とある男性、朝起きたら目の前にデジタマがあることに気がつく (ハトメヒト(ヒットマン))
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第一話 とある男性、朝起きたら厄年が来たかの如く、世界の命運をほぼ握らされる。


 俺は前世の記憶を残したまま転生した。神様に会ったとか、転生物のようなご都合主義など無いまま30歳を童貞で迎えたが……。

 

 仕事に向かうために、いつもの様に朝の6時半にベッドから起きあがると、目の前に見慣れないものがあるのに気がついた。デジタマと、昔見たことがあるデジモンのオモチャが目の前に置いてある。

 

「え……!? 冗談じゃない。なんだこれは!」

 

 俺は一瞬、何が起きているのか理解できなかった。いや理解しようと努めたが、理解すら及ばないし、夢だと言って欲しかった……。

 

この状況を、もし掲示板に投稿するなら、スレタイが『朝起きたらデジタマ拾ったどうすれば良い?』とか『朝起きたらデジタマ拾ったったwww』ってなりそうだが、流石に自己創作物とか疑われるはずに違いないし、期待できない。

 

 童貞で30歳になったら、魔法使いになれると聞いた事はあったが、実際は選ばれし子供でしたっていうのは違う気がする。

 だがよく考えてみれば、童貞は大人になりきれてない子供って事なのかもしれない。そう非現実を黙認するために、無理やり納得するしかなかった。

 

「さて……どうしたものか」

 

 目の前にあるデジタマは、色や模様が定まっていない。オモチャを観察したら、ボタン付近にXと書かれているだけで、見た目はデジモンのオモチャと変わらない。

デジタマから何が生まれるのは、ハッキリ覚えていないし、原作等を見ていたのは50年以上も前だ。

 

 流石にこんな事は、気にも留めていないのだから忘れてしまう。何とか思い出して光が丘爆破をパソコンで検索するも、ニュースすら見つからなかった。

 

「そうなると、デジタルアドベンチャーじゃないってことか――」

 

そうは言ったが安心できたものではない。

もし選ばれし子供達が居ない場合や、デジタルワールドから侵略されるなら、俺が戦うことになるだろう。

だがデジタマを育てた進化先が、人類滅亡レベルならもっと厄介だろう。ましてやテレビや映画の出来事が現実に起こることは恐怖でしかない。

 

俺は、現実世界に非現実を押し付けるなと叫びたかった。

しかし警察に見せた所で、一時的な気休めにしかならない。その上、社会人という立場を最悪失う可能性がある。

 

週刊誌になどに報道され、親や親戚一同が厄介に巻き込まれる。デジタマは研究所送りにされ、デジタルワールドから侵略され人類滅亡。まさに前門の狼、後門の虎だ。

 

「災厄じゃないか……。望みが、ほぼ無いじゃないか!」

 

 絶望と恐怖心が俺を満たしていくのを他所に、目覚まし時計の秒針が心臓の音と重なって、時が過ぎていく。

 

 ノミほどの落ち着きを取り戻した後。二者択一の中で選んだのは、襲来した場合に備え人類滅亡させないように、責任をもって育てることしかなかった。

 放棄する権利は無いのだ。俺は意志と覚悟を決めて、オモチャのボタンを押した。

 

『ようこそテイマー。デジモン育成システム、Digital Monster X-I.通称デジモンX-Iへ。このシステムではX-Iシステムを使用し、デジモンを育成していただきます』

 

 オモチャからだろうが、そう女性の声が流れる。またも慣れない非現実の押し売りに、めまいをおぼえてしまう。

 

「ちょっと待ってくれ……君は一体誰だ?」

『申し遅れました。デジモンX-I管理AIプロトと申します。以後お見知りおきを、それよりテイマーの名前を教えてください。本名でなくても構いません』

 

まるでお気楽なゲームの様な展開に、胃が痛みはじめるが意を決した以上名乗りをあげた。

 

「ッ……D・サバイバーで」

『D・サバイバーのテイマーネームを承認しました。X-Iシステムへ移行します。X-Iシステムは仮想ダイスロールにより、可能性が未知数のデジタマの行く末を大まかに設定します』

「う、胃が……」

『ダイスロールは全部で3回です。デジモンX-I付属のボタンを、ダイスロールごとに三回押してください。それでは一回目どうぞ——』

 

 機械のボタンを押すとダイスロールが開始される。これで後戻りはできなくなった。仮想ダイスの機械音を背に、人類の双肩は俺の右手にかかっているのだと思うとまた胃が痛い。下手なことはできないが、一回目を押した。




編集後記
厄年は諸説ありますが、お役目という意味があります。
主人公に役目が来ちゃったってことですね。
名前とかに、意味を畳み込んだりしていますが、わかりやすいと思います。
作品として、もしも映像の非現実に現実というボーダーを放り込んだら? という考えから、一話分作ってみました。

続けられたら、無理しない程度の全力で頑張りたいと思います。


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第二話 とある男性、皮肉を込めて夏休みの宿題みたいに、観察映像をつけはじめる。

 一回目から三回目までの仮想ダイスが振り終わる。

 

『ダイスロールの結果を基に、基礎値と能力値に種族値が設定されました。テイマーである、D・サバイバーのデジタマに反映されます』

 

 目の前のデジタマは、モザイクがかかりXXと書かれた模様に変化するが、何が生まれるのか分からない。

 

「どうなるんだ一体——」

『どうもなりませんよ、しっかり育てれば良いんです。管理AIの私もバックアップしますので』

「そうか……」

『基本機能の説明をお聞きになりますか?』

「頼む」

 

 プロトの説明を聞いて基本的な部分は、昔遊んだことのあるデジタルモンスターのオモチャに酷似している。だが違う点があるとすれば、デジモンの育成は遠隔で行えることや、PC内に転送できる点だ。

 

『これにてすべての説明を終了します。では、D・サバイバーの良いテイマーライフを……。』

 

 プロトの説明を聞いた俺の心境は、半分気休めが混じった(あわ)い希望的観測しか持つことしかできない。

 何せデジタルモンスターだ。そうモンスター(・・・・・)なのだ。怪物だ。子供たちが、あんな和気あいあいと(たわむ)れているのを俺から見て異常だと思う。

 

 どんなモンスターに育つのかが分からないのに、よく平気で育てられると感心する。

 しかし、元々は子供番組であるという部分や、ご都合主義を考えればそこまで深く考えなくて良かったはずだ。

 でもここは現実の世界なのだ、あの子供達のように無邪気に考えて笑っていれば良い訳じゃないんだ。俺には仕事もあるし部下もいる。同僚や親類、友人でさえも……。

 決心はついていたはずだ。災厄に立ち向かえるのは俺一人だけなのだ。

 

「何のためにこんなものが、手元に渡って来てしまったのか——」

 

 手元にあるデジモンX-Iを見て、つぶやいてしまう。

 誰にも相談できないという苦悩が、また俺の胃を(むしば)む。しかし現実は非情だ、会社への出勤時間が迫って来ていた。

 

 有給休暇を使おうにも前もって申請が必要であるし、同僚や部下に迷惑をかけたくないという二重苦から、俺の胃をまたも蝕んだが、気を紛らわせる為にどうするかを考えた結果、記録映像もとい育成記録をつけることだった。

 

「はぁ……帰りにハンディでも買うか。これじゃまるでゾンビゲームのパロディや、怪奇映像100連発みたいだな、まぁそっちのほうがまだマシか。俺が死んでもこの映像が残っていれば、うちの誰かが研究するだろう」

 

 デジモンX-Iをスーツのポケットにしまうと、通勤カバンを背負って会社へと向かう。家を出て、真っ先に駅近くのコンビニに寄った。朝に胃を酷使したため、胃薬と水とゼリー飲料を買う。少なめに朝ご飯を済ませると、満員電車に乗り新宿へ向かう。

 会社は、大手の研究製薬複合企業の大門製薬株式会社だ。俺は、そこの営業課に所属している。だから研究資料として、映像記録をつけようとしているのだ(最悪合成だと思われるかもしれないが)。

 

 会社につくと身体チェックが行われる。危険物が無いかなど様々な検査だ。企業スパイも居る可能性があるので厳重だ。先週のことだが、研究員の誰かに何か盗まれかけたと、社内で噂になっていたためか今週はかなり厳重である。デジモンX-Iのことはバレない様にしないとならない(ばれない為に親類の子から預かった育成オモチャなどと偽るつもりだ)。

 

 ポケットに入っていたデジモンX-Iやスマホ等を、専用のケースに入れておき列に並んだ。

 すると、ふいに後ろから声を掛けられる。

 

「先輩、今日は特に厳重ですね」

「おぉ中村か、久しぶりだな。あんな事件があって研究所の方は大変だろう」

 

 中村は俺の三個下の女性研究者で、第一研究所内でエースだというのは聞いている。会社の方針で一時期、営業課に所属していたこともあるため顔見知りである。中村は不貞腐れた顔をして、気心の知れた俺に愚痴を言ってくる。

 

「そうなんですよ。うちの研究員全員のマークが強すぎて、プライバシーもないんですよ。今日の予定はどうだとか、いちいち監視されていてGPSも持たされたりするんですよ。先輩ひどいと思いません?」

「そ、そうなのか大変だな……。まぁ元気出せよ今度何かおごってやるから」

「わーいやったー! 先輩ありがとうございます。じゃあ今度スイーツバイキングに連れて行ってください」

「あ、ああ分かった」

「本当ですか!? じゃあたくさん食べちゃうので覚悟しておいてください、約束ですよ」

「よく食べるから加減しろよ」

「ハイハイ分かってますって、それより先輩、その機械なんですか?」

 

 専用のケースに入っているデジモンX-Iを指さして中村が訪ねてくる。いきなりここで聞かれることには想定外だったが、前もっていた考えていた答えを出す。

 

「これは育成オモチャでね。親類の子供が遊びに来ていた時に忘れていったんだ。小学生の男の子なんだが、取りに戻れないから代わりに育てておいてくれって言われてね」

「ふーんそうなんですか。あ、先輩順番が来たようですよ。また後でスイーツバイキングの件でメールしますね。忘れないでくださいよ!」

「ああ、じゃあまた」

 

 子供みたいに喜ぶ中村をしり目に、ゲートの前に立つ。

 ゲートの前には警備員が立っており、所持品を提出されるように促される。カバンを荷物用ベルトコンベアーに乗っけると、入口ゲートで社員証をスキャンさせ中に入る。今日も企業戦士の戦いが始まる。

 

 ここからプロジェクトの進捗整理や、外部への営業を済ませ、昼休憩を挟んで普段通りなら17時で終わりだ。

 しかし、いつもと違うのはここから家に帰って、観察記録をつけるというルーティーンワークが加わったぐらいかと思うと、少ししか休まらない。

 

「大丈夫か? 顔色悪いぞ」

 

 同僚であり、部下の武藤から心配される。俺にはあまり顔には出ないと思っていたが、今回は相当のようだ。

 

「そうかな……」

「ああ、スマーフやデスラー総統並みに顔色が青いぞ。有給でも取ったらどうだ。俺たちだけでも仕事は出来るから2、3日取っても大丈夫だ」

「ありがとう。申請しておくからみんなに伝えておいてくれ、お前も無理するなよ」

「分かっているって。ま、変な案件さえ来なけりゃ大丈夫だろう」

 

 武藤に促され、人事課に有給申請書を送るためにメールボックスを開く。中村から『スイーツバイキングの件』とメールが来ているが、先に申請書を作成してメールを送信する。中村からのメールには、10日後に近くのスイーツパーラーで待ち合わせという旨が書かれており、俺はOKの返事を出した。

 送信してから暫くして、承認受理された旨がメールに記載されていた。

 

「無理せず頑張るか……」

 

 ここから俺は17時で会社を退社して、池袋の家電量販店へ向かった。お目当てはハンディカムだったが、店員から小型ビデオカメラのGoing PROを勧められ、三脚と一緒に買うことにした。

 量販店から家にまっすぐ帰り電気をつける。ここから、ビールにつまみDVDの三点セットが加わるはずだが、デジタマを前にして急いで先ほど買ってきたGoing PROに三脚を取り付ける。

 

 スイッチを入れて、朝起きたらこんなことがあったとか、説明しながら映像に残している最中だった。いきなりデジタマが揺れてヒビが入り始めた。俺の本当の戦いはここから始まりを迎えた。




編集後記

まだ2話目ですが、どうなるか予想できている人もいると思います。
一週間に一度投稿で、徐々に慣れたらペースを上げていくほうが良いと思っています。
宜しければ評価、お気に入り宜しくお願いいたします。


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第三話 とある男性、幼年期のデジモンに困惑する。

 割れ始めたデジタマから現れたのは、モザイクだらけで姿が見えないデジモンだった。第一印象は気味が悪いという認識だけしかない。鳴き声も『ガガー』や『ピー』とか意味が分からない。

 

「これは一体……」

 

 カメラに映る姿も変わりがない。それでいて、わざとらしくもチープなご都合主義の様に思える。このモンスターは、俺に認識させまいとしているのか、はたまた神のいたずらか、俺は管理AIに問う事にした。

 

『D・サバイバー、私にも分かりません』

「はぁ!?」

『本当に分からないのです。こうなる事は、予想が出来てないのです』

 

 管理AIの発言が、意外な事であったのを嘆くべきか。はたまた形容し難い異物が、産まれてしまった事を嘆くべきかと思ったが、育てると決めた以上は付き合うしかない。

 どうせ、ゆりかごから墓場までの事なんぞ、目の前のモンスターには関係が無いのだ。

 そうだ関係がないのだ。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつくと、ふと思いを巡らせた。

 

 この現実に、奇妙な現象や理解が及ばない事が起こると、急激なストレスにより、人は発狂するか、精神が破綻して、変な事をしだすのかのどちらかだろう。魔王を倒せとか、人類の未来は君に託されただの言われて、逃げ出さないものだと感心するが、逆に考えればこいつらの方が頭がおかしい。

 

 現実に起こった事を経験したことがないから、ヒロイックな事を夢見て、リスクを考えずに平気でいられるのだ。神様転生やらで特典をもらって、女の子にちやほやされて、俺は強いと言っている奴は、早々にご退場願いたいものだ。

 

 もし、その状況を廉価な広告で付けるなら『チート食品が売り出す、ハーレムスパイス配合のご都合主義カレーは、無菌室の元でレトルトパッケージされた安心安全な食品です。自分が死ぬ心配もありません』となるだろう。

 

 生半可な力を持った者は、自らの力に酔いしれる。または、虚無感に苛まれる事しか出来ないのだ。本当に必要なのは、人情や堅実さ、そして救済なのだ。過ぎた力は毒になりえる。

 

 現実は非情なのだ。ともかく目下の問題は、この過ぎた力をどう育てるかだ。

 考えるのを辞め、目の前のモザイクに視線を向けるが何も変わらない。

 

「とにかくエサを与えよう」

 

 デジモンX-Iを操作してエサを選択する。ボタンを押すと、虚空からゲートのような穴が開いて、骨付き肉みたいなエサが落ちてきた。モザイクは、それをムシャムシャ食べている。

 

「は……?」

 

 俺は、開いた口が塞がらなかった。このデジモンX-Iの端末は、もし悪意ある者達に渡ったとしたら、たまったものではない。エサが虚空から降ってくる事は、普通のことではない。

 この技術自体が、世界のパワーバランスを崩し、世界に破滅を招きかねないものであるという事に、恐怖を覚えるしかない。

 

 カメラを止め、エサが虚空から降ってくる決定的な瞬間を再生した。何回も、何回も、再生しても現実は変わらなかった。

 

 今度はトレーニングを選択すると、モザイクは虚空に開いたゲートのようなものに吸い込まれ、デジモンX-Iの画面上に、トレーニングをする様子が映し出される。

 モザイクのトレーニングが終わると、虚空から召喚されてリビングに戻ってきた。

 

「やっぱりこの技術は危険だ。使用する際は用心して育てないと」

 

 俺は電気を消して、眠りについた。

 夜中ピコピコ音が鳴っていたが、気にせず眠り続けた。そして、翌朝起きてみるとモザイクが変化しており、動きも変だ。

 逃げ出すために急いで着替えて会社に向かった。




編集後記

 本来なら先々週に投稿する予定でしたが、秀丸ツールでルート分岐やら整合性が無いかやらの確認作業。調子が優れない等で申し訳ございません。

 ランクに載る作品を考えていると、基本的に根っこの部分が真面目でありながら、世界観のお遊びというか、おふざけが出来ていると分析します。

 この部分を考えると、例えばY NAKAJIMA氏の作品は、トーマスの世界観と自身の世界観をミックスさせた上で、おふざけをしているのだろうと分析します。氏は、根っこの部分は凄く真面目であろうことが、動画内で言っている内容で推察できます(コラボ動画の話等)。だから面白いんですよ。

 そう考えるなら、アドベンチャーならアドベンチャーの世界観を題材で扱うのも良いですが、自身の世界観を構築しておふざけしないなら、アドベンチャー単体で見れば完結するんですよね。つまり作品としての整合性がないですし、なぞれば良いだけなので、下手したらつまらない作品になってしまうわけです。

 なので本当に大事なのは、真面目にふざけて、自分の世界観を構築してしまう事なのかなと、思っています(文章力は後からついてきますしね)。

 そんな訳で、今週は、もう一本出来たらやる予定です。出来ない場合来週となりますが、来週から忙しくなるかも知れないので、出来る範囲で書いていきます。
 それでは、良ければ高評価、お気に入り登録等をぜひ宜しくお願いいたします。
 次回をお楽しみ~(笑)


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第二話からのAエンド
Aエンド とあるトチ狂った男性、デジタマでキャンプファイヤーをする。


 デジタマに、ヒビが入り生まれようとしている瞬間に、俺の中の何かが壊れた。

 急いでデジタマを抱きかかえると、コンロに火をつけた上にデジタマを乗っける。

 

「俺はやったぞ! 本当にやってやったんだ!」

 

 デジタマの中のナニカが、悲鳴を上げると同時に暴れ始めるが、心地よいサウンドに心が躍るリズムが刻まれるだけだった。良い気味だと思いながら叫んだ。

 

「こんなもの現実の世界にあっちゃいけないんだ! 朝起きたらデジタマがあって、おしゃべり育成機械にテイマーネームとか、馬鹿にしてんじゃねぇ! 社会人をなめんなよ。現実世界を、なめんじゃねぇ!」

 

 全人類が望んだ絶叫をした俺の声を聞いたのか、おしゃべり育成機械が騒ぎ始めた。

 

『貴方は、何をしているんですか!? あ、ああ……大事なデジタマを』

「俺は、こんな子供じみた事に付き合ってられないんだよ。非現実は、おととい来やがれ! お前なんかこうしてやるよ」

 

 おしゃべり育成機械を強く握りしめると、メリメリという鈍い音が響き渡る。

 

『な、何をする気ですか!? こんな事をしてタダで済むと思っているんですか!』

「うるせぇ! 思っているよ! 思っていなかったらこんな事しねぇよ!」

『残念です。あなたなら良いテイマーになれると思っていたのに……』

「あぁ!?」

 

 その言葉を聞いた俺の中で、理不尽さや非現実を押し付けられた事による、怒りと憎しみと悲しみが爆発した。

 押し入れの中にあった金属バットを取り出して、おしゃべり育成機械を地面に叩きつける。

 そして、金属バットで滅多打ちにする。何度も、何度も、何度も、何度も……。

 非現実の存在共は、ガーガーピーピー言っていたが最後には事切れた。

 俺は安心したのか、その場でへたり込んでしまう。昔より体力が衰えていた事に、少しだけ傷ついた。

 

「ハァ……ハァ……これで、俺は、平和に過ごせる」

 

 しばらくして、洗面台へ向かい顔を洗い始めた。顔をぬぐう為にタオルを手に取ると、柔軟剤の香りを鼻一杯に吸い上げ、一気にぬぐった。

 鏡に写った今の俺の顔は、穏やかな表情で安心していた。そして次の日には、あの非現実はごみに捨てやった。

 

「10日後が楽しみだなぁ……。そうだプレゼントを用意しよう」

 

 非現実を叩き壊せたお祝いと中村へのお詫びも込めて、あるサプライズを用意することにした。今の俺の心は、10日後のスイーツバイキングでどうやって食べようか頭が一杯だった——。

 サプライズの前日を迎え、いろいろなお店を回り準備を進めた。キャンプ用品店では、キャンプが好きな中村の為に、高級なサバイバルナイフを用意してあげた。

 

「フフフ……どんな顔をしてくれるかなぁ?」

 

 俺の顔は自然と笑みがこぼれるのが分かった。ふと目をやって、前の方から中村が走ってきた。

 

「ハァ……ハァ……先輩、遅くなって申し訳ないです」

「あ、気にしていないから。それより行こうか」

 

 約束のフルーツパーラーの店に向かう。中は、おしゃれな空間と甘ったるい香りが鼻腔をくすぐった。

 ウェイトレスに案内され席に着く。俺はホットコーヒーを頼み、中村はアイスティーを頼んだ。

 

「今日は先輩のおごりですから、たくさん食べちゃいます。先輩覚悟しておいてくださいね!」

 

 そう言って中村は席を立つと、色とりどりのケーキを皿一杯に乗っけて戻ってきた。おいおいと思ったが、現実であることが嬉しい。

 俺は心地が良かった。現実にいる彼女を眺められるだけで、本当にうれしかった。今日、俺はプレゼントを渡して告白するつもりだ。

 

「加減しろよ。太るぞ」

「職業柄なのかもしれないですけど、これだけ食べても太らないんですよね。なんででしょうね先輩!?」

「そんなの分かる訳ないだろ」

「ですよね。そうだこの後、散歩しませんか? いろいろ話したいことがあるので」

「良いけど」

「じゃあ決まりましたね。食べたらすぐに行きましょう」

 

 ああ楽しみだ。ああ楽しみだ。俺は、胸の高鳴りを何とか抑えようと必死だった。

 中村がケーキを食べ終わり、俺と中村は席を立って会計を済ませると、近くの公園に向かった。

 中村と歩きながら、たわいのない話をしている最中、俺は勝負に出た。

 

「あのさ、プレゼントがあるんだ。ちょっとしたお詫びの印にさ」

 

 俺の方を中村が向くと嬉しそうな顔をしていた。

 

「本当ですか!? ありがとうございます。うーん何かなぁ?」

 

 警戒していない彼女に俺は徐々に近づいて、目の前に着くと同時に俺は彼女の後ろに回り込んだ。

 そして、サバイバルナイフを彼女の首元に当てると同時に口をふさいだ。

 

「ふぐぅ……ふーふー」

「騒ぐな、これから楽しい事をするんだよぉ! 大人しくしろ!」

 

 彼女の目から涙が流れ落ちるが、俺は止まらなかった。人気のない場所に連れ込むと、俺は現実を噛み締めた。ああ、赤い実弾けちゃった……。

 

 

『次のニュースです。東京都新宿区で起きていた連続強姦殺人事件で、警察は、大門製薬株式会社に勤務する30歳男性を今日、書類送検しました。調べに対し男は、非現実が襲い掛かってきたために鬱憤(うっぷん)を晴らしたかったと容疑を認めており、警察では余罪があるとみて調べています。次のニュースは、新型のコンピューターウィルスが世界各国で猛威を振るっており、対応に追われています——』




編集後記

いかがでしたか? Aエンド『とある男性、赤い実弾けちゃったです』強姦殺人鬼に目覚めてしまうエンドです。

 実際に『赤い実はじけた」という作品があるのですが、これが小学校の教科書に載っている作品なんです。デジモンのアニメ主人公は、平均して小学生辺りですので、主人公のとある男性が、弾けちゃって目覚める(完熟した)感じと畳み込んで、掛けてみました。

これは序の口ですが、主人公が本当に幸せになる日は来ますのでご安心ください。

 Aエンドは他に2パターンあったんですが、胸糞が悪いものを選ばせていただきました。ご了承ください。
 他はアポカリプス到来エンドや、強いぞ中村さんエンドもあったんですがやめました。続きはあの2話からです。どうぞよろしくお願いいたします。


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