俺ってば可愛い (銀ちゃんというもの)
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俺ってば可愛い
設定の間違えとか気にしちゃいけない。
頭を空っぽにしてみるんだ!!!!!
既にこれに近い作品があったらTwitterででもなんでもいいので誰か教えてください即刻読みに行きます。
トラックに轢かれて転生なんてベタベタで既視感がする死に方をしたものだから、流行りのように謎空間でロリ神様に会って異世界にチート携えてレッツゴーできるかと思っていた頃が
幼く可愛らしい金髪を風に任せてパンの籠を揺らしてロンドンの古い街並みを駆ける九つ程の少女がいる。俺だ。これ俺なんだよ。可愛いだろ。
2019年にトラックで撥ねられたと思いきや
今世の両親の下ですくすく育てられて今に至る訳だ。
現在はハリーでポッターな感じの世界線なことを願って魔法学校に入れたらいいなとこっそり願ってる。俺、魔法学校に入れたら凡庸な魔法使いになるんだ。
さて、そんな俺だが首に下げられたこの前貰った銀の十字架を揺らしつつも無事に家に着いて、今日は飲み会に出かけてくるから1人留守番してろという今世の両親を見送ったところだ。
ちなみにこの十字架、謙遜なプロテスタントな両親が俺が生まれる前から持っているものだそう。
すまねえ父母、俺って前世のを引き継ぐとおそらく神道。
お夕餉はパンとニンニクのスープ。
パンはあるのでお菓子は食べなくていいのだ……ちぇ。
大人になったら日本に行くのもいいかもしれないななんて、黄昏燃える空を眺めながらハムハムムシャムシャガツガツと夕飯を食む。
「ご馳走様でした……う、食べすぎた」
親が居ない時は話す言葉は全て日本語。
この時代に生まれ落ちて9年といえど前世の言語はなかなか抜け落ちることは無い。
皿は台所に片付けておく。
さて、今日も厨二病小説の続きを書こうではないか。
居間の電気を消して、2階の自分の部屋の少し高いドアノブをひねり中へ入る。
バタンとやけに大きな音で扉が閉まると、本が並ぶ部屋唯一の窓へ目が行く。
何となく、何となくだ。
既に夜気を孕んだ窓の外が気になって乗り出して覗く。
夜風が心地よく肌を擽り、金の糸のような髪が棚引くのが視界に映る。
ワイワイガヤガヤと帳が降りてなお騒がしい活気がある街に笑みが零れる。
「あーあれだな……こういうとこで『この平和がずっと続けばいいのに』なんて、フラグじみたことを言ったらなにか非日常が……ん?」
突然、眼下の人々の騒ぎが増したな。何があったんだ、みんなは。
上を見てる……のか、一体何が──。
「……What?」
あれ……なに、なんなの? 巨大な飛行船が遠くに飛んでやがるぜ。
よーく見ると、大きくシンボルマーク的な何かが描かれているように見える。
あれは……ドイツ……ナチス・ドイツ? 第三帝国の旗に描かれているあれか。
あーそういうやつねわかったわかった。
ここは普通のイギリスでもハリーでポッターな世界でもないんだね。
理解理解、ダイヤモンド理解。
全然愉快じゃない。
これ、完璧にHELLSINGじゃないですかーやだー。
あれ、そうそう、あれあれ……ミレニアムですよね、
これ俺が悪いのかな、フラグ構築高速回収とはこのことだよ。
ハーケンクロイツを立てて、勝手に回収した俺の責任ですね分かります。
俺知ってるんだよねーははは、この後爆撃みたいなやつと共に一個大隊の吸血鬼が降ってくるって。
これ、どーやって生き残ろう。
なーんて考えてる隙に既に窓は閉めました。
白いカーテンもシャーッとすごい勢いで閉めました。
どうしましょう、そうですね、篭城しましょう。
立ち向かって勝てるわけねーだろう?
そうと決まれば篭城の準備です。爆撃のような奴がうちの近くに当たらないことを願いましょう。一思いに死ぬのはまだいいとして焼死は地獄だろうからね。
……確かピアノ線がここらにあったはずなので回収して部屋の扉側に配置しとこう。
まさか自分の家を物色する羽目になるとはな、ああ、回転式拳銃発見だ。でも使えない、なんてったって俺幼女。
一応持っときますけどね。
あーっと、懐中電灯あった、もしもの目くらましくらいにはなってくれると嬉しいな。
うーん……あとは……果物ナイフは、使えねぇな。なんか長い棒さえあれば薙刀みたいにできていいんだけど、タイムリミットは近い。
もう、騒ぎ声と悲鳴が聞こえる。
一応窓にも配置、あとは部屋の隅で
ああ、でも、どうせだったら……。
いいこと、思いついた。
生物の存在を感知したのか遂に少女の篭る家へ吸血鬼が侵入してくる。
ドタバタガシャンと、邪魔な物を薙ぎ倒しながら2階へ続く階段に直行していく彼ら。
人外の力を存分に使い駆け上がると少女の部屋の前へたどり着く。
迷いなく戦闘の吸血鬼は扉を蹴り開けて中へ侵入すると。
開け放たれた窓から雪崩込む外気、冷気。
内側へ流れ込む風がカーテンと美しい金の糸……否、
白磁の柔肌に妖しく月明かりが差し込み黒曜の瞳が輝く。
軍服を着た吸血鬼と、堂々と窓に寄せた机に足を組んで座る美しい少女。
どちらが化け物かと言われれば、少女の方が妖しい雰囲気を纏っている。
しかし、吸血鬼が見とれたのも一瞬のこと。
即座に肌白い首元に噛み付こうと一体の吸血鬼がバネが弾けるように少女へ迫る、しかし首が飛び心臓が半分になった。
咲いた緋色がピアノ線を伝ってその存在を伝える。
弾けた血液が少女の口元に付着して、可愛らしい舌がぺろりと舐める。
外の騒ぎが嘘のよう、その空間だけ少女が時間を止めたのかとも思える程、静寂に包まれている。
しばしの無音の時が流れる。
1分程経ったところだろうか。くすくすと笑い声が聞こえてくる。
誰のか、少女のものだ。
幼い音色で顔を喜色に歪ませて……。
さあ、ここからが山場だ。
唸れ俺の演技力と思いつつ若干後悔。
俺のしたことはこうだ。
俺可愛いやん、老若男女ロリコン非ロリコン関係なく魅了するレベルで可愛いじゃん。うんうんかわいいよなーえへへ。
じゃあ夜をバックに風と明かりで演出したら絵になるんでねえかと。
夜を背景に窓枠の近くにいるだけで可愛さ千点満点の千乗じゃねと。
ならば、ならばと部屋に吸血鬼が入ってきたら1体目は張ったピアノ線で倒してそのあとは魅了してどうにかしようぜと。
可愛いは正義だしね。
というわけで俺の気分は吸血鬼のお嬢様、
机からストンと白いワンピースを揺らして降りる。
口元に笑みを貼り付けてゆっくりゆっくりピアノ線を境に彼らと俺を別ける所までたどり着く。
心の中で深呼吸、よーしがんばる。
つっと、両手でスカートを少し摘むようにして挨拶。
「どうも、はじめまして……今宵は騒がしい夜ですね
まさか話しかけられるとは思わなかったのか狼狽する吸血鬼達に続けて畳み掛ける。
「夜の王ともあろうものが緊張しないでください、ふふふっ」
「……そうだな、
初めましてだ。そして、さようならだ」
ピアノ線をちぎって少しづつ近寄る彼、そしてもう1人の吸血鬼が部屋に入ってくる。
うん、知ってたこうなることを予想していた。
だからこっからだ。
「そんな急いで、何をするつもりなのです? 一個大隊のお仲間がいるのでしょう? ここにいる……数人程度、ゆっくりしていてもいいではありませんか?」
こてんっとできるだけ可愛らしく、自然に首を傾げて俺は言う。俺可愛い……うへへ。
彼らの表情、そりゃ、なんでこんな幼い子が一個大隊の吸血鬼がいることを知っているという顔だ。つまり驚愕と疑惑。
さあさらにこいつらを困惑させよう。
そう思って、果物ナイフを懐から出して左手に持つ。
「はっはっはっ……
どうやら、声の数は2つ。つまり少なくともここには2人の吸血鬼がいる。
まー、もちろんこんなもので化け物を相手に戦うつもりは無い。
そんなことを考えながら俺は右手の平をピッと切って果物ナイフを地面に転がす。
痛い、けど表情には出さない、血が垂れてくるのを確認して甲を上に彼らに捧げるように伸ばす。
ただあくまで仕草は威厳たっぷりに。
ああ、関係ないけど可愛い子の血液ってなんか呑んでみたいよね。
「……?」
「ねぇ、吸血鬼さん……お願いです。私も、同族にしてくれませんか……?」
「いや、それは無理なお願いだ
あっえ、ダメなの?
どうしよう。
ここで吸血鬼になって助かろうと思ってたけど断られることを想定してなかった。
いーやーマジでどうしよう。
本当に、どうしよう。
こっから先、考えてなかった。
俺も無理ぽ、ここで泣き喚き散らして何でもするって言ったら逃してくれないかな。
無理ですよね、知ってます。
せいぜい好き勝手されたあと殺されるのが関の山ってやつですわね。だって俺可愛いもの可愛いもの、ははは。
「いやいいじゃねえか、1人くらい……」
「嫌だってお前なぁ」
おっおおっ! 来ました? 後ろにいた吸血鬼さん俺の血吸ってくれるの……? ナイス……ナイス!
ほら俺の血を吸わせさせるんだよ。
「はぁ……じゃぁ、チクッとするぞー」
「…………っ」
キタコレッ! 勝った。俺は勝利した。あいむうぃなー!
俺の目の前で俺の手から血を吸ってるやつがおるのよ。
首元じゃなくていいのねなんて思うけどいるのよ。
少し痛いけど我慢我慢、力がみなぎるんじゃぁ。
うへへ……凄い力を感じるんじゃ……ああ別に俺は痛みに快感を覚える変態じゃないからね! 勘違いしないでよね!
……こほん。
とにかく今、眼前の二体をぶち転がせる程の高揚感に包まれているのでやっちゃいましょうか。
やっちゃいましょう。
というわけでもう力がみなぎり切ってる気がするのですけど、未だごくごく血を飲み続けやがってる真ん前のやつの首を片手を手刀の形にしてストーンッと落としました。
彼岸花にも見える血飛沫が舞い散る中で後ろで驚いてるやつの胸へ手を突っ込んで──
「はははっ、勝てると思ったのか
でも、お前の血を吸いながらも警戒は解いていなかったこいつを殺せたことは、褒めてやろう……」
と思ったら素早い手つきで手を止められました。
パシンッなんて音、ものを掴む時に聞いたこと無かったよ。
うーん、まあやっちまったね。
当初の計画では吸血鬼になって普通に逃げれれば良かったのに欲を出して、というか本能に飲まれてやっちまいましたね。
だが甘い、俺にはまだ手段が残っているのだよ。
くくく。
にっと不敵な笑みを浮かべた俺は隠し持っていた例の回転式拳銃を片手で素早く構えて
「……銃を持っているとはな。だが、そんなもので吸血鬼は殺せないぞ?」
「ええ、知っています。なので……こうするんです!」
乾いた破裂音と共に吸血鬼の
「ふむ……?」
吸血鬼がこいつ何をしたいんだという顔をして撃たれた箇所を見るなか、銃を天井へ投げて俺は長い袖からとある物に繋がる糸を引き寄せた。
閃いた銀色の光がどこからともなく飛来し不自然な方向から吸血鬼の首を裂く。
「……なぁっ!?」
それでも大した傷では無い、吸血鬼はすぐさま仕留めようと俺の細腕を捻り折って来る。
が、遅い。
少なくとも九年間、信心深い信者が使ってきたものが俺の片腕を捻る手首をへし折る。
「くっ……十字架……っ!?」
そう、首から下げられた銀の十字架。
念の為ネックレスのようになっているこれを襟元から中にしまっといて良かった。
自由になった腕はもう既に使い物にならないがどうせ後で再生する。
痛みを無視して俺は十字架で吸血鬼を殴る。首を飛ばす。
再び血飛沫が舞う。しかし気持ち悪いので今度は避ける。
勝ったね。意外とあっけない、まあ可愛いから勝っちゃったのだよえへへ……で、経験値習得とレベルアップまだ?
ないですかそうですか……はぁ。
「果物ナイフまで使うことになるとはな……母さん怒らないかな……この騒ぎだし、もう死んでるか?」
ピアノ線と繋いだ果物ナイフを拾う。
俺に技術があれば、十字架を使う前にこいつを引き寄せたまま首を飛ばして勝てたのにと少し残念。
「えーっと……ピアノ線、銃、果物ナイフ、十字架……4つも道具を使うことになるとは……いや、意図してなかったけど、5つかな? 薄いけどもニンニクの匂いもあいつらの弱体化に役立ってくれたみたいだし……」
当初の予定よりだいぶかけ離れたとはいえ命の危機脱したからな!
あとは吸血鬼なのを隠して生きていくだけだ!
あー。
でも、1回ヘルシング邸にお邪魔してみたいかもな……あと、夜明け近くの消滅するアーカードも実際に見てみたいかもしれん……むむむ。
これは夜遊び決定ですね。
俺悪い子ですわーこんな可愛い子が夜遊びとか悪い子ですわー大人ですわーえっへん。
吸血鬼のお嬢様が夜遊びとか犯罪臭しかしないの、それとも百合。
……吸血鬼になっちゃったんだし楽しめればいいか!
そうして俺は家を飛び出した。
インテグラル送迎中の
なんでも「神父は聞いてねぇよ。つーか忘れてたようわーん」と喚いていたらしい。
それはまた別の話である。
我 な が ら こ れ は 酷 い
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