勇者 (そら)
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勇者

職業選択を開始します。

 

 

 

 

僕は、天才だ。

 

運動もできる。

 

友達もいて。

 

毎日が楽しい。

 

本だって読む。

 

勉強だっていつも1番だ。

 

 

一言。

 

 

「僕は主人公だった。」

 

 

 

 

 

あるとき、気づいてしまった。

 

いつの間にか天才と言われることもなく。

 

学校の体育で活躍することも。

 

友達も離れて行って。

 

本を読むのも臆するように。

 

勉強なんて意味わからない。

 

 

 

 

 

 

一瞬だった。

 

 

 

 

 

おはようって声をかければ返ってきた日常も今では

 

ー自分から声を出すこともできないー

 

 

 

情けなくて、悔しかった。

 

 

 

 

 

ある者は

ほくそ笑む。

 

 

ざまぁみろと。

 

 

 

いつだって2番だった彼は、当初からそれはもう妬みに妬んだ。

 

 

毎日毎日恨み続け、睨み。全て奪ってやると誓った。

 

 

 

 

 

事実、抜かりなく。全て奪うことに成功した彼は。

 

それはもう順風満帆。

 

 

 

思い通りに行くというのはこのことなんだ。

 

あいつはいつもこうだったのか。

 

 

 

思い出すだけで殴りたくなるが、それでも。

 

今の自身の状態を省みる限りむしろ悦に浸りだす。

 

 

 

女子からも声がかかり、あいつが好きだった子も自分の虜となった。

 

 

 

あいつなんて、もう彼には映ってない。

 

 

奪う者となった彼は、やりたい放題。

 

だが、不思議と妬む者はいない。

 

それどころか、

 

「ねぇ!今度勉強会みんなでやらない?」

 

「おい!〇〇は俺たちとカラオケ行くんだぜ!」

 

「来週の土曜日は、俺らと野球の観戦な~」

 

 

 

寄ってくる彼ら。

 

その様、まさに主人公。

 

 

対して、主人公だった彼は、

 

保健室登校で、クラスに顔すら出さない。

 

 

テストの順位も張り出されるので、既に目すら向けられないものだった。

 

 

 

 

 

さて、楽しんでいる主人公は放っておいて。

 

主人公だった彼の話をしていこう。

 

 

 

 

 

彼は、努力し。

1%ずつ元に戻していく。

 

それどころか、越えていく。

 

 

 

彼の魂が、自分がどうあらねばならないのか。

 

自分がどういった存在でなければならないのか。

 

 

 

ただ、何もせずにできたあの頃と違い。

 

屈辱。惨めさ。不甲斐なさ。

 

 

そんな体験をした彼は、

 

 

使命のもとに腐ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

さて。何をしていけばいいのだろうか。

 

彼は自問する。

 

 

まずは、この忘れやすい頭をどうにかしないと。

 

 

彼は、小さなメモを買った。

 

やらなければいけないこと。

 

自分がどうしたいか。

 

必要なもの。

 

毎日書いた。

 

 

両親や先生。

 

彼らのアドバイスもそうだ。

 

 

忘れないように。

 

小さなメモに、小さな文字で。

 

大きな衝動を持たせながら、力強く一つずつ書いた。

 

 

 

彼の記憶能力は、奪われたことによって完全記憶能力から一般以下の記憶力しか無くなった。

 

だが、信念のもと続けたこれや他の努力によって、瞬間完全記憶能力に加え、それを理解して吸収する。

 

副次的に空間把握能力の大幅な成長にともなう脳の進化。

 

例えば、空を見ただけで天気が分かり。

 

 

例えば、水たまりを見た瞬間に水の体積が分かるようになった。

 

 

 

 

次に、心だ。

 

もちろんのこと内気となって、引きこもりとなった彼だが、勇気をもって外に出る。

 

 

保健室の先生は、一日中カウンセリングや対話をさせてくれる。

 

 

 

先生がもつ心理学や医学。体に関する本も同時に話題に出すようになり。

 

同時に忍耐力や好奇心。努力する強さを手に入れて行った。

 

 

物腰が低く、優しく。

 

目は力強い。

 

 

 

風格が出るようになったころには、先生の悩みを聞く立場になった。

 

 

周りに勇気を与え、自らが先頭に立つ者。

 

 

 

職業が勇者になりました。

 

ー勇者システムを起動しますー

 

 

 

彼は、恨んでも良かった。

 

妬んでも良かった。

 

暴力を振るったって良かったはずだ。

 

奪われ貶され。屈辱を受けたのだから。

 

 

 

しかし、彼は奪った者すら

 

ーこいつには勝てないー

 

 

そう思わせてしまった。

 

 

彼は勇者だ。

 

主人公は物語を進めるだけなのに。

 

 

勇者は物語を作るものだ。

 

 

 

彼は、再び先頭に立った。

 

 

奪いし者は、またも奪おうとする。

 

しかし奪えなかった。

 

 

何故なら、それは彼が自身で努力して得たものだったからだ。

 

先天性ではない、後天的に得た彼の力は。

 

まさしく努力の結晶。

 

 

彼は、運動がまだできなかった。

 

保健室登校が終わり、クラスになじみ始め、体力をそろそろ付けようと思った彼は。

 

 

朝にランニングをし、筋トレをするようになった。

 

体調管理の大切さや、息を合わせること。ここでも忍耐力の向上。

 

 

彼は、一度運動会でビリとなってしまった。

 

 

負けない。絶対負けられない。

 

そう強く自身を律し。

 

 

努力をして、努力をする毎日。

 

 

 

 

 

 

彼は、いつの間にか天才と再び呼ばれるようになった。

 

 

ただの天才はすでに追い去った。

 

努力の天才だ。

 

 

 

 

自身を厳しく律し。

 

他者に優しく。

 

下を向くものには手を差し伸べ。

 

後ろを見れば期待のまなざしや切望の視線。

 

横を見れば信頼を置ける仲間がいる。

 

 

そして、前を向けば、いつかの情景が自分に手を伸ばしてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

*勇者システムにより、勇者覚醒プログラムが完了

 

*これより、世界に混沌が訪れます。

 

 

*勇者よ、世界を救いなさい。

 

 

ー勇者システム再起動により、試練プログラムを始動しますー



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