【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート (もふもふ尻尾)
しおりを挟む

パート1 『まずはキャラクリから』

 ご視聴にあたっての注意

・今回が初投稿です。お見苦しい点があるとは思いますが御了承下さい。
・残酷な描写があります。苦手な方は無理をなさらぬように。
・ゴブスレRTAは多くの方が投稿されている為チャート被りは許して!
・淫夢要素はありません(大嘘)


 はい、よーいスタート。

 

 正面から行かせてもらう、それしか脳がないRTA、はぁじまぁるよー! さっそくスタートです!

 

 タイマースタートはニューゲーム選択時、タイマーストップは実績の一つである【銀等級の冒険者】を取得した瞬間となります。

 早速キャラクリに入りました。性別はもちろん男性を選択します。当たり前だよなあ?

 

 ちなみに女性でゲームを始めた場合、少しガバをしただけで長時間のR18Gムービーを観賞する羽目になったり、ガバが無くても女の子の日が来た場合に丸一日ロスが発生したりするので(RTA的には)ないです。

 種族で選ぶのは只人。やはり先人兄貴も仰ってましたが安定性が……ありますねぇ!

 

 選択するのはここまでです。あとは見た目も経歴も面倒なのでランダムを選びましょう。パパパっとやって終わり!

 さてさて、どんな感じになりましたかね?

 

 ……体型は少し細身ですね。顔が若干暗~い雰囲気がありますけどまあ良いでしょう。どうせ兜で見えなくなります。

 出自は没落騎士。来歴は苦難。邂逅は孤独。

 どうやら彼は騎士の家系に生まれながらも没落し、ろくでもない人生を歩んで友達も居ないボッチ君みたいですね。えぇ……なにそれは(困惑)

 

 まあパッと見ハズレ枠に思えますが、こういったタイプは実は大当たりの可能性もあるので継続します。

 没落とは言えRTA的にもおいしい騎士ですからね。

 

 因みに騎士の特徴を挙げるとするなら、ステータスに若干のボーナスがあるのと、初期状態で基礎的な奇跡を一つ覚えている事でしょうか? かなり安定した冒険ができますね。

 

 騎士はソロプレイ縛りに於いても人気がありますあります。

 先人は商人でしたが、今回の最終目的は銀等級への到達ですので、残念ながら候補からは外れていました。その理由は後述します。

 さて基本ステータスがダイスロールによって決定されます。なるべく体力値が高ければ有難いですが、こればかりは本当にリセマラしかありません。

 

 カラコロ……。

 

 幸いな事に体力は高いですね。これだけで継続決定です。

 初期体力さえ高ければ、最初からクエストを多く受けれるので稼ぎもしやすく、他のステータスも後から上げていける為です。

 

 あと目を引くのは……精神力もなかなか高いですね。

 精神力が高いと状況に応じて発生するマイナス補正などを緩和したりします。疲労やストレスが溜まっても、ある程度までなら問題なく動いてくれますよ!

 

 原作でゴブスレさんがゴブリンチャンピオンにやられた際、女神官ちゃんのプロテクションが、途中で切れたりしましたよね? ああいった場面でも、精神力が高いと問題無く継続出来ます。

 

 他は基本平均的ですね。知力がお察しですが、魔術を覚える気は無いので問題ないです。

 もし魔術が必要な場面が出てきたら、その時に考えましょう。

 どっかに使い潰せる魔術師転がってないかなー?

 

 さて、職業のポイントは【騎士】2の【斥候】1となります。騎士は盾と鎧への能力補正が上がり、タンクとしての役割が強化されますね。

 

 守ってばかりじゃRTAになんねえよなぁ? と兄貴達は思うかもしれませんが、今回の完全オリジナルチャートに於いては寧ろメリットとなります。見とけよ見とけよー。

 

 斥候は先人兄貴同様です。ソロ狩りするならもはや必須と言って良いほどですね。

 一党にこれを取得したメンバーが一人も居なければ、冒険で即不意打ちを受けるので、かなり危険です。

 

 技能は【盾】と【強打攻撃・殴】にしておきましょう。

 キャラクターに無茶させる時に必須となる【忍耐】も、欲しい所さんではありますが、今回のRTAでは最初のクエストであるゴブリン退治を安定させる為にも、先にシールドバッシュ戦法を出来るようにします。

 やはりあのクエスト、最初に来る癖にやたら難易度高いんですよねぇ……。

 

 あと地母神を信仰していた家系のようで、《解毒(キュア)》の奇跡を使えるようですね。これには隣で拝見している地母神さんもニッコリです。

 でも彼『没落』騎士なんだよなあ……。

 

 因みに、行使出来るのは一回です。

 まあ初期状態で二回以上は、専門職でないとまず無理ですね。

 

 名前は例の如く【疾走騎士】です。ホモではないです。

 

 最後に冒険者となった動機と経緯を決定します。はいはいランダムランダム。

 

 ……また啓示かあ壊れるなあ。

 

 まあ、実際RTA走者として啓示を受けてますから多少はね? と、言うわけで君達も走らない? ……あ、そう。

 

 これにてキャラクリ終了! それじゃあまどか神さんオープニングムービーオナシャス!!

 

 アラ?マリサトサクヤ?

 

 では、ムービーの間に今回のRTAについて、ご説明致します。

 

 アレ?レイムノトコニイタンジャナイノカ?

 

 今回のRTAでは、ゴブリンスレイヤーの世界に於いて、可能な限り早く銀等級へ到達することを目的としています。

 その為、ゴブリンスレイヤー一党には加わったり加わらなかったりします。

 

 チョコマカト!エエイ!マスタースパーク!

 

 最優先なのは【ギルドに認められること】これに尽きるでしょう。

 ただ手柄を挙げるだけではいけません。善人ムーブも行いつつ、受付のお姉さんに気に入られる必要があるのです。

 

 マリサァーッ!

 

 さてムービーもそろそろ終わり! それじゃあ張り切ってゴブリンスレイヤーの世界へイクゾー!

 

 到着しましたね。最初は冒険者ギルド前からスタートするんですが、まずは工房へと向かい装備を整えます。

 工房で売られているものは大体固定ですが、中古品で安く上質な物が売られている場合もあります。

 しかし彼は幸運技能を持っていないので、あまり良いものは期待出来ません。

 

 今回あったのは中古のサレットでした。国の兵士とかが着けてるやつですね。横流し品かな?

 取り敢えず頭装備は必須なので購入します。後はレザーアーマーも買いましょう。やはり最低限の防具として、これくらいは欲しいです。

 

 次に、今回の完全オリジナルチャートの目玉となる品を購入しましょう。

 

「…あぁ? 盾を二つ?」

 

 そうだよ(迫真)

 

 売られていたヒーターシールドを二つ購入。彼には盾を二つ装備させます。

 これがこのチャートの最も大きな特徴です。

 盾二つとか攻撃出来ないんじゃない? ……と、初見兄貴達は思うかもしれませんが、そんな事はありません。

 盾は武器としてとても有用で、それこそ先人兄貴が剣を持ちながらも盾をメインウェポンにしていたほどです。

 

 それならもう盾を両手に持てば良いのでは? という結論に至ったのがこの完全オリジナルチャート、名付けて【ドヤ顔W盾チャート】です。

 実用性があるかは分かりません。測定するのは今回が初めてですので。

 

 ついでに盾の縁を研いでおきましょう。先人兄貴も行っていた工夫ですね。

 シールドバッシュならぬ、シールドスラッシュが可能になります。

 ただ女神官ちゃんと剣士くん一党のイベントに間に合わなくなる可能性があるので、このお買い物にあまり時間を掛けすぎないようにしましょうね(2敗)

 

 これで必要な物は全て、買い揃えることが出来ました。

 出自が商人ではないので資金が少なく、更にヒーターシールドを二つ購入する必要もありましたが、ギリギリ何とか足りましたね。

 

 では今度こそ冒険者ギルドへイクゾー!

 

 着くぅ~。

 

 まず受付で冒険者登録を行います。

 知力がお察しな彼に文字は書けませんので、代筆をお願いしましょう。

 この際の受け答えには、礼儀正しく丁寧な言葉遣いを心掛けます。

 第一印象は大切ですし、何より今回の最終目的である銀等級到達の為にも、ギルドからの信頼は厚いものでなければなりません。

 その為にも、彼には好青年を演じてもらう必要があるのです。

 

 登録が終わってからもそのままクエストには行かず、女神官ちゃんが来るまで掲示板前で待機します。

 ……と思ってたら、丁度疾走騎士くんが登録を終えると同時にやって来ましたね。

 彼女がこの時間に冒険者登録をする事は分かっていますし、それまで待つとロスになってしまいます。

 だから、先にお買い物をして時間を潰す必要があったんですね。

 

 女神官ちゃんの登録が終わるまでは近くで待機します。待ってる間にトイレに行ったりは出来ません。

 タイミングが悪いと剣士くん一党と共にゴブリン退治へ出発してしまい、やはり置いていかれてしまいます(1敗)

 

 どうやら登録が済んだようです。彼女に話し掛け、適当な選択肢を選びつつ会話をしていると、青年の剣士、少女の武闘家、少女の魔術師の計三人の一党がやって来てゴブリン退治に誘って来ます。なんだこの一党!?

 

 しかしこのゴブリン退治は、冒険者としての評価を上げる絶好のチャンスですので勿論同行します。

 

 受付嬢の忠告も無視しながら急ぎ出発する一党ですが、ここで疾走騎士くんは受付嬢から何かアドバイスが無いかを聞きます。

 微ロスですが貰える情報によって安定性は増しますし、走って追い付く程度であれば殆ど誤差です。

 何より彼女はゴブスレさんから毎回報告を受けている事もあり、ゴブリン退治に関しては知識が豊富です。

 

 ただやはり、ここでも時間を掛けすぎると、彼らを見失って追い付けなくなりますので注意しましょう(1敗)

 

 今回は一度だけ情報を聞きます。

 ……ゴブリンが毒を使ってくるポジ敵である事を、教えてくれました。

 これは有難いですね。毒は対処が遅れれば解毒も効かなくなり、そのままロストしてしまいます。

 解毒の奇跡を覚えている疾走騎士くんには、もってこいの情報ですね。

 

 では急ぎ、剣士くん達を追いかけます。

 ……直ぐに追い付けましたね。良かった良かった。

 

 それでは最初の難関である小鬼の(巣)穴へイクゾー!

 

 移動中、今回のゴブリン退治クエストの大まかな流れについてご説明します。

 このクエストではまず我々冒険者一党が、ゴブリンからの不意打ちを受け、一度は危機的状況に陥るものの、ゴブリンスレイヤーさんが到着してからは一転攻勢。瞬く間に全滅させると言うものです。

 そんな中、疾走騎士くんを生き延びさせつつ、十分な戦果を立て、女神官ちゃんも生き残らせなければなりません。

 

 ちなみに、剣士くんと武闘家ちゃんは先行して、勝手にやられてしまうので諦めましょう。慈悲はない。

 

 いや実際この二人を助けるのは……いやーキツイっす。

 まず剣士くんを助ける為には、彼を包囲したゴブリンはもちろんですが、剣を振り回す剣士くんの攻撃をくらう危険もあります。ふざけんな!

 

 そして武闘家ちゃんは、大体剣士くんとくっついてやられます。

 そこを救出する事はできますが、遠距離武器や魔法が無いと、実行するのは厳しいですね。

 

 そもそも受付嬢さんからトーテムの情報がもらえていれば、予め注意出来るんですが今回は……ダメみたいですね。

 

 魔術師ちゃんは後衛なので先行しません。なのでガバらなければ生き残ります。

 その分ギルドからの評価は上がりますし、可能であれば生存させたいです。

 

 さて、小鬼の(巣)穴に入る前に魔術師ちゃんに、松明を渡しておきましょう。

 剣士くんも松明を持っていますが、途中どんどん前へ先行して離れた結果、後衛に光が届かなくなります。あのさぁ……。

 

 女神官ちゃんに持たせても良かったんですが、魔術師ちゃんなら万が一松明が消えても《火矢(ファイアボルト)》で再度点火出来ますからね。いざというときの保険です。

 まあ、そうそう消える事は無いんですけどね。

 

 着くぅ~。

 

 暫くはゴブリン達も隠れており、出てきません。

 途中トーテムを見つけましたが、もう既に剣士くんと武闘家ちゃんは目視で見えない所まで離れてしまっていますね。

 

 はい、これに関しては疾走騎士くんがわざとゆっくり進んでるせいです。

 後衛二人の体力を浪費させない為と、巣穴発見の確率を上げる為。あとは先行してしまった二人を、囮にしやすいようにする為です。冒険者の屑がこの野郎……。

 他にあと一つ理由があるんですが、それは後でお話しします。

 

 ……おや?どうやら今回は、魔術師ちゃんが横穴を発見したようです。やりますねぇ!

 発見した横穴からは、早速ゴブリン達が出てきますので、疾走騎士くんに迎撃させましょう。オッスお願いしまーす!

 

 初戦闘、ゴブリンの群れです。

 最初の一匹は飛びかかって来たので盾で弾きます。

 ……顔面にぶち当てたので倒せたようですね。

 すぐに続々と群れが出てくるので、女神官ちゃんと魔術師ちゃんには、下がっていてもらいます。どうせやることないですし。

 

 後は、向かってくるゴブリン達に対し、タイミングを合わせて【ドン】とシールドバッシュをしたり、【カッ】とシールドスラッシュしたりするゲームです。太鼓の達人? 知らなーい!

 

 たまに矢が飛んでくるので、兜や盾で防ぎます。

 足に当たったり、後衛の二人に当たるとロスですので気を付けましょう(3敗)

 

 途中剣士くんの悲鳴が聞こえてきます。

 見えない所まで離れてしまっていたので、剣士くんが無様にやられるムービーをスキップ出来ました。

 だから、疾走騎士くんがゆっくり進む必要があったんですね。

 

 次に、武闘家ちゃんの悲鳴が聞こえてきたら、ゴブリン達の数も多くなり、譜面の難易度が上がるお知らせです。

 ここからが腕の見せ所さんですね。

 

 ……でもやっぱり厳しいので、女神官ちゃんと魔術師ちゃんの二人には一旦退くよう指示しましょう。

 引きチク戦法も併用します。

 

 ……ファッ!?

 

 魔術師ちゃんがゴブリンに襲われてるぅ!? あれは最初に倒したはずのゴブリン!? 死んだ振りだったとかうせやろ!?

 

 思いっきりお腹を、短剣でぶっ刺されてますね。

 やはり運命には抗えないのか(諦め)

 

 いかん早く助けなければ魔術師ちゃん(生存者ボーナス評価点)が死ぬぅ!

 

 因みに初回でこれを回避するには、あらかじめ受付嬢からゴブリンが死んだ振りをする情報を聞き出しておく必要があります。今回はダメでしたね。

 

 取り敢えず、彼女はまだ助けられますので救出します。

 微ロスですがこの後フルコンボならおつりがくるので続行です。

 

 魔術師ちゃんに馬乗りになってたゴブリンを弾き飛ばしました。

 今度こそ倒せたみたいですが……やっぱ毒みたいですね。早く解毒しないと手遅れになります。

 

 受付嬢から話を聞いていた疾走騎士くんは毒に気付き、解毒の奇跡も賜っているので治す事も出来ますが、前から来るゴブリン達がキツくて手が離せません。お兄さん許して!

 

 仕方がないので女神官ちゃんに《聖光(ホーリーライト)》を使ってもらいましょう。

 数秒ゴブリン達の目が眩むので、その間に解毒します。

 

 バルス!

 

 はい、ゴブリン達は目が眩みました。今のうちに治しましょう。

 ここで精神力が低いと、焦って失敗する事もありますが、疾走騎士くんなら問題ないですね。

 

 解毒が完了しました。まだゴブリン達は目が眩んでいるので、この瞬間だけ好き放題ゴブリン達を叩きのめすことが出来ます。もう許さねえからなあ?

 

 ここでゴブリンを規定数討伐したので、ゴブリンスレイヤーさんが到着。ここからは一転攻勢してゴブリンの(巣)穴を滅茶苦茶にし

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。




Q.まどか神さん流すムービー間違えてないですかねぇ?

A.再生時間に差は無いのでRTA的には問題ないらしいっすよ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート1 裏 『剣士くんなんですぐ死んでしまうのん?』

「冒険者ギルドへようこそ! どういったご用件でしょうか!」

「冒険者登録がしたいのですが、字が書けないので代筆もお願いします」

「分かりました。では、いくつか質問をさせて頂きますね」

 

 初めてギルドを訪れた彼は、サレットを被り顔が見えず、盾を二つ背負うという異質な風貌でした。

 最初は私も警戒していましたけれど、それもすぐに杞憂である事が分かります。

 礼儀正しく話をしてくれる彼は冒険者としてだけではなく、人として、とても好印象だったんです。

 

「職業は疾走騎士……ですか」

「残念ながら、没落してしまいましたけどね」

 

 そう言いながら苦笑いしている様子の彼。

 ……といってもそのサレットで顔はみえないですね。

 成る程、彼も訳ありの一人ということなのでしょう。

 

「はい、ではこれが冒険者ギルドでの身分証となります。冒険の最中に何かあった時に身元を照合するのにも使いますから、無くさないでくださいね」

「了解です」

 

 癖なのだろうか? 手渡すなり素早く首に身分証をかける彼は、動作がとても素早かった。 

 いや、そんなことはどうでもいいか。

 

「依頼はあちらの掲示板に貼り出されています。等級に見合った物を選ぶのが基本です。決まりましたら受付にいらしてください」

「ありがとうございました。また後で伺います」

 

 彼はそう言って頭を下げて、掲示板へと向かっていきました。

 ああいう素直な冒険者はこちらとしてもやりやすいですね。

 あのサレットと盾のせいで見た目がとても怪しいのは玉に瑕ですけど……。

 

「次にお待ちの方どうぞー!」

 

 出来れば彼にも生き残って欲しいなあ。そう思いながら私は再び職務へと戻りました──。

 

───────────────────────

 

「すみません、貴女も新人の方ですか?」

「え、はい。そうですけど……」

 

 冒険者登録を終えた私は直後、兜を被った兵士のような人に声を掛けられた。

 最初は軍の人かと思ったけれど、どうやら違うみたい……。

 

「こちらもつい先程冒険者になったばかりなんですよ。自分は疾走騎士。同期として、よろしくお願いします」

「あっ、はい! 私は神官です! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 頭を下げて挨拶をしあう。とても礼儀正しい人だ。

 冒険者と言ったら怖そうな人も多いイメージだけど、こんな人も居るんだなあ……。

 

「いざ冒険者になったは良いものの、どの依頼を受けるべきか悩んでいるんですよ。最初はあまり危険な依頼は避けたいですからね」

 

 疾走騎士さんが眺めている掲示板を見上げると、様々な討伐依頼が貼られている。多分そのどれもが恐ろしい怪物なのだろう……。

 

「確かに、私達まだ冒険については右も左もわからないですからね……」

「なので初めはベテランの人に先導してもらうか、あるいは大人数でと考えていたんですけど──」

「なあ! 君たち新人だろ?」

 

 突然声をかけられ、私と疾走騎士さんが振り向く。

 そこに居たのは剣士の青年と、武闘家の少女に、そして魔術師の少女という構成の一党。

 どうやら私達と同じく駆け出しのようだ。

 

「はい、そうですが……」

「あなた方は?」

「俺の一党に来てくれないか? 急ぎの依頼があるんだ!」

 

 青年剣士の言葉に、疾走騎士は頷いた。

 

「丁度いいですね。貴女はどうしますか?」

 

 そう言って私の方を見る彼。

 確かにこのまま一人で居るよりは、この人達についていく方が良いかもしれない。

 

「じゃあ……私もよろしくお願いします」

「決まりですね。それで、急ぎの依頼とは?」

「ゴブリン退治さ!!」

 

 でもその結果、あんな事になるなんて……私はこの時、考えもしていなかった──……。

 

───────────────────────

 

 退路の確保の為と言い、隊列の最後尾に位置した疾走騎士。冒険を始めてからの彼の姿勢は、慎重の一言に尽きた。

 警戒を強めながら進む彼に対し、一刻も早く拐われた村娘を助けたい一党。

 ゴブリン退治にそこまでの警戒は必要ないだろうと他の皆は言うが、それでも彼はその姿勢を崩さない。

 

「ゴブリン退治なんて一~二回こなして新人卒業! ってのがセオリーだろ? 心配無いって! な!」

「騎士なんて言ってもただの臆病者ね」

「ち、ちょっと! それは流石に言い過ぎじゃない?」

「そうでないと、盾を二つも持ちませんよ」

「お、臆病なのは否定しないんですね……」

 

 自信満々な様子で盾を二つ両手に構える疾走騎士と、苦笑いを浮かべる女神官。

 マイペースを崩さない疾走騎士に対し苛立ちを感じながらも、一党はゴブリンの居る洞窟の奥へと進んでいく。

 彼のその慎重さが、決して間違いではないのだとも知らずに……。

 

───────────────

 

 私は賢者の学院を優秀な成績で卒業した魔術師だ。

 賢者の学院とは、都にある魔術師の育成機関で、卒業した者は大成間違い無しと言われている。

 そんな学院を優秀な成績で卒業した私は、自らの優秀さをより多くの人に知らしめる為に冒険者となった。

 始めての冒険となったこのゴブリン退治も、私にとってはただの通過点に過ぎないだろう。

 ……そんな当初の予想とは裏腹に、私達の冒険は、徐々に雲行きが怪しくなってきていた。

 

「全く、後衛を置いていくなんて何を考えてるのよあいつら」

「し、仕方ないですよ。拐われた人を一刻も早く助けてあげないといけませんから……」

 

 巣穴らしき洞窟へ入ってからというもの、剣士と武闘家の二人が先行し過ぎるせいで、隊列が乱れてきている。

 二人の姿はこちらから殆ど見えなくなっていた。

 

「アイツはアイツでマイペースよね……まあお陰で楽だけど」

 

 冷静に考えてみればあの疾走騎士は、私達後衛が進むペースに合わせた上で、可能な限りの警戒を行っていたように思える。

 もし私達二人だけで前衛に置いていかれていたら、松明の光も届かないなか、急いで追いかける必要があった。

 壁役が側に居るというのは、後衛にとってそれほどに安心感を与えるという事なのだろう。

 

 ──彼はそこまで考えていたのかしら? だとすれば、何だかんだ二人を加えて正解だったかも……あれ?

 

「……これ、横穴?」

 

 洞窟に入る前に疾走騎士から渡された松明が、剣士と武闘家の二人が進んでいった道とは別の横穴を照らしていた。

 

「下がれっ! ゴブリンだ!」

「えっ──きゃっ!」

「GOBURR!?」

 

 叫んだ疾走騎士が、いつの間にか私の眼前まで迫って来ていたゴブリンを盾で弾き飛ばす。

 吹っ飛んだゴブリンは何度か跳ねた後、地面に転がってそのまま仰向けになり、動かなくなった。

 顔面からぶち当てたのだろう。鼻が完全に折れ曲がっていた。

 

「大丈夫ですか!?」

「な、なんなのよ一体……」

 

 ゴブリンに驚き尻餅をついた私に対し、女神官が心配そうに駆け寄って来る。

 私は先ほどのゴブリンを見ると、その手には短剣が握られていた。

 あのまま疾走騎士が割って入らなければ私は間違いなくアレで刺されていただろう。

 全くもって理解が追い付かない。

 まさか、待ち伏せされていたというの?

 

「まだ来ます! 二人はそのまま下がっていてください!」

「くっ!」

「わ、分かりました!」

 

 彼は本来防具である筈の盾を武器として駆使していた。

 ゴブリンごと壁に叩きつけ、あるいは盾の縁でゴブリンを斬り裂き、横穴から出てくるゴブリン達を次々と倒していく。

 その姿は凡そ新人には見えない戦いぶりだった。

 

「剣を振り回さないで! 一緒に戦えない!」

「こいつらは俺が倒してやる!」

 

 そんな時に聞こえてきたのは、剣士と武闘家の声だった。

 暗くてよく見えないが、恐らく前方でゴブリン達と戦っているのだろう。

 ……しかし、どうにも様子がおかしい。

 だが、こちらも手一杯な上に距離がある。彼等と合流しようにも疾走騎士から離れれば襲われる可能性が高い。

 向こうが退いて来てくれなくてはどうしようもないのだ。

 

「疾走騎士さん! あの二人が!」

「分かっていますがこちらも手が離せません! くっ、何故二人とも退いてこない!?」

 

 何故? それは私には、すぐに理解できた。

 

 

 

 

『ゴブリンなんかに負ける筈がない』

 

 

 

 

 そう、この油断があの二人から撤退という選択肢を除外し、今の状況を産み出しているのだ。

 ……そして、突如鳴り響いた鈍い金属音によって、状況は更に悪化する事となる。

 

「あっ……あああ! がああああああ!!」

 

 剣士の叫び声が聞こえる。そして固い物を叩く音が何度も何度も響き、徐々に濡れた柔らかい物を叩く音へと変わっていく。

 

「いやああああああ!!!!」

 

 次に武闘家の悲鳴。しかしそれは、先程とは違う種の悲鳴。

 そしてその悲鳴は何時までも止まない。

 私はこの暗闇の先で、何が起こっているのかが容易に想像出来てしまった。

 

「嘘……」

「そ、そ……んな……」

 

 血の気が引いて、体が震える。

 私達二人もああなってしまうのだろうか? そんな絶望が脳裏によぎる。

 するとそんな私達二人に見かねたのか、疾走騎士は無慈悲な選択を下した。

 

「……一旦退く。殿は自分が」

「で、でも……」

「このままでは全滅だっ!! いいから退けっ!!」

 

 私達を叱責するように、彼は声を荒げて叫んだ。

 横穴からはまだゴブリンが這い出てきている上に、正面の二人がやられた事で、前方からもゴブリンの群れが向かってくるだろう。

 私達だけではとても持ちこたえられない……。

 

「っ! ごめんなさい!」

 

 そう言って神官の子が外へ走り出す。私もそれについていこうとした、その瞬間──。

 

 

 

 ──ドスッ!

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 先程まで倒れていた鼻の折れたゴブリンが、私の腹を短剣で貫いたのだ。

 

──────────────────

 

「あ゛っ!! ぐっ!!」

「あぁ! そんなっ!」

 

 女神官の目の前で魔術師の腹部を刺したゴブリンは、短剣を抜いた後、そのまま彼女を押し倒し、衣服を引き裂いた。

 そして下卑た薄ら笑いを浮かべ、露になった胸へと手を伸ばす──。

 

「うおぉっ!」

 

 が、その瞬間、ゴブリンは駆け付けた疾走騎士の盾によって横から叩き付けられる。

 そのゴブリンは頭蓋が砕かれ、絶命しながら転がっていった。

 

「次から次へと!」

 

 しかし前方からは次々とゴブリン達が迫って来ていた。

 疾走騎士は直ぐ様前へ出て、迎撃を続ける。

 

「あ……うぐ……!」

 

 腹部を刺され、痛みに悶える魔術師。

 女神官は急ぎ、倒れた魔術師に駆け寄る。

 出血の量からして傷はそこまで深くない。急いで治療すれば間に合うはずだと彼女は考えた。

 

「だ、大丈夫です! 傷は治せますよ! 癒やしの奇跡を──」

「待つんだ!」

 

 しかし魔術師に治療を施そうとした女神官を疾走騎士が止める。一体何故?

 

「出発前に受付から聞いた! ゴブリンは武器に毒を仕込む! その短剣は毒だ! まずは解毒が必要だ!」

 

 そう、毒を取り除かなければ治療は意味を成さない。女神官には彼女を助ける事は出来ないのだ。

 

「そ、そんな! 私には解毒薬も解毒の奇跡も……!」

 

 それでは魔術師は助からないのだろうか? ……いや、どうやら今回は運が良い。

 何故ならそこに《解毒(キュア)》を使える者が居るからだ。

 

「解毒の奇跡なら地母神から授かっている! しかしこいつらの相手で手が放せない! 十秒……いや五秒でいい! 隙を作れるか!?」

 

 ──解毒の奇跡? この人も地母神の信徒? いや、今はそれを考えている暇はない。とにかく今すぐにやらないと彼女が死んでしまう。そう考えた女神官は立ち上がり、錫杖を強く握りしめた。

 

「わ、分かりました!」

「頼む!」

 

 疾走騎士は眼前のゴブリンをシールドバッシュで四匹程巻き込みながら弾き飛ばし、直ぐ様倒れた魔術師に駆け寄って膝をついて奇跡の詠唱を始めた。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者より病毒をお清め下さい》」

「GORRB!!」

 

 しかし、尚もゴブリンの群れが迫る。

 だがそこへ、女神官が覚悟を決めた表情で立ち塞がった。

 

 ──怖い。逃げたい。でも背後には守るべき仲間が居る。私がやるしかない!

 

「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに聖なる光をお恵みください》……《聖光(ホーリーライト)》!」

「GOB!?」

 

 突然の発光に目が眩んだゴブリン達は怯み、隙だらけとなる。

 

「《解毒(キュア)》」

 

 そして、疾走騎士も奇跡を行使に成功した。

 

「終わった! 急ぎ彼女の治療を!」

「は、はい!!」

 

 疾走騎士は突撃し、目を抑えて混乱しているゴブリン達に対し、盾を振り下ろして一匹ずつ叩き潰していった。

 そして、この隙に治療をする為に、女神官は癒しの奇蹟を魔術師へと行使する。

 

「《小癒(ヒール)》!」

 

 出血が止まり、傷が目に見えて癒えていく。なんとか治療は出来たようだ。

 苦しんでいた魔術師の表情が、ようやく穏やかなものへと変わる。

 しかし状況は依然として悪いまま。急ぎこの場を離れなければ……そう考えた瞬間だった。

 

「成る程。変わった戦い方だ」

 

 銀の認識票を身に付けた冒険者がそこには居た。

 彼は視力が戻りつつあるゴブリン達の下へ駆けると、剣で片っ端から切り裂いていく。

 

 そうして、彼等はその場に居たゴブリンを全て片付けた。

 一段落ついた後、疾走騎士が問いかける。

 

「銀の認識票……貴方は?」

小鬼を殺すもの(ゴブリンスレイヤー)だ」

 

 神官にゴブリンの血を塗りたくりながら、男はそう答えるのだった。




Q.もはや音ゲーなんですがクォレハ……。

A.音ゲーと化したチャンバラ死にゲーもあるし、まあ多少はね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート2 『メガトンコイン』

 一転攻勢! 小鬼の穴に盾をブチ込むRTA、第二部はぁじまぁるよー!

 

 前回、ゴブスレさんと共にその場に居たゴブリン達を殲滅したので、これから一転攻勢をかけるところからです。もう許さねえからなあ?

 

 ここからは、この小鬼の(巣)穴の奥の奥まで探索し、攫われた娘達を救出しに行く事となります。

 

 しかし魔術師ちゃんは治療が出来たものの、未だ気を失ったままですね。

 彼女を放って行くことは出来ないので、疾走騎士くんにおぶらせていきましょう。女神官ちゃんにはきついでしょうからね。

 

 

 

 

 

 ……え、重っ。

 

 

 

 

 あ、あのちょっと待って。こいつ重い。なんか重くない?

 確かに疾走騎士くんはまだ筋力値はそれほど高くはないですけど……いや、え、重っ! 嘘でしょ何これメガトンコイン? 重量設定ミスってない?

 ……あっ! そう言えば先人兄貴もこいつ重いって言ってましたね!(責任転嫁)

 

 まあこれに関しては魔術師ちゃんのわがままボディが原因です。

 ここで彼女を生存させた場合、数年後には槍ニキの相方である魔女さん並みのプロポーションになりますし、バストに至ってはそれ以上という可能性の野獣です。

 女神官ちゃんと金床ちゃんは諦めて、どうぞ。

 

 とにかくこのまま背負って行く以外に選択肢はありませんので、これも筋トレと思って我慢しましょうか。

 巣穴の奥まで進んでいく途中には何体かゴブリンが居ますが、全てゴブスレさんが倒してくれるので問題はありません。流石銀等級ですね。

 なので疾走騎士くんは暫く魔術師ちゃんをおぶって歩くだけになります。わっせ、わっせ。

 

 しかしこのクエストでは、疾走騎士くんが出来る限り多くのゴブリンを討伐する必要があります。

 

 この世界では、敵を討伐した事により得られる経験点は極僅かですが、ギルドの評価には大きく関わってきます。

 それに例え僅かな経験点であっても、多いに越したことはないです。

 特にホブとシャーマンは他のゴブリン達よりうま味ですので何としても頂きましょう。

 他にももう一つ理由があるのですが、それに関しては後述します。

 

 あ、ゴブスレさんが持ってた武器を破棄するイベントが発生しましたね。工房で売れるので回収しましょう。

 二束三文ですが、出発時のお買い物で殆どの資金を使い果たした疾走騎士くんにとってはとても貴重です。証拠物件として押収するからな~?

 

 あと、疾走騎士くんは初期装備として折れた直剣を持っていましたが……これは何の価値もないので売れそうにないですね。

 

 さて、どうやら最後の大部屋前に着いたようです。

 ゴブスレさんが罠を仕掛けますので、その間に魔術師ちゃんを少し離れた場所に寝かせましょう。流石にこのままでは戦えませんからね。

 

 あ~重かった~。

 

 罠を仕掛け終えたゴブスレさんは、女神官ちゃんを連れて奥に進んで行きます。

 少しするとゴブリン達を引き連れて戻ってくるので、待ち伏せで仕止めていきましょう。

 

 ここから先は、女神官ちゃんが《聖光(ホーリーライト)》を使い、ゴブリン達の目を眩ませ、その隙にゴブスレさんが槍を投げ、シャーマンを攻撃して引き返してきます。大体この流れです。

 

 因みに女神官ちゃんの初期奇跡使用回数は、3回ですのでこれで撃ち止めです。3回だよ3回。

 ちなみに疾走騎士くんは1回です。やはり専門職は違いますね。

 

 そこに転がってる魔術師ちゃんなんかは魔法の行使回数は2回ですし、やっぱり彼女は地母神さんのお気に入りなんやなって。

 

 一応この奇跡や魔法の行使回数は、レベルを上げることで増えていきます。

 でも疾走騎士くんは専門職ではないのでなかなか増えません。はーつっかえ。

 

 

 そんな話をしている内に、二人が戻って来ました。後ろからはホブが来ています。

 ゴブスレさんと女神官ちゃんの二人は仕掛けたワイヤートラップを飛び越えるんですが、女神官ちゃんの方は飛び越えるのに成功しても着地した瞬間に転んでしまいます。

 

 さてホブの方ですが……おや? どうやら足元のワイヤーに気付いたようですね。

 ここは原作だと女神官ちゃんが目眩ましの聖光を使うんですが、先程魔術師ちゃんを助ける為に消耗してしまったのでこれ以上奇跡を使う事が出来ません。

 

 しかし問題はないです。何故ならワイヤーを飛び越えようとしたその瞬間を───。

 

 

 上から来るぞ! 気を付けろ!

 

 

 細道の出口にある物陰から、ホブの首目掛け疾走騎士くんが両手の盾を振り下ろします。シールドギロチンですね。

 不意打ち、急所、かつ両手での攻撃、更にホブ側の抵抗判定の出目がお察しだったので斬首成功です。くびきりちょんぱー!

 

 ホブが女神官ちゃん目掛けて倒れていきますが、ゴブスレさんが引っ張って助けるので問題はないです。すいません許して下さい!

 

 続いて普通のゴブリン達が続々出てくるので疾走騎士くんに正面から迎撃させましょう。

 今度は死んだ振りが出来ないよう、罠に引っ掛かって転んだゴブリン達に対して盾を振り下ろし、頭を潰していきます。

 

 それにしてもこの両手盾……できるじゃない!

 かなりの数のゴブリンを倒してますが、殆ど損耗してません。やっぱり両手に盾は最強ね!(⑨)

 

 一つ気になるのは、疲労値の問題でしょうか?

 盾は重量的に剣より重いので、疾走騎士くんへの負担が大きくなる可能性が高いです。

 疲労値が高いとぶっ倒れたり、最悪の場合過労死したりなんかするので、ブラック勤務は……やめようね!

 

 しかし数が多い……多くない? 狭い通路なので出てくるゴブリンの数は少しずつですが、潰しても潰してもまだまだ出てきます。

 

 実はこれにも理由があります。この四方世界は、RTAのレギュレーションにより、通常よりも難易度が高く設定されている為です。

 

 その影響で、通常であればそこそこの頻度で生き残る剣士くんも、先程のように絶望的な状況に陥ってしまい、生存がまず見込めない不遇キャラになっております。

 

 他にも様々な変更点があるようなので、走者にはうまく対応する腕が要求されるでしょう。

 

 話をしているうちにゴブリン達が出てこなくなりました。どうやらこれで全滅したようですね。

 ゴブリン達が出てこなくなると、ゴブスレさんはさっさと奥へ進んで行ってしまいます。

 なので、こちらも寝かせてた魔術師ちゃんを回収して、追いかけましょう。急げばシャーマンへのトドメを頂く事ができます。

 

 

 ……やっぱコイツ重いわ(断言)

 

 

 これはなかなかのロスですね。見捨てるべきだったかもしれません。

 

 まあもしかしたら今回の働きがギルドに評価される可能性もありますあります。結果を見てから判断しましょう。

 

 さて、ゴブリンシャーマンへのトドメですが……間に合いましたね。

 一見、ゴブスレさんの槍によって一突きにされ死んでるように見えますが、まだ息があります。じゃあ、死のうか(MNR)

 

 これでおよそ9割がたのゴブリンを疾走騎士くんが倒せました。

 後残っているのは奥に居る子供ゴブリンくらいですが、コイツらはなんの経験にもなりません。

 ゴブスレさんに任せてさっさと帰り支度を整えましょう。

 ここで先人兄貴の様に、ゴブスレさんを手伝ってイベントを短縮するのも良いですが、今回は完全オリジナルチャートを名目に実走していますので別の方法での短縮を試みています。

 

 結果としては……大差無いですね。ままえぇわ。

 

 さて、これにてゴブリンの(巣)穴の攻略が無事完了しました。

 後は帰って報告するだけです。いざ鎌倉。

 

 

 

 

 

 

 

 あああああああもうやだああああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 この魔術師やっぱ重いんですけど!? しかも帰り道で目覚めたと思ったら急に泣き出して疾走騎士くんの背中をべっちょべちょにしやがりましたよ! 疲労値と不快値が壊れちゃ↑~う! お姉さん許して!

 

 やはりこの魔術師ちゃん次回からは見捨てる事に

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。




Q.成る程つまり魔術師ちゃんはメガトンヒロイン……。

A.背負った瞬間に疾走騎士くんが重量過多になったんですけどクォレハ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート2 裏 『よくある話だ』

 不意を打つ。罠にかける。ゴブリンスレイヤーは一党に合流してからも様々な手を駆使し、次々にゴブリン達を駆逐していった。

 

「全くもって無駄がない。凄いですね」

「練習をした」

 

 魔術師を背負った疾走騎士の言葉に、ゴブリンスレイヤーが答える。

 先程からゴブリンを倒してはいるが、実際に彼が行っているのは戦いではなく、もはや一方的な駆除と言える。

 彼の首にかけられた銀の認識票の通り、相当な場数を踏んでいる事が伺えた。

 

「あれ、この剣は……」

「血脂に濡れすぎた。もう使えん」

 

 女神官がゴブリンスレイヤーの放置した剣に疑問を抱く。どうやら破棄するつもりのようだ。

 

「それなら自分がもらいましょう」

「えっ」

「うん、刃は欠けていない。後で売れそうです」

 

 ゴブリンから剣を引き抜き、状態を確認する疾走騎士に対し、女神官は驚きを隠せない。

 

「売るんですか?」

「えぇ、例え二束三文でも無駄には出来ません。良いですよね?」

「好きにしろ」

 

 ゴブリンスレイヤーはそう答えながら、倒したゴブリンが持っていた槍を奪い、ロープと杭を使い罠を仕掛ける。

 

 確かに疾走騎士達は新人だ。受けられる依頼も限られているし、その報酬も多くはない。その日暮らしになるどころか赤字になることも珍しくないだろう。

 そういった意味で彼の行動はとても合理的といえる。

 ……しかし、冒険者になったばかりの彼がそれを理解している事に対し、女神官は違和感を覚えた。

 

「この穴で当たりだな。お前は待っていろ。やつらを引き付けてくる」

「成る程、待ち伏せですね」

 

 待機の指示を受けた疾走騎士は背負っていた魔術師をその場に寝かせ、ゴブリンスレイヤーは女神官と共に奥へと進んでいった。

 そこからは一瞬だった。女神官が《聖光(ホーリーライト)》を使うとゴブリンスレイヤーは奥に居たシャーマンに槍を投擲。

 串刺しになったシャーマンは倒れ、他のゴブリンがこちらへと向かってくる。

 

「退け!!」

 

 指示を出すゴブリンスレイヤーと共に、女神官も来た道を戻る。

 しかし先程仕掛けたロープの罠を飛び越えた際、女神官がその場へと転んでしまった。

 

「GOB!?」

 

 そこへ追ってきたホブは、足元にあるロープに気付き、立ち止まる。

 しかし視線を下ろした事によって、横から迫る影に気付く事ができなかった。

 物陰に隠れていた疾走騎士が、全力で刃となった盾を振り下ろし、ギロチンが如くホブの首を撥ね飛ばしたのだ。

 

「キャア!?」

 

 首から上が失くなったホブが女神官目掛け力無く倒れるが、ゴブリンスレイヤーが女神官を引っ張り上げ、事なきを得た。

 

「すみません、無事でしたか?」

「はい、何とか……ゴブリンスレイヤーさん、ありがとうございます」

「いや……」

 

 ゴブリンスレイヤーが疾走騎士をじっと見ている。

 何かが気になった様子だが、すぐに気を取り直したのか、奥から向かってくるゴブリン達へ視線を戻す。

 

「つ、次のが上がってきます!」

「任せてください」

 

 女神官の警告を受け、疾走騎士が通路の正面へと躍り出る。

 後続のゴブリン達を迎え撃つつもりのようだ。

 

「相手が正面から来るのなら、決して負けはしませんよ」

 

 二つの盾を構えながら自信満々の様子で言い放った彼に対し、ゴブリン達は次々と襲いかかった。

 しかし疾走騎士は盾を振り回し、ゴブリン達の頭を尽く潰していく。

 

「あの時のような失敗を、する訳にはいかない……」

 

 あまりにも不快な光景に目を背けていた女神官の耳には、噛み締めるような彼の呟きが聞こえた──……。

 

───────────────

 

「行くぞ」

 

 向かってくるゴブリンが居なくなった時点で、ゴブリンスレイヤーは奥へと進んだ。

 女神官はその後に付いていき、疾走騎士は寝かせていた魔術師を背負い直し、後を追っていく。

 

 奥に居るのは慰み物にされていた女性達。その中には先程ゴブリン達に連れ去られた武闘家も居た。

 彼女は裸にされ、身体中がゴブリン達の体液でまみれており、どんな目にあったのかは明らかだった。

 

「もう……もう大丈夫ですから……」

 

 女神官は武闘家を抱き締めた。

 疾走騎士はその背後を通りすぎ、倒れたゴブリンシャーマンの前に立っているゴブリンスレイヤーの下へ向かう。

 

「気付いたか」

「えぇ、先程もう学びましたからね。こいつらは無駄にしぶとい」

 

 息絶えたかのように装っていたゴブリンシャーマンは、振り下ろされた盾により、今度こそ本当にその命を磨り潰された。

 

「定番だな、見てみろ……」

 

 ゴブリンスレイヤーは近くにあった骨で作られた椅子を蹴り飛ばし、その後ろに貼り付けられた木の板を引き剥がした。

 奥には何匹かのゴブリンの子供が居た。

 彼等は身を寄せ合い、命乞いするかの如く涙を流しこちらを見上げている。

 

「子供も……殺すんですか……?」

「当たり前だ」

 

 女神官の問いにゴブリンスレイヤーは即答し、無慈悲に幼いゴブリン達を叩き潰していく。

 小さな悲鳴と共に、鈍い音が洞窟に響き渡る。

 

「ぜ、善良なゴブリンが居たとしても……?」

「善良なゴブリン、探せば居るかもしれん。だが、人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ」

 

 最後のゴブリンを殺し終わったゴブリンスレイヤーが戻ると、魔術師を背負った疾走騎士は生きていた女性達に布を羽織らせ、帰る準備を整えていた。

 

「終わりましたね。さあ、彼女らを連れて帰り報告致しましょう」

「あぁ、そうだな……」

 

 ゴブリンに対して異常とも言える徹底さを見せるゴブリンスレイヤーと、常に最善の行動を取る疾走騎士。

 彼らに対して女神官は歪な何かを感じるが、今の精神状態でそれがなんなのかを考える余裕はもう残っていない。

 彼女は何も言わず、彼らに付いて行くしかなかった──……。

 

───────────────

 

 

 痛い……。

 

 

「出発前に受付から聞いた!ゴブリンは武器に毒を仕込む!その短剣は毒だ!まずは解毒が必要だ!」

 

 

「う……あ……」

 

 

 苦しい、誰か……。

 

 

「そ、そんな!私には解毒剤も解毒の奇跡も……!」

 

 

 苦しい、誰か、誰か私を……。

 

 

 私を……。

 

 

 

「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者より病毒をお清め下さい》」

 

 

 

 

ころして(たすけて)……!

 

 

 

 

「《解毒(キュア)》」

 

 

 

 

「う……ここは?」

「目が覚めましたか?」

「あぁ! 良かった!」

「ほう、運が良い」

 

 私は疾走騎士に背負われた状態で目を覚ました。

 辺りを見回すと、皆が一様に安堵している様子だった。

 

「私……生きてる?」

「ギリギリでしたが何とか、調子の程は?」

「まだ少し気分が悪いわね……」

 

 疾走騎士に問いかけられるものの、まだ意識がはっきりしない私は頭を横に振った。

 

「でも……その、助けてもらった事は覚えてるわ。……ありがとう」

「一党ですから、お気になさらず」

 

 あの時、私は完全に油断していた。ゴブリンが死んだふりをして襲ってくるなど考えた事もなかったのだ。

 彼が居なければ、私は間違いなく死んでいたのだろう。

 全く役に立てなかった事に対して、私の胸には悔しさが湧き出てくる。

 

 

 ……ん? 胸?

 

 

「…ん? えっ!!?? あっ!?!!?? な、なんで私裸なのっ!?!?!?」

 

 やけに肌寒いと違和感を感じていたら、なんと元々着ていたローブは前面が完全に引き裂かれており殆んど残っていない。

 唯一被せられた薄手の布だけが私の肌を隠している有り様だった。

 

「そこは覚えてないんですか? ゴブリンにやられたんですよ」

「え……じゃあ、私はゴブリンに……?」

 

 全身から血の気が引いていくのを感じる、私が覚えているのはゴブリンに毒の短剣で刺された所までだったのだ。

 もしや私はあのまま薄汚いゴブリンに犯され──。

 

「だ、大丈夫ですよ! すぐにこの人が助けましたので!」

「えっ? そう……なの?」

 

 女神官の声で正気に戻る。この時、私は内心とても安堵していた。

 

 

 ……そう、安堵してしまったのだ。

 

 

「でも……彼女達は……」

「あ……」

 

 そう言いながら後ろを見やる女神官につられ、私も後ろを向いた。

 そこにはゴブリン達から助け出された女性達が荷車に乗せられていたのだ。

 無惨に乱暴された痕を全身に刻まれた彼女達は、茫然自失といった有り様で……そしてその中には……あの武闘家も居た。

 

「っ!」

 

 直視出来なかった。疾走騎士の背中に視線を戻すも、様々な感情が私の中で渦を巻く。

 彼女達と私、一体何が違ったというのか? 何も違わない。たかがゴブリンだと高を括り、その結果がこの惨めな姿だ。

 

「よくある話だ」

「ゴブリンスレイヤーさん……」

「……誰?」

 

 そういえばいつの間にか増えていた一人の冒険者。

 救い出された女性達を乗せた荷車を引く彼は、私を背負う疾走騎士と同じような、顔が見えない兜を被っている。

 

「自分達の救援に来てくれた銀等級の冒険者さんですよ」

「銀等級……」

 

 薄汚い防具を身に付けた彼は凡そ銀等級には見えないが、しかしその首にかけた認識票は間違いなく銀のもの。どうやら事実らしい。

 

「ゴブリンによって村が襲われ、娘がさらわれ慰み物にされる事も、新米の冒険者が初めての冒険としてゴブリン退治へ赴き全滅する事も、この世界にとっては日常茶飯事な……よくある話だ」

 

 私は疾走騎士の背中に顔を埋める。

 恥ずかしい等と考えている余裕は無く、この感情を抑える事も出来そうに無い。

 

「……お前達は運が良かった。だからこれからどうするかは……お前達が決めろ」

 

 自分が無事だった事への安心感。

 何もする事が出来なかった悔しさ。

 二人の仲間を無惨なものへと変えたあのゴブリン達への怒り。

 溢れる様々な感情とともに私は……ただ歯を食い縛りながら、涙を流し続ける事しか出来なかった……。




Q.なんで魔術師ちゃんも荷車に乗せなかったの?

A.完全に忘れて背負ったままだったからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート3 『男二人でゴブリン塗れになろうや……』

 盾を布教するRTA、第三部はぁじまぁるよー。

 

 前回、ゴブリンの(巣)穴を攻略したので、ギルドへの報告のために町へと戻ってきました。

 

 道中、疾走騎士くんは回復しきっていない魔術師ちゃんを背負っていた為、重量分疲労値が増え、更に背中をべちゃべちゃにされてしまいましたので、不快値も溜まりました。もう許せるぞオイ!(ホモは寛大)

 

 不快値は一定以上貯まるとトラウマとなり、以降その事象が起こりうる選択が出来なくなったり、トラウマどころか精神崩壊を引き起こし完全に操作不能に陥ったりします。SAN値みたいなものですね。

 

 これらを避ける為には二つ方法があります。

 まず一つ目は、そもそもトラウマになるような不快値が貯まるイベントを回避するという方法。分かりやすいですね。

 しかし冒険で何が起こるか分からない以上、避けようがない場面も多々ある為かなり難しいでしょう。

 

 もう一つはトラウマにならない程度に不快値が貯まる目に遭わせて慣れさせる方法です。慣れますよ(女神官ちゃん並みの感想)

 

 この方法であれば不快値が貯まった直後に関しては多少のマイナス補正が発生するものの、それ以降不快値は貯まりにくくなります。

 一発目だったらトラウマ不可避な事象にも耐えられる、なんて場面もあったりしますね。

 

 後者の方が難易度も低く、安定したプレイが出来るようになる為、定期的に不快値を貯めるというプレイをしていた兄貴も居るのではないでしょうか?

 

 そういった意味では今回の出来事も不快値管理の一環としてはうま味かもしれません。でもそれはそれとしてもう許さねぇからなぁ?(ホモ特有の掌返し)

 

 ちなみに魔術師ちゃんは、町に着いてから回復しました。

 今はビリビリに裂かれた服の代わりを取りに行くため、女神官ちゃんと一緒に自分の足で宿に向かったようです。最初からそうして?

 

 なので、ギルドへはゴブスレさんとの二人で向かう事になるのですが、ここでゴブスレさんからの評価が高ければ彼との会話イベントが発生します。

 だから、このクエストで多くのゴブリンを倒す必要があったんですね。

 因みにこの会話を発生させる事のメリットは後ほど説明します。

 

 どうやらゴブスレさんは疾走騎士くんのダブル盾に興味を持ったようです。流石目の付け所さんが違いますね。

 

 今はまだ小型のヒーターシールドですが、次に持ち替えるとすればカイトシールドですかね?

 そこそこ大型で先端が尖っているため、槍のような運用も視野に入れる事が出来ます。

 

 さて、ダブル盾の布教をしているとギルドに到着するので会話を切り上げましょう。

 ゴブスレさんはゴブリンを殺す事に関してのみ熱心ですが、それ以外の事は眼中に無い為、このまま話を続けているとロスになります。

 

 着くぅ~。

 

 おや? ギルドに入ると他の冒険者が離れていきますね。

 ゴブスレさんと同行している場合たまに起こるちょっとしたイベントです。

 これが発生すると受付の順番待ちをスキップできます。今回はラッキーですね。

 

 そしてクエスト結果を受付嬢へ報告します。

 勿論ここでも礼儀正しく、丁寧な言葉遣いを忘れてはいけません。

 ぬわあああん疲れたもおおおん! とか言って受付嬢に引かれないようにしましょう(1敗)

 報告途中は暇ですので倍速します。

 

 さて、報告が終わったので疾走騎士くんの成長やらが出来るようになる筈ですが、その前にギルドからの評価を確認してみましょう。

 

 ……ファッ!? ギルド評価は上がったんですけど、思った程じゃないですね。アアン? ナンデ?

 

 はい、盾を洗うのを忘れてました。

 数十匹のゴブリンの頭を叩き潰した盾は、見た目もさることながら、それはもう臭いもヤバくなってます。

 それにより、受付嬢の好感度が下がり、結果ギルド評価に影響を与えてしまったようですね。これがダブル盾の弊害か……。

 今後は報告前に、キチンと盾を洗うことにしましょう。僕はガバじゃない!

 

 冒険者レベルが2に上がったので、技能を初歩から習熟まで、上げられるようになりました。勿論【盾】を習熟にします。

 あと、キャラクリ時に見送っていた【忍耐】も、ここで取っておきましょう。ここからは疾走騎士くんに、色々と無理をしてもらうので、必要になります。

 

 更に今回のクエストで、多くのゴブリンを討伐した分、職業レベルを上げる事も出来ますね。こ↑こ↓も先人兄貴との差違です。

 等級を上げるためには一つ一つのクエストで、なるべく最善の結果を出す必要がありますからね。

 

 【騎士】を3に上げました。これでより、安定した戦いを出来るようになりましたね、めでてえ。

 

 さて、最後に報酬についてですが……たった銀貨4枚です。こんなんじゃ稼ぎになんないよ~。

 

 まあ、流石に今回は人数が多すぎました。

 犠牲になった剣士くんや、女武闘家ちゃんの分もキチンと清算されてしまうので、敢えて犠牲者を増やし取り分を増やす、なんて事も不可能です。

 やっぱり序盤で最も大きい問題は資金面なんやなって。

 

 報酬の確認が終わった頃に、魔術師ちゃんと女神官ちゃんがやって来ました。

 ……魔術師ちゃんの格好はすごく地味ですね。普通のローブを着てきました。彼女が学生の頃着てたやつかな?

 最初に着てた上等な装備は、ゴブリンに襲われた時に破損してしまったみたいなので、しょうがないですね。杖と眼鏡が無事だっただけまだマシです。

 

 ……あれ?もし彼女に蓄えが無かった場合、詰んでるのでは?

 まあ、知ったことじゃあないので、気にしないことにしましょう。しらなーい!

 ……娼婦落ちとかしそうなら流石に考えますけどね。

 

 これからの予定を魔術師ちゃんに聞かれたのですが、勿論決まっています。

 

 

ニア次の依頼へ

 今日は休む

 

 

 当たり前だよなあ? しかしここで受付嬢さんに止められてしまいます。スキル【交渉:説得】があれば受付嬢さんを説得し、この直後からソロ稼ぎが出来ますが、疾走騎士くんは持っていません。

 なので初日から稼ぎを行うために、別の方法を利用します。

 

 ここで、ゴブスレさんのゴブリン退治に同行する事を申し出ましょう。

 ベテランに同行するのであれば、彼女としても安心ですからね。オナシャス! 何でもしますから!

 

 因みにこの同行を申し出られるかのフラグが、先程のゴブスレさんとの会話イベントです。

 なのでギルドに着くまでにゴブスレさんとの会話が無ければ再走案件でしたね。

 最初にフラグを建てる必要があるのが男って……やっぱりホモじゃないか(呆れ)

 

 どうやら受付嬢さんも、納得してくれたようです。

 ではここからは男二人で、ゴブリン退治に向かいましょう。

 といっても、このゴブリン退治クエストには特筆すべき物はありません。

 いくつかの(巣)穴に男二人で突っ込んで終わりっ! これだけです。

 

 ゴブスレさんの後を着いていくだけでも分かりますが、本当に無駄がなく効率的です。

 流石朝飯食ってゴブリン殺して昼飯食ってゴブリン殺して晩飯食ってゴブリン殺してシャワー浴びて寝てる生活をしてるだけはあります。

 やっぱりゴブスレさんも走者なんじゃないの? ……え、違う? あっそっかあ。

 

 それでは、暫く男二人とゴブリン達が絡み合う映像を、お楽しみ下さい。

 

 

 

 走者倍速中……。

 

 

 

 二人居る分更に捗ったのか、凄まじい早さでゴブリン退治クエストを消化できました。まだ夕方にもなってませんね。

 あまりにも早く戻ってきたので、受付嬢さんの顔がひきつってましたが、問題は無いです。

 

「はぁ……貴方の実力は分かりました。でも決して無理はしないで下さいね?」

 

 やったぜ。これで、ソロでのクエスト巡りが、出来るようになりました。

 今回の依頼での収入は、銀貨にして36……普通だな!これで手持ちは銀貨40枚。

 資金的にはまだ厳しいことに違いはありませんが、疾走騎士くんの成長度合いはかなり良い感じです。

 ゴブスレ兄貴ともお別れしたので今日の稼ぎはここまでに──。

 

「あの! ちょっと良いですか?」

 

 おっ?どうしたどうした? 受付嬢さんに呼び止められました。

 まさかの初日昇級? いやーまいっちゃうなー、自分はただゴブリンを倒してただけなのになー。

 

「魔術師さんからお話があるそうです。良ければ聞いてあげてもらえませんか?」

 

 あほくさ……また君かあ壊れるなあ。もうそろそろ許せるぞオイ!

 どこまでもRTAの邪魔をしてくれやがって!

 

 しかし、ここで断ってしまえば受付嬢さんの、ひいてはギルドの評価が下がってしまいます。ロスですが受けざるを得ません。

 

「ありがとうございます。ではお願いしますね」

 

 では魔術師ちゃんの下へ向かいましょう。

 それにしても一体何の話でしょうね? やっぱり蓄えが無くてお金を貸してくれとかそんな話でしょうか? 勘弁してくれよー頼むよーこっちも金欠なん

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。




Q.ガバが多い……多くない?

A.biim兄貴の系譜は総じてガバ、それ一番言われてるから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート3 裏 『ニア次の依頼へ』

「悪いけどギルドへは後で向かうわね。流石にこのままっていうのはアレだし……」

 

 そう言って魔術師は女神官に付き添われ、一度宿へと戻って行った。

 確かに、あの姿のままでは女性として辛いものがあるだろう。

 余談だが彼女は疾走騎士のべちゃべちゃになった背中を見て真っ赤になり、それ以降は彼から目を逸らし続けていた。

 そうして、疾走騎士はゴブリンスレイヤーと共に、ギルドへと報告に向かうこととなった。

 

「その盾は……なんだ」

「はい?」

「ホブの首を撥ね飛ばしていた。研いだのか?」

 

 ゴブリンスレイヤーからの唐突な問いに、疾走騎士は頷いて答える。

 

「……そうですね。盾は敵の攻撃を受け止める事を想定しているが故に頑丈、武器としても運用が出来ます。それならいっその事盾の縁を研いで刃にしようかと」

「そうか。斧のような物か?」

「どうでしょうね? 重量に任せて振り下ろすという点では近いかも知れませんが……」

「ふむ……」

 

 ゴブリンスレイヤーも盾の扱いに関しては慣れており、攻撃に利用する場面も多くあり、縁を研ぐ工夫もする事があった。

 しかし疾走騎士のように両手で持ち、最大限武器として活用する発想は無かった様で、ゴブリン退治で利用できるかもしれないと考えたようだ。

 

「さて、着きましたね。とにもかくにも、先に報告を済ませましょう。救出した彼女達への対応も、お願いしなければなりませんし」

「……そうだな」

 

 思案するゴブリンスレイヤーを急かすように疾走騎士はギルドへと足を踏み入れ、ゴブリンスレイヤーも後に続く。するとどうだろう、他の冒険者がそそくさと離れていくではないか。

 

「あれ?」

「どうした」

「……いえ、問題は無いですね」

 

 兜で顔が見えない不気味な冒険者が二人、そうなるのもやむ無しである。

 しかし疾走騎士はむしろ都合が良いと言わんばかりに真っ直ぐ受付へと向かった。

 

───────────────

 

「そうですか、五人のうち二人が……」

 

 ゴブリンスレイヤーさんと共に戻ってきた新人の冒険者、盾を二つ背負った彼からの報告はなんとも痛ましいものでした。

 

「ゴブリンスレイヤーさんが助けに来てくれなければ全滅もあり得たでしょう」

「……いや、お前の戦い方ならば、あの場に残っていた者達だけでも撤退はさせられていた筈だ」

「そうなんですか?」

 

 途中、報告を訂正するゴブリンスレイヤーさん。彼は決して嘘をつかない人である。

 正確な冒険結果を聞くのが私の務めだ。

 念の為にも確認を行おうと、疾走騎士の方を向いて問い掛ける。

 

「正面から捌き続けるだけなら何とかなっていたとは思いますが、実際はどうなるか分かりません。自分達はただ『運が良かった』に過ぎませんから」

「……そうか」

 

 無事帰還できた三人、その中で唯一の前衛職。

 彼の言うことには謙遜が含まれているのであろう。

 実際冒険に出発する際、唯一彼だけが私に助言を求めてきていましたし、私個人としても応援したくなるタイプの冒険者ですね。

 

「えっと、すみません報告の続きですね。その後我々は───」

 

 だがそれは、その二つの盾にこびりついたゴブリン達の血と、それによる生臭さを除けば……の話だ。

 

───────────────

 

「──以上です。後二人も、すぐにこちらへ戻るかと思います」

「分かりました。助け出した人達に関しましてはこちらが対応致しますので、今回の依頼については以上となります。お疲れ様でした」

 

 受付嬢の言葉に、疾走騎士も礼を述べて頭を下げる。

 そこで二人の冒険者がギルドへと入ってきた。

 

「あ! ゴブリンスレイヤーさん! 疾走騎士さん!」

「もう報告は終わったの?」

「えぇ、お二人とも報酬を受け取れますよ」

 

 先ほど宿へ向かって行った魔術師と女神官の二人が合流する。

 因みに魔術師が着てきたのは厚手の布で作られた予備のローブであった。学生時代に身に付けていた物だろう。

 

「そう。それで……アンタはこれからどうするのよ?」

「そう言えばゴブリンスレイヤーさんはこれからどうするんですか?」

 

 軽く会話を交わしたあと、魔術師は疾走騎士に、女神官はゴブリンスレイヤーへ今後の予定を聞いた。

 その返答を聞いて二人は耳を疑う事となる。

 

「次の依頼へ」

「ゴブリン退治だ」

「「……え?」」

 

 二人には信じられなかった。

 あれだけの事があったにも関わらず、彼らはこれから直ぐに次の依頼を探すというのだ。

 

「あ、あの……」

 

 そこへ受付嬢が会話に割り込んで来る。

 

「ゴブリンスレイヤーさんは銀等級ですが、疾走騎士さん、貴方はまだ白磁ですよね? クエストを終えたばかりですし休んだ方が……」

 

 尤もな意見だと、女神官と魔術師はそう思った。

 しかし疾走騎士はすぐさま、思いもよらない答えを返す。

 

「ゴブリンスレイヤーさんに付いていかせてもらおうかと思うのですが、それでも難しいですか?」

「……はい?」

 

 先程まで真面目で素直な冒険者だと思っていた彼が言い出した突拍子もない提案に、受付嬢はただただ困惑する。

 

「俺は構わん」

「えっ!? ちょっと! ゴブリンスレイヤーさん!?」

「実は盾に関して色々と意見を交わしていた途中でして、こちらとしてもベテランの手腕を見る絶好のチャンスなんです。今回の所は見逃して頂けませんでしょうか? お願いします! 何でもしますから!」

「……そうなんですか? ゴブリンスレイヤーさん」

「そうだ」

 

 どうやら疾走騎士は底抜けに向上心が強いだけのようだ。受付嬢は溜め息をつき、人差し指を立てて忠言する。

 

「無理はしないでください。あと、必ず帰ってくること。守れますね?」

「勿論です」

「……分かりました。ではお願いします」

「ああ」

 

 そうしてゴブリンスレイヤーと疾走騎士の二人はその場を後にした。

 残された女神官と魔術師は、何とも言えない表情でお互いを見合っていたが……──。

 

「あの……」

 

 やれやれと肩を落とす受付嬢に、女神官が声を掛ける。

 

「あ、あぁ! すみません報酬の受け取りですね!」

「は、はい。それもあるんですけど……」

「?」

「ゴブリンスレイヤーさんってどんな方なんですか? その……」

「銀等級らしくない?」

「えっと……その……はい」

 

 ばつが悪そうに答える女神官。

 どうやら彼に興味があるようだ。

 冒険者としてのゴブリンスレイヤーと最も付き合いが長く、誰よりも知っている受付嬢は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに彼の説明を始める。

 

「ゴブリンスレイヤーさんはゴブリン専門に依頼を請け負う銀等級の冒険者です。数年前からこのギルドへ所属していて、ゴブリン退治であれば報酬の大きさに関わらず依頼を受けては、その殆んどを遂行する、一流の冒険者なんですよ!」

 

 エッヘン! と言わんばかりに胸を張る受付嬢。

 隣に座る同僚が、また始まったよと言わんばかりにジト目を向けている事に、彼女は一切気付いていない。

 

「そう……ですか。ありがとうございます……」

 

 何やら考え込んでいる様子の女神官に対し、入れ替わるように今度は魔術師が質問を投げ掛けた。

 

「……じゃあ疾走騎士は?」

「えっと……疾走騎士さん、ですか?」

「そう。アイツについて聞きたいの」

 

 はて、ゴブリンスレイヤーに関してはよく知っているが疾走騎士は今日冒険者登録をしたばかり。あまりプライベートな内容も話すわけにもいかず悩んでいると。

 

「……私、これでも賢者の学院では優秀だったの」

「賢者、それって都の……?」

 

 ギルドの職員としての研修を都で受けた受付嬢は、魔術師の登竜門として名高い学院の名を聞いた事があった。

 賢者の学院を卒業した者は大成間違いなしと言われ、引く手あまたなのだとか。

 つまり彼女もまた、そんな優秀な魔術師であるという事に他ならない。

 

「でも今回、私は何も出来なかった。ゴブリンに不意をうたれて無様にやられただけ。今まで学んだことなんて何の役にも立たなかったのよ……っ!」

 

 拳を握り締め言い放つ魔術師。今回は『運良く』生き残った。

 しかし次はどうだろう?

 これまで築いてきた物が全て崩れ去ってしまった彼女は、冒険というものがどうしようもなく、恐ろしく感じるようになってしまっていた……。

 

「これからどうするべきかが私には分からない。でも……アイツにはそれが分かってる気がする。だから知りたいの……」

 

 俯いたまま話す魔術師に対し、受付嬢は『よくある事だ』と思った。

 挫折した冒険者が故郷に帰る。それはこの世界ではありふれた些細な日常。

 

 

 ……でも、もしかしたら今回は違うかも知れない。

 

 

「分かりました、それでしたら──」

 

 そして何かを決意した受付嬢は、一つの賭けに出ることにした。

 

───────────────

 

 ゴブリンスレイヤーと疾走騎士がギルドを出てから暫く経った頃、彼らは既にゴブリンの巣穴を一つ潰すことに成功していた。

 

「本当に一切の無駄がない。付いていくので精一杯ですね」

「……とてもそうは見えん」

 

 移動中疾走騎士が呟いた謙虚な物言いに、ゴブリンスレイヤーが反論するが、それももっともである。

 ゴブリンの巣に足を踏み入れた疾走騎士は、両手に盾を構えたまま前進。

 正面から来たゴブリンの群れを苦も無く潰していったのだ。

 ゴブリン側から見れば入り口から堅牢な壁が迫ってきて潰されるようなものである。たまったものではないだろう。

 

「で、どうですかね? 貴方から見て、自分の盾は?」

「……ふむ」

 

 疾走騎士の問いに対し、ゴブリンスレイヤーは少し考え、答えを出した。

 

「使える……が、俺には扱えんな」

「……そうですか」

 

 大きく肩を落とし残念そうにする疾走騎士。

 しかしゴブリンスレイヤーから見た評価に誤りは無い。

 

 戦力としては『使える』。実際に守りは堅い上に武器としても頑丈。

 何よりゴブリン達は盾の使い方を理解していない。

 かなり有効な戦い方だと言えるだろう。

 

 しかしゴブリンスレイヤーは様々な武器を扱うオールラウンダーであり、今から盾のみを扱う戦い方に切り替えるのは難しいと考えていた。

 更に言えば、咄嗟に道具を取り出したり出来ないのも難点だ。

 あらゆる物を利用する戦い方を、今さら捨てる事はできない。

 

 故の『使えるが、俺には扱えない』である。

 言葉が足らない彼らしい、簡潔な答えだった。

 

「まあ、こればかりは仕方ないですね。向き不向きもありますし、『使える』という評価を貰えただけでも、良しとしましょう」

「……そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーとしても今回のゴブリン退治には思うところが多くあった。

 何より背中を任せることが出来る仲間が居るという感覚は、ソロ専門だった彼にとって、今までに無いものだったのだ。

 

「仲間……か」

 

 一人ではカバーできる範囲に限りがある。

 ゴブリンスレイヤーは今までの経験で、それを大いに感じていた。

 

「そう言えばゴブリンスレイヤーさん、一つ伺いたいんですが……」

「なんだ」

 

 突然の疾走騎士の問い、それは何とも奇妙なもの。

 

 

 

 

 

 

「RTAってご存知ですか?」

 

 

 

 

 

「……いや」

「そうですか。残念です」

 

 RTA? 何かの名称だろうか? それを耳にしたことはないゴブリンスレイヤーは、それについて聞いてみる事にした。

 

「その……RTAとは、何だ」

「……自分は《宣託(ハンドアウト)》を受け、それにより行動しています」

 

 《宣託(ハンドアウト)》……神からの指示だ。

 疾走騎士は某らの神の信徒と言うことだろうか。

 

「その宣託はかなり頻繁に発生し、事細かに自分の行動を指定するんですが……指示を送られてくる際に、神は必ず冒頭にこう言うんです──」

 

 

 

 

 

「RTA、始まるよ──と」

 

 

 

 

 

「このRTAとやらが何なのかは分かりません。まあ、そこまで知る必要も無いでしょうし」

「ふむ……」

「特に効率良く動くのが好きな神みたいなので、貴方ももしかしたらそうなのかなと思ったんですが、違うみたいですね」

 

 俯いて腕を組み悩む仕草を見せる疾走騎士に対し、ゴブリンスレイヤーが一つ提案する。

 

「神からの啓示……よくは知らん……が、一つ心当たりがある。こちらでも少し調べてみよう……」

「いいんですか?」

「あぁ……」

 

 『効率良く動く』。ゴブリンスレイヤーがゴブリン退治に於いて常に心掛けている事だ。

 それを実践している神が居る。

 ゴブリン退治に役立つ知識があるかも知れないと、ゴブリンスレイヤーは考えたのだ。

 

「ありがとうございます」

 

 虚空へと姿を消した孤電の術士、理の外について調べていたあの女が残した資料に、何か手がかりがあるだろうか?

 

(確かめてみる価値はある、か……)

「さて、そろそろ着きますね。では、次の依頼へ」

「ああ、ゴブリン退治だ」

 

 そして二人は次のゴブリンの巣穴に足を踏み入れるのだった。




Q.ダブル盾は布教出来ましたか……?

A.ダメみたいですね(諦観)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート4 『今何でもするって言ったよね?』

 お前も走者になるんだよ! なRTA第四部、はぁじまぁるよー。

 

 前回、疾走騎士くんが魔術師ちゃんに呼び出されてしまいました。お前それロスだって一番言われてるから。

 とりあえずさっさと魔術師の所へ急行しましょう。一体何のイベントでしょうね?

 

「悪いわね、呼び出して」

 

 しょうがねぇなぁ(悟空)

 あまり長い話は更にロスが増えるだけなので、手短に頼むよー。

 

「……あなた、私と組まない?」

 

 ファッ!? コイツいきなり組むとか言い出しましたよ!?

 ……いや、実際こう言う勧誘イベント自体はよく発生します。

 他の冒険者からの好感度が高く、かつどこの一党にも属してなければ、ちょくちょくお声が掛かるようになるんです。

 それにしても魔術師ちゃんかー。どうすっかなー俺もなー。

 

 ……いや、彼女が弱いわけではないんですよね。寧ろ結構な強キャラです。通常プレイで彼女を育成すれば、火力が凄まじい事になります。

 《火矢(ファイアボルト)》でオーガに風穴が空いたときはドン引きしたゾ。

 

 

 

 問題なのは、これがRTAだということです。

 

 

 

 仲間を増やすと、育成するチャートも増やさないといけませんし、稼ぎも分配されます。

 何より魔術師の体力は低く、連れ出せる回数も限られます。

 正直、RTAには向きません。かなり難しいですね。

 

 しかしここまで早く勧誘されるのは私も初めてです。

 一体何が理由だったんでしょうか?

 

「別に……ただあいつらはもう居ないから、残ったアンタくらいしか頼れる当てが無かっただけよ……」

 

 ほんとにぃ?

 

「……どうしても、ダメなの?」

 

 ダメって訳じゃあ無いんですよね。せめて疾走騎士くんに付いてこれる体力と、彼女自身で自己防衛出来る手段が最低条件として欲しい所さんで──。

 

 

 

 

 

 

「それなら何でもする! 私に出来る事なら! だからっ!」

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 

 

 今

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でもするって言ったよね????

 

 

 

 

 

 

 

 ここでオリチャー発動! 言質を取りましたので、魔術師ちゃんには疾走騎士くんのRTAを手伝ってもらうことにします。

 

 疾走騎士くんは言わずもながら脳筋ですので、物理が効かない相手にはめっぽう弱いです。

 そして先程言いましたが、彼女は魔術師として優秀であり、育成しきった際の火力は、凄まじい物があります。

 知力が低い疾走騎士くんのサポート役として、活躍してくれることでしょう!

 

 彼女の体力が続く限り二人で依頼をこなし、体力が尽きたら疾走騎士くんのみで出発する。当面はこの方針で行きましょう。これなら稼ぎの分配も最小限ですからね。

 

 とは言え連れ出すには彼女はまだ貧弱です。なので魔術師ちゃんを育て屋さんに育成してもらいましょう。

 

 では魔術師ちゃん専属の育て屋さんへ、いざ鎌倉。

 

「あ ら? 何か 用 かしら?」

 

 はい、育て屋さんこと、槍ニキの相棒である魔女さんです。

 彼女は呪文使いとして一流なのは勿論の事、後輩の面倒見がとても良く、頼めば呪文を教えてくれる貴重な存在です。

 魔法職プレイで彼女のお世話(意味深)になったノンケ兄貴達も、居るのではないでしょうか?

 

 彼女に魔術師ちゃんの育成をお願いしましょう。

 勿論報酬を支払う必要はありますが、それでも彼女は新人には激安で教えてくれます。いよっ! 太もも!(SNNSK)

 

 原作でも新人戦士くんに物探しの蝋燭をタダであげてましたからね。あれ結構高価なマジックアイテムなんですが……聖人か?

 

「わかった わ もちろん 報酬はそれなりに もらう わね?」

 

 その分は……ギャラ出すんで。

 

 まあいくら激安と言っても、白磁である疾走騎士くんにとっては手痛い出費であることに違いありません。

 今日は余裕を見て休む予定でしたが稼ぎを続行します。

 

 あとの事は魔女さんに任せてギルドへ戻り、依頼を探しましょう。

 

 やはり受付嬢に止められますが、彼女は魔術師ちゃんを疾走騎士くんにけしかけた黒幕です。

 そこを追求すれば今後依頼を受ける際に止められる事は無くなり、タイム短縮が可能となります。

 

 オイゴルァ! 依頼もってんのか!? 寄越せ!

 

 受付嬢から下水道での討伐依頼を、あるだけかっぱらってきました。こんくらいで勘弁してやるか! しょうがねえなぁ。

 

 それでは、下水道へ向かう前に下準備を行います。

 現状疾走騎士君は松明を持てないので工房へ向かい、盾を改造して腕に固定しましょう。これで松明を持てるようになりました。

 

 因みにこの改造は、ゴブスレさんとの情報交換によって解放されました。

 一番重要なフラグは、やっぱり彼なんやなって。

 

 あと、以前回収したゴブスレさんの剣も下取りしてもらいましょう。……銀貨10枚!? ままええわ。

 他には強壮の水薬(スタミナポーション)と、治癒の水薬(ヒールポーション)を買っておきましょう。万が一の保険です。

 

 地図? RTA走者に地図なんて要らねーんだよ! とりあえずこれで手持ちは銀貨30枚。宿賃ギリギリです。

 魔女さんに渡す分を考えれば、最悪馬小屋や野宿もあり得ますね。

 

 これで準備は完了しました。では下水道へ金策しにイクゾー! デッデッデデデデ!

 

 下水道に到着しました。ではそこらへんを歩き回りつつ、鼠はシールドスラッシュでかち割り、蟲はシールドバッシュで叩き潰していきましょう。

 囲まれないように注意していればまず問題はありません。

 

 しかし一部のエネミーは違います。

 この下水道では、特に巨大化した種である通称キング鼠こと、暴食鼠(グラトニーラット)なんかもいますので、それらには注意が必要です。

 ただ銀貨50枚の懸賞金が懸かっており、とてもうま味な敵なので、もし見付けたら積極的に狩りたいですね。

 

 他に注意するべき点は、やはり迷子でしょうか?

 ここは暗いだけでなく、道も入り組んでいます。

 依頼は指定された敵を、規定数狩るだけの簡単なお仕事ですので、下手に深く潜りすぎて迷わないように気を付けましょう。

 あとは壁づたいに進むなど、パターンを決めて潜り、退路を確保しておくのも良いと思います。

 では狩りの間倍速します。

 

 

 

 

 

 ……………。

 

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

 

 ……迷いました。

 

 

 

 

 あのさぁ……イワナ、書かなかった!? 迷うぬゎって!

 

 

 やべえよやべえよ……どうする……本番で迷ってしまった。

 依頼の分の討伐は完了したものの、敵に囲まれないように動いてたら、いつの間にか方向感覚を失くしてましたね。ウッソだろお前!?

 

 ……おっ! 暴食鼠(グラトニーラット)じゃーん! こちらに気付いていませんが、仕掛けるべきか悩むところです。

 こちらも疲労がかなり溜まっていますし、倒せたとしても出口が見付かるか分かりません。

 

 

 ……よし、倒そう! 資金には代えられない! とりあえずさっき買った強壮の水薬(スタミナポーション)を飲んでおきます。生き返るわ~。

 

 ではゆっくりと後ろから近づいていきましょう。炎が弱点なのでこのぶっとい松明をブチ込んでやります。

 気付くなよ……気付くなよ……!

 

 ~Ready Go!!~

 

 オッスお願いしまーす!(不意打ち判定+松明による弱点属性攻撃)

 

 うーん、まだ生きています。やはりタフですね。

 その巨体の通り暴食鼠はHPが高く、現状どうやっても一撃では倒せません。そして攻撃力もかなりのものです。

 

 しかし対策は簡単で、コイツは動きが鈍重で単調です。

 引きチク戦法でパターンハメすればクソザコナメクジと化します。

 先程の一撃で、かなりのダメージが入ったはずですので、さっさと処理してしまいましょう。

 

 

 

 

 カラコロカラ……←迫真賽子くん

 

 

 

 

 

 ―暴食鼠二匹目乱入―

 

 

 

 

 

 何だお前!?(困惑)

 お前ら、お前ら二匹なんかに負けるわけねぇだろお前オゥ!

 

 アォン!(被弾)

 

 ゲホッゲホッ!!(致命傷)

 

 ゴホッ!!(毒)

 

 やはりヤバい(分析)

 

 シュバルゴ!!(松明四倍、一匹撃破)

 

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!(治癒の水薬(ヒールポーション)+《解毒(キュア)》)

 

 ホラホラホラホラ(引きチク引きチク引きチク引きチク)

 

 ~GAME SET~

 

 勝てました。

 まさかの暴食鼠二匹エンカでしたが、先程お話しした引きチク戦法なら対処は簡単なので、それほど難しくはありませんでした。

 幸い、一匹目が最初の不意打ちでほぼ瀕死だったのと、二匹目との遭遇が脇道からだったので、挟み撃ちを避けられたのも大きかったですね。

 

 ただちょっとしたミス、もとい稀に見る連携攻撃により一撃をもらってしまい毒になったので、態勢を立て直すため治癒の水薬(ヒールポーション)と超過祈祷による《解毒(キュア)》も使用してしまいました。これでもう後はありません。

 超過祈祷は一日の制限回数を超えて奇跡を使用できる分、体力を消耗してしまうので、正直あまり使いたくはないんですが……あとは帰るだけだしままえあろ。

 取り敢えず二匹を討伐した証である前歯を回収して、早く出口を見付けましょう。

 

 ……ん? やったぜ(出口発見)

 倒した敵の死骸を見付けて辿ったら脱出できました。最初からそうして?

 

 あ、外はもう完全に夜になっちゃってますね。

 

 迷ったせいでタイム的にはロスですが、暴食鼠二匹分の稼ぎが手に入ったので、資金的には余裕ができそうです。

 

 ではギルドに戻る前に、下水道の出入口近くにある水場で体と装備を洗いましょう。

 また受付嬢から、減点をくらってしまいますからね。

 

 ギリギリではあったものの、さっきの絶望的な状況も何とか生還しましたし、やはり疾走騎士くんは安定性が凄まじいですね。いいゾ~コレ。

 

 あとホブゴブリンの時といい、奇襲の機会によく恵まれます。お主、忍か?

 

 さて、ようやく汚れが落ちたのでギルドへ報告しに行きます。んじゃ帰りましょ。

 

 受付嬢に報告し、報酬を受けとります。

 報酬は依頼分で銀貨80枚、暴食鼠二匹討伐分で100枚、手持ちの30枚と合わせて合計210枚です。初日にしてはかなりの稼ぎですね。めでてえ。

 

 このまま宿屋に向かう前に魔術師ちゃんを引き取りに行きましょう、扱える呪文は増えましたか……?

 

 

 

 

 魔術師は《分影(セルフビジョン)》を覚えた!!

 

 

 

 

 ……これマジ?

 

 

 確かに自衛手段が欲しいと言っておきましたが、まさか初日でこれを習得するとは思いませんでした。

 

 《分影(セルフビジョン)》は文字通り分身を作り出す呪文です。分身は攻撃されれば消えてしまいます。

 しかし本体を見切られさえしなければ、分身をデコイとして運用することが出来ますし、そもそも本体を見破ろうとする知能を持った怪物はそうそう居ません。

 攻撃を無効化してくれる壁魔法として、ソロ魔法職縛りプレイでも殆どの場合お世話になる呪文です。

 

 これは申し分ありませんね。よし、じゃあ次からは魔術師ちゃんも冒険にブチ込んでやるぜ!!

 

 さて魔女さん、代金の方は…?

 

 ……銀貨10枚!? うせやろ!? 安すぎるやん!!

 

 えぇー? ほんとにござるかぁ? 裏があったりしない? ……あ、そう? いやーありがてぇ、やはり彼女は魔女じゃなくて聖女。はっきりわかんだね。

 

 きっちり銀貨10枚お支払いしたので、魔術師ちゃんを引き取り、宿屋を探しに行きましょう。

 ギルド内にも冒険者用の宿はありますが、大体満室です。

 なので近辺に空いてて安い宿を探す必要があるんですね。

 ゴブリン退治を梯子して、下水道での鼠退治から超過祈祷での《解毒(キュア)》と、度重なる消耗により疾走騎士くんはボドボドダ!

 

 えっ? 魔術師ちゃんがいい宿知ってるって? あー、いいっすねー! じゃけん付いていきましょうねぇー。

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 一つの部屋にベッドが二つ……?

 

 あっ……(察し)

 

 お姉さん許して!(鎧剥ぎ取られ)

 

 う、羽毛……(ベッドに押し込まれ就寝)

 

 お? 疾走騎士くんが眠った事で、タイマーが止まりました。

 夜の就寝時はRTAの計測がされませんので、これは手早くベッドにブチ込んだ魔術師ちゃんのファインプレーです。やりますねぇ!

 

 でも鎧は脱いだのに兜を被ったままの疾走騎士くんがかなりシュールで

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。




Q.やはり地図は必要だったのでは?

A.(いら)ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート4 裏 前編 『疾走……魔術師?』

「疾走騎士さんと組んでみては如何でしょうか」

「アイツと……?」

「はい、きっとそれが一番かと思いますよ?」

 

 ゴブリン退治の報酬を受け取った後、ギルドの受付嬢から、疾走騎士と新たに一党を組んでみてはどうかと進言された。

 確かにそれが可能なのであれば、一党が壊滅してしまった私にとっては願っても無い話だ。

 しかし先程の冒険で私は彼の足を引っ張り、迷惑を掛けたばかりである。そんな私と組んでもらえるのだろうか?

 

「……じゃあ、一度話してみようかしら」

 

 悩んでいても仕方ない。

 私の一党だったあの二人は……もう居ないのだ。

 このまま一人では、冒険にも出る事も出来ない……。

 

「大丈夫ですよ。同じような方は何人も居ましたから、任せてください!」

 

 信用できるのだろうか?

 ……いや、なりふり構ってはいられない。

 ここは彼女に頼んでみる事にしよう。

 

───────────────

 

「悪いわね、呼び出して」

 

 そうして彼がやって来た。

 周りは冒険から帰ってきた冒険者達が各々食事をしたり、酒を飲んだり、なかなかに騒がしい。

 

「いえ、それで話とは?」

 

 彼は向かい側に座り、こちらを見据える。

 私は単刀直入に聞くことにした。

 あまり回りくどい話を彼は好まないだろう。

 それが最善であるとの、私なりの考えだ。

 

「……あなた、私と組まない?」

「難しいですね」

「っ! ……そう」

 

 即答。まるで僅かな希望をバッサリと切り捨てられたような感覚だった。

 

「……何故、自分と組もうと?」

 

 兜を斜めに傾けて、彼が問う。

 私は俯いて、顔を伏せながらも答えた。

 

「別に……ただあいつらはもう居ないから、残ったアンタくらいしか頼れる当てが無かっただけよ……」

 

 実際には他にも新入りの一党はいくつもある。

 しかし、何故かは分からないが、これから冒険者を続けて行くのには、彼が必要な気がするのだ。

 

「……どうしても、ダメなの?」

 

 やはり諦められない。何があってもダメなのだろうか。私自身が彼の助けになれる何かは無いのだろうか。

 

「『難しい』なんですよ。どうしてもと言うわけではありません。貴女次第です」

 

 え? そう言うことなの? 分かりにくい言い方をするわねコイツ……。

 でも、それなら何でもしよう、元より私は『運が悪ければ』一度死んでいた身なのだから。

 

「それなら何でもする! 私に出来る事なら! だからっ!」

「……今、何でもするって言いましたよね?」

「っ!」

 

 『何でも』……彼はこの言葉に即座に反応を示した。

 それが何を意味する物なのか、私は瞬時に察した。

 

「……言ったわ」

 

 それでも引かない。このまま惨めに故郷には帰れない。

 今帰れば私は、学院での笑い者にされるどころか、弟にまで迷惑を掛ける事になる……。

 それだけはごめんだ。それならいっそのこと、この男のモノになってでも、強くならなければならない。

 私は彼から視線を逸らさずに頷いて答えた。

 

「そうですか、では付いてきてください」

「……えぇ」

 

 そういって席を立つ疾走騎士。

 これから宿……だろうか? 不思議と怖くはない。生憎そういった経験は持ち合わせていないが、人並みに知識はあるつもりだ。

 なるべくこの男に満足してもらえるよう努力はしよう。

 心の中でそんな覚悟を決めていると……。

 

「すみません、少し良いですか?」

「あ ら? 何か 用 かしら?」

「えっ?」

 

 疾走騎士は隣のテーブルに一人で座っていた魔女に話し掛けた。見覚えがある人、確か銀等級の冒険者。

 ……え? もしかして彼女も一緒に?? 初めてが三人で??? 私は混乱状態に陥っていたが、次の疾走騎士の発言で目が覚めた。

 

「彼女に呪文を教えて欲しいんです。報酬はお支払い致します」

 

 えっ……そういう事なの? もうっ! コイツの言うことホンット分かりにくいわね!! ……ってそうじゃない! 私が銀等級の魔女に呪文を教わる!? そんな恐れ多い事、出来るわけが──。

 

「いい けど」

 

 いいの!?

 

「そう ね。 ……とっても 『難しい』 わよ?」

 

 彼女はくすくすと笑いながら私に視線を向ける。

 もしかすると、先程まで私たちの話を聞いていたのかもしれない。

 ……しかし、彼女が扱うような、高度な呪文を私が覚えられるのだろうか?

 

「大丈夫です。彼女『何でもする』って言っていましたから」

 

 うぐっ! 確かに言ったけど! でもそれとこれとは話が違う!

 

「ちょ、ちょっと待って!! アナタ私に何をさせるつもりなのよ!?」

「何って……先ずは扱える呪文の数を増やしてもらうつもりです。あと出来れば、体力もつけた方がいいですね」

「どうして!?」

 

 ただただ困惑する私だったが、彼は肩を透かして淡々と解説を始める。

 

「……先ず呪文を覚えて頂く件についてですが、貴女の《火矢(ファイアボルト)》は確かに強力です。しかし貴女自身は、自分の身を守る手段がありません。いくら自分が前衛とはいえ、その全てをカバーしきれる訳ではないですし、最低限自衛の手段を持っていて頂きたい。そして、自分と組むのであれば相応の数の依頼をこなす体力も必要です」

「!」

 

 唖然とした。コイツは私が一党を組みたいと持ちかけた時、『難しい』と即答した。つまり私と組んだときの問題点を、この男は既に洗い出していたのだ。

 

「冒険者は様々な状況に対応する力が必要です。貴女にはそれが足りない。自分と一党を組んだとしても、いつか命を落とすかも──……いや、こればっかりはどんな状況であっても変わりませんね」

 

 そうか、そう言うことか。自分でも分からなかった、私がこの男に付いていこうとしている理由、それが今理解できた。

 

「……それが、アンタの言ってた『難しい』の意味?」

 

 ……今日の冒険で私は、ゴブリンの短剣で貫かれたものの、辛うじて生き残る事が出来た。

 でも私は、冒険者としても、魔術師としても、自信を失ってしまって……だから、最善の行動を知っているこの男に導いてもらおうとしていたのだ。

 

「そうです。……何でもするって言いましたよね?」

「……えぇ! 何でもするわ!」

 

 まるで硬く閉ざされていた扉が開けたかのような気分だった。

 そう、自分がやるべき事は山ほどあるのだ。私はこうして、再び冒険者として立ち直る事が出来た。

 

「と言うわけで、後はお願いします」

「わかった わ。もちろん 報酬はそれなりに もらう わね?」

「えぇ、では自分はこれで」

 

 それだけを言い残して、疾走騎士はこの場を後にする。

 何かに突き動かされるかのように最善を尽くす。それ以外の事には何の興味も持っていない。

 そんな心象を抱かせる彼の後ろ姿を、私は見送った。

 

「……」

「大変 よ?」

「えっ?」

「彼と ごいっしょ するの」

 

 確かに相当な努力が必要だろう。

 それこそ賢者の学院の頃とは比べ物にならないだろうし、体力も付けるとなると、勉強だけでは足りない。

 あの男に付いていくには『決して時間を浪費してはならない』のだろう。

 

「はい、でも……もう私は、アイツと行こうと決めましたから!」

 

 まるで何かに駆り立てられ疾走するかのようなあの男を、私は追いかけたい。

 それがきっと……私の冒険なのだ。

 

「ふふ そう。それなら 頑張りましょう ね?」

「はいっ!」

 

─────────────────

 

「次の依頼を」

「あ、あの……今日はもう休んでは?」

 

 魔術師と話をしていた筈の疾走騎士は戻ってくるなり、まだ依頼を受けると言い出した。

 これは明らかなオーバーワークです……もちろん私は彼を止めようとします。

 

「魔術師の彼女と一党を組むことになりました」

「えっ? あ! 良かった!」

 

 唐突な彼の言葉に、つい反射的に喜んでしまう。

 しかしそれを見逃さなかった彼の一言で、私は凍りついてしまいました。

 

「……やはり、貴女の差し金ですか」

「…………あっ」

 

 

 

 

 

 致命的な失敗(ファンブル)……!

 

 

 

 

 

 

 ため息を吐く彼。私はただ頭を下げるしかありません。

 

「ごめんなさい。本来こういった事はするべきではないと分かっていたんですが……」

「いえ、それに関してはもういいですよ。それよりも──」

 

 疾走騎士は凄まじい圧を放ちながら私に迫る。うぅ……どうやら私はこういう『変なの』とよくよく縁があるようですね……。

 

「彼女の面倒を見るのにも資金が要るんです。次の依頼を」

 

 胃がキリキリと締め付けられるのを感じながら、私は幾つかの依頼を彼に渡すしかありませんでした……。

 

───────────────

 

「やれやれ、とんだ災難でした」

「ほ、本当に一人で暴食鼠を二匹も?」

 

 そして、彼が戻ってきたのは数時間後の夜。その報告は、根こそぎ持っていった下水道での討伐依頼を全て達成し、尚且つ不意に遭遇してしまった暴食鼠(グラトニーラット)二匹を討伐したという、とても白磁には思えない内容でした。

 

「その為に討伐証を持ってきたつもりですが」

「そ、そうですね、すみません……」

 

 それにしてもやはり臭いがひどい……いや、今回は彼が原因ではなく、この討伐証である暴食鼠の前歯二本のせい。

 こればかりは受付嬢として受理しなければならないため仕方がない。

 実際暴食鼠は今まで度々討伐されていたし、今回のような経験は何度かあった。

 

 そして確認が取れたので報酬を渡した所で、疾走騎士が口を開く。

 

「次は───」

 

 体がビクッと反応してしまう。まさかまだ依頼を受けるつもりなのだろうか……? 私は思わず息を呑んだ。

 

「もう、宿で休もうかと。流石に疲れました」

 

 その言葉に一瞬呆然としたが、ついくすりと笑みが出てしまった。

 やはり彼も普通の冒険者の一人、出始めに少し頑張りすぎたのだろう。

 

「はい! お疲れ様でした! ゆっくり休んでくださいね?」

「はい、ありがとうございます」

 

 頭を下げてその場を後にする疾走騎士を、今度こそ私は心からの笑顔で見送ったのだった。




Q.この魔術師ちゃんちょっと脳内ピンク過ぎない?

A.ムッツリ魔術師がこのヤルルォ……。





そろそろ書き溜めが尽きるので、また書き溜めに入るかと思います。そうしたら暫く間が空きますので、気長に更新を待っていただければ幸いです。

SS初挑戦という事で不安だったものの、ここまで楽しんで頂けたのはこちらとしても喜ばしい限りでした。

文章を書く事の難しさを実感しながらも、キャラが生きている物語を書けた時の楽しさがあるので、完走目指して頑張りたいと思います、今後ともよろしくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート4 裏 後編 『この辺にぃ、安い宿屋、あるらしいっすよ?』

「首尾はどうですか?」

「ひゃっ!? びっくりした……驚かせないでよ!」

 

 銀等級である魔女の指導を受けながら、ギルドの近くにある広場で呪文の練習をしていると、突然後ろから疾走騎士に声を掛けられた。

 何よこいつ、全く気配がしなかったんだけど……本当は忍者なんじゃないの?

 

「ふふ 上々 よ? 彼女 とっても 優秀 だから」

「し、師匠! そんな事はないですよ……私なんかまだまだです」

 

 あれから私は、魔女である彼女を師匠と呼ぶことにした。

 こうして呪文を教えてもらっているのだから当然である。

 

「扱える呪文は増えましたか?」

「えぇ とっても 凄いのを ね?」

 

 そう言って師匠は私を見る。

 ここで使えという事なのだろう。確かに今日はもう冒険に出ることはないし問題はない。

 

「……仕方ないわね。それじゃあ見てなさい!」

 

「《ファルサ(偽り) ウンブラ() ユビキタス(偏在)》 《分影(セルフビジョン)》……!」

「! ……これは、確かに凄い」

 

 《分影(セルフビジョン)》により五つの分身を生み出した私を見て、驚き隠せない様子の疾走騎士。

 ──ふふふ、必死になった甲斐があったわ!

 

「私も ね? 初日で これ を 覚える のは 無理だと 思ってた のよ? ……でも ね? 彼女 とっても 頑張り屋さん だから」

「し、師匠の教え方が上手いんですよ!」

 

 師匠は呪文について、とても分かりやすく教えてくれた。

 私以外にも呪文を教えている相手が居るらしい。きっとその経験  があるからだろう。

 賢者の学院でもこれ程教えるのが上手い教師は居なかった。

 

「だから ね? 彼女 一緒に 連れていって あげて?」

「……分かりました」

「え? ホントに付いて行って……良いの?」

「今日はもう遅いので明日からまた依頼を受けます。それからで良ければ」

 

 や、やった! これも師匠のお陰だわ! つい喜びを隠しきれずガッツポーズをしてしまった私は、あることに気付いてハッとする。

 

「成る程、本物は見付かったみたいですね」

「ふふ まだまだ みたい ね?」

「うぅ……精進します」

 

 そう、ガッツポーズをしたのは本体である私だけ。

 下手な動きをすれば本物を見破られてしまうのがこの魔法の欠点だ。

 今後は気を付けなければ……。

 私はガックリと肩を落としながら《分影(セルフビジョン)》を解除した。

 

「それで、報酬はお幾らです?」

「そう ね…… 今 手持ち は どれくら い?」

 

 師匠の問いに対し、疾走騎士は持っていた袋を開け、差し出した。

 

「今日稼いだ銀貨210枚、これが今の全財産です」

「い、一日でそんなに!? 何をやってたの!?」

 

 同じ白磁等級とは思えない稼ぎっぷりだ。

 一体何をどうすればそこまでの収入を得られるのだろうか。

 

「下水道でひたすら鼠と蟲の討伐です。特に大きかったのが暴食鼠(グラトニーラット)二匹ですね」

「えぇ……」

 

 下水道。臭い、キツい、汚いが揃う3Kクエストの代表格として挙げられるそれは、白磁にとっては貴重な資金稼ぎクエストである。

 ……進んで行こうとは思わないが。

 

「それ なら これだけ 頂く わ ね?」

 

 そう言って師匠は疾走騎士が持つ銀貨から10枚摘まんで胸の谷間にしまい込んだ。

 さ、流石師匠、一体どうやったらそんな場所に収納出来るのかさっぱりだわ……というかそんな価格でいいの?

 

「……流石に安すぎるのでは?」

「水薬並みの価格じゃないですか師匠……」

「いい の よ 私も 楽しめた から」

 

 良いのだろうか? ……いや、本人が言うのだから良いのだろう。

 どうやら疾走騎士も同じ結論に至ったようだ。

 

「……そうですか。ありがとうございます」

「また いつでも 言って ね?」

「あ、ありがとうございました! 師匠!」

 

 そうして師匠と別れ、私はこれからについてコイツに聞いてみることにした。

 

「で、次は? これから何をするの?」

「もう今日は……休みましょう。流石に限界です」

 

 ……あ! こいつフラフラじゃないの! なんでこんなになるまで……って、主に私が原因よね。

 本当に迷惑掛けてばっかり、なんとか挽回しないと……。

 

「宿は取ってあるの?」

「いえ、なので今から宿を探しに」

「そ、それなら! この辺にぃ……良い宿があるんだけれど。……どう?」

 

 私の提案に、彼は頷いて答えた。

 

「ああ、良いですね。じゃあ今から行きましょう」

「そ、それじゃ付いてきて! 案内するわ!」

 

 よし! 今度は心のなかでガッツポーズをした私は、疾走騎士と共に既に暗くなった道を歩く。

 そして路地裏に少し入ったところにある目立たない建物の扉を開け、中へと入った。

 

「あ、お帰りなさい! 今日は遅かったですね! ……あれ? そちらの方は?」

 

 扉につけられた鐘がカランカランと音をたて、奥から圃人の少女がパタパタと走って来た。

 彼女がこの宿の女主人である。

 本来は彼女の祖母の物らしいのだが、どうやら今は体調を崩しているらしく、代わりに彼女が切り盛りしているらしい。

 

「ちょっと色々とね。悪いのだけど二人部屋って空いてる? ツインで」

「勿論ですよ。寧ろ、空き部屋ばかりでどうしようか、いつも悩んでますからね。はぁ……」

 

 彼女はしょんぼりとした様子でため息をついた。無理もない、この宿には殆どお客が来ないのだ。

 何せこんな目立たない路地裏にあるものだから誰も気付かない。

 

「……あっ! す、すみません! そんな事をお客様に言うべきじゃなかったですね! 今お部屋の鍵をお渡ししますね」

「ううん、ありがと。荷物の移し変えもこっちでやるから、前の部屋の鍵は後で渡すわね」

「良いんですか? すみません助かります! はい! こちらがお部屋の鍵です!」

 

 部屋の鍵を受け取……ろうとして手を差し出したが、彼女は鍵をぶら下げたまま渡そうとしない。はて、何のつもりかしら?

 

「……ダブルじゃなくて良いんですか?」

「んなっ! い、良いのよっ!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら要らぬ世話を焼こうとする彼女から鍵をぶんどる。

 べ、べつにコイツとはそういう関係じゃないし! 二人部屋にしたのも宿賃を少しでも浮かす為でそんなつもりも一切ないし!

 

「ほら! 行くわよ!」

「ごゆっくりー♪」

 

 疾走騎士の手を引いて部屋へ向かおうとする私達を、女主人は満面の笑みで見送る。

 うぐぐ、絶対分かって言ってるわねアレ……ええい無視よ無視無視!

 

 そして部屋へと入る。室内は簡素ではあるもののそこそこ広く、置かれた二つのベッドは羽毛による特別な物。

 私は昨日も泊まったが、本当にぐっすりと眠る事が出来た。

 

「良い宿でしょ? 結構な穴場だと思うのよ。宿賃も安いし、ベッドも柔らかくて……まあ、あの圃人の女主人が玉に瑕よね」

 

 本当に要らぬ世話を焼こうとする彼女にはうんざり……ん? 疾走騎士からの反応が無いわね。どうしたのかしら?

 

「ちょっと、聞いてる?」

「えっ? ……あぁ、すみません、少しボーッとしてました」

「もう、大丈夫なの? 明日も依頼受けるんでしょ? もう寝たら?」

「そう……ですね、そうしましょうか」

 

 んん?? なんか様子がおかしいわね、相当疲れてるのかしら?

 

「それなら、ほら! 鎧脱いで! 寝るなら邪魔でしょ!?」

 

 疾走騎士の皮鎧を強引にひっぺがす。

 鎧を着たままベッドで寝る奴は居ないだろう。

 これは私なりの気遣いだ。

 しかしここで思わぬハプニングが発生してしまう。

 

「ほら兜も──」

 

 つい勢いのままスポッと疾走騎士の兜を引き抜いてしまった私は、その中身を見てしまい。

 

「あっ……ご、ごめん今の無しっ!」

 

 慌てて再び兜を彼に被せた。

 

「じゃあおやすみなさいっ!!」

 

 肌着に兜というあまりにもシュールな状態になった疾走騎士を強引にベッドに押し込むと、即座に寝息が聞こえてきた。

 どうやらこの一瞬で眠ってしまったらしい。

 

「えぇ……寝付くの早すぎない? ベッドに入れば自動的に眠るようにでもなっているのかしら?」

 

 なんだか、私の方がどっと疲れた気がした。

 はぁ、とため息をつき、眠る疾走騎士を見る。

 

 

 

「ちょっと……かわいい顔してたわね……」

 

 

 

 私が見たのは、まだ少し幼さの感じる顔付き。

 

 

 

 

「だけど……」

 

 

 

 しかし、何より印象に残った彼の目は──。

 

 

 

 まるで光の灯っていない……濁りきった混沌が、深淵で渦を巻いているかのような目だった。

 

 

 

 

 

 

【現状のステータス】

 

疾走騎士

 

職業

 騎士 Lv3

 斥候 Lv1

 

技能

 技能

 装備:盾 (習熟)

 強打攻撃・殴 (習熟)

 護衛 (初歩)

 忍耐 (初歩)

 礼儀作法 (初歩)

 長距離移動 (初歩)

 隠密 (初歩)

 

装備

 右手  ヒーターシールド

 左手  ヒーターシールド

 頭   古いサレット

 体   レザーアーマー

 腕   レザーグローブ

 足   レザーレギンス

 装飾品 なし

 

 とある出来事により、騎士としての地位を失った一つの駒。そこを走者として選ばれる。

 普段からサレットを被っているせいで見えない素顔は神の一柱をして『若干暗~い雰囲気』と言わしめる程。

 騎士故に精神力はかなりのものであり、過去の経験から体力が高く、気配を断つ事も得意。

 

 

 

 

魔術師

 

職業

 呪文使い(スペルキャスター) Lv3

 

技能

 装備:杖 (習熟)

 詠唱保持 (習熟)

 秀才 (初歩)

 努力家 (初歩)

 《火矢(ファイアボルト)》 (習熟)

 《分影(セルフビジョン)》 (初歩)

 

装備

 右手  学院の杖

 左手  なし

 頭   魔術師の帽子

 体   厚手のローブ

 腕   魔術師の手袋

 足   魔術師のブーツ

 装飾品 魔術師のマント

 

 今回疾走騎士の介入により生き残った、命を落とす筈だった一つの駒。彼と共に走者としての道を選ぶ。

 魔術師として優秀な才を持ち、更に努力家でもある可能性の塊。バストも可能性の塊。伊達に原作で一番最初に『豊かな胸』と明記された訳ではない。




Q.なんで疾走騎士くんは宿屋に来てからボーッとしてたの?

A.走者がトイレ行ってたからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート5 『ゆうべはおたのしみでしたね!』

 ホモ特有の手のひら返しが炸裂するRTA第五部、はぁじまぁるよー。

 

 前回、疾走騎士くんが魔術師ちゃんに連行されてる間にトイレに行ってたら、ベッドに押し込まれ就寝してたので、翌朝からのスタートとなります。

 

 今日もいいペンキ☆

 

 お疲れだった疾走騎士くんはぐっすりだったようですね。

 取り敢えずベッドから出ましょう。

 

 ……おや? 魔術師ちゃんが見当たりません。先に出掛けたのかな?

 

 身支度を整え部屋から出ます。宿屋のロリ主人に挨拶をすると、魔術師ちゃんが先にギルドへ向かった事を教えてくれました。

 

 「ゆうべはおたのしみでしたね」だとか「ダブルへの変更はいつでも受け付けてます」だとか意味の分からない事を言ってますが、そんな予定は一切ない。ハッキリ分かんだね。

 適当に聞き流して宿代を払います。おいくら?

 

 銀貨10枚!? 安いやん! 二人部屋は、一人部屋を二部屋借りるよりもお得ですからね。これは魔術師ちゃんのナイス采配。やるじゃねぇか。

 

 それでは支払いも終わったので、ギルドへ向かいましょう。

 

 眠った時間は長かったですが、疲労値の回復効果が得られるのは基本的に6時間迄、それ以降は駄眠となっています。

 ですので、睡眠による回復量は主に宿屋の環境によって左右されるのですが、この宿はかなり良い環境です。羽毛のベッドによる疲労の回復が、うん、おいしい!

 

 今後は、この宿を拠点として活動する事にしましょう。

 一泊のお値段が相場より安めですし、何よりギルドからあまり離れていません。RTA的にもいいゾ~これ。

 

 ……というか、こんなとこに宿あったんすねぇ? 路地裏にある目立たない宿とか、完全にアレなホテルなんだよなあ。

 

 突く突くぅ~。

 

 ギルドに到着しました。少し寝坊して来たと言うこともあり、人も疎らです。

 ……お? 魔術師ちゃんが居ました。疾走騎士くんを見付けてこっちにやって来ます。

 

「やっと来た。遅いわよ」

 

 すいませへぇぇ~ん! とは言え、元はと言えば魔術師ちゃんが原因なんだよなぁ?

 

 依頼が張り出されるのは早朝なので、うまあじな依頼も大体取られた後でしょう。

 仕方がないので今日の所はお金稼ぎは諦め、経験点だけを視野に依頼を選びたいと思いま──。

 

「ほら、適当にいくつか受けといたわよ。出発は遅くなっちゃうけど、昨日あれだけ依頼を受けてたアンタなら問題は無いでしょ?」

 

 そんなことしなくていいから(真顔)

 そういうことをされるとねぇ! チャートが狂うんですよ! そんな勝手な事をする奴はクビだクビだクビだ!

 

 と言いたいところですが、受けてしまったものは仕方ありません。依頼の破棄は今後の昇級に悪影響を及ぼしてしまいますからね。まずは内容を確認してみましょう。

 

 

 

 お?これは下水道、これも下水道、そして下水道。

 

 

 

 …………お前の事が好きだったんだよ!(ホモ特有の手のひら返し)

 

 

 

 

 えぇ……? 何この最適解な依頼選び。走者じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 確かに何かしらの用事で疾走騎士くんが遅れる場合、彼女が依頼を受けてくれるのであれば、とてもスムーズですね。

 RTA的に一党を組むのはマズあじだと思っていたのですが、これは認識を改める必要があるかもしれません。

 

 それにしても、よくこれだけの依頼を奪取できましたね。下水道は人気の無い依頼ではあるものの、張り出されてすぐの物は他の白磁も狙う可能性が高いと思ってたんですけど……。

 

「私ほど字を読む事に慣れてる新人冒険者、そう居ないわよ」

 

 あっそっかぁ! どうやら彼女は『下水道』というキーワードに絞り、目についたうまあじ依頼を即座にひっぺがしたようです。やりますねぇ!

 

 ……おや? 魔術師ちゃんがまだ一つだけ依頼を持っています。オイゴルァ! 何隠し持ってんだ! 見せろ!

 

「あぁこれ? 手紙配達の依頼よ。体力付けろってアンタ言ってたじゃない。丁度いいと思ったのよ」

 

 

 

 

 ……………あっ。

 

 

 

 

 やっぱコイツダメだわ(再認識)

 

 

 

 

 この手紙配達、実は罠です。道中の峠でマンティコアと偶発的遭遇(確定)をする白磁を殺しに来てるとしか思えない超鬼畜難易度クエストです。

 

 まあ、さっさと逃げれば生存する確率はかなり高くなるのですが、それでもリスクに対して得られる報酬が激マズです。

 

 もし倒せるのであれば一気に昇級を見込む事が出来るのですが……疾走騎士くんには無理ですね。

 まずマンティコアは飛行モンスターなので、遠距離攻撃を持ってない彼はこの時点で詰みです。

 よってこのクエストは、完全にスルーするつもりでした。

 

 

 ……ん? ちょっと待って!? 遠距離攻撃持ちが(一党に)入ってるやん! どうしてくれんのこれ!!

 

 これはいける、いけるんじゃないか?

 

 よし、完全オリジナルチャート発動! もう何度目のオリチャーか分かりませんが、魔術師ちゃんを仲間にした時点でもはや完全にチャート外なので、問題無いぜ!(毒を喰らわば皿まで)

 

 もし討伐出来れば即昇級確定ですが、無理そうなら魔術師ちゃんを囮にして逃げましょう。……あ、もちろん《分影(セルフビジョン)》の方をですよ?

 

 こういう使い方も出来るので、やはりこの魔法はクッソ使いやすくていいね!

 

 とは言え、今すぐ向かっても勝てる見込みは少ないです。

 他の下水道関連の依頼を先にこなし、もうひと稼ぎしましょう。

 いざ鎌倉。

 

 下水道に到着しました。今回受けた下水道依頼は『巨大鼠(ジャイアントラット)の討伐』『巨大蟲(ジャイアントローチ)の討伐』『下水道でのクエストを受けたまま帰ってこなくなった冒険者の捜索』以上です。

 

 つまり、やる事は昨日とほぼ変わりありません。規定数目指して討伐しつつ、ついでに探し物をする流れですね。

 

「……やっぱり臭うわね」

 

 慣れますよ(女神官ちゃん並みの感想)

 

 寧ろ今からでもこういった悪環境に慣れておかないと、この先生きのこれません。

 

「分かってるわよ。私だってそれを承知で依頼を受けたんだから……」

 

 おっそうだな。

 

 因みにこのクエストでの魔術師ちゃんのお仕事は……松明持ちです。

 

 正直こんな雑魚共に《火矢(ファイアボルト)》は勿体ないですし、使うとしても暴食鼠(グラトニーラット)くらいでしょう。まあ滅多に出てきませんが。

 ……前回の2体エンカ? あれは屑運だっただけだから(震え声)

 そもそもこの後に手紙配達と言う名の、マンティコア討伐クエストが控えているので、魔法を消耗するわけにはいきません。

 

 なので魔術師ちゃんは、探し物に専念してもらいましょう。オナシャス! センセンシャル!

 

 では見所も無いので、倍速でお送りしまーす。

 

 倍速中に、この後のマンティコア戦について、解説します。

 

 マンティコアは飛行能力持ち、尚且つ呪文も使えるというクソつよ大型モンスターです。

 

 しかも、この手紙配達で出てくるユニーク個体はポジ敵でもあり、尻尾の攻撃をくらえば猛毒必至!

 疾走騎士くんの《解毒(キュア)》で対応は出来ますが、まともに喰らった時点で致命傷なのでどちらにしろアウトですね。

 

 何より厄介なのが飛行能力で、まずこれをどうにかしないと、疾走騎士くんは手も足も出ません。

 

 ですが、魔術師ちゃんが《火矢(ファイアボルト)》を当てることで炎上、墜落させる事が出来ます。

 

 しかし、地上戦に持ち込めたとしても、ステータスがかなり高い為、正面からだと今の疾走騎士くんでは押し負けてしまいます。

 

 おまけにこのマンティコアは本来ならば手負い、呪文も尽きた状態で出現する筈なのですが……原作より難易度の上がっているこのRTAレギュレーションでは、万全の状態で出現します。ふざけんな!!

 

 つまり結論から言うと、守ったら負け! とにかく攻めろ! ミスったら逃げ! 以上です。

 

 さて、規定数の討伐が終わりました。

 途中探し物(行方不明の冒険者)も見つけましたが、やっぱりダメだったよ(屍から認識票だけ回収)

 

 それじゃ帰りましょ。

 

「ちょっとどこ行くのよ。出口はこっちよ?」

 

 あああ! 忘れてたああああ!

 

 下水道での汚れを落としてギルドへ戻ってきました。

 今回の報酬は銀貨100枚! 手持ちと合わせ合計銀貨280枚! うん、おいしい! 流石魔術師ちゃんが見繕った依頼! よくやった! やはり君は優秀だ!(手のひら大回転)

 

 そして今回の冒険で疾走騎士くんは《聖壁(プロテクション)》を習得! 地母神さんアザッス! ……え? 女神官ちゃんのついで? あ、そう……。

 

 この《聖壁(プロテクション)》ですが、それはもうクッソ便利で使える神奇跡です。序盤に覚える奇跡とは思えないレベルで使い勝手が良いので、このRTAでは大活躍しますね。

 

 次に工房へ行き、銀貨100枚のカイトシールドを2つ購入しましょう。

 

 カイトシールドは、ヒーターシールドより縦長の盾です。形状は様々ですが、下部先端が尖っている比較的大きめの物を選びましょう。また、表面に無駄な装飾がなく、鏡面になっている物なら尚良しです。

 

 お、ありましたね。長さは1メートルよりちょっと長いくらいかな? そこまで上等な代物ではないですが、形は女騎士さんの盾に似てますね。

 

 では早速いつも通り縁を刃にする細工を施しましょう。

 これで槍としての運用も可能となり、更に安定した引きチクが、出来るようになりました。

 

 あとは強壮の水薬(スタミナポーション)を4本、治癒の水薬(ヒールポーション)を2本購入します。

 

 ヒーターシールドはもう使わないので下取りしましょう。

 

 残ったのは銀貨40枚のみ。お高い買い物でしたが、これでマンティコアに勝つ準備が整いました。

 

 それでは手紙配達(マンティコア討伐)クエストへ、イクゾー!

 

 暫くは街道を移動するだけなので、倍速でいいですよね?

 

 

 

 

 走者倍速中……………。

 

 

 

 

「も、もう……そろそろ、着くかしら……?」

 

 (まだ着か)ないです。というかまだ半分にすら到達していませんね。

 

「す、強壮の水薬(スタミナポーション)ちょうだい……」

 

 あのさぁ……。

 

 いやはやこの魔術師ちゃん、本当に体力が無いですね。その為に強壮の水薬(スタミナポーション)を買い込んだのもありますが、まさかここまでとは……。冒険者の屑がこの野郎……。

 

 魔術師ちゃんが使うスタポは【行き道の真ん中】【届け先】【帰り道の真ん中】で計3本の予定です。なので、それまでは我慢して欲しい所なんですよね。

 ちなみに疾走騎士くんは【届け先】での1本だけです。

 

 どうしてもと言うのなら疾走騎士くんがおぶりますが……。

 

「う……やっぱりいいわ……」

 

 当たり前だよなぁ?

 まあ、ここで頑張らないといつまでも体力なんて付かないからね!

 

 

 

 

 走者倍速中………。

 

 

 

 

「もう無理ぃ……」

 

 しょうがねぇなあ(悟空)

 

 もう届け先まで半分を過ぎてますし、マンティコアの居る峠も見えてきています、ここで回復させておくのが、ベストでしょうね。

 

 お待たせ! アイスティーしか無かったけど、良いかな?

 

「あ、ありがと……」

 

 あくしろよ。これもロスだってハッキリ分かんだね。

 

「あぁ~生き返るわぁ~」

 

 申し訳ないが、唐突におばさん化するのは

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。




Q.授けた《聖壁(プロテクション)》は(防御に)使えそうですか?

A.勿論(攻撃に)使えますね。


─補足─
一応この手紙配達の依頼は原作者兄貴のRTAに出てきた遠方への手紙配達とは似て非なる依頼となっております。まあ、多少はね?

ところでゴブスレ世界の宿の相場が分からないのでクッソ適当に決めたんですけどどうなんでしょう。

─追記─
有志の情報によると宿の相場は一人部屋で銀貨8枚だとか。
教えてくれてありがとナス!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート5 裏 前編 『魔術師ちゃんの朝は早い』

「んんっ……ふぅっ! 今日も良い天気」

 

 窓から差し込む太陽の光で目が覚める。

 私は伸びをした後ベッドから起き上がり、昨日畳んでおいたローブを手に取って、そこである事を思い出した。

 

「あ、コイツの事すっかり忘れてた」

 

 隣のベッドには、昨日から一党を組む事となった疾走騎士が居た。

 彼はまだ熟睡している様子で……っていうか、よく兜を被ったまま眠れるわね……。

 

「それにしても、今思えばちょっと大胆過ぎたかしら……?」

 

 会ったばかりの男と同じ部屋で寝泊まりなんて、普通に考えて女子としてマズイ行動だったのでは? 今更ながらそんな考えが頭をよぎるが──。

 

「で、でも一党を組んだものね。これくらいは普通普通……」

 

 うん、そう思うことにしよう。個室を二部屋借りるよりもこっちの方が節約になるし、これは合理的な判断なのだ。

 

「昨日は様子もおかしかったし、もうちょっと寝かしておいてあげましょうか」

 

 彼が目を覚ましていない事を改めて確認してから、そそくさと寝巻きからローブに着替える。

 流石に男性の目の前で着替えをする趣味は持ち合わせていない。

 着替えを終えて、魔術師の帽子を被り、杖を手にして私は部屋を出た。

 

「あ! おはようございます! ゆうべはおたのしみでしたね!!」

 

 ……せっかく頭を切り替えられたのにこれだ。

 

「いや~、言ってみたかったんですよねこの台詞! やっぱり宿屋としての憧れというか!」

「だ か ら ! 私と彼はそういう関係じゃないの! ただの一党(パーティー)!」

 

 全く、相手しててもキリがないわね。つい溜め息が出てしまうわ。

 

「アイツが起きてきたら先にギルドに向かったって言っておいてもらえる?」

「おかのした!」

「あとさっきみたいな変な事、アイツには絶対言わないでよ!」

「考えておきますね!」

「そこは言わないって言いなさいよ!!」

 

 ああもうっ! これがロスって一番言われてるのよ! 多分! よく分からないけどなんかそんな気がする!!

 

「って、早く行かないと依頼が貼り出される時間に間に合わない! 行ってくるわ!」

「行ってらっしゃいませー! お気をつけて!」

 

 慌てて私は宿屋を飛び出し、ギルドへと走った。

 

 

──────────────────

 

 

「……ふぅ、ふぅ、ホントに体力無いわね……私」

 

 すぐに息が上がってしまったが、ギルドとの距離はそこまで離れていないため、到着まではすぐだった。

 辺りを見回すが、どうやら依頼の貼り出しまでには間に合ったらしい。

 さて、間に合ったは良いものの、ここからが問題だ。

 私達冒険者は依頼を受けて生計を立てている。

 つまり張り出される依頼はすぐに取られてしまうと言うこと。

 実入りの良い物なら尚更だ。

 

「アイツに恩を返すためにも、どうすれば効率良くやれるかを考えないと……」

 

 とにかく報酬の良い依頼を見付ける? いや、それでは他の冒険者と同じだ。

 そもそもそういった依頼は難易度が高く、私達白磁には受注すら認められない可能性が非常に高い。

 

「そう言えばアイツ、昨日は下水道に行ってたのよね……」

 

 確かに下水道の依頼は、白磁の冒険者にとって堅実に報酬を得るための、ある意味で貴重な依頼なのだが……。

 

「下水道ってあれほど稼げるものなのかしら……?」

 

 少し確認してみよう、私は昨日世話になった受付嬢の下へと向かった。

 

 

─────────────────

 

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

 いつものようにこれから掲示板に貼り出す依頼を纏めていた私は、一人の冒険者に声を掛けられた。

 彼女は昨日、ゴブリン退治に向かい、仲間を失った魔術師である。

 しかしその後、私が仲介した甲斐もあり、同じ新人冒険者である疾走騎士と無事一党を組む事が出来たようだ。

 

「あ、おはようございます! どうされました? 依頼の貼り出しはもう間もなくですが……」

「あぁ、違うの。そうじゃなくって……ええっと」

「?」

 

 一体どうしたのだろうか? 彼女は少し悩む仕草を見せながら問いかけてきた。

 

「昨日、疾走騎士が下水道の依頼を受けてたみたいなんだけど、それがどうにも報酬が多かったのよ。どうやったのかなって……」

 

 あぁ、成る程。昨日彼が受けた下水道の依頼は、確かに結果的に見れば報酬は多くなっていた。

 しかし、それにはちゃんとした理由がある。

 

「あぁ……実はあの人、昨日の時点で残ってた下水道での討伐依頼を全部持っていったんですよ……」

「ぜ、全部!?」

「しかも不意に遭遇した暴食鼠(グラトニーラット)も討伐したらしく……本当に驚きました」

 

 本当にあの人は新人の冒険者なのだろうか?

 いや、没落したとはいえ騎士だったらしいし、戦いには元々慣れているのかも……?

 

「そう言えばそんな事言ってたけど……ん? いや、そうか。そう言うことね」

 

 うんうんと唸っている魔術師だが、そういえば彼女と一党を組む事になった疾走騎士の姿は見当たらない。一体どうしたのだろうか?

 

「あのう、疾走騎士さんが見当たりませんが、何かあったんですか?」

「ん、アイツならまだ寝てるんじゃない? 昨日さんざん働いて疲れてたみたいだし」

「あぁ、成る程。昨日は張り切ってましたからね」

 

 ゴブリン退治と下水道でのハードワーク。そうなるのも仕方のない事だろう。

 

「起きたらすぐこっちに来ると思うから、先に依頼だけでも受けておこうと思ったのよ」

「そうでしたか。どうです? あの方とはうまくいきそうですか?」

「うーん、どうかしらね。その為に私も頑張らなきゃって思ってたところだけれど」

「……ふふっ」

 

 腕を組んで頭を傾げる彼女の返答を聞いて、私は昨日の疾走騎士が言っていた言葉を思い出し、ついつい笑みが溢れてしまう。

 

 

 

 

『彼女の面倒を見るためにも資金が要るんです』

 

 

 

 

「きっと、大丈夫だと思いますよ?」

「そ、そう? なら良いのだけれど」

 

 多く白磁の冒険者を見てきたが、この二人には特に安心感を覚える。……少し羨ましく感じる程に。

 

「では私は戻りますね。もうすぐ依頼の貼り出しをしなきゃいけないので」

「あ、ごめんなさい。助かったわ。ありがとう」

 

 そうして私は職務に戻り、貼り出す依頼の束をまとめにかかった。

 

 

────────────────

 

 

「きっと、大丈夫……か」

 

 彼女は色んな一党を見てるものね。疾走騎士と一党を組めたのは彼女のお陰でもあるし、感謝しないと……。

 

「それにしても目から鱗だわ。そんな方法考えもしなかった……」

 

 受付嬢の話を聞いたお陰で、彼がどのようにして多くの報酬を得たのか、目星を付けることが出来た。

 恐らく疾走騎士は下水道での依頼を複数受け、それらをまとめて遂行したのだろう。

 たとえ複数の依頼であっても、遂行する場所が同じであれば並行してこなす事が出来るため、効率良く消化する事が出来る。

 一つ一つ依頼を受けるよりも、結果的に報酬が多くなるという寸法だ。

 

「下水道ね。あんまり行きたくはないけれど……」

 

 私はあの男に借りっぱなしだ。命を救われ、銀等級の魔女に師事する切っ掛けを作ってもらい……。

 

「だからせめてこれぐらいは……ね?」

 

 受付嬢が依頼の束を持ち席を立った。どうやら貼り出しの時間が来たようだ。

 

「……あれ? 昨日アイツが全部受けたなら、下水道の依頼って今日も残ってるのかしら? ああもうっ! 聞いておけばよかった!」

 

 ええい一か八か! とにかく『下水道』に絞って、依頼を即奪取よ!

 

────────────────

 

「何だかんだ悪くはない成果……よね?」

 

 結果的に得られた依頼は巨大鼠(ジャイアントラット)の討伐。巨大蟲(ジャイアントローチ)の討伐。下水道でのクエストを受けたまま帰ってこなくなった冒険者の捜索。……うん、おいしいわ!

 他の白磁には申し訳ないけど、これも資金のため、卑怯とは言わないでよね。

 

「……ん?」

 

 冒険者達でごった返すなか、たまたま目についた一つの依頼、掲示板の一番隅っこにあったそれを手に取る。

 

「手紙配達? 隣町まで……へぇ、こんなのもあるのね」

 

 報酬は良いとは言えないわね。

 まあ、だからこうして残ってるのでしょうけど。

 

「体力……付けなきゃね」

 

 これくらいなら一人でもいけるかしら? そんな事を考えて私はその依頼を受ける事にした。

 

「あとはアイツ待ちね……」

 

 ギルドの隅にある椅子に座り疾走騎士を待っていると、暫くした後に彼がやって来た。

 顔の見えない兜を被り、両手に盾を携えたその風貌はあまりにも特徴的だ。

 

「やっと来た。遅いわよ」

「すみません、少し寝坊してしまいました」

 

 うん、昨日のようなおかしな様子は見られないし、どうやら回復したみたいね。

 

「ほら、適当にいくつか受けといたわよ。出発は遅くなっちゃったけど、昨日アレだけ依頼を受けてたアンタなら問題は無いでしょ?」

「え……」

 

 先程受けた依頼を疾走騎士に渡すと、それを彼は手に取り、暫く眺めたあと……。

 

「……よくここまで一纏めに依頼を受けれましたね。他の冒険者も多かった筈では?」

「私ほど字を読む事に慣れてる新人冒険者、そう居ないわよ」

 

 実際、他の白磁が読み始めた辺りで剥がしちゃったものね。悪いことしたわ。

 

「凄いですね。自分はあまり字は得意ではないので……」

 

 良かった、役には立てたみたいね。これで余計な事をしちゃってたら立ち直れない所だったわ。

 

「そ、そう? まあ悪い気はしないわね」

「……ありがとうございます。助かりました」

 

 そう言うと疾走騎士は深々と頭を下げ、礼を述べた。

 

「べ、別に……私達、一党だし? これくらいは当たり前よ!」

 

 っ! 顔が熱くなっているのを自分でも感じてしまい咄嗟に帽子で顔を隠した。……ダメだ、つい頬が緩んじゃう!

 

「……その依頼は?」

 

 疾走騎士が指差したのは、彼に渡した依頼とは別の、最後に取った手紙配達の依頼だ。

 

「あぁこれ? 手紙配達の依頼よ。体力付けろってアンタ言ってたじゃない? 丁度いいと思ったのよ」

 

 取るに足らない、ただのおつかいと言っても過言ではない簡単な依頼。それを見た疾走騎士は──。

 

「…………」

 

 何も言わなくなってしまった。

 

「ど、どうしたの? 私、何かまずい事したかしら?」

「……いえ、その依頼は下水道の依頼を終わらせてから……で、構いませんよね?」

「それは勿論だけれど……え? 付いてきてくれるの? 私一人で行くつもりだったのよ?」

「付いていきます」

 

 き、急に圧が強くなったわね。この依頼に何かあるのかしら? どう見ても普通の手紙配達の依頼よね……?

 

「わ、わかったわ。それじゃあ先ずは下水道ね?」

「そうですね。パパパっとやって終わらせましょう」

 

 彼の反応に一抹の不安を覚えながらも、私達はまず下水道へと向かうのだった……。




Q.魔術師ちゃんに語録が伝染してる……してない?

A.知らなーい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート5 裏 後編 『走者の神、その名は……』

 下水道。この街の地下に流れているそこには、巨大化した鼠や蟲が蔓延り、いくら狩れども沸いてくる。

 とはいえ、そいつらを放置しておく事は出来ない。数が増えすぎれば下水道から溢れ、街に逃げだす危険性があるからだ。

 故にこうして定期的に討伐依頼が出されているのだが……。

 

「……やっぱり臭うわね」

 

 そう、この悪環境こそが、良い意味でも悪い意味でも、白磁御用達クエストと言われる所以である。

 

「今からでもこういった悪環境に慣れておくと良いですよ。今後の為にもなります」

「分かってるわよ。私だってそれを承知で依頼を受けたんだから」

 

 冒険する先が快適な環境であるとは限らない。確かにこのくらい不快な環境に身を置けば、些細な事では気にならなくなるだろう。

 

「今回の依頼内容は……巨大鼠(ジャイアントラット)の討伐と、巨大蟲(ジャイアントローチ)の討伐に、下水道でのクエストを受けたまま帰ってこなくなった冒険者の捜索……ですね」

「そ、昨日下水道に潜ってたアンタから見てどう? やれそう?」

「冒険者の捜索だけが厄介ですね。探し物は盾で解決出来ませんから」

 

 二つの盾を構える疾走騎士。どこか自信ありげなそのポーズは、私の緊張を解すのに十分だった。

 

「ふふっ、なにそれ? まあでも分かったわ」

 

 つまり、討伐依頼の方に関してはなんの問題も無いって事ね。それを聞いて安心したわ。

 

「それじゃあ私が松明を持ちながら捜索するわね。その方が効率良いでしょ?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 通った場所を忘れないようにして、くまなく探していけば必ず見付かる筈。討伐に関しては疾走騎士に任せちゃいましょ。

 

 そう思った矢先、暗闇に蠢く者が姿を表した。

 

「うわっ……」

 

 巨大鼠(ジャイアントラット)……よくもまあここまで大きくなる物よね。

 こんなのが下水道から上がってきたらと思うとゾッとするわ。

 

遭遇(エンカウント)。……貴女の魔法は切り札です。もし自分が抜かれた際は松明で応戦を」

「……え、えぇ! 分かったわ!」

 

 切り札……ね。嬉しい事言ってくれるじゃないの!

 

 巨大鼠(ジャイアントラット)が疾走騎士に対し、牙を剥きながら飛び掛かる。

 しかし疾走騎士は左手の盾で叩き落とすと、体勢の崩れた相手に右手の盾を振り下ろす。まさに一瞬での処理だ。

 その後も彼は鼠が現れる度、同じ動作をひたすらに繰り返し、次々に倒していく。

 

 鼠が群れで現れた事もあったが、彼は後退しつつ、飛び出してくる個体を一匹ずつ堅実に倒していくと、結果その全てを討伐。

 安定した彼の戦い方に感心していると、私はあることに気付いた。

 

「……あれ? これ、私の出番無さそう?」

 

 全くもって崩される様子が無いじゃない。

 手の出しようもないわね。討伐証もすぐ回収しちゃうし。

 

「さあ、先へ進みましょう」

 

 それだけ言うと、疾走騎士は再び前へと歩みだす。

 

「そ、そうね……」

 

 うーん、せめて探し物は頑張らないといけないわね。その為の松明持ちだもの……。

 

─────────────────

 

 そして下水道の悪臭にも慣れてきた頃、疾走騎士達二人は巨大鼠(ジャイアントラット)巨大蟲(ジャイアントローチ)の群れとも幾度か交戦したが、歯牙にもかけずにその全て撃退していった。

 

「行方不明の冒険者、なかなか見付からないわね」

「正直に言えば、生きているとは考えにくいですからね。痕跡が残っていない可能性もあります」

「あ、そっか。その線もあるのね……」

 

 この下水道で命を落とせば、まず間違いなく鼠と蟲の餌だ。

 せめて遺体が残っていれば良い方だろう。

 

「……ねぇ」

「なにか?」

 

 魔術師は辺りを捜索しながら疾走騎士に問いかける。

 

「アンタは冒険者になる以前、何をしていたの?」

「以前? 何故です?」

「だって、やけに戦い慣れてるもの」

 

 疾走騎士は昨日冒険者登録を終えたばかりの白磁の冒険者。にも関わらず、戦い方が安定している。

 そしてそれは本来、長い訓練や実戦の末に到達する領域である。

 魔術師はそこに疑問を抱いたのだ。

 

「まあ……自分は、元々国に仕える騎士でしたから」

「軍人ってこと?」

 

 疾走騎士が頷く。

 成る程、道理で。

 私は彼の強さに納得がいった。

 戦いの基本という物が、彼には既に備わっているのだ。

 何も知らずにゴブリンの巣へと飛び込んだ私達とは……違う。

 

「見習いの使いっぱしりでしたし、結局没落しましたけどね?」

「そ、そう……」

 

 苦笑いで場を濁す疾走騎士に対して、彼が訳ありである事を察し、それ以上深入りしていいのか迷う魔術師。

 すると見かねたのか疾走騎士が口を開く……。

 

「……貴女は、見知らぬ誰かの命を助ける為に魔術師を辞めなければならないとしたら、どうしますか?」

「え……」

 

 唐突な質問に対し、困惑する魔術師。その問いかけはとても難しい内容だった。

 

「……まあ、出来れば助けたいわよね。でも……」

「難しいですよね。だってその選択には『成功』も『失敗』も、存在しないんですから」

 

 明るい口調ではあるものの、まるで諦めているかのような疾走騎士の言葉を聞いて、魔術師はこの質問の意味を理解した。

 

「助けたのね……アンタは」

「そう言うことです」

 

 疾走騎士は、誰かの命と騎士としての肩書きを天秤にかけ、命を選び、己の剣を捨てたのだろう。

 そして騎士を辞めて、こうして冒険者になった。

 その答えに魔術師は納得がいったものの、何とも言えない表情で疾走騎士の後ろ姿を見ていたが……。

 

「あ、居たわ。疾走騎士」

「? ……あぁ、やはりダメでしたか」

 

 損傷の激しい遺体を発見した。それは曲がり角の隅で横たわっていて──どうやら群れに追い詰められ、そのまま命を落としたようだ。

 

「疾走騎士。アンタが居なければ私はこの冒険者と同じ結末を迎えてたの」

「……」

 

 魔術師は遺体の首に掛かっている認識票を回収しながら、疾走騎士に語りかける。

 

「アンタのした選択が『成功』だったのか、『失敗』だったのか、それは分からないけれど……私はそれを『間違い』だとは思わない。だから胸を張りなさい! アンタは私にとっちゃあ、立派な騎士なんだから!」

「!」

 

 魔術師は回収した認識票を疾走騎士に渡し、疾走騎士はそれを受け取った。……微笑みを浮かべる彼女の、心からの激励と共に。

 

「……ありがとうございます」

 

 そうして下水道での依頼を全て終え、二人の冒険者は下水道の出口に向かうが……。

 

「ちょっとどこ行くのよ。出口はこっちよ?」

「あっ……すみません。道順を忘れてしまいました」

 

 たまに抜けた所のあるこの騎士に、魔術師は不安を覚えるのだった。

 

───────────────

 

「ね、ねぇ、疾走騎士?」

「なんでしょう?」

 

 下水道での依頼を終え、ギルドに報告した後、報酬を受け取った私達は手紙配達へ向かう準備を整えたのだけれど……。

 

「私の目にはこの依頼が単なる手紙配達の依頼にしか見えないのよ。アナタには一体何に見えてるの? 悪魔(デーモン)退治?」

 

 疾走騎士は今まで背負っていた小型の騎士盾よりも大型の盾を両肩に携え、更に水薬をいくつか購入。昨日と今日の稼ぎをほぼ全て費やしたのだ。突然の行動に私は困惑を隠せない。

 

「実は、嫌な予感がしてまして……」

「……嫌な予感?」

 

 疑問を抱く私に対し、疾走騎士は話を続ける。

 

「備えあれば憂いなしと言いますし、なるべく最大限の準備をしていこうかと」

「でも、流石にやりすぎなんじゃない?」

 

 心許なくなった残りの資金、普通に考えれば明日から火の車……まあ彼の働きぶりなら幾らでも挽回は可能そうではあるが、厳しい事に違いはない。

 

「……自分は臆病ですからね」

「あ、アンタもしかしてアレ根に持ってたの!? わ、悪かったわよ! あの時の私は何も知らなかったんだし、仕方ないじゃない!!」

 

 そう言えばこいつに『騎士と言ってもただの臆病者ね』なんて言っちゃってたわ……。

 まあ確かに、冒険には思いもよらない危険が潜んでいる事をつい先日経験したばかりだものね……ここは彼の言葉を信じる事にしましょうか。

 

 そして私達は手紙配達の依頼へと出発。

 配達先の隣街を目指して街道を歩みだす。

 

「ほんと、下水道に比べれば天国よね」

 

 日光とそよ風の心地よさを感じながら、大きく伸びをして深呼吸。

 下水道という悪環境を体験したからこそ、この有り難みが実感できる。

 

「今のところは……ですけどね」

「ち、ちょっとやめてよそんな不安になること言うの……」

 

 先程、疾走騎士が言っていた嫌な予感。

 疑う訳ではないが、根拠も無しに鵜呑みには出来ない。

 何が彼をそこまで警戒させているのだろう?

 

「……ねぇ、アンタ自身何かしらの確証を得てるように見えるけど、なにか理由があるんでしょ? 教えなさいよ」

 

 暫く迷う仕草を見せる疾走騎士は、やがて決心したかのように口を開いた。

 

「……《宣託(ハンドアウト)》です」

「はぁ……それならそうと早く言いなさい」

 

 ホントいつも肝心なところで言葉が足りていないんだから……。

 

「知ってるんですか?」

「当たり前でしょ? それくらいの知識なら持ち合わせてるわ」

 

 宣託(ハンドアウト)とは神からの指示である。

 特に信心深い信者に与えられると聞くが、実際のところはよく分からない。

 何せそれは理の外から送られてきているのだ。

 

「それで? 何て言ってたの?」

「ええっと……『守ったら負け! とにかく攻めろ! ミスったら逃げ! 以上です』」

「……はい?」

 

 一瞬疾走騎士なりの冗談なのかと疑ったが、彼はいたって真面目であり、本気で言っている事が伺える。

 

「とてもまともな怪物が出てくるとは思えませんよね……」

「いやいや、そんな宣託(ハンドアウト)送ってくる神の方がまともじゃないでしょ……」

 

 彼は一体何の神に目をつけられてしまったのだろうか。

 不安を覚えた魔術師が目を細め、疾走騎士を睨む。

 

「そうですか? 大体いつもこんな感じですよ。ちゃんと……? が壊れる……? だとか、なんだかよく分からない事ばかり言ってきますけど」

「えぇ……? それ言ってきてるのって地母神?」

 

 疾走騎士は頭を横に振り否定する。

 確か彼は地母神の奇跡を使っていた。にもかかわらず彼に指示を送っているのが地母神ではないとすると、その神は一体何者なのだろうか?

 

「確か『ソゥシーヤ』と名乗っていましたね。騎士の地位を失った自分に冒険者になれと、正解を教えてやると言ってきました」

「ソゥシーヤ……聞いたこと無いわね」

 

 古い文献でも漁ってみようかしら? でも、伝えられていないような神なんて、調べた所で時間の無駄になりそうよね……。

 

「そういう訳で、この準備はその為です。納得して頂けましたか?」

「まあ、一応……」

 

 未だ腑に落ちない点が多くあるけど、考えていても仕方の無い事ね。思考を切り替えましょう。

 

「それでは急ぎましょう。先はまだまだ長いですよ」

「そうね……よし! それじゃあ体力をつける為にも走りましょ!」

 

 これだけ空気が綺麗な外なら、ちょっとくらいじゃ疲れないでしょ!

 

「ほらほらほらほら! 置いていくわよ!」

 

 後衛の私がアイツの前を走るっていうのも、なんか悪くない気分ね! さあ、張り切って手紙配達よ!

 

 

─────────────────

 

 

 疾走騎士は魔術師の後を追いながら、ソゥシーヤから初めて宣託(ハンドアウト)を与えられた時の事を思い出す……。

 

 

『はいはいランダムランダム。おっ? 君がかぁ、やっぱり壊れてるじゃないか』

『混沌の勢力に堕ちかけている。ハッキリ分かんだね』

『そうそう、こういうボッチ君はパッと見ハズレ枠に思えますが、実は大当たりなんですよね。ちゃんと言うことを聞いてくれます』

『じゃけん冒険者に、なりましょうね~。正解はちゃーんとチャート通りに教えてやるから、大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから!』

『それじゃあRTA、はぁじまぁるよ~』

 

 

 まるで意味が分からない。そもそも正解と言いながら失敗する事が多々あった。動かされている身にもなって欲しいものだ。

 

 ……だが、自分がこの宣託(ハンドアウト)に背く事はないだろう。

 

 自分にはもう、これ以外には何も残されていないのだから……──。

 

 

─────────────────

 

 

 

「も、もう……そろそろ、着くかしら……?」

 

 す、少し……はしゃぎ過ぎたわね……思ったより息が続かなかったわ……。

 

「まだ半分にすら到達していませんね」

 

 そんな! あれだけ走ったのに!? 辞めたくなるわね冒険者……。

 

「す、強壮の水薬(スタミナポーション)ちょうだい……」

 

 走ったのは完全に失敗だったわね。

 汗のせいで服が肌に張り付いて気持ち悪い……特に胸の間が。

 

「出来れば半分まで進んでからにしようと思っていたのですが……なんならおぶりましょうか?」

「う……」

 

 そんな事したらまたアンタの背中をべちゃべちゃにしちゃうじゃない! 今度は私の汗で! 昨日より余計恥ずかしいわよ! 今の私絶対汗臭いし!

 

「や、やっぱりいいわ……」

「それが良いでしょう。ここで頑張らないと、いつまでも体力なんて付きませんからね」

 

 ……そうよね。それが一番よね。もっと頑張らないと。

 よし! もう一踏ん張りよ! 私!

 

 ………。

 

 そう思って頑張ってはみたのだけれど……。

 

「もう無理ぃ……」

 

 流石にもう限界。峠が見えてきた辺りでもう足が動かなくなったわ……。

 

「……そうですね。届け先まで半分を過ぎてますし、ここで回復しておきましょうか」

 

 そう言うと疾走騎士は私に強壮の水薬(スタミナポーション)を差し出す。

 

「あ、ありがと……」

 

 それを受け取り、一気に飲み干した。

 

「あぁ~生き返るわぁ~」

 

 全身に活力が漲るのを感じる。

 そう言えばこの峠を越えればもう目的地の街まで目前なのよね。何かあるとしたらここかしら? 

 気を張り詰めて行かないとね……。

 




Q.疾走騎士くん、RTA始めてなかったらどうなってたの?

A.混沌の勢力にでもなってたんじゃないすかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート6 『性技の刃』

 戦闘でサイコロを振るつもりが一切無いRTA第六部、はぁじまぁるよ~。

 

 前回、疾走騎士くん一党は、マンティコアの居る峠の前まで到着しました。

 

 じゃけんこれから、初の大物狩りに行きましょうね~。

 

「この峠を越えればやっと目的地ね……」

 

 魔術師ちゃんは安心しきった顔をしてますね。

 でもそんなんじゃ甘いよ。寧ろここからが本番なんです。

 居ましたマンティコアです。これ以上近付くと気付かれてしまう可能性があるので、喋ってる魔術師ちゃんの口を塞ぎ、物陰に隠れましょう。暴れんなよ……暴れんなよ……。

 

「ん、んーー! ん……ん? …………プハッ、そ、そう言うことね……」

 

 やたらと魔術師ちゃんがジタバタするので、マンティコアの存在を教えたら赤くなってしまいました。なぁにを考えてたんでしょうねぇ?

 

「ど、どうでも良いでしょっ……! それよりも……どうするのよアレ」

 

 魔術師ちゃんのお仕事は簡単です。合図をしたら空を飛んでるマンティコアに《火矢(ファイアボルト)》を撃って当てる。以上です。

 

「それだけ……?」

 

 マンティコアが炎上、墜落さえすれば勝利確定です。あとは疾走騎士くんが工事を完了させます。

 

「……わかったわ」

 

 それでは魔術師ちゃんにはその場で待機してもらい、疾走騎士くんは移動しましょう。あ、ついでにポーション関連も預かってもらいます。瓶が割れたら大変ですからね。

 

 目的地は峠の上にある岩場です。裏から回り込み、登っていくことで到達することが可能ですが、物音を立てすぎると気付かれます。

 

 ですが、疾走騎士くんは隠密が得意なので大丈夫ですね。無事に到達する事が出来ました。

 

 それでは準備完了。タイミングを見極め、魔術師ちゃんに合図を送りましょう。

 合図の送り方は簡単。太陽の光を盾で反射させ、魔術師ちゃんに3回当てる事です。3回だよ3回。

 

 因みに《火矢(ファイアボルト)》を撃つのは、マンティコアが飛んでいる時でなければなりません。炎上による墜落からの転倒は、地上に居る際に当てても発生しないのです。

 

 おっ、良い感じに岩場の前で羽ばたいてますね。今だ魔術師ちゃん!

 

 ワン、ワン、ワン。

 

 おっ、《火矢(ファイアボルト)》が発射されましたね。この時点ではまだ回避される可能性が残っているので、それをまず潰します。

 

 今日も良いペンキ☆

 

 太陽の光を反射させ、マンティコアの目を眩ませましょう。

 唐突に目が眩んだマンティコアは驚き、怯みが発生します。鏡面になっている盾を選んだのは、この為だったんですね。

 

 怯みにより回避判定を阻害した為、《火矢(ファイアボルト)》が命中。炎上したまま真下に落下していきます。この時点で勝利確定です。

 

 地面に墜落したマンティコアはそのまま転倒状態になるので、疾走騎士くんが奇跡で追撃します。

 

 ……え?疾走騎士くんは攻撃出来る奇跡を持ってないじゃないかって? いえいえ、そんな事はありません。まあ見とけよ見とけよ~。

 

 よし、マンティコアが地面に落ち転倒状態になりました。

 

 

 

 

 

 では《聖壁(プロテクション)》を上から叩き付けましょう。

 

 

 

 

 

 転倒した敵に《聖壁(プロテクション)》を使えば、転倒状態からの回復が出来なくなるだけでなく、殆どの行動が不可能になり、防御や回避も阻害できます。

 

 女神官ちゃんは2枚の《聖壁(プロテクション)》でゴブリンロードを挟み込み、拘束していましたが、この方法なら1枚で済みます。

 

 これがこのチャートで疾走騎士くんが使う『《聖壁(プロテクション)》の活用法その1』となります。他にも色々と使い方はありますので、それはまたの機会に。

 

 さて、地面と《聖壁(プロテクション)》に挟まれた状態でもがいているマンティコアですが、このまま放っておいても倒すことは出来ません。寧ろ動く事は出来なくても呪文は使えるので、逆に危険です。

 

 なので早急にトドメを刺す必要があります。最初はこの岩場を崩す事を考えていたのですが、他の走者が手負いの状態で出現したマンティコアに対しそれを行っても撃破には至らず、反撃の呪文を喰らってしまっていました。

 

 このマンティコアは万全の状態ですので、乱数の上振れを引いたとしても、落石で倒す事は不可能でしょう。

 反撃の呪文も、疾走騎士くんが喰らうのであればまだ生き残れるチャンスはありますが、万が一魔術師ちゃんが被弾すれば即死する可能性が非常に高いです。

 

 なので一番確実な方法として──。

 

 

 

 

 

 ──疾走騎士くんがここからダイブする事を選択します。

 

 

 

 

 

 槍としての運用も可能にした二つの盾と共に、ここから地面まで落下すれば、疾走騎士くんは巨大な弾丸と化し、確実にマンティコアを絶命させる事が可能です。ダイスなどフヨウラ!

 

 通常であれば疾走騎士くんも致死ダメージを受ける所ですが、マンティコアがクッションとなり、殆どのダメージを抑える事が出来ます。だから、治癒の水薬(ヒールポーション)を2本購入しておく必要があったんですね。

 

 

 

 

 それでは行きましょう。ゆくぞマンティコア! 性技の刃、覚悟しろ!

 

 

 

 

 

 ほらいくどー!

 

 

 

 

 

 ンアッーーーーーー……

 

 

 

 

 

 お待たせ!

 

 

 

 

 

 やったぜ。こめかみにWヒット!これにてマンティコア討伐完了です!

 

 ……ん?

 

 アツゥイ! ちょっ! まだマンティコアが燃えてたので疾走騎士くんが炎上ダメージをくらってます! 抜け出そうにも落下ダメージの影響でうまく動けません! ライダー助けて! 溺れる! 溺れる!

 

「ちょっと! 大丈夫!?」

 

 お、魔術師ちゃん! ちょっと手貸して貰えませんかねぇ? そのための右手。

 

「ほら! 捕まって!」

 

 ありがとナス! ……あ、疾走騎士くん何とか抜け出たものの、倒れちゃいましたね。魔術師ちゃ~ん、治癒の水薬(ヒールポーション)おくれ~。

 

「なんで……なんであんな無茶したのっ!?」

 

 あの……治癒の水薬(ヒールポーション)……。

 

「アンタが居なくなったら……私はどうすれば……っ!」

 

 いいからよこせっつってんだルルォ!?

 

「あっ! ご、ゴメンっ!」

 

 あ~生き返るわ~。治癒の水薬(ヒールポーション)二本がぶ飲みによって回復し、動けるようになりました。

 

「疾走騎士、お願いがあるの」

 

 ん? どうしたどうした?

 

「もしまたあんな無茶をしなきゃならない時は私に相談して。いい?」

 

 え~? それロスって一番言われてるから。まあ考えておいてやるよ(相談するとは言っていない)

 

「手紙は私が届けてくるわ。もう届け先の町は目と鼻の先だし、帰りも考えて、アンタは一旦ここで休んでて」

 

 お? 助かりますね。実はまだ、マンティコアに盾が突き刺さったままなんですが、回収しようにもまだ熱そうですし、ロスしてでも待つか、諦めるか、悩んでいました。

 届けてくれるのであれば、心置き無く待つ事にしましょう。マンティコア討伐の証である尻尾も、持って帰りたいですからね。

 

「それじゃあすぐ戻るから、くれぐれも無茶な真似はしないでよ!」

 

 魔術師ちゃんを見送ったら暫く待ち、炎上が収まった頃に盾を回収、尻尾を切り落としましょう。まだちょっと盾が熱いですけど……しょうがないね。

 

 回収し終わった頃に、魔術師ちゃんが戻ってきました。なんか早い……早くない? 最初からその速さ出せなかったの?

 

 何はともあれ、これで依頼を終える事が出来ましたね。んじゃ帰りましょ。

 

 あのさぁ……もう帰り道はいいから、倍速やってもらってさ、終わりで良いんじゃない?(棒読み)

 

 走者倍速中……。

 

 着くぅ~。

 

 ギルドに帰還して報告します。マンティコアを討伐したということで、得られた報酬はなんと銀貨300枚! どうやら別に討伐依頼が出されていたらしく、追加報酬が貰えました。

 

「申し訳ありません……こういった不測の事態が起きないよう、管理するのが我々の仕事なのですが……」

 

 もう許せるぞオイ!

 まあ、これに関しては彼女のせいではないですからね。仕方ありません。

 

「そう言って頂けるとこちらとしても助かります……」

「でも、それで私達が死んでたらどうしてたのよ」

「う……」

 

 やめろぉ!(本音)そんな事言ったら、ギルドからの評価が悪くなっちゃうだルルォ!? 時間的にもロスだって、それ一番言われてるから!

 

「……そうね、ごめんなさい。そっちの都合も考えずに」

「い、いいえ! それでですね、お二人にギルドからお話がありまして」

 

 お?これはまさか……。

 

「今回の功績を評価して、黒曜への昇級審査をさせて頂きたいのです」

 

 やったぜ。まだ審査を受けるのが決まっただけですが、この審査は今まで通り丁寧に、かつ礼儀正しく、質問には正直に答えていれば何の問題もなく通過できます。

 

 ぇ名前は……えー171cm、身長が、ナオキ……という風に、頭のおかしな反応をしてしまうと落とされてしまうので、注意しましょう(1敗)

 

「今日はお疲れでしょうから、また明日の朝お越し頂けますか? こちらの準備もありますので……」

 

 あ、いいっすよ(快諾)

 

 さて、昇級審査の打ち合わせを終えたので、今日やることはもうないですね。すっかり日も落ちましたし、飯食って、風呂入って、寝ろ!

 

 ビール! ビール! おい冷えてるかー?

 

 まあ、疾走騎士くんは酒が飲めませんのでミルクですね。

 というか、このRTAでお酒飲んで万が一その場で酩酊してしまった場合、状態異常での睡眠とみなされ計測されたままになります。

 そうなった場合は再走待った無しなので、お酒は飲んでも飲まれるのは……やめようね!

 

「私もミルクがいいわ。お酒飲めないし」

 

 おや、彼女もミルクが好きなんですね。

 ……あっ(察し)

 成る程なあ、その発育の良さ。ああ~どおりでねぇ! 

 

 二人で食事してお支払いも済ませました。さて、あとはお風呂ですね。今日はマラソンで汗だくになったので、サッパリしたい、したくない?

 

「あの宿、お風呂あるわよ? 別途料金取られるけど」

 

 ファッ!? それマジ? やるじゃない! 風呂入ってさっぱりしましょう!

 

「私も早くサッパリしたいわ。一日でこんなに汗かいたの初めてかも」

 

 おっそうだな。

 

 それじゃあ帰って魔術師ちゃんとお風呂で背中の流し合いをしに(大嘘)

 

 

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 

 




Q.私の奇跡誰もマトモな使い方してくれないんだけどなんで?

A.こんなガバガバ奇跡、悪用しない訳ないんだよなぁ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート6 裏 前編 『上から来るぞ! 気を付けろ!』

 手紙の届け先である隣町は、この峠を越えればもう目前。

 太陽は西に傾いてきているが、このまま順調に進めば夜には宿へ帰ることが出来そうだ。

 

 疾走騎士と共に歩を進める私は、多少の勾配に息を切らしながらも安堵していた。

 

「この峠を越えればやっと目的地ね……」

 

 私だってやれば出来るものよね! ……そんな事を考えていると──。

 

「きゃっ! む、むぐぅ!?」

 

 なんと疾走騎士は突然、私を羽交い締めにしたうえ更に喋れないように口を塞ぎ、近くの物陰になった草むらへと引きずり込んだ。

 

「ん、んーー!」

 

 え!? 何!? どうしたの!?

 ……も、もしかして。

 だ、だだだだダメよ疾走騎士! わ、私達まだただの一党じゃないっ! しかも宿ならまだしも、は、は、初めてがこんな……外でだなんてっ!! ダメ! 絶対ダメよ!! ダメったらだめえぇぇ!!!

 

「静かに、アレに気付かれます」

「ん……ん?」

 

 手足をジタバタさせて抵抗していると、疾走騎士が峠の頂にある岩場の方を指差した。

 その方向を見ると巨大な影が空を飛んでいるのが見える。

 あれは……マンティコアだ。

 

 

 …………………。

 

 

 静かに頷くと、疾走騎士は私を解放した。

 

「…………プハッ、そ、そう言うことね……」

 

 わ、分かってたわよ? えぇ分かってた。疾走騎士がそんな事する筈ないって私には分かってたわよ。

 …………お願いそう言うことにして。

 

「どうしました?顔が赤いですね……?」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆い隠した私を不審な目で見る疾走騎士。元はと言えばアンタのせいでしょうがっ!!

 

「ど、どうでも良いでしょっ……! それよりも……どうするのよアレ」

 

 マンティコアは獅子の胴体とコウモリの翼を持つキメラの一種だ。

 間違っても私達みたいな白磁の冒険者が戦っていい相手ではない。

 よりにもよってそんなのと、こんな所で遭遇だなんて……。

 

「問題は無いかと」

「えっ」

 

 疾走騎士からの意外な返答に、私は一瞬の硬直の後、彼に顔を向ける。

 

「……何か策でもあるの?」

 

 私の問いかけに、疾走騎士は頷いた。

 

「合図をしたら空を飛んでるマンティコアに《火矢(ファイアボルト)》を撃ってもらえますか?」

「それだけ……?」

「あとは自分が何とかします」

 

 一体何をするつもりなのかしら? ホント肝心な事は言わないヤツよね……信頼はしてるけど。

 ……さっきの勘違いはノーカウントよ。

 

「……わかったわ」

「それではここで待機しててください。自分は移動します。ポーション関連を預かっておいてもらえますか?」

「それは構わないけど、何処へ行くつもり?」

 

 水薬が入った袋を手渡されたのでそれを受け取り、疾走騎士へ疑問を投げ掛ける。

 

「日の当たる場所へ、この盾で光を使った合図を3回送りますので、そうしたら《火矢(ファイアボルト)》をお願いします」

 

 そう言いながら鏡面の盾を掲げる疾走騎士。

 光を使うって……その鏡みたいな盾で反射させるって事かしら?

 そういう使い方もあるのね。

 

「いいですか? 3回ですよ3回」

「わ、分かったわよ」

 

 やけに念を押すわね……でもそれだけで本当にアレを倒せるのかしら?

 

────────────────

 

 3回合図を送る。そう言われ草むらに身を隠し続けていたものの、なかなかその合図は来ない。

 

「まったくもう、一体いつまで待てばいいのよ……」

 

 アイツの事だから、また突拍子もない事やらかすんじゃあ……そんな予感がしていた時の事だった。

 

「っ! 来た!」

 

 視界に一筋の光が3回明滅する。……これ結構眩しいわね。

 って、なんでアイツあんなところに居るのよ!? 反射させて来てるの、思いっきりマンティコアが飛んでる真ん前の岩場からじゃない!!

 

「あぁもう! やればいいんでしょやれば!」

 

 今回はこの前のゴブリン退治の時とは違う。

 相手は1匹、落ち着いて呪文を唱える事も出来る。私の力を最大限発揮できる状況だ。

 大きく深呼吸をし、全神経を集中させ《火矢(ファイアボルト)》の詠唱を開始する。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》……」

 

 お願い、当たって!!

 

「《ラディウス(射出)》!!」

 

 マンティコアへ向けた杖の先端から、《火矢(ファイアボルト)》が撃ち出される。

 すると直後、マンティコアは疾走騎士が盾で反射させた太陽の光を目に受けて怯み、その動きを止めた。

 

「GYAU!?」

 

 そこへ《火矢(ファイアボルト)》が命中。

 一瞬で炎に包まれたマンティコアはパニックになり、そのまま真下へと墜落していく。

 

「GUROOO!?!?!!?」

「えっ!?」

 

 横たわる形で地面に叩きつけられたマンティコア。

 するとその直後、地面に転がったマンティコアを上から押し付けるように、光の壁が突然現れた。

 まともに動くことが出来なくなったマンティコア。

 しかしその身を炎に焼かれながらも力尽きる様子は一切無く、呻きながら必死にもがき続けている。

 

「これって……アイツの奇跡?」

 

 相手を地面に押さえ付ける奇跡なんて聞いたこともないわね……。

 そんな事を考えながら疾走騎士が居た岩場を見上げる。

 

 ……その瞬間私の目に入って来たのは、アイツが岩場から飛び降り、マンティコアへ向かって落下していく光景だった。

 

「えっ……嘘でしょ!!」

 

 思わず立ち上がり、草むらから飛び出してしまった私を、マンティコアの双眸が捉える。

 

「……《トニトルス(雷電)》」

「はっ! 呪文!? しまった!!」

「《オリエンス(発生)》」

 

 マンティコアが唱えているのは稲妻の呪文。

 私は魔法を使える怪物がいる事を失念していた。

 《分影(セルフビジョン)》を……いやダメだ、間に合わない!

 

「《ヤGU!?───」

 

 ……しかし詠唱が終わろうとしたその瞬間、落下してきた疾走騎士の盾がマンティコアの頭部に深々と突き刺さった。

 

「えっ……あ! 疾走騎士!」

 

 声を上げる間も無く絶命したマンティコア。

 余りにも一瞬の出来事に呆然とするが、すぐに正気を取り戻し、疾走騎士の下へと駆け寄る。

 

「ちょっと! 大丈夫!?」

「っ……!」

 

 未だ燃え続けるマンティコアの上でうまく立ち上がれない様子の疾走騎士。

 あんな高さから飛び降りたのだから当然だ。

 私は彼に手を伸ばす。

 

「ほら! 捕まって!」

 

 炎の熱気に苦しみながら疾走騎士の手を掴み、何とか引っ張り出す事が出来たものの、彼はそのまま前のめりに倒れ、私は尻餅を付いてしまった。

 

「なんで……なんであんな無茶したのっ!?」

「………ンを」

 

 うつ伏せになった疾走騎士の側へ這いながら近寄る。

 彼は呻くように何かを言っているが、それに気付かない私は感情のまま怒鳴ってしまう。

 

「アンタが居なくなったら……私はどうすれば……っ!」

 

 彼が飛び降りた瞬間私は、前回のように何も出来ないまま仲間を失ってしまうのではないかと思った。

 私はもう……あんな思いは二度としたくないのに……。

 

 

 

 

 

 すると疾走騎士は私の肩を掴み、微かに聞こえる程度の声を絞り出した。

 

 

 

 

 

治癒の水薬(ヒールポーション)を……っ!」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

「あっ! ご、ゴメンっ!」

 

 

 

 

 

 そう言えば水薬預かってたんだったわ!

 袋から慌てて治癒の水薬(ヒールポーション)を取り出し、疾走騎士に手渡した。

 疾走騎士はそれを一息に飲み干す。

 

「ふぅ……もう一本下さい」

「う、うん」

 

 そして疾走騎士は残った2本目の水薬も飲み干し、うつ伏せの状態から立ち上がった。

 どうやら落下した際の負傷は回復したようだ。

 

「ねぇ、疾走騎士」

「はい」

「もしまたあんな無茶をしなきゃならない時は……私に相談して。いい?」

 

 毎回あんな無茶をしていては疾走騎士がいつ死んでもおかしくない。

 あとついでに私の心臓ももたない。正直言って勘弁して欲しいわ。

 

「…………」

 

 暫く間を置いた後、疾走騎士は何も言わずにただ頷いた。

 本当に分かってるのかしら?

 

「手紙は私が届けてくるわ。もう届け先の町は目と鼻の先だし、帰りも考えてアンタは一旦ここで休んでて」

「分かりました」

「それじゃあすぐ戻るから、くれぐれも無茶な真似はしないでよ!」

 

 念を押して言い聞かせると、疾走騎士は近くにあった岩にもたれかかりながら座り込んだ。

 

 それを見届けて、私は町へと走った。

 まだ強壮の水薬(スタミナポーション)の効果は切れていない。急いで届けに行こう。

 

─────────────────

 

「早かったですね」

 

 手紙を届けて戻って来た私が見たのは、討伐証であるマンティコアの尻尾を、盾の刃で切り取る疾走騎士の姿。……もう、無茶しないでって言ってたのに。

 

「丁度町の入り口近くの家だったのよ。そっちはもう大丈夫みたいね」

「ええ、では帰りましょう」

 

 私は頷いて、疾走騎士と帰路につく。

 何とか無事に依頼を完遂したものの、今回私にとって反省する点は多くあった。

 まず道中で調子に乗った結果、すぐにバテてしまった事。自身の体力の無さを自覚し、ペース配分を考える必要があるだろう。

 マンティコアに気付くのが遅れたのも、場合によっては命取りになっていた可能性がある。警戒を怠ってはいけない。

 迂闊に物陰から出てしまい、マンティコアに狙われてしまったのも失敗だ。敵の前に出る際は予め《分影(セルフビジョン)》を使うべきだった。

 まだまだ私は……弱い。

 

「ありがとうございました」

「えっ……?」

 

 突然、前を歩く疾走騎士に礼を言われ、私は戸惑った。

 今回も色々と助けられて、お礼を言うのはこっちの方なのに…。

 

「貴女が居たお陰で、マンティコアを倒す事が出来ました」

「倒したのはアナタじゃないの……」

 

 彼の言葉に対し、小さくため息をもらしながら私は首を横に振った。

 あのままマンティコアに魔法を使われていたらどうなっていたか分からない。

 少なくとも私一人では為す術もなく、餌になっていたことだろう。

 しかし疾走騎士は、そんな私の思いを否定する。

 

「自分一人ではアレに勝つことはおろか、戦う事すら出来なかった。貴女の《火矢(ファイアボルト)》が奴を撃ち落としてくれたお陰ですよ」

「そ、そう……」

 

 私の功績を率直に称賛する疾走騎士。

 嬉しい気持ちもあるが、私としてはこの男に誉められるのはやはりどうにも恥ずかしい……。

 

「やはり貴女の魔法は切り札としての力があります。これからもどうか、よろしくお願いします」

 

 私は赤く染まった顔を見られないよう、帽子で顔を隠しながら、彼に対して言葉を返す。

 

「ええ、私の方こそ……よろしく」

 

 私は弱い。弱いが、彼と一緒ならきっと強くなれる筈だ。

 まだまだ先は長いだろう。それでも私は、歩みを止めるつもりは無かった──。

 

 




Q.マンティコアの尻尾とか重くないの?

A.魔術師ちゃんよりマシ、ハッキリ分かんだね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート6 裏 後編 『勝ったな風呂入ってくる』

 夜、ギルドが冒険を終えた者達で賑わいを見せる時間だ。

 それは冒険に成功した者達だけが得られる、勝利の美酒である。

 受付嬢である私としても、彼らが無事に戻って来られた事は何よりも喜ばしいことだ。

 するとそこへ、新たに二人の冒険者が帰ってきた。あの疾走騎士と魔術師だ。

 私はいつもの営業スマイルで彼らを迎える。

 

「お帰りなさいませ! 手紙配達の依頼はどうでしたか?」

 

 よく見ると二人の装備は若干焦げた跡がある。

 ただの手紙配達でこうはならない筈だが……何かあったのだろうか?

 

「手紙は無事に届けたわ。あとそれと──」

「マンティコアを討伐しました」

「……え」

 

 疾走騎士が背負っていた袋から取り出した物は、とても大きな蠍の尾に見える。

 これは紛れもなくマンティコアの物だろう。

 

「ちょっと待っててください!」

 

 私は慌てて奥にいた至高神の司祭である監督官を呼びに行く。

 こういった大きなイレギュラーによって功績が発生した際、報告に虚偽がないか彼女の《看破(センス・ライ)》で確かめる必要があるからだ。

 

「えっと、では報告をお願いします」

 

 本を読み休憩していた彼女に訳を話し、受付へと来てもらう。

 私は疾走騎士に対し、マンティコアを討伐するに至った経緯の報告を促した。

 

「手紙を配達する道中にある岬にて、飛行しているマンティコアを発見。魔術師である彼女の《火矢(ファイアボルト)》にて先制攻撃を行い、墜落したマンティコアの頭部をこの盾で串刺しにしました」

 

 控えめにいってドン引きであった。何故マンティコアを見付けた時点で逃げなかったのか。

 明らかに白磁、それどころか冒険者登録を行った翌日で相手にしていい怪物ではない。

 念の為《看破(センス・ライ)》を使っていた監督官の方を見るが、彼女は何も言わず頷いた。……どうやら事実らしい。

 

 それにしたってマンティコア……ん? マンティコア?

 

「す、すみませんもう少々お待ちを!」

 

 あることに気付いた私はバタバタと奥へ戻り、山になった書類の束から一枚の依頼書を取り出す。

 

「あった……マンティコアの討伐依頼……」

 

 この依頼はつい昨日受理されたものの、早朝の貼り出しまでに処理が間に合わず、明日掲示板に出される予定だったものだ。

 マンティコアが目撃された場所が隣町の近くにある岬であることからも、彼等が討伐したマンティコアがこの依頼に記載された個体である事は明らかだった。

 

「あー、チェック漏れだねぇ」

 

 付いてきていた監督官の言葉に、ガーンという音が私の中で鳴り響く。

 本来こういった依頼があった際には、近辺での依頼を受ける冒険者に注意を促すのも私達の仕事の1つ。

 とはいえ、冒険者が依頼を受けるのはあくまで自己責任であり、これに関してはギルドが善意で行っている事である。

 

 ……それでもだ。不備があったのはこちら側、二人を危険な目に遭わせてしまったのも事実である。

 

「どうしましょう……」

「うーん、一応支部長に相談してみたら?」

「……そうですね」

 

 がっくりと項垂れつつも、私は事の顛末を上司でもあるこのギルドの支部長に話した。

 その結果返ってきたアドバイスは、一度ちゃんと謝ったうえで彼らには昇級審査を受けてもらおう、という内容だった。

 

「将来有望な若者じゃないか。どんどん先へ進んでもらおう!」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 そして私は再び彼等の下へ戻り、こちらの不備を説明したうえで謝罪した。

 

「申し訳ありません……こういった不測の事態が起きないよう、管理するのも、我々の仕事なのですが……」

 

 私は深々と頭を下げる。彼らがこうして無事に帰って来れたのは幸いだった。

 もし万が一、最悪の結果になっていたら、私は暫く立ち直れそうになかっただろう。

 

「貴女が悪いわけでは無いでしょう。依頼を受けるのは自分達冒険者の自己責任です。これに関してどうこう言う資格なんて、我々にはありませんよ」

「そう言って頂けると、こちらとしても助かります……」

 

 どうやら疾走騎士は一切こちらを責めるつもりは無いようだ。

 ホッとしたと思いきや、疾走騎士の横に居た魔術師が口を開いた。

 

「でも、それで私達が死んでたらどうしてたのよ」

「う……」

 

 魔術師の棘のある指摘が突き刺さる。常日頃から冒険者を死地に送り出している私にとって、その言葉はとても効くのだ……特に胃の辺りに。

 

「こうして無事に帰って来れたんですし、良かったじゃないですか。送り出した相手が帰ってこないというのは、辛いものですよ?」

「……そうね、ごめんなさい。そっちの都合も考えずに……」

 

 疾走騎士の言葉を聞いて素直に謝罪する魔術師。

 私は気を取り直し、貰ったアドバイス通り彼らに昇級審査の話を持ちかけることにした。

 

「い、いいえ! それでですね、お二人にギルドからお話がありまして」

「話……ですか?」

 

 頭を傾げる疾走騎士に対し、私は話を続ける。

 

「今回の功績を評価して、黒曜への昇級審査をさせて頂きたいのです」

「黒曜……私達が?」

 

 戸惑う様子の魔術師に対し、私は笑顔で頷いた。

 

 昇級審査の基準には、報酬金額や貢献度だけでなく『人格』や『信用』も含まれている。

 

 疾走騎士は『人格』に関しては問題無し。礼儀正しく、私達受付嬢に対する気遣いも見られる。

 では『信用』に関して言えばどうか? 実力は非常に高い。

 しかし冒険で少し無茶をするのが玉に瑕である。

 とはいえ、今日の朝は魔術師の彼女がうまく立ち回っていた。

 今後は彼女がカバーしてくれる事だろう。

 

 魔術師に関しては『信用』に関しては都の学院を卒業したという経歴を持っており、今回の件でマンティコアを撃ち落としたという報告からも白磁としての実力は十分。

 『人格』に関しては、人を寄せ付けない鋭い目付きと棘のある言動は目立つものの、先程のように疾走騎士の言葉はちゃんと受け入れている様だ。

 

 詰まるところ、うまく補いあっているのだろう。冒険でも、それ以外でも。

 

「今日はお疲れでしょうから、また明日の朝、お越し頂けますか? こちらの準備もありますので……」

「分かりました」

 

 疾走騎士が頷いて返事をする。

 私は用意していた今回の分の報酬を取り出した。

 

「それでは報酬をお渡しします! もちろんマンティコア討伐依頼の分も含めてありますので、どうぞ受け取ってください! お疲れ様でした♪」

「ありがとうございました。ではこれで」

 

 報酬の入った袋を笑顔で手渡し、それを受け取った疾走騎士は頭を下げ、この場を後にした。

 しかし魔術師はこの場に留まり、何かを言いたげにこちらを見ている。

 

「え……と、何か?」

 

 気まずくなり私から問いかけると、魔術師は俯いてしまい、帽子で顔が見えなくなる。

 すると彼女は申し訳なさそうに口を開いた。

 

「……さっきはごめんなさい。貴女はアイツと一党を組むのに手助けしてくれたし、本当は感謝してるの。……ちょっと色々あってね」

「そうでしたか。大丈夫ですよ、お気になさらないで下さい。あなた方をサポートするのが、私達のお仕事ですから」

「ありがとう。じゃあ……アイツを待たせるわけにはいかないから」 

 

 そう言って立ち去る魔術師。微かに見えたその表情は、晴れやかに微笑んでいるように見えた。

 

「……私もああやって後ろを付いていければなぁ」

 

 私は、今はここに居ないとある冒険者の事を想う。

 自らが冒険者ではない以上、あの人と一緒に居られる時間は少ない。せめてお食事に誘ってくれたりとかしないかなあ……。

 私はそんな事を考えながら、再び書類仕事を再開するのであった。

 

───────────────

 

 依頼の報告を終えた疾走騎士と魔術師は、ギルド内の酒場で食事を摂ることにした。

 

「フリッテッラの盛り合わせを二人前。飲み物は……自分はミルクで」

「私もミルクがいいわ。お酒飲めないし」

「はぁい!」(うーむ、やはり牛乳なのかしらん……)

 

 フリッテッラは衣揚げの事で、肉や卵だけでなく、ドーナツのようなデザートにも使われる料理だ。それなりに量があり、空腹の二人にはもってこいの注文である。

 

 なお、女給が去り際に魔術師の胸を見つめていたが、魔術師は一切気付かなかった。

 

「お待たせ! しましたぁ!」

 

 注文がテーブルに並べられると二人は女給に礼を言い、料理に手を付け始める。

 

「それで、次は? どうするの?」

「今日やることはもうないですね。これを食べたらお風呂にでも入ろうかと」

「あ、良いわねそれ。……うん、おいしい!」

「ごちそうさまでした」

「はやっ!」

 

 いつの間にか完食していた疾走騎士と、それを見て慌てて自分の分を食べきる魔術師。

 

 あまりにも早い完食に女給は困惑していたが、疾走騎士は意に介さず支払いを済ませ、二人はギルドから出た。

 

「ところで、この街のお風呂ってどこにあるんでしょうか?」

「あの宿、お風呂あるわよ? 別途料金取られるけど」

「本当ですか? じゃあ帰りましょう。今日は大変でしたからね」

「私も早くサッパリしたいわ。一日でこんなに汗かいたの初めてかも」

 

 魔術師は胸元が不快なのか、自らの服を引っ張りながら手で扇ぐが、焼け石に水でしかない事は明らかだった。

 ……彼女の胸元から汗の滲んだ谷間がのぞく。普通の男が見れば唾を呑む光景だろう。

 しかしその普通に、無論疾走騎士は含まれていなかった……。

 

 そして宿へ戻った二人。扉に付いた鈴が鳴ると、奥からあの小さな女主人が出てきた。

 

「お帰りなさいませ! 今日も御無事で何よりです!」

「ただいま、今からお風呂って使えるかしら?」

「勿論ですよ! お一人様銀貨1枚になりますが、構いませんか? あとそこまで広くはないので、ご利用頂くのはお一人ずつとなります」

 

 どうやらこの宿のお風呂はそういう物らしい。

 確かに大浴場等を用意している豪華な宿とは違い、客足が少ないここではその方が効率的なのだろう。

 

「ええ、大丈夫」

 

 了承した魔術師が銀貨を2枚支払い、女主人はそれを受け取った。

 

「申し訳ありません……」

「良いのよ、そっちも商売でしょ?」

 

 この宿の宿泊費を考えれば、入浴代合わせても結果的には安く感じる程だ。全く問題にはならない。そう考えて魔術師は返事をしたのだが──。

 

「お二人ご一緒に入れる大きさじゃなくって……」

「謝ったのそっち!? 誰もそんな事求めてないからっ!!」

 

 女主人は今日も平常運転だった。

 ちなみにこの後二人は入浴後、彼女に再びダブルの部屋を薦められるが、それを魔術師が拒否したのは言うまでもない。

 




Q.また疾走騎士くんが宿に入ってからボーッとしてる……。

A.よし! もう宿だし指示いらんやろ! 俺も風呂入ってくるわ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート7 『面接にマナーは大事』

 じゃあ、まず年齢教えてくれるかな? から始まるRTA第七部、はぁじまぁるよー。

 

 前回、マンティコアの討伐を成し遂げた疾走騎士くん達は、二人で黒曜への昇級審査を受ける事になりました。

 

 目が覚めた疾走騎士くんは、相変わらず兜を被ったまま寝てたみたいですね。また魔術師ちゃんにベッドへ押し込まれたのかな?

 取り敢えず、革鎧へ着替えて出発の準備を整えましょう。

 

「ん、むぅ……」

 

 おや?魔術師ちゃんは、まだお休み中のようです。

 

 ……いや待って超エロい、エロくない? 肌着一枚で眠る魔術師ちゃんに、ノンケ兄貴達は大興奮間違いなしですね!

 

 とはいえ、このまま眺めていても、専門用語でロスと言われている事象が発生してしまいますからね。

 まずは部屋を出て、ロリ主人の所へ行きましょう。

 

「あ! おはようございます! ゆうべはおたのしみでしたね!」

 

 会話を増やして、ロスを発生させるのは、やめて下さいよホントに!

 

「ホットミルクを作ってあるんですが、良かったらどうです? 目が覚めますよ?」

 

 あ、良いっすね~! 何かおもみももを頼もうかと思っていたら、向こうから出してきてくれました。

 二人分のホットミルクを受け取り、部屋に戻ります。

 

 魔術師ちゃんは……やはりまだ寝てますね。

 彼女が起きるのを待っていてもロスなので、さっさと起こしてしまいましょう。

 

 起きろ!(先手必勝)起きたな(確信)

 

「ふぁぁ……おはよう」

 

 お待たせ! ホットミルクしか無かったけど良いかな?

 

「ありがと」

 

 彼女が飲み干したらカップを回収して、ロリ主人に返却しに行きましょう。

 疾走騎士くんは、既に飲み干してました。君いつの間に飲んだの?

 

 それでは、魔術師ちゃんの用意が出来るまで、部屋の外で待機しましょう。

 ここで部屋に戻った場合、タイミング次第ではお着替えタイムへ突撃出来そうですが、ロスしかありませんしやる必要はないです。大人しく待ちましょう。

 

 …………あくしろよ。

 

「お待たせ。それじゃ行きましょう」

 

 と言うわけで、ギルドへ昇級審査を受けにイクゾー!

 

 移動中、ギルドの昇級審査についてご説明致します。

 昇級審査は、報酬額とギルドの評価が一定以上に達した場合に発生します。

 しかしこの時、自らの身元がハッキリ分かっていない場合、昇級審査が発生しない事があります。

 その為、出自の中でも最初から身元を隠す必要のある職は、本RTAの候補から外れていました。先人兄貴の商人等が該当しますね。

 ちなみに昇級審査は、基本的に1対3の面接形式で行われます。圧迫面接かな?

 3人の内訳は、自身を担当している受付嬢。嘘発見器の監督官。あとの1名は、立会人としてこの街に在籍する上級の冒険者からランダムで選出されます。

 まあ、立会人に関しては誰が来ようと、殆ど影響はありません。

 しかし以前試走した際、フラグ管理がバグったのか、何故か孤電の術士(アークメイジ)が立ち会い人として現れ、以降走者に付きまとうようになる事象が発生した事があります。

 彼女はそれはもうよく喋るうえ、話も長いです。その結果あまりにもロスが酷くなったのでリセしましたが、あれは一体なんだったんでしょうかね?

 まあ、多分もう起きないと思うので、大丈夫でしょう。

 

 着くぅ~。

 

 ……依頼が張り出される時間と被ったのか、大混雑ですね。

 取り敢えず、受付嬢さんの所へ行きましょう。

 

「おはようございます! すみませんが、昇級審査はもう少々お待ち頂けますか?」

 

 受付嬢さんも、かなり忙しそうです。

 仕方が無いので、近くの椅子にでも座って、待つことにしましょう。

 

「あ! お二人ともご無沙汰してます!」

 

 二人で座って待っていると、女神官ちゃんに、声を掛けられました。と言うことは?

 

「昇級審査か?」

 

 やっぱりゴブスレさんも居ました。もしかしてクォレハ……。

 

「俺は立会人として呼ばれた」

 

 あっそっかぁ……。どうやらゴブスレさんが、疾走騎士くんの昇級審査の立会人みたいです。

 ゴブリン以外に、興味の無い彼が来る確率は低いと思ってたんですが、受付嬢さんにお願いされたのかな?

 

「マンティコアを討伐されたなんてすごいですね!」

 

 女神官ちゃんありがとナス!

 

「マンティコアとは……なんだ」

「えっ……」

 

 相変わらずのゴブスレさんですね。女神官ちゃんが困惑してます。

 まあ、彼はゴブリン以外興味無いから、しょうがないね。

 

「あ ら? お揃い ね?」

 

 魔女さんオッスオッス! 彼女は魔術師ちゃん側の立会人だそうです。それを聞いた魔術師ちゃんが硬くなってんぜ? 大丈夫だって安心しろよ! ヘーキヘーキ! ヘーキだから!

 

 ……おや? 受付でゴブリン退治を受注している一党が居ますね。

 

「ゴブリンに拐われた村娘の救出か」

「放棄された森人の山砦を根城にしたらしいです……」

「でも報酬は少ないね」

「とはいえ、見逃す事は出来ないわ」

 

 何やってんだあいつら……。

 

「ゴブリ「ダメですよ、今日は立会人として呼ばれてるんですから」……む」

 

 受付へ向かおうとしたゴブスレさんが、女神官ちゃんに止められてます。

 しかし彼女達はあのままゴブリン達にやられて全滅するんですよね。悲しいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……まあ、本RTAでは助けるんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 今回のRTAでは、ゴブリンスレイヤーさんの家である牧場が襲撃される牧場防衛戦が、クッソキツくなります。

 経歴でのコネがない疾走騎士くんは、先人兄貴のように他所に助けを求める事も出来ないので、自分の力で何とかしなければなりません。

 また銀等級到達RTAの為、交流に割く時間も無く、他所の一党との連携を取る為の好感度も足りないので、戦況全体に影響を与える事が出来ず、結果が完全に運任せになってしまいます。

 その為、サクッと救出するだけで好感度が激増して、協力関係を結べるようになるこのイベントは、とてもうまあじなんですよね。

 しかも彼女達は鋼鉄等級。戦力として申し分ありません。

 他の冒険者を救出するという功績も、ギルド評価的に……うん、おいしい!

 しかし、まず昇級審査を終えなければ、ここから動くことも出来ませんね。

 すいませ~ん、木下ですけど、ま~だ時間かかりそうですかね~?

 

「お待たせしました! では昇級審査を始めさせて頂きますのでこちらへどうぞ!」

 

 どうやら順番は、魔術師ちゃんが先になるみたいです。

 まあ、結局は二人とも受ける形になるので、これに関してはタイムに影響ありません。

 

「わ、私から?」

 

 頑張るんだぜー(UDK)

 

「うん……行ってくるわ」

 

 魔術師ちゃんと魔女さんを見送ったので、疾走騎士くんの番が来るまでは倍速しましょう。

 

 …………。

 

「うぅ、緊張した……」

「はぁい、では疾走騎士さん、どうぞお入りください!」

 

 お、魔術師ちゃんは無事終わったようですね。それでは昇級審査へ、イクゾー!

 部屋に入る前にドアを3回ノックをして、「失礼いたします」と言ってからドアを開けましょう。3回だよ3回。

 部屋に入ったらお辞儀を忘れずに、それから一番手前にある椅子の横に立ち挨拶をします。「座って、どうぞ」と言われてから座りましょう。

 この際、壁にぶつかったり、入室後即退室し再び入室する等の意味不明な行動をしてしまうと、減点対象になります。注意しましょう(三敗)

 

「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」

 

 15歳、疾走騎士です。

 

「何なんですかその質問は……手元の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)に書いてあるじゃないですか」

「良いじゃない、初の昇級審査なんだし、緊張をほぐしてもらわないとね」

 

 監督官ちゃんは《看破(センス・ライ)》の奇跡を持っています。

 なので、この昇級審査中に嘘をつくメリットはありません。嘘偽り無く正直に答えましょう。

 後は質疑応答が続くだけなので、倍速しまーす。

 

 走者倍速中……。

 

「では審査は以上となります。特に問題はありませんでしたので、明日には黒曜への昇級となり、その際に認識票もお渡し致します。お疲れ様でした!」

 

 あっ、おい待てぃ(江戸っ子)

 ここでゴブスレさんに、先程ゴブリン退治に向かった一党について、聞いてみましょう。

 

「……助からんだろうな」

「えっ……そんな! どうしてですか!?」

 

 山砦を巣にしたゴブリン達は、何重にも罠を張り巡らせています。

 今回向かったのは、鋼鉄等級の冒険者達ではあるものの、そもそもこの依頼での救出目標である拐われた村娘は、既に死んでいて、死体そのものを罠に利用されています。

 いわゆる初見殺しトラップですので、まず回避出来ません。

 あと前衛が兜を被っていない事も最悪です。

 

「奴等は高所の拠点を構えた際にはスリングを使う。兜持ちが居ないのは致命的だ」

 

 じゃけん助けに行きましょうね~。

 

「ゴブリンなら俺も行こう」

 

 どうやらゴブスレさんも同行してくれるようです。

 ゴブリン退治にゴブスレさんが来ない訳がないよなぁ?

 

 待っていた魔術師ちゃんに話をしたところ、どうやら彼女もやる気みたいですね。

 まあ、前回ゴブリンに仲間を二人やられた時と似たような依頼ですから、リベンジ的な思いがあるのでしょう。

 そしてゴブスレさんが来ると言うことは、女神官ちゃんも来るということで、久々の4人パーティーとなりました。めでてえ。

 

 これにより、原作よりも前倒しに、ゴブリンの砦焼き討ちイベントを発生させる事が出来ました。

 救出に向かうのが遅くなると、鋼鉄等級一党の凌辱現場に出くわす羽目になりますので、パパパッと準備して早速出発しましょう。

 

 それでは移動中に、今回の目的であるゴブリンの砦焼き討ち、及び鋼鉄等級一党の救出について解説します。

 この依頼自体は、正直クッソ楽です。ゴブスレさんによって全て最適化されているのでこちらがやることは殆どありません。パパパッと燃やして、終わりっ!

 しかしサブ目標に、彼女達の救出が咥え入れられた場合、その難易度は、遂に危険な領域へと突入する!

 ゴブリンからの挟み撃ち、尚且つスリングによる投石が上から降ってくるなか、彼女達を外まで連れ出す必要があります。

 つまり、上からも前からも後ろからも来るぞ! ふざけんな! と言うわけです。鋼鉄等級の彼女達が全滅するのも頷けますね。

 

 とはいえ、こちらには等級RTAの走者と、ゴブリン討伐RTAの走者が居ますので、問題にもならん(ゴブスレさん並み感)

 さて、ゴブリンの砦に到着しました、早速彼女達ごとこの砦を丸焼きに(大嘘)

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 




Q.女神官ちゃんがんばれ♥️がんばれ♥️

A.そこには元気にゴブリン達を《聖壁(プロテクション)》で封殺する女神官ちゃんの姿が!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート7 裏 前編 『攻めは左、受けは右』

「おはようございます」

 

 疾走騎士の声で目が覚めた私は目をこすりながら体を起こし、ぼやける視界のなか、枕元に置いていた眼鏡をかける。

 視界が鮮明なものへと変わると、疾走騎士は既にいつもの兜と鎧を身に付けていた。

 どうやら昨日とは逆に、今回は私の方が寝坊してしまったらしい。

 

「ふぁぁ……おはよう」

 

 欠伸をしながら挨拶すると、疾走騎士がカップに淹れられたホットミルクを差し出してきた。

 

「貰ってきました。飲めば目が覚めるかと」

 

 どうやらあの女主人が用意した物らしい。私は少し警戒したが、流石に彼女も飲み物に何かを仕込むなんて事はしないだろう……多分。

 いつもの要らぬ気遣いではなく、こういった事なら大歓迎なのだが……。

 

「ありがと」

 

 私はそれを受け取り、口を付ける。

 ミルクの甘さと暖かさが心地よく、そのままこくこくと飲み干してしまう。

 

「おいしかった……」

 

 空になったカップを疾走騎士に返す。

 女主人の彼女にも後で礼を言わないとね。

 

「ではカップを返してそのまま外で待っていますね。身支度を整えたら来てください」

「ええ、分かったわ」

 

 そして疾走騎士はカップを手に部屋を出ていった。

 ああいった立ち振舞いは騎士っていうより執事みたいね……。

 

「……あ」

 

 そこでようやく私は自身の状態に気付く。

 肌着一枚に、寝癖だらけの髪型。目も当てられない有り様だ。

 

 とはいえ私は以前のゴブリン退治で彼に助けられた時、装備を引き裂かれ、殆ど裸の状態だった。

 つまり彼には私の体を既に見られていると言うわけで、そのせいもあって今更という感もある……けど、それはそれ、これはこれなのよ。

 

「まあ、同じ部屋にしちゃったのは私だけど……」

 

 疾走騎士が信用出来る男だと言うことは、一党を組んだ時既に分かっていた。だからこその行動だったのだが……。

 

「でも何の反応も無いっていうのも、それはそれで納得いかないのよね……」

 

 再びベッドに倒れ込む。乙女心は複雑なのだ。

 マンティコア討伐の報酬を使って、私も師匠みたいに露出が多い装備にするべきかしら?

 

「……はぁ、バカな事考えてないで準備しないと。アイツを待たせる訳にはいかないわ」

 

 私はため息を吐きながらベッドから立ち上がり、ローブと帽子を手に着替えを始める。

 そして身支度を終えた私が部屋から出ると、外で疾走騎士が待っていた。

 

「お待たせ。それじゃ行きましょう」

 

 頷いた疾走騎士と共に女主人の下へ行く。

 ホットミルクのお礼も言わなければ……。

 

「おはよう、さっきのホットミルクおいしかったわ。ありがとう」

「おはようございます! お口に合ったようで何よりです。私の祖母直伝なんですよ?」

 

 そういえば彼女の祖母がこの宿を建てたんだったわね。

 しかし体調を崩している為、今は寝たきりとの事だ。彼女も苦労しているのだろう。

 

「それじゃあ行ってくるわね」

「はい! いってらっしゃいませー!」

 

 そして私は疾走騎士と共に、ギルドへと向かうのだった。

 

────────────────

 

「はいはーい! 朝の依頼張り出しのお時間ですよー!」

「待ってました!!」

 

 受付嬢の声に冒険者達が沸き上がる。

 朝のギルドで毎日行われる依頼争奪戦。

 もはやいつもの風景と化したそれを、遠巻きに見ている冒険者が居た。

 

「ま、待ってくださいゴブリンスレイヤーさん!」

 

 薄汚れた鎧兜を身に纏う銀等級の冒険者、ゴブリンスレイヤー。

 彼は依頼争奪戦に参加することは無い。何故ならゴブリン退治に人気は無いからだ。

 残った依頼を受付嬢から受注し、消化する。それが彼のいつもの請け方だった。

 

 しかし、今回彼がギルドを訪れたのは依頼を請ける為ではない。

 

 後ろから付いてくる女神官を意に介さず、ゴブリンスレイヤーはギルドの隅にある椅子へと真っ直ぐに歩く。

 そこには疾走騎士と魔術師の二人が座っていた。

 ちなみにそこは、いつもならゴブリンスレイヤーが座っている定位置でもある。

 

「あ! お二人ともご無沙汰してます!」

 

 近付いてくる二人に気付き立ち上がる疾走騎士と魔術師。

 それに対し女神官が挨拶をしながら会釈すると、疾走騎士も頭を下げる。

 

「どうもご無沙汰してます。えっと……何か?」

「昇級審査か?」

 

 女神官と共に現れたゴブリンスレイヤー。

 相変わらず不器用な彼は挨拶も無く、用件だけを話し出す。

 

「はい、黒曜への昇級審査です。しかしそれを何故貴方が?」

 

 彼等二人の昇級審査が決まったのは昨日の夜のことだ。

 あの場にゴブリンスレイヤーは居なかった筈。

 疾走騎士は首を傾げる。

 

「俺は立会人として呼ばれた」

「あぁ成る程、そういう事でしたか。本日はよろしくお願い致します」

 

 納得した疾走騎士はゴブリンスレイヤーに対し、深々と頭を下げた。

 こういった真面目な所もギルドは評価しているのだろう。黒曜への昇級も頷ける。横から眺めていた女神官はそう感じていた。

 

「マンティコアを討伐されたなんてすごいですね!」

「ありがとうございます。まあ、彼女の魔法があってこそ、でしたけどね」

 

 そう言って疾走騎士は魔術師の方を向く。

 先程まで鋭い視線で見ているだけの彼女だったが──。

 

「べ、別に私はアンタの指示に従っただけよ……」

 

 魔術師は恥ずかしげに帽子を深く被り、顔を隠してしまった。

 それに対し疾走騎士は肩を竦め、女神官はくすくすと笑う。

 

「マンティコアとは……なんだ」

「えっ……」

 

 突然のゴブリンスレイヤーの言葉に、女神官は困惑した。

 彼はゴブリン以外の事には一切の興味が無い為、マンティコアの事を知らないのだ。

 

「あ ら? お揃い ね?」

「師匠!?」

 

 するとそこへやって来た魔女。相変わらず扇情的な装備とプロポーションで人を魅了する彼女は、柔らかな笑みを浮かべている。

 それを見た魔術師が、慌てて彼女の下へと駆け寄った。

 

「聞いたわ よ? マンティコア 討伐 おめで とう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 魔術師は魔法を行使する者としてだけでなく、冒険者としても一流である魔女を、心から尊敬するようになっていた。

 それを見ていた女神官は、以前は魔術師から感じていた棘のある雰囲気が、いつの間にか無くなっている事に気付く。

 

「あんな事もありましたけど、立ち直ってくれたようで、良かったですよ」

 

 女神官の思いを察して、疾走騎士が呟いた。

 魔女と表情豊かに話をする魔術師。それを見て女神官はくすりと笑う。

 

「ふふ、本当ですね」

 

 あんな恐ろしい事があっても、それを乗り越え、彼等は前に進んでいる。

 ──私も負けていられないなあ……。

 そんな思いに、女神官は満たされていた。

 

「えっ!? 師匠が私の審査の立会人!?」

「そうな の ちゃんと 見て る から 頑張って ね?」

「ど、どうしよう疾走騎士……」

 

 魔術師は自らの昇級審査の立会人が、魔女であることを聞いて驚愕した。

 彼女は不安気な表情で疾走騎士にアドバイスを求める。

 

「どうするも何も、いつもどおりで良いんですよ。その為の昇級審査です」

「そ、そう? ……そっか、そうよね。うん、ありがとう」

 

 どうやら彼の助言によって、すぐに持ち直したようだ。

 

「ん? あれは……」

「どうしたの?」

 

 そこで疾走騎士が、受付でゴブリン退治の依頼を受注している一党に気付く。

 

「ゴブリンに拐われた村娘の救出か」

「放棄された森人の山砦を根城にしたらしいです……」

「でも報酬は少ないね」

「とはいえ、見逃す事は出来ないわ」

 

 彼女達は騎士、僧侶、野伏、魔術師、以上の4名で構成された鋼鉄等級の一党。冒険者としても一端に値する部類だろう。

 

「ゴブリ「ダメですよ、今日は立会人として呼ばれてるんですから」……む」

 

 ゴブリンと聞けば直ぐに動こうとするゴブリンスレイヤーを女神官が嗜める。

 

「ゴブリン退治……ね。まああの一党、見たところ鋼鉄等級だし何の問題も無いんじゃない? 私達と違ってね」

 

 白磁で何も知らなかった自分達とは違う、ある程度の経験を積んだ冒険者達の一党。

 そんな彼女達がゴブリンなんかに負ける筈が無いだろう。

 そう思い発言した魔術師に対して、疾走騎士は何の反応も示さず黙り込んでしまう。

 

「ちょっと……聞いてる?」

「えぇ、少し考え事を……」

 

 あの一党に何か問題があるのだろうか? 魔術師は不審に思い、疾走騎士に声を掛けるも、曖昧な返事が返ってきた。

 ……あっ! ま、まさかあの4人の中に疾走騎士の好みのタイプがっ!? そんな事を考え唐突に焦りだす魔術師。

 明らかに的はずれなのだが本人はいたって大真面目であった。

 

 そして、疾走騎士と魔術師とゴブリンスレイヤーが三人揃って遠巻きに睨み付けるという異様な光景のなか──。

 

「お待たせしました!では昇級審査を始めさせて頂きますのでこちらへどうぞ!」

 

 ようやく手が空いたのだろうか、受付嬢がやって来た。

 彼女に案内され、昇級審査を行う部屋の前へと到着する。

 

「それでは始めさせて頂きますので、どうぞお入りください」

 

 そう言って受付嬢、監督官、魔女の三人が部屋の中へと入って行った。……と言うことはつまり。

 

「わ、私から?」

「そう言うことになりますね。頑張って下さい」

 

 疾走騎士が励ますと魔術師は頷いて答える。

 

「うん……行ってくるわ」

 

 そして意を決したように、魔術師は部屋の扉をノックしたのだった──。

 

───────────────

 

 ノックの音が扉から聞こえると、私はその向こう側に居る相手に入室を促した。

 

「どうぞ」

 

 そう私が言うと、魔術師が扉を開け部屋へと入って来る。

 

「そちらへお座り下さい」

 

 彼女は緊張しているのか、力が入ったままのぎこちない動きで私達の正面にある椅子へと座った。

 視線がちらちらと立会人の魔女に向いているのが分かる。

 

「ふふ、そう緊張しなくて大丈夫ですよ? 普段通りにして下さい」

 

 昇級審査というのは相手が冒険者として信用するに値する人間かどうかを確かめるためのものだ。

 

 具体的な物としてはまず『経歴』が挙げられるだろう。もし今まで虚偽の申告をしていた場合や、犯罪等を隠していた場合、監督官の《看破(センス・ライ)》によってこの場で暴かれ、冒険者としての活動を禁止される事もある。

 

 万が一ギルドの派遣した冒険者が不正行為等を行ったり、罪を犯した場合、その信用を取り戻すことは難しい。

 そういった事態を防止する為の昇級審査という訳だ。

 

「普段通り……疾走騎士にも同じ事を言われたわね」

 

 とはいえ、彼女にその心配が無いであろう事は担当の受付嬢である私には既に分かっている。

 冒険者登録を行っている者の身辺調査は、既にギルド側で行われているのだ。

 

 これは謂わば形式上の物と言っても過言ではないだろう。

 なので今回行う事といえば……。

 

「ではまず、白磁になってから実際に冒険をしてみて、どうでしたか?」

 

 彼女は最初のゴブリン退治で仲間を二人失った。

 もしその結果、冒険者としての活動に忌避感を感じるようになっているのであれば、冒険者を辞める事も選択肢として与える事が出来る。

 私達が確かめたい事は主にそこなのだ。

 

「そう……ね。私は最初の冒険で失敗して、途方に暮れたりなんかもしたけれど──」

 

 俯いて話し出す魔術師。その表情は帽子によって隠れてしまう。

 

「今は……自分の選んだ道に満足してるかな」

 

 しかし、顔を上げた魔術師は微笑みを浮かべていた。それを見た私は、彼女なら大丈夫だと結論を出す。

 私は次の質問へと移った。

 

「では、疾走騎士さんと一党を組んでみてどうでした?」

「アイツには感謝してる。最初の失敗で命を救われたのもあるし、それに冒険だとすごく頼りになるの。私の足りない所を補ってくれてるわ」

 

 念のため監督官の方を見ると何も言わず頷いている──が、その手元の紙には『魔術師×疾走騎士』と書かれていた。

 私が確認したかったのは決してそんな事ではない。この人は審査中に一体何をしているのだろうか……。

 

 その後も幾つかの質問を行う。

 その結果、彼女は自らの優秀さを証明するために冒険者になった事や、都に弟が居る事など、様々な事が分かった。

 その全てに不審な点は見られない。黒曜に値する人物として合格という訳だ。

 

「では昇級審査は以上となります。問題無しとして報告させて頂きますので、黒曜への昇級、及び認識票の発行は明日、受付にて行わせて頂きます。大変お疲れ様でした」

「……ありがとうございました」

 

 立ち上がり、私達に一礼した魔術師は部屋を後にした。

 それに続いて、立会人の役目を終えた魔女も席を立つ。

 

「それ じゃあ ね」

「あ! お疲れ様でした! 謝礼金は受付に言えばお支払いさせて頂けますので!」

 

 退室しようとする魔女は扉の前で足を止め、私の方を振り返る。

 

「大変 なのは 次の子 よ? 頑張って ね?」

「……はい」

 

 そう言い残し、彼女は部屋を出ていった。

 私は手元にある書類のうちの一枚を手に取る。それはギルドによる冒険者の身辺調査報告書。

 しかしそれは魔術師の物ではなく、次に審査を行う疾走騎士の物である。

 

 そこに書かれている一文に、私は不安を感じていた。

 

 

 

 

『騎士として軍に所属、伝令任務遂行中にそれを放棄』

 “罰則内容:除隊処分”

 




Q.女神官ちゃんの出番少ない……少なくない?

A.お姉さんゆるして!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート7 裏 後編 『いつものこと、よくある話、彼はそれに抗った』

 魔術師の昇級審査を終え、魔術師と魔女が部屋を出てすぐ、次の審査の立会人であるゴブリンスレイヤーが入れ替わるように扉から入って来た。

 

「ここでいいのか」

 

 彼は立会人用の席の前に立ち、受付嬢に問いかける。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 私が答えると、ゴブリンスレイヤーは席へと座った。

 

 昨日の夜の事、疾走騎士達の昇級審査が決まった後、私が立会人の選定をどうするか悩んでいると、ゴブリンスレイヤーさんが依頼を終えギルドへと戻ってきた。

 私はその際、ダメもとで立会人をお願いできないか聞いてみたのだが……。

 

「急なお話を受けて頂いて、ありがとうございました」

「構わん、いつも世話になっているからな」

 

 これがなんと了承。私もゴブリン以外に興味を一切持っていない彼が、首を縦に振るとは正直思っていなかった。

 

「それに、気になることがある」

「気になること?」

「あの男、ゴブリンを知っている。……いや、戦ったことがあるという程度だろうが──」

 

 成る程、つまり彼にとっては今回の立会人も、ゴブリンに繋がることらしい。

 ゴブリンスレイヤーさんらしい納得のいく理由に安心したと言うべきか、残念だと言うべきかは……悩ましい所だ。

 ともあれ、準備は整った。私は意を決して次の昇級審査の相手である疾走騎士を部屋へ招き入れる。

 

「はぁい、では疾走騎士さん、どうぞお入りください!」

 

 すると扉から3回のノック音。そのまま扉が開き、「失礼いたします」という一声と共に入室してくる疾走騎士。

 私はこの時平静を装いながらも内心少し驚いていた。

 彼のようにマナー通りの手順を踏んで入室してくる男性の冒険者はとても珍しいのだ。

 感心する私を余所に、彼は私達の正面にある椅子までまっすぐに歩いて来ると──。

 

 ──ドンッ。

 

 椅子の後ろから体をぶつけた……。

 しかし何事も無かったかの如く椅子の正面に回りこみ、こちらを向く。

 

「ど、どうぞお座り下さい」

 

 うーん、彼も緊張してるのかな? 疾走騎士が私の言葉を聞いて着席した。

 さて、何から聞いたものか。除隊させられたみたいだけど、何か悪いことしたの? なんていきなり聞くのもまずそうだし……。

 そんな事を考えていると、隣の監督官が突然口を開いた。

 

「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」

 

 年齢? なぜ年齢から? そこは普通名前からなのでは?

 

「15歳、疾走騎士です」

 

 あ、ちゃんと答えるんだ……。

 

「何なんですかその質問は……手元の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)に書いてあるじゃないですか」

 

 というかそもそも、彼の担当は私なので質問は本来私から行うべきなんですけど?

 不服そうに私が言うも、監督官の彼女はあっけらかんとした様子だ。

 

「良いじゃない、初の昇級審査なんだし、緊張をほぐしてもらわないとね」

 

 まあ、それは確かに一理ある。さっき歩いてたら体をぶつけてたし、彼にも意外とそういう一面があるのかも知れない。

 

「おほんっ、では次からは私から質問させて頂きます。疾走騎士さん、白磁になってから実際に冒険をしてみて、どうでしたか?」

 

 魔術師にも聞いた質問、と言ってもこの質問はマニュアルにも加えられている物で、これから幾度と無く冒険へと向かう彼等が、始めに何を感じたのかを確かめるため。

 また彼等自身にも、初心を忘れないで居てもらうために必ず行う質問である。

 

「どう……とは?」

 

 すると疾走騎士は質問に対し、頭を傾げる。

 

「大変だったとか、思ったより簡単だったとか、そんな率直な感想でも構いません」

 

 私の言葉に疾走騎士はすぐに頷いて、質問に答えた。

 

「最初の冒険では残念でした。ああいった出来事はよくあることだと、分かってはいたのですが……」

 

 そう話す彼が、ゴブリン退治によって二人の犠牲者が出た時の事を言っているのだと、すぐに分かった。

 確かに彼の言う通り、新人の冒険者が命を落とすという出来事はよくある話で、こうやって生き延びた彼等は運が良かったのだろう。

 

「成る程、では一党を組んでからは?」

「彼女と一党を組んでからは助けられてばかりです。自分には勿体ないほど、彼女は優秀ですからね」

 

 ふむふむ、お互い信頼し合いながら、うまくやってるみたいね。

 嘘も言っていないみたいだし、人格に関しては問題無しっと。

 これはやっぱり、彼の過去に関して聞いていくしかないか……。

 

「お生まれはどちらですか?」

 

 先ずは当たり障りのないところから、そう考えて私は出身を聞いてみた。

 

「生まれ……ですか」

 

 自身がどこで育ったのかを聞かれた彼は、ばつが悪そうにする。あまり話したくない事だったのだろうか?

 

「はい、何か話しにくい事でも?」

 

 しかし、話してもらわなければならない。

 今後、ギルドが彼を信用する為には、必要な情報なのだ。

 

「いえ、そういう訳ではないんです。都の方面にある小さな農村でした。……ただ、もう無くなっていまして」

「無くなった……?」

「ゴブリンか?」

 

 突然隣に座っていたゴブリンスレイヤーさんが口を開いた。

 ゴブリンに襲われた村が滅びる。確かによくある話だ。

 しかし疾走騎士はこれに対し、首を横に振り否定した。

 

「流行り病ですよ。都から来た医師に綺麗サッパリと焼き払われ、村に居た者は、自分以外全員……」

「そう……でしたか。申し訳ありません、話しにくい事をお聞きして……」

 

 思っていた以上に辛い内容だった。

 しかしそこで一つの疑問が生まれた。

 彼の経歴は没落した騎士とある。

 農村で生まれたというのは、辻褄が合わないような気もするが……。

 

「いえ、なんなら続きをお話しましょうか?」

「あ、えと……お願いします」

 

 正直、ありがたい申し出だった。

 今みたいな重い内容を聞いておいて、更に根掘り葉掘り聞き出そうとする程に、私は図々しくはないのだ。

 

「実は、母方の父、自分の祖父は元騎士でして。その伝手を当たり、何とか騎士の見習いとして受け入れてもらったんです」

「そのお祖父さんは今は?」

「流石にもう年でしたからね。残念ながら──」

「う……その、本当にすみません……」

 

 つまり彼は今、天涯孤独の身。

 何から何まで……まるで私が悪い事をしている気分だ。

 しかしまだ疑問は残っている。

 それならどうして彼は騎士を辞めたのだろうか、と言うこと。

 任務を放棄し、その地位を奪われるというのは、その祖父を裏切る事と同義になるのでは? 私はそう考えた。

 そして私の謝罪を気にせず、彼は話を続ける。

 

「しかしまあ、やはりと言うべきか。農村から出てきた人間を騎士として認めない者も多く、あまり居心地が良いとは言えない環境でしたね」

 

 迫害されていたという事だろうか?

 騎士の位を持つ者は、プライドの高い人間も多いというのはよく聞く話だ。そうなるのも無理はないのだろう。

 両手を祈るような形で握り締め、疾走騎士は静かに語り続ける。

 

「周りから避けられた結果、一人で遂行する事の出来る『伝令』の任務を言い渡された自分は、それでもその役割をこなし続けました。……いつか騎士として認められる為にも、必死で……」

 

 伝令、部隊と部隊の間で命令を伝達する兵の事だ。

 伝達する情報には『早さ』と『正確さ』を求められ、常に走り続けなければならない。

 それもたった一人でだ。敵に見付かれば一貫の終わり。

 厳しいながらも、重要な任務である事に間違いはない。

 

 しかしそれならどうして──。

 

「どうしてそれを放棄してしまったんですか?」

 

 私は思わず聞いてしまった。

 疾走騎士は少し驚いた様子を見せたが、自らの経歴が既に調査されている事を察したのだろう。

 小さくため息をつき、椅子に背を預けて天井を見上げた。

 

「魔神復活の調査へ向かった先遣隊への伝令、それが自分の最後の任務です」

 

 魔神。今、都ではその影響で悪魔(デーモン)が増えているという話だ。冒険者達のなかでもよく話題になっている。

 

「二日、或いは三日走り続けた先に立ち寄った街で、つい1時間程前に先遣隊がここを発ったという話を聞き、自分は急ぎ後を追いかけました」

 

 たった一人で、調査に向かった部隊の後を追う。あまりにも危険すぎる任務だ。

 やはり彼が迫害されていたというのは、事実なのだろう。

 考えながらも、静かに彼の話を聞き続ける。

 

「もうすぐこの任務を終える事が出来る。これでまた一つ、騎士に近付くことが出来る。そう思った時……見付けてしまったんです」

 

 

 

 

「ゴブリンに襲われている、小さな農村を……」

 

 

 

 

 私がハッと目を剥くと同時に、ぴくりとゴブリンスレイヤーさんが反応した。

 私は息を呑み、疾走騎士へと問いかける。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

 ……暫くの沈黙、俯いたまま何も話さない彼。それを見かねたのか、ゴブリンスレイヤーさんが口を開く。

 

「ゴブリン相手には軍は動かせない。いつものことだ」

 

 そう、その時彼は軍に就く騎士だった。本来であれば重視するべきは任務、その農村を見捨ててでも、先遣隊を追うのが正解だったのだろう。

 

 ……そうか、ここで私は気付いてしまった。彼が自ら騎士としての役割を捨てた、その理由に……。

 

「見捨てられなかったんですね?」

「はい」

 

 私の言葉に頷いて答えた疾走騎士。

 ここで彼は任務を放棄し、農村の救助へと向かったのだ。

 そして彼は、村で起きた惨状について語りだす。

 

 

 

 ──既に村は酷い有り様でした。幾つもの死体が転がっていて……しかし僅かながら残っていた生存者を見付けて、それに襲いかかろうとしていたゴブリンを斬り捨てました。

 すると周囲にいたゴブリン達が狙いを自分に定め、囲む様に襲って来たので、それを何とか潜り抜け、壁を背にして応戦。

 十か二十か倒した頃には剣が折れてしまい、まだ何匹か残っていたゴブリン達は好機と見たのか一斉に襲い掛かってきました……が、それも盾で殴り付け、そしてようやく全滅させる事に成功。

 自分も多少の怪我を負いましたが、それでもなんとか村を守る事が出来ました。

 

 

 

 

 ……そう思ってホッとしたのも束の間、助けた村人達が自分に向けて言うんです──。

 

 

 

 

 ──何故さっきは我々を見捨てたんだ!

 

 ──お陰でこの村は壊滅だ!

 

 ──たった一人しか寄越さなかったのか!?

 

 ──弱きを護るのが騎士じゃないのか!?

 

 

 

 

「……まさかその先遣隊は、襲われている農村を無視して先へ?」

 

 その問いに疾走騎士は諦めたかのように力無く頷いた。

 魔神の復活は世界の危機。それと一つの農村を天秤にかければ、どちらが重いかは歴然。そう、これはいつものことだった……。

 

「その後は……どうされたんですか?」

「それからの事はあまり覚えてません。逃げるようにその村をあとにして、探していた先遣隊も怪物と遭遇し、既に引き返していましたから」

「隊に帰ると、元々自分を疎ましく思っていた彼らは、調査中に受けた損害の責任を全て、任務を放棄した自分に押し付けて……その結果が除隊処分。今に至る……という訳です」

 

 救われない、あまりにも救われない……。

 一体彼が何をしたと言うのだろうか? その答えは誰にも分からない。

 

「自分の身の上話は以上になりますが……どうですか? 納得して頂けたでしょうかね?」

 

 私は監督官へと視線を向ける。

 彼女もこちらを向き、まるで辛い現実を目の当たりにしたかの如く表情を曇らせ……頷いた。

 

 つまり彼が話した出来事は、全て真実だということだ。

 

「はい、貴方の経歴に関してはよく分かりました。ありがとうございます」

 

 であるならば、我々冒険者ギルドが下す結論はたった一つ。

 私は精一杯の笑顔を作り、彼にそれを言い渡す。

 

「では審査は以上となります、特に問題はありませんでしたので、明日には黒曜への昇級となり、その際に認識票もお渡し致します。お疲れ様でした!」

 

 彼は多くの苦難を乗り越え、ここに居る。どれほどの絶望を前にして来たか、想像も出来ない。

 しかし、彼はそれでも前へと進もうとしているのだ。それに対して私達が出来ることは、その背中を押してあげる事なのだろう。

 すると疾走騎士は立ち上がり、私達に向かって一礼。

 そのまま退室するのかと思いきや、彼はゴブリンスレイヤーさんに対して話し掛けた。

 

「ところでゴブリンスレイヤーさん」

「なんだ」

「先程のゴブリン退治に向かった鋼鉄等級の一党、どう思いますか?」

 

 先程の……? あっ、山砦を根城にするゴブリン達に拐われた、村娘の救出依頼のことかな? 彼女達はそれなりにゴブリン退治の経験もあるし、一党としてのバランスも取れている。問題ないと思うのだけれど……。

 

 そう考えていた私に対して、ゴブリンスレイヤーさんが出した結論は真逆といっていい物だった。

 

「……助からんだろうな」

「えっ……そんな! どうしてですか!?」

 

 驚愕と共に私はゴブリンスレイヤーさんに詰め寄り、その見解を求めた。

 

「麓に村があるのなら、もはや拐われた娘も生きてはいまい。次も奪えばいいと奴等は考え、使い捨て、死体を罠に利用されている事だろう。鋼鉄等級……いや、普通の冒険者が見破る事は困難だ」

「も、もしかしたら逃げ切れるかも……」

「奴等は高所の拠点を構えた際には投石紐(スリング)を使う。兜持ちが居ないのは致命的だ」

 

 つまり砦の中へと誘き寄せられた彼女達は、ゴブリン達に囲まれ、石の雨が降る中脱出をしなければならないという事だ。

 ……正に絶望的。彼女達は散々に玩ばれた挙げ句、無惨にも殺される事だろう。

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 ゴブリンスレイヤーへと向かって頭を下げた疾走騎士はそのまま部屋の出口へと向かう。一体どうするつもりなのだろうか?

 

「……行くのか?」

「はい、構いませんよね?」

 

 願ってもない話だ。私が断る理由はない。

 しかし、大丈夫だろうか? 何だかんだ言っても彼はやはり新人の冒険者、誰か他にベテランの冒険者も居れば──。

 

「ゴブリンなら俺も行こう」

 

 ──居た。都合良く私の横に対ゴブリン戦略兵器が座っていた。

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 悩んでる暇はない。私が二人に頭を下げてお願いすると、ゴブリンスレイヤーさんは席から立ち上がり、疾走騎士と共に部屋を出ていく。

 それを見送った私は力無く、まさに疲労困憊といった状態で机へと突っ伏した。

 

「うー、こんなに疲れた昇級審査初めて……」

 

 隣に居た監察官はいつも通り飄々とした様子で伸びをしている。

 

「んーっ、ふぅ! まあお疲れお疲れ! でも私も彼みたいなのは初めて見たかな」

「ホントですよ……もう」

 

 ため息をついた私は突っ伏した状態のまま、彼女へ疑問を投げ掛ける。

 

「村を助けた彼の行動は、本当に間違いだったんでしょうか……」

 

 私は納得がいかなかった。

 彼のお陰で村は滅びずに済み、命を救われた者もいるだろう。

 だから本来なら感謝されるべきなのに、彼は責められ、挙げ句の果てには騎士としての道を閉ざされた……。

 ……そんなの、納得いくわけがない。

 

「……さあねぇ、多分それを確かめるために、今も彼はああやって走り続けてるんじゃないのかな?」

「そうかも……しれませんね」

 

 私は再び大きく溜め息を吐く。

 心配の種は増えるばかりだ。

 それを見た監督官はなにやら悪戯な笑みを浮かべている。

 

「おやおや~? 浮気かな~?」

「ちっ違いますっ!! そもそも浮気って何ですか!?」

 

 私は机を両手で叩きながら勢い良く立ち上がった。

 顔が熱くなるのを自身でも感じているのが余計に恥ずかしい……。

 

「ひゃー逃げろー!」

「あっ! もうっ!!」

 

 すると彼女は両手を上げて部屋から退散する。

 私は度々彼女にからかわれており、もはやこういったやり取りはお馴染みのものだ。

 

「でも、一つだけ気になるのよね……」

 

 私が疑問に感じたことはもう一つある。それは彼があまりにも『まともすぎる』ということだ。

 あれほどの目に遭ったというのなら、本来恨み辛みの一つや二つが表面化してもおかしくはないだろう。

 ……ゴブリンに対して並々ならぬ執念を持つ、ゴブリンスレイヤーさんのように。

 

 しかし、彼が恨むとしたら何だろう? 故郷を焼き払った炎? 農村を襲っていたゴブリン? 彼を迫害した騎士達?

 いや、いずれも違うだろう。

 彼の一党である魔術師は、火の魔法を扱っている。

 そしてゴブリンに対しても、特段執着しているようには見えない。

 騎士というものに対しては、寧ろ彼はまだ、憧れのようなものを抱いているように思える。

 

 それならもし、もしも彼が恨むとすればそれは……。

 

 

 

「この世界そのもの……?」

 

 しかし私は頭を横にぶんぶんと振って、その結論を頭から放り出す。

 

「もうっ! 変に勘繰るのは良くないですね! さあ、戻ってお仕事再開しなくっちゃ!」

 

 そう思いながら私は手元の書類を片付け、職務へと戻るのだった。

 

───────────────

 

 

「で、あんたはゴブリンスレイヤーに付いていってたって訳ね」

「はい」

 

 疾走騎士とゴブリンスレイヤーを待つ間、私は女神官の彼女と近況を報告し合っていた。

 彼女には最初こそ苦手意識を持っていたが、初の冒険で共に苦難を乗り越えた事もあり、こうして雑談する程度には仲が良くなる事ができたのだ。

 

「で、どう? 銀等級と一緒なんて楽じゃないでしょ?」

「あはは……まあ、そうですね。そちらはどうですか?」

 

 初め、二人での冒険と言われた時は心踊ったものだが、下水道は臭いうえ、鼠と蟲は気持ち悪いし、その後の手紙配達ではすぐにバテて汗だくになった挙げ句、マンティコアに遭遇……。

 私が思っていた冒険とは違う。言いたいことは山ほどあった。

 しかし実際、下水道は効率よく依頼を消化できるうえ、実績を積むにはもってこいの場所である。

 

 そして何より、マンティコアを仕止めた時は……いや、その後疾走騎士からお礼を言われたことが、私は何よりも嬉しかった。

 

「まあ、ね……でも──」

「でも?」

「自分で決めたから、アイツに付いていくって」

「そう……ですか」

 

 私が笑ってそう言うと、彼女は少し俯いて、考え込んでいる様子だ。

 そこでようやく、昇級審査を終えた疾走騎士とゴブリンスレイヤーが部屋から出て来た。

 

 私と女神官が立ち上がると、私達に気付いた疾走騎士がこちらへ歩いてくる。

 

「お待たせしました」

「遅かったじゃない、何かあったの?」

「ゴブリン退治だ」

 

 ゴブリンスレイヤーがそう答えると、疾走騎士は頷いた。

 彼等の話によれば、先程ゴブリン退治に向かった一党は全滅の危険があり、二人はその救援へと向かうらしい。

 

「死体を罠に……ゴブリンって本っ当にムカつく事ばっかり思い付くわねっ!」

「わ、私も行きます! 放っておけませんからっ!」

 

 やる気になった私達は彼等の後に付いていく事を決める。

 あいつらには仲間を二人もやられて、私も一度殺されかけた。

 やられっぱなしではいられない。これは復讐(リベンジ)なのだ。

 

「これで4人、心強い限りですね。奴等の投石紐(スリング)も、自分と貴女の《聖壁(プロテクション)》があればなんとかなるでしょう」

「……え? 私、ですか?」

 

 疾走騎士の言葉に、なにやら困惑している女神官。

 しかし彼女の様子に気付く事無く、疾走騎士は話を続ける。

 

「では急ぎ準備をして出発しましょう。間に合わなくなるかも知れませんからね」

 

 疾走騎士の言葉に魔術師とゴブリンスレイヤーは頷いて、彼等はギルドの出口へと向かっていく。

 

「あのぅ、私……《聖壁(プロテクション)》は覚えていないんですけど……」

 

 慌てて後を追う女神官の声は、誰にも届くこと無くギルドの喧騒にかき消されてしまうのだった───。

 




Q.白磁として実際に冒険をしてみて、どう思いましたか?

A.最初の冒険では(魔術師ちゃんが刺されるガバをやらかしてしまい)残念でした。ああいった出来事(多少のロス)はよくあることだと、分かってはいたのですが……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート8 『おいゴルァ!(冒険者)免許持ってんのか!』

 走者のメンタルがストレスでRTAなRTA、第八部はぁじまぁるよー!

 

 前回、昇級審査を終えて、ゴブスレさんと女神官ちゃんを咥えたあと、山砦へと到着しました。

 

 今回はこのゴブリンの山砦から、鋼鉄等級一党の救出を行いますよ!

 

 それにしても、疾走騎士くんの過去話が長い。はっきり分かんだね。

 まあ、これが彼の経歴『苦難』のデメリットでもあり、メリットでもあります。

 

 お陰様で、受付嬢さんからの信用も得られ、ゴブリンから村を守った話で、ゴブスレさんからの評価も上昇しました。

 

 受付嬢さんとゴブスレさんには、暫くの間お世話になりますからね。RTAの都合上、二人の評価は特に重要です。

 

 とは言っても、彼の苦難は説明した分だけではありません。

 

 疾走騎士くんの故郷の村で病が流行った時、慈悲深い地母神さんは彼に《解毒(キュア)》の奇跡を授け、農村を助けようとしたみたいですが、いざ治療って時に村ごと焼き払われちゃったんだよね。

 

 やっぱ走者は総じて屑運なんやなって。

 

 でも軍騎士時代に受けた迫害は、彼の体力と精神力を鍛えてくれたので、RTA的にはうま味です。

 

 訓練で複数人にフルボッコにされまくって、対複数戦に慣れているのも、うん、おいしい!

 

 やはり彼は大当たり! 三日目にして黒曜への昇級が確定してる事に関しても、タイムに期待が持てますね!

 

 

「で、今回の指示は? 私に出来ることならなんでもするわよ」

 

 ん? 今何でも……って、魔術師ちゃんの距離が近い。近くない?

 やけに積極的ですね。

 

 あと何でもって言った瞬間に凄い勢いでこっちを見た女神官ちゃん。

 お前もムッツリかこのやルルォ……神官として恥ずかしくないの?

 

 さて今回の魔術師ちゃんの任務は、《分影(セルフビジョン)》での撹乱。そして《火矢(ファイアボルト)》による山砦の消毒です。

 

 原作ではガソリンと弓矢でここを燃やしていたゴブスレさんですが、そこに彼女の《火矢(ファイアボルト)》を咥え入れれば、タイムの短縮が可能です。

 

 しかし、道中には当然の権利のようにゴブリンが沢山居るので、後ろに控えていて貰いましょう。

 

 疾走騎士くんとゴブスレさんの二人でゴブリン達を殲滅しながら突撃。後ろから魔術師ちゃんと女神官ちゃんが付いてくる形ですね。

 

「後衛が投石紐(スリング)の的になるが……どうする」

 

 この先の砦は、ゴブリンの投石紐(スリング)によって、石が大量に落っこちてきます。

 

 だから、《聖壁(プロテクション)》を女神官ちゃんにお願いする必要があったんですね。

 

「あのっ! ですから私は《聖壁(プロテクション)》を賜っていないんですってば!」

 

 

 

 ……ファッ!?

 

 

 

 なんで? なんで? なんで?

 

 ここは、女神官ちゃんが《聖壁(プロテクション)》で入り口を塞いで、ゴブリンを全滅させてたところじゃーーーん!!

 

 このクソゲー! そんな所まで賽子振ってるんじゃないだろうな!

 

 

 

 ……まさか。

 

 

 ここかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 隣の地母神さんがまだ持ってたぁぁぁぁぁ!

 

 

 あああああああああああああああああ!

 

 

 ふーーざーーけーーるーーなーーーーーーーー!

 

 

 あああああああああああああああああああああ!

 

 

 投石紐(スリング)対策がああああああああああ!

 

 

 《聖壁(プロテクション)》がたりなくなるうううううう!

 

 

 詰んじゃう! 詰んじゃうううううううううううううううう!

 

 

 

 

 ……………………………。

 

 

 

 

 フゥ↑ー! スッキリしたぜ。

 

 おれはバケツ饅頭(先人兄貴)や、耳長饅頭(狂戦士兄貴)と比べて、ちと荒っぽい性格でな。

 

 激昂してトチ狂いそうになると、胃薬を飲んで気を静めることにしているのだ。(RTA中だから飲めない)

 

 疾走騎士くんもまた《聖壁(プロテクション)》持ち!

 リカバリ策は、既に完成したぜッ!

 

 その分彼の負担は倍ッ!

 まあ気にしないきにしない(心停止寸前)

 

 どうやらこの山砦攻略イベントを前倒しに発生させた場合、女神官ちゃんは地母神さんから《聖壁(プロテクション)》を受けとる前の状態でここに来てしまうようですね……。

 

 このルートを走るのは初めてなので、チャートにちゃーんと書いておきましょう(書かない)

 

 

 

 バァン!(追突)

 

 

 

 あっ……。

 

 今のは鋼鉄等級一党が、ゴブリンの罠を起動させてしまった音ですね。

 

 彼女達は、やべぇよやべぇよ……の状態から、ゴブリン達に、おいゴルァ! されてしまうので、急ぎ突入しなければなりません。

 

 では、まず魔術師ちゃんの杖の先端に《聖壁(プロテクション)》を使い、巨大な傘を作ります。

 

 原作で女神官ちゃんは、ゴブスレさんの盾に《聖壁(プロテクション)》を使っていました。これはその応用ですね。

 

 これで上から来る投石紐(スリング)の攻撃を防ぐ事が出来ます。

 

 では、山砦攻略及び、鋼鉄等級一党の救出へイクゾー!

 

 

 早速、目が覚めたばかりのゴブリンに遭遇しますが(バァン!)疾走騎士くんの追突によって、倒せました。

 

 ……ゴブスレさんが死亡確認をしてます。そんな事しなくていいから(焦り)

 

 このままでは間に合わなくなってしまうので、ゴブリンを轢き殺しつつ、疾走騎士くんを先行させましょう。

 

 途中ゴブリンを倒し損ねても、後からくるゴブスレさんがトドメを差してくれますからね。

 

 

 バァン!(追突)バァン!(追突)バァン!(追突)バァン!(追突)

 

 

 突くぅ~。

 

 

 どうやらリーダーの自由騎士が、投石紐(スリング)にやられた直後みたいですね。

 周りのゴブリン達が好機と見て一気に襲いかかっていってます。

 

 これはヤバい、ヤバくない? 走っても間に合いませんね。

 

 こちらに気付いたゴブリンの一匹を盾で串刺しにし、振りかぶった体勢から全力で振り下ろしましょう。

 

 遠心力で盾からすっぽ抜けたゴブリンが、彼女達を包囲するゴブリンに、命中します。

 

 ゴブリン達は、自分達が不意を打たれることを考えてもいませんからね、派手に脅かしてやればすぐ混乱します。

 

 ではこの隙を突いて突撃しましょう。俺も仲間に入れてくれよ~。

 

 ホラホラホラホラ。ホラホラホラホラ。

 

 盾を振り回して暴れてやれば、鋼鉄等級の彼女達も状況を理解し、倒れたリーダーを引き摺ってこちらへと退避してきます。

 

 迫り来るゴブリンを弾き返しつつ、投石紐(スリング)による石もしょっちゅう飛んでくるので、ゴブスレさん達が到着するまではうまく庇ってあげましょう。彼女達のリーダーも、昏倒したままですからね。

 

 しかし彼女達も鋼鉄等級の端くれ。守られてばかりでなく、キチンと援護をしてくれてます。

 

 暫くゴブリン達と絡み合うので倍速です。

 

 …………。

 

 すいませ~ん、木下ですけど、ま~だ時間かかりそうですかね~?

 

 疾走騎士くんは、魔術師ちゃんの杖に《聖壁(プロテクション)》をかけたままなので、精神力も消耗していってます。

 

 あんまり時間を掛けすぎると、あの壁が消えてしまうので、急いで欲しいんですが……。

 

 

「三十六…」

 

 普通だな! ようやくゴブスレさんの到着ですね。ぬわああああん疲れたもおおおおん!

 

 傘役の魔術師ちゃんも到着したので、もう投石紐(スリング)の心配はいりませんね。

 

 ここで、女神官ちゃんには《聖光(ホーリーライト)》を、魔術師ちゃんには《分影(セルフビジョン)》を使ってもらってから、ダッシュで逃げます。では諸君、サラダバー!

 

 目が眩んだゴブリン達は暫く足を止めて、回復してからは魔術師ちゃんの残した《分影(セルフビジョン)》に嬉々として飛び付いていくので、かなりの時間を稼げます。

 

 もちろん《分影(セルフビジョン)》は消え、ゴブリンは地面に衝突。

 暫く何が起こったのか分からず戸惑っている様子でしたが、怒りを露にして再び追ってきます。

 

 しかし時既に時間切れ。追い付かれる前に山砦を脱出できました。

 では傘にした杖で、そのまま入り口に蓋をしましょう。

 この時点で勝利確定です。

 

 ゴブリン達が《聖壁(プロテクション)》にぶつかりますが、こちらには通れません。しかしこちらからの攻撃は通るので……ではゴブスレさん、よろしくお願いします。

 

「……良いだろう」

 

 群がるゴブリンにガソリンをぶちまけてもらいました。

 では魔術師ちゃんの《火矢(ファイアボルト)》で終わらせましょう。

 それじゃあ……死のうか。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》…《ラディウス(射出)》!!」

 

 フゥ↑ー! 気持ちいー!

 

 燃え盛るゴブリンが、パニックになってあっちこっちに走り回り、火の手が一気に燃え広がります。

 

 わざわざ弓矢で燃やすより、こっちの方が楽で早いね!

 

「っ……ハッ! ゴブリンっ……は?」

 

 起きたな(確信)

 女神官ちゃんの《小癒(ヒール)》によって、鋼鉄等級のリーダーである自由騎士ちゃんの目が覚めたようですね。

 

 彼女は冒険者でありながら、貴族の令嬢という上流階級。

 疾走騎士くんとはまるで真逆のお嬢様です。

 

 まあ本来であれば、ここで最悪の結末を迎えていたんだけどね!

 

「リーダー! この人達が救援に来てくれたんだよ!」

「! ……そうでしたか。危ない所を有り難う御座いました」

 

 これで彼女達の好感度は、そこそこ稼げたかな? どうかな?

 

「話が済んだら言え、見逃した脱出路がないか探す」

 

 この辺にぃ、逃げ出そうとしてるゴブリンが、居るらしいっすよ? じゃけん見付けて始末していきましょうね~。

 

「私達も協力します。助けて頂いたのですからそれくらいは!」

 

 オッスお願いしまーす!

 疾走騎士くんはかなり消耗が激しいので、待機しましょう。

 

 常人ならとっくにぶっ倒れてる位には《聖壁(プロテクション)》を張り続けてますからね。

 その為の精神力、その為の苦難。

 

 まあ元々壊れてた精神なんだから、これ以上壊れる事なんて無いさ! 大丈夫だって! ヘーキヘーキ! ヘーキだから!

 

 ゴブスレさん達が戻ってきました。どうやらゴブリンは全滅させられたようですね。《聖壁(プロテクション)》を解除します。

 

 くぅ~疲れました! これにて山砦攻略及び、鋼鉄等級一党の救出完了です!!

 

 んじゃ帰りましょ。

 

 女神官ちゃんの奇跡習得タイミングを把握していないというガバがあったものの、タイムには殆んど影響は無かったですね。

 

 流石だ疾走騎士くん! これからのRTAも君ならやれるさ!

 

 

 

 ……あれ? 操作を受け付けないよ?

 

「え……疾走騎士! ちょっと大丈夫!?」

 

 あっ、疾走騎士くんが倒れちゃいましたね。

 

「どうしたんですか!?」

「お、恐らく精神力を使い果たしたんだと思います。奇跡をあれだけ使い続ければ無理もないかと……」

 

 まあしょうがないね。

 本来集中が必要な《聖壁(プロテクション)》を使いつつ、あれだけ長時間の戦闘をこなしたんですから、神経が焼き切れていてもおかしくはなかったです。

 

「彼、私達を庇いながらずっと戦ってたんだ……」

 

 しかし、気絶で意識を失っていても、タイムは引き続き継続されます。これは痛いロスになりそうですね……。

 

「仕方あるまい……」

 

 おや?ゴブスレさんが担いでくれました。

 ありがてえ、このまま宿まで、オナシャス! センセンシャル!

 

 まさかのゴブスレさんによるリカバリー! やっぱり彼はRTAの強い味方! 彼になら掘られても

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 




Q.女神官ちゃんはムッツリじゃない! 純情! 取り消せよ……! ハァ……今の言葉……!

A.ムッツリスケベの女神官!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート8 裏 前編 『籠城戦』

 鋼鉄等級の一党を救うべく山中の道を進み続けた疾走騎士達。

 彼らは移動の末、ようやく目的地の山砦へと到着した。

 

 しかし急いでいた事もあり、魔術師と女神官の二人は完全に息が上がってしまっているようだ。

 見かねた疾走騎士が彼女達に声を掛ける。

 

「大丈夫ですか?」

「まあ、昨日に比べれば……ね」

「私も大丈夫です。一刻も早くあの人たちを助けないと……!」

 

 それでも二人はやる気十分といった様子だ。

 目の前に助けられる命があるのだから尚更だろう。

 

「……足跡だ。もう中に入ったようだな」

 

 するとゴブリンスレイヤーが山砦の中へと続いている足跡を発見。

 見たところ恐らく四人分。跡が比較的新しい事からも、依頼を受けた彼女達の物と見て、間違いはなさそうだ。

 

「それにしては静かですね。ゴブリンはまだ彼女達に気付いていないのでしょうか」

「な、なら早く行きましょう! まだ間に合います!」

「待ってください。体力の回復も兼ねて、先ずは作戦を立てなければ」

 

 疾走騎士は女神官と魔術師の疲労を気遣っているようだった。

 そして、たった一つの選択肢が最悪の結果を生み出す事もある。

 だからこそ焦ってはいけない……と、まるで自らを戒めるかのように、彼は言う。

 

「自分が行うべき事を予めちゃーんと決めておけば、自分自身を守ることにも繋がりますからね」

 

 疾走騎士の言葉に、女神官は初めてゴブリン退治で失ってしまった二人の仲間を思い出す。

 あの時の自分達はろくに準備もせず、それどころかお互いに連携すら取ろうともしなかった。

 あれはある種、必然と言われても仕方のない結果だったのだろう。決して同じことを繰り返す訳にはいかない……。

 

「そう、ですね。すみません」

 

 女神官は手に持った錫杖を強く握り締め、顔を伏せる。

 

「で、今回の指示は? 私に出来ることならなんでもするわよ」

「えっ!?」

 

 疾走騎士の横から肘でつつく魔術師。

 前回のマンティコア討伐で少し自信を取り戻した彼女は、疾走騎士からの指示を心待ちにしているようだ。

 

 なお、彼女が『なんでもする』と口にした瞬間、隣で俯いていた女神官は、バッと向けた顔を赤くしていた。

 無論、魔術師の言う『なんでもする』には、彼女が考えているような意味は一切含まれていないのだが……──。

 

「今回は《分影(セルフビジョン)》、そして《火矢(ファイアボルト)》、この両方を行使してもらう事になるでしょう。タイミングはまた自分が指示しますので、よろしくお願いします」

「それぞれ一回ずつって事ね。うん、わかったわ」

 

 疾走騎士の言葉を聞き、魔術師は手を顎に当てて頷いた。

 

「隊列は自分とゴブリンスレイヤーさんが前衛。あとのお二人は後ろから。これは当然ですね」

「後衛が投石紐(スリング)の的になるが……どうする」

 

 前衛が二人居たとしても、上からの攻撃に対処することは不可能だ。

 そんなゴブリンスレイヤーの指摘に、疾走騎士が答える。

 

「それでしたら《聖壁(プロテクション)》があります。自分と彼女の二人で交代して行えば問題は──」

「あのっ! ですから私はっ……! 《聖壁(プロテクション)》は賜っていないんですってば!」

「…………ふぁっ?」

 

 頬を膨らませプリプリと怒る女神官。

 それ対し、疾走騎士は暫しの硬直。

 周りがどうしたのだろうかと不審に思っていると……。

 

「えぇ……」

 

 ──困惑を隠しきれないような声を上げる。

 しかしすぐ小さくため息をついた後、咳払いをして気を取り直し、再び話し始めた。

 

「ん、んんっ! 失礼。ちょっとした勘違いです」

「もう、しっかりしてよ。アンタにちゃんとしてもらわないと困るんだから」

 

 呆れるような魔術師の言葉に対し、疾走騎士は努めて普段通りの状態を取り繕う。

 

「すみません、もう問題は無いので大丈夫ですよ」

「ほんとぉ?」

 

 それでも魔術師はジトっとした視線を疾走騎士へ向けている──が、しかしその瞬間、山砦の奥から何か重い物がぶつかったかのような、大きな音が鳴り響いた。

 

「今の音は!?」

「ゴブリンの鳴子だ。やはり罠を見過ごしたか」

 

 今の音でゴブリン達は目覚めたはずだ。彼女達がやられてしまうのは時間の問題だろう。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください》」

「《聖壁(プロテクション)》」

 

 すると疾走騎士が魔術師の杖の先端に《聖壁(プロテクション)》を設置する。

 巨大な円盤のように広がったそれは、まるで巨大な傘だ。

 

「……成る程、使えるな」

「これってマンティコアを押し潰してた奇跡よね? 大丈夫? 今度は私達が潰されたりしない?」

「えっ、なんですかそれ怖い」

「大丈夫ですよ、安心してください。平気平気、平気ですから」

 

 魔術師の言うことは間違っていないのだが、それは決して本来の使い道ではない。

 横に居た敬虔な地母神の信徒である女神官は、慈悲深い地母神様の奇跡をそんな事に使うなんて……と、完全にドン引きしているようだ。

 

「これで投石紐(スリング)による攻撃は防げます。では、行きましょう」

 

 疾走騎士の言葉に三人が頷き、彼らは山砦の中へと走り出した。

 

 

───────────────

 

 

 私のせいだ。私のせいでこんな事に……。

 

 

 鋼鉄等級一党の野伏である圃人は、心の中で己の失敗を責め続けていた。

 

 寝ているゴブリン達に気付かれないよう、罠を一つ一つ解除し、順調に進んでいた冒険が一転して絶体絶命。

 

 その原因は自身のミス。救出目標である村娘を発見した、そこまでは良かった。

 しかしその娘は既に事切れており、死体そのものが罠へと繋がれていたのだ。

 

 

 そしてそれに気付かず救助しようとした圃人野伏は、罠を起動させてしまった。

 

「囲まれないように! 私がしんがりを務めます!」

 

 撤退を試みる一党を追ってくるゴブリン達を、リーダーである自由騎士が斬り捨てる。

 圃人野伏は退路を確保するために先頭に立った。

 

「どうしてっ……こんなことにっ……!!」

 

 溢れそうになる涙を堪え、歯を食い縛りながら迫り来るゴブリンに向かって矢を放つ。

 1匹、また1匹とゴブリンを倒すが、しかし、それ以上の数のゴブリン達が次々と押し寄せてくる。

 

「もう矢が少ししかない!!」

「こっちも今撃った《火矢(ファイアボルト)》で最後だ!!」

「か、数が多すぎますっ!」

「くっ……ゴブリンめっ! 卑劣な!!」

 

 それでも決して希望を捨てず、彼女達は必死で戦った。

 しかし──。

 

「がはっ……!!」

 

 ──頭目である自由騎士が、死角から飛んできた石を頭に受け……倒れた。

 

「リーダー!!?」

 

 彼女は気絶してしまったのか呼び掛けにも答えない。

 それを見たゴブリン達はゲタゲタと笑いながら、なおも迫ってくる。

 彼女達の思考が絶望へと染まっていく。

 ゴブリンに捕まった女がどうなるかは彼女達もよく知っていた。

 だからこそ一党は、この依頼を受けたのだから。

 ……しかし、その順番が自分達にまわってくるとは想像もしていなかった。

 

「い、いやだ……くるなよぉ……」

 

 自らの運命を悟り、体が震え、涙が頬を伝う。

 恐怖で身を寄せ合う彼女達の目前までゴブリンが迫ってきて──その時だった。

 

「GOB!?」

 

 一匹のゴブリンが、どこからか飛んできた別のゴブリンに弾き飛ばされる。

 その飛んできたゴブリンは、腹を貫かれ既に死んでいた。

 

 一体何が……そう思っていると、その場に居たゴブリン達が全員ある一定の方向を見ている事に気付き、一党もまたその方を見た。

 

 

 

 

「そいつで28匹目……」

 

 

 

 

 まるで一切の感情が抜けきっているかのような声。

 

 そこには平凡な鎧兜を身に付けた一人の男が居た。

 鋼鉄等級である彼女達の方がまだ上等な装備だろう。

 ……しかし、何よりも目を引いたのは彼が両手に盾を持っているということ。

 

 ゴブリンの血にまみれたその男は、このゴブリン達にとっての絶望。そして彼女達にとっての希望。そんな相反する物が混ざり合う……混沌のように思えた。

 

 

「恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ……」

 

 

 男は一党を包囲するゴブリンの群れへと疾走する。

 言葉の意味は分からずとも、それが自分達の死を暗示しているものだと理解してしまったのだろうか、突然のイレギュラーの乱入にゴブリン達は混乱状態に陥った。

 統率者が居ないゴブリン達は成す術もなく、一匹、また一匹と、あの男の手によって斬り裂かれていく。

 どうやらゴブリンに対して振るわれているあの盾は、縁が研いであるらしい。

 

「冒険者……! い、行きましょう!!」

「そっちを抱えてくれっ! 援護を頼む!」

「わ、分かった!」

 

 彼が味方であると認識した女僧侶と森人魔術師の二人は、昏倒した自由騎士を抱えて走った。

 混乱していたゴブリン達も、獲物が逃げ出した事に気付き彼女達を追うが、圃人野伏の放った矢がそれを阻む。

 

 生き残れるかもしれない。帰れるかもしれない。

 そんな希望を胸に、彼の下へと向かう。

 

 飛び掛かって来たゴブリンを、矢が尽きた圃人野伏が弓で殴りつけ、ようやく彼との合流を果たす。

 

「あの曲がり角の隅へ。死角を減らせます」

「し、しかしそれでは逃げ道が……」

「直に救援が来ます。うち一人は銀等級。それまでの間、時間を稼ぎます」

「救援……! 分かった! すまない!」

 

 男は彼女達の背後から押し寄せるゴブリン達を相手取りながら、淡々と指示を出した。

 彼の背後にある隙間に身を寄せると、彼はその前に仁王立ち、ゴブリン達を通すまいと立ちはだかる。

 一匹のゴブリンが来れば片側の盾を叩き付け、二匹のゴブリンが来れば両の盾を叩き付け、三匹以上のゴブリンが来れば盾の刃で薙ぎ払う。

 度々ゴブリンの投石紐(スリング)によって、石弾が背後の彼女達へ対し投げ撃たれている……が、それもまた彼が持つ盾によって弾かれていた。

 その様相はもはや正面から崩す事が不可能なほど堅牢な城壁。ゴブリン達がもたらす絶望的な結末など、もはや入り込む余地はなかった。

 

「助かる……のかな。私達」

「この方、初めて見ます。都から来たのでしょうか?」

「白磁だ……」

「えっ?」

「この男、白磁だ」

 

 森人魔術師は先程すれ違い様に、彼の首に掛かった認識票を見ていた。

 その色は白。彼女は信じられなかった。

 まるで歴戦の兵が如く戦っている目の前の男が、新人の冒険者だと、認識票が証明しているのだから。

 

「じゃあ新米ってこと!?」

「いや、降格した冒険者……という線もある」

「つまり、悪い人という事ですか?」

 

 不正や犯罪行為に手を染めた冒険者が白磁へと降格されるケースは聞いたことがあった。

 この男がそうだと決まった訳ではないが、それでも警戒してしまうのが冒険者としての性だろう。

 

「だとすれば、見返りに何を要求されるか分からんぞ……」

「で、でもさ! 銀等級が来るって言ってたよ!? 信用できる冒険者って事でしょ? そんな人と一緒に居るのなら大丈夫なんじゃないの?」

「む、それは確かに……」

「もう! 助けてくれた人を疑うのは良くありませんよ!」

「わ、分かった分かった!」

 

 怒る女僧侶をどうどうと宥める森人魔術師。

 そこで圃人野伏が辺りに散らばっている石ころに気付いた。

 先程、彼が盾で防いだものだ。

 

「でもどっちにしろさ、このまま白磁に守られてるのって……カッコ悪いよね?」

 

 圃人野伏はそれをいくつか拾い上げ、森人魔術師と女僧侶に手渡した。

 

「ん? ……あぁ、成る程。それは確かに同感だな」

「えっ? どうするんですかこれ……?」

 

 森人魔術師はそれを受け取ると不敵な笑みを浮かべ、女僧侶は渡された石の意図が分からず頭を傾げる。

 

「こうするの……さっ!」

 

 すると圃人野伏が低い体勢を維持したまま石を投げ、それが一匹のゴブリンの頭へと命中。地に倒れ伏した。

 

 

「もう許さないからね!!」

 

 

 こうして反撃の烽火は上げられ、彼女達の籠城戦が始まった。

 

 




Q.終いにゃ終いにゃガバプレイ……!! オリチャーという名のガバプレイ……!!

A.やめやめろ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート8 裏 後編 『救う者は未だ救われず』

「二十……二十一……」

 

 ゴブリンスレイヤーは山砦の中を進みながら、既に道中に倒れていたゴブリンに対し、順繰りに剣を突き立てていく。

 死んでいるならば良し、生きていたならこれで死ぬ。

 彼が行っているのはただの確認作業だ。

 

「あの、ゴブリンスレイヤーさん。良いんですか? 疾走騎士さん、行っちゃいましたけれど……」

 

 山砦に乗り込んだ一党だったが、今この場に疾走騎士の姿はない。

 彼はゴブリンスレイヤーが確認作業を行い始めたのを見るや否や、一人で走りだして行ってしまった。

 今ゴブリンスレイヤーが突き刺しているゴブリン達は、先行した疾走騎士が倒したものだろう。

 

「あぁ、俺達の役割は退路の障害を全て排除しておく事だ」

 

 ゴブリンスレイヤーは突き刺した剣を引き抜かずそのまま放置し、ゴブリンが持っていた槍を拾い上げ、再び歩き出す。

 

「え……退路って事は、一度撤退するんですか?」

「この巣に棲むゴブリン共を全て直接倒すつもりはない。この山砦ごと、纏めて焼き払う」

「えぇっ!? そんなの目茶苦茶ですよ!」

「あの男もそのつもりだったようだが?」

 

 そう言ってゴブリンスレイヤーが後ろの魔術師を見ると、彼女は小さくため息をついた。

 

「まあ、多分そういう事なんだろうとは思ってたけれど……」

 

 魔術師が疾走騎士から受けた指示は《分影(セルフビジョン)》と《火矢(ファイアボルト)》をそれぞれ一度ずつ使う、という内容だった。

 つまり《分影(セルフビジョン)》によって時間稼ぎを行う場面と、《火矢(ファイアボルト)》によって奴等を焼き払う場面を想定している、という事になる。

 

「その《聖壁(プロテクション)》は『傘』ではなく『蓋』だ。この砦からゴブリンが溢れないようにする為のな……」

 

 追ってくるゴブリン達を《聖壁(プロテクション)》で閉じ込め、ゴブリンスレイヤーが持つ燃える水(ガソリン)を使い、奴等を纏めて焼き払う。それが疾走騎士の狙いだと、ゴブリンスレイヤーは告げる。

 

「俺でも同じような事をするだろう。ただあの男の場合は……一度似たような経験をしたのかも知れん」

「え、それってどういう……!」

 

 そこへ突然、物陰に潜んでいたゴブリンが短剣を手に飛び出してくる。

 それに気付いた魔術師が杖を突き出すと、不可視の壁がゴブリンを阻み、衝突。

 後ろへと転がったゴブリンの心臓を、ゴブリンスレイヤーが槍で一突きにした。

 

「二十二……撤退の際にこういう事があっては困るからな」

 

 大人数であればあるほど撤退の際には多くの危険が伴い、故にしんがりという役目を負う者が必要になってくる。

 しかし、先に逃げた者達が待ち伏せを受ければどうなるか?

 当然挟み撃ちという圧倒的不利な状況を強いられる事となるだろう。

 故にゴブリンスレイヤーは迅速に撤退が行えるよう、道中のゴブリン達を殲滅しながら進んで行っているのだ。

 

「まだ居る筈だ。一匹たりとも見逃さずに進むぞ」

 

 女神官と魔術師は頷いて、ゴブリンスレイヤーの背後からついていく。

 その後も倒れて動かないゴブリンを見付ける度に確認作業を行い、進み続けた。

 途中投石紐(スリング)による石弾が飛んできたが、《聖壁(プロテクション)》がそれを防ぎ、高所に居るゴブリンに気付いたゴブリンスレイヤーが背負っていた弓と矢を手にすると、狙いを定め……放つ。

 《聖壁(プロテクション)》はこちらからの攻撃を阻むことはない。

 放たれた矢は投石紐(スリング)を持つゴブリンの耳を削ぐと、どうやら足を踏み外したようで悲鳴を上げながら落下して死んだ。

 

「三十五……居たぞ」

「思った以上に大丈夫そうね。まあアイツの事だから問題ないとは思ってたけれど」

 

 そして尚も進んだ先、遂にゴブリンの群れと相対する疾走騎士を発見。

 その背後には四人の冒険者達。

 しかしそのうち一人は気を失っているのか横に寝かされ動く気配がない。

 

「俺が注意を引く。奴等の視線が集まったら《聖光(ホーリーライト)》を使え」

「はいっ!」

 

 女神官は自らの錫杖を握りしめ、力強く返事をした。

 

 

────────────────────

 

 

「ねぇ……救援って、まだ時間かかりそうなのかな」

 

 鋼鉄等級一党である彼女達の籠城戦は、既に膠着状態へと持ち込まれていた。

 

「さあな。そもそも本当に救援が来るのだろうか?」

 

 何せゴブリン達がどう攻めようとも、二つの盾を持ったあの男を突破する事が出来ないのだ。

 既に男の前にはゴブリン達の死体が山になって積み重ねられている。

 

「き、来ますよ! 私達を守ってくれてる人の言葉を信じないんですか!?」

 

 ゴブリン達は目の前の獲物へ手が出せないこの状況に、焦りを感じていた。

 しかし、彼等は馬鹿だが間抜けではない。

 この盾持ちに向かって行ったとしても、あの死体の山が更に積み上げられるだけなのだという事も既に理解している。

 だから今もゴブリン同士で、お前が行け──、いやお前が──、そんな言い争いをしているのだろう。

 故に安全な場所からの攻撃、つまり投石紐(スリング)による投石だけが行われているのだが…。

 

「まっ! アタシは信じてるけどねっ! ……くぅ~外れた!」

「わ、私は単に最悪の事態を想定しているだけだ! ……よし! 当たった!」

「もう、さっきまでの緊張感はどうしたんですか? ……えいっ! ……あ、あれ?」

 

 それも彼女達へ攻撃手段を与えているだけなのだ。

 盾で防がれ、地に落ちた石を彼女達が投げ返し、ゴブリン側だけが被害を受けている。

 

 ……そこへ突然、ゴブリンの絶叫が響き渡った。

 

「な、なに!?」

「救援です」

 

 男がそう言うと、ゴブリン達の向こう側に三人の冒険者の姿が見える。

 

「三十六……」

 

 そのうちの一人、薄汚れた鎧兜を身に纏った冒険者は倒れたゴブリンの股間を踏み潰していた。

 成る程あれは痛そうだ。絶叫するのも仕方のない事だろう。

 

「砦の外まで走り抜けます。準備をしてください」

「わ、分かった!」

 

 先程の絶叫を聞いたゴブリン達は全員が向こう側を見ている。

 その隙に森人魔術師と女僧侶の二人は自由騎士の両肩を抱えて立ち上がった。

 すると眩い光が辺りを真っ白に照らす。

 

「走れっ!」

 

 それを合図に男が走り出し、鋼鉄等級一党の彼女達もその後に続いた。

 

────────────────

 

 

「GOBROOO!!!?!?」

「うっわ、痛そう……」

 

 疾走騎士達と睨み合いを続けていたゴブリンの群れ。

 ゴブリンスレイヤーはそこから離れていた一匹を見付けて忍び寄り、槍を突き刺しそのまま押し倒すと、もがくゴブリンの股間を思い切り踏み潰した。

 その場に居た魔術師と女神官は顔をしかめると同時に、絶叫を聞いたゴブリン達が何事かとこちらへ振り向く。

 

「やれ」

「は、はい!」

「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに聖なる光をお恵みください》……!」

「《聖光(ホーリーライト)》!」

 

 辺りに閃光が広がり、ゴブリン達の視界を奪う。

 するとその直後、疾走騎士が盾でゴブリン達を薙ぎ払いながら道を作り出し、包囲網の一点を突破して来た。

 

「疾走騎士!」

「《分影(セルフビジョン)》を!」

 

 こちらへと走りながら指示を出す疾走騎士。それに魔術師は頷き、呪文の詠唱を始めた。

 

「《ファルサ(偽り) ウンブラ() ユビキタス(偏在)》……」

「《分影(セルフビジョン)》!」

 

 魔術師の魔法により、ゴブリン達の前へ五つの分影が生み出された。

 

「これで時間稼ぎになる……! 全員砦の外へ!」

 

 それを置き去りにする形で、全員が山砦の出口へと向かって駆ける。

 

「では諸君、さらばだー!」

「おぉい! お前もリーダーを運ぶのを手伝え!」

「け、結構重いんですよ!? 鎧のせいですけど……」

「あぁっ! ご、ゴメンゴメン!」

 

 仰向けに寝た自由騎士の両足を圃人野伏が両脇に抱え、その後ろで両肩を森人魔術師と女僧侶が支える形を取り、疾走騎士達の後に続く。

 そしてじきにゴブリン達の視界が戻り、先程まで居た冒険者達の姿を探そうとする……が、その顔はすぐに醜悪な笑みへと変わった。

 目の前には女の姿が五つ。それも衣服の上からでも分かる程に、極上の肉付きをしている人間の女である。

 彼等は自らの欲望を満たすため、何も考えずに飛び掛かった。

 

「GOB!?」

 

 しかし、目の前の女に手を伸ばし、触れた瞬間、その姿が霧散した。

 勢いのまま地面に顔を打ち付けたゴブリン達は、何が起こったのか理解できず辺りを見回している。

 すると既に遥か遠く、山砦の出口へと走る冒険者の姿が見えた。

 騙された。それだけを理解したゴブリン達は怒りの声を上げながら、逃げる冒険者達へと走り出す。

 

「うわ! 追ってきたよ!?」

「大丈夫です、ここから抜け出せさえすれば……!」

 

 圃人野伏が叫ぶが、ゴブリン達がすぐそこまで迫って来ていたものの、そこでようやく全員山砦から抜け出す事に成功。

 疾走騎士がすかさず魔術師に指示を出す。

 

「その杖で奴等が出られないように塞いで下さい!」

「えぇ!」

 

 そしてすぐさま、魔術師が杖に設置された《聖壁(プロテクション)》で山砦の出口を塞いだ。

 ゴブリン達が杖を持つ魔術師目掛け襲いかかるも、その全てが不可視の壁に衝突し跳ね返るように後ろへと転倒。

 そしてゴブリンがいくらぶつかってこようとも、魔術師が押される事はない。それが地母神がもたらす奇跡の力なのだ。

 

「ゴブリンスレイヤーさん、お願いします!」

「……良いだろう」

 

 疾走騎士の言葉を聞いたゴブリンスレイヤーは、瓶をポーチから取り出すとゴブリン目掛け投げつける。

 割れた瓶の中に入った燃える水(ガソリン)が辺りに飛び散り、ゴブリン達はそれを浴びた。

 自らに被せられた液体の悪臭に狼狽えながら、ゴブリンは尚も《聖壁(プロテクション)》を手に持った武器で叩き続ける。

 

「終わりです。奴等に《火矢(ファイアボルト)》を」

 

 そして、疾走騎士の死刑宣告が言い渡された。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》……《ラディウス(射出)》!!」

 

 魔術師の《火矢(ファイアボルト)》により、ゴブリン達の体は一瞬にして業火に包まれた。

 何が起こったのか分からず彼等は狂ったように走り回り、その火を消そうとするが……それは寧ろ逆効果。

 自らの火が辺りへと燃え移り、更に火の手は広がっていく。

 そうして《聖壁(プロテクション)》の向こう側は、ゴブリン達にとっての地獄と化していった……。

 

「っ……ハッ! ゴブリンっ……?」

 

 疾走騎士達がゴブリンを燃やしていた後方では、女神官が自由騎士に《小癒(ヒール)》を使用。それによってようやく彼女の目が覚めたようだ。

 しかし彼女は状況を把握できていない様子で辺りを見渡している。

 

「リーダー! この人達が救援に来てくれたんだよ!」

 

 そこへ彼女の一党のメンバー達が駆け寄り、圃人野伏が事の顛末を説明した。

 

「そう……でしたか。危ない所を有り難う御座いました……」

 

 自由騎士はまだ痛むのか、頭を手で押さえながら、疾走騎士達に礼を述べた。

 

「話が済んだら言え。見逃した脱出路がないか探す」

 

 他にも砦を飛び降りたり、死に物狂いで穴を掘ったり、そうやって生き残るゴブリンが居るかもしれない。

 ゴブリンスレイヤーがそう告げると、自由騎士が立ち上がる。

 

「私達も協力します。助けて頂いたのですからそれくらいは!」

 

 彼女は自らの義憤を露にしながら申し出ると、ゴブリンスレイヤーと共にゴブリンの生き残りを始末しに向かった。

 そして事を終え、戻ってくる彼等を見た疾走騎士が《聖壁(プロテクション)》を解除する。

 これで……全てが終わった。

 鋼鉄等級一党の全員が無事にゴブリンの魔の手から逃れ、ここに居る。

 彼女達に絶望的結末が訪れる事は終ぞなかった。

 しかし……。

 

「え……疾走騎士! ちょっと大丈夫!?」

 

 ──疾走騎士はそこで糸が切れたかのように倒れてしまう。

 

「どうしたんですか!?」

 

 魔術師が彼に駆け寄り、鋼鉄等級の一党も慌てて彼の下へと走った。

 女神官が疾走騎士の容態を確認するが、どうやら怪我をしている訳でもなく、呼吸も安定しているとの事だ。

 

「お、恐らく精神力を使い果たしたんだと思います。奇跡をあれだけ使い続ければ無理もないかと……」

 

 本来奇跡の発動は、祈りを捧げるために多大な精神力を消耗する。

 彼は長時間に及び奇跡を発動したまま、更にゴブリンとの戦闘までこなしていたのだ。

 それを意識を失うまで……或いは、既に限界を迎えていたのかもしれない。何れにせよ、まともでは出来ない事だと彼女は述べた。

 

「彼、私達を庇いながらずっと戦ってたんだ……」

 

 圃人野伏は、彼が居なければ自分達はゴブリンに辱しめを受けていたであろう事を、頭目の自由騎士に話す。

 

「どうやら、とても大きな借りが出来てしまったようですね……」

 

 彼女は、法と正義を担う至高神に仕える騎士だ。

 誰かを助ける為ならば、自らを犠牲にすることも厭わない心を持っている。

 ……故に、彼女は疾走騎士に対して強い尊敬の念を抱いた。

 

「仕方あるまい……」

 

 そこへゴブリンスレイヤーが歩み寄ると、疾走騎士を担ぎ上げる。

 

「帰るぞ……」

 

 そうして、全員が帰路についた。

 山砦の炎はやがて雲へと変わり、黒い雨を降らせる。

 確かにそこに救いはあった。

 あったがそれでも……その救いをもたらした者こそが、未だに救われてはいないのだった……。

 

 




Q.オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!

A.無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!

※セッション中のリアルファイトは……やめようね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート9 『じゃあとりあえず、犬の真似してみろ』

 ついに疾走騎士くんが人を殺めるRTA、第九部はぁじまぁるよー!

 前回、鋼鉄等級一党を救出したら、疾走騎士くんが倒れてしまいました。

 なので今回は、ゴブスレさんにいつもの宿まで送ってもらったところからです。ありがとナス!

 

 宿のベッドに寝かされた時点で就寝扱いとなり、起床までスキップされます。

 なので、早く寝かせてほしいのですが……。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 流石に血塗れのまま寝かせるというのは……」

 

 という訳で、ロリ主人に止められてしまいました。

 当たり前ですが、汚れたまま宿に泊まる事は出来ない仕様なのです。

 でも疾走騎士くんは気を失ってるので自分で装備を脱げません。

 どうしましょうかね?

 

「しょうがないわね。ほら、これでいい?」

 

 魔術師ちゃんが、一瞬で疾走騎士くんの鎧をひっぺがしました。えぇ……(困惑)

 充分に熟達した技術は魔法と見分けがつかないと言いますが、こんな技術を熟達されても困るんだよなあ。

 

 そしていつものように、ベッドへ放り込まれて、就寝になりまーす!

 

 

 

 うーんむにゃむにゃ……ゆうしゃぱーてぃーにかったぞー……。

 

 

 

 ハッ、夢か……悪い夢……いや……良い夢……だった……。

 

 どうやら翌日の朝まで寝ていたようですね。

 でも魔術師ちゃんの姿はありません。

 取り敢えず、まずは革鎧に着替えましょう。

 しかし、そろそろ装備の更新を考えるべきでしょうかね?

 魔術師ちゃんなんて、ずっと厚手のローブのままですし。

 

 着替えが済んだので部屋を出ました。

 ……おや? 魔術師ちゃんが居ましたが……何故か鋼鉄等級一党の皆さんもお揃いですね。何やってんだあいつら……。

 

「いやーこんな安くて良い宿があるなんてねー!」

「全くだ、特に羽毛のベッドが素晴らしい」

「お風呂があるのもいいですね!」

「私達も今後、ここに宿泊させて頂きます」

「わぁ! ありがとうございますっ!」

 

 どうやら彼女達も、ここを拠点にするようです。

 まあ、確かにここは良い宿ですからね。

 

「……あっ! 疾走騎……!?」

 

 こっちに気付いた魔術師ちゃんが、驚いた様子で駆け寄ってきました。

 

「ちょ、ちょっと! 兜っ! 忘れてる!」

 

 あれ? 本当ですね。

 いつも着けたまま寝てたので、装備から外れている事に気付きませんでした。

 強引に引っ張られ部屋に戻されたあと、置いてあった兜を渡されます。

 

「昨日私が外して洗ったのよ。汚れてたから……」

 

 うせやろ? 確かに昨日は血塗れだった革鎧も、綺麗になってますね。

 疾走騎士くんがお休み中に洗っておいてくれるとか、やっぱ魔術師ちゃんの……ルートを……最高やな!

 兜を被ったら二人で部屋を出ます。

 すると鋼鉄等級の皆さんに出迎えられ、改めてお礼を言われました。

 疾走騎士くんが白磁であることで逆に疑われたりしていたらしく、森人の魔術師から謝られたりもしましたが、不当な扱いなんて疾走騎士くんからすれば慣れたものです。

 だから会話イベントを発生させてロスを増やすのはやめて?

 

「この御恩は決して忘れません。我々に出来る事なら何でも言って下さい!」

 

 ん? 今何でもするって言ったよね?

 という訳で、当初の目的であった協力関係を築く事に、成功しました。

 ……でも六人部屋にしようとするのはやめろぉ!!

 固定でパーティーを組むわけではありませんからね。

 あくまでも協力関係です。

 最大の難所である牧場防衛戦に彼女達の力が必要なのです。

 それではギルドへと向かいましょう。

 黒曜の認識票の受け取りと、今日の分の依頼も、確保しなければなりませんからね。

 

 移動の間に、今後の方針についてお話します。

 ここからは経験点を中心に稼ぎ、牧場防衛戦に備えて疾走騎士くんを強化していく予定です。

 一応現時点で貯まってたポイントも、割り振っておきましょう。

 主に、盾の技能と隠密関連の技能を強化しつつ、相手の背後から奇襲しやすくなる上、不意打ち攻撃が強化される【死角移動】の技能も、取得しました。

 

 突くゥ~。

 

 ギルドへ着くと依頼の貼り出しが始まる前でしたので、先に黒曜の認識票を受け取りましょう。

 4日目にして遂に黒曜です。かなり順調なペースですし、これは記録に期待が持てますね。

 すると、ここで依頼の貼り出しが始まりました。

 依頼を探すのは魔術師ちゃんにお願いしましょう。

 

「今回はどうするの?」

 

 今回狙う依頼は、『街道に陣取る盗賊の殲滅』ですね。

 原作では、槍ニキが受注して、受付嬢に自慢してたやつです。

 疾走騎士くんと魔術師ちゃんだけでは厳しいので、早速鋼鉄等級一党に頼ることになります。

 彼女達の力量を念の為確認しておきたいのと、疾走騎士くんの対人戦スキルを上げる為です。

 何故対モンスターではなく、対人戦スキルを上げる必要があるかは、後述します。

 

「ほら、これでしょ?」

 

 うーん、このぐう有能。

 予め内容を教えておけば目的の依頼をパパパッと持ってきてくれる彼女の能力は、チャートを安定させる上でかなり役に立ちますね。

 それでは、鋼鉄一党をお誘いします。

 

「私達としても有難い申し出です」

「あーいいねぇー! 悪者退治!」

「悪漢共を懲らしめてやろうじゃないか」

「私も頑張ります!」

 

 彼女達の戒律は『善』ですので、こういった依頼なら、快く引き受けてくれます。

 その為、このタイミングで受注できる依頼のなかでは盗賊退治が丁度良いんですよね。

 

 では工房へ行き、出発の準備を整えます。

 今回購入するのはマントです。

 この盗賊退治の依頼では、疾走騎士くんには隠密行動からの奇襲を仕掛けてもらいます。

 彼が装備している鏡面のカイトシールドは、目眩ましやヘイトを高める利点もありますが、良いペンキの日だとやたら眩しくて仕方がないです。

 

 マンティコアの時は、谷の裏から登ったので発見されませんでしたが、街道では発見される可能性がかなり高くなってしまいます。

 しかし、盾ごと全身を被うマントを活用すれば、隠密モードと戦闘モードを自由に切り替えて戦えるようになり、戦術の幅が広がります。

 素材は革が良いでしょうね。布製は引っ掛けて破れることが多いので……。

 

 ……ありましたね。これとあとは……やはり魔術師ちゃんの防具ですかね?

 彼女にはせめて鎖帷子だけでも装備させたいところです。

 現状紙装甲過ぎて、被弾=死ですからね。

 

「でも流石にこれ以上着るのは色々と辛いのよね……」

 

 んじゃあローブも更新しましょう。なるべく薄いやつが良いよね?

 

「え……そ、そういうのが疾走騎士の好み?」

 

 ……いやそうではなくて(女騎士さん並感)

 たまたま近くにあったビキニアーマーを見て魔術師ちゃんが固まってしまいました。

 ムッツリ魔術師ちゃんはすぐ勘違いするんだから……。

 

「これはどうだ? 動きやすさでいえば悪くない筈だ」

 

 お! 森人魔術師さん! やはり聞くなら先人ですな! 良い装備を持ってきてくれました!

 

「ん……じゃあ着替えてくる」

 

 あくしろよ……。

 しかし、結局宿賃しか残りませんでしたね。

 

「いざとなったら私達の部屋に来る? ついでに先輩のお姉さん達が色々と教えてあげちゃうよ~?」

 

 ほんとぉ? ……と思ったら、圃人野伏ちゃんが他のメンバーに、締め上げられました。何やってんだこいつら……。

 

「疾走騎士、どう……かな?」

 

 あー、良いっすねー! 魔法使い装備故に露出が多めですが、ちゃーんと鎖帷子によって守られています。

 しかしそのせいか、若干くの一っぽい雰囲気にもなってるような? 《分影(セルフビジョン)》は分身の術だった?

 何はともあれ、これで準備万端です! 鋼鉄等級御一行さんの方はどうかな?

 

「失礼、身内が無礼を働きました。では参りましょう」

 

 向こうも大丈夫そうですね。いつの間にか自由騎士ちゃんが兜を被っています。前回での反省点を踏まえて、購入したのでしょう。

 それでは盗賊が陣取る街道へイクゾー!

 

 移動中の間、今回の盗賊退治について、説明します。

 この依頼に出てくる敵は、21人の盗賊です。

 街道に陣取って、通行人からお金をせしめようとするTDN悪人集団ですね。

 もし負けたら魔術師ちゃん達も暴行されちゃうことでしょう。ゴブリンと大差ねぇな……?

 作戦は、まず隠密モードの疾走騎士くんに奇襲させ、数を減らせるだけ減らします。

 疾走騎士くんに相手が気付いたら、自由騎士、圃人野伏、女僧侶の三人に増援に来てもらい、引きチク戦法で削りながら引き付けます。

 魔術師ちゃんと森人魔術師さんには予め隠れておいてもらい、二人が居るポイントまで盗賊達を引き付けたら、魔法の集中放火をドバーっと浴びせましょう。

 

 奇襲! 奇襲! 奇襲! って感じで……。

 

 さて、街道が見えてきましたね。それじゃあ他の皆さんには、待機しておいてもらいましょう。

 疾走騎士くんはマントを被り、道から外れた場所にある草むらや、岩に身を隠しながら接近します。

 盗賊達が屯していますので、単独で動いているヤツから始末しましょう。

 

「ん? 誰だ!」

 

 クゥ~ン……(子犬)

 

「何だ犬か……」

 

 ウッソだろお前、警戒ガバガバじゃねえか。

 じゃあ、死のうか。

 

「ぐほっ……」

 

 まずは一人。見付かったのかと焦りましたが、咄嗟の機転が功を奏しましたね。さて次は……。

 

 

 

「頭領がビンビンでいらっしゃるよ、咥えて差し上げろ」

 

 ……なにやら怪しい話し声が聞こえてきましたね。

 

「もっとしゃぶってやれよオラア!」

「気持ちいいだろオラア!」

 

 えぇ……こいつらホモかよ。

 どうやら盗賊同士で、お楽しみのようです。汚い盗賊団だなあ。

 疾走騎士くんが、別の意味でピンチな気もしますが、ここで退くわけにはいきません。

 という訳で奇襲します。俺も仲間に入れてくれよ~。

 

「ヌッ!(斬首)」

「オォン!(撲殺)」

「ホアーッ!!(刺殺)」

 

 よし! これで四人だな! 頭領らしき奴も倒せましたね。

 

「なんだこのオッサン!(驚愕)」

 

 ファッ!? バレてしまったなら仕方がないです。

 システム、戦闘モード。マントを翻し、正面突破じゃー!

 

「う、羽毛……(死亡)」

 

 五人倒した所で、他の盗賊達が集まって来ました。街道に逃げましょう。

 

「お前達の悪行もここまでだ!」

「私はやりますよぉ! やりますともぉ!」

「大丈夫ですか!?」

 

 ここで自由騎士ちゃん、圃人野伏ちゃん、女僧侶ちゃん、三人の増援が到着です。

 疾走騎士くんと自由騎士ちゃんで敵を阻み、女僧侶ちゃんと圃人野伏ちゃんの援護を受けつつ後退します。

 

「《裁きの司よ、意思のみでは果たせぬ故、どうぞ力をお分け下さい》」

「《賦活(バイタリティ)》!」

 

 おっと、ここで女僧侶ちゃんの《賦活(バイタリティ)》が、疾走騎士くんに飛んできました。

 

 《賦活(バイタリティ)》は対象の消耗を回復するという、使い所さんが満載な、便利奇跡です。

 流石僧侶だけあって、回復の専門家なのでしょうね。

 圃人野伏ちゃんの援護も素晴らしいです。回り込もうとした相手を一人ずつ的確に、射抜いています。

 自由騎士ちゃんも大丈夫そうですね。いざとなったら疾走騎士くんを盾にしていいのよ?

 

「! ……はい、貴方の心遣いに感謝します!」

 

 指定のポイントに到着したので、《聖壁(プロテクション)》を使い、盗賊達と距離を離しましょう。

 あとは隠れてた森人魔術師さんと魔術師ちゃんが、ありったけの《火矢(ファイアボルト)》を連射してくれます。ホラホラホラホラ。

 どうやら、森人魔術師さんの呪文行使は三回、限界突破(オーバーキャスト)して四~五回って所でしょうか。

 残った残党も、疾走騎士くんが処理して工事完了! 悪は滅びた!

 鋼鉄等級の皆さんは、戦力としてかなり信頼出来るものですね。下手したら青玉くらいの強さかも?

 疾走騎士くんの対人スキルも問題なく向上していますし、今回は完全にチャート通りの攻略が出来ましたね。

 んじゃ帰りましょ。

 ギルドへ戻り、依頼の報告を済ませ、報酬を受け取ります。

 

「我々は折半で構いません。実際、盗賊を討伐した数も凡そ半数ずつでしたからね」

 

 ありがとナス! という訳で、報酬は疾走騎士くん側と自由騎士ちゃん側で、それぞれ半分こになります。

 それじゃあ依頼を終えたので、鋼鉄等級の皆さんと一旦別れ、ソロ稼ぎに移りましょう。

 魔術師ちゃんは魔法を撃ちきりましたので、休ませがてら魔女さんに預け、呪文のお勉強ですね。

 牧場防衛戦に向け、新しい魔法を覚えて欲しい所さんです。

 

 それでは一人になったので、ソロ稼ぎにイク「ゴブリンか?」

 

 ……ゴブスレさんに、声を掛けられました。

 そう言えばこのタイミングだと女神官ちゃんが神殿に籠ってるので、彼もソロの状態でしたね。

 下水道に行こうかと考えていましたが、ゴブスレさんとのゴブリン周回は、ゴブスレさんだけでなく、受付嬢の評価もうまあじです。

 

 予定を変更し、ゴブスレさんのゴブリン討伐RTAに参加しましょう(やわらかチャート)

 このゴブリン討伐依頼に関しては、前回とあまり変わりませんね。男二人でゴブリン塗れになろうや……。

 くっそ単純で、最適化された巣穴潰しが繰り返されるだけなので、倍速でーす。

 

 倍速の間に、疾走騎士くんではなく、魔術師ちゃんの今後の強化予定についてでも、お話しましょうかね。

 先程魔女さんに預けた魔術師ちゃんですが、今彼女に欲しいのは、纏めて複数の敵を攻撃できる広域攻撃呪文です。

 お目当ては《突風(ブラストウィンド)》辺りでしょうか。

 範囲内の敵を吹き飛ばしつつ、ダメージを与える強力な呪文で、対象を転倒状態にすることも出来ます。

 

 そう、『転倒状態』にする事が出来るんです。

 

 転けた相手を地面に押し付ける疾走騎士くんの《聖壁(プロテクション)》にコンボを繋げることが出来るうえ、しかも複数の敵を巻き込めるとなれば、それはもう狙うしかありませんよね?

 あと、呪文以外にももう一つ攻撃方法を持たせるのも有りかなと考えています。

 候補として考えているのはクロスボウです。大した筋力も要らないので、彼女にも扱える便利な武器ですね。狙って撃てばいいだけさ!

 

 《火矢(ファイアボルト)》と併せて、射出援護に特化した構成となります。

 

 杖の持ち手側を槍にして、魔槍術師にする事も考えたのですが、彼女のステータスが足りそうに無いんですよね。

 話をしているうちに、ゴブリン討伐が終わりましたね。

 ゴブリン討伐依頼が綺麗になくなった事により、受付嬢さんもニッコリです。

 

 それじゃあゴブスレさんとも別れたので、今日はもう、お休みですね。

 

「すみません、少し宜しいでしょうか?」

 

 おや? 次は自由騎士ちゃんですね。会話イベントかな?

 微ロスですが、好感度維持の為には仕方ないので、聞いてあげましょう。

 

 

 

「貴方の戦い方を私に指南して頂けないでしょうか……!」

 

 

 

 ……止めてくださいよホントに!

 そんなのロスになっちゃうだルルォ!?

 

「私は先のゴブリン退治で、仲間を護ることすら出来ませんでした……」

「そんな私の前に貴方は現れた! これは神からの啓示(ハンドアウト)に違いありません!」

 

 

 

 …………は?

 

 

 

 おいちょっと至高神っ!? RTAの妨害は流石に違反行為なのでは!!!?

 

 

 

 ……え? 彼女の妄想?

 

 

 

 …………あああああああもうやだああああああ!!

 

 

 

 申し訳ないですが、教えることは出来ません。真似するなら勝手にして、どうぞ。

 

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」

 

 …………あれ? バグかな? 断った筈なのに感謝されちゃったよ?

 

「では早速手合わせをお願い致します! それが一番手っ取り早いですからね!」

 

 流行らせコラ! ライダー助けて! RTA壊れちゃーう!!

 

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 

 




Q.盗賊団討伐の難易度上がってない……上がってなくない?

A.盗賊団がホモ化して疾走騎士くんの貞操を守る難易度が上がっていたようですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート9 裏 前編 『自由騎士こわれる』

 鋼鉄等級一党の救出に成功したものの、消耗により気を失ってしまった疾走騎士。

 ゴブリンスレイヤーは彼を担ぎ上げたまま、魔術師の案内で宿まで運び込んだ。

 

「こんな所に宿があったんですね……」

 

 女神官は意外といった様子で宿の中を見回している。鋼鉄等級一党の彼女達も同様だ。

 宿に入るとあの圃人の女主人が駆けつけてくる。

 

「おかえりなさ──ってうわっ! 人が沢山!?」

 

 閑古鳥が鳴くこの宿に大勢の冒険者が訪問してきた為、彼女は目を白黒させて驚いている。

 しかし残念ながらここへ来たのは客としてではない。

 

「こいつを寝かせる、部屋はどこだ」

 

 無遠慮に奥へ進もうとするゴブリンスレイヤー。

 しかし女主人は彼の前で両手を広げ、ストップをかけた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 流石に返り血塗れのまま寝かせるというのは……」

「む……」

 

 今回の冒険で疾走騎士が倒したゴブリンの数は、凡そ五十匹以上にも昇る。

 もちろん彼の鎧には返り血がべっとりと付着しており、そのままベッドに寝かせれば、ベッドもまた血塗れになってしまうだろう。

 

「しょうがないわね。ほら、これでいい?」

 

 それは魔術師が発言した瞬間の出来事だった。

 なんと彼女は、既に疾走騎士が装備していた革鎧を手にしているのだ。

 そしてゴブリンスレイヤーに担がれたままの疾走騎士は服の状態になっている。

 一体どうやったのか、いつの間に、と、鋼鉄等級一党が驚愕しているが、魔術師はそれに気付く様子はない。

 

「は、はい大丈夫です。ありがとうございます」

「部屋はここ、右のベッドがそいつのだから」

 

 そして魔術師に案内されるまま、部屋へと入る。

 そこで女神官がふと、疑問に思った事を口にした。

 

「あれ?じゃあ左のベッドは?」

 

 問いに魔術師はピシリと硬直すると、少しの間を置いて小声で答えた。

 

「…………私の」

 

 それを聞いた鋼鉄等級一党に衝撃が走る。彼女達は思わず大声を上げながら魔術師へと迫った。

 

「なっ!? 同部屋ですか!?!?」

「宿に若い二人の男女……! 何も起きない筈もなくっ……!!」

「なんてけしかうらしまん!!!」

「お、お楽しみなのですか!?」

「ち、違うっ! そうだけど違う! コイツとはただの一党で同部屋なのは節約の為! ほら! ソイツさっさと寝かせるから早く出てって!!」

 

 ゴブリンスレイヤーから疾走騎士を奪った魔術師は、ベッドに疾走騎士をぶん投げた後、全員を部屋から追い出すのだった。

 

─────────────────

 

「もうっ…………」

 

 扉を強引に閉めたあと、私はため息をつく。

 ベッドに投げられた疾走騎士は、くの字に折れ曲がった状態でベッドに転がっていた。

 

「兜も汚れてるし、後で洗っといてあげましょ」 

 

 疾走騎士から兜を外すとその顔が露になる。

 といっても前回と違い、彼は眠っているので『あの目』は見えていない。

 

「コイツの目、心臓に悪いのよね……」

 

 最初に見たときは変な声が出そうになった。一体何があればあんな目になるのかしら……。

 

「……ふふっ、こうしてみると逆に気弱そうな奴なのにね」

 

 実際そうなのだろう。彼は先日、私が臆病だと言った事を気にしていた。あれは図星を突かれた人間の反応そのものだ。

 

「っと、早く出ないとまた変な事言われちゃうわね」

 

 そして私は部屋を出た。外にはゴブリンスレイヤーと女神官の姿は無く、鋼鉄等級の一党達がここの主人と話をしている。……何をしてるのかしら?

 

「四人部屋は空いていますか?」

「勿論空いてますよ! むしろ空いてない部屋が今の所一つしかないです!」

「そ、それは逆にどうかと思うが……」

 

 え……あの人達もここに泊まるつもり?

 まあ、確かに都合が良いわよね。ここ結構良いところだし。

 

「あ、戻ってきた。ゴブリンスレイヤー……だっけ? あと神官の子、あの二人はギルドに報告へ行ったよー」

 

 彼女達のメンバーの一人である圃人が私に気付くと、笑顔で手を振りながら近付いて来た。

 

「そう……」

「ところでさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「……なに?」

 

 彼女は考え込んでいる様子で腕を組みながら、足のつま先を上下させている。

 

「あの彼、疾走騎士って呼んでたけど、何者? 白磁だよね?」

 

 あぁ、アイツに興味があるのね。

 でもどうしようかしら? 正直あまり話したくは無いのだけれど。

 

「うちのメンバーの一人がさ、犯罪起こして降格された冒険者じゃないのかーって疑ってて──」

「は?」

 

 苦笑いを浮かべながら発した彼女の言葉に、私はちょっと……いや、かなりムカついた。

 だから思いっ切り睨み付けてやる。

 

「助けて貰っておいて……何よそれ」

「ご、ゴメンゴメン! 幾らなんでも失礼だよね!! あとできっつーく言っとくからさ!!」

 

 彼女は冷や汗を流しながら後退り。あーもう、何で私がこんなイラついてるのかしら。

 私はため息をつき、一旦落ち着いてから彼女に話す。

 

「……いいわ、でもアイツにも後で謝っておいて」

「それは勿論! って事はやっぱり本当に新人なんだ? ……ちょっと強すぎない?」

「まあ……ね」

 

 確かに彼女の言うことも分からなくはないのよね、私も最初は疑問に思ってたし。

 ……また詮索しに来られても面倒だし、敢えてここは教えておいたほうが良さそうね。

 

「それだけ聞ければ十分! ホントゴメンね! それじゃあ──」

「……元軍属の騎士」

「えっ?」

「人の命を助けたら騎士を辞めさせられたらしいわ。私が知ってるのはここまで。……これで満足? それじゃ私はこれで」

「あ……」

 

 私は他のメンバー達も無視してずかずかと宿屋から出る。

 今日はまだ時間がある。私一人で出来ることはないか、ギルドで探してみよう……。

 

────────────────

 

 そして宿屋へと取り残された鋼鉄等級一党。

 彼女達は先程取った部屋へ入ると、反省会を開く事にしたようなのだが……。

 

「あーもう、怒らせちゃったじゃん!」

「わ、わざわざ言わなくても良かっただろう!?」

「だから疑うのは良くないって忠告したんです。これは至高神様からの天罰ですよ」

 

 ──彼女達は荒れに荒れていた。

 圃人野伏は先程話していた内容をメンバーに伝えたのだが、それを聞いた森人魔術師は頭を抱えて唸きながら蹲ってしまい、リーダーの自由騎士に至っては白目を剥いてベッドに倒れ込んでしまった。

 

「うぐぐ……有り得るのか? こんな冒険者が……」

 

 実際に居たのだから仕方が無い。

 森人魔術師に対してはもはや手の施しようが無いと判断し、圃人野伏は肩をすくめ、女僧侶は額に手を当てて頭を横に振った。

 

「見……た……」

 

 しかしその後ろ、先程ベッドへと倒れ込んだ自由騎士が、わなわなと震えている事に気付く。

 

「ん? どしたのリーダー」

「もしかしてまだ頭が痛むのですか?」

 

 彼女は突然ベッドから飛び上がると、予想もしない言葉を口にした。

 

「見付けたわ! 私の理想の騎士を!」

「……はい?」

「たとえ名誉を捨ててでも、弱き者達に手を差し伸べる、これこそ私が求めていた騎士という存在!」

 

 祈る様に両手を握り、天を仰ぎながら目を輝かせる彼女は、完全に自分の世界へと入ってしまっている。

 それを見た圃人野伏と女僧侶の二人は唖然としていた。

 

「リーダーが壊れちゃった……」

「や、やはり頭を強く打ったせいでしょうか?」

 

 彼女はいつもなら凛としていて頼り甲斐のあるリーダーなのだ。

 それがどうしてこうなったのか、二人はただただ困惑するしかない。

 

「我が騎士よ! 今こそ私はこの身をもって、貴方の正義に報いましょう!!」

「リーダーさん!?」

「ちょっと、マズイですよ!!」

 

 とんでもない事を言いながら部屋を飛び出そうとする自由騎士。するとそれを聞いた森人魔術師がぴくりと反応し、スッと立ち上がる。

 

「そうだ、それがいい……せめてこの身で詫びることにしよう」

 

 森人魔術師は頬を赤らめながら目をぐるぐると回し、明らかに正気ではない様子だ。

 部屋を出ようとする自由騎士と森人魔術師の二人に圃人野伏がしがみつく。

 

「あーもうめちゃくちゃだよ! 仕方ない! この二人目覚めさせて! 荒療治で!!」

「わ、分かりました!」

 

 そして女僧侶は杖を手に握りしめ、目一杯振り上げると──

 

「《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)!!」

 

 ──全力で振り下ろした。

 

 

「わっ! ぴゃっ! …………な、何の音?」

 

 硬い物を思いきり叩いたような音が二回ほど宿屋内に響き渡り、別の部屋を掃除していた女主人が驚いて飛び跳ねた。

 

 

「取り乱しました」

「同じく」

 

 そして正気を取り戻した自由騎士と森人魔術師は、横に並んで正座をさせられていた。ちなみに二人の頭にはそれぞれ大きなコブが出来ている。

 

「全く! 自分だけ良い思いしようなんて、そうはいかないんだからね!」

「そう! ……って違いますよ! そんな理由で止めたんですか!?」

「当たり前じゃん! 私達は一蓮托生! ヤるときは一緒だよ!」

「死ぬときは一緒の間違いでは!?」

 

 人差し指と中指の間に親指を挟み込み、ニヤリと笑う圃人野伏に対し、顔を真っ赤にする女僧侶。

 すると正座をしていた自由騎士と森人魔術師がおもむろに立ち上がり、圃人野伏を後ろから羽交い締めにして拘束する。

 

「え……な、何?」

「あとは貴女が正気に戻る番ですね」

「おっ、そうだな」

 

 そこで圃人野伏はその意図に気付く。彼女の額から一滴の汗が頬へと伝った。

 

「は、流行らせコラ! どこ触ってんでぃ! 私は正気だってぇの!!」

 

 圃人野伏がもがくが、それはもはや無駄な抵抗だった。

 

「余計質が悪い……」

「弁解の余地は無いな、やれ」

「分かりました……《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)ッ!」

「ンアッーーー!!!」

 

 辺境の街、その路地裏にて、小気味良い打音と汚い悲鳴が響き渡ったのだった────。

 

──────────────────

 

「で、何の用よ……ゴブリンスレイヤー」

 

 ギルドでこれといった依頼を見付けられないで居た魔術師は、ゴブリンスレイヤーに声を掛けられていた。

 神官の子は見当たらない。どうやら彼だけが魔術師を待っていたらしい。

 

「これを渡す。うまく使え」

 

 すると彼が手渡してきたのは、黒い液体が入った瓶だった。

 

「これって確か」

 

 この黒い液体を被ったゴブリン達は凄まじい勢いで燃えていた。

 恐らくそういう性質を持っている液体なのだろう。

 

燃える水(ガソリン)だ」

「……これをどうして私に?」

 

 確かに私からすれば有難いが、彼からこれを貰える理由が見当もつかない。

 すると彼は俯いたまま口を開いた。

 

「俺は、奴の行いを間違いだと思わんからだ」

「間違い? ……あ」

 

 私はつい先日、全く同じ言葉を自分自身が口にしていた事に気付く。

 

「ゴブリンを殺しても何かが変わることは無い、俺はそう思っていた。しかし、奴はそれで全てが変わってしまったらしい」

「……だから、これでアイツを助けてやれって事?」

「あぁ」

 

 成る程ね、何となく分かってきたわ。

 疾走騎士はゴブリンから人を助けた結果、騎士を辞める事になったのね。

 この瓶を私に渡したのは、そんなアイツに対して何かしら思うところがあるからってところかしら。

 

「分かったわ、有り難く貰っとく」

 

 黒い液体の入った瓶を受け取ると、ゴブリンスレイヤーは場を後にしようとする。

 

「用はそれだけだ」

「あ、ちょっと待って」

 

 私は背を向けたゴブリンスレイヤーを呼び止めた。

 

「……何だ」

「ここに牛乳の配送してる牧場ってどこか知らない? すっごく美味しかったのよ」

 

 それなりに長い間ここへ在籍している彼なら知っているだろうかと考え聞いてみた質問だったが、意外な収穫が得られたというのは……また別のお話である。

 




Q.魔術師ちゃんの防具を奪う技能を戦闘で活用すれば、大幅なタイム短縮を図れるのでは?

A.確認したところ疾走騎士くんにしか効果を発揮しない技能だったので、寧ろ弊害になるかもしれませんね(憤慨)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート9 裏 中編 『魔術師ちゃんと水着みたいなアレ』

「ふあぁ……よく寝たわ」

 

 昨日、私はゴブリンスレイヤーから燃える水(ガソリン)を貰った後、宿屋へ戻って眠る事にした。

 一応寝る前に疾走騎士の防具も軽く洗っておいたけど……どうなのかしら? やらないよりはマシよね?

 

「……まだ寝てるじゃない。大丈夫かしら、流石にこのまま寝たきりって訳じゃないわよね?」

 

 疾走騎士の方を見るが、未だ目覚める気配はない。

 いっそのこと強引に起こしてみるかと考えてみたが、流石に悪い気もする。

 

「あの一党、確か僧侶が居たわよね……?」

 

 そこで私は救助した鋼鉄等級一党の中に、回復職である僧侶が居た事を思い出した。

 昨日の事もあって少し気まずいようにも感じるが、頼んで治療の奇跡を使ってもらおうかと思案する。

 そもそもこうなったのも彼女達が原因なのだから、それくらい頼んでも問題は無い筈だ。

 

「四の五の言ってられないわね、そうしましょう」

 

 私はいつものローブへと手早く着替え、部屋を出る。

 すると目当ての鋼鉄等級一党がカウンターで宿の主人と話をしているのが見えた。

 

「昨日、硬いものを叩いたような大きい音が鳴ったんですけど……御存知ありませんか?」

「ギクッ! ……さ、さぁ? 私達は知らないよね?」

「あ、あぁ! 身に覚えはないな」

「そ、そうですね! きっと子供が近くで遊んでたんですよ!」

「えぇ、困ったものですね」

「うーん、やはりそうなんでしょうか? 突然すぱこーん! って鳴ったんですよ! それも三回ですよ三回。ビックリしちゃいました」

 

 身に覚えがないって明らかに嘘でしょあれ、顔が引きつってるじゃない。リアクションが分かりやすすぎるでしょ。

 

「ところで当宿の泊まり心地は如何でしたか!? お客さんは少ないですが、宿としての自信はあるんですよ!」

 

 あ、話題が変わってホッとしてるわね。

 全く、一体なにをやってたんだか……。

 

「いやーこんな安くて良い宿があるなんてねー!」

「全くだ、特に羽毛のベッドが素晴らしい」

「お風呂があるのもいいですね!」

「私達も今後、ここに宿泊させて頂きます」

「わぁ! ありがとうございますっ!」

 

 えぇ……これからもここに泊まるつもり? 何か嫌な予感がするんだけれど?

 しかしそこで私は、背後に人の気配がある事に気付く。

 

「……あっ! 疾走騎…!?」

 

 振り返ると、そこに居たのは疾走騎士だった。

 しかし、彼の姿を見た私の心臓は大きく跳ねる。彼がいつもの兜を被っていないのだ。

 

「ちょ、ちょっと! 兜っ! 忘れてる!」

 

 私は彼の手を掴み部屋へ引っ張り込むと、置いてあった兜を取って手渡した。

 

「昨日私が外して洗ったのよ。汚れてたから……」

 

 彼は兜を被ると、そこでようやく口を開く。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

 ……やっぱり礼を言われるのは恥ずかしいわね。

 さっきこいつの目を見たせいでまだ鼓動が早いままだし、ホント心臓に悪いやつだわ。

 

「い、良いわよ別に。それより、もう心配は要らないのよね?」

「はい」

 

 腕を組み、平静を装いながら問いかけると、彼は頷いて返事をした。

 相変わらず淡々とした会話だけれど、それがどこか心地よく感じてしまい、思わず笑みが溢れる。

 

「そ、じゃあ行きましょ」

 

 そして部屋の扉を開ける。

 すると目の前には鋼鉄等級の一党が横並びで待ち構えていた。

 

「うわっ!? な、何よあんた達!?」

「すまなかった!!」

 

 驚愕する私を余所に、開口一番メンバーの一人である森人がこちらに頭を下げて謝罪してきた。

 

「昨日は善意で私達を助けてくれたにも拘わらず、無礼を働いてしまった! どうか許してくれ!」

 

 あぁ、昨日疾走騎士が降格された冒険者じゃあないかって疑ってた件かしら?

 正直ちょっと腹が立ったけど、まあ私が口を挟むのはおかしいわよね。

 ここは疾走騎士に判断を任せましょ。

 

「あ、いいですよ」

 

 か、軽いわね。

 それはそれで……ちょっと私が納得いかないんだけれど?

 

「警戒心が強いのは、冒険者として当たり前ですからね。森人なら尚更です。寧ろ素晴らしい事だと思いますよ?」

「ほ、本当か!?」

 

 疾走騎士の言葉に彼女達全員が安堵している様子だ。

 そして頭目の自由騎士が一歩前へ出る。

 自らの胸に手を当てて、疾走騎士を真っ直ぐに見詰めながら発した彼女の言葉は、私を更に驚かせるものだった。

 

「この御恩は決して忘れません、我々に出来る事なら何でも仰って下さい!」

 

 な、何でも!? ……い、いやいや、これは私と同じで変な意味じゃあないはず。

 私達って言ってるし、何もコイツら全員がそのつもりな訳ないじゃない。

 ……ないわよね? 目を輝かせて疾走騎士を見てるのがすっごく怖いのだけれど?

 

「それでしたら……もし良ければ、自分達と協力関係を結んでもらえませんか?」

 

 人差し指を立てながら提案する疾走騎士に、彼女達全員が口を半分開けてポカンとする。

 

「いざという時に頼れる人が居れば、とても心強いですからね」

 

 ……成る程ね、確かに今までの冒険では疾走騎士が無理をしてばかり。

 私も力を付けてきてはいるけれど、一党が二人だけだとどうしても限界があるし、頼れるあてがあれば受注出来る依頼の幅も広がるものね。

 

「す、少し待っていて下さい。話し合ってみます」

 

 すると彼女達は少し距離を離し、こそこそとメンバー同士で相談を始めた。

 

「一応これが無難な所だと思いますが……どうですか?」

「ま、下手に無茶な要求するよりは良いんじゃないかしら?」

 

 待っている間に疾走騎士は私にも意見を求めてきたが、私としても異論はない。小さくため息をつき彼の意見に賛同することにした。

 

 

「ん? 今何でもするって言ったよね作戦は失敗ね」

「おっかしーなー、うまくいくと思ったんだけど……」

「やはり言い方が回りくどかったのだろう」

「ですが協力関係という事ですし、一歩前進と考えて良いのではないでしょうか?」

「と、なると答えは一つね……」

 

「「「「私共一同、末永くよろしくお願い致します!!!!」」」」

 

 やっぱり今からでも反対した方が良いのかもしれない。

 相談していた内容も思いっきり聞こえていたし、その内容があまりにも不穏過ぎる。

 先程の判断が致命的な失敗(ファンブル)で無いことを、心の中で祈るばかりだ。

 

「六人部屋を用意した方が良いのでしょうか? 六人用のベッドは今から発注するのでお時間が掛かりますが……」

「しなくて良い!!」

 

 横で聞いていた女主人がまたもやいらぬ気を利かせようとして来たので、全力で阻止しておいた。

 

───────────────

 

 

 

「街道に陣取る盗賊の殲滅……ね、これも宣託(ハンドアウト)?」

「えぇ、まあそうですね」

 

 その後、疾走騎士と魔術師の二人はギルドで黒曜の認識票を受け取り、次の依頼を受注した。

 怪物を相手にした今までの依頼とは異なり、今回の依頼討伐目標は盗賊、つまり同じ人間である。

 疾走騎士が鋼鉄等級一党との合同で、この依頼を受注する事を提案し、彼女達もそれを了承。準備を整えるため、まずは工房へ向かうこととなった。

 

「そんなポンポンと啓示送られてアンタも大変よね。よっぽど気に入られてるのかしら?」

「それは……どうなんでしょうね」

 

 魔術師の問いを、どこかばつが悪そうにはぐらかす疾走騎士。

 一方後ろから着いてきていた鋼鉄等級一党、その頭目である自由騎士が二人の会話を聞いた途端、再び目をキラキラと輝かせだした。

 

宣託(ハンドアウト)……!」

 

 自分達を救った彼が宣託(ハンドアウト)を受けて行動していると聞いた自由騎士は、輝かせた目を疾走騎士に対して向けている。

 そんな彼女を見た他のメンバー達はお互いに見合ってから頷き、一つの結論を導き出した。

 

「やっぱり壊れてるじゃないか……」

 

 森人魔術師の呟きは、自分の世界に入ってしまった自由騎士には、届きそうになかった。

 

 そして工房に着くと、まず疾走騎士がマントを購入し、その身に纏う。

 彼が選んだのは深緑色に塗られた革のマントだ。

 

「ほう、森や草原で隠れるには最適だな」

 

 彼の衣装を見て森人魔術師が感心したように呟く。

 

「自分の盾は目立ちますからね。相手が人間なら、こういった物も必要かと思いまして」

 

 彼が持つ盾ごとマントに覆われるので、印象もかなり変わってしまうが、どうやらそれが目的のようだ。

 

「そうだ、鎖帷子とか着込むのはどうですか? そのローブだけでは身を守れないでしょう?」

 

 並べられた防具を眺めている魔術師に、疾走騎士が声を掛ける。

 彼女が今装備しているローブは厚めの布で作られた物だが、その防御力はあまりにも低く、冒険者として最低限の物と言っても過言ではないだろう。

 

「でも流石にこれ以上着るのは色々と辛いのよね……」

 

 そして魔術師自身も今の装備に不安を感じていた。

 しかしそれは防御力の面ではなく、動き辛さ、そして暑さによる体力の消耗などと言った面での問題だ。

 これ以上装備を増やせば余計にバテやすくなるのは目に見えていた。

 

「それならそちらも新しく買い換えましょう。なるべく薄い物が良いですかね?」

 

「え……そ、そういうのが疾走騎士の好み?」

 

 疾走騎士の言葉を耳にした魔術師の顔は真っ赤になった。

 なぜなら疾走騎士と魔術師の一番近くには、薄くて軽い……まるで水着のような防具……と言って良いのかも分からない物が飾られているからだ。

 しかし決して疾走騎士はそれを指し示した訳ではなく、彼はただ、自らに与えられた『なるべく薄いやつ』という指示通りに発言しただけに過ぎない。

 

 しかし魔術師はごくりと唾をのみ、息を荒くしながらその防具へ手を伸ばす──。

 

「これはどうだ? 動きやすさでいえば悪くない筈だ」

 

 ──が、そこへ森人の魔術師が別の防具を持ってきて疾走騎士に手渡した。

 彼女が持ってきた防具は胸元に大きな隙間があり、他にも肩から脇にかけて露出してしまうような部分がある。

 しかし下はスカートではなく、裾に足を通すズボンタイプであり、これはもはやローブとは言い難い。

 とはいえ、その形状故に動きの制限は一切無く、今回の要望を全て満たす代物である事に違いはなかった。

 

「かなり動きやすそうですね。良いと思いますが……どうですか?」

 

 疾走騎士はそれと鎖帷子も加え、二つの防具を魔術師に差し出す。

 魔術師は安心したような、しかし微かに残念そうな表情を見せたが、頷いてそれを受け取った。

 

「ん……じゃあ着替えてくる」

 

 魔術師は防具を試着する為にあるスペースへと入っていった。

 ちなみに工房では装備を試着できる。

 サイズが合わなかったり、思ったより動き辛かったりといった問題を後で発生させない為だ。

 

 疾走騎士は魔術師を見送ったあと、魔術師へ渡した防具二つの値段を確認する。

 

「……ギリギリ宿代が残る程度ですね」

 

 先程買ったマントは革製ではあるものの、殆ど加工に手間が掛かっていない為、そこまで高価な物ではない。

 しかし魔術師に渡した物はそうではなかったらしく、マンティコア討伐の稼ぎを殆ど吹き飛ばす程の物だった。

 

 すると、自身の所持金と防具の値段を見比べていた疾走騎士に対して圃人野伏が声を掛ける。

 

「いざとなったら私達の部屋に来る? ついでに先輩のお姉さん達が色々と教えてあげちゃうよ~?」

 

 圃人野伏は口をまるで猫のようにして不敵な笑みを浮かべながら疾走騎士に寄りかかった。

 しかしその瞬間、彼女は兜を被った自由騎士に耳を摘ままれ、疾走騎士から引き離される。

 

「流石圃人、油断も隙もないわね……」

「ちょっ! 痛たたたた! リーダー待って! 耳がのびちゃう! 森人になっちゃう!」

「そんな事で森人になられてたまるか!」

「色々って、どういう意味なんでしょうね? 私達にも教えてもらえますか?」

 

 一党メンバーの手により工房の隅へと連れていかれた圃人野伏は、滝のように汗を流しながら種族柄小さめであるその身を更に縮こませる。

 

「前回の反省を踏まえて新しく兜を買ったのだけれど、頭部をキチンと守れるか不安だったの。丁度良かったわ」

「ちょ、丁度良いとは……?」

 

 自由騎士が被っている兜は顔が隠れるタイプではない。

 視界を遮ってしまえば状況の把握が遅れるかもしれないと考えての事だろう。

 しかし頭はキチンと保護されており、スリングの投石を受けてもびくともしない程度には頑丈そうだ。

 

「これで大丈夫なら、問題無しって事ね」

「……ま、まさか」

 

 そんな兜を被った自由騎士は、圃人野伏の頭を両手で掴むと自身の目の前でガッチリと固定した。

 

「暴れないでよ……暴れないで……」

「り、リーダー許して! そっちの兜が大丈夫でも私の頭が壊れちゃーう!」

 

 圃人野伏は手足をバタつかせるが、一切抜け出せる様子はない。

 最早彼女には絶望しか残されていないのだった。

 

「スゥー……《聖撃(ホーリー・スマイト)》(頭突き)ッ!!」

「にゃー!!!」

 

 工房に鈍い打音と汚い悲鳴が響き渡った──。

 

 

─────────────────

 

 

「疾走騎士、どう……かな?」

「あぁ、良いですね」

 

 防具の装着を終えた私は疾走騎士の下へ戻り、意見を求めた。

 彼はうんうんと頷いて満足気。とはいえそれが見た目ではなく性能面での話だということは察しがつく。

 師匠の装備に比べて、肌を露出している面積は引けを取らないだろう。

 しかしその露出している部分も鎖帷子に覆われている為、防御力に関しては見た目以上に期待が持てる。

 胸元が開けてるお陰で前みたいに蒸れる事もなさそうだし、機能面で言えば正直凄く良い。

 サイズもぴったりだし、スカートじゃなくてズボンになってるのが動きやすいわね。

 ただ全体的にぴったり過ぎて体のラインがそのまま分かってしまうのはちょっと恥ずかしいかも……。

 

 まあ、さっき飾られてた危ない水着のような防具に比べれば……全然普通よね?

 

「でもこれじゃあ斥候とかに間違えられないかしら?」

 

 今私が着ている装備は身軽さを重視しながら防御力も確保するため、結果として魔術師には見えないデザインになってしまっている。

 すると疾走騎士が頭を傾げながら答えた。

 

「それで良いと思いますが……」

「え? ど、どうして?」

 

 彼の意外な返答に私は戸惑った。

 もしかして魔術師の格好が似合わなかったとか、そういう? だとしたらちょっと……いや結構ショックかも……。

 

「魔術師って率先して狙われてしまう役職なのに、自分は魔術師ですってアピールする必要は無いじゃないですか」

「!」

 

 た、確かに……それは盲点だったわ。

 いや本当にそうよね。神官とかと違って教えがあるわけでもないし、それっぽい装備に拘る必要はないじゃない。

 

「……ふふっ、アンタってやっぱり変わってるわね」

「そうですか?」

「そうなのよ。でも……それが良い所よね」

 

 失敗ばっかりで、不幸な目にばっかりあって、それでも色んな事を考えて……頑張ってる。

 だから私はそんなコイツに惹かれていて……放ってはおけないのだろう。

 

「失礼、身内が無礼を働きました。では参りましょう」

 

 するとそこへ鋼鉄等級の一党も戻ってきた。

 無礼? 私が着替えてる間に何があったのか聞きたい気もしたけれど、頭に大きなコブを作った圃人が頭目の彼女に担がれているのを見て、私はため息をつくだけに留める事にした。

 

 そして、私達は盗賊退治へと赴くのだった──……。

 




Q.装備によって役職をアピールするメリットは無いのですか?

A.不足している役職を求めている一党から誘われやすくなるというメリットはあると思います。その点魔術師ちゃんは他の一党に行くつもりは無いみたいなので……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート9 裏 後編 『賽子』

 依頼により盗賊退治に赴く事となった疾走騎士達。

 彼等は今回の作戦を話し合いながら、盗賊達が陣取っている街道へと向かっていた。

 

 依頼の情報によれば、盗賊達は街道を通りがかった者達に襲い掛かり、金品を奪うのだという。

 その人数もハッキリと分かってはいないが、恐らく二十人程度だという話だ。

 

「で、どう攻めるつもりなの? 相手は街道で待ち伏せしてるんでしょ?」

「もちろん普通に攻めるつもりはありません。不意を突きます」

 

 魔術師の問いに疾走騎士が答えると、同じ前衛として隣を歩く自由騎士が首を傾げる。

 

「ですが、この街道でどうやって不意を突くのですか?」

 

 街から街へと繋ぐこの一本道は広く、見張らしも良い。普通に接近すれば間違いなく発見され、逆にこちら側が襲われる事になるだろう。

 

「街道から少し逸れ、草むらや岩に身を隠しながら接近します」

 

 疾走騎士はそう言うと、マントでその身を覆い隠す。

 街道から逸れてしまえば周囲には人の腰程まである草が生い茂っている。

 深緑色に染められたマントは草むらと同化する為、発見するのはかなり困難だろう。

 ……しかし、それが可能なのは疾走騎士一人だけだ。

 

「……アンタ、まさか自分だけで斬り込むつもりじゃあないでしょうね」

 

 疾走騎士の意図を察した魔術師が、鋭い目付きで睨みつける。

 しかしそれに対し疾走騎士は──。

 

「単騎でも敗率は殆ど有りません」

 

 抑揚の無い声で自信満々に言い放つ。

 その返答を聞いた魔術師は、また一人で無茶をやるつもりなのかと頭を抱えたくなった。

 

「認められません。あまりにも危険過ぎます」

 

 そこで自由騎士は疾走騎士の案を断固拒否する構えを取る。

 どうやら彼女は正義を担う騎士として、疾走騎士を犠牲にするような方法は認められないようだ。

 

「まあまあ、話は最後まで聞いてください」

 

 しかし、疾走騎士には更なる策略があった。

 彼の示した作戦はこうだ。

 まず疾走騎士が単独で盗賊達に対し奇襲を仕掛け、相手に気付かれた所で直ぐ様撤退。

 そこへ鋼鉄等級一党のうち、森人魔術師を除いた三人が合流し、盗賊達と交戦しつつ誘き寄せ、予め待ち伏せをさせていた呪文使い二人が不意を突き、魔法の集中放火を浴びせ、致命的な打撃を与えるというもの。

 しかし疾走騎士が危険な役割であることに変わりはなく、鋼鉄等級一党は未だ納得がいっていない様子だった。

 すると、終始考え込みながら話を聞いていた魔術師が問い掛ける。

 

「無茶はしないのよね? 疾走騎士」

「ハイ、そのつもりです」

 

 歩みを止めず進み続ける疾走騎士。その横へ魔術師が並ぶと、兜に隠れた彼の目を覗き込み、そして溜め息をついた。

 

「それなら良いわ。じゃあ……行くわよ」

 

 状況を眺めていた自由騎士が、魔術師にこっそりと話しかける。

 

「良いのですか?」

「他に作戦は思い付かないでしょ? これ以上は時間をロスするだけだわ」

 

 その言葉に自由騎士は黙り込んだ。しかし彼女は知らないだろうが、魔術師からすれば疾走騎士が話をしてくれるだけまだ良い傾向なのだ。

 あとはこちらが全力でサポートしてやればいい、魔術師はそう結論付けたのである。

 

「ただ、もしアイツが無茶しようとしたら無理矢理にでも止めようと思うの。良いかしら?」

「成る程、わかりました」

 

 自由騎士にとっても、後輩である疾走騎士に負担を強いるのは本意ではない。彼女は魔術師の提案に同意した。

 そこで疾走騎士が立ち止まり、振り返る。

 

「そろそろ盗賊が居るポイントに到着します。呪文使いのお二人はここで待機を」

「わかったわ」

「あぁ、任せておけ」

 

 二人が街道沿いにあったくぼみに身を隠したあと、疾走騎士は他のメンバーと共に警戒しながら先へと進む。

 すると圃人野伏が何かに気付いた様子で、近くにあった木に登り目を凝らすと、街道の先に一人の男を発見した。

 腰には剣が差してあり、周囲の様子を伺っているところを見ても、おそらくあれがここで待ち伏せをしている盗賊だろう。

 

「それは見張りでしょうね。近くに他の仲間も隠れているはずです。こちらが発見された様子は?」

「今のところは大丈夫かな。盗賊如きの目には負けないよ」

 

 疾走騎士が圃人野伏の登った木を見上げる。

 彼女は斥候として優れた技能を持っているようで、相手に気付かれない範囲から索敵を行う事も容易らしい。

 

「わかりました。では当初の予定通り行きましょう」

「アタシも着いてこうか?」

 

 圃人野伏が木の枝に足を掛け、逆さまにぶら下がる。

 

「いえ、貴女はそこから監視を続けて下さい。その目が届いているのであれば、自分も安心して動くことが出来ます」

 

 小柄である圃人野伏なら、この草むらに身を隠しながら疾走騎士に同行することも可能だろう。

 しかし彼女の職は野伏であり、接近する事自体のメリットが少ない。離れたこの位置から状況の把握に努めてもらうのが最善だと疾走騎士は考えていた。

 

「オッケー! まっかせて!」

 

 圃人野伏が逆さの状態から起き上がり、盗賊達に目を向ける。

 

「では、奴等を引き付けて来ます」

「御武運を」

「決して無理はしないで下さいね」

 

 疾走騎士が草むらに足を踏み入れる。自由騎士と女僧侶は彼の無事を祈りながら見送るのだった。

 

─────────────── 

 

「ま~だ時間掛かりそうなのかな~?」

「大丈夫でしょうか……やはり私達も向かった方が良いのでは?」

「……もう少し待って、動きがなければ突入します」

 

 私達は先程の疾走騎士の作戦に従い、盗賊達が監視できるギリギリの距離で待機していた。

 撤退してきた彼と合流する手筈なのだが、暫く待っても未だ盗賊達に動きはみられない。時間の経過と共に、私達の不安も大きくなってくる。

 もしかすると捕まったのかも……そんな考えが頭をよぎった時だった。

 

「リーダー!来たよ!」

 

 疾走騎士が街道に飛び出し、盗賊達を引き連れこちらへと向かってくる。

 いくら彼でもこの広い場所であの数を相手取る事は不可能だろう。

 

「出ます! 後に続いてください!」

 

 私は先頭に立ち、逃げてきた彼と合流し盗賊達へと剣を向けた。

 

「お前達の悪行もここまでだ!」

「私はやりますよぉ! やりますともぉ!」

「大丈夫ですか!?」

 

 圃人野伏が矢を放ち、盗賊の一人を撃ち抜く。続いて女僧侶は疾走騎士に奇跡を使い、彼の消耗を回復させたようだ。

 そして疾走騎士と共に前衛に立った私は、盗賊達を相手取りながら徐々に後退。

 予定通り、決して悟られないよう適度に剣を交えながら盗賊達を誘き寄せる。

 

 隣に目を向けると、彼は盗賊が振り下ろした剣を片側の盾で受け流しながら、反対に持った盾の刃で盗賊の首を貫き、致命の一撃を与えていた。

 一切の迷いがない流れるような動作、私は彼の頼もしさに感銘を受けた。

 

 私の一党は前衛が私しかおらず、私自身をカバー出来る存在は居なかった。それはつまり、私が倒れる事は一党の崩壊を意味している。

 事実前回の冒険ではそうなってしまった。彼が居なければ私達はあのゴブリン達に辱められ、殺されていた事だろう。

 

 しかし、今私の隣にはもう一人の前衛が居る。

 それがどれ程心強いことか、私はこの時初めて知ることが出来た。

 

「いざという時は自分を盾にしてくださいね」

「! ……はい、貴方の心遣いに感謝します!」

 

 私はこの瞬間、彼の言葉によって自らの心に力強い何かが満たされていくのを感じていた。

 ああ……やはり貴方は──。

 

 

───────────────

 

 

「来たぞ、備えるんだ」

「……ようやくね」

 

 疾走騎士達が盗賊と交戦しつつ、こちらへと向かってきているのが見える。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》──……」

 

 私は《火矢(ファイアボルト)》の詠唱状態を保持し、射出のタイミングを待った。

 すると疾走騎士が私達の存在を確認し、《聖壁(プロテクション)》の奇跡を発動させる。

 盗賊達は不可視の壁に阻まれ、何が起こったのかも分からずに、すし詰めの状態になった。それに対し私達は《火矢(ファイアボルト)》を放つ。

 

「……《ラディウス(射出)》ッッ!!」

 

 森人魔術師もこちらのタイミングに合わせて行使したようだ。盗賊達は炎に包まれ悲鳴を上げる。

 

「ボサッとするな! 二の矢だ!」

「わ、分かってる!」

 

 隣に居た森人魔術師に檄を飛ばされ、私は再び呪文の詠唱を始めた。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》 《ラディウス(射出)》!」

 

 更に撃ち出される《火矢(ファイアボルト)》をまともに受けた盗賊達は、その殆どが炎に呑まれ倒れていく。

 残ったのは僅か二~三人。それも疾走騎士が討ち取り、その場に居た盗賊達全員を討伐することが出来た。

 

「終わった……のよ、ね?」

「はい、恐らくは」

 

 残ったのは焼け焦げた死体の山。人が焼ける臭いに不快さを覚えて鼻を押さえる。

 

「いや~、なんかあっさりだったな~」

「こちらも隠れて魔法を撃ってただけだぞ」

「私は奇跡をあの方に使って、後ろに付いていたくらいですね」

「それだけ見事な策だったと言うことね」

 

 鋼鉄等級の一党を見ると彼女達は笑顔だったが、私の手は震えていた。

 ……いや、手だけではない。足もだ。

 

「お疲れ様でした。それでは帰りましょう」

 

 全員が揃って帰路に着く。私は震える足に力を込めて、疾走騎士の傍へと駆け寄った。

 

「初めて人を殺したわ……」

「自分もですよ」

「! そう……よね……」

 

 相手が盗賊だとしても、同じ人間である事に違いはない。

 先程の人が焼ける臭いも、まだ鼻に残っているような気がする。

 今まで感じた事の無い不快な感覚が、私の胸の中で渦巻いていた。

 

「……変わりませんよ」

「え?」

 

 そんな私を見かねたのか、ぽつりと疾走騎士が呟いた。

 

「殺して奪う、彼らのやっていたことはゴブリンと変わりません」

「……そっか」

 

 そう考えた方が良いんでしょうね……これからも盗賊退治なんて幾らでもやる事になるでしょうし。

 今回もコイツと生きて帰れた。それだけで十分よね。

 

 

──────────────

 

 

 そして疾走騎士達はギルドへと戻り、報酬を受け取った。

 

「我々は折半で構いません。実際、盗賊を討伐した数も凡そ半数ずつでしたからね」

「というか、盗賊達の親玉も先に倒してただなんてさあ? 道理で遅いと思ったよ」

「上手く奴等を出し抜いたという訳か。流石だな」

「疲れているなら仰って下さい? また《賦活(バイタリティ)》を使いますので」

「ありがとうございます。そちらの一党は、剣術、狙撃、魔法、奇跡、それぞれの特技がとても高いレベルに纏まっているように感じました。とても頼もしかったですよ」

 

 鋼鉄等級に素直な称賛を送る疾走騎士。

 彼女達はその言葉にそれぞれの反応を見せる。

 

「ほ、ほんとぉ? でへへへへ」

「ふっ、当然だ。寧ろ私の全力はあんな物ではないぞ?」

「私の奇跡が助けになれたようで良かったです!」

「貴方の方こそ、見事な戦い振りでした」

 

 右手を頭の後ろに回し気恥ずかしそうにする圃人野伏。腕を組んで微笑む森人魔術師。杖を手に満面の笑みを浮かべる女僧侶。そして疾走騎士に対して称賛を返す自由騎士。

 彼女達はそれぞれが鋼鉄等級相応の……いや、それ以上の実力を持っていた。

 前回彼女達が危機に陥ったのは、ただ単に運が悪かっただけなのだろう。

 

「また困った時には声を掛けさせて頂いても構いませんか?」

 

 疾走騎士の問いに自由騎士は頷いて、自らの手を差し出した。

 それが何を意味するのか察した疾走騎士は、その手を握る。

 

「勿論です。我々がお力添え出来る事があるのでしたら、いつ何時でも駆け付けましょう」

 

 二人の手は、まるで互いの絆を現すかのように繋がれたのだった。

 

 そして鋼鉄等級一党と別れた後、疾走騎士と魔術師は次の予定について話し合う。

 

「今日の魔法は悪いけど打ち止めよ。どうすればいい?」

「また呪文を学んで頂きたいのですが、構いませんか?」

「必要なんでしょ? 何でも言いなさい」

 

 そして二人がギルドに佇んで煙管を吸っている魔女を見付けると、彼女もこちらに気付いたようで、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「ふふ また かし ら?」

 

 どうやら魔女は疾走騎士達が来た理由を既に察しているようだ。

 

「はい、お願い出来ますか?」

 

 すると魔女が煙管を深く吸い、疾走騎士に白い煙を吹き掛ける。

 疾走騎士の周りに甘い香りが纏わり付いた。

 

「……う、吸いすぎると酔いそうですね」

 

 疾走騎士は兜の上から口の辺りを腕で押さえると、それを見て魔女は持っていた煙管をくるっと半回転させ、疾走騎士へ差し出した。

 

「吸って みる?」

「えっ!?」

 

 突然の魔女の言葉に、驚いて声を上げたのは魔術師だ。

 魔女が差し出した煙管を疾走騎士が吸えば、間接的な口付けになってしまう事に気付いたのだろう。

 

「冗談 よ?」

「あ……ぅ……」

 

 魔女は煙管を再び半回転。

 どうやら彼女の行動は魔術師をからかうためだったようだ。

 顔を赤くして俯いた魔術師を見て、魔女は微笑みながら頷いた。

 

「いい わ よ? ただ ちょっと高くなる かも?」

「大丈夫です。前回が安すぎました」

 

 疾走騎士の返答に満足した魔女は、近くにあったテーブルの席へと座る。

 

「じゃあ はじめましょ?」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 魔術師が魔女の向かい側の席に着くのを見届け、疾走騎士は次の依頼を受けるためにその場を後にした。

 

 そして受けれそうな依頼がないか探すため、掲示板の前へとやって来ると、そこへ一人の男が歩み寄る。

 

「ゴブリンか?」

「! ……ゴブリンスレイヤーさん」

 

 疾走騎士が振り返ると、そこに居たのは薄汚れた鉄兜と革鎧を身に着けた銀等級の冒険者、ゴブリンスレイヤーだった。

 

「違うのなら構わんが」

「いや、丁度次の依頼を探していた所です。行けますよ」

「そうか」

 

 言葉を飾ることに意味はないとばかりに、早速二人はギルドから出てゴブリン退治へと向かう。

 

「神官の彼女とは別行動ですか?」

「神殿に籠っている。暫くは単独(ソロ)だ」

「成る程」

 

 そして、ゴブリンの巣に正面から足を踏み入れた二人は前に進みつつ、目についたゴブリンを叩き潰していく疾走騎士と、背後や横穴からの奇襲を警戒するゴブリンスレイヤーに分かれ、ゴブリン達を駆逐していく。

 

「十……気になっていた事がある」

「?」

 

 ゴブリン達が横穴を掘り挟み撃ちを仕掛けるも、彼等にとってはなんの問題も無かった。

 二人は互いに背中合わせに武器を構える。

 あとは……目の前から来るゴブリンを殺すだけだ。

 

「お前は賽子を振らない」

「……それはお互い様では?」

 

 一匹、また一匹と、二人が刃を振るい、ゴブリン達の命を狩り取っていく。

 

「十三……俺はあくまでも練習によるものだ。お前は自らの動作一つ一つにパターンを作り、それを実行する事だけに専念しているように見える」

 

 ゴブリンスレイヤーが剣でゴブリンの首を斬り裂くと、別のゴブリンがここぞとばかりに手斧を振るう。

 しかしそれも容易く盾で弾き、ゴブリンの心臓を剣の切っ先で貫いた。

 

「確かに……斬る、払う、殴る、突く。他にもありますが、自分は基本的な動作をタイミングよく用いているだけです」

 

 その反対側では槍持ちのゴブリンが穂先を疾走騎士へと突き出した。

 それに対し疾走騎士は左手に持った盾を正面から叩きつけ、槍ごとゴブリンを弾き返すと右手の盾を縦に持ち、縁の刃を振り下ろし、まず一匹。

 そこへ三匹程のゴブリンが飛び掛かるが、彼が体を捻り、遠心力を用いて盾を薙ぎ払うと、纏めて上下に両断された。

 

「人は息をするのに失敗をしませんからね」

「……違いない」

 

 何かやると決めてぶん回した時点でてめえの勝ち。ゴブリンスレイヤーは自らに戦い方を教えてくれた圃人の老人が言っていた言葉を思い出す。

 

「なら……息をするように、ゴブリンを殺せるようになると思うか?」

「それは……どうでしょう? 状況は常に変わってきますからね」

「あぁ」

 

 ゴブリンの数、装備、地形、ありとあらゆる要素が絡み、最善の方法は常に変わってくる。

 疾走騎士の様に正面から押し潰す戦い方でもなければ、それは難しいだろう。

 

「一つ一つに対応するというだけであれば、それ程難しい事ではないのですが……」

「そうか」

 

 その場に居たゴブリンを全て殺し終わると、二人は再び奥へと歩み出す。

 

「それこそ、『終にゴブリンは滅びた』とでも記してしまえばいいのでしょうがね……」

「? 何の話だ」

「こちらの話です。……いや、『あちら側の話』かもしれません」

 

 要領を得ない疾走騎士の言葉にゴブリンスレイヤーは頭を傾げるが、恐らくゴブリンとは関係のない話だとだけ理解し、再びゴブリンへ対する警戒へと集中する。

 

「儘ならないものだ。この世界は……」

 

 諦めるように、しかし抗議するかのように疾走騎士が小さく呟いた言葉は、闇の中へと溶けていった──。

 

 

───────────────

 

 

「では、ひとまずお疲れ様でした!」

 

 依頼を終えたゴブリンスレイヤーと疾走騎士に対し、受付嬢が労いの言葉と共に頭を下げる。

 

「やはり一人よりお二人の方が、こちらも安心出来ますからね」

「……そうか」

「と言うわけで疾走騎士さん、今後もよろしくお願いしますね?」

 

 いつもの営業スマイルではなく、心からの笑顔を浮かべる受付嬢。

 彼女はいつもゴブリンスレイヤーに肝を冷やされている人物の一人だ。

 疾走騎士という壁役が居れば、ゴブリンスレイヤーの負担も相応に軽くなるだろう。

 

 それに、いつも女の子と二人っきりというのは受付嬢にとって、ほんの僅かだが不安があった。

 勿論聖職者である女神官との間違いは無いと思うが……。

 疾走騎士と組んでいる内は、そういった意味でも安心できるのだろう。

 

 ──万が一、彼等がそういった趣味でなければの話だが。

 

 なので彼にはこれからも、ゴブリンスレイヤーと共に組んでもらいたいのだ。

 

「お願いするのはこちら側だと思いますが……」

「評価、おまけしちゃいますよ?」

「よろしくお願いします」

 

 即答で返す疾走騎士にくすくすと笑う受付嬢。

 疾走騎士の実力が信頼に値する人物である事は報告から既に把握している。ちょっと優遇するくらいは問題ない筈だ。

 

「では俺は戻る」

「それじゃあ、自分もこれで失礼します」

「はい! お気をつけて!」

 

 その不器用さが何となく似ている彼らは、兄弟じゃないかと言われても違和感が無くて、そんな事を考えて微笑みながら、受付嬢は二人を見送った。

 

───────────────

 

 ゴブリンスレイヤーと別れてすぐ、魔術師の様子を見に行こうとした疾走騎士を、鋼鉄等級一党の自由騎士が呼び止めた。

 

「すみません、少し宜しいでしょうか?」

「はい、どうされました?」

 

 どうやら他の仲間達とは別行動のようだ。

 神妙な面持ちの自由騎士を見て、疾走騎士が何事かと様子を伺うと、彼女は真っ直ぐに疾走騎士を見詰めて声を上げる。

 

「あ、貴方の戦い方を、私に指南して頂けないでしょうか……!」

 

 あまりにも唐突な自由騎士の願いに呆然とする疾走騎士は、少しの硬直の後、困った様子で聞き返す。

 

「えっと、何故自分に? 等級も下ですし、そもそも今日の依頼で見た貴女の剣術は見事な物だったと思いますが……」

 

 疾走騎士の言葉に自由騎士は俯いて、自らの腰に携えた剣に、手を添える。

 

「私は先のゴブリン退治で、仲間を護ることすら出来ませんでした……。そんな私の前に貴方は現れた!これは神からの啓示(ハンドアウト)に違いありません!」

 

 今の自分の力だけでは足りない。自らの正義を貫く強さが欲しい。『決して賽に運命を委ねない力』が欲しい。

 彼女はその決意と共に目を煌めかせ、疾走騎士へと詰め寄る。

 疾走騎士はその圧に耐えかねて一歩下がった。

 

「申し訳ないですが、教えられる程の物ではないですよ? 真似をするのは構いませんが……」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」

「えっ……」

 

 やんわりと断るつもりで言った疾走騎士だったが、残念ながら言葉というのは難しい。

 どうやら自由騎士は真似をするのは構わないという言葉を、間近で見せてもらえるという意味で受け取ってしまったようだ。

 

「では早速手合わせをお願い致します! それが一番手っ取り早いですからね!」

「えぇ……」

 

 そうして自由騎士に手を引かれ、困惑を隠せない声を漏らしながら引き摺られて行く疾走騎士なのであった。

 




Q.盗賊と戦っていた自由騎士ちゃんが疾走騎士くんに声を掛けられた瞬間パワーアップした!? 走者神! これは一体……。

A.知らん……何それ……怖……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート10 『想像力が無い奴から死ぬ……?』

 女の子を調教するRTA、第十部はぁじまぁるよー!

 

 前回疾走騎士くんは、自由騎士ちゃんに捕まってしまい、手合わせをさせられる事になりました。

 

 今回は、このRTAを妨害する悪い子に、お仕置きをしてあげたいと思います!

 

 どうやら疾走騎士くんはあのまま引き摺られて、ギルド近くの広場へと連行されたようですね。

 

 普通に見れば完全なロスなのですが、対人スキル育成と彼女の好感度管理という事で、今回は多めに見てあげましょうか。

 

 まあこういったイベントが発生するという事は、自由騎士ちゃんからの好感度はそこそこ高いという証明になりますので、それが確認出来ただけでも良しとしましょう。

 でも断ったのに連行されたのは納得がいかない。流石にバグだと思うんですけど?(名推理)

 

 取り敢えずこうなってしまっては仕方がないので、さっさと手合わせしてあげましょう。日も落ちかけて来てますからね。

 

 先程の盗賊との戦いで人間との戦い方については彼も学んでいる筈です。

 だから、盗賊退治を請ける必要があったんですね。

 

 疾走騎士くんは、職業レベルや技能といった冒険者としての経験では、自由騎士ちゃんに負けています。

 

 しかし純粋な戦闘力に関しては、決して劣ってはいません。

 

 寧ろ攻撃力と防御力だけで言えば、盾を二つも装備している分、大きく差をつけて勝っています。

 つまり正面からぶち当たれさえすればこの戦い、負ける要素など皆無! 氏ぬがよいリハク!

 

 と言いたい所ですが、今回のような対人戦では若干の運要素が絡みます。

 

 彼女は、大体の動きが固定されているNPCや怪物達とは違い、ちゃんとした『プレイヤー(言葉持つ者)』ですので、何をしてくるか分かりません。これが対人戦の怖い所さんですね。

 

 想定外の行動をされてしまうと、今までは操作に従って来た疾走騎士くんも、困惑してしまうかもしれません。

 

 疾走騎士くんがダイスを振らなくても、向こうがクリティカルを出してくるこの仕様、やっぱクソゲーなんやなって。

 

 なので、下手な事をされる前に、速攻で終わらせましょう。

 

「では、参ります!」

 

 オッスお願いしまーす!

 

 彼女の特徴は、平均的に高いステータスと、正統派の剣術です。

 一党の頭目だけあって精神力も高い為、コンディションにも左右されにくく、安定した戦いが出来る、まさにリーダーと言うに相応しいキャラクターですね!

 

 ただ、彼女には一つだけ、欠点があります。

 

「……」

 

 おや? 様子見かな? そんなんじゃ甘いよ。

 夕日をピカピカの盾で反射させて、目眩ましからの突撃を決めてやりましょう!

 

 今日も良いペンキ☆

 

「うぐっ!!?」

 

 疾走騎士くんが、自由騎士ちゃんを押し倒して、終了しました。

 

 見ての通り彼女は、虚を突かれる事に弱いです。

 性格が真っ直ぐ過ぎるのも、考えものなんやなって。

 

 彼女の敗因は、疾走騎士くんを前にして、どう攻めるか迷ったからです。

 出さなきゃ負けの戦いで、何も出さないのは愚行という訳ですね。

 

 そう言えばゴブスレさんも、想像力がない奴から死ぬって言ってましたっけ? ホントその通りですね。

 

 まあ彼女の気持ちも分からなくはないです。W盾を相手に攻めるのって、結構難しいですし。

 でも、実は疾走騎士くんの弱点も意外と多いんですよ? W盾の防御力を上回る攻撃は防ぎきれませんし、投げ技とかのガード不能攻撃には盾が機能しません。

 あとは──。

 

「《ウェントス()》……《クレスクント(成長)》……《オリエンス(発生)》ッ!!」

 

 しっそうきしくん

 ふっとばされた!

 

 とまあこんな感じで、やはり魔法攻撃にも弱いんですよね。

 ……あれ? 今の魔法どこから飛んできたの?

 

「疾走騎士アンタ……やっぱりそういう趣味だったのっ!?」

 

 あ! 魔術師ちゃん! どうやら今の魔法は、魔術師ちゃんの仕業っぽいですね。何やら凄まじい形相ですが、怒ってんの?(棒読み)

 

「当たり前じゃない! 彼女を押し倒して何をしてたのよ!」

 

 何って手合わせなんですが……?

 自由騎士ちゃんを押し倒す疾走騎士くんを見て、彼女は一体、何を想像してたんでしょうか?

 ちょっと想像力が豊か過ぎんよー。

 

「……へ?」

「ふふ これで《突風(ブラストウィンド)》 習得 ね?」

「し、師匠……まさかこれが狙いで……?」

 

 魔女さんも来ましたね。もしかして、これを見越して魔術師ちゃんを、連れて来たのでしょうか? お前なかなか……やるじゃねぇか。

 

 的確に疾走騎士くんだけを吹き飛ばす精密さは見事でしたね。

 しかも今撃ったの、本日三回目の魔法では?

 《突風(ブラストウィンド)》の習得と、施行回数の増加がいっぺんに来るとは……彼女のMUTTURIパワーにはまいったな!

 想像力は武器だと言っていたゴブスレさんは、これを予見していた……?

 

 自由騎士ちゃんに拘束されるという予想外の事態に遭遇しましたが、1ターンキルでタイムロスを抑えつつ、魔術師ちゃんの成長も確認出来たので、十分許容範囲ですね!

 

「報酬 なのだけれ ど」

 

 そういえば、魔女さんへの報酬を忘れてましたね。

 今の疾走騎士くんの手持ちは、盗賊退治と、ゴブリン退治で銀貨150枚程です。なんぼなん?

 

「一つ お願いが ある の」

 

 おや?これは珍しいのが来ましたね。金銭以外に対価を求められる事はままありますが、彼女からの信頼度が高くないと発生しないパターンです。

 出来れば時間の掛からないやつで、オナシャス! センセンシャル!

 

「脱い で?」

 

 ファッ!?

 

「し、師匠!?!!?」

「ヌッ、脱ぐ!? ごくり……」

「ふふ 兜を ね?」

 

 成る程、魔女さんは、疾走騎士くんの顔を拝見したいというわけですね。

 

「無理に とは 言わない わよ?」

 

 しょうがねぇなぁ(悟空)

 見とけよ見とけよ~? イキますよ~イクイク…ヌッ!

 

「……っ!」

 

 多分、トトカルチョで一儲けでもするつもりなんでしょう。

 彼女からすれば、結果的に報酬になるというわけですね。

 

「もう いいわ よ? あり がとう……」

 

 はて? これだけで良いんですかね? よく分からないイベントでしたが、簡単なお願いで楽ちんちんでしたね。

 

「ねぇ疾走騎士。暗くなってきたし、ご飯食べて今日はもう休まない?」

 

 おっそうだな。これ以上働くと、重要な依頼が発生する次の日までに、回復しきれなくなっちゃいますからね。

 ここに居ても仕方ないし、あなた達も良かったらどう?(KNN)

 

「い、良いのですか……?」

 

 何ちょっと照れてるのよ!

 

「ふふ 私は 別の用 が あるから また ね?」

 

 残 念 ね 。

 

 というわけで、魔女さんとお別れし、三人でギルドに戻ったら、手早く食事を済ませましょう。

 

 飯なんて、腹に入れば良いんだよ! ヒュゴウ! 御馳走様でした!

 

 …………KMR早くしろー。二人とも遅いっすね。

 

 では食事が終わったら、パパパッと宿屋へ戻ります。

 

 風呂入って就寝までは8倍速で、お送りしまーす!

 

 

 翌日になりました。冒険者稼業も、五日目へと突入です。

 天気は……曇ってますね。これは降ってきそうかな? どうかな?

 

 一緒に目覚めた魔術師ちゃんと共に、早速ギルドへと向かいましょう。

 

 鋼鉄の四人に捕まると会話イベントによるロス濃厚ですので、今回はスルーします。

 今日は魔術師ちゃんと二人での冒険になる予定ですからね。

 

 今回受注するのは、《補給物資の輸送》です。

 

 何故この依頼を受注したかと言うと、輸送依頼での魔術師ちゃんの体力強化……のためではありません。

 この依頼も『騙して悪いが』に該当するもので、進め方によっては悪魔(デーモン)と遭遇する可能性があります。

 

 本来、このイベントを発生させるには、都に悪魔(デーモン)が出たという情報を得て、フラグを立てる必要があるのですが、疾走騎士くんは軍騎士時代に情報を得ているので、問題はありません。やりますねぇ!

 

 つまりこの依頼、疾走騎士くん達にとっては、補給物資の輸送という名の、悪魔(デーモン)討伐依頼という訳ですね!

 

 輸送する物資の受け取りは工房で行えますので、準備も纏めて行いましょう。 

 

 強壮の水薬(スタミナポーション)を2本、治癒の水薬(ヒールポーション)を4本、念のため、化膿止めの薬も購入します。

 

 物資も受け取り、準備が完了したら補給物資の輸送(悪魔の討伐)へ、いざ鎌倉。

 

 今回も、移動は徒歩で行います。

 

 馬車での移動も可能ですが、この依頼の目的地は疫病が蔓延している地域ですので、他の乗客から感染する可能性があります。ふざけんな!

 

 また、到着が早すぎると、フラグが立つ前に依頼を達成してしまい、悪魔(デーモン)と遭遇する前に帰還してしまうので、注意しましょう(1敗)

 

「……やっぱり降ってきたわね」

 

 道中で、雨が降ってきましたね。

 このままずぶ濡れになると、風邪を引いてコンディションが低下するかもしれません。

 風邪を引かなくても、装備の重量が増してしまい、動きづらくなってしまいます。

 

 なので、疾走騎士くんの装備している革のマントを二人で被り、雨を凌ぎましょう。

 

「あ、ありがと……」

 

 密着するため少し動きづらいですが、魔術師ちゃんを背負うよりはまだ楽、ハッキリ分かんだね。

 

 着くゥ~。

 

 配達の目的地である、村の跡地に到着しました。

 雨も止んで、雲も晴れてきていますね。

 

「依頼人とはここで合流するはずなのよね?」

 

 本来の流れでは、依頼人である魔女狩人(ウィッチハンター)とここで合流し、物資を渡して依頼達成となるのですが、彼女は現在ここには居ません。

 この先にある、遺跡の調査へと向かってしまっています。

 

 道中急ぎ過ぎて、ここで魔女狩人さんと合流してしまっていた走者が居ましたが、今回は大丈夫でしたね。

 

「それ、足跡? どこへ行ったのかしら……」

 

 彼女の足跡が残されているので、それを辿り、遺跡へと向かいましょう。

 この遺跡の最奥は、魔神の祭壇になっており、近寄ると悪魔(デーモン)が出現します。

 

 出現するのは、レベル3~5の悪魔(デーモン)のなかから、ランダムで選ばれます。

 つまりここで運が悪いと、夜鬼(ナイトストーカー)と戦うはめになるわけですね。

 

 運が良ければレッサーデーモンで済みます。

 暴れるなよ……暴れるなよ……。

 

 彼女を助け出す際には、確実に悪魔(デーモン)との戦闘が発生する事になりますので、直前で回復もしっかりと行っておきましょう。

 

 それでは、悪魔(デーモン)の居る遺跡へ、イク

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 




Q.疾走騎士くんの故郷ってどうなったんだっけ?

A.疫病が蔓延してやって来た医師に焼き払われましたね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート10 裏 前編 『為すべき事を為すのです』

 自由騎士に手合わせをしたいと強引に頼まれ、疾走騎士が連れてこられたのはギルドの裏手にある広場。

 ここでは冒険者同士の稽古が頻繁に行われており、手合わせをするのにうってつけの場所であった。

 

「もう日も落ちそうですし、一度だけで構いませんか? 暗くなってから武器を振り回すのは危ないですから……」

 

 彼女の強引さに対して打つ手無しと判断したのだろう。疾走騎士はせめて手早く終わらせようと考え、提案する。

 

「そうですね、私としては夜が明けるまでといきたい所ですが……」

 

 渋々といった様子で了承する自由騎士の言葉に対し、それだけは勘弁してくれと兜の中で苦笑いを浮かべる疾走騎士。

 先に釘を刺しておいて良かったとホッとしながら、疾走騎士は両手に持った盾を構えた。

 

「さあ、始めましょう」

 

 彼の言葉に頷いた自由騎士は、腰に下げた剣を鞘から抜き……深呼吸。

 

「では、参ります!」

 

 先程までの煌めいた目とは打って変わり、手にした剣と共に、鋭い視線を疾走騎士へ向ける自由騎士。

 彼女は一人の騎士として、この手合わせに全力で挑むつもりだった。

 斯くして、赤き夕日に照らされながら、二人の騎士が相対する事となる──。

 

 

─────────────────

 

 

 結論で言えば、決着は一瞬で決まった。

 私は彼が持つ二つの盾を前に、攻めるべき手を見付けられず……迷った。

 剣一本であの堅牢な守りを破るにはどうすれば良いか、答えを探ろうと彼の《様子を見る》事にしたのだが。

 

 

 

 ──その瞬間、私の視界は真っ白に染まった。

 

 

 

「うぐっ!!?」

 

 直後、正面から強い衝撃。

 気付けば、私は地に背中を付けており、眼前にあったのは彼が持っている盾の先端。

 

「迷えば敗れる……」

 

 あまりに一瞬の出来事に、私はただ呆然とするしかなかった。

 

「一体……何が?」

 

 私に馬乗りになった状態の彼へ問うと、視界に眩い光が射し込む。

 

「っ……?」

 

 反射的に手を掲げて光を遮ると、その光は彼の盾に映し出されていた太陽の光だという事にすぐ気が付いた。

 

「目眩まし、ですか」

「正解です」

 

 完敗だ。せめて一太刀……どころではなく、戦いにすらならなかった。

 自分の不甲斐なさを突きつけられたような気がして、思わず彼から目を剃らす。

 

「お見事でした。まさかそんな手で不意を突かれるとは……」

「……だからですよ」

「え?」

 

 私に向けていた盾の切っ先を下ろした彼へ目を向けると、彼もまた、こちらを見据えていた。

 兜によって被われた彼の目は、闇より深い、まるで深淵のような印象を感じさせる。

 

「その『まさか』に見舞われた時、人は窮地へと立たされます」

「っ……」

 

 その言葉で、私の脳裏に苦い記憶が蘇る。

 一党全員がゴブリン達の餌食になっていたかもしれない私の失敗。あれもまた私にとって『まさか』の出来事だった。

 

「自らの死を想像出来ない者は、その対策を取る事も出来ません」

「……」

 

 これが手合わせで良かったと、私は内心で安堵した。

 もう同じ失敗はしないと、そう思っていたつもりだったのにこの有り様なのだ。

 どうすれば……そう思った時だった。

 

「《ウェントス()》……《クレスクント(成長)》……《オリエンス(発生)》ッ!!」

 

 どこからか聞こえてきた詠唱。その声と共に凄まじい突風が吹き付け、私の上に居た彼がまるで横から巨大なハンマーで叩きつけられたかのように吹っ飛んでいった。

 

「ゴホッ! ゴホッ!」

 

 舞い上がる土埃に咳き込みながら起き上がると、彼は数十メートル先の地面に転がっている。どうやらあそこまで飛ばされたようだ。

 

「え、えぇ……?」

 

 私は困惑の声を漏らしながら、呆然とそれをながめていると……。

 

「疾走騎士アンタ……やっぱりそういう趣味だったのっ!?」

 

 悲鳴にも、怒号にも聞こえる叫びが辺りに響いた。

 ──どうしてこうなったのだろう。

 

 

───────────────

 

 

 時を少し遡り、場面はギルドへと移る。

 ギルドの二階にあるテーブル席、そこでは魔術師と魔女が向かい合って座っていた。

 

「ぐぬぬ……」

 

 疾走騎士からの依頼を受け、魔女から呪文を教わっている魔術師は、椅子に座ったままテーブルに突っ伏していた。

 

「難しい かし ら?」

「これが簡単なんて言えたら、その人は間違いなく賢者ですよ……」

 

 魔女から呪文を教われば教わるほど、彼女のレベルの高さを魔術師は実感していった。

 《真言呪文》……世界の理を改変する、真に力ある言葉。

 それは精霊術や奇跡とは全く異なる力である。

 精霊術はこの世界を構成している精霊の力を借りる事で行使でき、奇跡はその信仰心によって神々の恩寵を賜る事ができる。

 しかし呪文に関しては、完全に己の知識のみでその事象を引き起こす必要があるのだ。

 

 一つの呪文を扱えるようになる為に必要な知識は、勿論生半可な量では収まらない。

 正確には、今現在魔術師の目の前に置いてある厚い本一冊分。

 この本は呪文書と呼ばれており、一つの呪文を会得するのに必要な知識が記されている。

 疾走騎士を見送った直後、魔女から魔術師へと手渡された物だ。

 ……もちろん相応に高価であることも添えておこう。

 

「どの辺り かし ら?」

「本の内容自体は理解できたんです。ただこう……感覚が掴めないというか……」

 

 魔女はその言葉を聞いて目を丸くし、持っていた煙管を胸の間にしまう。

 

「ね 息抜き しましょ?」

「え……? ちょ、待って下さい師匠っ!」

 

 魔女が微笑みながら席を立ち、階段を下りていくと、魔術師は慌てて本を閉じて立ち上がり、その後に着いていく。

 

「一体どこへ行くんですか?」

「実は さっき ね 上から 面白いものが 見えた の だから 今 見に行きましょう ね?」

「面白いもの?」

 

 魔術師は集中していて気づかなかったようだが、下の階で起きた出来事を魔女は見ていた。

 

 タイミングが良いのか悪いのか、そうして魔女に着いていった先で、疾走騎士が女性である自由騎士のマウントポジションをとっている光景を魔術師は見てしまったのだ。

 

 魔術師は以前、疾走騎士によって草むらに引きずり込まれた経験がある。

 もちろんその時は近くに居たマンティコアから身を隠すためで、そういう目的ではなかった。

 しかし、今回は冒険中でもなく、近くに怪物が居るわけでもない。

 その結果我を忘れた魔術師は、自らの怒りがそのまま爆発したかのような突風を生み出し、疾走騎士を吹き飛ばしたという訳である。

 まさに天賦の才を持った彼女故に出来た所業。呪文書の中身をあっさりと理解してしまったのには魔女も驚いたが、ここまでくると才能だけでは説明がつかないような気もしていた。

 

「疾走騎士アンタ……やっぱりそういう趣味だったのっ!?」

 

 彼女の叫びが辺りに響く。

 吹き飛ばされた疾走騎士がむくりと起き上がり、辺りを見回すと、声の主である魔術師の姿を見付けた。

 

「どうしました? 怒っているように見えますが……」

「当たり前じゃない! 彼女を押し倒して何をしてたのよ!」

 

 魔術師の頭にはまるで角が生えているかのよう。

 睨み付けられた疾走騎士は頭を傾げる。

 

「何って……手合わせですが、一体何をしているように見えたのでしょうか?」

「……へ?」

 

 その言葉に、気の抜けた魔術師の眼鏡がずれる。

 魔術師が自由騎士の方を向くと、彼女はこくこくと何度も頷いた。

 つまり……魔術師の勘違いだった訳だ。

 

「ふふ これで《突風(ブラストウィンド)》 習得 ね?」

「し、師匠……まさかこれが狙いで……?」

 

 口をぱくぱくとさせながら魔女の方を見て顔を真っ赤に染める魔術師。

 先程魔女が見た『面白いもの』とは、自由騎士に連れていかれた疾走騎士の姿であり、集中力の切れた魔術師に何か切っ掛けが生まれるかもしれないと考え彼女をここへ連れてきたのだ。

 何はともあれ、これにて依頼は完了。魔女は冒険者として報酬を貰うため、疾走騎士に歩み寄る。

 

「報酬 なのだけれ ど」

 

 ここで魔女はある事を思い付く。

 これでお金を貰って終わりというのは、少し勿体無いのではないか、と。

 

「一つ お願いが ある の」

 

 魔女は妖艶な表情を浮かべ、少しわざとらしい声色で疾走騎士に報酬の内容を告げた。

 

「脱い で?」

「し、師匠!?!!?」

「ヌッ、脱ぐ!? ごくり……」

 

 勿論魔女は彼の装備を全て脱げと言ったわけではないが、魔術師が裏返った声を上げて、その後ろでは自由騎士が顔を紅潮させながら生唾を飲んだ。

 

「ふふ 兜を ね?」

 

 魔女がこの報酬を選んだのには理由があった。

 今ギルドではゴブリンスレイヤーの素顔が賭けの対象となっている。

 近いうちに彼の素顔もまた、賭けの対象になるのは間違いないだろう。

 幸い辺りに人は居ない。彼女は彼の素顔を拝見する良い機会だと考えたのだ。

 

「成る程。そう来ましたか……」

 

 疾走騎士は息をつくと、手を顎に当てて頷いた。

 

「無理に とは 言わない わよ?」

「構いませんよ、減るものでも無いですから」

 

 そう言って疾走騎士はあっさりと兜を外す。

 

「……っ!」

 

 疾走騎士の素顔を見て、少し驚いた様子を見せた魔女だったが、どうやら満足したようで静かに頷いた。

 

「もう いいわ よ? あり がとう……」

 

 疾走騎士は兜を被り直す。

 そこへ魔術師が近寄ると、彼女は太陽が沈んでしまった空を見上げた。

 

「ねぇ疾走騎士。暗くなってきたし、ご飯食べて今日はもう休まない?」

「そうですね。お二人も良かったらどうですか?」

 

 疾走騎士の誘い、願ってもない話に自由騎士の目が再び煌めきだす。

 

「い、良いのですか……?」

「ふふ 私は 別の用 が あるから また ね?」

 

 魔女は手をひらひらと振りながらその場を後にする。

 こうして三人はギルドへと戻り、食事を取ることとなった。

 

───────────────

 

「つまり、最初に出方を伺ったのは悪手だったという事ですか?」

「えぇ、こちらの強みは防御力を活かした突破力ですから、正面から迎え撃つべきではないでしょう」

 

 はぁ……と、つい思わずため息をついてしまう。

 女給に注文を済ませ、料理の到着を待っている間、私は疾走騎士が質問攻めされているのを横で眺めていた。

 

「では、どのようにするのが正解なのでしょうか?」

「盾を掻い潜り組み合いに持ち込むか、或いは死角に回り込む、等でしょうか?」

 

 しかし鋼鉄等級に指南する黒曜等級って、なんだかあべこべね。

 もう、二人で食事しようと思ってたのに……。

 

「そう言えば、あの時の言葉ってどういう意味なのでしょうか?」

「あの時?」

「迷えば敗れる。私を打ち負かした時に仰られましたよね?」

 

 へぇ、なかなか良い言葉じゃない。

 立ち止まらず走り続ける疾走騎士らしい言葉。ちょっと気に入ったかも。

 

「あぁ、騎士になる為の訓練として、祖父との手合わせでいつも言われていた言葉ですよ」

「お祖父様……ですか」

 

 もしかして過去話かしら? 集中して聞く事にしよう。コイツが自分の事を話す事は滅多にない。

 

 ──迷うという事は、自らが為すべき事を見失っているという証左に他ならない。

 戦では、関わる者の願いやら企てやらが渦を巻く。

 迷えば、その渦に飲まれ……敗れる。

 迷わずただ一心に、自らが為すべき事を為すのだ──。

 

「つまり、自分が行うべき事を予めちゃーんと決めておけば、自分自身を守ることにも繋がるというわけですね」

 

 疾走騎士は腕を組みながら右手の人差し指を立て、うんうんと頷く。

 私と自由騎士の彼女は、その話をただ食い入るように聞いていた。

 

「……とても強く、良いお祖父様だったのですね」

「えぇ、とても強かったです。攻撃を防ごうと盾を構えれば、腕を掴まれて背中から地面に投げ飛ばされましたし」

「と、とても厳しいお祖父様だったのですね……」

「剣を振れば斬撃が飛んできましたし」

「とんでもないお祖父様だったのですねっ!?」

「ちょっとそれ化け物じゃない!?」

「いやまあ、恐らく魔法の武器とかだと思いますよ?」

「さ、流石にそうですよね……びっくりしました」

 

 私も思わず声が出てしまった。

 普通に考えればそうよね。そんな事が出来る人間が存在するわけが──。

 

「あとは踏み込んだ足下から炎が吹き出したり……」

「やっぱり化け物じゃないのっ!!」

「きっと魔法も会得していたんでしょう。強さに貪欲な人でしたから。お陰で防ぐ事に関してはとても鍛えられました」

「えぇ……」

 

 疾走騎士の祖父、一体何者なのかしら? 聞く限りじゃあ相当な強者なんでしょうけど、在野最上位の銀等級でもそんな芸当は不可能だわ。

 もしかして金等級、あるいは……って、そんな筈無いわよね。

 でもそれだけ厳しい稽古を受けてたのなら、疾走騎士の等級詐欺じみた強さにも納得がいく。

 いや、正確には疾走騎士自身が並外れた戦闘力を持っている訳ではない。

 マンティコアに対しては捨て身の攻撃を仕掛け、それでようやく討伐ができる程度の強さ。

 ゴブリンの群れを相手取り、その消耗で気を失う程度の強さ。

 異常な強さを持っているわけではなく、特別な能力を持っているわけでもない。

 しかし、彼は戦いに関しての判断力がずば抜けて高いのだ。

 それはまるで……自分が為すべき事を予め知っていて、それをただ実行し続けているかのようで──。

 

「はぁいお待ちどおさまっ!」(ってうわぁ、早速一人増えてる……こっちの意味でもゴブリンスレイヤー二号ね……)

 

 私の思考はそこで中断された。女給が注文した料理を持ってきたのだ。

 彼女が運んできたのは新鮮な魚が焼いて調理されたもの。皿に盛り付けられているのを見て、よだれが垂れそうになる。

 

「いただきます」

 

 早速私が身の切れ端を口に運んだその瞬間──。

 

 

 

 

 

 ヒュゴウッ……!

 

 

 

 

 

「ごちそさまでした」

「だからアンタ早すぎるのよっ! 今さっき食事とは思えないような音が聞こえたんだけれどっ!?」

 

 疾走騎士の皿にあった魚は綺麗に無くなっている。骨すらも残っていない。

 流石にモノを食べてる時くらいは救われてなきゃあいけないんじゃないかしら? そう物申そうかと思ったが、疾走騎士は黙ってこちらを見ていた。どうやら私達が食事を終えるのを待っているらしい。

 

「スゥゥゥ…………うーん、ダメみたいですね」

 

 隣に居た自由騎士が魚を吸い込もうとしている。

 ダメみたいなのは間違いなくゴブリンに石を当てられたその頭の方だと思うのだけれど?(名推理)

 ……わかったからその圧を放つのはやめなさい疾走騎士。余計食べにくいじゃないの。

 

───────────────

 

 食事を終えた疾走騎士達が宿へと戻ると、いつものように圃人の女主人が出迎えた。

 

「お帰りなさいませ! あ、一党の方が探していましたよ?」

 

 すると自由騎士がはっと何かに気づいたらしく、慌てた様子で疾走騎士達に頭を下げた。

 

「こ、この度はありがとうございました! 貴方の言葉を胸に、私は私の為すべき事を為していこうと思います!」

 

 疾走騎士は真っ直ぐに自由騎士と向かい合い、力強く頷いた。

 

「えぇ、貴女自身の正義を、至高神に証明してみせて下さい。きっと、貴女にならそれが出来る筈です」

 

 その言葉に自由騎士は自らの鼓動が高鳴るのを感じ、頬を赤く染めていた。

 

「あ、貴女もその……ご迷惑をお掛けしました。紛らわしい事をして……」

「……もうその件は忘れて頂戴。私だって忘れたいんだから」

「あはは……」

 

 魔術師が顔をしかめ、自由騎士は苦笑いを浮かべる。

 

「それでは失礼致します」

 

 そして晴れやかな表情で部屋へと戻っていった自由騎士を、疾走騎士達が見送った。

 

「ただいま、今戻ったわ」

「あ、リーダーおかえり! ……あのさぁ、イワナ、食わなかった?」

「焼き魚の匂いがするな。一党を差し置いてどこへ行ってたんだ? 心配したんだぞ」

「何か良い事でもありましたか? とても清々しい表情ですけど」

 

 自由騎士が部屋に入ると、それを一党のメンバー達が出迎える。

 彼女達は昨日から、頭目の自由騎士がゴブリンに対して不覚を取った事を思い詰めているのではないかと心配していた。実際、彼女はあれ以降どこか調子がおかしかった。

 しかし、今回戻ってきた彼女は以前のような……いや、それ以上に屈託のない真っ直ぐな笑顔を見せている。彼女達が何処か浮わつくのも仕方のない事だろう。

 

「えぇ、とても……とても良いことがありました」

 

 疾走騎士の助言が、彼女にとってどのような影響を与えたのかは神々にも分からない。

 ただ一つ分かるのは……彼女の正義が折れる事は、もはや起こり得ないという事だけであった。

 

───────────────

 

 そして自由騎士と別れた後、疾走騎士と魔術師の二人は入浴も済ませ、部屋へ戻った。

 疾走騎士がお風呂に入っている間、寝巻きへと着替えた魔術師はベッドに座り、足をぱたぱたと動かしながら疾走騎士へ話し掛ける。

 

「ねぇ、疾走騎士」

「はい」 

「師匠に顔を見せた時、どうして目を瞑っていたの?」

 

 実は疾走騎士が魔女の前で兜を外していた時、彼はその目だけは見せていなかったのだ。

 魔術師はホッと安堵したが、理由が気になっていた。

 

「……わざわざ不快な思いをさせる必要は無いかと」

「そ、そんな事っ……!」

 

 すると疾走騎士は兜を外し、今度はちゃんと目を見開いた状態で魔術師と向かい合う。

 

「一党の貴女は受け入れて下さっていますが、他はそうとは限りません。サイコロに……運に任せるのは恐ろしいんですよ」

 

 魔術師も、最初は思わず目を逸らしたくなる感覚を覚えたが、それもようやくと慣れてきていた。

 彼女は疾走騎士から決して目を離さず、本当に仕方のないヤツだと内心呆れながら、ただ本心を告げる。

 

「師匠なら大丈夫だと思うわ。……ううん、師匠だけじゃない。あの鋼鉄等級の一党だって、多分受け入れてくれると思う」

 

 そりゃあ最初はびっくりするかもだけど。そんな言葉を付け加える魔術師を見て、疾走騎士は──微かに笑った。

 

「あ……」

「もう寝ましょう。明日も為すべき事は多くありますからね。……おやすみなさい」

「そ、そうね……。うん、そうしましょ。……おやすみ」

 

 疾走騎士が羽毛のベッドに潜り込むと、魔術師はぼんやりしながら顔を赤くしたまま横になった。

 

 そして……彼の物語は回り続ける。

 

 

 

 

 ──自分はサイコロが恐ろしい。

 

 

 

 

 

 ──サイコロの出目によって訪れる、お決まりの運命が恐ろしい。

 

 

 

 

 ──自分はこの世界が何なのかを知った。ああ、だからこそ恐ろしい。

 

 

 

 

 ──そうか、自分が本当に恐ろしいのは……。

 

 

 

 

 

「あなた達を失う事なのだな……」

 

 ……神の手によって世界が巻き戻されない限り、彼の物語は回り続ける。

 




Q.疾走騎士くんはあんなに急いで食事をしても、のどに詰まらせたりはしないのですか?

A.食事にもダイスロールは無いので心配いりませんね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート10 裏 後編 『北の遺跡へ』

 随分と懐かしい夢を見た。

 故郷の小さな農村で暮らしていた時の夢だ。

 母は優しい人だったが、昔から体が弱かった。

 父は自分が幼い頃、怪物に襲われて死んだらしい。

 だから自分が働いて、何とか暮らしを支えていた。

 そんな自分を気の毒に思ったのか、村の人達は皆、優しくしてくれた。

 

 農業の手伝いをして、食料を分けてもらう。そんな毎日に自分は十分満足していた。

 しかしそんな日常も、あるきっかけを境に終わりを告げる。

 

 ……村に疫病が蔓延したのだ。

 

 体力の無い老人や子供から……一人、また一人と息を引き取っていく。

 元々体が弱かった母も日に日に衰弱していった。

 

 病に苦しむ人達の呻き声が、村のあちこちから聞こえてくる地獄のような有り様。

 

 それから毎日、自分は村にあった教会に通った。皆の病を治してくれと、この村を救ってくれと、ただ祈り続けた。

 

 ……しかし──。

 

 《祈りは天に届かなかった》──。

 

 ある日、感染していない者達だけで集会が行われた。

 都に医師を呼びに行こう、このままでは間違いなく村が滅びる。そう、一人の若者が声を上げた。

 とはいえ、都には急いでも二日はかかる距離。おまけに途中怪物に襲われる危険もある。

 誰が行くかという話になり、皆が黙り込んでしまったので自分が手を上げた。

 

 自分が居ない間、母は教会のシスターに預ける事にした。

 彼女は自分が幼い頃から教会へ祈りを捧げに行くと、必ず共に祈りを捧げてくれた人だ。

 いつも笑顔で、優しくて、まるで姉のような存在だった。

 

 ……しかし、彼女も既に感染していたのだ。

 

 村を出る際、母から手紙と、一振りの剣を渡された。

 話を聞くと、母は元々騎士の家系だったらしく、農民である父との結婚を反対され、半ば駆け落ちする形でこの村へ来たのだそうだ。何とも思い切った事をしたものだ。

 

 母は、私に何かあれば……私の父、あなたの祖父を頼るようにと、咳き込みながら告げる。

 

 ……そうならないよう、頑張っているというのに。呆れたように言うと、シスターも笑っていた。

 

 そして……走った。なるべく怪物との遭遇(エンカウント)を避けながら、眠る間も惜しんで走り続けた。

 ……やむを得ず戦う羽目になる事も何度かあったが、母に手渡された剣を振るい、なんとか生き延びて都に到着。

 

 自分はすぐに医者を探した。

 疫病を治せる医者は居ないかと聞いてまわった。

 すると、自分の前に現れたのは──。

 

 

 ──軍の兵士だった。

 

 

 あぁ、今考えれば当然だ。疫病の蔓延する村から来た人間を、そのまま放置する訳にはいかない。

 都から追い出された自分は村へ戻るしかなかった……。

 

 失意のなか、突然胸に鋭い痛みが走り、咳き込む。

 口を抑えていた手には血が付着していた。

 

 ここ数日で疲労が限界に達していた為、抵抗力が落ちていたのだ。

 都に病を持ち込んでしまっただろうか? いや、そんな事はもうどうだっていい。

 

 ……死にたくない。

 

 そんな、ごく単純で、この世界ではありふれた祈りは……遂に届いた。

 

 奇跡が起きたのだ。胸の痛みは病と共に一瞬で消え去った。

 

 ようやく手に入れた希望。これがあれば皆を救える。

 疲労で意識を失いそうになりながら、それでも必死に走り、何度も躓いては転んだ。

 そうして丸一日走り続け、遂に故郷の村へ着く。

 

 しかし……そこで自分が目にしたのは……。

 

 

 

 

 ──真っ黒に燃やし尽くされた故郷の村と、黒いコートに身を包み、鳥のマスクを被った只人だった。

 

 

 

 

 黒い鳥の制止を振り切り、教会があった場所に向かう。

 焼けた瓦礫しかそこには無かったが、それを押し退けた所でシスターを見付けた。

 彼女はまだ辛うじて息があったが、まともに動く事も出来ない状態だった。

 なんとか彼女を引きずり出して、その場へと寝かせる。

 

「シスター、ただいま戻りました」

「うん、おかえりなさい」

「シスター、自分、解毒の奇跡を賜りました。これで皆を救えます」

「ふふ、良かった。貴方ならきっとやってくれるって信じてた」

「…………っ!」

 

 しかし、全ては手遅れだった。

 この村も、住んでた皆も、全て燃えてしまった。

 

「ごめん……ね? お母さん……も」

 

 シスターの言葉も、実際は殆んど聞こえていない。

 口の動きと微かに出た声で、辛うじて何を言おうとしているのかが分かる程度だ。

 

「良いんです、もう……話さないで」

「……羨ましいな。私じゃなくて、地母神様はきみを選んだんだ」

「本当に……何ででしょうね」

「ふふ、私には分かるよ? きみ、放っておけないもん」

「……」

「慌てん坊で、臆病で、失敗ばっかりで」

「……酷いですね」

「でも、頑張り屋で、優しくて、挫けない……」

「シスター……」

「ねぇ、お願いがあるの」

「はい」

「抱き締めて?」

「……はい」

 

 溢れそうになる涙を堪えて、シスターを抱き締めると、彼女もこちらの背中に手を回す。

 

「大丈夫、きみは強いから、これから何があっても乗り越えられる。お姉さんが保証する」

「はい」

「地母神様への祈りはこれからもちゃんと捧げてね」

「はい」

「女の子は泣かせちゃダメよ?」

「……はい?」

「きみ、慌てん坊ですぐどこかへ行っちゃうから、いつも言いそびれてたんだよ?」

「何を……ですか?」

「……言わないよ。今回は私の番だから」

「……」

「それじゃあ……ね」

「……はい」

「きみを好きになる娘は……私よりももっと……積極的になるようにしてあげないと……いけない……かな」

「え……?」

 

 その言葉と共に、背中に回されていた彼女の手がするりと落ちる。

 

「シスター?」

 

 ……彼女の表情は穏やかなままだった。

 

 暫く涙が止まらなかったが、亡骸をそのままにはしておけない。シスターを……いや、皆を弔ってやらねば。

 立ち上がり、焼け残った農具が無いか探していると、背後から黒い鳥がやって来た。

 何をしているのかと聞かれ、自分はせめて、皆を土に還したいと答えた。

 

 見付けた円匙(スコップ)で大きな穴を掘ると、変わり果てた皆を一人、また一人と瓦礫から見つけ出しそこへ埋めた。

 ……もちろんその中には母とシスターも居る。

 

 それを黒い鳥は後ろからずっと見続けていた。自分は振り返って、黒い鳥へ告げる。

 

 ──殆んどの人が既に手の施しようがない状態だった事は確かだ。

 感染が別の村や都へと拡がる可能性も十分にありえた。早急に対処を行ったのは合理的な判断だ。

 

 しかし、まだ助けられた人が居たことに間違いはない。

 それだけは覚えておいてくれ──と。

 

 黒い鳥は驚いた様子で、私を恨まないのかと聞いてきた。

 ……自分はただ空を仰いだ。

 

 女の子は泣かせたらダメだと言われたばかりだ。

 彼女との約束を……早々に破りたくはないと思った。

 

 俯いた黒い鳥の表情は、マスクで読み取れなかった。

 あぁ……本当に、何故こんな事になってしまったのか。

 誰が悪い訳でもないのに、こんな事が起こってしまうのか。

 この世界は一体何なのだろうか。

 分からない、何も分からない。

 

 そうして皆を埋め終えて、自分は意識を失った──。

 

───────────────

 

 疾走騎士の朝は早い。

 ギルドでは朝に依頼の貼り出しがある為、それまでに用意を終える必要があるからだ。

 

 目が覚めた彼は身支度を整え、先ず兜を被ったところで魔術師を起こす。

 声を掛けながら眠る彼女の肩を揺らすと、豊かな胸が更に大きく揺れた。

 

「ふぁ……おはよ」

 

 魔術師は目覚めると、小さく欠伸をしながらすぐに羽毛のベッドから出た。

 

「準備の間に此方は装備の手入れをしてますので、終わったら声を掛けてください」

「ん」

 

 寝惚け眼の魔術師を背後に、疾走騎士は部屋の隅に座り込むと油を染み込ませた手拭いで盾の手入れを始める。

 

「着替えるから振り返らないでよ?」

「勿論です」

「……それはそれで納得いかない」

 

 黙々と疾走騎士が作業をする後ろ姿を見ながら、魔術師は一旦下着姿を晒すも、直ぐに帷子を身に付ける。

 荒い目で編まれたその鎖の胴衣は黒く塗られており、隠密性がかなり高い。

 鎖自体も細く、かなり軽い作りではあるが、それでも防御力は十分備わっている。

 魔術師としても気に入っている品だったが……勿論性能だけが気に入っている理由ではないことを、彼女は自覚していた。

 そして革のズボンとビスチェを身に付け、着替えを終える。

 

「もういいわよ」

「此方も丁度終わりました。では行きましょう」

 

 疾走騎士は手入れ道具をしまい込み立ち上がると、部屋の扉をそっと開け、辺りの様子を伺う。

 

「何してるのよ?」

「……また待ち伏せされているのではないかと」

「あぁ……」

 

 こそこそと部屋を出る疾走騎士と、その後ろからいつも通り堂々と着いていく魔術師。

 すると受付でホットミルクを飲みながら本を読んでいた女主人が二人に気付く。

 

「あ! おはようございます! 昨夜はお楽しみでしたね!」

 

 魔術師は女主人のもはやお馴染みになった挨拶に、ぐぬぬと苦い顔を浮かべ、それに対して疾走騎士は辺りを見回していた。

 

「あの一党はまだ起きてきていないんですか?」

「そうみたいです。どうかなされました?」

 

 女主人の言葉に、疾走騎士はホッとしたように息をつく。

 

「彼女達に、今日の所は自分達だけで問題ないと伝えておいてもらえますか?」

「なるほどお……分かりました!」

 

 昨日は自由騎士率いる一党と協力し、合同で依頼を遂行していた疾走騎士だったが、今日のところは彼女達の手を借りる程の依頼を受けるつもりは無いようだ。

 

「よろしくお願いします、では」

「いってらっしゃいませー!」

 

 女主人が二人を見送ると、その直後、ある一室の扉が勢いよく開け放たれる。

 そこはあの鋼鉄等級一党が宿泊している部屋だ。

 

「あああああああああ!! 寝坊したああああ!」

「全く! たるんでるぞ!」

「あの……寝坊したのは私達全員ですよ?」

「昨日は夜更かししてしまったわね……」

 

 慌ただしく部屋を出てくる彼女達は、昨晩自由騎士が帰ってきた後も暫く眠る事なく、話し合いを行っていたようだ。

 

「おはようございます! 昨日はお楽しみでしたね!」

「えぇ、少し盛り上がってしまいました」

「だってリーダー、あの人の素顔見たんでしょ? ずるい! 私見たこと無いのに!」

「意外と優男……だったか。確かにあの戦いぶりからは想像も出来んな」

「冒険者は容姿を見られがちですものね。侮られたりしないように、あの兜で隠しているという事でしょうか?」

 

 昨日、疾走騎士は魔女への報酬として兜を脱いだ時、その場に居た自由騎士もまた、彼の素顔を見ていた。

 その話を聞いたメンバー達は騒然とし、眠るのが遅くなってしまったという訳だ。

 

「その彼から伝言を預かってますよ? 今日は大丈夫だって言ってました」

 

 その言葉に圃人野伏がガックリと肩を落とす。

 

「な~んだ、残念」

「仕方あるまい。あちらにはあちらの都合があるだろうしな」

「今回は私達だけで頑張りましょう!」

「えぇ、いつまでも彼に頼っていてはいけないわ。私達は、私達の為すべき事を為しましょう」

 

 疾走騎士の頼もしさを既に知っているが故に、彼が今回同行出来ない事は確かに残念に思う。

 とはいえ、彼とはあくまでも協力関係に過ぎないのだ。

 自身の一党だけで苦難を乗り越える強さを身に付ける必要があると、自由騎士は考えていた。

 

「そだね。よっし! それじゃあ、張り切ってこー!」

「やれやれ、元気な奴だ」

「ふふ、良いことではないですか」

「そうね、それでは行ってきます」

「はぁい! お気をつけてー!」

 

 宿を後にする自由騎士達を、女主人は手を振って見送る。

 

「……皆さん、生きて帰って来て下さいね」

 

 宿に泊まっていた冒険者がある日突然帰って来なくなる。この世界では良くある事だ。

 祖母の手伝いをしていた頃、子供の自分に優しくしてくれた冒険者の遺品を泣きながら整理した事もあった。

 願わずには居られないのだ。

 どんな形であれ、彼らの幸せを──。

 

───────────────

 

「で、この依頼で出てくるのは何なの? ドラゴン?」

 

 魔術師は一枚の依頼書を二本の指で挟み、ぺらぺらと揺らしながら疾走騎士に問う。

 

「どうしたんですか? 藪から棒に」

「だって、今までずっと効率の良い依頼ばっかり受けてたのに、突然ただの輸送依頼なんて……何かあるとしか思えないじゃない?」

「それはまあ……」

「それはまあ……じゃないですよ!! 何ですか人聞きの悪い!!」

 

 バァン! と受付のカウンターを叩き二人の会話に割り込んだのは受付嬢である。

 一枚の依頼書を持ってきた途端とんでもない事を話し出した二人に、彼女は御冠のようだ。

 

「前回の事は申し訳ないと思っていますし、冒険に不測の事態が付き物だというのは分かりますが、そういう話をされるとギルドの評価が下がるんです!」

「「ご、ごめんなさい……」」

 

 あまりの迫力に疾走騎士と魔術師の二人は声を重ねて謝った。

 以前マンティコアと遭遇してしまった事や、彼の生い立ちを含め、疾走騎士の不運さを受付嬢はよく理解していたが、そう何度も同じことがあってはギルドとしてもたまった物ではない。

 

「依頼内容に不服があるのでしたら、受けなくても結構ですよ?」

「う、受けます」

「なら、今回は大目に見てあげましょう」

 

 ──困惑する彼の姿が、どこかゴブリンスレイヤーと重なって、つい意地悪をしてしまった。

 受付嬢は気を取り直し、依頼の概要を説明し始める。

 

「えっと、依頼主は医師さんですね。都から派遣されて、方々の村で活動しているみたいなんですが、食料品や薬品の消耗が激しいらしく、その補給をお願いしたいとの事です」

「都から派遣された医師……ですか」

 

 すると疾走騎士は何か思うところがあるのか、俯いて黙り込んだ。

 

「目的地は……北の方? 結構距離があるわね……」

「物資は工房で受け取れますので、よろしくお願いしますね!」

「えぇ。任せてください」

 

 受付嬢の言葉に対して少しの間を置いて返事をすると、疾走騎士と魔術師の二人は背を向けて、工房へと向かった。

 

───────────────

 

「途中雨が降りそうね……」

 

 工房にて、物資の受け取りと消耗品の買い揃えを済ませた私達は、直ぐ様街を後にした。

 すると徐々に雲行きが怪しくなって来ている事に気付く。

 どうしましょ、コートでも買った方が良かったわね……。

 

「もし降ってきたら二人でこのマントを被りましょう。雨は凌げる筈です」

「え……二人でその一枚のマントに?」

「そうなりますね」

 

 それなら何とかなりそうだけど……う~、なるべく降らないでよね。

 

 ──或いは、それが悪かったのか。それからものの数分で雨は降り始め、徐々に勢いを増していく。

 彼は自身のマントを頭から被ると手で拡げ、私はその内側へと入れてもらう。

 

「失礼しますね」

「あっ……」

 

 すると突然彼に肩を抱き寄せられ、密着する形になる。

 

「足元に気を付けてください」

「う、うん……」

 

 私は瞬時に悟った。

 

 

 ──これはヤバイ……と。

 

 

 何がヤバイと言われれば何もかもがヤバイ。

 顔が熱い、心臓がバクバク、頭もパンクしそう。

 何か……何か話題を探さなきゃ……。

 

 あ、そうだ。

 

「ね、ねぇ。この依頼の主って疾走騎士の知ってる人?」

「……何故そう思ったんですか?」

「受付で話を聞いてた時、ちょっと変だったから」

 

 いつもなら依頼を受けて即行動、の疾走騎士が今回は不自然な間があった。

 確か依頼主は、都から派遣され方々を回っている医師……という話だったが──。

 

「もしかしたら……そうかもしれません」

「そう。仲が良かったとか?」

「いや、少し話したことがある程度です」

「ふぅん……」

 

 彼の返答に、私は少し疑問を持った。そんな相手に対して、あれほど神妙そうにするものなのかしら? ……と。

 ……まあ、いいわ。私は私の為すべき事を為すだけだし。

 

 少しぬかるんだ地面に足跡を付けながら、転げないよう慎重に前へと歩み続ける。まるで冒険の様相を再現するかのように。

 もしつまづいても、きっと疾走騎士が支えてくれるだろう。

 でもそれじゃあダメだ。私は、この男と支え合える強さを身に付けたいのだから。

 

「で、この依頼ではソゥシーヤからどんな啓示(ハンドアウト)を受けてるの?」

「騙して悪いがって言ってました」

 

 やっぱり何かあるんじゃない(諦め)

 彼が受ける啓示(ハンドアウト)は、決まって疾走騎士自身を危険に晒すものばかりだ……。

 

───────────────

 

 輸送の目的地である村の跡地に到着すると、雨も止み、太陽が顔を覗かせ始める。

 

「依頼人とはここで合流するはずなのよね?」

「……はい」

 

 彼は村の焼け跡を眺めていた。

 その後ろ姿がどこか虚に見えて、私をとても不安な気持ちにさせる。

 

「大丈夫?」

「大丈夫です」

 

 本当かしら?疾走騎士、いつもと違うように思えるけど……。

 

「それらしい人、居ないわね」

「……見てください」

「え? あ、それ足跡? どこへ行ったのかしら」

 

 疾走騎士がぬかるんだ地面に付けられた足跡を見付ける。どうやら私達が来た方向とは別の方向へと続いているようだ。

 雨が降った事で足跡が付きやすくなっていたのだろう。あの雨も、悪いことばっかりじゃなかったって事ね。

 足跡が伸びている先へ目を向けると、広野にそびえ立つ遺跡が見えた。少し遠いが、走ればすぐに着く距離だ。

 

「行ってみましょう」

「そうね、ここで待ってても始まらないわ」

 

 走り出す疾走騎士の後を追い、私も走った。

 そして遺跡に着くと、それは思ったよりも巨大な建造物である事が分かった。

 所々崩れかけており、建てられてからかなりの年月が経っている事を感じさせる。

 遺跡の地面は石畳になっており、足跡もそこで途切れている。

 しかしその先に見える入り口らしき大扉は、人が一人通れる程度に開いていた。

 

「あそこから中に入ったみたいね」

「引き返した足跡は見当たりません。まだ中に居るのでしょう」

 

 そうして私達は、静寂に包まれるその遺跡へと足を踏み入れるのだった──。

 




Q.故郷を燃やされて、疾走騎士くんはよく怒りませんでしたね……。

A.疾走騎士くんの故郷に来た医師もまた、都に派遣された医師でした。疫病が蔓延している話が伝わってしまい、迅速に対処されてしまったという訳です。彼女が悪い訳では無いことを、疾走騎士くんも理解していたのでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート11 『デカァァァイッ! 説明不要ッ!!』

 オリチャーにオリチャーを重ね、遂に初見プレイと化すRTA、第十一部はぁじまぁるよー!

 

 前回、疾走騎士くん達は依頼主を追って、デーモンの居る遺跡へと到着しました。

 今回は遺跡の最深部へと向かい、デーモンを討伐しますよ!

 

 元から開いていた入り口の大扉を抜けると、開けた空間に出ました。

 あちこちに大きな壺が置かれていますが、これらはなんの意味もないオブジェクトです。壊してもメダルが入っていたりしません。

 

 この遺跡は遥か過去、混沌の勢力が人々を閉じ込めるのに利用していた牢獄です。

 見張りは悪魔(デーモン)達にやらせていたそうですが、今は見る影もありませんね。

 

「うわ、屋根が崩れてるじゃない」

 

 通常ならこのまま奥に進んで、遺跡の探索を行いながら最深部を目指す訳ですが、疾走騎士くんが居るこの広場には一部足場が崩壊する場所があり、最深部まで一気に落下する事が可能です。

 しかし落下ダメージは受けますので、落ちたら即治癒の水薬(ヒールポーション)を飲みましょう。そのまま戦闘になる可能性も、ありますからね。

 

 それでは足場を崩壊させて下に落ちましょう。崩壊する場所は完全ノーヒントですが、RTA走者にとっては問題にもならん(ゴブスレさん並み感)

 

 

 

 それでは一気に最深部へ、イキますよ~イクイク……

 

 

 

 …………?

 

 

 

 ……あれ?

 足場が崩壊しないよ?

 

 

(疾走騎士くんうろつき中……)

 

「……ねぇ、何してるのよ?」

 

 やべぇよやべぇよ……確かこの辺りだったと思うんですけど……?

 

「ちょっと聞いて──きゃっ!?」

 

 オォン!

 

 魔術師ちゃんがつまづいて、疾走騎士くんに抱き付いて来ました。

 バランスを崩し、尻餅をついてしま──ファッ!? ンアッーーーー…………。

 

 

 ……足場が崩落しましたね。どうやら疾走騎士くんの重量不足だったようです。

 だから回りに壺が置いてあったんですね。一人で来た際に重量不足だった場合は、あれらを動かせば重量を稼げる仕様のようです。

 これは新しい発見ですね。いつもソロで来るときは、ガチガチの重装備で来てましたからね。

 実質的なロスは、2分くらいだと思います。きっと。

 

 さて、最深部へ到着した訳ですが……何故か疾走騎士くんが大ダメージ受けて、魔術師ちゃんが無傷ですね。あぁん? なんで?

 

「……下敷きにしちゃったけど大丈夫?」

 

 あのさぁ……。

 取り敢えず治癒の水薬(ヒールポーション)を飲んで回復しました。

 さて、ここに魔女狩人さんが居るはずですが……?

 

「見て! 誰か倒れてる!」

 

 おk! 魔女狩人さん発見! あとはここに居る悪魔(デーモン)を討伐さえすれば目標達成です。

 出てくるのは何かな? 一応、一番強いパターンの夜鬼(ナイトストーカー)の対策も出来てはいるので、大丈夫だと思います。

 夜鬼(ナイトストーカー)は影の如き肉体を持ち、暗闇に溶け込んで攻撃してくる怪物です。

 正規ルートで進んだ場合、この地下だと視認することすら出来ません。ふざけんな!

 ですが天井を崩落させている現在の状態では、微かに光が差し込んでいますので、疾走騎士くんが盾で反射させた光を浴びせ続ければ、安定して戦う事が出来るという訳ですね。

 

 最弱パターンの下級魔神(レッサーデーモン)なら、正面からの殴り合いでも勝てます。その為のW盾。その為の盾チク。

 

 おおっと、悪魔(デーモン)が暗闇から姿を現しました。

 

 

 

 

 …………なんだこの悪魔(デーモン)!?

 

 

 

 

 見た事も無い、ハッキリ分からないんだね(初対面)

 えぇ……ここに来て新しいパターン引いたんだけど?

 しかもでかい。六メートルくらいありそう。お腹が丸々としてて横幅もでかいです。

 手に持った斧に至っては、悪魔(デーモン)自身よりでかいですね。

 しかし背中に生えた羽がクッソ小さく、体に比べて貧弱すぎます。それ付いてる意味無いんじゃね?

 

 取り敢えずこの悪魔(デーモン)は、便宜上《クソデカデーモン》とでも、名付けましょうかね。

 まあ、上位魔神(グレーターデーモン)でもあるまいし、殴れば大丈夫でしょう!

 

 では魔術師ちゃんには、気絶した魔女狩人さんを連れて隅っこにでも隠れておいてもらいまして……。

 

 それでは戦闘開始。オッスお願いしまーす!

 

 まず疾走騎士くんがタゲ取りを行う為、接近します。

 するとクソデカデーモンが、疾走騎士くん目掛け斧を振り下ろしてきました。

 ……モーションは分かりやすいですね。盾で防ぐのは流石に無理なので、横へローリングして回避しました。

 

 そこから横薙ぎへ繋げて来たので、その下を潜るって回避! そして近付く事に成功!

 モーションはトロルとかと大差ありませんね。斧のリーチと威力は段違いですが、対巨人との戦い方で問題無さそうです。

 

 私の相手をするには速さが足らんな! 大方レベル5……否、レベル4程度の悪魔(デーモン)と見た! (闇人(ダークエルフ)並みの感想)

 

 では早速、殴りに行きましょう。

 

 

 ……オォン! イタイッシュ!

 

 

 唐突にクソデカデーモンが地面に斧を突き立てたと思ったら、爆発が起こりました。

 接近を試みていた疾走騎士くんは、これをW盾でガード! 何とか踏み留まりましたが、それでも結構痛いですね。

 

 詠唱無しで魔法ブッチッパとか、ふざけんな!

 しかしここで退く訳にはいきません。さっきの攻撃の後でクソデカデーモンに隙が出来ています。このまま攻撃しましょう!

 

 ホラホラホラホラ。

 

 意外とダメージは通りますが、怯む様子すらありません。

 恐らく見た目通りHPが相当高いみたいですね。

 

 すると再び、斧突き立てからの爆発をして来たので、一旦離れます。後の隙を狙ってまた攻撃しましょう。

 

 何回か攻撃すると、また斧突き立てからの爆発をしようとして来たので、再度離れました。爆発をやり過ごしてまた攻撃します。

 

 ……パターンに入ったみたいなので、倍速で良いですかね?

 

 と思っていたら、クソデカデーモンが唐突にジャンプしました。

 いや、ジャンプというか……飛んでない? えぇ……お前その図体とクッソ小さい羽で飛べるのか(困惑)

 

 凄まじいタフさと、食らえばひとたまりもない物理攻撃。おまけに魔法攻撃も使ってきて飛行能力も咥え入れられてるとか、やっぱレベル6以上あるかもしれません(ホモは優柔不断)

 

 あ! しかもアイツ、天井の穴から逃げようとしてるじゃねぇか! やべぇよ……やべぇよ……このまま逃げられたらRTAが壊れちゃーう!↑ 魔術師ちゃん助けて!

 

「《火矢(ファイアボルト)》で撃ち落とすのね!」

 

 なんで(《火矢(ファイアボルト)》を)撃つ必要なんかあるんですか?

 魔術師ちゃんには、疾走騎士くんに(・・・・・・・)突風(ブラストウィンド)》をぶちかましてもらいます。

 

「……へっ?」

 

 魔術師ちゃんの《突風(ブラストウィンド)》で疾走騎士くんを吹き飛ばし、その勢いのまま飛んでるクソデカデーモンに、弾丸アタックします。

 

 前回のマンティコア戦では、疾走騎士くんが高所から落下する事により、弾丸アタックを仕掛ける事ができましたが、《突風(ブラストウィンド)》の力を借りればその必要もありません。

 

「ほ、ホントにやって良いのね!?」

 

 いいよ! 来いよ! 胸にかけて胸に!

 

 疾走騎士くんもダメージを受ける事必至ですが、その分戦闘を早く終わらせられますからね。

 KMR早くしろー、ああ逃げられちゃう!

 

「《ウェントス()》……《クレスクント(成長)》……《オリエンス(発生)》!!」

 

 疾走騎士くんを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!!

 飛んでるクソデカデーモンの真下から、見事命中! 盾がケツに深々とぶっ刺さりました。

 

 これにはクソデカデーモンも堪らず、体勢を崩して落下します。

 

 ……ファッ!?

 

 疾走騎士くんがケツに押し潰されちゃう! 盾を手放して脱出しましょう!

 

 せふせふ。疾走騎士くんは、難を逃れました。

 そしてクソデカデーモンですが、ケツに刺さった盾が落下の衝撃で更に深く突き刺さり、穴拡張のダメージに耐えきれず失神したようですね。

 

 取り敢えず盾を回収して……回収して……ヌッ!

 

 ふぅ、やっと抜けた。トドメを差しておきます。

 じゃあ……死のうか。(頭部に致命の一撃)

 

 やったぜ。ちなみに盾ですが、幸い糞塗れにはならなかったみたいです。

 ゴブリンの武器みたいに毒属性が付与されてしまうところでしたね。

 

 んじゃ帰りましょ。

 

 帰りも、正規ルートを使うつもりはありません。魔術師ちゃんの《突風(ブラストウィンド)》で上まで飛ばしてもらい、落ちてきた穴から脱出しましょう。

 

 魔術師ちゃんと魔女狩人さんのダメージは疾走騎士くんが肩代わりします。その為のかばう。その為のW盾。

 

「マトモな使い方しないわね……」

 

 《聖壁(プロテクション)》といい、移動に影響を与える魔法や奇跡は、幾らでも使い所さんがあって良いですね!

 

「《ウェントス()》……《クレスクント(成長)》……《オリエンス(発生)》ッ!」

 

 ヌッ! ンアッーーー……。

 

 ……オォン! 痛いんだよぉ!

 

 穴から出て着地し、続けて出てきた魔術師ちゃんと魔女狩人さんを受け止めました。……やっぱり重いっすね魔術師ちゃん。

 とにかく、これで三人とも遺跡から脱出! ちとロスったが良しッ!

 

 取り敢えず、安全な場所まで魔女狩人さんを運びましょう。わっせ、わっせ。

 

 魔女狩人さんを背負って、村の跡地まで戻ってきました。日が暮れてくる時間なので、今日のところはここで野営となります。

 

「《インフラマラエ(点火)》」

 

 魔術師ちゃんが居るので火起こしも楽ちんちんですね。あれ何気に成功判定が厳しいので、RTA的にもマズあじなんですよ。

 念の為、魔法の施行回数を一回残してたんですが、どうやら彼女は魔女さんの得意技である単独での真言も、既に教わっていたようです。

 真言一つで行使した魔法は、施行回数に含まれず、消耗する事もありません。

 

「……あれ? クォクォア……?」

 

 魔女狩人さんが目覚めましたね。デーモンにやられた時のダメージが多少残ってるようですが、問題は無いみたいです。

 そのデーモンも倒したんで、安心してくれよなー?

 

 では今回は、冒険者として初の野営を行いたいと思います。

 野営では、食事と睡眠の他に、装備の手入れや、メンバーとのコミュニケーション等も行う事が出来ます。

 

 取り敢えず、近くに川が流れてるので、盾は洗っておきましょう。

 デーモンの穴に突っ込んだせいか、若干切れ味が低下してます。

 疾走騎士くん的にも精神的にキツかったのか、不快値も溜まってましたからね。

 

 次に、メンバーとのコミュニケーションですが、これは会話やアイテムを渡す等で、好感度を上げたり出来るコマンドです。

 

 ここで好感度を上げるとすれば、やはり魔術師ちゃんでしょう。メンバーとして、ちゃーんと好感度を上げておかないとね!

 

「あのデーモン、昔の文献で見たことあるわ。その昔、混沌の勢力は悪魔(デーモン)を自分達の拠点の番人として使役していた事もあるらしいの。でも、魔神王が勇者の手によって滅ぼされると、置かれていた番人ごとその拠点が放棄された。そうやってほったらかしになった悪魔(デーモン)が、『はぐれ』になって残ってしまう場合があるって。つまりアレは『はぐれ悪魔(デーモン)』って訳ね」

 

 魔術師ちゃんは博識、ハッキリ分かんだね。

 長々としたお話にも関わらず興味深く聞いてしまいました。

 こういうのを専門用語でロスと言います。

 

 魔女狩人さんとのコミュニケーションは必要ないです。

 依頼人である彼女とは、今後関わる予定がチャートにありませんからね。

 

「あの、何処かでお会いしましたか?」

 

 何いきなり話し掛けて来てるわけ?

 とまあこのように、向こうからのコミュニケーション相手に指定されてしまう場合もあるわけですね。

 出来れば選んで欲しくなかったですが、魔術師ちゃんとの二択しかなかったので、これは仕方ありませんね。

 

 二人と交流した後は、食事をとってから睡眠に入り、体力の回復を行います。

 しかし、野営での睡眠時は、交代で見張りと火の番をしなければなりません。

 六時間は睡眠を確保したい所さんなので、三人でとなると、三時間毎での交代が理想的ですね。

 

 話し合いの結果、疾走騎士くんは二番目に見張りをする事となりました。

 三時間睡眠、三時間見張り、三時間睡眠のスケジュールとなりますね。男女平等スタイル。後衛に配慮もありませんが今回は問題無しです。

 

 では少しの間、疾走騎士くんはお休みとなりまーす!

 

(疾走騎士くんお休み中……)

 

 オォン! どうやら疾走騎士くんの番みたいですね。

 では今から見張りを始めたいと思いますが、ここで一つだけ、問題が発生してしまいました。

 

 …………皆さんもうお分かりですよね?

 

 そう、疾走騎士くんが見張りを行っている間は、完全に動きがありません。今ご覧になって頂いている通り、たとえ16倍速したとしても、11分以上、火を見つめるだけの疾走騎士くんを、映し続ける事になる訳です。

 

 そのため、この時間を有効活用し、皆様お待ちかねの、クッキー☆を上映しようかと考えたのですが……。

 今回はせっかくなので、早送りしている間、本RTAに登場しているキャラクター達の紹介を、行おうと思います。残念ね!

 

 紹介するのは、現時点で疾走騎士くんとの関わりが多いキャラクターで、冒険者に限定させて頂きます(唐突にBGMとして流れ始めるほのぼの神社)

 

 まず始めに疾走騎士くん。

 言わずと知れたこのRTAの操作キャラクターですね。

 来歴と邂逅が、苦難と孤独というWパンチをくらい、メンタルがヤバイ事になってました。なおRTA的にはうまあじだった模様。

 元々は国に仕える軍の騎士で、伝令役として活動していました。

 その頃は剣を使っていましたが、走者となった今は、二つの盾を持っています。

 騎士の前は農民だったらしく、体力があるのもその為ですね。ただその犠牲に知力は低く、字は読めないようです。

 でも学ぶ機会が無かっただけで、伸び代が無い訳ではありません。覚えようと思ったら普通に覚えてくれるでしょう。

 多分魔術も使おうと思えば使えるんじゃないかな?(王者の風格)

 ……(でも覚える予定は)ないです。

 疾走騎士くんのステータスは、純粋なナイトタイプ。元々HPとスタミナが高く、武器兼防具である盾を二つ装備し、攻撃力と防御力を確保している為、正面からの突破力は凄まじいです。

 しかし、相手の背後へ忍び寄り致命の一撃を決める事もあるなど、時に忍者のような立ち回りも見せます。これもう分かんねぇな?

 見たら軽く不快値が溜まるレベルで目が濁りきってます。しかし魔術師ちゃん曰く、それを除けば『気弱そうな奴』らしいです。つまりチワワ。そなたなど、まだまだ子犬よ。

 

 次に、魔術師ちゃん。

 都にある賢者の学院出身である、とても優秀な魔法使い。

 疾走騎士くんと最初に一党を組み、今ではすっかり相棒的な立ち位置になりましたね。

 彼女の魔術に関する才能は凄まじく、また、自身に妥協しない性格でもあった為か、努力を怠る事は無く、結果無事に賢者の学院を卒業しています。

 賢者の学院を卒業するというのは、相当ハードルが高いらしく、その実績を得た者はその後も引く手数多で、エリートコースまっしぐらですね。

 しかし彼女がその功績で得た自信は、ゴブリン相手に呆気なく砕かれました。学んだ事が何も役に立たなかったと自らの無力さを悟り、一からやり直す事を決意。

 疾走騎士くんと一党を組んでからは、RTAに巻き込まれる形でクッソ濃縮された経験を得て、自信を取り戻しつつあるようですね。

 戦闘力に関しては正直まだまだこれからですが、それでも黒曜等級にあるまじき強さを持っていますね。魔女さんに師事してからメキメキと成長を続けています。

 無愛想な言動と鋭い目付きで人を寄せ付けない雰囲気ですが、自身の能力を認めてくれている疾走騎士くんや魔女さんとは素直に接しているみたいですね。

 なおその胸は更に成長中であった。

 

 自由騎士ちゃん

 法と正義を重んじる至高神に仕える騎士であり、実は貴族の家系に生まれた御令嬢です。

 何故貴族である彼女が冒険者となっているのかは不明ですが、恐らく至高神からの《託宣》があったんだと思います。

 今のところ、ゴブリンに不意を打たれて気絶したり、疾走騎士くんに不意を打たれて押し倒されたりと、良いところはありませんが、彼女は鋼鉄等級として見ればかなり優秀な方です。

 重量がある鉄鎧を身に纏いながら軽快に立ち回り、本来両手で扱う長剣を片手で軽々と振るっている事からも、その実力は明らかです。

 一党のリーダーとしてメンバーからの信頼も厚く、彼女が優れた冒険者であることが伺えますね。

 欠点としては、やはり不意打ちに弱い事でしょうか? 彼女の真っ直ぐな性格を現してるとも言えます。彼女の一党に、もう一人前衛が居ればいいんですけどね(目を逸らし)

 鎧に秘められたその胸は意外と豊満であった。

 

 圃人野伏ちゃん。

 自由騎士ちゃん率いる鋼鉄等級一党のメンバーその1ですね。

 彼女は圃人にしては珍しい、戒律が『善』の圃人であり、正義を志す自由騎士ちゃんの一党に加われているのもその為だと思われます。

 しかし性格に関しては圃人の例に漏れずお調子者で、度々メンバーを呆れさせますが、そんな立ち位置から一党のムードメーカーでもあります。

 自由騎士ちゃんが唯一敬語を使わない相手である事からも、気を許している様子が見て取れますね。……まあ、敬う必要すら無いと思われている可能性も十分にあり得ますが。 

 そんな彼女の実力についてですが、これが実は自由騎士ちゃんと同じく、鋼鉄等級として見て十二分です。弓の腕に関しては正直天才と言っても良いでしょう。

 更に斥候として優秀なので、罠や敵の探知を行いながら一党をどんどん引っ張って行ってくれます。

 彼女にも強いて欠点を挙げるなら、やはり圃人特有の体力の低さですかね? 集中力が切れて罠の解除に失敗、なんて事になる場合もあるかもしれません。

 もう一人、斥候をこなせて体力があるメンバーが居れば、彼女の負担も相当減るでしょうけどね(目を逸らし)

 その胸は圃人にしては豊満であった。

 

 森人魔術師ちゃん。

 自由騎士ちゃん率いる鋼鉄等級一党のメンバーその2です。

 ……魔術師ちゃんと名前が被ってるのでちょっとややこしいですね。

 彼女は自由騎士ちゃんの正義に賛同し、一党に加入しました。メンバーの中では一番の年長者です。

 どうやら、自由奔放な圃人野伏とは、度々言い争いになるみたいですね。

 でも彼女達一党の様式美的な物なので、決して仲が悪い訳ではありません。

 実力としては、これまたかなり優秀。魔術師ちゃんと遜色ない程です。

 何でも《火矢(ファイアボルト)》を指先から三発まで同時に撃てるとかなんとか。……え? これホント?

 しかし、魔術師ちゃんと同じく多勢に囲まれる事に弱いので、前衛がキチンと守ってあげなくてはなりません。優秀な盾役が必要ですねぇ!(疾走騎士くんを隠しながら)

 その胸は魔法を扱う者として当たり前のように豊満であった。

 

 女僧侶ちゃん。

 自由騎士ちゃん率いる鋼鉄等級一党のメンバーその3です。

 彼女は至高神に仕える僧侶で、自由騎士ちゃんからすれば先輩的な立ち位置にあります。

 回復の奇跡が得意で、後衛として一党を支える縁の下の力持ちさんです。

 一党の中では一番の常識人で、メンバーが目に余る行為を行おうとした際には、彼女が物理的な《聖撃(ホーリー・スマイト)》で止めるのがお約束になっているみたいですね。もういっそのことメイスでも持つべきでは?

 疾走騎士くんの影響で一党が暴走しかけているので、彼女の心労はマッハのようです。彼女達を制御出来る強靭な精神力を持ったメンバーがもう一人居れば、救われそうですね(疾走騎士くんを抱えて逃げ)

 その胸は女神官と同じく平坦であった。

 

「ん……疾走騎士、交代よ」

 

 おっと、ここで魔術師ちゃんが起きてきました。はて? まだ少し早い筈ですが?

 

「アンタばっかりに苦労させたくないのよ。あんなのと戦ったんだし、ちょっとでも多く休みなさい。アンタが万全な方が私も安心出来るし……」

 

 ありがとナス! それではお言葉に甘える事にしましょう。

 キャラクター紹介も終わる頃だったので、そろそろクッキー☆の上映に移るつもりでしたが、残念ながら

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 

 




Q.女神官ちゃんが私に祈りを捧げてるぞ! ううっうぅうう!! 私の奇跡よ女神官ちゃんへ届け!! 辺境の街の女神官ちゃんへ届け!

A.そういや彼女、今は神殿に籠って祈りを捧げてるんでしたね……(ドン引き)


※今回のキャラ紹介は独自での設定を多く含んでいるため、この周回ではこうなってますという解釈でお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート11 裏 前編 『ホァイ!』

 依頼人の痕跡を辿り、広野の遺跡へと到達した疾走騎士と魔術師。

 遺跡の入り口である大扉が元々開いていた事から、二人は依頼人はこの遺跡の中に居ると判断。足を踏み入れる事にした。

 

「うわ、屋根が崩れてるじゃない」

 

 大扉を潜ると、内部は広場になっているようだ。

 魔術師が辺りを見回すと、天井の屋根が崩れ、太陽の光が差し込んでいる事に気付く。

 その崩れた痕跡なのか、石畳で作られた足元には、瓦礫が散乱していた。

 

「……ねぇ、何してるのよ?」

 

 一体どうしたのだろうか、何やら疾走騎士が、広場の中央辺りをうろうろと歩き回っている。

 疾走騎士が地面を蹴る……が、しかし、なにもおこらなかった。

 少し歩いてまた地面を蹴る……しかし、なにもおこらなかった。

 彼がそれを繰り返していると、返事が無いことにムッとした魔術師が、疾走騎士へと詰め寄ろうとする。

 

「ちょっと聞いて──きゃっ!?」

「……!?」

 

 そこで魔術師が散乱した瓦礫の一つにつまづき、疾走騎士に向かって勢いよく転んでしまう。

 それを咄嗟に受け止めた疾走騎士は魔術師の全体重を支えきれず、バランスを崩し後ろへ倒れる。すると……。

 

「あ……」

「え……いやーっ!!」

 

 突然床が崩落を起こし、二人は暗闇の底へと落ちていった──。

 

───────────────

 

「もう、一体何が起きたのよ……」

 

 私達が落ちた先は薄暗く、上の広場と同じくらいの広さがある空間だった。

 それなりの高さを落下した筈なのにどこも痛くない事を不思議に思い、うつ伏せの状態から頭を振って起き上がりつつ、自分が落ちた地面を確認する。

 

「…………ふぁっ!?」

 

 すると目の前には大の字になっている疾走騎士が居た。

 彼の両肩に手を着いて起き上がろうとしていた為、まるで襲っているような体勢になってしまっている。

 

 ……あれ? この状態からコイツを見下ろすの、何だかゾクゾクする……?

 

「あの、退いて頂けますか?」

「え……あっ! ご、ごめん!」

 

 私は慌てて立ち上がり、その場から退く。

 いけないいけない、何を考えてるのよ私は! 疾走騎士に背を向けて、自分の頬をぺしぺしと叩いた。

 

「……下敷きにしちゃったけど大丈夫?」

 

「えぇ、まあ。何とか……」

 

 彼は答えを濁しながら一本の治癒の水薬(ヒールポーション)を取り出すと、それを一気に飲み干した。うぅ……やっぱり重かったのかしら。

 

「……結構な高さを落ちましたね」

 

 疾走騎士が立ち上がり、上を見上げると、天井に開いた穴から光が差し込んできていた。

 

「見て! 誰か倒れてる!」

 

 その光のお陰で私は近くに人が倒れている事に気付く。

 駆け寄って状態を確認してみると、意識は無いものの、どうやら息はある様子だった。負傷しているみたいだけど、すぐに手当てをすれば問題は無さそうね。

 黒いコートを身に纏っているが、鳥のマスクを被っている事から医師である事が伺える。

 

「もしかして、この人が依頼人? でも何でこんなボロボロに? この人も落ちてきたのかしら? ……あ、そうだ疾走騎士! この人に治癒の水薬(ヒールポーション)……を…………」

 

 疾走騎士に手当てを頼もうと振り返った瞬間、背筋が凍り付いた。

 彼の後ろ姿の向こうには、まるで巨人の如く巨大な悪魔(デーモン)が、手に持った斧を振り上げた状態でこちらを見下ろしていたのだ。

 その醜悪な形相を見ただけで死を連想してしまった私は恐怖で震えてしまい、体が動かなくなる。

 

遭遇(エンカウント)。彼女を連れて隅に隠れていて下さい」

 

 しかし、疾走騎士はいつもと何ら変わらない調子で私に指示を出すと、悪魔(デーモン)に向かって走り出した。 

 

「待って!! ダメぇ!!」

 

 そして悪魔(デーモン)が巨大な斧を疾走騎士目掛け振り下ろす。

 まともにくらえば床ごとその身を砕かれ、間違いなく死ぬであろう痛恨の一撃。

 疾走騎士にそんな結末を迎えて欲しくなくて、私は思わず叫んでいた。

 

「……ふっ!」

 

 しかし、疾走騎士は斧が眼前まで迫ってきたタイミング、まさに攻撃を受ける直前で右方向へ飛ぶように転がり回避した。轟音と共に敷き詰められた石畳が砕け散る。

 だがそれも束の間、悪魔(デーモン)が横凪ぎのスイングで疾走騎士を追撃。すると今度は盾を添えるようにして攻撃を流しつつ、体を反らし潜り抜けた。

 

「す、凄い……」

 

 私はそれを呆然と眺めていたが、そこでようやく疾走騎士が前に出た理由に気付く。

 もし先程の一撃が、恐怖で身が竦んでいた私に向けられていればどうなっていた? 間違いなく避ける事も防ぐ事も出来ずに呆気なくやられていただろう。

 だから疾走騎士は自分に目を向けさせるため、咄嗟に前へ出た。

 あんな恐ろしい相手に対しても、アイツはいつも通り自分が出来ることを為し続けているのだ。

 

「……っ! 何を立ち止まってるのよ私は!」

 

 怖くて震えてる場合じゃない。

 私は私にしか出来ないことをやらなきゃいけない。

 疾走騎士の指示通り、倒れている依頼人を戦いに巻き込まれない場所まで運ばなきゃいけない。

 ……しかし、そこで更に想定外の事態が発生する。

 突然悪魔(デーモン)が持っている斧を地面に突き立てると、斧の先端から爆発が発生したのだ。

 私は爆風によって膝をついてしまうがすぐに立ち上がった。

 

「な、何よ今のは……魔法? そうだ、疾走騎士は!?」

 

 離れていた私でも体勢を崩す程の衝撃を、接近していた疾走騎士は間近で受けたはず……彼は無事だろうか?

 巻き上げられた砂埃が晴れると、そこには盾を地に突き刺した状態で構える疾走騎士が居た。

 どうやら盾を杭にする事で、なんとか持ちこたえたようだ。

 

 彼は盾を引き抜くと即座に悪魔(デーモン)へ接近。腹部を盾の刃で斬りつけた。

 鮮血が散るも、悪魔(デーモン)は怯む様子すらなく疾走騎士に対し斧を突き立て、またもや爆発が起きる。

 それに対し疾走騎士は盾を構えながらバックステップで距離を取り、ダメージを最小限に抑え、再び接近し攻撃を仕掛けた。

 

「……全然大丈夫そうじゃないの」

 

 私は依頼人を一番離れた隅に寝かせ、戦いの様子を伺っていた。

 巨大な悪魔(デーモン)の攻撃を一つ一つ丁寧に捌き続ける疾走騎士の戦いぶりを見て、既に私の恐怖は完全に消えている。

 理想の立ち回りを演じて見せる事が仲間の精神的支柱にもなる、後衛を守るだけが盾役の仕事ではない、そういうことなのだろう。

 彼の優秀さが垣間見える。

 

 倒せるかもしれない。そう感じさせる程にあの巨大な悪魔(デーモン)相手に善戦している。

 とはいえ、もし一撃でもまともに受けてしまえば終わりなのだ。

 決して油断は出来ない状況である事に変わりはなかった。

 

 それに、疾走騎士の攻撃だけではあの巨体に対して致命の一撃を決めるのは難しいだろう。

 私の魔法を決められるタイミングを、アイツは見極めようとしているはずだ。

 

「きっとアイツから指示があるはず……ね」

 

 私は杖を握りしめ、いつでも魔法が撃てるよう神経を研ぎ澄ます。

 

 その後も悪魔(デーモン)は何度も爆発を繰り出し続けた。どうやら疾走騎士が近すぎる位置に居るせいらしい。

 手にしている武器が斧である以上、振り回しても刃の部分に当てにくいという欠点がある。あの巨体なら尚更だ。

 かといって、手や足で攻撃するにも悪魔(デーモン)自身の動きが鈍重過ぎる。

 結局は全方位を攻撃できる爆発で追い返すのが最善なのだろう。

 

 しかしその爆発が疾走騎士にとってはもはや驚異にはなっていない。

 悪魔(デーモン)の動作に合わせヒットアンドウェイを行い、爆発が発生する際にのみ距離を取り、ダメージをほぼゼロにしてやりすごした上で接近し攻撃を加える。

 それを繰り返し続けるだけの戦いになっていた。

 

「ほ、本当に指示があるのかしら?」

 

 既に多くの傷が刻まれた悪魔(デーモン)の足元には血溜まりが出来ている。

 もしかしてあのまま倒してしまうんじゃ? そんな事を考えていた時だった。

 

「と、飛んだ!?」

 

 悪魔(デーモン)はその巨体に対し、あまりにも不釣り合いな小さな翼を持っていた。

 もちろん普通に考えれば空を飛ぶ事など不可能であるように思える。

 しかしどういう訳か、目の前の悪魔(デーモン)は浮いているのだ。

 その小さな翼をパタパタと羽ばたかせて…………ちょっとかわいいとか思っちゃったじゃない。

 

「このままだと逃げられてしまいますね」

 

 あっ! 本当だ! 私達が落ちてきた穴から出ようとしてるじゃないの! こうしちゃいられないわ!

 

「《火矢(ファイアボルト)》で撃ち落とすのね!」

 

 私は意気揚々と立ち上がり、杖を構える。

 しかし呪文を唱えようとしたところで、疾走騎士が首を横に振った。

 

「いえ、自分に《突風(ブラストウィンド)》を使ってください」

「……へっ?」

「《突風(ブラストウィンド)》で、自分をあの悪魔(デーモン)まで吹き飛ばしてください」

「ええっ!? そんな無茶よ!」

「無茶じゃありません。これで二回目ですし、大丈夫ですよ。ヘーキヘーキ、ヘーキですから」

 

 うぐ……痛い所を突いてくるわね。確かに既に一回やらかしてるけども。

 でも確かに、あの図体に対して《火矢(ファイアボルト)》を当てても大したダメージにはならなさそうね。

 

「ほ、ホントにやって良いのね!?」

「はい、多分これが一番早いと思います」

 

 そんなやりとりをしている間にも、悪魔(デーモン)は地上へと向かっていく。あぁもう分かったわよ! やってやるわよ!

 

「《ウェントス()》……《クレスクント(成長)》……《オリエンス(発生)》!!」

 

 そして発動した《突風(ブラストウィンド)》により吹き飛ばされた疾走騎士は、ミサイルの如く悪魔(デーモン)へと一直線。そう、一直線に──。

 

「……あっ」

 

 盾を突き出した状態で真下から突っ込んだ結果、丁度悪魔(デーモン)のお尻に突き刺さる形になってしまった……。

 悪魔(デーモン)は大きな悲鳴を上げ、大きくバランスを崩すとそのまま下へと落ち始める。

 危うく下敷きにされそうだった疾走騎士は盾を手放して脱出したようだ。そして悪魔(デーモン)が地面に落下すると──。

 

「うわ……」

 

 お尻から地面に落ちたせいで、そこへ刺さった盾が更に深く突き刺さってしまったようだ。悪魔(デーモン)は苦悶に顔を歪め、前のめりに倒れると動かなくなった。

 

「し、死んだ?」

 

「いえ、まだです」

 

 落ちてきた疾走騎士は転がって受け身を取り、すぐに立ち上がると突き刺さった盾を回収しようと手を伸ばす。

 

 ……その光景はあまりにもひどいものだった。

 何がひどいかと言えば悪魔(デーモン)に刺さった盾を抜こうと疾走騎士は必死に引っ張っているのだが、その刺さった場所が問題だった。どうみても尻に手を突っ込んでいるようにしか見えない。

 いや実際そうなんだけれど……私は申し訳なくなって思わず謝罪の言葉を口にした。

 

「その、ごめんなさい。翼を狙えば良かったわね」

 

 さっき危うく疾走騎士が下敷きになりかけてたし、やっぱり咄嗟の判断力が私はまだまだだわ……。

 

「いえ、結果的に致命の一撃を与えられた訳ですから、お陰で助かりましたよ」

 

 その言葉は嬉しいのだけれども、悪魔(デーモン)のお尻に手を突っ込んだまま言われてもちょっと……ね。

 

「……ヌッ!」

 

 あ、やっと抜けたみたいね。

 疾走騎士が足早に逆側へ回り込むと、悪魔(デーモン)は口から泡を吹き気を失っていたが、頭を盾で一突きにされ、それがトドメとなった。

 

「終わりましたね」

「はぁ……今回ばっかりは本当に死ぬかと思ったわよ」

 

 体から力が抜けていき、私はその場にへたり込んでしまう。

 悪魔(デーモン)、しかもこんなでかい奴を倒せるなんて自分でもちょっと信じられないわ。

 

「それじゃあ依頼人も見付けた事ですし、パパパっと脱出しましょう。先程の《突風(ブラストウィンド)》の勢いなら、ここから上まで届きそうです」

「マトモな使い方しないわね……」

 

 どうやら彼にとって《突風(ブラストウィンド)》という魔法は、主に人を飛ばすために使う物らしい。違う、そうじゃないのよ。

 とはいえ今から他のルートを探索するのも危険だ。

 万が一コレと同じのがまだ居たりするかもしれない。

 彼の言う通り、これが一番早いのだろう。

 

「もし高度が足りない場合は飛んでから《聖壁(プロテクション)》で足場を作るので、そこからもう一度《突風(ブラストウィンド)》を使いましょう」

「何ソレ……ふざけてるの……?」

 

 彼は一体どこまで飛ぶつもりなのだろうか。

 その変態的な発想に今回ばかりはドン引きだった。

 




Q.《聖壁(プロテクション)》って敵対者の移動や攻撃を防ぐ奇跡なんですがあの……。

A.疾走騎士くん半ば混沌化してるしイケるイケる! 誰も彼も、自分自身すらも敵だと思い込ませましょう!(お目々ぐるぐる自己暗示)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート11 裏 後編 『せやけどそれはTDN夢や』

「ンアッーー!」

 

 《突風(ブラストウィンド)》で飛び上がり、地下から脱出した疾走騎士達。

 しかし些か勢いがありすぎたようで、穴を抜けてから数メートル程地上から離れてしまう。

 

「ヌッ!」

 

 疾走騎士は一人先に地上へと着地。そして続けて落下してきている魔術師と依頼人を見上げた。

 魔術師はともかく、気絶している依頼人はこのままだと頭から地面に叩きつけられてしまうだろう。

 彼は盾をその場に置いて、二人を受け止めるため両腕を広げる。

 

 

「オォン!」

 

 ……そして、柔らかい感触が疾走騎士を押し潰した。

 

「その……ゴメン、大丈夫?」

「はい、なんとか」

 

 魔術師はすぐに立ち上がるが、意識を失くしたまま吹き飛ばされた依頼人の方は疾走騎士の上で転がったままだ。

 魔術師が依頼人を引っ張り上げ、それによって疾走騎士はようやく立ち上がる事が出来た。

 

「えっと、知り合いなの? この人と」

「そんなところです」

 

 疾走騎士が依頼人を背負って遺跡の出口、自分達が入ってきた大扉へと歩き出す。

 

「取り敢えず安全な場所へ……村の跡地へ戻りましょう。あそこなら夜営も出来るはずです」

「確かに、今から私達の街まで戻るのは危険かもしれないわね」

 

 この暑い時期、日が落ちるのは遅い方だが、既に辺りは暗くなり始めていた。

 

「そういえば私、夜営自体初めてなのよね……」

 

 学院に通っていた頃は相当勉学に取り組んだが、それでも冒険者としては知らないことばかり。

 夜営に関しての知識もからっきしだが大丈夫だろうか? ……と、彼女はそんな不安を抱いていたが──。

 

「軍に居た頃はほぼ毎日夜営でしたよ。任せてください」

「ん、じゃあよろしく」

 

 頼り甲斐のある彼の言葉に魔術師は笑みを溢す。

 崩れた足場を避けるようにして広場の隅を通り、二人は遺跡を後にした。

 

───────────────

 

「《インフラマラエ(点火)》」

 

 私達は日が落ちる前に村の跡地へと到着した。

 疾走騎士が集めた小さな木の枝や枯れ葉を組み合わせ、私が呪文で火を点ける。

 疾走騎士曰く、こうして風の精の通り道を作る事によって、火の精がより活発になるらしい。

 

「てっきり《火矢(ファイアボルト)》を使うのかと思いましたが、そんな使い方も出来るんですね」

「師匠直伝よ。私もこんな使い方、今までやらなかったし、学院でも教わらなかった。でも消耗もしないし、凄く楽なのよ」

 

 こんな使い方、きっと学院であれば教授達に酷く叱られているだろう。

 しかし今の私にとって大事なのは呪文を唱える事ではなく、呪文を上手く『使う』事だ。

 私が彼にとって『使える』存在であるかどうかは、そこに懸かっているのだから。

 勢いよく燃え上がった薪がパチパチと音を立て始めた。どうやらうまくいったみたいね。

 

「それは凄い」

「ホント、どこまでも凄い人よね。師匠って」

 

 知識も経験も、私は未だあの人の足元にも及ばないのだ。

 いつか必ず──と言いたい所だが、その道のりは長く険しい物であり、その背は今だ遥か先。

 いつになったら追い付けるのか見当もつかない。

 

「いや、それをあっさりと物にできる貴女も凄いですよ」

「ふぁっ!? べ、別にこれはそんな難しい事じゃあ無かったし!? やろうと思えばやれる事よ!」

 

 彼の言葉が嬉しくて、そして安心して、でもやっぱり恥ずかしくて、私はいつものように顔を背ける。……顔が熱いのはきっと焚き火のせいだろう。

 

「……あれ? クォクォア……?」

 

 傍に寝かせていた依頼人がようやく目を覚ましたようだ。体を起こし、マスクの上から頭を押さえている。

 

「目が覚めたみたいね。調子はどうかしら?」

「確か私は……そうだ! デーモンが!」

 

 はっと顔を上げ、狼狽えた様子の依頼人。

 しかしそのデーモンは既に退治済みだ。私は彼女を安心させる為にもその事を話す。

 

「大丈夫。アレはもう私達が倒したわ」

「た、倒した……? あなた方はもしかして、ギルドから来た冒険者ですか?」

「そういうこと。ほら、頼まれてた物資よ」

 

 私は袋に詰められた物資をそのまま依頼人へと差し出した。

 

「あ、すみません。確認します……」

 

 それを受け取った依頼人は袋を広げると、中身を確認しているようだ。

 ……暫くして袋を閉め直すと、唐突に被っていたマスクを外す。

 

「本当にありがとうございました。物資を届けて頂いただけでなく、危ないところまで助けて頂いて……」

 

 ……女性だった。

 金色の髪に青い瞳、同じ女性の私でも思わず見とれてしまうくらいに整った可憐な容姿。それが依頼人の素顔──。

 これにはさすがの私も吃驚し、つい声を上げてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待って。女の人? マスクで全然気付かなかった。声もこもってたし」

「すみません。これが我々医師の正装でして……」

 

 つまり疾走騎士は彼女と知り合いって事? 話した事があるって言ってたわよね? 一体どういう関係なのかしら……。

 

「しかし、あの遺跡の調査は早々に切り上げるべきでした。まさかあれほど巨大なデーモンが隠れていたとは……よく倒せましたね?」

「あぁ、それは殆どコイツのお陰なんだけど……って、あれ?」

 

 焚き火の前で座っていた筈の疾走騎士がいつの間にか居なくなっている。

 辺りを見渡すと彼のものだとすぐに分かる足跡が残されていた。

 

「もうっ、一体どこにいったのよ」

 

 勝手な行動は心配するから止めて欲しいって、以前にも言ったのに……。

 そうして肩を落とす私の様子を依頼人が伺っていた。

 

「お仲間が居るのですか?」

「ええ、ちょっと探してくるわね。すぐ近くに居るはずだから」

「分かりました。私はその間に食事の準備をしていますね」

 

 依頼人は渡した袋の中から食材と鍋を取り出した。

 どうやら私達の分も用意してくれるらしい。

 

「いいの? じゃあお願いするわ」

 

 その場から離れ足跡を辿っていく。

 先には小さな川が流れており、そこに疾走騎士の姿はあった。

 彼は盾を布切れで拭いていたが私の気配に気付いたようで、首を傾げながら立ち上がる。

 

「あれ? どうしました?」

「どうしました、じゃないわよ。勝手に居なくなったらビックリするじゃない。何してたのよ」

 

 彼は置いていた盾を持ち上げて答える。

 

「盾を洗っていました。流石に衛生上良くないので」

「あぁ……」

 

 色んな意味でマズイ場所に突き刺さってしまった彼の盾。

 まあ、一刻も早く綺麗にしたくなる気持ちは分かるわね……。

 

「もう終わったのよね? じゃあ戻りましょ。依頼人が私達の分の食事も用意してくれるって」

「それは助かりますね。干し肉だけでは味気ないと思っていた所です」

「どうせアンタ吸い込んで終わりじゃないの……」

 

 そうして依頼人の下へと戻る途中、辺りは完全に闇夜に覆われていた。

 疾走騎士は足元に気を配りながら歩き、私はその背後にぴったりとついて歩く。

 彼の背中は、この闇夜から私を護ってくれているような気がして、それがなんだか心地良かった──。

 

「ねえ、疾走騎士」

「はい」

 

 私の声に、彼らしい単調な返事が返ってくる。

 

「あの依頼人が女性って知ってたの?」

「勿論です。貴女にもお伝えしたはずですが……」

「えっ!? いつ!?」

 

 つい声が上ずってしまった。

 自分の記憶を辿るも全く覚えがない。一体いつ聞いたのだろうか?

 

「デーモンと遭遇した際です。『彼女(・・)を連れて隅に隠れていて下さい』と言いましたね」

「……そんな咄嗟の事、分かるわけないわよ」

 

 呆れた私は項垂れて大きくため息を吐く。

 しかし頭をぶんぶんと振って気を取り直し、次の質問に移った。

 本当に聞きたいのはこちらだ。さっきの質問は出方を伺う牽制に過ぎない。

 

「……で、なんだけどさ」

「はい」

 

 私はなるべく自然体を装いつつ問いかける。

 

「彼女とは……どういう関係?」

 

 あの依頼人の素顔を見た時、私は疾走騎士が彼女と知り合いであることに恐怖した。

 もしこんな綺麗な人と疾走騎士が良い仲だったらどうしよう……と。

 知るのは怖い、だけど知らないままでいるのはもっと怖い。だから私は意を決して聞いたのだけれど──。

 

「…………一度会った事がある。それだけです」

「え、それだけ?」

 

 そんな恐怖はあっさりと霧散した。

 

「はい。それが何か?」

「う、ううん! それなら良いの!」

 

 言えるはずないけれど、私は心の底からホッとしていた。

 もし彼が私の前から居なくなってしまったら、私はまた進むべき道を見失ってしまうだろうから……それがどうしても恐ろしくて、考えたくもなかったのだ。

 しかし、彼が続ける言葉に私は別の不安を抱く事になってしまった。

 

「ただ、自分と彼女はあまり良くない出会い方をしてしまいましてね……」

「え、じゃあ仲悪いの?」

 

 それはそれで……気まずいわね。私が板挟みになる状況を想像してしまい、どうしようかと悩んだが、疾走騎士は首を横に振ってそれを否定した。

 

「どちらが悪い訳でもなく、それこそちょっとしたすれ違いから起きてしまった事でして……蒸し返さない為にも、ここは知らぬ存ぜぬを貫こうかと考えていました。彼女と会ったのはコレを被っていない頃だったので、気付かれる事はないでしょう」

 

 成る程。だから依頼を受けた時に様子が変だったのね……。

 疾走騎士は自身の兜を指先で叩いている。確かに彼の言うように、顔が完全に隠れている今の状態であればバレることはないだろう。

 

「そ、そう。何だか大変ね……」

 

 何とか絞り出した気休めの言葉に対して誤魔化すように彼は笑った。

 兜で顔は見えないけれど、その笑いが決して良い感情を含んだ笑いなどではないのだと、声と雰囲気ですぐに分かる。

 

「人との繋がりが、良いものであるとは限らない……という事ですよ」

 

 それは呆れたような、そして諦めたような、乾ききった笑いだった──。

 

───────────────

 

「貴方が私をあのデーモンから助けて下さったと聞きました。本当にありがとうございました」

「いえ。命が助かって何よりです」

 

 戻ってきた私達を迎えた依頼人は深々と頭を下げつつ感謝を述べた。

 それに対して疾走騎士は当たり障りの無い言葉を返している。

 どうやら彼女は疾走騎士が顔見知りである事に気が付いていない様子だ。

 

「体の具合はもう大丈夫なのよね?」

「はい、お陰様で。……あ、食事の用意、もう暫くかかりますので、休んで待っていてください」

 

 豆と肉のスープをかき混ぜながら微笑む彼女はまるで、絵画のようだ。

 こんな綺麗な人と知らないふりをしたいなんて、よっぽどの事があったんでしょうね……。

 時間を潰すため疾走騎士が装備の手入れを始めたので、私はそれを横から眺める事にした。すると突然彼が口を開く。

 

「あの悪魔(デーモン)。見たこともない種でしたね」

 

 遺跡で遭遇した悪魔(デーモン)の事だろう。

 規格外の巨体を持ち、爆発の魔法を駆使するうえ、更に空を飛ぶ悪魔(デーモン)

 ……こうして特徴を並べただけでもホントよく勝てたわよね私達。

 

「確かに、やけに図体がデカかったわね…………あ! 思い出したわ! 多分アレ、『はぐれ』じゃないかしら!」

「『はぐれ』……ですか?」

「あのデーモン、昔の文献で見たことあるわ。その昔、混沌の勢力は悪魔(デーモン)を自分達の拠点の番人として使役していた事もあるらしいの。でも、魔神王が勇者の手によって滅ぼされると、置かれていた番人ごとその拠点が放棄された。そうやってほったらかしになった悪魔(デーモン)が、『はぐれ』になって残ってしまう場合があるって。つまりアレは『はぐれ悪魔(デーモン)』って訳ね」

 

 私が人差し指を立てて得意気に話すと、疾走騎士は珍しく手を止めてそれを聞いていた。

 

「へぇ、よくそこまで覚えていますね」

「魔術師なんて本の虫みたいなものよ。でも、私もたまたま読んだ本なのよね。まさかこんな所で役に立つなんて思わなかったわ」

 

 話が終わると彼が再び装備の手入れを始めたので、私は依頼人の様子を伺いに向かう。彼女が調理していたスープがぐつぐつと煮立っており、私の食欲をそそった。

 

「凄く美味しそうね」

「もうすぐ出来上がりますよ」

 

 彼女の声は、聞く者を魅了する玲瓏な声であり、話をしているだけでも心地よさを感じてしまう程だった。

 医者にはそんな技能も要求されるのだろうか?

 

「ねえ、貴女医者なのよね? なんであんな遺跡の奥まで足を運んだの?」

「実は私、医者の他にもウィッチハンターを兼業しておりましてその調査に。ただ今回は深入りしすぎて失敗してしまいましたが……」

「ウィッチ……ハンター?」

 

 その言葉に私の心臓が跳ねる。私に呪文の師事をしてくれている人もまた魔女なのだ。もしこの人と師匠が敵対者だったら? そんな不安を抱いた。

 

「そうだ、貴女は悪い魔女に心当たりはありませんか?」

 

 ど、どうしよう? どう答えるべきか。いやきっと大丈夫、師匠は悪い魔女なんかじゃあないもの。

 ……でも念のため確認しておこう。

 

「その魔女ってどんな人なの?」

「ヤク決めて箒を股に挟んで『飛んじゃうぅっ!』とか言うような魔女です」

「知らない。多分ソレただの変態だと思うのだけれど」

 

 良かった絶対違う人だわコレ。私は胸を撫で下ろした。

 すると依頼人が疾走騎士に視線を向けているのに気付く。

 

「あの方にも確認してきます。少し鍋を見ておいてもらって構いませんか?」

「あ……わ、分かったわ」

 

 そうして彼女が疾走騎士の方へと向かっていった。大丈夫かしら? 下手を打って気付かれなければ良いのだけれど……。

 

「何でしょう?」

「………? あの、何処かでお会いしましたか?」

 

 ちょっと! 開口一番で早速気付かれてるじゃない! なんで!?

 

「その声、どこかで聞いたことがあるような……」

 

 あっ……確かに声は隠せないわね。

 ヤバいわよヤバいわよ。どうするの疾走騎士!?

 

「…………なんの事でしょう?」

 

 すっとぼけた! そこまで顔を合わせたくないのね……。

 仕方ない、ここはフォローしてあげましょ。

 

「た、多分気のせいじゃないかしら? こんな兜鎧、見たら絶対忘れないわよ?」

 

 すると依頼人は顎に手を当てて暫し考え込んだあと、納得したのか小さく頷いて頭を下げた。

 

「確かに……すみません、どうやら私の記憶違いだったようです」

 

 ほっ、どうやら誤魔化されてくれたみたいね。

 

 その後三人で食事をとり、私達は睡眠を取る為に見張りの順を決める事となった。

 

「夜警に慣れている自分が間になりましょう。あと呪文の回復を優先させる為にも、彼女には先に休んでもらいたいところです。構いませんか?」

 

 どうやら見張りは依頼人、疾走騎士、私の順番になるようだ。

 

「成る程、良い采配だと思います」

「じゃあ悪いけどよろしくね」

「はい、ごゆっくりお休み下さい」

 

 ぱちぱちと音を立てる焚き火に薪をくべる依頼人に見張りを任せ、私達は眠りについた。

 

 

───────────────

 

 

 立木に背をもたれさせながら互いに寄り添い合うように眠る二人の冒険者を、天に浮かぶ双つの月が照らしていた。

 

「良い一党ですね……」

 

 二人を見てぽつりと漏らす。

 火が衰えないよう焚き火に薪をくべて、ぼんやりと空を仰ぎ見た。

 

「失敗をしないというのは……私にはやはり困難なのでしょうか……」

 

 私は人の命を救う医師、にも拘らず自らの失敗が元で彼らを危険な目に遭わせてしまった。

 もしこの二人のどちらか、あるいは両方が命を落としていたら? 私は危うく『あの時』と同じ過ちを犯すところだった。

 

 救える筈の人を大勢死なせてしまった『あの時』から、私は迷い続けている。

 人を救う為に、人の命を奪わなければならない時もある。

 この世界では良くある事だ。理解は出来る。

 それでもやはり、納得はいかない。

 私は人を救いたい。だから私はここに居るというのに……。

 

「……彼は今、どこにいるのでしょう」

 

 唯一生き残った一人の青年。彼にはまだ謝る事すら出来ていない。

 気を失った彼を介抱した後、目を離した隙に彼の姿は消えていたのだ。

 その行方を探そうにも、疫病の蔓延した村の焼却を依頼した都には生存者無しとして報告せざるを得ず、一切の手掛かりは失われていた。

 

「交代です」

 

 ふと声が聞こえた。その声が、あの時に聞いた彼の声と一致したような気がして、私の心が大きく揺れる。

 

「……? 泣いているのですか?」

 

 いつの間にか起きて来ていた騎士の冒険者。彼に言われて初めて私は自身の涙に気が付いた。

 

「す、すみません……何でもありませんので……」

 

 慌ててそれを手で拭おうとした所で、彼は何も言わずに小さな布切れを差し出した。

 その優しさが今の私には染み入って、今度は笑みが溢れてしまう。

 

「お優しいのですね、貴方は」

 

 私はそれを受け取って目尻を拭った。

 そうだ、ようやく思い出した。

 彼の声は、あの時の青年の物とよく似ているのだ。

 

「ただ臆病なだけですよ」

 

 しかし、今の彼の声には感情という物が凡そ感じられない。

 あの青年はもっと優しそうな声だった。

 やはりただ似ているだけで、私の勘違いなのだろうか?

 

「あの、やはり貴方は──」

「寝てください。寝て朝日を拝めば、多少気分も晴れるでしょう」

 

 こちらの言葉を遮り、彼は焚き火の前へ座り込んだ。

 ……それ以上は聞くことが出来なかった。

 もし彼があの青年だとしても、私にはそれを追求する権利がない。

 そして彼には私を拒む権利がある。

 それ程の事を、私は彼にしてしまったのだから。

 

「そう……ですね」

 

 私は俯いて彼に背を向けた。再び感情が溢れそうになり、手に持った布切れを握りしめる。

 

「……あぁ、そうそう。忘れていました」 

 

 そんな私を見かねたのか、彼が声を上げた。

 

「ある青年が、為すべき事を為し終えた後、会いたい人が居ると言っていました。その人は医師で、金色の髪に青い瞳をした美しい女性だったそうです。恐らく貴女の事ではないかと思いますが、心当たりはありますか?」

 

「! は、はい! きっと私です。彼は元気でしたか!?」

 

 私は振り向いて、兜に被われた彼の目を見つめて問い掛ける。

 

「……ええ。立派な医師になって欲しいと、貴女の事を応援していましたよ」

 

 その言葉を聞いた私は、先程とは違う理由で涙が溢れそうになり、再び空を仰いだ。 

 私が泣けば、きっと彼が怒られてしまうから。だから私は泣かない。

 目を瞑り、深く息をついて、目の前の彼に笑顔を向けて言葉を紡ぐ。

 

 

「…………ありがとうございます」

 

 

 やはり私はこの仕事に向いていないのかも知れない。

 

 それでも、たとえ向いていなくても、やはり私はこの仕事を続けたい。

 

 迷いの晴れた私の心は、既に朝日のように晴れ晴れとしていた────。

 

 

 

────────────────

 

 

 ……夢を見ていた。

 

 私がまだあの剣士と武闘家の二人と、一党を組んでいた時の夢……。

 

 

 水薬を買うお金すら無かった私達は、神官を誘い仲間に加えたあと、四人で(・・・)ゴブリン退治へと向かった。

 

 

 しかし、そこで私達はゴブリンに待ち伏せをされ、不意を打つ形で襲われてしまう……。

 

 

 《火矢(ファイアボルト)》を放ち、一匹のゴブリンを仕止めるも、私はゴブリンの攻撃を受け、毒に侵された。

 

 

 夢なのに、体が毒に蝕まれていく感覚がまるで本物のようで……息が苦しく……なる……。

 

 

 あぁ……もうダメ……なの……ね……誰か…………私を…………。

 

 

「こ……ろ…………て……」

 

 

 

 

 …………疾走騎士。

 

 

 

 

「わかった」

 

 

「待ってください! まだ助け……」

 

 

 

 

 

 残念、私の冒険はここで終わってしまった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

「っ……嫌な夢ね」

 

 目が覚めると全身に汗が滲んでいた。

 やけにリアルで、まるで現実のような夢。今でもさっきのが本当に夢だったのかと疑いたくなる程だ。

 ……あるいは、今見ているのが夢なのではないかとも。

 

「疾走騎士……!」

 

 少し離れた場所で火の番をしている疾走騎士を見て、私の不安が解れていくのが分かる。

 よかった、あいつも私もここに居る。 

 先程の夢では居る筈の人間……そう、疾走騎士が居なかったのだ。

 彼が居なければ、きっとああなっていたのだろう。

 うまく説明出来ないけれど、私は心の中で確信していた。

 きっとあの夢は『彼と出会えなかった私の物語』なのだろう。

 

「そんなのお断りね」

 

 立ち上がり、火の番をしていた疾走騎士の下へ歩く。

 この男がここに居て、だから私がここに居る。

 私にとってはそれで十分。

 たとえあそこで私が死んでいた物語があったとしても、或いは別の要因で生き残った物語があったとしても、今の私には関係のない事。

 

「ん……疾走騎士、交代よ」

 

 今の私にとって何より大切なのは、この男と一緒に居る『私自身』の物語。それ以外はどうでも良いのだ。

 

「はて、まだ少し早いと思いますが?」

「アンタばっかりに苦労させたくないのよ。あんなのと戦ったんだし、ちょっとでも多く休みなさい。アンタが万全な方が私も安心出来るし……」

「それは有り難いですが、無理はしてませんか?」

「アンタのお陰でこっちは全然疲れてないの。呪文もちゃんと回復したわ。だからこれくらいの恩は返させなさい。もちろん別の事でもそう。私は何でもするって、最初に言ったでしょ?」

 

 この言葉に偽りは無い。あの時は思わず口にした言葉だが、今は心からそう思っている。

 とはいえ、それは冒険者として彼に全面的に協力するという意味だ。決して他意はない。

 

 だけどもし、もしも彼が冒険者としての私ではなく、女としての私を望んだら? ……なんて事を考えてしまうほど、私はこの男に惹かれているのだろう。

 

「ありがとうございます。貴女が一党で良かった」

「うん、私もそう思ってる。じゃあお休み」

 

 

 

 ……私はアナタが望んだ事なら何だってする。

 

 

 

 だから私を置いていかないでね……疾走騎士。

 

 

 




Q.眠ってる魔術師ちゃんに対して聖職者の姿をした亡霊が念力みいなの送ってるんですが?

A.成仏してクレメンス……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート12 『(好感度が)大きすぎる……修正が必要だ……』

 ひたすらゴブリンを退治(スレイ)するゴブスレRTA、第十二部はぁじまぁるよー!

 前回、遺跡に居たデーモンを倒したあと、夜営をしました。

 今回は町に戻って、ギルドへ報告しに行くところからです!

 

「本当にありがとうございました。また何処かでお会いしましょう」

 

 やだ! 小生やだ! 前回も言いましたが、魔女狩人さんと関わるイベントは今後のチャートにありません。

 次に彼女と会うとすれば、ランダムイベントによるタイムロスに他ならないので、出来れば発生して欲しくないですね。

 

 買っておいた強壮の水薬(スタミナポーション)が二本あるので、お互いに一本ずつ飲みながら急いで帰りましょう。

 行きは到着を遅らせる必要がありましたが、帰りは遅れるだけロスになりますからね。

 

 では暫く見所が無いので、16倍速でーす!

 

「ま、待って……早い……」

 

 あくしろよ。彼女の体力の低さも改善してきてはいますが、それでもまだまだですね。

 流石に疾走騎士くんと同等にまでなるのは無理でしょうし、多少の遅れは我慢しましょう。

 

 帰り道の途中で偶然ゴブスレさんと出会いました。牛飼娘さんもご一緒です。

 

 まあ、正確には出会えるように調整していたんですけどね。

 

 ゴブリンにとっての『早朝』、つまり『夕方』頃にゴブリンを殺しに行くのが、ゴブスレさんの日課です。

 朝の依頼争奪戦とは無縁な彼がギルドに向かうのは、これくらいの時間が丁度いいのでしょう。

 

 それでは疾走騎士くん達もご一緒させてもらって、ギルドへと直行します。

 

 ……なんか魔術師ちゃんと牛飼娘さんが仲良くなりましたね。

 豊かな者同士、気が合ったのかな?

 

 着くゥ~。

 

 ギルドに到着! 四人で受付に向かいましょう! ぬわーーん! 疲れたもーーーん!

 

「俺は槍一本で巨人に立ち向かったんだ。どうだい凄いだろう?」

 

 おっと、槍ニキが受付嬢さんに報告、もとい一方的なアピールをしています。

 これはランダムで発生する、暫く順番を待たされてしまうタイムロスイベントですね。

 

「あっ! ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 しかし、これも既に対策済み。ゴブスレさんと同行しているので、受付嬢さんが対応を打ち切り、こちらを優先してくれます。

 だから、ゴブスレさんと帰り道で合流しておく必要があったんですね。

 

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

 哀れ槍ニキ。これもRTAの為、卑怯とは言うまいな。

 受付嬢さんはゴブスレさんや牛飼娘さんと一言交わしたらこちらにも気付いてくれるので、早速報告をしましょう。

 

 疾走騎士報告中……。

 

「……すみません、もう一度お願いします。『はぐれ』の……ゴブリンですか?」

 

 悪魔(デーモン)だって言ってるだルルォ!?

 とはいえ、黒曜に上がったばかりの新人が平然と悪魔(デーモン)を討伐して戻って来るなんて、信じられないのも無理はありませんよね。

 ところがどっこい夢じゃありません! 現実です! これが現実!

 

「し、少々お待ちを!!」

 

 直ぐ様受付嬢さんが奥に居る監督官ちゃんを引っ張って来ました。《看破(センス・ライ)》での確認を行う為ですね。

 もちろん嘘は一切言ってないので問題はないです。ありのままを話しましょう。

 

 ……信じてもらえたみたいですが、報酬がやけに少ないですね。アァン? ナンデ?

 

「申し訳ありませんが、悪魔(デーモン)の討伐報酬に関しましては後日こちらで調査を行ってからとなります。何しろ『はぐれ』……太古の悪魔(デーモン)が生き残っていた事も、それが討伐された事も稀でして……」

 

 しょうがないね。新種……もとい古代種がこんな所で出現するなんて、私にとっても初の出来事です。彼女達が困惑するのも無理はありません。

 食費と宿賃はありますし、今日もこれから依頼をこなすつもりなので、お金の心配は要りません。問題はもう一つの方でしょうか?

 

「ギルドの評価はどうなるの?」

「そ、それに関しましてはもちろん従来より上乗せさせて頂きます!」

 

 良かった良かった。どうやらチャートからは外れずに済んだようですね。疾走騎士くんの更なる昇級審査が、その調査後に発生する筈です。

 

「ねねねね~、キミもしかして『勇者』だったりする?」

 

 なんだこの監督官!?

 どうやら彼女は、疾走騎士くんが伝説の勇者ではないかと考えているようですね。

 しかし、彼は女神から啓示を受けているわけではなく、走者であるこの私の指示で動いているただの駒です。勇者ではありませんので、ここは『いいえ』を選択しましょう。

 多分本物の勇者は、今ごろ魔神将の一角でもぶった斬ってるんじゃないかな?

 

「あっ……どうも」

 

 おおっと? 女神官ちゃんがやって来ましたね。神殿に籠ってから三日経ったので、そろそろだと思ってました。

 ゴブスレさんと女神官ちゃんは、早速ゴブリン退治へと向かうようです。

 

 この日に発生するゴブリン退治は三件あります。

 北、西、南、各方面に一ヶ所ずつですね。

 

 ちなみに南の方面はすでに白磁の新人一党が受注済みです。

 その為、実質あと二件となるはずなんですが、この新人一党は全滅するので、結局ゴブスレさんが後日向かう羽目になるんですよね。

 

「さっきロビーに居た……三人で勝てるわけないですよ!」

 

 ここで女神官ちゃんが助けに行こうと言い出しますが、ゴブスレさんは拒否します。

 理由としましては、ゴブリンが鼠算式に増えていく生き物だからです。

 ゴブリンが増える。村が襲われる。より多くのゴブリンが増える。より多くの村が襲われる。更により多くのゴブリンが増える。このサイクルが回る毎に、巣と被害の規模は、より大きくなっていきます。

 北と南のゴブリンの巣は小規模、西の巣は中規模です。よって、西の巣を優先して叩く必要があるわけですね。

 

「何を勘違いしているかは知らんが……こちらを放置するわけにはいかん」

 

 彼は決して、目先の被害に動いてしまうような勇者(ヒーロー)ではありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

 

 

 じゃあ、疾走騎士くんにその新人一党を、助けに向かわせましょうねー。

 

 

 

「え……いいんですか?」 

 

 牧場防衛戦までの間、人員を極力減らしたくはないですからね。何より冒険者の救出は評価的にも……うん、おいしい!

 さて、残りの北にある巣穴は後回しになりますね。多分ゴブスレさんが西の巣穴を潰してからそのまま向かう事でしょう。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

「そちらは我々にまかせてもらおう!」

「ゴブリンは私達にとっても許されざる怪物です」

「という訳です。構いませんか?」

 

 おおっと! ここで鋼鉄等級一党のエントリーだ! キミ達今日は依頼を受けて無かったのか……? とにかく、これで決まりですね。

 

 北には鋼鉄等級一党。

 西にはゴブスレさん一党。

 南には疾走騎士くん一党。

 手分けしてゴブリンを撃滅させる事が、本日の目標となります。

 

「……任せる」

 

 しょうがねぇなあ(悟空)

 んじゃ早速ゴブリン退治へイク「ね、ねぇ君!」

 

 オォン! ギルドから出ようとした瞬間に牛飼娘さんに話し掛けられました。今まで一切関わりが無かったのに!? ロスになるんでお願い許して!

 

「コレあげる。二人で食べてよ」

 

 ……なんか突然チーズを貰いました。どうやらゴブスレさんに協力している事に対してのお礼のようですね。

 

「その、彼の事……これからもよろしくね?」

 

 当たり前だよなあ? このRTAにとってゴブスレさんは必要不可欠な人物ですから、今後も濃厚な関係を続ける予定です。

 んじゃ気を取り直して、ゴブリン退治へ……。

 

 …………。

 

「あれ? どうしました? さっき出発したのでは?」

 

 今回のゴブリン退治では、解毒の水薬(アンチドーテ)を買っておく必要があります。三本だよ三本。

 

 水薬関連は受付でも買えます。今回は工房に行く必要がないから依頼を受けるついでに購入するってチャートに書いておいたんですが、依頼を受ける前に確認してない。ハッキリ分かんだね。

 

「それじゃあ、今回はこれを差し上げます。……その、せめてものお詫びです」

 

 やったぜ。強壮の水薬(スタミナポーション)を二本貰えました。

 依頼にイレギュラーばかり発生している事で、彼女も少し堪えているようですね。

 まあ、こちらはそれが目当てで依頼を受けているので、完全にマッチポンプではあるんですが……貰える物は貰っておきましょう! 強壮の水薬(スタミナポーション)は何本あっても困りませんからね!

 ちとロスりましたがそれでは出発です。いざ鎌倉。

 

 

 このゴブリン討伐自体は、極めて楽勝な難易度です。

 W盾を構えた疾走騎士くんをぶち込んで、終わりっ!

 しかも前回の輸送依頼で、治癒の水薬(ヒールポーション)が三本も余っていますからね。負ける要素はほぼありません。

 

 しかし、新人一党がやられてしまうと、疾走騎士くんが助けに来た意味がありません。先程買った解毒の水薬(アンチドーテ)は彼等の分という訳です。

 

 さて、移動にもう暫くかかりそうなので、このゲームの好感度システムについてでも、ご説明しましょうかね。

 

 このゲームでは、他のキャラクターと何らかのやり取りを行う度に好感度の変動が発生し、その好感度が一定以上まで上がると、冒険に誘う事が出来たり、アイテムを貰えたりします。

 受付嬢さんから強壮の水薬(スタミナポーション)を貰えたのも、このシステムのお陰です。

 

 しかし実はこの好感度、変動をするのはやり取りをした相手だけでなく、そのキャラクターに近しい人物も、微量ではありますが変動します。

 だから先程、全く関わりが無かったにも関わらず、牛飼娘さんからチーズを貰えたんですね。

 彼女はゴブスレさんとは親しいですし、話だけでも疾走騎士くんの事を聞いていたのかもしれません。

 

 ちなみにこの好感度を確認する方法ですが、会話などのコミュニケーションでの反応によって、大まかな判断ができます。

 では早速、魔術師ちゃんの好感度を確認してみましょう。

 

「……な、何よ? 急に立ち止まったら驚くじゃない」

 

 多分悪くはないな! ヨシ!(現場猫)

 好感度が低ければ、早く行けだの、隊列を乱すなだのといった文句を言われるはずですからね!

 

 

 着くゥ~。

 

 

 ようやくゴブリンの巣へ到着しました。そこまで離れてない距離だったのですが、ちと掛かりましたね。

 

 入り口に見張りは居ません。恐らくこれは、最初に疾走騎士くん達が挑んだゴブリン退治と同じパターンでしょう。

 ゴブリンは中の横穴で待ち伏せをしており、それを見落とした場合に挟み撃ちを受けてしまう流れです。

 つまり今回は、疾走騎士くんが前回のゴブリンスレイヤーさんの立ち位置になり、彼等を救出するという訳です。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 おっと、中から悲鳴が! 魔術師ちゃんに松明を持ってもらい、突入しましょう!

 

 疾走騎士くん達が奥に進むと、ゴブリンの群れに襲われている三人を見付けました。

 ……新米の魔術師が一人倒れてますね。どうやら最初の不意打ちで一発もらってしまったようです。

 残った戦士と神官が前後を守っていますが、やられるのも時間の問題でしょう。

 

 では先ず、魔術師ちゃんに《突風(ブラストウィンド)》を使ってもらいます。

 

「な、何だ!? 風!? うわあぁっ!!」

 

 洞窟の通路内に居たゴブリン達を転倒させました。新米の冒険者達も多少転がりましたが問題は無いです。一応撃つ前に伏せろって言ったんですけどねぇ?

 

 次に《聖壁(プロテクション)》を上から押し付け、ゴブリン達を行動不能にします。

 新米冒険者達は《聖壁(プロテクション)》をすり抜けられるので平気です。彼等は味方ですからね。

 

 ゴブリン達は地面に這いつくばった状態、或いは寝転がった状態から起き上がる事が出来ず、もがく事しか出来ません。

 新米冒険者達は立ち上がりこちらに気付いたので、解毒の水薬(アンチドーテ)を一本渡して仲間を解毒させましょう。

 

 そして疾走騎士くん達二人で、一匹ずつ殺していく(ゴブスレさん並み感)

 

 魔術師ちゃんには持っている松明でゴブリンを燃やしてもらいましょう。時間は掛かりますが何もしないよりは良いです。

 

「あ、あんたらは一体……?」

 

 RTA走者です。RTA芸人ではありません。ホラ解毒が済んだらさっさと手伝うんだよあくしろよ。

 新米一党の救出に成功しましたね。ではここからゴブリンの(巣)穴の奥に盾をぶち込

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 




Q.好感度が最大値に達するとどうなるんですか?

A.特に何もありませんが、異性の冒険者だと多少弊害が発生するかもしれません。でもまだ始まったばかりだし、稼ぎ過ぎの心配をする必要は無いと思いますね!(五名天元突破済み)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート12 裏 前編 『志を同じくする者達』

 遡ること二日前、疾走騎士が鋼鉄等級一党と共同で山賊退治を終えた後に、ゴブリンスレイヤーと共にゴブリン退治をした日の事。ゴブリンスレイヤーは日が沈む前に牧場へと帰り着いていた。

 

「あれ!? 今日は早いね!?」

 

 ギィ……と、扉を開く音。てっきり共に暮らしている叔父さんだと思い、振り返った牛飼娘は彼の姿を見て驚いた。

 

「早く終わった」

「そっか! じゃあ、おかえりなさい!」

「あぁ、ただいま」

 

 明るい笑顔で彼を出迎える牛飼娘。ゴブリンスレイヤーは頷いて答え、近くにあった椅子に腰を下ろした。

 

「お夕飯の準備が出来た所だから、一緒に食べよ?」

「あぁ」

 

 彼が帰ってくるのは大体が夜遅く、明け方になる日も決して珍しくない。

 そんな彼がこれ程早く帰ってくるというのは、牛飼娘にとって喜ばしい事だった。

 

「何かあったの? 確かこの前もこれくらい早い日があったよね」

 

 もしかしたらトラブルがあったのかもしれない。

 牛飼娘が心配そうに様子を伺いながら、料理をテーブルに並べていく。

 

「新人の冒険者と組んでいる。まだ数回だが……」

「へぇ!」

 

 声を上げる牛飼娘。それもそうだ、彼が今までずっと一人で冒険に出ていた事を、彼女は知っている。

 ……そして、彼が他の冒険者に避けられている事も同様に。

 だからこそ、そんな彼と一緒に冒険に出てくれる冒険者が居るというのは、とても有難い事なのだ。

 

「神官と騎士、早いのは騎士の方と組んだ時だ」

「そっかそっか、じゃあ助け合わないとだ」

「……そうだな」

 

 なにやら若干の間。長い間ゴブリンスレイヤーと共に暮らしている牛飼娘は、彼のちょっとした仕草で大体の事が分かるようになっている。これは何かを考え込んでいる時だ。

 

「どうかしたの?」

「今までずっと一人で戦ってきたが、背中を任せられる相手が居るというのは……随分と楽だ」

「ふふ、よかったね」

「あぁ」

 

 本当によかった。彼は来る日も来る日もゴブリン退治。ふらふらになって帰ってくる事もある。

 ゴブリンスレイヤーの帰りを待つ牛飼娘にとっても、彼の負担が軽くなるのは嬉しい話だ。

 

「ただいま。……ん? なんだ、今日は早いじゃないか」

 

 そこに羊の放牧を終えた叔父が帰宅。

 ゴブリンスレイヤーの姿を見て、先程の牛飼娘と同様に驚いているようだった。

 

「はい。仕事が早く済みました」

「ほう……」

 

 タガが外れたように連日ゴブリン退治を繰り返すゴブリンスレイヤー。

 そんな彼に対して以前から余裕を持った生き方をして欲しいと願っていた叔父も、これには安心した表情を見せる。

 

「おかえりなさい! ほら叔父さんも座って、せっかく彼が帰って来たんだから皆で食べようよ!」

 

 彼と一緒にゴブリン退治をしてくれる冒険者。一体どんな人なのだろうか?

 そんな興味を抱きながら、もしその冒険者に会えたら一言お礼を言おうと、牛飼娘は心に決めるのだった──。

 

────────────────

 

 そして現在、意外にもその冒険者との邂逅はあっさりと果たされた。

 

「キミがその騎士くんなんだね。よろしく!」

「こちらこそ、ゴブリンスレイヤーさんにはいつもお世話になっています」

 

 ゴブリンスレイヤーと共に町のギルドへ配達に向かう途中、二人の冒険者がこちらへと近付いて来て、話し掛けて来たのだ。

 彼と同じように、兜を被って顔が見えない騎士と、目付きは鋭いけれど、とってもかわいい女の子の魔法使い。

 二人の冒険者は所々汚れていて、冒険を終えてきた後なのだと分かる。

 目的地が同じだった為、そのままゴブリンスレイヤーと疾走騎士が前で横に並び、その後ろから牛飼娘と魔術師が並んで歩くことになった。

 がらがらと牛飼娘が荷車を引く音が響く。

 

「ゴブリンか?」

「いいえ、幸いにも違いましたよ」

「そうか」

 

 この会話を聞いていた牛飼娘は、この騎士が彼にとって背中を任せられる相手である理由を理解した。

 『幸いにも違った』……ゴブリンではなかった事に対し、そう言える者は多くない。

 何も知らない者らは声を揃えてこう言うだろう、『ゴブリンは雑魚だ』と。

 しかし、実際に相手にするのは楽ではない。寧ろ厄介な相手である。

 場数を踏んだ冒険者達は寧ろこう言うのだ……『割に合わない相手だ』と。

 つまりゴブリン退治は基本的に新米に宛がわれている、所謂貧乏クジなのだ。

 事実、ゴブリン退治の依頼を請ける熟練の冒険者は居ない。唯一、ゴブリンスレイヤーを除いて。

 この騎士はそれを理解している。場数を踏んだ側の、信頼出来る冒険者……。

 

 そしてもう一つ、ゴブリンは多くの被害を生む害のある怪物だ。

 村を襲い、娘を拐い、数を増やし、別の村を襲う。

 ゴブリンだと言うことは、襲われた村があるという事。

 疾走騎士の言った『幸いにも違った』というのは、そういう被害は無かった、という意味も含まれていた。

 

 成る程。言葉の少ない彼と意気投合できるのもまた、言葉の少ない者だという事か。

 顔の見えない兜を被ってるし、どこか雰囲気も似ている。

 彼と違って礼儀正しくて、見た目にも気を使っている様子だが、それでもやはり二人は同類と言えるのだろう。

 

「ねえ、貴女牧場の人よね?」

「あ、うん。そうだけれど……貴女は?」

 

 荷車を引きながら二人を眺めていた牛飼娘に、魔術師が声を掛けた。

 

「アイツと組んでる魔術師よ。よろしく」

「そ、そうなんだ。よろしくね」

 

 やっぱり目付きが少し怖い……牛飼娘は魔術師に対しそんな印象を感じていたが、その視線 が自身の引いている荷車、その中にあるミルクへと向けられている事に気付く。

 

「そのミルク、この前飲んだの。美味しかったわ」

「え……ホント!? ありがとう!」

 

 その言葉を聞いて牛飼娘は喜びを露にする。

 

「私、都から来たけど、向こうにもそんなに美味しいのは無かったわよ?」

「そうなの?」

「ええ、自信持っていいと思うわ」

「そっかあ……えへへ」

 

 ──よかった。目付きはあれだけど、彼女自身は怖い子じゃないみたい。

 牛飼娘は人差し指で頬を掻きながら照れている。

 わざわざ冒険者から自身が作っている品を褒められたのは、彼女にとって初めての経験だった。

 

「その荷物、毎日運んでるの? 凄いわね……」

「毎日ってわけじゃあないけど、いつもこうだね。お陰で筋肉も付いちゃって」

 

 牛飼娘が苦笑いを浮かべながら力こぶを作るジェスチャーをすると、魔術師は彼女の体力と持久力に関心していた。私もそれくらいするべきかしら……と、ぼやきながら。

 

「ね! 二人はどんな冒険をしてきたの?」

 

 牛飼娘が問う。彼と似ている雰囲気を持つ騎士に、わざわざ牧場のミルクを誉めてくれた彼女。

 もっと二人の事を知りたい。もしかしたら私達と二人は良い友達になれるかもしれないと、期待しながら話を切り出す。

 

「んー、物資を依頼人に届ける依頼だったのだけれどね? 途中悪魔(デーモン)と遭遇して……大変だったわ」

「そうなんだ。でも少し羨ましいな。私は待ってる事しか出来ないからさ」

 

 ふう、と息をつく牛飼娘。

 きっと二人で力を合わせ、困難を乗り越えて帰ってきたのだろう。

 それは私には決して出来ないことだ。

 牛飼娘は憂鬱そうに俯く。

 

「そんな良いものじゃないわよ? アイツ無茶な事ばっかりするし、後ろで見てるこっちはハラハラさせられっぱなし。今回だって死んじゃうんじゃないかって場面が何度もあって、気が気じゃあ無かったんだから!」

「う、それは確かに辛いかも……」

 

 怒りを露にして不満を漏らす魔術師。しかしどうやらいつもの事らしい。

 そんな場面を毎日のように見せられれば確かに心臓に悪いし、そもそも私が着いていった所で足手まといにしかならないのだ。

 

「だから、助けてやらないとって思ったの。自分の出来る範囲でね」

「そっか……そうだね」

 

 本当、その通りだ。私は彼にとっての帰る場所で、それが私の出来る事なのだから……。

 牛飼娘は頷いて、魔術師と談笑しながら町へと向かう──。

 

───────────────

 

「お待たせっ!」

「あぁ」

 

 ギルドの裏手から厨房へと荷物を置きに行った牛飼娘はすぐに戻ってきた。

 荷車とはいえ、あれだけの量の荷物を平然と一人で運びきるなんて……やっぱり私も見習うべきね。

 

「二人もごめんねー、待たせちゃって」

「これが一番早……いや、気にしないでください」

 

 待つ方が早いってどういう事かしら。そんな疑問を抱きながら、そのまま連れだってギルドの表側へと回る。

 先頭のゴブリンスレイヤーが扉を開けホールへ足を踏み入れると、四人で真っ直ぐ受付へと向かった。

 

「あれ? あの人って確か師匠と組んでる……」

 

 そこには受付嬢ともう一人、首から銀の認識証をぶら下げた槍使いの冒険者が居た。

 槍使いは報告という名目で、自身の活躍を受付嬢に対し、熱弁している様子だ。

 受付嬢はなんとか営業スマイルを維持しつつも、少し困ったような表情を浮かべている。

 

「あっ! ゴブリンスレイヤーさん!」

「うげ! ゴブリンスレイヤー!」

 

 しかし近付いてきているゴブリンスレイヤーの姿を視認すると、受付嬢の表情は満面の笑顔へと変わり、そして槍使いの方は顔をしかめた。

 

「この前はありがとうございました! とっても助かりました!」

「問題ない」

「そうだ! お茶を淹れますから詳しく報告を聞かせてください!」

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

 受付嬢とゴブリンスレイヤーを交互に見て、歯軋りをする槍使い。

 辺りを見回すと、近くの長椅子に座っていた師匠と目が合った。

 ごめんなさいね? と、言いたげに彼女は苦笑いを浮かべている。

 あぁ、師匠も苦労してるわね。

 

「ほ ら 報告は 終わった で しょ? 邪魔に なる わ」

「ちぇっ! ちぇっ!」

 

 師匠は潮時とばかりに立ち上がると、舌打ちを繰り返す槍使いを掴んで引き摺って行った。流石師匠、意外と力あるのね……。

 

「悪い事をしただろうか」

「あの方はいつもあぁなので大丈夫ですよ」

「……そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーも意外と気にしている様子だったが、受付嬢はこれを一蹴。

 彼女は悩まされてる立場だし、当然と言えば当然の対応なのかもしれない。

 あの槍使いが少し哀れな気もするけど……私としては師匠を応援したいし、まあいっか。

 

 ……気持ちを切り替えた所で、背後から微かに話し声が聞こえて来た。

 

「やれやれ、あれが私達と同じ銀等級とはな。雑魚狩り専門でもなれるとは……等級審査も緩くなったものだ」

「放っておけよ、俺達とは関わることも無いヤツだ」

 

 声の主は、少し離れた場所からこちらの様子を伺っていた女騎士と、身の丈はあろうかという巨大な剣を背負った重戦士。二人共、これまた銀の認識証を下げている。

 そして、私に聞こえていたという事は、当然この二人にも聞こえていた訳で──。

 

「荷物の受け渡し印をお願いします!」

「はい! いつもありがとうございます!」

 

 笑顔……しかし、目は一切笑っていない二人が、今の会話を快く思っていない事だけは確かだ。

 凄まじい威圧感が二人から放たれていて、つい一歩引いてしまう。

 

 ……そこでふと聞こえてきた、また別の話し声。

 

「おい、見ろよ見ろよ。あんな小汚ない装備見たことないぜ」

「俺たちだってもうちょっと良い装備してるのにな。しかもあの両手に盾持ってるやつ、どうやって戦うんだ? 壁になるだけか?」

「やめなさい。きっと怪物が怖いのよ。聞こえたら悪いわ」

 

 燃やしてやろうかしら。或いは吹き飛ばしてやろうかしら。

 そんな事を本気で考えていると、二つの視線がこちらへと向けられているのに気付いた。

 

「…………」

 

 ──わかりますよ、その気持ち。

 ──わかるよ、その気持ち。

 

 こうして私は、志を同じくする彼女達の仲間入りを果たすこととなった──。

 




Q.やはりミルク……女神官ちゃんにもミルクを飲むよう啓示を送るべきか……。

A.時既に時間切れ、もう勝負着いてるから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート12 裏 後編 『彼は勇者か、それとも……』

 ──どうして……。

 

 

 疾走騎士からの報告を受けた受付嬢は、筆を持つ手を震わせながら、頭を抱えていた。

 

「……すみません、もう一度お願いします。『はぐれ』の……ゴブリンですか?」

 

 その報告内容はとても信じられるものではなく、自身の聞き間違いなのではないかと僅かな希望にすがり付くようにして疾走騎士に聞き直したのだが……。

 

悪魔(デーモン)です」

 

 そんな希望は脆くも一瞬で砕け散った。

 

「しょ、少々お待ちを!」

 

 ああああああもうやだああああああ!!

 受付嬢は心の中で悲鳴を上げながら、監督官の下へと走る。

 

「おっ、大丈夫か大丈夫か?」

 

 ギルドの奥、少し早い昼休憩で小説を読んでいた監督官が、慌てた様子で飛び込んで来た受付嬢を見て何事かと立ち上がった。

 

「ま、また彼が……」

 

 涙目でぷるぷると震える受付嬢に縋り付かれた監督官は、その様子を見て大体の事情を察する。

 

「また彼か壊れるなぁ」

 

 日々やってくる新人の冒険者達。最近、その中でも特に『面白いの』が一人現れた。

 きっと彼がまた何かやらかしたのだろう。とても愉快だ。

 自身の担当でないのは残念だが、結局こうして私の前へとやって来てくれるので良しとしよう。

 先程まで読んでいた本を自身が座っていた椅子に置き、彼女はニヤニヤと口元を緩めながら受付へと向かうのだった。

 

─────────────────

 

「うんうん、つまりその遺跡の地下に、太古から生き残ってた『はぐれ』のデーモンが居た訳だね? なんだそれはたまげたなあ」

「おっ、そうですね」

 

 監督官は疾走騎士の報告を愉しげに聞いていた。

 その隣に立つ受付嬢は二人の会話に若干癖の強さを感じつつも、彼の報告から状況を把握しようと努めている。

 

「その遺跡に向かったのも依頼人が待ち合わせ場所に来なかったのが原因で、君達が来なければ彼女も危なかったと。これって……勲章だよ?」

「やったぜ」

 

 本当に危ないところだったのだろう。彼等が帰ってきて本当によかったと、受付嬢は自身の胸を撫で下ろした。

 

「そのデーモンの身長は君達の数倍。横もそれと同じくらいの大きさ。しかも自身より大きな斧を手に持ってたと……はえ~すっごい大きい……」

「すっげえキツかったですよ~」

 

 監督官は両手を大きく広げる動作で表現しているが、本物はそれどころの大きさではないらしい。

 ゴブリンとは違い、デーモンの『はぐれ』はあまり馴染みが無いものだが、受付嬢も古いデーモンの生き残りの話は聞いたことがあった。

 既に滅んだ混沌の勢力が生み出したデーモンの生き残り。

 勇者と遭遇(エンカウント)する事なく、放置されたその(シンボル)が、永い時を経て発見される事が稀にあると。

 

「デーモンは斧の先端から爆発を起こしたり、背中に生えてる羽で飛んだりしたと。あ~もうメチャクチャだよ~」

「辞めたくなりますよ冒険者~」

 

 しかし話を聞く限り、銀等級数人がかりでようやく倒せるレベルなのではないかと疑いたくなるほどの相手だ。

 黒曜に上がったばかりの彼等が、よくそれほどの相手を倒せたものである。一体どうやったのだろうか?

 

「攻撃をやり過ごし続けてるとデーモンが空を飛んで逃げようとしたから、こっちも空を飛んで盾を突き刺したと。ちゃんと二本咥え入れた~?」

「当たり前ですよねぇ!」

 

 やはりマトモな方法ではなかった。どうしてデーモンに空中戦を仕掛けたんですか?

 そもそも依頼人を見付けた段階で連れて逃げるのが普通ではないのか?

 言いたい事が山ほどあるが、とにかく職務を遂行する為に二人の話を聞き続ける。

 

「デーモンが半ば自滅する形で気絶したから、頭を一突きにしてトドメを刺したと。やりますねぇ!」

「やっぱ彼女の……呪文を……最高ですね!」

 

 どうやら魔術師の彼女がサポートしたお陰で彼はデーモンを倒せたそうだ。

 やはり彼等の実力は、他の新米の冒険者達とは一線を画しているのだろう……。

 

「その後、目が覚めた依頼人に物資を渡して依頼は達成。こうして帰ってきた……と。冒険者の鑑だねこのやルルォ……!」

「パパパっとやって終わりっ!」

 

 どうやら報告は以上のようだ。

 大きくため息を吐き、何とか気を持ち直して彼等へ報酬を手渡した。

 

「申し訳ありませんが、悪魔(デーモン)の討伐報酬に関しましては後日こちらで調査を行ってからとなります。何しろ『はぐれ』……太古の悪魔(デーモン)が生き残っていた事も、それが討伐された事も稀でして……」

「しょうがないですね」

 

 彼等も納得して、僅かな報酬を受け取った。

 すると後ろに控えていた魔術師が口を開く。

 

「ギルドの評価はどうなるの?」

「そ、それに関しましてはもちろん従来より上乗せさせて頂きます!」

 

 今回の件を受け、ギルドは二人の昇級を急ぐ事となるだろう。

 既に彼等の実力が等級に見合っていないのは明らかなのだから。

 

「ねねねね~、キミもしかして『勇者』だったりする?」

「ファッ!?」

 

 唐突な監督官の言葉に対し、受付嬢は声を上げた。

 冒険者になったばかりの新人が大きな功績を挙げるのは珍しいが、前例はいくつもある。

 だが彼の場合は度が過ぎているのだ。異常とも言っていい。

 もし彼が『勇者』なのであれば、それらの辻褄が合ってしまう。

 だから受付嬢はまさかと思いつつも、ごくりと息を呑んで彼の答えを待った……。

 

「(勇者では)ないです」

「あっそっかあ」

 

 あっさりとした否定に受付嬢はずっこけるも、受付のカウンターに肘を付きながらなんとか立ち上がった。

 

「も、もうっ! 変な質問しないでくださいよ!」

 

 受付嬢が不服を露にして監督官に抗議する。

 しかし彼女はそれを意に介さず、疾走騎士の兜の……深淵の奥に沈む目をじっと見詰めていた。

 

「ふぅん? 嘘じゃないけど、案外外れてないかもね」

「?」

 

 彼女の意味深な言葉に疾走騎士は頭を傾げていると、そこへ一人の少女が現れる。

 

「あっ……どうも」

 

 女神官だ。新たな奇跡を賜る為に、数日前から神殿に籠っていた彼女がようやく戻ってきたようだ。

 

「行けるのか?」

「は、はいっ!」

 

 それを見たゴブリンスレイヤーが声を掛け、女神官が返事をする。

 

「ゴブリンスレイヤーさん、こちらの用件は終わりましたよ」

「ならゴブリンだ。今日は何件ある」

 

 疾走騎士の言葉を聞いて、早速と言わんばかりにゴブリンスレイヤーは受付嬢に問う。

 すると彼女は引き出しに纏められたゴブリン退治の依頼書を取り出した。

 

「えっと、ちょっと少ないですが三件ですよ三件。西の山沿いの村に中規模の巣、北の河沿いの村に小規模の巣、南の森に小規模の巣。以上ですね」

「他が請けた箇所はあるか」

「南の森は新人さんが受けましたね。近くの村からの依頼です」

「先程ロビーに居た戦士、魔術師、神官戦士の三人ですね?」

 

 突然口を挟んだのは横で聞いていた疾走騎士だ。受付嬢は困惑しながらも頷いた。

 

「え、えぇそうです」

「ふむ、バランスは悪くないな」

 

 しかし、それでも新人の一党だ。戦力としてはあまりに心許ないだろう。

 

「さっきロビーに居た……三人で勝てるわけないですよ!」

 

 何も知らない新人達が、ゴブリンの巣へと向かった。

 それがどれ程に危険な事なのか、身をもって知っている女神官が声を大きく上げると、受付嬢は肩を落として呟く。

 

「私共としても止めたかったんですけれどね……ヘーキヘーキ! ヘーキだから! って言われちゃうと、その……」

「助けに行きましょう! 今ならまだ間に合うかも──」

 

 彼女は地母神に仕える神官だ。見捨てる事は出来ないとゴブリンスレイヤーに訴える。

 だが──。

 

「好きにしろ」

「……えっ?」

 

 カウンターに並べられた三枚の依頼書のうち、ゴブリンスレイヤーが手にしたのは新米達が向かった南ではなく、西のゴブリン退治の依頼書だった。

 

「何を勘違いしているかは知らんが……こちらを放置するわけにはいかん」

「そ、そんな……!」

 

 中規模にまで成長したゴブリンの巣。今叩かなければ危険だ。そう説明するゴブリンスレイヤーに女神官は愕然とした。

 ゴブリンスレイヤーの言っている事は何ら間違ってはいない。

 しかし彼女は、そんな『よくあること』に対して納得が出来なかった。

 とはいえ、たった一人でゴブリン退治に向かう力は女神官には無い。

 新米の一党を救う事が出来ない絶望に、彼女が打ちひしがれていると──。

 

 

「なら、自分達が行きましょう。それで良いですね?」

 

 疾走騎士が南のゴブリン退治の依頼書を手に取った。

 

「え……いいんですか?」

 

 疾走騎士の実力は、女神官もよく知っている。

 もし彼が引き受けてくれるのであれば、彼女の気も和らぐだろう。

 

「いずれにせよ、ゴブリンは殺さなければならない。そうでしょう?」

「……あぁ」

 

 疾走騎士の言葉に、ゴブリンスレイヤーは頷いた。

 

「となるとあと一つ、北側が後回しになってしまいますが……」

 

 残された北のゴブリン退治の依頼書。小規模ではあるが放置は出来ないだろう。

 

「西を潰したら向かうつもりだ」

「しかし距離が少し離れています。負担が大きいのでは?」

「アンタが言うと説得力が無さすぎるわね……」

 

 疾走騎士が指摘するも、すかさず呆れたように魔術師がツッコミを入れた。

 一応言ってる事はもっともなのだが……受付嬢も頷いて同意する。

 

「他に受けてくれる一党が居れば──」

 

 その言葉を皮切りに、とある一党が飛び出した。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

「そちらは我々にまかせてもらおう!」

「ゴブリンは私達にとっても許されざる怪物です」

「という訳です。構いませんか?」

 

 現れたのは鋼鉄等級一党だった。

 どうやら彼女達は隠れて話を聞いていたらしい。

 

「今日は依頼を受けていなかったんですか?」

「いやー、それが寝坊してさぁ!」

「二日連続とは何たる様だ……」

「残っている依頼があって良かったです……」

「あはは……まあ、そういう事でして」

 

 苦笑いを浮かべる自由騎士。一度の失敗を経て成長した彼女達の実力は、十分信用に足る物だろう。

 

「ふむ、何はともあれ有り難いですね。ゴブリンスレイヤーさん、構いませんか?」

「……任せる」

 

 一言、発した声には間違いなく疾走騎士への信頼があった。

 

「では、皆さん御武運を」

「今度のゴブリン退治は楽勝で終わらせるから、見ときなよ見ときなよ~!」

「おいヤメルルォ! そういう油断が前回のような失敗を生むんだぞ!? 分かってるのか!?」

「おっ、大丈夫ですか大丈夫ですか? 《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)しましょうか?」

「すみません騒がしくて……そちらもどうかお気をつけて」

 

 こうしてそれぞれの一党が冒険へと発つ。

 女神官は疾走騎士に頭を下げ、ゴブリンスレイヤーは牛飼娘に気を付けて帰るよう一声掛け、揃ってギルドを後にした。

 鋼鉄等級一党はいつものように圃人野伏がおどけ、森人魔術師が突っかかり、女僧侶が嗜め、自由騎士が律する。この流れを繰り返しながらギルドから出る。

 そして疾走騎士と魔術師も、同じくゴブリン退治へ向かおうとする……が──。

 

「ね、ねぇ君!」

 

 牛飼娘が二人を呼び止める。扉に手を掛けていた疾走騎士が振り返ると、牛飼娘は薄い布に包まれた大きなチーズを手渡した。

 

「コレあげる。二人で食べてよ」

 

 元々お礼をするつもりで、先程納品した物のうちから一つだけ取っておいた品だ。

 今回のやり取りで、牛飼娘はゴブリンスレイヤーの周囲の環境が変わりつつある事を知った。

 それは疾走騎士を中心としていて、間違いなく良い変化なのだ。……女の子ばかりなのが少し気にかかるが。

 

「その、彼の事……これからもよろしくね?」

 

 この騎士が、今後も彼の助けになってくれる事を彼女は祈る。

 疾走騎士は差し出されたチーズを受け取って、首を大きく縦に振った。

 

「こちらこそ。チーズ、有り難く頂きます」

「また会いましょ。今度はミルクでも飲みながらね」

 

 そして二人は行ってしまった。牛飼娘もギルドを出て、空を見上げる。

 ……今日も良い天気だ。晴れやかな気持ちに満たされながら、彼女は牧場へと帰るのだった。

 

───────────────

 

「つまるところ、『ちょっとだけ勇者』ってところかな? やっぱり面白いよね~」

 

 疾走騎士達を見送った監督官は受付で頬杖をついていた。こういった雑談も人が疎らなこの時間帯だからこそ出来ることである。

 

「まだ言ってるんですか? 彼は違うって言ってたじゃないですか。嘘じゃ無かったんでしょう?」

 

 書類を纏めながら呆れる受付嬢に対し、監督官が指を振る。

 

「ちっちっち、なりたくてなるんじゃない。なってしまうのが『勇者』なのだよ。例え自覚が無くてもね」

「え……じゃあ本当に?」

「な~んてね。勇者だったらもっと何でもかんでも成功に導いて、彼はきっとここには居ないよ」

 

 監督官は肩を透かして受付嬢をからかった。今度はなんとかずっこけずに持ちこたえる。

 

「もう! いい加減にしてください!」

「……でもさ、成功だけの物語よりも……失敗ばかりだけれど、それでも頑張って這い上がるお話の方が、私は面白いと思うんだよね」

 

 常に『成功(クリティカル)』を引き続けるのが勇者だとすれば、彼は寧ろ真逆の存在なのだ。唐突な真顔でそう語る監督官に、受付嬢がジト目を向けた。

 

「……つまり、いつも通りオモチャにしたいだけって事ですよね?」

「人聞き悪いな~。私はただ楽しんでるだけだよ~?」

「はあ、休憩中に呼び出してすみませんでした。どうぞ戻ってください」

 

 これ以上話していても疲れるだけだ。そう判断した受付嬢は後ろを向いてギルドの奥を指差す。

 

「そうさせてもらおうかな~。あ、受付はちゃんと前を見なよ~?」

「前? ──ファッ!?」

 

 前へ顔を向けると、受付嬢の目前に疾走騎士が立っていた。

 

 万が一に備え、解毒の水薬(アンチドーテ)を買っておきたいという疾走騎士に、受付嬢が強壮の水薬(スタミナポーション)をオマケにして差し出すと、彼は頭を下げて受け取った。

 

「では、行ってきます」

「はい! お気を付けて!」

 

 災難にばかり見舞われてしまう彼にも、少しは良いことがあって然るべきだろう。これは受付嬢なりの『よくあること』への抗いだった。

 

「ぐぬぬぬぬ! なんで俺には貰えないんだ!」

「そういう とこ よ?」

 

 今のは聞かなかった事にしよう。

 

─────────────────

 

 邪魔な草木を掻き分けて、森の中を進んでいく。

 正直、疾走騎士があの新米達を助けに行くと言い出したとき、私は止めようか悩んだ。

 彼を嘲るような物言いをしたあいつらの為に、どうしてここまでしなきゃいけないのか……と。

 

「勇者……ね」

 

 疾走騎士は決して勇者ではない、それは間違いない。

 特別な力があるわけではないし、しょっちゅう失敗もする。

 先程も水薬を買い忘れていたし……。

 しかし彼は私を救い、あの鋼鉄等級一党も救って、そして今回はあの新米の一党を救おうとしている。

 その姿勢は、確かに勇者(ヒーロー)と言って良いのかもしれない。

 

 しかし、それなら彼はどうして──『あの二人』を助けなかったのだろう。

 

「…………」

 

 そこで彼は突然立ち止まり、こちらを振り向いた。

 

「……な、何よ? 急に立ち止まったら驚くじゃない」

 

 彼は突然不自然な行動を起こす時がある。マンティコアと戦う前は私を押し倒し。あるいは遺跡で足元を蹴ってまわったりと……。

 しかし前者はマンティコアから身を隠すため。後者は依頼人を助け出すための最短ルートを進むためだった。

 つまりこの行動も何かしらの理由があるからだろう。……多分。

 

 ……だからって人の体をまじまじと見詰めるのは良くないと思う。

 咄嗟に自身の胸と腹部を腕で隠すと、彼は納得したように頷いて再び歩き出した。……え? 今の何だったの? 私の何を確かめたのよ。ねえ?

 

 そして暫く進んだ先、私達はゴブリンの巣穴の入り口を発見した。

 

「着きましたか。見張りの死体すら無いですね」

「……中で待ち伏せかしら? 芸がないわね」

 

 少し離れた木々の隙間から様子を伺うが、辺りにゴブリンの気配は無い。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 警戒しながら近付くと、そこで人の……女性の悲鳴が巣穴の奥から響き渡った。

 

「っ! 明かりは任せます!」

 

 彼は私に松明を放り渡し、盾を構えて巣穴の奥へ駆け出す。

 

「ああもう忙しないわね! 《インフラマラエ(点火)》!」

 

 私は松明に火を灯し、左手に持って彼の後に続いて走る。

 その先に居たのはゴブリンに囲まれた新米の冒険者達だ。

 一人の魔術師が腹部から血を流し倒れ、あとの二人が顔を青くしながら闇雲に武器を振り回している。

 あのままではダメだ、間違いなくあの剣士の二の舞になる。そう判断した私は杖を構えた。

 

「《突風(ブラストウィンド)》を!!」

「任せて!《ウェントス()》《クレスクント(成長)》──」

 

 そこまで詠唱した所で、疾走騎士が声を上げて新米達に注意を促す。

 

「ゴブリン達を吹き飛ばす! 伏せろ!」

「えっ!? 誰!?」

「《オリエンス(発生)》!!」

「な、何だ!? 風!? うわあぁっ!!」

 

 ゴブリン達は突然の突風に為す術もなく吹き飛ばされて地に伏せる。新米の一党も体勢を崩し、悲鳴を上げてごろごろと転がった。……ふぅ、気持ち良かったわ。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください》」

「《聖壁(プロテクション)》」

 

 そして、不可視の巨大な壁がゴブリン達を踏みつけた。

 

「ぺっ! ぺっ! 砂が口に入った!」

「な、何するのよ貴方達!」

 

 不可視の壁をすり抜けて立ち上がった二人の冒険者。助けてもらいながら物言いしている事が私は気に食わなかったが、疾走騎士はそんな事はどうでも良いとばかりに解毒の水薬(アンチドーテ)を彼等へ手渡した。

 

「彼の治療が終わったら手伝ってください」

「早く解毒しないと間に合わないわよ」

 

 私達がそう言うと、彼等はようやく仲間が死にかけている事に気付き、治療に取り掛かった。やれやれと頭を振るが、ついこの間まで私も彼等と同じレベルだったのだ。強く言うことは出来ない。

 

「松明でも奴等は殺せますので。そっちの端からお願いします」

 

 《聖壁(プロテクション)》に押し潰されているゴブリン達。身動きが取れずにもがく者、壁を叩いて壊そうとする者、地面を掘って抜け出そうとする者、その一つ一つに対し、疾走騎士は盾を振り下ろして潰していき、私は松明を押し付けゴブリンの顔を焼いた。

 

 ……ゴブリンの悲鳴が一々煩いわね。《沈黙(サイレンス)》が欲しくなるわ。

 

「あ、あんたらは一体……?」

「そんな事はどうでも良いから、治療が終わったなら早く手伝って。無駄は嫌いなのよ」

 

 ゴブリンの血で真っ赤に染まったアイツの盾を見せつけられたのは満足だけれど、彼等は私達の作業的なゴブリン退治を見ながら唖然としているだけで、結局手伝ってはくれなかった。

 

 




Q.女神官ちゃんの影が薄い……薄くなってない?

A.ゴブリンスレイヤーさんの相棒枠が疾走騎士くんに奪われつつある、ハッキリ分かんだね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート13 『俺向きの任務ではなかったようだ』

 ひたすらリカバリーに奔走するRTA、第十三部はぁじまぁるよー!

 

 前回、新米一党を救う為、《聖壁(プロテクション)》でゴブリン達を踏みにじりました。小鬼よ、卑怯とは言うまいな。

 

 今回は、巣穴の中のゴブリン達を、殲滅するところからです!

 

 疾走騎士くんが《聖壁(プロテクション)》により、行動不能状態になっているゴブリン達を、ぺったんぺったん盾ぺったんと潰していってます。

 

 魔術師ちゃんも手伝ってくれてますが、やはり松明だと一匹一匹に掛かる時間が長いみたいですね。

 しかもゴブリンの断末魔がうるせえ! 大人しくしろ! (脳みそ)バラ撒くぞこの野郎! ……もうバラ撒いてたわ。

 

 ちなみに新米達は結局手伝ってくれずに最後までボーッと見てるだけでした。冒険者の屑がこのやルルォ……。

 

 ままえぇわ。彼等は新米ですし、こういう事もあるでしょう。

 初の冒険でこんなイレギュラーが発生して、まともに動けと言う方が無理があります。

 でもそれを乗り越えてこその冒険者。お前じゃこの先生き残れないぜ。

 

 おk! ここに居たゴブリン達は全滅させました。

 では奥へ進んで、残ってるゴブリンもぺったんこしにイクゾー!

 

 残ってるゴブリン達の数は多くありませんが、物陰に隠れて不意打ちを狙って来ます。

 ここは魔術師ちゃんの《分影(セルフビジョン)》に囮になってもらいながら進みましょう。

 探索、警戒しつつ進む時間なんて、RTAには無いからね!

 

 やってきた餌、もとい分影の魔術師ちゃんに向かってゴブリンが飛び出してくるので、そこを叩き潰します。オッスお願いしまーす! ヌッ!(二コマ即落ち)

 

 さーて、つぎつぎィ! ……え? 新米達はどうしたかって?

 毒で倒れたあっちのフニャチン魔術師を放置するわけにもいかないので、一党ごと置いてきました。ホンマつっかえんわ~。辞めたらこの仕事?

 最初の冒険でこっちのメガトン魔術師ちゃんを背負いながら、ゴブスレさんの後に着いて行ってた疾走騎士くん見習って?

 

 さて、最奥辺りまで到達しました。途中ホブも居ましたが、もはや疾走騎士くんの敵ではありませんでしたね。攻撃を受け流しつつ懐に飛び込んで一突きです。

 でもトーテムがあったのにシャーマンが居ませんでしたね。この先に居そう、居そうじゃない?

 

 それじゃあこのまま突入して、パパパっと終わらせてやりましょう! ほらいくどー。

 

 ……おや? 誰も居ませんね。

 いや、近くの村から攫われたっぽい女性達は居るんですが、ゴブリンがどこにも見当たりません。どこいった?

 

「ねぇ、もしかしてアレじゃない?」

 

 ……ファッ!? なんか奥に外まで通じてる穴が開けられてるんですけど!?

 

「もしかしてさっきのゴブリン達の悲鳴を聞いて逃げたんじゃ……」

 

 あああああもうやだああああ!!

 ゴブリンを取り零すとかヤバイですよこれはヤバイ。依頼を達成できたとしても、ゴブスレさんの評価はドン底真っ逆さま間違いなし! リセット案件ですよ!

 

「え……ちょっと疾走騎士!?」

 

 走れ疾走騎士くん! 急げばまだ間に合う筈です!

 

 緊急事態だ! 盾もパージするぜ! 防御手段が無くなるけどゴブリンを見つける方が優先だ!

 

 早速足跡発見! 折れてる草木も発見! こっちで間違いないですね。

 

 …………見付けた! ようやく追い付いたよ! これで見失ったらヤバかった。盾置いて全速力で走って正解でしたね。

 

 さて、向こうはゴブリンシャーマン一匹だけです。部下に穴を堀らせて自分だけ逃げたのでしょう。リーダーの屑がこのやルルォ……!

 いくぞゴブリンシャーマン! 性技の刃(素手)、覚悟しろ! オッスお願いしまーす!

 

 盾を持っていませんが、疾走騎士くんは悪魔(デーモン)との戦いの末、新たな攻撃方法を手に入れています。

 

 それは……蹴りです! くらえW盾キーック!

 おびただしいりゅうけつ! ゴブリンシャーマンはその場に崩れ落ちると以下略。

 

 W盾より火力は落ちますが、自衛手段として使えますし、対人戦で奇襲を狙う事も出来ます。

 ま、丁度良い威力かな? ゴミムシの相手にはさ。

 

 さて、念のため頭を踏み潰しておきましょう。上位種は無駄にしぶとい。それゴブスレさんが一番言ってたからね。

 

 それじゃあ一旦、巣穴に戻りましょう。

 

「もうっ! 武器を置いていくなんて何考えてるのよ! 心配するこっちの身にもなってよ……」

 

 すいませへぇぇ~ん! 魔術師ちゃんの好感度が下がったかもしれませんね。

 でも同じ一党に居るキャラクターの好感度は、よほど険悪な関係でもない限り勝手に上がっていきます。

 それに彼女の好感度は現状それなりに高いみたいだからヨシ! ゴブリンシャーマンに逃げられたリカバリーも出来ましたからね!

 

「……もう終わったのか?」

 

 おや? 新米一党が到着しました。倒れてた新米魔術師が回復した為、後を追ってきたようですね。攫われていた娘達は彼等に任せてしまいましょう。

 

「マッハで送り届けてやんよ」

「自分で言うのもなんだが、役に立つと思うぜ」

「つまり、貴方は私達の救世主ということ。さっきの解毒の水薬(アンチドーテ)は、格安でお願いね」

 

 いや別に払わなくていいんですけど……こいつらホント大丈夫ですかね? さすがに送り届ける事くらいは出来るとは思いますが。頼むよー。

 

 んじゃギルドへ帰りましょ。

 

 いやはや、今回は魔術師ちゃんに手伝ってもらった事が逆に仇になりましたね。クッソ煩いゴブリンの断末魔を聞いて、リーダーのゴブリンシャーマンが逃げ出すとは……コレもちゃ~んと次回の為に、書いておかないといけませんね!(書かない)

 

 ちなみにこの依頼の報酬についてですが、疾走騎士くんはロハです。元々請けていたのはあの新米一党なので、当然ですね。

 経験点とギルドの評価は普通に貰えるので、RTA的には問題ありません。

 そもそも彼等を助けた目的には、女神官ちゃんのご機嫌取りも含まれていましたからね。

 

 以前、疾走騎士くんは女神官ちゃんに対して、まだ覚えていない《聖壁(プロテクション)》を使うようお願いしてしまいました。

 そして現在、彼女は《聖壁(プロテクション)》を覚えています。この事に関して疾走騎士くんに不信感を抱いているかもしれません。

 その不信感のリカバリーという事もあり、今回の新米一党の救出が必要だったんですね。

 だって女神官ちゃん。私が周回してるといつの間にか敵対してる事が多いんですよ。一体どうして?

 

 しかし、半ば無理矢理付き合わせてしまった魔術師ちゃんにはちょっと申し訳ない気がしますね。一応謝っておきましょう。センセンシャル!

 

「別に、アイツらを助けた事に納得はしてないけど、私はアンタについてくだけよ。それに、最初の冒険ではあの二人を助けられなかったもの……」

 

 魔術師ちゃんがいきなり痛いところを突いてきました。

 でもあのイベントで剣士くんと武闘家ちゃんを助けるのはかなり厳しいです。見捨てたのも……やむを得ない!

 場数を踏んだ今の疾走騎士くんと魔術師ちゃんが居て、ようやく今回あの新米一党を助けられた訳で、もし疾走騎士くんだけだった場合、安定した救出は難しいですね。

 

 鋼鉄等級一党を助けた時はかなり無理をした結果、疾走騎士くんがぶっ倒れましたし、結構ヤバかったみたいですよ?

 

 このクソゲーは、当然の権利のように、そんな高難易度イベントを発生させてくるので、皆もキャラロストには気を付けようね!

 

 着くゥ~。

 

「だから私の矢がトドメなんだって!」

「いーや、間違いなく私の《火矢(ファイアボルト)》がトドメだった!」

 

 先に帰ってきてた鋼鉄等級一党が報告してるみたいですね。でもなんか言い争いしてるみたいです。あくしろよ……。

 

「終わったか」

 

 そこへ丁度ゴブスレさんも帰ってきました。流石ゴブリン滅殺RTAの走者。早いっすね。

 

「あ、あのっ! ゴブリン退治に向かった人達はどうなりましたかっ!?」

 

 女神官ちゃんに新米一党を助けた事を説明しました。大丈夫だって安心しろよ~。

 

「あぁ良かった! 本当にありがとうございました!」

 

 これで女神官ちゃんにも信用してもらえたかな? どうかな? 彼女に錫杖でぺったんぺったんされて死んだ事もあるけど、アレはもう勘弁だゾ……。

 鋼鉄等級一党が報告を終えたあと、疾走騎士くんとゴブスレさんも受付嬢さんに報告をして、解散となりまーす!

 と、思ってたら、鋼鉄等級一党の方々に捕まってしまいました。どうやら一緒に食事がしたいらしいです。流行らせコラ! ゴブスレさん助けて!

 

「俺はいい、人を待たせている」

 

 デスヨネー。牛飼娘さんが帰りを待っているでしょうし、今日のゴブリン退治は終わったので、彼がここに留まる理由はありません。

 

「えと、じゃあ私もこれで……」

 

 女神官ちゃんの方は完全にドン引きして逃げました。ちくしょうめええ!!

 まあ疾走騎士くんのお仕事も今日は終わりですし、食事くらいならお付き合い致しましょう。でも酒は勘弁な!

 

「お待たせ! 麦酒(エール)しか無かったけどいいかな!」

「喉渇か……喉渇かないか?」

 

 やめろぉ! 疾走騎士くんが酔い潰れたらどうするんだ! さっきまで喧嘩してたのになんでもう意気投合してるんだよコイツらは!

 何とかお酒は回避したものの、ただ食事をするよりもかなり時間が掛かってしまいました。もう許せるぞオイ!

 まあ、これも好感度稼ぎの為と考えて割りきりましょう。彼女達には牧場防衛戦で、疾走騎士くんのお手伝いをしてもらうので、これくらいのご機嫌取りはしないとね!

 

 食事も終えて宿屋に戻って来ました。疾走騎士くんの両肩には圃人野伏と森人魔術師が担がれています。この二人、結局酔い潰れましたからね。あのさぁ……。

 

「その、貴方にはいつも御迷惑をお掛けして……本当に申し訳ありません」

 

 自由騎士ちゃんはよくこんなメンバー達をまとめてますよね。疾走騎士くんが囲まれたら一瞬でボロ雑巾にされそう……されそうじゃない?

 彼女達の一党に入れてもらって、ハーレムになるチャートも組んだんですが、大人数で一党を組むと、ダイス判定が多くなってしまうのでどうしても……。

 安定したRTAを走りたいならやはりフリーが一番です。

 まあ結局魔術師ちゃんと組んじゃいましたけどね!

 

 圃人野伏ちゃんと森人魔術師ちゃんを彼女達の部屋に運び込んだら、疾走騎士くんは魔術師ちゃんと自室に戻りましょう。後はいつも通り風呂入って……寝ろ! 寝たな(確信)

 

 六日目が終わりましたね。七日目は特に何もイベントは発生しない予定なので、ひたすら稼ぎとなります。妖精弓手がくるのは八日目か九日目あたりかな? どうかな?

 

 う~んむにゃむにゃ……ゆうしゃぱーてぃーのなかまいりを

 

 今回はここまでです、ご視聴ありがとうございました。

 




Q.前の周回で女神官ちゃんと一体何があったんですか?

A.神官! 神官! つるぺた神官! って歌ってたらぶん殴られましたね。クリティカル判定食らって一撃でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート13 裏 前編 『それぞれの戦い』

「ゴブリンスレイヤーさん……その、さっきはすみませんでした」

 

 疾走騎士達と別れた後、西の巣穴を目指して道無き道を歩くゴブリンスレイヤーと女神官。

 二人はギルドを出てから互いに暫く無言だったが、唐突にゴブリンスレイヤーの後ろを歩く女神官が俯きながら口を開いた。

 

「なんの話だ」

「ギルドで……勝手な事を言ってしまって……」

 

 自身が迷惑を掛けてしまったと思い、謝罪の言葉を口にした女神官。

 しかし、ゴブリンスレイヤーの方は一切気にしている様子はなかった。

 

「俺は構わん。あの男はどうか知らんが」

「……はい」

 

 自身が言い出した事なのに、結局は疾走騎士任せになってしまった事に対しても、彼女は気を重くしていた。

 

「それで、襲撃の時間は覚えたか」

 

 ゴブリンスレイヤーの問いに女神官は気持ちを切り替え、問いの答えを導き出そうとする。

 

「あっ、ええっと、『早朝』か『夕方』。ゴブリンにとっての『夕方』か『早朝』……ですよね?」

「そうだ。次、突入する際の手順は」

 

 足を止めず、更に次の問い。女神官がすかさず答える。

 

「火を焚いて燻し、追い出します。巣の中は危ないですから」

「そうだ。踏み込むのは手がないか、時間がないか、確実に皆殺す時だけだ」

 

 或いは、正面からあらゆる障害を排除する力を持っているかだが……しかし、それが出来る人物は限られているだろう。

 それを難なく実行していた疾走騎士の姿を、ゴブリンスレイヤーは思い浮かべる。

 

 あの盾は正に攻防一体。そしてそれを持つ疾走騎士も、自身を守りながら敵を討つ動作が徹底されていた。

 

 そこでゴブリンスレイヤーは考える。あれがもしゴブリンだとすればどう対処するべきか……と。

 冷静に考えれば接近戦は分が悪い。やはり飛び道具か罠で対処するのが定石か──。

 

「ゴブリンスレイヤーさん?」

「む……」

 

 女神官に声をかけられ顔を上げる。その先にはゴブリンの足跡があった。

 

「……巣が近いな。行くぞ、ゴブリンは皆殺しだ」

「は、はいっ!」

 

 その言葉に間違いはなく、彼はゴブリンを皆殺しにする。

 故に彼はゴブリンスレイヤーなのだ。

 

───────────────

 

「はっ! せいっ!!」

 

 一方その頃、鋼鉄等級一党はゴブリンの群れと交戦していた。

 ゴブリンの一匹が振るった棍棒を自由騎士は剣でかち上げ、直ぐ様振り下ろして斬り捨てる。

 

「大物、頂きっ!」

「ふっ、油がのっていてよく燃えそうだな! 《火矢(ファイアボルト)》!!」

 

 群れの中に居た一際大柄なホブゴブリンに向けて、圃人野伏が弓を引き絞り矢を撃つと、更に森人魔術師が《火矢(ファイアボルト)》を放つ。

 

「GUBU!?」

 

 ホブゴブリンの頭に矢が突き刺さるのと、《火矢(ファイアボルト)》により火だるまになったのは全くもって同時だった。

 背中から仰向けに倒れ、それを見た他のゴブリン達が慌てふためく。

 

「やりぃ! 今のは私っしょ!」

「何を言う、私の《火矢(ファイアボルト)》の火力を見ていなかったのか?」

「もうっ! 戦闘中に喧嘩はやめて下さいってば!」

 

 と、女僧侶に叱られつつも、余裕があることの表れだろうか、彼女達は前衛の自由騎士に的確な援護を行い続けていた。

 

「これでっ、終わりねっ!」

 

 仲間が全滅し、逃走を試みようと背を向けた最後のゴブリン。それに鋭い刺突を見舞う。

 首を貫かれたゴブリンは骸と化し、その場へと倒れた。

 

「ふぅ、思った以上に数が多かったですね……」

 

 彼女は全てのゴブリンを討伐し終えた事を確認すると、剣に付着した血を振って払い、鞘に納めた。

 

「私達の敵じゃ無かったけどね~」

「とはいえ、この前の事もある。油断はするなよ」

「そうですね。あの方が来てくれたのは本当に運が良かっただけですから……」

 

 いつ何が起こって全滅の危機に瀕してもおかしくはない。彼女達はそれを学んだばかりだ。

 それぞれがお互いに注意を促しつつ、彼女達は巣の中を探索を行う。

 

 ……しかし、鳥の羽が散乱していた以外に目立ったものは無い様子だった。近くの村から盗んだ鶏を食料にしていたのだろう。

 

「どうやら攫われた人は居ないようですね。帰りましょう」

「私もう疲れた~。早く帰って麦酒(エール)飲みた~い」

「全くこれだから圃人(レーア)は……おい、頼めるか?」

「はい! 《賦活(バイタリティ)》ですね!」

 

 念のため圃人野伏の体力を回復させたあと、帰路に就く鋼鉄等級一党。

 生き延びた彼女達にとっては、何の問題もない冒険であった。

 

───────────────

 

「こんな環境で、まともに戦えるわけがない」

 

 俺は冒険者になったばかりの戦士だ。今ちょっと色々あって洞窟の中で悪態をついてる。

 だってしょうがないだろ? 初めての冒険、初めての戦闘、それは俺達にとって散々なものだったんだ。

 ゴブリンの巣穴の洞窟に入ったらいきなり不意を打たれて仲間の一人がやられちまって……この狭い洞窟内で回りを囲まれたんだぜ? 無理だぜこんなの。

 

 幸い別の冒険者……ギルドで見かけた盾持ちのヘンテコな奴が来て助かったが、あのままだと間違いなくやられてたよな。

 俺はヒーローってのに憧れて冒険者になったのによぉ……。

 

「やべ、いつの間にかやられてたのか?」

 

 同じ一党の魔法使いが目を覚ましたみたいだ。

 あいつはいきなり襲ってきたゴブリンに短剣で刺された。しかもその短剣、毒が塗ってあったらしいぜ? ホントありえねぇよな。

 さっきのヘンテコが解毒の水薬(アンチドーテ)をくれなかったらホントヤバかったぜ。

 

「もう少し待って。解毒は出来たけど、治療がまだよ」

 

 体を起こそうとする魔法使いだが、神官戦士はそれを止めた。

 あいつも俺達と一緒に冒険者になった仲間だ。

 変な奴だが悪い奴じゃあない。……多分。

 

 俺はとりあえず魔法使いの奴に状況を説明した。気絶してたしな。

 んで、その間に傷も治ったみたいだ。やっぱ奇跡ってすげえよなあ。

 

「なあ。さっきの二人を追わないか?」

「俺はもう行けるぜ。最強だからな」

「……仕方ないわね。一応治療は終わったけど、まだ無理は厳禁と言うこと、忘れないでね」

 

 このままじゃ俺達、カッコ悪いまま終わっちまうし……。

 そ、それにもしかしたらアイツらもこの先で危ない目に遭ってるかもしれないしなっ! よっしゃ行くぜ!

 

 ……で、洞窟の一番奥まで着いたんだが、そこにはさっき俺達を助けてくれた二人と、近くの村から攫われてた女の人達が居た。

 

「もうっ! 武器を置いていくなんて何考えてるのよ! 心配するこっちの身にもなってよ……」

「す、すみません……奴を逃がせばまた巣を拵えると思ったので……」

 

 なんだ喧嘩してるのか? ……いや、どっちかと言うと怒られてるって感じだな。……あれ? 結局ゴブリンはどうしたんだ?

 

「……もう終わったのか?」

 

 声を掛けると二人がこっちを向いた。……なんだあの魔術師のねーちゃん、目付きがめっちゃこえぇ……。

 最初見た時はエロい装備着たナイスバディとか思ってたけど……あれか? 綺麗な薔薇にはなんとかってやつか?

 

「あぁ、あなた方でしたか。もう全て倒しましたよ」

「ちょっおまっ……マジかよ……」

 

 返事を聞いた魔法使いが驚いてたけど、俺も正直ビビったぜ。

 いやホントマジか。道中のゴブリンも全部倒されてたし、すげえな。

 

「はぁ、結局なんも出来なかったか」

「ふむ……では、すみませんが彼女達をこの先の村へ送り届けてもらえませんか? 自分達はこのまま町へ戻らなければならないので」

 

 お? もしかして向こうも困ってんのか? よっしゃそう言うことならやってやるぜ! 元々は俺達の依頼だしな!

 

「マッハで送り届けてやんよ」

「自分で言うのもなんだが、役に立つと思うぜ」

「つまり、貴方は私達の救世主ということ。さっきの解毒の水薬(アンチドーテ)は、格安でお願いね」

 

 んで、村娘達を連れて二人とは別れた。

 あの魔術師のねーちゃんにはなんでか終始睨まれたままだったけど、ヘンテコの方は良い奴だったな。

 しかも村に送り届けたらめっちゃ感謝されたし、これでめでたしめでたしだ!

 まあでも、攫われてた彼女達は気の毒だよな……送り届けてそそくさと帰ってきたけど、なんか釈然としないぜ。

 

「なんで言わなかったの、助けたのは俺達じゃないですよって」

「しょ、しょうがないだろ!? 言い出しにくい雰囲気だったし……」

 

 人助けをして、礼を言われる前に去っていく。やっぱりああいうのがヒーローっていうんだろう。カッコいいなあ、俺もあんなふうになりてえぜ……。

 

「無理だろ」

「無理ね」

「くそぉ!」

 

 見てろよお前ら! 俺は絶対にヒーローって奴になってみせるんだからな! この剣、セレブリティ・アッシュに懸けて誓ってみせる!

 

「その田舎から持ち出してきたデカすぎてろくに振り回せない大剣がなんだって?」

「つまり、文字通り身の丈に合ってないという事」

「だぁー!! いちいち突っ込んで来るなお前らは!!」

 

 これでも威力はあるんだ。デカブツにならきっとワンチャンある! ……あれば良いなぁ。

 

「でもよ、ゴブリンって思ってたよりヤバい相手なんだな」

「ん? ……あぁ、そうだな」

「……今後は気を付けましょう」

 

 どこまでも残酷で、最悪な奴等。あんなに泣いてる女の子達を見て……許せる訳ねぇよ。

 




Q.英雄志望の戦士くんの剣はどんな武器ですか?

A.漫画版で本当にちょこっとだけ見えますが、身の丈ほどある大剣です。とても新人が扱える物ではなさそうですねクォレハ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート13 裏 中編 『生き残った冒険者達の特権』

「今回はご迷惑をお掛けしました」

 

 ゴブリンの巣を潰した私達は救出した村娘を新米達に任せ、早々に帰路へ着いていた。

 すると疾走騎士が唐突に謝罪の言葉を口にする。

 

「な、なによ藪から棒に」

「自分の勝手に付き合わせてしまいましたから……謝るべきかなと……」

 

 そういう事ね。私は鼻から溜め息をつき、思った言葉を口にする。

 

「別に、あいつらを助けた事に納得はしてないけど、私はアンタについてくだけよ。それに、最初の冒険ではあの二人を助けられなかったもの……」

 

 そう、納得はしていない。あんなやつら助けるくらいなら、私は……あの二人を助けたかった。

 ちょっと自信過剰だけど、正義感に溢れていた剣士。

 人を助ける為に、自らの拳を振るおうとしていた武闘家。

 たまたま声を掛けられて一党を組んだだけの僅かな付き合いだったが、二人は良いやつらだった。

 私はあの二人が迎えた結末が、よくあることだと今でも納得していない。

 

「というかあいつら何よ! 自分達の力量を理解してると思えないあの物言い! ほんっと不愉快!」

 

 あの自信満々な態度はまるで少し前までの自分のようで、思い出しても腹が立つ。

 今回助けても彼等はまた同じ事を繰り返すのではないだろうか。

 そして疾走騎士も疾走騎士だ。彼はアイツらに村娘達を任せると、引き留める間も無く即座にあの場を立ち去った。

 そこは礼の一つや二つ吹っ掛けて、もう少し痛い目に遭わせてやれば良かったんじゃないかしら? あの戦士が担いでた剣、そこそこ良い値段で売れそうだったし。

 

「すみません」

「そこはアンタが謝る事じゃないでしょ……」

 

 私は肩を落とし、今度は口から大きく息をついた。 

 

「それよりも、さっきみたいに一人で飛び出して行った事の方が問題よ? 前衛が後衛を置いて行ったらどうなるか、私達はもう思い知ったんじゃないの?」

 

 最初の冒険で剣士と武闘家がやられてしまった最大の要因は、二人が孤立した事に他ならない。

 そして、疾走騎士が同じ事にならない保証はどこにも無い。

 それが私にとって、一番恐ろしい事なのだ。

 

「……すみません」

 

 疾走騎士は足を止めないまま、こちらを向いて謝罪を繰り返す。それは、いつも前だけを向いている彼らしくない行動だった。

 

「……ゴメン。そもそもこうやってアンタと一党を組んだのは私の我が儘な訳だし、口出しする資格はないわよね」

「そんな事は……!」

 

 慌てて私の言葉を否定しようとする彼に、悪いことをしてる気分になって……私はつい胸中を吐露してしまう。

 

「さっきの場合はもうゴブリンは殆んど全滅させていたし、そもそもアンタは一人でもゴブリンの群れと戦える。でも、不安なのよ。疾走騎士の戦いを見てると私は……アンタがふと消えてしまうんじゃないかって」

 

 冒険者はいつも死と隣り合わせ。彼等はそれから逃れ、生き延びようと全力を尽くす。

 しかし疾走騎士の場合は、神からの《宣託(ハンドアウト)》によって、敢えて危険な橋を渡っているようにしか見えない。

 放ってはおけない。放っておけばきっと彼は一人で──……それは、それだけは絶対に駄目なのよ。

 

「一体なぜ? そうまでしてアンタは……一体何を成し遂げようとしてるの?」

 

 顔を上げて疾走騎士を見る。彼は改めて前を向いて、尚も歩み続けていた。

 

「…………この世界は、当然の権利のように、我々を絶望へと突き落とします」

「え?」

「出来ない事は、やりません。だから……大丈夫です」

 

 それ以上、私も何も言えなかった。

 町が見えてくる。今日も無事に生きて帰る事が出来た。

 だけど、どうしてか喜ぶ気にはなれなかった……。

 

────────────────

 

「だから私の矢がトドメなんだって!」

「いーや、間違いなく私の《火矢(ファイアボルト)》がトドメだった!」

 

 ゴブリンスレイヤーと共に依頼を終え、ギルドに戻った女神官。彼女が最初に耳にしたのは二人の冒険者による言い争いだった。

 

(あの人達いっつも喧嘩してるけど、一党として大丈夫なんでしょうか……?)

 

 そんな女神官を余所に、ゴブリンスレイヤーは順番を待っている疾走騎士達を見付け、ずかずかと歩いていく。

 

「終わったか」

 

 声を掛けるゴブリンスレイヤーに気づき、疾走騎士と魔術師の二人が振り向いた。

 

「はい。思ったより早かったですね」

「三十一、うちホブが二、シャーマンが一だ」

「二十三、うちホブとシャーマンがそれぞれ一匹ずつでした」

「……小規模ではなかったのか?」

「詳細な報告は受付でしますので、一緒に聞いてもらえれば」

 

 疾走騎士とゴブリンスレイヤーによる、必要な事だけを話す事務的な会話。するとそこへ割り込むように、女神官が声を上げた。

 

「あ、あのっ! ゴブリン退治に向かった新人の方達はどうなりましたかっ!?」

 

 疾走騎士達二人の他に新人達の姿はない。もしかしたら助けられなかったのではと、彼女は不安を抱いたようだ。

 

「少し危なかったですが、無事救出出来ましたよ。安心してください」

「あぁ良かった! 本当にありがとうございました!」

 

 しかし、それも杞憂だった。女神官は笑顔で安堵した様子を見せる。

 

「お待たせしました! 次の方!」

 

 そして、ようやく順番が回ってきた受付の前へと立った。

 

「ゴブリンスレイヤーさん! お疲れ様でした!」

「あぁ」

「疾走騎士さん……は、大丈夫ですよね? 今回は何も出てきませんでしたよね?」

「ええ、大丈夫ですよ。そんなホイホイと毎回大物が出てきたら、命が幾つあっても足りません」

「で、ですよね! ホッとしました」

 

 恐る恐るといった様子で問いかけた受付嬢は、疾走騎士の答えを聞いて胸を撫で下ろす。

 

「とりあえず報告を始めても?」

「はい、お願いします!」

 

 そして疾走騎士は、新米一党の救出に成功した事。ゴブリンの巣を壊滅させた事。シャーマンが一匹逃げ出したが、なんとか追い付いて始末した事。捕らわれていた村娘達を新米一党に任せた事などを、端的に報告する。

 

「逃げたのはシャーマンだけか?」

「その筈です。他に足跡はありませんでしたから」

「なら、問題はないな」

 

 疾走騎士の報告に、ゴブリンスレイヤーも納得している様子だった。

 ゴブリンについて彼の右に出る物は居ない。

 ゴブリンスレイヤーが納得しているということは、今回の疾走騎士の働きは十分と言える物なのだろう。

 受付嬢はそう判断し、報告書にペンを走らせる。

 それを後ろで聞いていた女神官は、魔術師がどこか浮かない表情をしている事に気付く。

 

「あの、何かあったんですか?」

「……まぁ、ちょっとね」

「そ、そうですか。その……無理はしないでくださいね?」

「ん、ありがと」

 

 苦笑いと共に答えを返す魔術師に対して、きっと彼女も苦労しているのだろうと女神官は察する。

 自身もゴブリンスレイヤーに苦労させられているが故に。

 その後、ゴブリンスレイヤー側の報告も終わり、四人は受付を離れた。

 すると先に報告を終えていた鋼鉄等級一党が彼等の前へとやってくる。

 どうやら疾走騎士達を待っていたようだ。

 

「これから食事を取るところです。ご一緒にどうでしょうか?」

 

 そう言って微笑む自由騎士は女性として容姿端麗。そんな彼女の誘いを受けて断る男など、居ないのではないだろうか。

 

「一緒に……ですか?」

「俺はいい、人を待たせている」

 

 しかし、何事にも例外は存在する。

 疾走騎士は懐疑的に頭を傾げ、ゴブリンスレイヤーに至っては一声で拒否を示し、足早にギルドから去って行ってしまった。

 

「え、えぇ……」

 

 あまりにもあっさりと断られた事に動揺を隠せず、鋼鉄等級一党達は困惑した。

 ゴブリンスレイヤーには決して悪気がないのだが、それが問題なのだ。

 事実、残された者達には若干気まずい雰囲気が流れてしまう。

 

「えと、じゃあ私もこれで……」

 

 そんな空気に耐えられなかったのか、女神官も続いてギルドをあとにする。

 自由騎士は既にショックで白くなってしまっていた。

 

「あ、あー……丁度こちらも食事にしようと思っていましたので、構いませんよ」

「ほ、本当ですか!?」

 

 疾走騎士の言葉で即座に色を取り戻し、目を輝かせる自由騎士。彼女の後ろに居た他のメンバー達もホッとしている様子だ。

 

「いいですよね?」

「ま、まあ私は別に……」

 

 しかし、魔術師は疾走騎士に素っ気ない返事を返しつつ、内心頭を抱えていた。

 以前から彼女達は疾走騎士に対して熱のこもった視線を向けている。

 今回も何らかの目的があって、疾走騎士への接近を試みている事は明白だ。

 かといって先程の自由騎士はあまりにも気の毒だ。断るのは忍びない。

 ……仕方ない、ここは私が監視しておくべきだろう。と、彼女は結論付けたのだった──。

 

 

──────────────

 

 

 そして私と疾走騎士は鋼鉄等級一党に誘われ、一緒に食事を取ることになった。本当は断りたい所だったけれど今回ばかりは……仕方ないわね。

 圃人野伏が注文をするため、酒場の女給にぶんぶんと手を振る。

 

「ほら座った座った! おーい! おねーさんちゅうもーん!」

「はーいただいまぁー!」(……って、えぇ!? 今度は一気に五人に増えてる!?)

 

 疾走騎士は若干強引気味にテーブルの席へ座らされると、その右隣に圃人野伏、左隣に森人魔術師が座る。ぐぬぬ……あの二人、仲が悪そうに見えて息ぴったりだわ。油断出来ないわね。

 

「では貴女はこちらへどうぞ」

「え……あ、うん」

 

 自由騎士に促され、私は反対側、疾走騎士の向かい側へと座る事になった。

 そして私の右隣に女僧侶、左隣に自由騎士が着席する。

 

「よっしゃ今日は飲むぞぉ!」

「あまり飲み過ぎるなよ。また寝坊とか洒落にならんぞ」

「次寝てたら今度こそ本当に叩き起こしますからね!」

「騒がしくてすみません。うちはいつもこんな感じで……」

「いや、良い一党だと思いますよ」

「まあ仲が悪いよりは良いわよね」

 

 今日まで休みなく依頼漬けの日々を送っていた私達は、冒険者の休息という物を知らない。

 そのせいか、彼女達の喧騒はどこか羨ましく思えて、私は思わず頷いた。

 これが生き残った冒険者達の特権というものなのかしらね……。

 

麦酒(エール)! 麦酒(エール)! 冷えてるか~?」

「ばっちぇー冷えてますよ! ご注文をどうぞ!」

「あ、自分達お酒は飲めないのでミルクで」

「「……ほう?」」

 

 疾走騎士が酒を飲めないと聞いてニヤリと口元を緩める圃人野伏と森人魔術師。

 

「飲酒強要はいけませんよ?」

 

 しかし女僧侶の一声でギクリと身を強ばらせた。

 さっきまで温和な雰囲気を纏わせていた彼女のニッコリとした笑みには影があって……成る程、これは怖いわね。

 

「麦酒が四、ミルクが二……っと! 他には!」

「やっぱ肉っしょ!!」

「サラダも食え。鉱人(ドワーフ)になるぞ」

「ふふっ、耳を引っ張られて森人(エルフ)になって、今度は太って鉱人(ドワーフ)ですか?」

「では肉料理とサラダを人数分、よろしいでしょうか?」

「大丈夫です」

「ええ、それでお願い」

「はあい! では少々お待ちをー!」

 

 ぱたぱたと厨房へ行く女給を見送って、料理を待つ。

 すると突然自由騎士が姿勢を正し、私達に話を切り出した。

 

「実は、ご相談したいことがあります」

「相談……ですか?」

「本当は銀等級のゴブリンスレイヤーさんにもお話を伺いたかったのですが……」

「って事は冒険絡みよね? 尚更私達よりベテランの人の方が良いと思うけど?」

「それでもです」

 

 冒険者として相談したい事? 等級はこっちの方が下なのに?

 まあ、疾走騎士の場合は話が別かしら。コイツの等級詐欺は今に始まった事じゃあないし。

 ……でも、これが私達を食事に誘った目的って訳ね。

 私は疾走騎士と目を合わせ、いいんじゃない? と、意思表示に肩を竦めてみせた。

 

「まあ、聞くだけなら構いませんが」

「ありがとうございます」

 

 疾走騎士が了承すると、自由騎士は頭を下げ、その内容を話し始める。

 

「私達一党は戦力としてどうでしょうか? 率直な意見をお聞きしたいのです」

 

 一党としての戦力……まあ、一度ゴブリンに遅れを取ったみたいだけれど、あれはただ運が悪かっただけよね。

 

「前衛に騎士一人、援護に弓持ちと呪文使いが居て、回復役の僧侶も居る。十分なんじゃないの?」

 

 一緒に組んで盗賊を退治した時には良い動きしてたし、特に問題はなさそうだけれど……。

 そんなふうに考えていると、私の向かい側に居る疾走騎士は顎に手を当てて悩んでいた。

 

「貴方はどう思いますか?」

 

 自由騎士が尋ね、暫しの沈黙。

 そして彼は考えがまとまったように頷いて答える。

 

「やはり、後衛三人に前衛一人は厳しいですね」

「そう……ですか」

 

 あ、そっか。確かに四人の一党で前衛一人だとちょっと辛いわね。

 ……あれ? なんで私はその考えに至らなかったのかしら? 普通に考えて守りが薄いわよね。

 

「探索に於いて前衛は二人以上欲しい所さ……です。多方面から攻められた時に手が回りませんから」

「成る程。しかしそちらも前衛は一人ですよね?」

「こちらの場合は後衛も一人ですから。彼女を背にして盾を左右に構えれば、二方向……いや、三方向までなら対応できます」

 

 しかし、その理由はすぐに分かった。

 私にとっての前衛の基準が『疾走騎士』になってしまっているのだ。

 コイツの戦い方に慣れてしまったせいで、自分の感覚がいつの間にかズレている。ハッキリ分かるわね。

 彼は例外で、他と比べるのは間違っている。

 そこはちゃんと認識しておく必要があるだろう。

 気を付けないといけないわ……。

 

「三方向まで……ですか」

「私達もそれで助けられたもんねー」

「あぁ、奴等完全に手出しが出来なくなっていたな」

「曲がり角に陣取って、死角を無くしていましたよね!」

 

 そういえば彼女達を救出した時はそんな感じだったわね。

 ……その後すぐ疾走騎士ぶっ倒れてたけど。

 

「壁を背にして背後から襲え……昔はそう教わったものです」

「それもお祖父様からの教えですか?」

「そうですね。といっても、そう簡単に出来る事ではありませんが」

 

 確か疾走騎士の祖父って斬撃を飛ばしたりする化け物よね? 一体何者なのか、本当に気になるわ。

 そこまでの使い手ならきっと高名な人なんだろうけど。

 

「では、壁が無い場合は?」

「ふむ……彼女を背負って戦うしかないですね」

「ちょっと待ちなさい。なんでそうなるのよ?」

 

 広い場所で四方を囲まれるって絶体絶命のピンチじゃないの。なんでそんな状況で私は疾走騎士におぶわれてるのよ。

 

「壁の無い場所、例えば平野で囲まれたとすれば、そこから脱出するには一点突破しかありません。自分が貴女を背負い、《突風(ブラストウィンド)》で飛ぶ。多分これが一番早いと思います」

「……なるほど、あらゆる状況を想定しているのですね」

 

 いやなに感心してるのよ。コイツ相当頭のおかしい事言ってるわよ?

 そこの森人も、その手があったか! じゃないわよ。アンタ同じ魔術師でしょ。

 《突風(ブラストウィンド)》が人を飛ばすために使う魔法じゃないって事ぐらい分かるでしょ。

 一回やったけどメチャクチャ危ないわよあれ。

 

「迷えば敗れますからね。自分の行うべき事は、予めちゃーんと決めておかないといけません」

 

 そしてお決まりの台詞を口にする疾走騎士は更に意見を述べ続ける。

 

「あとは──斥候役ですかね」

「え、私?」

 

 皆が一斉に圃人野伏を見ると。彼女はキョトンとした顔で自身を指差していた。

 

「確かに、コイツは一党の不安要素だな」

「ぐふっ!」

 

 森人魔術師が断言し、圃人野伏は大きく仰け反る。

 鋼鉄等級一党の斥候役である圃人野伏には、時折不真面目な言動が見られており、それを指摘しているのだと彼女達は思ったようだ。

 

「いや、そういう意味ではなく……」

 

 しかし、疾走騎士は首を横に振る。どうやら違うらしい。

 

「では、どういう意味なのでしょうか?」

圃人(レーア)はどうしても体力が他種族より劣ります。敵の警戒、罠の探知、解除、探索まで役割に咥……加え入れられているとなると。些か負担が大きいのではないかと。冒険での移動も、背の低さはどうしてもハンデになりますからね」

「お……おおー! わかってんじゃん! えへへ~」

 

 嬉しそうにバシバシと疾走騎士の肩を叩く圃人野伏。

 しかし森人の魔術師が腕を組んで不機嫌そうに口を尖らせる。

 

「ふんっ、普段から怠けてるせいじゃないのか?」

「ちょっ! 失礼なっ!」

 

 疾走騎士を間に挟んで騒ぎだす二人。それを余所に、一党の頭目である自由騎士は深刻そうな表情で考え込んでいるようだ。

 

「今日の冒険でも、彼女は特に疲労していましたね……」

「それで《賦活(バイタリティ)》を使いました。依頼も終えていましたし」

「成る程。普段はなるべく怪我の治療に奇跡を温存しておくべきですからね。奇跡や呪文を無闇に使うのは下策ですし、依頼を完遂してからというのは良い判断だと思います」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 褒められた事が嬉しいのだろう、自由騎士と女僧侶の二人がきらきらと輝いた笑顔を見せる。

 コイツら絶対自分達が先輩だって事忘れてるわよね?

 

「我々が彼女の体力に気を使いつつ、無理のない探索を心掛けるべきですね」

「それが良いでしょう。何事も、命があってこそですし」

 

 結局、そういう結論に至った。

 私達冒険者はいつ命を落としてもおかしくない。故に、無理は禁物なのだ。

 でも疾走騎士、それ自分に言った方が良いわよ。

 

「それにしても……遅いですね、料理」

「ん? あぁ、混んでるわよね。今日は特に」

 

 なかなか料理が運ばれてこない事に不満を口にする疾走騎士。依頼を終えた冒険者達で賑わう時間帯という事もあるのだろう。一人で注文を取り、料理を運ぶ女給は天手古舞いといった状態であった。

 

「ちょっと様子見てくるよ!」

「仕方ない、私も行こう」

「それなら自分も──」

「いーよいーよ座っててよホラホラホラホラ!」

 

 着いていこうと立ち上がった疾走騎士を座り直させ、圃人野伏と森人魔術師は二人して厨房の方へと向かい……すぐに戻って来た。

 ……麦酒(エール)が淹れられたジョッキを人数分手にして。

 

「お待たせ! 麦酒(エール)しか無かったけどいいかな!」

「喉渇か……喉渇かないか?」

「ちょっと! 私達お酒飲めないって言ってるでしょ!?」

 

 私は差し出された麦酒を断固として拒否しようとする。しかし──。

 

「まあまあそう言わずに! 先っちょだけ! 先っちょだけだから!」

「こういう席では先輩に付き合うものだぞ?」

「なによこの酔っ払い!?」

 

 まだ酒を飲んでいないはずだが、彼女達が行っているそれは完全な絡み酒だった。

 私達が頼んだミルクは一体どうしたのよ……?

 

「ちょ、ちょっとお二人とも! 持ってくもの間違えてますよ!」

 

 慌てた様子で女給がミルクを二つ持ってきた。

 私達は助かったと言わんばかりに麦酒を渡し、代わりにミルクを受け取る。

 

「肉料理も今持ってきますのでー!」

「……どうやら料理は出来てるようなので持ってきますね。六人分は大変でしょうから」

「え、ええ。お願いするわ」

 

 目を回しながら走っていく女給を見て、逃げるように疾走騎士が立ち上がる。そんなにお腹が空いたのかしら?

 

「お願い許して! ほ、ホアァーッ!!」

「やめルルォ! 私は二人の為を思って──ンアッー!!」

 

 そしてやはりと言うべきか、圃人野伏と森人魔術師の二人は女僧侶の《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)で沈黙させられていた。

 

───────────────

 

「あれを待ってるのか」

 

 背後から声を掛けられ、牛飼娘は振り返る。

 そこに居た叔父は、全く……と、呆れたような表情をしていた。

 

「うん、多分そろそろかなって。そんな気がするんだ」

「……そうか。まあ、程々にな」

 

 それだけ言って、叔父は家へと戻る。

 牛飼娘は赤くなった夕日に照らされた、町へと続く道から目を離さない。

 

「! 帰ってきた!」

 

 すると、道の向こうからゆっくりとした足取りで歩く彼の姿が見えた。牛飼娘は彼の下へと走り出す。

 

「……ただいま」

 

 出迎えにやってきた牛飼娘に対し、ゴブリンスレイヤーがぶっきらぼうに言う。

 切らした息を整えて、満面の笑みを浮かべて、その言葉に彼女は答えた。

 

「うん! おかえりなさい!」

 

 これは、一人の騎士によってもたらされた、ほんの少しだけ良くなった物語である──。

 




Q.ゴブリンスレイヤーさんの向かった山側の巣はどうなりましたか?

A.巣の入り口を《聖壁(プロテクション)》で塞いで、パパパッと崩落させて、終わりっ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート13 裏 後編 『この先、挟み撃ちがあるぞ』

 《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)を受け、頭に大きなコブを作った圃人野伏と森人魔術師の二人。

 しかし彼女達はそんな事はお構い無しに酒を呷りまくっていた。

 

「──ヒュゴウッ!」

「あひゃひゃひゃ!! すごい吸引力だあ!!」

「くっふ……っ! ダメだ耐えられんっ! はははははっ!!」

 

 完全に酔っぱらいと化した二人は疾走騎士の食事を見て大笑いしている。確かにあの食事風景は想像を絶するところがあるわよね。もはや魔法の域でしょあれ。

 

「ここは私達が持ちますから、好きなだけ食べてくださいね」

「え、悪いわよそんな」

「我々の相談に乗ってもらったせめてものお礼です。遠慮なさらないでください」

 

 うーん、良いのかしら? でも折角の好意を無下にする訳にもいかないわよね……。

 

「そーそー! リーダーお金持ちだし大丈夫だって! ヘーキヘーキ! ヘーキだから!」

「貴族令嬢の鑑がこのやルルォ! 羨ましいぞ!」

「き、貴族!?」

 

 確かに育ちが良さそうだと思ってたけれど、本当に貴族だったのね……。

 

「あ、あの! あまり大きな声で言わないでくださると……」

「あっ……ご、ゴメンなさい……」

 

 私は慌てて自身の口を押さえた。自由騎士は不安そうに瞳を揺らしながら私達を見ている。

 どうやら彼女にとって、自らの出自は知られたくない事だったようだ。

 

「大丈夫ですよ。貴族だろうと何だろうと、貴女は貴女です。それに、命を預け合う冒険者同士でそんな事を気にはしていられません」

 

 彼女の心中を察したらしい疾走騎士の言葉を聞いて、彼女の曇った表情はすぐに明るい笑顔へと変わる。

 ……そっか、私達が態度を変えたりするかもって恐かったのね。

 確かに、そういう身分の人間を嫌ってたりする冒険者も居るし、そうでなくても謙るような態度に切り替えるようなのも居る。

 そりゃあ不安にもなるか……。

 

「ありがとうございます……!」

 

 貴族令嬢である彼女が家を飛び出して冒険者をしている時点で、訳ありだという事は察しがつく。

 きっと、彼女にも彼女なりの、戦う理由があるのだろう。

 

「お、お待たせしました。追加注文の品です」

「どもー!」

 

 女給から渡された料理を圃人野伏が受け取り、疾走騎士の前へと置く。いやどれだけ食うのよ、ソレもう三皿目でしょ。

 

「ところで、なぜあのような相談を自分達に? 先程はああ言いましたが、自分も貴女方は等級相応以上の力量を持っていると思います。自信を持っていいかと思いますが……」

 

 置かれた料理を一瞬で消滅させながら、疾走騎士は彼女達に対し疑問を投げ掛ける。

 なお手渡した料理がことごとく消えていく有り様を見た女給は、未知の怪物を見るかのような目を疾走騎士に向けていた。

 

「……我々は一度、ゴブリン相手に不覚を取りました」

 

 彼女達が窮地に立たされた、山砦での話だろう。疾走騎士は頷いて、耳を傾ける。

 

「準備を万全に行い、慎重に進み、貴方のように鉄壁とは言えずとも、私達なりに守りを固めながら戦って、それでも…………ダメでした」

 

 鋼鉄等級として実力も十分にある彼女達が、ゴブリンによってあわやという所まで追い詰められた。

 それは紛れもない事実であり、疾走騎士が救出に向かわなければ、彼女達は『ごくありふれた結末』を迎えていただろう。

 

「あのような事が、再び起こらないとは限りません。しかし我々は、もう同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。『運が悪かった』では済ませられないのです」

「……成る程。今後自分達が生き残る為にも、一党の問題点を洗い出しておきたかったと、そういう訳ですか」

 

 私達冒険者は、死んでしまえばそれで全てが終わってしまう。

 たとえ次の冒険者がうまくやったとしても、死んでしまった者達は……絶望へと突き落とされた者達は、もはや救う事は出来ない。

 『運が悪かった』で命を落とさない為にも、彼女達は彼女達なりに動こうとしているのだ。

 

「まあ、私が一番の原因である事には違い無いんだよねぇ~」

 

 意気消沈といった様相で机に突っ伏した圃人野伏。そもそも一党を窮地に陥らせた原因が罠の見落としである事を、彼女自身も理解している様子だ。

 

「斥候の屑がこのやルルォ……!」

 

 そこへ森人魔術師が追い討ちをかけた。

 流石にショックだったのか、勢いよく立ち上がり抗議する。

 

「ひどっ! 結構気にしてんだからね! そっちだって一番最初に魔法を撃ち尽くして、戦力外になったくせに!」

「ぐっ……ああいった雑魚の大群は苦手なんだ! ちゃんと大物相手だったら私だってなあ!」

「どうだかねー。このまえトロル相手にぶっ倒れてたじゃん」

「試しにやってみた技の消耗が激しかっただけだ! それにちゃんと相手は倒せてただろう!」

「それをガバって言うの! 第一《火矢(ファイアボルト)》を指先からいっぺんに撃つだけでしょ!? なんの利点があるのさ!」

「《五指火矢撃ち(フィンガーフレアボムズ)》だ! 今はまだ同時に三発までだが、いつか必ず五発同時に撃ってみせる!」

「やっぱガバ呪文じゃん!?」

「何だとぉ!? オリジナル呪文と言え!!」

 

 そして二人はギャアギャアと喚きながら取っ組み合いを始めてしまった。

 しかしその間には疾走騎士が居る訳で、彼女達の体に挟まれる形で揉みくちゃにされてしまう。

 

 話は変わるが、圃人という種族の背丈は只人の子供程度が平均的である。

 しかし圃人野伏の胸はアンバランスにも只人の平均並みの質量を備えており、それが女性としての彼女を強調していた。

 

 対に位置する森人魔術師に至っては一目で分かる程に豊満。平均に比べて十二分だろう。恐らく等級に換算して銀等級程度だと思われる。なお師匠は金等級。

 

 なぜ唐突にそんな話をしたかと言えば、現在疾走騎士の頭には、そんな彼女達の立派なモノが左右から押し付けられているのだ。

 ノーリアクションを貫く彼の兜に合わせて形を変え、その柔らかさが見てとれる。

 

 ──どうしてこうなった? 疾走騎士は虚空を見つめる。

 

 二人は完全に酔っているし、取っ組み合いに夢中で疾走騎士に気付いている様子もない。席の位置も最悪だ、二人はただ単に疾走騎士の隣だという理由だけであの場所に座ったのだろうが、それが結果的にこのような惨状を作り上げた。

 つまり冷徹に真実を告げるとすれば、一重に運が悪かったのだ──。

 

 

 ……よし、この二人燃やそう。私は足元に立て掛けてある杖に手を伸ばそうとした。すると刹那、私の左右に座っていた二人がゆらりと立ち上がる。

 自由騎士は兜を被りながら圃人野伏の頭を掴み、女僧侶は杖を振り上げ森人魔術師の背後に立った。

 

「ファッ!?」

「オォンッ!?」

 

 鈍い打音と甲高い打音が重なって鳴り響くと、言い争いは静寂へと変わる。

 片や頭突きを受け、片や杖で殴られ、その頭には二段目の大きなこぶが完成し、煙を立ちのぼらせていた。

 

「失礼しました」

「いえ……」

「二人ともお酒が回って酔い潰れたようですし、そろそろ御開きに致しましょうか」

「……そ、そうね」 

 

 白目を向いて倒れ伏す二人は酒で酔い潰れた訳ではないのだが、そもそもの原因は彼女達の悪酔いである。そういった意味では間違っていないのだろう。

 仕方ない。私は杖を持って席を立った。

 

 そして現在、疾走騎士の両肩には意識を失った圃人野伏と森人魔術師が担がれており、宿へ運んでいる最中である。

 

「その、貴方にはいつも御迷惑をお掛けして……本当に申し訳ありません」

 

 恩人である彼に対して一党が数々の無礼を働いている事に対し、頭目の自由騎士は頭を下げた。

 

「いえ、食事をご馳走になったんですから、これくらいは構いませんよ」

「し、しかし……」

「気にする事ないわよ。コイツ遠慮も無くとんでもない量食ってたし、働いて返させるべきね」

 

 その言葉が刺さったのか、疾走騎士は小さく呻ったあと、何も言わず足を早めた。

 私達はそれを見てくすくすと笑いながら、彼の後をついて歩く。

 

「今日は楽しかったわ。ありがとう」

 

 自由騎士と女僧侶に対し、私は率直に礼を述べた。

 二人は一瞬驚いた表情になるが、すぐに微笑んで首を縦に振る。

 

「それは良かったです。お二人が冒険から戻ってきた時、雰囲気が暗かったので何かあったのかと……」

「う……気付いてたのね」

 

 正直に言えば、良い気分転換になったのは間違いない。

 あんな大人数での食事は久々だった。

 

「……でも、周りが少し気になったわね」

「あぁ……やはり……」

 

 実は私達が食事をしている間、いや、正確には席に着いた時から、私は周囲の冒険者達からの視線を感じていた。

 わざわざ気にする程の事でもないと敢えて何も言わなかったが、不快に感じる視線も中にはあったのだ。

 

「いつもあんな感じなの?」

「いつもという訳ではありませんが、女性だけの一党というのは注目を浴びてしまうようでして……」

「声を掛けてくる人だって居るんですよ!? 本当に非常識というかなんというか……!」

 

 ため息をついて肩を落とす自由騎士と、憤慨する様子を見せる女僧侶。

 彼女達一党はメンバー全員が容姿端麗。

 同じ女性である魔術師から見てもそれは間違いない。

 そんな彼女達が放って置かれる筈もなく、軟派な男性冒険者からそういった目で見られる事も少なくは無いのだろう。

 

「それに比べ、今日は平和でした」

「あの人が居たからでしょうね!」

「そうね。でもそのせいでアイツ、かなり睨まれてたけれど」

 

 容姿端麗な彼女達の中に一人男が交ざれば、それは嫉妬の対象となる。

 実際色んな事言われてたわね。チキン盾野郎とか、ハーレム野郎とか、ゴブリンスレイヤー二号とか……覚えておくわよ、あいつらの顔。

 

「やはりそうでしたか……本当に申し訳ありません」

「まあいいんじゃない? アイツ、メンタル強いし」

 

 でも人付き合いはきっちりする奴なのよね。

 礼儀正しくて、誠実で、優しくて、頼り甲斐があって…………って、いけないいけない、そんな事を考えてる場合じゃあなかったわ。

 でも、そういう所を彼女達も好ましく思ってるんでしょうね。

 それに関しては同意だわ。

 

 

 

『────この世界は、当然の権利のように、我々を絶望へと突き落とします』

 

 

 

 アイツは恐らく、とても大きな何かに抗おうとしている。

 それが何なのか想像もつかないし、私に何が出来るのかも分からない。

 

「ですがそれでは……」

「そもそも、アナタ達が謝る事じゃあないでしょ? それにさっき言ったように私は楽しかった。だから──」

 

 だとすれば、私がするべき事は一つだ。

 

「──また今度、誘ってもらえる?」

 

 アイツを助けるためには私だけの力じゃあ足りないかもしれない。

 彼女達の力が必要になる事もあるかもしれない。

 そう考えると、彼女達との協力関係は維持していくべきよね。

 

「え、良いのですか?」

「賑やかな食事なんて、冒険者になって初めてだったわ。ほら、アイツの食事ってあまりにあっさりしすぎじゃない? 楽しむ余裕も無いのよ」

「で、ではまたお誘いします!」

「ええ、よろしくね」

 

 ただあんまり近付けすぎて今回みたいな事になるのは良くないわね……気を付けないといけないわ。

 

 

 そして、宿へ戻った私達を圃人の女主人が出迎えた。

 

「よかった! お二人共帰って来たんですね! 昨日は心配してたんですよ?」

「ただいま。一日空けただけで心配しすぎよ? 私達冒険者だし、何日も開く事だってあるわ」

「だからですよ。冒険者の方はいつ帰って来なくなってもおかしくないですから……」

 

 残される側は不安になるものだ。私は今日の冒険でそれを実感し、疾走騎士に辛く当たってしまった事を思い出した。

 アイツには後で謝らないといけないわね……。

 

「二人を部屋まで運んで来ます」

「ん、わかったわ」

 

 疾走騎士が担いでいる二人を彼女達の部屋へ送り届け、私達は自分達の部屋へと戻る。ホント、昨日も今日も疲れたわね。

 

「風呂入ってさっぱりしましょう」

 

 確かに昨日は野宿だったし、色々と心配になってくる……特に臭いとか。

 でもその前に、今日の事をちゃんと謝っておこう。

 

「ねぇ、疾走騎士。今日はごめんなさい。私、つい怒鳴っちゃって……」

 

 私が謝ると、彼は首を横に振る。

 

「……ありがとうございます。心配してくれたんですよね?」

 

 意外にも、返ってきたのは感謝の言葉。

 いつものように抑揚の無い言葉。

 しかしその声には、どこか感情が込められている様な気がして、私の胸に熱い物がこみ上げた。

 

「自分は正面から行くしか脳がないですから、これからも心配させてしまいますが、それでも良ければ今後もよろしくお願いします」

「……つまり、止める気は無いって事ね。もう、仕方ないんだから。アンタは」

 

 悪びれる様子の無い彼に怒る気も起こらず、寧ろ笑ってしまう自分がそこに居た。

 

「──じゃあ、どこまでも付いていくわね」

 

 きっと、止めても無駄なんだ。それを理解した私は、自身も止まらぬ覚悟を決めた。

 

「え……流石にあの一人用の風呂に二人は無理では?」

「そ、そういう意味じゃないわよっ!」

 

 そして長い一日が終わる。

 いつか必ずコイツと希望を掴み取ってみせる。私は絶対に諦めないんだから。

 

 

 

───────────────

 

 

 

 あの二人は助けられなかった……本当にそうだろうか?

 

 

 

 助けようともしなかったのは事実だろう?

 

 

 

 そうだ、彼等が迎えた最悪の結末は、決して運ではなかった。

 

 

 

 賽子すら投げなかったのは……自分自身。

 

 

 

 《宣託(ハンドアウト)》に従い、あの剣士と武闘家を囮にした自分自身が、彼等にあの結末をもたらしたのだ。

 

 

 

「正に人間の屑……だな」

 

 自らにそう吐き捨て、隣のベッドで眠る彼女へと目を向ける。

 

 同じ事が再び起こらないとは限らない。あの自由騎士が言っていた言葉は……正に自身が危惧している事そのものだった。

 

 もしまた同じ事が起きたら、自分はまた繰り返すのだろうか?

 

 

「迷えば敗れる……か」

 

 ……幾度も、いや、何十回と言われた言葉。祖父に一本取られる度、この身に思い知らされたその言葉は、無慈悲で、しかし希望への細い糸を手繰り寄せる為の心構えとして強く根付く。

 

 

 ──人の縁とは、つくづく面白い。お主も、巡ってここに至った。

 のう、捨てるでないぞ、縁を。そして己の心を。

 それを捨てれば、人は修羅となるのだからな。

 ……お主の目にも、修羅の影があるぞ。

 それが出れば儂が斬る、と言いたいところじゃが……そうはいかんだろうな。老いには敵わん。今日は遂に一太刀受けてしまったわい。

 

 ほれ、祝いの……酒じゃあ! 飲め! …………ほう、お主、儂のやった酒を儂に飲めというのか? カカカッ! 気に入った! もらおう!

 

 ──……どこまでも豪胆な人だった。後継ぎが居るとの事だったが、恐らく会うことも無いだろう。会ったとしても、関わる理由がない。

 

 だが、今得ている縁は失うわけにはいかない。

 

 共に一党を組む魔術師の彼女。

 鋼鉄等級一党の自由騎士、圃人野伏、森人魔術師、女僧侶。

 ゴブリンスレイヤーと、それに付いていっている女神官。

 魔術師の実質的な師である魔女。

 ギルドの受付嬢や、監督官。

 そして牧場の牛飼い娘……。

 思えば、既に多くの縁を結んでいて、その全てが自身にとって、大きな存在となっていた。

 

 ……もしこれらを失えば、自分は修羅になるのだろう。

 

 絶望が常に付き纏うこの世界で、抗い続ける為にも、自分は修羅ではなく、走者でなければならないのだ。

 

 その為にも──……そうして彼は瞳を閉じて、意識を闇に沈めた。

 




Q.何でとは言いませんが、彼女達を等級別に分けるとどうなりますか?

A.未登場キャラ含めて現時点でこうなります。勿論今後昇級する人も居ます。魔術師ちゃんに至っては今後二階級くらい上がった筈ですね。
白金:牛飼い娘さん、剣の乙女さん
金:魔女さん
銀:魔術師ちゃん、森人魔術師ちゃん
銅:自由騎士ちゃん、受付嬢さん
紅玉:武闘家ちゃん
翠玉:圃人野伏ちゃん
青玉:監督官さん
鋼鉄:女僧侶ちゃん
黒曜:女神官ちゃん
白磁:妖精弓手さん

※これはこのSSに限った解釈であり、原作に正式な資料があるわけではありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート14 『装甲さえ固めときゃ、あとは問題ないって受付嬢さんが言ってたぜ、ウハハ!』

 撤退も戦略の内なゴブスレRTA第十四部、はぁじまぁるよー!

 

 前回、鋼鉄等級一党からのアルハラを受けつつ、六日目の冒険を終えました。

 今回は、次のイベントが来る日までの間、疾走騎士くんの経験値稼ぎを行っていきますよ!

 

 七日目に突入して目が覚めました。一週間で言えば今日は日曜日ですが、彼にお休みは……ないです。

 只人が連続して戦えるのは二十日かそこらなので、それまではぶっ通しで行きましょう。

 

 彼には十分な食事と睡眠を与えていますし、疲労度的に見ても余裕があります。羽毛のベッドがかなり効いてますね。ハッハー! まだまだいけるぜ! メルツェェェル!!

 

「ふぁ……おはよ、疾走騎士」

 

 しかし相方の魔術師ちゃんは疾走騎士くんと違って体育会系ではありません。適度に休ませてあげる必要があるでしょう。

 大丈夫かな? どうかな? 

 

「大丈夫……だと思うわ」

 

 ほんとぉ? 一見問題なさそうに見えますが、これはそこそこ疲労が溜まってる時のメッセージです。

 強がりを言って誤魔化すキャラクターがたまに居るので、各人物毎の反応はちゃーんと覚えておきましょう。

 ゴブスレさんなんかは特に「ああ……」とか「問題ない……」しか言わないので判断がかなり難しかったりします。

 

「……足がちょっと痛むかしら」

 

 これを見逃すとダイス判定の際にマイナス補正を受ける可能性がありますし、もちろんファンブルの確率も上がります(114514敗)

 今回は足が不調らしいので、足を使った判定にマイナス補正を受けます。しかも冒険での移動も遅くなるのでRTA的には非常にまずあじです。

 明日か明後日辺りまでには彼女を回復させておきたいですね。妖精弓手が移動だけで三日も掛かるクエストを持ってくるので(憤怒)

 一応チェックしましたが……ただの筋肉痛でした。一日ゆっくりしてれば治るので、今日のところは魔術師ちゃんにお休みしてもらいましょう。彼女は十分頑張ってますからね。

 

「……分かったわ。でも取り合えずギルドには付いていくわね。依頼、探すんでしょ?」

 

 いやータスカルタスカル(売却値五千両換金アイテム)

 魔術師ちゃんが居れば目的の依頼を奪取出来る確率が大幅に上がります。力を借りれるなら有り難いですね。

 んじゃ行きましょ。

 

「あっ、おはようございます! ゆうべは おたのしみでしたね!」

 

 そんな事実は一切無い、それだけは真実を伝えたかった。

 

「それにしても、新しいお客さん来ませんねぇ。繁盛すればもっと設備を整えられるんですけど……」

 

 宿に設備投資すれば、疲労度の回復効率が上がったり、翌日に若干のプラス補正が入る等、メリットが多々あります。

 資金に余裕が出来れば検討しようかな?

 

「回るベッドとか良いですよね! あ、でもその前にこの宿が目立つようにしないと……そうだ! 屋根の上に大きな看板を取り付けるのはどうでしょう!? ハート形の看板とか、絶対目立ちますよ!」

 

 やっぱりやめよう。彼女はこの宿をどうしたいんでしょうかね? こんなんじゃ投資なんて出来ないよ~。

 話してるとロスになるので、さっさとギルドへ向かいましょう。いざ鎌倉。

 

 本日は単独での冒険ですので下水道探索に勤しみましょう。

 依頼は誰かが遂行しない限り、ギルドに残り続けます。下水道は「きつい」「汚い」「危険」の3K依頼として知られる代表的なものですので、他の一党に消化される事も少ないです。

 前回疾走騎士くんが下水道に行ったのは五日前、そろそろ依頼が溜まっている頃でしょう。それをまとめて消化するというのが今回の目的です。

 

 着くぅ~。

 

「はーい! 依頼の張り出しですよ!」

 

 時間もピッタリですね。とりあえず魔術師ちゃんには前回同様、下水道関連の依頼をあるだけひっぺがしてもらいます。いけ魔術師ちゃん! でんこうせっか!

 

「任せなさい」

 

 疾走騎士くんは張り出している物以外の依頼がないか、受付嬢さんに確認します。

 依頼は掲示板に所狭しと並べられますが、張り出せるスペースには限りがあるため、似たような依頼は張られません。

 その為、受付嬢さんの方に保管されてる依頼がある可能性は高いです。どうかな? あるかな?

 

「おい、少しいいか?」

「あ、はい! 何でしょうか?」

 

 なんだこのオッサン!? 横から来た重戦士が先に受付嬢さんに話しかけてしまいました。あああああもうロッスい!

 

「おーい、こっちこっち」

 

 お、(隣が)空いてんじゃ~ん! 監督官さんが手招きして疾走騎士くんを呼んでます。でもキミ疾走騎士くんの担当じゃないよ? いいの?

 

「君は私達二人で担当してるようなものだし、ま、多少はね?」

 

 確かに、今まで依頼達成した報告は大体監督官さんを通してましたからね。何より待ちロスを減らせたのはありがたいです。

 

「まずうちさぁ……下水道(の依頼)……あるんだけど、請けてかない?」

 

 だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン。どうやら監督官さんも困ってたようですね。

 依頼はネズミ退治とゴキブリ退治と溝浚い。あ~いいっすね~!

 

「ほら、白磁の新人って、冒険者は怪物退治してなんぼって考えるでしょ。こういう依頼はあんまりねぇ? あんなんじゃ虫も殺せないよアイツら」

 

 冒険者になったばかりの新米は、大体がゴブリン退治という初見殺しに突っ込んで、運が悪いと殺されたり、場合によっては孕まされたりします。

 堅実に下水道で稼ごうとする冒険者は意外と少ないのかもしれません。

 

「ホント、こっちの事情も考えて欲しいよ。で、どうかな? その分は……ギャラ出すよ」

 

 請けますねぇ!

 

「ありがとナス!」

 

 稼ぎが増大するだけでなく、受付嬢さん以外のギルド職員、しかも昇級審査でお世話になる監督官さんの好感度も上げられる。いいゾ~コレ。

 

「お待たせ。取れたのはこれだけよ」

 

 戻ってきた魔術師ちゃんが持ってきたのは、同じような討伐依頼が殆どですね。

 お、暴食鼠(グラトニーラット)の討伐依頼もありました。

 以前お話しましたが、こいつは金策にもってこいの相手で元々積極的に狩るつもりでしたが、ついでに依頼を達成出来るのはうまあじなんです。

 

「あれ? 今日は一人なんだ? 大変だねぇ。じゃあこれを貸してあげよう」

 

 カンテラを借してくれました。貰えるんじゃないのか……。

 まあ今回は一人ですし、照明役の魔術師ちゃんが居ませんからタスカルタスカル。

 

 昨日鋼鉄等級に奢ってもらった分浮いたお金で、監督官さんから強壮の水薬(スタミナポーション)を一本買っておきましょう。

 これで現在持っている水薬は……。

 

 治癒の水薬(ヒールポーション)三本

 解毒の水薬(アンチドーテ)二本

 強壮の水薬(スタミナポーション)一本

 

 以上ですね。うん、ここまであれば十分でしょう。

 

「下水道の鼠や蟲にやられるようなアンタじゃないって分かってるけど、一応言っておくわ。無事に帰って来なさいよ」

 

 では二人に見送られて下水道へと向かいます。ほらいくどー。

 

 今回の下水道稼ぎでは、下水道内をひたすら歩いて溝浚いしながら、エンカする怪物をひたすら殲滅していきます。

 溝浚いが全部終わる頃には依頼分の討伐も終わっているとは思いますが、終わらなかったらエンカするまで歩き回りましょう。

 

 突くぅ~。

 

 下水道内部に到着しました。前回は戦闘に集中してしまって迷うガバをやらかしましたので、今回は気を付けましょう。

 

 要所要所に溝浚いするポイントがあるので、そこを回りながら敵を倒して行きます。

 溝浚いは盾でザクザク掘るだけで終わります。やはり盾は万能なんやなって。

 

 お、早速鼠とエンカウントしました。オッスお願いしまーす!

 

 といってもこの鼠に負ける要素はありません。前ダッシュからの盾振り下ろし強攻撃でワンパンKOです。

 サクッと耳を回収し、買っておいた強壮の水薬(スタミナポーション)で疲労を回復しながら溝浚いと敵の殲滅を続けましょう。暫く見所はないので倍速です。

 

 巨大鼠(ジャイアントラット)は素早さが高いものの、攻撃と防御は低いため、疾走騎士くんが正面からぶち当たるだけで倒せます。もちろんこちらにダメージはありません。

 鼠は毒を持つポジ敵ですが、こいつの特殊能力である『鼠毒』は、そもそも1点以上のダメージを受けなければ毒にならない仕様なので安全です。

 そのため、盾二つ分の防御力が上乗せされている疾走騎士くんは、特に早い段階で安全な下水道籠りが出来るようになりました。

 ここの攻略自体は防御さえ固めてしまえばいいって、受付嬢さんも言ってますからね。これもW盾チャートのメリットです。

 防御力が足りない状態でここへ来ると、運ゲーが加速してしまうのでどうしても……。

 しかし最速を目指すなら、全裸で下水道に直行して回避ゲーするらしいっすよ? やっぱ頭おかしいんすね~。

 

 おっと出ました。超大型のキング鼠、暴食鼠(グラトニーラット)です。前回は松明の不意打ちと引きチクで処理していましたが、今回は正面から突撃しましょう。

 流石にこいつの攻撃はノーダメージでは抑えられませんし、毒をくらう可能性もあります。しかし解毒の水薬(アンチドーテ)を二本持ってきてますし、備えは万全です。オッスお願いしまーす!

 

 向こうもこちらに気付いて突っ込んできましたね。正面からのぶつかり合いになりました。

 W盾をキング鼠の眉間にぶち込んで、引き裂いて、FATAL K.O……あれ? 一撃でしたね。あぁん? だらしねぇな?

 疾走騎士くんが思った以上に成長してるようですし、コイツも相手になりませんね。じゃ、流します……(16倍速)

 

 あと遭遇してないのは大黒蟲(ジャイアントローチ)ですね。下水道で最も厄介な敵と言ってもいいでしょう。コイツの戦闘力は素早さでは鼠に若干劣るものの、攻撃力で僅かに上回り、防御力で圧倒的な差があります。倍くらいかな?

 しかも近接攻撃で倒されると、毒をブッチッパしてきます。止めてくださいよホントに!

 そのため、大黒蟲(ジャイアントローチ)を倒す場合にはなるべく纏めて潰したい……潰したくない? じゃあやりましょう。オッスお願いしまーす!

 

 黒くて光るアレが、わらわらと群れで突っ込んで来てますね。下水道で一番危険なエンカウントがこの大黒蟲(ジャイアントローチ)の群れです。正直暴食鼠(グラトニーラット)一匹より断然ヤヴァイですね。

 

 このまま群れに飲み込まれると流石の疾走騎士くんも対処出来ないので、一旦退却! 曲がり角のある場所まで逃げましょう。

 そしてこのまま角に陣取って応戦! ──と見せかけて、直角にカーブして更にダッシュ! 通りすぎます。

 そして曲がり角の先で《聖壁(プロテクション)》を疾走騎士くんの盾に発動! 通路を完全に塞ぐ盾を作りました。

 あとはG達が追って曲がってくるので、《聖壁(プロテクション)》を斜めに押し込んで曲がり角に閉じ込めましょう。これで勝利確定です。

 

 あとはランタンから松明に火を灯して、《聖壁(プロテクション)》の中に挿入!

 

 ハッ……ハッ……アッー! アーツィ! アーツ! アーツェ! アツゥイ! アツ──うるせえ! さっさと燃えろ! そして二度と出てくんな!

 

 これで毒もくらわずに、Gを倒す事が出来ました。でも灰しか残ってないんですけど、討伐した証拠これでいいのかな? まあ今回の報告先は監督官さんなので大丈夫でしょう。

 

 溝浚いも全部終了して、討伐依頼の分も終わり! 閉廷! 以上! 皆解散!

 

 

 疾走騎士帰還中……。

 

 

 …………なんで等速に戻す必要があるんですか?

 

 ファッ!? 大黒蟲(ジャイアントローチ)の親玉だあ!

 やべえよやべえよ……コイツは新米戦士くんが棍棒戦士くんに覚醒する為のイベントエネミーです。こいつイベント外でもエンカウントするんですね……(調査不足)

 

 どういう事かと言いますと、コイツをここで倒してしまえば彼の覚醒イベントが発生しなくなってしまうという訳でして……。

 

 つまり、ここで取るべき選択は一つ。

 

 では諸君、サラバダー!

 

 ……ダメみたいですね。討伐した鼠の耳やらGの灰やらが重くて逃げ切れません。やだ、やだ! 小生やだ! 折角の稼ぎを無駄にしたくない! ライダー助けて! 《聖壁(プロテクション)》もう使っちゃったよー!

 

 こうなったら仕方ない。くらえランタンアタック! よし、割れたランタンから広がった炎に阻まれて、親玉Gの足が止まります。その間に下水道から抜け出す事が出来ましたね。セフセフ。

 ギルドへ戻る前に、長時間の下水道潜りで疾走騎士くんがヤヴァイ事になってるので、水浴びしてサッパリしましょう!

 ついでに解毒の水薬(アンチドーテ)も一本飲んでおきます。毒にはなっていませんが、かなり長時間潜っていたので病気になってる可能性もありますからね。

 

 んじゃ帰りましょ。

 

 借りてたランタンを失くしてしまいましたので、今回の稼ぎで弁償するしかないですね。好感度が下がってしまうかもしれませんが、やむを得ない!

 

 監督官さんごめーん、おもちゃ壊れちゃったー(故意)

 

「やっぱり壊れてるじゃないか。もう許せるよオイ!」

 

 すいません許して下さい! なんでもしますから!

 

「ん? 今何でもするって言ったよね? じゃけん明日の朝、昇級審査しましょうね~」

 

 やったぜ。ランタンの弁償代はしっかりと引かれてましたが、報酬もたんまりと貰えたのでオッケーです。しかも昇級審査! これで遂に鋼鉄等級へと上がれますよ!

 

 パパパッと食事を終えて宿に戻り、魔術師ちゃんの様子を確認します。

 

「お帰りなさい。……装備、洗っとくわね。服はお風呂から戻った後でいいから」

 

 アッー! また疾走騎士くんの鎧が一瞬でひん剥かれました。仕方ないので言われた通り風呂入ってサッパリしましょう!

 

「ヒッ!? ど、どちら様ですか?」

 

 あ、兜もひっぺがされた状態なのでロリ主人ちゃんが誰か分からず怯えてますね。しょうがないなあ。

 

 ワン、ワン、ワン。

 

「あ、兜外したんですね。すみません、お顔を拝見したのは初めてだったのでつい……」

 

 お風呂で疲れを癒したら後は就寝するだけでーす! これにて七日目終わり! 閉廷! 以上! 皆解散!

 

「あっ」

 

 ……あっ。

 

「お疲れ様です。今日も互いに無事戻って来れましたね」

 

 冒険を終えて帰って来た鋼鉄等級一党とエンカウントしてしまいました。会話はロスなので、頷くだけにとどめておき、さっさと部屋に帰りましょう。では諸君、サラバダー!

 

 ぬわああん疲れたもおおん。ファッ!? 魔術師ちゃん!? 流石に下着は自分で洗

 

 今回はここまでてす。ご視聴ありがとうございました。

 




Q.宿なのにエンカウント?

A.このへんの敵:鋼鉄等級一党


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート14 裏 前編 『魔術師ちゃんは働きたい』

 窓から差し込む朝の日光に照らされて目が覚める。寝ぼけ眼を擦りながら、私は枕元に置いていた眼鏡を手に取った。

 

「ふぁ……おはよ、疾走騎士」

 

 小さく欠伸をして、隣のベッドに居た疾走騎士に声を掛ける。彼もまた目覚めたばかりの様子で、すぐに兜を被ってから私に挨拶を返した。

 

「おはようございます」

 

 一切のメリハリが無く棒読みとしか思えない彼の声。それを聞きながら私は体を起こし、眼鏡を掛けて、身支度を整えるためにベッドから立ち上がろうとした。すると──。

 

「痛っ……」

 

 ふくらはぎから太ももにかけて鈍い痛みが走り、うまく力も入らない。……しかしそれでも何とか気合いを入れて立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?」

「大丈夫……だと思うわ」

 

 私は何度か足踏みを繰り返す。……うん、動く。多分大丈夫ね。

 

「…………」

 

 そんな私の様子を無言で見つめる彼は、異常に気付いている様子だった。

 ……気まずくなった私は目を逸らしつつ、自身の状況を正直に話す。

 

「……足がちょっと痛むかしら」

「成る程、失礼しますね」

「え? ちょ、ちょっと!? きゃっ!」

 

 すると彼は突然片膝をついて、おもむろに私の足へと手を伸ばした。私は反射的に避けようとするも、バランスを崩して自身のベッドに背中から倒れてしまう。

 

「んあっ!?」

 

 そのまま左足をガッチリと掴まれたかと思えば、彼はなんと私の太ももやふくらはぎを揉みだしたのだ。

 彼の指に力が込められると、痛みを感じていたはずの足にゾクゾクとした快感が走る。

 抵抗しようにもこの快感に抗う事はできず、私の足は揉みほぐされていく。

 

「ふむ、筋肉痛でしょうね。ここ暫く動きっぱなしでしたから」

「んくぅっ! わ、分かって……るわよそんな事っ! ひぁっ! も、もういいから……は、離してぇっ!」

 

 そして左足の次は右足へ──待ってこれヤバい! ホントにヤバい! 来る! なにかがすぐそこまで来ちゃってる! 

 

「……なら、次からはすぐにちゃんと話して下さい。自分達は一党なんですよね?」

 

 そこでパッと手を離され、ようやく解放。

 はー、はー、……あ、危ないところだった。あのまま続けられてたら色んな意味でお嫁に行けなくなるところだった……。

 

「あの、聞いてますか?」

「……へ? あっ、も、もちろん聞いてたわよ!?」

 

 グッタリと寝そべった状態から慌てて立ち上がる。

 すると先程まで感じていた足の痛みが若干和らいでいる事に気付いた。

 もしかして今のマッサージの効果だろうか?

 確かに気持ち良かったけど……。 

 

 

「ふむ。取り敢えず、今日は休むべきでしょうね」

「…………え?」

 

 彼から告げられた突然の宣告。私は全身から血の気が引いたのを感じた。

 真っ赤になっていた私の顔は、一気に青ざめた事だろう。

 

「ま、待って! 別に歩けない訳じゃないし、魔法ならちゃんと唱えられるわよ!?」

 

 後方から魔法で援護を行うのが私の役割だ。

 たかが足が痛む程度であれば、その役割を全うするのに支障はないはず。

 そう必死に取り繕うが、彼はそれを認めない。

 

「万全で無い状態で冒険へ向かう。これがどれほど危険な事か、お分かりですよね?」

「っ! それはそうだけど! ……でも、それだとアンタは一人で行く事になるじゃない」

 

 それでも、引き下がりたくはなかった。

 私は彼に置いてきぼりにされるのが恐い。

 彼が一人で行ってしまうのが恐い。

 もし彼が一人で、この前のような悪魔(デーモン)と遭遇してしまったら?

 そんな事ばかりが頭をよぎる。 

 

「当然ですよ。自分と貴女とでは今まで積み重ねてきた物が全く違うんですから……」

 

 賢者の学院で魔術を学び、優秀な成績で卒業した私と、実戦のなかで任務を遂行し続けた結果、軍を追われた彼。

 私達二人の経歴は、もはや対極と言っても良いだろう。

 つまりその経歴で得た物も、また対極という事。

 彼より先に限界が来るのは当然の事なのだ。

 そんな私が無理をすれば、彼の足を引っ張る結果になる……。

 

「それに、筋肉痛の時にはよく休む方が良いんですよ? 『超回復』って知ってますか?」

「まあ、一応」

 

 確か、運動をした後に十分な休養を取る事で、成長が促されるっていうやつだったかしら……。

 

「なら、今後の為にもゆっくり休むのが最善です。今日はこちらも無理の無い依頼で済ますつもりですから」

 

 彼はまるで子供をあやすように言う。

 そうだ、今の私は駄々をこねる子供と同じなのだ。

 私の我が儘で彼の時間を浪費させるのは……いけない事だ。

 彼の言葉を信じて、今回は素直に従う事にしよう。

 

「……分かったわ。でも取り合えずギルドには付いていくわね。依頼、探すんでしょ?」

 

 そう、彼と私は対極。

 つまり彼の持っている物を私は持っていないという事で、しかしそれは逆に考えると、彼の持っていない物を私は持っているという事だ。

 これまで幾度か彼の求める依頼を確保してあげたりもした。

 冒険に着いて行かずとも、私に出来る事はあるのだ。

 それに、彼がどんな依頼を受けるのか、把握しておきたいという思いもある。

 これくらいは……問題無いわよね?

 

「それは助かりますが、その後はちゃーんと療養してくださいね?」

「もちろんよ!」

 

 良しっ! 彼の返事を聞いた私は心の中でガッツポーズをして、早速準備を始めようとする。

 しかしそこである事に気付いてしまった。

 

「……ゴメン疾走騎士、悪いけどちょっとだけ部屋から出てくれない? 十秒くらいでいいから」

 

 生憎と私が準備をする為には、まず最初に先程のマッサージでダメになってしまった下着を変える必要があった……。

 

 

────────────────

 

 

「あっ、おはようございます! ゆうべは おたのしみでしたね!」

 

 一応ギルドへ向かうのだからといつもの装備を身に付けたあと、彼と共に部屋を出た。

 すると宿の女主人からいつもの挨拶が飛んでくる。

 私は辟易しながらも、それを否定しようとしたが──。

 

「ずっと気になっていましたが、『おたのしみ』って何なんですか?」

 

 え……疾走騎士、もしかして今まで理解してなかったの?

 …………そういえばコイツ元々軍の騎士だったわね。

 規律正しい場に居てたのなら、そんな事知らなくても無理はないか。

 

「とぼけちゃってぇ、今日に至っては朝からお盛んだったじゃないですか。声、聞こえてましたよぉ?」

「……! あぁ、マッサージの事でしたか」

「はい! マッサージ(意味深)の事ですよ!」

 

 もうそれでいいや。なんか勘違いしてくれてるし、無駄な知識を増やす必要は無いでしょ。

 疾走騎士、アナタはそのままのアナタで居てね。

 

「それにしても、新しいお客さん来ませんねぇ。繁盛すればもっと設備を整えられるんですけど……はぁ」

 

 溜め息をつく女主人。

 確かに、あの鋼鉄等級一党も増えたとはいえ、部屋余りまくってるものね……。

 

「回るベッドとか良いですよね! あ、でもその前にこの宿が目立つようにしないと……そうだ! 屋根の上に大きな看板を取り付けるのはどうでしょう!? ハート形の看板とか、絶対目立ちますよ!」

「そんな事したら私達、この宿から出ていくけどいいかしら?」

「えぇーっ! どうしてですか!?」

「当たり前じゃないの!」

 

 夜な夜ないかがわしい宿へしけこむ男女二人の冒険者。

 そんな話が広まってしまえばギルドからの信頼もどうなるか分かったものではない。

 とにかく彼女の提案は却下しておいて、さっさとギルドへ向かいましょう。

 

 余談だけど、宿を出るときに鋼鉄等級一党の部屋から打撃音が聞こえたわ。どうやらあの二人、寝坊したみたいね……。

 

「それで? 今日は何の依頼を請けるつもり?」

 

 細い道を抜けていくそよ風を肌で感じながら、疾走騎士に問いかける。

 少し歩いて路地裏から出ればギルドはすぐ目の前。

 それまでの僅かな時間ではあるが、貴重な時間だ。

 これを有効に活用して、彼の考えを聞いておくべきだろうと私は考えた。

 

「先程も言いましたが、無理をするつもりはありません。下水道での討伐依頼や、溝浚い辺りを請けようかと」

「下水道……確かにあそこならイレギュラーと遭遇する事は無さそうね」

 

 それでも決して楽な依頼ではない。

 あそこに出てくる鼠や蟲を相手に、命を落とす者だって居る。

 それに加えて溝浚い……あれは稼ぎも少なく、かなり汚れるので誰も受けたがらない類の依頼だ。

 しかし、危険は少なく堅実に依頼をこなすという点に於いては評価出来る。

 ついでに、という形で請けるには効率が良いのだろう。

 体力に物をいわせて依頼を纏めて消化する、彼らしいやり方だ。

 

「分かったわ。じゃあ前みたいに下水道関連の依頼をかき集めてくれば良い訳ね」

 

 話をしながらギルドの自在扉を開け中に入ると、やはり多くの人だかり。

 冒険者達はこれから始まる依頼の張り出しを待っているのだ。

 

「アンタはどうするの?」

「自分は受付へ行って、張り出される物以外に依頼が無いか、確認して来ます」

「分かったわ。こっちが済んだら向かうわね」

 

 そこで依頼の束を抱えた受付嬢が掲示板へと向かっていくのが見えた。

 結構重そうだけど大丈夫かしら? ギルド職員も楽じゃなさそうね。

 

「はーい! 依頼の張り出しですよ!」

 

 彼女の声がギルド中に響き渡ると、興奮した様子で冒険者達が活気付く。

 むぅ、これは少し激戦になりそうかしら? いや、下水道の依頼を狙うのは新人くらいのはず。

 …………ええい、とにかくやるしかないわ! 私の両足、せめてこれが終わるまではもって頂戴よ!

 

「では、よろしくお願いします」

「任せなさい」

 

 疾走騎士の役に立つ為に。疾走騎士の役に立つ為に! アイツの役に立つ為にっ! イクワヨー! デッデッデデデデ!

 

 

───────────────

 

 

 ぐぬぬ、一枚持っていかれちゃったわ。しょうがない、私も本調子じゃなかったものね。

 因みに持っていった相手は白磁の見習聖女。

 彼女は私の居た位置から一番遠い場所に張られていた依頼を狙ったのだ。

 どうやら私は完全に警戒されている様子だった。

 前回下水道の依頼を独占してしまったのが原因だろう。

 ……その隣に居た新米の戦士がずっと私の方を見てて叩かれていたけれど、ね。

 

 とりあえずさっさと疾走騎士に持っていってあげましょ。

 きっと受付で待ってる筈だし……。

 

 ……あれ? 疾走騎士と話してるのは監督官の人? いつもの受付の人は……あ、成る程。別の冒険者の応対中なのね。

 

「請けますねぇ!」

「ありがとナス!」

 

 なんだかあの二人、妙に息が合ってるのよね。

 まさか……って、そんな訳ないない! 向こうはギルド職員だし!

 

 私がブンブンと頭を横に振るっていると、疾走騎士は私に気付いた様子でこちらを見ていた。

 私は慌てて彼に駆け寄り、確保した数枚の依頼書を手渡す。

 

「お待たせ。取れたのはこれだけよ」

「ありがとうございます。後はこちらに任せて、ゆっくり休んでください」

「うん、そうさせてもらうわね」

 

 すると横で話を聞いていた監督官は、疾走騎士が一人で冒険に出る事を察したようだ。

 

「あれ? 今日は一人なんだ? 大変だねぇ。じゃあこれを貸してあげよう」

 

 彼女がカウンターの下から取り出したのはカンテラだった。

 

「良いんですか?」

「その代わり、ちゃーんと帰って来るんだよ」

「はい、そのつもりです。あとついでに強壮の水薬(スタミナポーション)も買いたいのですが……」

「しょうがないにゃあ」

 

 疾走騎士が監督官からカンテラと強壮の水薬を受けとる。これで準備は出来た。あとは依頼をこなすのみだ。

 

「では、いってきます」

「下水道の鼠や蟲にやられるようなアンタじゃないって分かってるけど、一応言っておくわ。無事に帰って来なさいよ」

「もちろん、無理と感じたらすぐに逃げてきます。自分は臆病者ですから」

 

 そう言うと彼は私達に背を向け、ギルドから出ていく。

 

 ……もう、アンタみたいな臆病者がどこに居るのよ。

 きっと彼なりのジョークという事なのだろう。

 もはや苦笑いしか出来ないが……。

 黙々と為すべき事を為し続ける彼の背中を見送って、私は彼の無事を祈る。

 

「分かるよー、置いてかれる身は寂しいよねー」

 

 そんな私を見て、腕を組みながらうんうんと頷く監督官。

 彼女もギルド職員として多くの冒険者を見送ってきた人間である。

 私の心情も理解できるのだろう。

 

「まあ、しょうがないね。体力の劣る後衛を休ませる。どこの一党もやってる事だし」

 

 確かに、私の師匠である銀等級の魔女も適度に休ませてもらっている様子だった。その暇に、私は呪文を教わっていた訳だが……。

 

「冒険者は体が資本! 休むのも仕事のうちだよ!」

「ええ、そうね」

 

 彼女は人差し指を立てながら激励の言葉を口にする。

 そう、それが今の私に出来る最善なのだ。

 

「でも良かったの?」

「ん? 何がかな?」

「担当じゃないのに対応してくれたり、わざわざランタンまで貸してくれたり」

 

 しかもあのカンテラは明らかにギルドの備品であった。

 冒険者に貸し出しても良い物なのだろうか?

 

「うーん……さあ?」

「ええ……」

 

 首を傾げる監督官に対し、私は困惑を隠せない。

 思えば彼女の働きぶりはかなり自由な気がする。

 しかし仕事はきちんとこなしているようで、《看破(センス・ライ)》を扱える点も含めればとても優秀なギルド職員だ。

 そんな彼女が言うのなら、問題はないのだろう。……多分。

 

「まあ、私も彼みたいな冒険者はつい手伝いたくなっちゃうんだよねぇ」

 

 ……え、それってどういう──。

 

「すいませぇ~ん、まぁだ時間掛かりそうですかねぇ~?」

 

 後ろに並んでいた冒険者に声を掛けられ振り向くと、そこにあったのは長蛇の列だった。

 

「あ、ご、ゴメンなさい!」

 

 私が慌ててその場から退くと、彼女はにやにやしながら手を振っていた。

 ぐぬぬ……どうやらさっきのはからかわれただけみたいね。

 彼女、掴み所が無くて何を考えてるか全然分からないし苦手だわ……。

 とはいえこれ以上は職務の邪魔をなっちゃうし、離れるしかなさそうね。

 

「ゆっくり休む……か」

 

 そのあとギルド内の酒場へ足を運んだ私は席に座り、女給にグラノーラとミルクを注文しながら今日の予定について思案する。

 休みと言えど、本当に何もしない訳ではない。

 体は休めなければいけないが、頭は別。寧ろ私の専門はそちらなのだ。

 このまま宿に戻って呪文書でも読み漁る?

 でも今持ってる分は全部覚えちゃったやつだし……どうしたものかしらね。

 

「あ、どうも……」

「ん? あ、アナタ神官の……」

 

 考え込んでいる所に声を掛けられ振り向く。

 そこに居たのは女神官だった。

 

「はい、隣、良いでしょうか?」

「ん、もちろん」

 

 隣に座った彼女はトーストと水を注文する。

 質素な朝食、そんな印象も受けるが華奢な彼女には丁度良いのだろう。

 

「今日はお一人ですか?」

「まあ、ちょっと足を痛めちゃって」

「え、大丈夫なのですか?」

「ただの筋肉痛よ。平気平気」

「そうですか。良かった」

 

 女神官は一瞬心配そうな表情を浮かべたものの、すぐにホッと胸を撫で下ろす。

 ホント、人が良いわよね。神官って皆こうなのかしら?

 

「そっちは?」

「えっと、私はその……今日がちょうど『アレ』でして……」

「あぁ……『アレ』ね……」

 

 彼女が言う『アレ』とは、女性特有の病気のようなものだ。勿論私もその例に漏れず、定期的に頭を悩まさせられている。

 私はまだ大丈夫だけど、その時にはまたアイツに迷惑をかけちゃうわね……。

 

「お待たせしましたー! グラノーラとミルクに、トーストとお水です!」

 

 女給が運んできたグラノーラとミルクが私の目の前に並べられる。

 へー、いいじゃないの。こういうのでいいのよ、こういうので。

 早速グラノーラにミルクを掛け、スプーンでかき混ぜたあと口に運ぶ。

 ミルクの甘味とグラノーラの食感が……うん、おいしいわ!

 

「でもただ休むだけっていうのも退屈じゃない? どうしようかなって考えてたのよ」

「それでしたら私の辞典をお貸ししましょうか?」

「辞典?」

「はい、私も今日は怪物辞典(モンスターマニュアル)とか、聖典を読んだりして勉強しようかと思っていたんです」

 

 怪物辞典! そういうのもあるのね。

 確かに冒険で遭遇する怪物の情報を知っていれば対策もしやすいかしら?

 

「なら、いっその事ここで一緒に勉強会ってのはどうかしら?」

「あ、良いですね! そうしましょう!」

 

 トーストを啄むように少しずつ食べていた彼女は、笑顔で私の提案を受け入れる。

 

 こうして私達はギルドの酒場にて勉強会を開く事となった。

 




Q.また魔術師ちゃんがミルク頼んで成長RTAしてる……。

A.そんな成長じゃなくて早く体力伸ばして?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート14 裏 中編 『盤外からの助言』

「だっりゃあ!」

 

 巨大鼠(ジャイアントラット)に向けて、新米戦士のショートソードが振るわれる。

 正面から振り下ろした刃は頭蓋を割り、致命の一撃(クリティカル)

 その命ごと断ち斬った。

 

「ふぅ、これで五匹か……」

「大丈夫? 噛まれてない?」

 

 彼等はギルドで勝ち取った依頼を受領した新米戦士と見習聖女だ。

 二人は依頼内容である『巨大鼠(ジャイアントラット)討伐』を遂行するため、下水道内部を探索していた。

 

「なんとかな。それより血が口に入っちまった」

「もう……気を付けてよね。解毒の水薬(アンチドーテ)だって高いんだし」

「分かってるよ、兜……欲しいなあ」

「そんなお金ないけどね」

 

 二人は白磁等級の冒険者である。

 白磁が受けられる依頼は、それこそ今回受注した『巨大鼠(ジャイアントラット)討伐』のような、簡単で報酬の安い依頼ばかり。

 とはいえ、その簡単な依頼でも命を落とす冒険者は数多く、この下水道ですらたまに冒険者の遺体が転がっている。

 依頼を達成させる為には入念な準備が必要だ。

 しかしその準備には金が掛かる……装備品にしろ、水薬にしろ。

 得られる報酬が少ない白磁の冒険者は、出費がかさんでしまえば依頼を達成したとしても赤字になってしまうのだ。

 

「金! 金! 金! 冒険者として恥ずかしくないのかよ!?」

「しょうがないでしょ! 実際厳しいんだから! それともあのヤバイ二人みたいに稼げるの!?」

「無茶言うなよ! アイツらは色々とおかしいんだって!」

 

 見習聖女の言うヤバイ二人とは、もちろん疾走騎士と魔術師の事だ。

 同時期に冒険者になったあの二人は異常とも言える功績を挙げ続け、遂には悪魔(デーモン)まで討伐したらしい。

 

「てっきりヤバイのはあの魔術師だけかと思ってたんだけどなあ……」

 

 ギルドの酒場で、冒険者達があの二人を話題に挙げている事があった。

 彼等の話によれば、魔術師の方は都にある賢者の学院を卒業してきた有望な人材なのだとか。

 卒業した魔術師は大成間違いなしと言われている学院の卒業生……確かに彼女は他の新米冒険者とは一線を画していた。

 今日の依頼争奪戦、張り出された依頼を凄まじい勢いで剥がしていく彼女の姿はどう見ても分裂している様にしか見えなかった。

 或いは本当に分身の魔法を使用していたのでは無いかとも言われていたが、実際多くの冒険者が惑わされていたのだ。

 ただ者ではないと言わざるを得ない。

 お陰でこちらも依頼を確保するのに全力だった。

 

「あの騎士の人、あんまり良い噂聞かないものね」

 

 それに反し、魔術師と一党を組んでいる騎士、彼の評価は冒険者達の間では正直言ってあまり良くない。

 まず盾を両手に持っている事で、守る事しか出来ないのではないかと誤解している者が多かった。

 その為、今までの功績も魔術師の活躍による物だと考えられていたのだ。

 女に寄生して昇級した臆病者の騎士、それが冒険者達の間で話に出される疾走騎士だった。

 

「でもこれを見ると……なあ」

 

 辺りを見渡す新米戦士。

 周囲には先程倒した巨大鼠の他に、既に絶命している鼠の死体が無数に転がっていた。

 頭を叩き潰されていたり、胴体を貫かれていたり……その鼠達は全て討伐の証明となる耳を切り落とされ、自分達と同じ冒険者によって倒された物なのだと分かる。

 

「確か彼、一人だったわよね?」

「あぁ、ギルドであの魔術師と別れて、この下水道に入ってくの見てただろ?」

「そうだけど……」

 

 そんな中、特に目を引いたのは他の巨大鼠の数倍はあろうかという異常な大きさの鼠だった。

 巨大鼠の中には突然変異で更に巨大化する個体が居るという話は受付嬢から聞いていたが、実際目にするとこれはもはや鼠とは言えないのではないか、という感想を抱かずにはいられない。

 

「頭が真っ二つになってる。ハッキリ分かるよな」

「うえぇ……どうやったのよこれ……」

 

 そんな怪物鼠は、鼻から上の部分が完全にパックリと左右に開かれていた。

 恐らく頭に何かを突き刺したまま、引き裂いたのだろう。

 普通に剣を振り下ろしたのならこうはならない筈だ。 

 

「ここに来るまで見付けた鼠も、殆ど倒されてたよな。お陰で楽だったけど……」

 

 新米戦士と見習聖女が今まで倒した五匹の巨大鼠は全て、慌てた様子で何かから逃げるように向かってきた一匹一匹を処理したに過ぎない。

 そしてその先には必ず無数の巨大鼠の死骸が散乱していたのだ。

 これらを全てあの騎士がやったのだとすれば、酒場での評判とは完全に異なっていると言わざるを得ない。

 

「とりあえず進みましょ? このまま立ち止まってても意味がないわ」

「そうだな……ん?」

「ど、どうしたの?」

「いや、何か向こう……明るくないか?」

 

 新米戦士が指差した通路の奥、左に続く曲がり角の向こう側から、光が差し込んでいるのが見える。

 

「本当ね。あの騎士じゃない?」

「だと思うけど……どうする?」

「どうするって?」

「いや、何て言うか……ちょっと覗いてみるのも良いんじゃないかって」

「あぁ、確かに。楽な戦い方とかあるかもしれないものね」

 

 そうして彼等は灯りの方へ向かう事で合意した。

 一応奇襲を受けないよう、周囲を警戒しながら歩を進める二人。

 すると曲がり角に近付いたところで、微かに人の声が聞こえた。

 

「……す」

「ん? 今何か言ったか?」

「いやなんにも?」

「……ぶす」

「ちょっと! 誰がブスよ!」

「痛っ! お、俺じゃねえよ!!」

「……つぶす」

「あ、本当ね」

「おい……」

 

 声はどうやら自分達が進んでいる道の奥から聞こえて来ているようだ。

 徐々に大きくなっていく声と足音、そして灯り。

 その主が、二人の居る曲がり角へ近付いてきているのだと分かる。

 

「ね、ねえ? やっぱり引き返さない?」

「う……確かに」 

 

 しかし、その判断は既に手遅れだった。

 角の向こうから一人の騎士と、巨大蟲(ジャイアントローチ)の大群が飛び出してきたのだ。

 

「潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す」

「「ぎゃああああああ!!」」

 

 両手に盾を携えた騎士は、まるで何かに取り憑かれたようにその言葉を繰り返す。

 彼の兜の隙間から覗く眼光には、殺意だけが感じられた。

 

 そしてその後方から彼を追うように迫るのは、黒く光るおぞましい姿をした蟲の群れ。

 もはや黒い波と化した巨大蟲達は、飛び出してきた来た勢いのまま、反対にある曲がり角の外側へぶつかる──かと思いきや、壁を這い上がりながら方向転換。尚もこちらへと向かってくる様子だ。

 

 二人は考える間もなく恐怖に駆られ、叫び声を上げながら逃げ出した。

 

「何あれ何あれ何あれ何なのよアレ!」

「怖っ! どっちも怖っ!」

 

 そんな二人を意に介さず、疾走騎士は足を止め、巨大蟲の群れの方へと振り返る。

 自身の盾に通路を塞げる大きさの《聖壁(プロテクション)》を発動すると、向かって右側の壁を這う巨大蟲にとっての鼠返しとなるよう、斜めにして押し込んでいく。

 そして遂には全ての巨大蟲を曲がり角に閉じ込める事に成功。

 

 透明な壁に阻まれ、隙間無く詰め込まれた巨大蟲達に対し、疾走騎士は火を灯した松明を挿し入れる。

 下水道に巣食う怪物達は総じてよく燃えるのだ。

 巨大蟲は瞬く間に炎に包まれ、周囲を赤く照らす。

 

「やっぱりヤバイ奴じゃん……」

「今後はなるべく近付かないようにしましょ……」

 

 燃え盛る巨大蟲の炎と、それに向かい合う疾走騎士の背中をこっそりと遠くから覗いていた新米戦士と見習聖女。

 一連の流れを見ていた二人にとって、疾走騎士への認識は『あのヤバイ一党の本当にヤバイ方』へと改められるのだった。

 

─────────────────

 

 冒険者ギルドの酒場、女神官と向かい合って座る私は、表紙に『THE WORLD MONSTER DICTIONARY』と書かれている本を読んでいた。

 この本には、怪物達がどのような危険性を持っているかが詳細に書かれている。

 私が欲している知識、怪物と実際に遭遇した場合の対処法を学ぶためには丁度良い資料だ。

 ページを一つ一つめくりながら、書かれた情報を読み取っていく。

 

岩喰い(ロックイーター)……突進しながら進路上に居る生き物を尽く補食する? アイツみたいな戦い方……厄介ね」

 

 今開いているページに記載されているのは『岩喰い(ロックイーター)』についてのもの。

 強靭な顎と分厚い甲殻が特徴で、その巨体による突撃を受ければ、普通の冒険者なら一溜まりも無いらしい。

 小細工も何もない戦法……それは、私と一党を組むあの男を彷彿とさせる。

 しかし、弱点が無い訳ではないのだ。

 

「……正面から行くは愚の骨頂ね。燃える水(ガソリン)をぶっかけて勢い良く燃やしてやるのが良さそうかしら? 良い石炭になるわね」

 

 外殻は硬いけど隙間は柔らかいみたいだし、そこを狙うのも悪くない。

 とはいえ、私達二人だけでは到底不可能。

 あの鋼鉄等級の一党に助力を乞う必要があるかしら。

 

「弱点は前頭部にある『目』。過去、大規模な討伐隊が結成された際には目を一突きにして退治された……か」

 

 でも正面に立つのが危険なのは最初に書かれていたし、狙うとしてもまず足を止めないといけないでしょうね……。

 

 良し、大体分かったわ。つまり、あの突撃をうまくいなせる人間に囮になってもらっておいて、あとは隙を突いて、暴れたり、逃げられたりしないよう、背後から複数人で羽交い締めにさせてから、私が正面から押し倒す!

 多分、これが一番早いわね! …………って、あ、あれ?

 

「……ねえ、ちょっと休憩にしない?」

「そうですね、もうずっとこうしていますし」

 

 いつの間にか対処法を想定する相手が入れ替わっていた。

 きっと疲れているのだ。こういう時は暖かいものを飲んで一息つくに限る。

 女給を呼んで注文をすると、少ししてからカップに淹れられたホットミルクが届いた。

 カップを手に、暫し香りを堪能した後、口を付ける。

 女神官はそんな私を険しい表情で見つめてきている。一体どうしたのだろうか?

 

「その……本当にミルクがお好きなんですね」

「ええ。それに、ここのは特に美味しいのよ」

 

 やはりあの牧場から毎朝届けられているだけあって、鮮度が違うのだろう。

 すると彼女は苦い顔をしながらコーヒーを飲んでいた。さっき砂糖を入れていたと思うのだけれど……甘党なのかしら?

 

 それにしても……うーん、やはり『目』というキーワードでアイツを連想してしまったのが良くなかったわね。

 そもそも何で私がアイツを押し倒してるのよ。

 取り押さえるのなら同じ前衛で力もある自由騎士の方が良いじゃないの。

 それじゃあ私がまるで……その……そういう事を欲してるみたいな……。

 

「あの、どうかしましたか? 顔、真っ赤ですけど」

「……ホットミルクが思ったより熱かったのよ」

「はあ……」

 

 この話はやめましょう。ハイ! やめやめ。

 私は思考をリセットするべくホットミルクを飲み干すと、カップを置いて、再び怪物辞典(モンスターマニュアル)に手を伸ばす。

 手探りで適当にページを開くと、そこに記されていたのは私もよく知っているあの怪物の名前だった。

 

「……ゴブリン」

「え? ああ、ゴブリンについても載っていましたね」

 

 何故だろうか、他の怪物についての記事とは違い、ゴブリンについてはその生態までも詳細に記されている。

 文章の書き方も特徴的で、この数ページを担当した者の学識の高さが伺えた。

 

「臓器の位置は人とほぼ変わらず、急所も同じ位置……え、この人ゴブリンを解剖したの?」

「あ、確かにそうなるのでしょうか?」

 

 まあ、実際一番手っ取り早いわよね。実行するかは別としてだけど……。

 他に記載されているのは、奴等が夜行性であること、簡易的な罠を用いること、村から女を攫ってその数を増やすこと等、私が既に知っている事が殆どのようだ。

 終いには見流すようにしてページを捲ろうとしてしまっていたが、それはある一文によって止められた。

 

「ある冒険者からの情報で、独自の言語を話し、冗談を言う文化を持っている事も分かった。一体どこの冒険者よソレ……」

 

 そこまでゴブリンを注意深く観察するなんて、物好きな冒険者も居たものね。

 ふうん、ゴブリンが言葉で意思疏通をしているというのは驚きだわ。

 ……でも──

 

 ──戦いには何の役にも立たない知識。そう思ったのではないかな?

 確かに、こんなのは単なる飾り付けの文章(フレーバーテキスト)に過ぎない。今君が読んでいるコレも含めてね。

 しかし、書く側も楽しんで読んでもらえるよう色々と試行錯誤しているのさ。

 だってそうだろう? 冒険(シナリオ)が面白くなければ(セッション)に参加する者も居なくなる。

 それに、真実は案外、そういった所に隠されているのかも知れないよ。

 何も知らず死に行く者に私は同情しないが……ふむ、ここまで読む君は、どうやらそうではないようだからね。

 その知識が、『闇を照らす(スパーク)』になる事を願っている。

 

 ……ページの末尾に書かれた一文を読んで、本を閉じる。

 これを書いた人は、『世界の外側』を見ようとして、自身もそこへ向かおうとしていたのだろうか。

 

 私の知識なんて、世界を照らすにはあまりにもか細い。

 しかし、あの男の目に宿る深淵を照らせるくらいにはなりたい……そう思った。

 




Q.お、こいつ疾走騎士くん攻略チャートとか組みだしましたよ? やっぱ好きなんすね~。

A.そんな事しなくて良いから(憤慨)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート14 裏 後編 『地母神様は性愛も司ってるらしいっすよ?』

 時は夕刻、今日は特に目立ったトラブルも無い素晴らしい一日だった。

 ゴブリン退治の数が少かったのも幸いだ。

 お陰で今日はゴブリンスレイヤーさんの負担も少なく、彼はつい先程牧場へと帰っていった。

 まさに万々歳という訳である。

 さて、そろそろ他の冒険者さん達も帰ってくる頃ですね。

 忙しくなる前に彼等が請けた依頼書を纏めておきましょう。

 これもスムーズな業務遂行の為、必要なお仕事なのです。

 私が受付で鼻唄を歌いながら上機嫌で書類を整理していると、何やら同僚の監督官が唐突に書類の束を手渡してきました。

 

「あ、おい待てぃ! 肝心な書類渡し忘れてたゾ」

「えっ? 何ですかこれは……」

 

 どうやら全て依頼書のようだ。

 目を通してみると下水道での討伐依頼や溝浚いの物ばかり。

 しかし、特に変わった点はないように思える。

 

 …………いや、あった。

 

 依頼書には受注した冒険者を記入する欄がある。

 でなければ日々膨大な数の依頼を処理する中で、誰が受注したのか分からなくなるからだ。

 この依頼書の束に書かれている冒険者の名は全て同じ……そう、今日私がまだ目にしていなかった疾走騎士の名前が記されていた。

 

「私、てっきり彼は今日お休みしてるのかと思ってたんですけど!?」

 

 ギルドに私の絶叫が木霊した。

 つまりこの依頼書の束は全て、あの疾走騎士が請けた物だという事になる。

 どうして! 彼の担当は私なんですよ!?

 

「ままま、そう怒らずに。そっちは別件に追われてたでしょ? 彼、急いでるみたいだったから、私が対応してやるか! しょうがねぇなぁ……って思ったんだよ。こうして報告はしてるんだから良いじゃない」

「報告が遅すぎます! もう夕方じゃないですかっ!」

「でも、おかげでこんなに溜まってた下水道の依頼が全部片付いたんだよ? FOO↑気持ちいい~」

 

 彼が受注したであろうこの依頼書の束。

 詳細を確認してみると、一枚二~三ヵ所を溝浚いする依頼が何枚も。

 他にも巨大鼠(ジャイアントラット)巨大蟲(ジャイアントローチ)の討伐依頼、こちらは合わせて十枚以上はある。

 そして巨大鼠の変異種である暴食鼠(グラトニーラット)の討伐依頼まで……。

 

「ホントにこの量を全部押し付けたんですか!?」

「そうだよ」

「……ちょっと待って下さい、彼の名前は入っているのに一党の彼女の名前が入って無いんですけど……まさか──」

 

 記されているのは彼の名前だけで、一党である魔術師は同行していないようだ。

 つまり彼はこの量の依頼を単独(ソロ)で請けたという事になる。

 

「彼女は朝から酒場で神官の子とお勉強してるよ? 冒険者の鑑だねこのヤルルォ!」

「明らかにマズイじゃないですか! 何を見てヨシ! って言ったんですか!?」

「前回も大丈夫だったからヨシ!」

 

【挿絵表示】

 

 

 確かに彼は冒険者になった当日、一人で下水道に行き、暴食鼠を二匹討伐して帰ってきた実績がある。

 だからと言って今回もそうとは限らない。

 全ては賽子の目次第、それが冒険という物なのだ。

 

「なにも良くありませんよっ! 彼には明日、昇級試験を受けてもらわないといけないのに!」

「お、じゃあ終わったんだね。この前の件」

 

 彼女の言うこの前の件とは、疾走騎士の一党が討伐した『はぐれ』のデーモンの調査だ。

 調査の依頼を受注していたのは重戦士の一党。

 彼等は今日の朝、このギルドへと戻ってきていた。

 

「う……はい、調査結果の報告を受けました」

「ほうほう、それでどうだったの?」

「種別としては下級悪魔。しかしその巨体さと、有していた魔力の量からして、中級程度の強さはあったと見られています」

「ふむふむ、それを黒曜であるあの二人は討伐したと」

「はい、ギルドも昇級に足る人物として認定をしたようです。ただ経験点の差で、一先ずは疾走騎士の彼だけになりますけど……」

「やりますねぇ!」

「ただ、あまりにも昇級のスパンが短いので、少し変わった条件を出してきました」

「お?」

 

 一枚の書類を取り出して監督官へと差し出す。

 それは昇級審査の書類、もちろん彼の物である。

 そこに書かれているのは『上位冒険者と戦闘訓練を行い、その力量を以て判断せよ』という一文であった。

 

「……ほほう、これは面白いことになりそうだね」

「何も面白くなんてありませんよ。あと、これの後処理はそちらでお願いします。受注したのもそちらでだったんですから」

「おかのした!」

 

 私は先程手渡された依頼書の束を彼女に返し、頭を抱えてため息を吐いた。

 はぁ……本当になんでこんな事に……。

 

───────────────

 

「んんっ……ふぅ! もうこんな時間。今日一日ずっと本の虫になってたわね」

 

 あれからずっと本を読み、たまにミルクを飲みながら過ごしていた私達。

 小さく伸びをして外を見てみると、窓からは夕日が覗いている。

 冒険を終えた一党達もいくつか帰ってきたようで、ギルドは徐々に賑わいを見せ始めていた。

 

「本当ですね……今日はありがとうございました。色々と教えて頂いて」

「いいのよ、こっちも良い勉強になったから」

 

 彼女が感謝を述べる。

 怪物辞典(モンスターマニュアル)や他の本を暗記し終えた私は、彼女にその内容を解説してあげたのだ。

 師匠ほどとは言えないが、それなりに分かりやすく教える事が出来たと思う。

 

「凄いですよね。一度読んだだけで殆どの内容を覚えてしまうなんて」

「まあ学院に居た頃は必死に勉強ばっかりしてたから、コツは掴んでるつもりだけどね……」

 

 きっとこれは私の長所なのだろう。であれば、最大限活かす他はない。

 アイツが持っていない私自身の長所、ソレを伸ばす事が、この積み重ねが、ひいてはアイツを助ける事に繋がるはずなのだから。

 

「でも、聖典なんて読んだのは初めてね。なかなか面白かったわ」

 

 私は怪物辞典(モンスターマニュアル)の他に、彼女の持っていた聖典も一冊読ませてもらっていた。

 それは神官である彼女と、そしてアイツも信仰している神である地母神の聖典である。

 内容としては地母神の役割や、その教え等が書かれていたが、かなり分厚く、思いの外読むのに時間が掛かってしまった。

 

「そういえば疾走騎士さんも地母神様を信仰していますよね」

「まあそうね。でもアイツが祈ってるの見たこと無いのよ」

 

 考えてみれば疾走騎士が手を合わせている姿を見たことは今まで一度もなかった。

 本当に彼は地母神の信徒なのだろうか?

 

「え……そうなんですか?」

「地母神とは別の神から宣託(ハンドアウト)がしょっちゅう下ったりもして、それで忙しなく動いてるみたいなのよね」

「別の神? 複数の神を信仰? そんな筈は……」

 

 顎に手を当てて唸る女神官。

 丁度良い機会だ、疾走騎士に指示を送っている神について聞いてみよう。

 もしかしたら何か知っているかもしれない。

 

「ソゥシーヤっていう神様らしいけど、聞いたことないかしら?」

「……あ、あの、もしかしてそれって邪神や外なる神なのでは?」

 

 疾走騎士の言っていた神の名を聞いて不安と焦りを見せる彼女。しかし……だ。

 

「いや、それは無いでしょ。始めて行ったあの冒険で、私はアイツの解毒の奇跡で救われて、それが無かったら死んでたのよ?」

 

 やはりこれに尽きる。分かりにくい所は多いけれど、それでも疾走騎士は絶対に悪い奴じゃあない。それだけはハッキリと言えた。

 

「…………確かに考えてみればそうですね。私も守ってもらいましたし、それからも色んな人を救っていますし」

 

 どうやら彼女も納得したようだった。

 地母神の教えは『守り』『癒し』『救え』の三原則。これらは正に、彼が今まで行ってきた事そのものだ。

 彼は祈るのではなく、その行動をもって地母神に報いているという事なのではないだろうか? 憶測に過ぎないが、辻褄はあっている。

 しかしソゥシーヤについては、神官の彼女ですら聞いた事が無い様子……流石にこれはお手上げかしらね。

 

 そんなやり取りをしていると、不意に聞こえてきた見知らぬ冒険者達の会話が耳についた。

 

「おい、見ろよあの魔術師」

「あぁ? なんだ、あの新人がどうしたってんだよ」

「何でもたった数日で白磁から黒曜になったらしいぜ?」

「へぇ、それは凄いね」

「ワシらもあやかりたいものだ!」

「あぁ、でも男の相方が居てな? そいつ盾しか持ってないんだぜ? どう思うよ」

「なんだそりゃ? どうやって戦うんだよ」

「そりゃ勿論身を守るしか出来ないさ。そんな臆病者を抱えて、それでも黒曜に昇進するってんだから、よっぽど優秀な魔術師なんだろうな?」

 

 背後のテーブル席に座った冒険者の一党。逆立った髪が特徴の若い只人の戦斧士。中年とまではいかないが、そこそこの年齢であろう坊主頭の只人の武僧。フードを被っていて分かりづらいが、恐らく森人の妖術士。そしてさっきからイラつかせる言動をしている圃人の斥候。彼等の会話が私と疾走騎士の事を指しているのは明白だった。

 

「成る程なあ。なら一党に誘ってみるか? そんなろくでもない奴より俺達の方がまだ良いだろ」

「そうそう! だからおいらちょっと声掛けてくるよ、へへへ」

 

 どうやら圃人の斥候がこちらへ来る様だ。苦虫を噛み潰したように不快感を露にした私に、神官の彼女は狼狽えている。

 

「なあ! そこの魔術師、ちょっと良いか?」

「……何?」

「おいら達鋼鉄等級なんだけどさ、良かったらうちの一党に入らないか?」

 

 正直会話をするのも嫌になる。しかしここはアイツを見習って……というほどではないが、一応礼儀を弁えてちゃんと断るべきだろう。

 尾を引くのは今後の活動に差し支える可能性もある。それくらいの事は私にも理解できていた。

 

「悪いけどもう一党は組んでるわ。他をあたってもらえるかしら」

 

 読んでいた本を纏めて神官に手渡しながら、私は気がない返事を返す。

 そう、ここまでは良かった。だがここからが問題だった。

 

「そりゃ知ってるって。あのチキン野郎だろ? 可哀想だよな、あんな奴と一緒に冒険だなんてさ」

 

 へらへらと笑いながら、アイツを侮辱する圃人の斥候。

 怒りを堪えながら男の顔を横目で見た私は、ある事に気付いた。

 この男、昨日私達が鋼鉄等級一党と食事してた時にも疾走騎士を侮辱していた奴だ。

 

「大方泣いて頼まれでもしたんだろ? 放っとけ放っとけそんな奴!」

 

 更にこの男は私の耳元に顔を近付けると、聞くに耐えない言葉を囁いた。

 

「おいら達……いや、おいらと組んだ方がよっぽど良い思いをさせてやれるぜ? あいつらバカだからよ、冒険の稼ぎをちょろまかしてもなんの疑いも持たないんだ、楽に稼げるぜ? だから──」

「失せて。二度は言わないわよ」

 

 私が男の目の前に杖を割り込ませて距離を取る。

 すると彼はすぐに激昂し、今度は怒鳴ってきた。

 

「んなっ! せ、先輩が親切心で声掛けてやってんのに、何だよその態度は!」

「お、おい止せよ!」

 

 流石に不穏な雰囲気を察したのか、男の一党が止めに入ろうと駆け寄ってくる。

 このまま放っておいても勝手にコイツは連れていかれるだろう。しかしそれだけでは私の気が収まらない。

 

「親切心ね……下心の間違いでしょ。顔に出てるのよ」

 

 思った事を口にしてしまうのは私の悪い癖だ。

 とはいえ、言わなければ気が済まない。

 最初声を掛けて来た時から私の胸ばかり見て、耳元に顔を近づけてきた時も鼻の下を伸ばして……楽に稼げるから何? だから俺の女になれって? はっ! 虫酸が走るのよ、このクズ野郎。

 

「て、テメェッ!!」

 

 しかし、今回はタイミングが悪かった。私の言葉に逆上したこの男は、驚く事に一党の制止を振り切って私に殴りかかって来たのだ。

 

「っ!?」

 

 マズイ、不意を打たれた。

 呪文の詠唱も間に合わない。

 そして圃人というだけあって素早い。

 気付いた時にはもう私の眼前に拳が迫って──。

 

「おおっと! 女の子に手を上げようとするなんて、圃人の風上にも置けないね」

 

 ……しかし寸前に男の腕が掴まれ、その拳が止まる。

 私を助けたのは……鋼鉄等級一党の圃人野伏だった。

 

「あ、貴女……」

「くっ! 何しやがる!」

「困るんだよねぇアンタみたいなクズ。同じ圃人の私まで偏見の目で見られるんだよ」

 

 どうやらかなり力を入れて掴んでいるようで、苦悶の表情を浮かべる男の腕は、びくとも動かない。

 

「あぁ!? やるってのかよこの野郎!」

「まっさかぁ! 争いは同じレベルの者同士でしか起きないんだよ? やるわけないじゃん」

 

 彼女がぱっと手を放すと、男はバランスを崩し尻餅を付いた。

 成る程、どうやら本当にレベルが違うようだ。

 内面だけではなく、強さという意味でも同様に。

 

「おい! いい加減にしやがれ!」

「頭を冷やした方が良い」

「お嬢さん方すまなんだ! この詫びはいずれ!」

「放せっ! 覚えとけよこのクソアマどもがぁっ!!」

 

 一党達に取り押さえられた圃人の斥候は、捨て台詞を吐きながらも無理矢理連れていかれた。

 ……どうやらこれで一段落のようだ。

 

「だいじょぶ? いやーとんだ災難だったねー」

「あ、ありがとう。助かったわ……」

 

 ふぅ、彼女のお陰であの男に殴られずに済んだ。これは借りが出来ちゃったわね……。

 

「気を付けなよ? 冒険者にはあんなのも少なからず居るからさ。それに、顔は女の命ってね!」

 

 確かに軽率だった。冒険者同士の喧嘩はよくある話だが、それでも魔術師の、それも女を殴ろうとしてくるのは想定外だったのだ。

 ああいった咄嗟の事に対応出来る手段も、今後は用意しておく必要があるだろう。

 

「何て言うか、圃人にしては珍しい方ですね」

「ぷるぷる、わたしわるいレーアじゃないよ!」

「え……あ、あはは」

 

 圃人野伏のジョークに女神官は苦笑いを浮かべている。

 確かに、圃人とは思えない正義感だ。あの誠実な自由騎士の一党に属しているだけはあるという事ね。

 

「そういえば、他の三人はどうしたの?」

 

 辺りを見回すも、彼女の仲間の姿がない。

 どうやらここに居るのは彼女一人だけのようだ。

 

「今は依頼の報告中。私は食事の席取りで先に来たの。ほら、そろそろ混む時間じゃん?」

「ああ、確かに…………って、ああああ! 忘れてたあああ!」

「ど、どうしました?」

 

 そこで私はある事を思い出し、慌てて席を立つ。

 突然絶叫を上げた私に神官の子も驚いていた。

 

「ごめんなさい、悪いけどもう宿に戻るわね!」

「あ、はい! またお会いしましょう」

「はいよ! んじゃあまたね!」

 

 彼女達に別れを告げて、私はギルドを飛び出した。

 下水道に向かったアイツは汚れて帰ってくる筈だ。

 予め洗濯の用意をしておけば効率的だろうと考え、日が落ちるまでには宿に戻ろうと決めていた事をすっかり忘れていたのだ。

 

「ギルドに報告する時に水で流す程度はするでしょうけど、服に染み付いた臭いは落ちにくいものね」

 

 宿の裏手には井戸がある。女主人に桶を借りて、そこで洗濯をしよう。

 自分の行動を予めちゃーんと決めておく。疾走騎士の言葉通りに今後の予定を立てながら、私は宿へと向かうのだった。

 

 

───────────────

 

 

「っていう事があってさあ。ソイツ、以前私達に声を掛けて来た奴だったよ」

 

「下らん。大方、新人ならいけるとでも踏んだのだろう」

 

「しかし、その調子だとまた何か仕出かすのではありませんか? 何かしらの手を打つべきかと思いますが……」

 

「そうですね。我々と懇意にしている彼を逆恨みして、悪評を周囲に吹聴しているのはあの男です。もはや慈悲は不要かと」

 

「まあ、その冒険者に関してはこっちに任せてよ。二度とこの世界に居られないようにしてやる!」

 

「オッスお願いしまーす!」

 

「そういえば、あの男はまだ戻っていないのか?」

 

「彼ならもう報告を終えてったよ? 今ごろ宿に帰ってるんじゃないかな?」

 

「い、いつの間に!? 全く気が付きませんでした……」

 

「であれば、私達がここにいる意味はありませんね。宿に戻りましょう」

 

「じゃあ、今回の『お茶会』はお開きだね。それじゃあまた」

 

 

───────────────

 

 

「あっ」

 

 宿の入口を開けた鋼鉄等級一党の目の前に、一人の男が立っていた。

 薄い麻のシャツを身に付けた男の黒髪は濡れており、前下がりとなって目元を隠している……どうやら風呂上がりのようだ。

 

「お疲れ様です。今日も互いに無事戻って来れましたね」

 

 そう自由騎士が挨拶をすると、彼は微笑みながら頷いて、自身の部屋へと歩いていった。

 他の三人はそれを呆然と眺めていたが、それも仕方がない。

 彼女達のなかで兜を外した状態の彼を見た事があるのは、頭目である自由騎士のみなのだ。

 

「ちょ、ちょっとリーダーリーダー! さっきのって……彼だよね!?」

「確かに気弱そうな優男だったが、人は見掛けによらんな……」

 

 顔を赤くして自由騎士の肩を揺らす圃人野伏と、腕を組んで感想をもらす森人魔術師。

 二人は先程の優男が、あの勇猛な戦い方をする疾走騎士だとは想像もつかない様子だ。

 

「でも、ちゃんと鍛えているようでしたよ?」

 

 彼は細身であったが、その体にはしっかりとした筋肉が付いていた。

 それは十分な鍛練を経ている事の証明に他ならない。

 

「話によれば、師である祖父が凄まじい剣の使い手だったとか。とはいえ──」

「押せばイケそうだね!」

「押せばイケそうだな!」

「押せばイケそうでしたね!」

「押せばイケそうですね!」

 

 ……暫しの沈黙のあと、女僧侶による裁きの鉄槌が圃人野伏の頭上に振り下ろされた。

 床に沈んだ彼女につられてしまった三人は、微かに頬を赤らめている。

 

「んんっ! ……違います。我々に下った宣託(ハンドアウト)は、そんな事ではありません」

 

 自由騎士は至高神の信徒である。

 至高神は法と正義を司る神ではあるが、神自身が人を裁くのではない。

 何が正義かを決めるのは、人自身だというのがその教え。

 そう、至高神は『人が神の人形となることを是としない』のだ。

 

「彼が覚知神に魅入られた哀れな傀儡なのだとすれば、それを救うのが私達の役割です」

 

 そうでなければ良し。万が一そうだったのなら、どんな手を使ってでも彼を助けよう。

 決意に満ちた彼女達はお互いに頷いて、自分達の部屋へと戻る。

 ……気絶した圃人野伏を引き摺りながら。

 




Q.聞いてきたけど至高神ちゃんそんな宣託(ハンドアウト)下してないってさ!

A.あああああああもうやだあああああああ!!



おまけ

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート15 『シエルドルタ』

 やっぱり賽子なんて無かったゴブスレRTA、第十五部はぁじまぁるよー!

 

 前回、魔術師ちゃんに肝心な所(に履く下着)を洗ってもらった疾走騎士くんは、七日目の冒険を終えました。

 今回は、鋼鉄等級への昇級試験に、挑んでいきますよ!

 

「朝よ疾走騎士。起きなさい」

 

 ところで以前、黒曜への昇級審査を受ける際、依頼の張り出し時間にギルドへ到着してしまった結果、受付嬢さんに待たされたのを覚えていますか?(第六部)

 RTAを急ぐあまり、逆にロスが発生してしまったという訳ですね!

 なので今回は混雑する時間を避ける為、あえて少し寝坊していきましょう!(急ガバ回れ)

 

「ちょっと! 起きなさいってば!」

 

 さて、そろそろいい時間なので起きますか。

 疾走騎士くん起動!

 

「うわぁ! い、いきなり起きないでよ! ビックリするじゃないの!」

 

 そういえば魔術師ちゃんは昨日、足の筋肉痛でお休みしていましたね。

 もう治ったかな? どうかな?

 

「も、もう大丈夫よ」

 

 ホントにぃ? 魔術師ちゃんはいじっぱりなので、セリフだけでは判断が難しいです。

 一応確認をしておいた方が良いかもしれませんね。

 

「ホントにもう大丈夫だから! そ、それ以上近寄ったらアレよ!? 《突風(ブラストウィンド)》よ!?」

 

 確認は出来ませんでしたが、どうやら本当に治ったみたいですね。良かった良かった。

 起床した疾走騎士くんはパパパッと身支度を整えて装備を装着し、宿屋を出発しました。それじゃあギルドまで、四倍速で駆け抜けましょう!

 

 さて、今回の昇級審査は面接ではなく、戦闘訓練での審査となります。実技試験かな?

 この戦闘訓練は、短期間に連続して昇級をしようとした場合に一度だけ発生するイベントです。

 他にも条件はあると思いますが、この銀等級到達RTAでは必ず発生していますね。

 多分ギルドの評価とか、他の冒険者の評価とかが関わってるっぽいですが、詳しいことは分かりません。

 因みに訓練相手の冒険者はギルドに属する上位の冒険者となります。これは普通の昇級審査と同じですね。

 

 着くぅ~。

 

 ギルドへ着いてから、受付嬢さんに話し掛けます。

 ゆっくりめに来たので、どうやら向こうも準備が完了しているみたいですね。今回のお相手はどなたかな?

 

「遅かったな、意外とのんきな奴なのか?」

 

 なんだと? こちとらRTA走者なんだが? と言うわけで、お相手は重戦士ニキでした。

 といっても、この戦闘訓練は大体彼がお相手になります。

 普段から新米の冒険者達に、稽古をつけたりしてるみたいですからね。

 ギルド側もそこに目を付けたのでしょう。

 

 重戦士ニキは太くて大きなアレを武器にする完全なパワータイプです。

 彼の攻撃は、疾走騎士くんのW盾といえども防ぎきる事が出来ません。

 しかしこの戦いで昇級するには、ある程度の強さを見せつければオッケーです。

 あくまでも鋼鉄等級相応の力量があるかを確認するための審査ですからね。

 システム上勝利する事も可能ではありますが、事前に入念な準備をしておく必要があるのと、勝つまでにかなり時間が掛かってしまう事を加味しても、RTA的にはまず味です。

 そもそも勝っても賞品とか……ないです。

 なのでここは大人しくパパパッと認めてもらって戦闘を切り上げた方が早いですね。

 というかステータス差がアリ過ぎぃ! まともに戦ったとしても、まあ歯が立ちません。

 流石に黒曜と銀じゃあ仕方ないんですけどね。

 

「昨日も沢山の依頼を請けて頂いていましたが、大丈夫ですか? 調子が悪いとかは……」

 

 ヘーキヘーキ! 体力お化けの疾走騎士くんはまだまだ大丈夫ですよ!

 

「それなら良いのですけど……」

 

 等級審査を行う為、場所をギルド近くの広場に移します。

 屋内でチャンバラするわけにはいきませんからね。

 ……なんかギャラリーが居るけどまあいいや。

 

「では、よろしくお願いします」

「あぁ、もちろん手加減はしてやるさ」

 

 重戦士ニキの圧倒的な攻撃力は、竜ですら一撃で両断するグレートソードによるものです。

 もちろん生半可な力では振り回すことも出来ないので、彼の筋力が如何に尋常でないかがよく分かります。

 

 

 

 

 では早速、彼の背中に《聖壁(プロテクション)》を貼り付けてやりましょう! オッスお願いしまーす!

 

 

 

 

「全力で来い。俺を怪物だとでも思って……ん!? なんだこりゃ!?」

 

 《聖壁(プロテクション)》に阻害され、彼は背負った剣に手が届かなくなりました。

 今だ突撃! 武器を手に取ることが出来ない貴様など恐るるに足らぬわ! 死ぬがよいガッツ!

 ホラホラホラホラ。どうしたホモの兄ちゃん、自慢のイチモツを封じられたら何も出来ないのか? というか逃げ回るんじゃねぇ! ロスになっちゃうだルルォ!?

 

「こっの野郎!」

 

重戦士は こしを ふかく おとし まっすぐに あいてを ついた!

 

 オォン! 疾走騎士くん吹っ飛ばされた! こいつ身体強化(フィジカルエンチャント)の指輪を装備して素手で殴ってきやがりましたよ! W盾で防いでも凄まじい威力! これだから脳筋は困る! 

 

 しかしその対策もちゃーんと用意しています。

 プライベート……スクウェア! そう、蹴りです。

 回避と対空迎撃を兼ねた、飛び上がり蹴りからの袈裟蹴り! 更に着地してから二連回し蹴り! この連撃は、ガードの出来ない危険な攻撃をかわしつつ、反撃も出来る便利な対人スキルです。相手の体幹をガッツリもっていくよ!

 今まで盗賊狩りをしたり、自由騎士ちゃんを押し倒したりして対人戦の経験を積んでいたのは、この為だったんですね。

 

「成る程、お前なかなか……やるじゃねぇか」

 

 ……まともに入ったのに平気そうですね。まあ等級差とウェイト差を考えればしょうがないです。

 という訳でここでコマンド『にげる』を選択。すると戦闘が終了します。

 ある程度の戦闘力は見せたので、もう良いよね? ね?

 

「あ、はい。昇級に問題無しと判断させて頂ける程度かと……」

「なんだと!? もう終わりなのか!?」

 

 当たり前だよなぁ? そろそろ疾走騎士くんの《聖壁(プロテクション)》も切れる頃です。

 勝てない戦いを長引かせる必要はありません。無理はせず引く時は引く、冒険者の鉄則ですね。

 

「では、晴れて鋼鉄等級への昇級となりますので、ギルドへお戻りください!」

 

 ありがとナス! 重戦士ニキもあざっした!

 んじゃギルドへ戻りましょう。いざ鎌倉。

 

「言っておくが、決着は付いてないぞ。俺はよくこの辺でガキ共の稽古をしてる。いつでも来い」

 

 お? どうやら今回の戦闘訓練で重戦士ニキの評価が結構上がったみたいですね。稽古コマンドが解放されました。

 他のキャラクターの好感度が一定以上まで上がると、冒険に誘う事が出来たりアイテムを貰えたりするのは以前説明しましたが、特定のキャラクターの場合、この様に稽古をつけてもらえるようになったりもします。

 でも魔女さんだけは最初からお願いするだけで魔法を教えてくれるんですよね。やはり彼女は聖女、ハッキリ分かんだね。

 因みに稽古をつけてもらうと、ステータスが上がったり、スキルを覚えたりします。

 受けられる依頼が少ない日とかにはお世話になる事もありますよ!

 

 着くぅー。

 

 ギルドで受付嬢さんに鋼鉄等級の認識表を貰えました。めでてえ。

 黒曜に上がった時は一日経ってから認識表を受け取りましたが、今回は予め作ってあったらしいです。手際がいいですね。

 鋼鉄等級へ上がったので、奇跡の使用回数も二回に増えました。いいゾ~これ。

 さっきの訓練で重戦士ニキにダメージが入りにくかった事も踏まえて、筋力も上げておきましょう。

 疾走騎士くん、固さは十分ありますからね。W盾によって盾受け関連の数値が倍になっている上、彼のHPはかなり高いです。事故る要素なんてないぜ! ヨシ!(現場猫)

 え? ステータスが俺達の知ってるゴブスレ世界の物じゃないって? ……細かいことは良いんだよ! 

 

 さて、時刻がお昼になりましたので、そのまま昼食を取りヒュゴウ! 終わりました。

 では再び、受付嬢さんの所へ戻りましょう。

 

「だから、オルクボルグよ! オルクボルグ! このギルドに居るんでしょ!?」

 

 見知った三人組が受付嬢さんとお話中ですね。何やってんだあいつら……。

 

「えっと……そういう方はちょっと……」

 

 皆さん御存知かと思いますが、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶の一党です。

 来るのが今日だとすれば大体この時間に来るはずだったので念の為確認してみましたが、正解でしたね。

 この三人はゴブスレさんにゴブリン退治を依頼しにやって来たのですが、それぞれ独自の言語でゴブリンスレイヤーの名を呼んでいるので、受付嬢さんも『んにゃぴ……よくわかんないです……』状態になっています。

 それでは疾走騎士くんに突撃させましょう! 俺も仲間に入れてくれよ~。

 

「ちょっと! 今私達が話して……って、その二つの盾……もしかしてあなたシエルドルタ?」

「ほう、とっとこ丸か! こりゃあ聞いていた通り面白い盾を持っとるわい!」

 

 なんだこの銀等級達! いきなり変な名前で呼ばれてるんですけど!? 魔術師ちゃん助けて!

 

「森人の言語と鉱人の言語でのアンタの事よ。疾走騎士」

 

 魔術師ちゃんは博識。ハッキリ分かんだね。

 でもなぜ冒険者として新人である疾走騎士くんの事を彼等が知っているのでしょうか?

 

「オルクボルグの歌に出てくるのよ。盾を二つ背負った小犬が」

 

 あのさぁ……もう許せるぞオイ! とんでもない嘘を吹聴してくれやがって!

 

「ねえ、さっき言ってたオルクボルグ。あれはゴブリンスレイヤーの事よ」

「え、そうなんですか?」

 

 魔術師ちゃんが説明してくれたお陰で受付嬢さんもようやく合点がいったようですね。手間が省けておおタスカルタスカル。

 

「シエルドルタ、あなたならオルクボルグの事知ってるでしょ? どこに居るのよ」

 

 ゴブリンスレイヤーさんは今、女神官ちゃんとのゴブリン退治に出ています。

 多分そろそろ帰ってくる頃だと思うので、まずうちさぁ、談話室あるんだけど……待ってかない?

 

「しょうがないわね。そうさせて貰おうかしら」

「あの……勝手にギルドの部屋を使われると困るのですけれど……」 

「†悔い改めて†」

 

 受付嬢さんには難色を示されましたが、横で話を聞いていた監督官さんに『いいよ上がって』と、案内してもらえました。こ↑こ↓もRTAの短縮ポイントです。昨日、監督官さんの好感度を稼いだのはこの為です。

 

 ゴブスレさんが戻ってくるまでの間、依頼の内容を彼等に聞いておきましょう。

 何で部外者に話す必要があるの? って二千歳児が反論して来ますが、そこはさっきみたいに言語が違ってややこしい事になるかもしれないからだと言いましょう。

 でなきゃ君達すぐケンカ始めてロスになっちゃうだルルォ!?

 

「ハッハッハ! 相違ありませぬな!」

 

 蜥蜴僧侶さんに依頼の内容を説明してもらった後、すぐにゴブスレさんが戻ってきました。

 ゴブリンだよ! 行こう! 場所ここね! といった感じで、パパパッと説明をします。

 ゴブスレさんはゴブリンというだけで依頼を受けてくれるのでこれで十分です。

 ついでに同行も申し出ます。人食い鬼(オーガ)討伐はこのRTAには必須なのでオナシャス! 何でもしますから!

 

「そうか……分かった」

 

 女神官ちゃんもぼさっとしてないで行くぞホラホラホラホラ! 着いてくるんでしょ! ゴブスレ流相談イベントなんてスキップだ!

 

「ねえ疾走騎士……私は?」

 

 魔術師ちゃんも来るに決まってるだルルォ!? 今回の冒険は長距離移動のクエストなので、がっつり体力を伸ばしてもらうよ!

 

「ええ! 任せて!」

 

 ではメンバーが揃ったので、ここから旅支度を整え

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 




Q.何故疾走騎士くんは『シエルドルタ』や『とっとこ丸』と呼ばれてるのですか?

A.指輪物語に登場するエルフの言葉(シンダリン・クウェンヤ)で盾RTA→ShieldRTA→シエルドルタとなります。他にも候補は色々ありましたが、ゴブスレさんのオルクボルグと同じ6文字で、しかも某ソシャゲでいう~オルタみたいになったのでこれで良いかなと。彼のイメージに合ってますからね! あ、とっとこ丸はとっとこ走る疾走騎士くんのイメージです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート15 裏 前編 『あっちじゃ~』

 昼よりもまだ少し早い時間、太陽の光に若干の暑さを感じる中、私たちは受付嬢の案内でギルド近くの広場へと足を運んでいた。

 ここは以前、疾走騎士が自由騎士を押し倒……手合わせをしていた時にも使っていた場所だが、どうやら今回はここでアイツの昇級審査が行われるようだ。

 なんでもギルドからの要望で『彼の昇級があまりにも早すぎるから実際に力量があるのか確かめたい』との事らしい。

 

 で、今アイツは広場の中央で大鎧を着込んだ冒険者と向き合っている。

 どうやらあの重戦士が疾走騎士の力量を計る上位冒険者のようだ。

 私も情報としては知っている。このギルドでも数少ない銀等級、一党の頭目として活動しており、実績も十分に積んでいる実力者。

 何より目を引くのは彼が背負った大剣だ。

 

 ……それは剣というにはあまりにも大きすぎた。

 

 大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。

 

 それはまさに鉄塊だった。

 

「まあ、それは良いとして……なんでアンタ達も来てるのよ」

「そりゃあ面白そうだからに決まってるじゃん!」

「ふふ、あの男が銀等級相手にどう立ち回るか見物だな」

「しかし大丈夫でしょうか? お相手の方、とても強そうですけれど……」

「確かにあのグレートソードは脅威ですね。しかし、彼が何の対策もしていないとは思えません」

 

 興味津々といった眼差しを広場の中央に向けながら質問に答える圃人野伏。

 腕を組んで不適な笑みを浮かべる森人魔術師。

 おどおどと心配そうに疾走騎士を見つめる女僧侶。

 重戦士の背負った大剣を見て冷静に考察を述べる自由騎士。

 彼女達はいつの間にか付いてきていた。どうやらこの戦いを観戦するつもりらしい。

 他にもあの重戦士の一党や、たまたま居合わせた冒険者が何人か興味本意で足を運んで来ていたりもする。……なんとも物好きな連中ね。 

 とはいえ私も、彼の力が銀等級の冒険者を相手にどこまで通用するのかは凄く気になる。

 まあ、流石に勝つなんて事はないと分かってはいるけれど、自由騎士がさっき言ってた通り、アイツの事だから十中八九何かやらかすと思うのよね……。

 

───────────────

 

 インタビュー? 今日の昇級試験? ったく、どいつもこいつも……。

 ……ああ、そういやお前さんは受付嬢の穴埋めで見に来れなかったんだったな。

 まあ、俺も最初は面白そうだと思ってたさ。あんなバカでかい悪魔(デーモン)を討伐したルーキーのお手並み拝見ってな。

 だが、あくまでもあの戦闘はヤツの力量を計る為の訓練だ。万が一の事があったらマズイ。当然だな。

 あの受付嬢も配慮を願って、戦いの直前、俺に向かって頭を下げてきた。

 もちろん俺の方もそれは重々承知してたさ。

 俺は時折、ガキ共に稽古をつけたりしてるし、手加減の具合も分かってる。

 今回もそれと同じようにすれば良いと考えてたし、実際にギルドからもそれで問題は無いと言われてたからな。

 ……まあ、今回はそんな手加減をした結果、痛い目を見たわけだが。

 受付嬢が開始の合図を出した、そこまでは良かった。

 しかし背負っていた剣に伸ばした俺の手は、どういうわけか剣の柄に届かなかったんだ。

 後から聞いた話だがあの野郎、戦いが始まる前から《聖壁(プロテクション)》を俺の背中にくっつけておいたらしい。

 何が「抜かせないのが信条です」だよ。お陰で武器が無いまま戦う羽目になって…………ちっ、おい何笑ってやがる。

 だから話したくなかったんだ。やっぱ騎士ってヤツはろくなのが居ねぇな、クソ。

 あぁ、悪いな。アイツあれからずっとあの調子でよ。

 こんな事になるならショートソードも持っとくべきだったな。あの守りもコイツでぶっ叩いてやりゃあ一発だと思ってたが、まさか封じられるとは……。

 ……話を戻すぞ。武器を持てないと見るやいなや、あの野郎が突っ込んできた。

 で、暫く俺は逃げ回った。……なんだよ、当然だろう。こっちは丸腰なんだからな。

 だがこっちもやられっぱなしじゃ居られねえ。面子ってもんがある。

 だから、ぶん殴ってやったのさ。身体強化(フィジカルエンチャント)の指輪を着けて盾の上から。力には自信があるからな。……おう、悪かったな脳筋で。

 ただまあ……やっぱあの盾は伊達じゃねえな。硬いんだよ。吹っ飛びはしたものの、効いてるのか分かりゃしねえ。即体勢を立て直して、また突っ込んできやがった。

 根性のあるヤツだ、そう思ってもう一回ぶん殴ったんだが……それが失敗だった。

 盾の上から殴ったら、盾の向こうに居るはずのアイツの姿は無く、盾だけがすっ飛んでった。

 どこに行ったかって? ……上だよ。俺が殴る直前、盾を目眩ましにして上に跳んでやがったんだ。

 そんで頭に何発か蹴りをもらって……そうだ蹴りだ蹴り。

 だがな、そんなんじゃあ俺は倒されねえ。すぐに反撃を…………だからうるせえぞ! 静かにしろっつってんだろうがよ!

 ……ああそうだ、その時に砂をぶっかけられたんだよ。残ったもう片側の盾をスコップみたいにしてな。

 お陰で鎧が砂まみれ。今バラして手入れしてもらってる訳だ。

 それから? ……それで終わりだ。砂埃に紛れて何か仕掛けて来るかと思ったら、あの野郎尻尾巻いて逃げやがった。

 ……訳のわからねぇ奴だ。何もかも見透かしたかのような戦い方しやがって。

 おまけに恐怖なんて感じないと言わんばかりに突っ込んできたかと思えば、手のひらを返したみてぇに引きやがる。

 あの兜鎧といい、気味の悪さといい、二号と言われるのも納得だな。まあ次はただじゃ済まさんが。

 

 ……生き残って欲しいもんだな、ああいうのは。

 

 …………ところでお前、その話し方何とかならねぇのか。うちのガキ共にも移ってきて困ってんだよ。

 

───────────────

 

 疾走騎士の昇級審査……もとい銀等級との手合わせは意外にもあっさりと終わった。

 ある程度の戦闘をこなした所で、ギルドを納得させる力量を見せたと判断した彼は、相手の重戦士に砂をぶちまけて撤退……というていで受付嬢の下へ行き、戦闘の終了を提案したのだ。

 彼女はそれを受理。あそこまで見事な立ち回りを見せられれば、ギルドも納得せざるを得ないだろう。

 そして昇級手続きの為、私達はギルドの受付に戻ってきた。

 

「力量を見せる事に拘って、無茶をするのではないかと心配していました」

「多分あれが一番早かったと思います」

 

 どうやら今回の様な戦闘訓練による昇級審査は、受付嬢にとっても初めての事だったらしい。

 しかし何事もなく無事に終わった事に、彼女も一安心といった様子を見せていた。

 

「でも、今回は疾走騎士さんだけですみません。貴女の功績も高く評価されていますので、きっとすぐにお声が掛かると思いますよ?」

「ん? あぁ、いいのよ。コイツ一人で散々稼いでるもの。仕方ないわ。……それに、そっちの方が都合が良いもの」

「あはは……確かにそうですね……」

 

 気遣うように話す受付嬢だったが、私としては寧ろ好都合だった。

 今回疾走騎士が先に昇級した事で、彼が私のオマケだという間違った認識は無くなるはずだ。

 この前の圃人みたいな、守るしか出来ない臆病者なんて言う馬鹿なヤツも居なくなるだろう。

 

「では改めて、この度は昇級おめでとうございます。こちらが鋼鉄等級の認識票になります。これからも頑張って下さいね!」

 

 疾走騎士が手渡された鋼鉄等級の認識票を受け取り、元々身に付けていた黒曜等級の認識票は受付嬢へと返却。

 これで疾走騎士は正式に、鋼鉄等級へと昇級した事となる。

 

「あれ? そういえば今回は作ってあるんですね。認識票」

「前回の昇級はあまりにも唐突でしたから」

「ああ……確かにね」

 

 前回、黒曜等級へと昇級した際、認識票を渡されたのは審査の翌日。

 あの時は不意に遭遇したマンティコア(イレギュラー)を討伐した事でギルド側からも思いがけない昇級をする事になり、認識票を用意するのが翌日になってしまったのだ。

 今回の昇級は、『はぐれ』の悪魔(デーモン)を討伐した事による戦果が最も大きいが、彼は他にも下水道関連の依頼を忌避する事なく片っ端から受注し、成功させた実績も持っている。

 真面目で優秀な新人、かつ対人関係も良好。昇級に値する人物である事は明白だったのだ。

 実のところ、昇級審査として戦闘訓練を行うよう通達が出された時には、書類と共に認識票も発行されていたのだという。

 へえ、ギルドは相当疾走騎士を高く買ってるのね。

 ……そうよ! 他の新人どころか、並の冒険者とは比較にならないくらいコイツは頑張ってるもの! それくらいは評価されて当然なのよ!

 それを何も知らないヤツが影でグチグチと……! ぐぬぬぬぬぬぬ!

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

「……え? あ、あぁ何でもないわ! とにかくこれでアンタも晴れて鋼鉄等級よね! おめでと!」

「はい、ありがとうございます」

 

 そして疾走騎士が鋼鉄等級の認識票を身に付けた後、私達は受付を離れ、昼食を取るために酒場へと向かった。

 

「それにしても、あの重戦士の背中と背負った剣の間に《聖壁(プロテクション)》が挟まってるのを見たときは私も驚いたわ……」

 

 料理が来るまでの時間、先に出されたミルクを飲みながら今回の昇級審査を振り返る。

 まずは疾走騎士の《聖壁(プロテクション)》だ。

 脅威と思われていた重戦士のグレートソードを一手で封じた奇策。

 身を守る為に使う奇跡の器用な使い方に、ギャラリーの冒険者達も面白いものを見たと言わんばかりに彼を称賛していた。

 あの重戦士は少し気の毒だったわね。一党の女騎士には大笑いされていたし。

 それにしても《聖壁(プロテクション)》という奇跡は活用の幅が広すぎる気がする。

 怪物を地面に押し潰したり、ゴブリンを閉じ込めたりと、そんな発想が一体どこから出てくるのだろうか。

 

「想像力は武器ですからね」

 

 いや流石に限度って物があるでしょ……こいつの頭の中が一体どうなってるのか、一度覗いてみたいわね。

 ……そういえば相手の思考を読み取る魔術があったはず。今度師匠に聞いてみようかしら?

 

「全くもってその通りだね! 相手の想像を上回る戦術の数々! いやーシビれたよ!」

「まさか銀等級を手玉に取るとは……ふふ、そうでなくてはな!」

「奇跡にあんな使い方もあるなんて、考えもしませんでした!」

「まだまだ私達も想像力が足りていないという事ですね!」

 

 いつの間にか同席している鋼鉄等級一党は、興奮冷めやらぬ様子でそれぞれが自身の思いを口にしている。

 

「いや、だから何でアンタ達付いてきてるのよ……」

 

 実は疾走騎士の昇級審査が終わってからも、彼女達は何故か私達にずっと付いてきていた。一体何の用なのだろうか。

 

「そりゃあ頼まれたこっち側のインタビュ……じゃなかった。かわいいかわいい後輩の昇級を祝う為だよ!」

 

 ……怪しすぎる。頼まれた? 一体誰に? 彼女達が疾走騎士にとって不利益になる行動は起こさないとは思うけれど……気になるわね。

 

「……まあいいわ。で、次はあの蹴り技ね」

 

 気を取り直して話を戻す。

 疾走騎士は重戦士が放った正拳突きを跳躍によって回避し、蹴りによる反撃を行った。

 それはまさに流れる様な連撃。ギャラリーに紛れていた銀髪の武闘家らしき女性の冒険者が『おおー! せんぽーきゃく!』とか言っていたけれど、あれは技の名前なのだろうか?

 

「というか、いつの間にアンタは武闘家に転職したのよ」

「盾以外にも攻撃の手段を持っておこうかと思いまして。実際、回避から攻撃に素早く移る事が出来ます。……ただ、本職には遠く及びません。付け焼き刃ですよ」

「ほう? まるで拳法の流派を学んだかのような動きだったが?」

 

 疾走騎士が頭を横に振るのを見て、森人魔術師はグラスを揺らしつつ中のミルクを飲み干した。

 どうやら昼間から酒を飲むのは流石にまずいと思ったようで、彼女達も今はミルクを口にしている。

 

「あ、流派の技である事に間違いは……ないです」

「そうなのですか? 一体どちらの流派なのでしょう?」

「あっちです」

 

 女僧侶の問いに対し、疾走騎士は突拍子も無く何もない方向を指差した。

 私達は全員彼が指差した方向を向くが、そちらには壁があるだけだ。

 

「あっち……ですか?」

「あっちです」

 

 いや、確かにどちらとは聞いたけれど、指だけ差されても全然分からないから。

 困惑する私達を余所に、彼は届いた料理をいつものように一瞬で消滅させていた。

 




Q.鋼鉄等級一党もミルク飲み出しましたよ?

A.こ、今回はお酒の代わりだっただけだし(震え)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート15 裏 中編 『そなたなど、まだまだ子犬よ』

「小鬼王の戦斧より放たれし恐るべき痛恨の一撃(クリティカルヒット)を小鬼殺しの忠犬、疾走騎士が受け止めた。ホラ見ろよ見ろよ赤に燃ゆるその盾を。暗き銀にて鍛えられ、決して主を傷付けぬ双璧を」

 

 ポロンポロロン……。都の大通りにて、リュートを奏でる吟遊詩人。

 彼が歌うのは英雄譚。一人の勇者と、一匹の忠犬による物語。

 

「忠実なる疾走騎士(しもべ)の背に跨がりしは勇者、小鬼殺し。彼の鋭き致命の一撃(クリティカルヒット)が、小鬼王の首を宙に討つ。おお見るが良い青に燃ゆるその刃、まことの銀にて鍛えられ、決して主を裏切らぬ」

 

 ポポポダルビッシュ……。猛き演奏に聴衆が沸き上がり、吟遊詩人は尚も歌う。

 

「かくて小鬼王の野望も終には潰え、救われし美姫達は勇者の周囲を取り囲む。しかれど彼らは小鬼殺し、訪徨を誓いし身、傍に侍うことは許されぬ」

 

 チャカポコチャカポコ。物語はエピローグへ。旋律も哀愁を感じさせるものへと変わる。

 しかしこれで終わりは迎えない。勇者達は突如として危機を迎えた。

 

「勇者達を追う姫達、その手に疾走騎士の尾を掴む。勇者小鬼殺しは忠犬の背より転がり落ちるも振り返る事なく立ち出づる。犠牲となった疾走騎士、逃れる事終に叶わず姫達の胸に抱かれた」

 

 デデドン! 奏でられた短い旋律が絶望的結末を演出し、物語の終幕を飾った。

 

「辺境勇士、小鬼殺しの物語より、第一章『山砦炎上!美姫たちの逆襲』の段、まずはこれまで」

 

 聴衆からは盛大な拍手と多くのお捻りが送られる。

 置かれた帽子には溢れんばかりの小銭が放り込まれ、吟遊詩人が優雅に一礼をした。

 

「まさか救ったお姫様達が裏ボスだったとはたまげたなあ」

「自らを犠牲にして主を逃がす疾走騎士に……涙が出、出ますよ……」

 

 聴衆が去った後、吟遊詩人は帽子とお捻りを拾って今回の稼ぎを勘定する。

 そこへ外套を羽織った人物が声を掛けた。

 

「ねえ、今歌ってた冒険者だけど、ホントに居るの?」

 

 涼やかな声。年若い女性特有のそれは、歌えばさぞ人を魅了するだろうという印象を吟遊詩人に受けさせる。

 

「ああもちろんだとも! 二人ともこっから西の辺境へ二~三日ばかし行ったとこの街にいるって話だ」

「二人? 疾走騎士は犬じゃなかったの?」

「あ……いやそれは…………あはははは」

 

 彼女の問いに対し、失言(ファンブル)で返してしまった事に気が付いた吟遊詩人。

 歌は多少、彼なりの改変が入っていた。より多くの人を惹き付ける物語にして、より多くの稼ぎを出すために。

 つまりこれは商売なのだ。それ故に彼は冷や汗を流し、笑って誤魔化すしかなかった。

 

「まあ、都合が良いわ。小鬼殺し(オルクボルグ)と……疾走騎士(シエルドルタ)……」

 

 外套の人物がフードをめくり、その素顔が露になると、吟遊詩人は思わず声を漏らした。

 誰しもが見とれる整った顔立ちに、長く伸びた耳。彼女は上の森人(ハイエルフ)だったのだ。

 これが今より二日程前の出来事である──。

 

───────────────

 

 疾走騎士が一瞬で食事を終えてしまったせいで若干気まずい雰囲気のなか、私と鋼鉄等級の一党は運ばれてきた料理を慌てて食べ終えた。

 ホントこれ、どうにかならないのかしらね……。

 

「しかし、もう追い付かれちゃったかー」

「残念ながらな。まあ仕方あるまい」

「この調子だと、あっという間に追い越されちゃいますね」

「ええ、私達もうかうかしていられないわ」

 

 お勘定! と女給を呼びながら圃人野伏が口を開き、他の面々も続く。

 今回、疾走騎士は昇級し、ついに彼女達の階級へと並んだ。

 彼女達は疾走騎士の実力を知っている。故に納得している一方で、しかし先輩として負けていられないという気持ちも持っているのだろう、その瞳は闘志に燃えていた。

 

「こうしちゃいられないね! 依頼だ依頼!」

「くっ! しかし既に昼だぞ。実入りの良い依頼はないんじゃないのか!?」

「どうでしょう、とにかく聞いてみないことには……」

「『彼女』の所へ行ってみましょう。良い依頼を斡旋してくれるかもしれません」

「あの」

 

 女給への支払いを済ませ、受付へと向かおうとしていた彼女達を疾走騎士が呼び止めた。

 

「無理はしないように。何事も命があってこそですから……」

 

 彼の言葉を聞いた瞬間、鋼鉄等級一党に電流走る──!

 

「もしかして心配してくれてる? あ、ヤバイ今なら何でも出来そうな気がする」

「《五指火矢撃ち(フィンガーフレアボムズ)》を完成させる時が来たな……」

「一体どういった奇跡を使ったのでしょう、体から力が溢れます!」

「こ、これが想像力の力……!」

 

 多分違うと思うのだけれど……鋼鉄等級達の体からうっすらとオーラが出ているのを見るとハッキリとは否定出来ない。

 もしかして本当に奇跡を使ったのではと疾走騎士の方を見るが──。

 

「これもうわかんねぇな」

 

 どうやらそういう訳ではないようだ。だとすると彼女達は自前で? え、何それ怖……。

 疾走騎士の影響により士気旺盛となった彼女達はまるで嵐のように去っていき、静けさだけが残る。

 

「大丈夫そうですね」

「なんかもう殺しても死ななそうよね……」

 

 でも、それなら寧ろ何よりだ。

 彼女達が居るからこそ、私達もこうして愉快な時を過ごせる。

 仲間を失うのはもう嫌だもの……ね。

 

───────────────

 

 時刻は昼、そろそろ休憩に入って食事をと考えていた私の前に、恐らく余所から来たであろう冒険者が三人、受付へとやって来ました。三人ですよ三人。

 森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)蜥蜴人(リザードマン)という奇妙な組み合わせで構成された一党。しかも全員が銀等級。

 そんな彼等に面くらっていると、その中の一人である森人が聞いた事の無い言葉を口にしました。

 

「オルクボルグを探してるのだけれど」

「えっと、樫の木(オーク)……ですか?」

「だから、オルクボルグよ! オルクボルグ! このギルドに居るんでしょ!?」

 

 受付のカウンターをバァン! と叩きながら迫真の剣幕で迫ってくる森人の彼女。

 う、こういうせっかちな人は少し苦手ですね……。

 ギルド中に彼女の声が響き渡り、辺りの冒険者達も何事かとこちらの方へ視線を向ける。

 

「えっと……そういう方はちょっと……」

 

 オルクボルグ……聞いたことの無い名だった。

 だがこのギルドに『居る』ということは職員か、或いは冒険者という事になる。

 しかし同僚達にそのような名前の者は居らず。自身が担当している冒険者もそれなりに記憶しているが、思い当たる節はない。

 もしかすると、他の人が担当している冒険者なのかも? そう思い隣の監督官に目を向けるも──。

 

「これもうわかんねぇな」

 

 どうやら彼女も知らない様子。となると彼女が言う『オルクボルグ』なる人物はこのギルドには居ないということになる。

 どうしたものかと悩んでいると、そこへ盾を二つ背負った彼、疾走騎士さんが現れた。

 

「すみません、少しいいですか?」

 

 彼はついさっき昇級した後、昼食を取る為に酒場へ向かったはず。何か用なのだろうか?

 だとしても、この人達の対応でそれどころではないのですけれど……。

 そして案の定、横入りされた事に対して不快感を露にした森人が彼の肩を掴んだ。しかし──。

 

「ちょっと! 今私達が話して……って、その二つの盾……もしかしてあなたシエルドルタ?」 

「ほう、とっとこ丸か! こりゃあ聞いていた通り面白い盾を持っとるわい!」

 

 驚くことに、森人と鉱人の二人が彼の事を知っているように話している。

 しかし『シエルドルタ』や『とっとこ丸』と彼を呼んでいるのはどういう事なのだろうか?

 彼自身も身に覚えの無い呼ばれ方をしている事に、頭を傾げている。

 

「森人の言語と鉱人の言語でのアンタの事よ。疾走騎士」

 

 魔術師さんの言葉に納得した様子で彼が頷き、私も成る程! と手を合わせた。

 流石、賢者の学院の卒業生だ。彼女はどうやら彼等の言語が分かるらしい。

 

「……で、どうしてアンタ達はコイツの事知ってるの?」

 

 あ、確かに……彼はこのギルドでは凄まじい速度で昇級をしている新人として有名ではあるものの、この人達のような余所から来た冒険者にも知られる程の成果を上げている訳ではない。

 一体どういった経緯で彼の事を知ったのだろう?

 

「オルクボルグの歌に出てくるのよ。盾を二つ背負った小犬が」

「えぇ……」

 

 その返答を聞いた魔術師さんが頭を抱えてしまった。

 オルクボルグの歌? 子犬? 私がイマイチ理解できていない事を察した彼女が声を掛けてくる。

 

「ねえ、さっき言ってたオルクボルグ。あれはゴブリンスレイヤーの事よ」

「え、そうなんですか?」

 

 成る程、つまりゴブリンスレイヤーさんの活躍が歌となっており、それに登場する疾走騎士さんは何故か犬として登場しているという事なんですね。

 ゴブリンスレイヤーさんが吟遊詩人に歌われる程評価されているという事に、私は自分の事のように嬉しくなったが、疾走騎士さんが犬として扱われているというのは少し気の毒だ。

 一体どうしてそんな伝わり方に……流石にこれには彼も怒るのでは……?

 

「もう許せますよ」

 

 許せるんだ……寛大なんだってハッキリ分かりますね。

 

「食事を終えた後に声が聞こえてきたから、教えてあげようって事で私達は来たのよ……」

「あ、そうでしたか! ありがとうございます!」

 

 親切心で来てくれた二人に対し、感謝を述べる。

 二人はこの一党の探している人物がゴブリンスレイヤーさんである事を、わざわざ教えに来てくれたようだ。

 

「シエルドルタ、あなたならオルクボルグの事知ってるでしょ? どこに居るのよ」

「彼は今ゴブリン退治に出ています。そろそろ帰ってくる頃だと思いますが……談話室でお待ちしますか?」

「しょうがないわね。そうさせて貰おうかしら」

 

 あれ? いつの間にか私をそっちのけで話が進んでいる。

 ゴブリンスレイヤーさんの事ならギルドの担当である私に聞くべきなのに……というか──。

 

「あの……勝手にギルドの部屋を使われると困るのですけれど……」

 

 部屋を管理しているのはギルドであり、利用するのであればせめて私達職員の許可を得て欲しい。

 そう伝えようとした所で隣に座っていた監督官が腰を上げた。

 

†悔い改めて†(いいよ上がって)

 

 あぁもうこの人は……パパパッと皆さんを談話室へと案内しにいく彼女。もしかして彼の昇級審査を見に行けなかったの、根に持ってます……?

 受付に一人置いていかれた私は大きくため息をつく。どうやらお昼を食べるのはもう少し後になりそうだ……。

 




Q.なんだこの汚い歌はたまげたなあ。

A.ホモ特有の風評被害いい加減にしろ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート15 裏 後編 『元祖走者の到着』

 鋼鉄等級一党と別れた後、依頼を探すため受付へと向かった私達。

 そこにはオルクボルグという言葉を口にしながら受付嬢に迫る森人の冒険者が居た。

 オルクボルグ……それは森人の言語での小鬼殺しを意味する。

 しかし受付嬢はその言葉を理解できず、困っている様子だった。

 それに対し、私達は助け船を出す事にしたのだが──。

 

「入って、どうぞ」

「おじゃましまーす」

 

 監督官の案内で、談話室へと通された疾走騎士と私。そしてゴブリンスレイヤーを探してこのギルドまで来たという一党。

 部屋の中央にはテーブルと、その両側に三人程が並んで座れる大きさの椅子が置かれている。

 とても高価そうな家具……部屋の掃除もちゃんとされてるみたいだし、普段から客室として使ってるのかしら? 勝手に使われると困るという受付嬢の言葉も納得ね。

 森人が椅子へ座り、鉱人と蜥蜴人はその傍らで立ったまま。私と疾走騎士は向かいの椅子へと並んで座る。

 

「只今おもみもものサービスをさせていただいてますので」

「あら、気が利くじゃない」

 

 部屋の内装を眺めていると、監督官がお茶を運んできた。

 やはり銀等級の客ともなると、ギルドも相応の対応をする様だ。

 カップを人数分テーブルに置いて、彼女は部屋から出ていった。……ねぇ、このお茶大丈夫なの?

 

「ところで、三人はどういう集まりなんでしたっけ?」

 

 私が恐る恐るお茶に口をつけたところで疾走騎士が話を切り出す。

 大弓を背負った弓手の森人(エルフ)、奇妙な東洋風の衣服を着た道士の鉱人(ドワーフ)、民族的な衣装に身を包む僧侶の蜥蜴人(リザードマン)、しかも全員が銀等級。

 よくよく考えてみれば銀等級の冒険者が三人も訪ねてくるなんて、よっぽどの事よね。

 ゴブリンスレイヤーに用があるって事は、ゴブリン関連なのは間違いないのだろうけれど、ゴブリンでよっぽどの事ってあんまり想像つかないし、できれば詳細を聞いておきたいわ。

 

「なんで話す必要があるの? 私はオルクボルグに依頼をしに来たのよ。幾らシエルドルタが相棒だとしても、話す訳にはいかないわね」

 

 もう放っておいたら? そう口に出したくなるのを堪える。

 私達は最初の冒険でゴブリンスレイヤーに助けてもらった借りがある。

 円滑に話を進められるようにしておけば、ゴブリン退治も捗るだろう。そう思って私達はここにいるのだ。

 

「先程、言語の違いで話が通じていないようでしたが?」

「う……」

 

 どうやら痛い所を突かれたようで、押し黙った妖精弓手。

 疾走騎士が居ればゴブリンスレイヤーにも話が通りやすいし、私は彼等の言語を理解できる。

 彼等にとって私達は渡りに船の筈だ。そこまで邪険にする理由があるのだろうか?

 

「まあ、あなた方の都合も理解は出来ます。森人、鉱人、蜥蜴人の三人、しかも全員が銀等級と来てます。恐らくは……政治なのでしょう?」

「ほう、お前さんよう知っとるの。何ぞ関わりでもあったんかい?」

 

 鉱人道士が自らの立派な白い髭を撫でながら、疾走騎士を見定める。

 

「少しの間、軍に居ました」

 

 成る程、この人達が持ってきた依頼はあまり表沙汰にはしたくない案件って事ね。あの森人の言い方は気にくわないけれど、彼女も忠実に任務を実行してるだけなのだろう。そう考えれば寧ろ好印象に思えるが──……。

 

「あらあら! じゃあすぐ辞めちゃったのねぇ。 悪魔(デーモン)と戦うのが怖くなったのかしら?」

 

 前言を撤回しよう。私コイツ嫌い。メッチャ嫌い。

 

「お主、見たところ鋼鉄等級じゃが、冒険者になってからどれくらい経つ?」

 

 鉱人の問いに対し、疾走騎士は無言で左手の指五本に、右手の指三本を合わせ、計八の指を立てて見せた。

 

「八……八年っちゅう事はないじゃろうな。八ヶ月かの?」

「いえ、八日目です」

「はあっ!?」

「なんと、それはそれは……」

 

 声を上げて身を乗り出す妖精弓手と、その後ろで目を剥いている蜥蜴僧侶。

 銀等級の彼等から見ても、疾走騎士の昇級速度はやはり異常なようだ。

 

「ちょっと流石にそれは嘘でしょ!?」

「ギルドに確認して頂ければ分かるかと」

 

 そう、彼の言っている事は紛れもない事実なのだ。

 疾走騎士の言葉に、彼女は開いた口が塞がらないといった様子。

 ふふん、この森人もようやく疾走騎士の凄さを理解したようね! ……まあ私が言えた義理じゃないけれど。

 

「ふむ、これで分かったかのう耳長の。こやつも伊達にかみきり丸の相棒として歌われとる訳ではないというこった。信用して話しても構わんじゃろ」

「むう……わかったわよ」

 

 どうやら話す気になったようだ。

 不満そうに口を尖らせた彼女が、ようやく依頼の内容を話し始める。

 

「近頃都の方で悪魔(デーモン)が──」

「お断りします」

 

 が、疾走騎士は即座に切り捨てた。

 

「ちょっ、何でよ!? まだ何も言ってないじゃない!」

「いや、ゴブリン退治の依頼でないなら彼は断りますよ?」

「~~っ! 話は最後まで聞きなさいよ!」

 

 顔を真っ赤にしながらテーブルを叩いて立ち上がる妖精弓手。

 対する疾走騎士はそれをスルーしつつ、鉱人道士と蜥蜴僧侶に向けて肩を透かした。

 

「とまあ、こういう具合に喧嘩になってしまう訳です。ゴブリンスレイヤーさんなら間違いなく」

 

 確かに……その光景がありありと目に浮かぶわね。

 ゴブリンスレイヤーはゴブリン以外には全く興味を持たない。

 故に彼はゴブリンスレイヤーなのだが、それが度を超している事をこの一党はまだ知らない。

 しかし疾走騎士の言葉を聞いて、小鬼殺しという人物が如何に気難しい性格かを、一応は感じ取ってくれたようだ。

 

「成る程のう。こりゃとっとこ丸には居てもらわにゃ困るわい」

「ハッハッハ! 相違ありませぬな!」

「あーもうっ! なんなのよコイツは!」

 

 床に敷かれたこれまた高価そうな絨毯の上で地団駄を踏む妖精弓手……弁償させられても知らないわよそれ。

 

「では拙僧が説明致そう。よろしいかな?」

「よろしくお願いします」

 

 一歩前へと出た蜥蜴僧侶の言葉に疾走騎士が頷くと、妖精弓手はどっかと椅子に座り直し、腕を組んで静観を決め込んだ。

 

「まず、我々が依頼するのはゴブリン退治に他ならぬ」

「なら間違いなく請けるでしょう。場所、群れの規模等は分かりますか?」

 

 歯に衣着せぬ物言いをする疾走騎士に、蜥蜴僧侶が困ったように唸る。

 

「出来ればまず、拙僧らの事情を聞いて欲しいのだが……」

「彼は興味を示さないと思いますよ? それに、大体の予想はつきます」

「ほう、その心は?」

 

 すると蜥蜴僧侶の問い掛けに、疾走騎士は大きく息を吐き、暫しの沈黙。どうしたのかと銀等級の彼等はお互いを見合った。

 無理もない。疾走騎士にとって、その言葉はあまりにも重いのだ。

 俯いて、ぽつりと呟くように、彼は……彼自身にとっての呪言を口にする。

 

「…………ゴブリン相手に軍は動きません」

「疾走騎士……」

 

 ……そうだった。コイツが騎士を辞めた理由は、ゴブリンから人々を救ったからだってゴブリンスレイヤーが言ってたわね……。

 軍が動けない代わりに冒険者が動く。この世界ではよくある事だ。

 俯いた彼は普段からは想像もつかない程弱々しく見えて……どうしてだろう、つい抱き締めてあげたくなってしまう。

 ……別に彼はそんな事を望んではいないだろうけど。

 

「とはいえ、ゴブリンスレイヤーさんが戻るまで時間があります。彼の代わりに聞いておきましょう」

 

 疾走騎士が顔を上げて言うと、うむ、と承知し、蜥蜴僧侶が語りはじめる。

 ──今、封印されていた魔神王(デーモンロード)が復活し、世界を滅ぼそうとしている。

 それに対抗するため、只人、森人、鉱人、蜥蜴人といった多種族の王や長が集まり、軍義を開くこととなった。

 だが、その近辺に大規模なゴブリンの巣が見付かってしまったのだ。

 そこは森人の土地であるが、森人が兵を動かせば只人との間に角が立ってしまう。

 その代わりの冒険者として我らが雇われ、只人からはゴブリンスレイヤーが選ばれたのだ──。

 これらの内容を話しながら、蜥蜴僧侶は机に地図を広げた。

 

「遺跡ですね」

「恐らく」

 

 と、そこで部屋の扉が開かれた。

 

「こ↑こ↓」

「そのようだな」

 

 監督官に連れられて、ゴブリンスレイヤーが部屋へと到着したのだ。

 

「ゴブリンスレイヤーさん」

「え!? こんなのが!?」

 

 銀等級の一党達は彼がゴブリンスレイヤーである事に驚いていた。

 吟遊詩人に歌われる勇者、小鬼殺し。しかし実際に現れたのは粗末な装備に身を包み、顔が見えない不気味な風貌をした冒険者だ。

 鋼鉄等級である疾走騎士はまだしも、彼は銀等級。イメージとのギャップに、妖精弓手は信じられないといった様子。

 しかし実際、彼こそがゴブリンスレイヤーなのだ。

 

「客だと聞いた」

「遺跡に大規模なゴブリンの巣。情報は以上です」

「そうか、請けよう」

「あと、今回は自分も同行させて頂きたいのですが」

「RTAか」

「ええ、そうです」

「そうか……分かった」

「では行きましょう」

 

 疾走騎士は机上の地図を手に取って、ゴブリンスレイヤーの目の前で広げて見せたあと、自ら同行を申し出て、ゴブリンスレイヤーは承諾。そのまま部屋を出ていった。

 あまりにも早いやり取りに私達は困惑した。まるで彼等二人の間だけ時が加速してるような──……。

 

「……って、ちょっと待って疾走騎士! さっき同行するって言ってたわよね? 私それ聞いてないんだけど!?」

 

 ああもう! 相変わらずホンット勝手なんだから!

 置いていかれる訳にはいかない、急がなければ。

 私は立ち上がり、二人を追って走り出す。

 

「ふむ、話が早すぎるのも考えもんじゃの」

「依頼額の相談も無しとは、たまげましたなあ」

「なんか思ってたのと違う……」

 

 想像の範疇を超えた未知の存在に困惑しつつ、彼等もまた、部屋から出ていく。

 そして残されたのは、ゴブリンスレイヤーを案内して来た監督官だけ。

 

「ふむん、RTA……ねぇ?」

 

 ゴブリンスレイヤーが口にしていた意味深な言葉を、彼女は聞き逃してはいなかった──。

 

───────────────

 

 部屋を出たゴブリンスレイヤーと疾走騎士は階段を降り、最短距離で受付へと向かう。

 不気味な鎧兜が並んで二人。その異様な光景に、周囲の冒険者達は反射的に距離を取る。

 私はそんな彼等の姿を見付けて、階段を駆け降りた。

 

 ────ガンッ。

 

「大丈夫か」

「問題ありません」

 

 えぇ……疾走騎士が置いてあったテーブルに体をぶつけたんだけど……。

 

「何してるのよ疾走騎士……」

 

 もしかして疲れてるんじゃないでしょうね? でも今日の昇級審査では特に不調そうな感じはなかったし、兜のせいで視野が狭いのかしら?

 

「ランス……の調整です」

「? アンタ槍なんて持ってないじゃないの」

 

 もしかして何かの隠語? さっきのあーるてぃーえー……? といい、コイツらの言葉がイマイチ分からない。

 森人や鉱人の言語より難しいってハッキリ分かるわね。

 

「あれ? ゴブリンスレイヤーさん、さっきお客が来てるからって部屋に向かったんじゃ……?」

 

 戻ってきたゴブリンスレイヤーを見付けて、神官の彼女が駆け寄って来た。どうやら待たされていたようだ。

 彼があまりにも早く戻ってきた事、そしてどういうわけか疾走騎士や私も一緒に戻ってきた事に疑問を抱いた。

 するとゴブリンスレイヤーが口を開くよりも先に、疾走騎士がいつものように一切の無駄を省いて話す。

 

「今回の目標は大規模なゴブリンの巣。我々も同行し、共同して依頼にあたる事となりました。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」

「あ、はい! わかりました! よろしくお願いします!」

 

 疾走騎士の説明を聞いた彼女は状況を理解した様子だ。

 ところで疾走騎士? それより先に声を掛けるべき相手がここに居るんじゃないの?

 

「ねえ疾走騎士……私は?」

 

 或いは、本当に私を置いていくつもりなのか。そんな一抹の不安も感じはしたが……。

 

「もちろん今回も頼りにさせて頂きます」

「ええ! 任せて!」

 

 当たり前よねえ? 彼と正式に一党を組んでるのは私なんだから!

 ゴブリンスレイヤーの相棒も、どっちかと言うと神官の彼女だし、歌なんてあてにならないわね。

 それにしても疾走騎士を犬だなんて……どうしてコイツはこんな風評被害ばかり受けるのかしら。

 

 ……まぁ、落ち込んでても仕方ないわ。ちゃんとした疾走騎士の活躍を歌ってもらえるように頑張りましょ。

 そしたらきっと、私とコイツの二人の物語が歌われるようになって…………はっ! いけないいけない。 変な想像してる暇なんて無いわね。

 

「待ちなさい! 私達を置いていくつもり!?」

「……来るのか」

 

 妖精弓手が私達を呼び止めた。

 あ、来るのね。予想はしてたけど。

 

「拙僧らも冒険者、ついていかねば先祖に顔向けできませぬ故」

「わしらにも駄賃が出とるからの、働かざる者食うべからずってな」

 

 こうして、私達七人はゴブリン退治へと向かう事になった。

 ……いや、多くない? 銀等級が四人も居るゴブリン退治って何よそれ。

 というかそもそもの話、疾走騎士がこの依頼に着いていく意味が分からない。

 別に報酬が良いって訳じゃ……って、あれ? 報酬の話、してないわよね? もうっ! 話を端折り過ぎよ!

 

「あ、因みにここから二~三日ほど歩く距離なので頑張りましょうね」

「はぁ!?」

 

 ウッソでしょ疾走騎士!? うー……わかったわよ! やってやろうじゃない!

 




Q.今ガバムーヴしましたよね?

A.乱数調整です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート16 『この先、人間性が必要だ』

 こんな大人数で押し寄せて良いんですかねRTA、第十六部はぁじまぁるよー!

 前回、疾走騎士くんは、ゴブスレさん(の一党)に咥えてもらいました。

 今回は、長い冒険の準備をする所からです!

 

 まずは受付嬢さんの所へ行き、ゴブリン退治の依頼である事を報告します。

 旅支度の為、ゴブスレさんが前回分の報酬受け取りを頼みますが、ついでに疾走騎士くんの悪魔(デーモン)討伐報酬もここで受け取っておきましょう。

 前回は調査の為受け取れませんでしたが、昇級審査後には受け取れるようになっています。

 このタイミングが、一番無駄が無いんですよね。

 

 この後は、冒険に出る前に一旦解散となり、遠征準備の為のお買い物パートが挟まります。

 しかし待ち合わせ時間が指定されるので、なるべく早く済ませなければなりません。

 遅刻しちゃうと他のメンバー達の好感度が下がるので、注意だよ!

 では早速、商店へと向かいましょう。

 

 購入するのは水と食料。後は匂い消しの香袋を三つと、クッキー☆に、イカスミ焼きです。

 今回の冒険は移動だけで三日ほど掛かるので、水と食料がその分必要となります。

 匂い消しの香袋を買うのは、今回の冒険では隠密行動が中心になるからです。

 疾走騎士くんは今まで正面突破がメインだったので必要ありませんでした。

 しかしこのクエストで臭い消しの香袋を持ってないと、ゴブリンに気付かれて仲間を呼ばれちゃうよ! 寝てるゴブリン達が起きたら、数の暴力に押し込まれちゃ↑~う

 まあ、そうなる前にゴブスレさんからゴブリン汁をぶっかけてもらえるので大丈夫なんですけどね。

 あ、三つ買うのは疾走騎士くんの分と魔術師ちゃんの分、そして妖精弓手の分です。これでゴブリン汁ぶっかけイベントを短縮できるよ!

 クッキー☆とイカスミ焼きを買うのは、夜営時に使用する為です。

 仲間の好感度を上げたり、回復効率上昇や疲労耐性などのバフが掛かったりしますね。

 

 

 これで今のアイテム欄は──。

 

 治癒の水薬(ヒールポーション) 三本

 解毒の水薬(アンチドーテ) 一本

 強壮の水薬(スタミナポーション) 一本

 匂い消しの香袋 三つ

 水と食料 三日分×二人分

 クッキー☆

 イカスミ焼き

 チーズ

 折れた直剣

 

 以上となります。

 折れた直剣は疾走騎士くんが最初から持ってました。親の形見かな?

 でもコレ装備も出来ないし、捨てる事も出来ないぶっちゃけTDNゴミなんですよね。

 ……まあいいや。アイテム欄には余裕がありますし、この折れ直やたらと軽いですし、邪魔にもなってないからね。放置安定です。

 

 んじゃ用意が出来たので集合場所へ、いざ鎌倉。

 

 ……一番遅くに到着するRTA走者が居るらしいっすよ?

 まあ、時間にはちゃんと間に合ってたので問題はありません。

 

「揃ったわね、それじゃあ出発よ!」

 

 あとは妖精弓手を先頭に、ひたすら歩くだけです。

 道中はなるべくエンカ率の低い街道を通りましょう。

 最短距離で進むよりも回り道ですが、道から外れて敵と戦いながら進むと、余計に時間が掛かります。

 しかし、街道でも狼とかが襲ってくる場合があるので油断は出来ません。

 とはいえ、相当運が悪くなければ遭遇する事もないんですけどね。

 

 

 エンカするなよ(暴れるなよ)……エンカするなよ(暴れるなよ)……。

 

 

 ワン、ワン、ワン。

 

 

 あのさぁ……イワナ、書かなかった!? エンカするぬゎって!

 

 

 狼に囲まれました。あほくさ、無駄に数が多い狼を相手にするのはロスにしかならないって、それ一番言われてるから。

 じゃあ疾走騎士くん、パパパッと追い払っちゃって?

 

 

 ワン、ワン、ワン。

 

 

 はい、説得成功です。狼達が逃げていきました。

 例え獣といえど、向こうは統率された群れですからね。

 わざわざ圧倒的強者に手を出して無駄な被害を出す様な事はしないのです。

 

 夜になったので夜営をします。判定が難しく時間が掛かる火起こしも、魔術師ちゃんの呪文のお陰でパパパッと終わりました。

 買っておいたクッキー☆とイカスミ焼きに、牛飼い娘さんから貰ったチーズも振舞い、特に銀等級三人のご機嫌を取りましょう。

 二千歳児、酒飲み、チーズ好きなドラゴンと、各々の好物が揃っていますので、かなりの好感度上昇が見込める筈です。

 

 イベントの途中で、ゴブスレさんの荷物の中にある魔法の巻物(スクロール)に、妖精弓手が気付きます。

 ここで重要なのは、その魔法の巻物(スクロール)が《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)で、海底へと繋がっている事を疾走騎士くんが知っておく必要があるのです。何故知っておく必要があるのかは後述します。

 なのでゴブスレさんを説得しましょう。ゴブリンに知られる危険性があるのはわかりますが、仲間同士で手の内を共有しておく事の方が重要ですからね。

 

「もしかしてソレ《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)じゃない?」

 

 ファッ!? 説得しようとした瞬間、魔術師ちゃんが名推理で言い当ててしまいましたよ!?

 

「…………」

「黙ってるって事は正解で良いのね?」

「あの、どうして分かったんですか?」

 

 そうだよ(困惑)

 組み立てたチャートよりも最適解な事をされてしまうと、走者としての立場がないんだってそれ一番言われてるから……。

 

「師匠が前に変な依頼を請けたって言ってたの」

「え……」

 

 変な依頼と聞いて変な事を考えてる女神官ちゃん。やはり彼女は性職者なんやなって。

 

巻物(スクロール)にちょっと手伝いをしたって言ってたわね。でも巻物(スクロール)なんてのは大体、そのまま開いて発動するだけの物でしょ? 魔法使いが後から手を加える必要がある巻物(スクロール)って考えれば……まあ《転移(ゲート)》くらいよね。あれは行き先を書き込まないといけないもの」

 

 つまり、ゴブスレさんが魔女さんに依頼して、(《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)に行き先を書き)咥えてもらったという情報があれば、言い当てる事も可能なんですね。

 これは役に立つ情報です。次のRTAの為にちゃーんと書いておきましょう(もう走らない)

 

 しかしまだ《転移(ゲート)》が海の底に繋がっている事は教えてもらっていません。

 ここまでバレたんだし、もう良いよね? 早く教えるんだよホラホラホラホラ!

 

「海の底だ。それ一つでゴブリンの巣を潰す事が出来る」

 

 やったぜ。これで今回のダンジョンアタックの準備は全て完了です。

 あとはさっさと寝て、翌日の移動に備えましょう。

 今回は一党が七人居ますが、見張りの交代は前衛職の三人で回します。

 術者は休ませないといけないからね、しょうがないね。

 ちなみに順番はゴブスレさん、疾走騎士くん、妖精弓手の順になりました。

 

 ただこの移動と夜営の繰り返しが丸二日以上は続くので、視聴者の皆様も退屈だと思います。

 

 と、いうわけで、みなさまのためにぃ~…………現状の疾走騎士くんのステータスでも見て、時間を潰しましょう。

 

 現状はこんな感じです。

 

 

 

疾走騎士

種族:只人 性別:男

年齢:15歳

経歴:没落騎士/苦難/孤独

等級:鋼鉄等級

身体的特徴:細身

容姿:優男

髪:黒

瞳:深淵と混沌の渦

 

ずずずっずぞぞぞぞ~。ぷはー、今日も良いペンキ!☆

 

能力値

 

HP:1239

スタミナ:126

装備重量:25.1/67.0

 

体力:36

持久力:27

筋力:17

技量:16

知力:⑨

精神力:RTA走者並

奇跡使用回数:2/2

 

きっと今日は休憩の日なんだよ

 

武器

 

鏡面の刃盾

近接/射程:なし

属性:斬突打

「刃盾」/両手に携えた盾を用いて攻撃を行う。或いは片方の盾で相手の攻撃に備えながら、もう片方の盾で攻撃を行う。

斬る、突く、叩く等、多彩な攻撃を繰り出す事が出来るよう、縁を削り刃とする工夫が成された鉄のカイトシールド。しかしその質は決して良いとは言えない物であり、彼の強さはあくまでも彼自身が積み重ねた鍛練の賜物である。

表面が磨きあげられており、道具として使えば相手に目眩ましの効果をもたらす事が出来る。(天候が晴れ、かつ太陽の光が届く場所に居る場合のみ使用可能)

 

あああああああああ!!忘れてたああああ!

 

蹴撃

近接/射程:なし

属性:打

「蹴撃」/強烈な蹴りを相手に喰らわす。足装備が持つ蹴撃基本威力に、使用者の重量、速度、筋力を上乗せした物を最終的な攻撃力として計算する。

 

霊夢ぅ~、客か?

 

防具

 サレット

 ハードレザーアーマー

 ハードレザーガントレット

 ハードレザーレギンス

 新緑のマント

 

イカスミ焼き?

 

特殊能力

 

「致命の一撃」/相手に発見されていない状態での攻撃、或いは相手の攻撃を受け流(パリィ)した直後の攻撃は致命の一撃(クリティカル)となる。

 

「奇跡:《解毒(キュア)》」/対象の毒状態を治癒する。

 

「奇跡:《聖壁(プロテクション)》」/縦横5mまでの透明な板状の障害物を20m以内に設置する。

 

あ……まいっ!

 

「戦技:英雄の突撃」/盾を構え、前に突き出し一気に突撃する。そのまま盾で引き裂く攻撃に繋げる事が出来る。

敵が例えどの様な恐ろしい相手であろうとも、決して臆せずただ前へ突き進む、そんな姿にこそ人々は希望を見る。英雄とは、物語とは、そうして生まれるのだ。

 

お菓子だからね

 

「戦技:仙峰脚」/飛び込み蹴りを起点とした連撃の流派技。対空迎撃と下段攻撃への回避を兼ねた初段から連続で蹴りを叩き込む。

この蹴りは、遥か東方より伝わる、ある寺の名を冠する拳法の技。仙とは語りである。悟りの峯に登らんとする者よ、まずは蹴るが良い。修行はそこから始まる。

 

わたしも食べさせる~!

 

 

 

 ……あれ? これゴブスレ世界のステータスではありませんね。ナニカサレタのかな? え? GM(真実)がお前はこれでって? アクションゲーム用のステータス? しょうがねぇなぁ。

 

 ふう、ようやく遺跡へと到達しましたね。

 入り口に見張りのゴブリンと狼が居ましたが、妖精弓手が狙撃で処理してくれました。

 

 この先へ進むには、本来だと妖精弓手にゴブリン汁をぶっかける必要があります。

 しかし予め匂い消しの香袋を買っておいたので、イベントをカットする事が出来るんですね。

 

「奴等は臭いに敏感だ。特に女子供森人の臭いには」

 

 イベントをカットする事が出来るんですね。

 

「嘘でしょちょっと! 嫌よ! ライダー助けて!」

 

 あれ? イベントが始まっちゃいましたね?

 おかしいな、ちゃんと買っておいたのに。

 

 …………アイテムを渡してなかった。

 それでは匂い消しの香袋を妖精弓手に渡しましょう。

 

選択

 ▼匂い消しの香袋

 

誰に渡す?

 ▼妖精弓手

 

 お願いゴブスレさん、これで許してあげてくれよー頼むよー。

 

「まあいいだろう」

 

 ゴブスレさんのお許しを頂いたので、魔術師ちゃんにも一個手渡しました。

 え? 女神官ちゃん? 彼女はゴブスレさんと連日ゴブリン退治をして、とっくにゴブリン臭くなってるよ! ヨシ!

 それじゃあダンジョンへ足を踏み入れ

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 




Q.女神官ちゃんはゴブリン臭くなんかない! 彼女も臭い消しの香袋持ってるだけ!!

A.目隠ししたゴブリンで検証したら「ヨシ通れ!」って言われてましたよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート16 裏 前編 『好奇心は猫をも殺す。弁えることだな……』

 ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶、そして疾走騎士と魔術師。

 七人によって新たに結成された一党は、これからゴブリン退治へ向かう事を受付嬢に説明していた。

 

「──という訳でして」

「やっぱり余所からの依頼だったんですね」

 

 疾走騎士から事の顛末を聞いた受付嬢は、納得がいった様子で頷く。

 来る日も来る日もゴブリン退治に明け暮れるゴブリンスレイヤー。

 彼が退治したゴブリンは数知れず。

 つまり、彼に救われた人や村の数も、相応に多いという事。

 そんな彼の活躍を聞いて冒険者が来たとなれば、ゴブリン退治しかないだろう。

 彼の活動が実を結んでいたという事実に、受付嬢は御機嫌だった。

 

「ああ、それで予算が欲しい。前回の分の報酬は受け取れるか?」

「報告はまだですけど……ゴブリンスレイヤーさんならいいですよね。内緒ですよ?」

 

 彼女はゴブリンスレイヤーに向け、ウィンクしながら人差し指を口に当てる。

 本来ならば依頼の報酬は、冒険者から詳細な報告を聞いたギルド職員が、達成報告の書類を作成した後に支払われる。

 ……が、何事にも例外はあるという事だろう。

 受付嬢にとってのゴブリンスレイヤーは、そういう存在なのだ。

 

「あの、すみません」

 

 彼女が報酬を用意しようとした所で、ゴブリンスレイヤーの隣に居た疾走騎士が一歩前に出る。

 ゴツンと彼の鎧が受付のカウンターにぶつかる音が響いたが、そこまで強く当たった訳ではないので受付嬢はあまり気にはしなかった。

 

「自分達が以前遭遇したはぐれの悪魔(デーモン)。あれの討伐報酬はもう受け取れますか?」

「……あっ、調査は既に終わりましたので受け取れます! 少し待っていて下さいね!」

 

 一時保留となっていた悪魔(デーモン)の討伐報酬。その調査も昨日の時点で終わっているので、報酬を支払う事は可能である。

 しかし、それは本来ならば受付嬢から疾走騎士に連絡するべき内容だった。

 どうやら今回の事ですっかり頭から抜け落ちていたらしく、慌てた様子で報酬の用意をしに奥へ走って行ってしまった。

 

悪魔(デーモン)? シエルドルタが討伐したの?」

「自分達二人で、です。北にある遺跡の地下で遭遇しました」

「遺跡! いいじゃない! また後で話聞かせなさいよ!」

「構いませんよ」

 

 未知への探索こそ、妖精弓手が冒険者になった理由である。

 疾走騎士達が達成した『遺跡の底に眠るはぐれ悪魔の討伐』は、彼女が興味を抱くには十分な冒険話(シナリオ)のようだ。

 

「おいおい耳長の。お主には斥候の仕事もしてもらわにゃ困るぞ」

「分かってるわよ。でもただ歩くだけなんて退屈じゃない」

 

 目的地までかなり長い道程になるものの、通る道は殆どが街道である。

 怪物(モンスター)と遭遇する確率は低いだろうが、盗賊が待ち伏せしていたり、狼等の獣が出没する事もあるだろう。

 しかし彼女は銀等級の冒険者であり、警戒など朝飯前。

 つまり暇になってしまうわけで、疾走騎士の話に飛び付くのも仕方の無い事だった。

 

「子供かお主は……」

「あーら残念! 一番の年長者よ!」

 

 勝ち誇ったかのように宣言する妖精弓手に、そういうところが子供なのではないかと内心呆れる鉱人道士。

 そうしていると、報酬が入った袋を二つ手にした受付嬢が戻って来た。

 

「すみません、お待たせしました。ええっと、こちらがゴブリンスレイヤーさんの分で、こっちが疾走騎士さんの分ですね」

「助かる」

「ありがとうございます」

 

 カウンターの上に報酬を置き、ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の前に差し出すと、二人はそれを受け取った。

 

「じゃあ準備が出来たら街の出口で集合って事でいいかしら?」

「そうですね、こちらも少し買い揃えたい物がありますから」

「あぁ」

 

 用件を終えた一党が、ギルドを後にしたのを見送る受付嬢。

 彼女は先程の、疾走騎士への報酬を忘れていた事にため息をつく。

 それなりに長くこの職務に就いているのにこんな失敗をしていてはいけない。しっかりしなければ……と、心の中で自らを戒めている様子だ。

 

「ありゃ、もう行っちゃったか」

 

 すると監督官が戻ってきた。

 ゴブリンスレイヤーを部屋に案内しに行っただけの筈だが、やけに帰ってくるのが遅い。

 もしやサボっていたのではないか? 疑念を持った受付嬢が問いただす。

 

「行っちゃったか、じゃあないですよ。一体何をしてたんですか?」

「いやー、部屋がちょっとぐちゃぐちゃになっててね? 掃除に難儀してたんだよ。 特に絨毯についた足跡なんかが──」

 

 まいったまいったと肩を透かす彼女に対し、受付嬢はジト目を向けていた。

 いつになったら自分はお昼を食べに行けるのだ、そんな眼差しが監督官へと突き刺さる。

 

「──っと、ゴメンゴメン! もうお昼食べに行ってオッケーだよ。これで貸し借りは無しって事で!」

「……はぁ、分かりました。それじゃあ、後はお願いします」

「行ってらっしゃ~い」

 

 お昼を食べ損なうのはよくある事だ。

 時間は過ぎちゃったけど、何か余り物でも良いから女給の人に出してもらうとしよう。

 受付嬢は空腹の音を鳴らすお腹を手で擦りながら、酒場へと向かうのだった……。

 

「……さて、と」

 

 仕事を再開する監督官は、まだ処理の終わっていない書類に手を付けながら、数日前の事を思い出す──。

 

───────────────

 

 ──これは、疾走騎士が冒険者となった翌日、彼が魔術師と共にマンティコアを討伐した日の出来事である。

 殆どの冒険者達が冒険へと発った頃、ギルドへとやってきたゴブリンスレイヤーは一直線に受付へ向かうと、監督官へ声を掛けた。

 

「おい」

「あ、ゴブリンスレイヤーさんですか」

 

 受付嬢は残念ながら休憩中。後で何を言われるか分からないので、用件なら後程彼女が戻ってきてからにして欲しいのだが……監督官がそんなふうに考えていた所で、ゴブリンスレイヤーが口を開く。

 

「五年前、あの孤電の術士(アークメイジ)が残した書物をここに寄贈した。まだ残っているか」

「ええっと、確か資料になりそうな物は本部に送られて、残りは保管してありますけど……どうかしたんですか?」

「探したい物がある」

 

 その言葉に監督官は考え込む。確かに五年前、大量の書物をゴブリンスレイヤーが運び込んできたことを監督官は記憶していた。

 しかしその書物が置いてあるのは、彼女達職員しか立ち入れないギルドの奥であった。

 

「あー……すみません、書物は職員区域に保管されてるのでゴブリンスレイヤーさんは入れないんですよ。私で良ければ探しておきますけれど?」

「そうか。頼む」

「ちなみにどういった書物ですか?」

「……RTAだ」

「あーるてぃーえー?」

 

 初めて聞く言葉に、監督官は首を捻りながらゴブリンスレイヤーの言葉を復唱した。

 

「あぁ、確かに奴はそう言っていた」

「うーん、よく分かりませんが、もし見付けたら後でお渡ししますね」

「あぁ」

「あ! ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 そこで休憩を終えて戻って来た受付嬢が、ゴブリンスレイヤーの姿を見て駆け寄ってきた。

 どうやら私はもうお呼びでないようだ。丁度良いし、このまま休憩に入らせてもらおう。

 冒険者達も殆どが冒険に出て、暫くは暇な時間だろうし問題は無い。そう判断した監督官は、ゴブリンスレイヤーの言っていた書物を探すため、奥の職員区域へと足を運んだ。

 

 監督官の趣味は読書である。特に小説は大好物。それこそ日頃から仕事の合間に暇な時間を見付けては読む程だ。

 その為、彼女はギルド内に置かれている本の場所は大体覚えていた。

 

「あったあった。あるとすればこの中だね」

 

 ゴブリンスレイヤーがギルドへ寄贈した孤電の術士(アークメイジ)の書物は、他の書物とは別に箱詰めされた状態で物置き部屋の隅に眠っていた。

 木箱を開き、詰め込まれた本を無造作に一冊一冊取り出していく。

 

「お? これは……」

 

 一冊の本を手に取った所で彼女が気付く。……いや、これは本というよりは手記(ノート)だ。

 束ねられた羊皮紙に、ピンを通して一まとめにしただけの物。

 しかしその表紙に書かれていたのは『RTAについて』という文字。これがゴブリンスレイヤーが探していた書物に間違いはないだろう。

 

「……ふむ」

 

 ここで彼女の好奇心が疼いた。あのゴブリンにしか興味の無いゴブリンスレイヤーが、書物を探しているという事実。きっと受付嬢も驚く事だろう。

 そしてその書物に書かれているのは、RTAという聞いたこともない事柄について。これで好奇心が疼かない訳がない。

 それにゴブリンスレイヤーも、別に中身を読むなとは言っていなかった。つまり私は何も悪い事はしていない。寧ろ冒険者の役に立つ事をしているのだから称賛されても良いくらいだろう。

 ニヤリと口を緩ませ、彼女はその手記を開く。

 

 

『やあ、これを読んでいると言うことは、君はRTAの《走者》なのかな? それとも、ソレに近しい者なのかな?』

 

『もし、そのどちらでもないのであれば……回れ右だ。世の中には知らない方が良いこともあるからね』

 

 

 1ページ目に書かれていた文章であった。

 ……ふむ、《走者》というのが何なのかは分からないが、私がコレを読むべきではないという事だけは理解した。

 とはいえ、そんなふうに書かれては逆に気になってしまうのが人の性質(さが)というものだ。

 監督官は意気揚々とページを捲る。

 

 

 

 

 

 

『好 奇 心 は 猫 を も 殺 す』

 

 

 

 

 

 

「ヴェッ……」

 

 ぱたん……と、監督官は反射的に手記を閉じた。

 こちらの動きが完全に読まれている。開いた先のページにあった警告文、そこに書かれた《猫》が自分の事を指しているのは明白であった。

 

 ……これ以上読むのはやめておこう。

 わざわざパンドラの箱を開ける必要はない。それは冒険者の領分なのだ。

 ゴブリンスレイヤーに渡して、彼がこの書物を欲している理由をそれとなく聞いて、受付嬢をからかうネタに出来ればそれで十分だろう。

 そう結論付けた監督官は、RTAの手記の他に何か面白そうな本は無いか、更に木箱を漁り続ける。

 

 そして、一冊の本を見付けた。

 

「……ん? なにコレ、『真夏の夜の淫夢』?」

 

 それは木箱の底、他の本の下敷きになるように置かれていた。題名からして官能小説だろうか?

 ……いやいや、官能小説がこんな所にあってはマズイぞ。風紀を乱すような書物は間違いなく処分されてしまうだろう。

 とはいえ、コレは本当に官能小説なのだろうか。題名が少しアレなだけで、内容は普通の小説かもしれない。念の為にも、読んで確かめなければ。

 なんて仕事熱心な職員なのだろうと自身を自画自賛しつつ、若干鼻息を荒くしながら小説を紐解く。

 

 

 

 それこそが真のパンドラの箱であるという事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんだこれはたまげたなあ」

 

 暫し読み耽った後、本を閉じた彼女が呟いた言葉であった。

 

 

───────────────

 

 ゴブリン退治の準備をする為、疾走騎士と共に商店で必要な物を買い揃えた私は、一党の合流場所である街の出口へと向かっていた。

 購入した物を詰め込んだ袋を背負い、両手に盾を持った疾走騎士。私はその後ろから付いて歩く。

 

「ねぇ、なんでこのゴブリン退治に参加したのよ? もしかして、また宣託(ハンドアウト)?」

 

 今回の依頼の内容は、ゴブリンスレイヤーを含む、それぞれ種族が違う銀等級の四人を一党として、ゴブリン退治を行えというもの。

 そこへ更に、いつもゴブリンスレイヤーと組んでいる女神官が一人加わる訳で、言ってしまえば戦力が過剰過ぎるのだ。わざわざ疾走騎士までもが参加する必要は無いように思える。

 だが、それでも疾走騎士は今回のゴブリン退治に同行を申し出た。何か理由があるのだろうか? そう考えた時、真っ先に思い当たったのが彼へ宣託を下す神の存在だった。

 

「ええ、その通りです」

「あぁ……やっぱり」

 

 私は半ば諦めたようにがっくりと肩を落とす。

 彼がこうして脇目も振らずに行動を起こした場合、その冒険では大体イレギュラーが発生する。

 つまりこの冒険でも同じような事が……って、なんかもうパターンが読めてきてるわね。

 

「必要になる物も指定されていたので、急いで買い揃えた訳ですが……」

「え、それも宣託だったの? てっきりアンタの好みで選んだんだと思ってたわ」

 

 今回買ったのは食料と、あとは匂い消しの香袋に、クッキーとイカスミ焼きだったかしら?

 クッキーとイカスミ焼きに関してはまるで意味が分からないわね。とても冒険に必要な物とは思えないし……。

 

「あの銀等級の方々と親睦を図れという事でしょう。一党を組む上で、信頼関係は築いておかなければなりません」

「成る程ね」

 

 クッキーはあのお子様森人に渡してやれば機嫌は良くなりそうね。

 イカスミ焼きは酒のつまみだし、鉱人に対しての土産には丁度良さそうかしら。

 でもそうするとあの蜥蜴人の分が足りないわね。

 蜥蜴人の好物なんて私にも分からないし、下手な物を渡したら却って機嫌を損ねるって事なのかしら?

 

 それにしても、やけに細かいところまで気を配る神様よね。

 人間関係までサポートしようとするなんて、やっぱり神官の子が言ってたような、悪い神様って線はなさそうだけど……。

 

 ……でも──

 

「どうしました?」

「う、ううん何でもないの! ちょっと考え事してただけ。ほら、早く行きましょ!」

 

 ──でも、宣託は本来、『駒が進むべき道を指し示す光』の筈なのに、疾走騎士の宣託はまるで、『彼を縛り付ける鎖』のように思えてならないのよね……。

 




Q.くっ! 監督官さえたまげなければこんな汚い四方世界にはっ……!

A.ダメだ、幾ら周回してもたまげてしまう! たまげさえ……たまげさえしなければセーフなのにっ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート16 裏 中編 『小鬼喰らい』

久々の投稿ですので淫夢要素はありません。



 森人の領地にあるゴブリンの巣へと向けて、街道を歩き続ける一党。周囲には見晴らしの良い平原が広がっていた。

 しかし腰ほどの高さまで生えた雑草が所々に生えており、身を隠す事は出来るだろう。

 実際に疾走騎士は以前、この街道に陣取っていた盗賊グループを草むらからの奇襲により壊滅させている。

 つまり、同じようにゴブリンが隠れている可能性があるという事だ。

 無論、ゴブリンスレイヤーはそれを理解していた。

 故に彼は周囲に目を配らせながら、妖精弓手と共に先頭を歩いているのだ。

 

「ずっとそうしてる気?」

「奴等がいつ襲ってくるかも分からん」

 

 返す言葉を聞いた妖精弓手は、不愉快そうに口をへの字に曲げる。

 まだ会ったばかりで信頼してもらえないのは仕方がない。

 だが銀等級の冒険者として、斥候の腕を信用してもらえないのは、彼女にとって心外であった。

 とはいえゴブリンスレイヤーには悪気がある訳ではなく、そもそも信頼や信用といった問題ではない。

 彼はゴブリンに対し、決して手を抜かない。ただそれだけの事なのだ。

 

「私に任せなさいって言ってるのよ。その為の斥候でしょ」

「……そうか」

 

 渋々といった様子でゴブリンスレイヤーは妖精弓手の後ろへと下がる。

 現在の一党の隊列は、前から順に妖精弓手、ゴブリンスレイヤー、次に蜥蜴僧侶と鉱人道士が並んで二人、その後ろに女神官と魔術師の二人、そして最後に疾走騎士の順となっていた。

 

「それで、なんでシエルドルタが一番後ろなのよ? 壁役は前じゃないの?」

 

 妖精弓手が振り向いて問う。

 冒険に於いて(タンク)は先頭に据えるのが隊列の基本。しかし疾走騎士が居るのは最後尾だ。妖精弓手の疑問も尤もである。

 

「奇襲に備える為です」

「だからそれは私の役目で──」

「貴女は後ろにも目がありますか?」

「……はあ? 何よいきなり」

 

 妖精弓手の言葉を遮り発言する疾走騎士。その意味が理解できず、彼女は目を細めて首を傾げる。

 

「この人数だと後ろにも一人、斥候を置いた方が良いのではないかという話です」

 

 待ち伏せを受け包囲されたり、狭い空間に閉じ込められたりしては目も当てられない。と、疾走騎士は主張する。

 警戒の目が後ろにもあれば、後方からの不意打ちに対し迅速に対応出来るだけでなく、退路の確保も行える。全滅の確率は、間違いなく減るだろう。

 

「じゃあ逆に聞くけど、そっちはどうなのよ? 後ろに目が付いてるわけ?」

「…………」

 

 等級は既に鋼鉄となった疾走騎士だが、彼はまだ冒険者になって数日の新人である。

 背後を任せられる力量を有しているのか、そんな懐疑的な姿勢を示す妖精弓手。

 実際の所、自らを操作する神(プレイヤー)の目が後ろにあるのは事実だが、そんな話を出来る訳がない。

 疾走騎士は困った様子で言い淀む。

 

「ねえ、ちょっと良い? 口を挟むようで悪いけど、以前コイツが後ろに居たお陰で命拾いした事があるの。こっちとしてもその方が助かるわ」

「その、私も助けられました」

 

 見かねた魔術師が疾走騎士に助け船を出し、女神官はそれに同調する。

 彼女達は初めての冒険で、背後からゴブリン達の奇襲を受けたものの、後方に居た疾走騎士によって助けられた経験があるのだ。

 妖精弓手は考える。前衛には銀等級が二人居るのだ。相手がゴブリン程度なら、前方の守りは十分と言えよう。

 だが後方に関しては確かに不安がある。後ろに居る味方によって、どうしても死角が出来てしまうのだ。

 森人の耳の良さを活かせば探知は可能だが、前方に気を取られている時であれば、聞き逃す事もあるかもしれない。

 そもそも早期に敵を発見出来れば、遠距離から弓で仕留めてそれで終わりだ。現時点での一党の構成を考慮すれば、守りを主体とする彼を後方に置くのは合理的かも知れない。

 それに、後衛の彼女達もまた新人の冒険者だ。新人同士がカバーし合えるのなら、こちらは役割に専念できる。

 特にあの魔術師とは普段から一党を組んでいるらしい。恐らく彼女達からしても、その方がやりやすいのだろう。

 

 ──でも、シエルドルタにしろオルクボルグにしろ、私達に頼ろうって気が一切無いのはちょっと癪なのよね。

 

「……まあいいわ。後ろはよろしく頼むわよ」

「はい、そのつもりです」

 

 自らの為すべき事を明確に把握し、決して迷う事無く行動しているゴブリンスレイヤーと疾走騎士。

 そんな理解出来ない未知の存在達に、妖精弓手は笑みを浮かべ、再び前へと目を向ける。

 

「……っし」

 

 後ろでは魔術師がグッと拳を握っていた。

 疾走騎士と離れずに済んだのが余程嬉しいのだろう。

 そして尚も一党は進む。日は未だ高く風向きは追い風。絶好の冒険日和と言えた。

 

 

───────────────

 

 

 草むらに身を潜め、一党に忍び寄る者達が居た。

 金色に光る眼に、白く鋭い牙を持つ獣。彼等は獲物の臭いを嗅ぎ付けた狼達だ。

 数は十。群れとしては少ないが、集団で狩りを行うには十分な規模である。

 群れの先頭に立つのは一回り大きな体躯をした灰色の狼。この大狼こそが、群れのリーダーであった。

 

(注意は私が引き付ける。お前達は隠れていろ。私の合図と共に、死角から奴等を襲うのだ)

 

 リーダーの大狼が指示を出すと、他の狼達は草むらに身を隠しながら一党の後方へと回り込む。

 逃げ道を無くしつつ距離を詰め、奇襲を狙う算段のようだ。

 

(人間か。あまり気は進まぬが仕方あるまい)

 

 ──武装した人間を相手にするのは至難だ。特に鎧兜を身に付けた人間は。

 しかし、そこに獲物が現れたのならば、こちらも生きるために狩らねばならぬ。

 遭遇(エンカウント)したのなら、戦いは最早やむを得ない。それが我々の運命なのだ。

 

(……行くぞ!)

 

 意を決した大狼は先んじて注意を引く為、単身草むらから姿を現した。しかしその瞬間、矢が放たれる。

 

(ぐっ!?)

 

 眉間を狙った一矢だった。しかし大狼は咄嗟に牙で受け止める。

 咥えた矢をすぐに吐き捨てると、正面には弓を引き絞る妖精弓手の姿があった。

 

「アイツは私が仕留めるから周りを警戒して! 他にも何匹か隠れてるわ!」

(ちぃっ! こちらが姿を現すのを待っていたのか!)

 

 狼達の気配は事前に察知されていたのだ。

 己から仕掛けたにも拘わらず先制攻撃を受けた大狼は、目の前に居る一党が格上であると認識する。

 このまま戦えば被害は甚大。全滅もあり得る。とはいえあの弓矢からは逃げる事は難しいだろう。

 

 大狼がどうするべきか悩んでいる間にも、眼前に居る弓手は矢を放とうとしている。

 先程の矢を止める事が出来たのは運が良かったに過ぎない。次はやられる可能性が非常に高いという事を、大狼自身も理解していた。

 

(…………)

 

 ──だが、それでいい。

 隠れている仲間達には予め、私がやられればその時点で逃走するよう言い聞かせている。

 この戦闘は、たった一匹の狼が冒険者と遭遇(エンカウント)し、倒されて終わるだけの戦いになるだろう──。

 

 決断を下した大狼は真っ向から牙を剥き、飛び掛かろうとする。

 

 ……しかし、踏みとどまった。

 

 

 ──わん! わん! わん!

 

「ゴブリンスレイヤーさん! 囲まれています!」

「ゴブリンではないようだな」

「だーもう! さっきから狼だって言ってるでしょ!?」

 

 配下の狼達が草むらから飛び出すと、冒険者一党を取り囲んだのだ。

 

(お前達……何故出てきた!)

 

 不意を打つ形で襲わせる為に潜ませていた狼達が、どういう訳か指示を無視し、合図を待たずに姿を現した。

 わざわざ出てこなければ、逃げる事も容易だった筈。大狼は困惑した。

 

 ──わん! わん! わん!

(ふざけるな! お前達を犠牲にする訳にはいかん!)

 

 彼等の行動の目的は、身を呈してでも大狼が逃げるまでの足止めを行うという、自己犠牲に他ならない物であった。

 大狼は憤怒する。仲間の命を犠牲にし、自身が生き延びるなど、決して許される事ではないのだと。

 実の所、この狼の群れはこれまで人との戦闘を極力避けるようにしていた。

 街道に来たのも以前に一度、ここで賊の死体にありつけたからだ。

 冒険者に討伐されたのであろうか、中には燃やされ炭になっている物もあったが、大半は喰える状態で転がっていた為に群れの腹を満たす事が出来た。

 しかしそれからまともな食事を取れぬまま、数日が経過していた。

 日中は人通りの多い街道だ。人に討伐された何かが居ればよし。居なければ致し方無しとして、人を狩る算段を立てたのである。

 

 しかし、今回は運が悪かったのだ。冒険者として在野最上級である銀等級の冒険者、それを四人も含んだ一党と出会うなど、誰が想像出来ようか。

 冒険者側が全滅するか、怪物の群れが倒されるか、遭遇(エンカウント)の結果は二つに一つ。いずれにせよ、狼達に抗う術は無い。

 

(やはりこれが……我々の運命だという事なのか?)

 

 そして無慈悲にも、妖精弓手の矢が、狼へと放たれようとしていた。

 

「わん!」

「ひゃっ!?」

 

 だが突然、後方に居た筈の疾走騎士が、妖精弓手の耳元で叫んだ。

 驚いた拍子に妖精弓手の放った矢は狙いが外れ、大狼の足元へと突き刺さる。

 

(……今、なんと言った?)

 

 大狼は自身の耳を疑った。

 何故なら犬の鳴き声を真似ているようにしか聞こえないであろう疾走騎士の声が、狼達には言葉として聞こえていたのである。

 そしてその言葉は、冒険者側と狼側、その両者が傷付かずに済む第三の選択肢を提案していた。

 

「わん!」

(『見逃す』だと? 本気で言っているのか?)

 

 敵である者に見逃されるなど、本来であれば屈辱だ。

 我々が弱者であると、見下されているという事なのだから。

 

「わん!」

(……成る程。そうか、わかった)

 

 だが、大狼は提案を受け入れた。

 ゴブリンであれば泣いて赦しを乞い、相手が油断したところで襲いかかる事もするだろう。

 しかし我々は狼だ。誇りも、仲間を思いやる心もある。

 仲間の為に、ここは退こう。

 判断を下した大狼が一党に背を向けると、ゆっくりと歩いてその場を離れていき、配下の狼達もそれに続く。

 そうして──。

 

 

 まもののむれはにげだした。

 

 

───────────────

 

 

「ちょっと! どういうつもりよ!?」

 

 妖精弓手が涙目で耳を抑えながら、疾走騎士を怒鳴っている。

 森人は耳が良いが、妖精弓手の場合は特に秀でている。今回の場合はそれが仇となってしまった様だ。

 

「これが一番早いと思いました」

「早いって……別にやっつけちゃってもよかったじゃない! 皆もコイツに何か言ってやりなさいよ!」

 

 狼の群れを逃がした事に納得がいかない妖精弓手は、一党の面々に意見を求める。

 

「ふむ、拙僧としては善き結果であろうかと思いますが」

「そ、そうですね。私も神官なので、倒さずに済んだのならそれはそれで……」

「正直、囲まれた状態からあの数を相手にするのはちょっと辛かったかしらね。ほら、私達新米だもの」

「うぐぐぐ……!」

 

 しかし、彼等が疾走騎士を批難する事は無かった。

 たとえ相手が狼と言えど、万が一は確かに存在しているのだ。

 賽子を振らず、確実に場を切り抜けられる手段を取った疾走騎士の選択は、決して間違いではない。

 

「ゴブリンでは──」

「あんたは何言うか分かるからいいっ!!」

 

 それにしてもゴブリンスレイヤーの答えを聞かずに怒鳴るのは、完全にただの八つ当たりである。

 見かねた鉱人道士が、荒れる妖精弓手を嗜めようとする。

 

「まあまあ耳長の、そこまでにせんか。わしらが先を急いどるのは間違いないじゃろうて」

「あーあーもうっ、わかったわよ! でも二度と私の耳元で犬みたいに吠えないこと! いいわね!?」

「分かりました」

 

 これ以上駄々を捏ねても無意味だと理解した妖精弓手は、ビシッと人差し指を疾走騎士に向けた。

 

「今んとこキャンキャン犬のように吠えとるのは耳長の方じゃがのう?」

「聞こえてるわよ鉱人! こっちは鼓膜が破れるところだったのよ!?」

 

 すると二人は言い争いを始めてしまった。森人と鉱人の仲が悪いのはもはや伝統である。

 とはいえ、そろそろ先へ進まねばならない。これ以上のロスは、旅程の遅れに繋がってしまうだろう。

 

「お二人とも、我等が冒険者の手本となるべき存在だという事をお忘れなく」

「う……」

「ぐ……」

 

 蜥蜴僧侶が背後から双方の肩を掴み、喝を入れる。

 心情的に逆らえないのだろうか、二人は押し黙り、それ以降喧嘩をする様子は無かった。

 そうしてようやく、一党は再び先へと進みだす。

 

「ねえ疾走騎士。あの狼達、本当に逃がして良かったの?」

「そうですね。私も先程はああ言いましたけれど、また人を襲ったりするかもと考えると……」

 

 隊列の後方に戻った疾走騎士に、魔術師と女神官が話しかける。

 どうやら彼女達は、逃がした狼達が再び人を襲うのではないかと、不安を抱いている様だ。

 だがそれは杞憂だと疾走騎士は頷く。

 

「狼は頭が良いですから、今回の件で学習し、人を狙う事はまず無くなると思います」

「本当ですか? それなら……」

 

 疾走騎士の答えに女神官は安心し、ホッと一息。

 

「ふぅん、やけに詳しいのね?」

 

 しかし、魔術師はまだ納得していない様子だ。

 先程一党を取り囲んだ狼達は、今にも飛び掛かって来そうな状態だったが、疾走騎士が吠えた途端に背を向けて帰って行った。

 単に追い払ったと見るのが普通だが、ある呪文の存在が、彼女に別の可能性を思わせる。

 

「私はてっきり《獣心(ビーストマインド)》を使ったんじゃないかと思ったけど」

 

 《獣心(ビーストマインド)》とは、動物との意思疏通を可能にする呪文だ。

 疾走騎士がこの呪文を使っていたならば、狼達との和解も出来るだろう。

 

「自分は呪文を使えませんが」

「……分かってるわよ」

 

 そう、疾走騎士は呪文を使う事が出来ないのだ。

 だが彼は何かを隠している。

 あの狼達がもう人を襲わないという話は、決して確実ではない。

 彼がそこまで自信を持って言う理由がある筈なのだ。

 

「……ただの経験則ですよ。農村の生まれですから、害獣には度々困らされていました。それに──」

「それに?」

 

 魔術師は首をかしげる。

 少しの間を置いて、疾走騎士は頭を横に振った。

 

「……いえ、なんでもありません」

「何よ、気になるじゃない」

 

 なんでもないとは言うが、本当に何も無い訳ではない。

 ただ伝える必要の無い情報だと、疾走騎士が判断をしただけ。

 しかし、たとえ重要な情報ではなかったとしても、共有はしてもらいたいのだ。

 すると魔術師は前かがみになり、俯いて考えを纏めている疾走騎士の視線に割り込む。

 

「!」

 

 びくりと一瞬、疾走騎士がたじろいだ。

 兜の隙間から彼の目に映ったのは、不機嫌そうにジトっと自身を睨んでいる魔術師の顔。

 そして彼女が前かがみになった事により、ゆさりと主張を強める、今もなお健やかに成長中の豊かな胸であった。

 

「……保険を掛けてみたんです」

「保険? あの狼達が?」

 

 顔を背け視点を逸らしつつも、疾走騎士はぽつりと答える。

 しかしその足取りは目的地へ向け、尚も真っ直ぐに進み続けていた。

 魔術師は隊列を崩さぬよう姿勢を戻し、疾走騎士の傍を歩く。

 

「ええ。自分に与えられる権限はごく僅か。その中でも出来る限りの事をしたかった」

 

 彼は宣託(ハンドアウト)を受けている。

 そして勿論の事だが、神から下された指示は絶対だ。

 故に逆らえない、自由は無いと、そういう事なのだろうか。

 だがしかし彼は同時に、出来る限りの事をしたいと言った。

 全力を尽くし、神の期待に応えようとしているのだ。

 

「……ええっと、つまり?」

 

 彼の言葉は、ただ聞くだけならば簡単だ。

 だがその真意は深く、深く、深淵の底にある。

 何とか理解しようと考えを巡らせて、更なる話を聞き出そうとする。

 彼は突然ちらりと背後を見やり、淡々と言い放った。

 

「ガバ対策です」

 

 そうして魔術師は匙を投げた。

 

───────────────

 

 街道から逸れた位置にある高原、冒険者一党から離れた狼の群れは、その真中で屯していた。

 

(とにかく、別の獲物を探そう。何はともあれ、先ずは腹を満たさねばならん)

 

 命拾いをしたものの、群れは未だ飢えている。状況は何一つとして変わっていなかった。

 すると高原から周りを見下ろしていた配下の狼が一匹、──わん、と一吠え。何かに気付いた様子だ。

 知らせた狼の目線の先を見てみると、遠い位置の草むらの中でゴブリンが数匹眠っていた。

 はぐれと呼ばれているゴブリン達だ。

 

(ふむ、小鬼か)

 

 至る所で現れるゴブリン達は時折、狼を使役し、人を襲う事がある。

 それは狼の誇りを穢す行いだと、大狼は以前から目に余る様に感じていた。

 

 ──ここらで弱肉強食の摂理を教えてやるのも悪くはない。あの様子ならば、容易く狩れるだろう。

 所詮狩った所で、食せるのは皮と臓くらいだろうが……──。

 

(まあこの際だ。味に文句は言うまい)

 

 大狼の決断に配下の狼達も同意して、群れは高原を下って行く。

 

(何よりも、借りが出来てしまったからな)

 

 窮地に立たされた我々を敢えて逃がした、鎧兜を身に付けた奇妙な人間。

 一体何者なのか見当もつかないが、恩人には違いない。

 その恩人は、我等狼に対してこう言っていた。

 

『この辺にぃ、美味いゴブリンの群れ、来るらしいっすよ? じゃけん今度狩りましょうね』

 

 ゴブリンにも食い出のありそうな個体がたまに居る。ホブと呼ばれる大物だ。

 その大物の群れを狩る協力を、あの人間は申し出たのである。

 

 ──借りは返さねばならない。我等狼の誇りに掛けて。それがこの四方世界に於いて、我が我である唯一の確証なのだ──……。

 

───────────────

 

 それから暫くして、ゴブリンを狩る狼の群れが度々目撃される様になる。

 彼等は特にホブを好んで食し、何よりも人間には危害を加えない為、ギルドも要観察として実質放置。

 そんな狼の群れを、冒険者達はこう呼んだ。

 

 

 『小鬼喰らい(ゴブリンイーター)』と──。

 





Q.なんか疾走騎士くんが狼と会話してるんですけど?

A.疾走騎士くんは犬。狼も犬。つまり同じ種族。よって会話が可能である。Q.E.D


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート16 裏 後編 『ほのぼの夜営』

遂に50話目となりました!
正直自分でもここまで続くとは思いませんでしたが……応援してくださっている読者様方の応援のお陰ですね。
今後とも、よろしくお願い致します!


 道中の広野で夜営の準備を始める一党。

 彼らが焚き火をする為の薪を集め終える頃には、二つの月が辺りを照らし始めていた。

 

「《インフラマラエ(点火)》」

 

 石で作られた囲いの内に組まれた木の枝から、ぼう──と火が上がる。

 本来であれば彼女の師である魔女が得意とする、単独での真言による魔術の行使。それを銀等級の三人が興味深そうに観察していた。

 

「へぇ! なかなか便利じゃない!」

「師匠曰く、『呪文の無駄遣い』らしいけど……」

「いやいや、冒険には重要な事柄でありましょうや」

「火打石はちと骨じゃからのう。手間が省けて助かるわい」

 

 ようやくといった面持ちで、一党が焚き火を囲み座り込んだ。

 狼との遭遇を除いて戦闘は無かったものの、ほぼ半日を歩き続けたのだ。疲労は確実に溜まっているだろう。

 

「でも、本当はもっと怪物との戦闘で活かしたいのよね」

 

 自身の魔術について称賛を受けた魔術師が、悩ましげに腕を組ながら頭を傾ける。

 その原因は妖精弓手達ではなく、いつも行動を共にしている疾走騎士にあった。

 呪文遣い(スペルキャスター)の扱う呪文は軒並み強力であり、冒険者達にとって起死回生の一手となりうる。

 だが並の怪物と遭遇した時には大抵、疾走騎士が正面から倒してしまうのだ。

 つまり、もっと出番が欲しい。彼女が疾走騎士に対して言いたい事はその一点であった。

 

「切り札は最後まで取っておく物ですよ。それにこういった『無駄遣い』も、貴女の呪文の用途が多岐に渡る以上、活用しない手はありません」

「そりゃあまあ、そうなんだろうけど……」

 

 魔術や奇跡は温存するのが定石。それは勿論魔術師自身も理解していた。

 ──肝心の切り札が《突風(ブラストウィンド)》で疾走騎士を空に飛ばすという、文字通りブッ飛んだ手段である事に関してはどうかと思うが……。

 未だ自らが力不足である事は分かっている。しかし、いざという場面だけではなく、常に彼の戦闘をサポート出来る手段が欲しい。そんな悩みを魔術師が吐露すると──。

 

「貴女が呪文以外で戦える手段も考えてありますよ」

「えっ、ホントに!?」

 

 あっさりと答える疾走騎士に魔術師が目を剥いた。

 

「クロスボウを御存知ですか?」

 

 クロスボウとは、引き金を引くだけで矢を射つ事が出来る機構を備えた弓だ。ボウガンと呼ばれる事もある。

 

「あんなの邪道ね邪道。自分の技量で敵を射ち貫いてこその森人よ!」

「お主はちと黙っとれんのか……」

 

 弓のように熟達した技量を求められる事もない為、最低限の力さえあれば誰でも扱え、また呪文とは違い、矢が尽きるまで撃ち続ける事が出来るという利点がある。

 

「クロスボウには軽量な物もありますし、弦を引く力もさほど必要ありません」

「確かに、それなら私にも扱える……かも?」

 

 今の魔術師にうってつけの武器と言えるだろう。

 だが、利点があれば逆に欠点もあるのが世の常だ。

 

「でもお高いんでしょ?」

「そうですね、威力が高い物であれば相応に。矢も消耗品で、弓で扱う物より高価です」

 

 疾走騎士が頷く。つまり欠点はコストだ。

 出費を抑えたい冒険者としてはなかなか痛い欠点である。

 

「もし扱えなかったら?」

 

 当てられなければ矢を無駄にするだけ。宝の持ち腐れだ。

 扱った事の無い武器を手にする不安を、魔術師が口にする。

 

「扱えますよ。貴女は《火矢(ファイアボルト)》を外した事がありませんからね」

 

 道理だと言わんばかりの態度を示す疾走騎士に、魔術師はハッとした。

 確かに呪文と同じ要領で撃てるのであれば、出来る気がする。相手に向けるのが杖から矢に変わるだけなのだから。

 もちろん初めは勝手の違いから上手く行かないかも知れないが、それで諦めるなど以っての他だ。

 

「寧ろ、上手くハマるのではないかと考えていますが?」

「……その言い方はずるくない?」

 

 そこまで言われてやらない人間は居ないだろう。

 ──全くもって、ずるいわよ。言葉に出さず、代わりに小さく息を吐いた。

 迷いを見せず突き進む彼に、私は何度も救われている。

 命を救われ、そしてこの心もまた、救われているのだ。

 そんな彼に対し、私は全ての恩を返す事が出来るのだろうか?

 難題を抱え、魔術師が俯く。すると不意に、自身が持つ二つの大きな膨らみが目に入った。

 こんな重りが無ければ、もう少し身軽に動く事も出来ただろう。疾走騎士の負担も、多少は減らせた筈だ。

 おまけに他の冒険者達。特に男性からは不快な視線を向けられてしまう時がある。

 幸いにも、身近に居る男性冒険者は例外だが、それでも百害あって一利無しである事には違いない。

 育ち盛り故に、仕方がないと理解はしている。とはいえ、流石にこれ以上は勘弁して欲しい所だ。

 このままの勢いで成長を続ければ、近いうちに師である魔女をも上回る大きさになってしまうだろう。

 こればかりは疾走騎士に相談する訳にもいかない。相談してどうこう出来る物でもないのだが……。

 

 

 

 その時、ふと閃いた! このメガトン級の重りは疾走騎士への恩返しに活かせるかもしれない!

 

 

 

(いや活かせるわけないでしょ! 彼にはきちんと冒険者として恩返しをするべきであって! わ、私の……じ、女性の部分を使うのは、それこそズル! ダメ!! ナシ!!!)

 

 誠実な疾走騎士に対し、あまりにも不埒な考えだと大きな罪悪感を感じながら、ぶんぶんと首を横に振って脳裏によぎったアイデアを霧散させる。

 チラリと彼の方に視線を向けると、他の面々と共に荷物の中から食料を取り出し、食事の準備を始めていた。

 その表情は兜によって見えない。ただ、彼はいつだって今後の事について考えている。

 恐らく先程のクロスボウの件も、その内の一つだったのだろう。

 ただ分かっているのは『彼が為すべき事』に、私自身もちゃーんと含まれているという事だけ。

 ──取り敢えず、それさえ分かれば、今の所は十分だ。

 

(まあ、もっと色々と話して欲しい事には違いないのだけれど……)

 

 全くもう……と、呆れながらも、私はどういう訳かついつい笑ってしまう。

 

(貴方の思い描く先で、一体私はどうなってるのかしらね?)

 

 先の見えない夜闇から、そよ風がどこからともなく吹いてくる。

 それはまるで……彼の優しさのような、暖かい心地よさを感じさせた。

 

───────────────

 

「スープを作りましたので、良かったら皆さんもどうぞ」

「それはありがたいけど……いいの? あなた自身も食べないと持たないわよ?」

「沢山あるので大丈夫です。皆で食べた方がおいしいですから」

 

 魔術師が心配して声を掛けるが、女神官は笑顔で答える。

 そんな女神官の気遣いに、それならばと一党は、それぞれが持ち込んだ食材をお互いに振る舞い合う事にした。

 蜥蜴僧侶は肉。妖精弓手は保存食。鉱人道士は酒。そしてゴブリンスレイヤーはチーズと、各々が差し出した物を皆が口に運んでいく。

 例の如く、疾走騎士の受け取った食材が次々と消滅し、妖精弓手達を大いに困惑させたりもしたが……。

 

「甘露!」

 

 火で炙ったチーズを口に入れた蜥蜴僧侶が、尾で地を叩き、跳び跳ねる。

 余程気に入ったのだろうか、チーズの塊をあっという間に完食してしまった。

 

「おう、お主らは飲まんのか?」

 

 鉱人道士が、隣同士並んで座る疾走騎士と魔術師の二人に酒を差し出す。

 しかし疾走騎士は首を横に振った。

 

「すみませんが、お酒は遠慮させて頂きます」

 

 返事を聞いて、鉱人道士は愉快そうに口角を上げた。

 この男、やはり見応えがある……と。

 冒険に発つ際、疾走騎士は隊列の後方へと付いたが、それは一党全ての術士に精神的余裕を作らせる為の配慮だと鉱人道士は見ていた。

 騎士ではあるが、味方に与える影響としてはもはや君主(ロード)に近い。

 未だ彼が戦う姿は見ていないものの、現状までの立ち回りは見事に洗練されている。 

 事実として、冒険者となって八日しか経っていないにも関わらず、鋼鉄等級となる事をギルドは認めているのだ。

 ──信用に値する力量は持ち合わせている。

 それが彼ら銀等級の冒険者達が下した、疾走騎士への評価であった。

 そしてもう一人、彼と組んでいる魔術師に関しては──。

 

「ごめんなさい、私も止めておくわ。明日に響きそうだし」

 

 勢いが弱くなって来た焚き火に、魔術師が木の枝を何本か放り込む。

 あまり人との関わりを好まないのだろうか、或いは元々の性格が人見知りなのか、その視線は火に向けられたままだ。

 だが相棒である疾走騎士に対しては、全面的な信頼を寄せているらしい。

 本人が気付いているかは分からないが、彼女は冒険が始まって此の方、疾走騎士の手の届く範囲から一切離れていない。

 もし今、怪物達の群れが奇襲を仕掛けて来たとしても、この二人は即座に隊列を整え、対処する事が出来るだろう。

 新人としては上出来だ。先程彼女が駆使した曲芸紛いの魔術も、たゆまぬ努力の賜物なのだろう。

 今後の成長に期待が出来る、見ていて飽きる事のない、死なせるには惜しい若者達である。

 

「はっはっは。気にせずともええわい」

 

 だがやはり酒が飲めないのは残念だ。

 とはいえこればかりは仕方がないと、鉱人道士は酒を引っ込める。

 無理に飲ませるつもりは元より無い。寧ろ言いたい事は言うべきなのだから。

 

「よかったらこれ、どうですか」

 

 すると疾走騎士がイカスミ焼きを取り出し、鉱人道士に手渡した。

 

「こいつぁ……イカスミ焼きか?」

 

 酒は勿論、その肴となる物ならば何でも好むのが鉱人という種族である。無論イカスミ焼きも例外ではない。

 

「たまたま売っていたので。御近づきの印というやつです」

「ほ! 殊勝な心掛けじゃの。耳長のも見習ったらどうじゃい」

「大きなお世話よこの酒飲みが! ちょっとシエルドルタ! 私にも何か無いわけ!? というかアンタ達まだ何も出してないじゃない! ホラホラホラホラ早く出しなさい!!」

 

 親に物を強請る子供のように、疾走騎士の肩を掴んで揺する妖精弓手。

 つい先程、鉱人道士の酒を飲んだせいだろうか、酔いが回った彼女の顔は真っ赤に染まっている。

 すると疾走騎士は荷物袋の中から缶箱を取り出した。

 

「はい、どうぞ」

「なんだちゃんとあるんじゃない!」

 

 手渡された缶箱を、妖精弓手が御機嫌な様子で受け取る。

 蓋を開けると中にはクッキーが詰められていた。

 

「何よこれ」

「クッキーです」

「それは分かってるわよ! 私が言いたいのはなんであの酒飲みにはつまみで、私にはお菓子なのかって事よ! 子供扱いしてるんじゃないでしょうね!」

「ふむ、クッキーは嫌いでしたか?」

「別に嫌いじゃあないけど……まあ良いわ。せっかく貰ったわけだし」

 

 妖精弓手はクッキーを一枚手に取ると、口の中に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ……まい!」

 

【挿絵表示】

 

「お菓子ですからね」

 

 

「これメチャクチャおいしいわよ! ほら、オルクボルグも食べなさい!」

 

 疾走騎士のクッキーは、どうやら彼女を満足させるに至る代物だったようだ。

 妖精弓手は覚束無い足取りのまま、ゴブリンスレイヤーの下へと向かう。

 

「今は手が放せん」

「じゃあ食べさせたげる! はい、あーん」

「いらん。お前が全て食べろ」

 

 ゴブリンスレイヤーは武具の手入れを邪魔され、かなり鬱陶しそうだ。

 

「とっとこ丸、お主耳長のあしらい方が上手いのう」

「そうでしょうか?」

「それはそれとして、鱗のが待っとるぞ。まあ、さっきみたいな甘いもんならなんでもええと思うが……」

 

 親指で隣を指差す鉱人道士。その先では蜥蜴僧侶が期待に目を輝かせていた。

 

「ああ、勿論用意してありますよ。先程ゴブリンスレイヤーさんが出したチーズと同じ物がこちらに」

「おお! ありがたい!」

 

 え、それあげちゃうの? と言いたそうな魔術師の視線を余所に、渡されたチーズを蜥蜴僧侶が受け取る。

 早速と言わんばかりにその大顎を開けて齧りつこうとするが、そこで疾走騎士から待ったがかかった。

 

「これを更に美味しく食べる方法がありますよ」

「ほほう?」

「先程貴方がくださったこの沼地の獣の肉を、チーズと一緒に焼きます」

 

 疾走騎士は串に刺した肉を火で炙りつつ、その上に薄く切り取ったチーズを乗せた。

 

「チーズは本来、別の食材と共に調理される物です」

「おお、これはこれは……」

 

 チーズが肉を覆うように溶けていく様を見て、蜥蜴僧侶は涎を垂らす。

 

「どうぞ」

「おお、かたじけない!」

 

 疾走騎士が手渡した肉とチーズの直火焼きを、待ってましたと言わんばかりに受け取って、ぱくりと一口。

 蜥蜴僧侶は「甘露!」と、目を見開き快哉を叫んだ。

 

「矢と弓。肉とチーズ。冒険者一党。どれも同じという訳ですなあ」

 

 合わさる事で真価を発揮するという意味では全て同じだと、蜥蜴僧侶が言う。

 すると疾走騎士は悩ましげに唸った。

 

「それだと挑んだ竜に食されてしまっていますが……」

 

 肉とチーズを冒険者の一党に例えた場合、それは既に蜥蜴僧侶の腹に収まってしまっている。

 意味を理解した蜥蜴僧侶は一瞬目を丸くした後、大きく笑った。

 

「はっはっは! なんともはや、これは一本取られましたな!」

 

 元は軍属の騎士だったという疾走騎士。蜥蜴僧侶からすれば短い付き合いではあるものの、冗句など口にする印象は無かった。

 自身を竜に例えた疾走騎士のユーモアに、蜥蜴僧侶は彼が思ったよりも気さくな性格をしている事を理解する。

 そうして、疾走騎士は銀等級の彼等と打ち解けていくのだった。

 

 

(矢と弓。肉とチーズ。冒険者一党……ね。そうなると、矢、或いは肉が疾走騎士で、弓またはチーズが私……になるのかしら?)

 

 魔術師は蜥蜴僧侶の例え話を聞いて、何か今後の役に立つアイデアはないかと頭を悩ませていた。

 これもまた、疾走騎士から学んだ事。

 迷えば敗れる。為すべき事を予めちゃーんと決めておけば、あらゆる事象に対処が出来る、という訳だ。

 そして彼女は、肉に覆い被さるようにチーズが溶けていく様を見て、一つの解答へと至る。

 

(それってつまり、私が疾走騎士の上からチーズみたいに絡み付いてる……ってコト!?)

 

 やはり彼女の想像力は、とても豊かなのであった。

 

───────────────

 

「……巻物(スクロール)?」

 

 一本の巻物が、ゴブリンスレイヤーの雑嚢に紛れていたのをたまたま発見した妖精弓手。

 彼女は今まで目にした事が無かった魔法のアイテムに興味を抱き、手を伸ばそうとする。

 

「触るな」

「な、何よ。ちょっと見ようとしただけじゃない」

 

 ゴブリンスレイヤーが一声。妖精弓手はまるでイタズラを注意された子供のように、慌てて手を引っ込めた。

 

「見るな。危険だ」

「むぅ……じゃあせめて何の呪文が込められているかくらいは教えなさいよ」

「駄目だ」

「ぐぬぬ……!」

 

 何を言われようともゴブリンスレイヤーは断固として譲らない。

 すると二人の争いを遠巻きに見ていた魔術師が、何かに気付いた様子で声を掛ける。

 

「もしかしてソレ《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)じゃない?」

「…………」

「黙ってるって事は正解で良いのね?」

「あの、どうして分かったんですか?」

 

 見事に正解を言い当てた魔術師。

 しかし、一見してその巻物には判別出来るような特徴は見当たらない。

 不思議に思った女神官が問い掛けた。

 

「師匠が前に変な依頼を請けたって言ってたの」

「え……」

 

 変な依頼という言葉を聞いて、慌ててゴブリンスレイヤーの方を振り返る女神官。

 魔術師の師匠である魔女は、言い表すなら男性を魅了する外見をした、妖艶で扇情的な女性だ。

 そんな人に対する変な依頼とは一体……?

 明らかに間違った解釈をした女神官は、思わずごくりと息を呑んだ。

 

巻物(スクロール)にちょっと手伝いをしたって言ってたわね。でも巻物なんてのは大体、そのまま開いて発動するだけの物でしょ? 魔法使いが後から手を加える必要がある巻物って考えれば……まあ《転移(ゲート)》くらいよね。あれは行き先を書き込まないといけないもの」

「あ……な、なるほどッ!」

 

 魔術師が指を適当に振り、何かを書くような仕草をしながら解説をして、ようやく女神官が理解をした。

 すると疾走騎士が突然、……ヌッ! っと身を乗りだし、魔術師の眼前に現れる。

 

「つまりあの巻物(スクロール)には、既に転移先が書き込まれているという事ですね?」

 

 疾走騎士の急接近に、魔術師は顔を赤くしながらも頷く。

 

「そ、そうなるかしら。……びっくりした

「ではゴブリンスレイヤーさん。その巻物(スクロール)は一体どちらへ繋がっているのでしょうか? 貴方が危険と言う以上、取り扱いには注意を払う必要があるのだと思われます。出来れば一党の我々にも共有して頂きたいのですが……」

 

 疾走騎士が巻物を指差して説得をすると、妖精弓手の時とはうって代わり、ゴブリンスレイヤーは素直に答えた。

 

「海の底だ。それ一つでゴブリンの巣を潰す事が出来る」

「んなっ!? 間違えて使っちゃったらどうするつもりよ!?」

「だから触るなと言っただろう」

「普通そんな危険物だと思わないでしょ!?」

 

 妖精弓手の抗議を聞き流すゴブリンスレイヤー。

 彼の答えに疾走騎士は満足し、そして納得した様子で頷いた。

 

「成る程。確かに海水なら周囲への被害も最小限で済みますね。てっきり火山に繋がっていて、溶岩でも吹き出してくるのかと思いました」

 

 疾走騎士の言葉に、ゴブリンスレイヤーは暫しの沈黙の後、そして頷く。

 

「……使えるな」

「使えないわよ!! 周りは疎か、私達まで黒こげになっちゃうでしょ!?」

 

 この二人は危険だ。肉とチーズどころか、もはや火に油である。妖精弓手は改めてそう思ったのだった。

 

───────────────

 

 出発から二日を掛けた冒険だったが、ようやく一党は目的地であるゴブリンの巣となった遺跡へと辿り着く。

 入り口には見張りのゴブリンが二匹と狼が一匹。

 妖精弓手はその様子を遠くから伺いながら、背負っていた弓を手にする。

 

「今度は見逃すなんて言わないわよね」

「勿論。ここから先に立ち塞がる駒の指手は、皆が例外無く彼方側。干渉できる余地はありませんので」

「……言ってる意味がよく分からないけれど、止めないのならいいわ」

 

 弓を構え、矢を番え、引き絞り、そして……放つ。

 矢は右へと大きく逸れるも、弧を描くように軌道を変え、真横から二匹のゴブリンの頭を貫いた。

 そして残った狼は突然の出来事に飛び起き、咆哮を上げ仲間に知らせようとしたものの、妖精弓手が二射目の矢を放ち、開いた口の喉奥を射抜いて吹き飛ばされた。

 

「ふん。やっぱりあのでかい狼が特別だったのね」

 

 妖精弓手が鼻を鳴らす。

 道中で遭遇した大狼は、彼女が放った矢を己の牙を用いて受け止めた。

 正面から放ったものではあったが、彼女自身、必殺を狙ったつもりだった。

 一流の腕を持つ森人としては、少々プライドに傷が付く出来事だったのだろう。

 だが、彼女自身がミスをした訳ではない。

 狼の全てがあの反応を出来る訳でもない。

 ならば、何も問題は無い。

 後はいつも通り、自分の仕事をこなすだけだ。

 

「すごいです!」

「見事だが、何ですかな今のは。魔法の類かね?」

「充分に熟達した技術は魔法と見分けがつかないもの──って、待ちなさいよあんた達!!」

 

 妖精弓手が得意気に答えようとした所だったが、ゴブリンスレイヤー、疾走騎士、魔術師の三人がずかずかと先に進んで行こうとしている事に気付き、慌てて後を追う。

 

「二。妙だな。この時間まで真面目に見張りをするゴブリンなど有り得ん」

「しかし装備は槍のみ。最低限ですね」

「うーん、流石にクロスボウじゃあここまで出来ないわよねぇ……」

 

 三者三様に、倒したゴブリンを観察していると、おもむろにゴブリンスレイヤーがナイフを手にし、ゴブリンの腹を引き裂いた。

 

「オルクボルグ!? な、何してるのよ……」 

「奴等は臭いに敏感だ。特に女子供森人の臭いには」

 

 ゴブリンスレイヤーはゴブリンの肝を引きずり出しながら振り返り、追い付いてきた妖精弓手を睨んだ。

 

「嘘でしょちょっと! 嫌よ! ライダー助けて!」

 

 彼が何をしようとしているか理解してしまった妖精弓手は、蜥蜴僧侶と鉱人道士の後ろに隠れてしまう。

 ゴブリンスレイヤーが面倒そうに舌打ちをした所で、疾走騎士が荷物の中から小さな袋を取り出し、妖精弓手に差し出した。

 

「匂い消しの香袋です。一つ余っているので良ければ」

 

 薬草を詰めた小さな袋に、紐を通しただけの簡素な作り。だが、持ち主の匂いを消すその効果は確かである。

 金属製の装備が多い疾走騎士と、女性である魔術師もまた、今回この香袋を身に付けて来ていた。

 

「これでどうでしょう?」

「まあ、いいだろう」

 

 ゴブリンの肝をその場に放り、ゴブリンスレイヤーは頷いて立ち上がる。

 

「シ、シエルドルタ有り難う! 私、あなたの事を誤解してたわ!」

「多分これが一番早いと思います。それでは進みますよ」

 

 匂い消しの香袋を受け取った妖精弓手は、疾走騎士に感謝を述べながら、紐を首に通してぶら下げた。

 無事、難を逃れた彼女を先頭に、一党は遺跡へと足を踏み入れる。

 

「どうかしたの?」

「……何故だろう。自分でもよく分からないのですけれど……納得がいかなくて……いや、やっぱり何でもありません」

 

 ただ一人、ゴブリンの内臓を浴びる事など日常茶飯事である女神官だけは、釈然としない表情を浮かべるのだった。

 




 
Q.クッキーを食べた妖精弓手の様子がおかしくなっていませんか?

A.店売りのクッキーに特級呪物が混ざってたみたいですね(憤怒)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート17 『この先、排泄物があるぞ』

 元々最適解なせいで大してやる事がないRTA、第十七部はぁじまぁるよー!

 前回、疾走騎士くんは銀等級の方々に、ご奉仕をしました。

 今回は、ゴブリンの巣になった遺跡に、押し入った所からです!

 

 遺跡内には罠が仕掛けられてますので、妖精弓手に探知してもらいながら進んで行きましょう。

 この辺りではまだ、エンカウントすることはありません。

 なので、疾走騎士くんは暫く後ろから付いていくだけですね。妖精弓手(KMR)はやくしろー。

 

「待って。罠があるわ」

 

 罠と一緒に、左右への分かれ道が見えてきました。

 罠に引っ掛かるとゴブリン達が大勢やって来てしまいますので、避けて通ります。

 

「まだ敵の気配はないわね。右と左、どっちに進む?」

 

 仲間達が左右どちらへ進むかを話し合っていますが、この時も疾走騎士くんは普通に操作を受け付けます。ではでは、一人でさっさと右の道を進んでしまいましょう。

 左は遺跡の奥へと繋がっていますが、右には捕まってる森人の冒険者が居ます。

 救出すると迎えの馬車が来るフラグが立つので、先に助けておく必要がある訳ですね。

 

 ……くっせえなお前。

 

 まあ、この先はゴブリン達の汚物溜めですからねしょうがないね。

 扉を開けた先で、捕らえられている森人を発見しました。早速救出と行きたい所さんですが、ここにはゴブリンが一匹潜んでいますので、先に処理しましょう。森人のすぐ後ろです。

 敢えて気付かないフリをして近付いていけば、ゴブリンが飛びかかってきます。

 ここはカウンターで盾の刃の先端を突き出してやりましょう。するとゴブリンは突っ込んで来た勢いのまま勝手に刺さって死にます。多分これが一番早いと思います。

 

 ゴブリンを倒して森人の拘束を解くと、ようやく他の面々がやって来ました。

 救出した森人を女神官ちゃんに治療してもらう前に、疾走騎士くんも《解毒(キュア)》を使ってあげましょう。

 傷だらけ尚且つ、素っ裸でこの汚物溜めに居たせいか、彼女の右半身は化膿やらなんやらで、酷いことになってますからね。

 逆に左半身は傷も無く綺麗なままです。これはゴブリン達による意図的なものですね。捕虜を拷問、凌辱して遊ぶ、いつものやり方です。

 ……やはりゴブリンは滅ぼさなきゃ(使命感)。

 

 今回の善行により、戒律が善である一党達からの評価が微増しました。

 この中で言えば妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶の三人に、女神官ちゃんも含まれますね。

 

 ゴブスレさんはゴブリンを殺す事にしか興味がないので、今回は対象から外れています。

 多分『中立』なのかな? 『悪』って事はないでしょうし。

 まあ、彼からの好感度はとっくにカンスト済みなので、問題はありませんけどね!

 

 ……え、魔術師ちゃんの戒律? それがどういう訳か、彼女の戒律の表記がいつの間にか『善』でも『中立』でも『悪』でもなく、『疾走騎士』になっちゃってるんですよね……。

 いつものバグだと思い、《幻想》と《真実》に報告したのですが、仕様ですとだけ言われました。あほくさ。

 まあ現状実害は無いのでスルーしています。疾走騎士くんなんて戒律が『混沌』ですからね。やっぱり壊れてるじゃないか(呆れ)

 

 さて、助けた森人の背嚢がそこらへんに落ちているので、回収しましょう。中にはこのダンジョンの地図が入っています。

 背嚢は妖精弓手に渡して、地図はゴブリンスレイヤーさんに渡します。RTA走者に地図なんて要らねぇんだよ!

 

 蜥蜴ニキの呼び出した竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)が森人を抱えていったら、再スタートとなります。

 ここから先はゴブリンとのエンカウントが発生するようになりますが、妖精弓手とゴブスレさんが索敵&先制攻撃で片付けていってくれるので倍速です。

 

 着くぅ~。

 

 ゴブリン達の寝床である回廊に到着しました。

 回廊の底では、数十匹ものゴブリン達が寝ていますが……。

 

「問題にもならん」

「えっ」

 

 ゴブスレさんの最適化された、ゴブリンの処理がはぁじまぁるよー。

 鉱人道士の《酩酊(ドランク)》と、女神官ちゃんの《沈黙(サイレンス)》による合わせ技で、昏睡状態に陥ったゴブリン達を、野獣と化したゴブスレさん達が一匹ずつ殺していくだけの作業となります。これじゃいつもと変わり無いわね(KNN)

 ゴブスレさんと蜥蜴ニキと妖精弓手の三人が、武器でゴブリンの喉を裂いていくので、疾走騎士くんも盾でぺったんぺったんとゴブリンの頭を潰してお手伝いしましょう。

 

 数が多いので倍速です。

 

 神官! 神官! つるぺた神官! エルフ! エルフ! つるぺたエルhオォン!? なんかナイフが飛んできたんですけど!?

 

「ご、ごめんシエルドルタ。ゴブリンの血で手が滑っちゃった」

 

 ファンブル引きやがったなこのやルルォ……しかも危うく疾走騎士くんに突き刺さる所でした。

 ギリギリで回避出来たから良かったものの、何も悪い事していないのに突然こんな不運が起こるんだから、このクソゲーは本当に一切油断が出来ませんね!

 

 さて、ゴブリンの殲滅が終わりました。そろそろ奥からボスであるオーガジェネラルが出てくる筈です。

 ……お、来ましたね。彼はクソデカ図体なので、歩く振動が回廊全体に響き渡ります。

 

「ゴブリン共がやけに静かだと思えば、雑兵の役にも立たんか」

 

 クッソ強い、オーガジェネラル君オッスオッス!

 ではまず、彼の戦闘力について、簡単な説明をさせて頂きましょう。

 オーガジェネラルの特徴は、その尋常でないステータスにあります。

 こいつの大槌による攻撃は、まともに受けてしまえばW盾を構えた疾走騎士くんでも大ダメージは免れません。万が一、魔術師ちゃんや女神官ちゃんなんかが攻撃をくらおう物なら、普通に即死してしまいますね。

 更に一定ターン毎に、《火球(ファイアボール)》の魔法も使って来ます。こちらは範囲攻撃なうえ、くらえば全員焼死間違いなし!

 そして耐久面ですが……並の巨人(トロール)の倍以上のHPがあります。

 更に再生能力持ちで、生半可なダメージはすぐに回復されてしまいます。フザケンナ!

 しかもクソデカ図体のせいで《突風(ブラストウィンド)》では吹き飛ばせず、《聖壁(プロテクション)》による転倒ハメも不可能という絶望! もう終わりだあ!

 では戦闘開始です。オッスお願いしまーす!

 

「貴様ら……ここを我らが砦と知っての狼藉と──ん? なんだこの壁は?」

 

 まずオーガが通路から出てくる前に、《聖壁(プロテクション)》を張って足止めしましょう。

 これでオーガは1~2ターン程出てこれません。

 

「ほう……矮小な人間の奇跡か。しかし、こんなもので我を止められると思うな」

 

 お? すぐに破壊しようとせず何か喋ってますね。そんなんじゃ甘いよ。

 

 それではこちらのターンです。

 

 

 

 

 

 

作戦

 ▼ゴブリンスレイヤー

  ▼めいれいさせろ

 

 

 

 

 

 

 

アイテム

 ▼《転移》の巻物

 

 

 

 

 

 

 

対象

 ▼オーガジェネラル

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンか?」

 

 いいえ、ですが多分これが一番早いと思います。たのむよー(懇願)

 

「……いいだろう」

 

 ゴブスレさんが《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)を使用し、盛大な排泄音と共に海水が放出され、オーガジェネラルは爆散! Foo↑気持ちいい~。

 

 この戦闘では本来、オーガジェネラルと何ターンかの交戦をしなければ、ゴブスレさんは巻物をブッチッパしてくれません。

 しかしゴブスレさんは好感度を最大まで稼ぐと、戦闘時の行動を指定出来るようになります。

 更に海底へと繋がる《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)の存在を知っていれば、その使用も指示出来るようになるんです。

 

 だから、予めゴブスレさんの恋人になっておく必要があったんですね!(大嘘)

 

「貴……様……まさ……か……」

 

 おや? オーガジェネラルがまだ生きてますね。どうやら乱数が下振れしたみたいです。

 とはいえ上半身と下半身がお別れしていて、最早虫の息です。

 ああなってしまえば、《聖壁(プロテクション)》の向こう側からは何も出来ませんので、こちらからトドメを刺しに行ってあげましょう。じゃあ……死のうか(無慈悲)

 

「やめっ……! があああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 ▼オーガジェネラルをたおした!

 

 

 

 戦いに勝利したので、あとはドロップ品に期待です!

 ここではこのオーガジェネラルが武器にしていた大槌が、確定でドロップします。

 問題なのは、その大槌の素材が、完全にランダムだという事です!

 運が悪ければ木やTDN鉄で出来てたりしますが、運が良いと金やミスリルで出来てたりする場合もありますよ!

 お金にして装備を充実させるのも良し。強い素材ならそのまま加工して、武器を作ってもらうのもありですね!

 

 ぼくのだいすきなおりはるこん! とてもつよーいおりはるこん! 勇者の最強武器と同じ素材のおりはるこん! ぜひDROPオナシャス! センセンシャル!

 

 

 

 

 ▼オーガジェネラルは《?大槌(グレートクラブ)》を落とした。

 

 

 

 

 落としましたね。しかしこの時点ではまだ未鑑定状態ですので、素材が何かは不明です。

 勿論疾走騎士くんは鑑定のスキルを持っていません。他のメンバー達も同様です。

 その為、この場では素材の判別が出来ないのですが……実は見た目や重量で大方の予想をする事は可能だったりします。それでは見てみましょう。

 

 外見的には……まあ金属で間違いないですね。あとは重量です。試しに一度持ち上げてみますか。……ヌッ!

 

 

 

 

 

 

 は? え、軽っ……。

 

 

 

 

 

 

 これは多分、ミスリルか軽銀かな? まさか持ち上がるとは思いませんでしたね。

 大の大人より一回り以上でかい金属の塊が軽いって……これもう分かんねぇな?

 余談ですが、以前の試走ではこの大槌がバグって、黄金の鉄の塊とかいう訳の分からない素材でドロップした事があります。

 回収した瞬間、何故か自キャラの性格が『謙虚』になり、チャートが崩壊したのでリセットしました(半ギレ)

 

 

 

 

 

 ▼オーガジェネラルは赤き宝玉を2つ落とした。

 

 

 

 

 おや? やったぜ。

 

 大槌とは別に、ランダムドロップ品で赤き宝玉が2つもぎ取れました。

 このタマタマは、炎を操る上位種なんかがドロップします。

 使い道としては、装備作成時の補助素材なんかですね。

 赤き宝玉と先程の大槌を素材にすれば、今回のチャートを完走出来る程度の性能を持った盾が作れると思います。オリハルコンが手に入らなかったのは残念ですが、これで我慢しましょう。

 

 ちなみにオーガが出てきた通路の奥ですが……あ~もうめちゃくちゃだよ~。

 お漏らしした海水で、完全に瓦礫の山になってます。

 探索してもロスにしかならないので、早々に切り上げたいのですが……。

 

「見てこれ!」

 

 オォン! どうやら妖精弓手が残されていた手紙を見付けたみたいです。ロスが増えるのでお願い許して!

 手紙にはゴブリン達に巣を作らせ隠れ蓑にし、機を見て秩序の陣営に不意打ちを仕掛け、壊滅的な打撃を与えろという、魔神将からオーガジェネラルへの指示が書かれていました。

 つまりこのオーガは、魔神将が送り込んだ尖兵だったんですね。

 

 他には何もありませんでした。やっぱりロスじゃないか(憤怒)

 それでは先程の大槌(グレクラ)を回収しましょう。

 

「え……疾走騎士、それ持って帰るの?」

 

 この大槌が重い素材だった場合、後日回収依頼を出して他の冒険者達と共にここへ来る必要がありましたが、想定以上に軽かったのでこのまま持って帰っちゃいましょう。タイムの短縮が出来るからね。

 

「同胞を助けて頂きありがとうございます。お迎えにあがりました」

 

 ぬわ~ん疲れたも~。遺跡から出ると、森人の戦士達が馬車でお迎えに来ています。

 馬車の荷台に大槌(グレクラ)を挿入してから乗り込みましょう。

 

「それを乗せるつもりですか!?」

 

 大槌(グレクラ)がかなりスペースを占有してしまいますが、これもチャートの為なので仕方ありませんね。

 では諸君、サラバダー!

 

 街に着くまでは、ただ馬車に揺られるだけです。寝て疾走騎士くんの体力を回復させましましょう。寝心地は最悪ですが、何もせず時間を浪費するよりはマシです。

 

 さて、オーガジェネラルを無損害で倒せたので、次は遂に牧場防衛戦です。

 参戦する冒険者とゴブリンの数が多過ぎて、盤上を賽子が乱れ舞う事になり、走者のメンタルを崩壊させる事でお馴染みの、あのクソイベントですね。みんな踊れー!

 最悪牧場が陥落する可能性もあるので、しっかりと対策をしてから挑みたいと思います。

 襲撃が来るまでの期間は大体一ヶ月くらいですが、早いと半月くらいで来てしまう場合もあるので、とにかく急いで準備を整えなければいけません。

 レベルや装備は勿論、道具や人材、設備等々、安定した突破の為に必要な物がまだまだありますからね。

 

 着くぅ~。

 

 町に着いて目が覚めると、魔術師ちゃんが疾走騎士くんにもたれかかって寝ていました。

 やっぱり彼女、この大槌(グレクラ)より重

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 




Q.一ヶ月もあればミルクで女神官ちゃんも更なる成長を……!

A.その資格はない、おぉその資格はない。だからこそその資格はない、おぉその資格はない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート17 裏 前編 『遅延行為はRTAの大敵』

 見張りのゴブリンを一掃し、冒険者達一党は遺跡へと足を踏み入れた。

 しかしこの先は闇に棲まう者共の領域だ。一切の光は無く、そこには暗闇だけが広がっている。 

 ゴブリンスレイヤーは先ず視界を確保する為に、松明を取り出した。

 

「《インフラマラエ(点火)》」

「む」

 

 すると直ぐ様、手にした松明に火が灯る。

 ゴブリンスレイヤーは一瞬戸惑ったが、誰による仕業かをすぐに察し、後ろを振り返った。

 

「多分これが一番早いと思うわよ」

「……確かに」

 

 どうやら気を利かせた魔術師が手間を省かせてくれたようだ。

 ゴブリンスレイヤーは燃える松明によって照らされた通路へと視線を戻す。

 

「成る程」

 

 魔術師の火点けに対し、ゴブリンスレイヤーは『使える』と、内心で評価を下す。

 手間が省けるだけではない。戦闘中に松明の火が消えてしまったとしても、咄嗟に点けなおす事が容易なのだ。

 多人数で一党を組んでいる際に視界を失えば、同士討ちの危険が発生してしまう。

 暗がりでの戦闘に於いては、間違い無く生死を分ける要因である。

 そして何より、火を点けられるのが松明だけに限らないという点でも評価は高い。

 ガソリンや火の秘薬に使えば、攻撃にも利用出来る。

 更に彼女曰く、この使い方なら魔術の使用回数を消費しないらしい。

 彼女の師である魔女から教わった技らしいのだが……専門でなければ理解は出来ないだろう。

 しかし、あまりの便利さに自身も扱えるようになりたいとすら思える程だ。

 

「……出来る筈もない、か」

 

 そこまで考えて、彼は頭を横に振った。

 自分は何でも出来る完璧な人間などではない。分かりきった事だ。

 だからこそ考える。ゴブリンを殺す為の方法を。

 それ以外の思考こそ、無駄遣いに他ならない。

 

「…………行くぞ。ゴブリンは皆殺しだ」

 

 ゴブリンスレイヤーは歩みだす。

 立ち止まっている暇は無い。そう言わんばかりに。

 そして、一党は進み始めた。

 

「こんな感じでどうかしら?」

 

 隊列の最後尾、先程ゴブリンスレイヤーの松明に火を灯した魔術師は再び呪文を唱え、今度は自身が持つ松明にも火を点けると、疾走騎士の方へと視線を向ける。

 

「恐ろしく早い無駄遣い。自分でも見逃す所でしたね」

「それって誉めてるの?」

 

 彼は時折、よく分からない言葉を口にする。

 蜥蜴人の様な奇妙な語り口とはまた違う、敢えて煙に巻くような、そんな言い草。

 不快ではないものの、もう少し分かりやすく話して欲しい。

 そんな抗議の意を込めて、魔術師は目を細め疾走騎士を睨む。

 

「勿論です。咄嗟の判断力は冒険者にとって、生き残る為には必須の能力ですからね」

 

 力が有ろうと無かろうと、まず行動をしなければ何も出来ずにただ死ぬだけ。

 つまり、迷えば敗れる。疾走騎士がいつも口にしている言葉通りという事だ。

 

「そして、その判断力は経験によって培われます。つまり『ただ優秀なだけの魔法使い』には決して出来ない事なんですよ。称賛しない理由はありません」

「………………ありがと

 

 誰もそこまで褒めろとは言ってない。

 魔術師は仄かに赤らんだ顔を背ける。

 元々は自身の優秀さを証明する為に冒険者となった彼女にとって、それはあまりにも殺し文句だった。

 とはいえ、疾走騎士にとっては単に事実を述べたまでに過ぎないのだが……。

 

「あちらは揃って銀等級のベテラン、それに対して自分達は新米です。とはいえ、TD……ただのお荷物では居られません」

「そ、そうね。頑張りましょ」

「私も、頑張らないと……」

 

 でなければ、ここまで付いて来た意味が無い。そう疾走騎士が意気込みを口にすると、魔術師は前方に居る銀等級の冒険者達を見据えて頷いて、その隣で二人の話をずっと聞いていた女神官も、手に持った杖を強く握りしめて息を呑んだ。

 だが、そんな重い雰囲気を唐突に切り替えるようにして、疾走騎士は淡々と話し続ける。

 

「しかし、だからと言って焦る必要はありません。自分達に出来る事をまずは一つ一つ、こなしていきましょう」

 

 その言葉に魔術師は、鋭く尖った目を見開いたあと、思わず顔をほころばせた。

 

「……ふふっ、『為すべき事を為す』でしょ? 大丈夫よ。分かってるわ」

「そ、そうですね。奇跡も集中が乱れると失敗してしまいますし……」

 

 そして女神官も、彼の言葉に少し緊張が解れた様子だった。

 

 ──ねぇ疾走騎士。ただ優秀なだけじゃあないのは、お互い様なんじゃない?

 そんな思いが頭を過り、つい頬が緩んでしまった。

 私は今回の冒険に同行するに当たって、初めは自らが足を引っ張ってしまうのではないかと内心不安を感じていた。

 数日に渡る遠征。自身も自覚している体力の低さ。余所から来た銀等級の冒険者達との連携。理由は様々だ。

 しかし今までの冒険で多少の体力が付いたお陰か、何とか旅程に遅れを出す事なくここまで付いて来られた為、現時点では一党に迷惑を掛けるような事態には陥っていない。

 いや、寧ろ私は、ある一つの能力を用いる事で、この一党に対して多少なりとも貢献する事が出来ていた。

 その能力とは……火だ。

 火という物は冒険者にとって、様々な意味でなくてはならない物である。

 視界を得る事が出来る。暖を取る事が出来る。食料を調理する事が出来る。その用途は様々だ。

 冒険の際、私はいつも疾走騎士に松明を持たされていた。

 そして師である魔女からは、無駄遣いと評される呪文の扱い方を教わった。

 そうして経験と技能を得た結果、夜営では薪を燃やす事が出来たし、先程ゴブリンスレイヤーが松明を取り出した際にも呪文を唱えて、即座に火を灯す事が出来たという訳だ。

 それは無いよりはあった方が良い程度の、貢献と言うにはあまりにも小さい物。しかし、間違いなく確かな貢献だった。

 私には出来る事がある。その事実が、私にとっての大きな自信へと繋がっている。

 疾走騎士が居るから、彼が導いてくれるから、私は前を向いて進む事が出来ているのだ。

 

 ならば私は、私の火で、彼を照らす事だけは止める訳にはいかない。

 でなければ彼は躊躇いもなく、一人で深淵へと足を踏み入れるだろうから……。

 絶対に、そんな事にはさせるものか。

 私が、絶対にそうはさせないんだから。

 

 決意を新たに、魔術師は手にした松明を掲げ、他の一党達と共に、足並みを揃えて前へと進む。

 全ては彼の、疾走騎士にとっての、闇を照らす(スパーク)となる為に──……。

 

 

「あの様子なら大丈夫じゃろ」

「うむ、良き塩梅でありますな」

 

 鉱人道士と蜥蜴僧侶は、冒険者となって日の浅い三人の新人達を気にかけていた。

 だが落ち着いた様子を見せる彼等には、要らぬ心配だったようだ。

 

「とっとこ丸が元々軍におったっつうのは確かなようじゃな。よう弁えとるわい」

 

 仲間を励ます疾走騎士の言葉からは、彼が相応に場数を踏んでいる事が伺えた。

 状況を常に把握し、適時指示を出す能力は、一党の頭目には必須である。

 しかし──大丈夫。心配ない。きっと上手くいく。何も知らない新人ほど、そんな何の根拠もない言葉を仲間に投げ掛ける。

 だがそれは大きな間違いだ。

 万が一は常に存在している。

 賽子の出目次第で、お決まりの運命は容易く訪れるのだ。

 そして、彼はそれを知っている……。

 故に、最悪の事態を想定して、何が起きようと仲間達が混乱状態に陥らぬよう、先程の、出来る事を一つ一つこなせという言葉を口にしたのだ。

 彼の首にぶら下がる鋼鉄の認識票。たった数日でその等級へ至ったという話にも納得がいく。

 ただ、裏があるのではないかと疑問視する者は多いだろう。

 実際、その点については未だにギルドに問い詰める者が居たりするのだが、その際には担当の受付嬢が貼り付けたような笑顔で「決してズルはしていません」と回答するか、或いは監督官が真顔で「不正は無かった」と断言する事であしらっていたりする。

 

 とにかく、多少の贔屓があるにせよ、その道の経験者を優遇するというのはよくある話で、つまりは何の問題も無いという事だ。

 

「となれば、問題はあっちじゃの」

 

 鉱人道士が正面を向くと、その先にはゴブリンスレイヤーと、更にその一歩先を進む妖精弓手、二人の後ろ姿があった。

 現状では視界が確保出来ているのは松明が照らす範囲のみだが、斥候の妖精弓手は臆することも無くつかつかと足音を立てながら歩み行く。

 そして長く尖った耳をピクピクと動かし、床、壁、または天井を見回した後、深く頷いた。

 

「この辺りに罠は無さそうね。ゴブリン達も居ないみたい」

「分かるのか」

「当然でしょ。森人が優れてるのは聴覚だけだと思わないでよね」

「そうか」

 

 妖精弓手が胸を張って得意気な表情を浮かべていると、ゴブリンスレイヤーは短く返事だけをして、それを追い越し、歩みを速めていく。

 そんな素っ気ない態度が気に食わなかった妖精弓手は、膨れっ面でゴブリンスレイヤーの隣へと並んだ。

 

「ふんっ! 誰かさんが私にゴブリンの内臓なんかをぶちまけてたら、まともな探知なんて出来なくなってたでしょうけどね!」

「必要な処置だ。奴等に気付かれては意味がない」

「やり方ってもんがあるでしょうが!? 常識ないの!?」

 

 妖精弓手は今にも噛み付きそうな勢いだが、ゴブリンスレイヤーは気にも留めない。

 

「少なくとも、ゴブリンの巣でわめき散らす常識はないな」

「う……ぐ……ぎぎぎ!」

 

 周囲に敵の気配は無いにしても、今自分達の居る場所が敵地である事に変わりはない。

 彼の言っている事が至極尤もである事は、妖精弓手にも理解出来ていた。

 故に彼女は顔を耳の先まで真っ赤にしながらも、爆発寸前の怒りを堪えているのだろう。

 

「うぅむ、さすがに耳長が気の毒に見えてくるわい……」

「はっは! 信頼できる御仁で何よりですな!」

 

 そんな彼等のやり取りを見て、困惑しつつも自らの髭を撫でる鉱人道士と、愉快そうに笑う蜥蜴僧侶だった……。

 

───────────────

 

 そうして暫く歩いた通路は、螺旋状かつ下り坂の構造になっていた。

 壁面には人の手によって彫られた絵が並んでおり、この遺跡が相当に古い建造物であることが伺える。

 しかし長い年月が過ぎた今では、ゴブリン達の巣へと成り果てたのだ。

 残酷ではあるが、これもまた、よくある事だった。

 

「ずっとぐるぐる回ってて気持ち悪くなってくるわね。ペースもちょっと早いし……」

「あの、大丈夫ですか?」

「ええ、これくらいなら平気」

 

 そう答えながらも魔術師は僅かに息を荒くして、眉間を押さえている。

 長旅による疲労の影響だろうかと女神官が心配していると……。

 

「先程からチラチラ見回していましたが、こんな道で余所見をすると余計に平衡感覚を失って、下手をすれば転ぶかもしれません。ちゃんと前を向いて歩いた方が良いですよ?」

 

 背後から疾走騎士が声を掛ける。

 彼曰く、魔術師はこの遺跡に足を踏み入れてから、何かを探すように、度々周囲を見回していたという。

 周囲の警戒は斥候の役割であって、彼女が態々慣れない事をする必要は無い筈だが……。

 

「ご、ごめん疾走騎士。でも、ちょっと気になった事があるのよ」

「気になった、とは?」

 

 つい先程、出来る事を一つ一つこなしていこうと言われたばかりの魔術師は、ばつが悪そうにしつつも疾走騎士の隣へと下がり、無理をしてしまった理由を彼に述べる。

 

「トーテムが無いの。ずっと注意して見てたつもりだけど」

「……成る程」

 

 疾走騎士を含むこの場に居る三人の新米達は、ゴブリンのトーテムによって痛い目を見た経験がある。

 特に魔術師は毒の短剣を突き刺され、命を落としかけたのだ。

 そんな彼女だからこそ、トーテムが一つとして見当たらない事に違和感を覚えたのだろう。

 

「ええっと、シャーマンが居ない、という事ですか?」

「うん、でもそうなると説明がつかないのよ」

 

 女神官が首を傾げる。

 トーテムが無いという事は、この巣にはシャーマンが存在していない可能性が高いという事だ。

 しかし、だからこそ現在の状況は余計に不自然なのだと魔術師が言う。

 

「ゴブリンはリーダーが居なかったらそもそも入り口で見張りなんてしないでしょ?」

「じゃあ、そのリーダーがホブという可能性はありませんか?」

「だったら見張りと一緒に居た狼は端から餌ね。飼い慣らすなんて知能はホブには無いわ」

「あ、確かに」

 

 以前読んだ怪物図鑑(モンスターマニュアル)に記載されていたゴブリンの生態を、魔術師は事細かに記憶していた。

 そして現在の状況が、その内容とは異なっている部分が多い事を説明をすると、女神官も納得した様子で頷く。

 

「ねぇ疾走騎士、アンタがここまで付いてきたのって、宣託(ハンドアウト)が理由なのよね? 他に何か指示はあった?」

 

 彼が今回の依頼に同行した理由が神からの指示、つまり宣託(ハンドアウト)である事は、既に町で聞いている。

 しかし、この依頼が本当にただのゴブリン退治であるならば、銀等級が四人も居るなか、彼がこの依頼に参加する必要性は無い筈だ。

 つまり……今回の依頼には『イレギュラー』が存在する。

 毎度疾走騎士と冒険を共にして来た魔術師がその考えに至るのは、もはや当然とも言うべき事だった。

 

「いえ、この依頼への同行は指示されましたが、今の所他には何も。……ただ、貴女のように気になった事は一つあります」

「ん、教えて」

 

 魔術師が頷いて話の続きを促す。

 

「ちょっとそこの新人達、こそこそしてないで私達にも聞こえるように話しなさいよ」

 

 すると前方、一党の先頭に居た妖精弓手が声を上げた。

 やはり森人、耳ざとい。そんな心象を抱くが、一党内の情報共有が重要である事は確かだ。

 もし疾走騎士が何か重要な事に気付いているのであれば、これ以上進む前に聞いておくべきだろう。

 そして彼はゆっくりと頷いた後、妖精弓手を含む銀等級の冒険者達に語り掛ける。

 

「あなた方はこの近辺で多種族の王や長が集まり、軍儀を開くのだと。そう仰っていましたが」

「うむ、確かに」

 

 蜥蜴僧侶が肯定すると、疾走騎士はギルドで彼等から受け取っていた地図を取り出し、それを広げた。

 

「やはり森人の領地だけあって、この周辺には森林が多いですね。ここからであれば、その軍儀の最中、奇襲を仕掛ける事が容易に出来るでしょう」

「!」

 

 ゴブリンスレイヤーと疾走騎士を除いた全員の足が一瞬止まる。

 しかし銀等級の三人は動揺を見せる事なく即座に再び歩き始め、魔術師と女神官も隊列を崩さないよう慌ててそれに着いていく。

 

「誰も足を踏み入れない、過去に戦争で使われたであろう砦。身を隠すにはうってつけです」

「ふむ……つまり、混沌の陣営の何者かがゴブリン共を指揮し、意図的にこの場所へ巣を拵えさせたと、そういう訳ですかな?」

「まだ確証は得られていません。しかし、自分が駒の指し手であれば、多種族の王達を一網打尽にするこの好機を、みすみす逃しはしないでしょう」

 

 疾走騎士は地図を丸め、再び懐にしまい込む。

 元々、軍儀を行う拠点の背後に、偶々都合が悪く発生したゴブリンの巣を、多種族の冒険者達で結成させた一党を以て潰すというのが、今一党が引き受けている依頼だ。

 だがこのゴブリンの巣は、偶々発生した物などではないと、そう疾走騎士は推察していた。

 

「……考えすぎじゃないの? 私達森人の領地にそんなのが入り込んでるなんて信じられないけれど」

 

 肩をすくめる妖精弓手。

 可能性が無い訳ではないが、普通に考えればあり得ないと、彼女は言いたいのだろう。

 

「勿論、確証はありません。先程、そう言った筈です」

「だったら別にそこまで考える必要は──」

「……ですが」

 

 だが疾走騎士には確信があった。

 この砦に、混沌に連なる者が潜んでいるという確信が。

 彼はその言葉に、呆れ、諦め、そして怒りの感情を込め、吐き捨てる。

 

「ですが、ゴブリンに軍は動きません。ゴブリンの巣という形を作れば、決して軍が動く事はないのですよ」

 

 冒険者が送り込まれる事はあるだろうが、だからこそ軍からは放置され、軍儀が開かれるまでの時間を稼ぐ事が出来るだろうと、彼は言う。

 

「つまり、奴等の狙いは『遅延行為』だっていうの?」

 

 妖精弓手に、疾走騎士が頷いて答えを返す。

 ゴブリンの巣へ向かった冒険者が帰って来なかったとしても、それはいつもの事。また次の冒険者が送り込まれるだけだ。

 もし軍が対応していれば、すぐに調査隊が派遣され、混沌の勢力の狙いも明らかにされるだろう。

 しかし、そうはならない。それがこの世界の摂理であるが故に。

 それこそが混沌の勢力の狙いなのだ。

 

「因みに、軍儀の方を延期にする事は出来ないでしょう。各種族の王や長が集まるというのに、ゴブリン程度で延期など……面子が立ちませんからね」

 

 皆が一様に黙するなか、ゴブリンスレイヤーが突然、口を開いた。

 

「いつもの事。それを利用したか」

「ゴブリンスレイヤーさんは、どう思いますか?」

「違和感は入り口のゴブリンを見た時から感じていた。上位種が居るのは間違いないだろう。だがゴブリンでない以上、それが何者なのかは分からん」

「成る程」

 

 疾走騎士の推理に対し、ゴブリンスレイヤーもおおむね同意見の様だ。

 いよいよ信憑性を増してきた話に、一党達の空気が張り詰める。

 すると、鉱人道士が肩を回しながら、わざとらしく溜め息を吐いた。

 

「もしそうだとすりゃあ、復活した魔神直属の配下……の可能性が高いのう。やれやれ、こいつは骨が折れそうじゃわい」

「結構結構。徳の類いは積むものですからな」

 

 蜥蜴僧侶も余裕のある笑顔を浮かべ、掌を合わせている。 

 やはり、こういう時こそ銀等級としての経験が物をいうのだろう。彼等が臆する様子は一切ない。

 

 

「……」

 

 しかし、妖精弓手は何も言わず、ただ俯いていた。

 彼女が一党の先頭を歩いている故に、皆からは後ろ姿しか見えないが、特徴的な長い耳は垂れ下がっている。

 

「先程、信じられないと、そう仰いましたね。実際には『信じたくない』の間違いだったのではありませんか?」

「ちょっ、疾走騎士!?」

 

 普段は温厚な相棒から突如、煽りとも取られかねない言葉が飛び出し、魔術師が驚愕の表情を浮かべる。

 

「っ……私の故郷、ここから近いのよっ! 悪い!?」

 

 どうやら図星を突かれたらしく、妖精弓手が激高して怒鳴るが、疾走騎士は首をゆっくりと横に振った。

 既に故郷を失った彼には、それが悪いなどとは口が裂けても言えなかったのだ。

 

「いいえ。しかしそれならば、我々は一刻も早く、何としてでも、この拠点を潰さなければなりません。お分かりですね?」

 

 癇癪を起こした子供をあやす様な声色だった。

 妖精弓手が特別な事情を抱えている事を察していたのだろう。

 暫くの沈黙の後、彼女は自らの頭を掻き毟って、そしてようやく踏ん切りがついたらしく、深呼吸をしてから頷いた。

 

「……えぇ。その通りね」

 

 新人に励まされるってのは癪だけど……と、最後に言葉を付け足して、再び顔を上げた彼女はそれ以降何も言わず、ただ探知に専念しながら歩き続ける。

 先程まで垂れ下がっていた彼女の長い耳は、既に上を向いていた。

 

「アンタがあんな言い方をするなんて珍しいわね……どうしたの?」

 

 魔術師に小声で話しかけられる。

 檄を飛ばす為に仕方がなかったとはいえ、銀等級の冒険者に向けてあの様な言い方をするのはあまり褒められた事ではない。

 もし受付嬢に聞かれでもしたら、長時間の説教を受ける事になるであろう事案だ。

 

「あぁ、驚かせたのでしたらすみません。ですが多分、これが一番早いと思いました」

 

 より集中しているのだろう。妖精弓手は先程より幾分かペースを上げて進んでいる。

 疾走騎士は安堵の息を漏らし、本来なら誰も居ない筈の背後を見やる。

 

 『妖精弓手(KMR)はやくしろー』

 

 ──こんな曖昧な指示に従う身にもなってよ……。

 自身を操る神に、そう内心で懇願しながらも、仲間達の後ろから付いていく疾走騎士であった。

 





Q.ゴブリンの巣を作って遅延行為しようとしたらゴブリン絶対殺すマンとRTA走者がやって来た件について。

A.なんて事だ、もう助からないゾ♥️


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート17 裏 中編 『臭い立つなぁ』

遅くなりましたが明けましておめでとうございます!
今年も相変わらずのマイペースでボチボチ進めて参りたいと思います!
どうかよろしくお願い致します!


 遺跡の深部を目指し、進み続ける一党。

 長く続いた螺旋状の下り坂もようやく終わりを迎えた所で、左右への分かれ道が見えてきた。

 すると突然、先頭の妖精弓手が足を止め、後続の仲間達に手のひらを向ける。

 

「待って。罠があるわ」

 

 彼女は地面に這いつくばって床を調べた後、頭を上げて一党達の方を向きながら、指先で罠の位置を示す。

 床には石畳が敷き詰められていたが、その中に一つ、僅かに浮き上がっている敷石が道の中央にはあった。

 

「鳴子か」

「多分。踏まないように気を付けて」

 

 恐らくあれを踏めば罠が起動し、侵入者が来た事を奥に居るゴブリン達に知らせる仕組みになっているのだろう。

 立ち上がった妖精弓手は罠を避ける為、浮かび上がった敷石と壁の狭い隙間を進むと、仲間達もそれに続く。

 

「よく見付けられますよね……」

 

 女神官は仕掛けられた罠の脇を歩きながら、恐怖で身を震わせていた。

 ほんの僅かな差異だ、自分では違和感すら感じる事もなく見落として、罠に嵌まっていただろう。

 

「そうね、経験(レベル)……いや、技能(スキル)の問題なのかしら」

 

 そんな女神官の後に続いて、万が一にも罠を踏む事が無いよう、壁を背にしながら横に歩いて進む魔術師が、地面に仕掛けられた罠を見下ろそうとする。

 

(……待って、そもそも見えなくない?) 

 

 そして、魔術師は愕然とした。

 足元にあるはずの罠が殆ど見えないのだ。

 代わりに彼女の視界に映っているのは、自らが持つ、二つの豊かな膨らみである。

 これでは単純な落とし穴ですら発見する事は難しいだろう。

 

「どうかしましたか?」

「えっ? な、何が?」

 

 自らが致命的にまで罠の探知に向いていない事を自覚し、ショックを受けていた所で、罠を挟んで反対側の壁際を通る疾走騎士に声を掛けられる。

 

「俯いて難しい顔をしていたので」

「あ~、ええっと……あ、アンタならどう? この罠に気付けた?」

 

 なんとかはぐらかそうとする魔術師。

 彼女が悩んでいた理由は、『成長した胸のせいで足元が見えないから』といった、かなり恥ずかしい内容である。

 故にぎこちなくも取り繕って、適当な事を口に出してしまうが、それに対し疾走騎士は真剣に考えを巡らせた。

 

「さて、どうでしょう。罠に関してはいつも気を付けてはいるつもりですが」

「そ、そうよね。無駄な事聞いてゴメン……」

 

 ──気付かない訳がないものね。

 彼の用心深さが並大抵ではない事は、これまで共に冒険をしてきた私が、誰よりも理解できているつもりだ。

 自身のあらゆる欠点を、疾走騎士は尽く補ってくれているのだと改めて実感して、安心と、そして己の不甲斐なさが入り交じった溜め息を吐いた。

 

「いえ、何れにせよ、あの長い螺旋の通路を歩かされた直後です。見過ごしてしまう事もあるかもしれません。……いや、或いはそれこそが狙いでしょう。となるとやはりこれは、ゴブリンのやり方ではありませんね」

 

 そんな疾走騎士の言葉を聞いていた女神官が頭を傾ける。

 

「どういう事ですか?」

「奴等は間抜けではないが、馬鹿ではある──という事です」

 

 罠を通り抜け、道の分岐点に辿り着くと、疾走騎士は先に居たゴブリンスレイヤーへと視線を向けた。

 

「そうだ」

 

 ゴブリンスレイヤーは頷いて、持っていた松明で罠を照らす。

 奴等は自分達が世界の中心であると信じて疑わず、己こそが誰よりも優れていると思い込んでいる、どこまでも利己的な生物である。

 騙し打ちはするものの、その思考は単純であり、実際には相手の裏をかくというやり方すら知らないのだ。

 だがしかし、今回の罠は冒険者の消耗を見越して罠を仕掛けるという工夫がなされていた。

 

「何より気に入らんのはこの巧妙に偽装された鳴子だ。奴等だけではこんな機構をした罠を思い付く筈がない」

 

 つまり、ゴブリンにしてはやり方が利口過ぎるのだ。

 力を貸している、或いはゴブリンを利用している者が居ると考えるのが妥当だと、ゴブリンスレイヤーは話す。

 

「そういえば怪物図鑑(モンスターマニュアル)に『ゴブリンは原始的な罠を用いる』って書いてあったけど……」

「落とし穴に待ち伏せ、壁抜きもある。ここでは難しいだろうがな」

「……確かに、この堅い壁や床を掘るのは無理そうね」

「そろそろ話は終わった?」

 

 ゴブリンスレイヤーの解説が粗方終わった所で、妖精弓手が声を上げる。

 

「あぁ。どうだ」

「まだ敵の気配はないわね。右と左、どっちに進む?」

 

 どうやら床が石で出来ている為に、ゴブリン達の足跡が見えず、どちらが奥へ続く道なのか分からないようだ。

 

「どれ、わしに見せてみろい」

 

 すると鉱人道士が分かれ道の中央で床を観察して、左の方向を指差した。

 

「床の減り具合から見て、奴等のねぐらは左側じゃな」

「確かか?」

「そら鉱人(ドワーフ)だもの。石、金、酒なら任せい」

「そうか」

 

 話を聞いていた妖精弓手はしゃがんで、先ほど鉱人道士が調べていた床を見る。

 微かながら床がすり減っている事は確認出来るが、それがどちらの方向へ向かっているかの判断は難しそうだった。

 

「じゃあ左に進めばいいのね?」

 

 鉱人の得意分野には敵わないという事実は、癪ではあるが受け入れるしかないだろう。

 そう割りきって、妖精弓手が立ち上がって振り向くと、そこには反対側の道を進んでいくゴブリンスレイヤーの後ろ姿があった。

 

「こっちへ行くぞ。奴の後を追う」

「ち、ちょっと待ちなさいよ! あいつらのねぐらは左……って、追うって誰を?」

 

 妖精弓手が周囲を見渡す。

 仲間達を一人一人確認していくと、なんと姿が見えない人物が約一名。

 

「シエルドルタが居ない!?」

 

 一党の最後尾から付いてきていた筈の疾走騎士が、いつの間にか居なくなっていた。

 妖精弓手は驚愕する。

 仲間が居なくなった事もそうだが、何より彼女が信じられなかったのは、彼が居なくなった事に自身が気付かなかった事に対してだった。

 敵を探知しながら進む彼女は、僅かな物音や気配にすら反応する程度には全神経を尖らせていた。

 にも関わらず、気付けなかったのだ。

 相当熟達した隠密技能を有しているのかもしれない。

 そうでなければ自信を無くしかねない事態だ。

 

「あっ! もうっ、またなのねアイツは……」

 

 ──しまった、油断した。

 魔術師もまた、疾走騎士が居なくなった事に気付き、頭を抱える。

 疾走騎士が勝手に単独行動をする事は今までも度々あった。

 だが今回は銀等級の冒険者達が何人も同行している故に、無茶な事はしないだろうと考えていたのだ。

 しかし、彼の行動には必ず相応の理由がある事も、魔術師は知っている。

 一体彼に何があったのだろうか……?

 

「奴は先程、俺に話を振って、そのままこの道を進んで行った」

「それ気付いてたのに止めなかったの!?」

「問題は無い。恐らくはこれが一番早いのだろう」

「もうっ、あんた達そればっかり。ちゃんと説明しなさいよ……」

 

 妖精弓手は足を止めて、うんざりという様子で項垂れてしまった。

 そこへ女神官と魔術師の二人が歩み寄り、慰めるように声を掛ける。

 

「あの、とにかく追いかけませんか?」

「まあその、うちらのが迷惑掛けて悪いわね……」

「……あいつらいっつもあんな感じなの?」

 

 ゴブリンスレイヤーを後ろから指差す妖精弓手。

 勿論『あいつら』というのは、ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の二人を意味する。

 同情の眼を向けられて、女神官と魔術師はお互いに一度見合ってから、同時に深く頷いた。

 

「嘘でしょ……よく付いていけてるわね」

 

 それは本当にそう。

 女神官は苦笑いを浮かべ、魔術師は腕を組んで悩ましげに眉間に皺を寄せている。

 思った以上に、彼女達は苦労している様だ。

 どうやら諦めがついたらしく、妖精弓手は大きく溜め息を吐いて進み始めた。

 しかしそこで、ある異変が起こる。

 

「うっ、何なのよこの臭いっ……!」

「ぬおっ!? こ、こひゃあはまはんはい!」

「むぅ……」

 

 突如通路の奥から悪臭が漂い、妖精弓手が口元を押さえ、鉱人道士が鼻をつまみ、蜥蜴僧侶は苦悶の表情を浮かべる。

 一歩進む毎に、その臭気は強くなっていくばかりだ。

 

「すぐに慣れる」

 

 それでもゴブリンスレイヤーは振り返らず、進み続ける。

 

 

 ──そういう事なのね。

 

 魔術師は心の中で納得した。

 この臭いを、私は知っている。

 ゴブリンの巣穴の……それも奥深くで嗅いだことのある、『あの臭い』だ。

 あと、下水道……いや、汚物の臭いも混ざっているだろうか?

 いずれにせよ、この先にあるのはおぞましい惨状なのだろう。

 隣の女神官は、かたかたと歯を鳴らしている。

 あぁ、決して慣れたくはなかった臭いだ。

 だからこそ、彼は一人で進んだのだろう……。

 

 

 そして、進んだ通路の奥にあった一室。

 木で作られた扉は既に破られ、部屋の内側へと倒されていた。

 中を覗けば、地面は糞尿とゴミのような物で埋め尽くされており、正気であれば、自ら進んで足を踏み入れようとはしないであろう、そんな空間が広がっている。

 

「来ましたか。あぁ、中へ入る必要はありませんよ」

 

 しかし、そんな部屋の奥に……疾走騎士は居た。

 腹部を貫かれ絶命し、地に伏せているゴブリンを傍らに、そして布を被された、森人の捕虜を抱き抱えて。

 

─────────────────

 

「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者より病毒をお清め下さい》」

 

 部屋から出てきた疾走騎士が、抱えている森人の捕虜に《解毒(キュア)》の奇跡を行使した。

 本来は輝いていたであろう金色の髪も、透き通るような白い肌も、今は薄汚れてしまっている。

 だが、それだけならばまだ良かった。

 ぶら下がった手足には深い傷跡があり、腱が断たれている。

 被された布から覗く顔は、左半分は白い肌のままだが、右半分はまるで葡萄のように腫れ、皮膚は赤黒く爛れていた。

 

「化膿の毒は取り除きました。治療をお願いします」

「え……あっ、は、はい!」

 

 助け出した森人を石畳の上へ寝かせると、呆然としていた女神官が戸惑いながらも慌てて手当てを始める。

 すると疾走騎士は再び汚物溜めの部屋へと足を踏み入れ、積み上げられたゴミの山から何かを拾い上げた。

 それは小さな背嚢だった。

 囚われていた森人の持ち物だろうか。

 そして部屋を出た疾走騎士は、背嚢に手を突っ込んで中を探る。

 

「あったか」

「はい、この中にちゃーんと」

 

 背嚢から疾走騎士が引っ張り出したのは、乾燥させた大きな葉を丸めた物。

 広げて見れば、今自分達が居る遺跡の内部構造が、細かに描かれていた。

 疾走騎士はこれが地図であると確信し、ゴブリンスレイヤーへと手渡す。

 

「うぶっ……んぐっ!」

 

 妖精弓手は壁にもたれかかってへたり込んでしまっていた。

 同族の無惨な姿を目の当たりにしたショックが、余程大きかったのだろう。

 唐突に、胃から喉まで不快感が逆流し、しかし右手で口を押さえ、何とか飲み込んで押し戻す。

 

「わけ、分かんないっ! これがあいつらのやり方って訳!?」

 

 あの森人の右半身に刻まれた傷跡は、ただ痛め付けられただけの物ではない。

 捕虜を弄び、嘲る為だけの、残虐な遊びの痕跡だ。

 ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の話から、ある程度の心構えはしていた。

 しかし、これはあまりにも惨過ぎる。

 何故こんな事が出来るのか、ゴブリンという生物の悪辣さに、妖精弓手はまるで理解が追い付かないでいた。

 疾走騎士が気を利かせて被せた布の下は、もっと酷い状態なのだろう。

 もし、彼女が受けた仕打ちの全てを目の当たりにしていたならば、堪えられずに吐いていたかもしれない。

 たった一人、こんな場所で、ゴブリンに蹂躙され続ける。

 それがどれほどの地獄か、想像も出来ない。

 妖精弓手の綺麗な顔は、既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

 

「ええ、これこそが本来のゴブリンのやり方です」

 

 そこへ疾走騎士が歩み寄り、膝を突いて、背嚢を妖精弓手へと差し出した。

 

「これは貴女が持つべきでしょう。彼女の失敗を、無駄にしない為にも」

 

 彼の視線が、囚われていた森人に向けられる。

 断たれた腱の傷は塞がったものの、その手足を動かせるようになるまでは暫く掛かるだろう。

 しかし、目を背けたくなる程に膨れ上がっていた皮膚は、今は赤い痣が残っている程度だ。

 疾走騎士の《解毒(キュア)》と、女神官の《小癒(ヒール)》による治療の甲斐あってのものだろう。

 しかし、これはあくまでも応急処置。

 何より彼女は憔悴しきっている。

 早急に森へ帰らせる必要があった。

 

「であらば、拙僧の出番ですな」

 

 蜥蜴僧侶が腰に下げていた袋から何本かの牙を取り出し、足元にばら蒔く。

 

禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ」

 

 すると牙が形を変えていき、蜥蜴のような姿をした骨の兵へと変化する。

 従順な駒を生み出し、使役する事が出来る。それが《竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)》という奇跡だ。

 

「この竜牙兵であらば、森人の森まで彼女を送り届けられましょう」

「それでしたら手紙も一緒に! 事情を知らせないと……」

 

 森人の捕虜を助け出した事や、この遺跡に混沌の勢力が潜んでいる可能性がある事も知らせなければ。

 そう思った女神官が、紙と筆を取り出した。

 

「なら手紙は私が書くわよ。字は得意だし」

「あっ、はい! お願いします……!」

 

 魔術師が手を出して、女神官から紙と筆を受け取ると、伝えるべき内容を簡潔に、分かりやすく、必要最低限の文字数ですらすらと綴っていく。

 

「ほう、見事なもんじゃわい」

「学院に居た頃は必死で勉強したもの……」

 

 魔術師の筆の早さに、鉱人道士は髭を撫でながら思わずうなる。

 学院を卒業した彼女にとって、これくらいは朝飯前なのであった。

 

「……ん、こんなもので良いかしらね」

「う……」

「あっ、起きましたか!? もう大丈夫ですよ。無理はなさらないで下さい!」

 

 魔術師が手紙を書き終えた所で、意識を失っていた森人が目を覚ました。

 女神官が安静にするよう促すが、しかし森人は一党達の姿を見て、自らが助け出された事を理解し、それでも尚、縋り付くように、一切の力が入らない手を震わせて彼等へ伸ばそうとする。

 

「お……お願い……あいつらを……殺してよ。でないと……皆が……森が……」

 

 悲痛な声が辺りに響く。

 すると疾走騎士が妖精弓手の肩をぽんと叩いた。

 顔を上げて疾走騎士の方を向くが、兜に覆われていて、その表情は分からない。

 しかし、彼が何を言わんとしているのかは──理解出来た。

 妖精弓手は背嚢を強く握り締め、腕で自らの顔を拭い、立ち上がる。

 そして微かに震えている足で森人の下まで歩き、その手を取った。

 

「大丈夫よ。後は全部任せて頂戴。その為に私達はここへ来たの」

「あ……あり……がと……う……」

 

 先程まで泣いていたせいで、その目は赤いまま。

 それでも無理をして微笑んで見せた妖精弓手。

 彼女の言葉を聞いて安心したのだろうか、森人は感謝を述べて、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

「やはり左の道が正解のようだな」

 

 ゴブリンスレイヤーは地図に描かれていた遺跡の構造を見終え、丸めて自らの雑嚢へとしまう。

 

「行くぞ、ゴブリンは皆殺しだ」

「えぇ、こんな事を当然の権利のように行える奴等を、許せるわけがありませんからね」

 

 淡々とゴブリンスレイヤーが言い、疾走騎士が重々しく返事をする。

 二人の言葉は、ゴブリンを生かしておく理由など一つとしてありはしないのだと、そう仲間達に改めて認識させ、全員を一様に頷かせた。

 

───────────────

 

 魔術師が書き上げた手紙を渡すと、竜牙兵は助け出した森人を担ぎ、走り去っていった。

 

「この先に回廊がある。奴等はそこを寝床にしているはずだ」

「なんじゃ、信じとらんかったんかい」

「いや、ただ確証は多い方が良い」

 

 そして一党は分岐点まで引き返し、今度は反対側の、左の道へと進んでいく。 

 

「それで、囚われてる人が居るって分かったから、一刻も早く助けようとしたのね?」

 

 隊列の最後尾で、魔術師は疾走騎士が一人で捕虜の救出に向かった訳を聞いていた。 

 

「はい。臭い立っていましたから」

 

 彼が言うには、あの分岐点に辿り着いた時点で、捕虜が居る事に臭いで気付いたらしい。

 ──私ですら部屋の前まで来てようやく気付いたんだけど……やっぱり犬なんじゃないの?

 

「あの汚物溜めに私達がわざわざ足を踏み入れる必要は無いと思ったから、一人で進んだって言うのね」

「汚物溜めの中なんて、えずくじゃあないですか。それに、あれが一番早いと思いました」

「……確かに、わざわざ説明して全員に付いて来てもらうより、さっさと一人で助け出した方が早かったわね」

「理解が早くて助かります」

「前みたいに手遅れになる可能性もあった。まあ、気持ちは分かるわよ。あの時は私も一緒だったから……」

 

 一瞬の判断で、誰かを助けられない時がある。

 初めての冒険で失ってしまった、二人の仲間のように。

 それを考えれば、彼が囚われていたあの森人を一目散に助けに向かった事も理解出来る。

 出来るんだけれども──……。

 

「ねえ、疾走騎士?」

 

 ──こっちの気も知らないで勝手をされると、やっぱり腹が立つわね……。

 

「なんでしょうか」

 

 私は足を止めて振り向いて、笑顔を貼り付けながら、兜の奥の、闇に沈んだ彼の目を覗き込む。

 

「私はまだ、アンタにとって足手纏いなの?」

「は? えっと……そんな事はありませんが……」

「そ、う、聞、こ、え、る、の! 置いていかれたうえに『これが一番早い』なんて言われる気持ちにもなりなさい!」

 

 腰に両手を当てて彼を叱りつけてやると、疾走騎士はようやく自身が無神経な発言をした事に気が付いたようだ。

 

「そ、それは……確かに、……本当にそうですね。すみません……」

 

 しゅんと小さくなって、頭を下げる彼の姿がまるで子犬のようで……くっ、いきなりそういう仕草しないでよ。かわいいじゃない。

 彼は何の躊躇いもなく、一人で深淵へと足を踏み入れようとする。

 そんな予想をしていた矢先のコレだもの。

 私も流石に怒っちゃうわよ。

 

「と、とにかく! 出来ない事はやらないから大丈夫だって、アンタは前にそう言ってたわよね?」 

「はい」

 

 以前、逃げたゴブリンを追うために疾走騎士が一人で飛び出して、それを私が問い詰めた時に言われた言葉だ。

 彼を信用していない訳ではない。

 彼を信頼していない訳がない。

 でも、だからといって放ってはおけない。

 賽子の目一つで、全てを失ってしまうかもしれない。そんな恐怖と隣り合わせの冒険に於いて、ただ唯一私の心に安らぎをくれる存在を、放っておける訳がないのだ。

 だから私は、彼に一つ釘を刺しておく事にする。

 

「じゃあ何も言わないし、何も言わなくてもいいから、せめて私を連れて行きなさい。それなら時間も無駄にならないで済むでしょ」

 

 彼の前に立ったまま、腕を組んで人差し指を立てる。

 ……あ、コレ胸が持ち上がって肩が楽でいいわね。

 

「……え?」

「え? じゃないわよ。ほら、早く頷かないと置いてかれるわよ?」

 

 先陣を歩くゴブリンスレイヤーや銀等級の冒険者達に立ち止まる様子はなく、徐々に距離が離されていく。

 女神官だけがおろおろと、こちらと向こう側を交互に見ていた。

 

「わ、わかりました」

「ん、それでいいのよ。じゃ、行きましょ」

 

 疾走騎士が頷いたのに満足し、小走りで一党を追いかける。

 ちょっと卑怯なやり方だったかも知れないけれど、悪いのは疾走騎士の方だもの。

 私にもやれる事はあるはずなのに、その機会すら与えようとしないんだから。

 いっその事、首輪でも付けてしまおうかと思ったけれど……それは流石にね。

 言質は取れたし、今はこれで良しとしましょ。

 

「どうした?」

「何でもないわよ。敵の気配が近づいてるから、注意して」

 

 ゴブリンスレイヤーに声を掛けられるも、探知に集中し続ける妖精弓手。

 先程まで取り乱してしまっていた彼女だが、疾走騎士に励まされたお陰か、今では驚くほど落ち着いていた。

 

「ふふっ、ほんと苦労してるのね」

 

 妖精弓手がぴくぴくと耳を震わせる。

 どうやら疾走騎士も、あの魔術師の前では形無しの様子。

 それがとても愉快で、妖精弓手は思わず笑みを溢してしまうのだった。

 





Q.時間のロスを人質に言質取られてて草。

A.卑怯だぞ! 彼女はきっとスリザリン生徒だったに違いない! グリフィンドールに810点!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート17 裏 後編 『月の光』

AC6発売前までになんとか間に合いました。


 助け出した森人を竜牙兵に送り届けさせた後、一党達は遺跡の最奥にある回廊を目指し、歩みを進めていた。

 

「さっきまでとは一転して、まるで迷路ね。本当にこの道であってるのかしら」

 

 何度も同じような分かれ道があって、その度に右へ左へと進み続け、自分がどのような道を辿って来たのかも曖昧になって来た頃、魔術師がぽつりと呟く。

 

「ゴブリンスレイヤーさんに渡した地図がありますから、間違いはありませんよ」

 

 半ば独り言のつもりだったが、後ろの疾走騎士から答えが返ってきた。

 道中で森人を救出した際に手に入れた、遺跡内部の地図。

 その地図があるからこそ、一党はこの道中を迷う事無く進み続けられているのだ。

 

「つまり、本当にこれが一番早かったって訳ね」

 

 あの森人を助け出すというのは、この砦を攻略する為に必要なイベントだったという事だ。

 納得した様子の魔術師。

 しかしその隣を歩く女神官は浮かない顔をしていた。

 

「でも、彼女が受けた仕打ちを思うと……」

「素直に喜べませんか」

「……はい」

 

 ここへ足を踏み入れた結果、ゴブリン達に捕らえられて、奴等を愉しませる為の道具として扱われた森人の事を思い、女神官は俯いてしまう。

 

「ならば、奴等への復讐を果たす事で、彼女への恩返しと致しましょう。彼女の失敗を、無駄にしない為にも」

「それ、さっきも言ってたわね」

 

 先程、同族の無惨な姿を目の当たりにしてへたり込んだ妖精弓手を立ち上がらせる為に、疾走騎士がかけた言葉だ。

 確かにあの森人は失敗をしてしまった。

 だが、それでも幸いな事に、彼女は生きているうちに助け出されたのだ。

 彼女が持ち込んでいた遺跡内部の地図も、こうして一党達にとって、大きな助けとなっている。

 自分達がここに巣くうゴブリンと、それを統率しているであろう混沌の手の者を倒す事が出来れば、彼女の失敗は決して無駄では無かったという証明になるのだと、疾走騎士は女神官に話す。

 

「前を向きましょう。為すべき事を為すためにも」

「そう……ですよね。ありがとうございます」

 

 自分達に俯いている暇など無いと、つまりはそういう事だ。

 疾走騎士の言葉に女神官は微笑んで、感謝を述べる。

 

「ふ~ん?」

 

 二人のやり取りを、魔術師はジトリとした目で見ていた。

 その視線は嫉妬……というわけではなく、疾走騎士に対する呆れによるもの。

 仲間が精神的な恐怖や不安を抱えた途端、それを真っ先に払拭してしまえるのは彼の長所と言えるだろう。

 周囲への視野の広さと、仲間を気遣う思いやりが無ければ出来ない事だ。

 しかし、そんな彼の長所によって、現在とある問題が発生していた。

 

 ──全く、これ以上増えたらどうするつもりよ。

 

 その問題とは、彼の優しさに惹かれる女性が多いという事だ。

 私自身がまあ……そうだし。

 女神官に関しては、ゴブリンスレイヤーが居るので心配は要らないだろう。

 しかし以前、疾走騎士によって助け出されたあの鋼鉄等級の一党達は、四人全員が間違いなく彼に狙いを定めている様子だった。

 普通なら仲間同士が同じ相手に好意を寄せた場合、色々とこじれたり、最悪の場合だと修羅場にもなりそうなものだが、あの一党は仲間割れもせず、巧みな連携を見せ、疾走騎士を囲おうとする始末だから質が悪い。

 そして、ギルドの監督官。

 掴み所がなく、何を考えているのか分からない、飄々とした雰囲気の彼女。

 しかし疾走騎士とはどこか馬が合うらしく、私の女としての勘は、鋼鉄等級の一党以上に厄介かもしれないと警鐘を鳴らしていた。

 

「……な、何か?」

 

 ようやく此方の視線に気付いた疾走騎士。

 ──全く、こういう気持ちにはとことんニブいんだから……。

 

「…………はぁ、何でもないわ」

 

 溜め息を吐いて前を向く。

 別に疾走騎士に不満が有るわけではないし、寧ろ今のままで居て欲しいとさえ思っている。

 でももし、此方側の駆け引きの末、決壊した私達によって彼が呑み込まれてしまうなんて事になったら……。

 

 

 ──責任を取ってもらうチャンスね!

 

 

 ……って、違う違う!

 そうならないように私がしっかりしないといけないのよ!

 自分の頬をぺしぺしと叩いて、気を取り直す。

 あの鋼鉄等級一党に影響されてしまったのかもしれない。

 気を付けないと……。

 

「静かに」

 

 そこで突然、妖精弓手が声を上げる。

 どうやら見回りのゴブリンを発見した様だ。

 一党の空気が一瞬で張り詰める。

 

「あれは私がやるわ。曲がり角の向こうにも一匹居るから、そっちは頼むわよ」

「あぁ」

 

 即座に放たれた矢によってゴブリンは頭を貫かれ、悲鳴を上げる間もなく倒れる。

 彼女の技量をもってすれば、必然の結果と言うべきか。

 すると倒れた物音を聞いて、奥に居たゴブリンが面倒臭そうに顔を出すが、曲がり角から息を潜めたゴブリンスレイヤーが襲い掛かり、首筋に剣を突き立て命を断った。

 

「ほらさっさと行くわよー!」

「やれやれ、さっきまで泣きそうになっとった癖に、調子の良いヤツじゃわい」

「聞こえてるわよ鉱人(ドワーフ)!」

 

 それからも見回りのゴブリンとは度々遭遇したものの、妖精弓手とゴブリンスレイヤーがその全てを易々と駆除していく。

 そしてようやく、一党は回廊まで辿り着いたのだった。

 

 

───────────────

 

 

 通路を抜けると、そこは目的地の回廊だった。

 取り付けられた転落防止の手すりの向こう側は広大な円柱状の空間。

 そして壁面には、太古に描かれた神代の世界をめぐる争いの絵が残されていた。

 

「月の光……そっか。夕方にここへ入ったから、今は夜なのね」

 

 月明かりの光が射し込んでいるのに気付き、魔術師が上を見上げ、目を凝らす。

 どうやら天井は地上まで続いており、穴が開いているようだ。

 

「……」

「どうかしたの?」

 

 すると、彼女の隣に立った疾走騎士もまた同様に、天井を見上げていた。

 普段から何かしらの行動を起こしている彼がこうして立ち止まるのは珍しい事だ。

 疑問に思い、声をかけてみると──……。

 

「地上まで繋がっているのなら、あそこから飛び降りれば更に時短が出来たのでは……」

「ぜっっったいに私はやらないからね!!」

「……そうですか。残念です」

 

 相変わらずの変態的な発想で滅茶苦茶な事を言い出す疾走騎士に対し、断固拒否の姿勢を示す魔術師。

 下手をすれば命を落としかねないような無茶に、度々付き合わせられている彼女からすれば、当然の反応であった。

 

「あの二人、本当に緊張感の欠片も無いわね……」

 

 疾走騎士と魔術師のやり取りに呆れながら、回廊の手すりから下を覗き込んだ妖精弓手。

 感じていた気配の通り、吹き抜けの底にある広場にはゴブリン達が眠っている。

 しかし、問題はその数だ。

 

「どうだ」

「ッ! み、見ての通りよ。まだ起きてきてはいないけど、あの数、下手したら百くらい居るかもしれないわ」

 

 ゴブリンスレイヤーがいつの間にか隣に居た事に一瞬驚くが、妖精弓手は平静を装って返事をした。

 まともにあの数を相手にすれば、最悪の結果は免れないだろう。

 しかし、そう考えていた妖精弓手に対して、眠りにつくゴブリン達を見たゴブリンスレイヤーは、何の気なしに吐き捨てる。

 

「問題にもならん」

「えっ」

「《酩酊(ドランク)》と《沈黙(サイレンス)》で目覚める事も、騒ぐ事も出来なくし、一匹ずつ殺していけばいい」

 

 相手がゴブリンである以上、それが何匹居ようと、ただの狩りの対象にしか過ぎない。

 故に彼は──ゴブリンスレイヤーなのだ。

 

 

─────────────────

 

 

 ゴブリンスレイヤー達はナイフを手にし、呪文によって深い眠りにつくゴブリンの喉を切り裂いて殺すという単純な作業を、黙々とこなしていた。

 

「はぁ、はぁ、これで何匹目よ全く……」

 

 妖精弓手が苛立ちを隠せずに言い放つ。

 彼女が持つ石で作られたナイフはゴブリンの血脂に塗れ、殆ど使い物にならない状態になってしまっていた。

 

「あーもうっ! 滑るっ!」

 

 それでもゴブリンの喉に刃を突き立て、息絶えるまで押さえ付け、ようやく大人しくなったと思いきや、今度は刺さったナイフが滑って抜けないと来た。

 

「あっ……!」

 

 それでも半ば無理矢理に、力一杯ナイフを引き抜いた妖精弓手だったが、そのまま勢い余ってナイフが手からすっぽ抜けてしまう。

 しかもすっぽ抜けた短剣が、たまたま正面に居た疾走騎士の後頭部へ目掛け、一直線に飛んでいく始末。

 弓矢で百発百中と言っても過言ではない腕前を見せた妖精弓手。

 こんな時にもその命中精度を発揮して欲しくはなかったと、妖精弓手自身も思ったその瞬間──。

 

「はーつっかえ……」

 

 疾走騎士はこちらを見ないまま首を曲げ、間一髪で回避。

 おぉ……と、妖精弓手が感心したのも束の間、ぐるりと疾走騎士がこちらを向いた。

 妖精弓手は思わず声にならない悲鳴を上げる。

 

「ご、ごめんシエルドルタ。ゴブリンの血で手が滑っちゃった」

「いえ。代わりの武器が必要なら、そこらじゅうに転がっていますよ」

「あっ……成る程。こいつらの武器を使えばいいのね」

 

 疾走騎士に言われ、辺りを見渡すと、ゴブリン達の持っていたであろう短剣が幾つも転がっていた。

 

「そういう事です。使える物は何でも使う。ゴブリンスレイヤーさんはいつもそうしていますね」

 

 妖精弓手は落ちているナイフの一つを拾い上げ、疾走騎士の方を見る。

 

「そう……ところで、シエルドルタはナイフを使わないの?」

 

 ゴブリンスレイヤーと蜥蜴僧侶、そして妖精弓手の三人はナイフを使ってゴブリンの喉を切り裂いて殺しているが、疾走騎士は盾を使ってゴブリンの頭を潰していた。

 彼は何故、ナイフを使わないのだろうか。 

 

「ナイフだと首を裂いても、ゴブリンが息絶えるまで時間が掛かりますから。それに、多少大きな音を立てても《酩酊(ドランク)》のおかげで目覚める事はまず無いでしょう。多分、これが一番早いと思います」

 

 そう言うや否や、疾走騎士は両手の盾を全力で振り下ろし、両脇に居たゴブリン二匹の頭が一瞬で潰される。

 手足が微かに痙攣しているが、頭部が半分ほど平らになり、眼球が飛び出たゴブリンの生死を確認する事こそ、時間の無駄と言えるだろう。

 そして、この一瞬の処理は、彼の二つの盾によって、一度で二匹同時に対して行われるのだ。

 確かに早い。早いのだろうが──……。

 

 

 

 

 ──ぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんつるぺったん!

 

 

 

 

「なんか腹が立つ音してるのよねそれ」

「そんな事言われましても……」

 

 最速の行動を繰り返し続けた結果、リズミカルな音調を作り出してしまい、それが何故か妖精弓手の気に障ってしまうようだ。

 とはいえ、鉱人道士と女神官が呪文を維持出来る時間は限られている。

 少しでも早く、このゴブリン達を全て殺し尽くす為にも、結局は妖精弓手が我慢する形となった。

 

 

──────────

 

 

 程なくして、全てのゴブリンが狩り尽くされた。

 壁も床も、そしてゴブリンスレイヤー達もまた、殺したゴブリン達の血によって、真っ赤に染まっている。

 女神官と鉱人道士、そして万が一の無いよう二人に付いていた魔術師が、上から広場へと降りて来た。

 

「お疲れ様。これで終わり……じゃあないのよね?」

 

 駆け寄って来た魔術師に、疾走騎士は頷く。

 

「はい。この奥に部屋があります。このゴブリン達を率いていた何者かが居るとするならば、きっとそこでしょう」

 

 その答えを聞いて、魔術師は鋭い目を広場の奥へと向ける。

 他の仲間達もまた、警戒心を強めていた。

 ゴブリンスレイヤーだけが、いつもと変わらぬ様子で歩き出し、奥へ進もうとして──その時だった。

 

「な、なに!?」

 

 突然の地響き。

 大きく足元を揺らす衝撃は、一度だけではなく、何度も一定の間隔で回廊全体に響き渡る。

 しかも、衝撃の度に、音と揺れが徐々に大きくなっている事から、冒険者達は何かが迫って来ている事を察知し、一度しまった武器を再び手に取った。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください》」

 

 すると疾走騎士が前に出て《聖壁(プロテクション)》を行使し、奥の通路と冒険者達が居る広場を隔てる壁を生み出した。

 

「これで、多少の時間は稼げるでしょう」

「ナイスシエルドルタ!」

「ほ、流石判断が早いの」

「私達は後ろに下がるわよ。何が出てくるか分かったものじゃないわ」

「分かりました!」

 

 後衛である妖精弓手、鉱人道士、魔術師、女神官がやや距離を離し、後方に位置取った。

 疾走騎士とゴブリンスレイヤー。そして蜥蜴僧侶が前衛として光の壁の前で立ち、ソレが現れるのを待つ。

 

「ゴブリン共がやけに静かだと思えば、雑兵の役にも立たんか」

 

 若干の怒気を含む声。

 暗闇から現れた、その巨大な姿を見て、冒険者達が驚愕の声を上げる。

 

「なんと!」

「こいつがシエルドルタが言ってた親玉……!」

 

 ──嘘でしょ、まさかあれって……。

 魔術師はその怪物の名を知っていた。

 女神官から借りて読んだ怪物辞典(モンスターマニュアル)の中に、姿形の特徴が一致する怪物が載っていたのを記憶している。

 鎧の様な筋肉に覆われた巨体。頭に生えた二本の角。

 強固な楯を持った騎士すら、その怪力の前では肉塊同然。

 怪物でありながら人以上の知能を有し、強力な術をも易々と使いこなす。

 冒険者にとって、恐怖の象徴として恐れられる怪物。その名は──……。

 

人喰鬼(オーガ)!?」

 

 目の前の怪物が象だとすれば、自分はきっと蟻に過ぎない。

 それ程に力の差があるのだと、魔術師は直感で理解する。

 そしてそれは、疾走騎士も同様の筈だ。

 彼は一体どうするつもりなのだろうか。

 

「貴様ら……ここを我らが砦と知っての狼藉と──ん? なんだこの壁は?」

 

 オーガが通路から出ようとした所で、事前に疾走騎士が作り出していた《聖壁(プロテクション)》が、その行く手を遮った。

 

「ほう……矮小な人間の奇跡か。しかし、こんなもので我を止められると思うな」

 

 しかし、光の壁に手を当てて、オーガは薄ら笑いを浮かべる。

 恐らくオーガには、《聖壁(プロテクション)》を破壊出来る術があるのだろう。

 

「ゴブリンスレイヤーさん。あの海底へ繋がっている『転移の巻物(スクロール)』を奴に使って下さい」

 

 だが、そんなオーガの様子を気にも留めず、疾走騎士はゴブリンスレイヤーに話しかける。

 それを聞いて、ゴブリンスレイヤーは首を傾げた。

 

「ゴブリンか?」

 

 ゴブリンスレイヤーにとって、最も忌むべき存在はゴブリンである。

 ゴブリン以外には興味すら抱かない。

 そんな彼に、貴重な転移の巻物(スクロール)を使えという事は、もしやこの巨大な怪物はゴブリンなのかもしれない。

 確認の為、ゴブリンスレイヤーは問い返す。

 

「いいえ」

 

 無論オーガはゴブリンなどではないので、疾走騎士は首を横に振って否定する。

 目の前の怪物が何者なのか、そしてどれ程の脅威であるかすらも、ゴブリンスレイヤーは一切知らない。

 

「ですので、こちらで判断させて頂きました」

 

 だからこそ、ゴブリンでは無いからこそ、今取るべき最善の行動を、為すべき事を、疾走騎士は彼に指示したのだ。

 

「多分、これが一番早いと思います」

「……いいだろう」

 

 やや沈黙し、頷いてから、ゴブリンスレイヤーは転移の巻物(スクロール)を雑嚢から取り出し、オーガへと向ける。

 そして……膨大な量の海水が、巨大な弾丸となってオーガに襲いかかった。

 

 

───────────────

 

 

 なんだ……一体何が起こった?

 オーガは意識を取り戻したものの、状況を把握出来ずに居た。

 先程までは己の両足で立ち、人間共を見下ろしていた筈。

 だがどういう訳か、今は床を背にし、天井を見上げている。

 体を起こそうとするも、それすら叶わない。

 ただ眼を動かせば、一人の人間がこちらへと歩いて来ているのが見えた。

 その者は顔の見えぬ兜を被り、両手に盾を携え、一歩一歩近付いて来て、眼前まで来た所で足を止める。

 

「がぶぉ……」

 

 何を……そう言おうとして、オーガの口からは赤黒い液体が吐き出される。

 

「あぁ、認めよう。やはりあの時お前を殺せなかったのは失敗だった」

「貴……様……まさ……か……」

 

 その声に、オーガは聞き覚えがあった。

 魔神復活の際、調査に来た軍の先遣隊。

 有象無象で構成されたそれを蹴散らし、撤退させた後、入れ違うようにして現れた一人の騎士。

 半ばで折れた剣と、血塗られた盾を手にし、そして……修羅を瞳に宿した、あの時の男の声だ。

 恐怖に駆られて、即座に戦鎚を振り下ろし、殺したと確信した瞬間、オーガは──『束の間の月影』を見た。

 そうだ。あの時も、初めは何が起きたのか分からなかった。

 自慢の戦鎚が、折れた剣から放たれた青い閃光により真っ二つに斬られ、あまりの恐ろしさに逃げ出し、それでようやく生き延びる事が出来たのだ。

 その後、魔神将より任務を与えられ、より強力な戦鎚を賜り、ゴブリンを率いて、この砦へと身を潜めた。

 だが、それもここまでである。

 オーガはそこで漸く、自身の下半身が無くなっている事に気付いた。

 

「ま、待て!」

「喋るな。お前の息は臭すぎる」

「やめっ……! があああぁぁぁ!!!」

 

 そして、疾走騎士が盾の刃を振り下ろし、オーガの命はあっさりと断ち斬られた。

 

 

───────────────

 

 

「終わった様だな」

 

 オーガの絶叫が途絶えたのを確認してから、ゴブリンスレイヤーが歩き出す。

 通路の先には、転移の巻物(スクロール)から放出した海水によって上下に切り裂かれたオーガの亡骸が転がっていた。

 頭には盾が深く突き刺さり、更に眼球が抉り取られている。

 疾走騎士はオーガの顔に足を乗せ、盾を引き抜いてから、ゴブリンスレイヤーに答えを返す。

 

「はい。滞りなく」

「そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーの背後から他の仲間達もやってくると、疾走騎士は辺りを見回して、戦利品を物色しだした。

 

「見て下さい。オーガが持っていた戦鎚です。何で作られているのか分かりませんが、大きさと見た目の割にはかなり軽いですよ」

「ほう。ワシに見せてくれんかの?」

 

 疾走騎士は転がっていたオーガの戦鎚を持ち上げ、鉱人道士へと差し出す。

 手で触ってみたり、コンコンと指で叩いたりと、一通り調べた後、鉱人道士は頭を掻いて困ったように唸った。

 

「う~む。すまんが、ちと分からんのぅ。金属って事ぁ間違いは無いんじゃが……」

「あら、石、金、酒なら任せて良いんじゃなかったのかしら?」

「見た事が無い物は知らんに決まっとろうが!」

 

 にやにやと笑って妖精弓手が揶揄うと、鉱人道士は食ってかかる。

 

「ほう、鉱人殿すら見た事が無い鉱物とは、もしかすると大層に貴重な物やもしれませぬな」

 

 ならば、これはお宝の可能性がある。

 しかし見た目の割に軽いとは言っても、あのオーガが武器にしていた戦鎚なだけあってかなりの大きさで、相当な労力が必要になるだろう。

 可能性を信じて持ち帰るかは判断の分かれる所だ。

 

「……ねぇ疾走騎士、そっちは?」

 

 先程から気になっていた様子で魔術師が指差したのは、疾走騎士が持っていた二つの球体。

 中に炎が閉じ込められているような、紅い輝きを放っている。

 

「あぁ、これはオーガの目玉です。さっき抉り取りました」

「な、なんでそんな物取ったのよ!」

 

 それを聞いた妖精弓手はドン引き。

 しかし、魔術師は手を顎に当てて、疾走騎士を見詰めながら暫し考え込んだ後、頷いた。

 

「……確かに使えるかも知れないわね」

「とてもそうは思えないけれど……」

「そう? 怪物の体の一部が調合の素材になる──なんてのは定番よ」

 

 ──その知識を疾走騎士が有しているとは思えないけれど……ね。

 これはきっと、神からの指示なのだろう。

 そう結論を出し、これ以上の詮索は止めておく事にした。

 

「それでどうするの? この先、調べるの?」

「調べるといってもこれでは……」

 

 手に持った松明を通路の奥に向ける魔術師。

 その先には部屋があった筈だ。

 しかし、先程この通路へ向けて放出された海水は、奥の部屋諸共あらゆる全てを飲み込んで、石や木による瓦礫の山へと変貌させてしまっていた。

 この中から何かを見付け出すのは至難の技だろう。

 

「この有り様だとね……ん?」

 

 だが妖精弓手が唐突に瓦礫の山を掻き分けながら進んだかと思うと、何かを拾い上げて戻ってきた。

 

「見てこれ!」

「紙? よく残っていましたね」

 

 一枚の紙をヒラヒラと揺らす妖精弓手に、女神官が首を傾げる。

 どうやらそれは羊皮紙で、だからこそ水に濡れても無事に残っていたのだろう。

 紙には文章が綴られており、妖精弓手が内容を読もうと試みる。

 

「ええっと……誰か読める?」

「なんじゃいお主、散々長生きして字も読めんのかいな」

「うっさいわね! 見た事も無い文字なんだからしょうがないでしょ!」

「それ、私にも見せてもらえる?」

 

 書かれた字が読めなかった妖精弓手に対し、先程のお返しとばかりに今度は鉱人道士が笑って揶揄う。

 怒り心頭になった妖精弓手から紙を受け取って、今度は魔術師が文字を一つ一つ指でなぞっていくが……。

 

「うーん……ごめんなさい。私にも無理ね。知らない字だわ」

 

 しかし、お手上げと言わんばかりに眉間を押さえて頭を横に振る。

 魔術書に書かれている文字全てが、同じ様式とは限らない。

 故に、賢者の学院では様々な字を学ぶ事もあったが、それでも彼女には、この紙に書かれた字を読むことは出来なかった。

 

「失礼」

「えっ、ちょっ」

 

 すると突然、疾走騎士が肩を寄せて、紙を覗いてきた。

 魔術師が顔を赤くして硬直していたが、疾走騎士はお構い無しにその字を読み始める。

 

「ゴブリンに巣を作らせ、身を潜めろ。秩序の王達が集いし時を狙え。簡単に訳すとこんな感じですね」

「え……疾走騎士、アンタ読めるの?」

「軍で伝令をしていた頃に、敵側の情報を盗む任務を請けた事がありまして、その際に覚えました。これは混沌の勢力側が情報伝達の際に使う物ですね」

 

 それってもう伝令の域を越えているのでは? 一党達がそんな疑問を抱いているなか、魔術師が恐る恐る問い掛ける。

 

「で、でも、普通の字は読めないのよね?」

 

 ギルドで張り出された依頼書の内容を、彼の代わりに読むという自分の役割が要らなくなってしまうのではないか。

 魔術師はそんな事を危惧していたが、疾走騎士は首を縦に振った。

 

「はい。一介の騎士が余計な事を知ってしまえば、敵に捕らえられ、拷問された時に情報を渡す可能性があると言われたので」

「……アンタがどういう扱いを受けてたか、何となく分かってきたわ」

 

 普通なら、騎士としての教養を身に付ける為、字くらいは学ぶ筈なのだ。

 にも関わらず字が読めない彼は、あまり良い扱いを受けていなかったのではないかと、薄々ながら勘づいていた魔術師。

 そして返ってきた答えは、学ぶ機会すら与えられなかったというもの。

 やっぱりか。そう魔術師が頭を抱えるのも仕方のない事だった。

 

「とにかく、シエルドルタの言ってた事は当たってたって事ね」

 

 あのオーガは混沌の勢力から送り込まれた尖兵で、各種族の王達を狙う為に、この砦でゴブリン達に巣を作らせた。

 だがそこへやってきた冒険者の一党によりオーガは倒され、無事にその目論みも打破される。

 これが事の顛末であった。

 

「話は終わったか」

「ええ、それでは戻りましょうか」

 

 これ以上ゴブリンが居ない事が分かってから、ずっと退屈そうに待っていたゴブリンスレイヤーに対して、疾走騎士は先程の戦鎚を担ぎ上げてから頷いて答えを返す。

 

「え……疾走騎士、それ持って帰るの?」

「はい。先程の話からして、もしかすると貴重な物かもしれませんし、幸い持ち上げる事の出来る重さですから」

 

 盾二つに加え、更に巨大な戦鎚まで運ぼうとする疾走騎士に、魔術師は何とも言えない表情。

 そして一党達は来た道を戻り始めた。

 

「はぁ……ここからまたあの道を戻るのね……」

 

 魔術師が大きく溜め息を吐いて項垂れる。

 

「《突風(ブラストウィンド)》ならあの天井までひとっ飛びですよ? 一か八かやりますか?」

「……絶対に嫌」

 

 届かなかったり、狙いが外れて穴を通れなければ、そのまま地面まで真っ逆さま。

 疾走騎士の提案に一瞬は悩んだ魔術師だったが、安定を取るためにも、結局は歩いて脱出する事にしたのだった。

 

 

───────────────

 

 

「同胞を助けて頂きありがとうございます。お迎えにあがりました」

 

 遺跡から出ると、森人の戦士達が馬車で迎えに来ていた。

 どうやら、竜牙兵は救出した森人を無事送り届けられた様だ。

 

「お疲れ様でした! ゴブリンどもはどうなり──ひぇっ」

 

 煌びやかな武具を纏った森人の戦士が、ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の二人を見た途端、恐怖に顔を引き攣らせる。

 冒険者の亡霊が現れたとでも勘違いしたのだろうか。

 

「ゴブリンは全て排除済み。混沌の勢力による尖兵、上位種のオーガが潜んでいましたがこれも撃破。残されていた文から奇襲の算段を立てていた事が分かりました。この手紙をお渡ししておきますので、あとの調査はお任せします」

「お、おぉ! 確かにその戦鎚はオーガの……承知致しました。街までお送り致しますのでゆっくりお休み下さい」

 

 しかし、疾走騎士が丁寧な対応を見せれば、森人の戦士は安堵した様子で馬車に一党を案内する。

 

「ではお言葉に甘えて……」

 

 一党全員が馬車に乗り込んだのを確認してから、疾走騎士がオーガの戦鎚を積め込みだした。

 てっきり手紙と共に置いていくのだろうとばかり思っていた森人の戦士が声を上げる。

 

「それを乗せるつもりですか!?」

「意外とそこまで重くありませんし、大丈夫ですって。安心して下さいよ。へーきへーき、へーきですから」

 

 みしりと馬車が軋む音が響いたものの、確かに問題は無い様子だ。

 

「……狭いんだけど」

「まあ町に着くまでの辛抱ですし」

 

 中に居た妖精弓手が不満を漏らすが、女神官がそれを宥める。

 最後に疾走騎士が乗り込んで、ようやく馬車は出発した。

 

「ねぇ、聞きそびれてたんだけど、皆は何で冒険者になったの?」

「なんじゃいな耳長の。藪から棒に」

「良いじゃない。暇だもの」

 

 狭いスペースを丸くなって寝転んだ妖精弓手が皆に聞くと、それぞれが答える。

 

「ワシは旨いもんを食う為じゃの。耳長はどうじゃ」

「私は外の世界に憧れてね」

「拙僧は異端を殺し位階を高め、竜となるため」

「は、はあ……宗教は分かります。私もそうですし」

「ゴブリンを──」

「あんたのは何となく分かるからいいわ」

「おいおい、聞いといてそれかい」

「だって他に無いじゃない」

 

 それはそう。

 誰にだって明白で、故に彼はゴブリンスレイヤーなのである。

 

「そっちの二人は?」

「え、私達?」

 

 起き上がった妖精弓手が視線を向けた先には、肩を寄せ合って座る魔術師と疾走騎士の姿があった。

 

「そうよ。貴女、賢者の学院から来たらしいじゃない。わざわざ冒険者になんてならなくても、もっと良い道はあったんでしょ?」

「まあ……ね」

 

 魔術師は思わず苦い笑みを浮かべてしまう。

 本当に、無謀で愚かな選択だったと、自分でも思うからだ。

 しかし少なくとも後悔はしていない。

 隣に『彼』が居る限りは。

 故に、胸を張って妖精弓手の問いに答える。

 

「私は自分の優秀さを、より多くの人に知って貰いたかったのよ。まあ、それは甘い考えだったけどね」

「そっか……シエルドルタはどうなの?」

 

 そして、疾走騎士の番が回ってきた。

 ──確かに気になる。

 魔術師も、彼の答えを待った。

 

「自分……ですか?」

「私が言うのも何だけど、あなたが騎士を辞めた理由に見当がつかないもの」

 

 今回の冒険の途中、妖精弓手は捕らえられていた森人の惨憺たる有り様を目撃し、一度は心が折れかけたが、その心に寄り添う姿勢を見せた疾走騎士によって、すぐに立ち上がることが出来た。

 騎士とはどんな人間かと言われれば、凡そ彼の様な人物像を思い浮かべるのだろう。

 そんな彼が騎士を辞めて冒険者になるというのは、余程の理由があったのではないか。

 そう妖精弓手が考えていた所で、森人として優れた聴覚を持つ彼女にだけは聞こえてしまった、あのオーガと彼の会話。

 疾走騎士は、あのオーガと会った事がある。

 そして、追い詰めたものの、逃げられてしまったのだろう。

 追求するつもりはない。ただ、そこまでの力量を持つ彼が、何故こうして冒険者になっているのか、知りたくなったのだ。

  

「そう……ですね。或いはそれを知るために、冒険者になった……のかも……」

「……疾走騎士?」

 

 そこまで言うと、疾走騎士は何の反応も示さなくなってしまった。

 まさかと思い、疾走騎士の兜の隙間から、魔術師が中を覗き込む。

 

「……寝ちゃったわね」

「え、このタイミングで!?」

 

 信じられないという表情で驚愕する妖精弓手。

 

「まあいつも通りね。ベッドに入れば即ぐっすりよ。コイツ」

「全く、二人揃って器用だこと」

 

 いつの間にか、もう片方の鎧兜からも、微かな寝息が聞こえてきていた。

 ──まあいっか。別に何時でも聞ける事だし。

 妖精弓手はやれやれと肩を透かしながら、その長い耳を上下に揺らす。

 

「いやいや、これは度を越した不器用じゃろ」

 

 鉱人道士の言葉に、皆が一様に笑みを溢す。

 既に空はうっすらと、明るくなり始めていた──……。

 

 

────────────────

 

 

 おう、久しいな。

 お主は毎度、誰にも気付かれぬよう、一人で訪ねて来おるのう。

 ククッ、その扉が開かれる瞬間まで、刺客が送り込まれたのではないかと血がたぎってしまったわ!

 ……なに? 斬り捨てられた怪物の群れ? また勝手に抜け出しただろう……じゃと?

 カカカ! 入り込もうとしておった鼠を斬ったまでよ。

 それに、刃を握れるうちは、戦場に在りたいものでな。

 願わくば死に際も、と言いたい所ではあるが…………なんじゃ、それがお主の心配顔か?

 なぁに、爺はここに居ろと、あの孫娘がうるさい。

 故に、こうしておるだけじゃ。

 

 そこの窓から剣を振るっているのが見えるであろう。

 いずれはあやつが儂の跡を継ぐ……どうじゃ、一度会ってみぬか?

 人斬りの才はあるが、融通の利かぬ、思い込みの激しい娘でな。

 しかし、かわいい孫娘でもある。

 お主があやつの助けとなってくれるのなら、少しは安心出来るが……。

 

 ふむ、あくまでも一介の騎士として生きるか……まあよい。

 

 ……もう間もなく、世の乱れが、混沌が、人死にの絶えぬ戦が、力無き者達を呑み込まんとするじゃろう。

 

 カカッ、忘れるでないぞ。

 

 ──迷えば敗れる。それが、戦よ。

 行くか。お主との縁も、これが最後やもしれぬ。

 ……ではな。

 

 

 …………。

 カカッ、実に面白い奴じゃ。

 何者に蔑まれようとも、己の為すべき事を信じておる。

 しかし、故に危うい。あやつと真に縁を結び、共に歩める者が傍に居れば良いのだが……な。

 

 

───────────────

 

 

 ガタンと馬車が揺れ、意識が戻る。

 どうやら夢を見ていた様だ。

 とても懐かしく、しかしそれ程昔という訳ではない過去の夢。

 

「……」

 

 ふと、荷物入れの袋に手を入れて、中を漁る。

 詰め込まれた荷の中、その一番奥に『それ』は沈んでいた。

 母の形見で、今は折れてしまった一振りの剣。

 折れているとしても、刃を剥き出しにしておくのは危険なので、柄より先には布を巻き付けてある。

 受け取った時にはきちんと手入れされ、輝きを放っていたが、今では見る影もない。

 それを袋から取り出して、柄の部分を握り締めた。

 しかしその瞬間、転移の巻物(スクロール)から弾けた海水の如く、過去の記憶が甦る。

 

 ──……羨ましいな。私じゃなくて、地母神様はきみを選んだんだ。

 

 故郷と共に焼かれ、息を引き取ったシスターの言葉が。

 

 ──なんでもっと早くに来てくれなかったんだ!

 

 任務を放り出して、農村をゴブリンから救ったにも関わらず、罵声を浴びせて来た村人達の言葉が。

 

 ──一足、遅かったな。貴様の祖父は既に息を引き取った。

 

 軍の騎士という肩書きを失って、せめて最後の挨拶をと思い、祖父を訪ねた時に告げられた言葉が。

 頭の中で反響するかの様に、何度も何度も繰り返し聞こえ続ける……。 

 

「っ……! はっ……はぁ……!」

 

 震える手から、折れた剣がこぼれ落ちた。

 全身からは汗が滝の様に流れてくる。

 呼吸は浅く、荒い。

 何とか落ち着かせようと一度唾を飲み込んでから、深呼吸をしようと試みる。

 

 ──何度試しても同じか……。

 

 騎士としての全てを失い、絶望に打ちひしがれていたあの時、己の心には混沌が芽生えそうになった。

 しかし、修羅へと成り果てかけた己自身を、剣と共に投げ捨てる事で、何とか踏み止まることが出来たのだ。

 だが、その代償として、剣をまともに握る事が出来なくなってしまった。

 

 ──だから、これで良い。

 

 下唇を噛み締めながら、落ちた剣の、布で包まれた刃の部分を掴み、袋へと放り込む。

 

「?」

 

 そこで、左肩に重みを感じた。

 

「ん……すぅ……」

 

 一体いつからだろう? 魔術師の彼女が、こちらの肩にもたれかかって眠っていた。

 こんな寝苦しい馬車の中だというのに、その表情は穏やかその物で……思わず口角が上がり、小さく息を吐く。

 

「あぁ、これで良いんだ……」

 

 縁も、剣も、己の心も失って、残ったのは深い闇だけだった。

 そんな時に神の啓示を受け、今では新たな縁が紡がれて、傍には彼女の温もりが在る。

 気付けば手の震えは無くなっていた。

 

「!」

 

 そこで、馬車が止まった。

 どうやら町へ着いたようだ。

 また、失う訳にはいかない。

 今度こそ、間に合わせる。

 その為にも、先ずは立ち上がらなければ。

 

「……え、重っ、ぐえっ」

「痛っ! 何っ!? あっ──」

 

 しかし、もたれかかる魔術師の重量によってバランスを崩し、またもや彼女の下敷きになる疾走騎士であった。

 

 






Q.疾走騎士くん、騎士なのに剣が装備出来ない……出来なくない?

A.剣の適正表記が『剣:―』になってて装備しようとしてもブブーって音が鳴るだけですね。騎士の恥晒しがこのヤルルォ……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パート18 『鍛冶手伝いは楽じゃない』

 やっと漫画版3巻の冒頭まで来たよRTA、第十八部はぁじまぁるよー。

 

 前回オーガを撃破した疾走騎士くん達は、馬車で街へと帰還しました。ぬわ~ん疲れたもぉ~ん。

 早速ギルドへと向かい、依頼の達成を報告しに行きましょう! いざ鎌倉。

 

 それにしても、結果的にあのオーガを無損害で倒せたのはかなりおいしいですね。

 普通に戦うと、どうしてもオーガにターンが回ってしまい、前衛であるゴブスレさんか、もしくは走者のどちらかが攻撃を受ける事になります。

 オーガの攻撃はクッソ痛いので、勝てたとしても傷の回復までに数日を要する事となり、大ロスが確定してしまいます。

 しかしゴブスレさんの好感度を上げ、転移の巻物(スクロール)を即ブッチッパしてもらう今回の新チャートでは、安定して無損害クリアする事が可能になりました。

 やっぱゴブスレさんは最高だな!

 いつの間にか疾走騎士くんのHPがちょっと減っていますが、それは馬車の中で魔術師ちゃんの下敷きになった事が原因です。あのさぁ……。

 

 着くぅ~。

 

「お、我らが英雄様の御帰還だよ!」

「ほう、あの戦鎚……また大物を狩ったようだな」

「ふふっ、本当に『また』ですね」

「銀等級の冒険者達とゴブリン討伐へ向かったと聞いていましたが、一体何が?」

 

 オォン! ギルドに入ったところで、自由騎士ちゃん達一党に絡まれてしまいました。流行らせこら!

 ちなみに今回の依頼は政治に関わる問題なので、口外は出来ません。

 ギルドの評価に影響する可能性もあるので、コンプライアンス違反は……やめようね!

 

「別に良いわよ。なんなら今から報告する所だし、貴女達も良かったらどう?」

 

 えぇ……何故か妖精弓手からお許しが出てしまいました。

 ロスするのが嫌だからあしらうつもりだったんですが、こうなったら仕方ないので連れて行くしかありませんね……。

 

「お、お疲れ様ですゴブリンスレイヤーさん……」

 

 受付嬢さんが明らかに動揺しています。

 まあ、こんなデカイ戦鎚を疾走騎士くんが持ち帰って来たら、普通ビックリしますよね。

 

「あぁ、今戻った」

 

 ゴブスレさんがパパパッと受付嬢さんに報告を済ませてくれます。

 なのでこちらはこちらで、別の手続きを済ませましょう。

 

「おっ、帰ってんじゃ~ん!」

 

 出たわね。監督官さんが現れました。

 多分いつもの《看破(センス・ライ)》案件でしょう。

 でも斜に構えてれば問題はありません。

 

「あのさぁ……もう《看破(センス・ライ)》はいいから、その戦鎚見せてもらってさ、終わりで良いんじゃない?」

 

 おっ、そうだな!

 そもそも銀等級の人達と一緒に行って来たんだから、誤魔化しようもないですからね。

 それよりも疾走騎士くんの持っているこの太くて立派なモノに興味があるようです。

 見たけりゃ見せてやるよ~。

 

「はえ~、すっごい大きい……」

「でも確かに軽い……軽くない? 前に皆でリーダーを持ち上げた時くらいの重さだよコレ」

「あっ、そうだ。この戦鎚でお前の《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)をブチかませばいいんじゃないか?」

「え、それは……」

「やめて下さいよホントに」

 

 あ~もうめちゃくちゃだよ~。

 持ち帰った戦鎚を彼女に見てもらおうとカウンターに置いたら、自由騎士ちゃん達一党まで群がって来てしまいました。

 

▼《?大槌(グレートクラブ)》は、軽銀の戦鎚である事が判明した!

 

 

 

 ファッ!? こいつら勢いのまま大槌(グレクラ)を鑑定までしてしまいましたよ!?

 キミ達、鑑定スキルなんて持ってたっけ?

 まあでも鑑定してくれたのは普通にありがたいですね。

 手間が省けたのは助かるタスカル。

 

「ではこちらが報酬となりますね。お疲れ様でした」

 

 おっ、どうやら報告も終わったみたいですね。

 貰った報酬額は……なんと金貨一袋!!

 政治絡みで、しかも銀等級の冒険者に宛てて出された依頼なので、高額なのは当たり前といえば当たり前なのですが、普通このような依頼は疾走騎士くん達新人には回って来ません。

 それをゴブスレさんの好感度を上げておくだけで同行出来て、しかもクリアするだけなら後ろから付いて行くだけでも可能というウマさ、ヤバすぎぃ! やはりこの依頼はチャートから外せませんね!

 これで暫く資金面の心配は要らないでしょう!

 

「じゃあ私達はこれで──」

 

 あっ、待てぃ!(江戸っ子)

 妖精弓手がその場を後にしようとしたので呼び止めます。

 この戦鎚は先程、軽銀で出来ている事が判明しました。

 しかしそうなると、一つ問題が発生します。

 軽銀で作られた武器は、かなり価値が高いお宝です。

 冒険で見付けたお宝は、冒険者達で山分けが基本。

 普通であれば換金して分けるべきです。

 しかしこの軽銀は素材としてかなり優秀なので、ここで手放す訳にはいきません。

 という訳で譲って下さいお願いします! 何でもしますから!

 

「構わん」

 

 ゴブスレさんは即OK。流石RTA唯一の味方だぜ!

 女神官ちゃんもゴブスレさんがいいならと了承してくれたようです。

 

「それを持ち帰ってきたのはとっとこ丸じゃろ」

「うむ、拙僧達だけならば捨て置いていたでしょうからな」

 

 鉱人道士と蜥蜴僧侶のお二人からもお許しが出ました。

 後は一番厄介な二千歳児こと、妖精弓手ですが……。

 

「いいわ。でも、これで借りはチャラよ」

 

 や っ た ぜ 。

 

 借りが何の事かは分かりませんが、どうやら好感度が足りていたみたいですね。

 ごねられて多少のロスが出る事を覚悟していましたが、彼等にプレゼントを用意したり、ゴブリンに捕まった森人を救助した恩恵が、ここで出たようです。

 

 とにかくこれで全ての精算が終わったので、今回のクエストは完了!

 大所帯だった一党も、解散となりました。

 

「私達はこれからこの街を拠点にするつもりだから、何か困った事があったら頼りなさい」

 

 妖精弓手達は今後、この街で活動するようになります。

 彼等はとても頼りになるユニットなのですが、妖精弓手だけはちょくちょく絡んで来てロスを発生させるRTAの敵と化すので、必要な時以外はなるべく遭遇しない事を祈っておきましょう。

 

 さて、街に着いたのは夕方ですので、今日はもう冒険には行きません。

 今回の戦利品を用いて、疾走騎士くんの新しい盾を作る為、工房へ向かいましょう。いざ鎌倉。

 

「あぁ? 軽銀だぁ?」

 

 おうオヤジ! この太くて大きい立派なブツを加工して、新しい盾を二つ作ってくれ!

 

「出来ねえこたぁねぇ。しかし軽銀の武具となるとな……あー、今日はもう客も来ねぇだろ。ちぃと手伝ってもらえるか? そしたら今から取り掛かってやってもいい」

 

 鍛冶を依頼すると、工房のオヤジが暇な時に限り、この選択肢が出てきます。

 普通ならロスになりますが、疾走騎士くんの盾を新調する事で、今後短縮出来るタイムの事を考えれば、ここはお手伝い一択になります。

 だから食事をする前にここへ来る必要があったんですね。

 

「ねぇ、鍛冶なんて全く分からないけど大丈夫?」

「構わねぇよ。ただこっちが言うタイミングで術をブチ込んでくれるか? コイツの加工は一気に温度を上げる必要があってな」

「分かったわ」

 

 ちなみに、本来であれば軽銀の製造には雷の魔術を扱える術士が必要になります。

 しかし今回は製造ではなく、元々武器として製造済みの戦鎚を加工する形なので、その必要はありません。

 あ、補助素材にオーガのタマタマを選ぶのを忘れずに。

 これがあるのと無いのとでは、完成品の出来がかなり違いますからね。

 加工に必要な費用はさっき貰った報酬で十分足ります。

 

 まだまだお金には余裕があるので、ついでに魔術師ちゃん用のクロスボウも欲しい、欲しくない?

 ここで売ってるクロスボウには、レバーで弦を引くタイプと、ハンドルで巻き取って弦を引くタイプの二種類があります。

 レバー式クロスボウは、レバーを引く筋力が足りない為、魔術師ちゃんには扱えません。

 なのでここは巻き取り式のクロスボウ一択……と思いきや、こちらはハンドルを回す時間分リロードが遅くなっちゃうので、使い勝手が悪いんですよね。

 

「んな無茶言ってもうちにある品はそのどっちかだけだぞ」

 

 大丈夫! ちゃーんと考えてありますぜ!

 レバー式クロスボウのレバーを取っ払い、持ち手側の後ろにペダルを付け、ペダルと弦を繋げましょう。

 これでクロスボウを地面に立ててペダルを踏むと、自身の重さで弦が引ける構造に出来ます。

 これは『立たせてやるか! しょうがねぇなぁ』と呼ばれる改造法です。

 盾の縁を研いで刃にする改造法『ちょっと刃ぁ当たんよ~』と同じく、RTAだけでなく通常攻略でもよく使われるお手軽強化ですね。

 この改造を施すとなんと! リロードの早さが10秒に1発撃てるくらいの早さになります!

 巻き取り式のクロスボウが大体1分1~2発撃てる程度なので、まあ差は歴然ですね。

 更に使用者の重量が重ければ重いほど、その分ペダルを踏んだ時に弦が強く引けるので、撃ち出すボルトの威力が上がるという特性もあります。

 つまり魔術師ちゃんのメガトン重量がここで遺憾無く発揮出来るって寸法よ!

 

「分かった分かった、それもやっておいてやる。ったく、ゴブリンスレイヤーといいお前といい、面倒な注文ばかりしやがって……」

 

 ありがとナス!

 料金はライトクロスボウ一本分だけで良いみたいです。

 うまくいったら今後商品化したいとか。

 アイデア料ってやつなのかな?

 

 あ、鍛冶作業は特に見所が無いので倍速しまーす。

 

 カカカカカカカカカカカカカカン!カン!カン!カン!

 

 ──なんで等速に戻す必要があるんですか?

 

 

*ドカーン!!*

 

 

 

 

 ファッ!?

 魔術師ちゃんに《火矢(ファイアボルト)》を撃ち込んでもらった所で、何故か大爆発が起こりました。あぁん? ナンデ?

 

「その……ゴメンなさい。火力を強くしすぎて……」

「うぅむ、こりゃあ素材の質から変わっちまったかもしれねぇな……」

 

 ウッソだろ魔術師ちゃん!? こんな時にクリティカル引いたの!?

 戦闘ならまだしも、繊細な技術が求められる鍛冶にメガトン級の《火矢(ファイアボルト)》なんかブチ込んじゃったら、壊れちゃうだるるぉ!?

 やべぇよやべぇよ……鍛冶に失敗した場合、装備の品質が下がるだけでなく、下手をすると素材ごとロストもありえます。

 取り敢えず完成品が無事か確かめてみましょう。

 暴れるなよ……暴れるなよ……。

 

 ……あちゃー、形はちゃんとした盾ですが、真っ黒に焦げてしまっている。ハッキリ分かんだね。

 あと何だか黄色い炎みたいなオーラが見えるような気も……?

 とにかく完成した新品がゴミクズだったら今までの苦労が水の泡。最悪リセも視野に入ります。

 せめて性能だけでも使えるレベルであればいいのですが……。

 

 おお! 魔法攻撃に対する防御力が半端無い高さです!

 ちゃんと正面からガード出来れば殆どの魔法を無効化出来るでしょう!

 疾走騎士くんは遠距離からの魔法攻撃が弱点なので、これはありがたい!

 では早速装備してみましょう。

 

 

 …………何これおっっっも!!

 

 

 いや、盾として見れば普通の重量なんですよ? 今まで使ってた鉄製のカイトシールドと大差無い程度です。

 ただ軽銀の軽さが完全に失われてますね……はーつっかえ、これだからメガトン魔術師ちゃんは……。

 あ、でも他のステータスは軽銀のまま完成した時と大差無さそうです。

 どうやら魔法防御力と重量がトレードオフになっただけみたいですね。

 というか軽銀自体はかなり優秀な素材なので、性能的にはぶっちゃけ文句無しです。

 盾が軽くなって疾走騎士くんの疲労が少なくなったら魔術師ちゃんを置いて一人でバリバリ稼ぐ事も考えてたんだけど、その代わりに魔法を放ってくる強敵相手に安定性が増したので実質プラマイゼロ! チャートを修正してRTAを続行します!

 

「でもこの色ってもう銀とは呼べないわよね……」

 

 取り敢えずこの盾は『暗銀の刃盾』とでも呼ぶ事にしましょう。

 それじゃあ今後はこのアンアンギンギンの刃盾をメインウェポンとして使用し

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 





Q.何で魔術師ちゃんの《火矢(ファイアボルト)》で材質が変化したんです?

A.彼女のメガトンっぷりが伝染したんやろなぁ(諦め)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。