なにやらチートのような体を手に入れたので楽しく生きたいと思います(願望) (火桜 葵)
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プロローグ

書いて投稿したら思ったより字数が少なくて泣きそうになりました作者です

どうか誰かの性癖にぐわっと来たら嬉しいと思います


「せいっ、やぁぁあっ!!」

 

一人の女性が武器を持って、集団へと突っ込んでいく……

 

「あはははははっ!!」

 

服を鎧を体を人の血で濡らしながら、尚彼女は笑っている

彼女の敵か、それとも味方か……一人が銃声を放った。銃弾を彼女は気にすることなく、ただ笑っている

 

大丈夫なのかと、止めなくてはと思う……でも何故か大丈夫だと感じる

きっと彼女なら、ここにいる人間すべてを殺し尽くせる…。

 

見事に銃弾は彼女を逸れて、地に穴をあけた

 

そこからも彼女は圧倒的な力で敵を殺した。

殺して殺して殺して殺して……殺し終わった頃には…そこには彼女しか居なかった。

 

このままだと自分も殺されてしまいそうなほどだった。

そんな馬鹿なと、夢のなかでさえ殺される訳がないと………いや、普通に殺されるな、夢の中でも殺されるな。

事実、あの人こっち見てるんだよなぁ。怖いなぁ、死にたくないなぁ……。

 

…………え、マジでこっち来てないかな、嫌だよ、まだ死にたくないし…。

いやでも、夢の中だから死んでも大丈夫…?

 

「幼子が……どこから迷いこんで来たのでしょうか?ここは危ないですよ…ほら、行きなさい」

 

その一言を区切りに、目の前の景色が白く染まった。

 

 

△▼△▼

 

 

「あぁ~、夢か………って!?し、死ぬかと思ったぁ!明らかに殺されてもおかしくない状況だよな!?」

 

ガバリとベットから勢い良く起き上がり

額を拭う。

脂汗で背中までビッショリと濡れて気分が悪い……。

このまま放置するのもどうかと思うし風呂に入るのが正解か、溜めるのも面倒だしシャワーだけでいいか…。

 

そう決めるや否や、ベットから飛び降りて浴室へと足を運び 汗を吸った服を脱ぎ捨てる。

水栓をひねりシャワーヘッドからお湯を出す 出始めたばかりだからか若干温い

 

急な高温よりはまだ心地いいとそのまま体に受け入れる

 

汗が流れ終わった頃に湯を止めて、浴室から出る

清潔なタオルで水滴を拭いとり、予め用意しておいた服装へと着替える

 

「ふぅ、スッキリした。…んぐっ、タイミングの悪い…ここで腹痛とは、トイレ行くか…」

 

落ち着いた足取りで、トイレへと歩を進め入室する。

なんて、よさげに言ったが普通に大だ。

 

いってきます

 

 

 

 

流れる水の音と共に、ドアが開けられ俺が出てくる

どうも、俺だ。スッキリとした気分で、若干顔が青くなってる気もしなくもないが……

 

そのまま手洗い場から出ようとしたそのとき……段差につまづいた。

つまりは転けた、勢い良く前から顔から床へと……痛かった。痛かったがそれ以上に不可思議なことが俺の身に起きた。

体が動かなくなった、声が出せなくなった、徐々に視界が黒く染まる。

 

思考が解れ、自身の四肢の感覚すら消えていく、糸が解れていくように何も考えられず、感じることもなくなる。

 

どうして……トイレでつまづいただけなのに…

 

△▼△▼

 

押し込められ、混ざり、加えられ、与えられる。

中身が変わって、皮さえ変わる。

それは最早、別物だろう。

記憶と意思はそのままに……いいやそれは面白くない、1つ……あと1つだけ加えよう。

 

△▼△▼

 

 

 

意識が戻ってきた……チリチリと頭が焼けるように痛む。

このまま目を開けたくない……動きたくない、だって面倒じゃ…ッ!?

 

「ガハッ!!アッ、アグァッ!!痛いっ!?痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!」

 

急な激痛が体を襲う。

無理矢理 体の中に何かを押し込められてるような感覚……このままじゃ破裂するっ

 

必死に体を抱き締めて耐える。

手で触れたところも息があたるところでさえも痛みが走る。

 

なんだよコレ……なんなんだよっ!!

止めてくれ止めろよ…俺が何したって言うんだよ。

何も悪いことしてないじゃないか……もう止めてくれよ止め…「アァッ!!ぐぅあぁぁぁあっ!!」

 

そのあともずっとずっと続いた。痛かった、泣きそうだった。止めてほしかったのに止めてくれない……辛い、辛かった

 

気がつくと痛みは消えていた。ゆっくりと目を開けると、まず目に入ったのは草だった。自身の家の床には草など生えてないし、色が見えたとしても茶色と黒くらいだ

決して緑色の草ではない。

 

いつの間にか外へと飛び出してたのか……少しまだ思考が覚束無い…このまま動きたくない。少し、あと少しだけ眠らせて……もう限界……だ…。

 

 

 

 

 

 

「カハッ!!なん……だ…これ!?胸が締め付けられてるみたいな……。アァァァァァァッ!!」

 

先程よりはマシだが、強烈な痛みを胸の辺りから感じる。

胸を締め付けられるなんていう言葉以上に、心臓を握り潰されているような感覚だ。

何でこんなに痛い目に遭わないといけないんだよ……。

 

あれ、口の中で鉄みたいな味が……なんだこれ…生暖かい、沢山出てくる…えっ、これって……血…?

 

 

「グフッ……」

 

指先が冷たくなっていく、ドンドン体の端から冷えていく

寒い、寒い寒い寒い……痛いかったと思えば次は寒いってなんだこれ。

死ぬ……死ぬのか…?

無理だ、こんなので生きてけるわけ……無理…だ。

 

……あ、死んだ……?

 

内臓が掻き回されるみたいな感じがする

もうこの程度じゃ、呻きさえでない。

死ぬってこんな感じなんだ……

 

ゆっくりとまた目を開けると、さっきと同じ光景が広がってるだけだった。

緑の雑草が目の前に見えるだけ。

流石におかしい……思えば口の中の生温い鉄の味も消えている。

ゆっくりと体がビックリしない程度に、動かして体を起こす。

 

周囲を見ると、どうやら森か林の中のようだった。

周りを見渡しても、木、木、木。

木しかない、なんだこれ家に居たはずなのに外にいるとか意味がわからない。

 

それにしても、前髪こんなに長かったけか?

目の前に引っ掛かってウザったいんだけど……うぅむ、俺の髪色はこんな白っぽかったかな?

しかも、何か肩が疲れるというか重いような……おぉっと、俺にこんな大きなものが付いていたかな?

 

「あー、あーー……なんでこんなに声が高いんでしょうか?」

 

あー、つまりはなんだ。これは、そう。うん……TSってやつだよね

うーん、俺的には全然アリだよ……うん。

でも、なんでTSして外に居るの?

正直女の子になれて、ひゃっほいと叫んでみたい気分だよ?

でも外に居るのは怖いじゃん?

 

もしやとは思うけれど、TS転生だったりしないかな?

トイレで倒れたあのとき、神様の不手際で死んでしまいました……転生してください。みたいな?

全くもって神様イベント記憶にないけど、多分きっと 神様イベントがあったんだろう……多分。

 

不安になってきたな……。

 

でもこんなところでウダウダしてても仕方ない…か。

ひとまずの目的は森を抜けて街を見つけること、顔と体の全体を確認すること

転生特典とかあるかもだから確認すること……でいいか。

 

 

「よーし、そうと決まればいざ出陣ですねっ!!」

 

 

 

 

 



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初めての街

モチベーションが上がらないなか、頑張って書きました
褒めて褒めてっ!!


 

「ビックリするほど体が軽い、前世の体にもこれほどの身体能力があれば……いや、やっぱり良いですね。こんな身体能力があってもどうしようもないですし」

 

というか勝手に話し方が変わってないかこれ……思考まで流石に変わってはないけど。

それにしても本当に身体能力が凄まじいな、五感も冴え渡ってる気がする。

 

そんな風に木々の間を抜け駆け、淡々と走っていく

抜けた先に街でもあるとありがたい━━━

 

「おっと、漸く抜けましたか……これは幸い、街もあります。まだ日は昇ってますしね。それでは行きましょうか」

 

ここから俺の2度目の生活が始まる

 

 

 

……わけがなかった。こんな超常現象が起こってる時点で察してはいたけど

死亡フラグとかないよな?

初っぱなからなんかヤバいこと起きてた気がするにはするけど。あれってなんだったんだろう、口から血が出た気がするし

 

ん~、考えても仕方ないなっ!!

 

「へぇ~、やはり定番の中世風の町並みですねー。何か面白いことはありますかね~」

 

ニコニコと、といってもこの体になってからずっとニコニコしてる気がするけど

……はっ、そうじゃなかった。面白いだとかそうじゃなかった。容姿を確認せねばっ!!

 

ガツガツと、勢いある足踏みで街のなかを歩いていく。

周りの人には不審な目で見られてるけどそれは我慢する。

 

「おっと?ガラス発見です。ここで1つ華麗な容姿でもお恵み頂きましょ……う……か……えっ?ん?待ってください……綺麗すぎませんかね?んー実にいい顔です、でも、この顔どこかで?」

「おいっ、ねーちゃん。そんなとこでなんしてんだ」

「うにゃっ!?」

 

唐突な闖入者の声を聞き、ビクリと体を震わせ ギギギと音がなっているような珍妙な動きで声が聞こえる方を向くと

なんとも恐ろしい形相をした男が

 

「おいおい、そんなにビビらなくてもいいじゃねぇか。見慣れねぇ服装だが、どっから来た?」

「えっ、あぁっ……どっから。どっからですか……あまり分からなくて?」

「なんだぁ?良い歳して迷子か?ほらっ、これやっから」

「……おじさん、思ったよりいい人ですね。私ビックリしました……」

「余計なお世話だッ!!」

 

急に怒鳴られると、すごく怖いんだけど

おじさんは怒鳴るとすぐにその場から離れていって建物の正面の方に行った。

 

チラリと覗くと、どうやら店になっているらしい。八百屋?

 

それにしても渡されたコレは……リンゴでは?

赤い皮に、少しの重量感。手の中にちょうどよく収まるサイズ……リンゴじゃね?

パクリと一口、ふむ……ふむふむ…リンゴだコレ。美味しい

 

はむはむと口のなかにリンゴを詰めて食べていく。

果物特有の瑞々しさに、ほのかな甘味

 

そんな少しの幸福を味わっている……そんな隙に唐突にやって来た。

心臓を握り潰されるような痛み……口のなかに入れていたリンゴを思わず吐いてしまうほどの苦痛……。

口からは、生温いリンゴと同じような赤い赤い血が零れ落ちて、地に転がった果実に垂れる。

 

そのまま体は倒れ混み……俺は━━死んだ

 

 

 

 

 



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推測に重ねる推測



久しぶりです。感想来ちゃってアニメも来たとなれば書かない他ないでしょ。短いですが、どうぞ。


 

 

「───っあっ! カハッ、ゲホッゲホ……うぇ、酷い目にあった。頭も痛い……気もするようなしないような。一体何が起こったと、あれ? ここって」

 

 おかしい、おかしいおかしいおかしい。さっきまで街中に居た、筈だよな? 

 そうだ、強面のオッチャンにリンゴ貰って食べたんだ。

 そのあとは? そのあと、どうなったんだ。思い出せない、何か起きた筈だ。じゃなけりゃ、こんなところに居る筈がない。

 思い出せ、そうだ。痛みだ。痛みと冷えるような冷たさが、覚えてる。身体でじゃない、ちゃんと記憶のなかで。

 

 何が起きた。あのとき、何が……死んだ? 俺、死んだのか? 

 いや、待て待て死んだならまた同じ場所に寝てるのはおかしい。リスポーン地点? 確かにそれなら納得がいくが、現実世界だぞ? そんなこと起きるか? 

 いやでも、異世界だしなぁー、起きそうだよなぁ。

 

 うん、異世界だからな。ファンタジーだからな。

 そういうことにしとこう。なるほど、納得だ。

 

 それならば、次はどうするか決めよう。

 まずは、そうだなぁ。街には行かないとだな。道行きは完全に覚えてる、最短距離は既に構築済みだしな。

 

 街に行くのは構わないが、そう一番の問題が何故死んだのか? ということ。街に入れば強制的に死ぬのか? 

 フラグ回収ってやつか? 何かキーアイテムが? 

 

「あーっ!! もうわかりませんっ! こうなれば、考えることをやめて全速前進です!」

 

 

 △▼△▼

 

 

 

 結果から言えば、あの後街に辿りつけばまた死んだ。

 太陽の傾きや明るさから見て、時間も遡ってることは間違いない。

 そう考えると同じルートを進んだものの、前回よりも早く死んだことになる。

 

 意味がわからない。そのあとも、素早く起き上がって街に向かおうとした途中に死んだ。

 明らかに死ぬ時間が早くなってる。

 

「しかも、死に方もバリエーションが増えましたし。1回目は全くわかりませんでしたが、2回目は腹が割れて腸が出てきて死亡? 3回目は刺されたような感覚と共に死亡、どれも耐えることは出来なく早々に死ぬ。おかしいですねぇ?」

 

 そう、おかしい。これだけの身体能力、きっと身体の頑丈さとしぶとさもバカに出来ないほどの高さだろうし。

 それでも耐えきれず、必ず死ぬ。バッドエンド不可避とは……? 

 

 そもそも、急に腹が割れたりして死ぬなんてファンタジーでもあり得ないにも程があるってもんだ。

 

 まぁ、考えすぎるのもよくないだろうし。どのみち、街には行くしかないだろうな。

 其れしか道がないものなぁ。

 

 

「それじゃあ、出発!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 したのは良かったのだけど、あぁ。面倒なことになったぜ、これは……。

 

 

 

 



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主人公とヒロインの出会い


ヒロイン……じゃないですけどね。
エミリアたんは別に主人公のヒロインじゃないです

あれ、じゃあ誰にしようか。ヒロイン


 

 しかし、まいったな。こんなところで足止め食らうなんて。

 

「おいおい、ねーちゃん。金目のモノ置いてけっていってるだろぉ?」

「いやー、まいりましたね。私、見ての通り無一文なんです。何も持ってませんよ? ほら、ほらほら」

 

 手を振って何も持ってないよ、とアピールするものの何も効力がない。

 はて、どうしたらいいか。うーん、よし。ボコすか。

 

 

 △▼△▼

 

 

「な、なんだよ、お前……ば、化け物……」

「人を化け物呼ばわりだなんて酷いですねぇ? まぁ、そんなことを言われてもやめませんけどっ!」

 

 バキッと効きの良い一発が入ったところで、男達を壁に向けて放り投げる。ドゴッとスゴい音がしたもので、壁の方を見ると亀裂が入っていた。

 

「あちゃぁ、やっちゃいましたねぇ」

 

 俺は悪くないからな。先に挑発かけてきて、ちょっかいかけてきた相手側が悪いし。なんなら、正当防衛だからな。うんうん、そう考えると余計に俺は悪くないなっ! 

 

「こらっ! そこの貴女やめなさいっ! 弱いものいじめはダメよっ!」

「うにゃっ!? な、なんですっ!?」

 

 この世界はトコトン俺をビックリさせるのが好きらしいな。甲高い声で叫ばれて、肩を震わせてしまう。

 何事かと声の方を向けば、銀髪の女の子が立っていた。

 あら、可愛らしい。俺ほどじゃないがな。

 

「弱いものいじめとは失敬な。苛めてなんて居ませんよ、これは歴とした正当防衛です。……やりすぎなのは? まぁ? 否めませんけど?」

「やっぱり、そんなことはしてはいけません!」

「いやいや、貴女は私のお母さんですか。説明しますけど、私はこの男達に暴行を加えられようとした。なので、返り討ちにしたんです。そもそも、彼方側から仕掛けて来なければ私もここまでしていませんから」

「えっ……じゃあ、私また勘違い? ご、ごごめんなさいっ! 私てっきり……」

 

 ようやく誤りに気付いたのか必死で謝ってくる。そう、俺は何も悪くないのだ。悪くないのにここまで攻め立てられちゃぁ、納得いかないよな? 

 少し利用させてもらおうかな。

 

「あぁ、いやいや。気にしなくても結構です。ところで貴女は?」

「あぁ、えと。私の名前は……うん、エミリア。ただのエミリアよ」

「エミリア、エミリアですね。ところでエミリア聞きたいことがあるんですけど……」

「待って」

「はい? なんです?」

 

 邪な気でも漏れたか? 

 

「貴女の名前を聞いてない。私は言ったのに、それってスゴいずるっ子なんだから!」

「ずるっ子って。なんですか……えぇ、そうですか。私の名前は……えーと、私の名前は……なんだでしたっけ?」

 

 あれ? なんだった? 俺の名前ってなんだったか? 

 ヤバイな、全く思い出せない。おかしい、いま思えばこの身体になる前の記憶もあやふやになってきてる。

 もしかして、完全にこの身体に順応しようとして、余分な記憶を消し去ろうとでもしてるのか? 別に、後悔も未練も何もないが……。

 

「あの、大丈夫?」

「あぁ、えぇえぇ。大丈夫ですとも、もう少し待っててくださいね。今すぐに思い出しますから……えーと、えーと」

 

 うーん、なんだっけ、なんだっけぇ……思い出した! 

 そうだ、俺の名前は長尾 景虎だったな。

 ん? あれ? この名前は違くないか? これって、どこかの武将の……。

 

「あ──ーっ!! 思い出しました! そうですよ! どこかで見覚えがあると思ったら……っ!」

「えっ、え? なに? どうしたの?」

「いや、私の名前をちゃんと思い出しただけです。そうですね、私のことは八華のランサーとでも、お呼びください」

「ランサーさん? それが貴女の名前なの?」

「あぁ、いえ。正確には違うのですが、いまはこちらの方が都合が良いので」

「むっ、それってやっぱりずるっ子だ」

 

 なんだ、この子面倒な。名前くらいどうにだって良いだろうに、そもそも、もう会うこともないだろ。

 

「まぁ、取り敢えず聞いておきたいことがあるのですが、良いですか?」

「うーん。困ってるのなら、助けてあげたいんだけど……」

「おや? どうしました? ワケありですか?」

「えっ? あぁ、いや、えと。そうじゃないのっ!」

「いやいや、その驚きようはなにかあるでしょう。私も手伝ってあげましょうか? その代わりに色々聞きたいことが沢山あるんですけどね?」

「そんな、悪いわ。ダメよ、これは私が解決しなきゃいけないことなんだから」

 

 本当に面倒な人だな。人の善意……という名の下心満載の嘘を受け取れないとは。

 そう、俺は善意を押し付けてそこにつけこみ、善意を返してもらおう作戦を決行中なのだ。

 

「いいえ、これも運命というものでしょう。私も何か手伝わせてもらえませんか? その代わりと言ってはなんですが────」

 

「え、えぇ。それなら大丈夫だけど、うん。わかったわ、じゃあ手伝ってもらえる?」

「喜んでぇ!」

 

 ハハハ、バーカ。

 



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主人公達の邂逅

お久しぶりです。最近忙しかったり続きが思い浮かばなかったりで続きを書けていませんでした。申し訳
なので初投稿です

本編どうぞ


「ねぇ、ランサーさんは一体何処から来たの?」

 

「遠い場所です」

 

「ランサーさんの服装って変わってるけど、どこで買ったの?」

 

「家にあったものです」

 

「ランサーさんはどうしてずっと笑顔なの?」

 

「笑顔だと嫌なことも忘れられるからですよ」

 

「そうなんだ。ランサーさんってとても強い人なのね。私じゃそういかないもの……」

 

「そのうち慣れます」

 

「ランサーさん。私に冷たくなーい?」

 

「あはは、まさかまさか」

 

 ……なんだこの人。とてもグイグイ来る。

 目をとてもキラキラと輝かせていて若干ウザったい。

 

 別に悪意を向けられているわけではないから、特段気にすることでもないのだろうが一歩歩くことに質問されているのではないか? というほどに怒涛の質問攻めを受けている。

 

 彼女に悪気があるわけじゃないんだろうけど、なんていうかこう。そうだな、世間知らずの箱入り娘……といったところでしょうか。

 なにも知らず、全てが新鮮で触れるものが未知なものばかりと。

 

 うん、とてもウザい。

 最初は俺も色々と彼女に聞いていたりしてたんだが、いつの間にか質問攻めを受けているこの現状よ。

 

「……ところで、エミリア。貴女が困っていた理由は捜し物でしたよね」

 

「え、えぇそうね」

 

「私との話に夢中で少し忘れていたなんてことありませんよね?」

 

「そ、そんなこと。ない……わよ?」

 

「あー、うん……えーと、それは良いとしてです。貴女は小さな女の子に物を盗まれた。それはとても大切なもので絶対に取り返さなきゃならない。ここまではエミリア、貴女から聞いた話ですが間違いないですね?」

「うん、間違ってない」

 

 先程までの浮かれた表情とは打って変わって真剣な眼差しでこちらを見てくる彼女を見てよほど大切なものなんだろうと俺は見る。

 それを探し当てたとなれば、うん。恩を売ることも出来るだろうな。

 

「はいはい、聞けばその小さな女の子は盗むことに慣れている様子。

 ならば、ここいらの人が多い場所を拠点としているわけではないでしょう。やはりここは裏か、多分もう少し治安が悪いところでしょうか」

「えーと、それならそうね。ここより寂れた場所があるのは聞いたことあるけど……」

「ほうほう、十中八九そこでしょうね。盗品を捌く場所を見つけれれば尚良しですね。早速行きましょうか」

 

「それは、いいんだけど……」

「どうしました?」

 

「どこなのか、わからないの……」

「おっと、役立たず……」

 

 

 彼女は思っていたより頼れないようだった。

 

 

 

 △▼△▼

 

 路地裏に居たチンピラに優しく尋ねたり、リンガ屋さんのおじさんに聞いたりすることで一刻も掛からずに盗人の本拠地を見つけることが出来た。

 

「いやー、やはり持つべきものはコネですね」

「うーん、すごーく言ってることが微妙な気がする」 

「気にしませんよ。ほら、見えてきましたあれが盗品蔵じゃないですか?」

「多分そうだと思う」

 

 煮えきらない言い方をされると、こっちも少し困惑するな。間違ってないよな? あのなんかボロい家みたいなので合ってるよな? 

 うーん、わからん。そもそも突撃するほか選択肢は俺達にはないわけだけど。

 

「行きましょうか、扉を開けましょうかね」

「その前にノックはちゃんとしましょ?」

「エミリア貴女、変なところで律儀ですね。やりますけど、それじゃノックを3回。入って「殺されるぞ!!」……おっと」

「むっ、殺したりなんてそんなおっかないこと、いきなりしないのに」

「最悪、殺し殺されの覚悟で入る方が身のためでしょうがね。___入りますよー」

 

 中に入って見ればそこに居たのは件の少女と大柄の男。そして、ジャージ姿の青年だった。

 

 △▼△▼

 

「___どういうことだ。だ、誰だよ」

 

 おかしい、ここまでのループの中であの女の人は見掛けてない。白髪で黒色のメッシュが入った。戦国武将さながらの甲冑ってェのか? 鎧かなんなのかわかんねぇけど、あんな目立つ恰好してるやつなんて見てない。

 おかしい、おかしい。まだあの女が来るならわかる。だがアイツは一体……。

 しかも偽サテラが来るのも早すぎる、前回は俺が居たから遅れたってことなんだろうか。

「俺が居なけりゃこんだけ早く辿り着けたってことか」

 

 自分がお荷物だった。などという考えは取り敢えず置いておいて。

 ふと、見れば前方でフェルトと偽サテラ、と謎の女性が言い合っている。

 

「えー、そこの童。この人の盗まれたものを返しては頂けませんか?」

 

 謎の女性の方は落ち着いた物腰でフェルトに話しかけて徽章を返すように話しかける、がフェルトは忌々し目に唇を噛み謎の女性の方を睨んでいた。

 流石に俺でもわかる、空気感が悪い。向こうの女性の方はたいしたもんじゃねぇが、フェルトの方が今にも爆発しそうな勢いだ。

 

「ハッ、ムリだな。私も商売やってんだ。簡単に渡せないね」

「そう……なら」

「やめておきなさい。ここは私がやります、そこの童」

「童じゃねー、私にはフェルトって名前があんだよ」

「それは失礼、ではフェルト。そちらが盗んだものを今すぐこちらに手渡しなさい。それを貴方達が持っているだけで、メリット以上のデメリットが貴方達に襲いかかる」

「……へぇ、どうするってんだよ」

「貴方達3人諸共、殺害するのも容易いことですが?」

「脅しかよ姉ちゃん」

「勿論、これだけの大きな国です。そんな中で盗みなんてするようなら、それだけの覚悟があってやっているのでしょう?」

「確かにそれは間違っちゃいねぇが」

「なら、構いませんね。ここで貴方を殺しても文句は言えませんね? 死ねば喋ることなんて出来ないのですが」

 

 俺にも当てられる無造作にバラまかれる殺気が身を凍らせる。

 サディスティック女なんて、比にならねぇほどの……。

 思わずチビリそうになっちまう。動けるわけがない、ただ呆然と見守るしか出来ない。

 

「……ロム爺」

「動けん。……いや、動きたくても動けないが正しいの。厄介なもんを持ち込んでくれたもんじゃな、フェルト」

 

 フェルトの静かな呼びかけに、脂汗をかきながら答えるロム爺。腕が少し震えて見える。あれ程の巨漢のロム爺が震えている姿は、少し恐ろしく見える。

 

「厄介なもんに更に厄介なもんが上乗せされてる気分じゃわい」

「……そこまで言っていただけると私も自信が付きますね」

 

 盗品蔵に入ってきたときから絶えないその笑顔が、この場ではとても不気味で仕方ない。

 一触即発の空気、もうここまでかと目を細めたその時。偽サテラの後方から轟音が鳴った。

 

「な、なんだ!?」

 

 思わず、叫び声をあげちまった。

 音が鳴ったその先、そこに居たのは先程までフェルトと話していた謎の女性だった。

 

 

 



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戦闘!ハラキリー


思ったより駄文になってしまった
なので、初投稿です

本編どぞ


 

 

 

 フェルトとかいう盗人と、穏やかに平和的に交渉をして徽章を取り返そうとしていた。その時に、エミリアに向けて背後から襲おうとしてたやつがいた。

 思わず、躊躇いなく蹴りを入れてしまったが────。

 

「人が話しているというのに、無粋な人も居たものですね」

「あら、そうかしら? 一応私も関係者なのだけれど」

 

 どうやら、無事らしい。少し動きに違和感が見られる程度。

 骨の1本2本折れてくれてたら助かるんだがなぁ。

 

 しかしだ。この身体が高性能じゃなかったら見逃して、みすみす彼女を殺されていたかもしれない。

 そうなれば、俺の計画もパーだ。

 

「関係者が、いきなりその場に居る彼女を殺そうとするんですか。それはそれは」

「えぇ、本当なら殺す予定ではなかったのよ? でも、彼女は失敗した。盗んできた徽章を私は買い取る予定だった。それさえまともに出来ず、部外者、果てには持ち主まで来られてはまともに商談なんて」

「だから、殺して奪い取ると?」

「……えぇ」

「私も殺されるのは好きじゃないですから、貴方を殺します」

「……積極的ね。ゾクゾクしちゃう」

 

 にたりと、女が口元を弧に描き笑う。瞬間、力にものを言わせた蹴りがまたしても相手に刺さる。

 内臓が破裂して、骨が折れる感触を直に感じる。

 

 蹴られた女は直線にそのまま吹き飛ばされ、盗品蔵の壁を突き破っていった。

 

「す、すげぇ……」

 

 後方にいるジャージの男が何やら羨望の眼差しか何かで見つめ呆けている気がするけど、無視しとこう。

 

 やはりというべきか、なんと言えばいいか。手応えもあった。普通の人間なら生きていられないような激痛も走ってる筈なのに、尚倒れず俺を見ていた。

 

「貴方、人間ですか……?」

「さぁ、どうかしらね……」

 

 問うた疑問に、答えをはぐらかし女は不気味な程の軽快さで俺に詰め寄ってくる。

 あそこまで痛めつけられて、動けるはずがないと思考していた。故に、懐まで女が入り込むのを許してしまった。

 

「おっと!」

 

 思考はなく、ただ驚きを逸しているだけだったのに身体は反応した。

 自身の意思あって行動し、反撃したんじゃなく勝手にだ。自身の思考と一切の関係もなく女が、今まさに俺を切りつけようとする瞬間。女よりも速く蹴りつけた。

 

 しかし、流石の女も慣れてきたのか身体をそらすことで蹴りを躱す。

 人間技とは思えない躱し方、思わずブルりと寒気がしそうだ。

 

「刃物なんて持っていたんですね」

「あら、御不満かしら?」

「いえ、上等。私も1つ手に取りましょう……そうですねこれが良いですね。うん、持ちやすい。振りやすそうです」

 

 手に取るのは盗品蔵の床に落ちていた一振の長剣。

 盗品蔵にあるってことは、この剣も盗品なんだろうが、この際それは考えず勝手に使わせてもらう。

 見た目は普通、重さは少し軽い。長さは中程度。

 

「準備はいいのかしら」

「ええ、お待たせしました。続きを始めましょうか」

 

 

 ▽▲▽▲

 

 

 スバルは、思わず後退りした。

 元々住んでいた日本ではまず見ること、もしかしたら聞くことさえなかったかもしれない事態をいま目にしていた。

 黒髪と白髪の女達が人間とは思えないほどの力強さと軽快さで戦闘を繰り広げている瞬間を──。

 

 いまは白髪の女が優勢に立っている──ようにスバルは見える。

 実際のところがどうなのかはスバルには判断がつかない。

 黒髪の女の地を這うように身を伏せ、壁さえも足場にする重力を無視したかのような俊敏な動きに、白髪の女は的確に攻撃を避け続けている。

 

 もはや、両者とも怪物。スバルにもロム爺にもフェルトにも、彼女たちは同じ人間とは到底思えていなかった。

 

 その動きも強さも怪物化け物級。しかし、3人が1番恐れるのは、どれだけ身体を痛めようとも絶えず笑顔である両者の表情だった。

 片や黒髪の女。いまの戦いを楽しんでおり、そのスピードは衰えるどころか白髪の女に合わせるかのように上がっていく。

 それに合わせて白髪の女も対応させる速さを上げ防御に徹する。

 

 白髪の女は若干、焦っていた。

 彼の英雄の力と身体を手に入れているという彼女の驕りがいままさに彼女自身に牙を剥いていた。

 

 黒髪の女への攻撃には対応出来るものの、逆に彼女から黒髪の女への攻撃の隙を見つけられないのだ。

 どれだけ身体能力が上がろうと、経験の差は簡単には埋められずただ防戦一方、相手の攻撃を避けるか受け続けるしかなかった。

 

 しかし、それに3人は気付かない。故に動けなかった。このままいけば勝てる、黒髪の女なぞ目になく倒せると思ってしまう。

 自身の死への緊張感が和らいでいてしまった。

 だからか、3人とも動けなかった。あと一押し足りない。自身の死を認識出来ていないからこそ、何もせずとも終わると心のどこかで個人差はあれど思ってしまっている。

 

 白髪の女はこのままではジリ貧、負けてしまうと考えていた。

 幾度となく続く攻撃、逆に当たらない自身の攻撃。

 身体にでなく精神にダメージが入る。

 

 1発当たれば致命傷。だからか彼女は焦る。

 当てれば勝てる、だが当たらないもどかしさに彼女の心に少しずつ焦りを生み怒りを募らせる。

 それに呼応するようにドンドン粗雑に単調になる攻撃。当たらない。

 もはやスバルでは見えぬ程の黒髪の女の俊敏さは高まっている。

 当たるわけがなかった。

 

 それを感じたのか、ただ1人その場で動くエミリア。傍にはいつ現れたのか猫のような姿をする精霊パック。

 

 パックは、絶妙なタイミングで氷を射出し黒髪の女に当てようとする。

 しかし、その攻撃にさえ反応した女は氷の攻撃を躱し一瞬気を逸らされた。

 

 その隙に白髪の女が好機と捉え、素早く力強く蹴りをまた入れた。

 しかし、彼女の足に伝わる感触は先程までのものとはうってかわり手応えがなかった。

 

 黒髪の女は白髪の女の攻撃でさえも反応していた。身体を弓形に描くことで、直撃を逃れ蹴りの衝撃で女は吹っ飛ばされた。

 まさに獣。その反応力は本能と言える程。野生の獣が働かせる本能と同等のものを白髪の女は見る。

 

「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」

 

 そう1人ボヤくのは、精霊のパック。

 飄々としたその態度は余裕を見せつける。

 しかしパック自身も、思わず魅入ってしまうものだった。両者の戦いは荒々しくも、美しく見えるほどの激闘。

 エミリアの指示がなければ、攻撃なぞ止めていた程に。

 

 そうして出てきた、パックの心からのボヤき。

 それに反応するのは黒髪の女。

 

「 あら。女の子扱いされるなんて随分ひさしぶりだわ」

 

 それに続いて白髪の女。

 

「私は戦い慣れてないですがね。元々女性でもないですし」

 

 一瞬の時間。両者ともすぐに戦闘の続きを始める。

 先程よりも苛烈に、素早く劇的に。

 白髪の女も黒髪の女も、戦う中で経験値を得て黒髪の女はより速く、白髪の女はより強くなっていく。

 

 そして、不意に決着は訪れる

 

 

 

 

 



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ハラキリー決着

今回は本当に短文です


 幾度の撃ち合い。既に相手の女は瀕死の状態に見えるが、一向に倒れ伏す気配が見えない。

 それどころか、更に速さを増していく。

 

「本当に気味が悪いほど倒れませんねっ!」

「あら、それはこっちも思っているわ。こちらの攻撃が全然当たらないもの、飛ばしたナイフも不自然にナイフが避けた。もしかして風避けの加護でも持っているのかしら……?」

 

 風避けの加護……? 

 もしかすれば、この身体本来の能力が使えたりするのか? 

 

「考え事かしら。妬いちゃう」

「戯けたことを」

 

 俺の大振りの1太刀、相手の女の鋭い横一閃。

 

「やっとその可愛い顔に傷がついたわ……」

「やられましたね」

 

 振り下ろした長剣は半ばから綺麗に折れ、頬に鋭い痛みが走る。

 切れた頬から流れる血を指で拭いとる。

 

「ふぅ、この世界のこと少し舐めてかかりすぎたみたいです」

 

 相手の女は俺の言う言葉に何も言わず聞いてくれている。

 後ろの青年は、少し気にかかっている様子だが、そういうことなんだろ。

 

「色々と不安はありましたが、貴女とやり合って漸くわかりました」

「なにかしら?」

「私は狂いかけてるってことをですね」

「それは面白いわね」

 

「えぇ、いまこの瞬間が楽しくて仕方ないんです。どうすれば攻撃が当たるのか、どうすれば防げるのか避けられるのか……そう考えたいですけど、それすら許してくれない貴女の戦い方はとても好ましい」

「褒めてくれているのね。嬉しいわ」

 

「出来れば、この瞬間が続けば良いと思いますが、無理でしょうね。私も野暮用があるので」

「それは残念ね。私も貴女とするのは少し楽しかったのだけれど」

 

「そうですね、ですから最後に名前を聞いておきましょう。名乗りを許しましょう」

「……ふふっ、貴女本当に面白いわ。そういう人は好きよ。───『 腸狩り』、エルザ・グランヒルテ」

「また会えるのを楽しみにしています。──『 越後の軍神』、長尾景虎。推して参る!」

 

 戦意が練り上げられる。身体の奥底の核が増長する感覚を感じる。

 ドクンドクンと脈を打つ、自然と力が入る。右手と左手をグッと力強く握ればいつの間にか手の中には槍が2条。

 遠き日に彼女自身が握った無銘の槍。

 

「いまはこれでも上々! 咲き荒べ、八華繚乱!」

「さっきより、荒々しいけれど。とても良いわ……感じちゃう」

 

 いままさに最後の決着のとき──。そうなるはずだった。

 

 盗品蔵の天井を突き破り、現れたのは燃えるような赤髪の男。

 

 後方にフェルトが居ないところを見ると、エミリアは抜けてはいるもののバカではなかったようだった。

 

 あぁ、萎えた。

 

 

 



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メイドと屋敷と


皆様あけましておめでとうございました。
リゼロ始まりましたね。なので書きました、文章が若干変わってるかも


 

 揺れる竜車に身体を揺さぶられながら、ゆっくりといまは身体を休めていた。

 あの女、エルザとの対決後、突如現れた赤毛の男。

 アイツに全てを邪魔されたが、その後は特に何事もなく終わりを迎えた。

 

 変わったことがあったとすれば、エルザに腹を裂かれたジャージの青年が俺の横に寝転がされていることとか、フェルトが赤毛の男に連れて行かれてしまったことくらいだな。

 

 些事だな。

 

「ねぇ、ランサーさん」

 

 対面に座るエミリアから話をかけられ

 竜車の窓縁に頬杖を立てている状態のまま視線だけをエミリアへと移す。

 

「どうしましたか。竜車の方なら乗り心地は最悪ですよ」

 

「そうよね、竜車ってすごーく揺れるから私も……そうじゃなくって、本当に良かったの?」

 

 軽い悪態をこぼしてみるものの、そちらの方にも共感して対応してくるエミリア。

 どうやらどうしても話したいことがあるよう。

 

 仕方なく、俺も頬杖を着くのをやめて身体をエミリアの方へと向け話を聞く。

 

「……なにがですか?」

「私、あの約束のこと──」

 

 どこか心配そうに俯くエミリア。

 イジイジと人差し指同士をつつかせてへこんでいるよう。

 

「……はぁ、いいですか。私のことは私でどうにかしますし約束事も大丈夫です。……えぇと、ロズワール……様でしたっけ? その人との話次第でしょう、貴女は気にする事はありません」

「でも……」

「貴女、大概に面倒くさいですね。本人が気にするなと言っているんですから気にしないでください」

「うん、わかった」

 

 分かったと言いながら、どこか不満気な様子でこちらをじー、と見てくるエミリアに流石に俺も気分が悪くなる。

 

「はぁ……」

 

 

 自然とため息が溢れ、少し行く先が不安になってしまう。

 

 

 ▽▲▽▲

 

 

 屋敷に着いて、いま現在。

 竜車を操縦していたらしい桃色の髪のメイドとは既に面を合わせたものの

 エミリア曰くもう1人メイドが居るとのこと。

 なんで、これから世話になる……かもしれない身として挨拶の1つでもしといた方がいいかと思ってそのメイドを探している途中だ。

 

「それにしても、こんな大きい屋敷を小間使い2人だけで維持するんなんて大変でしょうに」

 

 

 思わず感嘆の息を洩らす。

 窓縁を指でなぞって見ても、埃の1つすら見当たりはしないことから、思っていた以上に完璧な仕事らしい。

 改めてここのメイドに感心してしまう。

 

 桃色の髪のメイド曰くもう1人のメイドはキッチンでも探せば居るだろうとのことだったが……。

 

 

「キッチンがどこなんだか。本当に広いですね……」

 

 これなら案内すると言ってきたエミリアの意見を拒否せずに、言葉に甘えておけば良かったか。

 

 それにしても歩けば歩くほど屋敷内のどこを見ても丁寧に、かつ綺麗に整えられているのが見てわかる。

 窓から見える庭園も、木々が見栄えよく剪定されていて、花壇も色とりどりの花が植えられていて目の保養にもなる。

 

 

 あっちこっち見ながら、メイド探しの合間の屋敷散策途中。

 ふと、妙に気を取られる扉を見つけてしまった。

 まぁ、開ける必要もないかとスルーして1歩2歩、3歩と歩いてみるのだが1度気になってしまうと、どうしても心がモヤモヤとして開けなくてよかったのかと思えてきてしまう。

 このままじゃ、ずっと気になり続けてしまうし、扉の前へと戻りゆっくりと扉を開けて部屋の中を覗き込んでみる。

 

 すれば、何をそんなに気に取られていたのかと思えるほど、視線の先には想像していたよりも簡素な部屋があるだけだった。

 

 結局、開けても開けなくても心がモヤモヤとする結果になってしまった。

 屋敷の散策もメイド探しも、そのせいか興味が消え去ってしまいエミリア達のところへ戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ヒロイン達との邂逅


前回の更新いつだー?
・・・わあってな感じで更新してみました
前までより地の文多めマシマシですどうぞ




 

 朝日が登り始めた早朝。主の居ないためかこの屋敷は異様に静かでガランとしていた。

 最初に会ったきり目にしなくなったメイドや、どこかへ行ってから見なくなったエミリアなどなど。

 客人という立場の俺をまさか屋敷の中で1人置かれるとは思ってもいなかった。

 

 眠気も腹も空かしているわけではないので、困ることなどは特段なかったりはするから良いんだが……。

 

「──まぁ、だからすることも無くこうしてブラブラと歩き回っているわけですけど」

 

 館の壁を触れながら、そのまま壁沿いに歩いていく。

 昨日見たばかりの屋敷の中は特に変わっているところもなく、同じような景色が続いているので流石に飽きが回ってきた。

 

 そろそろ屋敷の中を歩くのをやめて、外にでも出ようかと考えていたとき不意に1つの扉から、ちょいちょいと小さな手が見えた。

 どうやら、扉の前を通る俺を手招きして呼んでいるらしい。

 

 伽藍堂の屋敷に、不意に見える小さな手というのは中々にホラー要素垣間見える。

 見えはするが、どうやら見える手の主は相当なにか焦ってるのか急かしているように思える。

 

 少し不可解な気持ちになりながらも、そっと手が出る扉へ近付いていく。

 ドアノブに手をかけて、中を見れば幼女が1人と倒れ伏した男が1人と。

 幼女の方は見覚えがないが、男の方は見覚えがある。前日、傷を負って治療されたらしいあとはどこかで寝かされているとは聞いてはいたが……。

 まさか幼女の居るところで1人眠っているとは思ってもみなかった。

 

 つんつんと足蹴にしてみるものの、動く気配も呻く様子もなく……。

 どうやら昏睡してるようだ。

 

「これは、一体どういう状況なんですかね」

 

 目の前の幼女にそう問いかけると、幼女は疑問気に首を傾げた。

 見たことないようなやつが居ることに疑問を感じてるってところだろう。

 

 幼女は数秒俺を見てからようやく口を開いた。

 

「メイドの娘たちかと思って呼んでみれば、まぁそれはいいかしら。早くそこの男を連れていくのよ」

 

 なんともまぁ、傲慢な言い草。

 いまどきこんな幼女現代でも見ることないんだけど、それはそれとして──。

 

「イヤです」

 

「……は? いま、なんて言ったかしら……?」

 

「だから、イヤです。そもそもなんで私がそこのジャージを……いまは違いますが、そこの男をせっせと運ばなきゃ行けないんですか?」

 

「この言うことかいて、そもそもそこの男はお前のツレなのよ。それならお前が持っていくのが筋って言うものかしら」

 

 少しキレ気味な幼女、たまたま道中一緒に居ただけで別にツレって訳じゃねぇんだよな。このジャージ男。

 

「そう言われましても。どこに連れていけば良いのかも分かりませんし」

「そんなことべティーに言われても知らないかしら」

 

 この幼女本格的に性根が腐っているようだ。言うこと理不尽態度は横暴、これは何を言っても聞き取ってくれないな。俺が折れるしかない……か。

 

「はぁ、解りました。解りましたよ、連れていけばいいんでしょう? 置いてくる場所は……まぁ、歩いていればそのうち見つかりますかね」

 

 ボヤいて入ってきた扉から出ていこうとした。そこで茶々を入れてきたのはまたこの幼女である。

 

「ちょっと待つのよ」

「なんですか今度は、頼みは聞きますよ。これ以上何かして欲しいことでもありましたか?」

「……もう行ってもいいかしら。ほら早く出ていけかしら。シッシッ」

 

 人を引き止めたと思えば用件も話さず、挙句の果てに待たせて出て行けと宣う。ちくしょうこの幼女嫌いだ。

 そんなに出ていって欲しいなら喜んで出ていってやるよとドアを開け放って目に入るのは大きめな個室と中央に存在する大きめのベッド。少し布団が捲りあがっているのを見るに、誰かが使ったあとか。

 そして、その誰かとは勿論いままさに運ぼうとしていたこの男だろうな。

 

「素直じゃないですね?」

「……うるさいのよ」

 

 ちょっとは可愛いところあるじゃないかと、評価を改めて彼女の部屋から退室した。

 

 

 

 ◆

 

「おや、お目覚めですか」

 

 目を開いたスバルに最初に声をかけたのはランサーだった。スバルが寝ているベッドの横に小さな椅子に座って本を読んでいた。

 

「アンタは……」

「2日ぶり、いや貴方からすれば昨日ぶりですかね。おはようございます。お腹の傷は大丈夫ですか」

「お、おぉ。腹の傷は……多分大丈夫だ」

「そうですか、それでは失礼しますね」

 

 少しの問答。スバルの体調が健康になっていっていることをランサーは確認すると、読んでいた本を閉じて用はないと言わんばかりに席を立とうとした。

 しかし、それを止めたのはこの男。ナツキスバルだ

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 大袈裟に声を荒らげ、いまにも部屋を出ていかんとするランサーの腕を逃がさないとばかりに掴むスバル。

 しかし、ランサーの身体能力はスバル程度の力で止まるようなやわな身体をしていない。

 つまり、どうなるかと言うとスバルより幾分華奢な風体をしている女性に男子高校生が引きずられていく……というなんともまあ、みっともない光景が出来上がるわけだ。

 スバル自身、あの時の戦闘の記憶が薄れてる訳じゃないがこうも簡単に自身の力が少しもランサーに及ばないとは思ってもみなかった。という顔だ

 

 そしてそんな光景を見ていたのは当事者2人だけじゃ勿論なく

 

「姉様姉様、貧弱なお客様が女性に引きずられていくみっともない姿を晒していますよ」

「レムレム、みっともないお客様が女性に引きずられていく貧弱な姿を晒しているわよ」

 

 突然横からそんな声掛けをされたスバル、壊れたブリキ人形のようにゆっくりと声のする方向へと顔を向ける。

 そしてその姿を見たスバルの視覚を通して脳内記憶メモリーにいままで蓄積してきた『オタク』領域の記憶周辺に暴力的な程の衝撃を与える。

 スバルがそれほどまでに驚き、そして一瞬思考を止めた程の光景とは何か……。

 

 そう、メイドだ。

 

「なん……だと、そんなバカなっ!? メイドだと!?」

 

 ありえない、だがありえないわけじゃないなどと、スバルの脳内ではグルグルと同じことを考えてはやめて考えていた。

 しかし目を覚まして最初に目にしたのが女武者の次にメイドと来れば思考能力がバグるのも仕方ないことだろう、そしてそのメイド他にも目を惹くような要素が1つある。

 まるで鏡写しかのように同じ容姿をした双子なのだ。

 

 ランサーもなんだかんだもう1人の方のメイドを見るのは今日が初である。スバルとメイドたちは騒がしく話しており、朝っぱらから騒がしいのは苦手だとランサーはそう思いつつスバルの意識がメイドに集中してる間に部屋を出る。

 扉を開けるとちょうどスバルの様子を見に来たのかエミリアの姿があり、開けようとしていた扉が勝手に開いたことで少しビックリといった感じだ。

 そしてランサーの方に気がつくとパァと擬音が付きそうな顔でランサーを見つめ声をかける。

 

「あっ、ランサーさん」

「……あぁ、貴女ですかエミリア。おはようございます」

 

 その反面ランサーの顔は辟易としていた。面倒なのに引っかかったとでも言いたげだ。

 向こうから挨拶をしてきたし返さないのも礼儀に反するだろうとランサーはエミリアに一応挨拶を返す。友好的な態度は1ミリも感じられない雰囲気ではあるが。

 しかし、それとら裏腹にそのような態度のランサーに対しても挨拶を返してくれたというその部分だけを取って嬉しそうにするのがこの女エミリアである。

 

「うんおはよう!」

「貴女がどうしてそんなに朝から元気なのかは、まあ置いておきますね。件の男ならピンピンしていますよ、話があるならしておいた方がいいでしょう」

「あっ、うんわかった。ありがとう」

「……いえ、それでは」

「……あっ! レムたちが朝食、用意してくれるから良かったらランサーさんもあとで来てね!」

 

 エミリアの言ったことに対して背を向けて手を挙げ振ることで了解の意を伝えるランサー。そのランサーの様子に少し怒らせちゃったかななどと考えつつ1度振り切ってスバルがいる部屋へとエミリアは姿を消した。

 

 

 ◆

 

 今朝の出来事から、少したった頃。

 俺はいま窮地に立たされていた。

 

「君は一体何者なんだい」

 

 奇抜な道化の格好をしたこの屋敷の主ロズワール・L・メイザースに先程までの軽薄そうな言動さえもなりを潜めて、問い詰められていた。

 

 ……非常にマズイ。こういう展開を考えていなかったわけではないがなるべく避けておきたいものだった。

 よくよく考えれば当たり前のことだ。話を小耳に挟む程度に聞いていたが、現在この王国は様々な問題事が起こってるようである。

 そんななか素性のしれない強さを持つ俺が転がり込んできたと考えれば王候補のエミリアへの害をなしに来たか─またはこの屋敷にか─そう捉えられてもおかしくはないだろうな。

 まあ、言い訳はいくらでも思いつくが下手なことを言って害的認定されると後々面倒なことになるのは目に見えている、さてなんと答えるべきか……。

 

 

 

 

 



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ループする4日間

なんか知らんのだけど、めっちゃ急にアクセス数とお気に入り数増えましたね。なんやこれぇ…という気持ちでいっぱいですありがとうございます

まあそれはさておき、なんとこの作品が前回の更新から1日たった頃かな?ランキングに入っておりました、わーぱちぱち
総合日間96位、二次創作日間76位と順位は低いですが嬉しいです。なんでランキング入ってんの?ありがとうございます

ということで本編です



(追伸)

この話を投稿した1時間後に自動車と衝突事故して利き腕を怪我しました
ってことでまた当分続きはかけまへん



 

 その場にいる館の住人とナツキスバルからの視線。その全てがいま俺に集まっているのを感じる。

 それだけで冷や汗が滝のように流れてるような感覚さえ覚える。なにせここの問答で答え方を間違えれば俺は最悪この場のヤツら、少なくとも当主であるロズワールと隣のメイド2人からは襲われても当然だと考えるべきだろう。

 しかしここで慌てた様子を出してはせっかくの答えがあっていようと怪しまれるのは必然……。そこまで考え俺がようやく口にしたこと

 

 

「私は……」

 

 

 

 ◆

 

 

「それで、なんでここにいるかしら」

「おや、私と貴女の仲ですし、いいではないですか。こんなに広いんですし私1人増えたくらいで文句言わないでいただきたいものです」

「ベティの視界にチラチラと映って鬱陶しいったらないかしら。ハッキリ言って不快なのよ」

 

 朝食での問答のあと、俺は一時的にこの禁書庫と呼ばれる蔵書室にて匿ってもらっている。

 どうやら俺の答えは間違ってもいないようで、間違ってもいたようだ。当初の目的である衣食住の確保は出来たものの、次の目的である怪しまれないの方は達成はできなかった。

 現在メイドの姉妹である姉と当主のロズワールからは疑念の目……というには早計かもしれないが、様子見といった視線を度々感じる。

 ずっと見られていては肩もこるし、証人が居て尚且つ静かで暇を潰せるようなところはないかと考えていたところ、ここが思い至ったわけだ。

 

「不快……ですか。なら、今朝の貸しを返してもらうということで1つどうですか?」

「……ぐぐっ、あーもうっ! わかったわかったかしら! 好きにするといいのよ!」

「ありがとうございます」

 

 不機嫌な彼女に丁寧な礼を返したものの、ぷいっと反対方向を向いて視線も合わせてくれなくなっちまった。

 図書館の司書さんが許してくれるなら好きにするのが当然の権利、だと言わんばかりに俺は気になった本を幾つか見繕ってくる……が。

 

「……ふむ、読めませんね」

「お前、字も読めないのに本を読むところに何をしに来たのよ……」

 

 どうやら禁書庫の主であるベアトリス様は大層お呆れのご様子だ。

 まあこの世界に来て字が読めないことは分かってた。発声する言語が一緒なのに識字だけが別形態ってのもおかしくないかとは思いはするが、そこは異世界クオリティということで置いとくべきなんだろうしつついちゃ面倒なところだと思う。

 なんせここに来た理由は、先程述べただけのものじゃなく勿論字を覚えるためにも覚えるためにもこの禁書庫を選んできたんだが知らない言語を1から覚えるのは骨が折れる。

 

 さて長々と言って何が言いたかったのと言うと、ベアトリスに読み書きの講師をしてほしいということだ。

 ということで彼女に頼み込んでみるとしよう。

 

「ほら、言ったでしょ私はちょっと変わった土地から来たので読み書きが出来ないって」

「……そんな話聞いた覚えはないのよ」

「あれ、そうでしたっけ?」

「……はぁ、そこの棚の上から3段目右から15冊目。そこに幼児向けの本があるかしら。それでも読んで字でも覚えるといいのよ」

「おや、今回は素直ですね」

「人の好意をそんなに吐き捨てたいのかしらお前は!?」

 

 ベアトリス怒である。それはもう第三者が仮に俺達のやり取りを見ていたとしてもわかるような明らかに私は怒っていますよと言わんばかりの分かりやすい行動をしていた。

 なんなら彼女の背後でムキー! といった擬音が目に浮かぶように見えるほどだ。

 

「いやいやいや、そんなまさか私ほど清廉潔白で優しくて美しくて、そして恩を返す人間は居ませんよ。ほら、ね?」

「ほら、ね? ──じゃないのよ、自分で自分のことを清廉潔白で美しいなんて言うやつ埃程度も信用ならんかしら」

 

 なんと、この俺のどこが清廉潔白でないと言うのだろうか。清廉潔白であるかのような象徴であるこの白い髪──まあ裏地は黒いが──が見えないのだろうか。

「まあ何が言いたいかというと、字を教えてください」

「全くその話の流れが一切見えなかった気がしなくもないのよ」

「気の所為ですよ。ほらこんなにも私は懇切丁寧に教えを乞うているじゃありませんか。ベアトリス様〜どうぞこの無知なる私めに学というものを教えてください〜てね」

「おかしいのよ、お前からは信用と同時に敬意も見えなかったかしら!?」

「はは」

「笑い事じゃないかしら! はぁ、どうしてこんなやつ禁書庫に入れちゃったかしら」

「ははは」

「鬱陶しい!!」

 

 ただ場を和ませようとしていただけなのに可笑しいなぁ。どうやらこの世界は俺が思ってるほど甘くないみたいだ……っ!! 

 と、漫才のような流れはさておき、結果的に言えばこの後ベアトリスは俺に読み書きを丁寧に教えてくれ、そしてこの世界の成り立ち、そして学問一般常識などなど様々な知識をこの4日間俺に叩き込んでくれた。

 

 そう4日間だけだ、そしてそれは4日目の夜に起きた。

 また世界の時間が巻き戻ったのだ。

 

 

 ◆

 

 

 

「解せない」

 4日目の夜、眠るように力が入らなくなって最後には館の廊下で死んだあの日。そこから時間は戻って、いまは4日前だ。

 解せない、ちょー解せない。せっかく色々と悩んで問答に答えた1日目。

 そして口喧嘩はありつつも仲は深まったであろうベアトリスとの時間4日間。

 

 全て無に帰されたと思うと、とてつもなくやるせなさというものを感じる。

 まあ問答の件に関しては先程終わらせた。ベアトリスから聞いた世界の情勢や成り立ちから当たり障りのない程度の理由を貼っつけてロズワールにぶっつけてやったのだ。

 それもあってか前回よりは疑念の目で見られるといったことは無くなった。

 さて、どうしようか。前も少し考えたことではあるが、この世界がループする現象、まあループする前に俺が死んでいることを考慮して呼ぶなら「死に戻り」この現象をどうにかして解明したいわけだ。

 何故起きて、何故起こされるのか。原因と理由を解明したいわけだ俺は。

 さてまあ、だからと言ってどうしたものか。

 ちょっとあれ? と思うことはあった、そう一日目の朝巻き戻された世界はビデオのように同じように動かなければ可笑しいのに1人だけ前回と明らかに違う反応を見せた人間がいる。

 

 そうナツキスバルだ。

 

 初めて見た時もそうだったが、彼はジャージを着てこの地を踏み歩いていた。ベアトリスからも話を聞いていたが、ジャージなんていう意外と現代の科学力で作られた服はこの世界には存在し得ないらしい。

 まあなんだ、彼は俺と同郷なのだろう。同じ世界かは別としても

 彼が行った1日目の明らかに違うアクション、そして私が起点じゃないかのようなバラバラの時間のループ。そし多種多様な死に方。

 大方、彼が死ぬとこの「死に戻り」という能力は発動されるのだろう。

 傍迷惑な話だ。これで俺の記憶も戻っていたのならなんら問題は無かったのだが、何故か知らないが俺も記憶を持ったままループしているし、そして何故か彼と同じ死に方をして「死に戻り」を始めている。

 

 解せない。

 

 何故俺が巻き込まれているのかは分からないが、とりあえず今回のループはナツキスバル彼を観察して終わりにする。

 いわゆる捨て回ってやつだ。

 

 

 



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準備期間

 

 

 

「ふぅ、ちぃっとまじったかな」

 

 ロズワール邸1日目、その日が終盤に差し掛かる前。ナツキスバルはロズワール邸での使用人としての雑用をこなした疲れを浴場の湯船で癒していた。

 

 その間スバルは湯に身を任せながら反省の念を込めて頭を抱えていた。

 同刻、「死に戻り」に関して現在のスバルのように頭を抱えているランサー。そしてスバル、彼もまた同じくしてこの不可解な事象「死に戻り」に悩まされていた。

 

 ランサーの考えていた通りこの「死に戻り」という状況を作り出しているのは───直接的に関与している訳では無いが───このナツキスバルで間違いなかった。

 

「出来るだけ今回も前回と同じように辿ってやろうって思ってたのに、初っ端から出鼻をくじかれたワケだ。やるせねえな」

 

 スバルはそう天井を見上げて独りごちた。

 スバルが出鼻をくじかれた……そう言った理由は同じように「死に戻り」を何度か経験しているランサーのせいにほかならない。

 1度目と違い最初にロズワールに話した彼女の身の上話がまるっきり違っていたのだ。

 1度目、ロズワールへ彼女が返した問答への答えは思わずスバルでも呆けて耳を疑うかのようなことを吐いた彼女だったが今回は違う。

 1度目、2度目のスバルよりも圧倒的にこの世界のことを知っていなければ出てこないように辻褄を合わせた嘘八百がペラペラとその口から出ていた。

 1度同じ体験、場面に遭遇しているスバルだけが分かる違和感と不可解さ。この状況を1番訝しんでるスバルはランサーに疑いの目をかけた。

 

 だからこそスバルは当然考えた。

 もしかすると俺以外にも「死に戻り」をしている人間が居るんじゃないか? と

 もしくは、彼女がこの「死に戻り」という状況を作り出している犯人なんじゃないか? とも

 

 

「だからこそ、今回はあの白髪の姉ちゃんを観察しようって思ってたんだがこっちも想定外だった。前回と違って仕事量が多すぎる。これじゃ観察どころの話じゃねえよ」

 

 

 またそう言いスバルはやるせなさにため息をついてより深く湯船の中に身体を沈ませる。

 今回の謎に始まった「死に戻り」に、白髪の怪しい女性、それに何気に辛い使用人としての雑用。

 色んなことが重なってスバルの頭の中は既にキャパオーバーになっていた。

 そんな現状を憂いながらうーだとかあーだとか声にもならない呻き声を上げている彼の元に1人、男が現れる。

 

 

「おや、なぁにか悩み事かーぃい?」

 

 普段付けているピエロのような装束も白塗りの化粧もいまは風呂場だからかどちらも付けてはいないため首を傾げたが現れたのはスバルもお世話になっているこの屋敷の主のロズワールその人だった。

 

 

「……ロズワールじゃん。悩み事っちゃ悩み事だけど、どしたん?」

「どーぉしたもこーぉしたもなーぁいよ。自分の家でお風呂に入ってるだけだーぁよ」

「それもそっか。ここエミリアの家じゃなくてお前の屋敷だもんな……。初日が忙しすぎて頭からすっぽ抜けてたわ」

「そうかいそうかい、ところでご一緒してもいーぃかな?」

「お前の屋敷なんだから好きにしろよ。それに断わってもどうせ入んだろ?」

「うーん、実にその通り。じゃあ失礼するね」

 

 

 そう言ってロズワールはスバルと同様に─スバルの横に─湯船に浸かる。

 ふう、と一息しゆっくりと身体を解す。入浴した際の快感というのはどの世界でも共通なようでスバルは謎に親近感を覚える。

 

「なんか、こう。ジジくさいな」

「その表現は実にただしーぃいよ。……なんだかんだ私も歳だからね」

「あぁ?」

 

 

 そう言うロズワールにスバルは眉を傾げたが、お前のその見た目で何が年寄りだと考えてロズワールの妙な言い草を心の中で一蹴した。

 

「それよーぉり? 何か悩み事なんじゃなーぁいかい? ここは使用人であるスバルくんの悩みを聞いてあげるのも雇用主としての役目だと思うんだーぁけど? どうかーぁな?」

 

 

 胡散臭そうな表情で胡散臭そうな声音で胡散臭そうなことを言うやつだなとスバルは内心思いはすれど言葉には出さず、せっかくこう言ってくれてるんならとロズワールに話を切り出してみた。

 

「んー、ランサーと名乗ってるカララギから来たあの侍のことか。それに関しては私の方でもよく分からないからね、彼女の言っていることは大体は辻褄がつく。そして君とは違って常識もある……疑う要素がない訳では無いがかと言って疑う程でも無い……ってところかーぁな」

「……そうか」

 

 ロズワールは淡々と冷静に彼女のことを評価し、現在の印象をそのままスバルに伝える。嘘偽りなく本当にそう思ってるからこそなのか普段の道化のような喋り方とは違う平坦とした喋り方だった。

 

 スバルは言い聞かされた彼女の評価を思考に入れて彼女のことを少し考えていた。

 それはエミリアに敵意をもつ間者なのではないか? との予想。

 もし、自身と同じように「死に戻り」していると仮定してその能力が敵側に回っているとするなら随分と厄介だなと考えていたのだ。

 ただロズワールから聞かされていた話からその線を少し薄めてはいたが。

 

「それにしてもなんでそんなことが気になったのかーぁな? ……もしや恋、かな?」

「ちっげぇよ!!」

 

 浴場にスバルの心からの叫び声が木霊した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「──完全に黒ですね」

 

 

 この身になって元の身体より若干鋭くなった五感で浴場の会話を俺は聞いていた。

 まあ、こちらが疑っているのだから向こうが俺の事を疑うのは至極当然な話ではあるが……なんともまああんなに堂々と大きい一人言を喋れるもんだ。

 誰かに聞かれたりしない、だなんて思わないのだろうかあの男は……。

 現に俺が聞いているし

 

 

「……あら、お客様。こんなところで何を? 覗き?」

 

 

 などと考えながら早速他人に話しかけれる俺。

 そしてそう言いながら入ってきたのは桃色の髪の女の子……あの時竜車を引いていたメイドの子だ。確か名前はラムさんと言ったか、そんな彼女からあらぬ誤解を受けていた。

 

「いいえ? ただ男性が裸同士の付き合いで何の話をするのか気になりまして。こういう話を聞ける機会って中々ないですし」

「はあ? ……そうですか、てっきりロズワール様の裸体を視姦しに来たのかと」

 

 この子思ってたよりズバズバ言うな!? 

 顔に出ることは無いがクールな子だと思っていただけに思わずビックリした。

 

「目つきの悪い年下の男児も、胡散臭い道化師もタイプじゃないので安心してください」

「そう、ならよかったわ。バルスのことはどうでもいいけど」

 

 ただ俺もこの身体になってからこういう物言いしか出来なくなってるからいかんしがたいが

 

 

「誤解されるのも嫌ですし、邪魔者はさっさと居なくなりますね。それでは」

 

 

 とりあえずいまはこの場を去るのが1番だろう。

 そう言って彼女に背を向けて部屋から出た。

 ただいやに彼女からの視線が気にはなったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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深夜の密会 前編

 

 ───結果として。

 

 

 そう、結果としてだ。今回のループは驚くべきことにもう既に終わってしまった。

 それも1日目の夜に。想定外の事実に思わずループ直後ベットの上に寝転がるナツキスバルと目が合って数秒ほど見つめ合うくらいだった。

 そのあとはメイド姉妹が入ってきて何だか気まずい空気感となってしまったため足早に部屋の外へと出たが……。

 

 そして恒例の1日目の朝食を伴う問答も終わらせ、今回も俺は食客として……エミリアの窮地を救った礼としてしばらく滞在させてもらうことになっていた。

 前回と違うのはナツキスバルも同様に食客としてこの館に居候することになったということだろう。

 どうやら向こうも今回のループは想定していないものだったようで情報収集に徹するみたいだった。

 

 

 そんでもっていま現在俺は……いや、俺たちは館の庭にある屋根付きベンチ? と言えばいいのだろうか。簡易的な休憩所のような場所でナツキスバル、俺、そしてエミリアの3人が向かいあわせで座っている。

 

 

 

「──あの、この状況なんです?」

 

 

 思わず、というか……。ナツキスバルは俺同様頭に? マークを浮かばせているし、一方エミリアはニコニコと俺たちの方を見ているだけだ。

 このままでは一向に話も進まなければ何故ここに集められたのか、それすら分からないためこうして第一声を買って出たワケなのだが。

 

「えーとね、良かったら2人のこともう少し詳しく聞きたいな〜って思って」

「……えぇ、と。つまり、どゆこと?」

 

 またこの女はトンチンカンなことを……。

 王族候補だというのに何故彼女はこうも少しおつむが弱いのだろうか。不思議に思えてくる

 現にナツキスバルも俺と同じようにエミリアが言ったことに対して疑問を抱いてる。俺だけがおかしい訳では無いのだ。

 

 

「──ふっふっふ、それはボクから詳しく説明させてもらおう!」

 

 

 ドドンッ! 

 漫画ならそんな感じな擬音が彼、もしくは彼女? の背後に映し出されているだろう登場の仕方をしたのはエミリアの契約精霊のパックだ。

 

 先日の腸狩りエルザとの戦いでも戦闘の支援をそれとなくしてくれた頼もしい隣人だった。

 

 

「こんにちは2日ぶりですね。先日はどうも」

「あっ、いやいやこっちこそ。君が居なかったら少し危なかったかもだし」

 

 お互い1つお礼を言い合う。ただまあ、社交辞令みたいなものだ。その証拠にお互い既に目線は合っていない。

 

「……んん、それで? どういうことなのよ、パック先生」

「おっと、そうだったそうだった。つまりね……リアはいままで友達がいたことがないからこの期に2人と仲良くなりたいなぁ、でもいきなり友達になろうって言って迷惑じゃないかな? どうしよう……あっ、そうだそれなら2人のことをもっと詳しく知れれば友達になってくれって言っても大丈夫なんじゃない!? ってことだよ」

 

「……バカなんですか?」

「ちょっ、おーい!? そういうのは普通濁すもんだろ。いや、俺は全然嬉しいけどねっ!」

「いや、だって……ねえ?」

「まあ、少し。かなりすこーし、ボクもそう思わなくもないけれど。これはリアなりの親切心でもあるんだ。汲み取ってあげて」

 

「あー、なるほどなるほど……バカなんですね?」

「だからもう少しオブラートに包むっていうことをしようぜっ!?」

「もー! バカバカって! そう言う人の方がバカなんだからね!」

「ほらそういうとこがバカッぽい」

「もーっ!!」

「ヤバい、うちのメインヒロイン可愛すぎ……っ!! じゃなくて、いい加減やめてやれって」

「なんで貴方に指図されなきゃいけないんですか? 死にたいんですか? そうなんですか? そうなんですね? よし殺すいまから殺すさっさと殺す」

「何故!?」

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわちゃわちゃとした時間もありながら1日は過ぎていくわけで。

 エミリア、ナツキスバルとの謎の自己紹介タイムを挟んだり2人の話すトンチンカンなやりとりを見たりしていたら日も暮れ始める頃になっていた。

 

 そろそろ解散ムードも漂い始めてきた頃、元々予定していたことを進めるためにナツキスバルに1つの紙を手渡して俺はいち早くその場から去った。

 

 

 そして幾度となく繰り返したループとこの屋敷での3回目の1日目の夜、ようやく俺たち食客同士だけの初めての対談の日となった。

 

 

 ◆

 

 3度目のループ1日目の夜

 場所は変わりいまはナツキスバルの部屋へと視点は変わる。

 

 昼の団欒のあと、ランサーから手渡されたナツキスバル宛の紙切れにはただ一言「話がしたい 夜 部屋で待て」と簡略的に【日本語】で書かれた指示通りに彼は自身の部屋のベットの上で待機していた。

 

「これには深いわけはない。深いわけはない、俺はエミリアたん一筋エミリアたん一筋……ッ!」

 

 しかしまあ、彼も思春期真っ盛り。花の男子高校生である。内面はともかくランサーの外面は非常に整っておりこの館に居る人達に負けない美貌を持っていた。

 

 そんな彼女から極秘裏に手紙を渡され、話がしたいから夜に部屋で待っててと書かれていようものなら想いを向けている異性がいるスバルであろうと少し心乱されても仕方のないことかもしれない。

 

 

「……傍から見たらスゴく怪しいですし、そういうのは人が見てないとこでやりませんか?」

 

 

 そんな下心満載の男子高校生の純情を破壊するのもまた彼女、ランサーであった。

 

「うわぁっ!? いつからいたの……」

「貴方がソワソワと忙しなく部屋の中をグルグル歩き回ってる辺りぐらいからですね」

「思っていたよりお早い御来客ですね! ……ちくしょう、穴があったら入りたい」

 

 

 ベッドの上で火照る顔を頭を抱えて隠すナツキスバルを横目にランサーはこの部屋唯一の椅子へと腰掛ける。

 

 座ると椅子から作りが荒いのか経年劣化か分からないがギシッと木材が軋む音がランサーに聞こえる。

 

「座り心地の悪いイスですね……。まあそれは置いといて、です。────話があります、私たちの置かれている状況のことについて」

「あああぁぁぁ……っ! え?」

 

 未だ呻きをあげるナツキスバルへランサーが口を掛ける。

 

 

 

「単刀直入にお聞きしますが、これを引き起こしているのは貴方ですか? それとも別の誰かが?」

 

 

 

 ランサーがそうナツキスバルへと口火を切った。

 

 



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深夜の密会 後編

 

 

 

ランサーからお前がやったのか? とそう問い詰められるナツキスバル。流石のスバルも核心に触れられる話をされては先程まで見せていた醜態から一変しランサーの方へと顔を向け2人の目が合う。

 

 ランサーはただジッとスバルの反応を待ち、対にスバルは得もしれぬ不安感に押しつぶされそうになっていた。

 スバルの額からは嫌な脂汗が浮き出ており、彼が感じるストレスが目に見えて分かる。

 

 暫しの沈黙。お互いにどういまを踏み込むか決め兼ねているようだった。

 そして漸くゆっくりとスバルが口を開ける。

 

「……それは、どういう意味」

 

 盗品蔵での戦闘。化け物じみた動きと、あのまさに悪魔のように戦いを楽しみその美麗な顔を愉しさに歪ましていたあの時の彼女の姿がスバルの頭の中にはいま浮かんで離れない。

 答えを間違えれば、もしかしたら殺されるかもしれないただ彼はそう思っている。

 だからこそ上手く言葉が紡げない、何を話せばいいのか分からない。口の中が乾き、上手く喋れない。

 口から出る言葉は一つ一つがたどたどしく、自然と両の手をギュッと固く握りしめている。次に彼女が喋る言葉を一言一句聞き逃さまいとただ彼女の方を向き目を向け耳を向け反応を待っている。

 

「……? 貴方がこの現象を引き起こしているのだとは思っていましたが、まあ素直にはいそうですと教える訳もないですね」

 

 ランサーはスバルの反応に訝しんだ後に、それはそうだと1人納得して言葉を続ける。

 

 

「貴方が何故どんな理由でソレを引き起こしているのかは知りませんが、私を巻き込むのはやめてください。貴方が死ぬ度に私も同じように死んでいるんです。そろそろやめて欲しいものですね」

 

 ランサーはウンザリすると顔に出るほど表情を歪ませる。この現象を引き起こしている本人が目の前に居ようとただ淡々とそう彼に言い続ける。

 その心の強さこそ彼女本来の強みだからだ。

 

「…………は? いや、ちょっ、ちょっと待ってくれ。それはおかしい、こんなことが起きてるのはお前のせいなんじゃないかっ!?」

 

 逆にスバルはそんなことは知らないと狼狽えている。

 彼女こそこの現象を引き起こしている本人なんだと、そうスバルは思っていたからだ。

 

 はて? あれおかしいぞとランサーは首を傾げる。そんな反応予想だにしていなかったからだ。もしかしたら本当に彼もこの現象に心当たりはないが巻き込まれているだけなんじゃないか? とそう思い始めてきた。

 勿論彼が知らん振りをしてこうして演技している可能性もあるが、ランサーがいままで主観で見てきた彼個人はそんな器用なことが出来るほどの人間には見えなかったこともあってよりその思いを助長させた。

 

 

 また暫くの沈黙。

 お互いに疑問顔のまま向き合い両者ともに少し居た堪れない気持ちになってきていた。

 その空気に耐えられずゆっくりとスバルが姿勢を変えて座り直す。

 それに釣られてランサーも姿勢を直す。

 

 姿勢正しく座った男女が1つの部屋で向き合う姿は傍から見ればそういう現場だと思われかねないがこの2人の中で流れている空気はそんな甘いものではなくただただ不安に思いあってるだけの謎の空気で───

 

 

「……えーっと、少し話を整理しましょうか」

「はい……」

 

 

 ────それに耐えられなくなったランサーがようやく次の話を始める。

 突然この世界に放り出され、そしてこの「死に戻り」の影響を受けるようになってしまったいまに至るでの経緯を話始める。

 

 この世界に来てしまったそのときに自身の容姿が変わり果てていた、という点には触れずに最初エミリアと彼女が会うまでに何度か理由も分からずに死を体験したこと 、そしてあの盗品蔵にてナツキスバルに出会ったこと。

 この屋敷に来てからは最初の1週間4日目の夜に息もできなくなるようにゆっくりと意識が消えていった、屋敷での初めての死に戻りを使われたこと。

 そして次は、1日目の夜。ナツキスバルと当主ロズワールが浴場にて会話を盗み聞きしその場から立ち去り浴場から出た瞬間。すぐさま景色が変わり1日目の朝に戻っていたこと……

 

 ナツキスバルも同様に突然この世界に放り出されたこと。路地裏で数回死に戻ったこと、1回目エミリアに出会ってそして盗品蔵でまた彼女とランサーに会ったこと。

 屋敷では最初の4日間、そして次の死に戻りのこと……

 

「なる……ほど、些か信じられませんが本当に貴方の意思でコレを引き起こしているわけではないんですね?」

「あ……あぁ、神様にだって誓える」

「貴方、私の前にしてその言葉は大分物知らずじゃないですか?」

 

 その言葉にスバルは首を傾げるものだが、宗教に入ってたかそんなところだろうと当たりをつけて1人納得する。

 実際死に戻りに関してはスバルは一切の関与もしていないし故意的に起こしている訳じゃないと彼はそう思っているからだ。

 そこで神様に誓うという言葉がどれだけ彼女からすれば重かろうと関係はないと、スバルは考えていた。

 

「まあいいでしょう。となれば、次に気になるのは」

「──最後の死に戻りについてか?」

「そう、それです。貴方の話を聞く限り覚えているのはお風呂から上がって浴場内の戸に手をかけた所まで、つまり」

「つまり、俺と最後一緒にいたヤツに俺は殺されて死に戻った……てわけか」

「まあ、そういうことです。これに関しては恐らくというか十中八九、メイドのラムと当主のロズワールのどちらかでしょうね」

「あ? ロズワールなら確かにわかるが、なんでラムなんだ?」

「ああ、それに関しては私が浴場の着替え場で彼女と会ったからですね。まあそれはどうでもいいんですよ、問題なのは誰に? ではなく、何故? 殺されたかなんです」

「──ああそうか、俺たちからすれば死に戻りがあるから誰に殺されたかはその都度確認できる。だけど何故殺されたか、理由は分からない。だから何故殺されたか? が大事なのか」

「──え? あ、あぁそうです。コホン、まあそこに付け加えるとするなら、何故殺されかそれを解明できないと今後の糸口が見つからないからです」

「なるほどな……」

 

 何故殺されたか、それの追求がどれだけ大事かランサーがスバルに話し、そのことについて考えるスバル。

 しかしそれとは裏腹にランサーの心中は少し驚愕の一言であった。

 それはあまりにも想定以上にスバルの物分りが良すぎるからだった。浴場での会話はなんだったのか? と言わんばかりである

 

 

「───でもまあ、それもすぐに分かるとは思いますがね」

「───は?」

「私の背に隠れなさいナツキスバル!」

 

 そのランサーの叫びと同時に──

 

「エルフーラ!」

 

 ───ベッドの上に座っていたスバルを背に隠したランサーに向けてドア越しに風の刃が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 




多分本編初期よりスバルの物分りがいいのは仕様です


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メイド襲来


久しぶりすぎて内容を忘れてるところ多いので文章に矛盾が生じる可能性があります


 

 

「ど、おっ────」

 

 

 

 扉越しに飛ばされた風の刃を受けたと、そう錯覚し今回を諦めかけた、そう思った瞬間彼は窓をどころか……壁をブチ破って宙を浮いていた。

 

「おっおっおっ!? オァァアァァアァ……ッ!?」

 

「口を閉じていなさい! 舌を噛み切っても知りませんよ! ……そろそろ着地です!」

 

「──ッ!」

 

 彼女に忠告され彼は肝が飛び上がるような恐怖さ冴えも押し殺して何とか口をキツく結ぶ。

 其れも、背から迫っていた風の刃よりも、この宙に浮く恐怖よりも、彼を抱き抱えている彼女の方こそどの恐怖よりも勝る故だった。

 

 

 そうして目前に迫る地に降り立つ衝撃に目をつぶり耐えようとするが、壁を破壊した豪胆さとは裏腹にその着地はスケート選手の如く軽やかだった。

 

 

「──追ってきますね」

 

「えっ、あっ……お、俺はどうすりゃ」

 

「離れて貰う……には少々危険が過ぎますね。護衛は兎も角、戦事に置いて私に勝るものナシ! と自負はしていますが、いまは少し例外の例外中。相手は何より魔術……? なるものを扱う魔術師でしょうし、貴方を離して先程のように狙い打たれては敵わない。それにサーヴァント程の力はないとしても、ただの人よりは強い化生の類です。近付かれば貴方くらいなら一太刀……いや、ひと殴りでさえも命の危機ですね。なので出来るだけ離れないように」

 

「おっ、おぉ……そうか……」

 

「ご了承頂けたようで何より何より!」

 

 捲し立てるように彼に何れ程危険であるか、それを伝えた彼女はいままで見てきた彼女とは程遠いその雰囲気に圧倒される彼の答えを了承の意として受け止め、満足そうに頷いた。

 

 

「──さて、来ましたね」

 

 

 彼女がそう言うと、先程の彼と彼女のような似た格好でポッカリと部屋1つ分の穴から2人の少女が落ちてくる。

 彼女と違い、少々荒っぽく音を立て砂煙を撒きながら、その砂煙から現れたのは彼もこの館の中で幾度となく見てきたその目立つ2つの色。

 桃色の髪と、青色の髪の双子のメイドがそこには居たのだ。

 

「やっぱラム、なのか。もう1人の妹の方も付いてくるのは完全に予想外だったが……」

 

「あら、随分と心当たりのあるような言い方なのねお客様、普段見せていた愚鈍極まりない姿は演技だったのかしら?」

 

「愚鈍極まりないって随分な物言いだなおい……」

 

「さてね、まぁラムたちの目的はそっちじゃなくて」

 

「おや、私の方ですか? いやはや、随分と好かれていますね私は……と言うよりもですが」

 

 何処か含みのある言い方に彼も、桃色のメイドも若干不審に感じるところだったが、その思考ももう1人のメイドに切られることになった。

 

「姉様」

 

「ん……あぁ、分かってるわレム、早く目的を遂行しなきゃね」

 

 

 そう言い桃色のメイドは杖を構え、そして青色のメイドは────

 

 

「おいおい、おいおいおいおい……っ!? モーニングスターなんてアリかよ! 細腕のメイドが持ってるにしちゃチグハグ過ぎる光景だぞコレ!?」

 

 

 ────少女が持つには些かあまりにも不相応なモノだった。

 鎖の長さは大幅伸び切れば3メートル程度と言ったところで、その先についている禍々しい鉄球もその所有者の頭ほどのデカさだった。

 ただでさえ扱うことが難しいであろうというのが、日本から来た彼でさえ分かるようなことだ。

 

 青色のメイドである片割れの姉が杖を使う立姿がスタイリッシュなだけに、身をかがめ低く虎視眈々と彼や彼女を狙う姿の荒々しさがより際立ってしまう。

 

 

「もぉにんぐすたぁ……? 確か、西洋の武器でしたか。鎖鎌は何度か見たことはありますが、あの武器も中々」

 

 

 メイドの持つ彼女にとっては独創的な武器が、彼女にとっては少々気になるらしく顎に手を当て「うむうむ……なるほど」と吟味している。

 

 しかし丸腰の状態、しかも尚且つ荷物を抱えている状態と言っても過言では無い状況に置いてメイド達が攻撃を躊躇う筈もなく双子のメイドが攻撃を仕掛けてくる。

 

 桃色のメイドが僅かに妹より早く魔法を唱え、先程と同じように風の刃を彼女へと飛ばし、それに追従するように青色のメイドのモーニングスターが勢いよく彼女へと飛んでいく。

 

 

「おいおい来てるぞ!?」

 

「……ん? あぁ、大丈夫です。どうせ当たりませんから」

 

 

 彼女のその言葉の通り、風の刃は彼女の目前で若干霧散するように軌道を変え後方の地を切りつけ、飛んでくる鉄球は身を捩り簡単に避けてしまった。

 

 飛んできたものに差異はあれど、その能力は盗品蔵に置いても見せられた『風避けの加護』に類似する能力のお陰であった。

 

 

「……話に聞いてはいたけれど厄介だわ、魔法にまで範囲が及ぶのは想定外だったけれど」

 

「それに身体能力もスゴく高いですね、人1人抱えてあの身のこなし。到底人とは思えません、亜人かもしくは……」

 

「魔女教の関係者、もしくはそれに近しい者。でも、あっちの方からは臭いはしない・・・でしょ、レム?」

 

「はい……。魔女教にしては臭いが無さすぎます、それどころか……近くにいるあの男の臭いも、少し?」

 

「……とりあえず考えても仕方ないわ。ロズワール様、ひいてはエミリア様に害があってはならない」

 

「疑わしきは罰せよ、メイドの務めですよね」

 

「そういうことよ、とりあえず相手の出方を見るわ。何が効くか分からないし、いまは攻めるわよ! ──エルフーラ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

「向こうも攻めてくる気満々と言ったところでしょうか。やる気があって何よりですねぇ」

 

「言ってる場合かよ……。にしたって、これどうすんだよ、向こうの攻撃が当たんないのは分かったが、このままじゃ」

 

「逃げることしか出来ないと? それもアリですね勿論」

 

「じゃあ……、それじゃあ」

 

「まぁ貴方が好意を寄せてるあの半魔の娘には、二度と会えないでしょうね」

 

「……っ」

 

 彼にとっても分かっていたことだ。館の者に敵対されている時点で彼が想っているハーフエルフの彼女との逢瀬は叶うわけもない。

 この場を解決する方法は、敵対していると勘違いされている誤解を解くか、もしくは彼女には少なくない信頼を置いているハーフエルフ本人を呼び出すか

 

 彼の言う『死に戻り』でやり直すか。

 そのどれかしか方法はなかった。

 

 

 

「話し合い……で解決は」

 

「無駄でしょうね、魔術師の方なら幾分冷静さがありますが、片方がアレでは話もないでしょう。個人的には打ち倒して殺してしまった方が手っ取り早くて良いんですけどね」

 

「ころ……っ!? い、いやでも……そう、なるのか……」

 

「と言っても、私ももうそろそろ限界なので戦闘を考えるのはやめた方が良いかもしれませんね」

 

「限界……?」

 

「ええ、ちょっといまは無理をしてますので。ただでさえ貴方にご執心な魔女に邪魔されていますからね、やれやれ、どんな時に置いても魔術を扱う魔女というのは本当に厄介で仕方ありませんね」

 

 心底うんざりだ、と言うかのように肩を竦める彼女。ただその表情は貼り付けられたように笑顔から変わることはないのだが。

 

「おっと、本当に時間がありません!それじゃあ私はこれで!」

 

「な……おいちょっとどういう!?」

 

 彼の叫び声と同時にメイドの放った魔法が彼等に先程とはうってかわり着弾した

 

 

 

 

 

 



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