パリィが得意なのでDEX極振りで致命入れたいと思います。 (サレナルード)
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プロローグ

(淫夢要素は)ないです。


「なんだよあいつ!!なんなんだよぉ!!」

 

 NewWorldOnlineにて、記念すべき第1回目のイベントが始まってそれは、姿を表した。

 

 禍々しい瘴気が辺りを侵食し、蒼白い炎の揺らめきと共に冥王がやってくる。

 

「魔法だ!魔法をぶつければ!」

「おいバカやめ――」

 

 肉体を蹂躙することのみを目的にしたような殺意に満ちた剣と、大盾より小さな盾でありながら、全てを“弾く”盾を携えた冥府の王がやってくる。

 

「ど、どうすんだよ!?あんなやつ!!!」

「逃げるしかねぇだろ!!」

「でも!でもぉ!!」

 

 死の体現者の歩みは緩慢で。

 

 それでも逃げられない威圧感と恐怖。

 

「クソが!あんなバケモンいていいのかよ!」

 

 あらゆる攻撃は届かず、あらゆる防御は意味をなさず。故、ソレに出会ったならば、脇目も触れず逃げるがよい――逃げることができるなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの····逃げられるとパリィ出来ないんですけど』

 

 

 

 

 

 

 案外簡単そうだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ、ダクソVR初期ステパリィ縛りRTA終わったぁぁぁぁ」

 

 俺は今この瞬間、あの死にゲーで有名なダークソウルシリーズの最新作『ダークソウルV(ファイブ) VirtualReality(バーチャルリアリティー)』略してダクソVRを、パリィ縛りでRTAするという偉業を成し遂げた。

 

 というのもこのダクソVR、従来のダクソの3倍くらい難しい。

 理由としては、フルダイブVR故に自分自身の体で攻撃しないといけないことと、一人称による空間把握のしにくさ、さらにはスタミナが減ると実際に疲れるせいでローリングも簡単にはできない。

 もっともスタミナはステータスを強化すれば疲労感は緩和される仕様だったが。

 

 ともかく、ダクソVRはその難易度からRTAをやる人間が非常に少数であった。

 それこそ縛りRTAなんてやる人間はほぼ皆無。やるのは変態か頭がおかしいやつくらいだろう(ちなみに私は両方である)

 しかも今回のRTAは初期ステータスパリィ縛り。

 タイムは11時間45分14秒で、通常のRTAなら8時間10分くらいでクリアできるので、遅く思えるかもしれないが、誰もやったことがないので世界一位です。

 やったぜ。

 ちなみにこのRTAは証拠として録画してあるから、後で編集して投稿予定だ。

 

 さて、今は度重なる再走による疲労と達成感で何もする気にならないが、そろそろ次のゲームに移るべきかと考える。

 なんせダクソVRは発売日からかなりやりこんでおり、周回回数は余裕で3桁を越える。

 飽きたということはないが、リフレッシュくらいはしたい。

 特にダクソみたいに禍々しくなくて、ドロドロしてなくて、会うやつはみんなクズか外道かキチ○イみたいなことがないゲームがやりたい。

 そんなゲームあったかな····。

 とりあえずテレビでも見ながらくつろぐかと、テレビを付けると、ちょうどCMが流れてきた。

 

『異世界ファンタジーMMORPGの最新作!未知の世界を探索し、仲間と共に冒険しよう!――NewWorldOnline』

 

「これだ!!」

 

 いかにもゆるふわというか、平和にみんなと楽しめそうな雰囲気の広告に、びびっときた。

 そうとくればすぐさまア○ゾンのお急ぎ便でポチる。

 あーいいなぁみんなで冒険かー。ダクソのNPCはほとんどが“イイ”性格で、唯一の癒しはかぼたんくらいだったから楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、俺友達いねぇから仲間と冒険無理だわ。

 




ホモは嘘つき、はっきりわかんだね。

誤字脱字ございましたらご報告いただけると幸いです。


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1話 キャラメイク

 フロムさん、エルデンリングはやく出していいのよ?


「ふんふふんふふーん」

 

 お急ぎ便にしたおかげで、翌日には届いたNWO。

 今時、すぐにプレイできるダウンロード版ではなくパッケージ版なんて買う人は少ないだろうが、俺はコレクション感覚で並べたりするのが好きなタイプなので、時間がかかってもパッケージ版を買う。

 ワクワクしながら、VRマシンにぱぱっとインストールして起動すると、ブロック状の青いクリスタルで囲まれた空間が視界全体に広がった。

 

「幻想的だなぁ····おっとまず名前、と····」

 

 一歩踏み出そうとしたところで、目の前に『名前を入力してください』とウィンドウが浮かび上がる。

 どうしようか。ここは本名をもじるべきか、それともどっかのキャラネームを引用するか、ネタネームにするか····パリィ····parry····よし。

 

『名前が登録されました。登録名:アーリー』

 

 パリィを英語にしてparry。それからpを抜きarry、アリーとする。

 だが、そのままだと蟻みたいに聞こえるのでアーリーとする。

 アーリーは英語でearlyとなり、早いという意味になるので、パリィ縛りRTAを嗜む者としてはこれ以上ない名前だろう。

 

「さて、次は武器か」

 

 名前が登録されると、自分の回りを囲むようにして武器がずらっと並んだ。

 

 「大剣に片手剣、メイス、杖、大盾····けっこうあるな····んー無難に片手で」

 

 片手剣。それは俺がダクソVRでも使っていた装備だ。

 俺の基本戦術は、盾でパリィしてから致命の一撃を決めるというもの。

 スタミナ消費が致命的になるダクソVRで、初期ステータスではいかにスタミナを消費せずに戦うかが戦闘の基本となっていた。

 

 通常のRTAではスタミナを最優先で上げてクリアして行くのが基本だが、初期ステパリィ縛りRTAをしていた自分は、初期ステータス縛りのせいでスタミナを上げることが出来ないので、必然的に成功すればスタミナを消費しないパリィをめちゃくちゃに練習してマスターする必要があった。

 

 今では目隠ししていてもパリィできる自信がある。

 それは特定のアイテムがないと視界が真っ暗になるステージがあり、取るのに時間がかかるので、時間短縮に回収しないでクリアしようと模索した結果なのだが。

 

 こんなに必死こいて練習したがそもそも、パリィ縛り自体が初期ステRTAを再走しまくる中でもうせっかくだしパリィ縛り加えよう、と追加したものだったりする。

 

 と、話がそれたがともかく俺は慣れ親しんだ片手剣を選ぶことにする。

 説明文をみるかぎり大盾は無理だが小盾、中盾は装備できるようだし、問題はない。

 

「次は····ステ振りか」

 

 ステ振り、ステ振りねぇ····どうしたものか。

 別にこのゲームでまで縛りプレイをする気はないから普通に振ってもいいんだが····んー、あ、そうだ。ポチポチポチっと。

ーーーーーーー

 HP:10/10

 MP:12/12

 STR:0

 VIT:0

 AGI:0

 DEX:100

 INT:0

ーーーーーーー

 うむ、我ながら頭おかしいステ振りだな。

 だけど、このステ振りは俺の戦闘スタイルから考えると理論上最適解だといえる。

 DEXは器用さやクリティカル率に関係するステータスで、ダクソVRではDEXに当たる技術を上げることで、致命の一撃の威力が上がったりしていた。

 

 このゲームに致命の一撃が存在するかは不明だが、DEXの説明文を見るとクリティカル率が上昇したり、弱点へのダメージ増加と書かれているので、なかったらクリティカル特化というスタイルでも面白そうだ。

 あまりにも戦えないようなら高DEXを生かして鍛冶師やればいいし。

 

「キャラメイクは····髪と目の色変えとくか」

 

 別にこだわりがあるわけでもないので適当に選んだ。とりあえずの身バレ防止ではあるが、まぁ意味はないだろうな。

 声とか顔の造形そのものを変えれるなら何時間かかけてでも超イケメンを作ってみせるのだが。

 自分の素の顔なんて、髪や目の色を変えても平々凡々で面白味もない。ブサイクでは無い····とは思っているが····思ってるだけだったらキツいな。

 

「ま、こんなとこか」

 

 ポチポチっとキャラメイクを終えると、光が体を包み込んだと思った次の瞬間、俺は噴水の目の前に突っ立っていた。

 

 




 ガバガバア○ルグラムとはたまげたなぁ(某探偵アニメ解決BGM )

 最初は普通に灰の人とか上級騎士とか、そこらへんにしようかと思ってた。でも捻りがないなーと思ってたらアナグラムとも言えないナニかになりました。
 本当に申し訳ない(ブレイク博士並感)

 4/28誤字修正 報告ニキありがとナス!肝心なとこ間違えるとかガバガバじゃねぇかよお前よぉ(反省)  


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2話 装備調達

アーマード・コアの新作マダー?


「あー平和だぁ」

 

 青い空の下、ざわざわと活気のある町が広がっている。

 中央に設置された大きな噴水が、涼しげな雰囲気と穏やかな日常を演出しており、まるでほのぼの牧場ゲームのようだ。

 先日まで、巨大な穴の空いた淀んだ空や、薄汚いスライムが天井に張り付いていて、唐突に全身を腐肉に包まれ溶かされるような地獄にいた身としては、非常に癒される光景だった。

 

「まずは盾買わんと話にならんな····っておっそ」

 

 パリィするためにもまず盾を買いに行こうかと、歩きだした瞬間、足を動かしているのに全く進んでいないという、当たり前体操も真っ青な現象が起こってしまった。

 

「まさかこのゲーム、ステータス0っていうのは現実の力と同じって訳じゃなくて、制限されるのか?」

 

 オーマイゴッド(尚神は殺す)

 まさか極振りにそんなデメリットがあるとは。これでは移動もままならない。

 さっそく鍛冶師への道がみえて来たような気がするが、武器屋と思われる建物に歩きつつ、ステータスを見てみる。

 

 アーリー

 Lv1

 HP 20/20

 MP 12/12

【STR 0〈+28〉】

【VIT 0 】

【AGI 0】

【DEX 100】

【INT 0】

 装備

 頭   【空欄】

 体   【空欄】

 右手  【初心者の片手剣】

 左手  【空欄】

 足   【空欄】

 靴   【空欄】

 装飾品 【空欄】

     【空欄】

     【空欄】

 スキル

 なし

 

 改めて見事なクソステータス。でも片手剣のお陰でSTRは上がってるな。

 でも、俺はDEX極振りで遊ぼうと思ってるからSTR上がってるのはなぁ····そのうち剣なのにDEXが上がる剣とか手に入らないだろうか。後で攻略掲示板でも見ておこう。

 

「と、ついたか」

 

 ステータスを眺めながら歩いていると、気が付いたら目の前に店があった。

 『イズ工房 いらっしゃいませ』と、妙に手書き感が漂う文字の横に、盾と剣の紋様が印された看板があるから、多分ここで間違いないと思う。

 しかし、視界に入る場所にあったというのに、到着するのに時間がかかるのはけっこう不便だ。篝火ワープさせてくれ。

 

「すいませーん500Gで買える盾ってありますかー」

 

 ドアを開け、中にいた店員か鍛冶師かは知らないが、カウンターにいた青髪の女性に声をかける。

 

「いらっしゃーい。500Gで盾?なんでまた?」

「あー、始めたばかりなのですが、片手剣に合わせる盾が欲しく····」

 

 そう説明すると彼女はうーんと悩みだした。

 まさか初期所持の500Gでは足りないのだろうか。最悪、素手でパリィすればいいだけなのだが、精神衛生的にも盾がほしい。

 昔のダクソをしていたときは、素手でパリィすることになんの疑問も感じていなかったが、VRでやるとめちゃくちゃに怖い。

 素手で刀身弾くとか怖すぎでしょ····。

 

 と、そんなことを考えていると、青髪の彼女が思い出したかのように手をたたいた。

 

「ごめんなさい。うちで500Gの盾は売ってないんだけど、私が最初の頃に作った失敗作があるのよね。それなら250Gくらいで売ろうと思えば売れるけど····」

「失敗作?」

 

 失敗作とはどういうことだろうか。

 あれか、鉄の盾を作ろうとして生ゴミが完成したり、人間を錬成しようとして肉片の塊が出来たりするということだろうか。

 

「ええ。それが、上昇するステータスがマイナスになったり、本来上昇するステータスとは全く関係ないステータスが上昇するようになっていたりおかしなことになってるから失敗さ――」

「その話詳しく!!」

「えぇ!?い、いいけど、言った私が言うのもアレだけどこんなよ?」

 

 俺が食いぎみに言うと、彼女は戸惑いながらもメニューを操作し、一枚の盾を取り出した。

ーーーーーー 

 石の中盾

・VIT-25

・DEX+10

ーーーーーー 

 受け取って確認すると、確かに本来盾の役割である守りを、なにをどういう原理かわからないが減少させ、何故かDEXが上がるという謎補正がされている。

 盾を持った方が防御が下がるってこれもうわかんねぇな。

 だけど、これは俺が求めていた装備だ。

 DEXが上がる代わりにVITが減るが、元々0のステータスがどれだけ下がっても0のままだろう。流石に-25なんてことになるわけではないはず。

 

「装備してみても?」

「いいけど····」

 

 念のため装備して確かめてみるも、やはり0はマイナスされても0だった。

 

「これ、買います」

「えぇ!?ホントに?だって盾買いに来たんでしょ?それVIT下がっちゃうわよ!? 」

「大丈夫です。あと、これと似たような剣ってありますか?」

「あるにはあるけど····」

ーーーーーー 

 石の剣

・STR-30

・DEX+25

ーーーーーー

 更に見せてもらった剣も、DEXが上がる仕様。

 普通に考えたらSTRが下がる剣なんてゴミでしかないが、俺には非常にありがたい。

 

「これは幾らで?」

「え?これも250Gでいいけど····ホントに買うの?」

「お願いします」

「はぁ、じゃあ2つで500Gよ」

 

 有り金全てを彼女に渡し、盾と剣を受け取る。

 武器ランクとしては初期装備の一つ上くらいだろうか。石で造られた盾と剣はお世辞にも頼りになりそうにないが、まだ戦闘もしてないのに新しい盾と剣を手に入れることが出来たのは僥倖だった。

 はやくこの世界の敵をぶっころもとい、倒しに行きたい。

 早速片手に剣と盾を装備し、青髪の女性にお礼を行ってフィールドへ目指すことにしよう。

 

「こんな良い装備(本人視点)をありがとうございました。えーと····」

「イズよ」

「じゃあイズさん。機会があれば、また」

「ええ、また来てちょうだい」

 

 入ってきた扉を開き、会釈をしながら出ていく。

 ダクソの外道共のせいで、他人に感謝するという心が失われかけていたが、なかなかどうして日本人の癖みたいなのは治らないみたいだ。

 さて、フィールドまでどれくらいかかるかなぁ····。

 



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3話 初戦闘

 ダクソで義務教育を終えた男とか書きながら思ってしまった。


「おっ、いたいた」

 

 町を出て適当に歩くこと数分。

 鬱蒼とした森を発見したので探索していると、このゲーム初の敵MOBを発見した。咄嗟に近くの草むらに隠れ、相手を観察する。

 戦闘の基本は相手を知ることだ。初見の相手ほど恐ろしいものはないと、俺はダクソで学んだ。

 

「キュッキュッ」

 

 ····たとえそれが、ちっこい白ウサギでも。

 どうやらこちらには気付いていないようで、キョロキョロと辺りを見渡した後、草をむしゃむしゃと咀嚼している。

 なんとも愛らしく、もしや敵では無いのでは?と勘違いしそうだが、その頭には本来のウサギには付いていないはずの鋭い角が一本付いていて、もしかしなくてもあの角で相手を串刺しにするのだろう。

 こんな最初の町の近くにいるモンスターだから可能性はかなり低いが、即死攻撃もしてくるかもしれない。

 あるいは痛恨の一撃をやたら決めてくるか。

 

 そんな風に無駄に慎重気味に観察する中で気付いたことがある。

 このゲーム、地形の破壊ができるのだろうか?

 というのも、ウサギに食べられた草を見ると、どれだけたっても修復される様子がないのだ。

 そうだとすると、地面も削れる可能性が高い。試しに剣を突き立てると、普通に地面に刺さった。

 抜いて見ると剣に土が付いていて、地面には穴ができた。

 

「····これ、土竜とかサンドワームみたいなモンスターいたらきっついな」

 

 流石の俺も地面から出てくる奴は相手をしたことがない。ダクソVRでは地形の破壊は演出やムービーを除き無かったからだ。

 

「といってもまだこのゲームで戦闘したこともない奴が考えることじゃないか」

 

 出るにしてもまだ先だろうと割りきり、食事を終えてうとうとしているウサギに意識をむける。

 無駄にリアルな行動パターンだな····なんて思いつつ、背を向けたウサギに気付かれないよう、忍び足で近づき、生物として弱点であろう首に向かって剣を思いっきり突き刺した。

 

「ギュ゛ッ!!」

 

 その一撃でウサギは悲痛な鳴き声を上げてポリゴンと化し、消滅した。

 どうやらDEXに極振りした状態で弱点を攻撃した場合、STR0のゴミカス攻撃力でも序盤の敵を一撃で倒せるようだ。

 

『スキル【バックスタブ】を取得しました』

 

 ん?なんかスキルを手に入れたみたいだ。手に入れたスキルをメニューを開いて確認してみる。

 

 【バックスタブ】

 ※敵を背後から攻撃した場合に、DEX値依存の大ダメージを与える。弱点に当たった場合防御耐性貫通。

 習得条件:相手のヘイトを受けていない状態で、背後から弱点を攻撃し、一撃で倒す。

 

 バックスタブ!まさかこのゲームにも存在するとは····スキルとしてだが。効果としては、背後からのみ弱点を狙わなくてもDEX値依存のダメージを与えることが出来るというもの。

 もし狙いがずれて弱点に当たらなかった場合に有効だな。しかも弱点に当たったら防御耐性を貫通することができるらしい。防御耐性ってなんだろうか?斬撃耐性とか打撃耐性とかそういうのだろうか?それならなかなかいいスキルじゃないか。

 

 うーん、これスキルでバックスタブがあるということは、致命の一撃もスキルとしてあるかもしれないな。

 

 先ほどは無防備な背後をみて、つい背後致命を決めてしまったが、個人的には正面からの致命攻撃がしたい。

 相手の攻撃を無効化して大ダメージを与えると、脳内麻薬がドバッー!と出てたまらねぇぜ。(変態糞土方並感)

 バックスタブも気持ちいいことにかわりはないが。

 

「キュ、キュキュ!!」

 

 そんなことを考えていたら、新しい白ウサギが現れた。先ほどの個体と大きさに変わりがないので、サイズの個体値などはないようだ。

 ともかく、今度は小細工なしの正面勝負。油断無く盾を構え、相手からの攻撃を誘ってみる。

 

「キュキュキュッ!」

 

 棒立ちで動かないのを挑発とみたのか、白ウサギは助走を付けて思いっきり突っ込んできた。

 

「····ふっ!!」

 

 その鋭い角がこちらに当たるか当たらないかの寸前、左手に構えた中盾を下から抉るように振る。

 

「ギュッ!?」

 

 角を弾かれ、空中で無防備に頭を上にして腹部を見せる白ウサギ。すかさずそこに覆い被さるようにして、右手に持った剣を逆手にして突き刺した。

 

「ギュ゛ッ····」

 

 地面に叩きつけながら、腹部に剣を押し込み地面に貼り付けにする。

 白ウサギはくぐもった鳴き声を発し、ピクピクと痙攣した後その体を消滅させた。

 

『レベルが2に上がりました』

 

 同時に無機質な音声が響き、白ウサギが確実に絶命したことを示した。

 

「ふー、なかなか速い突進だったがまだまだだな」

 

 はい、見てからパリィ余裕でした。実際攻撃が突進故に分かりやすかったし、角を武器にしていると想定すれば、盾を振るタイミングも把握しやすかった。

 それでも初見で決めれたのは、地獄のような再走による研磨のお陰だろう。

 だからみんなもパリィ縛りRTAやれ(本性)

 

 と、そういえばレベルが上がったな。確認すると、ステータスに振り分けることの出来るポイントが5増えていた。

 もちろん振り分けるのは決まってるので、温存など考えずにDEXに全振り。

 これでまた火力が上がるぜ☆

 と、そういえば、パリィからの致命を決めたはずなんだがスキルとして致命の一撃が手に入ってない。

 ま、まさか、致命の一撃は無いのか!?いや、そ、そんなわけ····よし、もしかしたら回数をこなさないといけない系かもしれないし、俺は諦めん。

 そうと決まればさっさと新しい奴を見つけて····。

 

        ☆1時間後☆

 

 「よしゃああ!!手に入れた!手に入れたぞ!」

 

 【致命の一撃(デッドリーブロウ)

 ※相手の体勢が崩れている場合にDEX値依存の大ダメージを与える。弱点に当たった場合防御耐性貫通。

 習得条件:一時間以内にパリィ直後に敵を50体倒す。

 

 【シールドパリィ】

 ※近接攻撃を盾でパリィすることに成功した場合、相手の体勢を大きく崩し一秒スタン付与、3秒間DEX3倍。

 習得条件:盾でパリィを50回連続で成功させる。(パリィ失敗でカウントリセット)

 

 【絶技】

 ※DEXを2倍にするが、AGI VIT INT のステータスを上げるために必要なポイントが通常の3倍になる

 習得条件:一時間以内に50体の敵の弱点に攻撃し、一撃で倒す。弱点以外を攻撃した場合カウントリセット。

 

 【大物喰い(ジャイアントキリング)

 ※HP MP以外のステータスのうち4つ以上が相手よりも低い値の時にHP MP以外のステータスが2倍になる。

 取得条件:HP MP以外のステータスのうち、4つ以上が相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

 以上が、一時間ぶっ通しでただひたすらに敵を屠った結果である。

 はっきりいってめんどかった。

 20体目を越えたあたりからまさかマジで無いのでは?とか思ったり、一撃で倒せてるから別に無くてもよくね?とか思ったりして諦めかけたが、なんとか【致命の一撃】を手に入れることができた。

 

 しかも、数秒だがDEXがはね上がる【シールドパリィ】や、極振り故にデメリットがデメリットにならない【絶技】、さらにはほぼ常にDEXが上がる【大物喰い(ジャイアントキリング)】なんて訳の分からない完全なバランスブレイカーなスキルも手に入れた。

 

 絶対修正されるでしょこんなの。だってHP MP以外のステータスのうち4つ以上が、相手よりも低い時にHP MP以外のステータスが2倍になるって例えば、相手のステータスが全部100で、こっちが99だった場合でも発動するわけだ。

 その場合こちらは198になり、相手を完全に凌駕している。どう考えてもおかしい。

 

 習得条件だって、極振りで倒すか工夫して立ち回るかすれば難しくはないだろう。

 個人的には火力も上がって万歳だが、相手にこのスキルを持ってる奴がいるとしたら怖すぎる。

 最悪、いかに相手のステータスより少し低いかを追及するゲームになってしまう。

 相手のステータスを読み、それに合わせて低い性能の装備に変える、なんて戦いしたくない。

 

 一応、運営に意見を出しておこう。

 メニューを開いて公式ホームページを開く。そして意見要望と書かれたページにこのスキルについて書き込んでおいた。

 

「さて、レベルも上がったしスキル試しにもっと奥に進んでいきますか」

 

 一時間の戦いの疲れなど、RTAに比べれば大したことないと、俺はまだ進んで居なかった森の奥深くへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼を見ていた一人の人物が、掲示板に新たなスレを立てているとも知らずに。

 

【NWO】森でヤバいプレイヤー発見【驚愕】

 




 皆さんも背後を見せてこっちに気付いてない敵いたら、バクスタしたくなりますよね。
 というか、防振りにあるまじきグロい殺し方になった····まぁ、某狩人みたく内臓抉り取ってるわけじゃないし多少はね?

 大物喰いに関しては書いた後に気付いたんですが、戦ってる相手が複数の場合どうなるの?とか、相手も大物喰い持ってたらこっちが効果発動して相手より4つステータス高くなったら、相手も大物喰いの効果発動するのか?とか思いました。
 原作のスキルって不明な点が多いし、効果高過ぎなんですよね····ま、それに合わせて捏造スキルもガバガバにするだけなんですが。


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4話 掲示板

 人生初の掲示板方式。参考は原作と某安価ガンプラバトルから。

 あと、前回の防御耐性貫通は防御力を貫通してダメージを与えるのではなく、単純にスキルとしての耐性を無効化してダメージを与えるだけなので、メイプルちゃんは倒せません。バケモノめ····っ!


 【NWO】森でヤバいプレイヤー発見【驚愕】

 

1:名無しの大盾

 やばい

 

2:名無しの弓使い

>>1 (このゲームでやばい奴は少なく)ないです

 

3:名無しの片手剣使い

>>1 おっ、ペインがどうかしたか?

 

4:名無しの魔法使い

>>3 ペインは今更森になんて来ないんだよなぁ

 

5:名無しの片手剣使い

 じゃあ誰だ?ミィ辺りか?

 

6:名無しの大剣使い

>>5 様をつけろよデコ助野郎!

 

7:名無しの弓使い

>>6 炎帝ノ国の方は専用スレに行って、どうぞ

 

8:名無しの大盾使い

 いや、見たことない顔だったからたぶん新規。装備も片手剣と盾以外つけて無かったし。

 

9:名無しの魔法使い

 はぇー片手剣に盾とは珍しいっすね

 

10:名無しの槍使い

 盾って確か大盾以外微妙なんだよなぁ。防御力も低いし、カバー範囲狭いからよっぽどの玄人じゃないと使わんでしょ

 

11:名無しの片手剣使い

 片手剣持てるとはいえ、剣振ってる時にとっさに構えるとかむつかちい。剣に集中しなけりゃ大丈夫だが。

 

12:名無しの弓使い

 んで、なにがやばいん?

 

13:名無しの大盾使い

 パリィしてた。

 

14:名無しの魔法使い

 ??パリィぐらい出来るだろ。俺は後衛職だからやったことないけど、対人ならともかくモンスターならパターン把握すれば出来ると思われ。

 

15:名無しの片手剣使い

>>14そー簡単じゃないんだよなぁ(経験者)

 まず、パターンを把握するのはできるけど時間がかかる。少なくとも防具すらつけてない新規には不可能。

 次にパターン把握できてもタイミングがシビアすぎる。ダメージ判定のある箇所に1Fくらいの猶予時間で盾をぶつけるとか常識的に考えて無理無理っ!産めない!(クッキー☆並感)

 

16:名無しの弓使い

 あー確かにそれなら新規がやってたらヤバいな。でもそれなら、昨日発見されたモンスターに群がられてた状態でノーダメとかいうヤベー大盾使いよりマシじゃね?

 

17:名無しの大盾使い

 パリィしてた。一時間連続で戦い続けて一回も失敗せずに。しかも全部一撃で倒してる。

 

18:名無しの槍使い

>>17 ファッ!?クーン····(心肺停止)

 

19:名無しの片手剣使い

>>17 えっ、何それは(ドン引き)

 

20:名無しの魔法使い

>>17 冗談はよしてくれ(タメ口)

 

21:名無しの弓使い

 怒涛の語録ラッシュ草。でも、それマジならヤバいな。パリィを失敗してないのは····まぁ化物として一撃で倒してんのはなんだろうな?STR極振り?

 

22:名無しの片手剣使い

 可能性はあるな。パリィの方はマジで意味分からんが。

 

23:名無しの魔法使い

 それホントにプレイヤー?実はイベントの一部でAIとか····。

 

24:名無しの大盾使い

>>23 途中にちょこっとメニュー開いたりしてたからプレイヤーなはず。

 

25:名無しの双剣使い

 今北産業、なんかヤバそうやな。男?

 

26:名無しの大盾使い

>>25 男。金髪で背は高め。

 

27:名無しの魔法使い

>>26 男で金髪?怪しいな····(某少年探偵)

 

28:名無しの片手剣使い

>>27 歩く殺人現場やめーやw

 

29:名無しの槍使い

>>27 ペロッ····これは青酸カリ!!

 

30:名無しの弓使い

>>27 あれれ~おかしいぞ~

 

31:名無しの双剣使い

 名探偵多くて草。それより、ワイ上からざっくりみたから大体分かったけど、容姿とかいろいろ情報整理して教えてくれんか?特定するつもりはないけど····特定するつもりはないけど!!

 

32:名無しの大盾使い

>>31 がっつり特定する気マンマンやんけwま、いいけど遠目から隠れながら見てただけだから、正確じゃないかも。以下スペック

 

性別:♂

装備:片手剣、中盾あとは初期服

容姿:金髪ショート、背高め、細マッチョ。顔は

   よく分かんなかった。

戦闘スタイル:盾待ちからのパリィ→一撃即死

ステータス:足の遅さと一撃のダメージ的におそ

      らくSTR極振り

備考:一時間ぶっ通しで戦えて、なおかつ全ての

   攻撃をパリィしてノーダメージ。

総評:バ ケ モ ノ

 

33:名無しの片手剣使い

>>32 う~ん、このw

 

34:名無しの槍使い

>>32 まとめるとヤベーやつだってことが分かったな(白目)

 

35:名無しの魔法使い

>>32 金髪ショートで細マッチョに背高め····顔もイケメンだったらこれペインじゃね?戦闘スタイルはともかく。

 

36:名無しの双剣使い

>>35 思った。でもあんな装備揃えてたりすんのに、サブ垢みたいな装備で戦うか?

 

37:名無しの弓使い

>>35 違う。今日だけど普通にペイン見かけたし。

 

38:名無しの片手剣使い

>>35 ペインの兄弟説

 

39:名無しの大盾使い

>>38 あり得そう

 

40:名無しの弓使い

>>38 ペインの兄弟ならバケモノでも仕方ないな。うん。

 

41:名無しの槍使い

>>38 兄(ペイン)より優れた弟など存在しない!····そうであってほしい(懇願)

 

42:名無しの魔法使い

 ペインがヤバいのはみんな共通の認識なんやなって

 

43:名無しの双剣使い

>>42 そりゃ、全プレイヤートップのレベルとメチャクチャかっこいい鎧に聖剣みたいなの持ってるからな。

 NWO最強は誰?って聞かれたら満場一致でペインでしょ。

 

44:名無しの片手剣使い

 実際ペインって何者なんだろうな?装備もレベルもトップレベルだし絶対仕事してないでしょ。しかもそれでいてイケメン。爆発しねーかな。

 

45:名無しの弓使い

 最近、かわいい魔法使いと思われる少女と歩いてるのみたぞ

 

46:名無しの片手剣使い

>>45 ····コロス····ペイン····コロス····

 

47:名無しの槍使い

>>46 返り討ち定期

 

48:名無しの魔法使い

>>46 その怨みからどれだけの男達がPKしようとして返り討ちにあったか····

 

49:名無しの双剣使い

 大体、ペインは―――

 

 

 

 

※以下ペインの愚痴が続き、スレは終了した。

 

 

 

 




 簡単にやってるように見えて実はヤベーことしてた主人公。そしてSTR極振りに勘違いされる。
 まさかただでさえ難しいパリィ決めた後に、狙いにくい弱点を正確にぶっ刺してるとか思わないよね。
 
 ま、世の中には初見でボスを素手で倒す上位者もいるからへーきへーき!皆もできる!


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5話 ボス戦前

 そういえばNWOってチュートリアルとか一切ないですよね。
 もしかしてNWOはフロム製だった····?


「····ふぅ」

 

 森の奥を進むこと数十分。

 入り口で戦った白ウサギとはうってかわって、馬鹿でかいカエルや、人体サイズのムカデなどまるでダークソウルの世界に迷い混んだのかと思えるような魑魅魍魎が跋扈していた。

 もっとも、すべてデフォルメされていたためにそこまでの恐怖感はなかったが。

 ちなみに全部パリィからの致命で倒した。というか、そうしないとおそらく火力が足りなくて一撃で倒せない。

 別に一撃で倒せなくても、もう一回パリィすればいいじゃん!と思われそうだが、テンポよく倒していかないと次から次に敵が来て対処できなくなるのだ。

 

 数の暴力を舐めてはいけない。

 

 これは全ての不死人が胸に刻んでいる。

 だからといって多対一が出来ない訳ではない。苦手ではあるが、どうしてもやらなければならない場面もあるため、必然的にそういう場面での立ち回りも鍛練しなければならなかった。

 

「····ッ!」

 

 そう、今のように。

 

「チッ!」

 

 草むらに隠れていた腹に十字架のような爪痕のついた大熊と、木の上で待ち構えていた拳が槍のように鋭く尖っている猿が、同時に襲いかかってきた。

 

「キキキキッ!!」

「グルルァ!」

 

 瞬間、全身の筋肉を総動員し、身体を無理やり捻る。

 それによって直上から奇声を放ちながら迫る猿の攻撃が、触れるか否かという距離で外れた。

 猿は必殺の一撃を避けられ、そのまま地面に落ちたことで落下ダメージと地面に拳が突き刺さったことにより動きが止まる。

 その猿に出来た隙を埋めるかのように正面の熊が、樹木をそのまま引っこ抜いて投げることが出来るのではないかと思えるほどの巨大さと強靭さを持つ腕を、こちらに振りかざした。

 

「フンッ!!」

 

 だが、届かない。

 押し潰されるかと錯覚しそうになる巨腕を、それと比べ物にならない小ささの盾で弾く。

 熊はあり得ないものを見たような驚愕の表情を浮かべながらも体勢を戻そうとするが【シールドパリィ】の効果で金縛りにあったかのように動けない。

 その一瞬の隙を逃がさずに、晒された腹部に深く握りしめた剣を叩きつけ、痛みに耐えかねたのかバランスを崩したのか膝をついた熊の頭に、ついでとばかりに剣をフルスイングした。

 

「ガ····アァ····グ····ガ····」

 

 そして熊は叫ぶことも出来ずに頭上のHPバーをゼロにした。

 

「キッ、キキッ·····」 

 

 既に腕を地面から引き抜き、落下の衝撃も抜けきっているはずの猿は、こちらを見ながら後退り目に恐怖を浮かべていた。

 

「撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけだ。いい言葉だよな」

 

 人語を理解するかは知らないが語りかけながら近づいて行くと、猿は腰が砕けたように倒れ込んだ。

 とはいえ、俺はモンスターにかける慈悲など持ち合わせて居ないので、とっとと経験値になってくださいと、剣を両手で握りしめて首に突き刺した。

 

「ギッ」

「ポリゴンがキラキラしてキレイだなぁ····」

 

 なんか字面だけ見ると動けない動物を殺して、死体が爆散してるのキレーとか言ってるヤベーやつにしか見えないが、実はこの奇襲が一度や二度ではなかった故に、もはやポリゴンの光くらいにしか感情を抱けなかったのだ。

 

 一度目は森の奥を進みはじめて5分ほど。

 その次は一度目の奇襲から10分後。そのあとも時間を起きつつ何度も同じペアで奇襲されている。

 最初こそ、突然の強襲にダメージは食らわなかったが驚いた。今では簡単に対処出来るようになったけど。

 

 もう少し違う組み合わせで来ないのだろうか。

 おかげでそろそろかな?と思って適当に石を木の上や草むらに投げたら本当に居たりして【気配察知】なんてスキルを手に入れた。

 効果は敵が近くに居るとなんとなくではあるが察知できるというもの。そのまんまだな。

 先程も襲いかかってくる前に気付いて、またこいつらかとつい舌打ちしてしまった。

 別にいいんだよ?経験値おいしいし。でもね、限度があるでしょ。何度も何度も何度もさぁ!!!

 

 はぁ····それに、結構奥深くまできたと思うのにまだ森を抜け出せてない。

 途中で横に曲がって進んでいたとかなら別だが、もしかしてそういう仕様だったりするか?無限ダンジョン的な感じで。

 うーん、武器の耐久も落ちて来てるしそろそろ帰るかな····なんか突然霧がかかってきたし····って霧ィ!?

 

「どうなってる!?」

 

 振り返ってそのまま帰りだそうとすると、当たり一面が霧に覆われ、視界が完全に塞がれてしまった。

 

「霧····まさかボスとかじゃないだろうな」

 

 ダクソにて霧といえばボス戦に入る前の境界線のようなものだ。

 入ったら最後、死ぬかボスを倒すかしなければ抜け出すことは出来ない。

 とにかく突然襲われても対応出来るように全神経を集中させ、盾を構える。

 

『汝、我が墳墓を暴く者なれば()を対価とし、我が渇望への贄となるがよい』

 

 脳に、奈落から響くような声が反響した。

 それと同時に、物理的な重圧すら感じる異常な威圧感が全身を襲い、数々の地獄を体験した自分でさえ不覚にも一歩足を下げてしまった。

 

「·····これ、勝てるかね」

 

 つい弱音を吐いてしまったが辺りは未だに霧に覆われており、目の前に現れた地下へと続くと思われる階段のみが見えている状況。

 霧を抜けようとしても、見えない壁のようなもので覆われていて脱出は不可能。つまり、否応にも戦わなければいけない。

 だが、高難易度ほどやる気が出るというもの。

 それに死んでもリアルで死ぬわけでもなし。何度でも挑戦するまでだ。

 

 だが、その前にここまで来た疲労を癒すためにも休憩がてら装備の確認をしておく。

 

 アーリー

 Lv10

 HP 20/20

 MP 12/12

【STR 0〈-30〉】(※ステータスは0未満に出来ません!)

【VIT 0〈-25〉】(※ステータスは0未満に出来ません!)

【AGI 0】

【DEX 130〈+35〉】

【INT 0】

 装備

 頭   【空欄】

 体   【空欄】

 右手  【石の剣】

 左手  【石の盾】

 足   【空欄】

 靴   【空欄】

 装飾品 【空欄】

     【空欄】

     【空欄】

 スキル

 【バックスタブ】

 【致命の一撃(デッドリーブロウ)

 【シールドパリィ】

 【絶技】

 【大物喰い(ジャイアントキリング)

 【気配察知】

 

 装備を買った時は興奮でよくみてなかったが、なにやら『ステータスは0未満に出来ません!』と点滅している。

 ならないではなく、出来ないと表記してるのはステータスを下げることでメリットがあるスキルがあるからだろうな。【大物喰い(ジャイアントキリング)】とか。

 それにしても、相変わらずDEXの値だけレベルに合ってない。

 更にこれがスキルではね上がるのだから、そりゃあそこらのモンスターを一撃で倒せる訳だ。

  でもその代わりVITはゴミだから一撃でも食らったら終わりだな。まだ食らったことはないが。

 そういえば、初期で持ってるポーションがあるはず····おっ、あった。10本か。多分使う暇もなく死ぬ時は死ぬだろうが、あるだけマシか。

 装備は····剣の耐久が心許ない。

 盾は受けずにパリィしてるから消耗が少ないようだが、剣はバリバリ突き刺したりしてたからなぁ。ま、初期武器もあるから問題ないか。

 

「よし、行こう」

 

 覚悟は決まった。装備は····満足とは言えないが現状はこれで行くしかない。5分ほど休憩したお陰で体力も回復した。

 それじゃあ到底勝てる訳がないだろうけど、気合いと努力とパリィで戦うボス戦はぁじまぁるよー!デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 




 このNWO、一つのスキル効果で乗算された値をまた別のスキルが乗算するとかいう愉快な計算式になってます。しかも装備のプラス値と素のステータスを合わせたものを乗算しています。
 例えば、主人公の現在の最大瞬間DEXを計算すると165×2+165×2+165×3=1155ではなく165×2×2×3=1980になります。
 ヤバイですね☆(ペコ並感)
 上の計算でもヤバイ値になってるのに更に頭おかしい値になるとはたまげたなぁ。



 ちなみに原作小説9巻開始時点でのメイプルちゃんのVITは15180です。文字通り桁違い。
 ヤバイですね☆(絶望)



 5/5追記 感想をいただきステータスの0以下を未満に変えました。頭ゆるゆるじゃんかよお前!


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6話 冥王

 皆さんが許せないことはなんですか?
 私が許せないことは今回の最後に主人公が言っています。
 あと日間ランキングに入ってたみたいです。こんな拙い作品を読んでくださって、皆様ありがとうございます!誤字報告も助かってます!


 カツ カツ カツ

 

 階段を下る足音が、狭い通路に反響する。

 左右の壁には穴が等間隔に空いており、長い蝋燭が立てられていた。

 それらは一段、また一段と階段を下ってゆくたびに、ポッと音を立てて独りでに火を灯した。

 その光は微弱なれど、この闇に覆われた一本道には十分であった。

 

「····ついたか」

 

 いつまでも続くと思われた歩みを止める。

 目の前には壁····否、明らかに人が出入りするために作られた物ではないと分かる、巨大な扉が存在していた。

 

クリアできるものならやってみろm9(^Д^) 

By運営

 

 扉には奇妙な文字と理解出来ない模様が並べられており、見ているだけで啓蒙が高まりそうだ。

 だが、なんとなく腹がたったので扉を思いっきり蹴飛ばして開けることにした。

 すると驚くことに、STR0の俺では到底開けることの出来ないような重厚な扉は簡単に開いた。

 どうやら触れることで開くタイプのギミックのようだ。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか····」

 

 なんてことを呟きつつも警戒し、いつでも盾を振れるよう集中する。

 入るとそこは薄暗いが広々とした空間だった。天井も高く、ここが地下だと言うことを忘れそうになる。

 地面には幾何学的模様が描かれており、何かしらの魔法陣のようにも見える。

 触れてもなにも起きないことを確認しながら中央までついたころに、背後で重厚な音が響き、入ってきた扉が閉まった。

  

「お約束だな」

 

 ボスからは逃げられない。これはゲームにおいて、もはや常識だ。

 “大魔王からは逃げられない”という言葉もある。伝説のRPGをモチーフにした漫画で言っていた。間違いない····相手が大魔王かは知らないが。

 

『我が墳墓へようこそ。簒奪者よ。この場に現れたということは、それ相応の覚悟を決めているのだろう。ならば是非もなし』

 

 どこからともなく、荘厳な声が響き渡った。地上で受けたものよりも、はるかに強いプレッシャーが全身にのしかかる。

 だが一度経験したものであり、来ると分かっていた故に今度は身体が竦むことは無かった。

 

 声の発生源を探し辺りを見渡していると、薄暗かった空間に蒼白い炎がボウッと現れ、最奥にて待ち構えていた存在を照らし出した。

 

『我が名はハデス。地下の神にして冥府の王である』

 

 ソレは黒くボロボロのローブを身に纏い、宙に浮かぶ骸骨。右手には血に濡れたような巨大な鎌を携えており、冥府の王というより死神と言われた方がしっくりくる姿をしていた。

 

 そして名乗りも早々にハデスと名乗った冥王が、右手に持っていた大鎌を両手で握りしめ、底のみえない髑髏の穴の奥で怪しく朱い光を煌めかせた。

 

『その()、我が手に戴かん』

 

 瞬間、俺は盾を振った。

 

 ガァィィイイン!!!

 

 甲高い音を響きわたらせ、叩き切るように振り下ろされた大鎌を天井付近まで大きく弾き飛ばす。

 

『――ッ!ほう!!今のを――』

「はああああああっ!!」

 

 間髪いれずに右手に構えた剣を、体勢が崩れながらも何かを言おうとした冥王の右目に全力で突き入れた。

 

グッ、ガアアアア!!

 

 冥王が空間が割れそうなほどの、悲痛な慟哭を上げる。

 冥王の頭上にある三本のHPバーを確認すると、今の一撃で半分が消し飛んでいた。

 相変わらずの馬鹿げた火力だが、流石にボスをワンパンというわけにはいかないようだ。

 素早く剣を引き抜き、次の一撃をパリィ出来るように構える。

 剣をチラリと確認すると所々刃が欠けており、耐久的には次に【致命の一撃(デッドリーブロウ)】を放てば確実に折れて使い物にならなくなる。

 一瞬武器を変えるか考えたが、DEXに振られた石の剣で半分ということは、ただSTRを上げるだけの初心者の剣では残りの半分を削ることが出来ない。

 つまり、最低でもあと二回パリィして致命を入れる必要がある。

 すこしでも安全策を取るならパリィする回数は少ない方がいい。

 このまま石の剣で行こう。

 

『フ、フハハハ!!フハハハハ!!』

 

 そう結論付け攻撃を待っていると、突然冥王は口を大きく開きながら笑い出した。明らかに様子がおかしい。

 

『殺ス、キサマハ殺スゾ』

 

 愉快そうに笑っていたのをピタリと止め、足元の魔法陣が輝きだしたかと思うと、冥王にドス黒い深淵(・・)のようなオーラが纏わり付きだした。

 更には2本だった腕は4本に増え、背中からは2対4枚の天使のソレを反転したかのような漆黒の大翼を広げ、先ほどは一瞬のみ現れた朱い双眼を片目に【致命の一撃(デッドリーブロウ)】を当てたせいか隻眼になりながらも、強く輝かせ続けだした。

 

「第二形態ってことか····!」

 

 突然の形態変化に驚きはしたが、当然も当然だ。ボスなんだから形態くらい変えるだろう。おもしろい。

 手数が増えるか攻撃力が上がるか、どっちだろうと関係ない。全てパリィするのみ。

 そう身構える俺をよそに、冥王は天井高くに飛び上がり、大鎌を握っていない腕をこちらに差し向けた。

 

「····まさか!」

『オォォオオォオ!!』

 

 肉のついていない骨だけの指先に白濁とした光が収束されたかと思うと、黒く巨大な球状の塊が出来上がる。

 

 予想的中。やっぱり魔術····いや魔法か····!

 魔法のパリィをしたことがない訳ではないが、それはダクソVRでの話だ。

 まだこのNWOでは試していない。それはつまり、このゲームがそもそも魔法をパリィ出来る仕様かどうか分からないということだ。

 出来るとしても、ダクソVRでは魔法のパリィに特殊な盾が必要だった。NWOでも専用の盾が必要かもしれない。

 だからと言って俺のAGIでは回避は絶望的。VIT0で当たれば即死だ。

 ····やるしかない。魔法はもう放たれる寸前だ。

 

 一か八かの博打。タイミングは一瞬、チャンスは一度、失敗すれば即YOU DIED。

 

『消エ失セヨ』

 

 放たれる闇の玉。消し飛ばさんと迫る殺意の波動。

 

 見極めろ、ダメージ判定が出る瞬間を。思い出せ地獄のパリィ縛りを。

 まだ····まだ····まだ····まだ―――

 

「―――ここだァ!!」

『ナンダト!?』

 

 小さな石の盾は、倍はある玉の中心を正確に捕らえ斜めに弾き飛ばした。

 魔法は凄まじい勢いで壁に激突。壁にめり込み、激しい轟音をたてながら爆発四散!

 NWOで魔法がパリィ出来ることがここに証明された。

 

『無駄ダ!』

 

 しかし、溢れ出る脳汁でハイになりそうな俺に、今度は連続で魔法を放ってきた。

 

「それはこっちのセリフだ!!」

 

 だが、そんなものはもう効かない。先程はそもそも仕様上可能なのか分からなかったから無駄に緊張したが、出来ると分かればこっちのもの。

 なんの工夫もなく、ただただ押し潰そうと放ってくる魔法を最低限の動作でパリィした。

 

『失セヨ、失セヨ、失セヨ!』

 

 空中を瞬間移動しながら四方八方から魔法を飛ばしてくるが、全てその場でパリィする。背後を狙う魔法も回れ右の要領で素早く振り返り対処。

 

 その後も何度も何度も魔法を放ってくる冥王。そういう行動ルーティーンで動いているのかは知らないが、いい加減しつこい。

 おかげで今までデタラメに弾き飛ばしていた魔法を、相手にそのまま反射出来るようになってきた。

 ダクソVRでは出来なかったが、流石地形の破壊すら出来るNWO。自由度の高さ故かこんな芸当も可能とは。

 

『効カヌワ!』

 

 だが、冥王は自分の魔法が当たったにも関わらず効いていないようだ。

 これは本格的に近接攻撃をしてくれないと致命も出来ず終わらない。勘弁してくれ。

 

『オォォオォオ!!!』

 

 と、そんな俺の願いが届いたのか、冥王が雄叫びを上げながらこちらに突っ込んできた。

 

『死ネェエエエ!!!』

「お前がなァ!!!」

 

 ギィイイイン!!!

 

 最初の一撃を弾いた時よりも甲高い音と共に、なぎ払うように振るわれた大鎌が吹き飛んだ。

 

「【致命の一撃(デッドリーブロウ)】ォォォ!!」

 

 朱い隻眼を、ボロボロになった石の剣で深く抉るように貫く。これで終わりだ。

 

ガアアアアァァァ!!

 

 石の剣は限界を迎え、冥王に突き刺さったままポリゴンと化して消滅した。

 そしてそれと同時に冥王のHPバーもまた、消え去るように量を減らし―――

 

『マダダ、マダ終ワラヌ!』

 

 ―――ドットレベルのギリギリで、HPの減少が止まった。

 こいつ、ガッツ持ちか!!

 

『ソノ()ヲ!寄越セェェェ!!!』

 

 冥王は体勢を崩したまま、片腕だけで大鎌を振るってくる。

 パリィをしようにも右側から放物線を描いて、刈り取ろうとする大鎌を防ぐには身体の捻りが間に合わない。

 武器はなく、パリィも間に合わない。ならどうするか。甘んじて死を受け入れるか。

 

 否だ。俺にはまだ残っているじゃないか。コレが!

 

俺がキライなことは!!

 

 大鎌が触れる間際、残された唯一の武器····右腕(・・)を、潰され光を灯さなくなった髑髏の目に思いっきり突き刺す。

 

あと一発ってところでやられることだ!!

 

 そして抉り取るように手を握りしめ、ポリゴンの欠片を纏わせながら引き抜いた。

 

『あぁ·····我は()を····』

 

 内部から引き裂かれ僅かに残ったHPを0にした冥王は、遺言の如く呟いたあと全身をポリゴンの光に変えて爆散させた。

 

VICTORY ACHIEVED

 

『スキル【内臓攻撃】を習得しました』

『スキル【マジックパリィ】を習得しました』

『スキル【クリティカルリゲイン】を習得しました』

 

 王を無くした地下空間に残ったのは、肩で息をする俺と黄金に輝く宝箱。

 そして、無機質なシステムボイスの反響音だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ~未来、NWO攻略wikiにて~

 

地下ダンジョン【冥王の墳墓】

ボス:冥王ハデス

出現条件:始まりの森に入ってから一度もダメージを受けず、尚且つ遭遇した全てのモンスターを倒して最深部に到着すること。

上記の条件を達成で、本来のボス【森の主】との戦闘が起こらずに冥王の墳墓へと続く階段が現れる。

 

注意事項:この際に深い霧が発生し、見えない壁に囲まれる。転移系アイテムで脱出可能だがおすすめはしない*1

 

【冥王ハデス】

推奨レベル:50~60

種族:アンデッド

武器:大鎌

魔法:闇魔法

耐性スキル:物理ダメージ無効 状態異常無効 魔法ダメージ半減 闇魔法無効 即死無効

備考:死神のような外見のアンデッド。非常に大きく避け辛い大鎌を主武装とし、実態の無い肉体を持つ。

第一階層で戦えるボスでありながら、NWOでもトップレベルの強さを持つ。運営の悪意の塊。

 

【第一形態】

最初の形態。

大鎌を両手で持ち、近接戦闘をしかけてくる。

戦闘開始直後に突っ込んできて、VIT値無視の9999固定ダメージを与える斬撃を繰り出してくるので、全力で回避しよう。

なぎ払いではなく避けやすい振り下ろしなので、AGIが50以上あれば回避は容易。

回避できると特殊セリフが発生し隙ができるので攻撃チャンス。

噂ではパリィによるダメージ無効化が可能らしいが、真偽は不明。成功者は情報求む。

耐性スキルとして物理ダメージ無効、状態異常無効、魔法ダメージ半減を所有しており非常にタフ。

耐性貫通系スキルがあれば難易度は下がるが、総じて習得難易度が非常に高いため、高火力の魔法でダメージを稼ぐのが一般的。ただし、闇魔法は無効化されるので間違っても使わないように。アンデッドの弱点である光魔法を使おう。

 

【第二形態】

腕が増え翼も生やした第二形態。近接攻撃が届かないほどの高さから魔法を放ってくるようになる。HP50%以下で移行。

瞬間移動をするようになり、ただでさえ宙に浮いていて近接攻撃が不可能な中一方的に魔法を放ってくる。特に危険なのが、背後に瞬間移動して魔法を撃ってくる行動と、時間経過で放ってくる9999固定ダメージの斬撃。

こちらの斬撃は振り下ろしではなくなぎ払いなので、回避はほぼ不可能。こちらの攻撃もパリィ可能らしいが要検証。

この攻撃をしてくる前に削りきるのが目標だが、上記の瞬間移動のせいで魔法が非常に当て辛い。パターンとしては右左正面真上背後のループなので、覚えて出現場所に魔法を置くイメージで放つとよい。

HP0以下になる攻撃を、HPを1残して一度だけ耐る。

 

【第三形態】

あまり外見の変化はみられないが、全ての攻撃に即死属性が付与されており、触れた瞬間に問答無用で消し飛ばしてくる形態。HP1%以下で移行。

一撃でも当てれば倒せるのでそこまで驚異ではないが、この形態でも物理ダメージ無効なのでMPが残っていない場合打つ手がない。初級魔法一発分だけでもいいので温存しておこう。

 

*1
※転移し脱出すると、その後は条件を達成していなくても始まりの森最深部につくたびに【冥王の墳墓】のフラグが優先され、霧に囲まれる。

対処法①ダンジョンをクリアする。

対処法②あきらめて始まりの森の最奥に行かない。




 許せないよね····!!(許不和嫌死刑)

 あ、モザイクのところはコピペすれば分かりますので、是非みてください笑

 セリフの途中で攻撃される冥王は泣いていいです。

 5/7追記:誤字報告を受け誤字を修正しました。報告ありがとうございます!


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7話 自業自得

 実は私、ダクソに関しては新参者なんですよね。

 というのも、フロム作品のソウルライクゲームの中でブラッドボーンや隻狼はプレイしたことがあるんですが、ダクソだけは座敷が高いように思えて手を出して居なかったんです。

 そんな中、例のウイルスが流行ったのでちょうどいいかな、と思ってダクソ3を買いました。
 そしたらこんな作品を作るくらいハマってしまって。
 ブラボや隻狼とはまた違った面白さがあり、時間を忘れて楽しんでおります。
 それでもダクソに関してはまだまだ知識不足が否めないので、おかしい点がありましたら遠慮なく教えてください。


 ちなみにブラボでは地底人をしていました。アメンドーズ····全強化深淵····形状変化····うっ、頭が。


「ああああああああっっっ!!!」

 

 仮想空間にて、NWO内の様々な様子を空中に設置された巨大なスクリーンに映して見ていたぬいぐるみのようなウサギが一匹、驚きと悲しみと怒りがこもった悲鳴を上げた。

 

「んあーどうしましたぁ?ぶちょー」

「今度やるイベントのデータでもぶっ飛ばしました?」

「まーたメイプルですか?毒竜をあんな方法で倒した件は終わったでしょう?次は何をされたんです?」

「うるさいですね····」

 

 それを聞いた他のウサギたちが何事かと顔をあげ、口々に問う。

 

「や、やられた」

「なにがです?もしかしてワイバーンでもやられました?」

 

 ワイバーン。始まりの森から少し外れた丘に配置している高レベルのボス。空を飛ぶことによる機動力と口から吐き出すブレスの火力が高い故かまだ誰にもやられておらず、造形にもこだわった運営お気に入りのボスだ。

 

「違う!アイツだ!俺達が最初に作った悪ふざけ!悪意の塊!」

 

 部長と呼ばれたウサギがそう言うと、他のウサギ····運営達は信じられないことを聴いたかのように目を見開いた。

 

「は?え?嘘でしょ?だってアイツのダンジョンは出現条件も厳しくして、第四階層をクリアできるようなプレイヤーを前提とした難易度でしょう!?!?」

「そーですよ!しかもアイツはこの前のメイプルを参考に、元々のスペックから更にあり得ないほど強くしたんですよ!?メイプルどころかペインですらまだクリアは不可能な筈です!」

「冗談キツイですよ部長!!」

 

「ええい!こいつを見れば分かる!なんなんだこいつは!」

 

 部長が手元のコンソールを弄って映し出したのは、運営が最初に作った悪意の塊『ハデス』をメイプルのVIT極振りの危険性を考え、固定ダメージや即死技等を加えて更に強化した『冥王ハデス』と戦う、防具すら着けずにただの服と初期装備から毛が生えた程度の剣と盾を持った男の姿だった。

 

『――ッ!ほう!!今のを――』

『はああああああっ!!』

グッ、ガアアアア!!

 

 戦闘開始早々にプレイヤーのカウンターで放った一撃で、形態変化条件のHP50%まで消し飛ばされた冥王ハデス。プレイヤーに傷は一切ない。

 更には―――

 

「ここだァ!!」

『ナンダト!?』

 

 ―――魔法をパリィして弾いている。

 しかも瞬間移動しながら背後に魔法を放てば避けれないだろ、という悪意に満ちた攻撃も全て反応して弾き返している。果てには冥王が放った魔法をスキルも無しにそっくりそのまま反射し始めた。

 訳が分からない。

 その後は時間経過による実質的な強制戦闘終了をはね除け、第三形態での即死による理不尽の押し付けを見せることなく、冥王は無傷のまま倒された。

 

 それを見た運営達はどうなったかというと。

 

「ホワーイ!ホワーイ!」

「宇宙は空にある」

「これがゲールマンの狩りですか····(白目)」

「oh!Majestic!」

 

 啓蒙の高すぎる戦いに全員発狂してしまった。

 仕方もない。だれがあんなふざけた装備で現時点最強のボスを倒すと予想できるだろうか。

 だれが当たれば死ぬように作った攻撃をパリィして無効化、挙げ句の果てには悪ふざけで組み込んでおいた【致命の一撃】でボスのHPを一発で半分吹き飛ばすと予想できるだろうか。

 いるとしたらそいつは狂人か未来人だ。病院に行くことをオススメする。

 

「なんであんな化物がいるんですか!?こんなヤツいたら直ぐマーク出来る筈なのに!」

「チート?なにあれチート?」

「人じゃねーよあんなの!!」

「ああ、ゴース、あるいはゴスム····」

 

 正気にもどっても阿鼻叫喚の渦。運営の顔からは血の気が引いている。

 

「不正の確認急げ!早く!」

 

 そんななか部長が叫び、運営達はすぐさま【アーリー】のステータスや行動履歴を調べあげた。

 結果はシロ。

 ただDEXに極振りして、ただパリィを成功させ続けただけだということが分かった。

 なにこれ。

 

「また極振りか?また極振りキ◯ガイプレイヤーが現れたってのか?」

「極振りお化けはメイプルだけで十分だっていうのに!」

「つか何であんなパリィできてんの!?結構シビアに設定してるのに!!??」

「ああ、これが目覚め、すべて忘れてしまうのか····」

 

 どうしてこうなったと嘆く運営達だが、全ては悪ふざけに普通達成できるはずのない条件でぶっこわれたスキルやダンジョンを作った結果であり、要するに自業自得だった。

 

「おい、どうするんだこれ!スキルの効果下げようにもコイツが取ってるスキルの大半がPSによるモノだから下げたら何文句をいわれるか分かったものじゃないぞ!?」

「うわっ、ホントだ【大物喰い(ジャイアントキリング)】はともかく、他は絶対に取れないと思って設定してたのに!」

 

 【アーリー】が取ったスキルの大半はパリィを50回連続成功など、技術的に非常に難しいスキルで、簡単に取れるモノではない。努力に見合った性能をしているからこそ、それを下方修正すればユーザーの顰蹙を買うのは目に見えている。

 運営は悪意の塊のようなボスや深夜テンションの悪ふざけのようなスキルは作るが、ユーザーが不快に思って離れてしまうような調整はしたくなかった。

 

「そういえば意見要望の中に【大物喰い(ジャイアントキリング)】の効果がぶっとんでるから修正してほしいってのがあったな····ちょうどいいしテコ入れしますか?部長」

「····そうだな。メイプルもたしか持っていたはずだ。これ以上化け物になられても困るし、第一回イベントまでには調整しておこう。ついでに他のヤバそうなスキルも確認しておけ!」

「はっ!」

 

 第一回イベントまで残り僅か。運営は大慌てで全スキルを確認しておかしなことにならないかチェックを始めた。だが、何度でもいうが全ては悪ふざけや悪意を元に作った運営の自業自得である。

 

 

 

「あ、そういえば初回ソロ撃破ってことは····」

「あそこのダンジョンのユニークシリーズって·····」

 

『あああああああああっ!!!』

 

 

 

 南無。




 別に努力しないで特定の条件を満たせば簡単に手に入る壊れスキルとかだったら修正されて当然!と思うけど、ほとんどの人が難しすぎて達成できない行動を、努力で手に入れたPSで成し遂げて手に入れたスキルが、強いからと修正されたらたまったものじゃないですよね。

 ソシャゲに例えるなら、ピックアップで性能がいいから課金して手に入れたら、ピックアップ終わりに修正入って超弱体化でゴミとか、イベント上位1%に配られた装備が『強かったんで弱くしますね^^』とか。
 絶対クレーム入りますよね。

 なんか書いてて原作の批判しかしてない気がしたのでアンチヘイトタグ付けた方がいいですかね?
 私は別にNWOの運営ふざけるなとか思ってないんですが、書いてて色々疑問に思っちゃうんですよね····。


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8話 ユニークシリーズ

 ちょっと遅れました。すみません。
 とりあえず、念のためアンチヘイトタグを追加しました。
 自分はメイプルちゃんを虐めるつもりは無いのに、どんどん主人公が対メイプルスキルを揃えてゆく····。

 あ、今日の19時くらいに、前回の最後のほうに少し文を加えました。


「ふぅ····」

 

 先程の戦闘の余韻を深呼吸することでおさめる。

 さて、お宝も気になるがまずはさっき手に入れたスキルを見てみよう。個人的にかなり気になる文字が見えたのだが····。

 

ーーーーーーー

【内臓攻撃】

※相手の体勢が崩れている場合かつ、自身が素手の場合にDEX値依存の大ダメージを与える。弱点に当たった場合10%で即死(ボス無効)

習得条件:素手で【致命の一撃】を放つ。

ーーーーーーー

【マジックパリィ】

※魔法攻撃を盾でパリィすることに成功した場合、威力を自身のDEX値をINT値として計算し、相手に反射する。

習得条件:盾で魔法攻撃をパリィして相手に当てる。

ーーーーーーー

【クリティカルリゲイン】

※弱点を攻撃した場合に、ダメージの10分の1を回復する。

習得条件:弱点に100回攻撃を当てる。

ーーーーーーー

 

「これは····」

 

 内臓攻撃····存在したとは。

 というかいいのかこれ。

 スキルの内容は10%で即死とブラボの内臓攻撃とは微妙に違うようだが、一緒に手に入れた【クリティカルリゲイン】と合わせるとアウトじゃないのか?【致命の一撃】もそうだが····もしかしてNWOってフロム関係だったりする?後で調べよう。

 

 【マジックパリィ】は一見近接攻撃を弾く【シールドパリィ】の魔法版かと思ったが、説明文を見る限りかなり強力そうなスキルだ。簡単に言うとパリィした魔法に限り、INT極振り並の威力で相手に返すことができる。

 遠距離からチクチク撃ってくる魔法使いへの対処にちょうどいい。

 

「なかなかいいスキルだった····あとは」 

 

 想像以上にいいスキルに満足したが、まだ一番のお楽しみが待っている。

 さて、後回しにしていた大きな黄金に光る宝箱に目を向け――

 

「····ふんっ」

 

 ――無言で殴りを入れた。

 

「流石にミミックじゃないか」

 

 流石にここまできてトラップがあるとは思えないが、長年の癖のようなモノでつい殴ってしまった。

 もう習慣というか、宝箱を前にすると取り敢えず殴って確認しないと安心しないというか····ともかく、安全は保証されたので思いっきり開く。

 

「うおっまぶし」

 

 開いた瞬間に中から光が溢れだし、アイテム入手を知らせるメッセージが流れた。

 

『以下のユニークシリーズを入手しました。

 冥王の兜(呪)

 冥王の楔鎧(呪)

 冥王の足甲(呪)

 抉り穿つ波刃剣(呪)

 深淵の盾(呪)』

 

「ユニークシリーズ?装備一式か?あきらかになんか問題ありそうな文字が入ってるが」

 

 全部の装備の最後に(呪)という文字が付いている。詳細を見なくても分かるぞ····これは絶対に呪われてる!

 

「はぁ····取り敢えず確認するか」

 

ーーーーーーーーーー

【ユニークシリーズ】

単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に送られる、攻略者に合わせて調整された攻略者だけの為の唯一無二の装備。

1つのダンジョンに一つきり。

取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

ーーーーーーーーーー

『冥王の兜』

〈VIT-90%〉〈DEX+200〉

特性【物理無効(特殊)】

※10分毎に一度だけ物理攻撃を無効化

スキル【醜い執念】

※HPが0になるあらゆる攻撃に対して一度だけHP1で耐え、戦闘終了まで与えるダメージ2倍。

効果終了後死亡。

【破壊成長】

《解説》

かつて最も太陽に近いと讃えられ、天から全てを思うがままに支配したが、その傲慢さから深淵に落とされた哀れな王より産み出された兜。

冥界の王を名乗りながらも、火(命)に魅いられすがり付くその姿は、もはやかつての面影を残さない。

神の祝福を受けた聖火で浄化すればあるいは····。

ーーーーーーーーー

『冥王の楔鎧』

〈VIT-90%〉〈DEX+200〉

特性【状態異常無効(特殊)】

※最初に受けた状態異常に対して10分間の無効状態を得る。効果終了で無効対象リセット。

スキル【栄光の末路】

※【致命の一撃】【バックスタブ】【内臓攻撃】でダメージを与えた後、3秒間無敵。

無敵解除後被ダメージ2倍。

【破壊成長】

《解説》

無数の楔を打ち込まれ封印された鎧。それは無惨に裂き裂かれた嘗ての栄光。本来の力を引き出すには生命の光が必要なのだろう。だが、得てして力には代償が付き物である。特に、禁じられた力には。

ーーーーーーーーー

『冥王の足甲』

〈AGI-90%〉〈DEX+200〉

特性【落下ダメージ無効】

※即死判定以外の落下ダメージを無効化

スキル【冥界歩き】

※パリィ成功時MPを100%消費することで相手の背後に瞬間移動することができる。

失敗時10秒間スタン

【破壊成長】

《解説》

歩く度に蒼い幻炎を全身に纏わせる足甲。

生命の終わりに行き着く果て。深淵の奥底。暗く果てしない冥界。

そんな場所を歩める者たちは、強き炎を身に宿しているのだろう。たとえいつしか幻のように消えようとも、それらは必ず我らの元に姿を現すのだ。

ーーーーーーーーー

『抉り穿つ波刃剣』

〈STR-90%〉〈DEX+200〉

特性【回復阻害】

※ダメージを与えた相手のアイテム、魔法、スキルによる自己回復効果を戦闘終了まで大幅に低下。

スキル【無慈悲】

※パリィ成功時10秒間、固定ダメージ追加状態を付与する。

失敗時6時間自身の最大HP50%低下。

【固定ダメージ追加】

※ダメージの10分の1をVIT無視の固定ダメージとして通常の攻撃と同時に与える。

追加ダメージはVIT0に対するダメージから計算される。

【破壊成長】

《解説》

肉体を破壊することに特化したおぞましい剣。深淵に犯され、鏖殺の概念を刀身に宿した。波状になった刃は傷口を抉りその体に癒えない傷を刻むが、僅かにでも扱いを誤れば装備者に牙を剥くであろう。

ーーーーーーーーー

『深淵の盾』

〈VIT-90%〉〈DEX+200〉

特性【魔法耐性中】

※受ける魔法ダメージを低下させる。

スキル【捕食】

※パリィ成功時一秒後にMPを100%回復。

失敗した場合六時間MPが0になる。

【破壊成長】

《解説》

闇夜を切り取ったかのような盾の形をした漆黒のナニカ。

それは弾いた全てを呑み込み、装備者の糧とする異形の盾であるが故に、コレの機嫌を損なうような扱いをすればたちまち装備者の精神を蝕むだろう。

ーーーーーーーーー

 

「····は?」

 

 思わず声がでた。

 ユニークシリーズで1ダンジョンに一つきりというのも意味が分からないが、性能がおかしい。

 なんだDEX+200が5個って。

 なんだパリィ成功時に背後に瞬間移動って。

 魔法をパリィした時にも適応されるなら【マジックパリィ】も合わせると大変なことになるぞ。目の前からは自分の放った魔法、後ろからはバックスタブ。オーバーキルかな?

 いやまぁ、確かに呪われているにふさわしいデメリットを抱えているが、それを持って有り余るぶっこわれスキル。

 そもそもそのデメリットすら俺にはデメリット足り得ない。

 パリィを失敗したら10秒スタンだ?そんなものパリィを失敗した時点で攻撃食らって死ぬんだから関係ない。

 

 なんなんだこの装備は····。

 

「····ま、まぁ考えても仕方ない。手に入れたモノは手に入れたモノか」

 

 強くなることに不満はない。

 ただ、こうも頭のおかしい性能だと他のプレイヤーに何か言われそうだな····いや、もしかしてこれくらいが普通だったりするのか?

 考えてみれば自分はまだこのゲームを始めて1日目。他のプレイヤーに会って話したのも、あのイズという女性くらいで訳ありとはいえ初期で持ってるゴールドで買えるような装備しか買ってないので、強さの基準がわからない。

 あの冥王とかいうボスだって、初日でたどり着けた場所にある相手だ。めちゃくちゃラスボスみたいな雰囲気だったが自分の勘違いという可能性もある。

 【大物喰い】も実はもっと壊れスキルがあるから廃産とか····あああっ!考え出したらキリがない。

 今日はもう夜遅いし、ログアウトして明日調べよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば実家にいる()もゲーマーだがNWOをやっているだろうか?

 これも明日聞いておくか。

 




 冥王シリーズ
 非常に高いステータス補正と特性を持つ。また、スキルスロットが無い変わりに強力なスキルを有する。
 しかし呪われており、代償として本来上がるステータスが致命的に低下し、特定の条件で重篤なペナルティが発生する。
 キークエストクリアで呪いが解除されスキルスロットが追加されるが、スキルは消滅する。
 
 ユニークシリーズは攻略者に合わせた装備が自動で作られてドロップするモノと作者は考えてます。
 原作でも『攻略者だけの為の唯一無二の装備』と言われてますし。
 なのでこんな都合よくDEX極振りな装備でも問題はない。
 いいね?
 


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9話 弟

 ダクソ3RTAしようとして色々覚えてたら遅くなってしまいました。
 許しは乞わん。恨めよ(反省)


「んーまぶしー」

 

 朝7時30分。

 昨日寝たのは0時を過ぎていた気がするが、カーテンからチラチラとこぼれる日の光が顔を照らしたせいで予想よりも早く起きたため、8時にセットしておいた目覚ましを切り体を伸ばす。

 

「えーとリモコンリモコン」

 

 自宅はワンルームで、ベッドのすぐ側にテレビを配置している。

 最近はもっぱらVRマシンを使っているのでやらなくなったが、前はベッドで横になったまま1日中ゲームをしていたものだ。

 あ、VRマシン使ってる時も横になってるから変わらないか。

 

『今日の天気は晴れ!よいピクニック日和になりそうです。紫外線に気をつけてお出かけください』

 

 枕の裏に潜り込んでいたリモコンでテレビの電源を入れると、ちょうど朝の情報番組で女性キャスターが天気を知らせてくれた。

 確かめるまでもないだろうが、先程からすこしだけ空いているカーテンを完全に開くと、まぶしい朝日が部屋全体に差し込んだ。

 

「うおっまぶし」

 

 なんだかデジャブを感じる台詞に既視感を覚えながら窓の下を眺めると、学生たちが友達としゃべりながら学校へ登校している。

 

(おはよう楓!昨日の夜は)(あんまり話せなかった)(けど)(なんかすごい装備)(手に入れたんだって?)

(そうそう!ユニークシリーズって)(いう装備で、)(一つのダンジョンに一つしかない)(みたい!)

(えぇ!?なにそれスゴすぎない!?)

(ふっふっふっー羨ましいかー)

(このぉ!私だって)(出きるようになったら)(手に入れてやる!)

 

 窓は開けてないのでよく聞こえないが、なんとも楽しそうだ。

 俺が高校生の時はあんな青春はなかったなぁ····。

 

「····顔洗うか」

 

 なんだか悲しくなってきたので気分転換に顔を洗うことにする。

 

「ふーつめてー」

 

 少し寝ぼけ気味だった脳が、顔に冷たい水をかけたことで完全に覚醒した。

 顔を拭いて、ついでにひげも剃っておいた。

 

「むぅ····あいつに似て、というかあいつが俺に似てるんだろうに、なんで俺はモテないんだ····?」

 

 鏡に映った顔は悪くない。いや、むしろけっこうイケてると思うんだが何故かモテない。

 弟と歩いていても声をかけられるのは俺じゃないし····いかん、今日はネガティブデーのようだ。

 

「はぁ、まぁいいや。あいつ起きてるかな····いや、どうせVRしてるだろうしメールにしとくか」

 

 ベッドに戻り、寝転んであいつにメールを送る。

 電話ではなくメールにしておけば、VRを使っていても邪魔にならないだろう。

 ちなみにフルダイブ型VRゲームはその性質上、使用中に体を揺さぶったり声をかけても気付けないので、VRマシン自体にスマホと同じように電話やメールを送受信できる機能が搭載されている。

 VR技術革命初期はあくまでVRマシン同士だけの機能だったが、今ではスマホから繋がるようになっておりなかなか便利だ。

 

「こんなもんか。送信と」

 

 さーて、メールも送ったし返信くるまでアーマードコアⅥ VRでもやっとくかな。

 

 

 

 

 

 

ーーーー???sideーーーー

 

「たぁっ!はあっ!!」

 

 掛け声と共に放たれた斬撃が、人間の何倍もの大きさの巨体で襲い掛かるモンスターの群れを瞬く間に一刀両断し、消滅させた。

 

「ふぅ。もうここらのモンスターじゃ経験値はおいしくなさそうだ」

 

 朝早くから経験値稼ぎにダンジョンに潜っていた青年は、振り抜いた剣を収めメニューを開くと、次のレベルまでの必要量を見て呟いた。

 

「他の場所を探そう」

 

 今ソロでできる最高レベルの狩場だったが、この分では既に効率が悪いと青年は判断し、効率のよさそうな新しい狩場を探しにダンジョンを後にした。

 

「そういえばあの竜が飛んでいる丘にはまだ行ってなかったな····ん?」

 

 遠くに見える、空を羽ばたく竜を見て次の目標を定めたところで、青年はメールが届いていることに気が付いた。

 

『おは!突然ですまんがNWOってやってるか?昨日始めて装備やらスキルやら手に入れたんだが、まだ他のプレイヤーと戦ったこともないから強さの基準がわからんから色々教えてくれ。あと、やってないなら買え』

 

「はぁ、またあの人は」

 

 始めのほうですまん、なんて言ってるくせにやってないなら買えという強引さ。相変わらずだなぁと思いながら青年は返信を簡潔に書き込む。

 

『今やってるよ。会う?』

『そううdっなあ』

 

「????」

 

 送って数秒で返事が返ってきたが、何故か誤字というか滅茶苦茶な文になっていた。

 意味がわからないと首をかしげる青年。数十秒後、またメールがきた。

 

『アーマードコアしながら返事打ったから滅茶苦茶なったわw今クリアしたから、ちょっと待ってろ。最初の町の噴水に集合な』

『了解』

 

 何故アーマードコアをしながら返事を打とうとしたのか、そもそも滅茶苦茶な文になったとはいえ、ACを操縦しながら何故キーボードを触れたのか疑問に思いながらも青年は了承の旨を伝え、最初の町へとアイテムで転移した。

 

「流石に人は少ないな」

 

 町の中はいつもより人が少なく、活気も薄れているが、そもそも今は朝の8時を過ぎたところ。

 しかも平日で、学生は学校へ行っている頃。

 平日に休暇を取っている社会人か、無職、あるいは青年のようにとある事情(・・・・・)がなければ朝っぱらからゲームをする人間はいない。

 

「よ、待ったか?」

 

 集合場所に指定された、この町の一番の特徴とも言える町の中央に設置された大きな噴水。

 青年がその目の前でメニューを開いて、レベル上げの副産物であるクエストの達成アイテムにもなる素材をチェックしていると、横から声をかけられた。

 

「いや、さっき来たばかりだ」

 

 現れた男に青年は、まるでデートの待ち合わせでもしていたカップルかのように返事を返す。

  

 ぼさぼさでまるで手を加えられていないが、それが逆にワイルドさを醸し出すかのような金髪に、少しツリ目で鋭い目つきの赤い両眼。服装はいかにも初心者というか、防具をつけていない状態で固定される防御力の欠片もない村人が着ていそうな服。

 青年の青を基調とした聖騎士のような恰好と比べると、あまりにもみすぼらしく釣り合わない。

 

「んじゃ、ここで話すのもなんだし場所を移すか」

「ああ、それなら近くにいい喫茶店があるんだ」

「ほぉ、喫茶店ね。最近ろくなもの食べてなかったからVRの中くらいいいもの食べてぇわ」

 

 青年の有名さ故に、見ていた周りの人間は気軽に話し合う釣り合わないの付かない二人を見て驚くが、次に出てきた青年の発言で更に驚くことになった。

 

「まったく、ご飯くらい体壊す前に食べなよ。兄さん(・・・)

「お前に言われたくねーよ、あや····」

「ここではペイン(・・・)だよ」

「おっと、すまんな」

 

 その会話で周りの人間が硬直しているのにも気付かずに、二人は喫茶店の中へと姿を消していった。

 

ーーーーアーリーsideーーーー

 

「んじゃ、とりあえずなんか頼むか。おすすめは?」

「チーズケーキかな」

「ふーん、ならチーズケーキで」

「俺はシンプルにショートケーキに」

 

 弟····彩斗、NWOではペインを名乗っているこいつのオススメというチーズケーキを頼むと、次の瞬間机の上にポンと現れた。さすがVR。待ち時間が無いのは嬉しい。

 さっそく一口食べると、濃いチーズの味となめらかな食感が口のなかに広がった(たれぞう並感)

 うん、おいしい。これで現実の体には影響が無いのは本当に素晴らしいと思う。

 もっとも、自分は現実でもっと食べなければいけないとは思うが。

 

 そんなことを考えながらペインをみると、こいつは頼んだショートケーキをそれはもう上品に食っている。

 いつのまにやら頼んだ紅茶も合わせて、どこぞの王子様のようだ。

 ほんと、食べてるだけで絵になる男だ。

 しかも改めて見ると、ずいぶん強そうな装備をしている。

 発売してからそこまで経っていないとおもうが、既に終盤の勇者のような装備だ。

 まぁ、こいつは職業柄(・・・)ゲームをやるとなったらとことんやるヤツだから不思議ではない。

 それに強そうな装備なら俺も手に入れたし····って、チーズケーキが旨くて飯を食べに来たように錯覚していたが、本題はその装備だった。

 

「モグモグ····んく。これ見てくれ」

「ああ、メールに書いていたやつだね····ッ!」

 

 とりあえず口に入れていたチーズケーキを飲み込んで、装備の詳細を記したウィンドウをペインに見せる。

 すると、ペインは目を見開いて前のめりになり、ウィンドウを睨み付けた。

 

「に、兄さん、これを····どこで?」

「森」

「森····近くにあるあの?」

「正確に言うなら森の奥の地下ダンジョンだな」

「森····地下ダンジョン····そんな話聞いたことがない」

 

 んー?もしかして隠しダンジョンとかだったのか?

 

「それより、この装備ってどうなんだ?強いのか?」

「強い。俺の装備にも匹敵····いや、デメリットさえ抜けば遥かに高性能だ」

 

 どうやら俺のこれは普通に高性能な装備だったらしい。こいつの強そうな装備より上ということは、見た目も格好いいかも。手に入れてまだ一度も装備してないから分からないんだよな。

 

「ついでにスキルの方も見てほしいんだが」

「スキルは····なるほど。相変わらず変態じみてるね」

「変態とはなんだ!?変態とは!?」

 

 こいつ、俺のスキルを見たあとに若干引いたような目でこっちを見てきやがった。なにが悪いんだ。

 

「普通、パリィ50回連続成功とか出来ないよ?それに何でやろうと思ったんだい?」

「いや、なんかスキル手に入るかと」

「だからって実行できるところが変態なんだ」

 

 呆れたように言うが、お前も大概変態だと思うがなぁ。いや、こいつの場合厨二病か。

 まぁロールプレイしていると言えばそれまでだが、それでも顔を晒してやる勇気は俺にはない。

 やるとしたら顔は隠す。

 実際、ダクソVRとかでNPCの完コスしてロールプレイする時も顔が分からないキャラしかしてないし。

 

「はぁ、変態云々はいいが、強いんだな?」

「ああ、ただその【大物喰い】というスキルは強力だけど相手によってAGIが変わったりして逆に戦い辛くなると思うけど」

 

 確かに、戦ってる相手によってAGIがコロコロ変わってたら身体の調整もままならなさそうではあるな。

 俺には関係ないが。

 

「あ、それは問題ない。俺DEXに極振りしてるから」

「·····」

 

 なんでまた呆れたような目で見るんだ、お前は!?




 感想で弟の予想してた方、なんの捻りもなくてすみません。
 なお、ペインのリアル事情はほとんど捏造です。

 次回には明かしたいですが、果たしてペインの職業とはなんでしょう。
 個人的にはニートだろと思っていますが、それではあまりにも可哀想というか、あのイケメンが中身ニートの厨二病とは思いたくないのです····というか、ペインの口調難しくないです?一人称俺だけど、勇者っぽくて強さを求めてて、痛い(ステキな)セリフを平然と言える感じ····どうすればよいのだ。


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