目的も目標もないTS少女が英雄志望の少年の隣でなんかウロチョロしてるお話 (たまざき)
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1話目
神様って奴がもしこの世界にいるのであれば、バカ以外の何者でもないーーーーこれは、俺が中学生の頃、友人と哲学的な話で盛り上がった中で出た結論である。理由はほとんど覚えていないが、もし完璧なら戦争とか起きないはずだ、みたいなありふれた理由だったように思う。つまり話のノリで出た結論であり、ただのお遊びだった訳だ。小難しいことを言ってる自分かっこいい、みたいに自分に酔うためにファッションとして使っていたにすぎない。
だが、喜べその時の友人よ。この言葉は今思えば割と正鵠を射ていた。
なぜそう言えるかって?それは…。
「ふざけんな、クソ神いいぃぃ…!」
俺が、実際に神にあったことがあるからである。
俺は高校生という若い身空で交通事故という日常の中の不幸により死亡した。まあそのことに関しては仕方がない。死ってのは誰にでも訪れるもので、たまたまその時が俺の寿命だったというだけの話である。
ただ問題は、その後に出会った神を名乗る不審者の方だった。
『めんごめんご!君が死んだのって俺のミスだったんだよね!まあお詫びに転生させてあげるから許してちょ!(原文ママ)』
開口一番にこれである。誰だって怒る。俺だって怒る。多分ガンジーも助走をつけてぶん殴る。
しかもその後禄に会話も無く無理やり転生させられた。この時点で割と殺意に目覚めかけた訳だが、さらに問題があった。
俺、なんか女になってた。
銀髪赤眼。低身長で華奢で可憐な美少女。それが今の俺を表す端的な文章だ。短いが簡潔に表現できているだろう?ははは、笑える。
現在、俺は路地裏で階段に座り込んで、呆然と空を見上げていた。四角く切り抜かれた青空が目にしみる。正直、異国の路地裏とかこんな状況でもなかったら観光として最高のロケーションだっただろう。
「…くもが、きれいだ…」
多分、リストラされたサラリーマンの心境ってこんな感じなんだろうな。今まで普通に生きてきたけど、これからどうすればいいっていうのが完全にゼロな状況がこんなにも怖いとか全然知らなかった。身分もねえ、金もねえ、身寄りも保護者も見つからねえ!おらこんな世界嫌だ…(絶望)。
「どうすりゃ良いんだろう…」
正直、全くわからん。
そもそも俺はただの高校生、日本ですら一人で放り出されて生きていける自信がないのに、それが異世界になるとなおさら過ぎて辛い。貨幣の価値すら分からんのに、一人で生きていけるわけ無いだろいい加減にしろ。
「へい、そこの君!」
「るーるー、はこばれてーくーよー…」
「あれ?お、おーい、そこの君ー?」
「このままうられていーくーよ…え、俺ですか?」
「う、うん」
後ろを振り向くと、そこにはツインテールと低身長のくせに大きな胸が特徴的な美少女がいた。
さすがファンタジー。美少女がこんな簡単に見つかるなんて凄いなー。
「君、どうしたんだい?そんなところで蹲って。何か嫌なことでもあったのかな?」
「…すみません、美人局とかちょっと迷惑なんで…」
「いや、違うよ!?いやまあ確かにちょっと怪しげな感じだったのは認めるけど、美人局じゃないから!」
わたわたと慌てて首を振る少女。
「私の名前はヘスティア。一応本物の神様なんだけどな…」
「…神…様…?」
うっ、頭が…!
「ど、どうしたんだい?」
「神…あの糞神…殺す…神…KAMIyyyyyyy!!!!!」
「ひいいいぃぃ!?」
…はっ!?し、しまった、つい狂化が…!
「す、すみません…だけど、神様って一体…?」
「へ?僕たちのことを、知らないのかい?」
目を丸くしたヘスティアさんは、俺が本当に知らないのに気づいたら、すぐに色々と教えてくれた。
まず、この世界では普通に神が暮らしているらしい。
そして最初に言っておくのは、俺が見たあの神を名乗る上位存在とこの世界にいる神は全くの別物らしいということ。ヘスティアさんも俺が見たという神については全く知らないし、転生もあるにはあるが、異世界への転生など聞いたことが無いらしい。
で、この世界にはダンジョンと呼ばれる、かつて世界を滅亡の危機まで追いやった非常に危険な場所があるようだ。モンスターを無尽蔵に生み出し、神を呪い、世界に破壊を撒き散らす存在である。
そしてこのダンジョンを攻略するために存在するのが冒険者だ。冒険者は神々の眷属…ファミリアとなり、そして恩恵を得る。普通の人間なら1階層に潜るだけで死んでしまうのを、恩恵を得ることで今は50階層以下まで行けるようになったらしい。
もちろん、ファミリアの形態は千差万別で、戦闘以外の生産系ファミリアや商業ファミリアなども存在する。
この迷宮都市オラリオはそういった冒険者達が集まる都市であり、この世で最も活気に満ちた街であるそうだ。
そして、そんなファミリアに入ると今なら副団長の座を貰えるらしい。なのでヘスティア・ファミリアに入らないか、というらしい。
…あれ?最後ってただの勧誘では?
「君の言葉に嘘はない。なら、転生やその神を名乗る上位存在とやらのことも信じよう。心細かったね…でも、もう大丈夫だよ…なぜなら、僕のファミリアに入ればすべて解決するからねっ!」
やっぱり勧誘じゃないか…。俺の表情を見て、ヘスティアさんは弁明するように首を振った。
「いやいや、たしかに最初はナンパ…ごほんごほん、初めて眷属が入ってくれたことに調子に乗って、『もうひとりも行けるんじゃないか?』と思って傷心してそうな女の子をちょうどよく見つけたから声をかけてみただけだったんだけど…話を聞いてそんな軽い気持ちでいうべきじゃないって分かったからね。そう、今の僕は本気で君を勧誘しているんだよ!」
「は、はあ」
「まあ、君の境遇的にも、どこかのファミリアに入るっていう選択肢は悪くないと思う。一度冒険者になってしまえば、身分もしっかりと保証されるし、ダンジョンでお金だって稼げる。もちろん、ダンジョンに行くかどうかは君の気持ち次第だろうけどね」
「ファミリア、ですか…」
うーん、ファミリア、ダンジョン、冒険者か。なんか、ウェブ小説じみた展開になってきたな。王道のファンタジー世界なようだし、確かに冒険者になるのは転生者的に考えて王道な展開だと言える。
ファミリアに入るか入らないかで言えば、選択肢は入る以外に無いだろう。身分を手に入れるのは、何よりも優先するべきだ。
それに、俺もよくライトノベルとか読んでたし…割とそういうの好きだったし…妄想とかも、結構してたし…。
俺、転生者だし、冒険者になったらチートでハーレムでウハウハになれる可能性だって微レ存あるわけだし…。
…なっちゃう?
よし、なっちゃうか。なってやろうじゃないか。
「…あの!俺を、ファミリアに入れてください!」
「だよねー、僕みたいなへっぽこ神様のファミリアなんか…え?今、なんて?」
「ふぁ、ファミリアに入ります。ぜひ、入れてください」
「…マジで!?ーーーぃやったあああああ!それじゃ早速拠点に行こうか!さあ、早く早く!」
手を引かれて、俺は日向に向かって歩き出した。眩しいくらいの青空と太陽と、街の真ん中に聳え立つ長大なる塔が、俺の行く先を祝福しているような気さえした。
楽しみだな。拠点ってどんなところなんだろうか。
…向かう先に、なんというか、スラム街っていうか、廃墟群がちらちら見える気がするけど…きっと気の所為だよね!
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