ハイスクールD×D 〜平成剣客浪漫譚〜 (シグナル!)
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第一章 旧校舎のディアボロス
第一幕 兵藤一誠


ファイズの方も終わってないのに…。
つい描きたくなってしまったので。
一応、一巻だけの予定です。


闇夜に浮かぶ月を眺めて、一人の少年は小さく息を漏らす。

かつての師匠に言われた言葉を不意に思い出していたから。

 

「師匠、今はまだ酒は飲めませんが…今日も美しい月が昇っていますよ」

 

言葉を切ると、少年は登っていた建物の屋根から勢いよく飛び降りて危なげも無く着地を決める。そのまま建物の中に入り、迷いなく進んでいく。

 

1分も経たないうちに少年の足が止まる。その視線の先に、自身の目的を見つけたのだ。

 

「貴様か、この街に入り込んだはぐれ悪魔は」

「…んぁ?なんだ、人間のガキか。全く、これから食事の時間だってのに」

 

少年の眼前にいたのは、3メートルは超える体躯を誇る大男。腕と足も大きくの太さも一般的なサイズを遥かに上回る。その顔はまさに悪魔の一言に尽きる。

そんな大男の足元には少年と同年代、若しくは少し年上の少女が気を失い倒れていた。しかし、目立った外傷もなく服装に乱れもない為に間に合ったことに安堵しつつ少年は視線を大男に戻す。

 

「彼女から離れろ、こちらも無駄な争いはしたくはない」

「そうかい。…が、悪いなぁ俺はこの娘を喰うのに忙しくてな」

 

大男はそう言って話を無理やり終えて、まずはと言わんばかりに少女の身体に手を伸ばした途端、その目に映していた少女が消えていた。

 

「…!?」

「すまないが、この子に心の傷も負わせたくはないのでな」

 

大男が振り返ると、先ほどの少年が大男の狙っていた少女を抱えこちらを睨んでいた。少年は壁際に少女を寄りかかる形で横たわらせてから再び、大男を睨み付ける。

 

「人間が…俺の愉しみを邪魔すんじゃねぇぇぇ!!!」

「お前の愉しみの為に…誰かの血も、涙も、流させる訳にはいかない」

 

少年は自身に向かって走り込んでくる大男を飛び越えるかのように力強く跳躍した。

 

建物内の窓から月明かりの光が差し込み、大男の視界を少年と光が包む。

突如、少年の手元から一本の線ーー否、刀が出現。

少年はその刀を槌を振るうかのように慣れた、それでいて鋭く振り下ろした。

 

 

 

その一撃が、大男の体を捉え、瞬く間に勝負は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイスクールD×D 〜平成剣客浪漫譚〜

 

第一幕 「兵藤一誠」

 

 

 

 

 

「おはよーっす!イッセー」

「たくっ、今日も朝から爽やかな面だなお前は!」

 

首都・東京から少し離れた地方都市、駒王町。都市圏からも然程遠くなく、穏やかな街並みが広がる街。その中心に位置する場所に建てられた駒王学園。その校門にて、三人の少年たちが肩を並べて歩いていた。

 

「まぁ、二人もいつも通りと変わらなく見えるが」

「言ってくれるなぁ、こいつー」

「やれやれ、松田!」

 

三人の真ん中で、イッセーと呼ばれた少年ーー兵藤一誠は、優男と評される顔立ちを軽く崩しながらも笑顔で応じる。

こうして、一誠のいつも通りの1日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

最後の授業が終わり、早々と帰宅しようとする一誠。

その隣にうっすらと、それでいてゆっくりと現れる二つの影。

無論、一誠もそれを把握しており、溜息混じりに帰り支度を一旦止める。

 

「何の様だ、二人共」

「何ってお前、決まってんだろ」

「ナンパだよ、ナンパ!!」

 

二人の少年ーー松田と元浜は、どこからともなくキメ顔で現れた。が、その顔には何故か腫れていたり、絆創膏が貼ってあったりと既に一悶着あった事が伺える。

 

「今日はどこの部室を覗いたんだ…」

「おう、今日は陸上部の…って、違えっ!」

「さっき二人して階段から転がり落ちたんだ」

 

どうやら二人の話では、女子の体について…巨乳派か貧乳派で争った挙句、二人の他にその話に参加していた何人かが怪我をする始末だったらしい。

その結果がナンパに至るのかは…。

 

「いつまで経っても論争じゃ、水平線だ」

「だったら、実際に女の子のを見て判断しようと言うことになった」

「………」

 

話の流れを切らぬ為にも口は挟まなかったが、返す言葉が見当たらない。少し頭痛がすると錯覚し始めた一誠。

 

「ちょっとアンタ達、エロ同盟に兵藤を加えたいのかしらー?」

「こ、この声は…」

「桐生愛華!!」

 

三人の間に割って入って来たのは、眼鏡をかけ、長い髪を二つの三つ編みに纏めた少女、桐生愛華。

クラス内でも目立つ人物の一人で、男子らのエロネタに正面からぶつかり合える数少ない戦士の一人。

 

「まぁ、確かにアンタらエロ同盟じゃ…うちのクラスや学校は勿論、他校の女子に声かけたら即通報もんだからねぇ〜」

 

サラリと掛けた言葉が鋭い刃となり、松田と元浜…エロ談義に花を咲かせていた男子達の心を真っ二つに切り裂く。

 

「ナンパなんて真似、兵藤がするならまだしも。アンタらじゃあ、ねぇ…?」

 

桐生を始めとしたクラスの女子達に可哀想な物を見る目で見られた男子(一誠は除く)はその場に倒れ込んだ。

これ幸いと苦笑いと共に一誠は男子達に挨拶をしてから、教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「兵藤君!」

「おろ?」

 

ふと、聞き覚えのある知り合いの声が聞こえた。ゆっくりと振り返る。そこには長い黒髪を一つに括り、汗拭き用のタオルを首にかけた剣道着を着た少女が。

 

「神谷さん、こんにちわ」

 

柔和な笑みと共に距離を詰めてくる神谷 咲(かみや えみ)。その近くには恐らくは休憩中だったのか同様の格好をした生徒達がちらほら。その中にいた男子達全員が一誠を射殺さんと敵意剥き出しの視線をぶつけてくる。

 

「う、うん。こんにちわ。今日は練習どうかな?」

「お誘いはありがとう。けれど、俺は…」

「ううん、気にしないで!こっちこそ無理言ってごめんね」

 

咲は、剣道で全国大会に勝ち進むほどの腕前。加えて、彼女のルックスの良さも相まって駒王学園や他校には「剣術小町」と称されている。そんな彼女が少し頬を染めながら、なんとか会話を終わらせまいと続けようとする姿が背後で見守る剣道部女子部員達にはもどかしく映る。

 

「それではまた。神谷さん、怪我をせずに気を付けてくださいね」

 

そう言って、一誠は今度こそ校門に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「咲、今日も…ダメだって?」

「うん。…この前は私が無理やり一方的だったからそのせいかも」

 

一誠に練習の誘いを断られた咲。

肩を落とす彼女を慰める様に肩を優しく撫でる女子部員達。

 

 

休憩時間が終わりを近づき、皆が練習場に戻ろうとする中で、ふと一人の女子部員が呟いた。

 

「それにしても、本当に信じられないわよね…あの兵藤君がメチャメチャ強いなんて」

「えぇ…。私も男の子にも負けないくらい強くなったつもりだったけど、彼はそんな程度の人じゃないわ」

 

咲は、静かに思い出した。一誠の強さを目の当たりにしたその日を。

 

一ヶ月ほど前、春休みの最中で剣道部は他校との練習試合を何回も行った中で剣道部としてある程度は名を知られる学校との練習試合での事。

 

『女の子相手じゃ、本気が出せないよ。竹刀は置いてさ一緒に遊ぼうよ』

 

咲に声をかけて来たのその学校のレギュラーは、咲本人のみならず、女子部員を貶める様な発言を繰り返した。

それに怒った咲が試合として、その男子生徒を含めたレギュラーを一人で五人抜きした。

 

それから数日後、部活動が休みの日に女子部員で近くのショッピングセンターに遊びに行った時のこと。

女子一人に負けたことが他校にも知れ渡り、その名を穢されたとしてその学校の剣道部員らが復讐と称して、咲達を襲おうとした。

その際、女子部員の一人が彼らの学校の部室に連れ込まれてしまい、咲は一人で助けに向かうが多勢に無勢だった。

咲やその女子部員が服を脱がされそうになった時、一誠が友人の男子と共に助けに現れた。

 

どうやらその友達と共にショッピングセンターに遊びに来ていたらしく、咲が一人で女子部員を助けに行ったと他の女子部員達から話を聞き、即座に駆けつけた。

 

その時、二人を助けた際に見せた一誠の戦う姿。咲には青天の霹靂としか言えなかった。

元々、一誠とはクラスメイトで言葉を交わすことも少なくない。穏やかなで優しい人柄は咲は勿論、クラスの女子にも好意的に見えた。

だからこそ驚かざるを得なかった。そんな彼の一騎当千が如き強さを見てしまったのだから。

 

気になる理由は、強さだけではない。

彼の笑顔を見るたびに、クラスメイトになって初めて会った筈なのに、何処かで会った事のある様な気にされる。

 

子供の頃から…ううん、もっともっと昔に。

 

ーーおろ?

 

「…うん、気のせいかしら」

 

一瞬聞こえた声を、そう結論付けてから咲は再び練習へと打ち込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま…母さん」

「あら、一誠。お帰りなさい」

 

自宅に着いた一誠は、母に静かな声で挨拶を。

朗らかな声と優しい笑みを浮かべる母に静かな笑みで答えて、一誠は自室に戻る。

 

 

『いつも通りの穏やかな1日って奴だったな、相棒』

「そうだな、今の世に血溜まりは似合わない。それでいいんだ」

 

何処からともなく聞こえた威厳ある声に、一誠は静かに応える。

頭をよぎるのは、いつからか見えている自身には覚えのない記憶。それでいて確かな記憶として一誠の記憶と魂に刻まれている。

 

倒れ伏すのは、血を流しながら刀を握りしめる侍と呼ばれた男達。

彼らはそれぞれの想いと正義の為に立ち上がり、その為に刀を手に取った。

 

その中で多くの者達が命を落とし、多くの人が人を殺した。

江戸幕府を倒さんと多くの者達の思いが入り乱れた時代ーー幕末。

その中で、伝説とされた男が居た。

 

長州派維新志士として新撰組、見廻組、幕府軍と戦った男の一人。

人斬り抜刀斎と呼ばれた男が、京都に血の雨を降らせ、数え切れないほどの血溜まりを作った男。

 

そんな男の人生と記憶が、いつからか頭に過ぎる様になった。

時に人斬りとして刀を振るい、時に流浪人(るろうに)として刀を振るった男。

 

「もう二度と血溜まりは作らせない。この剣と心を賭してでも」

 

誓いを立てる様に呟いた一言と共に、一誠の手に刀が現れる。

ゆっくりと鞘から抜いた刀は、普通の刀ではない。

刀の腹側に峰が来ており、人を斬る事は難しい。

 

その刀の名は、逆刃刀。

 

かつて、人斬り抜刀斎と呼ばれた男が人を斬る事を禁じてから振るった剣。

そして、兵藤一誠と彼の中に眠る赤龍帝により生み出された一本の刀。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜ん、こっちであってるのでしょうか…駒王町」

 

その日の夜、一人の少女…シスターが駒王町にやって来た。

彼女が来た事で、兵藤一誠が、そしてこの街に住まう者達の運命が少しずつ動き出そうとしていた…。




感想や評価のほど、お願いするでござる。
一応、剣心の言葉遣いは現代は難しいすぎるので、普通の敬語キャラにしました。でも、おろっという口癖は今でも出てしまうって感じです。


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第二幕 堕天使

今回も一話と同じくらい。
感想や評価お待ちしております。


「兵藤一誠君、す…好きです!私と付き合ってください!!」

 

駒王学園から少し離れた公園の中心。

そこにいるのは子供やその親たちではなく、二人の男女。

一人は高校生離れのスタイルを誇り、その顔は美少女といっていい。

もう一人は華奢な体、その顔は中性的で女装が似合いそう…とクラスメイトに言われる少年。

 

「おろっ…?」

 

そんな少年は、あまりの急展開に普段は言わないように気を付けている昔からの口癖があっさりと出てしまっていた。

 

話は、30分程前に遡るーー。

 

 

 

 

 

いつも通り授業を受けてから放課後。

帰ろうとする一誠は捕まえた松田と元浜を始めとした男子達に捕まった。

その理由は、この前行かずじまいになったナンパを決行するとの事。

クラスや隣のクラスの女子達の冷たい視線を受けながら一誠を先頭に男子達は勢いよく街中へと向かおうとした。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ…いきなりすぎて」

「うるせぇぇぇ!!!!俺たちが声かけても悲鳴をあげられるのがオチなんだよ!!」

「お前が声を掛ければナンパはほぼ成功するからなぁ…って言わせるな!」

 

松田達の魂胆はともかく、こうして気のおける友人らとバカ騒ぎをするのも悪くない。街に着いてから男子達もナンパをするよりも普通に遊ぶ方にフェードアウトさせれば…、などと強かな目論みを建てる一誠の視界に一人の少女が割り込んできた。

 

その少女が一誠達の前に立った途端、全員の足が止まった。

 

「あ、あの…貴方が兵藤一誠君ですか?」

 

頬を少し赤くして、恥ずかしさを内包させた柔らかな声は男子達全員の耳にしっかりと届く。

少女の視線の先は、松田や元浜といった少女の美貌に鼻の下を伸ばす男子…ではない。

ただ一人、この状況に違和感を感じている一誠だった。

 

 

 

それで話は今に戻る。

一旦、松田らと別れてから少し歩き、学園から少し離れた公園へ。

既に夕方で、日も落ちつつある為か周囲に人は居ない。

あまり人に聞かれたくはない類の話であるために一誠にとっても都合が良かった。

 

「それで…えぇと」

「天野、天野夕麻です」

 

名前も知らない少女のいきなりの告白に、些か取るべき態度が分からない。それとなく目の前の少女が名乗るように口火を切る。

 

「…天野さん、でいいですか。一応」

「は、はい」

 

想い人に名前を呼ばれ、僅かに上ずった声。

その一挙手一投足が思春期の男子には堪らない効果を齎す。

そう、ここで普通の男子高校生ならば堕ちていたかもしれない。それも性欲が盛んな人ほどあっさりと。

 

「あなたの本当の名前や目的を聞いてもいいですか」

 

そんな誘いを一蹴し、先ほどまでどういう態度を取るべきか悩んでいた者とは思えないほどの冷たく、覇気のある声が。

天野夕麻が見せる男の理想を詰め込んだような笑顔が止まった。

 

 

そこから、一変。

 

天野夕麻の手元から光で形作られた槍が出現。一誠に突き立てんと槍を構えた直後。彼女の手前にいた筈の一誠は、10メートル以上は距離を置いた位置に立っていた。

その顔は、先ほどまで見せていた笑顔ではなく、残忍さと妖艶さの混ざり合った悪女の笑み。

 

「へぇ、結構凄いじゃない…兵藤一誠君」

 

可愛らしい言葉遣いから、すこし粗暴な、野心を隠さない言葉遣いへ。

 

「俺の友人が、君の着ている制服を知っていた。そして…その学校に君が居ない事もな」

 

天野夕麻から声をかけられたか、松田と元浜が静かに呟いた声。

 

『おい、あんな可愛い子あの学校にいたのか!?』

『いや、居なかった筈だ。今年の新入生も含めて、美少女の噂は正規のルートを経て俺たちの元に来る筈。ましてあんな可愛い子が…』

 

二人からすれば、そんな子が一誠に突然告白するという事に目がいってしまっていたが、一誠にすれば違和感の塊でしかない。

 

「あら、低俗なオトモダチに救われて良かったじゃない」

「彼らはそれだけの人間ではない。大切な俺の友人達だ。それ以前に貴方の薄汚れた殺気が漏れてましたよ」

 

二人の会話以前に、一誠は最初から感じていた。

天野夕麻から向けられる視線、どこか嘘くさい言葉遣い、挙動。

その全てがかつて緋村剣心として生きてきた時からの積み上げられた経験に基づく直感に警鐘を鳴らす。

 

「もういいでしょう。さっさと仲間も出てきてください…堕天使さん」

 

その言葉にレイナーレは唖然とした表情を。

何秒かして、公園内から新たに三人の堕天使と一誠が呼んだ者達が。

 

 

 

 

堕天使。

神に使える天の使いでありながら、己の欲を優先したが為に白き翼は黒へ。天から堕ちた使い達をそう呼ぶ。

また、彼らと敵対する主な勢力としては悪魔と教会に与する者や神に使える者達。

 

そんな堕天使達の象徴ともいえる黒い翼を、一誠の前にいる四人は背中から広げていた。

 

 

「この街から今すぐ出て行くつもりは?」

「あるわけ無いじゃない」

 

一誠の質問に、嘲笑と共に応えるレイナーレ。

隣に立つ仲間達もケタケタと品のない笑みで、一誠を見下した態度を見せる。

 

「確かに、この街はグレモリーとシトリーの次期当主が住んでいるが、あの程度の小娘では我々の動きは止められまい」

 

ただ一人の堕天使の男が淡々と呟くが一誠は態度を崩さずに、堕天使達をその目に捉え続ける。

 

「私たちの計画の邪魔になるかもしれない、神器(セイクリッド・ギア)使いは人間の貴方だけ。多少腕に覚えがあるみたいだけど、人間風情が至高の堕天使となる私には勝てる筈がないわ」

 

レイナーレは、そう言ってジリジリと一誠へと距離を詰める。他の三人の堕天使達もそれに追随。四人とも手元から光の槍を出現させ、一誠に襲い掛からんとする。

 

「ドライグ、行くぞ」

 

小さく呟いた一誠を中心に突風が吹き荒れる。

突然の事に驚いた堕天使は詰めていた距離を戻す様に一斉に後退。

次に彼らが見たのは、先ほどまで持っていなかった筈の刀を構える一誠の姿。

 

「…怪我をしたくない者は、今すぐ下がれ」

「何を馬鹿な…ッ!」

 

堕天使の女、カラワーナの言葉はそこで途切れる。

驚いたレイナーレが、振り向くと意識を失いかけ、口元から血と涎を溢したカラワーナが。

どうやら、一誠の攻撃が腹部に命中したらしい。

 

「な、なんなのよ…」

「下がってください、レイナーレ様!!行くぞミッテルト!」

 

堕天使の男、ドーナシークは隣のレイナーレを背後に回る様に指示。そのまま残り一人の堕天使の少女と共に一誠に向かい突貫を仕掛ける。

 

「…がっ!!」

「きゃっ!!」

 

常人では捉え切ることなら不可能な速度で一誠に向かう。そのままの速度から繰り出される突きを一誠に見舞おうとするも、その動きを先読みしていた一誠が体を回転させた上での返し技を喰らう。

その後に続いたミッテルトは、すかさずカウンターの後の無謀である筈の一誠に攻撃を仕掛けようとするものの、今度は一誠の突撃が。

光の槍による刺突を狙うも、一誠の下から剣を掬い上げる形の一撃を見舞われてそのまま意識を失う。

 

「これで残りは、一人。貴方だけだ」

「…ま、待って!お願い!!」

 

既に意識を奪われた三人を見て、レイナーレは一誠に待ったをかける。その相貌は先ほどまでの余裕は一切見受けられない。

あまりの慌てぶりと焦りに、仕方なく足を止める一誠。

 

「こ、この街で厄介事は…貴方に被害が及ぶ様な事はしないわ!」

「つまり、俺以外の人が被害を被る…と」

「そ、そうよ!!つまり、貴方には関係の無い人間が…っっ!!」

 

厄介事を起こすと、暗に示唆されて一誠は即座に距離を詰めてからカラワーナ同様に柄での突きを鳩尾に叩き込む。

基本的な身体構造は、人間も堕天使も悪魔も天使も変わらない事を知っていた一誠の効率の良い攻撃はあっさりとレイナーレの意識を奪う。

 

なんの問題も無く、四人の堕天使を倒した一誠。

その直後、何かが割れる様な音がしてから何人かの一誠と同じ様な学生服を着た学生達が公園に。

 

 

「おーい!イッセー!!!」

「元士郎、それに会長達まで…」

 

顔を上げると、一誠には見知った友人と呼べる者がそこに居た。

一誠が通う駒王学園の生徒会役員の何名かと、ある意味生徒会と同等に校内では知れ渡っているオカルト研究部員らが。

彼らは駒王学園では多くの生徒に名を知られている者達ばかり。

ほぼ全員が容姿端麗であり、注目の的。オカルト研究部は男女問わずに入部希望者が殺到。生徒会役員にはファンが多い。

そんな彼女らの裏の顔は、実は人間ではなく悪魔であるという事。

一誠は彼らの正体を知りつつ、基本的には友好な関係にあった。

 

 

「どうやら無用な心配でしたね…」

「えぇ、そのようね」

 

倒れ伏す四人の堕天使を見て、既に事が済んでしまった事を生徒会長の支取蒼那ことソーナ・シトリーと、オカルト研究部部長のリアス・グレモリーは察する。

 

「校門前で騒いでる男子達に聞いたら、お前が見知らぬ女に呼び出されたって聞いてな。その後すぐに、この公園一帯に人除けの魔力が貼られた事に会長達が気づいてな」

「そうか、それでわざわざ」

 

一誠にきさ気さくな態度で声をかけた少年、匙元士郎と共に話を進める。一誠の様子を見て要らない心配ではあったが、友人に怪我がないのが一番と素直に喜ぶ。

 

「ごめんなさい、兵藤君。また貴方に迷惑を…」

「いえ、先輩が謝る必要は。それにあの堕天使達の今回の目的は俺個人のようです。ですが、まだ何か企みがあるようです」

「そうですか…。念の為、こちらも冥界に報告して調べるように要求します」

 

ソーナとリアスに後の事を任せ、意識を失った堕天使達の体を動かないように拘束しようと一誠が動こうとした途端、何かがこちらに向かって飛来。

 

「元士郎!!」

「あぁっ!!会長、後ろへ!」

 

咄嗟に近くにいたリアスの前に出て、匙も『主人』のソーナの前に出る。その他のメンバーも飛来した何かへの警戒をして、一旦距離を置く。

土煙が上がってから数秒、その向こうにいるのは人影と分かり一誠は再び手元に刀ーー逆刃刀を出現させ、構える。

 

「あらあら、この街の害虫どもがそう集合でござんすねぇ…!」

 

比較的若い声。土煙を割って出てきたのは、一誠や匙とそう変わらない年齢の少年。ただし、その目は冷たく残忍さを隠せてはおらず、狂気に満ちた声はこの場にいる者全員を戦慄させる。

 

「あら、堕天使さんたち全滅〜!?ちょ、いくらなんでも早過ぎでしょ…まだ計画の幕開けだってのに。ってお一人様だけ、人間がいるじゃんか」

 

神父のような格好に身を包んだ少年は、コメディアン染みた動きや言葉を見せる。その様子に何人かは気が緩みそうになりかける。

 

「何の様だ。…もし暴れるのであれば…」

「俺らが相手だ!」

 

逆刃刀を構えた一誠と、神器(セイクリッド・ギア)を顕現させた匙の二人が前に出る。

 

「まぁ、ここであんたらと殺るのも一興だけど。い・ま・は・っ!!」

 

上着の懐から閃光弾の様な物を取り出す。

眩過ぎる光に一誠たちの視覚が僅かに奪われる。

少年の狙いを即座に読んだ一誠は、そのまま少年に向かい突撃。匙は、自身の神器の力を発動しようとするも…。

 

「逃げたか…」

 

自身の誇る神速からの一撃を見舞っても空を切っただけ。その結果はあの少年が既にこの場からの撤退に成功した事を意味した。

 

「おい、イッセー!ヤバイぞ」

 

隣に立つ匙が指さした先には、先ほどまで自身の攻撃で意識を失っていた筈の四人の堕天使を達の姿が一切無かった。

 

「…最初から攻めるべきだったか」

 

結果として、彼らの言う厄介事を止める事に現時点では失敗したとしか言えない。レイナーレの発言からして、誰かが被害を被る事はほぼ確定と見ていい。

そんな一誠の呟きに応じる様に、少し冷たい風が一誠の頬を通り過ぎていった。




前書きにもありましたが、コメント…ください!!
励みや参考になりますので。評価のほどお待ちしてます。

匙君は、僕の中でお気に入りで皆様も何となく察してくださったと思います。

まだ一巻だけの予定なので、そのあとの展開等も浮かんでません!
なのに京都での修学旅行編だけはストーリーができてしまった…。


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第三幕 シスター

いつのまにかお気に入りが百人を超えていて驚きです。
あと一巻も佳境。
また感想や評価お待ちです。


「では、兵藤君。貴方は暫くの間リアス達と行動を共にしてもらう事で異論はありませんか?」

「…分かりました」

 

堕天使達とのイザコザの後。一誠はもう一度学園に戻り、オカルト研究部室に居た。

そこにはオカルト研究部員は勿論、生徒会役員全員が居て話し合いに参加していた。

その議題の中心に居るのは一誠であり何処かに居心地か悪かった。

 

「なら、オカルト研究部に仮入部という形で申請するわ。…それでいいかしら、ソーナ、兵藤君?」

 

部長であり、悪魔でもある部員達の主のリアスが確認を取る。二人ともそれに頷き、話は次の展開へ。

 

「一応聞くけど、兵藤君は悪魔に、私やソーナの眷属になる気はある?」

「いいえ、俺は遠慮します」

 

リアスの問いに即座に答えを返し、静かに目蓋を閉じる。その顔は、決して変わらない決意に満ちており、皆も何も言えない。

一誠が断った理由は自分の中にある力の事と振るう剣に基づいた決意があるからだった。

 

 

一誠の中に眠る力ーー伝説の赤い龍と呼ばれた赤龍帝ドライグ。

 

かつて起きた大戦争の折、神や天使や堕天使や悪魔といった者達の手により神器に封印された二匹のドラゴンの内の一体。

 

ドライグを宿した者は、その手に赤い龍の力を具現化した籠手を顕現する。しかし、今代の赤龍帝ーー兵藤一誠は、彼の中に存在するもう一つの記憶と魂、そして彼自身の強い意志で籠手ではなく、逆刃刀という形でドライグの力を顕現させていた。

 

また、一誠の振るう剣。飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)

一体多数の斬り合いを得意とする古流剣術。戦国時代に端を発する物。一誠が緋村剣心であった頃、当時幼い剣心に師匠の比古清十郎が伝授した。

その理は、時代の苦難から人々を守る為の剣。

またその剣の力は強大であり、とある勢力に加担すれば勝ちを引き寄せてしまいかねない丘の黒船とも呼べる代物。

故に何処の勢力にも属さない自由の剣として振るわれる物。

 

これらの理由から、一誠はリアスの誘いを断った。

 

「そう、その顔ではもう口説き落とすのは無理そうね」

「ご理解ありがとうございます」

 

小さく頭を下げて、一誠はそのまま部室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ、あの程度の連中なら相棒の飛天の剣だけ問題ないさ』

「あぁ。たが、あの少年もそういけばいいが」

 

リアス達と別れ、帰路に着く一誠。

先ほどのリアス達の話し合いを当然聞いていたドライグは、一誠のひいては己の存在を悟られるように行動すればいいと念を押していた。

 

前世を持った奇妙な相棒。

その実力は歴代の中でも屈指。禁手化(バランス・ブレイカー)と呼ばれる神器の最終形態に至らずに指折りの実力者に数えられる者はそうは居ない。

同時に、歴代の中で最も穏やかでドライグを信頼している。二人の絆と相性の良さは闘いに於いて有利に働く。

今まではライバルとのイザコザを終わらせる事ばかりを考えていた。

けれど兵藤一誠に宿り、彼のもう一つの記憶を見てからは彼と共に歩むのも悪くはない。そう思えるようになっていた。

 

『おい、相棒…見てみろ』

「どうした、ドライ…グ」

 

普通に歩いていた一誠はドライグの声に反応し、即座に指摘された方向に視線を向けるとそこには。

 

「ーーーーーーーーーーーー」

 

ライトグリーンの修道服の上に薄い白いベールを被るシスターが。

背丈の半分はあるのでは、と思われる大きなリュック。シスターの手には少し汚れた地図が握られていた。

 

「なんで、シスターがこんな所に」

『どうやらあのカラス共が関わってるかもしれんな。…どうする』

「…悩んでいても仕方がない、か」

 

ポケットから取り出した携帯を操作し、特定の人物へメールを送る。

携帯に送信完了と表示されるのを確認して、シスターへ近づく。

 

「きゃっ!?」

 

突然吹いた突風に、シスターの被るベールが風に飛ばされ宙へ。ヒラリヒラリと空中を舞うベールを起用にキャッチした一誠。

さらりと見せた高い身体能力に呆気を取られるシスター。

 

「これは、あなたのでしょう?」

「ーーーーーーーーーーっ!!」

 

ベールと大きいリュックに隠れて見えなかったシスターの容貌。

特徴としては、向日葵の様に明るいプランド。エメラルドを埋め込んだ様な大きな瞳。何処か加護欲を引き立てる可愛らしい顔立ち。

まぁつまり、かなりの美少女が一誠の前で、恐らくは感謝の言葉を述べていた。

 

「…しまった、英語かっ…」

「…??」

 

日本人離れの容姿から欧州系と分かったがいかんせん言葉が通用しない。

一誠は、真面目な性格もあり勉学は優秀と言えるが本場の外国人を相手に会話を成り立たせられるだけの語学力は持ち合わせてはいなかった。

相手のシスターも一誠に言葉が通じていない事を理解し、二人の会話が止まる。

 

『まぁ、そうなるだろうとは思ったが…。相棒少し待て』

 

ドライグの少し呆れた様な声が聞こえ、そのまま何秒か待機。

 

『いいぞ、相棒。好きに話せ』

「…ええっと、どうかしましたかシスターさん」

「は、はいっ!私のブーケを取って下さってありがとうございます」

 

ドライグの言葉に半信半疑ながらも取り敢えずは、と言葉をかける。シスターもいきなり通じた言葉に一瞬驚きながらも素直に感謝の言葉を述べる。

 

「あ、あの。実はこの町にある教会に今日から赴任する事になったのですが…道に迷ってしまって」

「教会…か」

 

シスターの言葉に、渋みを感じたい様に表情を濁す。

 

どうやら彼女は、もう悪魔が住んでいるはずのこの地に、10年近く前に神父も居なくなった筈の教会に赴任する事になっているらしい。

一誠の記憶が正しければ、確かに町の外れには一つ教会が存在する。

ただし、それは10年近く前に教会としての機能を失った筈だ。今では無人で人の寄り付かない場所でもある。

 

『相棒、当たりだな。…この娘は間違いなくあのカラス共と繋がっているぞ』

 

心中で、ドライグの言葉に同意しつつも。

目の前のシスターが、堕天使達の起こすつもりの厄介事ーー悪事に、加担する様には見えない。大きく見積もっても、彼等の下っ端程度の筈。

 

『あぁ、このシスターには殆ど警戒心もない。これで敵だとしたら大した女優だ。勲章物だぞ』

 

そう、ここまで隙だらけでは逆に何も言えない。仮にこの態度が演技だとしたら正に世紀の大女優になれるかもしれない。

 

「俺でなければ、その教会まで案内しますが…」

「いいんですか?」

「えぇ、とくに用事もないですし」

 

 

そうして一誠の先導で、町外れの教会に行く事になった。

一誠はシスターの背にあった大きなリュックを自分の背へ。シスターは遠慮するものの、同年代の女子が持つには重いだろうと言い、シスターも何回か御礼の言葉を述べる。

 

「自己紹介が遅れました。私はアーシア・アルジェントといいます」

「俺は、兵藤一誠です」

 

少し遅い自己紹介の後、二人は軽い会話を弾ませながらゆっくりと街を歩いていく。

十分程経った所で、一人の小学生が膝小僧から血を流して泣いていた。その姿を見て、即座にアーシアが駆け寄る。

 

「男の子ならこのくらいの怪我で泣いてはいけませんよ」

 

正に聖女の微笑み、と評したくなる優しい笑みで少年に声を掛けてから膝小僧の少し手前に手を添えると…。

 

「…神器…か」

『あぁ、それもかなり希少な回復系統の、な』

 

彼女の両手の中指に彼女の瞳と同じ光を放つ指輪が現れる。

ものの数秒で少年の擦り傷を癒した見せた。

すっかり治った膝小僧を見て、驚いた少年はそのまま立ち上がる。

 

「ありがとうお姉ちゃーん!!」

 

アーシアに笑顔付きのお礼を返して、ランドセルを揺らしながら走って帰っていった。

そんな少年の背中を見送ったアーシアは、とても嬉しそうな顔をしていおり、一誠はやはりそんな彼女が堕天使達の企てる悪事には加担しないだろうという考えを強めていた。

 

「…ごめんなさい、つい」

「不思議だけど優しい力ですね」

 

一誠は自分の素直な感想を述べる。受け取ったアーシアは、そんな言葉に照れた様に頰を赤く染める。

 

『全く、お前は甘い男だ。…その甘さがお前らしいと言えばそれまでなんだが』

 

ドライグの批評も受け流しながら、少し歩いた二人の前にはいよいよ協会が見えてきた。

 

「あそこの教会ですよね…アーシアさんの赴任先は」

「はい。それがどうかしましたか?」

「いや、あそこに人がいるの、見た記憶が殆ど無くて」

 

アーシアへ問いかけた言葉を、彼女は全く顔色を変えずあっさりと答えた。

 

「今度からは私の他にも神父様も赴任するみたいなんです」

「神父…様」

 

アーシアの声から出てきた単語が一つの記憶を呼び覚ます。

先ほどの堕天使との衝突の折、最後に現れた少年。

彼は名前こそ名乗らなかったが、その格好は正に神父のそれ。

同じ日に二人同時に神父が来るのだろうか。

否、その可能性は低い。

 

むしろあの少年こそがアーシアのいう神父だとしたら、あまりにも危険すぎる。

 

「それでイッセーさん。…もしよろしければ、教会に来ていただけないでしょうか?」

「いいんですか…?」

「はい、困った所を助けていただいたので御礼として是非」

「それではそうさせてもらいます」

 

一誠は、小さく覚悟を決めて警戒を解かない様に教会への道を歩いていったーー

 

 

 

 

 

 

「こちらです、イッセーさん」

 

町外れの山の中、そこに教会はあった。

教会を指差して、少し浮き足立つアーシアは一誠よりも早く扉の前に立っていた。

少し遅れてやって来た一誠が隣に立ったのを確認して、アーシアが扉を開けようと力を込めた途端の事。

 

「おや、ようやく着いたのですねシスター・アルジェント」

 

突如扉が開き、中からは少し痩せかけてはいるが穏やかな顔つきの神父が。年の功は、一切の両親と同い年程度と見えた。

 

「は、はい!今日からお願いします!」

 

アーシアも現れた神父に対して、頭を下げて対応。アーシアに対して何か小さく呟いた神父。角度の問題もあり何を言ってるのかは聞き取れない。

 

「おや、そちらの方は…」

「こちらは道に迷った所を助けて下さった兵藤一誠さんです」

「それはそれは…。ですが申し訳ありません、今この教会は久方振りに人が居るような状態。とても客人をお招きできる状態ではありません。本当に心苦しいのですが…また後日、足を運んでもらえれば助かります」

 

神父の言葉に食って掛かる訳にもいかず、一誠はこの場では下がるという選択を選ばざるを得ない。

隣にアーシアがいるタイミングで事を荒立てたくもなかった。

 

「そうですか。ではまた…失礼します」

 

素直に帰ろうと教会に背を向ける一誠にアーシアの声が届いた。

 

「イッセーさん、また来てくださいね」

「勿論」

 

彼女の笑みに応えるように、一誠も笑みを返す。神父が扉を閉めるその直前。先程までの穏やかな顔では無く、何処か下卑た笑みを漏らしたその一瞬を見逃さなかった。

喉に魚の骨が刺さった様な感覚のまま、一誠は帰路につくしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一誠は寝ずに知らせを待っていた。

自室のベットの上で、ドライグへと呟く様に問いかける。

 

「どう思う、ドライグ。…あの神父や教会は」

『現時点では、限りなく黒に近い…としか言えないな』

 

あの神父の一瞬の笑み、堕天使達の企み、謎の少年神父。

その全ての中心に、アーシアが座している様に思える。

 

彼等の目的を探る為にも、一誠は堕天使達との僅かな会話を思い出す。

 

 

『至高の堕天使となる私に勝てる筈がないわ』

『こ、この街で厄介事は…貴方に被害が及ぶ様な事はしないわ!』

『そ、そうよ!!つまり、貴方には関係の無い人間が…っっ!!』

 

レイナーレは何かをする事で至高の堕天使になろうとしていた。

 

この街で奇妙な事や事件をこの街に住う人相手に起こせば、一誠の耳に入った途端に動きかねない。

 

あの場合の言い方では、この街に縁のない人間に対する物。

 

 

三つ言葉の裏が、一本の線となり繋がった。

 

「くそっ、やはり狙いはアーシアさんか!」

『だとしても目的はなんだ、あのシスターには…何も』

「そう、確かに彼女には戦う力はない。けれど、それ以上に癒しの力がある。それが奴らの狙いだとしたら、彼女が危険だ」

 

神器、セイクリッド・ギア。神が人間にのみ与えた超常を引き起こせる能力。その力は多岐に渡り、様々な形の物がある。中には一誠の様に神をも滅ぼせる力を持った神滅具(ロンギヌス)を宿した者もいる。

けれど、その多くは攻撃に用いられる。一方で回復の力を持つ神器はそうは無い。

 

『そういう事ならば、連中の狙いは簡単だ』

「どういう意味だ、ドライグ」

 

少し躊躇ったドライグに疑問を抱きつつも、その言葉の続きを静かに待つ一誠は、息を飲む。

 

『あの娘から神器のみを抜き出す。そうすれば、あの癒しの力はカラスにも使える様になる』

「そうなのか…。それで、神器を抜かれたらアーシアさんは」

『死ぬ。神器はその人間の魂に直結してるからな。それを抜かれれば例外なく全員が、命を落とすことになる』

 

歯軋りを部屋に響かせ、急いで家を飛び出そうと上着を羽織る一誠に一通の連絡が。

急いで内容を確認すると、そこには一誠の決意を更に早める事実が。

 

『あの町外れの教会に天使側が神父もシスターも送り出した記録はなし。今あの教会にいる者は全て堕天使の息のかかった者達』

 

リアスからのメール。

アーシアと出会った際に町外れの教会の状態を調べる様に頼んでおいたのが功を奏し、ここに来て一誠に迷いはない。

けれど、ここで一つの疑問もあったがひとまずそれを、頭の隅に置いてから家を飛び出す。

 

 

「ドライグっ!!」

『あぁ!!いくぞ、相棒っ!』

『Boost!』

 

家を飛び出し逆刃刀を顕現させて、ドライグの本来の力の一つを発動。

持ち主の力を倍化。

常人以上の身体能力を持つ一誠の力をさらに高めるべく、刀が強く光る。

 

『Explosion!!』

 

倍化された力を一旦解放。

一回のパワーアップにつき、十秒の時間が掛かる為に今回は二倍で完了。

高められた力は身体能力となって、解放される!

 

 

 

 

正に飛天の様に街を駆け抜ける一誠を一匹の猫と、蝙蝠が見つめていた。

 

 

 

 

 

『あと十秒で教会だ』

「あぁ、分かってる!」

 

夜の街を屋根伝いに駆ける一誠。その速度は、一般人には風が通り過ぎていった様にしか感じない。

目標の教会を視界に捉えた途端、その教会のある方向から光の槍が向かってくる。その数は、一つや二つではない。

 

「やはり、来たか小僧…」

「さっきは悪かったねぇ、人間」

「悪いっすけど、今度は本気で殺るんで」

 

レイナーレを除いた堕天使三人が、両手に光の槍を握りしめて空を浮遊して一誠を睨む。

その三人を前にしても一切怯むことのない眼光。むしろ、彼等という敵を前にして、その強さは増す一方。

 

「悪いがゆるりと会話と洒落込んでいる暇はない。そこを退く気がないのであれば…」

 

「私達が、相手をするわ」

 

突如聞こえた声。

振り返ると、そこにいたのは…。

 

「全く、本当に一人で堕天使達に挑もうとするなんて」

「えぇ。匙の忠告を聞いておいて正解でしたね」

「それでも、まさかシスターさんの為にここまでするなんて」

 

展開された魔法陣により現れたリアス、ソーナ、そしてオカルト研究部の副部長の姫島朱乃の三人だった。




剣心ならこれくらい読めるのかなって感じです。
一応最初は、一人でアーシアを助け出す予定でしたが、それでは間に合わないかも…ってなったので結局みんなで助けます。

感想や評価をお待ちしてます。


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第四幕 月夜の決戦

今回が一番長い…。
感想や評価をお待ちしております、出来れば一巻の評価次第で二巻も続けたいと思うので…。


「か、会長さん…部長さん達も」

 

現れたリアス、ソーナ、朱乃の三人は一誠の前に立ちながら宙に滞空する堕天使達を睨み付ける。

 

「兵藤君、ここは私達が引き受けるわ」

「匙や木場くん達は教会側に先回りしてます」

「さぁ、早く」

 

願ってもない援軍。アーシアの身を考えればここで時間を喰うのも得策ではない。

 

「感謝しますっ!」

 

感謝と共に三人の横を通り過ぎ、そのまま教会のある山へ突入。

加速するその背中に向けて堕天使達が光の槍を投擲。

当然一誠も、それを感知し逆刃刀で叩き斬ろうと剣を構える。

 

 

「随分と無粋じゃないの?王子様の邪魔をするなんて」

 

掌から赤黒い魔力を射出したリアスが、堕天使達の驚く顔を他所に睨み付ける。

その様子を遠目から確認し、今一度感謝の言葉を心中で述べながら一誠は三度教会に向けて駆け始める。

 

 

 

 

 

「おーい、イッセー!」

 

教会を前にして、後ろから聴き慣れた声がした。

振り向くとこちらへ走ってくる匙。その他にはオカルト研究部の部員の残り二人も居る。

 

「木場君、塔城さんまで」

 

こちらへ駆けてくる三人。その顔は強い決意を示している。これ以上の言葉を押し留めて一誠は三人と向き合う。

 

「んで、例のシスターさんはあそこに?」

「あぁ、その筈だ。…いいのか、三人とも」

 

確認する様な一誠の言葉に三人は迷う様子もなく首を縦に振る。

 

「それじゃあ、まぁ…行きますかっ!」

 

匙の力強い言葉に皆が応っ!と力強く答えた。

 

 

 

 

 

同時刻。

アーシアは、教会の奥にある狭い一室の中に居た。

ベッドの上で薄い生地の寝巻きに身を包み、その日出会えた同い年の少年の事を思い出しては表情を崩していた。

 

「イッセー、さん。また会いたいです」

 

アーシアにとって突然現れた少年と語り合えた時間は短いが、友達と共に時間を過ごすという夢に少しだけ近づけた様な気がした。

今日は此方の都合で彼は帰ってしまったが、また後日来てくれると言ってくれた。だから、だからきっと…。

 

「シスター・アルジェント、ちょっと宜しいかな」

 

部屋へのノックと共に聞こえたのはこの教会に赴任されたとされる神父の声。

 

「はい、どうぞ!」

 

姿勢を正し、少し乱れた髪を解かしてから返事を返す。

少ししてから神父が部屋に入ってくる。既に空には月が昇り、その光は窓を通して部屋に差し込む。照明の無いアーシアの部屋で神父の影が彼女の足元まで伸びている。

何も語るわけでも無く、ただアーシアとの距離を詰めてくる神父。

 

「あ、あの…」

「明日から、我々のこの地での仕事が始まる。…堕天使様たちと共に」

「はい…、分かっています」

 

堕天使達との仕事、その言葉にアーシアの顔は少し淀み、苦しそうな表情へ。

この事実は、アーシアに既に自分は以前とは異なる環境に身を置いてる事を痛感させる。

 

「そ、それでも悪魔に憑かれてしまった方々をお救いすることが…っ」

 

言葉を紡ごうとするアーシアの肩を神父が勢いよく掴む。その痛みに言葉が詰まり、後ろに倒れそうになる。

 

「き、君はもう、堕ちた身。もう君を私のモノにしても問題はないんだ」

「な、何を…や、やめてください!」

 

肩を掴んでいた手で、アーシアの薄い寝巻きを引き裂いた。

露わになった肌を神父から隠す為に自分の腕で体を抱きしめる。

 

「ずっと君を見ていた。…あの時、君に傷を癒してもらった時から」

 

静かに過去を振り返る男は、かつて自分を癒したアーシアへの異様なまでの偏愛を繰り返しながら語り出す。

その異様な様子にアーシアも恐怖を感じ、逃げ出そうとするも体を恐怖が絡め取り動けない。

 

「レイナーレ様が儀式を完成させる前に…君を、僕の手で!!」

 

アーシアの体を抱きしめながらベットへ押し倒す。

突如近くなる二人の距離。アーシアの瞳からは、涙が溢れて頬を伝ってシーツを濡らす。

そんなアーシアに男は満足した様。そのままアーシアの髪を、掴みながら自身の唇をアーシアのそれに重ねようと顔を近づけた時。

 

「それ以上、彼女に触れるな」

 

突然聞こえた怒りの篭った怒号。

神父もアーシアも揃って声の主を見つめる。

 

「イッセー、さん?」

 

逆刃刀を鋭く振るい、神父も壁ごと外へと吹き飛ばした少年を。

今日初めて出会った少年の名前を小さく呟く。

 

「遅くなってすみませんでした。アーシアさん」

 

一誠の差し伸べた手をアーシアは恐る恐る掴み、彼女はゆっくりと立ち上がった。月明かりに照らされたアーシアと一誠は、何処か絵画じみた光景。

 

「ごめんなさい、詳しい説明は後で…今はここから逃げましょう」

 

肌が露わになってしまっているアーシアに着ていた上着を着せて、彼女を横抱き…お姫様抱っこをして部屋を出る。

 

「…ごめんなさい、もう少し早く来れば。…やはり最初に倒しておくべきだった」

「また、助けてくれてありがとうございます」

 

小さく笑うアーシアの笑顔に、渋い顔で答える。

抱えた彼女の体から小さな震えを感じたから。

自分の体よりも遥かに大きい男に襲われたのだ、恐怖を感じない訳がない。

それから間もなく二人は、廊下から大きな扉を開けて、聖堂へ。

 

「よし、間に合ったみたいだな!じゃあ木場、搭城さん、退散だ!」

 

聖堂に着き、作られた地下通路から出てきたエクソシスト達と闘う匙達を確認。

匙達もアーシアを抱える一誠を確認して残りの二人にも一旦退く様に指示を。

四人が教会を飛び出して、エクソシスト達を振り切るのに五分も掛からなかった。

 

 

「取り敢えず、敵は撒けたようだな」

 

山の中を駆けた一誠は取り敢えず抱えていたアーシアを下ろす。他の三人もそれに伴い立ち止まる。

 

「シスターさんも無事なようですね」

 

オカルト研究部の部員の一人、搭城小猫。白い髪に、小柄な体格。中学生や小学生にも間違えられそうな顔立ちも相まっている為か、その辺のファンが学園にも多い。

 

「取り敢えず、作戦は成功だね」

 

金髪に白人を思わせる肌と整った顔立ちの少年、木場祐斗。彼もまた小猫と一緒でオカルト研究部の部員の一人で、リアスの眷属の一人。

周囲の気配を警戒し、エクソシスト達が周囲に居ないことを確認。

 

「了解です、会長。……外にいた堕天使達は、会長達が倒したらしい」

 

齎された情報は敵の戦力の殆どを削った事を示していた。祐斗や小猫も一安心といった様子。

そんな中で、一誠はまだ一つの不安点が。

 

「まだレイナーレと、あのエクソシスト達が居る。…それにあの神父服を着た少年も残っている」

「そうだな。さっさとケリをつけますか」

 

一誠は、アーシアに視線を向けてから幾分か表情を和らげてから静かに言葉を伝える。

 

「アーシアさんは、搭城さんと共に早く安全な場所へ」

「イッセーさんは、どうするのですか?」

「まだここに残らなければならないので、必ず後から追いつきます」

 

小猫に対し、頼みますとアーシアを託す。小猫は、まだここに残り闘う気概ではあるが震えるアーシアの体と一誠の上着から僅かに見える引き裂かれた上着を見て、事情をある程度察する。今のアーシアには同性の自分が付き添うのがベストと判断した一誠の判断に同意。その作戦に乗る事にした。

 

「行きましょう…私に掴まっていてください」

「は、はい!」

 

小猫も、先程の一誠同様にアーシアを横抱きで抱えてから山を下りる。その目的は駒王学園。

そこに行けば、リアス達や生徒会役員の面々と合流出来る。

 

「気を付けてくださいね、先輩達…っ」

 

山に残った三人に小さなエールを送りながら、アーシアを守る決意を固めながら小猫は学園を目指した。

 

 

 

 

 

 

「搭城さんとシスターさんは、学園についた頃かな」

「だろうね。部長や会長達がいてくれてる。大丈夫さ」

 

一誠を安心させるような言葉に、小さな笑みで感謝を伝える。

同時にこちらに向けて駆けてくる面々の存在を感じ取る。臨戦態勢へ。

 

「兵藤一誠ぇぇぇぇ!!よくも、よくも、わたしの計画を壊してくれたわね。…いいわ、お前たちあの人間と二匹の下級悪魔を殺してしまえ!!」

 

百以上はいるであろう堕天使の庇護下にあるはぐれエクソシスト達。その一人一人が悪魔狩りのプロである。そんな彼らはあまりの残虐性に教会に追われ、神の信徒とは思えない風貌をしている。

そんな者達が、勢いよく山を駆けて三人に向かってくる。

 

「行けるか二人とも」

「勿論さ、魔剣創造(ソード・バース)っっ!!」

「あぁ、久しぶりに暴れてやるぜぇ!!!行くぜ、ラインよっ!!」

 

逆刃刀を構えた一誠。

その隣では、己の神器を顕現させる匙と祐斗。

 

 

月が昇る夜の中、三人ははぐれエクソシスト達に向かって突撃していったーー

 

 

 

 

 

 

戦車(ルーク)にプロモーション!!」

 

匙の体にある異なる種族を悪魔へと転生させる悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の一つ、兵士(ポーン)の特徴を解放。

主人が敵地と認めた場所でなら、他の駒へと昇格できる。

その特徴をもって、高い攻撃力と耐久力を有する戦車(ルーク)へ。

 

「おらぉ!!」

「こぶっ!」「ぎゃぁ!!」

 

全力で振りかぶった拳は近くのはぐれエクソシストを捉え、その体を吹き飛ばす。余波により、周囲の者達も同様に体を吹き飛ばされる。

元々、不良で他校との揉め事も絶えない過去を持つということもあり喧嘩慣れした動きを見せる。美しさではなく、粗野な動きではあるが相手を倒すという事には適した動き。

 

「逃すかよ!!」

 

匙の右手首に取り付けられている神器、黒い龍脈(アブソーション・ライン)の先端部分から一本のラインを射出し、山を下りて街へ向かおうとするはぐれエクソシスト達を拘束。

 

「おらぁぁ!!!」

 

ラインを力強く引っ張り、はぐれエクソシスト達をぐるぐる巻きの要領で拘

束。そこから、全力疾走で助走をつけてからのドロップキック。

一つに纏められ拘束されたエクソシスト達をそのままノックアウト。

ラインをそのまま出したままで、塊となり動くエクソシスト達の元へ戻る。

 

「木場ッ!」

 

スピードを生かした斬撃を得意とする裕斗の周囲を囲むエクソシスト達の一人を殴り飛ばして、彼と合流。

互いに背中を合わせ、再び乱戦へと縺れ込ませる。

 

「でっかい剣を、一つ頼む!!」

 

エクソシスト達の怒号と呻き声の中で、匙は叫んだ。裕斗もその言葉に応じる様に神器、魔剣創造の力でおよそ自分では扱いきれない長さと重さを誇る剣を創造し、匙へ託す。

 

魔剣創造。所有者の頭の中でイメージされ魔剣を作り出す神器。

 

裕斗の力で作られた巨大な剣を、戦車の力を持って振り回す。

匙は周囲のエクソシストらに不敵の笑みを見せる。

 

「おらおら、怪我したくなきゃ…さっさと降参しろー!!」

「すごい使い方…でも、面白いっ!」

 

自分の近くで、巨大な剣を力の限り振り回してエクソシストと戦う匙に苦笑しながらも裕斗も悪魔にとっては猛毒でもある光の剣を受け止める。その体勢のまま、軽く力を抜き均衡を崩す。

崩れたバランスにエクソシストが慌てるその隙を狙い澄まし、一撃を。

 

「兵藤君は…っ!」

 

一人、堕天使レイナーレに向かう一誠を捉えてその状況に目を疑う。

戦闘開始から十分で自分と匙でおおよその半分を倒したとみていたが、既に一誠は半数を倒していた。

残るのは自分たちの周囲にいるエクソシスト達とレイナーレ。

 

「ま、まずいんじゃないか…」

 

はぐれエクソシスト達にも全滅の文字が見え隠れし、動揺する者もいる。その隙を逃さない裕斗と匙により逃げられないのが実情だ。

そこから数分足らずで、百を超えるはぐれエクソシスト達は全員地面に倒れ伏す事になる。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんなの…なんなのよ!あんた!」

 

レイナーレは、目の前の光景に正に度肝を抜かれていた。

今回の計画のために集めた百人以上のはぐれエクソシスト達。一人一人が腕に覚えのある者達ばかり。

そんな連中がたった三人になす術もなく破れていった。加えて一人は、神器持ちとはいえ人間。

 

「兵藤一誠だ」

 

二匹の下僕悪魔も強いと言えるが、この三人の中で別格なのは真ん中に立つ人間。瞬く間にエクソシスト達を沈め、その速さは堕天使でもあるレイナーレの目にも捉えきれなかった。

 

「お前の計画は…ここで終わりだ」

 

癒しの神器を持つアーシアから神器を抜き取り、自らの物にする計画を眼前の人間に破綻させられた。

 

「ふ、ふざけないで!!この為にわたしは…私は!……ッ、フリードォォ、来なさい!!早くしなさい!!」

「全くうるさいったらありゃしないねぇ…堕天使の姉さん」

 

まるで今までの動向を見計らっていたかの様に森の奥から…ゆらりとした足取りで神父服の少年がやってくる。

 

「来たか」

 

戦いに対する喚起、殺しへの快楽、神という存在への怒り。

あらゆる方面での独立している筈の感情を溢れ出し、この世界にぶつけてたがっている。

そんな表現が出来る親父服の少年ーーフリード・セルゼン。

 

「いやぁ、まさかアーシアちゃん一人の為にここまで大立ち回りを演じてくれちゃうなんて、流石の俺っちも読めなかったでござんす」

 

コートの内ポケットからピストルを取り出して、鋭く研ぎ澄まされた脇差程度の短剣を取り出す。

ピストルを片手で弄びながら、短剣を正面に構える。

 

「けどまぁ、…一応、今回のカタはつけさせてもらいます…わっ!」

「な、何を!?」

 

そう言うが速いか、フリードはピストルの銃口を一誠ではなくレイナーレに向けると即座に引き金を引き、銃弾を放った。

 

「止めろ!!」

 

一発目の弾丸をを放ったタイミングで、一誠はフリードを止めるべく前に足を出す。一足目で自身の間合いにフリードを入れる。逆刃刀を鞘から抜き放ち、横薙ぎの一撃目を振るう。

 

「何の真似ですかい…人間君」

「それはこちらの台詞だ。…何故こんな真似を」

 

危なげもなく一誠の一撃を短剣で受け止めつつ、鬩ぎ合う。鍔迫り合いにより火花が散り、一誠が力を込めて押し切る。

フリードも後退し、一旦距離を置く。

 

「いやぁ、もうこっちの勝ちの目はないし、そこの烏を守りながらあんたと闘うのは厳しいでしょ」

 

「わ、わたし…は…し、至高の、堕天使に…なって、あ、アザゼル様に…」

 

異形の存在でもある堕天使が普通の鉛弾を撃たれて、そこまで傷付くとは思えない。恐らくは堕天使にも効くように細工をされていたのであろう。

見えない何かに対して、手を震わせるながら伸ばし続けるレイナーレ。

一誠は近づき、声を掛ける。

 

「自分の力で、君自身の力で道を進んで行かなければならないんだ。その為には生きるんだ、生きていればまた何度だって目指せる」

「に、人間風情が…何を言ってるの」

「確かに、君の事情も何も分かってはいない。それでも、生きていれば償いも、夢もまだ追いかける事が出来ることは知ってる」

 

生きていればどんな形であれ幸せを得ることが出来る。

そう信じている。

何処までも純粋で真っ直ぐな瞳でレイナーレを捉える。そんな瞳に貫かれるのが居た堪れないのかレイナーレは、そっと目を逸らす。

 

「あらあら、まさかまさかの改心エンドですか!?」

 

二人の空気にフリードも驚かざるを得ない。

と、そのまま自分に背中を向けるレイナーレに対して、駆け出す。

油断したレイナーレも反応が遅れるが。

 

「させない…」

 

眼前の一誠が、突然消えた。

先程まで一誠がいた場所から突風が発生して、レイナーレさえも風圧で体が吹き飛ばされる。

後方にいた祐斗や匙がその体を受け止めて、事なきを得る。

 

「アイツは…っ!」

 

一誠を探すレイナーレは、息を呑んだ。

月が昇り、光を放つ夜の中。一誠は月と重なるほど高く飛翔していた。

深い山の中、逆刃刀の刀身に月の光が反射し、白く光る。

 

「飛天御剣流ーーー龍槌閃」

「げ、マジかい…っ!!」

 

そのまま一誠の体は、落下し落下速度と共に加速する。

速度の勢いと共に刀を振り下ろす。一撃は、フリードの体を直撃。一誠は上手く着地を決める。

 

「何なんですかい…その刀は」

 

体が血を流しながらも、決して致命傷ではないフリードは一誠が握りしめる逆刃刀を見て軽口を叩く。

 

「不殺の誓い、逆刃刀だ」

 

夜の闇が少しずつ明るくなり、夜明けが近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさん!!」

 

フリードを倒した後、一誠は匙と祐斗らと共に駒王学園へ。

校門前にはアーシアとリアス達が待機し、三人を待ちわびていた。

そこから事後処理が行われ、一誠はそれを見届ける事に。

 

 

「恐らく、あのレイナーレとはぐれエクソシスト達は拘束されて然るべき場所に送られるわ」

「そうですか…」

 

小猫とアーシアが学園に着いたタイミングで、リアスが冥界に報告をした為に一誠が着く頃には冥界から悪魔達が到着していた。

因みにリアス達と交戦した堕天使三人は死を選び、そのままリアス達の手で消滅。その最期を、レイナーレも知った様で痛ましい顔でリアスの呼んだ冥界の悪魔達の手で連行されていくのを一誠は見届けた。

 

「部長さん、彼女はどうなるのですか」

「正直に言えば、堕天使の組織にそのまま送られるでしょうね。人的被害はほぼ出ていないし、この程度の小競り合いは珍しい事でもないわ」

「…そうですか」

 

この騒動で、彼女は仲間達を失い、成り上がるための手段を潰された。

それでもやり直す機会はまだある。

生きてさえいれば、きっとーー。

 

 




次回で一応最終回。
伏線を張るかもね…。
今回は実写版のイメージが強い…見ながら作ったので。


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第五幕 また朝が来る、

一巻最終回と一応連載がスタート。
アンケートに答えてくださった皆様、ありがとうございます。


「寝てしまったようですね…アルジェントさんは」

 

深い夜の中、一誠達はオカルト研究部に集まっていた。

そこにはアーシアの救助に協力したオカルト研究部全員と、ソーナと匙を除いた生徒会役員が全員集まる。

 

「彼女も大変でしたから。…間に合ってよかった」

 

ソファーで安らかに睡眠にふけるアーシアを見て、胸を撫で下ろす一誠。

 

「この場に全員が集まったのは彼女と、そして貴方のこれからの身の振り方を考える為です」

「俺も、ですか」

「えぇ、貴方は匙と個人的な交友関係を持っていて、この街に侵入するはぐれ悪魔の対処も任せていました」

 

ソーナの説明に、一誠は素直に頷く。

はぐれ悪魔…匙や裕斗達の様に主人を持っていた元眷属悪魔達を指す。しかし、主を裏切り己の欲のままに生きており、その被害は人間が主に被る事が多い。

この街にも幾度かはぐれ悪魔が侵入しており、一誠もその度に戦っていた。

 

「でも、会長。こいつが、イッセーはバカな真似をすると思ってるですか?」

 

ソーナの口振りは、まるで一誠が敵であるかの様な表現に聞こえてしまい、主人に対して少しばかりの反抗心を匙は覗かせる。

 

「…いえ。少なくとも普段の彼を見れば、この街に厄災を齎す存在ではない事など明白です」

「むしろ、彼の為なのよ。…今回の一件は冥界にも伝わっていて、上層部には兵藤君の事は上手く言い包めるには私達が監視するって体裁が必要なのよ」

 

リアスとソーナの顔色からは、幾分か嫌悪の色が見える。

皆がどういう事かと考える中で、リアスの懐刀とも呼べる存在の姫島朱乃が静かに口を開く。

 

「一人で複数の堕天使を倒せる力を持った神器(セイクリッド・ギア)使いとなると下僕にする様に言いつけられる場合もあります。…その力が強ければ、強いほど」

 

朱乃の言葉は、一誠がこの面々に赤龍帝である事を黙っている理由にも起因していた。

力は力を呼ぶ。その意味を理解しているからこそ、一誠は悪魔に転生することを拒否している。

 

「それで、オカルト研究部に正式に入部する事にしようと思うのよ。私の監視下にあると報告すれば、問題ないと思うわ。…兵藤君はどう?」

「勿論です。こちらこそお願いします」

 

静かに頭を下げ、自分の事情を察してくれているリアスやソーナ達に素直に感謝していた。

次いで、皆の視線が眠りにつくアーシアに移る。

 

「彼女に関してですが……。少し複雑な事情がありまして」

 

ソーナの言葉に、この面々でアーシアの事情を聞いていない一誠と匙と裕斗は首を傾げる。

 

「部長達と合流した時に、アルジェントさんが教えてくれたんです」

 

小猫がポツリと呟き、三人はますます訳がわからない。

リアスも流石に知らないままでいいとも思えず、目を伏せながら語り出した。

 

「元々彼女はーーー」

 

 

 

 

アーシア・アルジェントは、元々孤児だった。ヨーロッパの小さな国の生まれ。生まれた直後に親に教会の前に捨てられていた。その教会で育てられていたが、5歳の頃に全てが変わった。

教会の前で倒れていた犬を助けようと神に祈りを捧げた時、彼女の神器は覚醒した。そこから彼女は、聖女として祭り上げられて、大きな教会で怪我人や病に冒された人達を癒す役目を言いつけられた。

そんな日々を過ごしていたある日、教会の前で一人の男性の傷を癒した。

ところが、その男性が実は悪魔であったのが問題となった。聖女と祭り上げられた彼女は一変して魔女の烙印を押されて、教会を追放された。

 

そして、今に至る。

 

 

 

 

「なんて奴らだよ!あの子の力がどんな奴(悪魔や堕天使)も癒せるからって魔女かよっ!!」

「いい気分ではないね。…やはり変わらないのか、教会は」

 

匙が机を叩きつけ、怒りを露わにする。裕斗も端正な顔に怒りを含ませ、怒りの言葉を吐き捨てる。

二人が感情に基づいた反応を見せる中、ただ一人冷静な顔を見せる一誠。

それなりの付き合いのある匙が、不思議そうに声をかける。

 

「随分と冷静だな、イッセー。お前なら、なんかキレそうな話なのによ」

「…いや、気分のいい話ではない。だが、それ以上に可笑しなところがあってな」

 

そう呟いた一誠はこの場にいるメンバーの中で、悪魔の事情や情勢に詳しいであろうリアスとソーナに視線を向ける。

 

「部長さん、会長さん。…悪魔がたまたま教会の前に倒れている様なケースはありますか?」

 

「どういう意味ですか、兵藤君」

 

「人間の世界で怪我をした悪魔が、偶然傷を癒す力をもった聖女の前で倒れて、その傷を治す所を都合よく他の教会の人に見られるという事が…どうにも」

 

「「っ!?」」

 

二人とも一誠の言葉の真意を察して、小さく息を飲む。

つまり、アーシアが追放される経緯の全てがその悪魔の男の計画だとすれば。

 

その推論が本当だとすれば敵はまだいる、という事になる。

 

「まだあいつら以外にも、あの子を狙う奴がいるってのかよ!?」

「…いや、あくまでも俺の考えだ」

 

あくまでも推論でしかないが、一誠には嫌な予感が拭い切れない。

そんな一誠の推論を咀嚼し、吟味した上でソーナが静かに言葉を繋ぐ。

 

「悪魔が教会の前に倒れていたとしたら、即座に悪魔払いやエクソシストが動く筈です。勿論、悪魔の男が悟られる様に細工をしていたとしても、後から気付かれる程度には魔力や気配を漂わせていたはずです。悪魔である事が気付かれなければ人間への治癒として処理されてしまいかねない。仮に第一発見者が、アルジェントさんの様に命を見捨てられない人だとすれば…」

「助けてしまう…かもしれない」

 

リアスの付け足された言葉。静かな筈のオカルト研究部室に、ひゅっと誰かの引きつった様な呼吸が聞こえた。

 

「…………そうでない事を、祈りましょう」

 

今の推理はあくまで、仮説でしかない。

真実を知るのは、その悪魔の男だけ。

 

現状で、アーシアの保護をリアスに任せる事になり、その日は解散。

 

 

数時間後には、いつも通りの朝が来る。

 

どんなに深い夜にあったとしても、悲しく、辛い試練の様な時間があっても、必ず朝は来る。太陽は必ず昇るのだから。

 

 

 

 

 

アーシアの奪還から数日。

一誠は、どこか上の空で日々を過ごしていた。

 

 

「………」

「おいおい、どうしたイッセー」

「体調でも崩したのかよ」

 

頭に浮かぶのは、アーシアの事だ。

一誠自身が提示した推論は、彼自身は限りなく正解に近いのではないかと直感が告げていた。

これから先、彼女を守る。それは一誠の変わらない決意でもあり、誓い。

 

例え剣一本でもーー。

 

「おーい、静かにしろ。今日は転校生を紹介するぞ」

 

朝のホームルームの時間の時間となり、担任の教師が教室に入り、いまだ喧騒の中にある生徒達を鎮める。それと共に転校生というフレーズに、生徒達は声を抑えながらウキウキとした様子で席についた。

 

「なあなあイッセー、お前どんな子がくるとおもうよ!」

「あっ、俺黒髪ロングの美少女!!」

「女医さんみたいな大人の魅力のある子!」

「苦無を飛ばしてきそうな健康的なロリっ子!」

「口数の少ないメイド服の似合う可愛い子だ!」

 

後半はやけに限定的で尚且つ何処かで覚えのある転校生の想像、もとい妄想を口々に叫ぶ男子達。

冷ややかな目で女子達は見つめる中、ふと一誠の隣の席に座る神谷咲が一誠の肩を叩く。

 

「兵藤君は、どんな子が来ると思うの??」

「俺は…」

 

簡単な人物像を述べようと当たり障りのない言葉が頭の中で錯綜する中で、教室の扉がガラリッと空いた。

皆の期待の視線を一心に受けながら現れた転校生は、男子達の妄想とは全く違いながらもその期待を全く裏切らなかった。

 

「今日からこのクラスでお世話になります。アーシア・アルジェントですっ!!」

 

「おろっ〜〜〜っ!!!」

「「「「「「ヨッシャァぁぁぁ!!!」」」」」」

 

クラスの男子全員の、驚嘆と喜びの咆哮が校内に響き渡るーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どういう事ですか。何故アーシアさんがこの学校に!?」

 

リアスの伝手で既にこの街を離れている物とばかり思っていたアーシアがこの駒王学園に、それも自分のクラスに編入生として現れるとは露程にも思っていなかった。

その事について、放課後のオカルト研究部の部室にてリアスに問い詰める様に訊ねる一誠。

 

「編入に関しては、貴方を驚かせようとアーシアと私で考えたサプライズよ。…驚いてくれて何よりだわ」

 

優雅に紅茶を堪能しながら、流し目で見つめてくるリアスに肩の力を抜かれかける。

その後ろでは、他の部員達がニコニコしつつ見つめている。

 

「さ、サプライズって」

「それにまだ終わりじゃないわ。…アーシア、皆」

 

リアスの言葉を合図に、一誠以外の全員の背中から黒い羽が出現。

そう、リアスや朱乃達ーー悪魔が持つ羽をアーシアも背中から生やしていた。

つまり、アーシアは。

 

「えぇ、私の新しい眷属として迎え入れる事になったの」

「アーシアさんは、…それでよかったんですか?」

「確かに迷いもしましたが、私も部長さんや皆さんのお力になりたくて。主への愛は忘れられませんが」

「そうですか。それなら、良かった」

 

本人が選んだのであれば、他人である自分にどうこう言う資格はない。

素直に彼女の言葉を飲み込み、一誠も前を向いた。

 

「新入部員も増えた事だし、歓迎パーティーといきましょう!」

「はい。アーシアちゃん、こちらへ」

 

朱乃に呼ばれて、テーブルに座るアーシア。その目の前には紅茶やケーキやクッキーと言ったメニューが並ぶ。

その正面で、小猫も持参のお菓子を片手に紅茶を。祐斗も紅茶を飲みながらアーシアや朱乃らと会話を弾ませる。

 

「あの子を眷属に入れたのは、人員補給の面もあるけどそれだけじゃないわ」

「何か進展が?」

「えぇ。私の兄とソーナのお姉様に頼み、今回の一件とアーシアの件の調査をしてもらう事になったの。アーシアの一件は教会側の事もあって調査は進捗具合は遅いのだけれど」

「じゃあ、今回の一件について何かあったんですか?」

「貴方が祐斗や小猫や匙君と攻め込んだ教会。その近くで転移用の魔力を使用した形跡が発見されたの。…冥界から使われた事までは判明したわ。ただ、使用者の特定は難しいわ。本人の魔力ではなく、第三者の魔力を介して冥界と人間界を行き来していたのよ。これが今のところの収穫ね」

「…その魔力、を介した第三者が見つかればその犯人は分かるんですか?」

「えぇ、でも何重にも細工を施していて解析が難しいわ。後は時間経過での進捗に期待といった所かしら」

 

現状ではここまで。

しかし、アーシアを狙う者はほぼ間違いなく存在している。

一旦はその事実が明らかになっただけでも良しとしよう。

 

「さぁ、貴方の歓迎会でもあるのだから楽しんで頂戴」

「えぇ、そうします…ッッ!!」

 

リアスに手を引かれ、ソファーに座る様に催促される。

その瞬間、部室の外から視線と様々な感情の込められた殺気を叩きつけられる。

一誠はリアスの手を握りながら窓まで走り、勢いよく窓を開ける。

 

窓の外には学園やその先にある街並みが望め、一誠は視線と殺気の元を辿る。

 

「…あそこかッ!」

「どうしたの、兵藤君!」

 

猛る一誠にリアスは驚きながらも、彼の見つめる先を同じように見つめる。すると…。

 

「あの時の…はぐれエクソシスト」

 

神父服に身を包んだフリードが、ケタケタと笑いながらこちらを見つめていた。その隣には黒いローブを羽織った体格からしてフリードや一誠らと同年代の者と見られる者が。

その姿を何秒か捉えていると二人から強い光が発せられ、その光が止むと二人の姿は忽然と消えていた。

 

 

 

 

「あ、あの…イッセーさん、何かあったんですか?」

 

窓の外を睨みつける一誠に、アーシアが恐る恐る問いかける。

彼の表情からしてただ事ではない事も、リアスのはぐれエクソシストと言う呟きも聞こえていた。

 

「いや、なんでもないです」

「さぁ、兵藤君ーーイッセーも怖い顔をやめて、歓迎会を始めるわ!」

 

リアスが開いていた窓を閉めて、高らかに歓迎会は始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

冥界、とある場所。

 

「おいフリード、いったいなんの真似だ!!」

「アンタの性癖のせいで、イッセー君にバレちったからトンズラしちゃいました」

「イッセー…?あぁ…あの奇妙な刀使いか。それしても奴がグレモリー眷属とシトリー眷属と手を組んで、アーシアを助け出すとは」

「お姫様も掻っ攫われちゃったねぇ、お坊ちゃん」

「黙れッ!!……アーシアは、渡さない。…フリード、貴様はアーシアの監視をって聞いているのか!」

「いや、無理でしょ。あのイッセー君相手じゃ、監視なんてバレちまうよ」

 

 

 

「そうか、それならば。アーシアとあの男を引き裂き、彼女が自らの意思で僕の元にくるようにすればいい」

 

 

 

力は力を引き寄せる。

 

アーシアの光を穢さんと一匹の蠅が集ってきた。

 

一誠の更なる敵が、ヒッソリとその牙を研ぎ始めたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ予告(嘘予告)

原作×平成剣客浪漫譚×ハイスクールfaiz

 

 

本来は繋がり合うはずのない平行世界。

一つ一つが独立している、その理を崩す者達が居た。

 

 

 

突如駒王町に出現した灰色の怪物と彼らを統率する仮面と鎧を纏ったライダー達。

 

「何だよ、こいつら!!」

 

兵藤一誠やその仲間たちは、街や友人達を守らんと戦いを挑む。

 

「次元の狭間とも違う場所に通じた奇妙な時空間の穴が発見された。恐らくは奴らはそこから…」

 

そこから現れるのは敵だけではない。

この世界を救う、希望となれる者達も現れる。

 

「乾巧でいい、同じ面で名前も同じだと面倒だ」

「なら、俺も緋村剣心でいい。…その名前も呼ばれ慣れてる」

 

三人の兵藤一誠が集う時、世界は変わり始める。

 

「もう、王は居ない!ならば、俺がその名を継ぐ!!」

 

新たな王を名乗る男とその軍勢。

彼らからこの世界と二つの並行世界を守るため、彼らは立ち上がる。

 

おっぱいドラゴンと不殺の赤龍帝と赤き閃光の救世主が今、並び立つ。

 

 

「変身っ!!」

 

禁手!!(バランス・ブレイクッ!)

 

「解放」

 

三人は、世界を守れるのか。

 

 

 

平行世界のエンド・ウォー

cooming soon




一応、最後のアレは冗談です。
でも、三人の掛け声の中で剣心のみ適当です。
いい掛け声があれば、教えてください。
感想や評価もお待ちしてます。出来れば評価の方…お願いします。


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第二章 戦闘校舎のフェニックス
第六幕 ひとときの日常


短い。ごめんなさい


『イッセー、朝早くごめんなさい。少しいいかしら?』

 

アーシアの転入から数日。

日曜日の早朝に、リアスからのモーニングコールが。

世間一般の男子高校生の中では、早寝早起きを守っている一誠はその電話を受けてから、五分で家を出た。

これも日々の賜物だ。

 

 

「ごめんなさい、こんな朝早くに呼び出してしまって」

 

「いや、いつもこのくらいには起きてますし。それよりどういった用事ですか?」

 

リアスが来るように言ったのは一誠の家から徒歩で数分の小さな公園。

そこには私服姿のリアスが待っていて、電話をしてから十分以内で着いた一誠に驚いていた。

 

「えぇ。…もう少しで来るはずなのよ」

 

「まだ、誰か来るんですか」

 

その言葉の直後、スタスタと足音が聞こえた。

音のする方向に視線を向ける。

金色の長い髪を揺らしながら白いワンピースの上にライムグリーンのカーディガンを羽織っているアーシアが。

 

「おろっ?…ど、どうしてアーシアさんがここに」

「ふふっ。今から貴方のお宅に向かってもいいかしら?」

「お、俺の家ですか?一体なんで…」

 

そこでリアスはさらに笑みを深めつつ、一誠に向けて妖艶さを感じさせる瞳を向けながら呟く。

 

「アーシアのホームステイの許可を得るためよ」

 

「ほ、ホームステイ…??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど。それでアーシアさんはホームステイ先を探しているという訳か」

「そういう事なら、私も賛成よ」

 

一誠はアーシアとリアスと共に自宅のリビングに横並びで椅子に座っていた。

交渉役を担うリアス。その隣でアーシアは姿勢を気にしながら背筋を伸ばす。一誠は、その二人についていけず、急展開さに圧倒されている。

 

「はい。本来なら私と共に暮らすのも良いと考えたのですが、幾分私もまだ学生の身。アーシアにも頼りやすい大人の方が近くにいてくれた方が彼女の為にもなるかと、思いまして」

 

前もって学校側を通して一誠の両親にホームステイの件を書類として検討してもらうようにリアスが手配していたらしい。

 

元々、リアスの本家、グレモリー家は人間界はともかく異形の者達の世界では知られている名家の一つ。

そのグレモリー家が悪魔やその関係者が人間界で設立した施設の一つが駒王学園。

 

リアスがアーシアの編入といった手続きを簡単に手配出来たのはそう言った理由があったからだ。

 

「アーシアさんはどうしてこの家をホームステイ先に?」

 

腕を組み、悩ましげな顔を浮かべていた一誠の父ーー兵藤五郎は、朗らかな笑みを浮かべつつ、アーシアに問う。

 

「まだこの国に来て少ししか経ってない私をイッセーさんは助けてくれて、その…とても安心したんです。だから、だからその…」

「そういう事ね……。リアスさん、アーシアちゃんのホームステイ、私達はぜひ歓迎させてもらうわ!」

 

言葉に詰まるアーシアを見て、バンッと机を叩いたのは一誠の母ーー三希。

リアスから伝えられたアーシアの事情(悪魔や堕天使といった事情は抜きにして上で)を知ったうえで彼女のホームステイを断る理由など彼女には無かった。

 

「あぁ。勿論、こんな我が家で良ければ歓迎させてもらうよ」

 

一家の大黒柱たる兵藤五郎の一言で、アーシアのホームステイは日曜の昼下がり中、緩やかに決定していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシアが一誠の自宅にホームステイという理由で共に住む事が決まった翌日。

一誠はクラスの男子たちに机を包囲されていた。

 

「イッセー、お前はイイやつだった。だが、我々の契りを破り、異端の道に走ったお前は俺たちの手で処分しなければならない」

「ああ。さぁ、アーシアちゃんとどこまでしたんだ。ま、まさか・・・・もう最後まで致してなんてーーごふっ!!」

 

何かを言いかけた元浜は脳内で一糸纏わず体を重ね合わせる一誠とアーシアを思い浮かべて、何故か吐血。クラスの女子等から冷たい視線を浴びている。

その隣で、彼の名を叫ぶクラスの男子達。

 

「だ、誰か助けてくれ…」

 

小さく溢れた一誠のSOSは、誰にも届く事もなくクラスの喧騒の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

「なるほどねー。まぁ、転校してきた金髪のカワイイ転校生を既に堕としたって噂が広まってるからな。敵は多いぜ、イッセー?」

「堕とした…、何故そんな事に」

 

昼休み、基本的に開放されている駒王学園の屋上で一誠と匙は其々の昼食の弁当を食べている。

 

「まぁ、この学園は女子が多いからな。噂とかそういったのは大好物だしな」

「人の不幸は蜜の味って奴か。…どうしたものか」

「まぁ、この手の話は時間と共にって奴さ。けどよ、お陰であの金髪のお嬢さんには変な虫が集る事もなさそうだぜ?」

 

そう言って、唐揚げを口に運ぶ匙はゆっくりとそれを咀嚼した後、先程までの笑みを少し抑えて、真剣な表情に。

 

「でもまぁ、もっと変な虫が集る事になるかもしれねぇや」

「…やはり、結果は」

「あぁ。あのアルジェントさんがグレモリー先輩の眷属になってからの最初の数日間だけはあのはぐれ神父の目撃情報があったけど、ここ最近はパッタリ無い。恐らくはお前への警戒や足が付くのを気にしてるんだろうよ」

 

下手にアーシアを監視すれば一誠に見つかり、それが長引けばフリードやその裏に居る黒幕への足取りをリアスやソーナに掴まれかねない。

リアスの兄、ソーナの姉は冥界の長でもある悪魔の王ーー魔王。

そのことを聞かされた時は驚きこそしたが、今ではありがたいと素直にその力を借りている。

 

「いざって時は、俺も手を貸すぜ。…お前に比べたら、ちっぽけな力からもしれねぇけどよ」

 

そう言って黒い龍脈が装着される腕を見つめる。

瞳には確かな決意を秘めており、一誠は隣に座る友人の成長を感じていた。

 

「あぁ、是非とも頼むよ」

 

 

 

 

 

 

「アーシアちゃん、今日も学校は楽しかった?」

「はい!クラスの方達とも仲良くなれましたし、部活でもみなさん親切にしてくださるので」

 

その日の夕飯時、一誠とその両親にアーシアを加えた四人でリビングの机を囲みながら談笑に花を咲かせる。

特にアーシアと三希の二人はホームステイが決まってから非常に仲を深めている。

 

「一誠から見ても、アーシアちゃんは大丈夫なのか?」

「あぁ、クラスの皆とも打ち解けてるからその辺は問題はないよ」

 

静かに尋ねた五郎の問いに素直な感想を返して、そうかと呟く五郎。

この二人の温度感は女性陣に比べて低い。

元々一誠がテンションの高い性格なのもあり、この温度感で落ち着いている。

 

「何かあればアーシアちゃんをサポートするんだぞ、一誠」

「勿論」

 

短い言葉のやり取りを交わし、男二人も女性陣の会話に混ざらんとする。

 

 

そんな形で兵藤一誠の新しい日々は過ぎていく。

 

その一方で彼に近しい人物に、さらなる混乱が巻き起こることを一誠はまだ知らない。

 

 

 

 




皆様も体調には気をつけてください。

感想や評価お待ちしております。


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第七幕 リアスの婚約騒動

しばらくぶりの投稿になりました。
皆様もお体にはお気をつけて下さい。


夜遅くに見知った美少女に抱いてほしいと懇願される、なんて急展開な夜を迎える事なくアーシアと一誠の学園生活は緩やかに続いていく。

既にクラス内では友人も出来て、楽しそうに時間を過ごすアーシア。

一誠もその事に素直にありがたいと気持ちを抱いている。

 

 

また今日も授業の終わりのチャイムが鳴り響いた。

 

「イッセー、今日は暇か?」

「すまないが、今日は部活に顔を出す予定が」

「く、くそ…お前がオカルト研究部に入るとは。それもアーシアちゃんと共に!」

 

友人二人から射抜かれそうな敵意と嫉妬に満ちた視線を受け、苦笑を浮かべる一誠。

その理由としては、一誠が所属する事になったオカルト研究部にあった。

この駒王学園は最近まで元々女子校であった為に、生徒の男女比が偏っている。勿論、女子に。

その数多く在籍している女子の中でもトップクラスの美貌と人気を持つ女子生徒らが在籍しているのがオカルト研究部。

同時に学年で一番の女子人気を誇る祐斗も在籍している事で、男子たちからは親の仇の様に敵視されている。

 

「あ、あははは…」

 

その人気者集団が、悪魔の主人とその下僕ですなんて言えるわけもないので、乾いた笑みで誤魔化しつつその場から離れる事を思索。既に仲良くなれたクラスメイトと談話を楽しむアーシアの元へ。

 

「アーシアさん、そろそろ…」

「あっ、イッセーさん」

 

談話を打ち切らせるのも悪かったが、この教室もとい男子たちの視線から流れるべくアーシアに声をかける。

アーシアも会話を打ち切り、ようやく二人は部室へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も部活動が楽しみです!」

「…そうですね、アーシア先輩」

 

オカルト研究部の部室でもある旧校舎へ向かう途中の下駄箱で、小猫と祐斗らと合流。

先を歩く女子二人の後ろで、一誠はふと昨晩のことを思い出していた。

 

 

『イッセー、明日の部活動のことなのだけれど…』

『アーシアさんと一緒に行くつもりですが、どうかしましたか?』

『いえ、なんでもないわ。一応、確認しておきたくて』

 

珍しくリアスからの電話があり、ものの数分の事であったがその時のリアスの声から不安や焦燥といった感情を感じ取れた。

彼女が今何かに悩んでいる事は分かったが、その背景や直接的な原因は把握しかねるのが現状。

 

「木場君、最近グレモリー先輩に何か変な事はありませんでしたか?」

「いや、特にそういった様子は見受けられなかったけど。どうしてだい?」

 

自分よりも長い時間彼女と過ごしてきた祐斗に聞いてみるも不発。会話の流れで、祐斗に事情を伝える。

指を口元に添えて考える仕草をしつつ、祐斗は言葉を返す。

 

「部長は悩みや不安といった物を眷属の僕らにはあまり見せようとしないんだ。けど、朱乃さんは違う。あの人は部長の懐刀みたいな人だからね」

「姫島先輩…か。なるほど、ありがとうございます」

 

ふと、一誠は足を止めた。

その行動に残る三人が疑問符を浮かべそうな顔で見つめる。

 

「今日は誰か客人でもくる予定が?」

「どういう事ですか、イッセー先輩」

「部室に誰がいる。…それも、とてつもなく強大な」

 

敵意や悪意は全くない。むしろ何処か喜びに近い感情を携えている第三者の存在に一誠は警戒心を解いた。

その回答を確認すべく四人は旧校舎へと足早に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「開けます…」

 

小猫の声と共に部室前の扉が開き、一誠が感じ取った第三者が部室の中心に立っていた。

長い銀色の髪、洋風で見慣れないメイド服、美しいの一言に尽きる顔立ち、リアスや朱乃よりも大人びた色気。それらを放ちながら、同時に冷たさも感じさせる女性が一誠たちの前に立っている。

 

「アーシア・アルジェント様、兵藤一誠様、初めまして。グレイフィアと申します。グレモリー家に仕えさせていただいてる者です」

 

美しい所作で初対面の二人に挨拶を済ませる。一誠も静かにお辞儀をして、隣のアーシアも真似る形で挨拶を交わし終える。

そこで一誠は立ち上がっていたリアスにふと声を掛ける。

 

「今日、僕は帰った方が良かったですか」

 

グレイフィアというリアスの家の者が来ている以上、悪魔としての用件がある可能性は十分にある。そんな中で眷属、ましてや悪魔でもない自分がこの場にあるのは不味かろうと彼なりの気遣いから出た提案だ。

 

「…そうね、今から伝える件は貴方に関係ないわね。…だから」

 

そのまま帰るように、とリアスが伝えようとした途端、ドアの手前の空間から突如魔法陣が展開され始める。

部室の半分近くの大きさの魔法陣から炎が発火される。

 

「皆、下がってーーっ!!」

 

敵の襲来と判断し、逆刃刀を顕現させてそのまま突貫した一誠。しかし体を前に運ばせた直後、抜刀しようと柄に添えていた腕を横から現れたグレイフィアに捕まれる。

 

「ご安心を、兵藤様」

 

その言葉の後炎は治り、炎の中心だった場所には一人の青年が。

赤いスーツのセットアップ。明るく人目を惹く金髪、敢えて乱れたワイシャツとネクタイの着こなし。

謎の青年は静かに振り返ると、軽薄な印象を覚える笑みと共に一人の少女の名前を読んだ。

 

「会いに来たぜ、愛しのリアス」

 

ほぼ第一印象で、リアスの悩み種がこの男であることに確信を持った。

 

 

 

 

 

 

「いや〜美味いな。リアスの女王が淹れてくれた紅茶は」

「痛み入りますわ」

 

普段、部員たちが座るソファーに尊大な態度を隠さない男が座り込み、その隣にリアスを座らせる。

一応客人に紅茶を出した朱乃に、好色的な視線を向けるも朱乃は静かな言葉を返すのみ。朱乃は他の部員と同様にソファーの反対側の壁に沿う形で立ち並ぶ列に加わる。

 

『随分とつまらぬ男との将来になりそうだな、リアス・グレモリーは』

 

声からも分かる程に呆れた様子のドライグに苦笑を浮かべるしかないが、その感想は一誠もほとんど同じ様な物だ。

 

ーー確かに彼女が選んだ男には見えないな。

 

自身の隣に座るリアスの太腿を這うように触れ続け、彼女の自慢でもあり、象徴でもある紅の髪を無作法に撫で続ける男の態度に、冷ややかな視線を向けざるを得ない。

というか、この部屋にいる全員が同様の視線を男に向けている。

 

「離して頂戴、ライザー」

 

ようやくリアスの怒りも頂点に達し、自身の体を触れ続ける手を叩き、男の名前を静かに怒りを鎮めるように呼ぶ。

 

「おっと、これは失敬。愛しい婚約者に久しぶりに会えたから、つい…」

 

男ーーライザーフェニックスは、肩を竦めるような態度を見せるものの軽薄な印象はどうも拭えない。むしろ、こちらを小馬鹿にしてくる態度は継続中にさえ思える。

 

「悪いけど、私は貴方と結婚する気はないわ!!」

 

婚約者、という言葉に反射的に強く言葉を返したリアス。

その言葉には強い意志が込められており、彼女の頑固さが露わになる様に見える。

 

「くっくっくっ、俺と結婚はしない…か。数少ない純血悪魔の君が、今の冥界の事情を知らない訳はないだろう?サーゼクス様や、君のお父様やお母様がどうしてこの縁談を整えてくれたか、その意図も」

 

悪魔の事情に疎い一誠は、特に何も言えないが、純血であるが故の役目の様な物にリアスが縛られているのは話の流れで汲み取ることが出来る。

 

「えぇ、分かってるわ。でも…いくらなんでも急ぎ過ぎるわ。学校を卒業したら、即結婚なんて」

「それだけ事は重大って事さ。一人でも多くの純血悪魔の繁栄は」

 

ライザーの選んだ言葉に、リアスの思いや尊厳すらも軽んじた意図が含まれている様に思えた一誠。

思わず二人の間に割って入ろうとしそうとするも、再びドライグの声が。

 

『よせ、これは悪魔同士の問題だ。お前が口を挟むことではない』

 

ーーそれでも、グレモリー先輩が。

 

『あの娘は、グレモリーの次期当主。次世代の為に、政略的な婚姻を結ぶのは必然的な事だ。純血悪魔の数は今ではかなり少ないからな』

 

ドライグの正論に何処か罪悪感を感じるも、そこを突く事も出来ないので押し黙る一誠。

再び言い争うリアスとライザーに視線を向ける。

 

かなりヒートアップした二人は、冷静な態度とは言えない様子で言葉をぶつけ続ける。

 

「えぇ、貴方のいう通り私は結婚をするわ。でも、それは私の意思で選んだ相手よ。…少なくとも貴方ではない」

「そうか。…俺は、ライザー・フェニックスだ。つまり、フェニックス家の看板を背負っている。このまま婚約解消で、この縁談が破談になると我がフェニックス家の看板に泥を塗られる事になる」

 

瞬間、二人が同時に魔力を解放する。

迸る魔力を前に祐斗らは、リアスの名を呼ぶ。

一誠は、奥に立つ女性ーーグレイフィアの魔力を察知し、ひとまず安心する。

 

「お二人共、お納めください」

 

リアスとライザー、二人の魔力を圧倒的に上回る魔力を瞬間的に解放し、二人を一旦落ち着かせる。

 

「私はサーゼクス様の名でこの場におります故、容赦は致しません」

 

落ち着いた二人を確認しつつ、言葉を続けるグレイフィアにようやく二人も矛を収める。

一瞬、リアスに視線を向けたグレイフィアは、間を置いてから一つの提案を行う。

 

「旦那様方もこの様な形になるのは想定されていました。リアス様がご意志を貫き通したいので有れば…レーティング・ゲームにて決着をつけると言うのはどうでしょうか?」

 

新たに出てきた言葉、レーティング・ゲーム。

その意味を知らない一誠とアーシアの為に、朱乃がポツリと呟く様に補足を加えた。

 

「爵位待ちの悪魔が下僕悪魔を用いて行うチェスに似たゲームです」

「下僕を、用いて」

 

どういった内容の物かは、分からないが少なくとも自分を除いた全員が参加する事は確定事項の様だ。

そんな風に考えている中、ライザーがリアスに問いかけた。

 

「俺としては構わないぜ。…まぁ、こっちは駒がフルで揃っているし、ゲームを何度も経験してるしな」

突然、指を鳴らすと彼の背後から再び炎が上がる。

何秒間か炎が上がり続けてから、徐々に小さくなっていくと…そこからは十五人のタイプの異なる美女・美少女達が現れる。  

 

「これが俺の眷属だ。…おい、リアス。さっきから気になっていたが、そこの男はお前の眷族ではなく、人間だよな?」

 

ここに来てようやく、一誠の存在に触れたライザー。その瞬間に、ライザーをはじめとした多くの悪魔からの視線が一誠に向けられる。

 

「えぇ、彼は神器持ちで、一応私の元に居てもらってるわ」

 

ふと、一誠はより強く自分を見つめる視線に気付く。

その先を目で追うと、ライザーと同じ金髪でお嬢様然とした少女がポーっとした様子で一誠を強く見つめていた。

一誠も少女を見つめていた為か、二人の視線が交錯し合う。

 

「こ、コホン!」

 

何秒かした所で少女が、わざとらしく咳払いをすると少しばかり顔を赤らめて注視していた視線を外した。

 

「おろっ!?」

 

訳がわからずに困惑する中で、アーシアが腕を抓り、思わず驚きの声を上げる。

 

「アーシアさん、一体…」

 

同じくそっぽを向いたアーシアを前に言葉が見つからないままではあるが、少しずつ話が進みつつある。

 

「さっきも言ったが、こっちはフルメンバーで、そっちはその人間を除いて三人か。これじゃ、勝負にすらならないな」

「そうかしら…貴方のハーレムに負ける子達なんかではないわ」

「ほう…ならば、見せてやる。ミラ!!」

 

ライザーの売り言葉に買い言葉を叩きつけたリアス。

ニンマリと不適な笑みを浮かべたライザーは、自身の眷属の一人、ミラを呼び攻撃の指示を与える。

 

「はい、ライザーさま!」

 

その指示に応じて、ミラは前方に躍り出て、この場にいて攻撃して差し支えないであろう人物の前へ。

 

「待ちなさい、ミラ!」

 

先程、一誠を見つめていた少女がライザーの意図に気づき、静止の声を上げる。けれど、ミラはすでにこの場において唯一の人間、一誠に向けて己の持つ棍棒による刺突を放った。

 

 

「おっとっと」

 

その一撃を危なげさえも感じさせない様子で躱した一誠を前に余裕の表情が崩れる。鳩尾への一撃を察知された上に、棍棒を握りしめてからわずかに力を込めて体に当たらない様に逸らされてしまっていた。

しかもその際に無理に力を入れ、ミラの体に反動が来ない様に最低限の力のみで回避を行っていた。

 

「申し訳ありませんが、武器を収めてくれませんか?」

 

冥界で名だたる美男子達にも負けない程に整った顔立ちをわずかに近づけてながら、小さな子を諭す様な表情と言葉に素直に引き下がるミラ。

 

「ありがとうございます」

 

バカにされた様な気分にさえならず、ミラはそのまま先ほどまでの位置へ下がる。

 

「ライザー!!イッセーに何を!」

「君に俺の眷属の力を見せてあげようと思っただけさ。まぁ、そこの人間がそこそこやるみたいだったがね」

「……分かったわ。貴方とのレーティング・ゲームを受けるわ」

 

幾分か逡巡した上で、リアスは答えを出した。

その言葉を待っていたと言わんばかりに、ライザーは笑みを浮かべる。そのまま背中を翻し、冥界に帰ろうとする彼に一誠が静かに呼び止める。

 

「ライザー・フェニックス」

「様を付けろ、人間」

 

目を伏せながら、一誠はたった一つの質問を淡々と繰り出した。

 

「お前は、グレモリー先輩を愛しているのか?」

「あぁ、勿論さ」

 

 

 

「俺のハーレムの一人として、な」

 

 

その答えは、ある種想定していたが否定したかった物でもある。

同時にリアスは嫌悪に満ちた表情を浮かべる。

 

「そんなつまらない女性ではないですよ」

 

殺意に満ちた視線とそれに劣らないほどに強い意志を感じさせる視線が交錯する。とうとうライザーは痺れを切らして、眷属の少女達と共に冥界へ帰っていった。




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ちなみに、今作の一誠はるろ剣実写版に準じた容姿の良さになります。
原作でも整った顔立ちであるのはわかりますけど。


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