベルは、ガンダムスローネアインのものを改造した代物。刀身の形や強度を調節できるようにしている。更にGN粒子によってコーティングされている上、粒子変容塗料対策にビームの波長を常に変更し続けている。防がれるだけならまだしも、盾に傷すら付けられず、逆にこちらの威力を削ぐとは、予想外だ。
『僕の盾は、伊達じゃない!』
そのまま盾で押し返され、フラッグが体勢を崩したところに、ギャンのビームサーベルが振り上げられる。
『僕とこの盾を侮ったことを、後悔するといい!』
迫るビームの刃。それに対応するため、私は用意してきた秘策を使った。
「ぬぅん!」
サーベルの刀身を蹴るようにして右足を振り上げる。そして、つま先から飛び出した刃が、ビームサーベルを
『なぁっ!?』
これが私の隠し手の一つ、足部に仕込んだソニックブレイドだ。この武器はガンダムヴィダールやアストレイブルーフレームから着想を得たもので、粒子変容塗料と刃が振動する特性を組み合わせ、ビームを攪乱できる優れもの。その分使いどころが限定的だが、隠し武器としては申し分ない性能だ。
「間違いない・・・・・・その剣捌き、あの時の少年だ」
グラハム・エーカーのセリフを交えつつ、なんとか攻撃を凌いだ私はそのまま距離を取る。あちらはビームライフルを手放しているため、中距離には対応しづらいはずだ。拾おうとする隙など、見せてはくれないだろう。
だが、それはこちらも同じ。私の武器はどれも近距離武器で、リニアライフルは牽制にしかならない。こちらから動くには、機会を伺い、再び接近してしかけるしかない──
「だが私は我慢弱い男だ!」
機会を伺うなんて真似、ナンセンスだ。故に、こちらから切欠を作る。その手段も既に用意してある。
私は操縦桿のスロットを回し、ビームサーベルを選択。更にそこからカーソルを合わせる。
「ハァッ!」
腕を振るった瞬間、ビームの刃が鞭のようにしなり、地面を叩く。サーベルを固定化していた粒子を緩め、マスターガンダムやノーベルガンダムの使うビームリボンのようにしならせたのだ。
『くっ、さっきから妙な武器ばっかり・・・・・・!』
こちらが地面を削ったことで、ギャンに砂が飛ぶ。それが次の攻撃の起点だと察したのか、距離を取るギャン。だが、相手が引いた今が好機だ。
「押し切らせて貰う!」
『デュエル』のルールはシビアであり、決着が着かなかった場合どちらもポイントを得ることができない。故に、多少のリスクを冒してでも攻めに行く!
「討たせて貰うぞ、ギャン!」
スラスターを全開にし、突貫する。できることならばこのまま勝負を決めに行きたい、ならばやることは一つ。
「私自身が剣になることだ!」
フラッグを変形させ、機首であるリニアライフルの下部にビームサーベルを連結させる。そうすることで、フラッグは一つの剣となる。以前私が「オレ自身がファングになることだ!」という謎の電波を受信し、搭載した機能だが、これが中々馬鹿にならない。
簡単に言えば、飛行形態の推力を活かしての突進だ。距離が少ないが、勢いの乗った攻撃ならば盾ごと場外に出すことも出来るだろう。
『へん、苦し紛れの突進なんて、効かないよ!』
しかし、サザキ少年は受けに来なかった。最小限の動きでこちらの攻撃を躱し、逆にこちらに斬りかかるつもりのようだ。
『貰ったぁ!』
「ぬぅ、使わざるを得ないか!」
私はコンソールを操作し、更なるカードを切る。予選では使いたくなかったが、この大会において私はチャレンジャー。奥の手を温存できるという考えが甘かったのだ。
「行け、グラハムファング!」
振り抜かれるサーベルからフラッグを守るように、刃が滑り込んだ。両腰に装備していた長剣だ。だが外見は偽装、この剣はファンネルになっているのだ。
『くっ、防がれた!?』
驚愕の声をあげるサザキ少年。一瞬の交錯だったため、見切れなかったのだろう。しかし、無傷のフラッグとそれに追従する長剣にカラクリを理解したようだ。
『はぁん、ファンネルを使ったわけだね。けど二本だけなら、どうとでもなる!』
確かに、彼の言葉は正鵠を射ていた。二つのみのファンネルならば盾で防ぎながらでも対処できる。更に言えば、このファンネルはオート操作だ。私はアサヒのように器用ではないため、自力でコントロールするのは難しく、あくまで指向性を持たせる程度しかできない。
「だが、それだけのこと!」
やはり勢いの乗った攻撃は防ぎきれないらしい。でなければ、あのまま突進を盾で受け止めてサーベルを突き立てれば良かったのだ。
攻撃を捌ききれるか否かを理解しているサザキ少年自身も、かなり経験を積んできたのだろう。挑発的な口調ではあるが、その実かなりクレバーだと言える!
背中から追撃されるなり、ライフルを拾いに行かれると面倒なため、空中で回転を付けながら変形し、後ろ手にリニアライフルを放つ。
『チィッ!』
ライフルの場所まで動こうとしたサザキ少年だったが、弾丸を躱すために後退した。これで時間は稼げた。
「しかし、このままでは時間切れ・・・・・・」
タイマーを横目で見ると、残り時間は一分強。このまま引き分けに持ち込み、機体を温存して次回以降に賭けるのも手だが・・・・・・
「それは興が乗らん!」
第一、このように思考を巡らせながら立ち回るなど、私らしくもない!
「そう、私は純粋な戦いを望む! 強者との戦いを! トランザム!」
宣言と同時に、フラッグの身体が真紅に染まり、疑似太陽炉から過剰なまでの粒子が放出される。
そう、このフラッグセブンソードにはトランザムが搭載されているのだ。通称だけとは言え、
『この状況で!? む、ムチャクチャだ!』
「そんな道理、私の無理でこじ開ける!」
サザキ少年の驚愕した声にも構わず、フラッグを突っ込ませる。恐らく、ギャンと言えどもトランザムの速度には対応しきれるか怪しいだろう。故に、躊躇無く攻める!
「ハァッ!」
まず左手のビームサーベルで斬りかかる。が、盾に防がれる。そのままシールドを踏み台にギャンの後方に跳び振り向きざまにライフルを捨て、右肩からサーベルを抜刀しながら振り抜く。
『くっ、この程度ぉ!』
「身持ちが硬いな、ギャン!」
しかし、こちらも防がれる。しかし、こちらとて多少強引でなければ口説けないことは理解している。
「来い、グラハムファング!」
盾と剣とが拮抗する中、私の居た位置で待機していた二本の長剣が、ギャンの背中目がけて飛来する。
『この、舐めるなぁ!』
が、ギャンがスラスターを解放し、こちらを押し込み反動で引き剥がされる。
『これでも食らえ!』
ファンネルを回避しながら、ギャンが盾を回転させる。
そう、あの盾は強度も恐ろしいが、防具でありながらミサイルポッドでもあるのだ。
こちら目がけてやってくる弾幕は、トランザム中だとしても避けきれないだろう。いや、全てを回避し安全を確保した頃にはタイムアップだ。
「ならば、押し通る!」
両腕のサーベルをハリセン状に広げる。Vガンダムのサーベルを真似たそれで、ミサイルを防ぎながら前に出る。
「ヌ、オォォォォ!」
爆風に少なくないダメージを受けるが、まだ敗北するラインではない。そのまま突っ切り、サーベルを振りかぶる。
『無駄だよ、その距離じゃ届かない!』
しかし、彼我の差は歴然だった。互いの距離はそこそこ離れており、更にはギャンはライフルを拾っていた。自身のではなく、私のリニアライフルだ。投げ捨てたのを見逃さなかったらしい。
私のフラッグの紙装甲と、ミサイルで受けたダメージを加味すれば、二発も当てればこちらの敗北だろう。
「だが、私はしつこくて諦めも悪い、俗に言う嫌われるタイプだ!」
そう言いつつ、コンソールのボタンの一つを押す。それと同時に、リニアライフルが爆発した。
『なぁっ!?』
そう、万が一のための爆破装置を仕込んでおいたのだ。弾切れになっても最悪、投げつけて爆弾にすれば良いという父の発想だった。『ブシドー』を掲げる者がそんな考えで良いのかと思ったが、それに窮地を掬われた。
だが、その程度では決定打にはならない。タイマーは残り三秒、私は焦りながらもカーソルを合わせ、サーベルを振り下ろした。
「切り捨て、ゴメェェン!」
サーベルを包む粒子が形状を変化させ、その刀身を細く伸ばす。そしてそのまま、動けないでいるギャンの右肩を切り落とした。
ビームワイヤー。G-アルケーやモンテーロといった機体の使う武器だ。サーベルの刀身をそちらに切り替え、間合いを無理矢理伸ばしたのだ。片方はあの屈強な盾に防がれたが、もう片方で片腕を落とすことができた。
《Battle Ended》
『ここでタイムアップー! ですが、判定の結果、ギリギリ、本当にギリギリ、エイカ選手の勝利となりまーす!』
プラフスキー粒子が宙へと消えていき、静寂の消えた私の耳に入ってきたのは、そんなアナウンスだった。
「サザキ少年、良いバトルだった」
観客達の熱狂に包まれながら、私はサザキ少年に右手を差し出した。ギャンを回収した彼は、一度私の手を見ると、そのままフンッと視線を逸らした。
「・・・・・・キミ、名前は?」
突然の質問に、意図がわからず首を傾げると、彼は焦れたように顔を顰めた。
「この僕に勝ったんだ、名前ぐらいは聞いておいてあげようじゃないか!」
上から目線の態度だが、これが彼なりの歩み寄り方なのかもしれん。私は「フッ」と一つ微笑を作り、応えた。
「エイカ・コウスケ。ガンプラバトルに心奪われた男だ!」
私がそう名乗ると、サザキ少年は何故か引いた様子でスススッと後退した。
「なんだい、キミ・・・・・・? ま、まぁ良いさ」
気を取り直したように彼はこちらを向いて、言った。
「ではエイカ君。これで一勝一敗だ。・・・・・・次は負けない」
そしてこちらに背中を向けると、通路へと歩いて行く。どうやら、私のことを覚えていてくれたらしい。否、バトルを通じて思い出したのだろう。
「・・・・・・やはり、ガンプラバトルは素晴らしい」
思わず、私の笑みが濃くなる。こうして大会に出場できた幸運が、とても誇らしいことのように思えてくる。これからの対戦のことを思うと、胸焦がれる思いだった。
この感情を表す言葉を、私は持ち合わせていない。だが、敬愛する彼の言葉を用いるならば、そう──
「抱きしめたいな、ガンプラ!」
エイカ・コウスケ
第八回大会は中高生の部での参加、尚且つ予選敗退だったため出番がなかったが、大学生になり第九回大会への出場を果たす。
フラッグセブンソードは作者がやってたエロgげふんげふんエクシアのコードネームをフラッグに適用するという、グラハム・エーカー本人も喜びそうなコンセプトから作られた。
また、会場のステージから観客席にいたシグレ・アサヒを見つけ、更に唇まで読むというかなりヤバいことをやってのけている。これも愛の力である。
ちなみに、最後のセリフの後、いつまでもステージに居るため係員に邪魔に思われ、それを見ていたアサヒに小言を言われる。バトルの腕は上がったが、性格は相変わらずである。
サザキ・ススム
第十回大会にてベスト16だった、と描かれていたので、なら第九回大会にも出場していたのでは? という発想から今回の対戦相手になった。その結果、かなり美味しいところを持って行った。
ギャンギャギャンやギャンバルカンなど、様々なギャンを作った彼であるが、今回は第1ピリオドということもあってノーマルギャン。だがその作り込みはすさまじく、ほぼフルスクラッチである。作中で彼がどんな作り込みをしているのかは詳しく語られていないが、多分彼のギャン愛なら出来ると思う。
『抱きしめたいな、ガンプラ!』 これにて本当に完結になります。約一年間、ご愛読ありがとうございました。以下、長ったらしい後語りとなりますので、興味の無い方は読み飛ばしてくださいませ。
後語り
この小説はコロナウイルスの影響で暇を持て余した作者が、YouTubeでビルドファイターズが配信されていたのをきっかけに書き始めました。当初はグラハム狂いのオリキャラでバトルしたいな、となんとなく考えていたのですが、BF本編を見直す内に「あれ? ユウキ先輩の描写されてないバトル多くね? これ原作の流れを崩さずに行けるのでは?」と思い至り、結果アナザー物として仕上がりました。
まぁ、第8ピリオドでメイジン・カワグチとバトルしたのはオマーン代表のハリファ選手なので、そこから原作と乖離するんですが・・・・・・決勝トーナメントの第一試合のメイジンの相手は不明なので、本当はそこに入れたかったんですが、この主人公がベスト16になるのはどうなんだろ、強すぎじゃない? という思いから予選リーグでイオリ・セイ、レイジ組に追い抜かれる役回りに。ハリファ選手のファンの皆様(いるかどうかわかりませんが)申し訳ございませんでした。というか、それまで矛盾をなるべく無くした私を褒めて欲しい(強欲で貪欲な作者)。
そこから終盤と番外編は完全にオリジナル展開となったのですが、書いてる分にはとても楽しかったので満足しています。というか、ここまで沢山の方に見て貰えるとは思っていなかったんです。急にお気に入り登録者増えた時は何事かと思いましたが、どうやらランキングに入っていたらしいです。本当にありがとうございます。
本当はもっと書きたい内容があったんですが、作者のモチベーションが尽きたため断念します・・・・・・フェリーニとの
第九回大会を全部書くことも考えたんですが、作者のスペックでは登場人物全員を書き切れませんし、そもそも八つのピリオドの種目を考える知能もありません() 至らない私を許して欲しい・・・・・・
あと、出来ればグラハムの二次創作増えないかなー、なんて(チラッチラッ) 『グラハム』で検索して31件、『グラハム・エーカー』で12件は少ないと思うの。ほら、私に出来たんだし皆さんも出来るって(冗談です)
最後になりますが、改めて、この作品を読んでくださった皆様、及び原作に関わった全ての方々に深い感謝を。
この気持ち、まさしく
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