JKメイドは背後に回る (杉谷さとし)
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プロローグ

僕の朝は、自分でセットしたのにも関わらずリンリンとうるさい音を部屋中に鳴り響かせ僕をイラつかせる目覚ましと、カーテンの隙間からさす日光の襲撃で目覚めるところから始まる。

まだ20%くらいしか持ち上げられない目蓋を擦り、なんとかして視界を良くしようとするが10%くらいの進歩しかなかった。

「朝つらっ」

そう呟き、いつものように朝ご飯を食べに1階へ降りる。

その途中、僕は違和感を覚えた。なんだ、なにかおかしい。

「ん?味噌汁の匂い?」

僕は一瞬思考が止まったが、すぐに台所へ向かわなければならないという使命が僕に課せられた。

なぜ、そんなに慌てることがある?朝、匂いがするのは当たり前では?

そう思うだろうが、これには事情があった。

父は、海外出張で昨日出たばっかりで今日の朝は絶対に居ない。一方で母は、去年の夏に事故で亡くして帰ることない存在となってしまっている。

つまりだ、この家には僕しか住んでいない。なのに、温められた味噌汁の匂いが家中に漂うのはおかしいのだ。

「おいおい、朝飯食って帰る泥棒なんていんのかよ。」

と驚きつつ、僕は足音を立てないようにゆっくりと台所へと向かった。

なかなか開かなかった重い目蓋は、焦燥感でいつのまにか全開まで開いていた。

台所の前まで来ると、一旦深呼吸し心を落ち着けた。

「ふぅー、よしっ!」

ゆっくりと中を見るとそこには、目を疑う人物がそこにいた。

「おいおいなんで、メイドが僕の家にいるんだよ…ご褒美かよ。」

ショートカットでウェーブのかかった髪に、二次元のような完璧な顔つきは一瞬で僕を魅了した。

「シュウジ様、そこでなにをしているんですか?早く食べないと遅刻しますよ」

「えっ、えっああ、僕か。」

何故か僕の家のキッチンを使って朝ごはんを作っていて、なぜかそこに居るのが当たり前のような空気を醸し出していたから、実は僕の家なんじゃないんじゃないか?そう思ってしまった。

落ち着け、落ち着け。目の前にいるのはただのメイド。夢にまで見たメイドが作った朝ごはんを食べ、となりで僕の食べる姿を立って見守ってくれているだけだ。一体それの何がおかしいとぉ…言うんだ…。

うん、そうだ全然おかしい事なんてない。

 

 

いや、おかしいだろ!

作ってくれたご飯は美味しい。お世辞とかないしで本当に美味いです!

けど、なぜ食べているところを見守られなければならない!

「あの、そこで立たれていたら…」

「シュウジ様!口に物を含みながら食べるのは、はしたないですよ。話は食べ終わった後に聞くので今は食べるのに集中です。洗い物ができないじゃないですか」

「あっ、はい、すみません」

あれ?ここ僕の家だよね?もうメイドさんが主人みたいになっちゃってるんだけど、それにさっきのセリフお母さん!?

この子実は僕のお母さんなのでは!?

注意され言葉を発せない為僕は寂しく一人二役でボケてはツッコンでいた。

ほんとこの子誰?



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一日中僕の後ろをついてくる

「おうっ、シュウジおはよう!どうだ?今日の帰りカラオケ行かね?」

「いや、今日は遠慮しとく。ちょっと色々事情があってやる事があるんだよ。」

教室に入ると、僕の存在にいち早く気づき、気さくに話しかけてくるこいつの名前は縁川(えんかわ) ケンジ。

小学校からの付き合いで、中学、高校と同じの腐れ縁という関係なのだが…

今日はやけにクラスメイトとケンジからの視線が痛い。

いつもならケンジか数人の視線を浴びるくらいなのに、今日はこちらを振り向かない者はいなかった。

なんでだ?いや、心当たりはある。というか、心当たりしかない。

「なぁあ、シュウジ。お前の性格って穏やかで優しいと思ってたけど…うん。

結構、ドSだったんだなぁ…。いや、別にお前のことを悪く言ってるんじゃないぞ?なんというか、場所が場所だからさ?まぁ、ほどほどにしろよ?」

ケンジは、赤面の顔で困惑した様子で視線を僕に向けてる?いや、よく見ると後ろに視線がいっている様に見える。そして、去り際に僕の肩に手を置き耳元でささやく。

「俺も"メイド"好きだぜ!」

「はっ!?」

僕は、3文字の単語で、何故クラスのみんなが僕に向けて痛い視線を向けて来たのか何となくだった答えが確信へとかわった。

クラスメイト全員の視線は僕なんかを見ていなかった。

見たくはないが、見なければならない。恐る恐る後ろを振り返るとそこには、朝のメイドが立っていた。

「やっぱりお前かよ!」

「はい、私ですが?どうしました?シュウジ様?はっ!まさか、私の名前を忘れてしまったのですか?仕方ないですね。この忘れん坊さん。私の名前はm」

「メイさんだろ?覚えてるよ。違う、違うんだよ。僕が言いたいのはなんで、そんな格好でいるのかってことと、なんで学校にまでついて来てるのかってこと」

何故驚かれてるのですか?なんて顔をしているこのメイドだか、今の格好がどれほど僕の誤解を生んでいることか…

今の僕は、学校で女の子にコスプレをさせ辱めるオープンスケベと化してる。

「えっ…シュウジ様。これ以上の露出のメイド服はここでは…きついです…。」

「やめてぇー、クラスの皆んなの視線が痛すきで鬱になりそうだから!」

「というのは冗談で…」

どうしよう心の中で煮えたぎるものが…

僕は、荒ぶる心を沈めドードーと自分に言い聞かせる。

一方で、メイドのメイさんに関してはなんの恥じらいもなく話し続ける。

「私がこの学校に何故いるのかという質問については、ここが私の通っている学校だからという単純な理由です。」

「えっ、まじ!?えっと…ちなみにメイさんの歳は僕と同じ…」

「はい、18です。」

「な、なん、だtooooo」

衝撃的な事実に酷く困惑する。メイド服から見える胸部は高校生の平均を大きく上回る大きさでてっきり、年上だと…

「そして二つ目の質問である、何故この服なのかというと…それは…」

「それは…」

ゴクリッ、まさかメイさんにはメイド服を着る深い理由が…

「これが私の正装だからです!」

「バッキャロー!」

僕はメイさんの手を引き、すぐさま女子更衣室へと連れて行った。

その時に、女子のキャーっという歓喜を表す声と男子の円陣をくんで何やら呪文を唱えているのは見たり聞かなかったことにしよう。



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散々な一日

「おっ、帰ってきた!」

「はぁーあ、ひどい目にあった。」

時刻は11時30分。自身の教室へ戻ってきた。

決してサボっていたということはない。これには、事情があるのだ。

事は3時間前。メイさんを着替えさせようと、女子更衣室まで連れていったのだがメイさん一人を置いて教室に戻るのも気が引けたため、女子更衣室の扉の前で待っていた。

その時ちょうどそこへ教室へ向かう先生と鉢合わせて何やら僕がいやらしいことを考えていたと勘違いした先生に、

「ちょっと、シュウジ君ちょっと職員室に来なさい。」

と、連行されたのだ。

 

 

「でっ?誤解は解けたのか?」

「あー、何とかな。メイさんは自分の教室にちゃんと戻れたのかなぁ?」

あの子に限って、教室に戻れないということはないだろうが何故か心配してしまう。

そんなモヤモヤしている時、ケンジはふと思い出したように手を合わせて音を鳴らす。

「そういえば、そのメイさん?っていう子なんだけどよ。そこにいるぜ?」

「そこって?」

僕は、またこっちのクラスに来たのかと廊下側を見てみるがそこには、むさ苦しい男集団だけで、そこにはいなかった。僕は、再度ケンジの方を見てみるとこっちに指をさしていた。

一瞬、何こっち指してんだよ。と、ツッコみたくなったが別に僕の方をさしているわけでは無いとすぐに理解して、指先の直線状を目で追っていくとそこには顔を横に置き、寝ているメイさんがいた。

「げっ、なんでこんなところに!?」

「ん?知らなかったのか?江藤えとう メイさん。今日からうちの高校に通うことになった転校生だぜ。ってあれ?驚かないのか?」

「もう、朝からメイさんに振り回されっぱなしなんだ。もう反応するのも疲れた...」

それに、ぐっすり眠ってるのに大声で驚いてしまったらメイさんに悪いしな。

いつ家に入ったのかわからないが、朝食は栄養バランスを考えられていて、量の昼までお腹が持つように多く作られていた。

学校にメイド服を着たり、周りに人がいるのに勘違いをされる発言をしたりで常識というものが抜けている部分はあるが、メイドとしてみるなら完璧だ。

それに、寝顔も...いかんいかん。これじゃあ、変態だ。変な目で見られる前にさっさと前を向いておこう。そう思い、前を向けばケンジのにやけ切った顔があったから一発殴っておいた。

「ふんっ!」

 

 

 

 

そして放課後、部活をやっていないから残ってても仕方ないと、いつも通りすぐさま教室を出る。

学校をでると夕方の春風が吹き付ける。

暑くなく、寒くもない丁度いい気温は疲れと合わさって眠気を誘う。

「こんな日には、家に帰ってメイさんの膝枕で寝よう!」

「おい、何勝手なことを言っている。」

「てへっ、ばれちゃいましたか。」

いつから後ろにいたのか...

「自分で言ったかどうかわからなくなったら終わりだよ。」

妙にテンションが高いこの女は何を考えているのだろうか。もう家に帰って寝たい。

もうかまうことにも疲れて家路を歩き始めると、住宅街に響き渡る足音が二重に聞こえる。

嫌な予感がする。恐る恐る振り返ると、30センチくらいの間隔でついてきていた。どうやらメイドに取り付かれてしまったらしい。

「あのぉ~、メイさん。家はこっち方面なんですか?」

「そうですけど、どうしました?」

にっこりと笑う姿は眩しく、可愛かったが同時に恐怖も覚える。

まさか、一緒に暮らすとかいう展開なんてないよなぁ。

いやもしかしたら、帰る方向が同じだけなのかもしれない。そうだ、きっとそうなんだ。異論は認めん!

そして、数十分後。結局、家までついてきたメイさんだったのであった。



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約束 シュウジ編

「はーい、シュウジさま出来ましたよ!私特製、ビーフカレーです。ほらほら、ヨダレ出てますよ?ほらほら食べてください。」

美味しそうだ。見た目、香りどちらも文句のつけようがないほど完璧だ。不覚にも、よだれが出てしまった…

「じゃあ、食べようかな?」

僕は、空になった胃袋にこの光り輝くビーフカレーを注ぎ込む。

「うまっ、これはいける!」

皿を持ち、必死になって口へ掻き込む。その時、僕はふと疑問に思い、つい口に出し呟く。

「この味、どっかで食べたことがあるような…いや、メイさんが私特製とか言ってたし、それはないか」

 

 

「メイさん、少しいい?」

僕は、目の前でビーフカレーを上品に食べるメイさんに質問をする。

「メイさんの親御さん、心配しないのか?もう7時だけど…」

「大丈夫ですよ。私、一人暮らししてるのでそのことに関しては全然気にしないでください。」

やっと理解した。僕の家事の手伝いをする理由は、一人暮らしの費用を稼ぐためか。

当たり前だよな。どこの善人が、好き好んで僕の家事の手伝いをするのか。

まぁ、まぁあ、別に僕の事が好きなんじゃないかなんて勘違いはしてないけどな!

と思いつつ、僕は大きなため息をついてしまう。

「ははぁーんシュウジさん、もしかして期待とかしてました?私がシュウジさんのこと好きなんじゃないかって?」

「な、な、な、何を期待してるだ。そんなことあるわけないだろ!このビッチが」

「ひどっ!」

あっ、やってしまった。

見事に的中していたからついキツイ口調で言ってしまった…

メイさんは、意識がどこかへ行ってしまっているようで「処女なのに」と連呼している。

これは100%僕が悪いやつじゃんか…

「メ、メイさん。ごめん、僕が悪かったよ。」

言いすぎてしまったという後悔から謝ったのだが、メイさんは意識をどこかへやってしまってから上を見てそこからビクともしない。

「なんでも言うこと聞くから機嫌直してくれよ…」

そう言った瞬間だった。どうやらメイさんの意識は戻ってきたようだった。だが、一つ問題が………

「なん、でも?」

まずい。

「なんでもと言いましたね?」

やっと意識が戻ってきたかと思えば、次は不敵な笑みを浮かべる。

僕自身が言った言葉を取り消すなんてことはしない。さあ、こい!どんな要求でも聞いてやる。

「じゃあ、要求しますよ〜。今週の日曜日、一緒に買い物にいきましょう!」

「なんだ、買い物か。ならいいよ。」

「えっ?」

なぜかメイさんは驚いた表情をする。だって買い物じゃないか?食材買って、服買って、趣味の物を買う。それだけだろ?よしっ!無理難題を言われなくて良かった。

「じゃあ、食べ終わったし、風呂入って寝ようかな。ごちそうさま。うまかったよ」

そして、僕は2階へと上がった。



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約束 メイ編&過去回想

 

「買い物に行来ましょう!」

この一言は私の中でデートに誘ってるつもりだった。デートにいきましょう!と、たった3文字違うだけなのにデートという単語は私にはハードルが高くかんじられる。

「買い物?なら、いいよ?」

その一言を聞いた瞬間、私は本当に、本当に嬉しかったのに……

私は、すぐに分かった。表情に恥ずかしがっている様子はないし、慌ててる様子もない。これは、勘違いしてるんじゃないの?と。

多分、シュウジ様は私の事は女として見てる!ただ、致命的なほどまでに鈍感なだけ、絶対そうに違いない!

そんな感じで、いろいろ考えていたらシュウジ様はいつのまにかカレーを食べてしまっていて、2階へ戻ってしまった。

「少しくらい、勘付いてくれてもいいのに」

そんな泣き言を言いながら、私は皿を洗い片付ける。

「あっ、舐めておけばよかった…」

そして、時刻は10時過ぎになり全ての家事が終わるとお風呂を借りて、一人台所でボーッとしていた。

まだ、明日の宿題ができていないのにどうしてもやる気がでない。

「はぁ、疲れた…でも、楽しかった」

夜の静けさは、少し寂しさを感じ、こんな日には最近の出来事を思い出す。

 

 

 

ここに働きに来るまで私は、一人で暮らしていた。

話す相手も居なかったし、一緒に食べる相手も居なかった。日が照りつける朝でさへ、寂しさはなくならなかった。さびしい、さびしい、さびしい…

そんな時、お母さんの知り合い"だった"という男の人が家にやってきた。

男の人が私に話した内容はこうだ。

「もし良かったら、バイトをしてみないかい?僕はもう少ししたら、海外に出張に行かなければならないんだ。出張は、1週間や2週間じゃ終わらなくてね。2ヶ月、いや1年になるかもしれないんだ。その間、息子がちゃんと生きていけるか心配でねぇ。」

「は、はぁ…」

突然やって来て、自語りをし始める男性に少し不信感を覚える。

「そこでだ、息子の面倒を見てやって欲しいんだ。給料だって払うし、もし気に入ってくれたならそこで住んでくれても構わない。」

「でも、私。その息子さんについて何も知らないし…」

正直、怪しさ全開だった男性の話に私は戸惑った。

男性は、私の気持ちを察したのだろう。諦めた様子でいた。

そして、男性はポケットから一切れの紙と写真を取り出して私に言った。

「これ、うちの住所と息子の個人情報と顔写真。気が変わったりしたら、いつでも連絡頂戴ね」

そう言い、家の前に止めた車で去って行った。

「怪しい。」

息子の情報を簡単に提供する親がいるのかと、少し呆れる気持ちはもちろんだが、そんな家族に私は少し興味を惹かれた。

「今度の休み、見に行ってみようかな」

これが、事の全ての始まりだった。



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メイ 過去編2

今回は、行を空けて皆さんが見やすくなるようにしてみました!


“地味っ子メガネ”それが当時の私のあだ名だった。

 

二つに分けて結んだ髪にメガネをかけた私の姿は、男子にはあまりお気に召さないようだった。

 

男子には毎日のように絡まれ、女子には影で笑われる。そんな学校生活をうんざりと感じていた。

 

私だって、もっとおしゃれしたい、遊びたい。それくらいの欲求はある。

 

両親が残してくれた遺産を使えば、それらのことができてしまうのだろうが、果たしてそんな事に使ってしまっていいのだろうか?そんな疑問が頭を埋め尽くし、使うことを躊躇してしまう。

 

なら、バイト?いや、中学生を雇ってくれるところ

なんてない。あるとすれば……

 

***

 

ある日、学校の創立記念日で平日だが休みになった。

 

私は、朝早く起きて、前に家に来た男の息子のもとへ行く支度の準備をする。

 

寝癖のついた髪をくしで梳かして、知らない土地と同学年の男の子に会うんだ。私は今できる最高のおしゃれをした。

 

 

 

季節は秋ということもあって朝の空気は冷たかった。山は紅葉で、夏のような真緑の姿はなく別の姿に変貌していたのもあり、もう冬が来ることを実感させられた。

 

そして、駅に着くと学生やサラリーマンが数人電車が来るのを待っている。都会では、数十人と駅で一杯になるのだろうが、ここは田んぼと畑で構成されているドがつくド田舎だ。そんなことはまず無いのだ。

 

冷たい風が吹き付け、口を手で覆いハァーッと息を吐き温めていると、ようやく電車が到着した。

 

電車の中はガラガラで、一人分の間を空けて座っても余裕で全員が座れてしまう。

 

私は、電車の揺れが心地よくて重く、つぶってしまいそうな目蓋を必死に堪えながら到着駅のアナウンスを待つ。

 

そして、数十分経った頃アナウンスで到着駅の名前が出て、重かった目蓋は一気に軽くなった。

 

「もうそろそろかな?」

 

駅に着くと、そこには学校へ通学する学生や通勤しているサラリーマンなどが入り混じっていて、ホームを出れば、周り一帯が家々で埋め尽くされている住宅街が広がっていた。

 

私は、貰った地図をポケットから取り出して、比較してみる。

 

「駅がここだから……こっち?かな。」

 

とりあえず、自分が思う方向に進んでみる。

 

見慣れない景色に少し冒険心をくすぐられながら歩いていると、写真の男の子らしき人物を見る。 

 

「あの人かな?」

 

 

 

その男の子との距離は結構な距離があって私は、もう少し近くで見てみたいという気持ちから見つからないように早足で近づく。

 

後ろからじゃ、顔が見えない、どうにかしてみる方法はないかな?と試行錯誤してみるがやっぱり見えるのは後頭部だけだった。

 

友達と登校してくれてたら、横顔くらい見れるのに…いっそうのこと喋って確認してみようかな?

 

そんな今にも飛び出してしまいそうな気持ちはあったが、やはり私は後ろから見ているだけだった。

 

別に喋りかけてもいいんだけど、人違いだったら恥ずかしいしなぁ…それに、知らない女に話しかけたらどう思われるか。そんなことを考えていたら、やっぱり見てるだけにしておこうと、話しかけることを自重した。

 

そんなかんやで、学校が見え始めた。

最後まで、話しかけることが出来ず後ろで見ているだけになってしまった。

 

このままいけば、確実に、いじられる毎日に戻ってしまう。もし話しかけることができれば、私は変われるかもしれない。バイトして稼いで、おしゃれして…

 

皆んなを見返せるチャンスなのかもしれない。

恥ずかしい?そんな気持ちを抱くより後悔をする気持ちを抱くほうがもっと嫌なはずでしょ。

 

(がんばれ私!)

 

私は、なかなか出せなかった足を一歩出し、彼に話しかける。

 

「あ、あの。羽山 シュウジさんですか?」

 

 

 

 

「い、いえ。違いますけど…」

 

「あれっ?本当に?北明高校の羽山 シュウジさんじゃないんですか?はいっ!って言ってくださいよー!言わないと、泣きますよ私!」

 

「新手の恐喝!?お、俺は神崎 アツムで、ここは南暗高校ですよ。あと、北明って言ったら向こう側にありますよ?」

 

アツムという男の子が指す方向は、来た道を指している。もしかして…。

 

ポケットから前にもらった地図を出して、広げてみる。どうやら私は、逆方向に来てしまったようだ。

 

「あ、あの大丈夫ですか?できれば、俺が案内してあげたいんですけど授業が…ごめんなさい」

 

心配そうにこちらを見るアツムという少年は、手を差し伸べ膝から崩れ落ちた私を立たせて謝罪する。

 

「いえ、私が悪いんですから、気にしないでください。」

 

そう言って、トボトボと来た道に引き返す。

 

今から北明高校に行っても授業は、始まってるだろうし諦めて帰ろうかな。

 

私はため息を吐き、今日は断念することに決めた。

なんでこんなにポンコツなんだろう。自分が情けない…

 

そうして、30分かけて駅前まで戻ってくると疲れとまだ電車が来るまで時間があったのでベンチに座って待つことにした。

 

一息つくと、そこで2回目のため息を吐く。

 

「羽山 シュウジさん、どんな人だったんだろう。結構、興味あったんだけどなぁ…」

 

そんな後悔に満ちた言葉を発して呟いた時だ。

 

「僕がシュウジですけど、どうしました?」

 

神様は私を見放していなかった。

私はゆっくりと見上げ、そこにいるシュウジさんを目にする。

 

服装は、私服で自転車に乗っていた。今日は、学校がなかったのだろうか。

 

そんなことよりも本物?

この人がシュウジさん?

 

いざ会ってみると、緊張でなかなか話しかけられない。シュウジさんの方は、なんなんだろう?というような顔で、不思議そうにこちらを見ている。

 

「今日は学校休みなんですか?」

 

許して!これが精一杯だったんです!

名前も最初に言えない馬鹿な女なんです!

 

「う、うん。振替休日なんだよ。君は?ここら辺じゃ見かけない顔だけど?」

 

「わたしは……」

 

いつぶりだろう。こんな私にでも、目を合わせて話してくれる人に会ったのは…

 

さっきのアツムという人も、話してくれたけれど、当たり前だけれど、どこか余所余所しかった。

別に、アツムさんのことを悪く言ってるんじゃない。あれが普通の反応なんだと思う。

 

だけど、シュウジさんは元々知り合いだったような。そんな会話をしてくれている。

 

今回のメイドのバイトの話受けてみようかな。

 

「4月ごろに引っ越して北明高校に通う者です。」

 

私、シュウジさんのことが好きになったかもしれない!

 




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