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私のした人生最大の失敗


はじめまして!ジョリポンです!!
この度初めて投稿することになりました!!
ユーザーページにTwitterのリンク貼ってるからそっちにも来てみてね!男が出るラブライブの短編漫画あげてるよ!
ではどうぞ〜



「いってきまーす!」

 

 

私、南ことり15歳!今日からお母さんが理事長を勤めている音ノ木坂学院に通う事になったんだ♪

 

 

「あっ、楽人くん! おはよ〜」

「ことりちゃん! そうか〜今日から高校生になるのか〜。いやはや早いもんだなぁ」

「あ〜、また子供扱いした! も〜」

「はははごめんごめん」

 

 

この優しそうなお兄さんは白瀬(しらせ) 楽人(らくと)くん。小学校の頃からの幼馴染で家も近いからたまに話したりするの。

 

今日から通学路が途中まで一緒になったから2人で話しながら歩きます。

それから数分。

 

 

「ことりちゃーーん!! おっはよーーー!!!」

「あ、白瀬さん。おはようございます」

「おはよ〜」

「おはよう2人とも」

 

 

予め待ち合わせをしていたところで穂乃果ちゃんと海未ちゃんが待っていました。集合する時いつも穂乃果ちゃんは少し遅れて来るはずなのに珍しいなぁ。

 

 

「今日は穂乃果ちゃん早いんだね」

「そりゃそうだよ! だって今日は入学式だよ!? 輝かしい高校生活最初の日だよ!? 楽しみすぎて早起きしちゃった!」

「それにしてもみんな無事入学できて本当に良かったね」

「その節はありがとうございました。ほら、穂乃果も」

「ありがとう楽人さん!!」

「どうも」

 

 

私たち三人は入学試験前に勉強会をしたんだけど、その時楽人くんも参加してくれたの。彼は大学生だから頭が良くて勉強を教えるのも得意みたいで、成績が怪しかった穂乃果ちゃんの為に手伝ってくれたんだ。

 

 

「じゃあ僕はそろそろここで。みんな入学式頑張ってね。」

「うん! またね。楽人くん」

 

 

「やっぱり楽人さんって良い人だよね! 優しいし!」

「そうですね。白瀬さんがあの時手伝って下さらなかったら今頃ここに穂乃果がいたかどうか……」

「そんな怖い事言わないでよ! 海未ちゃんのイジワル!」

「あはは」

 

 

穂乃果ちゃんと違う学校。考えただけでも嫌です。楽人くんに勉強会の話をして良かったと心から思いました。

 

 

────────

 

 

「そしたら穂乃果ちゃんが……」

「ほうほう」

 

 

入学してひと月。

毎朝楽人くんと出発して前日あった事などを話し穂乃果ちゃんたちと合流、少しして楽人くんと別れる。という流れがお馴染みになってきました。中学の頃は週に数回しか会ってなかったから毎日お話しできるのは嬉しいな。

 

 

「それでね……」

ヴーヴー

「おっと、ちょっとごめん」

「うん」

 

 

メールが来たらしく、楽人くんは真面目な顔で文章を打ち始めました。せっかくいいところだったのに。むー。

 

 

「ふう。久しぶりに仕事が入ったよ」

 

 

どうやら仕事のメールだったみたい。

 

 

「なんの仕事してるの?」

 

 

楽人くんの家庭環境は複雑らしく今は家に1人で住んでいて、学費も1人で稼いでいると前に話してくれた事がありました。それなのに仕事が久しぶりって一体どんな事をしてるんだろう。

 

 

「ん? 気になる?」

「うん」

「それはね……秘密〜」

「えぇー!」

「それより話の途中だったよね。その後どうなったの?」

「う、うん。えっとね……」

 

 

話を逸らされてしまいました。怪しい……。でもしつこく聞いて面倒と思われたくないから深くは聞かない事にします。危ない仕事じゃないといいけど。

 

 

「それで海未ちゃんがね……」

「おはようございます。ことり、白瀬さん。楽しそうに何の話をしているんですか?」

 

 

気がつくと待ち合わせ場所に着いていました。今日はまだ穂乃果ちゃんは来てないみたい。

 

 

「海未ちゃんおはよ〜。今ね、昨日の昼休憩の話をしてたの」

「アレですか。まったく穂乃果ったら困ったものでしたね。最終的にあt」

「まってまって!まだ途中だから!」

「おっとすみません。過程があっての結末ですもんね」

「うん! それでね……」

「おっはよーー!!みんな聞いて聞いてー!!」

 

 

穂乃果ちゃんが来ました。今日はよく話を遮られるなぁ。ふえぇ。

 

 

「どうしたのですか?」

「あのねあのね! 雪穂から聞いたんだけど、最近よく原宿に凄いカッコいい人が出るんだって!!」

「そうなんですか」

「見にいってみようよ!! 今日!!」

「なんでですか?」

「気になるじゃん!! なんかね、雪穂が言うには誰かを探してるみたいなんだって!!」

「はあ」

「もし本当に困ってるなら助けてあげないと!!」

「おお、優しいね穂乃果ちゃん」

「えへへ」

 

 

珍しく穂乃果ちゃんが凄いやる気を出しています。カッコいい人かぁ、少し気になるなぁ。

 

 

「本当にそれだけですか?」

「え?」

「いつもお気楽でのんびりでだらしがない穂乃果が、『困ってそうな人がいるから』なんて理由だけでわざわざ出かけてみようなんて言うとは思えません! 何か別に理由があるはずです!」

「そうなの?」

「べ、別にそんな事ないよ!! 雪穂に『お姉ちゃんももう高校生なんだから彼氏とか作った方がいいんじゃない? 明日原宿のその人でも見てきなよ。何か考えが変わるかもよ? 行ってきたらイチゴのショートケーキあげるよ。2つ。』って言われてそれに釣られたなんて事絶対に無いよ!!」

「それに釣られたんだね」

「俗物的だね」

 

 

イチゴに簡単に釣られる穂乃果ちゃん、かわいい!

 

 

「…………」

 

「どうしたの?海未ちゃん」

「ハレンチです……」

「??」

「彼氏だなんてハレンチです!!!」

「えぇ」

「だって彼氏ができたら、ち……チュウをしたりするのでしょう? い、いけません!! まだ私たちには早すぎます!!!」

「そうかな……?」

 

 

私は少し気になるけどなぁ。恋愛とかそういう系。

 

 

「そもそも! 私は毎日弓道の練習があるので放課後は無理です!」

「あ! そうか! ことりちゃんは今日大丈夫?」

「私は大丈夫だよ」

「よかった! 楽人くんも来る?」

「ごめん、今日は僕仕事があるから」

「そっか。じゃあ放課後は二人で行こうね!」

「うん!」

「じゃあ僕はそろそろここで」

「じゃあね!楽人くん!」

 

 

「それにしてもことりは白瀬さんの前だとよく喋りますね」

「そ、そうかな?」

「確かに! 二人とも昔から凄く仲良しだもんね! もしかして実は付き合ってたりして……」

「えぇ!? 私たちはそういうのじゃないよ〜……」

 

 

楽人くんは優しくていつも話を聞いてくれて良い人だと思うけど、そういう関係ではありません。私の中ではお兄ちゃん的な存在だと思います。でも、よく考えてみたら結構顔も良いし優しいし……っていけないいけない。きっと楽人くんも私の事、妹のようにしか思ってないと思うから……

 

 

その日の放課後、私と穂乃果ちゃんで原宿に行きましたが、そのカッコいい人は見つかりませんでした。でもその代わりにとってもかわいい服を売っているお店を見つけました。放課後で時間があまりなかったので、土曜日にまた来てじっくり回ることにしました。

 

 

────────

 

 

土曜日、原宿。

先日見つけた洋服屋さんに来ました。穂乃果ちゃんはお店のお手伝いがあり、海未ちゃんは用事があったので今日は1人です。今日は下着も選ぶ予定だったので楽人くんにはそもそも言っていません。

 

 

「あっ! これかわいい〜」

 

 

右手にフリフリの白ワンピース、左手に手触りの良い薄緑のカーディガンを持って鏡越しに確認する。とても似合う。買おう。

 

 

「お客様、そちらのワンピースならこちらと組み合わせても似合うんですよ」

「本当だ! あ! これもいい!」

 

 

そんな感じで色々試したりするうちに日が暮れてきました。今日は晩ご飯を家族で食べに行く事になっているので早く帰らないと。

 

そう思い帰路に着こうとしたその時。

 

 

「すみません。少し、いいですか?」

 

 

振り向くと凄くカッコいい爽やか系の男の人がいました。一目見て、「この人が穂乃果ちゃんの言っていた人なんだ」と直感しました。

 

 

「どうしたんですか?」

「いや、実は……君に一目惚れしてしまったみたいで、つい話しかけてしまったんだ」

「……えっ!?」

「君のようにかわいい子は初めてみました! どうか、一緒にお茶でもいかがですか?」

「え……えーっと……」

 

 

どうしよう。こんな事になるなんて思ってなかったから凄いびっくりしました。今日はもう帰らないとご飯の時間に間に合わなくなるんだけど……。でもこんな事って滅多にないと思うし、もしうまくいったらこんなにカッコいい人と付き合えることになるかもしれないし……。私ももう高校生。せっかくのチャンスだし、たまにはいいよね。

 

そう思い親に『少し遅くなります。ごめんなさい』とメールを送り、

 

 

「少しだけ……ですよ?」

 

 

そうして私はその人に連れられ喫茶店に入りました。



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ことりちゃん

 

最近、ことりちゃんの様子が変だ。

週明けから少し違和感はあったけど、日に日に弱っていっている気がする。

よし、今日はいつもよりテンション上げて盛り上げてみよう!

 

待ち合わせ場所が見えてくる。もう全員揃ってるみたい。よし、いくぞ!

 

 

「ことりちゃん!!! おっは「ひぃぃ!!!」よ……あれ?」

 

 

ことりちゃんがしゃがんで丸まってる。凄く怯えた様子でガタガタ震えている。

 

 

「ご、ごめん! ことりちゃん! 驚かせちゃった!?」

「ことり、だ、大丈夫ですか!?」

「あ……ご、ごめん……穂乃果ちゃん……な、なんでもないの。少し、驚いちゃった……」

「少しっていうか……」

 

 

明らかに普通じゃない。小さい頃からよく一緒に過ごしてきたけど、ここまで怯えているのは初めてだ。

 

 

「あの」

「ご、ごめん! 穂乃果ちゃん海未ちゃん楽人くん! 私先に行ってるね!」

「こ、ことりちゃん!?」

 

 

そう言ってことりちゃんは走って行ってしまった。

 

 

「2人とも、ことりちゃんに何があったのか知らないかい?」

「ううん、分からない……」

「私もです……」

「うーん……困ったな……」

 

 

どうやら楽人くんも分からないみたい。一体どうしてしまったんだろう……

 

 

「何か分かったら教えて。僕も何か分かったら言うから。じゃあまた」

 

 

そう言って楽人くんも行ってしまった。

 

 

「……穂乃果……」

「だ、大丈夫だよ! 学校に着いたらまた聞いてみよう?」

「そう……ですね……」

 

 

学校に着くとことりちゃんの席に姿はなかった。ただ席を立ってるだけかと思って待ってみるけど授業が始まっても席は空いたままだ。

休憩になってから先生に聞いてみると朝から保健室に行ってたらしく、今日はもう早退したことが分かった。

 

 

 

 

 

その日から、ことりちゃんは学校に来なくなった。

 

 

 

 

 

毎朝楽人くんはことりちゃんの家に寄っているみたいだけど出てきてくれないみたい。

 

 

それから数日。

楽人くんも待ち合わせ場所に来なくなった。

 

 

 

「さすがにこのままだといけないよ! 無理矢理にでも迎えに行って、何があったのか聞き出して、そしてみんなで解決しよう!!」

「しかし……いや、そうですね。どんな事であっても私たちなら乗り越えられます。今までそうだったように!」

 

 

ということで、朝からことりちゃんの家まで迎えに行く事にした私たち。

ことりちゃんの家が見えてきた頃……

 

 

「……ことりちゃん?」

 

 

曲がり角にことりちゃんらしき影が見えた。

 

 

「行こう海未ちゃん!」

「はい!」

 

 

そうして後を追っていくとことりちゃんが一軒の家に入っていくところが見えた。

 

 

「あれ……?この家って……」

「ええ、確かこの家は……」

 

 

そう、私たちの記憶が正しければこの家は……

 

 

 

 

楽人くんの家だ。

 

 

 

 

どうして? なんで朝から楽人くんの家に?? 何か分かったら互いに連絡しようって約束したのに?

 

 

「穂乃果、あの小窓から中が見えます」

 

 

いや、そんなまさか、ありえない。楽人くんがそんな事。嫌な思考を隅に追いやる。きっと楽人くんはことりちゃんを励ます為に家に呼んだだけに違いない。昔から仲良しなんだし、とても優しいし、彼のおかげで私も音ノ木坂に入れた。大丈夫。問題ない。連絡をくれてないのもきっと何か理由があっての事に違いない。

 

海未ちゃんと小窓から中を覗く。

薄暗い室内にことりちゃんらしき人影と楽人くんらしき人影が僅かに見える。

 

楽人くんらしき人影が何かを取り出す。

 

ことりちゃんらしき人影が腕を差し出す。

 

そして…………

 

 

 

 

 

 

 

あまりの衝撃に地面に座り込む。力が入らない。

 

 

海未ちゃんはどこかに電話をかけている。

 

 

少ししてサイレンが近づいてきた。

警察だ。

 

 

海未ちゃんが事情を話す。

 

 

警察と一緒に私たちも突入する。

 

 

 

私たちは一直線にことりちゃんに駆け寄る。

 

 

強くことりちゃんの事を抱きしめる。

 

 

「待って!! 違うの!! 楽人くんは!! 離して!! 楽人くん!! 楽人くん!!!!」

 

 

「ごめんね、ことりちゃん」

 

 

捕まる楽人くん。

 

 

「楽人くん……私たち……信じてたのに……」

 

 

 

「あなたは……あなたは最低です……!!!」

 

 

 

 

 

こうして私たちの日常は、終わりを迎えた。



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仕事の話、悲劇の始まり

 
一応言っておくけど私はことりちゃんがμ'sで1番好きです。



「はぁ〜今日からまた学校かぁ」

 

 

僕の名前は白瀬楽人。今日で春休みが終わりまた大学が始まる。大変だなぁ。そう思いながら歩いていると、

 

 

「あっ、楽人くん! おはよ〜」

「ことりちゃん!」

 

 

幼馴染のことりちゃんと出会った。出会いは確か小学校の通学班だったかな。そこで仲良くなって家も近いという事もあってよく遊んだりするようになったんだ。今も週に1〜2回出会って話したりしている。とても懐いてくれているみたいで正直凄く可愛い。

 

 

「そうか〜今日から高校生になるのか〜。いやはや早いもんだなぁ」

「あ〜、また子供扱いした! も〜」

「はははごめんごめん」

 

 

今日から音ノ木坂って事は途中まで通学路が一緒になるってことか。いつも1人だったってのもあってとても嬉しい。小学の頃を思い出す。

 

そんな事を考えつつことりちゃんと話しながら歩く。それから数分。

 

 

「ことりちゃーーん!! おっはよーーー!!!」

「あ、白瀬さん。おはようございます」

「おはよ〜」

「おはよう2人とも」

 

 

待ち合わせをしていたらしくことりちゃんの友達、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが待っていた。

 

 

「今日は穂乃果ちゃん早いんだね」

「そりゃそうだよ! だって今日は入学式だよ!? 輝かしい高校生活最初の日だよ!? 楽しみすぎて早起きしちゃった!」

 

 

ことりちゃんが楽しそうに会話している。よかった。やはりこの3人は一緒じゃないとね。

 

 

「それにしてもみんな無事入学できて本当に良かったね」

「その節はありがとうございました。ほら、穂乃果も」

「ありがとう楽人さん!!」

「どうも」

 

 

音ノ木坂の入学試験前、ことりちゃんが穂乃果ちゃんの学力を心配してたから手伝ってあげたんだ。もしもあの時そうしてなかったらことりちゃんのこの笑顔は今なかったかもしれない。本当によかった。

そんな事を考えているといつの間にか交差点に着いていた。僕の学校はここから右方向にある。音ノ木坂はここを直進したところにある。つまり一緒に行けるのはここまでだ。

 

 

「じゃあ僕はそろそろここで。みんな入学式頑張ってね。」

「うん! またね。楽人くん」

 

 

そう言ってみんなと別れる。久し振りにことりちゃんと長時間過ごして、あの笑顔を見て改めて実感した。

 

僕ってやっぱことりちゃんの事が好きなんだなぁ。

 

 

────────

 

 

「そしたら穂乃果ちゃんが……」

「ほうほう」

 

 

ことりちゃんが入学してひと月。

毎朝ことりちゃんたちと途中まで登校するのがお馴染みになっていた。今まで週に数回しか会えてなかったから毎日会えて話せるのは凄く嬉しい。

 

 

「それでね……」

ヴーヴー

 

 

スマホの通知が鳴る。正直せっかくのお話タイムなのであまり中断したくない。でももし急ぎのアレだといけないのでちらっと件名だけ確認しよう。なんてこった仕事の取引連絡じゃないか。

 

 

「おっと、ちょっとごめん」

「うん」

 

 

やむなく返事を打つ。早く返さないと久しぶりの仕事が他の人に流れてしまうかもしれないからね。

 

打ち終わってふとことりちゃんの方を見ると少し不機嫌そうな顔をしていた。そりゃそうだ。楽しく話してる途中に相手がいきなりメール打ちだしたら僕だって嫌だ。とりあえず何のメールだったかだけでもさりげなく伝えよう。

 

 

「ふう。久しぶりに仕事が入ったよ」

 

 

すると少し驚いた風な顔をして、

 

 

「なんの仕事してるの?」

 

 

しまった。そうだよね学費全部自腹で出してるのに久しぶりに仕事とか言ったら怪しいよね。でも何をしてるかは言えない。申し訳ないけど話を多少強引に戻させてもらおう。

 

 

「ん? 気になる?」

「うん」

「それはね……秘密〜」

「えぇー!」

「それより話の途中だったよね。その後どうなったの?」

「う、うん。えっとね……」

 

 

よかった成功だ。ごめんねことりちゃん。本当にこれだけは誰にも言えないんだ。なぜなら僕の仕事は……

 

 

────────

 

 

夕方、新宿路地裏。

今日の取引現場はここになっている。

 

 

「はじめまして。落人(おちひと)さんですか?」

 

 

今回の客は若めの青年のようだ。それなりに貯めてそうなおじさんでも1〜2ヶ月しかもたなかったから、これは結構すぐにダメになるかもしれない。この仕事上手く行く時はすごい儲かるから良いけど、すぐ客がダメになるから賭けがでかいなぁ。ちなみに落人っていうのは僕の仕事上の名前だ。

 

ん?結局何の仕事なのかって?

 

 

「……あまり時間はかけたくない。物はコレだ。代金を」

 

 

そう言いつつ粉の入った袋をちらつかす。

そう、僕の仕事は……

 

 

薬の売人だ。

 

 

────────

 

 

「……あれ……?ここ、は……」

 

 

ふと気がつくと、見知らぬ部屋にいました。一体なにがあったんだっけ……? たしか新宿に服を買いにきて、帰ろうとしてた時に噂のカッコいい人に声をかけられて、一緒に店に入って……。あまり思い出せません。とりあえず外に出ないと。晩ご飯の約束、お母さんたちが待ってる。そう考えて立ち上がった瞬間、

 

 

「おはよう。やっと目が覚めたんだね」

 

 

扉からあのカッコいい人が出てきました。

 

 

「すみません! いつの間にか寝ちゃってたみたいで……。早く帰らないとお母さんが心配しちゃうので失礼します!」

 

 

そう言ってカッコいい人の横をすり抜けて

 

 

「まぁまぁまぁ、ちょっと待ってよ」

 

 

扉から薄金髪の男の人が入ってきてぶつかる。

 

 

「はじめまして〜。帰るなんて寂しい事言わずにさぁ、一緒に遊ぼうよ〜」

「す、すみません! この人は……?」

「彼は僕の友達だよ。『今から女の子と遊ぶんだけど来る?』って言ったら『行くぜ!!』って」

 

 

え?なんで知らない人まで呼ぶの?なんだかこのままだとやばい気がする。急いで帰らないと。

 

 

「ごめんなさい! 本当に、あの、用事があるので!」

「まぁまぁ、そんな事言わずに」

「でも!!」

「うーん、ねぇカズ。一旦大人しくさせた方がいいんじゃない? ほら、昨日凄いの仕入れたって言ってたよね」

「そうだな……。よし、じゃあ試してみようか」

 

 

大人しくさせる?耳を疑う。本当にまずい気がしてきた。逃げないと。

 

 

「帰ります!! 通してください!!」

「ちょちょちょっと! うわわ暴れるなって! カズ! 早くやって!!」

「やめて!! 離して!!」

「よし。こっちは準備できたよ。しっかり抑えといて」

「よっしゃ!」

 

 

後から来た薄金髪の人に床に組み敷かれる。動けない。カッコいい人……カズと呼ばれているその人はいつの間にか注射器を手にしていた。嫌だ。怖い。やめて。助けて。誰か。穂乃果ちゃん。海未ちゃん。お母さん。

 

 

楽人くん。

 

 

腕にチクッとした痛みが走る。

なにかが注入される感触がす

 

 

瞬間。

 

 

今までに味わった事のない感覚が全身を駆け巡る。

 

 

「あ……ッ…………カッ…………」

 

 

全身の力が抜ける。

 

 

 

 

きもちいい。

 

 

 

今までの全ての事がどうでも良くなってしまうほどの快感が止めどなく押し寄せてくる。

 

 

動く気も湧いてこない。

 

 

身体を触られている気もするけど、それももはやどうでもいい。

 

 

そこから先の事はあまり覚えていません。ただ、何か大切なものを失ったような、そんな気はします。

 

気がつくと家の近くまで帰って来ていました。あ、そうだ。晩ご飯の約束。遅くなってしまったし謝らないといけないな。スマホで時間を確認する。知らない人からメッセージが来てる。

 

 

『今日は楽しかったね。アレ、気持ちよかったでしょ? ことりちゃん凄かったもんね。明日も今日のとこ来てよ。また色々してあげるからさ。

p.s. 今日の事は全て録画してあります。明日来なかったり、誰かにこの事を言ったらわかるよね?』

 

 

血の気が引く。気分が悪い。家に駆け込む。

 

 

「ことり? 遅いじゃない! 心配したのよ?」

「ご、ごめんお母さん……。今日の約束は無かったことにして……」

「え? ちょっとことり? 待ちなさいことり!」

 

 

お母さんの言葉を無視して自室に飛び込む。

あぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。考えるまでもない。親との約束を蔑ろにして知らない人について行ってしまったからだ。高校生になったからって調子に乗ってしまったからだ。どうしよう。自分の選択を悔やむ。誰か……誰か助けて……

 

 

 

 

それから毎日あの人たちに呼ばれて、注射を打たれて色々な事をしました。録画された映像を見せられたりもしました。こんな姿、誰にも見せられません。せめてみんなの前ではいつも通り元気でいよう。

 

 

────────

 

 

水曜日、朝、待ち合わせ場所。

今日も頑張っていつも通りを装いながら楽人くんと海未ちゃんとで話しながら穂乃果ちゃんを待つ。みんなと一緒に笑い合うこの時間だけは嫌な事を忘れられる。もしこの時間が無くなってしまったら……いや。やめよう。最近なぜか暗い事ばかり考えてしまうようになってしまった。いけないいけない。今は楽しい時間なんだ。気付かれないようにしないと。

 

 

………………

 

 

あれ? いつの間にか話が終わってる。話題が尽きたのかな。なにか話さないと。

 

 

「そういえばこの間服を買いに行ったんだけど、凄いかわいいのがあって……」

「……ことりちゃん、大丈夫?」

「……ふぇ?」

「いや、最近なんか無理してない? 週明けくらいから元気が無いように見えてさ」

「そうですよことり。いつも一緒にいるんです。隠そうとしていても分かりますよ」

 

 

よく見ると2人とも心配そうな顔をしていた。そんな。いつも通りに振る舞っていたつもりだったのに、全て筒抜けだったの? 猛烈な不安に襲われる。

 

 

「そ、そんな事な

「ことりちゃん!!! おっは「ひぃぃ!!!」よ……あれ?」

 

 

気がつくとしゃがみこんで丸まっていた。あれ? なんで? どうしてこんなに怯えてしまってるんだろう。周りの人がこっちを見ている。3人が心配そうな目で私を見つめてくる。やめて。何か話しかけてきてる。よくわからない。とりあえず謝らないと。

 

 

「あ……ご、ごめん……穂乃果ちゃん……な、なんでもないの。少し、驚いちゃった……」

「少しっていうか……」

 

 

穂乃果ちゃんたちが何か言おうとしている。やめて。聞かないで。言えないよ私があんな事になってるなんて。

 

 

「あの」

「ご、ごめん! 穂乃果ちゃん海未ちゃん楽人くん! 私先に行ってるね!」

「こ、ことりちゃん!?」

 

 

その場から逃げ出す。周りの視線、3人の心配そうな言葉が突き刺さる。もうだめだ。私、いつの間にか普通の生活もできなくなってしまったみたい。

 

学校に着く。周りの人たちがこっちを見ている気がする。私の事を話している気がする。やめて。見ないで。

 

 

 

結局その日は早退した。

 

 

 

もう嫌だ。どこに行っても見られている感じがする。噂されている感じがする。震えが止まらない。不安が押し寄せ続ける。どうしよう。

 

 

そうだ。

 

 

 

 

あの注射を打ってもらおう。

 

 

 

 

あの間は何も考えなくていい。全身に広がるきもちよさに身を任せるだけでいい。不安も何もかも全部アレで吹き飛ばしてもらおう。

 

今日はまだ約束の時間になってないけど連絡をとる。

 

 

『もう我慢できません。早く、早くお願いします。なんでもします』



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最悪の出会い

 

あの日からことりちゃんが家から出てこなくなった。

 

毎朝家まで迎えに行くけどスマホに『ごめんなさい今日も休みます』と返事が来るだけだ。だが、それも最初のうちだけで最近は返事も帰ってこないようになってしまった。

一体何があったんだろう。穂乃果ちゃんと海未ちゃんも何も分かってないみたいだし……。まさかこのままお別れなんて事ないよね?

 

 

ヴーヴー

 

 

仕事のメールが来る。最近多いな。金が溜まっていくのはいい事なんだけど状況が良くない。実は僕は学費を稼ぎ終わってある程度の貯金ができたら、この仕事を辞めてことりちゃんに告白する予定だったのだ。でもこのままじゃそれどころじゃない。早くこの状況を解決しないと。でも何をしたらいいのか思いつかない。とりあえず仕事に行く事にする。

 

 

────────

 

 

「どうも落人さん。今日もよろしくお願いします」

 

 

取引場所に行くとまたあの青年がいた。最近の仕事は大体この人なんだけど、おかしい。普通使用を始めて1週間くらい経つと、薬の依存性や副作用によってやつれたり精神に異常をきたしたりするはずなのだ。今までの客はみんなそうだった。それなのにこの客は薬の消費スピードも速いのに全然最初と変わった感じがしない。

 

 

「……お兄さん珍しいですね。1週間以上たったのに元気そうだ。もしかして自分で使用してないんですか?」

「お、そうなんですよ。実は僕ね、街で可愛い女の子を引っ掛けて遊ぶのが趣味でして。ほら、自分で言うのもなんですが結構見た目整ってるじゃないですか」

 

 

確かに。今までそんなにしっかりは見てなかったけど、よく見ると凄くカッコいい顔をしている。爽やか系っていうんだろうな。

 

 

「それでですね、先週凄く可愛い子を捕まえまして。今その子を薬漬けにして遊んでるんですよ。この前なんて日中なのに『お願い我慢できない』って呼び出されて。凄い興奮しますよね。あ、写真あるんですけど見ます?」

 

 

ふむ。凄く可愛いと言われると少し気になるな。まぁことりちゃんには敵わないだろうけど。そう思いながら見せてもらう。

 

 

そこに、写っていたのは。

 

 

 

「こ……ことり……ちゃん……?」

 

 

 

心臓が大きく脈打つ。そこに写っていたのはあられもない姿をしたことりちゃんだった。

 

 

「あれ、知り合いなんですか?」

 

 

言葉が出ない。そんな。嘘だろ? あのことりちゃんが、僕に懐いてくれていたあのことりちゃんがこんな……。いや、そんな訳ない。ことりちゃんがこんな事になるなんてありえない。まだ写真で見ただけだ。もしかしたら他人の空似かもしれない。名前も偶然一緒なだけかもしれない。そうだ、そうだよ。まだ本人と決まったわけじゃない。落ち着け僕。大丈夫。違うという事を証明しないと。

 

 

「……前からこの子、気になってたんですよ。次遊ぶ時、僕も混ぜてくれませんか?」

「わかりました。じゃあ明日午前8時50分に原宿駅に来てください。いやはや、知り合いが出てきた瞬間、どんな顔するか楽しみだなぁ……ふふ」

 

 

大丈夫、別人だ。ちょっと覗いて適当なところで用事とか言ってさっさと帰ろう。僕の好きなあのことりちゃんがそんな事になっている訳がない。

 

 

────────

 

 

今は何時? スマホを確認する。7時。メッセージが来ている。穂乃果ちゃんだ。心配の言葉。苦しい。「酷いよ無視するなんて」「最低です」聞こえるはずのない声が聞こえる。手の震えが止まらない。もうだめ。今日の約束は9時からだけど我慢できない。もう行こう。おぼつかない足取りで玄関に向かう。

 

 

ピンポーン

 

 

インターホンが鳴る。きっと楽人くんだろう。足を止める。そういえば最近楽人くんにも返事してないなぁ。でもできない。今返事を書くと変な事を書いてしまいそうで。ごめんなさい。こんな今の私、楽人くんには見せられないよ。せめて楽人くんの中では綺麗なままの私でいさせて……

 

少しして玄関前から人の気がしなくなった。覗き穴から楽人くんがいない事を確認する。知り合いに見つからないよう人通りの少ない道を行く。

 

ようやくいつもの部屋の前にたどり着く。正直もう限界に近い。今にも倒れそうだ。インターホンを鳴らす。出ない。どうして。時間を確認。7時50分。そんな。早すぎてまだ誰も来てないんだ。一体どうしたら。その時視界の隅にガラス片が落ちているのに気がつく。なんとなく拾う。痛っ。あれ? 一瞬不安感がやわらぐ。もう一回。あ、これ、もしかして……。手首にガラス片を押し当てる。赤い血がたれてくる。

 

 

「あーすげぇ早く着いちゃったなぁってことりちゃん!? 何してんのオイやめろ!」

 

 

薄金髪の方の人が来て私を取り押さえる。

 

 

「お、おねが、お願いします……注射……早く……」

 

 

どうしようもなさすぎて涙が溢れてくる。

 

 

「あー、薬はな、カズが来る9時になるまでないよ」

「そ、そんなぁ……」

「と、とりあえず時間まで待とうか」

 

 

そして私たちは部屋に入り、9時になるのを待ちました。もう耐えられません。早く来てカズさん。早く。早く。

 

しばらくして玄関の鍵が開く音がした。やっときた。立ち上がり玄関に向かう。

 

 

「カズさん……注射、はやく……!!」

「うわことりちゃん!? まぁ待てよ。今日はことりちゃんの為にスペシャルゲストを呼んであげたんだよ」

 

 

ゲスト? そんなことより注射。早く。気が狂いそう。

 

 

「注射!! はやくください……!! はや……」

 

 

そう言って横に避けたカズさんの後ろから出てきたのは……

 

 

「……ら……楽人……くん……?」

 

 

嘘。そんな。なんで? どうして楽人くんがこの人たちと一緒に? というより見られた? この絶対に見られたくない状態を一番見て欲しくない人に。

 

 

「嫌……」

 

 

何も考えられない。頭が真っ白になる。体が鉛のように重い。動けない。

 

 

「いやぁぁぁぁ!!!!」

 

 

悲痛な叫びが室内にこだました。



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終わり

 

嘘、嘘だ。目の前の光景に目を疑う。他人の空似だと思いたかった。信じたくなかった。でも、そこに居たのは…

 

 

「いやぁぁぁぁ!!!!」

 

 

瞬間。体が勝手に動く。

男が数メートル吹っ飛ぶ。念のために持ってきていた伸縮式警棒でぶん殴ったからだ。男が落としたスマホをバキバキに叩き壊す。これで撮影されたことりちゃんのデータは消えただろう。

 

 

「は? おいおいオイ!!! 何してんだテメェ!!!!!」

 

 

よく見るともう1人男がいた。きっとこいつの仲間なんだろう。

 

 

「お前も写真とか動画とか撮ってるんだろ。消すかスマホ壊すか。選べよ」

「あ? てめぇ何様のつもりだ?? 死ねy」

「待て!!」

「カズ!?」

「武器持ちに勝てる訳ないだろ……言う事聞いとけ……」

「……ッこれでいいかよ」

 

 

そう言いながらスマホの写真フォルダを見せてきた。ことりちゃんの写真や動画は無かった。

 

 

「……後は金輪際ことりに近づくな。それが約束できるなら見逃してやる。下手な事は考えるなよ。顧客のデータは残してある。僕に何かあればそこのお前も逮捕だ」

「……いいですよ。そろそろその子には飽きてきたし、あなたみたいな面倒な人に捕まるのももう嫌ですし。行くよ……いたたた……」

「……クソ!! まぁいいよ! そいつとはもうする気無かったしな! ケッ……なぁカズ〜俺来た時あの子リスカしててよ〜マジ気色わるい……」

 

 

そう言いながら2人とも出ていった。とりあえずは成功だ。

 

 

「ことりちゃん!! 大丈……」

 

 

そう言いながら振り向くと床に倒れ涙を流しながらうわごとを呟くことりちゃんの姿があった。

 

 

「注射……はやく……もう何も……考えたくない……」

 

 

見ていられない。薬を使い続けてこうなった人はいくつも見てきたけど、それの対処法なんて考えた事も無かった。救急車?警察?ダメだ。薬の入手経路から僕が売人やってることがバレて捕まるかもしれない。でもこのまま連れて帰ってもこの状態じゃ何をしでかすか分からない。どうしよう。どうすればいい。ことりちゃんが無事に生き続ける事ができて僕も捕まらない方法。何か……何か無いのか……

 

 

そうだ。あるじゃないか。簡単な方法が。僕がことりちゃんと一緒に居続けられる、唯一の方法が。

 

そして僕は……

 

 

 

 

「大丈夫。僕がいるよ。ずっと一緒にいてあげる。だから落ち着いて…ね?」

 

 

 

僕は、ことりちゃんの腕に薬を打ち込んだ。

 

 

 

────────

 

 

楽人家、朝。

 

 

「っ……………ぁ……………」

 

 

ことりちゃんが床に転がって痙攣している。薬の余韻に浸っているようだ。

 

あれから。僕は大学を辞め、学費になる予定だったお金を崩して仕入れた薬を全てことりちゃんの為に使っている。ことりちゃんには辛くなったらいつでも来るように言ってあり、それで今日も朝から来てくれている。

 

しばらくして落ち着いたらしくことりちゃんが起き上がる。

 

 

「……ごめんなさい、楽人くん……」

「いいんだよ」

「私がこんな事になってなければ大学も辞めなくて良かったのに……」

「大丈夫、こうしてことりちゃんと一緒に居られるだけで僕は十分だよ」

「楽人くん……」

 

 

ことりちゃんと見つめ合う。あぁ可愛いなぁ。

 

 

「……ことりちゃん」

「……何?」

「実は……昔から僕は……その、君のことが好きだったんだ」

「…………えっ?」

「こんな事になっちゃったけど……伝えておきたくて……」

 

 

つい言ってしまった。まぁ学費も要らなくなったし薬の事を隠す必要もなくなったし、妥当なタイミングではあった。反応を伺う。

 

 

「………………」ポロポロ

「こ、ことりちゃん!?」

 

 

ことりちゃんが目から涙を流していた。突然の事に取り乱す。

 

 

「どうしたの!? もしかして何かしちゃった!?」

「ううん、私、妹のようにしか思われてないと思ってたから……嬉しくて……。私も楽人くんのこと……好きだよ……」

「ことりちゃん……」

 

 

幸せだ。これが両想いってやつなのか。嬉しすぎる。これからもずっと面倒をみよう。ずっと一緒にいよう。

2人で抱き合う。顔が近い。

 

 

「楽人くん……」

「ことりちゃん……」

 

 

どちらからともなく互いに口を近づける。

 

口と口が触れ合うか触れ合わないかの瞬間。

 

 

「動くな!!! 警察だ!!!」

 

 

いきなりそれなりの人数が家に入ってきた。

思わず立ち上がる。

 

 

「白瀬楽人。麻薬及び向精神薬取締法違反で逮捕する」

 

 

この生活を続ける限りいつかは来るかもなとは薄々思っていた。けど、今か。

ふと、ことりちゃんの方を見る。いつの間にか穂乃果ちゃんと海未ちゃんが居た。怯えるような、蔑むような顔をしてこっちを見ている。そうか。通報したのはこの2人か。きっと窓の隙間かどこかから見たのだろう。

 

 

「待って!! 違うの!! 楽人くんは!! 離して!! 楽人くん!! 楽人くん!!!!」

 

 

「ごめんね、ことりちゃん」

 

 

両手に手錠がかけられる。

 

 

「楽人くん……私たち……信じてたのに……」

 

 

あぁ、そうだ。僕は言い訳をしていただけだ。ことりちゃんを助ける為と言いながら弱っているところにつけこんで、僕なしでは生きられなくした。ことりちゃんと一緒に居たいがために僕のわがままに付き合わせていた。僕は人として、最低な事をしていたんだ。

 

 

「あなたは……あなたは最低です……!!!」

 

 

 

 

 

こうして僕とことりちゃんの日常は、呆気なく終わりを迎えた。



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南ことりと白瀬楽人

 

「ん〜〜っ! いい天気!」

 

 

あれから私は更生施設に入れられ、10ヶ月間の間リハビリを行いました。おかげで薬の影響も無くなり元気になりました。また目の前に薬が出てきても我慢できる自信があるくらいです。

そして今日、4月。2年生からまた学校に復帰する事になりました。穂乃果ちゃん、海未ちゃん、また仲良くしてくれるかな……不安です。

 

 

「いってきまーす」

 

 

そう言って玄関を出ると

 

 

「あーーー!!!! ことりちゃん!! 久しぶり!!!」

「久しぶりです、ことり。もう大丈夫ですか?」

「2人とも……」

 

 

玄関前で2人が待っていました。

 

 

「あんな事があったのにまた仲良くしてくれるの?」

「当然だよ!! だって私たち、昔からずっと親友でしょ!?」

「そうですよ、ことり。そもそもことりは巻き込まれただけなのでしょう?」

「穂乃果ちゃん……海未ちゃん……」

 

 

私はなんていい友達を持ったんでしょう。幸せで胸がいっぱいです。

 

 

「2人とも、だーいすき!!」

「うわっ、ことりちゃん!?」

「もう、ことりったら。ふふ」

 

 

2人に抱きつきます。懐かしいなぁこの感じ。無事ここに帰ってこれて良かった。後はここに楽人くんもいれば……。いつ頃出所するのかな……

 

 

────────

 

 

「うっ、まぶし」

 

 

逮捕されて1年と9ヶ月。僕は刑務所から出る事ができた。本当ならもっと長い間出れないはずだったんだけど、刑期中の僕の必死の頑張りと、ことりちゃんが懸命に僕は悪くないと訴えてくれたという事もあって早めに出してもらえたんだ。

 

 

「うー、寒いな……」

 

 

何しろもう3月だ。あれから結構たってるもんな。久しぶりの風が身に染みる。

 

さて、出る事はできたけど家庭の事情により頼れる家族はいないしどうしようかな。ふと頭にことりちゃんの顔が浮かび上がる。いや、ダメだ。出所前警察の人に言われたのだが、薬の後遺症は本人が治ったと思っていてもずっと続くものらしい。薬をやっていた頃を思い出させるような物をみると体が勝手に反応したり、手に入る環境になってしまうとまた再発してしまう、と。だから彼女のためにも僕はもう会わないほうが良いと言われた。

 

あの時僕たちは互いに思い合っていた。けどあれからそれなりの時が経っている。きっと彼女も違う恋を見つけている事だろう。そもそも僕にはもう、そんな資格などないのだから……

 

 

とりあえず家に向かう。その途中、ビルについている巨大モニターでスクールアイドルとやらの特集が流れていた。最近はこういうのが流行っているのか。他にする事もないのでぼんやりと眺める。A-RISE、μ's……へぇ、明日その頂点を決めるラブライブってやつがあるのか。ん? よく見るとμ'sというグループに見知った顔がある事に気付く。穂乃果ちゃんに海未ちゃんに……

 

 

「ことり……ちゃん……」

 

 

あのことりちゃんもμ'sに入っているらしい。久しぶりに見ることりちゃんはキラキラと輝いて見えた。過去にあんな事があったとは思えないくらいに元気な姿に僕はすっかり見入ってしまった。

 

 

────────

 

 

次の日、ラブライブ会場前。

 

 

「……こんなとこに来てる場合じゃないんだけどな……」

 

 

出所したて、金も逮捕前薬に使ってもうあまり無い中、いつの間にかここまで来てしまっていた。早く就職なりバイトなりしないといけないのに。それほどまでに僕の中で昨日の映像が気になっていたみたいだ。万が一にもことりちゃんに気付かれないように帽子を深く被り、客席へ向かう。

 

チケットが無いと客席に入れないらしく、遠くから見る事にする。屋外ステージで良かった。

 

そして、ラブライブが始まる。知らないグループのステージをぼんやりと眺め、最後、μ'sのステージが始まった。

 

 

遠いけど、確かにあのことりちゃんが、幼馴染みの女の子が、ステージで踊っていた。

 

 

あんなことになってしまったけどちゃんと頑張ってるみたいで。

 

 

嬉しさが込み上げて。

 

 

その分あの時の申し訳なさも込み上げて。

 

 

「う……ぐっ……………」

 

 

涙が止まらない。

 

 

 

 

 

ラブライブが終わった。μ'sは優勝したらしい。僕はどうしても彼女に謝罪をしたくて彼女の家の近くで待つ事にした。そして謝ったらもう会わないように遠くに行こう。もうこれ以上彼女の人生を振り回したくない。

 

そして待つ事数時間。ことりちゃんはまだ帰ってこない。

打ち上げがあったにしても遅いと思った僕はそこから会場の方へ逆走してみる事にした。

 

 

────────

 

 

「またね! ことりちゃん!!」

「またね〜」

 

 

ラブライブ優勝の打ち上げをした帰り道。ついつい盛り上がって帰るのが遅くなってしまいました。いつもの待ち合わせ場所で穂乃果ちゃんと海未ちゃんと別れます。

夜遅いのであたりは真っ暗で人も全然いません。早く帰らないと。

 

 

「久しぶり、ことりちゃん」

 

 

不意に後ろから声をかけられる。振り返るとそこには見たことのある姿があった。

 

 

「あ、あなたは……」

 

 

薄金髪。あの時の2人の片方だ。あの頃を思い出してしまう。やっと忘れそうになっていたあの事件を。

 

 

「久しぶりに遊ぼうよ。昔のあの部屋でさぁ、また撮影会してあげるよ」

「いや、いいです。私早く帰らないと」

 

 

そう言って帰ろうとすると腕を掴まれた。

 

 

「やめてください!」

「なぁことりちゃん! 俺よ、マジで今困ってるんだよ!! 金が要るんだよ! このままじゃ生きていけないんだよ!!」

「離して!!」

 

 

振りほどこうとするけど力が強くて離れられない。

 

 

「またいい事してやるからさぁ!!ほら、見ろよこれ!!」

 

 

男はポケットからあの注射器を取り出した。

 

 

「あ……」

 

 

あの感覚を思い出す。何もかもがどうでも良くなってしまうほどの快感。全身に広がるあの感覚。

いや、何考えてるの私! もうやらないって決めたのに。でも、忘れられない。頭がそれでいっぱいになる。今ならまたあの感覚を味わえる。滅多にない機会だ。

 

 

 

……1回だけなら。

そんな考えが頭をよぎる。

 

今まで大丈夫だったんだ。久しぶりに1回やるくらいなら大丈夫。

 

 

「ぃ……一回……だけなら……」

 

 

あぁ、言ってしまった。受け入れてしまった。また私は今からあの感覚を味わうことになるんだ。体が震え、口がにやける。

 

そうして彼についていこうとしたその時。いきなり拳が飛んできて男の顔に直撃する。男は数歩分後ずさって倒れた。そして彼と私の間に帽子を深く被った人が立ちはだかった。

 

 

「彼女に……ことりちゃんに、近づくな!!!」

 

 

顔は見えないけど声で分かった。間違いない。昔から何度も聞いてきた。彼は……

 

 

「楽人……くん……?」

 

 

────────

 

 

殴った拳がじんじん痛む。これだけ時間が経ってこの男、まさかまたことりちゃんを狙うなんて。許せない。

 

 

「ッ……おい、テメェ……何すんだオイ!!!」

 

 

男が起き上がり、こっちに向かってくる。よく見るといつの間にか手に警棒を持っていた。まずい。こんな場面にでくわすなんて思ってなかったから今は武器も何も持っていない。咄嗟に攻撃をかわそうとするがリーチもあって思いっきり左膝にくらう。

 

 

「がっ…………!!」

 

 

思わず倒れ込む。頭を蹴られ、帽子がとれる。

 

 

「ん? お前もしかして落人か? テメェこのクソ嘘つきが!!!!」

 

 

さらに腹や腕に蹴りや警棒が打ち込まれる。

 

 

「ガホッ!ゲホッ!!」

 

 

痛い。多分左膝と右腕は折れた。

 

 

「おい、知ってるか? あの後な、1週間くらいしてカズは捕まったんだ。薬を購入してた事がバレて! 庇ってくれたみたいで俺は捕まらなかったんだけどよ……なぁ! あれから俺たちはこいつに関わらなかったのによ! おかしいよなぁ!!!!」

「あぐっ……がはっ!!」

「決めたぞ。先にお前をなぶり殺す。そしてお前が死んだらこいつを連れて帰って撮影会だ。ラブライブ優勝者のキメハメ動画……絶対高値がつくぞ……ククク」

 

 

やばい。このままじゃ殺される。いや、それよりもこの男ことりちゃんの動画を売るつもりなのか? そんな物が出回ってしまったら彼女はもう立ち直れなくなってしまうかもしれない。せっかくあの事件から立ち直って大会優勝まで成し遂げたんだ。そんな彼女の笑顔を奪うなんて絶対にさせない。

とりあえずまずは助けを呼ばないと。気付かれないように体の下敷きになっている左手でスマホで警察に電話をかける。後は逆探知を期待して耐えるだけだ。僕が死ぬまではことりちゃんに手は出されない。どんなに痛くても苦しくても、関係ない。警察が来るまでなんとしても生き抜いて見せる。彼女の人生にこれ以上傷をつけない為にも。

 

 

────────

 

 

楽人くんが殴られ、蹴られ、そしてまた思いきり警棒を振り下ろされる。私の大好きな楽人くんが。

 

 

「や……やめて……」

 

 

あたりに血溜まりができている。楽人くんの腕や足がありえない方向に曲がっている。

 

楽人くんが助けに来てくれてどれだけの時間が経ったのだろう。最初の頃は痛がったり苦しんでいたりしたけど、もう反応も薄くなってきた。

 

 

「お願い……楽人くん……死んじゃう……」

 

 

助けたいけど恐怖で足が動かない。涙が止まらない。なんで? どうしてこんな事になるの? せっかく事件から立ち直って普通の生活を過ごしていたのに。せっかく楽人くんと再開できたのに。あの時私が知らない人についていかなかったら今この人に目をつけられることも、楽人くんがこんな事になることも無かったかもしれない。悔やむ。悔やむ。悔やむ。それなのにいつも私は楽人くんに助けられてばっかりだ。

 

 

「はぁ……はぁ……疲れてきたし、反応も薄くなってきたな……そろそろトドメさすか」

 

 

このままじゃ何の恩も返せないまま楽人くんが死んでしまう。そんなの嫌だ。絶対に嫌。

 

 

「じゃあな……落人ォォォ!!!」

「だめぇぇぇぇ!!!!」

 

 

咄嗟に飛びかかる。男はバランスを崩し、一緒に倒れ込む。

 

 

「オイ!! 邪魔してんじゃねぇ!!! どけ!!!」

「嫌!!! どかない!!!」

「クソ!! 離れろ!!」

 

 

その時。サイレンの音が近づいてきた。警察だ。

 

 

「は? クソ! お前たちやりやがったな!?」

 

 

男は逃げようとするが、駆けつけた警官に取り押さえられた。

 

そんな事より楽人くんだ。急いで駆け寄る。

 

 

「楽人くん!! しっかりして!! 楽人くん!!!」

 

 

意識が朦朧としているらしく呼びかけても反応がない。救急の人たちも駆け寄ってくる。嫌。このまま死んじゃうなんて、いやだよ。楽人くんの手を両手で握る。お願い神様。楽人くんを助けて。

 

涙が楽人くんの手に落ちる。

 

 

「…………こ…………ゃ…………」

「楽人くん!?」

 

 

楽人くんが僅かに喋った。顔を近づける。

 

 

「ことり……ちゃん…………最後に君の……ため……助ける事が……できて……よかっ……た…………」

 

 

「ら……楽人……く……」

 

 

違うよ。助けられてばっかりなのは私だよ。そう言いたいけど上手く言葉に出ない。

 

 

 

そんな私の顔を見て僅かな笑みを見せる楽人くん。

 

 

 

そして握りしめていた楽人くんの手から力が抜けた。

 

 

 

「そ、そんな……まってよ楽人くん……」

 

 

 

まだ何のお返しもできてないよ。助けてもらったお礼すらもできてないんだよ? いかないでよ。お願い。

 

 

 

 

「あ……あぁ………」

 

 

 

 

でも楽人くんはもう、何の反応もしない。

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

私の叫びは夜の闇に吸い込まれていった。



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エピローグ

 

「えーーーっっ!! またことりちゃん帰っちゃったの!?」

「もう。最近練習に参加してないけど一体どうするつもりなのかしら」

「でも仕方ないよ。あんな事があったんだから……」

「まぁ……そうだけど……」

 

 

放課後、音ノ木坂学院屋上。

ことりが今日も帰った事を伝えると3人は黙りこんでしまいました。毎日こんな感じのやりとりを繰り返してます。

 

 

「……大丈夫だよ!! きっとまたそのうち練習に来るようになるよ!!」

 

 

穂乃果がみんなを励まします。自分も心配でしょうに。でも、そのおかげで今日もまた練習が始まります。

 

 

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー」

 

 

それにしてもいつになったら参加するようになるんでしょう。掛け声をかけながら考えます。真姫が言うにはとっくに状態は安定しているそうなので、あとはことり次第ではあるのですが……

 

 

────────

 

 

あの後。あの薄金髪の男の人は逮捕され、楽人くんは病院に運ばれました。私は警察署で事情聴取を受けました。

 

そして開放されて建物から出ると、

 

 

「ことりちゃぁぁぁぁん!!!」

「ほ、穂乃果ちゃん!?」

 

 

いきなり抱きつかれました。

 

 

「もう! 心配したんだから!!」

「無事で……良かったです……また離れ離れになるかと……うぅ……」

「み、みんな……」

 

 

そこにはμ'sのみんなが待っていました。

 

 

「ラブライブ優勝の余韻に浸ってゆっくりしてたらいきなり理事長から連絡があってびっくりしたのよ? 一体何があったの?」

「それは……」

 

 

そして何があったのかをみんなにも全て話しました。

 

 

「そんな……事が……」

「っていうか楽人くんってあの楽人くん!?」

「昔ことりにとんでもない事をしたあの白瀬さんが助けに……?」

「違うの! あれは私のために……そう。私、助けてもらってばかりで……楽人くん……」

「こら! なんて事いうのよ!! 昔がなんであれ今回命を張ってまでことりを守ってくれたのよ!? もし彼が居なかったら今頃どうなっていたか……」

「すっすみませんことり!!」

「とにかくことりちゃんは家に帰って休んで?」

「そうだよ! 後の事はきっと真姫ちゃんがなんとかしてくれるよ!」

「わ、私は何もできないけど……うちの病院は凄いから。安心して。絶対助けるわ」

「う、うん……みんな、ありがとう……」

 

 

そして……

 

 

────────

 

 

4月、西木野総合病院。

 

 

「それでね、今日も穂乃果ちゃんがね……」

 

 

カラカラカラ。西日がさす通路、1人の少女が車椅子を押して歩く。

 

 

「うん……それはそれは」

 

 

車椅子に乗っている────両腕両脚を失い、眼帯をつけた男は穏やかな表情で相槌を打つ。

 

 

 

 

 

他の人から見るとなんて不幸な、かわいそうな話だと思われるかもしれません。

 

 

 

でも。

 

 

 

私たちは今、幸せです。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!この2人の話はこれでおしまいです!!多分!お気に入りや感想くださった方々、ありがとうございました!嬉しかったです!お気に入りしてない人も今からでもしてくれたら嬉しいです!

この最終話、本当はもっと短かったんですが1000字に足りず投稿できなかったのでかさ増しした結果少し微妙になってしまったかもしれません!すみません!

この話は、Twitterにあげてる凛の漫画、花陽の漫画を書くためにアニメを見返した時、ことりちゃん良いやんってなって作られました。「ことり言うたら薬物似合うよね」ってなって相手を薬の売人にしたり、「薬物言うたら心理描写したいよね」ってなって初めての小説にチャレンジしたりしました。ことりちゃんに酷い事してすみませんでした!でも薬物に堕ちていく描写好きなんです!!!許してください!!!

次作る小説は矢澤にこと高校生になった虎太郎くんの話になると思います。いつ頃になるかはわかりませんが活動報告でそのうち喋りますのでお願いします。ユーザーページのとこにTwitterのリンク貼ってます。よかったら来て漫画見たり絵見たりフォローしたりして下さい!喜びます!

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