♈ ♉ ♊ ♋ ♌ ♍ ♎ ♏ ⛎ ♐ ♑ ♒ ♓     星座宮夜宵之闇物語之神話書記 ANAVIOSI SYN+       ♓ ♒ ♑ ♐ ⛎ ♏ ♎ ♍ ♌ ♋ ♊ ♉ ♈ (OOSPH)
しおりを挟む

プロローグ 8642years 一人の少女の死によって、すべての時が動き出す
世界に見捨てられし者達


世界の外側に流れ着いた者達


 

今よりおよそ

 

八千六百四十二年前

 

ある場所に一人の少年が閉じ込められていた

少年はもうボロボロで体中が縛られているように見える

 

はたから見ても生きているとは思えないその雰囲気だが

その彼の口からわずかに小さな呼吸音が聞こえている

 

こんな状態になっても少年はまだ生きているのだ

 

少年はそんな状態ながらもゆっくりと顔をあげていく

 

「どうして…‥‥‥どうして…‥‥‥」

 

その彼の顔はひどいもので

片目はつぶれ口も片方がひどく裂けていて

かろうじて残っている目から感じ取れるのは確かな憎しみ

 

「…‥‥‥世界は彼女よりも…奴らを選んだのか…‥‥‥

 

 奴らの方が世界に生きていく価値があるとでもいうのか…

 

 そんなの…‥‥‥そんなこと…‥‥‥あっていいというのか…‥‥‥…‥‥‥」

 

少年のつぶやきは、残念ながら誰の耳にも届くことはなかった

なぜならもうもはや少年の事を覚えている者は誰もいないのだから

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

世界の外側

 

そこには世界の歴史からはじき出され

人々から忘れ去られてしまった者達が集っている

 

この場所ではそんな者達が様々な境遇で過ごしている

 

この世界では人々が知る世界と違って

太陽に照らされておらず、代わりに満天の星々がこの場所を照らしている

 

この星々によっておおわれたこの神秘の世界を

ここに住まう人々は、星座の都と呼び、この世界で

新たな人生をはぐくもうと人々はこの場所でそれぞれの人生を謳歌している

 

だがこの世界には常にそんな人々の暮らしを阻む脅威があった

 

世界から漏れ出した穢れが、世界の外側において分裂と融合を繰り返し

ある時には怪物、ある時には場所や建物、ある時には概念に影響を及ぼしていく

 

ゆえにこの世界の者達は星の力を操り、穢れを浄化していく者達がいた

 

その者達の存在もあって、人々はこの星座の都においても平穏に過ごしているのだ

 

「ふう、お疲れさん‥‥

 

 今回はいつも以上に多かったな‥‥」

 

一人の青年がそう言って背もたれに背中を預ける

しかしすぐに姿勢を正して、目の前の方に目をやる

 

「ここ最近穢れが頻繁に発生してきている‥‥

 

 今回の頻度は例年よりもはるかに多きくなってる‥‥

 

 やっぱりここ最近何かが起こったって見るのが自然だよね」

 

「お前もそう思うか七誠‥‥

 

 ほかの組の奴もそう感じている

 やっぱりもう少し人数を増やしておくべきか‥‥

 

 しかし、下手をすれば命にもかかわる仕事だ

 そう簡単に立候補する奴はいないと思うがな‥‥」

 

そう言ってうんうんとうなるように声を出す青年

 

すると、相手の七誠と呼ばれている少年が語り掛ける

 

「…春三、実はね‥‥

 

 何人か優良株を見つけているんだ」

 

「ほう、お前がそこまで言う奴らがいるのか‥‥

 

 それは一体誰だ?」

 

そう言って青年、春三は七誠に尋ねる

 

「名前は‥‥」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

星座の都には常に襲い掛かる穢れの力を

調査及び討伐を主にする組織があり、その者達のおかげで

 

星座の都は穢れの脅威におびえることなく過ごしている

 

だが、穢れの力は強大でそう簡単に討伐は叶わない

誰かが死ぬことなど日常茶飯事とまではいかないが

 

だからと言ってその命が多く散っていることに変わりはない

 

ゆえに彼らは強く、なおかつ勇気のある者を求めていた

そして、そんな彼らの元に一人の少年が連れられてきた

 

「来てくれたんだね、てっきり来てくれないと思ったのに‥‥」

 

「来ないと無理やりにでも連れていくくせによく言うよ…‥‥‥」

 

そう言って連れられた少年、その顔の左側は布で覆われている

 

「初めましてだな

 

 俺様は東龍 春三

 春組の隊長を務めている‥‥

 

 七誠が進めるから相当優秀なんだろうな」

 

「それは彼がそう言い張ってるだけだよ

 

 僕はそんなに大したものじゃないよ

 僕は結局…‥‥‥何もできなかったんだから…‥‥‥」

 

そう言ってまるで自分を卑下するように言う

すると春三は何かを察し、言葉を続けていく

 

「‥‥お前の過去に何があったのかは詳しくは聞かない‥‥

 

 お前もこの世界に来て聞いているだろうが

 この世界は常に穢れの脅威に襲われている‥‥

 

 危険ではあるが、だからこそ誰かがやらないといけないんだ‥‥」

 

「…‥‥‥誰かが、やらないといけない…‥‥‥」

 

「‥‥そう言う事だ‥‥

 

 この世界の人々の平穏を

 ひいては世界に生きる人たちを守ること‥‥

 

 それも踏まえて、俺様達は戦っている‥‥

 

 だが、それでもまだ立ち向かうには足りないんだ‥‥」

 

そう言って春三は彼の前に立って静かに頭を下げるのだった

 

「お前の力を‥‥この世界に生きる者達のために貸してほしいんだ‥‥」

 

そう言って、彼に頭を下げる春三

彼は特に何も言わずに、彼の申し出を受けることに決めた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

春三の提案を受けた彼と、その隣を歩く一人の青年

 

「良かったよ、君がここに入ってくれて

 

 てっきり君は断るものだって思ってたから」

 

「そりゃもちろん、最初は断るつもりだったよ…‥‥‥

 

 ううん、今もそうだよ、ただ

 受ける理由がないけど断るのに

 納得させられる理由もないって思ったの…‥‥‥

 

 だったらもう、僕が何言っても意味はないことだって思ってね…‥‥‥」

 

彼の目に映っているそれは、どこか力がないようにも思えた

 

「でもさ、これから君はこの世界で

 君と一緒に流れてきた妹さん達と一緒に

 この最後の楽園でどうにか生きていかないといけない

 

 だったら、何か出来る事を見つけておくべきだって思ってね‥‥」

 

「相変わらずおせっかいな人だね…‥‥‥」

 

呆れた声でそうつぶやく彼

 

「うん、よく言われるよ‥‥

 

 でもさ、僕はこの生き方が間違ってるって

 思ってなんていないよ、ただ単純に誰かの支えになりたいって

 

 思ってるだけだからさ‥‥」

 

「…‥‥‥それに関しては僕もおんなじさ…‥‥‥

 

 僕は僕が正しいって思うことから

 目をそむけたくなんてないよ、だって…‥‥‥

 

 それをやったら、相手の間違いを正しいって

 認めてしまうのとおんなじだもの、だから僕は…‥‥‥

 

 僕に与えられた運命を変えられる力が欲しいんだ…‥‥‥」

 

彼はやや表情に影を落としつぶやく

 

「フフフ、初めて僕の言ってくれたことに同意してくれたね‥‥

 

 ちょっとうれしいよ」

 

「別に、僕は思ったことを言っただけだよ…‥‥‥」

 

七誠は笑みを浮かべて、彼は一息ついてあきれたように言う

 

「…そうだ、あとで姉さんに会ってもらえる?

 

 ここのところあってくれなくて、寂しがってるからさ」

 

「七星か…‥‥‥

 

 そう言えばしばらく会っていないな…‥‥‥

 

 あっていないと言えば、絵美理はどうした?」

 

絵美理という言葉を聞いて七誠は急にその態度が急変する

 

「え、えええ絵美理ちゃん!?

 

 え、ええええーっととととその‥‥

 

 げ、元気なんじゃないかって思うよ、僕は」

 

「君って絵美理の事になると

 今までの態度が嘘のように変わるよね…‥‥‥

 

 むしろ僕よりも絵美理の方を気にしたらどうなの?」」

 

呆れるように言う彼に七誠はややジト目に睨みつけていく

 

「ちょっと、なんで絵美理ちゃんを呼び捨てにしてるの?

 

 僕なんていまだに絵美理ちゃんの前じゃ恐れ多くて

 苗字にさん付けで読んでるって言うのに、まさか‥‥」

 

「まさかって何…‥‥‥

 

 別に呼び方なんてどっちでもいいでしょ?

 

 むしろ呼び方ひとつでそこまでかしこまってる

 君の方がむしろおかしい方だって思うけれどね…‥‥‥」

 

呆れるように言い放つ彼に対して

ぐぬぬぬ、とうなるようにつぶやきながら何も言い返せない七誠であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

今より8年前

 

この世界に八人の少女と

その少女の周りに囲まれている一人の少年がいた

 

少年はどこかうつろで、少女達はそんな彼のことを

心配して付き添っているように思えた、そんな一同の元に

 

近付いていく気配を感じた

 

「こんなところに人が…ひょっとして流れてきたの‥‥!?」

 

「ななちゃん、急いで保護してあげないと…」

 

二人の男女は急いで一同の元に向かっていく

 

だが

 

「来るな!」

 

少女の一人が叫んで二人の男女に立ちふさがるように前に立つ

 

「お兄ちゃんに‥‥手を出すな!」

 

「お兄ちゃん…ひょっとしてその男の子が…」

 

「待って落ち着いて、僕たちは君たちを助けに来たんだよ‥‥

 

 とにかくここから出るよ、ここは危n‥‥」

 

すると、そんな双方の元にすさまじい轟音とともに

一体の巨大な怪物が現れて、一同の方に襲い掛からんとする

 

「何あれ…」

 

「あ、ああ…」

 

「く、やっぱり現れたか…

 

 ななちゃん!」

 

「わかってる、行こう!」

 

そう言って二人はお互いにそれぞれの武器を手に構える

 

「な、何あれ…」

 

「ば、化け物…」

 

おびえる少女達、その前に立って武器を構えていく二人

 

だが

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

少女達にかまわれていた少年がふと立ち上がり

少女達と男女の前に、目の前の怪物と対峙するように立つ

 

「僕の家族には…‥‥‥

 

 誰にも手出しなんてさせるかよ!」

 

そう言って少年は一人それも丸腰で、怪物に向かっていく

 

この誰もが衝撃を受けたこの出会いこそが

こののちの神話という物語の幕開けなのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




英雄たちの原点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼と妹達

世界に見捨てられし少年と八人の妹・・・・・・・・・


星座の都

 

世界より忘れ去られ取りこぼされた

者達が行きつく、最後の楽園

 

世界より取りこぼされた者達は

ここでそれぞれが平穏に過ごしている

 

だがこの場所には、世界よりあふれた穢れが

常に降りかかり、それらはやがて分裂と融合を繰り返して

 

時には生き物に、時には物体に、概念などの形になる

 

そしてその穢れの脅威から星座の都の人々の平穏を

守っていく者達がおり、人々は彼らの事を尊敬と畏怖を込めてこう言う

 

英雄、と

 

そしてそんな英雄達の元に新たなる者達が加わり

彼は穢れにあらがうための力を手にして、望んで戦いの中に行く

 

「…‥‥‥すごい、これほどの力を出せる何て…‥‥‥

 

 これが星の力…‥‥‥」

 

少年は目の前で穢れを倒した自分の力に驚き

自分の肩に付けている装備にそっと手を触れて呟く

 

「驚いたのはこっちですよ

 

 一体どうやったらそれほどまでの力を?」

 

そう言って話しかけてきたのは一人の少女であった

 

「真苗さん…‥‥‥」

 

「フフフフ、そんなかしこまらなくていいですよ

 ここに入ったのは同じ時期なんですから…

 

 それに、貴方とはこれからも仲よくしていきたいと思って…」

 

そう言って話しかけていく少女は少年と同じ時期にここにつき

今回の初討伐において、ともに同行させてもらっている

 

小早志 真苗、であった

 

「そっか、まあよろしくね…‥‥‥

 

 これって袖振り合うのも他生の縁って言うんだよね?」

 

「フフフフ、そうですね…

 

 そう言えば、この近くで妹さん達が

 同じように討伐に赴いているらしいですよ

 

 ここももう収まりましたし、様子を見に行きましょう」

 

そう言ってその場所に行くと、そこでは

二人の少女が、サーベルと槍を使って怪物を討伐していた

 

「「やああ!!」」

 

見事な阿吽の呼吸であっという間に終わらせてしまった

 

「すごいじゃない、いざってときは私が

 サポートしようと思っていたけれど、必要なかったね…」

 

そう言って現れたのは凛々しい感じで

軍刀のようなものを腰に付けている女性であった

 

「頑張っているみたいだね、二人とも」

 

「「あ、あにいちゃん(お兄ちゃん)」」

 

少年が声をかけると少女達は表情が明るくなり

章ねんの元に駆け寄っていくのであった

 

「あにいちゃんあにいちゃん

 

 私ね、頑張って穢れを倒したんだよ

 ご褒美にミカンを頂戴」

 

「あ、ずるい、お兄ちゃん

 私も頑張ったんだよ、私にも何かご褒美頂戴」

 

「わかったわかった、とりあえず

 全員集まってからな、だからそんなにがっつくな…‥‥‥」

 

そう言って、興奮気味の妹達を諫める少年

そんな様子を微笑ましく見守る真苗ともう一人の女性

 

「あの子達の担当だったっけ?

 

 どうだった百合子、あの子達の方は…」

 

「ええ、あの子達はそれぞれ水と金の力に

 特化しているわ、おまけに飲み込みも早い

 

 うまく育てていけば、すぐにでも即戦力になる…

 

 夏三さんはそう言ってたわ」

 

そう言って三人のやり取りを見ていく二人

そう言う二人の元に大きな爆発が起こり、一同はそっちに目をやる

 

「あそこにも確か穢れが発生していたわよね…」

 

「急いでいきましょう、もしかしたら苦戦しているのかも!」

 

そう言って五人は急ぎ爆発の起こっている場所に向かっていく

そこでは二人の少女が、大きな穢れ相手に苦戦していた

 

「はあああ!!!」

 

すると少女が電撃を放出させて、穢れに攻撃を仕掛けていく

だが敵はそんな攻撃などものともせずにさらに向かっていく

 

「く…

 

 このままだとまずい…」

 

追い詰められていく二人

するとその二人の間を一つの影が飛び越えていき

 

怪物となった穢れを、一撃で切り伏せて見せてしまうのであった

 

「ふう…‥‥‥

 

 無事だった?」

 

そう言って二人の方を向いて、安否を確認するように話しかける

 

「兄さん、ごめんなさい…

 

 兄さんに心配をかけるような失態を…」

 

「気にしないで、無事でよかった…‥‥‥」

 

そう言って跪いて謝罪する少女に

少年は優しく頭を撫ででやるのであった

 

すると

 

「あ、あの」

 

その少女とともに敵に追い詰められていた少女が恐る恐る少年に話しかけていく

 

「うん、君は初めて見るけれど…‥‥‥

 

 大丈夫だった?」

 

「は、はい!

 

 あ、あの‥‥あなた様は一体…」

 

すると少女は突然、彼の方に寄っていった

 

「ちょっと、貴方!

 

 いくら何でも兄さんにがっつきすぎでしょ!!

 

 そもそも貴方…」

 

彼にしつこく詰め寄っていく少女に、共にいた少女は諫めていく

 

「兄さん‥‥なるほど…

 

 私は智晶、内筒 智晶と申します…

 

 どうか私の事は友輪とお呼びください、お兄様」

 

「「「んなあ!?」」」

 

少女こと智晶、通称友輪の兄発言に大きく表情を強張らせていく

 

「あんたあ、実の妹である私達の断りもなく

 お兄ちゃんをお兄様呼ばわりなんてぇ、万死に値するぅ‥‥」

 

「ダメだよ、噛みついちゃ…‥‥‥」

 

突っかかっていこうとする妹の一人を彼は静める

 

「僕の事をどう呼ぼうと構わないよ

 

 でも覚えておいて、僕をもしも裏切れば

 その時は容赦なく君を切る、絶対にね」

 

「裏切る?

 

 とんでもございません

 私は今ここで貴方に不動の忠誠を誓います」

 

彼の発言にものともせずに、約束事を取り付ける智晶、友輪であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼とその妹達が、星座の都に流され

英雄と呼ばれる者達の元に誘われたその日

 

「お兄ちゃん‥‥

 

 本当に行くつもり?」

 

「正直言うと、乗り気じゃないって言うのが本音だよ…‥‥‥

 

 でもだからってこのまま何もしないでいても

 何にも変わらない、変わらない景色を見続けていても

 

 やがて取り残されていくだけだ…‥‥‥別に何か難しいことを

 しに行くわけでもない、僕はあくまでこの世界で生きていく‥‥…‥

 

 ここにいる大切な家族と一緒にね」

 

「あ兄ちゃん…」

 

少年は立ち上がって、自分を心配そうに見つめる少女達を見る

 

「陽菜子…‥‥‥

 

 水波夜…‥‥‥

 

 金乃恵…‥‥‥

 

 地花乃…‥‥‥

 

 月夜美…‥‥‥

 

 火麻里…‥‥‥

 

 心配はいらないよ、だってみんな

 僕の大切な妹、家族なんだ、この命に代えても守るさ

 

 そしてもちろん…‥‥‥

 

 木乃華…‥‥‥

 

 睦都美…‥‥‥

 

 君たち二人もね」

 

少年はそう言って、少女達に優しく声をかけてやる

 

「お兄ちゃん…

 

 私も、ううん

 私達もお兄ちゃんといたい

 

 私達はいつだってお兄ちゃんと一緒に

 だからね、私達もお兄ちゃんと一緒に戦わせて」

 

すると、水色の髪の少女、水奈がそう兄に言う

するとほかの少女達もそれに同意するように力強く頷くのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼が英雄の元に入ってしばらくたったその日

彼の妹の一人である月美と一人の女傑が対峙をしていた

 

仲介人が、はじめと言うと同時に激しくぶつかって行く双方

 

月美と相手の木刀が激しくぶつかり合っていき

辺りに剣が打ちつけ合っていく音が大きく響いていく

 

やがてしばらくたつと、審判が待ったをかけた

 

「お見事、双方腕をあげたじゃないか‥‥」

 

「恐れ入ります」

 

月美と対峙した、少女は称賛する春三に深々と頭を下げる

 

すると

 

「やったね真紀子ちゃん…‥‥‥」

 

「あ…」

 

彼がパンパンと手をたたきながら彼女に歩み寄っていく

 

「やっぱり君は攻めるよりは受けて

 追撃を放っていくスタイルの方があってたね…‥‥‥」

 

「そんな、私なんてまだまだですよ

 

 剣の才能に恵まれなかった私につきっきりで指導して

 いただいたのですから、お二人に恥をかかせるわけには行きませんし」

 

「そんなことないよ、真紀子さんが頑張っていたのを

 私も兄さんも知っていたんだもの、本当に頑張ったわね」

 

二人に褒められて、嬉しそうに瞳を潤ませていく真紀子

 

そんな様子を見詰めている春三と、七誠たち

 

「あいつは確か、大元 真紀子だったな‥‥

 

 前の時に不合格だった‥‥」

 

「うん、今回もダメかなって思ってたけど

 彼はどうやらあの子の中にあった何かを感じたんだね…

 

 付きっきりで彼女に指導してあげていたんだよ?」

 

「私達もまだまだね…

 

 あの子の才能に気づくことができなかったなんて…」

 

そう言って女性は真紀子に話しかけている彼と月美の様子を微笑ましく見守っていた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ある場所

 

そこに現着する一同

 

「…まったくひどいことするのね…

 

 穢れを静めるためにいけにえを捧げる、なんて…」

 

そう言うのは英雄の中でも春三と同等の立場を持つ四人のうちの一人

 

西虎 秋四、であった

 

「しっかし、春三の言う通り

 本当にすごいのね、一瞬で終わらせちゃうなんて…」

 

「もちろんよ、兄さんがこの程度の奴らに

 後れを取るなんてありえないわよ、まったく…」

 

秋四の言葉に答えるのは、彼の妹の中で末っ子の睦美

彼女はやや胸を張り気味で、秋四の言葉に答える

 

「ところで、噂の彼は今どこにいるの?」

 

「そう言えば…」

 

すると、一同の元に足音が聞こえ

思わず秋四は警戒して武器に手をやるが

 

その人物を見て、安どのため息をつく

 

「…なんだ、脅かさないでよ…うん?」

 

すると、その彼の腕には一人の少女が抱えられていた

 

身なりはボロボロの上に、弱弱しい状態になっており

彼女の羽織っている布でくるまれて体を冷やさないようにされている

 

そして、彼女の頭には角が生えているのが見える

 

「この子は…?」

 

「どうやら、彼女が今回のいけにえだったみたいだね…

 

 穢れに襲われかけていたけれども、なんとかに合ったよ…」

 

秋四はそう言って彼に抱えられている少女を見る

 

「貴方は誰…?」

 

秋四は優しくそう聞くと、抱えられている少女は弱弱しく答える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一紗…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




集まる者達・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

引き寄せられる者達

賛同者という名の同盟・・・・・・・・・


 

 

彼が英雄の元に来てしばらく来たところ

 

彼は自分の肩にはめられている装置を見ていた

 

「まだ慣れませんか?

 

 ここに来てからよくここに訪れているようですが?」

 

そこに一人の少女が訪れ

彼に優しく話しかけていく

 

「君って確か、ここに入ったときに見たよね?

 

 え~っと、名前は…‥‥‥」

 

「あ、これは失礼しました…

 

 私は、小早志 真苗と申します

 貴方と同じ時期にここに入ったんですよ?」

 

「そうなんだ、よろしく真苗…‥‥‥」

 

「フフフフ…

 

 初対面でいきなり名前呼びだなんて

 思っていた以上に積極的なんですね」

 

そう言って、何やら笑みを浮かべて告げる少女、真苗

 

「そう言うものじゃないよ…‥‥‥

 

 それにしても、君ってよくここに来ているみたいだけど

 ひょっとして君は、この近くで働いているのかな?」

 

「まあ、半分正解で半分あたりですね…

 

 私は間力があるので、その専門の場所に努めているんだ

 それがこの先に会ってね、たまに休憩がてらこの静かな場所に来てるんだ」

 

真苗は意気揚々に答えていく

 

「そっか、だったら僕と一緒だね…‥‥‥

 

 僕もはっきり言ってここの人達とはなじめなくてね

 一人になりたいときはいっつもここに来ているんだ…‥‥‥

 

 妹達と過ごすのもいいけれど、ここに入ることを決めて以来

 会う時間がどうしても限られて行ってしまって、どうしようかって思って…‥‥‥」

 

「フフフフ…

 

 なんだか不思議な感じ…

 

 私とあなたは初対面なのに、不思議とこうやって

 自然に話すことができる何て、本当に不思議だね君は…」

 

そう言って彼とお互いに笑いあっていく真苗

 

「ねえ、真苗…‥‥‥

 

 よかったら僕と組まない?

 

 これも何かの縁だって思うし

 何より、こうやって知り合えたんだしね」

 

「そうだね…

 

 あ、そうだ!

 

 実はもう一人親しくなった人がいるんだ

 今度連れてくるから、よかったら一緒によろしくできない?」

 

「うーん、いいよ

 

 僕の方も妹達に君の事紹介したいから、その時に…‥‥‥

 

 それじゃあ改めて、これからよろしくね真苗…‥‥‥」

 

「うん、こちらこそよろしく」

 

こうして、彼と親しくなった真苗は

彼の妹達と、真苗の友人、百合子と会い

 

初めての合同の際に、もう一人智晶こと友輪と会った

 

ここから彼の運命は大きく動き始めた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼と妹達がチームとして安定してきた時

ある戦いにおいて、彼を含めて多くの者達が負傷した

 

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

 

「なんとかね…‥‥‥でも、敵の方もだんだん強くなってる…‥‥‥

 

 今の僕たちだとどうしてもぎりぎりの戦いになっていく‥‥…‥」

 

「でしたら兄さん、回復薬の者を加えてはどうでしょう?

 

 回復を行えるものが居るのといないのとでは戦況は大きく違っていきます」

 

友論がそう意見を述べていく

 

「そうか…‥‥‥それだったら一人、あてがいるよ」

 

「さすが兄さんです、さっそくその人のところに行きましょう」

 

そう言って一同が訪ねたのは、とある医療チームのいるところにおいて

一人の少女を彼が訪ね、彼は妹の睦美とともにその少女に話を持ち掛けていく

 

「…そう言う事なの、私達に力を貸してもらえない?

 

 明沙美さん」

 

睦美が訪ねたのは一人の優しい雰囲気を持つ少女

 

「お兄さんの希望だというのならば、私からお願いしたいぐらいです

 

 しかし、どうして私なのですか?

 

 見ての通り、私以外にも回復に適している者はいます

 私よりも優秀なものだっています、ここにいる者達の中では

 私の回復力は良くても中の上のレベルです、お兄さんの実力なら

 私よりももっと腕の良い回復役だって選べると思います、ですから…」

 

「あいにくだけれど、僕は君以外の他の誰かを選ぶつもりなんて

 最初っからないんだよ、僕はあの時初めて君を見たときから、君以上に

 信頼できる回復能力を持っている子はいないって思ってる

 

 だからここに来たんだよ、ひょっとして…‥‥‥それだけの理由じゃ不満?」

 

明沙美のやや自信のなさげな言葉に

彼は何の臆面もなくそう答えて見せた

 

「…本当にお兄さんは、好感を持てる人ですね…

 

 でも、そう言うふうに他人にはっきり言ってると

 のちにいろいろと苦労することになりますよ、本当に…」

 

「知らないよ…‥‥‥

 

 周りがどう思おうとなんて一度も考えたこともないよ

 

 僕はただ、僕だけの道を進んでいくだけだから…‥‥‥」

 

それを聞いた明沙美は、小さく笑い声をあげると

ゆっくりと立ち上がって彼の方を見つめ、いった

 

「わかりました、この不肖

 

 志茂田 明沙美、お兄さんにかつて救われたこの命

 最後の一滴までお兄さんのために使わせていただきます」

 

明沙美はそう言って、彼の元に行く事を表明したのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

やがて、チームの力も

大きく安定していったころ

 

彼の元にはさらに多くの人数が集まり

大規模とは行かないまでも大きな集団になりつつあった

 

「あ、いたいた‥‥

 

 久しぶり」

 

「…‥‥‥七誠か、相変わらずのようだな」

 

しばらくそこに立っていると、そこに話しかけてきたのは七誠であった

 

「聞いたよ、ここのところ大活躍みたいじゃない?

 

 チームの方も大きくなっているみたいだし

 君をここに連れてきた身としても、うまくやっているようで何より」

 

「ううん、まだ足りないよ…‥‥‥

 

 だってまだ戦いは終わってないから…‥‥‥」

 

そう言って彼は見回すと

戦いの中において、負傷して運び込まれていく者達の姿が

 

「…本当に、ここのところ穢れの発生は激しくなってきてる

 

 僕たちももう、今月だけでも七回も出撃してる

 チームの皆にも、疲労が見えてきてるけどお休みも取れないし‥‥」

 

「…‥‥‥穢れ、か…‥‥‥

 

 一体どうして穢れって言うのは発生していくんだろう?」

 

どうにも解せない表情でそんなことを問う

 

「穢れって言うのは本来、すべての生きとし生ける者達に宿ってる‥‥

 

 人間の欲望、それは生きていくうえで最も必要なものだが

 抑えが聞かなくなってしまうと、やがて噴き出してそれが形を成していく

 

 それが、僕たちが戦っている怪物さ‥‥」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

しばらく話し込んでいると、奥の方から言い争う声が聞こえてきた

 

「いい加減にしてよ!

 

 どうしていつもスーは問題ばっかりおこすの!?」

 

「…問題?

 

 アタシがいつ問題なんて起こしたの…

 

 アタシは目の前に現れた敵を倒した

 ただそれだけ…それの何が問題なの…?」

 

「周りで戦っている人たちの事も考えてって言ってるの!

 

 貴方の独断専行のせいでまたチームメイトが負傷したのよ!?

 

 これ以上問題を起こすって言うんなら、拘束させてもらうから!!」

 

二人の少女が、何やらもめている様子を見せる

 

「ぺガスちゃん、まーた問題を起こしたのか‥‥」

 

「あの子は…‥‥‥?」

 

「ぺガス・リーン‥‥

 

 秋組に所属してるんだけど

 いつも問題を起こしてるらしくってね‥‥」

 

彼は七誠から少女、ぺガスのことを聞く

 

「…もういい…

 

 秋組…やめる…じゃあ……」

 

「…ちょっと待ってってば、スー!」

 

怒ったぺガスはふてくされて飛びだしていき

秋四は苛立ちを見せながら引き止めようとする

 

「まあ、秋四ちゃんは組長の中で

 一番若いし、組員をまとめきれないんだろうね

 

 彼女も大変だね、手のかかる子を引き取る結果になって‥‥」

 

「ふうん…‥‥‥」

 

彼は秋四に引き止められながらも去っていくぺガスをじっと見つめていた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…周りの事を考えて…?

 

 そもそも弱い奴らが戦いに

 挑むこと自体間違ってる…

 

 弱い奴らなんか…いるだけ邪魔…」

 

そう言って誰もいない場所において

口調こそは静かだが、いら立ちを隠すことなく

不満を口にしているかのようにつぶやいている

 

そんな彼女の耳に、静かな足音が小刻みに近づいていく

 

そこに現れたのは

 

「…秋組所属のぺガス・リーンさんね…」

 

「…誰…?」

 

彼の妹の一人で、その手に雷を宿している少女

 

「私は木乃、貴方に会いたがっている人がいるの…

 

 よかったら、会いに来てもらえないかしら?」

 

「…悪いけれどその返事には答えかねる‥

 

 私は、強い奴にしか従わないようにしてるから‥」

 

そう言って彼女の方に向いて、構えをとっていく

 

「なるほど‥行動は言葉よりも雄弁に語るって言うものね‥

 

 まあいいわ、少し順番が違うけれどもちょっと相手をしてあげるわ」

 

そう言って右腕に電気を走らせていく

 

「…へえ、面白そう…

 

 だったらいらっしゃい」

 

「‥それじゃあ、遠慮なく!」

 

そう言って双方が激しくぶつかり合っていき

そこが激しい閃光に包まれていくのであった

 

「へえ‥やるじゃない‥

 

 さすが兄さんが目をかけただけの事はあるわ」

 

「はあ…はあ…」

 

息を切らしていく双方だが

やがて決着をつけんと互いに向かっていく

 

「これで決める!」

 

「私は勝つ…!」

 

二人の技が決まらんとしたその時

その二人の間に現れた人物によって

双方の技は共にいなされるのであった

 

「そこまでだ、木乃…‥‥‥

 

 まったく、お前ともあろうものが

 一体何をしているんだ、こんなに

 派手にやりあっていいって僕は言ったか?」

 

「に、兄さん‥

 

 申しわけありません‥」

 

彼に電気をまとった右腕をいなされてしまった木乃は

申し訳なさそうに彼からゆっくりと距離をとっていく

 

「さてと…‥‥‥うちの妹が申し訳なかったね…‥‥‥

 

 僕は君に会いにきたんだよ…‥‥‥君に興味があってね…‥‥‥」

 

「私に興味が…?

 

 私の事は知っているはずだと思うけど…?」

 

彼に拳を止められているぺガスは恐る恐る聞き返す

 

「僕の元に来なよ…‥‥‥

 

 僕が君の力をうまく使ってあげる

 そうすればきっと君もこれから満足するはずだよ?」

 

「…言うじゃない…

 

 そこまで言うんだったら

 ぜひともお手並み拝見とさせてもらおう…」

 

こうしてぺガスという問題児を手中に入れ

さらにその功績をとどろかせていく一行であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼が廊下を歩いていると、その彼の耳に激しい轟音が鳴り響き

その横に一台のバイクが止まって、その乗り手がゆっくりと近づいていく

 

「貴方ね、あのぺガスを抱き込んだって言う噂の彼は‥」

 

「…‥‥‥誰だ?」

 

彼が聞くと、降りてきたのは一人の少女だった

 

「‥私は駒 馬子‥

 

 ぺガスよりも後に秋組に入った者よ‥」

 

「…‥‥‥僕に何か用?」

 

「‥フフ、思っていたよりも図太いんだね‥」

 

「…‥‥‥用がないなら、後にしてもらえる?

 

 僕はあいにく、興味のないことに時間は割かないことに決めてるから…‥‥‥」

 

突き放し気味に言う少年だが

馬子はどこか面白そうなものを見つけた様子で、彼に言葉を続けていく

 

「秋四の言う事なんてめったに聞かなかったあのじゃじゃ馬が

 ある男の元に仕えることになったと聞いて、びっくりしてね‥

 

 どれほどの男なのかと思って、興味がわいたんだ‥

 

 だからぜひとも一度会ってみたいと思ってね‥」

 

そう言って姿勢を低くして、彼の顔をまじまじと見る

 

「‥なるほど‥ぺガスの奴が惹かれたわけだ‥

 

 貴方からはどこか底知れないものが見えるわ‥

 

 虚無‥無関心、そして‥憎しみ‥‥」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

そこまで聞いて彼は静かに眉を細める

 

「‥フフ‥そんなに警戒しないでよ‥

 

 私は別に貴方をどうこうするつもりもないんだ‥

 

 むしろ私を貴方に、引き抜いてもらいたいと思ってるんだ‥

 

 これでも手先は器用な方だよ、きっと私なら

 貴方のその底しれない何かのために役に立つと思う‥

 

 その方がきっと秋組にいるよりもきっと面が白いと思うからさ‥」

 

「…‥‥‥はあ、好きにするといい…‥‥‥

 

 その代わり、裏切ったりしたら許さないから」

 

「‥なるほど‥貴方はかつて誰かに裏切られたと言う事ね」

 

馬子の言葉に少年は拳を力強く握る

 

「‥まあ、落ち着いてよ‥

 

 どうこうするつもりはないって言ったじゃない‥

 

 改めてよろしくね、お兄さん」

 

「…‥‥‥フン…‥‥‥」

 

こうしてさらに、そこのしれないメンバーが加わったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




大きくなっていく規模・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

多くの出会い

それぞれの心境・・・・・・・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

彼とともに星座の都に流れ着いた

妹達だが、実はそのすべてが彼と血を分けてはいない

 

共に流れ着いた8人の妹達の内

彼の実の妹は六人でほかの二人はある事情で

彼の妹として、彼の元に加わったのである

 

「…」

 

後から加わり、彼の妹となった

二人の姉妹の内、姉の方である睦都美

 

とある建物の上で真っ暗に包まれ

明かりを浮かべた街並みを見つめていた

 

そんな彼女の元に訪れる一つの影

 

「‥こんなところにいたのね‥」

 

睦都美の妹であり、同じくともに加わった木乃華であった

 

「うん、もうここに来てずいぶん経つんだなって思って…」

 

「そうね、人々から忘れ去られて最後にここに流れ着いて

 もうどのくらいの時が流れたのかももうわからない、この場所にいると

 

 自分達は本当に世界から見捨てられた存在なんだって思うわね‥」

 

木乃華はそう言って睦都美の隣に座る

 

「ねえ、聞いた?

 

 兄さんね、組織の統括官の娘さんに

 プロポーズされたんですって、あの子って

 どこかクールというかとっつきにくい部分があったけど‥

 

 あんなかわいい一面があるなんて正直驚いたわ」

 

「そっか、なんだかうれしいな…

 

 元の世界じゃあ誰も兄さんや私達の事を

 ちっとも評価なんてしてくれなかったしね…」

 

そんな話をしていく二人はどこか暗い雰囲気を浮かべている

 

「ねえ、睦都美…

 

 兄さんにはこのままこの新しい世界で

 幸せになってもらいたいって思う?」

 

「どうしたのよ急に、当たり前じゃない」

 

木乃華の突然の質問に驚きを隠せない睦都美

 

「…覚えてる?

 

 元の世界で誰の事も覚えていなかった彼、兄さんの事を

 唯一覚えていた彼女の事、私達にとっても大切な友人で

 

 あの子を介することで、私達と兄さんが出会えた…」

 

「うん、覚えているわ…

 

 あの人は誰よりも優しくてかけがえのない人だった

 兄さんもその妹さん達である兄さんたちもあの子を思ってた…

 

 でもだからこそ…あんなことになってしまったこと、本当に痛ましかったわ…」

 

「あの子を死に追いやった奴らに報いを受けさせるために

 私達は兄さんたちとともに戦う力を決意した、でも結局それは果たせなかった…

 

 奴らはまさに、世界というとてつもない力を手にしたその力の前に

 私達はなすすべもなく敗れて、やがて時がたって誰もがあの子の事を忘れ…

 

 あの子しか覚えていてもらえなかった兄さんはもちろん

 私達もまた、私達のいた世界から忘れ去られて、やがてここに流れ着いた…

 

 こうしてここで、同じく世界に忘れ去られた人たちのために

 この世界でできた人たちのために戦っている、でもそれでも…」

 

「…そうだね、確かにあの子の事は残念だった

 でも決めたんだもの、あの子の分まで前を向いて生きて行くって

 

 兄さんやその妹さん達ももちろん一緒

 だって私達にとって大切な家族、兄さんと姉さんたちだもん」

 

そう言って決意を新たに、お互いに笑いあう木乃華と睦都美

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼が任務より戻っていくと

彼に向かって勢いよく抱き着いていく人影があった

 

「おかえりなさい、今日も無事に戻ってきたのね」

 

「…‥‥‥響子さん、年頃の女子が

 異性に軽々しく抱き着くのはどうかと思うけど?」

 

紫がかった銀髪のロングヘアーでその一部を編んでいる少女

どこかクールな雰囲気を漂わせているその美貌は、今やどこか可愛らしく見える

 

「あら?

 

 随分と冷たい言い方をするじゃない

 私とあなたは恋人同士なのだし、遠慮をする理由なんてないと思うけれど?」

 

「はあ…‥‥‥行っても無駄みたいだねこりゃ…‥‥‥」

 

「響子さん、申し訳ありませんが

 そろそろ兄さんから離れてもらいましょうか?」

 

そう言って彼の隣でカヤの外になっていた彼の妹

陽菜子が人目もはばからずに抱き着いている響子を睨みつける

 

「あら、陽菜子ちゃん

 

 もう私の事はお姉ちゃんって呼んでもいいって言ってるじゃない」

 

「呼びませんし、私は認めてません!

 

 ちょっと見てくれがいいからって

 そんなはしたないことをする貴方を認めるわけないでしょう!!」

 

バチバチと火花を散らしていく響子と陽菜子

そんな一同の元にゆっくりと歩いていく一人の人物が来て

 

二人の襟元をつかんで無理やり引き離してしまう

 

「まあまあ、二人ともそこまでにしようよ

 

 彼が困ってるぞ…」

 

「えーっと…貴方は?」

 

陽菜子は突然現れた少女に尋ねる

 

「ああ、自己紹介が遅れちゃったね

 

 僕は太原 百子って言うんだ

 こっちにいる響子のお目付け役をやってる」

 

「むう、別に困ってなんてないわよね

 恋人同士なら当然のことじゃない、ね?」

 

「ですから私は認めてません!」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

言い争う響子と陽菜子に

その二人をたしなめる百子

 

そして、その光景を物々し気に見つめる彼

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

これまでの功績が評価され、恋人もでき

それなりに順風満帆な日々を送っている彼は

 

不意にある人物達が将棋をしているのが見えた

 

「はい、これで王手ですわ」

 

「うう、やっぱりたえちゃんは強いな~…」

 

「ちょっと、評子さん

 

 約束しましたわよね?

 

 この対局で勝ったら今後一切

 その呼び方はやめるのだと、今から実行ですわ」

 

「ああ、そうだったそうだった…

 

 それにしても、たえちゃん最近は

 落ち着いた様子を見せてくれてるみたいでよかったよ…

 

 ひょっとして、噂の彼のことが気になったおかげ?」

 

「んな、ななな何を言ってるんですの!?

 

 後その呼び方やめろって言ってんだろおおおお!!!」

 

慌てた様子で掴みかかる勢いで相手に呼びかけるのは

黒髪で白い肌、赤い目が特徴の高貴な見た目の美少女である

 

「まったく、なんとも騒がしいと思ったら

 

 こんなところで将棋を指して名にかけてたの?」

 

「っ!

 

 あ、あら、誰かと思えば…

 

 このようなところに何の用で?」

 

彼が話しかけると慌てて落ち着きを取り戻し

普段使っているお嬢様のような振る舞いで話しかける

 

「いや、たまたま通りがかったらちょっとね…‥‥‥

 

 ところで、そこの彼女は一体?」

 

「ああ、気にしないでくださいまし

 

 言うならばたただの腐れ縁ですわ」

 

「ひどいなたえちゃん…

 

 あ、でも確か前にお会いしてますよね

 妹さんの木乃華さんにお世話になったときに…」

 

その言葉を聞いて

たえちゃんと呼ばれた少女はピクンと体を震わせる

 

「このぉ‥‥よりにもよって彼の前で…」

 

「それでは改めまして…

 

 御車 評子と申します

 あなたのお噂は聞き及んでおります…

 

 このような姿にて、ご無礼のほどお許しください…」

 

「…‥‥‥なるほど…‥‥‥

 

 君は足が不自由なんだね…‥‥‥」

 

そう言って彼は自己紹介した少女、評子のかけている

車いすを見て、自分の推理を口にして言い放った

 

「ご明察…

 

 ゆえに私はどこのチームにも

 率いられることなくこの場所にて…

 

 たえちゃんやいろんな人のお話を聞いて

 お暇をつぶしているんです、最近は貴方様の活躍の方を…」

 

「だ~か~ら~!

 

 私の事はセレスって呼べっつってんだろおおおお!!!」

 

そう言って対局する少女、セレスは激高した様子で訴える

 

「評子さん、もしも時間ができたら

 僕と一局、打たせてもらってもいいかな?

 

 僕は少し君に興味が出てきた、もしかしたら

 君と対局してみたら君が分かるかもしれない…‥‥‥

 

 そう感じたから」

 

「‥‥フフフフ、いいですよ

 

 たまにはたえちゃん以外の人にも

 挑んでみるのもいいかもしれません…」

 

「ぶち殺し確てぇ!」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

とある場所

 

そこで彼は組織において

仲が良くなった者達とともに

 

穢れの討伐に向かっていた

そこには一人の少女が俯いた状態で地面に座り込んでいた

 

「‥‥貴方が選抜隊の生き残りだね…

 

 よかった‥‥無事だったみたいで…」

 

すると、褐色肌に髪を一つにまとめた少女が声をかけるが

 

「…‥よかった?

 

 何がよかっただよ!

 

 みんな死んだんだよ、私だけが生き残ったんだよ

 私だけが仲間を見捨てて、逃げて生き残ったんだよ…‥

 

 私は…‥何にもできなかったんだよ…‥何にも…‥…‥」

 

「オリヴィア…」

 

自虐的な発言をする少女、オリヴィアを

何も言えない様子で見つめる、男性と見間違うほどの筋肉質な女性

 

「…‥私は、結局仲間を見捨てることで生き残った…‥

 

 恥さらしもいいところだよ、私なんて‥‥私なんて…‥

 

 こうしてここに生きている資格なんてないんだよ!」

 

涙を流しながら、自分の無力さを責めたてていくオリヴィア

そんな彼女の前に立って、彼女の目線に合わせて姿勢を下ろす

 

「…‥‥‥君がここでやるべきことは命を絶つことじゃない

 

 死んだ仲間の分まで精いっぱい足掻いて、生き抜いていく事

 あいにく僕は君の仲間の事なんか知らない、顔だって見たことない

 

 それを知っているのは君だけだ

 それに君は仲間を見捨てたなんて言ってるけど、僕はそうは思わない

 

 仲間は君だけでも生かすために、命を懸けたんだよ

 だから…‥‥‥だから、君を命を懸けて生かしてくれた仲間達のために

 

 君は、強く生きないとだめだ!

 

 だから、死ぬなんて考えるな

 もしも一人で生きていくのに不安なら…‥‥‥

 

 僕が君を支えてあげるから!」

 

「…‥あ…‥」

 

彼の必死の訴えにオリヴィアの目から無意識に涙が流れていく

 

その様子を驚きと感服の様子で見ている四人の男女であった

 

「優しいんだね、オリヴィアちゃんの背中を押すために

 あんなにも心のこもった言葉を投げかける何てさ…」

 

「…‥‥‥別にそんなんじゃない…‥‥‥

 

 ただ、仲間を失ったことで

 生きていく希望を失ったあの子の事を…‥‥‥

 

 放ってはおけなかっただけだ…‥‥‥」

 

「‥‥やっぱり優しいね…」

 

その後、彼と一人の少女が会話をした

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼の元に、一人の少女が駆け寄っていく

 

「お兄様、お久しぶりです‥」

 

そこに現れたのは、一人の修道服に身を包んだ少女であった

 

「彩、久しぶりだね…‥‥‥

 

 そう言えば、訓練を受けているらしいね…‥‥‥」

 

「はい、お兄様に恩を返したくて‥」

 

そう言って照れた様子で彼に話していく少女、彩

 

「わかってるんだよね…‥‥‥

 

 僕は本来、君のような人とは

 相容れることのない人種なんだよ?

 

 君は神に仕える身、僕は神に挑む身…‥‥‥

 

 敵同士であっても、不思議じゃないのに…‥‥‥」

 

「‥‥ですがお兄様は陽菜子様とともに

 神の生贄にささげられるはずだった

 私の事をお救いになってくださいました‥

 

 きっとこれも神が示した必然であるのだと

 私は感じたのです、ですから私もお兄様にお仕えするに

 ふさわしい存在になれるように粉骨砕身、己を研磨してしていきたいのです‥」

 

そう言って彩は彼のことを崇拝するように見上げて言う

一方の彼はその様子を複雑そうな様子で見つめていたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神、か…‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




彼の疑心・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

きっかけ

運命はあの時から・・・・・・・・・


 

 

彼の一団がまたも大きくなっていったころ

彼の目の前に、一人の少女がやってくるのが見えた

 

「なんだろう…」

 

彼の横を歩いていた陽菜子がそう言って前を走っていく

 

「貴方が時の御人だね‥

 

 ワタクシ、藤多 佐紀と申します‥

 

 貴方に用があってきたの、少しワタクシと

 御手合せしていただけませんでしょうか‥」

 

そう言ってどこか高貴な家系のご息女のような雰囲気の少女が

彼の前に立って、そのようなことを言い放ってきた、その瞳はどこか

 

面白いものを見つけたような目つきだ

 

「ちょっと、なんなの貴女いきなり…

 

 どこのだれか知らないけれども

 貴方に付き合ってあげている暇なんて…」

 

「ふう、しょうがないですね…

 

 私が行って、注意してきますよ」

 

陽菜子はめんどくさそうな口ぶりを見せる

それを真紀子が率先して目の前の少女、佐紀の前に出ようとするが

 

「‥‥待ってください、そのお役目‥

 

 私が御引き受けましょう‥」

 

そう言って真紀子を止めて

ゆっくりと前に出ていくのは

 

「誰? 貴方‥

 

 ワタクシはそこの御仁に用があるのです

 

 下賤の者は下がっていなさい‥」

 

「下賤なのはそっちでしょ?

 

 あっていきなり絡んでくるなんて

 

 私は愛理、来村 愛理‥

 

 貴方のどうでもいい用事に付き合うつもりはないの

 だから、さっさと道を開けて彼を通してもらうわよ」

 

そう言って前に立つのは凛々しい顔つきの女性

愛理と言ったその女性の言い方に腹立たしさを覚える佐紀

 

「ワタクシにたいして、散々な無礼‥

 

 もう許しはしませんわよ!」

 

「まったく、手のかかるお嬢様ですね」

 

そう言って矢を放って佐紀の動きをけん制しようとする愛理

佐紀の方も、爪を武器に素早い動きで愛理の元に向かっていく

 

激しくぶつかり合っていく双方を見つめる面々

 

「‥‥さすがはお兄様ですね…

 

 あの愛理を引き込んでしまうとはね…」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

百合子は素直に彼の人徳を評価する

彼と陽菜子はただその光景を静かに見守っている

 

「っ!?」

 

佐紀の眼前に矢の先が突き付けられる

愛理は弓を引いた状態で彼女を睨みつけていく

 

「‥‥おとなしく下がりなさい‥

 

 そうすれば、命は奪いませんよ」

 

「…これで勝ったつもり?

 

 舐めないでよ、戦いに求められるのは

 勝つか負けるかじゃない、生きるか死ぬかなんだよ!」

 

そう言って爪を下から一気に振り上げていき

愛理の構えを大いに崩し、隙を作りだした

 

「っ!?」

 

「これで終わり!」

 

そう言って爪を彼女に向かってふるう佐紀

 

だが

 

「そこまで!」

 

「っ!?」

 

佐紀の爪による一撃は陽菜子の短刀によって

そのすべてが止められてしまうのだった

 

「これ以上は見過ごせません…

 

 それでも続けるというのなら

 次は私が相手をして差し上げましょう?」

 

「…っ!」

 

佐紀は目の前の少女から出る威圧感から

思わず攻撃の手を引いてしまった、すると

 

「愛理、貴方も熱くなりすぎです…

 

 貴方の役目は彼女と戦う事ではありません

 次はないと思って、それを忘れないください」

 

「‥‥申し訳ありません‥」

 

陽菜子の厳しい言い方に愛理は思わず、頭を下げて謝罪する

 

「…‥‥‥それで、どうかな?

 

 僕たちには君が納得するだけの力があるかな?」

 

「…そ、それはあくまで

 あちらの方の力であって、貴方の力では‥」

 

佐紀はそこまで言うとややむくれた様子で

彼からそっぽを向くように顔をそむけた

 

「…‥‥‥だったら君が納得するまで

 何度でも君の挑戦を受けてあげよう…‥‥‥

 

 それでもしも、君が満足する結果になったら

 君も、僕たちのところに来ないか?」

 

「…え!?」

 

佐紀は彼の言葉に耳を疑った

さっきまで自分に刃を向けていた人物を

自分の元に引き入れようとするその言い方に

 

「兄さん、何を言っているのかわかってるの…?」

 

「そうですよ、仮にも彼女は貴方に刃を向けたのですよ!?」

 

陽菜子と愛理が率先して言う

その場にいる彼の元にいる者達も同様のようだ

 

「…‥‥‥そうだよ?

 

 だからこそ、僕はこの子の力を

 ぜひともその手に納めたいって思ったんだ…‥‥‥

 

 この子の力はきっとこの先僕たちの役に立つ

 だったら懐に納めておきたいって思うのは当然だと思うけど?」

 

「…‥」

 

彼のその言葉に佐紀はやや警戒心を抱きつつも、彼に言う

 

「…もしも私があなたの元についたら

 私の子の爪で貴方の命を奪うのかもしれませんよ?」

 

佐紀のその言葉に彼は言う

 

「…‥‥‥それでいい…‥‥‥

 

 僕はいつでも君を歓迎するよ…‥‥‥」

 

そう言って彼は佐紀に背を向けて去っていく

その場にいた者達はやや困惑しながらも付いていく

 

「…‥」

 

佐紀は自分の胸の内に、なぜか熱い何かを感じ

服の上から自身の左胸を力強く握りしめていた

 

「…ふ、ふふふ‥

 

 想像以上の人でした‥

 

 まさかこんなワタクシを

 自分の元に欲しいだなんてね‥」

 

佐紀はどこか満足げな笑みを浮かべてそうつぶやいていたという

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼は、ある日の内で

ある部屋の中に入っていく

 

そこには、ベッドで横になっている月夜美がいた

 

「…‥‥‥隊長の方はどう?

 

 月夜美」

 

「…はい、だいぶ楽にはなりました…

 

 でもごめんなさいお兄ちゃん

 私の体が弱いせいでお兄ちゃんやお姉ちゃんたちに迷惑をかけて…」

 

ベッドからゆっくりと体を起こして

彼に笑いながら話しかけていく月夜美

 

彼はふと、隣のベットに横になっている少女を見る

 

彼女は、体中にチューブを伸ばしていて

もはや自由に動けるのかどうかしらも分からない姿である

 

「……」

 

そんな彼女はじっと彼の方を見つめている

その目はどこか虚ろながら寂しそうな雰囲気を漂わせている

 

「…‥‥‥この子は?」

 

「ええ、この病室で私よりも前から

 この部屋に入院しているみたいなの…

 

 確か名前は、コッチさんだったと思う…」

 

月夜美の説明を受けて彼はゆっくり

彼女の隣の方にゆっくりと移動していく

 

「……」

 

「…‥‥‥こんなところにずっと一人で

 過ごしていたなんて、寂しかったんじゃないかな?

 

 君の事を見ていると、本当にどこか放っておけないね…‥‥‥」

 

彼はそっと、彼女の右手の方をすっと握ってやる

 

「…‥‥‥大丈夫、僕が相手になってあげるから…‥‥‥

 

 僕が君の友達になってあげるよ、よろしくねコッチ…‥‥‥」

 

「……」

 

彼の優し気な表情を見て、不意にコッチは

虚ろなその瞳から一筋の涙がゆっくりと流れていく

 

「…貴方は…神なのですか…?」

 

そんな声が少女の口から発せられた

 

「…‥‥‥僕は神様なんかじゃないさ…‥‥‥

 

 僕はただ、何者でもないんだよ…‥‥‥

 

 たった一人、たった一人の大切な人を守ることのできなかった負け犬…‥‥‥

 

 それだけが……僕さ…‥‥‥」

 

「兄さん…」

 

彼の言葉に月夜美は悲しそうに辛そうにひねり出すように言った

 

すると、コッチは彼の手を強く握り返した

 

「…確かに…あなたは…とても…儚い…

 

 時折…貴方が…そこに…いるのかも…

 わからないほどに…でも…あなたには…

 

 あなたを…大切に…思う人たちが…いる…

 

 妹さんが…この世界で…出会った…人たちが…

 

 私も…その人達の中に…入れてもらえませんか…」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

彼女のその言葉に彼は答えず

ただ単純に自分の手を握ったその手をそっと握り返してあげた

 

「兄さん…」

 

「すごく…あったかい…」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

彼はその時、涙を浮かべていたのだという

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼を覚えている者は彼のいた世界にはいなかった

 

彼には血を分けた実の妹達がおり

妹達が彼のことを慕い、寄り添っていくその時のみ

彼は初めて自分がこの世界に存在する意味を感じていた

 

だが、同時に彼は妹達にどこか劣等感を覚えていた

妹達は同級生から慕われ、はぐくまれ、気に掛けられていた

 

彼がそんな妹達の事がとても誇らしくも

同時に誰からも覚えていてもらえない自分はどこかむなしさを覚えていた

 

誰でもいい…‥‥‥僕の事を覚えていてほしい…‥‥‥

 

そんなことを考えて星々が夜に映っている時間

彼の目に一人の星を見上げている一つの影が見えた

 

「…‥‥‥あの子は…‥‥‥?」

 

年端も行かない少女がこんなに暗い時間帯に

一人でこんな場所で何をしているのかと思い、近づいていく

 

「あの…‥‥‥こんなところで何をしているの…‥‥‥?」

 

彼は恐る恐る、話しかけると

彼女は彼の方に気づいて顔を向ける

 

「…星を見ているの‥」

 

「…‥‥‥え…‥‥‥?」

 

そう言って再び星空を見上げる彼女に

彼は思わず、キョトンとした表情を見せる

 

「…こうして、星空を見上げているとね…

 

 私達はこの広い星空の中で、存在している

 そう感じられるんだ、それに星々が形を作って

 

 いろんなものが見えてくるのが、本当に不思議に感じるんだ…」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

その場に立ちつくして、彼女の言葉に聞き入ってしまう彼

 

「…ねえ、よかったらこっちに来て

 私と一緒に星を見てみない?

 

 私が色々教えてあげるから…」

 

「…‥‥‥うん…‥‥‥」

 

それが彼と彼女の出会いだった

最初彼は彼女の話を聞いていただけだが

 

次第に自分から、彼女のために星の事について

調べていくようになっていき、彼は彼女とともに

星を見て、星の事でお話をするこの時間が何よりも

かけがえのないものになっていくのだった

 

だが、そんな日々も急に終わりを迎えることになる

 

「…ねえ、貴方に言わないといけないことがあるんだ」

 

「何?」

 

彼は急にそんな話を振っていく彼女に首を傾げる

そして彼女はついに、彼に最後の告白をする

 

「私ね、好きな人ができたんだ…

 

 ずっと前から好きだった人なの

 勇気を出して告白したら、私の気持ちを優しく受け入れてくれたの…

 

 ホントにこんなに幸せなことはないわ…」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

彼女の告白に驚きを覚える彼

少し胸のあたりに何やらチクチクとしたものを感じながらも

 

彼は自分の気持ちを押し込んで言う

 

「…‥‥‥そうなんだ、よかった…‥‥‥

 

 君がそんなに思うような人なんだ

 きっと素敵な人なんだろうな、その人は…‥‥‥

 

 もう一緒に慣れないのは残念だけれども

 僕はずっと、君たちの幸せを祈ってるから…‥‥‥」

 

「ありがとう

 

 私、本当に幸せよ…

 

 思いが叶って、私の事を

 支えてくれる人がいるんだもの…

 

 貴方はやっぱり誰よりも素敵な人よ…

 

 だって、私の事を幸せにすることができたんだもの

 きっとあなたはいろんな人の事も幸せにすることができる

 

 そうすればきっと、貴方の求めているものがきっと見つかるわ…」

 

二人はその言葉と共に別れて、それぞれの幸せに向かって歩いていく

 

歩いていく はずだった

 

「…‥‥‥あ、ああ…‥‥‥」

 

だがその幸せは

 

「うあああああああああ!!!!!!!!!」

 

彼女の死とともに一気に崩れ去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




彼女の死とともに崩れ去る平穏・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼らの暗躍

黄道十二星座と白道二十八星宿・・・・・・・・・


彼は飛び起きるように目を見開き

どこか落ち着きがない様子で息を切らしている

 

「はあ…‥‥‥はあ…‥‥‥」

 

そんな彼の元に歩み寄ってくきた三人の少女

 

「大丈夫、お兄ちゃん?

 

 なんだか辛そうだよ?

 

 少し休んだらどう?」

 

三人のうちの一人がそう声をかけて

ほかの二人もその言葉に同意するように見つめる

 

「…‥‥‥何でもないよ、三人とも…‥‥‥

 

 天奈…‥‥‥

 

 海香…‥‥‥

 

 冥…‥‥‥

 

 ごめんね、心配をかけてしまったみたいで…‥‥‥」

 

「ううん、そんなことないよ

 むしろ私達の方こそごめんなさい…

 

 せっかくこうしてお兄ちゃんの元に

 来ることができたのに、お兄ちゃんに苦労を掛けてしまって…」

 

天奈と呼ばれる少女が申し訳なさそうに頭を下げる

 

「…‥‥‥それで、人数の方はどうなってるの?」

 

「あ、はい…

 

 現在私達の元には

 陽菜子姉さん、水波子姉さん、金乃恵姉さん

 地花乃姉さん、月夜美姉さん、火麻里姉さん…

 

 そこに

 木乃華姉さんに睦都美姉さん…

 

 そしてさらに

 天奈姉さんに私、最後に冥…

 

 私達はこうしてほぼ全員がここに揃ってる…」

 

そう言って海香は彼の妹一人一人の名前を羅列していく

 

「‥次は協力者たちの方ですが‥

 

 真苗さん、百合子さんに友輪さん、真紀子さん

 一紗さんに、明沙美さんにぺガスさんに馬子さん‥

 

 百子さんにオリヴィアさん‥

 

 彩さん、愛理さん…

 

 そして、この間入った佐紀さんにコッチさん…

 

 これで八人と十四人と大体は集まりました…」

 

「‥しかし、十分集まったんじゃないの?

 

 だって、新しく入った人たちはともかく

 みんな腕前に関しては相当なものだし、戦力としては

 申し分ないくらいに集まっていると思うけれども、あとどのくらい‥?」

 

冥は恐る恐る彼に質問をしていく

 

「………僕が欲しがっているのは即戦力でも

 腕の立つ実力者でもない、各々がもともと持っている

 加護を受けた者たち、そうだね………言ってみるならば………

 

 星の力を受けて、その力を引き出すことのできる

 言うならば神に仕える巫覡、巫女といったところだろう………

 

 さらに運のいいことに、これまで僕が引き入れてきた子たちは

 各々が加護を受けている星座が被ることなく集まっている………

 

 現在集まっている星座は黄道星座が、天秤座、蠍座………

 

 蟹座、山羊座、水瓶座、牡牛座

 牡羊座、射手座、獅子座………

 

 白道星座は、ぺガスス座に小馬座

 オリオン座、コップ座………

 

 それぞれ集まっているのは黄道のほうが10人

 白道のほうは四人、いや13人だね………」

 

「十三人…?

 

 いつのまにそんなに集まったの?」

 

「‥なるほど‥

 

 黄道側の人数のうち

 白道にも加わっている者たちも加えたんだ

 

 その子たちも合わせれば、確かに十三人ですね‥」

 

海香の言葉に冥が代わりにこたえるように言う

 

「…そういえば兄さん…

 

 兄さんの恋人、もとい

 響子さんたちの方からは誰かいないの?」

 

「………そうだね………

 

 僕が基本的に目をつけているのは

 まあ、一人ぐらいかな、でもまあ………

 

 そのことはもういい………

 

 問題はそれよりも別の方だ、これは確信的なことだけれども

 黄道星座の巫女は揃うだろうけれども、白道星宿の御子の方は揃わないだろう………

 

 そこで、僕はその候補に加えるために黄道と白道

 どの二つに属していない、他の星座の加護を受けている者達も探す事を決めた………」

 

「…ほかの星座の加護?

 

 そんなの見つけられるの?」

 

「…かつて星座は赤道を通っている三十六の星を中心に

 デカンと呼ばれる原型から始まった、しかし赤道よりも

 有益に使われたのが、太陽の通り道である黄道、やがてそこに

 

 十二の星座が生み出され、やがてそれにならって

 多くの星座が時には形成、時には消滅を繰り返していき…

 

 やがて、88つの星座が肯定された…」

 

「‥すなわち、十二星座‥

 

 それ以外の星座の七十六のうち

 すでに集まっている六つの星座を抜いた

 七十の星座の加護を受けた者たちを、同じ巫女として

 見つけ出すことも視野に入れていこうということですね‥」

 

冥のその問いに彼は静かにうなずく

 

「…なるほど、つまり私たちには

 その残る七十人の巫女を見つけ出す…

 

 それを伝えるためにここに呼んだ…

 

 そういうことだね、兄さん…」

 

「………そうだ、他の妹たち

 君たちのお姉さんたちもそれぞれ別の任務についてる………

 

 そこで、さっそくここに来てくれた君たち三人に

 白羽の矢を当てたってことだよ、できることだったら

 僕の手でどうにかしてやりたいんだけれども、あいにくとどうも

 

 不穏な空気が漂い始めているからね………」

 

「…何をおっしゃいますかお兄様…

 

 私たちのお兄様の願いはともにある

 それを果たせるお手伝いができるのならば…

 

 これ以上の喜びはありませんよ」

 

「では早速‥

 

 お兄様の願い、必ずや‥」

 

そういって冥はさっそく探索に向かう

 

「…すべては、星のさだめとともに…」

 

「…それでは、使命を必ずや果たして見せます…」

 

天奈と海香もともにその場から離れていくのであった

 

「………星に願いを………」

 

彼はそっと自分の胸にそっと手を当ててつぶやくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ある館において

彼と陽菜子の二人が訪れていた

 

その場所はとある屋敷であり

何でもそこで何やら、奇妙な現象が起こっているとされ

 

その調査のために、冬組の者達と合同で調査に入っている

 

「‥‥いやはや、申し訳ありませんな

 

 このようなご老体に付き合っていただいて」

 

「いいですよ、それよりもしっかりと

 気を確かに持っていてくださいね、何が起こるかわかりませんし…」

 

「…へ、それは老師よりもお前の兄貴にいうべきだぜ

 

 なにせ、いろんな女どもを侍らせているタラシ野郎なんだからな」

 

すると、彼に同行していた若者がわざと大きな声で言う

 

「…何なの貴方、いきなりそんなに大声で

 それも堂々と悪口を言うなんていくら何でも失礼じゃないの?」

 

「失礼?

 

 実際、そうだろうが?

 

 恋人がいるくせにあっちこっちから

 女を連れては抱き込んでは手中に収めているってな…

 

 まったく、そんなに女がいるんだったら

 酌する女の一人くらい俺に譲れってんだよ、ああん?」

 

そう言って馬鹿にするような口調で彼に向って唾を飛ばす

 

「あなたねえ…」

 

「なんだよその目?

 

 なんだったらお前やお前らの妹でもいいぜ?

 

 どいつもこいつも上玉だから、食いがいがあるってもんだ…」

 

「はっはっはっ…・

 

 組長たる私の目の前で

 随分と問題発言をなさるのですな…・

 

 言うだけならばよろしいですが

 度が過ぎるとこちらとしても黙っているわけにはまいりませんよ…・」

 

冬三がそう言って陽菜子と若者の間に割って入って

その口論をいさめる、その鋭い眼光を受けてしぶしぶ引き下がる若者

 

「…助かりました、老師…」

 

「いえいえ、こちらの方こそ

 うちの組員が失礼を起こしてしまったようで…・」

 

冬三はそう言って先頭を歩く彼にも申し訳なさそうに頭を下げる

すると突然、その場にいた一同の方に向かって何かが迫っていく

 

「「「「っ!?」」」」

 

あまりの衝撃風に三人は思わず身じろぎ

だんだんと後ろに下がっていく、すると

 

「誰だ…またあたしたちを傷つけに来たのか‥」

 

そんな声が聞こえると、奥から二人の人物が現れる

二人はピエロを模したマスクで顔を覆っており、服装は

片方は白色で赤のライン、もう片方は黒色で青のラインの入った

まるで体全体を覆っている、ローブのような服装であった

 

「‥‥双子‥‥!?」

 

「てめえらなにもんだ…

 

 返答しだいじゃあ、ただじゃあおかねえぞ」

 

そう言って若者が武器を手に二人に向けていく

 

「ま、真名ちゃん‥」

 

「安心しろ仮名‥

 

 あたしが絶対に守ってやる‥」

 

そう言って真名と呼ばれた少女を

仮名と呼ばれた少女が守るようにして後ろにやり

 

手に持っているナイフを構えて四人をに睨みつける

 

「こいつら、どうやらやるしかないようだぜ組長!

 

 さっそく俺が行かせてもらうぜ」

 

「お待ちなさい!」

 

若者がそう言って武器を手に向かっていくと

真名は見事な体さばきでいなしていき、抑え込んでしまう

 

「仮名を傷つける奴は‥

 

 誰だろうと許さねえ!」

 

そう言って若者にナイフを突き立てんと

ナイフを逆手に持ち替えて、若者に向けてふるう

 

すると

 

「え!?」

 

「………………」

 

彼がその間に自分の左手をやって

彼女がナイフを突き立てるのを防いだ

 

「な、なんの真似だ!?」

 

「………やめておけ

 

 そんなことをしたところで

 お前の罪が増えるだけ、余計にあの子を

 悲しませてしまうだけだ、見てみろあの子を!」

 

彼に言われて、真名は仮名の方を向く

すると仮名の目からは涙が出てきている

 

「もうやめて、真名ちゃん‥

 

 真名ちゃんが私のために

 やってくれているのはわかってる‥わかってるけれども

 

 もう私は、真名ちゃんにもうこれ以上、誰かを傷つけてほしくないんだよ‥

 

 だから…だからもう‥お願い…‥」

 

「仮名‥」

 

呆然とい立ち尽くす真名の手から

そっと刃物を取り上げると、その際に

 

「へ、隙だらけだよ!」

 

抑えられていた若者が隙ありといわんばかりに

仮名に向かってつかみかかっていこうとすると

 

「ぐあああ!!!」

 

彼に抑えられて、その手にナイフを突き立てられる

 

「…あ‥」

 

「…あああ‥」

 

真名と仮名は呆然と見つめている

 

「お前らみたいなのがのさばってるから

 彼女たちのような子たちが現れ続けるんだ………

 

 この子たちをお前らみたいな屑に殺させてたまるかよ!」

 

彼はそう言って若者を瞬く間に抑え込んでしまった

 

「く、くそ…

 

 なんなんだよお前…

 

 いったい何なんだよ!」

 

「………君に話すことは何もないよ………

 

 そんなに聞きたいんだったら、老師に

 自分の問題行動に対する許しにでも請うんだね………」

 

そう言って彼は双子の方にゆっくりと歩み寄っていくと

彼は二人をそれぞれの手に包み込むようにやさしく抱きしめてあげた

 

「………大丈夫だよ、君たち二人のことは

 僕がしっかり責任を取って守ってあげるからね………」

 

「あ‥」

 

「あああ‥」

 

彼の言葉に双子は思わずたまりにたまった

感情を吐き出すように涙を流して抱きしめるのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼のもとに次々と同志が集まっていき

次第に大きな勢力になりつつある、彼の一団

 

彼のもとに、一人の青年が走り寄っていく

 

「おーい」

 

彼のもとにやってきたのは

彼を英雄たちのもとに連れてきた人物

 

北斗 七誠であった

 

「話は聞いたよ?

 

 随分とモテモテみたいじゃない

 随分と人数が増えてきてるんだって?

 

 そんなに集めて一体どうするつもりなのさ?」

 

「………君に話すことはないさ

 

 それに、また新しく一人

 人数に加えた子がいるんだ

 

 ほら、前に出て自己紹介して」

 

そういうと、フードで顔を覆った

一人の少女が、彼の横に立ってそのフードを外す

 

「‥‥この度、兄上殿のもとに加えていただきました

 

 七海 那奈、と申します、以後お見知りおきを‥」

 

そう言って頭を下げてあいさつをかわすのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




最高の強敵・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進んでいく未来

最強の巫女となりうるもの・・・・・・・・・


 

 

とある日の訓練場

 

彼はそこで訓練生が正組員になる

試験を受けている様子を火麻里とともに見つめていた

 

「…兄さん、本当にこの中から見つけられるの…?」

 

「………さあね、でも可能性としてはあり得ない話じゃない………

 

 可能性があるのならば、それにかけてみないとわからないものさ………」

 

そう言って彼は見学スペースの方から

しばらく様子の方を見ていると、二人のもとに近づく二つの影が

 

「あれ?

 

 君もここにいたんだ」

 

「久しぶり、火麻里ちゃん」

 

「七誠さんに優生さん…

 

 お二人も見学の方に?」

 

そう言って、近づいていく二人の男女は

二人のそばにまでよって行って、ともに訓練の様子を見る

 

「…そう言えば聞いたよ?

 

 結構な大所帯になってきてるんだって?」

 

「七誠さんには関係のない話です…

 

 それに、大所帯って言っても

 皆さんの方に比べれば多くなんてありません」

 

「でも、グループとしては十分だと思うけれどね?

 

 それにしてもお兄さんは本当にモテモテね

 彼のもとに所属する子たちはみんな、彼を慕ってるんだもの」

 

優生は微笑ましそうに言うが、彼は特に何も言おうとはしていない

 

「…でもあんまり女の子ばっかりだと響子さんがヤキモチ焼くんじゃない?

 

 今日も最近会ってくれないって、拗ねていたわよ?」

 

「………響子さんには悪いとは思っているけれど

 僕の方もいろいろと忙しいから、どうしてもね

 

 あんまりかまってあげている時間が取れないんだよ」

 

彼は優生から恋人の話題が出ると

やや冷たい感じで返答した、それを見てやや二人は彼を見る

 

「…なんだか変わったね…

 

 最初のときは優しい感じがしたのに

 今じゃあ、どこか冷たくって無関心な感じがする…」

 

「………僕はもともとこんな感じだよ………」

 

そんな話をしていると、試験の結果が出て

選ばれて喜ぶものや落ちて悔しさを浮かべるもの

 

反応の違いはあれど、各々がその二つの反応を見せる

 

そんな中で彼はふと、一人の少女に対して目にとまった

 

「…‥」

 

その少女は結果を聞かされても

特に何の反応も示さずに、だた呆然とその場に立ち尽くしていた

 

「………あの子、他の訓練生徒は何か違う雰囲気だ………」

 

「…ああ、那奈ちゃんね

 

 また落ちちゃったみたいね…」

 

「あの子ってどんな子なんですか?」

 

「…うん、あの子、七海 那奈ちゃんって言うんだけど

 試験を受けて訓練生になったまではいいんだけれども

 

 何度も何度も正組員になれなくってね‥‥

 

 今回で九回目だったかな、最後のチャンスだったのに‥‥」

 

七誠のつぶやきに彼はふときく

 

「最後のチャンスって?」

 

「あの子ね、この九回目の試験に落ちたらここから出ていくように

 戦力外通告を組長たちから受けているんだって春三が言ってた

 

 さすがにもうこれ以上あの子を引き留める余裕はないって…」

 

「…仕方ないですよね…

 

 これから向かうのは下手をすれば

 死ぬかもしれない戦場なんだもの…

 

 むしろあのまま、あの子に戻ってもらうのもあの子のため…」

 

火麻里がそこまで言うと、彼は見学スペースから

大胆に飛び降りていき、ゆっくりと歩いていく

 

「な、なんだ?」

 

「あの人って?」

 

突然の飛び込みに驚きを隠せない面々は、彼に注目していく

 

「………訓練生 七海 那奈………」

 

「‥‥え?」

 

彼に話しかけられて、驚いた様子で彼を見上げていく那奈

 

「………君の目にはまだ、強い投資のようなものが感じられる

 

 悔しさ、絶望、足掻き………君は決してこのようなところで終わりはしない………」

 

「‥‥でも私は、英雄の試験に落ちた‥

 

 だからもう、ここにはいられない‥」

 

那奈はやや暗い声色でそう答えると、彼は言う

 

「………だったら、僕のもとに来るといい

 そこだったら誰も君の力を否定なんてしない………

 

 ううん、僕自身がぜひとも、君という力が欲しいんだ………

 

 君には力がある、でも君も君の周りもそれに気づいていない

 でも僕だったら、君のその力を目覚めさせてあげることができる

 

 僕はぜひとも、君の中にある力を見てみたいんだ………」

 

そう言って右手を差し出していく彼

 

不思議とそんな彼の姿に話しかけられている那奈だけでなく

周りにいるほかの訓練性や、それを見ていた火麻里や七誠、優生

 

その様子を見ていた全員が彼のその姿に畏れを抱いていた

 

「…あなたのところに行けば、私はあなたのようになれますか‥?」

 

「………さあねえ、でも君はきっと

 僕にとってきっと何よりも大きな存在になるだろうさ

 

 きっとその時には僕が知る中でもっとも大きな存在になる………

 

 だから、おいで那奈、僕は、ううん、僕たちは君を歓迎しよう………」

 

その言葉を聞いた瞬間に那奈は、彼の手を取ったのであった

のちに彼女は彼の言う通り、彼のもとにいる者たちの中でも強大な者となるのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ある日の事

 

彼は陽菜子、月夜美、火麻里とともに

百合子に連れられてある人物のもとに連れてこられる

 

「こちらです…」

 

そう言って入っていったそこにいたのは

ベッドの中で死んだように眠っている一人の少女と

 

少女を介抱している二人の少女に

友里の三人であった、彼は恐る恐るその中に入っていく

 

「………お加減の方はどうかな?

 

 有希夜………」

 

彼はそっと優しく声をかけると

少女はゆっくりと瞳を開けて、彼を見る

 

「あ…お兄ちゃん…

 

 今日も会いに来てくれたんだ…」

 

「体の方は大丈夫かな?」

 

有希夜と呼ばれた少女はゆっくりと体を起こして

彼の方を向いて、力はないがそれでも精一杯の笑みを浮かべていく

 

「…はい、友里さんが処方してくれた薬のおかげで

 すっかり落ち着いていられるようになりました…

 

 でも、ごめんなさい…

 

 有希夜の体が弱いせいでいっつもお兄ちゃんに

 私のお部屋にまでお邪魔させることになってしまって…」

 

「謝ることはないよ

 

 とにかく無事そうで何よりだ

 

 この調子ならどのくらいで歩けそうかな?」

 

「‥‥はい、この調子で体が戻っていけば

 推定、十二日後には日常生活を送れるようになれるので

 

 例の数にそろえるには最低でも、四十日はかかるかと…」

 

彼の問いに友里はそう答えた

 

「‥‥四十日、思っていたよりは病状の経過は順調のようね…」

 

「ええ、これだったらあなたの

 お姉さん達もきっと喜んでくれると思うわよ

 

 さすがは友里ね…」

 

百合子は素直に感心し

陽菜子も彼女の腕に感服する

 

「いえいえ、お兄様のご尽力があればこそ…

 

 それに私の力ははっきり言って

 戦いの場においては何の役にも立たぬものだと思っていました…

 

 でも兄上様はそんな私の能力を引き出し、重宝してくださった

 やはりあの時の私が兄上様のもとに従ったのは間違いではなかった…

 

 この友里、今まで以上の忠誠をお誓いいたします」

 

そう言って改めて彼にかしこまる友里

 

「友里さん、意志を示すのは結構だけれども

 自分の役目の方もしっかりこなしてもらわないといけませんよ?」

 

「お前に言われなくてもわかっているわ、百合子

 

 彼女の治療の方は順調に進めている

 お前が心配するころはないわ、なあ、陽子、陰子…?」

 

すると、有希夜に付き添っている二人の女性がこちらを向く

 

「…ええ、もちろんですとも友里様…」

 

「‥‥私たちも尽力していますゆえに間違いありません」

 

そう言うと友里は胸を張ってどや顔を浮かべる

 

「…あの、お兄ちゃん…

 

 有希夜、お兄ちゃんに一つだけ

 お願い…聞いてもらってもいいかな?」

 

「………何かな?」

 

有希夜は彼に何やらお願い事を

聞いてほしいと、少しもじもじしながら彼に聞く

 

「…もしも、身体が良くなって

 外にも出られるようになったら

 

 お兄ちゃんと一緒に外に出て

 二人で見た景色を絵にかいていってみたいの…」

 

「………そっか………

 

 じゃあ治ったら僕と有希夜

二人のそれぞれ行きたいところに行ってみようか?」

 

彼が笑顔でそう言うと有希夜は笑顔を浮かべて頷くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

有希夜の様子を見て、部屋を後にする彼

するとそこに、一人の少女がゆっくりと近づいてくる

 

「あ、兄さん‥‥

 

 来てたんだ」

 

「亜希子か………

 

 お前の方も変わりはないようだな」

 

そこにいたのは先ほど部屋であっていた有希夜

彼女とうり二つだが、大人しめな有希夜と比べると

元気がいい印象を受ける少女であった

 

「兄さんには本当にどんなに感謝してもし足りないくらいだよ

 

 あの時、引き離されかけていた私達を

 助けてくれた上に有希夜の病気も治してくれたんだもん」

 

「さすがに亜希子のように元気とまではいかないが

 外出する分には問題はないくらいにはなるはずだ………

 

 もしもあの子が元気になったら、僕のもとに来るといい

 僕たちはいつでも二人のことを歓迎しよう、考えておいてくれ………」

 

彼の申し出に亜希子は笑顔を浮かべて即答する

 

「もちろんだよ!」

 

それを聞いて笑みを浮かべる彼

陽菜子はそれを見て、思うところがありそうな表情である

 

「それじゃあ、私

 有希夜にあってくるから

 

 兄さんのさっきの話の事

 早速話してくるから、それじゃあ…」

 

そう言って彼の横を通って去っていくのであった

 

「………仮名と真名、と言い有希夜と亜希子といい

 

 何で仲の良い双子や年子を引き離そうとするのやら………」

 

「…本当に複雑よね…

 

 私と兄さんは双子で、地花乃と兄さんはあの二人と同じく

 年子だから、最初のときは本当に白い目で見られたわよね

 

 この星座の都では双子や年子は神聖な存在であるがゆえに

 人の双子と年子は神の意志に反するものとして迫害されているって

 

 今ではその習慣は古いものだって言われて廃れていってるけど

 いまだにその習慣が抜け切れていない者たちも多かれ少なかれいる

 

 どうしてあんな理不尽な仕打ちを受ける子たちが多いのかしらね…」

 

陽菜子はそう言ってため息交じりに愚痴るようにつぶやく

 

「………それは世界そのものが理不尽だから………

 

 それゆえにあの子たちのもとにも私たちにも

 その理不尽が降りかかっていく、それが答えだ………」

 

「…兄さん?」

 

彼の苦虫をつぶしたような発言に

陽菜子は様子のおかしさを感じていた

 

「………陽菜子、これから僕は

 海香のところに行くけれどどうする?」

 

「…ごめんなさい、少し私の方も用事があって

 どうしても行かないといけないから、ここで…

 

 兄さんこそ、海香のところにどうするつもり?」

 

陽菜子は恐る恐る訪ねていく

 

「………海香が少し、興味のある娘を見つけてね

 一緒にその子に会いに行こうと思っているんだ………」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

陽菜子と別れて、今度は海香と合流し

ある場所において、軟禁されている一人の少女を見る

 

少女はそこで絵を描いているが、その内容は

なかなか独創的で、なんとも感想に困るものであった

 

「…あの子がそうだよ…」

 

海香がそう言うと少女はゆっくりと作業の手を止めていく

 

「…誰?」

 

「…久しぶりね、私よ…」

 

そう言うと、少女はゆっくりと二人の方を向く

彼はそれを見て驚いたように目を見開いていく

 

「………有希夜と亜希子に、そっくりだ………」

 

「…え?

 

 有希夜ちゃんと亜希子ちゃんの事、知ってるの?」

 

「…水波ちゃん…

 

 この人がその二人がお世話になっている

 私のお兄様だよ、あなたにどうしても合わせたくって…」

 

驚く少女、水波に対して、海香が舗装するように説明していく

 

「…そっか、亜希子ちゃんが言ってたよ

 

 有希夜ちゃんの病気の治療をしてくれている

 とっても優しい人がいるんだって、嬉しそうに話してたよ…

 

 私からも言わせて、有希夜ちゃんを助けてくださって

 本当に、本当にありがとうございました」

 

「………当然のことをしただけさ、それに僕一人のおかげでもない

 僕のことを信じてついてきてくれている人達の力もあったからこそだよ………」

 

決して自分一人の評価にしない謙虚さに水波も好感を覚える

 

「それにしても、水波は絵を描くのが趣味なの?

 

 見たところ部屋中になんとも言えない絵があるけれども…‥‥‥」

 

「うん、実は従姉の影響で始めたんだけれど

 どうにもうまく書けてる様子がないんだよね

 

 みんなあまりにも独創的だって言って」

 

あははは、と苦笑いを浮かべる水波

彼はしばらくそのアトリエを回っていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

すると

 

「ええ!?

 

 冨士井姉妹とその従姉も加えるって

 私たちのもとに、いくら何でも無茶じゃない!?」

 

陽菜子が海香から聞いて思わず彼に問いかける

 

「彼女たちの力には目を見張るものがある

 あれに目を付けないわけには当然いかないだろう?」

 

「そんな、亜希子の方はもちろん私も賛成だけれども

 有希夜の方はあんな体なのよ、コッチの時ときのように

 体を改造して人としての尊厳を奪ってしまうつもりなの!?」

 

「………無力は罪、だよ………」

 

彼の言葉に陽菜子は言葉を失う

 

「…あの日から兄さんは変わった‥‥

 

 あの子が死んで以来、あなたは誰もが

 感じるほどに残酷な人になった、私にはそれが悲しいよ…」

 

「………世界はいつ誰にでも、残酷だ………」

 

絶句する陽菜子をよそに、彼は静かに歩き去っていくのであった

 

「…兄さん、私はやっぱり

 あの時の兄さんに戻ってほしい…

 

 でも、兄さんの気持ちも考えると

 変わってしまっても無理はない…

 

 でもそれが…私には余計に苦しい…」

 

陽菜子はそう言って悲しそうに言い放ち

胸元で右手を左手で包むようなしぐさを見せる

 

「私にできることはただ一つ…

 

 兄さんのそばにいること

 姉として、妹として

 母として、娘として…

 

 そう…兄さんの、家族として…」

 

そう言って陽菜子は彼とともに行く決意をその胸に秘める

同時に、もしも兄が道を踏み外してしまうことがあるのならば

 

その時は自分が、自分たちが彼を全力で止めて見せるとも

 

でも今は、彼のそばにいてやる

それが今の自分ができる限りで彼のためにやることなのだと

 

だが、彼女は気が付いていなかった

 

彼の心はもうすでに、自分の手の届かないほどに

施しようのないほどに真っ黒に染まってしまっていること

 

そして、兄は自分も知らない間に

恐るべき計画を立てていることもまた知らない

 

そして、その計画には

自分以外の妹たち全員も加担していることも

 

彼女は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




愚かなる無知・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王と女王と王女と英雄と…‥‥‥

逃亡せし王と女王、王女を拾い彼と出会う…‥‥‥


 

 

 

「どうして…

 

 どうして私たちはともにいてはいけないの

 私たちはこんなにも愛し合っているのに…」

 

「それは‥‥

 

 私たちは同姓で生まれの国も違う‥‥

 

 私たちは愛し合ってはならぬ運命なのよ‥‥」

 

「…そんなの、そんなの関係ないわ!

 

 あなたがたとえなんであろうとも

 私にはあなたしか考えられない、考えたくない…」

 

「私も同じ気持ちだ‥‥

 

 だが、どんなにあがいたところで

 私たち二人の力だけでは運命にあらがうことはできない‥‥

 

 それだけの力がないんだ、私はそれがどうしても悔しい‥‥」

 

「そんなの…

 

 いや…私はもう貴方と…

 

 二度と離れたくない…」

 

とある二人の少女、二人は同姓ながらも

お互いを思い、愛し合い、思いやっていた

 

やがて二人は、互いの家から逃げ出し

遠くの方へと逃げ延びていこうとする

 

「はあ…はあ…」

 

「はあ‥‥はあ‥‥」

 

やがてある場所において小休憩をすると

そこには、一人の幼い子供が行き倒れになっていた

 

「‥‥こんなところに子供が‥‥

 

 どうやらまだ、息はあるようだが‥‥」

 

「…かわいそうに…

 

 でも…私たちにできることなんて…」

 

悔しそうに二人は涙を流して

苦しそうにしている少女に向かって涙を流す

 

すると、そんな三人のもとに足音が響き

二人の少女は不意にその音のする方に向いた

 

そこにいたのは、一人の青年であった

 

「………………」

 

「「‥」」

 

二人の少女はお互いを守るように抱き合う

もしかして、自分を連れ戻しに来たのかと思い

 

そしてその予想は当たっていた

 

「………なるほどね、君たちが家から抜け出し

 駆け落ちをしてきたという二人の少女たちか………

 

 なるほどね、君たちが逃げ出したのは

 今の君たち二人がやっていることが理由かな?」

 

彼の問いに対して二人は自分たちの心を見透かされた

そんな恐怖を彼に対して二人に抱いていた、すると

 

「うん?

 

 その後ろで倒れているその子………

 

 もしかして、もう………」

 

「‥‥い、いえ‥‥

 

 まだ息はあります‥‥」

 

「…お願いです、どうか…

 

 どうかあの子を助けていただけませんか!」

 

すると、二人のうち一人が懇願する

自分たちを見逃してほしい事ではなく

 

命の灯を失わんとする幼子を、助けてほしいと

 

「ま、まってくれ‥‥いったい何を…」

 

「ごめんなさい、でも…

 

 やっぱりこの子のことは放っておけないし

 それに、どのみちこれ以上はもう逃げ切ることはできない…

 

 だったらせめて…せめて、あの子の事を助けてあげたいの

 私たちにはあの子を助け出すことはできない、だから…」

 

そう言って地面に伏せるように懇願する少女

もう一人の方は戸惑いを見せるが、後ろで弱っている少女に目をやる

 

「‥‥私からも‥‥私からもお願いします」

 

もう一人の方も同じように地面に伏せて懇願する

 

「………断る」

 

だが彼の発した言葉は冷たいものだった

 

二人は言葉を失って絶句の様子を見せていく

しばらく沈黙が続くが、次に彼は言葉を続けていく

 

「あいにくと僕はそこまで気が回るものじゃない

 

 確かにその子のことは放っておけないけど

 だからと言って僕自身その子にしてあげられることはできない

 

 その子を助けることはできないが、助ける手助けならできる」

 

彼が言葉を続けていくのを、首をかしげながら聞いていく二人の少女

すると地面に伏せてまで、自分に懇願した二人の少女に合わせるように

姿勢を低くして、二人の肩をそれぞれ自分の手で強くたたいた

 

「………その子と一緒に。僕のもとに来るといい………

 

 二人のことは散策中に見つけたが穢れに襲われて

 討伐をしたが、助けきることはできなかった、と報告しておくよ………」

 

「「え!?」」

 

二人の少女は彼の言っている言葉をしばらく聞き入ることはできなかったが

彼は自分たちのことを彼なりに何とかしようとしていることは理解できた

 

「‥‥どうして、私たちのことを‥‥」

 

「………いっただろう、僕にはその子を助ける余裕がない

 でもだからってその子を見捨てたいわけじゃない、それが一つ………

 

 それに、君の愛する人は自分の身をささげてまで園子を助けようとし

 君もまた、彼女を差し出すのならと、自分自身もささげた、それも一つ………

 

 そんな君たち二人の気持ちに僕自身もこたえてあげたい………それが理由さ………

 

 その代わり、その子の事、しっかり育ててあげるんだよ?」

 

「…あ、ああ…」

 

彼の言葉、彼の表情、二人の少女には

今の彼はどこか、大いなるものに見えた

 

「「ありがとうございます!!」」

 

二人は感激して、彼に感謝の念を示し

先ほど以上に頭を下げるのであった

 

「…‥‥‥…」

 

それまでのやり取りが、弱った少女が覚えている記憶

のちに彼女により知ったこの二人の少女がそれぞれが

自分の父役と母役となる者達であり、その二人と自分の前にいる者が

 

のちに自分が兄と慕う少年なのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

それからしばらくして、彼のもとに集った者たちが集まっている

 

「有希夜さん、お元気そうで何よりです

 でもあんまり激しく動いてはまた倒れてしまいますよ?」

 

「ありがとうございます、明沙美さん…

 

 でももう大丈夫です、それに今日はお兄ちゃんにとっても

 有希夜達にとってもおめでたい日なんですから、今日くらいは出ないと…」

 

「大丈夫だよ、だって有希夜には私がいるから…」

 

病み上がりでもしっかり集まりに参加する有希夜に

亜希子は心配ないと笑顔で彼女の体を支える動作を見せて言う

 

すると、一同の前から扉が開く音が響き

一同は前の方に注目をしていく、そこに現れたのは

 

「おはようみんな、よく来てくれたね」

 

三人の少女を引き連れた、彼の姿であった

 

「「「「「「おはようございますお兄様」」」」」」

 

その場にいる全員が一斉に挨拶をしていく

すると彼は横にあった椅子の方に歩いて座り込み

 

彼とともに現れた、三人の少女の内

凛々しい顔立ちで男らしいという印象の女性が前に立つ

 

「お忙しい中、ようこそ集まっていただき感謝する

 今宵、皆様の中に私と彼女にとってかわいく愛しい娘を

 ここにいらっしゃる皆様のもとに新たに加えていただいて本当にありがとう‥‥

 

 先ほど、私たちと兄上殿の話し合いの末に末席に加えていただきたいた

 

 それでは、こちらにいらっしゃい‥‥」

 

そう言っその彼女の隣に立つのは気品にあふれ

どこかの美しい王女様と言われてもあたりさわりのない少女だ

 

やや緊張した様子だったが、一呼吸おいて前に立って言葉を紡ぐ

 

「本日、皆様のもとでともに活動をさせていただくことになります

 

 アンジェリーナ・ロメールダと申します

 

 私の母役、カシス・オペワと父役、ケフィア・ウスティ

 そしてお兄様にお世話になってこうしてここに立たせてもらいました

 

 まだ若輩者ですが、この重圧に負けぬように日々精進していきたく思います」

 

そう言って落ち着いた様子であいさつを進めていく少女、アンジェリーナ

 

「…これでまた一人、順調にそろいつつあるね…」

 

「………僕もはっきり言って驚いている

 何しろあの子は最初に見たときは本当に弱っていたからね…‥‥

 

 もしかしたら、これもまた星の運命なのかもしれないね…‥‥‥」

 

彼は自分のもとにやってきた金乃恵と少し話をしていたのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

挨拶が済んで、三人の少女たちは

他の少女たちとそれぞれ挨拶を回っていた

 

彼はしばらくその様子を見つめていたが

やがて三人は、あいさつを一通り済ませて彼のもとに来た

 

「あらためてありがとうございますお兄様…‥

 

 あの時お兄様に助けていただいたおかげで

 今やこのように動くのに問題はな体になりました…‥」

 

「そうだね、あの時のことが懐かしい…‥‥‥

 

 僕だけじゃなくケフィアやカシス

 二人とも会っていなかったら君はきっと

 ここに立つことは愚か、こうしてここにいることもなかった

 

 本当に人の縁っていうのは不思議なもの、そうだって思わない?」

 

「ええ、私とケシィも兄上殿には感謝しています

 私たちの仲を認めようとせずに、それどころか無理やり

 好きでもない男と縁談を組ませようなどとされ、逃げ出したものの

 

 私たちは無力を思い知った、あの時生き倒れていたアンジェを見て

 なおさらそのことに打ちひしがれ、残酷な運命に従うほかないのかと‥‥」

 

「…ですがそんな私たちに、お兄様は手を差し伸べ…

 

 あろうことか私たちの意志も尊重して

 アンジェのことも救っていただいて、本当に本当に感謝しています…

 

 私たちにさらなる名前もお与えになってくれた…

 

 私にはカシス・オペワ…

 

 ケフィにはケフィア・ウスティ…

 

 そして、娘にはアンジェリーナ・ロメールダ…

 

 私たち三人はこれから家族として過ごし

 ともにお兄様のために尽くさせていただきます…」

 

そう言って三人は一斉に頭を下げた

 

「…これでまた一人揃った、ということですね…」

 

「…そうですね…

 

 これもまさに天の意志ということかもね…」

 

「………確かにそうかもね………

 

 アンジェリーナ」

 

彼にいきなり名前を呼ばれて驚いた様子を見せるアンジェリーナ

 

「…‥‥な、なんでしょうか…‥?」

 

「…‥‥‥君さ、好きな子いるでしょ?」

 

「「「っ!?」」」

 

彼の直球な質問を受けて、アンジェリーナは赤面して

ケフィアとカシスはとっても驚いた様子でそれぞれ叫ぶ

 

「んな、ななななななー何を言いいいいーてるんですかお兄様!?

 

 そ、そもそもそのここここ根拠はどどーこにあるのででででーすか!?」

 

「………いやもう、そんな反応でごまかしたってバレバレだって………

 

 ああそれと相手の方ももうわかってるよ、というよりも

 偶然知ってしまったというべきなんだろうね、彼女について…‥‥‥」

 

彼がそう言った時にケフィアとカシスは驚いたが

だからと言って特に、別に、何も言わなかった

 

なぜなら、自分たちも女同士で愛し合っているのだし

娘が選んだ相手ならば何も言うことはないと思ったのだから

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その後、彼はある人物に会っていた

その人物はある場所において小休憩をとっていた

 

「…ペルシャ・ルセスさん、だね…」

 

彼がそう話しかけると、話しかけられた女性

ペルシャは視線の方を彼の方に向けていった

 

「貴方は…?」

 

「…私は、木乃華…

 

 兄さんがぜひともあなたにお会いしたいとのことでね…」

 

要件を言う木乃華に対してペルシャはどこかうっとおしそうにしている

 

「…悪いけれど、他をあたってもらえない?

 

 私のような怪物を引き入れたところで

 苦労するだけだと思うけれど、まあこんな私の事に

 分け隔てなく接してくれるのは、アンジィくらいだけれど…」

 

「…アンジィ…アンジェリーナさんですね…

 

 でしたら問題ありませんよ…

 

 そのアンジェリーナさんや

 アンジェリーナさんの父親役と母親役のお二人も

 その兄さんのもとで使えています、それに兄さんは

 あなたのその左腕の力にも、貴方自身にも興味をお持ちですよ…

 

 謁見だけでもぜひともご希望いただければと思っておいります…」

 

木乃華の言葉にペルシャは驚きの様子を見せる

彼女もアンジェリーナから彼のことを聞いており

 

以前から興味があったのだ、彼という人物のことに

まさかその彼の方から自分に会おうとしてくるとは思わず

少しあっけにとられて少し、発言が遅れてしまうのだった

 

「…ひょっとして、アンジィが口添えでもした?」

 

「…いいえ、兄さんがあなたに興味を持ったのは

 アンジェリーナさんがあなたと交流する前からですよ

 

 その経緯であなたとアンジェリーナさんの親交を知ったのですよ…」

 

「…へえ、アンジィから聞いていたけれど

 よっぽど変わり者なのね、あなたのお兄さん…」

 

ペルシャはそう言いながらユックリと重い腰を上げた

 

「…あっていただけるのでしょうか?」

 

「…ええ、私もうわさの彼には

 少し興味があったのでね、ぜひ一度会ってみたいと思っていたのよ…

 

 よかったら日を改めて彼のもとに案内させてもらうと嬉しいのだけれど…」

 

ペルシャンの言葉に木乃華は満足そうにうなずき

ペルシャ自身もまた、不適ながらも笑みを浮かべていたのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

後日、ペルシャは木乃華の案内を受けて

彼のもとに赴いていっている、やがてある一室に案内される

 

そこには、何人かの人物たちがそこにそろい

その間をペルシャは歩いていき、奥にいる彼のもとに行く

 

「…彼が…アンジィの言っていた…」

 

ペルシャがそう言って彼を見てつぶやき

ペルシャは片膝をついて、手を胸のもとに当てて頭を下げた

 

「お初にお目にかかります、私はペルシャ・ルセスと申します…

 

 本日はこのような若輩者に謁見を申し立ててくださり

 恐悦至極に存じ下げます、つきましては私は貴方様のもとにいる…」

 

「………はいはい、あいさつは簡潔に済ませてね…‥‥‥

 

 僕自身もこうして君に会うことができて本当にうれしいよ

 何しろ、あのアンジェが認めたっていう女傑なんだからね…‥‥‥

 

 こうして君のことをここに呼んだのは

 まあ、木乃華から聞いているだろうと思うけれども…‥‥‥

 

 ぜひとも、僕のもとに入ってほしいのが正直な要求だ…‥‥‥

 

 まあでも、いきなり僕のもとに来いなんて言われても

 戸惑うだろうと思うし、ちょっと腹を割って話をしようと思ってね…‥‥‥」

 

そう言うと木乃華を元の位置に戻し

代わりに横の方に控えていた一人の少女を呼ぶ

 

「あ…」

 

「お呼びに参上しました

 アンジェリーナ・ロメールダです‥‥‥

 

 よろしくお願いしますね、ペルシィ…‥」

 

横に並んだその少女、アンジェリーナの今の姿に

ペルシャは思わず見惚れてしまう、それほどに美しいのだから

 

「………この子はある場所で行き倒れになっていたところを

 ある二人の少女に拾われて、さらにそこを僕が拾って今に至る

 

 だから、僕は彼女、リーナにはぜひとも彼女を支えられるような

 そんな人と一緒に過ごしてほしいって僕は思っているんだ、だからね…‥‥‥

 

 ペルシャ、リーナと一緒になってもらえないかな?」

 

「ええ!?」

 

ペルシャは驚きの声を上げる

 

「君だったら彼女のことを任せられる

 リーナからも、君となら構わないと言伝ももらった…‥‥‥

 

 あとは君が答えを出してくれればいい…‥‥‥力になってくれるね?」

 

彼がそこまで言ってペルシャはアンジェリーナの方を見る

彼女は頬を赤らめながら、静かにうなづくのを見て、ペルシャも腹をくくり

 

彼の話を受けるのを決めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、エチオピア四王の結成となったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           




英雄は王女と結ばれ、一つの国となる…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の巫女

影ある優等生・・・・・・・・・


 

 

 

 

 

 

とある日、彼はある場所に陽菜子とともに訪れていた

 

「…ここが聖地、炎の楽園…」

 

「…‥‥‥この星座の都においては、世界に忘れ去られ

 生きているのか死んでいるのかもわからないほどに

 人々からの認識が薄れてしまうという、ゆえにこの世界では

 

 死んだとしてもあくまで人々から忘れ去られるだけで

 あとくされもなくその記憶から瞬く間に抹消されてしまう…‥‥‥

 

 そしてこの世界で死んだ者の命はその存在とともに

 聖地であるこの炎の楽園を通って、再びその命が還元され

 

 再び世界に生きる新たな命として、生まれ変わるのだといわれている…‥‥」

 

そう言ってゴォゴォと音を立てて炎を上げている場所に目をやる

 

「…‥‥‥でも僕にはその話は、世界に見捨てられた者たちに

 せめてその生の果てのみは救いのあるものだとここで過ごす者たちを

 無理やりに納得させるための言うならば御釈迦話のようにしか思えない…‥‥‥

 

 まあ、ほとんどがそう思っているんだろうけれども…‥‥

 

 僕にはどうしてもその話がとってつけたようなものとしか感じられなくってね…‥‥」

 

「兄さん…?」

 

そう言って聖地の中へと入りこんでいく

それを見て、慌てて彼を追いかけていく陽菜子

 

「ちょちょちょちょっと…

 

 いくら何でも聖地の中に

 土足で入り込むなんてまずいんじゃ…」

 

「入るくらいなら問題はない…‥‥

 

 現に今でも戦いの中で死に別れた者の遺体を

 この地に葬る、聖葬のために訪れることもある…‥‥

 

 それに、どうやら先客がいるようだ…‥‥‥」

 

彼がそう言うと陽菜子は彼の視線の先にいる人影を見る

 

そこには、一人の少女が聖地に建てられた慰霊碑に

手を合わせて静かに黙祷しているのが見え、陽菜子は驚く

 

「…あの人は…!?」

 

すると、その人物は二人に気が付いて

その方向に顔を向けた、その顔を見て陽菜子は驚いた

 

「…絵美理…さん…!?」

 

「…あなたたちは…」

 

加東 絵美理…‥‥‥

 

自分たちとともに討伐組織に所属する

同僚の少女であり、彼を組織に引き抜いた人物

 

七誠の想い人でもある

 

「…‥‥‥この墓標、ひょっとして君の知り合いの…‥‥‥?」

 

「…ここには、私がこの世界に

 落ちた時に育ててくれた大切な家族が眠っています…

 

 ここにいるみんなはある日、私が少し目を離したすきに

 一人残らず殺されてしまったんです、穢れでも獣でもない者に…」

 

「…え…?」

 

その後、絵美理の話を聞いて絶句する陽菜子

その彼女の話にただ静かに耳を傾けている彼

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

やがて彼のもとに再び少女たちが集められる

そこにはこれまで彼が集めてきた者たちも含め

 

多くの少女たちが集められていた

 

「…‥‥‥よく集まってくれたね…‥‥‥

 

 こうして僕のような人のために

 集まってくれて、僕としても喜ばしいよ…‥‥‥

 

 そして、みんなのもとにまた新しい子が入ったんだ…‥‥‥

 

 それじゃあ、入っておいで…‥‥‥」

 

そう言って入ってくる一人の少女

少女は向かい合って集まっている少女たちの間を通り

 

彼のもとにまで歩き、膝をついて、頭を下げる

 

「…‥‥‥それじゃあ、自己紹介をして?」

 

「…はい、加東 絵美理と申します…

 

 私の希望でお兄様のもとに加えていただきました…

 

 よろしくお願いいたします…」

 

そう言って周りに聞こえるように自分の名前を言う絵美理

 

一同へのお目通りも済んだところで

絵美理は彼と陽菜子とともに別室で話をしていた

 

「…‥‥‥ありがとう、絵美理ちゃん…‥‥‥

 

 それにしてもまさか君のような優等生が

 まさか僕のもとに来てくれるとは思わなかったよ…‥‥‥」

 

「…以前よりあなたの、えーっと…お兄様たちの活躍は

 耳に入っていたんだもの、その時から興味があってね…

 

 それに…私とお兄様は境遇も似ていますし

 どこか親近感のようなものも感じられる部分もあったしね…」

 

「…ありがとう、絵美理…

 

 あなたほどの実力者がこうしてここに

 入ってきてくれるのは、私たちとしても心強いわ…」

 

そんな雑談をこぼしていく三人

 

「…‥‥‥さあて、それはともかく

 絵美理ちゃんが加わったことは喜ばしいけれど…‥‥‥

 

 はっきり言って問題の方は残ってるんだよね…‥‥‥」

 

「…七誠の事ですね…」

 

気疲れするように彼がため息をつくと

絵美理はやや苦笑いをしながらそう答えた

 

それを聞いて、彼はまたも深いため息をついて

頭を抱えるように頭をがっくりとうなだらせた

 

「…そう言えば、七誠君

 絵美理ちゃんのことが本当に好きだもんね…

 

 絵美理ちゃんがここに入ったってことが

 知ったら、ものすっごく怒るでしょうねえ…」

 

「…‥‥‥まったく…‥‥‥

 

 普段は若干まともな方なのに

 なんでか絵美理のことになると人が変わるからね…‥‥‥」

 

「あははは…

 

 ま、まあ私が後で

 七誠に話をしておきますよ…

 

 それに、七誠だってそんなことで

 目くじら立てるほど子供じゃないですよ」

 

絵美理はやや申し訳なさをいり交ぜた口調でそう締めたのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そして後日

 

「どういうことなの!?」

 

七誠がものすっごい形相で彼に詰め寄っている

 

彼はその反応を見て若干、呆れと諦めを浮かべた表情で見ていた

 

「…‥‥‥聞いた通りだよ、絵美理ちゃんは

 僕たちの組に入ったんだよ、本人の希望でね

 

 むしろ、絵美理ちゃんから聞いていたでしょ?」

 

「聞いたよ、聞きましたよ!

 

 でもね、だからって納得できるわけないじゃない!!

 

 姉さんも確か君の組に入ったんだよね、姉さんは君の事

 慕っていたから別に文句はないよ、でもね、だからって

 絵美理ちゃんにまで手を出すってどういうことなの!?」

 

「…‥‥‥その言い方はいろいろと誤解を招くからやめて…‥‥‥

 

 二人はあくまでうちの組に所属しているってだけだよ…‥‥‥」

 

「そうよ、ななちゃん

 

 ただでさえ彼らの活躍を

 よく思わない人も多いんだからね…」

 

そう言って現れたのは、優生であった

 

彼女は七誠の頭に思いっきり手を押し付けて

彼からグイっと引き離していったのであった

 

「ぐえ‥‥」

 

「ほんとにごめんね…

 

 ちょっとななちゃん気が立ってるみたいで…」

 

「ま、まあね…‥‥‥」

 

優生はそう言って、彼に頭を下げた

 

「ところで、優香を知らない?

 

 最近家に帰るのが遅くって

 ちょっと心配しているんだけれど…」

 

「…‥‥‥ごめん、僕もよく知らないんだ…‥‥‥

 

 さすがの僕も全部が全部、把握しきってるわけじゃないから…‥‥‥」

 

彼は少し返答に遅れながらもそのように答えた

 

「…そっか…じゃあもしも見かけたら

 たまには撃ちに顔を見せるように言っておいてね…」

 

「わかった…‥‥‥」

 

「これだけは言っておくよ!

 

 絶対に絵美理ちゃんに手を出

 もしもそんなことしたら末代まで呪ってやるからなあああ!!!!」

 

七誠は優生に引っ張られながら、彼にくぎを刺していくのだった

 

「…‥‥‥はあ…‥‥‥」

 

「お疲れ様です、兄さん…」

 

嵐が去って一息ついた彼のもとに

陽菜子が現れてゆっくりと彼に付き添ってやる

 

「…‥‥‥いっつも思うんだけれどさ

 七誠はそもそも僕に何か言う前に

 

 絵美理との仲を深めておいた方がいいと思うのに

 どうして僕の方に向かっていってしまうんだろうね…‥‥‥」

 

「ああ見えて、そういう色事には奥手…

 

 つまり、ヘタレなんだよ」

 

気が付かないうちにヘタレ認定されてしまう七誠であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そんなひと悶着があり

頭を抱えている者がここにも

 

「…ほんとに七誠は…

 

 あれほどお兄様に迷惑をかけないように言ったのに…」

 

「‥‥七誠さんは絵美理さんのことが心配なんですよ

 

 何せ、いきなり私たちのもとに加わって

 そのうえでうまくやっていけるのかが、ね‥」

 

先ほど兄のもとに加わった加東 絵美理は

自分よりも前に加入した彩と雑談している

 

「…まったく、余計なお世話だって…

 

 別に私がどこに行こうとも私の勝手じゃないの」

 

「ま、まあそれはそうですね‥

 

 それにしても絵美理さんはどうして

 兄上殿のもとに来たのですか?

 

 あなたほどの人ならばどこでも

 活躍できると思いますけれど?」

 

彩はふと、そのようなことを絵美理に聞いていく

 

「…そうね、以前から気になっていたのよ…

 

 彼…、お兄様という人のことをずっとね…

 

 そして気が付いたのよ

 彼と私には同じ共通点があると

 

 だからこそ私は、私の悲願を果たすには

 お兄様のところに行くべきなのだと感じた

 それで私はお兄様のところに行くことを決めたのよ…

 

 彩はどうなの?

 

 彩も相当、お兄様のことを慕っているようだけれど?」

 

「‥‥私は、かつては神に仕える身でした

 親に捨てられ、教会での教えを胸に生きていた

 

 しかし、教会が怪物に襲われたとき

 私を拾い、私を育ててくれた人たちは我先にと逃げ出した

 

 その時私は信じていた何かが音を立てて崩れていく感覚を味わった‥

 

 私とともに教会ですごした子供たちは次々に殺されて行き

 怪物は残った私に襲い掛かろうとしたときに、あの御人は来てくださった

 

 あの時のあの御人の勇ましく姿を見て

 あの人こそが私が真に信ずるべき御人なのだと感じたんです

 

 ですから私は兄上殿についていきますよ‥

 

 たとえ兄上殿がどのような道を進み続けようとも

 私は私の持つすべてを兄上殿のためにお使いすると決めたのですから‥」

 

「…そっか…」

 

彩の決意に感心を込めた笑みを浮かべる絵美理

 

「…あら、珍しい組み合わせね‥

 

 こんなところで二人でお茶をしているなんてね‥」

 

そんな二人のもとに一人の少女が通りがかる

 

「これは亜依殿、まさかこのようなところで‥」

 

「フフフ、訓練の帰りには

 よくここで涼みに来ているのよ

 

 言うならここは私の行きつけなのよ‥

 

 ところで、そちらの相席している

 あなたが噂の期待の新人さんかな?」

 

そう言って絵美理の方を見て、彩にそう尋ねる

 

「初めまして、加東 絵美理です…

 

 この度お兄様のもとにお仕えする事になりました」

 

「これはご丁寧にどうも

 

 加久間 亜依って言います

 こちらの円藤 彩よりちょっと後に

 お兄様のところに入ったんだ、よろしく」

 

そう言って彩の隣の席に座る亜依

 

「…まあそんなに堅苦しくしなくていいからね

 

 ここでは私たちは対等なんだから

 そんなにかしこまらなくってもいいよ

 

 袖振り合うも他生の縁っていうじゃない?」

 

「…まあそうなんだけれども…

 

 じゃあこっちの方がしっくりくるから

 遠慮なくこの調子でしゃべらせてもらうわ」

 

「‥‥フフフフ、絵美理さんは本当に

 周りに合わせていくのがうまいですね

 

 さすがは、優等生と呼ばれているだけのことはあります」

 

三人はそう言って溶け込んでいくように話していく

 

「…それにしても、あなたがまさか

 お兄様のもとに入っちゃうなんてね‥

 

 私はてっきり、あなたと仲の良かった

 彼のいる春組にい続けると思っていたのに‥」

 

「…はあ…

 

 七誠との仲がそこまで噂されてるなんてね…

 

 いつも言わせてもらっているけれども

 私と七誠はそんなのじゃないから、もう…」

 

「‥‥でも七誠さん

 あなたがここに入っているって知って

 

 毎回のように兄上殿に構っているようですよ‥

 

 兄上殿が愚痴を妹君殿達にこぼしていたとのことですから‥」

 

彩のほほえみ交じりの言葉に絵美理はげんなりとした表情を浮かべていく

 

「あーもう、七誠の奴…

 

 話はつけておいたってのに

 なんでこうも言うこと聞かないのかしら」

 

「…まあ、七誠殿は思い込むと一直線な部分がありますからね‥

 

 七誠さんも結構多くの女性に好かれているようですけれども

 どれもきっぱり断って、自分には心に決めた相手がいるって‥

 

 中には彼の本命は誰なのかって賭けを行っているといううわさも‥」

 

「‥‥康比呂さんですね‥

 

 まったく誰かの恋路を使って

 金儲けをするなど言語道断ですね‥

 

 一度うちに連れて行って性根を叩き直して差し上げなくては‥」

 

彩は怒りよりも呆れを表情に出して、頭を抱えて言う

 

「まあ、あいつに比べれば

 七誠なんてまだいい方よね…

 

 少なくともお兄様に危害は加えていないしね…」

 

「…康比呂さんも危害は加えていないと思うけれど‥」

 

「…倫理の問題だっての…

 

 まあ、なんにしても私はこの道を選んだことは後悔はしてないわ…

 

 たとえこの先に何が起ころうともね…」

 

絵美理の言葉に、彩も亜依も静かに頷くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

一方そのころ、噂の的になっている本人は

 

「はあああ~‥‥」

 

盛大なため息をついていた

 

「どうした七誠の奴‥‥

 

 随分と悩んでいるようだが?」

 

「うん、絵美理ちゃんがね

 彼のもとに入ったのがどうにも納得がいかないみたいなの…

 

 ずっと春組に入らないかって勧誘していたのにね…」

 

そんな彼を見て、ひそひそと話をしている二人

 

「まあ、あいつは一途だからな‥‥

 

 いろんな女性にアプローチされても

 絵美理がいるってかたくなだったもんな‥‥」

 

「まあ、絵美理ちゃんが彼のもとに行ったのは

 そういう感情からじゃないからね、だって彼には

 

 響子さんっていう本命がいるんだから…

 

 そういうことだからななちゃん、元気を出してよ」

 

優生はそう言いながら七誠に話しかけていく

 

「…わかってるよそのくらい‥‥

 

 だって僕は絵美理ちゃんのことも

 彼のこともよく見てきたんだもん、だから‥‥

 

 だからどこか心のどこかで絵美理ちゃんは

 彼のもとに行ったことも不思議とそうなるだろうって思ってた‥‥

 

 だからこそ余計に…余計に悔しいんだ‥‥」

 

「…ななちゃん…」

 

優生は七誠の沈んだような言葉に優生はそっと寄り添っていく

 

「…ななちゃんと彼は本当によく似てるね…

 

 一途なところとか自分よりも相手のことを

 考えることとか…ほんとにそっくり…でも一つだけ違うところがある…

 

 ななちゃんは自然と人を引き寄せるけれど…彼は人を寄せつけない

 寄せ付けようともしない…そこだけがななちゃんと彼の違うところ…」

 

「…多分、彼、は昔取ってもつらいことがあったんだと思う‥‥

 

 だからそう簡単に人に心は開かない、開くことができないんだよ‥‥

 

 そこを治せばきっと周りも彼のことを認めてくれると思うんだけれどな‥‥」

 

「‥‥まあでも、あいつのことをわかってくれている奴も少なからずいる‥‥

 

 絵美理もその一人さ、それにあいつのおかげで多くの奴らも救われてきたんだしな‥‥」

 

春三がそう言って話を占めていく、だが彼の表情は少し曇っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の過去にいるある少女とのことがあり、そしてその少女もまた

彼がかかわることによって更なる運命の渦中に巻き込まれて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




春三の含み・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死神と呼ばれた少女

異変の中心


 

今よりも遥か昔の事

 

夜のとある町の中を

一人の黒い布をまとった少女が通っていく

 

すると少女は足を止めると

自分の後ろ隣の建物において

ひっそりとたたずんでいた一人の青年を見つける

 

「‥‥本当に抜けてしまうのか‥‥」

 

「‥‥だってこれ以上ここにいても…

 

 苦しいだけなんだもの…

 

 そんな思いをしてまで、貴方の元にいたいとは思わない…」

 

「だからってここを抜けたってどうにもならないだろう!」

 

青年はやや声を荒げて声をかける

だが少女は振り向くこともせずに再びゆっくりと歩みを進めていった

 

「‥‥私、貴方に何度も何度も頼んだよね…

 

 私のこの力をどうにかしてほしいって

 どうにかして周りに認めさせてほしいって…

 

 それで結局、何か変わった?

 

 みんなは私の事冷めた目で見続けてる…

 

 最初のころからずっと、変わらずに‥‥そうだよ…

 

 何にも変わってないんだよ、変えられないんだよ結局

 これ以上自分を苦しめてまであそこにいたいと思わない…

 

 そんな思いをして生きていくくらいなら死んだほうがましよ!

 

 私はもう死にたいのよ、そんなことばっかり考えてるのよ!!

 

 何度も何度も死のうと思ったのよ‥‥でもそれだってかなわなかった…

 

 生きていてもいい事なんてない‥‥だからって死んで楽になることもできない…

 

 だったらせめて‥‥逃げるくらいの自由はさせてよ!!!」

 

「っ!」

 

彼女の苦しみを帯びた言葉に春三は何も言うことはできなかった

 

「‥‥春三さん…

 

 結局あなたは何にもできなかった

 あなたの意志とも関係なくあなたは私に嘘をついた…

 

 私は‥‥もう、何もかも投げ捨てて生きていく

 夢も‥‥希望も‥‥未来も‥‥何もかももういらない‥‥

 

 だからもう貴方と会うこともないしそうしたいとも思わない‥‥

 

 だから‥‥もうさようならだよ…」

 

そう言って彼のもとを去っていく少女であった

だが、春三は自分に振り向こうともしない少女に言う

 

「俺様は、俺様はあきらめないぞ!

 

 どんなにかかったっていい、絶対にお前を

 その苦しみから救ってやる、だから‥‥だから‥‥

 

 生きるのに臆病にならないでくれ!!」

 

春三は必死の思いを少女に大きく訴える

だが、そんな彼の必死の言葉も、少女には届かなかったのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「‥‥ふう‥‥」

 

春三がやや思いつめた様子でため息をついた

 

「…‥どうしたの、春三

 

 随分と思い悩んでいるように思えるけれど?」

 

「‥‥ああ、ちょっと昔のことを思い出してな‥‥

 

 あの時、俺様は苦しんでいる一人の少女の心を

 救ってやることができず、やがて死に場所を求めて

 去っていく彼女を引き留めることもできないまま‥‥

 

 あれからもう長い年月が経ってしまった‥‥

 

 結局、俺様はまたあの子を救ってやることができなかった‥‥

 

 俺様は俺様自身の無力さを痛感したよ‥‥」

 

「…そんなことがあったんだ…」

 

「‥‥春三殿、貴方の後悔はある程度の理解はできますが‥‥

 

 今は組長会議の途中であるということを、どうかお忘れなく‥‥」

 

年配の男性、冬三に言われ

春三は意識を今の状態に向けていく

 

「‥‥そうだな、それで今回の議題は‥‥

 

 ここ最近の穢れの不穏な動きについてだ

 それぞれの組においての動きに何かないかを教えてもらいたい‥‥」

 

春三がそう切り出していくと、まずは四人の中で

比較的に若く見えるこの中で唯一の女性、秋四が先に証言する

 

「…ええ、ここ最近の穢れは

 異様なまでに力が上昇しています…

 

 この前にはたった一体の穢れに

 うちの組員、1760人で挑んでようやく倒せました…

 

 ですがその時にほぼ無事だったのはそのうち176人でした…」

 

「なんと‥‥

 

 確かにそのような報告は上がっていますが

 まさか、立った一体の穢れにやられたとは‥‥」

 

「でも、秋四の組は平均年齢がわかめだから

 実戦経験がなかったことも手伝ったんじゃ…」

 

そう言って若者、夏三はそのように発言する

 

夏三自身は別に秋四の組員の実力を侮っているわけでも

見下しているわけでもない、ただ秋四の報告が信じられない

 

ゆえに自分がどうにか納得のいく答えを発言したに過ぎない

 

しかし

 

「‥‥私の方も同じような結果ですな‥‥」

 

年配の男性、冬三の発言に

他の三人は思わず彼の方を見る

 

「‥‥ここのところ穢れ一個体の力が

 日を追うごとに大きく強大になっているように感じられました‥‥

 

 私の組においても、対応が追い付かないのが現状です」

 

「冬三さんの組が!?

 

 まさか、そんなことが…」

 

「…‥ねえ、春三…

 

 これってひょっとして

 誰かが穢れの力を強くしている

 

 そうとしか思えないくらいに

 穢れに異常が起こってるとしか言いようがないよ…

 

 早く原因を突き止めて、早々に問題を解決しないと」

 

「わかっている‥‥

 

 そのことについては俺様の組でも

 もちろん対応するさ、そしてもちろん‥‥

 

 あいつにもこの件を放そうと思う‥‥」

 

春三の言葉にほかの三人はただ静かに彼を見つめていた

 

そして、肝心の春三の心中はとても穏やかではなかった

 

「(‥‥穢れが強く‥‥

 

  まさかあいつが‥‥

 

  でもまさかそんなことが‥‥

 

  もしもそうだったら

  俺様は一体、どんな顔で‥‥)」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ彼は、ある場所を歩いていた

 

水波夜とともにとある場所を目指すために

やや水が張っているその場所を歩いている

 

「…‥‥‥ここか、穢れの力が

 大きくなっていく異変の中心は…‥‥‥」

 

「…ええ、組長会議での会話の内容を

 読み取っていった結果、ここにたどり着いたよ…

 

 このあたりのどこかにその手掛かりがあるはずだと思うけれど…」

 

そう言って二人はそのあたりを歩いている

何やら大きな何かが張ってきているのを感じてきている二人

 

「…‥‥‥あそこかな、なんだか黒い何かが噴き出してる…‥‥‥」

 

そう言って彼はその黒いオーラが噴き出して居る方の中心部へと

急ぎ向かっていくのを見た水波夜は急ぎ足で彼の後を追いかけていくのであった

 

するとそこに合ったのは、ボロボロになった古い建物だった

 

「…なんだか不気味な建物だね…

 

 とても人が住んでいるようには思えないけれども…」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

すると、二人の方に向かって巨大な穢れが勢いよく襲い掛かっていき

彼も水波夜もそれぞれ武器を手に取って応戦していくが、どんどんと押されていく

 

「…ぐう!?

 

 なにこれ、すっごい力…

 

 とてもじゃないけれど

 私でも対処しきれないかも…」

 

押されていく水波夜だったが

穢れは突然、体が二つに分かれて消滅する

 

その向こう側に立っている

彼の姿を見て安どのため息をつく水波夜

 

「…ごめんお兄ちゃん…」

 

「…‥‥‥無事で何よりだよ

 それにしても、ここまで穢れが強くなるなんてね…‥‥‥」

 

武器を収めて改めて向こうに見えるボロボロの建物に目をやる彼

 

「…やっぱりあそこには何かがあるってことなのかな…」

 

「…‥‥‥いずれにせよあそこには

 何かがあると考えて間違いないだろう…‥‥‥

 

 行くよ、水波夜…‥‥‥」

 

彼がそう言って目的の場所に行く

水波夜は一緒に向こう側に見えている

その目的地の建物に入っていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その建物の中は外見から見てもわかるように

とても人が住んでいるようには思えないほどにひどい場所だった

 

「…果たしてこのようなところに

 ここ最近の穢れの異変の原因があるのでしょうか…?」

 

「…‥‥‥少なくとも人為的であるという可能性は低いだろう…‥‥‥

 

 かりに誰かがかかわっていたとしても

 こんなところにこもっている理由もないだろうしね…‥‥‥」

 

とにかく奥の方へと進んでいく二人

やがて蜘蛛の巣や壊れた家具などをかき分けて

たどり着いたそこにあったものを見て、二人は息をのむ

 

「…あれって…」

 

そこにあったのは黒い布に包まれ

後ろにある壊れた木材に寝転がるように動かない

人型の何かがそこに眠り込むように倒れていた

 

水波夜は恐る恐る近づいて、動かない人型の方に近づいていく

 

「…これって、死体…?」

 

そう言ってじっと倒れている人型を見ていると

不意に水波夜は何かに近づいてくるのを感じて

急いでその場から離脱すると、何かが水波夜に攻撃を仕掛けてきた

 

「…何者!?」

 

そこにいたのは、大きな鎌を振り上げて

襲い掛からんとしていく一人の男性である

 

「‥‥出ていけ…ここから‥‥…

 

 死にたくないなら‥‥早く…」

 

そう言う彼の目はとても虚ろなものであった

目じりにはカラスの足跡が真っ黒に映っている

 

「…あなたは一体何者…?

 

 ひょっとしてだけど

 穢れが異様に強くなっている原因に

 心当たりがあるのかな?」

 

そう言って杖を構えていく水波夜

だが目の前の男性は特にそれを見て反応を見せることはない

 

「‥‥出ていかないのなら…

 

 無理やりにもここから追い出す!」

 

「ぐう…」

 

そう言って大鎌をふるって、水波夜に襲い掛かっていく

水波夜は巧みな動きと体さばきで、その攻撃をいなしていく

 

「‥‥出ていって…出て言ってってば…

 

 出ていけええええ!!!」

 

「っ!」

 

先ほどまで静かな雰囲気だった男性は

急に声を荒げながら、水波夜に攻撃を仕掛けていく

 

「…なんなのこいつ…

 

 まさかここまで、押されるなんて…」

 

「うああああ!!!」

 

そう言って水波夜の杖による一撃をはじき

彼女の首元に大鎌を構えていこうとしていく

 

「っ!?

 

 (まずい…やられる…!)」

 

「ああああ!!!」

 

だがその一撃は第三者による一撃がその一撃を止める

 

「…‥‥‥僕の妹に何をしているのかな…‥‥‥?」

 

「お兄ちゃん!」

 

そう言う彼の冷たい一言とともに

男の首は落とされて後ろの方に転がり込んでいき

 

斬られた個所から勢いよく血が噴き出していき

どさっと体の方もうずくまるように倒れこむのであった

 

「…ごめん、お兄ちゃん…

 

 私としたことがこんな失態を…」

 

「…‥‥‥気にしないで、無事で何よりだよ…‥‥‥

 

 それに、多分あれは本体じゃないよ…‥‥‥

 

 そうだよね、さっきからそこで死んだふりしてる人?」

 

そう言って、先ほど最初に見つけた死体に目をやる彼

 

「待ってください、あれは死体ではないのですか!?」

 

すると、ピクリと指が動き

ゆっくりと黒い布に覆われたその人物が起き上がっていく

 

「…っ!?

 

 生きていた!?」

 

水波夜が驚いた様子で目の前の人物を見ている

 

「‥‥私を殺しに来たんですか?」

 

「…‥‥‥どうしてそう思うの?」

 

立ち上がってゆっくりと歩み寄っていくその人物は

先ほど彼が首を落とした男性の体の方に目を向けるように

フードに覆われた頭を動かなくなったその男性の体の方に向ける

 

「‥‥この人や、今までやってきた人たちも

 例の異変の原因として私の命を奪おうとしていて…

 

 多くの場合は返り討ちか、この人のようにしてきてる…

 

 私はこの力のせいで人にできないことをやることができる…」

 

「…どういうこと?」

 

目の前の人物の言葉の意図が読めずに聞き返す水波夜

 

「‥‥とある星座に生まれた人が私であるのならば

 私はとある星座に生まれた人なのであると私の能力が証明している…

 

 言うならば私は、私と同じ星座に生まれた人々そのもの…

 

 故に彼は私であり、私は私と彼や彼と同じ星座に生まれた人々その者たち…

 

 言うならそれが私なの…」

 

「…‥‥‥なるほどね…‥‥‥

 

 待遇論法に基づいた能力ってことか

 言うならば君がある星座のもとに生まれたことを証明するために

 同じ星座のもとに生まれた人々を集めることで証明しようとした

 

 そしてそれは…‥‥‥君がその力に

 目覚めてしまったことで証明されてしまった、そういうことだね」

 

彼の問いに相手は沈黙する、それを肯定とみなす二人

 

「‥‥私は存在そのものが…

 

 私と同じ運命に生きたものたちの人生を

 狂わせてしまうものであると悟った、だから私は…

 

 人目を避けて、誰も通らないこの場所で余生を

 過ごそうと思ったの、誰にも関わらず寄り添わず

 

 私は生きていちゃいけない存在なの‥‥私はもう…死にたいのよ‥‥…」

 

そう言って後ろ向きな発言をしていくと

その人物に向かって彼はゆっくりと近づいていき

 

「…‥‥‥そんな悲しいこと言わないで…‥‥‥

 

 自分の力が周りの運命を狂わせてしまうからって

 それで自分の人生を狂わせてしまう必要なんて、ないんだよ…‥‥‥」

 

「‥‥無責任なこと言わないでよ!

 

 私がこの力のせいでどんなに苦しい思いをしたのか知らないくせに!!」

 

「でも君が苦しんでいるのは見ていればわかるよ!」

 

彼が初めて声を荒げるのを見て目を見開く人物と

その様子に驚いたように口元に手を添えていく水波夜

 

「…‥‥‥確かに僕には君の苦しみを理解しきる事はできない…‥‥‥

 

 君にこうやって手を伸ばしてあげることぐらいしかできない…‥‥‥

 

 だけれどね、そうやって少しでも君の心を救えるのなら

 僕は絶対に君のことをあきらめない、諦めたらそれこそ…‥‥‥

 

 君をその暗闇から助け出すことは絶対にできなくなってしまう!」

 

「‥‥私は…助けてほしいなんて‥‥…」

 

目の前の人物は口ごもりながらも拒絶の言葉を口にしていく

 

「…‥‥‥だからって、目の前で苦しんでいる君を

 見捨てるなんて、僕にはできない、絶対にしてはいけないんだ!

 

 もう二度と、同じ過ちを繰り返さないために…‥‥‥」

 

「‥‥同じ…過ち‥‥…?」

 

目の前の人物は彼の悲しそうな表情に

彼の不意に出た言葉が気になって尋ねるようにつぶやく

 

それを聞いて不意に彼を見上げた少女が見たその瞬間に

 

「‥‥なんて冷たくって…暖かい人‥‥…

 

 こんなにも不思議な人‥‥私は…初めて会った‥‥…」

 

彼女は思わずは手を伸ばしていく

不思議と伸ばせば届くのではないかと感じた

 

自分の心の底からの望みに

 

「‥‥きたい…です‥‥…」

 

「…え?」

 

目の前の人物が不意につぶやいた言葉に

水波夜は思わず聞き返した、するとその問いに

 

「私は生きたいです…

 

 もう一度望んでいいのなら

 私は生きてみたいんです、お兄様!

 

 私に生きる意味をください、私に

 生きているっていう証をください!!」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

その人物が顔を見上げると、やや顔が見えたので

彼はその布を払い、その素顔を見た彼はこうつぶやいた

 

「…‥‥‥もちろんだよ…‥‥‥

 

 僕も生きる意味を見つける、だから一緒に探そう…‥‥‥」

 

こうして

 

この世界においての最後の御子を見つけ出したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の時は今、来る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




死神は生きることを望む


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄の中で動くもの

春の大曲線


 

 

穢れから星座の都に生きる人々を守るために

結成されている部隊、正式な名称はないものの

 

穢れより人々を守り、世界から見捨てられて

星座の都という最後の居場所において人々の恐怖に彩られた

人々の最後の希望となるという意味でかの者たちはこう呼ばれている

 

英雄、と

 

英雄には全部で四つの組があり

それぞれが春夏秋冬によって分けられている

 

春組は組織をまとめるために

 

夏組は戦闘を有利に進めるのに

 

秋組は部隊の教育に

 

冬組は後継者達の指導員に

 

それぞれ特化していて

その四つの組にはそれぞれの組長がまとめている

 

東龍 春三

 

南雀 夏三

 

西虎 秋四

 

北亀 冬三

 

この四人の班長がそれぞれ

春夏秋冬の組をまとめている

 

そして、もう一人

 

十文字 似非

 

彼はどこの組にも所属せずに

どこのやり方にも縛られないやり方で

独自の組をまとめ上げていた、だからと言って

 

英雄としての職務をないがしろにしているわけでもない

 

むしろ組という枠組みに縛られずに

独自の観点から動き続けていくことができるのは

時にはいい利点として動いていくこともあった

 

ゆえに彼は、組員たちからも一目置かれていた

 

だが、それ以上に彼らが畏れ

一目置く者たちが英雄の中にいた

 

兄と呼ばれる男

 

その彼に付き従う十一人の妹たち

 

そんな一同のもとに集められた88人の異能の少女たち

 

彼女たちは彼の力を受けて

多くの戦いにおいて勝利に貢献し、人々を救ってきた

 

その少女たちはその圧倒的な力の前に

人々にこう呼ばれて畏れ、敬われた彼女たち

 

その者たちは、やがて人々に認知されて行った

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼は玉座に座っている

 

彼の後ろの両方には三対六人

彼の横には一対二人の、前には三人の妹たちが控えている

 

その前には、前方に十一人

向かって右側と左側に七人

 

その後ろにもずらりと多くの者たちが控えている

 

その人数は前に控えている者も含めて

百数人単位の者達であった、その全員が

見た目年端も行かない少女や若めの女性のようにも見える

 

「…兄さん、私は本当にびっくりだよ

 兄さんの人徳が、ここまで多くの子たちに

 

 ここにいる子たちの多くの者達の心のよりどころに

 なることができているだなんて、本当に驚きだよ…」

 

そう言って彼の左側に立つ少女

彼の双子の妹の陽奈子が彼に控えている少女たちを見て

 

感服するように告げる

 

「…お兄ちゃん…

 

 こうしてここまでそろった以上

 いつまでも私たちが名無しの集団で

 あり続けていくのも格好がつかないと思うの

 

 せっかくだし、私たちで

 ここにいるみんなの呼び方を決めたらどう?」

 

そう提案するのは彼の左側に立つ少女

彼の年子の妹の地花乃はゲン担ぎを提案する

 

「…‥‥‥僕は別にいいけれど

 みんなはもしも呼ばれたいのがあるんだったら

 

 何がいいって思う?」

 

「…うーん、そうだね…」

 

そう考えこむのは、水波夜

彼女やほかの妹たちも考えこんでいる

 

すると

 

「あの、お兄様…

 

 一つ思いついたのですが…」

 

そう言って手を挙げたのは

妹たちの中でも体が弱く、ここに来るのも奇跡ともいえるほど

 

そんな彼女、月夜美が弱弱しくもはっきりと意見を申しあげていく

 

「星座の御子、というのはどうでしょうか?」

 

「…‥‥‥どういう意味があるの?」

 

「ここにいる皆さんはお兄様にとっては

 ただの上司と部下という関係ではありません

 

 私たちのように血のつながりがなく

 縁が浅くとも、それでも家族のように思っている

 

 そしてこれも運命ともいえるのでしょうか

 ここにいらっしゃる皆さんはそれぞれがそれぞれの

 星座の運命のもとに生まれております、ですから

 

 各々の星座の力を受けた、お兄様や私たちと

 家族という特別なつながりを持つもの、という意味を込めて

 

 星座の御子、と提案させてもらいました…」

 

月夜美はそう言って兄に丁寧に説明をしていく

 

「うーん、悪くはないけれど…‥‥‥

 

 みんなはどう思う?」

 

彼が訪ねると、前に控えているうちの一人が口を開く

 

「‥‥そうですね…

 

 でしたら、少し変えて星座と星官

 この二つを合わせて星座宮と名前を変えて

 

 星座宮の御巫子、というのはどうでしょうか…

 

 私たちは黄道の星座と白道の星官

 両方の力を備えています、そして私たちは

 お兄様を神と例え、私たちはその身内として

 巫女と御子、二つの呼び方を合わせてみました

 

 どうでしょうか?」

 

そう言うのは、彼女たちの中で古くより

兄に仕えている者の一人、小早志 真苗であった

 

「…‥‥‥いいだろう、では君たちはこれより

 星座宮の御巫子と名乗り、これからの戦いに一層備えてほしい

 

 それじゃあ、行こう…‥‥‥」

 

「「「「「「「「「「「「「「はっ!

 

              私たちのすべては

              お兄様の悲願とともにあり!!」」」」」」」」」」」」

 

そう言って異性に声を張る一同

 

こうして、彼というものに力を与えられ

強大な力を持つ者達、のちの世に星座宮の御巫子が結成された瞬間であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、御巫子と呼ばれた少女たちの中には

他の四つの組の者達と何らかのかかわりを持つものもいる

 

「おーい」

 

 

ある人物がとある人物を見つけてきて、大きく呼びかける

 

「‥‥春三さんか、お変わりはなさそうですね‥」

 

「まあな、そういうお前の方は一皮むけたか?」

 

「無礼ですね、春三さん

 ワタクシは瑠璃田 佐紀

 

 お兄様にお仕えする

 獅子座の巫皇女女ですわよ」

 

そう言ってやや不満そうに言う少女、佐紀

そんな彼女を見て感慨深そうにつぶやいていく春三

 

「それにしても驚いたもんだよ

 

 まさかお前のようなじゃじゃ馬が

 よもや星座宮の御巫子の一員になるなんてな‥‥」

 

「フン、別になれ合いがしたくて

 入ったわけじゃないわよ、ワタクシはただ‥

 

 ここに入れば強くなれるんだって思っただけ‥

 

 別に兄者様や、その妹君方のことを認めたわけではないんですの‥」

 

そう言ってやや不愛想に返していく佐紀

 

「まあいいさ、元気そうでやってるなら別にいいさ‥‥」

 

「フン、気に入りませんわねその余裕の表情‥

 

 ワタクシはこれでも兄者様のもとで、

 力を携えていただいて、あなたが知っていた時よりも強くなったのですよ?」

 

「‥‥俺様から見れば別に気にするほどのもんじゃねえ‥‥

 

 お前が強くなったことは感じてるし、認めてもいる

 でもだからってそのことでお前とどうこう言うつもりもない

 

 それだけだ‥‥」

 

そう言って佐紀に背中を向けて去っていこうとすると

佐紀はそんな彼を睨みつけるように目を細めていくと

両手からレーザークローを展開しては春三にとびかかっていった

 

「っ!?」

 

「前々から気に入らなかったんですのよね!

 

 あなたのその傍観者のようにしか

 人を見ることのできないところがね!!」

 

そう言って十本のレーザークローが

一斉に振るわれて春三に向かって切りかかっていく

 

春三は背負っていた槍を使って

その攻撃を巧みにかわしていきつつ応戦する

 

「お前もそういう短気なところ‥‥

 

 ちっとも変わらねえな

 いったい何が気に入らないっていうんだ」

 

「すべてですわ!

 

 貴方の態度、性格、実力

、そのすべてにむかっ腹が収まりませんの!!」

 

そう言って激しくぶつかり合っていく双方だったが

そこに一つの影がとびかかっていき、その勢いを止めた

 

佐紀の後ろに回って彼女の首元に刃をつけているのは

 

「‥‥佐紀‥

 

 出しゃばりが過ぎるわよ

 仮にも、黄道星座の巫女に選ばれているあなたが‥」

 

「照‥

 

 あんたごときがこの私を止められるとでも‥!?」

 

グルルル、とうなるように自分を抑え込んでいる

照という彼女の方を鋭くにらみつけて、爪を向けんとする

 

「佐紀‥

 

 あんまりやりすぎると

 あんたの首が飛ぶわよ、いろんな意味で」

 

「なんですって?」

 

そう言ってそこに現れたのは

 

「ここにいたんだね、佐紀…‥‥‥」

 

なんと彼であった

 

「ひ、ひい!?

 

 兄上殿!?」

 

「…‥‥‥佐紀、いったい何やってたのかな?

 

 君の勝手な行動が僕の、ひいては

 僕たちの品位が疑われてしまうかもしれないんだよ?

 

 もっと、今の自分に自覚を持っていてほしいね…‥‥‥」

 

そう言って少し凄みを利かせた声で

佐紀に注意を呼び掛けていくのであった

 

「…で、でも兄上殿‥

 

 私はただ、兄上殿のために‥」

 

「佐紀!

 

 これ以上大きな口をたたくのなら

 これからの君の処遇を考えないといけない…‥‥‥

 

 僕に身内を裁かせるようなことはしないでくれ…‥‥‥」

 

彼にそう言われて、佐紀はその場に縮こまってしまう

 

「…ぬぬぬ‥」

 

「…‥‥‥どうやら佐紀が迷惑をかけてしまったようだね…‥‥‥

 

 申し訳ない…‥‥‥」

 

「‥‥い、いや‥‥

 

 別にいつものことだ、気にしないでくれ‥‥

 

 それよりも、しばらくしないうちに

 随分と大所帯になったものだな、それと確か‥‥

 

 星座宮の御巫子と命名したんだったな‥‥

 

 これでお前たちの事の呼び方を

 考える必要もなくなったというわけだな」

 

春三はフンと胸を張るように言う

それを見て、呆れたようにため息をつく彼

 

「それにしても‥

 

 春三さんと佐紀さんは

 面識があったんですね、そこに少し驚きね」

 

「まあ仲がいいというわけでもないけれどな‥‥

 

 あいつはどうにも俺様のようなタイプとは

 相容れないというか受け付けようとしない部分があるからな‥‥

 

 それでさっきのようにいきなり戦いを挑まれたりとかして

 少し手を焼いていたんだ、あいつのところに行って最近はあんまり

 からまれること自体はなくなったから、少しマシになったんだと思ったんだが‥‥」

 

佐紀を止めた照に聞かれて

春三は説明するようにその問いに答える

 

「それにしても、照‥‥

 

 お前もまさか御巫子になっていたなんてな

 あいつと同様、どこかの組に所属するとは思えなかったからな‥‥」

 

「そのあいつっていうのは、誰の事かしら?」

 

そう言ってその場に現れたのは一人の少女であった

 

「‥‥絵美理さん‥

 

 どうしてこちらの方に?」

 

「そりゃあ、向こうでうちの組員が

 ドンパチやってるっていうんだから

 

 一応駆け付けるに決まってるでしょ?」

 

「ふぎぎぎ‥」

 

絵美理にそう言われて、佐紀は苦虫を嚙み潰したように険しくする

 

「…‥‥‥ごめんね、絵美理…‥‥‥

 

 僕が至らないばっかりに

 多忙な君に余計な気を遣わせちゃって…‥‥‥」

 

「気にしないでよ

 

 これが私の役目なんだから

 

 それに、むしろ謝るべきなのは

 貴方の方じゃないかって思うんだけれど?

 

 私のこの言葉、間違ってるかしら佐紀?」

 

絵美理はそう言って佐紀の方を睨むように見つめる

 

「わ、ワタクシはただ

 春三が生意気な態度をとったから‥

 

 少し、懲らしめてやろうと‥」

 

「だからっていちいちそんなことで

 突っかかったりしないでよ、見苦しい

 

 仮にも貴方は黄道星座の巫女の一人なんだから

 それにふさわしい態度をとりなさいよ、まったく…」

 

佐紀はその言動に苛立ちを覚えたのか

レーザークローを展開して身構えていく

 

「上等だこの!

 

 そういう大きな口は

 あたしを一度でも止めてから言いなさいよ!!」

 

佐紀はそう言って絵美理に勢いよく切りかかっていくが

絵美理はそれを何も動じることなくいなして伏せて見せた

 

「…んな!?」

 

「どう?

 

 止めて見せたけれど?

 

 これで私のいうこと、聞いてくれるわよね?」

 

そう言って絵美理はやれやれといった具合に

佐紀を押さえつけていた腕をゆっくりと放していく

 

「…くそ、一度伏せたからって調子に‥!」

 

「佐紀!」

 

「…っ!?」

 

懲りずに絵美理にかみつこうとする佐紀を

彼は凄みを利かせた声で呼びかけると、佐紀は体を大きく振るわせる

 

「…‥‥‥これ以上問題を起こして

 なおかつそれで絵美理を傷つけようものなら…‥‥‥

 

 僕はもう君を許してあげることはできなくなる…‥‥‥

 

 それが嫌なら、おとなしく言うことを聞くんだ…‥‥‥」

 

「…ひぃ!」

 

佐紀は思わず情けない悲鳴を上げて

思わずその場につくばうように体を地面に伏せる

 

佐紀のみならず、照や絵美理

春三などその場にいた者たちも旋律を覚える

 

「(‥‥なんだこれは‥‥

 

  これはあいつが発しているのか‥‥

 

  これほどの底知れない力を

  あいつは秘めているというのか‥‥)」

 

普段は自信ありげな態度を崩さない春三も

内心、この重圧の前には動揺を隠しきれていない

 

だが表向きはどうにか冷静な態度を取りつくろっている

 

「…‥‥‥フフフフ、わかってくれたようでうれしいよ佐紀…‥‥‥

 

 佐紀は本当は素直に言うことが聞ける

 いい子なんだから、今度は気を付けてね…‥‥‥」

 

「…は、はい‥

 

 今後は気を付けます‥

 

 申し訳ありませんでした‥」

 

佐紀は冷や汗を垂らしながら謝罪の言葉を述べる

 

「…‥‥‥さて、うちの子が迷惑をかけちゃってごめんね…‥‥‥

 

 それじゃあ絵美理、そろそろ戻ろうか…‥‥‥

 

 君には余計な手間を増やさせてしまったようで申し訳なかったね…‥‥‥」

 

「気にしないでってば…

 

 まったく、そんなことで

 いちいち目くじらなんて立てないわよ…」

 

絵美理はしょうがないんだからというように

苦笑いを浮かべながらも、明るい声色で返していく

 

「ほら、早くいくよ佐紀…‥‥‥

 

 いつまでも落ち込んでないで早く来なよ…‥‥‥」

 

「え、ええ‥」

 

急に話しかけられて慌てて彼についていく佐紀

 

春三はその光景を最後のその時まで見つめていた

 

「‥‥どうやら、お兄様の威圧に

 当てられちゃったみたいのようね‥

 

 私もあれには最初の時は本当にびっくりしたから‥」

 

「‥‥威圧か‥‥

 

 確かにあいつの威圧はただものじゃない

 俺様がいない間にいったい何があったんだ?」

 

するとまだその場にいた照と

二人の少女がそれぞれ春三に話しかけている

 

「あの人はあくまで昔と変わっていません

 ただ単純にあの人は規格外という言葉が似合わない

 

 それほどに底知れない何かが

 あるように感じられる、そうだよね二人とも?」

 

「ええ、あの人は存在そのものが異常です…

 

 時折我々の目にもかすんでいるかのように

 思える瞬間時折感じられる時がありますね…」

 

「ええ…

 

 でもだからこそあの人は誰よりも純粋です

 自分に嘘をつけずに、自分が信じると決めた人は

 絶対に信じる、ですがあの性分ゆえに周りから誤解され

 

 誰からも引かれる部分あれど、裏切られやすい人でもある…」

 

二人の少女はそれぞれの評価を口にしていく

 

「‥‥確かにそうだろうな‥‥

 

 あいつは一見すると冷たくて淡泊に見えるが

 あいつが認めたやつに関しては否が応でも信じぬくところもある‥‥

 

 ああいうところが、周りを魅了させていくのかもな‥‥」

 

「‥‥まったく‥

 

 お兄様は見ていても

 決して飽きることのない人だ‥

 

 それに、あの人のおかげで

 自分の在り方を見つけられた者もいる‥

 

 かくいう私の方もそうだしね‥

 

 あんたたち二人もそうでしょ?」

 

「ええ」

「うん」

 

照の問いにそのように答える二人の少女

 

「よっぽど信頼しているんだなあいつのことが‥‥」

 

「ええ、私は最後まであの人についていくわ

 

 たとえそれで、貴方達と敵対する事になったとしてもね‥」

 

最後の部分は小声でそう言いながら

照は二人の少女とともに去っていくのであった

 

「うん?」

 

春三は照の最後の言葉が気になっていたが

特に深く考えることもなく、その場を去っていくのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

暗い部屋のもとに

一人の人物がじっと何かを見つめている

 

すると、そこに

彼がゆっくりとその場所に現れていく

 

「…‥‥‥ここにいたんだね…‥‥‥

 

 久々に彼に合ってきたよ

 君と彼は昔、あったことがあるんだよね…‥‥‥」

 

そう言いながらその人物のもとに歩み寄っていく

 

「ええ、かつて私と彼は一緒だった…

 

 でも、私は望んで彼のもとから離れた

 彼は結局、私のこの力を異端のようにしか見ていないかったから…」

 

「…‥‥‥異端…‥‥‥

 

 もしかしたらそれが

 今の僕たちにふさわしい現し方なのかもしれないね…‥‥‥」

 

静かな声色で答えるフードの人物の言葉に

彼はやや自虐と皮肉を秘めた口調でそう返した

 

「‥‥貴方はそうは思えない…」

 

「それはあくまで君から見て

 そう感じているだけでしかないんだ…‥‥‥

 

 僕から見ても君のその力は異端だと感じても

 それで僕たちとは違うとは感じてはいないよ…‥‥‥

 

 君はどう?

 

 君は僕と君が違うって感じているの…‥‥‥?」

 

彼にそう言われた人物は

 

「それは…」

 

何も答えられなかった、いや

言う必要はない、そういう意味での口紡ぎだ

 

「…‥‥‥僕たちはこれから

 攻略のために、力をすべて集める必要がある…‥‥‥

 

 君もまた、僕達にとって必要な力であり

 僕にとってはまさに特別な存在だともいえる…‥‥‥

 

 残りの力を集めるためにも、そして

 世界をあるべき姿に戻すためにもなくてはならない力だ…‥‥‥

 

 だからこそ、君の力を必要としているんだ

 その時が訪れた時はぜひとも頼りにさせてもらうよ…‥‥‥

 

 涼子…‥‥‥」

 

「お兄様…

 

 そう言って下さること

 私は心の底から嬉しく思いますよ…」

 

そんな会話を交わしていく双方であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の時は静かに迫る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




大曲線の先にいるのは・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの交流

嵐の前の静けさ・・・・・・・・・


 

僕が彼女に会ったのは

連盟に加入して、北斗の剣士と呼ばれ

 

それなりに名前をはせてきた時ぐらいだった

 

最初の時はただの動機で

どちらかというと親戚の子と話を

していくという感覚に近い部分があった

 

でも、その時に巨大な穢れに襲われ

危うく死んでしまうかもしれないほどに

追い詰められた僕を、彼女が助けてくれた

 

その時僕を守るようにして

目の前の穢れと立ち向かっていく姿に

 

僕は不思議と惹かれていって

気が付いたら僕の心は、彼女のことでいっぱいになった

 

それからというもの僕は不思議と

彼女と会って何気ない話をしていくのが

なぜだかこの上ない楽しみになっていった

 

彼女の表情や声を聴くと

不思議と安心して、不思議と温かい気持ちになって

 

気が付いたら僕は、ようやく彼女のことが大切だって感じた

 

できることだったら

君の隣に立って、これから先の未来

 

君と一緒に生きてみたい、僕はそう望むようになった

 

でもそんなある日、僕は彼女に大事な話があるといわれて

待ち合わせの場所の方に向かった、そこには僕が誰よりも見ているあの子

 

加東 絵美理

 

その子の姿があった

 

「…その、ごめんね…

 

 急に呼び出したりしちゃって…」

 

「う、ううん‥‥

 

 別にいいよ、だってその‥‥

 

 大事な話があるっていうから

 いったい何なのかなって思って‥‥」

 

絵美理ちゃんに話しかけられて、少し照れ気味に返す

 

絵美理ちゃんの方もやや緊張気味に言葉を濁す

その言葉に僕もちょっと期待を抱いてしまう

 

あくまではやる気持ちが抑えられなくなっちゃうけれど

僕はあくまでどうにか表面上は何とか落ち着こうと取り繕う

 

そして、絵美理ちゃんは意を決して言葉を伝えた

 

それは

 

「実はね私…春組を抜けることにしたの…」

 

「…え‥‥?」

 

なんと、七誠の所属する

春組から抜けるという、いわば脱会の意志である

 

「…そ、そうなんだ‥‥

 

 それってつまり

 英雄をやめるってことじゃないよね?

 

 どこか別の組や部署に移動するとか?」

 

僕はやや動揺を隠しきれない様子ながら

恐る恐る絵美理ちゃんに理由を聞いた、すると

 

「…ええ、移動するわ…

 

 陽菜子ちゃんのお兄さんの組にね…」

 

「…え‥‥?」

 

それを聞いて、僕はフリーズした

今なんて言ったの、彼の組に移動することになった?

 

「…ちょっと彼と話をする機会があって

 話をしてみたんだけれども、不思議と共感してね…

 

 よかったら来てみてくれない…って言われて

 それで了承したの、それに以前から彼のことが気になってたし…」

 

絵美理ちゃんは少し頬を染めながら言う

 

んな、な、な、な

なんて羨ましいいい

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…ということで!

 

 絵美理ちゃんが彼の組に

 移動をしたって聞いたけれど

 

 本当なの春三!!」

 

ずいっと春三に詰め寄っていく七誠に

春三はやや押されながらもこたえていく

 

「‥‥あ、ああ‥‥

 

 本人の希望でな‥‥

 

 お前には悪いと思ったが

 絵美理自身が申請した以上

 

 断るわけにも行けないから‥‥」

 

「…別にいいんですよそれは

 絵美理ちゃんは別に僕の元から

 離れていったってわけじゃないんだから‥‥

 

 でもね、彼の話をした時の絵美理ちゃん

 どこかすっごい嬉しそうだったんだよおおお!!!!

 

 どういうことだよおおお!!!!」

 

「俺様に聞かれても困る‥‥」

 

どこか暴走気味になってしまっている七誠を見て

静かな様子で突っ込みを入れていく春三であった

 

するとそこに

 

「ななちゃん、ちょっと静かにしてよ!

 

 隣の部屋にもすっごく響いていたんだけど?」

 

優生がバタンと下手に入ってきて

七誠のあたまをチョップでたたいた

 

「優生ちゃん‥‥

 

 うん、ごめん

 ちょっと取り乱した…」

 

「ふう、それにしても

 ここ最近、彼の組は大所帯になってきたよね

 

 優香も彼にスカウトされたって喜んでたよ?」

 

「そうだったのか‥‥

 

 そう言えば照の奴も

 誘われたって言ってたな‥‥

 

 ほかにもあいつに首狩りに

 されたやつ結構いるんじゃないか?

 

 佐紀の奴だってそうらしいし…」

 

三人はそんな話に花を咲かせ始めていく

 

「…でも、いったいどうして彼は

 急にそんな人を集め始めていったんだろう‥‥

 

 あんなに他人を引き付けようともしなかった彼が‥‥」

 

「やっぱり響子ちゃんっていう

 恋人ができて角が取れたんじゃない?

 

 自分から他人に踏み込んでいこうかなって?」

 

「…しかし、話によると

 あいつが引き込んでいるのは

 

 女性ばっかりだとも聞いている‥‥

 

 噂によるとハーレムを作って

 ウハウハしようなんて噂が飛び交ってるが‥‥」

 

「「「あり得ないよねそんなの…」」」

 

春三の言った彼の不浄な噂を

春三も含めてその場にいた三人は全力で否定した

 

「だが、あいつが人を集めているのには

 必ず理由があるはずだ、一度調べてみる必要もあるか‥‥」

 

春三はそう言うとほかの二人も

何やら面白そうに彼の提案に賛同するように頷くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

それからしばらくして

 

「あ、優香ー!」

 

優生はしばらく歩いていると

目の前に一人の少女が歩いているのを見て声をかける

 

すると少女は、優生の方を見て返してきた

 

「ああ、姉さん…

 

 久しぶりだね、どうしたの?」

 

「どうしたのなんてご挨拶じゃない

 

 私と優香はたとえ組は違ってても

 血のつながった姉妹なんだから声をかけるのは当然でしょ?」

 

優生はそう言って笑みを浮かべてそう返す

 

「…血のつながった姉妹、ねえ…

 

 まあ別に事実だから気にしてはないけれど

 改めてはっきり言われるのはちょっと思うところもあるかも…」

 

優香はやや含みを込めた言い方で返す

 

「思うところね…

 

 でもまあ、元気そうでよかった

 彼のもとに行くって聞いたときは大丈夫かなって思ってたし…」

 

「あら?

 

 姉さんは兄さんのことが信用できない?」

 

「…ううん、彼のことは信じてるよ

 

 でも彼の組にはいろいろと噂が広まってるから

 うまくやっていくことができるのかなって思ってね」

 

優生はそう言ってやや遠い方を見つめるような表情になる

 

「…フン、あんな噂程度で

 私たちの兄さんへの信頼を断ち切れるって

 思ってるんだったらそれは浅はかだよ…

 

 だって私たちは心の底から兄さんのことを

 家族の様に思ってるんだもの、他のみんなだってそうだし」

 

そう言ってフンッ、っと花で一息つくとそう言い放つ

 

「そうだよね…

 

 ああいう性分だから

 周りに誤解されやすいけれど…

 

 誰よりも誠実で純粋な人だからね…」

 

「…フン…

 

 さっきも言ったけれども

 別に噂なんて気にも留めていないよ

 

 どうでもいいことだからね

 兄さんにとっても、私にとっても…」

 

そう言って髪をかき上げるようなしぐさをして言う

 

「ねえ、優香

 

 よかったら今度久しぶりに

 どこかに出かけてみない?

 

 久しぶりに姉妹でどこかにお出かけしよ?」

 

「出かけるって…

 

 どこに行ったって同じような景色ばっかりです

 

 あたり一面真っ暗で、大した娯楽もない

 はっきり言って休日をもらってまで行きたいところがありません…」

 

優香はそう言って、つまらなそうに優生の元を離れていった

 

「あ…」

 

それを見てふと、悲しい気持ちになっていく優生であった

 

「…久しぶりに腹を割って話してみたいって思ったんだけれどな…」

 

優生は小さな声でそのようにつぶやいた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「うーん、調べてみるとは言うものの‥‥

 

 どうやって彼のことを調べてみたらいいんだろう‥‥」

 

七誠は悩みに悩んでいるが、その表情には深みが感じられない

 

気楽な気持ちで励んでいるということなのだろう

 

そこに

 

「珍しいね、七誠…

 

 悩みなんかとは縁のなさそうな性分のあなたが

 何かに悩んでいるなんて、ひょっとして雪でも降るのかな?」

 

「姉さん‥‥

 

 姉さんから見た僕って

 そんなに馬鹿の様に見える?」

 

そう言って話しかけてきたのは七誠の姉

北斗 七尾、彼女も英雄に所属している

 

「あ、そういえば姉さん‥‥

 

 姉さんも彼の組に入ったんだよね?」

 

「ええ、彼の結成した星座宮の御巫子

 

 大熊座の巫女にね…それがどうかしたのかな?」

 

七誠は姉である七尾と向き合っていく

 

「知ってることがあったら教えてもらえない?

 

 いったい彼は、彼と妹たちは一体

 何をしようとしているの、それも僕たちにも内緒で‥‥」

 

「…さあね‥‥

 

 あいにくと私たちは

 そこまで深い事情にはかかわっていないし‥‥

 

 それに、何か知っていたところで

 それをあなたに話す義務はないよ

 

 たとえ、血のつながった姉弟でもね‥‥」

 

七尾の口調にどこか含みが感じられている

 

「…信頼しているんだね‥‥

 

 彼のことを‥‥」

 

「それはもちろん、だってあの人は…

 

 私に意味を与えてくれ

 私の事を普通に受け入れてくれた人だもん

 

 そのうえであの人は私を必要としてくれたんだよ

 

 だったらそんな彼に最後まで尽くしてあげるのが

 私なりの恩返しだって思ってるから、そういうわけで‥‥

 

 いくらかわいい弟でも、彼のことを勘繰るつもりなら

 私も最悪、貴方とぶつかることになってでも止めるから‥‥」

 

そう言って手に持っている剣を七誠に見せる七尾

 

「待って待って!

 

 別に僕は姉さんとはもちろん

 彼と敵対するとか陥れたいわけじゃないよ

 

 僕はただ…彼のことがとっても心配で‥‥」

 

「…心配‥‥?」

 

それを聞いて、構えを解いていく七尾

 

「僕ね…見たことがないんだ‥‥

 

 彼が何を欲しがってるのか

 彼の持ち物らしい持ち物とか‥‥

 

 彼は無欲っていえば聞こえはいいけれど

 他人のことは愚か、自分のことにも興味がないって感じだから‥‥

 

 彼にはせめて…自分を大事にしてほしい

 

 彼は誰かのために生きるのは得意だけど

 自分のために生きていくのが不器用だから‥‥」

 

「……」

 

そんな言葉に七尾は

不思議と好感と共感を覚え

自然に笑みを浮かべていたのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そう言った話をして

久しぶりに七尾と一緒に歩いている七誠

 

するとそこに

 

「あら、誰かと思えば

 七誠じゃない、しばらくぶりに

 あったと思ったら、また女の子を隣に立たせているの?」

 

一人の少女がからかい気味に七誠と七尾に話しかける

 

「木乃華ちゃん…

 

 久しぶりだね

 しばらく会ってないけれど

 

 元気そうで何よりだよ」

 

「ひねりのないお世辞ね…

 

 そんな調子じゃあ、好きな女の子の

 心をつかみ取るなんてできないわよ」

 

木乃華にそう言われてややショックを覚える七誠

それを見ていた七尾は苦笑いを浮かべていたのであった

 

「…それで?

 

 私に何か用事で?

 

 ここに来たということは

 私に何か伝えたいことがあってきたのでしょう?」

 

「…察しが良くて助かるわ…

 

 あなたにさっそく頼まれて

 ほしいことがあるというお兄様からの言伝よ…

 

 すぐに戻ってきてほしいの…」

 

「…わかったわ…

 

 それじゃあ、行ってくるわ」

 

「うん、気を付けてね姉さん‥‥」

 

そんな言葉を交わして双方は分かれていくのであった

 

「…さてと…

 

 あなたにはぜひとも

 いくつか聞きたいことがあるのだけれど?」

 

「…何かな」

 

七誠はそう言われると

彼の首元に銀色の金属を思わせる

右腕で一気に掴みかかられてしまう

 

「…っ!?

 

 これは一体、何の真似なのかな?」

 

七誠は突然の子の行動に驚きを覚えるも

すぐに冷静に対応し、受けごたえをしていく

 

「何の真似…?

 

 それはこっちの台詞よ…

 

 あなたたち春組が

 私達星座宮の御巫子に探りを入れてきているのは

 もう気が付いている、いったい何を企んでいるのかしら?」

 

「企むっていうのは心外だね‥‥

 

 ただ僕たちはこれからともにこの世界を

 守るために戦っていく仲間の様子を知りたい‥‥

 

 そう思っていろいろ話を聞いていただけだよ‥‥」

 

七誠はあくまで何の下心もないことを伝える

 

「…フン、貴方は自分の顔を

 鏡で見たことがあるのかしら?

 

 そういうふうに何にも感じない様子を

 見せているような人が、何も企んでいないって言えるの?」

 

木乃華はそう言って不満そうに七誠に告げていく

 

「うーん…そうは言われても‥‥よくわかんないよ‥‥

 

 鏡とか見てもどういうふうに表情を作ればいいのかなんて‥‥

 

 やっぱり僕って…冷たい人間なのかな‥‥」

 

七誠はどこかものうつげにそう告げる

 

「知らないわよ…

 

 私はそもそも、貴方に興味があるわけじゃないもの

 人の子ことがわからない人に、自分の心なんてわかるわけないわよ…」

 

そう言って彼から腕を放して

さっさと立ち去っていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

訓練場

 

そこでは二人の人物が

激しくぶつかり合っていた

 

片や槍を、片や長刀をふるう

最初のうちは互角に渡り合っていたが

 

次第に槍を持っている方が

大きく圧されて行き、やがて

 

「どわあ!」

 

一瞬のスキを突かれて

槍を飛ばされて、首元に切っ先を突き付けられる

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

「‥‥ふう、しばらく見ないうちに

 随分と腕を上げたじゃないか、大したものだ‥‥

 

 まさか俺様が一本取られてしまうとは‥‥」

 

春三はそう言って素直に負けを認めていく

 

「…‥‥‥運が良かっただけですよ…‥‥‥

 

 それに、僕はまだまだ

 今よりももっと強くならないといけないから…‥‥‥

 

 貴方からたった一本取った程度で

 うぬぼれてなんていられませんよ…‥‥‥」

 

「そ、そうか‥‥

 

 しかし、どうしてそこまでして力を求めるんだ?

 

 俺様から見てもお前は十分すぎるくらいに強いと思うぞ?」

 

「…‥‥‥力なきは、無力なり…‥‥‥

 

 どんなに理想を思い描いていても

 それを成しえる力がなければ露と消える…‥‥‥

 

 世界は無力な者に優しくない…‥‥‥

 

 僕はあの時、十分すぎるくらいに思い知ったから…‥‥‥」

 

その言葉を口にする彼の表情からは

何やら冷たい何かを感じ取った春三

 

「‥‥そう言えば、俺様は聞いてみたかったんだが‥‥

 

 お前たち兄妹がこの星座の都に流れ着く前のことを

 聞いたことがないと思った、ひょっとしてそのことに関係が?」

 

恐る恐る訪ねる春三に対して

彼はただこう告げていくのであった

 

「…‥‥‥忘れたよ…‥‥‥」

 

そう言って彼は春三の元を離れていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そんな彼のもとに一人の人物が訪ねてきた

 

「久しぶり、こうして顔を合わせるのもひさしぶりじゃないかしら?」

 

「…‥‥‥響子さんか、確かにこうして

 君と話をするのもしばらくぶりだね…‥‥‥」

 

それは、彼と婚約をしている女性、響子であった

 

「まだ忙しい?

 

 時間は取れない?」

 

「…‥‥‥そうだね…‥‥‥

 

 まだ準備の方が進んでいないから…‥‥‥」

 

彼はそう言いつつ、響子の頭を撫でてやる

 

「…‥‥‥ごめんね、響子さん…‥‥‥

 

 せっかく僕のために時間を

 作ってくれているのに、どうにもしてあげられなくって…‥‥‥」

 

「‥‥もう、そう思うなら何とかしてよ

 

 私だってその、ずっと構ってくれないことには

 さみしいって感じるんだから、ちょっとくらい…

 

 私のための時間を作ってほしいわ…」

 

そう言って、普段のクールな印象とは

信じられないほどにすね気味な表情で訴える

 

それを見た彼はふう、と息をつく

 

「…‥‥‥それじゃあ、その時が来たら

 改めて僕の方から連絡をするから

 

 そしたらさ、久しぶりにいっぱいお話ししよ?」

 

「もう、そう言ってすぐにその気にさせてくるんだから…

 

 そう言ってどれだけの女の子をたぶらかしてきたのかしら?」

 

そう言ってややからかい気味に彼に追及していく響子

 

「…‥‥‥ひょっとして、例のうわさを信じてるの?

 

 おあいにく様だけれどそう言うつもりで

 いろんな子に声をかけてるわけでもないし

 

 そもそもそういう手のことには疎いからね…‥‥‥」

 

「‥‥天然ジゴロ…」ボソッ

 

彼のその言い方に何やら思うところがあったのか

響子は小さな声で不満そうにぽつりとつぶやいた

 

「…‥‥‥何か言った?

 

 小さすぎて何にも聞こえなかったけれども…‥‥‥」

 

「聞こえなくていいですよーだ

 

 この朴念仁の唐変木」

 

「…‥‥‥?」

 

フンと背けてそそくさと前の方に進んでいく響子であった

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

彼はそんな様子を、含みのある表情で見つめていたが

彼はすぐさま何かを振り切るように、頭を振って追いかけていくのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そんなころ

 

暗くボロボロの部屋の中では

一人の人物が二羽の烏と戯れていた

 

その中で一人の人物が入ってきて

二羽の烏は慌ててその場から飛び去っていく

 

「‥‥来てくれたのですね、お兄様…

 

 お兄様の計画のほど、私もできる限り

 お手伝いの方をさせていただきますよ…」

 

そう言う彼女の目の前にいるのは

彼女が兄と慕っている人物、彼がいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は静かに口角を上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




彼の思惑・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏組との交流

組長の過去・・・・・・・・・


 

 

夏組

 

四つの組に分かれた英雄の中では

新たなる穢れの情報を調べていくことに特化した者達

 

この組に所属する主力は主に三人である

 

「…‥はあ…

 

 それにしても

 随分と大きくなってきたね…

 

 あいつのところ…

 

 確か、星座宮の御巫子って名乗ったんだっけ?

 

 随分と安直というか、ただ星座と星官合わせただけだよね…」

 

組長の彼は、南雀 夏三

 

やや自分本位な面が目立つ彼だが

それでもほかの面々の様に穢れと戦う意思は秘めている

 

「‥‥しっかし…

 

 どうして彼ってあそこまで

 人数を、それも女の子ばっかり

 集めてるのかしら、どうしてもそこが

 

 気になるところなんだけれども…」

 

そう疑問を口にするのはこの中では唯一の女性

 

北十字 白子

 

「…まあいいんじゃない?

 

 現に彼女たちのおかげで

 僕たちの方にも多かれ少なかれ

 影響は出てきているって思うし‥‥」

 

そして、年少者である

 

南斗 六誠

 

この三人が夏組の集会室にて雑談を行っていた

 

「確かにそうだね…

 

 現に君たち二人も

 それぞれの知り合いが無こうに引き抜かれている

 

 あいつのことはどこかきな臭い部分もあるから

 全面的に信じているってわけじゃないんだけれどね…」

 

「…‥あれ?

 

 そういう夏三さんも

 知り合いの何人かが引き抜かれているんじゃ?」

 

白子にそう言われて、ばつが悪そうにだんまりする夏三

 

「…‥言ってくれるじゃない白子…」

 

「…‥言われっぱなしも癪なので…」

 

「あ、あははは~‥‥

 

 ま、まあ何はともあれ

 みんなそれなりにうまくやってるんだし

 

 心配することはないと思うよ」

 

にらみ合っていく二人を仲裁していく六誠

 

「…‥そうだね…

 

 確かにそれは今は二の次だ…

 

 僕が気になるのはここのところの

 あいつの行動だ、どうにも彼は一人で

 行動していることが多くなってきている…

 

 もちろん何事もないのが一番いいし

 あいつがあくどいことをするタイプの性格じゃない事だって

 把握しているからな、でも一応調べてみる必要はあるって考えてる」

 

「それで私達夏組が独自に調べていこうってこと?

 

 もしそれで何にも出てこなかったらどうするの?」

 

白子はやや問い詰めるように言う

 

「…‥それはそれでいいって思うよ?

 

 だって別に彼の悪事をどうこうって

 しようってわけじゃないしね、それに…」

 

「うん‥‥?」

 

夏三はそこまで言うと口ごもってしまい

六誠はふとそんな夏三の様子に疑問符を浮かべていく

 

「…‥…」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

夏組の組長 南雀 夏三

 

彼はかつてはスラムで過ごす浮浪児の一人であった

 

毎日、毎日

生きていくのに必死で

 

時には犯罪まがいの仕事にまで

手を出してしまうこともあった

 

しかし、そんなところで

勤めていてもまともな生活になどありつけない

 

お金をスったり、食べ物を盗んだり

とにかく、毎日が苦しいものであった

 

そんな毎日を過ごしていた彼であったが

当然、犯罪を繰り返していたので顔は悪い意味で

知られるようになっていき、やがて居場所をなくしていくことになっていく

 

そんな彼の耳に、何やら荒れ果てたスラムには

似付かわしくないほどにきれいな音色が聞こえてきた

 

「…‥?」

 

そこにいたのは、黒髪のやや短めの髪を

前の方で髪留めを模したクリップで止めている

 

整った容姿を持った、一人の少女であった

 

その少女が歌を歌った後、拍手と歓声が起こり

そばに合った空き缶の中に少ないながらもお金を入れていた

 

「‥‥ありがとうございます」

 

少女は笑顔をで聞いてくれた人たちにお礼を言う

彼は不意にその少女のもとにゆっくりと足を運んでいく

 

すると

 

「‥‥どうしたの?」

 

急に話しかけられて、思わずびくりと体を震わせた

 

「…‥あ、いや…その…‥…」

 

「‥‥ひょっとして、貴方も一人なの?

 

 よかったら、ついてきてくれるかな?」

 

そう言って少女は夏三を連れていく

 

その連れて行った場所は一人でどうにかして

作ったといったつぎはぎだらけの一室であった

 

「‥‥おなかすいてない?

 

 大したものは置いていないけれど

 よかったら、何か用意してあげるよ」

 

「あ、う、うん…」

 

人に良くされることに慣れていない彼は

どう返せばいいのかわからず、口ごもっていく

 

「あ、そういえば自己紹介してなかったね…

 

 私は音野、自分でそう呼んでるんだ

 

 貴方のお名前は?」

 

「…‥ない、俺の親はろくでなしで

 名前だってろくに呼ばれたこともないから…」

 

男の子はぽつりぽつりと話していく

 

「‥‥それじゃあ、私が付けてあげるね…

 

 あなたはそうだな‥‥夏三ってどうかな?

 

 私ね、夏の大三角が好きなんだ

 私の生まれの星座が琴座で、それにちなんでね…

 

 どうかな?」

 

「…‥夏三…

 

 うん、それでいいよ

 僕は今日から夏三だよ」

 

これが浮浪児の少年と一人の琴弾きの少女の出会いで

彼に名前と生きる意味が与えられた瞬間なのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…‥それから僕は

 英雄たちに引き取られて…

 

 僕は夏組に入り、功績を伸ばして

 その組長にまでなった、最初のうちこそ

 浮浪児である自分のことをよく思わない奴が多かったが…

 

 それでも僕は、こうして変わらずにやってこれることができた…

 

 信じられる人間と信用に値しない人間…

 

 それぞれの境界に線をつけて、今までやってこれた…

 

 おかげで今や夏組は人数が少ない分

 諜報部隊としての技能を伸ばしていっている

 

 まあだからって、本来の役目を

 疎かにしているわけでもないんだけれどね…」

 

「…まあ、この星座の都は

 のびのびとしている分、格差が激しいけれども…

 

 その分、信用に値する人を見つけやすいからね…」

 

白子がそう言うと、夏三はふと、六誠の方を見る

 

「…うん?

 

 どうして僕の方を見るの?」

 

「…‥ううん、君を見ていると

 どうしても思い出してしまうからね‥‥

 

 初めてここに派遣されたときに周りから

 蔑まれていた僕に構ってくれた唯一の人をさ…」

 

「フフフフ…

 

 確かに彼だけだったものね

 最初の時から彼のことを気にかけていたのは…」

 

キョトンとした様子で六誠は聞くと

夏三は懐かし気な笑みを浮かべ、白子はそれを微笑まし気に笑う

 

「…‥まあ、君や七誠のような人が

 居てくれたのだからこそ、僕もこうして

 

 ここで活躍できているのかもしれないね…

 

 人の運命っていうのは本当に不思議なものだよ…」

 

「…ううん、僕達のおかげだけじゃないよ‥‥

 

 夏三さんや、他の組のみんなが

 お互いのことを信じてくれたから

 

 こうして、みんなはこうして

 ここにいるんだって思えるよ、僕はそう信じてるよ‥‥」

 

六制がそう言うと夏三は

よくもまあそんな臭いセリフを臆面もなく言えるなと

言わんばかりに彼に向かってやや苦笑いの表情を浮かべる

 

「‥‥しっかし、やっぱり気になるのは

 今やすっかり話題の彼のことだよね…

 

 彼の元には多くの者たちが集まっているわ…

 

 うちの組からも何人かが引き抜かれてるみたい…

 

 全員ってわけじゃないみたいだけれども」

 

「…‥僕の知り合いの子も一人

 志願して、彼のもとに行った…

 

 もともと彼にあこがれてきていたらしくって

 それで自分から彼のもとに移動したらしい…」

 

「僕の師匠も‥‥

 

 彼の引き抜きに応じたらしいし‥‥

 

 単純な戦力じゃあ他の組には及ばないけれど

 総合的だったら、他の組すら凌駕するんじゃない?」

 

六誠がそう言った、そこに

 

「へえ‥‥

 

 そんなに私が化け物に見えますか六誠?」

 

「ぬおっ!?」

 

突如として話しかけられて

思わず間抜けな声を上げてしまう六誠

 

「…え、愛理さん‥‥

 

 お久しぶりです‥‥」

 

「あいにく私と貴方は名前で呼び合う仲ではありません‥

 

 師匠とお呼びなさい」

 

「…は、はい‥‥

 

 師匠‥‥」

 

強く言われて思わず了承してしまう六誠

 

「…‥ほんとに六誠って

 愛理には弱いよね…

 

 この様子じゃあ、将来は

 尻に敷かれるのが目に見えてるよ」

 

「うるさいな‥‥

 

 別にいいじゃない

 女の子にかなわなくったって‥‥」

 

「…ところで、愛理?

 

 すごく久しぶりだけれども

 うちの組に何の用なのかな?」

 

白子はそう言って愛理の用件を聞く

 

「ええ、今日私たちのもとに

 新しい人が入ってきてね、それで

 案内がてら、夏三に会いたいって言うから‥」

 

愛理が自分の名前を出してきたので少し首を傾げてしまう

 

愛理はそんな彼の様子を気にすることなく

後ろの方に控えている、一人の少女を三人のもとに立たせる

 

「…‥っ!?」

 

夏三はそれを見て、驚いた様子を見せる

なぜなら目の前にいたのは、目の前にいるのは

 

「‥‥やっぱり…

 

 一目会った時に

 きっとそうだって気づいたんだよ?

 

 久しぶりだね…

 

 夏三君…?」

 

かつて自分と同じ浮浪児であり

自分に名前を付けてくれたかの少女、音野がいた

 

「紹介するね、彼女は

 

 琴原 音野

 

 スラムでならず者に襲われていたところを

 兄様と水波夜さんが保護したんです、それで

 私たちの一員になったので、この場所の案内を‥」

 

「…‥音野…ちゃん…‥…?」

 

夏三が驚いた様子で目の前の少女

音野に話しかけてみた、すると

 

「‥‥やっぱり夏三君だったね…

 

 久しぶりだね‥‥あの時以来…」

 

「うん…‥本当に久しぶり…」

 

夏三は嬉しさのあまりに涙を流していく

 

その様子を見ていたほかの面々は

その光景に驚きと混乱の入り混じった視線を浮かべる

 

「…ひょっとして‥‥

 

 さっき話していた

 スラムで出会った友達とは‥‥

 

 彼女のことなの!?」

 

「…‥そうだよ、まさか…

 

 まさかこうして君のことを

 思い出していた時に、また…

 

 また君に会うことができるなんて…」

 

「‥‥これも、星の運命、だね…

 

 私も会えてうれしいよ、夏三君」

 

二人で笑いあっていく夏三と音野

 

「‥‥えーっと事情は大体わかりましたけれど

 とりあえず、他の皆さんの自己紹介に移って

 もらってもいいでしょうか、そろそろ本題に移りたいので‥」

 

愛理にそう言われて、二人は慌てて距離を取る

 

「‥‥それでは改めまして…

 

 琴原 音野です

 

 今回、新しく星座宮の御巫子として

 お兄様や妹君達、愛理さん達の組に入りました…

 

 どうか、よろしくお願いいたします」

 

そう言って素直に頭を下げていく音野

 

夏三はやや慌てながらも改めて自己紹介をしていき

続いて白子は普通に自己紹介し、六誠は愛理の手前

やや緊張気味なのか、ややギクシャクしながら紹介する

 

それを見た愛理は呆れた様子で

しっかりしなさいよ、とありがたい喝を入れられた

 

それを見た、夏三と白子はやや笑いを浮かべて

六誠はやや罰が悪そうに頭を抱えていたのであった

 

「…まったく、いくら人見知りとは言っても

 自己紹介くらいまともにできないと話になりませんよ‥」

 

「…‥いや、六誠があいさつできないのは

 そういうことじゃないと思うけれどもね…」

 

「…まったく…

 

 こういうところは鈍いですよね愛理は…

 

 もうここは、積極にいかないとだめでしょう!

 

 もういっそここで思いを伝えてしまえば…」

 

そう言ったところで愛理は一息ついた

 

「そろそろ行きますよ音野‥

 

 私としてももうこれ以上

 ここに時間をかけていくわけにもいかないので‥」

 

「‥‥あ、はい!

 

 それじゃあね、夏三君」

 

そう言って二人は夏組の元を去っていくのだった

 

「…‥‥」

 

六誠はしばらく呆然としており

それを見ていた夏三と白子はやや同情的な表情を浮かべていた

 

「…まあ、その…ね?

 

 まだ焦らなくても

 機会だったらまだあるから…」

 

「え、ああ…うん‥‥」

 

白子に元気づけられるように話しかけられ

六誠の方も、放心状態からようやく抜け出したようだ

 

そんな二人の様子をよそに

夏三は去っていった音野の方を見ていた

 

「…‥音野ちゃん…

 

 久しぶりに会ったけれど

 なんだか変な感じがしたな…

 

 なんだかまるで、琴音ちゃんが

 別の存在になってしまったかのような…

 

 そんな感じが…」

 

そのつぶやきを聞いて

他の二人は何やら気になったように

夏三の顔を見つめていたのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

愛理と音野は二人で歩いていた

 

「‥‥どうでした、音野さん?」

 

「‥‥悪い意味で、安心したかも…

 

 あの子がもしも昔と変わっていなかったら

 どうしようかなって思っていたけれども…

 

 あの様子ならもう、遠慮の方はいらないかな?」

 

そう言って背中に背負っている竪琴を

爪にはめている琴爪でほんの少しはじく

 

「やっぱり私の苦しみを理解してくれるのは…

 

 お兄様だけなんだということなんだろうね…」

 

「‥‥‥」

 

音野のそのつぶやきに含みを込めたため息をつく愛理

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

思わぬ出会いがあってからしばらくたったある日

 

白子はお役目を終えて戻ってくると

彼女の目の前に白い翼が舞っている

 

「…あら?

 

 どこからか醜いアヒルの子が

 わたってきたのかしら、まったく…

 

 久しぶりに会うからって

 素直に出てくることはできないの?

 

 北緒…」

 

白子がそう言って上を見上げると

そこには、純白の装備に身を包んだ

ボーイッシュな髪形の一人の人物がいた

 

「その呼び方、やめてって言ったよね姉さん…

 

 まったくいっつもいつも僕の事そう言うんだから…」

 

「別に悪い意味じゃないわよ

 

 最初は醜いって言われていた

 そのアヒルの子だって最後は美しい白鳥になるんだから

 

 まあ、最初は誰にも認められなくても

 いつか絶対に認めてくれる人がいるんだから

 最後のときまであきらめないでほしいって意味よ

 

 決して、悪く言ってるわけじゃないわ」

 

白子がそう言って説明していると

北緒が彼女のもとに飛び降りてゆっくりと近づいていく

 

「まあ意味なんてどっちでもいいけれどね…

 

 でもまあ、僕の力を認めてくれた人は

 もうすでに表れてくれたって意味だったら

 

 案外悪くない理由なのかもね…」

 

「あら?

 

 その口ぶりだとまるで

 そういう人を見つけたようじゃない?

 

 よかったらお姉ちゃんにも教えなさいよ」

 

そう言ってズイっと詰め寄っていく北尾

 

「フフフ、とっても素敵な人だよ

 

 その人の名前はあるけど

 僕たちはお兄様って呼んでるんだ」

 

「…っ!?」

 

北緒の口から出てきた名前に

白子は思わず驚愕のあまり、目を見開いてしまう

 

「本当にお兄様はすごいんだよ

 

 強くて頼もしいし

 何より不思議な魅力があるから

 

 おまけに僕みたいな人にも

 分け隔てなく接してくれて

 

 本当にすごい人なんだ」

 

うっとりと恍惚した様子で話していく北尾

 

それを聞いてしばらく開いた口が塞がらなかったものの

すぐに切り替えて、話を切り出していく白子

 

「へ、へえ…

 

 どうやら彼のもとに入って

 うまくやっているみたいね…

 

 うまくやってるみたいで何よりだよ」

 

「うん、僕はようやく

 僕のことを認めてくれる人に出会えたんだ

 

 だから僕、これからもお兄様のもとで頑張って

 お兄様に本当の意味で認められるようになりたいんだ

 

 それじゃあ、またね」

 

北緒はそう言ってその場を去っていく

白子はその背中を見て、どこか不安そうに見つめていた

 

「…北緒、なんだか私の知っているあなたとは

 違っているように思えたけど、大丈夫なのかしら…」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

とある部屋

 

そこは真っ暗でほんの少しの光が

あたりを照らしており、そこには一人の人物が

見上げるようにそこに佇んでいた、さらにそこに

 

「兄さん!

 

 鷲座の御巫子

 

 鷲尾 倭子

 

 

 

 

 ただいま戻りました!!」

 

そう言って元気そうに入ってくる一人の少女、倭子

 

倭子と名乗ったその少女に向かって勢いよく

手刀が勢いよくふるわれ、情けない悲鳴が響き渡る

 

「ぎゃふん!」

 

「静かにしなさい、倭子!

 

 まったく、相変わらず馬鹿みたいに

 騒がしいんだから、少しはおとなしくできないの?」

 

手刀をふるったのは彼の妹の一人、水波夜であった

 

倭子は叩かれた部分を抑え

自分をたたいた水波夜を睨みつけるように見つめる

 

「ひどいですよ、水波夜!

 

 儂はただ、お兄ちゃんに挨拶をと‥」

 

「相変わらず騒がしいわね

 

 そっちの御巫子さんは…」

 

そう言って入ってきたのは

水波夜と同じく彼の妹の一人、木乃華であった

 

彼女は呆れたように二人のやり取りを聞いていう

 

「‥‥倭子ちゃんは相変わらず、元気?」

 

「‥‥倭子ちゃんらしいっていえばらしいよね…」

 

木乃華に続いて入ってきたのは、音野と北緒の二人であった

 

「あ!

 

 音野さんに北緒さん

 ちょっと聞いてください!!

 

 水波夜さんったらひどいんです

 お兄ちゃんに挨拶をしたらいきなり殴ってきて‥」

 

「‥‥まあ、それは大変?

 

 でもいきなりおっきな声で

 話しかけたら、誰だって吃驚する…

 

 そういう意味だったら…

 

 倭子ちゃんが悪い?」

 

「ま、まあ次から気を付ければいいよ

 

 今はそれよりも…」

 

三人と二人の妹は、目の前にて

立ち尽くしている彼の方に目を向けると

 

彼の方に向かって静かに頭を下げる

 

「ただいま戻りました、お兄ちゃん

 

 お変わりはないようで…」

 

水波夜がそう言うと彼は一同の方を向くのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




懐かしき出会いと、彼の思惑・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秋組の憂鬱

秋の大四辺形の英雄の悩み・・・・・・・・・


 

 

 

その子はある日

一人の女性に出会った

 

その女性に見いだされた彼女は

彼女の跡を継いで、今の地位についた

 

周りの助けを借りながらも

どうにかして、今の組をまとめ上げていけるようになる彼女

 

しかし、そんな彼女にもやはり

多くの悩みというものはあり、ぶつかっていく

 

だがそれでもどうにかやってこられた

 

彼にも周りにも支えられていると信じているから

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふう…

 

 今日もつかれたー…」

 

そう言って一息ついて

組長の椅子に座りこむ一人の少女

 

秋組の組長

 

西虎 秋四

 

 

それが彼女である

 

「やっぱり組長っていうのは

 私にはすっごいプレッシャーだよ…

 

 師匠から言われて、組長を

 継いだのはいいけれど、やっぱり

 ついてきてくれる人はそんなにいないもんね…

 

 今でこそどうにかまとまってきているけれども…

 

 はあ、やっぱり一人の力では

 どうしても限界が来てしまうよね…」

 

椅子の背もたれにもたれかかって

大きく息をついていく秋四はふとあることを思う

 

「後世に私たちの後継者を

 育てていくのが秋組の使命だけれども…

 

 やっぱりどうしても簡単にはいかないな…うん?」

 

秋四はふと、外で話をしている者たちの姿を見る

 

そこで話をしているのは、六人の少女達

秋四は全員に見覚えがあり、驚いた様子を見せる

 

円藤 彩

 

加久間 亜依

 

荒波 一紗

 

志茂田 明沙美

 

ぺガス・リーン

 

駒 馬子

 

冨士井 亜希子

冨士井 有希夜

 

冨士井 水波

 

アンジェリーナ・ロメールダ

 

組長の間において噂になっている

星座宮の御巫子に所属している者達

 

その中でもぺガスやアンジェリーナは

元々は秋組に所属していたこともあって

それなりに面識はある方だと思っている

 

「あの子達…

 

 彼の組に行ってから

 本当に楽しそうだな…」

 

そんな様子を見てうれしくも羨ましそうにつぶやく

 

「…ちょっと話の方、してみよっか

 

 彼がどんな人なのかもちょっと興味があるし…」

 

そう言ってゆっくりと立ち上がっていく秋四

 

「…せっかくここにいるんだったら

 これから協力することもあるかもしれないし…

 

 ちょっとおしゃべりをしてみることにしよう」

 

そう言って部屋を出ていって実行に移していく秋四

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふっ、ふっ、ふっ

 

 はあー!」

 

ある場所で蹴り技の訓練をしているぺガス

そんな彼女のもとに歩み寄ってくるのは一人の少女

 

「こんなところで何をしているのかなって

 思ったら、相変わらず見事な足技だね、ぺガス」

 

「…秋四…

 

 あいにくだけれども私はもう

 貴方にとやかく言われる筋合いは

 もうないからね、お説教はたくさんだ」

 

ぺガスはそう言って

秋四の顔を見ると、嫌そうにして

突き放すような言い方をして追い払うようなしぐさを見せる

 

「それは貴方がいっつもいつも問題ばっかり起こしてたからでしょ!」

 

「あれは作戦に参加していた奴らが愚図だったからでしょ!

 

 私の戦いについていけないどころか、足を引っ張って…

 

 挙句に私にばっかり責任を押し付けて

 自分の無能さを棚に上げて好き勝手言って!」

 

またも口論になっていく双方

このままでは騒ぎが大きくなっていくかもしれない

 

だがそこに現れたのは

 

「姐さん、なに言い争ってるの?

 

 あんまり騒ぎを起こすと

 兄さんに怒られちゃうよ?」

 

バイクを押してそこに通りがかった馬子であった

 

「…馬子…

 

 別に、私は騒ぎを起こそうなんて…

 

 そもそも最初にかみついてきたのはこいつで…」

 

「私はただ話しかけてきただけでしょ!

 

 それをあなたが…」

 

またも口論しようとする二人

 

「いい加減にしてよ!

 

 そもそも、もう姐さんが

 何をしようとも、もう秋組には関係のないことでしょ?

 

 もう姐さんは秋組を抜けているわけだし」

 

馬子にそう言われると、ぺガスはおとなしく引き下がる

 

「…フン、それもそうね…

 

 こいつのくだらない説教なんて

 気にする必要はもうなくなったんだったわ」

 

「貴方は本当にもう…

 

 まったく、そんな風だと

 私のところにいた時の様に

 彼に迷惑ばっかりかけているんじゃないの?」

 

最初に比べると落ち着いているものの

やはりどこかお互いに張り合っている感が見えている

 

「それがね、秋四さん

 

 そうでもないのよ」

 

「え?」

 

すると、馬子が口を出してきた

 

「ちょっと馬子…!?」

 

「兄さんは姐さんの強さに感服してね

 

 それで姐さんに合ったスタイルを

 伸ばしていってすごい活躍してるの

 

 おかげで姐さんは兄さんにべたぼれしちゃってね」

 

「のわあああー!!」

 

慌てて馬子の口を押えるぺガス

物静かなイメージのぺガスからは考えられない一面である

 

「…嘘、あのぺガスがこんなにも慌てるなんて…」

 

「へ、ふんふふんふ」(ね、こんな感じ)

 

「ええい、見るな聞くなしゃべるな、笑うな…!」

 

しばらくしてふうふうと肩で息をしていくぺガスは

自分のもとにやってきた馬子に無理やり話題を変えるように聞く

 

「…ところで馬子

 

 一体こんなところで

 何をやっているの…?

 

 わざわざこんな話をしに来たわけじゃないでしょ?」

 

「え、ああ‥

 

 別に用事って程でもないけれどね‥

 

 兄さんから次の任務について

 話をしておいた方がいいかもって

 一応の連絡、急いではいないみたいだし

 あんまり慌てることでもないなって思って」

 

馬子がそう言うとぺガスはふむと

顎に手を当てて指で撫でて考え込む

 

しばらくすると

 

「だったらすぐに行くわ

 

 こっちも急いでるわけじゃないから

 今のうちに来れる時に行っておいた方がいいし…

 

 それじゃあさっそく行くわね」

 

「兄さんは自室にいるはずだから」

 

馬子のその言葉を聞きつつ

後ろ手に手を振ってその場を去っていくぺガス

 

「…はあ、やっぱりここが差なのかな…

 

 どうしてこうも私ってああいうふうに

 張り合い気味になっちゃうのかしらね」

 

「おや、秋四さん

 

 姐さんとあんなに喧嘩をしていたのに

 随分と急にしおらしくなっちゃって‥」

 

その場に残った二人は会話を続けていく

 

「…私は別に、ぺガスさんのことが嫌いなわけじゃないし

 実力の方だってすごい人だって認めてるよ、だけれど…

 

 ぺガスさんはどこか一人で突っ走り気味になっちゃうし

 あの子と一緒に任務に出た子はもう嫌だって直接言われたし

 

 もう少し、周りに合わせられないかって思うんだけれども…」

 

「‥多分それって難しい事だって思いますよ?

 

 そもそもその周りが同じように足並みをそろえても

 それでうまく戦えるとは全く限りませんからね、実際‥」

 

馬子がそう言うと秋四は思わず彼女を見る

 

「姐さんは確かに強い…

 

 でも周りにいる人たちは大きく小さくも

 姐さんとおんなじくらい強いわけじゃない‥

 

 だって全く同じくらいのレベルの強さなんてそういないし

 そもそも秋組は次代の英雄を育てるために特化してるから

 お世辞にもレベルは高いとは言えない子たちの方が多い‥

 

 姐さんは多分、自分とおんなじがそれ以上のレベルの人たちと

 組んだ方がもしかしたらやっていけるんじゃないかって私は思ってるの‥

 

 そういう意味では、星座宮の御巫子はまさに天職ともいえるでしょうね‥」

 

「…なるほど…

 

 そういうことだったんだね…」

 

馬子のつぶやきに秋四はやや悲し気に表情を沈ませる

 

「…ぺガスさんはみんなに合わせようとしなかったんじゃない

 どうにか自分なりにみんなと合わせようとしていたのかも…

 

 でも、慣れない戦い方のせいで

 お互いに思うように戦えなくなって…

 

 周りについていけなかったのはもしかしたら

 ぺガスさんのほうだったのかもしれませんね…」

 

「‥さあ?

 

 でもどのみち姐さんは

 そのことを口にすることはしなかったと思いますよ」

 

馬子はそう言ってふうと一息をついた

 

「だよね…

 

 ぺガスさんはそう言う人だもん…

 

 でももしかしたら、私はもう少し

 ぺガスさんと話をしておくべきだったのかな…」

 

そう言って少し思いつめた表情を見せていく秋四

 

「別に今からでも遅くはないと思いますけど

 何を言ったところで姐さんは戻ってくることはないでしょう

 

 それほど私たちは兄さんたちに感謝しているんです

 私たちはいつでも、兄さんたちとともに行くって決めています‥

 

 たとえ、貴方達と対立することになったとしても…」

 

「…え?」

 

秋四は最後の呟きが聞こえず、思わず聞き返した

 

「‥いいえ、なんでも‥

 

 それでは私もそろそろ

 失礼させていただきますますよ‥

 

 何しろこの子のメンテナンスを

 しないといけないからなるべく早く戻りたいのよ」

 

そう言って自分が押しているバイクに目をやって言う

 

「そっか…

 

 それじゃあ、お疲れ様」

 

「お疲れ様

 

 あんたもあんまりに煮詰めないようにね‥」

 

そう言って馬子はその場を去っていく

 

「相手の気持ちを即座に理解する…

 

 ひょっとしてそれが彼の一つの才能かもしれないね…」

 

そう言って笑みを浮かべながら、馬子の背中を見つめる秋四であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「…お兄さん…

 

 一つ報告のほどがあります…

 

 ここ最近、他の組の連中が

 何やら嗅ぎまわっているようで…」

 

明沙美は彼のもとに謁見し

彼にそのように報告をしている

 

「…‥‥‥その報告だったらすでに

 佐紀や絵美理、愛理や一紗

 百子や真名、仮名からも受けているさ…‥‥‥」

 

「兄さん…

 

 もしかしたら私たちの勧めている計画が

 向こうにばれたとかそういうことはないですよね?」

 

陽菜子はそう言って不安そうに彼に尋ねる

 

「ふう…‥‥‥

 

 計画自体がばれているとは思えないけれど

 ここ最近いろいろと動きすぎたのかもしれないね…‥‥‥

 

 でも、もうすでに集める者は集まりつつある

 いまさらどう思われようともやるべきことは変らないさ…‥‥‥

 

 それにしても、まさか四つの組、全部に目を付けられるとは…‥‥‥

 

 どうやら少し、無理に動かしすぎてしまったようだ…‥‥‥」

 

「お兄さん

 

 ここはぜひとも私に任せて

 いただけないでしょうか、絶対に

 お兄さんが満足、足りうる結果を残して見せます」

 

明沙美は胸を張って立候補するが

 

「却下だ、お前の能力では

 良くも悪くも目立ちすぎる

 

 目をつけられているというならば

 なおのこと任せるわけにはいかないだろう」

 

「ふえええ!?」

 

まさかの即答にショックを受けてしまう明沙美

 

「…では、兄さん…

 

 誰に行かせましょうか…?」

 

陽菜子がそう言って彼に質問をすると

 

「水波に行かせよう

 

 彼女ならばまだどこの組にも目をつけられていないし

 あの能力ならばきっと、情報収集にも役に立つはずだ…」

 

「しかし…

 

 水波ちゃんにできるでしょうか…」

 

「…でも、確かに…

 

 同じ能力が使えるのはほかにも

 いますけれども、実質動けるのは

 確かに水波さんだけでしょうしね…

 

 しかし…彼女はうまく扱えるでしょうか?」

 

明沙美はそう言って意見を述べていく

 

「…‥‥‥心配はいらないさ…‥‥‥

 

 別に戦いを仕掛けようというわけではないのだ

 そのぐらいのことをこなせなければそれこそ話にならない…‥‥‥

 

 それに、相手は何も四人の組長全員に行かせるわけじゃない

 

 彼女には秋組の組長、西虎 秋四の方に行かせようと思っている…‥‥‥」

 

「秋四さんにですか?

 

 確かに秋四さんならまだどうにか

 調べていくことができるのかもしれませんが…

 

 それでも、組全体の動きを把握しきることは

 実質不可能に近いですよ、組はそれぞれ独立しているんですから」

 

明沙美は少し、不安を込めた意見を述べていく

 

「…‥‥‥ほかの組にはそれぞれの監視を

 行かせていくつもりだから、その点は問題ないよ

 

 それに、僕もまだ、準備云々の方でどうしても

 手が回り切らないからね、もう十分すぎるくらいに

 ここで得られるだけの力は得る事ができたんだからね…‥‥‥

 

 実行する前に余計な横やりを入れられたらそれこそ

 面倒なことになりかねない部分があるからね、それじゃあ…‥‥‥

 

 陽菜子、それじゃあ四人の人たちを呼んできてもらえる?」

 

彼はそう言って横に控えている、陽菜子にそう告げる

 

「かしこまりました…」

 

「明沙美、報告の方お疲れ様

 

 君は下がってゆっくり休んでて」

 

「…わかりました…」

 

そう言ってその場から離れていく明沙美

 

「…いいのかなあの子の事?

 

 相当不満が残っている感じがするけれども?」

 

「…‥‥‥大した問題じゃない

 

 手がかかるのは今に始まったことでもないからね」

 

そう言って後ろから、知花乃に話しかけられてそう答える彼であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「うわああああ!!!!」

 

大きく吹っ飛ばされる一人の青年

その衣服はよく見ると道着であり

訓練を受けているようにも見えている

 

「一本!」

 

審判をやっている人物が高らかに言う

 

「いってててて‥‥

 

 容赦ないんだな相も変わらず」

 

「それはもちろん

 

 訓練とはいえ気は抜けませんから」

 

そう言って話しかけるのはなんと女性である

 

「これも兄上様からのご指導のたまもの

 

 本当にあの人には感謝してもしきれませんよ」

 

ペルシャネス・ルセスティア

 

それが彼女に与えられた名前である

 

やがて彼女が着替えて

さっぱりした様子で出てくると

 

「ペルシィ!」

 

そう言って彼女のもとに飛び込んでいく一人の女性

 

「うん、っとお!」

 

「今日もお疲れさま、すっごくかっこよかったわ」

 

そう言って彼女に嬉しそうに話しかけていく少女

 

「アンジィ、ひょっとして見てくれていたのか?」

 

「もっちろん

 

 私の大切な大切なペルシィのことだもの

 万一のことはそう起こらないだろうけれども

 其れでもしっかりと見ておきたいんだもの、フフフフフフ~…‥‥」

 

アンジェリーナ・ロメールダラス

 

彼女もまたペルシャと同じく

星座宮の御巫子に所属し、さらには

彼女とは同姓ながらも、互いに思いあっている

 

いわば恋人同士である

 

「そうか、私は本当に幸せだよ

 

 アンジィの様に優しく思いやりのある

 恋人にこうして巡り合うことができたのだから‥‥‥」

 

「私もよ、ペルシィ…‥‥

 

 私をこうして救ってくれた

 パパ・ケイティとママ・カシス…‥‥

 

 そして私たちのことを受け入れてくださった

 兄上様には本当に感謝してもしたりないもの…‥‥」

 

互いに笑みを浮かべていく二人

 

「それにしても…‥‥

 

 ここ最近、秋四が私たちのところに

 来ているんだって、ぺガスが言っていたわ…‥‥

 

 なんでも何かをこそこそと嗅ぎまわっているらしいってね?」

 

「そうか‥‥‥

 

 もしかして、私たちの計画が

 ばれかかっているということはないだろうな?

 

 もしも先手でも打たれれば厄介な相手だぞあの娘は」

 

アンジェリーナの話を聞いて

心配そうにペルシャネスはそう口を開く

 

「フフフフフフ~…‥‥

 

 ペルシィは心配しすぎよ

 私たちの目的はあくまでここで

 なしえるべき事じゃないんだから…‥‥

 

 それに万が一にも奴らの耳に入ったところで

 今の奴らでは、今の私たちには到底かなわないわ

 

 さっきのあなたがそうだって証明してくれたようにね」

 

そう言ってアンジェリーナはペルシャネスの顔を

上目遣いで妖艶な笑みを浮かべてそうつぶやいた

 

「それもそうだね‥‥‥

 

 これからよろしくね、アンジィ‥‥‥」

 

「もちろんよ、ペルシィ…‥‥」

 

そう言って二人の顔がゆっくりと近づいていったその時

 

「そこの仲のいいお二人さん

 

 割り込んで失礼だけれど

 そろそろ戻ってきてくれるかな?」

 

「今日のことしっかりお兄様に報告してくれないと…」

 

そこに二人の少女が呆れたように声をかけてきた

 

「ちょっと、あんた達!

 

 私たち二人だけの時間を邪魔しないでよ!!

 

 いくら何でも失礼でしょ?」

 

「そうはいかないんだよ

 

 私はこれから皆さんのことを

 まとめていく立場として、しっかり

 貴方達のことを見ていかないといけないんだよ

 

 無粋だと思うけれども、ちゃんと目の届くところでね」

 

「そういうこと」

 

二人の少女のあまりにも無粋な発言に

不満をあらわにした表情を浮かべているアンジェリーナ

 

「しょうがないな‥‥‥

 

 確かに二人のいう通り

 お兄様の元をあんまり長く離れている

 わけには確かにいかないしね、一度戻ろう‥‥‥」

 

「むう…‥‥」

 

ペルシャネスがそう言い聞かせるも

やっぱり不満が残っている様子のアンジェリーナ

 

「大丈夫だよ、アンジィ‥‥‥

 

 それが終わったらまら二人で会おう」

 

「…‥‥それだったら、納得してあげる」

 

ペルシャネスの説得に何とか自分自身を納得させるアンジェリーナ

 

「まったく、見ているだけでも

 胸焼けさせてくれるよね二人共…」

 

「仲良きことは美しきかな、って言いますしね…

 

 それじゃあ私たちは急いで戻らないと

 お兄様に少しお願いすることがあるからね…」

 

そう言って姉妹は、水の中に潜るように地面の中へと入っていった

それを見届けたアンジェリーナとペルシャネスは互いに見合いつつ

 

「それじゃあね、ペルシィ」

 

「ええ、またねアンジィ」

 

そう言って戻っていく同姓の恋人たちであった

 

果たして、彼女らの言う計画とは何なのだろうか

しかして、それがわかるのはまだまだ先の話であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




謎の計画・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冬組の翁

かの者達の為すべき事・・・・・・・・・


 

 

冬組は四つの組の中では比較的穏やかな雰囲気の組である

 

その冬組の組長、北亀 冬三の雰囲気のおかげで

どこか和やかな雰囲気が漂うこの組には穢れに襲われ

 

身寄りのなくなった子供たちが多く引き取られて行く

 

冬三はそんな子供たちを引き取り

親代わりとなる人物のもとに養子縁組をしている

 

冬三の人柄のおかげで最初は悲しみに暮れて

心を開かなかった子供も、今や彼のことをとても慕っている

 

冬三は自分のことを慕って

心を開いてくれる子供たちのことを本当に大切に思っている

 

しかし

 

すべての子供たちが彼の思うように成長してくれるとは限らない

 

中には人格そのものに異常をきたし、恐ろしいことを執行する者もいる

 

その中には、あの冬三でさえも頭を抱える一人の少女がいた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「施設長!」

 

机に向かっている冬三のもとに

一人の女性が慌てるように駆け寄っていく

 

「おや、どうしたのですかな青子さん?

 

 何か問題でも?」

 

「問題も問題ですよ

 

 子供たちが喧嘩を起こしまして」

 

うんざりするかのように髪を激しく

かきむしっていく青子と呼ばれた女性

 

「おやおや、いったい何が起こったのですか?」

 

「例のあの子ですよ!

 

 あの子がまた癇癪を起してしまって…」

 

霊のあの子、それを聞いて若干

表情を険しくしていく冬三はどうやら

 

その一言で、状況を理解したようである

 

「また‥‥あの子ですか‥‥

 

 どうにもあの子はいかんせん

 日に日に手に負えなくなってきていますね‥‥」

 

そう言って重い腰を上げていく冬三

 

「ふう…

 

 もうさすがの私ももう

 あの子を引き取ってくれる人は

 いないんじゃないかなって思えてきましたよ…

 

 あの子は人格に問題がありすぎです…」

 

「だからと言ってここで折れても

 何の解決にもなりません、あの子も他のことと同じく

 

 身寄りのない子供たちの一人なのですから‥‥」

 

そう言って、ゆっくりと部屋を出て

子供たちのいる場所に向かっていく冬三

 

誰もいなくなった施設長室の中で

一人となった青子が静かにつぶやいた

 

「…最悪、お兄様に話を付けてみるといいかもしれませんね…

 

 幸か不幸か、あの子は適性と条件がありますから」

 

そう言って冬三を追いかけていく青子であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

施設の中には当然

子供たちがお互いに交流を持ち

なおかつ、遊びの場でもあるこの場所

 

今この場所では問題が起こっていた

そこにいたのはボロボロになった何人かの子供達と

その様子を見て部屋の隅っこでぶるぶる震えている子供達

 

一人の女性が息を切らしながら、何かを睨みつけている

 

そこにいる一人の少女は無邪気な笑顔を浮かべているが

その表情は不気味なほどに恐ろしく感じられるものであった

 

「ウフフフ‥

 

 どうしたのどうしたの?

 

 こんなので倒れられちゃったら

 私、つまんないよ、もう一回来てよ?」

 

「間衣!

 

 これ以上貴方のわがままのせいで

 他の子供たちを傷つけるのはさすがに許せないよ!!」

 

そう言って相手の少女、間衣を睨みつける

なんとしても取り押さえようとにじり寄っていく

 

「許さないってなんで?

 

 私はただ、みんなと遊びたいだけだよ?

 

 ここにいるみんなだって間衣と一緒に遊びたいっていうから

 一緒に遊んであげたんだよ、どうして私はみんなと一緒に遊んじゃダメなの?

 

 どうして私はお友達と一緒に遊んだらいけないの?

 

 ねえ…どうして‥どうしてなの…‥?」

 

間衣の言葉には怒りも悲しみも感じられない

悪意がなく本当に疑問に思っている様子である

 

「友達っていうのは一緒に笑いあって

 お互いに好きなことをやったりするものだよ

 

 貴方のそれは友達と一緒に遊んでいるんじゃない

 この子たちを自分の玩具の様に扱っているだけだ

 

 幼い命を、玩具の様に扱うな!」

 

女性は荒げた声で間衣に突っ込んでいく

だが間衣はそれをかわすとその女性の体にあるものを突き付ける

 

それは何と、長い包丁であった

 

「っ!」

 

幸いにも刃物は当たることがなく

女性は急いで間衣から離れていった

 

間衣は手に持った包丁を

まるでフェンシングの様に構える

 

「闘牛ごっこしよ?

 

 先生が牛さん役ね」

 

「く、出来れば傷つけたくはなかったけれど…

 

 もうこれは無理やりにでも抑え込まないと!」

 

自分に容赦なく刃物をふるってきた間衣の様子を見て

これはもう普通に対処することができないと判断して

 

武器を手に取ることにする、とはいってもあくまで

捕まえるようのものであるため本場の武器とは違う

 

言うならば、捕縛用武器である

 

「ごめんね、出来ることだったら

 これは使いたくなかったんだけれども…」

 

「わあ、やっと先生が本気になってくれたんだね

 

 それだったら私も絶対に負けないんだからね」

 

にらみ合っていく双方

 

するとそこに、間衣の体に何かが押し付けられる

それは、刺又で、それによって間衣は地面に押さえ込まれる

 

「ぐえ!

 

 な、なに!?」

 

「悪いけれども、おとなしくしていてもらうわよ!」

 

その刺又で間衣を抑えこんだのは、青子であった

 

「青子ちゃん…」

 

「まったく、相手が子供だからって

 自分を殺しに向かっている相手に隙を見せるなんてね…

 

 まあ、ここは私に任せておきなさい!」

 

そう言って青子は結束バンドを取り出して

それで間衣の両手足を拘束して動きを封じた

 

「うー、動けないよー」

 

地面をゴロゴロと転げまわっていく間衣

それを見て他の子どもたちも安心したのか

小さいながらも話し声が聞こえていくのを感じた

 

「青子ちゃん、ごめんなさい…

 

 おかげで助かったわ」

 

「まったく…

 

 貴方は本当に相手に対して甘いわね…

 

 まあ相手は子供なんだから、それは普通なんでしょうね」

 

彼女はそう言って

拘束されて地面でゴロゴロ転げまわっている間衣の方を見る

 

すると、青子は彼女の動くを止めて

地面にうつ伏している彼女の視線に合わせるように

彼女に対して跪くようにして姿勢を落とす

 

「貴方は確か、間衣ちゃん…だったわね?

 

 そんなに遊びたいのなら

 ぜひとも連れていってあげたい場所があるわ…

 

 貴方の事を、紹介してあげたい人がいるの?」

 

「ふえ?

 

 合わせたい人?

 

 私に?」

 

「ええ…

 

 そこだったら絶対に

 貴方の言う、お友達になりうる人がいる…

 

 それでもしもよかったら、会ってもらってもいいかしら?」

 

「う、うーん‥」

 

青子にそう言われて、間衣は悩むように唸る

 

「青子さん‥‥

 

 貴方は一体何を言って‥‥!?」

 

様子を見に来た冬三は慌てて青子の方によって行く

 

「あら?

 

 この子だったら問題はないと思うわよ?

 

 三葉さんとほぼ互角に渡り合ったこの子なら

 きっと今よりも強い子になれると思うし、悪くないと思うけれど?」

 

「青子ちゃん…

 

 いくらなんでもそれは…」

 

青子が何をしようとしているのかを

理解した冬三と三葉はあまり乗り気ではない口調である

 

「大丈夫よ、お二人とも…

 

 私も他の御巫女子もそう簡単に

 この子に不意を突かれることはないわよ

 

 その方がきっとこの子にとっても

 いい遊び相手になると思うし、何より…

 

 ここにいる子供たちも安心できると思うけれどね・」

 

「「っ‥!」」

 

青子の言葉に何も言えなくなってしまう冬三と三葉

 

こうして間衣は青子の手引きにより

星座宮の御巫女子に招待されたのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふうん…

 

 その子、本当にうちに入れて大丈夫なの?

 

 青子さんの見る目を疑うわけじゃないけれど

 人格に問題がありすぎって感じがするんだけれど…」

 

薄暗いその場所でパチンパチンと

何かを討つ音が静かに響いていく

 

「でも聞くところによると彼女の星の力は

 あたい達に比べると小さい方だけれども、素質はある

 

 青子もお兄様に行って近いうちに顔合わせをするみたいだしね…」

 

「そう…

 

 まあお兄様でしたら

 そう簡単に落ちたりはしないだろうし…

 

 しかし、うちもだいぶ変わってきたわね…

 

 周囲からの評価もまちまちになってきているし

 中には根も葉もない批評も入り混じっているわ…

 

 本当にここから先、進んでいいものなのか…」

 

不安を口にする

 

「評子…

 

 お主は本当に踏み込みが甘いわね…

 

 そんなふうだから‥‥王手!」

 

「え!?」

 

相手が駒を打った盤面を見て目を見開く少女、評子

 

「たまには大胆にやってみるのも悪くないだろう?

 

 それに、周りがたとえどう思っていたとしても

 あたい達の進むべき道はすでに決まっているんだしね…」

 

「うう…」

 

負けたショックでがっくりとうなだれる評子

それを見た相手の少女はゆっくりと立ち上がる

 

「あたい達はもうすぐ…

 

 この真っ暗な世界から

 ようやく出ることができる…

 

 そうしたら思い知らせてやれるわ…

 

 あたい達のことを忘れてぬくぬくと過ごしている

 愚か者たちにあたい達の過ごしてきた苦しみの日々をね」

 

「‥‥…」

 

不敵な笑みを浮かべながら、その場を去っていく友倫

 

「‥‥私たちの苦しみか…

 

 お兄様の苦しみと言うのは

 そこまで私たちが共感するに

 値するほどに大きなものなのか…

 

 もしもそうだとしたら、私達は…」

 

すると、後ろの方で何かが歩いてきた

 

「おや、何か不安なことでもあるのかね御車君」

 

「ふえ!?」

 

突然話しかけられて少し驚きの様子を浮かべる評子

その話しかけてきた相手と言うのは、彼女にとっても親交のある相手

 

「百子さん…

 

 どうしてあなたがここに…」

 

「フフフフ、静かなこの場所で

 何かを打つ音が響いたから、誰かなって思って…

 

 まあ、大体予想通りだったけどね…」

 

星座宮の御巫女子の中で位が高く

その中でも飛びぬけ明るい、百子が話しかけてきたのだ

 

「結果はどうだった?」

 

「ふう、私の負けですよ…

 

 と言うより、実のところ

 百子さんはわかっていたでしょ?」

 

評子はややジト目で睨むと百子は笑顔を浮かべながら謝っていく

 

「ごめん、ごめん…」

 

「百子さん…

 

 貴方はお兄様がかねてより

 立てている例の計画について

 

 どのように考えていますか?」

 

評子は不意に百子にそんなことを聞いていく

 

「お兄様は妹様方と、ともに

 かの計画を立てている、そして

 

 その計画のために私たちを集めている

 

 これまでに多くの同志を集めているが

 本当にそれは単純に戦力を整えるためだけなのか…

 

 私にはどうしてもそれだけには思えないのです」

 

「うーん…

 

 僕的にはその問いには

 答えられそうにないね…

 

 自分で言うのもなんだけれど

 僕はそう言う難しい話とかはあんまり得意じゃないし…」

 

評子の言葉に百子は首を傾げていく

 

「‥‥でもさ、僕は大丈夫だって思うよ

 

 だって兄さんは僕たちのことも考えて

 その計画を進めているんだもの、だからね

 

 僕は兄さんに全部任せることにしてるんだ」

 

「私は時より、貴方の事が羨ましく感じますね…

 

 しかし、物事の先を考えてしまうのは

 やはり性格のこともあるのかもしれませんね…

 

 本当に私はこれで、こんな調子でいいものなのでしょうか…」

 

すると、評子の座っていた車いすを

百子はやや強引に引っ張って評子の思考を中断させた

 

「うわわわわ!?」

 

「そうやってしたばっかり見てても

 余計に気分が暗くなるだけだよ、だから!

 

 少しくらいはのんびり上を見ていればいいと思うよ?」

 

そう言って百子は評子に向かって笑みを浮かべて言う

評子はそんな彼女を見て少し笑いを浮かべていった

 

「百子さん、それを言うなら前を向いた方がいいじゃないですか?」4

 

「ふえ?

 

 そっちの方がよかった?」

 

評子はそう言いながらも車いすの背もたれに

背中をもたれさせて力を抜くように一息つく

 

「でも…

 

 そうですよね

 たまにはそう言うのも悪くないかもしれないですね…」

 

「うん!

 

 それじゃあ、そろそろ戻ろうか?」

 

そう言って百子は評子の車いすを押して

自分たちの拠点の方へと戻っていく、すると

 

「なんだか百子さんが私たちの指揮を

 任されている理由が何となくわかった気がします」

 

「そうかな?

 

 僕はそう言うのはよくわかんないけど

 兄さんから僕が思った通りにやっていいって

 言われているからそうしてる、それだけだよ」

 

評子は百子のその言葉を聞いて

やはり自分の言ったとおりだと感じていた

 

「お兄様の計画…

 

 必ず私たちの手で成功させましょう」

 

「もっちろん!

 

 兄さんといつでも一緒にね」

 

二人はそう決意を新たにするのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

一人の少女が座っていると

そこに二人の少女がゆっくりと近づいてきた

 

「こんなところで何をしているんですか?」

 

「なんだよ、お前ひょっとしてさぼりか?」

 

「…‥あなたと一緒にしないでくれる真名?

 

 貴方が最近任務を抜けがちで

 その分仮名の手を煩わせていることは

 もうとっくに耳に入っているわ、それに…‥

 

 いよいよその時が近づいているからね…‥」

 

そう言って彼女が見つめるその先には

星座の都の暗闇に照らされた街並みを眺めていた

 

「それにしても、双子座の巫女に選ばれたのが

 まさか本当に双子だなんてね、星の運命は本当に

 

 面が白いようにその星座に合った運命を運んでくるなんてね…‥

 

 ほかに帆二人ずつで選ばれているのは、魚座と猟犬座…‥

 

 お兄様ももしかしたらそこがわかっているのかもね」

 

「そう言うあんたこそよく似合ってると思うぜ?

 

 オリオン、巨人の血を引く英雄にして狩人‥

 

 あんたほどの猛者にはぴったりの星座だと思うぜ?」

 

その場に座り込んでいる少女に対して

双子の荒っぽい方の少女がそのように返していく

 

「私はあいにくとそこまで

 立派な英雄ってわけじゃないさ…‥

 

 私は仲間の死を元に生き延びた…‥

 

 それは決して許されない罪だ、でも

 お兄様に出会って星座宮の御巫女子と言う

 お兄様に仕えている仲間に出会えたことは

 

 本当に私にとっては救いであるとも受け取れた…‥

 

 だから決めたのさ、私に生きてほしいと支えてくれた

 お兄様や妹君方、あんたたちのために戦うってね、だから…‥

 

 最後のときまで私は星座宮の御巫女子の一人

 

 オーリーオーン座の巫女として戦わせてもらうよ…‥

 

 もう二度と、何も失わないためにね…‥」

 

「…そっか‥

 

 あたしもお兄様のおかげで

 仮名と二人で一緒に居続けられているんだ‥

 

 私たち双子は忌み子として殺される運命だった‥

 

 故郷を飛び出し、私たちを受け入れてくれる場所を

 探していくうちに身を隠していく戦い方をしていくうちに

 

 身を隠していくことにつかれて一時期は死ぬことも考えた‥

 

 でも、そんなときにお兄様に拾われて

 私も真名ちゃんも彼のもとに率いられた‥

 

 お兄様との出会いが私たち二人の命を紡いだんだ‥

 

 だからこの先、なにが待ち受けていようとも

 私たちは最後までお兄様の方につくよ、たとえこの先

 

 英雄たちと敵対することになったとしてもね‥

 

 ね、真名ちゃん?」

 

笑顔で聞いていく仮名の問いに

真名は笑みを浮かべて返事をするのであった

 

そして

 

運命は動き出す

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

星座宮の御巫女子、総勢百数人

 

主力は主に88人、そのうち精鋭は48人

そしてそのうち幹部クラスは12人と28人

 

その中で指揮官は11人

 

その11人の目の前には玉座に静かに座る彼

 

彼の後ろに六人の少女、彼の両側に一人ずつ

そして彼の前に立ち、指揮官の前で控えているのは三人

 

少女達はそれぞれ、彼のもとに控えている

 

やがて彼は、自分の前に集まった一同を見下ろして

全員そろったのを確認すると、ゆっくりと玉座から腰を上げた

 

そして

 

「僕たちはかつて、それぞれがそれぞれ

 自分たちの世界で過ごしていた、本来ならば

 僕たちはここで会うことなくそれぞれの世界で

 それぞれの生を謳歌していた、謳歌してたはずだった

 

 だが、世界は僕たちの存在を否定しあろうことか

 僕たちをこのような暗闇の奥深くに追いやった、まるで

 僕たちが世界で生きていく価値のない存在だと決めつけたかのように

 

 生きていくことの何が悪い

 

 ただそこにいることの何が悪い

 

 愛するものとともにたった一度の生を謳歌する事の

 

 何が悪いというのだ!

 

 世界は僕達を否定し、存在そのものを否定した

 僕たちはただ小さな望みをこの胸に抱いていた

 

 だが世界はそんな願いすらもこの手に抱くことを許さなかった

 

 もしも、僕達の存在を決めつける権利が世界にあるというのならば

 その世界の在り方を僕たちが決めつけるのもまたしかり、そうだ

 

 今の僕達には力がある、だが世界に挑むにはまだ足りない

 僕たちが今なすべきことはその力を手にし、世界を新たに

 

 いいや、あるべき姿に戻す、だからこそここにいる全ての

 力を一つに結び、世界に向けて宣戦布告を成す、そのためにも

 僕たちの邪魔をするであろう者たちをここで倒しつくす

 

 それを成しえた時こそが、僕達の戦いの始まりだ

 

 それじゃあいこう、みんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を否定するための戦いに…‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




不穏な空気・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まりの終わり…‥‥‥

運命の時…‥‥‥


 

 

星の運命は時には残酷な結果をももたらしていく

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

英雄達は落ち着き始めた

穢れとの戦いのさなかで

 

ひと時の休息をとっていた

 

「‥‥ようやくひと段落か‥‥

 

 まさかあれほどまでに頻繁に

 現れてきた穢れたちがまさか収まるとはな‥‥」

 

「…これも春三さんや優生たち

 みんなが頑張ったおかげだよ」

 

「ななちゃん、その頑張ったみんなの中には

 那奈ちゃんも入ってるんだからね、もちろん彼らも…」

 

優生その最後の言葉に、春三と七誠も笑みを浮かべる

 

「やっぱり僕、彼と出会ってよかった‥‥

 

 彼がいたんだからこそ、ここまで戦ってこられた‥‥

 

 いつかは彼と一緒に笑いあったりとかしてみたいよ」

 

七誠のそんなつぶやきとともに、優生と春三もまた笑みを浮かべていく

そんな三人のもとに誰かが訪ねてきた、それを気付いた三人は噂をすればと思った

 

「相変わらず仲がいいのね、三人とも」

 

扉を開けて現れたのは、春組とも面識のある少女であった

 

「絵美理ちゃん、久しぶり」

 

「久しぶりね、七誠…

 

 久しぶりついでに貴方に伝言よ七誠…

 

 お兄様があなたとどうしてもお会いしたいとのことよ

 

 よかったら来てもらえる?」

 

「彼が僕に?

 

 珍しいね、彼の方から僕に会いたいだなんて」

 

絵美理の伝言を受けて、七誠は喜んで指定された場所に行く

 

「七誠一人だけか?

 

 ひょっとしてほかの英雄たちに

 会いに行くのに緊張しているのかね?

 

 案外かわいいところがあるじゃねえか」

 

「そうだ、ねえ絵美理ちゃん…

 

 よかったら絵美理ちゃんのことも聞かせて?

 

 せっかくこうして久しぶりに会えたんだから

 彼やほかのみんなのことをお話ししt…っ!?」

 

優生はそこで言葉を止める

なぜなら彼女ののど元に切っ先が突きつけられているから

 

そして、それを突き付けているのは

 

「これは‥‥いったいどういうつもりだ…!?

 

絵美理!

 

春三はその人物に向かって声を上げる

そう、自分たちに刃を向けている相手は

 

「……」

 

絵美理だったのだから

 

「ど、どういう事なの絵美理ちゃん?

 

 いくら何でも冗談きついよ?」

 

「…あいにくだったわね

 

 冗談でも何でもないのよ…二人とも…」

 

絵美理がそう言う言葉はとても冷たいものであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「それにしても、どうしてこんなにも離れた場所で‥‥っ!?

 

 何、このとんでもないくらいの血の匂い!」

 

慌てて駆け出していく七誠は指定された部屋に勢いよく入っていく

 

そこにいたのは、一人の少年が

一人の少女に深々と剣を突き立てている光景であった

 

「嘘だろ…これは‥‥

 

 どういう‥‥」

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

少年は七誠に気づき剣を下す

すると少女の亡骸は地面にずり落ち、その場に倒れこむ

 

どういうことだよおおお!!!!

 

叫ぶように声を上げて少年に向かっていく

その手に彼に振るわんとする剣を手に持って

 

だがそれを阻むかのように

一つの影が彼と七誠の間に飛び込んできた

 

それは、彼の妹の一人にして

彼と最も対等な位置に当たるいわば、双子の妹

 

陽菜子だった

 

「お前は‥‥!?

 

 これはどういうことだ!」

 

「…七誠さん、私たちは最初の時から決めたのです

 ここで必要なものはすべて手に入れました、ですから

 

 今後の私たちの悲願になりうる者達を今宵この場で

 すべて排斥することにいたしました、これは兄さんからの決定です…」

 

陽菜子がそう言うと七誠は信じられないと言ったように表情をこわばらせる

 

「そんな…そんなこと納得できるか!

 

 こんなことをして下手をしたら

 自分たちの士気を下げる行いだぞ!!

 

 こんなことについていこうと思う人がいるはずが‥‥」

 

「いますよ、私と地花乃以下、妹たち総でに…

 

 星座宮の御巫女子に任命された方たち全員(・・)が了承しました

 

陽菜子は静かにそう言いきったのと同時に七誠に表情はさらに大きく見開かれる

 

「全員だって‥‥

 

 じ、じゃあ‥‥」

 

「ご想像の通りですよ七誠さん…

 

 私たちのもとに所属している

 貴方のお姉さんの七尾さんも

 幼馴染で思い人の絵美理さんも

 

 お兄様のお考えに賛同してくださいました」

 

「嘘だ…嘘だ‥‥

 

 嘘だ嘘だ嘘だ!!!!

 

 嘘だあああ!!!!」

 

 姉さんが…絵美理ちゃんが‥‥

 

 こんなことに手を貸すはずなんてない!」

 

信じられない、信じたくない

そう思って彼は叫ぶように言う

 

だが、現実は時には残酷なものであった

 

「「事実だよ!!」」

 

そう言ってそこに入ってきたのは二つの影

七誠はそれを聞いてさらに表情をこわばらせつつその方向に目を向ける

 

そこにいたのは、まぎれもなく

 

「私達二人を含め、星座宮の御巫女子全員

 お兄様以下、妹君達の指揮下に入ることを決めたわ」

 

「そして、お兄様の宿願を果たすために

 四つの組に職属する英雄たち全員を討伐するわ

 

 私たちの望みの前に立ちふさがる脅威

 それになりうる貴方達を今ここですべて討ち果たす…

 

 それが私たちの決定よ」

 

七誠の姉、七尾と

七誠の幼馴染兼想い人の絵美理、その人であった

 

「…な、なにを言って‥‥

 

 冗談にも…ほどがあるよ‥‥」

 

「フフフ…

 

 残念だけれども本気だよ」

 

「私達としてもあなたを討伐するのは

 気が引けるけれども、貴方の性格のことを考えると

 私たちの前に必ず敵として立ちふさがることになるもの…

 

 だったら今のうちに手を打っておかないとね…」

 

そう言って二人はそれぞれ武器を手に取って

まだ動揺が抜けきらない七誠に勢いよく向かっていった

 

「うあああ!!!!」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

夏組 本部

 

「はあ…‥はあ…

 

 どういうことだよ琴音…

 

 これは一体どういうことだよ!?」

 

襲撃を受けた夏三は叫ぶようにして

自分を襲撃してきた相手に聞く、すると

 

「‥‥お兄様の悲願、世界の再生と修正…

 

 その考えに私たちも同意?

 

 だからそれを邪魔する貴方達を

 放っておくわけにはいかない…

 

 そう言うことだから」

 

その目の前にいるのは背中に琴を背負い

指につけている琴爪を鳴らしている、琴音

 

夏三と同じ浮浪児にして、苦楽を共にせし

彼女が今、その彼に冷たく言い放っていく

 

「琴音えええええ!!!」

「‥‥さようなら…」

 

琴音がそうつぶやくと

辺りに琴の弦をはじく音が静かに響いた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

この騒動はあちらこちらで起こっている

 

「聞くがよい愚かな臆病者どもよ

 

 これよりお兄様と妹君方以下

 あたい達星座宮の御巫女子一同は

 

 お兄様の思想の名の下で

 世界への進軍を開始する、愚かで弱き者どもを排除し

 醜く穢れに満ちたすべての世界をすべて破壊しつくす

 

 そして、私たちこそがその世界を元に

 あるべき世界を創造する、救世主となるのだ!

 

 それを阻む者達はすべてここで排除する

 偉大なるお兄様の名のもとに、すべて駆逐してあげよう!!

 

 はああああ!!!」

 

高らかに叫ぶ智晶が自分の御側付きたる二人の少女とともに

自分たちに向かっていく英雄たちに攻撃を仕掛けていくのであった

 

「まったく騒がしいお人ですね…

 

 そんなに今回のこの騒動が

 待ち遠しかったのでしょうかね」

 

「できれば戦いたくはなかったわよ…

 

 付き合いこそ浅いけれども

 それこそともに戦い続けた仲だもの…

 

 戦わずにすむのならもちろんそれでいいけれど…」

 

智晶の声が響くくらいの距離にて二人の少女が

話しをしていると、二人に向かって行く者達の姿が見える

 

「まあ、無理よね…

 

 予想はできていたわ」

 

そう言ってまるで心の中では割り切っていたようにふるまい

背中から節足のような何かを伸ばしては自分に向かってきた者達を

瞬く間に討伐していくのであった、それを見て一息をつくその少女

 

「そう言えば真苗…

 

 貴方はどうしてお兄様に?

 

 貴方はてっきりこれには反対すると

 思っていたけれども、本当に意外だったわね」

 

「あの人は私のすべてを受け入れてくれたわ

 

 生きるために幾度となく体を改造し

 人であることも捨てて、自分でも知らないうちに

 私は私自身が人でなくなったことを受け入れていた…

 

 でもきっと本当は、私は人として生きていきたいと望んでいた

 そのために必死の思いで生きることに執着していったんだ…

 

 そんな時あの人は私に言った言葉が私を救ってくれた…

 

 人であることをあきらめない限りはどんな姿になっても人なんだ、てね…

 

 あの人は私を一人の人として受け入れてくれた、だからついていくわ…

 

 たとえその先が、どれほどの地獄であろうと修羅の道であろうとね」

 

「なるほどね…

 

 私も似たようなものよ…

 

 私は元居た世界で戦うためだけに生み出された

 戦いが終わって忘れ去られて、誰かに愛されたいと願っていた時に

 あの人は私を家族の様接し、真剣に愛してくれたんだもの…

 

 これから先も戦いの道だけれども‥‥兄さんと一緒なら

 この先もきっと乗り越えられる、不思議とそう思えるわ」

 

そう言い切る二人の少女、真苗と百合子はそう言って前に進んでいった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「はあ…はあ‥‥」

 

弓矢を構える一人の青年、その目の前には

同じく弓矢を構えた一人の女性が立っていた

 

「愛理さん…師匠‥‥

 

 どうしてこんなことを‥‥」

 

「‥‥私と兄上様、その理想はともに同じ‥

 

 故にその理想に理解を示さず、私たちの前に

 立ち塞がっていくであろう者たちをここで倒す‥

 

 それだけのことだよ、六誠‥

 

 正直に言うと残念だよ、貴方と私の理想は残念ながら違えている‥

 

 その瞬間に私たちは、敵同士となってしまうのも必然の事‥」

 

そう感情を見せずに告げていく愛理

 

「貴方と彼の理想が同じ‥

 

 彼にはその力があると!?」

 

「ないというのならば、その時は‥

 

 私が兄上様をこの手で射貫くのみ!」

 

そう言って弓矢を容赦なく射る愛理

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「それにしても意外だね…

 

 彩さんはてっきりこういうのには

 消極的な方かなって思っていたんだけれど」

 

手に本を開いて、鎌の伸びた杖を肩に置いた

頭部に山羊を彷彿とさせる角をはやした少女が問う

 

その隣には

 

「私は最初は、どのようなことがあろうとも

 神は決して私たちを見捨てることは無いのだと必死で祈っていました‥

 

 しかし、兄上殿と出会い、この世界の真実を知ったとき

 私の中の神の価値観が変わったのです、神は私たちをお救いにはならない‥

 

 救われぬ私たちのことを救っていただいたのは

 ほかの誰でもない兄上殿でした、真の救い主はあの人なのだと確信したのです‥

 

 兄上殿がそうするべきだというのならば、私もそれに従いますよ

 

 それが私の救い主様である兄上殿の意志だというのならば‥」

 

銃を手に優し気な笑みを浮かべている少女、彩の姿があった

 

「救い主様ね…

 

 じゃあもしもお兄様が

 貴方の救い主に足りえない存在だと判断したら?」

 

「フフフフ‥

 

 そんなことはありえませんよ

 そんなわかり切った質問をしないでください」

 

彩はそう言って引き金を引き

自分に向かってきた者たちを容赦なく打ち抜いた

 

「ひゃあ、優しい顔して本当に怖い人だね…」

 

「あなたほどではありませんよ一紗さん…

 

 貴方だって兄上殿を慕っていたではないですか」

 

そう言って自分に話しかけてきた少女、一紗に問う彩

 

「もちろんだよ、だってあの人がいなかったら

 今頃あたしはここにいないんだもん、この世界に流れては

 本当に災難続きだったからね、世界に見捨てられてそこでは

 ぞんざいに扱われて、挙句には穢れを抑えるための生贄に捧げられた…

 

 そんなあたしのことを救ってくれたのがお兄様だった

 お兄様がいなければきっとあたしはここにはいなかったよ…

 

 この命はお兄様に救っていただいた、だからお兄様のものだよ…

 

 だから最後のときまでお兄様のためにこの命をささげるよ」

 

「…せっかく救ってもらった命を

 そんな身勝手な理由で捨てるのは…

 

 いくらあのお兄様でもお怒りになると思いますけれど」

 

一紗の近くに通りかかってくるのは一人の

大きな水瓶を背負った一人の少女であった

 

「おやおや、命を扱う人は命に関してはお厳しいね…

 

 そう言う明沙美ちゃんはどうしてお兄様のもとに?」

 

一紗はそう言ってその少女、明沙美に問いかける

 

「私はもうすでに救いようもない業をいくつも犯してきた…

 

 そんな私のことをお兄様は受け入れ、私を必要としてくれた

 私とともに業の深い道を歩んでくださると言ってくださいました…

 

 でしたら、私は最後まで己の業とともに自分の道を歩み続けていくのみ」

 

少女達はそんなやり取りをかわしていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




それぞれの覚悟…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

…‥‥‥終わりの始まり

決定的な敗北・・・・・・・・・


 

 

 

そのころ、七誠は

二人の少女と対峙していた

 

しかし

 

「があ‥‥」

 

二人の手にした強大な力の前になすすべもなくやられ

その場に膝をついて倒れこむのであった、それを見ていた彼は

 

そんな、七誠にゆっくりと近づいていき

 

「もうじき、世界は変わる

 いいや、再生されるんだ…‥‥‥

 

 本来あるべき世界にね…‥‥‥」

 

「あるべき…世界だって‥‥!?

 

 いったい何を考えているんだ‥‥」

 

ボロボロになりながらも彼を見上げて問いかけていく

 

「僕たちが世界に見捨てられてからいったい何を見てきたっていうんだい?

 

 世界に生きている人間は、身勝手にもくだらない割り振りで

 お互いにお互いを陥れ踏みにじり、挙句には命すらも奪い合っている

 

 君たちから見てその世界は美しいと感じられるのかい?

 

 そんな人間たちのせいで、穢れが生まれているというのに」

 

「っ!?

 

 どういうこと」

 

彼の発言を聞いて、信じられないというように彼の方を見る

 

「どうやら知らなかったようだね?

 

 この星座の都にて散々僕たちを苦しめ続けていた穢れは

 世界に生きる人間たちの欲望から生み出されていたんだよ

 

 つまり、僕たちの世界にあふれている穢れはすべて

 世界が自分たちのもとに溜めてはいけないとごみの様に吐き出していたのさ

 

 僕たちのようにね…‥‥‥」

 

「そんな‥‥」

 

あまりのことに何も言えなくなる七誠

 

「僕はね、新しく世界を作り直そうと思うんだ…‥‥‥

 

 あの子が望んだ、誰も悲しまず、笑顔にあふれ

 誰もが幸福に過ごせるそんな世界にしようってね…‥‥‥」

 

「そんなこと…できるはずない‥‥

 

 いくら君が強くったって‥‥

 

 世界を作り変える力なんて‥‥」

 

七誠は呼びかけるように言うが

彼はそんな彼の思いを否定するように言う

 

「できるよ‥‥

 

 破壊の力である穢れの力と

 想像の力たる星座の力を組み合わせればね‥‥

 

 それに、もう僕たちの計画を実現するためのカギは‥‥

 

 すでに手に入れているんだよ」

 

そう言って彼は自分と七誠の周りにあるものを映し出す

七誠はその浮かんでいるものを見て、驚きの表情と声を漏らす

 

「これって…神剣と王剣‥‥!?

 

 まさか、聖地に行ったの!?」

 

「必要なものはもう十分にそろった…‥‥‥

 

 もう君たちのもとに居続ける必要はもうどこにもない…‥‥‥

 

 そして残るは、君たちと言うこの場で残しておけば

 いずれ必ず敵になるであろう∃をここですべて駆逐するのみ…‥‥‥

 

 君を含めたすべての人たちをこの手で始末したら

 いよいよ僕たちは行動に移そうと思っているんだ…‥‥‥

 

 そういう事だから、君にはここで死んでもらうね」

 

彼がそう言うと、倒れている七誠の背中に

ぐさりと何かが深々と突き刺さる感触に襲われる

 

「があ…姉‥‥さん…‥‥」

 

「ごめんね七誠…

 

 でも、これが私の選んだ道だから…」

 

そう言って突き刺した自分の武器である爪を

勢いよく抜くと、彼の周りにうっすらと血だまりができていく

 

「……」

 

やがて動かなくなった七誠を

何か思うことがあるのかじっと見つめている絵美理

 

「…‥‥‥何か思うところがあるのかい絵美理?」

 

「…いいえ、何でもないわ…

 

 それじゃあ、行きましょうか…」

 

彼にそう言われて、絵美理は彼とともにその場を離れていく

 

その場には意識を失った七誠が一人、取り残されていたのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

あれからしばらくの時がたち

 

「…‥‥‥…‥‥‥」

 

彼はその場に立ち尽くした状態で

ゆっくりと目を開けていく、そこには

 

「お久しぶり…兄さん…」

 

妹たちがそばについていた

 

「…どうしたのよ兄さん

 急に黙り込んじゃって…

 

 何か悩み事でもできた?」

 

妹達 長女

 

超越を越えるもの

 

太陽

 

陽菜子

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしてください兄さん…

 

 兄さんがしっかりしてくれないと

 私たちの調子だって狂っちゃうよ」

 

妹達 三女

 

英知を知るもの

 

水星

 

水波夜

 

 

 

 

 

 

 

「あ兄ちゃん

 

 何の感傷に浸っているか知らないけれど

 今の私たちの為すべきことも忘れないでよ」

 

妹達 四女

 

創造を創るもの

 

金星

 

金乃恵

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ御巫女子達が来るから、しっかりね…」

 

妹達 次女

 

神秘を秘めるもの

 

地球

 

知花乃

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、その時こそが

 私たちの革命の時です」

 

妹達 五女

 

守護する者

 

 

月夜美

 

 

 

 

 

 

「いよいよ始まるのね

 世界に挑むための戦いが…」

 

妹達 六女

 

力を持つ者

 

火星

 

火麻里

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、あの日から

 大体、およそ七千年…

 

 漸く準備が整ったのね…」

 

妹達 八女

 

奇跡を起こす者

 

木星

 

木乃華

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、私達が得た力は大きい…

 

 十分なものであると考えますよ」

 

妹達 七女

 

裁きを捌くもの

 

土星

 

睦都美

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄たちもいない今…

 

 私たちを阻むものは誰もいないのです!」

 

妹達 九女

 

死を招くもの

 

天王星

 

天奈

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよこの大海原に乗る時が来たわね」

 

妹達 十女

 

災厄を担うもの

 

海王星

 

海香

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、みんなが来たわ‥」

 

妹達 十一女

 

命を絶つ者

 

冥王星

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女がそう言うと

彼のもとに複数の少女達が現れる

 

「お久しぶりです‥‥兄上殿‥」

 

牡羊座(アリエス)巫女(ハマル・シェラタン・ボテイン)

 

円藤 彩(えんどう あや)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たち、星座宮の御巫女子…

 

 久しぶりの再会ですね」

 

牡牛座(タウラス)巫女(アルデバラン・エルナト・アイン)

 

太原 百子(ふとはら ももこ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですお兄様‥

 

 こうして再びお見えになれたこと

 私達二人、心よりお喜び申し上げます~」

 

「仮名、あんましかしこまるなっての

 

 アタシがいろいろと言いにくいじゃねえか」

 

双子座(ジェミニ)巫女(ポルックス・カストル・ワサト・メブスタ)

 

阿済 仮名(あすみ かな)

 

阿済 真名(あすみ まな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず騒がしい人たちだね…」

 

蟹座(キャンサー)の|巫女《アクべンス・タルフ・アセルス‣アウストラリス》

 

大元 真紀子(おおもと まきこ)・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくね…」

 

乙女(少女)座(ヴァルゴ・パルセノス)の|巫女《スピカ・ザヴィヤヴァ・ヴィンデミアトリックス》

 

加東 絵美理(かとう えみり)・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ちはわかるけれども落ち着きなさい仮名、真名…

 

 お兄様の御前ですよ」

 

天秤(【蠍の】爪)座(ライブラ・ジィゴス・リブラ)巫女(ズベン・エス・カマリ‣エル・ケヌビ)

 

小早志 真苗(こばやし さなえ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様、いよいよ私たちの崇高なる願い…

 

 それを今成就する時がようやく参りました…」

 

蠍座(スコルピオン)巫女(アンタレス・アクラブ)

 

山口 百合子(やまぐち ゆりこ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちの理想は、常に兄上様とともにあると信じております‥」

 

射手座(サジタリアス)の|巫女《ルクバァト・カウス・アストラリウス・アルカブ・プリオル‣ポステリオル・メディア》

 

来村 愛理(きたむら えり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、あたし達以下

 星座宮の御巫女子一同…

 

 偉大なるお兄様にぜひとも

 そのすべてをささげていきます…」

 

山羊(ヤギの角を持つ者)座(カプリコルン・アイゴケロス)巫女(デネブ‣アルゲディ)

 

荒波 一紗(あらなみ かずさ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も一度は道を外れた身…

 

 人としての道を誤った私は

 もはや、足を止めるという選択肢はありませんよ」

 

水瓶(水【瓶】を担ぐ者)座(アクエリアス・ユドロコース・アクアリウム)巫女(スカト・サダルメリク・スウド・アルバリ)

 

志茂田 明沙美(しもだ あさみ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長い話はここまででいいよ」

 

「それではお兄様…

 

 ぜひとも出撃の鼓舞を」

 

魚座(ピスケス)巫女(アルレシャ‣フム‣アル‣サマカー)

 

冨士井 亜希子(ふじい あきこ)

 

冨士井 有希夜(ふじい ゆきよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女がそう言って言葉を締めると

彼はゆっくりといすから立ち上がって

 

自分を取り巻いている妹達や

自分の前で控えている星座宮の御巫女子たちを見やる

 

「いよいよ機は熟し、時が来た

 今こそ誰もなせなかったこと、為そうともしなかったこと…‥‥‥

 

 それを今こそ全ての世界においてなしえる時…‥‥‥

 

 穢れに満ちたこの世界を、今こそ全て破壊し尽くし

 真にあるべき形に戻す時が来たんだ、さあ、みんな…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行こう…‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




世界への反逆、あるいは革命…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

物語が動き出す

生き残った英雄達・・・・・・・・・


 

 

 

 

「いやあああ!!!」

 

ある場所にて

一人の少女が目を覚ました

 

最もいい目覚めではないようだが

 

「はあ…はあ…ここは……!?」

 

「目が覚めたようだな、秋四‥‥

 

 おまえで最後だよ」

 

そう言って話しかけてきたのは一人の青年であった

 

「…いっつ…いったい何が…っ!?

 

 そうだった…確かあの時…」

 

「‥‥ああ、言っておくがその記憶は

 間違いじゃない、正真正銘の現実だ‥‥

 

 俺様たちはあいつらに

 星座宮の御巫女子たちの手によって…」

 

それを聞いた秋四は動揺の視線を見せていく

 

「うそだよね…嘘だよね…

 

 アンジェちゃんも…ぺガスも…

 

 みんなが裏切ったなんて…

 

 嘘だよね…嘘だよね…」

 

「落ち着け秋四‥‥」

 

「うそだ、嘘だ…

 

 嘘だ嘘だ嘘だ!!!

 

 嘘だあああ!!!」

 

現実逃避をするように大きな声で喚く秋四

春三はそんな彼女の顔を上げると激しく頬を叩いた

 

「うそじゃない、俺様たちは‥‥

 

 裏切られた‥‥星座の都にも行けなくなった‥‥

 

 俺様たちはもう‥‥」

 

「そんな…そんなの…

 

 そんなの急に言われて信じるなんてできないよ

 昨日今日まで、あんなに一緒に戦ってたのに…

 

 そんなみんなに裏切られたなんて…」

 

「俺様だって同じ気持ちだ‥‥

 

 だが、どんなに現実から逃げても

 変わりはしないんだ、だったら俺様たちは

 

 俺様たちが今、やり遂げなければならないことがある‥‥」

 

春三がそう言うと、秋四はゆっくりと貌を上げた

そこにいたのはほんの数人の顔見知りの姿であった

 

「みんな…」

 

「秋四さん、やっと起きたみたいだね‥‥

 

 これでようやく全員が目を覚ましたってわけだ」

 

「うん、とりあえずここにいる全員は

 誰もなくなってはいないってことだよね」

 

「まったく、御寝坊さんなんだから」

 

「無理もないよ…信頼していた人たちに

 裏切られちゃったんだ、僕たちだってショックなんだもん」

 

「ええ…

 

 でもゆっくりもしていられないわ…」

 

一人の呟きに秋四は反応する

 

「どういう…?」

 

「彼はおそらく、世界そのものに攻撃を仕掛けるつもりだ…

 

 そのために障害となりうる自分達に攻撃を仕掛けたんだろう」

 

「ええ、ほとんどの者達が奴らの手にかかりました

 

 生き残っているのもここにいる私達だけです

 彼がいなければきっと私たちも殺されていたでしょう」

 

そう言って奥の方に目をやる一人の老人

 

そこに現れたのは

 

「どうやら目が覚めたようだな」

 

「貴方は…」

 

一人の黒い服装の人物、十文字 似非であった

 

「すまなかった…‥奴らが私たちに謀反を

 起こそうとしていたことは気が付いていたんだが

 

 それを伝える前に奴らに行動を起こされてしまった‥

 

 せめて全滅を避けるためにお前たちのことは助けられたんだが‥」

 

似非はそう言って悲し気に口を開く

 

「そんな…

 

 似非さんは私たちを助けるために…」

 

「私だけの力じゃない、秋組の奴らがせめて

 おまえだけでもと自分達が足止めしてくれたんだ

 

 秋組だけじゃない、他の組の奴らだってそうだ‥

 

 私はそれで春組からは春三、七誠、優生を‥

 

 夏組からは夏三、信乃、六誠を…

 

 冬組からは冬三、三葉…

 

 秋組からは残念ながら、お前を逃がすのに精いっぱいだった‥」

 

似非の言葉に秋四は悲しげに俯く

 

「それで‥‥俺様たちはこれからどうする?」

 

「…‥どうにもならねえよ‥

 

 星座宮の御巫女子はその全員が

 人の身でありながら人であることを越えた‥

 

 いわば超人の集まりだ、奴らの力はさっき

 それぞれが大いに味わったはずだから反論はないだろう」

 

「あんたほどの人でもそこまで…」

 

「‥‥ああ、私でも無理だ特にあいつにはな‥

 

 あいつの力はもうもはや超人なんて言う域すらも越えてる‥

 

 まさに…‥神の人と書いて神人って言葉がよく似合うほどにな‥」

 

「それにしても、どうして彼は…」

 

「わからない‥

 

 しかし、今の私たちにできることは

 悔しいもんだがない、力の差がありすぎる‥」

 

「なんとも無念ですね‥‥世界がどうなるのかも

 わからないというのに、黙ってみているだけしかないのだと思うと‥‥」

 

そう言って無念そうにつぶやく冬三

 

すると、似非はあるものを一同に見せる

 

「確かに私たちだけでは何も成し遂げられない…

 

 だが、私たちのほかにも私たちの力を

 託すことのできる存在を見つけることならできる」

 

似非がとりだしたのは、一機の端末であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




拾ったのは最後の希望…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 963years 世界に穢れがはびこりし時、十人の英雄のもとに八十八人の勇者が集う
全ての始まり


動き出す者達・・・・・・・・・


    

 

星空に浮かぶいくつもの星々

それによって構成されるは88つの星座

 

その星座の力をふるい、世界を

覆いつくさんとする世界の脅威

 

星座宮の御巫女子

 

かの者達の脅威を感じた十人の英雄は

自分達とともに戦える力と素質のある

 

それぞれの星座の加護を受けた

88人の少女達を集わせ、彼女たちとともに戦わんとした

 

のちの世に彼女たちは尊敬を込めて

英雄と並ぶ、勇者と呼ばれるようになる

 

之から始まるこれは、言うならば

英雄と勇者が初めてともに戦う最初の激闘であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

星座の都が星座宮の御巫女子たちの手によって落ち

その日から星座の都においてはおおよその時がたった時

 

ある場所では二人の人物が話をしていた

 

「…‥‥‥まさか貴方の方から話をしてくれるとはね

 

 しょうじき言うと僕は貴方の事を怨んでいる者と思っていたよ…‥‥‥

 

 響子さん」

 

そう言って目の前にいる人物は、特に拘束されている様子はなく

代わりにそこから出られないように閉じ込められている一人の少女がいた

 

それは、英雄たちを束ねる長の娘にして

彼の婚約者でもあった少女、響子であった

 

「‥‥怨むわけなんてむないでしょ…

 

 確かにあの時あなたにこの体を貫かれたときには

 一時期はそんな感情を抱いたけれども、こうやって

 幽閉こそはしているけれども、私のことは何だかんだで

 殺さないでおいてくれているんだもの、それにこうやって

 

 貴方の顔を見る時が、一番に幸せな瞬間なんだもの」

 

そう言ってやや微笑を浮かべながらもどこか嬉しそうに告げている

 

「僕の顔なんて‥‥‥別に見たってなんとも…‥‥‥」

 

「もう、私は貴方の顔を見て好きになったんじゃないのよ

 

 私だけじゃない、さやかさんもセレスさんも葵さんも

 むくろさんも盾子さんも、そしてあの子たちもね‥‥でも…

 

 それを抜きにしても、貴方は誰からも周りに一目置かれていた…

 

 今でももしかしたらこうやって目を閉じて眠れば

 あの時の日々に戻れるんじゃないかなって思ってる…

 

 我ながら現実逃避にも思われるけれども、それでもそう思っちゃう…」

 

「そっか…‥‥‥」

 

響子が懐かしそうに昔のことを口にすると

彼は特に何の反応も示さずにそっけなく返した

 

「まこと君…

 

 私があなたとこうして最初に話をしたとき

 名前をなのらなかったあなたに名前を付けたときに

 

 私があなたにつけた名前よ‥‥覚えているかしら?」

 

「さあね…‥‥‥

 

 元々僕はそう言うのには興味がなかったしね…‥‥‥」

 

響子は話をしていくが彼の反応を見て

もはや、彼の心を変えることができない事を悟ってしまう

 

響子はそれでも意を決して話をしていく

 

「まこと君…

 

 私はどんな時でも貴方のそばにいる…

 

 たとえあなたがそれを望まなくても

 貴方の進むその先が永遠の虚無で覆われていても

 

 私はいつでも、貴方の事を見ているわ…

 

 あなたを愛するものとして、あなたを愛した一人の女として…

 

 最後のときまでね…」

 

「…‥‥‥言いたいことはそれだけ?

 

 だったら僕はここで失礼させてもらうよ

 いよいよ僕の、ひいては僕達の悲願が果たされる時が来た…‥‥‥

 

 いよいよ世界への侵攻を始める時が来たんだ、だから…‥‥‥」

 

彼はそこまで言って、立ち上がって彼女に背を向ける

 

「残念だけれどまこと君…

 

 貴方の望みは果たされることは無いわ…」

 

「…‥‥‥っ!?」

 

響子の言葉に彼は足を止めて驚愕する

 

「貴方は知らないのでしょうけれども

 英雄の力は決して絶えてなんていないわ

 

 貴方は見落としていたのか、それとも情けを

 かけてしまったのか知らないけれども、英雄は生き残ってる

 

 そして生き残った英雄は、連盟が極秘に開発していた

 あるものも持ち出して、貴方達に抵抗するための力を…

 

 集めているわ、その力は近い将来、貴方の前に立ちふさがる

 その時には私もこの場所から抜け出して貴方の前に立ちふさがるわ

 

 貴方を止められなかったものとして、あなたを愛したものの一人としてね」

 

響子はそう言ってまるで近い将来

それが現実のものになると言わんばかりに告げた

 

彼はそこまで聞いているように立ち止まっていたが

そこまで彼女の言葉を聞くと再び歩き出し、牢獄を後にするのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

彼はしばらく歩いていると

彼のもとに二人の少女が駆け寄っていく

 

「兄さん、至急伝えたいことが…」

 

「…‥‥‥英雄に生き残り、僕達の前に立ちふさがろうとしているのかな…‥‥‥?」

 

「「っ!?」」

 

言伝を伝えようとする陽菜子の言葉を

響子から聞いた内容をつぶやいて遮る

 

自分達が伝えようとしたことを先に言われ

陽菜子ともう一人の少女、地花乃は驚愕した

 

すると

 

「…‥‥‥ほかのみんなは揃ってる?」

 

「はい、いつでもここに…」

 

「…‥‥‥それじゃあ、御巫女子達のことも集めて?

 

 さっきの話のことも僕が話しておかないとね…‥‥‥」

 

そう言って彼は自分の妹達十人を連れて

辺り一面、雲に覆われたような形状の床に

 

一直線に奥の方にレッドカーペットのように伸びた

ラインの上を歩いていき、彼は玉座に座ると両側に陽菜子と地花乃

 

後ろ側に六人、前に三人が控えていく

 

するとそんな一同の前にゆっくりと歩み寄っていく複数の影

 

その数は十三人

 

「よく集まってくれたわね…

 

 星座宮の御巫女子のみんな

 そしてその代表たる十一人…」

 

陽菜子がそう言うとそのうちの一人が口を開く

 

「お兄さんの及び盾とお聞きすれば即座に…」

 

水瓶(水瓶を担ぐ者)座の巫女

 

志茂田 明沙美…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代表で声をかけたのは彼女である

 

「フフフフ…

 

 本当に久しぶりだよ兄さん…

 

 このおよそ七千年間一度も顔を見られなくて

 さみしい思いをしていたから、こうしてあえて

 

 本当にうれしいよ…」

 

山羊(山羊の角を持つ者)座の巫女

 

荒波 一紗…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女がその身を震わせながら顔を上げると

 

「一紗、お前は相変わらずだな

 

 兄貴の前でだけニヤニヤしやがって‥

 

 気持ち悪ぃ」

 

「真名ちゃん、静かにしてよ

 

 お兄様の前なんですよ?」

 

双子座の巫女

 

阿済 真名…‥‥‥

 

阿済 仮名…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方が一紗に噛み付いていき

もう一方がそんな彼女をいさめていく

 

「元気そうで何よりだよみんな…‥‥‥

 

 七千六百七十九年前…‥‥‥

 

 あの日より僕たちはこの世界にあらがうための力を手に

 長き時を待ち続けていった、そしてこの長い時の中でついに

 

 行動を起こす時が来た、世界をあるべき形に成すための戦いを…‥‥‥

 

 今ここに!」

 

彼のその言葉に彼の前に控えている少女達は

歓喜の声を上げて勢いよく声を上げていく

 

「…‥‥‥しかし、そんな僕たちの前に

 立ち塞がるかもしれない、凶兆が訪れた」

 

「「『「「「「「「「『っ!?』」」」」」」」』」」

 

彼の言葉に驚愕する少女達

すると彼は隣に控えている陽菜子の方に目をやる

 

「同じ時に私たちの望みを阻まんとする者達

 かの者達は貴方達の力もあってその殆どが滅ぼされました…

 

 しかし…」

 

妹達 長女

 

超越を越えるもの

 

太陽

 

陽菜子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女がそう言って目の前に手を掲げると

そこには十の星の並び、星群が形成され

 

そこから88つの光が舞い降りていった

 

その残像を見ていた少女たちは驚きのあまり声が出ない

 

「英雄の生き残りは今、私たちと同じく

 星座の加護を受けし者達を集めて、勇者を集めようとしています…」

 

「勇者ですって?

 

 なるほど、私たちに対抗するために

 私たちに対抗する勢力を増やそうとしているのね」

 

乙女(少女)座の巫女

 

加東 絵美理…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が一番に発言する

 

「勇者システム‥

 

 私たちがいたときにはまだ

 未完成の技術だったあの呪術を‥

 

 どうやら向こうは本気で私たちに

 対抗しようとしているということですね」

 

射手座の巫女

 

来村 愛理…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女も続いて発言する

 

「あーっはっはっはっ!!

 

 勇者だか何だか知らねえが

 今のあたしらに勝てるとでも思ってんのか?

 

 お笑いだな、英雄の奴らも馬鹿になっちまったもんだ」

 

「うーん、そもそも勇者になれる素質の人なんて

 どの世界にいるのでしょう、勇者になれるのは

 

 本当に一握りの人のみですし、草々にそろうとも思いませんけど‥」

 

「仮名ちゃんの言うことはもっともだね…

 

 いくらシステムが持ち出せたからって

 そのシステムに選ばれるだけの星の力を持つ者が

 

 そう簡単に表れるとも思えないけれども…」

 

真名の馬鹿笑いを流して仮名と一紗はそのように考察していく

 

「この結果を受けて僕たちがなすべきことは三つ…‥‥‥

 

 まずは早々に黄道星座の巫女十二人はもう揃ってるから

 白道星官の御子二十八人のうち、残る十人をそろえること…‥‥‥

 

 次に、君たちも含めたすべての星座と星官

 そのすべてを完成した形にさせるために世界を犯す事…‥‥‥

 

 最後に、生き残った英雄たちをせん滅することだ…‥‥‥

 

 そこで、君たち十一人にはこれからの行動を統括する

 言うならば指揮官を一任されてもらいたい、お願いできるね?」

 

彼がそう言ってこれからの方針を決めていく

 

「もちろんだよ、あたしお兄様のためだったら

 どんなことでもやってあげちゃうんだもんね!」

 

「ったく相変わらず騒がしい奴だぜ‥」

 

「お兄様、部隊の構成の方は

 私たちの意志によって決めるのですか?」

 

仮名がそう言うと、彼はただ静かに

彼女を睨むように見つめていく、すると

 

「っ!?

 

 お、お兄様、ど、どうか見つめないでください!

 

 失礼を、お兄様のご意志でお決めになるのですよね」

 

「すべては星の運命…‥‥‥

 

 僕たちは常にその定めに決めて動いてきた…‥‥‥

 

 今回も同様だ、すでに部隊の手筈は整えている…‥‥‥

 

 すぐに動いてもらう」

 

仮名が突然、体をきつそうに抑えると

彼が視線を外すとその感触から解放された

 

とそこに

 

「それじゃあ、さっそく行かせてもらうね…

 

 そろそろ体を動かしたいって思ってたからさ

 ちょっと遊んであげてもいいと思うしね…」

 

「亜希子ちゃん…

 

 お兄ちゃんの御許しはまだ出てないよ?」

 

魚座の巫女

 

冨士井 亜希子…‥‥‥

 

冨士井 有希夜…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たち姉妹のうち

姉の方である亜希子が一番に立ち上がる

 

「ちょっと、お兄ちゃんがまだ何も…」

 

「いいよ陽菜子、やる気があるのは何よりだ…‥‥‥

 

 それじゃあさっそく行ってくれるね?」

 

「もっちろん、私たちはお兄ちゃんの

 ためだったらたとえ火の中水の中、なんだからな」

 

「はあ、ごめんなさい陽菜子様…

 

 こうなると亜希子ちゃんは止まらないから…」

 

やる気を見せる姉に頭を抱えて

謝罪の言葉を口にするものの、拒否の態度はとらない

 

「…‥‥‥それじゃあ、みんなにもさっそく動いてもらうね…‥‥‥

 

 それぞれがそれぞれでしっかり動いてもらうからね、じゃあ‥‥‥‥

 

 いってらっしゃい…‥‥‥」

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」

 

そう言って十一人は一斉に一礼し

それぞれの持ち場へと向かって行くのであった

 

「…‥‥‥英雄か…‥‥‥」

 

彼はそう言っていまだに頭上の夜空に

映し出されている星群を見上げているのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

とある世界

 

そこには小学生たちの一団が

広い寝室の中であるものは眠り

 

またある者は仲の良いもの同士

静かながらおしゃべりをしている者がいた

 

そんな中で一人、同級生たちを

見守るように辺りを見回している一人の少女がいた

 

「‥…」

 

彼女の視線に気が付いた一部の同級生は

思わず目をそらしてしまい、そそくさと布団に入っていく

 

「‥うう…」

 

それを見て、少しシュンとした様子を見せる

 

どうやら同級生たちを誤解させてしまった事と

怖がらせてしまったことにショックを受けてしまったようだ

 

そんな彼女に近づいてくる一人の少女

 

「わ~か~ば~ちゃん!」

 

「っ!」

 

彼女はその少女に近づくと

パシャリと何やら大きな音が響いてそっちを向く

 

「あんまり一人で抱え込むと体に毒ですよ」

 

「ひなた、わたしは別に何も抱えてなど…

 

 と言うかさっき何かを撮っただろ!?」

 

「フフフフ、スキを見せる若葉ちゃんがいけないんですよ

 

 さあて、この物欝気な表情の若葉ちゃん

 私のコレクションに新しく加えておきましょう」

 

「ひ~な~た~!

 

 消せ、今すぐに消すんだ!!」

 

「嫌です!

 

 可愛い若葉ちゃんの画像コレクション

 これを集めるのが私の生きがいなんですから」

 

「なんなんだそれは!」

 

二人の少女がじゃれ合っているのを見て

周りの生徒たちは思わず吹き出している者もいる

 

それを見て、ひなたと呼ばれた少女は笑みを浮かべる

 

「若葉ちゃん

 

 若葉ちゃんが誰よりもまじめで責任感があるのは

 私はわかっています、でもだからってなんでも一人で

 抱え込む必要はないんですよ、困ったときは誰かに頼ればいいんです

 

 だって若葉ちゃんがここにいるみんなのために頑張っているのを

 そのみんなはよくわかっているんです、わたしだってもちろんその一人ですよ」

 

「ひなた…」

 

ひなたの言葉を聞いた若葉の表情はどこか安どの様子を浮かべている

 

二人にとっては何事もない日常だった

 

しかし、その日常が突如として奪われていくことになる

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「‥あ…ああ‥…」

 

若葉とひなたの目の前に広がっているのは

まさに地獄と言っても差し支えのない光景だった

 

目の前で自分たちのクラスメイト達が倒れているのを

呆然と見つめていた若葉、それでそうはさせまいと無謀にも

脅威に立ち向かって行こうとする若葉だが、それを隣にいた少女に止められる

 

「若葉ちゃん‥‥運命に立ち向かう覚悟を…持つ勇気はありますか‥‥…」

 

ひなたはそう言って一つの端末を若葉に差し出す

それを決意を秘めた瞳で受けとった若葉は画面に

映し出されたアプリをタップすると、彼女は光に包まれて行った

 

ひなたは思わず目を覆うが、目を見開いてそこに見たのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

服装が変わり、その服を風でたなびかせた若葉と

その彼女のとなりで小さいながらもともに立っている小犬の姿だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   




選ばれた少女、そして始まりの伝説へ…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小犬座の勇者

小犬座に懐かれた勇者・・・・・・・・・


 

 

あの日から七年後

 

一人の少女が一本の刀を構えて

目の前の相手を見据えるように構えていた

 

目の前にいるのは、どこか優し気な

雰囲気を持った一人の少年にも見える人物

 

その人物も同じように剣を構えて

目の前の若葉を睨むようにして見つめている

 

「はああ!!!」

 

まず先手を取ったのは若葉の方

若葉は素早い身のこなしで一気に距離を詰めて

 

素早く刀を抜いて相手を斬らんと刀を抜く

 

だが、相手の方はそれを予期していたかのように

その一撃を自分の刀のあろうことか柄で撃つようにして返す

 

「ぐう!」

 

カウンターを返され、声を上げてしまうが

すぐに体勢を立て直して、すぐさま次に構えていく

 

「はああああ!!!!」

 

だが相手の方がそうはさせないと距離を詰めて

一気に若葉に一撃を食らわせんと攻撃を繰り出す

 

若葉もそれを見て刀を抜き

祖の一撃を受け、返すようにして威力を殺し

 

すぐさま次に攻撃を繰り出していく

 

相手の方もすぐに返しと攻撃を繰り出していく

 

やがて始まったのは刀の激しい打ち合い

その間にはお互いに打ち合う激しい音が響き渡る

 

「やああ!!!」

 

若葉は隙をついてとどめを刺さんと攻撃を繰り出すが

 

「甘い!」

 

見事に刀を弾かれてしまい

その首元に刀を突き付けられてしまった

 

「‥参りました」

 

若葉はそう言うと相手はゆっくりと刀を首元から放す

 

「ほっほっほっほっ‥‥

 

 いやはや、今の一撃はお見事でした‥‥

 

 よくぞ私にここまでついてこれましたね」

 

「ありがとうございます…

 

 ですが私、まだ冬三さんに

 一度も勝てたことがないんです

 

 勇者を引っ張っていく立場である私が

 この体たらくで、果たしてうまく戦えるのか…」

 

「若葉殿‥‥

 

 そうやって何もかも

 自分自身の責任を自分一人で背負おうとするのは

 

 貴方の悪い癖ですよ、これからともに戦うことになる

 勇者は何もあなた一人ではないのですから、貴方は強くなった

 

 三年間貴方を見てきた私が言うのです、もっと自分に自信を持ってください

 

 貴方は決して、弱くありませんよ」

 

そう言って若葉に言い聞かせるように呼び掛ける青年、冬三

 

「いいえ、弱いです…

 

 私はあの時、誰も守れなかった

 全員を守り切ることができなかった…

 

 私はもう二度と、あのような悲劇を繰り返したくありません…」

 

「本当に若葉殿は責任感がお強い‥‥

 

 ですが、そうやって自分の弱い部分ばかりを

 気にしていては、物事の本質を見誤ってしまうこともあります‥‥

 

 弱さを受け入れらることもまた、強さの証ですよ

 

 さあて、それではそろそろ急ぎましょう

 貴方は勇者ではありますが、同時に学生でもあるのですからね」

 

冬三にそう言われて、慌てて後をついていく若葉であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「はい、本日の授業はここまで

 それではこれより連絡事項があります

 

 一等級勇者の皆さんは至急、春三さんのところに

 集まってください、これからのことで皆さんにお話があります」

 

そう言って教壇でトントンと資料の方をまとめている女性

優生はその場にいる少女たちの一部の者達に連絡を伝えていく

 

「…それから土居さん

 

 授業中に居眠りをしていた責任として

 放課後、特別授業を行いますので、必ず来るように」

 

「ふぎゃ!

 

 今回こそはばれてないって思ってたのに」

 

「タマっち先輩、そもそも居眠りがだめなんだってば」

 

優生に呼ばれた少女はがっくりとうなだれ

そんな彼女に呆れつつも声をかける大人しめの少女

 

「ぐーんちゃん、一緒に帰ろ?」

 

「う、うん」

 

様々な少女たちが、仲のいいグループでその場に残って

帰り支度をしたり、しばらくおしゃべりをしたりとさまざまである

 

「一等級勇者‥か…」

 

そんな中、若葉は優生の言った

その言葉を反芻するようにつぶやいた

 

英雄達が来るべき戦いのために集めた88人の勇者

 

勇者はそれぞれ加護を受けた星座一つにつき

一人いるために、必然的に総数は88人となる

 

勇者の力はその星座の中でひときわ輝く星

最輝星に比例して、その強さが決まっていく

 

その中で最も輝く星の加護を受けたものが一等級

そこから二等級、三等級と分けられていき、その中で

 

最も強く力を受けているのが大犬座の勇者で

逆に最も弱いのがテーブル山座の五等級勇者である

 

小犬座に懐かれた若葉もまた

勇者の中で最も強く力を受けた一等級勇者の一人なのだ

 

「どうしたの乃木さん?

 

 いきなり呼び出されたんで緊張してる?」

 

「歌野か、まあそれもあるんだがな…

 

 正直に言うと本当にこんな私が

 勇者を率いるという立場に立っていいものなのかと思ってな…」

 

そんな彼女に話しかけてくる一人の少女

 

「ほんとに乃木さんは生真面目よね~

 

 でもさ、私たちがこうして勇者に選ばれた以上

 すでにいろいろと覚悟の方を決めたとはいっても

 

 やっぱりみんな、思うところがあるわけじゃない?

 

 だからこそこういう時に頼りになるリーダーが

 必要になってくるんだって私は思ってるわ、それに

 

 乃木さんは別に乃木さんらしくやってもいいって私は思うわよ?

 

 だって私はそう言う乃木さんの方がすっごく頼りになると思うし」

 

「そうか…

 

 ありがとう白鳥さん

 

 少しだけだけど吹っ切れたよ」

 

だれに対してもフレンドリーに接してくる彼女、白鳥 歌野は

まじめでかたい部分もある若葉にも分け隔てなく接してくれるので

 

若葉自身にとっても気の置けない仲になっていた

 

「よかったら放課後、奢るわよ

 

 もちろん、蕎麦をね」

 

「あいにくだな、私の推しはうどんだ

 

 こればかりは譲れん」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そして

 

「ようし、全員集まってくれているな‥‥」

 

そう言って目の前の青年

春組の組長、東龍 春三は

 

自分の目の前できれいに整列した

十八人の少女たちを見回していく

 

「お前たちがどうしてここに呼ばれたか‥‥

 

 まあ、その理由については薄々感づいているだろう‥‥

 

 俺様たち英雄がどうしてお前達勇者を集めたのか

 その理由については特別授業の方でいくつか聞いているな?」

 

「はい、この世界を犯さんとする脅威と戦うために

 英雄の皆さんを集めていってくれたんですよね」

 

少女の一人が春三の問いに答える

 

「そうだ‥‥

 

 穢れはあいにくといかなる武器や力をもってしても

 決して倒すことはできない、唯一穢れを払えるのは

 

 星の力だ、そして星の力はどういう人間に宿る?」

 

「はい、心に穢れを持たない

 純粋無垢な心であればあるほど

 

 得られる星の力は大きくなります‥‥」

 

春三の別の問いに、また別の少女が答える

 

「そうだ、ではどうして少女なのか

 それは力のあり方にある、男の場合は放出

 女の場合は吸収、これはそれぞれの性を受けた時点で

 

 決まっているものだ、ゆえにお前たちに

 力を与え、勇者として備えさせた、近い将来にお前たちのもとに起こる

 穢れとの戦いに備えてな、そして、お前たちをここに集めさせた理由は‥‥」

 

「その来たるべき戦いの時が来た…

 

 そう言うことですね」

 

春三の言葉を遮るように若葉が答える

説明を遮られた事に対して春三は特に何も言わずに話を続けていく

 

「‥‥そうだ、そしてお前達一等級勇者は

 88人の勇者の中で最も強い力を持つ者達だ

 

 だが強すぎる力を持つ者は当然それに見合う責任を

 伴うのが、世の摂理と言うもの、そこでお前達には‥‥

 

 それぞれの組する組の勇者たちのリーダーとして

 勇者達を率いる立場となってもらいたい、俺様たちが

 それを担うべきなんだろうが、穢れは実質世界中に起こりうるもの‥‥

 

 時には別々の組同士で協力することもあるだろう

 なにより、俺様たちだけでは手が足りなくなる事態も起こりうる

 その足りない部分をお前たちに補ってもらいたいのだ、もちろん

 お前たちがそのすべてを背負う必要はないお前たちの思うようにすればいい

 

 其れがおのずと、お前達の力となるだろう

 

 俺様からは以上だ、それぞれもうところがあるだろうが

 気負うことなく過ごしてくれ、もちろん備えも忘れずにな

 

 では、解散」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふう…

 

 いつも通りに、か…

 

 覚悟はしていたつもりだが

 いざ、その時が来るとなると緊張するな…」

 

闘いの時が近くなってきたことを察し

改めて自分にのしかかる重圧に打ちひしがれそうになる若葉

 

緊張をほぐすために軽く深呼吸をしていた、その時

 

「ひゃ!?」

 

突然、若葉は自分のお尻を触られて

なんとも情けない声を上げてしまう

 

「ふっふっふ~

 

 なんとも隙だらけだぞ、若葉」

 

そこにいたのはいたずらが成功したような

無邪気な笑みを浮かべた一人の少女がいた

 

「わぁ~かぁ~なぁ~…

 

 おまえはまたそう言う人の嫌がることを」

 

「はっはっはっ…

 

 若葉って意外に隙が多いから

 からかいがいがあって楽しいんだよ

 

 それに、僕から見ても結構好みの部類だって思うし」

 

赤面してセクハラの犯人たる少女を鋭く睨みつける若葉

対するその少女は若葉のそんな様子を明るい様子で受け流している

 

「まったく…

 

 仮にもお前は私たち全員を取りまとめる

 立場なのだから、それにふさわしくふるまうことはできないのか?

 

 大犬座の勇者

 

 大居 稚菜」

 

「いいじゃない、こういう日常の時ぐらい

 少しでも安らげる時間を作っておかないと

 

 それこそ戦いのときに異様に力が入って

 すぐにへばっちゃうんだよ、若葉もさそうしてみたら?

 

 そうだな、それじゃあ今晩僕の部屋にいらっしゃい

 じっくりたっぷり可愛がってあげるからさ~」

 

そう言って指を卑猥な感じに動かして若葉に迫っていく

 

「嫌に決まっているだろ…

 

 少なくともお前の部屋にはいかん!」

 

「あら残念、でもさ

 

 僕はそう言うのも大事だって思うけれどね?

 

 若葉もさ、少しくらい自分の時間作ってもいいんじゃない?

 

 友達作って、いろいろバカやる時間だって大事なものだよ

 ましてや生きるか死ぬのかわからない、戦いにおいてはなおさら、ね」

 

稚菜の言葉に不思議と説得力を感じる若葉

 

稚菜の方はそれじゃあねと手を振って、その場から去っていくのであった

 

「友達‥か…」

 

若葉はふとそんな言葉を意味深につぶやくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

若葉は七年前までは

何気ない日常を過ごしていた

 

同級生たちから

まあ距離こそおかれていたが

別に疎まれているわけでもなく

 

ましてや嫌われていたわけでもなかった

 

その理由は自分の一番の理解者ともいえる

幼馴染の上里 ひなたの存在も手伝った

 

いつだって彼女の支えや仲介のおかげで

同級生たちとはそれなりに仲は良かったし

 

あの日だって、友達だと同級生に言われたときは

心の底から嬉しいと思えた、ううんうれしかった

 

もしも戻ってこられたのなら

もしかしたら楽しいことが待っているのではないか

 

年相応に喜ぶ自分を、若葉は感じていた

 

だがその未来は、決して訪れることはなかった

 

突如発生した穢れにすべてを奪われてしまったのだ

 

同級生はもちろん、人々は次々と殺され

自分とひなたも自分が生き残ることに必死で

 

ただ逃げ続けることしかできなかった

 

そんなところに、彼女は一匹の小犬とであったのだ

 

こうして若葉が小犬座になつかれて勇者となった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「もう私は、何もできずに

 ただ逃げるだけだったあの時とは違う…

 

 今の私には、奴らと戦えるだけの力があるんだ…

 

 私は必ずこの世界にはびこる穢れをすべてせん滅し

 報いを受けさせる、そして奪われた日常を取り戻す!」

 

ぐっと握りこぶしを作って決意を新たにする若葉

 

するとそこに、パシャリとカメラのシャッター音が鳴り響く

 

「フフフフ、決意を新たにする若葉ちゃん

 素敵です、これでまたも私の若葉ちゃんフォルダーが増えましたね」

 

「うわああ!?

 

 ひ、ひなた!?

 

 何時からそこにいたんだ!?」

 

そこにいたのは彼女の幼馴染のひなたであった

 

「若葉ちゃんのいるところでしたらどこにでもいます

 

 ベストショットは片時も逃しません」

 

「冗談に聞こえないからやめてくれ…」

 

真顔でそう答えるひなたに苦笑いを浮かべて返す若葉

 

「‥‥いよいよですね、若葉ちゃん…

 

 できることでしたらこのまま

 来てほしくは、なかったのですがね」

 

「‥私だって同じ気持ちさ…

 

 だが、穢れは自然に発生するもの

 遅かれ早かれ現れることは定められている…

 

 それが今だというそれだけのことだ…

 

 私は必ず、この戦いを制して見せる」

 

そう言って窓の外から見える星空を見上げる

 

「若葉ちゃん

 

 やっぱり若葉ちゃんは

 その方が似合っていますよ

 

 でも、もしも困ったことがあれば

 その時は遠慮しないで弱いところも見せてくださいね」

 

「‥ああ…

 

 その時はよろしく頼む」

 

そう言って二人は一緒になって夜空の星を見上げていた

それを見ていた二人は不思議な気持ちになっていた

 

まるで星空の輝くその夜空が

不安で押しつぶされそうな自分たちを包み込んで

 

安心させてくれるような、そんな気がしてくる

 

「‥‥いまの時期で見える星座は

 七夕で有名な彦星と織姫星…

 

 そこに橋を作って

 二人を合わせてくれるカササギ

 

 その伝承のもとである、夏の大三角でしょうか?」

 

「冬三さん」

 

不意に話しかけられてその方に顔を向ける二人

 

そこにいたのは

 

「いやはや、この年になると

 夜に目がさえてしまいましてね

 

 少し散歩をしていたのですが

 まさか若葉殿やひなた殿にお会いするとは‥‥」

 

「‥申し訳ありません…

 

 どうしても戦いの時が近いと思うと

 どうしても寝付くけなく、それで…」

 

若葉は頭を下げて謝罪する

 

「でしたらすぐにでも部屋に戻って

 少しでも睡眠をとった方がいいですよ

 

 闘いは万全の体調で臨まなくてはなりませんからね」

 

「「はい」」

 

冬三にそう言われて慌てて自室に戻っていく若葉とひなた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは小犬座に懐かれし勇者の戦いへの序章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    




一握りの不安を抱えて・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鶴座の勇者、山羊座の勇者

心開けぬ少女…‥‥‥


 

 

若葉たち一等級勇者に

英雄達から勇者達を指揮する

立場を与えられてしばらくしたある日

 

外の人通りのない場所で

一人の少女が黙々とゲームをしている

 

やがてしばらくすると、ゲームの画面に

クリアーと言う英語が大きく浮かびあがる

 

すると

 

「ちーちゃん」

 

「っ!?」

 

急に話しかけられて驚きの様子を見せ

慌てて後ろの方を振り向くとそこにいたのは

 

「もう、秋四さん…

 

 脅かさないでください」

 

「フフフ、ごめんごめん…

 

 不意にここから軽快な音が聞こえたから

 誰かいるのかなって思ったらちーちゃんがいてね」

 

ちーちゃんと呼ばれた少女の隣に

いいかな、と声をかけてから隣に吸座り込む

 

「それで、今日は何のゲームやってたの?」

 

「やり残していたゲーム…

 

 これから始まるかもしれない

 戦いに備えてやり残したことをやっておこうと思って…」

 

そう言って少女はやや緊張した様子で秋四の質問に答えた

 

「そっか…

 

 ちーちゃん

 

 ちーちゃんはやっぱり戦いって聞くと怖い?」

 

「…怖いです…

 

 しょうじき言うと逃げ出したいです…

 

 でも、逃げたところで私には帰るところなんてないです…

 

 だったら戦うしかないって思ってます

 私の価値はきっとその中でしかないから…」

 

秋四の質問に、少女はどこか投げやり気味で答えていく

 

「私はそうは思わないよ、ちーちゃん」

 

「え…?」

 

秋四にそう言われて少女は彼女の方を見る

 

「ちーちゃんの価値はそれだけじゃないよ

 

 ちーちゃんは一見するとどこか冷たいけれど

 本当は誰よりも優しくって思いやりのある子なんだ

 

 私のちーちゃんの好きなところはね、人のいいところも

 悪いところもどっちもしっかりと見ることにできるところにあるんだって

 

 私は思うよ、だってそうでなきゃ

 あんな目にあいながらも、私の話を素直に聞くことなんてできないもん

 

 ちーちゃんはもっと自分に自信をもって、胸を張っていいと思うな」

 

「……」

 

ちーちゃんと呼ばれた少女は、恐る恐る秋四の方を向く

 

「…秋四さん…

 

 私はここにいて、いいんです、よね…」

 

そう改めて聞き直すと、秋四は笑みを浮かべて答えた

 

「その答えは誰かに決めてもらうんじゃなく

 自分の足で見つけるから意味があるんだ

 

 どんな人にだって生まれてきたのには

 必ず意味があるんだ、そしてその意味を自分で見つけていく

 

 それが何よりの、人が生きていく意味なんだよ

 

 ちーちゃんはちーちゃんが納得できる意味を見つければいいんだよ」

 

「…ありがとうございました…」

 

ちーちゃんはそう一言言ったのち、その場を後にしていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

秋組の勇者達が集められており

戦いの前にお互いの交流を深めていってほしいという

 

秋四の方針であった

 

そこには十数人の少女たち

勇者達が集められているのだが

 

「……」

 

その中に秋四にちーちゃんと呼ばれた少女もいた

 

それぞれがそれぞれ、仲のいいもの同士で

話をしていくなか、ちーちゃんはどこか落ち着かない様子で

 

その場に縮こまっている

 

そんな中で一人の少女が遅れて入ってくる

 

「はい、みんな注もーく!

 

 これからみんなの

 直接指揮をすることになった

 

 南の魚座の勇者、魚崎 御波よ

 

 これからみんな一人ずつ

 簡単に自己紹介してもらうから

 

 元気よく紹介していってね」

 

秋組に所属する中で唯一の一等級勇者である彼女

 

御波がその場にいる全員に呼びかけていった

 

こうして、一人ずつ順番に自己紹介をしていくことになり

端から順番に一人ずつ自己紹介がされていき、ついにちーちゃんの番になる

 

「はい、次は君だよ?」

 

「え、あ、はい…

 

 私はその…

 

 鶴座の勇者

 

 郡 千景…」

 

おどおどと自己紹介をしていくちーちゃんこと千景だったが

 

すると、不意に頭を乱暴に掴まれてわしわしとかかれる

 

「声が小さいし、元気もないよ!

 

 ほら、もう一回言って!!」

 

「っ!

 

 こ、郡 千景れしゅ」

 

はっきりと声をかけられて

思わずテンパった様子で返してしまう千景

 

「ふふふふ、よしよし…

 

 千景だね、これから一緒に

 戦って行く同じ勇者としてよろしくね」

 

「は、はい…」

 

気さくな笑顔を浮かべていく御波に戸惑いを隠せない千景

 

「それにしてもさっきから貴方

 

 だれともかかわろうとしていないのね…

 

 仮にもこれから一緒に戦う仲間だって言うのに

 そんな調子だと、貴方のこれからが心配じゃない

 

 まあ、今すぐにここにいる全員と仲良くなるのは難しいよね

 

 ようし、それじゃあこれから何か困ったり悩み事があったら

 遠慮なく相談してきなさい、うちの組長はああ見えて忙しいから

 実質ここは私のワンマンで仕切ってくつもりだから、ね?」

 

胸を張ってそう告げる御波

 

周りにいたほかの勇者たちの反応はまちまちだ

引き気味だったり、声をかけるべきかと悩む者もいる

 

しかし、不安を浮かべたり不満そうな視線を向けていくものはいない

 

千景も不思議と、御波の言葉にどこか安心感を覚えていた

 

「さあて…

 

 それじゃあ自己紹介を続けていこうか」

 

御波がそう言って再び自己紹介が続けられていく中で

千景は不思議と御波の頼もしい笑顔を見つめているのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

秋組のレクリエーションも終わり

千景は人通りのない場所を通って自分の部屋に戻っていく

 

すると、そんな彼女のもとに駈け寄っていく影が

 

「ぐーんちゃん」

 

「きゃ!

 

 た、高嶋さん…!?」

 

声をかけてきたその少女は

千景が初めてこの場所で心を許せる相手の少女であった

 

「今日は確か、それぞれの組の勇者と

 顔合わせのじゅでぃおんぐだったんだよね?」

 

「ミーティングよ、高嶋さん

 

 ええ、終わって自分の部屋に戻ろうとしてたところ

 

 高嶋さんもここにいるってことは

 そっちの方も終わっているみたいね」

 

千景は先ほどまでの態度が嘘のように

高嶋さんに気さくに接しており、普通に話してもいる

 

「うん、夏組のみんなとね

 

 みんなとってもいい人たちで

 話してみたらなんだか仲良くできそうで安心したの

 

 ぐんちゃんの方はどうだった?

 

 組のみんなとは仲良くできそう?」

 

「そ、それは…その…」

 

千景は少し、不安そうに口を止めてしまう

高嶋さんを不安にさせてはいけないと何とか声を上げようとするが

 

だからと言って言葉がすぐに出てくることもない

元々話は苦手な方で、人ともどうやって関わればいいのかわからず

 

結局どうしようもなかった

 

すると

 

「そう言えば秋組のリーダーさんって

 御波ちゃんなんだよね、私も何回か話したことあるよ」

 

「え…?」

 

千景は驚きのあまりに素っ頓狂な声を上げてしまうがすぐに落ち着く

そもそも勇者達は全員同じクラスで授業を受けているのであるのだから

 

何かしら交流があっても不思議はない、むしろ

他人と目立った接点を持っていない千景が意外な方である

 

「大丈夫だよ、御波ちゃんだったら

 ぐんちゃんともきっと仲良くなれるよ

 

 なんとなくだけど、そんな気がするから」

 

「高嶋さん…」

 

何の根拠も理屈もない高嶋の発言だが

不思議とそうなるかもしれないと感じている

そんな自分が心にいることに千景は驚いていた

 

それを話したのが高嶋だということもあるが

ミーティングのときに感じた感情のこともあったからだ

 

「しばらくぐんちゃんと会えなくなっちゃうのは

 ちょっと寂しいけれども、もしも会える時が来たら

 その時がどんなことがあったのか、いっぱい聞かせてね」

 

「え、ええ…

 

 善処するわ」

 

まあ、そんなやり取りがあったものの

千景は少し安心した様子を見せていく

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ミーティングのもとから戻ってきた勇者は

千景だけではない、ある場所を歩く別の少女の姿が

 

「うーん、今日のこのミーティングは

 本当にグッドだったわ、いろんな子がいるのね

 

 リーダーの御波さんも気さくで話しやすい人だし

 

 この様子だったらこの先うまくやっていけそうね♪

 

 うーんでもねー…」

 

白鳥 歌野、山羊座の勇者で

秋組に所属する三等級勇者である

 

最初は明るい調子で話をしていたが

何やら急に暗い声色になっていった

 

すると、そこに

 

「あ、うたのーん

 

 ミーティングの方はどうだったー?」

 

一人の少女が声をかけると

勢いよく顔をそっちの方に向けていく歌野

 

「みーちゃーん!

 

 ひっさしぶりぃー

 

 うーん、しばらく会えなくなるから

 今のうちにあっておこうと思って探していたのよー」

 

「ちょ、ちょっとうたのん

 

 うれしいのはわかるけれども

 ちょっと苦しいってばぁ~」

 

同じ出身の彼女、みーちゃんこと藤森美都の姿を見て

嬉しそうの彼女に抱き着いていく歌野、一方の彼女も

悪くは思っていないが少し苦しそうに声を漏らしている

 

それを聞いて、ソーリーと謝りながら彼女を話す歌野

 

「ソーリー、それとミーティングなんだけどね

 

 雰囲気的にはとってもグッドよ

 戦って行く分にはノープロブレム

 

 でもね、ちょっと気になる子もいるのよ」

 

「気になる子?」

 

「ええ、鶴座の勇者さんでね

 

 確か郡 千景さんって言ったかしら…

 

 なんだかその子、暗いし元気がなさそうで

 それと他人と積極的にかかわろうとしない部分があってね…

 

 うちのリーダーの御波さんのおかげで少し明るい感じが見えたの

 

 でもミーティングが終わったら、すぐにゲットアウトしちゃって…

 

 なんとなくその子のことが気になっちゃってね」

 

「そうなんだ」

 

美都も親友である歌野の話を聞いて

千景のことが気になると同時に心配そうになっていく

 

「それで決めたのよ!

 

 私、どうにかしてその子の事

 ヘルプしてあげたいんだって

 

 なんとなくだけれど、あのまま

 放っておいたら行けない気がしてね

 

 それでまずはどうしたらいいと思うみーちゃん?」

 

「うたのん、決意は立派だけど

 まずはどうするのかも考えようよ‥」

 

歌野の猪突猛進ぶりに苦笑いを浮かべていく美都

 

「えーっとまずは‥‥何か接点を持った方が

 いいんじゃないかな、どっちにしてもまずは

 

 何かの形で交流を持った方が‥」

 

「オーケー、みーちゃんのアドバイス

 それでさっそく実践してみるわ、それじゃあ…」

 

そう言って駆け足でどこかに向かって行く歌野

 

その後ろ姿を見て

 

「ああちょっとうたのん、いくら何でも早すぎるって‥

 

 うう‥‥大丈夫かな‥」

 

今更ながら自分の提案に不安を覚える美都であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふう…」

 

組長室において

何やら不安そうにため息をつく秋四

 

そんな彼女のもとに一人の少女が入室する

 

「失礼いたします

 

 ミーティングの方、終了しました」

 

「うん、お疲れ様みなちゃん

 

 ごめんね、ほとんど押し付けるような形にしちゃって」

 

秋四はそう言いつつ入ってきた彼女の方を見る

 

「いいえ、別にいいですよ

 

 だってこれでも私、根はまじめ何で

 与えられたことはしっかりやりますよ

 

 むしろ私に全部任せても大丈夫ですよ?」

 

「それはだめに決まってるでしょ」

 

「‥‥やっぱり?」

 

調子のいいことを言って秋四ばっさりと言われる御波

 

「フフフ、やっぱりみなちゃんは

 そう言うところがいいところだよね

 

 だれとも親しみやすく、そのうえで

 相手の気持ちもうまく考えてあげてる

 

 私もみなちゃんみたいなリーダーだったら

 もしかしたら、あの子たちに手を差し伸べられたのかな…」

 

「どうかしたの?」

 

「…ううん、何でもないよ

 

 それで、うちに所属している

 勇者のみんなはどんな子がいたのかな?

 

 気になる子とかがいたら

 教えてもらえないかな?」

 

一瞬、表情が暗くなる秋四に御波は思わず問うが

秋四は表情を切り替えて、どうにか話を戻していく

 

「気になる子、ね…

 

 面白い子っていえば山羊座の子かな?

 

 なんでも農業が趣味で、農業王に私はなる!

 

 ‥‥っと言う感じのこと言ってたわね」

 

「ああ、うたのん…

 

 白鳥 歌野ちゃんのことだね

 

 相変わらず農業が好きなんだね

 

 あの子、自分を飾らない部分があるから

 みなちゃんとも気が合うかもしれないね」

 

それを聞いて、やっぱりと言ったふうに笑みを浮かべる秋四

 

「あ、そうそう…

 

 気になるっていえばもう一人…」

 

「うん?」

 

御波はもう一人気になった人物の名前を挙げる

 

「黒い長い髪の女の子で

 確か星座は、鶴座の子だったっけ…?

 

 確か名前は…」

 

「…郡 千景…

 

 ちーちゃんのことだね?」

 

秋四が千景の名前を言うと

御波も思い出したように目を見開く

 

「ああ、そうですそうです

 

 なんていうかあの子って

 どこか暗い感じがするんです…

 

 必要最低限の人としか関わらないようにしてるみたいで…」

 

「ちーちゃんはね、ここに来る前は

 よく無事に生きていたんだなって環境で過ごしてたの

 

 そんな中で過ごしてたから、他人に心を開くことがなくって…

 

 あの子が心を開いているのは夏組にいる

 たかっしい、高嶋 友奈さんくらいなんだよね」

 

「高嶋さんか…

 

 私もあの子のことはよく知ってるよ

 明るくてだれとも分け隔てなく接する子で

 勇者クラスの中でも友達がとっても多くてね」

 

話題に上がった高嶋 友奈の話に切り替わっていく

 

「まあ、すぐに仲良くなってとは言わないよ

 

 私もあの子とお話しできるようになるまでに

 半年ぐらいはかかったもの、でもたかっしいは

 すぐに仲良くなってたから、本当にびっくりしたわ

 

 あの子は悪い子じゃないんだ、ただ他人を信じることが

 怖いだけなの、だからみなちゃん、あの子がどんな風になっても…

 

 あの子の見方でいてあげて、もちろん他の子ともね」

 

秋四がそう言って頼み込むように言う

 

「…言われるまでもないですよ、秋四さん…

 

 私はみんなのリーダーとして

 どんなことがあったって絶対に…

 

 千景やほかの秋組の勇者たちの見方であり続けるよ…

 

 絶対にね」

 

決意を秘めた瞳でそう返答する御波

 

「お願いね…」

 

こうして御波は部屋を後にしていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか…何事も起こりませんように…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




オーケー、アーユーレディ…‥‥‥?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小狐座の勇者 海豚座の勇者

勇者の中で最も勇者たる少女・・・・・・・・・


 

 

 

少女は何の変哲もない

ごくごく平凡な少女であった

 

明るくてだれからも好かれて

困ったときにはいつも頼りにされて

 

友達も多くて、顔も広かった

 

しかし、少女自身は別に自分が特別なものだとは

思ってなどいなかった、自分はただ毎日が充実したものだと

 

この充実した日々がいつまでも続けばいいと

それが少女の小さな願いであった、だがその願いは

 

いともたやすく握りつぶされてしまった

 

七年前に少女はすべてを失ってしまった

 

目の前に現れたのは、巨大な獣の様で

何やら尾のようなものから何かを飛ばし

 

其れであたりを蹂躙していっている

 

少女はそんな様子を、ただただ見ていた

だがな指針ではそんな自分を情けなく思っていた

 

やがて巨大な怪物は少女の方に気づき

ゆっくりと近づいていき、襲い掛からんと迫っていく

 

「あ…ああ…」

 

腰を抜かして、その場に座り込んでしまう少女

そんな少女にゆっくりと近づいていく、化け物

 

だが、少女はゆっくりと立ち上がると

自分に言い聞かせるようにつぶやいている

 

「絶望なんてしちゃだめだ‥‥立つんだ…立って‥‥…

 

 立って‥‥最後まで…抗うんだ‥‥…」

 

そう言ってぐっと握りこぶしを作って

目の前にいる化け物を力強く見つめていく

 

「ここで逃げたら‥‥だめだ…こんなところで‥‥…

 

 逃げたらだめなんだああああ!!!」

 

そう言うと彼女のもとに一匹の狐が飛び込んでいき

そのあたりに大きな輝きがあたりを包み込んでいった

 

「っ!?」

 

その場所に駆け付けた一人の青年は

目の前の光景を見て驚きを覚えた、そこには

 

長く伸びた髪をサイドテールにまとめ

九つの裾がまるで狐の尾のようにたなびいている姿の

一人の少女が、傍らに小さな狐を連れて佇んでいた

 

「はああああ!!!」

 

ぐっと拳を作って目の前の化け物に構えていく少女

 

怪物も少女の攻撃に抗わんと

尾から何かを飛ばして攻撃を仕掛ける

 

だがそれを彼女は

両腕から伸ばしていく長い

尾のようなものをふるって

 

それで攻撃をすべて弾いていく

更にその伸びたそれを拳を作った

自分の腕にぐるぐると巻いていくと

 

そのまま勢いよく飛ばしていき

化け物に一撃を叩き込まんとする

 

「やああああ!!!」

 

その一撃は見事に命中、化け物は悶えながら

そのまま後ろの方にゆっくりと飛ばされるように倒れていった

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…

 

 これは一体‥‥君の仕業なの?」

 

そう言っていつの間にか隣で

自分に向かって尾を振って見つめている

一匹の小狐に話しかけると、そこに近づいてくる影がいる

 

「貴方は…?」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

七年後

 

自分の部屋の布団の中で

うるさい目覚ましの音で目を覚ますのは

 

「う、うーん…

 

 今日は懐かしい夢を見たな~」

 

うーん、っと背伸びをして

布団から起き上がる一人の少女

 

彼女はまだ残っている眠気を

我慢しつつ布団の中から出てきて

 

顔を洗って歯を磨いて、寝間着を脱いで

服を着て、急いで部屋の方を飛び出していく

 

飛び出しつつ端末の方を操作していると

メールの欄に今日の予定のことが書かれている

 

✉ーきょうはそれぞれの組において

  勇者システムの試運転を行うにあたり

 

  君たちとともに戦う存在である

 

  星霊を呼び出してもらうので

  急ぎそれぞれの指定された訓練場に集合

 

  集合時間は朝8時半、送れたら連帯責任として

  山道をランニングさせるのでくれぐれも遅れないようにー

 

「う、最後のこれって

 明らかに脅し入ってるよね…

 

 まあいいや、遅れなければいいんだもんね」

 

そう言って急いで指定された訓練場に向かって行く

 

途中、おばあちゃんに道案内したり

小学生の安全活動を手伝ってあげたりと

 

まあいろんなことがあったが

それでも何とかたどり着くことができた少女であった

 

「失礼しまーす!

 

 高嶋 友奈、ただいま参上!!」

 

そう言って扉を勢いよく開けていく少女

 

少女の名は、高嶋 友奈

 

英雄達に見定められた勇者の一人である

 

「おー、ぎりぎりだね友奈~

 

 もうみんな集まってるよ?」

 

「せっちゃん、いやーいつもよりは早く出られたんだけど

 なんでか今日に限っていろんなことが起こってきてね~…」

 

そんな友奈に最初に話しかけてきたのは

眼鏡をかけたどこかひょうひょうとした雰囲気の少女

 

秋原 雪花

 

彼女もまた、勇者として見初められた少女である

 

「相変わらず友奈の周りでは

 いろんなことが起こってるにゃー」

 

「別にそう言うわけじゃないと思うけれど…

 

 でもやっぱり私、困ってる人や苦しんでいる人

 見過ごすなんてできないって思うし、出来る限り何とかしたい…

 

 其れはいけない事かな?」

 

友奈はキョトンとやや首を傾げる

それを見た雪花は笑みを浮かべていう

 

「ううん、友奈のそれは間違ってないよ

 間違ってはないけれども、しっかりと

 自分の用事の方も忘れないようにね、でないと

 

 ここにいるみんなの迷惑になっちゃうかもだからね」

 

「うん」

 

雪花の言葉に友奈は安心したように笑顔で返事をする

 

暫く二人が談笑していると、前の方に三人の人物が降り立つ

 

「静かにしろ!」

 

中央の人物の凄みを利かせた声があたりに響き

その場にいた全員が前を向き、雪花と友奈も同じようにする

 

「お前たちのいる夏組の組長、南雀 夏三だ

 

 みんなも知っての通り、もうすぐお前たちが

 勇者として戦うお役目の時が迫っている、ゆえに今日は

 

 お前達が勇者として戦うために必要な力を知ってもらう

 

 よって今日はお前たちに力を与える存在であり

 同時にともに戦うパートナーである星霊と対話してもらう」

 

星霊、それは勇者の力のもとである

星の力が具象化した存在であり、その姿は

各々の加護を受けた星座を模した形になる

 

生き物の星座ならば生き物に、物であれば

物であったり、其れに関連するものであったりと

 

その形は様々である

 

「…それじゃあこれから

 星霊の呼び出し方を私、白鳥 信乃が説明するよ

 

 みんながここに来るときに端末に登録した

 システムにタップしてみて、そうすればその人の前に

 君たちの加護を受けた星座を模した星霊が現れるはず

 

 園子とうまく対話してみなさい、心を通わせれば

 その分、星霊から受ける力が強くなっていくから

 

 呼び出したら、しっかりと向き合ってみなさい」

 

そう言ってそれぞれが端末を取り出していく

 

「えい!」

 

どこかで一人が、画面をタップする

するとその目の前に現れたのは、一個の巨大な顕微鏡だった

 

「…なにこれ…」

 

その少女は突然自分の目の前に現れた

顕微鏡を見て、思わずそんな一言をつぶやく

 

「それは、顕微鏡座の星霊さんだね‥‥

 

 このように、星霊にはいろいろな形での

 具現化がなされて行く、一見するとただの道具に見えても

 意思の方はあるから投げやらずにしっかりと向き合ってね」

 

「ええ~…」

 

顕微鏡を出した、顕微鏡座の勇者は

どうしたらいいのかと戸惑っている様子である

 

「いやー…

 

 あれはいろいろと難しそうだよね…

 

 私らは動物系の星座だけど

 果たしてうまくいくかしらね…」

 

「とにかくやってみようよ

 為せばたいてい何とかなーるってね」

 

そう言って意気込んで見せる友奈

 

すると、歓声の声があたりに響いていく

 

そこにいたのは夏組の勇者たちをまとめる

リーダーを務める四人の少女たちであった

 

一人は、美しい音を奏でるとても美しい琴を

 

一人は、気高くも頼もしい雰囲気の鷲を

 

一人は、毒々しいがどこかに美しさを見せる蠍を

 

一人は、穢れを感じさせぬ純白の美しい白鳥

 

四人の見事な星霊に見ている者すべてが魅了されている

 

「わあ~

 

 すごいね」

 

友奈が真っ先に素直な感想を述べると

 

「友奈ちゃん」

 

そのうちの一人、白鳥を呼び出した少女が話しかける

 

「すごいね涼ちゃん

 

 すっごくきれいな白鳥さんだね」

 

「ありがと、友奈ちゃんも呼び出してみたら?

 

 友奈ちゃんの星座は確か、小狐座だったよね?」

 

「うん

 

 それじゃあさっそく呼び出してみるね」

 

友奈はその少女、涼と少々の会話を交わすと

早速一同よりも離れた場所でシステムをタップすると

 

「わあ…」

 

友奈の目の前に光が降り立ち

その目の前には、一匹の小さめの狐が

 

何故か口に鵞鳥を咥えて現れる

 

「これが、私の星霊さんか…

 

 あれ?」

 

 

友奈は不意に小狐座の星霊を見て

何やら疑問符を浮かべていく、なぜなら

 

「…私、この子のこと知ってる…?」

 

友奈は不意に目の前の小狐に手を伸ばしていく

 

「ちょっと待って、行くらなんでもそんないきなりは‥」

 

気高い雰囲気の鷲を腕に乗せた

どこか忍者のような服装の少女が制止する

 

すると

 

「あ…」

 

小狐は友奈の伸ばした手にすりすりと

その頭を摺り寄せていく、心なしかうれしそうに見える

 

「フフフ」

 

それを見て友奈は微笑みを浮かべて

その小狐の頭を優しくなでてやるのであった

 

「すごいね友奈ちゃん‥‥

 

 呼び出してすぐに星霊と対話するなんて‥‥」

 

それを見た六誠は感服したように見ている

 

「まあ、あの子は88人いる勇者たちの中でも

 一番適性が高いからな、むしろ妥当な結果だろう…

 

 まあ、他も悪いわけでもない」

 

そう言って次に見つめるのは

 

「おお~

 

 海豚か、いいじゃんいいじゃん

 かわいくっていい子で良かったにゃー

 

 それじゃあ、これからよろしくね」

 

雪花の方は、大きくも人懐っこい海豚で

その星霊はすぐに、雪花を認めたのか

彼女の眼前にすり寄るように近づいている

 

彼女だけでなく、他の少女たちも

それぞれの星霊とある程度の対話を済ませている

 

夏三はそれを確認して、一同に声をかけていく

 

「静かにしろ!」

 

夏三の声があたりに響き

それぞれの星霊と、ある程度の対話を済ませた少女たちは

それぞれ気を引き締めつつ、夏三の方へと体を向けていく

 

「これでようやくお前たちは勇者として

 戦うための下準備を整えたことになる

 

 万が一お前たちがしくじって敵の攻撃を

 受けるようなことがあっても、それぞれの星霊が

 守りを授け、お前達の命はもちろん、傷を負わせることもない

 

 だが、勇者になっていなければその力は弱くなるし

 守りの力を発動させればさせるほど、星霊自身は弱くなる

 

 そのことをしっかり頭に叩き込んで、備えるように

 では、以上だ、次はお前たちの武器ヲ顕現させてもらい

 

 そのうえで訓練の総仕上げを行ってもらう、そのあとはいよいよ実践だ…

 

 気を抜いて死なないように、自分の身を守れるすべを身に着けておけ…」

 

そこまで言って解散となる今回の集会であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その後、家路についていく各々

 

「星霊さん、すぐに懐いてくれたよね」

 

「アタシの方はいきなり現れてびっくりしたけどね…

 

 でも、この分だったら星霊の力の方は問題ないみたいだね」

 

友奈は雪花とともに談笑をして一緒に歩いていた

すると、二人の目の前に友奈と親しい間の少女の姿が見える

 

「あ、ぐんちゃん」

 

「うん?」

 

そこには何やらそわそわと何やら落ち着かない様子の

黒い長い髪の女の子、千景の姿があった、友奈は彼女に声をかける

 

「あ、高嶋さん」

 

「ぐんちゃんも帰ってたんだ

 

 ぐんちゃんの方も星霊呼び出せた?

 

 どんなのだった?」

 

友奈は親し気に話をしている

 

「う、うん…

 

 とっても大きな鶴、だった…」

 

「そういえばぐんちゃんは鶴座だったもんね

 

 ちなみに私のはね…」

 

友奈はそう言うとアプリのボタンを押して

鵞鳥を加えた小さな狐を抱えるようにして持ち上げて

 

千景にも見えるようにして出す

 

「ほら、この子が私の星霊ちゃんだよ

 

 すっごくかわいいでしょ」

 

「ちょっと友奈

 

 勝手に星霊を呼び出したらだめだよ

 夏三さんとっても厳しいからばれたら説教だよ?」

 

星霊を気軽に呼び出した友奈にやや驚きながら

彼女の行動をいさめるように進める雪花、すると

 

「あ、あの…」

 

「え、ああごめんごめん…

 

 別に二人の話を邪魔するつもりは

 なかったんだけれどもね、さすがにこれは

 

 うちの組の組長、ほんとに厳しい人だからさ…

 

 ほら友奈、早く星霊をしまって…」

 

雪花に進められて

友奈はえへへへ、と反省したように星霊を戻す

 

「えーっとその…あなたは…?」

 

「え、ああそういえば

 クラス一緒だけれど話すのは初めてだっけ

 

 私は秋原 雪花、友奈とおんなじ夏組に所属してまーす

 

 よろしくにゃー」

 

雪花はいつもの調子であいさつを交わしていく

 

「わ、私は…

 

 郡 千景…」

 

千景は恐る恐る、自分の名前を雪花に話した

 

すると

 

「っ!」

 

雪花は千景の挨拶のさなかに何かを感じた

 

「あれ?

 

 どうしたの雪花ちゃん?」

 

「‥‥え、ああうん

 

 何でもないよ、そう‥‥なんでも…」

 

雪花はいつもの調子で答えるがすぐに含みのあるように言う

 

「(なんだろう…

 

  一瞬だけ、どこか

  変な感じを受けたんだけれど…

 

  まさかあの子も…)」

 

雪花は千景にどこか自分と同じ何かを感じたように感じたが

とりあえずそのことは心の奥底にしまい込むことにしたのだった

 

「それじゃあまたね、ぐんちゃん」

 

「ええ、それじゃあまた…」

 

ふたりはただその短い挨拶ととともに別れた

 

雪花は去っていく千景をしばらく背中越しに見ていた

 

「どうしたの、雪花ちゃん?」

 

「ううん、何でもないよ

 

 それじゃあもどろっか…」

 

そう言って二人は寮に戻っていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪花の心にある思いを残して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 




海豚座の勇者の思惑・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

烏座の勇者、髪の毛座の勇者

守るものと守られるもの・・・・・・・・・


 

 

 

 

ある場所に二人の少女がいた

一人は息も絶え絶えにその場に倒れ

 

もう一人はその少女を守るように前に出ている

 

その手には盾のようなものを持ち

体を震わせながらも目の前にいる天使のような何かを睨む

 

「ダメ、タマっち先輩早く逃げて!

 

 このままだとタマっち先輩まで…」

 

「馬鹿なこと言うなよ杏!

 

 おまえを見捨ててなんて行けるか!!

 

 おまえを見捨てて逃げるくらいだったら

 友達を見捨てて一人で逃げていくくらいなら…

 

 タマは最後までお前のことを守り抜いてやる!!!」

 

そう言うと少女は

 

「‥さあ来い、化け物!

 

 杏子に手を出す奴は

 タマが絶対に許さないぞ!!」

 

そう言って勇ましく言い放つも

体が震えているせいで思う様に体に力が入らない

 

やがて、二人に迫っている巨大な何かは

自分の髪の毛を手足のように動かし、二人に向かって突き出す

 

「「っ!!」」

 

それを見てもう駄目だと目をつぶる

 

すると

 

「伏せて!」

 

その声が聞こえたのでタマは

杏を守るように覆いかぶさって伏せる

 

すると、二人の頭上を何かが飛び越え

ふたりの前に降り立って、剣をふるうと

そこから放たれた斬撃が怪物の髪の毛を次々と切り落としていく

 

「死をつかさどりし七つの星に光一つ!!!!!!!!」

 

そう言って必殺の一撃のようなものを放ち

それで見事、怪物を一刀両断、怪物の切られた部分より

黒いオーラが煙のように噴き出していき、やがて爆発する様に消滅した

 

「ふう‥‥

 

 何とか間に合ったか‥‥」

 

そう言って二人の方に気づき

剣を収めつつ、近づいていく

 

ふたりは警戒しながら、助けてくれた

目の前の人物をじっと睨むように見つめている

 

「よかった、けがはしていないみたいだね‥‥」

 

そう言って二人の様子を見て

安心したような口調で口をひらく

 

「僕は北斗 七誠

 

 ここに怪物が現れたって聞いて

 急いで駆け付けてきたんだよ、君たちは?」

 

「え、ああ…

 

 タマは球子だ

 

 土居 球子」

 

「私は伊予島 杏です

 

 タマっち先輩とは

 同じ学校の友達で…」

 

それぞれの自己紹介を終えていく双方

 

「球子ちゃんに杏ちゃんだね‥‥

 

 それじゃあ、急いでここから急いで移動しよう

 

 皆が避難しているところまで連れ行くから」

 

そう言って二人をそっと抱えて立ちあがる

 

「ぬお、ちょっと待った!?

 

 いくら何でも見ず知らずの奴に

 こんなことをされる筋合いはないぞ!」

 

「おとなしくしてて

 

 二人を一気に連れていくには

 この方がいいんだ、とにかく今はおとなしく抱えられてな」

 

「は、はい…」

 

そう言って七誠は球子と杏をかかえて

急いで人々の避難している場所に向かうのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、七誠に案内されて

行きついた避難場所についた球子と杏

 

するとそこには、二人の顔見知りの少女がいた

 

「あ、二人とも無事だったのね…

 

 よかった…」

 

その少女は眼鏡をかけて、二人よりも少し年上のように感じられた

 

二人の姿を見た彼女は二人の姿を見ると安心したような表情で駆け寄って行く

 

「あ、安芸先輩!」

 

「何とか無事だけれど

 さっきのアレって何なんだ?

 

 どこもかしこもなんか長くてもさもさした奴が

 うじゃうじゃあふれてて、もう軽いホラーだったぞ」

 

2人も顔見知りにあえて安心したのか

その少女に駈け寄っていき、話を聞こうとする

 

杏は先輩に聞いても意味がないでしょと言おうとしたが

 

「‥あれは、穢れ…

 

 簡単に言えば普通に生きている人間の心の中に

 多く秘められている負の感情、怒り、憎しみ、嫉妬に後悔…

 

 そう言った類のね、それ自体は無害なものなのだけれど

 星の力による干渉を受けることで、穢れは融合と分裂を繰り返して

 いろいろな形になるのよ、さっき貴方達を襲った奴のようにね…」

 

「そ、そうだったのか」

 

球子はそれを聞いて、納得したように頷くが

杏はそれを聞いて腑に落ちない様子の表情を見せる

 

「…安芸先輩、ちょっと待ってください…

 

 どうして先輩があれのことを知ってるんですか?」

 

杏は単刀直入に聞く、それに対して

安芸は申し訳なさそうに目を背けて言う

 

「ごめんなさい…

 

 今はまだ、言える状況じゃない…

 

 ただ一つだけ言えることがあるわ

 

 私は貴方達の、ううん、この世界の味方だってこと」

 

「安芸先輩…」

 

杏はどこか納得していない様子を見せるが

安芸はそれに気づいているのかどうかはわからないが

 

ただ静かに、そして悲しげにつぶやいた

 

「今は何も聞かないで…

 

 この件が終わって七誠さんが

 穢れを倒して戻ってきたら、話すから…」

 

安芸のその言葉を聞いて

二人は今は安全が確認されるのを待つことにするのであった

 

こうして

 

付近で巻き起こっていた異変がなくなったのを確認し

七誠がそのことを避難場所に避難していた人々に伝える

 

しかし、ほとんどの建物は倒壊しているので

その人は用意された仮設住宅にまで案内されて行く

 

七誠がてきぱきと周りの人たちに指示を出していると

そんな彼のもとに一つの影が近づいてきた、それは

 

「あ、あの…

 

 七誠‥さん…」

 

「うん?

 

 ああ、真鈴ちゃん…

 

 避難所にいる人たちの事、ありがとね」

 

ある程度の指示がすんだところで

安芸が七誠に近づいて、話しかけてきた

 

「七誠さんもお疲れ様です…

 

 それと、七誠さんに会いたいって子達が…」

 

「うん?」

 

そう言って七誠が安芸の振り向いた方を見ると

そこにいたのは杏と球子の二人の姿であった

 

「お久しぶりです‥‥七誠さん…」

 

「うん、確か杏ちゃんだったね‥‥

 

 無事だったみたいで何よりだ」

 

「ま、まあ…

 

 タマが付いていたんだからな

 その点は大丈夫だぞ、そんなことよりも七誠!

 

 さっきまで現れていたあの長くてもさもさして

 うじゃうじゃしていたあの、なんだったっけえーっと…」

 

球子が説明を求めようとするが

途中でしどろもどろになって説明が合わなくなっていく

 

「えーっと‥‥

 

 真鈴ちゃん、これってどういう状況?」

 

「えーっとその…ごめんなさい!

 

 簡潔的なものだけれども

 この二人に話をしてしまって…」

 

慌てた様子で頭を下げる安芸、すると

 

「そっか‥‥

 

 この二人が安芸ちゃんの言ってた‥‥

 

 だったら、少し話をしよう‥‥

 真鈴ちゃんからどのくらいまで聞いてるかな?」

 

七誠は仕方がないかと言わんばかりの表情を浮かべ

杏と球子の方を見つつ、まずこの質問を口にしていく

 

「えーっと、どこまでだったっけ…?」

 

「はい、この街を襲っているあの現象は

 穢れと呼ばれている力が引き起こしていて

 

 その穢れから私たち、いいえ、この世界を守るために

 ここに来たのが七誠さん、理解しているのはそこまでです」

 

まったくもってちんぷんかんぷんな球子に対し

杏は真鈴から聞いた言葉で予想をたてて、それを口にする

 

「ふうん、君は僕が今まで出会ったこの世界の人の中で

 一番ともいえるくらいに優秀だね、そこまで理解しているなら

 

 僕と真鈴ちゃんがどういう関係で、彼女がどうしてここに来たのか

 

 そのあたりの予想もついているってことなのかな?」

 

七誠がそれを言うと、杏は頷かないが首を横にも降らない

その反応を見て、七誠はどこか驚いた様子を見せていた

 

「真鈴ちゃん‥‥

 

 もしかしたら、この子はすごい逸材かもしれないよ?

 

 もう一人の女の子、確か球子ちゃんだったよね

 彼女もこの子を守るために勇気を出して穢れに立ち向かってた

 

 見つかったかもしれない…勇者足りうる女の子」

 

「え…?」

 

「「?」」

 

おどろきの様子を見せる真鈴

七誠の言葉に疑問符を浮かべる二人

 

「球子ちゃん、杏ちゃん‥‥

 

 二人の生まれた月と日にちを教えてくれるかな?」

 

「「え‥?」」

 

七誠のいきなりの質問に驚きを隠せない二人

球子はいきなり何言ってんだと言いそうだったが

 

七誠の真剣そうな表情に、圧されて何も言えなかった

 

「えっと‥‥9月16日です…」

 

「タマは、9月の2日だ」

 

「っ!?」

 

二人の生年月日を聞いて大きく目を見開く

 

まるで、運命がこの出会いを引き寄せたのだと感じて

 

「真鈴ちゃん…どうやら二人ともあたりの様だよ‥‥

 

 これもきっと、星の運命なのかもしれないね」

 

「‥…」

 

七誠の言葉に何も言えなくなる真鈴

 

「球子ちゃん、杏ちゃん‥‥

 

 僕たちは穢れの脅威から

 世界を守るために、ともに戦ってくれる仲間‥‥

 

 勇者を探しているんだ、そして二人には

 その勇者となって戦える素質が十分にある」

 

「「勇者‥?」」

 

七誠の言葉に二人は思わず間抜けな声でそう返してしまう

 

「勇者とは勇む者‥‥

 

 二人はお互いを思い、ゆえに

 守り合うことを勇んで行動した

 

 二人には勇者になれる可能性がある

 

 強制はしない、断ってくれてもかまわない

 でも聞く、僕達と一緒に戦ってくれないか?」

 

七誠葉そう言ってそっと手を伸ばす

 

杏はそれを見て、戸惑いの様子を見せていく

しかし、球子の方は一歩踏み出しつつ七誠に聞く

 

「もしも‥タマが、その勇者ってのになったら

 あの時のように守るだけじゃなくって、あの穢れってのに

 立ち向かえるだけの力が手に入るって、そういう事だよな?」

 

「タマっち先輩…?」

 

球子がそう問いかけると、七誠は力強く頷く

すると球子は伏せていた顔を上げて七誠の伸ばされた手を掴む

 

「だったら、タマはいく!

 

 その勇者ってのになる、なってもう二度と

 杏にもこの街の人の誰にも怖い思いはさせない!!」

 

「タマっち先輩…」

 

球子のそう告げる目には迷いは見られない

覚悟を決めた力強い瞳を七誠に向けていた

 

「タマっち先輩が行くなら‥‥私も行く!」

 

「杏…!?」

 

その上に重ねるように七誠の手を掴む杏

 

「タマっち先輩…

 

 タマっち先輩が私のことを思ってくれているのと同じように

 私もタマっち先輩のことを守りたい、支えてあげたいんだ!

 

 だから、タマっち先輩一人でなんて絶対に行かせないよ

 

 タマっち先輩に守ってもらうばかりじゃなくって

 私もタマっち先輩と一緒に戦う、それでタマっち先輩の事を私が守る!!」

 

「杏…」

 

杏はそう言い切る

その瞳には若干の不安が映るも

その言葉に嘘がないのは、七誠も理解している

 

「君たちの覚悟‥‥

 

 しっかりと感じたよ、それじゃあ

 僕についてきてよ、僕達のもとに案内するから‥‥」

 

こうして二人の少女は、北斗七星の剣士に導かれて行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

それから七年後

 

勇者達はそれぞれの武器を手に取っていた

杏は自分が手にした武器、ボウガンをまじまじと見ている

 

ボウガンは弓の部分がまるで二つに分かれた

髪の毛の様になっており、先の方がふさふさになっている

 

「うーん…

 

 使い方自体はわかっているけれども

 いまいちどういうことなのかがわからない

 

 ひょっとして、私が体が弱いから

 なるべく動きたくないから、その必要のない

 遠距離系の武器になったってことなのかな?」

 

「おーい、あんずー」

 

そんなことをつぶやいていると

球子が彼女に手を振りながら、近づいていく

 

「あ、タマっち先輩

 

 タマっち先輩の方はどうだった?」

 

「ふふん、タマのはな、じゃじゃーん!」

 

そう言って見せるように取り出したのは

翼が風車状にならんだような形状の二枚の刃が

飛び出ている、円盤であった、傍から見ると盾である

 

「タマっち先輩のは盾?」

 

「盾じゃないぞ、タマの武器は

 何と相手に投げつけて攻撃するんだ

 

 もちろん防御にも使えるけれどもな」

 

自慢げに話をしていく球子の頭にポンっと何かが置かれる

 

「まったく、どんな武器なのかを把握するように言われたでしょ?」

 

「ふぎゃ!

 

 わ、わかってるよ

 でもまずはどういう武器なのかを説明するのもな…」

 

「早乙女先輩、お疲れ様です」

 

球子をいさめたのは

春組の勇者を纏める一等級勇者の一人である

 

乙女座の勇者

 

早乙女 理恵

 

彼女であった

 

「杏ちゃんのはボウガンか‥

 

 体が弱くて激しく動くのが苦手な

 杏ちゃんに遠距離のそれはあってるかもね」

 

「はい、でもその分距離を詰められると弱いから

 そこからどう立ち回っていくのかが重要ですね」

 

杏がしっかりと自分の武器の問題点を口にする

 

「あら、そこはそこにいる元気っ娘に

 フォローしてもらえばいいじゃない?

 

 その子の武器は盾にもなるし、武器としても

 十分に機能できるじゃない、なら問題は無いと思うけれど」

 

「でもやっぱり、タマっち先輩にばっかり

 任せっきりになってしまうのはどうしても…」

 

杏はそう言うと、理恵はムニッっと杏の両頬を引っ張る

 

「だーかーら、そこをあなたがフォローするんじゃない

 

 つまり、二人のいいところをうまく使って行けばいいのよ

 タマっちが前に出て攻撃と防御、貴方がタマっちが存分に

 戦えるように援護すればいいのよ、貴方の武器はそれができるわ

 

 だからそんな自信のない顔をしないの、ね?」

 

「ふえ…?」

 

理恵は笑顔を浮かべて、杏の頭をポンポンと叩いて離れていく

 

「‥‥そっか…

 

 そうだよね、だって私は勇者なんだもん

 守られてばっかりじゃ、ないんだもんね」

 

層言って顔を上げる杏

 

その表情にはどこか強い決意を感じられた

 

「決めた!

 

 私もタマっち先輩、ううん

 皆のことを守れるように強くなるんだ!!」

 

「お、杏が元気になったな

 

 7タマポイントあげよう」

 

こうして

 

勇者の準備はすべて整った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからが戦いの始まりだ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦いの時・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六分儀座の異変 第α話 命を奪う天文台

終わる日常・・・・・・・・・


 

 

 

 

こうして

 

気たるべき戦いの時に備え

勇者が勇者として戦うべき備えは全て整えた

 

しかし、だからと言ってすぐに戦いが始まるというわけでもない

 

あれから勇者達は、それぞれの時間を

訓練以外の全てを自分のために使っている

 

そんな中で大丈夫なのかと気を張る者もいるが

だからと言って心に余裕のない生活をしても逆効果だ

 

ゆえに英雄たちは勇者達にせめて

戦い以外の時は自分の好きなことをしてほしい

 

それもまた、大切なことなのだと言った

 

確かに戦いの時がそんなしょっちゅうあっては

勇者じゃなくても体がいくつあっても足りない

 

ならばせめてよほどのことがない時ぐらいは普通に過ごそう

 

そう思い各々の趣味に時間をあてていた

 

「あ、これ…

 

 新作が出たんだ…

 

 あーでも、お小遣いが厳しいかな

 お金は毎月支給してくれるけれども

 だからってそんなに多くあるわけでもないし…」

 

ここにもそういう少女が一人

 

「あんずぅ!」

 

「ひや!?」

 

そして、その少女の肩を叩いて声をかけるもう一人

 

「も、もうタマっち先輩

 

 脅かさないでよ、まったく

 いたずらが過ぎるんだから」

 

「あっはは、悪い悪い

 

 でもな、タマだって声をかけたんだぞ

 よんでも返事がないからさ、それで何の本を見ていたんだ…?」

 

「うん、私が最近は待ってる小説の新刊

 

 買おうかどうか迷ってるんだけど

 ちょっと、今月は厳しいかなって…」

 

「あー分かるぞ、タマも欲しいものがあるんだけど

 今月に入って三日くらいでピンチになっちゃってな」

 

「もう、タマっち先輩

 

 お金は大事に使わないと

 後になって困るんだからね…

 

 まあ、そういう私もあんまり人の事言えないけど…」

 

そんな会話をしている仲の良い二人

 

しかし、二人のそんな楽しい時間は

突如鳴り響く音とともに終わりを告げた

 

「「っ!?」」

 

自分達の端末から鳴り響き音を聞いて

急いでその端末を取り出す二人、すると

 

『春組に緊急警報、春組に緊急警報

 

 アルザーノにおいて次々と死者が

 増えているという情報あり、至急迎え

 

 そこには住人ですらも把握していない

 謎の建造物があるとの情報もあり、十分に警戒せよ』

 

知らせを受けて気を引き締める二人

 

「ったく、また呼び出しかよ…

 

 状況考えろよ、まったくもう…」

 

「穢れはすべての世界に起こるものだって言ってたし

 それにいつ発生するのかもわからない以上はしょうがないよ

 

 とにかく行こう、私達に指示が来たってことは

 多分他のみんなは出払っているってことだもん…

 

 行こう、タマっち先輩」

 

「ああ」

 

そう言って二人は急いで向かって行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

春組の元に入っていく二人

そこにはすでに何人かの少女達が集まっていた

 

「来たわね二人とも、まったく球子はいっつもそそっかしいんだから」

 

「ちょっと待てよ、恵子!

 

 その言い方だとまるでタマが悪いみたいな言い方じゃないか」

 

「杏さんは体が弱いのですから無理はさせられませんよ

 

 かくいうあなたはそんなにも元気なんですから

 それこそ、しっかりしないといけませんよ、まったく…」

 

「美南さん、私は大丈夫です

 

 其れで春三さん、さっそくメールにあった

 異世界の方へと向かって行きたいのですが」

 

四人の少女は、改めて真剣な顔つきになる

 

「ああ、実はある世界に

 異質な建造物が現れてな‥‥

 

 お前達にはそこに向かって行ってほしい‥‥」

 

春三がそう言って見せる映像には

闇夜の突き光に映し出されるその様は

どこか不気味な雰囲気を醸し出しているように見える

 

「な、なんだよこれ…

 

 すっげえ不気味だな」

 

「まったくだ…

 

 それにしても、これはまるで

 星を見ているようにも見える…

 

 天文台か?」

 

球子の率直な感想に恵子は同意し

同時にどのような建物なのかを推測する

 

「ああ、おおむねその通りだ‥‥

 

 だがこの天文台が見ている星は

 星空に浮かぶ星々ではない、人の命と言う星だ‥‥

 

 あれはそれを見て、そこから命を撮り立っていく‥‥

 

 見ろ、また一つ星が流れた‥‥」

 

「あ…」

 

春三がそう言うと、天文台の上にある

天体望遠鏡のような部分に何か光のようなものが吸い込まれて行く

 

「これってつまり…」

 

「また一つ、誰かの命が奪われた…

 

 と言うことですよね?」

 

杏が恐る恐る聞くと、春三は黙り込む

それはつまり、工程を意味する反応と言うことだ

 

春三はそこで改めて、四人の少女の方を向く

 

「お前達四人に役目を伝える‥‥

 

 すぐにでもこの世界に向かい

 この天文台を底止させろ、現地にはすでに

 七誠が向かっている、合流しすぐに討伐に当たれ

 

 現地指揮は七誠に任せているが

 万が一分散する時は、恵子、美南‥‥

 

 お前達が指揮をとれ」

 

「「はい!!」」

 

恵子と美南は春三に言われて了承する

 

「それでは、健闘を祈る‥‥

 

 くれぐれも無事に帰って来いよ」

 

「「「「(おう!)はい!!!」」」

 

こうして四人はさっそく、穢れの起こっている

異世界に向かうために異世界への扉を潜って行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして四人は異世界に入る

 

そこはどこか昔の西洋を思わせる街並みがそろっており

そこでは普通に多くの人々が何気なく暮らしているように見える

 

「おー、こうして異世界に入るのって

 本当に新鮮な感じがしていいよな、初めての時は

 本当にタマげたってのに、慣れっていうのは怖いよな」

 

「うるさいよ、球子…

 

 まずは情報収集、それと

 七誠さんと合流しないと…」

 

「そうですね…

 

 まずは、どこかで話をできれば…」

 

そう言って町行く人々に尋ねていこうとする一同

 

すると

 

「ちょいとそこのお嬢さんたち?」

 

そう言って話しかけてくるのは一人の女性だった

 

「何かお探しかな?

 

 あんまりキョロキョロしてると不信がられちゃうよ?」

 

「ああ、すいません…

 

 えっと、このあたりに何やら

 変わったこととかありませんか?

 

 それと、私達はある男の人を探しているんですけど?」

 

杏が不意に彼女に尋ねていくと

 

「変わったことっていうと…‥

 

 ひょっとしてここ最近人が突然、謎の死を遂げるっていう、例の異変かな?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

四人はその女性の話を聞いて、もしかしてと尋ねる

 

「あ、あの…

 

 もしかして何かを知っているのですか!?」

 

「ああ、何分この付近で最近多発していてね

 私もその原因を調べているのさ、それでその元凶は

 

 ここから大体、一時から二時の方向位に

 どう考えてもここいらでは異様な建物を見つけてね

 

 誓う位置に調べていこうと思ったら、ある僕ちゃんに

 話しかけられたんだ、優しくもどこか力強い話し方の坊ちゃんだったね」

 

「な、なあそれって…」

 

「ええ、きっと七誠さんよ…

 

 きっと先に向かったんだわ」

 

「では早速向かわないと…

 

 ありがとうございました」

 

そう言って美南がお礼を言う、すると

 

「待った!」

 

その女性は四人を呼び止める

 

「な、何ですか?」

 

急に呼び止められて

慌ててそっちの方を向く四人

 

「…私も一緒に行くよ

 

 私も近いうちに例の建物に

 向かうつもりだったからね…‥

 

 私は、セリカ・アルフォネア

 

 私の方も一枚、かませてもらうよ」

 

そう言って同行を求める女性、セリカ

 

「ダメですよ!

 

 何が起こるのかわからないのに

 私達が守るにしても、それこそ保証もないんですから」

 

「大丈夫よ

 

 自分のみくらいは自分で守れるわ‥‥‥

 

 それに、これ以上犠牲を出したくないのは

 私だって同じなんだ、だから頼む、一緒に行かせてくれ」

 

セリカの真剣な目つきを見た恵子は言う

 

「分かったよ、でも一つだけ言っておくね…

 

 何があっても絶対に無理はしない事

 私達だってどこまでやれるかわからない以上

 

 貴方を守り切る保証はないわ

 この条件を守ってくれるなら動向を許可するわ」

 

恵子の言葉にセリカはコクリと頷くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

四人の少女はセリカの言っていた場所に向かう

 

すると、そこには確かに

この世界の建物には不釣り合いなほどの建造物があった

 

恵子たちは端末を確認すると、確かにその建物から

穢れが発生したときに鳴り響く警報が点滅していた

 

「間違いない、アレは穢れだ…」

 

「ようし、だったらさっそく突入しようぜ!」

 

「待ってください、まずは七誠さんとの合流です!

 

 春三さんからも言われているでしょう」

 

早速向かおうとする球子を諫める美南

 

「うーん、とはいっても七誠さんの姿が見えないしね‥‥

 

 杏はどう思う?」

 

恵子は杏に意見を求める

 

「え、えっと…

 

 まずはあの建物の中に入ってみましょう

 もしかしたら、七誠さんはもうあの中に

 入っているかもしれませんし、何より敵はまだ

 目立って浮き出そうともしている様子はありません…

 

 でしたら、敵が動きが動き出す前に仕掛けていきましょう」

 

「確かにそうね…

 

 敵があの中で何を企んでいるのかは

 知らないけれども、その前に叩くのもいい」

 

杏の言葉にセリカも同意するが

 

「待って下さい、もしかしたら敵が

 潜んでいるのかもしれないのにそれはいくら何でも」

 

「いや、待っているよりかは

 そっちの方がいいとタマも思うぞ!

 

 どのみちぶっ倒すんだったら

 今から仕掛けていっても一緒だしな

 

 そういう事だったら、せんてひっしょー!」

 

「ああ、ちょっとタマっち先輩!

 

 先に仕掛けるのと勝手に突っ走るのとは違うよ!!」

 

球子が後先考えずに突っ込んでいき

それを慌ててほかの三人が追いかけていく

 

それを見ていたもうひとり、セリカは

 

「フフフ、なかなか面白い子達だね」

 

そんなことをつぶやきながら、一同の後を追って行く

 

こうして一同は、謎の天文台の中に乗り込んでいくのであった

 

「おっしゃー!

 

 タマが一番だ、行くぞぉ!!」

 

球子はそう言って先にシステムを起動し

建物の中へと突入していき、それを見た三人は

 

「しょうがないな…

 

 美南、杏、私たちも行くよ!」

 

「「はい!!」」

 

三人の方もシステムを起動しその姿を変えていき

すぐさま突っ走った球子の後を追って行くのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「さあてと!

 

 早速入ってきてみたぞ!!

 

 しっかし不気味な感じがするな…

 

 なんだか何かが化けて出てきそうだぞ?」

 

先に謎の天文台の中に入っていく球子

だがその中はまるで衛生管理などまるでなされていない

 

おまけに光など灯るどころか入っても来ないのが

さらにその不気味な様子を彩っているように感じる

 

「‥ま、まあこんなことで怖気づくようなタマじゃないぞ!

 

 さあかかってこい、タマがいつでも相手になるぞ」

 

そう言って武器である旋刃盤を手に持ち

どこからかかってきてもいいように身構える

 

もっとも、その部屋は不気味さこそ醸し出しているが

だからと言ってその部屋に球子意外に誰かがいるわけでもなく

 

球子の威勢のいい声が、むなしく響いていくのみである

 

「‥な、何だよ何もいないのかよ…

 

 まったくもう、脅かしやがって…

 

 べ、別に怖いわけじゃないぞ!

 

 ち、ちょっと不気味だなって思っただけで…」

 

なぜか周りに誰もいないのに言い訳をする球子

 

「まあいいや、誰もいないならこのまま一気に

 タマが大元を叩いてやるさ、タマが一番乗りだ!

 

 行くぞぉ!!」

 

そう言って先の方に行く球子

 

だが、この時、球子は気が付いていなかった

 

そんな自分の様子を真上からそれも静かに

見つめている謎の影がいたことに、そしてその影は

 

そのまま、その場から球子を追いかけていくように去っていく

 

…‥♌…‥‥

 

そのころ、佐紀に突っ走っていった球子を追い

他の三人も急いで、天文台の中へと入っていた

 

「まったく球子の奴…

 

 どこまで走っていったんだよ…」

 

「ごめんなさい…

 

 タマっち先輩がご迷惑をおかけして…」

 

「いえいえ、伊予島さんが謝ることではありませんよ

 

 それよりも杏さんの方こそ大丈夫ですか?

 

 勇者の力のおかげでだいぶ運動能力が上がっているとはいえ

 具合が悪くなったり疲れたりしたら大変ですし、気を付けてくださいね」

 

杏の体を気遣う美南

 

「ありがとうございます

 

 もしもそうなったら

 言いますから、心配しないでください」

 

杏と美南の話を聞いたセリカはふと思ったことを聞く

 

「えーっと、杏君と言ったかな?

 

 君は何か、体に負担を持っているのか?」

 

「え、ああ…

 

 実は私、体が弱くて

 昔はそのせいで激しい運動ができなくって…

 

 この姿だったらそれなりに動けるんですけれど

 其れでも倒れることもあって、これでも昔に比べると

 すごく動けるようになった方なんです、七誠さん達のおかげで‥‥」

 

杏は恐る恐る答えていく

すると、セリカは笑みを浮かべる

 

「弱くてもいいさ、怖いと思うのもかまわない

 

 それは生きていくうちで誰もが思うことだ

 

 それを否定せずに、どのように生かすのか

 それもまた、強さの一つ、それを忘れるな」

 

「セリカさん…」

 

セリカの言葉を聞いて不思議と不安がなくなっていくのを感じた

 

すると

 

「うん!?」

 

恵子は何かを感じたのか、手を一同の前に出して止める

 

「どうしました…?」

 

「…何かいる」

 

「っ!?」

 

それを聞いて、杏は武器であるボウガンを手に取り

更に周囲の方を警戒していく、美南は十字架型の槍

 

恵子は矢のような形をした槍を手に構えていく

 

セリカもそれを見て、警戒を高めていく

 

四人は背中合わせになって周りを見回していく

 

すると

 

「っ!?」

 

杏は何かを感じ、ボウガンをうち出す

するとその場所から、何やら金切り声のような

不快な音があたりに鳴り響き、一同はそっちの方に目を向ける

 

そこにいたのは

 

シャアアアアア!!!!!

 

緑色の巨大で、およそ三百メートルは

楽に超えているかもしれないほどの巨大な虫だった

 

その虫は直立して、今にも四人に襲い掛かろうとしている

 

「な、何だあれは!?」

 

「おそらく、この建物の中で生まれた

 穢れだろう、穢れは分裂と融合を繰り返すことで

 どんな形にもなる、生き物にも場所にも、現象にも…」

 

「臨戦態勢!

 

 私と美南で応戦する

 杏はサポートの方をお願い!!」

 

「了解です!」

 

恵子と美南はそれぞれ槍を手に怪物に向かって行く

 

カタカタカタカタカタカタ!!!!!!

 

「「「「っ!?」」」」

 

怪物の鳴らす金切り声のような音が鳴り響く

 

それを聞いて思わず、耳を塞いでしまい

そのせいで好きが生じてしまい、その隙に怪物が襲い来る

 

「危ない!」

 

杏がボウガンを構えて放ち

大口を開けて前にいた二人に食らいつこうと

大口を開けた穢れのその口に向かって狙撃する

 

ギャアアアアアア!!!!!!

 

大口を開けた状態で、大きく仰け反る穢れ

さらに勢い余ってそのまま後ろに倒れこんでしまう

 

「お見事、杏…」

 

「ごめんなさい、私達がしっかりしないといけないのに…」

 

「気にしないで下さい!

 

 皆さんのサポートをするのは

 私の役目ですから、このくらい当然のことですよ」

 

「仲間をねぎらうのは後だ!

 

 敵はまだ生きているぞ!!」

 

セリカがそう言うと、一同の目の前に

穢れが起き上がって、再び金切り声を上げる

 

カタカタカタカタカタカタ!!!!!!

 

「うるさい音ね!

 

 いい加減黙らせるわよ!!」

 

恵子がそう言うとトントンと何回か足で地面を小突くと

勢いよく飛び出していき、穢れに向かって飛び上がっていく

 

恵子の手には矢にも似た槍が握られ

それを勢いよく突き出さんとするように構えていく

 

「おおおおりゃあああ!!!!!!!」

 

見事な脚力で突っ込んでいき

目標に向かって勢いよく槍を突き出していく

 

ギャアアアアア!!!!!

 

その一撃は見事に敵の頭に突き刺さり

その頭部から黒いオーラが勢いよく噴き出し

 

攻撃を受けてそのオーラを勢いよく噴き出している穢れは

苦しそうに叫び声をあげて、勢いよく暴れ始めていき恵子も振り回される

 

「このおおおお…」

 

恵子はそれでも槍を深く突き刺し

離してたまるものかと必死に踏ん張っていく

 

すると

 

ギャ!?

 

穢れの体の両側に十字型の光の壁が現れ

それが穢れの動きを制限し、どうにか勢いを弱めていく

 

「ぐううううう…

 

 杏さん、今です!」

 

美南がそう言って自分の後ろに控えている杏に指示を出すと

杏は武器であるボウガンを構えて狙いを定めていき、引き金に指を当てる

 

「行けええええ!!!」

 

杏のその声とともに銃弾が勢いよく放たれて行き

穢れの胴体の真ん中をものすごい気負いで貫いていった

 

ギャアアアアア!!!!!

 

アアアアア…‥

 

大きな断末魔の叫びがあたりに響き

穢れはだんだんと黒いオーラを噴き出していき

 

「よっと!」

 

恵子が降り立ったと同時に穢れは

爆発するように黒いオーラとなり果て、消滅した

 

「ほう、見事だ‥‥‥」

 

それを見ていたセリカは素直に感服した

 

だが

 

「しかし…‥」

 

セリカはそう言うと三人の間に向かって

魔法を勢いよく放っていく、その後ろには

 

ギャアアアアア!!!!!

 

何ともう一匹、穢れがいた

 

「「「っ!?」」」

 

穢れは攻撃を受けてしまい

その反動のためかその場に体を付けて動かなくなる

 

「注意力が足りないところはまだまだだな」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

杏は申し訳なさそうに謝罪する

 

シャアアアアア!!!!!

 

するとその穢れに何かが突き立てられ

消滅、さらにそこに現れたのはなんと

 

シャアアアアア!!!!!

 

また別の固体であった

 

「そんな‥‥何体いるのよ…」

 

「とにかく倒すしかないですよ

 

 こいつらが外に出てしまえば

 それこそこの世界は終わりを迎えてしまいますよ…」

 

迎撃をしようと身構える二人だが

杏はふと何かに気づく、そこに移っていたのは

 

「二人とも、ここで迎撃していても

 体力を消耗していくだけです、奥に向かってください!」

 

「奥に?

 

 どうしてよ?」

 

「…‥あ!?」

 

恵子は杏の言葉を理解しきれなかったが

美南は奥の方に目をやって杏の言葉を理解する

 

「おそらくこの穢れたちは言うなら

 働き蟻のような存在です、本体もとい

 

 この穢れたちを生み出している本体が奥にいるはずです

 

 無理に相手をせずに確実に大元を叩きましょう」

 

「恵子さん、杏さんの言う通りです…

 

 どのみち発生源を抑えないと

 数を減らしきることは不可能です…

 

 奥の方に行って、本体を倒しましょう!」

 

「‥‥オッケー!

 

 それじゃあ、こいつらを

 どうにかやり過ごしていきましょう!!」

 

そう言って自分達に襲い掛かっていく

穢れたちの猛攻をかわしつつ、奥に進んでいく三人であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「うおお!!!」

 

一人勝手に突っ込んでいった球子は

絶賛敵の軍団の襲撃を受けて大苦戦していた

 

「このぉ…

 

 こんなにでかいのがうじゃうじゃたくさんいるなんて

 タマだって女の子なんだからこんなにでかい虫がいっぱいなんて無理だっての!」

 

そう言って武器である旋刃盤を投げつけてどうにか応戦していく球子

 

しかし、大きさはもちろん

一対多数と言うただでさえ不利な状況だ

 

逆転するのはそう簡単にはいかないだろう

 

やがて、球子の身体にも疲労が覚え始めていく

 

「ま、まずい…

 

 さすがにそろそろ体力が限界だ…

 

 く、このままだと、本当に…」

 

球子はだんだんと疲労を訴えていくが

敵の大群の方はそんなものお構いなしに向かってくる

 

そして、とうとう

 

「うぎゃ!」

 

疲労が頂点に達してしまったせいで足がもつれ

その場に転んでしまう、球子は武器である旋刃盤を

盾のように前につきだして、目を思いっきりつぶる

 

「っ!」

 

もう駄目だ、そう思って死を覚悟する球子だったが

 

「はあああ!!!!」

 

誰かの声とともに不気味なうめき声があたりに響き渡っていく

 

「‥え?」

 

球子は恐る恐る目を開けると、そこにいたのは

 

「…まったく、合流優先だって言ったのにどうして戦闘に入っちゃうんだよ‥‥」

 

「まったく球子、アンタって本当に無鉄砲なんだから…」

 

二人の男女であった、一人は剣を両手に

もう一人はかぎ爪を携えており、球子を呆れていた

 

「七誠‥明…!」

 

球子はそれぞれの名前を呼ぶ

 

「さあて、いろいろ聞きたいことはあるけれど

 今はこいつらをどうにかしないといけないね‥‥

 

 行けるよね、明」

 

「もちろんよ、こいつらをできるだけ減らして

 ここから離れる、それでいいんだよね、はあ!」

 

こうして二人は敵の大群に二人で向かって行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「一人やる気になって突っ走ったら

 ほかの勇者達とはぐれたぁ、本当に君って子はぁ!」

 

「いだだ!!!」

 

事情を話した明に頭に手をぐりぐりと押し付けられていく球子

 

「…まったくもう、きみはまずその突っ走っていく癖を

 治していく方から始めないといけないな、まったくもう‥‥

 

 まあそれはいいとして、今はとにかくほかの子達とも合流しないと‥‥

 

 球子ちゃん、居場所はわかってるよね?」

 

「え、あいや‥その…」

 

「球子、確かその端末には

 ほかの勇者の位置がわかるアプリが

 

 搭載されているはずなんだけれど?」

 

明がそう言ってジト目で見つめると

球子は思わず目をそらして、乾いた笑みを浮かべる

 

「あんた…忘れていたのね、アプリの事…」

 

「い、いや!

 

 忘れていたんじゃなくって

 ほんとの本当にそういうんじゃなくって

 

 えっと‥使い方がわからなくって…」

 

球子のその言葉に明は眼光を鋭くして睨みつける

 

「アプリの使い方あんなにさんざん教えたでしょうがあああ!!!」

 

「ぎゃあああああ!!!!!」

 

またも頭を激しくぐりぐりされてしまう球子であった

 

「まあ、とにかく‥‥

 

 今は合流の方を優先しよう…

 

 明、他の勇者達の居場所はわかる?」

 

「まったく…」

 

明は呆れたため息をつきながら

自分の端末を操作していく、すると

 

「いた!

 

 って嘘!?

 

 奥の方にまで入ってってる!?」

 

「何だって!?」

 

明の言葉を聞いて七誠は大いに驚く

 

「奥?

 

 奥にいるからなんだっていうんだ?」

 

「球子、あんたねえ‥‥」

 

「とにかく今は、僕達も向かおう

 説明は移動しながら教えてあげるから‥‥」

 

そう言って七誠は向かうべき場所に目をやる

 

「それじゃあ、急いで向かおう!

 

 簡単に負けることは無いとは無いと思うけれども

 この建物の奥に潜んでいるものの相手は相当きついだろうし」

 

「ほら球子!

 

 早くしないと杏が危ない目に合うかもしれないわよ」

 

「何だって!?

 

 だったら早く急ごう!」

 

こうして三人は急いで向かって行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つに分かれし者達は果たして合流できるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




二つは一つになろうとする・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六分儀座の異変 Sex 北斗七星の剣士

追いつめられる勇者達…‥‥‥


 

 

 

突如、アルザーノ王国の近くに

そびえ立った巨大な天文台の様な建物

 

その中に入った勇者達は一人の勝手な特攻によって

意図せずに二手に分かれていくことになってしまう

 

だがそんな勇者達に突然現れた巨大な虫の様な怪物が

勇者達に襲い掛かっていく、はぐれた一人はもう一人の勇者と

北斗七星の英雄と合流、一方の残りの面々は建物の奥深くに向かって行くのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「随分と進んだけれども…

 

 本当にここに大本がいるのかな?」

 

「分かりません…

 

 でも、可能性としてはあり得ないとも言い切れません

 

 おそらく先ほど私達が戦ったあの虫のような怪物は

 穢れが分裂した際に生まれたいわば副産物の様なものだと思います

 

 穢れは分裂と融合を繰り返すことで、その姿を作っていきますから…」

 

「杏さんの推測はあながち間違いではないと思います…

 

 おそらくですが、この建物自体が穢れである可能性もあります」

 

そう言って奥へ奥へと進んでいる三人

 

ケンタウルス座の勇者

 

漆間 恵子

 

 

南十字座の勇者

 

十字世 美南

 

 

そして

 

髪の毛座の勇者

 

伊予島 杏

 

 

更に彼女たちのもとには

 

「ほう、それは興味があるね

 

 よかったら話してくれないか?」

 

セリカ・アルフォネア

 

三人にこの建物の居場所を伝えて

同時に同行した、この世界の住人である

 

「えーっと…

 

 穢れはその時その時で

 いろんな形になっていき

 

 主に三つの形態があるんです

 

 動物のように動き出す、召喚型…

 

 建物や場所、物などの形をしていて

 そこにあるだけで影響を与える、配置型…

 

 そして

 

 現象のようにあたりに影響を与える、発動型…

 

 普段の穢れはあたりに漂う黒い霧のような形ですが

 それらが融合と分裂を繰り返し、星の力を得ることで形を得るんです」

 

「星の力‥‥‥?」

 

杏の説明の中にあった星の力という単語を聞いて思わず聞き返すセリカ

 

「はい、星の力はその名の通り

 星より授かった力なんです

 

 すべての人間は生まれたその瞬間に

 得られる星の力が決まっていて、世界に

 生を受けた人々はその力を常に消費し続けていき

 

 その力をすべて失った時に、天寿を全うするんです」

 

「なるほど‥‥‥

 

 すなわち、星の力が与えられれば与えられるほど

 どこまでも生き続けていくことが出来る、と言うわけか‥‥‥」

 

そう言って自分の左胸にそっと手を当てるセリカ

 

「アルフォネアさん?」

 

「…なんでもないよ、それよりも

 そろそろ気を引き締めた方がよさそうだ‥‥‥

 

 さっきから感じている気配がだんだんと大きくなっている‥‥‥

 

 この先に大本がいる、なんとしてもこの悪夢を終わらせるぞ!」

 

セリカの言葉を聞いて、ぐっと気を引き締めていく一同

 

そしていよいよ、最深部へと足を踏み入れていった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

 

「これが…

 

 この穢れの本体…?」

 

四人がそこで見たものは

何やら大きな動力炉のようなものがそびえ

 

そこから黒い霧状のオーラが噴き出していっている

 

すると、その中からオーラがはじき出され

それが先ほど一同が戦っていた巨大な虫の形になる

 

「なるほど…

 

 分裂した穢れの一部が

 召喚型の穢れになっていたんですね…」

 

「あれさえ止められればきっと穢れを倒しきることが出来ます…

 

 しかし、そのためには周りにいる召喚型の穢れを

 どうにかしてもらう必要がありますけれど、どうしますか?」

 

「ようし!

 

 だったら私と美南で虫たちを引き受けよう

 

 杏には隙ができ次第、本体を確実に撃ちぬいてほしい!」

 

チームリーダーの恵子が作戦を立案する

 

「ええ!?

 

 私が、ですか!?」

 

「ああ、私達は接近戦がメインである以上

 狙って奴のもとに行くのは正直難しいし…

 

 それにあれだけの召喚系の穢れだ

 足止めの方は必要になってくる、それは

 私と美南が適任だ、あの化け物共は私達が引き受ける

 

 杏はあの本体の部分をぶち抜くことだけを考えてくれ…」

 

杏は図らずも重要な任務を任せられてしまうも

恵子の言葉、彼女と美南の真剣なまなざしに何も言えず

 

「‥‥わかりました、やってみます」

 

そう言うと、恵子と美南は力強い笑みを浮かべ

そのまま、二手に分かれていくと、案の定、敵の大群は

それぞれ二人の方を狙って行き、二人はうまく杏より距離を撮り

 

そこで戦闘を開始していく

 

「‥‥…」

 

杏は武器であるボウガンを構えるが

同時に自分に降りかかるプレッシャーに押しつぶされそうになっていた

 

うまくいくだろうか、外してしまったらどうしたらいいのか

 

そんなマイナスなことばかり考えてしまう杏

すると、そんな彼女の肩にポンと優しく手が置かれた

 

「‥‥ひゃあ!?」

 

「すまない、脅かすつもりはなかったんだ…‥」

 

その手を置いたのは、セリカであった

 

「…杏、この作戦は何よりもお前が重要だっていうのは

 私もあそこで戦っているあの子達だって理解しているさ

 

 でも、私もあの子達も君だったらできると信じているから後を託してる

 

 私がそばにいてやる、だからお前は何も心配するな」

 

「あ…」

 

その言葉に彼女は不思議と自分が誰よりも憧れ

頼りにしている一人の少女の姿がセリカと重なったように見える

 

すると

 

「分かりました、とにかくやってみます」

 

そう言ってボウガンを構え、恵子と美南の様子も見つつ

敵の本体を撃ちぬく準備の方を進めていくのであった

 

一方

 

「はああああ!!!」

 

一人敵の大群に挑んでいく恵子

彼女の手には矢のような形状をした槍がある

 

さらに身軽な動きで敵の大群を誘い出す様にしていく

 

シャアアアアア!!!!!

 

すると、動きの止まった恵子に襲い掛かるように

一体の穢れが彼女に勢いよく襲い掛かっていった

 

すると

 

「はあ!」

 

恵子はトントンと足で地面を鳴らし

まるで自分を矢にするようにして

 

勢いよく自分に襲い掛かっていく怪物の方に突っ込み

 

見事、怪物の体を勢いよく貫いて見せるのであった

 

「‥‥なるほど…

 

 木の属性は自然を操れるって

 言っていたけれども、本当なんだ…」

 

そう言う彼女は足元の地面をトントンと小突く

 

星の力には属性があり、勇者はその属性を扱える

その数は七曜にさらに天、海、冥三つの力を加えたもの

 

恵子が持つ属性は木、自然をつかさどる力

 

恵子はその力で地面を操作しトランポリンのようにして

勢いをつけて飛び上がって矢のような貫通力を発揮したのだ

 

ケンタウルス座が持つエレメントは地

 

ゆえに地面を操作するのは扱いが慣れればたやすいものなのだ

 

「ようし…

 

 このままある程度

 数を減らして、杏にうまくつなげるぞ!

 

 ‥‥って意気込んでみたいけれども…」

 

そう言って目の前の方に目をやると

もはや一匹いたら何十匹いるという具合の数が迫ってきている

 

「これはいくらなんでも多すぎるだろ…」

 

余りの大きさに思わず力が抜けていってしまう感覚に陥るが

もう一度気を引き締めて、敵の大群の方に向けて武器の槍を向ける

 

「ええい、こうなったら…

 

 一匹一匹じゃなくって

 一回で多くの敵を倒していこう

 

 出ないとこの数に押され行ってしまうぞ…」

 

そう言って一回の攻撃で多くの敵を倒していく作戦に移る

 

そして再び地面を足でコンコンと小突いていき

勢いよく足を踏ん張らせていき、敵の方を見定めていく

 

「やああああ!!!」

 

恵子は槍の穂先を構えて

まっすぐそのまま向かって行き

 

一気に複数の敵を撃ちぬこうとしていく、のだが

 

「ぐう!?」

 

一体は貫けたものの、次の一体は

大きなダメージを与えたものの、貫くには至らなかった

 

シャアアアアア!!!!!

 

攻撃を受けた二体はそのまま消滅

少なくとも倒せるくらいのダメージは与えられることは理解する

 

「ぐう…

 

 さすがに一気取りは難しいか…」

 

悔しそうに敵の大群の方を見つめていく恵子

 

さらに別の方では

 

「参ります!」

 

美南は杏より距離を取り

その場所において向かって行く敵の方を向いて

 

武器である十字架を模した槍を掲げながら

向かってくる敵の大群を真剣な表情で見つめていく

 

「はあああああ…」

 

美南は声を張り上げるように言うと

持っている槍に闇のようなものが集まっていく

 

「今日は月がきれいですね…

 

 そしてその日が、貴方達の命日です!」

 

そう言って槍をぶんぶんと振るい

そこから勢いよく敵の方に向かってとびかかっていく

 

「やあああああ!!!」

 

槍に闇がまとわれて行き

それを使って敵を次々と切り裂いていく美南

 

南十字座の勇者たる美南

彼女の属性は月、闇と幻想をつかさどる力

 

闇は世界の始まりより存在していた原子の力

 

故に闇はいかなる力をもその色に染め上げてしまうとされる

 

シャアアアアア!!!!!

 

ゆえに、その闇にとらわれてしまったものは

決してその力から逃れ出ることはできず、飲み込まれて行く

 

だが、月の力はそれのみではなく

 

「…‥!」

 

美南の死角から一体の虫が襲い掛かり

彼女の体を瞬く間に貫いてしまうのだった

 

「がはっ!」

 

血を吐いて、ブランとうなだれる美南

 

だったが

 

「…‥甘いですよ」

 

するとその虫の背後より槍を大きく振り上げた

美南が勢いよくとびかかっていき、その虫を闇の力で切り裂いた

 

シャアアアアア!!!!!

 

攻撃を受けたその虫は切られた個所より

黒いオーラを噴き出しながら倒れ、爆発するように消滅した

 

「‥‥この世にはびこる卑しき穢れよ…

 

 星の運命の元に、還りし場所に帰りなさい…」

 

そう言って祈るように手を合わせる美南

 

その姿は修道女、もとい聖女を思わせていく

 

「‥‥さて、このまま一気に決めて

 行きたいのですが、あいにくと数が多い…

 

 杏さんが見事に敵の核を撃ちぬけるように

 できるだじぇもっと多くの敵を倒さなくてはなりません…」

 

そう言って祈るように伏せていた顔を上げ

自身に迫っていく敵の大群をしっかりと見据えていく

 

その数はやはり多く、それどころか段々と増えているようにも見える

 

「‥‥正直言うと、これはきついですね…

 

 私の持つ星の力ではそう長くはもたないかも…

 

 ですがそれでも、出来るだけ多くの敵を引きつけなくてはなりません!

 

 この世界に生きている、すべての人々の幸いのためにも!!」

 

そう言って多勢に無勢ながらも一歩も引くことなく向かって行く美南

 

恵子と美南、二人がそれぞれ召喚系の穢れを相手にする中

杏は敵の数が減ってきているのを確認し、狙うべき的を見据える

 

「‥‥恵子さんと美南さんは

 私のことを信頼して後を託してくれたんです…

 

 でしたら、私も私の為すべきことを成して見せる!」

 

そう言って杏はボウガンに矢を装填して

穢れの核が見える方へと向かって駆け出す

 

セリカもそれを見て、どこか安心したように杏についていく

 

が、そこに

 

「まずい!」

 

すると上の方から、二人が引き受けているほどではないが

多くの虫たちが勢いよく襲い掛かってきた、セリカはそれを見て

 

魔法を展開して、敵の数を減らしていく

 

「セリカさん!」

 

「私に構うな、きみは君がなすべきことを成せ!」

 

セリカはそう言って、魔法で敵を蹴散らし

杏の侵攻を阻まれるのを防がんとしていく

 

「ありがとうございます…

 

 はああああ…」

 

杏はそう言って、地面に手を突き

そこから、何やら物質のようなものを抽出し

 

それを矢の形に変えていくと、それを目の前に構えていく

 

髪の毛座の勇者たる杏子の属性は金、物質をつかさどるもの

 

自身の星の力を使ってあたりにある物質を自由に変換させることで

武器にしたり、攻防両方の手段に用いたりと有用を聞かせている

 

さらに、杏は勤勉さによって得られた知識の方もあるので

 

「やああああ!!!」

 

杏は地面に含まれる物質の中から

攻撃として放つにも申し分のない威力の矢を生み出す

 

無数に放たれる矢はさすがに穢れの装甲を貫けはしなかったが

 

ギ、ギギギギギ…‥

 

何と装甲の隙間である関節と関節の間を

的確に狙うことで、敵の動きを見事に封じていった

 

「これならしばらくは動きを止めていられる…

 

 今のうちに敵の本体を!」

 

今のうちに穢れの核のもとへと向かって行く杏

 

その後も、敵の大群が襲い掛かってきたが

杏はそれらを生成した矢で動きを止めていき

 

なおかつ、ボウガンによる攻撃で討ち果たしたりもする

 

「っ!?」

 

すると、杏にも驚くべきことが起こる

彼女に向かって形を成していない穢れそのものが

這って行くように杏子の方へと向かって行く

 

「さすがに本体には近づけないように

 徹底しているんだね、でもそう簡単には…

 

 やられないよ!」

 

杏はそう言うと、くるりと回転して

ボウガンと自分が生成した矢を全方位に放っていく

 

これによって黒い穢れは牽制されて行き

ついに杏は敵の本体のもとへとたどり着いた

 

「これが…

 

 この穢れの本体…」

 

温めて近くに行くと

この建物に本当に収まっているのかと

思えるくらいに大きな動力炉が見えた

 

杏は気を引き締めてボウガンを勢いよく引いていく

 

「一気に決める!」

 

そう言って思いっきりボウガンの矢を装填する

 

だが

 

「きゃ!?」

 

動力炉の下から、黒い穢れが

触手のように伸びて杏に一斉に襲い掛かっていく

 

杏は驚きながらもどうにかその場から移動し

敵の猛攻をどうにか、かわしていき、地面に着地した際に

地面の物質を抽出し矢を生成し、それを黒い穢れの方に放っていく

 

だが、先ほどの方とは違い

黒いオーラの密度は大きく、杏も生成と攻撃の手が足りなくなっていく

 

「く…

 

 これじゃあ、本体の攻撃どころか

 相手の力を削りきることだってできない…」

 

杏はどうにか攻撃の手を緩めることなく対応していく

 

しかし、それも相手の攻撃自体を阻んでいくことはできるが

敵へのダメージに関しては残念ながら、決定的な一打にはならない

 

「恵子さんも美南さんも

 敵の軍団の方に回っていて

 

 攻撃に行くことが出来ない…

 

 私の方も攻撃の手は足りてるけれども

 相手に決定的な一撃を入れることもできないし…

 

 こうなったら…」

 

杏は集中するように目を閉じて

じっと、敵の動きを感じ取っていく

 

すると、彼女の癖があるが

長くも美しい髪が静かにたなびいていく

 

「‥‥ほんの少しでいい…

 

 私に力を貸して!」

 

そう言うと、杏の髪の毛は

杏のその言葉に答えるようにゆっくりと動いていく

 

そして、彼女を守らんとするように

大きく広がって、這い寄って行く黒いオーラを

 

払うようにしてその攻撃を打ち払って行く

 

そのおかげでこの建物、配置型の穢れの本体

動力部への道筋が、自然に開いていった

 

「今だ…」

 

杏はもちろん、弓の弦を引いて

標準を底にしっかりとむけていき

 

「行っけええええ!!!」

 

引き金を引いて、そこから一気に矢を打ち出して行く

 

その矢はまっすぐ穢れの動力部へと向かい

見事に命中、大きな爆発を起こしたのだった

 

「やった!」

 

「うん!」

 

それを見て、離れた場所にいる恵子と美南も

杏がやってくれたのだと確信し、笑みを浮かべる

 

「はあ‥‥はあ…」

 

杏は煙に包まれた目の前の光景を息を切らしてみている

 

彼女はもともと体が丈夫ではないことも手伝って

他の二人に比べても相当なくらいに息を切らしている

 

「正直きついけれど‥‥何とか…やったよ‥‥…」

 

そう言ってその場にガクリと膝を突く杏

 

煙が晴れていくそこには杏の攻撃によって

見事に損壊している動力炉の部分が見えていた

 

「おお、どうやらやったようだな」

 

「セリカさん…

 

 はい、正直言うとぎりぎりでした…

 

 う、うううう…」

 

杏はふらりとめまいを覚えて体を傾け

セリカは慌てて彼女の体を支えている

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「はい、ごめんなさい…

 

 安心したらちょっと

 眩暈がしてきてしまって」

 

杏はセリカに支えてもらいつつ

ゆっくりと地面に座り込んでいく

 

「‥‥実は私、生まれた時から体が弱くって…

 

 昔は外で歩きに行くことはできても

 遠いところに行くことはできなくって

 

 ずっと部屋で本ばっかり読んでいたんです…

 

 そのおかげが本を読むのが好きになって…

 

 でも、それでも外に出るのをあきらめたくなくって

 お医者さんのご指導の下、治療とリハビリを受けて

 

 ようやく外に行っても倒れることのないくらいによくなって…」

 

「そうだったのか‥‥‥

 

 其れは大変だったな」

 

杏の話にセリカは少し申し訳なさそうに言った

 

「‥‥大丈夫です

 

 それに、外に出られたおかげで

 学校にも行けるようになったし

 

 タマっち先輩にも出会えたんだもん

 

 つらいこともあったけれど、それを乗り越えて

 楽しいこともうれしいこともたくさん経験したの

 

 だから、あの時の努力は決して無駄じゃないんだって

 胸を張って過去の頑張った自分を誇れることが出来るんだよ

 

 勇者に選ばれてからも、七誠さんや優生さんが

 うまくサポートしてくれて、最初よりも動けるようになったし

 

 そのおかげで、世界のどこかにいる私のような人のことを

 守ることのできる力を、こうして得ることが出来たんだもん」

 

「…そっか‥‥‥

 

 それだったらその気持ち‥‥‥

 

 これからも大事にすると良い

 そうすればきっと君は今よりも強くなれるさ」

 

セリカの言葉を聞いて、杏は嬉しい気持ちを表して頷いた

 

「はい!」

 

そう言う二人のもとに、合流してくる二つの影が

 

「杏!」

 

「杏さん、やりましたね」

 

そこに現れたのはややボロボロになった

恵子と美南の二人が、杏とセリカの二人のもとに合流する

 

「恵子さん、美南さん…

 

 ごめんなさい、お二人には

 大変な役目を背負わせてしまって…」

 

「謝ることは無いわよ

 

 私たち自身がやるんだって決めたんだもの」

 

「それに、杏さんはしっかりと

 自分のお役目を果たされました…

 

 今はそのことを誇りに思うべきです」

 

三人はそう言って微笑み合って行き

セリカはそんな様子を微笑ましそうに見ている

 

誰もがこれでやっと終わったと思ったその時

 

「‥‥っ!?

 

 この感じ…」

 

美南が不意に杏が撃ちぬいた方に目を向ける

すると、そこで一同が見た光景とは、何と

 

ジ‥‥‥ジジジジ‥‥‥

 

杏に撃ちぬかれた動力部が

破損しながらもまだ動いていた

 

「「「「んな!?」」」」

 

それを見た四人は驚愕する

 

動力部を杏は確かに撃ちぬいた

だが、それでも穢れはまだ動いてた

 

「核を狙ったのにまだ穢れが稼働している…

 

 まさか、似非さんが言っていたのが本当だったなんて…」

 

恵子は誰にも聞こえないような声でつぶやき

美南にアイコンタクトを送ると、彼女はコクリと頷いた

 

「そんな…

 

 核を撃ちぬいたのに

 まだ倒れることは無いっていうの!?」

 

すると、動力部から黒いオーラが噴き出し

そこからまたも巨大な虫が複数体生み出されて行った

 

「く…

 

 もういい加減に

 虫の相手は嫌だっての…」

 

「く…

 

 正直に言うと限界ですが…

 

 それでもやるしかないですね!」

 

「‥‥…」

 

再び向かって行こうとする恵子と美南だが

杏は身体を震わせて、自分の胸元に手を合わせる

 

自分の手の震えを自分の手で押さえるように

 

「(私のせいだ…

 

  私がしっかり狙わなかったせいで

  皆さんを窮地に陥らせてしまった…

 

  ごめんなさい‥‥ごめんなさい…)」

 

そう何度も心の中で自分を責めて

懺悔の言葉を何度も心の中でつぶやいていく杏

 

だが、敵の大群はそんな杏の心情など

知ったことかと言わんばかりに一斉に襲い掛かっていく

 

「はああああ!!!」

 

「やああああ!!!」

 

二人は体力がぎりぎりながらも

それでもかまわずに敵の大群に向かって行く

 

「杏、もう一度穢れの本体を狙うんだ!

 

 一発でダメなら、もう一発だ、早く‥‥‥」

 

「‥‥…」

 

セリカは杏に呼びかけるが

杏の方は敵を倒しきれなかったのを

自分のせいに感じてしまい、放心状態になっている

 

そんな彼女にセリカはやや乱暴に

杏の顔を自分の方に向けていった

 

「しっかりしろ!

 

 たった一発攻撃が効かなかった程度で

 うじうじするな、きみがそうやってうじうじしている間にも

 

 君の仲間は、必死に戦っている

 自分の足で立つのが無理なら私が支えてやる…

 

 だから…諦めるな!」

 

「‥‥…」

 

セリカにそう言われて杏は意識を覚醒していく

杏は瞳に光を戻して、セリカの言葉にうなずいた

 

それを見たセリカは力強い笑みを浮かべて応える

 

「‥‥セリカさん!

 

 サポートの方をお願いします

 

 正直言うと、私はもうほとんど体力が残っていません…

 

 ですからこの一発で決めなくてはなりません」

 

「そうか‥‥‥

 

 承知はした、だが‥‥‥」

 

そう言ってあたりに飛び回っている虫共の方に目をやる

恵子と美南も疲れが見え始めているので、うまく誘導ができない

 

そのために先ほどよりも多くの敵が杏の方に寄ってきている

 

「…これほど多いとさすがの私も振り切れない‥‥‥

 

 すまないが、攻撃ではなく防御で行かせてもらう」

 

「分かりました」

 

セリカはそう言って手を前に出すと

自分と杏の周りに障壁を張っていく

 

「今だ!」

 

「はい!」

 

敵の大群はわらわらと自分たちの方に向かっている

そのおかげか本体の動力炉の方が手薄になっている

 

虫たちの独断専行か、先ほどの杏の攻撃によるダメージで

うまく群れを纏められないのか、いずれにせよ好機であった

 

「これで‥‥決める!」

 

そう言って狙いを定めて、本体の方に攻撃を仕掛けんとする

 

そして、引き金を引き必殺の一撃を動力炉に向かって放つ

 

其れは見事に、穢れの本体、天文台の動力炉に再び命中する

 

だが

 

ビ‥‥‥ビビビビ‥‥‥

 

動力炉はいまだに健在である

 

「そんな…」

 

杏は今度こそ限界を迎え

その場にどさりと地面にうつ伏す

 

「杏!」

 

「杏さん!!」

 

「ぐう‥‥‥」

 

セリカはどうにかして杏のことを守ろうと

障壁の方を張る力を込めていく、だがそれも限界が近い

 

「未来ある若者の命を‥‥‥

 

 おめおめと死なせてたまるものかあああ!!!!!!」

 

セリカは自分に喝を入れるように声を上げる

 

杏の方は意識が朦朧としていき

そんな中でも彼女はあることを考えていた

 

それはいつでも自分のことを守ってくれていた

小さくてもとっても頼りになる一人の少女

 

体の弱いせいでいつも後ろ向きになる

自分の背中をその少女と一緒に押してくれた一人の青年

 

ータマっち先輩‥‥七誠さん…ー

 

杏はその二人の名前を、心の中で思いうかべる

 

自分がよく読んでいる本を自分も読みたいと

見栄を張ってお願いして、数分もしないうちに寝てしまった球子

 

逆に自分のおすすめの本を見せてあげた時に

すっごく面白かったと嬉しそうにいった七誠

 

ほかにも様々な出来事が

走馬灯の様に彼女の頭の中に流れ込んでいく

 

すると

 

「どおおりゃあああ!!!!!」

 

そんな声が聞こえたと同時に

自分とセリカを取り囲んでいた虫の群れを

 

飛んできた何かが一気に薙ぎ払い

次々と切り裂いて消滅させていった

 

「‥‥え?」

 

杏はふと、視線を上げて

目の前の方を見る、そこにいたのは

 

「‥ごめんな、杏…

 

 タマが突っ走ったせいで

 杏に無茶をさせちまって…」

 

「‥‥あ…」

 

杏のことをいつも守ってくれた親友の少女

 

その少女は

 

「ここからは、タマに任せタマえ!

 

 杏に手を出す奴は

 このタマが一匹残らずぶっ飛ばしてやる!!」

 

そう言って武器である旋刃盤を前に出し

敵の大群の方をみて言い放った、すると

 

「もう‥‥タマっち先輩…

 

 勝手に突っ走らないでよ…

 

 私、本当に‥‥本当に心配したんだもん…」

 

「‥すまない杏…

 

 いろいろ心配かけちまったみたいだな…

 

 でも、これだけは絶対に約束する、杏は絶対にタマが守る!」

 

そう言って武器を盾のように構えて

向かってくる敵の方を見て決意を込めて言い切る

 

「来いよ、化け物共!

 

 タマがいる限り杏には傷一つつけさせねえぞ!」

 

「タマっち先輩…」

 

自分の前に立って自分の事を守ろうとする

球子の背中をじっと見て、少し暖かい気持ちになっていく

 

シャアアアアア!!!!!

 

虫の大群は自分の足を突き立てんと

球子と杏に向かって振るって行った

 

球子はそれを縦のように構えた旋刃盤

そこから伸びた二本の刃が翼のように広がり

 

自分と杏を問題なく守れるように

敵の攻撃を受け続けていく、だが

 

「ダメだよ、タマっち先輩!

 

 そればっかりじゃタマっち先輩に限界が…」

 

「大丈夫だよ、タマの属性、知ってるだろ?」

 

不安を口にする杏に

球子は彼女を安心させるように言う

 

すると

 

「うおお!!!」

 

烏座の勇者

 

土居 球子

 

 

彼女の属性は水

 

水はそのままの通り水に関する攻撃能力

また、回復にも優れており、回復役にもなる

 

球子はこの水の力で自信を回復させて

守りの方に適しつつ隙の方を伺って行く

 

「タマは絶対に、破れたりなんてしない!」

 

そう言って盾のように防御に使っていた旋刃盤を

敵が攻撃を繰り出すのと合わせるように押し出し

 

攻撃を仕掛けた、虫の体制を崩し

さらにそこから、ドミノが倒れていくように

ビリヤードで球が球を押し出す様に大群は倒れこんでいく

 

「おっしゃ!

 

 タマげたか、タマの底力を!!

 

 さあて、それじゃああと一息だ!!!」

 

そう言って武器である旋刃盤を上に掲げて

その方向に向かって水のようなものを噴き出していく

 

すると

 

「これって!?

 

 水属性の回復の能力!?」

 

「球子さん!

 

 無事だったのですね」

 

疲労が蓄積されて行った恵子と美南に

水が雨のように打たれて行くと二人の体力が

みるみると回復をしていくのであった、さらに

 

「杏の身体も、これで少しはましになったろ?」

 

「うん、ありがとうタマっち先輩」

 

病弱なせいで動かすこともままならなかった杏も

球子の回復能力のおかげで立ちあがれるくらいには体力は回復する

 

だが、動力炉はまたも虫の大群を生み出して

一同にさらに攻撃を仕掛けていくのだった、それを見た杏

 

「タマっち先輩!

 

 あの動力炉を狙って!!

 

 アレがこの建物、穢れの本体なの!!!」

 

「安心しろ!

 

 それだったらもう、どうにかなる!!」

 

球子がそう言うと天井の方から何かが飛び降り

一方は爪のように歪曲した刀を振るって動力炉を切り

 

その斬った動力炉に向かっていくのは

 

「うおおお!!!!」

 

背中に鎌のような形状で

骨がむき出しになったような片翼を広げた青年が

 

切り裂かれた動力炉にむかって、切っ先の中腹辺りから

鎌の様な突刃が飛び出している剣をふるって行ったのだった

 

それは先ほど切った場所からさらに深く切り込まれて行く

 

すると

 

ガガガガガ…‥ピピピピピ!!!!!

 

悲鳴のような電子音があたりに鳴り響いていく

 

その様子を目を見開いて見つめている杏

 

「ああ…」

 

一撃を決めたのちに杏の目の前に着地する一人の青年

 

「…まったく、僕が来るまで待ってろって言ったのに‥‥

 

 でも間に合ってよかったよ、良く頑張ったね三人とも

 遅れた分はしっかりと取り戻すから、しっかり休んでて?

 

 後は、僕達がやる!」

 

そう言って大きく広がった紫色の鎌のような形の

骨組み状の片翼を大きく広げて目の前の相手の方を見ていく

 

すると、その隣にもう一人の人物が降り立つ

 

「球子、元はと言えば貴方が突っ走っていったせいで

 この事態に陥ったんだからね、しっかり杏の事守ってあげなよ」

 

「うぐ‥わ、わかってるって…」

 

球子ににらみを利かせながら有無を言わさずに言い放ち

 

「それじゃあ、一気に決めさせてもらいましょう

 

 七誠さん!」

 

「分かってるよ、一気に一撃を叩き込む!」

 

そう言って明は武器である熊手状の爪を展開し

七誠はすでに持っている剣とは別の剣をぬいて両手持ちになる

 

「それじゃあ、明ちゃん!

 

 一気に飛び込んで、僕がそれに合わせる

 それで一気にこの穢れを討伐するよ!!」

 

「オッケー!

 

 一気に攻めていく!!」

 

そう言ってタンタンと地面を足で踏みならし

勢いよく地面を蹴って飛び上がっていく、すると

 

彼女の両腕から炎のような輝きを持った

三日月形の刃が展開されて行くのであった

 

「はああ!!!」

 

明と呼ばれた少女が

穢れの本体である動力炉に飛び込んでいくと同時に

 

「これで‥‥

 

 終わりだあああ!!!!」

 

七誠がそれに合わせて跳び

ほぼ同時の勢いで動力炉を斬りつけていくのであった

 

ガガガガガ!!!!!

 

ビビビビビ!!!!!

 

激しい電子音が激しく鳴り響いていき

やがて動力炉から激しい電子音が鳴り響いていく

 

「行くよ、ここはもうすぐ消滅する!」

 

「球子、杏をお願い

 私は恵子と美南たちを!」

 

「分かった!」

 

そう言って七誠はセリカをお姫様抱っこで

明は恵子と美南を両脇に抱えて、そして

 

球子は杏を背負って急いで天文台から脱出する

 

「杏‥ごめんな…

 

 タマが突っ走ってってせいで

 お前を危険な目に合わせちまって…」

 

「ううん‥‥私だって…

 

 元早くにあの穢れを

 倒すことが出来ていれば…」

 

お互いに自分のいけない部分を口にしていく二人

 

「タマももっと‥しっかりしないとな…」

 

「私も‥‥タマっち先輩やみんなを守れるくらいに…

 

 強くなりたい…!」

 

二人はそんな決意を口にして、お互いにうっすらと笑みを浮かべていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして無事に脱出することが出来た一同

 

町はずれにそびえていた天文台は

辺りから黒いオーラを噴き出していき

 

音を立てて崩れ落ちていく

 

やがて、黒いオーラにつつまれると

爆発するように霧散して、消滅するのであった

 

「ふう‥‥

 

 いろいろ問題はあったけれど

 どうにかなってよかったね、みんな‥‥」

 

「あ、あの‥‥‥

 

 勝利を喜ぶのは良いのだが

 そろそろ降ろしてもらえないだろうか‥‥

 

 脱出の助けをしてもらったのは素直に

 うれしいのだが、ずっとその…抱えられたままだと‥‥‥

 

 さすがの私も恥ずかしいのだが‥‥‥」

 

「え、ああ‥‥

 

 ごめんごめん‥‥」

 

セリカにそう言われて抱えていた彼女を

優しくゆっくりと降ろしてやるのであった

 

「いやー…

 

 今回はほんとに死ぬと思ったね」

 

「ええ、何分いろいろと問題が起こりましたからね

 

 その一番の原因は…」

 

三人の少女が一斉に球子の方を向く

 

「「「球子ぉ!!!」」」

 

「うええ!?

 

 ま、待ってくれ

 今回ばっかりはタマが悪かったから

 説教だけは勘弁してくれ、頼むよ七せ~」

 

三人の少女に詰め寄られる球子は

七誠に助けてもらおうとすがっていく

 

「しょうがないな、みんな‥‥

 

 その辺にしてあげなよ」

 

「おお…」

 

一同に話しかける七誠の言葉に

球子はよっしゃと心の中でガッツポーズをとる

 

三人の少女はどこか不満そうだ

 

すると

 

「球子ちゃんへのお説教は、優生ちゃんにお願いするから」

 

七誠のその言葉に、球子は

 

「がっびーん!」

 

思わず擬音を口にしてしまうほどのショックを受ける

 

一方

 

「それならいいわ」

 

「構いません」

 

「たっぷりお説教を受けてもらいなさい」

 

三人の少女の表情はどこかすっきりしているようにも見えた

 

「ふぎゃあ、やだー!

 

 優生の説教は本当に長いんだー!!

 

 あんずぅ、後生だから助けてくれぇ!!!」

 

「タマっち先輩

 

 今回は弁護のよちなしだから

 諦めて罰を受けようよ、優生さんだって

 しっかり反省してくれてるなら軽くしてくれるよ」

 

「裏切り者おお!!!」

 

そんな球子の絶叫があたりに響く

その様子にほかの少女達は思わず吹き出してしまう

 

それを見ていたセリカの方も声を出して笑ってしまう

 

「あーっはっはっはっ!!!!!!

 

 本当に面白い子達だな、勇者と言うのは‥‥‥」

 

セリカはそこまで言うと七誠の方にまで寄ってくる

 

「それにしても、穢れか‥‥‥

 

 あんなのがこの世界に沸いているだなんてね‥‥‥」

 

セリカは話しかけるように七誠に言う

 

「貴方は?」

 

「私はセリカ、セリカ・アルフォネア‥‥‥

 

 まあ人より長く生きているしがない魔術師さね

 

 しかし、それでもあんな怪物は私も見たことがない

 

 君たちはあんな怪物と戦っているのかい?」

 

セリカの七誠を見る目には何やら含みがある

 

「…その通りだけど‥‥

 

 貴方のその目線の感じは

 少なくとも褒めてくれているとも思えないね‥‥‥」

 

「まあね‥‥‥

 

 正直言うと、さっきも言ったけれど

 私はこう見えても、人よりも長く生きている

 

 いいや、生き続けていく宿命を背負っている

 

 最初のうちはそんな自分の運命を喜びもした

 でも、生き続けていくうちにそこから虚しさを覚え始めた

 

 こんなにも生き続けて、一体何の意味があるのかってね‥‥‥

 

 だが、ある出来事で私はそんな人生に一つの光を見たんだ‥‥‥」

 

セリカが真剣な様子で話しをしていく

 

「光‥‥?」

 

「若く才能にあふれた子供たちを導いていくことさ

 

 あの子達は私と違って、生き続けていくことはできない

 でもその意志はその子達が大人になって、その子供や弟子など‥‥‥

 

 しっかりと受け継がれて行く、それはまさに鎖のように

 長くそれでいてがっちりとね、私もいつの日かそんな未来あるものを

 導いていくことが出来る、その後押しができるようになりたいのさ‥‥‥

 

 さて…ここからが本題だ…君たちはあの子達を

 あの子達をしっかりと導けていると思うのかな?」

 

セリカはそう聞いてくる

 

「そうだね‥‥

 

 そうなのかどうなのかと聞かれれば

 そうじゃないと僕は思う、僕達はあの子達に

 事情があるとはいえ、戦いと言う過酷な宿命に

 背負わせてしまっている、でもだからこそ僕は‥‥

 

 ううん、僕達はあの子達をしっかりと導いていくさ‥‥

 

 まだ、貴方の納得のいく結果はお世辞にも残せていない‥‥

 

 でもだからこそ、僕達はしっかりとあの子達行く未来を

 守り抜いて見せるさ、どんなに過酷であっても絶対にあきらめたくないしね‥‥」

 

「そうか‥‥‥

 

 まあ、頑張りなよ‥‥‥

 

 君やあの子達うが歩む道は

 厳しく過酷なものだろう、だからこそ‥‥‥

 

 己の中にある可能性を信じて見せろ‥‥‥

 

 私が言うのはそれだけさ‥‥‥」

 

そう言って七誠の元を離れていくセリカであった

 

「…信じるさ、僕は絶対に

 あの子達の可能性を、僕自身の可能性もね‥‥

 

 そうだよね…みんな‥‥」

 

七誠はそう言って、目の前で騒いでいる

五人の少女達を微笑まし気に見詰めるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春組の勇者たちの戦いは、まだ始まったばかりである…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




大魔導士からの御言葉…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間;勇者たちの帰還

帰還


 

 

 

 

異世界より帰還してきた恵子と美南一行

 

「お帰りなさい」

 

一行を出迎えたのは、一人の巫女装束の少女

 

さらに

 

「げ…」

 

「球子ちゃん?

 

 人の顔を見て、その一言は

 いくら何でも非常識でしょう?

 

 それとも、ゲッ、って声を出してしまうような

 何かを向こうでやらかしたのかしら、球子ちゃん?」

 

一人の女性の姿を見て、思わず鈍い声を出してしまう球子

そんな彼女の様子を見て、ジト目で彼女に詰め寄る優生

 

「‥んな、なな何もないぞ!?

 

 何にも問題ないぞ、なあみんな?」

 

「ええ、問題ないなんてないわよ

 

 球子がいつものように一人で勝手に突っ走ったからね」

 

「ええ、いつも通りの球子さんでしたね

 

 おかげでこっちはいろいろと大変なことになりました」

 

「うん、タマっち先輩はいつも通り

 一人で突っ走っていきましたからね

 

 問題がないと言えば問題はないです」

 

「ええ、おかげで後から問題が迫ってきたけれどね」

 

球子は何とかごまかそうとするが

四人の少女達の告発に顔を青くしていく

 

球子は恐る恐る優生の方を

ギギギと音を立てるように振り向いていく

 

そこには

 

「…球子ちゃん…

 

 何度も何度も一人で

 勝手に突っ走ったらだめだって

 言ったのに、またやっちゃったんだね…」

 

「い、いや‥これはその…えっと‥…」

 

球子は不意に襟をつかまれ、引きずられて行く

 

「いらっしゃい球子ちゃん

 今日はみっちりと指導しますからね」

 

「ぎゃああ!!!

 

 助けてくれええ!!!」

 

「頑張って来いよ~」

 

ずるずると引きずられて行く球子は

助けを求めるように手を伸ばすが、それに対し

恵子はお別れのあいさつのように手を振っていくのだった

 

「フフフフ‥‥うん?」

 

美南がその声系に笑みを浮かべて言ると

彼女達のもとに一人の少女が近づいてくる

 

褐色肌で長身の少女がこちらを見つめている

 

「棗さん…?」

 

杏は彼女に気が付いて

声をかけようと近づいていく

 

「お疲れ様です…

 

 棗さんも戻ってきていたんですね」

 

「うん…

 

 それでいきなりで申し訳ないが

 恵子と美南の二人を貸してもらえないか?

 

 二人に用事がある」

 

「え?」

 

恵子と美南は首を貸しげるが

棗がこうしてここに来た理由を察し

 

アイコンタクトをかわしてコクリと頷いた

 

「‥‥杏、悪いけれどちょっと行くわ…

 

 先に帰ってて、球子の方にもよろしく伝えておいて」

 

「それではお疲れ様です、杏さん…

 

 今日はゆっくり休んでいてくださいね」

 

「あ、はい…

 

 それではまた…」

 

そう言って二人は棗に連れられて

杏と別れてその場を後にしていくのであった

 

「ねえ、七誠さん…

 

 あの二人と彼女達って

 最近任務終わりにどこかに行ってるけれど…

 

 何か知ってます?」

 

「…いろいろあるんだよ‥‥

 

 特に女の子同士だったらね」

 

七誠は何やらはぐらかす様にして

明に小さく手を振ってその場を後にしていく

 

「…まあ、いっか‥‥

 

 杏ちゃん、よかったら一緒に帰らない?

 

 今回の戦いで相当無茶したみたいだし

 送っていくわ、私にできるのはこのくらいだけど」

 

「ありがとうございます

 

 本当は寄りたいところがありましたけど

 今日は大事を取ってすぐに自室に戻ることにします」

 

そう言って杏はお言葉に甘えることにするのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

杏と明たちと別れて

棗に連れられる恵子と美南

 

その先にはまた別の少女の姿が

 

「お疲れ様ですお二人とも

 

 今日は大変だったようで」

 

「まあね…

 

 球子の暴走はもう

 いつものことだから慣れっこだよ…

 

 それよりも、今回集まってるってことは…」

 

恵子がその少女に今回呼ばれた理由を聞く

 

「うん、いつもの報告会だよ

 

 まあただ、今回はいつもと違うかも

 しれないって感じかもしれないけれどね…」

 

「‥‥とにかく入る…

 

 ほかの勇者に気づかれたら

 この先いろいろと面倒になる…」

 

棗に言われて四人の少女は

部屋の中へと入っていくのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

部屋の中に入っていく四人

 

そこには、何人かの少女たちが集められていた

 

「…‥これで全員がそろったな‥

 

 ではこれより定例報告会を行う…

 

 それじゃあ各自、報告の発表をしてくれ‥」

 

そう言って彼女たちを取り仕切るのは一人の青年であった

 

「‥はい、今回私のいる

 冬組のチームにおいて、ある穢れと遭遇しました

 

 能力自体は変わった部分はありませんが、力が大きくなり

 お恥ずかしい話、大きな被害を出してしまう結果となってしまいました‥

 

 犠牲者が出なかったのが、幸いと言ったところです‥」

 

「‥‥変わったことだったら

 こっちの方でもあったわ…

 

 穢れの中で分裂した時に

 放出された穢れの一部が別の穢れになったわ

 

 そんなこと、今の今までなかったっていうのに…」

 

 

「もしやこれも、皆さんが追っている…

 

 わたしたちが必ず戦わなくてはならない

 敵による干渉があるのでしょうか、似非さん…」

 

恵子の言葉にその場にいる多くの少女達が

うーんと考え込むように唸る、美南がたまらず

この場を取り仕切っている似非と呼んでいる青年に聞く

 

「まだ詳しく分からないが、可能性は十分にある‥

 

 もしもそうなのなら、きっとこの戦いは

 今まで以上に厳しいものになっていくだろう‥

 

 そこで、ここ場に居るものにだけにとどめておきたい‥

 

 俺とほかの英雄達しか知りらない、ある意味最重要機密‥

 

 実はここのところの穢れには、星の力による干渉が施されていた‥」

 

似非がそう言うと、少女達は大いに驚きを覚えていく

 

「星の力‥‥

 

 私達をはじめ、すべての世界に

 生きている者達は生を受ける時

 

 その誕生したその日に決まった星より加護をもらい

 

 それによってもたらされた祝福とともに

 生涯を謳歌していく、その際に得ることが出来る

 星の力は言うならば人の命の力そのもの、そしてその力は

 

 私たち勇者の力は、その祝福をもたらした加護を与えし

 十二柱の神が、自分の力を与えることで戦う力を与えられたもの

 

 そして、今回までに戦ってきた穢れのもとに星の力があるということは‥‥」

 

「‥何者かが星の力を与えている‥

 

 穢れの力を高め、使役するために‥」

 

その言葉に似非は黙ってうなづく

 

「…‥そうだ‥

 

 そしてその穢れを使役するものこそ

 俺やお前たちが何よりも対峙するべき存在であり

 

 同時に世界を脅かす脅威たりうる者達、その者達の名は‥

 

 ’星座宮の御巫女子‘‥」

 

似非は静かに、シンに対峙するべきもの達の名を告げる

 

「‥‥星座宮の…」

 

「‥‥御巫女子…」

 

「お前たち勇者のサポートとしている巫女達とは違い

 

 彼女たちはある者達を神としてあがめ

 その力をもってして、世界そのものの理を脅かさんとしている‥

 

 今の今まで動きを見せてこなかった

 彼女たちがいよいよ動き始めたということだ‥

 

 いずれ、彼女達は君たちのひいてはこの場に居ない勇者

 敷いては俺たちの前にいずれ現れるだろう、いよいよ戦いが

 熾烈に極まっていくことになる、俺たちの方も覚悟を決めなくてはな‥」

 

そう言ってその場にいる者達に真剣なまなざしを向けていく

 

「今後とも監視と報告を怠らないでくれ

 もしも不審なものを見つければ、すぐに英雄の誰かに話せ

 

 絶対に見逃すな、来たるべき戦いに備えて絶対にだ」

 

「「「「はい!」」」」

 

少女達の声があ部屋全体に響き渡っていく

 

「‥‥ふう‥

 

 それでは今日はここで解散としよう‥

 

 各自しっかりと体を休めておいてくれ‥」

 

似非のその言葉とともにどこか息をつく声が聞こえ

少女達は、次々とその場を後にしていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ある場所

 

勇者たちが拠点にしているある場所を

じっと見つめる一つの影があった、それは

 

黒く、ローブと修道服を掛け合わせたような服装で

顔はフードとウィンプルを合わせたような物を深くかぶって隠している

 

そのものは不意に拠点から出てきた一人の少女を見つける

 

その少女はどこかぐったりした様子で

家路に向かっているようだった、すると

 

謎の人物はその少女がある程度拠点より離れた場所にまで

歩いたのを確認すると、その人物は立っているその場所から

 

素早い動きでその少女のもとにまで向かって行く

 

その人物の着物の袂のように大きな袖が

その勢いではためかされて、まるで一羽の鳥を彷彿とさせる

 

そしてその人物はその少女の前に降り立つ

その人物はゆっくりと顔を上げて少女を見詰める

 

目の前の少女は目を丸くしている様子を見せるが

その謎の人物はゆっくりと自分の顔を覆っている布を取り

 

素顔をさらした

 

それを見た少女はしばらく呆然としていたが

何やら怪しげな笑みを浮かべてその人物に近づいていく

 

その人物とその少女はしばらくお互いに見つめ合っていた

 

何やら、言葉を交わしながら

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふう…」

 

杏は自室に戻ると

戦いの疲労が残っていたので

 

早いところ寝てしまおうとお風呂に入り

ある程度の準備をしてベッドに飛び込んだ

 

「‥‥今日は大変だったな…

 

 今回の敵は何だが手ごわかったし

 いつもだったら一発で決められた一撃でも

 

 ほとんど効果がなかったし…

 

 まったくもう、タマっち先輩ったら

 相変わらず考えなしに突っ込んでいくんだから…

 

 それにしても…」

 

杏はベッドに潜って

今日の戦いのことを思い浮かべていた

 

球子が突っ走ってそれを恵子と美南

二人とともに追いかけていったこと

 

その際にたくさんの召喚系の穢れに襲われたこと

 

追いつめられてもう駄目だと思ったらそこに

どこかに言っていた球子と一緒に駆け付けた明

 

そして、七誠

 

「あの時の七誠さん…

 

 物語に登場する

 英雄さんみたいで‥‥かっこよかったな…」

 

ふとそんなことをつぶやいていると

急に恥ずかしさがこみあげてきたのか

 

顔を真っ赤にして布団に顔をうずめていく

 

「~~~~!!!

 

 あーもう、何やってるのよ私は…

 

 とにかく、今日はもう早く寝ちゃおう…

 

 次の日はお休みだから、ゆっくりしよう…」

 

そう言って疲労によって眠気に襲い割れて

やがてゆっくりと目を閉じて、眠りにつくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふう‥‥」

 

七誠は待機室の椅子の背もたれに

背中を思いっきり預けて、ひと息ついていた

 

「お疲れさま、ななちゃん」

 

「優生ちゃんもね…

 

 そっちの方はどうだった?」

 

そんな七誠に飲み物を持ってきてやる優生

 

「棗ちゃんと帆波ちゃんがね

 うまい具合に連携を取っててね

 

 指揮を執ってた子も悪くなかったし

 

 ななちゃんの方は?

 

 まあ、球子ちゃんが

 また一人で突っ走ってたんでしょうけど…」

 

「まあね‥‥

 

 まああの場にすぐに行けなかった

 僕の方にも責任があるから何も言えないけど‥‥」

 

七誠はそう言って優生が用意してくれた飲み物を口にする

 

「そう言えば明ちゃんも言ってたけれど

 

 どうしてすぐに穢れのいるところに行かなかったの?」

 

「うん、実はね‥‥

 

 あの近くにいたような気がしたんだ‥‥

 

 誰かの影を‥‥」

 

七誠のその言葉に、優生は真剣な様子で聞いてくる

 

「だれかって…

 

 それってまさか…」

 

「急いで追ったんだけれどもすぐに見失っちゃってね‥‥

 

 随分と離れていたところまで行っちゃったから

 それで到着に遅れてしまって、まったく情けないよ‥‥

 

 仮にも勇者を導く立場の英雄の僕が立場よりも

 自分の感情に身を任せてしまうなんて、とんだ失態だ」

 

自分を迫るようにして前かがみになる七誠

 

「ひょっとしてその人物って…

 

 あの子たちの方も動き出してるってことなのかな…」

 

「…断言はできないけれども

 可能性としては十分にあると思う‥‥

 

 現に今回戦った穢れはどこもこれまでよりも

 格段に手ごわくなっていた、僕の方でもそうだ‥‥」

 

七誠はふうっと一息つきつつ顔を上げる

 

「…ねえ、優生ちゃん‥‥

 

 僕達はどうしてあの時

 彼を止めることが出来なかったんだろ‥‥

 

 ぼくたちは彼がとても悲しい人だって

 いうことは理解していたはずだった‥‥

 

 だからせめて、僕たちの手でどうにかして

 彼にその悲しみを癒してあげようとしたのに‥‥

 

 一体どこで…僕たちは間違えてしまったんだろう‥‥」

 

七誠の言葉に優生はしばらく黙り込み

ただゆっくりと彼のとなりにただ静かに座り込んだ

 

「ななちゃんは間違ってなんてないよ…

 

 ななちゃんは誰よりも優しくて

 その優しさを力にできる人なんだよ

 

 私もななちゃんの優しさがあったから

 つらい過去から乗り越えていくことが出来たんだよ

 

 確かにあの人を悲しみからすくってあげることは

 出来なかったかもしれない、でもななちゃんがあの人に

 向き合おうとした事は、絶対に間違ってないって私は思ってる

 

 だって、私やいろんな人が、ななちゃんの優しさに救われたんだから…」

 

優生はそう言って笑みを浮かべて七誠に語り掛けた

彼を止められなかった彼の背中を優しく押してやるように言った

 

あの時の彼が、そうしてくれたように

 

「…ありがとう‥‥」

 

「…気にしないで…

 

 今の私にできるのは

 私達がみんなにしてあげられるのも

 

 このくらいだから…」

 

優生の声の感じもどこか震えているようだった

悲しいのか不安なのか、それは決してわからないが

 

「…‥‥」

 

彼を支えられることが

出来たことは、間違いではないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   




英雄達の心情


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炉座の異変 第α話 秋組と冬組の共同作戦

小犬座と一角獣座、山羊座と顕微鏡座と鶴座とケフェウス座・・・・・・・・・


 

 

 

 

 

88人の少女達が勇者となって

長い時が流れ着いてきた、穢れを問題なく

討伐してきた勇者たちであったが、英雄たちの表情は

どこか浮かない様子のようにも思えた、その理由は

 

日に日に強大になっていく穢れの力であった

 

「ふう‥‥

 

 ここ最近の穢れは

 だんだんと強くなってきている‥‥

 

 たくさんの人々から多くの穢れが

 生み出されていると仮定しても、これは異常だ」

 

その問題をどうにかしたいと英雄

その中でも組長と呼ばれる四人の人物が集まっていた

 

「…そうだよね…

 

 勇者のみんなにはしっかり

 訓練の場を与えているけれども…

 

 やっぱり人として強くなっていくのには限界がある…」

 

春組の組長

 

春の大曲線の槍使い

 

東龍 春三

 

 

彼が議題を述べると勇者の成長が

穢れの成長に追いつけていない現状を憂うのは

 

秋組の組長

 

秋の大四辺形の長刀使い

 

西虎 秋四

 

 

彼女が述べていく

 

「そうだ‥‥

 

 もちろんだからと言って

 あいつらへの訓練を厳しくするつもりはない

 

 訓練で体がボロボロになっては意味がないからな」

 

「やはり…

 

 勇者システムをアップロードするほか…」

 

秋四がシステムの強化を提示するが

 

「やめておきな…

 

 勇者の力はただでさえ

 人の身には過ぎているんだ

 

 適性があるとはいえ

 まだ成熟しきっていない娘たちに

 

 過ぎたる力を与えれば今後の活動にも

 支障をきたす恐れがあるぞ、俺は反対だ」

 

それに反論したのは

 

夏組の組長

 

夏の大三角の矛使い

 

南雀 夏三

 

 

彼であった

 

「しかし…

 

 穢れの成長の速度を考えると

 ほかに方法も見つけられないし…」

 

「だからと言って、いつ終わるのかも

 わからぬ状態でそんな一か八かの方法など

 

 後遺症が起こった後のリスクも高い!」

 

秋四と夏三が口論していると

 

「はっはっはっはっ‥‥

 

 秋四殿も夏三殿も落ち着いて下さい‥‥

 

 確かにお二人の心配もごもっとも

 確かに勇者の皆さんが強くなることは

 システム面でも肉体面でも重要でしょう‥‥

 

 しかし、皆様方はもっと

 根本的な事に目を向けておりません」

 

そう言って場を収める老人は

 

冬組の組長

 

冬の大六角の杖術使い

 

玄亀 冬三

 

 

彼はそう言って口論を沈めた

 

「根本的な問題?

 

 それは一体?」

 

「何ゆえ穢れは驚くべき速度で

 早く大きくなっているのかですよ

 

 そこをどうにかしなくては

 システムも肉体もいくら強化しても足りますまい」

 

冬三はそう言って意見を述べる

 

「それは、そうだが…」

 

「でも、その原因っていうのは…」

 

「ええ、ですがいずれは

 戦わなければならない相手‥‥

 

 避けては通れぬ道では?」

 

「‥‥そうだな‥‥

 

 引き続き似非の奴にも

 調査の方を進めていこう‥‥

 

 勇者たちの活動も当面は

 穢れ退治に当てて実戦経験を積ませる‥‥

 

 時が来れば、また別の訓練も始めなければな‥‥」

 

冬三の意見を指示する春三だが

その表情自体はどこか物欝気であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

秋組、控室

 

そこでは何人かの少女が集まっていた

 

「‥‥ようし、集まってるね!」

 

「イエス!

 

 山羊座の勇者

 

 三等級勇者の白鳥 歌野!

 

 すでにここにウェイトしているわ!!」

 

その中に入ってきた、一人の少女を見て

一人の少女が元気いっぱいに挨拶をする

 

「相変わらず元気ね、歌野

 

 それじゃあ、他の子達はもう集まってる?」

 

「イエス!

 

 とはいってもどのくらい集まるのかが

 アイドンノーなんだけれどね、ウフフフフ」

 

その少女、歌野の明るさに

入ってきた少女、御波は若干呆れながらも笑みを浮かべる

 

「まったくもう‥‥えーっと…」

 

御波はじっと周りを見渡していき

そこにいる全員を確認していく

 

「えーっと、恵ちゃんに宇津美ちゃんにそれから…

 

 千景ちゃんもいるわね」

 

「っ!」

 

名前を呼ばれて、部屋の隅っこで

そわそわしていた千景はピクリと体を震わせる

 

「うん、全員揃ってるわね

 

 それじゃあさっそく場所を移動してもらうよ?」

 

「ちょっと待ってください?

 

 移動って、どういうことです?

 

 ここにいる全員で

 今回のお役目に行くのではないのですか?」

 

待機していた一人が御波に質問する

 

「実はどうやら今回発生した穢れは

 妙に規模が大きくなってる見たいで

 

 ほかの組と合同になって活動していくことになったの…

 

 これからそのチームの子達と会ってもらうことに

 なってるから、すぐにここから移動してもらうわ」

 

「ワアオ!

 

 それって前代未聞じゃない?

 

 すっごくアメイジングなケースね」

 

「それで、御波さんは私たちの指揮を?」

 

歌野はかつてない例に驚きを隠せない様子

すると、隣にいるどこか気の強そうな少女が聞く

 

「いいえ、残念だけれど私は別のお役目に行く必要があるから

 

 皆と一緒にはいけないわ」

 

「え…!?」

 

御波の言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべる千景

 

彼女の中で御波は良くも悪くも自分に構ってくれていた

そんな彼女とこれから別々に行くことになると知り、千景は

自分の心の中に不安が大きく渦巻いているのを感じていたのだった

 

「あ…あの…

 

 それじゃあ…誰が私たちの指揮を…?」

 

千景は思い切って御波に質問すると

 

「大丈夫よ、千景さん

 

 これから一緒に戦う冬組の勇者さんの中に

 一等級勇者の子がいるから園子が指揮を執るわ…

 

 その人はね…」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「フン!

 

 はああ!!!」

 

「ほっ!

 

 やああああ!!」

 

鍛錬場において二人の少女が手合わせをしていた

その二人はともに同じ剣を武器にしているが、技術が違う

 

一方は日本剣術の抜刀術、一方は西洋剣術のフェンシング

 

だがそれぞれのスタイルは違えどその実力はほぼほぼ互角であった

 

やがてしばらく手合わせをすると、ふうと一息をつき

ゆっくりと床の上に腰を下ろし、それぞれ水分を取っていく

 

「ふう…

 

 相変わらず容子のフェンシングの腕前は見事だな」

 

「ありがとね…

 

 若葉の剣術は、どこかぶれてる感じがした…

 

 何か迷いや悩みみたいなのがあるの?」

 

そう言ってお互いの評価を口にする二人の少女

 

剣術を使う少女は

 

小犬座の勇者

 

乃木 若葉

 

 

フェンシングを使う少女は

 

一角獣座の勇者

 

一ノ瀬 容子

 

 

二人はともに冬三が指揮する

冬組に所属している勇者である

 

二人は習う剣術こそ違うが

同じ剣を使うものとして何か通じるものがあるのか

 

こうしてお互いの剣をぶつけたりと

気の置けない友人関係を築いていた

 

「‥‥やっぱり、これからの合同任務について

 

 不安みたいなのでもあるのかな、確か秋組の子だよね」

 

「ああ、秋組には鍛錬時代の時からの友人の

 白鳥 歌野と言う者もいるんだが、いかんせん

 ほかの者達とはあまり面識がないのでな、いずれ

 顔を合わせないといけないとはわかっているのだが…

 

 それでもどうにもな…」

 

そう言ってやや緊張気味に話をしていく

 

「フフフフ、若葉ってば

 ほんとに真面目だよね

 

 これからのことで

 そこまで考えるなんてさ」

 

「そ、そんなことは…」

 

すると、若葉の手にポンっと優し気に肩を置く容子

 

「そうやって一人で何でも

 抱え込んじゃうところ若葉の悪い癖だよ

 

 大丈夫だって、歌野ちゃんも私もついてるんだし

 いざってときは私が出来るだけサポートしていくからさ」

 

「容子…」

 

容子は笑顔を浮かべて言いきると

若葉の表情にも自然と笑みが浮かんでいく

 

「ありがとう、少し気が楽になったよ…

 

 そう言う事だったら遠慮なく頼らせてもらうぞ?」

 

「ええ、まっかせなさい」

 

二人がそう言っていると

 

「若葉、容子!

 

 二人ともそろそろ出ないと

 もうこの鍛錬場は締め切るわよ

 

 ほら、早く着替えてしまってしまってちょうだ頂戴」

 

部屋に入って呼びかけるように言ったのは

 

大犬座の勇者

 

大居 稚菜

 

 

彼女であった

 

「分かったすぐに準備をする!

 

 急ぐぞ容子」

 

「ええ、其れじゃあちょっと待っててね」

 

そう言って二人は急いで脱衣所に向かい

着替えてさっそく集合場所に向かって行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

集合部屋

 

そこでは若葉たち二人の少女達がすでに集まっており

そこに秋組の少女達が扉を開けて入っていくのであった

 

「あ、若葉ー」

 

「歌野、久しぶりだな」

 

若葉の姿をかくにんすると手を振って声をかけ

若葉もまたそれに気軽に声をかけていくと、すぐに真面目な表情になる

 

「さて、秋組のみな

 

 今回のお役目において

 ここにいる者達の指揮を一任された

 

 一等級勇者 小犬座の勇者

 

 乃木 若葉だ…

 

 

 今回お前たちと合同で役目に至るのは初めてになる

 至らないところもあるだろうが、本日はよろしくお願いする」

 

そう言ってその場にいる秋組の勇者たちに自己紹介をする

 

「四等級勇者 一角獣座の勇者

 

 一ノ瀬 容子だよ

 

 

 ここにいる乃木 若葉と一緒に

 今回のお役目に同行させてもらうことになった

 

 一緒によろしく」

 

「三等級勇者 山羊座の勇者

 

 白鳥 歌野よ!

 

 

 こちらこそよろしくお願いするわね」

 

そう言って率先して自己紹介をする歌野

 

「貴方が白鳥さんね

 

 貴方の事は若葉から聞いてるわ

 農業が趣味でお蕎麦が大好きなんだって?」

 

「おお、私のこと聞いているのね

 だったら私のことは名前で読んでオーケーよ

 

 若葉とフレンズなら貴方ともベストマッチングしそうだしね

 

 あとそれと、良かったら私とお蕎麦派の方に入らない?」

 

何故か蕎麦派に勧誘されながらも交流を深めていく二人

 

「そ、それじゃあ私も…

 

 五等級勇者 顕微鏡座の勇者

 

 加賀美 恵です‥

 

 

 よろしくお願いします」

 

そう言ってやや自信なさげに名乗る恵

 

すると

 

「ああもう、じれったいわね!

 

 仮にもこれから穢れ退治に行くんだから

 もっと堂々としていなさいよ、そんな調子じゃ

 こっちの雰囲気まで暗くなっちゃうっつーの!!」

 

「ひい!」

 

そんな恵の態度にややいらだった様子で言い張る少女

 

「うおっと…

 

 随分とはっきりと言う子ね…あの子…」

 

「あの人は王野 宇津美さん…

 

 二等級勇者 ケフェウス座の勇者よ」

 

余りにはっきりとした物言いにやや遠めに見つめて

歌野の説明を受けて、彼女のことを理解する容子

 

「二等級勇者か…

 

 貴重な上級戦力がいるということは

 今回対峙する穢れはそれだけ手ごわいという事か…

 

 これはより一層気を引き締めないといけないな」

 

「フフフフ、ほんとそういうところ変わらないわね若葉

 

 そんな若葉になんだけれど、ちょっと紹介しておきたい人がいるの」

 

そう言って歌野はある人物の方に目を向ける

若葉と容子はその視線の先を見ると、そこには

ワインレッドのカーディガンを着た、黒い長髪の少女

 

彼女は部屋の隅っこの方で

誰ともかかわろうともせず壁にもたれてゲームをしているのが見えていた

 

「あの勇者は…?」

 

「郡 千景さん…

 

 鶴座の勇者で宇津美さんと同じ二等級勇者よ

 あの子っていつもああやって誰ともかかわろうとしなくって

 

 どこか距離があるというか、壁を作っているというか…」

 

「そうなのか…」

 

若葉はそんな少女、千景の方を見てゆっくりと近づいていく

 

「えーっと、郡 千景だな?

 

 私は今回の任務で君たちのリーダーを任せられている

 一等級勇者 小犬座の勇者

 

 乃木 若葉と言う…」

 

「…知ってる、さっき聞いたわ…」

 

若葉はおそるおそる話しかけるが

当の千景はきっぱりと突き放すような口調で言う

 

「ちょっと!

 

 話しかけられているのに何その態度!!

 

 仮にもこれから一緒に

 穢れ退治にいくんだから挨拶ぐらいできないの!?」

 

「…別に仲良くしたいわけじゃない…」

 

見るに見かねた、宇津美は

態度の悪い千景に対して厳しく注意するが

千景の方は特に気にすることなく、態度を変えない

 

「あんたね!

 

 これから一緒に戦う仲間なのに

 損な態度ばっかり取ってていいと思ってんの!?」

 

「私は別にいい…」

 

宇津美はその態度に

段々と腹を立てているのか

錨の形相を浮かべていくが

彼女と千景の間に割って入る者が現れる

 

「まあまあ待ってくれ

 

 今回初めての合同任務で

 緊張しているのだろう、だから

 ここは抑えてくれ、まあとにかく

 

 今回はよろしくな郡」

 

「……」

 

若葉が同に過疎の場を取り持っていき衝突は避けられる

宇津美は千景を睨みながら彼女の元を離れていくのだが

千景の方は相変わらずゲームの方に没頭しているのだった

 

「ナイス、若葉!」

 

「ああ、さすがに任務が始まって

 勇者同士の関係がこじれるのだけは避けたいからな

 

 それにしても歌野、郡はいつもあんな感じなのか?」

 

若葉は歌野に千景のことを尋ねる

 

「ええ‥‥ほとんどの人にはあんな感じよ…

 

 でも、あの子って冷たいんじゃなくって

 他人と付きあうのが苦手って感じなのよ

 

 だってうちの組長と仲良く話をしてるところ見かけたし…

 

「秋四さんと、か…

 

 だとすると、私もせめて

 気のおける中になれるように努めないとな…」

 

そう言って千景の方を見つめながら決意を新たにする

 

するとそこに

 

「みなさん、揃っていらっしゃいますね」

 

一人の年配の人物が部屋の扉を開いて入ってくる

 

「冬三組長!」

 

若葉がそう言うと、一同は素早く控えていく

ゲームをしていた千景の方もゲームを中断して控えていく

 

「ほっほっほっほっ‥‥

 

 楽にしていて構いませんよ皆さん‥‥

 

 さて皆さん、皆さんも大体は察していると

 思いますが今回の穢れはとても大規模です

 

 一組の勇者のは剣のみでは追いつけないほどに‥‥

 

 そこで先ほど、他の組の方々と話をした結果

 秋組の皆さんと合同で討伐に向かうことになりました

 

 突然のことで何かとなれない部分があるでしょうが

 組は違えどともに穢れの脅威よりこの世界を守るための

 同じ勇者なのです、同じ志ウがあるのならば何も問題はないでしょう

 

 私からは以上です、其れでは早速向かいましょう…

 

 若葉嬢、勇者の皆さんの指揮、お任せいたしましたよ」

 

「はい!

 

 一等級勇者の位と

 小犬座の勇者の名に恥ぬよう

 精一杯お勤めをさせていただきます!!」

 

若葉はそう言って決意を表明する

 

「はっはっはっはっ‥‥

 

 いやはや、本当に若葉嬢は

 しっかりしたお嬢さんですな…

 

 では向かうべき場所に行きましょう…

 

 では‥‥」

 

冬三が歩いていくに対して

若葉を先頭に六人の少女も後をついていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

さっそく、穢れの発生した場所に到着する四人

 

「うわ、あっつい…

 

 こんな火山地帯に穢れなんているの?」

 

「いるもなにも、この場所こそが穢れですよ」

 

冬三がそう言うと、少女達は吃驚したように冬三の方を見る

 

「なるほど…

 

 ここは、配置系の穢れですね」

 

「さよう、この場所はもはや

 この穢れが広がったことで原型を

 もはや、とどめてはおりません、しかし‥‥

 

 それでもこの穢れがこの世界を

 覆いつくすには猶予があります、ゆえに

 

 

 こうして私達がここに来たのですからな‥‥」

 

「確か、配置系の穢れの特徴は

 その場所の奥のどこかに核になるものがあるんでしたよね」

 

恵が恐る恐る、冬三に聞いていく

 

「恵、あんたね!

 

 仮にも英雄様に対しても

 なんでそんなにびくついてるのよ」

 

「まあまあ、宇津美譲‥‥

 

 恵嬢は意を決して質疑をしたのです

 どうかそれを咎めないで上げてください‥‥」

 

冬三に言われて、宇津美は口ごもってしまう

その冬三はさてと、と一息を突きながらつぶやいた

 

「恵嬢の言う通り、配置系の穢れは

 その奥に核とも呼べる心臓部があります

 

 その場所こそが一番に狙う場所ですが

 何分この穢れは範囲が大きく、探索が困難です‥‥

 

 よって、まずは探索しつつ

 核があるであろう、最深部の方を目指しましょう‥‥

 

 若葉嬢、お願いします」

 

「分かりました…

 

 先程冬三組長が言った通り

 この穢れは今も拡大を続け

 この世界を飲み込まんとしている…

 

 だが、配置系の穢れである以上は

 必ずどこかに核と呼べるものがあるはずだ

 

 よってここから、探索をしつつ穢れの拡大を

 止めるためにこちらからの攻撃もしていこうと思う

 

 其れでは早速始めよう、任務開始だ!」

 

若葉の言葉にその場にいた五人の少女も頷く

 

こうして、冬組と秋組の合同任務が開始されるのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その場所はまるで

焼却炉か何かに入っているように

 

辺りにごうごうと炎が燃え盛っていた

 

その炎に注意しつつ、穢れの核の探索にいそしむ

 

「それにしても、本当にホットな場所ね…

 

 何だか、炎が燃えている炉の中を

 スモールになってウォークしてる気分よ」

 

「確かに炎が激しいな

 

 勇者服のおかげなのか

 それほど熱くは感じないが…」

 

歌野の言葉に若葉は賛同しつつ

辺りに噴き上げている炎を見回していく若葉

 

「ほっほっほっほっ‥‥

 

 勇者の皆さんは

 星霊の力に守られていますからな‥‥

 

 この噴き上げている炎は言うならば

 融合と分裂を繰り返した際に噴出した穢れそのものなのです‥‥

 

 ですから、皆さんは炎の熱による影響を受けていないのですよ」

 

「そ、そうなんですね‥」

 

「どんな相手であろうと関係ないわ!

 

 私達は穢れを倒す、それだけよ」

 

宇津美がそう言ってあたりを見回していく

 

「うん、王野の言う通りだ…

 

 確かにこの穢れは今までにないほどに

 大きく広がっている、だがそれでも穢れである以上

 

 ここで何としてでも倒しきらなければならない…

 

 私達はそのために来たのだからな」

 

「そうね…

 

 私達勇者は、そのためにいるんだもの…

 

 やるべきことはやるわ」

 

若葉の言葉に千景がやや冷たくも

はっきりとした声で言いきって見せる

 

「その通りです‥‥

 

 しかし、お気を付けください‥‥

 

 本来ならば噴き出された穢れは

 何をするまでもなく、消滅していきますが

 

 どうやら、この穢れも例外なく最近の穢れと

 同様の現象が起こっているようですな、皆さん!」

 

冬三が呼びかけるように言うと

噴き出した炎がまるで骸骨と肋骨と背骨のみのような形で

長い体躯を持った、怪物の姿になって一同に襲い掛かっていく

 

「若葉さん!」

 

「はい!

 

 どうやら敵も私達を

 迎え撃つ、つもりのようだ…

 

 ならば戦うのみ

 行くぞ、私に続け!!」

 

冬三に号令され、若葉が全員に声をかける

それを聞いて若葉を先頭に迫りくる巨大な怪物たちに

戦いを挑んでいく、若葉は自分の得物である刀を構え

 

そのまま、怪物の方へと向かって行く

 

「やああ!!!」

 

若葉はそう言うと、居合抜きのように

勢いよく刀で前の方を切り、目の前の怪物に斬りかかっていく

 

怪物は切られてしまい驚いたように仰け反るが

すぐに元に戻し、再び若葉の方へと向かって行く

 

「フン!」

 

若葉はそれを抜いた刀を上手く使って防御し

勢いよく吹っ飛ばされて行くがすぐに体勢を立て直す

 

その際にうまく攻撃を切り返して

相手の直撃をそらしたのはさすがと言うべきか

 

「く…

 

 さすがに素のままでは

 決定打にかけてしまうか…

 

 だったら!」

 

そう言って若葉は剣を顔の横にまでやって構える

すると、若葉の刀にまとわりつくように地面に纏わりついていく真っ暗な何か

 

それが、若葉の刀を真っ黒に包み込むと

 

「悪鬼、召喚!」

 

そう言って地面を刀に突きさすと

刀を中心に若葉の周りに、陣のようなものが広がっていく

 

それはまるで、若葉に纏われて行くように

彼女の体を包み込んでいき、彼女もそれに

身をゆだねるようにして力を抜くように目を閉じていく

 

「本来ならばこのような力…

 

 勇者としてはあるまじきことなのだろうが

 それでも私にはお前の力が必要だ、だからまた…

 

 私に力を貸してくれ!」

 

そう言って目を開ける若葉の目は赤黒く光っていた

手足は黒いオーラにつつまれ、若葉は再び剣を構える

 

「はああ!!!」

 

若葉は勢いよく目の前の怪物を斬りつけていく

 

斬りつけられた怪物は、その箇所から勢いよく

黒いオーラを噴き出し、爆発するように霧散し消滅した

 

「ぐう…

 

 さすがに悪魔の力を

 その実に宿していくのは負担が大きいか…

 

 一瞬だけだから大した問題ではないとはいえ…

 

 早々、何度も使うわけにもいかないな…」

 

一等級勇者 小犬座の勇者

 

乃木 若葉

 

 

彼女の武器は彼女の戦闘スタイルに合わせた刀で

幼少の頃より剣の手ほどきを受けていたためにとてもあっている

 

しかし、彼女の武器はあっているが属性はあっているとはいいがたい

 

彼女の勇者としての属性は、冥

 

冥とは死者の怨念や魂が集まっていく冥府のこと

 

冥属性はゆえにその怨念の力を

纏う事によって、攻撃の威力を大きく上げていく

 

だが、冥属性が使うのは其れだけでなく

地獄に住まう悪魔を呼び、使役することもできる

 

ともに戦うことのできるパートナーとして

その身に纏わせることで勇者としての力も大きくできる

 

だが、若葉はどうにもこの力を使うのに抵抗を覚えている

其れは彼女の家柄や性格、いわば精神面が影響されている

 

彼女の家は信仰心の強く、良くも悪くも厳格な家

ゆえにいくらそれが勇者としての属性であるとわかっていても

 

自分の家が侵攻している神や仏と対局の存在たる

悪鬼や死せる者達の力を使う事にはどうしても嫌悪感がでてしまう

 

冬三の教えのおかげである程度は割り切れたが

それが原因で体に大きな負荷が出来てしまうためにあまり多くは使えない

 

「やはりここは‥抑えめで行くか…」

 

若葉は故に、刀に怨念を纏わせて武器の威力を上げる

元々若葉の戦闘センスは良い方の良いためにこれで充分である

 

「やああああ!!!」

 

そんな若葉のもとに現れて

武器であるレイピアを勢いよく突き出していく容子

 

「まったく、相変わらず無茶するのね若葉」

 

「容子‥すまない、助かった」

 

若葉の横を通って、突き出された突きの先には

さらに現れた怪物の姿があり、若葉は感謝を述べる

 

「なあに任せておきなさいよ

 

 若葉たちには遠く及ばないけど

 私だってそれなりに強いんだから!」

 

そう言って容子は武器であるまるで

大きな一本の角を思わせるレイピアで空を切り

 

その切っ先を自分と自分のともに向かってくる怪物の方に向ける

 

「行くよ」

 

そう言って容子は、ゆっくりと

レイピアを振り回していくと、まるでそこには

容子の姿がいくつにも分かれていくように見えていく

 

怪物は構わずに向かって行くが

 

自分の攻撃は見事に、容子の体をすり抜けていってしまう

 

怪物はあまりのことに大いに動揺してしまった、そこに

 

「やああああ!!!」

 

容子の必殺の一撃が怪物に勢いよくつかれ

その一撃を受けた、怪物は頭部の骸骨の部分に大きな風穴があけられる

 

「ふう…

 

 ま、こんなものかな?」

 

容子はそう言ってヒュンっとレイピアで空を切る

 

「すごいですね、容子さん‥

 

 ようし、私も頑張りますよ!」

 

恵がそれを見て、両手に杖型の鞭を持ち

それをふるって、自分に迫っていく怪物と対峙していく

 

怪物もそれを見て恵をかみ砕かんと

大きな口を開いて迫っていくのであった

 

すると

 

ギャ!?」

 

かみ砕いたはずの恵はそのまま消滅し

怪物の歯が勢い余って激しい音を鳴らしていく

 

するとその怪物の後ろの方から

 

「えええい!!」

 

恵が鞭をのばして、それを勢いよくふるって行く

 

怪物の後頭部は勢いよくバツ字に裂けられる

怪物は爆発するように霧散し、消滅していった

 

傍にいた怪物は分が悪いと考えたのか

ふと一人、孤立をしている少女に気づいて向かって行く

 

「千景!」

 

若葉がそれに気が付いて

千景のもとに向かおうとするが

 

声をかけられた千景は手に持っている

大鎌を構えていき、勢い良く踏み出していく

 

すると

 

「はあ!」

 

千景の人数がなんと、七人に分かれ

それが一斉に怪物に切りかかっていく

 

その殆どの攻撃は怪物に対したダメージを

与えていくことはないが、最後の千景が飛び出し

 

「はあああ!!!」

 

大鎌を勢いよくふるい

怪物の胴体を縦に真っ二つにした

 

「ふう…」

 

大きく振り下ろした大鎌をゆっくりと持ち上げ

その柄を抱えるようにして自分の肩に置いていく

 

「あれは…!?」

 

「月属性の力で作った分身ね…

 

 まさか、ここに月属性の力を持った

 勇者が三人も居るだなんて、何だか吃驚」

 

月属性

 

若葉の使う冥属性と同様

闇の力を扱うものである

 

だが、若葉のそれと違うのは

月属性は幻想的な魅力を醸し出している月夜の如く

 

相手に幻想を見せて、翻弄していくというものだ

 

相手に幻覚を見せて翻弄したり

相手に自分がいると思わせたり

 

自分自身を増やして、いわば分身を見せたりと

とにかく、相手を翻弄するのに特化しているのが特徴

 

「みんなやるわね、グッドファイトよ

 

 さあて、私もルーズしてられないわ!」

 

そんな一同の戦いを見て、歌野もがぜんやる気になり

びしっと武器である鞭をのばして構えて、目の前の怪物を見据える

 

恵の使う鞭は言うならば教鞭のような伸ばして転回するタイプではなく

一般的に良く知られているひも状の鞭であり、一番なじみのある形だ

 

「さあ、アタック!」

 

そう言って歌野は勢いよく、鞭をふるって行く

その鞭はまるで目にも止まらないという言葉が似あうほどに素早いものだ

 

さらによく見てみると、鞭の攻撃を

当てている部分には、何やら光っているものが見える

 

「やああああ!!!」

 

それによって放たれた鞭の攻撃は

何と瞬く間に怪物の大群を切り裂き続けていった

 

「鞭による攻撃が、まさかここまで…」

 

「なるほど、日属性を鞭に付与しているのね」

 

若葉と容子が、歌野の戦い方を見ている

 

山羊座の勇者 白鳥 歌野

 

彼女の属性は、日属性

 

日とは太陽、世界にひるまをもたらしている光を生み出している

 

ゆえに日属性は、光の力を主に使うことが出来る

光そのものに攻撃力はないが、それを武器あるいは自身に

付与させることでその真の力を発揮させることが出来る

 

歌野のように鞭に日属性を付与させることで

攻撃の威力を上げ、相手に確実にダメージを与えることが出来る

 

「フフフフ…

 

 新鮮な野菜を育てるには

 良質な土と豊富な水、そして…

 

 暖かい日差しなのよ!」

 

そう言って決めポーズを決めた歌野

 

「フン…

 

 なんだかんだ

 うまくやっているみたいね…

 

 でもね、それだったらこっちも

 負けてなんていられないってのよ!」

 

そう言って宇津美は手に持っている

斧を上げ、それを大きく振りかざしていった

 

「うおおお!!!」

 

宇津美が斧を高く掲げると

その彼女に向かって天から光が照らす様に差し込み

さらには、その彼女の周りを風が吹きあがっていく

 

ケフェウス座の勇者 王野 宇津美

 

その属性は天属性

 

天とは神や仏のような神聖なるものが住まう場所とされている

ゆえに天属性を持つ者は特に神の加護を受けているとされている

 

天属性は言うならば天候、雨や嵐などの

古来から神の御業とされていた力を扱うことが出来る

 

勇者が使うそれは、本来の天候には遠く及ばないが

それでも戦闘においてはとてもたのもしいくらいの力になる

 

「はあああ!!!」

 

宇津美は斧に竜巻を思わせる風を纏わせ

それを敵である怪物に向かって勢いよくふるって行く

 

見事、剣でたたきつけられた怪物は

そのまま、体が吹き飛ぶほどの暴風によって散り散りにされ

 

跡形もなく吹っ飛ばされて行ってしまうのだった

 

「おお…」

 

「すごい…」

 

その力を間近で見た若葉と容子は

素直にその一撃を見て驚愕と感服の声を上げる

 

「ま、このくらいは勇者として当然よ」

 

そう言って武器の斧を肩に背負うように置いていう

 

みると、怪物はすでに一体もいなくなっていた

 

するとそこに

 

「ほっほっほっほっ‥‥

 

 どうやら皆さん、これまでの鍛錬や

 戦いの成果が出てきているようですな」

 

「冬三翁!」

 

冬三が一同のもとに合流する

 

「冬三さん、無事でよかったです」

 

「なあに、このようなご老体でも

 皆さんの足を引っ張るようなことはしませんよ‥‥

 

 さて、どうやら湧き出した穢れはあらかた片付いたようですな」

 

そう言ってあたりを見回していく冬三

彼の言う通り、湧き出していた怪物は見当たらない

 

「ようし…

 

 とりあえずこの場に居る

 怪物たちはあらかた倒しきったようだ…

 

 だが、ここは穢れの中で

 怪物は実質、無限に湧いて出てくる

 

 敵の勢いがないうちに、穢れの核に向かおう」

 

「イエス!

 

 あんな怪物が外に漏れだして

 被害が出るようになったら、それこそ大変だものね」

 

「私もそれに賛成…

 

 進めるだけ進んだ方がいいわ」

 

若葉の言葉に歌野と容子も賛成する言葉を言う

他の面々も、口には出さないが特に反論はないようだ

 

「そうですな‥‥

 

 ですがここは少し休んで

 ある程度力が回復しだい、向かいましょう」

 

「待ってください、冬三さん!

 

 あんまりのんびりしていると

 すぐにまたさっきの怪物が現れるかも…」

 

「宇津美嬢‥‥

 

 無理して行ったところで

 無駄に命を散らすだけです

 

 それに、穢れの発生は

 このあたりの穢れの濃度が濃くなって

 有り余るようになるのだからこそ引き起こされるもの‥‥

 

 皆さんのご奮闘のおかげで穢れの群れは倒され

 この通り、今はこの配置型の穢れの形を維持する

 必要最低限の穢れしかありませんよ、それに万が一‥‥

 

 再び、穢れに襲われてようものならば、その時は‥‥

 

 

 冬組組長たるこの私が直々に穢れを切り伏せて御覧に入れますよ」

 

そういう冬三つの言葉は優し気ながらも

どこか威厳にある発言に聞こえ、圧迫感を覚えていく一同

 

冬三に意見した宇津美もそれを聞いて

納得したのか、それとも畏怖したのか

 

大人しく引き下がっていくのであった

 

「‥そうだな、確かに穢れの討伐は

 大切なことだが、それと同じくらい

 

 ここにいる全員が生き残ることも大事だ…

 

 各自警戒しつつ休息をとっていこう…」

 

若葉がそう言って一同に声をかけていく

やがて、それぞれが仲のいいグループに分かれていく

 

しかし、グループとは言っても

 

「……」

 

「…ふん…」

 

「…あ、あわわわ‥」

 

千景、宇津美、恵は単独だった

 

千景はどこか、他の面々と距離を取るように

宇津美は一同をどこかうっとおしそうに見回し

恵は他の誰かのところに来たいが勇気が出ないといった感じである

 

そんな中

 

「お疲れ様、若葉」

 

「うまくまとめられているわね

 

 さっすが私たちのリーダーね」

 

「いいや、まだまだだ

 

 冬三翁にサポートされたようなものだ

 はっきり言って今のままではいけないだろう…」

 

そう言って若葉はゆっくりと立ち上がって

刀をスッと腰に差して辺りを見据えていく

 

「私は必ず…

 

 穢れと言う存在に報いを受けさせる

 何事にも報いを、私の家の家訓に恥じぬよう

 

 もっと力と能力を高めなくてはならない…

 

 そのためにももっと精進しなくては…」

 

若葉はそう言って改めて決意を秘める

その様子を変わらないわねと見つめる歌野と

若葉らしいわねと笑みを浮かべる容子

 

その様子をなぜかかっこいいと見とれている恵

やる気はあるみたいねとまあいいやと言うような様子の宇津美

 

千景は特に何も思わず、ただ武器である大鎌の柄を抱えているのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   




剣が生まれる場所へ・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炉座の異変 For それぞれの心境

激突…‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

穢れの内部において

ある程度進んできたので

休憩の方を挟んでいた一行

 

「‥ようし…

 

 ある程度休憩は挟めたな…

 

 それでは、引き続き最深部を目指していこう…」

 

若葉がそう言うと、一同もそれに合わせ

ゆっくりと降ろしていた腰を上げていった

 

「ほっほっほっほっ‥‥

 

 若葉嬢、張りきるのは構いませんが

 焦りは禁物ですよ、なにぶん道のりは遠いですからな…」

 

「そうよ若葉…

 

 リーダーとして私たちの命を

 預かっているって責任は大きいけれども…

 

 私たちに頼ってくれてもいいんだからね」

 

冬三と容子が若葉に諫めるように言う

 

「ありがとう…

 

 でも、私もできるなら

 進めるだけ進めておきたいんだ…

 

 余りのんびりしていると

 それこそ、この穢れが世界に及んでしまい

 そこに暮らしていく人々の命が脅かされてしまう…

 

 だから、少しでも多く、出来るだけ早く穢れを討伐しておきたいんだ…」

 

若葉はそう言って自分の武器である刀を改めて腰に差しなおしていく

 

「若葉さん‥

 

 うん、私もがんばります!」

 

「確かにあんたの言うとおりね…

 

 まあ、どのみちリーダーはあんたなんだし

 あんたの意見にどうこう言うつもりはないわよ」

 

恵と宇津美も同意するようにゆっくりと腰を上げる

 

「……」

 

一方の千景は何か思うところがありそうだが

若葉の言葉も理解できるので、おとなしく言う通りにする

 

「其れではいきましょう‥‥

 

 穢れの最深部の方は

 もうそう遠くはありません‥‥

 

 ここから戦いの方はより一層

 厳しいものになります、お気を付けください」

 

冬三はそう言っては自分の手に持っている杖を

地面について、一同に呼びかけるように言うのだった

 

リーダーである若葉を先頭に

五人の勇者達が後に続いて歩いていく

 

「さあて、ここからがメインイベントね…」

 

「ええ、ちょっと緊張してきます‥」

 

そう言っている勇者たちの顔には

どこか緊張のようなものが走っている

 

前に進んでいる若葉の方も、不思議と

自分の足取りが重くなってきているのを感じていた

 

「‥感じる、この先にこの穢れの本体…核がある‥…」

 

「ええ、それではみなさん…

 

 心の準備を決めておいてください

 

 それでは、参りますよ!」

 

冬三がそう言って先陣を切っていき

その次に若葉、他の勇者達も先に進んで行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そこは今の今まで通ってきたところの

どこよりも激しく穢れがプロミネンスのように舞い踊り

 

その中心に何やら、宝石のようなものが目に見えた

 

「みなさん、あの中央にあるあれが核です!」

 

「オーケー、あれさえどうにかできれば

 この穢れをどうにかできるのね、了解ですグランパ」

 

「ああ、ようやくここまで来た

 

 私たちの全てをぶつけても

 この穢れを抑え込んで見せるぞ!

 

 行くぞ皆!!」

 

「「「「おう!」」」」

 

若葉の言葉に全員が一斉に核の方へと向かって行く

 

すると、周りで舞い上がっている

プロミネンスがまたも怪物に代わっていき

 

一同に再び襲い掛かっていく

 

「く…

 

 さすがに向こうも本気ってことね…」

 

「でも、ノープロブレム!

 

 数こそは多いけれども

 さっきまで戦っていた奴らと変わらないわ!!」

 

「そうね、だったら私たちでこいつらのせん滅に専念しましょう

 

 誰か一人でも核を倒すことが出来れば、それで十分よ!」

 

「ああ!」

 

宇津美の提案に若葉も賛同

向かって行く敵の大群を次々と打ち伏せていく一同

 

「勇者の皆さん!

 

 ここは私がお引き受けします

 皆さんは先に進んで核のほうを!!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

冬三がそう言って先に怪物たちの方を引き受けていく

 

勇者たち一同はその姿に頼もしさを覚え

とにもかくにも敵の本体である核の方を目指していく

 

だが、それでも多くの怪物たちは迫りこんでいく

 

「みなさん、ここは私が引き受けます!」

 

そう言って、前に出たのは

棒状の鞭を武器に振るう恵

 

「何言ってんのよ!

 

 一番弱いアンタが

 こいつら一人を相手になんて…」

 

「確かに私は弱いし

 弱虫でへっぴり腰です‥

 

 でも、それでも私は勇者なんです!

 

 こんなこともできないんじゃ、それこそ

 ここまで皆さんと戦ってきた意味がなくなっちゃうよ!!」

 

そう言って一同の殿を志願する恵

 

「でも…」

 

「‥行けるんだな…」

 

宇津美がそれでも思いなおそうとするが

若葉が恵に対して、ただ短い質問をしていく

 

それに対して恵はただ、こう答えた

 

「いけるかどうかじゃありません‥

 

 行きます!」

 

恵は力強い声とともにそう断言して見せた

 

「‥お前の覚悟、鹿と聞き届けた!

 

 ただし絶対に無茶はするなよ、生きてこそだ

 必ず私たちが穢れの本体である核を倒す、だから…

 

 それまで絶対に死なないでくれ!」

 

若葉の力強くも気遣った言葉に恵も頷いて応える

 

「行こうみんな、彼女の思いを無駄にしないためにも…

 

 絶対にこの穢れの本体を目指すぞ!」

 

「でも、あいつは…」

 

「大丈夫よ宇津美さん…

 

 あの子は行くんだって言ったの

 だったらあの子のその意志を、力を信じて

 

 私たちは先の方を目指しましょう」

 

「そうね、それに急いで核を倒しきれば

 それこそノープロブレムよ、だから急ぎましょう!」

 

「…まったく…しょうがないわね」

 

宇津美は内心は納得できないながらも

一同の意志を尊重して急ぎ先の方へと向かって行く

 

「行きましょう、ぜったいに穢れを倒しきるわよ!」

 

千景のその言葉とともに、一同は急ぎ奥の方へと向かって行く

 

「ううう…ああは言ったけれど

 いざってなるとちょっと緊張するな‥」

 

そう言って自身の目の前にいる怪物の群れに

少し気持ちが揺らぎ始めていってしまう、しかし

 

「ううん‥

 

 決めたんだもの‥

 

 もう弱虫でへっぴり腰なだけの

 私とは、終わりにするんだって‥

 

 そのためにもこのくらい乗り越えて見せる‥

 

 だって、私は…勇者なんだから!」

 

そう言って武器である棒状の鞭をのばし

其れで空を切って敵の群れを見据えていく

 

「はあああ!!」

 

恵はそう言ってまずは目の前から

いきなり自分にとびかかってきた怪物に鞭をふるう

 

まずはその怪物を見事に真っ二つにして見せる

 

だが、そんな恵に向かって

別の怪物が自身の尾を突き出して

攻撃の方を仕掛けていく、すると

 

「っ!?」

 

その攻撃を受けて

自分の腹部を貫かれてしまった恵だったが

 

貫いたはずの恵の姿は

まるで書き消されて行くかのようになくなっていく

 

「はあああ!!」

 

恵が鞭をふるい

怪物の頭部を勢いよく貫く

 

どうにか、戦いの方にも慣れてきたが

 

「うーん‥

 

 これはさすがに多すぎるかもね‥

 

 でも、数を少しでも減らして

 若葉さん達への負担を少しでも減らさないと!

 

 そのためにも、もっと頑張るんだ!!」

 

そう言って武器である鞭が

真っ黒なオーラを纏って行く

 

恵はその鞭をふるい

怪物たちに向かって行く

 

怪物たちはその攻撃を受けると

何やら力が抜けていくようにふらふらとしていく

 

「月属性には、こういう使い方もあるんだよ!」

 

そう言って鞭を横にやると

その柄が大きく闇色に染まっては伸びていき

 

恵の身の丈を完全に超えるようなくらいにまで伸びると

 

「やあああ!!」

 

恵はそれを、怪物の群れにふるって行く

 

星の力は性別と生まれたときによって

その力の生き方に特化していくようになる

 

男性は力を放出、女性は力を吸収

 

生まれながらの性別に

さらに生まれたときに授けられる恩恵によって

 

星の力の行き方が決まる

 

恵の場合は顕微鏡座であるため

女性型星座の女性であるために

 

力を取り込むことに本当に特化している

 

「やあああ!!」

 

放出には向いていない反面

ふるう際に威力を変えずにその力をふるうことが出来るのだ

 

「まだまだ‥

 

 ここからです!」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

恵の決意をむげにしないためにも

急ぎ敵の核の方へと向かって行く若葉たち

 

だが、それでも多くの敵が次々と迫ってきている

 

すると

 

「やああああ!!!」

 

容子が後ろから向かって行く穢れにたいして

武器であるレイピアを突き出して、怪物たちを攻撃する

 

「容子!」

 

「みんな、ここからは私に任せて!

 

 こいつらの足止めくらいなら私もできるわ!!」

 

容子はそう言って足止めをかって出ていく

 

「‥容子…わかった‥…

 

 くれぐれも気を付けてくれ…」

 

「若葉もね…

 

 それじゃあ、急いで!」

 

若葉は容子の言葉に笑みを浮かべ

他の面々も若葉の彼女への信頼を感じ取り

 

特に何も言わずに向かって行く

 

「さあて…

 

 来なさいよ化け物!

 

 勇者の力‥‥見せてあげる!!」

 

そう言ってレイピアを突き出し

その切っ先をしっかりと怪物の方へと向けていく

 

すると、その剣をヒュンヒュンと振るい

その音で相手を惑わしていくように勢いを増していく

 

「はああああ!!!」

 

そして、勢いよくレイピアをつきだすと

その刀身からまるで弾丸のような突撃が放たれ

 

それが目の前の怪物や、その後ろにいる怪物を何体か貫いた

 

一角獣座は男性型星座、其れゆえに

力を放出させるのに向いている、しかし

容子は女性であるので、吸収の適性

 

其れゆえに放出にも吸収にも残念ながら特化していないが

代わりに相手の力を吸収して相手に攻撃を放っていくという

 

言うならば、汎用型である

 

「ようし…

 

 この調子だったら…

 

 あんまり時間はかからないかな?」

 

そう言って恵は余裕を見せるが

それに対して怪物どもはそれをあざ笑うかのように集まっていく

 

「さあて…まだまだ行くよ!」

 

そう言って容子は武器であるレイピアで空を切って構えなおす

 

「やああああ!!!」

 

容子は自分の剣に月属性の闇を纏わせ

それで、レイピアの攻撃を上げていく

 

汎用型である彼女ならば

放出も吸収も使える、さらに

 

「やああああ!!!」

 

つきだしたその一撃を敵に向かって放っていく

すると、その一撃はあり得ないように曲がっていき

 

其れであたりにもいる怪物にも攻撃をしかけていく

 

これは星の力の性質のおかげである

 

彼女の星座である一角獣座は

柔軟性星座であるために型にとらわれぬ攻撃ができる

 

その力をふるうことで、剣による突きを

自由自在に振るうことで、相手の不意を突いていく

 

「はああああ!!!」

 

容子は自分の技量に持てるだけの力

すべてを出し切っていき、そのうえで自らに課せた役目を果たして行く

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

のこる勇者達も向かって行く敵の数に

臆することなくどんどんと敵のもとに向かって行く

 

そして、見事に目的の場所にまでたどりついた

 

そこにあったのは燃え盛る火山の火口の中で

燃え滾っているような、燃え盛る一本の剣

 

「あれが‥この穢れの核か…

 

 ここもさすがに炎が舞い踊っているな…」

 

「そうね、でも!

 

 せっかくここまで来たんだから

 一気にハリーアップよ、ここにいない

 子達のためにも私たちがしっかり頑張らないと…」

 

「っ!

 

 皆、見て!!」

 

宇津美がそう言うと

その核へと若葉たちを進ませないようにと

再び炎が怪物の姿になって、一同の前に立ちふさがる

 

「ぐ…

 

 あともう少しだというのに…」

 

表情を歪めていく若葉

 

すると

 

「オーケー、ようやくここから私の出番の様ね…」

 

そう言って武器である鞭をビシッっと張り

自分達に襲い掛かろうとしていく怪物を見据える歌野

 

「歌野…」

 

「若葉、こいつらは私に任せて頂戴…

 

 せっかくここまで来たんだから

 絶対に最後までやり遂げて見せるわよ!」

 

そう言って前に出る歌野

 

すると、もう一人前に出るものが

 

「ちょっと、なに一人で

 格好つけていこうとしてるのよ」

 

「宇津美…?」

 

そう言って武器であるハルバードをふるい

歌野の横に並んでいく宇津美、彼女も前に出る

 

「王野さん…

 

 貴方…」

 

「フン、正直に言うと

 貴方のような人にこの先を

 任せていくのは不安だけれども…

 

 ほかに頼れる人がいないのも事実だしね…

 

 仮にも二等級勇者なら、しっかりやってみなさいよ郡」

 

宇津美の言葉には千景のことはよく思っていないながらも

それを決して戦いの場に持ち込まないようと言う真剣さも感じられる

 

「ふ…

 

 言われるまでもないわ…

 

 そう言うあなたこそ

 自分がやるって決めたこと…

 

 しっかりやって見せなさいよね」

 

「フン…」

 

千景もやや突き放す様に言い方だが

そこには絶対に死ぬなと言う思いが感じられる

 

「ハリーよ若葉!

 

 リーダーとして決めるところ

 しっかり決めていきなさいよ」

 

「郡!

 

 あんたも勇者として

 しっかり為すべきことやんなさい!!」

 

そう言って二人は敵の群れを引き受けていく

 

「ああ、行こう郡!」

 

「ええ…」

 

若葉と千景はその場を歌野と宇津美に任せていき

 

「カモン!」

 

「はあああ!!!」

 

二人は手に持った武器をふるって

怪物の群れへと向かって行く、すると

 

怪物の一体が歌野に襲い掛かっていく

 

「バリアー!」

 

歌野が鞭をふるって

それを自分の周りに回らせていき

 

それを使って敵の攻撃を防いでみせる

 

「ふふん、私のガード…

 

 甘く見ちゃったらノーよ!」

 

歌野の守りが固いのもまた

勇者の力の源である星の力の影響

 

性別と性質にもう一つ加わているのは属性である

 

ただし、属性とはいっても月や日といった

能力の属性ではなきう星の力の属性そのものである

 

歌野の属性は土

 

土はそう簡単に動かざるように

守りに特化しているとされている

 

ゆえにその属性を持つ歌野も

それによる防御力はもちろん

それを生かした特攻なども、扱うこともできる

 

性質は活動であるために、力を進めていくのにたけ

性別の方も生粋の女性型であるために、吸収に特化している

 

「やああああ!!!」

 

歌野はそのすべてを合わせ

武器である鞭をふるい、攻撃をしかけていく

 

怪物たちを鞭を使って

次々となぎ払う様に倒していく歌野

 

「イエーイ!

 

 この調子だったらまだまだゴーできるわ

 

 さあて、若葉と郡さんがしっかりと

 やってきてくれるようにしっかりとやっていくわよ…

 

 そのためにももっと頑張らないとね、ファイトー!」

 

そう言って再び敵の大群へと攻撃を続けていく

 

「白鳥の奴、相も変わらず

 ハイテンションなんだから…

 

 まあ、やる気がないよりは

 ある方がもちろん、断然いいんだけれどね」

 

そう言って武器である斧をふるって構える

 

怪物たちの特攻も意にかえすことなく

高くに飛び上がっていき、そこから戦斧をふるって行く

 

それも小型とはいえそれなりに大きさのある斧を

振るいながらとは思えぬほどの速さで切り抜けていく

 

それは、彼女の属性もまた関係している

 

彼女の属性は風、素早く吹き抜けるように

素早い動きに特化しているものである、さらに

 

性質は不動型で、力を固定するのに長け

性別は男性型であるがゆえに、吸収と放出

その両方を扱うことが出来る汎用がたである

 

不動型のおかげで力をぶらすことなく振るえ

更にその力を相手から常に吸収し放出することで威力も変えられる

 

「やあああ!!!」

 

そのすべてをもって、敵の大群に

己の全てをかける勢いで向かって行く宇津美

 

怪物を次々に撃破していくのだった

 

「お前たちに後れを取るほど…

 

 私はまだ、衰えちゃいない!」

 

そう言って戦斧を回転させていき

自分の周りに嵐を起こしていくことで

辺りにいる怪物たちの殆どを一網打尽にしていくのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、残る二人

若葉と千景はようやく

 

敵の大元である、格の前までたどり着いた

 

「ようやくここまで来たぞ…

 

 絶対に打ち取って見せる!」

 

「っ!

 

 待って!!」

 

向かおうとする若葉を

千景は異変に気が付いて制止させる

 

すると、目のまえで炎の中に

くべられている剣の周りから

 

八体の怪物たちが一気に貌を見せる

 

しかし、それは今までの敵のように

怪物自身が自立して動き出しているというより

 

まるで穴の中から八つの頭を持つ

怪物が顔を見せて二人をにらみつけているようにも見える

 

「なるほど…

 

 あれがこの穢れの

 本来の姿、と言ったところか…

 

 郡‥行けるか…?」

 

「私のことよりも自分のことを心配しなさい…

 

 それとも、敵の数が圧倒的なところを

 気にしているというのなら問題はないわよ…

 

 だって私の数は一から七までだから!」

 

そう言って武器である大鎌をふるい

其れで空を切ると同時に、千景が七人になる

 

「…これで、数は互角よ!

 

 速くいきなさい、私たちに

 託したみんなのためにもね…」

 

「郡…」

 

千景はそこまで言うと

七人全員がそれぞれの怪物の首に向かって行く

 

千景の属性は宇津美と同じ風、素早さに特化している

性質も同じく不動で性別も男性、星座と属性が違うだけである

 

「分かった!

 

 すまない、いや

 あるがとう、郡!!」

 

若葉も千景のフォローに感謝しつつ

のこっている怪物の方へと急いで向かって行く

 

「行くぞ…

 

 あの時、助けることが出来なかった者達よ

 その無念、私にも理解はできる、だからこそ…

 

 その無念を力に変えて、私に貸してくれ!」

 

そう言って武器である刀を構えると

その刀に真っ黒で邪気たオーラがまとわれて行き

 

若葉はその力を纏い、敵の大元へと向かって行く

 

「はああ!!!」

 

だが、そうはさせぬと若葉に向かって

八つのうち、千景が対処しきれなかった一つが

 

若葉を葬り去らんと、彼女に齧りつかんとしていく

 

だが

 

「はああ!!!」

 

若葉はそれを素早い動きでかわし

さらには怪物の首にまで移動していき

 

その首を居合による一太刀で切り落として見せる

 

他の首は千景とその分身によって阻まれて向かえない

 

若葉はこれを好機と受け取り

核の方へと向かって行き、対峙する

 

「‥穢れよ…

 

 意思もなく信念もなく

 ただうごめくだけのお前には理解できないだろう…

 

 お前たちによって奪われた私たちの日常

 さらにはお前は、あのときにできた私の大切なものを

 容赦なく奪って行った、その報いをここで受けさせてやる!」

 

そう言って武器である刀を地面に突き刺す

すると、若葉のその体を真っ黒いオーラが包み込まんとしていく

 

「‥すまない…

 

 本来ならばお前たちの命を

 このようなことに使うなど…

 

 決して赦されることではないだろう…

 

 私の無力を許してくれ、そして約束する…

 

 私が必ず、その無念を晴らして見せると!」

 

そう言うと若葉の背中に真っ黒なオーラ

其れで生成された翼が広げられ、若葉は大きく飛び上がっていく

 

若葉の属性も千景と宇津美と同様に速さに特化した風

性質は変幻自在な柔軟型、性別は男性型で放出と吸収を一度にできる汎用型

 

若葉は素早い動きに自分の属性である冥の力を

自身の強化に使って、さらに先ほど切った怪物の力を吸収していき

 

「はああ…」

 

その力を自身の武器である刀に纏わせていく

 

「今ここに、報いを受けさせてやる!

 

 これが私の、私にすべてを託してくれた者達の力だ!!」

 

若葉はそう言って核を勢いよく核へと振るっていく

核はその一撃を受けながらもその頑丈さで耐え抜いている

 

「うおお!!!

 

 もっとだ‥もっとだ…

 

 もっと力を込めて、もっと鋭い一撃に!」

 

若葉は自分に言い聞かせるように口にしていく

 

すると

 

「はあああ!!!」

 

若葉のあらゆる方向から跳び出してきた人物たち

それは、若葉の冥属性の力の前に呼び出された怨念

 

言うならば、若葉の決意に導かれた思いの結晶である

 

「うおお!!!」

 

若葉はそれを見て、自分とともに戦ってくれたもの達

 

恵、容子、歌野、宇津美に千景

 

そして自分達にすべてを託してくれた冬三

その思いも感じながら、目のまえの敵を見やっていく

 

「穢れよ…

 

 私たちの思いを受けるがいい!!!」

 

双言って刀を中心にある剣のようなもの

この穢れの核を勢いよく切り付けていく

 

最初のうちはなかなかきれなかったそれが

段々と、食いこんでいくのを感じている

 

「まだだ!

 

 まだこんなものではない…

 

 私は必ず、すべての戦いに

 決着をつけて見せるんだ!!」

 

そう言う若葉の脳裏に浮かぶのは

穢れに襲われて亡くなってしまったクラスメイト

 

最初のころは少し周りから距離を取られて

親しい友人はいなかった若葉であるのだが

 

幼なじみであるひなたの仲介もあって

その日、初めてクラスメイトと親しい会話をしたものだった

 

しかし、その日にすべては奪われてしまった

 

そう、奪われてしまったのだ

穢れに、人々の悪意から生まれた怪物に

 

「うあああああ!!!!!」

 

若葉はその思いとともに刀を振るい

見事、穢れの核を切り裂いて見せたのだった

 

すると

 

核の周りにいた怪物たちのうち

若葉が斬った怪物以外の怪物の様子がおかしくなる

 

千景も奮闘の末に、七つの怪物のうち

三体の怪物を倒しきることに成功するが

 

残る四つの怪物の前に思わぬ苦戦を強いられ

分身の数も徐々に減っていたところだったのだ

 

そろそろまずいかもと千景が感じていたそこで

怪物たちの様子がおかしくなっていき、やがて

 

 

その場に伏せるようにして地面に落ち込んでいくのであった

 

「っ!?

 

 これって…」

 

その様子を見て、いったい何事なのかと考えるが

すぐにその答えにはいきついた、そしてそれは彼女だけではない

 

「あ!」

 

「消えた…」

 

「ワオ!」

 

「これって、ひょっとして…」

 

怪物を引き付けるために其の場に残って

足止めをかって出てくれた勇者達もまた

 

怪物が沈黙していくのを見て、何が起こったのかを察した

 

「ふう‥‥

 

 どうやら、何とかなったようですな‥‥」

 

冬三の方も辺りの様子を見て、原因を察す

 

こうして、秋組と冬組の合同作戦は無事に成功するのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ふう、穢れの侵攻は無事に抑えられたようで何よりです‥‥

 

 皆さん、お疲れさまでした」

 

冬三がそう言って作戦より戻ってきた一同をねぎらう

 

「これで‥穢れの今日から人々は解放されたのでしょうか…」

 

「残念ですが、穢れそのものは人々の心の中に

 無尽蔵に発生していきます、その発生の原因も

 悔しいですが、私たちの方も把握しきれていないのです‥‥

 

 ですがそれでも、皆さんの活躍のおかげで

 かの世界に住まう者達は確かに救われたのです‥‥

 

 それを、お忘れなきよう」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

こうして、解散となり

冬三は先に部屋を出ていき

 

その際に今回のリーダーであった若葉に

後で報告に来るようにとしっかりと声をかけた

 

「ふう…」

 

「お疲れ様、若葉」

 

目元を指で押さえながら

一息つく若葉に、容子は優しく声をかけてやる

 

「いや、まだ休むわけにはいかない…

 

 しっかりと報告をまとめておかないとならないからな…」

 

「そんなの今すぐじゃなくてもいいじゃない

 

 あんまり煮詰めたら体に毒だよ?」

 

「いいや、出来るうちにやっておきたい…

 

 それに、私は今回の戦いにおいて

 改めてリーダーとしての責任の重さを理解した…

 

 今後より一層に引き締めないとならない

 それに、頑張ったのは私だけじゃないさ…」

 

そう言って、その場に残っている

秋組の勇者たちの方も見回す様にいう

 

「秋組のみんな!」

 

若葉はゆっくりと立ち上がりながら

秋組の勇者達に向かって声をかけていく

 

「今回の作戦…

 

 皆の力があったおかげで

 こうして、無事に誰も傷つくことなく

 何より誰も欠けることなく戻ってこれた

 

 改めてお礼を言わせてほしい‥ありがとう」

 

若葉が笑顔を浮かべて言う

少しぎこちないがそれでも精一杯の気持ちだ

 

すると

 

「こちらこそありがとうございます

 

 私も、若葉さんみたいに強くなって

 多くの世界やそこに住まう人たちのことも守れるように頑張ります」

 

「いつでもウェルカムよ若葉

 

 困ったことがあったらいつでも頼って頂戴」

 

恵と、元々親しい仲であった歌野の二人は嬉しそうに告げる

 

「あなたの覚悟はしっかりと感じたわ

 リーダーとしてはちょっと未熟な部分もあるけれどね…

 

 だからもしもまた、一緒に戦う事があったら

 その時は改めてよろしくお願いするわね、乃木さん」

 

宇津美はそう言って、若葉に握手を求める

若葉はそれを見て握り返し、固い約束を交わす

 

「…それじゃあ、私はこれで…

 

 さすがに今日はいろいろあって疲れちゃったから…」

 

千景はそう言って、一人さっさと後にせんとする

 

「ちょっと、郡!

 

 何か言ったらどうなのよ」

 

「…あくまで当然のことをしただけよ…

 

 私もあなたも、それに乃木さんもね…」

 

宇津美の言葉に対してもはっきりとしたように言う

 

すると

 

「…言葉にするだけだったら誰にでもできるわ

 

 その言葉がもしも本心からくるものじゃなく

 しっかりと行動で示して見せなさい、乃木さん…」

 

若葉にそう言って部屋を後にしていく千景

 

「結局、郡さんは

 最後まで心を開いてはくれなかったわね…」

 

「‥ううん、そんなことは無いさ…

 

 郡も郡なりに私のことを認めてくれたんだ…

 

 そうでないと、あんなことは言わないさ…

 

 ようし‥そうと決まったら私も私にできる限りで

 己を磨かないとならないな、絶対に穢れに己が犯した行い…

 

 その報いを受けさせてやるさ…」

 

そう言って自分の武器を取り出して、決意を新たにする若葉であった

 

「フフフフ、やっぱりそういうところが若葉らしいよね」

 

「ほんと、若葉って本当にメンタルがストロングなんだから」

 

それを聞いて、若葉のことを知る容子と歌野は笑みを浮かべていくのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

一方、一人さっさと出ていった千景

 

そんな彼女のもとに

 

「待ちなさいよ、郡!」

 

宇津美が走って追いかけていった

 

「…何?」

 

「なにじゃないわよ!

 

 いくら何でもあんなそっけない態度

 私達のために頑張ってくれた乃木さんに失礼じゃない!!」

 

宇津美はそう言って千景に詰め寄っていく

 

「…さっきも言ったじゃない…

 

 勇者は穢れを倒して、その脅威から世界を守る

 それは当然のことだって、そのことに対してなにも言う必要はないわ」

 

「でも、だからこそ私たちは力を合わせていかないといけないのよ!

 

 貴方の様に、誰ともかかわろうと

 しない上に、そんな突き放す様なこと言って…

 

 それがもしも今後のことに関わったらどうするつもりなのよ!」

 

宇津美は言い聞かせるように怒鳴りつける

 

「…私が誰と付き合おうと貴方に関係ない

 貴方には貴方、私には私のやり方がある…

 

 別にあなたにそれを押し付けるつもりはない

 だからあなたもそんなに頭ごなしに自分の考えを押し付けないで…

 

 はっきり言って迷惑なのよ…」

 

そう言ってふたたび歩み始めていく

 

「やっぱりあんたは…あの時と何にも変わってない…」

 

宇津美は顔を俯けてつぶやく

 

「アンタのその身勝手さのせいで…

 

 私達があの時、命の危機に

 陥ったのがどうしてわからないのよ!」

 

叫ぶようにして

歩き去っていく千景に罵声を浴びせる宇津美

 

その目からは涙を浮かべており

其の場に蹲るように、嗚咽を漏らす

 

そんな彼女にハンカチを伸ばしてやるものがいた

 

その人物は

 

「今日、任務から戻ってきたんだね…

 

 お疲れ様…」

 

「秋四さん…」

 

秋の大四辺形の英雄

 

秋組の組長

 

西虎 秋四

 

 

彼女であった

 

「秋四さん…どうして…

 

 どうして、あいつは…」

 

やがて泣き出していく宇津美に

優しくそっと抱きしめてやる秋四

 

「ちーちゃんを嫌いにならないで上げて…

 

 あの子はただ…誰よりも勇者であることに

 一生懸命なだけなの、それだけは分かってあげて

 

 それに、うっちーの言ってることも間違ってない…

 

 うっち-がうっちーなりに周りのことを

 気にかけてくれていること、私もわかってるから…」

 

「うあああ!!!」

 

秋四がそこまで言うと、宇津美は泣き出し

そんな宇津美を秋四は優しく包み込んでやっていた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「……」

 

千景は一人、夜の街を歩いていた

よく見るとその周りには多くの人がにぎわっている

 

「おお、勇者様!」

 

「勇者様だ!」

 

その人々は千景の姿を見ると一目散に駆け寄っていく

 

千景はそんな姿を見て、自身の心が満たされているのを感じていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は少しずつ動き始めていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




それぞれが戦う意味…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猟犬座 第β話 悪魔の猟犬

異世界に広まる、悪魔のうわさ・・・・・・・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある世界の夜の道

 

そこにおいて一人の人物が急ぐように走っていた

 

その様子は急いで帰らないといけないという

認識はあっているが、門限に遅れそうであるとか

良心がそう言うのに厳しいといったそれとはまた違う

 

そう、それは

 

「‥‥はあ、はあ、はあ、はあ!

 

 た、助けてくれ助けてくれ!!」

 

なにかに追われているという恐怖であった

 

何かに追われているというのは誰もが感じる恐怖である

夜一人で歩いていると、人通りが少ないと、人は余計に恐怖を感じていく

 

特に今ここで追われている人物は、何かに追われているという予感が

当たっているのだからこそ、余計に恐ろしいのだと感じているのだ

 

さらに、彼を追っている存在の正体は

 

はっ、はっ、はっ、はっ‥‥

 

なにやら犬が息を吐いているような声が響いていた

それがだんだんと近くなっているのを感じていたので

 

息が荒く、さら時体力の消耗も大きく消耗していくのを感じていた

 

だが

 

「うあ!」

 

男性はやがて、体力の限界によって

其の場で足をもつれさせて転んでしまい

俯くようにその場で動けなくなってしまう

 

無理もない、ただでさえ体力の消耗や

身体の負担も考えずに走りこんでいたのだから

 

男性はどうにか立ち上がろうとするが

もう体はほとんど動かすことが出来ない

 

できるのはせいぜい、ゆっくりと

這いずっていくだけの体力しかない

 

それでも、どうにかして逃げていこうとする男性

 

しかし

 

ハッハッハッハッ‥‥

 

悪魔の声は少しずつ男性の鼓膜を揺らしていき

それによってさらに男性の恐怖心が大きく膨れ上がっていき

冷静な判断力と心の中にあった余裕や平常心を奪って行く

 

男性は助けて、とただただ祈るようにつぶやいていた

 

だが、そんな男性の願いを聞き入れてくれるものは、いない

 

いるのは

 

グルルルル‥‥

 

男性の命を奪う事しか考えぬ、悪魔のみであった

 

男性は自分にかかっていくそれが何なのかが

理解できなかった、いや、抜け落ちてしまったのだろう

 

それゆえに男性は後ろを振る向き

見た、見てしまったのだ、自分の命を奪わんとするその

 

グアアアア!!!!

 

「あ‥‥ああああ‥‥」

 

悪魔の姿を、それがこの男性が

その若い命を散らしていく最期の瞬間にみた

 

最後の景色であった

 

この世界においては悪魔のうわさがある

その悪魔に目を付けられたものは必ず残酷に殺されるという噂が

 

そこにはあった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その世界にある悪魔のうわさは

英雄達の耳にも届き、勇者達が集められる

 

そこにいたのは、五人の少女であった

 

「‥‥そういうわけで‥‥

 

 お前たちにはこれから向かう異世界において

 ささやかれている、悪魔の伝説について調べてきてもらいたい」

 

その少女達に話を進めていくのは

 

春の大曲線の槍使い

 

春組 組長

 

東龍 春三

 

 

英雄達を束ねる世人の組長の一人で

英雄達の実質上の指揮官を務めている男性だ

 

「それで、タマたちが呼ばれたってわけなのか?」

 

「悪魔の伝説ですか…

 

 でも、異世界と言うのは魔法とか超能力とか

 私達の元の世界においては空想だってされていた

 それだって存在するものですから、別に悪魔ぐらいがいても…」

 

そう言って質問をしていくのは一人の物静かな雰囲気の少女

伊予島 杏はそう言って、自分たちの管轄なのかと確認を取る

 

「もちろんその件に関してもしっかりと調べている

 

 調べたところによるとその異世界はお前たちが暮らしている

 この世界と何も変わらない世界だ、魔法も超能力もそう言う類の存在もいない‥‥」

 

「なるほど…

 

 それで私達が呼ばれたと…

 

 その認識で間違ってはいない?」

 

そう言って褐色肌の白銀の髪の少女が確認する

 

「その通りだ‥‥

 

 それでは、今回はお前たちに

 その異世界に向かっていきその場所について

 調査をしてきてもらいたい、別の世界から異形の者が

 流れ着いていってしまったのならば即座に確保して元の世界に離す‥‥

 

 穢れだったのならば、すぐに対処しろ」

 

「「「「「はい!!!!!」」」」」

 

この場に居る五人の少女達

 

烏座の勇者、土居 球子

 

三等級勇者

 

 

髪の毛座の勇者、伊予島 杏

 

四等級勇者

 

 

カメレオン座の勇者、古波蔵 棗

 

四等級勇者

 

 

帆座の勇者 尾崎 帆波

 

二等級勇者

 

 

そして

 

「春三さん、わたしたちの指揮を担当する

 一等級勇者がいないように見えるのですが…」

 

帆波がたまらずに聞いていく、すると

 

「ここにいますよ、帆波さん」

 

「わきゃあああああ!?」

 

突然目の前に現れたのは

修道女のような勇者服に身を包んだ一人の少女

 

南十字座の勇者 十文字 美南

 

一等級勇者

 

「美南さん!」

 

「お久しぶりです杏さん

 

 球子さんもお久し振り」

 

「むう、何だかタマはついでの様に扱われているぞ!

 

 タマだって前の時には本当に活躍したんだからな!!」

 

杏との扱いの差に憤慨の様子を見せていく球子

 

「遅かったな美南‥‥

 

 ところで、もう一人呼んでいた

 勇者の姿が見えないように思えるが?」

 

「ごめんなさい、準備に時間をかけてしまい

 連れ出していくのに手間どってしまって…‥あ、やっと来ましたね…」

 

勢い良く乱暴に扉が挙げられていくと

そこにやってきたのは、一人の少女であった

 

その見た目はまだ幼い雰囲気があるが

その目はどこか得物を狩ろうとしている動物を思わせる

 

猟犬座の勇者 犬山 令

 

三等級勇者

 

「相変わらず手間をかけさせてくれるな令‥‥」

 

「‥‥そんなこと言わないでよ

 こっちは昨日ばたばたしていたんだ‥

 

 多少の遅刻は勘弁してよ‥」

 

そう言って、申し訳なそうにしながらも

急いでいるせいかめんどくさそうにそう告げる

 

「おお、令じゃないか!

 

 春三にこってり絞られたとき以来だな」

 

「球子か‥

 

 久しぶりだけれども

 今日はちょっと構わないでくれる?

 

 悪いんだけどあんたに構っている気分じゃないのよ」

 

そう言って令は、球子に適当に会釈しながらそう返す

 

「さて、これで全員そろったな‥‥

 

 七誠の方も既に現地に到着している

 まずはそこに合流していくぞ、球子‥‥

 

 一応言っておくが、勝手に突っ走ったりするなよ?」

 

「う、うぐ…

 

 だ、大丈夫だ

 タマだって反省は覚えるんだ

 

 できる限りはしないように心がけるぞ」

 

春三にそう言われてバツの悪そうにする球子

 

「‥‥まあいい、それじゃあ

 そろそろ行こうか、全員そろったのなら

 

 俺様たちも個々でゆっくり説明を続けていく必要もあるまい‥‥

 

 向こうの世界に行ってから、向かう事にしよう‥‥

 

 それと、同行する英雄だが‥‥」

 

「え、七誠さんではないのですか?」

 

杏が春三の言葉を思わず遮って聞いていく

 

すると

 

「‥‥今回は二人で行く‥‥

 

 本来は七誠一人で行くつもりだったが‥‥

 

 ここは、俺様が行こう」

 

そう言って自分の机からゆっくりと立ち上がっていく春三

 

その言葉に、その場に集まっていた勇者達は全員が驚きの様子を見せていく

 

「春三さんが‥‥行くのですか!?」

 

「優生も他の英雄達も出払っている‥‥

 

 それだったら、俺様が行くしかないだろう

 

 心配には及ばない、俺様はこれでも、腕は立つ方なんでな‥‥」

 

そう言ってゆっくりと先に部屋を出ていく春三

その際について来いと声をかけると、勇者達はその後ろを歩いていく

 

「タマげたな、まさか春三が直々に行くなんて」

 

「英雄の方も人手不足なんだよ

 一等級勇者の方も、指揮を任せるにはまだ未熟だしな

 

 まあ、近いうちにそいつらも直接の指揮を任せるつもりらしいしな」

 

球子が驚きの様子を覚えながらそう言うと

令がそれに答えるようにして、言葉を告げるのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

町を歩いている二人の男女が話をしていた

 

「七誠さん…

 

 ここってどういったところですか?」

 

そう言って聞いてくる少女

 

「まあ、基本的には明ちゃんのいた日本と

 そんなに大して変わらないよ、ああでも

 パラレルワールドとも少し違うんだよ‥‥

 

 まあ、君やみんなのいる日本とは

 まったくの別物だって覚えていればいいよ」

 

そう言って、その世界に溶け込むために

普通の服装であたりの方を見回っていく七誠

 

「まあそのくらいならわかりますよ…

 

 ところで、他の勇者達が向かってくるのはいつでしょうか?」

 

「多分、今日ぐらいだと思うよ?

 

 待ち合わせ場所の方も聞いてるし

 特に慌てる必要もないしね、さて‥‥」

 

七誠はふと、建物にうつっている巨大なテレビを見る

そこに映っていたのは将棋のタイトル戦に関してのニュースだ

 

「そう言えばこの世界はいっつも

 将棋関連のニュースやってるよね‥‥

 

 流行ってるのかな?」

 

「まあ、私も気になりはしていますけど‥‥

 

 穢れに関してとは特に関係がないと思いますよ

 それよりも早く、合流していきましょうよ七誠さん」

 

明にせかされて、急ぎ待ち合わせ場所に向かって行く七誠

 

「(九頭竜 八一、か‥‥

 

  まあ、明の言う通り

  穢れには関係がないだろう)」

 

七誠はそう言ってテレビから目を離していく

 

彼がこの世界に先に来ているのは

情報を的確に収集するためである

 

どの世界において穢れが発生したのかは

英雄や勇者達とは別の役目を担っている者達の役目

 

しかし、どこにどんな穢れが現れているのかは

残念ながらわからないために、こうして率先して英雄たちが

直属の勇者とともに先鋒として最初に赴き、情報を収集する

 

今回出撃したのは、七誠であり

同行しているのは彼の直属の勇者

 

大熊座の勇者、二等級勇者

 

隈井 明

 

 

彼女であった

 

そしていよいよ、二人は情報収取を終えて

先程到着したという今回のチームと合流することになる

 

「そう言えば今回のチームって

 いったい誰誰が来るのかしら…

 

 そのあたりのことは詳しく聞いてないけれど…」

 

「うーん、そうだね‥‥

 

 一等級勇者に選ばれるのは

 美南ちゃんだと思うよ、他の子は

 ついこの間出撃し打たから、しばらく休暇をもらってるはずだし」

 

七誠はそう言って、残るの勇者たちの来る候補をあげていく

 

「うげ、球子の奴も来るかもしれないの?

 

 前の事もあるし、無茶苦茶不安なんだけれども…」

 

「そんなこと言わないの

 

 さて、そろそろ着くよ‥‥」

 

そう言って合流地点の方に到着する二人

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「うげ…

 

 まさか本当にいたなんてね…」

 

到着して無事に、一堂と合流した二人

明は球子の姿を確認して早々、ため息をついて頭を抱えた

 

「おい、明!

 

 いくら何でも人の顔を見て

 一番にそんな溜息をつくなんて

 

 いくら何でも失礼じゃないか!?」

 

「あんたね…

 

 過去の自分がやったこと思い浮かべてみなさいよ

 

 ぶっちゃけ、不安しかないわよ…」

 

「ま、まあまあ二人共

 

 今回から一緒の任務につくんですし

 お互いに協力し合って行きましょうよ」

 

にらみ合って行く球子と明に

そんな二人をなだめていく杏

 

「そうですよ、お二人とも

 戦いの方だってまだ始まってもいないんです

 

 それなのにいきなり嫌悪な雰囲気を作っては

 それこそ、周りの士気にも関わりますよ」

 

「うぐ…」

 

「ぬう…」

 

美南の言葉に球子と明は渋々と従って行く

 

「美南ちゃんはチームワークを

 大事にするのがうまいね、本当にすごいよ」

 

「ありがとうございます、七誠さん

 

 私もこれでもひび、精進しております故」

 

そう言って頭を下げる美南

 

「さあて‥‥

 

 それで来たのは‥‥

 

 球子ちゃんに杏ちゃん

 棗ちゃんに帆波ちゃん‥‥

 

 それから、令ちゃんも来てくれたんだね」

 

「ま、まあ‥‥任務だからね…」

 

七誠に話しかけられて、少し照れ臭そうに顔を背ける

 

「それにしても…まさか、春三まで来るなんてね‥‥」

 

「うん‥‥

 

 俺様個人としてもこの異世界に

 少し気になるところがあったのでな‥‥

 

 それで、成果の方は?」

 

春三がそう言って、調査結果を求めていく

 

「うん、どうやら当たりの様だ‥‥

 

 かなり活動する頻度が少ないから

 情報を得るのにかなり手間どってしまったけれども

 

 どうやら、今回の穢れは夜に一人で

 出歩いている人間を優先的に襲っているらしい

 

 逃げ切った人の方からも話を聞きたかったんだけれども

 残念だけれど、精神的に追い詰められるほどの状態になってて

 

 とても、話せるような状態じゃなかった‥‥

 

 ただ、その人達は全員が同じことを口走っていたらしい

 鎖に繋がれた真っ黒な悪魔が牙を見せて向かって来ている、と‥‥

 

 なんでも担当のお医者さんの話によると

 犬を見ると異常なまでに怯える様子を見せるらしい

 

 それらのことを踏まえると今回の穢れは、犬の姿をした

 

 召喚系の穢れ、と言う事になる」

 

「召喚系…

 

 確か、生き物のように

 動いているタイプの穢れだな…

 

 それはいろいろと、戦うのが大変そうだな…」

 

「それでもやるしかないよ…

 

 出ないとこれからもっと

 犠牲者が増えていくかもしれないしね」

 

棗の呟きに、帆波がそう告げていく

 

「そうだな‥‥

 

 しかし、話によるとどうやら

 穢れは夜に主に活動を始めるようだな‥‥

 

 できればその前に見つけられればいいが‥‥

 

 何か手掛かりになりそうなものはありそうか?」

 

「そうだね‥‥

 

 手掛かりに繋がるのかは

 わからないけれども、この地図を見てほしい‥‥

 

そう言って、見せてきたのは

いくつか印が付けられている地図であった

 

一同はその地図に目を通していくと

 

「なんだこれ?」

 

「これまで分かっている分の

 穢れを目撃したというポイントだ‥‥

 

 ここの警察の人にも協力して貰って

 そのうえで記録したから間違いはないよ」

 

「うーん…

 

 見たところ、規則性は無いように見えるが…」

 

七誠に見せてもらった地図を見ても

ちんぷんかんぷんな様子をな見せていく一同

 

すると

 

「‥‥七誠さん!

 

 この中で実際に犠牲者

 あるいは先ほど言っていた

 精神異常をもたらしてしまったという人の部分はどれですか?」

 

「うん、ちょっと待って‥‥

 

 えーっと‥‥」

 

地図につけられた印のうち

いくつかの部分に、さらに円を描いていく

 

「…これで全部だ」

 

「やっぱり…」

 

それを見た、杏は何かに

気が付いたように真剣な表情で地図を見ていく

 

「何かわかったのですか?」

 

「七誠さん、もしかしてですけれども

 穢れに襲われて生き残った人たちは…

 

 このあたりで保護されたのでは?」

 

「っ!?

 

 その通りだ」

 

そう言って杏が示しているのは

地図のポイントがしめしている部分のうち

円形で囲ったポイントを丸く繋げた部分の外側であった

 

「どういうことだよ、杏?」

 

「いい、今まで襲われた人たちは

 この街のある地区を中心に大体、五百メートル付近に集中してる

 

 でも、生き残った人たちはここまで逃げ切ったことで助かった…

 

 それがどういうことかわかる?」

 

「どういうことだ…?」

 

球子の質問に杏は説明を交えて質問するが

球子はもちろん、棗の方も首を傾げてしまう

 

すると

 

「…‥なるほど!

 

 襲いたくとも襲えなかった

 つまり、穢れが活動できるのは

 この、円形より内側、五百メートル付近!!

 

 つまり穢れは、この場所を中心に活動している…

 

 そういう事ですね!!!」

 

「なるほど!

 

 そうなってくると、場所は絞れて来るかな?」

 

「はい、この救助者が現れたポイントは

 このように円の様に緩やかな場所となっています

 

 だとすると、この救助者の発見されたところを結んで…

 

 ここ!」

 

杏はある場所に指をさした

そこには、一軒の家がある

 

「なるほど、この家を中止に活動しているってわけか!」

 

「さっそくここに行ってみましょう‥‥

 

 そこに夜まで待って

 もしも穢れが現れれば

 全員で一気に討伐しましょう!」

 

「「「「うん!」」」」

 

美南の言葉に、他の勇者達も頷く

 

「すごいね、杏ちゃん‥‥

 

 あの情報だけであそこまで分析するなんて」

 

「い、いえ…

 

 私はあくまで、予測を立てただけで…」

 

七誠に評価されて、少し恥ずかしそうに頬を染める杏子

 

「ううん、杏ちゃんはもっと自分の能力に

 自信を持ってもいいんだよ、杏ちゃんには

 杏ちゃんにしかできない事がある、そしてそれは絶対に

 

 杏ちゃんがこれから先、勇者として戦っていくうえで

 絶対に必要になってくるものなんだ、だからその力をもっと生かしてみて」

 

「七誠さん…

 

 わかりました、七誠さんのお役に立てるように頑張ります!」

 

そう言ってぐっと拳を作り、がんばりますと言いきる

 

「おいおい、杏ぅ…

 

 タマのことも忘れないでくれよ~」

 

「あ‥‥う、うん…も、もちろん‥‥…

 

 タマっち先輩やほかの皆さんのためにも、ね」

 

「フフフフフ…

 

 さて、杏さんの予想地点に

 早速行ってみましょう、穢れはもしかしたら

 

 この家を巣の様にしているのかもしれませんしね」

 

そう言って、一同は杏が予想した

穢れの出現ポイントに早速向かって行く

 

「‥‥どうやら、伊予島は

 分析や、情報整理等に優れているようだな‥‥

 

 それにしても…力を生かせ、か‥‥

 

 それはお前の姉の言葉だな」

 

「同時に僕の決意でもある‥‥

 

 まあ、本心であることは本当だし

 何より戦いの上でもそれは大事なことだしね‥‥

 

 さあて、それじゃあ僕たちの方も行ってみますか?」

 

「そうだな‥‥」

 

七誠と春三はそんな会話をつぶやきながら

杏が予想したポイントに後を追う様に向かって行った

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「はあ‥‥はあ…

 

 どうしてだ、どうして俺は…」

 

ある場所の部屋で

一人の青年が頭を抱えている

 

「くそ‥‥俺は…

 

 俺はああああ!!!」

 

そう言って叫ぶように言い放つ

 

すると、青年の背中から鎖が伸びていき

その鎖が囲んだ場所から巨大な何かが唸り声をあげていた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

二人の英雄と六人の勇者達は

さっそく、例のポイントの方に向かう

 

すると

 

アオオオオ!!!!

 

そんな巨大な雄叫びが辺りに響き渡る

 

「どうやらお出ましの様だな…

 

 ようし、ここはタマが先行するぞ!」

 

「待って下さいタマさん!

 

 いきなり突っ込んでいったらそれこそ…」

 

球子はさっそく武器である旋刃盤をふるって行く

 

すると、そこに現れたのは

全長五百メートル足らずの巨大な犬のような怪物

 

背中からは悪魔のようにも見えるような翼が生え

首についている首輪からジャラジャラと音を立てて鎖がつながっている

 

その頭部には悪魔の角のようにもみえる耳がピクッっと動くと

自身に向かって行った球子の方に目もくれずに、別の場所に向かって行く

 

「お、おい!?

 

 こらあ、何処行くんだよ!?」

 

「ひょっとして…

 

 走って言った方向にだれかいるんじゃ!」

 

「私が行く‥‥この中では早い!」

 

そう言って棗は武器である双節棍を手に

巨大な怪物の進行方向に向かって行き、立ちふさがる

 

「はああああ!!!」

 

武器を振るい、怪物の進行を妨げることには成功した棗

 

「ここは‥‥通さない…!」

 

そう言って武器である双節棍を構えて

目のまえでよろよろと立ち上がっていく怪物を見やる

 

ガアアアア!!!!

 

自分の狩りの邪魔をされ怒ったのか

目のまえで武器を手に構えていく棗に威嚇する

 

「‥‥犬か…」

 

棗はそれ以上特に何も言うことなく

武器である双節棍の片方を手に持ち

 

もう片方をぶんぶんと振り回していく

 

暫くにらみ合って行くと

 

ガアアアア!!!!

 

怪物の方が、棗を食いつくさんと突っ込んでいく

 

「フン!」

 

棗はそれにむかって、武器である双節棍を振るい

カウンターを決めた、すると棗の足もとから鎖が

まるで生きているかのように伸びていき、棗に迫っていく

 

「ちい!」

 

それに気づいた棗は鎖をどうにか弾くが

そこに、棗に向かってかぶりつかんと迫ってきた

 

「しまっ…!?」

 

「任せて!」

 

棗はやや追いつめられるが

巨大な犬の後ろから声が聞こえると

 

その犬の前足を布の様なものが

伸びて、それが怪物の動きを制止させる

 

「とった!」

 

そう言う帆波には、背中にマントを思わせる布が伸びており

それが、敵の両前足を拘束して動きを鈍らせていた、だが

 

グルルルル‥‥!!!!

 

怪物の方は、負けじとその前足を

力いっぱい引いていく、すると帆波は

段々と押され気味になっていき、逆に引き寄せられていく

 

「ぐううう…」

 

帆波の方も堪えるが

大きさや力の差の方もあり

 

勇者の力によって力が強くなっているとはいえ

それでも敵の力の方に引き寄せられて行っている

 

しかし、それでも敵の動きを

鈍らせていくのには十分であったようで

 

「はああああ!!!」

 

棗が勢いよく、武器である双節棍をふるって

巨大な犬に一撃を加えることが出来た、しかし

 

「っ…!

 

 固い…」

 

敵の外側は想像よりも固く

棗は双節婚を持っていた方の手がしびれてしまい

 

思わず表情を歪めてしまうのであった

 

だが、その際に猟犬は前足を勢いよく突き出し

 

「え、ちょっ!?

 

 うわあああ!?」

 

帆波を棗の方に吹っ飛ばしていく

棗は腕のしびれのこともあって反応が遅れてしまい

 

「ぐう…っ!?」

 

「ああ!」

 

二人は激突、その二人に向かって

巨大な犬は食らいつかんと大口を開けて迫っていく

 

だが

 

「おりゃああ!!!」

 

それを球子が投げた旋刃盤が飛び出して

それが犬の口の中を切り裂いていき、その

犬の口から黒いオーラが勢いよく噴き出していく

 

「二人とも、大丈夫ですか!?」

 

「なんとか‥‥すまない…

 

 手を煩わせる結果になってしまって…」

 

「いいえ、お二人が率先して

 攻撃したおかげで、私たちの方も無事に到着しました」

 

そう言って、この場に勇者達が集まっていく

 

「さあて…

 

 ここからどうしてやろうか…」

 

「‥‥うん?」

 

ほかの勇者達が対峙していく中

令は怪物を見て、不意に何かを感じた

 

「‥‥なんだこれ‥

 

 何だかわかんないけど

 あの化け物と私の中に

 何かが響き会うのを感じたんだけれども‥」

 

「どういうこと?」

 

令の言葉に理解ができず、首を傾げてしまう明

 

すると

 

「其れはたぶん、あの怪物と

 君の中にある星の力は同じものなんだ‥‥」

 

そう言って七誠と春三も遅れてその場におり立った

 

「どういうこと?」

 

「つまりあの穢れには‥‥

 

 お前の誕生星座である

 猟犬座の力を宿しているってことだ‥‥」

 

春三がそう言って武器である槍を構え

その穂先を、巨大な犬の怪物に向けていく

 

「りょーけんざの?

 

 それってどうなるんだ?」

 

「…まあ、どうにもならないさ‥‥

 

 そもそも、星の力を宿している

 穢れなんてそうも珍しいってわけでもないしね」

 

「だったら、問題ない…

 

 すぐにこの場で倒す!」

 

そう言って、棗が双節棍を

しびれていない左腕でふるって行く

 

「へ、それを聞いて安心した‥

 

 わたしとおんなじ星の力を

 宿しているからって何か変わるって

 訳じゃないってことだよね、だったら!」

 

そう言って武器である鎖が伸びた

鎌を手に取り、槍のような形状の

分銅のついた鎖をふるって、敵を見る

 

「遠慮なくいかせてもらうよ!」

 

そう言って鎖の方を勢いよくふるい

それで、敵の口の中へとふるって行く

 

だが、敵の方もそれに気づいたのか

口を閉じて、牙を使ってその一撃を防ぐ

 

「わあ、意外におりこうさん‥

 

 これは意外に手間どるかもね」

 

「だったら、あの牙を破壊して

 防ぐ手立てを失わせてやるだけ!」

 

明はそう言うと、武器である剣を

手甲から爪のように展開し、そこから

 

「おりゃあああ!!!」

 

六つの斬撃を勢いよく飛ばしていく

攻撃を飛ばしていくのは、男性型星座の特化である

 

しかし

 

グルルルル‥‥

 

そんな連続の斬撃も

猟犬座の力を宿した穢れの牙はびくともしていない

 

それを見て、激しく下を打つ明

 

「(一点特化でもびくともしない…

 

  なんて頑丈なのよあいつの体…)」

 

すると、猟犬座の穢れは

今度はこっちの番だと言わんばかりに

 

自分の首輪から伸びている鎖を

まるで自分の手のように勢いよく突き伸ばしていく

 

「おっと!」

 

その攻撃を球子が自分のぶきである旋刃盤を

盾のように扱って行き、巧みに防ぎきっていく

 

「へへ…

 

 あいにくとタマの武器は

 こうやって攻撃を受けることもできるんだよ

 

 そおおらあああ!!!!!」

 

今度はこっちの番だと言わんばかりに武器を投かんする

 

しかし、敵の頑丈な体の前に

なすすべもなくはじかれて行ってしまう

 

「うげえ…

 

 効かないってのはわかってたけれど

 いざこうやって目の当たりにすると

 さすがのタマもショックだな、しっかし…

 

 どうしたもんかね」

 

「やあああ!!!」

 

帆波は背中のマントを操り

それで、敵の攻撃を防いでいく

 

防ぎきったもののマントは殆どボロボロである

 

「さすがに長くはもたないか…

 

 一体どうしたら…」

 

その様子を見て、打開策を考える杏

 

「っ!

 

 七誠さん、猟犬座は確か

 女性型星座に含まれるんでしたよね?」

 

「そうだ、猟犬座は女性がただけど…っ!?

 

 まさかだと思うけれど、杏ちゃん!?」

 

七誠は杏の狙いに気づく

杏はそれにただ頷いて見せる

 

「タマっち先輩、美南さん!

 

 敵の攻撃を避けることなく

 すべて受け切ってください!!

 

 星の力を展開して!!!」

 

「あんず!?

 

 それってどういう…」

 

杏の言葉に球子は思わず聞き返していく

 

「…‥何か策があるのよね?」

 

「はい、私の考えが正しければ

 きっと、これで奴の守りを突破できます!

 

 二人にはつらいかもしれないけど、そこは私がフォローするから!」

 

そう言って杏は自分のぶきであるボウガンを構えていく

 

「私達は‥‥どうする?」

 

「お二人は、準備が出来たら

 とどめに一発決めてもらいます…

 

 それまでは、皆さんのフォローを…」

 

「了解!

 

 合図が出るまで球子ちゃんや

 美南ちゃん達のフォローをすればいいんだね

 

 任せて!!」

 

そう言って二人は、勢いよく前に出て

不測の事態に備えて、それぞれの持ち場につく

 

グルルルル‥‥

 

それをみても、猟犬座の穢れは

特に何も思うわけでもなく、向かって行き

 

勢いよく二人の方に向かって行く

 

「ぐうう!!!」

 

「はあ!」

 

球子は旋刃盤を盾のようにして

美南の方は、槍を杖の様に掲げて

バリアのような物を張り、それで敵の攻撃を受ける

 

「いったい何をするつもりなの?」

 

「杏はきっとあの子なりに

 考えがあってやってるのよ

 

 だったら、ここは信じてあげましょう」

 

そう言って、理解しきれない令に

明はただ、猟犬座の穢れの様子を見ていく

 

すると、穢れの首から

伸びている鎖が、球子と美南の横から

攻撃を仕掛けんと、その先についている突刃をふるう

 

「はああああ!!!」

 

それに気づいた杏が、その鎖に向かって

金属性の力によって生成した、矢を使って撃ちぬく

 

だが、鎖を緩めただけで攻撃自体は振り切れていない

 

「棗!」

 

「うん…」

 

それに気づいた、帆波と棗は

それぞれ、鎖に向かって攻撃を仕掛けていき

 

攻撃を、打ち払って見せる

 

ガアアアア!!!!

 

猟犬座の穢れの本体の方も

球子と美南に食いつかんとさらに迫っていく

 

「ぐうう…

 

 うおお!!!」

 

「何だろう…

 

 すっごく力がみなぎってくる!」

 

そう言って二人の守りはさらに強固になっていく

 

すると

 

「「はああ!!」」

 

キャイン!

 

二人は逆に穢れを押しやると

穢れは悪魔的な見た目とは裏腹の

可愛らしい声をあげて、後ろに倒れていく

 

「棗さん、帆波さん、明さん、お願いです!

 

 やつに攻撃を仕掛けてください!!」

 

「うん…!」

 

「わかったよ!」

 

そう言ってまずは二人が腹を見せて倒れこんだ穢れに

横っ腹から攻撃を与えていった、すると先程までびくともしなかった

穢れの体に嘘のように攻撃が通っていき、仕掛けた二人も驚きの様子を見せた

 

「脆くなっている…!?」

 

「よくわかんないけれど…

 

 これならいけそうな気がする!」

 

そう言って勝利を確信していく二人

すると、その二人の間に飛び込んでいく一人の影が

 

「ようし!

 

 ここから一気に決めるよ!!

 

 うおおお!!!」

 

明が展開した五対の刀身を

文字通り熊の爪のように振るい

 

それで、穢れの腹を引き裂いて見せた

 

グアアアア!!!!

 

その悲鳴のような雄叫び

もとい断末魔をあげながら、黒いオーラを噴き出していく穢れ

 

やがて

 

アアアア‥‥

 

声が途切れ途切れになっていくと同時に

穢れは爆発するように消滅するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう‥‥何とか…なった‥‥…」

 

杏子はそう言ってその場に崩れ落ちていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




悪魔退治・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猟犬座 第α話 穢れが潜むのは

依り代・・・・・・・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして

 

猟犬座の穢れを無事に倒した一同は今回敵の討伐において

的確な指示を出し、導いてくれた杏の方に集まっていたのだった

 

「いやー、すごいな杏…

 

 杏の指示が無かったら

 もしかしたらタマたちは危なかったかもしれないからな

 

 同郷として、タマは鼻が高いぞ」

 

「そんな、タマっち先輩ったら大げさだよ

 

 でも、みんなの約に立つことが出来てよかった…」

 

球子に褒められてやや照れ臭そうにしながらも

無事に一同を勝利に導くことが出来て、安心した様子を見せる杏

 

「杏さん…」

 

「あ、美南さん」

 

そんな彼女に微笑みながら近づいてきたのは

今回の部隊の隊長を務めている、一等級勇者の美南だ

 

「それにしても…

 

 いったいどうやってあの作戦を思いついたの?」

 

「あの穢れの体が硬かったのは

 女性型星座の特徴である力の吸収に

 よって引き起こされている者じゃないかなって思ったの

 

 普通に攻撃を当てても、穢れに攻撃は効かないなら

 逆に敵の攻撃を受けて、向こうの力を吸収出来ればって思ったの

 

 タマっち先輩と美南さんはともに女性型星座で

 二人の武器は防御にも使えるから、それでお願いしたの

 

 それで、敵の力が弱くなっていくのを見計らって、一気に!」

 

杏子が説明していく

 

「そうだったのか…

 

 つまり、あいつの体は

 球子と美南が防御のために

 攻撃を受けつつ、敵の力を吸収して

 やがて、敵は攻撃に使った攻撃を殆ど使い切って

 

 それで、私達の攻撃が通ったと言う事か」

 

「へえ、杏ちゃんって頭がいいんだね~

 

 ほんと、杏ちゃんのおかげで助かったよ、ありがと」

 

棗は納得し、帆波は笑顔を浮かべてお礼を言う

 

「そ、そんな…

 

 私はただ、皆さんのように

 前線に立てるタイプじゃないから…

 

 それでも、みんなの役に立ちたかっただけで…」

 

褒められて、ややしどろもどろになっていく杏

 

「ほらほら、みんな

 あんまり杏ちゃんを困らせてあげないの」

 

「ご、ごめん…」

 

「杏は引っ込み思案で恥ずかしがり屋だからな…

 

 でも、みんなが杏に感謝してるのは本当だ

 もちろん、タマも杏には感謝しているからな」

 

球子がそう言うと

杏はうんと絞り出すような声を出して頷く

 

「さて‥‥

 

 とりあえずは無事に終わった‥‥

 

 でも、もうしばらく様子を

 見ておこうと思ってるんだけど」

 

「どういうことですか、七誠さん?」

 

七誠は、そう言って明け始めていく空を見て

もう今日のところは被害はなくなるだろうと判断し

 

今回はここで退き上げようと呼びかけようとした美南だが

その前に七誠がそのように一つの提案を一同に持ちかける

 

「実はね、杏ちゃんが前に

 推察してくれた礼の場所なんだけれど‥‥

 

 この場所には一軒の家があったんだ

 それも空き家じゃないどころか、まだ人が住んでいる」

 

「「「「「「「ええ!?」」」」」」」

 

七誠の言葉に驚いた様子を見せていく勇者達

 

「‥‥確かに、妙だな‥‥

 

 穢れがもしもここから発生したのなら

 その近くにいた人は一番に襲われるはず‥‥

 

 それなのにまだ、人が住んでいると‥‥」

 

「うん‥‥

 

 穢れ自身は倒したけれども

 最後にそれを調べていこうと思ってる‥‥

 

 それを調べ、その住人の異常が確認でき次第

 引き続き調査を継続するかしないかをきめないとね‥‥」

 

七誠が春三にそう提示していく

 

すると

 

「‥‥わかった‥‥

 

 それじゃあ、七誠には

 その調査の指揮を任せるぞ

 

 同行者に俺様と明と令もついていく

 

 美南は他の勇者と一緒にここで待機をしていてくれ‥‥

 

 万が一に備えて外側の方も厳かにできないからな」

 

「分かりました」

 

春三は勇者達にそう言うと

今回の勇者のリーダーを務めている美南に

待機組となったほかの勇者達の指揮を一任する

 

「それでは‥‥」

 

「まって、春三

 

 明、悪いんだけれども

 ここで待っていてくれない?」

 

「え!?

 

 それは何で!?」

 

突然、待機組に回されて

驚きの様子を見せる明、すると

 

「その代わり、杏ちゃん‥‥

 

 僕と一緒に来てくれないか?」

 

「ふえ!?」

 

いきなり名指しで指名されてしまったことに

顔を真っ赤にして、驚いた様子を見せていく

 

「杏を…ですか…?」

 

「うん、今回の討伐において杏ちゃんの分析や推察が

 功を制したんだ、これは調査が主流だし彼女の知恵が

 もしかしたら必要になる事もあるかもしれない、だから

 

 杏ちゃんにもついてきてほしいんだ、もちろん強要はしない

 

 あくまでどうするのかを決めるのは杏ちゃんだよ」

 

「七誠さん…」

 

いきなりの名指しで、それも今回のことで

大いに期待を寄せられていることに勘づく杏

 

杏の心には彼の期待に応えられるのかと言う不安がある

 

でも、少なくとも今回の戦いでは

自分の分析が役に立ったのも事実

 

この能力でここにいる全員の、なにより

あの時助けてくれた七誠の役に立てるのなら

 

そう思って、少し悩んで決意を固めていく

 

その答えは

 

「‥‥やります!

 

 どこまでお役に立てるのか

 わかりませんが、こんな私でも

 できることがあるというのなら…

 

 私、やります、やらせてください!!」

 

「杏…」

 

杏の決意を秘めた言葉に

何も言えずにただ彼女の名前を呟く球子

 

すると

 

「…杏ってさ、体弱いくせに

 意外に芯が強い部分があるよね

 

 だったら止めないわ、行ってきなさい」

 

「明さん…」

 

「ただし、無茶はしない事

 

 勇者の力のおかげで

 体は問題なく動けたとしても

 それでも負担がかかる事には

 変わらないんだから、無理だと

 思ったら絶対に引くこと、いいね?」

 

明はそう言い聞かせるように言う

 

「分かりました、それと…

 

 ありがとうございます!」

 

杏はそう言って明にお礼を言いつつ頭を下げた

 

「あんずぅ…

 

 本当に気を付けてくれよ~」

 

「何を言うんだ球子‥‥

 

 おまえも来い」

 

「‥へ?」

 

春三にそう言われて

思わず間の抜けた声をあげる球子

 

「‥え、ええっと…

 

 春三‥殿‥‥?

 

 それってどういう…」

 

「そのままの意味だ、杏が来るなら

 いざってときの盾役も必要になるだろう

 

 俺様も春三も善処はするが保証はできないし

 令は武器の性能上防御にはまったくもって向かん

 

 よって、お前にも調査の方に来てもらう」

 

そう言われて、過剰なまでに動揺するそぶりを見せる球子

 

「それとも、自身がないのか?

 

 また守れなかったって後悔を募らせるか

 それでもいいならここに残ってろ、別に責めはしない‥‥」

 

春三はやや厳しめに言う

 

「‥フン、舐めるなよ春三

 

 タマだってな、決める時は決めるんだ

 それにそんなこと言われて逃げるようなほどタマは腰抜けじゃないぞ!」

 

球子は春三の言い方に少しむきになりながらも

それでも確かな決意を口にし、それを春三に告げた

 

それを聞いた春三はうっすらと笑みを浮かべた

 

「そうだ、それでいい‥‥

 

 それじゃあ、改めて調査の方に行こう」

 

「それじゃあ、よろしくね杏ちゃん」

 

「は、はい!

 

 こちらこそよろしくお願いいたします」

 

七誠にそう言われて恥ずかし気ながらもうれしそうに返す

 

「明の方も、別行動だけれどもがんばってね」

 

「任せてください

 

 七誠さんの方こそ、お気を付けて」

 

七誠と明はそんな会話を交わしていき

二人はそれぞれの持ち場の方に移動していく

 

「それではみなさん…

 

 どうかお気を付けて…

 

 皆様にどうか、神の祝福があらんことを…」

 

美南はそう言って何かの印をきるような仕草をする

 

「あるがとうね、美南ちゃん‥‥

 

 帆波ちゃんと棗ちゃんも気を付けてね」

 

そう言って早速行動を開始していく双方であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

やがて、調査組の方は

向かって行く家や近くにいる人々に

不審に思われないように、ある家の方に向かって行く

 

そこが目的の穢れが発生したという場所にある家だ

 

現在勇者は勇者の姿を解いて

普通の服装で、向かっている

 

もちろん、何かあったときのために

スマホはいつでも起動できるようにしてある

 

「ようし、ここだな‥‥

 

 それにしても、思ったよりは広い家だな」

 

春三はそう家の外観を見て言った

 

「それじゃあ、さっそく話を聞いてみよう‥‥」

 

そう言って家のインターホンを押していく

 

すると、その中から出てきたのは

 

「はい、どちら様でしょうか?」

 

一人の二十代ともいえる女性がお出迎えをしていく

 

「…あの‥‥北斗 七誠と言います‥‥

 

 こちらは、清滝一門で間違いないでしょうか?」

 

七誠はそう言って話しを進めていく

 

「‥な、なあ、清滝一門ってなんだ?」

 

「タマっち先輩。ひょっとして

 ここの家のこと教えてもらってないの?

 

 九頭竜 一さんをはじめとして

 多くの名棋士さんを輩出している一門だよ」

 

疑問符を浮かべる球子に

杏はあきれたように教えていく

 

「ちなみに何の一門かわかってる?」

 

「え?

 

 えーっと…

 

 きし、だから

 剣とか槍とかの道場か?」

 

それを聞いてさらに呆れの様子を見せていく令

 

「あんた、きしってよく言う

 鎧纏ってる盾と槍持ってる奴だと思ってない?」

 

「いい、タマっち先輩?

 

 棋士っていうのは将棋を指す人の事

 省議くらいだったらタマっち先輩も知ってるでしょ?」

 

「おお、将棋だったら知ってるぞ

 

 なるほど、将棋を遣る奴が棋士っていうんだな」

 

杏の説明を受けてとりあえず納得していく球子

そんな彼女を見て、ややあきれた様子を見せる令

 

「はい、確かにこちらは

 清滝 藍助一門の家ですが…

 

 父に何か用事でしょうか?」

 

「いえ、お父様にというよりは

 このあたりの方々にお聞きしているところなのですが‥‥

 

 ご存じかと思いますが、最近このあたりで

 人びとが襲われるという謎の事件が多発しておりまして

 

 その調査のために近隣の人にお話を聞いて回っている次第です」

 

七誠はそう言って、事情を話していく

 

「ああ、と言う事は警察の方でしょうか?」

 

「ええ、よろしければ

 お父様からもお話を聞かせて頂きたいのですが‥‥」

 

そう言って、七誠は娘さんの反応の方を観察していく

 

「え、ええ‥‥申し訳ないのですが…

 

 父は、四か月前から寝込んでおりまして…」

 

娘はそう、ややばつが悪そうに答えていく

 

「(‥‥四か月…

 

  確か、このあたりで

  穢れが頻発するように

  なったのも丁度同じ時期…

 

  だけれど…)

 

 あ、あの…!」

 

杏はたまらずに女性に話しかけてきた

 

「は、はい何でしょうか?」

 

「あの‥‥お父様の体調はが

 先程すぐれないとおっしゃっていましたが…

 

 現在のその‥‥お父様の体調は今はどのように…?」

 

杏のその問いに娘さんは少しか悲し気に答える

 

「父の体調は‥‥相変わらずです…」

 

その言葉に杏は考え込むように顎に手を添えていく

 

「ひょっとして‥‥そんなことが…」

 

杏はうわ言のようにつぶやいている

 

すると

 

「おい、杏!」

 

「きゃ!?

 

 タマっち先輩…?」

 

球子が呼びかけるように杏に声をかけた

 

「どうしたんだよ、杏…

 

 何か思ったことがあるならはっきり言いタマえよ

 

 タマだって杏のひらめきはすごいって思ってるんだぞ?

 

 だから自信をもって思ったことをいってみタマえ」

 

「タマっち先輩…」

 

球子に言われて、杏は自分の考えを口にする

 

「あの、春三さん…

 

 確か穢れは人の心の中になる

 真っ黒な欲望、それらが制御を失って

 噴き出したそれが分裂と融合を繰り返して

 形を成していく、確かそうだったですよね?」

 

「ああ、それで会っている‥‥」

 

杏は春三に質問をしていく

 

「では、もしかしたら‥‥

 

 穢れがその宿主から排出しきれずに

 その体に残っている場合はありませんか?」

 

「「っ!?」」

 

杏の質問を聞いて、驚愕の様子を浮かべていく球子と令

 

「前例はないが、可能性はある‥‥

 

 そもそも、穢れが宿主の身体にあるうちは

 形自体は固定されていないのだ、穢れが完全に

 宿主から出てこないまま、形を成すこともあり得るしな‥‥」

 

春三も感心したように言う、すると

 

「申し訳ありませんが、お父様のお部屋に

 案内させていただけませんか、このままだと‥‥

 

 お父様が危険です!」

 

「っ!?

 

 ええええ!?」

 

それを聞いて驚いた様子を見せていく娘さん

とりあえず彼女の案内を受けて中に入っていく一同であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

部屋の前にまで来て、娘が慌てて部屋の襖を開ける

 

そこには部屋に敷かれた布団の上に

一人のそれなりに年齢を重ねている男性が寝込んでいる

 

「お父さん、お客様よ

 

 なんでも最近このあたりに起こった

 事件についてのお話を聞きたいんだって…」

 

先に入った娘さんが、父親であるその男性に声をかける

 

すると、男性は布団の中で何やらうごめいている

更にその布団の中では何やら唸り声のような声をあげている

 

「お父さん!?

 

 大丈夫、どうしたの!?」

 

娘さんが駆け寄ろうとするが、それを七誠が止める

 

「…ここは僕が‥‥

 

 なにかった時のためにも

 貴方は離れていていてください」

 

そう言って下がらせて

布団の中でうごめいている男性のもとに近づいていく七誠

 

七誠はゆっくりと顔を覗き込んだその時

 

「うがああああ!!!!」

 

「っ!?」

 

突然男性が豹変した様子で七誠に襲い掛かっていく

 

「お父さん!」

 

「七誠さん!」

 

娘と杏がそれぞれほぼ同時に名前を挙げていく

娘は思わず飛びださんと前に出ていくが、それを球子が止める

 

「大丈夫、七誠に任せておきタマえ

 

 杏も前には出るなよ、それはタマの役目だからな…」

 

「タマっち先輩…」

 

そう言って二人を下げつつ、前に出て

スマホを手に取り、いつでも起動できるようにしていく

 

「うがああああ!!!!」

 

「ぐう‥‥

 

 このぉ‥‥」

 

七誠はどうにか抑えると

男性の口元に何かを押し付けていく

 

すると

 

「もごもごもごもご‥‥

 

 うもももも‥‥」

 

暫く抑えられると、男性は気を失ったように眠りにつく

 

「…ふう、この様子‥‥

 

 どうやら杏ちゃんの推測が

 悪い意味で当たってしまったようだね‥‥」

 

そう言って、七誠は男性を布団で寝かして

だいじではないことを確認すると、安堵のため息をつく

 

「お父さん!?」

 

「…大丈夫です、もう落ち着いています‥‥

 

 それよりも、貴方とお話をしないといけません‥‥」

 

七誠はそう言って、娘さんの方を向いて言う

 

「え…?」

 

娘は突然のことにやや落ち着いていないようであり

あまりの出来事に動揺している様子が見受けられている

 

「ふう‥

 

 とても話をまともに聞ける様子じゃないわね‥」

 

「令、球子、お前たちはしばらく彼を見ていてくれ‥‥

 

 いざってときはお前がどうにかしろ‥‥

 

 こちらの娘さんとは俺様と七誠が話をする‥‥

 

 杏はすまないが娘さんに付き添っていてやってくれ」

 

「分かりました…」

 

そう言って、男性の様子を見る側と

娘さんに話をしていく側に分かれていった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「そんな…!?

 

 これまでの怪物騒動は

 父の仕業であると言う事ですか!?」

 

少し落ち着いた様子を見せた娘さんは

七誠と春三の説明を聞いて、驚愕の様子を浮かべていた

 

「厳密には、その怪物が

 お父さんの体の中にいるんです‥‥

 

 怪物は夜な夜なお父さんの身体から出てきて

 その怪物が、夜に歩いている人々を襲っているみたいなんです‥‥」

 

「そんな…

 

 どうして父がそんなことに…」

 

娘は嗚咽交じりに話しをしていく

 

「父は代々、棋士の一門であるこの清滝一門の看板を

 祖父の代からずっと守り続けていたんですが、最近は

 テレビゲームや電子機器が発達していったのも手伝って

 

 最近は古典的な将棋を進んでやろうとする若者が減っていて

 

 その影響やこだわりの強い父の指導方法も合わさって

 門下生がめっきり減っていってしまっていて、父はそのことを憂いていました…

 

 最近では、看板を下げることも考えていたそうです…」

 

「なるほどな‥‥

 

 その葛藤が心の中に

 闇を作って、穢れを生み出してしまった‥‥

 

 そう言ったところか‥‥」

 

春三は娘の話を聞いて父親の体の中にどうして

穢れが生み出された原因がそこにあることに気づく

 

「うーん‥‥確かに最近なんて

 将棋云々の話なんて聞かないもんね…

 

 でも、お父様はそれほど、将棋を愛していらっしゃるんですね」

 

「‥‥はい!

 

 お父さんは普段は頑固で物静かだけれど

 将棋をしているとき、将棋の話をしているとき

 

 お父さんはまるで子供のころに戻ったように無邪気になって…

 

 私はそんな父が大好きで、おおきくなったら

 そんなお父さんが自慢できるような棋士になりたいって思ってたの…

 

 結局、プロの道は断念しちゃったけれども

 お父さんの教えは絶対に間違ってなんていない、だって…

 

 お父さんの一門からそんなプロ棋士が生まれたんだもの…

 

 だから‥‥だから私…お父さんとしっかりと話をしたいの…」

 

杏の問いかけに、娘はそう答えていく

すると娘は七誠と春三の方に向きなおっていくと

 

「お願いします!

 

 どうか父を、助けてください!!」

 

そう言ってはっきりと頭を下げながら言う

 

「もちろんだよ‥‥

 

 そのために来たんだから」

 

「ああ、夜が来たら

 絶対に親父さんには近づくなよ‥‥

 

 俺様たちが必ず、助けてやるからな」

 

そう言って、娘さんと言葉を交わす英雄の二人

 

「任せてください!

 

 みなさんを守るのが

 私達勇者のお役目ですから」

 

杏もまた、そう胸を張るように言う

 

「ありがとうございます」

 

娘は感激するように

杏に感謝を述べて、頭を下げるのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

 

一同が寝静まった、あと

 

「うううう‥‥

 

 うああああ‥‥」

 

布団の中で落ち着いていた

藍助が、またもうめき声をあげていく

 

「来るのか‥来るんだなこれは…

 

 絶対に来るぞ!」

 

「ああ、構えるぞタマ!」

 

そう言って端末を取り出していき

布団の中から現れるであろう、その敵の出現に供えていく

 

すると

 

「うがああああ!!!!」

 

ウゴアアアア!!!!

 

布団の中から飛び出したそいつは

まさに、悪魔のような雰囲気を持った

大きさはおよそ五百メートルの犬であった

 

首には巨大な鎖が男性の身体とつながっている

 

「この犬…

 

 昨日の夜に倒した奴と

 同じような姿しているぞ…」

 

「なるほど‥

 

 あの様子から大体予想していたが

 穢れは二体いたんだな、つまりは

 こいつさえ倒せれば、完全勝利って奴だ!」

 

そう言って令は武器である鎖鎌を取り出し

その内鎖の方をぶんぶんと振り回していく

 

「まずは、人気のないところに誘い込む‥

 

 タマ、守りの方よろしく!」

 

「おう、タマに任せタマえ!」

 

そう言って、武器である旋刃盤を

盾のように構えていきつつ、ゆっくりと下がっていく

 

すると

 

グアアアア!!!

 

それに気が付いたのか

穢れは二人の方に襲い掛かるようにとびかかっていく

 

「‥‥ようし‥

 

 狙い通りにやってきたな‥

 

 はああああ!!」

 

令は鎖鎌の鎖の部分を伸ばし

それを使って穢れの口元に巻き付けていく

 

ウググググ‥‥

 

必至にもがいて鎖を引きちぎらんとしていくが

鎖は思っていたよりも丈夫なうえに、令の手によって

 

まるでリードのように引き寄せられていく

 

すると、穢れは我慢できなくなったのか

自分の首から伸びている鎖をまるで手足のように

動かしていく、その先についている突刃の先を令に向けると

 

それを勢いよく突き出していった

 

しかし

 

「おりゃ!」

 

その一撃を球子は決死の防御で受け止めれみせた

 

「へへ…

 

 タマだってな

 やるときはやるんだぞ」

 

「タマ、来るぞ!?」

 

すると、地面から鎖が

勢いよく伸びていって

 

それが球子と令に振るわれて行く

 

「しまっ!」

 

しかし、その攻撃を

間一髪で弾いて、二人を守る

 

二人の人物が現れる、それは

 

「大丈夫か、二人とも」

 

「何とか間に合ったね」

 

棗と帆波の二人であった

 

グアアアア!!!!

 

たまらずとびかかっていく穢れだが

 

「おおおりゃああああ!!!!!!!」

 

そこに、七誠が前に出て剣を交差せることで

穢れの巨大な顎による、かぶりつきを凌いで見せた

 

ウガアアアア!!!!

 

悲鳴のような声をあげて

ゆっくりと下がっていく穢れ

 

それを見た、七誠は武器の剣で空を切る

 

「ようやく姿を現したね‥‥

 

 ここからが、僕たちの本当の戦いだ!」

 

そう言って、武器の剣のうち

右腕に持っている剣の切っ先を敵の方二向けていく

 

それを見た、穢れは

うなり声をあげながら一同をにらみつけていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ、穢れとの最後の決戦を迎えんとしていた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




もう一匹の猟犬・・・・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猟犬座 CVn 命の価値

猟犬の悪魔との最終決戦‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所

 

なにやら急いで走っていく

一人の人物の姿がその夜に見えた

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

なにやらその表情は

焦っているようにも見える

 

その青年はどこかに向かっている

 

「‥‥先生が大変なことに…

 

 そんな‥‥どうして…こんな‥‥…」

 

すると、青年の目には

驚くべき光景が映し出されて行く

 

そこには見上げるほどに巨大な怪物

よくよく見ると、その怪物の周りを

 

何やら小さな何かが纏わりついているようだ

 

「なんだあれは…

 

 というよりあそこは…

 

 先生の…!?」

 

その怪物のいる場所の近くに

ある何かに気づき、ハッと眼を見開いていく

 

「どうして…

 

 どうしてあんな怪物が…

 

 先生は‥‥先生は無事なのか…」

 

そう言って向かおうとする青年だが

足がすくんで動けなくなってしまっている

 

無理もない、その近くでは

見上げるほどに巨大な犬の怪物がいるのだ

 

普通なら当然の反応である

 

「早く‥‥行かないと…

 

 でも、もしも‥‥あの怪物に近付いて…

 

 襲われでもしたら‥‥しんでしまうかもしれない…」

 

ふるふると体をふるわせていく青年だが

 

青年は自分の心に有る言葉をかけていく

 

ー対局において、一番の敵は迷う事だ

 

 迷えば迷うほど、その一局にためらいができてしまう

 

 考えるのは大事だ、感じたままに行くのもいい

 

 打が絶対にこうだと思ったことをためらうな

 自分がこうするべきだと思ったら、迷う事なく打てー

 

ある日、自分の師匠に言われた言葉だ

 

「‥‥将棋において一番の大敵は迷い…

 

 どんなことがあっても自分がこうだと

 思ったことにためらうことなく、打つ!」

 

そう言って青年は、自分の目の前にある光景に目をやる

 

「どうか無事でいてください、師匠!

 

 俺、絶対に迷いませんから」

 

そう言って戦いの場に、いや

その近くにある有る場所に向かって行く

 

そこはかつて、彼が

自分の師匠に教えをこいていた自身の家

 

「俺は絶対に迷いませんよ!

 

 清滝先生!!」

 

そう言って、走り言って行く青年であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

グアアアア!!!!

 

悪魔を彷彿とさせる犬のような

大きさ五百メートルの怪物、それに向かって行くのは

 

「はああ!!!」

 

「やああああ!!!」

 

「はああああ!!!」

 

「やああああ!!!」

 

「たああああ!!」

 

「はあああああ!!!」

 

六人の勇者の少女達であった

六人はそれぞれの攻撃で怪物たちに挑んでいく

 

「はあ!」

 

まずは一人の少女が、手に持ったボウガンから

連続の攻撃を仕掛けていき、それで敵の注意を引き付けていく

 

グルルルル‥‥

 

「くっ…

 

 さすがに、このくらいの攻撃だと

 簡単には効きませんか、でもこれなら!」

 

杏は真剣に表情を切り替えていくと

敵の真横から勢いよく飛んでくる何かが

 

それは

 

「そおおりゃあああ!!!!!

 

 タマの一世一代の一撃を受けてみタマえ!」

 

球子はそう言って武器である旋刃盤を

投かんするように投げつけていく、それは

まるで翼のような八枚の刃が大きく展開され

 

まるで、鋸のようにして怪物に向かってふるわれて行く

 

そのまま、怪物の方へと向かって行く球子の攻撃

 

しかし

 

ギャン!

 

攻撃は当たったものの

当たった衝撃に驚いただけで

 

ダメージ自体は追っている様子はない

 

「ぐう…

 

 こいつもさっきのに

 負けず劣らず頑丈だな…」

 

「はああああ!!!」

 

すると、棗が怪物の背中に乗り

そこに必殺の一撃を当てんと武器である双節棍をふるう

 

しかし、何度も何度も打ち付けていても

特にダメージが入っているようには見えていない

 

「ぐう…

 

 やっぱり硬い…」

 

そう言って表情を強張らせていく

すると、そんな彼女に向かって鎖が振るわれて行く

 

「棗ちゃん!」

 

彼女に向かってふるわれて行く一撃を

武器である棍をふるってはじいていく

 

さらに

 

「棗ちゃん、降りて!

 

 こいつは私が抑えるから!!」

 

「分かった…」

 

そう言って棗を下に降ろし

帆波は背中からマントのように垂れ下がっている

マフラーの端と橋を、触手あるいは鞭の様に伸ばし

 

それで怪物の身体を縛り上げていく

 

怪物は自分の身体が縛られているのが分かり

その拘束を力づくで引きちぎらんともがいていく

 

帆波はそれを感じて必死の様子で

怪物の身体をどんどんと締め上げていく

 

「おらああああ!!!!」

 

そこを春三が通り掛かり

怪物の顔に必殺の一撃を加えていった

 

ギャウン!

 

それを受けて、おおきくひるんでいく怪物

 

「行け、帆波!」

 

「おりゃあああ!!!」

 

やがて、帆波はその隙に

怪物の身体を再び縛りあげていき

 

どうにかその動きを抑えることに成功するのであった

 

「ようし…

 

 杏ちゃん!」

 

「了解です!」

 

杏は金属性の力によって

生成した矢を武器である連弩に装填する

 

そして、祖の標準を怪物の方に向けていく

 

「(召喚系の穢れは、その性質が限りなく

  生き物に近くなると言われている、もしも

  あの外皮が筋肉による物だったら、これで行けるはず)」

 

そう分析して、矢の先を怪物の方に向ける

 

「いっけえ!

 

 杏!!」

 

球子がそう言って呼びかけていく

杏はそれに答えるように首を縦に振る

 

「これが、私の全力!」

 

そう言って矢を発射し

その一撃一撃を次々とある場所に放っていく

 

そこは

 

ぎゃうううう!!!!

 

目であった

 

目に一本の矢が突き刺さると

それは爆発、貌の三分の一ぐらいが損壊し

 

底から勢いよくオーラが噴き出していく

 

「やりましたね、杏ちゃん!」

 

「これで、こっちの攻撃が通るはず

 みんな、貌のダメージの入ったぶぶんを狙って!」

 

杏はそう言って一同に呼びかける

 

「ようし!

 

 それじゃあ、タマの全力も

 ここでいかんなく発揮させてやろう…

 

 くらいタマえ!!」

 

「おっと!

 

 悪いけど一番槍は譲らないわよ!!」

 

そう言って前に出ていく球子と令

二人はそれぞれの武器を飛ばしていく

 

ギャアアアア!!!!

 

貌のダメージを受けた部分に集中的に

攻撃をくらわされて、大きく悲鳴を上げていく怪物

 

すると、怪物は頭に来たのか

首から伸ばしている鎖を飛ばしていき

 

それで、二人に攻撃を仕掛けていく

 

だが、二人の前に十字型の結界が展開され

二人を鎖による攻撃から即座に守っていく

 

「お二人とも、油断はなさらないでください

 

 仮にも相手は穢れです

 杏さんが攻撃の糸口を開けてくださったうちに

 急いでとどめを刺していきますよ、一緒にやりますよ!」

 

「お、おう…」

 

「了解‥」

 

呆れた様子ながらも

優し気に提案していく美南に

球子と令は思わず了承していく

 

「さあて…

 

 それでは一気に

 決めさせてもらいましょうか!」

 

そう言って武器である十字槍を構えて

攻撃をふるおうとする美南であったが

 

そこで異変が起こった

 

グアアアア!!!!

 

穢れから藍助に繋がっている鎖

その鎖から何やら、黒い何かが

 

真っ黒い何かを藍助の身体から

吸い取っていくように取り込んでいく

 

すると、なんと

 

グルルルル‥‥

 

損傷した部分の顔がみるみると修復されて行き

瞬く間に元通りに回復していってしまうのだった

 

「うそ…‥どうして…」

 

「ひょっとして…

 

 藍助さんの身体から

 体に残っている生命力を吸い取っているんじゃ…」

 

動揺する美南に対して、杏は絶句するように言う

 

「だったら、あの鎖をぶった切ることが出来れば…」

 

「馬鹿、生命力が吸い取られてるってことは

 命に直接つながっているようなものなのよ!

 

 下手にそんなことをしたら、あの人は死んでしまうわ!!」

 

球子は強行しようとするが、それを令が止める

 

「じゃあ、どうしたら…」

 

「‥‥直接、穢れを倒すしかない…」

 

棗は物静かに、そう提案していく

 

「そんなことしたら、藍助さんがまた…」

 

「回復される前に倒す…!

 

 幸いにも奴が回復するまでには

 わずかながらもタイムラグがある…

 

 そこを狙えば‥‥倒すことが出来る…!」

 

「‥‥正直に言うと、反対ですけれど…

 

 古波蔵さんの言う通りです

 あの穢れの守りは正直言って

 最初に戦った穢れよりもはるかに固い…

 

 攻撃が通るのは、目と口の中…

 

 目を狙っても、回復されるなら」

 

「なるほどな、あいつの口を

 こじ開けさせて、そこを一斉攻撃ってことだな…」

 

杏の提案に球子はそう解釈する

 

「なるほど…

 

 ようはダメージを

 なるべく与えないようにすれば…」

 

「そういう事だったら…

 

 私もやってみるよ

 正直に言うとちょっと抑えられるか

 わからないけれども、みんなの事信じるよ!」

 

そう言って、背中の布を

両腕で持ち、ハングライダーのように飛んでいく

 

穢れの方もそれに気づいたのか

背中から生えた翼を広げて、襲い来る

 

「うそ!?

 

 あいつ、空飛べるの!?」

 

それを見て、驚きの様子を見せていく帆波

 

それでも、武器である棍をふるって

そのまま上空から立ち向かおうとしていく

 

ガアアアア!!!!

 

「ぐう…」

 

齧りつかんと襲い来る穢れの突進を

帆波は、どうにかかわしていき、そこから

 

「やああああ!!!」

 

背中のマフラー状の布を

ロープのように振るって行き

 

それで穢れの上あごと下あごをどうにか広げていく

 

「ぐう…

 

 抑えたよ!」

 

帆波がそう言って、必死に抑えていく

 

「私が行く!

 

 これで一気に…」

 

杏はそう言って連弩を構えていく

 

だが、そこに

 

「うわああああ!?」

 

突然、男性の悲鳴が響き

一同は一斉にそっちの方を向く

 

そこにはなんと、一人の男性が

怪物の姿を見て、腰を抜かしていた

 

「っ!?

 

 嘘だろ!?

 

 こんな時間に人が…」

 

「いいえ、それよりも…」

 

男性の姿を見て、動揺を見せていく球子

令の方もまた同じように驚いた様子を見せていくが

 

彼女は其れよりも気にしていることがある、それは

 

グルルルル‥‥

 

怪物は、だらだらと口から

涎を垂らしながら、男性を見つめている

 

「ひ、ひい…」

 

それを見た男性は思わず悲鳴を上げる

すると、穢れは男性の方二狙いを定めていく

 

グアアアア!!!!

 

「うわああああ!!!」

 

穢れは男性に襲い掛かろうと

その男性に襲い掛かっていった

 

「そうはさせない!」

 

美南が前に出て

男性の方二向かって十字型の結界を張る

 

だが、穢れはそれを

いともたやすく打ち破っていく

 

「帆波…!

 

 穢れの動きを…!!」

 

「ダメ、間に合わない!」

 

棗は帆波に動きを止めるように言うが

残念ながら間に合うことはなく、やがて

 

「うわああああ!!!!」

 

怪物が男性にかぶりつかんとしたその時

 

「おりゃあああ!!!!」

 

七誠が武器である剣をふるい

穢れを勢いよく切り付けていき

 

穢れを横の方へと吹っ飛ばしていった

 

「はあ…はあ‥‥はあ…‥‥

 

 何とか間に合った…大丈夫?」

 

「は、はい…

 

 ありがとうございます…」

 

そう言って助け起こされる男性

七誠は男性の顔を見て、眼を見開いた

 

「貴方は確か…有名棋士の‥‥

 

 九頭竜 一プロ!」

 

「あ…」

 

助けてくれた人物が自分のことを

知っていたことに驚き、少し声を漏らす

 

「どうしてあなたがここに‥‥

 

 あ、そう言えば貴方は清滝一門の‥‥」

 

「そ、そこまで…

 

 貴方は一体…」

 

少し驚くも、自分を助けてくれたので

悪い人ではないと感じたのですぐに落ち着きを取り戻していく

 

「僕は、七誠‥‥

 

 北斗 七誠‥‥

 

 ただのお節介な英雄だよ」

 

「‥‥英…雄‥‥…」

 

七誠葉そう言うと、一に言う

 

「一さん、早くここから離れて!

 

 ここは、あぶないから」

 

「待って下さい、ここに師匠…

 

 清滝 藍助さんはいませんか!?」

 

七誠が避難するように進めていくが

一は、そう言って藍助の安否を尋ねていく

 

「僕は、お爺ちゃんに勧められたこともあって

 本当に将棋が大好きだったんだけれど、周りには

 古く臭いとか年寄りのやる事っていじめられていて

 

 それで、いつしか部屋に引きこもるようになって

 そんな僕にとっての心の支えが藍助さんだったんです

 

 だから藍助さんが現役を引退して

 後進の育成に生を出すと決めた時には

 僕は迷うことなく、師匠の下に入門しました

 

 元々やっていたこともあって

 師匠の教えもあって将棋の腕はめきめきと上がって

 

 それで、やっとの思いでプロになれた時には本当にうれしくって

 

 師匠もお嬢さんも、本当に自分の事のように喜んでくれて…

 

 でもここ最近は、将棋の競技人口が減っていって

 師匠の方も将棋に興味を持つ若者が少なくなったことに憂いていました…

 

 別に若者それぞれにはそれぞれの道もある

 でもせめて、将棋の楽しさは知ってもらいたい…

 

 師匠は‥‥いつも譫言の様につぶやいていました…」

 

「なるほど‥‥

 

 現代が進みすぎて

 逆に昔ながらの将棋に

 興味を持つ若者が減っていってる‥‥

 

 それで藍助さんは、穢れを‥‥」

 

七誠はそう言って後ろの方を見ていく、そこには

 

グルルルル‥‥

 

七誠、正確には彼の後ろにいる

一のことをじっと睨みつける穢れ

 

「…勇者のみんな!

 

 一さんのことを頼む!!」

 

「え…?」

 

七誠のその言葉を聞いて

彼の一番近くにいた、棗が反応する

 

「…一さん、僕たちは貴方の師‥‥

 

 藍助さんのことを助けたいと

 思っています、絶対に助けます‥‥

 

 だから、藍助さんが目を覚ましたら

 貴方の心からの思いを、伝えてあげて‥‥」

 

「‥‥はい…」

 

七誠の優しくも真剣な言葉に

一もコクリと真剣にう頷くのであった

 

「‥‥了解した…

 

 帆波、私達も急ごう」

 

「はい、あの人のことを

 守ってあげないといけないしね」

 

そう言って二人が一のもとに辿り着き

彼の両側に立って、彼をその場から離していく

 

「七誠さん!」

 

すると、その前に一は七誠に呼びかける

 

「‥‥師匠の事…

 

 よろしくお願いします!」

 

「もちろんだよ…だから早く離れてて‥‥」

 

一の必死な訴えに

七誠は振り向くことなくただ

 

言葉のみを告げる

 

「行くよ!」

 

そう言って両手に赤みがかった黄色い剣を

両手に持って、それを構えていきそれをふるって行く

 

「はあああ!!!!」

 

七誠が勢いよく切り込んでいくと

穢れの頑丈な体に大きなダメージを与えていく

 

グアアアア!!!!

 

穢れの方もそれが意外だったのか

悲鳴のような雄叫びをあげて、それがあたりに響く

 

夜のその場所に怪物の咆哮が響き渡っていく

 

「すっげえ…」

 

「私達でもなかなかびくともしなかったのに…」

 

七誠の一撃を見て、球子と杏は見やっていく

 

「く‥‥

 

 さすがに頑丈だな‥‥」

 

攻撃をした反動で

後に大きく吹っ飛ばされて行くが

 

それを身体を反転させていく事で

威力を殺し、体制を保ったまま着地する

 

それでも再び剣を構えていくが

すると、彼の手にさらにそれぞれの手に一本ずつ

 

合計、四本の剣が携われて行く、さらに

 

「はあああ‥‥」

 

七誠がその手を広げるようにして

剣で空気が斬るようにして振るう

 

すると、彼の左側に巨大な翼が広げられる

 

「あれって…」

 

「あれが、星の力を真に引き出す最後の切り札‥

 

 星座界放‥」

 

美南と令はその姿を見て

各々がそうつぶやいていた

 

「はあああ‥‥」

 

七誠は武器である四本の剣と

背中に生えた一枚の片翼を広げて

 

目のまえの敵の方を見据えていく

 

「行くよ、おっきなワンちゃん‥‥

 

 これで一気に決めさせて貰うから!」

 

そう言って勢いよく飛び上がっていく七誠

七誠は勢いよく体を回していき、それで勢いをつけていく

 

「やあああ!!!!」

 

そして、必殺の一撃をきめていって見せた

 

アオオオオ!!!!

 

穢れは大きな体を仰け反りながら

辺りに響くほどの大声をあたりに響かせていく

 

「っ!」

 

それは、近くにいた一のもとにまで

飛びこんでいき、それが彼の体に大きく響いていく

 

「うおお!!!」

 

「球子さん、耐えてください…

 

 しかし、なんと物凄い衝撃なのでしょう…」

 

球子と美南がその衝撃から一を必死に守っていく

 

やがて暫くが立ち、衝撃による

風もある程度収まったように感じ

守りに徹していた勇者達は恐る恐る

目を開けていった、目のまえは煙と

夜の暗闇も合わさって思う様に見えないが

 

次第に煙が晴れていき、目の前の景色が

少しずつながらも見え始めていった、そこには

 

「はあ…はあ‥‥はあ…‥‥」

 

やや息を切らしながら

剣を両手に構えた状態で身構えている七誠

 

「おっしゃ!

 

 穢れを倒せたんだな!!

 

 さっすが七誠!!!」

 

「…‥待って下さい…

 

 少し…妙ですよ…」

 

美南がそう言って眼を凝らしていく

その目の前では七誠の身体から何かが

伸びているようにも見える、しかしそれは

 

「…ぐう‥‥」

 

七誠の体から、大漁の血があふれ出ていたのだった

 

「な‥‥なせい…さん‥‥…」

 

その光景を見て

一番に動揺の様子を見せたのは杏だった

 

段々と目のまえの景色が何なのかを理解していくと

 

「いやああああ!!!」

 

杏の声が響いていく

 

「杏、落ち着いてくれ!

 

 美南、こっちは任せて貰えるか!?」

 

「わかりました…」

 

球子は思わず飛びだしていく杏のもとに行き

彼女を先に行かせまいと、必死に取り押さえていく

 

「離して、タマっち先輩!

 

 このままじゃ、七誠さんが…!!

 

 七誠さんがぁ…」

 

「落ち着け杏!

 

 落ち着いてくれぇ!!」

 

必死に杏に落ち着かせるように言い聞かせていく球子

 

球子自身もどんな言葉をかけていいのかわからず

ただ簡単な言葉しか言えないのは、彼女自身も動揺を隠せていないからだ

 

「いやだ‥‥七誠さん…七誠さん‥‥…」

 

「落ち着いてくれ杏…

 

 いま飛びだしたらヤバいだろ

 敵がもしかしたら襲ってくるかもしれないんだ…

 

 七誠のところに駈け寄りたいのはタマも一緒だ

 でも、それで杏が死んだりしたらそれこそ七誠が悲しむ!

 

 杏には身を守るすべがないんだから!!」

 

そう言う二人のもとに迫ってくる巨大な影

 

グルルルル‥‥

 

そこに現れたのは、一体の巨大な

悪魔のような面影を持つ犬のような怪物

 

穢れであった

 

よく見ると、穢れと宿主である藍助をつないでいる

鎖が引きちぎれており、そのせいなのかどこか弱っているように見える

 

「嘘‥だろ…

 

 あの一撃でまだ死んでねえのかよ…」

 

余りのことに動揺

それを通り越して固まってしまう

 

すると

 

「‥‥くも…」

 

杏は静かな声色で呟く杏

いきおいよく顔をあげると同時に

涙を浮かべ、怒りに満ちた表情を向ける

 

「よくも七誠さんおおおお!!!」

 

杏子は叫ぶようにして武器である連弩を構え

そこから発射されていく矢を次々と敵に打ち込んでいく

 

だが、敵の丈夫な体の前に

空しく弾き返されて行った

 

さらに、そんな杏に追い打ちをかけるように

 

「ぐ‥‥ごほっごほっごほっごほっ…!!!」

 

先程の叫びでよほど体に負担をかけたのか

激しくせき込み、さらには身体を動かせなくなっていく

 

「やめろ杏!

 

 それ以上無茶したら死んじまうぞ!!」

 

「ごほっごほっごほっごほっ…

 

 畜生‥‥ちくしょう…」

 

普段の杏ならば口にしないであろう

荒っぽい口調がより悔しさを感じさせていく

 

すると

 

「まったく‥‥

 

 頭脳面では優秀だが

 感情面ではまだまだだな‥‥」

 

そう言って冷淡に話していくのは春三であった

 

「ごほっ‥‥春三…さん‥‥…」

 

「おい、春三!

 

 いくら何でもこんな時に

 言ってやる言葉じゃねえだろ…」

 

球子が春三の冷淡な言い方に抗議するが

 

「こんな時だからこそだ‥‥

 

 今は戦いのさなかだ

 感情を抱くなといは言わないが

 感情にのまれて目先のことも見えなったら

 それこそ、戦いにおいては生きられなくなるぞ‥‥」

 

春三はそれでも、その態度を変えることはない

 

「棗、帆波!

 

 お前らは球子と杏のフォローに回れ

 美南はその男を守って令は藍助を救出しろ‥‥

 

 ここからは、俺様が戦ってやる!」

 

そう言って武器である槍をふるって行き

此方に向かって牙を向けていく穢れを見やる

 

グアアアア!!!!

 

穢れは自分の首輪より伸びている

鎖を春三の方に向かってふるって行く

 

だが、春三はそれを

槍を振るうことで何と細切れにして見せた

 

「刮目せよ!

 

 これが俺様の伝説だ!!」

 

そう言って背中からなにやら長い

垂れ流しのような翼を左側から伸ばし

 

それによって、素早い動きを繰り出していく

 

「はああああ!!!!」

 

春三が槍を振るうと

穢れの頑丈な体をなんと

いともたやすく切り裂いていく

 

「マジかよ…」

 

自分達では打ち破れず

口の中や目など装甲に覆われていない

部分を攻撃することでしかダメージを与えられなかった

敵の身体をいともたやすく切り裂いて見せた春三の一撃に

 

呆気に取られて行く一同

 

「まだまだ終わりじゃないぞ!」

 

そう言って春三は大きく上に飛び上がり

その勢いを使って、再び攻撃を仕掛けていく

 

ギャアアアア!!!!

 

余りのことに怪物の方も

悲鳴に近い遠吠えをあげていくが

 

穢れの方も子のまま黙って

やられているつもりもないと考えたのか

 

自信の背中から生えている

悪魔のような、すなわち蝙蝠の翼のような翼を広げ

 

その勢いで、春三の方へと齧りつかんと向かって行く

 

「自分の方から弱点をさらしてくれるとはな‥‥

 

 やっぱり畜生は単純でいいな!」

 

そう言って翼を轟かせて

勢いよく突っ込んでいき、穢れの

口の中へと自ら飛び込んでいった

 

春三が口の中へと突入したと同時に

 

「おおおおりゃああああ!!!!!!!!」

 

春三は強化された槍を振るって

穢れを上顎と下顎、この二つに分けるように

 

穢れを真っ二つにして見せたのだった

 

ガアアアア!!!!

 

穢れはその悲鳴とともに

斬られた部分から勢いよく黒いオーラを

まるで血のように噴き出していきながら

地面に伏せるようにして崩れ落ちていき

 

べったりと地面についたと同時に

爆発するように黒いオーラとなって霧散し

 

消滅するのであった

 

「ふう‥‥

 

 まさかここまで、穢れの力が

 大きくなってきているとはな‥‥」

 

そう言って穢れの消滅を確認した春三は

急いで勇者達と一たち一同のもとに戻っていった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「七誠さん‥‥七誠さん!」

 

穢れが完全に消滅したのと同時に

急いで七誠が倒れた場所に向かって行く

 

「あ、おい杏!」

 

それに気づいた球子も

杏を追いかけるようにして向かって行く

 

二人がそこで見たのは

 

「やれやれ‥‥

 

 相も変わらず、頑丈なやつだ‥‥」

 

槍を肩に置いて

呆れるようにつぶやく春三と

 

「運がよかっただけだよ

 

 致命傷は負いましたけれど

 即死じゃなかったおかげで

 どうにか峠は越せたよ、ふう‥‥」

 

倒れて動けなさそうながらも

いつものような調子で話しをしている七誠がいた

 

「な‥‥なせ…いさん‥‥…?

 

 無事‥‥何ですか…?」

 

杏がおそるおそる話しかけていく

 

「うん‥‥?

 

 ああ、杏ちゃん‥‥

 

 そっちの方も終わったみたいでよかった‥‥

 

 これで改めて、この世界でのお役目も終わりだね‥‥」

 

七誠が笑みを浮かべてそう言うと

杏はなみだをじわじわと浮かべていく

 

「何が‥‥何が大丈夫ですか…

 

 七誠が目の前で身体を撃ちぬかれて

 本当に‥‥本当に心配したんですからね…

 

 もうこんな事、絶対にしないでください!」

 

泣きながら起こった口調で七誠にいい放つ杏

 

七誠のことを本当に心配していたことは

彼女の様子を見ても明らかであり、七誠はそれを見て

 

驚きと申し訳なさ、その二つの感情がやや渦巻いていた

 

「…ごめんね‥‥心配かけちゃって‥‥

 

 約束するよ…杏ちゃんをもう

 悲しい気持ちになんてさせないから‥‥

 

 だから笑って…僕は笑顔の方が好きだから‥‥」

 

そう言って杏の涙を指で拭ってやる七誠

 

「もう‥‥そんなのじゃごまかされませんからね…」

 

杏はそう言いながらも、笑顔を浮かべていた

 

「まったく、女を泣かせるなんて罪な男だな七誠…

 

 おまけにそれが杏、これはごんごどーだんだな?」

 

そう言って杏の背後からぬっとあらわれる球子

 

「こ~れ~はぁ~…

 

 責任を取らないとだめなやつだぞ七誠」

 

「あ、あははは‥‥

 

 そ、そのことについてはまた帰ってからに‥‥」

 

「もんどーむよー!

 

 タマの杏を泣かせた罪は重い!

 

 というわけで、還ったらうどんを驕りタマえ!!

 

 一番高い奴の特盛で!」

 

そう言って涎たらしながら七誠に迫っていく球子

 

「…はあ、分かったよ‥‥

 

 好きなのをおごってあげるから

 杏ちゃんも、それでいいかな?」

 

「むー‥‥タマっち先輩!

 

 私の剣にかこつけて

 帰りのうどんをおごってほしいだけでしょ!?」

 

「んな!?

 

 違うぞ、別にこの間新しいアウトドア用品を買って

 お小遣いがほとんどなくなってそれで金欠気味になっているからって

 

 七誠におごってもらおうとか全然考えていないぞ」

 

「いやそれ、考えている人が言うセリフ‥」

 

慌てて本音鵜をぶちまけてしまう球子に

呆れの視線を向けていく令と杏であった

 

「はあ‥‥

 

 ちゃんとお前の能力について

 話しておかなかったお前の責任だ‥‥

 

 驕るくらいしてやれ」

 

「…ははは‥‥

 

 どうせだったらみんなで行こうか?

 

 心配をかけてしまったのは、みんなにもだし

 誰かを仲間外れにしていくのもちょっと気が引けるしね」

 

「やったー!」

 

「ごちそうになります」

 

「私は‥‥沖縄そばがいいです…」

 

「うーん、さすがにそれは難しいかな‥‥

 

 うどんとお蕎麦を両方食べられる

 お店に連れていくから、それで勘弁‥‥」

 

「まあ、沖縄そばなんてそんなピンポイントなメニュー

 

 このあたりには売っていないでしょうしね‥」

 

こうして、なんやかんやで全員に

うどん(一人だけそば)を奢ることになった七誠であった

 

「そ、それと七誠さん…

 

 わたしからも一つ、約束してください…」

 

その道中に杏の方から話しかけてきた

 

「約束…?」

 

「私は、真鈴先輩に誘われて

 この連盟に誘われるまでは…

 

 私は体の弱さを言い訳に

 何もかもを投げ出していたのかもしれません…

 

 生きる希望もなくて

 誰とも一緒に遊べない…

 本を読んでいるだけの日常…

 

 そんな日常に光をともして

 わたしに生きる活気を与えてくださったのは…

 

 紛れもなく七誠さんなんです…

 

 七誠さんと出会ってその人柄に触れて

 私も七誠さんみたいな誰かをまもれる人に…

 

 勇者になりたい、そう思えたんです…

 

 私にとって七誠さんは誰よりも

 強くって優しい英雄なんです、だから…

 

 だからお願いです

 自分の命もしっかり守ってください…

 

 もしも‥‥もしも七誠さんがいなくなったら…私‥‥…」

 

杏はそこまで言うと、段々と瞳を涙で潤ませていく

 

七誠はそれを見て、瞳を大きく見開いていたが

暫くするとその表情が悲哀的なものになる

 

「…ごめんね‥‥

 

 僕、杏ちゃんのことを

 しんぱいさせてしまったのに‥‥

 

 それに気づけなくって‥‥」

 

七誠はそこまで言うと

杏の頭にそっと手を優しく置いた

 

[七誠さん…」

 

「約束するよ‥‥

 

 僕はもう、自分の命を

 危険にさらすようなことはしないよ‥‥

 

 皆のことも、僕自身のことも守って見せるから‥‥」

 

そう言って、七誠と杏の間に何か

特別なつながりができたのを互いに感じていた

 

一方

 

「なんだなんだ、杏ぅ~…

 

 頭なでられて優しく話しかけられて

 おまけに顔まで赤くするなんて、タマはジェラシーだぞ?」

 

「た、タマっち先輩!

 

 別にそういうつもりじゃ…」

 

なにやらにやけ顔で話しかけていく球子に

杏は顔を真っ赤にして慌てて否定していく

 

「おうおうおう、ななせー…

 

 うちの杏に手を出すんだったら

 それなりの覚悟をもって挑んでもらうぞ?」

 

「あっはっはっはっ‥‥

 

 うどんのほかに好きなの

 もう一品追加してあげるから

 それで手打ちにしてもらえないかな?」

 

「ようし、それじゃあ…

 

 手打ちにかけて

 手打ちそばで手を打ってやろう」

 

球子と七誠はそんなやり取りをしているのを見て

ほかの者達はどこか微笑ましそうに見つめていた

 

「春三さん‥

 

 ああいうのっていいですよね」

 

「‥‥そうだな‥‥

 

 お前達には申し訳ないが

 俺様達は戦いの場以外ではほとんど関わらないからな‥‥」

 

「でしたら、機会があれば

 みなさんと私たちでの交流会も兼ねた

 

 イベントの様なものでも開いてみましょう…

 

 私たちも皆さんもこれから一緒に

 闘うことになる以上、お互いのことを知るのは

 

 大事なことだと思いますし…」

 

美南が提案をしていく

 

「なるほど‥‥

 

 提案としては悪くないな…

 

 しかし、全員を集めるのは

 まず無理だろうし、戦いの後の勇者の都合も

 考えるとやはりスケジュールに余裕のある奴を

 優先することになるが、まあそれも問題ないだろう‥‥」

 

「ありがとうございます…

 

 さてと、それじゃあうどんを食べに行きますか」

 

そう言っても都の世界に戻っていく英雄と勇者達であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その後

 

「先生‥‥先生…!」

 

一は、いまだに意識の戻らぬ師に

必死に呼びかけ続けていく、すると

 

「う‥‥うううう‥‥」

 

手がわずかにピクリと動き

瞼をやや動かしつつ、目を覚ましていく藍助

 

「師匠‥‥師匠!

 

 よかったです…」

 

「一‥‥?

 

 俺は一体どうなって‥‥」

 

藍助は自分の傍にいた藍助に

事の顛末を聞くと、一はこう答えた

 

「‥‥英雄と勇者の皆さんが

 師匠の命を救ってくれたんですよ…」

 

彼はただ、そう答えたのだという

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、この伝説は幾百年の時がたっても

清滝一門において語り継がれて行くのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




伝説の始まり‥‥‥‥‥‥‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間;勇者達へのねぎらい

戦いの後‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界に向かって

そこに現れた穢れを討伐し

 

無事に元の世界に戻ってきた一同

 

しかし、その過程の際に敵の攻撃を受けて

負傷してしまった七誠だったが、無事に一命をとりとめた

 

だが、それがきっかけで勇者達に多大な心配を

勝ててしまったことそのお詫びとして、七誠は

今回戦った勇者達に心配させたお詫びと頑張ったねぎらいも込めて

 

全員の共通の鉱物であるうどんを奢ることになったのであった

 

「しっかしよく食べるねみんな‥‥

 

 さっすが成長期だね」

 

「フフン…

 

 そうだろそうだろ?

 

 これからのタマたちの成長に

 遠慮くなく期待してくれタマえ」

 

「もうタマっち先輩は

 

 それにしても、全員分のうどんを

 奢っていただいて本当にすいません」

 

杏はそう言って、お礼の言葉を口にしていく

 

「いいっていいって‥‥

 

 今回の件で、みんなには心配かけちゃったし

 それに今回もみんな頑張ってくれたんだしね‥‥

 

 遠慮しないで食べてくれてかまわないからね」

 

「今度ごちそうになるときは

 沖縄そばを奢ってほしい…」

 

「棗ちゃん、それはいくら何でも失礼だよ…

 

 せっかく奢ってもらっているのに、文句なんて言っちゃ…」

 

次のメニューを催促する棗に

帆波は呆れたようにして彼女を叱る

 

「フフフ‥‥

 

 こんど余裕があるときにね」

 

七誠はそう言って棗の注文に笑顔で返す

 

「う~ん…

 

 やっぱり戦った後のうどんは各別だな~」

 

「もう、タマっち先輩ったら…

 

 でもこうやってみんなで一緒に

 わいわい騒ぎながら食べるのも

 

 やっぱり楽しいな…」

 

球子のやや親父臭い言葉に突っ込みながらも

こうして大勢とわいわいしながら食べるのも悪くない

 

杏はそう感じていた

 

「‥‥それに…七誠さんとも

 ちょっと仲が深まった気もするし…

 

 あの時から言いたかった言葉も言えた…

 

 私もこれで満足かな」

 

そうつぶやきながら杏は七誠の方を見つめる杏

 

 

杏がこういったのにはもちろん

彼女なりの気がかりもあった、それは

 

七誠がどこか、自分の命を投げ槍にしている

そんな部分があったように杏はいつも感じていた

 

杏は病気がちであったためによく本を読んでいたおかげで

其れなりに知識があり、同時にいつも外で遊んでいる子達

その者達の様子をいつも見ていたのでそれなりに観察眼があった

 

球子と仲良くなったのもその観察眼で

一見すると無鉄砲だが他人を気遣える優しい性格だと

一目で見抜いて見せたし、自分を勇者賭して見定めた真鈴の話も

 

彼女のことを理解できていたから信じることが出来た

 

七誠のその本質に気づけたのも、この観察のおかげである

 

彼と最初に出会った印象は優しくって人当たりの良い

雰囲気どおりにとっても優しい性格をしている人物だったが

 

勇者として戦い始めてからしばらくして

彼の本質に気づき始めていくことになる

 

彼はどこか、自分の命を投げ出している自己犠牲的な人物だと

 

杏はそれを知ってから、ずっと彼のそんな部分をどうにかしたい

 

そう思っていたのだ

 

だが、お役目の最中でしか彼と会うことはほとんどなく

お役目の方も下手をすれば命に係わるものなのだ、とても

 

そんな余裕はない

 

何度も何度もしっかり話をしていこうと思っていたが

その機会に恵まれていく事はほとんどなかったのだ

 

だが、今回のことが転機になり、彼にしっかりと

伝えたいことも伝えることが出来たので、杏としても安心した

 

七誠は杏にとっては今まで憧れていた外の世界に

踏み出す勇気を生み出すきっかけをくれた人なのだ

 

その彼の身に何かが起こってしまったとなれば

杏としても、勿論、気が気ではない、それに彼は

他人を思いやれる優しい人なのだ、そこに漬け込む形に

なってしまったのは正直に言ってしまうと気が引けてしまうが

 

其れでもしっかり彼と一つの約束を交わした

 

’もう、自分の命を投げ出すようなことはしないで‘と

 

 

「‥‥七誠さん…」

 

「うん‥‥?」

 

杏は意を決する様に言う

 

「これからも‥‥その…

 

 よろしくお願いします」

 

杏はそう言って微笑みながら呟く

それを聞いた七誠は少し表情を曇らせていくが

 

すぐにそれを笑みにかえて返していく

 

「うん、こちらこそよろしくね…杏ちゃん」

 

そう言って笑みを浮かべて言う七誠

 

杏もそれを見て、嬉しそうに頬を染める

 

すると

 

「おいおい、何を見つめ合ってるんだ二人共ぉ~?

 

 ずいぶんと仲がよろしくっていいじゃないか」

 

球子が何やらいたずらっ子な笑みを浮かべて

二人の間に割って入るようにからかい交じりで言う

 

「た、タマっち先輩!?

 

 ちょっと、一体何なの!?」

 

「ふっふ~っ

 

 うどんを食い終わったからな

 次は手打ちそばをもらおうと思ってな~?

 

 おう、七誠、忘れてないよな?」

 

「う、うん‥‥

 

 それは良いんだけれども‥‥

 

 っていうか奢ったうどん特盛だよ!?

 

 そのうえでまだお蕎麦食べるの!?」

 

「もちろんだ!

 

 何しろ今回もタマは大活躍だったんだからな

 本当にすっごく腹が減っているんだよ、いいだろ?」

 

「フフフ、はいはい‥‥」

 

そんな騒がしい日々はゆっくりと過ぎていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにここにいる面々はかつてないほど

大きな戦いに赴くことになるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




すごしていく日々‥‥‥‥‥‥‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜骨座 第η話 穢れの異変

緊急事態


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所

 

そこでは何人かの人影が集まっていた

 

そこにいた何人かの人物は

得な話鵜をしている様子はなく

 

ただそこにいただけだったのだが

その近くに一人の人物が飛び降りてくると

その一団のもとに歩くようにしてやってくる

 

「‥‥きましたね‥‥

 

 お待ちしていましたよ」

 

その人物が来るのを待っていたように

ひとりの人物は丁寧な口調で話しをしていく

 

「ああ、とはいってもこれと言って

 目新しい情報は入っていないけれどな…

 

 情報自体はいつも通りだが

 あいつ等の方の動きはだんだんと活発になってきていやがる…

 

 これはもういよいよ、何とかした方がいいのかもしれねえ」

 

そう言って、やってきた人物はそう言って話しをしていく

 

「…なるほど…

 

 いよいよ私たちの方も動き出した方が

 良いのかもしれまないわね、今までは

 奴らの行動を見据えていくために、目立つ行動は

 避け続けていたけれど、いよいよそれも苦しくなってきたってことね…」

 

そう言ってもう一人の人物も話しをしていく

 

「それでどうするつもりだ?

 

 月夜美さん?」

 

そう言うと、二人の人物は

まとめ役のような人物の方を見て言う

 

「‥‥兄さんの方針はあくまで変わりません…

 

 ですが、もしも不測の事態に陥る事があれば

 その時は対応の方を許可していますよ、ようは

 それだけです、とりあえず涼子さんは引き続き

 英雄達と勇者達の動向の方に目を見張らせてください‥‥」

 

そう言って話しかけられた、少女の方は

了解、と一言告げるとその場から飛び上がって

 

そのまま去っていくのであった

 

「‥‥真紀子さん‥‥

 

 現在いる星座宮の御巫女子たちの中で

 動けるものに次なる世界の攻略の方を進めてください‥‥」

 

「了解です、それでしたら

 彼女の方に行かせましょう…

 

 彼女の力なら、問題なく攻略の方を勧められるでしょう…」

 

そう言って残った方のもう一人の人物は

まとめ役の人物の方にそうつぶやかせていく

 

「ふむ‥‥

 

 いきなり彼女を

 行かせる、と言う事で?

 

 大丈夫なのですか?」

 

「ええ、寧ろ彼女の方も

 有り余る力を振るいたいと思っているはず…

 

 それでしたら、思う存分行かせてあげましょう…」

 

そう言って自分に任せてほしいといわんばかりに言う人物に

 

「‥‥では、お任せしましたよ真紀子さん‥‥

 

 くれぐれも、何事もないようにお願いします」

 

「了解」

 

そう言って集まりは解散となるのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

集会室

 

そこに再び、少女達が集められている

 

そこに集められている少女は五人

 

烏座の勇者 土居 球子

 

三等級勇者

 

 

髪の毛座の勇者 伊予島 杏

 

四等級勇者

 

 

カメレオン座の勇者 古波蔵 棗

 

四等級勇者

 

 

帆座の勇者 尾崎 帆波

 

二等級勇者

 

前回の時と同じメンバー、違うのは

 

「ふう、とりあえずは集まったようね…」

 

ケンタウルス座の勇者 漆間 恵子

 

一等級勇者

 

 

彼女が加わっているという事である

また、猟犬座の勇者である犬山 令がいない事

 

前回と違うのは、そう言った部分である

 

「ようし、集まったようだな‥‥

 

 前回奮闘したお前達には悪いが

 すぐにでもとある異世界に行ってもらいたい‥‥」

 

「おいおい、ちょっと待てよ!

 

 恵子はともかく、タマたちは

 前回奮闘したんだぞ、確かタマたちは

 出撃が出たその次の日最低一日は休めるって聞いたぞ!?

 

 休みじゃないのか?」

 

「‥‥逆を言えば、奏せざるを得ないほどの事態が

 その異世界に起こっている、そういう事ですね…」

 

杏の言葉に春三は少し渋い表情を浮かべながら頷く

 

「‥‥実は、その異世界において

 正体不明の穢れが発生したんだ‥‥

 

 浸食の方も早く、草々に対策を講じている‥‥

 

 七誠と明が先に向かって、攻略を進めている‥‥」

 

「七誠が…」

 

「ってことはもうすでに戦闘は始まっているってこと!?」

 

帆波の言葉を聞いて、春三はこれまた頷く

 

「現在向こうでは、お前たちのほかに

 もうひとチームを送っているんだが‥‥

 

 報告によると、どうにも状況が芳しくない様子でな‥‥

 

 おまけにほかのチームも、出撃してしまって

 実質お手上げの状態であると言う事だ、こんな事態は

 正直に言って完全に想定外だ、くっ、俺様としたことが‥‥」

 

春三は焦りからか机に思いっきり拳を叩きつける

 

「‥‥春三さん…

 

 任せてください…

 

 どこまでできるのかは

 分かりませんが、それでも

 できる限りのことはやってみます」

 

「‥‥恵子‥‥

 

 すまない‥‥本来だったら

 お前達を戦わせること自体‥‥

 

 為してはいけないことだというのに‥‥」

 

春三はそう言って申し訳なさそうに言う

 

「何だよ春三、尊大なお前らしくない言い方だな

 ちょっと意外な一面をみれたから、5タマポイントを贈呈しよう

 

 だから、タマたちに任せておけ

 元々タマたちは其れも踏まえて、ここにいるんだからな…」

 

「そうですよ、穢れが侵食することは

 すなわちその世界に危機が迫っていると言う事…

 

 それなのに暢気に休んでなんていられませんよ」

 

「休める時は休む…

 

 だから心配はいらない」

 

「ですから、安心してください」

 

少女達の決意は固いようであり

それを見た恵子は春三の方を見て言う

 

「ね、みんなやる気になってくれているみたいだし

 

 ここは任せて貰っていいんじゃない?

 

 いざっていうときは一等級勇者である

 私の方が何とかして見せるから、ね?」

 

「‥‥すまない‥‥

 

 俺様も行けるならすぐに行く‥‥」

 

そう言って春三の声とともに

五人の少女達は、異世界に旅立っていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「きゃああああ!!!」

 

ひとりの少女が、怪物に追われて悲鳴を上げていた

その後ろからはボロボロの布をフードのように羽織った人型

 

下半身はなく変わりに、背骨を思わせる尾の様なものが延びている

 

その異形の存在が所々に現れ

少女やそこにいる人々に襲い掛かっている

 

ガアアアア!!!!

 

「た‥‥誰か…助けて‥‥…

 

 誰かああああ!!!」

 

少女がそう叫んだとほぼ同時に

怪物の身体に幾つもの一閃が入っていき

 

怪物はずたずたに引き裂かれ

やがて黒いオーラのようになって爆発する様に霧散する

 

それと同時に少女の目の前に一人の少女がおり立っていく

 

「大丈夫?

 

 けがはない?」

 

「え、あはい…

 

 ありがとうございます…

 

 あの‥‥貴方は…?」

 

少女は七誠に名前を尋ねる

 

「名乗るほどの者じゃないよ‥‥

 

 それよりも早くここから離れて

 怪物はまだまだくるからね、急いで!」

 

「あ、はい!」

 

そう言って七誠は少女を急いでその場から逃がす

やがて彼の近くには何匹もの怪物たちが現れていく

 

「明ちゃん、そっちの方はどう?」

 

七誠は端末越しに連絡を取っていくと

 

「こっちもちょっちまずいかも…

 

 さすがに圧されてきてね…」

 

そう言って武器である太刀ほどの大きさのある

武器である鉤爪を構えながら、通信している少女

 

大熊座の勇者 隈井 明

 

二等級勇者

 

 

だが、そんな彼女でも苦戦を強いられるほど

この異世界での敵の増殖は並のものではなかった

 

「(まずい…一体一体は大したことは無いけれども

  いかんせん数も多いうえにさらにどんどんと増えてきてる…

 

  これ以上戦ってたら、先にこっちの戦いの方が尽きちゃう…

 

  最悪…いいや、それは考えるな今はひたすらに目の前の敵を…)」

 

そう言って武器である鉤爪を見せつけるように広げつつ構えていく明

 

目のまえにいる複数の怪物たちはそんな明にさらに一斉に向かっていく

 

明も武器である鉤爪をふるい

そこから、さらに斬撃を放って応戦していくが

明の攻撃の手数の方も徐々に看破されて行ってしまう

 

「(ここまでか…)」

 

だめだと悟って両腕で自分を守るように構えていく明

 

だが、そこに

 

明に襲い来る怪物に向かって

何発もの矢が打ち付けられていき

 

怪物は矢が突き刺さった部分から

真っ黒いオーラを煙のように噴き出していき

 

爆発する様に消滅していく

 

「救援に来ました!」

 

「ひええ~、これは予想以上に広がってんな…

 

 ようし、ここはタマに任せタマえぇ…」

 

「球子、さっそく無鉄砲につっこんで行かないの

 

 それじゃあ、みんなでそれぞれ二人ずつ

 討伐に当たって行きましょう、球子と杏

 棗と帆波でいって貰うよ、それと明はまだいける?

 

 行けるんだったら、わたしと一緒に行ってもらいたいんだけれど」

 

「オーケー!

 

 消耗してるけど闘えない程じゃないから

 いっしょに言ってくれるなら、問題はないわ」

 

そう言って、それぞれが分かれて

その世界にある街にはびこっている

怪物たちの討伐に向かって行くのであった

 

「おっしゃ!

 

 杏はタマの後ろにいろ!!

 

 先陣はタマが行かせてもらうぞ!!!」

 

「お願い、タマっち先輩!」

 

そうして、二人は自分達に

襲い掛かっていく怪物たちに挑んでいく

 

球子は武器である旋刃盤をふるって行き

それで迫ってくる怪物たちに一撃を食らわせていく

 

それである程度は倒しきれていはいるものの

球子の武器の特性上、ダメージが思っている以上に

はいっていないものや、攻撃が入る前に迫ってくるやつらもいる

 

「はああああ!!!」

 

その怪物を的確に撃ちぬいていく杏

おまけに矢は金属性の力によって生成しており

矢の中には相手の体の中に入ると同時に爆発したり

内側から被毒させて相手を弱らせたりと様々な応用を聞かせていく

 

「おお、すごいぞ杏」

 

「あの戦いの後、必死な思いで勉強してきたからね!」

 

そう言って確実的に攻撃を仕掛けていく二人

 

「私達も負けていられないね!」

 

「ああ‥‥私たちも…やる‥‥…」

 

帆波と棗はそれぞれの方から攻撃を仕掛けていく

 

帆波は武器である棍をふるって

怪物たちを打ち付けてはそれをほかの怪物とぶつけたり

 

さらには、後ろにたなびかせているマフラー状の外套を

振るって、攻撃手段に使い、広範囲に攻撃を仕掛けていく

 

棗の方は双節棍を巧みに振るって向かって行く

 

振るっている方の棍棒部分を振るい

向かってくる怪物たちに攻撃を仕掛けていく

 

その一撃一撃派非常に強力で

怪物たちを次々と撃破していくのであった

 

「まったくもう…

 

 皆突っ張りすぎなんだから…

 

 まあ、私の方も突っ走っていくつもりなんだけれどね!」

 

そう言って今回のリーダーである恵子は

武器である槍を振るって行き、その槍に風と雷

その二つを同時に纏わせていき、それで小さいながらも

嵐をひきおこしていき、怪物たちを次々と撃破していく

 

「ふう…

 

 五人が加わってくれたおかげで

 何とか敵の勢いがそがれていっているわね…

 

 このまま一気に押し切っていくよ!」

 

そう言って明の方も武器である

刀のように長く、鋭い爪を構えていき

 

右手に風を、左手に雷を纏っていき

それで怪物たちに攻撃をしかけていく

 

最初の時は疲労が見え隠れしていた明だったが

救援である恵子たちが来てくれたおかげで余裕が生まれたようで

 

動きにキレが戻り始めていった

 

しかし、怪物たちの方も次々と倒されて行くものの

数が一向に減っていく気配がせずに、次第に圧され気味になっていく

 

「はあ‥はあ…はあ‥…

 

 おいおい‥いくら何でも…

 

 どんどん増えすぎてきてねえか?」

 

「確かに、もうそろそろきつくなってきたかも…」

 

次々と倒さてきているはずなのにそれでもなお

現れ続けてきている、この状況に疲れが出始めて行く

 

すると

 

「うう…

 

 さすがにこれ以上は…」

 

「帆波‥‥しっかり…」

 

弱音を吐き始める帆波に

棗が声をかけていくのだが

 

彼女の方も声を出さないまでも

疲労の方が見え隠れしていく、やがて

 

「ぐう…

 

 なんなのよこの状況…

 

 いくら何でもこんなに大規模な攻略

 今までにはなかったわよ、ただでさえ球子たちは

 前回の任務明けの疲れだって抜けきっていないのに…」

 

恵子の方も球子たちの事情を理解している分

それこそより一層に焦りが見え始めていく、やがて

 

「ぐう…」

 

もう、ここまでか、と誰もが思った、その時

 

「はああああ!!!」

 

そこに突然声が響いていき

一同の前に迫ってくる大群を撃退していくのは

 

「ふう‥‥何とか間に合った…」

 

「っ!?

 

 あ、あなたは!?」

 

ボロボロの布をフードのように羽織り

その手に三節棍を構えた、一人の人物であった

 

「志さん!」

 

「志…?

 

 いったい誰だ?」

 

「タマっち先輩!

 

 恵子先輩や美南先輩達とおなじ一等級勇者で

 春組の勇者の面々の実質上のリーダーだよ!」

 

帆波がその人物の名前を口にするが

理解がおいつかないようで球子に、杏が説明していく

 

「志さん…

 

 ごめんなさい…

 

 わざわざお手を煩わせてしまって…」

 

「ううん、私の方こそ…

 

 遅れてきてしまってごめんなさい…

 

 でも、来た以上はしっかりと務めを果たすよ!」

 

竜骨座の勇者 骨宮 志

 

一等級勇者

 

 

彼女もまた、救援に駆け付けてきたようだ

 

「みんな!

 

 ここに来るまでに多くの敵と

 この怪物の発信源の場所を確認してきた!!

 

 この先の港にある海岸沿いに不自然なほどに

 大きな船の骨組みがあった、それが本体よ!!!」

 

「つまり‥‥そいつをどうにかすれば…」

 

志の説明を聞いて武器を構えなおしていく棗だが

 

「話は最後まで聞いて!

 

 いい、ここに来るまでに怪物たちは

 あらかた倒してきたとはいえ、それでも

 敵の数の方が圧倒的なのは明か、だから…

 

 進撃していくのではなく、進行を食い止める方に

 作戦を切り替えていくわ、みんなだってつかれているでしょ?」

 

「そ、それはそうだが…

 

 だからってどうしたら…」

 

志は棗を制止し、一同に呼びかけていく

志の言う事は理解できるものの、どうしたら

いいのかと球子は聞いていく、それにたいして

 

「問題ないわ!

 

 それについては、しっかりと

 あの人がやってくれるから!!」

 

志がそう言うと、怪物たちの軍勢を

一人の男が飛び越えてくると、そこから

 

「はあああああ!!」

 

怪物たちの軍勢を次々と切り伏せていき

さらに切り伏せた怪物をほかの怪物にぶつけ

 

それで、ほかの怪物たちの進行を食い止めていく

 

「あの人は…?」

 

杏は突然現れた、謎の人物を見て警戒する

 

その人物は一同の前にまで滑り込むようにして

そこまでやってくると、一同の方にまで駆け寄っていく

 

「どうやら無事の様だな‥

 

 まったく春三の奴

 いきなりやっかいな件を押し付けて来やがって‥」

 

春光のことを愚痴るようにして言うその人物

 

「春三さんのことを知っている…?

 

 お前‥何者だ…返答次第ではタマは容赦しないぞ?」

 

「馬鹿!

 

 この人は英雄よ!!」

 

武器である旋刃盤を構える球子を

慌てた様子で止めていく恵子、さらに

彼女だけではなく、帆波と棗、志も知っているようだ

 

「ああ、二人とは会うのは初めてか…‥俺は‥

 

 偽十字の英雄

 

 十字為 似非‥

 

 

 今回のお役目のために緊急で駆け付けたんだ

 改めてよろしくな、烏座の英雄ちゃんと髪の毛座の英雄ちゃん」

 

そう言って男性、似非はフードを取って自己紹介をしていた

 

「ま、マジなのか…?

 

 っていうか、訓練受けてた時でも

 見た覚えないけれど、ほんとに英雄か?」

 

「まあ、疑われるのも無理はないがな‥

 

 まあ、ほんとに英雄なのかどうかは

 あいつに直接聞いてみればいいってこったな」

 

似非はそう言って後ろの方を見ると

その場所に一つの影がおり立ってきた

 

「あ、杏ちゃんに球子ちゃん

 それにみんなも来たのか、というより

 皆前回の任務からそう立っていないのに大丈夫なの?」

 

「七誠さん!

 

 あれ‥‥そちらの抱えている人たちは?」

 

その場におり立ってきた七誠は

両脇に二人の人物を抱えていたのであった

 

それは

 

「棗さん…

 

 ごめんなさい

 任務が明けたばっかりだったのに…」

 

飛魚座の勇者 都彦 十和子

 

四等級勇者

 

 

「球子か…

 

 まさかあんたが来てくれるなんてね…」

 

蠅座の勇者 腐肉 晴子

 

三等級勇者

 

 

それぞれであった

 

「十和子…」

 

「お前、晴子じゃないか!

 

 っていうか、お前等が

 この世界の担当だったのかよ」

 

顔見知りだったこともあって

驚いた様子を見せている棗と球子

 

「七誠‥

 

 何とか無事に救出したようだな‥」

 

「似非君!?

 

 まさか君がここに来ていたなんて‥‥」

 

似非の姿をみて驚いた様子を見せている七誠

 

「ああ、ここには別の任務できていたんだが

 どうやらとんでもない事態になっているらしいな‥」

 

七誠にそう聞かれ真剣な顔つきでそう口にしていく

 

「とにかく、何とか騒ぎは

 収まったようだから、急いで

 襲われた人たちの安否確認をしよう‥‥

 

 それに、十和子ちゃんと晴子ちゃんの方も心配だし」

 

「そうだね…」

 

怪物の発生が収まってきたので、今のうち

この世界の住人達の安否確認の方を心見んとする一同であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

似非と志が、穢れの発生が

起こっていないかどうかを見ている中で

残る面々はこの世界の住人から事情を聴いている側と

負傷した二人の勇者の安否を見ている側に分かれて行動している

 

「どうですか七誠さん…

 

 お二人の様子は…」

 

「…命に別除はないけれども

 しばらくは絶対安静だね‥‥

 

 応急処置レベルじゃどうしても限界がある‥‥」

 

そう言って病室のベッドで安静にさせている七誠だが

医者ではなくあくまで応急処置レベルしかない彼の技術では

出来ることは限られて行き、それに歯がゆさをかみしめていた七誠

 

「ごめんなさい…七誠さん…」

 

「私たちが上手く戦えていたら…

 

 もっと強かったら…」

 

十和子と晴子はそう言って申し訳なさそうに言う

 

「いいから二人は休んでて‥‥

 

 あとの作業は僕たちが引き受けるから‥‥」

 

そう言って二人の心を少しでも

落ち着かせようと、優しい言葉をかけていく七誠

 

だが、杏にはやはり

七誠がどうにも気にしている傾向が強いと

かんじてならず、彼をじっと見つめていたのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「それにしても、この世界って

 私たちのいた世界とあんまり変わらないだな…」

 

街の安否を確認している球子は

自分達が元居た世界と変わらないこの世界に

やや、驚きと感動をいり交ぜた様子で見つめていた

 

「そりゃ、ここは技術が発展しているからな‥

 

 っていうかお前ら、前にもそう言う異世界で戦ってたんじゃねえのか?」

 

「前の方に比べるとここは都会だから…

 

 驚いていたのはそこ‥」

 

途中で合流した似非がそう聞くと

棗が彼の問いかけに代わりに答えていく

 

「そうか‥

 

 まあそれはともかく

 どうやら見たところ

 何の以上もなさそうで何よりだ‥」

 

「それよりも、似非さん‥‥でしたよね…

 

 先程発生していたあの穢れの大群は

 何やら異常なまでに大量発生していました…

 

 私たちはあとから加勢に来たので

 状況把握に及ばない部分もあります…

 

 可能な限りでいいので教えていただけませんか?」

 

志は真面目な話をしていくと

似非はうーんと考える様な仕草を見せていく

 

「まあ、そうだな‥

 

 俺が知っている範囲で言わせてもらうと‥

 

 今も広がり続けている、実質この世界の

 七割くらいが穢れの進行の影響を受けている‥」

 

似非はそう言ってやや思いつめたように話す

 

「七割って、もうほとんどじゃねないか…

 

 この世界の人達の方は大丈夫なのか?」

 

「あのな、球子‥

 

 世界のおよそ七割は何でおおわれていると思う?」

 

似非はそう言うと、球子はその言葉の意図が分からず首を傾げると

 

「‥‥海。だな…」

 

その問いに代わりに答えたのは、棗であった

 

「そういう事だ‥

 

 この世界のほぼすべてが

 進行を受けているのはこの世界の海が

 穢れの侵攻を受けて、実質どこからでも

 攻撃を仕掛けられる状態にあるからなんだ」

 

「其れであんなにもたくさんの穢れが発生したんですね…」

 

似非の言葉に杏は納得したように首を縦に揺らす

 

「‥‥許さない…!

 

 海は私にとって何よりも愛するもの

 それを穢して、あまつさえこの世界の人達を

 苦しめるために利用するなんて、絶対に許さない…!!」

 

「おお、棗ちゃんが怒っている…」

 

それを聞いた棗はあくまで表面上は変わっていない

だが雰囲気が物語っている、とっても怒っていると

 

 

「似非…

 

 私、絶対に穢れを倒す…!

 

 倒して、必ず海を取り戻す…!!」

 

「お、おう‥

 

 どのみち穢れは倒すつもりだし

 やる気になってくれているのなら何よりだ‥」

 

棗に詰め寄られ少し押され気味になっていく似非だが

穢れを倒したいと言うのは彼も同じなのでやる気になって

くれていること自体は、非常に頼もしく思っているのだった

 

「さてと‥

 

 穢れがまた攻め込んでくる前に

 こっちの方もさっさと進めていかないといけないな‥

 

 人びとの安全を確認しつつ事前に避難を済ませておくんだ」

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

こうして本来の目的である

世界の人々の安否の方に映っていくのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

街の人々に事情を説明し

付近の住人たちに避難の方を促していく

 

そんな折に

 

「あ、あの…」

 

一同のもとに一人の少女が話しかけていた

 

「うん?

 

 どうした‥?」

 

似非はその見た目、高校生のように見えるその少女に

一体何の用なのだと話しかけてると、その少女は恐る恐る話しをしていく

 

「あ、あの‥‥私…

 

 高坂 野乃果、って言います…

 

 先程皆さんがあの怪物たちと

 闘っていたところを見てました

 

 あの‥‥皆さんは先ほど私のことを

 助けていただいた方と、お知り合いですか?」

 

「「「「?」」」」

 

そう言ってお礼を言う少女、野乃果だが

いかんせん少女達は理会が追い付けていない

 

無理もないのだ、何せ彼女たちは

この世界に来ていきなり戦いの中に落ちたのだ

 

もちろん、そこにいる人たちのことは助けたが

その一人一人の顔などいちいち覚えてはいないのだ

 

「えーっと…

 

 両手に長い爪をを伸ばしていて

 背は高い方で、険しい顔つきの女の人…」

 

「…‥ああ、明のことか‥

 

 あいつの事だったら心配すんな

 あいつだったら負傷した仲間の治療に当たってる‥

 

 だからここにはいないがそれでも何にもないから安心しな‥」

 

似非はそう言ってその少女を安心させるように語っていく

 

「よかった…

 

 あ、あの…もしもその人に

 会うことがあったら、ありがとうございますって

 伝えてもらえないでしょうか、私もうそろそろ行かないと…」

 

そう言って野乃果は避難した人たちのいる場所に戻っていくのであった

 

「ああ言ってもらえると、本当にうれしいですよね…」

 

「そうだな、あいつのためにも

 タマたちが早く穢れを倒さないとな…」

 

「ああ…」

 

勇者たちはそう言って決意を固めていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いはまだ始まったばかりである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




勇者達の決意


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜骨座 第ι話 広大な穢れ

向かうべきは穢れの本体…‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして

 

それぞれの活動を終えた

七誠と似非それぞれのチーム

 

勇者たちの方もそれぞれが合流している

 

「さあて‥‥

 

 はっきり言ってこの世界の状況は

 最悪と言ってもいい、穢れはあろうことか

 海全体を乗っ取ることによってこの世界のおよそ70%を侵食し‥‥

 

 さらには地上全土にもさらに大きな活動を開始させている‥‥

 

 一刻も早く本体を叩かないとこの世界は穢れに包み込まれてしまう‥‥

 

 絶対にそれは阻止をしないと‥‥」

 

「もちろん‥‥絶対に海を取り戻す…」

 

七誠が現状報告をした後

棗がいつものテンションながらも

いつも以上にやる気を見せている

 

愛する海が

穢れに犯されては

黙ってはいられないようだ

 

「にゃはははは…

 

 それじゃあまずは

 敵の本体を見つけ出すことに専念しよう…

 

 さっきの穢れの大侵攻のおかげで

 どのあたりにいるのかがわかったしね…」

 

「ああ、実をいうと本体の場所も掴んでいる…

 

 この街の港町において聳えたっている」

 

「そびえ立ってる、ってことは…

 

 今回の穢れは配置系と言う事ですね…

 

 意思がない分逃げ回られたり之心配もないですが…」

 

「うげえ、とはいっても今回はさっきの

 怪物たちが一斉に襲い掛かって来るかもしれない…

 

 要はそういう事だよな、はあ…

 

 タマたちもきゅーじつしゅっきんみたいなものだから

 ちょっと前の戦いの時の疲れもあってへとへとだぞ」

 

球子はそう言ってこれから自分達が対峙する穢れを予想し

これまで以上に激しい戦いになっていくのは明白であり

 

前の戦いから連日ここに来たので疲れがどっと押し寄せていく

 

「ちょっと、だらしないわよ球子」

 

「ううん、球子ちゃんの言う事はもっともだ‥‥

 

 本来だったら球子ちゃん達は休息をとっている

 はずだったのに、ムリを言って来てもらったんだ‥‥

 

 文句を言われても仕方がないさ‥‥」

 

明はそう言って球子に抗議するが

七誠は彼女らの事情も知っているので

この場は収め、勇んで球子の抗議を受ける

 

「まあ、遣るって言った以上…

 

 もちろんやるにはやるぞ…

 

 なによりあの女の子のことも

 しっかり助けてやらないといけないしな…」

 

「あ、そうでした…

 

 七誠さんにある人から言伝です…

 

 助けてくれてありがとうって」

 

杏がそう言って七誠に伝えると

七誠は驚いたように眼を見開いていたが

直ぐに柔らかい笑みを浮かべていき、言う

 

「そっか‥‥

 

 無事でよかった‥‥」

 

七誠は一言そう言った

 

「まあ、感謝されることは悪い事じゃねえが

 とりあえず、対抗策の方を持ち出していくぞ‥

 

 今は落ち着いているとはいえ

 穢れがまたいつまた攻撃を仕掛けて

 くるかわかったもんじゃねえからな」

 

似非がそう言ってやや強引に話しを進めていく

一同もそれはそうだねと考え、本題の方に意識を向けていく

 

「それじゃあ敵の居場所はこの街の港‥‥

 

 そこにある巨大な骨組みの船がそうだ‥‥

 

 これから僕たちはそこに向かうことになるけれど‥‥」

 

「いかんせん、敵が生み出してくる怪物が

 あたりに目を光らせている、あの中を突破するには

 

 陽動と突入に分かれていく必要がある‥

 

 俺が陽動で、七誠が突入を担当する‥

 

 志が陽動にはいってくれ」

 

「領海です」

 

そう言って胸を張って言う心

 

「それじゃあ、明には来てもらうとして

 恵子ちゃんにはもちろんこっちに来てもらうね‥‥

 

 それで帆波ちゃんと球子ちゃんで陽動

 杏ちゃんと棗ちゃんには、突入に来てもらうね‥‥」

 

七誠は勇者達にそれぞれ役割を与えていく

 

「陽動ってことは七誠さんと一緒じゃないんですね…

 

 ううん、これだって七誠さんが任せてくれた

 とっても重要で大事な役割なんだもの、しっかりしないと…」

 

杏はそう言って自分の頬をぺちぺちと叩き

自分のわがままな考えをどうにかして振り切っていく

 

「それじゃあ、さっそく‥‥」

 

「「待って下さい!!」」

 

七誠がいこうと言おうとしたそこに

二人の少女が声をかけて、静止する

 

その少女達はさっきの攻撃を受けて

負傷をして、休んでいたはずの勇者の二人であった

 

「十和子…」

 

「晴子!?

 

 おいおい、何やってるんだよ

 お前らは絶対安静だって言われただろ!?」

 

棗と球子がそれぞれ声をかけて

慌てて二人に休ませるように進めていく

 

「わかってます…

 

 私達が戦いに行ったところで

 何の役にも立てないのは私達自身も理解しています…」

 

「でも、それでも私達は

 勇者として何かできることをしたいんです!

 

 他のみんなが戦っているのに

 黙ってみているだけだなんて…

 

 そんなの嫌なんです!!」

 

そう言って二人は断固として譲らない

 

「あのなあ、今のお前らが出来ることは無い

 

 だから大人しく元の世界にも戻ってろ‥」

 

似非はそう言って冷たく突き放す

 

「でも…」

 

「でもじゃねえ、お前等はけが人何だ‥

 

 けが人はおとなしくしていろ‥」

 

そう言って頭を激しく掻きながら似非は言う

 

すると

 

「そっか‥‥

 

 二人ともこの世界の人達を

 守ってあげたいんだね、それで

 自分達もこの世界の人達のために戦いたい‥‥

 

 そういう事だよね」

 

七誠はそう言って二人の頭を優しく叩いてやる

 

「七誠さん…」

 

「でもね、僕達英雄はね

 この世界はもちろん、そこに住む人たちとおなじくらい

 

 勇者である君たちのことも守ってあげたいんだ‥‥

 

 若しも君達のみに何かがあったら

 悲しい思いをする人たちがいるんだ‥‥

 

 だからね、勇者である君達にはできるだけ

 戦いとは無縁の場所にいてほしいんだ、だから‥‥

 

 二人はゆっくり休んで、しっかりけがを治そう

 

 そうすればこれからもっともっと多くの人の笑顔をまもれるんだ‥‥

 

 だから、二人は一回戻ってしっかり治していこう?」

 

「わかりました…

 

 絶対に戻ってきてくださいね‥‥

 

 七誠さん、みんな…」

 

そう言って二人はおとなしく

待っていることにするのであった

 

「ホント、七誠って意外といい事いうよな?」

 

「意外とってどういう事なの意外とって‥‥」

 

「そうですよ、七誠さんはいつでも

 かっこよくて素敵で誰よりも優しい人なんですから…」

 

似非の失礼すぎる突っ込みに、七誠は抗議する

すると杏が思わず七誠の庇護をしていくのだった

 

「おいおいなんだよ七誠?

 

 まさかと思うがお前

 相手がいるのにもう他の女

 それも勇者に手を出したのか~?」

 

「言い方やめてよ!

 

 そもそもそう言うのじゃないし

 それに、僕の気持ちはあのころから変わってないよ‥‥」

 

似非の冷やかしに対して七誠はやや向きになって否定する

 

「え?

 

 七誠さんには心に決めた相手がいるんですか?」

 

杏は不意にそんなことを聞いてくる

 

「え、あ、うん‥‥

 

 別に隠していた分けじゃないよ

 ただこう言うのは戦いには直接関係があるものじゃないから‥‥」

 

「そうだったんですか…」

 

「杏…」

 

少しざんねんそうな表情を浮かべていく杏を

慰めようと彼女に声をかけようとする球子、しかし

 

「その人は幸せですね

 

 七誠さんみたいな優しい人に

 思われているなんて、私憧れちゃいます…

 

 そんな風な素敵な関係…」

 

「杏ちゃん‥‥」

 

杏はそれでも精一杯に笑顔をつくって七誠に笑みを浮かべていく

 

すると

 

「さて、それじゃあさっそく行くぞ!

 

 敵の方に乗り込んでいくからな

 なるべく早めに行くぞ、全員早く位置につけよ!!」

 

似非がそう言って一同に指示を出していく

 

「じゃあ、いこっか‥‥」

 

「はい」

 

「おう!」

 

そう言って三人は急いで一同の方に向かって行ったのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、志を筆頭に恵子

帆波に棗、球子に最後尾に杏

 

そんな一同の後に引率のように似非と七誠が付いていく

 

「ここが、敵の浸食されているエリアだ…」

 

心がそう言って一同にその光景を見せていく

海はもう生き物が住めるのかどうかも分からないほどに

真っ黒に染まっており、まるで墨汁を流し込んだようである

 

「許せない…

 

 私の愛する海をこんなにも

 穢してしまうなんて、一刻も早く

 敵のもとに行って美しい海を取り戻さないと…」

 

「棗ちゃん、いつになくやる気だね」

 

海が穢れの浸食を受けているのを知って以来

普段通りながらもいつになく真剣な様子を見せていく棗

 

「それで、穢れの本体は一体どこに…?」

 

「そろそろ見えてくるはずだ‥

 

 アレがそうだ」

 

そう言って似非が指をさしたその先に

巨大な骨組みの船がそびえていたのだった

 

大きさは大体五百メートル足らずだろうか

人が見上げていくくらいには巨大であった

 

「うわあ‥例にも漏れず

 でっかい大きさだよな…」

 

球子が素直にその大きさに感心していると

 

突然、一同の端末より警報が鳴り響く

何度も聞いているがそれでもなれない音だ

 

「な、何だ!?

 

 急に警報が鳴りだしたぞ!?」

 

「まさか‥‥!?

 

 みんな、急いで向かおう

 穢れがまた活性化し始めたんだ!」

 

七誠がそう言うと、目のまえに映っていた

巨大な骨組みの船の中から、何かがはい出てきた

 

それはこの世界に来たときに一同が戦った怪物たちであった

 

「まずい!

 

 あのまま怪物を出させたら

 それこそあの人たちはひとたまりもないよ!」

 

「みんな、急いであの大軍をせん滅していくわよ!

 

 アレだけの数がまた町を襲ったら

 それこそ、大変なことになっちゃう!!」

 

恵子と志はそれぞれの武器

槍と三節棍をもって敵に挑まんとする

 

それに合わせて帆波と棗

球子と杏もそれぞれの武器を手に取り

 

勇者としての姿になっていく

 

当然英雄の七誠と似非も臨戦態勢に入っていく

 

「活性化するまでの期間が

 これまで観測された記録よりも全然早い‥

 

 この異世界で穢れが想像以上に力が大きくなっているのか…」

 

「みんな!

 

 絶対にあの怪物たちを町に行かせちゃだめだ!!

 

 大変かもしれないけれども、絶対に阻止するよ!!!」

 

「「「「「「おう!!!!!!」」」」」」

 

そう言って英雄の二人は前を飛び出していき

襲いかかっていく怪物の大群にそれぞれ突っ込んでいく

 

「やあああ!!!!」

 

七誠は武器である刀を構え

それを使って攻撃を仕掛けていく

 

彼は怪物たちの横を素早く通り抜けていき

 

怪物たちを次々と切り伏せていくのであった

 

「おりゃあああああ!!」

 

似非も武器である三叉槍を振るって

それを使って怪物の大群を次々とうち伏せていく

 

それでも怪物たちは似非に集団で襲い掛かっていく

 

すると、似非は槍を素早く持ち替えていき

なんと槍を三節棍にかえて、素早くふるって行き

 

またさらに多くの怪物たちを撃破していく

 

「すげえ!

 

 さっすが七誠だ!!

 

 似非の方は初めて見るけれど

 タマげるくらいに、吃驚だぞ」

 

「タマっち先輩!

 

 私たちの方も続いていこう!!」

 

杏がそう言うと球子もああ、と返事をし

それに合わせてほかの面々もそれぞれの武器を手にしていく

 

「おおりゃあああ!!!!!」

 

球子が武器である旋刃盤を振るい

辺りにいる敵を次々と打ち払って行く

 

近くにいる敵にはもちろん

遠くにいる敵にもワイヤーでつないで

 

それで迫りくる敵を次々となぎ倒していった

 

「はああああ!!!」

 

棗は武器である双節棍をふるって行く

 

双節棍はその構造状、素早い動きで

そこから強力な攻撃力を振るうことが出来るのだ

 

棗は其れを上手く生かしていき

迫ってくる敵をその自慢の攻撃で打ち倒していく

 

「ようし…

 

 はああああ!!!」

 

帆波も武器である棍棒を振るい

辺りにいる敵を一気に叩いていった

 

「さすがね…

 

 ようし、ここは一等級勇者として

 負けられないわね、こっちも行くわ!」

 

そう言って武器である三叉槍を三節棍状に変形させ

それで、辺りにいる敵を次々に払って行き、倒していく

 

「はああああ!!!」

 

恵子は槍に木属性によって発生した

雷を槍に纏わせていき、さらには脚に

同じく木属性によって起こされている風を纏って行き

 

それで、素早く一気に飛び上がっていき

敵の大群に一気に飛びこんでいき、一気にうち伏せていく

 

「すごい…

 

 すっかり属性をものにしてる…

 

 ようし、だったら私も!」

 

そう言って杏は武器であるボウガンを構えると同時に

自身の周りに金属性によって生み出した弾丸をあたりに展開

 

それで一気に敵の大群の方へと撃ち放っていった

 

遠距離でおまけに広範囲のおかげで

敵全体にダメージを与えられている

 

「さすがは杏だな…

 

 ようし、だったらタマも

 族生を使ってみるとするか…

 

 やああ!!!」

 

そう言って左手に戻した旋刃盤を構え

そこから水を旋刃盤から伸びている刃を

伸ばしていくように水を纏わせていく

 

球子の属性は水

 

変幻自在な攻撃を繰り出せる

 

「ん…

 

 私も属性でやってみる…」

 

そう言って棗の方も双節棍を振るって

さらに当たりに地面から伸びた岩が延びて

 

棗はさらにそれを弾丸のように飛ばしていき

敵の大群をさらに広範囲で撃退していくのだった

 

だが、敵の一部が上手くその攻撃を

潜り抜けていって、棗に襲い掛かっていく

 

すると

 

敵の大群は突然、地面に叩きつけられて撃沈する

 

「おお‥‥重力操作…

 

 ダメもとでやってみたら案外できた…」

 

棗は自分でも驚いた省に言う

 

棗の属性は土

 

地面やそれに関連するもの、さらには

物体を地面に引き寄せる力である重力も操れる

 

棗は単純な操作くらいしか扱えなかったものの

これまでの戦いのこともあってついには重力操作の扱いも会得したのであった

 

「ようし、だったら私も…」

 

帆波も身構えていく、武器である棍棒を手に

それを勢いよく振るって、攻撃を仕掛けていく

 

しかし、ただ攻撃しているのではない

 

「やあああ!!!」

 

何と帆波の振るっている棍棒が、その長さを変えて

近くから遠くにいる怪物たちを次々と撃破していった

 

さらには吹っ飛ばした怪物をほかの怪物にぶつけて

さらに多くの怪物たちを撃破していき、彼女はさらに前進する

 

彼女の属性は月

 

月は相手の精神に干渉して

さらには相手にそうだと認識させるもの

 

怪物たちは長く勢いよく振るわれた棍棒を受けて

吹っ飛ばされてぶつけられたと認識しているが、それは

月の光によって映し出された、認識の領域でしかない

 

すなわち、そうだと思いこまされているだけに過ぎない

 

帆波は其れを使って敵を自滅させているのだ

 

「ようし‥‥

 

 何とか町を防衛しつつ

 敵の本体のもとに飛びこもう!

 

 これほど多くの怪物を生み出しているんだ

 いくらこの世界のおよそ七割を侵食しているとはいえ

 

 しばらくすればその勢いも収まっていくだろう‥‥

 

 そこを叩くよ!」

 

「オッケー!

 

 立ったら私が道を切り開く!!」

 

そう言って明が両腕に装備している

太刀のように大きな鉤爪を展開していき

 

片方に雷を、もう片方に風を纏わせていき

攻撃と素早さをさらに勢いよく上げていきつつ

 

迫りくる怪物たちを次々に撃破していく

 

すると

 

「見えた、アレが穢れの本体だ!」

 

そう言って見えてきたのは

情報通りの骨組みの船の形をした建造物

 

すなわち、配置系の汚れだ

 

「ようし…

 

 それじゃあ、タマが先行して

 一気にあいつをぶっ倒してやるぞ!」

 

「ああちょっとタマっち先輩!」

 

そう言って武器を飛ばして

その上に載って一気に先行していく球子

 

作戦も何も待たずに突っ走っていってしまい

杏がそれに声をかけるが、そのまま行かせてしまうと思ったが

 

「おっと!」

 

「ふぎゃん!」

 

そんな球子の独断行動を球子の腕を引っ張って

引き止められてしまう、その引きとめた犯人は

 

「まったく‥‥

 

 球子ちゃんは相変わらず突っ走って言っちゃうんだから‥‥」

 

七誠であった

 

「なーなーせー!!!

 

 これからかっこよく特攻しようと

 思ってたのに、どうして止めてくれたんだよ!」

 

「止めるに決まってるでしょまったく‥‥

 

 いい、行くにしてもしっかりと

 対策をたててから行くの、でないと

 

 この間みたいに杏ちゃんを危険な目に合わせちゃうよ?」

 

七誠にそう言われて球子はハッと思いだす様に眼を見開いた

 

「‥そうだった…

 

 タマのしたことが…」

 

そう言って自身の軽率な行動を悔い改めていくのだった

 

よくよく見てみると、まだまだ怪物たちは生み出されており

それらは付近の町や勇者たちの方へとそれぞれ向かっている

 

「まだ怪物たちが、生み出されて行ってる…」

 

「多分、世界の浸食率か大きい分

 活性化している時間もそれに比例して

 長くそれも大きくなっているのかもしれない…」

 

帆波の呟きに杏はそう推察していく

 

「これはもしかしたら‥‥

 

 ここにいるだけじゃ足りなくなってくるかもね‥‥」

 

「そんな…

 

 他の勇者達だって出払ってるって言うから

 前の戦いから帰ってきたばっかりのタマたちが

 ここに派遣されてきたんだぞ、どうするっていうんだよ!」

 

タマに指摘されて七誠はうんうんと考え込んでいく

 

「七誠さん…

 

 確か穢れが怪物たちを生み出す場所は決まっているんですよね!」

 

「そうだね、竜骨座の配置系ならあの骨組みと骨組みの間‥‥

 

 つまりは隙間から出てきている‥‥」

 

七誠はそこまで言って

杏の狙いが何なのかを瞬時に悟った

 

「…杏ちゃん!」

 

「はい、怪物一体一体を

 まともに相手にしていると

 其れこそこちらの消耗が激しくなります…

 

 ですから、怪物たちの排出口を攻撃すれば…」

 

「しかし‥

 

 普通の船だったらいざ知らず

 あれは骨組みだ、実質全体が排出口だぞ!」

 

似非は杏の思いついた作戦の問題点を指摘する

 

「でも、骨組みだからこそ防ぐことが出来ます…

 

 一つの排出口を広範囲でつぶしていけば…」

 

「…‥なるほど!

 

 他の排出口も芋づる式につぶれていくという事か‥」

 

杏の言葉の意味を瞬時に理解する似非

 

「ようし!

 

 その手で行こう!!

 

 とにかく本体に近づくぞ!!!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

七誠に言われて、勇者達が一斉に敵の方に向かって行く

 

しかし、当然それを阻むために怪物たちも一斉に

七誠と勇者たちの方へと向かって行き、襲い掛かっていく

 

「そんなのじゃ止まらない…!

 

 私の愛する海を取り戻すまでは!!」

 

そう言って棗が先制を仕掛けていく

武器である双節棍を勢いよくふるって行き

 

それで敵の大群を次々と重力の力で一気に押しつぶしていく

 

「みんな…!」

 

「重力操作‥

 

 まさかここまで扱うなんてね…」

 

帆波は感心しながら

他の一同とともひたすらに本体の方へと向かって行く

 

「ぐう…」

 

しかし、重力に干渉するのは相当な負荷がかかり

段々とその操作の方もだんだんと弱くなっていっている

 

怪物たちの方もあくまで押さえつけられているだけなので

若しも重量から解放すればそれこそとんでもないことになる

 

とそこに

 

「棗!

 

 重力操作を止めて!!」

 

「え!?」

 

そこに声が聞こえ、棗はそれを聞いて思わず操作を止める

 

するとそこに

 

「「「やあああ!!!」」」

 

そこに発生した雷を纏った風による一撃が

怪物たちの大群に一斉に炸裂していき、辺りが閃光に包まれる

 

「あ…」

 

すると、重力操作による負荷で

其の場に膝をついてしまう棗の前に

 

三人の勇者が目の前に降り立った

 

「七誠に言われた通り

 棗のフォローに行って正解だったわね!」

 

「ええ、向こうの指揮は七誠と似非がやってくれるから…

 

 しっかし、この場に一等級勇者を集中させていいのかね?」

 

「逆を言えばこっちに集中させたいんじゃない?

 

 怪物たちだって強い相手は警戒するだろうしね…」

 

その人物たちは、明、志、恵子

それぞれ大熊座、竜骨座、ケンタウルス座の勇者

 

彼女らは共通して木属性を持っており

植物に干渉する能力が主だが、さらには

雷と風の力も扱うことが出来るのだ

 

先ほど怪物の群れを一掃したのもその一端

 

さらに三人でその力を合わせたことで

その力を怪物の群れに向かって放つことで

 

一気に大量の敵を打ち果たして見せたのであった

 

「さあて‥‥

 

 それで二人はまだいける?」

 

「うーん…

 

 ちょっとまずいかな?」

 

「だったらその分、私が活躍するよ」

 

そう言って目の前に迫ってくる

敵の大群を見据える三人、さらに

 

「棗…ここからは私達が引き受けるわ!」

 

「棗はしっかりと体を休ませてな」

 

「私達が不味くなったら、その時はよろしく」

 

そう言って三人はそれぞれ怪物の群れに向かって行った

 

「さあて…

 

 ここからは私達が行かせてもらうわよ!」

 

そう言って武器である手甲から太刀にも匹敵する

鉤爪を展開、その内右側に風を左側に雷を纏わせていく

 

右手を振るう事で自身の周りに風を起こして

動きが更に勢いを増していき、さらには左手を大きく振り上げ

 

「はあああ!!!」

 

左手を勢いよく振るい

そこから繰り出される斬撃に雷を乗せ

 

怪物たちを次々と撃破していく

 

「へえ…

 

 伊達に七誠に直接鍛えられているわけじゃないのね…

 

 こっちも一等級勇者として、負けてなんていられないわ!」

 

「おんなじ木属性使いとしてもね…

 

 さあて、それじゃあ行くよ!」

 

そう言って恵子と志はそれぞれの武器を振るって行く

 

恵子は槍の穂先に雷を

柄尻の方に凬を纏わせていく

 

恵子は勢いよく地面を蹴って飛び込んでいき

槍の柄尻の方に纏わせている風を使って勢いをつけて

 

雷を纏った槍による一撃で

怪物の群れを次々と撃退していく

 

「こっちも負けてられないよ!

 

 おらああああ!!!」

 

そう言って心は三節棍を振るって

その両側の棒、三叉槍の穂先が付いた方と

柄頭の方、両方に雷を纏わせていき、さらじ

 

そこから真ん中の柄を通して両方の部分を回していく

 

すると、雷を帯びた竜巻が出来て

それで、敵の大群を勢いよく吹っ飛ばしていく

 

「すごい…」

 

重力操作の反動で体に疲労感を覚えていた棗だが

明、志、恵子三人の猛攻によって見事に敵の大群を蹴散らした

 

「ふう…

 

 ようやく終わり…ってわけでもないね」

 

明がやや苦笑いを浮かべて言う、その視線の先には

向こう側の方からさらに敵の大群が現れていくのが見えた

 

「まったく、こっちだって

 体力ってのがあるんだから…」

 

「無理に全滅させる必要はないよ…

 

 私達の役目はあくまで引き付け役だからね…

 

 七誠さんと似非さ達の方を信じましょう…」

 

そう言って再び構えていく三人

 

「三人とも…

 

 ここからは私も行く…」

 

そう言って棗も構えていく

 

「もう行けるのね…」

 

「正直に言うとつらい…

 

 でも、みんなが頑張っている中

 私だけが見ているだけなのは嫌…

 

 何よりこの戦いは

 私の愛する海を取り戻すための戦い…

 

 海を愛するものとして

 この穢れを放っておけるはずもない…」

 

そう言って武器である双節棍を構えていく

 

「ようし…

 

 そういう事だったら…」

 

「やって見せましょう!

 

 絶対にこの世界をまもりぬくんだから…」

 

そう言って四人は再び向かって行くのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

穢れの本体である

骨組みの船のところに辿り着く一同

 

「これが本体だな‥‥」

 

「ようし、それじゃあここから

 二手に分かれていこう、俺と尾崎で左を‥

 

 七誠と伊予島、土居で右を叩く!

 

 一気に行くぞ!!」

 

「おっしゃ!

 

 それじゃあ張りきっていくぞ!!」

 

そう言って二手に分かれて向かって行く一同

 

七誠は杏と球子を連れて右側の方にまわっていく

 

「杏ちゃん!

 

 上手く狙える?」

 

「やってみます!」

 

七誠二言われ、杏は狙いの怪物たちを

発生させている排出口の枠組みの役割を担って入り

骨組みの部分に狙いを定めていき、武器の連弩を構えていく

 

「やあ!」

 

杏は一撃を見事にうち果たし

それが見事に狙いの場所に命中する

 

杏の狙い通り一つの枠組みが破壊されると

複数の排出口が崩れ落ちていったのたった

 

「ようし、狙い通りだ!」

 

「やりました!」

 

自分の狙いが上手くいって杏も自然に笑みを浮かべていく

 

「ようし!

 

 それじゃあ、タマの方もやってやるぞ~」

 

そう言って武器である旋刃盤を構えていき

それをほかの枠組みに向かって投げるように振るって行く

 

さらに多くの枠組みが破壊されていく

 

「ようし!

 

 これでもう怪物は生み出せない!!」

 

七誠は今だと言わんばかりに

本体の方に攻撃を仕掛けんとしていくが

 

「…っ!?

 

 二人とも気を付けて!」

 

「「っ!?」」

 

七誠が慌てて球子と杏をかかえて

その場から離れていく、すると三人のいた場所に向かって

何やら巨大なものが勢いよく地面に突き立てられたのだった

 

「な、何だ!?」

 

「新手の怪物…?」

 

「…ううん、違う!

 

 これは穢れ自身が攻撃をしているんだ!!」

 

そう、三人の目の前には

なにやら巨大な虫の節足のようなものが延びている

 

よくよく見るとそれは、破壊したはずの骨組みであった

 

ただ、先ほど一同が破壊したものとは別のようである

 

「まさかこんなものを隠しこんでいたとはね‥‥

 

 配置系の穢れがまさか意志をもって自分を守るなんて‥‥

 

 前代未聞だ‥‥」

 

七誠はその目の前の光景に思わず息をのんでいく

 

「そう言えば…

 

 似非さんと帆波さんの方は!?」

 

七誠の言葉に慌てて連絡を入れていく七誠

 

「似非君、そっちはどう!?」

 

『どうじゃねえよ!

 

 こっちは虫の足だか何だか

 分からないのに襲われてんだ

 

 悪いが加勢には行けないぞ!!』

 

通信越しに聞こえる轟音から

向こうも途轍もないほどの戦闘が行われているのが理解できる

 

「…どうやら向こうも同じ攻撃を受けているようだ‥‥」

 

「おいおい、マジかよ…

 

 だったらタマたちも実質

 こいつと闘わなきゃならねえってのかよ!?」

 

そう言って目の前にいる敵の方を見上げていく球子

 

「‥‥でも、もうこの穢れは

 実質、怪物を召喚することはできないはずです…

 

 だったら横の方からいきなり攻撃を仕掛けられていく事はないはず…

 

 タマっち先輩、七誠さん!

 

 私達は目の前のこいつとの戦いに集中しましょう!!」

 

そう言って杏は武器である連弩を構えながら

目のまえから迫ってきている巨大な骨組みで作られた節足に目を向ける

 

「そうだな!

 

 もう怪物が生み出せないなら

 もうこいつに集中するだけでいいんだな!!」

 

「ようし、だったら僕が三つあるうちの二つを

 球子ちゃんはもう一つの方をお願い、杏ちゃんは僕達のフォローを‥‥」

 

七誠はそう言って武器である剣を両手に持って

目のまえに虫の足のように動めいている骨組みを見据える

 

「ようし、タマに任せタマえ!

 

 杏も安心しろ、タマが断っている限り

 杏はぜったいに傷つけさせないんだからな!」

 

球子も武器である旋刃盤を盾のように構えつつ

自分と杏に向かって行く二つの拙速を見据えていく

 

「タマっち先輩!」

 

「攻撃はタマがすべて受ける!

 

 だから杏は攻撃の方に意識を向けろ!!」

 

そう言って旋刃盤を構えていき

その周りに水を思わせていく結界の様なものが展開され

 

それが敵の攻撃を全て受け止めていく

 

「ごめんねタマっち先輩…

 

 でも絶対にタマっち先輩のことは死なせないから!」

 

そう言って武器である連弩を構えていき

金属性の力で生成した弾丸を撃ち出していく

 

球子を狙って繰り出されて行くその激しい攻撃は

杏の放った矢による攻撃もあって、段々と乱れていく

 

「でも…

 

 こっちが私とタマっち先輩で

 攻撃と防御をそれぞれになっているのと同じように

 あの二本の足もそれぞれを担当してる、それに一撃の重さは

 向こうの方が上、だったらむしろこっちの方が不利になっていくよ…」

 

杏は攻撃に集中しながらも

はっきり言って自分達の状況が

よくない方になっていることに焦っていた

 

このままいけばいずれこっちの方が押されて行くのは目に見えている

 

だが、だからと言って攻撃の手を休ませていくわけにも行かない

 

暫く激しい攻防戦が続いていったが

球子の方も限界が近くなってきたのか

息が乱れているのが球子自身にもわかってきた

 

「ぐうう…

 

 杏‥もういい…

 

 お前は早く遠くに離れてろ…」

 

「っ!?

 

 何言ってるのタマっち先輩!

 

 そんなのだめに決まってるじゃない!!」

 

球子の弱音のようにも聞こえる其れを聞いて

杏は驚きのあまりに思わず拒絶の反応を見せてしまう

 

「頼む…

 

 もうそろそろ結界の方も限界だ…

 

 もう長くはもたない…

 

 せめて‥杏だけでも…逃げてくれ‥…」

 

「タマっち先輩!」

 

必死に懇願する球子に思わず縋りついていく杏

それと同時に球子の武器を覆っていた水の結界が砕ける

 

それはまるで硝子の砕けるような音だ

 

「杏!」

 

「っ!」

 

せめて杏だけでも助けようと

旋刃盤を向けて杏を突き飛ばさんとする球子

 

このままでは二人共、敵の攻撃を受けてしまう

 

攻撃が二人に迫らんとしたその時

 

「やあああ!!!!」

 

目のまえで一閃が入り、それが節足を勢いよく切り付けていく

そのおかげで球子と杏に迫っていた攻撃が見事にそれていき

 

二人は助かったのであった

 

「「え‥?」」

 

そう言って二人の前に降り立ったのは

 

「ふう…何とか間に合ったね‥‥」

 

そう言って安心した様子で二人の方に笑顔を向けたのは

 

「「七誠(さん)」」

 

北斗七星の英雄

 

北斗 七誠

 

彼であった

 

「…ごめん二人共!

 

 もう少し早く駆け付けられれば

 良かったんだけれども、思った以上に手ごわくて‥‥」

 

「いいや‥ナイスタイミングだ…七せ~‥…」

 

「タマっち先輩!?」

 

ふらっとその場に倒れこんでいってしまう球子

ただでさえ強力な攻撃を体格の差もあったこともあり

球子は立っているのもやっとなほどに限界だったのだろう

 

七誠が加勢に来たことによって気が緩み、限界が来たのだ

 

「…頑張ったみたいだね球子ちゃん‥‥

 

 でも、戦いはまだ終わっていないよ!」

 

「え?

 

 うわわ!?」

 

七誠はそう言って球子をお姫様抱っこで抱えると

迫ってくる足による攻撃をかわしつつ、杏も抱えてかわしていく

 

「ふえ?

 

 うわわわわ!?」

 

七誠に抱きかかえられて、少し赤面気味になり

いつものように思考が働かずにしどろもどろになっていく

 

七誠はある程度離れた場所に来ると

そこに球子をゆっくりと降ろし、杏も降ろした

 

「大丈夫、すぐに終わらせて来るから」

 

「あ…」

 

七誠は再び両手に剣をもって

敵のもとにへと向かって行った

 

「はあああ!!!!」

 

七誠は素早い動きでかわしつつ

敵の攻撃を次々といなしていく

 

「おそらくもう‥‥

 

 向こう側の方でも戦いは始まっているはずだ‥‥

 

 それだったら、ここでの戦いを早く終わらせて

 早く向こうの方に加勢に行かないと、それにしても‥‥」

 

七誠はそこまで言うと敵が伸ばしてきた

骨組みによる攻撃をそれぞれの剣で受けつつ

敵の懐の方へと勢いよく飛び込んでいく七誠

 

その際に彼はかねてより戦っている穢れから

感じている何かが気になっているようでそれを見ていた

 

「確かにこの穢れは強力だけれど‥‥

 

 とてもこれ一つで世界のおよそ七割を

 浸食できるほどだとはとても思えない‥‥

 

 一体、この穢れに何が起こっているんだ‥‥」

 

そう言って敵の攻撃を見ていく七誠

 

だがそれでも穢れの方は彼に考える暇を

与えるものかと言わんばかりに攻撃を仕掛けていく

 

「ぐ!」

 

それを見て、やがてそんな疑問を

考えている場合ではないと感じて

目のまえの穢れの方に意識を向けていく

 

「…とにかく、今は何としても

 この攻撃をどうにかして退けないと‥‥」

 

七誠は攻撃をどうにかいなしつつも

このとめどない攻撃をどうにかして行く方法を見つけるために

 

対抗策を考察していく、だがそれは彼だけではない

 

「ぐう…

 

 助けに入りたいけれど…

 

 足がしびれて動かねえ…

 

 くそお‥こんな時に戦えないで…

 

 いつ闘えってんだよぉ…」

 

そう言って必至に立ちあがろうとする球子

 

「落ち着いてタマっち先輩…

 

 休める時にはしっかり休んでおいたほうがいいよ」

 

「あんず‥でも…」

 

そんな球子落ち着かせるように呼び掛ける杏

 

「分かってる…

 

 私もタマっち先輩とおんなじ気もち…

 

 七誠さんが私達のために頑張っているのに

 それを見ているだけなんて、それこそ情けないって感じるよ…

 

 でも、タマっち先輩はあの時のダメージがまだ残ってるし

 思う様に動けない、そんな状態で行ってもタマっち先輩が危ない

 

 今は休んで、動けるようになったらその時に行って!」

 

「‥杏…

 

 ふ、杏もいつまでも守られるってわけじゃないんだな…

 

 タマもしっかりしないと、でも杏だってただ見てるってだけじゃないだろ?」

 

球子はそう言ってにやりと笑みを杏に向けていくと

 

「もちろん!

 

 さっきも言ったけれど…

 

 ただ見ているだけなんて私も嫌だもの」

 

そう言って七誠野方を見ていく、そこには

たった一人で戦っている七誠の姿があった

 

「はあああ!!!!」

 

七誠が剣による一撃を加えていく事により

その辺りにとてつもないほどの衝撃風が起こる

 

「うわああ!!!」

 

「く‥‥うん?」

 

その風に当てられて大きく身じろいていく二人

すると、その際に杏は敵の攻撃の方を見て何かに気づく

 

「あれは‥‥もしかしたら…」

 

そう言って杏は武器である連弩を敵の方に向ける

 

「うん?

 

 杏、何やって?」

 

「‥‥見つけたの、あの足をどうにかする方法!」

 

そう言って杏は武器を構えていく

 

「マジか…」

 

「本当は七誠さんに直接

 伝えて上げられればいいんだけれど…

 

 ここからじゃ距離もあるし、何より

 私の方も動けない、だったらこの一撃を当てる!」

 

そう言って構えていく杏

 

「杏…」

 

そんな杏をしばらく見ていた球子は

不意に杏の体が震えているのが見えた

 

恐怖からではない、おそらくは

身体に残るダメージのせいだろう

 

ただでさえ、体の弱い杏の体なのに

ダメージが回復できていない状態で一撃とはいえ

攻撃を仕掛けようとしているのだ、そう簡単に出来るものではない

 

球子は迷うことなく杏に駆け寄っていき

 

「‥‥え?」

 

「‥まったく、杏は身体が弱いくせに

 無茶ばっかりするんだからな、こういう時くらい

 誰かを頼れって、タマはいつだって杏の味方なんだからな」

 

そう言って杏の体を支え

彼女の体の震えを少しでも止める球子

 

球子自身もダメージは残ってはいるが

あくまで支えているだけな上に体力もある方の球子は

特に意にかえしてはいない、杏にとっても球子の存在はとても頼もしく感じていた

 

「ありがとう、タマっち先輩…

 

 いつも私の傍にいてくれて

 私のことを守ってくれてありがと…

 

 でもね、私だってタマっち先輩やみんなのことを…

 

 守ってあげたいんだ!」

 

「杏…」

 

そう言って武器である連弩を敵の方に向けていく

 

「だからこの一撃を使って…

 

 七誠さんに希望を託してあげたい!

 

 私達のことをいつも

 気にかけてくれた、七誠さんを援けるために!!」

 

「ようし…

 

 だったら思い切りやってやれ!

 

 タマは杏の傍にいてやるから!!」

 

そう言って球子は杏の体をしっかりと支えていってやる

 

「狙うのは…

 

 あの、関節部分!」

 

杏がそう言って標的として定めているのは

攻撃をしっかりと駆動させている関節の部分である

 

杏は球子の支えもあって標準を合わせていく

 

「‥‥今の私の力では

 この一撃を放つので精一杯…

 

 倒しきることはできなくても…

 

 七誠さんが気付いてくれれば!」

 

そう言って引き金に指をかけていく杏

 

「はあああ!!!!」

 

七誠が再び刀を敵の節足に向かって振るい

それによって再びあたりに衝撃風が起こっていく

 

「ぐうう!!!」

 

「うううう…」

 

当然それは、球子と杏の方にも吹き荒れていく

だが杏はそれでも標準を変えていく事無く構え

 

「いっけええ!!!

 

 杏うう!!!」

 

「やああああ!!!」

 

球子の掛け声とともに杏は金属性の矢を放つ

 

放たれた矢は、まっすぐと放たれた

関節の方に向かって行き、見事に命中する

 

すると、節足の動きが鈍くなり

思うような動きができなくなっていく

 

「あ‥‥!」

 

それに気づいた七誠は不意に

球子と杏のいる方に目を向ける

 

遠めであったが、その瞳はしっかりと語っている

 

「ようし‥‥

 

 やあああ!!!!」

 

七誠はそれに気づいて全力の一撃を

穢れの節足の関節部分に向かって放つ

 

その攻撃によって関節は破壊され

それによって節足は音を立てて崩れていくのであった

 

「やった!」

 

「おお、さっすが七誠だ!

 

 足が一気に崩れていくなんてな」

 

球子は七誠の最後の一撃に感服する

 

「‥それにしても杏?

 

 どうしてあの足の弱点が

 関節部分なんだって分かったんだ?」

 

「‥‥それはね、あの足はもともと

 私達が攻撃で破壊した骨組みを無理やり

 形にすることで作り上げた、いわゆる張りぼてなの

 

 つまり、ちゃんとした設計で作ったんじゃないんだ

 

 だから無理やりつなげている関節の部分さえ破壊できれば‥‥」

 

「自ずと足が崩れていくってわけか…

 

 なるほどなるほど、これで見事に

 あのやっかいな足をどうにかできたってわけか…

 

 さっすが杏だな、9タマポイントをやろう」

 

そう言って杏に向かって笑みを浮かべていく球子

 

「タマポイントって集めると何かもらえるの?」

 

「今ならポイントカードと引き換えだ」

 

そんな会話をしていると二人のもとにおり立つ一つの影

 

「助かったよ杏ちゃん

 

 また助けられちゃったね‥‥」

 

「七誠さんも、無事なようで何よりです」

 

七誠の優し気な声と笑顔を見て、杏も嬉しそうに微笑んでいく

 

「さて‥‥

 

 そろそろ僕は次の方に行く‥‥

 

 向こう側の方も相当苦戦しているみたいだからね

 

 二人はここで待ってて、特に球子ちゃんは

 体の負担の方はまだ残ってるんだろう、だから

 ここで様子を見つつ待機だ、杏ちゃんは球子ちゃんのサポートをよろしく」

 

「うう‥できれば一緒に行きたいけれど…

 

 七誠の言う通り、まだ足が思う様に動かないぞ…

 

 口惜しいが、言う通りにするか…」

 

「七誠さん、どうかお気を付けて…」

 

杏が心配する様に言うと

 

「大丈夫、絶対に戻って来るよ」

 

そう言って素早くその場から離れていく七誠であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いはまだ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




変化していく穢れ…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜骨座 第ε話 巨大な足を落とせ

別の場所では…‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七誠と球子、杏のチームが

竜骨座の穢れが生み出した拙足と闘っているころ

 

帆波と似非の二人の方でも激闘は起こっていた

 

「はあ…‥はあ‥」

 

「まさかこんな事になるなんてね…」

 

二人はそう言って目の前で自分たちの方に

狙いをつけている三本の節足の方を見詰めている

 

「穢れがこんな変化を起こすとは‥

 

 もしかすると、俺たちが探している

 敵が近くに潜んでいるのかもしれない‥

 

 出来れば調べていきたいが、いかんせん‥!」

 

似非がそこまで言うと、目のまえに迫ってくる節足を

急いでかわしていく、帆波も勿論かわしていき、そのせいで

自分達が探している敵の様子を見ることが出来なくなっている

 

「…‥ふう‥

 

 これじゃあ、調査どころじゃない‥

 

 戦いに集中するにしても、敵の方が手数は上‥

 

 はっきりいってこのままだと押し切られるぞ‥」

 

「七誠さんや、球子ちゃん達の方も

 同じ敵と戦っているから援護は頼めないし‥

 

 棗ちゃん達はここまで来るのにまだ時間がかかる‥

 

 今は私達だけでもどうにかして戦って行かないと‥」

 

そう言って敵の攻撃をいなしつつ攻撃を仕掛けていく帆波

 

武器である棍をふるって行き、それで攻撃をいなしていき

彼女の後ろから伸びている外套のような布を勢いよくのばしていく

 

すると、節足は帆波の方に向かって突き出していく

 

帆波はそれを確認すると、布と節足の切っ先が

触れていく瞬間を上手く狙ってそこから一気にからめとっていく

 

「ようし!」

 

それによって節足三本のうち二本の動きを止める

そしてこれによって自分に攻撃できる帆波はたった一つ

 

「似非さん!」

 

帆波は似非に呼びかけていく、すると

 

「はあああああ!!」

 

似非が飛び出していき、攻撃を仕掛けていった

残る一本の節足の攻撃を見事に受け止めて見せた

 

「ぐううううう‥」

 

似非は武器を力いっぱい押し切っていく

節足のほうは大きさの方もあって、大きく圧している

 

「似非さん…

 

 ぐううう…」

 

残る二本の節足を布に使って必死に止めていく帆波

 

しかし、段々と布の方が傷み続けていき

 

とうとう布は引きちぎられてしまった

 

「っ…

 

 やっぱりそう簡単には止められないか…」

 

口惜しそうにつぶやく帆波

 

そんな帆波に向かって二本の節足が迫っていく

 

「でも…!」

 

二本の節足による攻撃は見事に帆波の体を貫いた

 

「…こっちの仕込みは上々だよ!」

 

体を貫かれた帆波の姿は何と

まるで霧の様に消えていくと

二本の節足は深々と地面に刺さっていた

 

「やあああ!!!」

 

その節足に向かって武器である棍棒を勢いよく振る

強い攻撃を加えていく、一撃一撃に強い力を込めているので

節足の方も徐々にではあるが傷が付き始めていくのだった

 

しかし

 

「ぐう…やっぱり硬いな…」

 

節足自体の硬度はとても硬く

傷は確実についていっているものの

 

その攻撃はびくともしていない

 

しかも、攻撃を加えていくその衝撃で

深々と地面に突き刺さっていた節足の先が

段々と抜け出していっているのが見て取れる

 

「うおっと!?」

 

とうとう節足は抜け

再び帆波の方に向けていく

 

「(もう一度幻を…

 

  いいや、おんなじ方法じゃだめだ!

 

  どうにかしてこいつをしとめないと…)」

 

そう言って距離を取りつつ

敵の攻撃に備えていく帆波

 

すると、節足は切っ先を

帆波の方に向けて突き出していく

 

帆波は棍を上手く使って

その両側の攻撃を見事にいなしていく

 

「はあああ!!!」

 

帆波は攻撃をどうにか耐えつつ対策を講じていく

 

「(マントの方の再生はまだかかるし

  こっちの手数もだんだんと抑えられて言ってる…

 

  このままじゃ、圧し切られる…)」

 

心の中で悪態をついていく帆波

すると、そんな彼女のもとに向かっている

節足に勢いよく雷が放たれていき、炸裂する

 

「帆波!

 

 大丈夫か!?」

 

「似非さん!」

 

そう言って駆け付けたのは似非

彼は帆波の安否を聞くと、帆波は其れに答える

 

「似非さん、似非さんの方は?」

 

「すまない、まだ健在だ‥

 

 このままあの足に攻撃ばっかり当てていってもらちが明かない…

 

 せめてどこかに、逆転の兆しとなり得る部分があればいいんだが‥」

 

そう言って武器である十字剣を構えていく似非

 

だが、その二人をゆっくりと

先程帆波が抑えていた二本に

さっきまで似非が相手をしていた一本がそろい

 

それ等がすべて、似非と帆波の方を狙っている

 

「帆波、マントでもう一度抑えられるか?」

 

「ごめんなさい、さっきあの足に負傷させられて

 それで、マントを破かれてしまったの、再生は

 させているんだけれど、まだもう少しかかりそうで…」

 

帆波からそれを聞いて、似非はそうかと呟いている

とにかく武器を構えて、敵の攻撃に備えていく似非

 

「(今はとにかく‥

 

  こいつの攻撃をどうにかして

  凌ぎきっていくしかない、今はそれだけだ!)」

 

そう言って向かってきた節足を迎え撃たんとしたそこに

 

「はああああ‥‥…!!!」

 

飛び込んできた一つの影が

節足のうちの一本を撃ち落として見せた

 

「大丈夫?」

 

「棗ちゃん!

 

 気を付けて、攻撃はまだ!!」

 

そこに駆け付けたのは

 

カメレオン座の勇者 古波蔵 棗

 

四等級勇者である、彼女であった

 

加勢に嬉しく思う帆波だが

彼女に向かって、さらに攻撃が迫っていく

 

しかし

 

「問題ない…」

 

そう言う棗、するとその攻撃に向かって

 

「やあああ!!!!」

 

「たああああ!!!」

 

「はああああ!!!」

 

三つの人影が、残る二つの節足に向かって

攻撃を仕掛けていき、これによって見事攻撃を中断させた

 

「ふう、何とか間に合ったわね…」

 

大熊座の勇者 隈井 明

 

二等級勇者

 

「まったく、何でこんな訳の分かんない展開になっちゃってるの?」

 

ケンタウルス座の勇者 漆間 恵子

 

一等級勇者

 

「まあとにかく、加勢するわよ!

 

 それでいいわよねお二人さん!!」

 

竜骨座の勇者 骨宮 志

 

一等級勇者

 

怪物たちを足止めした棗と

彼女のフォローへと向かった三人が

無事に帆波と似非の元にはせ参じたのだった

 

「あれ?

 

 七誠さんと球子達は?」

 

「二人は反対方向にいる!

 

 向こうでも同じようなやつに阻まれたらしい‥‥」

 

「立ったらすぐに応援に向かわねえと…」

 

そう言って向かおうとするが

それを阻むように節足が一同に攻撃を仕掛けていく

 

「私達を逃がさないってことね…

 

 だったらここで一気に決めさせて貰うわ!」

 

そう言って武器である三叉槍を変形させた三節棍を器用に振るい

それを節足の方にに向かって、一気に攻撃を仕掛けていこうとする志

 

しかし、そんな志に向かって

別の節足が勢いよく向かって行き

 

志の身体を貫かんと向かって行く

 

「やああああ!!!」

 

その節足に向かって武器である槍を棒高跳びのように上手く使って

大きく空の方へと跳び上がっていき、それで勢いよく志に攻撃を仕掛けていく恵子

 

恵子はそれで、その節足の方に向かって勢いよく蹴りを放っていき

節足に向かってものすごい一撃が入り、お互いに押しやっていく

 

「ぐうううう…」

 

足にものすごい負荷がかかっているのを感じ

恵子は自分の足に電気を流していき、その負荷を和らげていく

 

だが、それでも敵の力の方が圧倒的に上であることがうかがえる

 

「なんて力…

 

 即興で勢いがなかったとはいえ

 それでもここまで押し切られるなんて…

 

 でも!」

 

恵子はにやりと笑みを浮かべる

なぜなら恵子の狙いは、ただ攻撃を食らわせることではない

 

「ありがとう恵子…!

 

 これで一気!!」

 

狙われていた志への攻撃を中断させる事である

それによって見事、志は攻撃の準備の方へと入っていく

 

「やああああ!!!」

 

そして心は槍の穂先のついた方に雷を纏わせていき

その一撃を節足の続く場所、本体の方へと突き出していく

 

やがて雷の一撃が本体である竜骨座の穢れ

 

骨組みの船の方へと放たれていった

 

見事にその一撃は命中し、節足の方も

ぐるりと回るようにして志の方へと向かって行く

 

「ぐう…

 

 きゃああああ!!!」

 

攻撃を柄の部分で止めて直撃は避けたものの

その衝撃はさすがに受け止めきれずに大きく吹っ飛ばされていく

 

「志!」

 

「構わないで、早く奴に攻撃を!」

 

吹っ飛ばされていく心を気遣う明

しかし心は自分よりも敵8の方をと彼女に呼びかける

 

「…うおおお!!!」

 

明は武器である手甲から太刀と同じくらいに大きな鉤爪を展開

その腕をクロスさせて、斬撃を勢いよく本体の方に向かって放つ

 

しかし、それを節足が阻み、攻撃をすべて弾いていってしまう

 

「さすがにそう簡単には…」

 

「隈井…!

 

 私が行く…!!」

 

そう言って飛び出してきたのは棗

 

彼女はそう言って武器である双節棍をふるって行き

そのままの勢いで節足をたどっていきながらm本体の方へと向かって行く

 

明は本体の方は棗に任せようと

武器である巨大な鉤爪を展開しては、再び攻撃を放つ

 

今度は本体にではなく、棗の方へと向かって行く節足に向かって

 

他の二人も、他の節足にあえて自分達を狙わせようと

攻撃を仕掛けていき、棗が気兼ねなく本体の方へと迎えるようにしていく

 

「はああああ…!!!!!!!」

 

棗は武器である双節棍をふるって行き

本体の方に向かって勢いよくふるって行く

 

二~三回意味なく空に振り回していくと

最後の方で勢いよく双節棍をふるって行くと

 

何と棍と棍をつないでいる鎖が勢いよく伸びていく

それはまるで獲物を狙うときに勢いよく伸びるカメレオンの舌のように

 

それによる一撃が、本体の方に勢いよく当たっていき

それはまるで一閃する様に骨組みの船に傷をつけていった

 

「おお、やった!」

 

「棗ちゃん、すごい」

 

それを見ていた似非と帆波は素直に棗を称賛する

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

攻撃を振るって緊張が解けたのか

その場でぺたんと座り込んだ棗は息を切らす

 

すると、彼女の目の前で信じられない現象が起こる

 

何と、棗が付けた傷の中から

怪物が生み出されて行ったのだった

 

「えええ!?

 

 ダメージを受けた個所から

 怪物が生み出されて行くなんて…」

 

流石に予想外のことで

傷をつけた棗も呆然としている

 

幸いなのは出てきている数が最初に比べると

格段に少ないと言う事、それを見た似非と帆波は

 

「あっちは俺たちで食い止めるぞ!」

 

「了解!」

 

そう言って怪物たちの方へと向かって行く似非

どうやら棗のダメージによって分裂した穢れが変形して

怪物の姿になったものであろうと分析、すなわちこの怪物は

意図して生み出されたわけではなく偶発的に生み出されたものである

 

とにかく似非は武器である十字剣をふるい

帆波も武器である棍を振り回しながらともに向かって行く

 

怪物の方も二人に気づいて、向かって行き

似非もそれに気づいて武器である剣をふるって行く

 

「俺と帆波がこいつらを引きうける!

 

 お前等は早く、敵の本体の方を!!」

 

そう言って怪物を足止めしていく似非と帆波

 

「‥‥了解!」

 

棗は放心状態から直ぐに正気に戻っていく

 

無表情ながらも感じていたのだろう

自分の攻撃の結果、余計な戦闘を生み出してしまったことに

 

だが、それでも彼女は武器である双節棍を再びふるい

それで一気に本体に再び一撃を狙わんとしていく棗、だが

 

「っ!?」

 

突然、自分の方に向かって勢いよく何かが飛び出し

それが棗の身体を貫かんとする勢いで向かってきた

 

だが、棗もそれに素早く反応していき

それで、あえて敵の攻撃で吹っ飛ばされることで

 

自分の身体が貫かれないようにしていく事には成功する

 

「棗ちゃん!」

 

「っ…」

 

棗は地面を引きずるものの

それでもどうにか持ち直していき

 

体制を崩すことなく再び身構えていく

 

「今のはいったい…」

 

棗は自分に向かって

勢いよくのばされて行ったその攻撃

 

その正体は一体何だったのかを確認しようと

自身に攻撃を放ってきた方をじろじろと見回していく

 

すると

 

「っ!」

 

船頭の部分に棗はある者を見た

遠目にあるのでよくは見えないが

 

まるで、人型のようであった

 

「棗ちゃん?

 

 どうしたの!?」

 

「‥‥今、あの穢れの中に何かが入っていったような…」

 

「え…!?」

 

そう言って帆波も慌てて

穢れの方を見るが既に人型、姿を消した後であった

 

すると

 

「「「きゃあああ!!!」」」

 

明、恵子、志の三人の少女が

ふっとばされて棗達のもとにまで飛ばされてきた

 

「みんな!」

 

息を切らして倒れ込んだ三人のもとに

棗と帆波が慌てて三人のもとに駆け寄っていく

 

すると、そんな彼女らの方に向かって

節足が狙いをつけていき、そのまま勢いよく突っ込んでいく

 

「ぐう…」

 

「この…」

 

棗と帆波は、それぞれの武器を構え

迫ってくる攻撃から、倒れた三人を護ろうとする

 

とそこに

 

「はあああ!!!!」

 

二人の前に飛びだしてきた一人の人物が現れて

三人と二人を自身の武器で受け止めて、どうにか持ちこたえる

 

「うおおお‥‥」

 

その正体は、向こうの方で交戦していた七誠であった

 

「七誠…!」

 

「二人共、まだ動ける?」

 

「正直に言うと、少しきついです…」

 

「そうか‥‥

 

 似非君!」

 

七誠が似非のことを呼ぶと

彼の隣に似非が素早くおり立っていく

 

「七誠か、ここに来たと言う事は

 そっちの戦闘は終わったってことか?」

 

「今のところはね‥‥

 

 皆に伝えておきたいことがある!

 

 あの節足の弱点は節足部分だ

 この猛攻を止めるにはそれしかない!!

 

 僕が節足の攻撃を防ぎきるから

 似非君は拙速部分への攻撃を頼める?」

 

七誠は似非に弱点への攻撃を任せて貰えないかと頼んでいくが

 

「…‥すまん、俺もはっきり言って

 思う様に動きにくいんだ、出来ないことは無いが

 三ついっぺんに攻撃するのは少し難しいだろう‥」

 

「そっか‥‥

 

 通信で伝えられれば良かったんだけど

 穢れの力が大きすぎて、電波が入りにくいんだ‥‥

 

 それで伝えられれば、もしかしたら‥‥」

 

「お前が気にすることじゃねえよ‥

 

 しかし、それにしたって

 どうやって攻撃を通していけば‥」

 

似非はどうしようかと考える

 

すると

 

「私が‥‥私はまだいけます!」

 

「棗ちゃん、いくら何でもボロボロじゃない‥‥

 

 いくら何でも無茶だよ」

 

棗が立候補するが、七誠が無茶だと難色を示していく

 

「私は‥‥ここに来るまでに色んな人に託された…

 

 託された人たちのためにも‥‥ここで立ち止まっている訳にか行かない…

 

 大丈夫‥‥無茶はしない…ただ弱点の方に向かって行くだけ‥‥…!」

 

「でも‥‥」

 

七誠はそれでも渋っていくが

そんな彼の肩を力強く叩く者が

 

「七誠…‥やらせてみようじゃねえか」

 

「似非君‥‥」

 

それは、似非であった

 

「…‥せっかく棗がやるって言ってんだ‥

 

 それだったら信じてやらせてみようぜ

 そしてそれで何かあったときは。その時こそ

 俺たちでどうにかしてやろうじゃねえか‥

 

 それが、俺たち英雄の使命だろ?」

 

「…似非君‥‥」

 

七誠はしようがないなという感じで棗の方に目を向ける

 

「分かった、底まで言うんだったら任せるよ棗ちゃん‥‥

 

 でもこれだけは聞いて、棗ちゃんだけに言う事じゃないけど

 目の前の敵を倒す事よりも、自分が無事に生き残る事のみを第一に考えて!

 

 あくまでこの戦いは、最後ってことじゃないんだから!」

 

「‥‥わかった…」

 

そう言って構えていく棗

 

「ようし、それじゃあ両側は俺と七誠でやる!

 

 棗は中央の方をm泣かせるぞ

 

 帆波、そこで倒れてる奴の介抱と防衛を頼む」

 

「分かりました…」

 

帆波はそう言って、武器である棍を構えて

敵の追撃の方に供えていき、それと同時に三人が一斉に

自分達に一撃を加えようとしていく、節足の方へと向かって行く

 

「やあああ!!!!」

 

七誠は持ち前の身体能力で

節足による攻撃を巧みにかわしていき

 

さらにそこから、節足を伝って関節部分を目指していく

 

「死を司りに七つの星よ‥‥

 

 僕に力を!」

 

そう言って勢いよく関節部分に攻撃を仕掛けていく

すると、関節部分がだんだんと崩壊していき、そのまま

先っぽからその破壊された関節の先の部分が地面に勢いよく落ちていく

 

「まだだ‥‥

 

 根本の方から破壊していかないと‥‥!」

 

すると、残った節足の部分が七誠を振り下ろさんと

勢いよくふるって行き、それによって彼は振り落とされて行く

 

「うわあああ!!!!」

 

さらに、その振り下ろした節足が

七誠の方に向かって勢いよく振るわれて行く

 

「ぐう‥‥

 

 あいにくと僕は…そう簡単には負けないんだよ!」

 

そう言って武器である刀を構え

それを、向かってくる方に向かって振るう

 

やがて斬撃と衝撃が激しくぶつかっていく

 

すると

 

攻撃とぶつかった節足の部分からピシピシと音を立てて

氷に覆われていき、段々と動きが制限されて行き、さらに氷は

 

「ようし!」

 

関節の部分にまで到達すると

七誠はすかさず剣を関節の方に向かって振るって行く

 

すると

 

激しい爆発が、七誠が斬りつけた部分から

次第に起こっていき、やがてそれは節足自体をふっとばしていく

 

やがて、その爆発は関節の部分にまで到達すると

節足は大きく崩れ落ちていき、その場に落ちていく

 

「やあ!」

 

七誠はその破片のうち、大きい破片を細かく砕き

被害を最小限にとどめていこうと奮闘していくのだった

 

さらに

 

「うおおおおお!!」

 

似非の方は左手をかざし

その前に十字型に線に結ばれた四つの魔法陣を展開

 

それで一気に向かってくる敵の攻撃を見据えていく

 

すると

 

「「「「「はあああああ!!!!!」」」」」

 

似非の周りに何と四人の似非が現れ

本体の方が節足の攻撃を十字の剣で受け止める

 

残った四人の似非はそのままの勢いで

節足の方へと両腕の服の袖を蝙蝠の翼の様な形に変え

 

それで、節足の関節部分にまで向かって行く

 

「「「「まずはここだ!!!!」」」」

 

そう言って似非の分身たちが節足の方を見ると

そこから関節部分の方に向かって一斉に斬撃を放っていく

 

関節自体は破壊できなかったものの

それでも攻撃の勢いをそいでいく事には成功する

 

似非の本体はそれをに逃さなかった

 

「ここからが、俺の本気だ!

 

 偽りの十字の前に滅されるがいい!!」

 

そう言って剣に雷を宿らせ

自身の身体に風を纏わせることで

身体能力を強化していき、やがて剣は

 

節足の先の部分から勢いよく切り込まれて行き

それによってどんどんと節足は二つに分かれていく

 

それはやがて関節部分にまで入り込んでいき

 

「うおおおおお!!」

 

見事、節足は真っ二つに切り裂かれたのだった

 

そして、残るは棗が対峙する中央の節足であった

 

「はああああ…!」

 

ぶんぶんと武器である双節棍を振るって

自身に向かって突っ込んでいく節足の先っちょに攻撃をふるって行く

 

節足の切っ先と棗の双節棍が激しくぶつかっていき

辺りに攻撃と攻撃がぶつかり合うことによって発生した衝撃が

辺りに勢いよく発生していき、周りの景色が勢い良く変わっていく

 

「ぐうううう…!」

 

棗が必死の形相で攻撃を必死に押し出そうとするが

大きさの差のこともあり、圧倒されて行き、やがて

 

「うわああああ…!!!!!!!」

 

棗は勢いよく大きく吹っ飛ばされて行くのであった

 

すると

 

「はあああ!!!!」

 

「やあああああ!!」

 

七誠と似非も助太刀に現れ

両側から攻撃を仕掛けて節足を勢いよく落とす

 

七誠と似非は急いで棗の元へと向かって行く

 

「棗ちゃん、大丈夫!?」

 

「けがはないよな!?」

 

二人がそう言うと棗は息を切らしながら

よろよろと立ち上がっていき、敵の方を見る

 

棗は二人の問いには答えないが

見たところ目立った外傷はない

 

しかし、ダメージは大きいようでフラフラである

 

やがて節足は起き上がっていき

三人の方にその先の方を向けていく

 

「棗ちゃんはさがってて‥‥

 

 ここからは僕が行く」

 

「お前は休んでいろ!」

 

そう言って前に出て構えていく

しかし、棗はそれでも武器を手に前に出ていく

 

「‥‥私が行く…

 

 これ以上、私の愛する海を

 こいつに穢されるわけにはいかない…!」

 

そう言って武器をかまえていく棗

 

「そんなふらふらになっている状態で戦えるわけないだろう!」

 

「大丈夫…!

 

 足を引っ張らない…」

 

「…無理はしないでね‥‥」

 

そう言って三人はそれぞれ武器をかまえていく

 

すると、さらにそこに

 

「棗ちゃん、七誠さんに似非さん!

 

 私たちも協力します!!」

 

「みんなが頑張っているのに

 私たちが休んでいるなんて…

 

 一等級勇者の名前が泣いちゃうからね…」

 

「そういう事!」

 

「私たちが攻撃を引き付けるから

 棗ちゃん、一気に決めて上げちゃって!」

 

そう言って四人の勇者達も立ちあがっていき

それぞれの武器をもって、挑んでいこうとする

 

「‥‥みんな…ありがとう‥‥…」

 

そう言って棗は武器である双節棍をふるい構える

 

すると、敵の節足が彼女たちの方に向かって行く

 

「来るよ!」

 

「うん!」

 

それを見た四人の勇者達は

節足に向かって一斉に攻撃を仕掛けていく

 

節足はやや動きに鈍りを見せていくも

それでも攻撃を四人の勇者の方に向けていく

 

「ようし…

 

 こっちに狙いを向けたね…」

 

「それじゃあ引き続き攻撃を仕掛けて

 こっちに引き付けていくわよ、明!」

 

「ええ、帆波もみんなも無理しないでね!」

 

「りょ-かい!」

 

そう言って四人は攻撃を節足の方に仕掛けていき

そのまま敵の攻撃をそのまま一心に受けていくのだった

 

その隙に棗と七誠、似非は節足の上を通っていき

その側面を通っていき、節足の弱点である関節の部分を目指していく

 

すると、節足の周りから小さな節足が

次々と閉じていくように突き出されて行く

 

三人は急いで走っていく事で其れをかわしていこうとするが

似非と七誠はこのままでは追いつかれると判断して、攻撃の方に立ちふさがる

 

「この攻撃は僕たちが引き受ける!」

 

「棗、速く関節を破壊しろ!」

 

「‥‥わかった…!」

 

二人がそう言うと、棗は一言そう言いつつ

振り向くことなくひたすらに関節の部分に向かって行く

 

「はああああ…!!!」

 

そして、ついに節足の急所である関節

その部分に目を向けていき、武器である双節棍を勢いよくふるって行く

 

「‥‥これで終わり…

 

 私の愛する海を‥‥返せ…!」

 

そう言って土属性の力をこめて重力を纏わせ

それによってさらに強力になった攻撃を関節に向かって振るい

 

ついに一撃を、関節部分に仕掛けていく事に成功する

 

すると

 

関節部分が崩れていき、それと同時に節足そのものが

ゆっくりと地上の方に向かって落ちながら崩れていく

 

「やった!」

 

其れを見て勝利を確信していく一同

こうして節足は地上に落ちていくと同時に消滅していったのだった

 

「はあ…はあ…」

 

「‥‥ふう…」

 

それを見て、勇者たちは安心したのか

少しその場に座り込んでいき、息を切らしていく

 

「ようし‥‥

 

 これで何とか全部の節足を落とせたね‥‥」

 

「ああ、だがまだ安心するのは早い‥」

 

似非がそう言うと、目の前でそびえている

五百メートルに届くような大きさの骨組みの船があった

 

そう、あそこまで苦労して落とした節足は

あくまでこの巨大な竜骨の一部でしかないのだ

 

「そうだった…

 

 まだ本体は残ってるんだ…」

 

「でも節足は全部落としたんだから

 心置きなく攻撃を加えられるはず…

 

 急いで突入しよう!」

 

「…それは、ダメだね‥‥」

 

恵子が早速向こうに突入しようと意気込むが

それを七誠が落ち着いた様子で制止させていく

 

「どうしてですか七誠さん!」

 

「向こうに球子ちゃんと杏ちゃんを待たせてる‥‥

 

 突入はまず二人と合流してからだね‥‥」

 

七誠がそう言うと勇者達は納得したように頷く

 

球子も杏も今や立派な戦力の一つなのだ

そんな彼女たちを置いて突入するわけにもいかない

 

「ようし‥

 

 それじゃあ、さっそく

 向こうにいる二人と合流しよう‥

 

 そうして準備が万全に整ったら

 改めて敵のもとに突入していくぞ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

こうして、勇者達は向こうで待たせている

二人の同胞のもとに向かって行く、多少疲れはあるが

敵の勢いが落ちている今は警戒する必要がないので気楽だ

 

こうして、一同は激しい激闘の末に一つの関門を切り抜けたのであった

 

そして

 

そんな様子を見ていく、三人の影が

 

「…‥‥へえ‥‥

 

 まさか勇者がすでに

 色んな世界に来ていたとは‥‥

 

 おまけにその成長の方も目覚ましい…

 

 どうするべきだと思う、真紀子さん?」

 

そう言って隣にいる一人の少女の方に目を向けていく

 

「‥‥この調子だと、竜骨が陥落するのも時間の問題だね…

 

 出来れば完成させるまでもたせておきたかったけれど…

 

 まあ、それは別の場所でやれば済む話だし、それに…

 

 すでにもう一つの仕込みの方はしっかり済ませているし…

 

 その時にはもうこの世界は穢れに包み込まれて行くでしょうね…」

 

そう淡々と答えていくのは

左手を後ろの方に回している着物を思わせる服装の少女だ

 

「‥‥勇者か‥‥

 

 連盟の奴らめ、まさか

 あんなものを用意ししてたなんてね‥‥

 

 でも見たところ彼女たちの力は

 私たちが脅威に感じるものじゃない‥‥

 

 それだったら、私たちは効率よく規模を広げて行くとしよう…

 

 アルシャ‥‥?」

 

「…了解です…

 

 依り代の方はすでに確保しています

 彼女の力を使えばこの世界をすぐにでも

 穢しつくしてごらんに入れましょう、フフフ…」

 

そう言って三人の人物は船の上から

英雄達と勇者達を暫く見降ろしながらつぶやくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして一同が暫く移動していると

 

「うん?

 

 あれは‥‥」

 

七誠は自分たちの方に向かって歩いていく二つの人影を見つけた

 

その影の正体は

 

「球子ちゃん、杏ちゃん!?」

 

「おお、やっと追いついたか…

 

 体力をちょーっとずつ温存して行きながら

 どうにかここまでやってきて来られたぞ…」

 

「タマっち先輩…

 

 やっぱり大人しく待っていた方が…」

 

球子が杏に肩を貸してあげながら

一同のもとに向かって行く二人の姿が映った

 

「まったくもう‥‥

 

 もしも二人の方に

 攻撃が来ていたらどうするの!

 

 でも、無事でよかったよ‥‥」

 

「ふふん、タマはやるときはやる女だからな

 

 何も心配する事なんてないんだぞ?」

 

「タマっち先輩はもうちょっと謙虚さを覚えておくべきだね…」

 

強がって見せる球子を見てほほえましさを覚える杏と七誠

 

すると、他の面々も二人のもとに合流していく

 

「杏ちゃん、球子ちゃん

 

 二人の方にも敵が出てきたの?」

 

「うん…

 

 節足が三本出てきてね

 私とタマっち先輩に七誠さんで力を合わせて

 どうにか落とせたんです、そちらの方は?」

 

「うん…

 

 じつはな…」

 

そう言って棗がかくかくしかじかで話していく

 

「‥‥そうだったんですね…

 

 ごめんなさい、私たちがもっと早くに駆け付けられれば…」

 

「しようがないよ…

 

 杏ちゃんは身体が弱いし

 何より戦った後だったんだもの…

 

 寧ろ、よく頑張ったわね…」

 

そう言って二人のリーダーである恵子が杏をねぎらって行く

 

「うおい!

 

 そりゃ杏は身体が弱いから

 気を遣う気持ちはわかるけれども

 タマだって頑張ったんだからな!!

 

 タマのことも労ってくれよぉ~!!!」

 

「うん、球子もお疲れ様…」

 

「何だよその投げやりなたいどはああ!?」

 

球子の叫びは空しく響いていく

 

「はいはい、球子ちゃんをからかうのはそこまで

 

 それよりもまだ、如何にかしないといけないことがあるよ‥‥」

 

そう言って改めて本来の敵の方を向いていく一同

 

「ええ、何しろ穢れの本体はまだ健在です…

 

 あの中に入ってさっそく

 穢れの本体ともいえる核を目指しましょう!」

 

「そうだね‥‥

 

 でも今はゆっくり休んでおこう

 何しろあんな戦いが会ったんだ

 とくに球子ちゃん達はさっきの戦いで

 星の力を大いに消費してしまってる‥‥

 

 穢れの力は実質この世界の七割を

 制しているようなものだ、ただでさえ

 その力は絶大なのに、消費したてのこの状態で

 なにが潜んでいるのかわからないこの状態で向かうのは危険だ‥‥」

 

「そんな…!

 

 でもこのままだと海が…」

 

棗が意見するが、そんな彼女の頭に

やや乱暴に頭に手を置かれ、発言を止められる

 

「残念だけど今日はここまでだ

 君達の命を預かっている以上、危険だと思う事はさせられないよ!

 

 それにこの戦いで大きく力を消費したのは僕たちだけじゃない‥‥」

 

七誠がそう言うと

 

「‥‥棗さん、海を元に戻したい気持ちはわかりますが

 それで棗さんの身に何かあってからでは遅いんですよ…

 

 七誠さんの判断は間違っていませんよ」

 

「‥‥すまない…取り乱した‥‥…」

 

杏に促され、棗は申し訳なさそうに呟いた

 

「しっかしびっくりだね…

 

 まさか、棗さんがあんなにも取り乱すなんて…」

 

「まあ、テンションが変わらないせいで

 ちょっとわかりにくいけれど、分かったわ…

 

 まるで、球子ね」

 

「おい、何でそこでタマを引き合いに出すんだ?」

 

志のたとえに自分が使われたことに対して

少し不満そうにジト目で睨みつけていく球子

 

「まあとにかく…

 

 今はここで身体を休めるわよ

 いかんせん今日は消費が激しかったし…

 

 休める時にはしっかり休めておかないとね…」

 

「そうだな…

 

 それでどこで寝泊まりするかだが‥」

 

似非がそう言ってどこで休めるかを提案するが

いかんせん周りは薄暗く泊まれるところがない

 

「あちゃ~‥‥

 

 これはどうしようか‥‥」

 

さすがにこの事態は想定して

いなかったようで頭を悩ませていく

 

すると

 

「ふっふっ…

 

 どうやらお困りのようだな?」

 

球子が何やら不敵に笑みを浮かべてすり寄っていく

 

「あいにくと宿のように快適にはいかないかもしれないが

 

 宿が見つけられないなら、このタマが文字通り人肌脱いでやるぞ?」

 

「ど、どうしたの球子ちゃん…

 

 ずいぶんとドヤ顔をきめこんでいるようだけど…」

 

余りにうざい感じにもったい付けていく球子に

球子と一番付き合いのある杏がため息交じりに言う

 

「タマっち先輩…

 

 こんな時どうにかできるんだよね…

 

 できるんだって言いたいんでしょ?」

 

「ふっふ~っ

 

 流石は杏だな、それは…

 

 アウトドアだ!」

 

そう言ってどこから持ってきたのか

キャンプセットなど様々なアウトドア用品をそろえていた

 

「わあ‥‥

 

 すっごい、これ全部球子ちゃんが用意したの?」

 

「そうだ、何せ配置系の穢れの周りは

 たいていは外での待機になる事が多いからな…

 

 万が一遅くなった時のためにいろいろ用意してきたのだ」

 

「そう言えばタマっち先輩は

 アウトドアが趣味なんだよね…」

 

「すごい…

 

 これなら野宿でも少し楽になる…」

 

勇者達が球子の用意の良さに感心していく

 

「‥‥でも、ここってキャンプ禁止区域だぞ?」

 

「うえ!?」

 

似非がそう言って指さしたところには

この場所でキャンプをしないでくださいと言う呼び書きであった

 

「‥お、おい似非!

 

 折角タマがかっこよく決めたのに

 余計なことを言ってくれるなよぉ…」

 

「い、いや俺は‥」

 

涙目で詰め寄ってくる球子に引き気味になっていく似非

 

「まあでも、今は非常事態だし

 それにあくまで休むだけだから

 必要最低限の者だけニしておこうよ‥‥

 

 球子ちゃんがいろいろ用意してくれてるから

 キャンプでなくてもいろいろ準備は出来るだろうしね‥‥

 

 本格的なキャンプは無理でも

 野宿するくらいの用意なら、まあ問題ないでしょ‥‥?」

 

「うおおん!!!

 

 心の友よおお!!!」

 

「タマっち先輩、嬉しすぎてマジ泣きしてる…」

 

自分を庇護してくれた七誠に嬉しさのあまり号泣する球子

 

こうして、寝袋など必要最低限の準備だけをして

一夜を明かしていこうとしていく一同なのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして一同が寝静まった夜

 

「やれやれ‥

 

 すっかり寝入っちまったな‥」

 

「まあしょうがないよ‥‥

 

 何しろ連続して戦いに出ているんだもん‥‥」

 

そんな中で七誠と似非が小声で話しをしている

 

「それにしても‥‥

 

 まさかここまで穢れが活性化するなんて‥‥

 

 似非の方では何かわかったことない?」

 

「ああ‥

 

 俺の方でもいろいろ調べているんだが‥

 

 どうやら、奴らが動き出しているみたいだ‥」

 

似非が深刻そうに告げていく

 

「…そっか‥‥

 

 予想はしていたけれども‥‥

 

 まだあの子達には

 荷が重すぎるだね‥‥」

 

七誠はそう言って深刻そうに告げていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何が迫ってきているのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




迫りくる脅威…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜骨座 第β話 突入、竜骨座の穢れ

勇者達のそれぞれの行動‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回の戦いより一夜明けて

七誠と似非、勇者達は全てに決着をつけるために

 

自分達の目の前にそびえている巨大な骨組の船

 

竜骨座の穢れの方に目を向けていく

 

「あれ以来、穢れの動きの方を見ていたけれども

 とくに動きはなかった、これはきっと好機になりうる

 

 それだったら、あの穢れを落とすのはいま!

 

 みんな、覚悟はいいね?」

 

北斗七星の剣士

 

北斗 七誠

 

 

彼が後ろで控えている勇者の少女達に呼び掛けていく

 

「おう、昨日たっぷり寝て

 力が有り余っているくらいだ!

 

 タマに遠慮なく任せてくれタマえ!!」

 

そう言って元気よく返していくのは

 

烏座の勇者 三等級勇者

 

土居 球子

 

 

「タマっち先輩、張りきるのはいいけれども

 あんまりはしゃぎすぎて、体力を使いすぎないでね…」

 

そんな球子を諫めていくのは

 

髪の毛座 四等級勇者

 

伊予島 杏

 

 

「そうだよ球子ちゃん!

 

 昨日は動きを見せなかったからって

 今日も動かないとは限らないんだから…」

 

そんな二人の様子を微笑まし気に見つめるのは

 

帆座の勇者 二等級勇者

 

尾崎 帆波

 

 

「絶対に海は取り返す…

 

 今日こそ必ず…」

 

物静かながらも闘志を燃やしているのは

 

カメレオン座の勇者 四等級勇者

 

古波蔵 棗

 

 

「七誠さん、みんな昨日はしっかり休めたみたい

 

 いつでも準備の方はオッケーよ!」

 

そう言って七誠に一同の安否を伝えているのは

 

大熊座の勇者 二等級勇者

 

隈井 明

 

 

「オッケー、それじゃあ今度こそ

 この戦いを終わらせよう、この世界の人達の

 何気ない日常をしっかりと守り抜いていくために‥‥」

 

「当然、私の愛する海を奴らの魔の手から解放するために…!」

 

七誠が言うと、棗がずいっと入ってきて付け加えるように言ってくる

 

「うん、もちろんそのつもりだ‥‥

 

 それじゃあ、さっそく向かって行く事にしよう‥‥

 

 恵子ちゃん」

 

「はい!」

 

七誠に言われて返事をしたのは

 

ケンタウルス座の勇者 一等級勇者

 

漆間 恵子

 

 

「志ちゃん」

 

「はい!」

 

そして

 

竜骨座の勇者 一等級勇者

 

骨宮 志

 

 

二人は彼女らに呼ばれると力強く返事をしていく

 

「二人にはこれから二つのチームのリーダーを務めてもらう

 

 それから帆波には志ちゃんの、明には恵子ちゃんの補佐についてもらう

 

 二人ともしっかり、リーダーである志ちゃんと恵子ちゃんを支えてあげてね」

 

「「はい!!」」

 

七誠に自分達の役割を命じられて

これまた力強く返事をしていく帆波と明

 

「それじゃあ、さっそく‥‥」

 

「待て、七誠‥」

 

「うん?

 

 どうしたの似非?」

 

早速出撃をしていこうとすると、そこを似非が呼び止める

 

「今回からの作戦に当たって、俺たちの作戦に

 助っ人を加えることになった、一応紹介しておく」

 

「助っ人‥‥?」

 

そう言って、一同のもとにやってきたのは

一同もまたよく見知った顔の人物たちであった

 

その人物たちは

 

「昨日ぶりですね皆さん…

 

 無事に動けるまでに回復しました…」

 

飛魚座の勇者 四等級勇者

 

都彦 十和子

 

 

「私達も作戦に参加させてもらいます」

 

蠅座の勇者 三等級勇者

 

腐肉 晴子

 

 

彼女達であった

 

「は、晴子ぉ!?

 

 お前確か、けがをしたんじゃ…」

 

「うん、完全に完治してないから

 みんなと一緒に行くのは出来ないけれど

 

 外から穢れが分裂して

 行ったりした時の防衛に回ることにしたの」

 

「十和子も防衛につくのか…?」

 

「うん、さすがに討伐には迎えないけれども

 この世界の人達のことを護れるくらいなら私たちにもできるから」

 

そう言って十和子と晴子はガッツポーズを取っていく

 

そこには、最初の時に負傷してボロボロになっていた

弱弱しい表情はなく、決意を家に秘めた強いまなざしを浮かべて居た

 

「…‥本当は戦わせるつもりはなかったんだが

 皆が戦っているのに自分達が見ているだけなんて我慢できないって聞かなくてな‥

 

 それで防衛の方に回したんだよ、無茶はさせないようにってしっかり言い聞かせてな‥」

 

「そっか‥‥

 

 二人共まあ、言ったところで聞かないだろうし‥‥

 

 それだったら僕は何も言わないよ、それじゃあ行こう!」

 

「おう!

 

 なあに、タマがすぐにでも倒してやる

 そうすれば二人に負担賭けることもねえだろ?」

 

「確かにそうだね…

 

 これはタマっち先輩の言う通りだね…

 

 だったら急いで穢れの本体を倒せば問題ないよね」

 

球子の前向きな発言に、杏も同意する

 

「まったく…

 

 一番心配なのは杏よ?

 

 体が弱いくせに本当に無茶ばっかりするんだから…」

 

「そうね‥‥

 

 でも、杏ちゃんの頭の良さはすごいって思ってるよ

 

 杏ちゃんはしっかり、そっちを優先させて、無茶はしないでね…」

 

恵子と明がそんなことを杏に向かって行く

 

「ようし…

 

 それじゃあ、さっさと終わらせて

 この世界を穢れの脅威から守っていこー!」

 

「そうだね…

 

 早く倒せばそれだけ早く終わるしね…」

 

帆波と志は気合を入れ始めていく

 

「私も頑張る…

 

 そして、美しい海を取り戻す!」

 

「棗っていっつもそればっかりだよね…

 

 ほんっと、海が大好きなんだね」

 

海を取り戻すとグッと握りこぶしを作って構えていく棗

そんな彼女を見て、心底呆れた様子を見せていく志だが

逆にいつも通りな彼女を見て少し安心した様子を見せていく

 

「…そうだね‥‥

 

 それじゃあ、みんなで力を合わせて

 この世界を穢れから解放してあげよう!」

 

「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」

 

「それじゃあ、四方に分かれて突入するぞ

 俺と七誠でそれぞれ一方向を、恵子班と志班でそれぞれ一方向‥

 

 それぞれを担当するぞ!」

 

似非がそう言ってそれぞれの行く場所を指定していき

それぞれが行動を開始していくのであった、その別れ際に

 

「それじゃあ、気をつけてね!」

 

「そっちこそね…」

 

志班はリーダーの心に補佐の帆波に、棗の三人が

 

恵子班にはリーダーの恵子に補佐として七誠お付きの明

さらにそこに球子、杏を加えた四人で向かって行くのだった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

恵子班

 

「‥‥さあて…

 

 こっちの方を任されたのはいいけれど

 敵の様子は見たところ目立った様子はないけれど…」

 

リーダーの恵子は無事に目標である

竜骨座の穢れの方に到着するのであった

 

「…そうね‥‥

 

 流石に一晩では、そう簡単には回復はし切れてはいないみたいね‥‥

 

 一気に突っ込んでいきたいけれど、或いはそうやって

 私達の事を誘っている可能性もあると考えた方がいいでしょう…」

 

「そんな…

 

 それだったらどうすんだよ…」

 

球子が唸るように聞いていくと、杏が提案をしていく

 

「皆さん、ここは私に任せて貰えますか?

 

 私の攻撃だったらもしかしたら敵の様子を見れるかもしれませんし…」

 

「そっか…

 

 杏の武器である連弩なら、攻撃を当てることで向こうのい反応を見れるかも…」

 

「だったらさっそく‥‥お願いしてもいいかな?」

 

恵子がそう言って杏に指示を出していく

 

「まかせてください!」

 

そう言って杏は一同よりも前に出て

攻撃を当てられる範囲にまで近づいていく

 

そこで武器である連弩に

金属性の力で地面に含まれる金属で生成した矢をセット

 

それを穢れの方に向かって放っていく

 

その攻撃は当たったものの

あくまで充てる事のみを考えたものなので音を立てて弾かれて行く

 

「‥‥どうでしょうか…?」

 

杏は攻撃を当てた穢れの様子を見ていく

一同はその後も観察を続けていくが反応はない

 

「‥おっし、反応がないってことは異常なしだな!

 

 それじゃあさっそく、突撃開始と行くぞ!!」

 

そう言って向かって行こうとする球子を明がつかんでいく

 

「馬鹿、反応がないからって

 敵が何もしてこないってわけじゃないのよ!

 

 行くにしても慎重に行かないと

 相手を刺激して取り返しのつかないことになったらどうするの!?」

 

「‥うぐ、返す言葉もない…」

 

恵子に言われて、しょんぼりと気を落とす球子

 

「気を取り直して慎重に、でも慌てないで向かうわよ!」

 

明がそう言うと同時に四人は功意で穢れの元に向かって行く

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

志班

 

こちらの方は穢れの方に無事にたどりついていく

 

「改めて見ても大きいわね…」

 

三人の目の前にそびえたつ、竜骨座の穢れ

 

それは五百メートル届くかどうかの大きさであった

 

「…見たところ、穢れは静かな様子を見せているみたいだけれど…

 

 とりあえず、突入する?」

 

「‥‥そうね、どっちみち本体はこの中に

 潜んでいると思うし、警戒を怠らずに突入していきますか…」

 

志はそう言って一同に提案していく

 

「ようし…

 

 早速行って、海を…」

 

「待ちなさい、棗…

 

 穢れが何かしかけて来るかもしれないから慎重に行きなさいっての…」

 

暴走気味な棗を慌てて引き留める志であった

 

「それじゃあ、改めていくわよ…」

 

そう言って三人は穢れの中に入っていく

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

竜骨座の穢れの中に潜入していく七誠

 

「…ようし、あとは最深部にあるだろう本体を破壊すれば‥‥

 

 それにしても…ここは随分と湿っぽいな、海の中にあるからかな?」

 

七誠はそう言って穢れの中を見渡していく

 

そこはまるで壊れて陸に打ち上げられた船の中を探検している

七誠自身はそう感じていた、しかし七誠は警戒を怠ることなく

 

武器である剣を抜いて、奥へ奥へと進んでいっている

 

辺りは何もないように静かだが、逆にそれが七誠に警戒心を抱かせていく

 

七誠が暫くあるいていると、何やら異様な感覚を覚えていく

 

「(…妙な感じがする‥‥

 

  まるでさっきから道が変わっていないようにも感じるけど‥‥)」

 

七誠は試しに他の者達に連絡を取ることにした

 

「…もしもし、七誠だけど‥‥

 

 他の方の様子はどう?」

 

『七誠さん、こちら漆間です

 

 とくに問題はありません』

 

『こちら、骨宮です

 こっちの方も問題ないけど…

 

 そっちの方で何か見つかったんですか?』

 

恵子と志、それぞれのリーダーを務める勇者達が返事をしていく

 

「…ううん、こっちは何も‥‥

 

 ただ、ちょっと違和感を覚えてね

 他のみんなの様子はどうなのかなって確認してたんだ‥‥」

 

『‥‥‥七誠もか、実は俺もおかしいなって感じたんだ‥

 

 さっきから妙に静かだし、怪物のような存在の気配すらねえ‥

 

 それに、ここに入ってからずっと先に進んでいない感覚に陥ってるんだ‥』

 

七誠の言葉にそくざに反応したのは似非であった

似非もまた七誠同様に異様な感覚を覚えているのだ

 

『‥‥恵子さん、どうしたんですか?』

 

『あ、うん、七誠さんと似非さんがなんか違和感があるって…」

 

『違和感‥‥すいません、私の方も繋げますね…』

 

恵子の方でそんな会話が加わると、杏もまた通信に入っていく

 

『もしもし、伊予島です…

 

 失礼ですが七誠さんに似非さん…

 

 詳しい話を聞かせて頂けますか?』

 

『杏ちゃんか…実は‥‥』

 

七誠が説明をしていく

 

『‥‥なるほど、さっきから同じ場所を通っているような感覚…

 

 もしかしたらそれは、この穢れの内部構造に仕掛けがあるのかもしれません…』

 

「内部構造‥‥?」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

恵子班視点

 

「‥‥この穢れの内部は壁や床、天井が

 同じような構造になっているんです…

 

 もしかしたら、穢れの中に怪物が

 全然現れないのは実はこの内部構造自体が

 私たちを惑わす罠その物なのかもしれません…」

 

杏はそう言って自分の意見を述べていく

 

「どういう事だよ杏?

 

 タマにもわかりやすいように説明してくれよ…」

 

「つまり、私達は前に前に向かって進んでいると思い込んでいるけど

 実際はぐるぐる同じばしょを歩かされているかもしれないってこと

 

 ここの空間は先の方からずっと同じような構造をしているから

 前に前に進んでいると誤認している、いわゆる錯覚何だよ」

 

杏はそう言って、他の面々や通信越しの他の者達も反応する

 

「‥‥多分、おんなじ所をぐるぐる歩きまわされているだけだから…

 

 どこかに通路を思わせる場所があると思う…」

 

「ようし!

 

 そういう事だったらタマが

 この通路の壁を攻撃していって…」

 

「馬鹿!

 

 それでここが崩落したらどうするのよ!!」

 

球子が武器である旋刃盤を構えていくが

それを明に止められてしまい、間抜けな悲鳴を上げる

 

「‥‥壁に沿って行きましょう…

 

 もしかしたら、そこに

 この道を抜け出すヒントが見つかるかもしれません!」

 

「杏の言う通りにしてみよう…

 

 少なくとも、タマっちのやり方よりは信頼できるわよ」

 

「ちょっ!?

 

 なんでさり気にタマの事ディスるんだよ!」

 

恵子の余計な一言に抗議の言葉を述べていく

 

「‥‥っ!

 

 みなさん、見てください!」

 

すると、杏の方でさっそく何かを見つけたようだ

 

「さっそく何か見つけたのか?」

 

「‥‥ええ、どうやらうまく通路を私達の死角に作って

 私たちを上手くこの錯覚の通路に閉じ込めていったみたいです…」

 

杏がそう言って指をさすと

そこには、普通に前に歩いていると気が付かない

壁によって遮られ、さらには簡単には気づけないところに通路があった

 

「ここが本当の通路か…」

 

「やっぱり私達、おんなじ所をぐるぐる回らされていたのね…」

 

「ようし、今度こそ敵のところにまで行くぞ!」

 

そう言って恵子班は、見つけた通路の先へと進んでいく

 

「‥‥見なさん、後の方を見てください!

 

 普通に前に歩くだけでは見つけられない通路への入り口があります!!」

 

杏はその際に他の一同に通信を入れていった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「了解!

 

 後ろの方にある通路‥‥」

 

七誠も杏の言葉を聞いて、急いで通路の方を探していく

 

前に進みつつ、通路の後ろの方も見ていくと

ふいに壁の部分に不自然な重なりが見えていく

 

「あれかな?

 

 警戒を怠ることなく向かってみよう」

 

そう言ってようやく見つけた通路の方を通っていくと

その通路は一変して至る所に骨組みによって構成されている

 

「…今まで通ったところよりも随分と様変わりしているな‥‥

 

 それに確か、こういう骨組みがある場所って‥‥」

 

すると、骨組みの穴の部分から

上半身の身の骨のような人型の布を羽織った怪物が

七誠野方にへと一斉に襲い掛かってきたのであった

 

「やっぱりね‥‥

 

 こうなったら、行かせてもらうよ!」

 

そう言って剣を抜いていくと、それを振るって怪物たちに挑んでいく

 

「やあああ!!!!」

 

七誠は右手に雷を、左手に風を纏わせていき

それを剣に纏わせていき、そこから次々と攻撃をあびせていく

 

怪物たちを次々と切り伏せていきながら

奥の方へと奥の方へと進んでいくのであった

 

「ふう‥‥

 

 しかし、他のみんなは大丈夫だろうか‥‥」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

その頃

 

「のおおおお!?

 

 まさか怪物の群れに襲われてしまうなんてね…」

 

志班の方も、杏の通信通りに奥に進むための通路を確認し

そこを進んでいったのだが、案の定怪物の群れに襲われてしまった

 

「やれやれ…

 

 こうなったら出し惜しみはなしと行こうかな!」

 

帆波はそう言って武器である棍を振るって行き

自分達に向かって行く怪物たちをどうにか相手取っていく

 

帆波は武器を振るったり

背中のマフラー状の布を振るって

怪物の群れを次々と撃破していく

 

しかし、後の方から怪物が勢いよく襲い掛からんとした

 

だが

 

「…かかったね!」

 

すると、怪物の攻撃を受けた帆波は

まるで書き消されるように消滅していった

 

すると、帆波は武器である棍を構えて

後ろの方から一気に殴りつけていく

 

「やあああ!!!」

 

見事、その一撃は怪物に直撃し撃沈させていった

 

「行く…!」

 

棗は武器である双節棍の片方を手に

もう片方の棍棒をぶんぶんと振り回していく

 

怪物の群れは勢いよく棗の方へと向かって行く

 

「はああああ…!」

 

棗の双節棍が土属性の力で硬化させられ

それによって威力を増した一撃が怪物に放たれて行く

 

それによってうち伏せられた怪物の上に乗った棗は

 

「はああああ!!!」

 

双節棍をふるって行くと、棍棒と棍棒を繋げている紐が

勢いよく伸びていき、それが広範囲にいる怪物たちを次々と撃破していく

 

しかし、それでも大量の怪物たちが溢れてくる

 

「重力操作…!」

 

棗がそう言ってもう片方の手を振り下ろす動作をしていく

 

すると、怪物たちが勢いよく地面に張り付けられ

身動きが取れなくなってもそのまま押しつぶされて行き

 

多くの怪物たちが消滅していく

 

「ようし…

 

 ここは私が‥‥決める!」

 

志はそう言って手に持っている三叉檄を三つに分ける

いわば三節棍のような形にしていくと、槍の柄と柄尻の部分を持ち

槍の帆が付いている部分を音を立てて振り回していくと、その部分から風が起こり

 

更に雷の方も光ったり鳴ったりして発生していく

 

「やああああ!!!」

 

そのまま三節棍をふるって行くと

そこから激しい雷を纏った物凄い風が吹き荒れていき

 

それが次々とその辺りにあった骨組みのの部分を次々と破壊していった

 

「おお、さすがは私たちのリーダーだね…

 

 ようし、それじゃあ補佐役として

 私の方もしっかりしないといけないね!」

 

そう言って帆波は背中ではためかせている

マフラーをふるって行き、残っている怪物たちを捕らえていき

 

身動きを取れなくさせていくのであった

 

「とどめは私が…!」

 

こうして、三人の連携によって見事に怪物たちも

怪物たちを生み出していた部分も破壊に追い込むことが出来たのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

恵子班の元にも怪物の群れが現れたものの

優れた連携を駆使して次々と蹴散らしていき

 

怪物を生み出していた骨組みの部分も見事に破壊

 

そのまま先の方へと向かって行った

 

「辿り着いたわ…

 

 ここが穢れの最深部…

 

 そして、あれが穢れの大元…」

 

そこには何やら大きなコンパスのようなものが

回りで音を立てながら白い球体の周りを回っている

 

「あのでっかいのが穢れの本体か…

 

 ようし、ここはタマが一発…」

 

「まって!」

 

「‥うわっぷ!?

 

 な、なんだなんだ!!」

 

球子が先陣きって向かおうとするが

突然誰かに声を掛けられて思わずずっこけてしまった

 

その人物とは

 

「…どうやら、無事にここまでやってきてくれたみたいだね‥‥」

 

「「「「七誠(さん!)!!!」」」」

 

北斗の剣士

 

北斗 七誠

 

 

彼であった

 

「無事でよかったです…

 

 ところで、どうかしたんですか?」

 

「…うん、あの本体…正確にはあの本体を覆っているあの球体だけど‥‥

 

 とんでもないことが分かったんだ‥‥」

 

そう言って剣を構えると七誠は

球体の方に向かって攻撃を仕掛けていく

 

すると、その球体に傷がついて、中身があらわになる

するとその傷はものすごい速さで再生されて行くが驚いたのは

その際、中の方に映ったあるものであった、そのあるものとは

 

「‥‥今のって…女の子!?」

 

杏は驚愕の表情を浮べて、呟いた

 

そう、切り裂かれた際にその中に人間の女の子が

一瞬だったが一同の目に移りこんでいったのであった

 

「…ちょっと待って七誠!

 

 どうして穢れの中に女の子が…

 

 穢れは実体化するまでは人間を襲うことは無いし

 何より自分の核に人を取り込むなんてことがないよ!?」

 

「…うん、僕たちの方でも前例がない‥‥

 

 つまり、今回がファーストケースってことだ‥‥」

 

「そんな…」

 

女の子が閉じ込められている球体を呆然と見つめる一同

 

すると

 

「‥‥そう言えば七誠さん、覚えていますか?

 

 私たちがこの世界に来た最初のころに

 穢れに襲われた町の住人たちの中に、女の子がいたこと…」

 

「…うん、確か‥‥

 

 高坂 野乃花ちゃんだったよね‥‥

 

 あの時、僕たちに助けてくれたことにお礼を言ってくれた‥‥」

 

杏は思い出したように戦いに投じる前にあった少女のことを話す

 

「実はその子のことで、晴子さんから聞いていたんです…

 

 野乃花ちゃんには幼馴染がいて

 その幼馴染が怪物の群れに襲われた際に行方が分からなくなっていると…」

 

「「「「っ!?」」」」

 

杏からそれを聞いて一同は驚いた様子を見せていく

 

「それってまさか‥さっきの女の子が…!?」

 

「‥‥かもしれません…

 

 避難した皆さんの確認も

 しなければならなかったこともあって

 報告が遅れてしまったそうですが、行方不明だったそうです…」

 

「どうして…

 

 どうして人間が穢れにとらわれてなんて!?」

 

「細かい詮索はあとよ

 

 今はどうにかして、あの中にいる

 その幼馴染の女の子を助け出して

 

 穢れをどうにかして倒さないと…」

 

恵子はそう言って表情を強張らせていきつつ

白い球体の方を見詰めていく、するとそこに

 

「みんな‥‥無事だったか…」

 

「棗さん・皆さん!」

 

そこに志班も無事に到着してきた

 

「これが‥‥穢れの本体…

 

 だったらここで一気に…!」

 

「待てって棗!

 

 その前にお前らに言っておくことがあるんだよ!!」

 

「言っておくこと?」

 

そう言って一同は穢れの本体の中に女の子がいた事

その女の子は行方が知れなかったこの世界の住人であること

 

そのせいで迂闊な攻撃ができなくなっていることなどを話していく

 

「嘘でしょ‥‥穢れの中に人間が…!?」

 

「ええ、はっきり言って私たちも信じられないけれど…

 

 いたことは本当ヨ、この目で一瞬だけだけれど見えたから…」

 

志は信じられないと言った感じで話しを聞いていた

 

「そんな…それじゃあ迂闊に攻撃できないじゃない…

 

 どうしたらいいの!?」

 

「分からないわ…

 

 七誠さんにとってもファーストケースだし

 穢れを倒せばいいんでしょうけれど、ここが本体だしね…」

 

帆波は問いかけるが、明も含め全員が頭を悩ませていた

 

すると、そこに

 

「話しは聞かせてもらったぜ!」

 

そう言って一同の前にあらわれたのは

 

偽十字の大剣使い

 

十字屋 似非

 

 

彼は四つのチームの中で一番遅れたものの

どうにかここにまでたど炉付いた、さらには事情も聴いていた

 

「似非‥‥

 

 ひょっとしてだけど‥‥

 

 何か方法が分かるの!?」

 

「‥‥ああ、まずは説明の方を指せてもらう‥

 

 お前等が見た女の子はいうなれば穢れの依り代

 穢れの核の元であり同時に力を放出させているんだ‥」

 

「依り代‥‥どうしてそんなものが…?」

 

杏は恐る恐る、聞いていく

 

「本来穢れは周りにいる人間の負の感情を

 自身に蓄積させることでその濃度をあげている

 

 だが依り代はそれに加えてさらにその依り代になっている

 人間の負の感情を直接吸収することで成長を更に促進させている‥

 

 この世界で発生した穢れが

 今までの穢れよりも進行が速かったのもそれが理由だ‥」

 

「なるほど‥‥つまり依り代を使う事で

 穢れはより早く成長し、より強力に強くなっていく…

 

 大まかにいうとそういう事ですね…」

 

杏がまとめると、似非もそうだと頷いていく

 

「だとすると、急いで穢れと依り代を引きはがさないとならない‥

 

 この世界で穢れが発生しておよそ数日、下手をすれば命にもかかわる!

 

 一刻も早く依り代を救出するぞ!!」

 

似非の言葉とともに、一同は頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、依り代とされし少女の救出作戦が開始されるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜骨座 第α話 依り代

最悪のシナリオを回避せよ‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜骨座の穢れ、未完成の古代戦艦の竜骨

 

その内部に突入したのは二人の英雄と七人の勇者

 

北斗七星の剣士

 

北斗 七誠

 

 

偽十字の大剣使い

 

十文字 似非

 

 

この二名の英雄と

 

烏座の勇者 三等級勇者

 

土居 球子

 

 

髪の毛座の勇者 四等級勇者

 

伊予島 杏

 

 

ケンタウルス座の勇者 一等級勇者

 

漆間 恵子

 

 

カメレオン座の勇者 四等級勇者

 

古波蔵 棗

 

 

帆座の勇者 二等級勇者

 

尾崎 帆波

 

 

竜骨座の勇者 一等級勇者

 

骨宮 志

 

 

大熊座の勇者 二等級勇者

 

隈井 明

 

 

以上の七人の勇者達である

 

だが、その九人は現在かつてない状況に直面していた

 

漸く心臓部に突入した一同は、その心臓部の中に

取り込まれていた者を見て、驚愕の表情を浮かべていた

 

それは何と、その心臓部の中に人間がいたからである

 

その人間の少女は、依り代として穢れの動力源にされていたのだ

 

やがて一同は、心臓部を破壊するために、救出作戦を対策するのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「それで、似非‥‥

 

 依り代にされた人を救い出す方法知ってるの?

 

 似非君は独自に動いていろいろ調べてきてくれているんだよね?」

 

七誠はそう言って似非に聞いていく

 

「…‥ああ、実はな…

 

 ここに来るまでにも何度か同じように

 穢れの依り代にされてしまった人々を何度か見てきた…

 

 その大半は何らかの負の感情を抱えているのが共通していたんだ‥」

 

「負の感情…

 

 怒り、憎しみ、嫉妬に後悔…

 

 とにかく何らかの暗い気持ちを抱えている人がいる…

 

 そういう事ですね、似非さん…」

 

杏の質問に、似非はそうだと頷いた

 

「そうだ‥

 

 穢れは人間が抱えている負の感情を

 吸収と分裂を繰り返すことでその力を大きくしていく‥

 

 依り代を取り込んでいる穢れはその依り代から

 直接、負の感情を吸収していく事で成長していく…

 

 故に依り代を直接取り込んでいる穢れは

 自然発生した穢れと比べれば成長速度は速い‥

 

 だが、逆を言えば依り代に依存しきっていると言う事でもある‥」

 

「なるほど!

 

 つまりあの依り代を引きずりだせば

 穢れの成長は止まるってことなんだろ?」

 

そう言って早速向かっていこうとする球子

 

「待て!

 

 依り代を救い出しても

 穢れとのつながりを切り離せるわけじゃないんだ!!

 

 穢れと依り代を繋げているのは、依り代自身の負の感情‥

 

 その負の感情さえどうにかすれば穢れの成長を止められる‥

 

 でも、穢れの成長速度は速い、だからもしも間に合わない場合は‥」

 

「間に合わない場合…?」

 

「‥‥まさか…」

 

杏は似非の言う事の意味が理解できたのか杏は表情を青ざめていく

 

「…‥そうならないためにも、一刻も早くこの穢れの本体を叩くぞ!

 

 もう何日も立っている以上、猶予はほとんどないに等しいだろう‥

 

 すぐにでも決行するぞ!!」

 

似非はそう言って大剣を抱えて向かって行く

七誠もまた、似非の言葉の意味を理解し、同時に

自分達が今、何をするべきなのかも理解し向かって行く

 

勇者たちの方も急いで二人のあとを向かって行く

 

「な、なあ…

 

 さっきの話、似非は言った何を言いかけたんだ?

 

 杏はあれの意味、分かったんだよな?」

 

「‥‥ねえ、タマっち先輩…

 

 タマっち先輩はどうして人は…

 

 間違ってるって分かっているのに

 間違いを犯してしまうのかって、考えたこと‥‥ある…?」

 

球子が何気なく聞いていくと、杏はどこか暗い表情でそう聞いていく

 

「どうしてって‥どうしてだ…?」

 

「‥‥わからない…それが答えだからだよ…

 

 タマっち先輩、確かに七誠さん達は出来る限り

 救える命を救おうとしっかり奮闘している、けど…

 

 必ずしもすべての命を救ってあげるってわけじゃないんだ…

 

 世界を護るっていうのは、それほど簡単に事でもないんだし…

 

 時には全を救うために個を捨てることも視野に入れなければ

 ならない時も来ると思う、そしてその時は今迫ってる、その時が来たら…」

 

杏はそこまで言うと口ごもってしまう

球子はいまだに理解しきれている訳ではないが

 

それでも重く真剣な話なのだと、受け止めてもいる

 

「‥よくわかんないけど…

 

 ようするに、あの穢れに取り込まれている奴を

 早く助け出さないといけないってことなんだよな!

 

 だったら、やることは決まってんだろ!!」

 

「‥‥そうだね…

 

 それじゃあ、改めて行こう!」

 

球子の良くも悪くも前向きな姿勢に、杏は安心した様子を見せていき

やがて、依り代が閉じ込められている穢れの核の方に向かって行った

 

「ようし!

 

 まずは表面にダメージを与えていこう!

 

 あんまり協力すぎると中の人にも攻撃が入ってしまうからね‥‥」

 

「それじゃあ、私がやるね!」

 

七誠野プランに名乗りを上げたのは帆波であった

 

帆波は背中に羽織っているマフラーを思わせる外套を

身体の一部のように素早くふるって行き、それで攻撃をしかける

 

すると、依り代が閉じ込められている

球体の部分を護るように結界のようなものが張られて行く

 

「ぐう…

 

 さすがに、対策されているか…」

 

「それだったら…!」

 

棗が帆波と入れ替わるように前に出ていく

 

「多分、バリアを張っているのは

 あの両側にある羅針盤のような奴…

 

 立ったらあれを壊してしまえば…」

 

そう言って武器である双節棍棒を強めたり弱めたりと

振り回していくことで攻撃の威力の調整していった

 

「はああああ…!」

 

棗はそうしながら球体の周りをまわっている

羅針盤のようなものに向かって攻撃を仕掛けていく

 

すると、そこから黒い煙のようなものを噴き出していき

ぐるぐる球体の周りをまわり様な動きを止めていくのだった

 

「今だ…!」

 

「うん!」

 

棗がそう言うと、帆波がまたも入れ替わるように前に出ていく

 

「やあああ!!!」

 

帆波は外套による攻撃で球体にダメージを放って

傷をつけると、その中に一人の女の子が膝を抱えている姿が見えた

 

「いた、あの子!」

 

「おっしゃあ!

 

 いっけええ!!!」

 

球子がそう言って武器である旋刃盤をふるって行く

すると、そのうえには七誠が乗っており、その勢いで突っ込んでいく

 

「やあああ!!!!」

 

七誠は球体の中に突っ込んでいくと、その中にいた女の子を抱え

さらに向こう側の壁を切り裂いていく事で、見事に球体の中から脱出する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、救出の方は成功するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




救出成功‥‥‥‥‥‥‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

竜骨座 Car 結着、そして

少女の思い‥‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女には幼馴染とともにした夢があった

 

その夢はいつしか

彼女にとって前に向かって行く心の支えになった

 

しかし、段々と大人になっていくにつれて

夢を追って行く心の余裕はなくなっていった

 

それでも彼女は夢をあきらめることはせずに

それでも前を向いて進んでいったが、同じように

夢を追っていた友達は、現実の厳しさに負けてしまい

 

やがて、夢をあきらめずに向かって行く自分の存在が

まるで周りからおかしいと思われるようになり、孤立していった

 

もう、夢を向って進んでいくのに疲れた

 

そう思って現実の荒波の前に心が折れかけた

そんな彼女に声をかけてくる一人の少女がいた

 

それが、高坂 野乃花だったのだ

 

彼女は自分と同じ夢を持ち、明るく好感をもてる性格から

やがて、二人は仲良くなり、折れ掛かった彼女の心を再び立ち上がらせた

 

だが、彼女と自分は何もかもが違っていた

 

彼女は明るく好感をもてる性格のおかげで友人も多く

彼女の周りには常に笑顔を浮かべた人が集まっていた

 

自分の周りには、そんな人なんていないのに

 

深く気にする必要はない、彼女は自分の夢を応援してくれているのだ

 

彼女とともに夢に向かって進んでいけばいい

 

そう言って自分の中にある劣等感をごまかしていった

 

だが、ついに彼女とともに

その夢への第一歩へと進んでいった、その時

 

彼女の心が闇におおわれる様な出来事を体験してしまった

 

漸く夢を果たすための道にともに歩めると思ったが

そこに、残酷な結果を言い渡されることになってしまう

 

野乃花やほかにもともに頑張ってきた

仲間たちはついに夢の舞台に立てた、そう彼女たちは

 

自分だけが、舞台から引きずり降ろされてしまったのだ

 

ついに夢にまでたどり着けたと思ったのに

自分だけがそこに居られない、それが彼女の心に闇を落とした

 

野乃花や他の友人からの制止も聞こえず

生きながらに死んだようにあたりをさまよい歩いていた彼女の元に

 

一人の人物が現れると、その人物は時分に向けて手をかざし

 

意識もまた、闇の中へと落ちていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…あ…」

 

少女はゆっくりと目を覚ましていくと、そこに映ったのは

 

「…よかった、目を覚ましたみたいだね」

 

優しげな青年の安どの表情であった

彼女はいきなり目の前に男性の顔が映ってしまい

すこし驚いた声を上げてしまい、青年を脅かしてしまう

 

「…ごめんごめん‥‥

 

 びっくりさせちゃったよね‥‥

 

 でも安心して、僕は君を助けに来たんだよ」

 

「…は…はあ……」

 

突然のことに驚いた様子を見せていき

安全な場所に隠れているように進めていく

 

七誠が少女を安全な場所にまで運んでいく間に

他の面々は残っていよいよ大詰めとなった戦いに挑んでいく

 

「ようし!

 

 あとはこいつをここで倒すだけだ!!」

 

そう言って青年が武器である大剣を構えていくと

 

「おっしゃ!

 

 ここからはタマに任せタマえ!!」

 

「タマっち先輩!

 

 たよりにしてるからね!!」

 

「でも勝手に突っ走りすぎないでよね…」

 

「タマちゃんは言われっぱなしだね…」

 

「でも、逆に安心する…」

 

「ようし…

 

 とにかく行くぞ!」

 

そう言って青年が向かって行くのと同時に

勇者たちの方も一斉に向かって行った、すると

 

「っ!?」

 

青年の攻撃の軌道が突然変わった、青年だけではない

勇者たちの方も突然攻撃の方から避けていき、それぞれ地面に倒れこんだ

 

「っ!?

 

 なんだ今のは‥

 

 穢れの能力‥?」

 

似非はどうにか着地しながらも

突然のことに驚いた様子を見せていく

 

「‥この…

 

 何が起こっているのか

 知らないが、今度こそ!」

 

「タマっち先輩!」

 

球子はそう言って武器である旋刃盤をふるって行く

 

だが、それも勢いよく向かって行ったものの

またも大きく攻撃の方からかわしていき、旋刃盤は地面に突き刺さった

 

「一体ホントにどうなってんだ!?

 

 攻撃の軌道が勝手に変わっていくとか

 そんなの反則じゃねえか、どうするんだよ!?」

 

「‥‥まずは敵の能力の方を知らないと…

 

 それにしても‥‥いきなり攻撃の軌道が変わるなんて…

 

 でも、そんな能力があるのなら

 どうして最初っから使わなかったんだろ…

 

 むしろ今までの戦いとはっきり言って違いすぎる…」

 

杏は敵の能力を見て、どこか今までの竜骨座の穢れと

まったくもって違うと感じ始めており、警戒を強めていく

 

「どうやら意地でも、本体に手出しはさせないって感じみたいね…

 

 だったらさっきの能力がどういったものなのかをしっかり

 見つつどうにか攻撃を仕掛けていくわよ、穂波に棗も協力して!」

 

「分かったよ!」「うん…」

 

志組の三人は散開して、穢れの本体をかく乱させていこうと試みる

 

「はあ!」

 

志が先に武器である槍を振るい

風による攻撃を振るう様にして放っていく

 

すると、案の定風は軌道を変えて

何もないところに命中していった

 

「‥‥属性攻撃でもだめか…

 

 接近戦の方も近づいていこうとするだけでやられるからな…」

 

「ようし、だったら今度は…」

 

帆波はそう言って、自分の属性尾である月属性の力で

自分の姿を何人も見せていき、穢れをかく乱させようと試みる

 

分身たちは見事に攻撃にかかっていくものの

元々攻撃力を持たせていないことも手伝って大した問題ではない

 

「今だ!」

 

そう言って穢れが分身たちによって翻弄されていると思い

不意をついて攻撃を仕掛けていった、しかし、その一撃もまた

 

「うわあああ!?」

 

敵の能力によって軌道を変えられて

帆波はその反動を受けて大きく吹っ飛ばされていく

 

帆波は吹っ飛ばされた先の方で、地面に勢いよく叩きつけられる

 

「いったたた…

 

 月属性の幻覚による錯乱だったら

 もしかしたら、一撃当てられるかもしれないって思ったのに…」

 

「だったら…

 

 ここは一気に押しつぶす!」

 

そう言って棗が腕を地面に叩きつけるようにふるう

すると、穢れの周りに重力が発生していき、穢れに負荷をかけていく

 

「ようし!

 

 これだったら…」

 

「はああああ…!」

 

更に重力の負荷を大きくしていく棗

穢れの方もそれなりにダメージを受けている様子を見せる

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

穢れにとらわれていた少女を介抱する七誠

 

「今のところ、容体に変化はないように思えるけれど‥‥

 

 隊長の方は問題ない?」

 

「…は、はい…

 

 ありがとうございます…」

 

依り代にされた少女の方はだいぶ気持ちが

落ち着いてきた様子で受けごたえができるようになっている

 

「よかった…見たところ大丈夫そうだね‥‥

 

 待ってて、すぐにでも君を友達のもとに送り届けてあげるから…:

 

「お友達…それってひょっとして…

 

 野乃花ちゃんの事ですか?」

 

少女が恐る恐る訪ねていく

 

「うん、高坂 野乃花ちゃんの事でしょ?

 

 君のこと、本当に心配してたよ?」

 

七誠は何気なく、彼女の言葉に答えた

 

「いや…」

 

すると、彼女の様子が段々と変化し

 

「いやぁ…」

 

彼女の表情が悲しみに染まっていき

 

「《b》いやあああ!!!《/b》

 

彼女が叫ぶと、その体から真っ黒なオーラが噴き出していき

そのオーラは穢れの核の方にへと吸い寄せられるように向かって行く

 

すると、重力に圧されてダメージが掛かっていた穢れの核に

とんでもない変化が巻き起こっていき、さらなる脅威にへと変貌していく

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

少女の身体から噴き出したオーラが

穢れの核に吸い寄せられるようにして取り込まれて行く

 

「な、何だ…!?」

 

「あれって‥‥穢れ…!?」

 

目の前の初めて目にする現象に

勇者達は言葉を失い、その光景に眼をやっていた

 

すると、今まで重力に圧されていた穢れの核が

それによってさらに大きな変化をもたらしていく

 

すると、格の方から何やら爬虫類の足のようなものが突き出てきて

それは勢いよく伸びていき、ゆっくりと地面の方に突き立てていった

 

「何が起こっているの…!?」

 

すると、地面に固定されていた核は

ゆっくりと自らその体を浮かせていく

 

そこに映ったのは、核の入った白い球体を胴体に見立てて

やがて、それぞれ伸びた足の間から頭部と尾がゆっくりと生えていく

 

こうして、まるで召喚系の穢れを思わせる

巨大な怪物が一同の前に立ちふさがっていく

 

「ぐう…」

 

それでも変わらずに、重力で負荷をかけ続けていく棗

だが、目の前で核が変化した怪物はそれを気にすることなく

 

一同の方にへとゆっくりと近付いていく

 

「重力による圧が効かない…」

 

「そんな‥‥一体何が起こって…」

 

目の前でいきなり起こった現象に戸惑った様子を見せていく

 

「こいつに取り込まれて行った黒のオーラ‥

 

 もしかしてだが、依り代の方から噴き出したのか!?」

 

似非は慌てて、依り代の介抱を担っている七誠と

その七誠が介抱している依り代の少女のもとに向かって行く

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「七誠!」

 

似非は声を荒げて七誠の服を掴み上げていく

 

「お前、一体何をしたんだ!

 

 依り代の身に何かあったら

 どうなるのか分かってんだろ!?」

 

「分かってるよ!

 

 でも僕は彼女にただ

 友達が待っているって

 教えてあげただけなんだ‥‥」

 

英雄の二人が激しい口論に陥らんとしていったそこに

 

「いやあああ!!!

 

 お願いだからもうこれ以上は話さないでえええ!!!」

 

少女の叫び声に驚いた様子を見せる二人

 

「一体どうしたんだよ!」

 

七誠が呼びかけていくと

少女は涙を流しながら答えていく

 

「だって私には、もうどうしたらいいのかわかんないんだもん!

 

 子供のころからアイドルに憧れて

 自分も周りを笑顔にさせられる人になりたいなって思ってた

 

 でも、どんなにがんばっても傷つくだけで、挙句には私には

 アイドルになる素質は私には備わっていないって、はっきり言われた…

 

 私はずっと夢に向かって進んできたのに、その道が閉ざされてしまって…

 

 もう…もう私どうしたらいいのかわからないよおおお!!!」

 

そう言うと、またも少女の身体から勢いよく黒いオーラが噴き出し

それがさらに怪物の方にへ吸収されるように融合させていく怪物

 

すると、怪物は大きな足音を響かせていきながらユックリと迫っていく

 

「‥‥七誠、そのガキをこっちに引き渡せ!

 

 このペースだといずれこの世界が飲み込まれる‥

 

 そうなる前に‥」

 

「っ!?

 

 似非、何言ってるの!?

 

 幾らなんでもまだ早急すぎるよ!

 

 まだこの子を助けることは出来るはずだ!!」

 

似非がどんな手段を取ろうとするのを感じ

七誠は慌ててその手段を否定していく、似非の方も

七誠の言葉を理解しながら、それでも決断を話していく

 

「…‥だが、この子の心の闇が露呈している

 それに並行して、この穢れ自体も成長が早い‥

 

 このままだとこの世界はすぐにでも

 穢れに覆い尽くされてしまうだろう‥

 

 もしもそうなれば、この世界は‥」

 

「大丈夫だよ、似非‥‥

 

 確かにかつての僕たちは

 世界を守るためにやむを得ずに

 犠牲を下したことだってある‥‥

 

 でも僕達には、今の僕達には

 僕たちが信頼に値する人たちが確かにここにいるんだ!」

 

「え‥?」

 

そう言った七誠が視線を向けた先には

 

変異した穢れと激突する、七人の少女達がいた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「やああ!!!」

 

球子が武器である旋刃盤を飛ばして攻撃を仕掛けていくが

それを見た穢れは、背中についている角を動かしていくと

 

攻撃の軌道が変わり、それが一同の方に向かっていく

 

「っ!?

 

 あの角を使って

 攻撃の軌道を変えているんだ!」

 

「だったらあの角を破壊できれば…」

 

「待ってよ棗ちゃん!

 

 そのためにはあいつに近づく方法を考えないと…

 

 攻撃を放っても、その前に軌道をそらされたらアウトだし…」

 

「だったら、逆にそれを利用すればいい!」

 

そう言って恵子は地面をコンコンと小突き

正面から穢れの方に攻撃をしかけんとしていく

 

「恵子、何をやっているの!?

 

 そんなことをしたら、また攻撃の軌道を変えられて…」

 

志は畏怖するが、恵子はそれでも臆することなく突っ込んでいく

 

「はああああ!!!」

 

恵子が勢いよく槍を前に突き出しつつ突っ込んでいくが

案の定、穢れの手によって軌道は変わってしまい、避けさせられてしまう

 

「今だ…

 

 おおおおりゃあああ!!!!!!!」

 

すると、恵子は槍に風と雷を纏わせていき

それを穢れの方に向かって勢いよく放っていく

 

すると

 

穢れに攻撃が見事に命中する

 

「届いた‥‥!?」

 

「…‥そういう事か‥

 

 奴の能力はかけなおしがきかないのか!」

 

「かけなおしが効かない?

 

 それってどういう事だ?」

 

「‥‥簡単に説明するとね…

 

 あの穢れの攻撃の軌道を変える能力は

 対象に対してその能力を使っている間は

 ほかの者に祖の能力をかけなおすことはできないの…

 

 一度に複数に能力を掛けらることは出来るけど

 後から追撃してきた対象には能力を発動させられない…

 

 っていう事なの」

 

杏が球子に説明をしていく

 

「うーん、其れで何で恵子の攻撃が入ったんだ?」

 

「要するに恵子さん自身に能力はかけられても

 後から恵子さんが追撃のために攻撃をしかけてくると

 

 相手はそれに対して能力を掛けられないから攻撃が通ったんだよ」

 

そう言って杏が言うと球子の方も理解が及んだのか納得したような表情になる

 

「なるほどな、要するに仮にタマが突っ込んで

 アイツの能力によって攻撃を防がれても、そこに

 

 杏が一発打ち込んでいけば、その攻撃は通るってことだな?」

 

「まあ、そんな感じだよ

 

 ようはそこをついていけば

 あの穢れを倒すことは出来る!」

 

そう言って球子が突っ走っていくと

球子は武器である旋刃盤を手に向かって行く

 

「うおお!!!」

 

球子は武器である旋刃盤を振るって飛び込んでいくと

案の定、敵の能力にかかって軌道を変えられいってしまう

 

「今だ、杏!」

 

球子は攻撃の軌道を変えられながらも

それでもあきらめた様子を見せることなく

 

杏に呼びかけていく

 

「タマっち先輩…

 

 本当に向こう見ずなんだから…

 

 でもこれだったら、一気に決められる!」

 

そう言って武器である連弩を構え

球子に能力を使用して能力のかけなおしが

効かない状態になった穢れに狙いを定めていく

 

「‥‥今だ!」

 

杏がある場所に狙いを定めていき

そこに攻撃を勢いよく放っていく

 

その狙った先にあったのは

 

怪物のように変形した

穢れの核の角のような部分であった

 

角は杏からの攻撃を受けると

それによって先の部分が地面に落ちていく

 

すると、怪物のように変化した穢れの本体は

自分の武器が破壊されたことで、大きく動揺している様子を見せる

 

「ようし!

 

 これでもう、穢れの本体は

 あのやっかいな能力は封じたよ!!」

 

「オッケー!

 

  これでもうあとは思う存分やれるね!」

 

そう言って勇者達は一斉に穢れの本体にとびかかっていった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「あ…」

 

その様子を依り代にされていた少女は

そんな光景に自分でもわからないほどに見とれていた

 

「どうして、あの子達は…

 

 あんなにも太刀迎えていく事ができるの…?」

 

少女がそんなことを聞いていくと

 

「…あの子達はただ、自分達にしかできない事を

 全力にやっているんだ、だってそれは文字通り‥‥

 

 あの子たち自身にしかできない、一人で無理でも

 自分のことを認め、自分が認めている仲間たちが支えてくれてる‥‥

 

 あくまで僕の推察なんだけれども、それがあるからこそ

 みんなはあんなにも頑張っていく事が出来るんだって思うよ」

 

「え…?」

 

七誠がそんな少女の問いに答えていく

 

「…夢を追いかけ続けていくのは大変なことだ‥‥

 

 はっきり言ってぶつかってしまう事もあるだろう‥‥

 

 でもだからこそ、自分のことを支えてくれる仲間の存在は

 本当の本当に大きくてかけがえのない者なんだよ、君の目指す夢に

 

 そんな大きくてかけがえのない仲間はいないのかな?」

 

七誠がそう言うと少女は不意にあることを思いだした

 

自分の夢のことを理解してもらえず、回りから

浮いてしまっていた自分に変らずに接してくれた、野乃花の存在を

 

彼女もまた同じ夢を持ち、自分がくじけても

それでも自分のことを支え続けてくれていた彼女

 

結局、夢に敗れてボロボロになってしまった自分のことを

なんとか励まそうと、マネージャーでいいからと誘ってくれた彼女

 

彼女、野乃花は自分がどんなに傷つき落ち込んでも

それでも、自分の傍にいて支え続けてくれたかけがえのない存在

 

「…そうだ…そうだったよ……

 

 私にもいたよ、私のことを

 支えてくれていたあの子のことを…」

 

すると、その瞳に光が宿り始めていく

 

「私…どうして落ち込んでたんだろ…

 

 私はいつだってあの子に支えられていたのに

 夢がかなわなかったショックの方にばっかり意識が行って…

 

 そんな大切なことに、気づけなかったなんて…」

 

すると、彼女の心に光がともっていく

 

「わたしを誰よりも理解して

 

 支えてくれて、傍にいてくれた人…

 

 野乃花ちゃん!」

 

少女がそう言って前を向いていくと

彼女の身体から黒いオーラではなく

白く輝きの灯ったオーラが噴き出していく

 

するっとそれが、穢れの身に纏われて行くと

穢れは苦しそうな唸り声をあげ、さらに動きも鈍くなり始めていく

 

「な、何だこれは…!?」

 

「これはきっと、穢れなき思い…

 

 希望と言う光だ!」

 

球子の問い似非が答えると

穢れは段々と動きが鈍くなっていき

 

やがて、元の巨大なオブジェの姿に戻っていくのだった

 

「すごい…

 

 人の思いがここまでの結果を生み出すなんて…」

 

杏がその光景を見て、改めて人の思いの強さを理解していく

 

「うん…

 

 いまだったら、やれる…!!」

 

「ようし!

 

 それじゃあ、行くよ!!」

 

そう言って勇者達は一斉にオブジェに戻った

穢れの核にこう檄を仕掛けるために向かって行く

 

「どおおらあああ!!!!!」

 

球子が武器である旋刃盤を振るっていき

さらにそこに水による波状効果も上乗せしていき

 

攻撃をふるって行く

 

「やあ!」

 

杏が武器である連弩に金属性で生み出した矢を装填し

穢れの核に狙いを定めて放っていった、二人の攻撃がそれぞれ命中

 

大きな衝撃があたりに響いていく

 

「やるじゃない!」

 

そう言って明は武器である太刀くらいの大きさの爪を構え

そこに木属性で生み出した風と雷をそれぞれ右手と左手に纏わせていき

 

そのまま、爪からはなった斬撃に乗せて攻撃を仕掛けていく

 

それによってさらに核に攻撃が仕掛けられていった

 

「棗ちゃん!」

 

帆波は今回攻撃に加わらずに

棗の方に自身の属性である月属性を付与させていく

 

すると、棗の人数が四人に増えていく

 

「「「「「はああああ…!」」」」」

 

それを受けて棗達は一斉に武器である双節棍を振るい

一斉に核に攻撃を仕掛けていき。さらにダメージを与えていく

 

この一撃には棗の属性である土属性が付与されている

それによって武器が強化され、更に重力操作の能力のおかげで

 

更にその一撃は強力なものになっていく

 

「ようし!

 

 それじゃあ、とどめはリーダーの皆さん!!

 

 決めちゃってください!!!」

 

帆波がそう言って、呼びかけていくと

 

「オッケー、それじゃあ行くよ!」

 

「仕上げは私たちで行くわよ!」

 

恵子と志がそれぞれの武器をかまえていく

 

「はああああ…」

 

恵子は武器である槍をゆっくりと振り回していき

その槍に穂の部分に雷を、柄尻の部分に風を纏わせていき

 

そのまま、姿勢を低くしていく

 

「はああああ…」

 

志の方は槍を三節棍に変形させていき

穂先部分と柄尻分の方を勢いよく回していき

 

穂先の部分に雷を、柄尻部分に風を纏わせていくと

 

「「おおりゃああ!!」」

 

二人の放った一撃が、見事に穢れの核に炸裂していくのであった

 

見事に攻撃がさく裂する穢れの核は黒いオーラを勢いよく噴き出していくと

ついには爆発する様に霧散させていき、消滅していく、これによって見事

 

勝利を手にした一行であった

 

「はあ‥はあ…

 

 や、やったみたいだな…」

 

「うん…」

 

こうして見事、穢れを撃破した勇者達

 

そんな彼女たちの活躍に思わず見惚れていく少女

同時に丁度近くにいた七誠に不意に訪ねていった

 

「あの‥私…みんなのところに戻って‥…

 

 いいのでしょうか?」

 

七誠はそう問いかけた彼女にふと笑みを浮かべて言う

 

「…当たり前だよ

 

 だって、君のことを待ってるんだもの‥‥

 

 君のことを待ってくれている人のもとに

 帰ってあげるのは、当然の事なんだもの」

 

七誠のその問いかけに、少女は笑みを浮かべて

 

「はい!」

 

跳びっきりの笑顔で答えるのであった

 

すると、辺りからゴゴゴゴと何やら轟音が響いていく

 

「…‥どうやらs、ここはそろそろ危険のようだな‥

 

 急いでここから逃げ出すぞ!」

 

似非がそう言って一同は急ぎ

穢れの中から脱出するために走り出していくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

 

くずれていく巨大な骨組みの船を遠くより見詰めているいくつかの影

 

「竜骨が落ちてしまったみたいだね…」

 

「ぐぬぬぬぬ…

 

 折角の依り代が…」

 

その様子を見て悔しそうに表情を強張らせていく少女

 

すると、そこにもう一人の少女が姿を現す

 

「フフ…まあいいでしょう…

 

 こんなこともあろうかと

 しっかり仕込みはしておいたから…」

 

「さすがだね…

 

 でも、穢れの方は

 見事に落とされてしまったみたいだけれども?」

 

そう言って遠目に映っているくずれていく船を見て呟く

 

「なあに、船のパーツが多少崩れた程度じゃ

 沈むことは無い、むしろここからが本番と言うもの」

 

「そっか…

 

 まあ、今のあの子達には

 太刀打ちは出来ないだろうね…」

 

そう言っていると二人の人物の後ろから一人の人物が

 

「いよいよ、それがラストチャンスってことだね…」

 

「月夜美さん…

 

 わざわざここまでご足労いただいてしまうとは…」

 

その人物はまるで月の光のような

白銀の鎧に身に纏った人物であった

 

「…フフフ…

 

 これで終わりじゃないよ英雄と勇者のみんな…

 

 むしろ、ここからが本当の勝負さ…」

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

英雄二人と勇者七人は無事に竜骨座の穢れから脱出することに成功する

 

「ふう‥‥

 

 何とか脱出に成功したね‥‥」

 

七誠はそう言って

その場にいる全員の安否を確認していく

 

そして、彼の手には

 

「‥あ、あの…もうそろそろ‥…」

 

「うん?

 

 ああ、ごめんごめん‥‥」

 

依り代にされていた少女を所謂お姫様抱っこで抱えていた

 

しかし、損な微笑ましい光景も

 

「っ!?

 

 おいみんな、見ろあれ!!」

 

球子のその言葉によってすぐに緊張に包まれて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだこの世界での戦いは、終わらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




闘いの後に待ち受けるもの‥‥‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

羅針盤座 第α話 更なる穢れ、羅針盤座

更なる戦いの時‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回のあらすじ

 

猟犬座の穢れとの戦闘で休暇を

与えられていた球子と杏たちであったが

 

彼女達が所属している

 

春組の組長

 

春の大曲線の英雄

 

東龍 春三

 

 

彼から緊急の知らせが入っていく

 

有る世界に穢れが発生したので、さっそくそこに

 

北斗七星の英雄

 

北斗 七誠

 

 

彼とそのパートナーである勇者

 

大熊座の勇者 二等級勇者

 

隈井 明

 

 

二人は急ぎそこに向かい

 

竜骨座の勇者 一等級勇者

 

骨宮 志

 

 

彼女達のチームに助力する様に向かって行き

 

さっそく穢れとの戦闘に入って行くのだが

いかんせん、想像以上に敵の勢いが強く劣勢を強いられ、さらに

 

飛魚座の勇者 四等級勇者

 

都彦 十和子

 

 

蠅座の勇者 三等級勇者

 

腐肉 晴子

 

 

二人の勇者が負傷してしまう

 

絶体絶命のピンチを迎えた一行だが、そこに

 

烏座の勇者 三等級勇者

 

土居 球子

 

 

髪の毛座の勇者 四等級勇者

 

伊予島 杏

 

 

カメレオン座の勇者 四等級勇者

 

古波蔵 棗

 

 

帆座の勇者 二等級勇者

 

尾崎 帆波

 

 

ケンタウルス座の勇者 一等級勇者

 

漆間 恵子

 

 

彼女らが援軍として加勢にやって来る

 

援軍が届いたことにより、状況が悪くなることは無かったが

だからと言って巻き返せるのかと言われるとそうでもないのだ

 

いかんせん、前回の全回に戦った

猟犬座の穢れとの戦いの時の疲れが抜けきっていないために

 

上京の方は大して変わらなかった

 

そんな折に現れたのは英雄たちの中でも特に謎の多い人物

 

偽十字の英雄

 

十文字 似非

 

 

彼が加勢に入ったことによって

無事に人々を守り切ることに成功する一同

 

やがて、穢れの本体を叩くために負傷した二人の勇者に

住人たちの守護を任せて、残る一同は一斉に穢れの本体に

 

木材でできた節足、錯覚による迷走

さらには穢れの本体である核が変化した怪物

 

さらには穢れの強化の依り代に使われていた生贄の少女

 

様々なことがありながらも、依り代の少女を救出して

一同は無事に核を破壊、くずれていく穢れをどうにかして脱出する一同

 

やがて脱出に成功した一同はその向こうがわで何と

信じられないとでもいうような光景を目の当たりにする

 

一同が見たものとは、何と…‥‥‥

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「おいみんな!?

 

 あれを見て見ろよ!」

 

烏座の勇者 三等級勇者

 

土居 球子

 

 

そう言う彼女が指をさしていくそこにあったのは

二百メートルを超える大きさの巨大な羅針盤であった

 

羅針盤は何やらどこかを指しているようにも見える

 

「あれって‥‥竜骨座の穢れ‥‥じゃないですよね?」

 

髪の毛座の勇者 四等級勇者

 

伊予島 杏

 

 

彼女が目の前に聳えている羅針盤を見て聞いていく

 

「…うん、あれは‥‥

 

 羅針盤座の穢れだ!」

 

そう言って剣を抜いていく七誠

 

「七誠さん!

 

 むやみに戦ったらだめです!」

 

「わかっている、僕が殿をやるから

 みんなは急いでここから離れてくれ!

 

 こいつは同にかしてこいつを止めるから

 

 似非、頼む!」

 

「わかった‥

 

 それじゃあ、俺が先導する

 急いで十和子と晴子のもとに行くぞ!」

 

こうして一同は撤退を開始していく

 

しかし、敵の方は攻撃を一切してこなかったので

殆ど闘うこともなく、無事に引き上げることが出来たのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

一同は引き上げ、その先で十和子と晴子と合流

 

同時に対策会議を練っていく

 

「…‥あれは十中八九、羅針盤座の穢れだ‥

 

 おそらく、竜骨座の穢れの内部に仕込まれていたんだろうよ‥」

 

似非の言葉に動揺の様子を隠せない一同

 

「‥‥まさか、穢れの侵攻が早かったのは

 単純に穢れの力が強くなったからではなく…

 

 この世界に二種類の穢れが誕生して

 それ等が同時にこの世界を侵食していた…

 

 そういう事だったんですね…」

 

杏が信じられないと言わんばかりにつぶやいていく

 

「‥なあ、七誠に似非…

 

 穢れの中に穢れが発生するっていう事はあるのか?」

 

「…聞いたことは無いかな‥‥

 

 そもそもおんなじ世界に複数の穢れが

 発生することはあったけれども、同じ世界に

 多種類の穢れが発生した事例は今回がはじめてだよ…

 

 自然発生では今まで現れたことは無い…でも、もしかして‥‥」

 

七誠がそこまで言うと、似非に止められるように体を叩かれる

七誠が彼の方を向くと、似非はに黙って首を横に振っていくのを見て

 

七誠はハッと眼を見開いて、思わず黙り込んでしまうのだった

 

「‥‥どうした…?」

 

「…ううん、なんでもない‥‥

 

 とにかく、原因は何であっても

 僕達がやることは変わらないよ‥‥

 

 羅針盤座の穢れを浄化して、この世界を救う‥‥

 

 それが今、僕達がやるべき事なんだから‥‥」

 

「…そうだね…

 

 竜骨座の穢れをどうにかした浄化できたおかげで

 この世界の七割をを覆っていたおよそ七割を解放出来た

 

 のこるおよそ三割を浸食している羅針盤座の穢れを

 どうにかできれば、今度こそこの世界を救うことが出来る

 

 だから、あと一息だけ、頑張ろう」

 

帆波がそう言って、一同に呼びかけていくのだが

 

「‥も、もちろんそのつもりなんだが…

 

 タマの方はちょっと問題が…

 

 全くってわけじゃないが、ちょっと疲れが…」

 

「ごめんなさい‥‥実は私も…」

 

「‥‥少し…疲れが出てきている‥‥…」

 

三人の勇者達がやや気だるそうに言って行く

 

「おいおい、どうしたんだよだらしねえな」

 

「…しょうがないよ、彼女達は戦いが終わってすぐに

 ここに派遣されてきたんだから、特に杏ちゃんは身体も弱いし‥‥

 

 明と帆波ちゃんもそうだよね?」

 

「…私も闘えない程ではありませんが…」

 

「…あははは…気力で乗り切れればなって思ったんだけれど…」

 

明と先程激高を飛ばした帆波も疲れを訴えていく

 

「…‥そうか…まあ戦えない訳じゃないし

 無茶をしない範囲なら、大丈夫だろう‥

 

 それで一等級の二人の方は?」

 

「私の方は大丈夫です!」

 

「私も問題はありません‥」

 

そう言って一等級の勇者達は問題ありませんと

言わんばかりにむんっとガッツポーズを取っていく

 

「最大戦力の方は問題ないか‥

 

 俺たちが付いていけば問題は無いか?」

 

「そうだね‥‥」

 

そう言って似非と七誠が決定を口にしようとすると

 

「「待って下さい!!」」

 

そう言って声をあげたのは二人の少女であった

 

「七誠さん、似非さん!

 

 お願いします、私達にもいかせてください!!」

 

「私達にも戦わせてください!」

 

そう言って志願する

 

飛魚座の勇者 四等級勇者

 

都彦 十和子

 

 

蠅座の勇者 三等級勇者

 

腐肉 晴子

 

 

二人の勇者は自分達にも戦わせてほしいと言ってきた

 

「ダメだよ二人共!

 

 二人はまだ、あの時に受けた

 怪我がまだ完治していないんでしょ!?

 

 そんな状態で戦いに何て出たらどうなるか‥‥」

 

「…‥最悪、死ぬかもしれないんだぞ」

 

英雄の二人は首を横に振っていく、しかし

 

「わかっています…私達がどれほど無茶なことを頼んでいるのか…

 

 ですけれど、それでも嫌なんです、穢れのせいで

 人々が不安で苦しんでいるのを見ていられないんです…」

 

「思う様に戦える状態ではないことはわかってます…

 

 でもそれでも…ただ待っているだけなんていやなんです!」

 

そう言って決意の言葉を口にする二人

 

「…フフフ‥‥二人は本当に勇者だね‥‥

 

 分かった、そこまで言うならいいよ

 

 ただし、絶対に無茶はしない事

 無理だって思ったらすぐに引き上げてね」

 

「もちろんお前等もだぞ

 

 この世界を救うのがもちろん大事なことだが

 お前達の命の方ももちろん大事なことだからな‥

 

 ましてやお前たちは事情が事情だとはいえ無茶を指せている‥

 

 最悪、死ぬ可能性もあるんだ、くれぐyれも無茶はするなよ」

 

「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」

 

「ああ!」

 

「うん…」

 

勇者達は似非の呼び声にしっかりと返事をしていく

 

「さあて‥

 

 それで、穢れの動きの方は?」

 

似非はそう言って遠くの方から巨大な羅針盤を模した建造物

 

よくよく見ていると、穢れの周りでは

水や風などのさまざまなものが方向感覚を乗っ取られ

 

あり得ない方向に行ったリ来たりを繰り返している

傍から見ると何とも不可思議な現象が穢れの周りで起こっている

 

「…‥ふむ‥これは想像以上に手ごわそうだな…‥‥

 

 あそこに突入するには、どうにかして

 あの現象を突破していく必要がありそうだが‥」

 

似非はそれを見て、まずはあの現象を突破して行こうと決めていく

 

「‥なあ、杏…

 

 なんかいい方法思い浮かばないか?」

 

「うーん、普通に考えるんだったら

 あの事象をひきおこしている何かをどうにかすればいいと思うけど…

 

 今は何とも言えない状態だから…」

 

「‥‥可能性としてはあるかも…

 

 さっき戦った竜骨座の穢れも

 能力を引き出していた部位を破壊することで

 

 能力を封じることが出来たし…」

 

さすがの杏の方も情報が少ないせいで

まだ憶測の段階を出ることはできないようだ

 

「‥‥敵の能力はおそらく運動エネルギーに干渉することで

 対象の方向を変えたり、自在に操ったりと言った誘導能力…

 

 あの穢れの回りで起こっている事情はその能力によるものでしょう…

 

 そして、それはおそらく…」

 

「うん…それはきっと竜骨座の穢れと戦った時に奴が

 使っていたあの能力と同じもの、おそらくはあれも‥‥」

 

「なるほど…‥本来はあの穢れの力だったってわけか‥」

 

杏の言葉に補足をしていく七誠と

それを踏まえて予測を口にしていく似非

 

「‥‥そのことを踏まえると、あの事象をひきおこしている

 所謂、装置のようなものがあそこにあると考えていいでしょう…

 

 本体に乗り込むのはまずはそこからですね…」

 

「そうだね、対策はある程度は決まった‥‥

 

 後はどうにかやっていくだけだね」

 

行動方針を決めていく一同

 

そして

 

「ようし、それじゃあ行くぞ!」

 

そう言って早速向かって行く一同であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

一同は近くて羅針盤座の全体が見渡せる範囲にまでやってきた

 

「うーん‥‥

 

 一応、それらしいのがないかを見たけれど

 

 見たところそれらしいのはないね…」

 

「やっぱり本体を直接叩くほかないのか?」

 

七誠達は羅針盤座の穢れをしっかりと観察し

何か怪しいものはないのかと見ていたのだが

 

今の所は何も見えていない

 

「ようし!

 

 だったらここはタマが…」

 

「まってタマっち先輩!

 

 此処は私に任せて」

 

そう言って武器である連弩に矢を装填し

それを穢れの方に向かって撃ち出していく

 

「みなさん、穢れの方を見ていてください!」

 

「わかった…」

 

杏の言葉を聞いて穢れの方を見ていく

矢は勢いよく穢れの本体に飛んでいく

 

すると

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

勇者達は不意に穢れのわずかな異変を見つけた

 

それは

 

「‥‥見たか…?」

 

「うん、穢れの上の方でぐるぐる回っていた

 針が素早く矢の方に向いていっていた、多分…

 

 あの針に刺されたものが能力の対象になるんだ!

 

 つまり…」

 

「ぎゃくを言えば、あの針に差されなければ

 あの針さえ破壊できれば、あの厄介な能力を封じられる…

 

 そーいうことか!」

 

球子の言葉に全員が頷いていく

 

「それじゃあ、僕達が行くよ!

 

 みんなは隙をついてあの針を破壊してくれ!!」

 

「本体に突入するのはそれからだ‥

 

 行くぞ!」

 

こうして、最初の関門に挑んでいく一同であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

まずは七誠と似非が先行していき

あえて敵の能力を受けるために特攻していく

 

「うおおお!!!!」

 

七誠が両手に武器である剣を手に持ち

羅針盤座の穢れの方にへと向かって行く

 

すると、巨大な羅針盤の針が七誠の方に向かんとすると

 

「俺を忘れるな!」

 

そう言って十字架を模した大剣を振るい

それで針に攻撃を仕掛けていこうとする

 

だが、針はそくざに似非の方を向き

向かってくる彼の動きを勢いよく変換させていく

 

「ぐううううう!!?

 

 攻撃が大きく‥」

 

想像以上の方向転換に似非の方も巻き込まれて行く

七誠がその隙に武器である剣から勢いよく攻撃を放っていく

 

だが、それも羅針盤の針が勢いよく横に振るわれると

七誠が放った斬撃が大きく横にずらされて行き、それは

似非の方に振るわれて行く、それを見た似非は武器をかまえ

 

「はあ!」

 

その攻撃を相殺させていく

 

「あいにく俺は仲間の攻撃でしぬほど、軟じゃないぜ‥」

 

そう言ってもう一度武器をかまえて

それを勢いよく横なぎにふるって斬撃を飛ばす

 

放出特化型の七誠の攻撃に比べれば

威力は低いものの、武器が大剣であるおかげで

広範囲に至れるほどの大きな攻撃となっていく

 

だが

 

羅針盤の方はそんなの関係ねえと言わんばかりに

針を使って攻撃を方向転換させて回避してしまった

 

「ちい!

 

 範囲の大きさも関係なしか‥」

 

「でも慌てることは無いよ

 

 ぼくたちの役目は、こいつを

 倒す事じゃないんだからね‥‥」

 

そう言って武器である剣を構えていく七誠

 

「…‥そうだな‥

 

 あいつらが上手くやってくれるまで

 俺たちがやるとしましょうか、まあ‥

 

 それにしても、本当にあいつらに

 任せておいて大丈夫なのか、少し不安になってきたが‥」

 

「…大丈夫だよ‥‥

 

 だって、星の力が見込んだ勇者なんだもの

 寧ろ、心配する事の方があの子達に失礼だよ‥‥

 

 僕達は僕達がやるべきことを遣っていこう!」

 

そう言って背中にまっかな翼を右側に一枚広げ

身体能力をあげていって改めて攻撃を仕掛けていかんとする

 

穢れもそれに気づいて針を再び向けていく

 

七誠は来たなと言わんばかりにその勢いに供えていく

 

だが、敵の能力は想像していた以上に強力であった

 

「ぐあああ!!!!」

 

その勢いに押されて行きぐるぐると回転させられる七誠

 

「ぐう‥‥」

 

それでも決して敵のいる方から目をそらすことなく

武器である剣の切っ先の方を針の方にへとむけていくと

 

「僕は絶対に…こんなところで‥‥」

 

そうつぶやきつつ剣を振りかざしていく

すると、そこから斬撃が放たれて行った

 

「負けるわけに…行かないんだあああ!!!!」

 

そう言って攻撃を放つと

流石の穢れも方向転換も間に合う様子はなく

 

そのまま攻撃を受けてしまうこととなった

 

これによって、針を破壊するには至らなくなり

攻撃の方向転換させる能力は封じられなかったが

 

それでも、居場所探知能力や

その誘導能力の性能も大きく劣化した

 

「ようし…

 

 行ってこい勇者たち!」

 

「「「「「「「はい」」」」」」」

 

似非がそう言うと、控えていた勇者達が

一斉に羅針盤の方に向かって攻撃を仕掛けていく

 

「それじゃあまずは私が!」

 

そう言って十和子が取り出したのはボーガン

 

すると、そのボーガンにどこからか

生成された矢が装てんされて行く、十和子はそのボーガンの先を

敵の能力の発生元である針の方に標準を合わせていき、狙いを定めると

 

「行きます!」

 

その声とともに、ボーガンの引き金を引き

弾丸を羅針盤の針の方に向けて放っていく

 

そしてその攻撃が、針の方に炸裂せんとしたその時

 

「っ!?」

 

その矢が突然一回転して別の方向にとんでいく

 

それによってせっかく放った矢が

別の方向に向かって行ってしまった

 

「‥どうしよう…飛んで行っちゃった‥…」

 

「大丈夫よ、それも想定内だから!」

 

杏のそんな声が聞こえたそこに

針に向かって一本の金属性の矢が撃ち込まれた

 

だがそれは、針に直接ではなく

針のその周りの方の地面に向かってである

 

「おいおい、何やってんだよ‥」

 

似非は狙いが外れたと感じ、不安そうな表情を浮べていく

 

だが

 

「…いいや、見て御覧!」

 

七誠がそう言って指を指すと

そこでは驚くべきことが起こっていた

 

それは

 

「針の動きが止められている!?」

 

「杏ちゃんの狙いはあれさ‥‥

 

 羅針盤座の穢れの誘導能力は

 あの針の動きに合わせて行われている‥‥

 

 つまりあの針の動きを封じることが出来れば‥‥」

 

七誠がそう言って似非に説明をしていくと

似非は納得したように首を縦に振っていく

 

「そういう事さ!」

 

すると、そこにすかさず

 

「タマっち先輩、棗さん!

 

 針をとめている中心部分を狙ってください!!

 

 そこを破壊すれば、誘導能力を封じられます!!!」

 

「うおっしゃ!

 

 タマに任せタマえ!!」

 

そう言って球子は武器である旋刃盤を振るい

その勢いで、飛ばして留め具の方に向けて振るって行く

 

その上には

 

「一撃で沈める…!

 

 これが私の全力…!!」

 

棗が乗っていた

 

棗がその勢いによって飛び出していき

目の前にある針を止めている中心部分に攻撃をしかけんと

武器である双節棍に土属性の能力の一つ、重力操作で威力をあげていき

 

さらに鎖部分を伸ばしていき

さらに勢いをつけていき、それで

 

「おおおおりゃあああ‥‥!!!」

 

棗は渾身の一撃を、見事に狙った位置に向かって叩き込んだ

 

それを受けたことによって留め具の部分は見事に破壊されて行き

それによって針はおおきく飛び出し、そのまま本体から外れていく

 

そして、外れた針はそのまま地面に落ちていき

先の方がぐさりと突き刺さって、そのままとなった

 

「‥‥やった…」

 

「おっしゃ!

 

 これでやっとあの面倒な

 方向転換を起こされずに済むってことだな?」

 

「そうだね…

 

 でも、タマっち先輩…

 

 本題はむしろここからだよ…

 

 なんていったって、この穢れの核を破壊しないと」

 

そう言って針が破壊されて

微動だにしていない様子の羅針盤を見詰める

 

「任せて頂戴!

 

 こういう時のためのハルの能力だよ」

 

そう言って晴子は武器である槍を振るい

それを精神を統一するようにして、身構えていく

 

すると、槍の穂先の部分が無数の蠅に代わって行き

それが、羅針盤の全体にまんべんなく飛び去っていく

 

暫くすると、飛んでいった蠅の一部が晴子の指に止まる

 

「‥‥核を見つけたよ!」

 

「うん‥‥それじゃあ、さっそく…」

 

晴子の言葉を聞いて

さっそく一同は向かって行こうとするが

 

「‥‥待って!

 

 核のところに誰かいる…」

 

「え?」

 

晴子は一同を呼び止め、核の方にある人影を見つける

 

「‥‥何だろう…

 

 まるで、閉じ込められているみたいな…」

 

「っ!?

 

 まさか、依り代があの穢れにも!?」

 

晴子の証言に七誠は驚きの声をあげていき

それを聞いた一同は驚愕の表情を浮かべていった

 

「そんな…

 

 さっき救出した女の人の他にも

 穢れに取り込まれている人がいるってこと!?」

 

「だとしたら不味いよ!

 

 急いで助けに行かないと!!」

 

そう言って向かおうとしていく勇者一同

 

「待ってみんな!

 

 ハルちゃん、核と依り代の居場所を教えて!!」

 

「了解です!

 

 皆さん、こっちです!!」

 

そう言って七誠に背負われて、一同を

核と依り代のいる場所の方へと案内していく晴子

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

羅針盤座の穢れの中に突入した一同は

晴子の力で依り代と核のもとに急いでいく

 

しかし、ここもさっき突入した竜骨座の穢れと同様

内部には途轍もない罠が仕掛けられていた、それは

 

「‥‥ね、ねえみんな…

 

 なんだかおかしくない?」

 

「あ?

 

 おかしいって何がだよ?」

 

一番のその異変に気が付いたのは杏であった

 

杏の言葉に一番に首を傾げたのは球子であった

他の者達も球子ほどではないが同様に疑問を浮かべる

 

しかし

 

「…妙です、さっきから私達

 中に入っている様子が全く感じられません…」

 

「…どういうことだ‥‥?

 

 まさか‥‥!?」

 

「また俺達、方向感覚を狂わされているのか!?」

 

それを聞いて、一同は一気に緊張が走った

 

「…そんな…方向感覚を操る能力を発動してた針はもう壊したんじゃ…」

 

「それはたぶん、外側の能力だけを封じただけだったんだろう

 

 この内部の能力自体は封じきれていないんだ‥」

 

似非は口惜しそうに表情を歪めていく

 

「落ち付いて、もしもそれが

 この内部で起こっているのなら

 

 晴子の武器がこの中で狂わされずに

 核のもとに辿り着けるはずがない…

 

 多分、外側と同様に能力を発動させている何かがある…

 

 それをどうにかできれば、まだ逆転は出来る…!」

 

棗が一同に呼びかけていく

 

「‥‥棗にしては、良い判断だ…

 

 でも、問題はこの方向感覚を狂わされている

 この状況で、どうやってそれを見つけるかだけど…」

 

「…みんな、ここは私に任せて貰える!

 

 一か八かの賭けになるけれども

 私の能力だったら、澪つけられるかも!!」

 

十和子がそう言って一同に提案していく

 

「…いくら何でも無茶だ!

 

 もしもそれで何かあったら‥‥」

 

「…それでも、それでも私の力でみんなの約に立てるのなら…

 

 私はそれでいいです、もうあの時みたいに私が何もできずに

 ただ見ているだけだなんて、そんなの…そんなのはもう嫌です!」

 

十和子はそう言って志願する様に言う

それを見た似非と七誠は根負けしたようにため息を付き

 

「…‥わかった‥

 

 だが、お前は最初にも言ったが病み上がりだ

 無茶だけはするなよ、今お前が抜けられれば

 

 それこそこっちにとっても大変な痛手だからな」

 

「了解です」

 

似非にそう言われて元気よく返事をしていく十和子

 

「其れで、どうやって行くの?」

 

「こうやってです…」

 

十和子がそう言うと、地面がまるで

波紋を浮かべる様に波を打つと十和子の体はゆっくりと地面に沈んでいく

 

「うええ!?

 

 と、十和子の体が沈んで…」

 

「なるほど…

 

 それだったら敵の力の影響はうけないかも…」

 

驚く球子に理解する杏

そんな二人の方を向いていく十和子

 

「それじゃあ、いってきます…」

 

そう言ってそのまま地面に潜って行ってしまった

 

「…十和子ちゃん、大丈夫かな?」

 

「‥‥わからない…でも‥‥…

 

 私たちはただ信じるのみ…」

 

棗がそう言うと不思議とその言葉に納得する様に笑みを浮かべていく

 

「それじゃあ、僕達も僕たちでできる限りの事をしていこう‥‥

 

 ぜったいにこのループから逃れるぞ!」

 

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」

 

そう言ってその場に残った者たちは

自分達にもできる限りのことをしていく

 

「十和子ちゃん‥‥

 

 ぜったいに戻ってきてよ」

 

彼女のことを案じながらもこちらからも行動を開始していく一同であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…ようし…潜る分には問題ないわね…

 

 問題は、どこに例の方向感覚を

 狂わせている能力を発動させている肝があるのか…

 

 次はそこね…」

 

そう言って、頭につけていたゴーグルを降ろして

地面の中でもしっかり見える様にし、急ぎ進んでいく

 

十和子はまずは今の自分の方向感覚に異常はないか

確認しつつ、散策の方を始めていく、今のところは問題は無さそうだ

 

まず、十和子は晴子の言っていた核のある場所に向かって行く

 

「…一番にあやしいのはやっぱり

 この穢れの核がある、中央の部屋ね…

 

 まずはそこに行ってみましょう…」

 

そう言って奥の方へと急いで向かって行く

上の方を見上げて地面の景色の方は問題なく進んでいるように見える

 

「ようし…この調子だったら、直接向かって行っても問題は無さそうね…」

 

そう言って、本体のある場所に向かって行き

やがてその部屋に続く地面の下にまで行くと

 

その部屋には巨大な方位磁石のようなものがあった

 

「あれが核ね…

 

 ようし、それじゃあ、一気に…」

 

そう言って手に弩を構えていき

水中の中から一気に攻撃をしかけんとしていく

 

そして、核の方に向かって矢を発射していく

 

すると、矢は核に直接あたる前に、方向を変えていき

そこから地上にへと投げ出されるように放られて行った

 

「っ!?

 

 方向が操られて…!?」

 

十和子はそれに気づいて、急いでその場から離れていこうとするが

祖の前にぐるりと一回転されるように逆回りをさせられていき、そこから

 

「きゃあああ!!!」

 

一気に地上にまで大きく放り出され

そのまま地面に叩きつけられていった

 

「…いったたた…

 

 作戦は失敗したか…

 

 どうやら奴の能力は地面の下にも及ぶみたい…」

 

そう言ってゆっくりと立ち上がって

目の前にそびえているそれに目をやっていく

 

巨大な羅針盤、方位磁石

それが、この巨大な羅針盤の核

 

「…七誠さんからは無茶はしないようにとは

 言われていたけれども、戦うにしろ撤退するにしろ

 どのみち今のままじゃ、まともに行動に移す事だってできない…

 

 立ったらせめて、此奴の能力の根源をつぶしていくしかないわね…」

 

そう言って、武器であるボウガンを手に持ちながら

目の前の巨大な羅針盤の方に目を向けていく、彼女はじっくりと観察をしている

 

「…晴子の話によると、あの中に依り代に去れている人がいる…

 

 だけれど依り代は、助け出しても穢れとのリンクが

 つながっている限りは穢れに力を吸い取られ続けていく…

 

 だとしたら、ここは相手の能力を抑えないと!」

 

そう言って再び地面の中に飛び込むように潜っていく

敵に能力を上手く発動させないようにかく乱させていく狙いだ

 

十和子はすかさず矢を核に向かって放っていくが

矢はすぐに、方向を変えられていき、別の場所に飛ばされる

 

しかし、そこに

 

「はあああ!!!」

 

十和子は泳ぎながら何発も攻撃を乱射していき

それで、一つでも狙いに当たればと思い必死に行動を起こす

 

しかし

 

放たれたたくさんの矢はすべて、核についている針が

横に振るわれて行くと、それに合わせる様に矢が横に流れていく

 

「…っ!

 

 やっぱり一人では難しいか…」

 

そう言って悔しそうに表情をゆがませていく

 

すると、横に流れていった無数の矢は一気に

十和子の方に向かって雨のように勢いよく注がれて行く

 

十和子はそれを、両腕に装備されている

鰭のような暗器、刃をふるってはじいたり防いだり

 

其れでどうにかして、攻撃を凌いでいく

 

しかし、あまりにも攻撃が多く

すべてを防ぎきることは出来ずに何本か刺さってしまう

 

「ぐう…

 

 私とこいつはハッキリ言って相性が悪い…

 

 私の武器であるこれはべたべたの遠距離型

 運動エネルギーを操れる此奴とはまともにやり合えない…

 

 武器に寄る戦いができないのなら、別の方で戦うのみ!」

 

そう言って十和子は時分の体に刺さっている矢を引き抜いていくと

それをすべてまとめて右手に持っていき、そのまま、それを左手で

引き延ばす様に動かす、すると彼女の手に一本の剣が生成されていった

 

「金属性の力で物質を変化させて作った剣…

 

 でもこれでも所詮は付け焼刃、奴の能力の大元を

 どうにかするためには、どうにかして応援を呼べればいいんだけれども…」

 

そう言って再び、地面の中へと潜っていく十和子

かく乱させつつ、応援の方を呼びに行こうという算段

 

しかし、敵の運動エネルギーを操る能力には

どうしても簡単には逃れ行く事はできないようである

 

「(…ぐう…)」

 

羅針盤の針が彼女の方を指していくと、それによって

途轍もない勢いで振り回されて行く十和子、それでも

 

「(確か此奴の能力は、何か一つの対象を

  操っている間は、他の物を操ることが出来ない…

 

  それだったら、この隙に奴に攻撃を放てば…)」

 

そう言ってしっかりと目を開いていき

その視線の先には能力の発生源である針があった

 

その際に先ほど生成した剣を手に取っていく

 

「この一撃で、皆さんへの逆転への第一歩を果たして見せます…

 

 たとえここで…私が死ぬことになろうとも!」

 

そう言って剣を大きく振りかぶっていき

そこから、しっかりと針の方を見据えていき

 

そこに向かって勢いよく剣を投げつけていく

 

「ぐううう!!!」

 

そこからさらに運動エネルギーの操作によって

いきおいよくふるわれて行き、さらに大きく飛ばされて行く

 

すると、そんな彼女と入れ替わるように剣が通り過ぎていく

 

やがて、その剣は能力を発動させている針に触れた

 

するとその瞬間に、投げ付けられた剣は爆発し

それによって能力を発動させていた針の先の部分が

見事にぽっきりと折れてしまうのであった、すると

 

「お、おおお…!」

 

それによって体の自由を奪われていた十和子は

その能力から解放されて、地面に向かって落下していく

 

「はあ…はあ…

 

 どうにか、やったわね…

 

 うう…」

 

十和子は安どのため息を付くが

その際に思わずふらりと地面に倒れこんでしまう

 

「…しまった…気を抜いたら

 体のだるさが一気に出てきてしまった…

 

 でも、もうあとは指さえ動かせれば十分よ!」

 

そう言って端末を取り出して、他の面々に連絡を入れていった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

方向感覚を狂わされながらもそれでもそうにか動いていた一同

 

すると

 

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」

 

一同の端末から着信音が鳴り響いていく

 

それを見て、一同は端末を開くとそこには

敵の能力は封じた、急いできてほしいという連絡が入る

 

「メールでわざわざ報告をするってことは‥‥」

 

「十和子さんの身に何かが…!」

 

「十和子…」

 

「急ぐよ、ついてきて!」

 

緊急事態に晴子は急いで一同を穢れの本体である核

そのある方に急いで向かって行く、一同も急ぎ向かって行く

 

嫌な予感をその胸に秘めながら

 

「…どうか無事でいてくれ‥‥

 

 十和子ちゃん‥‥」

 

七誠は祈るように小さくつぶやいた

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「ぐう…」

 

十和子の方は目の前の核の方に対峙していた

そこには針の切っ先がぽっきりと折れてしまっている

 

それでも核の方は何やら巨大な節足のようなものを展開していき

それをまともに動くことが出来ない、十和子の方にその先を向けていく

 

十和子はそれでも抵抗しようと、武器であるボウガンを構えていく

 

「正直に言うと、立っていることは出来ない…

 

 でも指さえ動かすことが出来るなら、攻撃は出来る!」

 

そう言いきって見せるものの、疲労のおかげか

立ち眩みと眩暈によって、視界がぼやけていく

 

「‥こんなところで、やられるわけには…」

 

そう言って自分にすべてを託してくれた

英雄と勇者達の事を思い浮かべていった

 

「‥やられるわけには…

 

 行かないんだああ!!!」

 

そう言ってボーガンから矢を次々と撃ち出していく

その一撃一撃によって、敵をどうにか翻弄はしているが

 

決定打に欠け、あくまで攻撃に移らせないようにしていくのが精一杯である

 

それでも、十和子は攻撃をするのをやめない

例え視界がぼやけているせいで攻撃の狙いが定まらなかったとしても

 

それでも攻撃を続けていく十和子

 

しかし

 

「っ!?」

 

敵の方はそれに構わず攻撃をしかけていき

十和子の体に節足の爪を突き立てようとしていく

 

十和子は動けないために、その攻撃をよける手立てはなく

想わずボウガンの引き金を引いていく指の動きが止まっていく

 

「(ここまで‥か…)」

 

死を覚悟し、腕をクロスさせてせめてもの抵抗を見せていく

 

だがそこに

 

「うおおお!!!!」

 

そんな声が聞こえると同時に

十和子の眼前に迫っていた攻撃は

横から割り込んでいった何者かの行動によって

 

攻撃は見事に阻まれ、節足の方も

勢いよく斬り落とされて行ってしまうのであった

 

「‥え…?」

 

そう言って目の前におり立ったのは

身長がそれなりに大きい、剣を携えた青年

 

その背中には片方だけながら

大きな翼が供えられており、それが翻っていく

 

「…十和子ちゃん!」

 

そう言ってその場にうつ伏して動けない

十和子にしゃがみこんで話しかける七誠

 

「‥七誠さん…

 

 ごめんなさい、無茶をしないでって言われていたのに…」

 

「…気にしないで、十和子ちゃんは頑張ったよ…

 

 だからもうゆっくり休んでて、今度は僕たちの番だ!」

 

そう言って翼を翻して武器である剣をふるって行く七誠

 

それに合わせて、他の勇者たちも十和子を守るようにして

彼女の前に立ち、それぞれの武器をかまえて立ちふさがっていく

 

すると、敵の方も残る三つの節足を大きく振るい

それで、一同を迎え撃たんと勢いよくのばしていった

 

勇者達はそれをかわしたり受け流したりして

それでどうにか、攻撃の方に転じていこうとする

 

「みんな!

 

 まずはあの核の中にいる

 依り代にされている人を助けるんだ!!」

 

晴子はそう言いつつ武器である槍を振るうと

その槍の穂が無数の蠅のように分裂していき

 

更にそれによって敵の攻撃である節足に

いきおいよく攻撃を叩き込んでいった、すると

 

「タマアア!!!」

 

旋刃盤を手にした球子がそれで

いきおいよく節足に切り傷を加えていくが

 

それでも節足は切れることがなく

逆に球子を勢いよく上空に放り出していく

 

「タマっち先輩!」

 

「球子!」

 

それを見て真っ先に飛びだしたのは恵子

恵子は武器である槍を降りまわしながら

 

自慢の脚力で球子の方にまで飛び上がっていく

 

「うわああ!!!?」

 

余りの事に少し涙を流しながら叫ぶ球子

 

そこに飛びだしていったのは、恵子である

 

「球子!」

 

「え?

 

 うわっと!?」

 

上手く上空に振るわれた球子の体を受けとめていく恵子

 

そして、節足に向かって勢いよく蹴りを放ち

それで、自身と球子をその節足の方から距離を取っていく

 

だが、そのさいに球子は自分の武器である旋刃盤を残してしまう

 

だが、そこにすかさず

 

「やあああ!!!」

 

晴子が蠅の群れを槍の柄に一か所に集めていき

一本の鋭い穂先に戻していく、そしてそれを勢いよく

 

球子の旋刃盤に刺さっている部分にふるって行った

 

すると、その切り裂かれた節足は勢いよく斬りおとされ

それによって斬り落とされた節足が地面にい勢いよく落ちていく

 

すると、そこにさらに別の節足が振るわれて行き

それによって、晴子が絶体絶命の危機に陥っていく

 

「ぐう…」

 

晴子はそれを槍の穂先を翅の群れに変えて

それで、節足による攻撃を防がんと試みていく

 

だが、敵の攻撃の方が威力は大きく

全くと言っていいほど防ぎ切れない

 

「きゃあああ!!!」

 

それによって貫かれる事はないが勢いよく飛ばされて行った

 

だが、球子の旋刃盤の部分に向かって

いきおいよく武器である三節棍に雷と風を纏わせて

 

いきおいよく叩きつけていこうとするのは

 

「はああああ!!!」

 

志であった

 

彼女は三節棍を繋げて三又の槍に変えていき

それを球子の旋刃盤が刺さっている部分に叩きつけていく

 

「やああああ!!!」

 

その一撃を受けて見事に、拙速はぽっきりと折れて

そのまま、その切っ先が地面に音を立てて落ちていき

 

のこる二本の節足が不気味にうごめいていく

 

「このペースだとどうしても時間がかかるな…

 

 これじゃあもたもたしているうちに敵の攻撃が来ちまうぞ!」

 

「そうだね…

 

 せめて本体の中にいる依り代になっている人を

助け出すことが出来れば、まだ逆転の余地はあるのに…」

 

「っ!

 

 そうだ‥‥釣りをしてみよう…」

 

棗が不意にそんなことを言って行く

 

「釣りって?

 

 一体何を吊り上げるのかな?」

 

「‥‥依り代、あの中に攻撃を入れて

 上手く依り代を吊り上げるならぬ…

 

 つり出して見せる‥‥ちなみに私は釣は大得意だ」

 

何故かグッとガッツポーズを作って決めていく棗

 

「いやいやいやいやいや‥

 

 いくら何でも、それは無理だろ‥

 

 そもそも、釣り竿は何処にあるんだ?」

 

似非は突っ込みと呆れを合わせたツッコミを入れていく

 

すると、棗はおもむろに

自分の武器である双節棍を見せつける様にする

 

「…まさかと思うけれど‥‥釣り竿ってそれ!?」

 

「‥‥うん、これさえあればばっちり…」

 

大真面目に答えていく棗だが

 

「無理に決まっているだろそんなこと!

 

 そもそも、依り代の様子がうかがい知れないんだぞ

 

 もしも彼女の身に何かがあったら

 それだけで穢れを強化しかねないんだ!!」

 

似非は当然反対する、しかし

 

「大丈夫‥‥絶対にやり遂げて見せるから…」

 

棗はそう言って決意をあらわにするのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たしてうまくいくのか‥‥‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




カメレオン座の勇者の奇抜な作戦‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

羅針盤座 Pyx 深き深淵の依り代

悪意に愛された者‥‥‥…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女の家はとても厳しい家であった

 

とにかく勉強や学歴を重視し

目を合わせれば両親は勉強とばかり

 

友達と遊びに行く事は愚か、友達作り自体も認めず

そんなことに時間を費やすくらいならば勉強に使えと

 

少女の両親は彼女の意見を聞こうともしなかった

 

だが、そんな彼女にも憩いの場があった

それはアイドルの追っかけで、追っかけ仲間と共に励んでいく事

 

そんな時が少女にとって

一番心を落ち着かせていく事ができる時間であった

 

勿論、勉強に厳しい両親に気づかれないように勉強も頑張っている

 

家では息が詰まりそうだが、それでも

この追っかけ活動のおかげで心に余裕が持てた

 

だが、ちょっとしたいきさつで追っかけグループが分裂し

さらには、気分転換である追っかけのことが両親にばれててしまい

 

何と、学校に行く事すらも禁止にさせられて

自室に監禁させられてしまうのだった、勉強は

家庭教師を雇えばいいと、とうとう自分の尊厳すらも奪われてしまう

 

鍵を掛けられて出られなくなり、外に出ようとすれば

両親に折檻させられて、もはや人生に絶望するしかなった彼女

 

そんな彼女の前に一人の人物が現れ

彼女を一瞥すると、彼女の方に手を伸ばしていった

 

やがて、その後は何が起こったのかわからなかった

 

かろうじて理解していたのは、自分の回りには

常に真っ暗な闇が広がっていたという事実のみである

 

ああ、このまま自分は何にもないまま一生を終えるのか

 

そんな風に思いながら、彼女は永遠ともいえる暗闇の中にいた

 

このまますごしていくのも悪くはないと

思いはじめていると、突然自分の横を何かが勢いよく通り過ぎて行った

 

それは何やら紐に繋がれた棒のようなものであった

それは勢いよく少女の体をぐるぐると巻き付けていくと

 

「うわああああ!!!?」

 

少女はそのまま、勢いよく引っ張られ

そこから光の方にへと連れ出されて行った

 

「きゃああああ!!!!?」

 

気が付けば、闇に覆われた景色は光に包まれて行き、そのまま

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「おおおおりゃあああ‥‥!!!」

 

棗が武器である双節棍を勢いよく引っ張っていく

 

すると、羅針盤座の穢れの核の中から

一人の女性が勢いよく放り出されて行った

 

「おおお!

 

 上手くでてきたみたいだね‥‥えええ!!!!?」

 

それを見て七誠は素直に驚いた様子を見せるが

暫くそれを見ていた七誠はあることに気が付いて

 

慌てて放り出された女性の方に走り出していった

 

「うおおお!!!!?」

 

七誠は翼を広げて身体能力をあげていき

放り出された女性の方に向かって行った

 

そして、空中でダイレクトキャッチをし

ズザザザと音を立てて見事に着地をきめていった

 

「ふう‥‥

 

 何とか間に合った‥‥」

 

空中に放り出された、依り代の少女を

とにかく地面に野菜くゆっくり降ろしていく

 

「決まった…」

 

「決まった、じゃない!」

 

キランと決め顔を見せていく棗だが

そんな彼女に勢いよくツッコミの様に頭をはたく

 

「馬鹿野郎!

 

 もしあのままだったら、あの依り代は

 地面に直撃して最悪、死んでしまうかもしれなかったんだぞ!!」

 

「うう…」

 

似非に激しく怒られて、しょんぼりしていく棗

 

「でもおかげでやりやすくなったな!

 

 ようし、ここからがタマの本気の見せ所だぞ!!」

 

「そうだね、ここからが私たちの本気の見せ所だね!」

 

そう言って他の勇者達一行は依り代を外に放り出されて

無防備になった、羅針盤座の核に攻撃をしかけんと武器を構えていき

 

そのまま向かって行く

 

そのころ依り代にされた人物は

 

「…よかった‥‥無事だったみたいだね…‥‥

 

 けがとかはしてない?」

 

そう言って依り代になった人物の安否を確認する

 

しかし、彼女から出てきた声は

 

「‥‥んで…たのよ‥‥…」

 

「え‥‥?」

 

なにやら不満そうに小声でつぶやく少女、すると

 

「何で助けたりしたのよ!

 

 折角楽になれたのに!!」

 

「っ!?」

 

少女の口から出た言葉は助けた事への不満であった

 

「そんな言い方はない…!

 

 七誠は貴方を助けた…!!」

 

「だったら何なのよ!

 

 私は一言も助けてなんて頼んでない!!」

 

そう言って拒絶の言葉を声をかけた棗やほかの二人にもあびせていく

 

「私はもう‥‥しにたいのよ…もう楽になりたいの‥‥…

 

 苦しみからも、傷つけられることからもう

 何もかも解き放たれて自由になりたいのよ!

 

 もうこんな人生なんて‥‥終わりにしたいのよ!!」

 

「人生を終わらせたいって‥‥

 

 どうしてそんなことを‥‥」

 

余りの事に動揺を隠しきれず改めて事情を聞いていく七誠

 

「もう嫌なのよ‥‥私を苦しめる両親も、私に見向きもしない同級生も‥‥…

 

 そして、私のことを信じようともしない仲間たちの事も…

 

 だったらもう、こんな世界なんて終わってしまえばいいのよ!」

 

少女がそう言うと、彼女の体から勢いよく黒いオーラが噴き出し

それが、羅針盤座の穢れの方に纏わりつくように吸収されて行く

 

すると、核の中から何かが延びていく

 

それは新たな針であった、穢れはそれを勇者たちの方に向けていく

 

「っ!?

 

 みんな、動いて!」

 

志が一同に指示を出していき

針が一同を指さないようにしてすばやく移動していく

 

「はあ!」

 

杏はその際に核の方に攻撃をしかけると

核は針を杏が放った連弩の矢の方に向けていく

 

さらによく見てみると、何やら異様に距離を開けているように見える

 

「何やってるんだあいつ…

 

 なんであの矢を異様に開けているんだろ?」

 

「多分、十和子ちゃんの攻撃で金属性の

 物質変換能力を警戒しているんだと思う…

 

 あの子もそうやって、あの核の針を破壊して

 私たちをここまで連れてきたんだからね、とにかく!

 

 あの針には絶対に捕まらないでよ!」

 

そう言って武器である三叉槍を三節棍に変形させていく

すると、柄頭の方をぶんぶんと振り回していき、そこから

風邪を発生うさせていき、それで身体能力をあげていった

 

「しょうがないな…

 

 十和子ちゃんがあんなにも頑張ったんだもの…

 

 だったら、私もやらない訳にはいかないもんね!」

 

そう言って晴子は武器である槍を振るって行き

その穂先を再び無数の蠅に変えていき、攻撃していく

 

しかし、それも羅針盤座の核から展開された

針の手によって、攻撃の方向を変えられてしまう

 

晴子は冥属性の力で自身に悪魔の力を宿らせ

それによって背中に蠅の翅を模した翅を振るわせて

 

通常よりも素早い動きで、敵を翻弄していく

 

「(一見するとあの針は一本しかないから

  支配下におけるのは四つまでと考えるのが自然だ

 

  ただ、目標を切り替えていく速さの方も一級品だ……

 

  だったらここは…)」

 

恵子は冷静に分析していくと

 

「球子、穂波、志、私が合図を出したら一緒に

 アイツに向かって特攻するぞ、杏と晴子は私達が

 奴の能力にとらわれたら、一斉に奴に向けて攻撃を放ってくれ!」

 

「‥‥なるほど!」

 

「うげえ、奴に乗っ取られる前提か…

 

 でもまあ、だからって他に手があるわけでもねえしな…」

 

そう言って武器である、旋刃盤を構えつつも恵子の作戦に同意する

 

「責任重大だな…

 

 十和子はグロッキーだし

 棗は依り代の方にってるしね…

 

 二人の分もハルが行かねえとな!」

 

そう言って武器である槍に蠅を戻していき

それによって元の穂の形に戻していく晴子

 

「杏、タマの命‥預けたからな」

 

「タマっち先輩も気を付けてね!」

 

そう言って球子は穢れの方に特攻をかけていく

 

「うおお!!!」

 

「‥‥ってバカ!

 

 合図と一緒にって言ったじゃない!!」

 

球子が突っ走っていくので、他の面々も

いっしょに向かって行く事になってしまった

 

だが、それが功を期したのか、核の針は

飛び込んできた針によって見事にとらえられた

 

「うおお!!!」

 

その勢いによって、球子も他の三人も

圧され気味になっていってしまうが、それでも

針が自分たちの方を話さないようにしっかりと対応していく

 

「ようし!

 

 それじゃあ、ここはハルが先に仕掛けるよ!

 

 おりゃああああ!!!」

 

そう言って武器である槍を振るって

槍が変形して、勢いよく核の方に振るわれて行く

すると、攻撃は能力によってそらされてしまうものの

 

それでもすべてをとらえきることは出来なかったようで

それでも、どうにか攻撃が核の方にへと届いていった様子

 

「さすがに完全に無力化は出来ないか…

 

 だったらこっちも、全力で行かせて貰うから!」

 

そう言って武器である槍の穂先を変形させた蠅の大群を

それぞれいくつかのグループに集めさせていき、そこから

幾つもの槍の穂先が生成されて行き、彼女はそれを核の方に向けていく

 

「‥‥いっけええええ!!?」

 

晴子のその声とともにその幾つもの穂先は

核の方にへと勢いよく放たれて行くのであった

 

すると、その穂先の攻撃は敵の能力によって

いくつか、攻撃が逸らされて行ってしまうものの

 

それでも攻撃が見事に通っていく

 

「杏!

 

 私の攻撃があいつの能力の支配を受けているうちに!!」

 

「わかりました!」

 

晴子の声を受けて、杏は武器である連弩を構えていき

そこから、金属性の力によって生成された矢が一斉に核に向けて放たれる

 

それによって、矢が何本かが見事に刺さっていったものの

威力に関しては残念ながら足りていない用でありあまり深くは刺さっていない

 

「でも…

 

 当たってくれれば

 後はどうとでもなります!」

 

そう言って言いきると、核に突き刺さった

その攻撃は爆発を起こしていき本体を包み込んでいく

 

それによって、本体の中から黒いオーラが

まるで煙のように噴き出していることから

 

ダメージの方は充分に受けているようにもうかがえる

 

すると

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「私にはもうこの先生きて居たって希望なんてない…

 

 お父さんもお母さんも私よりも私が勉強で

 成績を上げる事しか考えていないし、友達だって

 六に創れたためしがない、せっかくできた憩いの場だってなくなった…

 

 もういやなの‥‥未来に希望を抱くことのできない人生なんて…

 

 苦しみながら生きていくのはもう‥‥もう嫌なの!」

 

依り代に去れた少女は周りを

拒絶する様に自身の頭を抱えて蹲っていく

 

それを見て、いたたまれない気持ちになっていく棗

 

「ざっけんな!

 

 それでずっとそうやって自分を傷付ける奴も

 自分のことを助けようとしてくれる奴の事も拒絶するのか!?

 

 それでどうにかなるって本気で思ってんのかよ!!」

 

そう言って似非が少女に向かって厳しい口調で言い放っていく

 

「お前が希望を抱けないのはそうやって逃げてばっかりだからだろ

 

 逃げてどうにかなるっていうんだったら、むしろお前はそんな

 苦しんでるはずがねえだろ、そんなに逃げたいんだったら逃げればいい‥

 

 別に責めやしない‥‥だが同時にお前に手を伸ばすこともしない!

 

 当然だ、それがお前の選んだ道だ、そして、その道を関係のない俺たちが

 どうこうする権利なんてないんだからな、居場所がなくなっただったらまた

 みつければいいじゃねえか、見つからないんだったら自分で作れ、逃げていたって

 結果がどうにかなるわけでもねえだろう、そういう時こそ助けてって言えばいい‥

 

 誰かに助けを求めることは‥‥何にも恥じる事なんかじゃねえんだから!」

 

似非にそう言われた少女だが、それでもまだ少女はまだ様子は変わっていない

 

「簡単に言わないでよ、それこそできるんだったら苦労なんてしないわよ!」

 

「そうだ、簡単にできれば苦労はしない

 逆を言えば苦労するからこそ結果が残せるんだ!

 

 何もしないで結果を残せないくらいなら

 苦労して時間をかけてでも結果を残して見せろ

 

 一人で簡単に出来る事なんてそれこそ、そうそうはない

 

 だからこそ人は人との協力が必要不可欠だ

 お前だって内心ではその通りだっておもってるんだろ

 

 だったらやってみろ、そうやってうじうじしてたって結果なんて残らねえだろ!!」

 

似非はそう言って少女の方を見る

 

「お前の周りに、たとえお前に拒絶されても

 それでもお前に向き合おうとしている奴がいるなら‥

 

 まずはそいつに話しをしてみろよ‥

 

 まずお前に必要なの一歩踏み出す勇気だ…

 

 まずは、そこから始めて見ろ‥」

 

「‥‥…」

 

少女はその言葉を聞いてその場に近有らなく座り込んでいった

 

すると、彼女の体から白いオーラが噴き出していき

それが穢れの方に纏わりついていく、それによって穢れの姿が

 

最初の時と同じ形に戻っていく

 

「うおっと!

 

 ふう、なんか急に形が変わったぞ…」

 

「似非さん達が上手くやったみたいね…

 

 ようし、それじゃあ、ここから一気に決めていくわよ!」

 

志がそう言って一同に指示を出していく

すると、一同はそれぞれの武器をかまえていく

 

「‥‥俺達だって、一人で何でもできるわけじゃない‥

 

 だからこうして、こいつらと戦っているのさ‥

 

 一人では不安なことも、大変なことも

 仲間と一緒だったらどんなことでも乗り越えられる‥

 

 お前には、そう言う奴はいなかったのか?」

 

似非がそう言うと

 

「‥‥いたよ、確かにいた…

 

 でも、私は私自身の手で其れを手放した…

 

 お父さんとお母さんの、友達なんていらない

 友達と遊ぶことに時間を費やすくらいなら勉強しろ…

 

 私自身でも気が付かないうちに、両親のその考えが

 私の頭の中で浸透してしまっていたのかもしれない…」

 

「…でもそれって、逆を言えば

 君はご両親のことを本気で愛している‥‥

 

 だからこそ、両親の考えを否定できない

 ううん、両親を拒絶しきることもできない‥‥

 

 違う?」

 

七誠がそう言うと、彼女は静かに首を縦に振っていく

 

「そうだよ…

 

 確かにお父さんとお母さんはいっつも厳しい…

 

 勉強のことに鳴るといっつも厳しい態度…

 

 でも、二人は二人になりに私の将来のことを考えてる…

 

 ただ、そこにどうしても勉強以外のことを見いだせないだけ…」

 

そう言った体をふるふると振るわせて言葉をひねり出していく

 

「…おっかけ仲間たちといざこざを起こしたのだって

 仲間の一人が私に対して言った言葉が発端だった

 

 私は両親の気持ちと向き合う事から逃げているんだって…

 

 私はそれを聞いて、気が付いたら仲間に手を出していた…

 

 だってそれは‥‥本当の事だったから…」

 

そう言って目元から涙を流していく少女

 

「‥‥そうだよ、私は逃げてたんだよ…

 

 お父さんとお母さんの本当の気持ちから…

 

 それを受け入れてしまったら、今の自分に戻れなくなる…

 

 そんな風に感じていたから‥‥逃げ続けてた…

 

 ねえ‥‥私のやってきたことって…間違ってたのかな‥‥…?」

 

少女は不意に七誠と似非、棗に聞いていく

 

「‥‥その答えについて…

 

 私達はお前の満足する答えを言う事は出来ない…

 

 逃げ続けるのはいいことではないが

 だからと言って無理矢理受け入れろといっても…

 

 正直に言ってそれは難しい話だろう…

 

 だが、それでも私から言わせてもらう事があるなら…

 

 気付いたのならそうしてみろ、後になって

 やらずに後悔するくらいなら、やって後悔した方がいい…」

 

棗はそう言って少女に言葉を投げかけていく

 

「やらずに後悔するくらいなら‥‥やって後悔した方がいい…?」

 

そうだ、と言って棗は戦いの方に目を向けていく

 

「‥‥私だって迷う事もあるし

 失敗なんてしょっちゅうだ、でも…

 

 私はそれでも、自分がやったという事自体に

 後悔をしたことは無い‥‥いいや…しないことにしている‥‥…

 

 私は私のやりたい、やってみたいことに全力になるだけだ…!」

 

そう言って、武器である双節棍を構えていく

 

「‥‥どうしてあの人は…

 

 あそこまでまっすぐになれるの…?」

 

「…それはたぶん、あの子‥‥

 

 棗ちゃんが、自分の武不器用さを

 しっかりと自覚しているからなんだと思う‥‥

 

 というより…ちょっと天然なのかな?」

 

七誠が笑みを漏らしながら答えていった

 

「‥‥…」

 

少女は其れを聞いて、もう一度棗の方を見る

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「みんな…!」

 

やがて一同の方に駈け寄っていく棗

 

「おお、棗!

 

 依り代の方は大丈夫なのか?」

 

球子がそう言って棗に依り代の事を聞いていく

 

「‥‥わからん…!」

 

「いやいや、何だよそれ…」

 

余りの返答に思わずツッコミを入れてしまう球子

 

「‥‥ただ、それでも私は私がやるべきことをやるだけだ…!」

 

そう言って武器をぶんぶんと振るって行く棗

 

その目の前には大きなダメージを受け、全身から

真っ黒なオーラを煙の様に噴き出している、核の方を見る

 

「棗さんって、本当に決断が速いですよね…」

 

「‥‥そんなことない、ただ私は…

 

 私がやるべきことを、しっかりとやるだけ…

 

 それが私の‥‥私なりの覚悟…!」

 

そう言って自身の体にオーラを纏わせていく

 

すると、彼女の属性である土属性の力に呼応したのか

辺りの地面が勢いよく音を立てて共鳴をしていった

 

すると、穢れの核は負傷していたその身を

それでも必死で繋ぎ止めていきつつ、目の前で

大きなオーラを発している少女の方に力を向けていく

 

「私はあの時に誓った…

 

 もう二度と大切なものは失わせない…

 

 もう二度と、悲劇を繰り返してはならない…

 

 だから私は勇者に選ばれたときに戦うんだって決めたんだ!」

 

そう言って武器である双節棍をぶんぶんと振り回していき

敵の方に勢いよく狙いをつけて勢いよくすっ飛んでいった

 

「はあー‥‥!!!」

 

しばらく双節棍をふるっていた腕を勢いよくふるい

やがてそれを本体の方に向けて一直線に放って行った

 

すると

 

棗の一撃が、見事に穢れの核を勢いよく貫いていった

 

ーやらずに後悔するくらいなら、やってから後悔した方がいいー

 

棗がそう言った事ばが、不意に少女の脳裏に浮かんだ

 

こうして、核を破壊された羅針盤座の穢れの核は

徐々にその形を崩していき、爆発する様にして消滅する

 

すると、羅針盤座の穢れ自身の倒壊も始まった

 

「穢れが崩れていくよ!」

 

「急いで脱出しましょう!」

 

そう言って急いで一同は穢れの中から脱出を試みていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、この世界の海に突如として建造された

およそ二百メートルを超える巨大な羅針盤は音を立てて崩れていき

 

やがて、その影も形も残らずに消滅していくのであった

 

「ついに、この世界での戦いもこれで終わったわね…」

 

「ああ、ようやく終わったんだなっておもうよ…

 

 ってひょっとして、またその奥から

 また別の穢れが出てくるってオチじゃねえよな!」

 

「ちょっとタマっち先輩、そんな不吉なことを言わないでよ!」

 

不謹慎なことを言う球子を厳しく叱責する杏

 

「大丈夫だよ

 

 もう穢れの気配はないし

 またどこかにあるわけでも無い‥‥

 

 これで本当に、闘いは終わったんだ‥‥」

 

七誠がそう言って一同に呼びかけていく

 

一同はこうして、闘いを無事に終わらせたのだと実感する

 

「…‥‥」

 

似非はそれに対して、何処か腑に落ちない様子を見せていくが

それを球子の様におくびに出すことなく、しばらく黙り込んでいた

 

「(‥…確かに、穢れとの戦いはこれで終わった…

 

  でも、本当にこれですべてが終わったのだろうか‥)」

 

そう言って助け出した少女の方を見詰めていく似非であった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、無事に戦いを終えた勇者達は

その世界の人々から感謝の言葉を受けていた

 

「勇者のみんな、本当にありがと…

 

 皆のおかげで、みんな無事だったよ」

 

「ふっふ~っ、それほどでもあ~る」

 

「タマっち先輩、調子に乗らないの…」

 

「でも、こうしてみんなの無事な様子を見て

 

 ハルたち、何だか槍がを感じられたよ」

 

「ええ、私たちの方も皆さんが無事でよかったです」

 

こうして、街の人達の様子を見てホッと胸をなでおろしていく一同

 

すると

 

「あ、あの…」

 

竜骨座の穢れの依り代にされていた少女が勇者達に声をかけていく

 

「この度は、わたしのせいで…

 

 皆さんにご迷惑をおかけしてしまって

 本当に、申しわけありませんでした…」

 

「そ、そんな謝らなくていいよ

 

 だって別にあなたが悪いわけじゃないんだし…」

 

余りにも必死に謝られて、少し困惑しながら諫めていく杏たち

 

「そうだよ、それにあなたもあの子も

 無事に助け出されてきたんだもの、だったら

 今をしっかり生きていかないとだめだよ、きっと

 これから貴方に対する風当たりは強くなるかもだけれど…

 

 しっかり頑張っていってね…」

 

「はい…」

 

恵子に言い聞かされて、笑顔で答えていく少女

 

「ねえ、みんな…

 

 似非さんはどうしたの?」

 

「‥‥そう言えば、ここにきてから

 似非さんの方は見ていないわね…

 

 あの人ってホントに滅多にうちに

 顔を出すこともないからね、ちょっと心配…」

 

帆波が不意にこの場に居ない似非のことを訪ねていく

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

似非は不意に気になった様子で単独でとある場所に向かっていた

 

そこにいたのは

 

「バカ野郎!」

 

似非はそんな怒鳴り声を聞いて、その声のした方に向かって行く

そこで見たのは、羅針盤座の穢れの依り代にされた少女が責められていた

 

しかも、彼女を責めているのは

 

「‥‥待って、お父さん…私は‥‥…」

 

「黙れ!

 

 この出来損ないめ‥

 

 お前のような恥さらしなぞ

 おれたち8の子供でもなんでもない!!

 

 どこえなりとも消え失せろ!!!」

 

そう言って実の娘を乱暴に勢いよくつき飛ばした

 

「そんな‥‥お願いだから話しを…聞いて‥‥…」

 

「ついてこないで!

 

 もういい加減貴方にはうんざりなのよ!!

 

 勉強で結果を残せない、友達にかまけててやるべきことをやらない

 おまけに俗物に染まってくだらないことに時間を費やしていって、挙句には‥

 

 あんな怪物を使って、人様に迷惑をかけてしまうなんて、もう面倒見切れないわ‥

 

 だからお父さんと話し合って決めたわ、私たちはもうあんたとは親子の縁を切るってね!」

 

母親から、非情な言葉を投げかけられてさらに絶望に染まっていく少女

 

「もう二度と、。うちの敷居をまたぐな!」

 

「よかったわね、これでもうあんたは好きなことを

 やりたい放題よ、それじゃあさようなら、あんたなんて‥

 

 生まれてこなかった方が幸せだったわね」

 

そう言って両親はさっさとその場から離れていってしまった

 

「そんな‥‥お父さん…お母さん‥‥…

 

 どうして‥‥話を聞いてくれないの…

 

 私はただ、お父さんとおかあさんと話をしたかっただけなのに…

 

 どうして‥‥どうしてなの…

 

 うああああ!!!」

 

少女はその場に蹲って泣き崩れていってしまう

 

似非はそれを見て、いたたまれない気持ちになっていく

 

だが、少女を襲う悲劇はこれだけでは済まされなかった

 

「っ!?」

 

似非の耳に越えてきたのは

 

「見てよあれ、化け物が泣いてるわ」

 

「傑作、私たちをあんなあぶない目にあわせておいて

 まるで自分は被害者ぶって、本当に腹立たしいわね…」

 

「まったく、どの面下げてここに戻ってきたのかしらね…」

 

似非の耳に聞こえてきたのは、さらなる誹謗中傷の声

 

この様子から見ても、似非は

この少女の未来は決して恵まれたものにはならないと感じていた

 

「何なんだよこれ‥

 

 あの子は何にも悪くないのに

 なんであんなにも責め立てられないといけない‥

 

 あの子が一体、何をしたんだよ‥」

 

似非は思わず怒りと悲しみの入り混じった声を漏らす

 

すると

 

「…それが、人間という生き物の本性だからだよ似非…」

 

そう言って似非の前に姿を現したのは

機械仕掛けのような印象の白銀の鎧に身を包む

 

一人の人物が現れ、似非の前にまで歩み寄り

そこまで来ると、彼と向き合うような位置で立ち止まる

 

「‥‥月夜美‥

 

 お前がここにいると言う事は

 今回の件はお前たちの仕業か!」

 

「…そうだよ、私たちは兄さんの悲願のために

 どうしても、穢れの力が必要だからネ、だから

 ちょこっと手稿をかけて、穢れの中にさらに穢れを包み込む…

 

 そういう感じでやって見せたのよ、そうすれば思わぬ辺りを引いてね…」

 

似非は怒りでふるふると体を震わせているのを

特に何もかわらないようすで話しかけていく人物

 

それは

 

妹達 五女 月

 

守護するもの

 

月夜美

 

 

 

 

 

 

彼女であった

 

「まさかこれは‥

 

 所謂、実験のようなものなのか‥!

 

 そのために、あの子たちを穢れに取り込ませたのか!?」

 

似非はそう言って問い詰めていくが

それを見て月夜美は何やら彼が面白い間違いを

言っていると言わんばかりに笑みを浮かべ、笑いをあげていく

 

「あーっはっはっはっ!!!

 

 貴方って思っていたよりも考えが単純なのね…

 

 そもそも、貴方は基本が抜け落ちているのよ

 だいたいあなたは穢れが何処から生まれるのか

 

 知ってるでしょう?」

 

「‥‥そんなの、人間の内側に‥っ!?

 

 ま、まさか‥‥そんなことが本気でできると!?」

 

月夜美の言葉を聞いて、似非は驚きと悲哀の入り混じった表情を浮べていく

 

「もちろん可能よ…

 

 だって、私たちはもう

 穢れを自由に操るすべを得とくしているんだから…」

 

そう言ってまたも不敵な笑みを浮かべていく月夜美

 

「‥‥まさか、穢れを使役する禁忌に手を出したのか!?」

 

「ええ、本来なら穢れを操り

 穢れを霧散させる巫女の力…

 

 私たちはそれを利用させてもらったのよ…

 

 まあ、さしずめ御巫女子の力とも言うべきかしらね」

 

それを聞いて、似非は思わず彼女に飛び込んでいくが

夜美子はそれを、いつの間にか手に持っていたショーテールを

使って、似非の大剣による一撃を止めて見せてしまうのだった

 

「…まったく、いきなり斬りかかっていくなんて‥

 

 いくら何でも非常識にも程があると思うけれど…」

 

「黙れ!

 

 お前たちのような奴に

 高貴なる巫女の力を穢されてたまるものか!!」

 

そう言って追撃を試みるが

月夜美はそれを軽々とかわしきっていく

 

「フン、怒りに身を任せて

 わたしを倒しきることが出来ると思っているのね…

 

 舐めるな…」

 

そう言って目を光らせていく月夜美

 

すると、似非の回りの空間が歪むようにして

変形していき、それが似非に戸惑いをおぼえさせる

 

「…お兄様の目的はこの狂った世界を

 再生する事、そのために私たちは世界の全てを

 

 創りかえるための準備と力を携えてきたのです…

 

 それにしても、あなた方も無粋ですね

 いくら自分達だけではお兄さまにはもちろん…

 

 私たちや御巫女子達にもかなわないと分かっているとはいえ…

 

 あんなにも年端にいかぬ少女達に戦わせるとはね…」

 

「その通りだ‥

 

 俺達のやっている事は

 お世辞にも正しいとは言えない‥

 

 だが、それでも俺達はやるのだと決めたんだ‥

 

 この世界を穢れの脅威から・・・・お前たちから救うために!」

 

似非はきょろきょろしながらも辺りに意識を向けていきつつ言う

 

「穢れからね…

 

 確かに穢れはこの世界にとって

 脅威に数えられるかもしれないけれども…

 

 私たちから言わせれば、その穢れが世界を

 犯していくのはむしろ、人間たちの方なんだって思うけれどな…」

 

月夜美はそんな似非を嘲るように言い放つ

 

「君だって知ってるでしょ?

 

 穢れはもともとは人間の中にあって

 それがやがて、人間たちが自分の中にある

 負の感情によって生み出しているものなんだって‥

 

 それが、実体化して世界を犯し尽くしていくんじゃない…

 

 穢れ自体には、人間に害悪はない

 でも結局穢れを人間にとっての脅威に

 たらしめているのは、他でもない人間自身じゃない…

 

 そんな人間を守っても、君達に終わりは来ないよ…

 

 勇者達は永遠に終わる事のない戦いを永遠に行って行く…

 

 それまでには勇者はその多くが命を散らすだろうさ…

 

 いいや、最悪もう勇者なんて現れることは無くなるかもしれない…

 

 時代はこの間にも少しずつ変わり続けていく…

 

 次第には、子供でさえもそのうちに大きな穢れを抱えて

 行くことになるだろうね、そうなったら穢れに弱い星の力は

 すべての人間を拒絶することになるだろう、そのころに果たして…

 

 君達はどのくらい生き残っているんだろうね…」

 

そう言って相手の心理に働きかける様に語り掛けていく月夜美

 

だが

 

「‥‥確かにいつか、その時が来るかもな‥

 

 でもその前に俺達が必ずお前たちを‥

 

 アイツを必ず、この手で止めるさ!

 

 絶対にな!!」

 

似非はそんなものに惑わされないといわんばかりにいい放つ

 

「…出来ると思ってるの?」

 

「出来るかできないかじゃない‥

 

 やる、それだけだ!」

 

似非はそう言いきると

回りの空間が異様に揺れていく

 

すると

 

「はーっはっはっはっ!!!

 

 お前たちがお兄ちゃんを止める?

 

 うぬぼれるのも大概にしろ!

 

 お前たちのように、複数の力で

 無理矢理自分の力を強くしなければ

 お兄ちゃんと戦えない奴らが、でかい口を叩くな!!」

 

「お前たちこそ!

 

 星の力をあげてじぶんの力をあげているくせに

 俺たちのことを笑えると思っているのか、ああ!?」

 

月夜美にやや乱暴な言い草をしていく似非

 

「だったら、守ってみろ!

 

 この世界を、そこにいる娘を!!」

 

「っ!?」

 

すると、空間はもとに戻っていき

やがて元の景色が映り込んでくる

 

似非の目の前に移りこんだのは

 

「やっぱり‥‥やっぱり私は…

 

 生まれて来ちゃ、いけなかったんだ…

 

 どうして‥‥私はしっかり周りの期待に

 答えようと努力していただけなのに、何で…

 

 何でお父さんもお母さんも私のことを

 無視していくの、どうして私のことを見捨てるの…

 

 どうして‥‥私がこんな目に‥‥…」

 

そう言って、少女はその場に蹲っていく

少女は涙を浮かべながら問いかけていくが

 

それに応えるものはいなかった

 

そのすべてが彼女の自業自得であると嘯いていたからだ

 

「もういいや‥‥私もう疲れた…

 

 お父さんやお母さんから好きにしてって

 言われたから、遠慮なくそうさせてもらうね…」

 

そう言ってとぼとぼと歩いていく少女

 

その様子を見てただ事ではないと感じて急いで追いかけていく似非

 

「おい待て!

 

 早まるな!!」

 

似非はそう言って急いで駆け寄っていくが

 

「さようなら…」

 

少女は大きな石を抱えて

背中から海の方に飛び込んでいこうとする

 

「やめろおおおお!!」

 

似非は慌てて、少女に手を伸ばしていくが

その手は少女に届くことは無く、そのまま海に落ちていく

 

少女は似非に向かって、小さく唇を動かした

 

ーさようなら…ー

 

「うああああ!!」

 

そのまま海に落ちた少女を慌てた様子でともに海に潜って

引き上げようとするが、もうすでに少女の姿は何処にもおらず

 

似非は結局、絶望の淵にあった少女を

助け出すことは出来なかったのであった

 

「ぶはあ!!

 

 はあ‥‥はあ‥はあ‥‥‥」

 

似非は海から顔を出して、息を切らしていた

 

その表情は悔し気で、目元からは涙がにじみ出ていた

 

「‥‥くそぉ‥くそぉ‥‥‥

 

 くっそおおおお!!」

 

似非はそう言って海の水を叩きつける様に腕を振り下ろした

 

彼はしばらく、海の上を虚ろな様子で浮かんでおり

近くに通りがかった人に引き上げられるまで、そこにいたのだという

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…‥‥」

 

七誠はどこか複雑そうな表情を浮かべて

暫く、何かを堪える様に眼を閉じていた

 

「七誠さん…」

 

そんな彼に話しかけてくる一人の少女

 

それは、杏であった

 

「似非さん‥‥何かあったのでしょうか…

 

 そう言えば、羅針盤座の穢れの依り代に

 されていた女の子、結局、姿を現しませんでしたけど…

 

 七誠さんは、何か知っているんですか?」

 

杏は不意に、気になっていたことを訪ねていく

 

「…杏ちゃん‥‥

 

 杏ちゃんも分かってると思うけれど

 僕たちの役目は穢れの脅威から世界を‥‥

 

 そこに住まう人たちを守ることにある‥‥」

 

「はい…」

 

七誠の真剣な表情に杏もまた真剣な表情で聞いていく

 

「だけれど、僕や他の英雄‥‥

 

 みんなも然りだけれど、それでも

 どうしても取りこぼして、救いきれない人もいる‥‥

 

 そうならなければというのは勿論理想だ‥‥

 

 でも所詮、理想は理想でしかない

 どんなにがんばっててもそういう事も起こるだろう‥‥

 

 きっとここから先の戦いは、そう言う事も多くなっていく‥‥

 

 君達もいつか、本当の意味で経験することになるだろう‥‥

 

 だから…その時が来たら逃げずに、ただ忘れないで上げてくれ‥‥

 

 その人がいた事、その人にいた大切な人の事

 同時にその人達が不幸に見舞われている事もね‥‥」

 

「‥‥…」

 

七誠はそこまで言うと、杏の頭を少し強めに撫でて

そのまま、横を通り過ぎていくがその際に声をかけていく

 

「それじゃあ、戻ろう‥‥

 

 君たちの帰るべき場所に‥‥」

 

「え…?」

 

七誠の言葉に違和感を覚え

彼の方を見るが、とても何かを聞ける状況でもないので

 

はい、とひところ答えて、彼の後をついていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、いよいよ戻っていくことになる一同

 

「‥‥そうか、七誠さんがそんなことを‥‥」

 

「‥‥はい…なんだか七誠さんはまるで

 私たちとの間に溝をあえて作っている様な気がして…

 

 私‥‥本当にこのままでいいんでしょうか…」

 

杏はチームリーダーである恵子に相談をしていた

 

「‥‥今はそっとしておきましょ…

 

 七誠さんだって今日は大変だったんだし

 あんまりこれ以上心配を掛けても負担になるだけよ‥‥

 

 だから、ちょっと落ち着いたら改めてお話をしてみたら?

 

 わたしもはっきり言って今の七誠さんのこと、放っては置けないしね…」

 

「恵子さん…」

 

恵子はそこまで言うと、うーんと立ち上がって背伸びして

凝った自分の体を鳴らして、ほぐしていくとやや年より臭くつぶやく

 

「さてと…

 

 あんたは取りあえず戻ったら休みなさい…

 

 タダでさえ連戦で疲れてるでしょ

 身体だって丈夫じゃないんだし、無理はしないで

 ゆっくり休んで、それから改めて七誠さんと話してみなさい…」

 

「恵子さん…」

 

恵子とそれなりに話しをしていくと

確かに今は時間の方が必要であると納得する

 

なにより、ここまで殆ど休みなしに戦ってきたのだ

 

幾ら勇者の力で体力の方も向上しているとはいえ

元々からだが丈夫ではない杏も、休める時はしっかりと

休んでおこうと決意し、急いで帰還の準備を進めていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

こうして、一同がついにこの世界を去る時が来た

 

「‥‥そっか…

 

 もういっちゃうんだね…」

 

「うん、この世界は助かったけれど

 それでもまだ、この世界の様に脅威に

 さらされている世界だってあるから…」

 

「…行ってしまうのね‥

 

 次の戦いの場に…」

 

この世界で知り合った野乃花と優未と

名残惜しい様子で話をしていく杏、しかし

 

「なあに、安心しろって!

 

 またこの世界が危ないってなったら

 すぐにでも駆け付けてちゃちゃっと解決してやるからさ!!

 

 だから、そんな寂しい表情するなって!!!」

 

双言って、球子が一同の気を紛らわす様に言う

 

「タマっち先輩…」

 

「だからさ、もう穢れなんかに

 取り込まれたりしないように

 

 前を向いて生きて行けよ、そしたら

 この先、タマたちも安心して戦えるからさ」

 

球子のそんな前向きな言葉に二人の少女は噴き出す様に笑みを浮かべていく

 

「うん、わかった

 

 なにがあっても私はしっかり

 前を向いていくね、もしもまた…

 

 くじけそうになったら、その時は…」

 

「その時は、勇者である皆さんのことを思いだして

 

 皆さんの勇士にならって、しっかり前を向いていきます」

 

二人の様子を見て、笑顔を浮べていく勇者達

 

すると

 

「みんな、そろそろ戻る準備ができたから行くよ」

 

明のその呼びかけに、一同はそれぞれ返事をし

超えのした方に急いで向かって行くのであった

 

「海はやっぱり、良いものだな…」

 

「棗ちゃん、いっつもそればっかりだね…」

 

「そうね、この世界も海もしっかり守れたんだもの…

 

 今はそのことを喜びましょう、それからしっかり休まないとね…」

 

そんな談義も交えつつ、一同の世界に戻っていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、永きに足る戦いは終わりを迎えるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         




救えたものと救えなかったもの…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間:真なる敵の存在

漸くの帰還‥‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜骨座の穢れ

 

 

羅針盤座の穢れ

 

 

立て続けに二種類の穢れと交戦し

帰還した七誠は組長室において自分の組の組長である

 

春の大曲線の英雄

 

東龍 春三

 

 

彼の元に行き、報告を延べていく

 

「‥‥そうか、ご苦労だったな‥‥

 

 それにしても、穢れの中にまた

 更なる穢れか、穢れが穢れを取り込まずに

 中に潜ませているなんて、いくら何でも前例がなさすぎだろ‥‥」

 

「…そうだね‥‥

 

 穢れというのは融合と分裂を繰り返していく

 おまけに知性はあるが理性がない召喚型ならともかく‥‥

 

 意思すらも持たない配置系にそんなことが出来るとも思えない‥‥

 

 考えられるとするなら‥‥」

 

春三は渋った様子でそこまで言うと

七誠がそれに続くようにつぶやいていった

 

「…いよいよ、彼が動き出してきた‥‥と言う事だね…‥‥」

 

「‥‥そう言う事だ、出来る事だったら

 勇者たちの方をしっかり教育しつつ奴らに

 備えていくつもりだったが、思っていたよりも

 速く動き出してきたようだ、そうだとするといよいよ‥‥

 

 俺様たちの方も本腰を入れないと行けなくなるかもな‥‥」

 

春三はそう言って背もたれに背を預けて

考え込むように眉間に指を当てて唸っていく

 

「‥‥七誠、悪いが優生を呼んできてくれるか?」

 

「…春三‥‥わかっていると思うけれど

 僕たちの役目はあくまで、あの子達には‥‥」

 

「‥‥言われなくてもわかっている‥‥

 

 これはあくまで俺様達の問題だ‥‥

 

 しかし‥‥どうやらそうとも言っていられる

 訳にも、行かなくなってきたと言う事だろう‥‥

 

 おそらく奴らの方も、本格的に動き出している‥‥

 

 勇者達の教育の方もしっかりとしておかないとな‥‥」

 

春三の様子をみて、いよいよ

戦いの方も厳しくなってきたのだと感じていた

 

「…春三‥‥

 

 僕達がやっていることは

 本当にこれでいいんだろうか‥‥

 

 僕たちのやっていることは‥‥」

 

「‥‥そうだな‥‥

 

 だが、それでも俺様達に

 出来る事っていうのは限られてる‥‥

 

 俺様達に出来ることはあいつらを育てる事‥‥

 

 あいつらをなるべく、死なせないためにな‥‥」

 

春三もどこか思いつめた様子で呟いていく

 

「絶対って…いってくれないんだね‥‥」

 

「俺様は絶対って言葉ほど

 あてにならない事を知っている‥‥

 

 あいつが、あの時うらぎった時のようにな‥‥」

 

春三はバッサリと言いきるのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

連盟 本部

 

ある廊下を数人の少女達が歩いている

 

「…はあ…

 

 あんなにも激しい戦いの後だっていうのに

 どうして、いきなり呼び出されないといけないのよ…

 

 出来れば、こっちは病み上がりだから休ませてほしいんだけれども…」

 

そう言ってだるそうに歩いているのは

 

飛魚座の勇者 四等級勇者

 

都彦 十和子

 

 

彼女は先ほどの戦いの才に負傷してしまい

怪我自体は完治はしているが、ダメージによって

ひきおこされた疲労は隠し切れない用である

 

「気持はわかるよ…

 

 ハルも今回の集会、眠りに

 ついちゃいそうだよ、寝てもいいかな?」

 

そんな十和子に賛同するのは

 

蠅座の勇者 三等級勇者

 

腐肉 晴子

 

 

彼女の方もダメージの半藤による疲労が見えている

 

志「っていうかそもそも何で急に

  集会が開かれることになったの?

 

  いつもだったらもうすこして

  そんなくらいのペースなのに…」

 

そんなことを聞いていくのは

 

竜骨座の勇者 一等級勇者

 

骨宮 志

 

 

彼女の方も帰還してすぐに呼び出されたのが

珍しく感じたようなので、疑問を浮かべていた

 

すると

 

「何でも緊急の報告もあるらしいわ…

 

 定例の報告会に合わせてそのことも

 しっかり報告をしていくらしいわ、もしかしなくても…

 

 今回の件であることは間違いないでしょうね…」

 

そう言って答えていくのは

 

ケンタウルス座の勇者 一等級勇者

 

漆間 恵子

 

 

彼女はあくまで推測ながらもだいたいそうだろうと推測する

 

そんな彼女たちが、しばらく歩いていると

目のまえに一人の少女が彼女たちを出迎える様に待っていた

 

「お疲れ様です、すでに皆さんはついています…

 

 こちらの方にどうぞ…」

 

一等級勇者 南十字座の勇者

 

十文字 美南

 

 

彼女がそう言って、集会場への道を示していく

 

「いつもご苦労様だね、美南…

 

 そっちの方も大変だったそうだったけれど

 

 どうだったの?」

 

「‥‥それについては中の報告の中で

 伝えます、それにここでは最悪…

 

 誰かの耳に入る恐れもあるので…」

 

恵子がそう聞くと、美南は人差し指を自分の唇にあてて言う

 

こうして、少女達は中に入っていくと

そこにはもう他の者達が集まっている

 

「お疲れ様…」

 

「お疲れ…」

 

そこには帆波と棗の姿もあった

 

「二人は早いね…」

 

「まあね、其れよりも十和子ちゃんと晴子ちゃんは

 けがをしたのにここにきてもいいの、部屋で休んでた方が…」

 

「ハルもそう思ったんだけれど、何でも今回

 どうしても報告したいことがあるからって、呼ばれてね…

 

 まあ、聞くだけでいいから楽にはしていろって言われたから

 別にいいんだけれどね、でも一体似非さんはどうしたんだろ…

 

 さっきの出撃のさいに、何かあったんだろうか…」

 

「静かに‥‥似非が来た…」

 

棗がそう言うと、一同のもとに似非が歩いてきた

彼の表情はどこか浮かない様子であり、思いつめた様子である

 

彼の様子が変わっているのに気が付いたのは

先の二種の穢れと戦った時に共闘した六人である

 

「‥…よく来てくれた‥

 

 それでは、これより定例会議を始める‥

 

 それじゃあまずは、報告の方に移ろう

 一等級勇者および二等級勇者、頼んだ‥」

 

似非の言葉にその場にいる少女達のうち

数人が報告をあげるために立ちあがっていく

 

すると、次は

 

「‥‥次は、南十字座の勇者

 

 十文字 美南‥」

 

「はい…」

 

美南が立ちあがると、その時の補佐を務めていたであろう

別の少女が立ちあがる、そして美南は報告をあげていった

 

「‥‥私たちの方でも穢れが発生していましたが

 

 その世界では穢れの浸食率は非常に早く

 私たちが駆けつけた時は、すでにおよそ三割が侵食され

 

 人びとに大量の分裂して排出された穢れが人々を襲っていました

 

 私は、そこで対処の方に当たりました

 穢れにある程度ダメージを能えた時、私の目の前に

 疑うような光景が移りました、何と穢れの中から…

 

 人間が出てきたのです!」

 

それを聞いて恵子たちは驚愕する

 

恵子たちだけではなく周りにいた者たちも驚きを隠せない様子である

 

「ちょっと待って!?

 

 それって、本当なの!?」

 

帆波が思わず、美南に問いかけていく

 

「‥‥はい、何とか救出しましたが

 

 この事実の方もあって、思う様に

 攻撃がしずらい生で、倒すのに時間をかけてしまいました…

 

 しかし、穢れは本能的にも、人間を直接取り込んで

 直接穢れを吸収していくということはまずありません…

 

 それですぐに、この事を本部に報告しました…」

 

南は続けていく、動揺を隠せない様子の一同

 

「‥‥依り代を使っていたのが、他にもあっただなんて…」

 

「それだったら、ハル達の方でもあったぞ!

 

 穢れの核に人間が取り込まれていたんだ」

 

晴子も思わずそう述べていく

そのことでさらに一同は動揺していく

 

「どういうこと、穢れの中に人間がいたなんて…」

 

「そんなの、聞いたこと…」

 

どういうことかと問いかける様に一同は似非の方を見ていく

 

「‥‥知らないのも無理はないだろう‥

 

 俺達もはっきり言って、初めてのケースだからな

 だが、少なくとも穢れ自体が率先して行っている

 訳じゃないのは、今の今まで戦ってきたお前たちにも分かるだろう‥」

 

似非はそう言って一同を見まわしながら言うと

それを聞いて、その場に集まっている勇者達は黙ってうなずいていた

 

「‥‥どうやら、お前たちに話しておかないとならない時が来たようだ‥

 

 俺達の長きにわたる怨敵で、お前たちが本来闘うべき敵の存在を‥」

 

「私たちが本来闘うべき敵…?

 

 それは、穢れではないのですか?」

 

美南がそう言って似非に聞いていく

 

「‥‥確かに穢れは、世界の脅威に含まれ

 俺たちにとっても、もちろんお前たちにとっても

 戦わなければならない相手だ、だが穢れ自体はあくまで

 

 自然災害のようなもので、発生は予測不能ではあっても

 だからと言って対応できないものではない、現に穢れの討伐に

 関してならば、今のお前たちにも問題なく行えているだろう‥

 

 だが、穢れというのは元々は人の心の奥深くに根付いている負の感情

 

 どこかで穢れが発生すればそれによって準じた恐怖などの感情により

 さらに穢れが発生して、その穢れと穢れが融合と分裂を繰り返して穢れが

 さらに強くなっていくという悪循環が起こり、やがてそれが世界を包み込む‥」

 

「それをどうにかするために、皆さんや私たち勇者が戦っている…

 

 そういう事ですよね」

 

恵子がそう言うと、似非はうんと頷いた

 

「‥‥とまあ、これが本来俺達が果たすべき役目だ‥」

 

「本来…?

 

 今は違うのか…?」

 

似非の言い方に棗が何処か意味深に感じていく

 

「‥‥そうだな、では本題に入る前に

 お前たちがこの世界で生まれる前よりもはるか昔の話だ‥

 

 世界の外側に、世界より見放された者たちが最後にいきつく世界があった…

 

 その世界には、正式な名前がなく、その世界は常に夜で

 それには満天の星空が常に輝いていることから、俺たちはその世界を

 

 星座の都と呼んでいた‥」

 

「星座の…都…」

 

似非の言った言葉を反芻するように言う帆波

 

「‥‥その世界に流された者は世界のしがらみから解放され

 自分にとっての星が与えられる、祖の星の輝きが失われるまで

 

 その者は、命の源である星の力を与えられ続け、それによって生き続けている‥

 

 そこには俺や英雄達も含まれる、俺たちは嘗てその星座の都に住んでいたんだ‥」

 

「え…」

 

似非がそう言うと

 

『『『『えええっ!!!?』』』』

 

その場にいた、勇者たち全員が驚いた様子を見せていく

 

「‥それってつまり、似非さん達って

 少なくとも私たちよりは長く生きて居るんですか!?」

 

「そうだな、君達の曾お爺ちゃんや

 曾おばあちゃんよりも長く生きて居るぞ

 

 他の英雄達もな、まあそこは置いといて‥

 

 その星座の都は世界からあふれ出した穢れが

 最も多く発生する世界でもあり、そこに流れ着いた者

 

 そこで過ごしているものは常に、その脅威にさらされていた

 

 そしてその脅威から、人々の平和と命を守るために活動していたのが

 

 俺達、英雄によって結成されていた組織

 これにも正式な名前はないが、人々からは総称して

 

 連盟‥

 

 そう呼ばれていた‥」

 

「連盟…

 

 それが皆さんの、ひいては私たちが所属しているこの組織…」

 

志がそう言って、回りを確認する様に見回していく

 

「そして、ある日

 連盟に一人の男が加入した‥

 

 その男は、連盟に加入してから数日立たずに

 連盟の中でもトップクラスの穢れ討伐率を誇っていた‥

 

 その男は、良くも悪くも自分に正直すぎる所を除けば

 誰よりも純粋で、それに多くの者達が惹かれ、彼の回りには

 常に多くの者があつまり、彼は多くの英雄達から尊敬の念を抱かれた‥

 

 俺もそして、今この場に集っている英雄達もまたしかりだ…」

 

「そんなにすごい人だったんだね」

 

勇者の一人が、そんなことを呟く

 

「‥‥しかし、彼はある時

 星座の都に対して、謀反を起こした‥

 

 星座の都は、二十八人の王によって

 的確な統治をされていたが、その全員の首をはね

 

 跡取りの親族たちもそのすべてを殺害し、やがて

 自身の妹達と賛同者の者達とともに星座の都を乗っ取った‥

 

 俺たちももちろん、その反乱をとめるために戦ったが‥

 

 力及ばず、俺たちは星座の都を脱出するので精いっぱいだった‥」

 

「そんなに強かったんですか…!?」

 

話しを聞いて、恐る恐るそんな質問をしていく

 

「‥‥確かに強かった‥

 

 俺も他の英雄達も力を合わせて戦ったが…

 

 あいつの謀反に加わった賛同者の中には

 それぞれの肉親や想い人、そいつらの姿もあった‥

 

 だからと言って、別に遠慮をしたってわけじゃない…

 

 だが、それでも動揺の方が勝ったんだろう‥

 

 あいつのカリスマによって

 自分の心の中にいたやつが彼のもとについていたのが…

 

 そいつらだけじゃない、ここにいない英雄達からも

 それぞれがそれぞれの賛同者が彼のもとについていたことが

 驚きだったんだろう、それほどその賛同者たちの実力は認められていた…

 

 それによって、英雄達は次々に倒れていき‥

 

 残ったのは俺を含めて、今この場に居る英雄達だけだ‥」

 

勇者達はそこまで聞いて、息をのむ者が多かった

 

「多くの味方を失った俺たちは奴らが本格的に

 動き出す、その前に何としても奴らをとめないとならない‥

 

 しかし、だからと言って俺たちだけが挑んでもどうにもならない‥

 

 奴らはその全員がその力を極めた生粋の超人たち‥

 

 その力に頼り切っているのが大半であると言う事を除いても

 とてもではないが適う相手ではない、故に俺たちの中に弔い合戦という選択はなかった‥

 

 それほど、奴らではあの時の俺たちでは実力の差がありすぎたのだ‥」

 

「その時は…今はどうなのですか?」

 

そう言って別の勇者が聞き返していく

 

「‥‥どうにもならないだろう‥

 

 力が弱かったり

 年が若いやつらだったら、何とかなるかもだが‥

 

 さっき話していた謀反の首謀者である彼とその妹達には勝てん‥

 

 奴らはその全員が、神の領域に達しているともいえるだろう‥

 

 それほどの力があの時のあいつにはあった

 いまはおそらくだが、あの時よりも強くなっているだろう‥

 

 どうしたらいいのかと苦悩をしていた時に俺たちは

 あるお告げを聞いた、88人の同志を集め、ともに戦えと‥

 

 そして、俺たちは世界中を駆け巡って

 その力に適性のあるものを集めていき、ついに88人をそろえた‥

 

 その88人の同士こそが‥‥お前たち、勇者なのだ‥」

 

似非はそう告げていくと

 

『『『(えええ!!!?』』』

 

当然、勇者達は驚きの声をあげていく

 

「そ、それじゃあ…

 

 私たちはその、反逆者の人達と

 戦うために集められたってこと!?」

 

「‥‥そうだ、そしてお前たちにこうして

 これまで巡ってきた世界のことを探らせていたのは

 

 奴らの動向を探るために、行っていたのだ‥

 

 出来る事だったら、お前たちにもこうして

 本当の敵の事、俺たちの目的のことを話すのは躊躇われた‥」

 

「だったら‥‥どうして…

 

 この場で私たちにだけ…?」

 

棗が問い詰める様に言ってくる

 

「‥‥実は、俺が行ってきた世界‥

 

 恵子と志たちのチームがともに向かった世界で‥

 

 俺は‥‥奴の妹達の一人、月夜美にあった‥」

 

『『『『っ!?』』』』

 

似非のその言葉に、一同は驚愕して眼を見開いた

 

特に恵子、穂波、棗、志、晴子、十和子たちは特に

 

何しろ自分達がいた世界に英雄でさえも苦戦するほどの

強力な敵がそこにいたなどとは夢にも思わなかったからだ

 

「ただ、奴自身はまだ俺たちと闘おうという気は

 起こっていなかったのだろう、もし奴に戦いをいどまれれば

 

 最悪俺は、ここには来ていなかっただろうしな‥」

 

似非の言葉に、勇者達は声が出てこない

 

「‥‥一等級の勇者達が報告に当てた分を纏めて

 美南や恵子と志のいた世界のことを除いたとしても‥

 

 穢れの動きが活発になってきているのは明白だ‥

 

 今後は、君達には穢れの事だけでなく、最悪

 星座宮の御巫女子達の動向の方も探りを入れてもらうことになる

 

 出来れば、他の勇者達には内密にしておきたい所だが

 ばれていくのも時間の問題だろう、だからそれまでにお前たちには

 出来る限りは奴らの動きや、目的の方を上手く探っていってほしい‥

 

 本来ならお前たちにも言えることだが、勇者達にはまだ荷が重すぎる相手だ‥

 

 少なくとも奴らと戦うには今まで以上に気を引き締めていかないとならない‥

 

 時が来るのもそう長くはないのを考えてもだ‥

 

 奴らとの決戦のかぎは、お前たちにかかっている!

 

 穢れの討伐を行いつつ、奴らの動向の方も探っていく‥

 

 頼んだぞ!!」

 

『『『『はい!!!』』』』

 

似非の掛け声とともに、勇者たちは大きく声を張って言ったのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…星座宮の御巫女子‥‥

 

 いよいよ奴らが暗躍を始めて来たか‥‥

 

 本当に…本当にこれで良いんだろうか‥‥

 

 本当にこのままじゃ、あの時みたいに‥‥」

 

七誠はそう言って、ぎゅっと自分の拳を握り

それを見つめながら、彼は思い悩んでいる様子を見せる

 

「あ、七誠?」

 

「七誠さん、こんばんは」

 

そんな彼のもとに現れたのは

晴子と十和子の二人の少女の姿であった

 

「…ハルちゃん、十和子ちゃん‥‥

 

 二人共、病み上がりなんだから早く戻って休んでないと‥‥」

 

「‥‥あ、はい…

 

 分かってはいるんですが…

 

 ちょっと寝づらくって?」

 

晴子はそう言って、定例会議の時に似非から

話をj聞かされたことを、七誠に伝えていった

 

「…そっか‥‥

 

 二人も知ったんだね‥‥

 

 僕たちの事や君達が本来闘うべき敵の事も‥‥」

 

「…正直に言って、信じられないことが多いですが

 それよりも、まさか穢れの裏側にそんな敵がいたことに驚きです…」

 

「それで、ハル達には穢れの討伐に

 その星座宮の御巫女子の調査も頼んでほしいってさ…」

 

そう言って、ややけだるげに言う

 

「…でも、奴らの動向はいろいろと知りえることができない‥‥

 

 そういう意味では、敵のことを調べていくのは本当に重要なことだ

 此処のところ、穢れの平均侵攻速度が大きく上がってきているんだ‥‥

 

 何としてでも、手を打たないといけない、そのために出来る事をやっていくつもりさ‥‥

 

 僕や他の英雄達も勿論ね‥‥」

 

「七誠さん、私たちも頑張ります…

 

 まだ七誠さん達には及ばないかもしれないけれど…

 

 それでも、出来る事をやっていきたいから!」

 

「もちろん、ハルもな…」

 

勇者二人がそう決意を口にすると

七誠は笑みを浮かべながら、ふたりの頭を優しくなでてやる

 

「…もちろんだよ、ふたりにも他の勇者にももちろん期待してる

 きっと近いうちに大きな闘いが起こるかもしれないけれどね‥‥

 

 でもきっとその時には、二人もきっと今以上に強くなってる‥‥

 

 だから…頼りにさせてもらうからね‥‥」

 

「「はい!!」」

 

七誠の言葉に力強く返事をする晴子と十和子

 

二人はやがて、自分達にそれぞれ割り当てられられた自室に戻っていく

七誠はそんな二人の背中をやや含みを込めた表情で見つめていたのであった

 

「…近いうち、また戦う時が来るのかもしれないね‥‥

 

 どうしてこうも、闘いっていうのは

 悲しい感情しか湧いてこないんだろうな…」

 

彼は静かにそうつぶやいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その答えに答えられるものは、誰もいないだろう…‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




待ち受けるもの‥‥‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話:世界の闇に潜む者たち

彼とその妹達と星座宮の御巫女子…‥‥‥


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所

 

ある暗い場所において、複数の影が歩いてくる

その先にいたのは、十数人の人影が集まっており

 

その中心には一人の人物が座っていた

 

その人物のもとに訪れた者たちは

その人物の眼前に移る場所において立ち止まると

その人物の目の前でゆっくりと片膝をついて、跪く

 

「…‥‥‥よく来てくれたね…‥‥‥

 

 各世界の攻略、本当にご苦労様…‥‥‥

 

 こうして、誰一人として欠けることなく

 こうして再びみんなの変わらない顔を見れて

 

 本当にうれしく思うよ、最初の顔合わせからもう

 十数年もたっているとはね、本当に嬉しいよみんな…‥‥‥

 

 それじゃあみんな、こうして久しぶりの再会なんだ

 顔をあげて楽にしておくれ、その上でこれまでの報告を…‥‥‥」

 

そう言って訪れた数人の者達はゆっくりと顔を上げていく

 

「‥‥偉大なる兄上様…

 

 本日、鬼上様や妹君様方に

 緊急の報告があります、まずは

 

 侵攻の状況ですが、各世界において穢れが

 大きく発生しており、最初のうちは経過観察の方に努めてまいりました‥‥」

 

そう言って最初に報告を上げたのは

白い羽織を羽織った軍人のような女性である

 

「…最初のうちは?

 

 つまり後になって

 やり方を変える出来事が

 

 あったっていう事なのかしら?」

 

そう言って玉座の横で立っている者達の中でも

何処か武闘派な印象を持っている人物が聴いていく

 

「はい‥‥最初のうちは放って置いても

 おのずと世界は穢れに包み込まれていましたが

 

 しばらくたったころに、穢れの力が

 浄化されていくという減少が起こり始め…

 

 何事かと思い、調査の方を勧めていきました…」

 

「穢れを浄化ですって?

 

 そんなことは普通に世界に

 過ごしているすべての者にはできない事…

 

 それが出来るのは、神の力のみ…

 

 私たちの世界で言うならば

 星神様にお仕えする巫女、そして…

 

 その巫女とともにあるという勇者のみのはず…

 

 確かに、世界の中にはそう言った

 類の巫女や勇者は多く存在しますが…

 

 あくまでその世界の神の加護が浄化できる穢れは

 自分自身の中に秘めている穢れのみのはずですよ…

 

 世界に発生した穢れの浄化を行えるものというと…」

 

そう言って本を片手に持っている女性が

知識を確認していくかのように言葉を延べていく

 

「‥‥星神の力を直接受けた勇者と巫女…

 

 その存在があると思われます、世界の穢れを

 一次的にとはいえ完全に浄化できるのは星神様だけですから…

 

「なんと!?

 

 そんなことがありうるので?」

 

「あり得るとおもうよ、英雄達に生き残りがいるのなら…」

 

一人の白銀の竜を模した鎧で全身を覆っている人物が発言する

 

「…どういう事でしょう、月夜美姉さん…

 

 あなたはなにかご存じなのですか?」

 

「ご存じも何も、会いましたからね…

 

 ここに来る前に向かっていた世界で」

 

そう答えると、大勢の注目はその人物にむけられていく

 

「…ちょっとまってよ姉さん…

 

 英雄は確か、世界を侵攻する前に

 皆殺しにしたはずだよ、英雄の生き残りが

 いないことは、御巫女子達で確認したはず…」

 

「…ええ、ですがすべてを確認できた訳ではありません…

 

 英雄の本部を叩くまでに随分とばらつきが多かったですからね…

 

 そうですよね、水波夜姉さん…」

 

「…確かにそうです…

 

 それでもあそこ迄徹底的にやって

 それでも生き残っているものがいるなんて…

 

 普通に考えたらそんなの…」

 

その場から大いに騒ぎごえが響いていく

 

場が混乱に包まれて行こうとしたその時

 

「「静まれ!!」」

 

彼の両側に立っている二人の少女達が大きく

声をあげてその場にいる者達に呼びかけていく

 

「兄さんの前で美都もなく騒ぐな!」

 

「兄さんからのお言葉を聞くのだ!

 

 それで、兄さん…」

 

そう言って少女が彼の方に目を向けると

兄と呼ばれた少年は玉座に座ってゆっくりと顔を上げていく

 

「…‥‥‥そうだね、僕たちの悲願は

 この醜く穢れ切った世界を破壊し…‥‥‥

 

 やがて、世界をあるべき形に戻す事…‥‥‥

 

 それをもしも、阻む者が現れるというのならば

 例え何者であろうと排除しなければならないんだ…‥‥‥

 

 そのためにも、僕も皆も今よりももっと力を集めないといけない…‥‥‥

 

 そこで、今後は自然発生した穢れを無造作に集めるのではなく

 その内に負の感情を抱いているものの穢れを増大させ、より強力な

 穢れを生み出していこうとする、今後はその方針で行こうと考えている…‥‥‥

 

 それじゃあ、真紀子、試験の方はどうだった?」

 

彼がそう言って、自分の一番前に控えている少女に呼びかけていく

 

「‥‥はい…

 

 通常の穢れよりも浸食が早く

 予定よりも早く、世界の七割を浸食出来ました

 

 目下の問題は、強力であるがゆえに制御の方が効かない事…

 

 依り代に使える、ものがそうそういないことがあげられます…」

 

そう言って報告を上げていく真紀子と呼ばれた少女

 

それを聞いて、彼は少し考え込む様子を見せていく

 

「…‥‥‥そうか、それならばその強大な力を

 制御する術をどうにかして、見つけ出さなくてはな

 

 月夜美、お前も確か真紀子と同行していただろう

 何か見つけられたものはないか、良かったら話せるか?」

 

彼はそう言って、月夜美に問いかけていくが

 

「…申し訳ありません、兄さん…

 

 あの時は、いきなり強力になった穢れを

 どうにかして抑え込むために、その穢れの中に

 もう一体別の穢れを生み出すことで、どうにか抑え込むのが精一杯で…」

 

「そっか…

 

 しかし、其れだと今後は

 一気に穢れを二つも用意する必要が…」

 

そう言って頭を悩ませていく一同だが

 

「…そうか…

 

 それはつまり、制御するための

 核のようなものがあればいい、それを

 私たち、ひいてはみんなにあればもしかして…」

 

睦都美はそう言って、月夜美に提案していく

 

「睦都美ちゃん、何かいい案があるの?」

 

「うん、月夜美姉さん…

 

 お兄ちゃん、私に良い案があります…

 

 実験は必要ですが、成功すれば

 私たちの今後の作戦がよりスムーズに

 向かうことになるかもしれません、ですので…」

 

「…‥‥‥なるほど…‥‥‥

 

 そのために、この中の誰かにその実験に

 強力をしてほしいという訳か、いいよ…‥‥‥

 

 まあ、あくまでそれが完成できればね…‥‥‥

 

 それじゃあ、御巫女子のみんなはひき続き

 世界の攻略の方を勧めていってほしい、そっちもまた…‥‥‥

 

 大事なことだからね…‥‥‥」

 

彼がそう言うと、御巫女子達は全員が頭を下げていき

その場から動き出し、その場から一斉に移動していった

 

「…月夜美…睦都美…

 

 いったい何を思いついたの?」

 

そう言って彼の隣にいる女性が恐る恐る声をかけると

 

「…フフフ…

 

 なあに、まずは出来上がりを

 楽しみにしていてよ、姉さん…

 

 これが成功すれば、世界の再生に再び近づく…」

 

「そうだね…」

 

二人は自信満々に言い切っていく

 

「フフフフフフフフフ…‥‥‥

 

 流石は僕の妹だ、本当に心強いよ…‥‥‥

 

 星の運命はしっかりと、僕たちの方に味方してくれている…‥‥‥

 

 世界は元に戻ることを望んでいるという事だ、そして

 それを阻んでいる者達は、所詮は無駄な足掻きと言うもの…‥‥‥

 

 しかし、英雄と勇者達か‥‥‥‥

 

 英雄共はどうやら、この穢れ切った

 世界に染まりこんでしまったらしいな…‥‥‥

 

 だとしたら、最悪の場合僕たちが

 奴らの相手になってやるとしようじゃないか…‥‥‥」

 

そう言って煩わしそうながらも、不敵な笑みを浮かべていく彼に

その場にいた妹達も不敵な笑みを浮かべて、兄である彼の言葉に同意するのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ある場所を一人歩いている一人の少女

 

和服を彷彿とさせる、服を身に纏い

左手を後ろに回しながら歩いていた

 

すると、彼女のもとに一人の少女が現れる

 

「真紀子ちゃん、もうお帰りになるのですか~?」

 

そう言って話しかけてくるのは

何やら道化師を思わせるような服装の

どこかおっとりとした様子の女性であった

 

「‥‥仮名さん…」

 

「…フフフ~‥

 

 そんなに、警戒をしないでください

 別に取って食おうという訳ではないのですから~」

 

「‥‥いえ、分かっていますよ

 

 ただ、急に話しかけられたので

 少し驚いただけですよ、それで…

 

 そう言えば、仮名さんはこれから

 お役目の方に行かれるのですか?」

 

「ええ~‥

 

 そういう真紀子さんは確か

 実以さんの方のサポートに向かわれるのでしたね~」

 

服装に似つかわしくなくのんびりで大人しい口調で話していく少女

 

「ええ…

 

 お兄様がいよいよ本格的に

 英雄や勇者の皆さんの攻略に

 本腰を入れてきている以上は‥

 

 私たちの方でもいよいよそれなりの対策を

 練っていく必要性がありますからね、それを踏まえても…

 

 私の方でもあまり手間どってもいられません…」

 

「そう言えば、この前のアルゴ座の穢れの件で

 さっそく依り代の方を試してみたようですね~‥

 

 それにしても、驚きですね~

 

 まさか、真紀子さんが依り代という手を使うとは~

 

 真紀子さんの性格上、ああいう手は好まないと思いましたが~?」

 

仮名がそのことを指摘する様に言うと、真紀子がふうと何やら息を漏らしていく

 

「‥‥あれは私が率先したものではありませんよ…

 

 そもそも、今の私たちに負の感情を抱いている

 人間を見分けることなんてできませんよ、それこそ…

 

 お兄さまや、妹様方のようにね…」

 

「…まあ、そうでしょうね~‥

 

 ですが、近いうちに私たちの方もまた

 それを見ぬき、なおかつ誘発させる力を

 目覚めさせていくことに鳴り得るでしょ~」

 

仮名はそんなことをつぶやいたので

真紀子は不意に彼女の方を向いていく

 

「どういうことですか?」

 

すると、仮名は自分の手元にカードを取り出し

それを広げたり閉じたり、奇術のように手元から消したり

 

そんな風にカードを自分の手で弄っていた

 

「それ以上は私の方も分かりません~‥

 

 ですが、祖の方がむしろお兄さまにとっても

 有用になるとおもえてなりません、何しろ英雄の生き残りがいて

 そいつらがとある世界の少女達で勇者を結成させたのですからね~‥

 

 私の方にも更なる進化を促していく事でしょう~‥

 

 月夜美様と睦都美様が、あの時言っていた対策とは

 恐らくはそのことに関する事でしょう、私たちの方も

 そろそろ、覚悟を決めていかなければならないという事ですね~‥」

 

「なるほど…

 

 いずれあの女の子達とも戦うときがくる…

 

 英雄達も惨酷な決断をしたものですね…」

 

そう言ってやや負い目を持っているようにつぶやいていく真紀子

それはまるで勇者、敵であるとはいえまだ年端も行かない少女に

刃を向けることにどこか、ためらいがあるように感じられていた

 

「勇者システム…

 

 星の力を、その持ち主の命に注いで

 英雄に匹敵する力を与える技術、しかし…

 

 その特性上、システムの恩恵を受けられるのは女性だけ‥

 

 女性は力を吸収する方にたけていますからね‥

 

 そして、星の力は穢れを大きく増幅させてしまうがゆえに

 穢れを心の中に抱え込みやすい大人が勇者システムを使用すると‥

 

 最悪、増幅された穢れに乗っ取られて、怪物となってしまう‥

 

 故に必然的に勇者に選ばれるのは少女となる

 一番にその恩恵を受けやすいのは赤ん坊だが、そもそも

 赤ん坊では戦うことは出来ずに論外、となると選ばれるのは‥

 

 若くも幼き、無垢なる少女達であるという事になりますね‥」

 

「まあ、妥当なところでしょう…

 

 さらに、世界の力の恩恵を受けられない自分達ではなく

 世界に住まう者達を厳選しているところも利点になっています…

 

 私たちの様に己を偽らなければ

 世界から弾かれてしまうことになってしまいますからね…」

 

仮名と真紀子はしばらくそんな会話をしていた

 

「…なんにせよ、いずれ彼女達とも

 戦わなければならない時は来ます‥

 

 お互いに、気を付けて行きましょう…

 

 偉大なるお兄さまのためにもね‥」

 

仮名はそう言って両腕でいじっていたカードを消すと

そのまま真紀子の元を去っていって、しまうのであった

 

「偉大なるお兄さまのために…」

 

真紀子も復唱する様につぶやいていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

ある部屋で一人ゆっくりと座り込む白銀の鎧を纏った人物

 

その人物は不意に、部屋に飾ってあった写真立てを見詰める

 

そこに備え付けられていた写真には

白銀で入院用の衣類に身にまとった

 

白銀の髪と、月光のような

色白の肌の女性が移っていた

 

「…あれから、もう…

 

 何千年もたっているのですね…

 

 私が子の体になって、最初のうちは

 戸惑っていたあの頃が本当になつかしい

 

 しかし、こうしてかつての私の写真を

 此処にかけているのはどこか未練がましいでしょうかね…」

 

彼女はそう言って、自分の顔の部分にそっと手を添えた

 

「…いいえ、そんなものはもう

 いまの私にはどちらでもいい話です…

 

 今なすべきことは、お兄ちゃんの

 役に立つこと、そのために必用なものを…」

 

そう言って、後の方に体をやや傾けると

その方向に向かって手を伸ばして、ほんのようなものを取っていく

 

「…はあ…やはり問題は山積み…

 

 お兄ちゃんの…しいては私たちの理想のためにも

 もっと強い穢れを生み出さなければならない、そのためには…

 

 穢れを完全に制御するための方法を生み出さなければなりません…」

 

そう言って、本を開いて中を開いてみていく

 

「そのために、必要なものは…」

 

すると、本の開いたページに何かがポツリと落ちた

 

「っ!」

 

それを見て、慌てて本を話して自分の頭を押さえていく

 

すると、そこについていたのは

 

「あああ…

 

 くそっ!

 

 なんでこうもまた!!」

 

それを見て、普段の落ち着いた様子の彼女には

信じられないほどに激高して、部屋のものに手当たり次第に当たっていく

 

暫く暴れて喚き散らしたのち、何とか落ち着きを取り戻して

ふーふーと興奮しているように肩を揺らしながら呼吸をしている

 

「…どうしてだ…どうして私をむしばむ…

 

 私は、人の身を捨ててまで

 当たり前のことを望んだというのに…

 

 うあああ!!!」

 

暫く部屋の中に彼女の怒号が大きく響き渡っていくのであった

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「…‥‥‥さて、それじゃあ陽奈子…‥‥‥

 

 次のお役面に行く子のことを教えて?」

 

そう言って偉大なるお兄様こと、彼は

妹達の中での長女であり、自身の双子の妹である

 

陽奈子

 

 

彼女と何かの打ち合わせをしていた

 

「…そうだね、今後向かって行くのは

 この子達の予定だよ、これ資料ね…」

 

そう言って資料を彼の方に見せていく

 

「ありがとう…‥‥‥」

 

そう言ってお礼を言いながら、資料に目を通していく

 

すると

 

「…‥‥‥なるほど、どうやら運命は

 大きく変わろうとしているようだ…‥‥‥

 

 陽奈子、月夜美を呼んできてくれるか?

 

 多分今頃、あの子体の不調が起こって

 情緒不安定になっているだろうから、ちょうどいいや…‥‥‥」

 

「…兄さん…

 

 一応聞いておくけれど

 英雄たちの方はどうするの?

 

 勇者の方だって、気になるし…」

 

陽奈子はそう言って彼に心配そうに聞いていく

 

「そうだね…‥‥‥

 

 確かに、気になるところだ…‥‥‥

 

 どうして、英雄達は今更

 勇者の力を使おうと思ったのか…‥‥‥

 

 単純に穢れから、世界を守護するためか…‥‥‥

 

 それとも、僕たちに抵抗するためなのか…‥‥‥

 

 だが、いずれにせよ

 今は出方をうかがって行くとしよう…‥‥‥

 

 僕たちの方もしっかりと準備の方を整えていかないとね…‥‥‥」

 

「ええ…

 

 少なくとも何かをしようというのは

 明らかでしょうし、こっちの方でも

 しっかりと、対策の方をしておかないとね…」

 

そう言って、彼に見せていた

資料の一枚を不意と手に取って見詰める

 

「…それじゃあ、まずは試しに…

 

 この子の方で試していってみるとしますか…」

 

「うん?」

 

陽奈子がそうつぶやいたのを

彼は気になったように顔を向けていく

 

「兄さん…

 

 この子の事だけれど

 ちょっとだけ、私に任せてもらえる?」

 

「その子は陽奈子の担当じゃないだろう…‥‥‥?」

 

彼はそう言うが、その口調には不思議と

陽奈子の判断を彼女自身に委ねさせている様子もうかがえた

 

「…‥‥‥そっか…‥‥‥

 

 陽奈子には陽奈子なりに考えがあって

 彼女に力を貸してあげようというのなら…‥‥‥

 

 僕はそれでいいと思うよ…‥‥‥」

 

「フフフ…」

 

彼の言葉を聞いて、笑みを浮かべていく陽奈子

 

その表情は彼女の名前にも入っている

内容を思わせる取っても明るいものであったという

 

‥♈…♉‣♊‥‥♋…‥♌…‥‥♍……♎‥‥‥‥♏…‥‥‥⛎‥‥‥‥‥♐‥‥‥‥‥‥♑…‥‥‥‥‥♒…‥‥‥‥♓‥‥‥‥‥‥‥

 

「はあ…はあ…」

 

月夜美はひとしきり喚き散らした後

暫く肩を上下させて呼吸を整えていた

 

すると

 

そんな彼女のもとに一人の女性が訪れてきた

 

「ようやく、落ち付きましたね…

 

 月夜美さん…」

 

それは。真紀子であった、彼女に気が付いて

不意に彼女の方を向くと、何処か落ち着いた雰囲気で話しかけていく

 

「…真紀子さん…

 

 どうやら、お見苦しいところを

 見せてしまったようで、お恥ずかしい…

 

 でももう落ち着きました…苦労を掛けてしまったようで…」

 

「月夜美さん…

 

 お兄様がお呼びです…」

 

真紀子がそう言うと月夜美は驚いた様子を見せていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の闇に潜む者たちは少しずつ動き始めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          




動き出す者達…‥‥‥


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。