IS 〈インフィニット・ストラトス〉 誰でもない、少女 (油谷)
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はじまり

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(……何?)

 

 

少女は目を開けた。

その瞳に映ったのは、クリーム色の空間。

トンネルのような空間がどこまでも広がり、少女はその中を浮遊しながら進んでいく。

 

 

俺の 後ろ には……

かなり…… が怪しく……

 

(私は誰?)

 

…  はフランカーに……

……し ない。

攻撃を……ます。

 

(ここはどこ?)

 

 

少女が自問自答している内に、ノイズのかかった声が聞こえ始めた。

 

 

………見せ て くれ。

推力……空力を……

 

(これは、何?)

 

……なら……と共に 来い。

コイツ……危険 だ!

行って は… …  なんだから!

 

 

 ……  解除  目覚めるが良い ……   機を撃墜……。

了解……。

 

(誰の  声?)

 

 

少女には、それが皆知っている人達の声のように聞こえた。

 

 

何のた めに…… よかっ た ちゃんと こんなこと…

ただ……ため。決まってる…ない。 ハァイ。私は……

 

その翼…    …いい!

……泣いてるのか

 

 

彼女は、彼らを助けて、殺した。

 

 

(この人 達は ……)

 

肉 体を …  …!

 

 

少女の意識が朦朧としていく。

 

 

……!どう して  ここに!?

 

ねぇ ん!   …答えて!!

 

……に合流し て……ない!

 

あた  まにはいって …… ひとが

 

……私…ア  ナタを許 せ……

 

元  凶 めっ!

 

は さ ま っ ち ま っ た 

 

トド メは  やらせ てくれ!

 

(何 故、こんな  ものを……?)

 

声の数は増えていき、ノイズが多く混じる。

少女の意識はますます混濁していく。

 

 

……ッ!

 

その程 度で……  …れる 俺かよ っ!

 

…  …!死んでな かったの か!?

 

……がお 前を待 ってるぜ!

 

た  すけ て ぇ ……ォ ォォォ……

 

 

ネ……!

 

 

戦闘 機  りの ……を諸 君に。

 

帰ろ う……

 

…!無 事か!?

 

おーい!オーイ!オー …    …  

 

 

……モ!

 

 

少女を呼ぶ声が響く。

 

(私は……)

 

さい ん だったのか!

 

(私は何?)

 

 

お前は、私が… Program…  だ。しかし、今からお前は… 私の 愛しき娘、だ。

 



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第一話 出発前夜

「終わったよ、ネモ」

 

少女は覚醒した。

目の前にはメガネをかけた中年男性が一人。

少女はまるで棺おけ、と言うような装置の中にいた。周りが特殊ガラス造られていて透明であっても、誰でもその装置を始めてみたときには、棺おけだと思うに違いなかった。

今はそのガラスは取り払われ、男性が少女の顔を覗き込んでいる。

 

「……博士、今日の実験の時間、いつもより長かったですか?」

「いや、通常と変わらないが……またあの夢か?」

 

はい、と頷きつつ少女は装置から起き上がる。

 

「脳波を見る限りでは、異常は見られないな。……すまないが、その夢がどんなものかは、私には分からんな。」

「いえ、私がただ気になっているだけですから……」

「まぁ、明日からしばらくはその夢は見ないようになるだろうな。学園のベットの寝心地がよければ、いい夢を見られるだろう。」

「だといいんですけどね。」

 

会話をしつつ、博士とよばれた男性は少女に上着を渡す。

 

「ありがと博士。おやすみ。」

「おやすみ、ネモ。」

 

最後に挨拶を交わし、少女は部屋から出て行った。

部屋に残された博士に、数人が近寄る。全員がまたいかにも理系の研究員、といった風貌をしている。

 

「いよいよ明日ですねぇ博士。さみしくなりますな。」

「まぁな。ネモがここを去れば、もう20歳より若い女性はおらんぞ。」

「…20は超えてますが、若い女性はいますよ!」

「そうだな、そういえばいたな。」

「いましたね、あまり目立ちませんが。」

「博士!みんなも何よ!」

「冗談だ冗談。さて、冗談はさておき……データは集まったな?」

 

その言葉を聞いた研究員たちの顔が引き締まった。

 

「はい。今回の実験によって、ネモさんの身体データをベースにしたコフィン・コネクト・デバイスのデータを収集し終わりました。」

「これで、コフィンシステムそのものはほぼ完成します。」

「あとは実機に積み込んでのデータだけだな。」

「はい、それについてはSARFから2名、IS操縦者を呼び寄せてデータ収集を行う用意が出来ています。」

「上出来だ。これで、あの機体の開発のメドもついた……ネモにふさわしい機体が出来る。」

 

博士は壁に向かうと、そこのスイッチを軽く押す。

部屋の照明が落ち、壁一面がモニターへと移り変わり、一機のマシンを映し出した。

 

それは戦闘機とも、人型ともいえないような形をしていた。純白のマシンには二対の手足が付き、操縦席となるようなものは見当たらない。変わりに、機体のあちこちがオレンジ色に発光している。

 

まるでロボットの出来損ないのような、そのマシンの腹部がぽっかりと開いている。

 

「もう無人戦闘機としての運用は可能です。戦闘用装備はすべて装備してあります。」

「戦闘力は、現用戦闘機の3倍、第1世代ISに相当します。」

「現用のISにも数機でかかれば……互角の戦いが出来るでしょう。」

「コスト、整備性も従来の戦闘機の2.5倍ほどに収まりました。ハイ・ローミックスで配備すれば、UPEO全部隊への配備も可能な範囲です。」

 

博士は黙ってモニターを見続けながら、報告を聞き続ける。

 

「そうか、これで下準備は終わったな。あとはこちらは機会を待てばいい……今のところはすべて計画どうりだ。」

「ええ、これで我々の……」

 

博士に続いて何かを話そうとした女性研究員の口を、

別の研究員がふさいだ。

 

「ここでそれを話すな。相手が誰か、分かってるよな?」

「……ごめんなさい。ついうっかり……」

「…酒は慎めよ。まだ計画は始まったばかりだ。ここからが、肝心だ。」

 

博士はモニターを消すと、研究員たちへ向かい直る。

その表情は窺い知れない。ただ、口元は歪んで、笑っていた。彼の心の底を写し出すように。

 

「…ここからがな。」

 

モニターが消えて薄暗い研究室の中で、復讐劇の準備が着々と進められていた。

 

 

砂浜を歩く少女が1人。

それは先ほど実験を受けていた少女であった。

寝る前にこの砂浜を散歩することが、彼女の日課の1つである。

 

彼女は波打ち際を歩きながら、海を見続けている。

暖かいこの海だが、春先は少し冷たい。

少し振り向けば、そこには先ほど少女がいた研究所……

いや、軍事基地がある。正確に言えば、これは空軍基地と、ある研究施設が合体したものである。

 

彼女がこの基地で暮らしてすでに10年が経つ。親族を失って、あの博士に拾われ、ここに来た。

 

そして明日からはまた別の場所で3年間暮らすことになる。

 

まだ少女は知らない。これから自分が何をするのか。

それがどんな意味を持つか。

自分に、どれほどの歪んだ愛が注がれているのか。

 

海風に吹かれて、少女の髪が揺れる。肩までかかった

くせっ毛のブロントが波打つ。

 

 

少女の顔には、希望が満ちている。そしてその影は月に照らされて長く伸びていた。

 




完全に焼き増しの本作ですが、どうかよろしくお願いします。
感想、誤字脱字の指摘などお待ちしています。


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第二話  出発

新第2話「出発」

 

翌日、少女は基地から輸送機で日本へと向かうことになっていた。

 

が、その少女と輸送機は足止めを食らっていた。

天気が悪いかというとそうではなく、また輸送機にトラブルが発生したわけでもなく、

少女の都合が悪くなったわけでもなく。

 

原因は、少女と輸送機が群集に取り囲まれていることであった。

基地の非番の警備兵、ヘリや戦闘機、爆撃機のパイロット、整備兵、管制官、食堂の炊事係、近くの海軍基地の兵士数十名、基地に出入りする業者、研究所の研究員数名、挙句の果てに基地指令までいた。

 

「……皆さん、そんな今生の別れじゃないんですし、こんなに集まっていただくなくても……」

「なに言ってるのよネモちゃん!」

「3年間もこの基地を離れるんだろ?」

「長期休みに帰ってきたとしても、ネモが半年もこの基地にはいないなんて……」

「そんなの初めてだからねー。ネモが1週間以上ここを離れるなんてさ。」

 

少女はこの基地兼研究所で大変人気がある。

初めてこの基地に来たとき、彼女は5歳になって間もないころであった。

軍事基地ほど子供に無縁なところもない。展示飛行でもなければ、入ることすら出来ない。

また、軍人という職業も子供と触れ合うことが少ない職業だ。

パレードや基地の祭り、あとは占領地で出会うことがある程度であろう。

 

そんな軍事基地には居るべきではない存在は、ある意味貴重である。

今大勢の大人に囲まれて揉まれている彼女は、半ばペット……もといマスコットのような

扱いをされてきた。

 

本国から大海を隔てたこの基地では、直接家族と会うことがなかなか出来ない。

特に育ち盛りの子供を持った者は、画面越しでしか子供と会話できないことになんともいえないもどかしさを感じていた。

そんな感情が溜まってくると、彼ら、彼女らはこの少女を自分の子供の変わりに可愛がり、共に遊ぶのである。

 

ある意味感情の捌け口となっているのだが、いじめているわけでもなく、むしろ研究所か基地でしか遊べない少女にとっては嬉しい限りであった。

やがて少女が小学生になって基地の外に出るようになると、基地の外でも彼女の人気が高まった。

ここではあまり珍しくない容姿ではあるが、いつの間にやら有名になり、海軍基地にも出入りするうちにそこでも有名になってしまった。

家となっていた研究所でも同様で、彼女は被検体となる傍ら、ここの研究員たちの癒しとなっていた。

 

そんなこともあって、彼女はなかなか目的地へ出発出来ずに居た。

幸いといっていいのか、彼女の友達たちはこの場に居ない。すでに数日前に別れの挨拶をし、互いに再会を誓っていたからだ。といっても、彼女は夏休みになれば戻ってくるのだが。

もし彼女らが居れば、彼女はさらにもみくちゃにされていたに違いない。

 

輸送機のパイロット達まで引きずり出され、ついでにと手荒い見送りをされようとしたときに、鶴の一声が来た。

 

「……失礼、サイモンだ。ネモに挨拶があるんだがね。」

「ああ!サイモン博士。」

「遅かったじゃないですか、何かあったんですか?」

「見送りの言葉を考えるのに、少し時間が掛かったのさ。…さ、ネモに会わせてください。」

 

人ごみが割れ、白衣の男性を少女の元へ通す。

一方の少女は、あまりに頭を撫でられ、握手され、大量の選別を渡された為にへなへなになっていた。

この日始めて着たばかりの学園の制服が、シワシワになって乱れている。

 

「……随分ひどい格好だな。」

「洗濯機に入れられた気分です……」

「ごめんネモちゃん。少しやり過ぎちゃった。」

「これが少しだったら……普通の見送りってどんなのですか?」

「そりゃあな。許可さえあれば、お前のために曲芸飛行でもやってやりたいところさ。」

「しかし、基地指令がダメだといってしかないですからねぇ。」

 

そんなことを言われた基地指令は、少しむっとして軽口を言ったパイロットに向き直る。

 

「あのなお前ら。戦闘機の燃料代は安くなってるが、タダじゃないんだぞ。」

「そんなに長く飛びませんって!」

「それに。訓練でも任務でもないのに勝手に機体を飛ばせばな……」

「基地指令。そんなに規則どおりの対応でなくてもいいんじゃないですか?」

「基地指令。我々からもお願いします。」

「基地指令。ネモが居なくなれば、アンタも寂しいだろう。見送りくらい、派手にやらせてくれよ。」

 

基地指令に迫るパイロット、海軍兵士、整備兵、管制官、その他皆さん……

 

「……ああ、もう!分った!領空まで見送ることを許可する。ただし、燃料代は給料から引いとくぞ!」

「さっすがぁ~!基地指令は話が分かる!」

「よしみんな、許可が出たぞ!エンジンを掛けてくれ!」

「了解です中尉!」

「俺たちも基地に戻って哨戒機を飛ばしてやるぞ!」

 

群集の一部がハンガーに向かって駆けていく。

こんなやりとりの中、博士は少女の格好を整えていた。

 

「よし、シワはなくなったな。」

「うん、博士。ありがと。」

 

くしゃくしゃになった髪を梳かして、少女は身なりを整えた。

 

「ネモちゃん、さっきの選別は座席の脇に固定しておいたから!」

「分かりました。ありがとうございます!」

 

輸送機のパイロットがひょっこり輸送機のドアから顔を出す。

彼らもやっと仕事が出来るようになった。

 

「さて、私からはまだだったな……。これを、ネモ。」

「…?博士、これは?」

 

博士は少女にあるものを手渡す。それは一見普通の首飾りのようだ。

6つの紐がなにかを縛り付けているようなデザインをしている。

 

「”沼”だ。昨日の最後の実験を持って、まずXF/A/IS-1として完成したものだ。」

「……これが、ですか。」

「初期設定は完了してある。……すまないが、お使いを頼むぞネモ。」

「…はい。博士。」

 

少女からは、先ほどまで見せていた笑顔が消えていた。

今の少女は、どこか表情に乏しかった。

 

「ま、簡単なものだからな。そう気負うな。……今から、お前はここから離れる。学園で3年間暮らし、学ぶことになる。」

「博士。」

「お前は、ここに来てからこの島から出たことの無いからな。いろいろなことが新鮮に写るだろうな……まぁ、楽しんで来い。」

「楽しむ、ですか?」

「そうだ。この基地で過ごすようにな。」

「……はい。博士。」

 

「最後に何かあるか?ネモ。」

 

その質問に、ネモは少し考えてから答えた。

 

「頭を……撫でて欲しいです。」

「ああ……いいぞ、ネモ。」

 

博士はネモの頭に手を置くと、ゆっくりと撫で始めた。

なでり、なでり。整えた髪の毛を崩さないように、やさしく撫で続ける。

 

「ん……博士……」

「いい子だ、ネモ……さぁ、もう輸送機が離陸する。……行ってらっしゃい。」

 

しばらくして博士は少女を撫でるのをやめた。

彼女は名残惜しそうに頭を撫で付けていたが、

 

「……はい、行って来ます!」

 

最後に笑顔で一礼し、輸送機へ駆けていった。

 

 

ネモが輸送機に乗り込むと、輸送機、そして見送りの航空機が滑走路へと向かう。

 

 

「こちら管制室、輸送機が始めに離陸する。見送りの機は離陸の早いヤツからだ。」

「了解管制塔。…聞いたなお前ら!まずは輸送機、次が戦闘機だ。」

「こちらビックベア1、了解。戦闘機の次に離陸する。」

「コントロール、こちらセイカー1。シーサーペントに続いて離陸する………」

 

 

輸送機、正確には空中給油機であるEK-17Uは少女を乗せて、滑走路に進入する。

 

「グローブマスターⅣ、離陸を許可する。」

「了解コントロール。離陸開始する。」

 

EK-17Uは速度を上げてゆく。

 

「……V1!」

 

少女は輸送機の座席に座り、窓から外を見ている。

 

「……VR!機首上げ!」

 

機体が滑走路から離れる。

 

「…V2。フラップ上げ。」

 

機体がグングン上昇していく。基地と研究所が小さくなっていく。

EK-17Uが離陸したのを確認して、戦闘機が離陸していく。

 

「よし行くぞ!ネモに良いと、見せてやれよ!」

「もちろんですよ!」

「中尉こそヘマしないようにしてください。」

「俺に心配などいらん。オラオラ、いくぞぉ!」

「コントロールよりセイカー隊、離陸準備………」

 

次々と戦闘機が飛び立ち、給油機を追っていく。

 

地上の博士は、その様子をカメラに収めていた。いつのまにやら三脚まで持ち出している。

 

 

「さて……あいつは、どんなことを見つけてくるかな?今から楽しみだよ、ネモ…」

 




焼き増しにしても、私はあいかわらずの遅筆であります。
次回投稿は週末ごろになります。


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第三話 学園へ

EK-17Uは約3時間ほどのフライトの後、日本国内の空軍基地に着陸した。

少女にとってはのんびりとしたものであった。

 

少女は持ち切れない荷物を先に学園へ送っておくように頼んだ後、基地から学園へ向かおうとしたのだが。

 

「……あら?」

 

少女は公共交通機関を利用して学園へ向かうべく、基地最寄りの鉄道駅へ行こうとしていたが基地の出口で妙なものを見つけた。

 

見れば、出口のあたりに黒い高級車とピックアップトラックが、

ぴったり車列を組んで数両止まっている。

その周りには黒いスーツを着て、サングラスを掛けた男女が

うろうろしていた。

その光景は、まるでシークレットサービスの見本市のようで。

 

はてさて、こんなものを頼んだ覚えが無い少女は、

恐らく自分には何の関係も無い、後でどこかの国の

人がこの空軍基地に来るのだろう。その人達はその護衛なの

だろう。と思い、その横を通ろうとした。

 

しかし、少女が車列に近づき、その顔を見たSSもどきが少女に

ダッシュで近づくと、少女の推測は誤りであることが判明した。

 

彼らは少女を迎えに来たのである。

 

「こんにちは。ネモ・ノーチラス様ですね。」

「……はい。私はネモ・ノーチラスです。あなた方は?」

「はっ。UPEO極東支部の者です。今日はあなたをIS学園へお送りにまいりました。」

「ご苦労様です。……今日は一体誰の指示で私を?」

「ノーチラスさん。すみませんがあまり時間がありません。ご質問は、車内でお聞きいたします。……こちらへ。」

 

「……はっ。対象は4号車へ。直ちに送り届けます。」

「出発だ。IS学園の門に着くまで気を抜くなよ。」

 

SSもどき、もとい少女護衛チームは少女を車に乗せ、

IS学園へと向かう。

黒い車の列が、車間をきっちりとそろえて走っていくというのは

かなりの威圧感があった。

 

変わって車内では、先ほどの護衛が助手席から、後部座席に座る

少女の質問に答えていた。

「ではノーチラスさん。先ほどの質問にお答えします。あなたの

護衛を我々に命令したのは、

UPEO極東支部司令官、カプチェンコ大佐です。内容はあなたの身と、情報をIS学園まで警護すること、です。」

「カプチェンコ大佐が?てっきりいつものように本部からかと

思いましたが。」

「本部からは極少数のみの護衛でよいと通達があったようですが、カプチェンコ大佐がこれだけの規模であなたを守るようにと。」

 

少女はその話しを聞いて、ふーっ、とため息を吐いて

肩を落とした。

彼女はこんな待遇にほとほと飽きがきていたのだ。

 

「流石に過剰ではありませんか?見たところ、隠されては

いますが対戦車ミサイルや地対空ミサイルまでピックアップ

トラックに積んであるみたいですね。」

「よくお判りに。しかし準備というものは、することに越した

ことはありません。あなたの身の重要性から見れば、決して

過剰ではありません。」

「ここは一応、世界でも有数に安全な国、日本ですよ。

この国にいる限り、こんな重装備なんて……」

「ISの開発以降、その安全神話も張子の虎のようなものです。

それはあなたも、よく分かっていらっしゃるでしょう。」

「それはまぁ、骨の髄まで分かってます。……今私の脇を固めているお2人方も、ですよね。」

 

それまで少女の両脇に座り、険しい顔で窓から周りを警戒していた女性2人が、驚いたような顔をして少女を見る。

 

「……我々がIS操縦者だと分かっていたのですか?」

「はい。以前見た、SARFのIS操縦者のリストの中にあなたたちが

いましたから。……エイミー・ピット大尉、リーナ・ディード

リッヒ中尉。」

 

ISを身に着けていないにも関わらず、自分たちの正体を見破り、

名前と階級を言い当てた少女に、二人はまたに驚いた。

ネモの右手に座った茶のショートカットの女性、エイミー・ピット大尉は情報部員兼IS操縦者であり、左手に座ったよく日焼けした

ブロンドの女性はリーナ・ディードリッヒ中尉、世界でも有力なIS操縦者の内の1人である。

 

「あら、名前まで覚えていられたなんて、光栄です。」

「御二人とも結構有名ですからね。覚えておいて損はないかな、

なんて。」

「そう?……でもあなたにそう言われると、嬉しいわね。

ありがと。」

「いーえ。……そうだ。基地を離れるときに、良いお菓子を貰ったんです。おひとついかがですか?」

 

そういうと少女は持っていたバックから、選別の一部を持ち出す。

 

「んぁ、ありかと。……あっ、これおいしいじゃない。

もう一個頂戴。」

 

さっきの険しい顔はどこへやら、リーナは笑みでお菓子を食べはじめた。しかし、対してエイミーは受け取らない。

 

「いえ、私は結構です。今は任務中ですから。」

「これ、結構いけるよ?エイミーも食べなよ~。」

「リーナ。あなたは今、この子の護衛をしているってことを

分かって言ってるんでしょうね?」

 

お菓子をに夢中になっているリーナをたしなめるエイミーだが、

リーナはエイミーにお菓子を渡して。

 

「まぁ、これくらい良いじゃないの。公式の任務でも

ないんだし。」

「そうですよ。エイミーさんも私もことは”ネモ”でいいですから。年下なんですし、呼び捨てで構いませんよ?」

「でも……」

「エイミー!ネモがこう言ってるんだから、良いのよ。

アンタは昔から堅苦し過ぎるのよね。もっと馴れ馴れしく

なりなさいって。」

「……それじゃ、ネモちゃんでいいかしら。」

「はい!それじゃ、何か茶請け話でもしましょうか?」

 

和気あいあいとして、おしゃべりに花を咲かせ始める

32歳、15歳、28歳。

そして、すっかり放っておかれてしまった男性護衛は無言で

前を見つめ、言葉に表せない寂しさを感じていた。

 

その後車内では少女が餞別に貰ったお菓子をひっくり返したり、

他の餞別を開けてみたら中にコンドームが入っていて

2人がぎょっとしたりした。

幸いなことに、彼女はこれの使い方をまだ知らない。

さらに餞別を開けてみると妙に臭い漬物であり、車のエアコンを

外気にして換気にするハメになったりした。

 

そんなことをしているうちに、車列はIS学園のすぐそばまで

来ていた。

 

「お話のところ済まないが、もうすぐIS学園です。降りる準備を

お願いします。」

 

車列は基地から遠く、市街地から離れ、海沿いの道を走っていた。

いつの間にか車窓の右手には海が見えている。その先に浮かぶ島

に建つ大きな建物がいくつか。

そして、その中央にそびえたつ塔。

 

それこそがIS学園、これから3年間少女が暮らす学び舎であった。

 

「あれが、IS学園ですか。…直接見るのはこれが初めてです。」

「ネモちゃんはずっと基地暮らしだったんだっけ。私たちは

あそこで学んではいないのよね。」

「ISが兵器として利用されるようになったときには、私も

ハイスクールは卒業してたから、仕方ないわね。」

「あそこに行かれたことは?」

「私は今回で5回目かな?UPEOの施設で一通り操縦法を習った後、ここに応用戦術を習いに来てたのよね。エイミーは?」

「私は一度も無いわね。ISの戦法も自分で編み出したやつだし……今更ここに来ても、あまり学ぶことは無いわね。」

 

車列は島の対岸にある港に入る。

学園にはモノレールも通っているが、今回は船で向かうことに

なっている。

車列は埠頭で止まり、バラバラと護衛が車両から降りてその周りを

固める。

 

「では、我々はここまでです。後はピット大尉と

ディートリッヒ中尉が学園まで付き添いを。」

 

黙っていた護衛が振り向いてそれを伝えてきた。

それを聞いて、少女は少し怪訝な表情になった。

 

「ええー……ここまで来ればもう十分です。結構です。」

「ごめんね、うっとうしいかもしれないけどこれも命令なのよ。」

「いえ、お2人は何も。私は過保護なカプチェンコ大佐が……」

「ま、島に着くまでのことだから…もう少し我慢してね。」

「……はい。ではよろしくお願いします。」

 

少女と2人は車から降り、船着場にいるクルーザーに向かう。

少女はそのクルーザーを見ると、それがカモフラージュされた

ミサイル艇だと気づき、ため息を吐いた。

 

「……本当、みんな過保護なんだから。」

「それだけ大事にされてるってことよ。」

「大事にされすぎてると思います、私。過ぎたるは及ばざるが

ごとしって言うでしょう。」

「……そうかしら?」

 

3人は船にに乗り込む。既にエンジンはかかっていて、

すぐに船は出発した。

 

「では出発します。10分ほどで学園の港です。」

 

クルーザー、もといミサイル艇が学園の港へ向かっていく。

 

その船の中で、少女は学園での3年間がどんなものになるかを

思考していた。

少なくともこれまでのような束縛はなくなり、多くの新たな出会いが待っていることは確かだ。

 

(楽しいことが、楽しめることが、多ければなぁ……

いいのだけど、実際そうはいかないよね……

やらなくちゃいけない事も有るし、ね。)

 

彼女はこの学園に来るための準備を数年がかりで行ってきた。

そしてここに来て、やるべきことが3つある。

そのうち少女が既に知りうることは2つ。

知らないことが1つ。

 

その内1つは楽しいこと。2つは暗く、無慈悲な任務である。

 

そして、知らないものはより暗くて私念じみたものであった

 




原作キャラが全く出てこない……
次話からは登場する予定です。


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第四話 一休止

学園に着いた一行が最初に向かったのは、IS学園の総合受付であった。

ここへ入学するにいたって、まずは分厚い書類の束を学校に提出する必要があったから、である。

 

それを受付に提出してから、少女と2人の付き添いは別れた。

少女はまず最初に、荷物を自分が暮らすことになる寮へ持って行くこととし、

2人は少女の付き添いのついでにと、とある場所に顔を出すことにしたからである。

 

そして今、少女は寮の一年生棟、1023号室のベットに寝っころがっていた。

 

「う~ん……なかなかいいベット。研究所のベットには負けるかもしれないけど……」

 

シワになってはいけないと制服を脱ぎ、アンダーウェアの姿で少女は身体を伸ばす。

輸送機の中に3時間、車で1時間も移動し続けて身体が強張ってしまっていた。

 

「あー、起き上がりたくない……その前に荷物どうにかしないと……」

 

少女はモソモソと起き上がり、荷物を片し始める。

服をクローゼットに仕舞い込み、傷みの早い餞別を冷蔵庫に入れ、部屋のパソコンをいじくる。

同居するルームメイトの分も残しつつ、少女は部屋を自分の物にしていった。

 

 

「さて、かわいい後輩ちゃんの仕事場はどこですかなーっと。」

 

一方のリーナとエイミーは、元SARFであり、今はここの職員となっている後輩に会いに来ていた。

先ほど受付から後輩の現在地を聞き出した彼女らはその場所、射爆場へ向かっていた。

 

「この年からの新任だっけ、彼女。」

「そうよー。SARFの任務こなしながら大学行って、教員資格とってここの教員になってって、

頑張ったよねー。自慢になるよ。」

「同じ部隊だった先輩として?」

「それもあるけどね、何より同じ部隊の後輩が頑張って自分のやりたいことしてる……なーんだか

嬉しいじゃない。自慢したくもなるって。」

「……そう。私はリーナもいろいろ頑張っていると思うよ?」

「私なんか全然だよー。急襲くらいしか得意手ないし、今ISの操縦者になってるのも、

成り行きみたいなもんだし……」

「それも、あなたの努力によるものでしょ。”教官つぶし”がよく言ったものね。」

「努力、ねぇ……そんなに頑張った覚えないけどねー。それにその名前って、名誉なものじゃないしぃ……」

 

そして、2人は学園の外れにある射爆場へとやってきた。ここは主に重火器などの試験や

訓練を行う場所であり、学園でもっとも大きい施設である。ちなみに次に広いのは運動場。

 

その上空に浮かぶ1つの人影。

 

「あれかなー?オーイ!ナーガーセーちゃん!」

「ここからで聞こえると思う、リーナ?」

「IS着けてりゃ聞こえるって。ナーガーセー!私よー!リーナ・ディードリッヒが来たわよー!」

 

射爆場に着いたリーナとエイミーは、地上からその人影へと呼びかける。

それを聞いたか、人影、いや一機のISが地上へ降りてくる。

それは上空から急降下し、2人の前にぴたりと着陸した。

 

「……お久しぶりです、先輩方。今日はどうしてここへ?」

 

身にまとったISを解除したその人物は、2人へと挨拶する。

 

「今日は、うちの代表をここに送りに来たのよ。ナガセ。」

「そのついでに、新任祝いに来たってところなの!」

「そう、だったんですか。ネモちゃんをここへ……もうそんなに経ちますか。」

「月日って言うのは、思っているより早く流れるものよ。…どう、ここは。うまくやっていけそう?」

「ええ、先輩……ここでの、先輩の先生方も良くしてくれますし、施設とかも不満はありませんし……

大丈夫だと、思います。」

 

少し思案しながら、ナガセと呼ばれた女性はそう答えた。

 

「相変わらず堅っ苦しいわねー、ケイは。そんなんじゃ、生徒たちと上手くやってけないよー。」

「そうですか?……先輩がもし教職についたら、生徒たちと仲良くなりすぎてしまいそうですね。」

「はい?それどーいう意味よ?」

「そのままの意味です。」

「なるほど、とりあえずいい意味じゃなさそうね……」

「ご想像にお任せいたします。」

「……こっっんのー!ケイっ!」

 

ナガセにからかわれたリーナは彼女に突撃するが、ナガセはISの脚部を部分展開させ、ふわりと浮かび上がって

それをかわした。

 

「……中尉は相変わらずですね、エイミー大尉。」

「ええ、もうリーナと知り合って5年経つけど、相変わらずよ。」

「ちょっとエイミー!ケイも!降りてきなさいよー!」

「ああ先輩、IS学園で部外者がISを起動させようとしたら、私のような教員の許可が要りますので……」

「誰がISなんて起動させるもんですか!アンタなんて生身で十分、だーかーらー……降りてきて私と

戦いなさい!」

「イヤです。戦いたければここまでどうぞ。」

 

そういうとナガセは低空に浮かながら逃げていく。

 

「ケイーーーッ!逃げるなーーー!」

 

リーナは大人気なくそれを全力で追いかけていく。

 

「……本当に変わらないわねー。あの2人。」

 

エイミーはナガセが昔、UPEOに所属していたころを思い出し、呟いた。

この2人は7つも年が離れてはいるが、後輩のナガセが静かに毒を吐き、それにマジになって反応する

リーナが反撃しようとして失敗する、ということを何度も繰り返す、というト○とジ○リーのような

間柄なのであった。

 

これは悪びれも無く毒を吐くナガセが悪いのか、それとも28にもなって子供っぽく反撃するリーナが

悪いのか……

 

そんな2人を無視し、エイミーはそういえばネモちゃんはどうしかのかしら、なんて考えていた。

 

このIS学園のトップは、学園長である。

 

IS学園の学園長室。

その部屋の机に、この学園の長、学園長が座っている。

そしてその目の前にはモニターが表示され、あの博士が映し出されている。

 

「お久しぶりです学園長。」

「こちらこそお久しぶりです。2年ぶり、ですか。……単刀直入に聞きますが、御用は何かしら?博士。」

「いや、大した用ではありませんがね、ウチの娘のことと、ついでの挨拶といったところでしょうか。」

「ついさっき彼女は学園へ入りましたよ。付き添いの2人も一緒にね。たった今書類を受け取ったところです。」

「そうですか。何事も変わらずに、遅れることなく着いてよかった。」

 

笑みをモニター越しに見せる博士。対して学園長はため息をつく。

 

「……それにしても。あの子をよくここに入れる気になりましたね博士。相当反対されたのでは?」

 

そう言われた博士は、クックッと薄笑いを浮かべている。

 

「そりゃあもう。理由もざっと10を超えますな。やれ研究が続けられないだの、彼女の機体やナノマシンの情報得漏洩だの、

はたまては彼女の追っかけが研究所の前で…」

「まぁ、もういいわ。もう入学は認めたのだから。今更何を言っても変わらない。」

「それはそうですが。しかし先ほどの懸念も、IS学園なら杞憂ですな。何しろ、ここの先生方の実力は

折紙つきですからな。私も余計な心配をしなくてすむ。」

「ええ、彼女はすでにこのIS学園の生徒です。我が校が責任をもって、3年間お預かりします。」

「あなたがそう言ってくれるのなら、ますます安心ですな安心学園長。ネモはまだまだ子供です。正直に言いますと、私もまだ手元から離したくはないのですよ。」

「あなたまでそうお思いなら、何故ここへ?」

「1人立ちさせたかったのですよ。彼女は私に対する依存が強い。それではいざというときに困ります。

SARFは軍隊ごっこではありませんので……」

 

学園長は博士をじっと見る。

博士も学園長をじっと見る。

互いに沈黙する。

 

 

そして博士が破る。

 

「では学園長、最後にご挨拶を……学園長、ネモをよろしくお願いします。」

 

学園長は驚いた。この男が人に頭を下げるのを、画面越しにも見たことがなかったから。

 

「…頭を上げてください、博士。」

「……私は、どんなことがあってもネモを失いたくないのですよ。……娘を、洋子の忘れ形見を。」

「……そういえば、例の研究はどうなっていますか、博士?はかどっていますか?」

「はい。ネモの協力で、ほぼ完成していますよ。あとは煮詰めるだけですな。」

「そう……完成を待っていますよ、博士。」

 

博士は一礼して、通信を切った。

 

「あの……サイモン博士は……ネモ・ノーチラスは……」

 

ふーっと、学園長は深く息を吐く。

 

「今年の1年生は、問題が多そうね……いろいろな意味でね……」

 

学園長は、机の傍らに置かれた1年生の名簿を見ながら、またため息を吐く。

 




どうにもリアル生活が忙しくて、すみません。
次回は10000文字程度の続きを投稿できる予定です。


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