エゴ 前編 (マニルマ)
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エゴ 前編

 私は弱い人間だ。平気で他人に嘘をつくことができる。

 自分のエゴのために、自分の名誉のために、プライドのために平気で嘘をつける.そんな人間である。

 そんな罪深い私だが、思い人は人並みに存在している。彼女は向かいの家の娘、田中である。彼女の優れた容姿は私の心を癒やし、彼女の暖かい心は俺のこの歪んだ心さえも包んでくれる。そう思わせるような人物である。

 

 ある日のことだ。私は近くの図書館で勉強をしようと思い顔を覗かせたところ、古くからの親友である吉田と遭遇した。

 彼とは小学校の頃からの付き合いであり、自他ともに認める親友である。俺は彼にそっと声をかけようとした。だが、少し彼を観察する時間があったからなのかは分からないが、彼の様子の違いに気づいた。普段の彼なら、俺の存在などすぐに気づく、だが今日は気づかない。彼は何かを深く考えているようだ。

 俺はしばしの間動きを止めていたが、彼に声をかけることにした。彼は俺の方へ振り向くと、ああ、お前か。丁度よかった。少し悩みを聞いてくれないか? と俺に聞いてきた。どうやら悩みがあったらしい。俺は彼に了承の旨を伝えると、近所の公園へと場所を移した。この相談が悲劇のきっかけになるとも知らず.

 

 

 

 彼の放った言葉に俺はしばらく返事ができずにいた。その時の俺の衝撃と言ったら言葉では中々言い表せないだろう。俺は胸を釘で打たれたかのような錯覚を覚えつつ、彼の発言に間違いがあったのではないかと疑いだした。そこで俺は彼にもう一度言ってもらうことにした。できれば聞き間違いであって欲しかった。もしくは彼の気が短期間で変化することを望んだ。だが彼の言葉に変化は無かった。

 

「実は俺、田中が好きなんだ」

 

 石の様に動かない体と、日に当てられたように働かない脳を自覚。しばらくして、俺は徐々に彼の言葉についての思考を開始していた。俺は今確かに、こいつの恋心の吐露を聞いた。聞いてしまった。しかも、相手は俺の愛してやまない田中である。付き合っているわけではないが。

 もしこれが、俺となんの関わりのない普通の女であったのならば、俺は心の底から彼を応援したであろう、そう迷いなく思えるほど彼と私は硬い絆で結ばれいる。すくなくとも私はそう思っている。だが、そうは行かない理由があった。彼女とは俺が結ばれるのだ。彼に奪われるわけにはいかないのだ。

 

 俺は彼になぜ好きになったのか理由を聞いてみることにした。まるで情報を秘密裏に収集するスパイかのように。彼は、俺の心など露も知らないので、赤裸々に語ってくれた。小学校から好きだったこと。彼女の優しい性格が好きだということ。そして、1週間後に彼女に告白しようとしているのだということを。

 彼が俺に混じりけのない信頼のもとで俺に語ってくれいることを俺は分かっていた。だからこそ彼の気持ちが本心であることは真実であることを強く実感した。そして、実感した上で弱い私は、どうにかして彼に彼女を奪われない方法がないかを考えていた。



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エゴ 後編

 彼女を渡す訳にはいかない。どうすれば阻止できる。

 俺は部屋で一人狂ったように考え続けていた。

 どこの馬の骨ともしれない男なら、俺はどんな手段を持ってしてでも阻止するだろう。だが、そうは行かないのである。俺の恋敵は、俺の一番の親友でもあるのだから。

 俺は3日ほど葛藤していた。友情をとるか、自分の恋をとるのか。

 そんなある日、俺は目にしてしまった。吉田と田中が楽しげに会話しながら帰路に立っているところを。

 

 その瞬間、俺の心は俺の エゴ に埋め尽くされてしまった。俺の心の良い部分はこの瞬間に飲み込まれてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 その翌日.

 

 

 

 

 俺は彼女に告白した。

 

 

 

 

 彼女は私の告白を承諾してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、俺は二つの相反する感情に板挟みにされていた。

 彼女と付き合えたことの幸福感、そして、彼を裏切ったことへの罪悪感。

 俺の良心はここにきて叫びだした。こんな卑怯なことをしていいのかと。だが、おれの弱い心はそんな正しい言葉など認めない。認めてなるものかと。

 だが、日をおううちに俺の心は呪いでもかけられたかのように締め付けられる。なぜか。明日は、彼が彼女に告白する日だからだ。そこで彼は真実を知るだろう。そのことを考えると生きた心地がしない。どうして俺はこれほど弱い人間なのか。おれは卑怯だ。親友を裏切ってまでエゴを貫いた。

 

 夕方、俺は彼に呼び止められた。彼は俺に相談をもちかけた。ど俺に告白のセリフや状況について考え欲しいのだという。

 

 

 自分を裏切り自分の惚れた女と付き合った男に対して。

 

 

 だが、弱い俺は、こんな状況でもとうとう自分の過ちを彼に詫びることはできなかった。許されないことをしたのだと十分に分かっていた。謝らなければならないことを分かっていた。だが、怖かったのだ。関係が崩れることが。そして、自分のこころの弱さを本当の意味で喉元に突き刺されることが。

 

 

 

 帰り際、俺は彼女の家に立ち寄った。俺はそこで、彼女との恋人らしい時間を過ごした。これが最後になるから。

 

 俺の行動を彼女が知れば、俺は間違いなく彼女に軽蔑される。そして俺は俺の心の弱さを最愛の人に突きつけられてしまうであろう。その上、俺は親友を失う。俺は、俺の我が身可愛さにその時の感情だけで行動し、すべてを失うんだなぁ。

 

 

 

 そして翌日

 

 

 

 

 そしてその翌日

 

 

 

 俺は、彼女に声をかけられた。俺は覚悟した。俺はすべてを失ったと。だが、彼女はなにも無かったかのように俺に話しかけてくる。俺はたまらず、彼女に問い詰めた。彼女は言った。確かに昨日吉田に会ったと。そして、好きな人はいるのか聞かれたという。そして恋人が俺であることを伝えたという。

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は吉田の家に走りだしていた。

 

 

 俺は馬鹿だ。俺は大馬鹿だ。あいつは、俺の過ちを知った上で、親友である俺と彼女の関係を壊さないように、俺への怒りと彼女への恋心を抑えたのだ。そんな男を俺は、俺は裏切ってしまった。

 

 

 俺は彼の家に着くなりインターホンを押した。彼の母親が出迎えてくれた。彼は昨日から部屋に閉じこもっているらしい。彼の母親の心配そうな顔をみて俺は罪悪感に押しつぶされそうになる。そんな俺を見て彼の母親は、「息子が心配かけてごめんね」と俺に慰めの言葉のかけてくれた。そして、その言葉のため俺の心はとうとう罪悪感に押しつぶされてしまった。

 

 

 だが、真実を伝えることはできなかった。

 

 

 俺は、俺がどうしようもないクズだと知った。

 

 

 

 

 そして数日がたち

 

 

 彼が転校したことを知った。

 

 俺は後悔した。親友を失った。それも、俺が彼に許されないことをしたばかりに。

 

 

 

 だが、それでも俺は彼女と今帰り道を一緒に歩いている。何事も無かったかのように。幸せそうに。のうのうと。

 

 

 俺はクズだから。

 

 




個人的に爪痕残す作品が好きなので思いつきで書いてみました。
拙い文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。


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