花と黄金の旅路 (よっしゅん)
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花と黄金の出逢い

単なるセイバー・リリィ祈願小説です。
書けば出ると聞いたもので、勢いだけで執筆してます。
作者の頭では型月世界を理解するのは大変困難なので、何かしらミスしてたら温かい目で見てくださると嬉しいです。


 

 

 

 

 初めてだ。

 自身の身体が、筋肉が引き締まるような感覚。

 それに一秒毎に徐々に音を強くしていく心臓の鼓動。

 それらを強く実感できたのは、初めてだった。

 要するに私は今、緊張しているのだろう。

 呼吸をする度、血が身体中を暴れ回るかのように巡り、頭が破裂するのではないかと思うくらい痛む。

 これまでの人生の中で、これ程緊張した事は無いと言い切れる。

 

「———っ」

 

 喉が張り付くような感覚。

 気が付けばカラカラに乾いていた口と喉を潤すかのように唾液を飲み込んでいた。

 きっとそれはゴクリと、音にでるくらい分かりやすいものだっただろう。

 

 何故、そこまで極度の緊張状態に置かれているのか。

 その原因も明確だった。

 それは、私の目と鼻の先にある『剣』が原因だ。

 剣は石の台座を鞘のようにして刺さっている。

 柄の部分と、刃を少しだけ覗かせているだけで全体像は分からないが、誰もが芸術品のように美しいと言い切れる程の代物だろう。

 全体的に施された金の細工は夕陽を浴びて妖しく光っている。

 さらには言葉では上手く表現できない何か、力を感じさせるこの剣が、私を緊張させている原因なのだ。

 

 この剣の名は『カリバーン』。

 この剣を手にしたものは王の資格があると証明できる、選定の剣だ。

 そしてその剣を、私は今己の手にしようとしている。

 既に何人もの人間が、新たな王になろうとこの剣を引き抜こうとした。

 だが誰一人として剣を抜くことが出来ず、数刻前までは人集りがあったこの広場も、今は私と、一人の魔術師しか居ない。

 

 魔術師が私に声を掛ける。

 その剣を抜いたら、君は普通では居られなくなる……そんな声が。

 その声は私の身を案じているのと同時に、私にこの剣が引き抜ける事を既に知っているかのような、覚悟の有無を問い掛けている気がした。

 私はその声に答えるかのように、願いながら剣の柄に触れた。

 

 人々の幸せを。

 国の平穏を。

 全てに希望を。

 私はそれらを叶えるために王になる。

 ならなければならないのだ。

 

 ———いつの間にか緊張は消えていた。

 柄を握る手には力が入り、大地を踏み締める足も力強かった。

 最後に一度、深呼吸をした。

 そしてゆっくりと、剣を引き抜いた。

 思っていたよりも、あっさりと、まるで私の手のひらに吸い付いたかのように、引き抜かれた剣は私の手のひらに収まっていた。

 

「これが———カリバーン」

 

 思わず口にでた。

 そして剣の名を呼んだ瞬間、カリバーンは美しい金色に発光し始めた。

 その光景はまさに幻想的で、優しい光だと感じた。

 感動のあまり私は、剣を握る手に力が入った———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『問おう、君が俺の———マスターか? ……あ、出来ればもう少し優しく握ってくれませんか?』

 

「———はぇ?」

 

 これが、後に『アーサー王』と呼ばれる少女と、唯一無二の相棒であるカリバーンとの出逢い(Fate)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら剣になっていた。

 何を言ってるか分からないと思うが、言葉通りだ。

 

 自分が何者か分からない。

 ただ、何故『剣になっていた』という風に思えるのか、それだけははっきりしていた。

 微かに残った記憶が正しければ、自分は人間だった筈だ。

 だから、人間の身体ではないことに違和感を感じている。

 しかし名前も、性別も、体型も、身長も、人生も、生き様も、その在り方すら覚えていない。

 人間だったという証明が出来るものを、自分は全て失っていた。

 只々、自分の身体に違和感を感じる事しかできなかった。

 

 滑稽だ。

 唯一残った人間だったという記憶も、偽物かもしれないというのに。

 自分はそれにすがって、何とかして人間に戻りたいなどと考えている。

 

 不思議な事に、剣には人間のように眼球も脳もないと言うのに、今自分がいる場所の景色がはっきりと分かる。

 綺麗な草原だった。

 それに、感覚もあるのか、石の台座らしき場所に自分の刃が収まっている事に気が付いた。

 何とかして、自力で動けないものかと試行錯誤するが、無駄に終わった。

 所詮は剣だ、担い手がいなければ何もできないし、何の役にも立てない。

 

 

 

 

 ———どれくらい時間が経っただろうか。

 余りにも暇を持て余していた為、改めて自分という存在に対して深く考えを巡らせていた。

 その甲斐あってか、自分の『役割』を認識する事ができた。

 成る程、『王』の証となる剣か。

 差し詰め『選定の剣』といったところだろう。

 どうやら自分は、王となる人物にしか手にする事ができない剣らしい。

 

『あぁ、道理で———』

 

 さっきから、自身の柄を握っては力を込め、やがて諦めたように手を離す。

 そんな感触がするわけだ。

 閉じていた視界を開けば、綺麗な草原には、いつの間にか人集りが出来ていた。

 王になるべく自分という剣を手に入れにきた者、それを見にきた者達だろう。

 

『誰でも良い、早くしてくれ』

 

 もしこの場に自分を咎める者が居たとしたら、王を選ぶ剣にあるまじき発言だと怒るだろう。

 しかし、己の意思は自由を求めている。

 誰でも良いから、自分をこの台座から引き抜いて欲しいだけなのだ。

 でないと、暇過ぎて気が狂ってしまいそうだ。

 悲しい事に、選定する対象を自分で選ぶ事はできないようだ。

 もしそれができていたのなら、既に自分という剣は誰かの手に収まっている頃だろう。

 

 しかし可笑しな話だ。

 担い手を自分で選べないのなら、自分という意識は何の為に存在しているのだろうか。

 今のところ自分の嘆きの声を耳にした人間は居ない様子だったし、他者との意思疎通も出来ないとなると、自分は何ができるのだろうか。

 もしかして、自分は人間だった頃に大罪を犯し、その罰でも受けさせられているのかもしれない。

 そんな考えすら、思考の隅をよぎった。

 

『———いや、そう決め付けるのはまだ早いか。俺の意識も声も、担い手に……王に相応しい者にしか伝わらないのかもしれない』

 

 今に思うと、苦し紛れの希望にすがっていたのだろう。

 だが、そう思い込むだけで少しだけ楽になれた。

 だから、いつかくるであろう、その相応しい人物に対して、自分は何ができるか考えた。

 

『ご主人様? いや何か違うな。無難に王と呼ぶか———もしくはマスター……とか?』

 

 呼び方を考えてみた。

 

『最初は何と声を掛けたら良いだろうか。どうせなら、威厳があるカッコ良いのがいいな』

 

 話し方を考えてみた。

 

『やはり王を選ぶ剣として、導いていった方がいいか……それとも、ただ居るだけの存在の方が都合が良いか?』

 

 在り方を考えてみた。

 

 兎に角、色々なことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———そして気が付いた。

 もう、自分の周りには誰も居ないことに。

 あれだけの人間が居ながら、誰一人自分を手にできなかった事に対しての悲しみではなく、こんなにもあっさりと人間は諦めてしまうという事実の方が哀しかった。

 

 ———あぁ、寂しい。

 孤独とはこんなにも虚しいものなのか。

 もし流せるのなら、涙がきっとでてしまっていたであろう。

 それくらい悲しかった。

 

 

 

 

 そんな時、寂しい草原に人影が現れた。

 その人影は力強い歩みで、石の台座に近づいてくる。

 

 その人影は、『少女』だった。

 服装がやや男寄りのもので、その顔は見ようによっては中性的だったため、断言はできない。

 だが、自分はその人影が少女だと何故か気がつけた。

 

『——————』

 

 夕焼けに照らされて美しく光を反射するその金の髪。

 まだ幼さを感じさせるものの、その瞳は凛々しさを感じさせる。

 何というべきか。

 剣が言うのも可笑しいかもしれないが、間違いなく自分はその少女に見惚れていた。

 

 少女はやがて、自分に触れた。

 少女の体温が、手のひらから伝わってくる。

 とても、暖かい。

 

『嗚呼……そうか、この少女が俺の———』

 

 ———哀しさはいつの間にか消えていた。

 そして、自分は少女の手によって初めて、その身を全てさらけ出した。

 感動のあまり、思わず輝いてしまいそうだ。

 

「これが———カリバーン」

 

 少女が剣の名を呼ぶ。

 名を呼ばれたからには、応えなくてはならない。

 だから自分は、一生懸命に考えた言葉を、少女に手向けた。

 

『問おう、君が俺の———マスターか? ……あ、出来ればもう少し優しく握ってくれませんか?』

 

「———はぇ?」

 

 これが、『カリバーン』と呼ばれる剣と、後に『アーサー王』と呼ばれる少女との出逢い(Fate)だった。

 

 

 

 

 




リリィちゃんの排出確率ってあの都市伝説最弱英霊と同じくらいってデジマ?(絶望
素材も種火も聖杯もリリィちゃん用にちゃんと用意してあるから、お願い来て(切実


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黄金と義兄の戦い

「僕は毎日無料10連ガチャだけで、リリィを引きたかった」

「なんだよ、それ。引きたかったて、諦めたのかよ?」

「うん。残念ながらね。無料10連は1日限定で、あとは限りあるフレポを使うしかないんだ」

「なんだ。それならしょうがないな」

「うん。本当に、しょうがない……」

「うん、しょうがないから俺が代わりに引いてやるよ。爺さんはフレンド少ないからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は俺が、ちゃんと形にしてやっから」

「そうか……あぁ———安心した」



 

 

 

 アルトリアは困惑した。

 選定の剣を手にした瞬間、見知らぬ声が自らの頭に響いたのだ。

 背後にいた魔術師の仕業だろうかと、背後に振り返ったが、そこに魔術師の姿はもうなかった。

 

『———もしもし、俺の声、ちゃんと聴こえてる?』

 

「え、あの、その……き、聴こえてます」

 

『———そうか、そうかそうか。良かった、本当に良かった……先ずはありがとうとでも言っておくべきか、俺を引き抜いてくれて心から感謝する』

 

「えっと……あなたは一体?」

 

 何となく、予想はできた。

 だが真相を知るために、アルトリアはあえてそう声の主に訊ねてみた。

 

『もちろん、君が手にしてる剣だ。まぁ、正直俺も自分が何者かと問われると、答え難いんだが……あれだ、剣に宿る精霊だとかそんな所だ、多分』

 

「は、はぁ……」

 

 予想は確信に変わった。

 だが何故肝心の本人が曖昧な答えなのか少し疑問だが……

 

『あー……驚かせたか? 剣が喋るだなんて、滅多に無いからな……ないよね?』

 

「え、えぇ。確かに滅多には無いですね……こほん、確かに驚きましたが、別に気分を害しているわけではないので、御安心を」

 

 アルトリアは徐々に落ち着きを取り戻した。

 よくよく考えれば、何の不思議もないことだ。

 古来より、人ならざる物に意思が宿る事もあるというのは、アルトリアの知識にも存在した。

 つまり王を選ぶ剣、そんな価値ある剣に人格の一つや二つ宿っていても何もおかしくは無い。

 

『それなら良かった。ではマスター、これからよろしく頼む。なに、王になるにあたって色々と不安を抱えているだろうが、大丈夫だ。実は俺も王の剣に相応しい剣になれるのか不安だからな。だから、マスターは良き王として、俺はそんな王に相応しい剣になれるよう、これから共に頑張っていこう』

 

「———はい! 頑張りましょう!」

 

 アルトリアはこの時、安堵した。

 否、『嬉しかった』。

 確かに王になる事で、この国が、人々が幸福でいられるなら、アルトリアはどんな苦難も乗り越えてみせると、覚悟を決めた。

 しかし、彼女はまだ幼い。

 いくら男として育てられようとも、王としての資格があろうと、彼女は少女だ。

 当然、そこに不安や恐れが無い筈がなかった。

 いくら選定の剣を抜いたからといって、最高最善の王になれる保証はない。

 そもそも少女の身で王になろうとするのは、とてつもない困難が付き纏うだろう。

 だからプレッシャーにも似た感覚をアルトリアは心の内に感じていた。

 

 だが、今は違う。

 カリバーンという、仲間ができた。

 彼は『共に頑張ろう』と言ってくれた。

 たったそれだけで、アルトリアの不安は少し、薄れていったのだ。

 

「そういえば、あなたの事は何と呼べば?」

 

『別に何でも良いさ。カリバーンでも、我が剣とかでも。そういうマスターは? マスターで良いの? というか名前、教えてくれない?』

 

「そうでした、自己紹介がまだでしたね。私の名は———」

 

 ———そうして、アルトリアとカリバーンは時間も忘れ、共に語り明かした。

 今に思えば、お互い殆ど初対面に近いというのに、まるで『友』のように感じていたのは不思議だった。

 俗に言う、相性というのが良かったのだろうか。

 それとも———

 

 

 

 

『へぇ、お兄さんがいるのか』

 

「はい、義理のですが———とても良い人です。私には勿体ないと思う程に」

 

『なら尚更大事にしないとな。義理とはいえ家族の絆ってやつは必要だろう。だから王になった暁には、側近の一人にでもしちまえ』

 

「それは———確かにケイ兄さんが側に居てくれたら私も嬉しいです。しかし大事なのは本人の意思であって……あ」

 

『どうした?』

 

「い、今何時ですか? いけない、門限が……またケイ兄さんに頭をチョップされてしまいます!」

 

 アルトリアはカリバーン片手に走り出した。

 

『ウボォ! ち、ちょっと待って! 揺れる! めっちゃ揺れてるあばばばば!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺には義弟———正確には義妹が一人いる。

 あいつは将来確実に、とびきりの美人になる。

 だから、その辺の器量がまぁまぁ良い男と結婚でもして、自分のガキに囲まれて適当に幸せな人生を送れば良かったのだ。

 だというのにあいつは、意地汚い連中の思惑通り王になろうとした。

 否、選定の剣という王の証を引き抜いて、それを大事そうに抱えながら笑顔で帰ってきやがった。

 あれだけ警告もした、お前には関係のない事だとあえて冷たく突き放し、選定の剣から遠ざけようとした。

 だというのに———あいつは、アルトリアは……

 

 王になる……それがどれだけ辛いことか、苦悩に満ちた道を進むしかないというのに、あの馬鹿はそれを承知で剣を手にした。

 本当に、救いようのない大馬鹿ものだ。

 

『ケイ兄さん、私は立派な王になってみせます』

 

 家に帰ってきたあいつの、開口一番のその台詞が頭から離れない。

 そして取り敢えず、門限を過ぎていた為、脳天に軽い一撃を加えておいた。

 

「———なんて幸せそうな顔してやがる」

 

 珍しくいつもより早く寝床に入った義妹の寝顔を見ながら、小さく呟いた。

 さっきまでブツブツと独り言を言っていたみたいだが、今では微かな寝息しか聞こえない。

 

 嗚呼、気に喰わない。

 義妹の滅多に見せない幸せそうなその表情が。

 選定の剣を手にした義妹を見た親父(エクター)の態度がますます王に接するソレに近付いているのが。

 ———何もできなかった自分が。

 とにかく、何もかもが気に喰わなかった。

 

「———これさえなければ……」

 

 そしてケイの視界に入ったのは、鞘がない為抜き身で安置されている選定の剣だ。

 この忌々しい剣さえ無ければ、こいつは王になんてならないのではないか。

 浅はかにもそう思ってしまった。

 

 明日にでもなれば、選定の剣が抜かれたという事実は国中に知れ渡るだろう。

 ついに新たな王が誕生したのだと、どいつもこいつも浮かれる。

 だが、選定の剣が抜かれたからと言って、急に明日から玉座に新たな王が座るわけではない。

 まだ政治の『せ』の字もロクに知らない義妹が明日から王になるなんて、到底無理な話だ。

 何が言いたいかというと、アルトリアが王として本当に君臨するにはまだ時間が掛かるというわけだ。

 近い未来、王になると『確約』されただけ。

 最低でも数年は、王になる為の修行やその他諸々をしなくてはならない。

 

 ———もし、その数年の間に王の証が存在しなくなったら?

 この剣をバラバラに砕いて、川にでも流しちまえば、まだ義妹は———

 

 気が付けば選定の剣を手にしていた。

 想像していたよりも軽かった。

 そして———

 

『……ん? 何かやけにゴツゴツした手の感触。マスターの手じゃないな———何者だ!』

 

「…………は?」

 

 変な声がした。

 男のような声といえばそうだし、女の声といえばそうとも捉えられるよく分からない声。

 これが幻聴というやつだろうか。

 ケイは初めての経験に戸惑った。

 

『———何だ、マスターのお兄さんか。ていうか冷た、手が冷たい。低体温なのかなこの人……というかこんな夜中に少女の部屋に居る義兄とは一体———』

 

 声の正体を探ろうと辺りを見回すが、それらしき存在は見当たらない。

 魔術の類か?

 とりあえず無防備な義妹を守るため、手にしてた剣を構えて警戒を始めた。

 

「———何者だ、姿を見せろ」

 

『え、なに、何か居るの? ていうか俺を使わないで。初めて(戦闘的な意味で)はマスターに捧げるって誓ってるから』

 

「さっきからよくわからん事を……!」

 

 このままでは埒があかない。

 兎に角叩き起こしてでもアルトリアをこの場から———

 

『———いや待てよ。もしかして、俺の声……聴こえてる?』

 

「あぁ、うざったいほどにな」

 

『…………はて、お兄さんも王の資格があるとか? もしくはマスターの手に渡った事で、何かしらの変化が起きて、周りにも聴こえるように———』

 

「ブツブツと喋るな、良いから何者か明かせ。目的もな」

 

『———何者かと聞かれれば、今あんたが手にしているのが俺だよ』

 

「———なに?」

 

 そんなバカな話があるか。

 ケイが手にしているもの、それは選定の剣だけだ。

 声の言っている事を認めるということは、剣が言葉を発したという事を事実として受け止めるということになる。

 

『別に信じる信じないは勝手にしろ。だが、一つ言わせてくれ』

 

「なんだ」

 

『取り敢えずさ、場所移さない? このまま騒いでたらほら、起こしちゃうかもだし』

 

「…………」

 

 それには同意見だったため、静かに義妹の部屋を出た。

 

 

 

 

「それで、何者だお前は」

 

『だからさっき言った通り、剣だよ。名前はカリバーン。あ、挨拶が遅れました。初めましてお兄さん。今日から妹さんの剣になりました』

 

「———」

 

 頭痛がする。

 癪だが、この剣に人格が宿っているのは認めるしかないようだ。

 差し詰め、剣の力を抑えるためのリミッター。

 擬似人格といったところだろう。

 親父からその手の話を聞いた事があるが、まさかこんなにも愉快にペラペラ喋るようなモノとは思わなかった。

 

『それでお兄さん』

 

「お兄さん呼ぶな、なんだ」

 

『俺に何か用でもあったのか?』

 

「あぁ、お前をへし折って川に捨てようかと思ってな」

 

『怖! 正直なのは良いことだけど、もう少し隠そうとは思わないの!?』

 

 別に隠し立てるような事ではない。

 俺は本気で、あいつを王にはしたくないだけだ。

 

『……ケイ、あんたはマスターが王になるのは反対なのか?』

 

「当たり前だ。あの馬鹿はたとえ王になれたとして、少しでも嫌な事があったとしたら、最後の最後に必ず後悔するような奴だ。しかも『自分が悪かったのではないか』とか最悪の勘違いをしてな。だったら最初から王になんてならずに、そこらで適当に暮らしてた方が幸せだろうよ」

 

『成る程、それで俺を亡き者にして、マスターが王になるのを阻止しようとしたのか』

 

「怒ったか?」

 

『いや全然、口が悪いだけで妹想いの良いお兄さんだと思っただけだ』

 

 その言葉に、妙な違和感を感じた。

 王を選び導く選定の剣。

 それに宿っている人格が、主人を王にさせまいという邪魔者に対して、怒りを感じないだと?

 

「本当に怒らないのか? 俺はアルトリアを王にしたくないと言ったんだぞ」

 

『何故それで俺が怒るとでも? 別に俺はマスターが王になろうが、そうでなかろうが正直『どうでも良い』。重要なのは、マスターの剣として役立つ事だ。例え一般人として過ごそうとも、最悪護身用の剣として腰にぶら下げてくれるだけでも俺には充分だ』

 

 ケイは驚愕した。

 こいつは、選定の剣でありながら、本来の役目なんて知らんと、自身の願望を最優先している。

 何故こんな奴が選定の剣に宿っている?

 こいつは『違うのか』?

 

『……まぁあれだ、俺はマスターの意思を尊重するだけだ。マスターが王になりたいっていうなら応援するし、王になりたくないと言ってもそれを応援する。言い方は悪いが、俺は流れに任せるだけってことだな』

 

「……案外いい加減なやつだな、お前」

 

 ふと、変な事を考えた。

 アルトリアには年相応の『友』というものはいない。

 今は平気でも、将来それが原因であいつは『孤立』しちまうんじゃかいかと常日頃思っていた。

 だが、このいい加減な剣が、あいつにとって最初の『友』となり得るんじゃないかと。

 突拍子もなく、根拠もないのにそう思ってしまった。

 

『そうだ、もう一つお兄さんに———』

 

「それは止めろと言ったはずだ」

 

『———ケイに聞きたい事があってさ、マスターって、いつもあんな格好してるの?』

 

「あ? それはどういう意味だ」

 

『いやさ、どうせならもっと着飾った方が良いっていうかさ。何か勿体ない気がして……マスターには白いドレスとかが似合いそうじゃないかなって』

 

「あいつは今まで男として育てられた。そんな格好あいつがするわけないだろ———だがそうだな、確かに素体は良いからな。きっとドレスなんて着たら似合うだろうさ。ただ、あいつに似合う色は、白より青だな」

 

『む、確かに青も捨てがたい……いや、だが俺は白を推す! あの輝くように美しい金髪には白が似合う!』

 

「やはり剣如きには人間の美的感覚は理解しきれないようだな。外見に合わせるだけじゃまだ三流だ。内面も考慮してこそ一流、つまりあいつには青が一番似合う」

 

『…………どうやら俺たち、分かり合えないみたいだな』

 

「あぁ、元より分かり合おうなんぞ、微塵も思っていないがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———兄さん! ケイ兄さん! 私のカリバーンを知りませんか!? 起きたら部屋から消え……て?」

 

 アルトリアが消えたカリバーンの行方を探すため、家の外にいるであろう義兄に助力を求めようとして、彼女は奇妙な光景を見た。

 

『そこは……そう。そのまま真っ直ぐ———おい、ちゃんと指示通りに描け! スカートの丈を勝手に長くするな!』

 

「チッ、いくら何でもこれじゃあ短過ぎるだろ———まぁ良い、これで良いか?」

 

 自慢の義兄が、カリバーンをまるで棒きれのように扱いながら、ガリガリと地面を削って何かを描いていた。

 

『———よし、完成だ。どうだケイ、俺の考えたデザインは。お前のより、良い出来だとは思わんか?』

 

「悪くはない———が、爪が甘いな。これじゃあ実用性が低過ぎる。その点俺の描いた奴を見ろ。実用性も完璧だ」

 

 どうやら地面に、服や鎧の絵を描いているようだ。

 よく見ると辺りには似たような絵がビッシリと地面に彫られていた。

 

「な、なななな何をしているのですか!?」

 

 アルトリアは走り出し、ケイからカリバーンをひったくるように奪い返した。

 

「い、いくらケイ兄さんといえど、これは許せませんよ! カリバーンをそんな粗末に扱うなんて……!」

 

「お前か。いや、ちゃんと本人から許可は貰ってるぞ?」

 

『おはようマスター。大丈夫、俺の刀身はちょっとやそっとじゃ傷つかないから、多分。それよりマスターはどれが好みだ? 勿論俺の考えたやつだよな?』

 

「さぁ選べ、それでこのナマクラも真実を痛感するだろうさ」

 

 アルトリアは察した。

 もしかしてここに描かれているものは全て、二人が自分用にデザインしたものなのだろうかと。

 

「……強いて言うなら、これですかね」

 

 アルトリアが選ばなければこの不毛な争いは収まらない。

 そう感じ取った彼女は、地面のある部分に指を刺した。

 

『…………これ俺が考えたやつじゃないな』

 

「…………俺のでもないな。というかこんなの描いた覚えがないぞ」

 

『何か端っこに小さく『花の魔術師作』ってあるけど……え、なに、怖いんですけど』

 

 

 

 

 




さっきまでフレポだったものが辺り一面に転がる


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黄金と花の魔術師と鞘

「俺には、セイバー・リリィ以上にほしいものなんてない」


 

 

 

 

 選定の剣であるカリバーンは、一言で言うなら『黄金』だ。

 それ故に、剣は重たく、扱い難いのではないかとアルトリアは最初思っていた。

 しかし、実際カリバーンで素振りをした事でそれは杞憂だったと分かった。

 

「———というより、ちょっと軽すぎて怖いのですが……正直に言ってしまうと、模擬専用の木剣と大差ないのではと思うほど……」

 

『そう言われてもなぁ。もしかして俺の中身って、伽藍堂だったりして』

 

 義兄とカリバーン曰く、選定の剣はあくまで式典用に近い剣だからかもしれないと言われた。

 儀式用ともいえる。

 何が言いたいかというと、実戦向きの武器ではないということだ。

 それに厄介な事に、カリバーンの人格には基本的な感覚があるせいか、剣を振るえば本人曰く『酔う』らしい。

 人間で例えるなら、足を掴まれた状態でグルグルと回転させられているような、そんな感覚らしい。

 

 では何故カリバーンで素振りをしているのか。

 別に私が彼を虐めているわけではない。

 カリバーンが私の剣として、御飾りではなく戦闘にも役に立てるよう特訓をしたいと彼に頼まれたからだ。

 最初は無理するのは良くないと消極的だったが、彼の真剣な願いに押し負けたのだ。

 ———それに、正直な話できるのなら私もカリバーンと共にいつか戦場を駆けてみたいのだ。

 

『———よしよし、だいぶ慣れてきた。もうちょっと強めに振っても平気だぞ』

 

「そうですか? でしたらそろそろ、カカシ人形を相手にしてみますか? あ、それとも一度刃を研いだ方が良いのでしょうか」

 

 選定の剣の刀身は抜いた日から綺麗なままだ。

 しかし手入れの類を一度もしていないのもまた事実。

 

『お、マスターが研いでくれるのかい?』

 

「えぇ、一通りの作業なら一応。ですが、ケイ兄さんや養父のように上手にはできませんので、あまり期待はしないで下さい……それと、私の事は名前で呼んでも構いませんよ、カリバーン」

 

『そう? じゃあこれからは遠慮なくそう呼ばせてもらうよ』

 

 何だかカリバーンとの距離が少し近づいたようで、アルトリアは嬉しかった。

 そしてさらに親睦を深めようと、誠心誠意カリバーンの手入れをしようとし、そこで一つ気付いた事があった。

 

「……そういえばカリバーン。あなたの『鞘』は無いのでしょうか?」

 

『ん、鞘? ……あー言われてみればなぁ。抜き身で石にブッ刺さってたから、あの台座が鞘だったんじゃない?』

 

「それは……持ち運ぶのは無理ですね。では折角なのであなたに似合う新しい鞘を用意しましょうか」

 

『そうだな、剥き出しっていうのも危ないし、一つ宜しく頼むよ。アルトリア』

 

「はい、お任せください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言ったものの、アルトリア自身に剣の鞘を自作するような鍛治の技術はない。

 もちろん、養父も義兄にもない———まぁ革を加工した簡易的な鞘なら用意できるだろうが、なんというか、それでは格好がつかない。

 かといって、家にある剣から鞘だけを拝借するのは駄目だろう。

 となると、手段は一つしかない。

 

「———というわけで、ケイ兄さん。カリバーンの鞘を作っていただくよう村の鍛治師の方に依頼をしたいので、(エト)を借ります」

 

「待て、このあほたれ」

 

 アルトリアが走り出そうとした瞬間、小さな彼女の頭部をケイが鷲掴みしてそれを阻止した。

 

「な、なにをするのですか?」

 

「何も分かってないようだから教えてやる。あのナマクラを持って村になんか行ってみろ。選定の剣だと騒がれるのが目に見える。それとお前は知らないだろうからこれも教えとくが、選定の剣をよく思わない連中もいるんだ。『何故たかが剣一本を抜いただけで王を決めるのだ』ってな———もっとも、わざわざ余計な混乱を招きたいのなら止めはしないが」

 

 アルトリアは義兄の言葉を聞き、確かにそうだと納得した。

 

「ですが……その———」

 

 アルトリアは視線を横にずらす。

 ケイはその視線の先を追う。

 

『いやー楽しみだなぁ。どんな鞘を用意してくれるのだろうか……できればこう、カッコよくて派手なやつが良いなぁ。まぁマスターが用意した奴なら何でも嬉しいけど』

 

 そこには樫の木で作られたテーブルに置かれたカリバーン。

 独り言なのか、あえてこちらに声が聞こえるように喋っているのか分からないが、兎も角そんな感じの台詞をさっきから何度も繰り返している。

 正直いうと煩い。

 

「今更、やっぱり鞘は用意できないと告げるのは……少々心が痛むといいますか」

 

「たかが剣だ。仲良くするのは構わんが、人間のように扱うのはよせ。でないと、もしあいつがお前から……いや、今言うべき事じゃねぇな———はぁ、仕方ねぇな。馬の用意をしておけ」

 

「ケイ兄さん……!」

 

「ただし、あいつは連れてくな。今日は見積もりと、口止めが目的だ。それらが確約されたと俺が判断したら、連れてく。いいな?」

 

「はい! ———というわけなのでカリバーン、留守番をお願いします」

 

『ん? あぁ、行ってらっしゃい。なに、のんびり待ってるさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———まだ独りというのには慣れてない。

 アルトリアの剣となったあの日以来、こうして彼女の手元から明確に離れたのは初めてだ。

 今この家には自分以外誰もいない。

 アルトリアもケイも、二人の両親も出払ってしまった。

 正真正銘、ひとりぼっち。

 哀しくはない。

 あぁ、かなしくはないさ。

 マスター達が自分のための鞘を用意してくれる、その未来図を想像するだけで楽しさの方が増していた。

 

 ———けど、何だろうか。

 胸なんてないのに、胸の奥が少しだけ痛む。

 痛む、傷む、いたむ。

 なんて事はない。

 この程度のこと、いくらでも我慢できる。

 我慢できる、ガマンできる、がまんできる———

 

 

 

 

 あぁ、でもやっぱり。

 ほんの少しだけ、さびしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、泣いているのかい?」

 

『—————ッ!!!?』

 

 声がした。

 男がいた。

 いつの間にか、テーブルの上に置かれた自分を見下ろすように、男の顔がそこにあった。

 男はまるで我が家にいるかのように、ごく自然にテーブルの備え付けの椅子に座っていた。

 

「それにしても無用心だ。誰もいない家に聖剣を置きっぱなしだなんて……まだ彼女は王としての自覚というものが薄いのかな?」

 

『な、な、ななな、何者だ! 強盗か!? 泥棒か!? 胡散臭い顔しやがって! この家に価値あるものなんて俺ぐらいしかないぞ!』

 

 男はその笑みを崩さない。

 カリバーンはそれが妙に不気味に思えた。

 

「おっと、確かに自己紹介をしていなかった。これは失礼を……私の名は『マーリン』、花の魔術師とも呼ばれている者だ。名前くらいは君の主人から聞いた事があるのではないかな?」

 

『———マーリン? ……あんたがマーリン? 確かにマスターからあんたの話は少し聞いていたが———ふむ、想像してたのとかなり違うな』

 

「おや、よければ君の想像を聞かせてくれないかな?」

 

『マスターの剣の師でもあるんだろ? 何でも夢の中で毎日のように鍛錬してもらってるとか何とか———だから、エクターみたいに強面で年老いてそうなイメージだった』

 

「ははは、ご期待に添えず申し訳ない。お詫びと言っては何だが、今日は君に贈り物を届けにきたんだ」

 

 カリバーンは疑問を感じた。

 初対面の相手に贈り物……それも摩訶不思議な喋る剣にだ。

 この魔術師は一体何を考えているのか、さっぱり分からなかった。

 

 マーリンが指を鳴らす。

 するとカリバーンのすぐ真横に、細長い筒状の物体が突然現れた。

 そう、これは———鞘だ。

 カリバーンの柄に合わせた色合いをベースに、きめ細やかな装飾が施され、嵌め込まれた宝石の数々がその美しさをより一層輝かせる。

 

『———タイミングが良すぎるな。なに、盗み聞きでもしてたの?』

 

「お気に召さなかったかな?」

 

『いや、気に入ったよ。文句なし、これなら俺の鞘に相応しい———だが、気持ちだけ受け取っておくよ』

 

「要らないのかい? これ凄く便利なんだよ? 何と汚れようが刃こぼれしようがあら不思議、鞘に収めるだけで新品のように綺麗になる自動洗浄機能がついてたりするんだが」

 

『なにそれすごい! そんなのあるの!? …………あーでもやっぱ要らないわ。悪いな、俺の鞘は、マスターが———アルトリアが用意してくれるんだ。それ以上に最高の鞘なんてこの世には無いからな』

 

 凄く恥ずかしい台詞を吐いた気がするが、それはカリバーンの本心だった。

 

「———そうかい、ではこの鞘は一度私が預かっておこう。君の主人が王として玉座に座った時、改めて贈ろう。あまりこういう事は言いたくはないが、見栄えというものは大事だからね」

 

 マーリンはそう言って、鞘を手にして椅子から立ち上がった。

 

「そうだ、最後に一つ聞かせてくれないかい?」

 

『ん?』

 

「君は……自分の『役割』は理解出来ているのかな?」

 

『———あぁ、理解しているよ。覚悟もできてるさ』

 

「それなら良かった———それではまた、近いうちに会おう」

 

 魔術師マーリンはそう言って、玄関の戸を開けて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術師は思考する。

 正直言って、あの剣に宿る『存在』。

 明らかなイレギュラーだった。

 確かに、選定の剣に擬似人格を仕込んだのは魔術師だ。

 だが、あそこまで『個』があるように設定した覚えはない。

 ミスか、バグか。

 どちらにせよ、想定外なのは間違いない。

 

 

 

 

 

 だから、イレギュラーは極力排除するべきだろう。

 しかし魔術師にとって、最終的に結果が『良ければ』それで良いのだ。

 カリバーンは自身の役割をきちんと把握していた。

 覚悟もしているとも言った。

 それならば何も問題はない。

 

「———それに、こちらの方が面白そうだ」

 

 魔術師は笑う。

 心にもない笑いで、薄っぺらい笑顔を作る———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———どうですか? キツかったりしますか?」

 

『いや、ぴったりだ。ありがとうマスター、ちょっと華やかさが足りないが、満足だ』

 

「ふん、剣の分際で一丁前に文句か? 用意してもらっただけ有難いと思え」

 

『あぁ、本当にありがとう———大事にするよ。とはいっても、実際大事にできるかはマスターの腕次第だが』

 

「えぇ! お任せください! ちゃんと毎日お手入れをしますとも!」

 

 

 

 




セイバー・リリィの触媒とかってあるのかな

あ、次回からFGO時空に入ろうかなと考えてます。
時々過去編とかも交えながら。


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花と黄金の召喚

「……そう。結局、シロウはキリツグと同じ方法をとるんだ。いつ引けるかも知らないリリィの為に、一番大事な人(ログイン100日前のリアフレ)を切り捨てるのね」

「そうだ。俺と切嗣は同じだ。恨むのなら、イリヤは俺を恨んでいい。」

「かわいそうなシロウ。そんな泣きそうな顔のまま、これからずっと、自分を騙して生きていくのね」



 

 

 

 

 

 サーヴァント。

 それはあらゆる時代の英雄を、使い魔として魔術師が召喚する存在の事を指す。

 サーヴァントにはそれぞれ役割(クラス)が与えられ、使役する魔術師———つまりマスターに従う存在。

 アルトリアはそんなサーヴァントとして、人理焼却というかつてない人類の危機に、『人理継続保障機関フィニス・カルデア』の最後のマスターである『藤丸立香』によって召喚されたサーヴァントの一人である。

 そしてカリバーンは、そんなアルトリアのついで……みたいな感覚で引っ付いてきた。

 おそらく、修行時代のアーサー王を英霊として召喚するのに対し、その時代の象徴である選定の剣———即ちカリバーンも必須という事で英霊の座とやらにセットにされたのだと思う。

 

 そして、今日はカルデアに召喚された日の記録を、ほんの少しだけ振り返って見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———! —————!? ———!」

 

 誰かの、叫び声がする。

 とても悲痛に満ちた、痛々しい叫びが。

 自分はこの叫び声を知っている。

 知っているのに、まるで砂嵐が目の前で起きているかのように、その声の主をうまく見ることができない。

 

 何をそんなに叫んでいるのか、気になって気になって仕方がない。

 だから、視界を凝らして、さらに聴覚を澄ませた。

 すると徐々に目の前の景色が鮮明になっていく。

 

 "……あぁ、なんだ。『     』か———どうした、何故そんなに悲しそうな顔を?"

 

 どうやら叫び主は自分の名前を何度も呼んでいる。

 あまりにも必死な形相だったので、ただ事ではないと考え、それに応えようとした。

 そして、今置かれている自分の状況をやっと把握できたのだ。

 

 カラダが砕けていた。

 そして意識も徐々に薄れている。

 あぁそうか、ついにこの日が来たのだと感じた。

 それならば、最後の力を振り絞って、自分は言わなくてはならない。

 そう、いつか来るこの日の為に、ずっと考えていた———別れの言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———! お…………て! ———ください!」

 

 ———また、叫び声がする。

 でも今度は少し違うようだ。

 

『———あと五分だけ……』

 

「———! 『カリバーン』! いい加減起きてください!」

 

 自身の名前が聞こえた。

 そして耳慣れた心地よい声も。

 それでやっと、意識が覚醒した。

 

『———あれ、『アルトリア』? どうしてここに?』

 

「———あぁ良かった、もしやと思いましたが、やはりカリバーンも『一緒』だったのですね」

 

 カリバーンを抱き抱えながらそう言った、白いドレスのような服を着た少女の名はアルトリア。

 カリバーンの主人だ。

 

『……何でその格好なの? 久しぶりに着たくなったとか? とても目の保養になるから俺としては嬉しいけど、ほどほどにな。ケイは兎も角、他の騎士共に見つかったらヤバイぞ』

 

「え、ですがこの格好はあなたとマーリンが変装に向いていると私に押し付けたものでは……? それと他の騎士とは一体誰のことですか?」

 

『ん? それはそうなんだけど、そうじゃなくて…………え、なにこれ。何か頭の中に変な情報が———』

 

 英霊?

 サーヴァント?

 ここは『英霊の座』だと?

 何だこの知識は。

 知らないのに、知っている。

 

『うぇぇ、何か気分悪いわ』

 

「大丈夫ですカリバーン。私も最初は混乱しましたが、その内慣れます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『成る程、大体分かった。つまり英霊として昇華されたマスターの『宝具』として、俺もここに居るってことだな』

 

「どうやらそのようですね」

 

 カリバーンとアルトリアは互いに情報をすり合わせ、何とか今の状況を飲み込むことに成功した。

 

『……つまりマスターもその、死んだってことだよな?』

 

「———えぇ、とはいっても、その記憶が無いので何とも言えないのですが……」

 

『あれ、そうなの?』

 

「はい……そういうカリバーンはどこまで記憶があるんですか?」

 

『記憶……最後の記憶は———』

 

 カリバーンは最後の自身の記憶を口に出そうとした。

 そして、『躊躇ってしまった』。

 果たしてこの真実を今のマスターに伝えていいのか。

 キズを付けてしまうのではないか。

 アルトリアという主人に絶対的な信頼を感じているカリバーンにとって、その行いは避けたかった。

 

『———どうやら俺も全部覚えてるってわけじゃないな。俺の最後の記憶は、マスターとケイと、それからマーリンのヤツと国中歩き回ってたときのだな』

 

 だから、『嘘』をついてしまった。

 一番印象的で、楽しかった頃の記憶……それしか覚えてないと嘘をついてしまった。

 

「……それでしたら、私と同じみたいですね。どうやら私は修行時代のアーサー王という立ち位置みたいです」

 

『そっか———よし、マスター。そうと分かれば作戦会議だ!』

 

「さ、作戦会議ですか? それは一体どんな……?」

 

『決まっているさ、英霊としてこれからどうしていくか一緒に考えようってことだ!』

 

 カリバーンは話をはぐらかすかのように、話題を変えた。

 

 

 

 

 

『良いかアルトリア、何事も最初が肝心だ。多分お前が召喚されるとしたら、最優とされる剣士(セイバー)のサーヴァントになる。何せ俺も一緒に召喚されるみたいだからな』

 

「はい! またよろしくお願いしますね、カリバーン!」

 

『よし、元気は充分だな。じゃあ、一つ聞こう。セイバーのお前はきっと戦場に立たされる事が多くなる。そこでは当然、俺たちを呼び出したマスターとやらとの信頼が重要になってくる』

 

「それはそうですね。信頼なくしては何も得られません。ですが……こんな半人前の私なんかをマスターはみとめてくれるのでしょうか———」

 

『そうだな、確かに今のお前はアーサー王とは言い切れない半端者だ。だが、未来の王としてのお前ではなく、今のアルトリアにしかない強さもある。それは———』

 

「そ、それは……?」

 

『可愛いさ』

 

「……はい?」

 

『……冗談だ。兎に角、そう卑屈になる事はない。今のお前が修行時代のアーサー王なら、やり方次第では生前なし得なかった事、出来なかった事をする事で本来のお前よりも成長する事ができるかもしれん』

 

「な、成る程……サーヴァントならではの考え方ですね」

 

『あれだ、現代の知識から読み取ったんだが、『ゲーム』っていう玩具には、二週目という概念があるらしい。要は同じ事をしたら、当然二回目の方が上手くできるみたいな』

 

 サーヴァントとして召喚される前、英霊の座という場所で二人は何やら話し合っていた。

 

『話を戻すが、最初が肝心という事で、先ずは自分のマスターに会ったら最初に何をすると思う?』

 

「はい、先ずは自己紹介ですね。そして友好的な態度でマスターに接しようと心掛けます」

 

『その通りだ。じゃあ、ちょっとその自己紹介を練習しておこうか。はい、俺がアルトリアのマスターだと仮定します———君は、どんなサーヴァントなんだ?』

 

「え、えっと———は、はじめましてマスター。まだ半人前の剣士なので、その……、セイバー・リリィとお呼びください。これから———す、末長くよろしくお願いします!」

 

『ふむ……中々良い感じじゃないか? ただ、その……リリィっていうのは?』

 

「それは———半人前だというのに『セイバー』を名乗るのは少しどうかなと思いまして……」

 

『成る程……まぁ何となく愛敬があるから、そう名乗るのは止めたりはしない。だが、少し物足りない感じはしないか?』

 

「物足りない……とは?」

 

『こう、サーヴァントっぽいというか、カッコ良さも欲しくないか? 実は俺もちょっと考えてたんだけど、マスターの初めの挨拶として、こういうのはどうだ———』

 

 カリバーンはアルトリアに自身の考えた台詞を伝えた。

 

「———それは……私にはちょっと大胆過ぎないですか? というより、物凄く聞き覚えがあるような……」

 

『気にしたら負けだ。それより、そろそろ召喚されるみたいだぞ』

 

「も、もうですか!? 何だかドキドキします……!」

 

『ははは、良いマスターだといいな』

 

「だ、大丈夫ですかカリバーン? 私どこか変なところありますか?」

 

 アルトリアは片腕でカリバーンを抱えつつ、もう片方の手を使い、服のシワを伸ばしたり髪を弄ったりと、身だしなみを整えようとする。

 

『大丈夫、大丈夫。今日も可愛いぞマスター。それとも自信ないなら、もっとフリフリしたやつに着替えとくか? 実はマーリンの奴と考えたデザインがまだいくつかあってだな———』

 

「え、えっと———わ、私には今の格好が限界というか、その……あまり可愛いらしい格好は似合わないかと……」

 

『何をいうかマスター! 確かにマスターは女性の身体つきという点から見たらまだ幼い。だからこそ『可愛い』というテーマがとても似合うんだ。それにあれだ、俺のせいでマスターの成長は止まっちまったが、きっと将来は誰もが認めるナイスバディになってた筈だ多分!』

 

「そ、そうでしょうか……えぇ、ですがお世辞でも嬉しいです。ありがとうございますカリバーン、ちょっとだけ自信が付きました!」

 

『よしそうか、ならば早速着替えを———』

 

「あ、それはそれ、これはこれなので、着替えはまたの機会に」

 

『そんなー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類最後のマスターという肩書を持つ『藤丸立香』は、ガラス越しの部屋———コンクリートのような材質の壁で覆われ、床には規則的な線———何というべきか、魔法陣のようなものが敷かれている無機質な部屋をじっと眺めていた。

 

「先輩? どうかされましたか?」

 

「いや、何でも無いよ『マシュ』。ただ、ちょっとだけ緊張してる……のかな」

 

 隣にいた少女、自身と契約しているデミ・サーヴァントの彼女の名は、『マシュ・キリエライト』。

 何故か自分を先輩と呼ぶ彼女から、そんな声が掛かってきた。

 

「大丈夫です、もし怖いサーヴァントの方が召喚されても、私が先輩を守ってみせます」

 

「———うん、ありがとうマシュ。頼りにしてるよ」

 

 自身と同い年くらいの少女に守られるというのは、何だか不甲斐なさを感じるが、自分が弱い存在だというのは自覚している。

 だからマシュに、サーヴァントの皆に守ってもらうしか今はできない。

 その事実を噛み締めつつ、自分は前に進む。

 強く無いなら、強くなるよう目指せば良い。

 それが人理焼却された人類、世界を救う為の自分のやるべき事だ。

 

「よっ、怖い顔してるぞ。坊主」

 

「うわっ!」

 

「く、クーフーリンさん! 何故ここに……?」

 

 そんな事を考えていると、臀部を背後から軽く叩かれた。

 振り返るとそこには、契約しているサーヴァントの内の一人———槍兵(ランサー)のサーヴァントのクーフーリンという英霊がいた。

 彼とは最初の『特異点』で出逢い、共に戦ったサーヴァントだ———最も、その時は魔術師(キャスター)のクラスだったが、ここカルデアに召喚した際にはランサーのクラスとして現界した頼れる兄貴的存在だ。

 

「なに、これからサーヴァントを追加で召喚するんだろ? 一度見てみたかったんだなこれが———それとも、お邪魔だったか?」

 

『いや、居てくれた方が助かるよ。サーヴァントを召喚するといっても、触媒なしの召喚だ。どんなサーヴァントが来るか分からない以上、藤丸君の護衛は多いに越した事はないからね』

 

 クーフーリンの言葉に、放送でドクター……『ロマ二・アーキマン』がそう答えた。

 彼は近くの別室で、ここ召喚サークルの部屋をモニタリングしてくれている。

 

「おっ、それならこいつにも声を掛けておいて正解だったな」

 

 クーフーリンが右手の親指だけで後ろを指す。

 そこには、また別のサーヴァントがいつの間にか立っていた。

 

「声を掛けたですって? よくもまぁそんな戯言を……殆ど無理矢理連れてきたようなものじゃない」

 

 紫色を主体としたローブを違和感なく着こなすこのサーヴァントは、魔術師(キャスター)のクラスで、真名はメディア。

 彼女はクーフーリンとほぼ同時期に召喚され、藤丸立香が契約した三人目のサーヴァントだ。

 

 これで現在、藤丸立香が契約しているサーヴァント全員が揃った。

 マシュ、クーフーリン、メディア。

 まだ付き合いは長くないが、三人とも頼れる仲間だと断言できる。

 その根拠は何かと問われると、はっきりとは答えられないのだが———

 

「どうせ暇してたんだろ?」

 

「暇に見えるの? 私はこう見えて忙しいの。特に何処かのへっぽこマスターに魔術の『ま』から教える準備とかね」

 

 そのへっぽこマスターとは、もしかしなくても自分のことだろう。

 事実なので何も言い返せないが。

 

『よーし、こっちは準備完了だ。立香君、そっちの準備はできてるかな?』

 

 今度は女性の声が放送でした。

 彼女———いや彼?

 兎も角この声の持ち主は、自分とは契約してはいないが、カルデアのサーヴァントの『レオナルド・ダ・ヴィンチ』のものだ。

 どうやらドクターと一緒に居るらしい。

 

「……はい、出来てます」

 

『よろしい、それでは召喚サークルを起動させる。ちゃんと召喚の詠唱は覚えてきたかなー?』

 

 流石に三回目ということもあって、召喚の際に唱える詠唱は覚えている。

 だが、念のためズボンのポケットにカンニングペーパーが入っているのを確認してから、大きく息を吸い込んだ。

 そして右手の甲に刻まれた赤い紋章である『令呪』を掲げ、詠唱を始める———

 するとガラス越しの部屋のサークルが光を帯び、徐々にその輝きを増していく。

 眩しくて思わず目を瞑ってしまったが、それでも口は詠唱を続ける。

 

『———召喚サークル安定。エーテルの向上を確認。サーヴァントの霊基反応を取得———おぉ! クラスは『セイバー』だ!』

 

 ドクターが何やら興奮しているようだが、気にせず詠唱を続け、続けて、ついに最後までやりきった。

 それと同時に、まるで光の爆発がガラス越しの部屋を覆い尽くした。

 

 

 

 

 ———そして、自分は見た。

 見てしまった。

 

『構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!』

 

 決して忘れる事がないであろう、とある英霊のその顔を。

 

『卑王鉄槌、極光は反転する———』

 

 初めての特異点で、初めて『死の恐怖』というものを自身に叩き込んだ、偉大にして恐ろしかった英霊———その顔を、再びこの目にした。

 

 

 

 

『———聞け』

 

 ———無機質な声が、ガラス越しに響いた。

 男性ともいえるし、女性の声とも受け取れる。

 あまりにも曖昧な声が。

 

『静粛を保ち、心して聞くがよい。我が主人の声を』

 

 その声に誰もが神経を尖らせ、あるものは困惑し、あるものは警戒をする。

 

「———問おう」

 

 今度は凛とした声。

 その声を自分は耳にしたことがあった。

 

「あなたが私の———」

 

 その声は紛れもなく自分に向けられている。

 息が詰まりそうだ。

 この圧迫感で、自分はどうにかなってしまいそうだ。

 

 ———そして、神経が研ぎ澄まされた己の聴覚が、最後の声を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———『ましゅたー』か……あ」

 

『あ』

 

 ……そう、完全に噛んだであろう言葉を捉えてしまった。

 おそらく、よりにもよって最も大事な部分を。

 

「〜〜〜ッ!」

 

 思わず目を見開く。

 そしてここでやっと気が付いた。

 召喚サークルの上には、確かに最初の特異点で戦った英霊———アーサー王の顔をした人物が立っていた。

 しかしその顔はトマトのように真っ赤に染まり、プルプルと震えながら若干涙目になっている。

 加えて特異点で戦ったアーサー王は一言で表すなら『黒』という印象だが、目の前にいる存在は真逆の『白』だった。

 手にしている武器……剣もよく見れば別物だ。

 それに、雰囲気というべきか、兎に角特異点で戦ったアーサー王とは『違う』という感覚がした。

 

『いやいや、頑張った! マスターはよく頑張ったよ! 慣れないことだったから仕方ないさ、というか俺が提案したのが悪かった。すまない、だからマスターは気にしない気にしない!』

 

「———は、はい。気にしません、気にしませんとも。ですがこれも私が未熟者故に生み出したちょっとした悲劇です。カリバーンは何も悪くありません……ぐすっ」

 

『そ、その通りだな! 誰も悪くない、悪いとしたら全部マーリンってやつのせいだからな。よし、今回の件はこれで終了、解散! そっちの人達もそれで良いよな!?』

 

「あっ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、改めまして。セイバーのサーヴァントで、真名は『アルトリア・ペンドラゴン』です。そしてこっちは私の相棒の『カリバーン』です。マスター、これから末長くよろしくお願いします」

 

『どうもカリバーンです、よろしく』

 

「よ、よろしくお願いします……あ、俺は藤丸立香と言います」

 

 とりあえず危険なサーヴァントではないという見解が出たため、こうしてガラス越しではなく直接対面でお互い挨拶をした。

 

「せ、先輩……その、私の認識が間違っていなければなんですけど、剣が喋ってます」

 

「う、うん。喋ってるね……」

 

 それも気になるが、他にも気になることがある。

 

「おいおい、冗談だろ。この可愛らしい嬢ちゃんがかの有名な『アーサー王』ってことなのか?」

 

「……やだ、可愛いわね。着せ替え人形にしたいわ」

 

『これはまた、特異点Fのアーサー王とは随分様子が違う……これが別側面ってやつなのかな』

 

『ほぉ、この私が感心するとは、良いデザインだ。ドレスと鎧をここまで一体化させるとは』

 

 各々が感想を述べる。

 そして未だ固まってしまっている自分の代わりに、ドクターが話を進めてくれた。

 

『あー、先ずは召喚に応じてくれて感謝致しますアーサー王。詳しい事情は後でお話ししますが、我々は焼却されてしまった人理を修復させる者。是非とも、その聖剣の力を我々に貸して頂きたく……あれ、何か聖剣が違うような。というかカリバーン? 『エクスカリバー』じゃなくて?』

 

「———エクスカリバー……? えっと、とりあえずそんなに堅苦しくしなくても大丈夫ですよ。私は確かにアーサー王その人ですが、正確にはアーサー王と呼ばれる前のアルトリア・ペンドラゴンです。ですので、その名はまだ私には似合わない。未熟者故、セイバー・リリィとでもお呼びください!」

 

『……成る程、つまり君はカリバーン———選定の剣を抜いたばかりのアーサー王ということか』

 

『そういうことだ、何か小物臭がする男よ。どうやらアーサー王として完成されたマスターを知っている様子だが、ここにいるアルトリアは正真正銘、修行時代のアーサー王だ。だから精神的には少し未熟かもしれんが、それでもマスターは強いぞ。そして俺たちは力の限りあんたらに力を貸すことを誓おう』

 

「えぇ、騎士見習いですが、聖剣カリバーンとアルトリア・ペンドラゴン。騎士道に基づき、騎士としての誓いを此処に。我々の持てる全てを『ましゅたー』に捧げま……あ」

 

『あ』

 

 

 

 

 




基本的にFGO時空ではイベントメインで進めていこうかなと。
本編は……6章辺りはもしかしたら書くかもしれないです。


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SABER WARS
花と黄金とヒロイン


「では、お手並み拝見だ。可愛い騎士王さん」

リリィがフレ召喚に追加された日の自分

「うわぁぁぁぁぁぁ! ふざけるな! ふざけるな! バカヤロー!」

全てのフレポを失った次の日の自分。


 

 

 

 

 うん、質問は以上だ。

 協力に感謝するよ———えっと、カリバーン君?

 サーヴァントは兎も角、その宝具にまで人格があるのは極めて珍しいから、今後の為にデータを取っておきたかったんだ。

 さて、君のご主人様がそろそろカルデア観光を終えるところだろう。

 早いところ会いに……あぁそっか。

 君は自力では動けないんだっけ?

 それだったら、許しをもらえるなら、僕か他のスタッフが届けて———え、その前に頼みたいことがある?

 僕に?

 …………うん、確かにカルデアのデータベースにも、『アーサー王伝説』はあるよ。

 古今東西の神話や伝記が記録されてるからね。

 え、今すぐ観せて欲しい?

 それは構わないけど、急にどうしてかな?

 

 "————。"

 "———————?"

 "—————!"

 

 成る程、君の事情は分かった。

 けどそれは僕個人としては、お勧めしない行いだ。

 データの改竄自体は簡単にできる。

 心理学を嗜んでいるスタッフにやらせれば、無意識に誘導して意識から逸らす事も多分できるだろう。

 けど、『いつか』気付いてしまう。

 単なる時間稼ぎにしかならないだろう。

 むしろ君の言うキズを余計に拡げてしまうかもしれない。

 それでも良いのかい———?

 …………分かった。

 あれこれ質問して、君とご主人様の時間を奪ってしまったお詫びとして、今回は君の提案を受け入れよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———せいっ!」

 

『……マスター?』

 

 元気の良い声が響く。

 その声と同時に、剣が空を舞い風をきる音も。

 

「はっ! まだまだ!」

 

『ちょっと、もしもーし?』

 

 剣を手に仮想の敵と対峙しているのは、白いドレスに白い鎧を着込んだ少女。

 少女は息を切らしつつも、呼吸を整え、汗を辺りに飛ばしながらも剣を振る。

 そろそろ疲労が溜まる頃合いだというのに、少女は剣の素振りに夢中で気が付いてない。

 そんな少女にさっきから声を掛けている者がいた。

 

『まーすたー。聞いてる? おーい……『アルトリア』さーん』

 

 その者はヒトにあらず。

 その正体は、少女が手に持つ剣に宿る存在だった。

 

『だめだこりゃ。完全にゾーンに入ってますねこれは……仕方ない———奥の手を使うか』

 

 剣は先程から少女に声を掛けるも、少女はその声に気が付いていない。

 実は、少女は何事にも夢中になり易いという癖がある為、今回のような事は過去に何度もあった。

 なのでその時は、剣は最終手段を取るとにしていた。

 

「———むっ」

 

 ———突然、少女の動きがピタリと止まった。

 

「な、何をするのですか? 『カリバーン』、いきなり体を『乗っ取る』のはやめて欲しいのですが……」

 

『じゃあ次からは訓練中とはいえ、少しは周りにも気を配れるようにしてくれよマスター…………休憩、そろそろとった方が良い』

 

「む……ですが私はまだ」

 

 少女は剣に宿る存在に体の支配権を奪われている為、その体は動かせなかった。

 だから言葉で反抗をしようとした。

 

『ダメだ、いくら『サーヴァント』になったからといって、無茶をして良い理由にはならない。訓練はコンディションを保つ事が大切だって、『ケイ』の奴にも言われてただろう?』

 

「ぅ……そこで義兄の名を出すのは卑怯です」

 

 少女は既に反論する手札は無かった。

 しかしそれでも、まだ休憩は取らなくても平気だと思っていた。

 それを剣に見透かされたのか、少女の体は剣の意思によって勝手に動かされた。

 

「あ、ちょ、止めてください!」

 

『はいすとーん』

 

 そして生い茂る草原に、少女の体は座らされた。

 

「うぅ……折角良い感じでしたのに」

 

『なに、まだ訓練室は一時間も使えるじゃないか。十分くらい休んだって平気だよ』

 

「しかし……私はただでさえ未熟者。こうして鍛錬を積み重ねていくことでようやく帳尻が合うといいますか———」

 

『それは仕方ないだろ。今のお前はアーサー王の修行時代の『アルトリア・ペンドラゴン』だからな』

 

 アーサー王。

 知る人ぞ知る、アーサー王伝説に登場するブリテンの王だ。

 自分の担い手は、そのアーサー王本人なのだ。

 

「……前から思っていたのですが、どうして私というか、修行時代のアーサー王が英霊として昇華されてるのでしょうか? 王としての私が英霊になっているのなら、私なんか必要ない気がするんですが……」

 

『さぁ、それは俺にも分からんな……けど、俺は結構お前とこうして居られるのは嬉しいんだぜ』

 

「それは———どうしてですか……?」

 

『———そうだな、またあの頃に戻れた気がするからかな。覚えてるか、修行の一環で国中を歩き回ってた頃、お前のお節介から始まって、俺がそんなお前を焚き付け———応援する。そしてあの屑魔術師が事を大事にして、最後にケイの奴が尻拭いをする』

 

「えぇ、覚えています。特に、熱で苦しんでる御老人の為に薬草を取りに行ったはずが、気が付けば国が滅ぶか否かの瀬戸際の事態になった時は、流石にダメかもと思ってしまいました」

 

『あー、あったなぁそんな事……なぁマスター』

 

 ふとカリバーンは、疑問に思った。

 本当は聞かなくても良い事だが、どうしても気になってしまう為、結局二人きりのこの機会に聞くことにしたのだ。

 

『マスター、前にも似たような話したと思うけどさ、マスターはどこまで『覚えてる』?』

 

「———えっと、それは私の記憶が何処まであるのか。王としての私の記憶はあるのかという事ですか?」

 

『まぁ、そうだな……』

 

「……正直に言いますと、王としての私が、私にとって未来の自分が存在している事は自覚できています。それに———国がどんな結末を迎えたのかも……」

 

『…………』

 

「ですが、具体的な記憶は私にはありません。私がどんな王だったのか、私の最後すらも『カルデア』に記録されてた伝承で知りました。私の記憶は、王になるべく行った修行時代で全てです」

 

『……そっか、なら良いんだ』

 

 カリバーンは少しだけ安堵した。

 この少女には、カリバーンという剣との『別れ』の記憶が無いことに。

 しかし、いつかは少女も知るべきだろう。

 その時が来るまではまだ、黙っておこう。

 

『悪いな、変な話して。気晴らしに、これでも食べようか』

 

 アルトリアの体を使ってカリバーンは、立ち上がり草原の端っこ———正確にはこの景色も草原も仮想映像なので、部屋の壁際に置かれた小さなタッパーと呼ばれる容器を手に取った。

 

「これは……?」

 

『さっき『ブーディカ』が差し入れてくれたもの。やっぱり気が付いてなかったのかお前……』

 

「ブーディカさんが———不覚です。後で御礼と謝罪をしに行かなくては……ところで、この食べ物は……」

 

『レモンの蜂蜜漬け———っていうらしい。何でも、マスター……あぁ、お前じゃなくて、お前のマスターのことな。マスターが昔ブカツとやらの後によく食べてたそうだ。何でも、疲労回復にもってこいだとか』

 

「ほぉ……レモンは確か酸味がある果実でしたね。それを甘い蜂蜜に入れるとは、味の想像が全くできません!」

 

 食べてみれば分かるさ、とカリバーンはアルトリアに主導権を返した。

 そしてアルトリアは魔力で編んでいた鎧や籠手を外し、蜂蜜の海に沈むレモンを一切れ口に運んだ。

 

「————!!」

 

『口にあったようでなによりだな』

 

 言葉なぞ不要。

 その顔を見れば誰もが一目瞭然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日課の訓練が終わり、アルトリアはカルデア内の食堂に足を運んでいた。

 

「あの、ブーディカさん。先程は差し入れありがとうございました。それと、折角来ていただいたのに私ときたら、挨拶もせずに……」

 

「あぁ、気にしないで。可愛い子が頑張ってる姿を見て、我慢できずに私が勝手にやった事だから。それより、口にあったかな? あれ、赤い弓兵君に教えてもらったばかりだから、まだ味付けに自信がなくて」

 

「はい、それでしたら何も問題はありません。とても美味しかったです!」

 

「それは良かった。それじゃあ可愛い騎士様、今日は何にいたしましょう?」

 

 ———アルトリアが召喚された当時と比べて、カルデアのサーヴァントの数はかなり増えたと言えるだろう。

 特異点で縁を結んだ者、縁は無くとも人理修復のために召喚に応じてくれた者。

 様々な理由で多くの英雄達がカルデアに集った。

 そのおかげで、人理修復の初日に敵の爆弾工作で多くのスタッフが亡くなり、様々な運営が止まっていたカルデアの歯車が徐々に動き始めた。

 要は、サーヴァント達に亡くなったスタッフ達の代わりに働いてもらっているのだ。

 英霊にそんな雑用みたいな事をさせていいのか———というスタッフも居るらしいが、当の本人達は一部を除いて協力的なサーヴァントばかりだ。

 雑務、清掃、管理、工作、医療……実に沢山の仕事があるが、中でも劇的に変化した仕事がある。

 

 それは、『食事』だ。

 何が言いたいかと言うと、料理ができる英霊が何人か食堂で包丁を振るうようになってから、カルデア全体の士気が格段に向上したのだ。

 カルデアの調理スタッフが殆ど亡くなったため、結果として大して美味しくもない携帯食品を正気を無くした顔でモソモソと食べていたスタッフ達に、食事の喜びを思い出させたのだ。

 さらにはスタッフだけでなく、サーヴァントにも人気だったりする。

 サーヴァントに食事は必要不可欠ではないが、食べた物は魔力に変換出来るため、電力による魔力供給を行なっているカルデアの電力節約にもなるし、精神的な面を潤せる。

 

 そんなこんなで、特異点修復とか何か大事がない日であれば、食堂は常に賑わっている。

 

「今日のオススメは、ワイバーンのステーキ定食か、ラーメン餃子と炒飯セットかな。みんな今日はガッツリ系が食べたいとか言ってるから、この二つが人気なんだ」

 

「むむ、これは難問です……カリバーンはどっちが良いと思います?」

 

『そうだなぁ……ラーメンってのは食べた事ないし、そっちで良いんじゃない?』

 

「成る程、ではラーメン餃子と炒飯セット、大盛りでお願いします!」

 

 注文をしてすぐに食事が出てくるわけではない。

 調理の待ち時間の間に、アルトリアは空いてる席を探した。

 幸いにも、混んでいる時間帯ではあったが、一箇所だけ空席の場所を見つけた。

 

「お隣失礼しますね、マシュさん」

 

「あ、リリィさん、それにカリバーンさんも。こんにちは。どうぞ、遠慮せずに座ってください」

 

 その隣には、アルトリアと同じく昼食をとりにきたであろうマシュがいた。

 

「マシュさんは何を頼みましたか?」

 

「はい、私はステーキ定食を。偶にはドッシリした物も食べとけと周りの方に言われて、流れで頼んでしまいました。……食べ切れるかちょっと不安ですが」

 

『マシュは少食だったけか? なに、食べきれんかったらアルトリアに食べて貰えば良いさ。見た目によらず俺のマスターはグルメでな』

 

「えぇ、カリバーンの言い方にはちょっと引っ掛かりますが、私で良ければ協力します!」

 

「リリィさん……ありがとうございます。ですが、食べる事もまた訓練の内、戦いにおいて己の肉体は最大の武器です。なので、マシュ・キリエライトは頑張って完食します!」

 

「その勢いだ少女マシュよ。このキャット、厨房の影から見守っているワン。というわけでワイバーンのステーキ定食と、ラーメン餃子と炒飯セット大盛りお待ちどうっ! 冷めないうちに食べるのだ。だがその熱いパトスは冷まして良いぞ。キャットは猫舌だからな」

 

 そんなこんなで、狐なのかネコなのか犬なのかよく分からないウェイトレスが出来上がった料理を運んできてくれた。

 

「これがラーメン……不思議です。こうして実物を目の前にすると、想像の数倍食欲がそそられます」

 

 いただきます。

 最近カルデア内で定着しつつある食前の挨拶をし、アルトリア達は食事を始めた。

 

「———これは凄い。以前食べたソバやウドンと似ているのに、味も食感も全く違います! 美味しい、美味しいです!」

 

『はは、それは良かったな』

 

 カリバーンはこうして自分の主人の幸せそうな顔を見るのが好きだった。

 だから、だからこそ。

 

 ごめん

 

『———逝か———で! わた———まだあなたと———』

 

 許してくれ

 

 嗚呼、だからこそ、その顔を哀しみに歪ませたくない。

 もう二度と、アルトリアのあんな顔は———

 

「———カリバーン? 聞いてますか?」

 

『ん、すまん。何か言ったか?』

 

「ですから、カリバーンも食べてみてください! 本当に美味しいですよ!」

 

『あぁ……いや、俺はいいよ。マスターが全部食べなって』

 

「そんな事言わずに! 私はカリバーンにもこの美味しさを知って欲しいだけなんです!」

 

『いやだから……あ、こら! 勝手に———!』

 

 カリバーンは己の存在が、剣からスッと抜けた感覚がした。

 次の瞬間、カリバーンの意識はアルトリアの肉体に宿った。

 

「———ったく、本当に頑固だなマスターは!」

 

 カリバーンはアルトリアの口を使い、文句を垂れた。

 

『頑固者で結構です。さぁ、ちゃんと食べるまであなたを私から出しませよ!』

 

 こうなっては仕方なし。

 カリバーンはアルトリアの策略に屈する事にした。

 実はこうして、カリバーンがアルトリアの肉体を使えば、カリバーンも味覚や嗅覚といった普段は感じる事ができない感覚を味わう事ができるのだ。

 カリバーンは慣れない箸を使い、麺を啜り始めた。

 うん、確かに美味しい。

 クセになる味わいだ。

 

「あの……今はカリバーンさんですよね? 前から気になっていたのですが、どうしてカリバーンさんはリリィさんの体に憑依できるのでしょう?」

 

「んー? 正直いうと仕組みは俺もアルトリアも完全には理解してないよ。生前、国を旅してる最中に、何かできるようになった。お付きの魔術師曰く、俺たちの精神構造が上手く混ざり合って、魔力がどうとか———まぁあれだ、絆が深まったから出来る様になったってことだ多分」

 

『えぇ、私達はベストパートナーですとも!』

 

 ベストパートナーなら、そのパートナーを無理矢理自分の体の中に閉じ込めるのはやめて欲しい。

 カリバーンは心の中でそう言った。

 

「な、成る程……すいません、私の中にいる英霊が誰なのか、何かヒントになるのではと思ったので、突然聞いてしまいました」

 

「謝る必要はないよ、そして焦る必要もな。いずれ理解するときが来るだろうよ」

 

「……はい、ありがとうございます。カリバーンさん」

 

 カリバーンは面白いほど真面目な少女マシュに、もう少し話をしようと思った。

 

「そういう事情なら、もう少し俺たちについて教えようじゃないか」

 

 カリバーンは餃子を口に運び、咀嚼と嚥下を終えてから話を始めた。

 

「実は俺がアルトリアの体に入る際に、いくつか条件があってな。先ず必要なのが、『意志の強さ』だ」

 

「意志の強さ……ですか?」

 

「そう、例えば、俺がアルトリアの体を使いたいと願った時、アルトリアがそれを受け入れればすんなり入れる。逆にアルトリアが拒否をしたとき、俺の『絶対に入ってやる』という意思がアルトリアの『絶対に入れたくない』という意思に勝てば無理矢理入れる。だが、負ければ弾き出される」

 

『そしてその駆け引きを私から行う事もできます。私がカリバーンを体に入れたいと願い、彼はそれを受け入れる事も拒否する事もできます』

 

「それで、意志の強い方が肉体の主導権や受け渡しをコントロールする。今の状況で説明するならば、アルトリアの意思に俺が負けて、強制的に憑依させられてるってわけだ」

 

 因みに今回のカリバーンの敗因は、ちょっと食べてみたいかもと少しでも思った事だろう。

 

「まぁ、だからさ。マシュも今よりもずっと『強い意志』を示せれば、マシュの中にいる英霊とやらも出てくるんじゃないかなって、俺は思うかな」

 

 確証はないが、多少の励ましくらいにはなるだろう。

 

「———よしちゃんと食べたぞマスター!」

 

『はい! では最後に感想を!』

 

「たいへん美味でした!」

 

『よろしい!』

 

 こうしてカリバーンは元の剣の姿に戻る事ができた。

 

『あーやっぱこっちの方が落ち着くな』

 

「ふふ、別に私は体を貸すくらいなら何時でも大丈夫ですよ」

 

『いやそういうわけにも……確かに人間の体が欲しいとは思うけど、アルトリアの体を使いたいわけじゃないっていうか』

 

 出来れば、共に隣を歩いてみたい。

 共に飯を食べたい。

 共に鍛錬をしたい。

 共に肩を並べて戦場に立ちたい。

 共に———最後を迎えたい。

 そんな願いなんて、とうの昔から抱いている。

 だからもし願いが何でも叶えられるとしたら、俺は自分の新しい人間の体が欲しいと願うだろう。

 

「———ご馳走様でした!」

 

 そんな事を考えているうちに、アルトリアが残りを食べ終わったようだ。

 

「カリバーン、午後はどうしましょうか」

 

『鍛錬の続きだろ。次の特異点もそろそろ見つかるらしいし、ここらで気合い入れておかないとだな』

 

 トレーを片付けながら、二人はこれからの予定について話し合った。

 

「あの……よければ私もその鍛錬に同伴しても良いでしょうか?」

 

 すると、同じくトレーを片付けていたマシュがそう言った。

 

「勿論です、マシュさん! むしろ歓迎します。そろそろ仮想ではない、対人訓練がしたかったところですから」

 

「ありがとうございます。それで一つ私から提案があるんですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微小特異点?

 

 はい、今朝見つかったそうです。ドクター達が調べた限り、放っておいても自然消滅するのでレイシフトの必要は本来であればないのですが……

 

 成る程、言いたい事は分かった。つまりマシュはその微小特異点で鍛錬をしたいんだろ?

 

 はい、サーヴァントの方々も何人か観光がてらレイシフトしているようですし、それなら私たちも———と、お昼前に先輩と話していました。

 

 それは素晴らしい案ですね。シミュレーターも悪くはありませんが、偶には新鮮な空気や大地を味わいながら鍛錬というのも良いものです!

 

 

 

 

 ———というわけで、アルトリアとカリバーン。

 そしてマシュと我らがマスターの藤丸立香という面子で微小特異点にやってきた。

 そして楽しく鍛錬に励んでいたのだが———

 

「どういう事ですか! 久し振りに会ってみれば、何ですかその腑抜けた斬撃は。私はそんなか弱い攻撃をあなたに教えたつもりはありませんよ。『カリバーン』!」

 

 励んで……いたのだが———

 

「この世に真のセイバーは二人まで。私たちで唯一無二の最強のセイバーを目指そうと誓ったあの日を忘れたのですか? さては自由な身体に浮かれて、ウデを落としましたね」

 

 何か、突如空から飛来してきた物体から現れた人物———

 

「それではセイバーを名乗るには到底無理があります。なので私が直々に鍛え直してあげましょう! とうっ!」

 

 そう、ジャージなる服装に身を包み、マフラーとキャップ帽子を装備しているマスター(アルトリア)に、襲い掛かられる羽目になるとは、誰が予想していただろうか。

 

 

 

 




もう少し早くFGO始めてればなぁ。
セイバーウォーズ復刻ができていたかもしれないのに……


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花と黄金とヒロイン②

今更ですが、独自設定や解釈が含まれてますので、ご注意ください。

ところで、そろそろ溜まってきたフレポを解放すれば、リリィちゃん来ますかね?
もしくは金フォウ君と夢火も完璧に揃えなきゃ来てくれないとか?

あと最近噂の新聞に色んなサーヴァントの方が載ってますね。そしてアルトリアさんが手にしてる剣がカリバーンってのエモくない? エモーショナルエンジンふるどらいぶしちゃう。


 

 

 

 私以外のセイバー死すべし、慈悲はない。

 ———いや違う、正確には私と『もう一人』。

 この世にセイバーは二人でいい。

 私と、私の永遠の相棒だけがセイバーであれば良い。

 

「くぅ……うーん。むにゃむにゃ、私はセイバーのインフレを何とかすべく、過去に飛びセイバーを抹殺する真のセイバー…………はっ、ついうたた寝をしてしまいました」

 

 重い目蓋を開き、両手で両目を擦る。

 そして目の前のモニターをまだボヤけてる視界で見つめた。

 

「おや、うたた寝している間にタイムジャンプは終わってますね。では早速、手近な惑星に着陸して、セイバークラスの掃討を始めましょう———あいたっ!」

 

 すると突然、視界が———いや、全てが揺れた。

 そして危険を知らせる猛々しい警告音が鳴り響く。

 

「な、何事ですか! 予算ケチって操縦席が狭いから、今の謎の衝撃で天井に頭をぶつけました! 帽子が無かったら危なかったですね!」

 

 なんて言っている場合ではない。

 急いでこの、如何にも緊急事態だよと煩い警告音を何とかしなくてはならない。

 

「えーっと、緊急メンテナンスモードに切り替えて…………嘘、私のドゥ・スタリオンⅡ壊れすぎ……?」

 

 どうやら愛機がこの土壇場で故障したらしい。

 現に幾つかのパーツが強制パージされ、愛機からボロボロと剥がれ落ちている。

 

「これは不味いです! やはり予算ケチって色々とガタガタなドゥ・スタリオンⅡでタイムジャンプするのは無理でしたか! と、とりあえず不時着しなくては……!」

 

 操作をオートからマニュアルに切り替えて、操縦桿を握る。

 ついでにダメ元でSOS信号も出しておこう。

 

「うぉぉぉぉぉ! 私の騎乗スキルは伊達じゃない!」

 

 大気圏に突入。

 惑星の重力で機体は勝手に落ちるので、私のすべき事は機体を安定させ続ける事だ。

 とはいえ、大気圏を突破するなんて既に手馴れたものだ。

 例え機体が損傷していても、着陸することくらい朝飯前———

 

「あ、やっぱり無理ですねこれ」

 

 運が悪い事に、姿勢制御装置もイカレてるようだ。

 何とかギリギリまで機体を安定させる事は出来たので、多分このまま地面に衝突しても、ドゥ・スタリオンⅡの装甲なら耐えられるだろう。

 だが、その衝撃は———

 

「っ———! おえっ、吐きそうです……」

 

 凄まじい衝突波と音が響く。

 そして、それは己の肉体にも衝撃を与える。

 

「———探知ソナーは生きてますね…………よし、大気も重力も至って活動可能レベルですね」

 

 肉体に目立った損傷はなし。

 不時着したこの星も遠慮なく深呼吸できるくらい安全な環境だ。

 ハッチを足で蹴飛ばして、這いずるように外に出た。

 

「むむ、頭がクラクラします……打ち所が悪かったのでしょうか」

 

 それとも、この照り付ける陽射しが眩暈の原因か。

 はたまた落下の衝撃で平衡感覚が一時的にマヒしているのか。

 うまく思考がまとまらない頭で、とりあえず状況を理解しようと辺りを見回した。

 

 一見すると、何も無い平和な草原。

 しかしこのヒロインイヤーは地獄耳。

 そしてヒロインアイは熱光線———ではなく、地獄目だ。

 少し離れた丘の向こうで、何者かが戦闘をしているのが分かった。

 

「あれは……原住生物と———はっ、セイバー!?」

 

 得意の気配遮断でこっそり近づく。

 どうやら、この星の原住生物っぽい肉食系っぽい獣に、憎きセイバーとその仲間であろう少年少女が襲われているようだ。

 

「先輩! 大丈夫ですか!?」

 

「俺は大丈夫! というかこいつら一体どこから……!」

 

「おそらく私達のように、先程の落下物と轟音が気になって巣穴から出てきたのではないでしょうか!」

 

 これはチャンスだ。

 今なら油断しきっているセイバーをヤレる。

 セイバーを排除した後、獣畜生どもを片付けてやれば、少年少女は助かるだろう。

 なお、セイバーと共闘するルートは存在しない。

 

「それにしても……見てて危なっかしいですね。未熟者なのにセイバーとか、セイバーに対する侮辱ですね」

 

 基本の動きは問題ない。

 だがあのセイバーは、私からしたら未熟者だ。

 剣筋は弱々しいし、太刀筋も悪くはないが良くもない。

 だが磨けば確実にセイバーに相応しいウデを身につけるだろう。

 まぁ私には及ばないが。

 それがあのセイバーに対する私の評価だった。

 え、何でセイバーだって分かるのかって?

 だって私のセイバーレーダーに反応してるし、私と似た顔だし、剣を持っているし———はて、あの剣何処かで……?

 

「———! マスター! 『宝具』の使用許可を! 一掃します!」

 

「うん! リリィ、全力でお願い!」

 

 どうやら切り札を使うようだ。

 しめしめと、切り札を使ったその瞬間。

 その無防備な背中に一撃くれてやろうと己の得物を強く握り込む。

 

「選定の剣よ、力を……邪悪を断て———!」

 

 ———あれ? あの、剣は……?

 

「『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』!!」

 

 ———何故。

 何故あの剣が。

 『カリバーン』が此処に?

 

『ご主人、俺はご主人の剣で良かった』

 

『俺たちは永遠の相棒だな!』

 

『ご主人よ、新しい身体を用意してくれたのは嬉しいが、出来れば女性型じゃなくて男性型が……というかこれご主人のコピーじゃん。まさか手抜きじゃ———あ、何でもないです。嬉しいですはい』

 

『ねぇご主人、コスモカルデア学園の学費の請求が何故か俺に来たんだけど。え、お金が無い? アルバイトは? ……クビになった? じゃあもう退学するしか……え、俺はたくさん稼いでるから、少しくらいお小遣いをくれ? ついにダメ人間の発言が……!』

 

『え、二人で最強のセイバーを目指そう? でもご主人、俺を手放したからもうセイバーじゃなくて、アサシンに戻って———いや、そうだな。いつか『グランド』になれるくらい、二人で最強になるか……え? さっそく特訓? まだこの新しい身体に慣れてないからまた今度に……ダメ? そんなー』

 

 私の剣。

 私の相棒。

 私にセイバーを魅せてくれた大切な友。

 今は離れ離れになっている彼が此処にいるのは実に不思議だが、そんな事は『どうでも良い』。

 問題なのは、あの未熟者が私の相棒だという事実だ———!

 

 そして気がつけば、不意打ちも忘れ私は飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇなにあれ、なにあれ。何か奇抜な格好したマスターが襲ってきたんだけど!? まさかあれが黒化ってやつ? 最近流行のオルタナティブってやつ!?』

 

「お、おおお落ち着いてくださいカリバーン! 『ネロ』さんや『ジャンヌ』さんのように、ちょっと似た顔の英霊の方かもしれません! あの、良ければ真名を教えて頂けないでしょうか?」

 

「相棒の顔まで忘れたと言うのですか!? 私は『ヒロインX』! カリバーン! あなたの相棒であり、あなたの稼いだ収入で日々を暮らすベストパートナー! いつも仕送りありがとうございます!」

 

『意味不明! 余計に分からなくなったぞこんちくしょう!』

 

「いつの間に働いていたのですかカリバーン! ずるいです! 私も一緒に働きたいです!」

 

『働いた覚えも、誰かを養ったりした事なんてないわ! グラマス! 『ヒロインエックス』って名前の英雄っていたか!?』

 

「えっ、えっとー……マシュは何か知ってる?」

 

「ごめんなさい先輩。私も聞き覚えはありません……ですが『ヒロイン』———何故かこの身に滲みるような言葉です……」

 

 混沌ここに極まれり。

 ここにいる誰もが混乱している。

 

 サーヴァントの同一人物が別の側面、クラスを得て召喚されることはそう珍しいことではない。

 例えばカルデアの古参の一人である、メディアというサーヴァントがいる。

 彼女は『裏切りの魔女』という側面が強い状態で召喚されたサーヴァントだ。

 そのため、その全盛期に最も相応しい姿形、能力を持って現界している。

 

『マスター、あなた本当に才能ないわね。でも、教えがいがあるから、許してあげるわ』

 

『きゃー! 可愛い! ねぇ、次はこっちを着てみて? あなたの剣と共同製作した奴よ———あ、逃げないで! お菓子、美味しいお菓子もあるわよ!』

 

 そんなカルデア生活をそれなりに満喫しているメディアさん。

 そんな彼女にも、実は『別の自分』がいるのだ。

 

『サーヴァント、キャスター。メディアです。あの、よろしくお願いします』

 

『マスター、パンケーキはいかかですか?』

 

『こらー、そこの方達! ケンカはいけません! えーい! 仲良くなーれ!』

 

 ———そう、若い頃(14歳)のメディアが。

 第三特異点でその存在は初めて確認されていたが、そんなメディアさん十四歳が最近カルデアに正式に召喚されたらしい。

 ちなみに、実際に召喚の場に偶々立ち寄っていた大人メディアさんは、同じくその場にいたクーフーリンの槍を強奪し、『自害しろキャスター』と意味不明な発言を繰り返しながら己の霊核に突き刺そうとするという珍事件があったりもした。

 

 まぁ、なにが言いたいかというと、多数の英霊が集うカルデアや、様々な時代を駆け巡るレイシフトの先で、そういった別の自分に会う事もあるだろうという事だ。

 

 実際、宝具としてカリバーンを手にしているこのアルトリア(リリィ)も、アーサー王の別側面(過去)ともいえる存在だ。

 最初の特異点でも、エクスカリバーという別の聖剣を宝具としているアーサー王が居たことも記録されている。

 だから、いつか———カリバーンという聖剣の結末を知っているアルトリア(マスター)とも出逢ってしまうかもしれない。

 そうなったら、もう隠し通せない。

 残酷な真実を突き付けてしまう。

 だが、全ては自分で撒いた種。

 その時が来たら、成すべきことをする———そんな覚悟をカリバーンは抱いていた。

 

「アサシンと思ったうぬが不覚よ! セイバー……ホームラン!」

 

「くっ……! 強い———!」

 

 覚悟を…………

 

「リリィさん! と、取り敢えず加勢します!」

 

「えぇい、邪魔をしないでください盾子! というかうちのカリバーンと一体どんな関係ですか!? 私に黙って友達作るなんて許せません! えぇ、決して友達が少ないからって逆恨みしているわけではありませぬ!」

 

 ……果たしてあれをアルトリアとして認めて良いものだろうか。

 何か全体的に世界観というか、存在そのものが別時空のような……自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。

 しかし先程からカリバーンの名を呼んでいるし、持っている剣も記録でみたエクスカリバーとやらに似ている。

 となると、あのヒロインエックスとやらが、正真正銘アルトリアだという可能性はあるし、アーサー王として国を治めていた時代は、意外にもあんな感じだったのかも———

 

「あうちっ……!?」

 

「あ、ご、ごめんなさい。思わず脛に私の足が当たって……」

 

「くっくっくっ……迷わず人体の急所に蹴りを入れるとは———見ないうちに成長しましたねカリバーン。では次はこちらの番です……ヒロインの雷(支援砲撃)、見せてやろう!」

 

「何かミサイルみたいのが何処からともなく降ってきた!?」

 

「先輩、リリィさん! 私の後ろに……!」

 

 ———うん、無いな。

 あれが王様やってたら、一晩で国が滅びそうだ。

 しかし何処となく、アルトリアっぽさを捨てきれない。

 一体何者なのだろうか。

 

「ところでその衣装可愛いですね! もしかして次に出演する映画の衣装ですか? 良いなー私も着てみたい!」

 

『さっきから会話が成り立たないな……錯乱してるのか……? グラマス、取り敢えず一旦落ち着かせるぞ!』

 

「ど、どうやって!?」

 

『決まってるだろ、いつもの(戦闘)だよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しました、知り合いと似てたものでつい、斬りかかってしまいました」

 

「ご、誤解が解けたようで何よりです……」

 

「……とんだ失態を晒しました。よくよく考えればここは過去の世界、カリバーンがいる筈が———いや、もしかして過去のカリバーン本体だったり? いかんヒロインX、タイムパラドックスだ! 的な感じでゲームオーバーエンド? でも元よりタイムパラドックスを起こしに来たようなものなのでセーフセーフ」

 

 マシュとアルトリアの二人がかり、それにマスターの支援があってようやくこのサーヴァントを止められた。

 霊基反応はアサシンらしいが、本当にアサシンなのかっていう程手強かった。

 というか真正面から剣を振り回すアサシンとは……?

 そして本当に何者なのか。

 今はブツブツと何か独り言を言っているが、その横顔は紛れ間なくアルトリア。

 もしやこの特異点の影響か何かで、霊基に何かしらの異変が起きたアーサー王が召喚されたとか……?

 

「……ところでそこのカリバーンに似た剣を持った君」

 

『カリバーンに似てるって、紛れもないカリバーンなんだけどな……』

 

「わ、私ですか?」

 

「えぇ、先程から言いたい事があるので、率直に言います。それでもセイバークラスですか?」

 

「は、はい。未熟者ですが、これでもセイバークラスの末席に身を置かせて頂いてます……」

 

「正直に言うと、今の君ではセイバーに相応しくありません。宝の持ち腐れならぬ、カリバーンの持ち腐れですね」

 

「そ、それは……その通りだと思います———」

 

 エックスとやらの言葉にリリィはしゅんとする。

 

『おいヒロインエックスとやら、いきなり不躾だな。勝手に襲いかかってきておいて、その次には貶しの言葉か? いくらあんたがアルトリアだろうが、そうでなかろうが、俺のマスター(リリィ)の悪口は容認できないな。というか結果的に、自分を貶しているぞ』

 

 柄にもなく感情が振り切ってしまっている。

 多分動揺が抜け切れてないのだろう。

 

「何を馬鹿なことを、私は『アルトリア』などという名ではありません。顔が似てるだけの別人です。そして悪口を言ったつもりは決してありません。あえて現実を突き付け、事態の重大さを知ってもらおうとしたまで」

 

「えっと……ヒロインXさん? ではどういう意図があったのでしょうか? そしてできれば、正体と目的を教えていただけないでしょうか。それが出来なければすぐに帰ってください。私たちは鍛錬で忙しいので」

 

「意外と容赦ないこと言いますねこの盾子……まぁ良いです。改めて私は『ヒロインX』。ここには使命を背負ってきました。そして絶体絶命のピンチに現在進行形で陥っているので、あなた方に協力してもらおうかと」

 

 ヒロインXは平原の向こうを指差す。

 

「あそこに私の故障した宇宙船が墜落してます。あなた方には宇宙船の修理の為、この世界に散らばったパーツと、『アルトリウム』を集めてもらいたいのです」

 

「う、宇宙船!?」

 

「つまりさっきの飛来物はヒロインXさんの宇宙船だったという事ですね。凄いです、宇宙船って実在していたのですね!」

 

『つまり宇宙から来たサーヴァント……? なにそれ怖い』

 

 英雄の座に時間の概念はなく、過去や未来様々な英霊が召喚されると聞いた事はあるが、まさか宇宙のサーヴァントもありとは……

 もしくは、宇宙や宇宙船に関して何か関係があるわりと近代的なサーヴァントなのだろうか。

 それが偶々アルトリアと似た顔だったというだけで……しかしあの強さやカリバーンの名を知っていたことも考慮するとその可能性は———

 ダメだ、考えれば考える程謎が深まる。

 

「その代わりといっては何ですが、その鍛錬とやらを手伝いましょう……特に君をよりセイバーに相応しくするため、この私があなたの師になってあげます。宇宙船が直るまでの間、みっちり鍛えてあげますとも!」

 

「え、ですが……よろしいのですか? 会って間もない、見も知らぬ未熟者の為に師になるなど———」

 

「えぇ、酔狂と思うならそれでも結構。私は単にギブアンドテイクな交換条件を提示したまで。要らないなら私はそれで構いませんが、どうしますか?」

 

「———で、でしたらお願いします! 私はもっともっと強くなって、最高最善の王になりたいのです!」

 

「よろしい! ならば今から私のことはX師匠と呼ぶように!」

 

「はい、X師匠! やりましたよカリバーン! 頼りになる師がまた一人増えました!」

 

『……マスターの師って、もしかして変な輩しか出来ない運命なのか? まぁケイの奴はわりと普通かもしれんが———』

 

 カリバーンの脳裏に映ったのは、ある魔術師の姿。

 見た目とは裏腹に、剣を持てば「柄ではないんだけどね」とかほざきながら、達人もびっくり仰天する程の腕前を見せつけてくる。

 

「先輩、何やら話が進んでしまったようですが、どうしますか?」

 

「うーん……まぁ困ってるみたいだし、助けてあげようか。それに———宇宙船、俺も触ってみたい……!」

 

「ああ! 先輩の目がキラキラしてます!」

 

 

 

 




セイバーウォーズの元ネタの例の映画なんですけど、実はまだ一回も見た事がないという


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花と黄金と弓兵

イメージするのは、常に最強の自分……
来い! セイバーァァァァァァァァァァ(リリィ)!!


 

 

 

 

『———いや絶対おかしいって!』

 

「急にどうしましたか、カリバーン」

 

「急にどうしたのです、カリバーン君」

 

『なんで君付け? というか息ピッタリだな!?』

 

 少し離れた場所で鍛錬をしているマスターとヒロインXが、カリバーンの叫びに応える。

 因みに今は『得物を失った時の為のセイバー忍法』とやらを教わっているらしく、カリバーンは一旦アルトリアの手から離れている。

 ———というか、セイバー忍法って何だ?

 

 まぁそれは兎も角、謎のサーヴァント、ヒロインXの指示のもと、宇宙船のパーツやアルトリウムを探しあちこちを探索したり、時折襲撃してくる獣を撃退したり、自分達と同じくレイシフトしていたサーヴァント達の協力を仰ぎつつ、宇宙船の修理を進めていたカルデア一向。

 カリバーンは感じていた疑問を、ついに我慢できずに吐き出してしまった。

 

『あぁ、パーツは理解できるさ。キカイとかいう絡繰仕掛けのやつだろ? ———だけど、アルトリウムってなに? いやマジで、冗談抜きで何アレ? 見た目がマスターの髪の毛の一部分っぽいのはこの際置いとこう。けど何でそれが地面から生えてたり、獣畜生から生えてたりしてるの? 何でそれが宇宙船の燃料になるんだよ!?』

 

 思わず息継ぎもせずにカリバーンは叫んだ。

 きっとそれだけ混乱しているのだろう。

 

「アルトリウムはアルトリウムですよ。不思議なエネルギー粒子を持っていて、燃料だけでなく様々な技術にも応用できる万能物質。今や銀河中何処にでもある謎の物質でもありますね」

 

『謎の物質って……よく分からないものを燃料にしてるのか?」

 

「まぁ便利ですから。しかしこの星はアルトリウムが豊富ですね。探そうと思えば物欲センサーが邪魔をするかのように見つからず、作ろうとしても必ず失敗するので、こんな天然の埋蔵地は実にレアです」

 

「ですが、確かに不思議な物質ですね。カルデアにも解析を頼みましたが、解析不可能との結果がでました」

 

「うーん、確かに摩訶不思議だけど、気にしてても仕方ないんじゃないかな?」

 

 藤丸立香とマシュは二人で集めてきたパーツの選別をしながらそう言った。

 

『グラマスよ、冷静に考えてみな。これは明らかな『異変』だ』

 

「? どういう事かな、カリバーン」

 

『俺たちは数時間前この微小特異点にレイシフトしてきた。その時、アルトリウムなんて摩訶不思議な物質があったか?』

 

「……確かに、ヒロインXと会ってから急に見かける様になったような……」

 

「偶々私達の居た場所には無かっただけなのではないでしょうか?」

 

『それもおかしいな。あんな嫌でも目に入る物質を見逃すか? それに剣の俺でも分かるぞ、アルトリウムとやらはとてつもない魔力に似た何かを持っている。そんなのがカルデアの計測機に引っかからない訳がない。というか、あんな高密度の魔力物質がこの世界にあるわけない』

 

 つまり、カリバーン達がレイシフトした直後には、アルトリウムなんてものは『存在』していなかったのだ。

 

『———多分なんだが、ヒロインXの宇宙船が飛来してきた瞬間、アルトリウムが発生したんだと思う。一応サーヴァントっぽいから、何かしらの宝具やスキルって線も有るかも知れんが、ヒロインXの存在が世界の『法則』をねじ曲げて、アルトリウムをもたらしたのは確かだ』

 

「えっと……つまり?」

 

『———警戒しておけってことだ、グラマス。まぁ、ヒロインXが根っからの悪党とは思えないが……意図的だろうと、そうでなかろうと、奴が厄介事を誘き寄せる種になるかもしれない。だから気を付けろとまでは言わんが、心の準備はしておくんだな。もしかしたら、その内宇宙の果てにでも連れてかれちまうかもしれんぞ?」

 

「はは……それはそれで少し面白そうだけど———うん、心配してくれてありがとうカリバーン」

 

『礼はいらんさ。マスターに比べたら、グラマスは聞き分けが良くて助かるよ……』

 

 カリバーンは無い筈の頭を痛めながら、かつての記憶に頭を悩ませた。

 

『グラマスやマシュも薄々気付いてるだろうけど、俺のマスターは素直だ。加えて純粋無垢というか、天然というべきか……誰かれ構わず困ってる人を見掛けたら手を差し伸べようとする性格だ。まぁ、お陰で国中を旅していた時は、退屈はしなかったがな』

 

「それはアーサー王が、王になる前に行ったという修行の旅の事ですね。今度聞かせて貰えないでしょうか? アーサー王伝説には具体的な記載がされてなかったので、とても興味があります」

 

『———あぁ、そのうちな』

 

 二人の作業をボンヤリと眺めていたカリバーン。

 そんなとき、宇宙船の外装に立て掛けられていたカリバーンを掴む者が現れた。

 

「お話中失礼します。カリバーンさん、ちょーっとお話よろしいでしょうか?」

 

『んぁ? ……なんだ『玉藻の前』か』

 

「タマモさん、お帰りなさい。パーツ集め、ご苦労様です」

 

 その正体は、カルデアに召喚されたサーヴァントの一人。

 玉藻の前というキャスターのサーヴァント。

 どうやらレイシフトでこの特異点に遊びに来ていたようだったので、こうして宇宙船の修理を手伝ってもらっている最中だ。

 

『俺に何か用か? 人手が欲しいって言うなら、悪いが力にはなれんぞ。何せ自力では動けないからな』

 

「いえいえ、そうではございません。むしろカリバーンさんにしか出来ない事がありましてー。確かあなた、ビーム撃てましたよね?」

 

『まぁ、一応。正確には魔力を塊にして射出してるだけに過ぎんが』

 

「成る程成る程。それで、ビームを出すということは、『熱』を発することもできますよね?」

 

『? 確かに剣身に熱を込めることはできるが……さっきから何の質問だ?』

 

「えぇ、何でもありませんとも。ただ、ほんの少しの間だけ、『工具』になって頂きたいだけですはい」

 

『はぁ……工具?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでアチャ男さん。はい、頼まれていた工具です☆」

 

『どうも、工具です』

 

 玉藻の前がカリバーンを両手で持ち、脚立の上に器用に座り、宇宙船の修理をしている人物に差し出した。

 

「……いや、『工具です☆』ではないのだが。私は溶接具と電源ケーブルをカルデアから持ってくるように君に頼んだ筈だが?」

 

「はい、だからこうして心優しーいタマモちゃんが持ってきたわけです」

 

「私には何処からどう見ても溶接具ではなく、本物の聖剣(カリバーン)に見えるのだが?」

 

「えぇ、本物でございますからねぇ。ちょっと形とか違うかもしれませんけど、溶接ぐらいならこれでも十分かなーって。ぶっちゃけカルデアに戻るのも面倒なんで、セイバーリリィさんにお願いして借りてきた次第です」

 

「———分かった、君に頼んだ私のミスだ。面倒ではあるが、自分で取りに行こう……いや、この際投影した方が速いか? まぁ兎に角、すぐに持ち主に返してきたまえ」

 

 このやけに渋い声を出す人物の正体は、これまたカルデアに召喚されたサーヴァント。

 アーチャーのクラスで、真名は確か……

 

『……何だっけな。「食堂のアーチャー」?』

 

「誰が食堂のアーチャーだ」

 

「うーん、強ち間違いではない気がしますが」

 

 ———あぁ、思い出した。

 確か『エミヤ』だったか。

 

『遠慮しなくていいぞ、エミヤとやら。どうせ暇してたしな。俺は素晴らしい聖剣だからな、バーナーとかハンダゴテの代わりくらい完璧にこなしてみせるさ』

 

「素晴らしい聖剣ならもう少し仕事は選んで欲しいのだが」

 

「もう、アチャ男さん。御本人が……御本剣? 兎に角、良いと言ってるのですから、ここはお言葉に甘えるのが筋ってものでしょう!」

 

「それも一理あるが……しかし君は逆に遠慮というものを覚えた方が良いと、私からも進言しておこう」

 

 ———結果として、押し負けたのはエミヤの方だった。

 

 

 

 

 

「全く……まさかこんな事で、『本物』を手にすることになろうとは……」

 

『何ブツブツ言ってるんだ? ……このくらいで平気か?』

 

「あぁ、それくらいの熱量で充分だ」

 

『はは、実はこの手の作業は手慣れていてな。よくアルトリアとケイの奴が獲ってきた魚を焼いたものだ」

 

「その技術が役立っているのは、今は喜ぶべきだとは理解しているが、もう少し聖剣としてのプライドとかは君にはないのかな?」

 

『そんなもの、あるに決まってる。アルトリアの役に立つ事が、俺の聖剣としてのプライドとやらだ』

 

「では私のようなモノに使われるのではなく、今すぐ君の主人に返却するべきだろうに」

 

『なに、結果的にお前さんに手を貸せば、アルトリアの為になるんでな。それに———何故かは知らんが、俺はお前のこと気に入ってる方だぞ』

 

 エミヤはカリバーンの言葉に目を丸くする。

 

「———これはこれは、かの選定の剣に気に入られるとは実に光栄だ。しかし、君のような『剣』からしたら、私の存在は不愉快なのではないかと思っていた。何せ、私は贋作者(フェイカー)だからな」

 

 贋作者。

 英霊エミヤは、投影によって幻想を形にする。

 しかしそれは所詮脆い幻想。

 限りなく本物に近い、偽物なのだ。

 彼の創り出す幻想は、ほんのひと時の夢でしかない。

 

『あぁ、確かにお前は贋作者だろうさ。けど、他の連中()がどう思っているかは分からないが、俺はお前の在り方を否定はしない———というより、『エミヤ』はそれしか出来ない。道は限りなく続いているが、その道しかお前は歩けない。だからそれを否定したって何の意味はないさ。むしろ、歩き続けるその覚悟に称賛を送るよ』

 

「———フッ、随分と私の事を知っているかのように語るのだな」

 

『あー、何でかね? もしかして昔、どっかで『逢った事』ある?』

 

「いや、『君とは』無い……が。そうだな、君という存在に助けられた事はあるかもしれないな」

 

『そうか、役に立てたようで何よりだ』

 

 それからは、特に会話もなく黙々と作業を続けた。

 

「———じっー……」

 

『お、何だマスター。セイバー忍法とやらは習得出来たのかい?』

 

「セイバー忍法……か。ふむ、あえて追及はしまい」

 

 やがて作業の終わりが見えた頃、宇宙船の影に隠れながら、コチラを窺うかのように見つめるリリィがいた。

 

「……カリバーンと仲が良いんですね、アーチャーさんは」

 

『あれ、もしかしてマスター妬いてる?』

 

 珍しいというべきか、こんなにも不満そうな態度を示すリリィは久しぶりだった。

 やはり温和な性格をしているとはいえ、自分の聖剣を他人に触らせるのは抵抗があったのかもしれない。

 

「———ずるいです。私もアーチャーさんとお話ししたいと常日頃思っていたのに、何故か避けられているので、ずっと機会を伺っていたのに……カリバーンに先を越されてしまいました」

 

『……あぁ、成る程。そっちに妬いてたのか———俺のマスターはそう言ってるが、何か弁明はあるかな?』

 

「別に避けてなどいない、単に私と彼女の間に話すべき話題も必要性も無いと判断したまでだ」

 

『ええー? ほんとにござるかぁ?』

 

「ほんとにござるですか?」

 

「えぇい! 君たち何処でそんな言葉を覚えた!」

 

『ササキって奴に』

 

「ササキさんという方に」

 

「おのれ農民侍め! 大人しく山門でも守っていれば良いものを!」

 

 

 

 

 

「アーチャーさん、行ってしまいました……」

 

『素直じゃないのかね。ところで、あいつに何を話そうとしてたの?』

 

「えぇ、彼の料理にはいつもお世話になっているので、一言でもお礼を言いたくて……」

 

『ふむ、ああいう手前は多分ストレートにいっても無駄だろうな。まぁそのうちグラマスらへんに相談してみれば?』

 

「……そうですね、また今度改めて、お礼をしにいきましょう」

 

 

 

 

 











150連、爆死しました


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花と黄金とヒロインとヒロイン

 

 

 

 

「うーん……ねぇXさん」

 

「はいはいなんですか、マスター君」

 

「この……カプセル? みたいのは何? 退かしちゃって良いの?」

 

「あーそれですか……いえ、そのままそこに置いておいてください。思い出の品なので」

 

 ヒロインXの宇宙船の修理は思っていたよりも順調に進んだ。

 外装の修理は殆ど修理した為、次は内装部に取り掛かることになったのだが———

 こんな小さな宇宙船の何処に入っていたのか、大量のガラクタが落下の衝撃で滅茶苦茶になっていたので、先ずは掃除から始める事にしたのだ。

 その過程で、藤丸立香は他のガラクタとは少し違う、人が一人入れるくらいの大きなカプセル状の物体を発見した。

 

「思い出の品……凄く大事なもの?」

 

「いえ、そこまででは……所詮は旧型のアダム・カドモンですから」

 

「あだ……? えっと、つまりどういう事?」

 

「一言で言えば、霊基強化装置……ですかね。アルトリウムを一定量入れれば、登録された霊基情報をもとに霊基を複製。それを使って強化をする装置です」

 

「霊基……強化!?」

 

 藤丸立香の脳裏には、このカプセル装置を利用したサーヴァント強化計画が浮かび上がっていた。

 霊基というものが、サーヴァントと深く関係がある事は既に知っている。

 その霊基を強化する装置……つまりサーヴァントを強くする事ができるのではないだろうか。

 

「……何やら企み顔ですね、マスター君。ですが、残念な事にこれは旧型なので、登録された私の霊基情報しか複製できないですよ? 上書きも無理です」

 

「うっ……そうだよね。そんな簡単にサーヴァントのみんなを強く出来るわけないよね……」

 

 人生楽じゃなし。

 藤丸立香は諦めて掃除を再開した。

 すると近くで話を聞いていたであろう、リリィとカリバーンが言った。

 

「……はっ、X師匠と似ている私ならもしかして———」

 

『頼むからやめてくれアルトリア。あんな得体の知れないものをお前に使わせたくない……というか何で自分の霊基を登録したの? 複製を沢山作ってヒロインX軍団とか結成したかったのか?』

 

「そんな事するわけ……ありません。えぇ、これは単にカリバーンの———あぁ、カリバーン君の事ではなく、私の相棒の方のカリバーンです。剣に宿っていた彼は常日頃人型の肉体を欲していたので、この装置を使い、私の霊基を複製した肉体をプレゼントしました」

 

『……色々と聞きたい事だらけだけど———なぁヒロインX、あんたのその相棒、俺と同じ名前みたいだが……口振りからするにそいつも剣だったのか?』

 

「はい、剣でした。彼とは偶々立ち寄った古代の遺跡で出逢いましたが、これ見よがしに引き抜いてと言わんばかりに台座に封印されていたので、何となく手に取ったらアッサリと抜けちゃいまして。それから暫くの間共に過ごして、何だかんだ仲良くなりました」

 

「わぁ……素敵なお話しですね」

 

『え』

 

 カリバーンは思った。

 今の話の何処に感動すれば良かったのか。

 偶にマスターの天然っぷりには度肝を抜かれると。

 

「そうです、カリバーンもこれを使えば人型になれるのでは———」

 

『嫌だ、ありえない———待って、待ってマスター! カプセルに押し込めようとしないで! ら、らめぇぇぇぇぇぇ!』

 

 

 

 

「そういえば、X師匠の相棒のカリバーンさんは、今はどうしているのですか?」

 

『自分の事じゃないと分かっていても、マスターから「さん」付けされると何か……ムズムズするな』

 

 何とかカプセル行きは免れたカリバーン。

 そしてリリィの疑問は、この場の全員が同じ事を思っていた。

 

「カリバーンですか? 彼は昔から夢見ていた『自由な人生』というものを満喫しているそうですよ———えっと、確かこの辺に」

 

 ヒロインXはガラクタの山々を雑に退かし、そこから板状の妙な物を取り出した。

 形は、カルデアにもある、現代の技術の結晶———『タブレット端末』というものに似ていた。

 それを指で操作し始め、何かの画面が映った状態でカルデア一向に見せた。

 

「これは———」

 

「…………『花の黄金騎士、エピソード3製作決定! 監督は引き続き、ピンク☆バニー監督が務める。気になる主演は———』」

 

「あ、見てください。主演の欄に『カリバーン』という表記があります」

 

『それと写真も……なにこれ、可愛いドレス着たマスター(アルトリア)が写ってるぞ』

 

「それがカリバーンです」

 

『———何て?』

 

「そのドレスを着た可愛い私が、カリバーンです。彼は今や、銀河中に大絶賛された映画のヒロイン役に抜擢される程の人気俳優をやっています。最近は仕事が忙しいみたいで中々会えませんが」

 

 ———いや、まぁマスターに似ているのは分かる。

 話からするに、マスターにそっくりのヒロインXの霊基を複製した肉体を使っているみたいだから、それはマスターに似ていて当然だ。

 そして最初にリリィが襲われた理由もこれで判明した。

 だが……

 

『何で俳優? というかヒロイン役って、何故? 俺はどっちかというと、主人を命がけで守る騎士とかの方が良いんだが』

 

「さぁ? カリバーン曰く成り行きとかいってましたが———というか、カリバーン君はカリバーンではないでしょう。ここで文句を言っても意味ないですよ」

 

『そ、そうだけど……ぐぬぅ、何か他人事じゃない気がしてモヤモヤする』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くちゅん!」

 

「はい、カットカット! ちょっとダメじゃないですかぁ。今物語の一番のカナメとも言える場面撮ってるんですからー」

 

「す、すいません監督……何か急に———」

 

「まぁいいです。キリも良いのでここいらで休憩にしましょう☆。各自水分補給は忘れずに。この調子で素晴らしい映画を皆で作り上げましょう!」

 

「……ところで、本当にロケットを月に突き刺すシーンが重要なんですか?」

 

「はっはっは、もちのろんですよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、ヒロインX。そろそろ宇宙船の修理が完了するわけだが……』

 

「そのようですね、あなた方には感謝してもしきれません。特に謝礼が出来るわけではないのですが———ふむ、代わりにリリィや修理を手伝ってくれたあの赤セイバーとかは特別に見逃してあげましょう。ぶっちゃけ私とそんなにキャラ似てないし———あ、あとネームレス・レッドにもお礼を言っておいて下さい」

 

『ネームレス・レッドって誰……この際だから聞くが、何故そんなにセイバーを敵視してるんだ? というより、あんたの『使命』とやらを聞かせてはくれないか?』

 

「そういえば以前、Xさんは使命を背負って来たと……もしかして、セイバークラスの方達を敵視しているのに関係があるのですか?」

 

 カリバーンとマシュがヒロインXに問う。

 

「む……まぁあなた達には話しても大丈夫でしょう。実は私は———未来からきました」

 

 ヒロインXの言葉に誰もが驚愕した。

 

「み、未来から!?」

 

「た、確かに『座』と呼ばれる場所には時間の概念がなく、過去や未来全ての可能性を秘めているとは聞いた事がありますが……」

 

『成る程、未来の英霊か……その可能性もサーヴァントにとってはあり得るのか』

 

「X師匠は宇宙人で未来人だったのですね、凄いです!」

 

「あれ、私なんか褒め千切られてる? 未来人というだけで好印象を得られるなんて、それなんてフィクション? ま、まぁそういう事です。私の使命とはつまり、過去にタイムジャンプし、セイバークラスの数を減らす事です」

 

『それだ、何故セイバークラスを?』

 

「実は未来ではセイバークラスによって、ある悲劇が起き始めているのです———」

 

 そしてヒロインXは深刻な顔つきで話し始めた———

 セイバークラスの増加によるインフレーション。

 ランサークラスは虐げられ、アーチャークラスが肩で風を切る。

 それに伴い勢力バランスが崩れ始め、ヴィラン側に傾き始める。

 全ては増えすぎたセイバークラスによって引き起こされた事なのだ……と。

 

「———というわけなのです……あれ、ちゃんと私の話聞いてますか?」

 

「あー……うん。聞いてる、聞いてるよ」

 

『なぁ、誰か理解できたやつは?』

 

「すいません……私もよく分からなかったです……」

 

 未来という未知の世界の事柄を理解するのは、現代人には不可能なのかもしれない。

 

「———あの、つまりX師匠は世界の均衡を保つ為に、お一人で過去に行って、セイバークラスを予め減らす事で未来を救おう……という事ですか?」

 

「まぁ概ねその通りですね」

 

「では、宇宙船が直ったら、X師匠はセイバークラスの方達を———私も……倒すのですか?」

 

「え———。あー、そのー……さっきも言いましたが、リリィは特別に見逃しても良いかなーって思ってまして。セイバークラスを掃討するとはいえ、全員倒したらセイバーそのものが消えますし……」

 

 ヒロインXはリリィの真剣な眼差しから、目を逸らしながらそう言った。

 

「……私は未熟者です。X師匠の行いが正しいものなのか、正直よくわかりません。ですが、私はX師匠は本当はそんな人じゃないと思います———もし別の方法があるのなら、今からでも一緒に探してみませんか?」

 

「え、でも亡き者にした方が楽だし手っ取り早い……うっ、そんな目で見ないでください。何か悪い事してるヴィランの気分になります」

 

「X師匠! あなたは優しい人です! きっと私達なら、平和な解決法を見つけられます! だから……!」

 

「なんか急にグイグイ来るようになりましたね……あの、カリバーン君。ちょっと助けてくれません?」

 

『諦めるんだな。俺のマスターは、頭の硬いケイが諦めるほどの頑固者だ。こうなったら、大人しく従った方が楽だぞ? それに、案外マスターの『直感』はよく当たるんだ。本当に別の良い方法が見つかるかもしれんぞ』

 

 リリィはヒロインXの手を握り、真剣な眼差しで見つめ続ける。

 それが数分ほど続き、ついにヒロインXが折れた。

 

「……分かりました、一旦セイバークラス抹殺計画は中止にします。ただし、別の方法とやらが皆目検討も付かないと判断したら、その時は当初の計画通りします。それで良いですか?」

 

「……はい! ありがとうございます、X師匠!」

 

 リリィはぶんぶんとヒロインXの腕を掴んだまま上下に激しく揺らす。

 余程嬉しかったのだろう。

 その光景に誰もが微笑ましさを感じ、何故か涙腺が緩む。

 いわゆる、イイハナシダナーというやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———なんて、鯛焼きの餡より甘い展開、神が許しても私が許しません! ここでくたばれ! ヒロインX!」

 

「が……っ!?」

 

 ———紅い、赤い、あかい液体が飛び散る。

 ヒロインXの背中に突如斬撃が入れられ、彼女の肉体から飛び散る。

 

「…………え?」

 

『———アルトリア!』

 

 カリバーンは一瞬だけリリィの身体を使い、呆けてしまっている主人の代わりに二回目の斬撃を防いだ。

 これは紛れもない、襲撃者による攻撃だ。

 

「チッ……仕留め損ないましたか」

 

 襲撃者はリリィ達から距離を取った。

 そして得物を構え直し、いつでも飛び掛かれる態勢を取る。

 

『———何者だお前。何故、Xを斬った?』

 

 カリバーンは全身にローブを纏い、フードで顔が隠れている襲撃者に問う。

 しかし襲撃者は沈黙する。

 そして、その際にチラリとヒロインXの状態を確認した。

 ……息はあるようだが、意識は薄れているようだ。

 背中の傷も浅くはないが、深くもない。

 既にグラマスとマシュが駆け寄り、手当てを始めている為、命に別状は無いだろう。

 

「X師匠……」

 

『マスター、悪いが今は目の前の敵に集中してくれ』

 

「くっ……! あなたは……何者ですか!?」

 

 カリバーンの時は沈黙で応えたというのに、リリィが問うた瞬間、襲撃者は高らかに笑いだした。

 そして、フード付きのローブを一瞬で脱ぎ去り、その正体を明らかにした———!

 

「———私は『ヒロインZ』! セイバーを倒す者を討ち倒す真のヒロイン。そして最強のセイバーだ!」

 

 

 

 

 




今回のイベントガチャで、マーリンを召喚してそのままリリィも召喚するんだ……きっと二人同時ならきてくれるんだ……


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花と黄金とヒロイン③

2話連続投稿なので、前話を見るのをお忘れなく


 

 

 

 

 

『ヒロイン……Zだと?』

 

「X師匠と同じ顔……あ、私もですね」

 

「ぐっ……私の、パチモン———?」

 

「Xさん! まだ動いてはダメです!」

 

 謎の襲撃者の正体。

 それは全体的に白っぽくなったヒロインX———否、ヒロインZだった。

 

「私はパチモンなどではありません。私はヒロインZ……即ち最後のヒロイン! そしてヒロインX! 貴様を含めたセイバーを全て抹殺する真のセイバーだ!」

 

『……もう、訳がわからん』

 

 カリバーンはこれ以上考えるのをやめた。

 考えるだけ無駄な気がしたからだ。

 

「……ヒロインZさん。何故X師匠を?」

 

「愚問ですね、未熟者のリリィとやら。私はそこの、よりにもよってセイバーと和解しようとした愚か者を成敗しただけ。まぁいずれ倒す相手ではありましたが、セイバー抹殺計画に少しは役立つかと思い、あえて泳がせていましたが……まさかこんな腑抜けとは」

 

「……師匠は腑抜けなんかではありません」

 

「では卑怯者ですかね。何故Xがあなた達に、リリィに宇宙船の修理をさせたのか分かりますか? 単純に御し易く、利用し易いと内心でほくそ笑んでいたからですよ。何故言い切れるのかって? だって私もそう思うから!」

 

「っ……それ、は」

 

「Xさん! 今は喋らないでください!」

 

「……そこの私のパチモンの言う通りです。私は、あなた達を利用しただけ……ですが、謝ったりは、しません。どうぞ、好きなように、罵声でも何でも———」

 

「X師匠……!?」

 

「……大丈夫、気を失っただけみたいです」

 

「フッ……これで分かったでしょう。ヒロインXは貴女の師匠ではない。理解出来たのなら、ヒロインXに報復をしなさい。具体的に言うとトドメを刺すのです。まぁ、その後に私があなた達を抹殺するのですが」

 

 ヒロインZが剣を構える。

 ヒロインXと姿形こそは似ているが、彼女に比べて、何というか……遊び心が無いというか、冷酷というべきか。

 何処となくヒロインXのような感じはするが、それ以上に容赦がない。

 恐らくだが、腕前も相当なものだろう。

 今のこの面子で勝てるかどうか———

 

「X師匠は———師匠は、紛れもない私の師匠です」

 

 リリィは気絶したヒロインXを慰るような眼差しを向けながら、そう言った。

 

「ほう、何故そう思うのです? 貴女を騙した卑怯者ですよ?」

 

「———いいえ、違います。私は師匠に騙されたなどと、微塵も『思っていません』。だから、師匠は卑怯者でも嘘付きでもありません」

 

『アルトリア……』

 

「リリィ……」

 

「師匠は、師匠は未熟者の私の為に、真剣に向き合ってくれました。鍛錬の時も真面目に指導してくれました。最高最善の王になるという私の夢を、笑いませんでした———アーサー王の行く末はもう決まっていて、それを覆す事はできないというのに、師匠はそれでも……私と向き合ってくれました」

 

 リリィはカリバーンを、王を選定する剣を、改めて構えた。

 

「だから、私はX師匠を死なせたくない。まだ教えて欲しい事が沢山あります! それを邪魔するというのなら、誰であろうと容赦はしません———カリバーン!!」

 

『あぁ、了解だマスター! とっくに準備は完了してる! いつでもいけるぞ!』

 

「———この聖剣は愛する()を守る剣。そしてその守り手を、担い手を選定する聖なる剣! さぁ、剣を構えろヒロインZッ! この『アルトリア・ペンドラゴン』が貴様に引導を渡してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤丸立香は思い出していた。

 最初の特異点で敵として立ち塞がった、とある王の英雄を。

 初めての強敵だったという事もあって、今まで旅した特異点の中でも特に、鮮明に、強烈に藤丸立香の脳裏に刻まれたその姿、声、在り方———

 恐ろしくもあったし、憧れもした。

 嗚呼、英雄は凄い存在なんだと、思い知らされた。

 

 だから彼女が、リリィが召喚された時は本当に驚いた。

 同じ存在らしいのに、余りにも『違ったから』

 だから、正直『アーサー王』と『リリィ』は別人だと、心のどこかで思い込んでいた。

 ……けど、それは間違いだったんだ。

 

「———王を選びし剣よ。邪を退け、聖なる力をここに示せ」

 

『———剣を担いし主よ。道を照し、王たる証をここに示せ』

 

 この肌にピリピリと伝わる感覚。

 思わず鳥肌が立ち、自然と震えてくるこの感触を、自分は知っている。

 

「せ、先輩! リリィさんとカリバーンさんに、とんでもない量の魔力が収束しています!」

 

「ぐっ……伝わる覇気はとても良いものですが、所詮はビームを撃つしかできない剣の筈! 当たらなければどうという事はありません!」

 

 ———嗚呼、そうだ。

 自分は知っている。

 この感触を。

 そして、間違いだった。

 

「私は愛する者を守る為に剣を振るおう」

 

『———承認』

 

 紛れもない事実だ。

 リリィは、紛れもなく———

 

『魔力の供給、最大値に到達』

 

「聖剣———解放」

 

 『アーサー王』だったんだ。

 

 

 

 

 

 

「『勝利を捧げる選定の剣(カリバーン)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……もう食べられません———はっ! ここは何処? 私はヒロイン!?」

 

「あっ……皆さん! Xさんが目を覚ましました!」

 

 目を覚ますと、マシュの顔が一番に視界に入った。

 

「盾子……いえ、マシュさん。あの、何で私は貴女に膝枕をされて? ヒロインがヒロインに膝枕されるって誰得なんです?」

 

「———X師匠!」

 

「おっふ……!」

 

 起き上がる前に、リリィが全体重を乗せてのしかかって来た。

 重……くはないが、少し苦しい。

 

「良かった……本当に良かったです」

 

「リリィ……」

 

 そこで、やっと思い出した。

 

「……はっ、私のパチモンは!? 不意打ちとかいうセイバーにあるまじき姑息な手を使ったパチモンは!? あ、私はセイバーでありアサシンでもあるのでセーフです」

 

『何を訳の分からん事を……ヒロインZとやらは俺とマスターが何とかしたよ』

 

「……リリィが、私のパチモンを?」

 

『まぁ、仕留め損なったがな。宝具を直撃はさせたが、逃げられちまった。何処に逃げたから知らんが、霊気反応は完全に消失(ロスト)してるから、少なくともこの辺にはもう居ない筈だ』

 

「はい、リリィさんの宝具は凄かったです」

 

「———うん、もの凄かった。何かカリバーンが光を纏ったと思ったら、巨大な大剣みたいに……」

 

『ふふ、驚いたか? 実はマスターの宝具()はちと特殊でな。ある条件を満たせば、普段より強力な宝具攻撃ができるんだ。まぁ張り切りすぎてちょっと地形を抉ってしまったが……特異点だし平気だろ———それより、少し疲れたから少し休むわ。何かあったら起こしてくれ』

 

 カリバーン君はそれを最後に、ぷつりと黙り込んでしまった。

 

「…………その、リリィ」

 

「何も、言わなくて大丈夫です」

 

「ですが……」

 

「X師匠は私達を利用しようとした、そして私達はそれを敢えて受け入れた……それで良いと思います。それより、他にやるべき事があります」

 

「や、やるべき事ですか? それは一体……?」

 

「———はい! まだ鍛錬は終わっていませんから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、色々とお世話になりました。私は未来に帰ります。そして、過去を変えるなんて楽をせずに、キッチリと自分の時代でケリをつけることにします」

 

「まだ理解しきれてないけど……うん。それが良いと思うよ、多分」

 

 謎のサーヴァント、ヒロインXの宇宙船の修理は終わり、ヒロインXとの別れの時間が訪れた。

 

「X師匠……お元気で」

 

「リリィ……貴女も元気で」

 

 ヒロインXは宇宙船に乗り込む。

 そして宇宙船のエンジンが稼働を始めた。

 

「…………」

 

「先輩……リリィさんがその、名残惜しそうな顔を……」

 

「うん、お別れ会くらい出来たら良かったんだけどね……」

 

 先程、カルデアから連絡があった。

 もうすぐでこの微小特異点は消滅してしまうとのことで、カルデア一行は帰還しなくてはならなくなった。

 ヒロインXも宇宙船が直り、未来へ帰る理由が出来た今、別れの時が来るのは時間の問題だった。

 

「———リリィ!」

 

 すると、宇宙船からアナウンスのような声で、ヒロインXがリリィの名を呼んだ。

 

「『また』逢いましょう!」

 

 そして、その一言と共に、宇宙船は空へ、宙へと上がる。

 

「———はい! 必ず! 次に逢う時までに、もっと強くなっておきます!」

 

 リリィは叫ぶ。

 宇宙船が雲の向こうへと消えるまで、リリィは叫び続けた。

 

 

 

 

 

「ところで、結局Xさんは何者だったのでしょう……」

 

「多分、深く考えたらダメな気がするよ、マシュ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……」

 

 ヒロインXはタイムジャンプを終えた宇宙船の操縦席で、息を吐いた。

 緊張が解けたのか、あまり凝らない筈の肩が重くなった気がする。

 

「……なんか、夢でも見ていたような気分ですね」

 

 ヒロインXはリリィ達との思い出に浸る。

 使命は果たせなかったが、結構楽しめた。

 やはり思いきって過去に飛んだのは良かったかもしれない。

 

「———さて、この後どうしますか。ケリをつけるとかその場のノリで言ってしまいましたが、具体的な案は出ていな……うん? 通信?」

 

 モニターに通信を受信したという知らせが表示された。

 

「これは……ドゥ・スタリオン初号機から?」

 

 通信はヒロインXのお古の宇宙船からだった。

 つまり通信相手は、初号機を譲った私の———

 

『———あ、やっと繋がった! ご主人、今何処だ!? というか何をしてた!?』

 

 モニターに映し出されたのは、やはり私の『相棒』だった。

 まぁ姿形は私にソックリなのだが。

 

「『カリバーン』、久しぶりですね……何ですその格好? 随分と大胆なドレスというか」

 

『こ、これは映画の衣装で、着替える時間が無かったというか……それより、今銀河中が大騒ぎを起こしてるんだが、ご主人。正直に話してくれ……今度は何をやらかした?』

 

「ちょっと、私は何もしてませんよ! 何ですぐに私を疑うんですか? 証拠もなしに……というか、大騒ぎって、何が起こってるんですか?」

 

『色んな惑星で、ヒロインZとか名乗る連中が大量発生して、暴れ回ってる。明らかにご主人関係だと、俺は思うが……』

 

「———私のパチモンが!? しかも沢山って、まさか一人じゃなく、増殖系だったとは!」

 

『やっぱり何か知ってるなご主人。とりあえず円卓の連中とも合流したいから、今すぐ来てくれ———久しぶりに、一緒に暴れようぜ』

 

「……えぇ、不完全燃焼気味だったのでちょうど良いです。私達の戦いは、ここからです!」

 

『それは言ったら全部終わるやつでは……?』

 

 

 

 

 




セイバーウォーズこれにて終了です


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六章 Last battle
獅子王と忠節の騎士


アンケートにご協力ありがとうございました。
取り敢えず執筆はしたものの、正直言って満足に書ききる事が出来ませんでした……
何か元のストーリーが良すぎて、そこに二次創作要素を私が入れようとすると、何もかも蛇足になってる気がしてしまう……


 

 

 

 

『————。』

 

 声が、する。

 

『————? ———。』

 

 懐かしい、声だ。

 

『———……! ———。』

 

 多分、この声は私に向けられている。

 そして私は、その声に応じている。

 

 今日の天気はどうだ、今日の朝食は何だろうか。

 調子はどうだ、これからどうするか。

 今日はこんな事があった。

 明日はこんな事をしよう。

 そんな、何の変哲も無い日常的な会話。

 それがどうしようもなく、『心地良い』。

 

 ———だけど、私はその声を『知らない』。

 懐かしいと思えるのに、どうしてもその声が誰のものだったのか、分からない。

 

『——————』

 

 わからない、わからない。

 けれども、わたしはおもいださなくちゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負傷者は直ぐに治療を受けろ! 霊基に損傷は受けてる者はいないか!?」

 

 カルデアのサーヴァント達が集う、出撃待機部屋。

 そこには数多くの英霊達が、慌しく動き回っていた。

 

「よし、次は私が出よう。汝は休んでおけ」

 

「悪いね、どうにも鎧をしてる連中には僕の銃弾が通り難くて……後は君の矢に賭けるとしよう」

 

「任せておけ。それと、銃というものはよく分からないが、早撃ちというものは見事だった」

 

「やれやれ、まさか神話の狩人様に褒められる日がくるなんてね」

 

 現在、カルデアは第六特異点を攻略中だ。

 集ったサーヴァント達は、バックアップに回る者もいれば、マスターである藤丸立香の指揮のもと、戦場へと赴く者もいる。

 そんな中でアルトリアとカリバーンは、今回は全体的なサポートに徹していた。

 

「ふー……ったく。サーヴァントってのも楽じゃないねぇ」

 

「大丈夫ですか、『ロビンフッド』さん。今傷を治します———カリバーン」

 

『あいよ———本当はマスター以外の傷なんか治したくないけど、是非もなしってやつか』

 

 聖剣カリバーンには、持ち主を不老にする力に加えて、治癒能力も備えている。

 治癒能力に限ってだが、それは持ち主だけでなく他者も癒せる為、今回はその力をフル活用して傷付いたサーヴァント達をサポートしていた。

 

「悪いね、オタクらも本当は現地に行きたいんだろ?」

 

「……いえ、私達は今回はカルデアで待機していた方が良いでしょう」

 

『…………まぁ、行っても問題はないだろう。けれど、相性の問題だな。余計な波乱を起こしかねないし、お互い「逢わない」のが一番だろうさ』

 

 第六特異点。

 その舞台はエルサレム王国が地上から姿を消した時代。

 かの聖地にその面影はなく、代わりに聳え立っていたのは、白亜の宮殿だった。

 そして宮殿の主人、即ち今回の特異点における最大の障壁。

 それは———

 

「———『獅子王』、でしたか」

 

『あぁ……マスターがいずれ成る『アーサー王』の行く末———いや、正確には可能性の一つか? 確かロンドンでも似たような輩が現れたらしいが』

 

「因果なもんだねぇ。これでアーサー王は三度もカルデアの前に立ち塞がったってわけだ」

 

 特異点F。

 第四特異点。

 そして今回の特異点。

 全てがアーサー王から歪に変異した様子だったが、確かにどれも元は同じだ。

 厳密には違う存在とはいえ、アルトリアは少し心苦しさを感じてしまった。

 

「……あー、変な言い方しちまったかな? なんていうか、あまり気にしない方が良いと思うぜ? オタクの責任ってわけでもないでしょ」

 

「そう……ですね」

 

「それよか、何か弱点とか知らないわけ? あの粛清騎士とかいう連中、妙に硬いわサーヴァント並の強さで、足止めするのも精一杯なんよ」

 

「いえ……私はアーサー王としての記憶はありませんし、あの騎士達を従えていたわけでもありませんので」

 

 現在、藤丸立香とマシュ、それにダ・ヴィンチ。

 更には、アーサー王に仕えた最高峰の騎士達。

 『円卓の騎士』の一人である、サー・ベディヴィエールが獅子王を打倒すべく、宮殿の中を進み続けている。

 カルデアの英霊達は、そんな彼らの邪魔をさせない為、獅子王の配下である騎士達を、現地の協力者達の力を借りつつ足止めしている状況だ。

 

『……ベディヴィエール、か』

 

「カリバーン? もしや円卓の騎士達の記憶が? 私は彼等のことを全く知らないので……」

 

『……いや、曖昧だな。そういえばそんな連中居たような、居ないような』

 

「もう、真面目に答えてください!」

 

『大真面目だよ、アルトリア。なに、ちょっとあいつの『右腕』が気になっただけさ』

 

 マスターである藤丸立香を介して、その行動や見ている景色、情報は全てモニターを通してカルデアに伝わっている。

 故に、カリバーンはベディヴィエールの銀の右腕に妙な違和感を感じていた。

 しかしそれが何であるか、よく分からないのだ。

 

 そんな時だった。

 モニターを見ていたサーヴァント達に、どよめきが走った。

 それに釣られて、カリバーン等含めた、モニターから視線を外していた者達も、モニターに視線を移す。

 どうやら藤丸立香が、最終目的地に到着したようだった。

 

「……あれが、獅子王」

 

『———あぁ、くそ。確かにあれは、紛れも無くアルトリア(マスター)だ』

 

 モニター越しでも、その威圧と神秘さが伝わってくる。

 もはやあれは、人外の域だ。

 だが、その美しい金の髪に、少女らしい面影を残すその顔付きは、紛れも無いアルトリアだった。

 

『……何でだ』

 

「カリバーン……?」

 

『マスター……何でそんなんになってまで、お前は———』

 

 アルトリアは察した。

 今のカリバーンの言葉は、自分に向けられたものではないと。

 では誰に?

 それはきっと、モニターの向こうにいる獅子王()にだろう———

 

「うぉ! 映像が途切れちまったぞ!?」

 

「お、おそらく獅子王の魔力の波がこちらにまで影響を届かせたのかと思います」

 

「バケモンかよ! マスター達は大丈夫なのか!?」

 

「落ち着きなさい、パスはちゃんと繋がってる。だから、いつマスターに呼ばれても良いように、各自準備を整えておきなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベディヴィエール……?」

 

 獅子王との戦いは熾烈を極めた———いや、言葉では語れない程、壮絶だった。

 現に今も、獅子王の聖槍の一撃を、マシュが今回の旅で得た、幻想の白亜の城(宝具)が懸命に防いでいてくれた。

 それを一緒に支えようと、駆け寄ろうとした瞬間、ベディヴィエールに止められた。

 

「お気持ちは分かります、立香。しかしあの聖槍は人の身ではとても耐えられません。どうかここで待機を」

 

 そう言って、ベディヴィエールはゆっくりとマシュの元へ歩いて行った。

 何でだろう、今彼を止めなければ、いけない気がするのに、それを邪魔をしてはいけないと感じる。

 

「ベディヴィエール卿……? ……待った、待ちなさい。キミのその体は———」

 

 ダ・ヴィンチが自分の代わりに言った。

 しかし彼は止まらない。

 

「どうか力まないで、『サー・キリエライト』。貴女の盾は決して崩れない、貴女の心が乱れぬ限り」

 

「ベディヴィエール、さん……? あ……こ、こうですか?」

 

「そうです、たいへん筋がよろしい。どうかお忘れなきよう———白亜の城は持ち主の心によって変化する。その心に一点の迷いもなければ、正門は決して崩れる事はありません」

 

 ベディヴィエールがマシュに語り掛ける。

 それだけで、マシュの()はより強固になった。

 

「……何者だ? 見たところ、貴様も騎士のようだが———」

 

 ここで初めて、獅子王が彼に注目した。

 

「っ……知らない筈がありません! この方は『ベディヴィエール卿』! 円卓の騎士です!」

 

 マシュが微かな怒りを感じているのか、何時もより迫力のある声で獅子王に言った。

 

「———何を、言っている……そのような名前の騎士を私は知らない———」

 

 獅子王が困惑している。

 その表情は、何かを取り戻そうとしているが、阻まれてしまっているような、様子だった。

 

「……そうでしょうとも。ですが、『これ』を見ればその記憶も晴れましょう」

 

 ベディヴィエールが、銀の右腕を掲げる———

 

「『剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)』。今こそ、裁きの光を切り裂きたまえ……」

 

 彼の右腕から発せられた光によって、何と獅子王の聖槍の一撃を消し去った。

 

「っ……? 今の光、俺は何処かで……」

 

 その時、違和感を感じた。

 デジャヴのような、違和感を。

 しかし戦いの緊張で、記憶が上手く作動しない。

 あの光を、自分は知っている筈なのに、思い出せない……

 

「———今の、輝きは———知っている……それを、私は知っている……」

 

 獅子王が自分と似たような感覚を口に出す。

 自分だけではなく、獅子王にも覚えがある光、その輝き……

 何となく答えは出ているのに、どうしても言語化できない。

 

「貴様、何者だ。私は何故……ぐっ!」

 

 獅子王が片手で頭を抱える。

 

「立香、ここまで来られたのは貴方のおかげです」

 

 ———いつの間にか隣に居た彼が、そう語り掛ける。

 そして、隠し事をしていたと謝罪もされた。

 それはまるで、最後のお別れを告げているようだった。

 

「———ベディヴィエール? その、体は……何で、どうして、崩れて———」

 

 そこで気が付いた。

 彼の体が、土塊のように、文字通り崩壊している事に。

 

『嘘だろ、どうなってるんだ。どうして今までこんな誤作動をしていたんだ……!?』

 

 ここで、今まで通信が途絶えていたドクターの声がした。

 

『藤丸君! そこにいるベディヴィエール卿は『本物』かい!?』

 

「ドクター……何を———」

 

「観測結果が異常なんだ! 霊基反応が『全く無い』! 魔術回路も人間なみ……というか、これは、これは『ただの人間』だ! 藤丸君と同じ、人間なんだ! 彼はサーヴァントなんかじゃない!」

 

「えっ———」

 

 ベディヴィエールが、人間?

 でも、彼は……彼は。

 

「嘘……だよね、ベディヴィエール」

 

「いえ、ドクターの解析は正しい。私はサーヴァントではありませんから……『マーリン』の魔術で皆さんを騙していたのです。このアガートラムも同じ。これは……」

 

 ベディヴィエールの右腕が輝く。

 すると、彼の銀の右腕は何処かへ消え去り、彼の左手には———

 

「……『エクスカリバー』。その腕は、その『剣』は、聖剣エクスカリバーだ」

 

 ダ・ヴィンチが確信を待って答えを出した。

 エクスカリバー……特異点Fでその聖剣を見た。

 けれど、さっきの輝きは……もっと違う何かだと、思う———

 

「———エクスカリバー……ベディヴィエール。その名前は、確か———」

 

 獅子王は痛む頭を抑えるかのように、その表情を曇らせた。

 

「……まさか、貴卿は———」

 

「……そう、私は王を失いたくないという思いで、あまりにも愚かな罪を犯しました」

 

 ベディヴィエールは贖罪するかのように、語り出した。

 

「あの時、あの森で私は貴方の命に躊躇った。この聖剣を湖に返しては、貴方は本当に死んでしまう。それが怖くて、私は『三度目』ですら、聖剣の返還が出来なかった」

 

 アーサー王伝説。

 アーサー王の物語の結末。

 自分が知っているその内容と、彼の言っている事は一部違っていた。

 彼は、サー・ベディヴィエールは、三度目でやっと聖剣を湖に返した筈なのだ。

 

「そうして森に戻った時、王の姿は消えていた……その後に知ったのです。聖剣を返還したかった事で、王は死ぬ事さえできなくなった。王は手元に残った聖槍を携え、彷徨える亡霊になってしまったと」

 

 ……そして彼は、その罪を償おうと、かの王の亡霊を探し続けたのだと、語った。

 それが本当だとしたら、彼は———

 

『馬鹿な、それが本当だとしたら1500年間だぞ!? 1500年近く、アーサー王を探し続けたというのか!? あり得ない、人間がそんなに生き続けられるわけが……あぁ、確かにエクスカリバーには不老の力はある。だけどそれはあくまで肉体だけの話だ! 精神は違う!』

 

 そんな気の遠くなるような旅を、彼はひとりで、続けた。

 きっと、想像すらできないくらい、辛いものだったのではないか……

 

『そんな、惨い話があってたまるものか……』

 

「ありがとう、ドクター・ロマン。ですが、それほど辛いものではありませんでしたよ。それに……こうして最後の『機会』を、立香……貴方のおかげで与えられました」

 

「ベディヴィエール……!」

 

 彼がこれから何をするか、何となく分かる。

 その『結末』も。

 

「……思い出せない。ベディヴィエールという名前は分かる。だが、貴卿との記憶が何一つ———貴卿は本当にベディヴィエール卿なのか?」

 

「えぇ、私は紛れ間なく、ベディヴィエールです」

 

「……いいだろう、ならば私の元に戻れ。その剣を……捨てよ。それは、私には不要のものだ。我が騎士ならば、我が声に従え。我が円卓に戻れ、ベディヴィエール!」

 

 獅子王はベディヴィエールと、彼の左手に収まった聖剣から目を離さず言った。

 

「いいえ、それは叶いません。獅子王、聖槍の化身よ。貴方は私に復讐しなくてはいけない、討つべき敵です。そして、私には貴方を止める義務がある! 獅子王ではなく、『騎士王』の円卓、その一員として貴方に告げる!」

 

 ベディヴィエールの持つ聖剣が、再び輝き、彼の右腕となった。

 

「私は円卓の騎士、ベディヴィエール! 善なる者として、悪である貴方を討つ者だ!」

 

「違う……何を言うベディヴィエール。貴卿は私の……私だったものの———」

 

「さぁ、立香。『最後の指示(Final order)』を。どうか私に、四度目の機会をお与えください」

 

 ……歯を食いしばって、文句だけを押し留める。

 今言うべき言葉は、それじゃない。

 自分は彼に、こう言うのだ。

 

「……あぁ、行くぞベディヴィエール! 貴方の望みを叶える為に!」

 

 

 

 

 




カーマちゃん欲しい……欲しくない?
でも石の貯蔵が充分ではない……あとフレポも枯渇気味。
やはりガチャは悪い文明……?


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獅子王と忠節の騎士2

 

 

 

 

 君にはこの聖剣を、銀の腕を託そう。

 

 でもこれは、君の魂を燃料にする。

 

 使う度に、とてつもない痛みがあるだろうけど、我慢してくれ。

 

 それと……『彼』にもちょっとだけ協力してもらおう。

 

 ちゃんと目覚めてくれると良いんだが……

 

 誰の事だって?

 

 教えても良いけど、君は知らなくても良いだろう。

 

 というより、君はもう彼を知っているだろう。

 

 それに、彼が起きるのは、きっと事が終わった時だろうからね———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が———英霊ごときに、押されている……いや、貴卿は英霊ですらない。ただの人間が、私に迫るのか? 土塊となって崩れていく手足で、なお……なぜ貴卿は、そこまで……?」

 

 王が私に問う。

 

「それは、あの日の貴方の笑顔を、今も覚えているからです……『アーサー王』」

 

 あの日の事は、昨日の事のように覚えている。

 

「あの日、私は貴方と、『彼』との秘密を偶然知ってしまった。ですが貴方はそれを咎めず、優しく微笑んで私に言いました」

 

「一体何の話を……『彼』とは誰の事だ」

 

 人の心が分からない王。

 そんな風に言われた王の、人間らしさを、私はあの時初めて実感できた。

 

「貴方は私にこう言った」

 

『気が緩んだところを見せてしまい、申し訳ない。ベディヴィエール卿……ですが、どうか彼の事は秘密にしてもらえませんか? 私のたった一人の、相棒なので』

 

「誰だ……彼とは、誰のことだ!?」

 

「彼もまた、私に声を掛けてくれた」

 

『こんな不器用な王様だけど、俺の主人をどうか最後まで支えてやってくれ』

 

「誰なんだ、答えろベディヴィエール!」

 

「いいえ、私が答えるわけにはいきません。貴方は自分で、彼を取り戻さなくてはならないからです」

 

 ———あぁ、燃えていく。

 体が、魂が、全てが燃えて、なくなる。

 

「……待て、それを使うな。使えば、貴卿は———」

 

 ……その前に、どうしても言わなければ。

 

「……円卓の騎士を代表して、貴方にお礼を。あの暗い時代を、貴方ひとりに背負わせた。あの華やかな円卓を、貴方ひとり知らなかった」

 

 今にして思えば、何故そんな単純な事を誰一人として、理解する事ができなかったのだろうか。

 

「……勇ましき騎士の王、ブリテンを救ったお方。貴方こそ、我らにとって輝ける星。我が王、我が主よ。今こそ———いえ、今度こそ、この剣をお返しします」

 

 もはや視界すらも、マトモに機能しない。

 だが、聖剣のチカラを解放したその瞬間、崩れ去っていく意識の中で、私は確かに声を聞いた———

 

「———そうか、ようやく思い出した。あの森を、あの丘を……私を気遣う貴卿の姿を。悔いを晴らす為、そなたは幾星霜、さまよい続けたのか」

 

 もう、声すらも、きこえにくく———

 

「……見事だ。我が最後にして最高の、忠節の騎士よ。聖剣は確かに還された。誇るが良い、ベディヴィエール。貴卿は確かに、そなたの王の命を果たしたのだ」

 

 ———アぁ、なんと、モッタイなきおことば……

 

 

 

 

『ありがとう、ベディヴィエール』

 

 ———最後に聞こえたその声は、ベディヴィエールに届いたのか。

 それは本人にしか、分からない———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ベディヴィエール卿、消滅。聖剣返還を、確認しました」

 

[こちらも特異点の崩壊を確認した———聖槍の消失によって聖都も消えようとしている……その時代の乱れは、これで完全に無くなった]

 

 重たい現実を、突き付けられたように二人の声がする。

 ダメだ、ここで泣いてしまってはいけない。

 泣くのは、全てが終わった時だと、決めただろ。

 まだ終わってない、だってほら……

 聖剣を手にした彼女は、まだやる気じゃないか。

 

「おっと、まだやる気かい? 聖剣を還されたキミにはもう聖槍の呪縛はない。いくらまだ力があるからって、私たちと戦う理由はないのでは?」

 

「王に刃向かう者を生かして返す道理はない。こちらには聖剣がある。いまだこれを振るっていないというのに、私を倒したと吹聴されるのは心外だ」

 

 ———今、場違いかもしれないが、負けず嫌いなんだなと思った。

 

「……確かに、アーサー王っていったら、聖剣の方が似合うっていうか、イメージがあるからね」

 

「ほう、分かっているではないか。人類最後のマスターよ……確かに、本来私は剣の方を得手とする」

 

「それも知ってるよ……アーサー王はある意味、俺をスタート地点に立たせてくれた……だから、俺もまだこの結果に納得がいってない。アーサー王を乗り越えて、俺は進まなきゃならない」

 

「せ、先輩……?」

 

 獅子王……いや、アーサー王は微笑んだ。

 

「そうだ、お前たちが人理の復元者であれ、私に挑戦したのなら全力で答える。それが私の、王としての矜持だ———」

 

 アーサー王が聖剣を構える。

 それに応えようとしたその瞬間だった———

 

 

 

 

 

『———全く、別に王の矜持と関係なく、アルトリアは元から負けず嫌いだろ』

 

「え———」

 

 声が、したのだ。

 この場にいない筈の誰か。

 けれどその声を知っている誰か。

 

「———まさか、あなたはずっとそこに……?」

 

『あぁ、意識は無かったがな———また逢えて嬉しいよ、我がマスター』

 

 ———獅子王の持つ、聖剣エクスカリバーが、視界を潰すほどの光を発した。

 

[なんだ、なんだ! やっと映像が届きそうだったのに、またシバが数枚吹っ飛んだぞ!?]

 

「くっ……獅子王の待つ聖剣が突如発光を……何も見えません!」

 

「下手に見ない方が良い、あれは獅子王と聖剣の魔力が共鳴を起こしているようなものだろう。多分、そのうち収まるはずだ」

 

 ダ・ヴィンチがそう言って、どれくらい時間が経っただろうか。

 光が収まる頃には、視界が点滅を起こしていた。

 だが、何とかそれを振り払って、改めて目の前の存在を直視した。

 

「……あれ、は。あの、聖剣は———」

 

「ヒュウ、まさかそういうカラクリだったとは」

 

 アーサー王は、変わらずそこに堂々と立っていた。

 しかし手にしていた聖剣は、ガラリとその姿形を変えていた……

 

「……『聖剣カリバーン』」

 

 知らぬ間に、そのよく知る聖剣の名前が口から溢れでた。

 

『おっと、俺の事知ってるの? 嬉しいね、もしかしてファンかな? サイン代わりに我が聖なる一撃でもくれてやろうか? もっとも、人類最後のマスターとやらには祓うべき邪悪はなさそうだが』

 

「……カリバーン?」

 

『はいはい、カリバーンですよ———何だマスター、その顔は。その顔は卑怯だ、できればやめてくれ。俺はマスターのそんな顔は『二度と』見たくない。だからどうか、笑ってくれ』

 

「———ふっ、無茶を言ってくれます」

 

 ———彼等のやり取りを見て、一瞬だけ、カルデアに居るリリィを幻視してしまった。

 

『———まぁ、その、なんだ……ただいま』

 

「えぇ……お帰り、我が相棒()よ」

 

 アーサー王は剣身に己の額を付けた。

 ———もしカリバーンも人間の姿だったら、お互い額を付け合って、再会を喜ぶ男女に見えたのかもしれない。

 

「い、一体何がどうなって……先輩?」

 

「……マシュ、ごめん。まだ、動ける?」

 

「先輩…………はい、マシュ・キリエライト。いつでも大丈夫です」

 

 ———多分、これは余計な戦いになるだろう。

 必要ない戦いだ。

 特異点の崩壊は始まっていて、回収するべき聖杯も既にこちらの手にある。

 でも———

 

「———そうですか。それが貴方の選択なら、私は全力を持って応えましょう……カリバーン」

 

『応ともさ! 久しぶりの戦いだ、出し惜しみは無しでいこうじゃないの!』

 

 アーサー王がカリバーンを構える。

 ……多分、自分は今、最低な行いをしようとしているのかもしれない。

 けれど、このまま『あの二人』を見過ごす事もできない。

 だから……

 

「———その前に、助っ人を一人……いや、二人呼んでもいいかな?」

 

「———私は構いません。消耗したサー・キリエライトだけでは、私たちの相手は苦でしょう」

 

『英霊……サーヴァントってやつだっけか? いいぞ、俺のマスターに喰らい付ける奴がいるなら、大歓迎だ』

 

 ———パスを通じて、カルデアに待機している二人に語り掛ける。

 事情を簡単に説明すると、二人は困惑していたが、最後には覚悟を決めたかのように、了承してくれた。

 

 そうして、自分は呼び出した———

 

「……サーヴァント、セイバー。マスターの呼び声に従い参上しました」

 

『…………はぁ、いつかは来るかもとは思っていたけどなぁ———にしても、嗚呼……やっぱりあの違和感は俺だったのか』

 

 召喚の呼び声と共に、『リリィとカリバーン』が現れた。

 

『……おいおい、嘘でしょ? 俺と、若い頃のマスターが居る! えっ、これなんて夢? というか、小さいマスターも可愛いな!』

 

『何て悪夢だ……でも成長したマスターも可憐というか……ていうかほら、マスターはやっぱりナイスバディになるじゃん! 何あの破壊力! ブーディカよりもありそう!』

 

「「カリバーン、少し黙っててください」」

 

『『はい、すいませんでした』』

 

 ……何と言うべきか、一気に場の温度が上がった気がする。

 

『……グラマスさ。もしかして嫌がらせで呼んだりした? 今まで裏方に回ってた俺たちの苦労は一体』

 

「ごめん、そんなつもりはないんだ。けど、カリバーンが言ってたじゃないか……いつか『向き合いたい』って」

 

『何だと……そんな事グラマスに言った覚えは———いや、まさかとは思うが……『見た』のか?』

 

「……うん。少し前から、ちょっとだけ」

 

『———そうか、そうだよな。やっぱり隠し事はダメだってことか……なぁ、アルトリア』

 

「……何でしょう?」

 

『帰ったら、謝りたい事があるんだ。聞いてくれるか?』

 

「———えぇ、もちろんです。それに、私も貴方に、謝りたい事があるのです」

 

 それなら、さっさと終わらせて帰ろう。

 リリィとカリバーンは口を合わせてそう言った。

 そして、目の前の敵を定めて、真っ直ぐに構えた。

 それがとても凛々しく、王に相応しい気品を感じさせた———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやはや、合わせ鏡とはこの事か。まさか英霊として、マスターの過去が再現されるとは……そんなのあり?』

 

『ありに決まってるだろ。何せマスターだぞ? 若かろうが年老いていようが、俺のマスターは最強なんだ』

 

『む、激しく同意だが……何か自分と話してると気分悪いな……』

 

『こっちの台詞だ』

 

「カリバーン、もう少し仲良くできないのですか? 自分同士なんですから……」

 

『……あれ、そういえば、あっちの俺にあんまり驚かないのね……まぁいいけど。じゃあ聞くけど、マスターはあっちのマスターと仲良くできるの?』

 

「そ、それは……」

 

 リリィは言葉に詰まった。

 あれは間違いなく、自分だ。

 しかし、彼女がどんな風に道を違えて、どんな考えを持って今回の凶行に及んだのか、私には理解が出来なかった。

 別人だが、他人事ではない。

 そんな複雑な気持ちが、リリィにはあった。

 

「———若き日の私……いや、あえてここは問おう。未熟な騎士見習いよ、名は何という?」

 

 獅子王は、そんなリリィを見兼ねたのか、唐突にそう訊ねた。

 

「———わたし、は。私は『アルトリア・ペンドラゴン』。聖剣カリバーンと共に、王を志す者です」

 

「そうか。あいにく私にはもう、名乗れる名はないが———あぁ、時間が無いようだ。楽しい語らいはここまでにして、そろそろ始めようか」

 

「獅子王、戦闘態勢に入りました! マスター(先輩)、指示を!」

 

 

 

 

 




個人的には、聖剣で戦う獅子王も見てみたかったです。
ところで初見でベディ君を女の子だと勘違いした同士って、どれくらいいるんでしょう


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二葉な花と、二つの黄金

前の話に入れ忘れてしまった分です……
なので短いです、申し訳ありません。


 

 

 

 

 

「うぐぅ……ここまで、差があるなんて———」

 

『アルトリア、平気か!?』

 

 リリィは決して膝をつけまいと、カリバーンを支えにしながら懸命に立つ。

 

『……何この罪悪感。マスター、やっぱりやめない? サーヴァントとかいう亡霊とはいえ、マスター自身に()を振るうとか、拷問でしかない……』

 

「———そうですね。ではそろそろ決着をつけましょう。どうやら、時間切れのようですし」

 

 特異点の崩壊が迫る。

 実際、カルデア組には既に強制退去が始まっていた。

 

『マシュも既に限界か……アルトリア、宝具()を使え。一か八か、最大出力をぶつけて———』

 

「それはダメです!」

 

『———アルトリア?」

 

 何故か宝具による攻撃を拒否するリリィ。

 

「……それだけは、あなたの『全力』を出すわけには———」

 

『———! まさか……『あの時』の記憶が?』

 

「……いえ、カリバーンのいう『あの時』は、今の私の記憶にはありません。ですが……霊基()が叫ぶんです。あなたを……『失いたくない』と。何故か獅子王と打ち合うたびに、その言葉が頭に響いてくるんです!」

 

 リリィの顔は今にも泣き出しそうなくらい、悲しみに暮れていた。

 カリバーンが一番嫌うその表情に。

 

『———成る程、道理でそっちのマスターはカリバーン()を持っているわけか。どうせあのクズ魔術師が何か根回ししたんだろうが……ほんと、悪趣味も極まれりだな』

 

 獅子王の手にするカリバーンが言う。

 

「———いえ、もしかしたら彼なりの『贖罪』かもしれませんよ」

 

『はっはっはっ。ないない、あいつが『罪の意識』を感じるとか、ケイの口調が上品になったって言われた方がまだ信用できるわ』

 

 そうして、獅子王は戦意を喪失させた。

 決着はまだついていないが、時間的にも、実力的にも此方の勝利は殆ど有り得ない。

 特異点が音を立てて崩れていく中、獅子王はカリバーンを納め、ボロボロの玉座に座った。

 

「———もう行くが良い、カルデア。最後に我儘に付き合わせた事、礼を言わせてもらおう」

 

『何となく事情は知ってるから、俺からも一言。此処まで来たんだ、後はとことん突っ走れ、カルデア———それとそっちの俺も、気持ちは分からんでもないが、『真実』から目を逸らすな。お前のアルトリア(マスター)は、そんなにヤワなんかじゃないだろう』

 

『全然一言じゃねぇな……まぁ、言われなくても、お前のせいで隠し事は台無しになったから、後でちゃんと話し合うさ』

 

 ———ついに、退去が完了する。

 リリィとカリバーンはレイシフトでマスター達に着いて来たわけではない為、彼等より一足先にカルデアに帰還した。

 

 

 

 

 

「……ッ、戻って来たようですね」

 

 リリィとカリバーンは待機室に帰還した。

 

「おい、帰って来たみたいだぜ!」

 

「治療班は!?」

 

「ここです! 大丈夫ですか!? リリィさん! 今傷を———」

 

 他のサーヴァント達がリリィ達に寄ってくる。

 しかしリリィ達はそれに気が付いていないかのように、二人だけの世界で、こう呟いた。

 

「———カリバーン」

 

『———なんだ、マスター』

 

「私は、このまま前に『進んで』良いのでしょうか?」

 

『……あぁ、どうか迷わず進んでくれ。たとえどんなに辛くても、お前はお前の信じた道を進め。俺は『最初』から、マスターの剣となったあの日から、そう願っているんだ———』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『———全く、何でそんなに捻くれたんだ? ケイの奴が此処にいたら、多分ぶん殴ってくるぞ』

 

「別に捻くれたわけではありません。それに……ケイ兄さんには実際に殴られましたから。『この阿呆が、だからお前に王なんて向いてなかったんだ』と」

 

『マジかよ……まぁケイの奴ならやりかねんな。というかケイの奴居たんだ、確かに呼べば何だかんだ地獄の底からでも這い上がってきそうだけど』

 

 獅子王とカリバーンは、崩壊していく特異点の中、ただ何をするわけでもなく、ただ雑談に花を咲かせていた。

 そう、かつてそうしていたように。

 何でもない二人の日常を、最後の最後で二人は取り戻せたのだ。

 

『……ベディヴィエールには悪い事したかもな。俺らの問題に首を突っ込ませちゃった気がするわ』

 

「彼は円卓でも特に真面目な騎士だった。確かに、彼に聖剣を湖に還すように頼んだのは間違いだったかもしれません。あんなに心優しき者に、辛い事を、辛い想いをさせてしまった」

 

『それじゃあこの後、二人で謝りに行くか……あれ、もしかしてこの後俺たちも英霊って奴になるのかね?』

 

「それは……どうなんでしょうか。多分、このまま煉獄に堕ちそうな気がしますが」

 

『まぁ、何処でもいいさ。こうしてまた逢えたからには、『今度こそ』最後までお供するぞ。我がマスター』

 

「えぇ、我が剣よ。私は二度と、あなたを手離したりはしない———」

 

 ———そうして、崩壊の光が二人を飲み込んだ。

 

 

 

 






きみをいだく希望の星(アラウンド・カリバーン)




ふぁ!? 『カリバーン』!? カリバーンなんで!?

キャストリアってだけでお腹いっぱいなのに、もうあれや、ヴァァァァァァァ!


あ、FGO5周年おめでとうございます!


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幕間の物語
黄金の真実


マーリンは引けず、リリィはまだ来ませんが、キャストリアは来てくれました……



 

 

 

 

 

「———い、———きろ」

 

 声がした。

 あまり聴き慣れない、男の人の声だった。

 

「———この、寝坊助が。さっさと起きろってんだ」

 

「あだっ!?」

 

 脳天に響く痛みで、意識が覚醒した。

 痛む脳天を両手で抑えながら、状況を確認しようと辺りを見回す。

 どうやら木々に囲まれた森の中のような場所で、自分は一本の木にもたれ掛かる形で座り込んで寝ていたようだ。

 

「目は覚めたか? 『見習い』。じゃあとっととあっちの川で水を汲んでこい」

 

「え……あ、あれ? えっと、何で俺が?」

 

 そして自分を見下ろす形で、長身の男が目の前に立っていた。

 多分この人が自分の脳天に一撃を加えた張本人だろう。

 

「まだ夢見心地か? なら教えてやる。お前は『騎士見習い』で、俺たちの旅路の『新入り』だ。つまり下っ端、雑用をこなすのがお前の役目だ。思い出したならとっとといけ。それとも、もう一発くれてやるか?」

 

「だ、大丈夫です! 思い出しました!」

 

 渡された容器を手に持って、川の方へと慌てて走り出す。

 そうだった、自分は騎士を目指す者。

 その修行の一環で、この『旅路』の仲間として、国中を旅して———

 

「……いや、俺は『藤丸立香』だよな。騎士見習いじゃなくて、カルデアのマスターで……」

 

 ———あぁ、そうか。

 これは『夢』だ。

 自分と契約しているサーヴァントの『誰か』の、夢の世界。

 どうやらマスターとサーヴァントは、互いに相手の深層心理に眠る記憶を、記録を『夢』という形で見る事があるという。

 この状況は多分それが原因だ。

 何故そう言えるのかというと、もう既に何回かこの手のものを体験しているからだった。

 

 問題は、誰の夢かという事だ。

 さっきの男の人には見覚えがなかったからきっと違う。

 多分彼は夢の世界の主と関係が深い人物なのだろう。

 

「……とりあえず水を汲むか」

 

 意識はハッキリとしているが、自分から夢を覚ます事はできない。

 ならば、この夢に従うだけ。

 与えられた役割を全うするのだ。

 それが夢から覚める近道でもあり、サーヴァントを知る機会でもある事を、理解しているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お疲れ様です! 沢山水を汲んできてくれたんですね!」

 

『雑用お疲れさん、新入り』

 

「もう、カリバーン。水汲みは雑用なんかではないですよ。日々を生きる大事な糧であり、同時に心身を鍛えられるってケイ兄さんが言ってしました」

 

『いや、嘘はないだろうが、結局は雑用なのでは……?』

 

 重たくなった容器をえっさほいさと運び終えると、あっさり夢の主の正体が判明した。

 彼女は見慣れた笑顔で、こちらを出迎えてくれた。

 

「えっと……リリィ、だよね?」

 

「? りりぃ……? 私はアルトリアですけど……」

 

「あ、ごめん。そうだったね———」

 

『本当に大丈夫なのか? ケイの奴にぶっ叩かれて、頭がどうにかしたか?』

 

「ケイ兄さん、加減を知らないですからね……その、もう少し休んでても大丈夫ですよ」

 

「だ、大丈夫! ちょっと寝起きで頭がまだ動いてないだけだから」

 

 ———もしかしてこの夢は、この記憶は……

 

「そうですか、けれど無理はしないでくださいね。さぁ、ちょうど魚を獲ってきた所です。朝ご飯にしましょう!」

 

『よーし、今日こそは一匹も焦がさずに焼いてみせるぞ、マスター』

 

「はい! では、いきます!」

 

 リリィ……ではなく、アルトリアという少女が魚に枝を通し、それを円を描くように地面に突き刺していく。

 そして何をするかと思えば、聖剣(カリバーン)を抜刀し、そのまま剣先を円の中心に向ける———

 

「えーい!」

 

 そして、ビームが出た。

 ビームが、出たのだ。

 いや、カリバーンからビームが出るのは不思議ではない。

 戦闘でもよく使ってるし、この前不埒な事をしようとしていた黒髭の急所に向かってビームしてたのも見た。

 ……けど、何で魚にビームを———?

 

「———この馬鹿どもが、それをするなと何度言ったらわかる!」

 

「あいたっ!」

 

 いつの間にか戻ってきていた、長身の男が、アルトリアの頭部にチョップを喰らわす。

 

「火を使えと言っただろうが。聖剣の光で魚を焼くなんて聞いたことないぞ」

 

『火を使って魚を焼くなんて、面倒じゃないか。手っ取り早く俺の光でやった方が———あ、やめて、俺の柄はそんな風に曲がらない……いだだだだだ!』

 

「あぁ、やめてくださいケイ兄さん! カリバーンの柄が綺麗に九十度曲がってしまいます!」

 

「だったらさっさと火を起こせ。行軍中、野営の時に火を起こせないなんて恥はかきたくないだろうが。何でもかんでも、このナマクラを頼ろうとするな」

 

 ———一見すると、単に喧嘩をしているように見えるその光景。

 けれど、本人達はとても楽しそうで、とても眩しかった……

 

 

 

 

 

 ———あぁ、本当に楽しかったさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———その日は森に入った。

 すると、いきなりピンチになった。

 現在全速力で、走っている。

 

「クソがっ! 一体全体何食ってたらあんな巨大になるんだ!」

 

『こういう時こそお前の出番だぞ、ケイ! お得意の口先であいつを黙らせてやれ!』

 

「あぁ、俺たちを追っかけ回してるのが、ばかでけぇ巨大な猪じゃなくて、言葉の通じる人間だったらそうしてたさ!」

 

「ケイ兄さん! 何故逃げるのです!? あれだけの大きさなら、先日からお世話になっている村の人々にも美味しい猪鍋をご馳走できます! 私達も久しぶりにお腹いっぱい食べれますよ!」

 

「お前は昨日も腹一杯魚を食っただろうが! いいから走れ阿呆が! 見習いはいざとなったら荷物捨てでも走れよ!」

 

「り、了解です……!」

 

 命の危険に晒させる時もあった。

 けれど、心の底から楽しくて、眩しくて、尊くて———

 

 

 

 

 ———あぁ、この時間(とき)が永遠に続けばいいと思ったさ。

 

 

 

 

 

「———あの魔術師はいつ帰ってくる? 今度こそ頭をかち割って、中身を一度洗ってから戻してやろうというのに……!」

 

「お、落ち着いてください、ケイ兄さん。彼も悪気があったわけでは……」

 

『まだ若いのに皺ができるぞ。偶にはその眉間を緩めたらどうだ? あの屑なら当分帰ってこなさそうだし』

 

「……えっと、誰のこと?」

 

「……見習いが来る前に、『ちょっと先行して、休めそうな場所を探してくるよ』とか言ってそのまま消え失せた魔術師だ。一応こいつの『お付き』なんだが……」

 

『まぁ、かなり性格に難ありというか……新入りも気を付けておけ。あいつ息をするようにトラブルを呼び込んでくるから』

 

 そう言うカリバーンは、何処か嬉しそうだった。

 

 

 

 

 ———あぁ、嬉しかったさ。

 退屈しない、充実したこの日々が。

 きっと後世には残らないであろう、幻のような日々。

 全てが美しく、輝いて見える、『花と黄金の旅路』が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 気が付けば、また別の場所にいた。

 しかも先程とは、周りの雰囲気や空気が全く違うような———

 

「———おや、貴方でしたか」

 

 そう、ここは『馬小屋』だ。

 そして自分の目の前には、馬の手入れをしているアルトリア(リリィ)が……

 

「……アーサー、王?」

 

 いや違う。

 目の前のアルトリアは、リリィではなく、『アーサー王』だ。

 正しくは、リリィが王となった姿———

 

「……念のため言っておきますが、私がここにいるのは内密に。最近ロクに自分の馬を触ることすらできなかったので……有り体に言うと、休憩しているのです」

 

『執務から抜け出して、勝手にだけどな』

 

「カリバーン、余計な事は言わないように。誰かに聞かれたらどうするのです?」

 

『へいへい。まぁこの辺には今新入りしか居ないみたいだし、少しくらい平気だろ』

 

「えっと……」

 

「そうだ、これから少し馬を走らせるのですが、貴方もどうですか?」

 

「え、そ、それは……俺は馬なんて乗れないですし……」

 

『おいおい、新入りも晴れてアルトリアに忠義を捧げた騎士になれたんだぞ。馬に乗れないなんて、恥さらしもいいところだろ』

 

「ふふ、では今からみっちり乗馬のコツを教えてあげます———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、『戦場』にいた。

 状況は全くわからない。

 しかし、倒すべき『敵』が居て、守るべき『()』が自分達の背後にあり、それを全力で守ろうとしているアーサー王(我らの王)がいる。

 それだけは、理解していた。

 

 自ら先頭に立ち、騎士達を奮い立たせ、剣を振るう王は、まさしく国が求めた存在に相応しかった。

 騎士の王、ブリテンを救う王、民を守る為の王。

 みなが求めていたものを、全て持っている理想の王が、今その輝かしい聖剣の力を解き放つ———

 

 あぁ、我らがアーサー王。

 貴方こそ、ブリテンの王に相応しい。

 

 ———見た事もないような光が、辺りを包む。

 とても暖かく、優しい光。

 それは主人の敵を葬り去り、それ以外を暖かな加護の光で包む聖剣の光だ。

 

 かくして、アーサー王は見事、守るべきものを守ったのだ———

 

 

 

 

 

「———ぁぁぁあああ、何故、なぜ……こんな筈じゃない! どうして———」

 

 みながアーサー王の勝利に酔いしれ、王を褒め称える中、人知れず王は『哀しんでいた』。

 

「あなたがいたから頑張れた。あなたがいたからここまでこれた……これからもそうだと、思っていた———なのに、どうして!」

 

 アーサー王の叫びは誰にも届かない。

 まるで王の周りだけ、隔離された空間のように、歪んでいる。

 

「返事を……してください。■■■■■」

 

 王はその小さな両手に、懸命に拾い上げた『破片』に向かって、何度も何度も語り掛けている。

 

「———悲しむ事はない。さぁ、その破片を湖に捧げなさい。さすれば、君は星が鍛えし『最強の幻想』を手にするだろう」

 

 何処から現れたのか、ローブを着込んだ魔術師が王にそう囁く。

 王は魔術師に問う。

 そうすれば、彼が戻ってくるのかと。

 魔術師は答えず、ただ微笑んだ———

 

 

 

 

 

 あぁ、クソ。

 本当に腹が立つ。

 別にこの結末に不満はない。

 こうなる事は、最初からわかっていた。

 しかし後悔はある。

 この事をもっと早くに、正直に伝えていれば、彼女は立ち直れていたかもしれない。

 こんなにも悲しい想いをさせずに済んだかもしれない。

 あぁ、でも伝えるのが怖くて、恐くて、こわいのだ。

 だから俺は『嘘』をついた、ついてしまった。

 こんな嘘は、いつかはバレる。

 余計に傷を抉るだけだと知っていながら、目先の恐怖から逃れようとしている。

 あぁ、そんな自分に腹が立ってしょうがない。

 

 だから、いつになるか分からないけど、『向き合いたい』。

 ちゃんと、愛する主人に、謝りたい———

 それが出来なければ、きっと俺は聖剣失格だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢、か」

 

 藤丸立香は目を覚ました。

 

 

 

 




そのうちカリバーン含めたセイバーリリィ妄想プロフィールとか、マイルームボイス書いてみたい……


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黄金の告白

イメージするのは、常に最強の自分———(リリィ宝具5)


 

 

 

 

 

『……なぁ、マスター』

 

「……なんでしょうか、カリバーン」

 

 獅子王との激戦から帰還した、少し後のカルデア。

 シミュレーター内で、リリィとカリバーンは黄昏ていた。

 

『俺、マスターと出逢えて本当に良かったと思ってる』

 

「えぇ、それは私もです」

 

 そんな会話をしていると、扉の開く音がした。

 

『……来たか、グラマス———いや、藤丸立香』

 

 あえて、名前で呼んだ。

 理由? そっちの方が、これから真面目な話をしますとアピールできるからに決まっている。

 

「……その、本当に俺も居ていいの?」

 

「———はい、どうか居てください、マスター。貴方にも、知る権利がありますから」

 

 マイルームでも良かったのだが、あそこだとイマイチ緊張感に欠けるという事で、草原を再現したシミュレーターに藤丸立香を呼び寄せた。

 

「…………分かった。是非、聞かせてくれ」

 

 あぁ、今まで隠してきた『嘘』。

 その真実を話す時が、ついに来たのだ———

 

 

 

 

『グラマスはさ、アーサー王伝説の内容は覚えてるか? 確か目を通したんだよな?』

 

「うん、マシュと一緒に」

 

『じゃあ聞くけど、その物語の中で、カリバーン()は『最後』どうなった?』

 

 最後、その言葉に、アルトリアとグラマスが微かに反応する。

 

「……確か、具体的な事は何も書いてなかったかな。アーサー王はカリバーンから、エクスカリバーという聖剣に持ち換えたみたいな表現しか———」

 

『そうだな、そこで早速謝らせてもらおう……実は、あれ正しくないんだ。厳密にいうと、ドクターの奴に頼んで、データを……表記を改竄してもらった』

 

「…………」

 

『あんまり驚かないな。という事はやっぱり、俺の記憶を夢かなんかで見たようだな』

 

 薄々そんな気はしてた。

 実は自分も、前にグラマスの記憶を垣間見見た気がしていた。

 アルトリアも覚えがあるようだから、きっと間違いないだろう。

 

「ごめん、勝手に見て」

 

『謝る必要はないさ。兎に角、今ここで真相を話そう———改竄する前のデータの表記では、俺の結末は幾つかあった。曰く、聖剣カリバーンは紛失した。曰く、アーサー王が騎士道に反した戦いをしたから、折れた。曰く、最初からカリバーンなんてものは存在せず、アーサー王はエクスカリバーを選定の剣として手にしていた———』

 

 ———どれも、真実とは違った。

 強いていうなら、二つ目の表記が『近い』だろうか。

 ただしそれは結末の事であって、その理由は全くの正反対なのだが。

 

『そう、本当は———っ』

 

 ……あぁ、本当に嫌になる。

 ここに来てまで、真実を告げるのを怖がっている。

 拒絶されたくない。

 失望されたくない。

 もう独りはイヤだ。

 だから俺は———

 

「カリバーン」

 

 マスターが、静かな声で語り掛ける。

 そこにいつものような、明るさはないが、ひたすらに、ただ優しい声。

 

「……どうか、お願いします。あなたの言葉で、私は真実を知りたい」

 

 ———あぁ、そう言われたら、応えないわけにはいかない。

 

 

 

 

『———聖剣カリバーン。王を選び、導く選定の剣の最後……それは、ある幻想()を手にする為の、『贄』となる事だった———』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選定の剣。

 またの名を聖剣カリバーン。

 ブリテンという国を救う王だけが手にする事ができる黄金の剣。

 持ち主に不老と癒しを与える聖なる剣。

 あらゆる不浄を祓い、王の道筋を照らす剣。

 

 そんな聖剣カリバーンには、『使命』とも言うべき役割があった。

 それは、国を守り、民を守り、全てを救う王を選ぶこと———ではない。

 元より、カリバーンが誰に引き抜かれるかは、既に『決定』していたのだ。

 つまり、王の選定自体は単なる出来レースだったのだ。

 

 ではカリバーンの使命とは何か。

 それは、将来騎士王とも呼ばれるようになる、騎士の王。

 アーサー王の『剣』となる事だった———

 

「……えっと、カリバーンはとっくにリリィの……アーサー王の『剣』ではないの?」

 

『そうだな、言い方が悪かった。正しくは、アーサー王に相応しい『剣』を、『喚び出す』事だ』

 

 ではアーサー王に相応しい剣とは何か。

 それは———

 

「……そうか、『エクスカリバー』———」

 

『その通りだ。もう分かっていると思うが、あれは人間が作った剣じゃない。人間達の『想い』だけで、星が創り出した『神造兵器』だ』

 

 アーサー王には、数々の困難や試練が待ち受けている事は、既にある魔術師は予見していた。

 それらに対抗するには、人の力を超えた力が必要だったのだ。

 そうしてアーサー王に相応しい剣として、エクスカリバーは存在している。

 

『———だが、そんなとんでもない剣を、容易に喚び出せる訳がない。管理は精霊が行っていたらしいが、易々と人間達の手に渡すわけにもいかないしな』

 

 そう、だからカリバーンが『必要』だった。

 エクスカリバーを現世に喚び出す『器』として、『依代』として。

 いずれエクスカリバーの担い手となる者の『想い』や『経験』が詰め込まれた聖剣を、エクスカリバーが眠る湖に捧げるために。

 

 そして、カリバーンの担い手が、エクスカリバーを持つに相応しい『資格』を充分に示し、それを得た瞬間———即ち『王』の証を真に得た場合……

 聖剣カリバーンは、聖剣エクスカリバーの『贄』となり、生まれ変わる為に、粉々に『砕け散る』よう最初から『仕組まれていた』のだ。

 

「……だから、獅子王のエクスカリバーがカリバーンに———」

 

 どういう原理かは不明だが、カリバーンがエクスカリバーに変化したというのなら、その逆もあり得るという事だろう。

 

『———そして当然とも言えるが、俺がエクスカリバーに生まれ変わったら、俺という存在は消える。ちょっと個性が強いとはいえ、単なる擬似人格が、神造兵器に宿れるわけがないからな』

 

「……でも、獅子王が持ってた聖剣には———」

 

『まぁ、そこは俺にも分からんな。奇跡的に俺という欠片が残ってて、それを誰かさんが繋ぎ合わせてくれたのかもな———』

 

 カリバーンの脳裏には、ある魔術師の姿が。

 

「……うん。大体分かった。でも———」

 

『おっと、勘違いしないでくれよグラマス。俺は俺の使命に、文句は何一つない。あるとすればそれは後悔だ。この事を生前、アルトリアに正直に伝えておけば、あんな『酷い』別れはしなかったんじゃないかっていうな……』

 

 そしてその後悔を抱えたまま、カリバーンは『また』同じ過ちを繰り返したのだ。

 あの別れ際のアルトリアの表情がトラウマとなり、また同じ顔は見たくないと、嘘をついたのだ。

 何も覚えていない。

 何も知らない。

 楽しかった旅路だけが、全てだったと。

 

『———だから、謝らせてくれ、マスター……すまない、勝手な事をして、マスターを真実から遠ざけて、余計に傷つけた事を———』

 

 カリバーンは、途中で言葉を止めた。

 何故なら、リリィの瞳から、滅多に見ない雫が零れ落ちていたからだ。

 

「———どうして、ですか」

 

『え……?』

 

「どうして、あなたは自分が最後には消えてなくなる存在だと知っていて……どうして最後まで私の『剣』で居てくれたのですか?」

 

 カリバーンがカリバーンで居られるような道もあったかもしれない。

 人間が死を恐れるように、確固たる自我があるカリバーンも、己が消える運命に何の感情も沸かなかったなんて事はあり得ないだろう。

 それなのに、何故カリバーンは己の使命を受け入れたのか。

 何故後悔はあっても、文句の一つもないなどと言えるのだろうか。

 リリィ……アルトリアには、それが分からなかった。

 

『———簡単な事だよ、アルトリア・ペンドラゴン。あの日、あの夕焼けの草原で、俺は理解しちまったんだ……あぁ、この少女に、俺は『惚れた』んだって』

 

 剣が人間に恋をするなんて実にバカらしい。

 だけど、それでもカリバーンは自分なりにその信念を貫こうと決めた。

 だから、最初から最後まで、彼女の剣であり続けた。

 もちろん、出来るなら彼女と共に歩みたかった。

 しかし、それでは彼女の『物語』は進まない。

 だから自分だけの犠牲で、彼女が前に進めるなら。

 どんな困難や試練も薙ぎ払い、彼女の夢を護れるなら、それで良かった———

 

「———ふふ、まさかそんな答えが返ってくるとは……えぇ、私はあなたを赦しますとも」

 

『マスター……』

 

「……私も謝ります。実は、カリバーンが何か隠し事をしてたのには、気付いてました」

 

『え、そうなの?』

 

「はい、それを問い詰めても、あなたを逆に苦しめてしまうのではないかと思ってました……ですが、私の方から打ち明けていれば、あなたのその悩みを、葛藤を早期に解決できていたかもしれません。だから……ごめんなさいカリバーン」

 

『…………あぁ、俺も赦すとも。これで、お互い様だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……何か見てるこっちが恥ずかしくなってきた)

 

 思春期の最中、もしくは思春期を終えたばかりの若者、藤丸立香には些か刺激が強すぎた。

 あんなにも堂々と『惚れた』なんて言えて、その相手の為に自らの全てを捧げる。

 ドラマや映画といったフィクションでしか見たことがない展開が、目の前で行われたのだ。

 

『どうした、グラマス。何か急に黙り込んだと思ったら、呆けちまって』

 

「あ、いや……何でもないよ、うん」

 

 考え過ぎだろう。

 カリバーンもそういう『意味』での『惚れた』と言っているわけではない……と思う。

 

「カリバーン! 最後にスッキリしたいので、宝具を撃ちましょう!」

 

『え、でも獅子王との一戦以来、一度も宝具使いたがらなかったじゃないか』

 

「えぇ、ですがその理由もようやく分かりました。要は『全力』を使わなければ、カリバーンが砕ける事はないという事ですよね?」

 

『まぁ……そうなのかな。それに、英霊となったマスターの宝具なんだから、魔力さえあれば復活できそうだしな———よし、いっちょ派手にいくか!』

 

「えぇ! いきます———!」

 

「———あ、ちょっと待ってリリィ! シミュレーターの強度設定まだしてな」

 

 

 

 

 

 ———この日、シミュレーター室が一つ、しばらくの間使い物にならなくなった。

 

 

 

 




今回の夏イベは、ふじのんが印象深かったです。


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交差する出逢い
花と黄金と王
















リリィ出ました(小声


 

 

 

 

 

 『剣』を失った。

 掛け替えのない大切な剣を、失った。

 民を、国を守る為に、『王として』全力を出さねばと、『彼』の光を私は振るった。

 その結果、彼は私の目の前で『砕けた』。

 

 彼は最後まで私に声を掛けた。

 そんな彼に、私も最後まで叫んだ。

 毎日のように聞いていた彼の声が、聞こえなくなるまで。

 

 魔術師の言う通り、かき集めた彼の破片を湖に捧げた。

 そうして私は再び、剣を手にした。

 しかし彼は、戻ってこなかった———

 

 今日、遠征から帰還したケイ兄さんに彼の事を話した。

 ケイ兄さんは、『そらみたことか、やっぱりナマクラだったじゃねぇか』と言って、私の頭を久しぶりに撫でてくれた。

 もう何も知らない少女の頃の私ではないのに、不思議と落ち着いた。

 

 彼を失ってから、どうにも違和感を感じてしまう。

 当然、悲しみや喪失感もあったが、それ以上に……私の中の何かが、足りないような———

 

 新しい剣は、不思議とすぐに手に馴染んだ。

 その宿す力も申し分無い。

 だが、剣を振るうたびに、もう忘れようとしていた彼の柄の感触や、声が頭で響く———

 

 人の心がわからない王。

 最近その言葉を耳にする。

 そんなつもりはないが、私に不満を持つ騎士も大勢いる。

 そう言われてしまう心当たりもあるにはある。

 仕方のない事だ。

 ———けれど、こんな時彼なら何と言うだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「———私は、どうすれば良かったのですか……■■■■■」

 

 血と臓物と、死臭にまみれた丘の上で、失われた彼の名を呟く。

 国の為、民の為に私は王であり続けた。

 その結果が、これだ。

 血に濡れた戦場が、私の最後だった———

 

 ……全て、間違いだったのだろうか。

 私が王になった事が。

 彼を私が引き抜いた事が。

 私が王にならなければ、こんな結末にはならなかったのか。

 もし彼が居たのなら、今の私を見て何と言うのだろうか———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———サーヴァントとなった私には、当然彼ではなく、エクスカリバーという聖剣を手にしていた。

 アーサー王の象徴といえば、エクスカリバーだと言わんばかりに。

 

 とはいえ、この剣を嫌っているわけではない。

 彼ではなくとも、彼の声がしなくとも。

 これは彼が遺してくれた剣だ。

 

「———喚ばれましたか」

 

 生前死ぬ間際に、奇蹟を求め、死後を明け渡した。

 そして様々な出来事を通して、私は奇蹟を手にし、それを振り払い、自らの過ちを認めた。

 英霊となった私は、私を喚ぶ者の声を聞き、それに応じるだけ。

 

「……成る程、人理を救う旅ですか。これを拒否する理由は私にはない」

 

 サーヴァントとして召喚される前、基本的な知識が流れ込んでくる。

 どうやら何処かの世界で、焼却された人理を救おうと、時代を駆け抜け、数多の英雄を求めているらしい。

 ……つまりこれは、世界を救う為の戦い。

 私は全力でそれに挑もう———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———問おう、あなたが私の……マスターか」

 

 召喚の際に口上は必須ではないが、不思議とこの台詞が毎回頭をよぎるので、決め台詞のようなものになっている。

 

(———彼が人理を救うマスター。人類最後の……)

 

 パスを通じて、ガラス越しの黒髪の少年が自身と契約を結ぼうとしているマスターというのはすぐに分かった。

 まだ若い少年だ。

 経緯は分からないが、おそらく相当な困難と苦痛に満ちた道のりがあり、運命が彼を選んでしまったのだろう。

 

「———あ、アーサー……王?」

 

「そ、そんな……わ、私ちょっと———さんに伝えてきます!」

 

 どうやら私の真名は知っているようだ。

 もしかしたら私ではない私が、人理を救う旅の中彼と何かしらの縁を結んだのかもしれない。

 黒髪の少年はひどく困惑し、その隣にいた少女が慌てて部屋を飛び出していった。

 

「……私の事は知っているようですが、一応自己紹介を。セイバーのサーヴァント、真名を『アルトリア・ペンドラゴン』と言います」

 

「あ……ち、ちょっと待っててください! 今そっちに———あだっ!」

 

[おいおい、気持ちはわかるが少し落ち着きたまえ、立香君]

 

 ガラス越しの部屋で、彼がこちらの部屋に来ようとした瞬間、派手に転けた。

 何故か興奮を抑えきれない様子のようだ。

 

「はぁ、はぁ……えっと、は、初めまして! 俺、藤丸立香といって、その、気軽に名前で呼んでも……あ、人理修復の為にマスターをやってまして!」

 

「———ではリツカ、少し落ち着いて。私は何処にも逃げたりしませんので、先ずは呼吸を整えて」

 

「あ、す、すいません……テンションが舞い上がっちゃって———えっと、あなたはアーサー王……何ですよね?」

 

「えぇ、その通りです———その反応からするに、別の私を知っているのでしょうか?」

 

「…………その、4通りくらい、知ってます」

 

 ……4通り?

 4回も別の私に出逢ったという事だろうか?

 確かにそれだけの回数なら、縁が結ばれてもおかしくはない。

 

「あ、XさんとかヒロインZとかも含めたら6通り……? でもあの人達は何か違う気がするし……」

 

「? ———ともかく、私たちは不思議な運命のもとにあるようですね。リツカ、貴方にその意思があれば、私は喜んで貴方の剣となりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———そう、ですか。特異点とやらで、別の私が何度も立ち塞がったようですね」

 

 カルデアという施設、人類最後の砦でもある場所を案内してもらいながら、大まかに事情を教えてもらった。

 

「……でも、だからって俺はアーサー王を恨んだりはしない。きっとあの人達にも、事情があって、偶々俺たちと進む道が違っていただけなんだから」

 

 複雑といえば、そんな気持ちだった。

 確かに別側面の私が居てもおかしくはないが……

 そして、一つ疑問があった。

 

「……獅子王、でしたか。その私は、聖剣ではなく聖槍を?」

 

「うん、最後には———最後まで獅子王に忠義を果たした、忠節の騎士が聖剣を還したんだけどね」

 

「…………」

 

 その私は、聖剣ではなく聖槍を。

 おそらく、そこが『分岐点』だったのだろう。

 

(———彼の意志を、遺してくれた覚悟を自ら手離したのか……)

 

 辛かったのだろうか。

 彼の想いを手にしているのが。

 嫌でも思い出して、その度に心を押し込める事が。

 だから聖剣ではなく、聖槍を握ったのか。

 それとも———

 

「……あの、実は一つ言っておかなきゃいけない事があるんだけど……」

 

「———はい、何でしょうか?」

 

 思考を一旦止め、リツカの言葉に耳を傾けた。

 

「えっと……ちょっと会わせたい人がいるような、いないような———」

 

 

 

 

 

 

 

『———アルトリア?』

 

 声が、した。

 もう失った筈の、声が。

 

「……■■■■■———?」

 

 そんなわけがないと、言い聞かせながらも、私は彼の名を呟き、背後に振り返った。

 

『……マジか、本当に召喚してたとは———』

 

「———この方が、アーサー王。私の可能性……」

 

 そこには……

 懐かしい装いをした『私』とその手に抱かれた『彼』が、あの頃のままの『私達』が居た———

 

「あ……」

 

 不意に手が伸びる。

 永遠に失われた、私の剣。

 王を選定する私だけの剣。

 それが、手を伸ばせば掴める。

 もう叶う事はないと思っていたものが、私の目の前に———

 

 

 

 

 








リリィ出ました!(大声

違うんや、信勝君宝具5にしようと、ボックスとかで貯めたフレポで回してたら、急に来てくれたんや。
とりあえずありがとう、全てにありがとう。
このタイミングでフレポガチャにスポットライト当ててくれたぐだぐだイベントに感謝。

夜中なのに変な声あげちゃったじゃないか最高!





「あの……マスター? 何故私にそんな大量の種火とやらを? え? フォウ君も食べろ? 聖杯も取り込め? イベント周回について来てくれ? ど、どうして新参者の私にそんな……な、なんですかその赤色とか青色の鍵は? 私には鍵穴なんてありま———」

多分リリィはこんな気持ちだったと思う(レベル100ファウマコマンドコードぶち込み済み


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黄金の使命

お久しぶりです。
すいません、結構間が空いてしまいました。

ちなみにあれからリリィをもう一人呼べて、今では宝具2です。一度出ると出やすくなるあの感覚は気のせいかな……


 

 

 

 

 

『お前はよくやってるよ、アルトリア』

 

「……急にどうしたのですか?」

 

『別に。ただ、ちゃんと言葉にして褒めないと、実感してくれないと思って』

 

 陽が沈み、夕焼けを映し出す。

 白亜の城の城壁の上で、王とその剣が言葉を交わす。

 

『アルトリア、お前は本当に立派な王様になったよ』

 

「——そう、でしょうか? あなたには、私が立派な王に見えているのですか?」

 

『あぁ、初めて出逢ったあの日に比べたら、随分立派になったさ』

 

「……えぇ、貴方がそう言うのならきっと間違いない——でも……」

 

 王は城壁の上からブリテン()を見渡す。

 美しい光景だ。

 自分はこの景色を守れているだろうか?

 否、守らなくてはいけない。

 

『アルトリア』

 

 今日はやけに名前を呼んでくれる己が剣の声。

 王は静かに彼の声に耳を傾ける。

 

『——変わったな、本当に変わったよお前は。だから次に『変わる』のはきっと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

『———複雑か? アルトリア』

 

「それは……カリバーンの方こそでは?」

 

『あー……まぁ、そうだな。あんな反応されると、ちょっとな———』

 

 聖剣エクスカリバーを手にしたアーサー王。

 即ちカリバーンを手にしたアルトリアの可能性、完成された騎士王。

 そんな彼女がカルデアに召喚された。

 そう聞かされた時、アルトリアとカリバーンは迷った。

 邂逅すべきか否かを。

 しかし獅子王の件もある。

 全てから逃げるのは楽だが、それでは『何も始まらない』事を彼女と、彼女に最後まで寄り添う事を選んだ彼のおかげで知ることができた。

 

 カリバーンを手にしたアルトリアは未熟者だ。

 進み続けなくてはならない。

 成長しなければならない。

 ブリテンの王に相応しい騎士の中の王に成らねばならない。

 故に『止まる』事はできない。

 花と黄金に満ちた旅路を進み、二人は旅をする存在だ。

 例えそれがどんなに救いようがなくとも、どんな未来が待っていようとも———

 二人は進むのだ。

 

『…………』

 

「その……気に病むことはありません。きっと彼女も悪気があったわけじゃ」

 

『そんな事は分かってるさ! でも、それ以上に……あぁクソ。お前にはこのカルデアで真実を告げれた。俺も満足だ……けど、あのアルトリア(アーサー王)には、俺の使命を教えてくれるやつがいない、いなかったんだ……』

 

 カリバーンの記憶領域に浮かぶのは、カルデアで出逢ったアーサー王となったアルトリアとの最初の記録。

 ——あの、時彼女は目を丸くして、カリバーンしか視界に入れていなかった。

 そしてお気に入りの玩具を見つけた子どものように、本能で欲する無垢な赤子のように。

 きっと無意識だったに違いない。

 小手を外した彼女のか細くも力強い手が、カリバーンに伸びていき——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——その手を、別の手が掴んだ。

 それは、彼女の反対側の手。

 小手を付けたままの手。

 銀色の装飾がされた、彼女のか細い手を隠す為の小手。

 その手で、彼女は戒めるように、力強く自分の手を、カリバーンに伸びた手を掴んだのだ。

 

「——あ」

 

 その呟きが誰のものかは、その場にいた全員が分からなかった。

 ——カリバーンを除いて。

 

『——アル、トリア』

 

 カリバーンは見た。

 見てしまった。

 さっきまで無垢な子どものように輝かせていた彼女の瞳に、曇りが掛かってしまっていることに……

 

 

 

 

『……うん、やっぱり決めたわ』

 

「カリバーン?」

 

 カリバーンには、彼女——アーサー王として完成された己の主人の抱えているものが何であるか、既に検討は付いていた。

 ——カルデアと、魔術王の決戦は近い。

 今更こんな所で、蟠り——心残りなんて作りたくもないし、作らせたくもない。

 ましてやそれが、自身の主人だというのなら尚更のことだ。

 

『悪いマスター、お前も色々と言いたい事とかあると思うが……今回は俺に譲ってくれ』

 

「……えぇ、分かっていますとも。ケジメを付けたいのでしょう?」

 

『あぁ、きっとこれも、俺の使命なんだ——』

 

 

 

 




新章でだいぶ心を抉られたけど、私は元気です。

それにしても沖田オルタ水着と煉獄……成る程、ああいうのもアリなのか(閃き


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