スカーレット姉妹の現代旅 (松雨)
しおりを挟む

スカーレット姉妹と現代の町

「ねえ、お姉様。何かこう……凄くワクワクして、一緒に楽しめるような面白い事やっぱりない? この間話した、外の世界の娯楽くらいの」

「外の世界って、フランが1ヶ月前まで居たって言うところよね?」

「うん! 見た事も聞いた事もない物、身体を動かす『遊び』ばかりで楽しかったし、何よりのび太お兄様と出会えたし……また行けたらお姉様と一緒に行きたいなぁ……」

 

 とある日の紅魔館、異変等の出来事もなく時間を持て余していたフランは、1ヶ月前まで居た外の世界の娯楽や経験と同等の、何か楽しい事を求めてレミリアの自室へと訪れていた。そこでの出来事が相当刺激になったようで、幻想郷へ戻ってきて安心すると同時に退屈していたようである。レミリアに対して思い出を語るその姿は吸血鬼の面影などない、純粋な子供そのものであった。

 

「フラン。紅魔館はおろか、話を聞く限り幻想郷のどこにも外の世界と同等の娯楽なんてないわよ。そんなにワクワクしたいなら弾幕ごっこでもやる?」

「うーん……弾幕ごっこは飽きたしなぁ。かと言って純粋な戦いはそうそうやるものじゃないし……」

 

 幻想郷は吸血鬼にとって暮らしやすくて平和である。食糧となる人間は八雲紫が定期的に調達してくれるため餓死の心配はなく、翼丸出しで外を出歩いていても殺される事もない。スペルカードルールのお陰で異変を起こしやすいため、妖怪としての存在意義を持つのも簡単だ。

 

 かと言って、楽しみたいがために年がら年中異変を起こしまくれる訳ではないし、弾幕ごっこだけをやってる訳にもいかない。そうなると他の事をして暇を潰すのだが、幻想郷は娯楽の種類が乏しい。それでも、外の世界に飛ばされる前までのフランは何とか耐えられてはいたが、そこで多数の娯楽を経験したが故に、帰ってきてからの退屈さに耐えきれなくなってしまっていた。

 

 だから、外の世界と同じくらいの何かがないかとレミリアに聞き、その問いに対する『弾幕ごっこでもするか』と言う答えに対しては、今まで数えきれない程やっていて飽きていた事と、それ以外にやる事がないのもあって、フランは答えに窮していた。

 

「もしやらないとなると、貴女がワクワクするだろう事はもう他にない――」

「あ! だったらお姉様、私といつものキスしてよ!」

「またやるの? キス以外のスキンシップもぶっ通しで3時間、半日前にやったばかりなのだから、楽しみは次の日に取っておかないとね。疲れるし、さっきまで寝てて起きたばかりだし」

「むぅ……じゃあ、この暇な時間に何すれば良いのさ」

 

 弾幕ごっこをやらないのであれば、フランがワクワクするような遊びはもうないとレミリアが言っていたその時、突然思い出したかのように声を上げた。そのすぐ後にフランはレミリアに対して『私とキスして』と、話の流れを断ち切ってスキンシップを要求した。

 

 しかし、もう既にぶっ通しでキスやハグ等の軽めのスキンシップから、人様どころか知り合いや館の住人にすら間違っても言ったり見せたり出来ない激しいスキンシップまで、流れのままにやったばかりで疲労感がまだあるため、レミリアはフランの要求を即却下した。

 

「はぁ……仕方ないわね、フラン。軽めの奴なら良いわよ。それ以上は駄目だからね」

「本当? やったぁ!」

 

 弾幕ごっこ等は飽き、やりたかったスキンシップは却下されて不満を露にするフランだったが、そんな彼女を見たレミリアがやれやれと言った感じで軽めのやつなら良いと許可を出した事で、再び笑顔を取り戻した。そして、フランが早速レミリアに飛び付くようにして抱きつき、キスをしようとしたところで……雰囲気をぶち壊す人物が何の気配も感じさせず、空間にスキマを開いて登場した。

 

「あらあら……ちょっと出てくるタイミングが悪かったようね。随分お楽しみだったみたいで」

「こんな時に出てこないでよ、紫! 気分が萎えちゃったじゃん!」

「紫、貴女ねぇ……まあ、良いわ。それで一体何の用事なの? ロクでもない理由とかだったら承知しないわよ」

「勿論、どうでも良い用事じゃないわ……と言うか提案なのだけど、貴女たち2人で()()()()に行ってみない?」

 

 その正体は、妖怪の賢者『八雲紫』であった。何の脈略もなく登場した彼女に対して、フランはせっかくの姉とのスキンシップを妨害されて怒りを露にし、レミリアは静かに怒りつつも一体何の要件でここに来たのかと問いかける。

 

 すると、紫はそんな問いに対して()()()()()()()()()()()()と言葉を投げ掛けた。唐突なその発言をした彼女の意図を読み取れずに傾げるレミリアであったが、フランはそれに食いついた。

 

「紫、外の世界って私の居たところだよね!?」

「ええ。幻想郷にはない、貴女が望む娯楽が沢山あるところよ」

「と言う事はのび太お兄様にも、そのお友達にも会える?」

「勿論よ。まあ、貴女たちの訪れるタイミングと彼らとの都合さえ合えばの話だけれど」

「何時まで遊びに行けるの?」

「一応、何もなければ1ヶ月位を予定しているわ。当然だけど、貴女たちが帰りたくなったら帰れるし、もっと居たいのであればある程度は延長も可能よ」

 

 そうして紫に対し、外の世界とは1ヶ月前まで居たあの世界であるのかと、先程までスキンシップを妨害されて怒っていた事など忘れたと言わんばかりの笑みを浮かべながらそう聞いた。その後もいくつかの質問を紫に投げ掛け、答えを全部聞き終わったところでフランのテンションは最高潮に達し、独り言をぶつぶつ言いながら大好きな姉との現代旅を想像していたのか、興奮していた。フランの中では、もう既にレミリアと共に現代へ行く事は決定事項のようである。

 

「紫、貴女一体何を企んでいるの? 突然こんな事を言い出して……」

「別に何も良からぬ事は考えていないわ。強いて言うなら()()()だから、そう言う事にしておいて。まあ、嫌なら別に良いけれど。現代旅に物凄く乗り気な貴女の妹の意思を無視できるのであればね」

「……分かったわよ。こちらとしても、フランが喜んでいるのに無視は出来ないから、行く事にするわ。運命も悪くはなかったしね」

 

 ただ、レミリアは紫が自分たちを使って何か企んでいるのではと思えて仕方ないようで、この提案に対して懐疑的であった。しかし、妹であるフランが純粋に物凄く乗り気なのと、断られないようにするための紫の罪悪感を煽るような言い回し、能力で見た運命によってレミリアも現代旅を承諾する。

 

「決まりね。じゃあ、早速このスキマで送るから入って頂戴」

「ええ、分かったわ。フラン、1人で悦に入ってないで早く行くわよ」

「えへへ……はーい!」

 

 そして、1人悦に入っていたフランにそう呼び掛けて手を繋ぎ、用意してあった日傘を持ち、紫から手渡された現金入りの財布と各種荷物が入った手提げバッグを肩に掛け、スキマへと入っていった。

 

「なるほどね。これは確かに幻想郷が退屈に感じるのも仕方ないのかも知れないわ」

「ふぁぁ……」

「フラン、どうしたの? 大丈夫?」

 

 紫の用意したスキマを通り抜けて出た先は裏山であった。フランにとってはのび太と別れた場所であると同時に彼の血を飲み、身体が震える程の快楽を得た記憶がある場所であるためか、どこか幸せそうな表情をしている。そんなフランの様子を見たレミリアは、何かあったのかと心配に思ったらしく、彼女に対して大丈夫かと聞いた。

 

「……うん、大丈夫! ただ、あの時の事を思い出してただけだから」

「あの時の事……確かここでのび太って男の子の血を飲んで別れたんだっけ?」

「そう。吸血衝動に耐えてて辛かった時に自分の身を削ってまで、私に血を差し出してくれてね。それで飲んだら、もうスッゴく美味しくて、気持ち良くて……最高だったんだよ! 正直全部飲みたかったけど、それでのび太お兄様が死んじゃったら嫌だったし、何とか頑張って少しで我慢して抑えてきたから、物足りなかったくらいだったの」

「そこまで貴女が言うなんて、是非とも味わってみたいものね。と言うか、のび太って男の子本当に凄いわ。吸血衝動がある吸血鬼に血を差し出すとか、下手すれば死んでたかもしれないのに……そう言う意味でも会ってみたいところね」

 

 すると、フランは元気良く裏山での出来事をただ思い出していただけだから大丈夫だと言った。その後、のび太の血が如何に最高なものだったのかを力説し始めた。フランがそれ程までに美味いと言っているのを聞き、レミリアも少しばかりのび太の血を飲んでみたくなってきたようだ。

 

「思い出話をしているところ悪いけど、一旦幻想郷に戻るわ。私が居ない時にもし何か現代旅をしている上で困った事があれば、名前を呼んでくれたらすぐに駆け付けるから。それと、呼ばれなくてもたまに様子を見に来るわね。元は暇潰しだから」

「分かったわ」

「はーい!」

 

 そんな感じでレミリアとフランが思い出話に花を咲かせていると、置いてけぼり状態となっていた紫が2人に対して自分は幻想郷に戻ると言って、何かあったら呼べば来る事と、呼ばれなくてもたまに様子は見に来る事を伝えて、開いたスキマを通って幻想郷へと帰っていった。

 

「さてと、フラン。分かっていると思うけど、私はこの町の事を全く知らないから案内と解説はよろしく頼むわね」

「うん、任せて! 知っている場所と事なら何でも答えるからね!」

 

 紫が幻想郷へと帰った後、外の世界を楽しむため翼を魔法で隠し、仲良く手を繋ぎながら山を下り始めた。道中の自然自体は幻想郷で腐る程見てきたため、2人は特に興味を示す事もなかった。

 

「分かってはいたけど、幻想郷とはまるで違う町並みね。見る物全てが新鮮で、確かにこれは退屈な生活の刺激にはなりそう」

「でしょ? 他にも色々美味しい食べ物や飲み物が売ってるお店が沢山あるし、絵を見て楽しむ『マンガ』って本が沢山売ってるところとか……とにかく、歩いて見てみれば分かるから早く行こう!」

「ええ、そうね」

 

 そうして裏山を出た2人は、周りの景色を見て楽しく話ながら町歩きを始めた。フランが時折車道を走る車について、幻想郷に居る時は無縁だった交通ルール、その他各種決まり事について、のび太やドラえもんから教えてもらったのをそのままレミリアに教えたりと言った事も平行して行っている。

 

 外の世界に平和的に居るのであれば知っておくべき決まり事ではあるが、どれもこれも幻想郷に居る時は無縁であるものばかりだった。しかもその決まり事の数は多く、破ったりすれば警察と言う組織の『警察官』と呼ばれる人間に捕まってしまう事もあり、守らなければ平和的に過ごすと言う意味では非常に不味い。

 

 まあ、極めて人間に酷似していようとも実際は人間ではないため、捕まった後人間の『法律』が適応されないだろうと言う説明もされた覚えがあるが、良く分からなかったので取り敢えず頭の隅に追いやって、それ以外の部分だけをレミリアに説明する。

 

「決まり事がいっぱいあって結構面倒な場所なのね、外の世界。まあ、私たちなら敵対しても怖くも何ともないけれど……楽しく過ごすなら気を付けないとね」

「うん。だからそう言う意味で、のび太お兄様に会えたのは幸運だったなって思う。わざわざ目立つ事しないで、生きてくために血を飲めるから。まあ、飲んだのは帰り際の1回だけだけど」

 

 すると、レミリアはフランからの説明を聞き、幻想郷にはない決まり事がある、外の世界は結構面倒臭い場所だと言う認識を持った。実際フラン自身も、初めて聞いた時は面倒臭いと思った決まり事がいくつかあったため、レミリアの反応に同意を示した。そしてすぐに、飛ばされてすぐではなかったとは言え、のび太と出会えた事を幸運だと表現した。

 

「なるほど、確かにそうね。と言うか、あまり吸血鬼関連の話はしない方が良くないかしら? 翼を隠してるから正体バレについては大丈夫だとは思うけど、人間……それも子供がそんな話をしていたら、明らかに怪しいと思うのよ。勘の良い人間も居るかも知れないし、用心するに越したことはないわ」

「あ、確かにそうだね! 次から気をつけるね、お姉様」

 

 フランが表現するを聞いたレミリアがそれに同意した後、外の世界であるこの町で吸血鬼関連の話は怪しいし、万が一の事も考えてしない方が良いのではと、彼女にそう話しかける。その考えにまで至っていなかったフランは聞いてから確かにその通りだと思い、次からは気をつけると誓った。

 

「まあ、難しい話は後にしてさ、町歩き楽しも!」

「ええ……って言うか、さっきから随分人間の視線が気になるのだけど……」

「あれは私たちが物珍しいだけだと思うよ。この町の人間とはかなり姿が違うから」

「なるほど、そう言う事ね。一瞬バレたかって思っちゃったわ」

 

 その後しばらくは何をするのではなく、ただ単に町の風景を見て歩き回ったり、たまたま見つけた公園のベンチで隣同士に寄り添って話したりする等、この時間そのものを楽しんでいた。

 

 時折遊びに来る子供たちやその親からの視線が2人に向けられるも、既に2人だけの世界に入っていたレミリアとフランは、ただ見られているだけで無害であった事もあり、視線に気づいた後もどうでも良いと全く構わなかった。

 

 一通り2人だけの世界を堪能して公園を出た後は、せっかくだから何か美味しい食べ物でも食べようと思いたったフランが、レミリアを連れてたまたま見かけた看板に書いてあったラーメン店へと向かって中に入った。

 

「……凄い人の数ね。ここに居るだけで人里の総人口超えてる気がしてきたわ」

「確かに、そう思えるだけの数は居るけど……待ってる人が多いし、この分だと食べられるまでに時間がかかるなぁ。お姉様、別のところ行く?」

「いや、せっかくだからここにしましょう。どうせ時間はたっぷりあるのだから」

「うん、分かった!」

 

 すると、とても人気のあるラーメン店だったのか、店内は客で埋まる程の大盛況であった。中で待っている人もかなり多く、どう見てもかなりの時間を待つ事になり、すぐに食べられる状況ではないのは火を見るよりも明らかであり、それを見たフランが他の店に行く事を薦めた。ただ、レミリアが時間なら沢山あるのだからここで良いと言った事で、このラーメン店でラーメンを食べる事がきまった。

 

「ねえ、フラン。席が空いたらそこに行って座れば良いのかしら?」

「うーん……前に来た時はのび太お兄様の家で食べてるか、一緒に空いてるお店に行った位だからどうするか分からないの……こんなにぎっしり人が居る状況に居合わせた事がないから」

「困ったわね……勝手に空いてるところに座る訳にもいかないし、誰かに聞きましょう……ん? フラン、あれを見て。『お待ちのお客様はここに名前を書いてお待ち下さい』って書いてあるわ」

「あ、本当だ! じゃあ早くあれに名前書かないと永久に食べられないね!」

 

 待っている時にレミリアがふと、席が空き次第勝手に座っても良いのかとフランに聞いたが、この状況が未経験であったためか彼女は答える事が出来ずにいた。さて本格的にどうしようかと悩み、誰か他の人に聞いてみようかとなったその時、レミリアが待ってる客は名前を書いて待ってろと言う張り紙の上に、名前を書く紙が吊るされていたのを発見した。

 

 危うく勝手に座ってしまうところであったと安心した2人は、早速その紙に自分たちの名前を書き込もうとしたが、来ていた厳つい客の1人に非常識な妨害を受けてしまい、名前を書き損ねてしまった。

 




ここまで読んで頂き感謝です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とリサイタル

「ちょっと、何するのさ! 私たちが先に名前を書こうとしたの見てたでしょ!?」

「自分で言うのもなんだけど、良い大人の貴方が子供の私たちを押し退けてまで先に名前を書くなんて、恥ずかしくないのかしら? まあ、恥ずかしい気持ちが少しでもあるのなら、こんな事はしないでしょうけれど」

 

 入った人気ラーメン屋のラーメンを食べるため、順番待ちの紙に名前を書こうとしていたフランを妨害した上に突き飛ばし、自分が名前を書いてしまった厳つい男に対して彼女は怒りを露にして抗議し、レミリアは愛する妹の顔を押して突き飛ばした男に対する今すぐ殴り殺しそうな程の怒りを抑えつつ、皮肉を交えて抗議した。

 

「うるせぇ! いくら外国のガキとは言え、あんまり文句言ってるとぶん殴るぞ!」

 

 その真っ当な抗議に対して厳つい男は更に激昂し、今すぐにでもフランとレミリアをぶん殴ると言う行為をし始めそうになり、一触即発の状況となってしまった。周りの客の半分程度はラーメンを食べるのをやめ、どこかに電話をし始めたり厳つい男が不味いことをしないか行動を見始めたが、実際に止めようとする客は居なかった。

 

 まあ、体格がかなり大きい上に格好も普通の人間にとっては非常に威圧的な物であるため、仕方ないだろう。ただ、吸血鬼であるレミリアとフランは、それを変わった格好と言う程度にしか感じていないが。

 

「ふぅん、随分威勢が良いわね……」

「何ぃ!?」

 

 すると、ぶん殴ってやるぞと威圧されたレミリアが自ら厳つい男の拳の射程圏内に歩いていくと言う行動を起こし、それを見た周囲の客たちの大半は血の気が引いた。端から見れば、無駄に怪我をしに行くような行動にしか見えなかったからである。

 

「嬢ちゃん! 無茶な事は止めて、早く逃げてくれ! ここはオレが」

「あら……貴方私の心配をしてくれてるのね、ありがとう。でも大丈夫よ、すぐに終わるから」

「え? 一体どういう……!!」

 

 そんな光景を見ていたたまれなくなった客の1人が自らの身を呈して目の前の少女であるレミリアとフランを守ろうと、2人に近寄ろうとした時にレミリアがすぐに終わるからと言って、その客を止めた。そして……

 

「社会的に死にたければ殴りかかってくるが良いわ。そんな度胸があるならね」

 

 吸血鬼としての力を使い、厳つい男を笑顔で威圧した。瞬間、その男を含むフラン以外のほぼ全ての客や従業員の視線がレミリアへと向く。どう考えても、ただの少女の発する威圧感ではないためだ。

 

 しかし、レミリアはそんな視線には目もくれず、最初に厳つい男と対峙してからこうなるのは仕方ないと、理解した上で威圧している。吸血鬼であるとバレなければ、注目を浴びてしまう位やぶさかではないと言うのは、レミリアやフランが現代旅をする上での意思であるためだからだ。

 

「な……なんだよあの嬢ちゃん……」

「そんな事よりお前、見てみろよ! あの男、ビビって腰抜かしてやがるぜ。全く、あれだけ大層な事を言っておきながら情けねーな! ハハハ!」

「いや、あれは誰だって腰抜かすでしょうが。何せ、本能に訴え掛けてくる位の恐怖だからな。まだアレを向けられた対象がアイツだから良いものの……」

 

 そうして周りがレミリアの話題で騒がしくなったところで、誰かがいつの間にか呼んでいた警察が到着し、レミリアやフランを含む店内の客に事情を聞き、防犯カメラを確認してからビビって腰を抜かした厳つい男を連行していった事で、若干雰囲気が変わってしまったものの、概ねトラブル前の平和な状況がこの店に戻った。

 

「お騒がせしてごめんなさいね……あ、そこの紙に名前を書いても良いかしら?」

「……あ、はい。どうぞ」

 

 レミリアが騒がせたお詫びを店員を含む皆にしてから紙に名前を書いた後は、ちょうど空いていた椅子に座って仲良く話しながらゆっくり待った。こんな事があったからか、やたらとレミリアとフランに話しかけてくる待っている客も居たりしたため、30分程の待機時間はあっという間に過ぎた。

 

 そうして店員の案内で2人で席に着いた後は、どれを食べようか散々悩んだ挙げ句、2人一緒に『醤油ラーメン』を頼む事に決めて頼み、どんな味なのかと楽しみながら待つ。

 

「しょうゆラーメンってどんな食べ物なのかなぁ? でも、お店の中に漂う匂いは美味しそうだから、きっと美味しいんだろうね!」

「多分ね。まあ匂いが美味しそうだからと言って、口に合うかどうかは食べてみないと分からないわ」

 

 初めての醤油ラーメンはどんな食べ物なのかとワクワクしながら待っていると、何故かレミリアとフランの2人の席にショートケーキが運ばれてきた。こんなの頼んでいない、間違えているのではないかとフランが運んできた店員に指摘したところ、店からの細やかなサービスとの事。予想外の出来事に驚きつつも、無料で美味しそうなショートケーキが食べれると言う運の良さに2人は喜んだ。

 

「やったぁ! ありがとーね!」

「別にここまでしてくれなくても良かったのに……まあ、くれると言うならありがたく味わう事にするわ」

「いえいえ。では、ごゆっくりお楽しみください」

 

 店員が去った後、のんびり出されたケーキを味わいながら醤油ラーメンが来るのを待ちつつ、2人でこれからの現代旅の計画を立てるべく、話し合いをした。結果、食事後は取り敢えず町歩きをしながら、お金の許す限り面白そうだと思ったところや店に入って楽しむ事に決定したようだ。

 

「お待たせしましたー! 醤油ラーメンです!」

「あ、やっときたよお姉様! スッゴく美味しそうな匂いがするね!」

「確かに、これば美味しそうな麺料理ね。容器も大きいから量も多そうだけど、フランは大丈夫? 全部食べれる?」

「うん、余裕で大丈夫だよ!」

 

 そうしている内に頼んだ醤油ラーメンが到着し、机の上に容器が置かれる。そこから漂う食欲をそそる香りにレミリアは比較的落ち着いた様子であったが、フランはかなり興奮気味のようだ。

 

「「いただきます!」」

 

 息ピッタリの挨拶と共に、2人は醤油ラーメンを食べ始めた。すると、その美味しさにはまったのか最初は丁寧に食べていたレミリアであったが、フランからここでは思い切り麺を啜ってもマナー的には問題ないと聞いた途端に一気食いし始め、普段は少食にも関わらずとてつもない速度で完食した。ただ、スープに関しては塩気の関係で少しだけ飲む程度に抑えたようである。

 

「お姉様食べるの早い……」

「あまりにも美味しくて一気食いしちゃったわ。ただ、もう何も入らないわね」

「いつもは少食だもんね、お姉様って」

「まあ、そうね。これで改めて思ったけど、このラーメンの何倍もの量の食べ物を余裕で食べれる幽々子って本当にどうなってるのかしら?」

「確かに、本当謎だよね」

 

 そんな会話をしながらフランも食べ終わり、忘れ物がないかどうかを見た後に2人はレジへと向かった。そうしてラーメン2つ分の代金である1300円を払い、店を後にした。

 

「ふぅ……美味しかったね。さて、お姉様。取り敢えず、町歩こっか?」

「ええ。まだまだ全容を把握しきれていないしね。お店に入らずとも、私たち……いや、フランは1度来てるからどうか知らないけど、町歩きするだけでも十分楽しめるしね」

「私は大好きなお姉様と一緒に居れるだけで幸せだよ! 今すぐにでもキスしたいくらいにね!」

「ふふっ……私もよ、フラン。でも、ここだと人が沢山居るからあまり激しいのは駄目よ」

「はーい!」

 

 店を後にしてからは食事中に決めた通り、町中を適当にうろつきながら面白そうなところや店だと思えばお金の許す限り楽しむと言う方針に基づいて、2人は町歩きをする。しかし、フランはともかくとしてレミリアにとっては初めてのものばかりである。そのためどれもこれも面白そうに見えてきてしまい、逆にどうするか決めきれないでいた。

 

「お、フランじゃねぇか! そっちの水色がかった青い髪の子はもしかして、あん時話してた姉ちゃんか?」

「そうだよ! 久しぶりだね、ジャイアン!」

「つっても、1ヶ月位しか経ってねぇがな」

 

 そんな感じでかれこれ1時間程度町歩きをしても見つからず、のび太たちが住むエリアにまで歩みを進めた時、レミリアとフランの背後から声をかけてくる人物が出現した。2人が足を止めて振り向くと、そこには何らかのビラを持っていたジャイアンであった。

 

「えっと……確か貴方はのび太って男の子の友達の……」

「ああ、俺は剛田武。ジャイアンって呼んでくれ、フランの姉ちゃん」

「ええ、よろしく。次は私ね……名前はレミリア・スカーレット。まあ察しはついてると思うけれど……」

「ああ、吸血鬼ってんだろ? フランは吸血鬼、それなら姉ちゃんも同じってこと位は分かるさ」

「察してくれて助かるわ」

 

 フランはジャイアンとはのび太を通して面識があったが、当然その時に居なかったレミリアとはお互いに面識が一切なく、話に聞いていた程度であったため、自己紹介からまずは入った。フランでもう耐性がついていたため、レミリアが吸血鬼だと分かっても特に態度を変える事はなかった。

 

「そうだ。2人共、もし良ければ俺のリサイタルに来てくれないか?」

「リサイタル……?」

「ああ。俺が空き地に友達を招待してな、歌を披露するって訳なんだ」

「って事は、のび太お兄様も来るの!?」

「勿論だ。アイツも来るぜ」

「なら行く! お姉様も良いでしょ?」

「……まあ、断る理由はないしね。のび太って男の子にも会ってみたいし、行きましょうか」

 

 そうして自己紹介が済んだ後、ジャイアンはレミリアとフランに手作りのビラを渡し、リサイタルに誘った。その誘いに対して2人は特に断る理由がなかったため、これを了承した。

 

「じゃあ、1時間後に空き地でやるから来てくれよ!」

「ええ、分かったわ」

「うん! 時間になったら行くね!」

 

 ジャイアンはレミリアとフランの2人とそんな感じのやり取りをした後、手持ちのビラを自身の友人たちに配りに行くため、この場を去っていった。

 

「さて、1時間後って言ってたけれど……たったそれだけだと町歩きしてれば余裕で過ぎるわね」

「確かにね。それならどうせやるべき事なんてないし、会場で1時間待つ?」

「うーん……でも彼、会場は露天だって言ってたわ。いくら日傘があるとは言え、1時間も日光の下に町歩きでもないのに居たくないわね」

「まあそうだけど、日傘があれば1時間位は大したことないよ!」

 

 その後、リサイタルが始まるまでの1時間何をしようかと言う話し合いが2人の間で始まった。町歩きをするには1時間程度ではまるで足りず、かといって会場である空き地で待つにはいささか時間が多すぎる等の要素があるためである。ただ、どちらを選ぼうとも同程度のデメリットは存在するし、強いて言うなら町歩きの方が約束をすっぽかして良くない印象を与える事になりかねない。

 

 なので、2人の話し合いの結果は会場である空き地でリサイタルが始まるまで、のんびり話でもしながら待つと言う事に決まった。

 

「ここが空き地ね。確かに何もない……いや、来た人が座るためのシートは用意されてるから、待つ分には良い感じかしら」

「うん、そうみたいだね」

 

 そうして空き地で色々話したり、誰も居ない上に見ていない環境故に危うく館に居る時のようなスキンシップが始まりそうになりながら、2人が待つ事およそ30分、ぼちぼち人が集まり始めていた。当然だが見た事も聞いた事もない、見た目外国人の10歳前後の女の子がリサイタル会場に居れば皆の注目を浴びる事は必至である。故に彼ら彼女らの話の対象ともなってしまうが、2人は特に意にも介さなかった。

 

「のび太お兄様来ないなぁ……」

「まあ、まだ時間じゃないのだから当たり前よ。むしろ、私たちが早すぎたのよ」

「そっか! そうだよね!」

 

 その際にフランがのび太の事を()()()とレミリアとの会話の中で発した事により、一部の人が更に騒ぎ始める事となる。例えば、いつの間にあんな可愛い外国の子と知り合ったのか、お兄様と呼ばれるとか一体どんな関係なのか等だ。

 

「君ってのび太とはどういう関係なの?」

「え? うーん……大好きなお姉様みたいな人だから要するに、家族みたいな関係だよ。で、どうしてそんな事を聞くの?」

「……気になったから。のび太に外国の子の友達なんて今まで居なかったからさ」

 

 騒いでいる人の中で勇気を出し、フランに対してのび太とはどんな関係なのかと話しかけた人も出てきたが、彼女はその質問に対して家族みたいな関係だと断言した。そのせいで、更に一部ではのび太自身に色々と問い詰めてみようかと言う計画が持ち上がったりもしたが、彼が困ると直感したフランの無言の圧力により、それは立ち消えとなった。

 

「久しぶりだね、フラン。そっちの子はお姉さんかな?」

「まさか、ジャイアンのリサイタル会場で会うなんて……」

「あ……ドラえもんに、のび太お兄様! こっち来て側に座って! お姉様を紹介するから!」

 

 そうしてリサイタルの開催時間が迫ってきた時、空き地にドラえもんとのび太がやって来た事でフランの気分は高揚し、運が良いのか寄りつきにくかったのかは不明だが、空いている席にのび太やドラえもんを座らせた。その後、レミリアとのび太とドラえもんの自己紹介を状況が状況なので軽く済ませ、ジャイアンが来るまで待った。

 

「今日は集まってくれてありがとうなぁ!! 衣装の用意が遅れちまって済まなかったな、お前ら」

 

 開催時間を少し過ぎた頃、ド派手な衣装を身にまとったジャイアンがマイクを持って空き地へとやって来たその瞬間、のび太がフランやレミリアに対して小声で話しかける。

 

「フランとレミリアの2人に聞きたいんだけど、音を遮断する魔法なり妖術とかないかな?」

「私はそんな魔法とか持ってないなぁ。お姉様は?」

「完全に遮断する魔法はないけど、軽減させる魔法自体はあるにはあるわよ。と言うか、何でそんな事を聞くのかしら? のび太」

「確かに。私も気になるから教えてよ、お兄様」

「ああ、それはね……」

 

 それは、音を遮断する魔法や妖術があるかと言う質問であった。完全に遮断する魔法はないけど、軽減させる魔法ならあると答えつつ、今から歌を聞くと言うのに音を遮断してどうするのかと疑問に思ったレミリアとフランは、何故そんな事を聞くのかとのび太に聞いた。

 

 するとのび太は、今まで自分たちがジャイアンの歌によって受けた被害を事細かに話し始めた。耳を塞いでも頭に響いてくる轟音を放ち、側を飛んでいた鳥が気絶して落ちたり窓ガラスを破壊したりして、機械すらそれに耐えきる事は難しく、果ては魔物ですら撃退するレベルである事なども話した。話を聞いていたレミリアとフランは、そのとんでもない威力に呆れ返って言葉すら出なかった。

 

「どう考えても人間の成せる技じゃないわね。魔物ですら撃退する威力って、幻想郷でもやっていけそう……と言うか、それを聞いてて生きてる貴方たちも凄いわ」

「……だから、お兄様は私たちにそんな事を聞いたんだ。それにしても、ジャイアンって――」

「よーし! 揃ったところで早速始めるぞ!」

 

 そうして、フランのジャイアンに対するイメージが若干悪くなったところで、とうとう時間になったらしく、皆の若干気の抜けた拍手と共にリサイタルが始まった。

 

 レミリアやフランが居るからか、ジャイアンはいつもより気合いを入れている。そのせいで歌の破壊力も増大しているため、これを聞いている人物に等しく与えるダメージも増えてしまう。レミリアは音をある程度遮断する魔法を唱えようにも、想定を遥かに超える威力に集中力が阻害されてしまい、魔法を唱えられない。

 

「コイツは……強烈ね! 魔物を撃退出来るってのも嘘じゃないわ」

「お姉様、早く!! 頭が痛い……!」

「分かってるけど、強烈過ぎて集中力が――」

「フラン、レミリア! これを耳につけて!」

「うん!」

「ええ、分かったわ」

 

 その時、のび太が側に居るレミリアとフランの2人にとあるひみつ道具を渡した。耳バンデラックスと呼ばれるこれには指定した音を遮断する効果があり、耳につける事によって音が聞こえなくなる。

 

「ふぅ……これで随分楽になったわね」

「お姉様、大丈夫? それとお兄様がね、ここに居る人たち全体を守るように魔法をかけてくれって! 私たちにくれたこの道具、数が全然足りないみたい」

「ええ、勿論よ……」

 

 これにより、ある程度の余裕が出来たため、レミリアは早速音をある程度遮断する魔法を唱え始めた。そして30秒後、遮音防壁が展開された事により音の影響が半減し、耐えられるレベルにまで抑える事に成功した。

 

 突然ジャイアンの歌がまともに聞けるレベルにまで抑えられた事に周りの人が驚き、中にはレミリアが防壁を展開する動作を見ていた人が本人に問いかけると言う事もあったが、のび太がドラえもんのひみつ道具を使ってもらったと言ったため、大して騒ぎにもならなかった。

 

 そして、ジャイアンが結界に最後まで気づく事なく歌いきった事により、レミリアやフランを含む観客たちの誰も倒れる事がなく、無事にリサイタルを乗り切る事に成功した。

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とお泊まり

「助かったよレミリア。お陰で誰も気絶しなかったし、僕たちも気分悪くならずに済んだから」

「それは良かったけど……今まであれを聞いてて良く死人が出なかったわね。多分、幻想郷の下手な妖怪なら音の圧力だけで殺せるわよ」

「本当、あれに耐えれたなんてお兄様たち凄いよ! 私たちでもかなり辛かったのに……」

 

 レミリアの結界により、自分たちを含む誰の体調不良者を出す事もなくジャイアンリサイタルを乗り切れた事に、のび太やドラえもんは安堵していた。

 

 今までであればひみつ道具を使って何とかしていたが、数が足りなかったり準備不足だったりで対処しきれなくて、結構な確率で対処しきれずに体調が悪くなる事が多かった。しかし、今回はレミリアが居たのと、『魔法』と言う力を彼女が扱えた事によって完全ではないものの、轟音を耐え抜く事が出来たのだ。

 

 そして、普通の人間よりも種族的に遥かに強い吸血鬼ですら苦しめる轟音を、今まで耐え抜けたのび太たちにレミリアとフランは純粋に称賛の意を表していた。

 

「でも、あれは普通の人間には耐えがたいわ。即刻止めさせた方が良いと思うのだけど……無理なのかしら?」

「あはは……無理だね。でも、あのリサイタルのお陰で助かった事だってあったから、そう言う意味でも完全に歌うの止めろとは言いづらいかな。僕たちとしては、普段から歌って欲しくはないけど」

「でしょうね。まあ、()()のび太やドラえもんの友達だって言うから、私から行動は起こさないけど」

「私としては、のび太お兄様とお姉様を苦しめたあの歌を実力で止めたいところなんだけど……お兄様とお姉様がなにもしないなら、私もなにもしないでおくね」

「うん。そうしてもらえると助かるよ、フラン」

 

 ジャイアンの歌は体調に大きな影響を与えるため、即刻止めさせた方が良いのではないかと提案するレミリアに対し、止めようとするのは無理な上にそれで何度も救われた事だってあるから、そう言う意味でも言い出しづらいとのび太が断る。

 そして、それなら仕方ないからなにもしないでおくとレミリアが言い、不満げながらもフランがのび太やレミリアに同調すると言うやり取りを行いながら、4人はのび太の家へと向かった。

 

「あら、随分楽しそうにしてるじゃない。良かったわ」

「全く……突然逆さまで出てこないで、紫。のび太たちが驚くじゃないの。と言うか、こんな所でスキマなんか出したら……」

「勿論、ここに居る4人以外の認識を阻害する結界を張っておいたから心配せずとも大丈夫よ、レミリア」

 

 すると、のび太の家に向かう途中で皆の目の前にいきなりスキマが現れ、そこから更に紫が上下逆さまで顔だけを出して現れた。それを目撃したドラえもんは突然の出来事に驚き、のび太はこう言う類いの行動に弱いためドラえもん以上に驚くも、既に1度前に会っている事が功を奏して、尻餅はつかなかった。

 

「えっと……紫さん、お久しぶりです」

「ええ……久しぶりね、のび太。そちらの青い方はお友達かしら?」

「はい。僕の親友の『ドラえもん』です」

「改めまして、紫さん。僕は22世紀の未来からやって来た、猫型ロボットのドラえもんと言います」

「ドラえもん……ええ、よろしくお願いね。それにしても、未来からやって来て、人のように話す機械……そんな事があるのね」

「まあ、普通はないですね。僕だけだと思います」

 

 そうして現れた紫にのび太は挨拶した後、親友であるドラえもんを紹介し、自身も改めて自己紹介をして握手を交わした。

 

「で、何の用なの? 貴女の事だから、ただ挨拶しに来た訳じゃないでしょ?」

「ええ。これから貴女たち2人、彼の家で幻想郷に帰るまで泊まってもらおうと思ってるのよね。で、そのためにはのび太のご両親に頭を下げに行く必要があるから、ついでにと」

「「「え!?」」」

 

 初対面の2人の挨拶が終わった後、レミリアが紫に対して何の用事で来たんだと問いかけると、彼女以外のこの場に居る全員、特にのび太とドラえもんが声を上げて驚いた。何故なら、これからレミリアとフランは外の世界に滞在している間、ずっとのび太の家に泊まらせる予定であると言ったからだ。

 

 長い間泊まる事に対する許可は取っておらず、なおかつ取れたとしても生活費の問題がのしかかってくる。それ以外にも色々と細かい問題も発生してくるため、そう言った理由からのび太とドラえもんは2人が泊まる事に否定的である。ただ、来る事自体が嫌と言う訳ではない。

 

「ねえ、紫。断られた時の事は考えてるの?」

「ええ、勿論よ。急なお願いだからね」

「生活費とかはどうするの? ここ、外の世界だけど」

「それも勿論、沢山用意してるわ」

「……なら良いけど、のび太お兄様たちはどう思う? もし、お父様とお母様に許可をもらえたら泊まっても良い?」

「うん。パパとママに許しをもらえれば、僕は構わないよ」

「僕も、のび太君と同じ意見だよ」

「決まりね」

 

 そうして、紫を含めた5人で歩きながら今後の事について色々な話し合いをしている内に、目的の場所まで到着した。その後はのび太とドラえもんが家の中に入って両親を呼び、紫たちは家の前で待機している。

 

 1分後、のび太たちに連れられて玄関に母親がやって来たので、泊まる事に対する許可を取るための交渉が始まった。

 

「突然申し訳ありません。私、そこに居る2人の子の親代わりをしている、『八雲紫』と申します。1月程前から、息子さんにうちのフランドールやレミリアが仲良くして頂けてるみたいで、感謝致します」

「いえいえ、こちらこそお世話になってるらしくて。それで、のび太から聞きましたけど……うちに1ヶ月から2ヶ月お泊まりさせたいと」

「ええ、その通りですわ。実は……」

 

 まずはお互いに初の顔合わせと言う事で挨拶から始め、その後に紫がレミリアとフランと自身についての話や、のび太との出会いを多少偽装した話等を、まるで本当であるかのように話す。そして最後に、どう言う伝で調達したか不明な2ヶ月分のレミリアとフランの生活費を取り出し、野比家に金銭面での負担を絶対にさせない事を強くアピールした。

 

「うちの子たちも、この町に来てから元気がなくて困っていたのですが、息子さんのお陰で今ではだいぶ元気を取り戻してくれて……フランドールに至っては、彼をまるで家族であるかのように慕うまでになりました。本当に感謝しかありません」

「なるほど……」

「それで本日、うちの子の強い希望で今回の依頼に来た次第でありまして……」

 

 更に、でっち上げたエピソードの中にしれっと真実を混ぜ込み、完全な嘘ではなくす事で、問い詰められた際の対策も完璧とは言い難いものの、かなり良い感じに仕上げる手の込みようである。紫の話を聞いていたレミリアやフラン、のび太やドラえもんはまるで本当であるかのように出てくる嘘話に感心さえ覚えていた。

 

 長期滞在中にもし2人に何か起こっても悪意を持ってさえいなければ一切合切責任は問わない事も付け加え、安心させる。

 

 そうした紫の尽力のお陰か母親の了承と、家の中に居たのび太の父親の了承も得る事に成功し、晴れてレミリアとフランの2人が1ヶ月~2ヶ月の間、この家に長期滞在する事となった。

 

「と言う訳でのび太、ドラちゃん。八雲さんの娘さんが長期滞在する事になったから迷惑かけないこと。分かった?」

「分かってるよ」

「勿論だよ」

 

 紫が一礼して皆と別れて家の中に入った後、レミリアとフランはのび太の母親に連れられで父親の居る居間へ向かい、自己紹介を始める。

 

「えっと……私はレミリア・スカーレットで、こっちが妹のフランドール・スカーレット。これから1月から2月程よろしくお願いするわ、のび太のお父様、お母様」

「よろしくね! のび太のお父様、お母様!」

「フラン、せめて初対面の時位もう少し丁寧に……」

「ハハハ! 僕は別にフランクで構わないよ。これから長い間一緒に居るんだからね。むしろ、元気で良いじゃないか!」

「それよりも、私たちは貴女たちをなんて呼べば……レミリアちゃん、フランちゃんで良いかしら?」

「ええ、それで構わないわ」

「私もそれで良いよ!」

 

 そうして好感触のままレミリアとフランは自己紹介を終え、階段を上ってのび太の部屋へと向かったは良いものの、もうやる事がない。今来たばかりな上、もうすぐ夕方と言う時間帯であるため外へ遊びに行くのは論外である。何故なら、あくまでも今はのび太と同世代の女の子と言う体であるためだ。

 

 まあ、吸血鬼のレミリアやフランにとっては普通の人間の暴漢など雑魚同然である。ただ、日本刀などの刀身の長い武器や銀製の武器になりそうな物、銃を持った相手は一応注意しなければならないが。

 

「ねえ、のび太お兄様。何かやる事ない?」

「うーん……あ、そう言えばもうすぐママが夕ごはん作ってくれるはずだから、話でもして待たない?」

「お兄様のお母様が作るご飯かぁ……咲夜の料理とどっちが美味しいんだろ?」

「確かに、うちの咲夜と妖精たちが作る料理と、のび太のお母様が作る料理とどっちが美味しいか気になる……でも、きっと咲夜たちよ。何て言っても自慢のメイドたちだからね」

 

 そんな事をのび太が考えているとフランが退屈し始めたらしく、彼に対して『何かやる事はないか』と聞いてきた。それに対して少し考えた後、ママが夕ごはん作るから話でもしてて待ってようとのび太は提案する。他の事をして遊ぶと余裕で時間が足りなくなってしまい、せっかく作ってもらった夕ごはんが冷めて美味しくなくなるためだ。

 

 するとその提案を聞いたフランとレミリアが、咲夜とその妖精たちの料理とのび太の母親の料理、どちらが美味しいのか議論し始めた。ただ、2人は咲夜の料理しか食べた事がないため、のび太の母親の料理の味は完全に想像でしかない分、期待が膨らんでいくようだ。

 

「妖精に吸血鬼、妖怪や神様まで居るなんて……どんな感じなのか実際に見てみたいなぁ」

「いつか来れると良いね」

「うん。そうだね、フラン」

 

 2人の会話を聞いて、現実世界で幻想となった存在が居る幻想郷とは実際どんな世界なんだろうかと想像を膨らませ、実際に見たい気持ちに駆られて出したその言葉にフランが反応し、のび太にいつか来れると良いねと声をかけた。それに対して更にのび太が反応し、そうだねと言いながら、フランに微笑みかけた。

 

「あ、それと『さくや』って人は妖怪?」

「違うよ。お兄様と同じ人間。だけど、時間を操る能力があったり、ナイフの腕に純粋な身体能力も結構高いから、普通の人間よりは遥かに強いよ。それでも勝てない実力者が沢山居るけどね」

「時間を操る……ひみつ道具がなくてもそんな事出来る人間が居るなんて凄いなぁ。まあ、幻想郷には危険な妖怪も居るみたいだし、それくらい強くないといざって時に対処出来ないんだろうね」

 

 その後、のび太はレミリアとフランの話の途中で出てきた『咲夜』と言う人物が気になったらしく、妖怪なのかと質問を投げ掛けた。実際は妖怪ではなく人間であるため、質問を投げ掛けられたフランは即座に妖怪である事を否定し、のび太と同じ人間であると伝える。同時に、時間を操る能力を含めて戦闘能力が高く、家事全般の能力も高いが故に、普通の人間より強いと言うのもフランは伝えた。

 

 説明を聞き、まるでひみつ道具みたいな事が出来る人間が居るなんて凄いなと感心し、同時にそれくらい強くないと幻想郷では何かあった時に対処出来ないんだろうとのび太は痛感していた。

 

「相手にもよるけど、概ねそんな感じかな。だから、のび太お兄様が幻想郷に来た時は私を頼ってね! 絶対に守りきってみせるから!」

「うん。僕は非力な人間だからもしその時はよろしくお願いね、フラン」

 

 フランがそう言ってのび太の言葉を肯定した後、もしも幻想郷に来た時は守りきってみせるから、私を頼ってくれと彼女は言った。自信に満ちた発言に頼もしさを覚えながら、フランによろしく頼むとのび太が頼んでいると

 

「夕飯が出来たわよー! レミリアちゃんとフランちゃんの分も用意してあるから食べてねー!」

「「「はーい!」」」

 

 のび太の母親が大きな声で夕飯が出来たと、2階に居るレミリアたちに呼びかけて来た。とうとうこの時間が来たかと、レミリアやフランは気分よく先に駆け足で下へと下りて行き、のび太とドラえもんはその後を追う。

 

「今日の夕食はミートソースパスタ……結構な量があるわね」

「凄く美味しそうな匂いがするね! これだけでも、咲夜と良い勝負が出来そう!」

「『さくや』って人、八雲さんとフランちゃんたちの住む所のメイドさんなんだよね?」

「うん!『十六夜咲夜(いざよいさくや)』って言うんだけど、この人の作る料理は本当に美味しい! うちの館のお掃除に他のメイドさんの指導だってやってるし、侵入者の対処だって……何でも出来る人なの!」

「それはまた、凄いねぇ。流石、お金持ちのところのお嬢様だ」

「ええ。彼女が居なければきっと……いや、絶対に困るわね」

 

 2人を追いかけてキッチンにのび太たちが着くと、レミリアとフランが夕飯であるパスタを見て気分が高揚していたのを目撃した。その楽しそうな様子に良かったと思いながら、用意されていた席に着く。

 

 全員が揃ったところで頂きますの挨拶をして、全員でパスタを食べ始めた。それなりに多くよそられていたパスタであったが、のび太の母親が作ったこれは相当美味しいようで、かなりの勢いで減っていく。特にのび太とフランの2人はお腹が空いていたのか、他の4人を凌駕する勢いで麺をすすっていた。

 

「どうしよ……咲夜のも美味しい、のび太お兄様のお母様のも美味しい……ああ、もう! どっちも美味しいって事で良いや!」

「そこまでフランちゃんに喜んでもらえて、良かったわ」

 

 食事の途中はフランは最初の疑問である、咲夜の料理とのび太の母親の料理のどちらが美味しいか白黒つけようと考えていたが、彼女曰くどっちも美味しいため、もうそれで良いやと決めてパスタを味わう事に決めたようだ。

 

「ご馳走さま!」

「とっても美味しかった。のび太のお母様も、料理が上手いのね」

「レミリアちゃんとフランちゃんににそう言ってもらえて、私も嬉しいわ」

「まあ、うちのママの料理は絶品だからね」

 

 そんな感じの楽しい雰囲気のまま夕食を終えた後、4人は2階へと上がって何をするでもなくただ単に談笑したり、ドラえもんが未来の遊び道具を出し、それを使って遊びながら時を過ごした。

 

「しかし、ドラえもんは本当に不思議な物を持ってるのね。未来からやって来たってのも、納得せざるを得ないわ」

「まあ、僕も最初の頃は本当に驚きの連続だったし、信用も今ほどはなかったからね。でも……ドラえもん。僕のところに来てくれてありがとう。君のお陰で毎日が楽しいよ」

「ふふ……色々とあるけど僕もだよ、のび太君」

「本当、のび太お兄様とドラえもんって親友なんだね!」

「「まあね!」」

 

 4人でそんな感じのやり取りをしていると、いつの間にか夜遅くになっていたらしい。母親が2階へとやって来て、もうそろそろ寝る時間だから早く寝なさいとのび太に呼びかけ、レミリアとフランにはテレビのある部屋に寝床を用意してあるから、早く寝た方が良いと呼びかけた。

 

「もうそんな時間になってたんだ……早く寝ないと。レミリアにフランはどうするの?」

「私たちも寝るわ」

「うん! 一応人間って設定になってるからね」

「なるほど、確かにそうだね。じゃあ、お休み」

「ええ、お休み。のび太」

「お休みなさい、お兄様!」

 

 のび太たち4人はそう言った理由から寝る事に決めた。こうして、色々な事があった1日が幕を閉じる事になった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とのび太

「ふぁぁぁ……良く寝た……!? あ、そう言えば現代旅をしてたんだったわ」

 

 現代旅の2日目の明け方、フランと一緒にのび太の家の居間で寝ていたレミリアは先に目覚めた。紅魔館以外の場所、それも幻想郷ではなく外の世界で目覚めると言う経験は今までなかったため、ほんの一瞬だけ混乱した。その後、すぐに現代旅をしていた事を思い出しながら、多少寝ぼけた頭で初日に経験した事を振り返っていた。

 

 立ち寄ったラーメン店で絡まれたり、想像を遥かに超える破壊力を誇るジャイアンのリサイタルを聞く事になったりと言ったそこそこ面倒な事から、幻想郷にはない物や人里とはレベルの違う沢山の人、美味しい食べ物に新鮮な経験や出会い、フランの喜ぶ顔を見れたなどの楽しかった経験の事である。

 

「初日であれだけ楽しかったのだから、2日目以降はもっと楽しそうね……」

 

 来て初日にあれだけの経験が出来たが故、2日目以降は一体どんな楽しい経験が出来るのだろうかと、まだスヤスヤ寝息を立てながら眠っているフランを見つつ、レミリアは独り言を言っていた。

 

「本当、可愛い寝顔……」

 

 そうしている内に、紅魔館でフランを起こす際にたまにやっている『スキンシップ』をやろうと思ったらしく、レミリアは寝ている彼女に至近距離まで顔を近づけた。ただ、今居るこの場所がのび太の家である事、万が一それがエスカレートしてしまった場合の後始末が大変になる事を考慮し、フランの寝顔を堪能しておくだけにしておいたようだ。

 

「んぁ……あ、お姉様おはよー。先に起きてたんだね」

「おはよう、フラン。良く寝れた?」

「うん。お布団で寝たのは初めてだったけど、快適だったよ」

 

 レミリアが時折指で頬をつついてみたり、可愛い寝顔を存分に堪能する事およそ2時間、カーテンの隙間から日光が部屋に入ってくる時間帯に、眠い目を擦りながらフランは目覚めた。館の自分の部屋と違う環境での睡眠であったがしっかり寝れていたらしく、レミリアが良く寝れたかと聞くと、快適だったとフランは答えた。

 

「そう言えば、のび太お兄様は起きてるかな?」

「まだ朝だし、寝てると思うわ。起こしに行く?」

「うーん……お姉様、一緒に行こう!」

「決まりね。じゃあ、行きましょうか」

 

 すると、フランがのび太は起きているのかと誰に聞くでもなく言い出した。それに対して、特に聞かれた訳でもないがレミリアが朝だから寝てると思うと言った後、起こしに行くかとフランに聞く。

 

 そうレミリアから問いかけられたフランは、どうしようか少し考えた後一緒にのび太の部屋へと向かい、起こしに行く事を決めた。

 

「気持ち良さそうに寝てるわね。のび太にとって、眠る時間が至福の一時なのかしら?」

「うん。前に来たときの話なんだけど……のび太お兄様、寝るのが大好きだって言ってた。0.93秒で眠るって特技を得るくらいにはね」

「1秒もかからないって……もはや気絶って言っても過言じゃないわ」

「そう。私も1回だけ見せてもらったけど、最初見た時は狸寝入りだと思っててさ。試しにくすぐってみたり、身体を少しだけ強く揺すったりしてみたりしても全く反応なくて……で、本当に寝てるって分かった時は驚いたなぁ」

「……凄いわね」

 

 部屋へと入り、気持ち良さそうに寝ているのび太の顔を見たレミリアが、彼にとって眠る時間は何ものにも代えがたいものであると感じたようで、フランにそう問いかけた。

 

 すると、フランは前に1度のび太と出会った際に聞いた、『寝るのに1秒もかからない事』や『1度寝てしまえば何しようともなかなか起きない』など、睡眠に関する話をそっくりそのまま言葉にし始めたため、レミリアは唖然とする事となった。

 

 何故なら、自分の意志だけで0.93秒と言う非常に短い時間……気絶レベルの時間で眠ると言う、普通ならどうあがこうとも出来ない事をあっさりとやってのけたからである。日常生活には使えない技ではあるが、1秒とかからず眠れると言うのは、ただ単に凄いと言えるだろう。

 

「……起こせるの?」

「うん! 目覚まし魔法を使えばね」

「一応聞くけど、やかましかったりしない? 大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、お姉様。あの頭にガンガン響くリサイタル程じゃないから」

「なら良いわ。まあ、一応この部屋に防音結界は張っておくけれど」

 

 フランの話を聞き、そんな眠りのスペシャリストであるのび太を本当に起こせるのかを疑問に思ったレミリアであったが、そんな彼でも起こせるような、眠っている者を起こすためだけの魔法があるとも聞いたため、一抹の不安がありながらも部屋の外に音が漏れないような対策をした後、それを使う事に決まった。

 

「フラン、結界は張ったからやっても良いわよ」

「分かった! じゃあ行くよ……それっ!」

 

 そうしてフランが掌から野球ボール3つ程の幅の光の球を出し、のび太の上に浮かべた後に破裂させた瞬間、まるで爆竹を使った時のような乾いた音が部屋のなかに響いた。これがなかなかやかましく、至近距離で鳴らされたのび太はもとより、押し入れで寝ていたドラえもんですら飛び起きる程であった。もしも、防音結界を張らずにいたら、関係ない人に迷惑をかけていた事だろう。

 

「うわぁぁぇ!? なになに……もしかして、フランとレミリアの仕業?」

「ううん、お姉様は防音結界をかけてただけで、煩い奴は私がやったんだよ。寝ているお兄様を起こすためにね。でも、ドラえもんまで起こしちゃった……ごめんなさい」

「急にビックリしたけど、そう言う事なら大丈夫。むしろ、のび太君を起こしてくれてありがとう」

「僕結構寝坊するから、起こしてくれたのは有り難いよ。けど……今日みたいなのは流石にビックリするから、次から出来れば穏便にお願いね」

「うん! 分かったよ、お兄様!」

 

 突然、寝起きに爆竹が爆発したかのような煩い音を発する魔法によって起こされたのび太とドラえもんはビックリしたものの、理由が理由なのでお礼を言いつつ、次からはもう少しマシな方法で起こして欲しいとのお願いに対し、フランはそれに快く返答してこの話は終わった。

 

「ねえ、お兄様。今日は一緒にお出かけしない? お姉様とドラえもんも混ぜて町歩きするのが楽しみなの」

「あぁ……ごめんね、フラン。今日は学校に行く日だから、午後4時頃まで遊べないんだ……」

「あ、そうなんだ……じゃあ、帰ってきたら遊ぼ!」

 

 話が終わった後、フランがのび太とドラえもんに今日1日一緒に出かけないかと誘った。前に来た時とは違って大好きな姉に加え、姉と同等の安心感を得れるのび太にその親友であるドラえもんが居ると言う、彼女にとっては楽しい要素しかないためだ。

 

 しかし、残念ながらのび太は学校に行かなければならない日であったため、少し申し訳なさそうにして断られてしまった。フランも学校に行く日であるなら仕方ないと少しガッカリしながらも諦め、午後4時頃になれば帰ってくるからその時疲れてなければ遊ぼうと言う事になった。

 

「フラン、その『ガッコウ』って何なの?」

「えっとね、人里にある寺子屋みたいなものだよ。大きさは比べ物にならないけどね」

「なるほど。これだけ外の世界には人が多いのだから、子供の数だって多いものね。どれくらい大きいのかは知らないけど、寺子屋よりは数倍程度大きいと見とくべきか……」

 

 のび太とフランの話が少し途切れたタイミングで、レミリアが学校とは何かと彼女に対して質問をしてきた。それにフランが人里のある寺子屋を凄く大きくしたようなものであると簡単に答えると、外の世界には人が多いから子供の数だって多いだろうし、寺子屋よりは軽く数倍は大きいだろうと、レミリアは推測した。

 

 その後4人で色々と話をしていると、のび太の母親が2階へと上がってきて、朝ごはんの時間だと呼びに来た。その際、のび太が自分から起きていて、なおかつ着替えと学校に行く準備すら済ませていた事に対して驚いていた。

 

 朝食のためにキッチンへと向かうと、メニューは味噌汁に白ご飯、コロッケにサラダと言った、典型的な和食であった。そうして席に着き、頂きますの挨拶をしてから食べ始める。昨日の夕食であるパスタとは違う美味しさに、フランはあっという間に完食した。

 

「ご馳走さま! 美味しかったよ、お母様!」

「ええ。今日の朝食もとても美味しいわね。普段和食を殆ど食べないから、こう言う味も新鮮ね」

「お粗末様でした。フランちゃんにレミリアちゃん、本当美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあるわぁ」

 

 そうして皆で楽しく会話をしながら朝食を取り終えると、のび太の父親が早めの仕事があるらしく、レミリアたちに行ってくると声をかけた後、素早く支度をして家を出ていった。30分後、今度はのび太の学校へ行く時間になったため、既に用意してあったランドセルを背負い、家を出ようとした。

 

「私も学校までついていきたいんだけど、駄目かな? 入り口までで良いから……お願い。のび太お兄様、お母様」

「僕は構わないよ」

「フランちゃんとレミリアちゃんの意志があるなら良いんじゃない? 怪我さえしないように」

「ありがと! ねえ、お姉様も行こうよ!」

「勿論、貴女が行くなら私も行くわ。のび太の通う『ガッコウ』がどんなところか気になるからね」

 

 すると、フランがのび太に対して、そんな事をお願いをし始めた。彼女の学校の入り口まで一緒に行きたいと言う気持ちは相当強いらしく、笑顔でのび太と母親に懇願していた。

 

 その結果、特に断られる事もなくあっさりと許可が降り、レミリアもフランと一緒に行くと言った事で、学校の入り口まで同行する事に決まった。

 

「ちょっと待ってのび太君」

「ドラえもん、どうしたの……あ、そう言う事」

「万が一を考えてね。レミリアにフラン、ちょっと眩しいけど我慢して」

「ん……?」

「大丈夫だよお姉様。本当にちょっと眩しいだけだからね!」

 

 そうして日傘を持ち、のび太は2人を連れて学校まで向かおうとした時、今度はドラえもんが声をかけてきた。どうしたのかとのび太が聞いたら、レミリアとフランの万が一の日光対策として手に持っていたひみつ道具『テキオー灯』を使うためとドラえもんが言っていたので、足を止めた。

 

「よし。これで大丈夫。引き留めてごめんね、のび太君行ってらっしゃい。レミリアにフランもね」

「うん。じゃあ、行ってきます!」

「何だか良く分からないけど、とにかく行ってくるわね」

「ドラえもん、ありがと! 行ってくるねー!」

 

 こうして、改めてのび太はスカーレット姉妹を連れて、学校へと向かう事となった。

 

「レミリア。日傘を畳んで、試しに日に当たってみてくれない?」

「え? 急に何を言い出すの……ってフラン!?」

「ほら! さっきの光を浴びたから、今から1日無防備に日光浴びても全然大丈夫だよ、お姉様! 私も平気だし、やってみて!」

 

 学校へ向かう道中、日傘を差しているレミリアに対してのび太が日光に当たってみてくれと、吸血鬼にとっては今すぐ死ねと言うも同然のお願いをした。家を出てくる時に日光対策としてテキオー灯と言う道具からの光を浴びたレミリアであったが、初めて見るひみつ道具であったため、未だに半信半疑である。

 

 しかし、フランがもう既に日傘を畳んで日光浴を存分に楽しんでいた光景を目撃し、更に当の本人から大丈夫だからやってみてと言われた事で、恐る恐る日傘を畳んで日光浴をしてみる。

 

「まさか、本当に平気だなんて……驚いたわ。ドラえもんって凄いのね」

「ね? 日傘なくても大丈夫でしょ?」

「ええ。それにしても、未来にはあれみたいに魔法じみた道具がゴロゴロあるの?」

 

 すると、普通なら身体から煙が昇り始めるレベルの日光をいくら浴びてみても一切の変化が起きなかった。あの道具からの光をほんの一瞬浴びただけで耐性を得れたと言う事実にレミリアは驚き、未来には魔法のような事が出来る道具がゴロゴロあるのかとのび太に聞いていた。

 

「まあね。僕が使った事のある凄いのだと書いた事が本当に起こる『あらかじめ日記』とか、ついたウソが本当になる『ソノウソホント』とか、自由に時間を移動出来る『タイムマシン』とかあるよ。他にも沢山あるけど……」

「……その気になれば幻想郷で最強になれるわよ。恐ろしいわね、未来」

「そんな道具があるなんて、未来って凄いんだね! お兄様!」

 

 レミリアのその問いをのび太は肯定し、更に凄い効果を持つ道具の例を3つ挙げた。どれもこれも、上手く使えば誰でも神にすらなれるレベルの効果を発揮する道具に、未来とは恐ろしいところだとレミリアは言い、凄いところであると話を聞いていたフランは目を輝かせた。

 

 そんな感じで楽しく話ながら歩いていると、3人は学校が目と鼻の先にあるところまで近づいていた。そうなると学校に向かって歩く児童たちの数も増えていくと同時にレミリアとフラン、2人と手を繋いでいるのび太に注がれる視線が増えていった。

 

「随分注目を浴びてるわね。まあ、そう言う類いの視線はもう既に1度経験してるから、大したことないけど……のび太は大丈夫?」

「のび太お兄様、私たちが迷惑だったら無理しないで言ってね」

「レミリア、フラン。迷惑だなんて微塵も思ってないから心配しなくても良いよ」

「……優しいのね、のび太って」

「そうなんだよ、お姉様!」

 

 更に、フランがのび太お兄様と呼んだ事により注がれる視線が増えて、唖然とする児童すら出てきた。しかし、いちいち気にしてたらやっていけないので無視し、変わらず楽しく会話をしながら歩いていき、学校の門前に3人はたどり着いた。

 

 休みの日以外は毎日腐る程見ているどころか中に入っているのび太や、ほんの数回程度ではあるものの、外観を見た事自体はあるフランは特に反応はしなかった。ただ、外観すら1度も見た事がないレミリアは学校の建物を見て、まるで紅魔館と同等かそれ以上の大きさだと、結構驚いていた。

 

「確かにこれは、比較対象がうちの館しかない時点で比べ物にならないわね」

「でしょ? 私とお姉様はここに通ってないから、建物の中には入れないのが残念なんだけど」

「まあ、確かに沢山の関係ない人間に誰彼構わず入られたら面倒だし、何か起こればそれこそ問題だし……とにかく、勉強頑張ってね。のび太」

「私も応援するね! 頑張って、お兄様!」

「うん、ありがとう。レミリア、フラン。行ってくるよ」

 

 そんな話をしながら学校の建物の入り口まで行き、中に入っていくのび太にエールを送りながらフランとレミリアは手を振った。そうして見えなくなればここに居る用事は全くないため、2人は素早くこの場を後にした。

 

「お姉様、学校って楽しいと思う?」

「私はどうかわからないけど、多分フランだったら楽しめると思うわよ。のび太とその友人たちも居るだろうし……まあ、何をするところなのか分からないから、何とも言えないけど」

「そっか……1日だけでも良いから、のび太お兄様と学校の中に行ってみたいなぁ……」

「いつか皆で行けると良いわね」

「うん!」

 

 そうして、フランがいつかのび太と一緒に学校で過ごしたいと言い、レミリアがそれに対して3人で行ける日が来れば良いと言う話をしながら、のび太の家へのんびり手を繋いで歩いて行った。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とお留守番

「のび太お兄様のお母様にドラえもん、ただいまー!」

「レミリアにフラン、お帰り。のび太君との学校までの旅は楽しかったかい?」

「うん、楽しかったよ! まあ、お姉様とのび太お兄様と一緒ならどこでも楽しいけどね!」

「ええ。私もフランと同じく、新鮮な体験が出来て楽しかったわ」

「それなら良かった」

 

 のび太と一緒に学校まで歩いていき、校内に入って見えなくなるまで見送り、再び家へとレミリアとフランはとても楽しい気分のまま戻り、元気良く扉を開けて挨拶をした。

 

 そんな2人に対してドラえもんは暖かい目を向けながら楽しかったかと聞き、フランが満面の笑みを浮かべながらレミリアとのび太が一緒であれば楽しいと即答した。一方のレミリアもフランと同様、楽しかったと言った事で、ドラえもんも良かったと一安心している。

 

「あれ? そう言えばお兄様のお母様が居ないけど、どこに居るのかなぁ……」

「確かに、のび太と家を出る前までは居たのにね。ドラえもん、のび太のお母様の居場所知らない?」

 

 すると、フランがのび太の家から母親が居なくなっている事に気づいたらしく、どこに行ったのかと疑問に思っていた。レミリアもそれに同意し、家に1人で居たドラえもんに母親の場所について知らないかと尋ねた。

 

「のび太君と君たち2人が学校に一緒に行った後、昔からのお友達に誘われて、今日の夜辺りまで帰って来ないって言って出掛けていったんだ。行き先は聞いてないから知らないなあ」

「ふーん……じゃあ、お姉様と私とドラえもんで今日はお留守番かな?」

「まあ、そうなるね。もしかして、外に遊びに行きたかったの?」

 

 レミリアからの、のび太の母親の行き先に対する質問に、ドラえもんは外に友人と遊びに行った事とは聞いたけど、その行き先自体は知らないと答える。すると、フランがそれなら3人でお留守番なのかと聞いてきたため、ドラえもんはそれに肯定の意を表した。

 

 その後、フランの質問の仕方から彼女が外に遊びに行きたいのではないかと判断したらしく、ドラえもんはすぐさまそう質問を投げ掛ける。

 

「ううん、別に。まだ現代旅2日目だし、1日や2日程度お留守番でも私は構わないよ!」

「私としても、留守番で構わないわ。どうせなら、最高の状態でフランとドラえもんとのび太、その友達と一緒に外の世界を楽しみたいもの」

「なるほど……まあ、君たちがそう言ってくれて助かったよ」

 

 しかし、フランはその質問に対して首を横に振って即座に否定し、留守番でも構わないとの意思表示をした。流れでレミリアも、どうせなら最高の状態でのび太とその友人たち、ドラえもんやフランと一緒に遊びたいと言う理由から、今日1日留守番となる事をすんなりと了承し、居間へと向かった。

 

「とは言え、何をしようかしらね……」

「じゃあさ、お姉様と一緒に寝てる部屋でいつものスキンシップを――」

「昼間だし、ドラえもんが居るから駄目……いや、のび太の家だから駄目ね。軽めで済めばここでもやって良いけど、7割位の確率で激しめの奴になるじゃない? そうなると最悪、辺り一面血まみれよ。紅魔館の私の部屋かフランの地下室ならともかく……」

 

 それからレミリアとフランの2人は、今日1日留守番をするに当たって家で何をしていようかと相談をし始めた。フランからはいつもやってるスキンシップをやろうと提案があったものの、今居る場所がのび太の家である事と、それをやるとかなりの確率で激しいものになってしまい、酷い場合になると布団周辺が血まみれになってしまうと言う理由から、レミリアはこれを少し残念そうに拒否した。

 

「……確かに、のび太お兄様たちに迷惑かけちゃうね。じゃあ仕方ないけど、それは止めておこうかな」

「ええ、それが良いわ。まあ本当は、都合良く汚れと臭いとその他諸々をどうにかする魔法か何かがあればやっても良かったのだけど……」

 

 レミリアから拒否されたフランは残念そうにしていたものの、のび太たちに迷惑をかけてしまう事を考え、しょうがないかと諦め、ひとまず昼間のスキンシップは却下となった。ただ、その問題がどうにか解決しさえすれば、やる気ではあるようだが。

 

「君たち一体家で何してるの……姉妹喧嘩とか……?」

「ううん、違うよ! えっとね……まずはお姉様の部屋に私が行って、それから――」

「それ以上は恥ずかしいから止めなさい、フラン!」

「お兄様とお兄様の親友のドラえもんにも?」

「当たり前よ。もしそれを話したら……まあ現代の他の有象無象はともかく、のび太とドラえもんとの楽しい雰囲気は完全に崩壊するかもしれないわ。幻想郷でも、外には言いふらすなって固く口止めしてるでしょう?」

「のび太お兄様と親友のドラえもんなら、それでも大丈夫だと思うんだけど……うん、分かった!」

 

 居間でのレミリアとフランの話し合いを側で聞き、スキンシップで血まみれとはどう言う訳なんだと、殴り合いの姉妹喧嘩でもする気なのかと思ったドラえもんは思わず、いつも家で何してるのかと質問を投げ掛けてしまう。

 

 しかし、それに対してフランは即座に否定した後、相手がドラえもんだからかは不明だが、特に躊躇う事もなく話そうとしてしまい、慌てたレミリアに止められてから言っては駄目だと言い聞かせられた。当のフランは、別にのび太やドラえもんなら大丈夫ではないかと思いつつ、レミリアがそこまで言うなら仕方ないかと、言うのを止めた。

 

「とにかく、君たちがとても仲の良い姉妹だって事なんだよね?」

「うん! そうだよ!」

「まあ、そう言う事ね。昔は今とは真逆だったけれど」

 

 途中で話が止められたため、尚更気になってしまうドラえもんであったが、話の内容が内容なのでこれ以上は突っ込まない方が良いと判断し、気にするのを止めた。それと、相手は魔法も扱う吸血鬼であり、下手に怒らせてしまえば危ないと言う理由もあった。

 

 その後はレミリアがボソッと言った、フランとの仲が最低最悪だった5年前までの過去の話と、幻想郷に行ってから起こした『異変』の話と以降の話、今の様にとても仲良く過ごすまでに至った経緯について、覚えている限りの事を全てドラえもんに話す。それが終われば、ドラえもんが今までのび太たちと冒険した話や未来の世界の話をしたりした。

 

 特に何か身体を動かして遊んだわけでもなかったが、レミリアやフランにとっては現代の町の光景ですら新鮮で面白い物ばかりなのに、それよりも更にあらゆる面で発展している未来の話に、当然ながら興味をそそられたらしい。出来る事なら滞在中に行ってみたいと言う思いが強くなったようだった。

 

「でも、今は現代旅を楽しまないとね。未来は現代旅を楽しみ尽くしたって思ってからでも遅くはないわ」

「うん。でもお姉様、現代旅で1ヶ月は余裕で終わりそうじゃない?」

「まあ、それならそれで構わないわ。今回の目的は、現代旅を楽しむ事だもの」

 

 しかし、まだ現代のほんの一部しか体験したりしていない事から、優先すべきは現代の町を楽しみ尽くす事に決め、未来の話はひとまず頭の隅にでも置いておく事にしたようだ。ドラえもんもそれを聞き、出来る限り楽しんでもらうように尽力する事を伝え、この話は終わった。

 

 お互いの世界について一通り話した後は、ひみつ道具『グルメテーブル掛け』を使い、ドラえもんはどら焼きと緑茶、レミリアとフランはショートケーキと紅茶を出し、飲み食いしながら他愛もない世間話をしたり、トランプなどをしながらのんびり過ごした。

 

「あら、もう3時間も経ったのね」

「本当だ! まあ、未来の話とか色々と夢中で話し込んだし、紅茶とケーキを食べながらのんびり過ごしたから、意外と妥当なのかも――」

 

 そうして居間でのんびりし始めてから3時間経った頃、会話に割り込むようにして家にチャイムの音が鳴り響いたのを、3人は聞いた。何の音かと疑問に思うレミリアだったが、既に1人で来た事がある時に経験済みだったフランが、お客さんが来た時に鳴る音だと教えた。

 

「なるほど、それは便利ね……ってそんな事よりも、お客のところに行かなくて良いのかしら?」

「確かに……じゃあ、私が行ってくるね!」

「いや、ここは僕が行った方が……」

「大丈夫だよ、ドラえもん! 対応の仕方が分からなかったら呼ぶからさ、1人で行かせて!」

「うーん……でもまあ、これも現代旅の一部かな。分かったよ、フラン。行ってきて」

「ありがとうね、ドラえもん!」

 

 フランのその説明を聞いてレミリアは便利だと言い、同時にそれなら早く行かなくて良いのかと言ったのを聞き、ハッとしたフランとドラえもんが同時に立ち上がる。

 

 来客の対応に行きたがるフランに対し、それは僕が行った方が良いのではとドラえもんが言うやり取りを少しの間交わしたものの、結局は勢いに押し切られる形でドラえもんが折れてフランが行く事になった。

 

「こんにちは! おじさん、何か用事?」

「え……ああ、そうだ。コイツらを売りに、この辺りの家を回ってる」

 

 そうしてフランが扉を開けると、現れたのは町のどこにでも居そうなおじさんであった。フランが何の用事かと聞くと、彼は少しだけ驚きながら持っていた風呂敷を開いて商品らしき物を見せつつ、これを売りに来たと答える。

 

「うーん……これはスポンジって奴だよね。こっちはタワシで、あれは確かキッチンにあった奴で、名前はえっと……何だっけ? これも知らないなぁ……」

 

 ただ、フランは物売りのおじさんが持ってきた物の半分程度は知らないらしく、商品を手に取って眺めたり回したりしながら、そんな事を独り言のように言っている。

 

「それで、どうなんだ? 買ってくれないか?」

 

 フランのそんな様子を訝しみつつも、物売りのおじさんは買ってくれないかと聞くが……どうしようか判断がつかないようで、ドラえもんを呼んで判断を仰いだ。

 

「あ、そう言うのは家に沢山あるので要りません。帰って下さい」

「しかしなぁ、オレも生活が……」

 

 相対した瞬間、ドラえもんは開口一番『要りません』と言い放ち、物売りのおじさんに帰るように促した。しかし、彼も生活がかかっていると言う理由で、どうにかして買ってくれとドラえもんに食い下がった事で、話は平行線のまま続いた。

 

 そして、物売りのおじさんが家の玄関に居座る事30分、彼の口調も半ば脅すような感じになってきて、ドラえもんも困り果てていた時に隣で見ていたフランがため息を吐きながら……

 

「ねえ。時間の無駄だからさ、早く帰ってくれない?」

 

 冷や汗をかくくらいの威圧を放ちながら、時間の無駄だから早く帰れと、気だるそうに言ったその行為によって底知れぬ恐怖を感じたのか、物売りのおじさんは逃げ帰るようにして立ち去って行き、この場を乗り切る事に成功した。

 

「ちょっと脅しただけで逃げ帰る位なら、最初からやらなければ良いのに……」

「まあ、確かにね。それにしても、君が吸血鬼の力を少し見せてくれたお陰で、ひみつ道具使わずに済んだよ。ありがとう」

「えへへ、どういたしまして!」

 

 そうして物売りのおじさんが逃げ帰った後は再び居間へと戻り、ドラえもんが出した未来のボードゲームをやったり、レミリアが魔法でちょっとした芸を披露したりして、比較的楽しく過ごしていた。

 

「レミリア、フランドール。少し伝えたい事があるのだけど、今は大丈夫?」

「紫、貴女相変わらず変なところから現れるのが好きね……ええ。ちょうどボードゲームも終わったところだったから、別に大丈夫よ」

「私も同じ! それで、どうしたの?」

 

 そんな時、突然天井にスキマが開き、そこから蝙蝠のようにして紫がレミリアとフランに伝えたい事があるけど、今は大丈夫かと言いながら現れた。相変わらず変なところから現れるのが好きだなと、レミリアはそう思いながらも大丈夫だと言い、紫からの言葉を待つ。

 

「貴女たち、のび太と学校に行ければいいなって言ってたでしょう?」

「ええ、確かにそう言ってたけど……紫。あれからずっと見てたの?」

「確かに見てたわ。まあ、それは良いとして……貴女たち2人、1週間後に学校見学に行く事になったのを伝えに来たのよ」

 

 すると、紫が1週間後に学校見学に行く事になったと伝えてきた事により、昨日に続いてレミリアとフランは驚く事となった。色々な手続きなどの面倒事はどうしたのかと2人が聞くと、どうやら()()()()()色々と準備をしていたらしく、既に解決済みだと言っていた。

 

「と言う事はもしかして、私たちが現代に送られるのは前から既に決まっていた……?」

「その通りよ」

「一応聞くけど、断っていたら?」

「強制的にスキマ送りにしてたわね。今回は、たまたまフランドールが現代旅に乗り気だったから穏便に連れてこれて良かったわ、本当にね」

「全く、何を企んでるんだか……まあ、今回に関しては感謝するわ紫」

 

 前から学校見学をするために準備を進めていたと言う話を聞いたレミリアは、自分とフランが現代に送られる事は予定されていたと感じたらしく、そう問いかけた。すると、案の定その通りだったらしく、レミリアの問いに対して肯定の意を表し、更に断っていた場合は有無を言わさずスキマ送りにしていたと、そう伝えてきた。

 

 紫からそう言う話を聞き、レミリアは何を企んでるんだか分からないと少し呆れながらも、結果的にフランが現代旅をとても楽しめている事から、感謝の意は伝えた。

 

「じゃあ、伝えるべき事は伝えたから帰るわね。それと、貴女たち2人は『アメリカ合衆国』と言う国から来たって言う設定で、私は貴女たちの保護者と言う設定だから、当然1週間後の学校見学には同行する事になってるからね」

 

 そして紫は最後に、2人の出身地がアメリカだと言う設定だと言う事と、1週間後の学校見学にはレミリアとフランの保護者と言う立場で同行すると言う事を伝えて、ドラえもんに一礼してから天井のスキマに消えていった。

 

「……ねえ。学校見学に行くって事は、のび太お兄様やお姉様と一緒に学校に行けるって事なんだよね?」

「まあ、見学しに行くって事は……そう言う事ね、フラン。後、決まっていないのはいつから通うかと言う事だけれど、これは1週間後の見学の時に決めると思うわ」

 

 紫がスキマで幻想郷に帰った後、今までの話を聞いていて興奮したフランが、レミリアに対してのび太と一緒に学校に行けると言う事なのかと、凄い勢いで詰め寄りながら確認していた。当然、この町に居る間は学校に通うと言う事であるため、レミリアはフランの問いに対してそう答えた。

 

「やったぁーー!! ドラえもん、やったよ!!」

「良かったね、フラン。のび太君に伝えたら、きっと喜ぶと思うよ」

「うん! 今すぐにでもこの事を伝えたいんだけど……早くのび太お兄様帰って来ないかなぁ……そうだ! 玄関で待ってよっと!」

 

 すると、それを聞いたフランのテンションが最高潮に達し、側に居たドラえもんに抱きついて喜びを表現した。そんなフランに対してドラえもんは少しだけ驚くも、頭を撫でながら良かったねと語りかけた。

 

 その後、フランはのび太が学校から帰ってくる時まで、満面の笑みを浮かべながら玄関で待っている事に決めたらしく、軽い足取りで向かっていった。




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とお友達

「お兄様来ないなぁ……何かあったのかな?」

「……来ないわね。のび太が本当に帰ってくる時間なのかしら? ドラえもん」

「うーん……今日は早く帰ってくるらしいから、本当はこの時間に帰ってくるはずなんだけど……」

 

 フランがのび太の帰りを待つために玄関へと向かってから2時間、やる事がなくなったレミリアとドラえもんも時折一緒に待っていた。しかし、午後2時を過ぎても一向に帰ってこないため、テンションが高かったフランも流石に下がってしまい、何かあったのではないかと心配するようになっていた。

 

 レミリアは、のび太の帰ってくる時間をドラえもんが間違えているのではないかと思ったようで、この時間で合っているのかと質問していた。聞かれたドラえもんは、どうして帰って来ないのか分からないらしく、一生懸命考えていた。

 

「あ! もしかして、居残りさせられてるのかもしれない」

「居残り……?」

「うん。のび太君、学校の宿題をしょっちゅう忘れたりするから、その忘れた宿題をやらされてて帰りが遅くなってるのかも。後はそうだね……無理やり掃除を押し付けられたりとかした時も、遅くなる事があるんだ」

 

 そうして、ドラえもんがのび太の帰って来ない理由を必死に考えていた時、学校へ居残りさせられているのかもしれないと言う可能性にたどり着いた。その流れで、無理やり掃除を押し付けられていると言う、もう1つの可能性もあるとドラえもんが言ったその時、その話を聞いていたフランの表情が微かに曇った。

 

 どうしたのかとレミリアが聞くと、フランは『無理やり掃除を押し付けられた』と言う部分に強い不快感を感じたため、表情が曇ったとの事らしい。

 

「宿題忘れて居残りかぁ。それなら仕方ないけど……もしも、無理やり掃除を押し付けられたりとかだったら、ソイツは許さない。お兄様に嫌な思いさせて、私とお姉様の気分を壊したのだから……然るべき報いを受けてもらわないとね」

「然るべき報い? フラン、貴女一体何をする気なの?」

 

 前者の『宿題を忘れて居残り』がなかなか帰って来ない理由なら仕方ないと思っているらしいが、後者の『無理やり掃除を押し付けられた』と言うのが理由ならば、押し付けた奴には報いを受けてもらうと、静かなる怒りを見せながら宣言をした。それを聞いたレミリアが何か嫌な予感がしたらしく、フランに一体何をする気なのかと問いかけた。

 

「そうだなぁ……」

 

 すると、レミリアにそう問いかけられたフランがとんでもない事を笑顔で平然と言い放ち、この場の空気を一瞬で凍りつかせた。

 

「半殺しだね!」

「……」

「はぁ……フラン、それはいくらなんでも過剰すぎるわよ」

 

『半殺し』である。どう考えても掃除を押し付けた事に対する罰としては過剰すぎる上に、笑顔で物騒極まりない発言をするとは思わなかったらしく、ドラえもんはドン引きして何も言えなかった。それに対し、レミリアは過激路線になる事を既に予想していたらしく、落ち着いて半殺しはやり過ぎだと諭す。

 

「駄目かぁ……じゃあ、1発殴るのは?」

「……人間と吸血鬼の力の差を考えてみなさい。どう考えても地獄絵図になるから駄目よ」

「それなら、全力で威圧して強い言葉で抗議するのは?」

「まあ、それくらいなら……」

 

 しかし、次にフランが提案したのは『1発殴る』と言うものであった。先程の半殺しよりは幾分かマシにはなったものの、吸血鬼と人間の力の差を考えると、どう考えても地獄絵図にしかならないため、レミリアはこれも止めるように諭す。

 

 結果、最終的には全力で威圧しながら強い言葉で抗議すると言うフランからの提案に、レミリアがそれなら良いかと同意した事で、この話し合いは幕を閉じた。

 

「よし! こういう時こそ、ひみつ道具で調べてみよう!」

「「ひみつ道具で?」」

 

 そうして、レミリアとフランの話し合いが終わったタイミングで、ドラえもんが思い出したかのようにとあるひみつ道具を取り出し、のび太が今どうしているのかを調べようとした。

 

「えっと……これは一体?」

「『○✕占い』って言うひみつ道具でね、これに質問すれば何でも答えてくれて、しかも的中率100%って言う優れものだけど、質問の仕方が良くないと、望む答えが返ってこない特徴があるから注意しないと駄目なんだ」

「へぇ……それは凄いわね。上手く使えば、かなり良い思いはしそうだわ」

 

 ○✕占いと言う、どんな質問にも答えてくれる上に的中率100%を叩き出す高性能なひみつ道具である。質問の仕方が悪いと望む答えが返ってこないと言う欠点はあるものの、それがあっても有り余る程の利点がある。

 

 説明をした後、ドラえもんは早速そのひみつ道具に対して、のび太が家に帰って来ないのは宿題を忘れたせいで居残りさせられているからなのかと問いかけたところ、結果は✕であった。

 

「そうだ。良く考えたら今日の宿題はなかったんだっけ……あっ」

 

 ドラえもんは何となく察したものの、一応ひみつ道具に対して、のび太は掃除を押し付けられたせいで帰って来ないのかと問いかけた。すると、○が空中に浮かんで点滅し始めたため、そうだと言う事が確定してしまった。

 

 更に細かく質問を繰り返して帰って来た答えを聞いた後、他のひみつ道具も駆使し、最終的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う結論を出した。

 

「それにしても酷い……自分たちの教室の掃除を押し付けた上に、自分たちはさっさと帰っちゃうなんて」

「確かに酷いけど、どうするの? それが分かったにしても、対処の仕方が分からなければどうにもならないわよ……ってフラン?」

 

 ドラえもんが出したその結論を聞いた瞬間、唐突に立ち上がったフランは無表情かつ無言で2階へと上がっていった。その瞳には光が灯っていなかったため、自分の気分を台無しにした挙げ句にのび太へ無理やり掃除を押し付けた事に対する怒りが、かなり強いものであると言うのを察したレミリアがフランの後を追い、ドラえもんも更に後を追った。

 

 そうして2階ののび太の部屋に着くとフランは椅子に座り、学習机の上に置いてあった鉛筆を使い、同じく置いてあった紙を小さい四角にちぎり、何かを書き込んでいた。次にその紙を丸めると、何故かカラスを召喚して丸めた紙を持たせ、窓から解き放つと言う行動を取る。

 

「……フラン? 一体何をしたの?」

「あ、お姉様。えっとね、お兄様に『迎えに行くから、学校の玄関で待ってて』って手紙書いたの。私が居れば、自分たちのやるべき掃除をお兄様に押し付けた()()が途中で突っかかって来たとしても、大丈夫でしょ?」

 

 その行動を不思議に思ったレミリアが何をしていたのかと聞くと、フランはのび太に迎えに行くと手紙を書いたと答えた。どうやら、そんな押し付けられた掃除を止めさせ、家に帰らせたいとの事だ。迎えに行くと言ったのも、仮に道中で鉢合わせした場合の対策との事。

 

「まあ、そうだけど……のび太の居場所は分かってるの? 手紙を渡すって事だけど、学校の中を飛んでる時に捕まったら台無しよ?」

「分かんないけど、すぐに見つかるから大丈夫だよ! それと、捕まらないように万全の対策は取ってあるから、心配はしてないよ!」

「えぇ……」

 

 レミリアはその発言に納得しつつも、のび太の今居る場所は分かっているのか、手紙を持ったカラスが捕まったらどうするのかと聞くが、フランは対策は取ってあるから大丈夫だと自信満々に告げる。本当に大丈夫なのかと心配は拭えないレミリアであったが、飛ばしてしまったものは仕方ないと、諦める事にして結果を待つ事に決めたのだった。

 

「あっ……お姉様にドラえもん! のび太お兄様、もうとっくに掃除が終わってたみたい。家の近くを1人で歩いてる!」

「あら、そうなのね。変な輩が居なくて良かったじゃない」

「うん!」

 

 すると、カラスを放ってからたった3分で戻ってきて、フランの元にのび太の居場所が家への帰り道であると言う情報が舞い込んできた。この事から、3人が色々と議論を交わしていた時にはもう既に家への帰路へと1人でついていて、学校云々の議論は無駄であった事が分かった。

 

「良く考えたら、最初からのび太君は学校に居るか、それとももう既に帰路へとついていたのか聞けば良かったなぁ」

「言われてみれば確かにそうかもしれないけど、過ぎた事を考えていても仕方ないわよ。とにかく、疲れているはずだから暖かく出迎えてあげましょう?」

 

 その後、ドラえもんが質問の仕方が悪かったと少し後悔していたり、確かにそうかもしれないが過ぎた事を考えていても仕方ないとレミリアが励ましていたりと言ったやり取りを交わす事10分、2階の窓から家の前を歩くのび太の姿を見かけたため、フランが階段を駆け下り、レミリアとドラえもんがその後を追う。

 

「ただいま――」

「お兄様お帰りーー!! お掃除押し付けられたって聞いたけど、大丈夫だった!?」

「え!? あ、うん……大丈夫だよ、フラン。何か心配かけたみたいで、ごめんね」

「ううん、大丈夫だったなら謝らなくても良いよ!」

 

 玄関前で待機していたフランは、のび太が家に入ってくるなり飛び付くようにして抱きつき、掃除を押し付けられたけど大丈夫であったかと、彼の身を労った。突然抱きつかれたのび太は色々な意味でとても驚いていたものの、とにかく心配をかけてしまった事だけは理解しているようで、フランに対してごめんねと謝る。

 

「それで、どうして僕が掃除を押し付けられたって事を知ってるの?」

「えっとね……ドラえもんのひみつ道具のお陰なんだよ! お兄様がなかなか帰って来ないから、調べてもらったの!」

「そうだったんだね。ドラえもん、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 謝罪を終えた後、のび太はどうして自分が掃除を押し付けられた事を皆が知っているのかを聞いたが、それはドラえもんのひみつ道具によるものだとフランが言った事により、疑問は速攻で解決した。

 

「さて、帰って来て早速であれなんだけど……2人とも、今から外に遊びに行かない?」

「外に? 別に良いけど……大丈夫なの?」

「私は構わないよ! でもお兄様、疲れてないの?」

 

 すると、のび太が抱きついてきたフランをゆっくり下ろしながら、2人に向かって外に遊びに行かないかと誘っていた。それ自体は特に変わった言葉ではなかったものの、学校で掃除の押し付けなどがあったりして疲れているものだと思っていた2人は少しだけ驚き、大丈夫なのかと心配した。

 

「大丈夫だよ。疲れていないって訳じゃないけど、遊びに行ける位の体力はあるからね」

「ふーん……なら良いかな! お姉様も行くでしょ?」

「勿論よ。フランが行くと言うのに、私が行かないわけないわ」

 

 しかし、遊びに行ける位には体力はあるとのび太が答えた事で安心したフランは一緒に遊びに行く事に決め、レミリアも同じく遊びに行くと言い、ドラえもんもそれを了承した。そうして2人は、居間に置きっぱなしの手提げバッグを取りに行き、のび太と一緒に家を出て行った。

 

「あ、そうだ! 言いそびれてたんだけど私ね、お兄様と一緒に学校に行ける事になったんだよ! いつから通うかは未定だけどね!」

「……そうなの!?」

 

 3人で外を歩いている途中、自身がのび太と一緒に学校に通える事になったと言うのを、邪魔の入らない良いタイミングとばかりにフランは話し始めた。昨日と今日で色々驚いていたのび太であったが、まさか学校にまで一緒に行く事になるとは夢にも思っていなかったようで、大きな声を上げる程驚いた。

 

「うん! 1週間後に見学にも行く事になってるんだから!」

「なるほどね。と言う事は、レミリアも一緒に?」

「ええ、勿論よ。紫がどんな手を使ったか知らないけど、いつの間にか私たちに何も言わずにそんな予定を立ててたのにはビックリしたわ。まあ、お陰でフランも喜んでるし、私もその顔を見たりして良い思い出来てるからありがたいけどね」

「いやぁ……昨日と今日、驚いてばかりだなぁ。僕」

 

 そして、フランが学校に行く事になったのなら、レミリアも一緒に学校に行くのだろうと思ったのび太がそう問いかける。当然、そうだとレミリアはのび太の問いに対して肯定の意を示した。

 

「レミリアやフランと学校……同じクラスになれるかな?」

「紫の事だから、そう話をつけてくれてるでしょうね。多分だけれど」

「そしたら、お姉様かお兄様の隣になれるかな?」

「僕は隣の席の人が居るから無理だろうけど、レミリアとフランは隣になれると思うよ」

「なら、嬉しいな!」

 

 その後は3人で学校へ行った時の想像しながら話をしたり、これからのび太が遊びに向かう友達のところについて、レミリアとフランに解説をしたりしながら歩みを進めた。

 

「ここが『ミナモトシズカ』って女の子の家なの、のび太?」

「そう。ここが僕の友達の『源静香』って女の子の家だよ」

「そう言えば、前に来た時に唯一私が出会ってないお兄様の友達だったよね」

「うん、確かにそうだったね」

 

 話している内に家の前に到着したため、玄関のチャイムを押した後、そんな会話を3人で交わしながら待っていると……

 

「あら、のび太さんいらっしゃい……えっと、初めて見る子たちだけど、知り合いなの?」

「うん。金髪の子の方が妹のフランドールって言って、こっちの水色がかった青い髪の子は姉のレミリアって言うんだ。しずかちゃんが居ない間に知り合った子たちで、紹介したくてね……もしかして、今来て迷惑だった?」

 

 しずかちゃんが扉を開けて出てきた。調理道具を持っていたため、どうやら料理中であったらしい。タイミング悪い時に来てしまったと思ったのび太は思わず、申し訳なさそうにしながら謝罪をした。

 

「ううん、大丈夫よ。それよりも、家に上がってく?」

「え、良いの?」

「ええ。ちょうど今クッキーを作ってて、のび太さんとドラちゃんにプレゼントしに行こうと思ってたところだから……貴女たちもどうぞ」

「お邪魔するわ」

「お邪魔しまーす!」

 

 それに対して、しずかちゃんは大丈夫だとのび太に伝えた後、自分の家へレミリアやフランと共に上がるように促した。クッキーを作っていて、ちょうどのび太の家へ持って行くための用意をしていたところらしく、手間が省けるのが理由との事。ちょうど遊びに来たタイミングなため、それなら断る理由などないと3人はしずかちゃんの家へと入っていき、クッキーの置いてあるキッチンへと案内された。

 

「結構作ったね……」

「ええ、張り切って作り過ぎて困っててね。レミリアちゃんとフランちゃんが来てくれて助かったなって」

 

 すると、3人の目の前に現れたのはお皿に大量に盛られたクッキーであった。とても1人では食べきれない量であり、プレゼントに配る分を差し引いても余るレベルであった。このため、レミリアやフランが来てくれた事に対して拒まなかった理由の1つであるらしい。

 

「それと今更だけど2人の呼び方って、『レミリアちゃん』『フランちゃん』って言う風で良い?」

「のび太の友達なら、構わないわ」

「私も同じだよ! それで、貴女の事はなんて呼べば良い?」

「名前を呼び捨てで呼んでもらっても構わないし、あまり変でなければあだ名でも大丈夫」

「うん、分かった!」

 

 そんな感じの、レミリアやフランとしずかちゃんが良い雰囲気の中、4人でのおやつタイムが始まった。

 

 最初にクッキーを口に入れたレミリアが、咲夜の作るお菓子と良い勝負が出来る位美味しいと誉め、それを聞いたフランが続いて頬張ると同じ感想を述べた事でしずかちゃんも喜んだ。

 

「本当、しずかの作るクッキーって美味しいね! お兄様の友達って、皆料理が上手いの?」

「いや、それは……違うかな」

「そうなの?」

 

 その流れで、他の友達は料理が上手いのかとフランが聞くと、のび太は顔を曇らせて違うと答えた。明らかに何かあると感じたフランが更に聞くと、のび太はジャイアンの作るシチューについて説明を始めた。

 

 鍋から漂う強烈な異臭、何故か作っている内に紫色に変色し、入れる食材がデタラメであり、その上隠し味にセミの抜け殻を入れると言う狂気すら感じる料理だと言い終えたところで、フランとレミリアはドン引きした。しかも、のび太と友人たちがそれを食べた事があると言う事実に、2人は更に唖然とする。

 

「それを今考えるのは……止めましょうか」

「「「確かに」」」

 

 あまりにも凄い話であったためか、レミリアがこの話は止めようと言い、他の3人もそれに同意したため、話題を大きく変えた。それは、レミリアとフランが実は人間ではなく、吸血鬼であると言うものである。

 

 それを聞いたしずかちゃんは何かの冗談だろうと思っていたようだが、レミリアとフランが隠していた翼を露にして少しだけ浮かんで見せたり、魔方陣から悪魔を召喚したり、自分自身が蝙蝠になってみたりなどした事によって、信じる事となったみたいだ。

 

「……そんなに怖がらないのね。まあ、何となく予想はしてたけれども」

 

 吸血鬼だと信じたのにも関わらず、しずかちゃんの態度は変わらない上に全く怖がる事はなかったが、レミリアは予想済みであったため、特に感慨もなくそう言った。

 

 その後は特に深刻な話はせずのんびりとテレビを見たり、レミリアとフランが魔法を使った即興の芸を披露したり、姉妹の出身地についての話をしたりしながら、夕方になるまで楽しく過ごした。

 

「レミリアちゃんもフランちゃんも、良ければまた遊びに来てね」

「ええ、そうさせてもらうわ」

「美味しいクッキーをありがとう! 私もいつか遊びに行ければ行くねー!」

 

 帰る時間が来てしずかちゃんの家を出る時、レミリアとフランはそんなやり取りを交わしながら、のび太に連れられてこの場を後にした。

 

 そうして楽しく話しながら歩き、家へとついた後は早めに帰って来ていたのび太の母親と一緒に、グルメテーブル掛けによって用意された夕食を食べ、それが終われば最初が姉妹、次にドラえもんとのび太と言った順番で入浴を済ませ、更にそれが済めばのび太は宿題を始め、レミリアとフランは何をするでもなくのんびりと過ごし、就寝の時間を迎えた。

 

 こうして、驚きばかりの現代旅2日目は幕を閉じる事となった。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と野球遊び

「のび太、何をしようとしているの? いつもと違う服を着てるし、妙な物を持っているけど」

「これ? 野球って遊びのために使う道具だよ。服もこの遊びの時にしか着ないんだ」

「へぇ……フランは知ってる? この遊びのルールとか、どう言う感じの遊びなのかとか」

「うん、少しだけならね。でも、やった事はないから私も野球のルールについては殆んど分からないなぁ。だからお兄様、教えてくれる?」

 

 レミリアとフランが現代旅を始めてから6日目の昼間、学校が休みであるのび太はジャイアンとスネ夫に誘われていたので、野球をやる準備をしていた。

 

 そうして外出しようとした時、ちょうど昼食を食べ終えて居間でのんびりしようとレミリアにいつもと違う変わった格好を指摘され、色々と聞かれたため、時間もまだ少しある事から野球の道具である事を説明していた。

 

 その後、野球はどんな遊びなのか、ルールはどんな感じなのかレミリアは知っているかとフランに聞くものの、詳しいルールは分からないとの事。なので、のび太に対して説明を求め、それに対しても詳しく教えたりした。

 

「なるほど……その『ヤキュウ』とか言う遊び、少し気になるわね」

「確かに、見た事だけはあるけど実際にやってみたい! ねえ、お兄様。私とお姉様も一緒に行っても良い? 出来れば参加したいなって思ってるんだけど……」

「一緒に行くのは全然良いよ。でも、参加出来るかはジャイアンやスネ夫に聞いてみないと分からないし、1回もやった事ないのに……大丈夫?」

「勿論、大丈夫だよ!」

 

 すると、その説明を聞いていたレミリアは野球に対して少しだけ興味を持ち、それに釣られる形でフランも強く興味を示した上に実際にやってみたいと思ったらしい。のび太に対してレミリアと一緒に河原のグラウンドまで行って、野球に参加したいと頼み込んでいた。

 

 のび太はフランからの頼みに対し、一緒に会場まで行って見る事は全く構わないが、参加出来るかどうかはジャイアンやスネ夫の采配次第である事と、仮にその問題をクリアしたとしても今まで1回も野球をやった事もないと言う理由から、それに関してはあまり乗り気ではなかった。他にも色々な心配事はあるみたいだが。

 

「うーん……のび太君。僕は良いと思うよ。だって、今日はただ野球を楽しむついでに練習するだけなんでしょ? それに、いつからかは分からないけど学校にも通うんだから、交流も兼ねてるって意味でもね。レミリアとフランも、事前に何人かの顔を知ってた方が安心だろうし。僕も一緒に行って頼んでみるから」

 

 すると、レミリアとフランの後に昼食を終えて廊下にやって来たドラえもんが話に割り込んできて、のび太に向けて意見を述べ始めた。今回はあくまでも娯楽として楽しみながら、練習はついでにこなす方に重きを置いているのだから、別に参加を頼んでも良いのではないかと言うものだ。

 

「確かにそうだね……レミリア、フラン。じゃあ、一緒に行って野球をやろう。僕も強く頼んでみるから」

「ええ。よろしく頼むわ」

「ふふっ……お兄様、ありがと!」

 

 ドラえもんからの意見を全て真剣に聞いたのび太は、確かにその通りだと納得したらしく、一転して何としてでも一緒に野球を楽しめるように強く頼んでみると言いながら、2人に対して河原のグラウンドまで連れていくと約束した。

 

 そうして、キッチンに居る自分の母親と父親にレミリアとフランを連れて遊びに行ってくる事を伝え、日光や流水などに耐えるためのテキオー灯を浴びせた後、ドラえもんも一緒に家を出て河原のグラウンドへと向かう。

 

「その格好のお兄様、初めて見たけど何だか新鮮だね! そう言う格好いいのも、私は好きだよ!」

「格好いい……そんな事言われたの初めてだから、何だか恥ずかしいなぁ……」

「そうなの? うーん……まあ、考えてみれば確かにお兄様って格好いいとは言えないし、強くて頼もしくはないよね。どちらかと言えば、弱いから守ってあげたくなる感じかな」

「なんか複雑……」

 

 道中、フランが初めてのび太の野球のユニフォーム姿を見て格好いいと思ったようで、思った事をそのまま率直に伝えていた。今までそんな事を言われた経験がないのび太は、突然フランから格好いいと言われて恥ずかしいと本人に言いつつも、喜んでいた。

 

 そんな発言を聞いたフランは少し驚いてから考え込み、確かにのび太は格好いいとは言えず、弱くて守ってあげたくなる存在だと笑顔で言い放って辺りの空気を少しだけ冷やし、そう言われたのび太は複雑そうな表情を浮かべている。

 

「でも、お兄様って優しいでしょ? それに、お兄様の顔を見てたら何だかお姉様と居る時みたいにスッゴく心地良くて、抱えてた不安とか全部綺麗になくなった気がして、巣食う狂気だって不思議と出て来なくて……だから格好良くなくても、どれだけ弱くてもどうでも良い。一緒に居るだけで幸せだから。それに、私がこんな気分になるの、お姉様と一緒に寝てる時にイチャイチャ――」

 

 ただ、悪気もなく貶した後は間髪入れずに、フランはのび太の良いところを穏やかな笑顔で沢山挙げ、冷えたこの場の雰囲気を一気に心地良い物へと変化させた。そして、高揚する気分のままレミリアとの一緒に寝ていた時の事を言おうとして……

 

「ちょっ……フラン!? ここは外だし、それ以上は言っては駄目よ!」

「あ……はーい!」

 

 当然だが、こんな誰が聞いてるかも分からないような場所で話されては堪らないため、レミリアは全力でフランの口を手で塞ぎつつ、こんな場所で言ってはいけないと顔を赤くしながら諭す。大好きな姉にそう言われたフランはハッとした表情を浮かべながら、元気良く返事を返した。

 

 その様子を見ていたのび太は、どうしてそこまで必死にフランが言おうとしてた事をレミリアが止めるのかを、正しく理解出来ていなかった。故にイチャイチャの内容が少し気になったが、2人の様子を見て何か人には言えない事とは推測していたため、確認も兼ねてこれ以上突っ込まない方が良いかとレミリアに聞く。

 

「えっと……僕はこれ以上聞かない方が……?」

「そうね。聞かないでもらえるとありがたいわ。流石に恥ずかしいから」

「うん。レミリアがそう言うなら……」

 

 すると、レミリアはその問いに対して、恥ずかしいから聞かないでもらえるとありがたいと即答したため、のび太はこれ以上突っ込まない事に決めた。

 

「ねえ、お兄様にお姉様。手を繋いで行かない?」

「手を繋ぐ? うん、良いよ」

「勿論よ、フラン」

 

 そんなやり取りを交わしていると、フランがそんな事をのび太とレミリアに手を差し出しながら頼んでいた。簡単に出来る事であったため、2人はその頼みを快く了承して手を繋いであげていた。

 

 レミリアが左側、のび太が右側と言った感じで挟まれる形となったフランは、大好きな()()()()()2()()に触れていられる事が相当嬉しいのか、即興で作った歌をとても幸せそうな笑顔を見せながら歌ったりしていた。

 

 即興で作られた歌の中でフランからレミリアと同等の、正式かつ大好きな家族として認定すると言われたのび太は嬉しく思いつつも、種族も年も違う事から色々な意味で大丈夫なのかと問いかけるも、そんな事は百も承知だと即答されたため、受け入れる事に決めた。

 

 とは言ってものび太には家族が居るため、レミリアとフランの家族と言っても本当にずっと一緒に暮らすわけではなく、単なる称号のようなものであるが。

 

 そうしたやり取りを交わしつつ当たり障りのない会話をしていると、ようやく河原のグラウンドが4人の視界に入ってきた。既にそこにはいつものメンバーが集まっていたため、少しだけ急いで向かう

 

「ジャイアンお待たせーー!!」

「遅ぇぞのび太……お? ドラえもんに、レミリアとフランも居るのか」

 

 すると、ジャイアンはのび太やドラえもんだけではなく、レミリアやフランが居る事について少しだけ不思議に思っていたが、特に驚きを見せる事はなかった。スネ夫はレミリアを初めて見たものの、フランの様子と姿形から彼女の姉である事はすぐに理解が出来たようで、ジャイアンと同じく驚く事はなかった。

 

 しかし、他の野球の参加者たちはどう見ても外国人の女の子である2人が、のび太やドラえもんにジャイアンやスネ夫と顔見知りである事に対して驚いていた。

 

 更に、フランがのび太をお兄様と呼んで懐いているのを見て、一部の参加者たちはアイツはいつの間にあんな可愛い子に懐かれてんだ羨ましいなどと、そんな反応を示していた。

 

「あのさ、ジャイアン。この2人にも野球をやらせて欲しいんだけど……」

「そいつは構わねぇぞ。ただ一応聞くが、やった事はないんだよな?」

「うん」

「まあ、レミリアとフランの事だし、ルールさえ教えれば後は何とかなるか……よし分かった! 一緒にやろうぜ! スネ夫、構わねえよな?」

「勿論さ。2人とも、楽しくやろう」

「感謝するわ。ジャイアン、スネ夫」

「ありがとね!」

 

 そんな彼らをよそに、のび太とジャイアンはレミリアとフランの野球参加交渉を進め、結果的にドラえもんが口を出す必要もなく、難参加が決まった。ただ1つの問題である、2人の使う道具がない問題も、ドラえもんが『フエルミラー』と言うひみつ道具を使って増やした事で解決した。

 

 服装はどうするかと言うのも、今回は試合に向けた練習と言うよりは楽しむ方面が強い上、そもそも色々用意出来ていない事が大きいためそのままでやる事に決まり、2人もそれを了承した。

 

 その後、ジャイアンやスネ夫以外の参加者たちとレミリアやフランとの自己紹介を軽めに済ませてから、野球を早速始めた。

 

「嘘だろ……あの2人凄すぎる……あれで野球をやるのは初めてとか、どれだけ天才なんだ?」

「まあ、初見じゃ驚くか……あの2人、俺の見立てでは運動に関しては出来杉を凌駕するからな」

「「「なるほど……確かに」」」

 

 すると、レミリアやフランはジャイアンの投げるボールを超高確率で打ち返し、稀にホームランですら叩き出すと言う活躍を見せ、参加者たちを驚かせた。そして更に、ジャイアンが2人の事を『運動に関しては出来杉すら凌駕するレベル』と発言した事により、参加者たちは揃って驚く事となった。

 

 これにより、容姿も相まって余計に注目を浴びてしまいはしたものの、レミリアとフランが手加減を間違えて超人プレーをうっかり見せてしまったとしても、疑いの目を向ける者は居なくなって楽しみやすくなった。ジャイアンなりの気遣いかどうかは不明ではあるが。

 

 そんな2人の後にのび太も半ば強制的にスネ夫に促されてやったが、基礎的な身体能力の差で劣るレミリアやフランのようにはいかないものの、いつもよりも空振りの回数が減っていた上、ホームラン級の当たりを3回も出す事が出来た。これにはスネ夫もビックリし、いつもこれくらい出来てくれたらと愚痴をこぼしながらも、のび太を素直に称賛した。

 

「のび太、お前今日は調子良いな! 凄い当たってたじゃねぇか」

「私も、今日ののび太の様子を見る限り、周りと比べて劣りはするかもしれないけどそんなに下手くそだとは思わないわ。自信を持ちなさい」

「前に会った時、自分は野球は下手くそだって言ってたけど、凄いじゃん! 流石、()()()()()だね!」

「でも、たまたま調子が良かっただけだから……」

 

 ある程度遊んだ後の休憩時間中は、ドラえもんと話していたのび太に対してジャイアンとレミリアとフランの3人が詰めかけ、今日の調子の良さは凄かったと褒めると言ったやり取りが行われていた。しかし、3人から褒められているのび太はこれ程までとは思わず、当惑していたため、調子が良かっただけだと言うにとどまっていた。

 

 更に、フランが普段レミリアにもやっているように、腕にしがみつく行為をした上で何故か()()()()()とそこだけ強調して宣言したため、そう言う意味だと解釈した一部の参加者たちから、のび太は羨望の眼差しを向けられたり、もはや恨んでないかと言うレベルの妬む視線を向けたりされていた。

 

 しかし、のび太はそんな眼差しを向けられている事に全く気がつかない上、それに気づいたフランが参加者たちの表情などを見て色々と誤解をしてしまった。それ故に全力で睨み返し、危うく何かが起こってしまいそうになったが、のび太が咄嗟に頭を撫でた事によって落ち着き、レミリアがあの表情の真意を教えた事で完全に解決した。

 

「えっと……ごめんなさい。許してくれるかな……?」

 

 そして、レミリアに促された事で、フランは全力で睨み付けた野球の参加者に対して頭を下げて謝った後、全員と握手をした事でこちらについても取り敢えず解決はした。

 

 ただ、その時のフランが放った威圧感による恐怖は完全には消えないため、握手していた人たちの動きが少しぎこちないが、のび太を守りたい一心から相手に恐怖を植え付けるつもりで威圧したため、しょうがないと割り切る。

 

 そう言ったやり取りをするなどして休憩が終わった後、今度はレミリアとフランが守備をやったが、こちらの方は色々な意味で苦戦する事となった。誰かが打ったボールを取るのは問題なかったものの、手加減しつつそれを適切なタイミングで他の誰かに投げるのが難しかったためである。

 

 攻撃側はほぼ同じレベルであるが、守備に関しては力加減を上手くやっている技巧派のレミリアの方がフランよりも上手い事出来ていた。周りで一緒に守備をしていた参加者たちも、レミリアの方が総合的に見れば野球は上手いと言う評価を下している。

 

「本当に残念だよなぁ。1ヶ月から2ヶ月程度でアメリカに帰っちゃうなんて」

「まあ、そうだね。ここに住んでたら、オレたちのチームもかなり強くなっただろうに……」

「今度やる試合にも出れそうじゃない?」

「確かに!」

 

 ある程度守備を楽しんで野球が終わった後は、疲れを癒すためにベンチで座って休憩しながら、参加者たちはレミリアとフランについて話をしていた。のび太と会話しているところに勇気を振り絞って話しかけ、ドラえもんやジャイアンにスネ夫の輪の中に入って一緒に盛り上がっている参加者も出てきている。

 

「あー楽しかった! でも、これ人数揃えないと出来ないのが欠点だよね」

「そうね。帰ったら、誰かを誘ってやりましょう」

「うん! でも、やってくれる人居るかなぁ? 館の皆なら大丈夫だろうけど」

「うーん……紅魔館でパーティーでも開いて、来てくれた人を誘いましょう。まあ、人数足りなかったら……その時は諦めるって感じかしら」

 

 野球遊びが終わって皆が家に帰るなり、どこかに遊びに行ったり塾などに向かおうとして解散していく中、野球を皆でやった事がとても楽しかったレミリアにフランは、幻想郷に帰ったら知り合いや自分達の住む館の住人たちを誘ってやろうと言う計画を立てていた。色々と問題があるため、実際に実現するかどうかは不明であるが。

 

「良かったね、のび太君。2人とも、凄く楽しかったみたいで」

「うん。連れてきて本当に良かったよ。この町に居る間、存分に楽しんで欲しいから」

 

 そんな感じでレミリアとフランが話し合い、それをのび太とドラえもんが温かい目で見守っていると、突然ジャイアンがこの場に残っていた4人とスネ夫に向けて、かなりの上機嫌な感じで話しかけていった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とジャイアンシチュー

「よーしお前ら! 試合じゃねえのが残念だが、のび太の奴がホームラン級の当たりを3回も出した事は素直に称賛するべきだろう。それでだ、今日は奮発して俺が祝ってやるぞ!」

「「「え!?」」」

「お祝い……? 何をするのかしら?」

「うーん……何だろう? 分からないや。でも、お兄様が褒められるなら何でも良いかな!」

「まあ、そうね」

 

 そうして、かなりの上機嫌でジャイアンが野球場に残っていた全員に言った事とは、のび太が練習であるとは言えホームラン級の当たりを3回も出した事に対する称賛と、お祝いをしてくれると言うものであった。

 

 ホームラン級の当たりを出した本人だけならまだしも、この場に残っている全員をまとめて祝うと言う事は今まで一度たりともなかったため、のび太とドラえもんとスネ夫の3人はほぼ同時に驚きを表した。レミリアとフランはお祝いとは何をするのだろうと不思議に思いつつ、何であろうとのび太が褒められる事自体は大歓迎であるようだ。

 

「それで、ジャイアン? 僕にお祝いって……何するの?」

「ほら、野球を長時間やって疲れて腹減っただろう?」

「言われてみれば……ん?」

「だからな、俺が腕によりをかけて()()()()()()()()()を作ってやる」

「「「あっ……」」」

 

 その時、驚きから復帰したのび太が自分へのお祝いに一体何をやってくれるのかとジャイアンに聞くと、長時間の野球遊びでお腹も空いただろうからシチューを振る舞ってやるとの答えを聞き、思わずあっと言ってしまう。側でそれを聞いていたドラえもんとスネ夫も同じ反応をほぼ同時に示した。

 

 レミリアとフランは一時的に他の3人の反応の意味が分からなかったものの、少し経ってからジャイアンの作るシチューの味がもはや食べ物とは言い難い食べ物であると、しずかちゃんの家でそう聞いた事を思い出して顔が強張った。

 

「ねえ、お兄様。ジャイアンのシチューって、あれだよね? 物凄い臭いに、猛烈に不味くてとても食べられたものじゃないって」

「そうだよ、フラン」

「どうするの? 何とか逃げられない?」

「ごめん。ジャイアンがああなったら止められないんだ……まあ、隙を見てドラえもんのひみつ道具で何とかこの事態を切り抜けられるはずだから、我慢して欲しいんだ」

「そっか……分かった。お兄様が覚悟を決めたのなら、私も頑張る」

 

 ジャイアンが何かしら話をしている間にフランがのび太の耳元まで近づき、改めてシチューの事について聞いてから、それを食べずに何とか逃げられないかと相談を持ちかける。しかし、こうなったジャイアンを止める術はないとのび太が答えた事で、フランも腹をくくってシチューに立ち向かう事を決めた。いざとなればドラえもんのひみつ道具があるため、何とかなるだろうと言うのも大きかった。

 

「と言う訳だってさ、お姉様。お兄様も頑張るって言うから私たちも頑張ろう。ドラえもんも居るし」

「分かったわ。それにしても、のび太たちがあれほどまでに嫌がるジャイアンシチューって、一体どれだけ猛烈なのか正直気になるわね。まあ、食べたくはないけど」

 

 のび太とのひそひそ話を終えた後、次にフランはレミリアの耳元まで近づき、この状況からは逃げられないからジャイアンの家までついていき、何とか頑張ろうと言う話を始めた。そうしてフランから話を聞いたレミリアは、みんなと一緒にジャイアンの家まで向かう事に同意した。

 

 スネ夫は最後まで渋ってはいたものの、ジャイアンの無言の説得により心を折られ、今にも死にそうな顔をしながら話に渋々同意し、これで全員がシチューを食べに向かう事に決まったため、家へと歩みを進め始めた。

 

 道中、ジャイアンが1人上機嫌のまま他5人の少し先を歩いていくのを確認したレミリアが、周りに気付かれないように遮音結界を自身を含めて5人を覆うと言う行為をした後、口を開いた。

 

「さてと、これで普通の話声程度の音なら遮断出来るから、ジャイアンにこちらの話は聞こえないわ。だから、これから如何にして地獄のシチューを穏便に乗り切るか話し合いましょうか」

「……レミリア、その魔法って仮に僕がこの場で本気で叫んだとしても、周りには聞こえないのかな?」

「ええ、そうよ。だから、仮に本人が聞いたら激怒するような聞くに堪えない事を叫んだとしても、その程度なら一切この結界外に漏れる事はないわ。リサイタルレベルでなければね。だから、もし不平不満を大声で叫びたいと思っているのであれば、叫んでもらっても大丈夫」

 

 どうやら、ジャイアンに気付かれずに襲い来るシチュー地獄をどうやって穏やかに乗り切ろうかと言う話し合いをするため、この遮音結界を張ったとの事らしい。レミリアの話を聞いたスネ夫が、その魔法は内部でどれだけ大声で叫んでも周りには聞こえないのかと質問する。

 

 それに対してレミリアは肯定の意を示した後、もしも不満を大声で叫びたいと言う欲求があるのであれば、ジャイアンの家につくまでに言っておけと勧めた。すると、堰を切ったかのようにスネ夫の口から、今まで溜め込んだ不平不満が出て来て、全員が思わず引いてしまう。しかし、スネ夫がその不平不満を言い終えるまで誰も止めなかった。

 

「ふぅ……スッキリしたよ。それと、皆ごめん。せっかくの話し合いよ時間を無駄にして」

「……僕は気にしてないから大丈夫だよ、スネ夫君」

「まあ……本人に言えないからこの場で不満を言う。僕もスネ夫の気持ちは分かるよ」

「そんなに不満があるのに、お友達やってるのも凄いなぁ……きっとジャイアンには、そう言う欠点を凌駕する良い所があるんだね!」

「まあ、そうでしょうね。それと、もう不平不満は言わなくても大丈夫かしら?」

「勿論、スッキリさせてもらったから大丈夫だよ」

「分かったわ。じゃあ、改めて話し合いを始めましょう」

 

 不平不満などをスネ夫が言い始めて十数秒経った頃、心に秘めていた事を全て言い終えてスッキリしたらしく、全員に向けて時間を無駄にしてごめんと謝罪の言葉を口にした。しかし、謝られた全員は引いてはいたものの怒ってはいないようで、各々同情したり気を遣ったりする言葉をかけてあげていた。

 

 そうして、スネ夫が落ち着いたところでレミリアが全員に声をかけて、改めて話し合いを始めた。最初に出たのは、ジャイアンの作るシチューを食べずに気分を損なわせない方法はないのかというものであったが、それは無理難題過ぎるため却下となる。

 

 次に出たのは、レミリアやフランの魔法でシチューの味が何とかならないかと言う話であるが、そんな都合の良い魔法はないと2人が言い、この話も流れていった。レミリアがフランとある事をするために必要に迫られて必死に会得した遮音結界が、リサイタルを都合良く防いでくれると言う、似たような事態はそうそう起こらないと理解しているためだ。

 

 魔法でどうにかする案が流れた後も話し合いは続くものの、これと言った対策が出て来ない。そう言っている間にもどんどん目的地へと近づいていく上に、上機嫌で何か考え事をしているジャイアンが自分たちの話し声などが全く聞こえない事に気付き、遮音結界の範囲内に入ってくる可能性もある。

 

 今のところは大丈夫だが、仮にそうなってしまえば話し合いは強制中断と言う事になってしまい、対策が全くないままシチューを食べる羽目になってしまう。それだけは避けたい。

 

「ジャイアンシチューを食べずに乗り切るのは不可能、魔法にも食べ物の味を変える都合の良いものはない。そうなると、僕のひみつ道具で何とかするしかないけど……あっ!」

 

 そんな感じでどうするかと全員が悩んでいると、突然ドラえもんが大声をあげたため、周りで聞いていた4人が反射的に驚いてしまうと言う事が起きた。

 

「ドラえもん……どうしたの? 急に大声なんか出して」

「のび太君、ジャイアンシチューをこの世の物とは思えない程美味しくするひみつ道具があったのを思い出したんだ! 『味のもとのもと』って覚えてる?」

「味のもとのもと……そう言えば前に1度使った事があったっけ。確かにあれを使えば、どんなに不味い料理でもとても美味しく食べれるようになるね」

 

 驚いた4人の中でいち早く驚きから復帰したのび太が、突然大声をあげたドラえもんに対してどうしたのかと問いかけると、ジャイアンシチューを美味しくするひみつ道具の存在を思い出したと言った。そのすぐ後本当にそんな道具があるのかと、レミリアとフランがドラえもんに問いかけたため、実物を見せつつ詳しく説明をし始めた。

 

 どんな料理であろうと適量をかけるだけで食欲をそそる匂いが漂い、なおかつ味も非常に美味しくなる『味のもとのもと』と言うひみつ道具である。流石、未来と感心する程効果は絶大で、普通に食べれば不味いでは済まされないレベルのジャイアンシチューでさえ、おかわりを求めたくなる位に美味しくなる。

 

 しかし、中身を全てふりかけてしまえばそのかけた物が()()()()()()()()()()、周りの人が正気を失う程の美味しい食べ物と化してしまう危険性も併せ持つため、取り扱いには注意しないといけないと、ドラえもんはレミリアとフランに説明をした。

 

「そんなものがあるなんて凄いわね。と言うか、これを人に丸ごとかけると人にすら同じような効力を発揮するって……未来の世界の人間は、何でこんな危険物を販売……まあ、きっと対策はしている事でしょうけど」

「と言う事はさ、お姉様。もしも、私たちの目の前でそう言う事故が起こったら――」

「フラン。現実になったら洒落にならないし、そう言う話に耐性がないのび太たちが居るのよ。だから、止めておきなさい」

「あ、確かに!」

 

 ドラえもんからの説明を全て聞き終えた後、2人はこのひみつ道具に対する認識を180度転換し、まかり間違っても適当に扱う代物ではないとの見解を示した。ただ、実際に使用したのび太たちがこの場に居るため、極度に恐れてはいないが。

 

 ジャイアンシチューを乗り切る案が出た後は、フランが味のもとのもとを人にかけてしまった場合に起こりうる出来事を話そうとして止められたり、そう言った対策をせずに食べてしまった際の経験談などを聞きながら、レミリアとフランがドン引きするなどしながら歩みを進めた。

 

「お姉様。あれがジャイアンの家だよ」

「あら、そうなの? じゃあそろそろ、結界解かないとね」

 

 そうして歩いていた時、5人の目の前に目的地が見えてきたため、レミリアが遮音結界を解いて先を行くジャイアンの近くまで駆け寄り、うっかり本音が出ないように笑顔を作った。

 

「今日は母ちゃんも父ちゃんも久しぶりに出掛けてて夕方まで居ないから、存分に楽しめるぞ!」

「ええ、楽しみにしてるわ。色んな意味でね」

「お兄様、頑張ろうね……」

「そうだね、フラン」

「ああ、シチュー楽しみだなぁ……」

「ふぅ」

 

 しかし、隠しきれない本音が滲み出てしまったが故に全員の笑顔が若干ひきつっている上、良く聞けばとても楽しみにしているとは思えない言葉を、家に入ってキッチンの隣にあるリビングに案内されている時に出してしまった。ただ、ジャイアンはそんな5人の様子を怪訝に思いながらも気にしない事にしたらしく、そのままキッチンへと向かい、シチュー作りを始めた。

 

「ただ、これをジャイアンに気付かれず、シチューに振りかけるのがなかなか難しいんだよね……」

「なるほどね。彼とて自分が腕によりをかけて作った料理に何か入れられたら不快でしょうし。ただ、申し訳ないけど紫色に変色した謎の物体を食べさせられたくはないから、遠慮無くひみつ道具は使わせてもらうけれど」

「……そうだね、お姉様」

 

 戸を気づかれない程度にそっと開け、ジャイアンの様子を覗きながらひそひそ話を5人でしていると、そこから見える鍋から禍々しい紫色の湯気が立ち上ぼり始めるのを確認した。同時に居間まで何とも言えない匂いが漂ってきて、もろにその匂いを嗅いだ5人は戸をすぐに閉め、雰囲気が沈んだ。

 

「彼のリサイタルも相当だけど、料理までこの領域に達しているなんて……」

「お兄様たちがここまで嫌がる理由が私、良く分かったよ。確かにこれは、本当にもう……」

 

 

 特に、話し自体は聞いていたものの、この身で体験するのが初めてであるレミリアとフランの受けた衝撃は凄まじかったようで、のび太とドラえもんとスネ夫を超えるくらいの反応を見せていた。

 

 そんな雰囲気のまましばらく居間で待っていると、食欲をあっという間に消し去る匂いのする紫色の湯気を放つシチューが入った皿を持って、ジャイアンが入ってきた。距離が離れていても相当キツかった匂いが更にキツくなったが故にレミリアとフランから感情が消え去って無になり、何度か経験しているのび太たち3人ですら顔を青くした。

 

「出来たぞ。こいつが俺様特製の――」

 

 そうして、ジャイアンがレミリアとフランの前にシチューの入った皿を持っていこうとした時、何もないところで足を取られてしまったのか、豪快に転んでしまった。当然、手に持っていたシチューは2人に向けて飛んでいき……

 

「「え?」」

 

 2人は反射的に腕で防御したものの、防ぎきれなかった分は顔へとかかってしまった。シチューの熱さは吸血鬼特有の高い耐久力であっさり耐え抜くものの、流石に匂いと猛烈な味には耐えきる事は不可能であったようで、声にならない声をあげて悶絶してしまった。

 

 その様子を見て、のび太は咄嗟に2人の顔にかかったシチューをハンカチで優しく拭い、大丈夫かと呼び掛ける。その問いに対してレミリアは顔を青ざめさせながらも頷き、フランはシチューの味や匂いによるダメージが大きかったものの、のび太がほぼ付きっきりで心配してくれている事が嬉しかったらしい。レミリアよりも早く悶絶から復帰し、元通りの笑顔を見せるまでになった。

 

「……2人とも、俺の不注意のせいで本当にすまなかった!! この通りだ、許してくれ!! 何なら1発……」

「良いわよ、そこまでしなくても。貴方が心の底から反省してるってのは分かってるから」

「私も、良い思い出来たから許す!」

 

 汚れた服や床、部屋の中に漂う匂いはドラえもんの出したひみつ道具によって完全に解決された後、ジャイアンは改めてシチューを持ってきた。今度は慎重になったらしく鍋ごと机の上にゆっくりと置き、それから全員分の皿を持ちに再びゆっくりとキッチンへと向かっていった。

 

 それを好機と見たドラえもんは味のもとのもとを鍋の中のシチューにかけ、急いでポケットにしまう。すると、その瞬間から先程までとは比べるのもおこがましいくらいの、とても美味しそうな匂いが漂い始め、期せずして元の味のシチューを食べる事となってしまったレミリアとフランは衝撃を受けた。相変わらず紫色の湯気は立ち上っていて、シチューの色も同じく紫色ではあるが。

 

「うん! すごく美味しいね、これ!」

「本当、これ程までとは……流石ね」

「そうか……喜んでもらえて、本当に良かったぜ」

 

 ゴタゴタが解決した後は、味のもとのもとによって絶品料理と化したジャイアンシチューを食べながら全員で楽しく他愛もない話をしたり、余興でリサイタルを開こうとしたジャイアンを必死にドラえもんとスネ夫が上手く止め、代わりにレミリアとフランが魔法を使った余興を披露するなどして盛り上がった。

 

「おっと、夕方か……」

「本当だ。じゃあ、そろそろ僕たち帰らなきゃ」

「そうだね! 今日はありがとう!」

「おう! また気が向いたら来てくれよな!」

 

 そうしてジャイアンの家で夕方まで遊び尽くし、何だかんだあったものの最終的には皆笑顔で家へと帰り、1日を終えた。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と学校見学(前編)

「お姉様……今日って学校見学の日だったよね?」

「まあ、急な何もなければ今日がその日よ」

「だよね! えへへ、本当に授業受ける訳じゃないけど何だか楽しみだなぁ……お姉様もそうでしょ?」

「ふふっ。のび太が通っている学校に私とフランが一緒に通うのよ? 当たり前じゃない。そんな事、わざわざ言葉にするまでもないわ」

「そっか! そうだよね!」

 

 レミリアとフランが現代旅を始めて8日目の朝、のび太が学校へ行くのを見送ってから少し経った頃、2人は居間で適当なテレビ番組を見ながら談笑していた。その内容とは、今日に予定されていた学校見学の事についてである。

 

 1週間前に話を聞いてからかなり楽しみにしていたフランは勿論の事、レミリアも気分が高揚している。そのため話し声や話し方、表情や仕草にも隠しきれない喜びが現れていた。特に、フランは気がはやって堪らないためか、明け方目覚めてからすぐに出かける準備を済ませ、明らかにそんな時間ではないのにも関わらず、虚空に向かって紫の名前を呼ぶ程であった。

 

 それからは途中で逸り過ぎてしまったと自制して、眠気が再びやって来るまで大人しく布団で寝ていたレミリアの頬をつつき、寝顔を堪能し、更に抱き付きながら過ごしていたと、フランは嬉々としてレミリアに話していた。

 

「気が高ぶって、お姉様やお兄様たちよりも早く起きちゃって暇だったけど……私にとっては得しかなかったなぁ。だって、お姉様を存分に堪能出来たんだもの!」

「まあ、楽しんでたようで何よりだけど、今度は起きてる時にお願いしたいわね」

「うん! 分かった!」

 

 自分が寝ている間にそんな事をされていたと聞いたレミリアであったが、相手が大好きな妹であるフランだった事と気分が高揚していた事もあって、むしろ寝ている間にされた事が残念で堪らないと思っていた。なので、フランに今度は起きている時にやって欲しいとお願いし、了承させていた。

 

「……学校見学が終わったら、お兄様と一緒に帰れるかな?」

「そうね。紫、今日見学に行くとは言ってたけど何時に行くとは言ってなかったし。それに、見学にかかる時間とか授業の終わる時間、他にも色々な要素があるでしょうから、恐らく帰れないかもしれないわよ」

 

 そんな感じで2人で盛り上がっている中、唐突にフランが学校見学の日に一緒にのび太と帰れるのかと、呟くようにしてレミリアに聞いた。学校見学の日がちょうどのび太が授業を受ける日であるため、一緒に家まで帰れるのではないかと思ったようだ。

 

 確かに上手く見学の終わる時間とのび太が授業を終え、掃除や当番などを済ませる時間がピッタリ合えば帰れる。しかし、実際には色々な要因が重なって帰る時間までに見学が終わらなかったり、逆に早く終わりすぎてしまう可能性もある。それに、学校見学がどうにかなったとしても、のび太の方の都合がつかない事もあり得るため、レミリアはフランにそう伝えた。

 

「うーん、だよね。本当は私を真ん中にして、お姉様とお兄様に手を繋がれながら帰りたかったけど……昨日もそうしたし、仮に一緒に帰れなくても仕方ないかな」

「まあ、そう言う事ね……と言うか、ここのところ毎日フランだけ真ん中はズルいわ。私だって、貴女とのび太に挟まれながら手を繋いで歩きたいのに……」

「あっ……お姉様ごめんね。じゃあ、今日から何日かはお姉様が真ん中で良いよ!」

 

 レミリアからそれらの事を伝えられたフランは、あっさりとその可能性を認めて、もしのび太と一緒に帰れなかったとしても仕方ないと言った。どうやら、言われる前から多少なりとも理解出来ていたらしい。

 

 その後はレミリアが雰囲気をガラッと変え、外を出歩く際にどう言った順番で手を繋ぐのかと言う話し合いが始まった。今まではどこかに出かける際、フランが真ん中で両端がレミリアとのび太と言った感じになる事が多い。本当は、レミリア自身も2人に挟まれるようにして手を繋ぎたかった思いはあったものの、あまりにもフランが幸せそうな笑顔を見せていたか故、言い出せずにいた。

 

 だが、今日このタイミングが言い出す好機であると判断したらしく、フランに対して次にのび太と出歩く時は自分を真ん中にしてくれとお願いを持ちかけた。唐突なお願いに少しだけ驚くも、自分だけ良い思いをしていた事に反省して謝った後、しばらくは外を出歩く際にレミリアが真ん中で良いとフランがそう言い、この話は解決した。

 

「レミリア、フランドール。もう少しで時間だから準備をして……って、もう準備が済んでいるようね。随分気が早い事で」

「あっ! 紫が来たって事は……今すぐ学校に出発するの?」

 

 2人が良い雰囲気のまま話し合いをしていると、テレビの前に立ち塞がるようにして紫がスキマから現れ、時間が迫ってきているから準備をしてくれとお願いをしようとした。しかし、その時にはもう既にフランの準備は終わっていて、レミリアも何だかんだで準備を既に済ませていたため、少しだけ驚く。

 

 そうして驚く紫を見ていたフランは、今すぐ出発するものだと思っているためか、かなりの手早さで体勢を整えながらそう聞いていた。

 

「学校見学は正午を少し過ぎてからだから、まだね。ただ、スキマ移動は目立ちすぎて危ないから()()()行く関係で、30分位したら出発する予定よ」

「ふーん……だってよ、お姉様!」

「なるほどね。と言う事は、のび太が学校で食べる『キュウショク』とか言う奴を私たちも食べるのかしら? 正午過ぎってそう言う時間だって、のび太から学校での経験を聞いた時に言われたのだけど」

 

 紫はそんなフランの様子を微笑ましく眺めながら、学校見学に出発するのは30分後であると、そう伝えた。すると、フランはふーんと言いながら頷いた後、レミリアの方を向いて笑顔を見せながら詰め寄るようにしてそう言っていた。

 

 詰め寄る感じで出発の時を伝えられたレミリアは、至って冷静に受け答えをしていた。しかし、フランと同じく楽しみで仕方ないのは変わらないらしく、のび太から学校での出来事を聞いた際に言っていた『給食が美味しい』と言う話から、自分たちも今日それを食べる事が出来るのかと、隠しきれない笑顔を見せながら紫に質問を投げかけた。

 

「給食……今日は用意されてないらしいわ。あくまでも校内や授業の見学、その他色々な説明を受けるだけなのであって、まだ実際に通うわけではないからって」

「なるほど。学校に実際に通うようになるまでお預けって事ね」

「そう言う事。だから、必要なら出発する前に誰かに頼んで軽めの食事でも用意してもらいなさい。それと、私も準備があるから一旦帰って、30分位後にまたここに来るわ」

「分かったわ。じゃあ、30分後にまたよろしくね。紫」

 

 しかし、今日は学校の中を見て回ったり何処かのクラスの授業風景を見たりして、いざ実際に通うようになった時に困らないようにするために少し予習をするだけであり、給食までは用意されてはいないと紫に言われたため、それに関しては本番までお預けだと納得をした。

 

 そんな様子を見た紫は、もし必要なら家の誰かにお願いして軽めの昼食を用意してもらってくれと言い、聞いたレミリアはその言葉に対して肯定の意を示した。その後、紫は準備のために30分居なくなると言ってから、一旦幻想郷に帰っていった。

 

「フラン、お腹空いてる?」

「うーん……何でか分からないけど、私はまだ全然平気だよ! お姉様こそ、大丈夫?」

「私ならまだ全然平気よ。それよりも、ドラえもんに30分後学校見学に行ってくるって伝えないと」

「あ、そうだね!」

 

 スキマで幻想郷に帰っていった紫を見送った後、2人はのび太の部屋の押し入れに居るドラえもんの下へと向かい、今から30分後に学校見学へ行くために家を長い時間離れる旨を伝えにいった。すると、いきなりであったため多少驚いたものの、学校見学の事自体は知っていたため、楽しんで行ってらっしゃいとドラえもんは笑顔で言った。

 

 ドラえもんへの挨拶を済ませた後は、出かける時用の荷物を持って玄関へと向かって靴を履き、そこで座って談笑しながら30分もの時間を待つ。

 

 まだかまだかと待ちきれないフランに、そんな彼女を落ち着かせつつレミリア自身も楽しみで仕方ないようで、若干身体を動かしている。そして、いつの間にか玄関に来ていたドラえもんが2人の様子を暖かい目で見ていると言う状況が30分続いた。

 

「さてと、もう準備は出来ているようだから行きましょうか。レミリア、フランドール」

「ええ。もうとっくに準備は済んでいるわ」

「やっと学校見学かぁ……ようやくお兄様と一緒に行ける日が近づいてきたんだね……じゃあ、ドラえもん! 行ってくるねー!」

「うん、行ってらっしゃい。まだ見学だけれど、良い思い出になる事を僕は祈っているよ」

 

 そうしてスキマから出かける準備を済ませた紫が出てきたところで、レミリアとフランも立ち上がって荷物を持ち、ドラえもんに行ってきますの挨拶を改めて済ませた後、テキオー灯をかけてもらってから家を出ていった。

 

「魔法や特殊な術を使わず、ただあの道具から出る光をほんの僅かな時間浴びるだけで吸血鬼の弱点である日光を打ち消す……全く、何度見ても未来のひみつ道具とやらは恐ろしいわ」

「確かにそうだけど……あのテキオー灯は序の口よ、紫。ドラえもんやのび太にも聞いたけど、過去から未来まで時間を自由に行き来出来たり、自分の望む並行世界に行く事が出来たり、あらゆる嘘を真実にする道具だってあるらしいからね」

「……よくもまあ、そんな神の所業のような効果を発揮する物があって、未来は保てているわね」

 

 道中、吸血鬼である2人の弱点である強い日光が照りつけていようとも、日傘を差さずに歩き回る事が出来るようになるテキオー灯の高性能さに、紫は感嘆のため息を漏らしていた。その様子を見ていたレミリアに、テキオー灯はドラえもんの持つ未来のひみつ道具の中では序の口であり、他にも神の所業レベルの物がいくつもあると聞き、唖然とする事となった。

 

 その後は特に変わった話をするわけでもなく、紫が都合上見れていない時に現代の町で経験した事などを話したりしながら歩みを進める。

 

「この町も面白そうだし、今度都合のついた時に藍たちも連れて来ようかしら」

「ふふっ、賑やかになるのは良いことね。紫」

「私も、お兄様とお姉様を取らなければ沢山居て賑やかなのは歓迎だよ!」

「フランドール。そんな心配しなくても、私たちの誰もレミリアやのび太を取りやしないから、安心なさいな」

 

 レミリアとフランと紫の3人がそんなやり取りを交わしながら町を歩いていると、のび太の通う学校が視界に入ってきたのを確認した。入り口の門の前には誰かを待っているのか、比較的若い1人の男の先生らしき人物が立っている。

 

「あ、紫さんどうも。お待ちしておりました。念のために確認しておきますがそちらの2人、水色がかった青髪の子が『レミリア』さん、綺麗な金髪の子が『フランドール』さんでお間違えないでしょうか?」

「間違いないですわ、先生。今回案内役を務めて頂けると言う事で、感謝致します」

「私からも、よろしくお願いするわ」

「えっと……よろしくお願いしまーす!」

 

 この若く見える先生は紫たち3人の姿を見るなり近寄ってきて話しかけてきたので、どうやら今回の見学に付き合ってくれる人のようだ。そうして、軽く挨拶をしてから彼の案内で何らかの会議に使いそうな部屋へと入った後、今日の見学の予定について話し始めた。

 

 今から30分後に給食を食べる時間も込められている『昼休み』が終わった後、5年生のあるクラスでやっている算数の授業を見学し、その後休み時間を使ってグラウンドへと移動し、また別のクラスの体育の授業を見学する。それが終われば今度は校内を歩き回りながら案内を済ませ、最後に学校の1日の流れや質疑応答などを行うとの事だ。

 

「自分には良く分かりませんが、恐らくアメリカの学校とは様子が違うところが多くて惑う事もあるでしょう。今回の学校見学で少しでもレミリアさんとフランドールさんのそう言った不安要素が取り除ければ幸いです」

「そうですわね……恐らくですが、貴方のその心配は要らないと思いますわ。この学校に、うちの子がとても懐いている男の子が居ますので」

「なるほど、それは良かったですね……あ、もうそろそろ時間ですから行きましょう」

 

 今日の見学についての流れを簡単に説明を受けた後、紫と若めの男の先生がそんなやり取りを交わしていると、時計が昼休みの終わる時間1分前を指している事に気づいたため、話を切り上げて授業の見学へと4人で向かう。

 

 そうして、今まさに算数の授業が行われようとしているとあるクラスへと入っていくと、大多数の児童たちの視線が紫たち……特に仲睦まじく手を繋いでいるレミリアとフランへと向けられた。先生ですら、ほんの一瞬言葉が詰まっている位であるが、すぐに気を切り替えて授業を進め始めた。

 

 知らない誰かに見られていると言う緊張感からか、ほんの一握りの児童を除いたクラスのほぼ全員がとてつもない集中力を発揮して授業に取り組んでいた。レミリアとフランはそんな彼ら彼女らの様子を、この学校の授業とやらはこんな感じなのかと、迷惑にならない程度の小声で会話しつつも真剣に見ながら、一応2人にも体験がてら配られたプリントを見て、問題を試しに解いてみたりするなどして楽しんでいる。

 

 そんな感じの雰囲気を保ったまま普通に授業は進み、50分間の授業はチャイムの音と共に終わりを告げたため、すぐさま案内役の先生と共にまた別のクラスの授業を見に行くためにグラウンドへ向かおうとした時、集中出来ていなかった児童の何人かがレミリアやフランたちを、たどたどしい英語を使って呼び止めた。どうやら勇気を出し、2人と接点を持ちに来たらしい。

 

「えっと……別に無理して英語話さなくても、普通にお姉様も私も日本語話せるよ? 貴女たちと同じくらいにね!」

 

 頑張って英語で話しかけてくる女の子に対して、フランが無理して英語で話しかけてこなくても、自分たち2人は日本語を話せると普通に元気よく答えた。すると、日本語が自分たちと同様に話せると分かるや否や、その話しかけて来た女の子を筆頭にクラスの半分弱の児童たちが2人のところへと集まり、ありとあらゆる質問を投げかけて来るなどして盛り上がってしまった。

 

 学校見学の前日にドラえもんの助けも借り、今日に備えてこれでもかとアメリカと言う国の知識を叩き込んだお陰で、そう言った質問にも余裕を持って対応する事が出来たため、このクラスの児童たちには比較的好印象を残す事となった。

 

 その後、次の授業見学の場所へと行こうとしても色々質問攻めにされて動けないレミリアとフランであったが、案内役の先生が児童たちを制止した事によって移動する隙間が出来たため、すぐさま教室を出て次の授業が行われるグラウンドへと向かった。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と学校見学(後編)

「えっと……レミリアさんとフランドールさん、本当にこのベンチでの見学で大丈夫ですか? 今日、結構日差しが強いですけど」

「ああ、その事なら全然問題ないわ。昔から、無くても平気な不思議体質だからね」

「うん! 私もお姉様と同じだから、日傘は要らないよ!」

「そうなんですね。あ、もしも水分補給したくなった場合はグラウンドの端の方に水道がありますので、ご自由になさって下さい」

 

 算数の授業の様子を見学した後、そのクラスの児童に詰め寄られると言うトラブルに巻き込まれるも、特に遅れる事なく別のクラスの体育の授業を、案内役の先生に心配されながら日差しをモロに浴びるベンチに座って見学していた。授業内容は、1クラス内で2チームに別れての野球の試合をすると言うものだったため、レミリアとフランも楽しめていた。

 

 更に運の良い事に、野球の授業をやっているクラスがのび太の居る場所であった事もあり、フランのテンションは最高レベルにまで上がりきっていて、レミリアの『のび太の集中を削ぐのは良くない』との諭しがなければ、今にも大きな声で応援し始める位だった。

 

「どうやら、今のところのび太の居るチームが負けているらしいわね」

「うん。お兄様、大丈夫かな? 今日はこの間と違ってあんまり調子が良くないみたいだけど……勝って欲しいなぁ」

「まあ、のび太は運動自体あまり得意ではないのだから仕方ないじゃない。むしろ、苦手なりに頑張ってる方だと私は思うわ」

「確かに。お兄様が怪我しないでくれれば、私はそれで良いや」

 

 現在、クラス内対抗の野球試合はチーム分けが偏りすぎている事もあってか、のび太の居るチームが劣勢となっている。レミリアやフランが一緒に遊んだ時のように都合良くホームランを打てる調子になる訳もなく、集中してヒットを狙うが空振りをしてしまう。

 

 試合を見始めて10分経つ頃には、観戦しているフランの機嫌があまり良い状態とは言えない所まで悪くなってしまった。レミリアの方も、負けるのはともかくとして、これではただの一方的な蹂躙劇だからチーム分けやり直した方が良いのではと、案内役の先生に対して聞いていたが、そう思っていようとも彼は担任ではないため口出しが出来ない。

 

「むぅ……これが授業じゃなければ私がお兄様のチームに参加して、相手に一泡吹かせてやったのに!」

「フラン、落ち着きなさい。今回は仕方なかったのよ。次からチーム分けを平等にしてくれる事を願いましょう」

「まあ、そうなるよね……はぁ」

 

 そんな感じで野球の試合観戦は続き、最後の最後にのび太の居るチームの児童がホームランを当てて一矢報いた展開があったものの、案の定大きな差をつけられて負けてしまった。こうなる事は分かってはいたものの、レミリアとフランは思わずため息をつく。しかし、野球自体は楽しめたようである。

 

「やっぱり負けちゃったかぁ。けど、お兄様の顔が清々しそうだったよね」

「ええ。あそこまで大差をつけられたから、勝負は捨てて楽しむ方に舵を切ったのよ。きっとね」

「なるほど。もしそうなら、あそこまで清々しそうだったんだから、お兄様は野球そのものをスッゴく楽しんだんだね!」

 

 体育の授業が終わり、2人でグラウンドの端の水道で水を飲んで補給を済ませた後は再び学校内へと戻り、行き交う児童や先生たちに挨拶を交わしたり軽く話をしながら色々な場所を見て回った。学校に通う間は確実に使う職員室やその近くにある校長室はもとより、理科室や音楽室などの、教室では行わない教科の授業を行う場所も案内をしてもらっていた。

 

「教室だと出来ない授業の時は大変そうだね。最初の2~3日は迷うかも」

「確かに。でも、毎日2人だけで移動する訳じゃないし、私たちの入ったクラスの児童たちに助けを求めれば助けてくれるだろうし、分からない事はきっと教えてくれるはずだから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。仮にそれが無理だったとしても、のび太が居るじゃない」

「お兄様……うん! 確かに心配ないね!」

 

 咲夜の能力応用による空間拡張や広大な地下空間はないものの、自分たちの住む紅魔館と遜色ない広さと部屋数の多さに、レミリアとフランは楽しみつつも驚きを見せた。特殊な力抜きの敷地の広さに関して言えば、館を超える事が理解出来たためである。

 

 ただ、学校は数百人単位で児童や先生と言った人たちが一時的に使う場所であるのに対し、紅魔館は妖精メイドを入れても100人に満たない上に2人の純粋な住む場所である。建物の用途が非常に大きく異なり、どういう見方をするかによってどちらが優れているのかは変わるため、一概に決める事は出来ないだろう。

 

「私の館……レミリアさんやフランドールさんって、アメリカでは館に住んでいたんですね。学校と比べてると言う事は、相当広い感じですか?」

「そうよ。流石にここ程外の敷地は広くないし館自体もとても大きいとは言えないけど、地上は勿論の事地下にも巨大な地下室や大図書館もあるから、中の広さは同等かここ以上じゃないかしら。まあ、全部見ない事には何とも言えないけどね」

「それにメイドさんも60人位居てね、凄く賑やかで楽しいの! まあ、仕事を良く間違えたり談笑したりしてサボってる人が多くて、咲夜が苦労してるんだけどね。後は……」

 

 次の場所に向かう途中、レミリアとフランが学校と紅魔館の広さを比べて話をしていた時、案内役の先生がそれについて気になったらしい。話が少し途切れたタイミングを計らって、2人の住んでいる紅魔館の広さについて質問を投げ掛けていた。当然全てをそのまま話す訳にはいかないため、おかしくない程度に変えたりぼかしたりしながらレミリアは先生に館の広さやどう言った物があるかなどを語った。

 

 加えて、フランが妖精メイドたちの事を説明する際には人間のメイドに置き換え、パチュリーや小悪魔についてはある程度伏せたりぼかした上で、美鈴と咲夜は能力と種族のみを伏せて後はそのまま説明した。

 

 元々紫が見学前に自分の事も含めて色々と話をつけていたこともあって、案内役の先生の中でレミリアやフランは『アメリカでも相当凄い資産家の令嬢』と言うイメージを抱いていたが、2人の話を聞いてから改めてそれを再確認し、ただただ衝撃を受けるばかりであった。

 

 そんな雰囲気の中各学年の教室や体育館などを見て回り、授業で使う場所はあらかた見終えて図書館に入った時、フランが本を手に取って読みながら、レミリアに話しかけた。

 

「パチュリーの図書館じゃ見た事ないけど、これも日本……と言うかこの町特有の本なのかな? お姉様」

「そうだと思うけど、何せとんでもない量の色んな本があるパチェの図書館だし……」

「確かに、最近また本棚増えてたよね。あんな調子で増えるなら、それこそ読みきるのに数百年位かかりそう」

「まあ、あの量の本を見たらそう思うのも無理ないわね」

 

 紅魔館で読んだ事のない種類の本を読みながら仲睦まじく話すレミリアとフランを見ながら、案内役の先生と紫も少し離れたところで休憩も兼ね、椅子に座りながらのんびり会話をしている。この場の誰も知らぬ内に、司書の先生の計らいで図書館が貸し切り状態とされ、誰も入ってこないため良い感じで話が出来ている。

 

「結構時間が経っていますけれど、この後の予定は大丈夫なのでしょうか? もしあれなら、私がレミリアとフランドールに言い聞かせますが……」

 

 見学のために図書館に入ってから20分経った頃、紫が案内役の先生に向けて時間は大丈夫なのかと、そう投げかけた。今までは授業見学の時を除くと長くても10分程度しか滞在せず、図書館もその位の予定であると聞いていたからだ。

 

「いえ、算数と体育の授業見学以外は全て僕の裁量で問題ないと校長から言われておりますので、大丈夫です。あの姉妹の様子を見ていたら、何だかもう行きましょうとは言いにくくて……時間にもまだ余裕はありましたので、気の済むまで居させてあげようと思いました。今日のこれは授業ではなく、見学ですしね」

 

 紫からそう質問をされた案内役の先生は、仲睦まじく会話をするレミリアとフランから視線を戻すと、先ほどまでしていた体育の授業見学まではそのクラスの都合などがあったため時間通りに進めていたが、その後からは全て自分の裁量に任されているから大丈夫と答えた。最初は10分程度で別の場所へ行こうと計画していたが、あの様子を見て延長しようとその場で決めたとの事らしい。

 

「それにしても、本当に仲良し姉妹なのですね。微笑ましい限りです」

「ええ。一緒に遊びに行って、一緒に食事して、一緒にお風呂に入って……寝るのも一緒な位ですから。それに、キ……あ、申し訳ないけど今のは忘れてくださる?」

「はい。分かりました」

 

 それから、レミリアとフランの変わらぬ様子を見て思った事を言い、盗み見たのか館の誰かから聞いたのかは不明な、2人が部屋に居る時の話を紫がうっかり喋りかけるなどと言ったやり取りを交わすなどして過ごす事更に20分、流石に時間が押してき始めてきてしまう。なので、紫がレミリアとフランに時間が押してるからもう行くと声をかけ、まだ見切れていない場所を見に行くために図書館を出て行った。

 

 図書館以外の会議室や事務室と言った、児童たちが殆んど使う事のない部屋や、トイレや避難場所の確認と言った特定の用事がある時以外は長い時間居る必要のない所では伸びる事なく、軽く説明を受けて立ち去ると言った感じが数回繰り返され、あらかた見学し終えた後は、学校に来た時に1番最初に入った部屋へと戻った。

 

「さて、見学の方は如何でしたでしょうか?」

「うーん……楽しかった! ここなら1ヵ月頑張れそうかな!」

「私も同じね。知り合いも居る事だし、楽しく過ごせそうだったわ」

「私も、ここなら安心出来そうでしたわ」

「それは良かったです。では、最後に各曜日の授業予定表に教科書と……最初の登校日と、レミリアさんとフランドールさんが1ヵ月授業を受けるクラスををお伝えします」

 

 それからは最後に学校見学の感想を求められて答えたり、教科書や予定表などと言った授業に必要な物を受け取ってから、初登校日と1ヵ月お世話になるクラスが伝えられたところで、フランのテンションが急激に上がる事となった。理由は、そのお世話になるクラスには()()()()()()ところであるためだ。

 

 流石に都合良く隣にはなれなかったものの、同じクラスにのび太が居る上に隣がレミリアであると言うのも、フランにとってこの上ない幸せを感じる要因になっている。

 

「やったぁ!! お兄様も一緒、お姉様も隣……これで毎日一緒に居れるんだね……私、今とっても幸せだよ!!」

「ふふっ……良かったわね、フラン。それに、のび太の友達も同じクラスって言ってたから、これで分からない事があっても心配なしね!」

 

 レミリアの方はそれ程声をあげる喜びの表現はしなかった代わりに、フランに抱き付きに行くなどのキス以外のスキンシップや、しばらくそれを堪能した後に案内役の先生に満面の笑みで大袈裟な位に感謝の言葉をかけ、顔が緩む位の幸せを感じていた。ただ、クラス分けを決めたのは彼ではない故に少し困惑しつつ、決めた先生にそう伝えておきますとレミリアに言った。

 

 ある程度2人の興奮が収まったところで紫が声をかけ、3人で今日の見学に付き合ってくれた先生に対してありがとうございましたとお礼を言い、今居る部屋を出て行った。そうして、興奮冷めぬまま学校を出て帰ろうとした時に、ちょうどのび太位の背丈の男の子が友達らしき男の子と楽しそうに話をしながら校門を出て行くのを見かけたフランが、思い出したかのように声をあげた。

 

「あ! お兄様忘れてたから、探しに行ってくる!」

「ちょっと……フラン!? 急に危ないって……ああ、もう!」

 

 どうやら、興奮していたが故に決めていた学校見学が終わったらのび太と一緒に帰ると言う事を忘れていたが、友達と帰るのび太似の男の子2人を見て思い出したらしく、レミリアの急に走ったら危ないと言う注意も聞かず、一目散に走り出してしまった。

 

 下校の時間に重なって沢山の児童たちが歩いていく中、そんな彼ら彼女らにぶつからないように上手く避けながら校内へと入ると、一目散に5年生の教室がある2階へと駆け上がっていった。そうして廊下を歩きながら3つ目の教室の前を通り過ぎようとした時に、目的であるのび太を発見したものの……

 

「さーてと……今日もオレたちの代わりに教室掃除やってもらうよ、のび太君……」

 

 3人の男の子に1人の女の子に囲まれて威圧されながら、教室の掃除を押し付けられそうになっていると言う異様な状況であったため、声をかける事をしなかった……と言うよりは、のび太が誰かに助けを求めていそうな表情を見て、掃除を押し付けられたせいで帰って来るのが遅かった日の事を思い出し、怒りが頂点に達しそうになったと言う方が正しいようだ。

 

 今行ってしまえばレミリアとの約束を破って半殺しにしかねない。だから深呼吸をして少しでも落ち着こうとするも、見れば見るほど殴り込みに行きたくなってしまうと言うジレンマがフランを苦しめていく。そして、最終的にのび太が『僕を待っている友達を心配させたくない』と言う理由で勇気を出して断り、怒った男の子がのび太を突き飛ばし、運悪く軽い切り傷を負ってしまったところでフランの我慢は限界突破して、教室へと乗り込んでいった。

 

「何してるのかなぁ……?」

「「「え!?」」」

 

 そして一言、明らかに普通の人間と対峙する時に出すレベルではない妖気を放ちながら、のび太を突き飛ばした体格の良い男の子に向かって行き、フランは実力行使へと出始める。

 

 まずは、のび太を突き飛ばした男の子の胸ぐらを掴んで床に無理やり押さえつけ、そこに馬乗りになって逃げられないように完全に動きを封じた。逃げようともがく男の子であるが、いくら殺してしまわないように手加減に手加減を重ねているとは言え、吸血鬼であるフランの力に全く抗う事は出来なかった。

 

 体格の良い男の子が見た目外国人の小さな女の子に全く抗えないと言うあまりの異常事態に、他の2人は何もする事が出来ずにいた。もう1人居た女の子に至っては、腰を抜かしながらもフランが気を取られている隙を見て逃げ出す始末であった。

 

「正直に答えてね。お前は今、のび太お兄様に何してたのかな?」

「……君が見た通りの事をしていた。前にもやった事がある。コイツらと一緒にな」

「で、今突き飛ばして怪我させたよね? どうしてくれるのさ?」

「……」

「まあ良いや。とにかく、もう絶対にやらないって誓ってくれるなら解放してあげるけど、どうする?」

「勿論、もう絶対にこんなバカな事はしない事を誓う」

「はぁ……分かった」

 

 そうして、馬乗り状態で押さえつけた状態の男の子に向けて威圧しながら一言二言会話を交わし、強制的にのび太に対して絶対に掃除を押し付けたり、突き飛ばしたりなどの暴力行為をしない事を誓わせた後に約束通り、解放してあげた。あんな事をされたお陰かさっきまでの威勢は完全に萎縮したようで、男の子はフランに対して終始丁寧な態度を維持していた。

 

「あ、そうそう。もし次に今日みたいな事をやろうものなら、逃げてったアイツも含めてお前たち全員……どうなっても知らないから、覚悟しておいてね?」

「「「……」」」

 

 最後、この場に居る男の子3人にそんな一言を残して睨み付けると、全くこの状況についていけていないのび太の手を取り、いつの間にか教室の外で待っていたレミリアと共にこの場を後にした。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とふれあい

「その怪我痛そう……今すぐ私が治してあげる!」

「フラン、大丈夫? 誰かに見られたら君にとって、とっても面倒な事に……」

「私の事は心配しないで! それよりも、お兄様が痛そうにしてる方が辛いから……」

「分かった。そう言う事なら、お願い」

「うん! 任せてよ!」

 

 フランがのび太に掃除を押し付けていた男の子たちを、破壊衝動を何とか抑えつつ手加減した上で力ずくでねじ伏せ、もう絶対にやらないと言う約束を取らせてから学校を出た後、少しだけ出血していた手の甲を怪我を回復魔法で治しながら、そんな会話を交わしていた。

 

 最初は誰かに見られた場合、フランが変な目で見られてしまうのではないかと危惧したのび太が今すぐ治さなくても良いと言ったが、自分の事はともかく怪我で痛そうにしているお兄様を見るのが辛いから治したいと、今にも泣きそうな感じでのび太は言われ、それならばと素直にお願いをする事に決めた。

 

「お兄様大丈夫? 怪我した所、本当にもう……痛くない?」

「うん、フランの『回復魔法』のお陰ですっかりね。それに、僕のために助けに来てくれた時の君には驚いたけど、嬉しかった。ありがとう」

「えへへ……お兄様に笑顔が戻って、本当に良かった!」

 

 フランの回復魔法による傷の治療が完全に終わると、のび太に対して怪我していた場所は本当にもう痛くないのかと、心配そうに見つめながら聞いた。

 

 それに対して、当の本人は回復魔法によって傷が完全に治った手の甲を2回ずつ叩いたり擦ったりして全く痛くないと言うのをアピールしてから一呼吸置いた後、掃除を押し付けられそうになった時に助けてもらったお礼を、優しく頭を撫でながら目線を合わせて笑顔で言う事によって、フランの心配を解こうと試みた。

 

 結果、フランの心配を完全に彼方へと消し去るのび太の試みは成功し、加えて自分の行動をレミリアと同等の()()()()()()()に褒められたと言う幸福感を与える事も出来たと言う、最高のものとなっている。

 

「それにしても話を聞く限りだけど、関係ないのび太に掃除を押し付けようとして、断られた途端に突き飛ばして怪我を負わせるなんて……酷い奴らね」

「でしょ? その時のお兄様の表情を見たらね、もう本当に辛そうで見てられなかったの。だから、本当なら()()()()()()()きゅっとしてやりたかったんだけど……」

 

 そうしたやり取りが終わった後は、レミリアや紫が見ていない間に一体何があったのかを促されたため、のび太が出来る限り3人に詳しく説明をした。

 

 すると、話を聞いたレミリアは表情を険しくしてのび太に掃除を押し付けようとしたその行為に不快感を示し、フランに至っては未だに思い出す度に怒りが沸いてくるようで、あの場に居た全員に能力を使って殺してやりたくなった衝動に駆られたと、他人に聞かれても分からないような言葉で表しつつ右手を前に突き出し、何かを握り潰すような動作でも表した。

 

 同世代かつ同種族ではないものの、レミリアとフランの2人とは家族のような関係となったのび太であったが、その言葉の意味は分からずにいた。しかし、右手を突き出して何かを握り潰す動作を見た時に、フランが教室で男の子たちに対して何をしたかったのかを理解したため、一瞬だけその行為に対して身震いする。

 

 ただ、実際にはそれをせずに耐え、次やったらただでは済ませないとジャイアンに似た感じで脅す程度で収めたので、フラン本人に対して恐れや恐怖を抱く事は全くなかった。

 

「私との約束と、のび太の性格を考えて我慢したのよね」

「そう! きっと優しいお兄様の事だから、あんなゴミのような奴らに対してでもやり返したりしないだろうし……それに、お姉様にもお兄様にも、嫌われたくないから……」

「まあ、確かにやってたとしたら貴女の印象が最悪まで低下してた事でしょうし、その判断は間違いなかったわ。それに、良く能力を使わず耐えれたわね。偉いわ、フラン」

「えへへ、やっぱり? 本当、みんなまとめてきゅっとしなくて良かったぁ……」

 

 その後はフランが例の男の子たちをゴミ扱いしたり、レミリアが衝動に耐えて約束を守った事に対して褒め、フランが笑顔を見せて喜ぶ様子を少し離れた所からのび太と紫が見守ると言った状況が続く。

 

 2人のやり取りを見ていて、のび太は自分の事を想って色々してくれた事に感謝しつつも、時折フランの口から出てくる例の男の子に対する悪口に、周りから好奇の目で見られないか心配で仕方なかった。ただ、諭そうにも楽しそうに話している姉妹に割り込みづらく思ったためか、悪口と言っても『死ね』や『殺す』などのキツすぎるものではないこともあって、本人が平気なら良いかと思う事にして見守りを継続する事に決めたようだ。

 

 すると、そんなのび太の思いを紫が察したらしい。レミリアとフランの会話に割り込み、代わりにあまり大きな声で人の悪口は言わないで欲しいと『のび太が言っていた』と、そこだけ強調して諭すように言った。結果、フランは不味い事してしまったと言う表情をしながらのび太の方へと向かい、目の前に立って小さな声で謝り始める。

 

「お兄様……ごめんなさい。もしかして、怒ってる……?」

「ううん、僕は全然怒ってないよ。ただ、フランが悪口言ってる事で周りの人から変な目で見られないか、心配なだけだから」

「私のために心配してくれてたなんて、やっぱりお兄様って優しいね……ふふっ、分かった! 気をつけれるように頑張る!」

「うん。さて、家に戻ったら沢山遊ぼう。今日は誰とも約束はしてないから」

「……そうなの? じゃあ、今日はお姉様とお兄様を私が二人占めだね!」

「確かにそうなるね」

「ええ、そう言う事になるわね」

 

 フランがのび太に謝り、これについてあっさり解決した後はいつも通りの3人の会話となって、家へと戻るまでこの状態が続く事となった。そうして家へと4人で帰ると、今日の出迎えがのび太の母親であったので、少しだけ珍しげに見ていると、彼女が口を開く。

 

 何でも、レミリアたちが学校へと行っている間にのび太の父親から電話がかかってきたらしい。内容は今日の夕方6時頃に帰って来た後、皆で一緒にとある和食料理屋に出かけて食べに行こうと思っているから、行きたいか行きたくないかを聞いておいてくれと言うものだったため、まずは紫以外の3人にどちらなのかと早速聞いてきた。

 

 最初にその問いに対する答えを出したのはのび太で、行くと言うものであった。そして、のび太が行くと答えた事でなし崩し的にレミリアとフランも外食に行く事が決まる。ドラえもんは既に行くとの返事を返していたため、これで合わせて6人となった。

 

「八雲さんも、良かったらご一緒如何でしょうか?」

「そうですね……今日の予定は学校見学以外ない関係で時間はありますし、貴女が宜しければ是非とも一緒にお食事に行かせて頂きたいですわ」

「では、決まりですね八雲さん。それまで家に上がってゆっくりとお過ごし下さい」

「感謝致します」

 

 3人の答えが決まるとのび太の母親は最後に紫を食事に誘い、これが快諾された事によって最終的には7人で夕方に和食料理屋に出かける事が確定し、後はのび太の父親が会社から家に帰って来るまで待つだけとなった。

 

 洗面所で手を洗ってうがいをしてから、2階の部屋で待っている間はレミリアとフランが学校見学についての感想や、学校に初めて登校する日の予定などを、のび太やどら焼きを美味しそうに頬張っているドラえもんに対して話したりした。

 

「それにしても、レミリアとフランの初登校は3日後なんだね。しかも、僕と一緒のクラスになったなんて……皆ビックリするだろうなぁ」

「確かに。それと、出来れば3日後まで友達には秘密にして欲しいわ。サプライズしたら面白そうだからね」

「分かった。約束する」

 

 学校関係の話が終わって少し経った時、和食料理屋に行くのにどら焼きをそんなに食べて大丈夫かと言うツッコミがのび太から出されるも、全く問題ないと言わんばかりに食べ続けてレミリアがドン引くと言ったやり取りもあったりしたが、皆で楽しく過ごした。

 その際、どう言う訳かその時からフランが1人だけ別の方向を向いて(ほう)けていたため、それを不思議に思ったのび太であったが、教科書を持っていた事から自分と学校に行って授業を受ける想像でもして楽しんでいるのだろうと思い、邪魔をしないように話しかけない事に決める。

 

 そうして、学校見学を終えて家に戻ってきて待つこと2時間半、父親が帰って来たと伝えにのび太の母親が2階の部屋に来たため、軽く身支度をしてから全員で出発した。割りと家との距離が離れていないようなので、そのまま目的地まで歩きで向かう。

 

 和食料理屋に向かう道中、のび太の両親に対して3日後に学校へ通う事に決まったのを伝えていないと思い出したレミリアとフランは話を切り出し、ついでにのび太たちに言ったように見学の感想も楽しげに話す。

 

「ふむ……3日後にのび太と一緒の学校に行く事にねぇ……色々と慣れない事があるだろうけど、2人にとって楽しい1ヵ月の思い出になる事を願うよ。まあ、学校見学の時の様子を楽しそうに語る君たちなら大丈夫だろうけどね」

「勿論、沢山の思い出を作るよ! それにしても、運良くお姉様もお兄様も一緒だし……もう今から学校に行くのがスッゴく楽しみ!」

「確かにそうね、フラン。授業がどんな流れかは見学で何となく掴めたけど、今日見たのはほんの一部だろうから、私も他にどんな事をするのか楽しみで仕方ないわ」

「だよね。それに、給食だって見学の時は食べれなかったけれど、今度は実際に食べる事が出来るのも嬉しい要素だし」

「なるほど……まあ聞く限りだと、のび太の通う学校の給食は結構美味しいらしいから、レミリアちゃんとフランちゃんも期待して大丈夫だと思うぞ」

 

 レミリアとフランの話を聞き終えると、のび太の父親は1ヵ月の日本の学校生活が楽しい思い出になる事を願うと言った。当然、言われるまでもなくそのつもりでいたためフランは高らかに宣言し、レミリアもそれに頷いて同調した。

 

 その後はいつものように姉妹の仲睦まじい会話が始まり、たまにのび太の父親が内容とタイミング的に割り込んでも大丈夫な時に割り込み、少しだけ学校関連の事を話すと言った流れがしばらく続く。他の4人は置いてきぼりを食らったため、こちらはこちらで当たり障りのない世間話をしたり、知らない紫のためにこれから行くお店の料理についての説明を母親がしているのを、ドラえもんとのび太が改めて聞いていた。

 

「いらっしゃいませ。7名様で宜しいでしょうか」

「はい。それでお願いします」

「分かりました。ではこちらへ……」

 

 後は特に何も起こる事もなく歩きで30分、格式高い日本家屋風の和食料理屋に到着した。それなりに混んではいたものの、全員が座れる分の席自体はあったようで、普通に店員さんに案内された。

 

「随分値段の高そうなお店ですが、大丈夫なのですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。確かに上質な食材を使っている店なので普通よりは高いですが、ちゃんと準備した上でここを選びましたので。それに、毎日寄る訳でもないですから」

「なるほど」

 

 案内された席に座り、各々何を食べようか選ぶ中で紫が店の外観や内装などの要素からのび太の父親に、高そうな店だけど大丈夫なのかと少しだけ心配そうに質問していた。自分たちのために、経済的に無理をさせるのはあまり良くないと思っているためである。

 

 しかし、のび太の父親はその質問に対してきっぱりと大丈夫だと宣言をした。確かに普通よりは値段は張るものの、準備はしてある上にしょっちゅう寄る訳でもないと言うのが理由のようだった。そのため、これを聞いた紫は安心して適度に料理を楽しむ事に決めた。

 

 そうしている内に店員さんが席近くを通ったので声をかけ、のび太とフランはえび天うどんでレミリアは蕎麦、ドラえもんは味噌汁定食でのび太の父親はトンカツ定食、のび太の母親はの盛り合わせで紫が最後に蕎麦とかけうどんを頼んだ。これだけで8000円近くはかかっているが先程も言っていたように、想定済みなので問題ないらしい。

 

「フラン、どう? えび天うどん、美味しい?」

「……あ、うん! 美味しいよ、お兄様!」

「この蕎麦美味しいわね。流石、上質な素材を使っているだけあるわ」

「お姉様、蕎麦一口ちょうだい!」

「ええ、良いわよ」

「ありがと……うん、美味しい!」

 

 待つ事25分、最初に単品でうどんや蕎麦を頼んだ3人の料理が運ばれてきたので、先に食べ始めた。この店が出す和食は、どうやら常々良質な素材を使った咲夜の作る料理や、時々人里の腕利きの職人の作る和食を食べているレミリアでも思わず舌を巻く美味しさであるようで、とても満足げであった。のび太や紫は言わずもがな、目のハイライトが消えかけ、何かに惚け気味のフランもレミリアの蕎麦を一口もらいつつ、自分のえび天うどんもかなりのペースで平らげるなど、かなり満足感を得ている。

 

 それから更に10分後、3人以外の頼んだ各種定食や天ぷらなどの料理も運ばれてきて、木製テーブルの上は全員の頼んだもののお皿やどんぶりで一杯になった。

 

「高いけど、やっぱりここの定食は上手いなぁ!」

「普段殆んど来ないから、特別感があって良いわねぇ」

 

 レミリアとフランとのび太の3人とは別に、のび太の両親も特別な時にしか来ない和食料理屋と言う事もあり、食事をしながら良い雰囲気で会話を交わしている。紫はドラえもんに普通に話しかけつつ、何のためなのかは不明であるが、未来のひみつ道具を中心に色々な情報を聞き出していた。当然、ドラえもんが言ったのは誰かに知られたりしても問題ないレベルの事柄であったが、それでも紫にとっては充分足るものであったらしく、ある程度聞いたところでお礼を言って未来の話を切り上げた。

 

「紫さん、僕にこんな事を聞いて一体何を……?」

「まあ、ちょっと未来に興味があってね」

「本当に興味があるってだけですか?」

「勿論よ……あら、皆も食べ終えて帰るみたいだし、私たちも行きましょう」

「……」

 

 突然そんな事を聞いてきた事を不思議に思ったドラえもんは、一体何をする気なのかと紫に聞いてみると、単に未来に興味があると答えた。しかし、隠し事がありそうな気がしたのか、本当にそれだけかともう一度聞くも、返ってきた答えが同じであった上にこのタイミングで皆の食事が終わったため、ドラえもんは仕方なく聞くのは止めておく事に決めて、既に会計を済ませていた皆と一緒にこの和食料理屋を出て行った。

 

 後は他愛もない話をしながら歩みを進め、のび太の家の前についてから紫と別れ、中に入って全員が手洗いうがいを済ませ、交代でお風呂に入った。それが済むと、時間が多少余っている事から寝るまで皆でのび太の宿題を教えたり、テレビを見たりしながら過ごす。

 

 そうして寝る時間となり、お休みなさいの挨拶を済ませた後にそれぞれの寝室へと向かって眠りについた事で、色々あった今日1日は終わりを告げた。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「ふふっ……皆ぐっすり寝てるのも確認したし、もう大丈夫だよね!」

 

 日付が変わってから少し経った夜中のある時、1人で起きていたフランは、寝ているレミリアを起こさないように布団からこっそりと抜け出してのび太の両親の寝る部屋まで向かい、しっかり寝ている事を確認した後に、ある目的のためにのび太の寝ている部屋に訪れていた。それは、如何なる邪魔も入らない静かな環境下で吸血を行い、自分に現れた衝動を解消するためである。

 

 現代旅を始めてからは殆んど吸血衝動に駆られる事はなかったが、のび太が学校で怪我をした際に出た少量の血を目で見て匂いを嗅いでしまった事に加えて、前に1度だけ血を飲んだ時の事を思い出してしまい、本能が強く刺激を受けて急激に衝動が復活してきてしまっていた。

 

 本来ならあの場で吸血をしたい位に衝動は強かったが、人の目がある場所でやってしまえばのび太やレミリアに迷惑がかかると思い、残った理性で何とか耐え抜いた。それから今に至るまで3回、並みの精神では負けていたであろう衝動に耐え抜きながら皆が寝静まって邪魔が入らない時まで待ち、念には念を入れて皆が深く寝ている事を確認してからの、フランこの行動であった。

 

「お兄様、ねえ起きて。お兄様……!」

「ん……あぁ、フラン? こんな夜中に……」

 

 のび太は1度寝てしまえば並大抵の刺激では起きない。なので、寝ている間に事を済ませればすぐに終わったのだが、まだ残る理性がそれを許さなかった。そのため、フランは寝ているのび太を強く揺すったり怪我しない程度に叩いたりしながら声をかけて起こし、吸血の許可を求めようとした。

 

「もしかして、僕の血が欲しいの?」

「そうなの。喉の渇きが凄く辛くて……お願い……」

「……分かったよ。出来るだけ痛くしないでね、フラン」

「うん……!」

 

 しかし、フランがのび太に許可を取ろうとする前に、先に血が欲しいのかと聞き返してきた。どうやら、フランの表情や仕草などから裏山で別れたあの時と同じ展開である事を察したようだ。

 

 当然、最初からそのつもりでのび太の下へ来たフランはそうだと答え、無意識に女の子座りをしながらお願いをした。すると、のび太は布団から体を起こして、吸血しやすい体勢になった後に分かったと言って許可を出した。その言葉を聞いたフランは満面の笑みを浮かべながらのび太に飛び付き、痛みが生じないように噛む箇所を時間をかけて舐めた後、改めて噛み付いて吸血を始めた。

 

「んっ……ふぅ……」

 

 本能のままに沢山血を飲み過ぎてしまい、まかり間違ってのび太を殺してしまったり、死なせなくとも今後の生活に支障を来す事がないように気を遣いつつ、フランはこの至福の一時を少しでも長く味わうために少しずつ血を飲み続ける。その分だけのび太にも長い時間快楽が与えられているが、1度経験済みであるためか比較的落ち着いて様子を見守っていた。

 

 しかし、普通ならぐっすり眠っている時間帯である上に与えられている快楽も加わったせいか、強めの眠気がのび太に襲いかかっている。ただ、現在フランが吸血中であるため、眠らずに耐えている状態である。

 

「はぁ……はぁ……私、幸せだよ……お兄様、ありがと」

「……満足した?」

「うん。じゃあ、回復魔法を――」

 

 そんな感じで2分が過ぎた頃、満足したフランが首筋から口を離して傷口を治すために回復魔法をのび太に使おうとした時、部屋の扉が開く音が聞こえたため、視線を扉の方へと向けた。

 

「私抜きで美味しそうなのび太の血を飲んでたなんて……ズルいわよ、フラン」

 

 すると、そこに居たのはレミリアであった。どうやら、目覚めた際にいつの間にか居なくなっていたフランを探しにやって来たようだ。部屋に入ってすぐに状況を察したのは、吸血鬼の嗅覚で感じ取ったのび太の血の匂いと、フランの口元からそれと同じ匂いのする血が滴り落ちそうになっていたのが原因との事らしい。

 

 レミリアからそう聞いたフランは申し訳なさそうにしながら謝っていた時、咄嗟に何かを思い付いたらしい。再びのび太の首筋に噛み付いて1口分の血を口に含み、回復魔法を使ってからレミリアへと近づいて行った。

 

「フラン、一体何を……!?」

 

 良く分からない謎の行動にレミリアが首を傾げた次の瞬間、フランが彼女の頬を両手で挟んで自身の側まで引き寄せると、無理やり口移しでのび太の血を飲ませ始めた。流石のレミリアも、これには思わずビックリしたようである。

 

「お姉様。これで、今日は許してくれるかな?」

「のび太の血がこんなに美味しいなんて……それに、フランとキスまで……」

「お姉様……?」

「あっ……ごめんなさい。勿論、ここまでしてもらったら許さない訳には行かないわ」

「本当?」

「ええ、本当よ」

 

 口移しを終えると、フランはレミリアに対してこれで許してもらえるかと聞くものの、飲まされたのび太の血が想像以上に美味しかった上に結果的にキスをされた事によって惚けていたため、返事を返せなかった。それに対して、何らかの不安を覚えたフランが肩を揺すってようやくレミリアが気付き、許すと言った事で血の独り占めの件は解決した。

 

 その後はいつの間にか眠っていたのび太に毛布を被せ、吸血の際の快楽によって疲れたフランを背負って1階まで下っていき、布団に寝かせてからレミリア自身も布団に横になって、幸せな気分のままで再び眠りについた。

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とお買い物

「本当に良かったぁ……ドラえもん、ありがとうね! お陰で、お兄様が私のせいで遅刻して怒られずに済みそう!」

「どういたしまして。それにしても、フランが起こしても起きないなんて珍しいと思ったら、夜中に吸血行為をしたせいだったんだね」

「うん。昨日、お兄様が怪我してからずっと血が欲しくて仕方ないって衝動を皆が寝静まるまで耐えて、それから部屋まで行ってお願いしたら、嫌がらずに聞いてくれて嬉しかったなぁ。お陰で今、私はとっても元気だから!」

「それは良かった。君が元気になったのなら、きっとのび太君も嬉しがってると思うよ」

 

 学校見学に行った翌日の朝、フランはドラえもんに対して強い感謝の意を示していた。それは、いくら起こしても起きないのび太をひみつ道具の力で起こし、ギリギリ学校に遅刻しない時間に送り届ける事に成功したためである。

 

 最初はフランが普段通りに起こしに行ったものの全く歯が立たず、数分後にレミリアに魔法でどうにかしてくれと頼んだが、そもそも眠りに関する魔法を取得していなかった事によってこちらも打つ手なしの状態であった。途中で、それが吸血行為によって与えられた快楽が眠気に強く作用したためだとレミリアが推測するものの、だからと言って状況が好転する訳もなく、考えた末にドラえもんに助けを求めた。

 

 対して、ドラえもんは『ネムケスイトール』と言うひみつ道具を使用してのび太の絶大な眠気を吸収し、普段よりもスッキリした状態で起こす事に成功したものの、増大したそれが手強かったせいで時間がかかってしまい、その時には既に歩きでは到底間に合わなくなっていた。なので、レミリアとフランが着替え以外の支度を手伝い、最後の手段として『どこでもドア』を使って学校内の物置の陰に送り届け、事なきを得たと言う経緯であった。

 

「いやぁ……まさか、これを使っても眠気を全部吸い取るのにこんなにかかるなんて思ってなかったなぁ。お陰でのび太君遅刻させかけるし……」

「いや、結果としてのび太はドラえもんが判断して使ったひみつ道具で起きれて、遅刻せずに済んだのだから良かったじゃない」

「お姉様の言う通りだよ! それに、遅刻させかけたのはドラえもんのせいじゃなくて、起こせないと分かってもすぐに言わないで自分でどうにかしようとしてた私のせいなのが大きいんだから、気にする必要なんてないんだよ? と言うか、元を辿ればあのタイミングでお兄様の血を飲んだ私のせいなんだし……」

 

 そのため、2階の部屋で休憩がてら3人で会話を交わしていた時、ドラえもんが起こすのに時間がかかり過ぎて遅刻させかけたと言った際にレミリアが横やりを入れ、更にフランがすぐ後に遅刻させかけたのは自分に要因があるのだからと、それを強く否定して気にする必要はないと言った。

 

 実際、今回のび太が布団から起き上がれずに遅刻しかけた事に関してはドラえもんに要因は一切なく、フランに主な要因があるため、それは正しいと言える。ただ、のび太が自分の意思で吸血を受け入れている上に、フランもこれを故意に狙った訳ではない。おまけにフランは謝罪もしっかりして、のび太もそれを受け入れていた……と言うよりは、最初から全く気にしていなかったため、今回起こってしまった()()については誰も気に病む必要はない。

 

「まあ、言われてみれば確かに遅刻しなかったから気にする必要はないね。でも、それを言うならフランだって気にする必要なんてないよ。ちゃんと謝ってたし、のび太君だって全然気にしてなかったから」

「……うん!」

 

 それをドラえもんは分かっていたらしく、フランが今回の出来事は自分に要因があるのだから、ドラえもんは気にする必要なんてないと言った後すぐ、逆に気にする必要はないと言って安心させようとする行動を取った。その言葉を聞いてフランが頷いた後、次はもっと気を付けようと決意したところで、この事についての話は終わりを告げる事となった。

 

「さてと、これから何しましょうか? 2人だけで出来るめぼしい事はそれなりにやっちゃったし……」

「確かに。ねえドラえもん、何か面白そうな事ない?」

「面白そうな事? うーん……どうしようか――」

「それなら、皆で一緒に『お買い物』はどうかしら? のび太の御母様には、一応その旨は伝えておいてあるのだけど」

 

 のび太を遅刻させかけた事についての話を終え、気を切り替えて今日は何をしようかとレミリアたち3人が相談し始めたその時、紫がスキマからではなく、買い物をするのはどうかと提案をしながら普通に部屋の扉を開けて入ってきた。

 

「お買い物? 別に構わないけど、何を買いに行くの?」

「色々考えてるけれど、そうね……主に2人が学校に通う日に向けて着ていく服と、教科書を入れておくための『ランドセル』かしら」

 

 紫がスキマではなく、普通に扉を開けて入ってきた事に少し驚きつつも、フランが一体何を買いに行くのかと質問すると、学校に行く時に着ていく服とランドセルは絶対で、予算に余裕さえあれば他にも色々な物を買いに行く予定であると答えていた。彼女曰く、外の世界でしか買えない物を買っておけば、きっと思い出になるだろうからとの事らしい。

 

 服はともかく、ランドセルに関しては幻想郷で手に入らない物であるため、2人は確かに思い出には残るだろうと紫の言った事に納得した。特に、フランはのび太やレミリアと同じ物を持てると言うのが嬉しいらしく、今すぐ選びに行こうと紫を急かす程に気分が高ぶっていた。

 

「フランドール。そんなに急かさなくても、今すぐ行くつもりだから」

「うん。それで、ドラえもんはどうするの? せっかくだから、一緒にお買い物行こうよ!」

「私からも、出来ればお願いしたいわね。ドラえもんが居た方が何かあっても安心だし、何より楽しいもの」

「勿論、今日は何の予定もないから良ければ僕も行かせてもらうかな」

「決まりだね! 紫、それでも良い?」

「ええ。当然よ」

「じゃあ、出発進行ーー!!」

 

 当然、今すぐ行くつもりで用意を済ませていた紫は、フランに対して急かさなくても行くから落ち着いてくれと声をかけると、ゆっくりと頷きながら深呼吸をして落ち着きを取り戻す。その後、フランはレミリアと共にドラえもんを買い物に誘うと、本人と紫が首を縦に振った事で4人で外に出かける事が決定したため、のび太の母親に買い物に出かける旨を伝えて、出かけるための準備を済ませてから全員で家を出て行った。

 

「お兄様と同じ色の奴は男の子専用の柄なのは残念だったけど、そう言う事なら仕方ないね。でも、それじゃあ私は何色が良いのかな? お姉様」

「やはり、ここは定番らしい赤色が良いんじゃない? 私たち姉妹のイメージカラーでもあるから」

「なるほど。でも、男の子用よりも女の子用のランドセルにはピンクとか水色みたく、結構色のバリエーションがあるって紫が言ってたよ?」

「あぁ……確かに言ってたわね。なら、今どうしようか決めるよりも、実際にお店に行ってみて決めましょう。後悔したくないからね

「そうだね! 後、私たちのランドセル姿をお兄様が見たら、何て言うのかなぁ?」

「さあね。実際に見せてみてのお楽しみって奴よ」

 

 家を出てから、レミリアとフランは2人でランドセルについて紫からある程度の事を聞き、どんな色の奴を買おうかと言う話し合いを始めていた。たった1ヵ月、休みも入れれば20日程度しか学校に通う事はないものの、ランドセルの色1つ決める話に時間をかけるなど、その間に沢山の思い出を作るための買い物故に2人に余念はないが、結局は話し合い程度では決めきれずに店に行ってから考えようと言う結論に達した。

 

 ランドセルの話が終われば、次は学校に着ていく洋服についての話が始まった。ただ、こちらについては事前情報が無いに等しかったため、今まで見た事のある通行人などの服装から頭の中で想像するしかなく、これも結論は店に行ってから良く考えて決めようと言うものに決まった。

 

「……大きい建物ね。一体どれだけの店があるのかしら」

「凄い沢山の人だよ、お姉様! 買い物抜きにしても、何だか楽しそう!」

「ええ。これだけ広ければ、服やランドセルを売る店以外にも色々ありそうだし、フランの言う通り楽しめそうね」

 

 その後は紫から色々と話を聞いたりしながら歩いて向かう事30分、目的である服屋やランドセルを売る店がある巨大な複合型商店に到着した。平日にも関わらず駐車場には沢山の車が止まっていて、多くの人が行き交う光景を目撃したレミリアとフランは、まだ見ぬ内部には一体何があるのかと、楽しそうに言っている。

 

 4人で会話をしつつ正面の入り口から中に入り、有名なファストフード店やラーメン店を含む飲食店が立ち並ぶエリアを抜け、エスカレーターで2階に向かってゲームコーナーの前を通り、偶然突き当たりにあった洋服を売る店を見つけるとそこに皆で入って行き、どんな服を買って着ていこうかと歩き回りながら相談していた。

 

 途中、レミリアとフランがどれだけ買っていいのかと聞いたところ、資金だけは沢山用意してあるため、余程の無茶なまとめ買いや超高級品などでなければ良いとの事らしい。いつの間にそんなお金を用意したのかと疑問に思う2人であったが、今のところ自分たちにしか得がない上に、のび太とドラえもんに何か無理強いしてる訳でもなさそうであったため、今は考えるよりも楽しもうと決めた。

 

「うーん……お姉様、沢山ありすぎて決められないね」

「ふふっ。私はともかく、フランはどれを着ても可愛いから、余計に決めにくいものね」

「可愛いって言われた……えへへ」

 

 あまりの沢山の服にどれにしようか決めかねているフランに、どれを着ても可愛いからねとレミリアが言って喜ばせていると、その光景を入店時から遠目で見ていた店の従業員が2人の下へ近づいて行き、声をかけた。

 

「あの……もし宜しければ、私共がお客様の洋服選びをお手伝い致しましょうか? 随分迷っていらしたので」

「えっと、このお店ってそう言う事してくれるところなの?」

「まあ、そうですね。勿論、そう言うのを望まない方には無理強いしませんが」

「へぇ……じゃあ、ちょっとだけお姉様たちと相談するから待っててもらっても良い?」

「どうぞ。お待ちしています」

 

 店の従業員曰く、2人がどれを選んだら良いのか迷っていたのを見て、似合う服選びの助けとなるために声をかけてきたとの事らしい。フランがこの店はそう言う事をしてくれるところなのかと質問したところ、従業員の人がそう答えたのでこの店のサービスの中に組み込まれているのが伺えた。

 

 すると、フランは従業員の人にその場で待ってもらうようにお願いした後、レミリアと共に少し離れたところから見守っていた紫の方に近寄ると、店の人に任せちゃっても大丈夫かと聞いた。それに対し、紫が大丈夫だと即決した事で手伝ってもらう事に決めた2人は、店の人の方へと戻っていった。

 

「決めたよ! 私とお姉様の洋服選びのお手伝い、貴女にお願いしたからよろしくね!」

「と言う訳だから、よろしくお願いするわね」

「了解です。お任せください」

「「はーい!」」

 

 その後従業員の人に手伝いをお願いして、彼女が制服の胸元に付けてあった無線機に対して呼びかけ、他にもう1人来たところで再び洋服選びを始めた。すると、従業員2人のアドバイスや提案などもあり、今まで迷っていたレミリアやフランが気になった服を手に取り、試着して気に入れば購入を決定していくと言った感じであれよあれよと買い物が進んでいった。

 

 更に、どうせならと言う事で本来予定にはなかった各種下着や靴、アクセサリーなども2人分購入を決めた。こちらの方についても、従業員の人の意見や嗜好をある程度取り入れているようであった。そして、最終的には会計が5万円を超えたものの、紫の今回の買い物に用意した予算の6割の消費であるため、1つも欠ける事なく購入が確定した。

 

「随分買ったわね。とは言え、まだ予算に余裕があるから良いけれど……さて、2人共。次はランドセルを買いに行くわよ」

「分かったわ」

「うん、分かった!」

 

 そうして服の購入を終えると、すぐさまランドセル売り場に向かうために洋服店を出た。紫とドラえもんが前もって目的の場所を誰かに聞いておいてくれたお陰で、売り場が1階の学校用品エリアの一角にあると言う事が分かっているため、来た道を戻ってエスカレーターで1階へと戻って来た時とは逆の方の入り口方面に向かい、途中にある道を左に曲がった後は道なりに進んでいると、児童や生徒が学校で使う物を販売する学校用品エリアへと到着した。後は目につく場所にあったランドセル売り場へと向かい、選んで買うだけとなった。

 

「私たちには関係のない話だけれど……女の子のランドセルに比べて、いくらなんでも男の子の方は少な過ぎないかしら? もう少しバリエーションが多くても良いと思うわ」

「うん。確かに言えてるけど、何か理由があるんじゃない? 例えば、男の子はランドセルの色に拘りがあんまりないとか、昔のなんかの風習とかの名残だとか……」

「まあ、その予想の真偽はともかくとして理由がある事には間違いないわね。さてと、取り敢えずこの話は置いといて、早くランドセルを選びましょう。フラン」

「うん! お兄様にもお姉様から『可愛い』って言われたように言われたいから、服の時みたいにしっかり考えて選ばないとね!」

 

 ランドセルの色の種類が女の子の方がかなり多い理由について話し合いながら、2人は何色にしようか吟味していた。特にフランは、服選びの際にレミリアから可愛いと言われた事がとても嬉しかったようで、同じように家族認定しているのび太にも言ってもらいたいがために、今着ている服と買った3着の服に合うと思う色のものはどれだろうかと、普通よりも遥かに時間をかけて考えていた。

 

 そんな感じで考えに考えた結果、最終的にレミリアは薄めの紫色のランドセルを、フランは少しだけピンク色の入った赤色のランドセルを選び、予算内に収まる範囲であるため購入する事に決定した。

 

「どうかな? お兄様、何て思うのかな?」

「それは分からないけれど、少なくとも変に思われない事だけは確かよ。フラン」

「うん。優しいお兄様の事だから、それは分かってるけど……欲を言えば、お姉様が言ってくれたみたいに可愛いねとか、似合ってるねとか言われたいなって」

「まあ、貴女のその気持ちは分かるわ。私だってフランは勿論の事、のび太にそう言われたら嬉しいもの」

「だよね! えへへ、今からお兄様にこの格好を見せるの楽しみだなぁ……」

 

 目的である洋服とランドセルを買う事は出来てご満悦なレミリアとフランであるものの、予算がかなり圧してきているためこれ以上の買い物は出来ない。そのため今日はこれにて帰ると紫が言い、2人はそれに対して理解を示して帰ろうと、店の出入り口から出ようとしたその時にある事に気がつく。

 

「あっ……良く考えたら、私たち2人だけ楽しんでて誘って連れてきたドラえもんが全然楽しめてないじゃん!」

「言われてみれば、確かにそうかもしれないわね。ごめんなさい」

「いや、僕は全く気にしていないから大丈夫だよ。フラン、レミリア」

「本当?」

「本当だよ。元々、その辺を散歩するつもりで君たちについていったから。それに、紫さんから色々とお菓子とかを買ってもらったりしてたから」

「なら良いけど……」

 

 それは、今までの買い物で楽しんだのは自分たちだけで、誘って連れてきたドラえもんを殆んど放置していたような状況であったと言う事であった。なので、2人はそれについてドラえもんに謝罪をするものの、当の本人は全く気にしていなかったらしく、その点については大丈夫だと言う事を伝えたため、殆んど放置していた件についてはあっさりと解決した。

 

 こうして、予算も殆んど使いきった状態である事から、4人は買い物を終えて家に戻る事になった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とドッジボール対決

「あらまあ……レミリアちゃんとフランちゃん、随分可愛いお洋服を買ってきたのね。背負ってるランドセルもお似合いよ」

「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいわ」

「私もだよ! これで、お兄様に胸を張って見せられるね!」

 

 巨大複合型商店で学校に着ていく洋服やランドセル、靴やアクセサリー類を買って家へと戻っていった後、レミリアとフランはのび太の母親に買ってきた服を着てアクセサリーをつけ、ランドセルを背負った姿をお願いして見てもらっていた。万が一自分たち2人の格好に変なところがあった場合、指摘してもらう事で本命であるのび太に見せる時に、恥ずかしい事にならないように満足かつ完璧でいるためである。

 

 そう言った意図を持って見せた、新しく買った服にランドセルを背負う格好はかなり好感触であり、のび太の母親曰く違和感なども見られないとの事であるため、レミリアとフランはこのままのび太が帰って来た時に見せて感想を聞いてみる事を決意した。

 

「八雲さん。ランドセルはともかくとして、2人に買ってあげたこの服は相当お高いものなのですか?」

「まあ、確かに普通の服屋よりは良いところの物でしたから。とは言え、1着何十万もするような高級品を何着も買ったと言う訳ではありませんわ。それに、2人は服に関して言えば高級品に興味がそれほどある訳ではありませんし、大人の見栄で過剰に着飾らせたせいで、傷つけたくありませんから……あ、今までそう言った経験があった訳ではありませんので、ご安心くださいませ」

「なるほど。お子さんの事を良く考えていらしているのですね」

 

 一方、のび太の母親はレミリアやフランが買ってもらっていた4着の服を見ていて、素材や見た目からそれらがかなり値段の高い物であると判断したようで、紫にそんな事を聞いていた。今回2人の服を買った店は、普通の服屋よりは良い素材で出来た物を売っていたため、そこの物よりは高めであった。

 

 ただ、1着10万円を超えるような高級な服は当然の事ながら、3万円を超えるような値段の高い服を売っていた店ではなかったため、紫は質問に対してその事実も交えてあまりにも高い物は買ってはいないと答えた。そして、更に言葉を付け加える事によって、レミリアとフランの事を第一に考えていると言う印象をのび太の母親に与える事となる。

 

「さて、そろそろお昼の支度をしますか……あ、紫さんも食べて行きます? 今日のメニューはコロッケですけど」

「あら、宜しいのですか? では、是非とも頂きたいと思います」

 

 そんな会話を交わしたり、テレビを見たりしてそれについての話をしながら過ごす事1時間、昼食時になったためのび太の母親が用意をし始めた。その際に紫を昼食に誘い、本人も快諾した事で平日ではあるものの、今日は5人での食事となった。

 

「今日はコロッケだってよ、お姉様! お兄様のお母様の作る料理の中でも、かなり好きなんだよね」

「なるほど。私はそうね……和食だとお味噌汁、洋食だとフレンチトーストかしら。まあ、コロッケも美味しいから好きだけどね」

「確かに、お姉様の挙げた奴も美味しいもんね! でも、やっぱり咲夜の作る料理には叶わないかな」

「当然よ。咲夜の作る料理に敵う料理人なんて、居る訳ないじゃないの。ただ、それに近い腕を持ってるから、もしうちに居てくれたら良いのにとは思うわね」

 

 昼食が作られている間、レミリアとフランはのび太の母親が作る料理についての会話を交わしたり、咲夜の作る料理の方が優れていると褒めたりしながら過ごしていた。

 

 2人が会話の中で咲夜の料理の方が優れていて美味しいと言っても、のび太の母親が非常に劣っていると言う意味ではなく、むしろ両方とも料理の味については高水準であるため、どちらか選べと言われた場合に咲夜の方を選ぶ位の差でしかない。

 

 更に言えば、咲夜が主に作るのが洋食であるのに対して、のび太の母親が主に作るのは和食である。得意分野が違うため、余程不味いものでなければ後は好みなどの問題でしかない事もあり、客観的にはどちらが優れているとも決めづらい。

 

 昼食を作り始めてから40分程経った時、どうやら出来上がったらしく、のび太の母親が居間でのんびりしていたレミリアとフランを呼びに来た。なので2人は見ていたテレビを消し、話を一旦切り上げてキッチンへと向かう。

 

「うわぁ……コロッケがいっぱいある!」

「フランちゃんコロッケ好きみたいだから、量を多めにしてあるからね」

「そうなの!? えへへ、ありがと!」

 

 レミリアたちが席に着いていざ食べようとした時、そこにあった沢山のコロッケにフランが瞳を輝かせた。基本的に少食のレミリアは2個で、ドラえもんや紫は3個か4個であるのに対して、フランの皿にだけ倍以上の10個が盛られていた上、他の4人のコロッケよりも1つ1つが少しだけ大きかったためである。

 これは数日前に、フランがコロッケを初めて食べた際の反応がとても良かった事に由来していた。

 

「本当、貴女ってコロッケ好きよねぇ」

「うん! まあ、()()()()()()()には到底及ばないけどね!」

「あらあら……微笑ましい事」

 

 そうして、いただきますの挨拶を軽く済ませると、フランは早速コロッケを頬張り始めた。出来立てであるためかなり熱くなっているが、そんなのはお構い無しとばかりに食べ進めている。

 

 あまりにも美味しそうに食べる様子から、レミリアが自分の分を食べつつ、コロッケ本当に好きなんだなと独り言のように言うと、フランがそれに反応し、笑顔でレミリアやのび太には到底及ばないと含みを持たせた感じで言った。そんな姉妹の微笑ましい光景を、紫は本当の子供を見るような感じで見ていた。

 

 それから、やり取りを交わしつつ皆で食事をのんびり楽しみ、片付けを終えて紫が家を出てから姉妹はすぐに2階の部屋へと向かい、まだ時間が2時間以上あるにも関わらず、それぞれのび太が帰って来た時に1番見せたい服へと着替え始めた。

 

 フランは、少し暗めのピンク色を基調としたワンピースの上に白寄りの灰色でフード付きパーカーに、膝上までの紺色ソックスを履く。対して、レミリアは深紅色の薄い長袖に紺色のズボン、黒の髪留めとネックレスを付けた。この時期の割には暑めの格好ではあったものの、出かける前に浴びたテキオー灯の効果が残っているため、特に問題はなかった。

 

「早くお兄様帰ってこないかなぁ……待ち遠しいよ」

「まあ、確かに待ち遠しいけれど2時間程度よ。気長にお話でもしながら待ちましょう」

「うん!」

 

 1番見せたい服に着替え終えた後は、2人で部屋の中で他愛もない会話を交わしたり、どう言う訳かドラえもんが一向に2階まで上がって来る気配が全くないため、ここぞとばかりにイチャイチャしながら過ごした。ただ、ここが紅魔館ではない事や家に2人以外にもドラえもんやのび太の母親がいるため、激しめのスキンシップなどは自制し、軽めのスキンシップで済ませている。

 

「レミリア、フラン。のび太君が帰って来たよ。それと、2人にお願いがあるみたいだから、聞いてあげて」

「そうなの? ええ、分かったわ……フラン。ランドセル背負って行くわよ」

「はーい!」

 

 会話やスキンシップなどで時間を潰し始めてから2時間半、やる事がなくなって寝転がっていた時にドラえもんがやって来て、のび太が帰って来た事を伝えに来た。その際、何か頼み事があるらしいから聞いてあげてと言っていた事に少し不思議に思う2人であったが、のび太からのお願いだったら聞いてあげようと考えながら、ランドセルを背負って玄関へと向かった。

 

「お帰りー! ねえ、お兄様見て! 今日ね、お姉様たちと一緒に新しいお洋服とランドセルを買ったの!」

「その……出来ればのび太から感想を聞かせて欲しいって思ってるんだけど、私の格好……どうかしら?」

 

 そして、お願いを言われる前にフランがすかさずのび太に対して話しかけ、強く迫るようにして今の格好に対する感想を求めた。レミリアはそれに続き、少しだけ恥ずかしそうにしながら同じようにして感想を求めた。

 

「えっと……2人とも、いつもより()()可愛くなってると思うよ」

「「……」」

 

 すると、知ってか知らずか、のび太が自分たちに最も言って欲しかった一言を、驚きながらも咄嗟に口に出したのを聞いた。故に、急に何も言えなくなって、この場を沈黙が支配し始めた。それを見て、普段の格好が全く可愛くないと言う風に誤解をされたと思い込んだのび太は、非常に慌てながらいつもの2人も可愛いと訂正を入れようとする。

 

「お兄様、ありがとう……! 今、私が1番言って欲しかった一言をもらえて、とっても嬉しい!!」

「のび太……ありがと」

 

 しかし、その訂正を入れる前にフランがのび太の胸に顔を埋め、目に嬉し涙を浮かべながら可愛いと言ってくれてありがとうと言い、レミリアがさっきよりも恥ずかしがりながらお礼を言った事で、ようやくあの沈黙が嬉しさ故の物であったのだと察し、のび太はほっと胸を撫で下ろした。

 

「それで、お兄様のお願い事って何? 最高に嬉しい気分だから、今なら何でも聞くよ!」

「フランと同じで、私ものび太のお願い事だったら何だって聞いてあげるわ」

「あ、うん……ありがとうね。で、僕が2人にお願いしたいのは……」

 

 そうして数分が経ち、少し落ち着いたところでフランがお願い事について聞いた事で、のび太もそれについて2人に話し始めた。

 

 のび太曰く、児童同士で企画した学校のグラウンドで行うクラス対抗のドッジボール対決が今日であったものの、タイミング悪く参加者の中で学校を休んでしまった人が3人出たらしい。その補てんで、レミリアとフランを連れてきてくれと、ジャイアンから言われたとの事。

 

 あくまでも遊びであるとは言え、クラス対抗なのに()()部外者である連れて行っても良いのかとレミリアが聞くと、ジャイアンが相手と交渉して、小学生の知り合いなら問題ないとの話がついたから大丈夫なようだ。ルールについても、学校のグラウンドに向かうまでの間に説明するとの事から2人は快く受け入れ、急いでランドセルを部屋に置いた後、のび太の母親に出かけてくる旨を伝えてから、新しく買ったスニーカーを履いて目的地へと向かう。

 

 道中、自身の格好を可愛いと言われた時の興奮が未だに持続しているフランが外でも露骨に甘えてきたり、レミリアが話しかける頻度が増えたりしたが、そんな状況下でものび太はいつも通り接していた。案の定、たまに誰かの視線を浴びる事もあったが、そんな人は居ないものだと思ってそれらは全て無視する事に決めていた。

 

「ジャイアン、2人を連れてきたよ!」

「お、のび太か。ご苦労さん……って2人共格好変えたんだな。随分とお似合いじゃないか」

「ふふっ、でしょ! お兄様にも、可愛いって言われたの!」

「そいつは良かったじゃないか、フラン」

 

 色々なやり取りを交わしながら会場であるグラウンドへと着くと、のび太はそこに居たジャイアンに対してレミリアとフランをを連れてきた事を報告した。すると、ジャイアンはほっとしたような表情を見せながらのび太を労うと、2人の変わった格好をお似合いだと褒めた。フランはそれに対して更に気を良くして、のび太に可愛いと言われた事を強くアピールすると、ジャイアンはそいつは良かったと言いながら頭を優しくぽんぽんと叩く。

 

「そう言えば、私たちの相手は誰なの?」

「ん? 俺たちの目の前に居るぞ」

「へぇ……あの人たちが今日の相手なんだ……!?」

 

 そして、フランがジャイアンに対して今日のドッジボールの相手は誰なのかと質問すると、目の前に居る男の子12人を差したため、レミリアも一緒になって確認したところで、途端に顔を曇らせる。何故ならその中に忘れもしない、のび太に対して掃除を押し付けた上に怪我までさせた、恨みしか湧かないあの時の体格の良い男の子が居たためであった。

 

 レミリアは無表情で見つめるだけで済んでいたものの、フランは可愛いと褒められて興奮覚め止まぬ状態だった反動と、のび太の表情に少しだけ怯えのようなものが見られた事から、あの時とほぼ同等の猛烈な敵対心を抱くと同時に何らかの考えが頭に浮かばせ、思わず狂気が混じる笑みを溢しながら、相手の方をじっと見ていた。

 

 フランの態度の豹変ぶりにジャイアンは驚くも、聞いたら恐ろしい事になりそうだと言う理由から聞くのは止めておく事に決め、すぐさま準備が出来た事を相手に伝える。すると、フランを知らない他の男の子は助っ人が小さな女の子だと言う事に対して驚いたり、これなら大丈夫だと余裕をかましたりしていたものの、体格の良い男の子だけは恐怖で顔がひきつっている。

 

「さて、そろそろ始めようぜ。ああ、言っておくが……お前ら、この2人を舐めてかかると痛い目見るぞ。覚悟しておけ」

「あ、ああ……」

 

 そんな中、ジャイアンが相手にレミリアとフランを舐めてかかるなと警告した後に全員が位置につき、ジャンプボールが相手チームに渡ったところでドッジボールの試合が始まった。

 

 すると序盤、相手が小さな女の子だから当てるのも余裕だろうと舐めてかかっていた1人にフランは本気で狙われるも、そのボールを()()()当たるか当たらないかのギリギリで避けた。これにその1人が驚いてしまい、一瞬だけ隙を晒してしまう。

 

「ほら、隙だらけだぜ!」

「あっ……」

 

 当然、その隙を見逃されるはずがなく、フランの後ろでボールを取っていたジャイアンが相手の足元に投げつけて当て、後は何もさせずに相手を外野に追いやった。これにより、フランを警戒した相手の面々が、まずは他の味方を外野に追いやる事に専念し始めたため、気を引き締める。

 

「くっ……相手、なかなか強いな。7対11か……」

 

 試合が始まってから2分、相手の主力陣の強力な投球によって立て続けに味方が外野へと追いやられ、今度はレミリアが例の男の子の全力で狙われるも余裕で取り、すかさず別の相手に投げ返して当てた。更に、運良く味方陣地に跳ね返ってきたボールを味方が取って投げるも、これは例の男の子に取られてしまう。

 

「レミリア、流石だな」

「あら、褒めてくれるの? ありがとうね」

 

 一言レミリアとジャイアンが会話を交わしていると、好機と見た例の男の子が2人の側に居たのび太に攻撃を仕掛けるが、それが既に見えていたレミリアが再び取り、今度は本人に反撃を仕掛けた。これは構えていた例の男の子に取られてしまったものの、レミリアにとっては想定内であったのか、全く慌ててはいなかった。

 

 試合開始から5分経った頃、のび太やスネ夫が外野に送られて更に数的に不利になるも、味方の外野が相手にボールを当てて陣地に復活し、フランが容赦のない攻撃を仕掛けて自分を舐めていた相手を2人外野に追いやった事で同点に追い付いた。ここまで来ると、もうレミリアやフランをたかが女の子だと舐めてかかる男の子たちは居なくなった。

 

「くっ! あの2人の女の子強すぎだろう!? オレたちと余裕で渡り合えてる……と言うか、未だに一撃すら与えられてない!!」

「試合中に余所見してないで、こっち見てなよ!」

 

 ただ、だからと言ってレミリアとフランに一撃を与えられるようになる訳もなかった。相手は2人……主にフランの手によって順々に叩き潰され、ジャイアンや外野から復活したスネ夫のアシストに加えてのび太の奇跡的な一撃による復活によって、更に試合が始まってから10分経った頃には7対1と言う圧倒的大差を付ける事に成功していた。

 

「お兄様に掃除を押し付けるだけに飽き足らず、怪我させたお前だけは……お前だけは絶対に許さない……!」

 

 そして、最後に残った例の男の子はフランが誰にも聞こえないような小さな声で呟きながら、吸血鬼としての本気は出さずに手加減しているとは言え、狂気混じりの怒りや恨みを込めた一撃で容赦なく当てて倒し、相手陣地に誰も居なくなった事で勝利を勝ち取れたため、これにてドッジボール対決は幕を閉じる事となった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とお勉強

「2人共、来てくれて助かったぜ。お陰で勝つ事が出来たからな」

「ふふっ。まあ、あのくらいなら造作もないわ。それで、私とフランの動きはどうだったかしら? あまり人外染みた感じだったら、ちょっと不味いのだけど」

「ああ……ソイツは問題ないと思うぞ。あれくらいの動きだったら出来杉も出来るし、俺も頑張れば出来るからな。まあ、女の子であそこまで動けるような人は居ないから、そう言う意味では不味いかもしれないが」

「なるほどね。まあ、人間じゃないと思われなければ多少目立つ位は良しとしましょうか。どうせ、この容姿である程度は目立ってしまうだろうからね」

 

 学校のグラウンドでの他クラスの児童とのドッジボール対決を終えたレミリアたちは、そのついでに5人で宿題をやるついでに遊ぶため、のび太の家へと向かいながら良い感じの雰囲気で会話を交わしていた。

 

 児童のみで計画した、遊びの側面が強いクラス対抗のドッジボール対決であり、いつものメンバーではなくレミリアやフランが助っ人として参加した状態ではあったものの、圧倒的勝利を飾る事が出来たとあってジャイアンの機嫌はこの上ないものであった。

 

「なあ、のび太。さっきからフランの機嫌があまり良くないみたいだけど……」

「うん……どうしてなのかな? 僕には分からないや」

 

 しかし、それと対照的にフランの機嫌が対決を勝利で飾ったにも関わらず、あまり良くなかった事に不思議がったスネ夫がその事をのび太に話した。

 

 のび太自身、相手が自分に掃除を押し付けた人で、フランがその相手に対してストッパーがなければ殺しかねない程怒りを露にしている事は知っているが、ドッジボール対決で完膚なきまでに打ち勝って勝利しているため、機嫌が良くならない理由が分かっていないため、スネ夫にその旨を伝えた。

 

「どうした、フラン? もしかして、今日戦ったアイツらに何かされた事があるのか?」

 

 レミリアとの会話を終えたジャイアンが、自分の知らない間に相手に何かされたのだと推測したようで、フランに対して出来るだけ穏やかを心がけ、声をかけた。

 

「されたのは私じゃなくて、お兄様だよ?」

 

 すると、声をかけられたフランはジャイアンの方を振り向き、恐怖を感じる笑みを浮かべながら一言だけそう言い放ち、無意識に狂気を放ってしまった。そのため、声をかけたジャイアンは冷や汗をかき、スネ夫はフランから距離を取る行動を起こしてしまうものの、のび太は1度狂気を見ている事と、自分に向けられたものではない故にあまり反応を示さなかった。レミリアは言わずもがな、落ち着いた様子である。

 

「なんて恐ろしさなんだ……と言うか、のび太の奴さっきの奴らに何されてたんだ? フランのあの口振りからして、相当キツイ事されてた感じだ――」

「ジャイアン。理由、知りたいのかしら?」

「レミリア、知ってるのか? まあ、気にはなるから教えてくれるなら頼む」

「分かったわ。それで、のび太とフランから聞いた話だけど……」

 

 そして、ジャイアンが一体のび太は今日の相手に何をされていたのかとの疑問を、誰に話しかけるでもなく1人で言っていると、隣に居たレミリアが理由を知りたいのかと言いながら割り込んだ。実際、フランがあれ程までに強烈な威圧感を放つ理由を知りたいと思っていたので、その問いに対して肯定の意を示す。すると、レミリアは当日に当事者であるのび太やフランから聞いた話を、一応周りに漏れないような対策をした上で、そっくりそのままジャイアンに対して話し始めた。

 

 毎日ではないものの、時折自分たちが遊びに行ったり面倒臭いと言う理由で気弱く非力なのび太に掃除を押し付ける酷さ。

 断られないために数人がかりで威圧したりした上、誰かに告げ口されないようにするのも欠かさない汚さ。

 その上、勇気を振り絞って断ったのび太に暴力を振るい、軽くではあるが怪我を負わせた凶暴性。

 

 これらを全て、フラン程露骨ではないものの怒りを滲ませながら話しているレミリアを見て、ジャイアンとスネ夫は何も反応を示す事が出来なかった。

 

 その理由には、全員ではないとは言え今日の相手がそのような酷い行為をのび太に行っていた事に対する酷さを感じたと言うのも勿論あった。しかし、それ以上に自分たち自身も彼らに類する行為をのび太に対して()()()()()()()()()()()()があったと言うのが大きいためだ。

 

「それに、フランはね。家族か自分が家族同然だと認識した人を『少しでも』傷つけられると、烈火の如く怒るのよ。確か、今から1ヶ月位前だったかしら。その時、迂闊にもとある妖精の悪戯に引っ掛かって、フランから『大好きなお姉様へ』ってもらったネックレスが壊れて、落ち込んでたのよ。そしたら、そんな私を見たフランが……まあ、その後悪戯の張本人がどうなったかは察して欲しいわ」

「おう……分かった」

「まあ、あの状態のフランを見て何となく僕も察したよ。ロクな目に合っていないってね」

 

 更に、レミリアが幻想郷で起こった『ある出来事』をある程度を話した事により、これらの事実がフランに知られた場合に彼らが受けた報復と同じものを受ける可能性もさることながら、容赦なく天国送りにされてしまう可能性すら出てきた事に、ジャイアンとスネ夫は心の中で恐怖を感じると同時に、それを言わなかったのび太の底無しとも言える優しさに感謝をしなくては居られなかった。

 

 その後、のび太が言葉や色々な行動で上手くフランを落ち着かせて笑顔を取り戻させた事で通常の雰囲気に戻り、楽しく会話をしながらのび太の家へと5人で向かった。

 

「こんにちはー! おばさん。のび太の家で一緒に宿題したいんですけど、良いですか?」

「ええ、そう言う事なら良いわよ。2人共、上がって」

「「ありがとうございます!!」」

 

 家に着くと、早速スネ夫が家のチャイムを鳴らして中に居たのび太の母親を呼び、宿題をするために家に上がっても良いかどうかを聞いた。結果、そう言う事なら断る理由もないとの事であっさりと許可が降りたため、ジャイアンとスネ夫は家へ上がれる事となった。

 

「ただいま、ドラえもん!」

「よう、ドラえもん。邪魔するぜ」

「帰って来たよー!」

「ドラえもん。今戻って来たわ」

「のび太君にフラン、レミリアもお帰り。ジャイアンもスネ夫も居るけど、何しに来たの?」

「ああ、のび太と一緒に宿題をやりにね。で、それが終わったらついでに遊ぼうかと思って」

「なるほど。そう言う事なんだね」

 

 2階の部屋へと上がり、どら焼きを食べながらのんびり過ごしていたドラえもんに軽く挨拶をした後、のび太とスネ夫とジャイアンの3人は宿題をやり始めた。レミリアとフランは学校に通う前であって宿題がないため、3人がやっているのを見るだけとなっている。

 

 ただ、今日の宿題の量がそれなりに多い上に難易度も高いのか、進む様子があまり芳しくない。故に、1時間も経つ頃には見ているだけではつまらなくなったフランが自分に分かる問題に関して口を出してのび太を主に助け始め、レミリアも続いて同じようにジャイアンやスネ夫が解けていなさそうな問題を中心に口を出し始めた。

 

 これによって、進んでいなかった宿題の進むスピードがかなり上がり、30分も経つ頃には全員の分が殆んど終わる事となった。ドラえもんのチェックによって正答率もかなり上がっている事が判明したため、やっていた3人は驚く事になる。

 

「運動はともかく勉強もこんなに出来るなんて、レミリアとフランは凄いなぁ。僕なんか全然出来ないのに」

「ありがとう。でも、あまり自分を下げない方が良いわよ。のび太」

「そうだよ! 勉強が苦手でも、スポーツが苦手でも、お兄様には誰にも負けない『優しさ』があるんだから! それに、前までは酷かったとしても、今は頑張ってるじゃん! ね? だから、元気出して!」

「……うん。ありがとね、2人とも」

「どういたしまして」

「えへへ、良かったぁ」

 

 宿題を全て終えた後、2人の頭の良さにのび太が自分を少しだけ下げ始めるも、フランが精一杯元気付けようと言葉や仕草を見せた事で、普段通りに戻った。

 

 その後は全て宿題を終えた事から勉強から離れ、トランプやすごろく等の遊びから、未来のボードゲームをドラえもんに出してもらい、休憩がてらそれで遊んだ。

 

 たかが一般販売されているボードゲームとは言え、未来で発売されている物である。当然、現代の物とは比べ物にならない程の機能を兼ね備えていたため、のび太やドラえもんも含めて全員がかなり楽しめていた。そして、最終的には奇跡のオンパレードによる追い風もあって、フランの圧倒的勝利で幕を閉じた。

 

「あんな奇跡を叩き出されれば、誰だって負けるわよ……」

「はは……そりゃそうだが、楽しかったから良いじゃないか」

「まあ、そうね。フランはどうだったかしら?」

「勿論、楽しかったよ! またやろうね!」

「ああ、勿論だぜ! なあ、スネ夫」

「そうだね。また都合の良い時、皆で集まろう」

 

 そして、ちょうど良いタイミングで夕方の帰る時間になったため、今日は切り上げてジャイアンとスネ夫は帰る事になった。その際、2人は家に帰らず遊んでいた事を思い出して不味く思うも、今更考えても仕方がないので謝った時に何て言おうかと相談しながらのび太の家を出て行った。

 

「突然だけどさ、私とお姉様がお兄様と一緒に学校に行くまでもう後2日なんだよね」

「ええ、確かにね。もう明後日にまで迫って来ているなんて、時が経つのも本当に早いわ」

「そうだね。2日後なんて僕でもいつも通り生活を送ってて、あっという間に過ぎるって感じる時もあるから、レミリアとフランの2人なら余計にそう感じるのかも」

 

 すると、ジャイアンたちが家を出てからすぐ、フランが明後日に迫った学校生活についての話をし始めた。初めての経験でワクワクしているのに加えて、大好きなレミリアとのび太の2人と一緒に居れる時間が増えるとだけあり、相当楽しみで仕方ないと言った感じであるようだ。

 

「まあ、現代の町に来てからはともかくとして、幻想郷に居る間はのび太の言う通り、気づいたら何日も過ぎてたみたいな時もざらにあるわ。何せ、襲撃を受ける事なんてないに等しいから平和だし、色んな友人知人が居る自然豊かな良い所だけれど、裏を返せばここみたいに目新しい何かが殆んどないから、暇なのよね」

「うん! 確かにお姉様の言った通りだけど、それでも幻想郷はスッゴく良い所なんだよ! お兄様もドラえもんも、もし来た時は案内と護衛をしてあげる! ただ、夜中は私たち『妖怪』の時間で、特定の場所以外だと食べられても文句が言えないから危ないんだけど……」

 

 フランの話に反応してのび太が言った事に対してレミリアが肯定し、幻想郷は基本的にとても平和で過ごしやすくて良いところだが、その分新鮮味があまりないので暇になりやすいと付け加える。

 

 更に、フランがレミリアの話した事に対して同意をすると、まだ話し合いすら行われてはいないものの、のび太とドラえもんが幻想郷へ来た場合には案内役兼護衛を買って出る事を確約した。

 

「もし、その時に例えば幻想郷の夜の景色が見たいとか、何か理由があって外を出歩きたい時は言ってね! 襲って来た奴が居たら、私がソイツを()()()して守ってあげるから! 勿論、昼間も大体同じだからね!」

「「「……」」」

 

 加えて、一呼吸置いてから笑顔で部屋にあった空のスチール缶を握り潰し、そう言う話をし始めたため、場の空気を凍りつかせた。過激な言葉が苦手なのび太に気を使ってソフトな言葉を使っているが、フランの言葉には()()()()()()()()()()()()()()()と言う意味が含まれている上に、全員即座にその意味を察した。なので、ストレートに襲ってきた奴は全員殺すと言うのと何ら変わりはなかったが。

 

「さて……取り敢えず、いつになるか分からない幻想郷にのび太たちが来る話は置いといて、フラン。お勉強を始めましょうか」

「お勉強? 今日はもうやったのに?」

「そうよ。今までもそれなりにやってはいたけれど、それでもしないよりは増やした方がマシでしょう? 今日、のび太たちのやってた宿題は殆んど分かる問題ばかりだったけれど、教科書を見る限りだとあれだけとは限らないじゃない」

「まあ……うん。確かにね」

 

 そうして、実現するかも不明な上にいつになるか分からないのび太たちの幻想郷旅の話をしていると、レミリアがそれはひとまず置いといて、2日後の学校通いに向けてもっと勉強をしようとフランに声をかけた。今日の宿題の問題は解ける物ばかりあったが、僅かばかり分からないようなものも混じっている上に学校見学の日にもらった教科書を改めて見て、理解の出来ない部分が多くも少なくも露呈したためである。

 

「それに、分からないだけならまだしも、授業で当てられた時に間違ってる答えを皆の前で堂々と言い放ったりしたら、恥ずかしいでしょう? 仮に、それを何十回も繰り返したりしようものなら……目も当てられないわ」

「なるほど……」

 

 後はもう1つ、分からないだけなら少し恥ずかしい思いをするだけで済むが、的はずれな答えを1回だけならともかく何回も堂々と言い放ってしまおうものなら、大きく恥をかいてしまう可能性が高いと言う理由もあった。

 

 まあ、仮にもアメリカの留学生と言う体で学校に来る故に、からかわれたりそれ以上の事態へと発展する可能性は小さいだろうが、ゼロではないため万が一と言う事もあり得る。そんな感じでフランも理解しているのか、レミリアの発言に対して納得していた。

 

 故に、フランはその場に居たドラえもんに対して勉強の先生を依頼して了承してもらい、更にレミリアが漫画を読もうとしていたのび太に半ば強引に巻き込んで、3人での勉強会が開催される事になった。正直勘弁してくれと思っていてそれを声に出そうか迷ったのび太であったが、姉妹の息のあった『お願い』をされて断る事が非常にしにくくなったために、声には出さない事に決めて勉強を一緒に始めた。

 

 途中で夕飯が出来たと言って、のび太の母親が2階の皆居る部屋に呼びに来たものの、珍しく自分の息子が真剣に教科書などを使いながら宿題ではなく勉強をしている姿を見て、せっかくやる気になっているのにそれを削いでしまったら意味がないと思ったらしく、それ以上は何もせずにこの場を去っていった。

 

「今までは結構流して読んじゃう事も多かったから、見覚えのない箇所も幾つかあったわね」

「うん。今更だけど、もっとしっかり読んでおけば良かったなぁ……」

「いや、それでも2人の理解力は凄いと思うよ。やっぱり、500年以上も生きてたから、館にあるって言う膨大な本から類する知識を得たのかな?」

「ええ、ドラえもんの言う通りよ。うちの館の地下図書館には外から流れ着いた多種多様な本や、幻想郷に向かう前の時代にお父様やお母様たちが集めた魔導書もあって、それらを目的は何であれ結構読んでいるからね」

「なるほど。まあ、目的は違えどとにかく沢山の本を読んでいれば、知識は得れるからね……のび太君も、たまには他の本も読まないとダメだよ」

「分かったよ。ドラえもん、それよりもお腹空いたからご飯食べに行こう」

 

 勉強を始めてから2時間が経った頃、夕食を取らずにいた事によってのび太の空腹が限界に達して集中力が保てなくなったため流石に勉強をやめる事に決め、キッチンへと向かう。

 

 そして、お腹が空いていた事もあって全員かなり速いペースでラップがかけられた夕食を食べ、片付けを済ませた後はレミリアとフランが先でのび太とドラえもんが後と言う順番で入浴を終わらせた。その後は何もやる事がなかった上に、もうすぐ寝る時間も近い事からのび太の母親にそう促されたため、寝る準備を済ませてから皆それぞれの部屋で寝る事に決まった。

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とクラスメート(前編)

「さてと、いよいよこの日がやって来たわね。学校へ通う日が」

「そうだね、お姉様。お兄様は知ってるから良いとして、お兄様のお友達は私たちと同じクラスだって知ったらどんな反応を示すんだろうね。驚くのかな? それとも、大して驚かないかな?」

 

 現代旅を始めてから11日目の朝、初めての学校通いの日がやって来たため、レミリアとフランは高ぶる気持ちを抑えながらランドセルに荷物を詰め込み、買った洋服ではなくいつもの格好に着替え、出発に備えていた。

 

 特に、フランに関してはレミリアはもとより、のび太も加えた3人で共に居る時間が大幅に増える事や学校生活そのものに対する興味、自分たちが一緒のクラスになる事を全く知らないであろうジャイアンやスネ夫、しずかちゃんがどう驚くかが楽しみで仕方ないようで、朝に起きてからずっと高いテンションのままであった。

 

「うーん……そうね。私の予想だと、大して驚かない方だと思うわ。初見なら驚いたかもしれないけど、ジャイアンやスネ夫たちとは何度かのび太を通して会っているでしょう? 精々、同じクラスになってたのかって、少し思う程度じゃないかしら」

「ふーん……そっか。まあ、それならそれで良いや」

「あら、そうなの? あれだけ楽しそうに言ってたから、結構拘っていたと思ったのだけど」

「拘ってなかった訳じゃないよ。でもね、それはあくまでもおまけ。お姉様とお兄様が一緒なのがメインだから、なくたって構わないの!」

 

 しかし、レミリアは同じクラスになる知らない人たちであればまだしも、ジャイアンとスネ夫としずかちゃんの3人とは既に一緒に遊ぶなどして交流があり、故にそれ程驚かないのではないかと思っていたために、フランの問いかけに対して否定的であった。

 

 更に付け加えるなら、のび太を学校の玄関まで何度も見送りに行ったり、体育の授業を見学したり、それぞれ1度だけではあるものの野球遊びやドッジボール対決をクラスメートと行っているため、フランの期待するほどの驚きを得られない可能性があるのも、レミリアの否定的なもう1つの理由でもある。

 

 ただ、レミリアの否定的な意見を聞き、当のフランはそれならそれで仕方ないとあっさり諦める事を決めていた。本人にとっては驚かせると言うのはおまけであり、興味のある学校生活を大好きな()()()()()()()()()送る事が出来さえすれば、のび太の友人を含めた他の人がどう言う反応を見せようが、関係ないからだ。極端な話、全員無反応でも問題はないとすら思っていた。

 

 逆に言えば、レミリアかのび太が何らかの理由で欠けていれば、クラスメートが望む反応を示してくれたとしても、フランが全く楽しめなくなるどころかいずれ苦になる可能性が高いと言う事である。

 

「それにしても、自己紹介を英語と日本語の両方でよろしくお願いします……だっけ? お兄様も含めて殆んど英語が分からないはずなのにね。しかも自己紹介だけじゃなく、1時間丸ごと交流会に使うって言ってたけど、どうしてなのかな?」

「大方、私たちが()()()()()()()()()()って事だからじゃない? のび太たちの学校だとかなり珍しいみたいだし、軽く挨拶していきなり授業を始めると言うのも味気ないって判断したのかも。私が向こう側の立場なら多分、同じ事を考えていたと思うわ」

 

 のび太のクラスメートが驚くかどうかの話が終わり、手に取った学校見学の予定表に書かれている『自己紹介も兼ねている交流会の話』になった時、フランがとある疑問を呈した。自己紹介をする際に日本語はともかくとして、()()でもお願いする旨の文が書かれている理由が理解出来なかったらしい。

 

 そんな疑問に対して、レミリアはのび太の通う学校にとって()()()()()()()()()()である自分たちが珍しいが故に、今回のお願いがされる事になったのではないかとの推測を立て、フランに説明をした。仮に、自分が学校側の立場になってみたとするならば、恐らく予定表に書かれている事と同じ事を考えていた位には、レミリアはこの推測に自信を持っているようだ。

 

「ふーん、なるほどね。でも、交流会ならきっと『アメリカ』って国の事について色々と突っ込んで聞いてくる人も居るでしょ? お兄様とお兄様の友達なら、お姉様と私の住んでる場所が『幻想郷』であり、『アメリカ合衆国』ではないって知ってるから聞いてこないだろうけど」

「フラン、それなら心配要らないわよ。昨日私がドラえもんに頼んで、これを用意してもらったからね」

「えっと……なんか色々書かれた紙と、食パン?」

 

 自信ありげに話すレミリアを見て、フランは頷いて納得した意思を示すと、アメリカの知識が不足気味な事について少しだけ不安を見せた。交流会と言う事は、絶対と断言しても良い程出身地について聞いてくる人も出てくる。その際に、うっかり皆にとって妙な事を口に出してしまう危険を理解しているがための不安であったが、レミリアはその不安を消すため、フランに一般的なサイズの紙数枚とこれまた一般的な食パンを数枚差し出した。

 

 一体何でこんな物を渡してきたのだろうと不思議に思っていると、レミリアがそれの使い方の説明をし始めた。

 

 レミリア曰く、紙の方は本当に何の変哲もないただの紙らしいが、食パンの方は『アンキパン』と言う、そこに文字を写して食べる事ですぐに何かを覚える事が出来ると言う、ドラえもんの持つひみつ道具との事。使うタイミングによっては最強の道具だが、あくまで食べ物であるため、トイレで出してしまえばそれまでであると言う欠点が存在した。

 

 未来の道具で現代のアメリカまでについて徹底的に調べ上げ、留学生と言う体裁を保つために必要な情報をピックアップして書き込んだ紙にアンキパンを押し付けて写し、食べる事によって丸々その知識を頭に入れれば並大抵の事ではボロが出ないが、前述の弱点のせいで効果時間があまり長くないと、レミリアはドラえもんに説明されたようにフランにも一字一句違いなく教えた。

 

「流石、ドラえもんの道具だね。けど、話を聞く限り結構面倒そうだから……早めにそれなしでも覚えた方が良いかも。まあ、今日から1週間位はアンキパンのお世話になりそう」

「そうね。じゃあ、出発時間もそろそろ近い事だし、早速始めるわよ」

「はーい!」

 

 話を聞いて、フランがアンキパンの欠点と面倒臭さからいずれ自力で覚えた方が良いと言ったところで、学校へと向かう時間が近づいて来た。故に、2人は急いでアンキパンに紙の文字を写しては食べるのを繰り返し、何とか必要な情報全てを頭に叩き込む事に成功した。朝食を少し前に取っていたため、元々沢山食べる傾向のあるフランはともかく、小食のレミリアにとってはキツいものとなってしまったが。

 

 そうして知識の詰め込みを終え、外出のための準備も済ませたところで、母親やドラえもんに見送られながらのび太より30分遅れて学校へと2人は出発した。

 

「ねえ、お姉様。クラスで馴染むために、交流会で話す事を決めようよ! まあ、馴染めなくてもお兄様とお兄様の友達が居るから良いけど、やっぱり思い出づくりには馴染む事が必要でしょ?」

「ええ……なら無難にうちの館の事とか、友人の事とかなら良さそうじゃない。勿論、吸血鬼だとか魔法使いとか妖精とかの部分は上手い事ぼかす必要があるけど」

「なるほど。じゃあ、咲夜は人間だからそのまま紹介するとして、美鈴とパチュリーとこあをどう紹介するか、考えておかないとね!」

 

 道中、丸々1時間使われて行われる交流会で何を話そうかを決め、クラスに早く馴染めるようにしようとフランが提案をしていた。最悪、失敗してものび太やその友人たちがいるので孤立は絶対にないと言いきれるが、たった1度の学校生活を良い思い出で飾るには、クラスに馴染む必要があるとの判断からである。

 

 ただ、言うまでもなくレミリアも同じ事を考えていたため、フランから提案をされた際に、速攻で紅魔館の皆の事や2人の友人の事についてある程度ぼかした上で話す事を逆に提案をした。それに対して、何を話そうか迷っていたのもあったフランは納得し、館の皆をどう変えて紹介するかを考え始める。

 

 2人で15分程度話し合って考えた結果は、全員の非科学的要素を徹底的に排除した上でパチュリーと小悪魔は図書館の司書、美鈴は館の警備員、咲夜はそのままメイド長として紹介する方向で決まった。霊夢や魔理沙、チルノや大妖精やルーミアと言ったレミリアやフランにとっての友人知人については、日本で知り合った人やアメリカでの同級生と言う形で話がついた。

 

「あっ……フランドールさんにレミリアさん。お待ちしてましたよ」

「えっと、長く待たせちゃったかな?」

「いえ、僕も5分前にここに来たばかりなので、大丈夫です。では、行きましょうか」

 

 交流会の事について話し合いながら学校へ到着すると、玄関前で待っていた見学時にレミリアとフランを案内してくれた男の先生と一言二言交わし、一緒にクラス前まで向かった。その際、レミリアは落ち着いた感じで教室に入る時を待っていたのに対して、フランは対照的に落ち着きがない感じであったが、それには理由が2つある。

 

 1つ目は、40人近くの人間に一斉に視線を向けられた状態の中、1人で何かを話すと言った経験が今までなかったせいで緊張していると言う理由。

 2つ目は、40人近くの中にのび太が居る事で恥ずかしい失敗をしてはいけないと言う意識が過剰に強まり、それが枷となっていると言う理由があった。

 

 そんな様子を見たレミリアは色々と察したようで、緊張状態にあるフランの手を優しく握り、『自分も一緒なのだから大丈夫』や『のび太はフランの失敗をとやかく言う性格ではない』などと声をかけ、緊張を和らげる行為に出た。その結果はあったようで、フランの緊張はかなり和らぎ、頑張るから見ててと心の中でのび太にその言葉を向け、気合いを入れていた。

 

「では、お2人共どうぞ」

 

 待つこと15分、教室の扉が開いて担任の先生が出て来て、レミリアとフランに対して教室に入ってくるように促してきた。遂にこの時が来たかと思った2人は無意識に互いに手を繋ぐ力を強めながら、促されるがままに教室へと入って行った。

 

「さて、交流会の時どう話しかけようか……俺、英語話せないんだけど、日本語大丈夫だよな?」

「ねえねえ、あの子たちお人形さんみたいで凄く可愛くない!?」

「あっ、そう言えばあの2人と野球をやった覚えが……」

「ドッジボールの時にも居たな! あの時は凄かった!」

 

 すると、教室内がレミリアとフランの姿を視界に入れた瞬間、ざわめき始めた。ある男の子は交流会の時に話しかけたいが日本語話しても大丈夫なのか心配し、ある女の子の集団は2人が可愛い事を前提とした上でどちらが可愛いのか議論し始め、野球やドッジボールを一緒にやった事のある男の子たちはその時の話で盛り上がったりなど、反応は様々であった。

 

 ただ、既に知っていたのび太は当然全く驚かず、ジャイアンやスネ夫やしずかちゃんは少し驚いた程度で、他の盛り上がっている一部の児童たちのようになる事はなかった。

 

「はい、静粛に! 2人が困ってるぞ」

 

 そうして1分程経ち、このままだと予定通りに進まなくなりそうな状況になった時、担任の先生が盛り上がっている児童たちにレミリアとフランが困っているから静かにしろと自制を呼び掛けた事で静かになったため、一呼吸置いてからまずは英語で自己紹介を始めた。

 

「|Hello. My name is Remilia Scarlet.《こんにちは。私はレミリア・スカーレットよ。》 It's only been a month,(たった1ヵ月だけれど、)but I'm happy if you get along with me(仲良くしてくれると嬉しいわ)

 

 家族や親しい友人知人見せるような感じではなく、幻想郷でも殆んど見せる事のない『高貴なお嬢様感』を押し出した仕草を加えた挨拶をしたレミリアに、のび太を含めた全員が程度の差こそあれ、驚きを見せる事となった。

 

「|Well, My name is Flandre Scarlet.《えっと、私の名前はフランドール・スカーレットだよ。》 People close to me call me "Flan",(親しい人は私を「フラン」って呼ぶから、) so please call me that!(皆もそう呼んでね!)

 

 対して、フランは高貴なお嬢様感を押し出した挨拶ではなく、ほぼいつも通りな感じで挨拶を済ませたため、レミリアとはまた違った印象を与える事となった。

 

 ちなみに、のび太を含めた大半の児童は英語が分からなかったものの、このクラスで飛び抜けた天才的な頭脳を発揮している『出来杉』他英会話教室に通っている数人が分かりやすく翻訳し、伝言ゲーム方式で伝えていった事で全員が意味を理解したため、何を言っていたか分からないと言う事態は回避されている。更に、そのお陰で日本語での自己紹介の必要性が完全になくなったため、レミリアとフランは考えていたそれを封印する事に決めた。

 

「ええ……とまあ、こんな感じで英語で自己紹介をしてもらった訳だが、2人は日本語もまるで日本人のように会話が出来るから、コミュニケーションを取るのは苦労しないから、安心しても良いぞ」

「「「え!?」」」

 

 そうしてレミリアとフランの自己紹介が終わり、出来杉他数人の翻訳が伝わりきったところで担任の先生が話を始めたが、その際に2人がバリバリ日本語が話せると言ったところで、のび太一行と一部の児童以外の全員が今日1番驚く事となった。留学しに来る位だから日本語が全く分からないとは思っていなかったが、日本人と同等に話せるとも思っていなかったためだ。

 

「さて、自己紹介も済んだ事だし音楽室へ向かうぞ。勿論授業ではなく、交流会のためだ。一応忠告をしておくと、音楽室で出来る事は何でもして良いが、誰か1人でも除け者にならないようにする事。それと、ここの生活に慣れていない2人にあまり負担をかけない事。分かったか?」

「「「はい!」」」

 

 そうして担任の先生がいくつかの約束事をした後に、交流会のために借りておいた音楽室へ向かうと言ったところでクラス全体の雰囲気が活気に包まれ、教室を出て皆が音楽室に着くと大騒ぎとまでは行かなかったが、かなり盛り上がる事となる。

 

 早速好きな食べ物や趣味は勿論、好きな音楽や一体どんな家に住んでるのか、特技や苦手な物なども矢継ぎ早に聞かれ、レミリアとフランはそんな彼らの対処に苦戦しながらも楽しげに質問に答えていた。そんな様子を、のび太一行は少し離れたところで見ながら、

 

「ねえ、フランちゃん。貴女って日本だとどこに住んでるの?」

「えっとね……お兄様のお家にホームステイしてるの!」

「へぇ、そうなんだ。で、お兄様ってどんな人?」

 

 ある程度皆からの質問が終わった頃、タイミングが掴めずにいた1人の女の子がフランに対して日本ではどこに住んでるのかと質問し、フランがそれに対して()()()と答えた。その様子から日本に年の離れた兄、もしくは余程懐いている知り合いでも居るものと思った女の子は、フランに対してお兄様はどんな人なのかと尋ねる。

 

「って事は、レミリアちゃんも一緒にのび太君の家に?」

「うん! お姉様も一緒だよ! この町に居る1ヵ月の間はね、ずっとお兄様のお家に居る事になってるの!」

 

 住んでる場所を聞かれたフランは嬉々として、ジャイアンやスネ夫と話をしているのび太を指差したため、質問した女の子とそれを聞いていた周りから一斉に色々な思いのこもった視線が向けられる。

 

「のび太、お前いつの間にお兄様って呼ばれる位の仲になってんだよ!?」

「あはは……」

「それに、ホームステイ先に選ばれたなんて羨まし過ぎんだろ! 一体いつからだ? え?」

「初めてあったのが夏休みの頃で、その後なんやかんやあって……レミリアとフランが家に来たのが11日前なんだけどね」

「マジかぁ……運良すぎだぞ」

「確かに、普段何かと不運な僕がレミリアとフランと知り合って、まるで本当の家族のように仲の良い友達になれた事は、とっても運が良かったって思ってる」

 

 その後はレミリアやフランと仲良くなりたい男の子との会話をきっかけに、経緯はどうであれ普段あまり話さないクラスメートとの会話をのび太が楽しんだり、2人がが幻想郷での友人や出来事などを上手い事予定通りにアメリカからの留学生と言う設定に当て嵌めた話をして、それを興味深そうにクラスメートが聞き入ったり、フランが何故か逆立ち歩きを披露して盛り上がるなど、とても良い雰囲気のまま1時間があっと言う間に過ぎて、交流会は幕を閉じた。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とクラスメート(後編)

「えっと……あっ! お姉様、次の時間給食だよ! やっと美味しいご飯が食べられるね!」

「フラン、落ち着きなさい。確かに、どんなものが出されてくるのか気になるのは分かるけど……」

「だって、いつ聞いたか忘れたけどお兄様が『給食は美味しい』って自信満々に言ってたんだもん。それに、ジャイアンとスネ夫としずかだってお兄様と同じ事言ってたし、これはもう期待しかないでしょ?」

「まあね。苦手な野菜が出ていても、給食なら食べられるって子が一定数居る位みたいだから」

 

 クラスメートとの賑やかな交流会を終え、その次の時間にあった算数の授業をそつなくこなしたレミリアとフランは、当番の人が給食室から運んでくる給食が一体なんなのだろうかと考えながら、その時を待っていた。

 学校見学の日に給食献立表も当然配られていたが、食べるその時まで知らないでおきたいと言うのと、見たところでどんな料理なのか大半分からない、のび太とその友人たちが給食は美味しいと断言したと言う3つの理由から献立表を見ていなかったため、2人は余計に楽しみに思っていた。

 

「レミリアちゃんとフランちゃんが日本語上手なの、ビックリしたよ。ここに来る前、相当勉強したんだねー。凄いと思うよ」

 

 そんな感じで2人が会話を交していると、前の席で図書館の本を読んでいた女の子が、話が少し途切れたタイミングを見計らって話しかけた。レミリアとフランが姉妹同士の会話を英語ではなく、他の日本人が聞いても違和感の全くない日本語で話している事に、純粋に凄いと思ったようだ。

 

「ふふっ……ありがとう。確かに来る前、館の図書館で本を読み漁ったり、紫に手取り足取り教えてもらったり、やれる事は色々やったからね」

「うん! 大変だったけど咲夜にパチュリー、美鈴にこあ、館のメイドさんたちも一緒にやったりしたから、飽きる事なく出来たんだよ!」

「そうなんだ……と言う事は、2人の館の人たちも日本語ペラペラなの?」

「勿論よ。皆同じくらい話せたりするし、読み書きも出来るわ。まあ、アメリカに居たら使う機会が殆んどないから、日本に皆で来れば良かったんじゃないかって今更思ってるのだけどね」

「レミリアちゃんの館の人たちって凄いなぁ……」

 

 会話が途切れたタイミングで話しかけられたレミリアとフランは、女の子の勉強したんだと言う問いに対して肯定した後、虚実を織りまぜた話をしながら楽しんでいると、給食係の児童が教室に全員分の給食が入った容器を持ってくるのが3人の視界に入った。

 

 全員がお碗やお皿によそってもらって席に座り、日直の児童の『いただきます』の号令があるまで食べてはいけないため、それほど急がなくとも問題はない。しかし、おかずや汁物の美味しい部分を少しでも多く味わいたいと言う思いがある故に、フランが人間の常識範囲内の素早さで用意されていたお盆を手に取り、そこにお碗やお皿を乗っけて5人の後ろに並び、後を追うようにレミリアと女の子が並んだ。

 

 そして、牛乳の瓶とデザートのプリンを自分で取って乗せてからおかずや味噌汁を当番の児童に順番によそってもらい、フランは機嫌良く自分の席へとついて、全員が自分の食べる分をよそって席につくまで考え事をしながら待つ。

 

「えーっと、そろそろ良いかな? いただきまーす!」

「「「いただきます!!」」」

 

 途中、誰かがこぼした味噌汁の後処理などで少し時間を取られたが、給食が来てよそりはじめてから5分後には全員が席に着く事が出来たので、日直の児童がいただきますと言い、フランもそれに習って言った後に早速食べ始めた。

 

「レミリアちゃんにフランちゃん、日本の学校給食の味はどう? 口に合ってる?」

「ええ。そりゃあもう、最高に美味しいわ。言う事なしね」

「私もお姉様と同じで、とっても美味しいと思ってるよ! たまにで良いから、館でも出て欲しいかなって思う位!」

「なら良かったね。もしも口に合わなかったら、楽しいはずの給食の時間が楽しくなくなっちゃうから」

 

 レミリアがきんぴらごぼう、フランが豆腐とワカメの味噌汁を食べている時、向かい合わせで食べていた女の子が日本の学校給食は口に合うのかとの質問を投げかけた。すると、2人はそれぞれ入れたものを飲み込んだ後、口々に笑顔で『最高に美味しい』と称賛したため、女の子が懸念していた『給食の時間が楽しくなくなる』可能性はひとまず消える事となり、そう聞いた女の子はホッと胸を撫で下ろした。

 

「違いないわね。まあ、この間不本意ながら食べる事になった『アレ』の味を考えれば、多少不味いものが出てきた程度なら平気だけど」

「……お姉様、せっかくの美味しい給食が『アレ』の記憶で台無しになるから、その話がしたいなら後にして」

「確かにそうね。ごめんなさい」

「うん、大丈夫! ほら、それよりも早く食べようよお姉様! 冷めちゃうからさ」

 

 日本の学校給食の感想を言った後、ふとレミリアが1週間程前にひみつ道具の『味のもとのもと』をかける前に、不本意ながら食べてしまったジャイアンシチューを『アレ』に置き換えた話をして、即何の事か察したフランに台無しになるからその話は今は止めて給食を食べようと言う感じでやり取りを交わしたり、向い合わせで食べている良く話せなかったもう1人の女の子との会話を交わしたりしていた。

 

 そんな時、クラスメートの誰よりも早く食べ終わった1人の男の子が隣の友達らしき男の子と一緒にデザートのプリンを持ち、レミリアとフランの席へと近づいて行き、2人のお盆にそっと置いた。予想していなかった追加のプリンの登場にビックリしたフランは、置いた2人の方を向いて話しかけた。

 

「どうしたの? プリン、美味しいのに……いらないの?」

「あぁ……うん。実はオレたち、出る度にいつも誰かに食べてもらう位には苦手なんだよ。で、今日は誰にあげようか考えてた時にレミリアとフランの2人にあげようって、考え付いた訳。チラッと見てたけど、プリンを美味しそうに食べてたし喜ぶかなって――」

 

 背の大きい方の男の子曰く、レミリアとフランがプリンをとても美味しそうに食べる姿が目に入り、自分たちが苦手であるプリンをあげれば一石二鳥だと思い付いたからとの事らしい。

 

「と言うよりは、夕樹(ゆうき)君が人の波に押されて交流会で全然話せなかったから、プリンをあげて少しでも話したいって言う方が大きい……と言うか、それが主目的なんだけどね」

「おい、バカ古谷(ふるたに)! 隠しときたかったのに何で言うんだよ!」

「あはは……だって、君の視線がプリンに釘付けで、我慢してるのがバレバレだもん。仮に言わなくても、レミリアちゃんとフランちゃんにも()()()()()()だって、どうせ察されてるよ。あ、ちなみに僕は本当にプリンが苦手だからね」

「古谷……オレ、そんなに顔に出やすいのか……?」

 

 すると、背の大きい夕樹(ゆうき)と呼ばれている男の子が何か言いかけたところに割り込むように、レミリアやフランよりも少し大きい程度の背丈しかない古谷(ふるたに)と呼ばれている男の子が、色々と言って欲しくない夕樹にとっての秘密をベラベラ喋り始めてしまった。当然、言って欲しくない秘密を勝手に許可なく暴露されて怒った夕樹は抗議するものの、当の本人はどうせバレてるのだから良いだろうと開き直り、彼の抗議なんかどこ吹く風であった。

 

「ふふっ……2人とも、ありがと! あっ、お姉様の分のプリンももらったよー!」

「フラン、良かったじゃないの……って私の分も? あら、わざわざありがとうね」

 

 2人のやり取りを見ていて、別に無理して私にくれなくても話くらいなら頼まれればしてあげるのにと思ったフランであったが、どうしてもくれると言うならもらわないと逆に失礼だと思い直し、ありがたくもらって食べる事に決めた。

 

 もらったプリンを美味しく食べ、既に食べ終えて空になった食器を片付けた後は、お礼として希望通りに昼休みが終わるまで夕樹(ゆうき)と、流れでその友達の古谷(ふるたに)と色々と話をしてあげたりしながらレミリアとフランは過ごした。

 次の授業の準備などもあって話せたのは15分程であった上、その内容も当たり障りのない会話ではあったものの、とても満足そうにしてくれていたので良かったと、レミリアとフランは思っていた。

 

「皆、席に着きなさい」

 

 昼休みが終わる僅か10秒前、やって来た担任の先生が全員に席に着けと声をかけると全員が急いで指示に従い、席に着いた。レミリアとフランは元々自分の席に座っていたため、特に慌てる事はなかった。

 

「えっと……それでは、これから3週間後に行われる『高学年クラス対抗ドッジボール大会』についての話をするぞ。良く聞くように」

 

 そうして全員が席に着いた事を確認した先生が、高学年クラス対抗ドッジボール大会を行うと言う話をし始めた。曰く、のび太たちの居る学校の5年生と6年生、いわゆる『高学年』の括りに入る合計10ものクラスがその名の通り『ドッジボール』で競い合い、今年初めて行われる頂点を決めるイベントとの事。1年生と2年生、3年生と4年生もそれぞれ別の場所で同時期に行われるらしい。

 

 給食後の国語の授業が始まると思っていた2人であったが、先生の口から出されたのは2週間後に行われるクラス対抗のドッジボール大会についての話であった。故に、何か自分たちが勘違いしてるのかと改めて今日の予定表を確認したところ、明日の5時間目の『国語』と今日の5時間目の『その他』と見間違えていた事に気づいた。その他の時は教科書はいらないため、特に影響が現れる事はなかった。

 

「先生! 質問良いですか?」

「はい、どうぞ」

「男女は別々で行われる大会ですか? それとも一緒ですか?」

 

 ある程度先生から説明がされた所で1人の女の子が手を上げ、男女は別々で行われる大会であるのかどうかとの質問を投げかけた。今年から始まった新しいイベントであるため、分からない事だらけだからだ。

 

「勿論、男女別々で行われるぞ。そうでないと、どうしても問題が発生するからな」

 

 それに対して、先生が男女別々であると答えた瞬間、質問した女の子ではない、斜め上の席に座っていた男の子を中心に『マジかぁ』や『えぇ……』など、何人かがこの決定をあまり歓迎していない感じらしく、うっかり声に出してしまっていた。

 

 何故こんな態度を取ったのか、不思議に思った誰かがどう言う事かと聞いてみたところ、それだと『男子と同等以上の女子であるレミリアとフランの2人』を厄介な男子が居るクラスとの戦いに参加させる事が出来ないからだと、男の子は話した。どうやら2日前にグラウンドでドッジボールをやった時の味方に居た男の子だったようで、レミリアとフランの活躍を間近で目に焼き付けていた故に、心の声が出てしまったようだ。

 

 他何人かの心の声が出ていた男の子も同じような態度であったため、こちらも2日前のドッジボール対決の時に味方側に居たのは確実である。

 

「お前ら、男子に俺と出来杉が居る事を忘れてないか? 確かに、出来杉以上の運動神経を持つレミリアとフランが男子の戦いに加われないのは痛いが、絶望する程ではないだろう?」

 

 こんな状況になってしまい、話がいつまでも終わらなそうに見えたが、ジャイアンがそんな男の子たちに対して自分と運動の天才でもある出来杉が居るのだから、仮に強敵が出てきたとしてもそんなに絶望する事はないと言い切った事で、をあまり歓迎していなかった男の子たちは落ち着きを取り戻す事に成功した。

 

 それからは話もトントン拍子に進んで、ドッジボールの件についてはあっさりとカタがつき、先生が何枚かのプリント配りも済ませると、残りの25分は各教科の教科書を見るなどして自習をする時間となった。

 

 4時間目も終わり、次の5時間目の『社会』の授業は特段変わった事もなく、先生の話を聞いてノートをとったり、配られたプリントの問題を解いて皆で答え合わせをすると言った流れで進んでいった。6時間目の『国語』の授業も多少の差異があれど、ほぼ同じであった。

 

「先生! 次掃除の時間ですけど、レミリアさんとフランさんはどうするんですか?」

「それなら、教室をやってもらう事になっているから、分担の者は何をするのか2人にしっかりと教えるように」

「「「はーい!」」」

 

 全ての授業も終わって掃除の時間となった時に、レミリアとフランの分担場所はどうするのかとの問題が発生したものの、既に1ヵ月の間教室をやってもらう事に決まっていた。そのため、ある児童のその質問に対して先生はそう答え、2人に教室掃除は何をするのかしっかりと教えるように担当の児童に言い、言われた児童たちが分かりましたと元気良く答え、それから10分の休憩の後に掃除の時間が始まった。

 

「レミリアちゃんとフランちゃん、女の子なのに体力あるんだねー」

「まあ、館でフランや他の皆と色々やってたから、体力はそれなりについてる感じね

「お姉様と毎日いっぱい遊んだりしてるからかな。あ、咲夜と美鈴も良く遊んでくれてるよ。パチュリーとこあは、そう言うタイプじゃないけどね」

 

 教室掃除担当の児童たちと共に会話を交わしつつ、レミリアとフランは床のモップがけをしたり、要らない新聞紙や雑巾で窓や棚を拭いたり、机を運んだりしながら掃除を難なくこなしていく。2人にとっては机の重さ程度、片手どころか指1本でも余裕で持てるレベルであるが、そんな事をしてしまえば人外っぷりが露呈してしまうため、他の児童たちと同じように両手で運ぶように気を付けていた。

 

「ふぅ……これでおしまいかしら?」

「うん。2人ともお疲れ様。じゃあ、手を洗いに行こう」

「ええ、分かったわ」

「はーい!」

 

 レミリアとフランを加えた5人で役割を明確にした上で教室掃除を行い、そのお陰で早く終える事が出来た。なので、埃などで汚れた手を洗うために廊下に備え付けの水道に向かい、しっかり石鹸を使って時間をかけて洗った。濡れた手をハンカチで拭いた後は、備え付けのアルコールスプレーで消毒を済ませた。

 

 手を綺麗にした後は教室へと戻り、いつでも帰れるように手早く引き出しに入れていた教科書などの荷物をランドセルにしまって机に置き、帰りの会が終わるのを席について大人しく待つ。

 

「お兄様ー! 一緒に帰ろう!」

「うん、良いよ。それで2人共、初めての学校生活はどうだった?」

「えっとね、楽しかったよ! 給食も美味しかったし、周りの皆がスッゴく優しいから!」

 

 そうして、先生の話や次の日に出す宿題のプリントを配るなどを経て、日直の児童のさようならの挨拶が終わって皆が思い思いに帰り始めると、フランは周りの人の注目など知らんとばかりにのび太の方へと一直線に向かい、流石に抱きつきはしなかったものの手を握って一緒に家まで帰ろうとねだり、レミリアもさりげなくフランが握っていない方の手をそっと握って、無言でお願いを始めた。

 

 フランから直接ねだられ、レミリアから無言の視線を送られたのび太はそれを即了承すると、2人に対して始めての学校生活はどうだったかとの感想を求めた。

 

 当然分からない事も沢山あったものの、十二分に楽しむ事が出来ていたので、フランはのび太に対して満面の笑みを浮かべ、瞳を輝かせながら楽しかったとの感想を言った。

 

「私もフランと全く同じよ。それにしても、このクラスで心底良かったと思ってるわ。仮にだけど、もしも()()()()()だったら、関係ない彼ら彼女らには申し訳ないけど、虫酸が走る位の()()が居るから楽しめていなかったでしょうし」

「あー……うん! 違いないね、お姉様! 未だにあの顔見ると、私がこの手で殴り……お兄様居るから、この話はやーめた!」

「はは……」

 

 レミリアは、のび太に対してフランと全く同じ感想である事を伝え、改めてのび太やその友人、その他優しい人たちが沢山居るこのクラスで1ヵ月過ごせる事を感謝する意を表した。そして、仮に例の男の子たちが居たクラスであったならば、虫酸が走る思いを抱きながらの生活になって楽しめない学校生活と化していただろうと、そう話した。

 

 フランはその話を聞き、拳を握りながらレミリアに対して全面的に同意するどころか、未だに例の男の子の顔を見るだけで()()()()()()()()()殴りたくなると言いかける。故に、のび太はちゃんとフランと接してあげる時間を増やし、あの男の子たちとは絶対に1人で合わせないようにしなければと心に誓いつつ、2人と一緒に学校から出て行った。

 

 こうして、レミリアとフランの学校生活初日は楽しい雰囲気のまま、終える事が出来た。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と濡れ衣

「お兄様、おはよう! 早速なんだけどさ、今日って学校休みだし、誰とも遊ぶ約束してないんでしょ?」

「……うん、おはよう。まあ、確かにそうだけど……それがどうかしたの?」

 

 レミリアとフランが初めて学校に通った日から3日後の午前9時、日曜日であるが故に時間を気にせずゆっくり寝ていたのび太を借りた未来の目覚まし時計で叩き起こした2人は、おはようの挨拶と同時にいきなり誰とも遊ぶ約束はしていないかと、質問を投げ掛けていた。

 いきなり未来の目覚まし時計によって叩き起こされたのび太は、日曜日なのだからもう少し寝かせて欲しかったと心の中で思いつつ、遊ぶ約束は誰とも交わしていないと、フランからの質問にそう答える。

 

「だったら、お姉様と私と一緒に遊びに行こうよ! お買い物したり、お散歩したり、美味しい食べ物を食べたりとか、色々ね! お兄様のお母様にも許しをもらってるからさ、お願い! 良いでしょ?」

「私からも是非、お願いしたいわ。ここに来てから、私とフランとのび太の3()()()()で遊んだ事、殆どなかったし……」

 

 本人の口から、今日は誰とも遊ぶ約束はしていないと聞いたフランは待ってましたと言わんばかりに、のび太に対して自分とレミリアを含めた3人だけで外に出て色々な事をして遊ぼうと、そうお願いを持ちかけた。

 レミリアも、ここに来てから3人だけで外に遊びに行った回数が少ない事を引き合いに出し、上目遣いでのび太に対してフランと同じようにお願いをした。

 

「確かに、言われてみればそうだね……分かった。朝ごはんを食べてすぐはちょっとあれだから、少し経ったら一緒に行こう」

「ありがと! じゃあ、先にお姉様と下に行ってるから、早く顔洗いと歯磨きと着替えを済ませたらキッチンに来て!」

「ふふっ……のび太なら、きっと頷いてくれると思ってたわ。ありがとうね」

 

 レミリアやフランからそうお願いをされたのび太はまだ眠い目を擦りながら、確かに自分を含めた3人だけで出かけた回数が結構少ないなと納得したのと、母親から許可を既にもらっていたと言う事もあって、朝ごはんを食べてから準備を済ませるためなどの時間を少し取った後に外に出かける事を決めて、2人にそう伝えた。

 

 そうして、外遊びの了承を得た2人が上機嫌で部屋を出て行った後、のび太は言われた通りに顔洗いと歯磨きと着替えを済ませ、まだ寝ているドラえもんに向けて『レミリアとフランと一緒に外に遊びに行ってくる』との書き置きを押入れに残してから、朝食を取りにキッチンに向かった。

 

「あれ? 2人ともまだ食べてなかったの? もしかして、僕を待ってた?」

「そうだよ! やっぱり、朝ご飯はお兄様も入れて皆で一斉に食べた方が楽しいでしょ? あ、昼ご飯も夜ご飯も一緒だけどね」

「私は早速食べようとしたら、フランに止められたのだけどね。まあ、皆一緒の方が楽しいって言うのは納得だから、従ったけれど」

「やっぱりね。ただ、早く食べたいのに無理して僕を待つ必要は全然ないから、もしもそう言う時は先に食べてて」

「うん、分かった!」

「ええ、そうするわ」

 

 出された朝食を1口たりとも食べる事なく、仲睦まじく会話を交わしながらじっと待っていたレミリアとフランを見て、自分が来るのを待っていたのだと理解したのび太が、確認のために2人に待っていたのかと聞いたところ、案の定そうだったと答えた。

 

 2人の話を聞き、特に待ってなくても先に食べててもらって良かったとのび太は思っていたが、今回待っていた理由が皆で楽しく会話を交わしながら食べたかったと言うものである。なので、口から出かかった言葉を飲み込み、無理してまで待たないでくれとのお願いの言葉に変えて伝え、了承を得てこの話し合いを済ませた。

 

 その後はいつも通りの流れで出された朝食を食べながら、外に出かけてからどうしようかとの相談を、のび太はレミリアやフランと始めていた。

 

 沢山寄りたい店ややりたい事を提案した2人であったが、のび太は自分の持っている小遣いではそんなに多くの店にも寄れないし、当然やりたい事も多くは出来ないと言い、もう少し減らしてくれないかとお願いをした。

 しかし、資金の問題については紫から渡されているお金を使えば良いと、のび太は何も気にせず自分たちと一緒に遊びに付き合ってくれればそれだけで十分だとフランが言った事で、即解決した。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「行ってきまーす!」

「行ってくるわ」

「ええ。3人共、楽しんで行ってらっしゃい」

 

 外遊びについての話し合いをしながら食事を終えた後は、3人それぞれ部屋に一端戻って出かけるための荷物を取りに行き、母親の見送りられながら家を出て行った。

 

「お姉様とお兄様だけでお出かけ……えへへ」

「あら、まだ家を出てからそんなに経ってないのに、随分と楽しそうじゃないの。フラン」

「だって、3人だけなんだよ? 波風が立つから今まで言わなかったけど、友達が居るとさ……お姉様もお兄様も、どうしてもそっちに気を取られるじゃん」

「まあ、そうだけど……それは仕方ないでしょう?」

 

 朝食は取ったばかりであるため、まずは買い物と言う事で商店街へ向かう道中、フランがまだ5分程度しかのび太やレミリアと歩いていないにも関わらず、もう既に沢山楽しんだかのような様子を見せ始めた。それを見たレミリアが、まだほぼ何もしていないのに随分楽しそうだと言葉を発した。

 

 すると、フランはそれに対して反応し、レミリアやのび太が気を取られてしまう要因の人物が居なくなり、2人を独り占め出来るからだと、たった5分の散歩でも嬉しくなった事の理由を説明した。

 

「分かってる。だけど、1~2回おきならまだしも殆んど毎回のペースでドラえもん以外に一緒に居られるとさ、なんかなって」

 

 説明を聞いたレミリアが、のび太の友達が居れば気を取られてしまうのは仕方ないだろうと言うと、それを理解しつつも遊びに行く度に居られる事に対しての不満を露にした。ただ、ドラえもんに関してはのび太のたった1人の大親友であるが故、下手な事を言って嫌われる恐怖から、フランの不満を向けられる対象からは自然に除外されている。

 

「だから、たまには居ない方が良いなぁって思うの」

「「……」」

 

 フランが発したこの一言により、レミリアとのび太は凍りついたかのように固まった。瞳のハイライトが消え、赤に塗りつぶされているような感じに変化している事から、これは本心だと言う事が2人には良く理解出来たためだ。

 それと、たまには居ない方が良いとやさしめの言葉で言ってはいるものの、意味は『ほぼ毎日居られると、レミリアやのび太の気が自分に向きにくくなるから邪魔』と言う事であり、それを直感で察した2人が、放置しておくとこれは不味いと思ったためでもある。

 

「あっ……でも、それなら私がそうお願いすれば良いだけの話だったよね。お兄様、ごめんなさい。お友達を邪魔者みたいに言って八つ当たりみたいに……」

「良いよ。今度からそう言う時はちゃんと言ってね」

「……うん! 許してくれて、ありがと!」

 

 反応に困ったせいで凍りついた雰囲気の中、自分の言った事がどう解釈しようと良い意味で捉えられていないと分かったフランが先程までの発言を謝罪し、のび太がそれを受け入れて次から3人だけになりたい時はちゃんと伝えてと言った事で、雰囲気は元通り楽しいお出かけムードに戻った。

 

 それから、目的地である商店街へと直接向かおうとしたものの、大半の店の開店時間が午前10時からである上、なおかつ今現在の時間が9時半をやっと過ぎた程度でしかない事に気づく。なので、3人は近場にあった公園へと向かい、ブランコやジャングルジムなどの遊具で遊んだり、ベンチで他愛もない会話を交わしたりしながら時間を潰す。

 

 更に、のび太たちが時間潰しのために居る公園周辺に住んでいるらしい近所のおばさん3人が、物珍しさから少し緊張しながらレミリアとフランに話しかけ、日本語で普通に応対出来ると知った途端にいつものノリでの会話に切り替わるなどと言った出来事が発生し、30分どころか1時間以上も付き合わされ、大幅に時間を過ぎてしまうと言う事態が発生した。

 

「お兄様、もう11時過ぎてるから早く行こうよ!」

「確かにそうだね。じゃあ、今行こう」

「うん! おばさん、じゃあね!」

「会話の途中だけれど、行くところがあるから失礼するわ」

 

 これ以上会話を続けていると遊ぶ時間がなくなってしまいそうなため、フランが強引に会話を終わらせておばさんたちと別れて、目的地である商店街へと歩みを再び進め始める。予定がかなり狂ってしまったものの、思いの外面白いおばさんたちであったため、3人はそれ程不満のようなものを感じる事はなかった。飴などのお菓子を気前良く分け与えてくれたのも良い方に作用していた。

 

「流石、日曜日だけあって結構人が居る感じだね」

「確かにね! でも、ランドセルと服を買った時に言ったとっても大きなお店の中よりは居ないかな」

「フラン。あの巨大な複合型のお店とこの商店街だと、規模が違い過ぎるから当たり前よ。むしろ、この規模でこれだけの人が居るのは凄い事だと思うわ」

「うーん……そっか!」

 

 おばさんたちと別れてから10分程歩いた後目的地へと到着し、展開している各店舗を見て回りながら興味がありそうなものを探しつつ、人が沢山居て活気づいた商店街についての会話を交わしていた。日曜日であり、なおかつお昼時が近いと言う事もあるが、それを差し引いてもかなりのものである。

 

「2人とも、ごめん。ちょっとあそこにあるトイレに行きたくなってきたから、その回りのお店で何かするかベンチで座って待っててくれる?」

「うん! だけど、結構人が並んでるね。タイミング悪いなぁ」

「あら、また男の人用のところに1人並んだわよ。悩んでる暇があるくらいなら、私たちの事は気にせずに早く行きなさい。この商店街、トイレの数が少ないからモタモタしてるといつまで経っても行けないわよ」

 

 そんな感じで楽しんでいたある時、のび太が申し訳なさそうにレミリアとフランに対し、トイレに行きたくなってきたからその辺で待ってて欲しいと、お願いをしていた。

 

 この商店街には規模の割に何故かトイレが少なく、平日はともかく週末辺りになるとトイレ待ちの行列が出来上がると、商店の店主から話を聞いて判明した。故に、トイレに行きたくなったとのび太に言われた際、レミリアは自分たちの事は良いから早く列に並べと言い、列に並ばせた。

 

「お兄様、間に合うかな?」

「……大丈夫よ。のび太が恥をかく運命は一切見えないから」

「お姉様がそう言うなら、大丈夫だね!」

 

 トイレに向かったのび太を心配しつつ、レミリアとフランは待ち時間に近辺の本屋や小物を売る店に入り、のび太がトイレを済ませるまでのんびり会話をしつつ見て回り、時間を潰す。

 

「ちょっとお嬢さん方、良いかな?」

「ん? なあに?」

「君たちの手提げバッグの中身、見せてもらえる?」

「あら、どうしてかしら?」

 

 すると、小物の店を出てからすぐに、そこの店員らしき男の人にバッグの中身を見せてもらえるかと2人は声をかけられた。何故いきなりそんな事を言うのかとレミリアが問うと、とある子供から『あの2人の外国人の子のどちらかが、お金を払わずに店を出て行った』と、報告されたとの事らしい。要するに、万引きをしたと疑われているのだ。

 

「……だったら早く見ればいいわ。フラン、出してやりなさい」

「はーい」

 

 疑われている事に対してレミリアは不快感を示しながらも手提げバッグを渡し、フランにも同じように手提げバッグを渡すように促した。万引きなどしていない2人は、これで疑いも晴れるはずだと思っていた。

 

「「……へ?」」

 

 しかし、フランのバッグの中身を見た時、一切この店の商品に手を触れていないにも関わらず、()()()未会計のこの店の商品である小物が1つ見つかってしまう。故に、出てくる訳がないものが出て来てしまった影響で、レミリアとフランは2人揃って訳の分からない状況に追い込まれてしまった。

 

「ふむ……本当だったね。さて、金髪の方のお嬢さん。ちょっと話を――」

「何で……? 私、こんなの知らない……!」

「知らないもなにも、君のバッグから見つかったんだから……」

 

 万引き行為どころか、見て回っただけでこの店の商品に指先すら触れていないフランは当然、こんなの知らないと否定する。ただ、客観的にフランの手提げバッグから未会計の商品が見つかった以上、帰すわけにはいかないため、店員も全く引き下がらない。当たり前だがレミリアはフランを庇い、監視カメラとやらを見てみれば分かる事だろうと声を荒げるも、無駄に終わる事となった。

 

 更に、そんなやり取りを人通りの多い場所で、互いに大声で交わしていれば当然のごとく遠巻きにそれを見るような人が出てきてしまい、事態が余計に大きな方向へと向かい始めてしまう。

 

「あっ……」

 

 そして、こんな状況にいつの間にかこの騒ぎを聞いていた誰かによって呼ばれていたらしい、数人の警察官が言い争いをしているフランたちに近づいていくと、フランが急に黙り込んでしまった。決して万引きなどしていないと言ったのが嘘であった訳ではなく、この世界の『警察官』と言う存在にこの状況で世話になると言う事が、トイレに行っていて居ない、のび太の自分に対する印象を大きく落として嫌われしまう可能性が現実味を帯びてきたためである。

 

 周りの有象無象の人たちからの印象が落ちようともフランはほぼ気にしないが、レミリアと同じ位大好きなのび太からの印象が落ちて嫌われるのは、フランにとっては、如何なる物理・精神的攻撃よりも効果が高い攻撃を受けるのと同義である。ただ、同じく大好きな姉であるレミリアが居るので、完全に精神が崩壊する事は絶対にないが。

 

「嫌だ……いやだ……! お兄様ぁ……私を嫌わないでぇ……」

 

 そうして、この状況を把握するために話を聞こうと女性警官に話しかけられた瞬間、フランは嫌われたくないと言う強い感情が溢れだし、人目も憚らず泣き出してしまった。と言っても、まだ感情爆発のレベルには達していないため、地面に座り込んでうわ言のようにトイレに行っていてこの場に居ないのび太に対して、嫌わないでくれと言う程度で済んでいる。

 

「うーむ、困りましたね……」

「あ、その事でしたらもう既に自分が話を聞いておきました。どうやらそこの女の子が『万引き』したみたいで、目撃者も物も出てきています。ただ、それにしては様子がおかしいので、監視カメラの映像を確認したら……とにかく、彼女たちは一旦彼と一緒に居てもらって、自分と見て頂ければ……」

「そうですか。では――」

 

 しかし、話にならない状態にはなっている。なので、女性警官がさてどうしたものかと困っていると、同僚らしき男性警官が例の店から2人出て来て、女性警官に対して監視カメラの映像を確認するように促していた。その促していた男性警官が神妙な顔つきになっていて、もう1人の警官が可哀想と呟いていた事から、フランにとって何が起こった事は明白であった。

 

 男性警官2人からそう言われ、早速監視カメラの映像を確認するために店の中に向かおうとしたその時、ようやくトイレを済ませたのび太がこの状況の中、何が起きているのか理解出来ていない感じで戻ってきた。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と商店街巡り

「えっ……何で警察の人が? それに、どうしてフランが泣いてるの? 何かトラブルにでも巻き込まれたのかな……?」

 

 トイレを済ませ、戻って来たのび太は警察の人やどこかの店の人らしき男の人、この光景を見ようと押しかけている野次馬が、泣いているフランや怒っているレミリアの元に集結している、この混沌とした状況に困惑し、誰に言うわけでもなくただ独り言を漏らしていた。

 

 周辺の店で姉妹楽しく待っていると思ってたら、いきなりこんな状況になっていた。これはのび太でなくても、例を挙げればドラえもんやジャイアンでも驚いていただろう。

 

「あんた、あの嬢ちゃんたちの連れかい?」

「えっと……まあ、そんなところです。トイレを済ませて戻ってきたら、いきなりこんな事になっててもう、何が何だか……」

「なるほどね。実は、あの泣いてる金髪の方の嬢ちゃんが居るだろう? あの子がね、小物店の物を万引きしたって疑われてるのさ。実際に、手提げの可愛らしいバッグから出てきたから、()()()に見れば信憑性は高いとみるね」

 

 すると、この混沌とした状況に困惑しているのび太の下に、野次馬の中に居た1人のおばちゃんが近づくと、泣いているフランと怒っているレミリアの連れであるかと問いかけた。いきなり話しかけられて少し驚くのび太であったが、持ち直しておばちゃんからの問いに対して肯定の意を示した。すると、2人の連れであると言う返答を聞いた野次馬のおばちゃんは、それならばと見たまま聞いたままを話し始めた。

 

「え!? いや、フランが万引きなんて……そんな事をするはずはありません! きっと、何かの間違いで入ってしまったか、()()()()()()()()()()()()のだと思います!」

「凄い剣幕……あくまでも客観的に見ればと言う話であって、私個人ではあの嬢ちゃんは無実じゃないかと思ってる。まあ、証拠がないからこのまま行くと、もしかしたら犯人と言う事にされるだろうね」

「……っ! 僕が一緒についててあげれば……トイレなんかに行かなければ……!」

 

 そうして、フランが万引きをしたと疑われていると聞いたところで、のび太は反射的に声をあげてしまった。泣いているフランを見て即座に犯人ではないと直感したためだ。

 

 ただ、現にフランの手提げバッグから品物が見つかってしまっている以上、犯人ではないと言う証拠が見つからない限り解放はされない。それをのび太は理解すると同時に、自分がトイレに行かなければこんな辛い思いをさせる事はなかったのではないかと、自責の念に駆られていた。

 

「あっ……お兄様……」

 

 すると、そのタイミングであげた声にフランが気付き、のび太の方に顔を向けた。それから、すぐに周囲の警官の制止を振り切り、逃げるものだと思って止める店員の手を邪魔な虫を退かすかのように払ってのび太に駆け寄り、泣きながらお願いを始める。

 

「お兄様、嫌いにならないでよ……会えなくなるのなんてイヤだよぉ……私、万引きなんてしてないのに……ぐすっ……うぅ」

「……」

 

 自身の胸元にしがみつきながら泣き喚き、周りに注目を浴びるのも厭わず、嫌いになられたり会えなくなる事がないように必死にお願いをしてくるフランの様子を見ていたのび太は、どう声をかけて良いか分からずにいたため、頭を撫でながら考え込んでいた。

 

「心配しなくても、僕はフランが万引きをしているなんて全く思ってないよ。だから嫌いになるなんて事は()()()()って言い切れるし、疑いだってきっと晴れるから会えなくなるなんて事もないよ」

「お兄様……本当?」

「勿論だよ、フラン。だから泣き止んで、笑ってくれると嬉しいな」

 

 そして、10秒程度考え込んだ後にのび太はフランの目線の高さにあわせてしゃがみ、万引きをしたなどとは全く思っていないから嫌いにはなる事はないのと、していないのだから疑いはその内晴れるよと言い、笑ってもらえるように誘導した。

 

「えへへ、良かった……お兄様、私をずっと信じてくれてたんだ……!」

「うんうん、それでこそフランだね」

 

 のび太の言葉が心に効いたらしく、結果はフランが涙を拭っていつも通りの笑顔に戻った事で、大成功となった。それどころか、普段よりもベッタリとくっつくと言った感じで、ずっとなのかは不明ではあるものの、更に2人の関係が親密になる事となった。

 

 フランを泣き止ませて笑顔に戻した後は、再びどうやって万引き犯の疑いを晴らしてあげようかとのび太は考え始めるも、良い方法が全く思いつかなかったようで、店内に居た人や野次馬の人たちに話しかけ、何か見ていないかと質問をひたすら投げかけると言う『聞き込み』をし始めた。本来は自分の仕事ではないし、放っておいても恐らく警察官が真実を明らかにしてくれるだろうと思っていた。

 

 けれども、絶望しきった表情で涙を流すフランを見ていたのび太は、そう言う細かい事を考える前に身体が既に動き、泣き止ませた後は無実を証明してあげたいと、必死になっていたのだ。

 

「オレ、この外国の子の後ろをつけてってる、すげぇ怪しい女の子みてえな男のガキが居たのをチラッと見たぜ。途中までしか見てねぇし証拠はないが、もしかしたらこれもソイツの質の悪い悪戯かもしれないな」

「ほ、本当ですか!?」

「まあな。ただ、さっきも言ったがオレの予想だから、あまり期待するな」

 

 何人かに聞いている内に、店内に居た客の1人の厳つい大男が割り込んできて、フランたちの後をつける怪しい男の子が居たとの話をし始めた。証拠としては弱いが、のび太にとってはそれでもありがたいものであったため、純粋に喜んだ。

 

 その後もひたすら聞き込みを繰り返し、厳つい大男と似たような証言の数々を得る事に成功していく。ここまで聞いて、のび太は自分の直感が正しかった事を改めて感じ取った。

 

「先輩! 監視カメラの映像を確認してきました。金髪の子は万引き犯などではなくむしろ、後ろをつけていた女の子……すみません、男の子ですね。彼に仕立て上げられた被害者と言う事が判明いたしました!」

「そうか。一応聞くが、もうその子は居ないのか?」

「居ませんね。手慣れた様子で彼女の手提げバッグにこっそり仕込んでからすぐに人目につかないように動きつつ、店の外へと出ています。監視カメラにはバッチリ写っていましたが」

「うーむ……常習犯って奴か。将来が思いやられるな」

 

 ある程度証言を得たタイミングで、店の監視カメラの映像を見に行ってきた警察官の1人が外へと出てくると、先輩らしき警察官に()()()()()()()()()()()報告をして、それが未だに言い争いをしているレミリアたちを含めて、のび太たちの耳にも入っていった。

 

 結果、フランは万引き犯などではなくむしろ、悪戯に踊らされた可哀想な被害者であると言う()()()()()()()をもらい、疑いが完全に晴れた。これに対してレミリアは勿論の事、周りに集まっていた野次馬の人たちの半数が良かったなとの言葉を投げ掛けてくれるなど、良い雰囲気に包まれている。

 

「お嬢ちゃん、良かったね。今度お店に入る時は、もう少しだけ手提げバッグに気を向けとくと安心だから、やってみてね」

「はーい……お兄様、早く行こうよ! お姉様も!」

「分かったわ。じゃあ、気分直しに別のお店を回りましょう」

 

 フランは女性警察官に手提げバッグに気を向けるようにアドバイスをされた後、さっきまで泣いていたのが嘘のような笑顔を向けながらのび太の手を引き、気分転換のために商店街道を歩きながら、気になった店に入っていく流れになる事が決まった。

 

 流れが決まってから最初に入ったのは、万引き犯騒ぎがあった店とは別の小物を売る店であった。店の大きさは先程の所より小さくも品揃えは同等以上に豊富であり、お客さんの入りが多い。故に人の目が多く、フランがされたような行為をする人や万引き犯にとってストッパーとなっているため、3人は安心して店内を楽しみながら回れていた。

 

「ねえ! この髪飾りなんかどう? 私に似合ってるかな?」

「この桜の髪飾り? 似合うと思うけど、それだったら和服を着た方が今よりももっと似合いそうだね」

「和服かぁ……分かった! 今はないけど、お兄様に似合うって言ってくれたから、この髪飾りも買ってくね!」

 

 そんな中、フランがとある髪飾りを商品棚から取ってのび太の方へと持ってきて、自分に似合うかと少しだけ心配そうに問いかけた。フランからの問いに対してのび太は、そのままでも似合うけど和服を着たらもっと似合いそうだと、見たまま感じたままの感想を述べた。

 

 満足する回答をもらえたフランはご満悦になりつつ、和服を着ればもっと似合うと言われた事から、近い内に和服を売っている店をレミリアと一緒に探し、のび太に気に入ってもらえる格好になろうと心の中で誓った。

 

「一応言うけど、フランのお金なんだから、僕が似合うって言った物を全部買わなくても、自分が気に入れば買っても良いんだよ?」

「えっとね、お兄様に似合ってるって言われれば私も嬉しいから良いの! 嫌なら嫌だって言うから、心配しなくても大丈夫!」

 

 すると、のび太が自分の良いって言った和服までそのまま買いに行ってしまいそうなフランを見て、もしかしたら自分の意思を抑えているのではないかと思ったらしく、気に入れば聞かないで買っても良いと薦めた。

 

 しかし、そもそもフランが洋服やアクセサリーを気に入るかどうかの基準の1つに『のび太に似合うと言われるか言われないか』が入っている。そのため、色々と心配をしているのび太に対してフランは似合うと言われる事が嬉しいから、心配なんかしなくても良いと元気良く答えた。

 

「のび太、心配しなくても大丈夫よ。フランは懐いてる人に似合うと言われればほぼ確実に気に入る子だから。前に幻想郷の人里の店でアクセサリーをつけて見せてきた時に、私が『可愛いフランにとっても似合う』って言ったら、即買ってお気に入りにしてた位から」

「なるほどね。まあ、フランが良いなら良いかな」

 

 答え終えたタイミングでレミリアもそれに加わり、フランは懐いている人が薦めたりプレゼントした洋服やアクセサリーをほぼ確実に気に入る傾向にある事を公表、自分の意思を抑えていると言う事は一切ないから心配しなくても大丈夫だと伝える。

 

 レミリアがそう言った事で、のび太はフランが良いなら良いやと思うようになると同時に、下手に高い値段の物を薦めないように気を付けようと誓っていた。

 

「お兄様! 何だか面白そうな物がこのお店にありそうだから行こうよ! あっ、こっちのお店から凄く良い匂いがする! あっちのお店も気になるなぁ……」

「ちょっとフラン……痛いから引っ張らないでぇ!」

「あらあら、随分テンション上がってるわね。さっきのあれを打ち消す位に楽しそうで良かったわ」

「レミリア、お願い! フランを止めて!」

「ん? 何か言ったかしら、のび太?」

「絶対聞こえてるよね!?」

 

 そうして桜の髪飾りを買ってから店を出ると、商店街道を万引き犯トラブルの反動などでテンションが高いフランがのび太の腕を引っ張り、興味のある店や美味しそうな料理を売ってる店に連れ回し、色んな意味で疲れるやり取りが続いていた。

 悪意は微塵もないが、あまりにも乱暴に掴んで引っ張っているため、のび太はフランをどうにかしてくれるようにレミリアにお願いをした。しかし、先程の泣き腫らすフランを見ていたと言う理由から、レミリアはのび太の言葉が全く聞こえなかったふりをして、これをスルーした。

 

 とぼけて聞こえないふりをするレミリアの様子から、この痛く疲れる状況から解放される事は当分ない事を悟ったのび太であったが、少し前まで万引き犯と疑われて自分と会えなくなってしまうと傷心していたフランの悲しい表情を思い出し、何も言わずに成されるがままになろうと心に決めた。

 

「フラン、そろそろのび太を休ませてあげなさい。貴女が色々連れ回したから、もうヘトヘトよ?」

「あっ」

 

 のび太がフランに身を任せてから1時間、ここに来てようやくレミリアが待ったをかけたため、商店街の休憩スペースに座って休める事になった。もう真夏の時期は過ぎているにも関わらず、終始ハイペースで走らされたり歩かされたりしたお陰で息が完全に上がり、汗も滴っている状態であったのを見て、フランは即座に自動販売機に向かってスポーツ飲料を購入し、のび太に渡した。

 

 次に商店街巡りの際、たまたま入った洋服店にタオルが売っている事を思い出したフランはすぐさま走ってそこに向かい、適当な柄の物を何故か2つも手に取り、レジまで持って行って購入すると、再び休憩所まで走った。

 

「ごめんなさい。万引き犯に疑われた時、私のために必死になってくれた事が嬉しくてね、テンションが上がってたの」

「なるほど……ふぅ……フラン。楽しめた?」

「お兄様のお陰で、スッゴく楽しめたよ! ありがとね!」

「なら良かった。僕もヘトヘトになった甲斐があったってものだよ」

 

 そして、のび太の汗を買ったタオルで拭ってあげつつ、体力の差を考えずに色々な店を連れ回して息を上がらせ、ヘトヘトにさせてしまった事を謝った後に掴んで引っ張り、赤くなっていた腕を汗を拭くふりをしながら回復魔法をかけて治した。

 

 謝られたのび太は少しは休ませて欲しかったとは思いつつも、元の輝く笑顔にフランが戻っていて、この商店街巡りを楽しめていた事が分かったため、内なる思いは言わずに楽しめて良かったと、自分がヘトヘトになった甲斐があったと言い、フランを安心させた。

 

「それにしても、体力ないとか言ってたけれど……1度も引きずられる事なくついていけてたわよね。のび太」

「うん。まあ、ヘトヘトになりながらもついていけてたんだよね。今思うと何でなのか、不思議でしょうがないよ」

「そう……もしかして、フランが何かやったのかしら?」

「ううん、何もやってないよ。だから、お兄様が気づいていない体力か根性のどっちかがあったんだと思う!」

 

 フランとのび太がそんな会話を交わしていると、今まで微笑ましく2人の様子を見守っていたレミリアが突如、会話に割り込んできた。どうやら、前に体力がないと本人が言っていたのを覚えていて、故に長い間ずっとフランに振り回されながらもずっとついていけていた事に対して純粋に感心をしているらしい。

 

 ただ、のび太も何故ここまで動き回る事が出来たのか分からないと言ったため、レミリアはフランがいつの間にか魔法を使っていたのかと疑うも、当の本人がキッパリと否定し、実はのび太には気づいていない体力か根性のどちらかがあったのだろうと推測を立てる。

 

 レミリアは納得いかない様子ではあったものの、誰にも迷惑がかかってないどころかむしろ得をしている状態であったため、この事については考えるのを放棄する事に決めたようだ。

 

「お兄様、どう? 動ける?」

「大分楽になって来たから動けるよ」

「そっか! じゃあ、もう少し休んで疲れが癒えたら今度は町巡りしよう? 勿論、休憩はちゃんと入れるし、引っ張って走り回ったりしないから……お願い、お兄様」

「それなら、全然構わないよ。レミリアも、それで大丈夫?」

「ええ。2人が構わないのであれば、私はそれで大丈夫よ」

「やったぁ! お姉様もお兄様も、私に付き合ってくれてありがとうね!」

 

 そうして、1時間と少し程時間が過ぎて体力が戻ってきたのび太に対して、フランがもう少しだけ休んだら今度は町巡りに行こうとお願いを持ちかけた。体力が回復してきたのと、元からそう言う予定で外に出た事もあってのび太はお願いを受け入れ、レミリアも反対する事なく2人に任せると言ったため、30分程度休憩した後に町巡りに3人で動く事に決定した。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と町歩き

「うーん……どこに行こうかなぁ……」

 

 フランの万引き犯の疑いを晴らし、無事に解放されたのび太たちは商店街を満喫した後、そこを出て周辺の町巡りをしていた。

 

 本当ならどこか良いところにレミリアとフランを連れて行きたいと思っていたのび太であったが、そう言う時に限って全くと言って良い程何も思い付かなかったようで、ひたすら町の中を休憩を挟みつつ歩くだけと言う状態となってしまっていた。それだけではあまり面白くないとも分かってはいるが、思い付かないのはどうしようもない故の、苦肉の策であった。

 

 ただ、レミリアは足音や風音、鳥の鳴き声等しか聞こえない位の静かなこの町での散歩を3人だけでしていると言う理由から面白くない退屈な物とは考えておらず、フランに至ってはレミリア以外の誰も居ないこの状況でのび太との散歩を、何物にも勝るとも劣らない幸せな一時であると考えている。そのため、のび太がしていた『レミリアとフランがこの状況に退屈しているのではないか』との心配は、既に杞憂に終わっている。

 

「レミリア、フラン。散歩ばかりで退屈してないかな?」

「退屈? 心配しなくても、してないわよ。のび太」

「してないし、むしろ楽しくて幸せだよ! だって、お兄様と一緒だもん!」

 

 なので、のび太が2人に対して退屈していないかと聞いた時もレミリアは微笑みを見せながら否定し、フランは眩しい笑顔を見せながらそれを否定しつつむしろ、今この時が幸せであるとこれみよがしにアピールをし始めた。

 

「僕と一緒に居るのが楽しくて幸せ……そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう、フラン」

「えへへ……どういたしまして!」

「ふふっ、微笑ましいわね」

 

 この状況を楽しんでいたレミリアとフランの様子を見て、のび太は自分のしていた心配が杞憂に終わった事にホッと胸を撫で下ろし、喜んでくれている事からひとまず散歩は続ける事に決めた。

 

 とは言っても、流石に1日ずっと歩き回る訳にも行かない。そう思っていたのび太は手を繋いで楽しく散歩をしながら、2人にもっと楽しんでもらうため、どうしようかと再び考えを巡らせ始める。

 

「あっ! このお店、紫にこの町に連れてきてもらってから最初に入った所だ! ラーメン、美味しかったなぁ」

「そんなに美味しかったの?」

「うん。お兄様に会いに行く前に寄ったお店なんだけど、そこでお姉様と一緒に醤油ラーメン食べたんだよね。変な人が居たけど、いい気分になれたよ!」

 

 和やかで良い雰囲気のまま、小休止を挟みつつ町歩き等をする事2時間半、とある店の前を通った時にフランが立ち止まって声をあげた。それは、レミリアとフランが幻想郷から紫によって現代の町に連れて来られた後、最初に立ち寄った人気ラーメン店であった。

 

 歩みを止めて声をあげ、幸せそうな表情をさせる程に美味しいとまで言い始めたフランを見て、のび太はこの店の事について多少なりとも気になり始めたらしく、フランにその店のラーメンの事について聞いていた。

 

 そんな風に、のび太からラーメンについて聞かれたフランは嬉々として、それがとても美味しかった事を説明していた。

 

「変な人?」

「うん。その時凄く混んでたから……席につく前にお店の予約表だったっけ? それに私とお姉様の名前を書こうとしたんだけど、厳つい顔のおじさんに突き飛ばされて、自分の名前を書かれたって事があったんだよね」

 

 ラーメン店の説明の最後の方、フランが言っていた変な人と言うワードに反応を示したのび太が、それについての続きを少しだけ心配そうな表情をしながら促した。既に終わった事だと理解しつつも、レミリアやフランが嫌な思いをしたのではないかと心配になったからである。

 

「えっ? 大丈夫だった?」

 

 のび太に話の続きを促されたフランは、自分が突き飛ばされた時の事を含めて、ラーメン店で起こった事を覚えている限り話し始めた。まさか、変な人と言っても態度や様子が変わっている程度だろうと思っていたのび太は、その厳ついおじさんとやらが予想以上にヤバい人であった事を知り、フランの方を見てその時の怪我の有無も含め、大丈夫だったのかと問いかけた。

 

「お兄様、私の事を心配してくれてるの?」

「当たり前だよ。()()()()()()()()()()が、そんな目に合ってたって聞いたらね」

「……」

 

 ただ、フランにとって普通の人間に突き飛ばされる程度の暴力は油断しきっていようと、普通は有り得ない奇跡が連続で起きない限りは余裕で耐えられるものである。

 更に、万が一その拍子で怪我をしてしまったとしても、吸血鬼としての驚異的な再生能力で軽い擦り傷や切り傷、打撲程度であれば即座に治ってしまうため、問題は全くないと言っても差し支えない。

 

 しかし、のび太にとっては怪我がすぐに治る『吸血鬼』であると知っていても関係なく、まるで家族であるかのような友達であるレミリアやフランが()()()()()()()()()()()()()と分かった時点で心配せざるを得ない。例え、一切の怪我をしていなかったとしても同様である。

 

「えへへ……ありがとね。勿論大丈夫だったよ、お兄様! お姉様がほんの少し脅しただけでビビって逃げてったから!」

 

 のび太の発言を間近で聞いていたレミリアは穏やかな笑みを見せ、フランは万引き騒ぎの際に自分の事を信じて動いてくれていた嬉しさの余韻も相まり、幸せな気持ちで満たされていると言うのが表情と態度に現れていた。

 

「そんな事が……まあ、少し嫌な目にあったみたいだけど、その後はラーメン楽しめたみたいだし、良かったね」

「うん……あ、そうだ! お兄様、一緒にラーメン食べようよ! ね? 良いでしょ?」

「確かにもうお昼時で、お腹も空いてきたし……うん、分かった。僕は良いけど、レミリアはどうかな?」

「のび太とフランが良ければ私は構わないわよ。そもそも、今日は3人だけで出かけるのが目的だし、行き先は基本どうでも良いからね」

 

 で、その話と幸せの流れに乗ったフランが目の前にあるラーメン屋で一緒に醤油ラーメンを食べようと誘い、誘われたのび太がレミリアに意見を聞き、構わないと言われた事で店に寄る事が確定した。

 

「いらっしゃいませ……あっ」

 

 そうして、3人で一緒にどんなラーメンを食べようかと楽しげに相談しながら店へと入っていくと、応対しようとして近づいて来た店員の人が、レミリアやフランの姿を見て動きを止めた。店員の人の不可解な様子にのび太たちは勿論、店内に居た殆んどの客たちもどうしたんだど首を傾げていたが、その訳がレミリアとフランが前にラーメン店を訪れた際のあの事件が原因であると、すぐに理解する事になった。

 

「あ! そう言えばあの青っぽい髪の外国人の子、1週間だか前に居たヤバい奴よりもヤバい威圧感出して撃退した子じゃないですか!」

「言われてみれば、確かにそうだな。俺は見てたが、あん時ヤバい奴に妹さんを突き飛ばされてから、様子が一変してたし……きっと、妹さんが大好きなんだろうな」

 

 何故なら、この店にラーメンを食べに来た客の1人であるメガネをかけた若い男の人が言った、同意を求めるようなその言葉に対して、他の客たち数人と共に頷いていたためである。

 

「やっぱり目立ち過ぎたみたいね……失敗したわ」

「まあ確かに、あれだけやれば目立っちゃうのも無理ないよ! お姉様!」

「一体、何したんだろう……?」

 

 それを皮切りにして、当日食事をしに来ていた常連客や噂を聞いた事のある人たちが思い出したかのように話を始めてしまい、そんな様子を見て、今更ながらレミリアはあの時の立ち回りを後悔し始めた。

 しかし、これは悪い意味で注目を集めているのではなく、女の子がヤバい奴をあっさりと撃退して凄かったと言う、純粋な感嘆から来る良い意味での注目である。そのため、フランはそんな姉であるレミリアをとても誇りに思っていて、のび太はこれ程注目を浴びるなんて一体どんな事をしたんだと、不思議に思っていた。

 

「お客様、大変失礼しました。席にご案内致します」

「ええ、よろしくお願いね」

 

 レミリアが店の客たちから良い意味での注目を浴びて恥ずかしがっていると、先程まで固まっていた店員の人がようやくのび太たちを空いている席に案内をするために待たせたお詫びをいれつつ、再び声をかけて来たため、ついていった。

 

「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さいませ」

 

 店員の人に席に案内された後は、備え付けられたメニュー表を見ながらどうしようか相談しつつ、他愛もない会話を交わしていた。

 

「お姉様は何にする? 私はあの時と同じで醤油ラーメンにするけど」

「うーん……じゃあ、この味噌ラーメンにするわ」

「お兄様は?」

「僕は、フランが美味しいって言ってた醤油ラーメンにするかな」

「私と一緒……分かった!」

 

 相談の結果、レミリアは味噌ラーメンでフランは前回と同様の醤油ラーメン、のび太はフランと同じ醤油ラーメンと言う事に決まったため、店員を呼んで注文を伝える。

 

「そう言えば、このお店のラーメンって量が結構多いけど、お兄様食べきれる?」

「まあ、お腹空いてるから大丈夫だとは思うけど、無理だったら仕方ないかな」

「確かにそうだよね。私がお願いしたんだし、もしお腹一杯になったら無理しすぎないで残して、私に押しつけても構わないよ。お兄様。後、お姉様もね」

 

 そんな感じで、この店のラーメンの量についての話などをして盛り上がる事35分、3人分のラーメンが1度に運ばれてきた。フランから量が多いと聞いていたため相当量が多いとのだろうなと思っていたのび太であったが、運ばれてきたラーメンは案の定山盛りとまでは行かないものの、予想よりも大盛りに近いレベルの量の麺と具の量の多さに、少し驚いていた。

 しかし、お腹が大分空いている事と、物は違うがテスト勉強のために『アンキパン』を山のように食べた経験がある事が功を奏し、頑張れば食べられなくはない量だとの判断を、のび太は下せていた。

 

「あー、うん。確かにフランの言う通りだったね。この醤油ラーメン、凄く美味しいよ」

「良かったぁ。お兄様に気に入ってもらえなかったらどうしようかと思ったし」

「ふふっ……良かったわね、フラン。それはそうとこの味噌ラーメン、味は濃いけど結構いけるわ」

「そうなの? お姉様、1口ちょうだい」

「ええ、良いわよ」

「あっ、確かにこっちも美味しいね! でも、私は醤油ラーメン派かなぁ」

 

 運ばれてきたラーメンを美味しく頬張っている途中で、レミリアの味噌ラーメンをフランが1口試しに食べてみたり、勇気を出してレミリアやフランの2人に話しかけてくる客が数人出てきたりするなどと言った出来事があったものの、特に不快な思いをする事はなく、3人は笑い合いながら会話を楽しんでいた。

 

「うっぷ……流石にアンキパンを無理矢理詰め込んだ時よりはマシだけど、もう何も食べたくない……」

「私もよ。普段こんなに食べないから、本当にキツかったわ。醤油ラーメンの時はこうじゃなかったのに……」

「じゃあ、お姉様は味噌ラーメンよりも醤油ラーメンの方が好きだって事だね」

「ええ、そうみたいね。あの時は今ほど満腹感を感じなかったもの」

 

 そんなこんなで楽しむ事40分、運ばれてきたラーメンのスープ以外を、3人は全て食べ終えた。フランはまだ少し食べられる余裕があったものの、のび太とレミリアは何とか食べきったと言う感じであり、デザートを含めたありとあらゆる食べ物を少量でも口に入れる気が全く起きない程であった。

 

 故に2人はすぐ立ち上がって歩き始める気が起きず、会計を済ませて店を出る事が出来たのは、食べ終えてから更に15分が経った時とな る。

 

「お姉様にお兄様、大丈夫? 無理だったら私に残り物を押しつけても良いって言ったのに」

「あはは……フランが良いって言っても、流石に僕の食べ残しを押しつけるのは不味いと思って、つい無理したんだよね」

「右に同じよ。それに、フランだって誰かの残り物を食べるなんて嫌じゃないの?」

 

 しかし、歩き始めたとしても満腹感から来る身体の重さに眠気と言った要因から、のび太とレミリアの歩みはラーメン店に寄る前と比べると歩みが遅く、表情も少し辛そうな感じとなってしまっていた。そのため、2人の様子を見ていたフランは、無理なら自分に残り物を押しつけても良いって言ったのに、どうして無理をしてまで全部食べたのかと問いかけていた。

 

「確かにお姉様の言った通り、他の人の残り物()()()基本嫌だし、全部食べれる方が嬉しいに決まってる。でもね、お兄様とお姉様の残り物なら私、2人が辛い時位なら全然構わないよ。今日なんか、私がここ行きたいって言ったんだから尚更ね」

「まあ、そう言うなら」

「分かったわ、フラン」

 

 フランからの真剣な問いかけに対し、のび太は流石に残り物を押しつけるのは気が引けたからと言い、レミリアもそれに乗った上で逆に、残り物を食べるのは嫌じゃないのかとの質問を投げ返した。

 

 すると、フランはレミリアからの、誰かの残り物を食べる事に関する質問に対して確かに嫌だと答えつつも、家族同然ののび太と家族であるレミリアが残した物である事を前提として、今日のような時であれば構わないと即答した。

 

 ただ、本人が良いとは言うものの、やはり残し物を押しつけるのは気が引けると思っているのび太やレミリアは、フランを納得させるために取り敢えず表面上は同意する事にしておいて、この場を切り抜けた。

 

 その後はラーメン店に寄る前にやっていた事と殆んど変わらず、休憩多めで町歩きをしながら景色を見たり、楽しく会話を交わしたり、軽めのお茶やジュースを買って飲んでみたりなどをしていた。のび太やレミリアが食べ過ぎであまり早く動けないでいたため、午後4時頃までロクな場所には行けなかったが、フランにとってはそれでも満足出来る程の楽しい一時であったようだ。

 

「フラン、もうそろそろ帰りましょう? のび太のお母様やドラえもんが心配するわよ。そうでなくても、のび太も疲れきってるからね」

「うーん……お兄様が疲れきってるなら、仕方ないね! 分かった!」

 

 更に1時間後、日が暮れ始めてきたタイミングである事と、のび太の体力が本当に限界に近くなってきた事もあって、家に帰る事をレミリアが提案したため、町歩きをやめて帰る事が決定した。

 

「お帰り、3人とも。楽しかったかい?」

「勿論だよ、ドラえもん」

「うん! ()()()()()()で楽しかったよ!」

「ええ、楽しめたわ。それと、悪いのだけどのび太と私の夕食は抜きにしてもらえるようにお母様にお願いしておいてくれるかしら? お昼にラーメン食べ過ぎたから……本当、申し訳ないとも言っておいて」

「分かった。伝えておくね」

 

 家に帰った後は、出迎えてくれたドラえもんからの質問に対して簡単に答え、手洗いうがいを済ませてからレミリアとのび太は居間で休憩へ、フランは夕食を済ませるためにキッチンへと向かう。

 

 そして、それらが終わり、各々宿題や入浴等のやるべき事を済ませた後は、多少なりとも疲れている事や明日が学校の日である事などもあって、少し早めに寝ようと決まった。

 

「お兄様! 今日だけで良いから、一緒に寝ようよ!」

「その……差し支えなければ、フランとだけじゃなくて私ともお願いしたいのだけど……」

 

 で、のび太が2階にある自分の部屋へと向かい、布団を敷いた後にさて眠ろうと電気を消して横になろうとしたその時、パジャマ姿のレミリアとフランが一緒に寝たいと押し掛け、のび太が非常に断り難いだろうと直感したお願いの仕方を実践した。

 

「うん、良いよ」

「えへへ……やったぁ! ありがとね、お兄様!」

「ありがと、のび太」

 

 結果、そのおねだりはのび太に全く拒否される事なく受け入れてもらう事に成功し、2人はとても満足げな表情を浮かべながら一緒の布団へと入っていった。

 

 こうして、色々とあった1日が幕を閉じる事となった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と練習試合(前編)

「昨日は一緒に寝てくれてありがとね! お兄様!」

「どういたしまして。満足出来た?」

「勿論だよ! お兄様に加えて、お姉様とも寝れたんだから! えへへ……暖かかったなぁ」

 

 フランの万引き犯疑惑騒ぎと言った厄介事に巻き込まれながらも、と楽しい思いをする事が出来た休日の翌日の朝、のび太たち3人は学校に登校する道すがら、当日にあった事などを話の種にして歩いていた。何だかんだ言って、楽しめたようであった。

 

 特に万引き犯の疑いをかけられ、一時的に精神が追い詰められていたフランに至っては、のび太が最初から完全に無実を信じてくれた上、自分の事の様に必死になって周りの人に無実であると言うの分かってもらうために動いてくれた事に加えて、昨晩一緒に寝てくれた事さ嬉しさから、思い出したくない出来事ではなく自分から話の種にする程の出来事と化していた。

 

 だからと言って、もう1度経験したいかと問われれば、2度と経験したくはないとフランは思っている。そのため、フランの手提げバッグにはチャックを取り付けてもらい、狭い通路が多い店に立ち寄る際には挙動不審にならない程度には周りに気を付け、更に会計を終えた後のレシートを家に帰るまでは持っているなどと言った対策を取る事を決めた。

 

 ここまでしておいて疑われ、昨日みたいな出来事が振りかかってくる場合も考えられるものの、完全にその可能性を無くす事は不可能である。だから、この対策は疑われない確率を上げつつ、万が一疑われた時に防犯カメラや他の誰かの視線などによって、無実を証明しやすくすると言う側面の方が強い。

 

「のび太。今更なんだけれど、1人分の布団に3人も寝るなんて窮屈じゃなかった? もし窮屈で嫌だったとか、暑くて辛かったとかの理由があるなら、今日以降は自分の布団も持ってくる事にするけど……」

 

 そんな感じで、フランとのび太が昨日起こった事を含めた会話を交わしていると、レミリアが2人の話が切れたタイミングでのび太に話しかけた。どうやら、本来1人のみで寝る事を想定している布団にレミリアとフランを加えた3人で寝た事で、のび太が窮屈で嫌だったのではないかと今になって思い立ったようだ。

 もし、窮屈であった事や密着していて暑かったと言う理由で嫌だった場合は、次回からは布団も人数分持ってきて寝る事にすると、レミリアはそう持ちかけていた。

 

「うーん……窮屈かなとは思うけど、別に問題ないかな。それに、真夏の蒸し暑い夜ならともかく、今の季節は秋だから……君たちさえ良ければ、僕は昨日の感じで構わないよ。と言うかとか寒さなら『テキオー灯』とか『あべこべクリーム』を使えば解決するから、あってないような問題だけど」

「そう? なら、昨日のままで行くわね」

「……」

 

 しかし、のび太は1つの布団で3人で寝た際に窮屈だとは思っていたものの、嫌だと思う程ではなかったようで、問題はないとレミリアに答えていた。もう1つの問題である暑さについては、テキオー灯やあべこべクリームと言ったひみつ道具を使えば解決するから問題ないと、同じく答えた。

 

 結果、今日以降も一緒に寝る事になった場合は変わらず1つの布団に3人で寝る事が決まり、それに対してレミリアとフランも、その返答を聞いて良かったとホッとしていた。

 

「さて、今日の授業は……3時間目の体育の練習試合以外は普通ね」

「うぇ……そうだったの忘れてたぁ」

「あら、何だか凄く嫌そうね。まあ、のび太は運動苦手だから仕方ないのかしら」

「そうなんだよ。しかも、男女別で試合って……僕、足手まといになりそう……」

 

 そうして昨日の話題が一段落し、レミリアが今日の授業の話をし始めた所で、のび太が露骨に嫌な顔をし始める。3時間目の体育の授業が『ドッジボールの練習試合』であったためだ。

 

 これが男女混合のものであれば、のび太はレミリアやフランのサポートを受けながら何とか立ち回る事が出来るが、男女別ともなれば話は別であると言う理由があった。自他共に認めるかなりの運動音痴であるのび太を、流石のジャイアンたちでもカバーしきれない事が度々あり、

 

「手抜きしないで頑張れば大丈夫だから、元気出して! もし、それでお兄様を傷つける人が居たら、私が()()()()()()()()()()()!」

「うん。ありがとう、フラン」

「どういたしまして!」

 

 役に立たないどころか足手まといになりそうだと少し沈み込んでいるのび太を見て、昨日のお返しが出来るとここぞとばかりに、手抜きせずに頑張れば大丈夫だと、フランが励ましに入った。更に、それで失敗したとして、のび太を過剰に傷つける奴が居るならば、自分がそれ相応の()()()()準備があるから心配しないでと言う意味を込めた言葉を贈る。

 

 結果、少し気が楽になったのび太はフランの頭を優しくポンポンと叩きながら、励ましてくれてありがとうとお礼を言った。ただ、フランのどうにかすると言う部分が、のび太にとってはソイツらをボコボコのギタギタにしてあげると言う意味に聞こえてしまったために、心配事も増えてしまったが。

 

 で、その3時間目にある体育の授業の話題が終わったタイミングで学校に到着すると、話に夢中になっていたせいで歩くのが遅くなっていたのか、いつもよりも時間が10分程度進んでいた事に3人は気がついた。とは言え、遅刻してしまう程ギリギリの時間と言う訳ではないため、慌てずに正面玄関へと向かって上履きに履き替え、いつも通り教室へと話をしながら歩いて行って、扉を開けた。

 

「あ、おはよう! 昨日、商店街でフランちゃんが万引き犯にされかけて大泣きしてたって聞いたよ! 大丈夫だった!?」

 

 すると、教室へ入るなりレミリアとフランの前の席に座っている女の子とその友人数人が駆け寄ってきて、教えていないにも関わらず昨日の商店街での出来事について、大丈夫だったのかと3人は声をかけられた。

 あの時、クラスメートらしき子供は見かけなかったと記憶していたレミリアは、いつの間にかクラス中に情報が行き渡っている事に驚き、フランは落ち着いて考えてみたら沢山の人が居る中、大泣きしながらお兄様呼ばわりした事に恥ずかしさが込み上げてきたらしく、思わずのび太の後ろに咄嗟に隠れた。

 

「ええ、大丈夫よ。あの時、フランのバッグに入ってた時はおかしいと思っていたのだけど……調べてもらったら、ただ単に誰かのイタズラに引っ掛かっただけって分かったからね。本当、監視カメラ様々よ。それと、のび太のお陰で立ち直りも早かったから、こっちも助かったわ」

「おい、それマジか?」

「ええ。一字一句嘘偽りない、本当の話よ」

「「「うわぁ……」」」

 

 驚きから戻った後、女の子からの大丈夫だったのかと言う質問に、レミリアがあの時の出来事を軽く振り返った上で大丈夫だったと答えた瞬間、その場の雰囲気が即座に凍りついてしまった。この場に居るほぼ全員が想像していた物よりも、かなりキツいイタズラであったためである。

 

 あまりにも酷い内容のイタズラであったせいか、ジャイアンがレミリアにそれは本当なのかと確認をするために問いかけたのに対し、嘘偽りのない話であるとレミリアが言い切ったため、ただでさえ冷えきった空気が更に冷える事となった。

 

「酷い事しやがる奴も居たもんだな。でも、疑いが晴れて良かったぜ」

「うん。でも、他人事じゃないね。僕たちも気をつけないと」

「そうよね。例えば、チャック付きの手提げバッグにするとか、あまり長時間居座らないようにするとか……」

 

 レミリアの話が終わった後、クラス内の会話内容はフランの受けた酷いイタズラを受けないようにどう対策を取るかや、イタズラを受けてしまったフランを慰めたりする会話が3分の2を占めた。後は、アメリカに帰るまでにこれ以上嫌な思い出を増やして欲しくないと言った話や、相応の罰がイタズラの主に降って欲しいと言った話をする児童がちらほら居る程度であった。

 

「時間だぞ。皆、席に着きなさい」

 

 すると、その類いの話で教室内が持ちきりになっていたこのタイミングで、担任の先生が時間になってやって来た。ちょうど話を終わりにしようと大抵の皆が思っていた時であったため、話足りないなどと言った事はなく、これを期にこの話題については終わりになるのが決まる。

 

 それから先生の朝の話を聞いた後は、10分間の休み時間を経て1時間目の算数と2時間目の社会の授業が行われたが、担任の先生が間違えて小テスト用の用紙ではなく、単なる白紙を持ってきてしまったため小テストそのものが中止となった以外は、特に変わった事もなく進んだ。

 

「えっと、次の体育の授業内容は……確か、他クラスとのドッジボール練習試合だったな」

「はぁ……しかも、男子と女子両方とも強いクラスとやるみたいよ。ただ、それでも男子は武君や出来杉君たちが居るから良いけど、私たち女子の方は――」

 

 3時間目の体育の授業のために体育館へと移動している途中、ドッジボールの練習試合の相手が男子と女子共に強いクラスである事から、特にのび太たちのクラスの女子の一部はあまり気分が良くなかった。しずかちゃんやその他2人程運動神経が良い女子は居たものの、それでも相手の方が何らかの運動クラブなどをやるなどして、技術的に上の児童が多かったためである。

 

「あぁ、ソイツなら心配ないぜ。何で言っても、この2人が居るからな。何て言っても、男子に混じってドッジボールで戦える程なんだからな」

「武君。レミリアちゃんとフランちゃんって、運動でもそんなに凄い子だったの? まあ、頭の良さの方は日本語ペラペラって時点で凄いとは思ってたけど……」

「勿論だぜ。少なくとも、男子に混じってドッジボールを戦い抜ける位にはな。ちなみに、この間やった時は相手のボールに一回も当たらなかったな」

 

 しかし、ジャイアンがレミリアとフランが居るから問題ないと、男子に混じってドッジボールをやり、一切当たる事なく試合を終えた時の事を引き合いに出して、若干不安がる女の子の不安を解消しようと試みた。

 

「男子に混じって……ねえ、2人共。武君がそう言ってるけど、本当?」

「あぁ……そう言えば、そんな事あったわね。ええ、本当よ」

「本当だよ! 証拠はそうだね……授業の時に見せてあげる!」

 

 ジャイアンが言い終えると、その話を聞いた女の子は真偽を確かめるためにレミリアとフランに対し、それは本当なのかと問いかけた。

 

 実際、男子に混じってドッジボールの試合をやって、なおかつどんなボールにも当たらずに試合を切り抜けた経験が2人にはあった。そのため、女の子からの問いに対してレミリアは自信満々に本当だと答え、フランに至っては授業の時に証拠を見せてあげると堂々と全員に宣言をした。そこまで自信ありげに言うのなら、きっと本当なのだろうと問いかけた女の子は思ったらしく、体育館に着く頃には不安の表情は消えていた。

 

「今日はよろしくお願い致します。あくまで練習試合と言う体でありますが、お互いに全力でやりましょう」

「ああ、勿論だ!」

 

 そうして体育館に入ると、既に待っていたらしい相手クラスの男の子が1人近寄ってきて、お互いに頑張って試合をしようと言いながら握手を求めてきたため、手を差し出されたジャイアンはそれに応じ、手を差し出して握手をした。相手クラスの女の子の方は、しずかちゃんが握手に対応している。

 

「それにしても、まさかアメリカからの留学生の子と戦う事になるとはね。貴女たち、運動は得意?」

「ええ、得意よ」

「私もお姉様と同じだよ!」

「……みたいね。これは、舐めてかかると痛い目を見る事になるか」

 

 お互いのクラスの男の子と女の子の代表同士が握手をしたり言葉を交わすなどした後、代表とは違う相手クラスの背が高い女の子がレミリアとフランの下へ近寄って行き、運動が得意かどうかといきなり質問を投げ掛けた。聞かれた2人は実際に運動が得意であると、そう自分達のクラスにもジャイアンを、女の子に対してもそう答えを返した。

 

 あまりにも自信満々にレミリアとフランが得意だと答えたからか、そう言われるまでもなく何かを感じ取ったのかは分からないものの、相手の背が高い女の子の2人に対する警戒心が最大級にまで跳ね上がった。その様子を見ていた相手クラスの女の子もそれに触発されたのか、2人に対して同様に警戒心を露にし始める。

 

「では、全員準備は良いか? これから授業を始めるぞ」

 

 その様な雰囲気の中、チャイムが鳴り、相手クラスの担任の先生が体育館に居る全員に向けて授業を始めると言ったため、

 

 まず最初は、お互いのクラスの男子による練習試合が始まった。と言っても男子全員でではなく、その中の7人程度から選んで出ると言った感じであるので、こちらから出るのはジャイアンや出来杉や他5人の運動神経抜群な男子だと決まっている。練習とは言え、あくまでも試合であるから仕方ないとは分かっていながらも、のび太が弾かれた事にフランは露骨に不満げな表情を見せたが、声には出さなかった。

 

 今現在、のび太のクラスと相手のクラスの男子同士の戦いは、ジャイアンと出来杉の活躍によって互角の様相を呈していた。こちら側が当てれば相手の外野がすかさず仕返し、相手が当てればジャイアンや出来杉がやり返すと言った光景が続き、一向に試合が進展しない状況が4分程続いた。

 

「くっ! 剛田に出来杉……他の奴も大概だが、やはりこの2人は別格だ! やるではないか!」

「そう言うお前らも、出来杉を外野に追いやるなんてやるじゃねえか!」

 

 ただ、流石に体力の消耗からか時間が経つにつれてどんどん人数が減っていき、終いには味方側と相手側が残り1人ずつと言う所まで試合が進展していった。

 

「ねえ、お姉様。ジャイアンと相手の男の子、どっちが勝つと思う?」

「そうね……余程のミスをしない限りだと、ジャイアンかしら。見たところ技術的にはほぼ互角みたいだけど、体力面でジャイアンの方が有利だからね。この試合を見てて分かったわ」

「へぇ……」

 

 互いの実力が拮抗している白熱した練習試合を、何だかんだで楽しく見ていたフランが、何となく今残っているジャイアンと相手の男の子のどっちが勝つと思うかを、同じく楽しんで見ていたレミリアに問いかけた。

 

 すると、そんなフランの問いかけに対して、レミリアは殆んど考える事なく、今回勝つのはジャイアンの方であると断言した。今までのジャイアンとの付き合いと、今行われている試合の様子から導きだしたらしいが、フランはレミリアが能力を使って『少し先の未来』を見たのではないかと勘ぐっていた。

 

「よし! 何とか勝ったぞぉ!」

 

 2分程経った後、能力を使って少し先の未来を見たからか、はたまた普通に導きだしたからなのかは不明であるものの、試合の結果はレミリアの予想通り、ジャイアンが一対一のボールの投げ合いを制し、この試合を味方側の勝利で飾って終えた。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と練習試合(後編)

「あら……あれだけ激しく戦っていたと言うのに、まだ余裕があるなんて凄いわね。普段から鍛えてるのかしら?」

「ああ。レミリアの言う通り、普段から鍛えてるからな。流石にどっかの大会とかに出れるレベル位にマジで運動してる奴らには敵わないが、普通の奴らには負けないぜ」

「なるほどね。確かに、これならそこら辺の子たちには負けない訳よ」

 

 のび太のクラスの男子と相手クラスの男子とのドッジボールの練習試合で、1対1の激しい投げ合いに持ち込まれたもののそれを制し、勝利で飾ったジャイアンに対して、レミリアやフランを含めた味方側の観戦者は称賛の意を表していた。運動も天才的な出来杉すら外野に追いやった相手クラスの代表格児童に打ち勝ち、勝利をもぎ取ったためである。

 

 しかも、相手が疲労困憊なのに対して、ジャイアンの方もそれなりに疲労してはいるものの、まだ戦う事が出来る程度には体力が残っている事も称賛される要因となっていた。これにはレミリアも、人間の子供にしては多すぎる体力に驚きを見せ、普段から鍛えているのかとの言葉を投げ掛けていた。これに対して、ジャイアンはその問いに頷いて肯定したため、問ったレミリアも納得の表情を見せていた。

 

「さてと、次は女子同士の戦いだな……適度に頑張れよ。まあ、お前ら2人なら心配は要らんだろうが」

「ふふっ、当然よ。何て言ってものび太が見ているんですもの。無様な姿は見せられないわ」

「そうだね、お姉様! アッサリ叩きのめされて、お兄様に幻滅されたら嫌だもん!」

「フラン。心配しなくても、のび太の野郎の事だ。あり得んだろうが、仮に2人が無様な倒され方をしたとしても幻滅なんてしやしないさ。むしろ、()()()()()()()って励ましてくれるだろう」

 

 そんな感じで会話を交わしていた時、後数分で相手クラスの女子との練習試合が始まるからか、ジャイアンがレミリアとフランに頑張れよと軽い感じで声をかけた。今回の練習試合の相手クラスの女子は強く、戦力差によって普通であれば負ける確率が高い。ただ、今回はレミリアとフランが居て、負けるとは殆んど考えていないが故の軽い発言であった。

 

 ジャイアンからそう声をかけられたレミリアとフランは、のび太が見てくれている事もあって、言われるまでもなく頑張るつもりだったため、当然だと言い放った。その際、フランは万が一叩きのめされた際に、のび太に幻滅されてしまう可能性を心配していたものの、ジャイアンが即座にそれを強く否定した事で、その心配は消え去ったらしい。

 

「ジャイアンの言った通りだよ、フラン。僕は君たち2人が負けちゃったとしても、幻滅なんてしない。強く問い詰めたりもしない。だから、安心して良いよ」

「っ! えへへ……」

 

 更に、側で話を聞いていたのび太が会話に入り込んできて、例え負けたとしても幻滅なんてするはずがないし、それについては一切問い詰めたりもしないから安心してくれと声をかけてきた。加えて、レミリアやのび太に外でされて嬉しい事の中で上位に位置する、()()()()()()()()()をされた事で練習試合に対するやる気が上がり、是が非でも勝利をもぎ取って褒めてもらい、頭を撫でてもらおうと言う気持ちが大きくなっていく。

 

「2人共。もうすぐ始まるみたいだから、行った方が良いぞ」

「あら……どうやらそうみたいね。じゃあ、行くわよ。フラン」

「うん! お兄様……私、お姉様と一緒に頑張るから見てて!」

「勿論だよ。応援してるから、頑張ってね」

 

 のび太とフランが周りから見ていて微笑ましいやり取りをしていると、お互いのクラスの女子たちが試合をするために集まっているのを見たジャイアンが声をかけた事によって、そんなやり取りは中断される事になった。

 もう少し頭を撫でて欲しかったと言わんばかりの表情を見せるフランであったが、レミリアに行こうと促されたため、ここで渋っても仕方ないと気持ちを切り替えて女子たちが集まるコートに向かっていった。

 

「武君はレミリアちゃんとフランちゃんが居れば余裕みたいな事言ってたけど、本当なのかな? 2人が運動してるところを見た事ないから、体格的にどうしても……」

「さーね。まあ、とにかく今日の練習試合で真価が分かるし、何よりリーダーの源さんがイチオシの子達だから大丈夫でしょ。それと、分かっているとは思うけど……あっさり負けたとしても、強く責め立てては駄目だよ?」

「そんなの、言うまでもないわ」

 

 その際、2人の耳に自分たちの運動能力を疑うような女子の会話が届くも、特に気にもならなかったため、何も言わずにスルーして言われた通りの位置についた。

 

「それでは、準備が出来たみたいですので……始めてください!」

 

 お互いのクラスの女子たちが位置についたところで、相手クラスの担任の先生がそう声をかけた事によって、ドッジボールの練習試合が始まった。

 

「やった! まずは……それ!」

「しまっ……フランちゃん!」

 

 試合始め、最初のジャンプボールでは相手にボールが取られてしまって先制攻撃を許してしまう。しかも、その攻撃の対象がフランであった事によって、味方側のしずかちゃん以外の女子数人が慌ててしまうが……

 

「ふふっ。貴女、私なら小さくて弱いって思った?」

「……」

「まあ良いや。お返しだよ!」

「ちょっ……速い!?」

 

 フランがあっさりとボールをキャッチしたため、味方の女子の慌ては無駄に終わった。その上、男子顔負けの速球で反撃を繰り出した事により、ジャイアンの言っていた事が嘘ではないと言う事実が判明して女子たちに衝撃が走るが、今の攻撃は()()()()()()によってギリギリ避けられてしまう。

 

 ただ、今の反撃によってフランはもとより、まだ動いていないレミリアに対して侮っていた、一部の相手クラス女子も警戒せざるを得なくなったと言う意味では、十分に効果があったと言える。

 

「あの、アメリカからの留学生の子たちヤバいな。俺たちと混じってやり合っても行けるんじゃないか?」

「うへぇ……もし俺らのクラスの女子が勝ち進んだら、準々決勝か準決勝あたりでかち合うんじゃね?」

「うん。これは今年、油断できない戦いになるね。女子は」

「いや、女子もそうだが男子もそうだぞ。現にさっきの練習試合じゃ1対1に持ち込めたは良いが、剛田に負けただろう?」

「確かに。と言うか、他の女子たちも結構強いじゃん」

 

 体育館の端の方に座り、反撃からの試合を観戦している相手クラスの男子たちも、レミリアとフランの容姿から想像出来ない程の高い運動能力に驚きを見せ、会話の種にしたりしている。のび太やジャイアン、スネ夫や一部の男子以外の味方側の男子も、同様の反応を見せていた。

 

「あらあら……相手の女の子たち、かなり強いじゃない。数の上では私たちが不利ね」

「確かにそうだけど、私とお姉様は負けないよ! 勝って、お兄様に頭を撫でてもらうんだから!」

 

 ただ、レミリアとフラン、しずかちゃんとその友人1人以外は相手クラスの女子たちの強力な攻撃によって着々と撃破されてしまい、3分が経った頃には相手が残り8人なのに対して、味方が残り4人と言う感じとなってしまい、数の上では不利な状況に追い込まれていた。

 しかし、2人にとっては特に問題がある程の状況ではなく、残っている味方をサポートしながら相手を少しずつ倒していき、4分間で数を同等にまで追い付かせる事に成功した。

 

 そして、この辺りまで試合が進んできた時、レミリアとフランにもほんの僅かずつではあるものの、身体的ではなく精神的な疲れが見え始めてきていた。吸血鬼としての身体能力を持っていて、人間の投げるボール程度の速度であれば受け止めたり回避したりする事であれば余裕を持てるものの、こと攻撃に関しては何かの拍子で手加減を間違えれば、今回の練習試合に使用されていた柔らかめのドッジボールですら人殺しの武器になりかねないためである。

 

 特に、フランに至っては1度だけ手加減を間違えている事もあり、余計に緊張感が増していた。ただ、この時は危ない方の間違いではなかったため、そう言う意味では問題はなかった。

 それに、精神的に疲労が溜まっているとは言え、まだまだこの程度であれば許容範囲内であるため、2人の行動には支障が出る事はない。

 

「確かに貴女たち2人は強い。だけど、流石に疲れが見えてきたようね……!」

 

 ただ、レミリアとフランの精神的な疲れが表情か動きに出ていたからなのか、読み取ったのかは不明であるものの、相手クラスの女の子の1人がこんな事を言い始めた。予想以上に強かった2人に()()()()()()と言うこの状況に、光明を見出だしたためである。故に、すかさず外野を含めた女子たちと協力して、レミリアとフランを含めた味方にボールを当てて倒そうと躍起になった。

 

「確かに()()はあるわ。でも、私とフランはまだまだ動けるわよ?」

「うん! それに、私とお姉様だけじゃなくて、しずかとそのお友達も居るのを忘れないでね!」

 

 でも、実際にはレミリアとフランの動きはほぼ鈍ってはいないし、付け加えるならば回避とボールのキャッチに関しては、精神的疲労も極めて少量しか溜まらないために余裕綽々である上、2人の他にも味方はまだ2人居る。なので、相手の見出だした光明は、偽りの光明であった。

 

 その後も順当に相手にボールを当てていって減らしていった結果、味方の女の子が当てられて残り3人となってしまうも、最後にしずかちゃんが滑って転んでいるタイミングで目の前に飛んできたボールを取り、ほんの僅かの時間で体を横に向けつつ投げたボールを最後に残っていた相手の足に当てると言う奇跡の芸当によって、この戦いを勝利で飾る事に成功した。

 

「くっ! 見誤ったみたいね。しかし、あの体勢から当ててくるとは……今年の貴女たちのクラスとの試合、並大抵の苦労じゃ済みそうにないか」

「しずか。あの体勢からボールを取って当てるなんて、やるじゃない」

「ちぇっ。最後の相手を倒したところをお兄様に見せたかったなぁ……でも、あれに関しては文句言えないね。確かに凄かったから」

 

 しずかちゃんが見せたこの芸当に、観戦していた両クラスの男子たちは勿論の事、共に戦っていたレミリアやフランを含む両クラスの女子たちも純粋に感嘆する事となった。

 

「お兄様、私も頑張ったんだから撫でて!」

「良いよ。ほら、おいで」

「えへへ……ねえ、私の活躍ってどうだった?」

「フランの活躍? 誰よりも凄かったよ。流石だって思った」

「……ありがと!」

 

 試合が終わってすぐ、フランはしずかちゃんを褒めるのび太のところへと駆け寄って行き、服を優しく引っ張りながら自分も勝利に貢献したのだから頭を撫でてくれとねだると、のび太は要求に答えて頭を撫でる。

 それに満足したフランが、何気なしに自分の活躍はどうだったかと質問をしてみたら、のび太が()()()も凄かったと答えた事で言い表し難い嬉しさに心が支配され、思わず家に居る時のような仕草をしかけるも、周りののび太に対する反応の事を考え、取り敢えず大人しく頭を撫でられるだけにして我慢した。まあ、この時点で周りにとても目立っているのだが、そこまで頭は回っていないらしい。

 

 ちなみに、レミリアは同じようにされたいと思ってはいたものの、フラン程の大胆さを発揮出来ずにいたため、家に戻ってから要求しようかと考え始めていた。

 

「先生、授業時間がまだ半分位残ってるんですけど……まだ試合ってやるんですか?」

 

 練習試合が終わり、水分補給やトイレ休憩などを済ませて帰って来たのび太のクラスの1人が、担任の先生に対して授業時間がそれを含めてまだ25分程度残っている事を伝え、まだ試合をやるのかと少し何かを期待しているような感じで質問を投げ掛けた。

 

「やらないぞ。うちのクラスは、残りの時間は教室で自習をする予定だ。体育館は既に予約が入っているからな」

 

 すると、担任の先生は練習試合はもう行わず、体育館の予約も相手クラスに先に取られていて、残りの時間は教室へ戻って自習の時間とする予定である事を伝えた。結果、それを聞いた男の子がホッとした表情を見せながら伝達した事で、担任の先生が声かけせずに全員が教室へ戻るために素早く動き始めたため、時間のロスが少なく抑えて戻る事に成功した。

 

「自習かぁ……適当に教科書でも読もうかな。お姉様は?」

「そうね……次は国語の授業だから、国語の教科書でも読もうかと思ってるわ」

「ふーん。じゃあ、私も読むの国語の教科書にしよっと」

 

 教室へ戻った後は、次の授業が国語であるためか、レミリアは自習の時間を国語の教科書を読んだりするのに使う事を決め、フランもそれに流される形で時間を使う事を決め、余った時間が終わるまで実行に移した。

 

 3時間目の国語が終われば4時間目の算数に昼休み、5時間目の社会と言った感じで順当に授業が、何事もなくいつものように進んでいった。

 

「フラン。今日の学校の授業はどうだった?」

「あっ……言うまでもなく、良かったよ! だって、お兄様に私の活躍の事を聞いたら、()()()()()()()()って褒められたもん! あ、そうそう! 昼休みに、練習試合でのお姉様の活躍についても聞いてみたんだけど、私と一緒位に凄かったって言ってたよ。それと、ついでに家に帰ったらお姉様の頭も撫でてあげてって頼んでおいたから、楽しみにしててね!」

「……」

 

 今日の授業が全て終わり、いつも通り担当である教室の清掃と先生の話も終わらせ、さて帰ろうと言う時にレミリアが唐突にそんな事をフランに聞いた。学校登校の初日にすら聞いてこなかった事を何故かこの日だけは聞いてきたため、フランは一瞬だけ不思議に思うも、すぐに心で思っていた事を答えた。

 更に、レミリアの心の中を読み取ったのか、家に戻ったらフランがしてもらったのと同様に、のび太に頭を撫でてもらう予約まで勝手に取っていた事までここでようやく本人に明らかにした。

 

 確かに、レミリア自身もフランと同様に頭を撫でられたいとは思っていたから、勝手に予約を取った事に対しては感謝すらあった。しかし、恥ずかしいから皆の前では自重していたのに、よりによって人が教室に10人以上居たり、廊下を何人も通ったりするこの時間に大きな声で言わないで欲しいと思っていた。現に、この会話をしているレミリア自身やフランに、妙に微笑ましい視線が向けられているのを感じ取ったためである。

 

 ただ、ここで余計な事を言って頭を撫でてもらうのがなくなるのは良くないとも思っているため、レミリアは何も言わずに恥ずかしさに耐える事を選択した。

 

「2人共、僕はもう準備は出来たけど……一緒に帰る?」

「うん! 勿論だよ、お兄様!」

「私も一緒に帰るわ……」

 

 そうした会話を交わしていると、帰るための準備を終えたのび太が一緒に帰るかとレミリアとフランに声をかけてきた。2人にとって、一緒に帰らないと言う選択肢はあってないようなものであるため、了承して一緒に帰る事に即決まった。

 

 こうして、2人は殆んどいつも通りの1日を過ごして終えた。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と旅行(導入編)

「へぇ……しずかちゃんにジャイアン、レミリアにフランを誘うのは分かるけど、スネ夫が僕やドラえもん()旅館への旅行に誘ってくるなんて珍しいね」

 

 レミリアとフランが現代旅を始めて19日目の金曜日の朝、平日にも関わらず珍しく学校が休みであったこの日、気が向いたからと言う理由で出されていた宿題をやっていたのび太は、かかってきた電話に出たドラえもんからその内容を聞いて、少し驚いていた。それは、スネ夫が珍しくのび太やドラえもんも含め、2泊3日の旅行に来ないかと言って誘いをかけてきたためである。

 

 前までであれば、こう言った1泊2日以上の旅行や当日のみのお出かけがあったとしても、稀にある例外を除いて仲間外れにされるか、そもそも話すら入ってこないと言った形で行けない事が多かった。だから、この話をのび太が聞いた時、考えるまでもなく当然行くと言う結論に達し、そう言おうとした。

 

「あ、でも……ママとパパに許可を取らないと行けないよね? 許可してくれるかなぁ?」

「それなら、心配要らないよのび太君。電話が終わった後、僕がその事を話して許可を取ってきたから。えっと、確か『行きたいのなら、楽しんできなさい』って言ってたよ」

 

 ただ、のび太は未成年かつ小学生であり、両親の庇護下にある子供である。当日中に帰ってくるお出かけならともかく、2日以上他所の子の家と共に遠出をすると言うのであれば、許可無しでは到底行く事は出来ない。そう考えが浮かんだのび太は逸る気持ちを抑え、両親に対して許可を取りに行くため、机を立とうとする。

 

 が、そこに間髪入れずにドラえもんが声をかけ、自分がそれに対する許可をもらってきたから心配は要らないと言った事により、その手間が省けた上に行ける事が決まり、のび太は喜びを露にした。

 

「やった! 後は、レミリアとフランにも声をかけて、どうしたいか聞いてみるかな。出来れば皆一緒が良いから、行くって言ってくれれば嬉しいけど」

「うん。でも、大丈夫だよのび太君。あの2人、()()()行くって言ってくれるだろうし」

 

 その後、のび太はレミリアとフランも一緒に連れて行こうと思い、宿題を中断して居間に居るであろう2人の下へお願いをしに向かうが、その際にドラえもんは『でも、大丈夫』との言葉を発した。

 

 もうすぐ3週間が経とうかと言う日数共に過ごし、レミリアとフランがのび太に対して好意を抱いている事が分かり、そんなのび太にお願いをされれば、余程嫌な事が無茶な事でなければ聞いてくれると分かっていたためである。

 万が一レミリアに行きたくない気持ちがあって迷っていたとしても、のび太に対してもはや姉に同じ位に依存しているとしか言い様のないフランが行くと答えるのは明白であり、そうすれば流れで行くと言う選択肢を選ぶ可能性が極めて高いと推測出来た事も理由の1つのようだ。

 

「ねえ、お兄様! ドラえもんが電話で話してるの聞いたんだけど、友達とどこかにお泊まりしに行くんだってね! 勿論、お兄様たちと一緒に私も行くから!」

「ふふっ……2泊3日のホテル泊まりの旅行だって? 何だか面白そうだし、是非とも行く事を()()()()。もう準備も済ませてあるから、何時でも動けるわよ」

 

 2人がレミリアやフランがいつも居る居間に入り、旅行についてどうするのかと聞こうとした瞬間、着替えなどの各種旅行に必要な物品を入れた小型のスーツケースや、財布などの貴重品を入れた手提げバッグを用意し、出かける準備を既に終えた状態であった光景を目にした。

 その後、笑顔で駆け寄ってきたフランと、テンションが高いのを隠しきれていないレミリアを見て、のび太は聞くまでもなかったかと悟り、ドラえもんはやっぱりなと小さく声に出す。

 

「勿論、僕もドラえもんも行くよ。だけど2人共、もしかしたら僕が行かないって言うかもしれないとは思わなかったの?」

「全然思わなかったし、むしろ行くって選ぶと思ってたよ! だから、ドラえもんの会話を聞いてた時から準備を始めてたの!」

「私もよ。のび太は絶対に()()()()()()()()()()って、既に分かってたから」

「なるほど……」

 

 そして、自身が旅行について行くかどうかと言う前に準備を済ませていた2人に向けて、行かないと言う可能性は考えなかったのかとのび太が問うと、思う訳がないと断言までした。ここまで清々しい程即答出来たのは、レミリアは能力を使用して少し先の『運命』を見て知り、フランはのび太は絶対に断らないと未来予知クラスの直感でそう予想をしていた故である。

 

「それにしても、本当にその通りになったなんて驚きね。私は能力使うまで分からなかったし、凄いわ。フラン」

「えへへ……だって、お兄様ってお姉様と並ぶ程の大好きな『家族』なんだもん! 行動や仕草、表情とかをじっくり見てるから、この程度の事なら少し考えれば分かるよ! 前にも1人だけで家に来た事あるし!」

 

 2人が準備を既に終えていた理由が自分の答えが分かっていたからと判明し、成る程とのび太が納得していると、レミリアがフランの頭を撫でながら褒め始めた。何故かと言えば、のび太が旅行に行くと最初に当てたのがフランであるためだ。

 

 で、レミリアに褒められたフランは気を良くし、今回の予想を当てる事が出来た理由を説明し始めた。曰く、前回1人で来た時も含め、家族同然であるのび太の事をじっくり観察していたからとの事らしい。

 

「なるほどね……って一応聞くけど、常識は逸脱してないわよね? 紅魔館で私としてるみたいな事を()()()()でしたとしたら、のび太に傷を与えて迷惑をかけ、スキマ越しに見ているだろう紫に今生のネタにされるかもしれない上に、下手すれば幻想郷に強制送還されるかもしれないのだから」

 

 フランが見事に予想を当てる事が出来た理由を説明していると、話を聞いていたレミリアが急に真剣な表情になり、常識は守っているのかと問いかけ始めた。

 

 今のところは何も起こってないから大丈夫だろうとは思いつつも、フランの言った『大好きなのび太のあらゆる行動や仕草、表情などをじっくり観察した』との言葉に、その気持ちが変な方向にねじ曲がって高ぶり、見ていない時に紅魔館で自身とするようなスキンシップをしていないかと言う心配が、完全には拭えていないためである。

 

 仮に実行に移した場合、色々な面でデメリットでしかない事が容易に想像が出来てしまうため、レミリアが心配してしまうのも無理はない状態となっていた。

 

「も、勿論だよ! 常識はしっかり守ってるし、紅魔館でやってるような()()はお兄様にはやってないし、そもそもここではお姉様ともやらずに行けてるんだよ! それにもし、今()()が邪魔も入らずに出来る状況だったとしても、同意無しにそんな事をするつもりはないもん。だって、お兄様の意思を無視してやって嫌われる……そんな自分の首を絞めるような真似、私には出来ないから」

「……なら良いわ」

 

 しかし、レミリアの想像しているデメリットはフランも痛いほど理解している。加えて、今現在は強い理性とのび太に嫌われた時の恐怖を合わせたものがスキンシップの欲望に対して圧倒的に勝っているため、自信を持って常識は守っていると言えた。これには、レミリアも心配は杞憂だったと思わざるを得なかったようだ。

 ちなみに、そんな2人の会話を聞いていたのび太とドラえもんは、一体何の話をしているんだと不思議に思いつつも、聞いてはいけない何かを感じたため、この件に関しては我関せずを貫く事に決めている。

 

「さて、話が思い切り逸れたけれど……いつ行くのかしら?」

「あっ、そう言えば聞いてなかったけど……ドラえもん、スネ夫は何て言ってたの?」

「確か『今日の12時過ぎに出発する』って言ってたよ。行きたければ、それまでに学校近くのスーパーで待ってれば大型車2台で迎えに来てくれるって。1台は荷物運び用らしいよ」

 

 5分後、フランのスキンシップ云々の話のせいで逸らしてしまった状況を戻すために、レミリアがのび太に対して2泊3日の旅行にはいつ行くのかと聞いた。ただ、電話に出た本人ではなかった故にのび太は答えを知らなかったため、電話に出た本人であるドラえもんに更に質問をした。

 

 結果、今日の昼間までに学校近辺のスーパーの駐車場にレミリアやフランを含めた4人で準備をして向かい、待っていれば迎えの白い大型の車が来るので、それに乗れば良いとスネ夫が言っていた事が判明した。

 

「なるほど……12時過ぎって事はテレビ前の時計を見るに、今から後4時間近くね。学校の側にあるスーパーならそれ程遠くないから、万が一の事も考えると、家を40分位前に出れば間に合うって感じかしら」

「うーん、そうだね。僕も君と殆んど同じ事を考えてる」

「まあ、早く着いてもスーパーだし、ちょっとした飲み物とか食べ物を買ったりしてれば時間も潰せるしね。僕も、ドラえもんと同じ意見」

「じゃあ、家を出るまでにある残りの3時間は暇だから、のんびり過ごす感じだね!」

 

 なので、それを聞いてからは家を何時に出発するか、集合時間よりも早く来た時に何をして待つかなどを軽く話し合い、終わった後は出発までに余っている3時間程度の時間を、適当にのんびり過ごす事に4人は決める。

 

「あら、もう行く時間? ドラちゃんや骨川さんたちが一緒だから大丈夫だろうけど、気を付けるのよ。3人共」

「「「はーい!」」」

「ドラちゃんも、何かあった時によろしくね」

「勿論、そのつもりだよ。僕に任せといて」

 

 そうして、のんびり過ごしながらあっという間に3時間が過ぎると、レミリアとフランは部屋の隅に置いていた手提げバッグとスーツケースなどの各種物品を手に持ち、テキオー灯を浴びて直射日光に対する対策をしっかりと済ませた。のび太やドラえもんの荷物については『きせかえカメラ』を初めとしたひみつ道具を使って用意するため、既に出発をする準備は整っている。

 

 のび太たち4人の準備が終わると、母親に見送られながらスネ夫の両親と友人の運転する迎えの車が来るスーパーの駐車場へと、歩きで向かい始めた。

 

「お兄様にお姉様と一緒に2泊3日の旅行かぁ。美味しい食べ物を食べて、知らない何かを見たり聞いたりやってみたり、旅館だっけ? そこで一緒の布団かベッドで寝るの……楽しそうで、想像したら顔が緩んじゃう! あっ、ドラえもんも居るから1つの布団じゃ足りないよね」

 

 その際、フランは美味しい食べ物や知らない出来事なども楽しみではあったが、旅館への寝泊まりを含めた2泊3日の旅行である事から、布団かベッドで4人で寝るのをとても楽しみにしていた。

 厳密に言えばドラえもんも含めた他人抜きかつ、大好きなのび太とレミリアに挟まれて寝ると言うのを楽しみにしていたのだが、ドラえもんはのび太の唯一無二の親友である。それを口に出す、または実行に移した瞬間にのび太がどう思うかは想像に難くないのを、フランは良く理解している故に、ドラえもんも一緒に寝たいと思っていた。

 勿論、ドラえもんを省きたいと思っているとは言え、それは『嫌い』『気持ち悪い』などと言った悪感情から来るものではない。大好きな2人との一時を邪魔されたくないと言うだけであるため、ドラえもんと一緒に居る事自体は楽しく思っている。

 

「ええ、そうね。それと、どうか部屋を別にされたりしない事を祈るわ。何だか、そうなりそうな心配がしてならないからね」

「えっ? お姉様、運命を見たの……?」

「違うわ。単にそんな予感がしてならないだけ」

「……何とか4人一緒の部屋になるように仕向けなきゃ」

 

 話を聞き、レミリアがそれに強く同意しつつも、性別などの理由で部屋を別にされないように心配だから祈ると言うと、表情を曇らせたフランがそれに反応し、能力を使って運命を見たのかとレミリアに対して心配そうに問いかけた。

 

 ただ、今回は能力を使った訳ではなく、そんな気がしただけである。故に、レミリアはフランに対して能力ではなくただの予感であると答え、安心させようとする。

 が、フランは安心するどころかむしろ心配の種が増えてしまい、どんな手段を使おうとも4人で一緒の部屋で寝て過ごしたいと、瞳のハイライトが消滅してしまう程にまで思うようになってしまっていた。

 

「心配しなくても、どうにもならなかったらドラえもんに頼めば何とかなるわ。だから、少し落ち着きなさい」

「……そっか! 確かにそうだね! と言う訳でドラえもん、その時はよろしくね!」

「うん。まあ、何とかしてみせるよ」

「やったぁ! ありがとね!」

 

 すると、レミリアがこのままだと面倒な事になりかねないと直感で感じ取ったため、いざとなったらドラえもんが何とかしてくれるから大丈夫だと、本人の了解を得ずに勝手に言ってしまう。ドラえもんは勝手に言わないでと思いつつも、何かの拍子に暴走しかねないと言うのはレミリアの態度からして何となく分かっていたため、まあ良いかと思う事に決めた。

 

「本当、フランってのび太君の事が好きだよね」

「うん! 前にも言ったかもしれないけど……私、初めてお兄様を見た時から、お姉様と一緒に居る時みたいな安心感を感じたの! で、一緒に過ごしてく内に本当の家族が1人増えたみたいに思えてきて……()()()()()()()()()けど、お姉様と同じ位好きになった訳」

 

 そんなフランの、のび太に対する懐く様子にドラえもんは改めてそう言う言葉を口にした。今まで数多もの冒険や経験をしていく中で、植物や動物などの人ではない生き物に好かれていたのび太を見ていて、ここまで強く好意を示した存在は類を見ないためである。

 

 ドラえもんのそんな言葉に対して、フランは非常に強く肯定し、どうしてここまでのび太の事が好きになったのかを嬉々として説明をし始めた。

 

「ええ、私もそれには確かに同意するわ。何て言ったら良いか分からないけど、のび太には私を惹き付ける何かがあるのよ。誰にでも優しすぎるこの性格だからってのもあるんだろうけど……こう、もっと超常的な何か、例えば私やフランが能力を持っているみたいな。心当たりってない?」

 

 嬉々としたフランの説明が終わった後、側でそれを聞いていたレミリアがそれに頷いて同意すると同時に、これには自身が能力を持っているように、のび太にもそう言う類いの能力が宿っている可能性が高いと推測し、ドラえもんに何か心当たりはないのかと質問を投げ掛けた。

 

「うーん……心当たりって言えばのび太君って植物とか動物とか、人じゃない生き物に好かれやすいってところかな? 勿論、無条件に洗脳されるとか、そんなんじゃないけど」

 

 レミリアからの質問に対し、のび太が植物や動物と言った人ではない生き物に好かれやすいと言った後、台風のフー子や犬のイチ、キー坊などのいくつかの例を示す。勿論、好かれなかったパターンも示し、必ずしも良い方向に向くとは限らない事も伝えた。

 

「なるほどね。それで能力を持っているとするならば、差し当たり『人ならざる者に好かれやすい程度の能力』と言ったところかしら? 幻想郷に行けば、妖精にはほぼ確実に好かれそうね。知性のない妖怪は無理でも、それ以外の妖怪とならそこそこ良い関係を築けそう」

「のび太君に能力……確かに、持っているって言われても納得出来るね。それに、幻想郷って場所には人じゃない生き物が多いらしいし、少しだけ危険度が下がるって言うのは分かる」

 

 挙げられた例を聞き、レミリアはのび太のその特異体質を能力と仮定して名前をつけると、幻想郷に行った場合にどうなるかを想定したりして、会話をドラえもんと楽しんでいた。フランはのび太と手を繋ぎ、これから起こるであろう楽しい出来事に心を踊らせていた。

 

「おーい!」

「のび太さん! ドラちゃん!」

 

 そんな感じで歩く事20分、目的地に近づいてきたのを確認したその時、同じく旅行に参加するジャイアンたちに呼ばれているのに気づいた4人は、彼ら彼女らの待つところに駆けて行った。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と旅行(1日目)

「あっ、しずかちゃん! それにジャイアン! 2人も来る事に決めたんだね!」

「ええ、勿論よ。旅館への旅行、楽しそうだったから」

「当たり前だろ。レミリアやフラン、スネ夫にのび太にドラえもんにしずかちゃんも来る、美味い物を食える……他にも色々楽しそうなこの誘い、母ちゃんも快く送り出してくれたし、来ない選択肢は俺にはなかったぜ。暇だったしな」

 

 スーパーの前で待っていたしずかちゃんやジャイアンの元へと駆け寄ったのび太は、この旅行に参加する事に喜びを感じながら、2人と会話を交わし始めた。

 レミリアとフランが来る以前までは旅行の話自体が来ないか、遊んでいる最中などにそう言う話が出て、行きたくなっても高確率で省かれてしまうためである。

 故に今回、レミリアやフランを含めた4人で行けると分かった時に喜び、友達であるジャイアンやしずかちゃんも参加する事が分かった時には、思い出に残る楽しい3日間になるだろうと直感して更に楽しみに思う気持ちが増えていた。

 

「にしても、随分と嬉しそうだな。フラン」

「そりゃあもう! ()()()()()()()が居るんだから、楽しくないはずがないもん! 私の知らない風景に体験した事のない何か、旅館へのお泊まりでお兄様と一緒にお風呂……は()()()()()で無理だけど、喋りながら食事をしたり一緒の布団で寝たり……えへへ、楽しみだなぁ」

「あらあら……まあ、その気持ちは良く分かるわ。私もほぼ同じだもの」

 

 しかし、それよりも遥かにこの2泊3日の旅行を楽しみにしていたのが、のび太の腕にしがみつき、頬をくっつけるなどの行為を行っていたフランであった。車で遠出すると言う事でこの町以外の町の風景を見たり体験した事のない何かを想像して感じている楽しみに加え、()()()()()()()()と一緒に見たり体験したりする想像をした事による相乗効果が発生したため、この態度を取る要因となった。

 

 これに、5日間吸血を行えていなかった事や、のび太やドラえもんに迷惑をかけたくないと言う理由で3週間近くレミリアとのスキンシップを自重していたのが要因で、フラン自身の強力な理性ですら完全には抑えきれずに天秤が若干欲の方に傾いてきている。ただし、まだ理性も同程度残っているため、暴走の心配は皆無であったが。

 

「おっ? あのデカい白い車……スネ夫が乗ってるな。と言う事は、間違いねぇ。来たみたいだぜ」

 

 なんて事を考えながら、レミリアやフランを中心に会話が進む事15分、途中でのび太たちの下に白い大型車が2台近付いてきているのにジャイアンが真っ先に気付き、皆にその旨を伝える。

 

 白い大型車の1台目がのび太たちの目の前に停車すると、助手席の窓を開けてそこからスネ夫が顔を出し、荷台などに抱えきれる貴重品以外の荷物を、2台目の同一の色合いである大型車にスーツケースなどの大きな荷物を載せた後に真ん中と後部座席の好きなところに乗ってくれと全員に向けて言ったため、言われた皆はその通りにした。ちなみに、のび太は1番後ろの席にレミリアとフランに挟まれる位置に乗り、ドラえもんはフランの左隣に乗った。

 

「それじゃ、出発するよ。3日間宜しくね」

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 そうして、全員が乗ったのを確認した運転手であるスネ夫の父親が挨拶し、された全員が挨拶を返した後に車が動き出す。

 

「お姉様、お兄様! 今日行く旅館ってどんなところなんだろうね! 美味しい食べ物、綺麗な風景、知らない体験……私、楽しみでしょうがないよ!」

「ふふっ。同じ事を2度も言うなんて、相当楽しみなのね。まあ、私も同じ事を言わせてもらうと、凄く楽しみよ。フランにのび太、ドラえもんに……皆が居るもの」

「うん。僕もだよ、フラン。今まで()()()()()()()()()()()()分、楽しみにしてる」

「やっぱり、お姉様もお兄様も楽しみなんだね……って、中々誘ってもらえなかった……? どう言う事なの? お兄様」

 

 スーパーの駐車場を出発した後、車内では興奮冷め止まぬフランがレミリアやのび太に向かって出発前と殆んど同じような話をしていた。見た目相応の可愛い仕草をしながら今回の旅行に楽しみにしているフランを見て、レミリアやのび太やドラえもんは元より、前に座っていたしずかちゃんやジャイアンもほっこりしている。

 

 しかし、話の流れでのび太が無意識に言った『中々誘ってもらえなかった分、楽しみにしている』と言う言葉にフランが反応を示し、和やかな雰囲気に暗雲が立ち込める事になってしまう。そして、それに気がつかないのび太がどう言う事なのかと()()説明をしてしまったため、話を完全に理解したフランがスネ夫に対してハイライトの消えた瞳で、のび太が居ない時ならともかく、居る時にわざわざ言った上で仲間はずれにすると言う酷い事をしたのかと、猛烈に非難する意を込めて睨みつけた。

 

「フラン、大丈夫だよ! 心配しなくても、それは昔の話だから」

「……そうなの?」

「そうだよ。ちゃんと仲直りも済んでるし、僕ももう気にしてないから、フランもその事は気にしないで。せっかくの楽しい気分が台無しになっちゃうから」

「分かった。お兄様がそう言うなら私も気にしないし、確かに楽しい気分が台無しになっちゃうもんね!」

 

 ここに来てようやく気づいたのび太は、それについてはもう既に昔の話であり、解決も済んでいると言う事を今にも激怒しそうなフランに必死でアピールを行った。結果、前の話で既に解決済みであり、のび太が気にしていないのであれば自分が怒りを抱いていても仕方ないし、楽しい気分が台無しになってしまうと言う言葉に強く納得したフランは、睨みつけるのを止める。

 

「ごめんね、スネ夫。うっかり、変に蒸し返す真似をしちゃって……」

「まあ、良いよ」

 

 フランが落ち着いた後、故意ではないとは言え既に解決が済んでいる話を蒸し返す感じとなってしまったため、のび太はスネ夫に対して謝罪をした。最も、スネ夫はあまり気にしてはいなかったため、この問題についてはあっさりと解決する事となる。まあ、フランに本気で睨まれた時の『底知れぬ恐怖』はスネ夫に残ってしまったが。

 

 その後は和やかな雰囲気が戻り、車窓から見える風景を見ながらレミリアとフランが会話を楽しんだり、簡単に出来るゲームをドラえもんに出してもらい、運転手以外の全員で楽しんだりして過ごした。道中、明らかに危ない運転をする人の車と接触事故を起こしそうになったり、運悪く警察の検問を数ヶ所でやっていたりした事で遅れが出たりしたものの、それ以外に大きなトラブルや事故に巻き込まれる事はなく、どんどん進んでいく。

 

 そんな感じで学校近くのスーパーを出てから3時間半経った頃、車は風情ある巨大な昔風の旅館の敷地内へと入っていき、そこにある駐車場へと止まった後に全員が車から降り、少し遅れて駐車場へと来た2台目の車から各自持ってきたスーツケースなどの荷物を降ろして手に持って、旅館の中へと入っていった。

 

「凄いな……スネ夫、お前の家の事だからここも相当な高級旅館なんだろ? まあ、見た目で何となく分かるが」

「まあね。パパの知り合いが経営してる旅館で、食事やその他色々サービス込みで確か、1番安いクラスで1人1泊7万円、最高クラスの部屋とサービスで12万円だったかな。で、今日皆が泊まる3部屋が中間の部屋とサービス込みの9万円。ただ、今日は旅館の宿泊費はうち持ちだから、その辺はあんまり気にしなくても良いよ。その他の買い物とか、そう言うのは自分でお願いする感じだけどね。いくらうちがお金持ちとは言え、そこまで出してたら厳しいし」

「……」

 

 チェックインを済ませ、全員で感嘆しながら部屋のある場所へと向かう途中、この旅館が相当な高級旅館であるのだろうと察したジャイアンがスネ夫に対して、高級な旅館なのだろうと質問を投げ掛けると、案の定そうであったらしい。1番安い部屋ですら7万円、高い部屋であれば10万円を軽く超えると聞き、質問をしたジャイアンはもとよりのび太やドラえもん、しずかちゃんもその予想外な宿泊費の高さに衝撃を受けていた。

 ただ、レミリアとフランの2人はこの宿の宿泊費云々よりもこれから3日間、お互いやのび太と過ごす時間にどんな事をするのだろうと考えたていたため、あまり関心を示してはいなかったが。

 

「さて、部屋割りについてなんだが、性別ごとに分け――」

「私は()()()お兄様も一緒が良い! 一緒じゃなきゃ嫌だ! 一緒じゃないなんて考えられない!」

 

 そうして皆が泊まる客室があるエリアへと到着し、スネ夫の父親が全員の部屋割りについて話そうとした瞬間、フランが突如として声を荒げ、自分が泊まる部屋は何がなんでものび太が一緒でないと嫌だし、考えられないと言った。レミリアやドラえもんの事については何も言わなかったのは、前者は姉かつ同性であるから一緒だろうと思っていたからで、後者は親友であるのび太さえ一緒であれば流れでついてきてくれるだろうと推測していたためである。

 

 この反応を見てドラえもんとレミリアは、相変わらずフランはのび太の事が凄く好きなんだなと、唐突に大きな声をあげた事以外に特段驚きを見せる事はなかった。しかし、フランとの付き合いがそれ程多くなかったしずかちゃんやジャイアンやスネ夫はもとより、今の今まで全く付き合いが皆無だったスネ夫の両親も、これ程までにのび太に対して非常に懐いている……もはや依存の領域にまで片足を突っ込んでいるフランを見て、驚きを隠せていない。

 

 更に、フランは部屋を性別ごとに分けようと言ったスネ夫の父親に近寄るとじっと顔を見つめ、本来のび太を傷つける敵に対してのみであった、吸血鬼としての威圧感を反射的に出してまで()()()をし始めた。最も、威圧している時点でお願いと言うよりは、脅しと言った方が正しい感じではあるが、本人はそれに気がついていない。

 

「スネ夫のお父様、お願い。良いでしょ? 私とお姉様、お兄様とドラえもん。4人で一緒の部屋でお泊まりするの、私の楽しみだから……」

「あ、ああ……分かった。君がそこまで言うならそうしよう」

「やったぁ! ありがとね、スネ夫のお父様!」」

 

 結果、フランの固い意思と自身にとって底知れぬ()()に気圧されたスネ夫の父親がそれを了承した事によって、レミリアやのび太やドラえもんを含めた4人で同じ部屋に泊まる事が決まった。

 

「お姉様! お兄様と一緒のお部屋になったよ! えへへ、良かったぁ」

「ふふっ……良かったわね、フラン」

「うん! そう言う事だから、お兄様! 今日と明日は一緒に()()寝ようね! 絶対だよ!」

「分かった。勿論良いよ」

 

 大好きな2人と一緒の部屋で寝泊まり出来るようになった瞬間、反射的に放たれていたフランの威圧感が嘘のように消え去り、見た目相応の子供のようにはしゃいだ。そしてすぐに、レミリアに満面の笑みで報告をした後にのび太に対し、旅館で泊まっている2日間は自分の隣で寝てくれと甘えるような仕草を見せつつ約束を迫り、特に断る理由もなかったのび太は、その頼みを二つ返事で了承した。

 

 のび太とドラえもん、レミリアとフランが4人一緒の部屋で寝泊まりする事が決まった後は、トントン拍子に残りの2部屋で寝泊まりするメンバーが決まり、全員の部屋割りについての話はここで終わる事となる。

 

「流石、高級旅館と謳うだけあるわね。部屋の内装、置かれてる家具、窓から見える景色、部屋自体の広さ……全部うちの館に決して引けを取らない程だし。これで普通の部屋なのだから、最高級の部屋は一体どれだけ凄いのかしら?」

「どうなんだろうね? 多分ホコリ1つすらなくて、部屋にある家具とかは著名な腕利きの職人さんの手作りで、置いてあるお菓子は良いお店の物とかだと思うよ!」

 

 そうして、レミリアとフランは割り振られた部屋に入ると、持ってきた荷物を置いた後に、窓から景色を見たり部屋内を歩いて回りつつ、自分たちの住む紅魔館と比べながら楽しみ始めた。特に、フランは自分の望み描いた展開となった事による喜びが加わっているからか、かなりテンションが高くなっている状態のまま、レミリアにべったりくっついていた。

 

 姉妹同士のとても微笑ましい光景に、続いて部屋に入ったのび太やドラえもんは2人に話しかけようと思っていたのを止め、自分たちは自分たちで都合良く窓の側にあった木目調の椅子2つに座り、外の自然と建造物群が調和した景色を見ながら会話をして過ごす事に決める。

 

「失礼します。お客様、本日の夕食をお持ち致しました」

「「「ん?」」」

 

 部屋に入ってから2時間、各々思い思いの癒しの一時を過ごしていると、入り口の襖がゆっくり開き、その前にいた何やら如何にも高級そうな食事の数々を人数分、女将が運んでいるのを部屋に居た全員が目撃する。

 頼んでもいないのに何で出来たのかを一瞬疑問に思った4人であったが、ほんの2~3時間前にスネ夫の言った言葉の一部である『1日3食のサービスがついている』を思い出したため、疑問は即座に消滅した。

 

「やはり美味しいわね。豆腐入り味噌汁にきんぴらごぼう、向こうじゃ全く食べられないに等しい海鮮系統の料理……咲夜と調理担当の妖精メイドたちと良い勝負ね。まあ、洋食と和食じゃ色々と違うから一概には決めきれないのだけど」

「そうなの? いつか食べてみたいなぁ」

「ええ。だから、何時になるか分からないしそもそも幻想郷にのび太とドラえもんが来れるかが疑問なのだけど……もし、紅魔館に遊びに来る事があれば、是非とも食べさせてあげるわ。とても美味しいから」

 

 運ばれてきた食事をゆっくりと味わっている最中、レミリアは旅館の料理を自分の住む紅魔館のメイドたちが作る料理と比べ、見た目も味も遜色ないものだと言う評価を下し、何度も食べたいと思う程に感心していた。

 あまりにも褒めるので、旅館のとても美味しい料理を味わいつつも、紅魔館の料理もいつか食べてみたいとのび太が言ったところ、幻想郷に訪れる事が出来たなら是非とも食べさせてあげると言う事が、この場で確定する。

 

「うん! それに、お兄様と一緒に幻想郷巡りするのも楽しみ! 手を繋ぎながら人里を見て回ったり、博麗神社に妖怪の山とその頂上にある守矢神社、星空を見るお気に入りの場所に太陽の――」

「フラン!? 人里と博麗神社と守矢神社は比較的安全だから良いわ。だけど、妖怪の山は天狗のテリトリーだし、太陽の畑は()()風見幽香が居る場所よ。それに、夜中の幻想郷は()()()()()。前にも言った事あるけど、いくら貴女が居るからって、危ないと思うわ」

 

 そんな感じで料理についての話をレミリアとのび太がしていると、割り込むようにしてフランが会話に参加し、幻想郷にのび太が来た場合にどこに行って案内をしてあげようかと言い始めた。手を繋いで笑顔になりながら楽しく行く想像をしているため、フランの表情は『幸せ』を体現したようなものとなっていた。

 

 しかし、フランの提示した行き先の中に普通の人には危険な場所や時間帯が含まれていたため、レミリアは話を遮り、いくら貴女が居たとしても危ないと忠告をしてそれとなく考え直すように促したが……

 

「分かってる。だから、その時は本気を出して私が4人でお兄様を守るよ! お兄様を殺そうとする奴が居れば、塵にしてやるもん!」

「フォーオブアカインド……なるほどね。スペルカードを使って守ると」

「そうだよ!」

「……やりすぎないでよ」

 

 フランの意思の固さは凄まじく、その時は『禁忌 フォーオブアカインド』と呼ばれるスペルカードを使用して、死角を作らないようにしてありとあらゆる外敵を塵にし、のび太に傷1つつけさせない鉄壁の守護体制を整えると豪語する程である。外敵を殺すと言わずに塵にするとのソフトな言葉を選んだ訳は、のび太に変なイメージを持たれないように気を遣っているためだ。

 それを聞き、レミリアは納得しつつもあまりやり過ぎないように注意する事も怠らなかった。

 

「ごちそうさまでした。さてと、持ってきてもらった料理も食べ終えた事だし、お風呂に入ってくるわね。フラン、一緒に入りましょ?」

「うん! お兄様たち、先に入ってくるね!」

「分かった。その後僕たちが入るけど、だからってあんまり急がなくても良いからね」

 

 出された料理を全て食べ終え、玄関脇に用意されていた食器入れに食器を入れて片付けを済ませると、レミリアとフランが先でのび太とドラえもんが後に入浴する事が決まった。

 

 それから1時間程経ち、4人が入浴を終えた後は旅館内を何となく出歩いてみたり、自動販売機で買った飲み物を側にあった椅子に座りながら飲みつつ話をしたり、同じく出歩いていたジャイアンたちも途中で加わるなどして、寝る時間になるまで色々と楽しんだりした。

 

「今日は楽しかったね! お兄様、お姉様!」

「うん。僕もだよ、フラン」

「ええ、そうね。何と言っても、のび太とフランが居たんですもの。勿論、ドラえもんもね」

 

 そんな感じで色々と楽しんで午後10時を回った時間帯になった時、寝る事に決めた4人は布団を敷き、今日経験した事を振り返りながらお互いに眠くなるまで30分程話し込み、1日目を終える事になった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と旅行(2日目前半)

「ん……あれ? お兄様とお姉様が居ない……? あっ、もう11時過ぎてる……早く寝たのに、何で? どうして? 最悪……」

 

 旅行の2日目、朝早く起きてのび太やレミリアと楽しい1日を過ごそうと思っていたフランであったが、その計画は早くも頓挫する事となった。何故なら、のび太に合わせて朝早く起きるつもりだったのが、実際には昼近くまで眠っていた事に気づいたからである。

 

 こう言う事が起こり、時間を無駄にした挙げ句にのび太やレミリアと楽しく遊ぶ機会を失うのを恐れていたため、フランは高ぶる気分を抑えて夜更かしなどはせず、全員と一緒の時間に眠ると言う対策はしっかりと取っていた。にもかかわらず、11時を回る時間帯まで眠ってしまったと言う事実に、本来であれば最高の目覚めとなるはずが、フランにとっては最悪の目覚めとなってしまった。

 

「お兄様、無理矢理にでも起こしてくれれば良かったのに……でも、きっと優しいお兄様の事だから、寝てる私を無理矢理起こすなんて考えなかったんだろうなぁ。むしろ、起こそうとするお姉様とかドラえもんを止めそう」

 

 故に、フランの頭の中にはのび太に対して、無理矢理にでも良いから起こしてくれれば良かったのにと言う不満が、少しずつ芽生え始めてきた。

 ただ、今まで一緒に過ごしていく中で、自分がスヤスヤと気持ち良く眠っている時に、心優しいのび太が無理矢理起こしてくるような性格ではないだろうと思い立ったため、その不満は即座に霧散する事になった。

 

「さて、1人で喋っててもひたすらに虚しいだけだし……着替えてお姉様探しに外でも行こ」

 

 その後、独り言を言っていてひたすらに虚しくなってきたフランは、恐らくドラえもんと出掛けているだろうのび太を探しに行くのは取り敢えず後にしておき、まずは自分を置いて何処かに出掛けたりしないはずのレミリアを探す事を決意した。なので、善は急げと思ったフランはパジャマから替えの洋服に着替えた、歯磨きをしてから濡れタオルで顔を拭き、万が一の事態が起こらないようにのび太かドラえもんのどちらかが置いたと思われる、枕元のテキオー灯を使用してから部屋を出て行こうとした。

 

「あら、ようやく起きたのね。目覚めはどうかしら? フラン」

「一言で言えば、最悪。せっかくお兄様やお姉様と一緒に楽しく過ごしたかったのに、こんな時間まで寝てた私のせいで自分の楽しみを壊しちゃってさ。と言うか、それだけならまだマシ。1番嫌なのは、お兄様とお姉様が私を加えた3人でのお出かけを楽しみにしていたのに、出来なくてがっかりさせちゃう事。だから聞くけど、お姉様はどう思ってるの?」

 

 すると、靴を履いて木目調の扉を開けようとしたタイミングで、ほぼ同時にレミリアが扉を開けて玄関へと入ってきた。そのため、計らずもレミリアを探すと言う、フランの目的の半分が速攻で達成される事になった。

 

 一瞬喜びそうになるフランであったが、レミリアから目覚めの気分を問われた時に一転して表情を曇らせ、気分は最悪であると言ってから、自分が朝早くに目覚められなかった事に対する後悔をし始めた。そして、そのせいでレミリアが楽しみにしていた、自分とのび太を合わせた3人でのお出かけが今日出来なくなった可能性が高まり、がっかりさせていないかとの問いを投げ掛ける。

 

「大丈夫よ。私は何とも思ってないから。それと……ごめんなさい、フラン。最初は貴女を起こしてあげようと思ったのだけど、幸せそうに寝言で『えへへ、お兄様……お姉様……』って言ってるのを聞いたのび太が、良い夢見てそうなのに覚まさせるのは忍びないって言ったのよ。私もそう言われて確かにって思ったから、そのまま寝かせておいたの。貴女の様子を見て、間違いだったと思ったわ」

 

 心配そうな表情でそう問われたレミリアは、自分は一切その事については気にしてはいないと笑顔で断言をした。その後、目覚めが最悪だとフランが言っていたため、幸せな夢を見ていそうなフランを起こすのが忍びないと言うのび太の意見に同調をして、正午近くまで寝ていたのに起こさなかった事を謝った。気を遣ったつもりが、それがかえって裏目に出たからである。

 

「ううん、お姉様が謝る必要なんて全くないよ! 私がちゃんと起きられれば良かったんだし!」

「そう? 本当に気にしてない?」

 

 第三者から見て、非常に申し訳なさそうな態度と表情で謝っているレミリアを、大幅に寝過ごした事をフランはそもそも()()自分の責任であるとしか思っていない。なので、フランはレミリアに対して、謝る必要などないと言いながら曇った表情からいつもの笑顔に戻し、元気になってくれるように促した。それにより、レミリアの心から重りが取れ、表情から悲壮感が消える。

 

「勿論だよ、お姉様! それと、1つ聞きたい事があるんだけど……お兄様って、何処に居るのか知らない?」

「のび太? のび太なら、フランが寝てる間にドラえもんと『思い出した用事』を済ませてくるって言って、どこかに出掛けていったわよ」

「そっか。はぁ……」

 

 この問題を2分程度でさっくり解決させた後、フランはもう1つの目標であるのび太の居場所を、ほぼ一緒のタイミングで起きたはずだと踏んだレミリアに対して質問を投げ掛けた。

 しかし、のび太は既に朝食を済ませた後、思い出した用事を済ませてくるとレミリアに言い残して、ドラえもんと一緒に旅館の外に出掛けている事が判明する。故に、今日はドラえもんを加えた4人での外出が不可能となってしまい、フランは気分が再び落ち込んでしまった。

 

「しょうがないわよ。それとも、フランにとっては私じゃ、のび太の代わりにはならないの……?」

「え!? お姉様、違うの! そんなつもりじゃ……私、お兄様も

 凄く大好きだけれど、お姉様だって凄く大好きだもん! 例えば、スッゴく私に優しいところとか、容姿とか性格とか振る舞いだって……とにかく全部ね! ただ、お兄様が居ればもっと楽しかったのになって思ってただけで……ごめんなさい」

 

 そんな様子を見たレミリアは、自分ではもはやのび太の代わりを務める事は不可能なのかと言う思いがよぎり、思わず悲愴感が漂う声で、そう質問を投げ掛けてしまった。

 ただ、フランはのび太も好いているが、レミリアも同じ位に好いているため、代わりにならないと思った事など一切合切なかった。故に落ち込み始めたレミリアに大層焦り、必死にそんな事はないと分かってもらうために、言葉や仕草などでアピールしていた。

 

「ふふっ、良かった。私もフランが凄く大好きよ!」

「あっ……うん! お姉様、大好き!」

 

 フランが自分の好きなところをアピールし、決して代わりにならない事などないと必死になるのを見たレミリアは、何を馬鹿な事を考えていたんだと思うと同時に安心し、思わず抱きついてしまう。その行為にびっくりするフランではあったが、大好きな姉に抱き締められた事がとても嬉しかったため、同じように抱きしめ返しながら、大好きだよと言った。

 

「さてと、のび太たちも居ない事だし……私たちも出掛けましょう。2人きりのお出かけだから、旅館周辺を超えた場所にまで遠出する事は出来ないけど」

「へぇ……どうして?」

 

 他人から見れば微笑ましいやり取りを交わしつつ、テキオー灯を手提げバッグにしまっていた部屋を出た後、館内を歩きながらレミリアが旅館周辺1km圏内での、比較的近距離の中でのお出かけをフランに対して提案をした際に、これを超える距離のところへ出かける事は不可能であるとのレミリアは告げた。

 

 旅館からさほど離れていないところにある店だけでなく、パンフレットに書いてあった、少し遠くの楽しめそうな何かがある場所まで行ってみようかと考えていたフランは、レミリアの問いに対してそれは何故なのかと疑問を呈す。

 

「私たち、スネ夫の両親にとっては()()()()()だからね。万が一の時の責任や後始末を考えてみなさい。もし、私たちの身に何かトラブルが降りかかろうものなら、責任は誰が負う事になるのかって」

「うーん……スネ夫のお母様たち……えっと、もしかしたら私たちを旅行に送り出したお兄様のお母様たちにも責任を取る必要が出てくる可能性があるかも?」

 

 すると、レミリアはフランにそう質問をされる事を予想していたらしい。言われてすぐに、自分たちが今は他所から一時的に預かった子供と言う体であるからと答える。そして、仮に変なトラブルなどに巻き込まれたりして何らかの損害を受けた場合、その責任や後始末が誰にのしかかる事になるか考えてみろと、逆に聞き返した。

 

 結果、フランはスネ夫の両親や、旅行に送り出してくれたのび太の両親に責任や後始末が降りかかるかもしれないと言う考えに至った。

 

「うん、スネ夫の両親はほぼ確実と見て良いわ。それに、もし私やフランが傷ついたら、心優しいのび太は一体どう思うのかしらね」

「あっ……」

 

 更に、何かが起こって自分たちが傷ついてしまった時、のび太がどう思うのだろうかとレミリアが言った事で、フランは身震いした。1週間程前に万引き犯の疑いをかけられてしまい、まるで自分の事のように思い、誤解を解こうと必死になってくれた時に見せた、のび太の悲愴感漂う表情を思い出したからである。

 

「そうだね、お姉様。私はもう、あの時のようにお兄様にあんな悲しそうな表情させたくないし、楽しそうに笑っていて欲しいから。本当は遠出したかったけれど、近場で我慢しておく……いや、近場が良いな」

「ええ、それが1番よ。のび太が落ち込んでると、こっちまで落ち込むから」

 

 故に、フランの遠出したい欲は、熱された鉄板に水をかけた時のような感じで急速になくなっていった。それどころか、ドラえもんたちが戻ってくるまで旅館から出ない方が良いのではとまで思い始めたものの、それではレミリアとのお出かけが出来なくなって意味がない。なので、何かあった時に旅館にすぐさま戻れる程度の範囲内でゆっくり外で遊ぶ事に決め、そのまま正面玄関口から出て行った。

 

「ねえ、お姉様。私と居て楽しい?」

「今更何を言ってるの? 大好きな妹と一緒に居るのに、楽しくないはずなんてないわ。フラン」

 

 そうして、うっかり迷ったりしないようにパンフレットを見ながら手を繋いで歩いている時、不意にフランが自分と居て楽しいのかと、レミリアに対して聞いていた。本当であれば、今日楽しみにしていたのび太とのお出かけをするはずであったと言う事実を引きずっていて、それが原因でどうしても、レミリアが自分と居て楽しく思ってくれているかどうかと、不安に駆られていたが故の行動である。

 

 しかし、レミリアはフランと居る時は常に心から楽しく幸せな気分であり、つまらない・嫌い・鬱陶しいと言った負の感情を抱いた事は一切なかった。なので、当たり前の事を聞くなと言わんばかりに、その質問に対してレミリアは楽しいと答えた。

 

「楽しい……そっか!」

「うんうん、やっぱり貴女は笑顔じゃないとね」

 

 結果、心の中に燻っていたその不安は少しずつ塵となり始めて最終的に完全消滅し、気分が軽くなって笑顔が戻る。その様子はまるで、厚い雲から射し込む陽光が徐々に広がっていくようであった。

 

「ほら、お姉様見て! 秋仕様のリストバンドだってよ! 今つけてる私の奴に色以外そっくりだし、買ってったらお兄様とお揃いだね!」

「ええ、確かにね。のび太ならフランからのプレゼントは余程のものじゃない限りは喜んでもらってくれそうだけど……これ、女の子用よ? 男の子ののび太がつけてくれたとして、周りはどう見るかしら?」

 

 それからは一切気分が大きく沈む事はなく、フランはレミリアと一緒に人々が行き交う風情ある町並みを見ながら、何か興味を引くようなものがないかを探したりしていた。

 途中、自身がいつもつけている手首の飾りに、色以外は非常に良く似たリストバンドを見つけたフランがこれを買っていって、のび太とのお揃いにしようかと考えるも、女の子用であるこの商品をつけた場合の周りの目を気にしたレミリアの発言により、断念して他のものにする事を決める。

 

「……うん。考えれば考える程嫌な事しか頭に浮かばないし、お兄様へのお土産は他のにしよう。あ、このリストバンド自体は買っていって、お姉様とのお揃いにするね!」

「なるほど。それなら大歓迎よ」

 

 とは言え、心の中ではお揃いを諦められず、それを過度にからかってのび太の心を傷つけようとする奴がいるならば、問答無用で物理的に半殺しにしてやろうかと言う程の物騒な考えがよぎってはいる。それでも、フランがお揃いのリストバンドを買ってつけさせる事を諦められた理由は、強行してのび太に恥をかかせた上に嫌われると言う、心が焼かれるような苦しみを味わう事態を引き起こす方が、本人にとっては圧倒的に恐ろしかったためだ。

 

 のび太にとって、自分が両親やドラえもんと並ぶ重要な存在で居て欲しいと言う強すぎるフランの想いの前には、元から持っているあらゆる衝動すら、頭によぎる事はっても表へ出る事は出来なかったようである。

 

 ただし、フランが普段つけているものとそっくりなリストバンド自体は購入し、つけても何ら問題のないレミリアにプレゼントしてお揃いにする事を決めた。そう言われた本人も妹とのお揃いを喜んでいるため、フランは店前にあった実物を1つ取って店の入り口にあるレジへと持って行き、素早く会計を済ませた後にレミリアにつけてあげていた。

 

「お姉様とのお揃いの物は買ったし、次はお兄様とのお揃いの物を買わなきゃ! でも、何を買ったら良いんだろう? うーん……やっぱり眼鏡かなぁ?」

「あらあら……」

 

 レミリアにリストバンドをつけてあげた後は、自分が身に付けても殆んど問題のない、のび太とのお揃いの物を買うためにフランははしゃぎながら色々な店を巡り始めた。最初はのび太へのお土産を買ってあげる予定だったのが、いつの間にか自分が身につけるお揃いの何かを探す行為へと変化していた事に、後からついていっているレミリアは、微笑みながらそれを見守っていた。

 

「あっ! お姉様、これなんかどう!? 形が少し違うけど、色合いとかがお兄様のつけてる眼鏡とそっくり!」

「へぇ……フランの眼鏡姿なんて初めて見たけど、可愛いわね。私的にはその姿、好きよ」

 

 20分程歩き回り、入っていった店の中にあった伊達メガネをフランが発見した。形状などに差異が見られるも、のび太のつけている普通の眼鏡と似ていると言えば似ていて、女の子がつけても問題がなさそうなそれに、フランのテンションは上がった。試しにつけてみたところ、レミリアも可愛いし好きであると答えた事でフランは速攻で購入を決意し、他にも適当なスナック菓子をかごに入れてレジに向かい、会計を済ませる。

 

「あら、つけて歩かないの?」

「うん! だって、お兄様にサプライズで見せたいんだもん! もし、この辺でお兄様たちが歩いてたら、見られちゃうかもでしょ? それに、他人に見られてたって全然嬉しくないからさ」

「なるほどね」

 

 会計を済ませて店を出た後、買った伊達メガネを壊れないようにケースに入れて手提げバッグにしまったフランを見て、レミリアはつけて歩かないのかと疑問を抱いたため、そう聞いてみていた。

 すると、フランはこの姿をサプライズで見せたいのだけど、もしのび太たち一行がこの辺りで歩いていたらそれが台無しになってしまうのが理由だと答えた。後は、他人に見られて何か言われたとしても、全然嬉しくないからと言う理由もあるらしい。レミリアはそれを聞き、なら納得だとその理由に同意を示した。

 

「おじさん! コロッケ2つちょうだい!」

「はいよ! 嬢ちゃん、熱いから気を付けな!」

「はーい! お姉様、美味しそうなコロッケだし、一緒に食べようよ!」

「ええ、勿論よ」

 

 楽しく会話を交わしながら旅館の近場を歩いて回りつつ、大分遅めの昼食としてコロッケや唐揚げを頬張り、飲食店に入ってサラダとお茶などを美味しく食べて、殆んど空腹を解消させていた。最近は吸血行為をしていないが故に、完全には解消される事はないものの、まだ耐えられそうではあるらしい。

 

「ふぅ……随分と楽しんだわね。日が暮れ始めたし、そろそろ戻るわよ」

「はーい! でも結局、お兄様は見当たらなかったなぁ……」

「まあ、保護者として信頼されてるドラえもんが居るから、そこそこ遠くまで出掛けてたんでしょうね」

「そっか! まあ、大好きなお姉様と楽しく過ごせたし、良いや!」

 

 日が暮れ始めた時間帯、そんな会話をしながら2人は戻り始めていた。結局、のび太と出歩けなかった事に対して多少の後悔のようなものはあったが、それでもフランにとってはかけ替えのない思い出の1つとなったようである。

 

「お帰り、フラン。えっと、君に渡したいものがあるんだけど……受け取ってもらえるかな?」

 

 そうして楽しい気分のまま、20分程かけて歩いて旅館へと到着した2人が自分たちの部屋へと戻ると、一辺が15cm程の正方形の箱を4つ持って、先に部屋に戻っていたのび太に出迎えられた。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と旅行(2日目後半)

都合上、今話は他の話と比べて短めとなっています。


「お兄様からの贈り物……うん! 勿論受け取るよ!」

 

 夕方までレミリアと沢山遊び、若干の心残りがありながらも楽しく過ごしていたフランは、帰って来てすぐにのび太から贈り物をされる事は全く予想してはいなかったため、驚く事となった。

 

「良かったぁ……はい、どうぞ。あ、それとフランだけじゃなくてレミリアにも2つあるから、喜んでくれると良いな」

「ありがと! えへへ、お兄様からの贈り物……何だろうなぁ」

「フランだけかと思ってたら、私にもあるの? ありがとう、のび太」

「勿論だよ。レミリアだけ仲間外れにするなんて、考えられないから」

 

 しかし、大好きなのび太がくれると言った物を受け取らないと言う選択肢はフランには微塵もなかったから、箱を2つ受け取った。その様子に安心したのび太は、手に持っていたもう2つの箱を、受け取って喜んでくれたら嬉しいとレミリアに言いながら手渡した。

 

 そうして、フランとレミリアがのび太から贈り物をもらった事を非常に喜びながら箱を開けていくと、中からは一見何の変哲もない真っ白なマグカップが出てきた。これだけであれば、普通にありがとうと言って終わりであったのだが、フランがマグカップに描かれていたとある絵に気づいたため、それだけでは終わる事はなかった。

 

「あれ? この絵って……私だよね? あっ、2つ目の箱に入ってたマグカップにも私の絵が描いてある……」

「あら、こっちには私の絵があるわね。ご丁寧に名前まで書いてあるわ」

「お姉様の絵も?」

「ええ。しかも、手書きの絵と文よ。一応聞くけど、これってのび太が書いた奴なのかしら?」

 

 何故なら、フランに渡されたマグカップにはフランの絵と名前が、レミリアに渡されたマグカップにはレミリアの絵と名前が、機械ではなく手書きで書かれていたからである。

 店で売っている物を買ったのであれば自分たちの絵が描いてある事などないので、これはのび太が描いた絵であると即座に2人は察した。

 

「うん、そうだよ。僕、絵が凄く下手くそだから何度も時間をかけて書き直したんだけど結局、それでもやっぱり下手くそでね。2人に分かってもらえなかったら、どうしようかなって思ってたけど……すぐに分かってもらえて良かったよ。遊ぶ時間をかけてまでやった甲斐があったって思えたし」

 

 しかし、のび太がこの絵を描いていない可能性が全くないと言い切れるかと言うと、微妙なところではあった。レミリアもそう思っていたため、この絵はのび太が描いたものなのかと本人に問いかけた。

 

 結果、レミリアのその問いに対してのび太が確かに自分で描いたものだと認めたため、2人の察しは正しかったと証明される事となる。

 その後、のび太は自分の絵が下手くそである故に、ドラえもんと遊ぶ時間をかけてまで何回も書き直したりしたけど、結局下手くそなままになってしまい、喜んでもらえるかと不安であったと言う、今に至るまでの心情を暴露したところでフランが何を思ったか、声をあげた。

 

「お兄様! どうしてそこまでしてくれたの? この旅行、もしかしたら2度と行く機会がないかも知れないんだよ? なのに……私のために、大切な時間を使っちゃって良かったの? 凄く嬉しかったけど、ドラえもんと遊びたい気持ちを無視してまでお兄様が無理してまで描いてくれてたとしたら……」

 

 当然、部屋に居たフラン以外の3人はいきなり大声を聞いた事でビックリしたものの、声をあげたその訳は本人の口から、もう2度と行く機会がないかも知れないこの旅館周辺で遊べる時間の内の1日を、わざわざ自分のために使ってくれてまでプレゼントをしてくれたからだと語られたため、3人の疑問は解決させる事が出来た。

 

「大丈夫。僕は全く無理してないから、安心して良いよ」

「本当……?」

「うん、本当だよ。自分の意思でプレゼントを贈りたいからやるって決めて、今日1日をかけたんだよ。それに、今日のこのマグカップ、フランに対してのお礼も兼ねてるからね」

「えっ……」

 

 終始感情を露にしたフランのその話を全て聞き終えると、のび太は即座にこれは全て自分の意思でやった事であり、決して無理をしている訳ではない事を力説し、泣きそうになるのを間一髪で阻止した。

 

 すぐに、この自作絵入りのマグカップを用意した理由を、フランが自分が危ない目にあった時に助けてくれたり、レミリアと一緒に毎日をより楽しいものへと昇華させてくれたりなどしたお礼であると説明をして、フランの表情を笑顔へと変えていった。

 

「ありがとうね、フラン。君と出会えたのは、本当に良かった。2週間もしない内に帰っちゃうのは()()()けど、それまでにもっと思い出沢山作ろう」

 

 更に、今まで自分自身に色々と恩恵を与えてくれた事と、一緒に居るだけで楽しくなるような()()()()()()()()に出会った事への感謝を述べると、間髪入れず2週間もしない内に帰ってしまう事にも触れ、それまでにもっと沢山の楽しい思い出を作っていきたいと伝える。

 

「そっか……お兄様、私の事を()()()()()だって思ってくれてるんだ。うん、良く考えてみれば家で私と長く一緒に居てくれたり、学校に行く時も遊びに行く時も喜んで私と手を繋いでくれたりしてくれた。万引き犯と疑われた時も私を少しも疑わないで、自分の事みたいに必死になって動いてくれたり、今日だってわざわざ時間を削った上で、服を汚してまで手書きの絵付きのマグカップを私のために用意してくれたし……」

 

 のび太からのお礼を含めた話を聞いていたフランは、自分の存在がのび太の中で親友のドラえもんに劣る可能性があるとは言え、特別な存在となっていた事を悟り、感動に打ち震えた。

 まあ、大好きな家族同然だと思っている人物から、わざわざ時間を削って用意してくれた贈り物を受け取ったとあっては、この反応も当然と言えるだろう。

 

「あれ、何でかな? 凄く嬉しいはずなのに涙が止まらないよ、お兄様……」

「えっと、フラン? あの絵で、泣く程嬉しかったの?」

「うん……! だって、だってぇ……」

 

 ただ、フランの感じている嬉しさは最初こそは普通の感じではあったものの、レミリアと共に現代に来てから経験した出来事を振り返っていくにつれて倍々に膨れ上がっていくと言う様子を見せ、最終的にもらったマグカップに描かれた自分自身の絵を改めて見て、君と会えて本当に良かったと言う、のび太から言われた事を反芻したところで遂に、天元突破するにまで至った。故に、フランは本能的に色々な行動をのび太に対して起こす事になってしまう。

 

 例えば、のび太に飛びつくようにして抱きついたり、悲しい事や嫌な事で泣いているかのように嬉し泣きしたり、大好きなどの愛情を表現する言葉を連呼するなどだ。

 

 そうして、終いにはフランの泣き声を聞きつけたスネ夫やジャイアンやしずかちゃんが何事かと部屋に訪れたタイミングで何を思ったか、唐突にのび太は私のもの(恋人)だから、例えのび太の友達であろうと()()()()()()()()と大声で言い放つ行為まで起こしてしまった。特に、同姓であるしずかちゃんに対しては一瞬ではあったものの、無意識に睨み付けて威圧感を与える領域にまで到達している。

 

「「……」」

 

 あまりにもぶっ飛んだこの状況にのび太は勿論の事、部屋に訪れたスネ夫やジャイアンもしずかちゃんも、一時的に何も言葉を発する事も動く事も出来なかった。

 が、本人の発言や様子から、フランに何かがあったと言うのは明らかに勘違いかつ早とちりである事が判明し、そうなるとこの雰囲気の中に居座るのは場違いであると気がつく。なので、楽しんでくれよなと言い残し、部屋を後にしていった。

 

「私だけのもの宣言までするなんて……のび太から贈られた自作絵つきのマグカップ、フランは相当嬉しかったみたいね。でも、まさかあそこまで嬉しがるなんて、本当に驚いたわ」

「そうだね。でも、君だってフランに負けず劣らず嬉しそうに見えるよ」

「えっ? まあ、フランにだけかと思ってたマグカップをのび太からもらえて凄く嬉しい気持ちだけど、そんなに分かりやすい程顔に出てたかしら? ドラえもん」

 

 スネ夫たちが部屋を後にしてからすぐ、レミリアはフランがのび太に対して私だけのものだと宣言をした事が相当の衝撃だったらしい。隣に居たドラえもんに会話を振り、それとなくフランのその行為が凄かった事に対する同意を求めていた。

 対して、ドラえもんはフランの喜び様が凄かった事には全面的に同意しつつ、それに負けず劣らずレミリアものび太からマグカップをもらった時に喜んでいるように見えたと言ったため、レミリアは思わず

 

「確かに、顔にも嬉しいって気持ちは出てるけど、1番は翼かな。レミリア。君は気づいてないみたいだったけど、のび太君からマグカップをもらった時、隠してた翼が急に現れてね。ぴょこぴょこ羽ばたかせてたのを見た時にそれはもう、凄く嬉しそうだなって直感したよ」

「翼!? あら、本当……無関係の他人がここに来なくて助かったわ。まあ、万が一他人が来たとしても、吸血鬼か悪魔のコスプレをしてたとでも言えばどうにでもなったでしょうけど」

 

 それからすぐ、レミリアがそんなに顔に出ていたのかと質問を投げかけると、投げかけられたドラえもんはそれに対して、顔にも出てはいたけど1番は何があっても隠していた翼が現れた上、嬉しそうに羽ばたく仕草を見せたからだと説明をした。

 

 ドラえもんからの説明を聞いたレミリアは手を後ろに回し、確かに隠していたはずの翼がいつの間にか現れていた事を確認し、急いで再度翼を隠した後、この間にのび太の友達以外の面々が来なくて良かったと、ホッと一息をついた。

 同時に、フランが落ち着いたらのび太に対して、もらったマグカップに対するお礼の言葉でも言おうかと決意を固める。

 

「あっ……ごめんなさい。お兄様の服、涙で濡らしちゃった……」

「どうせお風呂上がりの時に着替えるし、大丈夫だよ。それよりも、ほら。ハンカチで涙拭いて」

「うん! えへへ、お兄様大好き! マグカップ、ありがとうね! ずっと大事にするよ!」

 

 10分程の時間が経った時、ようやく泣き止んで落ち着いたフランは、机に置かれたもらったマグカップに対し、何かの間違いで破損する事がないようにこれでもかと長期間効果が続く防御魔法を重ねがけした後、ずっと大事にする事をのび太に対して固く誓った。ちなみに、今のこのマグカップの耐久力は、フランの能力で何とか破壊が可能になるレベルにまで達している。

 

「のび太。フランの分だけじゃなくて、私の分までわざわざありがとうね。凄く嬉しかったわ」

「そう? ありがとうね、レミリア。それと、さっきフランに対してだけ出会えて良かったって言ったけど、勿論君に対してもまるっきり同じ事を思ってるから、安心して。何だか後付けみたいだけど、本当だからね?」

「ふふっ……分かってるわよ。あの状況下で私の名前を一緒に出すのは、変だしね。私がのび太の立場だったら、同じ感じになっていただろうから」

 

 フランがようやく落ち着き、話が途切れたタイミングを見計らい、レミリアがのび太に対してマグカップをくれたお礼を言った。

 どうしても下手くそ過ぎなのではないかと言う心配があったが故に、フランには泣かれたり変なテンションで私だけのもの宣言をされてしまう程に喜ばれ、レミリアにも満面の笑みを浮かべられながら感謝された事で、のび太は顔を少し赤くして照れた。

 

 それから、先ほどフランに対してのみ出会えて良かったと言ったが、レミリアに対しても同様の感情と感謝を抱いている事をのび太は強調して伝えた。フランだけにそう言う感情を抱き、感謝している訳ではない事を分かってもらい、あらぬ誤解を招かないようにするためである。

 まあ、レミリアはのび太が自分にもほぼ同じ感情を抱いている事は既に分かっていたため、その手間は杞憂に終わる事になったが。

 

「よう、お前ら! 俺たちと一緒に、今から飯一緒に食いに行かないか?」

 

 そうしてマグカップの話が終わり、さて何をしようかと言う話題になった時、チャイム音が部屋に響き渡り、ジャイアンたちが再び部屋へと入ってきた。どうやら、4人で色々と部屋で盛り上がっていたらいつの間にか夕食時になっていたらしく、それに誘いに来たようだ。

 

「駄目! お兄様たちは私と一緒に居るの! だから、今日は絶対に渡さないからね!」

 

 しかし、フランはジャイアンたちの姿を見るや否や、即座にのび太の腕を掴んで今日は絶対に渡してなるものかと発言し、もし無理矢理連れていくのであれば抵抗し、対峙する構えを見せた。

 

「と言う訳だから、今日はごめんね。ジャイアン」

「まあ、一生に1度の思い出だからな。謝る事はないぜ。じゃあ、ゆっくり楽しめよ!」

 

 あまりにもフランが強く拒否する意を示し、のび太を筆頭にドラえもんやレミリアも少し申し訳なさそうに拒否したため、ジャイアンたちは夕食へと誘う事を諦め、部屋を去っていった。

 

「お兄様! これで今日はずーっと一緒だね!」

「うん。そうだね、フラン」

 

 こうして、ジャイアンたちに自分の秘めたる意思を悟られないように追い払ったフランによってのび太は勿論の事、レミリアとドラえもんも流れで残りの寝る時間、お風呂とトイレの時間以外はずっと一緒に過ごす事となった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹の旅行(3日目)

「なあ、レミリア。昨日、のび太とフランの2人に一体何があったんだ? あの時のフラン、明らかにヤバい領域にまで達してたからな」

 

 旅行の最終日である3日目の朝、旅館内にある食堂に全員が集まって食事を済ませ、全員でのび太たちの部屋へと向かってから不意にジャイアンがレミリアに対して、昨日の夕方にのび太とフランの間に一体何があったのかと言う質問を投げかけていた。どうやら、あの時のフランが見せた独占欲を開放していたと言う、普段と様子がかなり違った理由について知りたいようだ。

 

 あの時以前にもフランののび太に対する独占欲は随所に現れていたが、それは懐いている程度の範疇に何とか収まるレベルであった。故に、今まではジャイアンたちも『フランはのび太にとても良く懐いている』と言う認識でいたため、特にそれ程気には止めていなかった。

 

 しかし、昨日の夕方にフランは、のび太は自分のもの(恋人)であると豪語した上にジャイアンたちを見るや否や、のび太はおろかドラえもんやレミリアですら厳しい口調で渡さないと言い、場合によっては実力行使も厭わないレベルで抵抗する構えを見せた。

 

 これが、質問を投げかけたジャイアンを筆頭にスネ夫やしずかちゃんたちも、フランが明らかにのび太に懐いていると言う範疇を超え、本人が側に居ないと日常生活に大きく支障を来す可能性が出てくる程、強く依存させる何かがあったとしか思えてならなかった。そのため、その内容が気になると同時に、幻想郷へと帰った後のフランの事を非常に心配しているが故の質問でもある。

 

「あの時? のび太がフランに、自作絵入りのマグカップをプレゼントした()()だから、特に何かがあった訳じゃないわ。まあ、フランの喜び様が想像の斜め上を行き過ぎたお陰で、皆に心配かけたのは少し申し訳なかった」

「えへへ……あっ、ごめんなさい!」

 

 そんな感じの質問を受けたレミリアは、昨日の夕方に起こった出来事を説明した後、フランが皆に余計な心配をかけてしまった事を軽く謝った。

 当の本人のフランも、レミリアが謝ったのに気づいてからすぐにジャイアンたちに向けて謝ったものの、昨日の余韻に浸って顔が緩んでいたため、笑みを浮かべながらの謝罪となっている。

 

「ふふっ……なるほどね。確かに、フランはのび太に()()()()()()。でも、心配しなくても大丈夫よ。幻想郷に帰ってからでも、想定出来るありとあらゆる最悪な事態には()()になり得ないから。重要な事だからもう一度言うけど、絶対になり得ないわ」

「そう! だから、心配しなくても良いよ! だって、私が元気で居ないと大好きなお兄様も悲しむだろうし、大好きなお姉様だって悲しむだろうからね!」

 

 しかし、質問に対してレミリアが何か特別な事があった訳ではないと答えたとしても、ジャイアンたちの中に潜んでいる『のび太が居なくても大丈夫なのか』と言う不安は抜けきらなかった。そのためなのか、のび太にべったりなフランの方を見て、何かを考え込むような仕草をし始めた。

 

 すると、その仕草を見ていたレミリアがジャイアンたちの心の中に潜む不安を察したらしい。それを解消させるため、フランがのび太に依存しているのは事実であると普通に認めた上で、例え幻想郷に帰ってのび太にしばらく会えなくなったとしても大丈夫だと、考えうる最悪な事態には絶対にならないと断言をした。

 フラン自身も、レミリアに続いて心配しなくても大丈夫だと笑顔で断言し、皆の不安を何とか解消させようと頑張って説明を試みる。

 

「そうか……そうだな! レミリアもそう言ってるし、フランもそう言ってんだから、間違いねえよな!」

「きっとそうだよ、ジャイアン」

「私も、話を聞いた武さんやスネ夫さんと同じで、フランちゃんなら大丈夫だって思っているわ」

 

 結果、レミリアが自信ありげに同じ事を繰り返し強調して言ったのを聞き、フランも同様に説明して心配は要らないと言ったのを聞いたジャイアンとスネ夫としずかちゃんは、ここに来てようやく安心する事が出来たようで、ホッとひと安心していた。

 

「さてと、疑問も解決したところだし……皆で外に遊びに行こうぜ! 今日の午後3時まででこの旅館に居るのも最後だし、勿体ないだろ?」

 

 そうして、レミリアとフランが3人の不安に終止符を打ったところで、今日の午後3時で旅館を出発して各々の家に帰ると言う、スネ夫の両親が決めた予定があるため、それまでに早く外へと遊びに行こうと全員に呼びかけて同意を求め始めた。

 

 ジャイアンの呼びかけに対してスネ夫やしずかちゃんはすぐに同意し、のび太やレミリアにドラえもんは少し考え、呼びかけに同意を示す。しかし、フランは大好きなのび太の気が、同じく大好きなレミリア以外の他の友人たちに散ってしまい、自分の相手をしてくれなくなる可能性があるかもしれないと言う理由から、問いに対する答えを出し渋る。

 

 ただ、昨日の夕方に思う存分に独占欲をある程度は満たせた事と、のび太の皆で一緒に遊びたいと言う気持ちを無視して、これ以降疎まれたり嫌われたりするかもしれないと考えた結果、身体が震える程恐ろしく思ってしまったが故に、他の皆と同じように皆で遊ぶ事に同意を示した。

 

 しかし、フランの心の中に潜む独占欲は消滅していないため、上手い事のび太の意思を尊重しつつ、少しでも長い間レミリア以外の友人たちに気を引かせずに自分へと気を引かせようかと画策し始める。勿論、今日1日ずっと想定し得る最悪(会話がほぼ不可能)と言う可能性も想定はしているが、出来れば想定通りにならないようにと祈る事も忘れていない。

 

「よし、決まりだな! それじゃあ、行くぞお前ら!」

 

 色々と頭の中でフランが思考を巡らせていると、全員の返答を聞いたジャイアンが勇ましく言った事で、一斉に皆が出かける準備をするために動き始めたのを、少し時間を置いてから目にする。なので、自身も急いで財布や手提げバッグを用意し、先に準備を終えて行ったのび太やレミリアの後を追い、ドラえもんと共に旅館を出て行った。

 

「この混み具合、昨日の昼間と良い勝負よ。朝9時半でこれだから、お昼頃になってきた時が恐ろしいわ」

「うん。人気があるレストランとかにはそれなりに人が並んでるし、食事処も30分~1時間待ちってところが多いなぁ。しかも、私たち合わせて7人だから、あの時お姉様と行ったラーメン店を基準に考えると……席が2ヵ所ほぼ同時に空かなければ、食べ終えるタイミングがずれるし、困るよね。お土産屋さんとかも、お会計のレジに列が出来てるみたいだし……早く決めていかないと、余計に酷くなるよ。お土産も、売り切れちゃいそうだしさ」

 

 で、思う存分に皆で買い物や食事を楽しむつもりで旅館の外へと出た7人であったものの、まだお昼前とは思えない程の混み具合に中々寄りたいと思った店に入る事が出来ないでいた。お土産屋さんなどの店では会計のレジに列が出来ていて、レストランなどの食事系の店では大体の人気店で30分以上待ちと言うところが多い故である。

 

 昨日、姉妹2人で同じエリアを出歩いたレミリアとフランもこれには辟易し、早くどこに寄ろうか決めていかないと行列が酷くなり、お土産もどんどん買われて売り切れてしまいそうだとの会話を交わしていた。しかし、どこもかしこも混んでいるが故に、全員結局は寄る場所を決めきれずに、ただ時間が過ぎて行くだけの状態となってしまっている。

 

「……参ったね、ジャイアン。こんなに混んでると、レストランとかは殆んど1時間近く待つ事になるよ? お昼時ともなれば、下手すればもっと待ち時間が増えるかもしれないし、どうする?」

「うーん……仕方ねえ。買い物はともかく待ち時間が嫌なら、食事はコンビニとか旅館に戻って済ませるようにするか? 折角ここに来てまでコンビニとかだと、何の面白味もねえが」

「いや、確かにコンビニは楽だけど、それはちょっとね……」

「だよなぁ」

 

 更に時間が経ち、あまりにも寄る場所が決まらずジャイアンとスネ夫との会話の中で、お土産はともかくとして食事はちらほら見かけるコンビニで済ませてしまおうと言う、楽に済む案が出てくる程になってきていた。まあ、スネ夫によって即座に却下されてしまうが。

 

「もうキリがないからさ。取り敢えず、混んでても何でもどこかへ寄ろうよ。例えばそうだね……あのお土産屋さんとかどう? お客さんも他のところと比べると少ないし、色々と売ってそうだから。見た感じ食べ物も売ってるみたいだから、レストランとかに行かなくても食事は済ませられそうだし」

「……だな。よし、皆行こうぜ!」

 

 どこへ寄るのかと、良い案が出ずにさてどうしようかとなっていた時、皆の会話を聞いていたのび太が声をかけ、たまたま見かけたとあるお土産屋を指差しながらあそこに寄ろうよとの提案を皆に投げかけた。そして、案が出ずに困っていたジャイアンはそれに即座に同意し、皆にのび太が指差した大きなお土産屋さんに寄ろうぜと声掛けしたお陰で、ようやくこの話に終止符が打たれる。

 

「ねえ、お兄様! このお饅頭、凄く美味しそうだよね! 買わないの?」

「限定版のお饅頭……確かに美味しそうだけど、ちょっと高いかな。僕は買わないでおくけど、フランが買いたければ買っても良いと思うよ」

「そっか。じゃあ、箱2つ買って1つはお兄様にプレゼントするね! マグカップのお返しだから、値段がどうとかそんなの気にしなくて良いよ!」

「買ってくれるの? 何かごめんね。ありがとう、フラン」

「うん! それと、お姉様はお饅頭、買う?」

「ええ。限定版だし、買う事にするわ」

 

 そうして、のび太の指差した先にあった大きなお土産屋さんの中に入ると、フランは即座にレミリアを連れてのび太の側に付き、誰かに話しかけられる前に限定版のお饅頭の話を繰り出して気を引き、他の誰かが話しかけづらい雰囲気を作り出す事に成功した。

 

 勿論、話しかけづらい雰囲気を作り出すだけであるため、タイミングを合わしてくるなどしてドラえもんやしずかちゃん、ジャイアンやスネ夫がのび太に話しかけてきた際には自分の会話を中断して一歩引き、会話が終わるまでは我慢して側で見ているつもりのようではあるが。

 

「はぁ……ジャイアン。何か店の人としょうもない理由で揉めてるお客さんが居るよ。ただでさえ行列が出来て待ち時間が長いのに……」

「スネ夫。俺に言われても困るんだが?」

「じゃあ、ドラえもん。この状況、ひみつ道具でどうにかしてきて」

 

 各々お土産屋さんで買いたいものを選び、かごに入れて順番で並んだ際、お釣りの渡し方などが気に食わなかったと言う程度の理由で、とある迷惑な客が周りの客たちや他の店員の迷惑を考えずに跪かせた上に怒鳴りつけ、レジの店員がひたすら謝り倒すと言う光景を目にしてしまい、全員の気分が少し落ち込んでしまった。

 

 ただでさえ行列が出来ていて待ち時間が長くなると言うのに、これでは更に待たされる事になってしまう。故に、スネ夫がそれによって時間が押してきてしまうのを危惧し、ジャイアンにその事を愚痴った後にドラえもんに対して、ひみつ道具で解決してくれとお願いを持ちかける。

 

「どうにかしろって言われても……いや、まあまあ棒を使えば何とかなる……フラン?」

 

 スネ夫からそう言われたドラえもんは、突然のそのお願いに困惑しながらも、迷惑客の怒りを何とかするための『まあまあ棒』と言うひみつ道具を取り出すポケットに手を突っ込もうとした。

 

 すると、今までこの光景をじっくりと見つめていたフランが持っていたかごをレミリアに預けると、無表情で怒鳴り散らす迷惑客の方へと向かっていき、服を引っ張るなどして自分の存在に気づかせた。

 

「ねえ、今すぐ黙ってくれない? それでさ、迷惑だから早く消えて。せっかくの楽しい一時に、貴方は邪魔なの」

 

 無関係な来客ですら萎縮してしまう程の威圧感を放ち、聞くだけで恐怖を煽ってくる声のトーンで店員を跪かせている迷惑客に向けて、笑みを浮かべながらそう言ってのけた。容姿が可愛い女の子と言う事も相まって、余計に印象が強くなっている。

 

「……」

 

 結果、さっきまでの威勢が完全に消滅した迷惑客はいたたまれなくなったらしく、無言で買ったお土産を持ち、店を急いで出ていった。突然の出来事に面食らう店内の来客と店員たちであったものの、すぐに気を取り直して買い物を再開したり、各々の仕事に移るなどして日常風景が戻っていった。

 

「お兄様、お姉様! これでお買い物が進むね!」

 

 そして、迷惑極まりない客であった迷惑客を吸血鬼の力を一部使用して威圧して追い出した後、フランはすぐさまのび太とレミリアの下へと向かい、他の人に聞こえる位の大きな声で『これで会計が進むね!』と言ったと同時に、何かを期待しているような笑みを浮かべながら2人を見つめ始める。

 

「そうだね、フラン。あれは凄かったよ、ありがとう」

「良くやったわね。手を出さなかったのは偉いわ」

「えへへ……」

 

 期待が半端ない程に見つめられたのび太とレミリアの2人は、フランが迷惑客を()便()()追い払った事を、自分たちに褒めて欲しいのではないかと予想した。

 なので、その通りにフランの頭を撫でながら『凄かった』や『偉い』などの言葉で褒め、ありがとうなどのお礼の言葉を投げ掛けてあげたところ、幸せを体現したかのような満面の笑みを浮かべ、照れた様子を見せた。どうやら、2人の予想は当たっていたと見て間違いないらしい。

 

 客数も多く、そんな彼ら彼女らが1度に買うものの量が多いため、行列の進む速度は早いとは言えない。ただ、迷惑客がフランによって追い出されてからは何のトラブルもなくスムーズに会計が進み、30分程度の時間が経った時に、全員がここで買いたいものの会計を済ませ、店外へと出れたため、良かったと言えるだろう。

 

 ちょっとした面倒事があったお土産屋さんを出た後は、周辺をあてもなく全員で会話を交わしながら休憩を挟みつつ歩き回り、店の混み具合や雰囲気などの要素を考慮に入れた上で興味をそそられた店に入り、見て回ってそれなりに気に入った物があれば予算の許す限り購入すると言った流れを繰り返す。

 

「え? お兄様、それだけで良いの?」

「うん。でも、僕はこれだけで持つから心配しなくても大丈夫だよ。フラン」

 

 お昼時になれば、売店で買ったコロッケや唐揚げ、焼きそばなどのお惣菜をたまたま空いていた休憩スペースに持ち寄ったりして、全員で会話を交わしながら楽しく食事を取り始めた。

 

 しかし、他の皆がそれなりな量の食べ物を食べているにも関わらず、のび太だけはコロッケ1個に小さめのサラダパック1つだけと言う少なさであった。そんな光景を目にしたフランが少ないけど大丈夫かと聞くと、のび太はこれだけで大丈夫だと笑顔で答える。

 

「そっか……」

 

 フランはそれを聞き、実は他にも何かを食べたいけど我慢しているのではないかと思いつつ、本人が大丈夫だと言っている事からこれ以上のび太の食事量については触れない事にして、自分の食事を楽しむ事に決めた。

 

 全員で食事を終えた後は再び町歩きに繰り出し、面白いものや出来事などかないかを探し回ったりして過ごした。とは言え、あらかた欲しいものや美味しいものを買ったり食べたりしていたため、殆んどただの

 

「皆、もうそろそろ旅館に戻りましょう。後30分位で時間が来ちゃうから」

「マジか。なら、仕方ねえな……」

「そうね。フラン、戻るわよ」

「はーい! お兄様、行こ!」

 

 そんな時、しずかちゃんが家から持ってきていた腕時計を見た際に、いつの間にか午後2時半を回ってしまっていた事に気がついたらしい。皆に対して早く戻った方が良いと、そう声をかけた。

 

 しずかちゃんの声かけを聞いた他の皆は、もう少し遊びたいなと思いつつも、時間が来てしまうとあっては仕方ないと諦め、旅館の自分たちの居た部屋に帰る準備を済ませるために急いで戻る。

 

「あー楽しかった! お兄様からの贈り物ももらったし、初めて見る物食べる物だらけで、もう最高!」

「うん。僕も、フランやレミリア、ドラえもんたちと遊んだりしたこの旅行、良い思い出になったよ」

「確かにね」

「のび太君も、楽しめたみたいで良かったね」

 

 帰る準備をするために旅館に戻った後、自分たちの部屋へと駆け込んだのび太たちはこの3日間に経験した出来事を振り返りつつ、色々な場所に置かれていた自分たちの荷物を詰め込み、忘れ物などがないか再三再四確認してから旅館を出た。そして、スネ夫の母親が運転する荷物運搬用の車に貴重品以外を乗せると、自分たちはもう1台の方の車に乗り込んだ。

 

 こうして、色々とあった楽しい3日間の旅行は、幕を閉じる事となった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹と学校最後の日

「今日でレミリアちゃんにフランちゃん、うちの学校に来るのは終わりかぁ……本当、時間が経つのは早いよねー」

「本当、あっという間の1ヵ月だったわ。まあ、学校に来るのは今日が最後だけど、日本には明日まで居るのよね」

 

 レミリアとフランが現代旅を始めてから42日目の朝、学校の教室の一角で、2人はクラスメートたちとの会話にいつもよりも積極的に勤しんでいた。何故なら、今日が学校に登校する最後の日であるためである。

 いつもならば、登校してから1時間目の授業が始められるまではのび太と3人で一緒に居るか、そこにジャイアンやスネ夫、しずかちゃんを加えた6人で楽しく会話を交わす事が殆んどであり、今日もそうなるはずだった。

 

 しかし、フランが『今日1日はクラスの皆とじっくりお話した方が良いと思うよ?』とレミリアに言った事により、今日に限って学校に居る間はのび太との会話よりも、他のクラスメートとの会話に重点を置くと決めた訳である。

 

 フランがこう決め、レミリアに提案したのには、大きく2つの理由があった。

 それは、今日が学校登校の最終日であれど()()()()()()()()()()()と言う事と、こんな特別な日までのび太とべったりくっついていたせいでクラスメートから不興を買い、自分たちが居なくなった後に大好きなのび太に何かあっては堪らないと言うものだった。

 ただ、これをフランがレミリアに提案している際、今更感が漂ってた故にいつも通りにしようかとも思ったらしいが、やらぬよりはマシだと思い直し、実行に至った経緯が存在した。

 

「それに今日、ドッジボール大会だから……2人の最後の登校日だし、勝って思い出残したいから、頑張ろうね!」

「ええ、勿論よ。今日のドッジボール大会は、私とフランの思い出のためと言う意味でも、貴女たちの思い出のためと言う意味でも、絶対に負けて終われないからね」

「うん! それに、負けたら()()()に褒めてもらえないもん! 何がなんでも、絶対に勝って見せるよ!」

 

 そんな思いの元、会話をしていたクラスメートの女の子の1人が、今日行われる事になっている高学年のドッジボール大会についての話題を、勝ちたいから頑張ろうねとテンション高めかつ唐突に、レミリアとフランに振っていた。

 

 どうやら、クラスメートの女の子曰く、2人の最後の登校日だから自分たちの思い出にも残したいし、何より2人の最後の良い思い出として、この大会を勝利で飾りたいと言う意図があったが故のハイテンションであるようだ。

 ちなみに、のび太一行を含めた他のクラスメートたちも、同様の思いを抱いているらしい。

 

 当然、レミリアとフランもこの学校に来て最初の大イベントかつ、最後の登校日である今日の大会を、最高の思い出として超長期的に記憶に残しておくつもりであった。

 その上、更に優しく接してくれたクラスメートたちに感謝の気持ちを込め、勝利をプレゼントするつもりでもあったため、この女の子の言葉に対して強く肯定の意を示す。

 

 もっとも、レミリアはともかくとしてフランの場合は、自分の活躍をのび太の思い出に残した上で、それを褒めてもらって自分の思い出をより強固にしたいと言う欲の方が()()()に強く、クラスメートたちの事は二の次であったが。

 

「さてと……もうそろそろ時間だぞ。男子は第1体育館に、女子は第2体育館へと向かいなさい」

「「はーい!」」

 

 で、2人がそんな感じのやり取りを女の子と交わしていた時、教室の扉が開いて先生が入ってくると、クラスの皆に向かってい男子は第1体育館へと向かい、女子は第2体育館に向かえとの指示を出し始めた。ドッジボールの大会が始まる時間が迫ってきているらしい。

 

「レミリア、フラン。頑張ってね。その場に応援には行けないかもしれないけど、応援してるから」

「勿論よ、のび太。それと、貴方のために勝利をプレゼントするつもりだから、楽しみにしてなさい」

「お兄様! 私頑張ってくるから、お兄様も頑張って! 勿論、無理しない程度にね!」

 

 先生の指示を聞き、各々話などで盛り上がっていたクラスメートたちは準備を素早く済ませると、各々体育館へと向かい始めていった。レミリアとフランも、のび太に対して『最高の勝利』をプレゼントすると言う強気の宣言をした上、そっちも無理しない程度に頑張ってくれと言うやり取りを交わすと、他の女子たちと共に第2体育館へと向かっていった。

 

「あら……私たちのクラス、いきなり試合みたいよ。しかも、相手は6年生……強いのかどうかは知らないけど、油断は出来ないわね」

「ふーん。まあ、どんな相手でも負ける気なんてさらさらないから、私には関係ないけどさ」

 

 目的の体育館へ着くと、入り口の扉付近にでかでかと貼られていた大会の試合順などが書かれている大きな紙に気づき、それを見たレミリアとフランは、自分たちの居るクラスがいきなり試合がある事と、最初の相手が上級生だと言う事を知った。

 初戦の相手の強さが不明な以上、人間らしい範囲でどう行動すれば正解なのかが分からないためにレミリアは()()警戒しているものの、フランは無警戒とは言わないが、気楽そうに返事を返していた。

 

「2人共、試合が始まるからこっちに来てー!」

「今行くわ!」

「はーい! 今行くよー!」

 

 

 大きな紙を時折横目で見ながら会話を交わしていると、コートの方に先に行っていたクラスメートの1人が、試合が始まるからこっちに来てくれと声をかけてきたのを2人は耳にした。まだ話は途中であったものの、試合が始まるとあっては話を続ける訳にもいかないため、即座に中断して返事を返しつつコート内に向かっていった。

 

「ふっ……今回の相手に噂の留学生2人が居るとは、何とも言えないわ」

「小さい子たちだから、他の子たちよりも多少当てにくそうです。運動能力も分からないから、油断は禁物ですね」

「それに、あの子たちを抜きにしても決して弱いクラスではない……緊張してきたわぁ……!」

「まあ、いくら相手が強かろうともうちのクラスがが圧勝してやるがな。いつぞや戦った別クラスの子たちのように、相手にならんよ」

 

 すると、コート内に入ってくるレミリアとフランを見た相手陣営が、各々話し合いを始めたのを確認出来た。その様子を見るに、彼女たちにとって未知の存在である2人を警戒している事が良く分かる。

 若干名、自分のクラスの強さを信じて疑わないが故に舐めてかかってきていたのも2人とクラスメートには分かったものの、そう言う人も居るよねと殆んど気にはしなかった。むしろ、勝ってやると言う意欲がより高まった位だった。

 

「それでは、試合を始めます!!」

 

 2人がコート内に入ってから1分程経った時、審判役の先生が試合を始めるとの号令をした事によって1回目の試合が始まったが……結果から先に言ってしまうと、この試合は他のクラスメートが何故か鬼のような強さを発揮したため、レミリアとフランが活躍するまでもなく、余裕の勝利で幕を閉じた。

 

 まず、最初のジャンプボールでは相手方に取られてしまいはしたものの、それから中盤辺りまでは外野を含めた相手の女子の投げるボールをことごとく回避し、男子とやり合えると言える位の攻撃を仕掛け、ほぼ半分まで数を減らす事に成功する。

 中盤以降は疲労や相手方の奮戦もあってか徐々に味方側の数を減らされはしたものの終始有利に試合を進め、最終的にはレミリアとフランを含めた6人を残しての勝利と言う結果を得る。

 

「お姉様。今日の皆、やたらと強くない?」

「確かに、やたらと強いわね。大方、本番だから気合いが入ったと言ったところでしょうけどね」

 

 あまりの余裕の勝利にレミリアとフランはもとより、クラスメートの他の女子たちも、ただただ驚くばかりであったらしい。そして、相手の方はあっさり負けすぎて複雑な思いを抱いているようだったが、試合が終わった後はこちらに挨拶を済ませ、すぐに立ち直っていたため、心配は要らないようだ。

 

「なるほど。ところで、次の試合はいつなんだろうね?」

「次の試合? いつなのかしら……」

「2人共。次の試合なら、順々に進めばおよそ40分後ですよ。だから、それまでは休憩と他クラスの試合観戦……それと、男子の方の試合も気になるのなら見に行っても大丈夫みたいです」

 

 そうして、鬼のような強さを誇った味方に驚きながらも戦った相手との挨拶を済ませた2人が、次の試合はいつ頃だろうかと話をしていた時、クラスメートの女の子が会話に割り込んでくると、2人の今1番知りたかった事を話し始めた。

 

 女の子曰く、普通に試合が進めばと言う条件がつくものの、およそ40分で自分たちの2回目の試合が始まるとの事らしい。そして、それが始まるまでの間は体育館内でのトイレや水分補給休憩を行ったり、高学年限定ではあるものの、他クラスの男子や女子の試合を見に行ったりする事が可能なようだ。

 

「へぇ、そうなの? うーん……フラン。貴女はどうしたい?」

「私? えっと、どうしようかな……あっ。そう言えば、男子たちの試合はどうなってるの?」

「男子の方は確か、うちのクラスはこれからすぐ始まるって聞きましたけど――」

 

 レミリアは女の子からその話を聞き、少し考え込んだ後にフランに対し、貴女はどうしたいのかと質問をしてきていた。その問いに対する答えによって、どうするか迷っていた自分の行動を決めるつもりでいたらしい。

 

 貴女はどうしたいのかとレミリアから聞かれたフランは、同様に少し考え込んだ後に男子たちの試合がどうなっているのかが疑問に思い始めてきたらしい。話に割り込んできた女の子に対し、今はどうなってるのかとの質問を投げ掛ける。

 

「なら、私はそっちを見に行く! お兄様が頑張ってる姿を見れるなんて、最高だもん! お姉様も、一緒にお兄様()見に行くでしょ?」

 

 そんな感じで、男子たちの試合はどうなっているのかと聞かれた女の子が、自分たちのクラスの男子はこれから始まると聞いたと言ったところで、フランは即座に男子の試合を見に行く事を決意した。理由は勿論、のび太が活躍しているところを見ていたいからである。

 当然、のび太がまるで役に立っていないと言う状況になる可能性も0ではないものの、仮にそうなったとしても見れる限界の時間まで見続けようと心の中で誓っていた。

 

「のび太を? 勿論よ。フランも行くのなら、尚更行かなきゃね」

「うん! じゃあ、早く行こう! お姉様」

 

 で、その後レミリアに一緒にのび太の活躍しているところを見に行くかとフランが確認をとったところ、勿論だとすぐさま答えを出した事によって正式に男子が試合をする第1体育館へと2人は向かう事に決まり、教えてくれた女の子に会釈をしてから早速歩みを進め始める。

 

「あっ、始まってる! ギリギリセーフだったね、お姉様」

「ええ、そうね」

 

 第1体育館へと着き、クラスメート以外の男子たちから自分たちに降り注ぐ視線をないものとして扱いつつ、ちょうど試合が見えやすいところに腰を落ち着け、観戦を始めた。

 

 レミリアとフランが観戦し始めてから7分後、終盤も終盤に相手の投げたボールが運悪くのび太の顔に思い切り当たり、怪我をして途中退場してしまうと言うトラブルが発生してしまったものの、試合自体はジャイアンや出来杉を筆頭とした運動神経抜群の男子の活躍によって、のび太が退場してから僅かな時間で女子同士の戦いと同じく、勝利で終える事は出来た。

 

「痛そうな怪我……待ってて、お兄様。今治してあげる」

 

 が、フランはのび太が見るからに痛そうな怪我をしてしまった事で、勝利を喜ぶどころの精神状態ではなくなってしまう。故に、保健室へと向かうのび太を半ば強引に人目につかないところへと連れ込むと、即座に回復魔法を使って顔に負った怪我を治し、垂れていた血を手持ちのハンカチで拭って綺麗にした。幸いにも、洋服には血の汚れは付いていなかったため、着替えはしなくても済みそうである。

 

「大丈夫? 痛くない……?」

「うん。もう大丈夫だよ、フラン。ありがとう」

「良かったぁ……えへへ、お兄様! 勝って良かったね!」

 

 回復魔法による怪我の治療を終え、痛みも完全に消え去ったところを確認してからようやく、フランはのび太たちが勝利した事に対して喜びを露にする事が可能となった。

 

 ある程度の時間会話を交わした後は、2人でレミリアのところへと戻り、怪我は問題なく治療が出来た事を耳元で報告し、女子の試合が始まるまでの残りの時間、他クラスの試合を見ると言う名目でこの場に留まり、ずっと会話をして過ごした。

 途中、綺麗さっぱりのび太の怪我が治っている事に対する疑問を抱いたクラスメートに話しかけられるも、適当に話をして受け流す。

 

「じゃあ、のび太。私たちはもうそろそろ試合だから戻るわね」

「お兄様も怪我に気を付けてね!」

 

 女子の試合が始まる5分前、第1体育館からの距離も考慮したレミリアとフランはのび太に一旦別れを告げ、少しだけ急いで第2体育館へと戻った。

 

 体育館へと戻り、時間が少し延長されて6分後に2回目の試合が始まったが、結果は先程よりも余裕はなくなってきてはいたものの、レミリアとフランが本格的に活躍するまでもなく、2人を含めた5人を残した状態で同学年の相手から勝利を得る事に成功した。これにより、味方側はまだ戦っていないクラスから本格的に警戒される事となる。

 

 そして、クラスメートやのび太たちと試合を背景に楽しく会話を交わすなどの、ある程度の休憩を挟みつつ行われた3回目と4回目の試合も同様に女子の試合は勝利で飾る事が出来た。3回目の試合は相手が対策を練ってきた上にかなり強い事もあって、レミリアとフランが人の常識の範囲内での本気で動く事になる位の、若干危ないシーンがあったが。

 

「ふぅ……3回目も4回目の試合も何とか勝てたわね。けど、次は並大抵では行かなそうよ」

「確かに、決勝戦だもんね。相手もかなり強くなってくるだろうし」

「でも、レミリアちゃんとフランちゃんが居てくれるから大丈夫だと私は思うわ。勿論、油断しない事が前提だけどね」

 

 4回目の試合が終わり、休憩などを済ませて5回目の決勝戦が行われるお昼近くになった時、快進撃を見せているレミリアとフランも含めたクラスメートの皆にも、流石に緊張感が漂って来はじめたようだ。まあ、相手も決勝戦まで勝ち抜いてきた強敵であるから、そうなのも当たり前であろう。

 

「それでは、決勝戦を行いたいと思います! ここまで残ったクラスの女子の方々は、すぐさまコート内にお集まり下さい!」

 

 そんな感じでクラスメートの女子たちが決勝戦についての話題で持ちきりでいた時、体育館内にここまで勝ち残ったクラスの女子はすぐさまコート内に集まるようにとの、マイクを使用した先生の声が響き渡った。時間的に試合がもうすぐ始められる事になるみたいだ。

 

「お姉様……!」

「ええ! 今回の相手、今まで戦った相手とは桁が違うわ! 様子見せず、心してかかりなさい!」

 

 両クラスの女子たちが先生の呼び掛けで集まり、行われたジャンプボールが背が高めの女子に相手に取られた状態で試合が始まると、すぐさまレミリアとフランは驚く事となってしまった。どうやら、初撃をスレスレで避けた際、今までの試合の中で戦った相手と比べて、かなり強いと肌で感じ取った事が要因であるらしい。

 

 勿論、吸血鬼の身体能力を発揮すれば、この程度の速さのボールなどは2人にとって、回避も受け止めるのも容易だ。しかし、あくまでも人間の子供と言う体である故に、下手に超人的な力を発揮して目立ってしまえば、そこから芋づる式に人間ではないとのび太一行以外の誰かにバレてしまう可能性が全くないとは言えない。

 

 故に、上手い事人の子供として違和感のないように振る舞いなどをを装う必要があるのだが、今回のように技術的に優れている個人や団体を相手にする場合、それが普通よりも難しくなってしまう。

 ジャイアンがクラスメートに対し、出来杉を超える運動神経の持ち主だと明言したお陰で幾分か難易度は下がっているものの、余計に気を使う事になるのは間違いないのも、1つの要因である。

 

「なっ……あの青っぽい髪の外国の子、動きがヤバい。金髪の方の子も凄い動きだし、本当に人間?」

「確かに、そう思うのも分かります。他の女の子もそれなりに強いけど、あの2人だけは別格ですし。既に3人、あの2人を狙ってやり返されて倒されてますから」

「でも、あの子たちを倒さないと勝てない。だから、やるしかない」

 

 ただ、ある時に相手が投げたボールを、レミリアが振る舞いの装いの一部をうっかり忘れて見せた、軽くジャンプして開脚回避を行い、股下を通過したボールを片手で掴んでからの無茶なそのままの体勢で投げつけて当てると言う超人的な技により、今までの努力に少々綻びが生じてきてしまう。

 

 まあ、このお陰で味方の女子たちが奮起して強さが増し、動揺した相手の一部の気を逸らしたと言う意味では、レミリアのこの行為もあながち無駄ではない。それに、空を飛んだり人には発揮し得ない怪力を披露した訳ではないため、まだ言い訳が効くレベルでもあったため、状況はそれ程悪くはない。

 

「フラン、行くわよ!」

「うん! 分かった!」

 

 それからは味方の女子たちの士気も上がり、徐々にではあるが全体的な勢いでも押し始めてきた。ただ、技術力や判断力では相手の方に若干の分がある。数的有利を取れているとは言え、まだ微塵たりとも気を抜けない事だけは確かだ。

 

「勝った……」

「勝ったわね……」

 

 そうして10分近く、激しいボールの投げ合いを経て、最終的には外野にいた味方の女子が残っていた相手クラスの1人の足に投げたボールを見事に当てたため、レミリアとフランを含めた3人を残した状態でこの決勝戦を最高の勝利で飾る事に成功した。




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とのび太のふれあい

「レミリアちゃん、フランちゃん! 大会、優勝出来たね! 2人のお陰だよ、ありがとうね!!」

 

 ドッジボール大会を勝ち進み、決勝戦での強敵との激しい戦いを制して見事に優勝を勝ち取ったレミリアたち女子組は、簡単な表彰式を済ませた後に教室へと戻ると、騒いだりなどして各々優勝の余韻に浸っていた。

 

 特に、レミリアとフランの2人に思い出を残してあげつつも、自分を含めたクラスの女子たちにも思い出を残したいと言っていた女の子は、目的を完全に達成した事によって狂喜乱舞し、先に戻っていた男子たちの半数と一部の大人しい性格の女子をドン引きさせるレベルで騒いでいた。

 ちなみに、この騒ぎの場に担任の先生は居たものの、しょっちゅうある大会ではない事と、レミリアとフランが今日最後の登校日と言う事もあってか、一切合切関わらずに見ているだけと言う状態である。

 

「そうやって感謝してくれるのは嬉しいわ。けど、他の子たちだって頑張ってたのだから、その子たちにも同じ様にお礼を言ってあげて。きっと喜んでくれるでしょうから」

「お姉様の言う通りだよ! ね?」

「あぁ……うん。確かにレミリアちゃんとフランちゃんの言う通りだね!」

 

 そんなテンションの高い女の子に捕まり、せっかく大会で優勝した事をのび太に早く報告したいと思っているレミリアとフランは、どうにか他に行って欲しいと思っていた。

 ただ、そうは言っても、直球に『のび太のところに行きたいから他に行ってくれ』などと言えるはずもなかった。フランが極端に、自分たちが直球で言ったのが要因で、巡りめぐって()()()()酷い扱いをされてしまう事を恐れていると言う理由が大きかったためだ。

 

 なので、自分たちのお陰で勝てたと思ってくれている事に対するお礼をしつつも、他の女子たちも頑張ったのだからその女子たちにも同じようにお礼を言ってあげてくれとの、最もな言葉でテンションの高い女の子を他の女子たちのところへ向かわせた。

 

「お兄様! 大会、優勝したよ! 私も頑張ったから褒めて褒めて!」

 

 テンションが高い女の子を最もな理由で他の女子のところへ向かわせた後、レミリアは直に行きたいの我慢して一応他の男子にも話しかけるなどの気遣いを見せた。

 しかし、フランはのび太のところへすぐに行きたい言う欲求を我慢する事が出来ず、誰からも話しかけられなかった事もあって真っ先に向かうと、満面の笑みでのび太に対して話しかけた。

 

 そして、頭をのび太に撫でて欲しいと色々な仕草でアピールをしながら、大会の優勝のために頑張ったのだから褒めてくれとの、直接要求を伝えた。若干名羨むような視線をのび太に対して向ける男子が居たものの、それらは全てレミリアが上手いこと対処したため、何も起きずに済む。

 

 まあ、仮にのび太に理不尽な被害を与えようものなら、被害を受けた本人が黙っていたとしても()()()早々にこれを探知され、フランとの()()()()()()に持ち込まれる羽目になると知られているが故に、レミリアが対処しなかったとしても何も起きずには済むが。

 

「頑張ったね、フラン。ほら、おいで」

「っ! お兄様……ありがと!」

 

 フランから褒めてくれと頼まれたのび太は、すぐにその要求に答える。そして更に、多種多様なその仕草から頭を撫でて欲しいのだとすぐに見抜いたのび太は、ドッジボール大会の時に負った怪我を治してくれたお礼も兼ねてか、両手を広げてフランを待ち構える体勢を取る。

 

 のび太から褒めてもらい、少しでも頭を撫でてもらえれば嬉しいと思っていたフランは、まさか抱き締めてもらえる事になるとは全く思っていなかったようで、一瞬だけ嬉しさのあまり固まってしまう。しかし、すぐに気を取り直してのび太に抱きしめてもらい、頭を撫でてもらったり、色々と褒めてもらったりしてこの時間を存分に堪能した。

 

 この瞬間、フランの中ではのび太に対する吸血行為を除くこの時が、マグカップをもらった時に次ぐ思い出となる。

 

「さて、男子と女子が1位の総合優勝で皆の気分が高ぶるのも分かるが……そろそろ席に着きなさい」

 

 そんなこんなで各々が盛り上がったりしていると、これ以上はあれだとおもったのか、見守っていた担任の先生が席に着けとの指示を教室の全員に向けて発した。

 流石に先生からの指示を無視してまで騒ぐクラスメートは居なかったようで、1分足らずでのび太たちを含む全員が席に着き、先程までの喧騒が嘘であるかのように静かになる。

 

「よし。まあ、皆も分かっているだろうが……今日がレミリアさんとフランさんの、最後の登校日だ」

 

 クラスメート全員が静かになった事を確認した担任の先生は、一瞬だけレミリアとフランの座る席に視線を送った後に、2人が最後の登校日であるとの話をし始めた後、何か言っておきたい事はないかと促してきた。

 だからか、2人は今までクラスの皆が自分たちと仲良くしてくれたお陰で、学校生活を楽しいものに出来た事に対する感謝の一言でも述べようかと思ったらしい。席から息ピッタリに立ち上がって壇上に向かうと、皆の方に向いて話を始めた。

 

「私とフランに優しく接してくれて、ありがとう。お陰で来た当初はどうなるか不安だったけれど、今ではもっと居たいと思える位に楽しい経験が出来た。またいつか、機会があったら会いたいわね」

「うん、私もお姉様と同じ! 皆のお陰で、スッゴく楽しかったよ! ありがとね! 初めて見たものに初めて聞いた事に初めてやった事……帰ったら館の皆にいっぱいお話をしてあげて、可能なら連れてきてあげたい位にね!」

 

 そんな感じで5分程今までの感謝などを述べた後、最後に2人で息を合わせてお嬢様的な挨拶をしたところで、再び教室内が少しだけざわついた。どうやら、クラスの皆の心にレミリアとフランの言葉が響いてくれたらしい。

 最も、レミリアのこの発言はのび太一行を念頭に置いた上でのクラスの皆に対するものであり、フランに至ってはのび太()()に焦点を当てた発言ではあるが。

 

「さてと……最後の記念に写真撮影をするから、教室の後ろに机をずらして皆は前に集まりなさい」

 

 2人の発言が終わって席に付き、担任の先生がいつも通りにプリントを配るなどをしてやる事を全て済ませると、最後に教室の後ろに机をずらして皆は前に集まれとの指示を全員に出した。担任の先生曰く、思い出に残すための記念撮影であるようだ。

 

 当然ではあるが、これに不満を示すようなクラスメートは居なかったため、記念撮影はそこそこ円滑に進んだ。一部の女子たちの間でレミリアとフランの近辺に誰が行くかと言う小さな争いはあったものの、これ自体はくじ引きであっさりと決まる。

 

「ねえ、先生。私とお姉様の個人的な撮影には応じてもらえるかな……?」

「ああ、勿論良いぞ。誰と写真を撮りたいんだ?」

「お兄様……のび太お兄様と取りたいの」

「野比か。分かった」

 

 クラスメート全員との記念撮影が終わり、机を元の位置に戻した後に各々自宅に帰る準備を始め、教室を出て行ってのび太たち一行だけとなったタイミングで、フランはレミリアと一緒に担任の先生のところへ向かうと、個人的な撮影には応じてもらえるのかとの質問を投げ掛けた。

 

 特に断る理由もなかったためか、担任の先生がこれを了承して誰と撮りたいのかと質問を返したところ、フランはのび太であると即答したため、頷いた後に帰る準備を済ませていたのび太を呼び、3人だけで記念撮影を行う事が決まる。

 

「えへへ、これでずーっとお兄様との思い出が残るね……あっ、そうだ! ジャイアンたちもこっち来てさ、一緒に写真撮ろうよ!」

「私からも、是非お願いしたいわ」

 

 のび太とレミリアとの写真を何回か撮った後、ご満悦だったフランは突然ジャイアンたちとの撮影を思いつき、帰ろうとしていた3人を大きな声で呼び止める。

 まさか、フランがジャイアンたちとまで写真撮影を要求するとは思わなかったレミリアは少しだけ驚くものの、すぐにそのお願いに秘めたとある意図(のび太を喜ばせる)を察したが故に、レミリアも同じようにして3人に対してお願いをし始めた。

 

 結果、ジャイアンたち3人とも写真撮影を個別に行う事になり、先程と同様に何回か先生が撮影を行った。ただし、のび太の両隣はレミリアとフランであるのは全ての写真で固定である。

 

「これで後は写真を現像するだけだから、結構かかるが待っててくれ」

 

 フランの要望通りに写真撮影を個別にし終えると、先生はデジタルカメラで撮った写真を近所のコンビニへと現像しに行くため、6人に待つように言った後すぐに教室を出て行った。

 

「1ヵ月間ありがとな、2人共。お陰で楽しめたぜ」

「うん。僕も、ジャイアンの言う通りだよ。のび太の奴も触発されたのか、駄目っぷりが随分と改善されてきてるしね」

「私も、レミリアちゃんとフランちゃんと遊べて楽しかったわ!」

「ふふっ……それは良かったわ」

「うん! 私もだよ!」

 

 先生が写真を現像しに行っている間、教室内の6人の間では今までの思い出を振り返るなどした会話が繰り広げられていた。その中でスネ夫が発した、()()()()()()()()()云々と言う話に若干フランがイラつきかけるも、当の本人がそれに対して傷ついた素振りを見せず、かつ悪い意味で言っている訳ではないと理解が出来たため、態度に出る事はなく済む。

 

「待たせて申し訳ない。ようやく出来上がったぞ」

 

 そんな感じで6人が会話を交わし続ける事30分、現像した写真を持ってきた担任の先生が教室に入ってくると、各々に数枚ずつ渡してきた。

 

 当然ではあるが、フランは先生から写真が渡されるや否や、早速自身とレミリアとのび太がしっかりと綺麗に写っている事を確認し始める。そして、自身の満足いくレベルで綺麗に写っている事を確認すると、これ以上ない位に幸せだと誰もが見ただけで分かる表情を見せ、聞き取れない独り言を呟き始める。

 ただ、レミリアには離れていても何を言っているのかが手に取るように分かっている様で、微笑しながらフランとのび太を交互に見ていた。

 

「お兄様! 私とお姉様に楽しい思い出を与えてくれて、本当にありがとね!」

「そうね。私からも改めて言うけど、本当に感謝しているわ。一緒に居て心がとっても安らぐ人物は、館の皆とフラン以外だとのび太だけよ」

「そうなの? ありがとう、レミリア。そう言ってもらえて、僕も凄い嬉しいよ」

 

 担任の先生から写真を受け取り、お礼を言ってから皆で教室を出て各々家に帰るために別れた後、レミリアとフランとのび太の3人は楽しげに会話を交わしていた。その際、珍しくレミリアとのび太の距離がいつにも増して近かったものの、フランは突っ込む事はしなかった。

 何故なら、のび太とズボンに入れた血付きのハンカチを見るレミリアの瞳を見て、全て察しているからである。

 

「ねえ、のび太。お願いがあるのだけど……良い?」

「……良いよ。でも、ここじゃ人の目があるから僕の部屋の中でね」

「っ……! 当然、そんな事は分かっているわ。大丈夫よ」

 

 帰るそして家が見えてくる位置まで来ると、レミリアはのび太に対してある事(吸血)をお願いしようと声をかけ、内容を説明しようとした。

 すると、お願い事の内容を説明する前にフランと同様、全て察していたらしいのび太は、自分の部屋の中である事を条件に許可を出し、レミリアを驚愕させる事となる。まあ、何も言っていないのに自分の思っていた事が全部筒抜けだったと分かれば、そうなるのも至極当然と言えるだろう。

 

「のび太。物理的な結界と防音結界の準備は済んだわ。後はその……貴方の準備はもう、大丈夫かしら?」

「うん、僕は大丈夫。後はレミリア次第かな」

「分かったわ。それじゃあ、失礼するわね……」

 

 家の中へ入り、色々やっていた事が原因での遅めの昼食や着替えなどを素早く済ませ、のび太の部屋の周囲に万が一に備えての準備を念入りに行った。その後、少しでも痛みを感じさせないために吸血箇所をある程度の時間をかけて舐めると、レミリアはゆっくりと首筋に噛みついて血を吸い始める。

 ちなみに、ドラえもんはフランの説明によってスペアポケットを置いて外出中であるため、今はこの場には居なかった。

 

「あぁっ……! のび太の血、直接飲むだけでこんなにも……!」

 

 フランと同様、のび太の命を奪う事のないように細心の注意を払うレミリアであったが、血を飲む度に感じる美味しさと快感に加え、もっと沢山欲しいと言う本能的な欲求に抗っているためか、何とも言えない表情をしている状態だった。

 

 そして、吸血時に吸いきれなかった血を溢してしまう癖を発揮してしまっているせいか、今回も例に漏れず思い切り溢し、部屋中に臭いが少しずつ充満し始める。のび太がこの光景を自覚出来ていたら卒倒間違いなしではあるが、本人は快楽でそれどころではないため、その心配はない。

 

「良いなぁ……お姉様、とっても美味しいお兄様の血を独り占めして、あんなに気持ち良さそうにしてる……」

 

 レミリアの吸血行為を間近で目にしているフランは、今すぐにでも一緒にのび太の血を飲んでみたいと言う欲求が沸き出てきてしまっていた。

 

 しかし、自分は既に3回も吸血している事と、それに対してレミリアは1回たりとも独占した事がなかったと言う事実が頭をよぎり、欲求に抑止力がかかったため、何とか踏ん張れた。

 何より、欲求の赴くままに自分も吸血に加わってしまえば、のび太の命そのものが危機に晒されてしまうだろうと言う思いがほぼ同時によぎった事で生じた、本能的欲求を押さえつける程に強力な抑止力によって、吸血に傾いていた天秤が理性の方に傾く。故に、部屋に漂う微かな血の臭いで我慢出来るレベルにまで欲求が抑えられた。

 

「レミリア……もうそろそろ、止めてくれたら……嬉しいんだけど」

「んぅ……はぁ……はぁ……」

 

 吸血行為が始まってからある程度の時間が経った後、色々な意味で限界が近づいてきたらしく、のび太がレミリアに吸血を止めるようにお願いをし始めた。

 あまりの血の美味しさと快楽などによって理性が殆んど吹き飛んでいたレミリアであったが、のび太のそんな懇願をなけなしの理性で聞き取ったためか、首筋から口を離して何とか止める事に成功した。

 

 が、回復魔法を使えるような状態ではなくなっていたため、代わりにフランが首筋の噛み傷を治すために回復魔法を使用して傷を短い時間で完治させる事となった。そして、その後はドラえもんの教え通りにスペアポケットを使用し、ひみつ道具や未来の生活用品を駆使して部屋中から吸血行為に関する痕跡を完全に消し去り、他人が入っても問題ない状態までに部屋を綺麗に戻す。当然、レミリアとのび太の服も『きせかえカメラ』で同じものを新調したため、そちらの意味でも万全である。

 

「ん……やっぱりお兄様の血、美味しい……!」

 

 時間が経って結局欲求を我慢出来なかったフランがのび太の首筋に噛みつき、1口分の血を飲んでしまうと言う出来事があったものの、何とか布団を敷き、吸血行為によって疲れきって眠ったレミリアとのび太をフランは寝かせ終えた。

 痕跡を消し終えた後は、一瞬だけ全力を解放してレミリアの張った物理的な侵入を阻む結界を上手く破壊してから『糸なし糸電話』でドラえもんに全て終わった事を伝え、本当にこれで全ての片付けが終わる事となった。

 

 その後、レミリアとのび太の2人はフランやドラえもんが何を試みようとも一瞬たりとも起きる事はなかった故に2人は起こすのを諦め、今日はそれで過ごそうと決意を固めた。

 

 こうして、学校生活最後の日は全員が良い気分のままに幕を閉じる事となった。

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スカーレット姉妹とお別れの日

「お姉様もお兄様も、凄く幸せそうに寝てる……手まで握っちゃって、羨ましいなぁ」

 

 最後の登校日にあったドッジボール大会で優勝し、のび太一行を含めたクラスメート全員と記念写真を撮ってもらったりして最高の思い出で飾った次の日の朝、こっそり一緒にのび太の布団の中で寝たフランは1人早く目覚めると、半日以上も眠っているにも関わらず未だに起きない2人を見ながら、羨ましそうに独り言を呟いていた。

 

 何故なら、フランが起きた時には既に、のび太とレミリアがお互いに向き合いながら眠る体勢を取っていたためだ。

 勿論それだけではなく、レミリアがのび太と両手を互いの胸元辺りでがっちりと握っていた状態かつ顔と顔の距離を超至近距離まで近づけて寝ていたためと言うのもあったが……どちらかと言えば、こちらの方が理由としては大きい。フラン自身、のび太と未だにそうやって寝た事がなかったから、尚更である。

 

「今日でお兄様ともお別れ……だから、私もお姉様みたいに、お兄様と何かしなきゃ……」

 

 しかも、前日にはフランの時を超える長い時間と強い快楽を与える吸血行為を、レミリアはのび太に対して行っている。もしかしたら自分たちが居なくなった後に、のび太に残る今までの思い出の多くを押し退けて、レミリアによる吸血行為が頂点に君臨してしまうかもしれないと、フランはそう考えていた。

 

 強い快楽を与えて数多もの思い出を押し退け潰し、のび太の記憶に残す。これは、自分ですら故意で行う事は禁忌であり、例え必要に迫られてした吸血行為によるものなどの故意ではない事案だとしても、あまり好ましくないとフランは思っている。だから、何とかしてそれと同等以上の何かをしなければと考えるが、どう考えてもそれ以下の事しか思い付かず、焦ってしまっていた。

 

 まあ、実際のところはフランも食事のためにのび太から吸血した事は今回の現代旅で3度あり、その上レミリアよりも一緒に居た時間も1ヵ月程長く、のび太自身もフランと共に毎日を過ごしていく事をとても楽しく思っている。なので、たかが1度や2度の快楽を伴う吸血行為では思い出を塗り潰す事など到底不可能であり、心配せずとも問題はない。

 

「フランちゃん、大丈夫? 元気なさそうだけど……」

「まあ、今日でお別れだし、寂しいんじゃないか? のび太の事、お兄様って呼んで慕ってた位だし、無理ないさ」

「うん。だって私、お兄様の事……()()()だから、その……寂しいし、怖いの」

 

 とは言え、覚妖怪のように心を読み取る事が出来ないフランに、それを知る手段などなかった。加えて、今日でのび太と別れる日だと言う事もあり、時間が経つにつれて複雑な思いが頭を巡っていって元気が失われていき、準備を終えて朝食を取っている頃にはのび太の母親やドラえもんに心配される程になってしまった。昨日と今日の落差が激しいが故に、それも仕方のない事だろう。

 

 そんな感じで心配されたフランは、何とか心配を解消してあげようとして、のび太の父親の発言に同意を示そうとした。

 しかし、記憶にあるのび太との幸せな数々の思い出や、一緒に過ごしていく内に少しずつ芽生えてきた恋心、その他抱いている数々の思いに今日がお別れであると言う現実が加わって半泣きになったお陰で、余計に心配させてしまう羽目になる。

 

「そう言えば、2人共起きるの遅くないか?」

「確かに、昨日の夕方6時頃からずっと寝てるし、体調でも悪いのかしら……? フランちゃん、2人から何か聞いてない?」

 

 ある程度の時間、沈んだ雰囲気のまま食事をし終えかけた時、のび太の父親がいつまで経っても起きてこないレミリアとのび太の事を心配に思ったらしく、ふとそんな話題を振り始めた。昨日の夕方から夕食を取らずにずっと眠っている事も確認していただけあって、母親の方は体調でも悪いのかと父親以上に2人を心配し始め、フランに何か知ってる事はないかと問いかけ始めた。

 

 実際は体調が悪い訳でも何でもなく、ただ単に吸血行為による快楽などが要因でお互いに疲労しきっているせいなのだが、当然そんな事を正直に説明する訳にもいかなかった。しかし、嘘を言おうにも、人を納得させる事が出来るレベルの嘘はそう簡単に思い付かなかったため、フランは黙り込んでしまう。

 

「皆、おはよう……」

「ちょっと遅くなったわ。それと、のび太。本当にありがとう……大丈夫?」

「うん。まだちょっと眠いけど、大分スッキリしたから大丈夫だよ。レミリア、満足した?」

「ふふっ……あれだけ良い気分にさせてもらったのよ? 当然、大満足に決まってるじゃない!」

 

 すると、そのタイミングでちょうど話の渦中にあった2人が、少し眠そうにしながらも体調は良さそうな感じで会話を交わしながらキッチンへと入ってきたのを全員が目にする。

 特に、起きてきたら何があったのかなどを聞こうと思っていたのび太の両親は、起きるのが遅かったのは2人の会話の内容から『もうすぐお別れであるが故の夜更かし』であるからだと解釈したらしく、納得して聞くのを止めていた。

 

「ねえ、お兄様。私ってさ、お兄様の思い出になれたかな? 居て楽しかったとか良かったって思える存在だったかな? 今更だけど、こうやって私がお兄様にくっついたりしてた時、実は気を遣ってただけで、鬱陶しかったり嫌だったりしなかった?」

「えっ? どうしてそんな事を急に……?」

 

 そうして、用意された食事を素早く済ませていたレミリアとのび太を待ち、2階の部屋へとドラえもんと自身を含めた4人で向かって部屋の扉を閉めると、フランは突如として悲痛な面持ちでのび太にそう問いかけた。

 食事時から凄く辛そうな表情をしていたのは見ていたために知っていたのび太であったが、部屋に戻ってから僅かに涙を流すまでに悪化していたのを見て、思わずフランに対してどうしたのかと話しかけた。何となく察してはいたが、本人の口から真実を聞き出して対処を行うためである。

 

「何かね、急に怖くなってきたの。別れて時間が経ったらお兄様に忘れられるんじゃないかとか、私との思い出がお兄様にとって負担になっていないかって」

 

 のび太からそう聞かれたフランは、今日の朝から急に抱き始めた色々な感情や思い、不安などに押し潰されそうで怖くなってきてしまったと言う事を吐露し、大丈夫だよねと言いたげな視線を向けて答えを待ち始める。

 その間にも、仮に大丈夫ではないと言われたらどうしようと不安や恐怖に苛まれ、両手を握ったり周りをキョロキョロ見回したりなどの行動を起こしたり、精神が徐々に不安定になり始めてきていた。

 

「大丈夫だよ、フラン。僕なら大丈夫だから、心配しないで。それよりも、最後の日なんだから君らしい()()()笑顔で居てくれた方が、僕はとっても嬉しいから……ね? だから、笑って欲しいな」

「っ……! うん! えへへ……お兄様に、可愛いって言われた……!」

 

 明らかに不味いこの状況に、フランの突然の変わりように少し驚いていて黙っていたのび太も、早く何か安心させる一言や行動を起こさなければと思考を一瞬だけ巡らせる。そして、その後思い付いた行動を起こしつつ、安心させるだろう言葉をかけた。

 

 不安に押し潰されそうだったフランは、そんなのび太の顔をかなり近い距離まで近づけた上での頭を優しく撫でつつ、言われて喜びそうな言葉をかけると言う行為によって、心の中に巣食っていた不安は最初からなかったかのように消え去った。

 

 それどころか、可愛いと言われた事によって万引き犯騒ぎの日からほんの僅かながら芽生え、2泊3日の旅行時に自作絵入りのマグカップをもらった日に急に増大した恋心がここに来て更に増大し、夢のような幸せな気持ちで満たされる。

 

「えへへ、今日だけは私が大好きなお兄様を独り占め! 例え、お姉様やドラえもんにも渡さないからね!」

 

 故に、テンションが猛烈な勢いで上がっていったフランはのび太の膝にぴょこっと座ると、レミリアとドラえもんに向かって今日はのび太を独り占めするから絶対に渡してなるものかと、両手を広げて守る体勢を取り始めた。とは言え、仮に2人がのび太と会話を試みたり出掛けようとしたりしても、理不尽に傷つけさえしなければ魔法や能力を使ってまで守る(奪う)つもりは、本人にはないらしい。

 

「ふふっ……はいはい。ドラえもん、行きましょうか」

「うん、そうだね。じゃあ、ゆっくりしてて」

 

 そこまでしてのび太と2人きりで居たいと言う意思を、自分たちの目の前でまざまざと見せつけられたレミリアとドラえもんは、先程までとはうってかわってとても幸せそうなフランを暖かい目で見ながら、この時間を邪魔してはならないと思ったようで、ゆっくりしててと声をかけた後に部屋を出て行った。

 

「お兄様! これでお部屋で2人きりだね!」

「うん。そうだけど、あまりする事ないよ? フランは、それでも平気?」

 

 レミリアとドラえもんが気を遣って部屋を出て行った後、フランはのび太に正面を向くようにして膝に座り直し、2人きりになった事を喜び、のび太に対して話しかけた。

 

 対して、のび太は2人きりになる事自体は歓迎しているものの、この部屋だとトランプ等のカードゲームやオセロ等のボードゲームしかなく、フランが幻想郷に帰るまでの時間を持たせる事は難しいと思っていたために、大丈夫なのかと問いかけていた。もし、無理であるならドラえもんからひみつ道具を借り、何とかしようとも考えているらしい。

 

「平気だよ! 私はね、どれだけ娯楽のない退屈な場所に居ようと、お兄様と一緒ならとっても楽しいし、嬉しいの。と言うかむしろ、邪魔の入らないこの場所でお兄様と2人きりが良いなって思ってるよ。だって、そうしたらお兄様の気が、()()()に向くでしょ?」

「なるほどね。君がそれで良いなら」

 

 しかし、そんなのび太の問いかけに対してフランは即座に平気だと答え、むしろのび太の気が自分だけに向く幸せを噛み締められると言う意味では最高だと、抱きつきながら言ってきた事によって、本人がそれなら良いかとのび太は納得した。

 まあ、自分自身もフランと一緒に居て、楽しい幸せな時間であると思っている事も大きかったが。

 

 フランとそんな会話を交わした後、そうは言っても話してばかりだとネタもなくなってあれだと思ったのび太は、引き出しからトランプを出してババ抜きをやろうとの提案を持ちかけた。当然、この雰囲気の中で断る理由など全くなかったフランは喜んで了承し、早速ババ抜きが始められる事になった。

 

「やった! またお兄様に勝った!」

「えぇ……ババ抜き3連敗って……僕、そんなに分かりやすいかなぁ?」

「うん、分かりやすいよ! だってお兄様、顔に出てるもん!」

「あはは……なら、次こそは僕も頑張らなきゃね」

 

 ただ、その結果はのび太の3連敗と言う結果に終わる事となったようで、連続で勝って喜ぶフランに対して、負けすぎて逆に苦笑いする様子をのび太は見せていた。

 あまりにも負けすぎるものだからか、自分はそんなに分かりやすいのかと勝負終わりに聞いてみたものの、顔に出てるとの指摘をのび太は受けてしまった。故に、次やる機会があった時は顔に出ないように気を付けなければと、そう誓った。

 

 ババ抜きを終え、トランプで出来る知っている遊びをあらかたやった後は、ここしばらく使っていなかったオセロボードを取り出し、これで遊ぶ事に決めた。が、お互いにルールを良く分かっていなかったため、ルールブックを見ながらとなる。

 

「何とか勝てたぁ……」

「えへへ……お兄様に負けちゃった!」

「フラン、負けたのに何だか嬉しそうだね」

「うん! だって、お兄様と2()()()()で遊べてるんだもん! 負けても勝っても、私にとってはこれだけで凄く幸せな一時なの!」

 

 時間をかけて戦ったオセロの結果は、のび太の辛勝で幕を閉じた。悔しがるかと思っていたものの、負けたはずのフランがとても嬉しそうなのを見て不思議に思ったのび太が聞いてみたところ、本人曰く2人きりで遊べているから、勝敗に関わらずとても幸せだからと即答した。どうやら、のび太と一緒にいるこの状況が、負けた際の悔しさを軽く凌駕しているようである。

 

「うーん、もう遊ぶようなものがない……」

「それならさ、座ってお話ししようよ! 私はそれでも良い……いや、それが良いの!」

「分かった」

 

 オセロを遊び終えた後、他に何か遊べるようなものはないかと部屋中を探し回ったものの、トランプとオセロボードしかない事が判明したため、ゆっくり座って会話をする事に2人で決めた。

 

 そうして始まった会話は何回か聞いた事のあるものや、他愛もないものであった。しかし、フランはのび太の話す言葉一つ一つを、とても幸せそうな笑みを浮かべながら真剣に聞き入っていた事から、話の内容云々よりも、自分を退屈させまいと頑張って話す姿を見ているだけで問題ないらしい。

 

 逆に、フランが話した事は純粋に初めて話す内容のものが多く、聞いているのび太にとっても興味のある事柄も多かった。なので、時折質問したりするのだけど、自分の話を真剣に聞き入ってくれている事に嬉しさが爆発したのか、それに気がつかずに進んでしまう事が多々あり、結局はそれ程幻想郷の事については分からずじまいで終わってしまう。

 まあ、のび太はフランが喜んでくれているので、特に幻想郷の事が分からずじまいでも気にはしていないようだが。

 

「盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ帰るわよ。フランドール。レミリアも下で待っているから、出来るだけ早く準備を済ませて頂戴」

「えっ……帰る……?」

 

 ただの会話でお互いに盛り上がり、それが1時間を超えたある時、突如として2階の部屋に紫が入ってきて、もうそろそろ帰ると言ってきた事によって、のび太はともかくフランの幸せな気分が粉微塵に吹き飛んでしまう。もうすぐお別れだと言う現実を見ないようにしていたのに、これによって現実に再び引き戻されてしまったためである。

 

 本当であれば、大声で泣き叫んでもここに居たいと言いたかったフランであったが、のび太が自分の笑顔を可愛いと言ってくれた事と、大好きな姉であるレミリアを困らせる訳にはいかないと言う事もあって一瞬困惑したものの、すぐに無理矢理笑顔を作ってから急いで居間へと向かい、各種荷物をしまうなどして準備を済ませた。

 

「ありがとう。1ヵ月間、とっても楽しかったわ」

「私も楽しかったよ! 皆、ありがとね!」

「君たち2人に楽しんでもらえたのなら、何よりだ」

「レミリアちゃんもフランちゃんも、帰っても元気で居てね」

「ええ、勿論よ」

「うん、勿論だよ……あっ、そうだ!」

 

 そして、玄関口で紫たちとのび太たちが集まり、各々が感謝などを言い合ったりするなどしてやり取りを交わし、さて帰ろうかとなったところで突然フランがのび太の前にやってくると、自分の身長と同じ高さに視線を合わせてくれと、別れる前の最後のわがままと称してお願いをし始めた。

 

「大好きだよ、私だけのお兄様。だから、いつまで経っても私の事……忘れないでね」

 

 不思議に思いながらも、のび太がそのお願いを聞き入れて視線を合わせてくれたのを確認すると、フランは一言のび太に言った後にその軽く唇にキスをした。そしてすぐ、顔を赤くしながら紫とレミリアを置いて日傘を差し、逃げるようにして外に出て行った。そんなフランを微笑ましく見つつ、のび太と両親とドラえもんに一礼してから、紫とレミリアは後を追って家を出て行く。

 

「……」

 

 まさか、軽くとは言え唇にキスをされるとは夢にも思っていなかったのび太は、驚きのあまり言葉を発す事が出来ぬまま、去っていく紫たち3人を見送る。

 そして、フランにキスをされたのび太を、ドラえもんたち3人はとても微笑ましいものを見るような目で見つめていた。

 

 こうして、レミリアとフランの1ヵ月以上もの色々あった現代旅は、幕を閉じる事となった。

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。お陰様で、完結まで持ち込めました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。