ヒーリングっど❤プリキュア〜新たな伝説の誕生〜 (ssgss)
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番外編
オリ主紹介(今後変更あり)


今回はしばらくしてなかったオリ主の紹介をしていきます


名前:彩野(さいの)(おさむ)

 

年齢(正しいかどうかは定かではない):13歳

 

誕生日(彼が彩野治という名前を貰った日):8月13日

 

性別:男

 

容姿:髪色は黒。髪型は右側にだけ前髪が垂れており、左側は髪が上にたくし上げられている(丁度キュアグレースとは真反対の前髪模様)短髪。

   身長は同年代の中でもかなり高い方であり、花寺のどかが背伸びをしても彼の顎より少し下程度までしか届かない。

 

種族:地球人(?)

 

大まかな説明

 

幼い頃から研究施設で育った経緯を持つ少年でありながらも、本人はその過去を大して気にしていない。

時折自分の臀部から突出している獣のような尻尾の事を気にかけ悩むこともあるが、翌日はどうでも良くなり忘れているという脳天気な面が目立つ。

しかしその反面、本人は約束事を大事にしているためかつて通った病院の中で出会った少女―――花寺のどかと約束した事を果たさないまま彼女の前から姿を消したこと長年の間思いつめているという面も存在している。

 

そして、中学二年生になる頃の春―――成長した花寺のどかと再会した彼はその約束を破った事を三年越しに彼女に謝ることが出来たのである。

その後、キュアグレースとしてプリキュアになった彼女と、新たに加わった二人の少女とともに地球を蝕むビョーゲンズと戦いを繰り広げることになったのだが、彼自身は戦いそのものに高揚感を覚えているのが不思議でならないらしい。

 

また、彼の身体能力は一般的な中学生……というよりも一般的な男性よりも圧倒的に高く、その身体能力からあらゆる部活動への勧誘を受けたが当の本人は興味がないらしく全て断っている。

 

さらに上記と同様で彼が他の人間と特長的に違うのは、回復能力である。

普通の人間ならば何ヶ月も入院してやっと治るという大怪我でさえ、彼は数日……早ければ翌日にはある程度まで回復するという明らかに異質な早さであり、またその度に彼の身体能力が向上しているのだとか。

 

性格は極めて温厚、かつ面白い物が好き。

しかし、彼を引き取った両親からの厚い好意により、幼少期から体を鍛えることに特化していた彼はそれ故に人の恋愛感情に酷く疎い。

事実、彼に対する花寺のどかからの恋心を打ち明けられても本人はそれを友人に対しての物であると思い込んだが故、その場に居合わせた沢泉ちゆ、平光ひなたによって手ひどい仕打ちを受け、花寺のどかにキスをされた事でようやくその気持ちに気づくほどの物である。

 

前述したように、彼は戦いに高揚感を覚える。

だが本人の中では、それは自分がそう思っているだけであるため、もしも彼とともに戦うプリキュア達が戦うことを辞めたいのであれば彼はそれを止めないという優しさも兼ねている。

 

本人的には「やりたい事やる奴は応援する。けど、やりたくないなら無理にやる必要はない」とのこと。

 




絵が描けないから具体的な容姿を見せらないのが残念……


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本編
こんな偶然あります…?


またまた懲りずに投稿増やすバカ主です。

今回のプリキュアののどかちゃんが可愛くて勢いで書いているため、支離滅裂な文章があるかと思いますがまあ、見てやるか程度の気持ちでも拝見してもらえると幸いです

HuGっとの方も書かないとなぁ…


「いいなぁ。わたしも早く元気になって、お外で楽しく遊びたい」

 

「そんなにいいものじゃないぞ。俺なんて、来る日も来る日も検査って言われて運動のタイムとか取られるんだから」

 

「うーん…。けど、やっぱりわたしには羨ましいよ。ほら、わたしこんなだから少しでもお外に行けたら嬉しいだろうなーって」

 

「……よっし! じゃあ約束だ」

 

「約束?」

 

「おう! お前が元気になったら、満足するまで俺が遊び相手になってやる! 行きたい所だって、どこにでも付いてってやる」

 

「本当!?」

 

「ああ本当だ。だから、絶対元気になれよ」

 

「うん!」

 

 そして、その約束を果たすことの無いまま、俺はあの子の前から姿を消した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あの時のあの子は元気にしてるだろうか。

 あの子は、約束を破った俺に怒っているだろうか。

 俺はいつもそう考える。

 

「ふっ…、ふっ…」

 

 もしも、またあの子に会うことが出来たらその時は約束を破ったことを謝りたいな。

 許してくれるかどうかは別として…。

 

(おさむ)! もう朝ご飯の時間よ!」

 

 俺を呼ぶ母さんの声がした。

 

「分かったー…。もう少ししたら行くー!」

 

 俺は毎朝の日課である腕立てを終える。

 世界的な発明家である父と、世界でも指折りの物理学者である母の作ってくれたこの重力室で毎朝腕立てを月曜日から100回でスタートし、以後回数を100増やしていくという日課だ。

 

 え、どうしてそんな変な事するのかって?

 正直なところ俺にもよく分からん。

 昔から強くなる事とか、トレーニングとか、そういうのが不思議と辛くないというか、それが普通って思えるぐらい打ち込めている。

 

 ちなみに、さっき母と言ったが俺の生みの親という訳ではない。

 俺がもっともっと小さい頃、それこそ俺の記憶にも無いくらいの時に今の両親に拾われた。

 まあ、その頃は両親も結婚とかはしてなかったんだけど、俺に対しての研究をしていく内にお互い惹かれ合って結婚まで行ったらしい。

 

 なのでよく両親に『我が家のキューピッド』と呼ばれる。

 まあ、確かに他の人と比べて明らかにおかしい部分があれば研究もしたくなるわな。

 俺は自分の尻から伸びている尻尾を見ながらそう思った。

 

「にしても、ホントにどうしてこんな物が…」

 

 そう思いながら俺は重力室を後にした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!!!」

 

「相変わらず治はよく食べるな」

 

「まあ、母さん的には息子が元気な姿を見せてくれるからありがたいけどね。作り甲斐もあるし」

 

 朝ご飯を勢いよく口に放り込む俺。

 そんな俺を見ながら両親は笑っていた。

 

 ちょっとした好奇心から前に『俺の食費って大丈夫なの?』とか聞いてみたけど、さっきも言ったとおり二人とも世界的な人物たちであるため収入は何の問題もないらしい。

 

「明日からまた学校だな。楽しみか?」

 

「……まあ、一応ね。みんないい奴ばかりだし」

 

 俺は飯を再び口にかき込む。

 

「それにしても、早いものねぇ」

 

 いきなり母さんが呟く。

 そしてその呟きに父さんが聞いた。

 

「早いって何が?」

 

「もう治が私たちの所に来て、私たちが夫婦になってから三年も経つんだなーって思って」

 

「……まだ三年だよ。これからもっともっと、楽しい思い出が出来るさ!」

 

 そう言って父さんは母さんに抱きつく。

 ……二人のラブラブな空気がこっちまで漂ってきそうだったので、俺はランニングがてら外に出ることにした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 海岸沿いを走る。

 全身が風を切る……というよりも、風のようにこのまま何処までも行けるんじゃないかと思うほどの疾走感を感じる俺。

 

「やっぱり外の空気は良い」

 

 そのまま俺は呟いた。

 自分で言うのもなんだが、俺は身体能力が尋常じゃない。

 普通の人よりも速く走れるなんてレベルじゃなくやろうと思えば車やバイクも抜きされるくらい速くなれる。

 まあ、さすがにそんな事をしたらヤバいので普段の学校とかでは抑えながら生活しているわけだが、それでもやっぱり、たまにはこうして思うままに走るのは良いとつくづく思う。

 

「ふぅ、ちょっと休憩」

 

 ある程度走ったところで俺は立ち止まる。

 さっきの母さんの話を聞いてふと思った。

 俺、もうこの街に来て三年も経つのか。

 けど、この街のこの空気感も体にスッと馴染む。

 

「……あれ? あんな所に家なんてあったっけ?」

 

 俺はこのすこやか市にある山の麓に家を見つけた。

 多分、新築で最近建てられた物だと思う。

 昔からあったんなら、さすがに三年も過ごしてたら気付くし、最近はランニングの方もサボりっぱなしで重力室メインのトレーニングしかしてなかったもんな。

 

「……挨拶とか、した方が良いんかな?」

 

 ご近所(?)付き合いとかは大事だと思うしな。

 俺はそう思ってその家に向けて歩を進めることにした。

 手土産でもあればいいけど、いかんせん手持ちが無いからなぁ…。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「えーっと、確かこの辺りで見たんだけど…」

 

 そこそこ歩き、舗装された道の中を歩く俺だが、中々あの家にたどり着けないでいた。

 

「しょうがねえ、上から見るか。……うーんと、この辺りで一番デカい木はこれかな?」

 

 俺は視界の中で一番大きいと思う木に登った。

 やっぱりこういうのは上から探すのが一番だからな。

 

「お、あったあった」

 

 目的地を見つけた所で俺はその家の前に車が止まっている事に気づいた。

 あの家の人が居る…って事でいいんだよな?

 

「ま、行けば分かるか」

 

 俺はそう楽観的に考えた。

 ま、そう遠くなかったし、ちょっと急げば挨拶くらいは出来るだろ。

 そう思って再び歩を進める俺。

 10分もしない内にその家には着くことが出来た。

 

「居る…よな?」

 

 俺は目の前に車が停まっている事を確認する。

 よし、と思いながらインターホンを押した。

 

「すいませーん…!」

 

 …。

 ……。

 ………。

 …………あれ? 居ない?

 そう思ったところで俺はある事に気付いた。

 もしこの家の人が今日この街に越してきた場合、その人は先にご近所さんへ挨拶回りをするんじゃないのか?

 つまり、車こそ停まっているけど、やっぱり家の人は居ないんじゃ…。

 

「ごめんなさい! 今出ます!」

 

 その声と共にドアが開く。

 そしてドアは、俺の額を見事に捉えて直撃した。

 

「うぐぉぉぉぉ……!」

 

「あわわ…! す、すいません…! 大丈夫ですか!?」

 

「あ、ああ大丈夫です。こっちこそ、不注意、で…」

 

 差し出された手を掴み、その顔を見たところで俺は絶句した。

 そして、俺に手を差し出していた人物もまた同様に絶句し、驚愕の顔を顕にしていた。

 

 だが、いつまでも驚いてばかりいられないと思い、俺はその家の掛け札を見る。

 そしてそこには『花寺』と書かれた札が掛けられていた。

 

「のどか…ちゃん?」

 

 振り絞るように声を出す俺。

 そして、それに応えるように目の前の女の子は言った。

 

「やっと、会えたね」

 

 ……引っ越してきたのは俺が謝りたくて仕方なかった女の子だったんだけど、こんな偶然あります…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先に言っておきます。

この作品では超サイヤ人の変身形態は超サイヤ人1以外出ません!

では、また次回でお会いしたいと思います。


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不思議な出会い

ちなみにこのオリ主にも様々な事情があるのですが、それについて語るのは大分後になりますね


 一生分の運を使い果たしたか?

 と思えるくらい奇跡の再会を果たした俺は今、のどかちゃんの家の中にお呼ばれしていた。

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 のどかちゃんの母親に出されたお茶を一口(すす)る。

 うん。美味しい。

 

「いやー、それにしてもビックリしたよ。あの時のどかと遊んでくれてた男の子がすこやか市に居たなんて、凄い偶然だね」

 

「それはこっちもですよ。……まさか、のどかちゃんの家が引っ越してきたなんて思わなかったですから」

 

 ちなみに(くだん)ののどかちゃんはと言うと、俺の隣に座りながらニコニコ笑って俺を見ていた。

 ……そんな笑顔で俺を見ないでくれ! 約束を破っちまった罪悪感で胸が張り裂けそうだ…!

 

「すこやか市にはいつから住んでたの?」

 

 そんな事を考えてたらのどかちゃんが聞いてきた。

 

「三年前かな……その時に名前を貰ったし、親も出来た。今は、彩野(さいの)(おさむ)って名前なんだ」

 

 俺が言うとのどかちゃんはバツが悪そうな顔をする。

 バカ野郎…、もうちょっと言葉があるだろ、考えれないのかこの尻尾持ちは…!

 

「そ、そうだ…! お父さん! お母さん! わたし、彩野くんに街を案内してもらってくるね!」

 

 のどかちゃんはいきなり立ち上がってそう言った。

 

「暗くなる前に帰るのよ。それじゃあ治くん。お願いね」

 

 あ、俺に拒否権無しっすか…。

 まあいいけど。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 一人の少年と少女が街に繰り出すのとほぼ同時刻。

 このすこやか市にある高台の上に、四匹の生き物が姿を見せていた。

 

「ここで、プリキュアになってくれる人を探すラビ」

 

 その内の一匹、うさぎの姿をした生物が言う。

 そして、続けざまにペンギンの姿をした生物が、

 

「けど、心の肉球が反応した人って…。どうやって探したらいいペエ」

 

 不安げに言った。

 

「まあなんとかなんだろ! 人の多いとこに言ったら案外パッと見つかるかもしれねえぜ!」

 

 だが、そんなペンギンと対照的にネコのような生物は軽く言った。

 

「ニャトランは相変わらずノリが軽いペエ…」

 

「ワンワン!」

 

 その様子を見ていた着飾った犬が喜びながら吠える。

 

「さあラテ様。行きますラビ!」

 

 うさぎの号令の元、その四匹の動物たちはすこやか市に向かった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ふわぁ! すごーい」

 

 俺の横で街並みを物珍しそうに見るのどかちゃん。

 このすこやか市にはその名前に相応しく健康に関する施設が多くある。

 温泉旅館とか、アニマルクリニックや、少し遠くなるけど隣町にはショッピングモールも存在する。

 

「アニマルクリニック。向こうにはカフェもあるんだ。ね、彩野くんはオススメとかあるの?」

 

「えっ、ああ…そうだな…」

 

「…なんだか、元気無いね。ごめん、わたしばっかり舞い上がっちゃって…」

 

「えっ!? あ、ああいや! 俺もまだここのカフェで頼んだことなくて、その……のどかちゃんに謝りたくて」

 

「謝るって? うわぁぁっ!!」

 

「ああっ!」

 

 のどかちゃんが俺に聞こうとした時、突然走ってきた少女にぶつかった。

 しかも、俺の知ってる奴だし…。

 

「うわぁーー! ごめんねごめんね、めっちゃ痛いよね!? 怪我とか平気?」

 

「は、はいぃ。あぁ、いえ、わたしもよそ見してたので…、お気になさらず」

 

「ええー嘘! めっちゃいい人! 今度遊び来て、ウチのジュースごちそうするし! ね、じゃあー!」

 

 そう言ってぶつかって来た少女は俺に目もくれる事なく去って行った。

 まるで台風だな。

 と、それよりも

 

「大丈夫? のどかちゃん」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 俺はのどかちゃんに手を差し伸べ、彼女を起こした。

 

「やれやれ、あいつは相変わらず忙しいやつだな」

 

「知ってる人なの?」

 

「ああ、俺と同じ学校のやつなんだ」

 

「へえー。あ、それでわたしに謝りたいことって?」

 

 うっ、覚えてたか…。

 まあ、こうしてまた会えたのも何かの縁だと思うし、言ったほうがいいよな。

 

「ごめん。子どもの頃、元気になったらどこにでも付き合うって約束したのに、何も言わずに消えちゃって。……ずっと言いたかったのに言えなかったから」

 

 俺が言うとのどかちゃんは少し黙った。

 そして、

 

「なんだ、ビックリしちゃったよ。何かわたしが悪いことしちゃったのかと思った」

 

 のどかちゃんはふーっと胸を撫で下ろす。

 

「気にしないで。あの後、先生から彩野くんは引き取られたって聞いてたから」

 

「そうなのか?」

 

「うん。それに、今こうやって案内してもらってのって、約束を守ってくれてるのと一緒だし」

 

 のどかちゃんは笑っていた。

 ……何だか見ない間に置いてかれたかもな、すごく大人になったように見えるや。

 

(敵わねえな…)

 

「え? 何か言った?」

 

 俺はなんでもない、とだけ返して再びのどかちゃんと街を回ることにした。

 

「まあ、案内って言ってもすこやか市って名前の通り結構多いのは健康とかに関係したものかな。鍼灸院だったり、ハーブショップだったり」

 

「うん。聞いてはいたんだけど、本当に体に良さそうな街だね」

 

 そんな話をしながら歩く俺たち。

 そして、何かを見つけて急に走りはじめるのどかちゃん。

 その先には、

 

「こんにちは。お荷物持つの手伝いましょうか?」

 

 お婆さんが重たい足取りで荷物を運んでいる姿があった。

 

「いいのかい? 申し訳ないねえ、お嬢さん」

 

「平気です! わたし今、誰かの助けになりたくて仕方ないんです!」

 

 ……やれやれ、お人好しだなのどかちゃんは。

 ま、俺もそういうのを見ると黙ってられないけどな。

 

「お婆さん。よかったら、俺が目的地までお負って行きますよ。乗ってください」

 

 俺はお婆さんの前にしゃがみ込む。

 

「おやおや、あなた達みたいな親切な人が居てるくれるなら、この街も幸せだねぇ」

 

 お婆さんは俺の背中に乗ってそう言った。

 やっぱりそういう事言われるのは悪い気しないな。

 そこからどれくらいの時間をかけたは分からないけど、お婆さんを家まで送り届け、俺とのどかちゃんは朝に俺が走ったあの海岸沿いを歩いていた。

 

「まさか日に二度もここを通るとは」

 

「二度?」

 

「ああ、朝にここを走ってたんだ。その時に、のどかちゃんの家を見つけた」

 

「こんな遠くまで走ってるんだ。すごいねー!」

 

 目を輝かせながら俺を見るのどかちゃん。

 そして、そんな俺たちの横をスッと爽やかに通っていく人がいた。

 

 そしてその人に、俺たちは一瞬で目を奪われる。

 

「綺麗な人…」

 

「ああ」

 

 そんな事しか言えない俺たち。

 けど、そんな事も言ってられず走り去って行った人の髪からシュシュは落ちた。

 

「あっ! あのー! シュシュ、落としましたよー!」

 

 のどかちゃんが大声で呼ぶも聞こえない。

 あー、ランニングしてる人って結構音楽とか聞いて集中する人も多いし、きっとそのタイプなんだろうな。

 

「のどかちゃん。そのシュシュ頂戴」

 

「えっ? あ、うん…はい」

 

 のどかちゃんからシュシュを受け取り、俺は力いっぱい地面を蹴った。

 俺の速さなら十二分にあの子に追いつけるだろう。

 そして、俺はその子の斜め後ろについたところで、肩を叩いた。

 

「え?」

 

「すいません。シュシュ、落としましたよ」

 

「あ…、どうもありがとう」

 

「いやいや、最初に呼んだのは俺じゃなくてあの……あー! のどかちゃん!」

 

 のどかちゃんを指差そうとしたところで、頑張って走って追いつこうとしたものの途中で力尽きて倒れるのどかちゃんの姿を見て俺は焦った。

 

「は、は、早いよぉ…」

 

「ごめんごめん。別に待っててよかったのに」

 

「大丈夫!? あの、これ、よかったら」

 

 少女はのどかちゃんにボトルを渡す。

 

「す、すいません…。ありがとうございます」

 

「いいのよ。本当ならお礼を言うのはこっちなんだから」

 

 少女はのどかちゃんに微笑みかけて言った。

 そして、その少女は俺を見て何かに気づいたようだ。

 

「あら? あなた、彩野くん?」

 

「へっ? 俺の事知ってんの?」

 

「もちろん。一年生の時はクラスが違ったけど、それでも色んな部活からスカウトを受けてたから覚えてるわ」

 

 マジでか…、この人同じ学校の人だったんか。

 

「その子、疲れてるでしょ。彩野くんなら、どこか休めてオススメの場所を知ってるんじゃない。じゃあ、私はこれで」

 

 その人はそれだけ残して走って行ってしまった。

 オススメか、それならあそこかな…。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ふわぁ〜…! 生きてるって感じ〜」

 

「俺のお気に入りの場所だ」

 

 俺はこの街にある灯台が設置された高台にのどかちゃんを連れてきた。

 

「この他にも、もう一個オススメの場所があんだ」

 

「ホント!? 行きたい!」

 

 のどかちゃんは食い気味に言う。

 そして俺は次にのどかちゃん連れて行ったのは、すこやか市で一番大きい公園。

 

 色んな花が咲いて、家族連れの人も居る。

 それになにより、この花の匂いが心を落ち着かせてくれるのがいい所だ。

 

「|《ふぅん、この場所。生きてるって感じがして住みづらいな。……進化しろ、ナノビョーゲン》」

 

 ……?

 空耳か。

 まあいいや。

 

「じゃあのどかちゃん。そろそろ帰ろうか。送ってくよ」

 

「うん。今日はありがとう」

 

 そして俺たちが帰路に着こうとした時だった。

 

『メガビョーゲン!!!!』

 

 激しい音と共に、赤と黒の化物が暴れていた。

 周囲から聞こえる人々の悲鳴。

 それに流れように俺も、

 

「のどかちゃん、こっち!」

 

 のどかちゃんの手を強く引いてその場を離れる。

 だがその最中、

 

「お母さん! まだワンちゃんが危ないよ!」

 

「今は自分が助かることを優先させないと!」

 

 という親子の会話が聞こえた。

 …………駄目だ、見過ごせない!

 

「のどかちゃん。ごめん、やっぱり、送っていけないから。一人で帰ってくれ…! じゃあ!」

 

「あ! 彩野くん!」

 

 俺を呼ぶのどかちゃんの声を振り払い俺は林の中に突撃する。

 けど、どうしたらいい…。

 いくら鍛えてるたって、あの化物と()()()のか…?

 

 その瞬間。

 俺の心臓が激しく脈を打った。

 戦う。目の前の敵と。

 そう考えると心臓の鼓動はさらに激しさを増す。

 まるで、戦える事に喜びでも感じるように。

 まるで、今までトレーニングしてきたのは、そのためだっと思えるくらい。

 

 鼓動の激しさと全身を包む熱さが増す。

 

「ラテ様!? しっかりするラビ!」

 

 不意に聞こえるその声。

 この際変な語尾だ等と言う不粋な事は言わない。

 俺はその声の方へ向かうと、そこにはなんとも不思議なうさぎとペンギン、ネコ、そして犬が居た。

 

「お前があの子の言ってたワンちゃんだな。しっかりしろ! 大丈夫か?」

 

「くぅ〜ん…」

 

 かなり弱っている様子の犬。

 

「人間!? おいなにやってんだよ! 危ねえから退いてろって!」

 

「ネコが喋った!? てか、動物が浮いてる!? どうなってんだ!?」

 

「彩野くん!」

 

「のどかちゃ…、何で来たんだよ! 帰れって言ったろ!」

 

 俺は思わず彼女を怒鳴りつける。

 

「だって…」

 

 のどかちゃんは悲しそうな顔をする。

 だーもう!

 

「とにかく、この子を頼んだ。俺はあのデカブツをなんとかできねえかやってみるから!」

 

 俺は犬をのどかちゃんに預ける。

 

「無理ニャ! 普通の人間じゃメガビョーゲンは…!」

 

「うっせぇ! やってみなきゃ分かんねえだろ! それによ、なんでか知らねえけど俺―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、ワクワクして堪んねえんだ…!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ふーっ、この調子なら、地球を蝕むのもすぐかな…」

 

 血色の悪い顔の男が怠そうに言う。

 だが、そんな中に一つの影が飛び込んだ。

 

「待てーっ!」

 

 若干邪悪な笑みを浮かべた治が男とメガビョーゲンの前に立つ。

 

「誰、きみ?」

 

「自分でも自分が知らない人間さ。ただ、なんでか闘いにワクワクしてるけどな」

 

 治はそう告げる。

 

「ふうん。まあ、どうでもいいけど。変なやつだって事は分かったよ。……メガビョーゲン」

 

「メガビョーゲーーーン!!!」

 

 メガビョーゲンは治目掛けて腕を振る。

 

「うわわわわわっ!!!!」

 

 だが、治は寸での所で回避する。

 というよりもできるだけ速く走って転んだのが功を奏しただけだが…。

 

「痛ってえええ…ふう、危なかった〜…」

 

「へえ、中々やるってことか…。けど、普通の人間にメガビョーゲンは倒せない」

 

「あっそうかい…。ったくどいつもこいつも言ってくれるぜ。確かに普通の人間だけどよ」

 

 治の憤りに反応するようにピョコピョコと尻尾が動く。

 そして、そんな中治と敵の視界を貫く光が現れる。

 

「「重なる2つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

 その光の中から不思議な格好をした少女と、先に治が話したあのうさぎと瓜二つの顔が付いたステッキが出てきた。

 

「ふわぁ! 凄い! いつの間に着替えたの?」

 

「着替えって…! プリキュアに変身したラビ!」

 

「プリキュア…? なんじゃそりゃ?」

 

「プリキュア…。あの、いにしえの…? いや、あいつは別人だ。人間がそんなに長い間生きられるはずが無い」

 

 そして、キュアグレースと名乗った少女は治に向き直り、こう言った。

 

「これでわたしも闘えるよ!」

 

「っ! まさか、お前…」

 

「グレース! ジャンプして躱すラビ!」

 

 治の言葉を遮るようにメガビョーゲンが攻撃を繰り出す。

 その攻撃をグレースはジャンプ、治は再び全力ダッシュで躱す事に成功した。

 

「うわっ! 凄い跳んだ!」

 

「気をつけるラビ! また攻撃が来るラビ!」

 

「メガビョー…」

 

「いつまでも無視すんじゃねえよ!」

 

「メガっ!?」

 

 空中に居るグレースを攻撃しようとするも、全力ダッシュのまま頭突きをかました治の攻撃によってメガビョーゲンは体勢を崩して倒れる。

 

「ふぃー…。イチチッ…!」

 

 だが、その反動で治も頭を抑える。

 

「このままじゃあの人間が攻撃されるラビ! グレース、着地したら、私を前に出すラビ!」

 

「分かった!」

 

「メガビョーゲン!」

 

「あっ、マズイ…」

 

 攻撃を喰らうことを覚悟する治。

 

「ぷにシールド!!」

 

 しかしその攻撃はグレースの持っているステッキから繰り出された盾によって弾かれた。

 

「サンキュー」

 

「ううん。こっちこそさっきはありがとう!」

 

「グレース。このままじゃメガビョーゲンは浄化できないラビ。まずはアイツに囚われているエレメントさんを見つけるラビ! 肉球を一回タッチするラビ」

 

「うん!」

 

「(どうでもいいけどその語尾はどうにかならんのか?)」

 

 治はそう思った。

 しかし、それが彼女たちの耳に届くことは無い。

 

「キュアスキャン!」

 

 グレースはメガビョーゲンに囚われているエレメントを発見した。

 

「あとはメガビョーゲンの動きを止められれば」

 

「ならそいつは俺に任せろ!」

 

 治はクラウチングスタートの姿勢を取る。

 

「その浄化? ってのは、どういうものか知らねえけど、とにかく俺の合図と同時に準備してくれ」

 

「任せて!」

 

「分かったラビ!」

 

 その様子を見て男は再び気怠そうに言う。

 

「また突進か、芸が無いね…」

 

 それを聞いて治は笑った。

 

「確かに芸はねえけど。でもな、今から見せる俺の突進は、さっきより数倍速いぜ!」

 

 そう、このクラウチングスタートと呼ばれるポーズ。

 元々はより速くゴールに到達するために編み出された姿勢である。

 そこに元々の身体能力が常人を遥かに超えた治の力と速さを突進ならば、多少の動きを止めるなんて訳が無い。

 

「今だっ!」

 

 その合図と共に治の二度目の頭突きはメガビョーゲンの胴体を捉え、またしても体勢を崩させる。

 

「行くラビ! 肉球を三回タッチするラビ!」

 

「エレメントチャージ!」

 

「ヒーリングゲージ! 上昇ラビ!」

 

「プリキュア! ヒーリング・フラワー!」

 

 グレースの放った技は、メガビョーゲンが捉えていたエレメントを優しく包み込み、そして解放した。

 

「ヒーリングッバイ!」

 

「「お大事に」」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 戦いが終わり、いつの間に消えていたあの男。

 あいつは一体何者だったんだろう。

 いや、それよりも、

 

「ビックリしたよ。キュアグレースだっけ? いや、それとも花寺のどかちゃんって呼んだ方がいいか?」

 

 俺はキュアグレースと言っていた少女に言う。

 すると、

 

「やったーーー!!! やったよ! 治くん! わたしたちであの怖いの追い払ったよー!」

 

 少女はのどかちゃんの姿になって、俺の手を勢いよく振った。

 

「ああうん。良かったよかった……あれ? 治くん?」

 

「はっ! あ、ごめん! わたしつい舞い上がっちゃって…あぅぅ〜…」

 

 今度は顔を紅くして小さくなっていく。

 やれやれ、

 

「のどかものどかで忙しいやつだな」

 

 と俺は言った。

 

『ありがとうございます。皆さんのおかげで、ここの花はもう大丈夫です!』

 

 …………。

 

「なんじゃお前ー!?」

 

「さっき助けた花のエレメントさんラビ! ちゃんとラビリンは説明したラビ!」

 

『本当に助かりました。特にそちらの方には、いつも助けられてます』

 

 花のエレメント? は俺に向かっていった。

 

「俺?」

 

『はい。あなたはいつもここの花に水をくれて、もし土が掘り返されてたら何も言わずに戻してくれる。感謝しかありません』

 

「……やっぱり照れくさいな…そういうの改めて言われると。けど、どういたしまして」

 

「ラビリンからもお礼を言うラビ! ありがとうのどか。のどかのおかげラビ!」

 

「ううん。ラビリンの…あれ? なんでうさぎが喋ってるのーーー!?」

 

 あ、気付いてなかったのね。

 

「ワン!」

 

 俺はこの助けた犬に懐かれながらその様子を見ていたのだった。

 

 これが、俺たちの戦いの始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここだけの裏話ですが、このヒーリングっど♥プリキュアを題材にした小説を作ろうとはしてたんですが、最初はデジモンにする予定だったんですよね。

結構デジモンにするのって、難しくて…あと、やっぱりドラゴンボールっていいですよね(笑)


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頑張りたい! のどかの想い!

今回は地の文とセリフの前後が中々ちぐはぐです


「ハアッ…、ハアッ……今日はこれくらいにして…」

 

『これから一緒に、お手当て頑張ろうね。治くん!』

 

 ……もう少しだけ続けよう。

 俺はさっきの化物……確かメガビョーゲンとかって教えられたっけ。

 そいつを倒した後、あの不思議な三匹の生き物と犬、そしてメガビョーゲンとそれを作っている奴らについてのどかのパートナーになったラビリンってうさぎからのどかの家で色々と聞かされた。

 

 まず、あの犬―――ラテはこことは違う隠された世界のヒーリングガーデンって場所の王女様らしい。

 そんで、ラビリンと、その仲間の二匹というか二人のペギタンとニャトランはヒーリングアニマルっていうこの地球をお手当するためのお医者さん見習いなんだとか。

 

「今度は重力を5…いややっぱり順調に4倍にしてみよう。…………ぐあぁぁぁぁっ…!! やっぱ結構堪えるなぁ…!」

 

 そして、メガビョーゲン。

 あいつらは、この地球やラテ達の居たヒーリングガーデンを自分たちの住みやすい世界に変えようとしているビョーゲンズって言うビョーゲンキングダムってとこに住んでる奴らが作り出した化物らしい。

 そのせいで、ラテ達もヒーリングガーデンからこっちに逃げてきてラテの母さんのテアティーヌって人もヒーリングガーデンに囚われちまってるんだとか。

 そんで、俺たちが戦っている時に居たのはそのビョーゲンズって奴らの一人でダルイゼンって名前らしい。

 

「まずはこの重力に慣れてから…徐々にこの場所を走っていかねえと…」

 

 ……そして、プリキュア。

 メガビョーゲンを浄化できる唯一の存在。

 ラビリンたちヒーリングアニマルは、そのパートナーと力を合わせる事で人間と一緒にプリキュアになれるんだとか。

 けど、誰彼構わずなれるわけじゃなく、心の肉球とやら反応したパートナーじゃないとプリキュアにはなれないらしい。

 俺? 俺は誰の肉球も反応しなかったみたいだ。

 まあ、元々プリキュアになったらあんな女の子女の子した格好にならないといけないなら最初から願い下げだし。

 

 ちなみに、さっき思い返してもう少しトレーニングを続けようと思った言葉は帰り際にのどかに笑顔で言われた言葉だったりする。

 

「って、さっきから一体誰に説明してんだ俺は?」

 

 俺はそんな言葉を放ちながら、4倍の重力がのしかかる重力室の中で二時間は立ち尽くしていた。

 ……さすがに途中は頭に血昇らなくなりそうでぶっ倒れるかと思ったけどな。

 

 そして、その後はいつも通りに飯を食べ、風呂に入り、眠りについたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 翌朝―――。

 眩い朝日と共に俺は起き上がり、欠伸(あくび)をした。

 

「ふわぁぁぁぁぁ〜……。よく寝た。トレーニングの疲れもすっかり回復したし、学校の準備をしますか」

 

 と言いながら俺は制服に着替える。

 すると、俺の部屋のドアが開いた。

 

「治、いつまで準備してるの!?」

 

 入ってきたのは母さんで、なにやら血相を変えている。

 

「早くしないと学校に遅刻するでしょ」

 

「何を言ってるんだ母さんまだ学校まで時間は…」

 

 と言いながら部屋に取り付けられた時計に目をやる。

 その時計は、時刻にして8時45分を過ぎていた。

 ちなみに俺の通っているすこやか中学校は、原則として9時15分までに教室に入っていなければならない。

 

 まあ、今日は新年度だからまずはクラスを確認するところからスタートなのだが……とりあえず。

 

「遅刻だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺の叫びは、部屋中にこだました。

 それと同時に、俺は早々に準備を終えて部屋から飛び出す。

 

「お弁当持っていきなさい。倒れちゃうでしょ」

 

「ありがとう!」

 

 母さんはこのために来たんだと言わんばかりに弁当を俺に手渡してくれた。

 やべー、学校始まる前日に慣れねえことするもんじゃなかった…。

 

 という後悔と共に、俺は全力で学校まで走り抜けて行く。

 結論から言っておく、なんとか間に合った。

 

「ぜー…、ぜー…。ギリギリセーフ…」

 

「あっ! おさむんじゃん! おっはよー!」

 

 息を切らす俺を見て開口一番にそう言ったのは、先日のどかにぶつかり、台風のように去って行った少女であり、去年の俺と同じクラスだった平光(ひらみつ)ひなた。

 まさかこいつと今年も同じクラスとは思わなかった。

 

「そろそろ席に着かないと、先生来ちゃうわよ。あなたの席は、私の目の前だから」

 

「おっ、ありがとう。ってあんたは昨日の…えっと」

 

「私は、沢泉(さわいずみ)ちゆ。よろしくね、彩野治くん」

 

 なんで俺の名前をって聞こうと思ったけど、この教室もう俺以外全員揃ってるし、消去法で分かるか。

 と思って俺は席に着いた。

 が、その時にようやく気付いた。

 もう一つ、ひなたの後ろの席が空いているのだ。

 

「あれ? そこの席は?」

 

「それが、分からないのよ。座席表にも名前が無くて」

 

 ……なーんか変な予感が。

 なんだろうな、この二人とも昨日会ってるし、一人は俺に目もくれてなかったけど。

 うーん、気のせいかな…?

 

「えー、みんなおはよう。さっそくだが、我がクラスはこのメンバーで今年一年やっていく。それにあたって、みんなにもう一人紹介する者がいる。どうぞ」

 

 入ってきた担任と思われる先生。

 そしてその先生に呼ばれてクラスに入ってきたのは、

 

「花寺のどかです。よろしくお願いします!」

 

「あー! 昨日のめっちゃ優しい人!」

 

「やっぱりか…」

 

 のどかだった。

 そして、そんなのどかに対してひなたと俺は反応してしまう。

 おいおい、昨日ようやく再会したと思ったら翌日から同じ学校の同じクラスって、どんな星の巡り合わせ?

 

「なんだ、平光と彩野はもう知っていたのか?」

 

「知っていたというか、昔馴染みというか……まあ、そんな感じの仲です」

 

 その瞬間に一瞬教室がざわついた気がしなくも無いが、一体何に驚いたのか分からん。

 

「知ってる知ってる〜! けどまさかおさむんとも知り合いだとは思わなかったよー! そうならそうって言ってくれればいいのに!」

 

「え、えっと…」

 

 ……相変わらず忙しいやつ。

 

「ちょっと、二人とも困ってる」

 

「え? 嘘、ごめん!」

 

 ひなたはちゆに諭された謝りながら座る。

 

「花寺は、あの騒がしいのの後ろだ」

 

「は、はい」

 

「こっちこっち〜!」

 

 さっきで少しは学んだのかひなたはのどかが座る席を着席しながら教えていた。

 まあ、声が大きいのはいい事だから良しとしよう。

 

「あたし、平光ひなた! ひなたって呼んでね! よろしく、のどかっち!」

 

「うん。よろしくね、ひなたちゃん! …って、のどかっち?」

 

「うん。かわいいでしょ!」

 

 ひなたは笑ってのどかに言う。

 こいつのこういう初手からグイグイ距離を縮められるのは素直に凄いことだなと強く思う。

 

「私は、沢泉ちゆ。分からないことがあったら何でも聞いてね。花寺さん」

 

「うん。ありがとう沢泉さん!」

 

 そんな周りの席との軽い自己紹介も終え、俺たちはその日を過ごした。

 んで、放課後になり、生徒はそれぞれ散り散りになっていく。

 

「それじゃあね、また明日〜!」

 

「うん。またねー!」

 

「じゃあな〜」

 

 俺たちに挨拶を済ませ、ひなたは颯爽と帰っていった。

 ホントに早いなあいつ。

 

「ちゆ、部活行こう」

 

「うん」

 

 そして、ちゆも同じクラスの女子に誘われた。

 するとそれを見ていたのどかが、

 

「部活。もしかして陸上部?」

 

 とちゆに聞いた。

 

「え! 凄い、なんで分かったの?」

 

 ピタリとちゆの所属部を当てたのどかに部活へ誘ってきた女子が聞く。

 

「昨日沢泉さんが走ってるところを見て、とっても綺麗だったから!」

 

 のどかにそう言われると、ちゆは笑った。

 

「ありがとう。そうだ。花寺さんも何か部活に入ってみたら? ちょうどあなたの身近な人に付いていけば、体験は事欠かないと思うし」

 

「ふぇ? 治くん?」

 

 のどかが指差された俺の方を見たところで、俺たちはテニス部と剣道部、二人の女子に捕まった。

 

「……はあ、仕方がない。どうする、のどか?」

 

「うん。やってみたい!」

 

 こうしてのどかを体験入部に連れて行く形で、俺の放課後の予定は決まった。

 できればトレーニングしたかったなぁ…。

 今回の体験入部先は、ちゆの居る陸上部と、俺を捕まえたテニス部と剣道部……まあ、俺の場合は体験入部というよりは元々居る部員たちの競争相手だがな。

 ……でも、のどかの奴、やってみたいなんて言ってたけど大丈夫かな?

 

 と言うわけで、陸上部にて―――。

 

「……へぇ…へぇ、さ、沢泉さんって、凄いんだね…。治くんも、平気で付いて言ってるし…」

 

「まあ、鍛えてますから…」

 

 続いてテニス部で―――。

 

「えい! えい! 全然当たらないよぉ〜…」

 

「ちょっと早すぎるか? もう少しスピードを、落としたらネットに捕まるぞ…」

 

 …………最後は剣道部―――。

 

「重くて動けないよぉ〜…」

 

「デスヨネー」

 

 やっぱ、分かってはいたけど散々になるよな。

 いくらプリキュアになれるって言ってもまだまだ病み上がりの女の子ってのは変わらないみたいだし。

 

「……! いくらなんでも情けないラビ! プリキュアの時ののどかはもっと鮮やかに飛んだり、跳ねたり、走ったりしてたラビ!」

 

「あ、ラビリン居たんだ」

 

「ちなみに僕とニャトランも居たペエ。ラテ様はお家でのどかのお母さんが見てくれてるけど、僕たちはお留守番じゃ心細いペエ」

 

「それに、こうして外に出た方がパートナーを探せるしな!」

 

 のどかの鞄からペギタンとニャトランがラビリンに続いて出てきた。

 

「なるほどな。……で、なんでラビリンはあんな怒ってらっしゃるんだ?」

 

「なんでも、自分のパートナーでプリキュアになれるのどかなら、きっと最高の結果を出すに決まってるラビ! って言ってたペエ…」

 

「けど、実際はああだったからな」

 

 なるほど、なんとなーく分かった。

 けどまあ、仕方ないよな。

 ラビリンも昔ののどかを知らないんだし…。

 

「実はわたし、運動得意じゃないんだよね…。体力なくて」

 

 のどか苦笑いで言う。

 しかし、

 

「え…」

 

 ラビリンはそれに衝撃を受け、見るからに落ち込んだ。

 

「……なんで」

 

「ラビリン?」

 

「なんで、プリキュアやるなんて言ったラビ…? のどかは言ったラビ、頑張るから、絶対に負けないから、一緒に頑張ろって」

 

「う、うん…」

 

 ラビリンのその言葉にのどかは気圧される。

 そして、ニャトランとペギタンもまた困惑する。

 

「駄目ラビ…。のどかじゃ駄目ラビ! ラビリンは…!」

 

 ラビリンは一瞬のどかを見る。

 そして、悲しそうな顔をするのどかを見ると、

 

「ラビリンは新しいパートナーを探すラビ!」

 

 それだけ言い残して飛び去ってしまった。

 

「あっ! ラビリン!」

 

「待つペ…」

 

 追いかけようとするペギタンを俺は止めた。

 

「待ってくれペギタン」

 

「治…。どうして止めるペエ?」

 

「ラビリンとは俺が話す。だから、のどかはペギタン、ニャトランと一緒に家に帰れ。そろそろラテを見てやらないと」

 

「治くん…」

 

 泣きそうなのどか。

 そんなのどかの頭に、俺は思わず手を置いて言った。

 

「安心しろ。ラビリンは必ず見つけるからさ。じゃ」

 

 俺はそれを言うと、彼女からの返事は聞かずに走り出す。

 さてさて、どっちに行ったかな?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あれから探し始めて30分は経ったんだろうか。

 俺はすこやか市を走り回った。

 そして、

 

「やっと見つけたぜ」

 

「治。ハッ! 止めても駄目ラビ! ラビリンはもう決めたラビ!」

 

 俺はラビリンを見つけた。

 そして、また飛び立たれないようにラビリンの腕を掴む。

 

「まあ待てや。少し話でもしようぜ」

 

「……」

 

 俺は飛ぶのを止めたラビリンと近くの林に入った。

 そして、手頃な木に背を預ける。

 

「なんであんな事言ったんだ?」

 

「だって…」

 

「のどか、泣きそうだったぜ」

 

 俺が言うとラビリンは、

 

「ラビリンだって…、本当は言いたくないラビ。けど、ビョーゲンズとの戦いは危険ラビ…。のどか、絶対に無茶するラビ…! ラビリンは、そうなって欲しくないラビ!」

 

 泣きながら話した。

 ……ふうー。

 こりゃ、やっぱ俺じゃなくてのどかが直接伝えるべきだな。

 

「俺から話そうと思ってきたけど、気が変わった。お前らは直接話すべきだ。それに、それならそうとハッキリあいつに伝えてやれ」

 

「ごめんラビ…」

 

「それも俺じゃなくてのどかに言えよ。とりあえず、のどかの家に行くか」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「え、出かけた?」

 

「そうなの。何だか学校に忘れ物したって言ってラテも連れて行っちゃって。でも、結構慌ててたから、大事なプリントでも忘れたのかしら。良かったら、家で待ってる?」

 

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます!」

 

 俺はのどかのお母さんにそれだけ伝えて再び学校に向かう。

 

「きっと、メガビョーゲンが現れたラビ」

 

「だな、急ぐぞ。っと、その前に……おばちゃん、これ頂戴!」

 

 俺は近くにあった店で木刀を購入した。

 なんでこんな物が売ってるんだとか言うツッコミは無しにしてくれよ。

 

「そんな物どうするラビ!? メガビョーゲンはプリキュアじゃないと…」

 

「浄化できないんだろ? 分かってるよ。けど、ダメージだけなら普通の人間でも与えられるのが分かったからな。無いよりあった方がマシだ」

 

 俺はラビリンと話しながら学校へ到着する。

 そして、

 

「どういう状況?」

 

 俺の目の前ではテニスラケットとネット、それからどこから調達したのか覆面を装着したのどかがメガビョーゲンを挑発している。

 あ、遠くにダルイゼンも居る。

 あー、あれはどうしていいのか分からないものを見る目だ。うん、今回ばかりはあいつに同意だ。

 

「アレは無いラビ…」

 

 ほら見てみろのどか。

 ラビリンさんも思わずこの眉間にシワ寄った表情だよ…。

 

「とりあえず、お前はのどかのトコに行ってやれ」

 

「わ、分かったラビ…」

 

 嫌そうな顔すんなよ。

 お前のパートナーだろのどかは!

 

「治。ありがとうラビ!」

 

 だが最後にラビリンは俺にそう言ってのどかへと向かった。

 ったく、世話の焼ける。

 

「オラァ、メガビョーゲン! てめぇの相手は俺だぁ!」

 

「メガッ…!?」

 

 俺は手に持っていた木刀を力いっぱいメガビョーゲンの頭目掛けて殴りつける。

 するとメガビョーゲンは相当痛かったのか頭を抑えた。

 

「また君か、あの人間同様バカなの? そんなんじゃメガビョーゲンは倒せないよ」

 

「かもな、けど、どうやらダメージくらいは与えられるっぽいぜ」

 

「……ねえ、前から聞きたかったんだけど…」

 

 ダルイゼンは名前の通り怠そうに俺に、

 

「なんで君、尻尾付いてるの?」

 

 と聞いてきた。

 

「それ今聞くことかなー!? 俺だって知りたいんだけどー!!」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「オラオラどうした! この前より俺は戦えるぞ!」

 

「メガビョーゲン!!!」

 

 治とメガビョーゲンの戦いが聞こえる中、ラビリンはのどかへと辿り着いた。

 

「のどか! あんな格好意味ないの分かってるはずラビ! 何で逃げないラビ!?」

 

 ラビリンはのどかに聞く。

 

「だって…。だって、助けたいんだもん…! ラテもエレメントさんも、わたしに助けられるものならみんな! だからお願いラビリン、力を貸して!」

 

 のどかは強く返した。

 

「メーーガビョーゲン!!」

 

「おっと! へへ、なんとか躱せるぜ。ほら今度はこっちの番だ!」

 

「のどか…」

 

 遠くの戦いなど聞こえる暇もなく、ラビリンはのどかの名を呼ぶ。

 

「ラビリン。わたしね、ずっと病気で学校休んでたの」

 

「え…」

 

「その時ね、わたし何もできなく、辛くて、悲しくて、とっても怖かった、明日もっと元気じゃなくなったらって。……でもね、そんな時に、わたしのお父さんやお母さん、お医者さんたちや、治くんが居てくれたの。たくさんの人が、わたしを励ましてくれた。わたしに元気をくれたの。そうやって、わたしは今のわたしになれたんだと思うんだ」

 

「そうだったラビか…」

 

 のどかの言葉にラビリンは俯く。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「やっべ…! ぐぬぬぬ、くそ図体通り重てえ奴だな…!」

 

 そして治はメガビョーゲンに踏みつけられながら、なんとかその場に踏ん張っている。

 

「だからわたし思ってたの。今までわたしが助けてもらった分だけ、たくさんの人に返したい。たくさんの人を助けたいって…!」

 

 のどかの言葉にラビリンはハッとし、そして何故治が自分とのどかにキチンと話をさせようとしたのかを理解した。

 

「プリキュアになれた時、ラビリンがわたしを選んでくれた時に、わたしとっても嬉しかった! だからラビリン、お願い! わたし、運動も得意じゃないし、いつもは治くんみたいに速く走ったりできないかもしれないけど、お手当てだけは…! プリキュアだけは絶対に、一生懸命頑張るから!」

 

 のどかの言葉は次第に強くなる。

 

「苦しむ地球を、ラテを、治くんやペギタン、ニャトラン、そしてラビリンと一緒に助けたい! これが、今のわたしの一番やりたい事なの!」

 

 そんなのどかの言葉を聞いて、ラビリンも口を開いた。

 

「ごめんなさいラビ! のどかの気持ちも聞かないで色々決めちゃって…。ラビリン、お医者さん失格ラビ!」

 

 ラビリンはのどかに抱きつく。

 

「ううん。そんなことない……そんなことないよ、ラビリン。わたしも、ラビリンに心配かけなくてもいいように、もっと強くなるから、頑張ろう!」

 

「ラビ!」

 

 のどかとラビリンは再びお互いの絆を深めた。

 そして、

 

「感動の所大変申し訳ないんだけどそろそろ手貸してもらえる!? お前らじゃないと浄化できないんだけどーー!?」

 

 遠くから聞こえ、さらに強く地面に押し込まれた治が強く声を上げる。

 

「うわーっ! 治くんごめん! ラビリン、行こう!」

 

「ラビ!」

 

 そして、のどかとラビリンを強く光が包む。

 

「「重なる2つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

 再び彼女らは、キュアグレースへ変身した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 キュアグレースの姿を見た俺は呟く。

 

「吹っ切れたな。……っ!! うおおおおおおおおお!!!」

 

 そして、いつまでも情けない姿を見せてられない俺も目一杯の力を振り絞ってメガビョーゲンを押し返す。

 

「メガッ!?」

 

 その勢いに押され、メガビョーゲンは倒れた。

 

「ふぃー…! どうだ、やってやったぜ!」

 

「遅くなってごめん!」

 

 そこにキュアグレースも駆けつけた。

 

「ああ、ホントに待ったよ。結構すぐに解決すると思ったらここまでとはな…」

 

「もーう! だからごめんって言ってるのにー!!」

 

「治は結構しつこいラビ!」

 

「なにおう! ……っへへ、もう大丈夫そうだな」

 

 俺が言うとグレースはラビリンと共にうんと返した。

 

「さあ、一気に片付けるぞ!」

 

「「うん(ラビ)!!」」

 

 俺は木刀を再び握り締めてグレースと共にメガビョーゲンへと向き直った。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

 メガビョーゲンの片腕からの攻撃を俺とグレースは左右に躱す。

 時間をかける必要はねえな。

 この前と同じ戦法で勝負を決めるか。

 

「グレース! 俺がメガビョーゲンを止める、その隙にお前が決めろ!」

 

「お願い!」

 

 そして俺は再びメガビョーゲン向けて先日同様に突進する。

 

「そうは行かないよ。メガビョーゲン…」

 

「メーガー!!」

 

 だが、そうはいかないとばかりにメガビョーゲンのもう片方の手が俺に迫る。

 そう来るだろうな…!

 けど!

 

「よっと!」

 

 俺は地面を蹴り、メガビョーゲンの手前で大きくジャンプした。

 当然、そう来るのは予測しなかったメガビョーゲンも面食らっているので、その間に、

 

「食らえええ!!」

 

 俺は木刀の一撃をメガビョーゲンの頭に叩き込む。

 それを受けたメガビョーゲンは地面に前から倒れ込んだ。

 

「へへ、昨日が下なら今日は上からってね」

 

 さて、後は任せますか。

 

「プリキュア・ヒーリングフラワー!!!」

 

「ヒーリングッバイ…」

 

「「お大事に」」

 

 最後はグレースがメガビョーゲンを浄化して終わった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「エレメントさん。お加減どうですか?」

 

『もう大丈夫です。みなさん、ありがとうございました』

 

「そいつは何よりだ」

 

「ワンっ!!」

 

 俺が言うとラテが俺に飛びついてきた。

 

「おおっ。ラテも元気になってよかったな」

 

「ワン!」

 

「ラテ様、何かお前に伝えたい事があるんじゃないか? のどか、ちょっとラテ様に聞いてみろよ」

 

 ニャトランに促されるままのどかはラテに聴診器を当てる。

 

『仲良し、よかったラテ。治、ありがとうラテ!』

 

「……おう! んじゃあ、帰りますか!」

 

 俺の合図と共に、みんなで帰ることにした。

 にしても、よしよし、なんとか着実に力は付けれてるな。

 俺は右拳を握りながらそう思った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「何だったの、今の…!?」

 

 それにあれ、花寺さんと彩野くん…よね!?

 

 

 

 

 




やっぱり次回からアニメの1話分をこっちの2話分にしようかな…


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いい湯だな〜

今回からアニメの1話分をこっちでは2話に分けて投稿する事にしました。


「俺も変装とかした方がいいかな…?」

 

 ラビリンとのどかの仲が深まった翌日。

 俺はのどかと昼食を共にしながらふと声に出す。

 ちなみにあの日の後、俺は自分で言うのもなんだが珍しくトレーニングにはせず、そのまま深夜まで眠っていた。

 きっと疲れが溜まっていたからだと思うが、起きてからは異様に体の調子が良い。

 というより、全く別人になったんじゃないのかと思えるくらい力が漲っている。

 

「どうしたんラビ、急に?」

 

 ラビリンが俺に聞く。

 

「いやさ、今日の朝クラス中でメガビョーゲンの事について聞かれたろ」

 

 俺はみんなに同意を求めるように言う。

 そう今日の朝、昨日の学校と、その前の公園の件についてクラス中で大盛り上がりだった。

 

「一応あの時はメガビョーゲンの事しか触れられてなかったけどさ、もしかしたら今後、俺の姿を見られちまうかもしれないだろ。そうなった時、プリキュアは俺の知り合いだってバレたらまずいじゃねえか」

 

「確かに、そうラビ。プリキュアの事は絶対秘密。変身してるのどかと違って治は姿がそのままだから、危険ラビ」

 

 ラビリンが俺の言ったことに同意する。

 

「それに、ちゆの奴にも怪しまれてるしな」

 

 俺は最後にそう付け加える。

 これもまた今朝の話だが、みんなが俺たちにメガビョーゲンもとい、怪物を見たかどうか聞く中、ちゆ一人だけは俺たちが帰った後にまた学校に来ていた事を知っていた。

 

 しかも、その時に言われたのが、見たんじゃないか。

 とほぼほぼ確信に近い言い方だったしな。

 と、思いながら俺は特大の唐揚げを一つ口に放り込む。

 

「私がどうかしたの?」

 

「っ!! んーーーっ!! んーーーーっ!!」

 

 突然後ろから聞こえたちゆの声。

 そしてその声に驚きすぎたせいで俺の口から喉までそのままの大きさを保って進行する唐揚げ……うっ…。

 

「大変! しっかりして、彩野くん!」

 

「治くん! 治くん!」

 

「ワン、ワン!」

 

 あ、ラテの声がする…。

 ていうかなんだろ……川が見える。

 

「…………ぶはっ!! ゲホゲホッ!!」

 

「しっかりして、お水飲める?」

 

 のどかは手に水筒を持って俺に聞いている。

 俺はそれを手に取り、一気に口に含んで唐揚げを喉の奥へと押し流した。

 

「はー…はー…、驚いた…。驚きすぎて一瞬川が見えた」

 

「ご、ごめんなさい! そんなにビックリされると思わなくて…」

 

 呼吸を整え、俺は頭を下げて謝っているちゆを見た。

 

「いや、こっちが勝手に驚いただけだから別に気にしなくて。死んだわけじゃないし」

 

 死にかけたかもしれないけど…。

 と思ったことは墓場まで持っていこう。うん。

 

「それで、一体どうしたんだよ。てか、さっきラテの声が聞こえた気が」

 

 俺はちゆに聞いた。

 するとちゆは、

 

「そうなの。この子、彩野くんのお家の子? さっき校庭にいて、びっくりしたわ」

 

 ラテを俺に見せてきた。

 

「ラテ!?」

 

「ワン!」

 

 いや、ワン! じゃなくて…。

 

「まあ、俺の家じゃなくてラテはのどかの家で飼ってるんだ」

 

「そうなの。もうラテったら、わたしについて来ちゃったの?」

 

「ワン!」

 

 ラテはそうだと言わんばかりに吠える。

 するとのどかも、しょうがないなぁと言いながらラテを抱えて撫でた。

 

「ありがとう沢泉さん。ラテを連れてきてくれて。どうして分かったの?」

 

「怪物が出たあと、そのワンちゃん……ラテちゃんだったかしら? その子と、あなたたち二人を学校で見たからよ」

 

「そうなんだ〜……。え"っ!?」

 

 のどか今の声どっから出した?

 

「ちゆも居たのか…」

 

「私も、怪物自体は見ていないんだけど。あなた達と、不思議なうさぎさんとペンギンさんが居るのを見てね」

 

「……」

 

 マズい事になった…。

 ラテは犬だから、飼ってるって言っても不思議じゃない。

 けど、ラビリンとペギタンはうさぎとペンギンだ。

 うさぎならまだしも、全身ピンクだし…。

 ペギタンにいたってはペンギンのペットなんてどうしたらいいんだよ…。

 

「あの子たちも、わたしと治くんが飼ってるペットなの!」

 

 のどか…、それは無理があるんじゃないのか…。

 

「そうなんだよ。珍しい種類でさ…」

 

 と思いながらも俺ものどかに乗っかる。

 

「……そう、なのね。ならいいわ。それで、花寺さん。ラテちゃんはよく抜け出すの?」

 

「えっ? う、うん」

 

「まったく困った奴だよ」

 

 俺はそう言いながらラテを撫でる。

 すると、

 

「わふ〜ん…!」

 

 ラテは気持ち良さそうな顔をして声を出す。

 うっ、思わず胸がキュッとなったじゃないか!

 

「そうなの。もう、仕方ない子ね」

 

 今度はちゆがラテを撫でた。

 

「とりあえず授業中は、ラテちゃんを職員室で預かってもらえるよう先生にお願いしてみましょうか。私も一緒に行くわ」

 

「ありがとう沢泉さん。前にも飲み物分けてもらっちゃったし、いつも優しくしてもらってばっかりで」

 

「気にしないで。私も、大したことはしてないから。ただ、気になることを放っておけないのよね」

 

「それでも、素直にお礼は言っておくよ。ラテの事、サンキューな」

 

「ふふ。じゃあ、素直に受け取っておくわね」

 

 そう言うちゆに、俺はそうしてくれとだけ返した。

 

「そうだわ。今度、もしよかったらあのうさぎさん達にも会わせてね。うちに来たらきっと喜んで貰えると思うから」

 

「うん! 絶対に行くよ!」

 

「分かった。約束する」

 

 そんな約束をし、俺たちはラテの事を先生に頼みに行った。

 言っておくけど、弁当はちゃんと全部食ったからな。

 ちなみに、あの後ペギタンと会い、自分がラテの世話をしてる最中に逃げ出してしまって学校に来たことを教えてくれた。

 てか、ちゆの家って…?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「…すっげー!」

 

「ここ、沢泉さんのお家だったんだ! 素敵!」

 

 放課後。

 俺たちはちゆに案内され、彼女の家向かった。

 そして着いた先は『沢泉』と書かれた看板が大きく目を引く旅館だった。

 

「ちゆって、ここの看板娘って奴なのか? もしかして」

 

「そういうわけじゃないけど、私もお手伝いはしてるの」

 

 そして俺たちは旅館の中へ足を踏み入れる。

 

「ようこそ沢泉へ。貴方達がちゆのお友達ね?」

 

「えっと、ちゆのお母さんですか?」

 

「そう。ちゆの母の、沢泉なおです。よろしくね」

 

「あ、俺は彩野治です。よろしくお願いします!」

 

「初めまして! 花寺のどかです!」

 

「いらっしゃい。二人とも、ゆっくりして行ってね」

 

 そう言いながらなおさんは仕事に戻った。

 

「ねえ、二人とも、よかったら私に、旅館の中を案内させてくれないかしら。この旅館の良さを知ってもらいたくて」

 

「いいの!? ありがとう沢泉さん!」

 

「それは助かる。よろしく頼む」

 

 俺たちが言うとちゆは笑っていた。

 そこから、俺たちは彼女にたくさんの場所を案内してもらった。

 中でも俺が一番驚いたのは、ペット同伴でも入れる温泉があるって所だな。

 だからさっき、ラテやラビリンたちが一緒でも喜んで貰えるって言ってたのか。

 

「日帰りの入浴も大歓迎だから、よかったら二人とも、ご家族で遊びに来て。もちろん、あのうさぎさんたちもね」

 

 ちゆは笑顔で言う。

 この旅館を案内している最中、一度足りとも彼女の顔から笑顔が無くなった事はなかった。

 

「ホントに好きなんだな」

 

「えっ?」

 

「わたしも思った! 沢泉さん、ホントにお家が大好きなんだなって。だって、あんなに楽しそうに教えてくれるんだもん!」

 

 俺の言葉に同意したのどかが勢いよく言う。

 最初はその様子に少し止まっていたちゆ。

 だが、彼女の顔はすぐにまた笑顔になった。

 

「そう。大好きで、大切な場所よ。だから、私はここを守りたい」

 

 ちゆはそう言った。

 

「守れるだろ。お前みたいに、大事にしてくれる奴がいるんだからさ」

 

「ふふ、ありがとう。それじゃあ、私は着替えてくるから。二人とも、ゆっくりしてて」

 

 ちゆはそう言って去って行った。

 そして、その場には俺とのどか、ラテ、そしてのどかの鞄に隠れていたラビリンとペギタンが残った。

 いや、結構な数残ってたわ…。

 

「そんじゃ、入ってみるか」

 

「うん!」

 

 俺とのどかは湯船に足だけを浸ける。

 ふー、

 

「「気持ちいい〜〜〜」」

 

 俺たちは揃って間の抜けた声を出す。

 そんな俺の気持ちに反応したのか、尻尾もすっかり気が抜けてへんにゃりとしている。

 

「ふふ。ラテも入ってみる?」

 

「ワン! ワン!」

 

 のどかが聞くとラテは嫌そうにバタバタと手足を激しく動かす。

 

「どうしたんだ?」

 

「多分、水が怖いのかも。まだ小さいもんね…。じゃあ、ラビリンが入る?」

 

「いいラビ!?」

 

「まあ、ちゆも来てくれって言ってたんだし。いいだろ」

 

 俺が言うとラビリンは喜々としてペット用の湯船に行った。

 だが、

 

「ペエ…」

 

 ペギタンは誰の目から見ても明らかに落ち込んでいた。

 

「どうしたんだよペギタン?」

 

「お風呂が大好きなのに、全然嬉しそうじゃないラビ」

 

 あ、ペギタンって風呂好きなんだな。

 ペンギンだから水風呂か好みなものかと……いや、風呂だな。

 

「何かあったの?」

 

 のどかが聞く。

 するとペギタンはゆっくりと口を開いた。

 

「僕は何もできてないペエ…。ニャトランみたいにパートナーを探しに行けてないし…」

 

「あ、ニャトランが居ないのはそういう理由か」

 

 俺はようやくこの場に居ないもう一人が何をしているのか理解した。

 まあ、あいつは結構その場のノリみたいな空気があるからな。

 ひなたと良い勝負だぜ。

 

「今日だって、ラテ様のお世話もちゃんとできないから、迷惑かけちゃったペエ…」

 

「んなこと気にすんなよ。言っちまえばお前のおかげで、俺ものどかもこうしていい湯に浸かれてるんだし。それに、パートナーを見つければどうにかなるって」

 

 俺が励まそうとするも、ペギタンの顔は上に上がらない。

 

「けど、治はのどかみたいにプリキュアなれなくても頑張ってるペエ…。僕もラビリンみたいに、お手当てできるようになりたいペエ…、みんなを助けたいペエ…」

 

 それはペギタンが溢した自分を責める言葉だった。

 その言葉に対して俺は、

 

「ペギタン、俺だって…」

 

「ねえ二人ともさっきの声は?」

 

 声をかけようとした途端にちゆが律儀にノックをしてから入ってきた。

 

「え、声!? なんの事だ!?」

 

「き、気のせいじゃないかな! あ、あ~、いい湯ラビ〜…」

 

「……」

 

 やめてくれ黙られるのが一番辛い。

 あと、湯の中に入ってるペギタンとラビリンも死にそうになってるから早いところこの状況をなんとかしないと。

 

「くしゅんっ…!」

 

 そう思っている矢先、いきなりくしゃみをしたラテ。

 ちゆはそんなラテを心配して駆け寄る。

 

「大変! 冷えちゃったのかしら?」

 

 何も知らないちゆはそう言う。

 当然だ。

 彼女もラテはお風呂に浸かって冷えたと思っているんだから。

 

 俺はそれを初めて見た。

 けど、その時ののどかの顔から何が起こったのかは分かる。

 俺はちゆの目につかない様ラビリンとペギタンを湯船から出した。

 

「悪い、ちゆ。せっかく良い湯に入らせてもらったんだけど、俺たち行かなくちゃ」

 

「え…?」

 

「お前は家の中に居てくれ。そうすれば安心だからさ」

 

 俺とのどかは目を合わせ、ちゆを残してその場から走った。

 ……またビョーゲンズかよ!

 

 




とりあえず、アニメに早めに追いつけるといいなぁ…


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守りたい! 助けたい!

外出できないと執筆が捗る捗る


『お前は家の中に居てくれ。そうすれば安心だからさ』

 

(何だったのかしら…)

 

 ラテの様子がおかしいと見た矢先に旅館から飛び出した治とのどかを見た後、ちゆは一人、旅館の中を歩いて考えていた。

 そして、その脳裏にはある確信があった。

 

 やはりあの二人は怪物について何かを知っていると。

 

「けど、どうして二人ともそんなに隠したがるのかしら…」

 

 そう呟きながら歩く彼女。

 そんな彼女が旅館の入り口に差し掛かったところ、母であるなお、そして旅館の従業員である川井が話している声が聞こえた。

 

「お湯が、なんだかおかしいんですよ。急に手触りが悪くなったというか」

 

「急に…? お客様は?」

 

「今はどなたも」

 

 そんな話をしている中、ちゆの脳裏にはやはり、あの二人の顔があった。

 

「分かりました。とりあえず私は、他の方と一緒に設備を見て回ります。川井さんは源泉の調査をお願いできますか?」

 

「はい。お任せください!」

 

 その会話を聞いてちゆは、

 

『ホントにお家が大好きなんだなって。だって、あんなに楽しそうに教えてくれるんだもん!』

 

 というのどかの言葉を思い出した。

 そう、この旅館は自分にとってとても大切で、大好きな場所。

 その場所に何か起きているなら、何かをしたい。

 

「待って、川井さん。私も行きます!」

 

 そんなちゆの想いが、治の静止を振り切り、彼女を動かした。

 そう、のどかも治も忘れていた。

 彼女は、気になったことを放っておけないと。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「それで、今回はどこに行けば良いんだ?」

 

「ラテ様は、暖かいお水が泣いてる場所って言ってたペエ」

 

 俺たちはビョーゲンズが出たと思われる場所に走っていた。

 もちろん、のどかを置いていかないようにだが。

 

「治。さっきは僕に何を言おうとしてくれたペエ?」

 

 その最中、ペギタンがいきなり俺に聞く。

 

「あー、あれか。俺は何でか知らないけど、戦いの度にワクワクしてる。けどなペギタン、俺も、怖いんだぜ」

 

「治もペエ…?」

 

「ああ、もし負けたら…。もしのどかやラビリンが居なくて、浄化できないってなったら。そんな事を考えると、怖くて怖くて仕方ない」

 

 自分でも器用だと思うが、俺は走りながらペギタンに言い、そのまま続けた。

 

「けど、今は居る。のどかもラビリンも、だから怖さを振り切ってワクワクの方が強くなれる。だからさペギタン、怖くたって良いと思うぜ。そんな怖さを一緒に乗り越えられるのが、よく分からねえけどその心の肉球がキュンと来るパートナーなんじゃねえのか」

 

「ペエ…」

 

 そんな話をしながら、俺達はようやくメガビョーゲンに辿り着いた。

 しかも、今回のメガビョーゲンは前の二回よりも大きい気がする。

 

「メーガーーー!!!」

 

「いいわよいいわよ! その調子でドンドン地球を蝕んじゃいなさい!」

 

 温泉の源泉を汲み上げる……えっと何か前に名前を聞いたんだよな。

 ……そうだ! 源泉ポンプ。

 その源泉ポンプの姿をしたメガビョーゲンがその場に居た。

 

「あれ、今日はダルイゼンじゃないのか」

 

「あれは、ビョーゲンズのシンドイーネペエ…!」

 

 ペギタンが名前を教えてくれる。

 ……そして、遠くの方には何故かちゆが居た。

 あと、多分ちゆの旅館の人だと思うけど倒れている。

 

「どうやら俺たちが来るまでに何かあったっぽいな。のどか、早いとこ片付けようぜ」

 

「うん!」

 

 そうしてのどかはキュアグレースに変身した。

 

「来たわねプリキュア! メガビョーゲン、やっちゃって!」

 

「メガーー!!」

 

「治くんは、沢泉さんを!」

 

「OK!」

 

 俺はグレースと別れ、ちゆに駆け寄る。

 

「彩野くん…? それに、花寺さんが…ねえ、あの怪物は何なの!? 知ってるなら教えて!」

 

 俺はちゆと倒れている人をなんとか抱えて近くの木陰に避難させる。

 

「知らなくていい」

 

「けど…!」

 

「俺よりも足手まといなんだから引っ込んでろ!」

 

 こんな事言いたくない。

 けど、こうでも言わないと彼女を危険から遠ざけれないから言う。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「っ!! 治くん!」

 

「危ない!」

 

 二人に言われ、俺はふと後ろを見る。

 そして次の瞬間、俺の眼前にはおそらくメガビョーゲンとグレースの戦いの中で吹っ飛んだであろう大木がこちらに迫っていた。

 

 避ける…わけにはいかねえか。

 

「ふんっ!」

 

 俺は両足に力を込め、大木を受け止める。

 それと同時に、俺の左肩は鈍い音を上げた。

 

「……っ!! ぐっ…!」

 

「彩野くん! 大丈夫!?」

 

 ちゆが駆け寄る。

 ……大丈夫、ではないよな。

 手は、動く。

 関節は外れてない。

 けど、結構痛みが強いってことは、ヒビくらいはいったかな…?

 

「これで分かったろ。危険だから、下がってろ」

 

「関係のない人間を庇ってダメージを受けるなんて、ダルイゼンから聞いてたよりずっと単純なのね、坊や」

 

 そんな俺を罵倒するようにシンドイーネが言った。

 

「あいにく、最初から避けるなんて考えはできなくてねえ。自分の気持ちに正直に動いた結果だ、後悔はねえ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……!」

 

 治の言葉を聞き、ちゆはハッとする。

 

「ちゆ、悪いけどこれ以上話してもいられねんだ。行かなきゃ」

 

 そんなちゆを放って、治は再びグレースとラビリンが待つ戦場に赴いた。

 片手が満足に使えないのに、それでも彼は自分の気持ちを裏切らないように。

 

「彩野くん…、花寺さん…。私には、何もできないの…!?」

 

 自分の知っている人が、自分たちのために戦っている。

 そして一人は、自分たちを庇って傷を負った。

 そんな自責の念がちゆを襲う。

 そして同様に、

 

「治…。どうしよう、どうしたらいいペエ…。僕には、僕には何もできないペエ…!」

 

 その場でパートナーを持たないペギタンもまた、頭を抱えながら悩む。

 自分を励ましてくれた人が、自分の仲間が頑張っているのに、何もできていないから。

 そんなペギタンを、ちゆは見つけた。

 

(あのペンギンさん。もしかして!)

 

 そして、

 

「ペンギンさん!」

 

「ペエ!?」

 

 ちゆはペギタンに声をかける。

 最後の望みを賭けて。

 

「もしかして、あなたもああやって戦えるんじゃない?」

 

 ちゆからの問いかけ。

 そしてその問いかけに、ペギタンはゆっくり、怖がりながら頷いた。

 

 それを見てちゆは笑顔になる。

 

「できるのね! なら、私にも手伝わせて!」

 

「無理ペエ…」

 

「……どうして?」

 

 再びちゆが聞く。

 するとペギタンは、

 

「自信ないペエ…。ラビリンでも苦戦してるのに、こんな僕の力じゃ、君を危ない目に遭わせるだけペエ…」

 

 自分の弱さを伝えた。

 治が折角励ましてくれたのに、結局自分は変われない。

 そう思ったペギタンが下を向こうとした時、

 

「でも、あなたも助けたいんでしょう?」

 

 ちゆの声がペギタンの顔を下から上へと持ち上げる。

 

「ペエ…!?」

 

「私も、怪物は怖いわ。それに、確かに今の私じゃ彩野くんの言った通り足手まといでしかないかもしれない。けど、それでも私は、大切な物を守りたいの! だからお願い、力を貸して! それとも、あなたは違うの?」

 

 一頻(ひとしき)り想いをぶつけた後ちゆはそれでもペギタンに聞いた。

 そしてペギタンは、

 

『怖くたっていいんだよ』

 

 という治の言葉を思い出した。

 今もまだ、メガビョーゲンはビョーゲンズは怖い。

 自分が役に立てるなんて、とても思えない。

 それでも、自分はラテ様を、ラビリンを、仲間を、

 

「守りたいペエ!」

 

 ペギタンはそう伝えた。

 それを聞いたちゆは、優しく微笑み、手を差し伸べる。

 

「私はあなたより大きいから、少しは力になれると思う。もし、勇気が足りないのなら、私のを分けてあげる」

 

「……!」

 

「大丈夫、あなたには私がいるわ」

 

 そして、ペギタンの肉球が鮮やかな色を放った時、

 

「「交わる2つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

 ちゆはペギタンと共に、二人目のプリキュアとして変身した。

 その姿に、思わず戦っていた治とグレースまでもその場に駆け寄る。

 

「沢泉さん!?」

 

「おまっ、どうなってんだ!?」

 

 各々が別の反応を見せる二人。

 そして、キュアフォンテーヌとなったちゆは治を見て、

 

「これで私も足手まといじゃなく、戦えるわ」

 

 と言った。

 

「……へへ! 何言ってんだよ、今じゃ俺の方が足手まといだっての」

 

「ふふ。……ペギタン、行くわよ!」

 

「ペエ!」

 

 微かな微笑みを見せた後、フォンテーヌは二人を置いて単身メガビョーゲンに向かっていく。

 もちろん、ただボサっと待つだけのメガビョーゲンでもない故、迫りくるフォンテーヌに源泉ポンプの発射口を向けて迎撃するも、フォンテーヌはそのすべてを優雅に回避した。

 

「ハアッ!!」

 

 そしてお返しと言うかのようにメガビョーゲンの腹部殴りつけるフォンテーヌ。

 その後、更に蹴り上げによる追撃をぶつけ、メガビョーゲンの背中から地面へと倒した。

 

「あれホントにちゆかよ…変身前と比べてえらく武闘派だな…」

 

 その様子を見ていた治が呟く。

 

「わたしたちも行こう!」

 

「おう。あの二人にばっか任せてらんねえからな」

 

 そして、グレースと治もまたメガビョーゲンへと向かう。

 

「キュアスキャン!」

 

 フォンテーヌはキュアスキャンにより、メガビョーゲンの中に閉じ込められたエレメントを見つける。

 

「あそこに閉じ込められてる水のエレメントさんを助けるペエ!」

 

「分かったわ!」

 

 ペギタンの言葉のまま、フォンテーヌはまたメガビョーゲンへ向かう。

 しかし、

 

「メガビョーゲン!」

 

 メガビョーゲンはあえて、躱せない空中にフォンテーヌが来るのを待ってから、再び発射口を向けて今度こそその両腕から汚染された尾油を発射する。

 

「キャアアア…っ!」

 

 思いがけない反撃にそれをマトモに喰らうフォンテーヌ。

 そんなフォンテーヌにさらに追撃をかけようとするメガビョーゲンだが、

 

「ハアアアア!!」

 

「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 グレースと治のダブルキックを片足に受け、バランスを取れなくなったメガビョーゲンは倒れ込む。

 

「今だよ! フォンテーヌ!」

 

「お前が決めろ!」

 

「やるわよ、ペギタン」

 

「ペエ!」

 

 二人からの言葉を受け、フォンテーヌはメガビョーゲンを浄化するための技を放つ。

 

「プリキュア! ヒーリング・ストリーム!」

 

「ヒーリングッバイ…!」

 

「「お大事に」」

 

 見事、フォンテーヌはメガビョーゲンの浄化に成功した。

 そして、

 

「ふうん。まあまあやるのね。けど、どんなにプリキュアが増えても、キングビョーゲン様が復活したら敵わないんだから」

 

 シンドイーネは不敵にそう発言して消えた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「しっかしまさか、ちゆがプリキュアになるとはな…。悪かった足手まといなんて言って」

 

 俺たちは高台の上で集まりながら話していた。

 ちゆとペギタン、これでメガビョーゲンを浄化できるプリキュアは二人目になったわけだ。

 ますます持って心強い。

 

「それよりも治くん。大丈夫なの?」

 

 ふいにのどかが俺に聞いた。

 大丈夫ってのは、まあ肩のことだろう。

 ヒビが入ったりしてかと思ったが、あの後は別に何の問題も、痛みも無かった。

 

「おう。今じゃすっかり痛みも引いたぜ」

 

 そんな俺たちを見るちゆ。

 そして彼女はペギタンに向き直った。

 

「ありがとうペギタン。私の大切な物を守れたのは、あなたのおかげよ」

 

「僕の方こそ、ちゆが居てくれたから頑張れたペエ。だから、その……もしも、ちゆさえよかったら、これからも僕と一緒にお手当てしてほしいペエ!」

 

「もちろん! 助けてもらうだけなんてしないわ。それに、そんなことできないもの。そうだわ! ねえ、ペギタン。もしよかったら、私の家に住まない?」

 

「いいのペエ!?」

 

「のどかもたくさん匿うのは大変だと思うし、それに、もっとあなたの事を知りたいわ」

 

 突然名前呼びされて驚くのどか。

 しかしその後、すぐに彼女もちゆを名前呼びしていた。

 さてと、これで新しい仲間も増えて、めでたしめでたしか。

 

「治。ありがとうペエ」

 

「ん?」

 

「治が怖くても良いって言ってくれたおかげで僕、頑張れた気がするペエ」

 

 ペギタンは俺にそう言った。

 

「それは違うぞペギタン。俺のおかげじゃねえ。お前が助けたいって思えたから前に進んだのは俺の力じゃなく、お前とお前のパートナーの力だぜ」

 

 というとペギタンはちゆに方を向き、ちゆもまたペギタンの方を向いて笑った。

 ちなみにこの後、帰ってきたニャトランがペギタンに先を越されて仰天していてのをみんなで笑ったのは、いい思い出だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あと、タイトルとあらすじを変更しました。

それからもしよろしけば、感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いします。


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アニマルクリニック

まあ、今更ですがヒープリでは私は断然花寺のどか/キュアグレース推しですね←タグで分かるっての



 もうかれこれ二時間はこうしてるな。

 俺は重力室の中で4倍の重量と戦いながら思う。

 そして、自分の変化に疑問を持つ。

 

「俺って、何なんだろう…」

 

 最近、前にも増してここに籠もることが増えた。

 のどかやちゆがプリキュアになって、メガビョーゲンって化物が出てきて、俺ももっと役に立ちたいって思ったからか?

 確かにそれもあるかもしれない……けど、役に立つだけならもっと他にもある。

 例えば周囲の人に危害が加わらないよう避難に手を貸すとか、それこそ、いつもラテの近くに居て、メガビョーゲンが出たら真っ先に知らせるとか、方法はいくらでも―――。

 なのにどうして、強さに(こだわ)る。

 

「これも結局分からず終いだし…」

 

 俺の視界の中でピョコピョコと揺れる尻尾。

 物心付いた時……いや、生まれた時から付いてたらしいこの尻尾。

 どうして俺にだけ付いているのか、それもまったく分からない。

 

「ハア…、考えたって仕方ねえよな」

 

 俺はそう呟きながら重量を元にし、重力室を後にする。

 明日は出かける約束だし、午後からとはいえちょっと早めに起きないと。

 もう遅刻は懲り懲りだからな。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「え? ラテが?」

 

 翌日、約束の時間よりも早い時間にのどかから電話を受けた俺。

 

『そうなの、朝は何とも無かったのに、午後からちょっと具合が悪いそうで』

 

「分かった。俺も今から行く。後でな」

 

『うん。待ってる』

 

 そんな会話の後に電話を切った。

 ラテの様子……ねえ。

 そういえば、のどかの奴。

 

「なあのどか、お前ってラテを匿ってから、動物病院とかに連れてったことあるか?」

 

「え……う、ううん。一度も」

 

 あの後、なるべく急いでのどかの家に行った俺はのどかに聞いた。

 そして、のどかからの返答は予想通り。

 

「やっぱりか、多分だけど慣れない環境でストレスが溜まったんだろう。それに、ラテが居たのは文字通り違う土地なんだから」

 

 とりあえず、動物病院で落ち合うことをちゆにも連絡しないと。

 

「近くにある動物病院で、診てもらおうぜ」

 

「うん…」

 

「心配すんな。すぐ良くなるって」

 

 その後、俺たちはちゆと合流し、その動物病院へ向かった。

 ちなみに、ニャトランはまたパートナー探しに出かけたらしい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「うん。治くんの言う通り、ただのストレスだね。これなら、すぐに良くなるよ」

 

「良かったぁ〜!」

 

「ありがとうございます」

 

「俺からもお礼を言わせてください。ありがとうございます。ようたさん」

 

 俺はひなたの兄である平光ようたさんにお礼を言う。

 

「いや、良いんだよ。僕も好きでやってるんだから、それに、みんなはひなたの同級生なんでしょ?」

 

「そうですね。みんな同じクラスです」

 

「そっか。治くんは今年もか、まあ、知ってると思うけど騒がしい妹だから、よろしくね」

 

 俺はようたさんにはいと返す。

 すると、ちゆとのどかが不思議そうな目で俺を見ていた。

 てか、なんでのどかはちょっと怒ってそうな目…?

 

「前から思っていたのだけど、治くんは、平光さんとどういう仲なの?」

 

 ちゆが俺に聞く。

 のどかも激しく同意して聞きたかったのか、うんうんと横で頷いていた。

 

「え、出会っていきなりここに診察されそうになっただけだけど?」

 

 俺はありのままを伝える。

 ようたさんはその時の事を知っているので苦笑いを浮かべているが、ちゆとのどかは驚いていた。

 

「あの時はビックリしたよ。いきなり君を連れてきたと思ったら『病気かもしれない! なんとかならない!?』って言われたからね」

 

「最初に元からこうだったって伝えたんですけど…。優しい反面、猪突猛進な所がありますからねひなたは」

 

 俺たちはハハハと笑った。

 

「そんな事があったんだ……あれ? ようたさんさっき妹って…?」

 

「ああ、ひなたは僕の妹だからね。……もしかして、お父さんと間違えた?」

 

「「ご、ごめんなさい!」」

 

 ちゆとのどかは同時に謝った。

 

「お兄!!! ちょっと見てよこれこれ! この子!」

 

 いきなり開くドア。

 その向こうからひなたが姿を見せた。

 

「ひなたちゃん!?」

 

「お前、確か今日は隣町まで友達と遊びに行くって…」

 

「あー、そうなんだけど。とにかくこの子! 喋る猫発見!」

 

 ひなたは両手でニャトランを見せた。

 当然、

 

「「「!?」」」

 

 俺たちは動揺する。

 プリキュアの事は絶対に秘密。

 ラビリンから再三に渡って言われたことで、その近くにいる俺も正体をバレないように今日は変装のための道具を買いに行く約束したんだから。

 

「喋る猫? ひなたの聞き間違えじゃなくてか?」

 

「それは無い! 絶対に喋ったって…」

 

「そ、そう! 聞き間違いよ!」

 

「お前はいつもそそっかしい所があるんだから、絶対に聞き間違いだって!」

 

「ひなたちゃん! わたし、喉乾いちゃったから、隣のカフェでジュース飲みたいな〜!」

 

 俺たちは三者三様にひなたを押さえる。

 そして、

 

「「失礼しました〜…」」

 

「それじゃあようたさん。頑張ってください」

 

 静かに診察室のドアを閉める。

 そして、隣のカフェで特製のジュースをご馳走してもらう俺たち。

 

「ふわぁ〜美味しい〜!」

 

「ホントだこりゃ美味えや。意外にもこのグミが合ってる」

 

「でしょでしょ! 実はグミ入れるの、あたしのアイデアなんだー!」

 

 ジュースを飲み、その感想を言うと、ひなたは嬉しそうに教えてくれた。

 

「でねでね、さっき拾ったこの猫なんだけど〜」

 

「気のせいよ! 猫は喋らない!」

 

 ひなたの言葉に間髪入れず、ちゆが声を荒げる。

 ちょっと怖い。

 

「ちょっ、ちゆちー怖い〜…」

 

「ちゆちー…」

 

 ひなたから突然あだ名で呼ばれ、戸惑うちゆ。

 そして、

 

「俺の名前はニャトラン! 四人ともよろしくな!」

 

 テーブルの下から出てきたかと思ったら、ニャトランはなんの躊躇いもなくひなたの目の前で言葉を発しやがった…。

 

「ほら喋った!」

 

「あ、ああ…ソダナー」

 

 思わず乾いた笑いを浮かべながら俺は返す。

 こうなったらニャトラン、お前が責任取れよ…。

 俺はニャトランを見ながらそう思う。

 

「あたしはひなた! ねえ、ニャトランはどうして喋れるの?」

 

「それが分からないんだ。生まれた時から俺だけ喋れてさ」

 

「あ、そうなんだ。おさむんも、尻尾が生まれつき生えてるって言ってたし、あたしってそういうのに縁があるんだ〜!」

 

 ニャトランを説明を受け、ひなたは納得した。

 意外だ! 意外なところでこの尻尾が役に立ちやがった!

 

「彼女ああ言ってるけど…これで良かったのかしら…?」

 

 ちゆが俺に耳打ちする。

 

「仕方ねえだろ。ああなっちまったんだ。もうニャトランに任せるしかない」

 

 俺はちゆにそう返す。

 そしてニャトランとひなたの話は進む。

 

「なあひなた。俺のことはみんなには内緒にしてくれよ」

 

「もちろんだよ! てか、初めからそうするつもりだったし」

 

 ひなたの言葉で俺たちは一斉に彼女を見た。

 

「うぇ? どうしたのみんな、あたし何か変なこと言っちゃった感じ!? だって、見世物になっちゃったら可哀想じゃん!」

 

「いや、だってさっきようたさんに真っ先に見せようとしてたから」

 

「あ、あれは、そうなる前に保護するーとか、迷子だったらお家探すーとか、お兄に相談するー…とか、色々考えて慌てちゃって…。はあ、駄目だなあたし…またすぐ周り見えなくなっちゃうんだもん」

 

「そうだな。ここでのどかにぶつかって、急いで謝って急いで駆け抜けていくくらいだもんな。お前」

 

「ええ!! なんでおさむんがその事知ってんの!? のどかっちから聞いた!?」

 

「いやあの日俺もその場に居たんだよ」

 

「嘘ぉ!?」

 

 嘘言ってどうなるんだよ俺。

 何も良いことねえじゃん俺に。

 そんな事を考えてると、のどかが不意に笑った。

 

「あれ? どしたの、のどかっち」

 

「ひなたちゃんって優しいんだなって思って」

 

 のどかにそう言われると、ひなたの顔は見る見る紅くなった。

 

「ふぇっ!? いやいやいやいや、あたしなんて全然だってば!」

 

 ひなたは腕をぶんぶん振りながら否定する。

 そこで俺は、さっきようたさんが言ってた事を思い出した。

 

「なあひなた。お前確か今日…」

 

 俺が話しかけた瞬間。

 ひなたのスマホが鳴り、それを確認したひなたの顔が紅から真っ青になっていく。

 

「あーーーーーーーーー!!!!」

 

 そしてひなたは絶叫した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あの後起こった事を説明しよう。

 ひなたは今日、隣街にある大型ショッピングモールに友達と遊びに行く予定があり、元々遅刻しそうだったが途中でニャトランと遭遇。

 そして先ほどの俺たちとの事に繋がり、さっきのスマホはひなたの友達から彼女への催促の連絡だったようだ。

 

「どこにいるんだろ〜…」

 

「今どこに居るのか、連絡つかないの?」

 

「うん…。さっきから掛けてるけど、全然繋がらない…」

 

 というとひなたは(うずくま)ってしまう。

 

「はあ…やばぁっ…。またやっちゃった…」

 

「また、って?」

 

 そんなひなたにのどかが聞く。

 

「あたし、目の前のことでいっぱいになって、すぐに他のこと忘れちゃうんだ〜…。今日みたいに遅刻するのも、何度もあったし…」

 

 ひなたは自分を責める。

 だが、そんな彼女の頭にニャトランが乗った。

 

「任せとけよひなた」

 

「ニャトラン?」

 

「ひなたは、俺を助けようとして遅刻したってことをちゃんと俺が説明してやるよ」

 

「ありがと〜。優しい〜!」

 

 いや待て待て待て、お前が説明したら結局バレんだろうが…。

 

「説明は俺たちでしよう。な、ちゆ?」

 

「え、ええそうね。そっちは私たちに任せてちょうだい!」

 

「そうだね。ひなたちゃん。とりあえず、二人を探そう? 大丈夫だよ。みんなで探せばすぐに見つかるよ」

 

 ちゆとのどかがひなたを慰める。

 

「みんな、ありがとう!」

 

 そして、俺たちはひなたの友達を探すことになった。

 その途中、

 

「ごめんね治くん。今日は買い物の約束だったのに…」

 

 のどかが俺に言う。

 

「なあに、目的地には着いたんだ。早く見つけて、買い物に戻ればいいさ」

 

 と俺は言ったが、結局しばらく見つからず……挙げ句の果てには。

 

「……くしゅん!」

 

 ビョーゲンズが現れた、か。

 

「よし、ニャトランはひなたを逃してくれ。俺たちはビョーゲンズをやろう」

 

「分かった。任せろ!」

 

 ニャトランはそう言ってひなたの方へ向かった。

 

「よし、俺たちも行くぞ」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はキュアスパークル登場です!

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ひなたとニャトラン!

最近全然タイトルが思いつかない…どうしよう…


 俺は変身したグレース、フォンテーヌと共にメガビョーゲンの現れた場所にたどり着いた。

 

「フッ! 来たなプリキュア! そして、プリキュアと共に戦う男!」

 

 俺たちを見るや大声で叫ぶ巨漢。

 ダルイゼン、シンドイーネと違い、筋骨隆々であいつ自身でも戦えるんじゃないかと思えるような奴だった。

 

「アイツは、ビョーゲンズのグアイワルラビ!」

 

「ビョーゲンズって…、色んな奴が居るんだな…」

 

「そんな事を言ってる場合じゃないわよ!」

 

 ラビリンの言葉に俺が返す。

 すると、状況を見ているフォンテーヌからお叱りを受けた。

 

「お前たちの力! オレに見せてみろ! やれ、メガビョーゲン!」

 

「メガッ! ビョーゲン!」

 

 グアイワルの指示で攻撃を開始するメガビョーゲン。

 今回は何がモデルなんだ?

 今回のメガビョーゲンは、マフラーとコート、それからハット帽を被るというなんともオシャレそうな格好をしている。

 

 が、どうやらちゃんと攻撃手段はある様だ。

 俺はメガビョーゲンのマフラー攻撃を躱して思う。

 

「やれやれ、攻撃しないでくれるとあいつらの浄化も早くて助かるんだけどな!」

 

「フン! ダルイゼンやシンドイーネの軟弱なメガビョーゲンと一緒にしてもらっては困るな。メガビョーゲン! その男は後回しだ、まずはプリキュアをやってしまえ!」

 

「メーガー!」

 

 ……はあ、まったく!

 

「俺も思ってるけど、甘く見られたもんだぜ! ……フン! ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 メガビョーゲンの被害で崩れた瓦礫の山。

 俺はその中からなるべく大きめの物を持ち上げる。

 

「食らえ!」

 

 俺はメガビョーゲンの頭部めがけて瓦礫を投げる。

 だが、メガビョーゲンはくるっと一回りしたかと思うとマフラーのはたきだけで瓦礫を俺に返した。

 

「いぃぃっ!?」

 

 そして、瓦礫は俺めがけて飛んでくる。

 

「治くん!」

 

「危ない!」

 

 グレースとフォンテーヌが言う。

 危ないのは俺だって分かってるけど、俺だって強くなってんだ。

 

「舐めんなぁ!」

 

 メガビョーゲンに負けじと俺も回し蹴りを出す。

 その回転の勢いを利用し、俺は瓦礫を粉々とは行かないまでもかなり小さいサイズまで砕くことに成功した。

 

「おー、イテテ…」

 

 それでも結構痛かったけど…。

 

「ほお、中々やるな」

 

 それを見ていたグアイワルから褒められる。

 

「敵に褒められても嬉しかねえな。それに、俺だってあいつらの隣で、あいつらと戦ってんだ。そろそろこれくらいは出来ないとな……あと、俺にばっか集中してていいのか?」

 

 俺はその言葉と共に、宙へ飛び上がったグレースを指差す。

 

「ハアーッ!」

 

 グレースはラビリンが変身したステッキからハートのビームを繰り出す。

 ……いや、あんなんあんなん出来んのか…。

 

「メガ!」

 

「!?」

 

 だが、メガビョーゲンはあろうことかグレースの攻撃をそのままの威力で彼女へと返す。

 いや、この場合……反射させたって言い方の方が良いのかもしれない。

 

「グレース! 避けろ!」

 

 俺の言葉のまま、グレースは攻撃を回避する。

 

「まさか、攻撃を反射させるなんて…」

 

 フォンテーヌが動揺して言う。

 そして俺はグアイワルを見ると、アイツは笑っていた。

 

「なるほど、確かにアイツの言う通り、前までメガビョーゲンとは違うって事だな」

 

「治…。どうして笑ってるペエ?」

 

 俺は指をコキコキ鳴らしながら言うと、ちゆのステッキからペギタンが聞いてきた。

 …俺、笑ってた?

 ペギタンの言葉を不思議に思う俺。

 けど、多分ちゆの表情から見てもそうなんだろうと思う。

 

「なんでかな、ホント最近おかしいんだけどよ。強い奴見ると、ワクワクしちまうんだよ」

 

 というと、近くに寄ってきたグレースが俺の手を取り

 

「治くん…」

 

 と、不安そうに声を上げる。

 何を不安にしてるかは知らないけど、

 

「安心しろ。俺は今もこれからもお前らの知ってる俺で変わらね……ええ!?」

 

 俺がグレースにカッコつけようとしたその時、視線の先にはありはしない、あって欲しくない姿があった。

 

「うそ…、え、何? プリキュア…? ……ってあー!おさむん居たー!」

 

 そこには、ひなたが居た。

 しかも近くには、ニャトランも居る。

 そしてひなたは俺を見ると一直線にやって来た。

 

「おいメガビョーゲン!」

 

「メガッ!?」

 

「ちょっとあいつと話す。お前の相手はその後しっかりするから、邪魔すんな…!」

 

 俺が言うとメガビョーゲンは両手を下げた。

 いや敵に言うのもなんだけどそれでいいのか!?

 ……いやいや、それよりも

 

「ひなた、お前なんでここ「ええ〜!? 可愛い〜〜〜っ!!!」……」

 

「「え!?」」

 

「はっ!?」

 

「ハアーーーーーー……」

 

 俺の言葉を遮るひなた。

 その彼女の言葉に、グレースとフォンテーヌはもちろん、グアイワルまでも気が抜ける。

 

「ええ! うそめっちゃ可愛い! ……あ、じゃなくてねえプリキュアの人たち、この辺で女の子二人見なかった!? このおさむんと一緒に居て、一人はショートヘアの子で、もう一人は髪を一つ結びにしてて、どっちもあたしの大切な友達なんだけど〜!」

 

 そんな俺たちに構うことなくひなたは言う。

 てかお前、のどかとちゆ探しに来たのかよ…。

 ……もう隠せねえか。

 俺はそう思って一瞬ラビリンたちを見る。

 そして、

 

「そこに居るよ二人とも、そのプリキュアがのどかとちゆ。分かったらお前は危ないから早く離れてろ」

 

 俺はひなたに言った。

 すると彼女は、

 

「うぇぇぇ! マジで!? のどかっちとちゆちー!? どうりで可愛いと思った! ねえねえ、どうやって着替えたの? 魔法? 誰デザイン!? もう超可愛い〜〜〜〜!!」

 

 と大はしゃぎした。

 

「こいつ、ある意味大物だぜ」

 

「ぷっ、にゃははは! だよな治! やっぱり俺の目は正しいぜ。ひなた、さっきまでビビってたのになんだそれ?」

 

「え? あっはは、あたし可愛いもの見るとついね。……そう言われるとまた怖くなってきちゃった」

 

 ひなたはまたしてもマイペースに言った。

 その言葉に思わず俺もグレースもフォンテーヌもその場でコケる。

 

「あっはは…、マジすげえやこいつ」

 

「も、もう…」

 

「ひなたちゃん!」

 

 俺たちがそう言うと、それまで動きを見せてなかったグアイワルが声を出した。

 

「……ハッ! いかんいかん! おいメガビョーゲン! いつまであの茶番に付き合っているんだ! やってしまえ!」

 

「……! メガビョーゲン!」

 

 メガビョーゲンはその指示で再びマフラーを俺たちに向ける。

 

「しまった…!」

 

「きゃあっ…! うっ、苦しい…!」

 

 咄嗟のこと過ぎてひなたを庇うので精一杯だった俺。

 そのせいで、グレースとフォンテーヌはメガビョーゲンに捕まってしまった。

 

「のどかっち、ちゆちー! コラーッ! そこの怪物、二人を離してよー!」

 

「おい、危ねーから逃げろって…! ニャトラン! なんでひなたをここに連れてきたんだよ!?」

 

 俺の手から抜け出し、メガビョーゲンに叫ぶひなた。

 それを見ていた俺は思わず、ニャトランに話しかける。

 

「見つけたかもしれないニャン。俺の心の肉球にキュンと来る。俺のパートナーを!」

 

 ニャトランは俺にそう返した。

 そしてひなたを見る。

 ひなたが、ニャトランのパートナー…?

 

「これ以上二人に何かしたらあたしが許さないからねー!」

 

 今もなお叫ぶひなた。

 そんな彼女をさすがに鬱陶しいと思ったのか、グアイワルはメガビョーゲンにひなたを攻撃するよう指示を出す。

 そして、メガビョーゲンは右手でひなたを張り飛ばさんとしている。

 

「っても、危険すぎんだろ!」

 

 俺はニャトランにそう言った。

 そして俺はメガビョーゲンの攻撃からひなたを庇い、彼女もろとも壁へと飛ばされ、俺たちはそのまま店内へ突撃する形になった。

 

「おさむん!? ……大丈夫?」

 

「なんとかな、これでも鍛えてるから。……まあ、今背中すげえ痛いけど…」

 

 多分ひなたを庇うのを最優先にさせたから、なんだろうけど背中に激痛が走っている。

 つか、腕も熱い…。

 と思いながら俺は自分の腕を見る。

 

「あー、出血か」

 

「え! 血!? は、早く手当てしないと!」

 

 俺は自分の腕から流れる血を見て静かに言う。

 しかしひなたは、俺以上に俺の心配をしていた。

 

「俺のことはいいから、早く逃げろって…俺は二人を助けないと、仲間だからな」

 

 俺はそう言って店から出ようとする。

 すると、崩れた壁の上にニャトランが立っていた。

 

「おおニャトラン、無事だったか。悪いけど、ひなた連れてさっさとここから離れてくれよ」

 

「あ、ニャトラン! あの怪物に怪我とかされてない!?」

 

「へっ…?」

 

 ニャトランは意外そうな顔をする。

 そしてひなたを見て、

 

「……ハハ、ニャハハハハ! やっぱり最高だよひなた!」

 

 と言った。

 

「なあひなた、俺と一緒にプリキュアにならないか?」

 

 ニャトランは急に雰囲気を変える。

 そして、真剣にひなたに言った。

 

「え、プリキュア…? のどかっちとちゆちーみたいなの? あたしもなれるの?」

 

「ああ、あの怪物。ビョーゲンズから地球を守るんだ!」

 

「地球を、守る……」

 

「そう、お前の中の好きなものや大切なものを、お前の手で守るんだよ!」

 

「……!」

 

「ひなた、お前ならできる! ていうか、俺はお前と組みたい!」

 

 ニャトランは強くそう言った。

 ひなたもまた、拳を握り立ち上がる。

 そして、ニャトランに歩み寄る。

 

「うん。分かった。やるよ、ニャトラン!」

 

 ひなたはニャトランの手を取った。

 そしてその瞬間、二人を中心に一気に激しくなった光に俺は思わず目を閉じる。

 その光がある程度収まったとき、俺の目の前にはグレースやフォンテーヌが持っていたステッキが現れていた。

 

「しゃあーー! 来たぁ!!」

 

 喜ぶニャトランと何も言わずにステッキを手に取るひなた。

 

「ひなた! この光のヒーリングボトルをヒーリングステッキにセットするニャン!」

 

「オッケ〜!」

 

 そういえば、初変身を見るのはこれが初めてだな。

 

「「溶け合う2つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

 そんな事を俺が思っていると、俺の目の前に三人目のプリキュア、キュアスパークルが立っていた。

 

「ええ〜っ!? めっちゃ可愛い〜!」

 

 あ、やっぱ中身は変わんないのね…。

 まあ、のどかもちゆも変わってないから当たり前か。

 てか、変身しただけで性格なんて変わらないか。

 

「あー、はしゃいでるとこ悪いんだが。スパークル? そろそろ行ってもいいかな?」

 

「うわ〜! ごめんねおさむん! よし、二人で一緒にアイツをやっつけちゃお〜!」

 

「俺も居るから三人だな!」

 

 スパークルとニャトランはそんなやり取りをした。

 

「くぅっ…またプリキュアが増えた! 仕方がない、やれメガビョーゲン!」

 

「メガビョーゲン!」

 

 グアイワルからの指示。

 それに合わせてメガビョーゲンの両目が不気味に光った。

 

「二人ともジャンプだ!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

 スパークルは上、俺は横に回避する。

 その瞬間、メガビョーゲンからの激しい攻撃。

 一歩間違えば確実に喰らってた。

 

「うわっ! すごっ!?」

 

「これで驚いてもらっちゃ困るぜ。行くぜ、俺のパートナー!」

 

「オッケ〜!」

 

 スパークルは落下の勢いのまま、ヒーリングステッキを使ってメガビョーゲンのマフラーを切り裂く。

 そして、フォンテーヌとグレースは解放された。

 

「よっと、二人とも大丈夫か?」

 

「ありがとう、治くん。助かったわ」

 

「ありがとう〜」

 

 俺は落ちてくる二人を受け止める。

 その様子を見ていたスパークルは、

 

「よ〜しこのままやっちゃうよ〜!」

 

 と言い、グレース同様に空中からビームを出す。

 が、さすがのメガビョーゲンも馬鹿ではないようで、その攻撃に対してバリアを張っていた。

 ちょうどさっき、グレースの技を反射させたのと同じものだ。

 

「あのままじゃ、また反射されちゃう」

 

 グレースが言う。

 その中で俺はある事に気づいた。

 

「メガビョーゲン!」

 

 ……アイツ、バリア張るとき手塞がらね?

 その咄嗟の閃き。

 だが今はそれに賭けるしかない。

 

「やってみよう。グレース、フォンテーヌ、スパークル!」

 

 俺の呼び声に三人は反応する。

 そして、近くに寄った。

 

「どうしたの?」

 

「多分だけど、アイツバリア張る時手塞がる。んで、そうすっとその場から動けなくなるから…………」

 

 俺は作戦の指示を出した。

 こういうのは苦手なんだけどな。

 

「オッケ〜! それで行ってみよう〜、おさむんナイスアイデアだよ!」

 

「ええ、私もそれで良いと思う。ありがとう、治くん」

 

 スパークルとフォンテーヌはそう言い、グレースはこくんと小さく頷いた。

 

「よっし! んじゃいっちょやってみっか!」

 

 俺の合図で、グレースとフォンテーヌがメガビョーゲンの左右に陣取る。

 

「「ハアーッ!」」

 

 そして二人は同時にメガビョーゲンへ遠距離技を放つ。

 

「フン! 無駄だ、そんな物は跳ね返せる」

 

「じゃあやってみよう」

 

「何っ!?」

 

「行くぞスパークル! 上手くやれよ!」

 

 俺はバレーのアンダーレシーブポーズで構える。

 そして、スパークルが腕を足場にし、高く跳び上がる。

 彼女を投げ飛ばした俺は全力の一撃を込めてバリアを殴りつけた。

 

「ハアーーーッ!!」

 

「たあああああっ!!」

 

 誰の攻撃によってかは知らないが、メガビョーゲンのバリアは粉々に砕け散る。

 そしてそのまま頭上から空いているメガビョーゲンの頭部めがけて遠距離技を浴びせ、スパークルの攻撃を直に受けたメガビョーゲンは後ろに倒れそうになるも、なんとか留まる。

 

「よし、このまま一気に倒しちゃお〜!」

 

「倒すんじゃなくて浄化すんだ!」

 

「え? 浄化…?」

 

 いきなりそんな事言われても、という風に困惑するスパークル。

 そして、メガビョーゲンはなんとかそのスパークルに近付こうとしていた。

 

「うわわ!」

 

「させねえ!」

 

「メガッ!?」

 

 俺は本日二度目となる瓦礫飛ばしをした。

 そして二度目は、メガビョーゲンが後ろを向いていた事もあったおかけで見事頭部に炸裂する。

 

「「キュアスキャン!」」

 

 その隙にニャトランが教えたんだろう。

 キュアスキャンをしてエレメントの場所を特定するスパークル。

 そして、

 

「「ヒーリングゲージ上昇!」」

 

「プリキュア! ヒーリング・フラッシュ!」

 

「ヒーリングッバイ…!」

 

「「お大事に!」」

 

 スパークルのデビュー戦は彼女の活躍で華々しく終わった。

 

「ちっ! 今日はこれまでか…。まあいい。一つ分かったことがある。そこの男は!」

 

 戦いが終わり、グアイワルが去る前に俺を呼んだ。

 

「なんだよ?」

 

「お前は、プリキュア達の足手まといにしかならない。何故ならお前には、プリキュア達のようにメガビョーゲンを浄化することも出来なければ、メガビョーゲンに大したダメージすら与えられない。今日の戦いでお前が誇れる事が一つでもあったか…?」

 

 グアイワルはそう言って去った。

 

「ちっ…、人が気にしてる所を突いてきやがって」

 

 俺はグアイワルが去った後、そう呟いた。

 

「…………だ、大丈夫だよ! おさむんはめっちゃ助けになってるって!」

 

「そうよ! 今日だって、あのバリアを壊せたのは治くんのおかげなんだから!」

 

 そんな俺を見かねてか、ちゆとひなたが励ましてくれた。

 

「……いや、どうなんだろうな」

 

 それでも少し、俺の心は晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本日放送された11話の内容を見て、アニメ11話のこの小説内での展開を決めました。

あと、もしよろしけば、感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いします。

みなさんもコロナにかからないよう万全の注意をしてください


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願いとわがまま

5話に関してはちょっとオリジナルの展開というか、視点にさせていただきます


「……はあ…」

 

 授業中、俺はため息を吐いて窓の外を眺める。

 

『お前はプリキュアの足手まといにしかならない』

 

 ……。

 

『お前に何か一つでも、誇れるものがあったか?』

 

 ……分かっている。

 結局のところ、浄化ができない俺が居たところで何も変わらない。それでも、少しは強くなれた……そう思ってたんだけど、敵とはいえああまでハッキリ言われるとな…。

 その日は、その事にのみ意識を持っていかれ、気がついたら学校は終わっていた。

 

「治くん。ちょっといいかな…?」

 

「…………」

 

「えっと、あの? おーい?」

 

「……あ! のどかか? 悪い、ちょっと考え事をな。どうかしたのか?」

 

「えっと、実はね」

 

 のどかの話だと、今日の放課後新しく加わったひなたへの説明も兼ね、改めてプリキュアやヒーリングガーデンの事について知っていこうという話らしい。

 

「分かった俺も行こう」

 

「うん!」

 

 俺が言うとのどかは屈託のない笑顔を浮かべる。

 そんな彼女の顔が、今の俺には少し眩しすぎた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「よし、とりあえず今までの確認してくぞ」

 

 ある程度の事を話した後。

 俺はひなたのお姉さん特製のミックスジュースを飲みながら言う。

 

「まず、ラテの母さんのテアティーヌって人の認識は覚えてるか?」

 

「もっちろん! ヒーリングカーテンの偉い人でしょ!」

 

 ひなたは自信満々に言う。

 が、不正解だ。

 

「ヒーリングガーデンの女王様ラビ」

 

 ラビリンに訂正されるひなた。

 本人的には頑張ってるつもりなんだろうが、その頑張りがどうにも空回りしてる所があるっぽい。

 

「じゃあ、また続けていくね」

 

 そんなひなたのためにのどか説明を続けようとした。

 しかし、

 

「悪いのどか、ちょっと待ってくれ。俺からラビリン達に一つ聞かなきゃいけない事を思い出した」

 

 そんな話を俺は遮った。

 

「どうしたんだよ?」

 

 そして、そんな俺にニャトランが聞く。

 

「ビョーゲンズが作っている…ってか、呼んでるメガビョーゲン。アイツらはプリキュアじゃないと浄化できないのは今までも見てきたから分かるんだけど、俺みたいな一般人でもダメージを与えられるって事はアイツらを倒すだけなら俺でもできるんじゃないのか? なんでわざわざ浄化なんだ?」

 

 俺は気になってしまった事を聞いた。

 そして、静かにペギタンが口を開く。

 

「確かに、メガビョーゲンを倒すだけなら普通の人間にもできるかもしれないペエ…」

 

「なら…」

 

「けど、それじゃあエレメントさんを助けられなくなっちゃうペエ」

 

 ペギタンはそう言った。

 そしてそれをラビリンが細かく説明してくれる。

 

「エレメントさんはこの地球のあっちこっちに居るラビ。今この地球の木や花が元気でいられるのもエレメントさんのおかげラビ」

 

 ラビリンの言葉に俺は頷く。

 それは分かってる。

 なにせ今まで見てきたんだからな。

 

「でも、もしビョーゲンズに蝕まれたままメガビョーゲンを倒しちゃったら、そのエレメントさんも倒すことになるラビ。そうなったら、その蝕まれた場所は……」

 

「元に戻らない。ということね?」

 

 ちゆが聞くとラビリン達も頷く。

 なるほど、だからあんな頑なに倒すって事に否定的だったのか。

 

「分かった。そういう事ならやっぱしょうがねえよな。お前らもお医者さんなんだもんな。何かイジワルな事聞いちまったみたいでごめんな」

 

「治。もしかして昨日のグアイワルが言ってること気にしてるペエ?」

 

「―――」

 

 そのペギタンの言葉に俺は何も返せなかった。

 気にしてる。気にするに決まってる。

 けど、今ここでそれをこいつらに言っても変わらないからな。

 そしてその日のおさらい会はそれでお開きになった。

 一応、プリキュアも増えたから正体が、バレないようにみんな気をつけるようにとちゆに注意された。

 

 そういえば、ひなたの奴がやけにちゆに対して距離感を持ってたっていうか、少し腰を引いてる感じがしたような……気のせいか?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 その翌日の昼休み―――。

 俺はのどかに呼び出された。

 場所は人なんてほとんど来ない校舎裏だ。

 

「なんすかのどかさん。俺絞められんすか?」

 

「し、絞めないよ! 治くんわたしを何だと思ってるの〜!?」

 

 あ、のどかって絞めるの意味知ってるんだ。

 などと呑気に思いながら、俺は本題に入る。

 

「で、どうしたんだよ? 俺だけなんて、ちゆやひなたは一緒じゃないのか?」

 

「うん。そのちゆちゃん達の事なんだけどね」

 

 話を聞くと、ひなたとちゆはお互いがお互いを気にしすぎているとの事だった。

 ひなたは自分の軽いところにちゆが怒っていると思い、ちゆは逆に自分の真面目すぎるところがひなたを怖がらせてしまっているんじゃないのか、と気にしていることを両者ともにのどかに相談したらしい。

 

「どうしたらいいのかな? わたし、ちゆちゃんにもひなたちゃんにも仲良くしてほしいよ」

 

「うーん、けどなぁ。そういうのって結局、時間が解決したりするからな……のどか、たまには俺じゃなくお前のお母さんとかに相談してみたらどうだ?」

 

「え、お母さん…?」

 

「そうそう。こういうのはやっぱり、俺たちよりも経験豊富な人に聞いてみるのが一番だからさ。そうしてみろよ」

 

 俺が、そう言うとのどかはそうしてみると言っていた。

 けど、いつもの俺ならのどかの力になってやりたい。

 そう思っていたはずだ。

 ……もしかしたら、本当に距離を置こうとしてるのはちゆとひなたじゃなく、俺とのどか達なのかもしれないな。

 

 教室に戻る最中、俺はそう考えていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 翌日―――。

 

「みんなで水族館に行こう!」

 

 もはやここしか集まる場所無いんじゃないの?

 と思われるかもしれないが俺たちはまたしてもカフェに集まった。

 そして、その時にのどか水族館のチケットを見せて言ってきたのだ。

 

「……のどか、それは別に構わないんだろうけど」

 

「え?」

 

「それ、三枚しかねえぞ」

 

 のどかに俺は言う。

 そしてのどかも手元にある水族館のチケットを見ると確かにそこには三枚のチケットが握られていた。

 なんでも、お母さんから渡されたらしい。

 まあ、ラテとラビリン達はぬいぐる等々でごまかしは効くと思うが、さすがに俺達は厳しいだろ…。

 

「私はいいから、みんなで行ってきて」

 

 ちゆが真っ先に席を立とうとする。

 そして、

 

「え! ダメだよちゆちー! あたしが帰るから、ちゆちー達は楽しんできて!」

 

 次にひなたが席を立つ。

 そして二人は、その場で少し言い争いになった。

 一方の俺はというと、のどかを見た。

 急にこんな事を言い出すなんてどうしたんだと思いながら彼女を見ていると、のどかも何か言いたそうになっている。

 

 そこで俺は昨日彼女から聞いた話を思い出した。

 おそらく…いや、間違いなくあの話からここに繋がっているはずだからひなたとちゆの存在は絶対に必要。

 そしてそこにのどかが居ればきっと上手く行くだろう。

 それに、今は俺としてもこんなところあんまり見てほしく無いしな。

 

「悪いのどか! そういえば俺今日用事あったんだ!」

 

 俺は机をバンと叩いて言う。

 そんな俺にその場の視線が集まる。

 

「すっかり忘れてた。急ぎの用事で父さんから買い物頼まれてたんだ。だから今日は行けねえやこれから隣街のショッピングモールに行かないと…じゃあな!」

 

 俺は全員に有無を言わせずに走り出した。

 もちろん、そんな用事は存在しない。

 ただ、のどかの願いと俺のわがままが一致した。

 それだけの理由であるが、まあいいかと思いながら俺は隣街まで走ることに舌のだった。

 

 そういえば、一人で過ごすのなんて久しぶりだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まあ、オリ主もまだまだ子どもですからこんな事もありますよね…。
ちなみに、のどか達の方で起こることはアニメと何の変化もありません。

しつこいようですが、よろしければ感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いします


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夕陽だけが知る絆

今更第一話の後書きで変な事を書いててしまったので慌てて訂正してきました

訂正前:超サイヤ人以外の変身形態は出ない

訂正後:超サイヤ人の変身形態は超サイヤ人1以外出ない

そしてやっぱりオリジナルで話を進めようとすると文字数が短くなる…。くっそー


 逃げるようにカフェから走り去り、ショッピングモールの入り口に立つ俺。

 

「来たはいいものの、これからどうしたもんか…」

 

 後先考えずに来たものだから、俺はその場に立ち尽くしてしまう。

 

「治?」

 

 そんな時、俺を呼ぶ聞き慣れた声がした。

 

「父さん?」

 

 そこには俺の父、彩野(さいの)永徳(えいと)が居た。

 

「どうしてここに居るの?」

 

「それはこっちの台詞だ。お前こそ今日は出かけるって言って朝から出ていったじゃないか」

 

「それは、その……ちょっと、ここでの用事を思い出して」

 

 父さんからの言葉に俺は濁しながら言う。

 

「ふーん。まあいいや、ここで会ったのも何かの縁だし、たまには親子二人で買い物でもしよう」

 

 父さんは俺の背中を叩いて笑う。

 ……まったく、こんなところで会うなんて本当に奇妙な偶然だ。

 

「まあ、たまにはいいかもね」

 

 俺は笑いながら父さんに言い、そして聞いた。

 

「そういえば、父さんは何を買いにきたの?」

 

「うーん? ちょっと新しい発明の手助けになる様な物があればと思ってな」

 

「一体何作ろうとしてんのさ…」

 

「そうだなー、可愛い息子の為にまたトレーニング器具でも作ってやるか?」

 

 父さんは笑って言う。

 というか、この人にしてもあの母にしてもそうなんだがこんな一般的に手に入るような物であの重力室作るって頭の中どうなってんだ?

 

「お前は何か欲しいものでもあるのか?」

 

「欲しいもの…っていうか、なんかこう顔を隠せる的な小物を探しに」

 

「なんでそんなもん探してんだ?」

 

 いやーちょっと友達がプリキュアやってて地球守ってんだわ!

 って言えるわけねーだろ!!

 

「じゃあ変装グッズでも作ってやろうか?」

 

「そんなもん作れるの?」

 

「まあ一応。また弥生(やよい)の力を借りることになるだろうけど、服を粒子状に変化させて必要な時だけ体に装着させられるようになるだろ。まあ、多分服の種類によって重さが変わると思うけどな」

 

 いやだからなんでそんなの作れんだよ!

 そんな物作れるなら早く作ってノーベル賞でも獲ってくれよ!

 俺は心の中で目の前のハッハッハと笑う父親に叫ぶ。

 あ、ちなみに弥生ってのは俺の母親である彩野(さいの)弥生(やよい)の事だ。

 ……って、またまた誰に言ってんだ俺は?

 

「うーん…。でもそんなに大掛かりな物じゃなくて帽子とサングラスとかで良いんだよな。顔隠せるような…」

 

「なるほどなるほど顔を隠せるようなものね」

 

 おい待て何をメモってるんだ父よ?

 しまった…。余計なこと言ったか?

 そんな俺を置いて、父さんは楽しそうにそのショッピングモールを見て回っていた。

 

 ……まったく、そんな楽しそうな顔見てると、こっちまで楽しくなってくるだろうが。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「いやー、買った買った。こんだけ買えば充分だろ」

 

「……これで充分じゃなかったらあんたら世界滅ぼす兵器でも作るんじゃねえの?」

 

 俺は両手に埋まりきれずに首からすら父さんの買った荷物を下げて言う。

 ホントにこういう金使いとか子どもみたいだよなこの父さん。

 

「んで、もう今日はこれで帰る?」

 

「いや、最後に寄って行こう」

 

「寄る? どこに?」

 

 俺が聞くと父さんはまた笑う。

 そしてそんな父さんに連れて行かれた場所は、俺がよく知っている場所だった。

 

「ここは…」

 

「好きだもんな、この場所」

 

 父さんは高台の手すりによしかかって言う。

 あまりにも二人でショッピングモールを回りすぎたせいで時間はもう夕方。

 夕陽が沈みそうになっているのが見えている。

 

「まあ、確かに好きだけどね」

 

「……で、どうしたんだ? 最近」

 

 父さんの横に立って俺が言うと、父さんは突然そう言ってきた。

 

「な、何? 突然…」

 

「最近、いつにも増して俺達の作った重力室に籠もりっきりだって、心配してたぞ」

 

「母さんが?」

 

 俺が聞くと父さんは頷く。

 

「……なんで、かな」

 

「強くなりたい……だったか」

 

「?」

 

「ほら、この街に来た一番最初の日に欲しいものがあるか聞いたろ? 今日みたいに」

 

 ……三年も前だから覚えてないよ…。

 と言おうと思ったが、正直覚えてる。

 あの時の俺は、のどかとの約束を破ってしまって落ち込んでた俺だからな。

 

 けど、その時から強くなりたいって言ってたのは覚えてる。

 そんな事を覚えててくれたのか、この人は。

 

「……はぁ、はぁ…!」

 

 そんな時、ここを目指して人が走って来ていた。

 息を切らして、それでも走る速度を落とさず、一心に。

 

「あの子…」

 

「……のどか」

 

 それは、のどかだった。

 おそらくちゆ達との水族館で仲良くなろうプランが終わったのだろう。

 

「はぁ…はぁ…良かった…ここに、居た…」

 

 高台にようやく着いたのどかはそこでようやく足を止めた。

 そして、

 

「どうやら、大人はお邪魔みたいだな。遅くならない内に帰るんだぞー」

 

 父さんはそれだけ言ってその場を去る。

 途中、のどかに挨拶をして。

 

「のどか」

 

「治くん」

 

 俺達は互いの名前を呼んだ。

 それから少しの間を置いて、

 

「「ぷっ…あっはっはっはっは!」」

 

 俺達は同時に笑い声を上げる。

 どうしてかは分からない。

 けど、なんとなく笑いたくなった。

 

「なんで俺がここに居るって分かったんだよ?」

 

「だって、治くん前にここがお気に入りって言ってたから」

 

 そんな話を交わして、俺はのどかから水族館での事を聞いた。

 ペギタンが迷子になった事、その最中にシンドイーネがメガビョーゲンを出して地球を蝕もうとした事。

 そしてそれがきっかけでちゆとひなたの仲がしっかり深まった事を―――。

 

「そっか、ちゃんと浄化できたんだな…」

 

 やっぱり俺はもう必要ないのかもな。

 

「けど、やっぱり思ったの」

 

 そんな事を考えて下を向こうとする俺にのどかが言う。

 

「わたしは、ちゆちゃんやひなたちゃんが一緒にプリキュアをやってくれて凄く嬉しかった。ううん、それだけじゃなくてこれからもみんなと頑張ってプリキュアをやりたいと思う。……でも、わたしは、治くんにも居てほしいの」

 

「…………けど、俺は」

 

「浄化ができない?」

 

「っ!」

 

 言おうとした言葉を先に言われて俺は驚く。

 そして次に、なんで分かったのかを聞こうとしたら。

 

「分かるよ。だって治くん、最近そればっかりだもん」

 

 のどかはさっきの父さんと同じように沈む夕陽を眺めて言う。

 

「けど、わがままなのも分かってるんだけど…。それでもわたしは治くんとも一緒に頑張りたい。治くんが隣に居てくれると、安心するって言うか、元気が湧いてくる気がするんだ……だから」

 

 ―――これからもわたしと一緒にビョーゲンズと戦ってくれる?

 

 のどかにそう聞かれる俺。

 一瞬言葉に詰まった。

 

「も、もちろん! 治くんが嫌だって言うならそれも仕方ないかなって思うんだけど……あの、その…うぅ〜!」

 

 けど、さっきまでのあの真剣な雰囲気がどこに行ったのかと思うほど狼狽えるのどかを見て俺は返事をした。

 

「分かった。力になれるかは分からないけど……俺も頑張ってみるよ。それに、ラテ達も放っとけないしな」

 

 俺がそう言うとのどかは心底喜んでいた。

 そしてその日はのどかを送って俺も家に帰ったのだった。

 

 その時、俺は思った。

 もっともっと強く。

 誰よりも強くなりたいと―――。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の話では治くんが……!?

そろそろオリ主とオリキャラの設定とか出した方がいいかな?


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母の温もり

外出自粛を言い渡されているこの時期にみなさんはどうお過ごしなんでしょうか?

自分の小説を読んでくれている方々やそうでない方にも何事もなく元気で過ごしていただければなと思う今日この頃です


「お邪魔しまーす」

 

「ああ、来たね治くん。いらっしゃい」

 

「こんにちは。たけしさん」

 

 今日、俺、ちゆ、ひなたはのどかの家にお呼ばれしていた。

 

「あ! おさむんやっと来た〜! ねえねえ、この家、のどかっちのパパが作ったんだって! 凄いよね〜!」

 

 俺を見つけるとすぐにひなたが飛んできた。

 そしてその勢いのまま俺に話す。

 

「作ったんじゃなくて、リフォームよ。さっき言われたでしょ、ひなた」

 

 そんなひなたを制するようにちゆが言う。

 そしてひなたはあっはっは〜…と笑って返していた。

 

「のどか」

 

「ん? 何、お母さん」

 

「お母さんね、そろそろ仕事に復帰しようと思うの」

 

 不意にのどかを見ると、のどかのお母さんであるやすこさんとそんな話をしているのが聞こえた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 翌日―――。

 

「そういえば、のどかのお母さんって何やってる人なんだ?」

 

 俺は昨日気になった事を昼休みにのどかに聞いた。

 

「お母さん、配達のお仕事してるんだ。お母さんいつも言ってた。配達で、みんなからありがとうって言ってもらえるのが凄く嬉しいんだって」

 

「素敵なお母さんね」

 

「かっこいい〜!」

 

 そんな談笑しながら俺達は昼飯を囲む。

 ちなみに、二人の横にはもし万が一人が来ても大丈夫なように見えない位置でペギタンとニャトランも俺達の飯に混ざっていた。

 あれ? そういえば今日、ラビリンは?

 

 

 

 一方その頃花寺家にて―――

 

「くぅ〜ん…」

 

「ラテ様。今日からのどかのお母さんもお仕事で夕方まで居ないラビ。けど、学校が終わったらのどかも帰ってくるラビ!」

 

 家中を探し回るラテにラビリンが言う。

 そう、ラテの探している人物はもちろん、のどかの母であるやすこだ。

 地球に来て、のどかに拾われて以来一番自分のお世話をしてくれていた人物。

 その人が急に居なくなったことに不安を覚えているのだろう。

 

「ワン…」

 

 ラビリンに言われ、ラテはトボトボと部屋に戻る。

 そしてまた翌日―――。

 今日はラビリンに加えてペギタンとニャトランもラテのお世話に加わっていた。

 

「さーて何する? 人間が居ないからのびのびし放題じゃん!」

 

「ニャトランは人間が居ても居なくてものびのびしてる気がするラビ」

 

「ラテ様。ご飯の時間だから中に戻るペエ」

 

 ペギタンはラテにそう言う。

 

「くぅん…」

 

 ラテは寂しそうな声を出す。

 そして、出されたご飯もほぼ手付かずの状態だ。

 

「ラテ様どうしたラビ? 具合悪いラビ?」

 

 そんなラテを心配してラビリンが言う。

 だが、ラビリン達のようにのどか達パートナーがいる訳では無いラテにとって、やすこの存在がどれだけ大きいものなのか、ラビリン達には分かるはずもない。

 

「なあに! こんなにいい天気なんだから、庭で日向ぼっこでもすりゃ、気も晴れるって!」

 

「ニャトランは悩みがなさそうで羨ましいペエ」

 

 窓を開けるニャトランにペギタンが言う。

 そして、ラテはその開けられた窓を見た。

 

「ワン!」

 

 打って変わって元気な声を出し、一気に庭へ飛び出すラテ。

 

「ほらな、最初からこうすりゃ良かったんだよ。これでラテ様もすぐに元気に」

 

 そしてラテは、そのまま庭を突っ切って花寺家からも飛び出してしまっていた。

 

「「「あーーーー!!!!」」」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 すこやか中にて―――。

 

「えー、なので、この場合にそのが指すものとしては―――」

 

 ……ヤバい、眠くなってきた。

 数学や理科なんかだと眠くならないのに何だってこの国語ってやつはこうまで眠くなるんだ…?

 しかも内容が難しいんだよ。

 

 ―――俺達の授業で受けている国後の内容を説明すると、人の意識と無意識についてだ。

 何でも、人は意識的に人を傷つけないように力をセーブしているため、自分がどれだけ力を持っているのかは誰にも理解できない。

 しかし、もし人が無意識になった状態で動けたなら、それは意識をハッキリさせて動くよりもより俊敏で力強く動けるようになる……みたいな文章が淡々と書かれているんだ。寝るなって方が無理だろ。

 

 そんな事を考えていると授業終了を告げるチャイムが鳴った。

 

「はい。それでは今日はこれまで。みんな、今日やった事の復習はしっかりしておくんだぞ」

 

『はーい!』

 

 その日の授業が終わり、生徒がそれぞれ散り散りに散って行く。

 

「ちゆちー、今日は部活?」

 

「ううん。今日は休みよ」

 

「じゃあさ、またウチに寄ってかない!?」

 

「そうね…。のどかと治くんはどうするの?」

 

 ちゆが俺に聞いてくる。

 だが、俺とのどかは今日は共通の予定がある。

 

「悪い。今日は俺ものどかの家でラテのお世話するんだ」

 

「ごめんねひなたちゃん。また誘って」

 

 急いで帰り支度を整えようとする俺たち。

 するとそれを見ていたちゆとひなたが、

 

「なんだも〜! 二人揃って水臭いな〜、それならあたし達も手伝うよ〜! ね、ちゆちー」

 

「ええ、私たちもラテに会いたいしね」

 

 と言ってきた。

 

「ありがとう二人とも!」

 

 そんな二人にのどかは感謝する。

 そして俺たちが校門を出ると、

 

「のどかー!」

 

 ラビリンがのどかの名を呼びながら飛んできた。

 

「ラビリン!? どうしたの、今日はラテとお家に居たんじゃ…」

 

「ラテ様が、ラテ様が…!」

 

「「「「?」」」」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ラテ!」

 

「やっと見つけたよ〜!」

 

 ラビリンからラテ脱走の知らせを聞いた俺たちは、ようやく見張っているニャトランとペギタンの近くでラテを発見した。

 そこは、すこやか運送会社の前。

 つまり、のどかのお母さん―――やすこさんの働いている会社の前だった。

 

「ラテはお母さんに会いたかったんだね」

 

 のどかはじっと運送会社の前で座るラテを抱きかかえて言う。

 

「それだけでここまで来られちゃうなんて、凄いな〜!!」

 

 そしてひなたはラテを褒めながら頭を撫でる。

 

「けど、そうだよな。いくらラテがヒーリングガーデンの王女だって言っても、まだまだ子どもなんだよ」

 

 俺は改めてそれを認識する。

 

「聞いてきたわよ。多分、いちご農園にいるはずだって」

 

「さっすがちゆ、動きが早くて助かるぜ!」

 

 俺は指を鳴らしてちゆを指す。

 すると彼女はそれに笑って返した。

 

「くしゅん!」

 

 そんな俺たちに報せるように、ラテが唐突にくしゃみをする。

 

「こんな感動の時くらい来ないでくれねえかな、ホント」

 

 それを見て俺は言う。

 そしてのどかがラテに聴診器を当てた。

 

『あっちの方でいちごさんが泣いてるラテ』

 

 ビョーゲンズが居る場所を教えてくれたラテ。

 そしてそれを聞いたとき俺は、

 

「マジで勘弁しろよ」

 

 少し、自分でも意識しなければ気づけないほどほんの少しだけ……怒っていた。

 

「お母さんが危ない!!」

 

 のどかの声と同時に俺たちはいちご農園に向けて走り出す。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ!」

 

 だが、俺たち四人の中で一番体力の無いのどかは息を切らし、足取りも悪くなっている。

 

「はぁ…はぁ…あっ!」

 

 それに足を取られてのどかは転びそうになる。

 

「大丈夫か?」

 

「ご、ごめんね……治くん」

 

 そんなのどかを俺は受け止める。

 

「治くんは、のどかに付いててあげて。今回は私とひなただけでお手当てするから。のどかは後で治くんとラテと一緒に来れば」

 

「ううん…。行くよ、わたしもラテも」

 

「だけど…」

 

 ひなたがのどかを心配して声をかけようとする。

 

「危ないのはいちごやエレメントさんだけじゃない。大好きなお母さんもなの!」

 

 のどかは強く言う。

 

「……」

 

「わたし達が寂しい時、お母さんは助けてくれた。側にいてくれたの、だから今度はわたし達が助ける番なの!」

 

「ワン!」

 

 のどかとラテの強い言葉。

 そこまで聞かされたらもう俺には何も言う事は無い。

 俺はそう思ってのどかの前にしゃがみ込む。

 

「……のどか、乗れ」

 

「治くん…?」

 

「俺は人よりも早く走れる。お前一人くらいなら、背負っても大して変わらないさ」

 

 のどかは俺にありがとうと言いながら背中に乗った。

 そして俺は、のどかとラテを背負ってちゆ、ひなたと共にいちご農園に向けて再び走り出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あれ? また来たんだ?」

 

 いちご農園に着いた俺たちを待っていたのは、ダルイゼンの姿だった。

 そして近くには、気絶しているやすこさんと農家のおっさんの姿。

 

「来るよ。何度でも!」

 

「ふーん。まあいいや。メガビョーゲン」

 

「メガビョーゲン!!」

 

 ダルイゼンに言われるように姿を現すメガビョーゲン。

 

「許せない!」

 

「のどか、行くラビ!」

 

「うん!」

 

 怒りを表しながら変身するのどか、ちゆ、ひなた。

 

「「重なる2つの花!!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

「「交わる2つの流れ!!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

「「溶け合う2つの光!!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャン!」

 

「「「地球をお手当て!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!」」」

 

 グレース、フォンテーヌ、スパークルの三人はパートナーと共に決めポーズを取る。

 そして次の瞬間、メガビョーゲンはビニールハウスから襲ってくる。

 その攻撃を躱して俺は三人に言う。

 

「俺がやすこさんとおっさんを出来るだけ安全なところまで離すから、お前らはメガビョーゲンを頼む!」

 

「うん!」

 

「分かったわ!」

 

「まっかせて〜!」

 

 三人とそう話して、俺はやすこさん達の元に向かう。

 その途中、ダルイゼンの横を通り過ぎた。

 

「いいの? 君は戦わなくて。ああ、浄化できないんだっけ?」

 

 ダルイゼンは挑発するように俺に言う。

 

「浄化が出来なくても、あいつらと一緒に、あいつらの隣で戦うことはできるからな」

 

 が、今の俺はそんなダルイゼンの挑発に返す。

 ……そういえば待てよ。

 俺はここに、のどかとラテを背負って連れてきた。

 そしてのどかはグレースに変身して戦っている。

 

 ……ラテは…!?

 

 俺はその事に危機感を覚え、先決させるべきやすこさんとおっさんの元にたどり着き、出来るだけ遠くまで運ぶ。

 そして、戦場に戻った俺は衝撃的な物を見た。

 

「……くぅ…くぅん…」

 

 いちご農園の中。

 ラテが青い顔をしながら歩いていた。

 まるで、そこで何かを探すように。

 

「ラテ!」

 

 俺がラテの名を呼ぶ。

 するとラテは、

 

「ワン…!」

 

 弱々しく、それでも俺に心配をかけないように吠える。

 

「あの犬…、ヒーリングガーデンの……ちょうどいいや。メガビョーゲン、アイツからやりなよ」

 

「メガビョーゲーーーーーン!!!」

 

 メガビョーゲンの鉄球の様な腕がラテに迫る。

 

「危ない!」

 

「逃げて!」

 

 フォンテーヌとスパークルはもう片方の腕に手こずっており、グレースは何故かその場から動けていない。

 そして、

 

「ラテーーーーーーー!!!!!!」

 

 俺は叫びながらラテの元へ走る。

 結果だけを言おう。

 俺はメガビョーゲンの攻撃よりも先にラテの元に着くことはできた。

 

「ぐっ……」

 

 しかし、逃げる間も無かった俺はメガビョーゲンの攻撃をもろに頭へ受ける。

 

 ……凄く、痛い…。

 尋常じゃなく痛く、そして額の辺りが熱い。

 この感覚、ひなたを庇った時に似てるから多分血出てるな。

 

「ラテ…、大丈夫か…?」

 

 俺はラテを抱えて言う。

 あの一撃のせいで足に力が入らねえ。

 

「メガビョーゲン」

 

「メーガー!!」

 

 そして再び迫るメガビョーゲンの腕。

 力が入らないから、多分これ以上躱すのは無理かな。

 そう思った俺はラテを強く抱きしめる。

 

「……安心しろラテ。絶対に、お前を傷つけさせやしない。お前は必ず、母親に会わしてやっからな」

 

 俺がラテに言うと、再び後頭部に衝撃が走る。

 しかも今度は一度じゃない……何度も何度も…って、よく冷静に分析できるな。

 

「治くん!」

 

「止めて! 止めてよ! 止めてって言ってるじゃん! それ以上やったら本当に許さない!」

 

「何で……何で動いてくれないの!?」

 

 フォンテーヌの俺を呼ぶ声。

 スパークルの怒りの声。

 そしてグレースの悲痛な声。

 それが俺の耳に届く。

 

 そしていつまでも倒れない俺に痺れを切らせたメガビョーゲンが、今度は両腕を振りかざしていた。

 ……さすがに、アレからラテを無傷は厳しいな。

 俺は覚悟を決める。

 そしてラテを、フォンテーヌとスパークル目掛けて思いっきり放り投げる。

 

「二人とも……!!!!」

 

 そして二人がしっかりラテをキャッチしてくれたのを確認した俺は、

 

「……頼んだぜ」

 

 それだけ残してメガビョーゲンの攻撃を受ける。

 それが俺が、次に起きるまでの最後の記憶だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回のタイトルはもう決めているのでお先にお知らせしておきます。

次回のタイトルは『力の片鱗』です。

それでは、また次回でお会いしましょう!


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力の片鱗

自分はドラゴンボールの登場人物の中で一番バーダックが好きなんですが、みなさんはどのキャラが好きなんでしょうかね?


 ズドン! という音を立て、治のいた場所を……彼の姿をメガビョーゲンの腕が覆い隠す。

 そして、ゆっくりとその腕が上がる。

 

「へえ、意外と頑丈だね」

 

 そこには血を流して倒れ、気を失っている治の姿があった。

 そしてダルイゼンはその姿を見て笑う。

 だが、

 

「メガッ!?」

 

 メガビョーゲンは青と黄色、二つの波動によって吹き飛ばされる。

 その姿を見たダルイゼンは、攻撃が来た方向に視線を移す。

 

「「許さない!!」」

 

 そこには、怒りを顕にヒーリングステッキを握りしめるフォンテーヌとスパークルの姿があった。

 

「二人とも、落ち着くペエ!」

 

「気持ちは分かるけど、エレメントさんまで倒したら意味ないニャ!」

 

 鬼気迫る表情のフォンテーヌとスパークルにパートナーであるペギタンとニャトランが宥める。

 

「スパークル。あなたは治くんを安全な場所に、ここは私が!」

 

「分かった! 待っててすぐに戻るから!」

 

 スパークルとフォンテーヌは二手に分かれる。

 

「メ〜ガ〜…!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 よろよろと起き上がるメガビョーゲンにフォンテーヌが追撃に向かった。

 

「おさむん、おさむん! しっかりして!」

 

「無理ニャ! 完全に気を失ってる。下手に動かしたら逆効果ニャ!」

 

「けど…!」

 

「とにかく今は、治を避難させないと…! あそこのビニールハウスの中にしようぜ」

 

 ニャトランに諭されながらスパークルは治を支えてビニールハウスに向かう。

 

「ハッハハ。大変だねプリキュアは。お友達が一人傷ついただけでこれだ」

 

 その様子を見ていたダルイゼンが笑う。

 

「…………んで」

 

 微かに聞こえる声。

 ダルイゼンはその声に反応した。

 

「何で、こんな事するの…!?」

 

 その声は、グレースだった。

 

「こんな事って?」

 

 ダルイゼンはグレースの聞いたことに質問で返す。

 その最中グレースを気にかけるよりもスパークルが治を避難させて二人でメガビョーゲンに立ち向かっていること。

 そしてメガビョーゲンのラッシュに防戦一方を強いられている事の方が彼には気になるようだった。

 

「こんな酷いことだよ!」

 

「グレース…」

 

 グレースが叫ぶ。

 そしてラビリンは、そんなグレースを心配、恐怖した。

 いつもの優しい彼女とは違う、怒りに飲まれそうな表情をする彼女に。

 だが、その心が分からないラビリン達でもない。

 何故なら彼女たちは、自分達のせいで大切な友人が一人危険な目に……否、その友人が居なければラテすらも危うかったのだから。

 

 それが分からないとしたら、

 

「酷いこと? 何が?」

 

 ここに居るダルイゼンだけだ。

 

「地球を病気にして、みんなを傷つけることだよ!」

 

 グレースがダルイゼンに言う。

 それでも彼女の足は、蝕まれた露によって動けない状態にあった。

 

「決まってるじゃん。俺はその方が居心地いいからさ。それに、アイツは自分であの王女さまを守ってああなっただけだろ」

 

「そんなの、ただの自分勝手じゃない!」

 

「そうだよ。俺は、俺さえ良ければそれでいいのさ」

 

 ダルイゼンはそう言ってグレースに歩み寄る。

 グレースはそんなダルイゼンにヒーリングステッキを構えるも、ダルイゼンは蝕まれた露を手に持つと、それをラビリンに被せた。

 そしてそれを受けたラビリンは苦しそうな表情をする。

 

「……メガビョーゲン!!」

 

「くっ…、強いわね…!」

 

「けど、絶対に負けない! おさむんに頼まれたんだもん!」

 

 爆発音を立てて少し離れた場所ではフォンテーヌとスパークルが傷つきながらもメガビョーゲンと戦っていた。

 

「あ…くっ、あう…!」

 

 それに一瞬目を奪われるグレース。

 そんな彼女の頬に、ダルイゼンはまたしても露を当てる。

 

「ついでだ、このまま片付けちゃうか」

 

 目の前で暗黒のオーラを溜めるダルイゼンに顔を強張らせるグレース。

 どうしていいのか分からない彼女に、

 

「グレース!」

 

 パートナーのラビリンは露を払い除けて声をかけた。

 その声にハッとするグレース。

 そして彼女は意を決し、ヒーリングステッキからエネルギーを噴出させて自分の足を取る露を払い除け、そのままダルイゼンの手を蹴り飛ばした。

 

 そうして、彼の手から離れたオーラは空中で爆発する。

 

「へえ、やるじゃん」

 

 ダルイゼンはグレースに言う。

 そして、両者は再び構えた。

 その時、ダルイゼンは一瞬にして目線をグレースから移す。

 その先は、先ほど治が避難させられたビニールハウス。

 

 そのダルイゼンの行動に釣られるようにグレースもそこへ目を移す。

 そして、彼女は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 そのビニールハウスから、彼女の……彼女たちのよく知る姿が、彩野治という男が何事もなかったかのように姿を現したのだ。

 

「治くん!」

 

「えっ…?」

 

 グレースは構えから一転、治に向かっていく。

 そして、彼の前に着いた。

 

「治くん! 大丈夫!?」

 

「―――――――――」

 

 彼を心配するグレースの声。

 だが、彼は答えない。

 

「ごめんね。わたしが、わたしのせいで……ラテも治くんも危険な目に遭わせちゃって」

 

「治。そんなにグレースを怒んないであげてほしいラビ。ラビリンも、何もできなかったから、怒るならラビリンもにしてほしいラビ」

 

「―――――――――」

 

 治に謝るグレース。

 グレースを庇うラビリン。

 だが、二人はそこでも答えない治に疑問を持つ。

 

「治、くん…?」

 

「だ、大丈夫ラビ?」

 

「―――――――――」

 

 両の腕をだらんと下げて立つ治。

 その額から流れる血と、そして垂れ下がった前髪によって彼の表情を上手く確認できないグレースは不安を覚えていた。

 

「へえ、あれだけやられてまだ立ち上がれるなんてやるじゃん」

 

 そこにダルイゼンが現れる。

 そして、グレースは治を庇うようにダルイゼンの前に立つ。

 

「―――――――――」

 

 ダルイゼンの声を聞いた時。

 何も発さない治はほんの少しだけ声の方に向く。

 

「けど、どうするの? プリキュアに守られながら戦えんの? それに、あの二人だけじゃメガビョーゲンは厳しそうだけど?」

 

 ダルイゼンに言われてグレースは辛い顔をする。

 本当なら今すぐにでも、フォンテーヌとスパークルを助けに行きたい。

 けどここで自分が離れたらダルイゼンが彼に何をするのか分からない。

 そんな二つの葛藤が彼女を襲う。

 

「―――――――――」

 

「治く…!?」

 

「…? っ!!!」

 

 グレースが彼の名を呼ぼうとした時。

 彼の顔を見ようとした時。

 その時には既に、治はダルイゼンの顔面を殴りつけていた。

 

「(…! 何だ、この力…!)」

 

 殴りつけられたダルイゼンは驚愕する。

 その力は今まで何度か見てきた彼とは違う。

 明らかに今までよりも強い力で殴られたダルイゼンはそのまま吹き飛び、メガビョーゲンにぶつかる。

 

「ぐはっ…!」

 

「メガ!?」

 

 突如飛んできたダルイゼンに驚くメガビョーゲン。

 そしてそれを不審に思ったフォンテーヌとスパークルはそこでようやく立ち上がっている治の姿を見る。

 

「治くん。良かった、大丈夫!?」

 

「もう心配したじゃ〜ん!」

 

 そんな彼に二人も駆け寄る。

 

「―――――――――」

 

 だが、それでも彼は答えない。

 いや、それどころか彼女たちの声が聞こえてないのではと思えるほどに彼は動こうとしない。

 

 実際彼が動いたのは、ダルイゼンの声を聞いた時だけだ。

 

「治くん? どうしたの? 無理はしないで」

 

 フォンテーヌが心配して彼の体に触れようとする。

 その時、彼の姿は一同の前から消えた。

 

『!?』

 

「……何だ、いきなり…!?」

 

 彼女たちが彼を探す中、その姿はダルイゼンとメガビョーゲンの目の前にあった。

 そこでダルイゼンはようやく今の彼の顔を見る。

 無機質で、どこを見るともないその目には、何の光も無かった。

 

「(コイツ…まさか…!)」

 

 そこでダルイゼンはある予想を立てる。

 だが、それ以上の速さで彼もろともメガビョーゲンは治の拳を受けていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「凄い、けど何だか怖いよ…。今のおさむん…」

 

「ええ。まるで、メガビョーゲンと彼以外何も見えてないみたい」

 

 その様子を遠くで見つめるスパークルとフォンテーヌが言う。

 

「……」

 

「グレース? どうしたらラビ?」

 

「行くよラビリン。わたしたちも戦わないと。だって、これ以上治くんを一人にしておけないもん!」

 

 グレースが言う。

 彼女も焦っていた。

 このままあの治が戦えば勝てるかもしれない。

 けどきっとその勝利は、今までと違う。

 エレメントさんごとメガビョーゲンを倒してしまう勝利だ。

 

 それではこの蝕まれたいちご農園は戻らない。

 その思いがグレースを走らせる。

 

「―――――――――」

 

 だが、そんな彼女の前に治はダルイゼンの攻撃を躱して降り立った。

 そしてダルイゼンが言う。

 

「ホントにやるじゃん。まさか気絶したまま戦うなんてね」

 

 そのダルイゼンの言葉にグレース達は驚く。

 そして、

 

「治くん。ごめんね」

 

 グレースは先に謝って彼の目を見た。

 光の無い目。

 しかしその双眼は間違いなく目の前の敵を捉えている。

 

 そして、彼はまた動き出そうとする。

 

「ラビリン」

 

「大丈夫ラビ! もしもあとで治に怒られそうになったら、ラビリンもグレースと一緒に謝るラビ!」

 

 グレースの意図を察したラビリンが言う。

 こんなパートナーを持てた事に彼女は心から感謝し、そして、彼女はヒーリングステッキを強く振り、治の後頭部を叩く。

 まったく予知してなかった攻撃。

 いやそもそも目の前の敵しか見ていなかった治には当然それを避けられるはずもなかったため、彼は再び倒れ、目を閉じた。

 

「……行きましょう。グレース」

 

「今度は三人でね!」

 

「うん!」

 

 フォンテーヌとスパークルに言われグレースは返す。

 そして三人揃ってようやくメガビョーゲンに向かった。

 

「ありがとう治くん。守ってくれて」

 

 グレースは倒れる彼に言った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……くん……治…! 治くん!」

 

 誰だ、俺を呼ぶのは…?

 俺はゆっくりと目を開ける。

 

「治くん…。よかった、良かったよー!!」

 

「……のどか?」

 

 目を開けると、そこは室内。

 俺は天井を見上げていて、起き上がるとのどかに抱きつかれたので彼女の名を呼んだ。

 

「……気がついたみたいで、ホントに良かったわ」

 

「心配させないでよ〜…」

 

 そしてちゆもひなたも同様に心配していたのか、ちゆは静かに笑い、ひなたは涙をこらえていた。

 

「ここは…?」

 

「農家の人のお家よ。私と農家の方が気づいたら、のどか達が居て、あなたが大怪我で倒れてたから運んで手当てをしたの」

 

 やすこさんが静かに言った。

 

「けど、これ以上のどか達に心配かけたりしちゃ駄目よ!」

 

 その後怒られた。

 

「いやー、すいません」

 

 俺はそうやすこさんに返す。

 

「でも、のどかとラテにこんなに良いお友達ができて、お母さん嬉しいわ。治くん、それに皆。これからものどかと仲良くしてあげてね」

 

「もっちろん!」

 

「「はい!」」

 

 俺たちはそう言ってやすこさんと別れた。

 何でも、もう少しだけ配達の仕事が残ってるんだとか。

 

 そして俺は後であの後の事を色々聞かされた。

 

「ふーん、実りのエレメントボトルね。……やー、にしても俺もやっぱりまだまだプリキュアの足手まといは変わらねえな。今日だって何にもいいとこなかったし」

 

 俺が言うと、何故かみんなソワソワしだした。

 

「ん? どうしたんだよみんな…何かあったのか?」

 

「う、ううん。何でもないのよ気にしないで! それに、何も無いなんて言わないで。治くんが居なきゃ、ラテは救えなかったんだから」

 

 ちゆが俺に言う。

 すると、

 

「ワン! ワンワン!」

 

 ラテは突然俺の方に来た。

 

「お? どーしたんだラテ? 俺に何かあるのか?」

 

「わふぅ!!」

 

 ラテを抱きかかえると、何故か顔中をペロペロされた。

 

「ぷっ、あはははは! くすぐってえよラテ!」

 

 俺はそのくすぐったさに耐えきれず、笑いながらラテに言ったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ビョーゲンキングダムにて―――。

 

「ほう、これはまた手酷くやられた様だな。ダルイゼン」

 

 グアイワルが傷を負ったダルイゼンの顔を見て言う。

 

「アッハハハハハ! 前よりも男前になったんじゃないの!? まあ、キングビョーゲン様には遠く及ばないけどねぇ」

 

 シンドイーネはそんなダルイゼンの顔を笑っていた。

 

「別に」

 

 だがそんな二人にダルイゼンは言葉少なく返す。

 

「プリキュアか? やはり奴らは中々やるようだな」

 

「違うね。今回はプリキュアじゃない」

 

「何?」

 

 グアイワルが意外そうな顔をする。

 

「……確かアイツの名前……オサム、とか言ったけ」

 

 ダルイゼンは自分の顔に傷をつけた男の名―――オサムという名前をしっかりと覚え、その顔を思い浮かべていた。

 

「なあにアイツ……柄にも無く笑っちゃって?」

 

「……ダルイゼンにあそこまでさせるとは、あの男。プリキュアの腰巾着では無いという事だな」

 

 グアイワルの言葉にシンドイーネは疑問符を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダルイゼンくんが凄くウザいキャラみたいになっちゃってますがそんなに嫌いなキャラじゃなかったりもします


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跳べないちゆ!? 青一色の世界へ!

えー、タイトルから分かるとおり、アニメ7話はキング・クリムゾンされました。お詫び申し上げます。


「うー…。まだ頭が痛え…」

 

 朝―――。

 俺はランニングをしながら呟く。

 今回は珍しく重力室ではなく外でのランニングだ。

 重力室はしばらく使用禁止になったのだ。

 

「ホントにあれ実装する気なのかな父さん…えらく張り切ってたけど」

 

 俺が最近重力室を多用するのを見ていた父さんが、昨日の夜にご飯を食べていた時に急に、

 

『すまん治! 重力室なんだが、しばらく使用禁止で頼む!』

 

『え!? 何で!?』

 

『いやー、息子の為に何か出来ればと思ってな。そこで重力室の機能拡大を目指そうと』

 

『機能拡大って……一体何する気なんだよ』

 

『うーん。重力を最大で100倍に出来るようにするとか?』

 

『あんた俺を殺す気か!?』

 

 というやり取りがあった。

 100倍の重力って、そんな事になったら俺ホントに死ぬぞ?

 いや、最初からそこまでする気は無いんだけどさ。

 

「あ、治くん。珍しいわね」

 

「ん? おお、ちゆ。まあ確かに久々にここ走るかも」

 

 横からちゆに声をかけられる。

 最後にここ走ったのは、のどかと再会したあの日だから結構前か。

 

「今日はどうしてランニングしてるの?」

 

「うーん、いつも使ってる場所が使えなくなってな」

 

 俺はちゆと並走しながら話す。

 

「それにしても、この前の彼には驚かされたわ」

 

「あー、確か……益子とか言う奴だったっけ?」

 

 そう、このちょっと前にのどかが益子という新聞部の男にメガビョーゲンを呼び寄せているんじゃないのかと疑われる事件があったらしいんだ。

 え? 何でらしいなのかって?

 実は、俺はあのいちご農園での戦いの後に家に帰ってからまたぶっ倒れたらしい。

 気がついたら病院のベッドの上で寝てて、検査入院って形だけでも帰ってくるのに三日もかかったから、それまでに学校で起こった事を知らないんだ。

 実際この話も帰ってきてからちゆに聞いたもんだし。

 

「ああいう事が無いように、私たちももっと気をつけなくちゃいけないわね」

 

「そうだな。けど、俺を心配してるならもう問題ないぞ!」

 

 と言って俺はちゆに腕時計型のアクセサリーを見せる。

 

「それは?」

 

「俺の親父の発明品。この前作ってくれたんだ」

 

「そう。治くんのお父さんはすごい方なのね」

 

「父さんだけじゃなくて母さんも凄いんだぜ!」

 

 親を褒められて嬉しくなった俺はちゆに言う。

 

「ふふ。治くんって、案外子どもっぽいのね」

 

「…………」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、別に気にしてなかったしひなたみたいにあだ名で呼んでほしいわけじゃないんだけど…。ちゆものどかもいつになったら俺のことくん付けじゃなく呼んでくれるのかなって」

 

 俺は笑って言うちゆに言ってみた。

 

「き、気にしてたの…?」

 

「いやだから気にしてないって」

 

 気まずい顔をして聞くちゆに返す。

 そこから俺達は、かれこれ一時間はランニングを続けていた。

 

「あと、さっきの話だけど。あなたの事、ずっと心配するわよ。正体がバレるよりも、無理してほしくないもの」

 

「すんません…。今後気をつけまーす」

 

 そんなお叱りをちゆに受けながら。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 翌日の放課後―――。

 俺はのどか、ひなたと一緒に陸上部の練習を見学していた。

 そこではちゆも、自分の種目であるハイジャンプに挑戦している。

 

「陸上してるちゆちゃんは、生きてるって感じがするよね」

 

「分かる〜! 特にハイジャンプの時は、めっちゃ生きてるって感じ!」

 

「ああ、確か春の大会が近いんだったよな。最近はランニングの方もこっちまで気迫伝わってくるし」

 

「え? 治くん、最近ちゆちゃんと一緒なの?」

 

「一緒っつーか、いつも所使えなくて走ってたら会うって感じだけどな」

 

 そんな話をしていると、誰かのお腹がぐう〜っと音を立てた。

 

「「…………」」

 

「……あっはは、生きてるからお腹減っちゃった〜…」

 

 ひなたは手を頭の後ろに置いて言う。

 

「けど、ホントに凄いよねちゆちゃん」

 

「ああ。確かこの前自己ベスト更新してたみたいだからな」

 

「このまま行けば大会も余裕じゃ〜ん!」

 

「それはどうですかね?」

 

 楽観視するひなた……いや、俺たちにその声は言った。

 

「誰こいつ?」

 

「あなたが知らなくても僕は知ってますよ。彩野治くん! 僕はこのすこやか中新聞部の編集長である益子(ますこ)道男(みちお)です。お見知りおきを」

 

「あー、お前が話に聞いてたのとがをストーカーしたって言う!」

 

 俺が言うと益子はその場で大きく転けた。

 だが、そんな時でもカメラをキッチリ守るのは新聞部のプライドなんだろうか?

 

「違いますよ! ストーカーではなく、真実を追い求めるジャーナリストです!」

 

 益子は凄い勢いで俺の言葉を否定してきた。

 

「あれー、おっかしいな。俺の聞いた話ではあの手この手でのどかを執拗に付け回したって聞いてたんだけど」

 

 俺が言うと益子は否定しづらい顔をする。

 いやそこはホントなのかよ…。

 それほぼストーカーじゃん。

 

「ご、ゴホン! とにかく話を戻しましょう。さっきの話ですが、実はとっておきの情報を入手したのです」

 

 益子はカメラの画面を見せてくる。

 それに対して俺たち三人は同時にその画面を覗き込む。

 そこには、すこやか中陸上部とは違う運動着姿の女子が写っていた。

 

「これは?」

 

「またストーカー?」

 

「違うって言ってるじゃないですか! これは我がすこやか中学陸上部の永遠のライバル、西中陸上部。その実力を推し量るべく、この僕自らが取材に赴いたわけです」

 

 益子はメガネをクイッと上げて自慢げに言う。

 

「で、許可は?」

 

「取ったら取材させてもらえないかもしれないではないですか」

 

 それは取材じゃなく敵情視察と言うんだ、これで一つ勉強になったな益子。

 

「そして、これは県大会の最高記録、同時に沢泉さんの自己ベストを超えているんですよ」

 

 そんな俺の心中を露知らず、益子は続ける。

 それを聞いてひなたとのどかは不安そうな顔になった。

 

「何見てるの?」

 

「あー、ちょっと…………へあっ!?」

 

 突然後ろからちゆに声をかけられる。

 そのせいで俺の口からは変な声が出てしまった。

 

「ナイスタイミング! 僕のスクープ写真を是非!」

 

「ひなた!」

 

 俺の声に合わせるようにひなたは益子を突き飛ばす。

 

「やったな」

 

「イエーイ、息ピッタシ!」

 

 それを見ていたちゆは不審そうに、

 

「スクープ?」

 

 と聞いてきた。

 

「な、何でもないよ! か、可愛いクラゲの写真を見てたの!」

 

 のどかがはぐらかす。

 

「そ、そうそう! クラゲクラゲ! 西中陸上部の写真とか、ぜんっぜん見てないし!」

 

「あっ…」

 

 だがひなたのフォローはフォローにならず、全てちゆにバレてしまった。

 観念した俺たちはさっき益子から見せられた写真をちゆにも見せる。

 当然と言えば当然だけど、ちゆの顔も難しい物へと変わった。

 

「気にならないと言えば嘘になるわね。けど、陸上は自分との戦い。私のライバルは、私だから」

 

 ちゆの素直な気持ちを聞いた。

 それだけ言ってちゆは練習に戻る。

 しかしその練習中、ちゆはハイジャンプに失敗した。

 もちろん、ちゆだって完璧な人間じゃないから失敗することもある。

 

 けど、今の彼女の顔は、そんな当たり前の……たったそれだけの事すら大きかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ちゆ。大丈夫ペエ?」

 

「ごめんなさいペギタン。今日は、カッコ悪いところ見せちゃったわね」

 

 その日の夜。

 旅館沢泉にてちゆは寝間着に着替えてペギタンと話していた。

 

「大丈夫ペエ。たった一回の失敗くらいかっこ悪くないペエ! ちゆには、そんなの気にならないくらいカッコいい所がいっぱいあるペエ!」

 

 ペギタンは彼なりにちゆを励ます。

 そんなペギタンをちゆはそっと抱き上げ、彼と頬を合わせる。

 

「ありがとうペギタン。私、頑張るわね」

 

「ちゆなら大丈夫ペエ…。きっとすぐに跳べるようになるペエ」

 

 自分に勇気をくれた彼女に少しでも勇気をあげたい。

 ペギタンは心の中でそう思った。

 そして同時に、自分を信じてくれるパートナーに応えたい。

 ちゆもまたそう思っていた。

 

 その次の朝―――。

 

「おっす!」

 

「「……」」

 

 ちゆがペギタンとランニングに行こうと家を出た時、そこには予想だにしない人物が当然のように待ち受けていた。

 

「治くん…どうしたの?」

 

「いやー、最近よくランニングで一緒になるからさ。もうこの際最初から一緒にと思って迎えに来た」

 

 治はさも当然のように言う。

 そして、彼と同じようにそこにはもう二つの人影が迫っていた。

 

「お、おさむん、のどかっち!? どうして〜!?」

 

「え!? なんで二人も居るの!?」

 

「いや、俺からしたらお前らが居ることの方が驚きなんだけど」

 

 俺は二人にちゆから少し離れた所に連れて行かれた。

 

「もしかして二人も?」

 

「うん。昨日のちゆちゃんの様子が心配で…」

 

「いや、俺は普通にランニング誘いに来ただけなんだけど?」

 

 え、何でそんな冷たい視線…?

 俺ホントの事言っただけじゃん!

 

「……ありがとう皆。それじゃあ、今日は四人で走りましょうか」

 

 ちゆにそう言われるまま、俺たちは走り出した。

 今日はちゆの提案で、舗装された道ではなく、全員で砂浜を走る事になった。

 

「ほっ、ほっ……こりゃ、意外と来るな」

 

 俺とちゆを先頭に砂浜を走る四人組。

 その途中やはり一番に疲れを見せたのどかを心配して俺たちは砂浜に腰を下ろす。

 

「ん、ん……ぷはぁ〜! ふっかーつ!」

 

 水を勢いよく口に運んだのどかが言う。

 そして彼女はそのままの勢いで聞いた。

 

「いつもここ走ってるの?」

 

「時々ね。いつもは、あっちの海岸沿いを走ってるけど、たまにこうしてここを走ると、普段は使わない筋肉にいい感じに負荷をかけられるから」

 

 ちゆはのどかに返す。

 確かにこれは結構いいトレーニングになるな。

 俺はそれを聞いてそう思った。

 

「ふわぁ〜。陸上の選手ってそんな事にまで気を使って走ってるんだ」

 

 のどかに言われるとちゆは静かに、

 

「本当のこと言うと、それだけじゃないんだけどね」

 

 そう続けた。

 それを聞いて俺たちはえ、と聞いた。

 

「小さい頃は、泳ぐのが好きだった。ある日、いつもの様に海に出て、夢中で泳いでいたのね。……気がついたら、そこは、青一色の世界だった。空と海が溶け合って、一つになっていて。このまま海を超えて空まで行けそうな。……空を、泳いでみたいと思った」

 

 期せずしてちゆの過去の話を聞いた。

 

「それがハイジャンプを始めたきっかけ。自分の限界を感じた時、海を見ると、また跳ぼうって思えるの。海と空が溶け合ったあの青い世界にまた近づけるように」

 

 ちゆは楽しそうに言う。

 そんな彼女の顔を見ていると、とても今限界なんて感じてないんじゃないかとすら思えてしまう。

 

「けど、今日は海のおかげじゃなくて、皆のおかげね。ありがとう」

 

 ちゆは最後にそう言った。

 そして彼女はまた今日も、練習に向かう。

 すこやか中の部活は、後片付けさえしっかりすれば一人でも練習することを許されている。

 

 けど、休みの日に一人で練習するちゆ。

 遅くまで一人でハイジャンプを続けていても、失敗続きの友達を見るのは、自分のことみたいでなんだか凄く苦しくなった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 次の日曜日―――。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

 ちゆはペギタンに告げる。

 

「ちゆ。今日は日曜日ペエ。今日くらいは休んだほうがいいペエ」

 

 ペギタンはそんなちゆに言葉を返す。

 彼はその言葉通り、ちゆに休んでほしかった。

 

「ありがとう。行ってくるわね」

 

 だがちゆはそんなペギタンの言葉を笑顔で感謝するものの、最初と同じように練習を向かう意志を変えることはしなかった。

 

「ちゆ…」

 

 ドアの向こうに見えなくなったパートナーの名前を呟くペギタン。

 彼はこんな時くらい、自分を頼ってほしかった。

 彼女に悩みを打ち明けてほしかった。

 けど、彼女はそれをせず、自分の限界と真正面から向き合っている。

 

「(僕にも何か、できることがあるはずペエ!)」

 

 ペギタンはヒーリングルームバッグに入り、様々な文献の本を漁った。

 

「きっとこの中に、ちゆの事を治す方法があるはずペエ」

 

 ちゆの為に必死で探すペギタン。

 そんな彼の目に、ある文章が飛び込み、彼はそれを読み始める。

 

「イップス。これまで簡単に出来ていた事が急に出来なくなり、出来なくなった事が気になって更に出来なくなっていく…」

 

 それは正に、今の跳べないちゆと一致していた。

 

「大変ペエ!」

 

 ペギタンは一目散に家を飛び出す。

 向かう先は、花寺家だ。

 

 

 

 一方の花寺家―――。

 

「ラッビ! ラテ様、いかがラビ?」

 

「わふぅ!」

 

 ラビリンはラテにマッサージをしていた。

 それを受けていたラテも気持ち良さそうな顔をする。

 

「大変ペエ!」

 

「うわっ!」

 

 いきなり声を上げて飛び込んできたペギタンに驚くラビリンは、ラテのマッサージを中断させて彼と視線を合わせる。

 

「イップス! イップス! イップスペエ!」

 

「な、何ラビ!?」

 

「は、早くみんなでお手当ての方法を考えないと…! のどかは、のどかはどこペエ!?」

 

「ひなたとお買い物に行ったラビ」

 

 取り付く島もないペギタンにラビリンは言う。

 

「ええー!? お買い物ー!?」

 

『お買い物たのし〜!』

 

『生きてるって感じ〜』

 

 それを聞いたペギタンは衝撃を受ける。

 

「きっとお買い物も済んだ頃ラビ。これからラビリン達もひなたの家に……ああ、ペギタン!?」

 

 ラビリンの話を最後まで聞かずにひなたの家にペギタンは向かう。

 

「ひどいペエ! ちゆは一人で悩んでるペエ! なのにこんな時に遊んでるなんてひどいペエ!」

 

 ひなたの家に着くペギタン、

 

「のどか! ひなた! おさむー!」

 

 彼は三人の名前を叫びながら入っていく。

 するとそこには、何かを裁縫しているのどか、ひなた、ニャトランの姿があった。

 が、そこには治の姿は無い。

 

「おお? どうしたんだペギタン、何泣いてんだ?」

 

 涙目で入ってきたペギタンにニャトランが聞く。

 

「みんな、それは…?」

 

「応援に使う横断幕を作ってるの」

 

「ちゆちーには、まだ内緒ね」

 

 二人からそれを聞いたペギタンは誤解に気づく。

 

「遊んでたわけじゃ…、無かったペエ…」

 

「んなわけ無いし〜」

 

「ペギタンは大丈夫? 何かあったの?」

 

 のどかはペギタンを心配して聞く。

 

「ちゆが、ちゆがイップスかもしれないペエー! なのに今日も練習してるペエ! お願いペエ、二人からも無理しちゃダメって言ってほしいペエ!」

 

 ペギタンは二人に頼む。

 が、二人は顔を見合わせたあと、

 

「……そう言ったんだけどね」

 

 とのどかが言葉をこぼした。

 

 それは、夕方頃まで練習して時の事。

 

『頑張るのも大事だけど、あんまり無理しないで、ちゆちゃん』

 

『記録出なくても死なないし! ね!』

 

『それに、今が駄目でも次があるじゃねえか』

 

 三人はちゆを心配して声をかけた。

 

『それでも私は跳びたいの。今は無理をしてでも、自分の限界を超えたい。……そういうのって、もう古いのかな』

 

 だがちゆは、その時笑って三人に言ったのだ。

 そしてその時のことを思い出してひなたが話しながら再び針を動かす。

 

「あんな笑顔見せられちゃったらもう……何も言えないよ」

 

「何が正しいのか、わたしたちには分からない。だからわたしたちに出来るのは、ちゆちゃん本人が決めたやり方を応援すること、それだけだよ」

 

 その横断幕には、【空へ! 限界突波!】と書かれていた。

 

「のどかー!!」

 

 ペギタンは泣きながらのどかに抱きつく。

 その様子をひなたは笑って見つめていた。

 

「ちなみに字は俺が書いたんだぜ! 上手いだろ!」

 

 ニャトランは自慢げに言う。

 それにペギタンも頷く。

 

「けど、字が間違ってるペエ…」

 

「「「え…?」」」

 

 そう、ニャトランが書いた字は間違っていた。

 【空へ! 限界突破!】と書くはずの文字が【空へ! 限界突()!】となっていたのだ。

 

「「「あーーー!!!」」」

 

 それに気づいた三人の絶叫が響く。

 

「ニャトラン何やってんのも〜!」

 

「俺か!? いや俺だな!」

 

「直そう!? まだ間に合うよ!」

 

 そんな三人のやり取りを見ていたペギタンが、

 

「そう言えば、治はどこペエ…?」

 

 今この場に居ない一人の事を気にかけていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……っ! もう一度…」

 

 ハイジャンプに失敗して再挑戦しようとするちゆ。

 そんなちゆの元に声が届く。

 

「ちょっと休憩しねえか?」

 

 その声は、治の物だった。

 

「治くん…」

 

「ちょっとお話に付き合ってくれや…な?」

 

 治に促されるまま、二人は校庭の隅にあるベンチに腰かけた。

 

「頑張ってんな」

 

「ううん、まだまだ。もっと頑張らないと…!」

 

 スポーツドリンクの入ったボトルを握りしめてちゆは言う。

 それを見ていた治は静かに立ち上がる。

 

「なあ、俺もアレやってみていいか?」

 

 治はちゆの準備したハイジャンプを指さして言う。

 

「? ええ、もちろんいいわよ。と言っても、治くんならすぐに出来てしまうかもしれないわね」

 

 ちゆは正直に言った。

 彼の身体能力の高さは彼女もよく知るもの。

 プリキュアに変身することもせずに変身した彼女たちと同じ場所で戦っている彼なら簡単な事だろうと。

 

 そう思って見守る。

 

「よーし…!」

 

 そしてハイジャンプを開始する治。

 歩幅も勢いもぐちゃぐちゃで、ちゆを真似して背面で跳ぼうとした彼は勢いよく掛けられた棒に頭を直撃させた。

 

「大丈夫!?」

 

 見かねたちゆが駆け寄る。

 すると彼は何事もなかったかの様に起き上がり、

 

「おー、痛ててやっぱりこういうのは見様見真似じゃダメだな!」

 

 屈託のない笑顔で言った。

 

「……ふふ。そうかもね。けど、ちゃんとフォームとか正せば、すぐに跳べると思うわ」

 

「いやーやっぱり、ちゆって凄えよな」

 

 彼はマットの上に寝そべって言う。

 そんな彼の姿に釣られてか、ちゆもマットの上に座った。

 

「こんだけ失敗したら、もうやりたくないって思っても仕方ないはずなのにさ、それでもちゆは限界だから超えたいって思えんだもんな」

 

「…………」

 

 彼の言葉を黙って聞くちゆ。

 自然と彼女もまた、マットの上に寝そべっていた。

 そこから二人は数瞬の沈黙を交わす。

 

「……空、高いな」

 

「そうね」

 

 視界に広がる青空。

 それが彼と彼女が今共有する物だった。

 そして治は、何気なく手を上に上げ、そのまま何かを掴み取ろうとする仕草を見せる。

 

「何してるの?」

 

 ちゆが聞く。

 

「いや、何かこうやって見上げてるとさ、手で掴めそうな気がしてならなくてな」

 

「そうね」

 

 微笑みながらちゆは治を肯定した。

 

「俺もいつか空に届いてみてえもんだな」

 

「…………」

 

 ちゆは嬉しくなった。

 何気なく言ったあの一言、青一色のあの世界に届いてみたい。

 そんな子どもの夢みたいな事を肯定された気がしたから。

 

 そして最後に、

 

「ちゆ」

 

「何かしら?」

 

「……頑張れよ。大会、応援しに行くからさ」

 

「……もちろん。全力で望むわ。任せて」

 

 二人はそんな会話を交わした。

 その後、治はこれ以上ちゆに迷惑をかけまいと思いその場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あれ? この作品のヒロインってちゆちゃんだっけ?

……←タグ確認中

うん。やっぱりのどかちゃんがヒロインになってる……あれ〜?


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新たな戦士登場!?

駄文注意!


 今日はちゆの大会当日。

 会場に向かった俺はのどかとちゆを見つけた。

 

「よっ、二人とも」

 

「あ、治くん!」

 

「やっほ〜、おさむんも来たんだ」

 

「まあ、ちゆにも約束したからな」

 

 俺は二人の横に座って言う。

 そんな俺を不思議そうな目で見る二人。

 

「……お前ら、何だそのデカいの?」

 

「ちゆちゃんを応援しようと思って、みんなで横断幕作ってたんだ。わたしもひなたちゃんも頑張ったんだよ」

 

 のどかは全部を見せないが少しだけ端をめくって見せてくれた。

 だが、俺はその端から見えた物を見過ごさない。

 

「何で一部だけ色が……」

 

「「「ぷにシールド!」」」

 

 縫い直したような後のある事を聞こうとしたらヒーリングアニマルズに同時攻撃を俺はまともに受けた。

 あれじゃ、ぷにシールドじゃなくてぷにタックルだろ…。

 

「いや別に隠すようなことでもねえだろ? 間違ったんなら間違ったで―――」

 

「あ、ちゆちー!」

 

「聞けよ…」

 

 俺の言葉を遮ってひなたがちゆを見つけた。

 そして、のどかとひなたはちゆに向けて横断幕を広げる。

 そこには【空へ! 限界突破!】と書かれていた。

 ……うん、やっぱり破の部分だけ縫い直されてる。

 そんな事を思いながら、俺もちゆに向けて手を振る。

 

 ちゆはそんな俺たちを見ると途端に笑顔になる。

 そして、ちゆが挑もうとした時―――

 

「くしゅん…!」

 

 ラテが顔色を悪くしてくしゃみをした。

 そして今回に関しては、俺たちが行くまでもなくその場にメガビョーゲンが現れる。

 困惑するちゆ。

 逃げる人々。

 

「……悪い、俺ちょっと準備してくる!」

 

 俺はひなたとのどかにそう言ってその場を離れる。

 ……初お披露目、こんなに早くなるとは思わなかったけどな。

 

 俺は父さんの作ってくれたアクセサリーを眺めてそう思った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 メガビョーゲンが吐いたブレスにより、グラウンドの一部が凍りつく。

 

「今日の為に、皆必死で努力してきたのよ! それを台無しにするなんて!」

 

「ちゆちゃん!」

 

「ちゆちー!」

 

 怒りをメガビョーゲンに向けるちゆ。

 そんなちゆの元に駆けつけたのどかとひなたを見て、ちゆは微笑んだ。

 

 そして三人はプリキュアに変身してメガビョーゲンに向かう。

 

「「「ハアアッ!!」」」

 

 だが、メガビョーゲンの体を覆う巨大な氷塊に三人の攻撃は弾かれる。

 

「メガッ! ビョーゲン!」

 

 体勢を崩した三人めがけ、メガビョーゲンはブレスで応戦する。

 しかし、そこはさすがのプリキュア。

 三人はそのブレスを躱して着地する。

 

「きゃっ! 何!?」

 

「地面がツルツルしてる動き辛い〜!」

 

 凍った地面に苦戦するプリキュア達。

 それを遠くからダルイゼンが見ていた。

 

「―――今日は、オサムの姿は無しか。ま、どうでもいいけど」

 

 ダルイゼンは言う。

 その時彼は、そっとかつて治につけられた傷をなぞった。

 

「お待たせ!」

 

 そんなダルイゼンの言葉など知らないプリキュア達の元に聞き慣れた声が届く。

 

「治くん! 遅い…よ…?」

 

 声に真っ先に反応したグレースがその方を見るも、彼女はその声の主に戸惑った。

 服装も声も、間違いなく治である。

 そのはずなんだが……声をかけた主は別れる前の彼と違いサングラスを顔にかけ、頭にはターバンのようにタオルを巻いていた。

 

「え…、おさむん、だよね?」

 

「? おう、間違いなく俺だけど? ああでも、この格好の時に本名は結構マズいよな……なんかいい呼び名でも考えとこうかな」

 

 困惑する彼女たちを他所に変装した治は言う。

 けど、そんなくだらないやり取りをいつまでも待つほどメガビョーゲンも愚かではない。

 

「メガビョーゲン!」

 

 メガビョーゲンによるブレス攻撃。

 それを四人はそれぞれの方向で躱す。

 そして、

 

「やっぱり来たんだ」

 

「ん? うわっ!」

 

 治の所にはダルイゼンが現れる。

 そんなダルイゼンの攻撃を受けながらも、治はしっかりと着地をする。

 

「…………」

 

「お前には聞かなきゃいけない事があるからね。借りもあるし」

 

 ダルイゼンは自分の頬を指さして言う。

 

「(借り…? なんの事だ?)」

 

 だが治はその意味を分かっていない。

 当然だろう。彼はその時気絶していたのだから。

 しかし、目の前で構えるダルイゼンを見た彼は、

 

「……グレース! フォンテーヌ! スパークル! 悪いけどこいつは俺に用事みたいです、今回は手伝えねえ! 三人でなんとかしてくれ!」

 

 三人に叫ぶ。

 

「…! ええ、分かったわ! ()も気をつけてね!」

 

 そんな彼の言葉へ一番に返したのはフォンテーヌ。

 その時の彼女は、治を信頼し、彼の名を真っ直ぐに呼んだ。

 

「……へへ、任せとけ」

 

 その事に嬉しくなった治もまた笑顔で構える。

 

「(しっかしどうしたもんかな…。向こうは飛び道具ありみたいだし、こっちもなんか武器が欲しいな)」

 

 眼前でエネルギーを溜めるダルイゼンを見ながら考える治。

 そんな時彼の目に映ったのは、ちゆが跳ぼうとしていたハイジャンプのバー。

 

「あれだ…!」

 

「ふっ!」

 

 それを見つけた治と、治に向けてエネルギー弾を放つダルイゼン。

 治はダルイゼンの攻撃を躱してバー向けて走り出す。

 ダルイゼンはそんな治に向けてエネルギー弾を連発する。

 

「ちっ…しぶとい…!」

 

 珍しく苦悶の表情を見せるダルイゼン。

 そして治は、ダルイゼンからのエネルギー弾の雨を躱してバーを手に取った。

 

「おっし! 武器ゲット!」

 

 治は手に取った武器を構えてダルイゼンに向き直る。

 

「さあ、続きを始めようぜ」

 

「……ホント何なのお前?」

 

 そんな治にダルイゼンは聞いた。

 

「何なのって言われてもな…」

 

「普通プリキュア以外の人間に、俺たちと戦えるわけがない。……なのになんでお前は戦えるわけ?」

 

 ダルイゼンはそう告げる。

 

「……さあな」

 

 少しの間を置き、治は返す。

 ダルイゼンめがけてハードルのバー振りかざしながら。

 

 そしてダルイゼンはその振り下ろされた一撃を受け止め、二人は互いを睨みつけていた。

 

「……へえ、メガビョーゲンに任せっきりなのかと思ったけどお前自身も戦えんのか」

 

「自分で戦うよりもメガビョーゲンに任せた方が楽だからやってるだけだよ」

 

 静かに話す二人。

 そしてお互いに再び距離を取る。

 

「俺が何なのかなんて、俺が知りてえよ。人と違って尻尾なんて生えてるし、こんな状況だってのにわくわくして止まんねえし。……けど、一つだけ分かることもある」

 

 治はそれでも笑う。

 きっとこのままダルイゼンがどう彼に問いかけようと、きっと彼の気持ちが揺らぐことない。

 そう思わせるような顔のまま彼は、

 

「俺はお前らの敵だってことは変わらねえよ」

 

 と言ったその時、彼の髪は風が吹いたわけでもないにも関わらず一瞬揺れた。

 

「プリキュア! ヒーリング・ストリーム!」

 

 その時、戦いを終える鐘のようにフォンテーヌの叫びがこだまする。

 その様子を見たダルイゼンは、

 

「ここまでかこの借りは、また今度返すよ」

 

 治にそう告げて去る。

 

「だから借りって何なんだよ!?」

 

 だが、その事が分からない治はその場で叫んでいた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ちっくしょう、ダルイゼンの奴。自分の言いたい事だけ言って消えやがった…」

 

 俺は不完全燃焼のまま言う。

 

「まあまあ、いいじゃねえか! 今回もお手当ては出来たんだからよ!」

 

 そんな俺を、ニャトランが宥める。

 確かに、メガビョーゲンの影響で凍ったグラウンドとかは戻ったが、まだ肝心のラテが元気を取り戻していない。

 

「氷のエレメントさん。ラテ様に少しだけ元気を分けてほしいペエ」

 

『はい! もちろんです!』

 

 氷のエレメントが言うと、俺たちが今持っているボトルに元気を貯めるのではなく、新しいボトルがその場に出現した。

 

「貴重なボトル! これで二個目ニャ!」

 

 そのボトルの元気を受けてラテは元気になる。

 けど、

 

「大会、残念だったな…」

 

 俺は目の前のシーンとした会場を見て言う。

 その様子を、のどかとひなたも残念そうに見ていた。

 

「……ねえ治。そのバー、またあそこに掛けてもらえないかしら?」

 

 そんな俺にちゆは言う。

 俺はそれの意味が分からないまま、彼女に言われた通りにバーをハイジャンプの所へ掛け直した。

 

「これでいいのか?」

 

「ええ。ありがとう」

 

 そう言うとちゆは走り出す。

 そして、昨日まで跳べていなかったのが嘘のように、彼女はそのバーを軽々と跳び超えてみせた。

 

「やったー!」

 

「ちゆちゃーん!」

 

 のどかたちが勢いに任せてちゆへ抱きつく。

 そして、俺とちゆはお互い笑顔のみで成功を喜びあった。

 

「―――また一歩、近づけた。あの場所へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はあ…ヒープリ放送延期、映画再延期……仕方がないけど悲しいぜ…


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スピード狂には気をつけろ…?

9話のあのカワイイ大作戦に男は要らねえ!

と思ったので今回はオリジナルストーリーって事で。



『今日は女の子だけの日だから、おさむんは参加禁止! あ、あとで写真だけは見せるから〜!』

 

 と、昨日ひなたに言われたため今日の俺はのどかたちと別行動をしていた。

 別にそれ自体に何か言う気は無いんだが、どうせならちゃんと理由まで教えてほしい…。

 

 俺はそんな不満を思いながら家で過ごす。

 天気はいいが、今日は何だかトレーニングをする気になれない。

 そんな思いから俺は自室で寝転んでいた。

 

「治。起きてる?」

 

「うん? 起きてるよ母さん。入っていいよ」

 

 突然ドアをノックされ、俺が返すとドアの向こうから母さんが姿を見せた。

 

「今日は暇なの?」

 

「うん。本当なら今日も友達と会いたかったんだけど、なんでか今日は俺は参加禁止なんだって、女の子だけの日だからってさ…」

 

 俺は両手を上に挙げて母さんに言う。

 すると、

 

「それじゃあ丁度良かった。ちょっと母さんに付き合ってくれない?」

 

 母さんは俺に言う。

 この人がこういう事を俺に言う時、それは大抵遠出だ。

 

「別にいいよ。どこまで?」

 

「ちょっと都心まで」

 

 ほらな。

 なんでわざわざすこやか市から離れた都の方まで行くのかは知らないけど、それでもきっとこの人の事だから意味が無いってことはないんだろう。

 

「分かった」

 

 俺はそう返して母さんと出かけることにした。

 まあこの前も父さんと買い物したし、今度は母さんとって言うのはバランス的にいいのかも。

 

 と思い出かけようとしたところで俺のスマホが鳴る。

 そこにはひなたから一件の画像が送られてきており、開いてみると三人がネイルでオシャレをしている画像が送られてきていた。

 

 ……めっちゃ気になる…。

 

 その後、ひなたから【可愛いでしょ〜!?】と送られてきたので俺は、

 

【ああ、三人とも可愛いよ。俺が行けねえのが残念でならねえ…】

 

 と返した。

 そういえば、都の方に行くのはこっちに越してくる前以来だから三年前とかになるんだな。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「うーん、ここの空気も久しぶりねー!」

 

「き、気持ち悪い…」

 

 車を飛ばすこと二時間―――。

 すこやか市は真反対に高層ビルが所狭しと立ち並ぶ都会の中に俺と母さんは居た。

 

 そして俺は猛烈な吐き気に襲われていた。

 

「大丈夫?」

 

「誰のせいですかね…?」

 

 俺は母さんを見る。

 言い忘れていた……というよりもさっきまで俺すら忘れていたが、俺の母さんは世間で言うスピード狂という奴である。

 

 近道を行くためなら獣道だろうが崖だろうが迷わずゴーサインを出してしまうようなとんでもない人。

 そしてそんな道ですら時速80㎞は出して走り去るような人物だった…。

 いつも運転は父さんがしていたからすっかり記憶から飛んでいた……くそっ、うっ、また吐き気が…。

 

「それで、今日はここに何しに来たの?」

 

「うーん、ちょっと買い物」

 

 アンタもかい…!

 

「え、何なの? あなた方両親は買い物の度に俺を使う気ですかい母よ」

 

「違う違う。今日はちょっと物が多いし、重たいのよ。それに貴重すぎてこっちじゃないと手に入らないし、この前ようやく知り合いのツテで手に入れたって連絡もらってね」

 

 あ、なるほど納得。

 

「それに、聞きたいこともあるしね」

 

 母さんは真っ直ぐな眼で俺を見ていた。

 

「……ちなみに、それ何に使うの?」

 

「お父さんの重力室改造計画。面白そうだから私も可愛い息子への手心を加えてあげようかと思って」

 

 ……やっぱりこの両親頭おかしいわ。

 だってさっきまで真っ直ぐだって眼がもう眼前の研究課題に夢中になってるもん。

 

 その後、俺達は母さんの知り合いから俺の重力室を改造するための材料を受け取り、帰路に着くことにした。

 

「母さん。分かってると思うけど、帰りは安全運転でな」

 

「ちぇー…」

 

 ふてくれされる我が母。

 頼む、息子の身を考えてくれ…。

 

 そしてその帰り道、母さんから本題を切り出された。

 

「ねえ治。あなた、今何やってるの?」

 

「え?」

 

「前にお父さんから聞いた時に思ったの、私達の息子は今、きっと何かとんでもない事に巻き込まれてるんじゃないかって。……違う?」

 

「…………」

 

 何も言い返せなかった。

 けどきっと、父さんと違って母さんは何か言わないととことんまで問い詰めてくる。

 そんな気がした。

 

「……あの子、のどかちゃん? と会ってから、あなたは本当に前よりもずっと強くなることに拘ってるし、それに間違いなく強くなってる。……それはあの子のため?」

 

 母さんからまた聞かれる。

 けど、

 

「……ごめん、母さん。それだけは言えないんだ」

 

 俺は振り絞るように母さんに返した。

 自分の親を信じてないわけじゃない。

 でも…、

 

『ヒーリングガーデンやプリキュアの事は絶対秘密ラビ!』

 

 あのラビリンたちとの約束。

 それを破る事は出来ない。

 

「それに、俺は巻き込まれてるんじゃなくて、自分でやりたい事やってるんだ。だから…」

 

「分かったわ」

 

「え?」

 

 俺の言葉を遮って言う母さん。

 俺が母さんの方を見ると、笑っていた。

 

「女の勘って奴かな? なんとなく、あなたの言いたい事は分かった。だからこれ以上は聞かない。けど、もしも今やってる事が言えるようになったら、母さんたちにも教えてね」

 

 母さんはそう言った。

 それだけでなく、母さんは続ける。

 

「それから、あなたがこれからどうなっても私達は絶対に、あなたの親。それだけは忘れないで」

 

 母さんの強い言葉。

 ……本当、俺がどんだけ強くなっても、この人たちは一生勝てない気がする。

 力とかじゃなくて、もっとこう気持ち的な面で。

 

「うん。分かった……ありがとう」

 

 俺は最後にそう返すと、

 

「よっし! じゃあ飛ばして帰るわよ!」

 

 再び母の荒々しいドライブによって振り回されるのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……と言うことがあってだな」

 

『あはは、治くんも大変だったんだね…』

 

 その夜。

 俺はのどかと話しながら今日あった事をお互いに話し合った。

 

「そう言えば、写真見たぜ。三人ともすげー似合ってた」

 

『ありがとう! ひなたちゃんね、今日は私のためにすっごくすっごく頑張ってくれたんだー! 私もすっごく楽しくて、まだまだ話したい事がたくさんあるよ!』

 

 電話越しからでも分かるほどのどかは興奮していた。

 それだけ今日はのどかにとって楽しい一日だったんだから良かった良かった。

 

『あ、そう言えばもうすぐ校外学習だね!』

 

「あー、確か水曜日だったっけ?」

 

 そう、俺たちはもうすぐ校外学習で美術館に行くことになっている。

 

『楽しみだなー、今度はどんな事があるんだろう?』

 

「そんなにか?」

 

『そんなにだよ。だって、私には初めての事ばかりだもん』

 

 のどかの言葉に一瞬黙る俺。

 確かに、俺と初めて会ったあの日からずっと病院で過ごしていたのどかにとっては、俺たちの当たり前なんて当たり前じゃないんだよな。

 

「そうだな。けど、はしゃぎ過ぎて物とか壊すなよ」

 

『そ、そんな事しないよ! もう!』

 

「ハハハ、ごめんごめん。……んじゃ、もうそろそろ俺も寝るわ。おやすみ」

 

『あ、うん。おやすみ治くん』

 

 そう言って電話切る俺。

 しかし、

 

「……って、今度はひなたから電話か」

 

 寝ようとした直後にひなたからの電話。

 俺はそれに応答する。

 

「もしも…」

 

『あ、おさむん!? 聞いて聞いて〜! 今日ね、めっちゃ盛り上がったんだよ〜!』

 

 まあ、スマホから出てるんだから基本俺だけど…。

 それでも電話の相手を確認しないで勢いに任せるなよひなた…。

 

「分かってる分かってる、今日が楽しかったのはお前から送られてきた写真でよく分かってるから落ち着けよひなた」

 

『うんうん! そんでね! 本当なら、プリキュアの衣装で写真撮りたいねーって言ったんだけどさ〜!』

 

「それはさすがにマズいだろ…。バレたら元も子も無いぞ」

 

『そうなんだよね〜…。あー、もう正義の味方は辛いね〜!』

 

 ひなたはそう言う。

 

「はー、お前は本当に凄いこと考えるな。何かこう、ダメでもやってみたいって思うところは見習った方がいいか?」

 

『え!? もう何言ってんのさおさむんまで〜! そんな事言われたら照れちゃうじゃ〜ん!』

 

 すいません平光さん照れてるとこ見えてないっす。

 その後、俺とひなたのやり取りは夜中の三時まで続いたりもした。

 

 ……すまん、のどか。

 

 俺は早々に電話を切ってしまったもう一人の女の子に心の中で謝りながら眠りつくことにしたのだった。

 

 

 

 

 




次回はオリ主回……になるといいなぁ


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邪魔するな! 治怒りの咆哮!

これは果たしてオリ主回と言っていいのか?

あ、あと今回初めて10000文字超えたりしました。


 校外学習当日―――。

 のどかはすこやか駅の前に立っていた。

 そこにちゆも到着する。

 

「あ! ちゆちゃん。おはよう!」

 

「おはようのどか。ずいぶん早いのね」

 

 のどかがちゆを見つけて声をかける。

 それに返したちゆは、大分時間に余裕を持って到着したにも関わらずそれよりも早くに着いていたことをのどかに言った。

 

「うん。昨日楽しみであんまり眠れなくて、今日も一時間も早く着いちゃったんだー…」

 

「一時間も!? ……それはちょっと早すぎよ」

 

 恥ずかしそうに言うのどか。

 そんな彼女に驚くちゆ。

 

「うん。けどわたし、電車に乗るのって初めてで、いつもは車だったから。あー! 改札に引っ掛かったらどうしよー!?」

 

 言葉とは裏腹に笑うのどか。

 そんな彼女にちゆは一つ確信した。

 

「引っ掛かってみたいのね…」

 

「おーっす二人とも…ふ、わぁぁぁぁ〜…」

 

 そこに大きく欠伸をしながら治も到着する。

 

「おはよう治。なんだか眠そうね? あなたも寝てないの?」

 

「まあな…楽しみで」

 

「もう、二人ともちゃんとしなさい」

 

 ちゆは多少呆れながらのどかと治に言う。

 すると、

 

「あっはは……ごめんなさい」

 

「気をつけまーす…」

 

 のどかは冷や汗を浮かべ、治はなおも眠そうに謝った。

 

「……とにかく、治は電車の中で少しでも寝たほうがいいわね」

 

「うーっす…」

 

 という治とちゆのやり取りの横を通りかかったおばあさんが小銭やら何やらを大量に落としてしまう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 それを拾おうと手助けに向かうのどか。

 だが、おばあさんを助けようとすることに意識を奪われていたのどかは横から出てきた自転車と衝突しそうになる。

 

「すみません! 落とし物です!」

 

 それをいち早く察したちゆが自転車に乗っている人に呼びかけて避けてもらう。

 彼女の咄嗟の判断がなければ危うく事故になっていたところだ。

 

「ちゆちゃん。ありがとう」

 

「危なっかしいのよね、のどかは。早く助けたいのは分かるけど、もう少し周りも見ないとダメよ」

 

「うん…、ごめんね。気をつける」

 

 ちゆから注意を受けるのどか。

 

「おばあさん、落とし物拾うの手伝いますよ」

 

「あー、ありがとうね」

 

 眠気と戦いながら落とし物拾いを手伝うことにした治を見て、慌てて二人も手伝いだす。

 三人は目につく落とし物をすべて拾い尽くした。

 

「これで全部ですか?」

 

 のどかが聞く。

 聞かれたおばあさんはある物が無いことを教えた。

 

「まだお守りが見つかってないの。このくらいの小さな奴なんだけどねえ……大事なものなの」

 

 おばあさんは言う。

 そして三人は言葉を交わすことなく辺りを探し始めた。

 だが、どれだけ探してもお守りが見つからない。

 そこに遅刻ギリギリだと思い走ってきたひなたが合流する。

 

「何してんの、三人とも?」

 

「おばあさんがお守りを落としちゃったのよ。けど、どれだけ探しても見つからないのよ」

 

 ちゆから教えられるひなた。

 するとひなたは排水口を指差し、

 

「ああいうところに落ちてんじゃない?」

 

 と言った。

 そして、ひなたとのどかがそこを覗き込むとそこには確かに小さなお守りがあった。

 こうしておばあさんから感謝されて四人はようやく電車に乗るために駅の中に入ったのである。

 

「さすがに改札に引っ掛かる奴は居なかったな」

 

「うー、残念…。引っ掛かってみたかったのにー…」

 

「え…、のどかっちそれマジ…?」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ビョーゲンキングダム―――。

 そこではビョーゲンズの三人が集まっていた。

 そんな中、シンドイーネが口を開く。

 

「はあー…最近キングビョーゲン様にお会いできなくて寂しい…」

 

 そんなシンドイーネの嘆きをグアイワルが一蹴する。

 

「フッ、ちっとも結果を出せないお前の顔なんぞ見たくないんじゃないか?」

 

「ハァッ!? じゃあアンタはあたしよりもキングビョーゲン様の役に立っているわけ!?」

 

「俺は別にキングビョーゲンに会えなくて寂しい思いなんてしていない!」

 

「今は話が違います〜! 地球を蝕めているかどうかの話です〜!」

 

 またしても始まる二人の口喧嘩。

 それを見ていたダルイゼンが、

 

「…めんどくさ。巻き込まれないうちに地球を蝕みに行くか」

 

 と言ってビョーゲンキングダムから姿を消した。

 そしてそこに残った二人は、

 

「だったら、どっちがより多く地球を蝕んでキングビョーゲン様の役に立てるのか決めましょうよ!」

 

「…いいだろう! だが、もしもキングビョーゲンが俺を好きになっても恨むなよ!」

 

 そんな勝負をする事になっていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ビョーゲンズが三人揃って地球を蝕みに来ることなど露知らない四人は電車に乗っている。

 

「ふわぁ〜! 大っきい川! すごーい!」

 

「……zzzz」

 

「おさむん寝ちゃってるね〜」

 

「寝ていないらしいからね。寝かせておいてあげましょう」

 

 窓の外から見える川に感激するのどかと、少しでも睡眠を取る治。

 そして、そんな二人を横目にちゆがひなたに聞いた。

 

「ひなた。さっきはどうして、お守りがあそこにあると思ったの?」

 

「あ~、あたしよく落とし物するからさ。ほら、経験者は語る! みたいな?」

 

「ねえねえ二人とも! 今ね、そこの川でお魚がぴょんって跳ねてたの!」

 

 眠る治をそっとしておきながらそんなやり取りを繰り広げる三人。

 ―――そう、彼女たちはまだ知らない。

 今日がとても辛い戦いになること、そしてその戦いにおいて今眠りに就いている彼の存在が大きな意味を持つ事を。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「どうしてラビリン達はお留守番ラビ!?」

 

 一方の花寺家では、ヒーリングアニマル達が集まっていた。

 今日は校外学習のためラビリン達はお留守番。

 その事に業を煮やしたラビリンが怒る。

 

「仕方ないペエ。今日はみんな遠くの美術館行くってちゆが行ってたペエ」

 

「ひなたはその手の事全然話さねえもんなぁ」

 

 そんな話をしながら地図を取り出すラビリン。

 そしてペギタンがちゆから教えてもらった美術館を指差す。

 

「ここに行くって言ってたペエ」

 

 それを見たラビリンとニャトランは、

 

「……もしビョーゲンズが現れたら危険ラビ」

 

「いつでも変身出来るように準備しないとな」

 

 と言った。

 そしてそれを、ペギタンは不思議そうに見つめるのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「おー! すっげー!」

 

 美術館内に展示されたガラス細工を見て驚く治。

 電車の中で十分な睡眠を取ったことにより彼もすっかり元気を取り戻していた。

 

「ふわぁー! すごーい!」

 

 そして彼と同じような反応をのどかもする。

 否、それは彼女だけではない。

 

「グラス可愛い〜!」

 

「この木のオブジェも幻想的で素敵!」

 

 ちゆ、ひなたもまたガラス細工に夢中である。

 

「ホントに凄えよな。楽しみにしてたから、めっちゃ面白いぜ!」

 

「うん! ガラスなのに、なんか生きてるーって感じがする!」

 

 治とのどかが話す。

 すると、そんな四人のところに一人の人物が近づいてきた。

 

「そんなに私の作品を良く言ってくれて、ありがとう」

 

「? えっと、あなたは?」

 

 治がその人物に聞く。

 

「私は、その作品の作者の長良よ。よろしくね」

 

 長良と紹介した人物に四人もそれぞれ返す。

 そして長良、近くのガラス細工見て言う。

 

「それは私にとって、思い出の品なの」

 

「そうなんですか!」

 

 その言葉にのどかは食いつく。

 だが、それはのどかが一番に食いついているだけで、治も心の中では興味を示していた。

 

 そして長良は自分がガラス細工に興味を持った時のこと、そのためにフランスまで海外留学して可能性を広げて今に至るまでになった事を話した。

 

「じゃあ、このガラス達は長良さんの努力の結晶なんですね」

 

 治が言う。

 

「そうなるわね。けど、あなた達みたいに私の作品で喜んでくれるなら、私ももっともっと頑張らないとね! じゃあみんな、午後の体験学習も、楽しんでね!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 その後、展示されている作品を見た治たちは通路を歩きながら話していた。

 

「体験学習か、楽しみだな」

 

「あたしあんなの作れるかな〜? けど、やるんならめっちゃカワイイ物作りたいよね〜!」

 

「ふふ。そうね、作ったら、みんなで作品を見せ合いましょうか」

 

「……?」

 

 ワイワイと話す治達の横で、のどかが一面ガラスの窓を見る。

 

「のどか?」

 

「どうかしたのか?」

 

「うん…。窓の外に誰か居たような」

 

 のどかが言うまま、他の面々も窓の外を見る。

 だが、そこには静寂と茂みがあるのみ。

 

「誰もいねえぞ?」

 

「おかしいなー…、確かに誰か居たような気がしたんだけど」

 

 それでも窓を見るのどか。

 すると、窓の外に広がる茂みからラビリンが顔を見せた。

 

「え?」

 

 その後にニャトラン、ペギタン、そしてラテも茂みから現れる。

 

「「「「えーーっ!?」」」」

 

 驚いた後、治達は茂みへと場所を移す。

 

「んで、何で来たんだよ?」

 

「ごめんペエ。僕は止めたペエ」

 

 怒られるかとビクビクするペギタン。

 

「だって、何かあった時に遠いとあれだしー」

 

 へらへら笑いながら言うニャトラン。

 

「ラテ様が一緒に居ればビョーゲンズが現れてもすぐに分かるラビ!」

 

「ワン!」

 

 そして自信たっぷりに自分の意見を言うラビリンと、同調するように吠えるラテ。

 

「今日くらいは来てほしくねえもんだけどな」

 

 治は静かに返す。

 

「まあ、バレなきゃいっか!」

 

「そうね。言ってること理に適っているもの」

 

「それじゃあ、皆に見つからないようにね」

 

 のどか、ちゆ、ひなたの三人は笑顔でヒーリングアニマル達の同行を認めたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そして、まだ少人数の人間が残る中にグアイワルは居た。

 

「ほう。この場所、キラキラしたものがたくさんあるな。…………進化しろ! ナノビョーゲン!」

 

 グアイワルはガラスの中にナノビョーゲンを寄生させ、メガビョーゲンを誕生させた。

 

 そして、それを察知したラテはくしゃみをする。

 だが、今回はラテを診察するまでもなくビョーゲンズがどこに現れたのか分かった。

 

 何故なら、さっきまで治達が話していた通路を大勢の人が走って逃げていたからだ。

 

「ほら見ろ! 俺たちが来てよかったろ!」

 

 ニャトランがえっへんと胸を張る。

 

「うーん、まあそういう事にしとこっか!」

 

「いいから、とっとと片付けるぞ。……変身」

 

 治は腕時計型のアクセサリーに取り付けられたボタンを押す。

 すると、以前見えたサングラスとバンダナが彼の顔を隠した。

 

「おさむん…やっぱりそれで行くんだ…」

 

「仕方ねえだろ! バレねえためだ。それから、今の俺は彩野治じゃない、正義の味方、グレートサイノマンだ!」

 

 治……もといグレートサイノマンは言う。

 その姿はとてもカッコいい物とは言えないが、そんな事は置いておきのどか達もプリキュアへと変身した。

 

「「「地球をお手当て!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!」」」

 

 そして、グレートサイノマン達はグアイワルとメガビョーゲンの前に現れる。

 

「止めなさい、メガビョーゲン!」

 

「何っ!? 早いぞ!」

 

「おい! 早いとか言うな!」

 

「……ちっ! やれ、メガビョーゲン!」

 

 メガビョーゲンはグレートサイノマンに向かう。

 だが、もう何度も繰り広げてきたメガビョーゲンとの戦闘―――。

 それに馴染んできた彼の体は、とっさにメガビョーゲンの攻撃を回避し、お返しと言わんばかりに殴りを浴びせた。

 

「何だと!?」

 

「へっ! 俺だってもう何度も戦ってきて、コツくらい掴んでんだ!」

 

 彼は得意気に言う。

 それを見てスパークルは、

 

「おお! おさむん凄い! あたしたちも負けてられないね、フォンテーヌ!」

 

 と言った。

 

「ええ!」

 

「おい、俺はおさむんじゃなくて! グレートサイノマンだ!」

 

 そして、スパークルに賛同するフォンテーヌと彼女に訂正を求めるグレートサイノマンこと治。

 だが治は、グレースと共に自身の作品を心配する長良の姿を見つけてそちらに向かう。

 

「わ、私の作品が…」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あ、あなた達は…!?」

 

「ここは危険だ。あんたはとっとと逃げてくれ」

 

 治は彼女に正体がバレないよう口調を変える。

 

「けど! まだ私の作品が!」

 

「大丈夫です。あなたの大切な作品は、わたしたちが守ります!」

 

 グレースの言葉でやっと逃げる長良。

 そして、

 

「グレース。絶対に作品は守り通すぞ」

 

「うん。長良さんの思い、壊させない!」

 

 治とグレースもメガビョーゲンに向かって跳ぶ。

 

「今回はなんのエレメントだ?」

 

「今調べてみるよ。キュアスキャン!」

 

「光のエレメントさんラビ!」

 

 メガビョーゲンに支配された光のエレメントさんを助けようと戦う治とプリキュア達、だがそんな中―――

 

「くしゅん! くしゅん!」

 

 ラテが2()()くしゃみをした。

 

「(二回…?)」

 

 ラテの異変にいち早く気づく治。

 そして彼はプリキュア達に言った。

 

「おい、ラテの様子が変だ! 誰か、ここは俺たちに任せてラテを診てくれ!」

 

「分かったわ!」

 

 彼に言われフォンテーヌが離脱してラテを診る。

 

『あっちの方で、大きな川が泣いてるラテ。……あっちの方では黄色い花が泣いてるラテ』

 

「なんてこと!?」

 

「ビョーゲンズが他にも二体ペエ!?」

 

 ラテから告げるられる驚愕の事実。

 それをフォンテーヌはその場の全員に伝える。

 

「みんな大変よ! 他にも二箇所でメガビョーゲンが現れたわ!」

 

「「ええっ!?」」

 

「何だと…? ちっ、考えやがったなテメーら!」

 

 治は鋭くグアイワルを見る。

 

「狙ってやったわけではない。元々あいつらとの協力など要らないからな。……だが、シンドイーネはともかくとしてダルイゼンまで動くとは、運が悪かったな」

 

 そんなグアイワルを置いて集まる四人。

 

「ど、どうしよう!? いきなり他に二体のビョーゲンズって言われても!」

 

 スパークルは見るからに慌てていた。

 そして、グレースが口を開く。

 

「手分けしよう! わたしたち、四人も居るんだもん!」

 

「…………そうだな、それがいい」

 

 一拍の間を置いてグレースに賛同する治。

 彼の頭の中には別の考えも湧いて居たが、不可能だと判断したためそれを言葉に出すことはしなかった。

 

「そうね。それなら、スパークルは川の方をお願い! きっとさっき電車の中から見えたあの川だと思うから」

 

「分かったよ! 気をつけてね」

 

 スパークルはその場から離れる。

 

「私たちは、黄色い花の方に行くわ。だから、グレースとグレートサイノマンは、ここをお願い!」

 

「うん!」

 

「任せろ!」

 

 そうしてバラバラになる四人。

 それを見たグアイワルが言った。

 

「ほう、お前たちも分かれたか。ならば戦いの第二幕と言ったところだな。よかろう、この辺りは大方蝕んだ。場所を変えようではないか。メガビョーゲン!」

 

 グアイワルが指示すると、メガビョーゲンは姿を変えて逃げ出す。

 

「行こう! 治くん!」

 

「…………落ち着いていけよ。グレース」

 

 見るからに慌てるグレース。

 それを見た治は自身の呼び名を訂正させる事よりも彼女を落ち着かせることを優先した。

 

「そんな事言ってる場合じゃないの!」

 

 だが、グレースは強い言葉で返す。

 

「グレース…」

 

 それを見ていたラビリンも怯える。

 そして、彼女達はメガビョーゲンを追った。

 

「(絶対、絶対に守るんだ…! この場所を!)」

 

 グレースは心にそう強く誓い。

 

「くっそ…! 俺がもっと強けりゃ…! あの手だって…」

 

 そして治もまた、自身の弱さを悲観した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 場所を移し、別のガラス細工が展示された広い部屋に辿り着いたグレースと治。

 

「メガビョーゲン!!」

 

 メガビョーゲンのトゲが勢いよく伸びて治を襲う。

 

「ちっ! たあっ!」

 

 だが治はそれを避けるだけのスピードを出せるわけではないため少しでもダメージを軽くしながらメガビョーゲンに反撃する。

 

「…………なるほど、どうやらダルイゼンの言うとおり、本当にただの腰巾着ではないようだ」

 

 それを見たグアイワルも治への評価を改める。

 この男はプリキュア同様、自分達にとって厄介な存在であると―――。

 

「メーガビョーゲン!」

 

「うわっ!」

 

 メガビョーゲンの攻撃を受け、治は後方へ飛ばされる。

 

 そしてその方には、長良の作ったガラス細工。

 このまま飛んで行けば間違いなくあのガラス細工は壊れる。

 

「…………っ! ごめん、治くん!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でグレースはヒーリングステッキからハート型のエネルギー弾を放つ。

 だがその対象は、メガビョーゲンではなく飛ばされた治である。

 

「っ!? うおおおっ!!」

 

 空中に居り、手を掴む所も無い治がその攻撃を回避する事も出来るはずも無いため治はグレースからの攻撃に直撃して方向が変わり、長良の作品は守り抜けた。

 

「グレース! 何やってるラビ! それじゃあ治が傷つくだけラビ!」

 

 ラビリンがグレースを責めた。

 

「……仲間割れか? まあいい、メガビョーゲン! 今のうちにプリキュアをやれ!」

 

「メガビョーゲン!」

 

 メガビョーゲンの標的がグレースに変わる。

 それにグレースも応戦するも、彼女は作品を気にするあまり動きが鈍くなってしまっていた。

 

「ってて…、まったく無茶苦茶してくれるぜ。グレースの奴」

 

 立ち上がる治。

 だが彼の頭にはグレースを責める、等ということは微塵も無かった。

 彼女の気持ちは分かるから、自分もまたこの場所を守りたいと思うから。

 

 彼にあるのは、純粋に自分の弱さと、今日を邪魔したビョーゲンズへの怒りだけだ。

 

「グレース、作品を壊したくないのは分かるラビ! でも、時間が掛かれば掛かるほど浄化するのは難しくなるラビ!」

 

「でも!」

 

 ラビリンに反論しようとするグレースをメガビョーゲンが襲う。

 

「メガ!!」

 

「ふっ!」

 

 だが、そんなメガビョーゲンに治が蹴りを加えたことにより、メガビョーゲンは作品とは関係ない方へと飛ばされた。

 

「ちっ、どうにも戦いづれえな。どうすっか?」

 

 治は構えながら言う。

 

「こうなったら、これ以上メガビョーゲンが育つ前にプリキュアの力を合わせるラビ!」

 

「どういう事だ?」

 

 ラビリンの提案に治が聞く。

 

「発生時間の遅いメガビョーゲンほど浄化するのも簡単ラビ! ここは一旦退()いて、川の方から順にプリキュア三人で浄化するべきラビ!」

 

「……なるほど、確かにその方が確実かもな」

 

 治は苦肉の策とは言え、ラビリンの案を飲む。

 確かにラビリンの言っていることは、他を優先させるためにここを見捨てる。

 そうは言っているが、それでもここで自分達が負けて助けられなくなるよりはマシである。

 彼はそう判断した。

 だが……、

 

「嫌…」

 

 彼女はそうは行かなかった。

 

「グレース?」

 

 ラビリンが彼女の名を呼ぶ。

 

「もし、ここを離れてる間にあのメガビョーゲンがもっと育っちゃって、取り返しがつかなくなっちゃったらどうするの? この素敵な作品たち? 作った人の……長良さんの思いは!?」

 

 グレースは最後に叫ぶ。

 

「グレース…」

 

 治も彼女の名を呼ぶ。

 だがそんな彼の声も、彼女には届かなかった。

 

「私は絶対にここを守りたい! 守れるまで、ここを離れるわけには行かないの!」

 

 グレースは実りのエレメントボトルを取り出す。

 

「実りのエレメント!」

 

 そしてヒーリングステッキに実りのエレメントボトルを装着した時、グレースのステッキの先端からピンク色の光が剣のように伸びた。

 

「グレース!」

 

 ラビリンが叫ぶ。

 

「おい落ち着けって言ったろ! そうならないためにまずはお前たち三人で…」

 

 グレースの肩を掴む治。

 

「邪魔しないで!」

 

「っ!!」

 

 だがグレースは、そんな治に怒鳴り、彼を振り払ってメガビョーゲンに向かった。

 そして、それを受けた治は…、

 

「(邪魔すんな…か。……ハハ、そうだよな。何言ってんだ俺は)」

 

 その場に立ち尽くしていた。

 

「グレース! このまま守りきれなかったら同じラビ!」

 

「ハァッ!」

 

 静止するパートナーの声も聞かず、グレースはメガビョーゲンに斬りつける。

 

「メーガー!!!」

 

 そんなグレースの攻撃を躱して反撃に出るメガビョーゲン。

 だが、それに対してグレースも回避の選択をする。

 

「ハァ!」

 

 そして続いて彼女はメガビョーゲンを蹴りつける。

 今度の攻撃は見事メガビョーゲンを捉えて直撃する。

 

「あ、駄目!」

 

 だが今の周りが見えていない彼女の目には攻撃を受けたメガビョーゲンの倒れた先に何があるのかすら見えていなかった。

 それが、彼女の守りたい作品であったにも関わらずだ。

 

 その事をメガビョーゲンを攻撃してから理解した彼女は途端に倒れそうなメガビョーゲンを助け出す。

 作品を守るために敵も守る。

 なんとも皮肉な事である。

 

「メガビョーゲンを助けてくれるとは、感謝するぞプリキュア!」

 

 そんなグレースをグアイワルが笑う。

 

「メガ!」

 

「きゃあっ!」

 

 そしてメガビョーゲンもまた、守った彼女に感謝などするはずもなくグレースを投げ飛ばす。

 そんな彼女の目に映るのは、自身が守りたい作品。

 今ここでステッキからエネルギーを放出すればグレースは無傷で立て直すことが出来る。

 だが、それをすれば間違いなく作品は壊れる。

 しかし反対に、このまま何もしなくても作品に傷がつき、グレースもダメージを追うことは見えていた。

 

「…………っ!!!」

 

 グレースは唇をギュッと噛み、目を閉じる。

 ―――どうか長良さんの作品が傷つかない様にと。

 

「グレース!」

 

 その時、部屋の中に風が吹いた。

 そしてその風と共に駆け抜けた男は、作品に落ちる前にグレースを抱きかかえて助け出す。

 

「……治、くん…?」

 

「ナイスキャッチラビ、治!」

 

 その男は、先程グレースに邪魔しないでとはねのけられた男、現在はグレートサイノマンとして変装している男、彩野治である。

 

「守りたい事にばっか拘って、結局何にも出来てないんじゃ意味ねえだろ」

 

「……ごめん、なさい」

 

 静かに言う治。

 そんな彼の纏う今の雰囲気が、グレースに冷静さを取り戻させる。

 

「けど、お前がどうしてもこの作品を守りたい。それだけはめっちゃ伝わってきたぜ」

 

「え…?」

 

 治は立ち上がってメガビョーゲンの方を向く。

 

「……ふん! やはりただの仲間割れか、何かの作戦かと少しは期待したものだがメガビョーゲン! 目標変更だ、あの男から片付けてしまえ!」

 

「メガビョーゲンーーーーーーー!!!!!!」

 

 メガビョーゲンはトゲを全開にさせる。

 そしてそこへ、回転の力まで加えて治へと向かった。

 だが、それを見ても治は避けない。

 それどころか、ガードの構えすらしない。

 ただ彼がしたのは、自身の横に居るグレースと後ろにある作品を見る事だけ。

 そして―――

 

『楽しみだなー、今度はどんな事があるんだろう?』

 

 先日ののどかとの通話

 

『それは私にとって、思い出の品なの』

 

 長良の言葉

 

『やるんならめっちゃカワイイ物作りたいよね〜!』

 

『作ったら、みんなで作品を見せあいましょうか』

 

 みんなでした約束

 それらを思い出す事、ただそれだけだ。

 

「メガビョーゲン!!」

 

 そんな彼の顔面にメガビョーゲンの体が直撃した。

 そして、治が顔に着けていたサングラスの破片が床にパラパラと落ちた。

 ……彼の顔からであろう赤い鮮血と共に。

 

「ああ…!」

 

 それを見てグレースの顔が反対に青くなる。

 自分の無鉄砲さが招いたから、また彼が危険な目に遭う。

 

『これからもわたしと一緒にビョーゲンズと戦ってくれる?』

 

 自分が前にそんな事を聞いたからまた彼が傷つく。

 グレースは今の自分を責める気持ちで一杯だった。

 

 けれど、

 

「……あ! グレース、見るラビ!」

 

「…?」

 

 ラビリンの言葉で前を見るグレース。

 そして彼女の目に、光が戻り、同時に驚愕した。

 

「め、メガ…!?」

 

 目の前で、メガビョーゲンの体を必死に引き剥がそうとする彩野治が居ることに―――。

 そして彼の顔が、見るからに怒りで満ちている事に。

 

「……何なのだ、あの男は!?」

 

 それは、グアイワルも同様である。

 

「……ここにはな、お前らにも、俺たちにも分からねえくらいデカい思いをかけて作品を作ってきた人の気持ちが籠もってんだ…! それだけじゃねえ、この日を俺も他の奴らも楽しみにしてきた、そんな皆の気持ちが詰まってんだ…! それを分かってるから、グレースだって必死に、俺たちを無視してまで守ろうって頑張ってんだ…!」

 

 治はメガビョーゲンを引き剥がし、投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたメガビョーゲンは彼に向かうよりも警戒していた。

 

 そして、治は言葉を続ける。

 

「そんな皆の気持ちを……長良さんの思いを……グレースの努力を……何も知らねえテメーらが…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――邪魔すんじゃねーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 

 全員の鼓膜を突き破らんばかりの怒号。

 普段の彼からは考えらないほどの大声が館内を揺らす。

 そして、彼を中心に突如として発生する暴風に全員が目を閉じる。

 

 

「うおっ!?」

 

「メガっ!?」

 

「うぅっ…!」

 

 かろうじて彼の近くに居たグレースはぷにシールドの遠く離れたグアイワルはその距離の影響で大した効果は無かったが、メガビョーゲンだけはその暴風によって壁に叩きつけられた。

 

 そして、全員が再び目を開けた時―――。

 彼はそこに立っていた―――。

 

「さあ、第三ラウンドだ!」

 

 全身から白いオーラを噴き出し、そのオーラによって普段の顔が見えた男は、最後にそう叫んだ。

 

 彩野治―――始まりの覚醒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやくオリ主が気の解放をしました。

記念に、ちょっとドッカンバトル風の物でもあとがきに書いてみようと思います。

【怒りの咆哮】彩野治

レアリティ:SSR→UR

レベル:80→100

入手法:イベント産

ステータス(潜在解放無し状態)

HP:9036

ATK:10254

DEF:4066

リーダースキル:怒り爆発カテゴリの味方の気力+2HPとATKとDEF30%UP

パッシブスキル

名前:怒りの解放

効果:自身のATKとDEF50%UP

必殺技:解放

効果:1ターン自身のATK大幅上昇、相手に特大ダメージを与える

リンクスキル

勇気

臨戦態勢








今どきリンクスキルが2つってどういう事よ…弱すぎ




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吉か凶か!? 集えすべての戦士たち!

今回は前回ちょっと力を使いすぎてガス欠なんで短めで行きます


「ハァァァァァァッ…!!」

 

 静かな声―――。

 しかし対照的に全身に込める力をより強く。

 治の気持ちに呼応するかのように彼の全身を覆うオーラは激しさを増していく。

 

「メ…、メ、ガ…」

 

 メガビョーゲンは、さっきまでの勢いが嘘のように怯えていた。

 その理由もまた、自身をにらみつける目の前の男からの鋭い眼光によるものである。

 

 そして、キュアグレース―――。

 彼女もまた静かに目の前の男を見る。

 自分の思いを受け取り、作品を守ろうとしてくれている男を―――。

 

 だがそれ故に、彼女は男の放つ空気に怯えていた。

 何故なら今、その男の放つ空気はかつて一度だけ見せたあの気絶時の彼と酷似しているからだ。

 

「お、治、くん…」

 

 グレースは静かに口を開き、彼に語りかける。

 治はそれに反応し、ゆっくりと彼女に目を向ける。

 そして、彼は優しい笑みを浮かべながら彼女を手招きする。

 

「…………あ」

 

 体を強張らせ、それでもなんとか彼の側に行ったグレースの頭を治は優しく撫でる。

 

「お前はそのままでいろ、グレース」

 

 彼はグレースに言う。

 そしてグレースからの返事を待つ前に、言葉を続けた。

 

「今すぐ無理に自分を変えなくていい。……お前が周り見えなくなって突っ走りそうになったら、俺たちが全力で止めてやる」

 

 グレースは治の顔を見る。

 そこには、確かに彼女の知る治が居た。

 それを見て、彼女は涙を零す。

 

「おい泣くなよ。まだ、戦いは終わってねえんだからよ。……ラビリン、グレースの事、しっかり頼んだぜ。こいつすぐ無茶しようとするんだから」

 

「……任せるラビ!」

 

 グレースを置いて話す治とラビリン。

 そして、彼に強く返したラビリンの言葉を最後に―――彼の目は、再び強いモノに変わった。

 

「お前らにできねえ事は、俺がやるからよ」

 

 片足を一歩前に進める。

 彼のしたそんな事が、場の空気をあるべき姿に戻す。

 

「…ハッ! ええい! メガビョーゲン!」

 

「……め、メガビョーーーゲン!」

 

 その空気を真っ先に取り戻したグアイワルがメガビョーゲンに指示し、メガビョーゲンは再び目の前の戦士に向かっていく。

 

「これ以上ここで戦うのは、俺も窮屈だ。……場所を変えさせてもらうぞ」

 

 襲いくるメガビョーゲンを前に彼は言う。

 

「何を馬鹿なことを、これ以上貴様らの好きにさせるものか!」

 

 グアイワルが息を荒くして返す。

 

「…いい加減にしろ、好き勝手してんのは、テメーらだろうが!」

 

 メガビョーゲンの攻撃を紙一重で治は躱す。

 そしてそれだけに留まらず、彼は今まで一番力強くメガビョーゲンを蹴りつけた。

 

「め、メ〜ガ〜……」

 

 メガビョーゲンは天井に激突、さらにそこから突き抜けて外へと弾き出された。

 

「メガビョーゲン! ……くっ!」

 

 その様を見ていたグアイワルが治を睨む。

 だが彼は、付いてこいと言わんばかりに首をクイッと動かしてメガビョーゲンが突き抜けることによってできた穴へと跳んでいく。

 

 そんな治を追うようにグアイワルも姿を消す。

 

「……ラビリン、わたしたちも行こう!」

 

「分かったラビ!」

 

 そしてその場に取り残されたグレースも彼を追う。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「メガ!」

 

「……」

 

 臨戦態勢を取るメガビョーゲン。

 それに無言で構える治。

 だが、治はそこからさらに目を閉じていた。

 

「治何やってるラビ!? そんな事したらメガビョーゲンの攻撃が分からないラビ!」

 

 それを見たラビリンが治に言う。

 そして彼は静かに目を開く。

 そして、

 

「……分かった」

 

 何かを理解して治は呟いた。

 その瞬間、治から動き出す。

 

「……そう何度もさせるか! メガビョーゲン!」

 

 再びメガビョーゲンの腹部に潜り込もうとする治。

 しかし、思い通りにはやられまいとグアイワルがメガビョーゲンを呼び、メガビョーゲンは全身から棘を展開する。

 

「ハァッ!」

 

 しかし、グアイワルは彼の変化に忘れていた。

 この場にはあの戦士の他にもう一人、プリキュアである彼女が居ることを―――。

 

「プリキュア…! くそ、あの男に目をやりすぎたか!」

 

「ナイスだ、グレース」

 

 悔しそうに言うグアイワルと、対照的に笑う治。

 そしてグレースのサポートによって体勢を崩したメガビョーゲンの棘を一本、治は強く握った。

 

「おおおおおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 大地を強く踏みつけ、治はメガビョーゲンを宙に飛ばし、自身もその後を追う。

 

「たあああああああっ!!!」

 

「め、メガガガガガガガガガガ……メガ〜〜〜!!!」

 

 空中でメガビョーゲンに追いついた治は、メガビョーゲンの足を一本取ってその体を高速で回して何処かに向けて投げ飛ばす。

 そして彼は、次にグレースへ向けて大声で叫ぶ。

 

「グレースッ! 今メガビョーゲンをぶっ飛ばした方向に多分、スパークルかフォンテーヌのどっちかが居る! お前は先に行っててくれ!」

 

「え? お、治くんは!?」

 

「俺ももう片方と合流したらすぐ向かう!」

 

「…………そういう事か、奴らとの協力は好かんが、あの男がこうも力を付けては仕方あるまい」

 

 治の考えをいち早く察知したグアイワルがまたしても姿を消す。

 

 そして地面に降りた治にグレースが駆け寄った。

 

「治、一体どういう事ラビ?」

 

 ラビリンが治に聞く。

 

「プリキュアが三人バラバラで戦うよりも、一箇所に固まった方が良い。けど、それじゃあ他のどこかを一度見捨てる事になる。……だったら、それぞれのメガビョーゲンを一箇所に固めちまえばいい。もっともさっきまでは、俺の力不足で提案できなかった案だけどな」

 

 治はラビリンたちに説明した。

 そして自身から溢れ出るオーラを見て、

 

「けど今の俺なら、それができる。さ、早く行ってくれ。どっちか分からねえけどいきなりメガビョーゲンが二体になったらマズいからな」

 

 とだけ告げて次に自分の向かわなければいけない方へ向いて歩き出す。

 

「治くん!」

 

 そんな治をグレースは呼び止める。

 

「お? どうしたグレース?」

 

「……ありがとう!」

 

 グレースからの感謝の言葉。

 それを受けた治は何も言葉を返さない。

 ただ、背中を向けながらサムズアップをして走り出したのだった。

 

 それを見たグレースもメガビョーゲンが投げ飛ばされた方に向けて走り出す。

 その道中、

 

「ごめんなさいラビリン」

 

「ラビ?」

 

 グレースはラビリンに謝った。

 

「やっぱりラビリンの言うとおりだった…。もし、治くんが居てくれなかったら、わたし一人だったら、きっと長良さんの作品も守れなくて、もっと大変なことになってた…」

 

 グレースは自分の選択を責める。

 

「ちゃんと周りも見なきゃダメだって、朝ちゆちゃんも言ってくれたのに…」

 

 彼女の言葉は重いものだった。

 しかし、

 

「けどそれも、グレースの良いところラビ! だからあんまり思い詰めないで欲しいラビ…。きっと、それ以上落ち込んだら治も悲しむラビ!」

 

 ラビリンはグレースを元気づける。

 目の前の事に一生懸命努力する。

 それがグレースの良いところ、だからこそ先ほど彼はそのままでいろと、それを変える必要は無いと言ったのだ。

 

「……ありがとうラビリン。けど、本当に助けたいなら目の前の事だけじゃダメなんだよね」

 

「今回はたまたま上手く行かなかっただけラビ。次はきっと、上手く行くラビ!」

 

 ラビリンの笑顔にグレースは救われる。

 そして今この場に居ない、けどこの状況を作ってくれた彼に感謝しながら彼女は前を向き、言葉を紡ぐ。

 

「ラビリン。もしまたわたしが間違えそうになったら、その時はまた、ちゃんと止めてね」

 

「勿論ラビ!」

 

 ラビリンの返事にまた心が救われるグレース。

 そして彼女がようやく着いた先では、フォンテーヌが二体のメガビョーゲンに囲まれており、その内の一体はとても大きな物に変貌していた。

 

「フォンテーヌ! 大丈夫!?」

 

「グレース!? どうしてここに!?」

 

 突如現れたグレースに驚くフォンテーヌ。

 

「治と一緒に居たはずペエ…」

 

「治が助けてくれたの」

 

「治が…? ……なんだか色々あったみたいだけど、やっぱり彼と一緒にさせたのは正解みたいね」

 

 今のグレースを見て微笑むフォンテーヌ。

 

「えっ? こうなるって分かってたの!?」

 

「分かってたわけじゃないけど、グレースを任せるなら治以外に適任は居ないでしょ」

 

 フォンテーヌが言うとグレースはガクッと肩を落とす。

 

「グレース! それどころじゃないラビ!」

 

 ラビリンの言葉でハッとするグレース。

 そして彼女は自身とフォンテーヌを囲むメガビョーゲンへと向く。

 

「こっちにフォンテーヌが居るってことは、治はこれからスパークルと一緒に来てくれるはずラビ! だからそれまでは」

 

「うん! わたしたちが頑張る番!」

 

 グレースはステッキを握り、彼同様強い目つきになった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「到着っと……、こっちのメガビョーゲンは随分でけえな」

 

 もう一方のメガビョーゲンが現れた場所。

 そこに辿り着いた治は、スパークルに声をかけられる。

 

「うえ〜! おさむん何そのギラギラ!? めちゃカッコいいんだけど〜!」

 

「ひなたそれどころじゃないだろ! メガビョーゲンを何とかしないと!」

 

 治の放つオーラに意識を奪われそうになるスパークルを宥めるニャトラン。

 

「あっ! そうだった、ごめんごめん〜」

 

「苦戦中みたいだな」

 

「あ〜ら、誰が来たのかと思ったらプリキュアじゃなくて坊やなのね。けど残念、アンタ一人じゃこのメガビョーゲンは倒せないと思うわよ?」

 

 状況を把握しようとする治にシンドイーネが言う。

 そして治は、大きく育ったメガビョーゲンを見て笑いながら言った。

 

「……俺一人で倒す気なんてねえよ。目的は別にあっからな」

 

「「「?」」」

 

 彼の言葉が理解できない三者。

 そんな彼女らを置いて治はメガビョーゲンの足元、汚染された川の中へと勢いよくダイブした。

 

「おさむん何やってんの!?」

 

「蝕まれた川に飛び込むなんて無茶すぎるニャ!」

 

 あまりの衝撃に語尾が戻るニャトラン。

 だが、そんな二人の心配は無用な物だった。

 

「め、メガァッ…!?」

 

「ふんっ! ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 水を押しのけ、メガビョーゲンを足元から浮かせるために両足を地面に固定させる治。

 美術館のメガビョーゲンよりも大きく育ったせいでかなりの重量になったためか彼の額にも青筋が浮き出ている。

 

「これくらいぃぃぃぃぃっ!!」

 

 が、それでも今の彼のパワーは桁違い。

 先同様にメガビョーゲンを宙に投げ、グレースとフォンテーヌの居る方へとメガビョーゲンを投げ飛ばした。

 

「ちょ、ちょっと何すんのよ!? ちっ! 可愛げの無い坊やね!」

 

 そしてグアイワルと同じ様に、シンドイーネもメガビョーゲンを追って姿を消した。

 

「……ハァ、ハァ…さすがに重いな」

 

「おさむん! め〜っちゃ凄いじゃん!」

 

 さずかに疲れを見せる治にスパークルが言う。

 だが治は、

 

「嬉しい言葉だけど、今は後にしようぜ。急ぐぞ、二人も待ってる」

 

 とだけ言い、フォンテーヌ、グレースの待つ方に向けて歩き出す。

 

「あ、うん! 待ってよ〜!」

 

 そしてスパークルが追いついた所で、二人は走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はこの展開は前々から考えてました


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メガビョーゲン合体!? 想いを一つに挑む戦い!

今回こんな調子で大丈夫かな…?


 グレース・フォンテーヌが戦闘を繰り広げる場。

 そこに、三体目のメガビョーゲンが飛来する。

 

「…また?」

 

「今度はシンドイーネの奴か」

 

 それを見たダルイゼンが呟き、グアイワルが推測する。

 

「あーもう! 何なのよあの坊や!?」

 

 そしてグアイワルの推測通りに現れたシンドイーネは開幕からイライラしていた。

 

「ふん、その様子ではお前もあの小僧にやられたと見えるな」

 

「はあ!? やられてませんー、ちょっと不意を疲れただけですー!」

 

「……またアイツか」

 

 二人の会話を聞いてダルイゼンが理解する。

 自身のところに二体のメガビョーゲンを飛来させた存在が誰であるのかを。

 

「グレース! フォンテーヌ!」

 

「よっと、お待たせ」

 

 少し遅れてその場にスパークルと治が到着する。

 そんな二人の元にグレースとフォンテーヌが駆け寄る。

 

「二人とも! 無事だったんだね? 良かったー!」

 

「……というか、治? あなたの周りから出てるそのオーラみたいなのは一体…」

 

 フォンテーヌは全員が一番気になった事を聞いた。

 そう、分かれる前や今までの戦闘時の彼と明らかに違うのはその全身を包む白いオーラ。

 

 そしてそのオーラが発現してから、彼のパワーは急激に上昇し、散らばっていたメガビョーゲン三体を一箇所に集めるなどという事をやってのけたのだ。

 

「……あー、コレか。正直俺にもよく分かんねえ。けどなんでか、めっちゃ力が湧いてくんだよ」

 

 治はそうフォンテーヌに返しながら、その視線は離れた場所にいるメガビョーゲン三体、そしてビョーゲンズ三名の姿をハッキリと捉えていた。

 

「……で、何なのアイツのあのオーラ?」

 

 彼と真っ向から向き合い、ダルイゼンが他二人に聞く。

 

「知らないわよ!」

 

「だが、油断はできんのは確かだな」

 

 シンドイーネもグアイワルも治の変化を知らないと返す。

 

 しかし、怒りに駆られ、そして何よりキングビョーゲンのためにプリキュアを倒して地球を蝕むことに意識を取られているシンドイーネとは別に、ダルイゼンとグアイワルの意見は言葉を介さず一致した。

 

 ―――今、プリキュアよりも先に片付けるべきはあの男であると。

 

「……ここも、ずいぶんと侵食が進んでるな」

 

 対して治は、ビョーゲンズにより侵食された大地を見て言った。

 

「ごめんなさい治。駆けつけるのが大分遅れてしまったせいで、メガビョーゲンがかなり強力になってしまったの…」

 

「そんな事ないよ! フォンテーヌは、それでも一人であんなに強いメガビョーゲンと戦ってくれたんだし、わたしが来てからも、ピンチになったら助けてくれてたから! だから…!」

 

 フォンテーヌとグレースが治に言う。

 どちらも自分を責めるような物言いである。

 

「気にすんなよ。俺たちが勝って、あの三体をメガビョーゲンに捕まってるエレメント全員助けりゃいいんだからさ」

 

 だが治は、そんな二人に明るく言う。

 

「そうだよ! こっちもプリキュアが三人とめっちゃ強くなったおさむんが居るんだし、絶対に勝てるよ、ね!?」

 

 そんな彼の空気に感化されたスパークルが口を開く。

 

「本当に勝てると思ってんの? こっちのメガビョーゲンも結構育ってるけど?」

 

 だがそんな空気を壊してダルイゼンが言う。

 それに負けじと治も返す。

 

「勝てると思うかじゃねえ、勝つんだよ。それしか救う道がねえんだからな」

 

 真っ直ぐ、強く……ただ自分達の勝利を信じて。

 

「〜〜っ!! どこまでも生意気な坊やね! メガビョーゲン! やっちゃって!」

 

「メガビョーゲン!!」

 

 シンドイーネの造ったメガビョーゲンが襲いくる。

 

「先行くぜ」

 

 しかし治は静かに三人のプリキュアに返し、そして力強く大地を蹴り目の前から迫るメガビョーゲンに向かった。

 

「だりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガーーー!!!」

 

 圧倒的な体格差。

 それを物ともせずに治とメガビョーゲンの拳が衝突し、辺りに強烈な風が吹く。

 

 その風に一瞬目を閉じる一同。

 しかしその風の中心に居る治はただ目の前のメガビョーゲンと鍔迫り合いを繰り広げていた。

 

「メ、メ……メガビョーゲン!!」

 

 徐々に押し返す治の腕。

 その底知れないパワーを恐怖として受け取ったメガビョーゲンは口から水のブレスを吐き出す。

 

 が、そのブレスは治には当たらない。

 何故なら、それを見切った治は攻撃を中断し、メガビョーゲンの腕を足場として宙へと跳んだからだ。

 

「メッ…!?」

 

「……もらったぜ」

 

 眼前に見据えるメガビョーゲンの双眼。

 そこを目掛けて蹴りを繰り出す治。

 

「…! ちっ…」

 

 しかし、彼の攻撃もまたメガビョーゲンには当たらない。

 

 否、正確にはその攻撃は花の形をしたメガビョーゲンの蔦のような腕によって攻撃する前に彼を弾き飛ばしてしまったのである。

 

「さすがに無視されるのはイラッとするんだけど?」

 

 その花型のメガビョーゲンの前にダルイゼンが立ち、彼は先の攻撃をもろともせずに立ち上がり、体に付着した泥を拭う治に言う。

 

「だったらちゃんと掛かってこい。三人まとめて相手してやる」

 

 治の大胆不敵な発言。

 その言葉にプリキュア達は驚愕し、ビョーゲンズを一笑に吹かした。

 

「ハッハッハ! 面白い、少し力を付けた程度で随分と強気だな。貴様一人で我ら三人をまとめて相手取るだと?」

 

 グアイワルが言う。

 

「誰が俺一人で、なんて言ったよ。俺一人じゃメガビョーゲンの中にいるエレメントは助けられねえだろ」

 

 いつもの彼と違い、ただ冷静に返す治。

 そうして彼は、プリキュア達の方を向いた。

 

「けど俺には、何よりも信じられる奴らが居るからな」

 

 治のその言葉を聞いた瞬間。

 グアイワルが言葉を発した。

 

「シンドイーネ、ダルイゼン。……どうやら今のあの男が相手では、このままだと負けるようだ」

 

「……」

 

「はあ? 何言ってんの? あんな坊やに負けるわけがないじゃない」

 

 グアイワルの発言をシンドイーネは否定し、ダルイゼンはただ言葉を閉ざす。

 そして、治のもとにはプリキュア達が集合した。

 

「たしかに、このままだと負けかどうかはともかくとして、厄介なことに変わりはないね」

 

 その様子を見てダルイゼンもグアイワルに同意する。

 

「…………じゃあ、どうするってのよ?」

 

 それを見たシンドイーネも、ようやく折れ、グアイワルの話を聞くことにした。

 

「あの男がプリキュアと力を合わせる以上、こちらも力を合わせるしかあるまい。俺だって貴様らとの協力など心底お断りだが、ここで負けるよりはマシだ」

 

 グアイワルが言うと、ダルイゼンとシンドイーネも渋々頷いた。

 

「「「合体しろ。メガビョーゲン」」」

 

『メガビョーゲン!!!』

 

 ダルイゼン、シンドイーネ、そしてグアイワル。

 三名の造り出したメガビョーゲンが粒子状に分解し、混ざり合ったように見えた直後、六本の腕を生やし、顔がサボテンのように変化したメガビョーゲンが姿を見せた。

 

「合体した!?」

 

「メガビョーゲンってそんなこともできんの!?」

 

「そんなの、聞いたこともないニャ!」

 

 その様を間近で見せられ、フォンテーヌとスパークルは驚愕し、恐怖した。

 

 そして、

 

「……あ、ああ」

 

「ちっ、聞いてねえぞ。そんな事」

 

 グレースは言葉を失い、治はただ構えた。

 

『メガビョーゲンーーーーー!!!』

 

 パワーアップを果たした合体メガビョーゲン。

 それはその場のプリキュア達と治に向けて日本の腕で叩きつけを開始した。

 

「危ねえ! 全員避けろ!」

 

 ただ一人叫ぶ治。

 その彼のおかげで、なんとか全員攻撃を避けた。

 ……しかし、

 

『メガッ!!』

 

「なっ!」

 

 メガビョーゲンはプリキュアに目もくれず治を攻撃する。

 

「治! ……ペギタン、やるわよ!」

 

「了解ペエ!」

 

 背後の木を壁にし、メガビョーゲンの攻撃を耐えしのぐ治。

 そんな彼を見たフォンテーヌは一刻も早くメガビョーゲンを浄化しようとする。

 

「「キュアスキャン!」」

 

 フォンテーヌのキュアスキャンは、確かにエレメントさんを捉えた。

 しかしそれは、彼女達にはどうしようも無い事実を突きつけることになる。

 

「フォンテーヌ! どうしたの?」

 

 グレースがフォンテーヌに聞く。

 すると彼女は、静かに自分の見たものを言った。

 

「あのメガビョーゲン。中に捕まってるエレメントさんが一人じゃないの。花のエレメントさん、水のエレメントさん、そして光のエレメントさん。三人いるのよ…」

 

「そ、そんなの……どうしよう…」

 

 グレースもまたキュアスキャンをする。

 だが彼女が見るのもまた、フォンテーヌが見たものと同じである。

 

 そしてそれを見たスパークルが言った。

 

「そんなの、どうやって浄化したらいいの…?」

 

 一体のメガビョーゲンに三人のエレメントさん。

 未だかつてこんな状況に出くわした事の無い三人には、とてつもない絶望感がのしかかっていた。

 

「……ちっ、思ってたよりも厄介だな…」

 

 だがそんな三人の前に飛んできたのは、治であった。

 誰よりも傷だらけで、彼女達のように浄化する事ができるわけではない。

 

 だが、

 

「待ってろよエレメント達! 絶対に助け出してやっからな!」

 

 彼女達のように諦めることだけはしない彼が居た。

 そんな彼の姿が、プリキュア達に再びステッキを握らせる。

 

 そして彼女達もまた、彼の隣に立った。

 

「ごめんね治くん。遅くなっちゃった!」

 

「本当ね。あなたが諦めないのに、私たちが諦めるなんてどうかしてたわ」

 

「よーっし! サクッとエレメントさんたちを助けよう!」

 

 自分の隣で強く言うプリキュアの姿を見た治。

 

「おう。絶対にな!」

 

 そう言った瞬間、彼の脳裏に声がした。

 

『プリキュアと一緒に戦う人……聞こえますか?』

 

「……誰だ?」

 

「おさむん? どうしたの?」

 

「いや、今頭の中に声が……」

 

『私は、かつてあなたやプリキュアの皆さんに助けていただいたエレメントです。あなたの強い意志を受けて、今あなたに話しています。どうか、私達の仲間を助けてください』

 

 頭に届くエレメントの声。

 それを聞いた治は、

 

「言われなくてもそうする」

 

 そう返す。

 そしていつまでもその場に留まらせてもくれない合体メガビョーゲンもまた四人に襲いかかった。

 

『メガビョーゲン!』

 

 その攻撃を回避する四人。

 

『あなたは、プリキュア達のように浄化はできないけれど、プリキュアとは違う力が使えますよね。その力に私達も協力させてください』

 

「協力…って、一体何すればいいんだ?」

 

『心の底から強く願ってください。そうすれば、あなたに協力したい者が、私達があなたに元気を分けることが出来るはずです。お願いです。私達の仲間を助けるために、私達にも協力させてください』

 

 エレメントの願い。

 それを聞いた治は、その場に降り立ち、プリキュアの三人に言った。

 

「三人とも悪い! 少しの間でいいから、メガビョーゲンをなんとか抑えてくれ!」

 

「分かった! こっちは任せて!」

 

 治の言葉とほぼ同時にグレースが返し、フォンテーヌとスパークルも頷き、三人はメガビョーゲンに向かって行った。

 

 そしてそれを見た治は、ただ直感を信じ、両手を高く上に挙げ、心を一点に集中させた。

 

「(頼む……この辺りにいるエレメントの皆よ。少しずつでいい―――俺に元気を分けてくれ!)」

 

 彼が願った瞬間、彼の体を包んでいたオーラはすべて霧散し、汚染された大地が一瞬だけ光った。

 だが、それを知るものは彼を含めて誰も居ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 




メガビョーゲンって合体すんのか?

……こりゃタグ追加だな


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放て! 2つの奇跡の技!

いつになったらヒープリの続きと映画は見れるんだ…?


 その様子に気づいたのは、戦っていないダルイゼン達ではなく、プリキュア達だった。

 

「おさむん? 何やってんの?」

 

「あんな無防備な状態じゃ、攻撃されたらおしまいよ…。止めさせないと…!」

 

「フォンテーヌ、待って!」

 

 両手を挙げ、その場に立ち尽くす治に寄ろうとしたフォンテーヌをグレースが静止する。

 

「治くんが何をしようとしてるのか…わたしには分からない。でも、今は治くんを信じて…わたしたちが治を守るべきだと思うの!」

 

 グレースは彼を信じていた。

 彼が自分なら、きっと信じて敵に立ち向かうから。

 

「でも…」

 

 スパークルが不安そうに治を見る。

 そう……プリキュアの中で一番最初に変化に気づいたのは、スパークルだった。

 

 彼の全身から先の白いオーラと違う、蒼白いオーラが溢れ出す。

 

 さらに、変化はそれだけではない。

 汚染された彼の周りにある大地……ほんの一部分でこそあるが、でも確かにその大地は色を取り戻し、活気づいていた。

 

「あれは、何…?」

 

「治から、凄いパワーを感じるペエ」

 

 その様子を見たフォンテーヌもようやく、彼を信じ、そしてメガビョーゲンに向き直る。

 

「……信じてるわよ、治」

 

 フォンテーヌは彼に言う。

 だが、そんな彼女の声……いや、今の彼にはどんな言葉や物音すら届いていなかった。

 

「(……まだだ、まだ足りねえ。もっと、もっと元気をくれ!)」

 

 今の彼は、ただ純粋に、一心に想いを込めていた。

 

「ふーん、何かするみたいだね」

 

 それに気づいたダルイゼンが言う。

 最後までバレてほしくは無かったが、とうとうビョーゲンズも治の変化に気づいてしまった。

 

「ちょっと、アレ……マズいんじゃないの?」

 

「ふむ、おそらくパワーを溜めて、最大の一撃をメガビョーゲンに放つつもりのようだな。だが、そうはさせん! メガビョーゲン!」

 

 グアイワルが叫ぶ。

 それに気づいたメガビョーゲンは、治目掛けて高く跳んだ。

 

『メガビョーゲン!!』

 

 メガビョーゲンの腕が迫る。

 だが、じっと目を閉じている治はそれを避けることはしなかった。

 

 きっと今目を開けると、雑念が混じる。

 そうしたら今、エレメント達の貸してくれた力が無駄になる。

 

 それになにより、

 

「「「ハアアアアアッ!」」」

 

 彼には、信じられる仲間がいる。

 治と合体メガビョーゲン、その間を遮ってプリキュアの三人がぷにシールドを展開させ、彼の身をメガビョーゲンから守っていた。

 

「…うっ、重い…。これ、いつまでも保たないよ…」

 

「頑張れスパークル…! 今は治に賭けるしかないニャ!」

 

 弱気なスパークルにニャトランが言う。

 

「どうするの? そのままソイツを庇って全員やられる?」

 

 三人にダルイゼンが問う。

 

「やられない…。わたしたちも、治くんも、絶対に負けないっ!」

 

 だが、ダルイゼンの言葉をグレースは正面から否定した。

 

「そうラビ! 治は絶対、エレメントさん達を助ける道を見つけてくれるラビ!」

 

 そしてグレースのパートナーでラビリンも言う。

 そんな彼女達の強い意志を目の当たりにするビョーゲンズの三人、

 

「……もう! 本当に小賢しいガキンチョ達! もういいからやっちゃいなさい、メガビョーゲン!」

 

『メガビョーゲン!!!』

 

 メガビョーゲンは一度腕を離す。

 そして上に高く挙げ、それを勢いよくプリキュア達目掛けて振り下ろそうとしていた。

 

「マズいわね…、流石にアレは防げないわ」

 

「……でも、負けるわけにはいかないペエ…!」

 

「ペギタン……。ええ、そうね!」

 

 いつものペギタンからは感じられない勇気溢れる言葉を受け、フォンテーヌも攻撃を仕掛けようとするメガビョーゲンを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――待たせちまった。皆、ありがとよ」

 

 そんな彼女達の耳に届く優しい声。

 その声の持ち主の方を彼女達は見た。

 

「治くん…!」

 

「おさむん…!」

 

「治…!」

 

 全身から溢れていた蒼白いオーラは、彼の右手に集中しており、そしてそれを支える彼の脚も微かに、だが確実に震えていたが、それでも彼はメガビョーゲンを見た。

 

「決めてやるぜ…!」

 

『メッ…メガ、ビョーゲン…!!』

 

 構える治を見たメガビョーゲンは距離を取った。

 三体のメガビョーゲンを合わせた一体。

 その一体にとって一番恐怖の対象であった彼が、さらに得体の知れない物を宿している。

 

 それが、メガビョーゲンに距離を取らせる原因だった。

 

「……やっぱ、図体に似合わず素早い奴だな。三人とも、ボロボロなとこ悪いが、頼みがある。近くに寄ってくれ」

 

 治に言われ、彼の近くによるプリキュア達。

 メガビョーゲンは、まだ治を警戒して近づかない。

 

「どうしたの、治?」

 

「俺のこの技は、たった一度しか撃てない。だから絶対に外すわけにはいかねえんだ」

 

「うん。そうだよね、それは分かってるよ…」

 

「でも、安全に距離を取って撃つようじゃあのメガビョーゲンには躱されるかもしれない。だから俺は奴にギリギリまで近づいてそこで撃つ。お前らには、そのためにサポートしてほしいんだ」

 

「どういう事…?」

 

「つまり、俺が技を確実に当てるまで俺を守ってくれ。んで、そこからはバトンタッチだ」

 

 治がバトンタッチというと、三人は首を傾げた。

 

「つまり、俺ができるのは、あのメガビョーゲンを弱らせる事まで……中にいるエレメント助けるのは、プリキュアの役目、だろ?」

 

 治は笑う。

 明らかに痩せ我慢で、震える足を抑えている。

 だがそれでも、彼は今の自分にできる精一杯をしようと必死に努力していた。

 

「任せて。あなたは絶対、私たちが守るわ」

 

 そんな治を見て強く返すフォンテーヌ。

 そしてグレース、スパークルもまた彼に頷いた。

 

「……おっし! んじゃあ、いっちょやりますか!」

 

 治の言葉と同時に、四人は走り出した。

 

「「「メガビョーゲン!」」」

 

『メガビョーゲン!!!』

 

 それを見たビョーゲンズ達の言葉、その言葉に反応し、メガビョーゲンも攻撃を開始する。

 標的はもちろん、治である。

 

「やらせないわっ! ペギタン!」

 

「ぷにシールド!」

 

 一度目の攻撃。

 それをフォンテーヌとペギタンがぷにシールドでガードする。

 

「先に行って! 私はここで食い止める!」

 

「分かった。気をつけてね、フォンテーヌ!」

 

 フォンテーヌにグレースが返し、三人は再び前へ走る。

 ただただ前線へ、確実に切り札が当たるように。

 

『メガビョーゲン!!』

 

 二度目のメガビョーゲンの攻撃は、サボテンの棘を射出してくる物であった。

 

「ニャトラン!」

 

「おうよ!」

 

 スパークルとニャトランが前に出る。

 

「ハアアアアア!!!」

 

 スパークルは射出された棘をエネルギー波で相殺。

 が、数の多さに圧倒されその場を動けなくなる。

 

「ごめん! ここからは任せた!」

 

「ああ! 無理だけはしなくていい!」

 

 スパークルには治が返す。

 そして、グレースと治の二人は、スパークルとフォンテーヌの支援を受け、ようやくメガビョーゲンをあと一歩というところまで追い詰めた。

 

『メガビョーゲーーーーーーン!!!!!』

 

 しかし、追い詰められたメガビョーゲンも特大の棘を飛ばし出す。

 

「絶対にやらせない! 実りのエレメント!」

 

 最後に残ったグレース。

 彼女は、実りのエレメントボトルを装着し、剣となったヒーリングステッキでその棘を迎え討つ。

 

「くうっ…! 治くん!」

 

 一瞬後退するグレース。

 そんな彼女の横を通り抜け、最後まで彼女達が守り抜いた一人がメガビョーゲンの目前に迫った。

 

「サンキュー。三人とも!」

 

 治は高く跳ぶ。

 

『メガビョーゲン!!!』

 

 その直前―――メガビョーゲンは口から何か飛び出させる。

 

「……っ!! うおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 だが、治はその何かをギリギリ頬を掠める程度の動きで回避し、右手に収束した蒼白いオーラを一気に掌の上に集め、そのオーラは、玉として彼の手に収まった。

 

『私達の元気を分けることが出来るはずです』

 

 その時彼の脳裏に浮かぶエレメントの言葉。

 そこからヒントを得た技の名前を、治は叫んだ。

 

「元気玉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 治の放った元気玉。

 それは、直撃したメガビョーゲンと、その目の前にいた治すらも弾き飛ばすほどの威力を出した。

 

『メ、メメメメメメメメメ…!!! メガ、ビョー、ゲン…!!!』

 

 元気玉の衝撃から脱することのできないメガビョーゲン。

 

「ぐあっ、うっ……!」

 

 そして、そのあまりの衝撃に弾き飛ばされ地面に激突する治。

 

「「「治(くん)(おさむん)!!」」」

 

 彼を心配し、プリキュア達は彼に駆け寄る。

 

「俺は大丈夫だ…! それよりも、とっとと決めろよ。三人とも…!」

 

 だが彼は変わらず笑顔で三人に言う。

 そんな彼の笑顔に救われたように、プリキュア達が前を向くと、奇跡は終わっていなかった。

 

 なんと、治の放った元気玉から溢れたエネルギーが三人のプリキュアのボトルへと集まり、それは新たな一つのエレメントボトルを生み出した。

 

「これは…!?」

 

「俺たちも初めて見るボトルニャ…」

 

「でも、凄いエレメントパワーを感じるラビ!」

 

 そのエレメントボトルを握りしめ、グレースが言う。

 

「きっと、みんなが力を貸してくれたんだ。地球の病気と戦おうって!」

 

 彼が新たな技を生み出すの同時に、彼女達にも新たな技が生まれた。

 

『トリプルハートチャージ!』

 

「「届け!」」

 

「「癒やしの!」」

 

「「パワー!」」

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!」」」

 

 三人の連携技。

 それに撃ち抜かれたメガビョーゲンの中から、ピンクの腕が光のエレメントを、黄色の腕が水のエレメントを、そして青の腕が花のエレメントを救い出した。

 

『ヒーリングッバイ…!』

 

 そして最後の決め台詞の時、グレースは治を抱える。

 

「今回一番頑張ってくれたのは治くんだから、一緒に!」

 

「……はあ、分かったよ」

 

『お大事に!』

 

 治を含めた7名により、この激闘は終わった。

 

「きーーーっ!! 折角こんな奴らと力を合わせたってのに!」

 

「……くっ、この借りは必ず返すぞ!」

 

「…………ま、収穫はあったかな」

 

 悔しそうな顔をするシンドイーネとグアイワルに対し、ダルイゼンだけはある方向を見て呟いた。

 ……それは、メガビョーゲンが最後の時、治に対して何かを吐き出した方向であったのである。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「エレメントさん。お加減いかがですか?」

 

『ありがとうございます。プリキュアの皆さん。それから、グレートサイノマンさん』

 

 光のエレメントがそう返す。

 その時エレメントは、あえて治のことを彼が呼称していたグレートサイノマンという名前で呼んでくれたので、治は少し嬉しくなっていた。

 

「けど……大分助けるのが遅れちまったな」

 

『大丈夫です。あなたが、仲間達が分けてくれた元気のおかげで、あまり時間をかけずに元通りにできるはずです』

 

 花のエレメントが返す。

 それを聞いた四人は少しホッとした。

 

「けど、ラテがまだ……」

 

 そんな中、ちゆは未だに蒼い顔をするラテを心配する。

 

『大丈夫です! 先ほど生まれたエレメントボトルを差し上げてください!』

 

「分かった」

 

 のどかが水のエレメントに促されるままラテに生まれたばかりのエレメントボトルをあげると、ラテはすぐさま元気を取り戻した。

 

「凄い! さっきまであんなに元気が無かったのに、一気に治るなんて!」

 

「ミラクルなヒーリングボトルだ!」

 

「そうラビ! これは、ミラクルヒーリングボトルと名付けるラビ!」

 

 ラビリンがそう言うと、ラテも賛成と言わんばかりに吠えたのだった。

 

『それでは、私達は元の場所に帰ります』

 

『プリキュアの皆さん、グレートサイノマン。どうかこれからも、地球をよろしくお願いします』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 その帰り道―――。

 治はのどかとちゆに肩を貸されながら歩いていた。

 

「イッチチチ…」

 

「だ、大丈夫、治くん?」

 

 のどかが心配して聞く。

 そんな彼女の彼を見る顔は、夕日のせいか、それとも別の理由があるかもしれないが紅潮していた。

 

「ああ、ありがとな。けど、これくらいどうってことない……痛て」

 

「もう…、今は無理しないでちょうだい」

 

「はい…。すいません…」

 

「けど、ホントに凄かったよね! 今日のおさむん!」

 

「けど、僕としては新種のエレメントボトルが生まれた方がびっくりペエ」

 

 ひっきりなしに話題が飛び交う中、

 

「おーい! 沢泉! 花寺! 平光! 彩野!」

 

 四人を呼ぶ担任の声と共に、その担任は息を切らして走って来ていた。

 

「お前達ー! 探してたんだぞー、どこ行ってたんだー!? 彩野!? お前なんだその傷!?」

 

 担任は次々に驚く。

 それに動揺する三人に変わり、治が言った。

 

「えーっと、怪物に驚いて走り回ったらこんな遠くまで来ちゃって…。俺はその途中に道から外れて転げ落ちました」

 

「そ、そうなのか…? けど、お前らが見つかって良かった……うー、良かったー!!!」

 

 自分の生徒が見つかった事に感動する担任。

 その担任を宥めるのに、彼らが時間を要したのは言うまでもない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『今日は本当に大変だったな。お互い、お疲れさん』

 

「うん。お疲れさま」

 

 ―――その夜。

 のどかは治に電話をかけていた。

 

『けど、さすがに疲れたから……俺ももう寝てえや』

 

「あっ…………う、うん! そうだよね! ごめんね。今日は治くんが一番頑張ってくれたのに…無理に電話しちゃって…」

 

 のどかは治に謝る。

 

『気にすんな。それじゃ、そろそろ切るぞ』

 

「まっ、待って治くん!」

 

 電話を切ろうとする治。

 だがそんな彼をのどかは呼び止める。

 

『…? どうかしたのか?』

 

「あ、あのね治くん……明日ってその、お休み、だよね…?」

 

『あー、確か今日の校外学習の疲れを取るための臨時休校だったな』

 

 電話越しに言う治。

 そんな彼の声を聞きながらのどかは深呼吸をした。

 

「あの、もしよかったら、なんだけど…。明日お出かけしない?」

 

『別にいいぜ? 何時にどこ集合にする?』

 

 のどかが緊張して言ったのに対し、治はすぐ返した。

 

『けどその話、ひなたとちゆにはしたのか?』

 

 そこでのどかは治がしている勘違いに気づいた。

 彼は、いつものように皆でお出かけだと思っていると。

 そしてその勘違いは、すぐに正さなければならない物であると。

 

「そ、そうじゃなくて…ね」

 

『そうじゃない……じゃあ、どうなんだ?』

 

「あの、その……だから、わたしと、治くんの二人で、お出かけしない…?」

 

 のどかは途切れ途切れ、だが確かに言葉を伝えた。

 

『……おう、分かった。それでも俺は問題ないぞ』

 

「ほ、本当に!?」

 

 ひと呼吸の間を置いて返ってきた彼からの返答を信じきれないのどかは、聞き返してしまう。

 

『ここで嘘言ってもしょうがねえだろ。……じゃあ、明日の十時くらいに集合にするか? 飯とかも食いてえし』

 

「う、うん! 行く場所はこっちで決めておくね!」

 

『おう、楽しみにしてるぜ。じゃあな』

 

「うん! また明日!」

 

 そう言って電話は切れた。

 その後のどかは、

 

「えへへ…明日が楽しみだなぁ」

 

 とても楽しそうな女の子の顔をしていた。

 そして、電話の向こうにいる今日の戦い最大の功労者はその日、年相応に少年の顔をして眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……こ、これは一大事ラビ…!」

 

 

 だが、彼らを取り巻く騒動。

 それは、まだまだ終わらないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここで元気玉を出すのは前々から決めていました。
ようやく出せたって感じですね。

そして、次回はかなり気合入れて書けるといいなぁ…


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戦士たちの休息 ドキドキ二人の初デート?

 翌朝。

 時刻は8時を回っている時に、治は家族で食卓を囲みながらのどかと二人で出かけることを話した。

 

「「なんだってーーーーーーーー!?」」

 

 テーブルが吹き飛ばんばかりの大声を出す永徳と弥生。

 それを聞いた治は耳に手を当て言う。

 

「大声出さないでよ…。そんな大事じゃあるまいし」

 

 治はそのまま朝食を口に運ぼうとする。

 だが、

 

「大声も出すって! 治! その子といつお出かけするの!?」

 

 彼の箸を奪い取って聞く。

 

「あー、十時くらいに集合しようって約束したけど……場所聞いてねえや」

 

「十時、か。それでお前、まさかその格好で行く気か?」

 

「え、駄目…?」

 

 治は自身の服装を見て聞いた。

 今の彼は白無地のTシャツを一枚上に着て、下は運動性を考慮して伸縮性のあるズボンを履いていた。

 

 それを聞いた彼の両親は額に手を当てる。

 

「俺達の息子がこうなってしまったのは、トレーニングにしか協力しなかったのもあるのか…?」

 

「多分、でも流石に女の子が頑張って誘ったのに、当の本人この格好じゃ……いくらなんでも親として情けなさすぎるわ…」

 

「何なんだ、二人揃って…。俺早く飯食べたいんだけど」

 

 治が言う。

 彼にとって今最優先させるべきは朝ごはんであった。

 

「そんなものは後だ! とにかく来い!」

 

「え! ちょっと、朝飯ーーーー!!!」

 

「行ってらっしゃ〜い」

 

 永徳に連れて行かれる治。

 そしてそれを柔らかく見つめる弥生。

 自分の息子が地球を救うために戦っているなんてことを思わせない、ありふれた家族の姿があった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 それから一時間後。

 治は永徳の運転する車に揺られながらムスッとしていた。

 

「まったく、いきなり連れ出したかと思ったら急にこんな服着せてどういうつもりなんだよ…?」

 

 彼の服装はガラッと変わっていた。

 上に着ていた白無地のTシャツ自体は変わらないが、その更に上に一枚、黒のセミロングコートを羽織り、下はジーンズに切り替わっていた。

 

「下もこんな革の服じゃあんまり動けねえぞ」

 

「それでいいだろ。別にその格好でトレーニングするわけじゃないんだし」

 

「まあ確かにそうだけどさ…」

 

「時間的にも都合いいし。このまま送ってやるよ。どこに行けばいいんだ?」

 

 永徳に言われ、治は先ほどのどかから場所を指定されたのを思い出し、父に告げ、その場所へと送ってもらった。

 そこは、彼とのどかにとっては思い出深い場所。

 初めてのどかがプリキュアに変身し、二人で地球のお手当てをする事を決めたあの公園だった。

 

「じゃあ父さん帰るけど、しっかりやれよ」

 

「何を?」

 

 キョトンとする治を見て永徳はまた頭を抱える。

 しかし、この子はこういう子だったと気づき、彼に言う。

 

「まあとにかく楽しめって事だ」

 

「あー、そういう事。それなら問題ないよ。絶対に楽しいと思うから!」

 

「……じゃな」

 

 それだけ残した永徳は去る。

 その後しばらく、治はその場に立ち止まっていた。

 

「えーっと今の時間は……9時50分か。そろそろ急がないとな」

 

 そして治は、永徳から託された腕時計で時刻を確認し、待ち合わせ場所まで走り出す。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ―――少女は一人、その場で待っていた。

 その時吹いた風に揺られた髪を整える。

 その仕草すらも絵になるほど静かにベンチに腰掛けて座って少女は呟く。

 

「治くん。早く来ないかなぁ…」

 

 その声と裏腹に緊張する少女、花寺のどか。

 彼女もまた、普段の服装とは違っていた。

 下は珍しく肌を露出させたホットパンツを履き、上は反対に露出を少なくさせた淡いピンクの服を着ている。

 

「あ、居た居た! おーい、のどかー!」

 

 そんな彼女を名指しで呼ぶ聞き慣れた声。

 いつも聞いている声であるにもかかわらずのどかは不意なことでドキッとしてしまう。

 

「あ、お、治くん! お、おはよう!」

 

「おう、おはよう。ずいぶん早いんだな」

 

「う、うん。遅刻したら悪いかなと思って…」

 

 いつの様に治と話そうとするのどか。

 だが極度の緊張からか彼女は見慣れたはずの治を見れていなかった。

 

「そっか…。……もしかして、待たせちまったか?」

 

「え、ううん! 全然待ってないよ!」

 

 慌てて治の言ったことを否定するのどか。

 ……だが、この時の彼女は嘘をついていた。

 実際には約束の時間よりも一時間以上早くこの場所に来ていたのだ。

 

「……そうか? じゃあ、そろそろ行くか」

 

「あ、う、うん! そうだな。きゃっ!」

 

 そのまま歩き出そうとする二人。

 だがのどかは、急に前に歩き出したせいでその場にあった石に躓いて倒れそうになってしまう。

 

「おっと。危ねえ、気をつけろよ?」

 

「ーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

「おわっ! いて、いて…、どうしたんだよのどか!?」

 

 しかし、その前に彼女を抱きとめた治によってのどかは転ぶ事は無かった。

 だがその代わり、のどかは治の胸に顔を埋める事になってしまい、気が動転した彼女は彼を思わず叩いてしまう。

 

「そういや、今日行く場所とか決めてるのか? 先に言っとくけど、俺何も決めてねえぞ?」

 

「あ、うん。あのね、お母さんに貰ったんだけど、この前にちゆちゃんとひなたちゃんと一緒に行った水族館に今度は治くんと行きたいなって思って」

 

 のどかはすこやか水族館のチケットを二枚治に見せる。

 

「そういえば俺行ったことなかったな。折角貰ったんだったら、行くか!」

 

「うん!」

 

 行き先も決まり、二人は歩き出そうとする。

 しかし今度は治が足を止め、少し離れた場所を見た。

 

「? どうかしたの?」

 

「……いや、何か誰かに見られてる気がして」

 

 そう言われのどかも治の視線を追う。

 だが、そこには誰も居らず、ただ木々が並ぶのみである。

 

「誰も居ないよ?」

 

「気のせいかな……まあいいや。行きますか。あ、そうだのどか」

 

 彼はふと彼女を呼ぶ。

 それに釣られて彼女が彼を見ると、

 

「その格好、スゲー似合ってて可愛いぜ」

 

 彼は笑いながら彼女の頭に手を置いて言う。

 その時、のどかの顔は一瞬にして茹でだこのように真っ赤に染まる。

 

「お、治くんも…、カッコイイ…です」

 

 逆に彼の格好を褒めようとするのどか。

 ここはただ、途切れ途切れでも言葉を出すことが出来た彼女を褒めるべきであろう。

 

「おう、ありがとよ」

 

 治はのどかの手を引いて、その場を後にした。

 そして、一時彼らが見つめた木の後ろから二つの人影が姿を見せた。

 

「ふー、危なかったね〜、ちゆちー。おさむんってば急にこっち見るんだもん」

 

「ええ、けどラビリンから連絡を受けた時は驚いたわ」

 

「ラビリンもラビ。けど、この一大事は見過ごせないラビ」

 

 ラビリンが言うと全員は頷く。

 だが、

 

 ひなた:のどかの恋を応援したい

 

 ちゆ:ラビリンに協力したい

 

 ラビリン:二人が何をしようとしてるのか突き止めたい

 

 ニャトラン:面白そう

 

 ペギタン:ちゆが行くから行く

 

 その心は一致してなかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あー、ったく、ホントになんなんだ?

 あの戦いからやけに気配みたいもんを感じる。

 正直気持ち悪いぜ…。

 

 けど、

 

「…………えへへ」

 

 こんなに楽しそうにするのどかを前に、帰るとは絶対に言えないよな…。

 てか、なんでのどかはそんなに顔赤いんだ?

 熱でもあんのかな?

 

「なあのどか」

 

「ふぇ? なに、治く……!!??」

 

 俺はのどかの額に自分の額を当てる。

 昔から俺が熱っぽくなったら父さんも母さんもこうしてくれたから、これが確実だよな。

 

「お、おさ、おさむひゅん……あ、あの……」

 

「熱、は無いみてえだな。けど、もし具合が悪くなったら言えよ。家までくらいなら運んでやれっから」

 

 俺はのどかに言った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あ、ありがとう……治くん。けど大丈夫。今のでもっと元気になっちゃった!」

 

「そうなのか? なら良かった!」

 

 わたしが返すと、治くんは笑ってくれた。

 そして、わたしを心配してくれるその優しさと、その笑顔に触れてわたしはまた自分の気持ちを確かめる。

 

 ―――わたしは、治くんの事が好き。

 

 多分これは、お友達としてじゃなくて、男の子としての治くんが好き……って事なんだと思う。

 だから、今日のお出かけが終わったら、治くんに打ち明けよう。

 わたしの気持ちを―――。

 

 




後書きで書くこともなくなったんで前回書いたドッカンバトル風のをもう一度、もしかしたら今後定期的に書いていくかも…?

【二つの奇跡の技】彩野治/キュアグレース&キュアフォンテーヌ&キュアスパークル

レベル:100→120(極限Z覚醒前)

属性:超技

リーダースキル(極限前):怒り爆発カテゴリと技属性の気力+3、HPとATKとDEF50%UP

パッシブスキル名:託された力

効果(交代前):自身のATK120%UP&登場から4ターン経過後交代する

効果(交代後):自身のATKとDEF60%UP&ターン開始時にHPの12%分回復する

必殺技(交代前):元気玉

効果(交代前):1ターン自身のATK大幅上昇し、相手に超特大ダメージを与える

必殺技(交代後):プリキュア・ヒーリング・オアシス

効果(交代後):3ターン自身のATKとDEFが上昇し、相手に超特大ダメージを与える

リンクスキル(交代前)

勇気

驚異的なスピード

臨戦態勢

限界突破

リンクスキル(交代後)

勇気

女戦士

臨戦態勢

限界突破

カテゴリ

コンビネーション

怒り爆発

最後の切り札

極限後

名称、パッシブ名、カテゴリ、リンクスキルは同じ為割愛

レベル:120→140

リーダースキル:怒り爆発カテゴリとコンビネーションカテゴリの気力+3HPとATKとDEF77%UP

パッシブスキル効果(交代前):自身のATK140%UP&登場から4ターン経過後交代する

交代後:自身のATKとDEF100%UP&ターン開始時にHPの15%回復する

必殺技名(交代前):元気玉(極限)

交代後:プリキュア・ヒーリング・オアシス(極限)

必殺技(交代前):1ターン自身のATKが超絶大幅上昇し、相手に超特大ダメージを与える

交代後:DEFが上昇し、相手に超特大ダメージを与え、HPの6%回復する








超絶大幅上昇とかいうオリジナルの効果を加えていくスタイル……


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戦士たちの休息 ドキドキ二人の初デート?〜その2〜

毎回多い文字数書ける人って凄いなと思う今日この頃です


 すこやか水族館に着いたのどかと治は、その前にいるたくさんの人だかりに圧倒されていた。

 

「人がずいぶん多いな」

 

「うん…。でもどうしてこんなに今日は多いんだろう?」

 

 そんな疑問を投げかけるのどか。

 しかしそんな彼女の疑問はすぐさま二人が看板を見つけて解決することになった。

 

「何なに…?『期間限定! すこやか水族館恐怖の館!!』…………水族館、だよな?」

 

「た、多分…」

 

 おそらくは内容からお化け屋敷の様な物だと想像できる二人だったが、遊園地ではなく水族館に来るつもりだった二人は少し面食らってしまう。

 

「ま、余裕があって入れたら行ってみようぜ」

 

「うん! あ、けど、こんなに人が多いと迷子になっちゃうかも…?」

 

「ん? それなら簡単じゃねえか」

 

「えっ? ……っ!?」

 

 治はさも当たり前のようにのどかの手を握った。

 それを急にされたのどかは再び口をパクパクとして言葉を詰まらせる。

 

「こうしておけば、(はぐ)れることも無いだろ? さ、行こうぜ!」

 

「ひゃ…、ひゃいぃぃぃ…」

 

 そんな治に流され、二人は水族館の中に入っていく。

 そして、それを後ろから見るラビリン一行。

 

「なんか、恋人同士みたいだよね。おさむんとのどかっち」

 

「ええ、これならあんまり心配する必要もないんじゃないかしら」

 

 先の二人のやり取りを見ていたひなたとちゆが言う。

 

「ええー、けどよー面白そうじゃん。このまま尾けてみようぜー!」

 

「けど、確かにこんなに人が多いと僕たちも迷子になっちゃうペエ…」

 

 それでも二人を付けてみたいというニャトランと、少し不安そうな事を言うペギタン。

 実際ペギタンは一度ここで迷子になっているので、そう思うのも無理はないのだろう。

 

「……予定変更ラビ。こうなったら、のどかの恋を応援するためにラビリン達も付いていくラビ!」

 

 そんな中、ラビリンがやる気になって言う。

 

「けど、二人とももう行っちゃったよ?」

 

 そんなラビリンにひなたが言い、彼女の言葉に促されて先ほどまで二人がいた場所を見たラビリンだったが、そこにはもうのどかと治は居なかった。

 

「た、大変ラビ…! ひなた、ちゆ! 急いでほしいラビ!」

 

「わ、分かったわ…! ひなた、これを掛けて!」

 

 ちゆがひなたにサングラスを手渡す。

 ひなたはそれを不思議そうに見ると、ちゆが続けた。

 

「変装しないと、治たちに見つかるとマズいわよね。用意しておいて良かったわ」

 

「ちゆちー、意外と乗り気なんだね…」

 

 そんなちゆに驚くひなた。

 だがすぐに彼女もサングラスを掛けて水族館の中へと突入して行った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 自分たちが尾けられているなんて知りもしないのどかと治は、入り口からの人混みをかき分けて中へと入っていたのだった。

 

「ふぃー、やっと抜けれたぜ。のどか、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「……なんで敬語?」

 

 思わず敬語になるのどか。

 実は入り口を突破する際、治はのどかを強く抱いて人混みをかき分けながらここまで来たという経緯があり、その時にものどかはどぎまぎしてしまっていたのがここまで尾を引いていたのだ。

 

「べ、別に大したことじゃないの! 本当に大丈夫だから!」

 

 急いで誤魔化すのどか。

 そんな彼女の姿に疑問を持ちながらも治は、

 

「そうか? そうならいいけど、でも駄目そうならちゃん言えよ。お出かけくらいなら、いつでも付き合ってやるからさ」

 

 と言った。

 

「う、うん。ありがとう」

 

 それを聞いたのどかも笑顔を浮かべながら下を向く。

 だが、そのまま彼女は治にバレないように彼を見る。

 

「(治くん。本当に気づいてないのかな…? でも、もし本当にそうでも、また今度なんて治くんの優しさに頼ってられないよ。だって今日言わないと、気持ちが揺らいじゃいそうだもん…)」

 

 のどかは再び決意を固める。

 

「(のどかはすぐに無茶するからな。倒れそうにならないよう見ておかないと)」

 

 だがそんな彼女の決意を知らない治はのどかの体調を気にかけながら二人は先に進むことにした。

 

 そして当然、その後ろには彼女達を尾けてちゆ達が居る。

 彼女達もまた、二人を尾けて奥に進む。

 

 

「……おわー、すんげぇ綺麗だな…」

 

「うん」

 

 水槽の中を泳ぐ魚やクラゲ。

 その神秘的な姿に魅せられ二人は言葉を失う。

 特に初めてこの水族館に来た治にとってはその姿は更に目を引くものになっていたのだろう。

 

「おー……」

 

 魚に目を惹かれる治。

 そしてのどかは、そんな治に目を惹かれていく。

 

「……ふふ」

 

「ん? どうかしたのか、のどか?」

 

「ううん。なんだか、こうやって見てると、地球のお手当てをみんなでしてるなんて思えなくて。今の治くんも、すごく楽しそうだし」

 

 のどかは水槽をそっと撫でる。

 

「かもな」

 

 それを聞いて治も答える。

 

「けど、多分楽しいのはのどかと一緒だからだろうな。俺一人じゃ、ここまで楽しいとは思えないと思う」

 

「も、もう…!」

 

 水槽から目を離さずに言う治の言葉でまた嬉しくなるのどか。

 

「…………ね、ねえ治く」

 

 のどかが治に声をかけようとした時、店内アナウンスが鳴った。

 

『ただいまより、恐怖の館が開場します。館内にお越しのお客様は是非一度、訪れてはいかかでしょうか』

 

 そのアナウンスに遮られるのどかの声。

 そして治は、アナウンスに反応する。

 

「恐怖の館…………確かさっき入り口で見たやつだな。なあのどか、行ってみるか?」

 

「……うん…。そうだね…」

 

 明らかに落ち込むのどか。

 それを見た治は、

 

「(のどかの奴、お化け屋敷とか苦手なのか?)」

 

 まるで的外れなことを考えていた。

 そして二人は、お化け屋敷の展示されている場所へ向けて歩き出した。

 

 その間、治はのどかの手を引いて感じる。

 

「(……やっぱ、さっきから誰かに後を尾けられてる気がする)」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 所変わり、恐怖の館に並ぶ列―――。

 順番が治達の番になった時、係員が彼らに言った。

 

「あら、カップルさん? 頑張ってね!」

 

「カッ、カカッ…!?」

 

「違います。友達です」

 

 係員の言葉で本日何度めかになる動揺を迎えたのどかだが、治はその言葉を真っ向から否定した。

 

「むーーー…!!!」

 

「イテッ! 何だよのどか!?」

 

「……ふんっ!」

 

 のどかはそんな治に苛立ちを覚え、彼を叩く。

 だが治は何故叩かれたのか分からず、のどかに聞くも彼女は顔を背けて怒った顔を示す。

 

「(何怒ってんだ…?)」

 

 いくら治でものどかが怒っている事は分かる。

 だが何に怒っているのか分からない治を見た係員さんはのどかに言った。

 

「大変かもだけど、頑張ってね」

 

「……頑張れ、るんでしょうか…」

 

 のどかは途端に不安になる。

 そして二人は、恐怖の館に足を踏み入れる。

 そこは、一寸先すら見えないほどの暗闇だった。

 

「おおー、こりゃ確かに緊張感あるな」

 

「うん…」

 

「なんだよまだ怒ってんのか? いい加減機嫌直してくれよ」

 

 治はのどかの頭に手を置く。

 その彼の行動にまた気持ちが一喜一憂してしまうのどかであったが、彼女はすぐさま気持ちを取り戻して彼の手を振り払う。

 

「だって、治くんがわたしの気持ちに気づいてくれないから」

 

「お前の気持ち?」

 

 治は疑問を持つ、だがその間さすがにずっと立ち止まるわけにもいかないので二人はドキドキしながら歩く事にした。

 

 道中、のどかが仕掛けに驚きながらだったため、会話が途切れたり、どこまで話したのか分からなくなったりしたので、二人はこのお化け屋敷中に話すことは止めにした。

 

「ふーっ、楽しかったぁ! なあのどか?」

 

「治くん、すごいねえ。わたしなんてずっと驚きっぱなしだったのに…」

 

「あー、実は俺な…」

 

 治が朝から感じている違和感を話そうとした時、二人のお腹が同時に鳴った。

 

「……どっかで、飯にしようか」

 

「……そうだね。わたし、お腹空いちゃった…」

 

 先ほどの怒りは何処に行ったのか、二人は笑いながら食事を取れるような場所へ向かうことにしたのだった。

 

 余談だが、そこから少し後に入った女の子二人組は大変驚かし甲斐のある良い反応をしてくれたとの事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




駄目だ……こういうイチャつく展開ってどう書けばいいのか分からん…が、頑張ります


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戦士たちの休息 ドキドキ二人の初デート?〜その3〜

今回でこのオリストはおしまいです


 昼飯―――。

 普段ならのどかとわいわい楽しく喋りながら食べているはずなんだが、

 

「……」

 

 当ののどかもこちらをチラチラと見てくるだけで話しかけてくるような気配が微塵も感じられない。

 

「なあのどか」

 

「な、何かな? 治くん…!?」

 

「何か、距離遠くね…?」

 

 俺達は一通り水族館を回ったあとそこを後にして、しばらく歩いてからこのベンチでお弁当を食べることの出来る喫茶店に入ったんだが、俺とのどかの距離が大体人二、三人入れるくらいには空いていた。

 

「き、気のせいじゃ、ないかな…?」

 

「いやー…これを気のせいとはさすがに言えねえだろ。とにかく一緒に食おうぜ」

 

 と言って俺はのどかに近寄る。

 でも、反対にのどかは俺から再び距離を取る。

 

「……ふっ」

 

 そこまでされると、流石に俺も感づく。

 そしてその場に跪き、

 

「嫌われた…」

 

 ショックを受けて落ち込んだ。

 なんでだろう、俺なんか悪いことしたっけ…?

 …………駄目だ、全然何も思いつかない。

 あーこんな事なら父さん母さんに女の子とお出かけする時の注意でも聞いとけばよかったな…。

 

 俺はいまさら後悔する。

 はー、そういえば俺ってずっとトレーニングばっかりだったもんな。

 

 もうちっと世の中の事も勉強しないと…。

 

「ご、ごめんね治くん! わたし、治くんの事嫌いじゃないよ!」

 

「……マジで?」

 

 そんな俺に急いで言うのどかに俺は聞く。

 するとのどかは勢いよく首を縦に振る。

 

「はー、良かった…」

 

「嫌いになるはずないよ。むしろす…………ハッ!」

 

「す…? す、何?」

 

 ハッとするのどかに俺が聞く。

 するとのどかはジト目になりながら

 

「治くんのそういうところは嫌い…」

 

 と言った。

 

「何でーーーーっ!?」

 

 俺の叫びが空にこだまする。

 そう言うとのどかはただ笑っていた。

 

「そういえば、治くんも何かいいかけてなかった? さっき水族館で」

 

「あ、ああ。実はな」

 

 のどかに言われ、俺は朝からの違和感を教えた。

 異様に周りから気配を感じるということを。

 

「気配…?」

 

「ああ。昨日のあの戦い以来……って言っても一日しか経ってないんだけどさ。今日の朝くらいからやたら感じるんだよ。今だってここら辺の人の気配がやたら感じるし、だからあのお化け屋敷でもそんなに怖がれなかったんだよな」

 

 俺は笑ってのどかに伝えた。

 実際、気配を感じたところから仕掛けが来た訳だし、それじゃあちっとも怖がれなくて当然だと思う。

 

「昨日の……」

 

 と俺が考えていると、横ではのどかが俺の言ったことを繰り返しいて、俺の今の様子を見る。

 

「治くんは、昨日のケガ大丈夫なの?」

 

 のどかが聞く。

 

「昨日のケガ? あんなもんもう大丈夫に決まってるだろ。なんだか最近、ケガの治りも早くなっていってるしな!」

 

 俺は自分の胸を叩く。

 う…、自分で叩いたとはいえ結構強く叩きすぎた。

 

「そんな事気にしたのか? 別にのどかが気にすることじゃねえだろ。俺がやりたくてやって、そんでケガしただけの事だし」

 

「でも…!」

 

 俺はのどかの言葉を遮った。

 

「心配いらねえよ。俺はもっと強くなってみせるからさ」

 

 そしてのどかにそう言う。

 のどかたちが俺を心配するなら、心配されないくらい強くなればいいだけのことだからな。

 

「……分かった。でも、無理だけはしないでね」

 

「おう」

 

 その後、俺達は日が暮れるまで至る所へ遊び回った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 空が朱く染まる中、のどかと治は歩いていた。

 

「ふわー! 楽しかったね! ……(でも結局言いたい事言えなかったなぁ…)

 

「ん、何か言ったか?」

 

「ううん、何でもない。それじゃあ治くん。またね」

 

 のどかが治に別れを告げる。

 だが、そんな彼女の手を治が掴む。

 

「ふえ? 治くん、どうかしたの?」

 

「最後にあそこに寄ろう」

 

 治がのどかの手を引く。

 そんな彼の姿を見てのどかは、

 

「(今日はわたしから誘ったのに、治くんに引っ張られてばっかりだった。けど、これが最後のチャンス…。ここで言わないと…!)」

 

 再び訪れたチャンスに強く覚悟を決める。

 そんなのどかを治が連れてきたのは、彼がお気に入りの場所だと言ったあの高台だった。

 

 その場所から見る街並みは、とても美しい物である。

 

「ふわー、キレイ」

 

 のどかはその風景に溶け込む。

 そして、そんな彼女を尻目に治は後ろに駆けた。

 

「そこだっ!」

 

『っ!?』

 

 治は高台の影に顔を出す。

 そこには今日一日彼らを尾けていたちゆ達の姿があり、治を追いかけたのどかも彼女達を発見する。

 

「ちゆちゃん!? ひなたちゃん!?」

 

「お前らだけじゃなくて、どうせラビリン達もいるんだろ? そこのバッグから気配を感じる」

 

 治が言うとラビリン達は、バッグから恐る恐る登場した。

 

「ラビリン達も…、みんなどうして?」

 

「ごめんラビ…。のどかが治と出かけるって聞いて、気になったラビ」

 

 ラビリンが代表して謝る。

 するとのどかは、

 

「ううん。わたしの方こそ、パートナーなのにちゃんと伝えなくてごめんね」

 

 ラビリンを抱いて言った。

 そしてそこでようやく決心のついたのどかはみんなの前で、彼に言った。

 

「治くん」

 

 名前を呼ばれて反応する治。

 彼は彼でちゆとひなたを問い詰めていたが、いきなり呼ばれたことにより反応せざるを得なかった。

 

「わたしね、治くんの事が好き。大好きだよ」

 

 夕陽がのどかを照らす。

 それを聞いたひなたやちゆすらも顔を紅くして彼の反応を待った。

 

 当ののどかに至っては今すぐにでもこの場から走り去りたい気持ちに駆られるも、それだけはできないと踏みとどまる。

 

「…………」

 

 治の沈黙。

 それは彼女達にとって不安を煽るものだった。

 

「おう。俺ものどかの事大好きだぜ」

 

 彼の返事にその場空気が浮つく。

 そして、

 

「ちゆもひなたも大好きだし、ラビリン達もだし……もちろん、ラテもな」

 

「わん!」

 

 空気が一気に沈んだ。

 その空気を理解してないのは、治とラテのみである。

 つまり、こういう事である。

 

 のどかの好き→男の子として、付き合いたいの意。

 

 治の好き→友達として、これからもよろしくの意。

 

 いくら彼でもそこまででは無いだろうと高をくくっていた彼女達も、これにはさすがに唖然とする。

 そしてなにより、女の子が勇気を出して想いを伝えのを彼は無碍にしたと言っても過言ではない。

 

「お〜さ〜むん。ラテこっちにちょ〜だい」

 

「うん? おう」

 

 猫なで声で治にひなたが言う。

 そして彼からラテを受け取ったひなたはラテを側に置き、ちゆと目を合わせる。

 

「ペギタン!」

 

「ニャトラン!」

 

「おうよ!」

 

「やるペエ!」

 

「え、え!?」

 

 目の前でいきなり変身しようとする二人。

 

「「スタート!」」

 

「「プリキュア! オペレーション!」」

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャア!」

 

 まだどうして彼女達が変身したのか分からない治。

 そんな彼の腹部を先ずは、

 

「ふんっ!」

 

「うぼおぁっ!?」

 

 フォンテーヌの拳が打ち抜く。

 そして少しだけ体を浮かせる彼を続けざまに

 

「おさむんのバカ〜〜っ!!」

 

「うおおおお……!」

 

 スパークルがヒーリングステッキ下へ叩きつける。

 そこから治は、スパークルとフォンテーヌから雨のように打撃を浴びせられ最後の最後に、

 

「「ハアアアアアッ!!」」

 

 二人のエネルギー波を受け下へと落ちていった。

 

「お、治くーーーん!!!」

 

 のどかが心配して手すりから下を見る。

 

「アレに情けは不要ラビ」

 

 だがそんな彼女の横で、非常にも彼女のパートナーは下へと落ちた男をゴミを見るような目で言ったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「イチチ……お前ら、俺じゃなかったら確実に死んでるからな」

 

 なんとか下から高台へ戻った治は全身を擦って言う。

 さすがの彼でもプリキュアに変身した彼女達の攻撃は相当に応えたようだ。

 

「大丈夫だよ〜! おさむんとかビョーゲンズ以外には手加減するし〜」

 

「そもそもやらないわ」

 

「あ、そうか。そりゃ安心だ。…………じゃねえよ! なんで俺までボコボコなんだよ!?」

 

「「それは治(おさむん)があんな事言うからでしょ!!」」

 

「はあ!?」

 

 再び口論を繰り広げる治とちゆ&ひなた。

 のどかはそんな様子をハラハラして見守っていた。

 そして彼らの口論がひとしきり続いた所で、

 

「とにかく、私たちはもう帰るわ。これからはあなたがもう一度のどかと話しなさい。のどか、頑張ってね」

 

「あたしたちは、のどかっちの味方だから。あと今だけはおさむんの敵!」

 

 ということを言って二人はラビリン達を連れて帰った。

 

 そしてその場に残された二人は再び話す。

 

「アイツら、本気でやりやがった…」

 

「アッハハ…。だ、大丈夫…?」

 

 のどかは自分の想いに気づかなかったにも関わらず彼を心配する。

 

「まあ、なんとかな……つっても、話せって何をだ?」

 

「……ここって、どうして治くんのお気に入りの場所なの?」

 

 頭を捻らせる治。

 そんな彼にのどかは唐突に聞いた。

 

「あー言ってなかったか。ここさ、俺がすこやか市に越してきた日、最後に父さん母さんと寄った場所なんだ」

 

 治は手すりに寄りかかる。

 

「その時も今日みたいな夕焼けでさ、今みたいな景色が広がってて、俺にはすげえ思い出に残ってんだ。それから、いつの間にかなんかあったらここに来るようになってたってだけだよ」

 

 そう話す彼の横にのどかは着く。

 

「そうなんだ」

 

 そして彼女は、彼に言う。

 他に何も言わず、ただそれだけを。

 

「治くんは、ビョーゲンズとの戦いで怖いって思う?」

 

 不意にのどかは質問する。

 それに治は、

 

「怖くない」

 

 強く答えた。

 

「どうして?」

 

「ビョーゲンズとの戦いは怖くないさ。戦いはなんでか知らないけどワクワクするからな。それに、ラテに約束したからな。必ず親に会わせてやるって。怖がって暇なんてねえや」

 

 治は笑った。

 そんな彼の姿にのどかはまた惹かれる。

 

「……わたしは、怖いな。ビョーゲンズとの戦い」

 

 だが今の彼女はそう告げる。

 

「わたしもお手当て頑張りたいって、一生懸命やるんだって思っても、昨日みたいに治くんが傷つくのを見るのがすごく怖いの。もし、治くんがわたしたちの前から居なくなっちゃったらって思うと……」

 

 のどかの笑みは、暗いものだった。

 

「じゃあ約束だ」

 

「え…?」

 

 突然告げる治の声に反応するのどか。

 

「俺がもし、お前らの前から居なくなったら。その時は必ず、俺はここに帰ってくる。絶対だ」

 

 治はそう告げた。

 彼との約束。

 それならなんだか果たされそうだとのどかは思った。

 

「うん。約束」

 

 二人は笑顔を交わす。

 

「そういや、結局話せって何の話だったんだ?」

 

「あ…。それは、ね。治くん」

 

 一番最初の目的を治は掘り返した。

 するとのどかが彼を呼び、振り向いた彼の唇と、彼女の唇が…………

 

「…………」

 

「…………えーっと、何?」

 

 触れることは無かった。

 治とのどかの身長差、それは彼女が背伸びをしたとしてもあと少しの差で彼に届かせることの出来ない物であったのだ。

 

「はぅぅぅぅ……」

 

 恥ずかしくて蹲るのどか。

 

「おおい、大丈夫かよのどか」

 

 そんなのどかを心配して治が身を屈めた時、

 

「えいっ!」

 

 のどかが振り返ることにより、今度こそ二人の唇が重なった。

 

「!?」

 

「…………ぷはぁ!」

 

 間を置いて離される二人の唇。

 いくら治でもこれは普通ではないと分かっており、彼女のこの行動には動揺してしまう。

 

「その、さっきのわたしの好きは……こういう物、です…」

 

 のどかものどかで自分がした行動が恥ずかしくなり、しかし顔を紅くしながらも彼女は伝えた。

 

「あ、あ……その、分からなくてごめん…」

 

 のどか同様治も俯く。

 

「それでえっと、返事は今聞かせてもらえると嬉しいな〜、なんて…」

 

 中々言葉を続けられなくなる二人。

 だったが、

 

「……その、多分俺はこれからもお前の気持ちに気づいてやれないと思うぞ?」

 

「大丈夫だよ」

 

「多分お前のこと泣かせるかもしれないぞ?」

 

「治くんはそれよりももっとわたしを笑顔にさせてくれるもん」

 

 この問答はいつものように二人の口から言葉を流暢に出させた。

 

 そして、

 

「えっと……それじゃその、よろしくお願いします」

 

「こ、こちらこそ!」

 

 ここに、とてもギクシャクとしたカップルが誕生したのだった。

 

 そしてこの日、彩野家の夕食は赤飯になったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フォンテーヌとスパークルには彼をボコボコしてもらえるのは決めていたので書いてて楽しかった。

あと、この回で二人をくっつけこそしましたが、普段からイチャイチャさせるとかはしないつもりです。

そもそも書ける気がしない…


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新たな強敵登場!?

さあ、今回で敵幹部の中では一番好きな彼の登場です


「496……497……」

 

 改良の済んだ重力室の中で俺は腕立てをしていた。

 あの校外学習の日に出すことが出来たあのオーラと超パワー。

 

「498……499……500!」

 

 その影響なのか、それともあの戦いで受けたケガが全快してまた単純にパワーが上がったのかは知らないけど、とにかく今の俺は7倍の重力を物ともしないで動けていた。

 

「ふう。7倍でも問題なし、か。じゃあ次は思いきって10倍でやってみよう」

 

 俺は重力をコントロールするパネルに寄り、室内の重力を7倍から10倍へと変える。

 

「ぐっ…!」

 

 と同時に床に叩きつけられた。

 さすがに10倍の重力はとんでもねえな…。

 前までの俺だったら今のでまた病院送りになってたぜ。

 

「……ふっ! ハアアアアアッ!」

 

 だが、今と昔の俺には明らかな違いがある。

 それは、この白いオーラ。

 

「へへ、よしよし。これなら10倍の重力でもなんとか動けるみたいだな」

 

 あの戦い……というか、のどかと出かけた次の日からこの重力室に籠もってこの力を自在に引き出せるようにトレーニングして、やっと昨日できるようになった。

 

 それで分かったのが、このオーラを出すために全身に力を込める必要があるのと、このオーラが出てる時と出てない時だと圧倒的にパワーの差があること。

 

 現にこうしていれば、10倍の重力でも動けるようになるしな。

 

「約束の時間までまだあるよな。よし、もう少しトレーニングしていくか」

 

 俺はパネル上部に表示される時間を見てまたトレーニングを開始した。

 

「1、2、3……」

 

 え、なんの約束かって?

 まあ、またラビリンに呼ばれてるんだよ。

 なんでもみんなに話したい事があるらしいからな。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「うーっす」

 

「あ! おさむん遅〜い!」

 

 のどかの家に行って彼女の部屋に入ると、ひなたから少し遅れてきたことを怒られる。

 

 まあなんで遅れたのかを説明すると、あの後トレーニングに熱中しすぎて時間がヤバいことになる。

 

 けど汗だくの状態で行くわけにも行かないのでシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かす。

 

 んで、結局遅刻って事になった。

 

「汗だくでもいいんだったら間に合ったんだがな…」

 

「汗だく…? 何かしてたの?」

 

 ちゆに聞かれる。

 いや、そんな全員で見なくても良くね?

 

「まあ、ちょっとトレーニングをな。まあいいから、とにかく今日集まった本題を話せよ」

 

 俺は尻尾で誘導しながら話す。

 すると、

 

「…………」

 

 ニャトランが獲物を狙う目になりながら俺の尻尾を見た。

 

「どうしたニャトラン? 俺の尻尾に何か付いてんのか?」

 

 俺は自分でも尻尾を見る。

 けど、特に変な物が付いてるようには見えない。

 

「ニャーー!! もう我慢できないニャー!」

 

 ニャトランは突然俺の尻尾に引っ付いてきた。

 

「うわ! ちょ、おい止めろよ!」

 

「ニャンニャニャン〜! ……ハッ! すまん、ついな!」

 

 ハッとしたニャトランは尻尾から離れる。

 まったく…、俺の尻尾は猫じゃらしじゃないっての…。

 

「それにしても、本当に不思議よね。治の尻尾」

 

 それを見ていたちゆが言う。

 

「まあ確かに俺も最初の頃は不思議だったけど、別に今は不便な事もないし良いかなって思うようになってたな」

 

 俺は座りながら尻尾を触る。

 

「今はって、昔は何かあったの?」

 

 すると今度はのどかが聞いてきた。

 それに俺は頷いて答える。

 

「ああ。昔はこれ触られると力が抜けて動けなくなってたんだよ。けど、さすがにいつまでもそれじゃ大変だからさ克服できるように頑張ったんだ」

 

「頑張ってどうにかなるものなんだ…」

 

「根性!」

 

 俺が強く言うとひなたは苦笑いで答えていた。

 てか、

 

「本題はなんだよ今日の!」

 

 俺は話を戻す。

 するとラビリンが……というかヒーリングアニマルの三人がベッドの上に立つ。

 

「それでは気を取り直して! ただ今より、プリキュア緊急ミーティングを始めるラビ!」

 

「ミーティング? 何か話し合うのか?」

 

 ……てか、俺プリキュアじゃないのにいいのか?

 まあ、そんな事今更か。

 と俺は勝手に納得した。

 

「お互いの良いところを話し合うとか?」

 

 ひなたが言う。

 

「違うニャ!」

 

 しかしすぐにニャトランが否定する。

 

「ち、ちなみにキュアフォンテーヌの魅力は行動力と優しさペエ……」

 

 ペギタンが恥ずかしそうに言う。

 ……前から思ってたけどペギタンってちゆの事大好きだよな。

 

 そんな中、ラビリンが言った。

 

「みんな、この前のメガビョーゲンの事は覚えてるラビ?」

 

 その言葉で空気が張り詰める。

 

「……忘れろって方が無理だろ」

 

「…強かったわね」

 

 俺とちゆが言葉を返す。

 しかし、

 

「でもさ、あの新しい技……えっと」

 

「プリキュア・ヒーリング・オアシスの事?」

 

 ひなたとのどかが話す。

 

「そうそれ! それに、おさむんだってあんなすごい技撃てたじゃん!」

 

「元気玉の事か?」

 

 俺が聞くとひなたはうんうんと頷く。

 ちょうどいいと思い、俺はその事について話すことにした。

 

「言っとくけど、元気玉は使えないぞ」

 

「どうしてだ?」

 

 俺の言葉にみんなが驚く中ニャトランが聞いてきた。

 

「元気玉はさ、この地球にある自然や動物―――それからエレメント、このすべてから元気を分けてもらって撃つ技なんだよ」

 

 みんなは俺の言う事を黙って聞く。

 

「つまり、撃てば撃つだけ地球から元気を吸い取っちまうのと同じって事だ。ビョーゲンズとの戦いの度に元気玉を使ってたら、アイツらよりも先に俺が地球を滅ぼしちまうぜ」

 

「そ、それはだめラビね…」

 

 ラビリンが落胆する。

 まあビョーゲンズに対してかなりの有効打だと思ってたのが使えないと言われちゃ無理もないよな。

 

「それにもう一つ、あの技には大きすぎる欠点がある」

 

「それは何ペエ?」

 

「それは元気を溜めるのに時間がかかりすぎるって事だ。この前のメガビョーゲンとの戦いで撃った元気玉だって、あの程度の大きさにするのに結構時間を食っちまった。もし元気玉を使えたとしてもそのたびにお前らが俺を守るってのも無理があるだろ。この先どうなるか分からないんだし…。ま、とにかく今の俺の課題は元気玉に代わる必殺技を覚えるってとこかな?」

 

 長々と説明する俺の顔をのどかが見ていた。

 

「……えっと、何か?」

 

 俺が聞くとのどかは顔を背ける。

 

「分かるよ〜。のどかっち、おさむんってば戦いのことになるとこんなに頭が良いのに……」

 

「どうしてのどかの気持ちには気づかなかったのかしら?」

 

 そんなのどかを抱きかかえるちゆとひなた。

 二人の目線に刺されながら、俺はラビリン達に向き直る。

 

「んで、その事がどうかしたのか?」

 

「そ、そうラビ! まさにそのプリキュア・ヒーリング・オアシスの事ラビ!」

 

 あの技の事……か。

 

「確かにすごい技だったよな。合体したメガビョーゲンを浄化できたんだから」

 

「ラビ。だからこそ、次からもあの技を出せるようにチームワークを鍛える必要があるラビ!」

 

「「「「チームワーク?」」」」

 

「その、それを鍛えるためには特訓しかないのかなって、なったペエ」

 

「名付けて! 『プリキュアチームビルディング大作戦』ラビ!」

 

「ふわぁー! 楽しそうー! 特訓なんてわたし初めてー!」

 

 ……楽し、そうなのか?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ―――ビョーゲンキングダム。

 

 そこには、ビョーゲンズの三人が集まっていた。

 しかし、今回はいつもと違いキングビョーゲンが三人を集めたのだ。

 

「お呼びですかキングビョーゲン様! シンドイーネ、ただ今駆けつけましたー!」

 

 キングビョーゲンを敬愛するシンドイーネが真っ先に声を出す。

 そして、ナノビョーゲンが集まる事によりキングビョーゲンは実体こそ持てないがその場に現れた。

 

「お前達に会わせたい者がいる」

 

「会わせたい奴…?」

 

「何者ですか…?」

 

 ダルイゼンとグアイワルが聞く。

 しかし、キングビョーゲンが答えるより先にその者は姿を現した。

 

「ちーっす! キングビョーゲン様、ただ今参上したっす!」

 

 そこに姿を見せたのは、軽そうな雰囲気を漂わせる男。

 だが三人とも姿が違い、ネズミのような姿をしていた。

 

「来たか。バテテモーダ」

 

 バテテモーダ。

 そうキングビョーゲンに名前を呼ばれた男は、ダルイゼンの元へ行った。

 

「どもー! ダルイゼンの兄貴!」

 

「あに…!? 何…?」

 

 最初から兄貴呼びされた事に動揺するダルイゼン。

 そんなバテテモーダを見たシンドイーネは、

 

「何なのこいつ…」

 

 不審な目をバテテモーダに向ける。

 

「まあまあ、そこはそれ! 注目の若手新人って事で見てくださいよー、シンドイーネ姐さん」

 

「アンタに姐さん呼びされたくないわよ!」

 

 変わらぬ調子で話すバテテモーダに怒るシンドイーネ。

 だが、そんな彼女に怒られてもバテテモーダは話すことを止めない。

 

「見目麗しいかな! シンドイーネ姐さんの類まれなる美貌!」

 

「なっ!?」

 

 急に褒められ少し顔を染めるシンドイーネ。

 

「輝かしいかな! グアイワル先輩の明晰なる頭脳!」

 

「……ふん!」

 

 グアイワルは悪くないと言った具合に笑う。

 

「誇らしいかな! ダルイゼン兄貴の沈着にして冷静なるハート!」

 

「……」

 

 珍しくダルイゼンも満更でもない表情をする。

 

「皆さんの活躍は、こーんな小さい時からよーく知ってます!」

 

 バテテモーダは最後にそう話す。

 

「バテテモーダよ。早速だがお前に仕事を与える」

 

「おおっ!? 自分、即座にご指名っすか!? 感謝するっす、キングビョーゲン様!」

 

「プリキュア達を倒し、地球を蝕め!」

 

「了解っす!」

 

 実体のないキングビョーゲンに敬礼するバテテモーダ。

 そして、バテテモーダはそのまま出撃しようとした。

 

「待て、バテテモーダよ。もう一つ伝えておくべき事がある」

 

 しかしそんなバテテモーダをキングビョーゲンが引き止める。

 

「おっと? まだ何かあるんすか?」

 

「プリキュアと共に我々に歯向かう男が居る。その男に注意せよ」

 

「マジっすか!? その男、強いんすか!?」

 

 バテテモーダは目を輝かせて聞く。

 

「それについては、そこの三人に聞くがいい」

 

 キングビョーゲンはそう残して消えた。

 

「お三方、その男って強いんすか!?」

 

 残されたバテテモーダは三人に聞く。

 そして、三人は真剣な顔で珍しく意見がまとまった。

 

「「「強い」」」

 

「まあキングビョーゲン様には敵わないけどねぇ!」

 

 だがすぐさまシンドイーネが言った。

 そしてそれを聞いたバテテモーダは、ワクワクとして近くの岩場に飛び移った。

 

「良いっすねぇ! それでは、新進気鋭! 期待の新人バテテモーダの活躍をご期待あれ!」

 

 その時のバテテモーダはまだ見ぬ彼と、プリキュアに期待を馳せた表情で地球へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何気にこの作品でキングビョーゲンのセリフ書いたの初めてかも…?

そもそも口調がこれで合ってるのか分からん…


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戦いへの欲

今回で放送分のすべてが終わってしまった……どうしよう


 ―――治達は今、採石場に来ていた。

 

「ここで特訓をするの?」

 

 のどかが辺りを見回しながら言う。

 だが、その横で治は

 

「何で俺まで…」

 

 不機嫌そうに言った。

 チームワークを高めるための特訓である以上自分は必要ないだろうとあの後帰ろうとした治だったが、のどかとラテのキラキラとした目に断りきれずに着いてきてしまったのである。

 

「チームワークを高める以上、治も一緒に特訓して損はないラビ」

 

「そういう物か?」

 

「そういう物ラビ!」

 

 胸を張って治に言うラビリン。

 そして治は渋々納得しながらのどか達を見た。

 

「特訓…! ふわぁー! ワクワクするー!」

 

「けど、特訓って滝に打たられるとかじゃないの?」

 

 ちゆが聞いた。

 

「階段をうさぎ跳びで登ったり…!」

 

 のどかが続く。

 

「綱渡り…とかしないよね?」

 

 そしてもちろんひなたも聞く。

 

「……もうこの時点でチームワークねえけど?」

 

 三人それぞれが思い描く特訓を聞いた治がラビリンに言った。

 

「全然違うラビ! チームワークを強くするって言ったラビ!」

 

 ラビリンが三人に言う。

 

「テーマは以心伝心ペエ!」

 

 ペギタンは手に持っていた紙を見せる。

 それに同意するようにニャトランも隣で頷く。

 

「以心伝心?」

 

「心と心を伝え合うラビ」

 

「テレパシーを使えるようになるって事? いやそれ無理ゲー!」

 

「違うニャ! 言葉がなくてもお互いの考えてることが分かれば、戦いの時に連携も取りやすいだろ」

 

 と言いながらニャトランとラビリンが四人に見本を見せる。

 

 二人は大きくジェスチャーし、その後互いめがけて走り出した後、ラビリンが転がりニャトランがその上を大きく跳び超えてみせた。

 

 それが一瞬でも間違えればぶつかってしまう器用なものである事は、その場の誰しもが理解できた。

 

「へー、確かにすげえな」

 

「うんうん! 心が通じ合ってる感じするする!」

 

 自信を付けたラビリンとニャトラン。

 両者は再びジェスチャーをした後走り出すも、今度はお互いにジャンプした事で見事に空中で激突した。

 

「いったた…もうニャトラン何やってるラビ!」

 

「何でだよ! 今のはラビリンが転がるから、ニャトランはそれを跳び超えて、だろ!?」

 

「違うラビ! 今のは、ラビリンがジャンプするからニャトランはそれを下から通り抜けて、ラビ!」

 

 目の前で口論をするラビリンとニャトラン。

 その様に四人は呆気にとられてしまった。

 

「ま、まあこの様な事にならないよう、しっかり特訓するペエ」

 

 ペギタンが言うと、治は近くの岩場に歩き出してしまった。

 

「治、どこ行くペエ?」

 

「チームワークの特訓は三人の連携を高めるものだろ? 俺には俺でやらなきゃならない事がある。心配すんな、遠くに行くわけじゃないから、用があったら声かけてくれ」

 

 治はそれだけ言い残して岩場の陰に姿を消した。

 そして彼はその場に座り込む。

 

「さて……どういう必殺技にするか。それが課題だな」

 

 治は目を閉じる。

 そしてあの時元気玉を作ったように、自身の手にオーラを凝縮させようと試みる。

 すると、彼の手のひらには小さな黄色い玉が出現した。

 

「これじゃあ必殺技って言わないよな」

 

 彼は力を抜き、玉を消失させる。

 そして、元気玉の事を思い出した。

 

「……あのとんでもねえエネルギー。どうやって作り出せばいいんだ?」

 

 岩に背を預ける治。

 そしてそんな彼の悩みを知る由もない人物が、そろりそろりとそこに近づいていた。

 

「のどか、か?」

 

「な、何で分かったの…!?」

 

 陰からのどかが驚きながら姿を現す。

 

「どうかしたのか?」

 

 治が聞く。

 するとのどかは彼の手を取った。

 

「まあ、とにかく来てよ」

 

 そのまま彼女は彼を連れて行く。

 そこには、ひなたとちゆも待っていた。

 が、ヒーリングアニマル達の姿はない。

 

「んで、どうしたんだよ?」

 

「いやー、特訓って言ってもあたし達なにすればいいのか分からなくて全然うまく行かないんだよね〜…」

 

 ひなたは苦笑いしながら言う。

 そして彼女に続いてちゆが言った。

 

「治は、普段からトレーニングをしてるでしょう? 何かいい案があればと思って」

 

「いい案って言われてもなー……いつもは俺も単独だし、おまけにお前らの特訓内容はチームワークだから一番いいのは実戦だけど……相手がなぁ」

 

「「「実戦かぁ…」」」

 

 四人とも頭を唸らせる。

 

「あ」

 

「あ」

 

「あ」

 

 するとのどか、ちゆ、ひなたが何かを思いつく。

 

「あ?」

 

 三人の視線は、一人の男に集まっていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「いや。確かにな、俺は言ったさ実戦形式がチームワークを高めるのに一番だって。それに俺のトレーニングにもなるだろうさ……けどこれは無いだろ!?」

 

 治は目の前で変身したグレース、フォンテーヌ、スパークルの三人に叫ぶ。

 

 そう彼女達の思いついた内容は、治を対戦相手として自分達のチームワークを高めようというものだった。

 もちろん、彼女達のパートナーであるラビリン達もそれには最初反対したが、結局のところ押し切られてしまったのである。

 

「けど、やっぱりこういうのはあなたじゃないと務まらないのよ。わたしたちの中で、一番戦い慣れているあなたじゃないと」

 

「そうそう〜。それにおさむんなら、多分良いアドバイスくれるんじゃないかなって思ってさ〜!」

 

「ごめんね治くん。でも、協力して!」

 

 三名が言う。

 すると治は観念したように大きく息を吐いた。

 

「分かったよ。お前らは決めたら頑固だし、やりたいなら止めない。けど、これは俺のトレーニングにもなるんだ。手加減するなよ」

 

 治はそう言って構える。

 その時の彼の雰囲気に一瞬彼女達は呑まれそうになるプリキュア達。

 

「……ヤバ、おさむんちょー怖いね…」

 

 スパークルがそう溢した。

 

「ええ。いつもは味方として隣に居てくれたのに、いざ相手になるとこうも攻めづらいものなのね」

 

 フォンテーヌも同意する。

 その様子に痺れを切らせて治が言った。

 

「なんだ来ないのか? ……なら、俺から行くぞ!」

 

 叫びと同時に彼は大地を強く踏んだ。

 そして彼女達との間に空いた距離を一気に詰める。

 狙いはまず、目の前に居たグレース。

 

「ふんっ!」

 

 治の回し蹴り。

 三人はそれを回避する。

 

「いきなりラビ!?」

 

「そっちが言い出した特訓だろ? 本気で来いよ」

 

 治にそう言われ、グレースは背後の岩を足場にして彼を蹴りつける。

 

 そんな彼女の攻撃に対して治はガードを取った。

 

「ぐっ…! くう…、今のは効いたぜ」

 

 彼は少しだけ後ずさり、グレースに言う。

 そんな彼の笑顔に、グレースは一瞬動揺する。

 

「「ハアアアアア!」」

 

 グレースを援護しようとフォンテーヌとスパークルも彼へ拳と上からの蹴り落としをしようとする。

 

「危ねえ…!」

 

 その攻撃を即座に治は避ける。

 

「……なんだよ、結構普通にチームワーク取れてるじゃねえか」

 

 治は距離を取って言う。

 

「じゃあ、俺も…!」

 

 そして彼が全身に力を込めようとした時にだった。

 

「くしゅん!」

 

 ラテがくしゃみをする。

 それと同時に治もある方を向いた。

 

「(この気配……メガビョーゲンか? それともう一つよく分かんねえ気配が)」

 

「治くん!」

 

「分かってる! ……向こうだ、行くぞ!」

 

 治に言われて全員がその場へ走る。

 そこには、ショベルカーを模したメガビョーゲンが居た。

 

「よっし、相手を俺からあのメガビョーゲンに変更してやってやろうぜ」

 

 治が言うと三人は頷く。

 そして、四人は同時に上からメガビョーゲンへ攻撃を仕掛ける。

 

「っ!?」

 

「誰っ!?」

 

 だがその攻撃は、間に割って入った一つの影に阻まれ弾かれた。

 

「ちーっす! アンタ達がプリキュアで、アンタがプリキュアと一緒に戦うっていう男っすね! 初めまっしてー!」

 

 その影の正体は、キングビョーゲンに命じられて地球を蝕みに来たバテテモーダであったが、彼を知らない治たちは困惑する。

 

「誰ニャ?」

 

「ダルイゼンでもシンドイーネでも、グアイワルでもないペエ…」

 

「あんなビョーゲンズ見たことないラビ」

 

 それはもちろん、ラビリン達も例外ではない。

 

「はいはいはーい! 自己紹介しまっす! 自分、この度ビョーゲンズの注目の若手として加わったバテテモーダっす!」

 

 バテテモーダはその正体を彼らに明かす。

 

「バテテモーダ…?」

 

 その名前を治は繰り返す。

 

「しくよろみなさん! そして多分さようなら。だって自分、アンタらに負ける気がしないんで」

 

 バテテモーダは強気に言う。

 そんなバテテモーダの目を見た治は誰よりも真っ先に構えた。

 

「用心しろ三人とも。多分あのバテテモーダって奴、これまでのビョーゲンズと明らかに違うぞ」

 

「おおーっ! さすがはビョーゲンズのお三方に認められる人っすね! 自分アンタと一番戦ってみたかったんすよ!」

 

 バテテモーダも構える。

 

「グレース達はメガビョーゲンを頼む。俺はあのバテテモーダってのとやる」

 

「無駄話してる場合っすか? …バテテモーダオンステージ開幕ぅ!」

 

 バテテモーダが四人に飛び込む。

 それを後方に回避する四人。

 

「自分から戦うなんて…!」

 

「だってさ、見てるだけなんて……つまんないっしょ!」

 

 バテテモーダが跳び上がる。

 それに真っ先に反応したのは、やはり治であった。

 

「おほ〜! いいっすねその反応!」

 

「そいつはどうも!」

 

「けど、やっぱそれだけじゃ自分負ける気しないっすわ!」

 

 バテテモーダの拳が治に迫る。

 だが、治はその拳を受け止める。

 そのまま二人は地面に落下していく。

 

「おさむん!」

 

 落下の勢いで土煙が立ち込める。

 その煙の中から先に飛び出してきたのは治であった。

 

「まさかここまで自分から戦いに来るビョーゲンズが居るとはな」

 

「やっぱ戦いは、自分から盛り上げていかないと!」

 

 バテテモーダは標的を治からスパークルに変更する。

 そのままスパークルと数度打ち合いになった後、助太刀したフォンテーヌとの勝負に移行するバテテモーダ。

 

「楽しい楽しい! いいねー! プリキュア達も、思ったよりパワーあるっすね!」

 

「お前の相手は俺だろうが!」

 

「やあああっ!」

 

 バテテモーダの左からスパークル、正面から治が迫る。

 

「でも効かない! 何故って、自分の方が強いから!」

 

 三人を弾き飛ばそうとするバテテモーダ。

 そのパワーにスパークルとフォンテーヌは飛ばされるも、治だけはその場にとどまっていた。

 

「こいつは俺に任せろ! お前らはメガビョーゲンを!」

 

 そんな治がグレース達に言う。

 すると彼女達は彼を信じ、メガビョーゲンへ向かった。

 

「ちょっとちょっと、もうちょっと盛り上げていかないと〜! 自分つまんないっすよ?」

 

 そんな彼にバテテモーダは言う。

 すると彼は、

 

「安心しろよ。…………ハアアアアアッ!!!!」

 

 全身に力を込め、オーラを噴き出した。

 

「すぐにその減らず口……叩き潰してやるよ」

 

 彼は笑った。

 ただ目の前の敵との戦いを楽しむように―――。

 

「おおー!? なんすかなんすか、そんな隠し玉あったんすか!? これは楽しくなりそうっすね!」

 

 二人はまた構える。

 

 そこからはプリキュアの介入する余地のない、二人だけの勝負が始まった。

 

「ふっ!」

 

「いいねいいねぇ! アンタ最高っすよ!」

 

 治の蹴りとバテテモーダの蹴りが衝突する。

 その後、バテテモーダの拳を治は飛び越える形で回避し、反対に彼を殴りつける。

 

「おお! ちょい効いたっすよ!」

 

 俊敏に採石場の岩場を足場にし、バテテモーダも反撃する。

 その攻撃は、治の顔面を的確に捉えて命中させる。

 

「……テメーも中々やるじゃねえか」

 

「そっちこそ、お三方に話を聞いてたけど、正直ここまでとは思わなかったすよ!」

 

 治とバテテモーダ。

 今の彼らには互いの視界に目の前の敵しか映っていなかった。

 

 しかし、そんな勝負に水を刺す形でグレース達はメガビョーゲンを浄化した。

 

「終わったか」

 

「…………」

 

 バテテモーダが治の手を離す。

 

 二人はその後距離を取り、治のもとにはプリキュア達が駆けつけた。

 

「治! 大丈夫!?」

 

 フォンテーヌが聞く。

 それに治はバテテモーダから目をそらさずに首を縦に振る形で答えた。

 

「ハハハハ! いいじゃんいいじゃん、強いじゃん! やられちゃったぜメガビョーゲンちゃん!」

 

 バテテモーダは笑っていた。

 そしてメガビョーゲンを浄化したプリキュア達に拍手と称賛の言葉を贈る。

 

 その姿は、不気味の一言だった。

 

「笑ってる…。何なの、アイツ…?」

 

「ハハハ…! 負けたのは自分じゃないんで、メガビョーゲンなんで! まあでも、今日はこれで引き上げるっす」

 

 バテテモーダの言葉にスパークルが静かに反応した。

 そして、バテテモーダは更に続ける。

 

「それにしても、戦うのって超楽しいわ…!」

 

 バテテモーダから発せられた言葉。

 

「戦うのが、楽しい…?」

 

 そのまさかの言葉に動揺せざるを得ないグレース。

 今までのビョーゲンズは、地球を蝕むためにメガビョーゲンを生み出していたし、プリキュア達と自ら直接戦うことは無かった。

 

 しかし、このバテテモーダは違う。

 自ら戦うことに楽しみを見出している。

 それは、彼女達三人にとっては分からない感情だった。

 

 だが

 

「でも、そちらの人も自分と同じっすよね? 分かるっすよ、アンタと俺は同じ戦うことが好きだって」

 

 バテテモーダは治に言った。

 そう、戦いそのものに楽しみを見出す。

 それをしているのは、何もバテテモーダだけではなかった。

 

 それは、彼女達と共にビョーゲンズと戦う彼もまた同じなのである。

 現に治は、バテテモーダの言葉にただ笑って返したのである。

 

「いや〜、プリキュア達とももうちょっと戦ってみたかったけど自分アンタが一番好きだわ」

 

「くだらねえこと言ってねえでとっとと帰れや」

 

 治がバテテモーダに返す。

 

「勝ったと思って油断しない方がいいっすよ。注目若手新人、自分だけで終わりじゃないかもしれないんで」

 

 バテテモーダはそう言った。

 その言葉に驚愕を隠せないプリキュア達に、さらに続ける。

 

「この前、アンタらが手こずったメガビョーゲンの事覚えてるっすか? 自分、アイツから生まれたんすよね」

 

 バテテモーダの言葉を聞き、治は自分の頬を擦る。

 そう、何を隠そうこのバテテモーダはあの時メガビョーゲンが最後の足掻きで治に吐き出し、彼の頬を掠めたあの何かが生み出した敵であった。

 

「あの時の、か」

 

「注目新人、バテテモーダ爆誕ってわけっす! それじゃあまたアンタと戦えるの楽しみにしてますわ!」

 

 バテテモーダは最後までその口ぶりを変えずに消えた。

 

 その目に、ただ一人の男を映しながら。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ねえおさむん…」

 

 その後、治の元にひなたが来た。

 

「なんだひなた?」

 

「バテテモーダ…どうだったの? 強かった…?」

 

 ひなたが聞いてくる。

 

「……ああ、強かった。すごくな」

 

 治は、正直に答えた。

 その時の彼は口にこそしなかったが、今まで戦ってきた敵の中でバテテモーダの強さは群を抜いているであろう事を、彼は直感していた。

 

 そしてまた、奴とは戦うことになる事も―――。

 

「けど、次は倒すさ! そのつもりで俺も目一杯トレーニング重ねるからな!」

 

 治は明るくひなたに言う。

 

「そんであの花寺さん……そろそろ手離してくれると」

 

「やだ…」

 

「いや、やだじゃなくて」

 

「や~だ〜!」

 

 治は自身の手を強く握り、決して離そうとしないのどかの扱いに翻弄されているのであった。

 

 だが、そんな明るい空気とは対称的……ひなたの顔が晴れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次はアニメ13話の内容を書きたいのでオリジナルストーリーは無しの方向で行きます。

なので、しばらくこっちは投稿停止になるのかなぁ…


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ひなたの悩み

お待たせしました


「ふぅぅぅーーーーー」

 

 いつもの日課。

 朝のトレーニングに、俺は一つ新しいメニューを加えてみた。

 

 それは、何もしないというメニューだ。

 全力で立っているだけ、重力を上げることも無ければあのオーラを出す事もしない。

 ただ、全神経を集中させて気配を探る。

 ただ、それだけだ。

 

「……ふぅ。これすげえ便利なんだけど、動けねえし体力使うのが難点だよな」

 

 俺はタオルで汗を拭きながら言う。

 戦いながら気配を探れれば、もっとビョーゲンズとの戦いで有利になれると思ったんだけど…。

 

 ま、それはこれからのトレーニング次第だな。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 場所は変わり、平光アニマルクリニック。

 今日はラテの定期検診に来ている。

 

「……。うん、どこも問題なし! 健康そのものだね!」

 

 ひなたの父、照彦さんがそう教えてくれる。

 

「お父さん。トリミング終わったから、車出しちゃうね」

 

「ああ、分かったよ」

 

 ラテの健康を喜ぶのどかとちゆ。

 何気ない日常の会話を交わす照彦さんとめいさん。

 だが、俺の目はその誰よりもひなたを見ていた。

 

「ひなた。元気が無えみたいだが、どうかしたのか?」

 

「え? そう、かな? ……うん、そうかもね」

 

 いつもならラテの状態を聞くと誰よりも先に喜んでくれるはずのひなた。

 その彼女がどこか上の空というか、心ここに在らずというのが気になり、俺が声をかけると、彼女は続けて言った。

 

「家はさ、お父もお姉もなんでも出来るんだよね…。あたしなんて、プリキュアも辞めそうなのにさ…」

 

 プリキュアを辞める。

 

「「ええええええええええええええええええええっ!?」」

 

 流石にその言葉を他二人が聞き逃す事は無く、のどかとちゆも驚いた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「初仕事は楽しめた様だな。バテテモーダよ」

 

「ハイ。それもこれも、キングビョーゲン様のおかげっスよ」

 

 一方のビョーゲンキングダムでは、バテテモーダの初仕事の話をしていた。

 そして、彼は続けた。

 

「いやー、それにしてもプリキュアってチョロい奴らっスねー。これなら、先輩方のお手を煩わせなくても、自分一人で片付けられそうなもんっスわ」

 

 バテテモーダの発言にシンドイーネが言う。

 

「ちょっと! バテテモーダ、キングビョーゲン様の前だからって調子に乗るんじゃないわよ!」

 

「い、いやいやチョーシに乗ってなんかないっスよ! 自分お三方の事はちゃんと尊敬してますんで!」

 

「それが嘘っぽいって言ってんのよ!」

 

 バテテモーダに怒りを顕にするシンドイーネ。

 だが、そこにダルイゼンが口を挟んだ。

 

「まあ、なんにしろメガビョーゲンを生み出せる奴が増えたんだから、地球を蝕むのが捗りそうで良いじゃん」

 

「ふ、そういう事だ。よし、バテテモーダよ、あの小うるさいのは放っておいて、今回は俺と共に来い。先輩の働きをよおく見ておけ!」

 

 シンドイーネを他所に、グアイワルがバテテモーダを連れて向かった。

 だが、バテテモーダはこの時、治の事は話さなかった。

 それは、彼との戦いを他の誰かに取られてたまるものかという、彼独自の欲望である。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ひ、ひひひひひひなた! プリキュア辞めるってどういうことニャ!」

 

 当たり前だが、ひなたの辞める発言に一番反応したのはニャトランだ。

 

「近い近い! ってか辞めるとは言ってないし…!」

 

 ひなたはそう言ってニャトランを制止する。

 

「じゃあ何ラビ!?」

 

「説明してほしいペエ」

 

 ラビリン、ペギタンもまたひなたに問う。

 確かに事は重要だ。

 これにはさすがの俺達も説明が欲しい。

 

「なんか、理由があるのか? この前のバテテモーダとの事で」

 

 俺はひなたに言った。

 あの時からひなたの様子が少しおかしいのは感じていたけど、まさかプリキュアを辞めるかもしれないほどとは。

 

「それもあるって言うか……ちょっと考えちゃってさ。だってさ、あーんなめっちゃめっちゃ苦労して、やーっと強いメガビョーゲン浄化して、やったーって思ったのに。バテテモーダみたいなめっちゃ強いの増えちゃうし…。なんか、頑張る意味あるのかなーって」

 

「あるに決まってんだろ! オレはひなたがいないとお手当できないんだぜ!?」

 

「別に辞めたいってわけじゃないけど…。ねえ、そのジュースどお?」

 

 ひなたが目の前にあるジュースを指差す。

 俺達は一度顔を見合わせたが、全員同時にジュースを口にした。

 うん、いつもと少し味は違う感じがするがこれはこれでまた新鮮味があって美味い。

 

「美味いぞ」

 

「うん。美味しいよ?」

 

「そうね。いつもとは少し違う味だけど」

 

 ちゆが口に出した瞬間、ひなたはまたベッドに倒れ込んだ。

 

「ほらねほらねー! お姉の味には届かないんだよあたしが作ったのじゃー!」

 

「これ、ひなたちゃんが作ったの!?」

 

 ひなたの言葉にのどかが驚く。

 まあ、こんだけ似た見た目で作れてたらそりゃ驚くわ。

 

「……あたし、小っちゃい頃から水泳も体操もピアノもダンスも、お兄やお姉の真似してもちっとも上手くならなく、そういうのってテンション下がるじゃん…?」

 

 いや、軽く言ってるけど真似してみるでそれだけ色々手を出せのは普通に才能では…?

 

「だからプリキュアも辞めちゃうかもってこと?」

 

 のどかが聞く。

 

「……分かんない」

 

 ひなたは天井を見つめながらそう返した。

 

「ちょっと待てよ! オレはひなたがダメだなんて思った事ないぜ!」

 

「結果が伴わないと自分のやってる事に迷いが生じる。そういうのちょっと分かる気がするわ」

 

 今でも慌てるニャトランに続けてちゆが言う。

 

「え、ちゆちーも!?」

 

 しかし、ひなたはこれにいたく驚いた。

 だがその気持ちは、むしろちゆだからこそ分かるのだ。

 高跳びで失敗が続くことはちゆにもあるからこそ、ひなたの気持ちは分かる。

 

「こういう事は理屈じゃないから。周りが何か言ってもどうにもならないのよ」

 

「確かに、誰かと自分を比べちまうってのは、俺も分かるな」

 

「おさむんも!?」

 

 俺の言葉にもひなたは驚く。

 けど誰かと自分を比べて、自分の劣っている部分だけを見てしまう気持ちは分かる。

 このお手当を初めてすぐの頃、浄化できるのどか達とそれが出来ない自分を比べちまってた頃の俺と。

 

「けど、ひなたに何か言える事があるとすれば、辞めたいなら辞めればいいさ」

 

「治!? 何を言ってるラビ!?」

 

「そうだぜ! ひなたが居ないとヒーリングオアシスもできないんだぜ!?」

 

 ラビリンとニャトランが俺に迫る。

 しかし、そこにペギタンが返す。

 

「僕は治に賛成ペエ。お手当は危険なことペエ、無理に続けさせるべきじゃないペエ」

 

「……じゃあさじゃあさ、おさむんは何のためにビョーゲンズと戦うの?」

 

 不意にひなたが聞いてきた。

 何のために戦うのか…か。

 これを言ったら、のどか達はどう思うんだろう。

 俺はその事だけが疑問だったが、それでも正直に話した。

 

「分かんねえけど。多分、戦いたいから」

 

 俺の言葉で場に緊張が走る。

 もちろん他にも理由はある。

 けど、きっとこれが一番の理由だ。

 

「戦いたいから…」

 

「ビックリだろ? 俺もそうだからな。それに、ラテを母親に会わせるって約束してるし。なあラテ」

 

「わふぅ?」

 

 俺はラテを抱きかかえて言う。

 

「ま、そんなわけで俺は俺が戦いたいから戦ってるし、これからもそうするつもりだ。だからひなたも自分のやりたいようにやればいい。自分を第一に考えて、そこから少し余裕を持てたら他に目を向ければいいんだからさ」

 

 俺はひなたに言った。

 

「おさむん」

 

「治」

 

「治くん」

 

 そんな俺を三人が呼ぶ。

 はー、言いたい事言えてスッキリしたぜ。

 

 



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