アルヴヘイム・オンライン 紫と灰と銃 (猫大好き好きくん)
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出会い

「はあ…はぁ…はぁ……やっと、倒せた…」

 

ALOをやり始めて約1ヶ月。僕にはまったくセンスがないのか、それとも戦い方が合ってないのか、敵モンスターと全然戦えなかった。でも考えてみれば当たり前な気がする。現実世界(リアル)での僕は推薦で入学する高校の入試がちょうど終わったところだ。それまでの人生で、イノシシ型のモンスターとかゴブリン、コボルトやオークなんて戦ったことも遭遇したことも無いからだ。

 

そんな僕が、何故かポップした中ボス程度の敵エネミーを倒したのだ。回復ポーションと回復結晶、MPを回復させる魔力結晶を全て犠牲にして。その上まあまあ高かった片手剣も欠損した。要するにヒビがはいり使用不可になった。

 

「えっと…………わっ!めっちゃ熟練度上がってんじゃん!」

 

片手剣スキルはもちろん、回復魔法やバフ、デバフスキルが上がっていた。回復魔法なんて、戦いの前は240とかだったのに今は740だ。因みにマックスは1000。だから最後の方めちゃくちゃ発動早かったのね。

 

そしてパッシブスキルも幾つか獲得、発現していた。最大HPアップ中、最大MPアップ大、MP回復速度アップ、物理攻撃耐性大、魔法攻撃耐性中、物理攻撃力大、魔法攻撃力小などなどだ。

 

ステータス画面を覗けば、最大HPと最大MPがかなり増えていた。このゲームにはレベルというものがなく、超沢山あるパッシブスキルによってステータスが上昇する。噂によると、選ばれたプレイヤーにしか発現しないものもあるのだとか。

 

「うーん………やっぱ攻撃速度がめっちゃ高いんだよなぁ」

 

パッシブスキルや8つまで設定できるスキルスロットには攻撃速度上昇のものが沢山ある。僕が選んだ種族はレプラコーンというもので、もともと攻撃力は高くないものなのだ。しかしこのレプラコーンという種族、得意スキルは鍛治や鋳造であり器用値であるDEXが異常に高くなっている。僕はあまり鍛治というものに興味が湧かなかったので、そういうスキルは全部捨てて全てバトル系スキルを設定した。そしてDEX補正がある武器を使い手数で攻めるスタイルで敵と戦っていた。しかしこの戦いで気づいた。STR(筋力値)が足りな過ぎると。

 

だから今回発現したパッシブスキルはかなりありがたいのだ。これで少しはちゃんと戦えるかもしれない。そう思うと胸が踊る。

 

「あれ、ドロップアイテムもあるじゃん。『烈重の短剣』と『コテツ』か」

 

コテツは刀武器だ。STRの要求値が低く、それでいてスペックはそこまで低くなく使いやすいので人気がある武器である。しかし烈重の長剣なんて聞いたことがない。1度ストレージにしまい、ステータスを確認すると………絶句した。

 

「は!?なにこのSTR要求値!こんなん絶対届かんでしょ!」

 

恐らく1番STR値に補正が掛かるノームが更にアイテムやスキルを使って底上げして、敵撃破数によるボーナスポイントを全振りしても届くか分からんくらいだ。

 

しかもこれめちゃくちゃ重いからストレージの容量をかなり圧迫する。今はポーションや結晶などの回復アイテムがひとつも残ってないからギリギリ良かったものの、もう少し僕が上手く戦ってたらここで捨てる羽目になってたと思う。

 

「……まぁ、レアアイテムみたいだし持って帰るか。なんか高く売れそうだし」

 

ユルドもかなり落としてくれたし、これを売ればかなりの大金が入ってくるだろうし。取り敢えず今はポーションや結晶を買い足さないと行けないのだ。

 

◆◆◆◆

 

「…………?」

 

拠点としている宿屋に帰る為に空を飛んでいると、1人のプレイヤーが戦闘をしているのが見えた。普段なら無視をするのだが、今日は強敵と戦って大きくレベルアップしたばかり。強い人の動きを見てみないとこのステータスを最大限活用出来ないだろう。それに、あまり強くなさそうなら直ぐに立ち去ればいいだけだし。

 

静かに減速し、そのまま着地して木の影に隠れる。そしてその戦いをじっと見つめる。索敵スキルが自動で発動しズームされる。どうやら戦っているのは女の人のようだ。細めの片手剣を使い、鬼の様な速さで敵モンスターへ斬りつけている。はっきりいってめちゃくちゃ凄い。とても僕には出来ない。間違いなく、上級プレイヤーでありコアプレイヤーだろう。

 

「うわー………あ、なんかこっち来た」

 

敵モンスターの大っきいコボルトが、逃げるようにこっちへ走って来た。その後ろを笑顔を浮かべた先程の人が追いかけている。うわぁ大コボルトかわいそう。

 

「そこの人!そいつを止めてくれないかな!」

 

なんか話しかけてきた。止めてくれないかな?と言われたのだが、戦闘に参加するのは勘弁だ。死んだ時に持ち物の中の何か一つをランダムで落としてしまうし、スキルの熟練度も落ちてしまう。お金も取られるし。まあでも、デバフくらいなら……

 

「は、はい……!」

 

急いで移動速度低下のデバフを掛ける。先程の戦闘でパッシブスキルや熟練度が上がったのか、詠唱速度が上がりデバフの効果を受けるのが早くなった。

 

しかしそれと同時に、大コボルトのヘイトが僕に向いた。手に持つ大きな気の棍棒を振り上げ、叩きつけてきた。バク転をしてなんとか回避すると、地面をへこませる土属性魔法で時間を稼ぐ。

 

そしてもしもの為に先程ドロップした『コテツ』を装備する。刀スキルは取ってないし、鞘も無いので右手にそのまま現れる。だからそのままトドメを刺してくれるとありがたい。

 

「ありがとう、助かるよ!」

 

その少女はそう言うと、片手剣ソードスキル『ヴォーパルストライク』を発動した。ジェットエンジンの様な轟音を響かせ、炎を纏った剣は、大コボルトの腹に直撃、グガァァと断末魔を上げ大量のポリゴンと化した。

 

ふぅ、とため息をついて羽根を展開しスイルベーンに帰ろうとすると、その少女から声を掛けられた。

 

「助けてくれてありがとう!ボクの名前はユウキだよ。君は?」

 

「いえ、当たり前のことですから。それじゃ」

 

少しだけ無視してしまったが、聞こえなかったということにしておこう。まあ当たり前といっても、これくらいしか出来なかったのだし。

 

「ちょちょちょ!ちょっと待ってよ!」

 

なんか止められた。

 

「その、えっと………助けてもらったお礼に、何か奢りたいんだ。だから、名前教えてくれると、ありがたいんだけど………」

 

「…………。いえ、気にしないでください。名前はシルム、種族はレプラコーンです。ユウキさん」

 

なんかちょっと悪いことしちゃった気分。これでいきなりデュエルするよって言われたら終わりだ。ボコボコにされてなにかアイテムひとつ失ってやり直しだろう。あぁ、こんなことになるなら初めからちゃんとしてれば良かった。

 

僕がそう言うと彼女、ユウキはパァと明るくなって言った。

 

「うんっ!よろしくねシルム!ボクは見ての通りインプだよ!」

 

 

 



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助言

「えっと、さっきのコボルトのドロップアイテムとユルドがあるんだけど、欲しい?熟練度の方はアレだけど……」

 

「いえ、別にいいです。それに倒したのはユウキさんですし」

 

「で、でもさ?君も助けてくれたわけだし、ボクだけ貰うっていうのも申し訳無いし……」

 

「気にしないでくださいよ。元はと言えば僕がユウキさんの戦闘を覗き見みたいなことしてた訳ですし。謝るのはこっちです」

 

「え?別に全然いいんだけど………あ!じゃあこれだけあげるよ!レプラコーンだし、鍛治する時使うんじゃないかな?」

 

送られてきたアイテムは、鍛治用のハンマーだった。しかもこれ、僕の鍛治スキルが足りなくて使えないし。

 

「あ、ありがとうございます……(使えないけど)」

 

「うぅん!助けてくれたお礼だよ!」

 

ユウキはそう言って笑ってみせた。先程まであんなに早く剣を振っていたとは思えないくらい細い腕に、きめ細かい紫色をした髪。そしてインプ独特の赤い眼。この人、どっかで見たような……

 

「じゃあ、スイルベーンでなにか奢るよ!何がいい?」

 

「あ、その……外食とか、したことがないので……」

 

ALO内では基本食事はしない。本当にお腹が空いたときは売っている携行食を食べている。あれ意外と美味しいんだよね。

 

「ん、そうなの?じゃあオススメのとこに連れってあげるよ!」

 

なんかテンションが高い子だなぁ。こっちまでテンション高くなるような気がする。不思議な子だ。多分年下?いや、キャラエディットでいじってるかもしれないし、敬語にしとこ。変に怒らせても嫌だし。

 

「じゃ、じゃあお願いします」

 

「うん!ついてきてね!」

 

◆◆◆◆

 

「ここが、ボクのオススメのごはん屋さんだよ。まぁ、日本でいうとこのちょっと高いファミレスみたいな感じかな?」

 

「へぇ〜こんなところがあるんですか……」

 

「うん、結構美味しいって評判の店だよ」

 

「へぇ〜」

 

関心しながら店内に入った。目の前を通るのは店員のNPCだ。僕達の来店に気付いたのかいらっしゃいませー!と言ってくる。

 

「お二人様ですか?」

 

「はい、2人です」

 

「タバコはお吸いになられますか?」

 

「いえ、僕は吸わないですけど……シルムは吸う?」

 

「いえ、吸いません」

 

「かしこまりました。あちらのお席にどうぞー」

 

正確には、吸ったことはあるが飽きた、だ。ゲーム内でタバコ(の様な雑貨アイテム)を吸うことによって、現実で吸うことを我慢出来るのでは?ということで導入された。しかし、これには色々と問題もあって、未成年が吸ってしまうかもしれないというものがあるのだ。それが原因で現実でも吸ってしまわないかと。だから買う時は年齢確認されるし、未成年が吸うと強烈な苦味成分が口の中に現れ、更にめんどくさいデバフが掛かるという仕様である。僕もそれを食らい、街中で倒れかけた。あれを寄越したジジイ許すまじ。吸った僕が悪いのだが。

 

まぁだからこそ、こういう飲食店での喫煙確認は未成年にとって強力な抑止力になるんじゃないかなとは思う。

 

「僕のオススメはねー……これ!まぁ食べるのはこっちだけど」

 

ユウキさんが指さしたのはチーズたっぷりのグラタンだった。恐ろしく高そうである。そしてユウキさんが食べるのは、ハンバーグ定食。こちらも美味しそうだ。

 

「まぁ、僕が奢るから好きなのを食べて?」

 

ホントにいいのかしら。このグラタンだけで2000ユルドもするのに。ハンバーグ定食は1890ユルドだ。こっちも地味に高い。

 

「………じゃあ、このグラタンで。あとコーヒーいいですか?」

 

「うん!全然いいよ〜。あ、すいませーん!」

 

その後店員さんが来て、各々が食べる料理を注文した。僕のはチーズたっぷりグラタンとコーヒーだが、ユウキさんはハンバーグ定食にジャンボパフェ、そしてメロンジュースである。ここに大富豪がいるんだけど!

 

「……それで、助けてくれたことに関しては、本当にありがとう」

 

「いえいえそんな。当たり前のことですから」

 

「そう?ならいいけど………あれ?君武器どうしたの?」

 

「武器?………あ、ホントだ」

 

使っていた片手剣が使用不可になってしまい、鞘だけ腰にさしている状態だった。ストレージから予備のを出すが、これは大きく攻撃力が落ちる。例の短剣を売ってお金を集めないと。

 

「………あ、君レプラコーンだったよね?何か武器を打って見るのはどう?確か自分が作った武器ってボーナス付くよね?」

 

「え、そうなんですか?」

 

「聞いたところではね?ボクそういうのよく分からないから……」

 

力なくあははと笑う。まあ気持ちは分かる。僕も興味ないからね。

 

「……あ、じゃあ1つ聞きたいことがあるんですけど」

 

「ん?ボクが答えられるのならいいよー」

 

ユウキさんの承諾を得て、ストレージから『烈重の短剣』を実体化する。ちょっと高いファミレスの机でやることではないか、まぁ周りにあまり客がいないしいいだろう。

 

「ん?みたことないやつだなぁ〜。ステータス開いていい?」

 

「はい、もちろん構いません」

 

「ん………え!?烈重シリーズじゃん!」

 

烈重シリーズ?なにそれ美味しいの?ってか名前だけ見るとめっちゃ強そうだね。

 

「あ……す、すいません……」

 

いきなり大声を出して立ち上がったことにより、ちょっと離れた所でご飯を食べていたプレイヤーさん達が振り向いていた。恥ずかしくなったのか顔を赤くして誤り、静かに座るユウキさん。

 

「………いいですか?」

 

「う、うん………大きな声出してごめん」

 

「いえ、大丈夫ですよ。それで烈重シリーズってなんですか?」

 

そんなもの聞いた事がない。有名なのかしら。

 

「烈重シリーズってのは、烈重の○○みたいにそれぞれの武器種に1つあるっていう、物凄くドロップ率が低い武器アイテムだよ」

 

ほぉー。つまり片手剣、細剣、短剣、片手棍、両手棍、片手斧、両手斧、刀、短弓、長弓、短槍、長槍、両手剣、小盾、大盾、壁盾、双剣、小鎌、大鎌、鎖鎌、小杖、大杖、ナックル、大爪にそれぞれある訳だな。あ、他にも武器種あるかも。例えば……素手?

 

「ほぉー……でもこれ、STR要求値が物凄く高いんですよ」

 

「うん、なんたって烈重だからね。それが高すぎるから、ドロップしても装備出来ない武器代表なんだ。売ったらめちゃくちゃ高く売れるから、それもいいんじゃない?」

 

お、高く売れるんだ。じゃあそうしよっかな。でもどこで売れるんだろ。普通の武器屋じゃ無理だよなぁ。

 

「何処で売るのがいいですか?やっぱりプレイヤーショップですかね?」

 

「まぁ、それがいいと思うな。相手がプレイヤーだから、価格交渉もできるし。もしまた欲しくなった時とかも、何かと便利だし」

 

普通の武器屋で売られた武器は、そのまま売り出されることもあれば時間が経って耐久値が回復した後店に並ぶこともある。それを使って耐久値を回復させるのも一つの手なのだが、売却と購入の金額の差があまりにも大きい。レアなものになればなるほど、安く買われ高く売られるのだ。

 

「よければ、いい武器屋さん紹介するよ?新しい武器をそこ買うって言うのもいいかもね」

 

あぁ、確かにその店なら職人のプレイヤーさんに良くしてもらえるかもしれないな。

 

「じゃあ、教えて貰ってもいいですか?」

 

「うん!もちろんだよ。えっとね、1番はやっぱ鍛冶ギルドのヘーパイストスかな。あそこは個人じゃなくて何十、何百人の鍛治職人プレイヤーが集まって出来てるとこほだから、お金沢山あるし、腕前の方も上手い人だとスキルカンスト当たり前の上、パッシブスキルで鍛治のレアスキルがあるみたいだよ」

 

へぇ〜そんなものがあるんだ。ギルドなんで全くしらないや。

 

「個人ならアレスタムさんとか、フォーガルさんとかかな?まああの2人ゲーム内で結婚したらしくて今は二人でやってるみたいにだけど。他はギーダさんとかガリズさん、バーバラさん、レオノーラさんが有名かな。後は━━━━」

 

「━━━━お待たせしました。チーズたっぷりグラタンにハンバーグ定食、ジャンボパフェ、コーヒーにメロンジュースになります。ごゆっくりどうぞ〜」

 

ユウキさんが話してたときにちょうどよく料理が運ばれてきた。ユウキさんには悪いがらまずは料理を食べてからがいいと思うけど。

 

「あ、後は食べてからでいい?」

 

「はい。温かいうちにいただきましょう」

 

2人同じタイミングでいただきますをいい僕はスプーンを、ユウキさんはナイフとフォークを持った。因みに僕が好きな変化球はスプリットかスライダー、チェンジアップである。

 

「……んむ」

 

わぁおめっちゃうめー。うん、普通に美味いわこれ。通おうかなこれからマジで。

 

「んーっ!相変わらず美味し〜っ!」

 

ユウキさんもハンバーグを食べて目がトロンとしている。いや、多分僕もしていると思う。良かったチーズ好きで。

 

◆◆◆◆

 

「あ、あのっ!」

 

グラタンを食べ終え、ユウキさんのパフェを少しだけ貰いコーヒーを飲んでいた時、なにやら髪の毛がピンク色の人に話しかけられた。そばかすがある。

 

「あのっ、烈重シリーズ持ってるってホントですか!?」

 

え、誰だろうこの人。面識ないなぁ僕ぼっちだし。

 

「あ、すいませんいきなり。あたしリズベットって言います」

 

「ん、あぁどうも。名前はシルム、種族はレプラコーンです」

 

「ユウキです。リズベットさん、何かご用ですか?」

 

ユウキさん、さっき烈重シリーズある?って聞いてたやん。多分それだと思うよ?違ったらごめんだけど。

 

「あ、えっと……さっき烈重シリーズって聞こえたので、どうしても聞いてみたくなってしまって……」

 

リズベットさんはそう言って視線を落とした。どうしようかと思っているとユウキさんと目が合った。見せてあげたら?と言っている。目でね。

 

「はい、あります。ちょっと待ってくださいね」

 

机の上には大量の皿がある。実体化させる場所を作っていると、ユウキさんが店員さんを呼んで皿を持って行ってもらった。助かりますね。

 

「えっと………これです」

 

といって実体化させた。やはり、机に出現したときどんっ!という音と共にユウキさんが食べてるジャンボパフェが少し揺れた。ごめんなさいユウキさん。

 

「わぁ……!ほんとに烈重シリーズの短剣だぁ……!」

 

少女は見ただけで分かったらしく、目を輝かせた。そしてそれをタッチしステータスを開く。そのSTR要求値を見て、完全に確信したようだ。

 

「あ、あのっ!もしよかったら、これをあたしの店で売ってくれませんか?あたし、そこでリズベット武具店ってお店をやってて………」

 

「え?リズベット武具店の人!?」

 

大人しくジャンボパフェを食べていたユウキさんが言った。知り合いですか?

 

「ボクもリズベット武具店さんにこの胸当てのメンテナンス頼んでるんだよ。あの、ボクのこと覚えてますか?」

 

「えぇっと……黒曜石の胸当てだから……ユウキ、さん?」

 

「そうです!いやーいつもお世話になってますリズベットさん!」

 

「いえいえ!こっちも助かってますよ」

 

よく分からないが、ユウキさんはリズベット武具店さんの利用者なんだろう。偶然って怖いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかめっちゃ長くなった。
もしかしてこれ普通っすか?


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鍛治

それからリズベットさんとユウキさんは少し話した後、この烈重の短剣をどうするかの話になった。

 

「売却してお金にするって手段もあるし、頑張って使うってのもある。STR要求値は高すぎるけど、それに届いてなくても使うことが出来ないことは無いからね。でも、オススメはしないかな」

 

まあそうだろう。重すぎてロクに戦えないだろうし。というか僕短剣使わないんだよなぁ。短剣スキルを1から育てるのもアレだし。しかし片手剣スキルもそこまで育ってはない。可能かどうかならば十分可能だ。

 

「確かにそうだね。それで倒されてロストする方がやだし」

 

「そうね。そして、金属の延べ棒にして他の武器に使うって選択肢もある。これは短剣だから、そこまで沢山の金属を使っている訳じゃないから、他の金属と混ぜて合金にすれは、十分他の武器に出来ると思う」

 

ふーむ………まぁそれが一番いいだろう。となれば軽くて丈夫で、粘り気がある金属じゃないといけない。

 

「「「ミスリル」」」

 

3人の声が重なった。ミスリルしかないだろうと思ったからだ。しかしミスリルも、鍛治師からするとレアアイテムであり加工も決して簡単では無いものだ。でも僕が欲しいのは……

 

「この短剣をオリハルコンの延べ棒に戻して、ミスリルを混ぜてミスリル合金にする。それを僕が鋳造、細工して武器にする………ってところ?」

 

そう言うと、2人はうんうんと頷いた。合格のようだ。

 

「自己制作武器ボーナスね………確かに欲しいわね。でもシルムくん、鍛治スキル上げてる?」

 

リズさんはユウキさんと話す間にめちゃくちゃ仲良くなり、僕のことをシルムくんと呼ぶ。そして僕にもリズと呼べと言った。まあいいのだけど。

 

「いえ、スロットにも入れてません」

 

「なっ!」

 

リズさんは何かを食らったかのように後ろにグワッとなった。別に鍛冶をしないレプラコーンがいてもいいじゃないか。DEX(器用値)高いから戦えないことは無いんだよ。

 

「………分かったわ。じゃああたしが手伝ってあげる。オリハルコンとミスリルを合金にするのに、スキルレベルは大体750にしたら出来るはずよ。そこからは成功率上昇くらいだから」

 

鍛治スキルは、1000まで上げるとマスタースミスとなり大きな肩書きになる。とは言っても、成功率100%ではない。もちろん失敗率は少ないが、絶対ではない。メンテナンスでミスることはあるし、武器制作でへんてこりんなものが出来ることもある。

 

「でも、どんな武器にするの?このまま片手剣でいく?それともDEX(器用値)とかAGI(敏捷値)を生かした短剣や刀、短槍にするかとか。あ、器用が高いから弓使いも面白いね」

 

あぁ、たしかになぁ。でも僕的に、弓みたいな遠距離武器は苦手なイメージがあるんだよなぁ。どっちかというと、片手剣とか刀とかの近距離斬撃武器を使いたい感じがする。

 

「うーん………まぁ、これまで使ってた片手剣がちょうど壊れたので、ドロップした『コテツ』を使って見ようと思います」

 

「あら、刀にするの?あれは色々とプレイヤースキルが必要な武器だけど……まぁ、物は試しね。コテツ用の鞘、作ってあげるわ」

 

「ほ、本当ですか?でもわざわざそこまでは……」

 

「そこまでっていっても、これから鍛治スキルを一緒に育てていくのよ?どうせ長い付き合いになるんだし、いいでしょう?」

 

「そ、そうですかね………」

 

「ん〜……あ!じゃあボクは刀のことを教えてあげるよ!」

 

ジャンボパフェを食べながら静かに聞いていたユウキさんがいきなり言った。少しだけ耳が痛かったりする。

 

「え、でもユウキさんは片手剣じゃ……?」

 

「だーいじょうぶ、一応使えるから。近々裁縫スキルと入れ替える予定だったけど、こっちの方が大事っぽいしね」

 

「そ、そんな。裁縫スキル入れていいですよ?今日ご飯奢って頂いてるのに、そんなことまで頼めませんし……」

 

「いやいや!ボクもこの烈重の短剣がどうなるか見たいし、

その使い手がどんなプレイヤーになるのかも気になるし!」

 

「………じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

「うんっ!ビシバシ厳しくいくからね!」

 

ユウキさんはそう言っているが、顔は笑顔で溢れていた。

 

◆◆◆◆

 

ユウキさんとは一旦別れて、リズベット武具店に行くことにした。そして取り敢えず、両手剣スキルをスロットから外して鍛治スキルを設定した。もちろん、レベル1からのスタートだ。

 

「ここが、あたしが経営してるリズベット武具店よ。シルムくんも、武器や防具のメンテが必要なら頼ってね?もちろんお金は貰うけど」

 

笑いながらそういうリズさん。こっちもタダでやってもらおうなんて思ってないですよ?商売なんですし。

 

僕達はリズさんの案内に従って武器の工房に入った。中は広々としており、作られた剣が沢山飾られている。中には、とても売れないような性能のものもあるみたいだが、まぁ思い出かなにかだろう。

 

「じゃあ、早速やっていきましょうか」

 

「は、はい。よろしくおねがいします……!」

 

「あははっ、そんなに固くならなくていいわよ。鍛治は料理と同じく積み重ねが大切なの。訓練用の鉱石をあげるから、レベル300くらいまではこれを繰り返して慣れるわよ」

 

と言ってリズさんは台に沢山の訓練用鉱石を実体化させた。おおよそ洞窟の壁に使われてるやつだろう。でもこれ普通にお金かかってるからなぁ。後で払お。

 

「まず、これを炉にいれて熱するの。真っ赤になってこれ以上赤くならなければもう大丈夫よ。でも、早すぎたら上手くできないから気をつけて」

 

手渡しされた炭ばさみみたいなもので鉱石を掴み炉に入れた。赤く熱されて行くのを眺めながら、その時を待つ。

 

〜〜〜〜〜〜約十分後〜〜〜〜〜〜

 

表面が全て赤くなったのを確認して、大っきいはさみでつかみ金床へ置く。そしてまた渡された初級ハンマーを、真っ赤な鉱石へ力いっぱい打ち付けた。

 

「お、おぉ……!」

 

打ち付けられた鉱石は、ハンマーの形に沿って薄く伸びた。それに感動し、何度も夢中でハンマーを打ち付ける。

 

ALO内の鍛治はかなり単純化されており、設定された回数を適切なハンマーで叩けば形が形成される。それが良い性能になるか悪い性能になるかは完全にランダムだが、強く気持ちを込めて叩けば、何かが変わるような気がする。

 

そして規定の回数を叩き終わると、鉱石は形を変えて片手剣の形になる。頑丈そうな形だが、硬いだけでとても脆い。石などの固いものに打ち付けたら粉々になるだろう。タップしてステータスを確認すると、やはり耐久値はとても低い。

 

「うん!初めてにしては上出来よ!あとはこれを何十回も繰り返すのよ。鍛治で大切なのは根気!忘れないでよ!」

 

そう言ってリズさんは店の方に行った。なにやら納品の仕事があるようだ。忙しそう。

 

「………意外と楽しいんだよねこれ。もっかいやろ」

 

〜〜〜〜〜数時間後〜〜〜〜〜

 

「ごめんごめん!遅くなっちゃっ………って、えぇ!?」

 

リズさんの目の前には、大量の片手剣がある。全て酷い出来だが、手を抜いた剣は1本もないはずだ。全て気を抜かず真剣にやったのだから。

 

「ちょ、シルムくん!この短時間でこんなに打ったの?」

 

「え、えぇまあ。鍛治スキルの高速燃焼とハンマーを打つやつをDEX全開でやりました。それとスキルが早く上がるのは、獲得経験値増大スキルをかなり上げてるからです」

 

「え、あれって職人スキルにも適用されるんだ……」

 

 

 



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鉱石採掘

あれからかなり鍛治スキルを上げた。リズさんがログアウトしてからもずっとやっていた。なんでも、課題が終わっていないらしい。高校生みたいなので、大変だなぁと思っていたりする。

 

「………よしっ!どれどれ………お!特殊効果があるじゃん!」

 

訓練用鉱石を全て使い切ってしまったので、攻撃力が高いものや特殊効果が着いているもの以外は分解して素材に戻した。この分解する作業は鍛治スキルではなく作成スキルを育てられる。まぁ分解といってもそのまま炉にぶち込んで溶かしてるだけだが。刀は鉱石だけでなく、鍔や柄なども必要とするため、そちらも鍛えなければならない。

 

今は、溶かして延べ棒に戻した訓練用鉱石をまた剣にしている所だ。この訓練用鉱石、中に微小な鉄が入っていると言う設定らしく、溶かしてまた剣にしてるところで段々耐久値が上がって言った。だが目に見えて大きさが小さくなっていっており、いまさっき1つ混ぜたところだ。

 

「さーて、どれくらい育ったかな〜………302?ってことはもう上がらないな……」

 

この訓練用鉱石であげられるのは300まで。2はまぁ、分解時のボーナスポイントだろう。

 

「………じゃあ、帰りますか」

 

裏口から店を出て鍵をかける。リズさんに初弟子の記念にとハンマーと持ち運び用金床、そして何故か裏口の鍵をもらったのだが、鍵は何故だろう………まあいいか。

 

取り敢えず今から洞窟に向かう。採掘スキルは取ってないので1からのスタートだが、多分何とかなるよね。明日は休みだし、一人暮らしだし。

 

◆◆◆◆

 

さーて洞窟についたぞ?ここは易しいモンスターしかいないので、初心者に人気のところだが、僕は違う目的だ。ここの壁は柔らかいし、もしモンスターが来てもすぐ対処できる。が、念の為刀を装備しておこう。

 

「んーと……ピッケルでぶっ叩けばいいんだよね……ホイっ!」

 

STRを全開にして壁を叩いた。すると、硬い何かを砕き先端が食い込む感触。これを続ければいいのだろうか?多分そうだ。

 

「ホイっ!……ホイっ!……ホイっ!……ホイっ!」

 

◆◆◆◆

 

「ホイっ!……ホイっ!……ん?」

 

前に現れたシステムウィンドウを見てピッケルを振り上げる手を止める。どうやら、ストレージがいっぱいだよっ!っていう警告のようだ。開いて確認してみると………

 

「お、おぉう……。」

 

サブの武器もなく、普段着が数着とハンマー、持ち運び用の金床しか無かった僕のストレージが、沢山の石で埋まっていた。そいえば無いなと思ったら、自動回収されていたようだ。

 

「と、とりあえず捨てなきゃ……」

 

今1度ストレージを確認して、石やら土やらを捨てる。石をハンマーで叩いてみたけど、砕けただけだった。特に何も鉱石はドロップしていない。

 

「ん〜………あ、スキルめっちゃ上がってる」

 

設定でスキルや戦闘関係のログが出せるのだが、視界が狭まるのでオフにしてある。どうやらオンにしといた方がいいみたい。よく分かんないけど。

 

「あぁ………もう300だ」

 

結構楽しかったのになぁこの作業。まぁ仕方ないか。300まで上がると鉄や銅などの鉱石を採掘することが出来る。さらに上げると、まぁようわからん鉱石も採掘できるようになるわけだ。あと採掘ボーナスが付くらしい。多く掘れるとかね。

 

「………ふぅ、行くか……」

 

入口付近でホリホリしてたでまだ明るかったが、少し深く潜ると太陽の光が届かないのだ。まぁ飛ぶことは無いが、暗いのは怖い。っと言う時にこのアイテム、松明だ。

 

その松明は左手に持ち洞窟を進む。右手に本を持てば僕は某米国の国民的大英雄、自由の女神様になることができる。え?松明と本を持つ手が反対だって?気にすんな。

 

「ん〜………お?鉄だ、ラッキ」

 

松明を地面に差し込み、ピッケルを取り出す。採掘はさっきの時と同じのはず。これでピッケルが壊れたら、帰宅するしかない。

 

慎重に鉄鉱石の周りの石や土をホリホリして行き、最後にゴツンと鉄鉱石を叩く。これで鉄鉱石をゲットした。あとは少し残ってるのを回収して、続行だ。

 

◆◆◆◆

 

「え、待って………なんでこんなあんの?」

 

どうやら僕は運が良かったみたいだ。なぜなら、一番最初に見つけた鉄鉱石のやつ、まだまだ奥に続きがあった。これくらい大きいのだと、鉄鉱脈って奴になるのかしら。にしてもでかいなこりゃ。

 

「はぁぁぁ……もう450になったじゃん……」

 

もっと色んな鉱石を採掘したいのに!鉄だけ掘ってたらもう鉄を掘るのじゃ上がらないレベルになっちまったよ!しかもまだ続いとるしさ………やっぱ日頃の行いは大事みたい。良かった成績オール4で。

 

「これどうするよ………しゃあないか」

 

もういいや、と開き直り鉄の採掘を続ける。今回の目的はあくまで鉱石を見つけて鍛治スキルを上げることだ。回収できるだけしておくことにするわ。

 

◆◆◆◆

 

「あぁ………お?終わりか?」

 

それから30分も掘り続けた。なんか左右にも鉱石が広がってて、クソでけぇ穴みたいになっちゃった。これって自動で治るの?なんか休憩場所みたいになっちゃったんやけど。

 

そしてとうとう、この長きに渡る苦しい戦いは終焉を迎えた。これ以上先に鉱石が続いていないのだ。ようやくである。僕はこの瞬間をどれだけ待ち望んだことか。スキルのページを開いてみると………453。貰えるポイントの1が重なって3上げることが出来たみたいだ。塵も積もれば山となる、を体現したのである。こんなに素晴らしいことがあるのだろうか?

 

「………くそがぁぁあ!」

 

あまりの怒りに、手に持つピッケルを振りかざし、先程まで鉱石が埋まっていた壁に勢いよく打ち付ける。この怒りの正体は分からない。鉱石が続かない事への怒りか、ここまで続けてきたバカな自分へか。ここまでやらせたこの洞窟、いやこのALOというゲームへのものか。

ピッケルから伝わるその衝撃は手のひらから腕の骨、肘や肩を通り、心地よい衝撃を体全体に行き渡される。そのそよ風のような動きをしっかりと感じ取り、優しく目を見開く。

 

「………は?」

 

向こうの道がこんにちはしていた。

 

 



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精錬

こんにちわした道を進む、松明を回収して。少し歩くと、目の前に黒い影が見えてくる。向こうを向いているのか、こちらには気付いていないようだ。

 

「………?あ、ゴブリン」

 

前に見えるそらはゴブリンだった。大きさは僕の胸くらいしかないが、手には怖そうな木の棒を持っていた。これは油断出来ないね。

 

「………よし、」

 

松明を地面に差し込み、両手を自由にする。刀は両手武器なので、こういう時は不便である。一応片手でも使えるみたいだけど、僕には無理。

 

「………っ、はぁぁあ!」

 

剣道の知識をフル動員し、右足を大きく前に踏み込む。剣道のように音を立てるのではなく、体を前に出し進ませるために。

 

『絶空』

 

カタナソードスキルの初期スキル。攻撃速度が速く、威力もそこそこの万能スキルだ。ダッシュしながらゴブリンとすれ違いざまに発動し、首を刎飛ばした。

 

「っよし!記念すべき刀での初討伐だね……!」

 

初めてにしてはまあまあだったと思う。ちゃんとスキルも発動できた。攻撃力よ攻撃速度も高いので、やはり刀は強武器だ。まぁ武器防御力が低いのがネックだが、回避すれば問題ないはず。DEXの次にAGIも高いから。まぁVIT(体力)LUK()がめっちゃ低いが………まぁ平均ちょい下だからセーフ。

 

「さてと、それじゃ歩くか………」

 

歩いても歩いても鉄しかない。鉄は街に普通に売っているからそこまではいらん。しかも今ストレージの約4割は鉄鉱石が入っているというのに。やっぱり欲しいのは…………銀かな。装飾用で、換金用でもあるためまあまあの値段で売れる。今は普通にお金が欲しいのでそういうものも欲しい。まあ多分、ちょっと加工して作成スキルを上げてから売る。

 

「………っと、これは?」

 

壁が僅かに光ったかのように光を反射した。試しに周りの石を砕いて見てみると僅かに銀色が混ざった黒色の鉱石みたいなものだ。

 

「ん〜………お、銀鉱石じゃん」

 

普通にあった。いやー良かった良かった。ってかこんなのならさっきも見たような………まぁいっか、取り敢えず掘ろう!

 

◆◆◆◆

 

「っと、これで全部かな。今回はあんまり………いや、前がおかしかっただけでこれが別に普通か」

 

まあまあの量があったのだが、体感は普通だった。やはりさっきの鉄鉱石が悪いのだ。おのれ鉄鉱石め、街に帰ったらいの一番に精錬してかっこいい武器にしてまた溶かして武器にしての繰り返しにしてやるよ。

 

そして、先程も見たような気がするところに行ってみると、やはりあった。めちゃくちゃ見にくいねこれ。索敵スキルは反応しないし、他のもあるんかな………まぁとりあえず掘ろ。

 

「ん〜っと……ほいっと。こっちも……ホイっ!」

 

形が見えにくくて周りの石を砕くのがとても大変だ。間違えて銀鉱石を叩いてしまうとゲットする量が少なくなってしまう。ますまぁあまり気にしない量なのだが、僕はこういうとこも気にしてやっていきたいね。

 

◆◆◆◆

 

あれからまた数時間くらい銀やら銅やらを採掘して、リズさんのお店に戻った。裏口の扉を鍵で開けて中に入る。いつでも使っていいって言われたんだけど、使っていいんだよね?

 

「えっと………おぉ。たっくさん……」

 

鉄鉱石と銅鉱石を実体化させる。そして、大きめの鉄鉱石を1つハサミで掴み、炉にポイってする。うそです優しく置きました。

 

「……良し、これでいいはず」

 

後は待つだけだ。まぁリズさんが帰ってきて鉄鉱石やら銅鉱石やらか散らかってたら迷惑だと思うので、隅において置く。ストレージは流石に勘弁してください………

 

◆◆◆◆

 

鉱石の精錬もこのゲームは簡単な様で、炉に置いたら不純物は無くなってデカい鉄の塊になる。なんと優しい世界なのだろうか。リアルもこれくらいだったら楽なのにね。

 

「これを延べ棒に………っと」

 

決められた回数を叩き、延べ棒の形にする。こうすれば、素材品としてストレージへの負荷を抑えられる、つまり沢山入れられるようになるのだ、取り敢えずはこれを繰り返して全部の延べ棒にしてしまおうか。

 

◆◆◆◆

 

「………ん。………っと」

 

単純作業過ぎて全然喋らんくなった。炉に入れて数分経ったら取り出し、ハンマーで決められただけ叩く。延べ棒にすると、タップしてストレージにしまう。これの繰り返しである。飽きるのも当然だ。

 

けど、これが意外と………

 

「よいしょ………っと。ふふっ……」

 

楽しいのである。あ、引かないでね?頼むよ?これで引かれたらシルムくん泣いちゃうからね?まあ傍から見て完全に頭おかしい人なんだけど。けどまぁ、これも自由度の高いALOならではの楽しみ方だ。文句を言われる筋合いはないでござる。

 

「………あ、これで終わりか」

 

一応全ての鉄鉱石と銅鉱石を精錬し延べ棒にすることが出来た。鉄や銅ではあまり強い武器は作り出せないので、もっと特殊な鉱石を発掘、採取しなくてはならない。例えば、クリスタライト・インゴットとか、ミスリルとか、オリハルコンとかね。あ、オリハルコンって烈重の短剣を分解したら手に入るからいいのか。取り敢えずミスリルかその他の強靭で粘り気がある鉱石が欲しいね。

 

「ん〜、銀鉱石は………取り敢えずやっとくか」

 

銀鉱石も全部精錬してやる事にした。銀だと高く売れるが鉱石だとほとんど売れないからだ。まぁ銀は色々して装飾品にして売るかな。作成スキルが鍛えられるし、値段が上がるかもしれないから。

 

◆◆◆◆

 

「はぁぁぁぁ、やっと終わった……ってシルムくん!?」

 

「ん?あ、リズさん。すみませんちょっと使わせてもらってます」

 

「え、いや……それはいいんだけど、どれくらいいたの?」

 

どれくらい、とはこのゲームにINしてる時間のこと?それなら確か、ご飯とお風呂に入る為に少し戻ったくらいだか………

 

「え〜っとですね、多分10時間ちょいくらいです」

 

「じゅ、10時間!?そんなにINしてて大丈夫なの?」

 

「はい。今日は土曜日ですし、僕推薦で高校に入るので暇なんです」

 

でも推薦入試だからって馬鹿にしないで欲しいのだ。頭が悪いところでは無いし、普通に偏差値も高いところだ。55くらいだった多分。

 

「そ、そうなんだ………でもその間、なにしてたの?」

 

「えっと………まずは頂いた訓練用鉱石を精錬、鋳造してたんですけど、スキルレベルが300に届いたので洞窟に行って鉄鉱石やら銅鉱石、銀鉱石を採掘しに行ってました。その後は、ここで精錬してました」

 

「え、わざわざ取りに行ったの?言ってくれれば鉄鉱石上げたのに………」

 

「いえ、そこまでは頂けませんよ。僕は自分のスキルを育てていますし、採掘スキルも上がったので一石二鳥です」

 

この鍛治関係でスキルスロットをかなり整理した。前より一個増えたんだけど、《片手剣術》《刀術》《歩法》《戦闘時回復》《索敵》《獲得経験値増大》《鍛治》《作成》《採掘》だ。あと少しでもう一個解放されるので、なんか付けたい。候補は、《壁走り》《投擲》《隠蔽》あたりかな。あと特殊なので、《抜刀剣》とやらもあるらしい。

 

「そう………。あ、スキルはどこまで育ったの?」

 

「え〜………鍛治は752、作成は267、採掘は503です」

 

「750って、もう鉄や銅を精錬したり鍛えたりするだけじゃ上がらないじゃない。なにか特殊な素材や金属じゃないと」

 

「特殊な素材や金属……?」

 

「うん。まぁそれはおいおい教えるわ。取り敢えず今は………そうね、カタナが打てるからやってみるのはどう?」

 

あ、そう言えば750になったらカタナが鍛えられるんだった。いけねいけね、完全に忘れてたわ。

 

 

 

 



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防具作り

あれから鉄でカタナを打ちまくった。約100本くらい。カタナは成功率が低いので、2〜3割程は失敗した。が、これは経験値が入るものらしく、直ぐに850に上がった。でもこれ以上は流石に上がらなかったので、泣く泣く止めて今は銀を適当に加工しているところだ。

 

「……………?……、」

 

マジで喋れん。集中してるし、ミスったら貰える経験値が大きく落ちるからだ。というか、パーフェクトだとめっちゃ経験値が貰える。これを狙っているのだ。

 

「…………よしっ」

 

はい、完璧。失敗した時の変な音が流れなかったし、作品もおかしな出来ではない。ステータスのスキル欄を調べてみると、やはりレベルが大きく上がっていた。もうすぐ350に届く。まだ銀は沢山あるのだから、焦らずやっていこう。

 

と言っても、これはあくまで500にすれば鍔と鞘が作れるようになるので、ここまでしたらあとは特殊効果の厳選をするだけだ。

 

「よし…………っ、」

 

きっと職人プレイヤーもこんな気持ちなんだろう。一見して楽しくなさそうで、損をしてるように見えるが実はとても楽しいのだ。

 

◆◆◆◆

 

ガチャという音を立て、店側とこちらの作業部屋を繋ぐ扉が開かれた。奥にいるのは、アホ毛が生えた紫色の髪に赤い瞳、そして勝気な表情を浮かべた少女。そう、僕の憧れであるユウキさんだ。

 

初見で見た時は普通のプレイヤーだと思ったけど、めっちゃ有名人なんだねあの人って。なんか損した気分だわ。

 

「やっほーシルム!作業の調子はどう?上手くいってる?」

 

「はい、ユウキさん。順調ですよ」

 

後はこれを数時間かけて削り、経験値を500にしたらまた洞窟に行ってレアな鉱石を取ってくる予定だ。あぁ、楽しみで仕方ない……!

 

「そっか………あ、じゃあボクに何か手伝えることはある?」

 

「手伝えること…………じゃあ、あと少し経ったら洞窟に行くんですけど、付いてきてもらっていいですか?」

 

「うんっ、分かった!でも、洞窟なんてなんで行くの?」

 

「鍛治スキルが上がったので、レアな鉱石じゃないとレベルか上がらなくなってしまったんですよ。だからそれを探しに」

 

「あぁ〜なるほど……じゃあこれあげるよ」

 

ユウキさんがストレージから取り出したのは………黒曜石だ。それも破片ではなく塊。しかもめっちゃ沢山ある。

 

「え……えぇ!?く、くれるんですか……!?」

 

「うん?もちろん。だって僕にはもういらないし……使えるなら使って欲しいなって」

 

あぁ………そう言えばユウキさんの胸当てとか剣とか黒曜石出できてますもんね。なんか思い入れがあるのかも知れない。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

よしっ……これがあれば900くらいまでは上げられる筈……これは嬉しい誤算だ……!流石ユウキさん!

 

◆◆◆◆

 

「えっと………デカい塊は胸当てにして、破片は集めて鱗みたいな肩当てにしようかな。多分これくらいでいいはず」

 

黒曜石は熱に強く、他の金属と混ぜられないので防具にすることにした。まぁなんていうの?ユウキさんも使ってるし?薄くても防御力凄い高いし?そんなに重くないし?………うん。

 

ちょっと前に、品質がかなり高い布と皮かドロップしたので、それに接合して軽量装備にしようと思う。これくらいなら今の作成スキル(500)で十分作れるはず。

 

「えっと………こっちがこうで………こんな感じ?めっちゃ簡単やん。あ、裏生地もちゃんとしたの使お……これだな」

 

防具造りは非常に簡単だ。プレイヤーメイドだから、品質も安定しているし、特殊効果も期待出来る。所謂、エンシェント防具ってやつだ。

 

「えぇ〜………こうか。んでここにセット………っよし」

 

あまり意識はしていないが、ユウキさんのやつと同じようなところに同じようなプレートをはめ込んだ。そして、肩のプロテクターも付ける。鱗のような感じになっており、耐久値と防御力がとても高い。

 

「裾がこれくらいで……そではもうちょい余裕があって………」

 

まぁ、見た目重視ではないがコート型にした。コートにすると、防寒効果が着くことが多いのだ。僕は結構寒がりなので、ゲームの中まで寒い思いをしたくない。

 

「えっと、これで………よしっ!あ、フードも付けよ」

 

このフードはマジで意味が無い。強いていえば、被った時に顔とHR、カーソルが見えなくなる効果があるだけだ。これ、意外と有利じゃね?と思うけどmobには効果ないしデュエルの時はHPだけ見えるようになるので、そんなに強くない。

 

「よーっし。上防具は完璧だ。名前は………《暗灰のコート》?なんそれ厨二病?まぁこのゲームが厨二病みたいなもんか」

 

何はともあれ、《暗灰のコート》を作成した。防御力も軽量装備にしてはとても高く、目立つのは耐久値だ。20もあり、戦闘中に破損するのはまず無いだろう。そして特殊効果は………

 

「んと、『カーソル、HP非表示』『防寒』『防御力++』『追加HP』か………なんか微妙だなぁ」

 

防寒はコート型にすれば80%の確率で、非表示はフードを追加すれば100%付与される。そして大事なのが、ランダム付与だ。防御力系は+が1から5までつく。2は、あまりレアでは無い。まぁ、これは二段階あげることが出来なくはないからいいとして、追加HPはあまり嬉しくない。どうせなら、『HP回復ブースト』や『MP回復ブースト』、『耐久値自動回復』などが欲しかった。まぁ確率のものなので仕方無いか。

 

「んじゃあ………下装備も作っちゃうか」

 

下装備とは、その名の通りズボンだ。実はこれ、上装備が防御力の大半を占めるので下は履き心地や特殊効果を期待したい。狙いは『ダッシュ速度上昇』か『AGI上昇』かな。リーチを生かしたヒットアンドアウェイの戦法がいいと思ってる。まぁ、変なのじゃなけりゃなんでもいいけど。

 

「えっと、黒曜石は………まぁいっか」

 

足回りが重くなって移動が制限されるのは嫌なので、軽くて伸びる皮と布を使う。先程上装備で使ったのはハードレザーという、ちょっと硬い皮の素材だ。そして今からズボンに使うのは、ノーマルレザー。柔らかく加工がしやすい、比較的伸びやすい素材である。良かった捨てなくて。普通に捨てるとこだったわこれ。

 

「裏は手触りが良いやつ………絹でいっか」

 

麻でもいいんだけど、如何せん量があまりない。これで足りんかったらなんかやだ。

 

「サイズは勝手にやってくれるからOKとして………裾は少し短めでっと」

 

今はロングブーツを履いている。ズボンを被せるのはなんか嫌なのと、捲りたくないのだ。なんか耐久値減りそうやん?減らんけどね。

 

「…………っよし!完成だ………!」

 

てな感じで上下の装備が完成した。名前は『黒灰のズボン』。なんか上と似てるような感じするけど、カッコイイのでいい。因みにこれ、使ったのはレザーなのに何で色が付いてんのかというと、皮の上に防刃効果がある布素材を貼っつけているからだ。だからコートもズボンも三重構造な訳だね。コートの下は、いつものワイシャツでいいや。ちゃんと社会人の人がジャケットの下に来てるワイシャツだよ?

 

「よし、特殊効果は………『AGI上昇』『HP自動回復』『耐久値自動回復』。おっしゃ大当たりだ!」

 

 




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刀術指導

やっとの事で防具を完成させて、着てみた。一旦ストレージにしまうと、サイズが自分のアバターに合わせて自動調節されるので、非常に楽だ。現実にもストレージっちゅうの欲しい。

 

「………どうなんこれ」

 

鏡の前に立ち自分を眺めてみると、よく分からんことになってる。上下灰色のコートとズボンを穿いてフードを被り、腰のベルトにカタナを差している。ただ、コートに着いてる胸当てのプレートは非常にカッコイイ。あとこの白い縦線も意外といいと思う。あ、これフード取ればいいんや。

 

フードを取ると、ややボサボサした薄い灰色のちょっとボサボサした髪の毛に、青色の瞳。顔は、現実の僕と同じように少し童顔だが、まぁブサイクではないと、信じたい。

 

「おぉ………めっちゃ軽いな」

 

寧ろ前の装備がちょっと重かったのかもしれん。このコート、レザーコートみたいなもんだが非常に軽く、余裕で走り回れる。しかとズボンにAGIの上昇付与があるので、めっちゃ足速いと思う。

 

これって思うんだけど、全裸で走った時とこれ着て走った時ってどっちが速いのかな。普通に考えたら全裸の方が速いけど、付与のお陰でこっちの方が速いのかもしれん。

 

「よーっし、じゃあ続きしよ」

 

ユウキさんから黒曜石の差し入れがあってつい防具とズボンを作ってしまったが、今は銀の加工中だった。850くらいまでは上げたいね。そしたら直ぐスキルを変えよう。あと採掘も要らんね。壁走りしてみたいし。

 

◆◆◆◆

 

「やっほー!また来たよーシルム!」

 

「あ、ユウキさん。黒曜石ありがとうございます。それを使ってこのコートとズボンを作ることが出来ました」

 

「おぉー!かっこいいじゃん!しかも強そう!」

 

かっこいいかはユウキさんの主観だから分からないけど、強いのは確かです。普通に強いですこれ。多分ずっと使えます。あ、強化してないやん。後でしとこ。

 

「ありがとうございます。これ、めっちゃ強いですよ」

 

「へぇー!あれ、このプレートのやつ、僕のコレと似てるね」

 

「え?ほ、ホントですね………いやぁ怖い偶然だ」

 

怖い偶然である。

 

「じゃあじゃあ、僕と戦ってみる?」

 

「……え?戦う?戦うってデュエルってことですか?」

 

「そうそう!あ、じゃあ戦った後にカタナのコツを教えてあげる!」

 

む、コツを教えてあげるだと?それはありがたいな………よし。ここは受けよう。どうせこの装備を作った時に50くらいあがっただろうし、加工くらいいつでも出来る。そんなことよりユウキさんだ。

 

「わ、分かりました……!」

 

「やった!じゃあどこ行く?アインクラッド?」

 

「いや……向こうの草原でいいんじゃないですか……?」

 

アインクラッドとか怖くて無理なんだけど。絶対敵強いじゃん。しかも脱出不可になるとかマジで勘弁だから。絶対行かん!

 

「分かった!それじゃあれっつごー!」

 

◆◆◆◆

 

ユウキさんはALO内で超有名な絶剣。多分何をやっても勝てないと思う。だからせめて………少しでも長く戦おう。

 

「いやー楽しみだなぁ!絶対に負けないよ、シルム!」

 

「ぼ、僕も……なんだろ、頑張ります……!」

 

多分絶対に勝てないんだよなぁ……それにしてもなんでこんなワクワクしてんの?しかも純粋で悪意がないから余計にタチ悪いんだよなぁ。

 

『デュエルスタート』

 

デュエル開始を告げるシステム音声が流れる。その音と同時に、ユウキさんはダッシュでこちらに突っ込んでくる。僕も恐さを押し止め、AGIを全開にして突っ込む。ユウキさんもどちらかと言うとアジリティ型の剣士。お互いが出せる最速と最速が衝突し、真ん中で斬り結んだ。

 

「……っく!ぐぐぐ……!」

 

「んーっ!いきなり突っ込んで来るとは思わなかったよー!」

 

なんで話しながらこんなに力を込められるんだよ。しかもこっちは両手だよ!?規格外だなこの人………末恐ろしいわ。

 

「でも……やぁぁ!」

 

いきなり押し込まれて後ろに下がる。追撃するユウキさん。高く素早く振り上げられた細い片手剣は、僕の頭へ向けて高速で振り下ろされる。

 

「……ッ!」

 

仕方ないと妥協した僕は、体を僅かに左へ倒す。それにより、ユウキさんの持つ剣は左肩にあるプロテクターに当たる。しかしプライオリティ(優先度)ではこちらが高く、カキッと甲高い音を立てて剣ははね飛ばされた。

 

「わぁぁ………よく出来たねそんなこと」

 

「まぁ……避けきれないかなぁと思いまして」

 

アレで無理やり体を下げたりもっと倒したりしてたら左腕を肩ごと落とされていただろう。それじゃもうカタナは使えないので、何とか阻止しなくてはいけなかった。

 

「よし………ふっ!」

 

刀を左腰に構え、カタナソードスキルの『絶空』を発動する。モーションをとり、刀を強く振り抜く。ユウキさんも片手剣ソードスキルの『スラント』を発動させ迎撃する。刀と片手剣が衝突し、拮抗状態に陥ってしまう。ソードスキルはシステムのアシストを受けているので、剣があまりにも逸れてしまうと強制的に終了してしまう。そしたら押し負けて倒されてしまう。

 

「ぐっ……!」

 

「やるねーシルム!でもまだまだだよっ!」

 

ユウキさんは、一瞬で発動を止めて僕の右脇を通り後ろへ抜ける。慌てて振り向くと、ソードスキル『ホリゾンタル』を発動して剣が迫ってきていた。

 

「っ!ぐぅっ!」

 

後ろに体重を掛けて倒れ込んだお陰でクリティカルヒットは逃れたが、少なくないダメージが入る。約二割は削られてしまった。

 

「ふぅ………ッ!」

 

立ち上がり、『緋扇』を発動する。上下攻撃の後に突きの攻撃をする三連撃技だ。

 

「やぁぁぁあ!」

 

ユウキさんは剣で防ぐが、ダメージは入る。しかしまだダメージはグリーンゾーンだ。そして最後の突き攻撃。ユウキさんは、これを待っていたかのように、同じタイミングで『スラント』を発動。ダメージを喰らってよろけてしまい、ソードスキルが強制終了する。

 

(つ、強すぎるでしょ……!)

 

多分この人は、全ての武器のソードスキルについて知っている。だから完璧なタイミングで『スラント』を発動出来たんだ。やっぱりこの人、伊達じゃない!

 

「まだまだ行くよぉっ!」

 

突撃ソードスキル『レイジスパイク』。ギリギリ見える剣先を目で追い、刀を当てて無理やりずらす。しかし彼女は、そのまま一回転しその勢いのまま攻撃してきた。こんどはソードスキルではなく普通の攻撃だ。けど……

 

「くっぅぅ!」

 

速い。ソードスキル並に速く攻撃している。避けきれずに、胸当てに攻撃を受けてしまった。このALOというゲーム、ダメージ量が非常にシンプルに決まり、攻撃速度、武器の攻撃力、スキル、防具の性能だけで決められる。全てが揃っていないと高い攻撃は出にくいはずなのに、もう残りHPは半分で、イエローゾーンに入ってしまっていた。

 

「くそっ………」

 

レベルが違い過ぎる。ゲーム内の数字ではなく、数字に現れない経験値の方だ。積み重ねた時間も違いすぎる。しかも、僕は戦闘があまり得意ではない。

 

「だめだめ。そんなSTRを使った攻撃じゃ当たらないよ?シルムの高い所はDEXとAGIでしょ?それを生かさないでどうするのさ」

 

同じくらいの人にお説教された。しかもゲームないで。DEXやAGIを使うというのは、分かってはいるのだ。でも方法が分からない。僕がやってた剣道じゃ、DEXやAGIなんてものは………

 

「………ハッ!」

 

「お?気づいた〜?」

 

そうだ。考えれば当たり前のことなのに、僕はいつまで剣道やらの昔の記憶に引っ張られていたんだ。

 

(ここは、現実じゃない!人間が再現不可能な動きだってできる!さっきのユウキさんの様に!ここはALOの中で、仮想世界だ!現実の体を意識してどうする!?人間じゃ出来ないこともできるんだ!)

 

ならば、剣道のような動きじゃだめだ。もっとスムーズに、もっと速く、もっと強く!目の前のこいつを、殺すつもりでやる!

 

「ふぅ………っ」

 

「考えはまとまった?それじゃあ…………いくよっ!」

 

 

 



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仮想世界

大きく引きを吐く。はやる気持ちを押さえつけ、目の前の敵を観察する。次の行動を読み、どうなるか考える。どうすれば切り伏せられるのかを。

 

「やぁぁぁ!」

 

ユウキさんは剣を縦に振り下ろす。距離は約4メートル。あと1秒あれば剣は届き僕の首が落ちるだろう。でも、まだ1秒もある。

 

「っ!はぁあ!」

 

両手で軽く今持つカタナ『コテツ』の柄を握る。手首を柔らかく使い、軽く後ろに引いて溜めをつくる。そして、勢いよく刀を突き出す。

 

「っ!!」

 

ギリギリまで引き付けたお陰でユウキさんの腹に剣先が突き刺さる。ある程度ダメージは与えたが、致命傷にはなっていない。ここでトドメを刺すために、より深く剣を押し出す。

 

「ぐぅっ!よっ……と」

 

だが、バックステップで逃げられてしまった。今のは勿体ない、躊躇してしまい腕だけで押し出してしまった。体ごとずこってやってたらそのまま貫通させられたのに。あ〜あ。

 

「おぉ………今のはいい判断だね、シルム?」

 

「まぁ、ちょっと躊躇ってしまいましたが」

 

「あははっ、体ごと突き出されてたらちょっと危なかったかな〜」

 

こういう状況でも、ニコニコと笑っているユウキさん。きっと心に余裕があるんだ。僕にはない、今でも、どうやったら勝てるか考え続けている。

 

「でもね………ボクも負けたくないの」

 

今度はユウキさんが刺突攻撃を繰り出してきた。速すぎて剣先が見えない。ソードスキルも発動していないのに。

 

「くっ……はぁ!」

 

一瞬の溜の後、『絶空』を発動する。ここで心臓や顔などを攻撃すればクリティカルが入り、大きくダメージを与えられる筈。迫ってくる剣は、適当なところに貫かせておこう。

 

「はぁぁぁ!」

 

本当にユウキさんは凄い。この速度なのに、剣先を微妙に変えて角度の調整をしている。心臓部分に当てられれば一撃で倒されてしまうから、腰を捻って自分から腹をぶつけに行く。

 

「ぐぅっ!」

 

剣が腹を突いた。ノックバックはないが貫通ダメージはある。HPゲージはみるみる減っており、今にもレッドゾーンだ。だけど、これで決める!

 

「ぜやぁぁあ!」

 

最短の距離を最速で刀を振る。この軌道ならば、ユウキさんの首を跳ねられる!もっとはやく!強く振り抜け!

 

そして、ユウキさんの首に刀が当たり赤いエフェクトが出る。勝ったと思った。流石のユウキさんも、この状況はどうにも出来ないと思った。そして…………

 

『デュエル終了!勝者Yuuki!』

 

デュエルの終了を告げるシステム音声が流れる。そして、押し込んでいた手が止まる。絶空も強制終了し、刀はだらんとみっともなく垂れ下がった。

 

(負けた……か)

 

最後の方は油断していなかった。それにクリティカルも避けて腹に貫通させた。その剣はそんなに攻撃力が高いのか?いや、でもAGI補正がある速度重視の剣だったはず。

 

「あ、捩った……?」

 

「危なかったぁ……いやーいい勝負だったねシルム!」

 

「え?あ、はい………あの、最後のは…?」

 

予想だと、剣を腹の中で捩って無理矢理追加ダメージを与えたのだと思う。でなければこれほどの時間で攻撃は出来ないはずだ。

 

「ん、最後の?……あぁ!やばい負けそう!ってなって、剣を引き抜こうとしただけなんだけど……」

 

「引き抜こうとした……?」

 

「うんうん。いやー勝ててよかったぁ!」

 

あ!体内部ダメージか。体内部ダメージは、体の内側の部分にダメージを与えたら追加でめっちゃデカいボーナスが入るよってやつだ。だから、両腕を切断されて死ぬこともあるらしい。

 

「ホントにいい勝負だったよシルム!僕も後0.2秒くらい遅かったら負けてたかもだし。やっぱシルムは、刀がいいんじゃない?」

 

「あぁ〜………そうします。刀のこと、教えてくれませんか?」

 

「うんっ!もちろんだよ!」

 

◆◆◆◆

 

負けたことは気にしないで、ユウキさんのアドバイスを聞くことにした。反省するのは後でいいし、今はアドバイスを聞いた方が為になると思ったからだ。

 

「━━━━━って訳だから、刀はAGIが高い人の方が強くなるの。元々の攻撃力は斬撃武器の中ではかなり高い方だからね」

 

「ほほぉ。ではあまりSTRは高くなくていいんですか?」

 

「んまぁ、使い方によっては振り回すこともあるから、ある程度はいるかな。でもSTR全開で振り回す様なことはしなくていいよ?シルムはDEXも高いから、振り回す様なことをしなければ普通に使えると思う」

 

とはいっても、前の採掘作業のお陰でSTRがめっちゃ上がったけどね。ホントに上がったんだよね………なんあったんかな?

 

「後はソードスキルの使いどころだね。無駄打ちが一番だめ。硬直の隙は以外と大きいし、無防備になっちゃうからね。まぁそこら辺は、ダンジョンやクエストの数をこなせばいやでも身につくと思うな。大切なのは、必ず当たるって時以外はあんまり使わない方がいいこと。通常攻撃でも、クリティカルにしたり攻撃速度を上げれば大きなダメージになるから。それと、防具の間を狙うってのもあるね」

 

「ふむふむ………攻撃速度を上げるっていうのはどのように?」

 

「システムに依存しないところは、完全にプレイヤースキルになるから、どうするかは自分次第だね。まあ一応、STRとDEX、AGIを開いてやるってのもできるけど……ってかボクはSTR全開だけど」

 

ユウキさんは笑いながら言う。

 

「STRを開かせると、制御がとても難しくなるから、それを右手1本で支えるのはやっぱり難しいかな。シルムは刀だから、両手で扱えばそんなに難しくないと思う。ミソは、柄の真ん中に集めるイメージで」

 

「ほうほう………」

 

言われていることをメモ機能で書き込んでいく。タイピング学んどいてよかったぁ。

 

「っとまぁ、大事なのはこんなところかな。それじゃ、刀の熟練度を上げていくよ!」

 

 



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アインクラッド

「え、今から行くんすか?」

 

「え、だめなの?」

 

「ダメって言うか……まあ行きますけど」

 

さっきやり合ったばっかりじゃん。休憩と言うものは無いの?流石に疲れるんだけど。ってかもの整理させてくれよ。

 

「じゃあ、宿屋に戻ってアイテムの整理してきていいですか?今ストレージがいっぱいで溢れそうなんで」

 

「ん?いいよ〜」

 

「じゃあ、ちょっと待っててください」

 

待たせている以上、すぐに戻ってこなければ!

 

◆◆◆◆

 

コツコツコツッ

 

コツコツコツッ

 

石畳の地面を踏む2つの靴音。1人は暗い灰色のコートに黒灰のズボン、刀を下げた少年。もう1人は、目立つ紫色の紙に赤い目をした少女。シルムとユウキである。

 

「………あの、」

 

「ん?どしたー?」

 

「なんで付いてきてるんですか?その……アイテムを倉庫に入れに行くだけなんですけど……」

 

「だって気になるんだもん。それとも、ついて行っちゃだめなの?」

 

「いや、ダメってことは無いですけど……」

 

ゲーム内とはいえ、異性の人を自分が暮らしている部屋に上げるというのはやはり抵抗がある。まぁ別に盗まれるようなものは無いので構わないのだが……

 

「………ここです」

 

「おぉ………宿屋だねぇ」

 

うるさいな、別にいいだろ。こちとらあんまり強くないからユルドが稼げないんですよ!あなたとは違ってね!………ふぅ。

 

「では、ちょっと待っててください。すぐ戻ってきます」

 

「えぇー、ついてっちゃだめなの?」

 

「別に構いませんが、何も無いですよ?」

 

「そっかぁ〜、じゃあ待ってる」

 

「はい、すぐ戻りますね」

 

◆◆◆◆

 

要らんアイテム(鉄とか銅とか銀)をアイテムボックスに放り込み、ストレージ内をちょちょっと整理してすぐに戻った。時間にして約2、3分そこまで待たせてはいないと思うけど………

 

「あ、もう帰ってきた」

 

「ユウキさん。すいません待たせてしまって」

 

「いやいや!全然待ってないよ?どうせならお風呂でも入ってこれば良かったのに」

 

「あはは……」

 

人を待たせてるのにそんなこと出来ないでしょうが。

 

「んじゃ、フィールドに行こっか。あ、アインクラッドに行く?」

 

え、アインクラッドだと……!

 

「うんうん!じゃあそうしよう!アインクラッドに行こう!」

 

「え、まだ何も言ってない━━━━」

 

「━━━━━ほらほら!早く行くよー!」

 

ユウキさんは羽を展開して空高くに飛んでいく。僕も、最近ようやく覚えた随意飛行で後を追って行く。ってかなんだこんなに急いでんだろ。お腹痛いの?

 

◆◆◆◆

 

「はい、とーちゃく!普通に転移装置を使うよりは、こっちの方が楽しいでしょ?」

 

「まぁ、まぁたしかに……そうですね」

 

めっちゃ疲れたんだけど。何であんな早く飛ぶん?そこまでするなら普通に転移装置使おうよ………まあいいけどさ。

 

「それじゃ、探索しようね。えっと、1番上の階層はっと………あぁ、まだ10層までしかないね……じゃ10層行こっか!」

 

「え、いきなり1番上!?」

 

「んー?そんなに難しくはないと思うよー?」

 

そ、そうなの?僕行ったことないから分かんないんだけど………まぁ、今回の目的は刀の熟練度とスキルレベル上げだから、硬い敵がいたら殴りまくればいっか。

 

「えっと…………なんか、硬いゴーレムが多い層みたいだね。STRそんな上げてないけど大丈夫かな」

 

おぉ!硬いゴーレムがいっぱい!?これは来たな、とうとう僕にもツキが回ってきたぜ。

 

「まぁいいや、じゃあ行こっか」

 

「はい、ユウキさん」

 

◆◆◆◆

 

 

極論から言うと、ホントにゴーレムしかいなかった。しかもめっちゃ硬いやつ(防御力が高い)やつから、めっちゃHPが多いやつまでいた。それを僕とユウキさんはずっと殴り続けていた。ゴーレムからは、ちょっと珍しいアイテムがドロップしたので、味を占めてずっとやっている。

 

「やぁぁあ!」

 

「ぜやぁぁあ!」

 

熟練度やレベルはどんどん上がっていき、ソードスキルを結構沢山習得することが出来た。後は奥義技だけだが、それまで結構かかるのだ。

 

『辻風』

 

居合切りのソードスキルだ。モーションの時間がちょっと長いが、攻撃力は高い。スタン状態の敵に、この技をクリティカルポイントに当てると大きくダメージを与えられた。

 

『緋扇』

 

上下からの2連撃に、一拍開けての縦切り。モーションが速く攻撃力も高いため、雑魚相手に使える。しかし技の硬直時間やリキャスト時間が長いので、失敗すると危険な技だ。

 

『禊椿』

 

防御を捨てた、全力の唐竹切り。攻撃まで非常にモーションが長いが、一撃の攻撃力と破壊力は抜群。スタンした相手やトドメ打ちなどに使えるだろう。

 

『斬月』

 

中距離用の、斬撃を飛ばす攻撃。飛距離は約5、6メートル程。牽制に使えないことは無いが、硬直時間が長いのとスキが大きいため、発動後に踏み込まれる可能性が高い。

 

とまぁ、こんな所だろうか。他にも、窮奇や朧月夜、紅結、幻月、浮舟なども習得した。あとは、奥義技の旋車と羅生門だけだ。旋車が習得出来るのは熟練度800、羅生門は950だ。まぁめんどいよね。でも頑張ります。

 

◆◆◆◆

 

「シルムー、そろそろ取れそう?」

 

「え?えぇーと………今907です」

 

「お?じゃあ後40ちょいってこと?」

 

「はい!やっとここまで来ましたよ……」

 

めっちゃ時間かかった。約4時間である。

 

「じゃあ、後ちょっとがんばろ!」

 

「は、はい……!」

 

 

 




多分誤字結構あります……
ごめんなさい………



あ、誤字報告お願いします!


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