スリザリンの英雄 (雲居 静刃)
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スリザリン生と賢者の石
出会い


 この話はプロローグみたいなものなので短いですが、次の話からは長くなります。


 〜キングズクロス駅〜

 

 ガラガラガラ…

 

 大きな荷物が音を立てて動く。その荷物を押すのは、たっぷりとした深い赤色の髪に、ハシバミ色の目をした少女だ。

 少女は困ったように歩みを進めている。

 

「九と四分の三番線に行きたいのか?」

 

 突然、少女は声をかけられた。

 少女は少し驚いたように、また、少し訝しげに声をかけてきた人物に問いかける。

 

「どうしてわかったんですか?」

 

 少女に声をかけた人物は、同じくらいの年頃の、黒い髪に碧い目をした少年だった。

 

「そんな立派なフクロウを連れて彷徨っていたら、誰だってわかるさ。さぁ、九と四分の三番線はこっちだ。」

 

 そう言って少年は歩き出した。

 

「あなたはホグワーツの生徒なの?」

 

 少年に付いていきながら、少女は前を歩く少年に話しかける。

 

「いや、新入生だ。…君はマグル出身か?」

 

 少女は困ったような表情をする。

 

「ううん、ただ、親戚の家で育ったんだ。」

「…そうか。」

 

 何か感じ取ったのか、少年は口をつぐんだ。

 

 少し歩き、少年が立ち止まる

 

「ここが入口だ。」

 

 そう言った少年の前には、ただの柵があった。

 

「ただの柵だよ?」

「魔法で隠されているんだ。怖がらず、柵にむかって歩いて行けばいい。」

 

 言い終わると、少年は柵に歩いて行き、ぶつかる!と少女が思った瞬間、少年は柵に飲み込まれるように消えていた。

 驚き、止まっていた少女も、少年にならい柵の中に入っていった。

 

 

 気がつくと、少女の目の前には、人で溢れかえる見知らぬプラットホームが広がっていた。

 正面には深紅の蒸気機関車が停車しており、上の方には『ホグワーツ行特急 11時発』と書かれた看板が掛かっている。

 少女は無事に目的地に着けたことに安堵した。

 

 

 空いているコンパートメントを探しながら周りを見渡すと、そこは少女の見慣れないものでいっぱいだった。

 生徒以外の殆どの人たちがヘンテコな格好をしていたし、怪しげな箱を抱えた少年や、後ろには赤毛の集団なんてのもいた。

 少女は次はどんなものがあるんだろう、とワクワクしながらプラットホームを進んで行った。

 

 列車の後ろの方に少女は空のコンパートメントを見つけた。だが重すぎる荷物を列車に乗せられない。

 少女が困っていると、見かねた人が列車に荷物を乗せてくれた。見ると、それはさっきの少年だった。

 

▪️ ▪️ ▪️

 

「ありがとう。その…さっきも。」

 

 少年もコンパートメントを探していたらしく、あの後空いていたコンパートメントに2人で乗り込んだ。

 

「大したことじゃない。」

「でも、すごく助かったから」

 

 少年は本当になんともないと思っているようだった。

 

 「あの…、助けてもらってばっかりなんだけど、私にホグワーツの事教えてくれないかな?実は何にも知らないんだ…。」

 

 少女は優しさにつけ込むようで悪いな、と思いながらも少年に話しかける。

 

「大丈夫だ。」

 

 少年は快よく引き受けてくれる。

 

「とりあえず…、今どれくらいのことを知ってるんだ?」

「ダンブルドアと、ハグリッドと、後は寮があるのは知ってるんだけど…、スリザリンとかハッフルパフとかがよくわかんない。」

 

 少年は少し考えてから話し出した。

 

「そうだな…、まず寮は四つある。それぞれ特色を簡単にまとめると、

 グリフィンドールは、勇気はあるが、馬鹿正直。

 レイブンクローは、知恵はあるが、頭が硬い。

 ハッフルパフは、優しさはあるが、優秀な生徒が少ない。

 スリザリンは、成績はいいが、性格が悪い。って感じだな。」

 

 少女が少年の話を聞いていると、出発の汽笛の音が鳴り響いた。

 列車が動き出す。

 少年は話を中断して、窓の外に手を振る。その光景を少女が羨ましそうに見た。

 

「俺も人から聞いただけのものだが…、こんなものか。」

「どの寮も一長一短って感じだね。…!」

 

 少女は少年がどこの寮に入りたいのかを聞こうとして、気づく。

 

「ごめん。自己紹介忘れてた!」

「そういえば…。」

 

 少年もすっかり忘れていたようで、しっかりしてそうな人なのにそう言うこともあるんだな、と少女は少しおかしくなった。

 

「改めまして、わたしハリー、ハリー・ポッター。よろしくね。」

「俺は、ジンジャーだ。ジンジャー・グラジオラス。こちらこそ宜しく。」




 原作でもそうだけど、ちょっと優しくするとすぐ仲良くなってくれるハリー。ちょろい


 女の子のはずなのに名前ハリーのままなの?と思った皆さん。わたしもそう思います。ただどれだけ探しても良い名前がなかった(すでにハーメルン内で使われているのもある)ので、しゃーなしやな、と思いながらお読み下さい。申し訳ありません。


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差異

「しかし驚いたな。君があのハリー・ポッターだったなんて。」

 

 自己紹介が終わった後、少年…、ジンジャーが呟く。

 

「やっぱり有名なんだ。」

「?…。あぁ、そのことも知らないのか。」

 

 ハリーは他人の方が自分のことをよく知っている状況に、不思議な気持ちになった。

 ハリーのそんな気持ちを感じ取ったのか、ジンジャーは少し笑う。

 

「気になるなら本でも読んでみれば良い。いろんな本があるぞ?」

「いや読まないよ?」

ーー何故そんな読んでいて恥ずかしくなりそうな本を読まなければいけないのか。

 

「ていうか、そういう話じゃなかったよね⁉︎」

 

 想像しただけで恥ずかしくなってきたハリーは、話を変える。

 

「ジンジャーはどの寮に入りたいの?」

「スリザリンだな。」

 

 即答するジンジャーにハリーは少し驚く。

 

「さっきの話だとあんまり印象良くなかったよ?」

「あぁ、でもスリザリンがいいんだ。」

 

 そういうジンジャーの目は、今までの落ち着いた印象とは違う、子どもっぽい目だった。

 

「ジンジャーはもう決めてるんだ…。わたしはどの寮に入ったらいいんだろう?」

「組み分けまでの間に他の生徒と会う機会もあるだろうし、考えるのはそれからでもいいんじゃないか?」

「それもそうだね。」

 

 納得したハリーだったが、ふと疑問が湧いてきた。

 

「わたしパパとママがどの寮だったか知らないんだけど、両親の寮と子どもの寮が一緒になることってあるんじゃない?」

「確かにその傾向は強いけど、絶対じゃないよ。確か有名なスリザリンの家系からグリフィンドールに入った人もいるはずだ。」

「そうなんだ。…ジンジャーの両親はスリザリン?」

 

ハリーがそう聞くとジンジャーは困ったような顔をする。

 

「実は俺も両親がどの寮か知らないんだ。もう亡くなっていてね。」

 

 ハリーは息を飲む。

 

「ごめん。…あれ?じゃあ出発する時手を振っていた人は?」

「あぁ、あの人は育ての親だよ。」

「いいなぁ、育ての親と仲が良くて。わたしの方なんか、ずっと邪魔者として扱ってくるから。」

「それは、…大変だな。」

 

 本当に羨ましい、とハリーは思う。

 

 そんな時、廊下からガラガラ…という音と声が聞こえてきた。

「車内販売はいかがー?」

 

「わたし魔法界の食べ物食べてみたい!」

「おすすめは蛙チョコだな。ハズレもいっぱいあるから気をつけて買った方がいい。」

 

 元気を取り戻したした様子のハリーに、ジンジャーが少し笑いながら注意を入れる。

 

「わかった!」

 

 それだけ言うと、ハリーは車内販売の方に向かっていった。

 

 

 帰ってきたハリーは結構な量を買ってきていたが、ちゃんとジンジャーの注意は届いていたらしく、危なそうなものは買っていないようだった。

 早速買ってきたお菓子を開けるハリーにジンジャーがお菓子の説明を入れていく。

 

「これが蛙チョコだよね⁉︎」

「そうだ。箱を開ける前にしっかり捕まえておく準備をしておくのが食べるコツだな。」

 

 ハリーはダンブルドアや他の有名人のカードを当てたし、カエルチョコ以外のお菓子も楽しそうに食べていった。

 

 ▪️ ▪️ ▪️

 

 ーがらっ

 

 「ネビルのカエルを見なかった?」

 

 ハリーの興奮がひと段落ついた頃、いきなりコンパートメントのドアが開かれ、栗色の髪をした少女が話しかけてきた。

 

「カエルは見ていないな。何かあったのか?」

 

 突然入ってきた少女にジンジャーは少し怪訝そうな顔をしていた。

 

「ネビルのカエルが居なくなったの。私は探すのを手伝っているだけよ。生き物を探す魔法なんて、読んだ本には載っていなかったから聞いて回ってるの。あなた達、そう言う魔法を知ってたりしない?」

「いや、そう言う魔法は知らないなぁ。」

 

 すごい勢いでまくし立ててきた少女に、ハリーがなんとか返事を返す。

 

「そう…。…!。ってあなたもしかしてハリー・ポッター⁉︎その傷は例のあの人につけられたって。『二十一世紀の偉大な魔法使い』に書いてあったわ!」

 ーー本当に本に書いてあるんだ…。

 

 さっきジンジャーが言っていたことが嘘ではなかったことに、ハリーは若干のショックを受ける。

 

「確かにわたしはハリーだけど」

「やっぱり!あなたもう入る寮は決めた?私はグリフィンドールかレイブンクローで迷ってるんだけど。…やっぱりグリフィンドールかしら。知ってる?ダンブルドアはグリフィンドールの出身なんですって。」

 

 少女は相変わらず喋る隙間もないくらい畳み掛けてくる。

 

「あー、カエル探しはほっといていいのか?」

「そういえばそうだったわ!またホグワーツで会いましょう。」

 

 ジンジャーの言葉を聞いて、少女はようやく本題を思い出したのか、名残惜しそうにしながらもコンパートメントを出ていった。

 

「嵐みたいだったよ…。」

 

 ジンジャーの目を見れば、同じことを思っていることがハリーにはわかった。

 

「彼女がスリザリンに入りたいなんて言い出さなくて助かったよ。」

「わたしもちょっとグリフィンドールに行く気が減っちゃったかな。」

 

 二人で顔を見合わせ、クスリと笑った後、ハリーはさっきの少女が既に制服だったことを思い出した。

 ハリーはそれをジンジャーに伝え、交互にコンパートメントを出て服を着替えることにした。

 着替えた後、しばらく二人で話していると、列車のスピードがどんどん落ちていき、止まる。どうやら到着したようだった。

 

 ハリーはまたもジンジャーの助けを借りながら荷物を持って駅に降りると、見覚えのある大きな影が一年生を先導していることに気付く。

 

「ハグリッド!」

 

 ハリーが名前を呼びながら近づくと、ハグリッドもそれに気づき手を振ってくる。

 

「おぉ、ハリー。元気にしちょったか?」

「うん!」

「もう友達はできたか。」

「まだ一人だけだけどね。」

「電車の中で一人できたら十分だろう。」

 

 ハグリッドはうなずきながらそう言うと、一年生の先導に戻っていく。

 ハリー達もそれに従い湖に行き、何人かで船に乗り込む。

 船に乗って進んでいくと、それまで暗くてよく見えなかったホグワーツの城が鮮明に見えてくる。

 城は予想より大きく、荘厳さを感じるが、窓からあふれる光のせいだろうか、どこか暖かさも感じられた。

 

「すごいなぁ。」

「あぁ。これはすごいな。」

 

 ハリー達が話す以外にも、そこら中から感嘆の声が聞こえて来た。

 

 舟はあっという間に湖を渡りきり、城に到着する。

 船から降りていると近くから、トレバー!と言う声が聞こえて来た。そちらの方を見てみると、少し太った少年がカエルを抱えていた。

 どうやら、列車の中で嵐のような少女が探していたカエルが見つかったらしい。

 

 ーー列車の中で居なくなったのに湖を超えた先で見つかるとかどんなカエルだよ…

 そう思ったジンジャーだが、ジンジャーの他には誰も疑問に思わない様子に、考えることを放棄する。

 

 

「やっぱり本当だったんだ、ハリー・ポッターが今年ホグワーツに入学するって」

 

 ブロンドの髪をした少年が、突然ハリーに話しかけてくる。

 

「僕はドラコ・マルフォイだ。仲良くしよう。」

 

 そう言ってマルフォイが手を差し出して来たとき、人混みの中から笑い声が聞こえて来た。

 

「僕の名前がおかしいか?ウィーズリー。」

 

 マルフォイの声に、ウィーズリーと呼ばれた赤毛の少年が押し黙る。

 それを見届けると、ハリーはマルフォイの手を取る。

 

「うん、よろしく。ドラコ。わたしは人の名前を笑うような人よりあなたと仲良くしたいな。」

 

 人の名前を笑ったのが気に入らなかったハリーは、ウィーズリー少年に皮肉を込めながら挨拶をした。

 それが気に入らなかったのか、ウィーズリー少年はハリーに向かって不満の声を上げる。

 

「何を騒いでいるのです。」

 

 しかしその時、やって来た教師がハリー達の方の睨みつけた。

 教師の声に全員が静かになる。

 

「一年生をお連れしましたです。マクゴナガル先生。」

「えぇ。ありがとうハグリッド。ここからは私が引き継ぎます。」

 

 どうやらここからは、このマクゴナガルという先生に引率が変わるらしかった。

 マクゴナガル先生はこちらに向き直り一声かけると、しっかりした足取りで先頭を歩き始めた。

 

 少し歩き、ハリー達は一度、なんとか一年生全員が入れるような小さな部屋に案内された。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。」

 

 と言った挨拶から始まり、マクゴナガル先生は寮についてやこれからの予定を話していく。

 

「学校側の準備ができたら戻ってくるので、少しここで待っていなさい。」

 

 説明が終わると、マクゴナガル先生は部屋を出ていった。

 一年生たちはざわつき始める。

 

「ホグワーツへようこそ。」

「君たちはどこに入るかもう決めたかね?ハッフルパフはおすすめだぞ?」

 

 突然、マクゴナガル先生を待っている一年生達は透明な人のようなものに話しかけられる。

 

「あれは何?」

 

 ハリーがジンジャーに問いかける。

 

「ゴーストだな。たぶん、ホグワーツの卒業生が死後、ここにいついたんだな。」

「魔法界にはゴーストなんているんだ。」

「いや、そうそう居ない。ホグワーツが特別なんだろう。」

 

 一年生達が周りの友人と組み分けについて話していると、マクゴナガル先生が戻ってきた。

 マクゴナガル先生は、一年生達を一列に並べ、大きな門の前まで連れて行く。

 

 ーギィ

 門が開かれる

 

 開いた先は広間だった。上級生達が先に席についてハリー達一年生を待ち構えていた。

 また、広間の天井があるはずの場所には夜空が広がっており、蝋燭が宙を漂っている。

 

「本当に天井がないんじゃなくて、魔法でそう見せているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ。」

 

 なんて、聞き覚えのある声も聞こえてきた。

 

 マクゴナガル先生は広間の奥の方まで一年生達を引率すると、椅子を用意し、その上に古臭いボロボロの帽子を置く。

 ハリーにはその帽子になんの意味があるのかちんぷんかんぷんだった。訳もわからず帽子を見ていると、静かになった広間に歌が響いた。

 

 それは帽子の歌声だった。

 

 

 帽子の歌は、グリフィンドールには勇気あるものが集まると言ったようなそれぞれの寮の特徴というか、良いところを説明したものだった。

 ただ、ハリーとしては帽子が最初の方に歌っていたことの方が気になった。

 

「組み分けって、帽子をかぶるだけなの?」

「…そうみたいだな。」

 

 ハリーの問いかけに、ジンジャーも拍子抜けしたように答える。ジンジャーも組み分けについては知らなかったようだ。

 

「ABC順に名前を呼びます。呼ばれたら帽子をかぶって椅子に座り組み分けを待ちなさい。」

 

 マクゴナガル先生の声に一年生達の緊張感が高まる。

 

「アボット・ハンナ!」

 

 最初の一年生である金髪の少女が組み分けに向かう。

 

「ハッフルパフ!」

 

 少しの間の後、寮が発表される。

 右側のテーブルか拍手と歓声が上がった。

 

 次々と一年生が呼ばれてく。

 呼ばれる生徒の頭文字が、Gまで回ってくる。

 

「グラジオラス・ジンジャー!」

 

 そして、ジンジャーの番が回ってきた。

 ジンジャーは落ち着いて前に出て、帽子をかぶった。

 

「…」

 

 長い沈黙が流れ、3分は経ったかと思われる頃、帽子が声を上げる。

 

「スリザリン!」

 

 叫ばれた声はジンジャーが望んでいたものだった。

 スリザリン生の席から拍手が起こる。

 安堵したような表情を浮かべたジンジャーはスリザリンの席へ向かって行った。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!」

 

 ジンジャーの次に呼ばれて前に出てきたのは、先ほどの嵐のような少女だった。

 少女…ハーマイオニーは待ちきれないと言わんばかりに帽子をかぶる。

 

「グリフィンドール!」

 

 その声を聞くとハーマイオニーは嬉しそうにグリフィンドールの席へ走っていく。

 ハリーはチラリとジンジャーの方を見る。

 ジンジャーもハリーの方を見ており、目が合って二人は苦笑した。

 

 順番はさらに回っていく。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

 どうやら次はドラコの番のようだった。

 ドラコは偉そうな態度で帽子の方へ向かう。そして帽子をかぶりきったかどうかという瞬間…。

 

「スリザリン!」と声が上がった。

 

 ハリーはそのあまりの早さにビックリしてしまった。

 だがスリザリン生達はそうは思わないようで、大きな歓声を上げていた。

 

 ドラコの番からそう立たず、今度はハリーの番が回ってくる。

 

「ポッター・ハリー!」

 

 広間が一瞬静かになる。

 だが、すぐにざわつき始めた。

 

「ハリー・ポッターだって。」

「ほんとにあのハリー・ポッター?」

 

 なんて声もハリーにはしっかり届いていた。

 ハリーは少し急いで席に着き、帽子を目深に被った。

 

「ほぅ、これは難しい。」

 

 帽子を被り切ると、ハリーは声を聞いた。

 それは先ほどからも聞こえていた帽子の声だった。恐らく被った人にしか聞こえない声だろう。

 

「うーむ、これは本当に難しい。おおよそすべての寮に行ける素質を持っておる。この子が行って最も成長できる寮は何処だろう?スリザリンか?それともグリフィンドールか?」

「その二つって真反対じゃない?」

「まさにそこだよ。真反対の寮どちらでもやっていける。だからこそ難しい。」

 

 迷っている声に疑問を思い浮かべると予期せぬ返答が返ってきた。どうやら頭で考えるだけで、この帽子には話しかけられるらしい。

 

「君はどちらの方がいいかね?」

 

 しばらくうんうん唸っていた帽子だったが、答えは決まらなかったらしく、ハリーに質問を投げかけてきた。

 

「うーん、どっちでもいいかな。」

「本当にどちらでもいいのかい?友達はスリザリンへ行ったのだろう?」

「うん。でもどこの寮にもいいところがあるって聞いたから、どこでもうまくやっていけると思うな。」

「素晴らしい。そういう考えを持っているのであればむしろ…」

 

 そう言って、ハリーの頭に聞こえてくる声は途切れる。

 

「スリザリン!」

 

 広間に帽子の声が響き渡った。

 同時に、広間に静寂が訪れた。

 

 



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染まらないもの

 そっ(投稿音)
 一週間で一話書くくらいできるやろって思ってました。(見通しガバ)
 まだまだ序盤しかかけてないのにお気に入りしてくれた皆様に申し訳ねぇ。ですので次話は来週投稿予定です。(予定は未定)


 ハリーの寮が発表されてからたっぷりと時間を開けて、ようやくスリザリンの席から歓声が上がった。

 だがその歓声以上に、困惑の声の方が大きかった。

 

「あのハリー・ポッターがスリザリンに?」

「何かの間違いでしょう?」

 

 そこらじゅうからそんな声が聞こえてくる。

 有り得ないと言う視線がハリーに向かっていた。

 ハリーはいまだに呆然としているマクゴナガル先生に帽子を押し付けると、ざわめきを尻目にスリザリンのジンジャーの隣の席に向かった。

 

「おんなじ寮だね。これからもよろしく。」

「うん。こっちこそ。」

 

 変わらずに話しかけてくれたジンジャーに、ハリーは安堵する。

 ハリーが席に座ると、周りにはすぐに人が集まりだす。

 

「パンジー・パーキンソンよ。よろしくね。」

「マーカス・フリントだ。クディッチは好きか?」

 

 次々と色んな人たちがハリーに自己紹介をしていく。

 

「やぁ、ハリー。同じ寮になれて嬉しいよ。」

 

 そんな中、ようやく聞き覚えのある声がハリーに話しかけてきた。

 

「ありがとう、ドラコ。」

「それにしても随分と長かったね。すぐにスリザリンに決まると思ってたよ。」

「ずっとスリザリンとグリフィンドールで迷ってたよ。」

 

 ハリーがそういうと、マルフォイは驚いたような顔をする。

 

「グリフィンドールと?あの帽子イかれてるんじゃないか?」

 

 しばらくぶつぶつ言った後、「まぁ、君がスリザリンで良かったよ。」マルフォイは気を取り直したようにハリーに言う。

 

 

「おめでとう!新入生諸君!」

 

 突然、ダンブルドアの声が響き渡る。

 

「組み分けが終わったところで、お待ちかねの歓迎会を始めるとしようかの。」

 

 みんなと話しているうちにどうやら組み分けは全部終わってしまったようだった。

 気付くと、ハリーたちの目の前の皿には沢山の食べ物が用意されていた。

 みんなはすでに目の前の夕食に夢中になっている。

 

「そういえば、ジンジャーも結構長かったけど、どこかと迷ってたの?」

 

 夕食を頬張りながらハリーが聞く。

 

「レイブンクローとだな。俺がスリザリンがいいと言うと、結構簡単にスリザリンになった。」

「へぇ、私はどこでもうまくやっていけると思うって言ったら、決まったんだ。」

「意外だな。そういうのはグリフィンドールになりそうなものだが。」

「確かにそうかもね。」

 

 ハリーがジンジャーと話しているとハリーは視線を感じた。

 その視線は先生たちのテーブルからだった。一部の先生たちがざわつきながらハリーの方を見ていた。

 

「ねぇジンジャー。先生たちがこっち見てるんだけど何か知らない?」

「あー、たぶん君がスリザリンに入るとは思ってなかったんだろう。」

 

 歯切れが悪そうにジンジャーが言った。

 

「どうして?」

「悪い魔法使いはスリザリン出身ってイメージが強いからね。『例のあの人』を倒した英雄がスリザリンに入るとは思わなかったんじゃないかな」

 

 説明しながらもジンジャー自身がその話に納得していないようだった。

 

「ふーん。でもグリフィンドール出身の悪の魔法使いや、スリザリン出身の良い魔法使いもいたんじゃないかな?」

「当然いただろうね。あくまでイメージだよ。あんまり気にしない方がいい。」

 

 そこまで言うと、ジンジャーは食事に戻っていった。

 ハリーもそれを見てお腹がペコペコだったことを思い出し、夕食に集中する。

 久しぶりに満足のいくまで食べたハリーがマルフォイたちと軽く会話をしていると、またもダンブルドアの声が響き渡る。

 

「みな、よく食べよく飲んだことじゃろう。」

 

 挨拶に続けて、ダンブルドアはこの学校での注意事項などを話していく。

 

「最後に、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下には立ち入らないことじゃ。」

 

 ダンブルドアのその言葉にハリーはびっくりしてしまった。

 

「あれって本当だと思う?」

「この場で冗談を言うような人じゃないだろう。その証拠に先生方も真剣な表情をしてる。」

 

 そう言われたハリーが先生たちのテーブルを見ると、確かに冗談を言うような雰囲気ではなかった。

 

「さて、最後に校歌を歌って終わりにしようかの。」

 

 ダンブルドアがそう続けた瞬間。さっきまで真剣な表情を浮かべていた先生たちの顔が凍りつく。

 だがそんなことはお構いなしに空中に歌詞が映し出され、ダンブルドアの号令で歌が始まる。

 

 ホグワーツの校歌は、ハリーが思うに、一言で言うと混沌(カオス)だった。

 

 校歌が終わるとダンブルドアの指示でハリーたちは監督生に従って移動を始めた。

 スリザリンの寮は地下にあるらしく、ハリーたちは階段を降りていった。

 監督生はある壁の前で立ち止まる。

 

「毒蛇!」

 

 監督生が合言葉らしき言葉を叫ぶと、石に隠されていた扉が開いた。

 

 談話室は少し冷たい印象を与える、石造りの部屋だった。

 一年生達は、監督生の指示で男子は男子寮へ、女子は女子寮へ案内され、それぞれの部屋に入っていった。

 ハリーは同室の子達と早速仲良くしたかったが、誰もが疲れており、ハリー含めみんなすぐに眠ってしまっていた。

 

 ▪️ ▪️ ▪️

 

 次の日からハリー達を最も困らせたのは動く階段だった。

 そのせいで何度か授業に遅れてしまいそうになってしまったのだ。

 ただ、ハリーにとって授業はとても面白いものだった。

 マクゴナガルの変身術なんかは難しかったが、フリットウィックの妖精の呪文では、ジンジャーにコツを教えてもらうことで、呪文を成功させることができたりもした。

 他にも様々な授業を受け、気づけば、あっという間に金曜日になっていた。

 

「知ってるかいハリー。今日やる魔法薬学の担当のスネイプ先生はスリザリン生に甘いんだってさ。」

 

 ハリー達が朝食をとっていると、正面の席に座ったマルフォイが嬉々として話しだした。

 

「そういうのはあんまり良く無いと思うけどなぁ。」

「何言ってるんだい?いいことじゃ無いか。」

「確かにスリザリン生にはいいことかもしれないけど、先生としては良く無いでしょ。」

 

 マルフォイは「そんなことは気にしなくてだろう」と呟くも。広間に大量にやってきたフクロウ達に邪魔される。

 ハリーの飼っているヘドウィグは何かを運んできたことはないものの、ちょくちょくやってきては水や食べ物をせがんでハリーに一頻り撫でられると満足して帰る。なんてことをしていた。

 

 今日は来るだろうかとハリーが上を見上げると、ヘドウィグが荷物を持っている事に気づいた。

 ヘドウィグはハリーの真上までくると持っていたものを落とした。

 それはハグリッドからの手紙だった。

 手紙には、今日の午後にお茶でもどうか、と言った旨が記されていた。

 

 ハリーはそれを読み終わると、マルフォイ…に声をかけるのはやめ、ジンジャーに声をかけた。

 

「ねぇ、ジンジャー午後は暇?」

 

 まだ口の中に食べ物が入っていたのかジンジャーはうなずくだけで返事を返す。

 

「ハグリッドにお茶のお誘いを受けたんだけど一緒に行かない?」

「構わないよ。」

 

 今度はちゃんとした返事が返ってくる。

 そんなことをしていると、すでに結構時間が迫っており、ハリーは急いで朝食を食べ終え、今日の授業へと向かっていった。

 

 

 魔法薬学の授業はハリーが思っていたより…普通だった。

 最初に出席を取った時、一瞬ハリーの名前で止まったがこちらをチラリと見ただけで何もなく、スリザリンをひいきすることもあんまりなかった。

 ただネビル・ロングボトムがおできを治す薬で鍋の中身を撒き散らす失敗をしたときは減点したが、ハリーにはひいきには感じられなかった。

 

「ねぇハリー。さっきの授業中スネイプ先生がずっと君のことを見てたけど何かしたのかい?」

 

 魔法薬学の授業の後、昼食を食べに広間へ向かう途中、マルフォイがハリーに声をかける。

 

「それ本当?わたしが先生の方を見てた時は、最初に目があってから一度もこっちを見てなかったんだけど…。」

「本当さ。」

 ーーと言うことは、スネイプ先生はわたしが見てる時にだけ目を逸らしていた?

 

 ハリーはそんなことを考えるも、どうしてそんなことをするのかという結論には至らなかった。

 

「まぁ、どうしても気になったら聞いてみるよ。」

「そうしたほうがいいよ。」

 

 そんな話をしているうちに広間の扉が見えてくる。

 ハリーはみんなで昼食を食べ、少し経つとジンジャーを伴ってハグリッドのいる小屋へ向かった。

 

 

「ハグリッド〜。遊びに来たよ?」

 

 ハリーが小屋の前で声をかける。

 その声に反応してか、中から犬の吠える声と、それを宥める声が聞こえる。

少しして宥め切ったのか、小屋の入り口からハグリッドが顔を出した。

 

「おお、ハリー!よく来た。隣のは友達か?」

「うん。ジンジャーっていうんだ。」

「そうか。ま、上がってくれや。」

 

 ハグリッドの家の中はぱっと見は結構普通だった。ただ、椅子やテーブルのスケールがちょっと大きかった。

 

「学校生活はどうだ?」

「楽しいよ!友達もいるし。…まぁ、ハグリッドと仲良くできそうなのはジンジャーだけだけど。」

「スリザリン生じゃそんな奴も多いだろう。最初はなんでスリザリンなんかにって思っとったが、ハリーが楽しいんなら、それでええ。」

 

 ハグリッドはハリーにスリザリンが合わないんじゃないかと心配してお茶に呼んだようだった。

 ハグリッドの心遣いにハリーはうれしくなった。

 

「そうだハグリッド。さっきの授業中スネイプ先生がずっと私のこと見てたらしいんだけど何かしらない?」

「いや、…知らんなぁ。」

「そっか。」

 

 言いながらハグリッドは目を逸らしていた。ジンジャーから見ると嘘だとバレバレな仕草だ。

 

「ハグリッド、うまく誤魔化せる方法教えようか?」

 

 ジンジャーはハリーがハグリッドの飼い犬に気を取られている事を確認し、小声でハグリッドに話しかける。

 

「あー…。確かに必要かもしれんな。」

「とりあえず目線を逸らしたり、体の一部を触ったりするのが一番わかりやすいからやめておいた方がいい。あとは…」

「ねぇこれ見て!」

 

 突然、ハリーが声を上げる。

 同時に、ハリーは新聞の切り抜きを差し出してきた。

 

「あれ?なにか話してた?」

「いんや、何にも?」

 

 今度は声が上ずりかけている。

 

「?…この記事に載ってる盗みって僕らがいた時に起こったんじゃない?僕らがグリンコッツに行ったのと同じ日だよ?」

 

 ハリーが差し出した切り抜きには、グリンコッツに盗みが入ったことがまとめられていた。

 

「どうだろうなぁ。」

 

 さっきより盛大に目を逸らした。これではハリーにもバレバレだ。

 それを見たジンジャーは確信した。ハグリッドに隠し事は無理だな。…と。

 

「ハグリッドは何を隠してるんだろう?」

 

 ハリーが考え込む。

 

「ハグリッドはグリンコッツで何がしたか?」

 

 それを見たジンジャーは、好奇心からハリーに聞く。

 

「小包を取り出しただけだよ。」

「小包以外は何かあったか?」

「なかったかな。」

 

 ハリーにとってあの大きな金庫に小さな小包一つだけというのは印象的だったのだろう。すぐに返事を返していた。

 

「そうか…。じゃあ十中八九その盗みに入った人物はハグリッドが持ち出した小包が目的だな。」

 

 そこまで聞くとハグリッドは目を丸くする。

 

「なんでそうなる⁉︎」

 

 ハリーも聞きたそうにジンジャーの方を見ていた。

 

「一つ。犯人の目的が金及び金目のものじゃないこと。」

「どうして?」

 

 なぜ断言できるのか、ハリーには分からなかった。

 

「記事に書いてあるだろ、金庫に何が入ってたか教えられないって。」

「うん。」

「もともと入ってたのが金なら、別に教えてもいいだろ?教えないって事は何か特別なものなんだろう。」

「確かにそうかも。」

 

 話が進むにつれ、ハグリッドの顔がどんどん青くなっていく。

 

「二つ。金庫がからになるなんてそうそうないって事。」

「それはわかるな。気軽に金庫を空にするなんてできないよね。」

「そうだ。金にしろ、物にしろ、持ち出すには限度があるだろう。纏めると、金目のものではないであろう小包一つしか入ってなかったハグリッドの金庫は、怪しさ満点だな。」

「なるほど。」

 

 話を終え、二人でハグリッドの方を見ると、青い顔で額を押さえていた。

 

「はぁ。今日はもう帰ったほうがえぇ、ほらこのケーキをやろう。」

 

 ハグリッドは今までにないテキパキとした動きで、帰らせる準備を進めていく。

 気づけば二人は玄関まで移動されていた。

 

「いいか?今日の事は誰にも話しちゃいかんぞ。」

「分かったよ。…なんかごめん、ハグリッド。」

 

 ハグリッドの様子に、ジンジャーはつい謝ってしまっていた。

 そのままハグリッドに別れを告げ、二人は校舎に戻っていった。

 

 ちなみに、ハグリッドにもらったロックケーキは硬すぎてほとんど食べられなかった。

 

 ▪️ ▪️ ▪️

 

 一週間後の木曜日の午後。この日はグリフィンドールと合同で飛行訓練が行われることになっていた。

 一年生達は、運動場に集まって並んでいた。

 

「箒の側に立って手をかざし『上がれ』と唱えなさい。」

 

 そこに、やってきたフーチ先生から指示が飛ぶ。

 

「上がれ!」

 

 あちこちで声が上がる。

 一発で箒が上がった生徒は少なく、優等生であるジンジャーやハーマイオニー・グレンジャーもこれには苦戦していた。

 

「自信を持つのが大事なのさ。」

 

 その数少ない一発で上がった一人であるマルフォイが、偉そうな態度でハリーにアドバイスを送る。

 ハリーはアドバイスを素直に聞き箒に向き直る。

 そのかいあってかハリーは早めに箒をあげることに成功した。

 

 しばらくして、ようやく全員の箒が上がりきった。

 

「私が合図したら軽く地面を蹴って、宙に浮き少ししたら降りてきなさい。」

 

 箒が上がりきったのを確認し、生徒達に新たな指示が飛ぶ。

 生徒達の返事を聞き届け、フーチ先生がうなずく。

 

「では1、2の…」

 

 フーチ先生がそこまで言い、笛を口に近づけようとした瞬間、一人の生徒が先立って飛び上がった。

 その生徒はカエルを探していた少年…ネビル・ロングボトムだった。

 ロングボトムは悲鳴を上げながらどんどん高度をも上げてゆく。

 

「Mr.ロングボトム!落ち着いて、姿勢を低くしなさい!」

 

 高度を下げるための指示をフーチ先生が飛ばすも、ロングボトムには聞こえていないようで、ついにパニックになり箒が暴走し始めた。

 

 ロングボトムを乗せた箒はひとしきり暴れた後、ロングボトムだけを城壁に引っ掛け何処かへと飛び去っていった。

 引っかかったロングボトムはというと、そのまま地面に落ち、伸びていた。

 

「あらまぁ、手首が折れてる。」

 

 ロングボトムに駆け寄ったフーチ先生からそんな声が上がる。どうやらあれだけ暴れまわっても、手首が折れるだけで済んだようだ。

 フーチ先生は生徒達に、箒にのらずに待機しておけと指示を出し、ロングボトムを医務室に連れていった。

 

 

「見たかい?あの間抜けな顔。」

 

 少し経ち、ロングボトムが倒れていた場所で落ちていたものを持ち上げながら、マルフォイが笑う。グリフィンドール生の反応から見てそれはロングボトムの持ち物であるらしかった。

 スリザリンの一部の生徒達もマルフォイに釣られて笑い出す。

 調子に乗ったマルフォイが、これを何処かに隠そうか。なんて提案をしだす。

 

「返してあげなよ。ドラコ。」

 

 それを止めたのはグリフィンドール生…ではなく、ハリーだった。

 これにはスリザリン生だけでなく、グリフィンドール生も驚いた表情を浮かべていた。

 

「どうしてだい?」

「純血はすごいんだっていつも言ってるよね。そんなことしてると純血を勘違いされちゃうよ?」

 

 ハリーが言うと、マルフォイは未だ不満そうにしながらも、持っていたものを、無言で近くにいたウィーズリーに投げ渡した。

 

 それを見届けたハリーは安堵の表情を浮かべる。

 

 一時はどうなることかと思われた飛行訓練も、何事も無く終わりを告げた。

 




 ハリーがクィディッチに勧誘されなかったこと以外は、まだまだ原作と差は無いですね。次くらいからオリジナリティが出てくると思います。


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らしさ

 ソッ(投稿音)バレテナーイ バレテナーイ
 あっ、お久しぶりです。←前回来週投稿するとか言って四週間音沙汰すらない奴
言い訳します。全部あのウィルスが悪いんだ!(それが全てではない)

 お気に入り・評価していただいた皆様ありがとうございました。こんな作者ですがこれからもよろしくお願いします。


 

 飛行訓練の一件から特に何事もなく、ハリー達は学校生活にいそしんでいた。

 

「なに読んでるの?」

 

 出される宿題の量も増え始め、勉強に追われるハリーが、既に宿題を終わらせたジンジャーに問いかけた。

 

「この前見つけた魔法の本だ。」

 

 そう言ってジンジャーが差し出したのは『ルーン魔術基礎理論』という、難しそうな本だった。

 

「面白いの?」

「あぁ。事前に魔法を用意しておけるというのは、とても面白い。杖なしで使える魔法なんて知らなかったよ。」

 

 そのまま、ジンジャーは話し続ける。ハリーはこんなにも饒舌なジンジャーを見た事がなかった。

 ある程度話すと、ジンジャーはハッとして話をやめる。

 

「ごめん。つい話すぎた。お詫びに宿題を手伝うよ。」

 

 ジンジャーの話は実際面白かったため、その言葉でハリーも宿題のことを思い出した。

 その後近くにいたマルフォイも一緒に、ジンジャー助けを借りてようやく魔法薬学の宿題を終わらせのだった。

 

 そんな調子で日々は過ぎ去り、気付けばハリー達が入学してから2ヶ月が経っていた。

 

 

 

「トロールが!」

 

 10月31日の夜。ジャックオーランタンなどで飾り付けられた大広間でハロウィンパーティーが催されている最中、その声は大きく響き渡った。

 

「トロールが地下室に!お知らせしなければと!」

 

 そこまで言うと大声の主であるクィレルは、広間の床に倒れ伏した。

 少しの間の後、言葉の意味を理解し始めた生徒達が悲鳴を上げながら我先にと駆け出した。

 

「落ち着け!」

 

 トロールが分からずキョトンとしているハリーの前では、みっともなく叫び声を上げているマルフォイに、ジンジャーが注意を入れている。

 

静まれ!

 

 最も最初に駆け出した生徒が広間の扉に差し掛かろうかというところで、先程のクィレルの声よりもさらに大きな声が広間を支配する。

 その声に全員が静まりかえり、声を発したダンブルドアの方を向き直った。

 

「監督生の指示に従って寮に戻りなさい。無論、慌てずにじゃ。」

 

 ダンブルドアの言葉通りに生徒達は動き出した。

 

 

 

「ジンジャーは落ち着いてたけど、トロールって何?」

 

 寮へ戻る途中、ハリーがジンジャーに聞く。

 

「図体がでかいだけで、知性はない人型の生き物だ。下級生ならともかく、上級生や先生方ならどうとでもなる。」

「なるほど、あれ?じゃあ違和感が…。」

 

 考え事にふけるハリーの視界の端でふと、地下室のほうへ向かう人影が映った。

 

「止めなきゃ!」

「どうした?」

「生徒が一人地下室の方に向かってた!」

 

 そこまで言うとハリーは、その生徒を追って行った。

 

「おい!…まったく。マルフォイ、先生に会ったら一応説明しておいてくれ。」

「本気かい?」

 

 マルフォイは、信じられないと言わんばかり表情で聞き返す。

 

「あぁ」

 

 それだけ言い残し、ジンジャーもまた列を外れ、移動を始めた。

 残されたマルフォイはぶつくさと文句を言いながら、その背中を見送った。

 

 ▪️ ▪️ ▪️

 

 地下室への階段にほど近い廊下で、ハリーは追いつくことができた。

 その人物をよく見ると、ハリーには初日に会った、ウィーズリーであることがわかった。

 

「どうしてこんなところに?」

 

 息を整えながらハリーが聞く。

 

「ハリー・ポッター?」

 

 どうやらウィーズリーもハリーのことは覚えていたようだった。

 

「早く帰らないと危ないよ。」

「でもハーマイオニーが!」

「ハーマイオニー?その子がどうかしたの?」

 

 ハリーには、なにがなんだか分からなかった。

 

「ずっと女子トイレにいて、トロールのことを知らないんだ。」

 

 ウィーズリーが言い切ったその時、地下室の方から大きな影が唸り声を上げながら階段を上がってきた。

 ハリーとウィーズリーはとっさに物陰に隠れる。

 のっそりと登ってきたのは、予想通りトロールだった。

 トロールはそのまま近くにある小さめの扉に入っていく。

 

「あれが本物のトロールか。」

 

 突然、ハリーの真後ろから声がした。

 

「え?…なんだジンジャーか、びっくりした。」

 

 その声にハリーが急いで振り返った先には、追いかけてきたのだろうジンジャーがいた。

 

「それで?なんで帰らない?」

「生徒が一人女子トイレにいて、トロールのことを知らないんだって。連れ戻してあげなきゃ。」

 

 それを聞くと、ジンジャーはこわばった顔になる。

 

「その生徒がいるのは、あの女子トイレじゃないよな?」

 

 言いながらジンジャーはある扉を指差す。

 ハリー達が指差す先を見ると、そこは先ほどトロールが入っていった場所だった。

 瞬間、扉の奥から大きな悲鳴が上がった。

 

「ハーマイオニー!」

 

 ウィーズリーは青ざめた顔で走り出そうとする。

 

「最悪だな。」

 

 ジンジャーはウィーズリーを掴みそれを阻止する。

 

「何するんだ!」

 

 ウィーズリーが怒りもあらわに怒鳴りつける。

 

「相手は腐っても化け物だ。一年が無策で突っ込んで勝てる相手じゃない。」

「じゃあハーマイオニーを見捨てるっていうのか⁉︎」

「そんな事はしない。…まぁ、確かに作戦なんか伝えてる時間はないな。」

 

 そこでジンジャーは少し考えるような仕草をする。

 

「よし。お前達は何も考えずにその生徒の所に向かってくれ。そして合図をしたら目を瞑れ。そこからは俺がなんとかしよう。」

「分かった。」

 

 不安そうな顔ながらも、ウィーズリーもうなずく。

 

 そして、三人は女子トイレに突入する。

 中ではグレンジャーが逃げ回っている最中だった。

 

「助けて!」

 

 グレンジャーがハリー達を確認し、声を上げる。

 ハリー達は至近距離で見るトロールの大きさに一瞬怯むも、その声を聞き、ジンジャーに言われた通り駆け出す。

 

 逃げるグレンジャーを追いかけ回していたトロールも、自分の足下を走る人間は気になるのか、そちらに狙いを定め棍棒を振り回す。

 ハリー達は、なんとかそれをかい潜りグレンジャーの元にたどり着いた。

 

 ただ、グレンジャーにとっては、なぜトロールに何もせずに自分の元へやってきたのか、訳がわからなかった。

 その懸念通り、トロールは元気に自分たちの方へ武器を持って近づいてきている。

 

「今だ!」

 

 しかし、グレンジャーがその考えを口に出す暇もなく、ジンジャーからの指示が飛んでいた。

 ハリーは、トロールが武器を振りかぶるのも気にせず目を瞑る。

 ウィーズリーは恐怖心もあり、目を瞑る。

 

「ルーモス・マキシマ!」

 

 その直後、ジンジャーの呪文を唱える声が響き、杖から小さい何かが飛び出す。

 それは、今にも棍棒を振り下ろさんとするトロールの目前まで来た瞬間、辺りに光を撒き散らし、弾ける。

 同時に、甲高い悲鳴と、野太い呻き声が上がった。

 

 

「よし!トロールが動けない今のうちに!早く!」

 

 ハリーはまぶたの向こうから光を感じたあと、目を開ける。

 そこには、目を押さえてのたうち回っているトロールと、同じく目を押さえているグレンジャーがいた。

 

「何が起こったの⁉︎」

「いいから早く!」

 

 状況を理解したハリー達は、未だ動けないグレンジャーの手を掴み、出口へと向かう。

 

 

「急げ!」

 

 しかし、もう少しで出口というところで声が上がる。

 その声に、トロールの方を向き直ると、目を閉じたまま手当たり次第に棍棒を振り回していた。

 見えないながらも声に反応したのか少しずつこちらに近づいてきている。

 

 そこでジンジャーが動く。いつのまにか手に持っていた洗面台のかけらを、トイレの奥に向かって投げつけたのだ。

 

 それは、ガシャンと音を立てながら割れる。

 トロールは、その音のなった方にのっそりと向かっていった。

 

 その隙にハリーはグレンジャーの口を押さえ、音を立てないようにしながら今度こそトイレを脱出した。

 

 

「ふぅ。さっさと寮に戻ろう。」

 

 ジンジャーはトイレの扉に鍵を掛けながら、焦ったように言う。

 

「こんなところ先生方に見られたら、なんて言われる…か。」

 

 扉から廊下に向き直ったジンジャーの歯切れが、後半になるにつれ悪くなってゆく。

 何があったのかと、ハリーも廊下に目を向ける。

 そこには、鬼の形相でこちらに掛けてくるマクゴナガルの姿があった。

 

 

「これはいったいどういうことですか⁉︎」

 

 マクゴナガルは、ハリー達がいる女子トイレの前まで来ると、一気に捲し立てた。

 

「なぜトロールの呻き声がする部屋からあなた達が出てくるのです⁉︎」

「えーっと、そのー…。」

 

 あまりの気迫に気圧され、ハリーにはうまい言葉が出てこなかった。

 

「俺たちはウィーズリーに頼まれて、手を貸しただけです。詳細はウィーズリー達に聞いてください。」

 

 ジンジャーの言葉に、先生達の視線が一斉にウィーズリーに向けられる。

 

「あー…。僕のせいなんです。僕のせいでハーマイオニーが女子トイレにこもってて、それで呼びに来たんです。」

「貴方のせいとはどういう事ですか?」

「それは…」

 

 ウィーズリーは悩ましげな表情を浮かべた後、続ける。

 

「僕がハーマイオニーに、その…ひどいこと言っちゃって、それが原因です。」

 

 マクゴナガルは、一つ、大きなため息をつく。

 

「事情は分かりました。…Mr.ウィーズリー、レディを泣かせるなど言語道断です。グリフィンドールから5点減点!」

 

 ウィーズリーから悲痛な声が上がる。

 

「しかし、グレンジャーを助けに来たその勇気は認めましょう。…グリフィンドールに十点。」

 

 次に、マクゴナガルはハリー達に向き直る。

 

「この十点は貴方達にもです。」

 

 今度は全員を見渡す。

 

「ただし、今度からは生徒だけでなく、教師に助けを求めることです。…寮にお戻りなさい。それぞれの寮でパーティの続きをしているはずです。」

 

 そこまでいうとマクゴナガルは、着いてきていたスネイプとクィレルを引き連れ、女子トイレに入って行った。

 

 

 

「ジンジャーはすごいね。」

 

 お礼の言葉を受け取り、ウィーズリー達と別れスリザリン寮に戻っている道すがら、ハリーが切り出した。

 

「何がだ?」

「何って… あの子を助け出したことだよ。」

 

 その言葉に、ジンジャーはフッと笑う。

 

「あれくらいなら君もすぐに思いつけるようになる。」

「そうかなぁ?」

 

 ハリーは疑いの眼差しをジンジャーに向ける。

 

「あぁ、スリザリンに入ったってことは、少なからずそういう素質を持っているって事だと、俺は思う。」

 

 ハリーは少し考え、表情を明るくする。

 

「そうかもね。じゃあ、もし次に危ない事が起こったら私が助けてみせるよ。」

「そうそうそんなことは起きないだろうがな。」

 

 そのジンジャーの言葉に苦笑する。

 

「…あ!でもちゃっかりウィーズリーに頼まれたことにして、責任全部押し付けたのは尊敬できないな。」

「…まぁ、それもスリザリンらしいと言えばらしいだろう?」

 

 ハリーの咎めるような言葉と視線に、ジンジャーは目を合わせずにそんなことを言ってのける。

 

 そんな話をしながら、二人は寮への道を進んで行った。

 




 どうでしょうか?作者の考えるスリザリンらしさ、伝わりましたか?この作品はこんな感じで進んでいく予定です。


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