転生サーヴァント(?)の日常 (黒夢羊)
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第1話 目覚めよ、深き碧の君

どうも皆様、始めましての方は始めまして。
そうでない方はどうも、黒夢羊です。

今回Fateの二次創作を書こうと思った次第です。
まだまだ知識不足な為に博識な皆様から見たら少々おかしな点が多々出てくると思いますが、その時はこっそりとでも良いので教えてくださると嬉しいです。
……直せるかどうか分かりませんが。



では、本編へどうぞ。




 

キーンコーンカーンコーン……

 

 2年近くも聞き慣れた鐘の音が校内に響き、それを聞いた数学の教師の竹中先生が「今回はここまで」と言いながら教壇から降り教室を出ていく。

 

 先生の姿が見えなくなると同時に教室の中は騒がしくなり教室で友人と会話する人、飲み物を買いに行く人、読書を始める人や寝る人など多様だ。

 そんな穂群原学園2年B組のありふれた彼らの日常の光景の構成する部品の1つである私─月鳴(つきなり) 紗夜(さよ)は、次の授業に使う教科書等をせっせと机から取り出していた。

 

「おっ、もう次の授業の準備?いやー、紗也殿は真面目ですなぁ~」

 

 机の上に次の時間に使うものを置き終えた時に明らかにふざけていると分かる声色で私の友人の1人である浅霧(あさきり) (なぎさ)が私の右横から茶髪のポニーテールを揺らしながら近づいてきた。

「次の授業世界史Bだから」

「えーっと、世界史B……ってことは宮藤(みやふじ)?……萎えますな~」

 

 そう言いながら右手で頭を抑えながら舞台の俳優のようにオーバーな動作をする。それに対して、私は小さくため息を付きながら返答する……呆れたような口調になってしまったは何時もの事だ。

 

「気持ちは分かるけど、本人の前では控えなよ?」

「いや~無理だと思う!だって気持ち悪いんだもの、どうせなら宗一郎先生見たいなイケメンが良いの!」

 

 そう笑顔で自信満々に答える彼女に私は再度ため息を付いてしまう。ハッキリと物事を言える彼女を羨ましいとは思ったことはあるけど、なりたいとは思ったことは無い。

 そんなこんなで二人で話し込んでいると次の授業のチャイムが鳴り、それを聞いた渚は「うへー」と口に出しながら廊下側後ろから2番目の机へと戻っていった。

チャイムが鳴り終わる頃に少し細身で目に濃い隈を作っている宮藤先生が入ってくる。

 

「はい、欠席とかは……いませんね。じゃあこの前の続きから行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業中に本筋から脱線して狂気を感じるレベルで話続ける宮藤先生の声を聞き流しながらすぐ隣にある窓の外へ視線を向ける……外にいるのは2年生の男子だろうか、何処かで見かけた覚えのある赤髪の子と生徒会長の子がなにやら話しているようだ。

 

 ペン回しをしながらそれを眺めていると、どうやらいい加減痺れを切らした何人かのクラスメイトが先生に苦情を出し始めたみたいだ。

 語りだしたら止まらない先生も流石に数人からの苦情だと止まざるを得ないのか、渋々……本当に渋々としたように通常の授業へと戻っていった。

 

 

それも、もう見慣れた光景。

あと1年程しか続かない私にとっての大切でありふれた日常だった。

 

 

 

 

 

──少なくとも、あの時までは。

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の帰りのSHRで担任からまた近くで殺人事件が起きたとの話が上がり、それに対して早く帰宅することや夜間の行動を避ける等の注意を行う。

 ……まただ、何かが起こるでもなく毎日が平穏だったのに、突如ここ数日で殺人事件がよく起きている……そんなにこの街は治安が悪いわけではないので、ちょっと異常じゃないだろうか?

 こんな短期間で何回もそんなに事件が起こるとは考えられない。しかも、同じ街で。

 そんな事を考えているとSHRは終わり、クラスの皆がそれぞれの行動を取る。

 

 私も机の横に掛けてあった鞄を取り、渚と一緒に教室を出る。「周囲では逃走中の連続殺人犯がここら辺りに潜んでいる」とか「何かの呪い」など噂話が絶えない。

それを私と同じく聞いていた渚は何時もように明るく声を出す。

 

「殺人犯はともかくさー、呪いとかそんな事があるわけないよね」

「うーん、そうだね。まだ連続殺人犯とかの方が説明は付くと思う……それでも充分怖いけど」

 

 私も渚も話題が話題なので他の生徒よりも声を潜めて会話を行う。幾ら噂話が眉唾物だろうと、亡くなった人が居るのは確かなのだ。

 それを茶化すなんて人として間違っていることはしたくないし、渚はどうか分からないがそんな度胸も勿論ない。

 

 

 

 

 校門を出て少しすると渚とは帰り道が別れる。

 私とは違って、渚の家はすぐ近くなので大丈夫だと思う。互いに「また明日」と言ってそれぞれの帰路へと着く。

 ……先程、噂に上がっていた「何かの呪い」と言うワードが頭のなかで強く引っ掛かっている。

 普通であればあり得ないとか迷信だと、そういうのを信じる人以外は笑い飛ばすだろう。一般的に考えればそんなものは存在しない……架空のモノだと定義付けされている。

 

 そう、一般的に考えれば……だ。

生憎私はその『一般的』からはほんの少しだけはみ出てしまっている。

 

 私の家、月鳴家は神秘を起こす魔術を使うことの出来る魔術師の家系で、月鳴家の初代当主が海外の有名な魔術師の人に弟子入りして、魔術刻印と言うものを少しだけ分けてもらったらしい。

 それから代々月鳴家の人間は現代において架空の存在とされる魔術を使うことができ魔術師の家系となった……とは言ったものの、実はそこまで凄い訳じゃない。

 使える魔術とかもそこまで多いわけではなく、私は皆の中でも特に少ない。

 

 父さんとか姉さんは魔術回路多いのになんで私は……おっと、話が逸れた。

 

 

 

 

 まぁ、そう言うことで「何かの呪いと言うのはあながち間違いじゃないかもしれない……と、私は思っている。

これも噂話程度だから真実かは分からないけど、今回亡くなった人達は心臓をピンポイントで一突きされて殺されているのが多いらしい。

 

 綺麗に胸を貫くなんて呪いがあるかは知らないし、連続殺人犯の方が現実味があるのは事実だから、あくまでもこれは可能性の話。

 

 

 それよりも早く犯人が捕まることを祈っておこう。

夕暮れの中、私は自宅へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってしまった……ッ!」

 

 学校から歩を進めて商店街を抜けた所にある、2LDKで平屋建てである、一人暮らしをするには充分すぎる我が家のリビングで私は1人頭を抱えていた。

その原因は明日提出の終わらせておかなければならない課題を学校に忘れてしまったのだ。

 

「しかもよりによって科学基礎か……厳しいんだよなぁ菊地先生」

 

 このままだと減点は免れない……いや、通常の課題なら仕方ないかで終わらせるんだけど、今回のは先生が成績に結構関わると言っていたので確実に提出しなければヤバイ。

壁に掛けた時計を見ると時刻は7時過ぎ……まだ間に合うかな?外出は控えろとは言われてるけど禁止はされてないし、何より何かあっても一般人であれば対処はまだ出来るだろう。

 

 肌寒いので少し厚手の灰色のコートを羽織り、玄関を出る……前にお爺ちゃんから貰った御守りがポケットに入っていることを確認する。

お爺ちゃんが言うには『いざという時には持ち主の身代わりとなる魔術を掛けてある』らしく、こんな時間だし持っておくに越したことはないだろう。

 

 

 

 

 外に出ると冬の夜らしく肌寒く、吐息は白い。

辺りの住宅も明かりはついているが静かで、なんとなくその静寂が──寒さも合わさってなのかは分からないけど──何処か不気味に感じる。

私は何かから逃げるように小走りで学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……」

 

 明かりの付いていない暗闇に包まれ、月明かりが差し込む校舎、その2年C組の教室で私は自分の机から目当てのプリントを見つけてそう安堵して呟いた。

 

 何故か警備員の人はおらず、校舎の鍵もまだ開けっぱなしだったのが少し気になるけど、こうして問題なく入ることが出来たのだからラッキーだったと考えよう。

 だけど、自分の足音しかしない暗闇の校舎はそういうのにある程度の耐性がある自分でも怖く、さっさと帰ることにした。

 

 

 

 

 校舎から出て自宅に戻ろうと帰路に着いていると、聞きなれない音が聞こえてきた。

 

「ん……?何の音?」

 

 出る時はまだ7時過ぎだったが、学校から私の家まではそこそこの距離がある。だから今の時刻は大体7時半過ぎくらいではないのだろうか?

時計を確認すると7時47分……全然違った。

 少しだけ恥ずかしさで顔が赤くなるが、それよりもこの音の正体だ。何かを破壊……というか叩いている?ような音だけど、こんな夜に何をしているんだろうか。

 

 ……もしかして、殺人犯?

だとしたらかなりヤバイ状況なんじゃないだろうか。もしも本当に殺人犯ならどこかの民間へ侵入したか、誰かを追いかけている途中なのかもしれない。

 仮に殺人犯じゃないにしても不審者か何かの可能性だってある。携帯を握りしめながらその物音の方向へと向かった。

 

 

 

 

「けっ……突然襲い掛かって来たと思えば単なる雑魚か」

 

 私の視界に入り込んできたのは真紅に染まった槍を振るい、骨の標本みたいな化け物……そう、スケルトンのような奴を蹴散らす青いタイツ見たいな服を着た青髪の美青年だった。

スケルトンみたいな奴等がいる時点で、この場は危ない……だが、それ以上にその化け物をいとも容易く蹴散らしたあの男の人は一体?

 

 一先ずここから逃げよう……そう思い、後ろへ退こうとしたその時。

 

 

ザッ

 

 

 日常であれば聞き逃すであろう小さな足音。

だがこの状況ではやけに響いていた気がした……自分でも聞こえたこの音が相手に聞こえていない訳もなく。

 

「誰だッ!」

 

 そう言いながら思いっきり振り向く。

そうすると必然的に私と彼は目が合うわけで。

 

「……ん?なんだ、一般人か」

 

 一瞬だけ感じた恐ろしさは霧散して、急に普通の人のような雰囲気を感じ始めた青いタイツの人。

 しかし、私は先程の出来事を目撃している。だから目の前のこの人が一般人とは掛け離れた存在だというのは分かりきった事実だ。

 

 何も言わない私に対して青タイツの人は何か困ったように槍を持たない左手で頬を掻いた後に、ため息をついて口を開く。

 

「はぁ……なぁ、お嬢ちゃん」

「は、はい」

「アンタ……さっきの光景見たか?」

 

 何か返さなければ。

そう心では思うが、恐怖からか口が上手く動かず声を発することができない。

真冬なのに緊張し汗が垂れ、頬を伝う。

 そんな私を見て確信したのか青タイツの人は申し訳なさそうな顔をした後、槍を強く握りこう言い放った。

 

「沈黙は肯定だぜ、お嬢ちゃん……ま、見ちまったんなら申し訳ねぇが……」

 

 

 

 

 

 

「ここで死んでもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。私の体は本能か、硬直は解除されすぐに動き出した。

 後ろは見ることが出来ない、そして相手はさっき見たように人の形をした異常な存在だ。

 

(まさか、あれが例の殺人犯……?)

 

そんな考えが浮かぶが今はどうでも良い。

今は逃げることに専念すべきだ。

 

 

(Es ist gros,Es ist klein ── )

 

 

そう唱え、瞬間的に力を高める。

そして一気に飛び、青タイツから距離を離す。

幾つかの道を通り、曲がり、進む。

しかし、その道中で人に合うことはなかった。

 

 

 

 

 

(幾らなんでもおかしい……そもそもこれが、魔術かなんかの応用だったり──ッ!?)

 

 走りながら思考する私の前方に現れたのは距離を離した筈の青タイツ。

そしてその手に持った真紅の槍を真横に振るい、その刃先が私の体を切りさ────

 

「ひっ!……痛っ!」

 

──くことは無く、私が急ブレーキを掛けて尻餅を付いたお陰でそれは回避できた。

 しかし、青タイツと自分の距離は人一人分ちょっとあるかないか。以前自分が命の危機に瀕していることは変わりなかった。

 

 直ぐに逃げようとするが腰を抜かしているのか、立ち上がることが出来ない。そんな私に青タイツは呆れ半分驚き半分の表情で口を開いた。

 

「運が良いな、お嬢ちゃん……けど、生憎だがそれもここまでだ」

 

 青タイツが槍を構える。

それが示す事に私は恐怖で歯がガチガチと鳴り、心臓が早鐘のように音をたてているのが分かる。

 

「安心しな、苦しめはしねぇ……一瞬で終わらせてやるよ」

 

 青タイツはそう言い、槍の刃先が自分の胸元に目掛けて真っ直ぐに向かってくる。

 

 

 

 

 嫌だ、まだ死にたくない。

私にはまだやりたいことだって沢山あるんだ。

こんなところで死にたくない。

 

 

 

 

「私はまだ─生きたいっ!!」

 

 

 叫びながらも、来るだろう痛みに目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あれ?)

 

 

 

 

──痛みが来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 恐る恐る目を開けると、私の目に映ったのは巨大な人型の背中。

黒い体と髪、そして恐竜の様な太い尻尾。

所々にアクセントのように散りばめられた緑の瞳のような模様とライン。

 そして、先程の青タイツが放っていたモノが生易しく思えるほどの禍々しい雰囲気。

 

 一目で人では無いと分かる異形が私の前に背中を向けて立っていた。

 少し視線をズラすと異形の向こう側に槍を構える青タイツの姿があった。その耐性は私に止めを指す時とは違い脚を大地に確りと付け、腰を少し低く保つ、所謂戦闘体制のようなモノに変わっていた。

 

 

 一難去ってまた一難か──私のそんな思考を読み取ったのか異形が私の方に振り向く。

 背後からは分からなかったが、頭部は鬼のような角が横から1本ずつ生えていて、口は不快そうに歪んでいる……まるで私が邪魔者かのように。

 

 

 

「急に呼ばれてみれば……なんだ?この状況は」

 

 低く地の底から発せられるような、だけど何処か威厳を感じさせる声。

 その声には明らかに不服そうな色が混じっており、よく分からないけどそれが自分に向けられているような気がした。

 

「無視か……まぁ、良い」

 

 ガタガタと震える私を見かねたのか、佇んでいただけの異形が再度口を開く。

私を殺す気なのだろうか、そんなことを考え怯えていた私に掛けられた次の言葉は予想にもしないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は──。問おう、貴様が我のマスターか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただき有り難う御座います。

いつか書いてみたいと思っていたFateの二次創作なんですが、こう……色々と難しいですね。
私がまだまだ勉強不足なだけだと思うんですけどね。
もし、読んでいただける方が居るなら続きを書いて行きたいと思います。


では、また次のお話で。



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第2話 呼び顕れる無害

どうも皆様、黒夢羊です。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。
今回は主人公回です。

色々と読みにくいところはあると思いますがどうかご了承ください。


では、本編へどうぞ。






 

 

 

 唐突だが自己紹介をさせもらうよ。

僕の名前は藤原(ふじわら) 輝久(てるひさ)、何処にでもいる普通の高校2年の男子生徒だ。

 

 僕の今までの人生についてはまた述べる機会を用意するとして、一先ず今この状況に至るまでの解説をさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 僕は自称進学校と言われるまぁまぁの高校に入学し、まぁまぁの高校生活を過ごしてきた。そんな中である日を境にウチの生徒が次々に行方不明になる事件が起きた。

 次々……といってもその時は1ヶ月で2名。因みにどっちも僕と同じ学年の2年生だ。

 

 学校も流石に2人行方不明になったのにちょっと焦ったのか、部活等を出来る限り早めに切り上げて帰宅するように注意するなどの処置を行った。

 それで僕も用事を早めに切り上げて家に帰っていたんだ……僕の家は山を少し上った所にあって、夕方であっても背を伸ばした木々が日を隠して辺りは物語に魔女の森として出てきそうな位に不気味で暗い。

 

 

 高校生になってもその雰囲気にはまだ完全に慣れた訳ではなくて、特に先程のような話題が頭の中に残っている時に通るのはちょっと勇気が必要だったりする。

 まぁ、その後その道を通ったんだが……僕の意識はそこからいきなりテレビの電源が切れたように途絶えた。

 

 

 次に僕が目を覚ました時には海外の有名なよくわからん建築家やデザイナーが関わったような教会と図書館が合わさったかのような巨大な空間の中に佇んでいた。

そこに真っ白な修道服を着たシスターさんが現れて、俺にここの説明をしてくれた。

 どうやらここは他の世界に人を向かわせる中継地点の様な所らしく、自分が選んだ本の世界に向かうらしい。なお、本は表紙以外は全て真っ白で、どの世界かってのは説明されておらず、どれを選ぶかは本人の意思でどうぞ……と言うことになっている。

 

 そこで僕は本を選ぶと、シスターさんが現れて早速連れていってくれることに。

向こうでどんな姿で生まれるのか、能力なんかは全部ランダムで、その上でどんな生活をするかは自由とのことで、一応特典として何かしらの優遇措置はしてくれるらしい。また、一度そこでの人生が終わってもその世界の輪廻の輪に加わることも出来るし、他の世界にいくことも出来るようだ。

 

 

 

 

 その説明を終えると、シスターさんは指を鳴らす。

 

 すると段々と眠気が襲ってきて、そのまま目を閉じて僕はその世界に向かうことになったんだ。

 

 

 

 なったんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び目が覚めると、視界の先には前世……で合ってるのかはちょっと怪しいが、見たことのある真紅の槍を持った青い槍兵の姿が。

 

 

 

……え、えええええええええええ!?

 

 

 

 

 え、ここFateの世界なんです!?

いや、確かに色々とランダムだとはあのシスターさんも言ってたけどさ!

 いきなりクー・フーリンさんの目の前だとは思わないでしょ!!

 

 そうして自分が慌てて居ると、いきなり兄貴が後ろに飛び下がり、かなり警戒した感じの目付きをしながら体を低く屈め始めた。

 ……うん、やっぱりいきなり目の前に人が現れたらビックリするよな。僕も絶対する。

 

 

 自分が勝手に納得していると、自分の背後に人の気配がした。

 クー・フーリンさんはあんな感じだから話しかけても無意味だろうし、取り敢えず後ろの人に聞いてみるか……。

 そう思い降り代えると、そこには地べたに尻餅をついてガタガタと震えている薄い青色がかかった美少女が居た……うん、可愛い。

 思わずにやけてしまった。すると、その美少女の震え具合が更に増した……いかんいかん、今の自分完全に不審者じゃないか。

 

 と、取り敢えず、今の状況を聞くとしよう……。

 

 

 

 

「急に呼ばれてみれば……なんだ、この状況は?」

 

 ……ん?なんかちょっと僕の声怖くない?

しかも妙に威圧的になっちゃってるし。

 

 それにこの声どっかで聞き覚えがあるような?

 

 

 

 

 というか……あーほら、怖がってるよ。

そりゃそうだよね。いきなり見下ろされてニヤニヤした怖い声の人から威圧的に喋り掛けられたら余計怖くなっちゃうよね……。

 

 そんな自分の意思を無視して自分の口は勝手に開き、言葉を紡ぎ続ける。

 

「無視か……まぁ、良い」

 

 いや、だから……なんで勝手に喋ってるの僕!?

え、ちょっと口が無理矢理開かれて……って、また勝手に!!

 

 

 そうやって自分の意思は関係なく、無理矢理何かの力で開かれた口から飛び出たのは僕の予想外の言葉だった。

 

「我はアヴェンジャー。問おう、貴様が我のマスターか」

 

 

 

 

 

 ……え?僕、サーヴァントなんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

──はッ!?一瞬思考が止まってしまった。

え、僕がサーヴァント?マジで?え?うそん?

 

 目の前の少女の手を見ると確かに赤い三日月が3つ絡まったかのようなマスターである印……令呪が刻まれていた。

 

 

 自分の両腕を見てみると、そこには以前の自分の腕とは真反対な筋肉質の黒い腕に、手首辺りに緑色の目のようなモノが刻まれた少し薄めの灰色の籠手。

 

 ……これは、もしかして?

自分の顔に触れてみる。アヴィケブロンさんの様な仮面に口が付いており、横にはピンと小さいながらも天に伸びる2本の角。

そして顔の横から覗かせるフサフサとした籠手と同じ色の歌舞伎役者が付ける獅子の頭と同じような髪。

 

 

 自分の中で知りうる限りだと、この姿をしたキャラは一人しかいない。

Fateの世界とはまた別の世界──対戦格闘ゲームとして有名な『BLAZBLUE』……その作中に出てくるスサノオというキャラ。

 

 色々と説明を省くんだけど、作中での悪役である人が『スサノオユニット』って言うのに乗り移ったのがさっき言ったスサノオっていう存在。

 おそらく……本当におそらくだけど、自分はそのキャラになっているんだろう。

 

 

 そりゃあ声に聞き覚えがあるわけだよ。

スサノオは好きなキャラだったから、友達との対戦でも結構使っていたんだから。

因みにCVは三宅健太さん……他の作品で知ってるのだとジョ●ョの奇妙な冒険に出てくるモハメド・ア●ドゥルさんとかかな?

 

 まぁあの人とは似ても似つかないくらい威圧感あるんだけどねこの声。

 

 

 

 

 まぁ、それよりも……この状況をどうするか、だよね?

パターン的には2パターン思い付いているんだけど……1つ目は目の前のこの人がクー・フーリンのマスターで、何かしら合流をしようとした2人の間に僕が突如出現したパターン。

2つ目は何らかの事情で彼から狙われていたこの人が僕を召喚したってパターン。

 

 

 背後のクー・フーリンさんの態度から考えてみても、自分が彼に協力的な存在だとは思われてないのは明白だからこの2つのどっちかだと思うんだけど……。

 そんな風に考えていた僕の思考を塞いだのは、先程から震えて押し黙っていた目の前の美少女だった。

 

「だ、誰が分からないけどお願い!助けて!」

 

 ……うん、ならば2つ目のパターンかな。

正直、いきなりこっちに呼ばれたら戦闘ってのは無いでしょう……でも、やるしかない。

 振り替えると、律儀に待ってくれていた兄貴が臨戦体制のまま、僕に鋭い視線を向けていた。

 ……兄貴の性格を考えると、自分が殺られたら確実に次の標的は僕のマスター(多分)だ。

 

 

──なら、やるしかない。

 ぶっちゃけると物凄く怖い。

 

 一応此方もサーヴァント(?)とは言え、かたやケルト神話とアレスター神話に名を残し、高い白兵戦の技術とサーヴァント中でも最速とされる敏捷性を持つ『槍兵』のクラスでも選りすぐりとされる英雄と、先程召喚されたばかりな上に戦闘経験はおろか、自分の身体能力さえ把握できていないド素人。

 

 真っ向から戦えば勝敗は分かりきっているが、確かクー・フーリンさんは初見のサーヴァントとは偵察をメインに、必ず撤退することを命じられていた筈。

だから、自分が今彼に活路を見いだすならソコだろう……いや、そこしかないって方が正しいか。

 

 

 自分が見よう見まねで取った構えを見て、戦闘の意思があることを理解したのか、クー・フーリンさん……いや、ランサーさんが口を開いた。

 

「ほう……やる気か?お嬢ちゃんを助けるんじゃないのか」

 

え、えーと……なるべくそれっぽい口調で喋らないと……。

 

「我が契約者を連れ逃げ仰せた所で、貴様がそれを逃す道理はあるまい……ならばここで貴様を物言わぬ骸へと変えた方が良かろう」

 

 うん!なんかそれっぽいことを言えた気がする……なんかちょっと言い過ぎた気がスッゴいするけど。

するとランサーさんは構えを取りながらアッハッハと笑う。笑いすぎて若干目に涙が浮かんでいるのは気のせいだろうか?

 

「……何が可笑しい」

「いや、見た目のわりに確りと命令は守るんだな、アンタ」

 

 ……うん、多分本来のスサノオだったらしないと思う……いや絶対にしない。寧ろ掛けても良い。

だけど、まぁ何回も言うけどやるしかないんだ。次の僕にこの記憶があるのか分からないけど、ここで彼女を見殺しにしたら確実に後悔する。

 

「言いたいことはそれだけか?……ならば行くぞ!!」

 

 そう叫び、眼前の槍兵に向かって飛ぶ。

槍を構えるランサーさんの直前で止まり、右拳を放つ。それを右に体をそらして避けた相手に体を強引に回転させて避けた彼の横腹に向け、回し蹴りを入れようとする。

 

 それを槍で防いだランサーは後方に吹き飛んで行く。それを追撃するために地面を蹴り、接近する。

相手は槍を降り下ろし、迎撃してこようとするのでそれを左腕でガードしながらしゃがみ、足払いをかける。それを飛んで避けたランサー。

籠手で防いでいたランサーの真紅の槍を両腕で持ち、空中に浮かんでいる彼ごと振り回して叩きつける。

 

「うぉっ!っと……ッ!」

 

 地面に叩き付けられたのにも関わらず、その勢いを利用して立ち上がり体勢を立て直す。

相変わらず化け物だな……生き残ることに関してはトップクラスとか言われるだけある。

 

 

 …それよりも、自分が思ったよりも動けてる。

いや、僕が動けているというよりも何らかの補助システム的なのが僕の動作を理解して動かしてくれてる感じか?

これがシスターさんの言った特典なのかな……?もし補助システム的なのが特典だとしても、嬉しいのは嬉しいが、これ貰うくらいだったらもうちょっと平穏な生活をしたかった。

 

 

 

 

 さて、ここで少しスサノオの力について説明をさせて欲しい。

スサノオは体躯が大きいぶん技の小回りは効かないが、技のリーチは自体は長くダメージも高いものが多い上に種類も豊富なんだけど……それらの技がラウンド開始時はほぼ全てが使用できない。

 

 スサノオは通常の攻撃や投げ攻撃などを当てるか、または相手にガードさせることでそれぞれの技を解放するために必要なゲージへカーソルが移動する。

自分が解放したいカーソルへ移動させた後に特定の攻撃を加えるとその技が解放される……って仕組みだ。

 

 

 正直スッゴい面倒くさい仕様だと思う。

 まぁなんでこんな話をしたかというと、今回の自分もそういう縛り状態にあるんじゃないかなと思ったから。

だから試しにこの後解放してみようと思う。

もしあるんだとしたら、回し蹴りと掴み叩き落としの2回攻撃が当たってるから現在は『参式』の筈。

 

 

 

 僕がそんな事を考えていると今度は仕返しとばかりにランサーが此方に向かってきた。

 

 

──早い!

 

 

 体を守るためにガードを取ろうと思ったが、それよりも相手の方が一手早く、真紅の槍が左肩から胴体に掛けて斜めに切り裂く。

 

 まず前世で普通に生きていたら体験できないような痛みが全身に走り、その後切り裂かれた部位が激しい熱を持ち始める。

 続けざまにランサーの刺突が僕の胸部に向けて放たれ、貫く──

 

「ムンッ!」

「何っ!?」

 

 ──前に体が勝手に動き、左手でランサーの槍を掴み、自身の元へ引き寄せる。相手が此方に少しでも近づいたのを確認し、こちらからも大きく右足で踏み込み距離の縮まったランサーの腹へ拳を叩き込み、怯んだ所に槍を掴んでいた左手を離し、相手の横腹に拳を入れる……2発追加、これで何もなければ使えるはずだ。

 

「伍式!」

 

 相手の体に再び右の拳が決まり、僕の体が淡い光に包まれ『伍』と書かれた印が浮かぶ。

そして『伍式』を解放したことで使えるようになった技を発動する。

腰を低く屈め、その姿勢のまま前方のランサーへ向けて突進し、そのまま巻き込んで進む。

 

「ぬぅッ!?」

 

 槍を用いて突進を防ぐが、その勢いまでは殺すことができなかったようでそのまま後ろへ押されていく。そして、最初にいた地点から10m程進んだ所で体を捻り、槍を蹴り上げる。

槍が蹴り上げられたことで両腕が上がり、無防備になった胴体へタックルを決める。

 

 ランサーは後方へと吹き飛ぶが、猫のように数回の着地で衝撃を殺すと、何事もなかったかのように立ち上がった。

 

 

 うーん……全然ダメージが入っている気配がないし、こっちしかまともなダメージを受けてないみたいだし……やっぱりスゴいな。

まだまだ油断出来ない、元々解放されている壱式とさっき解放された伍式しか使える技がない。同じ攻撃をそう何度も相手が食らう訳がないしな……。

 

 

 

 

 すると、立ち上がり槍を構えていたランサーさん……いや、クー・フーリンさんが構えを解き、槍を方に乗せながら口を開いた。

 

「なぁ、アンタ」

「……なんだ」

 

……これはまさか。

 

「互いに初見ってことだしよ、ここらで手を引かねぇか?」

 

 来た……!

 意外と早く来たのには驚いたけど、ここはその提案に大賛成だ。なんせ、断ったら間違いなく宝具を撃たれるだろう……自分に心臓があるのかはちょっと怪しいけど。

これ人間の体じゃないし。

 

 けど、ここで喜んでその提案に乗ったら間違いなくこちらが不利だと思われるかもしれない。

そうなれば相手の考えが変わって、攻められるかもしれない……相手がこちらの実力を図りかねている状態だからこそこの提案が出た……と思う。

 

 

 少しだけ勿体ぶるようにその提案に乗る。

 

「フン……貴様の提案、気は進まんが乗ってやろう……我もこの世界をまだ楽しめておらんからな」

 

 あくまでも自分が負けそうだからって理由じゃないし、嘘はついてない。この世界を……っていうか冬木市だけど、見て回りたいのは本当だ。

それに他のサーヴァントや人をこの目で見たいってのもあるし。

 

 そんな自分の発言をどう思ったのかは分からないが、「そうかい……そんじゃあな」とクー・フーリンさんは消えていった。

 

 

 

 

 

 あー……緊張した。

この世界に来て早々にエンカウントするとか何事ですか……。確率的にどうなんだろうねこれ、ガチャ運とかは良くない方なんだけれども。

 

 その事は置いておくとして、取り敢えず……

 

 

 未だにへたり込んでいる自分のマスターであろう人物の元へと戻る。

近づくと未だに怯えているようで、その体は見て分かるほどに震えている。

 

 そりゃそうだ、殺されかけた上に目の前でいつ自分のところへ飛び火するか分からない化け物同士の戦いが繰り広げられてたんだから。

 

 

 

 

 僕は出来る限り優しい声を出しながら、その手マスターに向けてを伸ばす。

 

 

 

 

「……立てるか?我がマスターよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有り難う御座います

主人公の特典を少しここで説明しておきます。
・英霊スサノオとして転生
・戦闘時に本人が解除を望まない限り補助システム搭載。
・追加のスキル(技関連)

と、言う感じです。
あと、ヒロイン(仮)の紗夜さんは見た目は『Prototype』の玲瓏館さんを薄い青色の髪色にした感じです。


という訳でまた、次のお話で。


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第3話 善悪問わず

どうも皆様、黒夢羊です。

最近型月wikiを見て、それっぽい新しいスキルの名前とか考えてるんですが、全く思い付きません。
単独顕現とかも考えたんですけどあれ確かビーストのでしたし……。

そんなこんなで破壊神っぽいオリジナルのスキル名とか色々あったら教えて下さい……。


では、本編にどうぞ。






 

 

 規則正しく音を立てるのは、私の家のリビングの壁にてド真面目に時を刻み続けている掛け時計。

 そんな掛け時計が視界を持っていたら確実に見守っているであろうリビングには2つの人型が。

 

1つは私──月鳴 紗夜。

 

 

 そしてもう1つは……。

 

 

 

「あ、あの……これ、良かったどうぞ」

「ん……?これは感謝する、我がマスター」

 

 海外のアメコミに出てきそうな黒く染まった全身に緑のラインと目が所々に刻まれ、恐竜のような尻尾とモサッとした髪を持つ、見るからに悪役だと語るような姿。

 

 その人型は己をアヴェンジャーと名乗り、見た目に反して先程青タイツに殺されかけていた自分を助けてくれた命の恩人である。

 

 

 ただ、胡座をかいているだけなのに威圧感満載のアヴェンジャーには取り敢えずコップに市販のお茶を入れて出しておいた。

 すると、相手は自分に感謝の一言を述べてそのままコップの中身を飲み干す。

 

(……お茶、飲めるのね)

 

 いや、確かに自分に語りかける時には顔だと思う黒い面についた口が開いていたのを確認してはいるが、見た目が見た目だ。一見すると飲食をするようには思えないために、少し意外だった。

そうしてコップの中に入っていたお茶を全て飲み干した後に、まるで壊れ物を扱うかのように静かに私と彼の間に存在するテーブルに置く。

 

 暫くの間私達の間を沈黙が支配する。

 それに耐えきれなくなり、私は彼(?)に尋ねることにした。あなたは何者なのか。何故自分が襲われたのか。そして、自分の手の甲に現れたこの赤い痣のようなものはなんなのか。

 

 

 問われたアヴェンジャーは佇まいを直すと、静かに口を開き、私の疑問に答えた。

 

 

 

 

 

──聖杯戦争。

 

 願望器『聖杯』を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。

他の六組が排除された結果、最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる血で血を洗う血みどろの戦い。

 

 目の前の彼はそのサーヴァントであり、私がそのマスターで、私の右手の甲にある赤い痣のようなもの──令呪というらしい──がその証拠らしい。

そして、話した情報から私があの青タイツ……アヴェンジャーが言うにはランサーのサーヴァントに襲われたのは、聖杯戦争の小競り合いの一部を見られたからだと言う。

 聖杯戦争は一般人には秘匿にされるべきものであり、それを見てしまったものは軒並み排除されるらしい。

……良く生き残ったな私。アヴェンジャーが来なければ文字通り一巻の終わりだったと言うわけだ。

 

 私がアヴェンジャーに感謝を告げると、面のような顔についた碧の目は動くことは無く。

 

「気にすることはない、マスターが助けてと言ったのだから、助けるのがサーヴァントとしての当たり前の行動だ」

 

 との返事が返って来た。

「どういたしまして」とかくらい言えないのだろうか、このよく分からないアメコミ忍者みたいなサーヴァントは。

 

 

 

 

 ……私は『基本』争い事は好きじゃない。昔から普通の人とは違う力を使うことが出来たから、極力人を傷付けたり、ましてや殺すなんてことは避けて来た。

かといってこのままだと他のマスターやサーヴァントから何も出来ないまま殺されるかもしれない。

 

 なら、私はどうするべきなのだろうか。

私が今後について悩んでいると、暫く黙っていたアヴェンジャーか再び口を開いた。

 

「フン、そこまで闘争を拒むのであればこの戦いから足を洗うか?マスターよ」

 

 ……え?

アヴェンジャーが発したその言葉は、ついさっきまで私が考えていたものを根本から覆すものだった。

 

 彼曰く、聖杯戦争はあくまでサーヴァントが居ることで成立している部分があるらしく、サーヴァントを失ったマスターは事実上失格扱いとなり、マスター自身が望むのであれば聖杯戦争の監督役である聖堂教会が終戦まで身柄を保護してくれるらしい。

 

 それなら、私もそうしようかな……そう思った私の心を読んだかのようにアヴェンジャーが言葉を発する。

 

「ただし、マスターの身柄が保護されるのはあくまでも『終戦まで』だ……終戦を迎えたマスターは良い意味でも悪い意味でも自由の身、そこを狙う輩が居たとしても可笑しくはないだろう」

「つまりアヴェンジャーさんは聖杯戦争で勝ち残った他のマスターが私を殺しに来るかもしれないって言いたいの?」

「そう言うことだ」

 

 成る程、そう言われればそうだ。

 私だって願いを叶えるための不穏分子は方法は選ぶけど、出来る限り無くしたいと思うだろう。

それが人を殺すことにあまり抵抗感の無い人物が優勝者になればどうなるか……そりゃ少しでも反逆の可能性がある人物を願いが叶った後に殺すことがあるかもしれない。

 

 私自身の考えは纏まりかけている。

その前に自分のサーヴァントである目の前の彼に1つだけ聞いておきたいことがあった。

 

「アヴェンジャーさん、1つ良い?」

「……なんだ、マスターよ?」

 

 佇まいを直し、自分に問いかけた私に対して何を思ったのかは分からないが、彼自身も佇まいを直してこちらに対して答えを求める。

 

「マスターもそうだけど、サーヴァントも願いがあるから聖杯戦争での召喚に応じるって言ったよね?」

「そうだ、召喚は強制でなく任意。願望器に興味がなければ召喚には応じないし、逆に願望器と関係なく聖杯戦争に参加したいという意思があるのなら、聖杯に願う程の願いが無かったとしても召喚に応じる者もいる」

 

 アヴェンジャーは何処か得意気に答える。

そんな彼に反してこれからする質問をした後の事を考えて私は緊張で手に汗を握る。

 

「なら……アヴェンジャーさんの願いは何?」

「………………何?」

 

 ついさっきまで動いていた彼の口がピタッと止まり、数秒の沈黙の後にたった一言告げられた言葉にどんな気持ちが含まれているのかは、分からなかった。

その感情が驚きや呆れなのか、それとも怒りなのかは分からなかったが、私の質問が相手にとって投げ掛けられると予想していなかったものだと言うことだけは確かだった。

 

 それから暫くの間沈黙が部屋を支配し、私はその間首筋に死神の鎌の切っ先が当てられている気がして生きた心地がしなかった。

そしてどのくらい経ったかは時計を見なければ分からないほどの時間が経過したように感じた時、アヴェンジャーが溜め息を付きながら口を開いた。

 

「……我の願いはマスターにとって利益を呼ぶものでは無い、それでも聞くのか?」

「うん、自分のサーヴァントの願いくらいはマスターとして把握しておくべきだと思ったから」

 

 私のその言葉を聞いた彼が少し驚いたような感じがした。「クックックッ……」と肩を少し上下させながら小さく笑う。

 

「私、何か変なこと言った?」

「いや、気にすることはない。マスターはお人好しだな……と思っただけだ」

「……え、そうなの?」

 

 そう返すと、今度はやれやれと言わんばかりに肩を竦めながら呆れたようにアヴェンジャーは話し出す。

 

「ああ、基本的に叶えられる願いは1つ。マスターからしてみればサーヴァントの願いなぞどうでも良いと切り捨てる事だって出来るのだからな。それに比べて自分にとって利益にならない願いを持つと言う相手の願いをわざわざ聞く者がお人好しと言わずなんと言う?」

「う、うーん?……そう言われたらそうなのかも?」

 

 そう一息に語ったアヴェンジャーの意見に納得……はあんまり出来ないが、それでもそうなのかもしれないとは思う。

……っていうか、それよりもだ。

 

「そんな事よりアヴェンジャーさんの願いは結局なんなんですか?」

「あぁ……そうだったな、我の願いは1つ」

 

 そこで区切り、一息付くアヴェンジャー。

その動くことの無い緑の瞳には何処か決意の色が宿っている……ような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が願うのは──願望器、聖杯の破壊だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……」

 

 アヴェンジャーの願い。

 それを興味本意で聞いた私に、返って来た答えは先程私が彼の予想に反した回答をしたように、私の予想していたものとは全く異なるモノだった。

 

 そんな私の困惑を分かっていたと言わんばかりに彼は口を開き、私の口から溢れた呟き続く言葉を発する。

 

「マスターの反応は至極当然だ、願いを叶える装置を破壊することが願いだと言うのだからな」

「そ、そうだよね……一応どうしてか、聞いても良い?」

 

 その言葉にアヴェンジャーの雰囲気がガラリと変わり、最初にあった時のように禍々しくも何処か神々しい威厳のあるモノへとなる。

そしてそのまま顔を此方へ少し近づけ、ドスの聞いた声で問いかけてくる。

 

「……マスターよ、それを聞けば後戻りは出来ぬぞ?」

「ッ!……うん、それでも聞くよ」

 

 どうしてこの時ここまで念押しされたのに聞いたのかは今でも分からない。けど、これがなければ今の私や彼らの生活は無かったんじゃないかなって思う。

 

 私の答えを噛み締めるように「そうか……」と小さく呟いたアヴェンジャーは大きくため息をついた後、此方に視線を合わせて口を開いた。

 

「聖杯戦争の聖杯は汚染されている……まぁ正確には大聖杯が、だがな」

 

 その言葉から始まった彼の説明は聖杯戦争についてさっきまで素人同然だった私でも今の聖杯がどれだけ危険なのかが充分理解できるほどのモノだった。

 

 第三次聖杯戦争──今起きている第五次聖杯戦争から約70年以上前に起きた聖杯戦争。

その際に御三家と言われる三つの家の中の1つである、アインツベルンが必勝を期して「アヴェンジャー」のサーヴァントを召喚する。

しかしそのサーヴァントは早期に敗退してしまい、詳細は省くがこの「アヴェンジャー」のサーヴァントの影響で聖杯が「この世全ての悪」に汚染されてしまい、以降汚染された聖杯が「必ず悪意を持って願いを叶える」ようになってしまったらしい。

 

ん……?

 

「ねぇ、1つ聞いても良い?」

「なんだ、マスターよ?」

 

 首を傾げ、分かりやすく自分が疑問に思っていると此方に伝える私のサーヴァント。

そんな彼に向けてかなり引っ掛かった単語があったので質問してみる。

 

「貴方は『アヴェンジャー』さんだよね?」

「そうだ、我は『アヴェンジャー』のサーヴァントだが?」

「……ってことは、貴方が聖杯が汚染された原因ってこと?」

 

 私の質問に納得が言ったようで「あぁ、そう言うことか」言いながらと左の掌を握った右の拳でポン、と叩く……何処でそんなジェスチャーを覚えたんだろうか。

いや……それよりも彼曰く、「そのアヴェンジャーとはクラスは同じだけ」とのこと。

同じ名前のクラスでも、その中身は千差万別なので気を付けるように……と言われた。

 

 取り敢えず、1つ目の疑問は解決したので続いて2つ目の質問に移ることにする。

 

「じゃあ『悪意を持って願いを叶える』ってどう言うこと?」

「フム……例えばある男が『争いの無い平和な世界』を願ったとしよう、聖杯はそれを周囲の人間を皆殺しにして『争いの無い平和な世界』という願いを叶える──と言う訳だ」

「……嘘、でしょ?」

 

 もしそうだとしたら、どんな優しい願い事を願ったとしても帰ってくる答えは最悪の結果ということだ。

驚愕を隠せない私に対して彼は至って普通に現実を告げる。

 

「残念だが事実だ。一応上手く扱う方法もあるにはあるが、それが出来るのはそれこそ一部のサーヴァントや余程優秀な魔術師で無いと不可能だ」

「因みにアヴェンジャーさんは上手く扱うことは……」

「無理だ、そもそも上手く扱う事が出来れば破壊する。何て事は言わぬ」

 

 にべもなくそう言う彼に対して、私が返すことは無言の沈黙だった。

それに対して彼は何を言うことも無く、黙りこむ私に1つの答えを求めてきた。

 

「さて……引き返せぬとは言ったが、そろそろ答えを聞いておこう」

「……答え?」

「そうだ。マスターはこの聖杯戦争に参加するのか否か……それに答えてもらおう」

 

 聖杯戦争に参加すること、それはさっきの青タイツと合った時のように命の危機に出くわす事が多くなるということ、普通ならこの戦争から直ぐに身を引くべきだ。

でも、このまま放って置けば誰かが聖杯戦争に勝利して聖杯に願いを叶えてもらうだろう。もし本当にアヴェンジャーの言うとおり聖杯が汚染されているのなら、その先に待つのはどんな願いであったとしても誰かが不幸になる結末。

 

それなら……

 

 

 私はアヴェンジャーを強く見つめる。

自分のこの選択が強く、揺るがないと言うことを、何を考えてるかわからないサーヴァントに伝わるように。

 

「聖杯戦争は降りない」

 

 他の人から見れば馬鹿を通り越して愚かとしか言いようが無い選択だと思う。実際頭の何処かで「今すぐ撤回して参加を止めるべきだ」という声が聞こえる。

だけど、私は参加する。

 

 私が……いや、私達が勝てば聖杯を破壊して、傷付く人を出さなくて済むのだから。

もし仮に破壊できなくても、その性質を知っているのだから、それを上手く利用すれば良いだろう……具体的な方法はまだ思い浮かばないけど。

 

 

 それに、これはきっと運命だ。

私が乗り越えなきゃ行けないモノなんだと思う。

 

 私が参加を決めたことが意外だったのかアヴェンジャーが驚きの色を含めた声で喋る。

 

「驚いたな……てっきり参加しないものだと思っていたが」

「私もそう思うよ……でも、アヴェンジャーさんが言ったように知った以上は見過ごせないからね」

「良く言った、マスターよ」

 

 そんな私の言葉を聞いたアヴェンジャーは満足げに小さく頷くと、此方に手を差し出してきた。

なんの手か?と、問い掛けるのも無粋だろう。

私はその手を握り、彼もまた握り返してくる……あの常識外の戦闘を行った手から出るとは思えないような優しさで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして私達の聖杯戦争が静かに幕を開けた……これが後々にどう影響するのかを知らないままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。

書き始めた当初の予想よりも多くの方に読んでいただけているので感謝です。
作者は聖杯戦争にわかなので色々とおかしな点があると思いますが、どうかご了承ください。


それではまた、次のお話で。



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第4話 能面は契る

どうも皆様、黒夢羊です。

相変わらずぐだぐだ展開ですが、どのルートを主軸にするか未だに迷っています。
時期的には桜ルートが一番いいんでしょうけどね……。

皆さんは好きなヒロインとかルートはありますかね?私は……桜ルートが好きです。



では、本編へどうぞ。




 あの後兄貴ことクー・フーリンさんとの戦いを終えてマスターである月鳴さんのお家に来たんだけど……お、落ち着かねぇ…………ッ!!

 

 マスターである月鳴さんはぶっちゃけかなりの美人だ……いや、年齢的に美少女って言った方が良いのか。

でもこれでモブ的扱いになるって言うんだからこの世界の求める顔面偏差値のレベル高すぎだこの野郎。

 

 あ、お茶美味しいです。

 

 

 

 

──おっと、話が逸れた。

 僕としてはこの聖杯戦争に参加はしたい。

 どうせなら、セイバーやアーチャー達も受肉して共に過ごす小さくても平和な世界にしたい。

だけど、それと同時に問題になってくるのが目の前の僕のマスターこと月鳴さんだ。

 

 一応月鳴さんは魔術師の家系らしいんだけど、かなり一般人に近いみたいで、聖杯戦争のことも知らなかった。

本当にそんなことあるの?って話だけど、僕が生きるにはこの人が居ないと駄目なのだから深く追求しないでおこう。

 それで……だよ。月鳴さんは魔術師とは言え、一般人の生活をして来て、それに慣れている。なら、彼女が求める平穏な生活がある筈だ。

だから僕は一先ず教会に身柄を保護してもらう事の提案をした……勿論、その後にどうなるかは分からないっていう危険性が含まれてるよっていう自分なりの不安要素を教えておいた。

 

「アヴェンジャーさん、1つ良い?」

「……なんだ、マスターよ?」

 

 暫くの自分の中で考えていた彼女は顔をあげると、佇まいを直して真剣な眼差しで問いかけて来たので、それっぽい台詞で返す……この世界に来てまだそんなに経ってないのにこの口調に慣れかけている自分が怖いです。

 

 そんなことを考えていると、彼女が続きを話始めた。

 

「マスターもそうだけど、サーヴァントも願いがあるから聖杯戦争での召喚に応じるって言ったよね?」

 

 との質問なので、『召喚は強制ではなくて、何かしらの聖杯や聖杯戦争に対して望みがあったからこそ参加しているよ』という内容をそれっぽく答えた。

……と言っても殆どがwikiやら友人やらの受け売りなんだけどね。

 

 その回答に納得がいったのかは分からないが、月鳴さんは続いての質問を投げ掛けてきた。

 

「なら……アヴェンジャーさんの願いは何?」

 

 いや、正直こうなるのも仕方ないと思うんだ。というか寧ろ一言でも返せた僕を誉めて欲しい。

 

 僕としては理不尽な過程ではあるけど、自分が好きだった人物達がいる世界にやってこれたのだ。

当初はそれだけで満足だった……何より死んでも次の人生が保証されてるしね──まぁ、人じゃなき可能性も出てきてるからアレなんだけど。

 

 でも、そんなことを言うわけにはいかない。

 

 

 ……じゃあ改めて僕の願いはなんだろう?

それは最初にも言ったけど士郎君やセイバー達、サーヴァント──まぁ英雄王様はちょっと例外になりそうだけど──が平和に暮らせる日常だ。

なら、その為に何が邪魔だ?

 

 ……そう考えると、僕が彼女の問いに対して答えるモノは1つになった。

だけど、その前に彼女には確りと忠告する。

この答えは、どうなっても彼女にとって不利益になりそうだから。

余計なことを知ってしまったからbad end直行なんてことはざらにあるのがこの世界だ。

 

 結構圧を掛けて脅すように言ってみたんだけど、それでも音鳴さんは聞くようだ。

その理由が「自分のサーヴァントの願いくらいはマスターとして把握しておくべきだと思った」なんてのはちょっと笑ってしまった。

いやいや、物凄く良い人じゃないか?

だけど、そんな人だからこそ自分の答えを聞いてしまったらそれに頷くしかないのではないだろうか?

 

 

 笑いながら誤魔化せたら良いと思ったんだけど、そう上手くはいかなかった。

仕方なく諦めて自分の願いを言う

 

 

 

 

「我が願うのは──願望器、聖杯の破壊だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……」

 

 困惑した月鳴さんの声が返ってくる。

うん、そうだと思う。

基本は聖杯は願いを叶えるモノだと言うのにそれをぶっ壊すのが願いだっていうのだから。

 

 

 その事について説明をした。

聖杯があるサーヴァントのせいで歪められてしまっていること。

そして、歪められた聖杯が『悪意を持って願いを叶える』状態になってしまっている事を。

 

 同じアヴェンジャーだからと言って疑われたのはちょっと心外だったけど、まぁ仕方ない。真名は名乗って無いのだし、今はクラス名だけでしか判別できないからね。

だから今後もし聖杯戦争やサーヴァントと出会うことがあればクラス名が同じでも多種多様な人が居ると言うことを教えておいた。

 

 そして、聖杯について自分が知っている事──これもwikiとかの受け売りなんだけど──を話終えた後に改めて返答を求める。

 

 

 

 

 この聖杯戦争に参加するか否かを。

 

 もし参加しないのであれば、聖杯戦争中はきっと彼女は無事だろう……その後に守ることができないのは不安だけど仕方の無い事だと自分の良いように解釈しておく。

 

けど、彼女がとった選択は「参加する」

……正直参加するとは思っていなかった。

 

 

 でも、彼女がこの聖杯戦争に参加するなら僕のやることは決まった。聖杯戦争に勝って、聖杯を破壊する。

もし可能ならみんなの受肉を果たせるようにする……今思ったけどかなり矛盾してるなこれ。

 

 ……と、取り敢えず彼女にこれから宜しくという意味で手を差し出す。

そしたら彼女もそれに乗ってくれて、傷付けないように慎重にその手を握り軽くシェイクする。

 

 

 

 

 そんなこんなで僕の聖杯戦争は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その次の朝、霊体化した僕はマスターである月鳴さんが登校するのを見守る為に付いて行っている……いやー、こうやってふわふわ浮きながら移動できるのは変な感覚だね。

そんなことを考えていたら不意に頭の中にマスターの声が響く。

 

『そんな付いてこなくても良いのに……』

 

 いやいや、そうは行きませんよ。

何があるか分かんないだし、ヒロインの一人でもある遠阪 凛さんなんてアレですよ?夕方の校舎で士郎君にドンパチ始めるンですよ?

……いや、確かアレ人払いの結界とかしてたっけな?だとしてもドンパチするのはちょっとあれですけどね!!

 

と、そんなことを言うのもアレなのでそれっぽいことを言っておく。

 

『……はぁ、マスターよ。何も相手が自分達と同じ思考をしているという訳では無いのだ、日中に他の者もろとも巻き込んで殺そうとしてくる下衆だって居るかもしれんぞ?』

 

 僕のその言葉に納得がいったのか、彼女は辺りをキョロキョロと見渡し、少し怯えが入ったような表情で静かにうなずく。

するとその後に頭に再び念話が流れてくる。

 

『そっか。確かにそういう人がマスターになることだってあり得るよね……ごめん、アヴェンジャーさん』

『い、いいいやいや、理解したのなら良いのだ、うむ』

 

 女の子に謝られる経験なんて生まれてこの方殆んど無かった上にアニメキャラみたいに整ってる彼女から謝られて思わず吃ってしまった。

そんな自分の声を聞いて彼女はクスっと笑い、返答してきた。

 

『そんなに慌てなくても良いでしょ?それとも私からの謝罪は意外だった?』

 

 はい、意外でした。

こんな美少女(当社比)に謝罪されるのは当分の間慣れないと思いますはい。

 

 

 

 ──とまぁ、そんな事を話しているといつの間にか学校に到着していた。

ひとまず月鳴さんには何かあったら迷わず令呪を使って自分を呼ぶことを念押しに言って自分は別行動を行うことにした。

 

 スキルのお陰で結構自由行動が出来るっぽいので、学校をちょっと見学しようかな……あ、でも凛さんや慎二君に見つかる可能性があるのか。

兄貴が召喚されていて、かつ様子見を命じられてるってことは既に聖杯戦争開始から7日は経過していると考えれるよね?

 

 

 うーん、でも生士郎君とか見ておきたいしな……どうするか。

取り敢えずは一旦屋上とかに避難して、授業中とかに見ちゃおうかな、士郎君は確か窓枠の席だったと思うし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……──

 

 さてさて、チャイムが鳴ったって事は授業が始まったってことかな。

誰もいない屋上で寝転んでいた体を起こして、そのまま下へと降りていく、勿論霊体化したままでね?

 

 廊下には人の気配がせず、その代わりに側に取り付けられた壁とドアの奥から多数の人の気配がする。

うむうむ、やはり確りと授業を受けてるみたいだねー結構、結構……って、自分も年齢的に学生なんだけど。階段を降りて2年生の教室が有るところへたどり着く。

 

 えーと、士郎君はC組だったっけ?

2年C組の札が付けられた教室の前までやって来ると、後ろの扉から中を除いてみる。

 

 

 

 おー!いるいる!

あの赤い髪!溢れ出てる気がする主人公オーラ!生衛宮 士郎君です!!

暫くの間授業を受ける衛宮君を眺めていたら、同じ教室に見慣れた青い髪のワカメこと間桐 慎二君が居るのを発見した……そう言えば慎二君もC組だっけ。

 

 まぁ、生士郎君をじっくりみることが出来たのでそろそろ退散しますかね、下手に動いて凛さんとかに見つかっても今はあまりよろしくないと思うし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその日の夜。

僕は夜の校舎へとやって来ていた。

 

 何故かって?もしかしたらアーチャーとランサーの戦いが見れるかも知れないからですよ!

流石に屋上に居るとバレちゃうので校舎の反対に位置している建物の屋根から眺めることにする。

 

 暫くすると屋上へ学生服の上から赤いコートを着たヒロインの一人である凛さんがやって来ました。

ここからじゃ聞こえないけど、多分原作やアニメ通りの台詞を喋ってるんだろう……。

そんなこんなで結界(?)を調べていた凛さんとアーチャーさんに本筋通りクー・フーリンの兄貴が襲いかかっていた。

そこから校庭でアーチャーと兄貴の戦いが繰り広げられる。

 

切り付け、それを防ぎ、返す。

 

 

 その繰り返しだというのに、1つの失敗が自らの消滅に繋がるというのに、そこで繰り広げられる光景の迫力は言葉に表す事が出来ず、ただ黙って見ていることしか僕にはできなかった。

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。

さて、ひとまず現時点での主人公のステータスで御座います。
主人公の真名はスサノオです。この世界のスサノオと呼ばれるものではないのは勿論ですが、「スサノオ」という名は広く知れ渡っていると勝手に解釈したので本作品ではかなり強くしてます。
まぁ、タグにチートって付けてますから今さらですけどね……。


真名:スサノオ(■■ ■■)
クラス:アヴェンジャー

筋力:A++ 耐久:A++
俊敏:A++ 魔力:B+
幸運:B  宝具:EX

クラス別能力
復讐者:B
忘却補正:B
自己回復(魔力):A

保有スキル
戦闘続行:A

解随願望:A
自我を手に入れ、■■■■■ユニットからの干渉を嫌い自由を望んだ本来の精神のあり方がスキルになったもの。
この肉体の持ち主が望むのであれば単独行動や単独顕現同様の効果を持ち、持ち主が望んだ『自由』を阻むモノに対して異様なまでの破壊の力を得る。

フォースイーター:B
他者の魔力を奪い、己の物とするスサノオの本来の性格が持つ残虐性がスキルになったもの。
自分以外の存在に自身の肉体および自身が発動または生成した魔術等で攻撃し、命中した(もしくは防御された)場合に対象の魔力を吸い取り、自身の体内に貯蓄する。
また供給を得た際の余剰魔力も貯蓄することが出来るため、マスターが存在せずとも魔力の貯蓄量によっては幾らでも生存することが可能。

ウロボロス:B
この世界ではない場所から小さな空間を介して呼び出される蛇の頭を模した刃を持つ鎖。
他者の精神に直接干渉して傷付ける事ができ、幾ら強靭な肉体を持っている相手であっても何れは倒す事ができる。また、ランクによって同時に出現させることのできる数が変動し、ランクBは2つまで出現させることができる。

武神:EX
彼が自身に課した8つの枷。
条件を満たすことよってその枷は1つずつ解かれていき、その度に封印された技が解放され彼は本来の能力を取り戻していく。
全ての枷を解き放った時、ありとあらゆる理を破壊するかの如き力を得るが、1つ目の枷を解放してから24時間が経過するとその枷は元に戻り、再び彼を縛る。

■■■■:■■
不明。




それでは、また次のお話で。


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第5話 喰らい屠れよ

どうも皆様、黒夢羊です。

FGORTAとか読んでいると面白くて自分も書いてみたい……と思うんですが、あの口調がどうしても出来なさそうなので断念しました。

あと一応原作とか読んでるんですけどなんか登場人物の口調に納得がいかないので常にうんうんと唸ってます。


取り敢えず、本編へどうぞ。






 

 

 

「ハァ……」

 

 ため息を付きながら豪華かつ歴史を感じさせる洋風の建物から制服姿で出てきた少女─遠阪 凛。

 

 そんな彼女は全ての状況を整え、万全のセイバーを召喚しようとしていたのだが、彼女の家系に呪いと言っても過言ではない『何時もの大事なときにやらかしてしまう癖』が発動し、まさかの時間を間違えてサーヴァントを召喚してしまうという大ポカをやらかしてしまったのだ。

 

『学校へ行くのか?』

 

 落ち込む彼女の内心を知ってか知らずか声をかけるのは霊体化し、常人には姿が見えることはないクラス『アーチャー』として呼ばれたサーヴァント。

 

自身にかけられたアーチャーの言葉に凛は学校とは違う猫かぶりしていない口調で口で返す。

 

「えぇ、何か問題あるかしら?」

『問題はないが、学校という場は不意の襲撃に備えにくい場所だろう?』

 

 自身の返しに懸念に思う部分を答えたアーチャーに対し、凛は自分なりの答えを返す。

 

「マスター同士の戦いは人目を避けるものでしょ?それなら人目に付く学校に居れば、不意討ちされることはないと思うけど」

 

 一般的に考えれば大した問題の無い答えに、納得がいっていないのか分からないがアーチャーが口を開く。

 

『もしもの話だが、その安全な場所に敵が居たとしたら…どうする?』

「それは…ないわ、この街に魔術師の家系は遠阪とあと1つしかないの」

 

 歩を学校へと進めながら続きを彼女は話す。

 

「その1つっていう家系は落ちぶれているし、マスターにもなっていない」

 

 彼女の説明に一応の納得を示したのか、アーチャーは「フム」と言いながら彼女の言葉に続く。

 

『凛の行く学校にはもう一人魔術師が居るのだな……だが、マスターになれるほどの魔力は持ち合わせていない…と』

「そういうこと」

 

 自身の言ったことを理解しまとめた自分のサーヴァントに得意気に反応を返す凛。

しかし、そんな彼女を心配するようにアーチャーは君の知らない魔術師が居るかもしれないから警戒すべきだ、と注意する。

 

 そんな彼女達が学校に到着し、校門をくぐり校舎へと向かっていたその時だった。

 

「ッ!?」

 

 突如として言い表し難い気持ち悪さが彼女の体にまとわり付き、それを感じた彼女は思わずその場に立ち止まってしまう程のものであった。

頬に汗が流れ落ちて行くが、それが先程までの自身のサーヴァントが予想していた通りに事が運んでいる事への焦りか、それとも今自分が感じているこの気持ち悪さの正体を想像してのモノなのか。

 

それに……

 

(この魔力……結界だけじゃない?淀んだ魔力とはもうひとつ別の……比較にならないくらい禍々しい魔力を放つ何かが居る!)

 

 それは非常に微力で淀んだ空気の気持ち悪さの中に溶け込むようにして隠れてはいるが、この空気とは明らかに違う魔力があった。

術式や結界かは分からないが、この結界内で感じた別の魔力……と言うことは結論は1つになるだろう。

 

 静かく、そして小さく己のサーヴァントを呼ぶ彼女にアーチャーは互いが思っていることを口に出す。

 

「……アーチャー」

『ああ、恐らくこの結界を仕掛けた人物だろうな』

 

 実際のところはただ単に屋上で寝ている主人公なのだが、そんな事を知るわけがない凛とアーチャーは禍々しい魔力の持ち主がこの学校に居る人物のものだと言う間違ってはいないのだが、微妙に間違っている解釈をし、警戒度を強めた。

 

 

 

 何にせよ、彼女はその日の夜。

生徒は勿論、教職員すらもそれぞれの帰路へ着いたような時間に再び自分が通う学校へやって来ていた。

学校内にあるとされる術のポイントをくまなく探し、7つ目にして結界の起点を屋上で見つけ、その結界の正体について。

 そして、その結界の発動を妨害するために工作を行おうとしたその時だった。

 

彼女達に真紅の槍を持つランサーが襲いかかり、戦場を屋上から校庭に移しアーチャーとランサーの戦いが幕を開けた。

 

 

 互いに一歩も譲らない攻防。鍔迫り合いから互いに距離を置いたランサーはアーチャーだけに聞こえるように声を潜めて問いかける。

 

「オイ……てめぇ、気づいているか?」

「ああ、勿論だとも」

 

 ランサーの主語が抜けた問いに迷うことなくアーチャーは答える。

アーチャーのマスターである凛は気付いていないのかもしれないが、先程自分達がいた校舎の真反対にある建物の屋上に何者かがおり、こちらの攻防を見続けているのだ。

 しかし、相手に気付かれないようにそちらの方を見てもそこにいるはずの姿は暗がりに溶け込んでいるためなのか見えることはない。

 

 

 仕方なく二人は視線を目の前の相手に戻し、再び激しい攻防を繰り広げる。

槍と双剣。獲物は違えどそれを振るう速度は人の域を越えており、ヒトと同じ姿をしていながらも超人的な能力を保有する者なのだと否が応にも分からせる。

 

そんな攻防に凛は圧倒されているとアーチャーが突如としてその双剣を夜空へと投げつける。

高速で宙を飛び続けるその二振りの刃はそのまま屋根を通りすぎて見えなくなっていく……筈だったのだが。

 

『フンッ!』

 

 突如として謎の声が聞こえたのと同時にその二振りの刃は粉々に砕け散った。

唖然とする凛をよそにランサーは淡々と……だが、どこか気に入らないのか不機嫌そうに口を開く。

 

「オイテメェ……覗き見とはいい趣味じゃねぇな、俺の槍に貫かれたくなきゃさっさと姿を表せ」

 

 ランサーのその言葉が一瞬理解できなかった凛だが、次の瞬間には何時もの思考を取り戻しており、先の言葉の意味に額から頬へと汗が流れる。

 

『……確かに汝の言うとおりだ、姿を表すとしよう』

 

 次の瞬間、何もなかった筈の屋根の上に黒い和洋折衷のようなデザインの体に碧のライン、能面のような顔に体に刻まれたラインと同じ色の尖った瞳。

荒々しくたなびく髪に恐竜のように野太い尾。

そして何よりもソイツから放たれる禍々しくも何処か神々しいオーラ。

 

 アーチャーとランサー同様に明らかに只者ではない存在がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……まずは我が非礼を詫びるとしよう」

 

 緊張で張り積めていた空気を壊したのは、その原因である黒いヒト型だった。

そう言うと相手は屋根から飛び降り、地面に音もなく降り立つとこちらを見て口を開く。

 

「汝らを覗き見し、結果的に汝らの戦い中断させてしまったことは誠に申し訳ない」

 

 そこから響くような低く威厳のある声でそう言った相手は、小さく頭を下げる。

 

「帰り道につい寄ってみたら汝らが戦っていたものでな、その様子につい見惚れてしまっていた……許されるものではないかもしれないが、どうか容赦してほしい」

 

 体から絶えず放たれている禍々しいオーラに反して出てくる言葉は紳士的なモノだが、その謝罪と理由をランサーは一蹴する。

 

「ハッ、よく言うぜ……テメェ最初から分かってただろ」

「……なんのことだか良く分からんな」

「ああそうかい……なら、それでも良いぜ」

 

 ランサーは手元の槍を曲芸師のように回転させながら、再び槍を持ち直す。足で大地を力強く踏み、腰を少し屈めて己の獲物を構える。

そして黒いヒト型を強く睨み付ける。

 

「言っとくが……『俺とテメェが会うのは2度目』だ、これの意味がわからねぇ訳がねぇよな?」

 

 此方に向けられている訳でもないのに冷や汗や鼓動が早まるのを止めらない程の殺気を放つランサーに凛は改めてサーヴァントの恐ろしさを実感していた。

そんな彼女の思考を引き付けたのは先程現れた黒いヒト型の一言だった。

 

「無論。我自身は戦うのはやぶさかではないが、致し方無し」

 

 直接殺意を向けられている筈なのに何ともないように佇んでいた黒いヒト型は足を開き、腰を少し落として両腕を前に持ってくるという独特の構えで迎え撃つ。

そんな二人を尻目に凛はアーチャーに一言。

 

「アーチャー、あれがなんの英霊なのか分かる?」

『残念だが、今のところはさっぱりだ……古今東西、あんな姿の英霊は中々に見たことがない』

「……そう」

 

 彼女がアーチャーの言葉に対して残念そうな呟きを漏らす。

しかし、彼女達は確信していた。

あの禍々しい魔力、今朝の結界の際に感じたモノと同じ……つまり結界を仕掛けた本人、もしくはそのマスターのサーヴァント。

 

 

──実際は全然違うのだが、この場にはそれを否定する者は居ない。

その為勘違いは加速する。

 

 

 

 

 

 

 

「さて……かの有名なアイルランドの光の御子と戦うのだ、我も今持てる全力で戦わねばなるまい」

 

そう言うと黒いヒト型の放つ魔力が増加していき、小さな碧の稲妻が黒い体の周囲でバチバチと音を鳴らす。

 

「我は剛、我は力、我は全!」

 

 何かの魔術なのだろうか、一説唱えると黒いヒト型の全身刻まれた碧のラインが放つ光が強くなる。

 

「我が身は全てを裁ち斬る破壊の剣!」

 

 鬣のような黒髪が唸るように靡き、体の碧の光がよりいっそう強くなる。

 

「……押して参る!!」

 

 そう締め括ると溜め込まれていた力が解き放たれたかのように禍々しいオーラが増幅し、ランサーの比では無いほどに威圧感が高まる。

 

 そして次の瞬間には黒いヒト型の姿は消えており、鈍い音が辺りに響いた。その音の方へ視線を向けるとヤツの左のミドルキックを槍で顔の距離ギリギリのところで防いでいたランサーの姿があった。

しかし、ヤツは防がれた左足をそのまま力任せに横凪ぎし、ランサーを吹き飛ばす。

横へ大きく移動したランサーが攻撃に転じようと槍を構え直すが、そうはさせまいと言わんばかりに黒いヒト型はランサーの側面に回り込み、その巨躯からは想像できないような速度で左の拳を振るう。

 

 しかし、超上の能力を持っているのはランサーも同じであり、その拳も何とかガードする。

そして直ぐ様縦に構えた槍を降り下ろし反撃しようとした時。

 

「参式ッ!」

 

 反撃を許さずに続けて右の拳でランサーの横腹を殴り、ヒト型は叫ぶ。拳が彼に命中するとヒト型の体に『参』と黒字の達筆で書かれた碧の刻印が浮かび上がり、ガキン!と鎖が砕けたような音が鳴った。

 

「チィッ!また…それ……かッ!!」

 

 ランサーが打ち込まれた拳の痛みに耐えつつ、槍を降り下ろす。本来であれば避けることは至難の一撃だが、相手の恐るべき身体能力はそれを可能にする。

 

「フンッ!!」

 

 体を左に回転させの紙一枚の距離で降り下ろされる槍を避け、獲物を降り下ろして無防備になったランサーの肩目掛け回転の勢いに乗せ、右足で後ろ回し蹴りを見舞おうとする。

 

「させるか……よっ!」

 

 地面に突き刺さった槍の穂を少し持ち上げ、体を捻りそのまま相手に向けて切り上げを行う。

蹴りの途中であるヒト型がその真紅の槍を交わすことが出来ることは不可能、その為黒いヒト型から鮮血が飛び散る──

 

「甘いわ!」

 

 事はなく、伸ばしていた右脚を曲げて自身へ迫っていた真紅の槍を強く踏み、地面にその穂を食い込ませる。

槍を踏まれ、引き抜くことが出来ずに動きが一瞬止まったランサーの横腹に左の拳を再度見舞う。

 

 そして続けて槍を踏んでいた脚を離し、そのまま槍をの柄をなぞるように脚を滑らせ、ランサーの顔面を狙う。

流石にマトモに喰らったら不味いのだろう、槍から手を離し両腕を交差してそれを防ぐ。

 

「弐式ッ!」

 

 脚がランサーの両腕に防がれた瞬間、ヒト型が叫ぶと体に再び『弐』と書かれた黒字と碧の刻印が浮かび、鎖が砕けたような音が鳴る。

蹴りの威力が凄まじかったのか、ランサーが少し後方へと下がり二人の間に距離が出来る。

 

「ゼェア!!」

 

 その空間を使い、ヒト型は体を捻り反転すると拳を地面に叩きつけ黒と碧のオーラーを噴出させる。

噴出したオーラーは受け止めることができなかったランサーを上空に打ち上げ、それに追撃を加えるためにヒト型は跳躍する。

 まずは右拳、次に宙で体を縦に回し左足で踵落とし、肘鉄を決め、落ちそうになっていたランサーを右足で蹴り上げ少し浮かした所で再び体を縦に回し尾で叩き落とす。

 

「肆式ィ!!」

 

 その直後ヒト型がそう叫び、三度体に刻印が浮かぶ。地面に叩き落とされたランサーに追撃をするように地面に拳を降ろすが、ランサーはそれを地面を転がり避けると地面に突き刺さったままの己の獲物の元へと向かい引き抜くとそれを持ち直し構える。

 

 

 

 

 張り積めた空気の中、それを裂くようにランサーが口を開く……その整った顔の頬には先程は見えなかった汗が見えていた。

 

「……何をしやがった」

 

 苦虫を噛み締めたような顔で睨むランサーに対してヒト型は涼しげな顔で──あくまでもその場にいた者の感覚でだが──答える。

 

「我自身は何もしておらぬが?」

「ほざけ、テメェの攻撃を受けてから体の調子が優れねぇ……痛みとは違う、体の力が抜ける感じだ」

 

 ランサーのその言葉を聞き、凛は圧倒されていた思考を現実に引き戻され、今聞いたランサーの言葉の意味を考える。

 

(体の力が抜ける……?弱体化の魔術?それとも生命力を奪っている事?いや、サーヴァントの場合は魔力か)

 

「アーチャー」

『ああ、君の考えているように恐らく弱体化か魔力を奪取するような魔術を使っているのか……もしくは奴が口に体に浮かび上がらせていたあの刻印が何か関わっているのかもしれないな』

 

 アーチャーの言葉に確かに、と凛は心の中で頷く……確かにあの刻印がランサーの言う異常に関わっている可能性は高いだろう。

凛は考える。目の前で戦うヒト型のサーヴァントはランサーとの戦闘を見る限りかなり強力な英霊なのだろう。

 

 もし、今の自分達がアレと戦うことを考えるとかなり分が悪いだろう……対してランサーのサーヴァントは、あのヒト型に比べるとまだやりようがある。

 

 

 

 

 それならば……

 

「……アーチャー」

『なんだね?』

 

 彼女は覚悟を決めた顔で己のサーヴァントに命令を下す。

 

「ランサーと協力してあのサーヴァントを倒して」

 

 つい先程まで敵対していたサーヴァントと協力しろ。という彼女の願いに対してアーチャーが返したのは

 

 

 

 

『了解した』

 

その一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座います。

居間のところはUBWルートで行こうかと悩んでいるんですが、結局どのルートでもないモノになりそうです。
最終的には「カニファン」や「衛宮さんち」みたいなほのぼの……というかあんな時空にすることが目標にしてますが……どうなるか。


それではまた、次のお話で。


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第6話 運命の始まり

どうも皆様、黒夢羊です。

こんな話にお気に入りが50以上も付きました!
本当に皆さん有り難うございます。
今後も出来る限り皆さんに読んでいただけるように頑張って行きたいと思いますので、どうか宜しくお願いします。


では、本編へどうぞ。






 

 

 

ランサーのサーヴァント、クー・フーリンは己の得物である槍を構えながら眼前の黒いヒト型を睨み続けていた。

 

(クソッ……誘ってやがんのか?)

 

そのヒト型が取る構えは戦士である彼からしてみれば隙だらけであり、攻めてくださいと言っているようなもので、言うなれば格闘術の初心者が誰かの型を見よう見まねで真似しているような感じだ。

 

だが目の前のコイツが初心者だと?そんな事はあるまいとクー・フーリンは自分の考察を捨てる……未だに何者かは分からないが自分と同じ英霊の座に召し上げられた存在。

更に先程は致命傷になる程ではないとは言え、自分が防戦を強いられてしまった。

 

彼は決して油断などしていない、ましてやアーチャーや最初に目の前の敵と戦った際のように手加減を強いられている訳でもない。

だとするならばこのヒト型の実力が彼と拮抗している……もしくはそれ以上だということを己の直感と未だに少し痺れている両腕が表している。

 

 

それは先程の攻防でハッキリと分かる。

それよりも気になるのは先程から相手の体に浮かぶ刻印についてだ。

あれが浮かぶ度に動きのキレと拳の威力が上がっていき、その後に聞こえる鎖が砕けたかのような音……。

 

元々何かの誓約を己に課しているのか、それともあれは強化魔術の類いなのか。

しかし、それならば段階を踏んで解除するのが一般的で、だとしたら(1)から……もしくは最後の数から始まっていくのではないか?だが先程相手は(3)から(2)へ、そして飛んで数字の(4)をカウントした。

初見での戦闘では(5)の数字。

その事から『伍』が奴の強化または誓約の解除の最大の数値ではないか……と踏んでいるが、数字のカウントはランダムで規則性がない。

 

そうなると『伍』よりも上の数があり、『弐』から『肆』を解放・強化した今よりも数段階強化される可能性があることは十二分にあり得るだろう。

 

 

 

 

それに加え厄介なのは攻撃を受けたり、防いだ際に体から力がほんの少しだが抜け落ちていく感覚。

恐らくは奴の持つ能力の1つなのだろうが、依然抜けた力が戻ってくる気配は無く、これだと返ってくることは無いと考えた方がいいだろう。

 

戦闘を続けていると彼方は次第に強まっていくのに対して此方は弱体化させてくる。

なんともまぁ恐ろしい相手だ。

更に言うなれば初戦の時のように多少のダメージであれば気にすること無く攻撃に転じてくる辺り、中途半端な速度と威力の攻撃や反撃を行えば先程のようにそれを阻止され、逆に凄まじい反撃を食らうことになる。

 

相性は最悪……と言う訳ではないが、決して良いとも言えない。

宝具を使えば倒せるかもしれないが、まだこの場には初見のアーチャーのサーヴァントが存在する。

ならば不用意に見せることは今後の事を考えてもあまり良い選択とは言えないだろう。

 

 

 

ならばどうするべきか、今ここで奴との戦いを続けるべきか、それともアーチャーに擦り付けてここは退くべきか。

そんな事を短時間の間に考えていると、不意にヒト型が口を開く。

 

「来ぬのか?ならば此方から行くぞ」

 

瞬間、彼の視界の殆どが黒と碧で埋め尽くされる。咄嗟に槍を前に突き出し防御するが相手の拳の威力に体が浮かされ後方に飛ばされる。

最初に受けた拳よりも遥かに速く重い一撃の衝撃を両腕がまだ痺れている事もあり、殺しきる事ができず今度は全身が痺れる。

 

その為か、両足での着地が上手くいかずに思わず槍を持っていない左手を使ってしまう。

そうなると必然的に隙が増えてしまう事になり、それを相手が逃すはずも無く瞬時に間隔を詰められ再びその拳が自分に迫る──

 

 

「──残念だが、そうはさせん」

「何ッ!?」

 

 

──直前に2発の光矢が赤い軌跡を描きながらヒト型へと迫り、ヒト型はランサーへと向けていた体を瞬時に捻りながら1射目を右拳を横凪ぎに振るい弾き飛ばし、続く2射目を横凪ぎにしたその勢いのまま体を右に回し、左足で落とす。

 

その合間にランサーはヒト型から距離を置き、後方へと一気に下がる。そして前方に佇むヒト型が向ける視線の先へと同じく視線を向けると、そこには──

 

 

「……何のつもりだ、テメェ」

「何、マスターの命令に従ったまでだ」

 

 

─弓道で言う残心の状態で、黒い洋弓を構えている赤い外套を羽織っているアーチャーのサーヴァントの姿があった。

ヒト型が固まったように動かない為にアーチャーの元まで行き、先程の言葉の意味を問う。

 

「マスターの命令だと?」

「ああ、君と協力してアレを倒せとの事だ……気が乗らないが仕方あるまい」

 

フッ、と台詞の後に皮肉げに小さく笑った浅黒い白髪の弓兵に少し苛つきながらも、槍を肩に置きながらその後ろにいる少女へと視線を向ける。

黒髪ツインテールの少女は此方が投げた視線に対して強く頷く……それは隣の弓兵が言っていた事が正しいと言うことを表す。

 

そして再び弓兵を見ると目を細めて肩を竦める。

いちいちその言動が目に付くが今はそれどころでは無い……目の前に佇む英霊とは思えないまでの禍々しい威圧感を放つアレをどうにかしなければならないのだ。

 

 

戦略的撤退も視野には入れてはいるが、目の前の相手が自分がここから離れることを易々と許してくれる訳がない。

少なくとも、先の戦闘で弱体化らしきものを受けながら防戦に回っていたとは言え、自分と同等以上の速度で攻めてきた事から逃げることは今の状況では難しいだろう。

 

 

 

 

やはり、ここを乗り切るにはあのヒト型を撤退させるしか現時点では無い。

槍を構え、隣の弓兵に小さく問いかける。

 

「おい、弓兵」

「なんだね?」

「アイツが何処の英雄か分かるか?」

 

そう言いながらランサーがアーチャーを見ると先程の黒い洋弓はいつの間にか消え、両腕には自分とのやり合いの際に使用した黒と白の二振りの双剣が握られていた。

そしてランサーの問いにアーチャーはヒト型から視線を逸らすこと無く今度は真剣な表情で告げる。

 

「残念だがさっぱりだ……分かっていることは君との戦闘から見るに何かしらの武術の心得を持ち、かつ体に浮き出るあの刻印からして何かしらの封印を己に課している可能性があると言うことだけだ」

「……封印だと?」

「ああ、強化魔術の類いとも考えられるが……だとするならば最初から付与しているだろう」

 

淡々と事実を述べる為に口を開くアーチャー。

その間も彼の視線は常に前方に静かに余裕綽々と言った風に佇む禍々しさの擬人化とも言える正体不明のサーヴァントへと向けられる。

 

 

──余裕綽々と言ったが、当の本人の内心は「え、何?アーチャーとランサーが共闘するの?マジで?え、もしかしてそれと戦うって事は僕……かなりヤバくない?」と冷や汗ダラダラなのだが。

 

 

 

 

 

「それに段階を踏んで奴の力は強化されている。仮に強化魔術の類いであるとしても一気に強化して勝負を決める筈だ……それをしないというのであれば召喚の際に力を封じてられていて、それを何らかの方法で解放している……と考えられないかね?」

「成る程な」

 

アーチャーとランサーはそれ以降口を開かず、ただ自分達の前方のヒト型との戦闘に備える。

会話が途絶えた事を確認していたかのようにヒト型が口を開き、低く威圧感の込められた声で問いかける。

 

「……話は終わりか?」

 

2人は答えない。

だが、それが相手にとっての問いに対する何よりの答えになったであろう。

「そうか……」と一言呟くと大きく息を吐き出し、足を開いて腰を屈める。

 

「ならば──」

 

そうヒト型が溢したその時、本来3騎のサーヴァントと1人のマスターしか居ない筈のグラウンドに何者かが砂を踏みしめる音が響く。

一瞬停止する3騎と1人。その硬直がもっとも早く解けたのは青い装束とそれとは対極の真紅の槍を持つランサーだった。

彼はその音の主がいるであろう方向へ向けて目を見開き叫ぶ。

 

「誰だっ!!」

 

しかし、音の主はそれに答えることはせず、聞こえてきたのは硬質な廊下を人が走る音。

そしてランサーの次にアーチャーとヒト型、最後に硬直が回復した凛は直ぐ様その足音の正体に辺りをつけると同時に驚愕の声をあげた。

 

「生徒!?まだ学校に残ってたの……!」

「そのようだな……」

 

凛の言葉にアーチャーが静かに同意する。

その会話の直前にランサーはヒト型へ険しい表情で視線を向けると、ヒト型はただ何も言わずに頷く。

その反応を見たランサーは直ぐ様に霊体化しその場から消え、逃走者の排除へと向かった。

 

「……ちょっと?ランサーはどうしたのよ!」

「さっきの人影を追ったよ」

 

ランサーが消えてから約2~3秒程経ってから凛がランサーの不在に気がつき慌てる。

そんな彼女の言葉にランサーが逃走した者を追いかける所を見ていたアーチャーが答える。

 

「目撃者だからな、恐らく消しに行ったのだろう」

「……っ!」

 

アーチャーの言葉に彼女は息を飲む。

彼女の意識は今この空間よりも、逃げた生徒の安否と助けなければならないという目的に向けられていた……が、アーチャーの一言が彼女の意識を今現在へと戻す。

 

 

 

 

「さて……残るは我々のみだが、どうするマスター」

「それってどういう……っ!」

 

彼女がアーチャーに問いかけようとして彼の鵬へ顔を向ける。そうすると必然的に彼が向いている方向へと視線が向かい、その先依然として佇んでいるヒト型の姿を捉える。

 

そう、今この場にはランサーが居なくなったことによりサーヴァントはアーチャーとあのヒト型のみになっている。

と言うことはあのヒト型とアーチャーが戦わなければならないという事で、そうなれば地力で負けているアーチャーが圧倒的に不利だろう。

逃げた生徒とランサーを追いかける為にアーチャーを残して向かえば良いのだが、そうなるとマスターである自分を一瞬とは言え無防備に晒してしまう。

だがそうなるとその隙をついて殺されかねない。

 

どうするべきか……と、短い時間の中、凄まじい速度でこの場面を乗り越える為の算段をたてるが、そのどれもが様々な理由で却下される。

 

(くそっ、どうしたら良いってのよ……っ!!)

 

そう心の中で悪態を付く彼女の悩みを解決したのは、他でもない現在進行形で悩みの原因の1つであるヒト型であった。

 

「行くと良い」

「……え?」

 

ヒト型がポツリとそう溢した一言にそんな事をしている暇は無いとは分かっていながら思わず聞き返す。

すると、ヒト型は小さくため息を吐いた後に先程よりも強めの口調で口を開く。

 

「行くと良い……と言ったのだ、汝に悩んでいる時間は無いと思うが?」

「……っ!ええそうね、アーチャー!先に行って、すぐに追い付くから!」

 

そう言うが早く、足に強化魔術を使い常人とは思えない速度で校内へと駆ける凛。

そして何を思ったのかヒト型を一瞥したアーチャーは何事もなく霊体化し、ランサーを追った。

 

その後、ランサーに殺された生徒──衛宮 士郎を強引に蘇生した凛はアーチャーにランサーの追跡を命令。

そして校庭に戻るとそこには既に黒いヒト型の姿はなく、抉られた地面とへしゃげた朝礼台だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一般人の理解を越えた戦いを見てしまった青年、衛宮 士郎は青い装束を来た何者かに殺された……はずだった。

 

記憶には確かに心臓を一突きされ息も絶え絶えで段々と寒くなっていく体を薄れていく意識の中で感じていたことを覚えている。

だが、こうして自分は生きている。

 

 

何があったのかは分からないが、近くに落ちていたペンダントを拾い、そのまま自宅の帰路へとついた。

 

 

 

 

 

そして、朦朧とした意識の中でフラフラと自宅である衛宮邸に帰宅し、安堵していたのもつかの間。何処からともなく突如現れた青装束の男に再び襲われる。

近くにあったポスターを丸め、強化の魔術を流し青装束の男の槍をギリギリ防ぐと、士郎は何かに導かれるかのように命からがら土蔵へと逃げ込んだ。

 

 

土壇場でポスターを広げ、心臓を狙った真紅の槍の一撃を防ぐと驚いた表情を男が浮かべ称賛してくるが、そんなことは今の士郎にとってはどうでも良かった。

 

自分はこんなところでは死ねないのだ。

恐らく……いや、確実に1度自分は死んだ。

それを誰かは分からないが助けてもらったのだ。

 

「まぁ……運が悪かったと思いな、坊主」

 

そう言いながら男は槍を構える。

その姿から男は人を殺すことをなんとも思っていないように士郎には見えた。

 

「ふざけるな……っ!」

 

その姿を見て、彼の口からはその言葉が自然ともれていた……。

制服の槍で空けられ血で染まった胸の穴に手を添える。これこそ1度自分が死んだ証……そして、誰かに助けてもらった証。

 

「助けてもらったんだ……」

 

世界がゆっくりと動いているように感じる。

青き陣が光を放ち始める。

 

「助けてもらったからには簡単には死ねない……」

 

それはかつて自分が体験したことだから。

あの地獄の中を生き抜いた……いや、生き残ってしまった自分だから。

そして、陣の光は呼応するように輝きを増す。

 

「俺は生きて義務を果たさなければならないのに……死んでは義務が果たせない」

 

未だにあの地獄を思い出す。

炎と瓦礫で包まれた赤い、赤い地獄を。

陣の輝きは更に増していく。

 

「こんなところで意味もなく……」

 

男が槍をゆっくりと突き出す。

それに対抗するように彼の手の甲に小さな赤い光と共に同じく赤い刻印が浮かぶ。

 

「平気で人を殺す、お前みたいな奴にっ!!」

 

目を見開き彼はそう叫ぶ。

そして槍が士郎へと迫り、胸を穿とうとするその瞬間、土蔵内に青き光が満ちて魔力が溢れ出す。

そして青装束の男──ランサーは驚愕で目を見開く……あり得ない、と言ったように。

 

「何っ!?サーヴァントだとっ!!」

 

槍を縦にし、迫る一撃を防ぐ。

しかしその一撃は重く、ランサーを土蔵から外へと飛ばしていく。

突然の事に呆気に取られる士郎。

 

そんな彼が目にしたのは、風に揺られながら鎧とドレスが一体化したかのような姿をした少女。

何が起きたか未だに理解できていない彼に向き直り……一言。

 

 

 

 

 

 

 

「問おう……貴方が私のマスターか」

 

 

 

それは運命(Fate)を始める一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにそれを遠くから眺めている1騎のサーヴァントが「うわーー!原作通り!尊いっ!!」と悶えていたとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難うございます。

本当は先週の日曜日に投稿しようと思っていたのですが、台詞回しとかを考えていると今日になってしまいました……。
それでも改めて読んでいると本当にこんな事を言うだろうか……?と違和感を感じてしまいます。

キャラ崩壊のタグでもつけておこうと思っていましたが……これは必須ですね。


それでまた次のお話で。



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第7話 遭遇戦

どうも皆様、黒夢羊です。

4500UAと70以上のお気に入り登録、本当に有難うございます!
ややこしい文章や稚拙な戦闘シーンばかりが続いている中、それでも読んでくれる皆様には本当に感謝しかありません。

これからもどうにか頑張っていくので読んでいただけると嬉しいです。


それでは本編へどうぞ。






 

──何処かでその光景を見たサーヴァントが悶えていたのは置いておくとして、舞台は再び衛宮邸に戻る。

 

 

 

「貴方が私のマスターか」

 

「マス…ター?」

 

 

 突如として目の前に現れた見目麗しい金髪の美少女が放った一言。

それに対して答えるモノを持っていなかった衛宮 士郎はただポツリと呟くことしか出来なかった。

 

 それをどう解釈したのか、目を見開き未だにへたり込んで呆然としている士郎に対して再び口を開く。

 

「サーヴァント・セイバー。召喚に従い参上した……マスター、指示を」

 

 どういう事だ──士郎がそう口に出そうとしたその時、左手が痛み小さな呻き声を漏らしながら顔をしかめて左手を押さえる。

そんな彼を……いや、彼の左手から土蔵の外へと視線を向け、理解が追い付いていない彼に語る。

 

「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」

 

 そう語るセイバーと名乗った彼女の手元に黄金の光が集まっていき、一瞬輝いた後に一陣の風が土蔵内に吹く。

 

「ここに契約は完了した」

 

 するとセイバーは何かを握り締めるような手つきをした後にそう呟き、その見た目からは想像も出来ない速度で土蔵を飛び出した。

 

「契約って、何のっ!?」

 

 それを士郎は慌てて追いながら困惑の色が多く混じった声でそう叫ぶが、土蔵の入り口に立った彼の目に入ってきたのは先程自分を殺そうとしていた青装束の男と、セイバーという少女が目にも止まらぬ攻防を繰り広げている光景。

 

 一見すれば明らかに、体格的にあの男の方が有利だと思ったが彼のその予想は攻防の中で押されている男によって裏切られる。

──あの自分を弄ぶような身体能力を持つ男とあの少女は同格、またはそれ以上という事。

 

 

 押されている男を見ながら士郎はその事実にただ何も言えずに土蔵の入り口で佇み、その光景を眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「8人目のサーヴァントだと……」

 

 自身の得物である真紅の槍を構えながらランサーのサーヴァントはそう呟く。

それにはあり得ないといった少なくない驚愕の色が含まれており、心底驚いているというのが相手にしているセイバーでも理解できた。

 

 そしてセイバーのサーヴァントである少女も、目の前の男が発した単語が気にかかり、激しい攻防が行われている最中、ランサーに問いかける。

 

「8人目?」

「ああそうさ、セイバー、アーチャー、キャスター、バーサーカー、ライダー、アサシン……そして俺」

 

 セイバーの一撃を防ぎ、彼女から距離を離したランサーは淡々と他のサーヴァントの名前を上げていく。

 

「本来ならこの7騎のサーヴァント、7人のマスターで聖杯戦争は行われる筈だ……だが」

 

 男が思い出すのは先程相対した禍々しいオーラを放ち続ける黒いヒト型のサーヴァント。

ランサーはあれが7人目のサーヴァント、セイバーだと思っていた……だが、それは目の前の少女剣士の存在が否定する。

 

「テメェと会う前に7人目のサーヴァントらしき者に会っていてな……もしテメェとアイツがサーヴァントなら数が合わねぇんだよ」

「成る程、私を見たときにあり得ないモノを見たような表情をしたのはその為か」

 

 元々セイバーにしてはおかしいとは思っていた。

武器を一切用いない徒手空拳での戦闘、手加減をしているわけでもなく己の肉体こそが武器だと分かっている戦い方。

 だからランサーはセイバーではなく何か別のクラスで召喚されたサーヴァントではないかと予想していた……しかし、7騎しか存在しないはずのサーヴァントが8騎存在しているのはどういうことか。

 

(ちょいとキナ臭いな……)

 

 ランサーのサーヴァント─クー・フーリンは今回起きているイレギュラーについて1度自分の『マスターに成り代わった男』に聞くために離脱を優先することにする。……だが、このままで易々と終わる訳ではない。

 

「おい、セイバー」

 

 互いに睨みを効かせる中、少し表情を緩めながらランサーはこう提案する。

 

「お互いよ、初見ってことでここらで引き分けって言うことにしねぇか?」

「断る。貴方はここで倒れろ、ランサー」

 

しかしランサーのその提案をセイバーは真っ向から断り、そんな彼女の回答にランサーの表情は先程同様に鋭いものへと戻る。

 

 

 

 

 

 

「……あぁ、そうかい。こっちは元々テメェが出てきた時点で様子見で終わらすつもりになってたんだが……」

 

 ランサーは槍の穂を斜め下にするように持ち直し、腰を少し屈める。

彼の鋭さを増す気配に呼応するように彼の持つ真紅の槍が穂先から赤いオーラーを纏い始める。

 

「……っ!あれは!?」

 

 そう士郎は叫ぶ。

青装束の男……ランサーが持つ真紅の槍から放たれるオーラは未だに事情が飲み込めていない士郎であってもヤバいモノだと言うことははっきりと分かる。

少し離れた位置にいる自分でさえそうなのだから、それと真っ向から相対しているあの少女は自分が想像も出来ないような威圧感や殺気を感じているのだろう。

 

 助けなければ……と思ったが、恐怖からか体が思うように動かない。

 

(クソッ!こんな時に限って!!)

 

 そう己の心の中で自分を叱咤する士郎だったが、その間に敵の準備が整ったのかランサーが駆け出す。

 

 

 

「その心臓……貰い受けるっ!!」

 

 彼のその言葉と共に同時に槍が放つ紅きオーラの勢いが一気に強まり、槍どころではなく持ち主であるランサーさえも包み込もうとするまでに至る。

そして、彼が大地を強く踏みしめ槍投げの体勢へと移り、叫ぶ。

 

 

 

 

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)ッ!!」

 

 

 

 

 

 男が投擲した槍は一筋の光となり、複雑な軌道を描きながらセイバーを穿とうと向かって行く。

そしてセイバーは己に向かってくる槍を武器で受け止めた彼女。

槍の威力に思わず彼女が握る武器が弾かれそうになるが、次第に紅き光線となった槍を押し返そうと――

 

 

 

 

――その時、時が止まる。

彼女の武器によってその進みを邪魔されていた槍が自身以外が静止した世界の中で軌道を変え、がら空きになっているセイバーの胸元へと狙いを定める。

 

 そして、時は動きだし真紅の閃光はセイバーの胸元をそのまま貫こうと突き進む。

それを直感で感じ取ったセイバーは急遽動きを変え、自身に迫り来る閃光を防ぐのではなく、反らす事に全力を注ぐ。

 セイバーが握る武器の刃先に閃光が当たり、その軌道が僅かに左へずれ、セイバーの体を貫いた。

貫かれた彼女は釣糸の釣り針かかった魚のようにしなる光線に連られてそのまま空中へと持ち上げられて行き、暫くの間空中で振り回された後に光線が体から抜かれ地に落ちる。

 

 再び光線から本来の姿へと戻った真紅の槍を振り切った体勢で俯いていたランサーは怒りが込められた声を出しながらセイバーを強く睨む。

 

 

 

 

「躱したなセイバー……我が必殺の一撃をッ!」

 

 

 五体満足で大地に2本の脚で立つランサーとは反対に地面に座り込み、左胸の辺りに出来た傷口を抑えるセイバーは何処か苦しそうに口を開く。

 

「呪詛……いや、今のは因果の逆転!」

 

 セイバーは改めて真紅の槍を持ち、己の前方に佇む青い装束に身を包んだ男を見る。

先程使用していた宝具に心当たりを付けながら。

 

「ゲイ・ボルク……御身はアイルランドの光の御子かっ!?」

 

 セイバーの問いにランサーは小さく舌打ちをした後に何処か清々しい顔で槍を肩に乗せながら呟く。

 

「ドジったぜ……コイツを出すからには必殺でないとヤバいってのにな」

 

 そう呟いたランサーは傷を抑えて座り込むセイバーには目もくれず、衛宮邸の壁に向かって歩を進めていく。

その間も、何処か愚痴を溢すかのように不満げな声色で喋り続ける。

 

「ウチの『雇い主』は臆病でな……「槍を躱されたのなら帰ってこい」なんてぬかしやがる」

「……っ!逃げるのかっ!!」

 

ランサーの言葉から、彼がこの場から撤退しようとする事を察したセイバーはそう叫ぶ。

自身に投げ掛けられた叫びに対してランサーは立ち止まると振り返り、セイバーと士郎を睨んでこう告げる。

 

「好きにすると良いさ……だがな、追うのなら決死の覚悟で来るがいいッ!!」

 

 そう言い残すとランサーは高く飛び上がり、夜の暗がりへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてほぼ同時刻。

 

「居る!ランサーのサーヴァント!」

 

 アーチャーに抱えられながら冬木の夜を駆ける凛は、士郎を蘇生した後にランサーの捜索を行っていた。

そしてそれから暫くしてサーヴァントの反応があり、そこでランサーのサーヴァントを発見した。

 

「急ぐわよ、アーチャー!」

 

 近くで着地したアーチャーから下りた凛は、そのままランサーが居るであろう方向へと全速力で走り出す。

しかしアーチャーは凛に付いて行こうとした直後、降りた場所で立ち止まる。

 

(……この気配は2つか?……いや、違う!この禍々しい気配は!!)

 

 

 アーチャーが感じたのはランサーともう一騎のサーヴァント、それに加え急接近している禍々しい気配。

それを凛に告げるためにアーチャーは叫ぶ。

 

「待て凛!サーヴァントの気配が1つではないっ!!」

 

 アーチャーにしては少し焦ったような口調で叫ぶが、禍々しい気配に一瞬多く時間を取られた為に凛はアーチャーとの距離を離してしまっている。

しかしアーチャーが何かを叫んだのは聞こえたのか、凛は聞き返そうと曲がった角を振り替えり、アーチャーに問い返そうとする。

 

「どうしたの!?――アー」

 

チャーと続けて言葉にしようとした彼女の背中から強い殺気を感じる。それを確認しようと振り返ろうとした彼女の目の前には黒い壁が立ち塞がり、その奥から鎧だろうか──硬い金属質のものが鳴らす音が聞こえた。

 

 

 

 

 突然の事に呆気に取られる凛の耳に聞こえたのは、自分が驚異と認識した低く威厳のある声から発せられた一言だった。

 

「……無事か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か!凛」

 

「無事か?」……その言葉を聞いた直後に彼女の傍らに自身のサーヴァントであるアーチャーが両手に黒と白の双剣を持って現れる。

 

 1歩間違えれば死んでいたこの状況で、本来の彼女であればアーチャーに理不尽とも言える怒りをぶつけていたのだが、それよりも彼女の意識は眼前の黒いヒト型に向けられて居たためにアーチャーは彼女の怒りを運良く避けることが出来た。

 

 

それはそうとして。

 

 

 

 アーチャーは黒いヒト型の奥に佇む少女に。

少女は自身の眼前に立ち塞がるヒト型に目を見開き驚愕の表情を浮かべていた。

 

 ひとまずアーチャーは自らのマスターの安全を確保するために凛を自らの後ろに下がらせ、自身が凛と黒いヒト型の前に立つ。

 

 

 数秒の間沈黙が降りるが、直ぐ様目の前の少女──セイバーは行動を再開。

 大地を蹴りヒト型の懐へと急接近し、右下からのヒト型の脇腹へ向けて切り上げを行うが、それをヒト型はセイバーの腕ごと掴み異様なほどの力で止める。

腕を掴まれた事によって攻撃を阻止されたセイバーは直ぐ様自らの武器を手離し、掴まれていない方の左手で落ちる武器を掴むと、そのまま左腕を引いて右腕を掴んでいる黒腕に向けて武器を降り下ろす。

 

透明の武器が黒腕に触れる直前にヒト型は掴んでいた手を離しその攻撃を躱す。

そして未だ自由である右腕でセイバーに殴りかかるとセイバーはその拳を武器で防ぎ大きく後ろに下がる。

 

 

 凛は黒いヒト型に隠れて見えなかった相手の姿をようやく捉え、驚きから言葉を漏らす。

それは本来自分が召喚する予定だったサーヴァントだった、聖杯戦争において最優と称させる存在。

 

「セイバーの……サーヴァント」

 

 しかしセイバーは凛の呟きには反応するは無く、依然として眼前に立ち塞がりその禍々しい気配で存在感を示し続ける黒いヒト型に意識を向け続ける。

そして再び数秒の沈黙が流れ、それを破るようにセイバーが口を開く。

 

「脈絡もなく失礼する……貴公は以前私と合ったことがあるか?」

「……え?」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは問いかけられたヒト型ではなくその後ろ……警戒レベル上がりっぱなしのアーチャーが守っている凛であった。

 それもそうかもしれない。明らかに騎士と言った見た目のセイバーと、人と同じ骨格を持っているとはいえ、相対するものを威圧するような禍々しいオーラを放つあのヒト型が知り合いかもしれないというのだから。

 

「……いや、我の知己に汝のような者はおらぬ」

 

 しかし、セイバーに問いかけられた当の本人がそれを否定したことでその可能性は消え失せた。

そして問いかけたセイバーは何処か納得したような……それでいて少し寂しそうな表情を浮かべながらただ一言「そうか……」と呟いた。

 

 だがそれも一瞬のことで、直ぐ様表情を元の凛としたものへ戻すと透明な武器を強く握る。

 

「唐突に変なことを聞いて申し訳ない、どうか許して貰いたい」

「構わぬ、汝の期待に添えるような答えを出せなかった我にも非礼はあろう……」

 

 ヒト型から発せられたその言葉に一瞬呆気にとられたセイバーは、その後少しだけ微笑むとクスリと笑う。

そんな彼女に不思議そうに首を傾げるヒト型に「何でもない」と返し再度武器を構える。

 

「勝負の最中に失礼した……では、行k「待て」……?」

 

 続きを始めようとしたセイバーの言葉を遮って目の前のヒト型が口を開く。

その体からは依然禍々しいオーラが放たれてはいるが、先程よりも遥かに収まっており、戦う気が失せている事を感じとることが出来た。

 

 ヒト型はセイバーの後ろを指差し、呟く。

 

「……汝のマスターがやって来た、これ以上の戦闘は不要と我は判断する」

 

セイバーがそれにつられて後ろを見ると、そこには息を切らしながらこちらを見つめる赤髪の少年。

セイバーはマスターの名を呟き、再び眼前を向くとヒト型が発した言葉に対して問いを投げ掛ける。

 

「シロウ。……貴公、逃げる気か?」

「左様。我は不必要な闘乱や殺生は好まぬ……今回はこれで御開きとする方が良かろう」

 

 

 

 セイバーの挑発に近い問いに対して、全く動ずること無く返答をするヒト型。

その出で立ちは禍々しくも武人然としており、確かに英霊としての側面が見える。

 

「何れ汝らとは合間見える事になろう……その時は今よりも良いモノであることを願おう」

 

 そう言うと黒いヒト型は霊体化し、その場から消えた。残されたのはアーチャーに守られてい凛と、何処か嬉しそうなセイバー、そしてそのマスターであり今の光景に混乱している士郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き本当に有難うございます。

セイバーの発言については後々回収したいと思います……それと早く主人公のイチャイチャを書きたい。
問題はそれまで続くかどうかですけどね。

なんかもういっそのこと他の話を平行して書こうかなんて思ったりもするんですが、明らかにエタりそうなので断念ですね。


それではまた次のお話で。



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第8話 冷たくそして静かに

どうも皆様、黒夢羊です。


熱で寝込んでました……。
時期が時期ですので焦りましたが、どうやら違ったみたいです。

そんなことよりも6000以上のUA、90件以上のお気に入り、更には評価と感想……本当に有難うございます。
「面白かった」や、評価を見るだけでもやる気が上がります!!
本当に、本当に有難うございます!!

これからも拙いながらに頑張っていきたいと思いますので、どうか宜しくお願いします。






 

 

 謎のヒト型──黒いサーヴァントが消えた後の衛宮邸では士郎が凛によってマスターとサーヴァント、そして令呪についての簡単な解説を行い、更に詳しい説明をして貰うために教会へと向かった。

 

 教会にたどり着き、中に入らないと言うセイバーを外に残し、凛と士郎は教会の中へと入る。

そして教会の神父兼聖杯戦争の監督者である

言峰(ことみね) 綺礼(きれい)から聖杯戦争の目的と内容、そして終結したことによって現れる聖杯について教えられる。

 

 

 魔術師同士の殺し合い。

最後の一人と一騎になるまで戦い続け、目撃されれば例え無関係の一般人であっても口封じの為に殺す事を容認される血みどろの戦い。

 

 そんな事が過去に4回、そして今回で5回も起こされる事に士郎は行き場のない怒りを覚える。

そして綺礼から10年前に起きた、士郎の運命を歪めた冬木大災害が聖杯戦争によってもたらされたモノだと言うことを知らされる。

 その事実に思わず立ちくらむ士郎を凛が心配そうな声で呼び近寄ろうとするが、士郎は大丈夫だと手でそれを制する。

 

 

 だが、そんな士郎の脳内にはかつて体験した文字通りの地獄の映像が断片的にだが浮かび続けていた。

頭を振り意識を現実へと引き戻し、地獄の映像を記憶の奥へと追いやろうとするが、一度出てきた地獄は呪いとも言えるように意識の片隅に残り続ける。

 

チラつく阿鼻叫喚の悪夢に苦虫を噛み潰すしたような表情をしながらも士郎は決断する。

 

 

「俺は……聖杯戦争に参加する」

 

 それが自分がなりたいと思う『正義の味方』がするべきことだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会から出た士郎と凛を見送った綺礼は再び教会の扉を開き中へと入る。

 

 窓から入る月明かりに照らされた身廊をゆっくりと歩を進めていくが、祭壇のすぐ近くまでやって来たところで進めていた足をピタリと止める。

そして誰もいない自らの背後……教会の扉付近へ振り向き口を開く。

 

「どうしたランサー?次の命令は出していない筈だが」

 

 綺礼の言葉に反応するように青い光の粒が集まり、彼以外に何も無く、誰も居なかった筈の空間に真紅の槍を肩に乗せ、その槍とは正反対の青装束を見に纏う男、ランサーが険しい表情で現れる。

 

「昨日戦った黒いサーヴァントについてだ……テメェ、何か隠してねぇか?」

「ほう……?」

 

 ランサーのその言葉に綺礼は眉を軽く潜める。

昨日帰って来たランサーからもたらされた謎のサーヴァントの存在、サーヴァントが召喚された事を知らせる霊器盤に反応することのなかったイレギュラー。

綺礼自身は何かの誤作動かと思い、これで7騎のサーヴァントが揃った……と思った矢先に8騎目のサーヴァント──正確にはその謎のサーヴァントが8騎目なのかもしれないが──であるセイバーが現れた。

 

 となればランサーが遭遇した謎の黒いサーヴァントは一体何者なのか。ランサーの言葉を信じるのであれば、ランサーと互角に立ち回れる程の俊敏性を持ちながら、それでいて蹴りを防がれてもそのままサーヴァントを吹き飛ばす程の筋力もある為に、スキル『狂化』によってステータスを強化するバーサーカーではないか……と考えたが、バーサーカーとは思えない確かな理性を感じさせるな言動に加えて今回の聖杯戦争では既にバーサーカーのサーヴァントは召喚されている為に無いと考えた。

 

 真名は勿論のこと、クラスも、目的も、何もかもが正体不明のサーヴァント。

それは他のマスターやサーヴァントは勿論のこと、聖杯戦争の監督者である綺礼でさえ『()()()()()』サーヴァントであること以外知り得る情報がないという存在。

 

「その黒いサーヴァントは召喚されたことすら貴様に教えられるまで私は知り得なかった。彼に関して隠していることは神に誓って無いと言わせてもらおう」

「……ふん、なら今はその言葉を信じてやる……だが」

 

 綺礼が発したその言葉をどう受け取ったのか、ランサーは気に食わないといった感じにそう言うと、肩に担いだ槍の穂先を綺礼に向け、鋭く睨む。そんな彼の視線に呼応するように紅き槍も自身と同じ色のオーラを発し、綺礼を威圧する。

 

「今の言葉を少しでも違えてみろ、その時は貴様の心臓を我が槍が貫くと知れ」

 

 濃厚な殺気がランサーから放たれ、教会内へ充満していく。

普通の人間であれば卒倒や失禁をしても全くおかしくないその殺気を一身に浴びた綺礼は──

 

「フッ、それは恐ろしい……ならば胸を穿たれぬよう気を付けなければな」

 

怯む様子すら見せること無く小さく一笑した後にそう言葉を溢す。そんな綺礼の反応を見たランサーは興味が失せたとでも言わんばかりに彼に向けた槍を降ろすと、一言「それだけだ、じゃあな」と言い残し、その場から消えた。

 

 そして再び一人となった綺礼はフゥ、とため息をつきながら祭壇へと歩を進めていき、置いていた聖書を手に取ると、聖書を開きそのページを1枚、また1枚と捲って行く。

神父としては決しておかしくない行動なのだが、聖書を捲るその動きは何処か同じ動作を繰り返す機械のようで、信仰心があるのかどうか怪しく感じられる。

 

 

 暫くしてページを捲る手を止め聖書を閉じると、月の光が差し込む窓へと視線を向ける。

そこに何を思うのかは彼以外は分かる事はなく、彼自身も己が真に何を思っているのかは分からないかもしれない。

 

 ただ、彼の口元が自然に作り出していた笑みは邪悪で、歪みきっているものだというのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会を後にし、互いにそれぞれの帰路へと付こうとしていた士郎とセイバー、凛とアーチャー。

しかし、そこへ白髪赤目の少女のマスターであるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと彼女のサーヴァントである巌のような巨躯を誇るバーサーカーの襲撃を受ける。

 

 凛による宝石魔術、アーチャーによる援護射撃、そしてセイバーの奮闘によりバーサーカーを撃退することに成功する。

 

 

 その後倒れた士郎を衛宮邸まで運んだ凛は彼の治療を行い、朝に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ、マスター」

 

 明かりが消え、窓から差し込む月明かりだけが部屋を弱々しく照らす光源となる夜中に戻ってきた訳なんですが……家の電気が全部消えているのを考えれば寝てますよねこれは。まぁ、だから声も小さめにしたんだけど。

 

 さてさて、今の時間だったらバーサーカーと戦ってるくらいか?それともまだ教会にいってる途中かな?

原作の時間はどうなのかは分からないけど、深夜帯に出て行ってたのは確かだと思うから、間違えてはないはず。

 

 

──ぶっちゃけ、セイバーに凛が切り殺されそうになったのは本気で焦ったね。アーチャーはなんで遅れたのさ……って、僕が居たからだね。はい、僕が悪いです、ごめんなさい。

 

 まぁ、その代わりに僕が助けたし。

そこはなんとか原作通りに進めれそうかな?あと士郎君もまだ令呪は使ってないし、少しは余裕があると思う。

ただ、セイバーが知り合いかって聞いてきた時はビックリしたよね。いないっての、あんな美少女の知り合いなんて。

 

 

 まぁ、人違いでしょう……こんな奴複数体いても嫌だけどね。

 因みにバーサーカー戦は手伝う気はないよ、そもそも初戦はイリヤが退いてくれるし、何よりも自分が戦いたくない。なんだよ幸運以外のステータスがAかA+って……化物じゃないか、勝てるわけがないって。

 

 いや、確かにね?自分もチートと言ってもおかしくない高ステータスですよ?スキルも単体魔力回復に戦闘を続けやすく、更に攻撃を介した魔力奪取と貯蓄。それに加えて精神に直接攻撃する鎖やブースト効果のある封印まで持ってる。

宝具だって何故か5つも保持してるし……最大でも3つとかくらいじゃなかったけ?なのに二つも追加されているってどう言うことですか。

 

 ……話が逸れた。

 まぁさっきのようにチートな身体能力にスキル等は持ってるけど、中身は単なる素人だ。勿論殺し合いなんてやったことがあるわけない。

 それに先のランサーやセイバーとの戦闘だって尋常じゃないくらいに強化されている視力によってなんとか動けているんだから。

 それがこの第5次聖杯戦争で最強格と言われるバーサーカーとマトモに戦って勝てるわけがないよ。狂化で理性が失われているといっても、あの強さは付け焼き刃にも満たない借り物の自分と違って本物だし。

 

 

 まぁバーサーカーは士郎君達に丸投げするとして……今回の聖杯戦争で一番の問題はやっぱりギルガメッシュと汚染された聖杯だよなぁ。

ギルガメッシュはあのヘラクレスですらボッコボコに出来るチートサーヴァントだし、汚染された聖杯は勿論破壊するべきだろう。ただ、破壊してしまうと僕の本来の願いである平和な時間軸は作れないだろうし……。

かといって破壊しないと何が起きるか分からないし……矛盾してるよなぁ……やっぱり。

 

 

 凛さんがセイバーを現世に止めるエンドはあったけど、流石にアーチャーまで止めることは出来ないだろうし、何より士郎君やキャスターのマスターである宗一郎先生みたいに魔力が殆どなかったり、皆無な人に至っては維持し続けるのは無理難題だ。

 

 だからキャスターは足りない魔力を補うために魂喰いをしてた筈だし……いや、あれは宗一郎さんに聖杯を手に入れさせる為にやってたんだっけ?

 

 

 まぁ、そこは良いか。

 それよりも聖杯をどうするべきか……だ。

今の自分の宝具を見ても聖杯をどうこう出来るようなモノは無いに等しいし、可能性はある宝具はあるけど、博打になることは間違いないだろう。

そうなるとマスターである月鳴さんに何らかの被害が及ぶ可能性が出てくる……それはどうにか避けたい。

 

となると残されたのは聖杯の破壊か。

 

 

 ハッピーエンドで終わるにはちょっと無理があるけど、やっぱり一番優先すべきは自分のマスターの命だ。

聖杯戦争は油断していると直ぐに殺られる可能性が高い……特に魔術に耐性の無いマスターだと、幻術をかけられたりして操られた後にズバッ!と背中から殺られる具合には。

 

 まぁ、自分の宝具はかなりヤバい火力のモノがあるからこれで聖杯は多分破壊出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?宝具?

キャスターの宝具って確か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚まし時計の音で自室のベッドから起き上がった私は未だに鳴り続ける騒音の主を止め、寝間着姿のままリビングへと向かっていると、キッチンから聞こえるはずがない何かを炒める音が聞こえる。

 

 火事かと慌てて廊下を走り、リビングから見えるキッチンへと眼を向けるとそこには。

 

「おや……起きましたか?」

 

 白髪糸目の細身で長身の男が、黒いスーツの上からエプロンを着てガスコンロの上にのせたフライパンで卵を焼いている姿があった。

 

 

 

 

「……いや、誰?」

 

そう溢した私は決しておかしくないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、出来ましたよマスター。どうぞお食べになってください」

 

 ニコニコと元々細い糸目と口を更に細くし、笑顔でリビングの机に皿を持ってくる私のサーヴァントであるアヴェンジャー。

そう、机に座る私の目の前に皿や茶碗を置いていく男はアヴェンジャーなのだ。

 

──いやいや、姿全然違いますけど?

そう突っ込んだ私にアヴェンジャーは「自分の宝具の1つを使った」と説明してくれた。宝具ってのは英霊が生前持っていた武具や伝説が形になったもので、分かりやすく言うと必殺技みたいなものらしい。

因みに宝具は英霊にもよるが基本それぞれ2~3程は持っているそうだ。必殺技多くない?って聞いた私に彼は「格闘ゲームだって必殺技は複数あるでしょう?あれと同じですよ」と、分かるような分からないようなイマイチな例えを使って答えてくれた。

 

 

 因みにアヴェンジャーが使った「姿を変えられる宝具」は何にでも姿を変えられるって訳じゃないみたいで、かつて自分の器だった人物の体にしか変えられないそうだ。

口調が変わっているのは変化している体に引っ張られているからだとか。

 

「なんか……便利なのか不便なのかよく分かんないね」

 

 昨日とは違い軟化したアヴェンジャーの口調に思わずそう呟いてしまい、それから数秒経って失言だったと気付くが時既に遅し。

口から出た言葉は消すことは出来ず、相手が怒る前に謝ろうと口を開こうとすると──

 

「そうなんですよねぇ……良いところはあるんですけど総じて言えば他のサーヴァントの方々の宝具に比べると微妙なんですよねぇ、これ」

 

 私の言葉を肯定するように反対側に座り込んだアヴェンジャーが落ち込み気味に呟く。

自分が予想していなかった反応に口を小さく開けたまま固まっていると、それに気づいた彼が俯いていた顔を上げて口を開く。

 

「おや、どうしました?餌を貰うために口を開けてる魚類みたいな顔をして」

 

 何でこのサーヴァントは一言余計というか例えが変に下手だったりムカつくんだろう。あれなの?なんかスキルかなんかについてたりするの?

そう言いたいのグッ、と堪えてアヴェンジャーの問いに答えることにする。

 

「いや、まさか肯定されるとは思ってなかったから、ちょっと驚いただけだよ。宝具って自分の必殺技みたいなものなんでしょ?それを馬鹿にされたって怒らないかったから……」

 

 それを聞いた彼は「あぁ、そう言う事でしたか」と、気に入ったのか一昨日した納得のモーションをすると、私の疑問に答えてくれる。

 

「怒るも何も事実ですからね……それに、私が優先するべきは今使っているこの宝具を含めた戦力でマスターを守り、願いを叶えることですから」

 

 そう言うと彼は糸目を更に細めて微笑む。

その言葉と微笑みに不覚にも少しだけときめいてしまったのだが、その事を目の前のサーヴァントには絶対に言わないようにしようと心に誓う。

 

 

 その後アヴェンジャーが用意してくれた朝食を食べたのだが、普通に美味しかった。

何故キッチンとかの使い方を知っているのかって聞いたら、全部召喚された際に聖杯によって与えられた知恵との事……聖杯万能過ぎ。

 

 そんな変なことで聖杯の凄さを改めて実感した私は私服に着替えた後にリビングに置かれたテレビを着けて次も間のニュース番組に眼を通す。

番組の内容はここ最近多発しているガス爆発や死亡&失踪者が続出していることについての特番。多局の大手番組でも見たことがあるようなハゲのコメンテーターが10年前にも同じように多くの死人やガス爆発などの事件が起きているということを熱く語っていた。

 

 

 

 

──アヴェンジャーから聞いたから知っては居るけど、このコメンテーターが言う10年前にも聖杯戦争は起きていた。

つまり、そう言うことだろう。

 

 私が食い入るようにテレビを見つめて居ると、ジャバジャバと蛇口から流れる水を使って何かを洗う音が止み、キッチンから私がいるリビングへ足音が近づいてくる。

 

 

 テレビから視線を外して足音の方へと向けると、エプロンを取り外し、白のカッターシャツとそれと間反対の黒のズボン姿のアヴェンジャーが私の瞳に映った。

改めて見るとエプロンというバランスブレイカーがあった為に気づいていなかったが、かなり格好良いのではないのだろうか……うん、やっぱり普通にイケメンだと思う。

 

だけど糸目だから……というよりも全体的な雰囲気に怪しさがまとわりついており、詐欺師っぽい感じがする。動物で言うなら蛇。

 

 

 

 昨日までの姿は威圧感バリバリで怖いのは怖かったけど、私に敵意が無いってのは分かってたからそこまでだけど、今の姿は好意的な態度だけど、どうもそれも演技のように見えてしまうからどっちかと言うと今の姿の方が個人的には苦手だ。

ただ、格好いいのは否定しない。

 

 

 

 何も言わずに自分を見つめてるマスターに戸惑ったのか、アヴェンジャーが首をかしげながら此方に問いかけてくる。

 

「ええと……どうしました?」

「いや別に。気にしないで」

「………………そう言われると余計に気になるんですけど……まぁ、良いでしょう」

 

 仕方ないという雰囲気を満々に漂わせながら小さくため息を付いたアヴェンジャーは私から少し離れた場所に座り込むとテレビに視線を1度向けた後に、此方へと視線を向けてきた。

 

「マスター。少しだけ話したいことがあります」

 

 その表情には前の姿とは違って声と同様に真剣な色があり、これから話す事が大事なことだと私に教えてくれた。

 

「どうしたの?」

「はい、私のスキルについて」

「スキル?」

 

 オウム返しのように聞き返した私にアヴェンジャーは自身が持つスキルの中に魔力を貯蔵するスキルがあること、そしてその魔力はマスターから供給されるものも貯蔵することが出来る為、今後の事を考え魔力を貰えないかという話だった。

 

 それなら勿論構わない。

私に出来ることはアヴェンジャーのサポートぐらいだし、それにサポートと言ってもそっち系の魔術に疎い私からしてみれば出来ることなんて片手で数えること位だろう。

強いて言うなら魔力の回復がそこそこ早いことと、強化魔術が得意な事くらいだ。

 

 

 そんな私が彼に出来る事があるならそれをするべきだろう……おんぶにだっこ状態は流石に嫌だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふぅ、これくらいで良いかな?」

「……ええ、充分ですよ」

 

 スキルで私から魔力を供給……というよりも奪ったアヴェンジャーは驚きながらも充分だと答えた。

私の魔力の量が少なかった事に驚いたのかも知れないし、もしかしたら予想よりも多かったから驚いたのかもしれない。

 

 体から魔力が抜けていったからなのか、体が怠い。

 しかし、朝から力が抜けている私とは違い魔力を貯蔵したアヴェンジャーはいつの間に来たのかズボンと同じ黒いスーツを着て、私に「用事があるから出掛けてくるけど、良いか」と聞いて来たので問題ないと答えると、そのまま青い粒子へと変わっていき数秒も経たぬ内にその場から消えた。

 

 

 

 

 残された私に出来るのは、依然付いたままのテレビを見続けることくらいで、アヴェンジャーが帰ってくるまで体を襲う怠さに身を委ねながらただひたすらテレビを見聞きしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有難うございました。

バーサーカー強いですよね。
私はバサスロがかなり好きなんですが、皆さんは好きなサーヴァントっていますか?
知り合いにヘラクレスが好きすぎて、とあるサーヴァントを酷く嫌っている方がいるのですが、仕方のないことなんだろうなぁ……と思ってます。

まぁ、そんなこんなで主人公の宝具が1つ出てきました。
一応下に載せておきますね……あとルビとかあれば是非感想欄にでも書いてください。
私では格好いいものが思い浮かびませんでした、はい。



『我が身は囚われること無く』

ランク:A
種別:対人宝具
レンジ:─
最大捕捉:1人

肉体という器に憑依・融合していたスサノオの本来の精神体が元になった宝具。
自身の肉体を再構築し、かつて自身が使っていたまたは憑依・融合していた肉体へと変化させる。
この際にクラスやステータス、スキルなどはその肉体のものへと強制的に変更されるため相手に応じて姿を変えることで臨機応変な戦い方が出来る。

しかし、本来の肉体であるスサノオが最も強い為にクラス相性や他の目的等が無い場合は殆ど使う必要が無い宝具でもある。
また、本来であれば多くの器があったであろうが、これを扱う主人公がそれを知らないために変化出来る肉体は元々の姿であるスサノオを除くと4つしか無い。







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