夢破れた世界から少女は何を見る (chee)
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ヒロインちゃんの場合
そう、ヒロインちゃんです。
今回は楽紅ifの世界線のヒロインちゃんの短編を書いてみました。
………あえてヒロインちゃんの誕生日に落とすネタでもないなこれ。
っていうかもっと大量にあふれる楽玲の中でひっそりと投げるつもりだったのにぃ!!!
とてつもなく足が重い。
これ以上前に進みたくない。
だって……だって……もうすぐ
いつもなら嬉しくて顔を赤らめてしまうでしょう。
昨日もそうでした。
でも、今日は違う。今日だけは違うんです。
昨日の、
◇
【旅狼】
秋津茜:夜分にすみません!
秋津茜:皆さんにご報告があります!
鉛筆騎士王:どったの茜ちゃん?
オイカッツォ:珍しいね
サンラク:や、ちょ、まさか
サイガ−0:どうしたんですか?
秋津茜:実はですね……
サンラク:待て!待て!秋津茜ェ!!
ルスト:サンラクうるさい
京極:で、秋津茜さんどうしたの?
秋津茜:私、サンラクさんとお付き合いさせていただくことになりました!!!
サイガ−0:………………………………
鉛筆騎士王:えっ
オイカッツォ:えっ
ルスト:えっ
モルド:えっ
京極:えっ
サンラク:いや、その、はい
サイガ−0:……………………………はぇ?
◇
あれからチャットは見ていません。見ているだけで心の中の
でも、気持ちの整理はしなくちゃいけません。そして、言わなきゃいけないんです。昨日言えなかった『おめでとうございます』を、楽郎君に。
でも、今それを言うとまた昨日のように泣いてしまいそうで……
「あ、玲さん。おはよう」
「………ッ!!!」
楽郎君。いつもなら会えて嬉しいはずなのに、今日はもう少しだけ会いたくなかった。それでも、楽郎君に会えただけで私の心は躍ってしまいます。
「ぁぅ……おはようございます……!!」
「うん。ごめんね、昨日は騒がしくて…」
「…ぉ………昨日って、チャットの…」
「そうそう。茜の」
「…ぉ………私最初の方しか見てなくて…」
言いたいです。言いたいけど、言いたくないんです。
言えません。言わなきゃいけないんです。『おめでとうございます』って、言わなきゃいけないんです。なのに、言えません。
「なるほど。あのあとは基本的に俺がペンシルゴンとカッツォにイジり回されてただけだよ。おかしいよな。茜は放置で俺だけ集中砲火だなんて」
「ぇと……ハハハ」
乾いた笑いが込み上げてきますが、心の底からは笑えません。楽郎君が『茜』と口にする度に私の心に鈍器で殴られたかのよな衝撃が走ります。こうして話しているだけで、楽郎君は秋津茜さんと本当に付き合っているんだなぁ…って実感が少しずつわいてきて、やっぱり辛いです。
「最終的に茜が惚気始めて…ほかの奴が便乗して…本当に辛かった……」
「大変だったんですね……」
改めて楽郎君の顔を見ると少しげっそりしていました。これ、夜通しやってたんですかね。
「挙句の果てには『これ、毎日続くから。当たり前でしょ?覚悟しなよサンラククン』だってよ」
「ご…ご愁傷さまです?」
「それでも、後悔はしてないよ。茜と付き合い始めたことは」
「その…好き…なんですか?」
聞いてしまってからハッとしました。私がこの答えを聞いてしまったら………
「……うん。好きだよ」
楽郎君が、ニコッと笑った。
「ぇぁ……」
……楽郎君、本当に秋津茜さんが好きなんですね。
伝わってしまった。理解してしまった。
その笑顔は、私が好きになった笑顔で、私が憧れた笑顔で。楽郎君が『好き』って気持ちをめいいっぱいに乗せたその笑顔が、私の胸に刺さる。
その笑顔を引き出したのは、私じゃなくて秋津茜さんで、とても悔しくて、妬ましい。
それでも、
楽郎君の笑顔は、どうしてこんなにも私の心を昂らせるのでしょう。
はじめて彼の笑顔を見て、あれから彼の笑顔を追い続けて、そして昨日、彼の隣にはいられないことが決まった。それでも、彼の笑顔が見たいと思えます。
「あの、楽郎君」
「ん?」
「おめでとうございまひゅッ………」
ずっと言えなかったその言葉は、思ってたよりも自然に口から出ました。
……噛んじゃったけど。
「……」
「……ップ」
カァァ……っと顔が熱くなる。恥ずかしくて、とても居心地が悪くなるんですけど、今に限ってはこれがとても心地いい。少なくとも今、あなたの笑顔を私だけが見ることができるんだと思うと、こんなにも嬉しくなってしまいます。
「笑わにゃいでくだひゃいっ……!!」
「はは……いや、ごめんごめん」
あぁ……やっぱり、私、楽郎君が好きなんですね。たとえ秋津茜さんと楽郎君が付き合っているのだとしても、こうやって楽郎君と話しているのはとても楽しく感じてしまえます。
「ありがとう。玲さん」
「……うひゃぁ」
楽郎君の笑顔はやっぱり眩しくて、この人を、この笑顔を好きになってよかったって心から思えます。
たとえ楽郎君が秋津茜さんのことを好きなんだとしても、私はまだあなたの笑顔を追いかけていたいです。あなたと一緒に笑いながら、遊んでいたいです。
だから楽郎君、もう少しだけ、私に片思いをさせてくださいね?
サンラクがヒロインちゃん以外と結ばれるユニバースでも、きっとヒロインちゃんはサンラクにアプローチをかけてたし、たとえサンラクが秋津茜や鉛筆と結ばれることになっても、彼女の努力はこの上なく貴いもので、なかったことになってはいけないんだと思います。
たとえ叶わなかったとしても、彼を思い続けることがヒロインちゃんのヒロインちゃんたる所以なのではないか。たとえ行動に移せないようなクソザコヒロインちゃんでも、サンラクを慕うというただ一点においてのみはどんなヒロインよりも、それこそそのユニバースでサンラクと結ばれるヒロインよりも強いものなんじゃないか。
どんなに厳しい状況だったとしても、ヒロインちゃんにはただひたすらにサンラクを、サンラクの笑顔を追い続けてほしい。それが僕の解釈であり、願いです。尊い。尊い。
最後に、ヒロインちゃん誕生日おめでとう!!
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光属性ちゃんの場合
今回はみんな大好き光属性ちゃんです。
今回は時系列飛び飛びでめっちゃ読みにくいと思いますがご容赦ください。
私はサンラクさんの事が好きだ。
友達としてもそうだけど、一人の男性としてサンラクさんの事が好きだ。
私は
この関係を壊したくなし、ずっとみなさんで遊べたらいいなって思う。
私はサイガ-0さんの事が好きだ。
ゲームもすっごい強いし、仲間としてとても尊敬している。
そして、サイガ-0さんはサンラクさんの事が………
「わかんないよ……」
「わ゛か゛ん゛な゛い゛よ゛ぉ゛……ッ!!!」
誰か、教えてよ………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◇
【旅狼女子寮】
鉛筆騎士王:みんないるー??
ルスト:なにこれ
京極:また何か企んでるのかい?
サイガ-0:これ、なんですか?
秋津茜:何か面白い事がはじまるんですか!?
鉛筆騎士王:よぅし!みんないるみたいだね
鉛筆騎士王:あ、とりあえず疑ってかかった京極ちゃんは後で罰ゲームね
京極:なんで!?!?
ルスト:ペンシルゴン、説明
鉛筆騎士王:今回はレイちゃんに関するお話だよー
サイガ-0:えと、私ですか?
秋津茜:サイガ-0さん何かあったんですか?
サイガ-0:いえ、私は特に……
鉛筆騎士王:何もないのが問題だったんだろうねぇ……
ルスト:……???
鉛筆騎士王:とある匿名希望-100さんから依頼を受けました
鉛筆騎士王:『最近妹が想い人と進展していないのが見ていて辛い。どっちとも知り合いなんだから何とかしてやってくれ』だそうで
鉛筆騎士王:せっかくだからみんなを巻き込もうかと
サイガ-0:ふぇえああ!!??
秋津茜:想い人ですか!!
ルスト:とある匿名希望-100………
京極:不安すぎる……血筋的な問題で
鉛筆騎士王:本当にねぇ……
ルスト:……血筋?
鉛筆騎士王:血筋
秋津茜:それで、サイガ-0さんが好きな人って誰なんですか?
サイガ-0:えと、いや……
鉛筆騎士王:サンラククンです
サイガ-0:ペンシルゴンひゃん!?!?
秋津茜:サンラクさんですか!!
ルスト:一切容赦のない暴露
京極:ちょっと不憫
鉛筆騎士王:それで、具体的にどうレイちゃんの背中を押してあげようかな
ルスト:……私達に聞かないでほしい
サイガ-0:えぁ………
オイカッツォ:………ねぇ
オイカッツォ:その前にさぁ……
オイカッツォ:何で僕がここに呼ばれてるかから教えてほしいかな……
ルスト:女の子だからじゃない?
◇
多分、最初はこの時だった。
初めて『サンラクさんって、異性なんだなぁ…』なんて今まで意識すらしてこなかったことを思って、少し胸がぽかぽかした。
そして、サイガ-0さんがサンラクさんが気持ちを明らかにしていくたびに、『がんばれー!!』って思いながらも少し胸がチクりとした。
サイガ-0さんの作戦をみんなで練ってる時も、具体的な話に近づくにつれて気持ちが“ぐわーっ”ってなって大変だった。
この時はまだ私の気持ちに気づけていなかったと思う。
心の底からサイガ-0さんを応援したいと思った。
その後、シャンフロの中でもサイガ-0さんはサンラクさんにアプローチをかけるようになった。
二人が一緒にいるのをよく見るようになった。
新大陸で、旧大陸で、ラビッツで、二人が一緒にいるのを見た。
私が見た二人はとってもキラキラしていて、まるで別世界の、二人だけの世界に生きているようで、とても眩しかった。
あぁ…すごいなぁ…
羨ましいなぁ…
それが正直な感想だった。
まだ恋を知らなかった私は、漠然と恋に憧れを持つようになった。
そしてある時、私とサンラクさんが二人でいるとき、不思議なことがおこった。
そこにいたサンラクさんはいつもサイガ-0さんといるときと同じように輝いて見えて、私は妙に満ち足りた気分になっていた。そこは妙に居心地がよくて、いつまでも居たいと思えた。
その日が終わっても、何となくサンラクさんを見つけるとそばに寄ってしまうようになった。
その時もサンラクさんはキラキラして見えた。
また別の日、いつものようにサンラクさんを見つけると、今日はサイガ-0さんが一緒にいて、相変わらず二人はキラキラして見えた。
すごいなぁ…
羨ましいなぁ…
そこで気づいた。私は二人のことを応援しているはずのに、私はサイガ-0さんに
そこまでわかったら、もう駄目だった。理解してしまえた。
『
だから、彼の周りがいつも輝いて見えたのだ。
これが恋なんだと一度理解してしまうと、彼を見るだけで胸がドキドキして、顔が熱くなる。浮ついた気分に身を任せて、彼に思いを告げようと思った。
思いを告げようと彼に近寄って……
そして思いとどまった。
彼の隣で幸せそうにしているサイガ-0さんが見えたから。
幸せそうな二人が見えたから。
『落ち着け私。二人を応援するって決めたんです!!』
そう自分に言い聞かせて、私はこの気持ちを封印した。
二度と出てこないように。
それから、私は自分の気持ちを抑え込んでサイガ-0さんの応援に徹した。
そのかいあってか、サイガ-0さんはよく私に相談をしてくれる。『今日のサンラクくんはどうだった』とか『明日のサンラクくんとの約束はどうしよう』とか、二人でいろんな話をした。
その時のサイガ-0さんはとてもうれしそうな顔をしていて、とても楽しそうな顔をしていて、私自身もとても楽しくて、すっごいうれしかった。
この人を応援してきてよかったって思った。
今もサイガ-0さんはサンラクさんと夜のゲーム内デートを楽しんでいる。さっきシャンフロ内で二人だけの作戦会議をした後、送り届けてきた。
ログアウト直後の私はヘッドギアを頭から外して、そのまま視点をそこへと向ける。
この向こうの電脳の海で、今も二人はキラキラとした時間を過ごしているんだ。
私、今日もいい仕事をしたな。あれだけ綿密な計画があればきっと二人は楽しいデートをできる。
デートを楽しむ二人のことを考えると、すごい満足感が全身を包む。
自然と気分が高揚して、
口角は上がって
頬は緩んで、
「ふふっ…」と笑みが漏れて、
頬を一筋の涙が伝った。
「え……」
手で拭ってみると確かにそこには涙が流れていて、気が付くとどんどん涙が溢れてくる。
「なんで……」
いや、原因はわかっている。涙とともに封印したはずの恋心がこんなにも溢れ出してくる。
私はサイガ-0さんのことを応援していて、それで満足できたはずなのに。
サンラクさんと幸せそうにしているサイガ-0さんを見て、私も幸せな気持ちになれたはずなのに。
私の本心は、それじゃダメだっていうの?
「じゃあ…私は…どうすれば…」
わかんない。
わかんない。
わかんないわかんないわかんない!!!
「わかんないよ……」
私はサンラクさんのことが好きで、サイガ-0さんもサンラクさんのことが好きで、私はサイガ-0さんのことも好きで、サイガ-0さんには幸せになってほしくて、二人にはうまくいってほしくて、二人にはうまくいってほしくなくて。
「わ゛か゛ん゛な゛い゛よ゛ぉ゛……ッ!!!」
家族みんなが寝静まった夜の家では当然私の声にこたえる人なんていない。
私の声は誰に届くでもなくただ宵闇に消えていった。
誰も、私に答えを教えてはくれない。
秋津茜ちゃんは旅狼のみんなが大好きだから恋も友情も大事にしたい。ただし、そこでの自分の優先順位は低くなりがちなんじゃないかなって思うんです。
病弱で孤独な過去を送ったからこそ今の人間関係を壊さないことを最優先に考えてしまう。だからこそヒロインちゃんと対立するような決断はできない……という解釈です。
やっぱり茜√の最大の障害はヒロインちゃんですね。サンラクを取り合うという意味ではなく、茜の中での存在感という意味で。
感想お待ちしています!!!
……………ところで、とある匿名希望-100さんって誰なんでしょうね(すっとぼけ)
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文房具の場合
いつからだろう。君のその横顔を目で追うようになったのは。
「オイ見てみろよペンシルゴン。天下のプロゲーマー様が死んだ目でインタビューを受けてらっしゃるぜ」
「なんだって!そいつは面白いじゃないか!かわいらしく頬を引きつらせちゃって全くこの女男魚類は!!」
冗談のような掛け合いをしながらサンラクくんと二人で見るのは
……まぁ、君はそんなこと全く気にしてないのだろうけどね。
「……ところで女男魚類ってなに?」
「いや俺に聞くなよ」
世紀末円卓の鉛筆王朝事件以来、私達は三人でつるんでゲームをやってきた。それでも、『ゲーム』という舞台において『プロゲーマー』と『アマチュアゲーマー』っていうのはやっぱり別物なんだろう。本人たちがどれだけ気にしなくても、そこには明確に「
あ、サンラクくんにプロ並みの資質があるのはもちろんわかってるよ?
それでもね、私と一緒にただのアマチュアゲーマーとして隣を歩んでくれる君との距離感が、私にはひどく心地いい。
だから、私は君と一緒にいたくなったのかもしれないね。
「このインタビューな、半分以上の質問が一般募集かららしいんだけど、その募集枠の9割5分を魔境民に独占されたらしいぞ」
「ぷはっ。それマジで?」
「マジもマジよ」
なるほどね、そりゃカッツォくんも表情が取り繕えなくなるくらいに追い込まれるわけだ。
ちなみに、爆笑してるサンラクくん、その大量の質問の中に
「ていうかサンラクくん、君もいずれ
「ん?俺はまだ進路確定させたわけじゃないからなぁ…」
「大学は行かなきゃいけないんだっけ?」
「そ。家の決まりだし」
「ふーん。で、
考えこむような仕草を見せてるけどね、サンラクくん、それはきっともう答えが出てるんじゃないのかい?
「まだ決めてないけど、確実に外堀埋められ始めてるんだよなぁ…」
「まぁ、間違いなく業界は君の参戦を望んでいるだろうね」
「だよなぁ」
お姉さん分かっちゃうなぁ……君は嫌なら本気で逃げるはずだからね。結局、本心ではまんざらでもないんじゃないの?
「まぁ、プレッシャーかけてくるって意味ではプロ連中よりガト社のが怖いが」
「ん?」
「何でもない」
『では次の質問に……魚見さんの警戒する国内ゲーマーってどのくらいいるんですか?』
『………!!そうですね、
魔境からの質問から解放されたとたん急に饒舌になったよこのプロゲーマー。しかもかなりイキイキしてる。急に雰囲気が変わって記者側の人たちが揃って困惑してるじゃん。
「……………」
そして、私の隣でも一人、雰囲気の変わった男がいる。その瞳が見据えるものは果たして魚臣慧なのか、彼の見据えるプロゲーマーたちなのか、それらすべてに大立ち回りをしてのける自分自身の未来の姿なのか。
さっきは同じアマチュアゲーマーなんて言ったけど、やっぱり
……ねぇ、サンラクくん。
その時、私が君の隣にいるにはどうしたらいいのかな?
今から全力外道プレイでプロ界隈に殴り込みでもかける?最終的には転職まで視野に入れて?
………いや、そんなことはできない。分かってる。普通に実力が足りないし、そもそも実力が足りてたとしても、『
それとも、サンラクくんは私を『
………いや、そんなこともない。君が私のことをそういう目で見てないことなんて十分にしってる。
じゃあ、
………いや、それじゃあ私が満足できないんだよ。
あぁもうめんどくさい!!いっそもう迫っちゃえば!!
………色気で落とせたら苦労しないよ全く。それに、今の距離感を崩す度胸は私にはない。
「どの道破滅かぁ……確かに、その方が私らしいのかも」
「ん?何か言ったか?」
「いや、なーんも」
「ならいいが」
「そんなことより、今からリアル魚臣慧でも煽りに行こうよ!」
「え!?あいつ仕事中じゃねーの?」
「もうそろそろ終わってるはずだよ!」
「よっしゃ、全力で笑いに行ってやる」
全く、恋は燃え上がる炎だなんてよく言ったものだ。
私の恋は燃え上がる。
その炎は、導火線を走り、確実にタイムリミットに迫っていく。
それでも、今はこの刹那的な快楽に身を任せよう。
それで、導火線が燃え尽きてしまって、私の
…………君も私の巻き添えになって一緒に吹き飛んでくれる?
初めて会った時のように、二人でもろとも吹き飛ばして、新しい私たちの関係を始めよう。
炎が燃え尽きてしまった私と、そんなことは全く知らない君の、正しい関係を。
「おい、行こうぜペンシルゴン!」
「待って今行く!!」
いずれ消えてなくなる期間限定の儚い恋。
その微かな煌きが私の心を掴んで離さない。
本当に、
鉛筆は先の見えきった自分の恋にすら輝きを見出してしまいかねないと思うんですよ。
例え報われなかったとしても、その刹那的な快楽に身を委ねてしまうのではないかと。そんな儚さを秘める鉛筆も、好きだなって。
苦手だった人は申し訳ないです。
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征服人形の場合
失恋ではないこれを失恋ifに投げ込むのはどうかな……って思ったんですが、広い意味でこれも片思いに当たるのかなとの判断でこの短編集に。ハッピーエンドにつながらないifをここに隔離しておきたいという狙いもありまして。
ルビ芸を字数稼ぎと言ってはいけない(戒め)
開拓者たちがこの長い眠りにつく直前、「サービス終了」なる噂をしていた。ここでいうサービスが何のサービスを指すのかは全くわからなかったが、きっとこの現象と無関係ではないのだろうと推察される。
「……
目の前にそびえ立つのは巨大な崖。そしてその崖を彩る水晶。
そう。水晶層崖である。
基本は格納鍵インベントリアの中を拠点にしている
今日も適当に散歩するだけのつもりだった。だが、
「
とはいえ、めったに来ない場所。
……
やれやれ、困った
「
誰に向けたかは
「
あぁ、懐かしい。
「
あぁ……忘れるわけがない。今でも鮮明に思い出せる。
背後には初めて
『偉大なる先人曰く! 道具は死を恐れず、生に安堵しない!!』
『しゃらくせぇ! 今後何万体のエルマ型がロールアウトしようが317号機はこの世にただ一つしか存在しないだろうが!!』
ここで、
だからこそ、今の
今の
「
…………………
「……ッ!!!!」
唐突な殺気に思わず回避行動をとる。
爆音のした背後を振り返れば、さっきまで
「不覚:囲まれていたのに気づけなかった……!!」
この
「緊急:離脱を試みます!!!」
大きく回避して
走る。
よける。
走る。
飛ぶ。
走る。
よける。
走る。
走る。
任せてほしい。
ついに、群れから離れて安全な場所まで逃げ切ることに成功したーーー
「
ーーーはずだった。
「ッ!!!!!!」
たった一匹、されど一匹。私が撒ききれなかったその一匹の
回避は間に合わない。完全な不意打ちだ。
「
襲いかかる死の恐怖。
その
……こんな時、
……きっと、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「被害状況確認:まず大きな損傷として、右腕が欠損。左腕も欠損は免れたものの深刻なダメージ。全身強打による一部機能不全及び
結局、
今になって思えば、回避をするための数瞬は十分にあったし、攻撃を受けたとしても、もっと軽いダメージで済ませる術などいくらでもあった。
だが、あれだけの恐怖の前に
……でも。
これが、
あの脅威を前にあれだけ恐怖して冷静な判断のできないほどに取り乱してしまえた事にどこか満足していた。
千切れた右腕に視線を落とす。
そこはあまりにも痛々しくて、あの
「
涙が、溢れる。
「
あの時、
紛れもない
だが、叶わなかった。
涙が止まらない。
あれだけの恐怖に晒されても全く流れなかった涙が、
「嗚呼:そういえばこの涙も、貴方のくれたものでしたね。
この溢れ出る想いは貴方に届くのだろうか。これも、
続きも考えたり考えなかったりしましたが、ここで終わるのが一番綺麗だなと思いまして。このような形となりました。
感想お待ちしています!!!
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光属性ちゃんの場合Ⅱ
秋津茜曇らせが苦手な方々はブラウザバック推奨です。
……この世界は、龍龍其ノ五十。その最後の一撃じゃ足りなかったら。そんな「もしも」の世界のお話。
新大陸拠点を襲ったユニークモンスター、天覇のジークヴルム。
その最後の試練、「
5体の竜と戦っていた者たちが、人と人とで戦っていた者たちが、その自爆を止めんとして一斉に
そして。
『【
黒の竜とその体を重ねた少女が立つ。
多くの
戦士たちの高火力魔法が
そして
たった一つの
「致命……忍法!!」
「【
◆
目を覚ました。
いや、私は眠ってなどいなかったからこの表現はきっと間違っている。
であれば、私が今したのは。
……リスポーン。
「……ッ!!!」
必死に記憶を手繰る。あの一瞬でジークヴルムさんに接近した私は私の持ちうる最高火力をぶつけた。
だけど。
皆さんの攻撃で『それじゃあ
届 か な か っ た
「ぁ……ぅ……」
顔から血の気が引く。嫌に鳴り響く心臓の音を聞きながら私はセーブ用ベッドを飛び出した。
「すみません!!!どなたかテレポートゲートを使えるヴォーパルバニーの方はいらっしゃいませんか!!!」
ラビッツの街に飛び出して初めて会ったヴォーパルバニーさんたちに奇妙な顔をされる。
「そんなに焦ってどうした?どこまで行きたいんだ」
「前線拠点まで!!今すぐに!!」
「任せときな!」
親切なヴォーパルバニーさんが扉を開いてくれた。
「ありがとうございます!!!!」
お礼を一つ残して現れた扉に駆けこむ。
その扉の向こうの景色は。
何もなかった。
一面の更地。前線拠点の大きなお城もない。樹海も半分以上消し飛んでしまっている。ただ広がっている地面。
「……うそ」
そして、当然、いない。
いるはずの人たちがいない。
プレイヤーはみんなリスポーンしたのだろう。
だけど、
シークルゥさんも。ノワルリンドさんも。エムルさんもディアレさんも聖女さんも
みんな、みんな。
「うそだよ、こんなの」
これだけの広範囲を更地にしたジークヴルムさんの自爆。それを耐えられるNPCなんてきっといない。……そして、死んだNPCは復活することはない。
考えてみれば簡単なことだ。
ーーー私が、逆鱗をちゃんと穿ってさえいれば。
「そんな……」
やだ!やだ!!
まだ探せばだれか生きてるかもしれない!
もしかしたらあの自爆から逃れる魔法を持っている種族がいたかもしれない!
聖女さんのすごい魔法で生き残った人たちがいるかもしれない!
もしかしたら!
もしかしたら!!!
あるかもわからない最後の手掛かりを探してひたすら走りまわる。既に視界は涙に歪んでいて何も見えないけれど。それでも走らずにはいられなくて。
そして走り続けて、一つの人影を見つけた。
「ーーッ!!」
生きてる!!生きてる人がいる!!
走り寄る。そして見えてきた
「……秋津茜?」
「………サン……ラク…さん、でしたか」
鳥男が振り返ってみれば、見覚えのある覆面、見覚えのある刻傷。その姿は間違いなくサンラクさんの物だった。
「サンラクさん、NPCのみなさんは……」
「……見つからなかった」
「そんな……私が…私が…」
一度止まった涙が、再び溢れ出してくる。
「秋津茜、お前が責任を感じる必要なんてない。そもそも、あの極限状態の中で一度きりのチャンスで警戒されている中たった一枚の鱗に攻撃しなきゃいけないなんてどんなクソゲーだって話だ。誰もお前を責めないし、実際に、お前のせいじゃない」
…だから、気にすんな。
サンラクさんはそう言う。でも、シークルゥさんやノワルリンドさんともう会えないというのはまぎれもない事実で。サンラクさんだってエムルさんともう二度と会えなくなって辛いはずなのに。それを気にせずに遊び続けろと!そう言うんですか!?
私は、サンラクさんほど強くない。
サンラクさんは私よりもずっとゲームがうまくて、
サンラクさんは私よりもずっと経験豊富で、
サンラクさんはきっと私よりもずっと傷を負い慣れている。
……私には、そこまでの強さはない。
「…………サンラクさん」
「ん?」
自分の中に感じたことのない怒りを感じる。こんなにも弱い自分に。サンラクさんに
「……なんで、なんとかしてくれなかったんですか」
「サンラクさんなら何とか出来たんじゃないんですか!?リュカオーンさんも、クターニッドさんも倒してくれたじゃないですか!!ウェザエモンさんも倒せたんですよね!!なんで!!ジークヴルムさんも倒してくれないんですか!!!」
「私だって頑張ったんです!!それでも!無理だったんですよ私には!!そんな私なんかを信じたせいで!!皆さんが……ッ!!」
言って、ハッとした。今、自分が何を口走ったのかを。
……もう、わたし、だめだ。
「すいませんでした……失礼します」
指は、迷いなくログアウトボタンへと伸びた。
「…………ぅっ……」
涙が、止まらない。
結局、私が勝手に理想の主人公像をサンラクさんに押し付けて、その責任を押し付けようとして、ひとりで逃げ帰ってきただけなんだ。
あれだけのNPCの命は私の肩には重すぎて。そこから逃れる言い訳にサンラクさんはきっと都合がよかったんだ。
……それなのに。
まだ心のどこかでサンラクさんが今の状況を何とかしてくれるって思いこんでる私がいる。
もうどうしようもないことだけはわかり切っているのに。もう戦いはとっくのとうに終わってしまっているのに。
そんな自分が、たまらなく大嫌いだ。
でも、本当にもしかしたら、
強くて、かっこよくて、ずっと私の前を走ってくれる貴方なら。
「……あぁ」
そういう事か。だから私はサンラクさんにこうも期待してしまっていて。まるで少女漫画の主人公のように、どうしようもない状況からサンラクさんに救ってもらいたくて。
「……どうしましょう、サンラクさん。どうやら、私はサンラクさんのことが好きみたいです」
だから、どうか私のことを救わないでください。
もう、私は『
感想をお待ちしています
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夢の中にいた少女の場合
何が起こったのかは自分でもよくわからなかった。
いや、言ってしまえば簡単で。幸せな夢を見て、楽しい夢に浸っていた。そんな私が、ただ夢から覚めて、現実を見せられた。それだけ。
ただいつも通りだったゲーム中。
でもテンションはやたら高かった気がする。
そのテンションに身を任せて、私は何を口走ったんだっけ?
細かい事は何も覚えていないけど確かなことが一つ。
気がついたら私はカッツォのヤツに告白していて、
……気がついたらフラれていた。
「……わっけわかんない、私」
カッツォの事が好きだった。
きっとそれは紛れもない事実で。
その気持ちを自覚したのは本当に最近だったのだけれど、きっと私は長い間無自覚に彼のことを想い続けてきたのだろう。今思えば、きっと私のそんな気持ちを私よりも鋭敏に察知していた鉛筆のヤツがよく私とカッツォが二人になるように計らっていてくれたと思う。
そんな彼との二人の時間がとてもとても楽しくて。
私は自分の気持ちを自覚した。
彼氏というコンテンツには何ら興味ない。それが私のスタンスではあったけれど、そんな彼氏彼女というガワをかぶってもっとカッツォといられるのであれば、きっとその方が楽しいからなんて自分の中で結論を勝手に出して。
そんなその場だけの昂ったテンションで告白をして、フラれた。あっけなく。
受け入れてもらえる確信なんて当然なかった。でも、なぜかフラれる光景は全く想像してなかった。自信があったわけじゃない。ただ考えなしだっただけ。そんなバカの顛末なんて、当然一つ。
『え……ごめん、流石にお前のことはそういう目では見れないな……』
そのカッツォ言葉が、ずっと頭から離れない。
「もう……なんで……」
部屋の中で一人落ち着くと、さっきまでは微塵も出なかった涙が、ポロポロとこぼれ始める。暗い部屋に一人きりで誰にも見られていないのはわかっているけれど、なんとなく私らしくもない泣き顔をしてるのが恥ずかしくなって、膝に顔を埋めた。
なんでフラれたか、そんなことは分かり切っている。永遠とつるんでいて色目で見ないような奴だ。あの永遠を。そんなやつを私が落とせるわけがないんだ。
恋は盲目なんて言って、周囲のことを全く見ずに恋に全力を注ぐようなヒロインはたくさんいるけれど、私の場合見えなくなっていたのは自分自身。やっぱり人はそれぞれ『身の丈』っていうものがあるわけで。相手は日本の誇るトッププロゲーマー。そりゃ半分タレントみたいな仕事もしているアイツなら当然目も肥えてるだろうし、私なんか、私なんか……
現実っていうのはやはり残酷で。夢から覚めて冷静になった思考は夢の中で私が見ないですんだ、見ないようにしていた自分というものをむざむざと見せつけてくる。
…もう、勘弁してくれ。
その時、『ぴろん』って音が耳に届いた。顔を上げて涙を拭うと、携帯が通知を告げていた。手に取って確認すると、そのメッセージの送り主は……鉛筆戦士。
◇
鉛筆戦士:大丈夫?おねーさんがアフターケアに来てあげたゾ!
鉛筆戦士:それにしても思い切ったね~。まさかいきなり告白しちゃうなんて。私もカッツォくんに聞いた時は驚いちゃったよ。
鉛筆戦士:私にはそんな本気じゃないなんて言っていたけど、それでも直接フラれるとしんどいでしょ。ほら、しばらくはおねーさんがサンドバッグになってあげるから、気持ちを吐き出しちゃうといいよ。通話でもつなぐ?
◇
「……余計なお世話だよ。馬鹿」
通話は繋ぐ気にはなれなかった。
今鉛筆に泣きついたらきっと言っちゃいけないことまで言っちゃいそうで。だってアイツは私よりもずっとずっと女として魅力的で。それは私が手に入れようとすらしていなかった物だから。ないものねだりすらしようとしてこなかったものだから。
だから、私がここまでショックを受けていることは鉛筆のヤツに知られるわけにはいかなかった。
そもそも、何でここまでショックを受けているのかは私自身わかっていないんだ。確かに大事な初恋でこそあったけれど、私の好きはまだ『何となく』だったはずで、そんなに本気でもなかったはずで。たとえフラれても、本来ならけろっとその場で友達に戻れるような、そんな軽い恋のはずだったんだ。
だから、私は、大丈夫じゃないといけないんだよ。
◇
サンラク:だいじょぶ。ほっとけ。ばーか。
◇
そう軽いノリで返した指はいまだに震えていた。そう、大丈夫。大丈夫なはずなのに。
鉛筆には見栄を張ったが、やっぱり余裕はない。何度も『大丈夫』と自分に語りかけるたびに自分が全然大丈夫じゃないのを見せつけられるようで。何も考えたくない頭が冷静に自分を見つめなおすたびに、どんどん涙は溢れ出してくる。
さっきから頭の中で反芻しているのは当たり前のことばかり。それなのに、そのはずなのに。こんなにも苦しい。
「……こんなんで明日からどうすんのさ私」
アホみたいに明るくて快活なのが私の売りなんだから、いつまでも泣いているわけにはいかない。そう思って一つ大きな笑顔を作ってみる。
「ッ……」
だけど、明かりの消えた携帯端末の暗い画面に反射した私の顔はまだぐしゃぐしゃの泣き顔だった。
あぁ、わたし、だめだ。
「……ごめん」
明日から、本当なら今すぐVRに潜ったとしても、笑顔でもう一回
お前と話すことを考えるだけでこんなにも苦しくなってしまう。お前と顔を合わせることを考えただけでこんなにも顔が歪んでしまう。
だから、ごめん。
きっと私は私の思っている以上にお前のことが大好きすぎて。それが叶わないとわかっていても、いや、わかってしまったからこそ、少なくとも今の私ではまたお前と馬鹿笑いしながらゲームするなんてきっとできないから。
手の中にある携帯の電源をもう一度入れて、開いたのはいつも使ってるチャットアプリ。その『カッツォ』の名前をドラッグして……
「ごめん。ありがと。だいすき」
画面からその名前が消えたのを確認すると、やっと微笑みが一つこぼれた。
涙は、止まらなかった。
やっと書けまして満足です。
冷めて、覚めて、醒めてしまった頭でひたすらに回る自己嫌悪。そんな卑屈な感情もあうなって。
感想お待ちしています!!
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緋翼連理の場合
書くのはとても楽しかった。
放課後、クラスメイトが全員帰って僕一人が取り残された教室。既に日は傾いていて、窓からオレンジの夕陽が教室内に差し込み、窓際の花瓶に刺さる名前も分からない花を赤く照らしていた。
声を出す人はいない。ただ静まり返るなかで静寂に耳を傾けていると、コツ、コツ、と廊下の方から僕の居る教室に向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。
聞きなれた歩調の足音は妙に耳触りがよくて心地いい。そんな音に安らぎを覚えていると、彼女は扉の前に現れた。
「……」
「……」
「…ダメだった」
「…うん」
僕じゃなきゃ気づけないくらい小さく目元を歪ませた夏蓮が僕の方へ歩いてきて、ぽすっ、と僕の胸にその顔を埋める。僕はその頭に手を伸ばした。
……すべての始まりはただの噂話だった。
ちょっと離れたクラスにロボット系特撮オタがいる。特に戦隊ものの赤いロボに目がないらしい。しかもVRロボゲーに手を出そうとしている。そんなような話を僕たちは聞きつけた。『似たような人もいるもんだね』なんて話しながら流した。別に本人に話しかけて仲良くなるわけでもない。それでも、僕以外で夏蓮が共感を示せる相手は珍しかった。最近ハマったロボアニメ。最近手を出したロボゲー。そんな他愛のない彼に関する話を聞きながら表情を変えないながらも瞳の奥を輝かせた夏蓮は、次第に恋する乙女へと変わっていった。
そんな夏蓮が今日、告白をすると言った。放課後、校舎裏に彼を呼び出して。
その結果が、今流れている夏蓮の涙だ。
「……『俺らそんな仲よかったっけ』って言われた」
「…そっか」
元々感情の発露が少ない夏蓮。そんな夏蓮の初めての恋。当然積極的なアプローチなんてできるはずもなかった。夏蓮が彼と話したことあるのもほんの数回程度。確かにそれじゃあまり仲いいなんて言えないかもしれない。
「私のことよく知らないって」
「…そっか」
彼はクラス外でも割と人気者だったから他のクラスにまで話が流れてきた。だから僕たちは彼のことをそこそこ知ることができた。でも、結局それはこっちが一方的に知っているだけで、夏蓮が一方的に共感を示しているだけで。夏蓮が一方的に彼を慕ってしまっただけなんだ。
夏蓮は決して顔を上げようとしない。夏蓮の涙に濡れたシャツが胸元に張り付いてひやりとした。
「……葉」
「なに?」
「つらい」
「うん」
そのまま夏蓮の頭を撫で続ける。声を押し殺した様に泣く夏蓮は傍から見れば泣いているようには見えず、それこそ僕に体重を預けて眠っているようにすら見えるかもしれない。でも、僕のシャツを握りこんで時たま体を震わせる夏蓮の様子は、僕にだけダイレクトに伝わってくる。
「ねぇ、夏蓮」
「……」
夏蓮からの反応はない。
「夏蓮はさ、頑張ったじゃん」
「……」
「勇気出してさ、告白してさ、これで少なくとも気持ちは知ってもらえたんだからさ、これからじゃないの?」
「……」
「ほら、顔上げて」
夏蓮の顔に手を添えてそっと持ち上げる。
夏蓮の顔は既に涙でぐしゃぐしゃ。普段表情を崩さない夏蓮のここまでの泣き顔を見たのはいつぶりだろうか。その目尻に名溜まった涙をそっと親指で拭って微笑みかける。
「大丈夫。夏蓮はかわいいんだから」
「…うるさい」
もう一度夏蓮が僕の胸に顔を埋めた。僕も再び夏蓮の頭に手を乗せる。
「…夏蓮」
「ん」
愛しさが、溢れ出してくる。
僕は今まで、夏蓮の泣き顔なんて見たくないとずっと思ってきたけれど、こうして夏蓮が僕の胸の中で泣いていることが、意中の彼にすら隠した泣き顔をこうして僕に見せてくれていることが、たまらなく嬉しかった。
今まで、こんな感情は感じたことがなかった。いつも僕にとって頼れる姉のような夏蓮が一人の恋する乙女としてはあまりにも無力だった。普段僕の手を引っ張ってくれる夏蓮がこんなにも弱々しく泣いている。それだけの状況で、どうしても心が躍る。
「……一時間だけ時が戻ればいいのに」
そう一言呟いた夏蓮の言葉が静かに教室内に響く。その声色からうかがえるのは、大きな後悔。浮かれた恋心に身を任せて勇気と蛮勇を履き違えた事への後悔。そんなどうしようもない感情がひたすらにこもっていた。
「……そうだね」
もし、もしもだ。
もしこの結果を知ったまま本当に一時間時が戻ったとして、果たして僕はどうするのだろうか。これから起こることも知らずに浮かれ切った夏蓮に僕はなんと声をかけるのだろうか。
夏蓮、少し落ち着いた方がいいんじゃない?
まだ焦っちゃだめだよ。
夏蓮、彼よりも、僕じゃ………
ーーー頑張ってね、夏蓮。
うん。やっぱり、僕は夏蓮の背中を押してしまうんだろうな。
たとえそれで夏蓮が再びこうして涙で顔を濡らすことになっても。それで夏蓮が再びこのような後悔にさいなまれるのだとしても。きっと僕は夏蓮を笑顔で送り出してしまうだろう。
もう一度夏蓮がフラれて、こうして僕の胸の中で泣き出すことを期待しながら。
『僕は本当のところ夏蓮のことをどう思っているのだろうか』なんて野暮なことは考えない。そんなことは考えるまでもない。
たとえ君が僕を恋愛感情の籠った目で見ることがないということが分かってしまっていても、たとえ僕が座りたいと願った
僕はわかっている。
それでも夏蓮はちゃんと僕の傍に居てくれる。
今もこうやって僕だけの傍でその
だから僕は、君が本気なのであれば何度でもその恋を応援しよう。
それだけ僕は君のことが――その泣き顔さえも――大好きなんだ。
夏蓮は泣き止まない。
僕は夏蓮の頭を撫でる。
未だに沈まない夕陽は僕たち二人を朱く照らしていた。
多分近すぎて、ちょっとズレちゃっただけ。
そんな二人の関係に何かの可能性を見出した同士は一言感想を残してくれたら私がとても喜びます。
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