「フー君が風俗に入るのを見てしまったわ。」前編・後編 (ドレミ24)
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「フー君が風俗に入るのを見てしまったわ。」前編・後編

中野家の夕飯時にバイトから遅めに帰ってきた二乃から告げられた衝撃すぎる言葉、上杉風太郎が風俗店に入店したのを見たという事実は全員の動きを止めるのには十分過ぎる爆弾発言だった

 

「じ、冗談だよね?上杉さんが風俗に行くなんて、天地がひっくり返ってもありえないよ。」

 

半ば自分に言い聞かせるようにして四葉は途切れ途切れの言葉を何とか言い切った。その目は光が無く、焦点が合っていなかったが

 

「ほ、本当なんですか!?」

 

驚きのあまりあの五月ですら食事を放棄して冷や汗をダラダラと流している

 

「ふ、風太郎君に限ってありえないよ……ありえない、よね?」

 

誰にも聞こえないようブツブツと一花は頭を抱えながら目に涙を貯めていた

 

「・・・」

 

三玖だけは何か悟りを開いたかのように天井を見つめていた。四人とも反応こそ違えど同じ事を考えていた、「これは二乃の冗談なのたと」。

 

「冗談でこんなこと言わないわよ!バイトの帰りにフー君を見つけたからちょっと挨拶しようと思って近付いたら客引きの女の人に連れられて店の中に入っちゃったんだから急いで帰ってきたのよ!」

 

四人の考えを読み、誰よりも涙を流しながら叫ぶ二乃、運良く現在隣の部屋の住人は出かけていたようで叱責が来ることはなかったが、むしろ叱責された方がまだ会話が続きそうな雰囲気になってしまった

 

「何がダメだったのかなぁ、私達はフー君に嫌われる様な事した覚えなんて・・・」

 

泣きながら二乃はなんでなんでと言い続ける。そして一つの考えに至る

 

ひょっとしたら彼に対してまだ当たりがキツかった頃の対応が原因なのでは無いのか、と。もしそうならほぼ100%自分のせいだ。自分のせいでフー君の純潔を手に入れる事が自分を含めた姉妹五人はできなくなってしまったのだから

 

「それは違うよ。二乃、あの頃の事で風太郎君が今更私達に冷たくなると思う?」

 

声に出てしまっていたのだろうか。それとも心を読まれたか。どちらにしてもやはりこの長女の包容力というか、説得力と呼ぶべきなのか分からないがそういう部分は本当にズルいと思う。

 

なんだかこんな簡単な言葉だけで立ち直れるというのは自分も本当に単純なんだなと再認識する

 

「上杉君が風俗店を利用した、してないという事はこの際思い切って聞いてみましょう。そうすれば真実がハッキリするはずです」

 

五月の一言はもっともだ。となると件の上杉風太郎を待つ以外他ないのが歯がゆいが仕方あるまい。

 

私達は気長に待つことにした。次の家庭教師の日、つまりは日曜日の朝までは

 

 

 

ちなみに四葉がショックで気絶しているが放っておこう

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

なぜだ。今日は朝から非日常が連鎖している。

 

朝起きたら横には二乃が添い寝していて飛び起きたのは記憶に新しい。

気付けばらいはと三玖が一緒に朝食をつくっているし(あいつも料理本当に上手くなったよな。いい事だ)

そう考えている今も五月に現代文を教えている頭の上と左手にはおもりが二つあるのがとても鬱陶しいが

 

「一花、四葉。」

 

「何?風太郎君。」

 

「上杉さん、何ですか?」

 

反応早いな、1秒無かったぞ。

まぁ、頭に胸を乗せてきているのが一花で、腕にまとわりついているのが四葉なんだが、これがまあまあキツい。重いというのもあるが、俺だって健全な男子高校生だ。色々と問題も生じる。さっきも寝てる時二乃に密着されててマジで焦った。おかげで目は覚めたがそれでも、な。

 

「重いから離れろ。」

 

まあ、理由は一つしか言わんがな

 

「女の子にそんな事言っちゃダメだよ風太郎君。あ、もしかして照れてるの?可愛いね。」

 

一花、お前そんなキャラだったか?

 

「上杉さん照れてるんですか?」

 

「四葉、それ以上からかうと課題倍にするぞ」

 

「な、なんで私だけ!?」

 

とまあ、こんな感じで朝からコイツらのスキンシップが激しい。なぜこうなったのだろうか。それと、意外と何事も無かったのが五月と三玖だ。起きて真っ先に目に付いたのが三玖で、最近は誰よりも懐いてくれている三玖が今日は何か空を見上げていたのだ。さらには目を瞑っているときた。何アレ怖い、思わず口に出した結果他の4人に「誰のせいだ!」と一発入れられてしまった。解せぬ

 

五月に関しては出会ったばかりの頃が嘘の様に真剣に聞いてくれている。これも色々な人の助けがあってこうなっているのだが、自分も相当頑張ったのだ。少しは胸を張ってもいいだろう

 

「上杉君、どうしましたか?」

 

おっと少しぼうっとしてしまっていたようだ

 

「すまん。寝起きで頭がうまくまわらなくてな。」

 

我ながら完璧な言い訳だ。ん?なんだ?なんでみんなしてジト目を向ける、やめろ、そんなゴミを見るような目で俺を見ないでくれ!

 

「風太郎君、ソレは夜遅くまで歩き回っていたからかな?」

 

光の消えた目の一花が上から顔を覗いてくる。怖い

 

「な、何を言っている。」

 

本当にコイツらは何を言っているんだ

 

「とぼけないで、私昨日見たのよ。フー君が風俗に入るのを。」

 

「ハアァ!?」

 

え、俺が風俗?ないないない!そもそもそんな金どこにあるってんだよ!

 

「フータロー、嘘はつかないでね?私達じゃ、不満だったの?それとも、私達じゃそういう気分にならない?」

 

いつの間にか料理を作り終えて目の前に顔を出したのは三玖で、らいはですらゴミを見る目で俺を見ている。

 

「ちょ、お前ら俺そんな事しないぞ!?ていうかそんな金あるなら家の食費か参考書買ってるからな!?」

 

「確かにあなたはそんな事をする人ではない、だからこそ、あなたに聞きます。昨日の夜、何をしていましたか?そこに誰かいましたか?返答次第では、私達の家で永遠に暮らす事になりますよ?」

 

笑顔だが笑っていない瞳。

どうやら俺は冤罪で社会的に抹消されるかコイツらの奴隷になるしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで親父はどこ行った?そんな些細な疑問が俺の最後の思考だった

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふう、今日も仕事終わったか。流石にこんな店の会計仕事してるなんてアイツらには言えんし、この髪の色派手すぎるから黒髪のウィッグ買わなきゃだし色々めんどくさいなぁ。」

 

そう言いながら彼は、件の風俗店の裏口から出てきた。

そう、彼は上杉勇也



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