ゲール少将の胃痛 (化猫)
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独白

 

 

子供のころから戦艦が好きだった。それは大人になっても、例え生まれ変わっても変わらなかった。

 

バレラスそれが第二の故郷の名だ。

 

12歳になる頃、軍に憧れた。空を飛ぶ重巡、宇宙を行きかう戦艦。

その巨体に、そしてその強さに。

軍は延々と拡大する領地に対して兵士が、士官が圧倒的に足りていなかった。

士官学校の中等部には簡単には入れた、三年間はずっと陸戦訓練だけだった。

高等部に進級してからは延々戦艦に乗りっぱなしだった。

兵士が足りず演習名目で何度も前線に駆り出された。

同期で入学した奴らは半分死んだ。

代わりに成績だけはいい奴らは相も変わらず士官学校でぬくぬくとしていたらしい。

大学部には入れなかった。

落ち込みはしたが、納得はできた。今軍と祖国がほしいのは前線の指揮官と兵士だ。

後方にいる高級士官なんてものは少ないほうがいい。

准尉として任官することになった。

最初に配属されたのは天の川方面遠征軍だった。

第五旅団第四分艦隊旗艦グレイアーⅡの艦橋要員、肩書きはいいが、任官一年目など雑務要員扱いだ。

とはいえ三ヶ月ほどで雑用要員ではなくなった。航宙魚雷の操作要員が、コントロール室ごとお亡くなりになったようで、艦内の余剰人員で

再編された部署の選任士官として任命された。各地を転戦するグレイアーⅡの中でただ死なぬよう必死に戦い抜いたと、おもう。

仕事を任されて3年すでに大尉になっていた俺は第三旅団に転属になった

聞いた話だと同期のゼーリックは近衛艦隊の巡洋艦を任されているらしい

うらやましいものだ

第九旅団直属艦隊の駆逐艦EDD112の艦長を任されてからは今までになくひどかった

前線を延々転身、敵と戦わなかった週はなかった

いくら倒しても沸いてくる敵遠ざかる昇進

そんなことを気にしてはいられなかったが

8年戦い階級は中佐

今度は本国艦隊に転属になった

ほかの駆逐艦なんかもそろって本国に回されていた今思えば異様だったと思う

本国で待っていた知らせは母の死と大佐への昇進から重巡艦長への就任だった

そして本国艦隊で四年務めていたある日事件が起こった

クーデターだ

あの日本国艦隊に回されていた駆逐艦の艦長はクーデターのため帝都に集められたものだった実は俺もクーデターに誘われていた同期のバルツエルからの誘いだった

最初から協力する気なんてなかったが

戦場に十年以上身を置いておいてなんだが

軍隊は平和を守るもので平和を乱すものではないと思ったからだ

前世の記憶のせいかもしれない

クーデター軍の情報を売り

そして鎮圧にも参加した

バルツエルは自決したそうだ

しかし情報を得ながらもクーデター軍の攻撃を受け総督府は崩落

総統はあの世へと連れていかれてしまった

そのせいか知らないがこの時から早くない出世がさらに遅くなった

いつしか同期の奴らにまで抜かれていった

ゼーリックなんてもう少将だ

この時ほかの同期と一緒にゼーリックのもとに連れていかれた

奴はこれから派閥を大きくしていっていつしかこの国の中枢を握るのだとうそぶいた

確かにクーデターで軍政どちらも上の人間が足りていない

総統などまだ二十歳になったばかりの若造だ

奴の派閥に加われば好きな役職をくれるらしい

御大層なことだ。…だがあの頃に戻りたいとも思っていた自分がいた

本国艦隊の事務机ではなくキャプテンシートに座る自分を思い出し羨んでいた

味気ない今ではなく輝かしいあの時を

そのことを伝えるとゼーリックはどう解釈したか

「貴公は野心家だな」と言ってきやがった

何が野心家だ

だが辺境艦隊につけてくれるならば列に加わると伝えてその日は帰った

それから一週間半ば忘れていた時に辞令がきた

准将への昇進と新編成される第121航宙旅団の旅団長への就任だった

任務先は天の川銀河古巣だ

渡された艦隊は揚陸艦も含めて186隻大艦隊だ

バラン鎮守府で補給を済ませた後すぐに任地へと向かった

惑星ターミラ此処の攻略が任務だった

彼奴らがこちらの輸送船を沈めたことから始まった戦争だ

高々無人船を沈められたぐらいで何をやっているのか

しかしその三年間は実に充実していた

気付けば40になっていた

しかしまた戦場から離されてしまった

ゼーリックのモミあげが

少将への昇進と銀河方面作戦司令官への就任

断れるはずもない

それからの七年間は退屈だった

戦場から離されただすることもなく、叔父に勧められ結婚までしてしまった

相手は35の気の強い娘だ、いや娘なんて呼べる年ではないか

そして今日あることを思い出した

いやなぜ思い出さなかったのだろう

いままでヒントはたくさんあったはずなのに

「ゲール指令テロン人の船が超空間ジャンプ(ゲシュタムジャンプ)を行ったようです」

 

「テロンの船が………?」

気づいた気づかされた自分が誰なのかを

ゲルムト・ゲール銀河方面軍作戦司令かの腰巾着だと

 

 

 

 

 

 

 



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乱文 又は各個人の記録

頭の中からの蔵出しです。


「獲物が罠にかかったのだよ。」

 

そう答えるエレクドメル上級大将に対して俺は複雑な心境だ。恐らくは自分の死因になるであろう男でもあるし、アニメにおいて自分と彼との仲は決して良いと言えるものでもなかった。それでも今はその事を置いて執務に専念せねばならない。

鎮守府の執務棟まで行く間気まずい沈黙が車内を包む

 

「ゲール君、君に一つ礼を言いたい。シュルツの事だ、よく守ってくれた。」

 

「礼を言われる事ではないかと、今は私の部下ですので。」

 

銀河方面軍作戦司令から副司令へ降格されたのは単にシュルツを庇ったから、というのがあるだろう。ヤマトを沈めることもできず作戦を失敗し、あまつさえ現場指揮官を処断せず庇ったのだから当然だろう。しかし、シュルツは基地こそ失えど、それだけで処刑されるべきではない。ガミラスの軍法にはそんな記述はないし、いままでそんな理由で処刑された指揮官もいない。ましてや戦艦のクルー全員を巻き込んでの自殺など見過ごせないだろう。ゼーリックには散々文句をつけられたものだが、正直な話どうでもいいというのもある。早々に指揮官を解任されれば、ヤマトと戦わずに済むかもしれない。或いは一戦艦乗りとして戦うことが可能かとしれない。そう考えていた。誤算だったのはゼーリックが殊の外俺を気に入っていた点だろう。銀河方面軍、ましてやバラン鎮守府は彼奴のシンパしか居ない。所属する艦隊はもちろん一駆逐艦に至るまで殆どが彼奴の私兵みたいなものだ。だからこそ変わりはいくらでもいると考えていたが。ドメル上級大将派遣がその流れを変えたというのもあるだろう。

つらつらと考え事に浸る俺をよそにドメル中将は続けて、

 

「無事ヤマトを仕留めた後、私は小マゼランへ戻る。その時は君が司令に戻れるよう取り計らうつもりだ。今暫く辛抱してほしい。」

 

やはりあまり嬉しくはない申し出ではある。が受けておく他はないだろう。

礼を言って頭を下げると、ドメル中将は満足げにうなずいた。

 

「よろしく頼むよ、ゲール君」

 

前途は多難だ。

 

 

 

司令室にて罠についての詳細を聞き終えた後。一時解散となり各々がバランで使う部屋へ向かう道すがら、俺はハイデルン大佐に艦隊幕僚達について聞いてみた。

 

「確かに些か奴らは若く、階級も低いですな。思慮に欠ける所もないとは言えません。ですがバーガー、ゲットー両名共光るものを持っています。少しばかり荒削りではありますがね。今回の転属で奴らを抜擢したのは成長を促す為というのもあるでしょうな。クライツェは年長として2人を十分に御してます。まあ、少しばかり心配になるのは分かりますが信じてやってください。」

 

そう答える大佐の顔は父親のようだった。伊達に親父さんと慕われるわけではないのだろう。

 

「閣下は彼奴等をどう評価されますかな?」

 

そう尋ねられ迷う。正直に答えるか、或いはお為ごかしを言うか。

そう迷っているのを見透かすように続けて正直な感想をと続けられ顔を見る。

この吾人はたたき上げの将校らしく不敵な笑みを浮かべていた。勝てないと、そう思わせてくる。ならば誠実に答えるのが俺の役目だろう。

 

「少々、生き急ぎが過ぎますな。特にバーガー少佐は顕著です。本人に自覚がないのがまたたちが悪い。いくらか改善したようにも見受けられますが、それにしても無謀が過ぎる。勇猛果敢か猪武者か、そのどちらにもなりえます。ゲットー少佐はエースだそうで、その自負に満ちています。自分のやり方にこだわりを持っている。悪いことではないですが、幾分想定外に弱いところがあります。埒外の情報を聞くと固まる癖は致命的とも言える。思慮深さをうまく生かせるか、と言ったところです。クライツェ少佐は寡黙と言うよりしゃべらないところを何とかすれば今すぐにでも将官を熟せる器です。それだけに惜しいとも思いますが。こんなものですかな」

 

そう言い切った俺に対してハイデルン大佐は満面の笑みで答える。よく笑うその姿に多くの兵が勇気づけられるのだろう。軽くうなづき返し、自身の執務室へと向かう。自分とは正反対のその姿に少し羨望を覚えながら、うまくやっていけるとどこかで確信していた。

 

 

 

 

 

第一印象は最悪と言ってもよかった。くたびれた中年男性、その印象しか与えぬけだるげな風貌はとても軍人には見えなかった。だがその眼差しだけは鋭かった。ギラギラとした瞳には言いようのない凄みがあった。しかしその後やはり第一印象が正しいのだと考えを改めた。結局の所保身にしか興味のない官僚軍人だと。もう一度考えを改めたのは、もはや死ぬしかないと言った時だった。デスラー総統の作戦を失敗し、基地損失の責任を取り部下たちと共に死ぬことこそが、家族の引いてはザルツ人の為になると。しかしその決意を無駄だと切り捨てたのは閣下だった。

 

ただ淡々と撤退を命じられた時はわが耳を疑ったが、結局ヤマトの追撃は行わず、生き延びる羽目になった。部下の仇をとれず悔しがる私に対し今生きている部下を殺すなと言う閣下に何も言えなくなったのだ。

おめおめとバランに到着した私たちは憲兵に取り囲まれるも、閣下がとりなしてくれたおかげで特にお咎めもなく済んだ。

だからこそ私たちを庇い降格を受けたという話に大いなる恩を感じた。

 

総統を含む高官たちが集う中で一人啖呵を切ったという。曰く、シュルツは自分の部下であり、その進退を決定するのは自分であると。作戦の失敗は試作兵器の想定外の行動によるものであり、何よりもあたら優秀な部下を殺すための命令を行うことはできない、と。その啖呵に対し静かに気炎を上げる宣伝相と親衛隊長官を抑え、大いに喜んだのが総統である、と言う話は閣下が降格され派遣されたドメル閣下から伝えられた。

 

だからだろう、ドメル閣下にもう一度共に戦わないかと問われ、断ったのは。

この恩を返すまで私は閣下のもとで戦うのだから。

 

 

 

 

ゲール少将について知ったのは、叙勲式ののち銀河方面軍についてディッツ閣下から話を聞いた時だった。

曰くもみあげゼーリックの懐刀。曰く反乱軍最悪の裏切り者。曰くバトルシップエース。そして総統にかみつく狂犬と。しかし噂に踊らされるなと、そう説明され興味を抱いた。いくつもの戦場を渡り歩くも、今だ少将のこの男は、しかしドメルのかつての部下シュルツを助けるため、この国のトップであるデスラーに噛みついた。運よく降格で済んでいるものの、一つ間違えば首が飛ぶだろう。きっとこの男ならば部下たちにいい影響を与えてくれるだろうとも。そしてバランで初めて会ったその男は、期待通りの男だった。

 

 

 

 

 

 

ゼーリックにとってゲールは野心がゆえに戦場を志し自分に付き従っているものだと思っていた。だからこそアドミラルシートにしがみついているのだと。ゼーリック率いる貴族閥はその影響力こそ軍、政府とはず強力だが、実働戦力と言う点では劣っていた。いかに優等装備と言えど、それを扱うものが二流では話にならない。特に親衛隊はすでに一線級部隊に匹敵する装備と規模を誇る。これに対抗するにはこちらもそれなりのものが必要だ。その点ゲールは辺境鎮圧で武名を轟かせた優秀な指揮官であり、実働指揮官として申し分なかった。その評価が一変したのが、ヤマト問題だ。部下を庇いあまつさえ高官たちの前で作戦批判じみたことさえしてのけた。過去の功績とデスラーのとりなしで銀河方面作戦副指令に降格で済んだが、貴族閥にも動揺が走っている。このまま狂犬を飼い続けていいのかと。貴族閥に所属する軍人の多くが武門の出ではなく、安全と出世をこよなく愛するからこそゲールの行動を理解できぬのだろう。

優秀な手ごまではあったが、ここが潮時だろう。これ以上ゲールを手元に置くメリットよりもデメリットの方が勝る。そう決断したゼーリックは部下に計画の変更を伝える。ゲールをドメルと共に拘束し首都にて軍法会議にかけると



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決戦

最終話です。

少し悩みましたがカレル星域での戦闘はほぼ原作通りなのでカットとなります。

その関係でほぼ最終決戦までカットとなります。あらかじめご了承ください。

2021/09/02改稿 誤字変更 原則を減速に 発信を発進に 単純以下力を単純に火力に


宇宙戦艦ヤマトを沈めることは出来るのか。

 

敵にとして相対すればあの鋼の城は迫りくる敵をすべてなぎ倒し最後には敵の母星を破壊する、死の運び手だ。

 

行く手にふさがるものは破滅しかない。

 

作中でヤマトが危機に陥ることは幾度と有った。

だがしかし、彼らは決して沈まなかった。

 

そういう作品だと言ってしまうのは簡単だ。

 

しかし、では今、この宇宙で生きている人たちすべてが物語だからで片付くわけもない。

 

士官学校の同期、ミハエリスは旧帝国領ボナン制圧の際戦死した。婚約者を残したまま。

 

 

二人目の上司ツェンカー中佐は旧辺境域反乱鎮圧において賊軍に寝返り、討ち死にを果たしたという。 彼の息子夫婦は幼い孫を残し、粛清されたという。

 

 

部下のブリンクマンは三代の大公に仕えた歴戦の下士官だった。軍を終の棲家と常々言っていた。蛮星カリィにおいて、寄航中の半舷上陸で町に繰り出したところ、独立派のテロによって死亡した。

 

 

彼らの死は、宇宙戦艦ヤマトの物語に何の関係もない。

 

だが確かに生きていたのだ。その事を俺は覚えている。

 

だから物語だから、と沈められないと思考を止める気にはならなかった。

 

 

しかし葛藤は有った。

 

もし俺がヤマトを沈めれば地球人類の希望は宇宙のチリとして消える。

 

今更人を殺めるのはいけないとは言わない。

今までにグレムトゲールとして、軍人として多くの兵士を殺し殺させてきたのだ。

 

だが、地球の命運をまがいなりにも握っていると考えてしまえば、決心が鈍った。

 

今にして思い返せば、思い上がりも甚だしい。

 

 

そしてもう一つ。ヤマトがサレザーまでたどり着き、ガミラスに降下した時、ガミラス帝国が終わらない保証はない。

 

正直、この国に未練などはない。

 

兵士を使いつぶし、恐怖と暴力で秩序を築き、強制収容所を有する、よくある専制国家だ。

 

独り身ならば、生き残りを最優先しただろう。

 

残念なことに、或いは幸運なことにこの身は結婚をしている。親族も生きている。

 

だから星が滅ばぬように、あの船を止めるだけだ。

 

 

 

宇宙戦艦ヤマトを沈めるにはどうするべきか。

 

彼らが物語的都合でなく、運と実力で勝利していた場合それは薄氷の上の勝利だ。

 

であるならばその薄氷を崩してやればいい。

 

いくつもあるピンチをうまく生かし、そのままとどめを刺せるようにする。

 

元来ガミラス側が戦力を整えていれば葬れるはずなのだ。

 

現実は官僚主義と予算、侮りが邪魔をする。

 

艦隊戦力を結集すればヤマトは葬れるはずだった。

 

第六空間機甲師団分遣隊との合同作戦で勝負は決まるはずだった。もみあげのおかげで千載一遇のチャンスを失ったが。

 

七色星団決戦はあと戦艦が2隻、いや1隻有っただけで結果は変わっただろう。軍実務者クラスの大量逮捕とそれに反発した提督たちの反乱が結果として護衛のいない空母艦隊を編成させた。俺に至ってはデスラー政権にとって邪魔になると思われたのか刑務所送りにされていた。

 

処刑を待つ身だった俺が出所できたのは一重にドメル上級大将の口添えに過ぎない。

観艦式の為に派遣され取り残された本国の艦隊はその残余が意図的なサボタージュで機能不全に陥り、さらには他戦線の増援に回されたことで艦艇の在庫が底をついていた。

親衛隊の一部まで派遣され戦線を維持していたというのだから深刻さがわかるだろう。

 

そんな中、本土に残っており、都合よく死んでもまったく痛くなく、いう事を聞くほかなく、そして最低限の実力をドメル上級大将に保証されていた俺に白羽の矢が立ったのだ。

 

此処が最後のチャンスだろう。お歴々の討論でドメル閣下残した貴重な時間は失われた。

もはやサレザー星系外でヤマトを撃つことはかなわない。

 

「状況は?」

 

作戦準備のため与えられた艦隊司令部の作戦会議室は艦の整備状況や資材搬入資料で埋め尽くされていた。

 

「ゲルガメッシュ、シュバリエル両艦ともに整備状況は8割5分と言ったところです。」

 

そう答えるのは同じく命令違反の罪で捕まっていたシュルツだ、その隣には彼の副官ガンツ少佐もいる。

両名ともザルツ義勇軍士官という事でレプタポーダ等の収容所に送られず本国の軍刑務所に収監されていたのは運がいいとしか言いようがないだろう。

 

 

報告されて渡された整備状況をまとめた書類に目を通す。

逮捕され取り上げられた座上指揮艦は本国のドックで整備を受けていた。ドメル艦隊が引きとらなかったのは時間的猶予の問題だろう。彼が出撃した時点ではエンジンを取り外しての重整備が始められていた。慌てて戻したはいいが結局七色星団決戦には間に合わなかった。

 

そうして俺とシュルツの手に再び戻るのだからままならない。

 

「宣伝相の座乗艦は?」

 

もう一隻何とか手配できた船が有る。宣伝相の座乗艦シャングリラ―である。

この船を押し付けられた時本土防衛を親衛隊が行うことで話がまとまりかけていたらしい。ここに待ったをかけたのがタランン兄弟と宣伝相だった。

 

保険であることを強調していたが座乗艦を譲られたのは大きい。最前線に赴くわけでもないのに最新鋭のハイゼラード級を乗り回していたのだから有効活用だろう。

 

「そちらはすでに整備は完了しています。空いた時間で工員が再塗装を行っていますよ。」

 

整備目録にない行為であるためシュルツを咎めるべきだろう。しかし実際は時間は余っている。

弾薬の調達が進まないのだ。

 

「長魚雷は現段階で151本集まりました。」

 

純粋な驚きが出てくる。ガイデロール級用長魚雷の工場はすでにラインを閉じつつあるのだ。汎用型魚雷が主流になりつつある現在、前線に備蓄は有れど後方のガミラス本星には在庫がなく、親衛隊も保有していない為譲ってもらえるわけでもない。そんな現状でよくも150本も集めたものだと感心する。

しかしその淡い希望は打ち砕かれる。

 

「残念ながら使用できるのは半分以下です。なにせ軍学校や博物館の展示品、整備練習用の物までかき集めたものですから。メーカに整備を命じましたがどこまで間に合うか...」

 

書類上は立派であったが実情はお粗末なものだった。ガミラス本土各地に保管されていた分が50本程度あとは実用に適さない保存状態でしかなくこれ以上は近隣星系にもないだろう。ヤマトを戦艦3隻だけで打ち取るのにせめて準備だけは万全としたいものだったが、この分では諦めるしかあるまい。

 

「整備を切り上げる。現段階で詰めるだけの長魚雷を積んで軌道上に船を上げて即応待機に移るぞ。」

 

警戒網はヤマトが2日以内に到着することを示している。準備の時間さえ足りないのだ。

通信衛星と重力波監視のブイが知らせてくるそれはおおよそ2度のゲシュタムジャンプでサレザーに到達できる距離にまで侵入されたことを示している。

 

「ガンツ少佐、ゲルガメッシュを任せる。頼んだぞ。」

 

艦こそ譲り渡されたものの乗員と指揮官は自前で用意せねばならない。優秀な副官はその優秀さを活かし逮捕を免れ現在は3000隻からなる本国艦隊に随行しもはやガミラス内ではほとんど経験のない長距離艦隊行動を行っている。離れていようとも苦労することに変わりはないようだ。

 

艦隊砲戦で最大の火力を持つシャングリラ―は乗員をゲルガメッシュとシュバリエルから乗員を抽出することで対応する。だが寄せ集めの乗員を御せる人材はおらず、必然シャングリラ―は俺が使う必要がある。あいたゲルガメッシュの指揮ができる人材はガンツ少佐以外いないのが実情なのだ。

 

 

 

サレザーの重力安定点はいくつかある。ヤマトがワープアウトするとしてエンジンに過負荷がかからないような場所はラグランジュポイントとなる。

ガミラス本星とイスカンダル星の二重連星はそのラグランジュポイントが極めて小さい。イスカンダル帝国時代に本拠地をサレザーに置いたのも星系内の母星付近に直接ワープアウトできないことが極めて稀有で有利だったからだ。

 

本星に一番近いラグランジュポイントは第五惑星エピドラとその月アスタルの間にあるものだ。

ゆえにヤマトがワープアウトする可能性が一番高いのはそこだろう。

 

ワープアウトしたヤマトがバレラスに到達するまでおおよそ十分、これまでに確認したデータを基に算出された数字は信頼に値する。

 

この十分間でヤマトは亜光速まで加速し本星を襲うだろう。

 

そうした緊張の中開戦の号砲は軌道上の実験都市から発射された。

 

紫色の殺意は強烈な閃光とともに第五惑星のエピドラを破壊して消え去った。

 

開いた口が塞がらない。あれは波動砲だろう。おそらく。総督府と親衛隊がとんでもない戦力を隠していることだけが確信できる。だが呆けている暇はない。

 

ヤマトは生きている。

 

「艦隊前進!ヤマトを迎撃する!」

 

そう叫んだ俺を艦橋要員たちは信じられないものを見る目で見返す。

 

呆けながらも復命し作業を辞めないのは熟練ゆえだろう。

 

エピドラ崩壊の影響をアスタルの陰でやり過ごせたが星の残骸ともいえるガス雲が視界を遮っていた。

 

ヤマトの未来予測点に向け増速を開始する。と同時に星間ガス雲に変貌したエピドラの雲の中からヤマトが突き抜けてくる。

 

第二バレラスからの通信と、ヒステリックとも言える追撃命令がヤマトの生存が幻覚でないと伝える。

 

「艦隊統制射撃!砲撃戦用意、集中砲火で行足を止めるぞ!」

 

号令をかけ加速の最中砲戦を開始する。月の影から出た三隻は単縦陣を形成しヤマトの横に陣取る。

 

「撃て!」

 

恐怖と焦り、そしてそれ以上の興奮が体を包む。今この瞬間の為に戦艦に乗り続けたのだと実感した。

 

ド級戦艦三隻からの砲撃はお互いが干渉しないよう離れつつもヤマトの船体側面を見事とらえた。

 

命中弾は5発。艦首と艦尾に一発づつ、そして艦中央の魚雷発射管に三発。

 

誘爆をねらい330mm陽電子カノンから放たれた光線は寸分たがわず命中したものの、装甲をえぐり紫煙を船体から吐き出せるが誘爆には至らなかった。

 

そうしてこちらが一撃を与えたのだから向こうも反撃してくるのが道理だ。青白く主砲が光り閃光が放たれる。

 

大きな揺れと共にけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。行足は止まらず、主砲も第二射を放ったのだから大きな問題はないのだろう。目の前の戦艦に集中する。

 

第三射、第四射と砲撃を加えていく。しかし、当たらない。加速を始めたばかりならばともかく亜光速の中同行戦を行えば、照準と標的がぶれるためなかなか命中弾を出すことができない。それは敵も同じことであり、幸いシュバリエルもゲルガメッシュⅠも被弾はすれど損傷が軽微なため落伍することもなかった。問題が発生したのは6分を過ぎたころ、親衛隊の空母隊の担当宙域に入ったことだろう。

 

艦載機隊を発信させるため減速に入るヤマトに対しこちらは優速を保ちつつ陣形変更を行う。変則的な鶴翼陣に移り前後と右舷に展開する。頭を押さえこれ以上進ませない構えだ。

 

陣形変更のために砲戦が途切れた合間にヤマトは艦載機隊の発進に成功する。前衛空母群には悪いが、彼らの相手を務めてもらわなければなならない。

 

短いインターバルのち砲戦が再開される。三隻からの集中砲火を波動防壁でもって防ぎきるヤマト。この出力の防壁を展開することはガミラス艦艇には不可能だ。

 

統制射を防がれようとこちらは敵の砲撃を防げない。側面に展開する本艦は最大火力を浴びるとばかり考えていたがそうではなかったようだ。

 

前方に展開するシュバリエルが前部砲塔群で砲撃され瞬く間に火だるまとなる。後方魚雷発射管に長魚雷を装填した直後だったのか爆炎はシュバリエルを二回り上回る。炎に照らされる中部下を気遣う余裕はない。至近距離で砲撃を続ける本艦に側面魚雷が発射されていた。対空砲火で1/3を落とすも残りは全弾が命中する。船体側面の魚雷発射管を吹き飛ばし爆炎が船体を舐める。一切の魚雷を搭載していないから誘爆は恐ろしくないが、単純に火力が高い。だがやられるだけではない。シュバリエルが爆沈したタイミングでゲルガメッシュⅠがその持てる最大火力を投射していた。全魚雷発射管からの全力投射だ。

 

ヤマトの艦尾に集中した魚雷群は後部主砲とsamそして対空砲火群にその多くが撃墜される。半数近くが撃墜されようとも残り半数が着弾しヤマトの推力を奪う。

 

後部カタパルト、サブエンジン、尾翼その他上部構造物は軒並み破壊された。後部主砲すら吹き飛ばしたその威力は格別だった。そして生き残った副砲がゲルガメッシュⅠの給弾口に命中した。

 

ガイデロール級における弱点の一つであり、艦尾付近まで貫く輸送路はヤマトの副砲をやすやすとエンジンまで伝える。運よく給弾口に魚雷が残っていなかったために誘爆は起こさず結果としてメインノズルとエンジンを破損したゲルガメッシュⅠは落伍した。

 

決定的とも言える一撃を加えようともヤマトは前進を止めない。

 

シュバリエルの抑えがなくなり、増速を開始する。

 

いつの間にかガミラス本星の重力につかまっていたのだろう。衛星軌道に侵入を開始したヤマトに追従しなくては。

 

青く緑に輝くガミラスを眼下に最後の死闘を演じる。降下体制に入った二隻はしかしお互いにその砲火でもって傷をつけあう。

 

ヤマトの装甲を抜くには本艦の主砲威力はあまり低く、ヤマトの砲戦能力はそれまでの死闘で減退していた。

 

近距離で放たれる陽電子衝撃砲は確実に船体を捉え表層構造物を破壊する。とうに副砲は沈黙していたがついに第1主砲も直撃により蒸発した。

 

応射はヤマトの波動防壁に一部が阻まれる。敵艦首主砲を狙った一撃は空振りに終わるも、艦尾を狙った一撃は煙突ミサイルを貫通、誘爆を持って後部の副砲とアンテナをへし折る。

 

だが一段と近づく暗い地表に対しヤマトを引き離す手段はほぼない。撃沈するしか方法はない。

 

さらに距離を近づけ近接火器のパルスレーザーすら投入する。

 

第三主砲は吹き飛び使用可能なのは第2主砲のみとなった。元より魚雷は搭載しておらずとどめとなりうるものは何もない。

 

しかし相手も満身創痍と言えるだろう。そしてサレザーの太陽が再び艦橋内を照らした。

 

軌道上でガミラス星を一周したのだ。

 

シュバリエルの残骸が見えてくる。艦の外殻はすべて吹き飛び廃艦同然の姿だがバイタルパートは生き残っている。

 

そしてゲルガメッシュⅠ。エンジン部分が吹き飛んだ戦艦は、しかし艦首をこちらに向けていた。

 

ガンツ少佐の意図を読み、かく乱のため残存火力をすべて派手にぶつける。

 

ゲルガメッシュⅠは短い交差時間の間に艦内に備蓄された残りの長魚雷をすべて打ち尽くす。

 

波動防壁と近接火器に阻まれるはずのそれらは、至近距離ゆえに迎撃もできず、ヤマトの側面に集中する。

 

外部装甲と外殻部分を吹き飛ばし爆発はヤマトの重要区画をむき出しにする。

 

このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

唯一ダメージを与えることのできる主砲は第2主砲だけが生き残っている。右舷後部の開口部を狙う射角を得る為艦を減速させる。

 

「撃て」

 

そう、号令を下した瞬間、ゲルガメッシュⅡ(シャングリラ―)は紫光につつまれた。

 

 

 

 

 




以上で本作は一応完結です、が番外編が存在します。本作のエンディングに納得のいかない方はお読みいただけると幸いです。本編で語らなかった部分も後書きで色々書こうと思いますのでどうぞよろしくお願いします。


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バンデベルはかく嘆きえり

と、いうわけで番外編です


2021/09/02改稿 徴用、伊津部の誤字を重用、一部に変更


どうしてこうなるのだ。

 

バシブ・バンデベルはその人生において順調な出世を重ねていたはずだった。

 

士官学校での次席と言う地位と共に順風満帆な輝かしきスタートを切ったはずだ。

 

バンデベル一門の名に恥じぬ昇進を続けその地位は安泰であったはずだ。

 

そこに陰りが見えたのは一重に成り上がりのゲールのせいに他ならない。

 

ゼーリックを中心とした貴族閥は元来軍事分野において後れを取っていた。その中で重用される地位に就くため軍人となったはずが、ゼーリックがどこからか拾ってきたゲールは貴族閥の中での自分の地位を脅かす存在になった。

 

そもそもそのゼーリックからしていらぬ野心をたぎらせる男だった。

 

身に余る野心とその野心を持つ自分に酔うような男だった。

 

しかしガミラス帝国においてデスラー体制は絶対。

 

遠くない将来貴族たちはその特権をはく奪されるのは目に見えていた。

 

そこに対抗できるのがゼーリックだけであることも理解できた。

 

ゆえに彼に対して協力したのだ。

 

それがこのざまだ。

 

憎々しげに見つめるのは大きく姿を変えたバラン星の姿だ。

 

暗殺は失敗、ゼーリックが要塞指令代理に拘束され、艦隊はヤマトに追い立てられバランの地を後にした。

 

何らかの処罰が下されるのは明白であり、処刑を恐れ艦隊を離脱した。

 

放浪すること半年。

 

本国の状況がわからぬうちにデスラーとその一派に出会ってしまったのが運の尽き。

 

処罰をせぬ代わりに協力を約束させられ、こんなところでヤマトを待ち伏せることになった。

 

いつから自分の運命は狂ったのだと嘆く。

 

それもこれもすべてはゲールとヤマトのせいだと。

 

 

そしてそこに飛び込んできたのがヤマトだ。

 

総統の作戦は最低でも遂行しなければならない。見張りの親衛隊員を排除できれば今すぐにでも本国に帰還したいところだ。

 

八つ当たり気味に追い立てる。

 

ゼルグートは持ち前の装甲でデブリを無理やりに排除しながらヤマトに迫る。

 

その火力はゼーリックをして大小マゼラン最強と言わしめたものだ。

まぁデウスーラⅡにはかなわないのだろうが。

 

そうしてゲシュタムの門まで追い詰めたところで違和感を抱く。

 

ここに艦艇を配置した記憶などないのに巡洋戦艦の一個船体が展開している。

 

その中心に位置する旗艦...

 

 

【挿絵表示】

 

 

あの特徴的な塗装など奴しかいない。

 

あのグレムトゲールだ。憎きゲールが目の前にいる。

 

ヤマトは戦隊の脇をすり抜けゲシュタムの門へと入っていった。

 

あとは離脱すればいいが、そうは問屋が卸さない。

 

「将軍、何をやっているのです。あの程度の小艦隊蹴散らしてしまいなさい。」

 

そう簡単に言ってのける親衛隊将校を思わず殴りつける。

 

成り上がりのゲールだぞ!

 

「奴が誰か分からんのなら黙れ!あの成り上がり野郎は、我々の妨害も乗り越えて戦果だけで少将に昇進した本物の化け物だ!バトルシップエースのグレムト・ゲールだぞ!!」

 

そう叫び視線を前方に戻す。

 

蒼白な顔で親衛隊将校が示す先には魚雷が迫っていた。

 

あぁ、どうしてこうなった

 

            バンデベルはかく嘆きえり 終




皆様こんにちは、作者の大猫です
以上を持ちまして本作、ゲール少将の胃痛は完結となります。
ヤマト2199当時に書きかけた本作は放棄するのも忍びなく一話のみの短編として終える予定でした。
しかし皆様の反応のおかげで完結と言える部分まで書ききることができたことをここで御礼申し上げます。



堅苦しいのは以上として本作で書ききれなかったところあえて書かなかったところを上げていきたいと思います。

以下作者が考える疑問点

決戦において最後何が起きたのか
 
 デスラー閣下が撃ちました。本作は2199の二次創作ですが他同系列作の設定も一部ちゃんぽんしてます。
この時デスラー閣下はヤマトが帝都バレラスに侵入し破壊をもたらすことで帝都臣民の意識改革と軍部に対するイニシアチブを決定的なものとしようとします。
しかしゲールに沈められてしまうとデスラーにすら反抗する狂犬が新たなる英雄の地位に就くこととなり極めて政治的においしくないです。ゆえにいい感じにヤマトが生き残るタイミングで誤射を装って後ろ弾しました。

決戦後ヤマトはどうなったか
 本編通りです。あえて言うなら親衛隊が増援として送った戦力が減少してます。

バンデベルなんで生きてるん?
 有能な副官がゼーリックを射殺でなく逮捕したことによるバタフライエフェクトです。いい感じにタイミングがずれてガトランティスに捕捉されず、通信も届かないところでさまよってたところデウスーラⅡに捕捉され指揮下に入りました。


いきなりの挿絵プラモ
 
 すいません正直これがやりたいがためだけに投稿遅らせていました。
 だってゲルガメッシュダズルかっこいいでしょう?それにハイゼラードもかっこいいかっこいいが二つ合わされば最強ですよほんと。


以下書ききれなかった点

 ゲールの副官 連載を考えたプロットでは有能だけど事務方よりの予定でした。

 ゲールの従卒 老年の下士官を登場させ随所でアドバイスするキャラでしたがテンポとか考えて登場シーンは全カットとなりました。

 ゲール嫁 ラブコメシーンは無いですが主人公がアニメキャラのゲールでなく一人の人間としてのゲールになるときのキーキャラ予定でした。こちらもテンポと話数構成の犠牲になりました。

 ゲール自身の苦悩 自身がアニメキャラではないのか、本当に今生きている世界は現実かを自問自答するシーンは必須だなぁと思ったのですが書いていて読んでも楽しくないな?となったので没になりました。

 ヤマト側の視点 これは入れたいと思っていたのですが入れる場所がないので没に
イスカンダルで沖田艦長ともう一人南部あたりに会話してもらうよていでした。



こんなところで本作を締めさせていただきます。皆様本当にありがとうございました。


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