公務員な石動惣一(偽) (完龍卞)
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CHAPTER 0 前編

 

 この世界にはノイズと呼ばれるものがいる。

 

 そして俺は転生者としてここ【戦姫絶唱シンフォギア】の世界に転生し、幾つかある転生特典の一つに【仮面ライダー】に関するものを選択した。

 

 

 

 

 

 俺は仮面ライダーになれる。

 

 つまり俺は仮面ライダーだ。

 

 俺は仮面ライダーとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがらどうした。

 

 

 

 

 

 これは俺の人生だ。

 

 正義の味方の力を持っているからと言って、何もかもヒーローみたいなことをしろと言われる筋合いはない。それに俺が好きなのは、仮面ライダーであって正義の味方じゃない仮面ライダーだ。

 

 好きに生きたい。

 

 二度目の人生だ。

 

 例えどんな奴が俺を束縛しようとしても、俺は自分の意思で好きに生きる。

 

 そう、自由だ!

 

 怪力無双のキューバ系アメリカ人であるビスケット・オリバの二つ名である【ミスター・アンチェイン(繋がれざる者)】のように、俺は誰にも縛られず生きていくんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 『コブラ!』

 

 

 着用していたスーツの懐から小銃型のアイテム【トランスチームガン】を取り出し、コブラの成分が注入されている小さなボトルのような物【コブラロストフルボトル】を、銃口の下の【フルボトルスロット】へと装填。

 

 

 「…………蒸血」

 

 『ミストマッチ!』

 

 

 その掛け声と共にトランスチームガンの引き金【ミストマッチトリガー】を彼は引いた。すると内部に搭載されているスチーム生成ユニット【ミスティックチャージャー】がコブラロストボトル内部の物質【トランジェルソリッド】を加熱、特殊蒸気【トランジェルスチーム】へと変化され、銃口から噴射。 

 

 スロット装填時にトランジェルソリッドが特殊パルスで活性化されると同時に彼の体は取り込まれ、トランジェルスチームを特殊パルスで武装に変化させ、装着。

 

 

 『コ・コ・コブラ!コブラ…………!』

 

 『ファイヤ!』

 

 

 そして煙が徐々に晴れていくと、その姿が露になる。ワインレッドの特殊スーツに身を包み、その上からパイプが二重に巻かれたアーマー。

 

 更にアーマーの中心には青緑の蛇の意匠があり、顔にも蛇を模したバイザーが装着され、バイザーの中から青いツインアイが輝き、そして頭部には塔を模した煙筒があり、その煙筒とパイプの排出口から青と赤が混ざった花火が噴出する。

 

 この姿の名は【ブラッドスターク】こことは違う世界にて、人間を玩具のように扱う地球外生命体【エボルト】が動く時に使用していたパワードスーツのような物である。

 

 一定時間各部の出力を強化し攻撃の威力を上昇させる特殊な蒸気にてその戦闘能力を高める装置【スチームジェネレーター】が搭載されたコブラの形状が特徴の胸部装甲【コブラチェストアーマー】に、攻撃精度を向上、また内蔵された小型プラントで有毒ガスや強化剤の生成が可能な両肩の装甲【BSサーペントショルダー】、格闘攻撃に特化した拳を覆う【BSコブラグローブ】に特殊な蒸気による麻痺効果を持つキックや、無駄のない静かで素早い動きによる相手の背後への接近が可能な足の【ハイドシーカーシューズ】。

 

 頭部には排熱や毒性のある気体の散布機能を備え、特殊弾を打ち上げたり煙を放出し姿をくらますことが可能な煙突型ユニット【セントラルスターク】が設置されており、 内部に赤外線センサーが組み込まれている顔面を保護するコブラ型のバイザー【コブラヘッドゴーグル】。そしてそのバイザーの左から伸びる鋭い形状のものはバイザー中央にあるシグナルパーツと同じくデータ収集装置【BSサイドブレード】である。更には奥にある視覚センサー【ハイドシーカーアイ】は感度が高く動体反応や熱源反応を瞬時に察知でき、空中の化学物質を検知して痕跡を調べることも可能。

 

 これは余談であるが、【戦姫絶唱シンフォギア】の科学力・錬金術では解読は不可能だ。何故なら解読が出来ぬよう抑止力が働くからだ。抑止力というものは、彼のような転生者などが選んだ科学関係のものを別世界に流通させ、崩壊させないためである。しかし転生者から受け取る、または譲るとうであれば可能である。

 

 

 

 

 

 【閑話休題】

 

 

 

 

 

 ここで一つ問題だ。

 

 Q.どうして彼がブラッドスタークに変身したのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 A.紛争に、加入するため

 

 

 

 

 

 この理由は転生した時期と転生する際に転送された場所に関係している。

 

 まず転生した時期、これは原作開始の八年前だ。

 

 そして転生する際に転送された場所が、現在進行形でテロリストとの紛争を起こしている南米小国【バル・ベルデ共和国】。つまり原作キャラでもあり、彼(と作者)の推しキャラでもある雪音クリスが家族を失い場所と時期だ。

 

 となるとやることは一つ、この紛争を終わらせ、ソネット夫婦と雪音クリスを助けようと考えたのだ。

 

 

 『んじゃ早速…………仕事と行きますか。おら、出てこいよ、ガーディアン部隊』

 

 

 彼が選んだ転生特典の一つ【《平成仮面ライダー》に登場した歴代の怪人または戦闘員の召喚と変身能力】を使うことで【仮面ライダービルド】の世界で使われていた戦闘員【ガーディアン】を一個大隊に及ぶ数400機を一気に召喚。

 

 そしてガーディアン部隊は必ずと言っていいほど銃剣型の殺傷武器【セーフガードライフル】を手に持っていた。

 

 

 『仕事だ。内容は至って二つ。ソネット夫婦と雪音クリスの保護とテロリスト共の殲滅…………さあ、行ってこい』

 

 

 パチンッ!と彼は指を鳴らす。

 

 400機あるガーディアンは二手に分かれ、銃剣型の殺傷武器【セーフガードライフル】を手にテロリストを襲撃、ソネット夫婦と雪音クリスの捜索に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにガーディアン部隊400機が動いている間、彼は近くにあった小屋の中へと入っていってはその場にて寝転がり、ぐーすかイビキを描きながら寝ているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 「パパー!ママー!」

 

 「クリス、俺たちのことはいい!早く!逃げろ!」

 

 「で、でも!」

 

 「良いのよ、クリス。貴方が無事なら、それで」

 

 「やだやだやだ!」

 

 

 倒壊した瓦礫に、挟まれるソネット夫婦。娘である雪音クリスを助けるため、庇って瓦礫に挟まれた二人は必死に彼女だけでも逃がそうとしていた。

 

 そんなとき。

 

 ニヤニヤと笑いながら近づいて行くる、武装した兵士ら。おおよそテロリストであろう。

 

 一人は、雪音クリスを抱え上げ。他の者は瓦礫に挟まれるソネット夫婦へとアサルトライフルの銃口を向けていた。

 

 

 「っ嫌っー!パパ!ママー!」

 

 

 何かを感じたのか、叫ぶ雪音クリス。

 

 何かを悟ったのか、優しげな顔で彼女に微笑みかけるソネット夫婦。

 

 そしてアサルトライフルの引き金を、武装した兵士らが引こうとしたそのとき、銃声が鳴り響いた。

 

 しかしその銃声は兵士らがやった訳ではなく、ブラッドスタークが生み出したガーディアンだ。

 

 銃剣型の【セーフガードライフル】を構えながら、マスターであるブラッドスタークの命令をこなす為、容赦なくテロリストらを射殺した。

 

 

 「「「──────!?」」」

 

 「な、何が…………」

 

 「助、かった?」

 

 

 すると遠くからまたしても聞こえる銃声と、悲鳴。銃声が止み、ソネット夫婦の元に来る三体のガーディアンの内、一体の腕の中には雪音クリスがいた。

 

 

 「っクリス!…………あ、貴方たちが、助けてくれたのか?」

 

 「あ、ありがとうございます…………あ、瓦礫が」

 

 

 ガーディアンへとお礼を言うソネット夫婦。しかし喋れないガーディアンはただ二人を一目見ては、彼女達が動けない原因でもある瓦礫を持ち上げては退かし、彼女たちを抱えてはマスターであるブラッドスタークの所へと向かって行く。

 

 何処に行くかは分からないでいたソネット夫婦と雪音クリスは疑問を抱えていたが、どうしてなのか安心感を感じていた。

 

 するとガーディアンは、突如ボロボロになった小屋の前で止まる。そしてその内の一体は小屋の扉を開け、ソネット夫婦を中へと入れた。

 

 

 「あ、貴方は?」

 

 『…………無事、助かったようだな。良かった良かった。とりあえず、水でも飲めよ。疲れてんだろ?』

 

 

 ソネット夫婦と雪音クリスへと二本の迷彩柄の水筒を投げ渡す。ちなみにこれはブラッドスタークが暇つぶしに殺したテロリストから奪った物である。

 

 

 「あ、ありがとう…………」

 

 『何、あんたらには死んでもらっちゃ困るんだよ。その子供の為にもな』

 

 「あ、あたし?」

 

 『そうだよ、嬢ちゃん』

 

 「あ、貴方は何者なんです?それと、さっきのロボットはなんなんですか?」

 

 『まあ、待てよ。落ち着いて話そうぜ…………とりあえず名前だったよな。俺の名前はブラッドスターク、気軽にスタークさんって呼んでくれよ。それとさっきのロボットだが、【ガーディアン】って俺は呼んでいるんだ。ま、そこまで高性能じゃないんだがな』

 

 

 クククッ、と笑いながら答えるブラッドスターク。

 

 

 『んな事より、もっと聞きたいことはないのか?ほら、あれだよ…………なんで助けたのか?とかよ』

 

 「…………確かにそのことは一番聞きたい。だがそれよりもこれだけ言わしてもらいたい」

 

 『あ?』

 

 「ありがとう、君が送ってくれたガーディアンのおかげで、クリスは連れて行かれず、私たちは殺されなかった」

 

 「ありがとうございます」

 

 「あ、ありがとう!スタークさん!」

 

 

 お礼を言う、ソネット夫婦と雪音クリス。それを見てブラッドスタークは肩を上下にし、腹を抱えてて笑い出した。

 

 

 『ハッーハッハッハッハ!礼なんか別にいいよ!こちとらその嬢ちゃんがグレねえようにやっただけだしよ!それに…………殺していいのは殺される覚悟があるやつだけだよ』

 

 「それでもだ。そのおかげで、娘は助かった」

 

 『まあいい。このまま平行線ってのは面倒だし、面倒臭い。それもお礼を言うのは、ここから脱出した時にしろ。まだ終わっていない』

 

 

 そう言うとブラッドスタークは何処からか【ビルドフォン】と呼ばれる、携帯電話のような物を取り出してはガーディアンへと命令をかける。

 

 

 『ソネット夫婦、雪音クリスの救出ご苦労。次の命令は引き続きテロリストの殲滅を行うと同時に移動手段を俺のところまで持ってこい』

 

 「え?」

 

 『うしっ、んじゃこのまま殲滅戦だな』

 

 「貴方は、何を?」

 

 『あ?バル・ベルデ共和国から脱出するんだよ』

 

 「そうか…………すまない、何もかも」

 

 『なら、一つだけお願いがあるんだ』

 

 「お願い?」

 

 『日本に戻ったら、一回あんたらの所に行くからよ。そしたら歌でも聞かせてくれよ』

 

 「っあぁ!最高の音楽を聞かせてあげるよ!」

 

 「ねえ、スタークさん」

 

 『ん?どうした嬢ちゃん』

 

 「行っちゃうの?」

 

 『…………ああ、じゃあな嬢ちゃん』

 

 

 

 

 

 その後、ソネット夫婦と雪音クリスは紛争地と化したバル・ベルデ共和国から無事脱出。その後日本に戻っていった。しかし、それ以降ソネット夫婦と雪音クリスの目の前にブラッドスタークは姿を現すことはなかった。

 

 彼が今何をしているのか、それは誰も知らない。

 

 しかしこれだけは言える。

 

 ブラッドスタークは、好き勝手自由に生きているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 0 中編

 

 

 燃え盛る研究所。

 

 今か今かと襲いかかろうとする、白い二足歩行のブヨブヨしてそうな肌をした怪物【ネフィリム】とそんな怪物の目の前で、死の恐怖に怯えながらもシンフォギア【アガートラーム】を身に纏う少女【セレナ・カデンツァヴナ・イヴ】。

 

 そしてネフィリムがセレナへと襲いかかろうとしたそのとき──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────彼は現れた。

 

 腰に転生特典で与えられた【ビルドドライバー】を付ける黒髪黒瞳の青年。

 

 右手には紅い蜘蛛のような絵柄をした物【キルバスパイダー】へと同じく紅い蜘蛛のような絵柄をしたボトルのような物【キルバスパイダーフルボトル】を装填。そして【キルバスパイダー】の左右の面から飛び出る脚のような物を中へと折り畳むように収納し、身体を大きく捻った派手なポーズで、腰につけている【ビルドライバー】へと同じく装填した。

 

 

 『キルバスパイダー!』

 

 

 そしてレバーを回すと蜘蛛の巣を模したビルダーが形成され、

 

 

 『Are you ready?』

 

 「変、身…………」

 

 

 それが体を包むと同時にボディを形成。最後に蜘蛛の足を模したパーツが絡みつくように装着され、更には中心の空間が歪み、

 

 

 『スパイダー!スパイダー!キルバススパイダー!』

 

 

 全体的に赤・黒の二色で塗装に、脚等に真っ赤な毒が泡立っているかのような模様、更には顔と胸の前から見たクモのような意匠、肩や腰のクモの脚のような飾りが特長的な外見をした容姿【仮面ライダーキルバス】へと変身したのだ。

 

 

 「貴方、は…………?」

 

 『…………』

 

 

 セレナは突如現れた彼へと問うが、青年は答えない。その代わり、右手に刀身にエネルギーメーター【ビートアップゲージ】がつく両刃剣【ビートクローザー】、左手に刀身にバルブが付いた片手剣【スチームブレード】を握り締めてはネフィリムへと走り出す。

 

 

 「待って!あなた一人じゃ!」

 

 「■■■■■■!!」

 

 

 走り出す仮面ライダーキルバスを止めようと叫ぶセレナ。しかし彼は止まらず、駆け寄ってくる仮面ライダーキルバスを叩き潰すため、ネフィリムはその巨腕を振り落とす。

 

 

 「っ…………え?」

 

 「■■■?」

 

 『…………ふっ』

 

 

 しかし結果はどうだろうか。

 

 巨腕を振り落とし、仮面ライダーキルバスを叩き潰したかと思いきや、既にその腕は切断され、切断面に至っては凍りついていた。

 

 

 「■■■■■■■■!?!?」

 

 『クククッ、クッーハッハッハッハ!おいおいどうしたんだ?ンン?さっさと再生しろよ!』

 

 

 ネフィリムの切断面を凍らせたのは【スチームブレード】に取り付けられたバルブを回すことで刀身から冷気を帯びたミストを放ち、それで切断したからだ。

 

 そのおかげか巨腕を再生させようとするネフィリムであったが、傷口が凍らされているため、再生は不可能。

 

 するとどうなっているのか分からなかったネフィリムは戸惑った声を上げており、当然その隙を見逃さない仮面ライダーキルバスは何処からか龍を正面から見たような絵柄をしたボトルのようなもの【ドラゴンフルボトル】を【ビートクローザー】へと装填。

 

 そして【ビートクローザー】のグリップエンドを一回引き、その刀身に莫大な紅い炎を纏わせた。

 

 

 『喰らい、やがれぇぇぇええ!!!』

 

 「■■■■■■■■■!?!」

 

 『スマッシュスラッシュ!』

 

 

 刀身に纏わる莫大な紅い炎は、ネフィリムを上半身と下半身に分けると同時にその傷口を焼くことで塞くことで再生を遅らせた。

 

 しかし彼はそれだけで止まらず、【ビルドライバー】のレバーを回転。

 

 

 『キルバススパイダーフィニッシュ!』

 

 

 電子音と共に、仮面ライダーキルバスの両手から強力な蜘蛛の糸を放ってはネフィリムの上半身を天井へと絡みつけては貼り付けた。

 

 

 『さぁ!これで、終わりだァァァ!!!』

 

 『Ready Go!』

 

 

 そして背面から展開した巨大な蜘蛛の足四本にてネフィリムの肉体を叩き潰すと同時に心臓を貫き、断末魔と共に爆散。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?!?!?」

 

 『ふんっ…………雑魚が!』

 

 

 ネフィリムとの戦いは、仮面ライダーキルバスの圧勝で終わりを告げるのであった。

 

 

 「ネフィリムが、一瞬で…………貴方は、何者なんですか?」

 

 『俺かァ?俺は正義の力を俺の欲望を埋めるために扱う、悪の仮面ライダーだ。…………惚れるなよ?』

 

 

 彼はそう言い、自身の後ろに転生特典の一つとして貰った【灰色のオーロラカーテン】へと入っていき、仮面ライダーキルバスは燃え盛るアメリカの研究所から姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 0 後編

 

 

 「…………」

 

 

 ここはとあるライブ会場。

 

 そこにいるのは、逃げ惑う人々、泣き叫ぶ人々、棒のように立ったまま動かない人々、そして…………人間を襲う【ノイズ】と呼ばれるカラフルな色合いをした着ぐるみのようなもの。

 

 【ノイズ】…………それは人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害。特異災害対策機動部もまた、このノイズをはじめとした超常の災厄に対応するための組織である。

 

 13年前の国連総会で特異災害として認定された未知の存在であり、発生そのものは有史以来から確認されていた。

 

 歴史上に記された異形の類は大半がノイズ由来のものと言われ、学校の教科書にもその存在が記されているなど、知名度自体はそれなりに高い。空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させ、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ。

 

 それらを対抗するために、人間は世界各地の伝説に登場する、超古代の異端技術の結晶【聖遺物】を利用することにした。現代の技術では製造不可能なオーバーテクノロジーの産物で、遺跡から発掘される物は経年による劣化・破損が激しく、廃棄物でしかない欠片が大半を占めており、従来の力を遺した物はほとんど存在しない。

 

 ただしごく一部に本来の力を留めながらも基底状態のものが存在しており、聖遺物の力を引き出す素質を持つ者=適合者による歌によって、アウフヴァッヘン波形と呼ばれる固有の波形パターンと共に起動し、励起状態となって人知を超えた圧倒的エネルギーを解放することが可能となる。損傷が少なくほぼ完全な姿を保っているものは完全聖遺物と呼ばれており、一度起動すれば、適合者の歌を必要とせずに常時100%の力を発揮するのが特徴である。ただし完全聖遺物の起動には相応量のフォニックゲインと呼ばれるエネルギーが必要であり、この基準を満たすことは適合者単体では難しい。

 

 そしてこれら聖遺物を利用して造られた聖遺物の欠片のエネルギーを用いて構成される鎧型武装、またはそのシステムが【シンフォギア】である。櫻井了子の提唱する「櫻井理論」に基づき生み出された「FG式回天特機装束」の名称でもある。欠片の中に残った聖遺物の力が、適合者による特定振幅の波動=歌によって活性化しエネルギーに還元された後、鎧の形に再構成される。シンフォギアを装着する適合者は装者と呼ばれる。

 

 これらを利用することで、人類はノイズと戦う術を手に入れた。そして今日もまたシンフォギアの装者は人類の脅威へと戦いを繰り広げていた。

 

 

 「うぉおおおあ!!!」

 

 「やぁああああ!!!」

 

 

 二人のシンフォギアがノイズを倒す。二人の装者【天羽奏】と【風鳴翼】は表ではアイドルとして活動しているが、裏ではこのようにノイズ達と戦っていた。そして今日は彼女達がアイドルとして活動していた会場にノイズが現れたのだ。

 

 しかし、彼女達が戦う一方で逃げ惑う人々は次々にノイズに襲われていく。そんな時だった。

 

 

 『コブラ!』

 

 「…………ん?ってお、おいあんた!危ないぞ!」

 

 『ライダーシステム!』

 

 

 一人だけ…………逃げ惑う人々とは違い、ただ一人の人物は目の前で好き勝手する着ぐるみのような化物【ノイズ】へと視線を向けていた。そして腰に巻き付けられた赤・青・黄の三原色と言ったかなり派手なカラーリングをしたバックルのような物【エボルドライバー】に、両手にあるコブラの成分を秘めたボトル【コブラエボルボトル】と変身の核となるボトル【ライダーエボルボトル】を装填。

 

 

 『エボリューション!!!』

 

 

 すると彼はエボルドライバーに取り付けられているレバーを回転させ、エボルドライバーに装填しているエボルボトルが上下に動き出し、それからのボトルからパイプが伸びては彼を中心に前後へと「EVライドビルダー」が展開され、そのパイプの中を2種類の物質が通り型の中央でハーフボディが作られる。

 

 

 『Are you ready?』

 

 「変身」

 

 

 そして2つの型は固定している地面のスタンドに沿ってスライドし、天球儀のように回転しながら彼に組み合わさることで、【仮面ライダーエボル(フェーズ1/コブラフォーム)】に彼は変身した。

 

 

 『コブラ!コブラ!エボルコブラ!』

 

 『フッハッハッハッハ!』

 

 

 突如現れる、【仮面ライダーエボル】。突然ノイズに恐怖して動けなくなった青年かと思っていた彼女もとい天羽奏は突然姿を変えたことに驚愕していた。

 

 

 『エボル、フェーズ1。完了』

 

 

 すると仮面ライダーエボルは何処からか刀身にバルブが付いた片手剣のようなもの【スチームブレード】を取り出しては、目の前で好き勝手行うノイズへと走り出す。

 

 

 『遊んでやるよ、雑音』

 

 

 一気に近付いてはナイフのようなものでノイズへと一閃。途端にそのカラフルな体を一刀両断し、その体を炭と化したノイズを踏み潰す。

 

 更には【トランスチームガン】を取り出しては蒸気を纏った高熱硬化弾【スチームビュレット】を打ち込み、ノイズを炭化させていく。

 

 そしてまた別のノイズへとナイフのようなもので切り裂き、炭と変えてはまた別のやつを狙っては撃ち抜いていき、天羽奏や風鳴翼とは違う、圧倒的戦闘力は次々とノイズを殲滅させていく。

 

 

 「す、凄い…………」

 

 「ノイズを、意図も簡単に…………!」

 

 

 そのとき、風鳴翼はある異変に気付いた。それはその人物に次々と狩られていたノイズらが集まり始めていたのだ。

 

 

 「ッ…………おいおい、マジかよ」

 

 「ッ奏!ここは私に任せて…………」

 

 「いや、翼は周りのノイズを任せる。あたしは…………少しばかり時間稼ぎをやってくるよ」

 

 「でも!」

 

 「確かにあたしのシンフォギアは時限式だ。でも、時間を稼ぐだけの時間はある…………ほら、さっさと行ってきな!」

 

 「ッ…………ヤバくなったら下がるんだぞ!?」

 

 「ああ!」

 

 

 風鳴翼の時間を稼ぐ為、時限式のタイムオーバーに近付いているシンフォギアを無理矢理起こし、目の前で集まることで巨大化したノイズへと槍の穂先を向け、突撃。

 

 

 「おりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 『…………なんだあいつ。まさか既にボロボロなシンフォギアで勝てると思って…………あ、吹き飛ばされた』

 

 「グゥあぁぁぁぁぁ!?!」

 

 

 ノイズはその巨大な腕で天羽奏を吹き飛ばす。するとそのまま吹き飛ばされた彼女はライブ会場の壁へとめり込み、そのまま落下。そして落ちる衝撃と共にひび割れていたシンフォギアは砕け、その破片を逃げていたオレンジ色の髪をした少女の心臓部へと突き刺さった。

 

 

 「…………え?」

 

 「ッしまっ…………!お、おい!大丈夫か!」

 

 「…………!」

 

 「ッ生きるのを、諦めるな!」

 

 

 意識が遠くなり始める、オレンジ色の髪をした少女。心臓部に突き刺さったシンフォギアの破片により、残った傷跡からは血が流れ、彼女の意識も遠くなり始めていた。

 

 

 「…………全力で、歌ってみるか」

 

 

 目の前で好き勝手するノイズを倒すため、彼女は決断した。

 

 【絶唱】それは装者の負荷を省みずにシンフォギアの力を限界以上に解放する歌。増幅したエネルギーを、アームドギアを介して一気に放出させるそれは力の発現、またはシンフォギアごとに異なるが、共通して発生するエネルギーは凄まじく、ノイズを始めとするあらゆる存在を一度に殲滅し得る絶大な効果を発揮する。しかし装者への負荷も、生命に危険が及ぶほどに絶大。反動ダメージは装者の適合係数の高さに伴って軽減されるが、そもそも適合率の高い適合者自体が稀でありLiNKERの負担や、追い詰められた状況で使用される負担やダメージもありいずれにせよ大きなダメージは避けられない。

 

 また、負荷が耐久限界を超えてしまうと死亡した上に遺体も塵となって完全に消滅してしまうほどの危険性を持つ。

 

 

 「ッ奏!」

 

 「…………じゃあな、翼。元気でn『おいおい、やめてもらっていいか?その自滅する気満々の会話を。こちとらお前を救済する目的で来てんだよ。』…………あんたは?」

 

 『俺の名前は仮面ライダーエボル、…………以後お見知り置きを』

 

 「そうか…………あんたに頼みたいことがa『嫌だね。どうせあれだろ?その餓鬼を頼むとかそんなことだろ?嫌だね。さっきも言ったが、俺はお前を助けるためにここに来ているんだよ。死んでもらっては困るっつうの』じゃあこの子はどうするんだよ!」

 

 『あ?そんなもん…………こうすれば良いだろ?』

 

 『ドクター!』

 

 

 そう言って仮面ライダーエボルは【ドクターフルボトル】をトランスチームガンへと装填し、心臓部から血を流すオレンジ色の髪をした少女へと引き金を引く。すると煙のようなものが噴射され、彼女を包み込み、その苦しんでいた表情は徐々に和らいでいった。

 

 彼がトランスチームガンに装填したのはドクター…………つまり医者の成分が注入されている【フルボトル】でその効果は相手を癒すのである。

 

 

 「傷が…………」

 

 『んじゃ俺は…………あいつをやりますか』

 

 「お、おい!」

 

 

 オレンジ色の髪をした少女の傷を癒した仮面ライダーエボルは目の前で好き勝手する巨大化したノイズへと歩み寄っていく。

 

 近づいてくる仮面ライダーエボルに気付いた巨大化したノイズはその巨腕を振り落とそうとすると同時に彼も【エボルドライバー】のレバーを回し、電子音を辺りへと響き渡らせる。

 

 

 『クククッ…………さあ、お前は何処まで耐えられるんだ?』

 

 

 そして星座早見盤を模したフィールドを足元に展開して、生み出したエネルギーを右脚に収束してストレートキックを巨大化したノイズへと叩き込んだ。

 

 

 『エボルティックフィニッシュ!!!』

 

 「「「…………??!?」」」

 

 『Ciao!』

 

 

 驚異的なエネルギーを叩き込まれた巨大化したノイズは最後には散り散りとなり、そのまま消滅。一瞬にして彼に敗れたのであった。

 

 

 「ノイズを、一瞬で…………」

 

 『ハッ、肩慣らしにもならねえな…………おっ、お前さんの相方が来たぜ?』

 

 「え?」

 

 「奏!」

 

 「う、うお!?…………って翼か」

 

 「大丈夫なのか!?」

 

 「え?ま、まあ一応…………」

 

 『ふぅ、さて俺は帰ろうかな…………っとその前に。おい、天羽奏』

 

 「ん?なんだy!?」

 

 「なっ!?貴様!」

 

 

 突然仮面ライダーエボルは何も注入されていないロストフルボトルを天羽奏へと向けた。すると彼女が纏っていたシンフォギアは消失し、粒子化したそれはそのロストフルボトルへと吸収された。

 

 

 「か、奏?大丈夫か!?」

 

 『ふぅ…………お代はこれで良いよな』

 

 「貴様!奏に何をした!」

 

 『あ?んなもん、報酬を貰っただけだよ。まさかお前?善意で俺に命を助けられた思ってる?世の中を甘く見ちゃいけないね〜…………俺はそんな善人でもないし、正義の味方でも、ヒーローでもねえんだよ』

 

 「き、貴様!」

 

 

 チャキ!とその手に持つ刀の刃先を仮面ライダーエボルへと向ける風鳴翼。しかしそんな彼女を止めたのが彼にシンフォギアを奪われた天羽奏だった。

 

 

 「っ奏!?」

 

 「良いんだ、翼…………コイツのお陰で、さっきまで感じていた怠さが無くなった」

 

 「え!?それってつまり…………」

 

 「ああ、【LiNKER】の後遺症も吸収されたんだろ」

 

 『あ?【LiNKER】?』

 

 

 【LiNKER】とは聖遺物及びシンフォギアへの適合係数が基準値に満たない者を、投与によって係数不足分を補い人為的に適合者へと成す、聖遺物の力と人体を繋ぐための制御薬。

 

 しかし時間経過での適合率の低下、引き上げた適合係数に応じた肉体への致死性負荷など欠点も多い。

 

 ゆえに運用には効果の制限時間設定、適切な体内洗浄法、そして使用者個人に併せた成分の調整等が不可欠となる。

 

 仮面ライダーエボルが翳した何も注入されていないロストフルボトルはシンフォギアの成分と【LiNKER】を吸収したのである。

 

 

 『まあ、良い』

 

 「…………あんたは何もんなんだ?」

 

 『俺か?俺は仮面ライダーエボル、ただの悪党だよ悪党』

 

 「悪党?あたしからしたらヒーローにしか思えないが…………」

 

 『いーや、悪党だ。今から言うことは、しっかりと覚えとけよ?俺はいつか、必ず動き出す。それまでに対抗策でも考えときな。Ciao〜♪』

 

 

 そう言い、仮面ライダーエボルは自身の体を紅い何かで包み込み、持ち前の高速移動でその場から消え去った。そしてその場に残ったのは気絶するオレンジ色の髪をした少女と天羽奏、風鳴翼の三人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 1

 

 あのライブ会場の惨劇から二年後。

 

 ツヴァイウィングの公演中に認定特異災害ノイズが大量発生した一件。

 

 その場には、観客・関係者あわせて10万を超える人間が居合わせており、 死者、行方不明者の総数が、12874人にのぼる大惨事であった。

 

 これだけでも他に例を見ない規模の事故であったが、悲劇はここで終わらず、さらに連鎖していく。

 

 被害者の総数12874人のうち、 ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度であり、 残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や、 避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死であることが、 週刊誌に掲載されると、一部の世論に変化が生じ始める。

 

 死者の大半が人の手によるものであることから、生存者に向けられたバッシングがはじまり、被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、苛烈な自己責任論が展開されていくのであった。

 

 週刊誌の記事内容は取材に基づいた正確なものであったが、気持ちを煽る華美な修飾語の数々に踊らされた人々は、正しさを振りかざし、主にインターネット上に持論を繰り広げる。それはやがて、この事件に関係もなければ興味もない人間までも巻き込み、ある種の憂さ晴らしとして狂熱的に扱われることとなる。

 

 心ない中傷も、マジョリティという後ろ盾に支えられることで正論と化し、自分の意見でなく、「他のみんなも言ってるから」という正体を失った主張がまかり通ると、もはや、中世の魔女狩りやナチスの蛮行にも等しい、正義の暴力として吹き荒れるのであった。

 

 善良な民衆が懐く市民感情は、どこまでもねじれ、肥大化し、ただ「生き残ったから」という理由だけで、惨劇の生存者たちを追い詰めていく。もちろん、一連のムーブメントに対する反対派も存在していたが、付和雷同という大多数の民衆が持つ本質によって封殺され、しばらくは大きなうねりの中に埋没することを余儀なくされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 一方、あのライブ会場の惨劇の裏側では、【特異災害対策機動部二課】の指揮のもと、秘密の実験が行われていた。

 

 ツヴァイウィングの歌唱と、そこに連なるオーディエンスたちから放たれるフォニックゲインにて完全聖遺物であふ【ネフシュタンの鎧】を起動させる実験である。

 

 実験は一応の成功を収め、完全聖遺物であるそれは起動するのだが、直後発生したノイズがライブ会場を席巻し、その混乱に乗じて【ネフシュタンの鎧】は行方不明となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二年の月日が経つ。

 

 あの日、【ネフィシュタンの鎧】が行方不明となった【特異災害対策機動部二課】に新たな科学者が配属された。科学者の名は【影山信彦】彼が作り出した新たなシステム【ライダーシステム】を使えば例えどんな人間だろうがノイズを倒せるという、適合者でしか使えないシンフォギアとは比べ物にならない程万能なものだ。

 

 しかしこれの制作は彼にしか出来ず、政府に一部を彼が提出するが解析は不可能。【シンフォギア】を開発した櫻井了子でも解析は出来なかった。

 

 そこで影山信彦は何処から仕入れたのか【特異災害対策機動部二課】の名前を出し、それに所属すると同時に給料をくれるのであれば、技術提供を行おうと提案。これにより、彼は【特異災害対策機動部二課】の新たな一員として仲間入りを果たしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リディアン音楽院の地下深くにある【特異災害対策機動部二課】、そこにある数多くの研究室の一室、そこには室内であろうが関係なくサングラスを掛け、髪は七三、黒の蝶ネクタイに赤のベストを着用し、ヨレヨレの白衣を肩掛けする男が猫背でカチャカチャとキーボードをタッピングしていた。

 

 彼の名前は【影山信彦】、【特異災害対策機動部二課】に新たに所属した科学者であり、聖遺物でなくてもノイズを対処することが可能な【ライダーシステム】を開発した人物でもある。

 

 

 「…………ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

 

 

 するとゾンビのような声を上げ、背筋をグギグギ言わせながら伸ばす。そしてパソコンの横に置かれていたエナジードリンクへと手を伸ばし、グイッと一飲みしてはまたしてもカチャカチャとキーボードをタッピングし、音を鳴らす。

 

 今彼がパソコンで行っているのは、【ライダーシステム】の新たな企画書だ。

 

 【対ノイズ生命体戦闘用特殊強化服(パワードスーツ)】、第3世代型戦闘用特殊強化外骨格および強化外筋システム正式名称は【GENERATION-3(ジェネレーションスリー)】。第1世代【ライオトルーパー】や第2世代【黒影トルーパー】に続く、新たなライダーシステムである。

 

 基本カラーはコバルトブルー。複眼・MDSSの色は赤がかかったオレンジ。人体への改造および超自然的な力を施さず、装着型の武装のみで完結している【ライダーシステム】だ。

 

 ノイズとの戦闘データを基に理想的なパワーバランスを保つように設計されており、装着することで常人の10倍のパワーを発揮可能。またスペック上の防御力は【ライダーシステム】の中でもトップクラス。その代わり動力源として背部にバッテリーパック【ゼロエミッション・フューエルバッテリー】を装備しており、活動時間の限界が存在する。バッテリー残量は腰部のGバックルに表示される。ジュラルミン合金製の外装に、装備一式は通常は専用サポート車であるGトレーラーに積載。専用バイク【ガードチェイサー】もある。

 

 

 「…………ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

 

 「終わったか?信さん」

 

 

 聞こえてくる愛称に、彼は後ろを振り向く。そこには赤い長髪をしたダイナマイトボディな女性【天羽奏】が空いた扉を閉じないように寄りかかっていた。

 

 

 「ん?…………なんだ、嬢ちゃんか」

 

 「っあのな…………その嬢ちゃんっての辞めてくれないか?」

 

 「いんや、俺にとってお前らは嬢ちゃんだ。認められたければ、何かどデカいことやってみろよ」

 

 「どデカいことって…………んで?今回は何を作るんだ?」

 

 「今回作るものは…………【仮面ライダーG3】、デメリットは黒影トルーパーやライオトルーパーより多くあるが、その分防御力と防衛戦に長けている。最近リディアン音楽院の周りでノイズが発生するだろ?だから防衛戦用で作ったって訳」

 

 「へー、凄いんだな」

 

 「スッゲー棒読みだな」

 

 「しっかし、凄いよな信さんは。了子さんでも解析出来ない技術を持ってるなんて」

 

 「まあな。なんかその分敵視されてるがな」

 

 

 カチャカチャとパソコンやら様々な道具やらを鞄の中に収納していく、影山信彦。そして机の上に置いてあるエナジードリンクを飲み干し、近くにあったゴミ箱へと投擲。そのまま出入口へと向かう。

 

 

 「終わりか?」

 

 「ああ、帰る次いででここに来たんだ」

 

 「んじゃ送ってくよ。ついてこい」

 

 「おっ、サンキュー!」

 

 

 影山信彦の言葉に礼を言い、後ろをついて行く天羽奏。すると肩掛ける白衣の胸ポケットから煙草を取り出し、一本口にくわえては先っぽに着火。一回吸っては下に向けて煙を吐く。

 

 

 「おいおい、禁煙だろ?」

 

 「俺は良いの。煙、大丈夫か?」

 

 「んー…………そこまで。あたしは煙草とか好きでも嫌いでもないしな」

 

 「そうか…………」

 

 「うん…………あれ?普通ここって煙草吸うのやめんじゃないの?」

 

 「ここで止めるのは少女漫画とかだけだよ」

 

 

 ガシガシと天羽奏の頭を乱暴に撫でる影山信彦。

 

 

 「ちょ、やめ!」

 

 「おうおい嫌がんな。餓鬼は素直に受けとけ」

 

 「むぅ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天羽奏と影山信彦の関係…………それは、仮面ライダーエボルによって変身する能力を失い、戦えなくなったことによる自分の情けなさに自暴自棄になっていた時だった。【特異災害対策機動部二課】に新たに所属することになった影山信彦は職員との対面、そして研究室への案内が終わり、荷物を解いている時に彼女は彼の元に姿を現した。

 

 

 『あ?なんだお前…………なんの用d『あたしに…………翼と一緒に戦える力を、くれないか?』…………あ?』

 

 

 初めての会話がこれ↑。

 

 ライブ会場の惨劇では、自身の弱さと不甲斐なさが原因だと考えていた彼女は、シンフォギアに次ぐ新たな力を欲していた。

 

 当然彼は拒否をし、こう言った。

 

 

 そんなことしている暇はない!戦いたければ、黒影トルーパーを使え!と。

 

 

 すると彼女はこう言った。

 

 

 あれじゃ、駄目だ!あれじゃあたしはまた、力を失うし、助けを求める人も救えない!と反論したのだ。

 

 

 そう言われた影山信彦はキョトン、とした表情をしたと思いきや、少し険しい顔で考えると、こう彼女に問いた。

 

 

 『お前にとって、シンフォギアやライダーシステムをどういうものだ?』

 

 『…………は?なんで、そんなこと…………』

 

 『重要な事だ。どうなんだ?』

 

 『…………ノイズから、人々を助けるもの?』

 

 『なんでそこで疑問形だよ…………俺にとってライダーシステムは、【LOVE&Peace】だ』

 

 『LOVE&、Peace…………』

 

 『愛と平和だ。確かお前は黒影トルーパーとは段違いのものを欲していたな?』

 

 『あ、あぁ…………ある、のか?』

 

 『だがこれはまだ安全確認をしていない。それでもこれを使いたいか?お前が言う、翼とか言う奴をと一緒に戦いたいのか?』

 

 『…………ああ。あんたが言う、LOVE&Peaceのようにあたしは翼と一緒に戦いたい』

 

 

 天羽奏の言葉に、影山信彦は笑みを浮かべ、持っていたバックから二年前、彼女達の目の前に現れた仮面ライダーエボルがつけていた物に似たベルト【ビルドライバー】を取り出し、投げ渡す。

 

 

 『こ、これって!?』

 

 『エボルドライバーの海賊版だ。お前らも会ったことあるんだろ?仮面ライダーエボルに』

 

 『か、仮面ライダーエボルって名前なのか…………』

 

 『あいつのライダーシステムとそれはほぼ一緒だ。つまりやり方によっては倒すことも可能。それ、お前にやるよ。一度変身しちまえば、それはもうお前の物だよ』

 

 『あ、ああ!ありがとう!』

 

 『名前』

 

 『…………え?』

 

 『ライダーシステムの名前知らなくていいのか?』

 

 『なんて言う、名前なんだ?』

 

 『仮面ライダービルド。変身にはこの二つを使う。ちなみに此奴もやるよ』

 

 

 同じくバックから兎の絵柄が描かれたボトルのようなもの【ラビットフルボトル】と戦車の絵柄が描かれたボトルのようなもの【タンクフルボトル】を取り出しては彼女へと投げ渡す影山信彦。

 

 

 『変身の仕方は至ってシンプル。まずベルトを腰に当て、二本のボトルを窪みに突き刺し、ベルトのレバーを回転させるだけだ』

 

 『い、良いのか?』

 

 『ああ…………なんかあったら俺のとこ来いよ。故障とか壊れたりしたら治してやるよ』

 

 『ああ、ありがとな!信さん!』

 

 『っの、信さん?俺のことか?』

 

 『え?そうだが…………嫌だったか?』

 

 『…………別に。まあ、後は頑張れよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うっし、ヘルメットはしたか?」

 

 「勿論!」

 

 

 時間は戻り、場所はリディアン音楽院の地下駐車場。そこには影山信彦の愛車である所々に【レッドランパス】が置かれていた。基本カラーは赤で各部にダイヤマークが組み込まれ、動力系に超小型原子力エンジンを採用しており、通常のバイクとは比較にならないほどのスペックを持つ。

 

 また内部にはコンピュータ【SPC-ジェネシス】が搭載されており、影山信彦の意志を受けての無人走行が可能と言う高性能のバイク。

 

 ちなみにこれも、ライダーシステムを利用している。

 

 

 「んじゃ、行きますか」

 

 「おう!」

 

 

 アクセルを回し、爽快なエンジン音と共に走り出す【レッドランパス】。ちなみにこのバイクも彼が作成したもので、ノイズも倒すことが出来る。

 

 そう、つい今ノイズを轢いたように。

 

 

 「…………あ」

 

 「な、ノイズ!?信さん!」

 

 「あ、ああ…………凹んでないかな?」

 

 

 ノイズよりもさっき轢いたことにより轢いたことでレッドランパスが凹んでないかの心配をする、影山信彦だった。

 

 

 「よし!」

 

 「ふぅ、凹んでないな…………」

 

 「いや、バイクより今は目の前のノイズをどうにかしないと…………」

 

 「分かってるよ…………チッ、今回は俺もやらせてもらうぞ!」

 

 「っおお!」

 

 

 天羽奏は腰に【ビルドライバー】を、影山信彦は自身だけが使える専用の変身ベルト【ギャレンバックル】を♦Aのラウズカードを差し込んだ状態で腰に宛がい、自動的にベルトが伸びて腰に装着。そして彼女は【ラビットフルボトル】と【タンクフルボトル】をシャカシャカと振り始める。

 

 

 「俺の愛車に当たり屋をしてきたてめぇらは、絶対に許さない…………変身!」

 

 『Turn Up』

 

 

 掛け声と共に彼は【ギャレンバックル】に付けられていた【ターンアップハンドル】を引く。すると電子音声と共にギャレンバックルのリーダーが回転し、 等身大のカード型エネルギーフィールド【オリハルコンエレメント】が前面に放出。そして彼はそのエレメントへと走り出し、通過する事で【仮面ライダーギャレン】へと変身した。

 

 

 「よし!あたしも!」

 

 

 変身した影山信彦に便乗するように、天羽奏はシャカシャカと振って中身を活性化させた二本のボトルをビルドライバーへと装填。

 

 

 『ラビット!タンク!』

 

 『ベストマッチ!』

 

 

 右側にある【ボルテックレバー】を回転させることで中央にあるエネルギー生成ユニット【ボルテックチャージャー】が作動し、2つのフルボトルからパイプが伸びて前後にプラモデルのランナーのような型の高速ファクトリ―【スナップライドビルダー】が生成され、そのパイプの中を2種類の物質が通り型の中央でハーフボディが完成。

 

 

 『Are you ready?』

 

 「変身!」

 

 

 2つの型を固定している地面のスタンドに沿ってスライドし、彼女へと組み合わさり、天羽奏専用のライダーシステム【仮面ライダービルド(ラビットタンクフォーム)】へと変身した。

 

 

 『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!』

 

 『イエーイ!』

 

 『…………うっし!行くぞ、信さん!』

 

 『あぁ…………ついてこい』

 

 

 出現した多くのノイズへと同時に走り出す、仮面ライダーギャレンと仮面ライダービルド。

 

 仮面ライダービルドはドリル型の武器【ドリルクラッシャー】を、仮面ライダーギャレンは銃型カードリーダーであり、ギャレンの主武装の【ギャレンラウザー】を使ってノイズへと攻撃。

  

 

 『ハッ!フッ!セイ!』

 

 『フン!』

 

 

 まず始めに仮面ライダービルドが前方にいるノイズを【ドリルクラッシャー】を回転させては切り裂き、次に仮面ライダーギャレンが彼女の後方にて不意打ちを仕掛けようとするノイズを【ギャレンラウザー】で撃ち抜いていく。

 

 少しずつノイズは減っていき、小さいヤツは居なくなったかと思いきや、巨大な要塞型のノイズが姿を現した。

 

 

 『んな!?』

 

 『要塞型か…………敵ではない』

 

 

 そう言って仮面ライダーギャレンは銃身の後部に収納する特殊なカードを取り出そうとオープントレイに触れようとする。しかし突如空から斬撃が飛ばされ、要塞型は真っ二つに。

 

 舞い降りるように、彼らの目の前に【天羽々斬】と呼ばれる聖遺物を身に纏う、【風鳴翼】が現れた。

 

 

 『翼か!?ナイスだ!』

 

 「…………奏か!それと…………影山さん」

 

 『よっ…………ナイス防人だ。わざわざラウズカードを使わなくて済んだわ』

 

 「いえ、防人として当然のことをしたまでです」

 

 『ご謙遜を…………まあ、いい。俺はこのまま嬢ちゃんを家まで送るが、お前はどうする?』

 

 「そうですね…………一度、本部に帰還します」

 

 『そうか…………それじゃあな?』

 

 「はい、それではまた明日に」

 

 

 風鳴翼は迎えに来た黒のワゴン車に、変身を解除した天羽奏と影山信彦はレッドランパスへと乗り込み、この場から去っていく。

 

 しかし、レッドランパスで去っていく影山一行を影から見る者の姿が…………

 

 壊れた原作は、今動こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 2

 

 

 【私立リディアン音楽院】で、小中高一貫校で中等科、高等科への切り替え時に外部の生徒の編入を受け入れることもあり、高等科のみ別の敷地にある。

 

 その名の通り音楽教育を中心としたカリキュラムで、私立芸術系ながら学費は安価。制服は襟なしのジャケットにチェックのスカートで女子にも人気が高い高校だ。また、人気アイドル【ツヴァイウィング】の一人【風鳴翼】も通っているということもあり、まあまあ倍率も高い。

 

 そんな【私立リディアン音楽院】に一人のスクールカウンセラーが新しく職員と入った。しかし、このスクールカウンセラーには少し秘密があり…………

 

 

 

 

 

 スクールカウンセラーに出会った少女達は、何を思うのか。

 

 少女達は何を感じさせられるのか。

 

 スクールカウンセラーは、何を仕出かすのか。

 

 それは、まだ誰も知らないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 「石動先生〜!」

 

 

 石動先生、そう呼ばれた彼は後ろを向く。そこには複数人の女子高生の集まりがおり、やれやれと言わんばかりに彼は頭を欠くと、笑みを浮かべながらその集団へと向かう。

 

 

 「おう、どうした?」

 

 「石動先生って、スクールカウンセラー?なんですよね」

 

 「そうだが…………何か相談事か?」

 

 「いえ、それなのにどうして化学と物理の教師をしているんですか?」

 

 

 今年からリディアン音楽院のスクールカウンセラーとして入った彼、石動惣一。しかし彼を呼び止めた女子高生の一人は石動惣一が化学と物理の代役として教師を行っていたことに疑問を持っていた。

 

 それはつい先日のこと。

 

 彼を呼び止めた一人の女子高生が所属するクラスの化学と物理の担当教師が休みだったので、代役として教育免許を持っていた石動惣一が授業を行ったのだ。これに対して、スクールカウンセラーとして入った筈の彼が授業を行っていることに、彼女は疑問を抱いたという事だ。

 

 しかし、スクールカウンセラーとしてこのリディアン音楽院に来た彼だったが、あまりそういう事に興味を持たない彼女のような女子高生は突然代役として教師を行っていた石動惣一に驚愕。

 

 容姿から初めて石動惣一を見た女子高生らは「胡散臭い」やら「何か黒幕みたい」やら「何かヤバい組織に所属してそう」、「アニメみたい」、「珈琲が不味そう」などと裏で言われていた彼がまさか優しく丁寧に生徒に教えていたことに更に驚愕したという(と言うかどうして珈琲が不味いこと知っているのだろうか?彼が作るオリジナルブランドの珈琲は誰しもが不味いと答えるほど)。

 

 これにより、彼の人気は鰻登り。結構「胡散臭い」やらと酷評だった彼は「なんか優しい」やら「胡散臭そうで実は優しいオジサン」やら「でも絶対あの人が作った珈琲は不味い」と言われるように(ねえ、なんで不味いこと知ってるの?)。

 

 更に石動惣一は顔も整っているため、現在のスーツの上に白衣と言う謎の格好ではなく、ちゃんとした服装にすれば誰しもが振り向くイケメンに。そのため現在の彼は女子高生の人気を鷲掴みにしていたのだ。

 

 

 「確かに俺はスクールカウンセラーだ…………まあ、一応教員免許を持ってたからかな」

 

 「そうですか…………それで、石動先生。お昼休みはお暇でしょうか?」

 

 「あ?ん〜…………一応暇っちゃ暇だな」

 

 「でしたら、私たちと一緒にご飯食べませんか?色々と石動先生とはお話したいので」

 

 「おぅ、良いぞ…………と言いたいが、先に先客が居てな?すまないがまた、誘ってくれないか?」

 

 「そう、ですか…………それでは、また今度」

 

 「ああ、また今度な」

 

 

 複数人の女子高生は石動惣一に一礼すると、そのまま去っていく。そんな彼女の後ろ姿を見ながら彼は笑みを浮かべ、自身が受け持つスクールカウンセラーの教室へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 昼休み。弁当ではない生徒らはビュッフェスタイルの食堂で食事をし、持ってきている生徒らは外や教室等で食事をする時間帯。

 

 複数人の女子高生のグループに昼飯を誘われていた石動惣一はこの時間、ある生徒を待っていた。

 

 

 「失礼しま〜す!」

 

 「失礼します」

 

 「おう、いらっしゃい。それとノックをしような、必ず」

 

 「あ、ごめ〜ん!忘れてた!」

 

 「すみません、石動先生。響にはしっかりと言っておきますので」

 

 

 彼が受け持つスクールカウンセラーの教室の扉が突如開かれ、オレンジ色の髪をした女子生徒と黒髪ショートで、後頭部の大きな白いリボンがチャームポイントの女子生徒が入ってきた。

 

 そう彼女達が彼が言っていた先客だ。オレンジ色の髪をした女子生徒の名は立花響、もう一人の黒髪ショートで、後頭部の大きな白いリボンがチャームポイントな女子生徒の名は小日向未来である。

 

 

 「はぁ、全く…………何か飲むか?珈琲?」

 

 「いえ、持ってきてます!それに石動先生の珈琲は不味いのでいりません!」

 

 「響!…………すみません、響が」

 

 「おうおうはっきり言ってくれるね…………俺だって好き好んで不味く作ってる訳でもねえからな?旦那の首輪をしっかりと繋いでとけよ?小日向」

 

 「もう、石動先生は…………冗談が過ぎますよ?」

 

 「それに旦那って…………私は女の子ですよ?」

 

 「ハイハイ…………んで?今日の要件は?」

 

 「いえ、響が」

 

 「私が石動先生とお昼ご飯が食べたかっただけで〜す!」

 

 「…………あのな」

 

 

 さて、読者の皆様方。どうして石動惣一と立花響、小日向未来がこんなに仲良さそうにしているかと言いますと、それは彼と立花響の出会いに関係している。

 

 初めて石動惣一が立花響と出会ったのはリディアン音楽院に彼女がまだ入学していない一年前、あれは突然降り出した雨の日だった。

 

 あの日は突然の雨で、石動惣一は持ち歩いていた折り畳み傘を指しては自身が趣味として営んでいた喫茶店に向かっていた時のこと。突然の雨に彼が不機嫌になっていた時、路地裏が目に入った。

 

 普通であればただの路地裏であったが、何かが横切った気がした彼は、何かに誘われるように足を踏み入れた。そしてそのまま路地裏を進んでいくと、そこには灰色のパーカーを着用する、オレンジ色の髪をした少女──────────つまり、立花響が壁に寄りかかっていたのだ。

 

 

 『はあ?』

 

 『…………貴方は、誰?』

 

 『いや、お前こそ誰だよ。ここで何してんだよ』

 

 

 これが、彼女と彼の出会いだ。後に色々とあったが、仲違いした立花響と小日向未来の関係の仲介役として話し合いの場をセッティングしたりと石動惣一は行動に起こし、遂には仲が良かった二年前の状態へと関係を戻した。

 

 そしてその後、立花響の希望により、小日向未来は二人でここリディアン音楽院に入学。スクールカウンセラーとして仕事に着く予定であった石動惣一とこの学校で再開し、今では時折三人で食事をするような関係になったのだ。

 

 

 「ったく…………それで、立花。お前またお節介焼いて遅刻したんだってな?」

 

 「そうなんですよ、石動先生。響ったらまたお節介焼いて遅刻して、怒られたんですよ?」

 

 「お節介じゃないですよ、人助けです!」

 

 「まあ、程々にしておけよ?世の中には、そう言うのを嫌う輩も居るからな?…………俺みたいに、な」

 

 「──────────え?」

 

 

 小さく彼が呟いた最後の言葉に、それを聞こえてしまった小日向未来は目を軽く見開く。そして彼に彼女がかけようとすると同時にチャイムが鳴る。昼休みが終わり、授業があと少しで始まることを知らせる予鈴だ。それを聞いた石動惣一は軽く笑みを浮かべては立ち上がり、弁当箱を片し始める。

 

 

 「よし!んじゃさっさと戻りな。俺は午後の用事がねえから今日は帰るんだから」

 

 「えー!そうなんですか!?」

 

 「おう!…………おい、小日向。どうした?そんな俺をジッーと見て。顔になんか付いてるか?」

 

 「あ、い、いえ…………何でも」

 

 「それじゃあ、石動先生!また今度に!」

 

 「Ciao〜♪」

 

 

 ハッとした表情で、小日向未来は急いで空き箱と化した弁当箱を片し始める。

 

 気の所為だ。

 

 そう自身に言い聞かせ、彼女は立花響と共にスクールカウンセラーの教室を後にした。

 

 

 

 

 

 「──────────気の所為じゃねえよ」

 

 

 

 「お前が止めねえと、あの馬鹿(立花響)の心は壊れるぜ?」

 

 

 

 

 

 「小日向未来(推しキャラ)さんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間後。

 

 もう、空は暗くなっている時間帯。そんな時間帯に立花響は小さな少女を背負って走っていた。

 

 突如現れた、特異災害【ノイズ】。

 

 少女だけでも、彼女は走る。

 

 そして──────────

 

 

 

 

 

 「──────────生きるのを、諦めないで!」

 

 

 

 

 

 ♪〜Balwisyall Nescell gungnir tron〜♪

 

 

 

 

 

 「──────────これって…………?」

 

 

 

 

 

 突如彼女は、SF作品などに出てきそうなパワードスーツを、心に浮かんだ歌を紡ぐことで身に纏う。

 

 そんな彼女へと襲いかかるノイズ。しかし、少女を庇うため自身を盾にする立花響の軽く振った手に当たった途端、炭化する。

 

 

 「私が、ノイズを倒した?」

 

 

 またしても突然の事に、驚く立花響。そして、そんな彼女へと飛びかかるノイズ。

 

 

 「しまっ!?」

 

 

 驚きと、襲われる恐怖に目を瞑る立花響。しかしいくら経っても何も起きず、恐る恐る彼女が目を開くと、そこには真っ赤な怪人がいた。

 

 

 「──────────え?」

 

 『おうおう、どうした?そんな呆けた顔をして。今お前がいる場所は、ノイズとの戦場だ。一瞬でも油断と慢心をすれば、命はねえぜ』

 

 

 ワインレッドの特殊スーツに身を包み、その上からパイプが二重に巻かれたアーマー。更にアーマーの中心には青緑の蛇の意匠があり、顔にも蛇を模したバイザーが装着され、バイザーの中から青いツインアイが輝き、そして頭部には塔を模した煙筒…………。

 

 

 「貴方は…………」

 

 『俺の名は、ブラッドスターク。気軽にスタークとでも呼んでくれ、美しいお嬢さん。そして、以後お見知り置きを』

 

 

 そう言って低い声でブラッドスタークは右足を引き、左腕は腹部に水平に当てられ、右腕は胴体から離す。所謂貴族風の男性がする挨拶だ

 

 

 「え、えぇーと…………よ、宜しくお願いします、スタークさん」

 

 『あぁ、宜しく…………と言いたい所だが、今はそれよりもこの雑音をどうにかしないとな』

 

 「そ、そうですね…………」

 

 『とりあえず俺はこいつらを片付けるから、お前はそいつの子守りをしとけ!』

 

 「は、はい!」

 

 

 ブラッドスタークにそう言われ、少女を連れて立花響はノイズがいる場所とは逆方向に逃走。しかし…………。

 

 

 「う、嘘…………」

 

 

 彼女が逃走した方向には、大きなハサミを思わせるパーツを頭部に持つのが特徴的な人型をスケールアップしたかのような性質を持つ大型ノイズ【巨人型】が待ち伏せしていた。

 

 そして巨人型が、立花響へと巨腕を振るおうとしたその時、上空から斬撃が飛び、ノイズを切り裂いた。

 

 

 「つ、翼、さん?」

 

 「呆けない。貴方はその子を守りなさい」

 

 「は、はい!」

 

 『おい、翼!先に行き過ぎだ!』

 

 「…………奏か」

 

 

 上空から舞い降りるのはシンフォギアの一つである【天羽々斬】を身に纏う、風鳴翼。そして遅く合流するのは【仮面ライダービルド(ラビットタンクフォーム)】に変身した天羽奏だった。

 

 

 『お、こいつがあたしのガングニールに変身した奴か!意外に可愛いやつじゃねえか!』

 

 「…………私はノイズを狩ってくる。奏はその子をお願い」

 

 『了解!…………んじゃ、こっち来てくれよ』

 

 「は、はい!」

 

 

 天羽奏に連れられるまま前線を離れる立花響。彼女達を一目見ては風鳴翼はブラッドスタークがノイズと戦う場へと向かった。

 

 

 『ハッ!ラッ!セヤッ!』

 

 「っ!?ライダーシステム!?でも、影山さんからは何も…………まさか、仮面ライダーエボルの…………」

 

 『ラッシャ!』

 

 

 彼を見て、二年前の仮面ライダーエボルの事を思い出す風鳴翼(詳しくは【CHAPTER 0 後編】を参照)。そして最後の掛け声と共に放たれた回し蹴りにより、ノイズは全滅。

 

 それを見た彼女は上空から彼へと声をかける。

 

 

 「そこの怪しいヤツ!何処の組織の者だ?」

 

 『あ?…………シンフォギアってことは、二年前の』

 

 「やはり、お前…………仮面ライダーエボルだな?」

 

 

 ブラッドスタークが言う二年前と言う言葉に確信を持つ風鳴翼。そうなると彼女は知らないが、八年前ブラッドスタークによって助けられたソネット夫婦と雪音クリス同様天羽奏と風鳴翼も彼に助けられていた事になる。

 

 やったね、クリス。まだ再会していない恩人がこの街にいるよ!

 

 

 『正解だ。お前の相方からガングニールを奪った張本人だよ。あの後解析すると、結構面白いフルボトルが出来てよ、ほんとありがたいったらありゃしない』

 

 「…………ご同行、頂う。二年前のことも、そのライダーシステムのことを」

 

 『やなこった。こちとら明日も仕事があるんだよ。という事でさっさとてめぇらは立花響を本部にでも連れていくんだな』

 

 「…………仕方ない。なら、力ずくでも!」

 

 『はぁ、やだね〜…………最近の若いもんはすぐ力ずくで解決しようとする。まあ、俺もお前らに近い…………いや、そうでも無いな。結構離れてるしな。だがそれでもてめぇらの命令に聞く義理もねえんでね。ここいらで帰らせてもらうぜ』

 

 「っま、待て!」

 

 『Ciao〜♪』

 

 

 突如頭部に取り付けられている排熱や毒性のある気体の散布機能を備え、特殊弾を打ち上げたり煙を放出し姿をくらますことが可能な煙突型ユニット【セントラルスターク】から煙を噴射。煙幕のように噴射された煙によってブラッドスタークの姿はくらまされ、晴れる頃には既に彼の姿は無くなっていた。

 

 

 「…………チッ」

 

 

 居なくなっていることに、舌打ちをする風鳴翼。おいそれでいいのかアイドル。

 

 その後、天羽奏と合流した風鳴翼は立花響を連行。そして【特異災害対策機動部二課】の本部があるリディアン音楽院に向かった。

 

 さて、ここからは原作通りなのでカットさせてもらおう。許してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 3

 

 

 …………【特異災害対策機動部二課】の本部があるリディアン音楽院に連行された、立花響。その後彼女は研究員の一人であり、【ライダーシステム】の発案者兼製作者である影山信彦に呼ばれていた。

 

 

 「あ、あの〜…………信彦さ〜ん?」

 

 

 職員に案内され、影山信彦の研究室に入った彼女だったが、部屋の電気は付いておらず、真っ暗。困ったなと立花響が頭を欠いていると、突如彼は現れた。

 

 

 「らっしゃ〜い」

 

 「っ──────────」

 

 

 言葉にならない叫び。突然後ろに現れた影山信彦に立花響は叫び、至近距離でそれを聞いた彼は床に倒れてはのたうち回っていた。

 

 

 「痛てぇぇぇ!?!?」

 

 「────────ぁ…………って、大丈夫ですか!?えーと…………影山信彦、さん?」

 

 「せ、正解だ…………しかし驚き過ぎじゃねえか?立花響くん」

 

 「す、すみません…………で、でも!こんな暗い部屋にいて突然後ろに現れたら誰だって驚きますよ!?」

 

 「そうか?…………うん、そうだな。この前俺の可愛い妹分にやったら、顔面思いっきりぶん殴られたしな」

 

 

 そう言って笑いながら頷く、影山信彦。そんな彼の様子を見て、立花響は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 「そ、それで、信彦さんはどう言った要件で?」

 

 「ん?ああ、すまない。これを渡そうと思ってね」

 

 「…………これを?」

 

 

 影山信彦が彼女に手渡したのは、スライド式の携帯電話型トランスジェネレーター【カイザフォン】とベルト型変身ツール【SB-913 B カイザドライバー】、他にも色々と入った銀色のトランクケース。どちらも彼が密かに作り上げていた新たな量産型ライダーシステム【仮面ライダーカイザ】に変身するために必要な物だ。

 

 元々これは第二世代と呼ばれる、ライオトルーパーと同時期に彼が作り上げたものである。しかしとある危険性があった為、使用することが出来なかったのだ。そして彼が彼女に手渡したそれは、その代償を最大限減少させた最新版なのだ。

 

 

 「これは…………」

 

 「仮面ライダーカイザに変身するために必要な、一般ツールだ。これを使えば、天羽奏のように仮面ライダーに変身することが出来る」

 

 「奏さんの、ように…………どうしてこれを?」

 

 「君は今から、裏の世界へと入っていく。もしも大切な人が巻き込まれたら、その人に渡しなさい。それはノイズや現在動いている悪役に対抗出来る、特別なものだ」

 

 「ノイズに、ですか?それに悪役っt「さあ、行った行った。ちなみに変身方法はそのトランクケースの中に説明書として入ってるから、それを呼んでくれ」あ、あn「ほら帰った帰った」あぁ…………」

 

 

 無理やり研究室から出される立花響。これ以上は話が聞けないと判断した彼女は、親友が待っているリディアン音楽院の寮へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 翌日。

 

 【特異災害対策機動部二課】の本部があるリディアン音楽院の昼休み。彼もといこの学院のスクールカウンセラーを務める石動惣一はこの時間を利用して、とある人物に会うため、屋上にある知っている人はほぼいないとも言える穴場に向かっていた。

 

 

 「(まだ、来てないのか…………?)」

 

 

 駅前にある、某人気店のパン屋の紙袋を片手に彼は待ち人を探していた。すると穴場にある物陰から、銀髪の少女が彼の目の前へと現れる。

 

 

 「…………やっと来たか。で?例のは?」

 

 「…………これ、だろ?」

 

 「…………おお、これが…………」

 

 

 彼女の目の前に紙袋を出すと、すぐさまに奪われる。そして彼女は中を覗き、例の中身を目にすると目を輝かせた。

 

 

 「これがあの、先着200名様限定で朝早く並ばないと買えないと言われる高級あんパンか!?」

 

 「ああ、そうだ。朝五時に店に向かったが、結構人が並んでてな…………買えないかとハラハラしてたが、無事購入することが出来た…………って聞いてないな」

 

 「ふっふ〜ん♪あんパン♪あんパン♪あ・ん・パ・ン♪」

 

 「どんだけ好きなんだよ、お前…………まあ、そんな表情を浮かべてくれるんだってら、俺も朝早く並んだ甲斐があったよ、クリス」

 

 

 鼻歌交じりであんパンを食べ始める少女【雪音クリス】に、石動惣一は優しげな笑みを浮かべる。彼女と彼の関係は、ただの教師生徒という訳でもなく、それは雪音クリスが幼少期にまで遡る。

 

 石動惣一は仕事はスクールカウンセラーだけではなく、両親が高校生の頃から居なかった彼は、一人で親から継いだ喫茶店を営んでいた。しかしそれだけではお金が足りず、色々なバイトをすることで何とか過ごしていたのだ。そんな時、彼女がまだ生まれていない時期に雪音クリスの両親であるソネット夫婦に出会い、時々面倒を見てもらっていたのだ。

 

 そして喫茶店を営むと同時に、大学のとある研究員として就職した彼は妹のような存在である雪音クリスと出会ったのだ。更に数年後にはその研究員として就職していた研究所の大きなプロジェクトが無事完了し、数年は暇となった彼はスクールカウンセラーとして妹のような存在である雪音クリスが通うリディアン音楽院に就職。

 

 時折こうやって昼食を共に取っているのだ。

 

 

 「…………なあ、兄貴」

 

 「おいおい、学校では先生だろ?」

 

 「良いじゃねえかよ、周りには誰も居ないんだしよ」

 

 「はぁ、全く…………口調も男勝りになっているし、こうなるんだったら俺が持ってる漫画とかアニメなんか見せなきゃ良かったよ。…………それで?」

 

 「…………最近、一緒に昼飯とか食べてなかったけど、どうしてたんだ?」

 

 「…………色々あったんだよ」

 

 「詳しく」

 

 「あ、はい」

 

 

 軽く誤魔化す石動惣一だったが、ハイライトの無い彼女の目にすぐさま白旗を掲げる彼。先程も言った通り、石動惣一と雪音クリスは家族ぐるみの関係を持っており、つまり彼女が父親に次ぐ関係が深い男性と言えば彼なのだ。

 

 そして更には血が繋がっていないが、兄のように関わっていた彼に惹かれていき…………遂には高校生になると同時に彼女は石動惣一に告白。しかし彼は世間体やら彼女の事を考え、ソネット夫婦との話し合いの末成人(十八歳)になるまで婚約と言う関係になったのだ。

 

 

 「───────という事だ」

 

 「ふーん…………立花響、ね…………で?そいつは可愛いのか?付き合いとか思ってるのか?」

 

 

 じろりとジト目で彼を見る、雪音クリス。ちなみに話し合いの内容は至ってシンプル。『雪音クリス、または石動惣一が結婚したいと言う相手が出来れば婚約は解消』というものだ。しかしどちらも未だ好きな人が出来ないので、現在の関係は許嫁、となっている。

 

 

 「おいおい、何言ってんだよ。相手は生徒だぞ?」

 

 「どうだか…………パソコンの中身には、生徒関係のものあったが?」

 

 「んな!?…………ど、どうして、その事を…………?パスワードは掛けたはず…………」

 

 「あたしの誕生日、だろ?…………まあ、あたしの事を思ってくれるのは物凄く嬉しいけどそういう事に使われるのは嬉しくないな〜」

 

 「ぐぬぬ…………はぁ。あ、後クリス」

 

 「なんだ?」

 

 「お守りだ。最近、物騒だろ?結構それ特別な奴だが、やるよ」

 

 「あ、ありがとう…………って、結構綺麗だなこれ」

 

 「気に入ってくれたなら、良かった。やるよ」

 

 

 そう言って彼女に石動惣一が手渡すのは、チェーンに繋がれた縦長の石のようなもの。しかし後にこれが彼女の人生を良い方にも悪い方にも動かすことになるが、まだこの時は彼女自身全く知らないでいた。

 

 

 「もし何かあったら、その石(いし)に意志(いし)を込めるんだ」

 

 「…………面白くない」

 

 「ぐふっ…………は、はっきり言うね…………」

 

 「でもありがとな…………」

 

 「…………ああ、じゃあ俺は用事があるから戻るわ。Ciao〜♪」

 

 

 手をグーパーしながら、彼は学校内へと戻っていく。雪音クリスは彼に貰ったお守りを太陽へとかざしては年相応な笑みを浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 そしてあれから一ヶ月。

 

 リディアン音楽院の一年生であった生徒、立花響が【特異災害対策機動部二課】の一員として、シンフォギアの一つであるガングニールの装者としてノイズとの戦いを行うようになった。

 

 しかし彼女が戦うと決意したのとして、側から見ていてはお世辞にも気が気でないぐらい酷かった。別に周りが何もしてないとかではなく、同じくシンフォギアの装者である風鳴翼とライダーシステムを利用した仮面ライダービルドもとい天羽奏は常に彼女のアシストとして動いており、二課とやらのサポート体制も万全と言える。

 

 それでは何が酷いのか。

 

 簡単に言えば戦い方だろう。

 

 シンフォギアを纏うことで身体能力が格段に上がっているらしく、ノイズに対しての能力も相まってそれまで戦闘訓練を積んでいない素人の彼女でも一応はノイズと戦うことができていた。

 

 しかし、シンフォギアを纏ったからといっていきなり戦闘のプロになったわけでもなければ、スタミナが無尽蔵になったわけでもないらしく、その力は本人に由来しているらしいので彼女自身の身体能力がモロに戦闘に響いている。

 

 それは風鳴翼の様に「戦闘を行っている」とはお世辞にも言えず、「逃げてる間に偶然倒せた」「がむしゃらに腕を振ったら当たった」という有様で、戦い方に不安やムラがあるとかそれ以前の問題だ。

 

 まあ、今まで普通の学生だった彼女にそれを求めるのは酷ではあるが、これであれば正直現場よりも訓練に明け暮れていた方がマシではないのかと思えるレベルの不安定さである。

 

 ここで風鳴翼や天羽奏などに特訓してもらうのが一番の近道であろうが、二人は学園生活にアーティスト活動、己の鍛錬にノイズ退治とハッキリ言って自分の時間が存在しているのか怪しいぐらいで多忙な身。

 

 さらに言えばプロのスポーツ選手が最高のコーチになれるかは別問題という事もある。

 

 全く、どうすれば良いか…………【特異災害対策機動部二課】の現在の課題であった。

 

 

 

 

 

 ※風鳴翼と立花響の仲は始めは悪かったものも、天羽奏が間に入ることで、何とか仲直りまで行けていた。の為カッドゥ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いーくしゅ!」

 

 「…………豪快ね」

 

 「くしゅん。うぅー、もしかして私誰かに噂されてる?ノイズの来る日も来る日だし、私呪われてるかも」

 

 「そうかもね」

 

 「否定してくれないんですか!?翼さぁ〜ん」

 

 「変な事言ってる暇があるなら、この程度のノイズ一人で片付けられるようになりなさい。ノイズに逃げられて被害が増えたら私たちが出張る意味がないわ」

 

 「は〜い、仰るとおりです…………」

 

 

 今日も今日とてノイズを倒すことに専念しているが、それでも気分は上がってくれない。今日は本当なら未来と一緒に流星群を見る約束をしていたのだ。それが直前も直前になっての中止。この日の為に課題を終わらせ、提出時間が過ぎても受け取ってもらえた涙の結晶を作り上げたというのに。

 

 その上今日現れたブドウのようなノイズは人を襲うのではなく、背中のブドウを爆発させてあからさまに此方を翻弄していた。結局少し遅れて到着した翼さんが切り捨てたのだが…………。

 

 

 「…………それにしても変なノイズでしたね。まるで私達から逃げてるみたいな…………」

 

 「ええ。逃げている、もしくは…………」

 

 

 【蒼ノ一閃】

 

 

 翼さんが突如剣を振りかぶったと思ったら蒼ノ一閃を茂みに向けて振り抜いた。茂みや周りの木ごと根こそぎ切り裂かれると思いきや、それは直前で切り捨てられた。

 

 

 「…………そう、もしくは誘おびき出されたってやつだよなぁ?お二人さん?」

 

 

 件の人物はあっさりと暗闇から現れた。白いタイツにピンクの荊棘いばらムチ。顔を隠すような覆いで造形は見えないけれど、とても可愛い女の子に見える。

 

 …………そう、私達を襲ったのは、人間の女の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「貴様…………その鎧は…………」

 

 「へえ、あんたこの鎧の出自を知ってるんだ?」

 

 「…………っ!二年前、私の不手際で奪われたものを忘れるものか!何より、私の不手際で奪われた奏のシンフォギアを忘れるものか!」

 

 

 少女はまるで見せつけるようにヒュンヒュンと音が鳴るようにムチを振るう。それに合わせるように風鳴翼も剣を構えた。

 

 一触即発、風鳴翼の目がまた以前の時のように淀んでいく。この鎧は二年前の罪の象徴。この鎧を起動するために開催されたライブで奪われ、この鎧のために発生した戦いによって天羽奏は命が助かる代わりに戦う力を一時期失った。それを目の前にする残酷は、しかして己の心を弾ませていく。

 

 

 「…………翼さん!待って!待ってください!相手は人です、同じ人間ですよ!?」

 

 「「戦場で何を馬鹿なことを!」」

 

 「「…………」」

 

 「…………どうやら、貴方と気が合いそうね」

 

 「だったら仲良くじゃれ合うかい!」

 

 

 パァン!と豪快な音を立てて伸びたムチは風鳴翼を襲っていく。鋭い身のこなしで避けたり受け止めたりしているが、出力で劣っているのか逃げの一手を取るばかりだ。

 

 

 「(翼さんを狙ってるなら私が行けるはず!私も役に立たなきゃ!)」

 

 

 鎧をまとった少女が此方に警戒を割く様子はない。舐められている、というよりもロクに戦えないのを知られているのかもしれない。

 

 だけど、だとしても…………。

 

 

 「うぉおお!私だって!」

 

 「へっ、ほんと分かりやすい。鈍臭いのがいっちょまえになぁ!」

 

 「うそっ!?こっちに…………ガハッ!」

 

 

 少女が背を向けた時に殴りかかるも、まるで見えているかのように風鳴翼を襲っていたムチが返す刀で此方にその脅威を振るって来た。ノイズの攻撃とは違う、此方に狙いを済まして読み合いが発生する戦い。だがそれはどこまでも立花響に経験不足なものだった。

 

 

 「…………痛ぁ」

 

 「人と戦うのが嫌なんだっけ?ならこいつらでも相手してな!」

 

 

 受け身も取れず吹き飛ばされる立花響に向けて、少女は新たな聖遺物を振るう。そこから光が飛び出て、それが地面についた途端にあるものが生み出された。

 

 

 「ノイズ!?それも操られて…………!?」

 

 「たくらんけ相手にゃ御誂え向きだろうよ!」

 

 

 少女が聖遺物を振るうたびに増えるノイズは、どういうことか響だけを狙いつけるように迫ってくる。最近は戦えるようになってきたとはいえ、まだ風鳴翼に大部分を任せている状態だ。この数をどうにかできるかは怪しいところがある。

 

 

 「…………私を相手に気を取られるとは!」

 

 

 だがこの隙を見逃すほど、防人の剣は鈍に非ず。炎を極めし剣であれば、天翔ける鳥となりて斬り捨てよう。

 

 

 【炎鳥極翔斬】

 

 

 両手に炎を纏った剣を携え、空翔ぶ鳥の如き速さで両翼を振るう。防ごうとムチを構えるが、それは余りにも遅すぎた。ネフシュタンの鎧に十文字の彩りを加えるように、二振りの剣が突き刺さった。

 

 

 「…………やった!」

 

 「…………いや、これは…………」

 

 

 剣で確かに切り裂いた。だが、構えられたムチがいつのまにか風鳴翼の足を絡めとり、剣が刺さったままの状態で空中に打ち留められていた。

 

 

 「お高く止まるな!」

 

 

 絡められたムチを無理矢理振り回して風鳴翼を投げ捨てる。地面に叩きつけられ地を這う彼女の顔を、転がされた先に移動した少女が踏みつけた。

 

 

 「のぼせ上がるな人気者!誰も彼もが構ってくれるなどと思うんじゃねえ!」

 

 「(…………これが、完全聖遺物のポテンシャル…。それも力に振り回されるのではなく、使いこなしているのか…………!?)」

 

 

 ビキ、ビキビキと少女の鎧が音をあげる。それと共に少女に苦悶の表情が浮かぶが、なんということだろう。鎧に空いた裂傷が時を巻き戻すように再生していく。これがネフシュタンの鎧。驚異的な再生能力は不意を打った風鳴翼の一撃をも無かったことにしようとしているのだ。

 

 

 「…………くっ。…………繰り返すものかと、私は誓った!」

 

 「ああん?…………はっ。この場の主役と勘違いしてんなら教えてやる。初っ端はなからこっちの狙いは、あっちでわたわたしてる鈍臭えのを連れ帰ることなんだよ」

 

 「なにっ!?」

 

 「先輩風吹かしてこの有様。鎧も仲間も、アンタにゃ過ぎてんじゃないのかい!」

 

 「…………だとしても」

 

 

 【千ノ落涙】

 

 

 「チッ!」

 

 

 天より降る剣で頭上の少女を追い払うが、戦況は変わらない。立花響と二人で挑んだとして、埋まるには大き過ぎる差。ネフシュタンの鎧にノイズを操る聖遺物。賄いきれない戦力差に敵の目的が立花響である事実。このままでは二年前と同じ、またこの身では何一つ守れないという運命を背負わされるしかない。

 

 

 「(…………そっか。これが、あのとき奏の見ていた風景)」

 

 

 勝てないと分かる眼前の勢力。後ろには立花響。その上あの時の立花響は死に体だったと聞く。つまり奏は自分の身がボロボロであり、しかも助かるかどうかも分からない人間を守るために、あの歌を口にしたわけだ。

 

 

 「(ダメだな。こんな時でも、奏のことを思い出す。出来損ないの剣が出来なかったことをやってみせた片翼の勇姿。そして…………)」

 

 

 身体を起こし、切っ先を少女へと向ける。

 

 

 「…………吹かせられなかった風を、雪そそげなかった汚名を、ここで斬りましょう」

 

 

 戦意が喪失したのではない。むしろ、轟々と吹き荒れるように上がっていく。覚悟を決めた戦士の目で、風鳴翼は立ち上がっていた。それを間近で受けた少女は、それが何を意味するかを汲み取っていた。

 

 

 「…………まさか、歌うのか?絶唱…………」

 

 

 その鬼気迫る姿に戦慄する。手負いの獣は恐ろしい。生きる為にその身を捨てる動物は恐れることを知らない。だが手負いの人間は、知恵がある故にまた違う恐ろしさがある。

 

 人は生きる為に殺すことを厭わなくなり、そして。殺す為に死ぬことを厭わなくなりもする。今の風鳴翼の目は、そういうタイプのものだ。

 

 

 「(今から止める?いや一旦引く?だけどあいつを連れて帰るのがフィーネの命令。それをせずに撤退なんて…………殺されちまう!?)」

 

 「翼さん!大丈夫ですか!?」

 

 

 二人の睨み合いが続く中、ようやく立花響がノイズの第1波を片付けて近づいてくる。

 

 

 「…………ふっ!」

 

 「…………っ!」

 

 

 少女が伸ばすムチを翼が払い上げ、打ち返す。

 

 

 「…………はっ!」

 

 「…………ちょせぇ!」

 

 

 それに合わせて風鳴翼が短刀を投げつければ少女はそれを振り払う。互いに交戦の意思を示し、再び武器を構え合う。立花響だけが、彼女の後ろで立ち尽くしていた。

 

 

 「…………あの!翼さん…………」

 

 「下がっていなさい」

 

 「ですけど…………。私やっぱり…………」

 

 「…………相手を傷つけることを躊躇えば、全てを失う事を受け入れるのと同義よ」

 

 「…………」

 

 「だけど、いい機会かもしれないわね」

 

 「…………え?」

 

 

 突然の返答に彼女を見て、ようやく立花響は風鳴翼がいつもとナニカが違うと理解する。何が違うかわからない。だけど、まるでそれはかつての死に急ごうとする天羽奏のように見えてしまっていた。

 

 

 「…………翼、さん?」

 

 「覚悟を構えろと、貴方にそう言い続けてきたわ。だからこれは私の餞別」

 

 「つばっ…………」

 

 「目に焼き付けなさい。防人の生き様、覚悟を見せてあげる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

 

 

 ♪Emustolronzen fine el baral zizzl♪

 

 

 

 ♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

 

 

 ♪Emustolronzen fine el zizzl♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌が、響き渡る。風が音の通り道を明け渡すように、周辺はただ一人の歌に支配された。

 

 美しく、儚く、研ぎ澄まされた、最期の歌。

 

 

 「…………天羽々斬の絶唱は、人ならざるモノを断ち切る神の剣。今この地にて、我が運命を斬り捨てよう!」

 

 

 細く蒼々と煌めく剣は収束した力で悲鳴をあげる。ただ一太刀、対象を絶つことのみに特化した絶唱は、心の臓を掴むようにネフシュタンの少女に刃を向けた。

 

 

 「ぐっ!クソッタレが!この場は引いて…………っ!?」

 

 

 絶唱を前に尻尾を巻こうとするも、今更遅く。先程弾かれた短剣が少女の影を深々と突き刺していた。

 

 

 【影縫い】

 

 

 「………ぁ───────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【一閃】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 4

 

 

 

 

 

 ♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

 

 

 ♪Emustolronzen fine el baral zizzl♪

 

 

 

 ♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

 

 

 ♪Emustolronzen fine el zizzl♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【一閃】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っぁ───────。があぁあああ!?」

 

 

 絶唱。命を燃やすその歌を解き放った風鳴翼の一太刀は、ネフシュタンの少女を寸分違わず斬って見せた。振るわれた一閃を影縫いで身動きがろくに取れない少女に回避する術はない。

 

 

 「ぐっ…………、ぁあ…………」

 

 

 痛い、身体中が痛い。だけど違和感を覚える。風鳴翼の絶唱で少女は自身の体が真っ二つに切り裂かれたと錯覚した。だがどういう事か。腹部の欠損、というよりも身体を食い破られた気配がない。だが異常な程鎧にダメージが加えられている。

 

 

 「…………なに、しやがった」

 

 「…………この身は、防人」

 

 

 振り抜いた剣を支えにするように、だが二つの足で立ち続ける彼女の双眼は、此方を見据え続けていた。

 

 

 「…………想いすらも、守らないといけないのよ」

 

 「…………っ!馬鹿に、しやがって」

 

 

 つまりは、そういうことだ。

 

 人を斬らずして敵を討つ剣。人を傷つける武器を壊し、人に牙向く鎧を穿つ、殺さずの太刀。人が傷つく事を防ぐ、神の剣。

 

 天羽々斬は圧縮されたエネルギーに指向性を持たせて放つ特性を持つ。それを鎧のみにつぎ込めば、その結果は語るべくもない。

 

 

 「(クソが!後ろで呆ける馬鹿の想いを汲んだとでも言うのかよ!?)」

 

 

 苛立ちだけが募る。そもこちとらネフシュタンの鎧は無限の再生。例え絶唱のダメージであろうと回復してのけることが翼にだって分かっているはずだ。今もこうしてバキバキと音を鳴らしながら再生している、はずなのに…………。

 

 

 「あっ、がはっ!何で、こんなにも再生が遅い…………!」

 

 「…………ネフシュタンの鎧は、シンフォギア同様使用者との細胞レベルでの同調がある。ネフシュタンの鎧の組織は、元より使用者の身体を支配してしまうリスクを背負っての運用が危険視されていたのを、知らぬわけではあるまい?」

 

 「て、めぇ!」

 

 「崩壊レベルのネフシュタンに、健常なお前の細胞という齟齬。…………鎧に、食われるぞ?」

 

 

 ビキビキと、傷口のない肌をネフシュタンが再生しようと食いついてくる。体のパーツは足りているのに余分に鎧が増やそうとする不快感。それは間違いなく鎧の侵食で、全身にその支配が行き渡る可能性だってあるのだ。

 

 

 「…………クソッタレ!ぶっ飛べ、アーマーパージだ!」

 

 「っ!?翼さん!」

 

 

 侵食しようとするネフシュタンの鎧をアーマーパージ、周囲に弾きとばす事でその侵食から逃れた。あわよくば翼と響を倒すことができればと思ったが、まあそう上手くもいくわけがない。立花響が盾となり風鳴翼に当たる軌道の鎧を弾き飛ばしてみせた。

 

 

 

 

 

「(…………ちっ。鎧の侵食は防げたが、まだあの鈍臭いのが残ってる。生身じゃさすがにシンフォギアからは逃げられねぇ。だがここで何も持たずに退いたらあたしがフィーネに殺される!…………くそ!くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそetc…………)」

 

 

 唇を噛み締め、アーマーパージで全裸になった少女は土煙の先の風鳴翼と立花響を無言で睨みつけた。

 

 

 「翼さん、大丈b「…………心配は、無用よ」

 

 「で、ですけど、血が…………」

 

 

 風鳴翼は絶唱後、一歩も動かずに立っていた。…いや違う。動けないのだ。目からは血涙を流し、口からは吐血。身体のアーマーはヒビ割れが走り、身体の震えは立っていることすら限界である事を如実に示している。

 

 

 「…………戦場で仲間が傷ついたとして、血が流れるたびに駆け寄るつもり?私は、まだ、倒れていないわ」

 

 「…………だけど、その傷じゃ」

 

 「覚悟を胸に、歌を歌ったわ。…………あなたの務めを、果たしなさい」

 

 「…………はい!」

 

 

 風鳴翼に向けていた視線を、目の前の少女に向け直す。人助けの力で、人間同士が戦うなんて間違ってる。誰かを傷つけるために、この拳を握るなんて間違ってる。だけど風鳴翼が歌った覚悟を、今もなお倒れることなく戦士であり続ける彼女の為にも、この場を納めなくては。彼女がその足で立っている間に。

 

 

 「…………ゴチャゴチャと」

 

 「え?」

 

 「青クセェ演劇で、この雪音クリスを馬鹿にしてんじゃねえぞ!」

 

 

 少女が名乗ると同時に、立花響と風鳴翼へと上空から何かが放たれる。

 

 伏兵、それも少女側のだ。

 

 油断していた彼女達は、大きく目を見開く。そして彼女達へと当たる瞬間、赤い波動が何かを相殺した。

 

 

 『困るね〜…………クローン風情があいつの名を名乗ってんじゃねえよ』

 

 「て、てめぇは…………っ!?」

 

 『あんたの敵だよ、ばーか』

 

 「がっ…………!?」

 

 

 グシャ。突如現れたワインレッドの特殊スーツに身を包み、その上からパイプが二重に巻かれたアーマー───────謎の怪人【ブラッドスターク】。そして彼の接近を許してしまった雪音クリスと名乗る少女は自身の首を掴まれ…………握り潰された。

 

 

 「ひっ…………!?」

 

 「なっ…………!?」

 

 

 目の前で人が殺され、怯える立花響と少女が殺されたことに驚く風鳴翼。

 

 二人を横目に、ブラッドスタークは死んでいる雪音クリスと名乗る少女の既に折れている首根っこを持ち上げては俵のように持ち上げる。

 

 

 『回収完了』

 

 「…………ブラッド、スターク」

 

 『おっひさ〜…………一ヶ月ぶりか?』

 

 「…………その子を、どうするんですか?スタークさん」

 

 『ん?こいつか?処分するんだよ。聖遺物回収して』

 

 「お前は、そいつの仲間なのか?」

 

 『な訳ねえだろ。協力者みたいなもんだ。それに…………うおっ』

 

 

 風鳴翼と話しているブラッドスターク。

 

 そんな彼へと突如放たれるエネルギー弾。

 

 空いてる手で彼は頭を掻きながら、エネルギー弾が放たれた方向へと顔を向ける。

 

 

 『てめぇは…………』

 

 「…………久しぶりだな、スターク」

 

 『…………くく、クハハハハハハ!!折角チャンスをやったって言うのに、また俺の前に戻ってきたのか?影山先生』

 

 「影山、さん…………」

 

 「俺も居るぞ」

 

 「叔父様も…………ぐっ」

 

 

 ギャレンラウザーを構える影山信彦と、その後ろにいる風鳴弦十郎と緒川慎次。

 

 

 「翼さん!」

 

 

 体に溜まったダメージにより、その場で膝をつく風鳴翼。そんな彼女へとすぐさまに緒川慎次が駆け寄る。

 

 

 「…………緒川。お前は翼と立花を連れてけ」

 

 「っしかし!?」

 

 「影山もいる。それに天羽もこっちに向かっているようだ」

 

 「…………はよ行け。旦那、変身するなら早くしろ。置いてくぞ?」

 

 「分かっている。…………緒川、翼と立花を頼む。俺は影山とスタークをやる」

 

 

 呆然とする立花響と、その場で気絶しかける風鳴翼を緒川慎次に任せ、風鳴弦十郎は天羽奏が持つ同じもの【ビルドライバー】を、影山信彦は【ギャレンバックル】を♦Aのラウズカードを差し込んだ状態で腰に宛てがい、装着する。

 

 

 「来い、クローズドラゴン!」

 

 「ギャース!」

 

 

 風鳴弦十郎の言葉に、ドラゴンの成分を注入したフルボトル【ドラゴンフルボトル】を装填した小さなドラゴン型の機械【クローズドラゴン】が彼の元へと近寄ってくる。そしてその【クローズドラゴン】を彼はガジェット化させ、腰に宛てがい装着した【ビルドライバー】へと装填する。

 

 

 『ウェイクアップ!クローズドラゴン!』

 

 「…………行くぞ、影山」

 

 

 そして風鳴弦十郎はビルドライバーのレバーを回すことでドライバーから伸びたパイプによってスナップライドビルダーが展開、 クローズ専用のドラゴンハーフボディが前後に生成され、2つの型を地面に固定させ、その中心で構える。

 

 

 『Are you ready?』

 

 「旦那こそ、置いてかれないでくださいよ?」

 

 「…………勿論」

 

 「「変身」」

 

 『Turn Up』

 

 『Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!』

 

 『Yeah!』

 

 

 仮面ライダークローズへと変身する風鳴弦十郎と、仮面ライダーギャレンへと変身する影山信彦。そんな二人を見て、ブラッドスタークは笑い出す。

 

 

 『イイねイイね最っ高だねェ!!遠くからもお前らのハザードレベルが感じられるよ…………だがよ、俺だって暇じゃねえんだよ。だ・か・ら…………こいつらの相手でもしてろよ』

 

 

 ピカーン!と右手のひらを光らせるブラッドスターク。すると何処からかバッタのような姿をした銀色の仮面ライダーと同じくバッタのような姿をした緑色の仮面ライダーが彼らの目の前に現れた。

 

 

 『…………今、誰か俺の事笑ったか?』

 

 『汚してやる、太陽なんて…………』

 

 

 仮面ライダーキックホッパーと仮面ライダーパンチホッパー。どちらも、性能は量産型のライダーシステムとは比べ物にならないほど。

 

 

 『っ新手のライダーシステムか!?』

 

 『行け、仮面ライダーキックホッパー。行け、仮面ライダーパンチホッパー。叩き潰せ!!』

 

 『『ッ』』

 

 

 腕を大きく横に振り、まるで悪の組織の幹部のように言うブラッドスターク。その言葉を受け、仮面ライダーキックホッパーは飛び蹴りを、仮面ライダーパンチホッパーは飛びかかっては拳を振り落とした。

 

 

 『ふっ!』

 

 『んなっ!?』

 

 

 飛び蹴りを放つ仮面ライダーキックホッパーの足を仮面ライダークローズは難なくと掴む。そして一本背負いの流れでそのままキックホッパーを地面へと叩きつける。

 

 

 『させるか!』

 

 『バレット・ファイア』

 

 『ファイアバレット』

 

 『オラッ!』

 

 『っああああああああ!?!』

 

 

 仮面ライダーギャレンは♦の二・六のラウズカードをギャレンラウザーへと読み込み、飛びかかっては拳を振り落としてくるパンチホッパーへと銃撃能力を強化した状態での炎を付加したエネルギー弾で応戦。撃ち落とされ、そのままパンチホッパーは地面へと落下。

 

 

 『チッ、何出オチみたいな感じになってんだよお前らは。…………まあ、良い。この隙に撤退するとしますか。Ciao♪』

 

 

 その隙を狙って、ブラッドスタークはその場から姿を消す。その場に残ったのは、四人の仮面ライダーだけとなった。しかしその事に気付いていない仮面ライダークローズとギャレンは、キックホッパーとパンチホッパーと対面していた。

 

 

 『…………て、てめぇ!』

 

 『ふっ、まだまだだな』

 

 『…………よくも!』

 

 『来いよ、パンチホッパー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 ここは山深くにある、【フィーネの館】。かつて、永遠の刹那に存在し続けてきた先史文明期の巫女。幾たびか人類史に登場し、パラダイムシフトの起点となってきた経緯があり、『終わり』の名を持つ者【フィーネ】が隠れ家として扱う館。

 

 そんな場所に、死体とかした雪音クリスと名乗る少女を俵のように持ち上げるブラッドスタークが現れた。

 

 

 『〜♪』

 

 

 鼻歌を歌いながら館の中へと踏み入るブラッドスターク。当然彼は土足だ。

 

 

 『…………っと連れてきてやったぜ?この出来損ないを』

 

 「あら、ご苦労さま」

 

 

 素っ裸で椅子にふんぞり返るフィーネ。そんな彼女の目の前に死体と化した雪音クリスと名乗る少女を投げ捨て、近くにあった机に寄りかかるブラッドスターク。

 

 

 『それで?解析は出来たか?』

 

 「まだまだっとこね。でも分かっていることが一つあるわ」

 

 『分かってること?』

 

 「この二枚の板のようなもの…………パンドラパネル、だったかしら?とてつもない力を宿していることが分かるわ」

 

 『ハッ、当然だろ!?パンドラボックスが完成すればこの世界そのものを壊し、新たな新世界を作り出すことだって出来る!!だからお前にそれを貸してやったんだ、お前の計画の為でもあり、俺の〝計画〟の為にもな』

 

 「ええ、分かっているわ(…………だからこそ月の破壊後、貴方は私が殺す。そして、パンドラボックスをこの手に…………)」

 

 

 カチャカチャとパソコンへと振り向き、キーボードを打つフィーネ。彼女が打つパソコンに接続されたケーブルは巨大な冷蔵庫のような機械に接続され、その機械から伸びるケーブルは巨大なビーカーのような物に、そのビーカーの中には二枚の石化したパネルのような物が入っていた。

 

 【パンドラボックス】、それはいつ、誰が、何の目的のために作り出したものなのか、その一切が謎に包まれている謎の物体で、六枚のパネルに分離可能。そのうちの一枚は米国に、三枚は錬金術師ら、そして残りの二枚は彼女が現在解析しているものだ。

 

 またこれは核より強大なエネルギーがあると思われており、その全容の解析を一枚ずつ保有している組織は競走の如く進めていた。

 

 そしてフィーネがパンドラパネルを解析していたのは、とある計画の為でもあった。

 

 彼女が思惑する計画は【カ・ディンギル】とフィーネが名ずけたそれを建造し、かつて己の恋心を拒絶した、創造主への妄執を原動力に『バラルの呪詛』にて人の言語と思想を分断する監視装置たる月の破壊である。そのエネルギーをこの二枚のパンドラパネルを解析すると同時に代用出来ないかと考えていた。

 

 まあ、それを読んでいないブラッドスタークでは無いのだが…………。

 

 

 『そんじゃまあ、あとは頼んだぜ?フィーネ』

 

 「…………ああ、分かった。それと、次からはクローンを壊さないで回収してきてくれないかしら?一々作り直すのは面倒なのでな」

 

 『へいへい、Ciao〜♪』

 

 「ふん…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 5

 

 

 「翼…………」

 

 

 リディアン音楽院の地下深くにある、【特異災害対策機動部二課】の本部。集中治療室の近くにあるソファーで、天羽奏は俯いていた。

 

 雪音クリスと名乗る少女との激戦。絶唱と呼ばれる最後の決め手を使い、何とか倒した彼女だったが、このように集中治療室送りとされていた。

 

 しかし彼女──────天羽奏は、自身が見ているだけだったことに関して、自分への怒りと情けなさに襲われていた。

 

 

 「な〜に、暗い顔して俯いているんだよ嬢ちゃん」

 

 「…………信さん」

 

 

 そんな彼女に近付いてきたのは、片手にミルクコーヒーが入ったアルミ缶を持ち、顔にサングラスを掛け、髪は七三、黒の蝶ネクタイに赤のベストを着用し、ヨレヨレの白衣を肩掛けする男──────────影山信彦だった。

 

 「よっ!元気にしてたか?」

 

 「…………そう言えば、スタークと何か関係があるかで疑われて…………結局どうなんだ?信さん」

 

 「…………そのことも合わして…………少し話でもするか嬢ちゃん」

 

 「だから!あたしを嬢ちゃんっt「俺はな…………ブラッドスタークと一緒にライダーシステムを作ってたんだよ」…………は?ど、どういう事だよ…………」

 

 「…………元々ライダーシステムってのは、ブラッドスタークが開発したものなんだ。ブラッドスターク…………本名は知らねえが、あいつは自分のことをスターク博士って名乗っててな?スターク博士と初めて出会ったのが、四年前…………しがない大学卒業生だった俺は、あの人に拾われたんだ」

 

 「拾われた…………」

 

 「そう、拾われたんだ。国大理系出身だった俺は、就職もろくに出来ず、途方に暮れてた所をスターク博士に拾われて、一緒にライダーシステムを開発したんだ。始めは怪しい人だな〜って思ってたんだが、結構優しくてな…………」

 

 「優しい…………」

 

 「今のスターク博士とは、全く別モンだよ。…………それで、突然スターク博士がノイズを倒せるライダーシステムを作ろうって言い出して、早速一番初めに作ったのが【エボルドライバー】…………」

 

 「…………確か、あたしが使ってるビルドライバーってそのエボルドライバーの海賊版なんだっけか?」

 

 「そう、スターク博士が目標として掲げる何かを防ぐ為に、俺が開発した新たなライダーシステムが仮面ライダービルド──────────」

 

 

 

 

 

 ──────────Evolution(進化)に対抗する為にBuild(形成)した物だ。

 

 

 

 ──────────…………だが、俺達人間はあの人の進化(Evolution)に対抗出来ない。

 

 

 

 ──────────だからこそ、それに対抗出来る物、対抗出来る者を形成(Build)した。

 

 

 

 ──────────つまり、何が言いたいかと言うとな?

 

 

 

 ──────────天羽奏、お前が唯一ライダーシステムの中であの人に…………

 

 

 

 ──────────スターク博士に対抗出来るって事だよ。

 

 

 

 

 

 「そう、だったのか…………」

 

 「それと俺は虫けらのように人を殺すスターク博士が許せない…………だから嬢ちゃん』

 

 「…………」

 

 「頼んだぞ?」

 

 

 呪いの言葉を残し、影山信彦は手に持っていたミルクコーヒーを飲み干して去っていく。

 

 彼女はそんな彼の背中を、居なくなるまで見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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CHAPTER 6

 

 

 「ぐぁああああ!!」

 

 

 山奥に潜む大きな屋敷【フィーネの館】。

 

 協力者を除くブラッドスタークなどを除き、当然ながら一般人など気付かないこの場所では、断続的に少女の悲鳴が響いていた。助けを求める声ではない。恐怖に咽ぶ声ではない。ただ瞬間的に与えられる痛みに身体が反射のように悲鳴を上げていた。

 

 

 「苦しい?可哀想なクリス」

 

 

 その屋敷には二人の人間がいた。一人は壁に貼り付けられ、まるで拷問を受けているような悲鳴をあげる、先日ブラッドスタークによって首をへし折られた少女───────雪音クリス。

 

 しかし彼女は雪音クリスではない。

 

 クローン───────すなわち、分子・DNA・細胞・生体などのコピーである。同一の起源を持ち、尚かつ均一な遺伝情報を持つ核酸、細胞、個体の集団。雪音クリスという名の少女のDNAを利用して作り出したクローン人間だ。

 

 

 「でも、貴女がグズグズ戸惑っているからよ?誘い出されたあの子をここまで連れて来るだけだったのに、手間取ったどころかボロボロにされて、遂にはあのスタークなんかに死体として回収されるなんて」

 

 

 あの日、クリスが立花響と風鳴翼を襲ったのは目の前の女性に命令されていたからだった。

 

 『立花響を連れてきなさい』と命を下し、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧に同じくソロモンの杖をクリスに手渡した。

 

 ネフシュタンは異常なまでの再生能力を持ち、ソロモンの杖はノイズを意のままに出現させ操れる。この二つがあればシンフォギアという聖遺物のカケラから作られた玩具を振るう適合者の一人や二人何ら障害にはならなかったはずなのに。

 

 

 「…………これで、いいんだよな?」

 

 「なに?」

 

 「私の望みを叶えるには、お前に従っていればいいんだよな…………?」

 

 

 世界から争いを無くしたい。それが雪音クリスの願いだった。テロで死んだ両親。不当な暴力を受けた毎日。腐った大人の作り上げる世界をぶっ壊し、それでも平和を願っていた。

 

 ──────────死んだ両親は夢を持っていた。『歌で平和を』いい歳した大人が見るにはあまりに幼稚で馬鹿らしい夢だと思う。だからきっとパパとママは方法を間違えたんだ。夢を見るのは子供の仕事、叶えるのだってそうに違いない。

 

 

 

 

 

 しかしそれは偽の記憶だ。

 

 ブラッドスタークが脚本を描き、フィーネが埋め込んだ〝偽の記憶〟。

 

 

 「そうよクリス。だから貴女は私の全てを受け入れなさい。私だけが貴女を愛してあげられる」

 

 

 

 

 

 ──────────そしてこの目の前の女性は、フィーネはあたしを救ってくれた。あの地獄の日々から、夢を叶える力を与えてくれた。考えてみれば簡単な話だ。力を振りかざす奴らがいるなら、そいつら全員ぶっ飛ばせばいい。力を振るう人間があたしだけになれば、世界から争いなんて馬鹿なもんはなくなるに違いない。そのための力だ。大嫌いな歌で戦うイチイバルは、何でも願いを叶えてくれる魔法の道具。皮肉な武器でも、傷ごと抉れば忘れられるってことだろ?傷も痛みも、全ては…夢の為と思えば、何だって耐えられr──────────。

 

 

 

 

 

 「──────────ぅあああぁああ!!」

 

 

 

 

 

 バリバリと身体中に電流が走る。フィーネが手元のレバーを引くだけで括り付けられている自分に抗えない激痛が走る。これは罰であり、治療でもあった。体内を食い破られて増殖しつつあるネフシュタンの鎧を一時的に休眠状態として除去するために必要な工程だった。

 

 

 「可愛いわよクリス。覚えておいてね、痛みだけが人の心を絆と結ぶ世界の真実だと言うことを」

 

 

 そしてフィーネの歪んだ趣向でもある。自身の嗜虐心を満たす傾向があるフィーネの屋敷には拷問道具や衰弱死した動物の死骸などが転がっている。しかしそれすらもクリスは気にしていなかった。触れられ、肌を重ねる度に感じる温もりはクリスが欲していたものだったから。

 

 

 「さ、一緒に食事にしましょうね」

 

 

 …………なのに何故だろう。いつもと同じ痛みを与えられ、温もりを与えられているのに、そこに翳りを感じる。任務を失敗した自分が罰せられるのは当然だ。括られて痛みを与えられるのも慣れはしないが受け入れている。ただ、温もりだけが足りない気がした。甘みのない、強い苦味のような温もりはその存在を強過ぎるほど刻み込んでくる。

 

 

 「──────────ぐぁあぁああああ!!!」

 

 

 …………二度と味わえない甘みを痛みと痺れが上書きしていく。だがふと思い出してしまった。馬鹿みたいに甘くて、ただ触れる程度の優しい温もりが頭を撫でたあの時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どう、クリス?身体に不調はある?」

 

 「………いや、問題ねえ」

 

 

 グーパーと手の平を開閉しながらフィーネの質問に答える雪音クリスのクローン(もといクローン)。肉体に巣食っていた休眠状態のネフシュタンの破片を取り出し、ようやく不快感が消え去っていた。

 

 

 「なら、早速次の指示よ」

 

 「ああ。今度こそあいつを連れて帰ってくればいいんだろ?」

 

 「いいえ、今回は違うわ」

 

 「ん?」

 

 「明朝にデュランダル、完全聖遺物の移送が行われるの。それを奪って欲しいのよ」

 

 

 クローンの与り知らぬところではあるが、フィーネは裏で繋がっている米国政府と共謀して防衛大臣の殺害を遂行していた。防衛大臣の殺害に二課を襲撃するノイズの存在が重なり、二課本部の最下層に保管されているデュランダルこそが襲撃者の目的であると推測されたが故に保管場所を移そうと考えた政府の情報は、とある理由でフィーネに筒抜けであるので一番手っ取り早い方法で強奪しようと考えたのだ。

 

 

 「もちろんそこにはあの立花響も護衛としているだろうから、一緒に奪えるならそれでもいいけど」

 

 「はっ。奪えって言ってるようなもんじゃねえか」

 

 「そうね。期待してるわよ、クリス」

 

 「…………ふん」

 

 

 鼻を鳴らして治療したから出て行くクローンを見送りフィーネは一層笑みを深くする。期待する、なんて本心でもないことを笑ったのではない。

 

 というかクローンがデュランダルの強奪に成功しようがしまいが、結果は変わらない。強奪できればフォニックゲインのエネルギーを使ってデュランダルの起動を試みるだけ。

 

 強奪できずとも現在二課の後ろ盾として座っていた防衛大臣は既に死に、後釜には利益にがめつい者が配置されている。なので日本独自のシンフォギアシステムを有する二課の防衛システムに関しても受理される可能性は高いと踏んでいる。なのでそこに仕込みをしつつ、デュランダルのエネルギーを利用する策を練ればいいだけだった。かつてのネフシュタンの鎧を起動させた時のように。

 

 

 「…………まあ、気がかりはあるがな」

 

 

 机の中に入れてある数十枚の紙の束を取り出す。いや、紙の束という表現よりは写真の束と言った方が良いだろうか。大量の写真に写り込んでいるのは、誘拐してでも手に入れたいと思っている立花響の写真。

 

 適合者ではない、身体に直接聖遺物のカケラを取り入れ融合したことでシンフォギアの力を振るう仮称第一号融合症例。高水域のフォニックゲインは適合者ではない彼女に宿る数値としては異常であり、その全てが前代未聞といっていい。だが前代未聞というのは学者にとって悩みの種であり、極上のデザートでもある。なんせ知り得なかったサンプルが降って湧いたようなものだ。調べたくなるのは学者の性というものだろう。だからこそフィーネも興味関心を引かれているわけだが…………。

 

 

 

 

 

「パンドラボックス、か」

 

 

 今気がかりなのは写真の束の一番下にある一枚に映る箱のようなもの。数十とある写真の内たったの一枚しかないあたりに興味の薄さが推し量れるが、逆に言えばその一枚分は興味を持っていることに他ならない。そのたった一枚を弄びながら思考を巡らせる。

 

 

 「(たった一人、ブラッドスタークが一瞬だけ起動させたパンドラパネルからは驚異的な数値のフォニックゲインの共鳴を起こした…………しかしあれ以来それが起動することは無かった───────)」

 

 

 ──────────いや、私自ら調べたのだからそこに見落としがあるということもないだろう。

 

 

 「…………まあ、いいわ。何も問題無いようだし」

 

 

 もうそれに目を奪われることもない。フィーネの目的、それはバラルの呪詛を打ち砕き統一言語を取り戻すこと。その為にバラルの呪詛の起点である月を穿つカディンギルの完成を目論んでいる。だがその為に必要なパーツはもうすぐ揃う。

 

 無限のエネルギーを持つデュランダル。

 

 それを打ち出すカディンギル。

 

 それらを完成させる為に必要なら手に入れる事を躊躇うことは無かったが、起動しない聖遺物(パンドラパネル)に用は無い。

 

 

 「さぁ〜て、お仕事お仕事!げーんきに行きましょうか!」

 

 

 櫻井了子に成りきり席を立つ。何処までも目的の為に、終わりの名を持つ者は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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