持っていくものだけをバッグに詰めて使うツールはすぐに取り出せるようにしまっておく。必要なくなったものを
腰に巻いたベルトに下がっているラジオからは今日も生存者に向けて激励と集合のメッセージが聞こえてくる。
仮拠点として居座っていたコンビニを出る。旅立つ日にはとても似合わない、今にでも雨が降り出しそうな雲が空を覆っていた。
高速道路を歩いていけば比較的早くラジオから聞こえる集合場所に着ける。どうやらその集合場所には生存者を集めて小さなコミュニティを結成しているようだ。何度も何度も同じメッセージをくり返し言ってくるラジオの電源を切り歩くことに集中する。
しばらく歩くと自動車の窓から緑色の物陰が見え、すぐに身を隠す。唸り声が聞こえて厄介な存在が目の前にいることを痛感する。
いつでも取り出せるようにしていた現代には似つかわしくない鉄の剣を取り出す。隠れていた車から身を乗り出し厄介な存在が2体存在することを確認し1番近くにいた方を4回ほど切りつける。
ゲームのような考え方をすればノックバックしたそれは倒れて白い煙を上げながら消滅した。自身に気付いたもう一方の方も後ろに回り切りつける。動きが俊敏でないため2体ともすぐに消滅した。
唐突に何故こんなことになっているのか、不意に頭にそんな疑問が湧き上がり、それに答え合わせするかのように今までの事を思い出す。ある日突然奪われた平穏から今に至るまでの全てを。
その日は変わったことなど何も無い平穏な日々の中にある一日になる筈だった。毎朝7時50分に着くように学校へ登校し道中、ガードレールが敷かれた歩道を知り合いや友達と話しながら登校する。
最近見たアニメの話やゲームのこと、自分の趣味を語り合える良き友達と校門をくぐって教師たちの挨拶をかわし、そんな何でもない日々が始まる筈だった。
目の前にいきなり大きな筒状の雲が現れ、そこから大量の化け物たちが現れるまでは。
前にも後ろにもいる緑色の皮膚をした鈍足なゾンビ達は未知との遭遇により足が動かない学校の生徒達を襲い始めた。歩道で上がる悲鳴、立ち上る煙。日常な一気に非日常へと切り替わった。
ゾンビを避けようとした車がハンドルを切りガードレールに衝突し煙をあげる。経験したことの無い恐怖に襲われ誰しも全く足が動かない。しかしそんな登校中の生徒の中から逃げるように周りに声をかけるものが現れる。
その声に気付いた者達は一斉にその場から離れ始める。ゾンビに襲われている生徒を救い出す勇敢な者も見かける。自分にはそんな事は恐ろしくてできない、そんな情けなさを感じつつも恐怖が先行して逃げ出す。
ゾンビを見かけた場所からある程度離れ、建物の裏で倒れるように座る。走った疲れで回らない頭で一体何が起こっているのかを必死に考える。
恐怖で震える手足を必死に抑えながら思考し、ニュースになっていないかとスマホを取り出す。ニュースサイトを開き速報として今起こっている状況をニュースキャスターが話す。
『「えぇ現在!謎の筒状の雲から現れたゾンビによって!現場は大混乱となっています!」』
『「ああ!あそこです!!」』
ニュースキャスターが指さす方向には先程見かけた緑色の皮膚をしたゾンビ。よく見てみると自身が思い浮かべるあるゲームのMOBによく似ていた。
そんな事はありえないとその思考を振り払うもスマホの画面に映るそのゾンビの見た目は、先程浮かんだものとどんどん重なっていく。
一人呟くように浮かんできたゲームの名を口にする。
「マインクラフトとゾンビじゃねぇか……。」
突然上がった悲鳴に思わずスマホを落とす。かなりの近さで何かが起き、様子を見るために建物から少しだけ頭を出してみる。
そこには先程のゾンビの他に明らかに最初にはいなかった別のゾンビが混じっていた。先程のゾンビは全員、水色のシャツに青いズボンだったがスーツを着た者や自分とは違う高校の制服を着た者もいる。
「なんだよこれ……こんなのどうすりゃいいんだよ……。」
建物の裏で絶望して顔を俯かせる。不意に見えた建物の裏で生えていた木が目に映る。とある発想が頭をよぎり、そんな訳が無いと一蹴するも藁にもすがる思いでその木を叩いてみる。
強く力を入れたわけでもないのにその木の状態からは想像できないようなヒビが少しだけ入った。
「!?」
驚きで1回しか叩いておらずそのヒビはすぐになくなってしまう。しかし自分の中に浮かんだある発想が馬鹿げたものから希望に変わる。
すぐに木をなんども叩いてみる。力の入れ具合からは想像もできないスピードでヒビはどんどん広がっていきヒビの中から何かが出てくる。
あまりに見慣れたその光景によってもはや疑いの余地はなく確信した。
「今この世界はマイクラみたいになってるのか!」
それからの彼の行動は早かった。何度もプレイしたことのあるゲームであるため、その行動はもはやパターン化したような物だった。
頭の中で今自分が集めたヒビの中から出てきた原木の名付けられたアイテムを自分の中でどうしたいか考える。すると考えた通りのように原木は木材へと変わった。
ゲームの中で何度も繰り返してきた作業と同じである。それを頭に思い浮かべるだけでその通りになる。木材をすぐに作業台へ変えてクラフトできる物を広げる。
剣、ピッケル、斧、スコップ。今できる最大限のツールを作成した。建物の裏から出て、周囲を見回すと車から火が出ていたり色々なものが落ちている。
発達した現代では洞窟なんてものはそう簡単に見つからない。しかしコンクリートでできた地面の更に下はどうかと考え掘り進めていく。
地理の授業で粘土や砂が交互に積み重なりあっていると聞いたことがある気がしたがコンクリートの下は石だった。何十個か拝借したあとコンクリートを埋めて自分のツールのグレードを上げる。
そうして数時間が経ち自分の親と中学生である弟と妹が心配になる。スマホを見るとニュースサイトには政府が自衛隊を派遣し民間人を安全な場所まで避難させているらしい。小・中学校は学校全体での避難が完了しているようである。
とりあえず弟妹への不安は消え、両親も2人を心配して避難しているはずである。自分も自衛隊に救助してもらおうと考え避難所となっている公園へ向かった。
この設定丸々パクってめちゃくちゃ面白い小説書いてくれる人が現れるといいな。
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2日目
公園へ向かう道中、大量のゾンビ達がいることにより大きく迂回しなければならなかったため、かなり時間がかかってしまった。
日が落ちてあたりはかなり暗くなってしまった。息を切らしながらも走りようやく公園が見えてきた。よく分からないが自衛隊のヘリへたくさんの人が乗り込む。どうやらアレで全員のようだ。自分も乗せてもらおうと声をかける。
しかし後ろから聞こえてきた軽い物がぶつかり合うような音がなった気がして振り返ってしまった。そこに居たのは一言で言ってしまえば骸骨だった。どうやって骨同士がくっついているのか分からないその骸骨は弓矢を持っていて既に矢を番えていた。
風を切る音と共に自身の右肩に突き刺さる矢。瞬間に頭に送られてくる肩の激痛はマトモな思考を乱し、倒れて刺さってる肩を抑えるしかない。
「(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)」
そんな考えしか浮かばずヘリの扉が自衛隊の隊員を乗せて閉じようとしていることに気付かない。
「ああぁぁッ!!」
痛みに少しだけ慣れて余裕がほんの少しだけ出る。骸骨はまた矢を番えている。間違えなくその組み合わせはマイクラのスケルトンである。地面に転がっている自分をもう一度射抜こうとするスケルトン。横にころがって矢を回避し、距離をとる。
ヘリの方を見ると扉が閉まっており焦ってヘリの方へ向かう。プロペラが回りだし強風を押されながらも乗組員に気付いてもらうために大声を出して近づく。
操縦士がこちらに気付き乗せてもらえると思いながらもヘリは離陸を始めた。そのことに困惑しながらもヘリに近づいていく。しかし離陸したヘリはどんどん地上との距離を離していく。
方向を変えて自身とどんどん離れていくヘリをただ眺めていることしかできなかった。照らされていた明かりもなく何も見えない暗闇の中、ただ立ちつくすしかない。
その間に昼に見かけたよりも倍以上のゾンビ、新しく増えたスケルトン、現実では考えられないほど大きいクモ、その数は数えるのも億劫になるほど、それらがこちらに迫ってきていた。
モンスターとも言うべき存在が大量に迫っているのにも関わらず、見捨てられたという絶望からただ立ちつくすしかなかった。分かっているのに動けない。
そんな中、スケルトンが自身の背中を射抜く。痛みで気付き逃げようと試みる。必死に痛みに耐えながらモンスターがいる公園を駆け抜ける。夜になれば大量のモンスターが現れることを忘れていたが明かりがある場所にモンスターが湧かないことを思い出し明かりが灯る場所を目指す。
しかし巨大な公園は最低限の光しか灯らない外灯くらいしか無く、どこを見てもモンスターしか湧いていない。そんな中右後ろから急降下してきた何かが自身に噛み付いてきた。
夜の空に飛んで攻撃してくるMOBはマイクラ内で思いつくのはファントムだけである。見上げると月明かりに照らされて空中を旋回しているファントムが見えていた。
先程射抜かれた肩、背中、噛み付かれた腕からの出血は止まらない。意識が朦朧としだし、歩いている程度のスピードでしか動けない。後ろから何体ものスケルトンが矢を放ってくる。何本も飛んでくる矢をその身に受けて倒れてしまう。
口から鉄の味がして、むせ返るような同じ鉄の匂いがしてくる。仰向けに倒れ血の水たまりができる。
救いはなく、希望もなく、故にこんな考えが頭の中をよぎる。
「も、もう……いい……死のう……。」
ただそんな考えしか浮かんでこない。親のこと、弟と妹のこと、友人のこと、そのどれもが他人事のように思えてくる。
空から一体のファントムが急降下してくる。確実に頭を食いちぎられる位置、防御も回避もなく自分の意識はプツリと切れた。
目を覚ます。あれほど自分を苛んでいた。肩や背中、腕の痛みは全くない。不審がっていると急に吐き気がしてきた。あまりに強いその酔いで思わず吐いてしまう。
見覚えのあるこの場所は自分が初めてマイクラのような世界になっていると気付いた場所、建物の裏である。
そしてフラッシュバックするスケルトンとファントムによる殺害の記憶。それによってまた吐いてしまう。
現在はどうやら日が昇り始めた朝のようで雲もない晴れ。忘れていたようで近くに置いてあった自分の学生カバンを持って殺害された場所へ向かう。
あの時感じた絶望感、痛みは鮮明に思い出すことができ、体の震えが止まらない。しかしマイクラの同様に考えるのならばあの時死亡した場所には自分が持っていたツールやアイテムがあるはずでありそれを確認する。
公園へ向かう道中、太陽の光で燃えているゾンビ、スケルトン、ファントムが見える。燃えている間は自分に構う余裕など無いのか攻撃してこない。しかし頭に兜や帽子をかぶっているMOBは燃えていなかった。
燃えていないMOBを慎重に避けていき、なんとか公園へたどり着くことができた。
少し遠くには血の水たまりが微かに見えた。たどり着くとアイテムは散乱しており回収する。近くにMOBが燃えて落としたのか矢や腐肉が転がっていた。弓矢に使うために矢だけを回収し、血の水たまりから鉄の匂いでまた吐き気がしてきたのですぐにその場を立ち去る。
公園近くのコンビニへ向かい小腹を満たそうと立ち寄る。当然人はおらず商品は棚から落ちたり、棚自体が倒れていたりした。タダで物を持っていくのは気が引けたため、学生カバンに入っていた財布から持っていく分の料金をレジに置いた。
レジの近くにあるお湯をカップ麺に入れる。待っている間にスマホでニュースサイトを確認する。一夜明けたことである程度の情報が整理されているのかニュースキャスターは丁寧に状況を説明していた。
日本では自衛隊が民間人の救助を行い、学校や公園に避難していた人は全員保護できたようである。また、まだ救助されていない民間人はできる限り救助するようである。
そのために公園や学校など、救助ヘリが離着陸できる箇所に移動して欲しいなど、報道していた。
自分はどうするかを考え、まだこの街に取り残された人達を見つけ学校へ避難しようと思いつき、お湯を入れて3分たったカップ麺を胃に流し込むように食べて即座に行動を開始した。
まずはそこらじゅうに湧いている頭を装備で隠し燃えていないMOBを処理することから始めた。
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3日目
そこそこのMOBを慎重に倒しながら進んでいくと少し先に悲鳴が聞こえた。誰かいるか呼びかけると助けをこいながらゾンビから逃げているサラリーマンを見つけた。
こっちに来るように呼びかけ、サラリーマンは逃げながら助けを求めてきた。クラフトした石の剣で少し慣れながらも慎重にゾンビを倒した。
サラリーマンは何度も自分に俺を言って自分はサラリーマンに学校へ向かって救助を待つように言う。更に他に人を見かけたらそれを教えるようにして欲しいと頼み、サラリーマンも冷静を取り戻し学校の方へ向かっていった。
「(よし…この調子で夜になる前になるべく多く人を見つけて学校に行ってもらおう……!)」
夕暮れになるまで街を駆け回り、救助されていない民間人を見つけて学校へ向かわせる。夕暮れになりMOBがまた現れないうちに自身も学校へ向かった。
距離的にかなり時間がかかってしまったがなんとかヘリに乗せてもらえる余裕をもって学校へ到着した。それほどの時間が立たぬうちに自衛隊の救助ヘリがやってきて、民間人を誘導して乗せていく。しかしその間に完全に夜になってしまい、周辺はヘリの照明以外真っ暗になってしまった。
ゾンビがうねり声を上げながらヘリに近づいてくる。まだヘリには民間人が乗り切っていない。すぐそこまで迫ってきたゾンビは民間人を今にも襲おうとしていた。
すぐに飛び出してゾンビを石剣で切りつける。その間にヘリに乗り込んでいく人々。全員が乗り込みあとは自分だけとなったところで周辺がゾンビに囲まれてしまった。
「大丈夫か!? 今救助する!!」
「もう行ってください!これ以上ここにいたらまずいです!」
「しかし君を置いていく訳にはいかない!」
救助しようとする自衛隊の隊員にもう離陸するように呼びかけるも置いていけないと言われてしまう。しかし奥からはスケルトンがこちらに迫ってきていた。
またあんな思いはしたくないと思いながらも自分が見つけた人達のために救助ヘリから離れた。できるだけMOB達を引き付けつつ学校の校内へ誘導する。
校内に入ったところでヘリは離陸していった。前回は助けが来ないことに絶望し打ちひしがれながら、今回は仕方なくとも人々を優先して守るために。
その違いに少しの喜びを感じつつ迫り来るゾンビ達を倒して行く。矢を放つスケルトンとは矢が当たらない距離を保ちながら近くにいるゾンビを倒していく。
校内という閉鎖空間で戦っていることで周囲に対してそれほど気を配ることなく戦っている。
廊下にいることで一方通行でMOBがくるので後ろや左右に気を配る必要はなく、公園にいた時ほど苦戦はしていなかった。更に昼の間にゾンビやスケルトンと戦ったことで戦闘にも少し慣れているために、余裕を残しつつ3階まで上がることができた。
「ハァ……ハァ……。」
「(屋上にいればファントムに襲われそうだけど、天井があるから大丈夫か……?)」
教室の明かりをつけて扉に鍵をつける。MOBが扉の前でたむろするが開けられないことは知っているのでそのままにする。椅子に座って息を整える。
休憩のつもりで睡眠をとろうと机に突っ伏すと疲労から瞼が重くなってしまう。
「(…ヤバ……眠るのは……でも休憩なら……。)」
そんなことを頭の片隅で考えながら眠ってしまった。
翌日、夜が明けるまで眠ってしまったいたようで、校庭を見てみるとMOBが燃えていた。扉の前にいるMOBは未だにそこでたむろしていたが、ずっと教室にいる訳にはいかないため扉の鍵を開けて窓の方へMOB達を引き寄せる。
動きが遅いMOB達を少し引き付けてからすぐに屋上まで校内を駆け上がる。スケルトンの矢を一、二本受けつつ屋上まで上がる。矢を受けた痛みでどうにかなりそうだったが、目的であるMOBを屋上まで引きつけることはなんとか成功したようでMOB達は自分を追って屋上まで上がり太陽の光に焼かれていった。
頭に兜や帽子、いわゆる装備を付けているMOBは太陽光から守られているので燃えていなかった。
「(体に光が当たっても燃えないのか……!!)」
放たれた矢をギリギリで避けることができた。しかし戦いとは無縁の世界で暮らしてきた自分は既に何度か戦ったことがあるとしてもまだまだ経験は浅い。今の矢は奇跡的に避けることができただけ、次は当たる。
そんな確信を抱きつつまずはスケルトンからクラフトした石剣を構える。燃えていないMOBはスケルトン2体、ゾンビ3体。弓矢持ちのスケルトンから倒して、慎重にゾンビを処理する算段である。
対峙していない方のスケルトンを警戒しつつ、切りつけていく。矢を番える暇など与えず3回ほど切りつけるとスケルトンは消滅した。しかし対峙していない方のスケルトンが矢を放つ。
太ももに刺さり激痛に耐えながらもスケルトンに近づきジャンプからの上段切り、切り払いでスケルトンは消滅した。そこであることに気がつく。ジャンプからの上段切りはかなりダメージをいれられたような気がした。
ゲーム内でもジャンプからの切りつけはクリティカルのような演出があったため、こっちでも有効であることに気がつく。思考中に襲いかかるゾンビ3体。
1番近い位置にいたゾンビをジャンプからの上段切りで一撃で倒した。残る2体はわざわざ相手にする必要は無いと感じてそのまま突っ切って屋上から退散した。
校内を走り抜けて校門まで来る。ここまで来ればあとは少し残っているMOBを警戒しながら進むだけで済む。しかしもう救助を望むことは出来ない。恐らくここに残っているのは自分だけであり、わざわざ危険な場所に民間人1人を救出するために自衛隊が来るとは思えないため、自分の足で自衛隊の基地に向かうことにした。
自分を犠牲にして民間人を救助する主人公、それは元より持っていた善意か、1度死んだことで薄れた死の恐怖からか。
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7日目
マイクラと同じような世界であると気づいてから7日がたった。その間に気づいたことがいくつかある。1つは自動回復、学校の屋上で戦ったスケルトンから受けた太ももの矢はいつの間にか消えており、傷も治っていた。その日の夜に受けたファントムの傷も次の日の朝に食べたカップ麺を食べた後に回復していた。
どうやら自分が精神的に満腹と感じていれば自動的に回復するようである。しかし痛みが消える訳では無いので受けた傷はしばらく痛みが続く。
そしてもう1つは、どうやら自分は1人だけでは無かったということである。廃棄された車から流れるラジオから生存者へというメッセージが延々と流れているのが聞こえた。
メッセージを聞くと自分がいた街から電車で数十分の場所にあるショッピングモールに立てこもり、自分達を守っているコミュニティがあるらしく、備蓄はかなりあるが人数が少ないために受け入れを行っているらしい。
当然、そこへ向かおうと考えたが電車は動いているわけが無いため歩きで行く必要がある。手間がかかるがそこに到着すればしばらくは落ち着くことができると考え現在そこに向かっている。
MOBを警戒しながら進んでいたため、2日程かかってしまったが、途中廃棄された自転車を見つけてからはあと10分ほどで着くところまで移動できた。
「(現代だからマイクラではありえない移動ができて楽だな。)」
そんなことを考えながら目的地であるショッピングモールに到着した。歩道に駐車場を挟んであるショッピングモールだが歩道はフェンスによって封鎖され、駐車場には車やカートが置かれ障害物としているようである。
フェンスを乗り越えて歩いていくと自動ドアの前までやってきた。電気は通っていないようで自動ドアを手動であけるという普段は絶対にしない奇妙な経験をしながら店内の中央まで歩いていく。
中央には看板が置いてあり、『放送を聞いたものは2階へ移動せよ』と書かれていた。
「(流石に敵MOBが現れそうな1階に住むほどバカではないか。)」
看板の指示通りに2階へ向かう。エスカレーターを登っていくと商品であった机や椅子がバリケードとして置いてあった。奥から声がかけられる。
「もしかして、放送を聞いて来た人ですか?」
周りが暗くよく見えないが声は若い男性のようだ。
「そうです!車から流れてる声を聞いて!」
「分かりました、今これを退けますので。」
そういって1つずつ机や椅子を崩していく若い男性、人一人が通れるほどの隙間を作って中へ入れてくれた。
「こっちです。」
自分の前を歩き出す男性。しばらくついて行くと屋上にある駐車場までやってきた。駐車場にある数台の車は全てのドアが開けてあり中の椅子に寝ている人や布団を敷いている人が数人おり、車を個室としているようだった。
若い男性について行くと屋上の駐車場の1番奥までやってきた。その車の中に居たのは中学生くらいの少女だった。
「ようこそ生存者さん!」
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8日目
「ようこそ生存者さん!」
若い男性に案内された先にいたのは自分より年下と思われる少女だった。男性の方から少女について紹介された。
「彼女はここの統括をしている『マユさん』です。」
「マユです、よろしく!」
手を出してくる、どうやら握手をして欲しいようだ。相手が気にしないならと自分もそれに応える。ついでに自己紹介もしておく。
「『舞倉 或斗(まいくら あると)』です……。」
互いに自己紹介したあと、マユは若い男性に自分の案内を支持していた。
「では、こちらへ。」
再び歩き出し、マユに会釈してから男性についていく。
「あの、お名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、申し遅れました、私はシンヤと言います。よろしくお願いしますね。」
その後、ショッピングモールの中で使っている設備や自分の寝床の代わりである車を教えて貰いながらどうやって生き残ったのか、話を聞いた。
「ははは、情けないことですが私は逃げるので精一杯で、マユさんに助けてもらったんです。」
「救助を求めなかったんですか?」
「気づいた時にはもうヘリは来ないようでしたので。」
「この世界がマイクラみたいになっているのは気づいてますか?」
「ここいる全員が知ってはいます、私やマユさんで能力を駆使して生活をまかない、MOBを撃退しています。」
「ここにいる私とマユさんを含めた計13名はあなたを歓迎しますよ。」
ショッピングモールに立てこもる生存者14人目となった自分はあらかた設備の説明をしてもらった後、シンヤと別れた。そしてここに来るまで費やした数日間の疲れを癒すため、分けてもらった寝床の代わりである車のなかで眠ることにした。
車を寝床の代わりにすることでドアを閉めればMOBに襲われず安全に夜を過ごすことができるという画期的な考えのおかげで久しぶりに安眠することができた。
車のドアをノックされ、窓から覗くとシンヤが手招きしていた。ドアを開けて要件を聞く。
「なんですか?」
「1階にMOBが現れています、手伝って頂けますか?」
「……分かりました。」
シンヤに連れられ1階に移動する。シンヤの他にもあと3人程バールやスコップを構えた男達が付いてきていた。小声でシンヤに話しかける。
「(なんであの3人は剣じゃないんですか?)」
「(あの3人は私達のように剣をクラフトできないんです。)」
シンヤの話を聞く限りではこの世界をマイクラのようなものと認識できていない者はクラフトもブロックとしてアイテムを回収することも出来ないようである。
「(なのでMOBを有利に対処できるのは私と貴方とマユさんだけです。)」
「(なるほど……)」
2階の下りエスカレーター前まで降りてくると1階の店の中にいたり、頭に装備をしているMOBが15体ほどうろついていた。電気などはついていないため、少し暗い。天井がガラス張りになっているため、何体か燃えているが店の中に入ることでそれも消えていった。
「次にここへ助けを求めてくる人のために、ここのMOBを駆除します!」
「「「はい!」」」
エスカレーターにある机や椅子を丁寧にどかして1人ずつ1階まで降りていく。自分たちを認識したMOB達が一斉に襲いかかってくる。
自分は落ち着いた環境によって鉄と木材でクラフトすることができた盾を駆使してスケルトンの矢を弾いていく。
「俺がスケルトンを主に相手します!他の方はゾンビを!」
そう言ってスケルトンへ肉薄していく。矢を弾いたあと、次の矢を番えている間に鉄の剣で5発ほどスケルトンを切りつける。倒れて煙のように消えたあと、すぐにシンヤ達に矢を番えているスケルトンへ向かっていく。
できるだけ矢を放たせないようにスケルトンを中心に攻撃していく。シンヤや他の3人組もゾンビを確実に処理している。
順調に対処が進んでいたが3人組のうち1人が緑色の影を見つけて近づいていく。距離の開いたスケルトンに盾を構えながら進んでいたので気づくことができなかった。
シンヤもゾンビを攻撃しており気づくことができなかった。
直後、
「ぐぁぁああ!!」
叫び声を上げながら空中に放り出される男性、そして爆発音で気づく。むしろ今まで盲点だった。爆発音がした方を見るとそこにもう一体、緑色の、しかしゾンビよりも危険度が高い敵MOBである『クリーパー』がこちらに向かっていた。
「「今すぐそこから離れて!」」
自分とシンヤの声が重なる。2人の男性はそこから離れられたが爆発によって負傷してしまった男性は動けなかった。
「不味い!」
意識を向けていたスケルトンをクリーパーに変える。矢がこちらに向かってくるがそれよりも対処すべきMOBがいる。負傷してしまった男性と向かってくるクリーパーの間に入り盾を構える。
緑色の四足歩行する謎のMOB、クリーパーは白い光を放ちながら体を膨張させていく。膨張した体は臨界点に達し、爆発した。
盾越しに伝わる衝撃、思わずぶっ飛ばされそうになるのを必死にこらえて負傷している男性を守る。
「だい、じょうぶ……ですか……?」
「いてぇ………いてぇよ……。」
痛みでしばらくは動けそうになかった。男性を残り2人に任せて自分はシンヤと残りのゾンビとスケルトンを処理する。
「すみません……!失念していました……!」
「それは自分も同じです……完全に存在を忘れていた!しかもかなり厄介なのを!」
スケルトンの矢を盾で弾き、その隙にシンヤがスケルトンを切りつけていく。2人の連携で少なくなっていたMOBの数が残り3体ほどになる。
「残りはゾンビだけですが、気を抜かないようにしましょう……!」
「はい!」
シンヤの言葉に返事をし、2人でゾンビを切り倒した。なんとか状況を切り抜けられたが盾が壊れてしまった。
「怪我人が出てしまいましたね……。」
「ええ……。」
クリーパーの爆発に巻き込まれた男性を背負いながらエスカレーターを登る。
「今回の件は、私の方からマユさんに伝えます。舞倉さんは今日のところは休んでください。」
「はい……。」
怪我した男性はもう付いてきていた二人の男性に担がれていった。自身もクリーパーの爆破を盾越しとはいえ受けたのでかなり疲労が溜まっていた。個室代わりの車の中で重くなった瞼を閉じた。
主人公の名前、初登場なんですが露骨過ぎましたかね……?
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12日目
クリーパーによって怪我人が出た日から4日が経ち、このショッピングモールに新しい生存者が訪れた。
来たのは会社員のようでスーツを来た細身の眼鏡をかけた男性。もう一人はサバイバルナイフを持った20代後半の女性だった。スーツを着た男性は顔色が悪く、身体もとても震えていた。
彼らは自分と同じようにシンヤに案内され、マユの元に向かっていた。自身も少し気になったので2人を後ろから眺めていた。
「ようこそ生存者さんたち!」
自分の時と同じように歓迎していたマユ。そのままシンヤが2人を案内するだろうと思っていたが突然女性の方がサバイバルナイフをマユの首元に押し当てた。
突然の動きにシンヤは反応できておらず、目の前にいたスーツの男性も何が何だか分からないと言った様子だった。
「なんであなたみたいなガキに私が従わなくてはならないの?」
ドスを効かせた声でそういう女性。確かに分からなくもない。マユさんの実年齢は知らないが外見を見れば中学生ほどに見える。本当はもう少し年上らしいが。
そんな中学生ほどに見えるマユさんに従わなくてはならないのが苦痛なのか、或いは相手が子どもに見えるから侮っているのか。
しかしどちらにせよサバイバルナイフを突きつけている時点で見逃す訳にはいかず4人の元にそっと近づいてサバイバルナイフを持つ女性の腕を掴んだ。
「従う従わないにしてもナイフを向けるのは良くないですよ。」
腕を掴んだ自分を睨みつける女性。そのまま睨み合いになるも自分の腕を振り払ってこの場から離れていった。シンヤの案内も無しにここを散策するつもりなのだろうか。
「すみませんアルトさん、ありがとうございます。」
シンヤが頭を下げてお礼を言う。
「いえ……ああいうこと前もあったんですか?」
「反発してくる人はいましたがあれほど酷い人は……。」
やがてスーツの男性も自分の腕を掴んで震えながら去っていった。
「2人とも、ありがとうございます。でも心配しなくても大丈夫ですよ。」
マユが2人にお礼を言いながら心配は無用だと言う。しかしあの女性からはどうしても油断することはできないという説明できない感覚的な何かがあった。
その後は特に何も起きることはなく、夜を迎えた。自身は破壊されてしまった盾の予備をクラフトしているところであったが、外が少し騒がしい。
車の窓を少し開けて様子を見てみる、そこには異常な光景が広がっていた。
夜は真っ暗にならない程度には光があるため、ショッピングモール内ではMOBは発生しないハズである。しかしそこには車の中にいる生存者を攻撃しようとドアを叩いているMOBであるゾンビやスケルトンがいた。
「ッ!?」
更には周辺にもここにいる人数では対応しきれないような数のMOBが襲いかかってきている。すぐに車から飛び出し他の生存者を攻撃しているMOBを鉄の剣で切りつける。
視界の隅で矢を番えているスケルトンが入り、クラフトした盾で放たれた矢を防ぐ。すぐに接近しジャンプして切りつける。大きく仰け反ったスケルトンに更なる追撃の斬撃で消滅させる。
落とした数本の矢を拾い、予想通り現れているクリーパーに自身が新しくクラフトした『弓』を取り出し、拾った矢を番える。弓道部の生徒がやっていた動作を見よう見まねで真似る。
指を離して放たれた矢はあらぬ方向に向かっていってしまった。もう一度、矢を番えてクリーパーに向ける。放たれた矢は直撃するも、接近をやめない。再度矢を番えて放つが今度は外してしまいクリーパーの横を通り過ぎて行った。
誰かに当たっていないことを願いつつ再度矢を番える。今度こそと放った矢を直撃させ、消滅させた。たった数十秒ほどであれだけの攻防をしたにもかかわらず、ここにいるMOBの半分も倒せていない。
このままでは空を飛んで攻撃してくるファントムにも気付かれて手に負えなくなる。そう考えたアルトは他の生存者達にマユさんたちの場所へ向かうように伝える。生存者に近付いてくるMOBは自分が受け持ち攻撃を始める。
10体目を倒した頃から数えるのをやめ、周辺にMOBはいなくなった。しかし今この場にいるMOBを全て倒した訳では無いため気を抜いてはいられない。すぐにマユやシンヤがいる場所へ向かう。
走って向かいながらこんなことになった理由を考える。夜は目で見えないほど暗くなければMOBは発生しない。そしてこのショッピングモールの屋上駐車場は毎日、暗くならない程度のあかりが照らされている。
つまりMOBはここに現れたのではなく招かれたということになる。そんなことをする人物は1人しか思いつかなかった。目の前に2体のゾンビを確認したことで思考を中断し盾と鉄の剣を構えて飛びかかった。
まだ油断はできないが見つけた大体のMOBを倒すことができ、マユさん達とも合流できた。しかしMOB達の攻撃によってマユさんを庇ったシンヤが重症、マユさんも自分も疲労困憊である。
守り切った生存者達も怪我を負った者が多く、全員が忙しなく動いていた。屋上駐車場の中に小さいバリケードを急造して凌いでいる。今いる生存者の中には新しく来た女性とスーツを着た男性がいなかった。
MOBを引き寄せたのは女性と考えているのでなんとも思わないが男性がいないのは不自然に思えた。
「マユさん、スーツを着た男性はどこへ……?」
「分かりません、バリケードへ生存者のみなさんに入るように呼びかけた時から、彼は居ませんでした。」
「それに、なぜMOBがここに出現したのかも分かりません……。」
「十中八九、あの女性が気に入らないからなんて理由で呼び込んだとしか考えられないのですが……。」
「ともかく、ここはもうダメです。MOBが湧いたにしろ呼び込まれたにしろ、ここは使えなくなりました。別の場所に移動する必要があります。」
「では自衛隊の施設の方へ向かった方が宜しいのでは?」
「……それだと移動する距離が、あまりに遠すぎますよ……ッ!」
シンヤが悲鳴をあげる身体にむち打ち近づいてくる。後ろから応急手当をしていた女性を振り払って自分とマユさんの会話に混ざろうとする。
「シンヤ、今は休んでいた方が……。」
「いえ、そんなこと言っている場合では……ッ!」
「移動ならバスを使えばいい、近くに使えそうなのは見つけてます、とにかくシンヤは休んでてください……。」
「いつの間に?」
マユさんが驚いた声を上げる。
「ええ、まぁ想定できることは想定しておかないとなので……。」
「分かりました、すぐにそのバスまで避難しましょう。」
「運転はどうするんですか?」
「自分が運転できます!」
シンヤの手当の手伝いをしていた女性が力強く答える。
「なら次は避難ルートですね、このMOBの数と正面から戦うのは無理です。」
「ルートは避難用の階段を使いましょう、狭いですがその分MOBの数も少ない上、対処も上手くいくハズです!」
「シンヤさん、貴方は安静にしていてくださいね。」
「……分かりました。」
渋々といった感じでマユさんの指示に答えるシンヤ。シンヤ自身も今の自分の怪我の具合で動けないと分かってはいるようである。
「じゃあ移動しましょう!」
全員を見回し生き残るためにバスへ向かった。
更新が遅れて申し訳ないです……失踪から帰ってきました。
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13日目
バスへ向かうために非常用階段を駆け下りる。自身は後続の人達のために先陣を切って降りる。途中、予想通りゾンビやスケルトンが現れていたが、狭い空間であり尚且つ一方通行で、後ろは安全なため対処にはそれほど手間取ることは無かった。
無事に階段を下りきって目的のバスへ向かう。バスの中に入り重症の生存者はシンヤも含め避難させる。近くによってくるゾンビは自分が斬り倒す。もうそろそろ疲労で倒れそうだがなんとか持ち堪える。
「アルトさん!生存者の方々は全員乗りました!アルトさんもはやく!」
マユさんの声で気がついてバスに乗ろうとする。しかし今回の騒動の原因と思われる女性がこちら歩いてきていた。
「あら?もしかして結構生き残ってる?」
「貴女は……!?」
「アンタが気に食わないから感染寸前だったあのサラリーマンを発症させて、他のゾンビも呼び込んだのに、まさか生き残ってるなんてね。」
「もしかして、あそこに居たもう1人とそこにいるガキに守ってもらったの?」
シンヤがバスの窓から女性を睨みつける。
「アンタが……主犯か……アンタがやったのか!!」
「ふふ、ええそうよ?どうだった?楽しかった?」
下卑た笑みを浮かべる女性に対し、自分の中で何かが切れた音が聞こえた。
「マユさん、先に行ってください。」
「何を言ってるんですか!?」
「あの人は、僕の逆鱗に触れました。先に行ってください!」
周辺にはゾンビの他にスケルトンも迫ってきており、このままではバスが出発できない可能性があり、マユさんもそれは分かっている。
「……ッ!バスを出してください!」
「アルトさん!」
シンヤが呼び掛ける。
「あのクソ女、一泡吹かせてやってください!」
「……任せてください。」
バスのドアが閉まり出発する。自分だけを置いていくこの光景に既視感があるが、あの時と違うのは自分が望んで残る選択をしたことだ。
あのクソ女には、1発だけでも殴らなければ気が済まない。
「どうしてこんなことをしたんですか?本当にマユさんが気に食わないからなんて理由で安全なあの場所を襲撃したんですか!?」
「ええそうよ、今この状況ならどんなことだって許される。世界は変わったのよ。」
「なら、今から僕が貴方を攻撃したって文句は言えませんよね。」
「やってご覧なさい。」
鉄の剣を構えて女性に突撃していく。大きく剣を振り上げて切りかかろうとすると女性は身軽な動作で剣を避けた。その後もこちらがいくら攻めても反撃は来ない。
「そろそろ疲れたでしょう、さっきまでずっとゾンビ達と戦ってたもんねぇ?」
「ハァ……ハァ……エホッ……。」
「若いといってもあれだけ動けば流石に疲れるでしょうねぇ?」
女性はサバイバルナイフを取り出しこちらに向かってくる。切りかかってくるが、避けるのは恐らく不可能。更に周りにはMOB達が大量に湧いている。
近づいてくる女性に対してどうするか考えていると、どこからか鳴き声が聞こえた。そちらに気を向ける暇もなく女性がサバイバルナイフを向けた。
「じゃあね、坊や?」
急降下の体制になった見覚えのあるMOBが視界に入るも女性に向かって鉄の剣で切り払う、しかし女性はギリギリで避けてしまった。
「危ないわね……。」
切り払うと同時に疲労で限界を迎えて倒れる。女性の近づいてくる足音が聞こえるが指一本すらも動かせない。
「じゃあ今度こそ……?」
ポタポタと何かが滴る音が聞こえる。女性が自身の肩を観るとファントムに食いちぎられていた。
「あ、ああ!痛い!痛い痛い!なんで!?」
サバイバルナイフを落とし肩を抑えながらよろける。そして女性はたった今気づいた。周りにいる大量のMOBと、空で群がるファントムの群れに。
「あ、ああ……。」
絶望的とも言える状況で女性は立ち尽くした。疲労で震える足でなんとか立ち上がり、女性に向かって言った。
「あの時、あの場にいた戦えない人達も、今のアンタと同じことを思ったと思うよ。」
「知らない!そんなの知らないわよ!」
急降下で降りてくるファントム、近づいてくるゾンビやクリーパー、向かってくるスケルトンの矢の雨。
このどうしようもない状況に女性は恐怖で全く動けなかった。アルトはクリーパーの爆発に備えて盾を構える。
「(あと、少し……!)」
近づいてくるMOBの攻撃を盾で防ぎながら遂にその時がやってきた。太陽が昇りゾンビやスケルトン、ファントムを炎上する。クリーパーのみに備えていたのはこの為である。
クリーパーの爆発に耐えてようやく周辺のMOBは燃え尽きた。爆発に巻き込まれた女性は倒れている。意識はあるようだった。こちらに気が付き手を伸ばす。
「…た……助け……て……」
「悪いけど、僕は物語の主人公のように聖人ではないから裏切ったアナタを助けるようなことはしない。」
「でも昼間までには動けるようになる、と思う。だから死ぬことは無い。」
ボロボロになった自身の体を引きずりながらその場から立ち去るアルト。次に向かうべきはどこか考えるもまずは回復を優先することにした。
近くのスーパーに入って食べ物を探すがそこでプツンと意識が切れて倒れてしまった。
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18日目
マユのコミュニティを崩壊させた女性との戦いを終えたあとアルトは2時間ほど意識を失っていた。陽の光で目を覚ましなんとか食料を調達することができたあとは、直ぐに回復し今では体調は完全に元通りになった。
「マイクラのプレーヤーとしての回復力なのかな……だとしたらやっぱりプレーヤー異常だよな……」
現在のアルトはスーパーやコンビニから食糧を(無断で)調達しつつ自衛隊が民間人を保護している施設に向かっていた。夜になれば身を潜めることができそうな建物や車などでやり過ごしなんとか今まで食いつないできた。
河川敷を歩いている間に自身の能力について考える。
「(それにしても……俺はなんでこんな体になったんだ?)」
「(直ぐに体力は元に戻るし、血はすぐ止まるし……。)」
「(マイクラは確かに結構プレイしていたが……でもそれが理由になるか?)」
「(マユさん達のコミュニティでもマイクラは知ってても能力を持ってない人はそれなりに居た、マイクラを知っていることが条件じゃ無さそうだ)」
突然、動物の鳴き声が聞こえて思考を打ち切られる。周りを見渡すと住宅街であるにも関わらず公園の草を食べる牛、羊、他にも豚や鶏などがいた。
「あれは……動物園から逃げ出してきたのか? 確かに近くにあった気がするが……。」
「でもマイクラでゾンビやらスケルトンやらが夜に現れるなら動物が居てもおかしくは無いのか?」
アルトは自身のバッグの中身を確認する。食料が心もとないため、彼は妙案を思いついた。牛に近付いていき、持っていた空のペットボトルの中に牛乳を搾り出す。
「(初めてやるはずなのにしっかりできてる……不思議な感覚だ、ちょっと気味が悪いかもしれない……)」
あらかた搾り終わったあとは鉄の剣を取り出し、思いっきり牛に切り掛る。かなり大きい切り傷ができて、牛は逃げようとその場から走ろうとする。
アルトは牛が逃げるよりも早く即座に剣を牛に切りつける。たった2撃与えただけで牛は倒れてしまった。
「動物にもしっかりマイクラのルールが適応されてるのか」
ふと手元へ視線を向けると手が震えていた。
「(……今まで生きるために襲ってくるMOBは必死になって倒してたけど、無抵抗のMOBを殺したのは初めてだ……生き物を殺すってなんか嫌な感じだな……)」
そんな考えをしていると倒された牛は徐々に消えていき、スーパーに並んでいるような食べれそうな部位だけが残っていた。
「嘘だろ、どうなってるんだ?」
ともかくそれを回収し、辺りを見渡す。
「今の感覚をまた味わう気にはなれないな……」
そんな言葉を零しつつ目的地に向けて歩き出そうとする。しかし日が沈みだしたため今夜は放棄されたキャンピングカーの中で一夜を乗り越えることにしたのだった。
〜19日目〜
日が明けてヘルメットなどの装備で消滅することのなかったMOBを倒しつつ、また自衛隊の保護施設までの道のりを歩き出したアルト。そんな中で高速道路へと繋がる非常用階段を見つけた。なんとなく視線を追っていくと見慣れない建造物があった。
「なんだあれ……?」
明らかに高速道路には無かった木製の塔のような物。
「もしかして……前線基地か?」
マインクラフトの中に置いて低い確率で現れる略奪者、その前衛基地と思われる建造物を見つけたアルト。略奪者はクロスボウを持っているため、相手をしたくないためにと大きく迂回するルールを考える。
そこで立ち止まっていると後ろから矢が飛んできた。
「なっ!?」
後ろを振り向くとそこにはマイクラの中で見た略奪者とよく似た装備をした鼻の大きい男たちがクロスボウを向けていた。喋りかける余裕すらなく略奪者達はアルトに対してクロスボウの矢を撃ち込む。
即座に盾を取り出して矢を防ぐアルト。しかしかなり使い古していたために矢を何本か受けた後に割れて砕けてしまった。すぐに身を隠すように3階建てのビルの中に入ると、ビルの日陰に逃げていた3体程のゾンビたちが襲いかかる。
略奪者よりマシだと考えて即座に2体倒して建物の奥へ進む。
少し進んだ先には薄い光が見えた。特に深く考えずに部屋のような場所に入ると、6体ほどのゾンビとチェストが設置されていた。
「スポーン部屋か!?」
アルトが入った部屋はスポーン部屋、スポナーとも呼ばれる場所であり、ゲーム内ではスポーンブロックとアイテムが入ったチェストが設置された遺跡のような部屋であり、基本は部屋を制圧したあとチェストの中身を回収することでゲームを少し有利に進められる場所である。
柵のような箱の中には普段、接敵しているゾンビが少し小さいサイズで収まっており、その周りを小さい火が回転して燃え盛っている。
スポナーを観察している間にゾンビがもう一体増えて襲いかかってきた。
「ヤバい!」
自身が今持っている剣も酷使していたせいでボロボロであり、もう壊れてしまう寸前である。
持ち物を確認し、砂と少量の火薬、矢をクラフトするために持っていた火打ち石が視界に入り、妙案を思いついた。ゾンビたちの合間を縫ってチェストの近くに作業台を設置して、火打ち石と打ち金をクラフトして辺りに適当に火をつける。
ライターほどのサイズからは想像できない火力で燃え上がり、ゾンビたちは近づけない。
作業台に向き直り、砂と火薬を並べてマイクラ最高の破壊力を持つと言っとも過言ではない『TNT』をクラフトした。
チェストの中身を確認すると荒らされた跡があるものの火薬と金のヘルメットを見つけた。火薬だけ頂戴して作業台を回収しTNTを設置する。着火した直後にゾンビたちを近づけさせないために着火した火をハードルの如く飛び越えてスポーン部屋を出る。
持っていた土を数個積み上げて耳を塞ぐ。直後、TNTは部屋ごとゾンビたちを吹き飛ばした。
振り返ってスポーン部屋だった場所を見つめるアルト。
「はは、こりゃすごい…。」
ゾンビもスポナーも跡形もなく消えており、ビルの壁も壊れて外に出られそうになっている。
「入口には略奪者が居そうだしなぁ……そっちに進むか……。」
アルトは壁を乗り越えて草木が生い茂る森林のような場所を進んでいった。
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19日目
森林の中へ入り、約2時間が経過した頃。流石に空腹とか疲労を感じたアルトはかまどを設置して上に狩った牛の肉、下に採取した石炭を置いて近くに座った。
ライターなどで火をつけなくとも勝手に肉が焼かれていく様を眺めながら、思考に耽る。
「(こんなマイクラそのまんまな世界になっちゃったけど……どうすれば元に戻るんだ?)」
「(マイクラではエンダードラゴンを倒せばゲームクリアだけど……この世界でもそうなのか?)」
「(仮にエンダードラゴンを倒すにしても今のままじゃ装備がな……)」
「(地下に潜ってダイヤを見つけるべきだろうか?)」
牛肉が焼きあがったのを確認する。子どもの頃に家族で行ったバーベキューの時に食べたような大きい牛肉を頬張る。
味付けなどしていないにも関わらずとてもおいしく感じたアルトは驚く。
「マイクラのプレイヤーってこんな美味いもん食ってたのか!」
空腹を満たし再度、森林へ進んでいくアルト。もうそろそろ夜になるタイミングで後ろから何かが飛んで木に突き刺さった。
「ッ!?」
後ろを振り向くとクロスボウを構えた鼻の大きい男、略奪者達が居た。三体の略奪者の内、一体は背中に旗を背負っていた。作り直した盾と剣を構えて略奪者を見据えるアルト。
「あのビルの入口から追ってきたのか!?」
クロスボウから矢を放つ三体の略奪者。アルトはその矢を盾で防ぎ、左にいる略奪者がクロスボウに矢を装填する隙を突いて一気に近付いていく。
相手にしている略奪者がクロスボウを構える暇なく剣で切りつける。三、四度程切りつけるがもう一度剣を振り下ろそうとしたところで思わず攻撃の手をやめてしまう。
「(コイツらは…本当に殺していいのか!?)」
その迷いがアルトの手を止めてしまい、後ろにまわっていた二体の略奪者がクロスボウから矢を放つ。とっさに回避を取ろうとしたアルトだがギリギリ間に合わず背中に一本の矢を受けてしまった。
「ぐぅっ!」
三体から距離を取って考えるアルト。
「(コイツらは他のMOBと違ってほぼ人間だ……コイツらを、俺は殺せるのか……!?)」
アルトの葛藤を他所に略奪者達はクロスボウを構え、矢を放つ。アルトは盾でそれを防ぎ続けるが略奪者達は盾を構えていない位置に移動してアルトを狙う。三体が複雑な動きをして段々と防げなくなっていったアルトは太ももや腕にまで矢を受けてしまった。
「(クソ……クソッ!!)」
アルトは略奪者を倒すのかこのまま殺されるのかで葛藤していた。逃げることは今のダメージを負ってしまった体では逃げ切れないであろう。
このまま略奪者に殺されてもアルトはリスポーンすることができる。しかしそれは、死ぬということはあの公園での記憶と同じことが起こるということだ。
辛く、痛く、苦しいだけのあの記憶が。そしてアルトにとってあの殺害されるという記憶は二度と触れたくないトラウマでもある。あんな経験をするのはごめんだと考えていたが他に道はなかった。
ある一つを除いて。
「(略奪者を倒す……いや、殺すしか道はない……)」
「(でも略奪者を殺して本当にいいのか!?自分が死ねばアイツらを殺さなくて済む……でも死ぬのは嫌だ、アレは二度と味わいなくない!!)」
そんな葛藤の間にも略奪者は関係なしにクロスボウの矢を放ってくる。頭を掠めたところでアルトは決断した。
「うわぁぁぁ!!!」
絶叫に近い声を上げながらアルトは目の前の略奪者に剣を突き刺した。何度も何度も切りつけて倒れた略奪者は煙のように消えた。左右から挟み込むように略奪者が現れるが左に土のブロックを積み、即席の壁を作る。右から迫ってくる矢を盾で弾き、近付いていく。
略奪者はクロスボウに矢を装填しているがアルトがそれを待っているはずもなく剣を下から振り上げる。先程何度も切りつけた方の略奪者であったソイツはその一撃で地面に倒れ消滅した。
土の即席壁から現れるのは旗を背負った略奪者。背中を向けていたアルトは盾を向けて矢を防げるようにする。クロスボウから放たれた矢は既にボロボロになっていた盾を破壊するがアルトに反撃のチャンスを与えた。
旗持ちの略奪者はクロスボウに矢を装填しようとするがアルトは剣でクロスボウを弾いて略奪者の体を突き刺す。地面に倒れ腕を伸ばしてアルトを振り払おうとするがアルトは剣を深くに突き刺してそれに抵抗する。
「うわぁぁあ!!」
ほぼ半狂乱になりながら剣をさらに突き刺して略奪者は消える。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……ウッ!」
よろけながら立ち上がるも急に湧いてきた嫌悪感で思い切り近くの木で吐いてしまったアルト。しかし湧き上がる嫌悪感は全く消える気配がなかった。
「ウゥ……?」
ひとしきり吐き出して幾分か楽になったアルトは自身に起こっている変化に気がつく。体からグレーのような煙が上がっていたのだ。しかし炎で燃えているようなものでもなく焦げ臭い匂いもしない。
考えを巡らせてアルトはすぐに思い至った。旗持ちの略奪者を倒した際に現れる効果として「凶兆」というものがあり、これはマイクラ内に存在する村に入った時のみに効果が現れるものであった。
「これ、凶兆か……でも今までマイクラの村を見かけたこと無かったし……大丈夫かな?」
自身に刺さった矢を抜いて持っていた焼いた牛肉を食べてアルトは再度、自身から溢れる煙のようなものを気にしつつも森林の中を進むことにした。
ダイア集めって大変ですよね
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20日目
初めて略奪者を倒してから一夜明けてアルトは未だ体から溢れるグレーの煙のようなものを気にしつつも森林を抜けた。その先にはかなりの年数が経っている家が多く並ぶ住宅街があり、牛や豚が周辺を徘徊していた。
「変なところに来ちゃったけど……これ自衛隊のとこに行けるのか?」
一度自分がいる場所を確認しようとして辺りを歩いていると現代には似合わない木造の家が並ぶ場所が見えた。
「もしかして村か!?」
村を見つけたという事実に高揚しながら走って向かうアルト。しかし彼には自身に起こっている変化がどのような結果をもたらすのかを失念していた。
村に入ると同時にアルトは村人を見つけた。鼻が大きくハンマーを下げたベルトをしている遭遇した略奪者と少し似た顔立ちの村人に声をかけようとする。
しかしアルトが近づいていくと何かに気がついたように村人達が一斉に慌てふためき、自身の家に戻ろうとしていた。突然の行動に驚いたアルトだがすぐに聞こえてきた法螺貝のような音で自分が何をしてしまったのかに思い至った。
「襲撃……!!」
マインクラフトというゲームにおいて、旗持ちの略奪者を倒した場合にあるデバフを受ける。『凶兆』というそのデバフはマイクラ内の村に入ったという特定の条件でその効果が現れる。
入った村に略奪者が大量に襲ってくる『襲撃』というイベントが始まるのだ。このイベントの敗北条件は村の村人全員を殺害されること。そして勝利条件は襲ってくる略奪者を全員倒すこと。
現実がマイクラと同様になっている現状で入ってきたばかりの村に襲撃イベントが発生した。アルトは己がしてしまったことを理解し、そして絶望した。
「最悪だ……最悪だ!!」
「マズイ!マズイ!!」
法螺貝の音はもうすぐ近くまで迫ってきていた。慌てふためいていた村人は家に隠れているが略奪者はそんなことは関係なく襲ってくるだろう。
「(嫌だ!!また死ぬのは嫌だ!!)」
「(でも3人ですら手こずってた襲撃者を何十人も相手して戦うのなんてほぼ自殺行為だ!)」
「死にたくない……死にたくない……!!」
ふと、1つの考えが過ぎった。
「駄目だ!!」
しかしすぐに頭を振ってその考えを捨てた。
「そんなことすればアイツらに、顔向けできない……なにより!!」
「俺が俺を許せなくなる!!」
「(罪悪感に苛まれて生きるのはゴメンだ……だから!!)」
鉄の剣を取り出しながら現れたクロスボウと鉄の斧を構える略奪者を見据える。
「ここで戦って生き延びてやる!!!」
クロスボウを構えた略奪者達はアルトに向かって矢を放った。アルトは盾を構えてそれを受け止め、略奪者達に迫ろうとする。しかし鉄の斧を持った略奪者、ヴィンディケーターが左から襲いかかってきた。
思いのほか強く振り下ろされた鉄の斧であったが日々の経験でしっかり盾で受け止めることができたアルト。無防備になったヴィンディケーターを横から鉄の剣で切り伏せる。追撃でトドメを刺そうと迫るが略奪者のクロスボウの矢がそれを許さなかった。
少し後退して矢を避けるアルトだが右腕に矢が掠ってしまう。それに構わず、矢を装填して隙を晒している略奪者に向かっていき、飛び上がって鉄の剣を振り下ろす。
肩から大きく斬られて怯んだ略奪者、さらに剣を突き立ててトドメを刺す。倒したことに安心するのも束の間、後ろから瀕死のヴィンディケーターが鉄の斧を振り下ろした。
振り下ろされる音で気付いたアルトは盾を構えて受け止める。その衝撃で盾は壊れてしまうが鉄の斧を弾くことができた。鉄の剣を横に切り払いその一撃でヴィンディケーターは消滅した。
アルトは他にも居るはずの略奪者達を探すために村の家へ駆けた。
襲撃が始まってから約30分、家のドアを破壊し中にいる村人を襲おうとしたヴィンディケーターを倒し第3波と思われる襲撃を凌いだアルト。既に5名ほどの村人が被害にあって死亡してしまっているがまだ襲撃は終わらない。
「(次で……ラストか……?)」
アルト自身も既にボロボロで食料が尽きてしまったため体力の回復も見込めない上、現在の体力も予測だがゲーム換算で半分を切っている。巨大な体と強力な突進をしてくるラヴェンジャーという敵MOBにより、頭から血を流しているせいで片目をつぶっており視界もいいとは言えない。
法螺貝がなると同時に現れたのはクロスボウ持ちの略奪者2名、斧を持ったヴィンディケーター2名、そして今まで来たどの襲撃者とも違う格好の敵1名。
「(アレは……)」
1人だけ違う格好をしたその敵MOBは両手を天へ向けた。瞬間地面から次々と牙が生えてアルトへ向かっていった。足を突き刺されたアルトは体制を崩して転ぶ。
「(アレはエヴォーカーか!!)」
アルトがエヴォーカーと呼んだ敵MOBは2体の剣を持った透明のような体と羽の生えたMOBを召喚した。
「クッ……ソッ!!」
足の痛みを誤魔化すために勢いよく立ち上がり迫り来る透明のMOBヴェックスとヴィンディケーターの攻撃から逃れるアルト。木製の家を裏に隠れてヴィンディケーターから逃れる。一息つこうと座りこもうとするが寄りかかっている家の壁からヴェックスがすり抜けてきたかのように現れた。
ヴェックスが握っている剣を振り下ろされ咄嗟に左腕を構えてしまう。体制を崩しながら受けたお陰で傷は浅いがそれでも度重なる痛みがアルトを苛んだ。
「クソォ!」
二体目がアルトに切りかかろうとするがその前に煙を上げて消えてしまった。しかしもう一体は依然としてアルトに襲いかかる。
アルトは突き出された剣を持っていた鉄剣で受け流す。アルトの後ろまで飛んでいったヴェックスの背中に鉄剣を振り下ろすアルト。一撃で消滅したヴェックスに一先ず安堵する。
「(ヴェックスは30~119秒で消滅する……ゲームの小ネタ集で言ってた通りだ……)」
「(そろそろ俺もヤバいな……)」
意識がはっきりしなくなってきたアルト。司会も歪み、もはや自分が立っているかどうかすらも判別がつかなかった。しかし今までの激闘もあと少しで終わる、その事実がアルトの意識を現実に留めていた。
鉄剣を杖に休むアルト。しかし顔を掠めた矢が休憩の暇を与えなかった。地面から迫り来る牙の数々。ジャンプで避けると同時に斧を持って襲いかかるヴィンディケーター。
振り下ろされた斧をアルトは鉄剣を横にしてガードする。地面に足が着いていない状態で行われたため、物理法則に則ってアルトは吹っ飛ぶ。地面を転がりつつ持ち物の中から使えそうなものを考える。
ふと、略奪者の持っていたクロスボウが目に入り自身も略奪者を倒した時に拾っていたクロスボウがあることを思い出す。
矢を装填された状態で持っていたクロスボウが4つ。引き金を引けば直ぐに矢が発射される状態。弓矢ほど連射性は無いものの威力は身をもって知っている。
アルトは近づいてくるヴィンディケーターを待ち構える。自身にもっと近づき、攻撃のために斧を振り上げたタイミングでクロスボウを取り出して引き金を引く。
至近距離で撃ち込んだため矢は必中。多少だが体を後ろへ逸らしたヴィンディケーターのその一瞬の隙を狙ってアルトは鉄剣に持ち替えて軽く飛んでから切りかかる。
大きく切りつけられたヴィンディケーターは少し逸らしていた体をさらに仰け反らせる。致命的な隙を晒したことでアルトにより再度切りつけられ、地面に倒れて消滅した。
しかし続いてやってくるのはクロスボウを持った略奪者2人、その少し後ろにエヴォーカー、走り寄るもう1体のヴィンディケーター。エヴォーカーが両手を上げ、地面から牙を走らせる。
アルトは左にローリングで回避し矢を番えたクロスボウを構える。引き金を引くが矢はどの敵にも当たらない。もう1つのクロスボウを構え直してエヴォーカーへ放つ。
矢はエヴォーカーの肩へと突き刺さる、追撃を考えるアルトだが迫り来るヴィンディケーターによりそれは中断する。斧を振り下ろそうと腕を大きく振り上げた相手に対してアルトは鉄剣を突いて怯ませる。
さらに構えていたクロスボウを頭へと向けて打ち込む。それでも倒れないヴィンディケーター。視界の端でクロスボウを放とうとする略奪者を見て咄嗟にヴィンディケーターを盾にするように回り込む。
アルトを追ってクロスボウを放った略奪者は味方であるヴィンディケーターを自分の手で撃ち殺した。少し動揺しているのか動きが鈍くなっているように感じたアルトは残り2つの矢を番えたクロスボウをエヴォーカーへ向ける。
両手で一気に放った矢はエヴォーカーの体に突き刺さる。両手を上げて攻撃しようとしていた体制のまま倒れて消滅するエヴォーカー。エヴォーカーを仕留めたことを確認したアルトは鉄剣を略奪者へ投げた。
胴体に刺さった剣に怯む略奪者、もう片方は矢を番えている。アルトはエヴォーカーが倒れたら場所へ走りより、落ちていたアイテムを拾い上げる。しかし略奪者に背中を向けてしまった。
隙をさらしたアルトへ矢を番えた略奪者はクロスボウの引き金を引く。矢はアルトの背中に突き刺さりアルトの体力は底をついた、筈であった。
落雷のような音ともにアルトがエヴォーカーから手にしていた緑目の木製人形は砕けてなくなる。しかしアルトの周囲には金色の膜のようなものが浮かびアルトを守っているようであった。
更にアルトの体の節々にあった痛々しい傷はその全てがビデオの巻き戻しのように治っていく。混濁していた意識もハッキリとしだしたアルトは持ち物を確認する。
アルトが手にしていたのはエヴォーカーを倒した時にドロップするアイテム『不死のトーテム』
ゲーム内においては死亡時にその場で復活し一定時間追加のハートと超再生、その他強力なバフを付与することが出来るアイテムであり、それは今この場に置いても適用された。
アルトは並ぶ略奪者二体のもとへ肉薄する。二体とも矢を番え始めるがクロスボウの引き金を引かれた直後に土を積み上げて即席の防壁を作る。
先程投擲した剣が刺さった略奪者に向かうように防壁を逸れていく。刺さった剣の柄を握ると同時に弧を描くように周囲を切り払う。
体の内側から切られた略奪者はその場で消滅しクロスボウを落とす。切り払いに巻き込まれたもう一体の略奪者は切られたことで怯む。たった今倒した略奪者のクロスボウを拾い上げたアルトは間髪入れずに略奪者へ向けて引き金を引いた。
拾ったクロスボウには紫のオーラのような物が纏わり付いていることには気付かなかった。
発射された矢は先程までの他のクロスボウよりも早く強く矢を発射し略奪者の心臓を突き刺した。
吹っ飛ぶように後ろへ飛び空中で消滅した略奪者。しばらくなんの音も響かなくなり、アルトはようやく襲撃を凌ぎきったことを理解した。
緊張の糸が解れた瞬間、アルトは今までの疲れがどっと押し寄せその場で倒れる。泥のように眠ったアルト、その周囲に集まってくるのは今まで襲われていた村人達。
村人達は周囲の他の者と目を配りアルトを数人で担いだ。
大変遅くなり申し訳ない!!
戦闘シーンを練ったり進学なりのごたごたでかなり遅れてしまったことを謝罪致します……。
これからもおそらく亀更新かと思いますが気長に待っていただければ幸いです。
なにぶん見切り発車であったのもあってストックが全くありません……頑張ります……!
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